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クロノは任務中に保護した管理外世界の男性に頭を悩ませていた。 保護したのは年は二十歳前後、体格の良く顔も整っている人間だったと思われる男性。 だったと思われる、というのは今は見た目にはわからないが、拾った時は昆虫っぽい亜人だったからだ。 第一、人間は…人間以外でもほとんどの生き物は、例えSランクオーバーの魔導士だろうが、生身で宇宙空間に漂っていて無事だったり、この船の検査を無意識に無効化したりはできない。 …船に回収してからすぐにクロノ達は彼の検査を行った。 だがその男を詳しく調べようとしたその時…不思議なことが起こった。 補佐であるエイミィと担当者しかまだ知らない事実だがいくら調べようとしても何も見えてこなくなったのだ。 クロノは記録されていたその映像を見て色々な手を試した無駄な時間を思い知りため息をつき、クロノの意識は男性を保護することになった経緯を思い返す…それはある管理外世界が滅んだことが観測されたのが始まりだった。 まず管理外世界は基本的に不可侵である為、詳しい事情はクロノ達にもわからないということを先に述べておく。 その世界の統一国家であるクライシス帝国は、管理局が禁忌とする質量兵器と強力な兵を多数保有しており、独特の文明を発達させていた。 宇宙空間にも進出していることなどが確認されており、本来は管理世界の一つに数えられるはずだった。 だがどういう経緯か、未だ管理外世界とされており、交渉も殆ど行われていなかった。 そんなクライシス帝国だったが、先日突然その世界も巻き添えにして滅びたらしい… それだけなら管理局の上層部は、質量兵器等は危険であると言う認識を深めるだけで終わっていただろう。 他にも何らかの理由で滅びの危機を迎える管理世界が100以上もあるのだから。 だがそれが止んで暫くたったある日のこと。 ほんの一瞬だけ、クロノが乗るこのアースラの総エネルギー量がカスに思えるほどの超超高エネルギーを秘めた何かが、その付近で観測された。 (観測されたエネルギー量からいって、無関係だとしても遠からず原因究明に派遣されていただろうが)恐らく、それがクライシス帝国を滅ぼした原因ではないかと管理局は予想し… その捜索のためクロノらに消失した地点に向かい痕跡を探るよう命令が下った。 そこで見つけたのが、この男性、『南光太郎』だった。 名前は寄り添うように漂っていたバイクと車もクロノ達はアースラに収容しており、その二機から聞いた。 回収した時の光太郎の姿と同系統のフォルムを持つ二機が(魔力などは全く持っていないようだが)意思を持ち、話を聞くことができたのは行幸だった。 昆虫っぽい亜人の姿から人間の姿になったのはつい先程、検査を止めて暫くしてからのことだった。 …戻ったら戻ったで全裸で、一目でわかる程鍛えられた体と『凄く…世紀王です』ということはわかったが、どうでもいいことだ。 この男性の名前は南光太郎。21歳…クロノの、妹みたいな友人と同じ地球の日本出身らしい。 バイクも車も、詳しくは教えてはくれなかった。 乗り物とはいえ、強引な手段を使うことを好まないクロノは無理に口を割らせたりはしなかった。 クライシス人が地球に潜入していたと言うのだろうか? それとも地球人が何らかのアクシデントに巻き込まれクライシス帝国にいたのか。 管理世界のどこかから違法に地球とクライシスを行き来していたのか。 疑問は尽きなかったが、光太郎が目覚めれば解決するだろうし、クロノの頭を悩ませている問題ではなかった。 ただ、二台がクロノが地球のことをそれなりに知っているのに『南光太郎』の亜人形態を知らないことに戸惑いを見せていたのが気になった。 体の検査を諦めたものの、もしもの時は軟禁できるよう用意された別室にクロノは入る。 光太郎が寝かせられた備え付けのベッド以外に殆ど何もない部屋は、清潔感のある白系統の色で統一されている。 部屋の中へとクロノは足を進め、絵や写真の一枚もなく、殺風景な部屋で寝息をたてている光太郎の様子を伺う。 存外整った顔に浮かぶ表情は険しく、何か悪い夢でも見ているようだった。 時折、「教えてくれ…キングストーン」とか寝言を言っているが、何のことかまではクロノにもわからなかった。 まさか人名などではないだろうが。 クロノが悩んでいるのは、光太郎をどうするかだった。 法的には何も問題はない。クライシスも地球も管理外世界だし、犯罪らしい犯罪を起こして捕まえたわけでもない。余罪も、多分無い。 何故あんな場所にいたのか追究は必要だろうが、重要参考人程度で済むだろう。 どちらの世界で何をしていようが、それは管理局が裁くものでもない。 自分が調査している原因に深く関わっているだとか、普段からクロノ達が回収・管理して回っている『ロストロギア』に即認定されるであろう 『キングストーン』を二個持っているなどとは思いもしなかったクロノは光太郎の罪状などについては、そう考えていた。 いや、もし持っていると考えても『八神家』という前例をよく知っているクロノの考えは変わらなかっただろう。 ちなみにロストロギアとは…過去に滅んだ超高度文明から流出する特に発達した技術や魔法の総称で危険なものも多く、主に時空管理局が管理していた。 今クロノが気にしているのは、罪科ではなくクロノ達では検査できなかった肉体をそのまま報告すれば本局がどう判断するかだった。 宇宙空間で生存可能な人間…強引に管理下に置かれ実験に協力させられることになるのだろうか? 「…ここは?」 考えに耽っていたクロノは男が発した声に目を見開き、光太郎を見た。 光太郎の目が薄く開いていた。男が目覚めるのを見ながらクロノは顔を顰め、光太郎をモニタしているはずの担当者へと通信を繋ぐ。 担当者から帰ってきた答えはデータには全く変わりない、ということだった。 クロノの表情は報告を聞いてより険しくなる。 覚醒することも察知できない隠蔽能力ってなんだ? もし逃げられて一旦見失ったら発見は困難かもしれない。 実験体になることを強制されるのでとか気にするクロノの嫌な予感を更に加速させながら光太郎は体を起こした。 「目が覚めたか」 「君は…」 意識が完全に戻っていないらしく、目を瞬かせた光太郎は次の瞬間クロノの肩を掴んでいた。 クロノは肩の痛みで呻き声をあげるのをどうにか堪える。 思っていたよりも、遙かに素早い。 出世をして前線を退いたとはいえ、未だ一線級の魔導師であると自負していたクロノは反応が遅れたことに自尊心を傷つけられた。 光太郎の方は、そんなことを気にする余裕など持ち合わせていない。 クロノの肩を握り潰しかねない強さで掴みながら、光太郎は詰問する。 「クライシスはッ! 地球はどうなったんだ!?」 「落ち着け…ッ、」 そう言ってクロノは手を退けようとしたが、光太郎の腕はビクともしない。 肩を掴む光太郎の、改造強化された手の力は次第に強くなっていく。 「これが落ち着いていられるかよッ、頼むから教えてくれ!」 「痛いんだ!! 僕の肩の骨が砕ける!! 教えてやるから落ち着けと言ってるんだ…!」 「す、すまない…」 苦しげなクロノの言葉を耳にし少し冷静さを取り戻したのか、光太郎は掴んでいた肩を離してクロノに詫びる。 自由を取り戻したクロノは、肩の痛みを我慢しながらクライシス帝国のある次元世界が滅んだ事、地球は無事である事を説明しはじめた。 クライシスが滅んだ事、地球は無事だと言う事を聞いた光太郎は一瞬笑い、今は深い悲しみを表に出す。 「今度は僕から質問させてくれ。クライシスが何故滅んだかや君が何故あの場所にいたのか。君の出身なども含めて知っていることを」 「世界が滅んだのは、多分…俺が、クライシス皇帝を殺したからだ」 クロノは(他人からみれば少しの間だったが、)暫く二の句が告げられなかった。 ……何を言ってるんだコイツは?というのが素直な気持ちだった。 クライシス皇帝を殺す事と世界が滅ぶ事は関連性などないようにクロノには思える。 死ぬ前に皇帝がロストロギアを暴走させ、世界を道連れにしたということだろうか? 皇帝を殺したことについては、それこそクロノの権限ではどうにもできない事柄だ。 管理外世界で人殺しが行われたら、それはその世界の法で裁かれる。 だがその世界も滅んでいたら…? 管理局はその場合代わりにやるような機能は無い。 突拍子も無い話に困惑するクロノに、光太郎は憂い顔のまま説明を続ける。 「クライシス皇帝の力は怪魔界全体に広がっていたらしい。奴を殺せば怪魔界全てが滅ぶ。そう奴は言っていた」 「…信じがたい話だな。それで君は、どうしてそんなことを?」 少し身を引き、何かをしようとしたなら今度は返り討ちにする用意をしながらクロノは質問を重ねた。 だがその質問には光太郎は意外そうな顔をした。 「? 知らないのか? クライシス帝国は地球を侵略してたからじゃないか」 「なんだって?」 「本当に知らないのか!? 帝国50億の人間を移住させる為に、クライシス帝国は色んな怪人を送り込んでいただろう!?」 興奮状態の光太郎を宥めながらクロノは記憶を探ったが、やはりクライシス帝国が地球に攻め込んでいたと言う話は記憶に無い。 そんな話があれば義妹達から真っ先に聞かされているはずだ。 「そんな話は、聞いたことが無いな…」 疑わしげに返すクロノに、光太郎は怒りを隠さなかった。 「冗談きついぜ。ゴルゴムから半年、やっと平和になった日本に奴らが侵攻していたことは、全世界で知られているはずだ」 「ゴルゴム?」 これもまた前回地球を、海鳴を訪れた時には全く聞かなかった話にクロノの困惑は深くなっていく。 ゴルゴムという単語にも困惑した表情を深くするだけなのを見て、光太郎は怒りを通り越し、呆れたようだった。 「ゴルゴムも知らないのか? 話にならないな…他に誰かいないのか? ニュースとかに目を通してる人とかさ」 少しクロノを笑う光太郎に、クロノは不愉快さと持つと共に何か…決定的に見落としていることがあることを確信していた。 「僕だって大きなニュース位は聞いている。君こそ、どうも僕の知る地球とは違うように感じるんだが」 「はぁ? 地球が二つあるって言うのか? 悪いが、冗談なら俺は」 「冗談じゃない! いいか? 少し話を整理するから僕の質問に答えてくれ」 そう言ってクロノは、ゴルゴム等を知らない事に呆れ、怒ったままの光太郎に幾つか質問をしていく。 質問の内容に光太郎は素直に答えてくれているようにクロノには感じられた。 余り嘘などが得意なようには見えないし、頭がイカレているようにも見えない。 幾つかの質問を終えたクロノは不承不承ながら、一つの事を認めた。 「…僕が知る地球と君の言う地球は別のもののようだな」 光太郎も、クロノの質問から予想していたのか驚きはしなかった。 むしろ驚きはクロノの方が大きかった。 次元世界に地球は一つだけだ。 クロノの義妹や友人のなのはが住む世界の地球だけだ。 だが光太郎の地球はそこではない。 クロノの知る地球はゴルゴムが日本を占領したことなど無いし、クライシス帝国の侵略など受けていない…それに改造人間。 仮面ライダーなんて存在しない。 信じられない話だが…だが、こう考えればしっくり来るという考えがないわけではない。 次元世界では未だ確認されていない、次元世界の外が更に存在しそこの地球にクライシス帝国は侵略を行っていた… 次元を渡る能力を持たなかったにも関わらず、そんなことがあるというのだろうか? 専門家ではないクロノには判断が付かなかった。 ただ分かるのは、思っていたよりも遙かに光太郎は厄介な問題児だということだ。 「今度は俺の質問に答えてくれ。地球でもクライシスでもない、ここはどこだ? 船の中みたいだが」 「…アースラだ。君には悪いが暫く航海を続けるよう命令がきている。後で世話を」 クロノが説明しようとした途中で、光太郎は突然壁の方へと目を向けた。 「どうかしたのかい?」 尋ねながら、さりげなく光太郎の見ている方を見たが殺風景な壁があるだけで特に目に付くものはない。 だというのにクロノの脳裏にも何か引っかかるものがあった。 それが何かクロノが答えを出す前に光太郎が尋ねる。 「アクロバッターやライドロンも、俺のバイクと車もここにいるのか?」 「…どうしてわかったんだ?」 光太郎にはまだ収容したことは伝えていない。 だがしかし、光太郎が視線を向けた方向には、確かに二機を収容した場所があることとクロノは知っていた。 名前を知っていたことからブラフで言っているのかと考えるクロノに光太郎は爽やかな笑顔を見せて答えた。 「俺とアクロバッターは仲間だからだ」 何かそういう機能があるのだろうが、勘弁してくれとクロノは思った… * 光太郎が目覚めて半月近くが過ぎた。 状況に余り変化はない。 クロノ達は怪魔界を滅ぼしたロストロギアの実態調査及び探索の任務中で、相変わらず航行中だった。 光太郎はその途中で救助されたクライシス帝国の被害者と言う扱いを受けている。 改造人間だと言う話は信じてもらえたが、皇帝からクライシス帝国の幹部、怪人達をほぼ一人で倒し、クライシス帝国を壊滅させたと言う話までは話半分に聞かれているのだ。 勿論光太郎もただ彼らの保護にあるのがよいとは思っていないのだが、彼らとは技術体系が違うのでどうしようもなかった。 ライドロンやアクロバッターが何故か一緒に回収されていたが、ライドロンの力でも地球への帰還は出来ないという回答が来ている。 怪魔界と地球を行き来するのと管理局が行っている管理世界間の移動は異なる技術であるらしい。怪魔界からであれば地球へ行けたが、怪魔界はもうないのだ。 だが、地球への帰還を諦めてはいない。クロノは協力を約束していたし、光太郎自身も研究者達を訪ねるなり、探していく決意を固めていた。 その体には少なくとも五万年もの時間があるのだから。 そんなわけで機密に関わる場所に入るわけにも行かない光太郎は、一先ずクロノの保護下で管理世界の知識を吸収することに努めていた。 それに関して、この管理世界の地球で使われている言語と光太郎の地球の言語は同じだったのは幸いだった。 光太郎自身も驚くほどの吸収力を見せ、光太郎はミッド語を学び、知識を得ようとしていた。 クルーの娯楽や学習のため用意された蔵書に目を通しながら光太郎は驚いていた…理解力などが向上しているようだ。 だが、驚きはすぐに消え光太郎は恐怖を感じた。 本を読む手が止まり、虚空を見つめる光太郎の脳裏には、こちらに来てから一度だけ夢の中で語り掛けてきたキングストーンの声が響いていた。 夢の中で、光太郎の故郷の地球に似た風景の中でキングストーンは光となって現れた。 光太郎を照らし、穏やかで力強い声で光太郎に語りかけた。 『光太郎よ、お前の肉体は遂に創世王の肉体となった』 (ど、どういうことだ? 信彦のキングストーンは確かに破壊したはずだ) 『宇宙に投げ出され漂流するお前は、クライシス帝国の民を切り捨てる決断をしたことで弱り、孤独を恐れた。 無意識にそれを埋める存在を求めたのだ…アクロバッター、ライドロン、そして、それらよりも先に、お前が破壊したと思っていた『月の石』がそれに答えた』 (答えてくれ! キングストーン。『月の石』がまだあったと言うなら、信彦は生きているのか!?) 50億の民を切り捨てたと言う声に怯みながら、肝心な所を答えないキングストーンに苛立った光太郎は叫んだ。 だが、キングストーンはあくまで静かに光太郎に答えを返す。 感情を乱す光太郎を打ち据えるように、厳かに声を響かせる。 『信彦は死んだ。クライシス帝国とお前が殺したのだ』 (……そうか) 『だが、我らはお前が何度でも蘇るように、また何度でも蘇る。光太郎、お前が望みさえすれば…何度でも。光太郎よ。成長するのだ…さすればアクロバッターを呼んだように故郷の地球を感じられるであろう。そして戻る事も』 自分が兄弟のような、あるいはそれ以上に想っている親友と戦い、殺した記憶が光太郎を苛む。 改造手術から、ゴルゴム神殿の崩壊から信彦を残して一人で脱出したことも。 実際は死んでいなかったとしても…ブラックとして、RXとして合計二度も殺したことも光太郎の魂に深い傷として残っていた。 (もう一つ教えてくれ…怪魔界は、滅んだのか?) 『渦中にいたお前は、理解しているはずだ。今は思い出すまいとしているに過ぎない…』 そして怪魔界の人間。 否…怪魔界に生きる全ての生命を自分の手で滅ぼしてしまったという事実が、光太郎の心に新たな、とても深い傷となって刻み込まれた。 クライシス帝国との戦いで大切な人を失い、既に傷ついていた光太郎の心には、それは重すぎた。 そうして弱った光太郎の心が『月の石』を呼びよせ、二つのキングストーンを揃える事になったのだと言われた光太郎は、 光太郎は表情を歪めながら、それでもキングストーンに尋ねた。 地球に戻る事ができると言う言葉は、微かな希望だった。 クライシス帝国の侵略から守った地球を見たい。 それに共に戦った仲間や、先輩、叔父夫妻の子供達も地球にいるのだ。 (…戻れるっていうのは本当なのか? どうして、そんなことがわかる!?) 『かつて同じような事があったからだ。光太郎…前創世王も、五万年前に同じ道を辿った』 (…ど、どういうことだ!) 『創世王は、肉体を失うまで今のお前と同じくクライシス帝国のような侵略者と戦い続けた。そして人々を守り、傷つき倒れお前も知るあの姿となった』 光太郎が見た創世王の姿は、巨大な心臓のような姿だった。 それが、遠い昔は違う姿を取り光太郎と同じように戦っていたと、キングストーンは言った…にわかには信じがたいことだった。 『そして、侵略者と対抗する内に創世王を神と崇めるようになった支援者達が、ゴルゴムを作った。肉体を失った創世王は、それを受け入れる他戦う術がなかった』 (…! 馬鹿な…馬鹿なことを言うな!! あの創世王が、俺と同じようにクライシスと戦っていたというのか!?) 自分達を浚い、改造したゴルゴムと創世王が。 数多くの悲劇を生んだあいつらと同じだと認めることはできず、光太郎はいつの間にか叫んでいた。 だがそんな光太郎の激情も物ともせずに、キングストーンの言葉は光太郎の中に強く響いてきた。 『その通りだ。光太郎、お前はまだ、創世王が歩んだ道を一歩進んだに過ぎない。だが、彼よりも更に成長せねばならない…新たな創世王が生まれるその日まで。戦い続ける為に。半ばで倒れ、ゴルゴムなど作らぬ為に』 (何を…言ってるんだ。キングストーン) 『だがそれは、心までも新たな創世王となるということ。お前を苛む孤独は完全に消え、お前は人を必要としなくなる…多くの人々がお前を恐れ、数少ない者達がお前を崇めても』 (……俺は、俺は人間だ!) 『いずれ、遠くない未来…たった千年程の時間が過ぎれば、お前は人々に心動かされる事はなくなるだろう…賢き道を行け、光太郎』 キングストーンはそう言っていた。 光太郎はその言葉を思い出し、より孤独と郷愁、そして未来への不安を感じていた。 「…そうなるとは思えないぜ。キングストーン、この孤独がいつか消えるって言うのか? 俺は、あの創世王と同じ道をなぞっているだけなのか?」 嘆く光太郎にキングストーンは答えなかった。 代わりに教えられたことは、かつての創世王が同じような事故にあった時は地球に戻るまで千年以上の歳月を必要としたということだった。 光太郎の心は深く沈みこんでいった。 そこへクロノがやってくる。 クロノは管理局本局にもうすぐ到着すると告げた。 「それから君は一度管理局の保護下に置かれることになる。管理世界にない感染症がないか、その逆も含めて君の体を検査したり前科が無いか調べる少しの間だけだ。 直に、多分君は地球へ送られることになるだろう」 クロノはそういうと、海鳴市にある家やこちらにあるオフィスの場所や連絡先を光太郎に教える。 今の光太郎の記憶力なら、それを覚える事はそう難しい事じゃなかった。 「開放されて、もし困ったことがあったら連絡をしてくれ」 「それなら、俺のアクロバッターとライドロンを頼んでいいか?」 光太郎の申し出に、クロノは陰りのある笑顔を見せて頷いた。 軽く音速を超える速さで怪人を轢き殺してきた車を、質量兵器を禁忌とする管理局に引き渡して弁護するのは流石のクロノにもできることではない。 「元からそのつもりだ、あんなもの…本局には渡せないからな。君のバイクと車は責任を持って預かっておく」 「頼む、世話をかけるな」 「気にするな。お陰でクライシス帝国のことも少しはわかったから、その礼代わりさ」 素直に礼を言って光太郎はクロノと別れ、アースラを下りる。 アクロバッター達と分かれたのは、クロノによればアクロバッターと、特にライドロンが管理局が禁止している質量兵器に認定される可能性がある。 航行中、クロノと話した際に二機の性能を知ったクロノに渋い顔で言われた光太郎はクロノの伝手を頼むしかなかった。 余りよくないことだが、抜け道が結構あるらしい。 そして…本局を訪れた翌朝には、光太郎は身柄を移送されていた。 移送先は周囲を荒野に包まれたこれもまた殺風景な場所だったが、地上である分アースラよりはマシだとさえ光太郎は感じた。 施設内では、白衣を着た男が秘書らしき女性を伴って光太郎を待ち受けていた。 男は二十歳を少し過ぎただけのようにも、四十を超えているようにも光太郎の目には映った。 性差はあるが、隣に立つ紫のロングヘアーの女性とその男はどこか似ていた。 「君が光太郎だね?私が君の担当になったジェイル・スカリエッティだ。ドクターと呼んでくれると嬉しいな」 「よろしくお願いします。ドクター」 がっしりと握手をする光太郎を見るドクターの秘書らしき女性の笑顔が微かに深くなった。 光太郎はそれ気づき、女性にも挨拶をする。 「君のようなケースはとても希少だからね。協力に感謝するよ」 「お手柔らかに頼みますよ」 「私に任せておきたまえ…全てね」 そう言ったドクターの目に狂ったような光が宿ったが…ゴルゴムの科学者に比べれば幾分マシ、としか光太郎の目には映らなかった。 目次へ 次へ
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次の瞬間、ザビーはカブトに向かって走り出していた。 前回の雪辱を晴らす為に、なんとしてもカブトを倒さねばならない。 「はッ!」 「……甘い。」 接近したザビーはカブトに殴り掛かるも、片手で流されてしまう。 「クソ……!」 もちろんそれで終わる訳が無く、ザビーは次々とパンチを撃ち込む。 だがそれも全て受けられ、逆にカブトの打撃を受けるザビー。 「アギト……!お前は一体何者なんだ!」 「……ッ!」 フェイトが振り下ろすバルディッシュを、フレイムセイバーで受け止めるアギト。 「いきなり襲ってきたり……敵を倒すのに協力してくれたり……何を考えてるの?」 後ろから聞こえる声に振り向くと、ピンクの球体が自分に向かって飛んでくるのが見える。 「ハッ!」 アギトは咄嗟にそれをフレイムセイバーで叩き斬る。 しかもよく見れば自分の周囲を無数の球体が飛び交っているではないか。 これはなのはのアクセルシューター。無数の球体がアギトを襲う。 「止めろお前ら!こんな戦いに何の意味があるんだ!」 ガタックは戦闘を中止するように叫ぶが、一同はまるで聞く耳を持たない。 ならば無理矢理聞かせるしか無いか…… 「……俺の話を聞け!!」 言いながらザビーを羽交い締めにするガタック。 「ク……離せ!」 ザビーも慌ててガタックから逃れようとするが、中々離そうとはしない。 なら…… 『Cast off(キャストオフ)!』 「うわ……!」 ガタックと密接したままキャストオフ。 それによりガタックはザビーのアーマーと一緒に弾き飛ばされる。 「クソ……いい加減にしろーッ!」 頭に来たガタックはダブルカリバーを装備、そのままザビーに斬り掛かる。 「チッ……やっぱりキミもカブトの仲間か!」 ガタックに殴り掛かるザビー。 こうしてザビーの相手は一先ずガタックへとシフトした。 「カブト……いや、天道総司……!」 そして次にカブトの前に現れたのはブレイドだ。 「まったく……次から次へと……」 呆れるように言い、そのままクナイガンでブレイドに応戦する。 「……お前は本当に俺達の敵なのか!?」 「お前達が俺の邪魔をすると言うのなら、容赦はしない」 二人はクナイガンとブレイラウザーを激突させる。 赤と青のカブトムシライダー対決だ。 「俺はあんたを信じたいんだ……同じライダーとして!」 「何……?」 カブトの動きが一瞬だけ止まる。 「あんただって何か、使命を背負って戦ってるはずだ!」 「使命……か。」 呟きながらブレイドの攻撃をクナイガンで受け止めるカブト。 その時…… 「……ッ!?」 大きな音と共に時空が裂け、巨大な電車が現れる。 「なんだコレ!?」 「電車……だと?」 またしても驚くカブト、ガタック、アギト。 地面にレールを敷きながら走る電車はギリギリ建物を破壊しない場所を走り、 やがて連結していた白い車両から一台のバイクが飛び出した。 白いバイクはサイレンを鳴らしながら地面に着地。 そのまま電車-『デンライナー』-は別の空間へと消えていった。 バイクに乗っているのは、管理局製の強化スーツを身に纏ったライダー……『G3』だ。 『氷川君、これがG3の初陣、頑張りなさい!』 「はい、小沢さん。」 白いバイク-ガードチェイサー-から降りたG3はサブマシンガン状の銃『GM-01 スコーピオン』を構えた。 『GM-01、アクティブ。』 Gライナーから遠隔操作でスコーピオンのロックを解除される。 「カブト!お前を捕獲する!」 G3はどこか滑舌の悪い喋り方でカブトにスコーピオンを向けた。 「……やれやれ、また管理局か。」 こうなるとカブト・ガタック・アギトの三人に対し、敵はなのは・フェイト・ザビー・ブレイド・G3の五人という事になる。 「(津上があの魔導師二人を、俺がこの男と今現れたライダーを相手にすればなんとかなるか)」 瞬時に状況を判断するカブト。出来ればあと二人、味方が欲しい所だが、無い物ねだりをしても仕方が無い。 「ハァッ!フン!」 一方、アギトはフレイムセイバーでなのはの放ったアクセルシューターを一つ一つ叩き落として行く。 「これなら……!」 『Haken Saber.』 フェイトがバルディッシュを振るうと、バルディッシュの魔力刃がアギトに向けて飛び出した。 「ク……!」 アギトは咄嗟にフレイムセイバーを両手で構える。すると、次の瞬間にはフレイムセイバーは二本に分裂していた。 「ダブルフレイムセイバー……!」 アギトは二本のフレイムセイバーでフェイトが飛ばした魔力刃を迎撃する。 「次!」 『Divine buster.』 「な!?」 今度は斜め上方向からのディバインバスターだ。 「(……かわすしか無いでしょこんなの!)」 常人を遥かに凌ぐ反射神経を持つアギトは咄嗟に転がってディバインバスターを回避。 ここまでやってまだお互いに一撃も入れていないというのがまた凄い。 「天道が一体何したって言うんだよ!」 「キミが知る必要は無い!」 ザビーの放つパンチをクロスさせたダブルカリバーで受け止めるガタック。 「それで納得できる訳無いだろ!」 「別にキミには関係無いんだ!納得して貰わなくて構わない!」 ザビーが放つパンチを一方的に防ぐだけのガタック。 「確かに天道は目茶苦茶な奴だけど、管理局に追われるような覚えは無いだろ!」 「それがあるんだよ!キミの知らない所でね……!」 ザビーは防戦一方のガタックを殴り続ける。ガタックもそろそろブチ切れそうだ…… 「ふん……!」 「速い!?」 カブトは一気にG3の後ろに飛び上がり、G3も慌てて振り向く。 だが時既に遅く、クナイガンの一撃を受けたG3はそのまま倒れこんでしまう。 「止めろ!話を聞いてくれ!」 ブレイドもカブトに駆け寄るが…… 「くどい。言ったはずだ……お前達と話すことなど何も無い!」 再びブレイドに接近し、クナイガンを振り上げるカブト。 ブレイドはそれを上手くブレイラウザーで受け止める。 「…………!」 G3はすぐに起き上がり、カブトに向けてスコーピオンを連射する。 「……諦めの悪い奴だな」 カブトはその銃弾を全てクナイガンで打ち落とす。 カランカランと音を立てて落下する銃弾を見て悔しそうな表情を浮かべる氷川。 なら…… 『GS-03、アクティブ。』 次に右腕に装着した超高周波振動ソード、『デストロイヤー』を起動。そのままカブトに突進する。 「ほぅ……」 それに対しカブトはクナイガンで応戦。 ぶつかり合うデストロイヤーとクナイガン。 デストロイヤーはこれでも振動剣だ。いかに超高温のクナイガンといえどこのままではまずい。 「フン!」 カブトはすぐにG3の腹を前蹴りで突き放し、一回転して何かを取り出す。 カブトが持っているのは『ゼクトマイザー』だ。 すぐにゼクトマイザー本体のプレートを押し、大量のカブト型マイザーボマーを射出。 連続で発射されるマイザーボマーの数は100に近い数となり、管理局勢力の全員を襲う。 「チッ……なんだ、コレは!」 ガードしながら防ぐザビー。 「これは……爆弾!?」 G3もマイザーボマーの能力に気付く。これは迂闊に攻撃するのは避けた方がいいだろう。 すると…… 「皆、すぐに退避して下さい!私がまとめて吹っ飛ばします!」 「「なのは!?」」 見ると、上空からマイザーボマーが集中している場所に向けてレイジングハートを構えるなのはの姿が。 「ディバィイイイイイン……」 しかも既にチャージに入っている。一同は急いでその場から退避。 「バスタァアアアアアアア!!!」 『Extension.』 カートリッジを2発ロードし、高密度の魔力を撃ち出す。 桜色の閃光がマイザーボマーの群れを一気に消滅させる。 想像以上に早く対処され、カブトも少し驚いているようだ。と、いうよりなのはの魔法まで計算に入れてはいなかった。 と、言うより「自分の学校のグラウンドでそんなもん使うなよ」と突っ込みたい。 「……カブトォーーー!」 ディバインバスターとマイザーボマーの爆発により発生した煙りが晴れると同時に、クロノはカブトに向かって走り出す。 だが、そんなザビーの前に突如現れた赤いバイクが立ち塞がる。 「……なんだお前は!?」 「お前がザビーブレスの所有者か」 言いながらバイクから降りてヘルメットを外す。 「お前は……橘!?」 驚くクロノ。ヘルメットを外した男のは、自分も面識がある橘だったのだ。 まさかここにギャレンが現れるとは思っていなかった。 そしてそれ以上にブレイドは驚いているようで…… 「ダディャーナザン!?」 「剣崎か……これが今の俺の仕事だ」 剣崎をちらっと見て、左腕を胸の前に持ってくる橘。 そして…… 「変身!」 『Turn Up(ターンアップ)!!』 右手を回すような変身ポーズを取り、ギャレンバックルのハンドルを引く。 同時にベルトから現れた光のゲートがザビーを弾き飛ばし、橘はすぐにそのゲートを通る。 「仮面ライダー……ギャレン……!」 「悪いがザビーブレスは返して貰う」 同時にザビーに向けたギャレンラウザーを発射。 「クッ……!」 ザビーはガードしながら距離を取るが、ギャレンの連射は止まらない。 「あんた、このエリアの司令官の天道総司だな?」 連射しながらカブトに話し掛けるギャレン。 「俺はシャドウ隊長の橘朔也だ。」 誰だコイツ?という雰囲気のカブトに簡単な自己紹介をするギャレン。 「そうか。ならばザビーはお前に任せる」 「言われなくても奴は俺が倒す!」 連射しながらザビーに接近するギャレン。 「橘さん!どういうこと何ですか、これは!?」 一方ブレイドは橘を止めるように叫ぶが、ギャレンの射撃は止まらない。 「俺の任務はザビーゼクターの奪還だ!」 「そんな……橘さん……ZECTに入ったんですか!?」 さらにギャレンに接近するブレイド。だが…… 「お前の相手はこの俺だ」 ブレイドの前に立ち塞がったのはカブトだった。 カブトにしても早く終わらせて帰りたい。そろそろ帰らねば樹花が心配するからだ。 そしてその障害となる者は倒す。 「く……どけ!」 こうして再び斬り合いになるカブトとブレイド。 一方、G3もグレネードランチャーである『サラマンダー』をカブトに向けている。 ブレイドとの戦いに集中している今なら倒せる。そう思ったのだが…… 「止めろーーーッ!」 「うわ……ッ!!」 いきなり飛び掛かってきたガタックが、飛び蹴りでG3を蹴り飛ばしたのだ。 「お前達、なんでこんなこと……!」 「これも全てカブトを倒すためです!」 言いながらサラマンダーを自分に向けるG3に、ガタックはついにブチ切れた。 「……舐めるなぁああああ!!!」 『Clock Up(クロックアップ)』 ガタックは腰のスイッチを押し、クロックアップ空間へ入る。 『One-Two-Three!!』 「ライダーキック!」 『Rider Kick(ライダーキック)』 ガタックの脚をタキオン粒子が駆け巡る。そのままG3に向けて飛び上がるが…… 「させない!」 『Plasma Smasher.』 次の瞬間、ガタックのボディに輝く雷が炸裂。 そのまま数メートル吹っ飛ぶ。 『Clock Over(クロックオーバー)』 「クソ……何だ!?」 「加賀美……クロックアップできるのはライダーだけじゃ無いんだよ?」 「フェイトちゃん……!?」 どうやらガタックを吹っ飛ばしたのはフェイトらしい。咄嗟にG3を守る為にクロックアップをしたという事だ。 「氷川さん……でしたっけ?貴方はアギトの相手をして下さい!ガタックは私が引き受けます」 フェイトの指示を受けたG3は「了解しました」とだけ言い、すぐにその場所を離れた。 「橘朔也……!キミは管理局の味方じゃなかったのか!?」 「今の俺の目的はザビーゼクターの奪還だ!」 ザビーはなんとかギャレンのレンジに入るが、なかなかダメージを与えられない。 何よりも恐ろしいのは零距離でのギャレンラウザーの連射だ。 「ふざけるな!今のザビーゼクターの資格者は僕だ!」 スキをついてギャレンにパンチを入れるザビー。 一方ギャレンも攻撃を受けながらカードをラウズ。 『ファイア』 『アッパー』 刹那、ギャレンの右腕を燃え盛る炎が纏う。そして…… 「たぁッ!」 ザビーのボディにファイアアッパーを炸裂させる。 「うわぁああッ!」 そのままザビーは数メートル吹っ飛ぶ。 「(ク……この位置からじゃ攻撃のしようが無い……!)」 アギトはなのはの攻撃をかわし続けながらそう思っていた。 今のアギトには射撃攻撃など無いに等しい。ずっと上空から射撃系の攻撃を続けるなのはは本当にやっかいな敵だ。 その時…… 「うわッ!?」 突然の後ろからの射撃攻撃に慌てて振り向くアギト。そこにいるのはさっきの青いライダー、G3だ。 「……チッ!」 すぐにG3に接近、ダブルフレイムセイバーでスコーピオンを弾き飛ばし、G3のボディを切り裂く。 「お前……さっき使命がどうとか言ってたな?」 クナイガンとブレイラウザーをぶつけ、お互いの顔を近付けながら言うカブト。 「ならば聞くが、お前の使命とは何だ?」 「俺の使命……それは、人間を守る事だ!」 ブレイラウザーでクナイガンを弾き、再び振り下ろすが、やはりクナイガンで受けられてしまう。 カブトは「そうか……」と言いながらクナイガンでブレイラウザーを弾く。 そこで、ブレイドはある事に気付いた……。 「カブト……!本気で戦うつもりは無いのか!?」 「何……?」 「さっきから殆ど守ってるだけで、たいした攻撃をしてこない!何故だ!?」 「……偶然だ。」 カブトはそう言い、素早くブレイラウザーを弾き、ブレイドのボディに一撃を入れる。 「ク……!お前は一体何の為に戦うんだ!?」 のけ反りながらブレイラウザーを構えて言うブレイド。 「……俺は人を殺め、小さな夢や希望をも踏みにじる……そんな奴らを倒すだけだ……!」 「……何!?」 その言葉に驚くブレイド。 しかしその時…… 「仲間割れをしている場合か……」 再び現れた喪服の女。 今度はさっきとは違い、結構な量のサリスを引き連れている。 20匹くらいだろうか?まったく空気を読まない登場だ。 カブトもブレイドもワームに向き直る。 同じように戦闘に集中しているギャレン・ザビー以外の一同は皆、ワームに反応する。 「橘さん!クロノ!」 ブレイドは二人に呼び掛けるが、二人は聞こえていないのか戦い続けている。 「無駄だ。奴らは最早ライダーの目的を忘れている。」 「カブト……」 カブトを見つめるブレイド。 「一時休戦……かな?」 アギト・フェイト・ガタックもなのはの言葉に頷く。 まずはワームを倒す事が先決だ。 「おいおいおいおい、なんか面白そうじゃねぇか!今度こそ俺も交ぜて貰うぜ?」 さらに校門から堂々とグラウンドに現れたのは髪の毛を逆立て、野獣のような目をしている良太郎だ。 「変身!」 『Complete(コンプリート)』 良太郎はデルタフォンをデルタムーバーにセット。 再びデルタへと変身する。 「あれは……デルタギア!?」 「もう乱入しすぎだろ……」 驚くフェイトと呆れるガタック。まさに大乱闘だ。 そしてデルタはすぐに派手なポーズを取り…… 「今度こそ……俺、参上!!」 「おいテメェ、それ貸しやがれ!」 「え……ちょっと……!?」 「いいじゃねぇか2本あんだからよ!」 そう言いアギトからフレイムセイバーを分取るデルタ。 フレイムセイバーを構えたデルタはさらに意気揚々と喋り出す。 「俺に前フリは無ぇ!最初っから最後まで徹底的にクライマックスだ!!」 ワーム集団にフレイムセイバーを向けて叫ぶデルタ。 それに続いてなのは・フェイト・ガタック・アギトもデルタの横に並ぶ。 こうなるともうどこぞのスーパー戦隊みたいだ。 「行くぜ行くぜ行くぜぇーーーーー!!」 デルタが走り出すと同時にアギト、ガタックもワームに向かって走り出す。 デルタとアギトはフレイムセイバーでサリスを斬り倒してゆき、ガタックはダブルカリバーでサリスにトドメを刺していく。 「私達も行くよ、フェイトちゃん!」 「うん、なのは!」 フェイトとなのはも上空からワームに攻撃を開始する。 「(ワームよりも今はコイツだ……!)」 ザビーはワームに気付いているにも関わらず、ギャレンへの攻撃を続けていた。 ギャレンもザビーのパンチを上手く流しながらギャレンラウザーの発射を続けている。 今回のワーム殲滅はなのは達に任せる事にした。 「カブト……いや、天道総司。お前は……」 「お前……名は何と言う?」 ブレイドの言葉を遮り、名前を聞くカブト。 「名前……?俺は、仮面ライダーブレイド……剣崎一真だ。」 カブトに聞かれたブレイドは自分の名前を名乗る。 「そうか……行くぞ、剣崎」 「……ああ、天道……!」 カブトとブレイドの二人はお互いの名前を呼び合い、ワームへと突進していく。 同時にサリス軍団の奥からカタツムリのような姿をしたコキリアワームと、 三葉虫のような姿をしたトリロバイトアンデッドが現れる。 どうやらこのアンデッドはたまたまワームと協力体制にあったらしい。 「現れやがったな大ボスが!」 それに対しさらに張り切るデルタ。 ワームの数は20匹。5人いれば一人4匹の割り当てでワームを殲滅できる。 「はぁ!」 「うぉおお!!」 さらに後からきたカブトとブレイドがお互いの武器をサリスへと振り下ろし、爆発させる。 お陰でサリス軍団は完全に壊滅。結局サリスを連れて来ても意味は無かったようだ。 「行くぜぇー!」 デルタはフレイムセイバーでコキリアワームに斬り掛かる。 横、縦、斜めとあらゆる角度から斬って斬って斬りまくる。 コキリアワームは少し距離をとろうとデルタから離れるが…… 「フン!」 今度はアギトのフレイムセイバーに斬られてのけ反る。 そこで右腕のムチを近くにいたライダーに飛ばすが…… 「当たるかよ!」 ガタックはそれを回避。さらにダブルカリバーで鞭を叩き斬る。 これはまずい。そう感じたコキリアワームはクロックアップを発動。そのまま逃走を謀ろうとするが、やはりそう上手くいく訳も無く…… 「逃がさないよ!」 『Plasma lancer.』 すぐにフェイトの放ったスフィアがコキリアワームに全弾直撃。 すぐにクロックオーバーだ。 「んじゃ、そろそろラスト行くぜ!」 フラフラと立ち上がるコキリアワームにフレイムセイバーを振りかぶるデルタ。 「必殺……俺の必殺技ぁ!」 デルタは力任せにフレイムセイバーを振り下ろす。それに直撃したコキリアワームは苦しそうに悶えるが…… 「はぁーーー!」 今度は燃え盛るフレイムセイバーを持ったアギトのセイバースラッシュが直撃。 それだけでも十分致命傷なはずだが、それで終わらせてはくれない…… 「ラスト行きます!本日三発目っ!!」 言いながらコキリアワームにレイジングハートを向けるなのは。 そして…… 「ディバイィン……バスタァーーーーーーーッ!!」 『Divene buster.』 そのまま凄まじい勢いで発射された閃光にコキリアワームは飲み込まれた……。 「はぁ!」 クナイガンでトリロバイトアンデッドを斬りつけるが、相当固い皮膚らしくなかなか傷を付けられない。 ブレイドも同じようにブレイラウザーを振り下ろすが、あまり効いている気がしない。 ならば…… 「同時攻撃だ……!」 そこでカブトは次の作戦を立案。ブレイドと二人で同時に攻撃を仕掛ける。 「「たぁッ!」」 クナイガンとブレイラウザーを同時に叩き付ける。 すると今回は少しダメージが通ったのか、数メートル後ずさる。 これなら行ける。 「今だ!」 「ああ、やるぞ!」 二人はお互いの顔をみた後、すぐにトリロバイトアンデッドに目線を戻す。 そしてブレイドはラウザーから3枚のカードを取り出し…… 『キック』 『サンダー』 『マッハ』 『One-Two-Three!』 ブレイドはカードをラウズ、カブトはフルスロットルを三回押す。 『ライトニングソニック』 『Rider Kick(ライダーキック)』 そして三枚のカードが宙に浮かび、そのままブレイドの体に吸収される。 一方カブトはベルトから放たれたタキオン粒子が右足にチャージアップされる。 そして同時に飛び上がった二人は…… 「はぁーーーーーーーー!!」 「うぇーーーーーーいッ!!」 ほぼ同じフォームで空中で一回転し、そのままトリロバイトアンデッドを蹴り飛ばす。 ダブルライダーキックが炸裂したトリロバイトアンデッドはさらに吹っ飛び、地面に転がる。 カシャッ! そしてトリロバイトアンデッドのアンデッドバックルは開く。 これは「封印できる」という合図だ。 ブレイドは一枚のプロパーブランクのカードをトリロバイトアンデッドへと放り投げる。 カードはヒュンヒュンと音をたててアンデッドに突き刺さり、そのままカードに吸収される。 そのカードはすぐに自分の元へと帰ってくる。 「天道……お前は一体何者なんだ?」 カードを受け取ってすぐにカブトに尋ねるブレイド。 その質問に対し、ゆっくりと太陽を指差すカブト。 「俺は天の道を往き、総てを司る男……天道総司だ……」 その言葉を聞いたブレイドは「ははっ」と笑い出す。 カブトもそんなブレイドの反応に「フ……」と笑みをこぼす。 「俺……あんたを信じてみるよ。あんたの言葉を……」 「いいのか?俺を信用して」 「ああ。信じてみたいんだ……」 さっきカブトが言っていた戦う理由。その言葉に嘘があるとは思えないのだ。 カブトもブレイドの言葉を聞き、誰にも解らないように仮面の下で微笑んだ。 周囲を見回せば、いつの間にかアギトの姿は消えていた。 どうやらアギトはこの混乱に乗じて姿を消したらしい。 まぁ翔一とはまたいつでも会える。カブトはあまり深く考え無いことにした。 「さて……そろそろ終わらせるか。」 天道はそう呟き…… 「加賀美、クロックアップだ!」 大声で指示するカブト。 「え……何でだよ!?」 「そろそろ終わりだ。」 ガタックは訳が解らないといった感じだが、とりあえず指示に従う事に。 『『Clock Up(クロックアップ)』』 二人は再びクロックアップを発動させる。 「おい天道……何するつもりだよ?」 「クライマックスだ。最後のライダーキック……行くぞ。」 言いながらほぼ止まっているに等しいギャレンとザビーを見るカブト。 ガタックも「なるほどな……」と納得し、二人はゼクターのフルスロットルを押し始める。 『『One』』 ゆっくりと歩きながらザビーとギャレンに近づく。 『『Two』』 カブトはザビー、ガタックはギャレンに向かってゆき…… 『『Three』』 「ライダー……キック。」 「ライダーキック!!」 二人はザビーとギャレンの目の前で立ち止まり、勢いよくゼクターホーンを倒した。 『『Rider Kick(ライダーキック)!!』』 「はぁッ!!」 「おぉりゃあああああ!!」 カブトは回し蹴り、ガタックは飛び蹴りでそれぞれのライダーキックを直撃させる。 蹴られた二人はゆっくりと浮き上がり…… 『Clock Over(クロックオーバー)』 ゼクターがクロックオーバーを告げると同時にクロックアップは終了。 「「な……ッ!?」」 さっきまでゆっくり浮かんでいたザビーとギャレンも一気に吹っ飛ぶ。 過度のダメージにより変身が解除されたクロノは悔しそうにカブトを見上げる。 「お前達……少し頭を冷やせ。人々を守るはずのお前達がその目的を忘れてどうする?」 カブトに言われたクロノは返す言葉を無くす。 「そして橘、お前もだ。……今回はもう帰れ」 「だがザビーゼクターがまだ……!」 「これは命令だ!」 「……ッ!?」 キツい口調で言うカブトに、橘も黙ってしまう。確かに権力は橘よりも天道の方が上だ。 橘は不服だが「……わかった。」と了解する。 カブトはそのまま変身を解除し、ゆっくりと歩き始めた。 「お、おい天道……アイツどうするんだよ!?」 加賀美が指差すのは白いライダー……デルタだ。 天道は少し「……」と考えるが…… 「知るか。」 そのまま再び歩き始めた。 「ちょ、ちょっと待てよ!」 加賀美は慌てて天道を追い掛ける。 「へへ……俺、最強!」 言いながらデルタギアを外す良太郎。 同時に良太郎から赤い何かが離れ…… 「アレ……?どこ……ここ……」 キョトンとした顔で周囲を見渡す良太郎。 周囲ではなのはとフェイトが険しい表情で自分を睨んでいる。 「あ、あの……ボク、もしかして何かしちゃった……?」 次回予告 橘の前にエリアZから来たという人物が現れる。 その一方で異形の姿と力を手に入れてしまった二人の男は邂逅する。 そして決着をつける為、ついに激突する二人……! 次回、リリカルなのは マスカレード ACT.13「激突!なのはvsハイパーカブト!!」 に、ドライブイグニッション!! スーパーヒーロータイム 小沢「なんで氷川くん最後スルーされてたの?」 氷川「アギトから受けた攻撃のせいでバッテリーが完全に上がったんですよ!」 小沢「あ、そうなんだ?だったらそう言いなさいよ」 氷川「いや、そんなこと言われても……」 良太郎「……貴方も、結構不幸なんですね……」 モモタロス「次回もよろしくな!」 戻る 目次へ 次へ
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防衛戦の終わり。 つまらない日常への回帰に落胆する。 だが、ほんの少し楽しみなことが起こった。 スバルへのミスショット。 俺からすれば、起こるべくして起こった事故。 優しい優しいなのはは、ほんの少しの小言で済ませる。 あまりにもくだらなくてどうでもいいことに過ぎない小言よりも、 俺の興味はたった1つに向いている。 ティアナ・ランスター。 ひよっこどもの中で一番どうしようもないひよっこ。 粋がった馬鹿の同類かとさえ思い始めた。 視界に映る度、思考に浮かぶ言葉は圧殺、轢殺、殴殺、射殺、爆殺、斬殺、屠殺、嬲殺・・・・・・。 さて、そろそろ貴様のあり方を見極めるとしよう。 魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。 第8話 賭け 「えっと・・・・・・報告は以上かな?現場検証は調査班がやってくれるけど、 皆も協力してあげてね。しばらく待機して何も無いようなら撤退だから。」 「「「はい!」」」 なのはさんの言葉にスバル達が返事している。 けれど、そんなことあたしはどうだってよかった。 この後、絶対に・・・・・・。 「・・・・・・で、ティアナ。ちょっとあたしとお散歩しようか。」 「っ・・・・・・はい・・・・・・。」 来た!! なのはさんから穏やかな口調で誘われる。 あたしはただ返事を返すしかなかった。 緞帳が落ちたような心のまま・・・・・・。 そのまま森をなのはさんと歩いていき、どの程度皆から離れたころだろう。 辺りに誰もいない場所。 木漏れ日以外、本当に何も無い、木々が鬱蒼と茂った静かな場所。 そこでなのはさんが歩みを止めた。 そのまま、あたしのほうに振り向き口を開く。 「失敗しちゃったみたいだね。」 「すいません。1発・・・・・・反れちゃって・・・・・。」 後ろめたさに無意識に視線は下を向いてしまう。 それに・・・・・・なのはさんは全て知っているはず。 隊長なのだから報告を受けていないはずが無い。 その上で質問しているのだろう。 あたしを問い詰めるために・・・・・・。 もしも知らないことがあるとすれば、どうしてあたしがあんなことをやったか。 それだけだろう。 「わたしは現場にいなかったし、ヴィータ副隊長に叱られて、 もうちゃんと反省していると思うから、改めて叱ったりはしないけど・・・・・・。」 なのはさんはそう言う。 優しい口調のままに・・・・・・。 それで優しい口調で油断させた後、次はなにをやるんですか? 頬を叩きますか? それとも謹慎処分でも通達するんですか? 「ティアナはときどき、少し一生懸命すぎるんだよね。それでちょっと やんちゃしちゃうんだ。でもね・・・・・・。ティアナは1人で戦っているわけじゃないんだよ。 集団戦でのわたしやティアナのポジションは前後左右全部が味方なんだから。」 肩に手を置きながら告げられたなのはさんのその言葉にはっとする。 あたしのポジションはセンターガード。 敵陣に単身で切り込むフロントアタッカーでも、 前衛や後衛の支援攻撃をするガードウイングでも、 まして完全支援のフルバックでもない。 チームの中央に立って、誰よりも早く中・長距離を制する者がセンターガード。 そしてあのときあたしがやるべきだったことは、敵を全滅させることでも無くて、 ましてあたしが蹴散らすことじゃなくて、防衛線を維持することだった。 それなのにあたしは焦って、全機撃墜しようとして・・・・・・。 「その意味と今回のミスの理由、ちゃんと考えて同じことを2度と繰り返さないって 約束できる?」 「はい・・・・・・。」 「なら、わたしからはそれだけ。約束したからね?」 「はい・・・・・・。」 なのはさんは最後まで優しいままだった。 1度も声を荒げもせず、頬を打つこともせず・・・・・・。 なのはさんに言われたことは全部理屈の上では分かってる。 でも・・・・・・、だけど・・・・・・、あたしは・・・・・・。 AMFに阻まれてなにもできなかったあたしは・・・・・・。 役立たずだ。 「わかりました。あちらに・・・・・・。」 調査班の人から話を聞いていると、ふっとその視線が外れた。 追うようにあたしもそっちを見ると、そこには・・・・・・。 「ティア!!」 「・・・・・・スバル。」 あたしは足早に駆け寄る。 調査班の人の話を放り出して。 管理局員としての自覚があるのかとか主人を見つけた犬みたいと言われるかもしれない。 でもなんだっていい。 ティアはあたしのかけがえの無い親友なんだから。 「いろいろ・・・・・・ごめん。」 いつものティアが嘘のようだ。 まるで火が消えちゃったみたい。 「んーん、全然・・・・・・。その・・・・・・なのはさんに・・・・・・怒られた?」 あー、なんでこんなことを聞いているんだろう。 ティアが傷つくに決まっているのに。 なんであたしはもう少し気の利いた言葉が言えないんだろう。 「少しね。」 「そう・・・・・・。」 落ち込んだままのティアが短く答えて、あたしもただ言葉を返すしかできない。 ほら、会話が途切れてしまった。 ああ、もっとなにか言わないといけない言葉があるのに・・・・・・。 ええと、ええと、そうだ!! 「ティア、向こうで一休みしてていいよ。検証の手伝いはあたしがやるから・・・・・・。」 精一杯明るく気にしていないように振舞えたはず。 でもティアにはバレバレかな。 「凡ミスしておいてサボりまでしたくないわよ。いっしょにやろ?」 「うん!!」 軽く笑ってティアがそう言ったけど、あたしは嬉しかった。 ティアにちょっとだけ元気が戻ったみたいだったから。 「初めまして、ユーノ・スクライア司書長。空曹兼陸曹のはんたと申します。 いつもバトー博士がお世話になっています。」 そう言いながら俺はなのは達のところへ近づいた。 管理局のデータベース無限書庫の司書長、ユーノ・スクライア。 バトー博士から簡単な容姿は聞いている。 トモダチがまた増えたという言葉と共に・・・・・・。 しかし、インジュウなんてアダナ、バトー博士もよく思いつくものだ。 もっとも俺にはどのあたりがインジュウか分からないが・・・・・・。 「い、いえ。こちらこそ。その・・・・・・物凄い呼び方される以外は・・・・・・本当に・・・・・・。 バトー博士にこちらのほうが感謝してますから。既に無限書庫の3割以上に目を通されていますよ。たった1人で何十人分もの司書と同じ仕事量を来る度に手伝ってくれて、 自分の仕事もあるのに・・・・・・。司書長なんて立場にありながらお恥ずかしい限りです。」 「バトー博士があなたとトモダチになったのなら、それは当然のことです。 バトー博士以上に誠実な人間を俺は見たことが無い。」 奇妙な顔をするユーノ・スクライア司書長。 案外知らないのかもしれないな。 ここにいる面子がそろってバトー博士のトモダチになっているなんて。 インジュウ、ゴキブリ、バカチン、ロシュツキョーか。 どれが一番まともな名前か。 さて、そんなことは置いておいて、せっかくフェイトもいることだし尋ねておくとしよう。 「それで、なの・・・・・・なのは隊長とフェイト隊長をお借りしてもよろしいですか? ああ、たった1つの疑問にお答え願うだけですからこのままでも構いませんよ。」 「・・・・・・構いませんけど?」 「ええと、なにかな?はんた君。」 「作戦行動についてなにかあったかしら?」 「広域防衛戦が予想されていたのに、砲戦魔導師のなのは隊長と広域攻撃魔法が使える はやて部隊長がわざわざホテル内の警備についた理由を教えていただきたい。 どちらか片方が外にいれば、かけらほども被害はなかったでしょう。 結果はご存知のように、シグナム副隊長達は動きっぱなしで、 まともな範囲攻撃が使えるのは俺だけで、 召還による奇襲を受けてスバル達が展開したホテル前の防衛線まで敵に詰め寄られ、 どうにか迎撃しきれたものの、召還師には逃げられて、 オークションの品物を盗まれてしまったわけだ。」 「それは・・・・・・。」 フェイトが困惑したように言いあぐねている様子。 同様になのはのほうも・・・・・・。 本当のことを言えばフェイトまで中にいたことがおかしい。 率いるべき隊長なのだから・・・・・・。 一番の疑問は最大火力を誇る隊長3人が揃いも揃って中にいたことだ。 シャマルのクラールヴィントとも、六課の管制のほうとも常時回線を繋げずに!! 今回の戦いを、広域防衛なんてシャマルが言っていたが、 ほとんど1方向から攻めてくれたからどうにかなったようなものだ。 包囲攻撃されるなんて予想さえ立てなかったのか? 終わったことでどうこう言いたくはないが、 あれだけ後手後手に回ってどうにかできたのは運がよかったとしか言いようがない。 まして包囲攻撃だったならホテルも人間も無傷ですまなかった。 だからこそ、聞きたい。 部隊としてどうしようもないのか、それとも別の何かがあったのかを判断するためにも。 言いあぐねている2人にこちらから予想の1つを振ってやる。 「六課のあり方として隊長は力をふるうわけにはいかなかったとでも?」 「君、失礼だろ。なのは達だって・・・・・・。」 「いいよ。ユーノ君。でも・・・・・・耳が痛いな。上からの命令としか答えられないんだ。」 ウエカラノメイレイ? 言葉の意味がわからなかった。 上からの命令・・・・・・。 つまり、はやて達よりも上の立場のどこかの馬鹿が、なにを考えたか知らないが、 効果的な運用も考えないで最大火力を使えなくしたと・・・・・・。 あらゆる言葉が思考を埋め尽くす。 その大半は罵声の類だ。 あまりにも予想を突き抜けた答え。 呆れも失望も突き抜けるほどに・・・・・・。 俺はなにも言わずに去るしかなかった。 「アルファ、結果より逆算、今回の防衛に成功する確率は?」 「60.8%。」 「5度に2度は抜かれたわけだ。遊びで部隊をやっているのか?」 「情報が足りず回答不能です。」 「仮に俺が攻める側だった場合?」 「100%は揺るぎません。今までどおりのルールならなおさらです。」 「Dead No Aliveか。」 口に出すと泣き出したくなるほどに懐かしい言葉。 それに、彼女を殺してから感じ続ける空虚な感覚は加速するばかり。 この世界に飛ばされて、アルファが蘇ったことでほんの僅かばかり満たされた。 けれど、日を追うごとに他のなにかが壊れた蛇口のように溢れ出ていってしまって・・・・・・。 まともじゃなくなりはじめていたのだろう。 壊れかけを騙し騙し動かした果てに、壊れてはいけないメインパーツが悲鳴を上げたのか。 アルファにこんな問いをしていた。 「アルファ、狂うことができたら楽になれるかな?」 「なにも変わらないと思われます。」 「・・・・・・なぜ?」 「狂った人間はなにも感じなくなります。なにも失うことも得ることもありません。 マスターは永遠に数字の0を刻むだけになります。マスターの枷となっている現実も、 殺害せずに済んでいるに過ぎないモノが殺害可能となるだけです。 要素として誤差で済むほど極小のプラスに過ぎません。リターンは限りなく0です。」 「だが、感じなければマイナスもないだろう?機械のように・・・・・・。」 「その問いはYesです。しかし、今現在、膨大な量のマイナスがあるにすぎません。 かつて、なにも保証がないまま、なにかが得られると荒野を駆け抜けたのはマスターです。 そして多くの非論理的思考を機械に過ぎない私に教えたのもマスターです。 そのマスターが私に向けてそのようなことを尋ねるのですか?」 「・・・・・・すまない。どうかしていた。」 「問題ありません。ただ、マスターがどのような決断をしようと私がマスターの傍らに あり続ける事実に変更はありません。」 「ああ、そうだな。」 「はーい。機動六課の前線メンバーの皆さん。撤収準備が整いました。 集合してくださーい。」 唐突に響くシャーリーの軽い声。 シャーリー・・・・・・シャーリィか・・・・・・。 だめだな。 本当にどうかしている。 彼女のこと以外で立ち止まって振り返ることなんて、 それこそジャックさんに殺されたときぐらいだったのに、 今頃になって共に旅をした仲間のことを思い出すようになるなんて・・・・・・。 綺麗な金髪のソルジャーで胸がすくような振舞いをしていた彼女だったら、 こんな状況を作り出したやつをとりあえず殴り飛ばして蹴り飛ばして、 それから笑い飛ばして酒でも飲んでそれで全部おしまいにするだろう。 酒・・・・・・。 そういえばいつからだろう。 酒の味がわからなくなって、いくら飲んでもまったく酔わなくなったのは・・・・・・。 しかし、本当にどうしたんだろう。 思考がなにかおかしい気がする。 気のせいか? それに俺が殺してしまった彼女の髪の色である血の赤が恋しくて恋しくて仕方が無い。 ちょうどいい。 傍らを通り過ぎていく白衣を着た生き物を殺・・・・・・。 深呼吸をしながら歩き続ける。 そうだ、バトー博士に頼みを追加しよう。 3連装にすると共に、バリアジャケットに血染めの旗でも加えてくれと・・・・・・。 そういえば緑にこだわる必要もなくなったんだ。 他のカラーリングにしてくれというのもいいかもしれない。 なんせ血塗れになっても目立たないからこその緑だったのだから・・・・・・。 でも彼女は緑のアサルトスーツで全身を覆っていた。 緑は彼女とお揃いの色。 ああ、やっぱり緑のままがいい。 血染めの旗なんていらないな。 なぜ思いついたのだろう? 邪魔な情報だ、消してしまおう。 いつからできるようになったのかさえ忘れてしまった行為。 意図的に記憶を消すというもの・・・・・。 砂の城を踏み潰すように、記憶から本当に色鮮やかで綺麗な血染めの旗を消していく。 ほころびが始まってしまったことにはんたは気がついていない。 自分がなにを消してしまったのか。 あの苛酷な荒野において仲間として共に駆け抜けた金髪のソルジャー『シャーリィ』。 旅の中で彼女が語ってくれたのは、かつて所属していて皆殺しにされた傭兵団のこと。 その名前は血染めの旗(ルージュフラッグ)・・・・・。 「皆おつかれさま。じゃあ、今日の午後の訓練はお休みね。」 「明日に備えてご飯食べてお風呂でも入ってゆっくりしてね。」 「「「「はい!!」」」」 六課に撤収して、なのはさん達にそんな声をかけられた。 あたし達4人は元気よく返事を返す。 だけど、あたしはそんなに悠長なことしていられない・・・・・・。 隊舎への道中、あたしは口を開く。 「スバル、あたしこれからちょっと1人で練習してくるから・・・・・・。」 「自主練?ならあたしも付き合うよ。」 「あ、じゃあ、僕も・・・・・・。」 「私も・・・・・・。」 これはあたしのわがまま。 あたしの無理に付き合わせるわけにはいかない。 あたし達よりも幼いエリオ達ならなおさらに・・・・・・。 「ゆっくりしてねって言われたでしょ。あんた達はゆっくりしてなさい。 それにスバルも、悪いけど1人でやりたいから!!」 「うん・・・・・・。」 そうエリオ達に言ったけど、あたしは笑えていただろうか。 誰かがいたら、きっとあたしは自分で立っていられなくなる。 それではいけないんだ。 証明するためにもあたしは人一倍努力しないといけないんだ。 制圧さえできないセンターガードでいてはいけないんだ。 あたしは誰もこないだろう場所を探すためみんなの前から去った。 どこか悲しげな声のスバルの返事を背中越しに聞きながら・・・・・・。 「あのさ。2人ともちょっといいか?」 「あ・・・・・・うん。」 あたしの言葉になのは達が頷いた。 シャーリーとシグナムのやつはどこか怪訝そうな表情であたしを見ている。 そんなにあたしがなにか言おうとするのが珍しいのか? 場所を移して皆がソファーに腰を下ろす。 「訓練中から時々気になっていたんだよ。ティアナのこと・・・・・・。」 「うん。」 「強くなりたいなんて若い魔導師ならみんなそうだし、 無茶も多少はするもんだけど・・・・・・。時々ちょっと度を越えてる。 あいつ、ここに来る前なんかあったのか?」 「ティアナのお兄さん、ティーダ・ランスター。当時の階級は一等空尉。 所属は首都航空隊。享年21歳。ご両親は既に事故で亡くなっていて、 ティアナはたった1人のお兄さんに育てられたみたい。」 「結構なエリートだな。」 「そう。エリートだったから・・・・・・なんだよね。ティーダ一等空尉は亡くなったときね、 逃走中の違法魔導師に手傷を負わせたんだけど、取り逃がしちゃってて・・・・・・。」 「まぁ、地上の陸士部隊に協力を仰いだおかげで、犯人はその日のうちに 取り押さえられたそうなんだけど。」 「その件についてね、心無い上司がちょっと酷いコメントをして一時期問題になったの。」 「コメントって?なんて?」 「犯人を追い詰めながら取り逃がすなんて、首都航空隊の魔導師としてあるまじき失態である。例え死んでも取り押さえるべきだった・・・・・・とか、任務を失敗するような 役立たず・・・・・・とか。」 「ティアナはそのときまだ10歳。たった1人の肉親を亡くして、しかもその最後の 仕事が、無意味で役に立たなかったって・・・・・・きっと物凄く傷ついて悲しんで・・・・・・。」 「でも無駄死にだろ?」 全員が一斉に扉のほうを向く。 そこにはあいつがいた。 いや、そんなことよりも重要なことがある。 「はんた!!てめぇ、今なに言いやがった!!」 「ノックは忘れなかったと思うんだが・・・・・・。」 「質問に答えやがれ。」 「無駄死にと言ったんだ。獲物を追いかけて取り逃がして勝手にくたばったんだから。」 「はんた君!!なんてことを・・・・・・。」 「テスタロッサ。落ち着け。はんた、いったいなんのつもりでそう言っている?」 「揃いも揃って・・・・・・。思った通りをそのまま口にしているんだよ、シグナム。 むしろどこが怒る部分なのか教えてくれないか?」 「ふざけるんじゃねぇ!!」 「冗談や挑発なんかのつもりはさらさら無い。どこが怒る部分なんだ?」 「本気で言っているんだな?」 「もちろん。育った世界の価値観の違いかと思い始めたところだが。」 「・・・・・・お前の世界ではどうなんだ?」 「世界なんて広い括りは知らないな。だが、俺のいた場所では毎日たくさんの人間が 死ぬんだ。数えたことはないがそれこそ死ぬ原因は様々でダースどころかグロスで 死んでいるだろ。なんせ周りが全部敵の世界だ。特にハンターなんていう自分の命を 賭け金にして殺し合いをやる人種はなおさら死にやすい。」 「そうか・・・・・・。」 「その一番死体になりやすいハンターにはいくつかの原則があるんだ。 その中で一番の基本で絶対の原則を無視してくたばったんだから無駄死にだろ?」 「どんな・・・・・・原則なの?」 なのはのやつ、問いかける声が震えてやがる。 フェイトも同じだ。 シャーリーのやつなんか顔が真っ青になっちまってる。 シグナムのやつだけは冷静みてぇだな。 あたしも反射的に飛びかかっちまいそうだ。 でも、それ以上に、表情ひとつ変えないで話すはんたの話が信じられない。 いったいどんなところなんだよ。 人間が毎日そんな数で死んでいく世界って!! なんなんだよ、この裁断機野郎がいた世界って!! 「『ヤバくなったら逃げろ』。あまりにも当たり前で簡単なことだろ?」 「なにふざけたこと抜かしてやがるんだ!!んなことしたら任務放棄じゃねぇかよ!!」 「だから無駄死にって言っているんだろ?自分がやられてたった1人の家族が 本当に1人ぼっちになる可能性よりも追いかけるほうを選んでくたばったんだから。 その上で獲物も取り逃がしたんだ。無駄死にだろ?」 「っ・・・・・・。でも・・・・・・。」 「俺の言葉にティアナが怒るならまだ分かる。だが、なんでなのは達が怒っているんだ?」 反論しようとしたなのはが、はんたの言葉に詰まった。 なんて答えりゃいいんだ。 死者を冒涜するな? 任務を遵守した結果? 尊い人命? ティアナの気持ちも考えろ? どれもはんたは鼻で笑いとばしちまいそうだ。 なにも言えないでいるあたし達の横でシグナムが口を開いた。 「ティアナのことは置いておこう。はんた、なんのようだ?」 「ああ、そうだ。ろくに使い道も無くて額面もたいしたことない報酬を 増やしたいと思って来たんだった。」 「給料の値上げ交渉か?」 「いや。単純な賭けさ。なのはがティアナに面白いことを言っていたからそれを使わせて もらおうと思った。『その意味と今回のミスの理由、ちゃんと考えて同じことを2度と 繰り返さないって約束できる?』だったか?」 「盗み聞きしてたの!?」 「レーダーレンジの中で喋っているほうがマヌケなんだ。賭けの内容だ。1ヶ月以内に なのはとの訓練中スバルとティアナが近接戦闘を仕掛けるほうに今月の報酬全額賭ける。」 「・・・・・・?ティアナのモード2のことを言っているの?」 「育成プランなんてあったのか?なにを目的にしているか分からない訓練ばかり やらせているから無いものだと思ってた。ついでに言えば今回の事故も 痛い目みせるために意図的に起こるよう仕組んでいたとばかり思ったんだが・・・・・・。」 「そういえばてめぇ、なんか妙なこと言ってたな。起こるべくして起こったとか・・・・・・。」 「え?ヴィータ、それってどういう・・・・・・。」 フェイトがあたしの言葉に驚いている。 なのはもはんたの言葉に呆然としているみたいだ。 シャーリーの問いかけるような視線にシグナムが頷いている。 あの場にシグナムもいたからな。 はんたが口を開く。 「シャーリー。ひよっこどもの初任務の映像は出せるのか?」 「え、ええ。出せるけど。」 「なら出してくれ。人伝に聞いた話で記憶が狂っていなければ、 新人たちがちゃんと動けたようで上出来みたいな内容だったな、隊長達の評価は・・・・・・。」 たしかリインのやつがつけていた日誌がそんな感じだった。 回ってきた報告書も・・・・・・。 あたしはそのときいなかったからなんとも言えねぇんだけどな。 目の前にそのときの映像が表示される。 「わざわざヘリの中でバリアジャケットを展開してから外に出た俺よりも、 なのはが飛び降りながらバリアジャケット展開しているのを真似して、 対空射撃されることさえ考えずに飛び降りたひよっこどもと、 バリアジャケットに感激して敵の真上で立ち止まっているひよっこどものことは、 ここで発狂した笑いをしている俺の立ち回りミスとしよう。」 なのはとフェイトは愕然としたような表情をしていた。 とくになのはは震え始めている。 当然かもしれねぇな。 当たり前のように取った行動をひよっこどもが真似をしていたんだ。 空の迎撃に行くなのはとリニアに取り付くひよっこどもの違いを理解もせずに・・・・・・。 それがどれだけ危ないことかさえひよっこどもは分かっていないだろう。 シャーリーもあっと言わんばかりの顔をしている。 そういえばシャーリーって通信士だったっけな。 それならこの現場をモニター越しとはいえ目の前で見ていたことになる。 映像が流れ、ある場所まで来るとはんたが『止めろ』と言った。 「だが、ティアナのこの行動を当たり前だと見逃して放置していたんだろう? 射線上に仲間がいるときにトリガーを引くなんてしないものだ、普通は・・・・・・。 それとも射線上に味方がいてもトリガーは引くのがこっちの世界の常識なのか? それならひどい誤解をしたと謝るし、今後遠慮なくトリガーを引かせてもらうが。」 目の前の映像にガツンと頭をぶん殴られたみたいだった。 シールドやバリアがあるからなんて言い訳にならねぇ。 このときは、たまたまガジェットドローンが避けなかったから事故にならなかったんだ。 もしも避けていたら、その先にはエリオが・・・・・・。 しかもリニアから落ちれば下は崖。 何度もリプレイで映されるそのティアナの映像にあたしは鳥肌がたった。 たまたま今回の誤射が起こったんじゃない。 起こるだけの原因が放置されていて起こったんだ。 なんで教えてくれなかったなんて責められない。 隊長が気づいてしかるべきことなんだから・・・・・。 「そんなくだらないことは置いておこう。それならさらに賭けを具体的にしよう。 1ヶ月以内になのはとの訓練中、スバルとティアナが命知らずな特攻を仕掛ける。 特攻の内容はスバルがなのはにシールドを展開させて足を固めておいてから ウイングロードをティアナが駆け上ってなのはの上か下あたりから切りかかるが せいぜいだろう。それに今月の報酬を全額だ。」 重い雰囲気は笑い飛ばすようなそんなはんた君の言葉で消し飛んだ。 特攻って言ったの? そんなことするはず絶対ない!! 「はんた。だが、ティアナ達がそんなことをしてもなのはの勝ちは揺るがんぞ? ティアナ達が危険なだけの無意味な行動だ。」 「なにをいまさら・・・・・・。案外5割6割は勝率があると思ってやるんだろうよ。 なんのための訓練か分からないけど、これだけのことを考える頭があって、 あたしはこんなに力があって、こんなに努力しているんだから とにかく力だけはあるんだーみたいな考えでやると思ってる。」 「やらないよ!!だって、ティアナはわたしと約束したんだから・・・・・・。」 「だから賭けを持ちかけたんだ。俺はやるほうに今月の報酬全額だ。」 「わたしは・・・・・・ティアナを信じる!!」 だって、ティアナはわたしと約束したんだから。 お兄さんのこともあって一生懸命になりすぎて、焦りばっかりが増えて、 その結果失敗しちゃって、ヴィータちゃんに叱られて、本当に落ち込んでいた。 それに、あたしが言い聞かせたとき、物凄く後悔した顔した。 だから、絶対にティアナはそんな馬鹿な真似しない!! するはずがない!! 「顔を見る限り、他の面子は賭けに乗りそうに無いな。しかし、ティアナの モード2がよりによって近接戦闘ね。本当に分からなくなってきたよ。」 「え?」 なにを言われたかわからなかった。 だって、ちゃんと目的があってわたし、訓練させているのに・・・・・・。 どうしてそんなこと・・・・・・。 「いったいなにが目的の訓練なんだ?絶望的なまでに戦闘力の差がある魔導師を 倒すための訓練か?ガジェットドローンを倒すための訓練か? 無抵抗の人間を倒すための訓練か? 遠距離しかやれない人間が接近戦専門の人間を倒すための訓練か? それとも、高町なのはというエース・オブ・エースを倒すための訓練か? まさか自分で考えて戦えるようにするための訓練なんて言うなよ。 お仕着せのような訓練内容をさせておいて、どこでなにを考える? それに1発撃つのにどれだけかかってる・・・・・・って砲戦魔導師に言うのは 愚かだったな。銃口を向けた時点で照準は揃っていてトリガーは引くばかりなのが 当たり前の世界なんだから。」 え? なにそれ・・・・・・。 訓練内容への指摘よりも別の場所に驚きを隠せない。 狙う動作はどこにあるの? アクセルシューターやクロスファイアシュートにしたって追尾性能がある。 だから、いかに早く撃つかとか狙うかは考えたことがあった。 でも、わたし、そんな厳密に動作を考えたこと・・・・・・無い。 わたしは砲戦魔導師として完成していると言われる。 けれど、その先がもしかして・・・・・・あるの? 「ついでに言えば、シグナム。素人が一番殺し合いに使いやすい武器はなんだ?」 「鈍器だ。長柄ならヴィータみたいなハンマーもありだ。」 「逆に一番訓練がいるのは?」 「ふむ・・・・・・ナイフか。刃物ならとにかく長柄の武器ほど練度はいらない。 もっとも手元に入られたときの問題や重さの影響もあるだろうが・・・・・・。」 「という近接戦闘に慣れた方の講釈があったが、まさかナイフやダガーや スティレットなんて言い出さないよな。ティアナのモード2。」 ダガーモード。 それがティアナに準備していたモード2。 どうしてこんなにぴったり言い当てられてしまうのか。 わたしが単純すぎる? ううん、違う。 はんた君のその思考は、あまりにもシビアであまりにも現実的。 本当に命を奪い合う殺し合いが大前提で全ての会話が始まっているはんた君。 1度はハンデがあったから負けたとはいえ、 もう1度やれば勝てるとわたしは心のどこかで思っていた。 けれど、それは致命的なまでの間違いなのかもしれない。 前にバトー博士に言われた通り・・・・・・。 毎日殺し合いの日々だったはんた君からすれば、砲戦魔導師として完成していて 管理局のエース・オブ・エースなんて呼ばれるわたしさえもひよっこなんだ。 今日のホテル・アグスタでの問い。 ホテル・アグスタ周辺のなにかに抉り取られたような地形。 あれは砲戦魔導師のそれに近かった。 そして今日のメンバーでそれができるのは1人しかいない。 つまり、それから考えられる結論は・・・・・・はんた君の強さはオーバーSに相当? もしかしたら単独で全部を制圧することさえ簡単だったのかもしれない。 どれだけ彼は歯痒い思いをしてわたし達を見ているのだろう。 そんな思考をしていたわたしにはんた君が言葉を告げる。 「なのはも快く賭けに乗ったから俺は席を外すよ。あと、もう1つだけ言わせて貰おう。 俺の世界には普遍のルールがある。」 「毎日殺しあってる世界で普遍のルール?あんのかよ?そんなもの。」 そんなものがあるのだろうか? 優しい世界で皆に囲まれてきたわたしには想像さえできない。 わたしに比べればはるかに辛い思いをしてきたフェイトちゃんやシグナムさんも 首を傾げるばかりで、真っ青な顔をしたシャーリーさんは震えるばかりだ。 ヴィータちゃんも不思議そうに尋ねている。 「『強いから正しい』。言葉通りに俺を打ちのめして『無駄死に』を訂正させるか?」 淡々とそう言い放ったはんた君の姿に初めてあったとき以上の危うさを感じた。 殺気はかけらほどもない。 けれどどこから漂ってくるのだろう。 咽返りそうなほどに濃密に感じられるこの匂いは・・・・・・。 表情はなにも変わらないのに、なにかが殺させろと叫んでいるみたい。 どうしてだろう。 人の形をした別のなにかにはんた君が見えてくる。 そんな雰囲気に飲まれて、わたし達ははんた君を見送るしかできなかった。 証明するんだ。 お兄ちゃんが教えてくれた魔法は役立たずなんかじゃない。 どんな場所でも、どんな任務でもこなせるって・・・・・・。 力さえあればそれが証明できる・・・・・・。 死んじゃったお兄ちゃんの叶えられなかった夢を叶えるんだ。 そんな思いを抱えながら、六課の片隅の林で、あたしの周りを魔力スフィアで囲んだ。 この魔力スフィアはマーカー。 クロスミラージュに制御をまかせてランダムに点灯させていく。 それに向かってあたしはその場から動かずに、照準を合わせる。 ランダムに点灯する魔力スフィアを狙い続ける訓練。 ろくに才能も力も無いあたしに残された最後の武器である精密射撃を 完璧にするために・・・・・・。 そんな思いで歯を食いしばって、同じような動作を延々繰返しつづけて、 どれだけの時間続けただろう。 集中が途切れたせいか、それとも疲れのせいなのか。 ふっと膝から崩れ落ちそうになる。 そこで初めて息をついた。 気がつくと辺りは夕暮れだったはずなのに、 星と月と人工の明かりが灯る夜が広がっている。 肩で息をしながら、深く息を吸って再び訓練を続ける。 あたしは証明するんだから。 こんなところで立ち止まれないんだ!! 必死に照準をあわせているあたしの傍らから、手を打つ音が聞こえた。 「もう4時間も続けているぜ。いい加減倒れるぞ。」 「ヴァイス陸曹。・・・・・・見てたんですか?」 「ヘリの整備中にスコープでちらちらとな。ミスショットが悔しいのはわかるけどよ。 精密射撃なんざ、そうほいほい上手くなるもんじゃねぇし。無理な詰め込みで へんな癖つけるのも悪いぞ。」 あなたになにがわかる!! 思考はその感情だけで埋め尽くされていたから・・・・・・。 反射的ににらんでいたのかもしれない。 「って、昔なのはさんが言ってんだよ。俺は、なのはさんやシグナム姐さん達とは 割と長い付き合いでな。」 あたしの雰囲気に戸惑ったのか、ヴァイス陸曹が慌てて付け足すようにそう言った。 なのはさん・・・・・・シグナム副隊長・・・・・・。 どっちも才能に恵まれた人間じゃないか!! オーバーSとAAランクのなんでも持っている魔導師と 凡人で落ちこぼれで何も持っていないどうしようもないあたしを一緒にしないで!! 「それでも、詰め込んで練習しないと上手くなんないんです。凡人なもので・・・・・・。」 感情のままに酷い言葉を叫びそうになった。 でも、心配してくれた相手に当り散らすなんてできない。 ただ、反論するだけにしておいた。 なのはさん達とあたしを同じところにおいて話をするなという含みも込めて・・・・・・。 話は終わりとばかりにあたしは訓練を再開する。 「凡人・・・・・・か?俺からすりゃあ、お前は十分に優秀なんだがな。羨ましいくれぇだ。 ま、邪魔する気は無ぇけどよ、お前らは身体が資本なんだ。体調には気ぃつかえよ。」 「ありがとうございます。大丈夫ですから。」 口先だけのお礼。 心は既に別の方向へ向いている。 全然足りないんだ、証明するための力が・・・・・・。 無理や詰め込みをしないで、どうやって才能の差を埋めるんだ!! だから、やれる限り無理と詰め込みを続けるんだ。 証明するための力を少しでも手に入れるために!! 「ティア・・・・・・」 「なんだ。まだ起きてたんだ。」 へとへとになるまで訓練をして部屋に戻るとスバルがまだ起きていた。 隊舎に戻ったとき深夜を回っていたことにほんのさっき気がついたのだけど。 会話するのも辛い。 全身に纏わり付く疲労感に身を任せてベッドに潜り込む。 「あのさ・・・・・・あたし、明日朝4時起きだから。目覚まし五月蝿かったらごめんね。」 「いいけど・・・・・・大丈夫?」 「うん・・・・・・。」 心配してくれているスバルの言葉に答えるのさえ億劫だ。 まるで睡魔に誘われるようにあたしの意識は眠りに落ちていった。 「ティア。ティア。起きて、4時だよ。起-きて。」 耳障りな電子音が響いている。 これは目覚ましの音? スバルに身体を揺さぶられ、ぼんやりした意識がようやく覚醒を始める。 だるい身体を動かして目覚まし時計を止めながら、 ぼやけた視界が時計のアナログな針を映した。 「あー、ごめん。起きた。」 「練習行けそう?」 「行く。」 「そう。じゃ、はい。トレーニング服。」 「ありがとう。」 スバルは本当に優しい。 気がつくと甘えて寄りかかってしまいそうなほどに。 でも甘えちゃ駄目なんだ。 差し出されたトレーニング服を受け取りながら気だるい身体を動かす。 「さて、それじゃあたしも・・・・・・。」 「ええっ!?なんであんたまで・・・・・・。」 さらっと言いながら着替えを始めたスバルにあたしは反射的に尋ねていた。 これはあたしのわがままなのに・・・・・・。 あんたが付き合う必要ないのに・・・・・・。 「1人より2人のほうがいろんな練習できるしね。あたしも付き合う。」 「いいわよ。平気だから。あたしに付き合ってたらまともに休めないわよ。」 「知ってるでしょ。あたし日常行動だけなら4,5日寝ないでも平気だって。」 「日常じゃないでしょ。あんたの訓練は特にきついんだから、ちゃんと寝なさい」 「やーだよ。あたしとティアはコンビなんだから。一緒にがんばるの。」 「か・・・・・・勝手にすれば!!」 あっけらかんと笑顔で言ってきたスバルにあたしはそう返事を返すのが精一杯だった。 ・・・・・・スバル、ありがとう。 「で、ティアの考えていることって?」 「短期間でとりあえず現状戦力をアップさせる方法。上手くできればあんたとの コンビネーションの幅もぐっと広がるし、エリオやキャロのフォローももっとできる。」 「うん。それはわくわくだね。」 「いい?まずはね・・・・・・。」 スバルにあたしの考えを伝える。 早朝の六課の片隅の林の中、あたしとスバル2人だけの訓練が始まった。 「じゃあ、引き続き個人スキルね。基礎の繰返しになるけど、ここはしっかりがんばろう!」 「「「「はい!!」」」」 「ティアナとスバルはなにかご機嫌だけど・・・・・・なにかいいことあった?」 「あ、いえ、えへへへ・・・・・・。」 「なんにも・・・・・・。」 顔に出ていたのだろうか。 自分で考えた方法が証明できる日が待ち遠しい。 スバルとの自主練の結果を見せて、驚かせてあげるんだ。 なのはさんを・・・・・・。 そしてそれが力の証明になるんだ。 いつもやっているなのはさんの朝と夜の訓練をいつもどおり消化していく。 それに加えて毎日、なのはさんの訓練の前後に時間を作ってスバルと自主練をしていく。 エリオとキャロもあたし達がなにかやっているって気がついたみたいで 差し入れを持ってきてくれたりした。 がんばらないと・・・・・・。 あたしがやらないといけないこと。 それはまず、急いで技数を増やさないといけないんだ。 幻術は切り札にならないし、中距離から撃っているだけじゃ それが通用しなくなったときに必ず行き詰る。 あの狂人の圧倒的な火力と連射性能を誇る砲撃魔法が頭をよぎり、ぎりっと奥歯が鳴った。 頭を振って思考を入れ替える。 あたしのメインはあくまでシャープシュート。 兄さんが教えてくれた精密射撃だけど『それしか』できないから駄目なんだ。 行動の選択肢をもっともっと増やすんだ!! そんなことを考え続けて、自主練を繰り返していった。 スバルに体捌きを習った。 コンビネーションを考えた。 ウイングロードを使った戦い方も考えた。 疲労の余り、吐き戻したこともある。 でも、結果を出すんだ。 それだけがあたしを突き動かし続ける最後に残ったモノだった。 「それで、はんたはいつもどおりドラム缶押しか。」 「横でドラム缶押しにずっと付き合っておきながらなにをいまさら。 しかし、成長すると人間は自分から泥沼にはまっていくものなのか? 幼いライトニング2人のほうが素直な分、伸びやすいし伸ばしやすい。」 「元々の性格もあるだろう。」 「しかし、ティアナは俺からすればなんで死体になっていないかが不思議だ。 それに目的がなおさら分からなくなったよ。なのはを倒したいのか、 センターガードとして動けるという証明をしたいのか、それとも単に力が欲しくて これだけの力が手に入ったっていう証明をしたいのか。それとも他のなにかなのか。」 「どういう意味だ?」 「なのはを攻略したいのなら、俺でもシグナムでもヴィータ・・・・・・は 『なにを馬鹿なこと言ってやがる』で終わらせそうだな、他の誰でもいい。 本当に手段を選ばないで力が欲しいのなら戦い上手なやつに尋ねればいい。 アドバイスらしいアドバイスは無かったとしても、『今の』なのはの戦闘スタイルの弱点を 教えてもらうぐらいはできるだろう。元手を使うわけでもないんだから突っぱねられたり、 馬鹿にされても損は無いだろう?それなのに、なのはについて情報を集めた痕跡は0。 それともなのははシールドとアクセルシューターしか使わないと決まっているのか?」 「たしかに一理あるな。ティアナ達にそれを教えてやらないのか?」 「賭けの真っ最中にそんな干渉したらフェアじゃない。」 「賭けっすか?」 ドラム缶押しをする俺とシグナムの横でぼんやり立っていたヘリパイロットがそう言った。 仕事は終わったのだろうか。 ヘリの整備をしていたのはアルファの収集した情報で知っているが・・・・・。 なんにせよ、簡単な説明ぐらいはするとしよう。 「賭けの話を知らないのか?ヘリパイロット。」 「ヘリパイロットって・・・・・・気軽にヴァイスって呼んでくださいよ。」 「それならヴァイス。1ヶ月以内にティアナとスバルがなのはに特攻を仕掛けるか否かで 賭けをやっている。やるほうに俺は今月の給料全額。なのははやらないほうに賭けた。 ちょうど明日が刻限の1ヶ月目だが、今からでも乗るか?」 「遠慮しておくっす。しかし、特攻とは穏やかじゃないっすね。」 「私もそれをはんたに言ったのだが・・・・・・。」 「アルファ、現状で賭けはどっちに傾く?」 「90%でマスターの勝利です。残る10%はいずれもイレギュラーによるものです。」 「はー。恐ろしく賢いデバイスっすね。しかし、9割がやるってのは間違いないのか?」 「現在まで収集したティアナの思考ルーチンおよびスバルの思考ルーチン、 その他戦闘スキルおよび経験とこれまでの日常行動から推測した限り、揺るぎません。」 「もしも、俺がそれをティアナ達に忠告に行ったとしたら?」 「誤差として処理される極小の確立だけ、やらない側に振れます。 しかし、逆にやる側へ著しく振れる可能性のほうが高いためお勧めしません。」 「ティアナの性格か?」 「Yesです。シグナム。忠告されたならば、その忠告を言葉通りに受け取らず、 『考えたことと努力があまりにも浅はかなものであった』と認識するでしょう。」 「ずいぶん人間らしい考えまで分かるんだな。で、確率までだせたりしちまうのかな?」 「今までの行動パターンより推測する限り99%。」 「うはー。そいつはひでぇな。忠告なんか聞きもしないって?」 「ときにヴァイス。ガンナーの経験でもあるのか?」 「え?なんで・・・・・・。」 軽口を叩いていた彼だが、俺の問いかけに酷く動揺したようだった。 なにをそんなに動揺する。 身体に染み付いた習性がそんなに簡単になくなるとでも思っているのか。 「視線が無意識に障害となるものを探している。僅かに右に偏った重心。 あとは、数えるのも忘れたくらいの経験からの判断。」 「はぁー。人伝に聞いたわけじゃないのにそこまで分かるなんて。まじで凄腕なんすね。」 「なんでもいい。遠距離射撃は得意か?」 「以前までは・・・・・・。ミスショットやっちまってからそれっきり・・・・・・。」 「なのはに言ったとき酷く驚いた顔をされたから気になったことがあってな。 遠距離射撃が得意ならそれを是非聞きたいと思ったんだ。」 「なんすか?」 「遠距離射撃でターゲットに向けて銃を撃つ。何アクション必要だ?」 俺の問いかけにヴァイスが真剣な顔をすると動作が丁寧に行われていく。 的を想定しているのだろう。 視線を固定した。 そのまま銃を構えるような動作を取り、スコープを覗くような仕草をしておいて 視線を外しまた覗く。 そして息を吸い込んで止める、トリガーに指が掛かる。 あまりに熟練した動作に拍手でもしたくなった。 本当に遠距離射撃でなおかつ精密射撃をやる方法を熟知している。 あの荒野だったなら弾が受ける影響を考えて風見を探して 気温や湿度なんかも考えるのだが、この世界では関係ない。 だからこそ当たり前のように当たり前がやれるヴァイスに感心する。 「俺なら銃を構えるのに1アクション、狙いをつけるのに1アクション。 呼吸を整えるに1アクション、トリガーを引くのに1アクションの 合計4アクションってところですかね。 ターゲットを見つけていないのなら探すのに1アクション追加で。」 「やはりか。こうなると狙撃のエースに話を聞きたいな。 ミッドのレベルがお粗末なのか、俺のほうが狂っているのか。」 「いったいなんすか?」 「構えた時点で照準は揃っているのにどうして狙いをつける必要がある?」 俺からしてみれば数え切れないほど銃を撃った末にいつの間にかできていたこと。 きっかけはなんだったか。 戦車を生身で叩き壊す手前ぐらいにどうにかしてやり始めたはず・・・・・・。 たしか旅の途中であまりの思いつきの馬鹿さ加減を笑いとばしながら、 それでも『誰か』が真剣に教えてくれていたような気がしたのだけど。 「つまり、もしかすると・・・・・・構えてトリガーを引く2アクションで?」 「必中のそれさえ回避する彼女もいたな・・・・・・。」 「はー。興味ついでに質問いいっすか?ターゲットが10機現れたら何アクションです?」 「3アクションだ。」 「ええと、360度全方位にバラバラにいるんすよ?」 「だから、視界に敵全部を捉えらえられる位置に移動するのに1アクション、 相手を認識した時点で照準は終わっているから、構えてるのに1アクション。 トリガーを引くのに1アクション。もちろん連射はするが・・・・・・。」 「冗談じゃ・・・・・・ないっすよね?」 「もちろん。」 どこかヴァイスの顔が引き攣っているような気がするが気のせいか。 いったいどこがおかしいのかわからない。 たしかに駆け出しのころはモンスターを見つければ照準をつける前に弾をばら撒いていた。 とにかく撃たないとこっちが殺されるのだから。 ハンターの原則『戦いに勝つためにはまず相手より先に攻撃すること』に従って。 でもいつごろからか弾代が酷く嵩んでいることに気がついて、 ばら撒く前にブルズ・アイ(予測射撃)をするようになって・・・・・・。 そうだ。 たしかジャックさんに蜂の巣にされたのがこの頃だった。 それから旅を続けていって、気がつけば相手を認識すれば何機いても問題なくなった。 構えて撃ちさえすれば照準が揃っている。 たとえそれが何機いようとも・・・・・・。 「全ては明日次第か。私としてははんたが負けるほうを願うべきなのだろうな。」 「俺としてはそんな危なっかしいことやってほしくないっすね。」 「俺はそれ以上に、特攻をされたとして、なのはがどうするかが気になるな。」 「どういうことだ?」 「いつもの練習を無視しているが、それでも努力して考えたことに間違いは無いだろう? 訓練方針も明確にしていないなのはなんだからそれを褒めるか怒るかが想像つかない。 俺の世界のルールに基づけば1つしかないが。」 「無茶をすべき場面の区別がついていないと怒ると思うが。」 「なのはさん、リハビリ大変だったみたいっすからね。それと、なんすか?ルールって。」 「『強ければ正しい』だ。俺がなのはだったら蜂の巣にして負け犬とでも言って終わりか。 それ以前に病院か死体置き場にティアナ達が行くことになるか・・・・・・。」 「まじで気が重いっすね。明日がこなけりゃいいのに・・・・・・。」 「悪いわね。クロスミラージュ。あんたのことも結構酷使しちゃって。」 「No Problem.」 「明日の模擬戦が終わったらシャーリーさんに頼んでフルメンテしてもらうから。」 「Thank you.」 布で拭きながらクロスミラージュにそう語りかけていた。 やれるだけのことはやった。 あとは明日、結果を出すばかり。 ドアが開く乾いた音が響く。 「ただいまー。ティア、はい。」 「ありがとう。」 スバルが買ってきてくれたスポーツドリンクの缶を開ける。 冷たい。 けれど、スバルが帰ってくると同時に部屋の雰囲気が重くなった。 スバルの不安のせいか、あたしの不安のせいか。 「明日の模擬戦いけるかな?」 そう切り出したのはスバルのほう。 やはり同じ不安を抱えていた。 「成功率はいいとこ6割ぐらいかな。」 「うん、それだけあればきっと大丈夫。」 誰にもお披露目していない戦い方、新たなフォーメーション、戦略、練習量。 そしてリミッターがつけられたなのはさん。 そこに若干の希望も含めて6割。 それがあたしの予想。 分の悪くない賭けだ。 スバルは根拠も無く大丈夫と言っている。 けれど、あたしには成功率以上に気がかりなことがあった。 「でも・・・・・・あんたは本当にいいの?」 「なにが?」 「あんたの憧れのなのはさんに、ある意味・・・・・・逆らうことになるから。」 そう言いながらも、無意識に込められた力のせいで手元の缶が歪む。 力は証明したい。 でも、スバルがどれだけなのはさんに憧れているのか知っている。 だからこそ、あたしのわがままに付き合わせてしまってもいいのだろうか。 「あたしは怒られるのも叱られるのも馴れているし、それに逆らっているって言っても 強くなるための努力だもん。ちゃんと結果だせばきっと分かってくれるよ。 なのはさん、優しいもん。ふふっ・・・・・・。」 缶を握りつぶしながら力説するスバル。 思い出し笑いまでしているし。 そんなスバルの様子を見ていると悩んでいるあたしが馬鹿みたいだ。 「さぁ、明日の早朝特訓が最後のおさらい。早く寝とこ?」 「うん。」 全ては明日。 結果を出してハッピーエンドで終わらせたい。 力を証明したいからだけじゃない。 あたしに付き合ってくれたスバルのためにも・・・・・・。 「さぁーて、じゃあ、午前中のまとめ。2on1で模擬戦やるよ。 まずはスターズからやろうか。バリアジャケット準備して!!」 「「はい!!」」 なんだかティアナ達はふっきれた感じ。 物凄く気合いも乗っているし、すごくいいかも。 はんた君が賭けを持ちかけたときに告げられた散々な問題も 今では改善しているみたい。 そういえば今日がはんた君が持ちかけた賭けの最終日だ。 ティアナ達を信じたわたしの勝ち。 はんた君のお給料なくなっちゃうけど、自分で言い出したんだもん。 遠慮なく貰ってしまおう。 ちょっと意地悪かな。 「エリオとキャロはあたしと見学だ。」 「「はい!!」」 ヴィータちゃんがエリオ達を連れて離れていく。 そういえば珍しくはんた君が姿を見せている。 いつもは姿も見せずにどこかでドラム缶押ししているのに・・・・・・。 やっぱり気になるのかな。 「あ、もう模擬戦始まっちゃってる?」 「フェイトさん。」 「私も手伝おうと思ってたんだけど・・・・・・。」 「今はスターズの番。」 「本当はスターズの模擬戦も私が引き受けようと思ったんだけどね。」 「ああ。なのはもここんところ訓練密度濃いーからな。少し休ませねぇと。」 そう言って上空を飛んでいるなのはにあたしの視線が向いた。 アクセルシューターを展開しているなのは。 無理していないのだろうか。 本当に大丈夫なのか? いざとなったらアイゼンでぶっ叩いてでもベッドに送ってやらねぇと・・・・・・。 「なのは、部屋に戻ってからもずっとモニターに向かいっぱなしなんだよ。」 訓練メニュー作ったり、ビデオでみんなの陣形チェックしたり・・・・・・。」 「なのはさん、訓練中もいつも僕達のこと見ててくれるんですよね。」 「本当にずっと・・・・・・。」 「それに気がついていない2人はなにをするかな。」 「はんた君・・・・・・。」 「アルファの分析を信じるのなら俺の勝ちが90%だ。」 「なんの話です?はんたさん。」 「ティアナがなのはと馬鹿をやらないって約束をしたんだが、俺は馬鹿をやるほうに 今月の給料全額かけたのさ。今日が賭けの最終日。」 「てめぇ!!ティアナ達になんか吹き込んだりしてねぇだろうな!!」 「不安ならシグナムに聞け。フェアじゃない賭けをするほど屑でもない。 さて、始まるみたいだな。」 「クロスシフトだな。」 この際、賭けなんかどうだっていい。 なのはの信頼を裏切るような真似だけはしないでくれよ、ティアナ、スバル。 多少の無茶はしてくれたっていい。 ただ、冗談抜きにはんたの予想だけは当たるなよとあたしは思った。 「やるわよ!!スバル!!」 「うん!!」 2人でいい感じに声を掛け合っている。 今まで以上に複雑にウイングロードを展開させたスバル。 そして足元では魔力スフィアを11個形成したティアナ。 クロスシフトか。 ティアナ達が取れる方法とすればクロスファイアシュートでわたしを追い立てて、 それからスバルが接近戦を挑んでくるけどそれはティアナの幻影魔法。 実際は後ろか上から本体のスバルが来る。 そこでシュートバレットの連射かシュートバレットFを併用して ティアナがスバルを援護というところかな。 ミスショットを思い出して援護できないなんてならないといいんだけど。 足を止められたところにあたるティアナの攻撃って結構響くんだよね。 でも、なんだろう。 はんた君に言われたせいか、胸のどこかがざわざわする。 大丈夫。 ティアナ達は絶対にやらない!! 「クロスファイアシュート!!」 掛け声と共にわたしの足元から飛んでくるティアナのクロスファイアシュート。 けれど、この違和感はなんだろう。 魔力弾の速度もいつもよりもずいぶん遅い。 もちろんコントロールはいいのだけど、これでは迎撃や回避が簡単に行えてしまう。 いったいどういう意図があって・・・・・・。 上昇して逃げる。 それだけでティアナの魔力弾は置いてけぼりだ。 1人時間差攻撃でもやるのかな? 視界の先に突如展開されるウイングロード。 その上をマッハキャリバーで加速して駆け抜けてくるスバル。 いつでも放てるように迎撃用のアクセルシューターを4基展開する。 けれど、驚かされた。 このスバル、フェイクじゃない。 本物!? 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」 放たれたアクセルシューターをバリアで受け止めながら、 雄叫びをあげて突っ込んでくるスバル。 なんでそんな危険なことをしているの!? バリア越しだって痛みはあるし、バリアを抜かれでもしたら・・・・・・。 考えている暇は無い。 迎撃しないと・・・・・・。 「うりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 私のシールドの上でスバルのリボルバーナックルが激しく火花を散らした。 なんなの? 偶然? 胸のざわざわはどんどん酷くなっていく。 今は集中しよう。 シールド本来の役目は攻撃を受け流すこと。 身体を回転させてあげると、突然抵抗を失ったスバルがウイングロードから 悲鳴を上げてまっさかさまに落ちていく。 いけない。 フローターを使う準備をしないといけないか。 大丈夫みたいだ。 落下地点にウイングロードがある。 「ほらスバル!!だめだよ。そんな危ない軌道。」 後ろからようやく追いついてきたティアナのクロスファイアシュートを かわしながら注意する。 こんな速度じゃやっぱり簡単に避けられちゃう。 いくら追尾性能があるからとはいえ、さすがにこれは異常だ。 まるで避けてほしいみたい。 「すいません。でも、ちゃんと防ぎますから!!」 ウイングロードに着地できたスバルがわたしにそう叫ぶ。 大丈夫そうだ。 そこで気がつく。 ティアナはどこ? スバルが幻影魔法じゃなかったこともあって完全に意識を反らしていた。 いた!! ビルの上で詠唱しているあれは・・・・・・砲撃!? 砲撃魔法はただでさえ身体に大きな負担がかかるのに!! 本当にどうしちゃったの!? 「でぇぇりゃぁぁぁぁ!!!!!!」 リボルバーナックルに魔力カートリッジを装填したスバルが マッハキャリバーで加速してウイングロードを駆けてくる。 迎撃、アクセルシューター6発。 また、バリアで無理矢理抜いてくるなんてしない・・・・・・よね? 悪い意味で裏切られた。 想像以上だった。 ろくにバリアもシールドもフィールドさえも使わないで、私に殴りかかるスバル。 それがどういうことか分かってるの!? シールドの上で火花を散らせるスバルのリボルバーナックル。 不意に思い出されるはんた君の予想。 『スバルがなのはにシールドを展開させて足を固めておいてから、ウイングロードを ティアナが駆け上ってなのはの上か下あたりから切りかかる』ってまさか・・・・・・。 今更に気がついたはんた君の予想の意味。 それは砲撃魔法を使われる以上の危険行為。 なんで・・・・・・? どうして・・・・・・? いろんな思いで心がごちゃまぜになる。 砲撃魔法でいいから・・・・・・お願いだから砲撃を使って・・・・・・ティアナ!! スバルの突進をシールドで防ぎつつ、視線をビルの上のティアナに向けた。 嘘・・・・・・そんな・・・・・・!!幻影!? わたしの上に走るウイングロードを駆ける足音が響く。 そんな・・・・・・ティアナ・・・・・・約束・・・・・・したのに。 「でぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 「レイジングハート、モードリリース。」 「Allright」 なんだろう、この思い・・・・・・。 悲しすぎて、辛すぎて、怒り出したくて、泣き出したくて・・・・・・。 あまりにもそれが大きすぎて、全部を通り越しちゃったみたいな・・・・・・。 ティアナの雄叫びを聞きながら、わたしは静かにレイジングハートに指示をだしていた。 「おかしいな・・・・・・。2人とも・・・・・・どうしちゃったのかな。」 わたしの教え方がなにか悪かった? なにか言いたいことがあって我慢していた? わたしの指導なんて受ける気さえなかった? 言いたいことはたくさんあるのに、言葉にならない。 限度を通り越しちゃった感情は風がない湖みたいに静かで・・・・・・。 「がんばってるのは分かるけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだよ。練習のときだけ 言うこと聞いてる振りで、本番でこんな危険な無茶するなら練習の意味ないじゃない。 ちゃんとさ。練習どおりやろうよ。」 淡々と言葉を紡ぐ。 ティアナの魔力刃を受け止めている右手から血が流れ出している。 でも、痛いなんて感じない。 限度を通り越しちゃった感情のせいだろうか。 動揺したみたいなティアナの顔や怯えるみたいなスバルの顔も気にできない。 ただ、感じるのは血が流れてるなっていうただそれだけ・・・・・・。 「ねぇ?」 「あ、あの・・・・・・。」 「わたしの言ってること、わたしの訓練、そんなに間違ってる?」 わたしの問いに合わせて、クロスミラージュから伸びていた魔力刃が消える。 ティアナはウイングロードまで飛びのくと、クロスミラージュの銃口を こちらに向けていた。 「あたしは・・・・・・もう、誰も傷つけたくないから!!無くしたくないから!! だから・・・・・・強くなりたいんです!!」 泣きながらそう叫ぶティアナ。 砲撃魔法の魔方陣が展開されている。 スバルがこんなに近くにいることさえ気にできないなんて・・・・・・。 いつものわたしだったらスバルを連れて避けるなり、 バリアで防ぐなり、シールドで受け流すなりしたのかもしれない。 けれど、今、わたしの前にいるのは感情のままにわめき散らしているだけの子供。 そう思うことにした。 魔力スフィアを右腕の指先に6個展開する。 「少し・・・・・・頭冷やそうか。」 「ぇぇぇぇぇぇぇぃ!!!!ファントムブレイ・・・・・・。」 「クロスファイヤシュート。」 わたしはもっと撃つのを躊躇すると思ったのに・・・・・・。 やってみればあまりにも魔法の宣言は軽かった。 誘導性能なんかよりも速度を優先した魔力弾。 ティアナが今日使ったものと正反対の性質のクロスファイヤシュート。 ティアナに6発の魔力弾が突き刺さる。 「ティア!!バインド!?」 爆風にティアナが包まれて、叫び声をあげるスバルを動けないようバインドで拘束する。 視界に映るのは、力無く立っているのが精一杯のティアナ。 「じっとしてよく見てなさい。」 「なのはさん!!」 こんなに冷たい声をわたしは出せたんだ。 なにをするか気がついたのだろう。 悲鳴のようなスバルの声が耳に響く。 けれど、躊躇う事無くわたしは2発目のクロスファイアシュートを撃ち込んだ。 「ティアーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」 2発目のクロスファイアシュートの直撃を受けたティアナの姿にスバルが絶叫している。 力無く落ちていくティアナをフローターで受け止めて、ウイングロードの上に下ろす。 「ティア・・・・・・。」 「模擬戦はここまで。今日は2人とも撃墜されて終了。」 淡々と告げたわたしの言葉にスバルが目に涙を浮かべて睨み付けてくる。 でも、その目を見てもなにも感じない。 ただ、1つの言葉を思い出していた。 はんた君が告げた残酷で苛酷な世界の普遍のルール。 強いものが正しい。 わたしがやった行動がはんた君の言葉にあまりにもぴったりすぎて・・・・・・。 『信じるなんて言ったのに』とどこかではんた君がそう嘲笑っているかのようで・・・・・。 はんた君が正しいって頭のどこかが認めてしまいそうで・・・・・・。 それがあまりにも悔しくて、辛くて、吐き気さえして・・・・・・。 ただ、わたしは・・・・・・泣き出さないようにするのが精一杯だった。 前へ 目次へ 次へ
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悪を断つ剣 夜の森は暗い。 微かに漏れる月明かりはあまりに頼りなく、枝の濃い地域はほぼ完全な無明状態となる。 そこを歩くのは、左目に傷を持った男――記憶喪失を騙る、通称Dボゥイ。 その手に握っているのは、何やら一振りの奇妙な日本刀。 本来刃である箇所が峰であり、峰である箇所に刃があるのだ。 本当にこんなものが使えるのか? 最初はそうも思ったのだが、どうやらこれは峰部分の強度もかなりのものらしい。 …本当に何故繊細な日本刀がそんなに丈夫なのかは不明だが。 (俺は間違いなく、アックスのボルテッカに飲まれたはずだった…) 今でもはっきりと思い出せる。 フェルミオンの眩い光が、アースラごと自身を包んでいくさまが。 それが何故か今こうしてここにいる。ふざけた爆破ショーを見せられて。 (何故、人間同士で殺し合わねばならない…!) 歯ぎしりと共に、左の拳が固く握られる。 見ず知らずの人間と命を奪い合えとほざく、馬鹿げた2人組。 自分にラダムの――あの憎むべき悪魔の真似事をしろというのか。 「俺は…心までラダムになりはしない。必ずこのゲームを止めてみせる…!」 命を弄ぶ者達への烈なる怒りを込めて。 望まぬ殺戮を強要された人々を救うため。 殺すのは自分だけでいい。そして自分が殺すのはラダムだけでいい。 「ッ!」 がさり、と。 背後で草の音がなる。 反射的に振り返ると、Dボゥイはその手の逆刃刀を構えた。 油断はできない。このゲームに乗った人間も、いないとは限らない。 「そう身構えるな。俺はお前の敵ではない」 野太い男の声が響いた。 闇の中に溶け込むことなく、堂々とした尊厳をもって、その声はDボゥイの耳に届く。 「…今の、聞いていたのか」 「これだけ静かだからな」 銀髪の武人・ゼンガー=ゾンボルトが答えた。 右手には、ところどころ彫金が彫り込まれた銃剣付ライフルを持っている。 彼はこの異常事態の中にあって、幾分か平静を保っている様子だった。 着ている服を見る辺り、管理局に所属している人間らしい。 そして顔立ちからも、修羅場をくぐって積み重ねられてきた年季が漂ってくる。 …彼はまだ29歳なのだが、Dボゥイには知る由もない。 「アンタも、この殺し合いを止めるつもりなのか?」 「無論だ」 古風な言い回しに揺らぎはない。 むしろ落ち着いている人間には敵の方が多いのでは、と感じて再確認したのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。 「あのような連中を許すわけにはいかん」 ゼンガーは確固たる意志と共に言葉を発する。 「俺も、アイツらに好き勝手は――」 Dボゥイが言いながら近寄った瞬間、 ――ずどん。 「ぐぅっ!?」 灰色に光る銃撃が、肩を撃ち抜いた。 ゼンガーからではない。明らかに方向が違うし、何より彼の様子を見れば分かる。 「何奴ッ!」 周囲全体に響き渡るような、ゼンガーの怒声。 強烈な覇気と共に放たれた誰何の絶叫は、森の木々を震わすかのようだ。 銃撃音の反響が、水を打ったのように静まり返った。 静寂。 そしてそれを引き裂く足音。 「もうしばらく隠れていたかったが…」 現れたのは、漆黒のコートを身に纏った大男。 ゼンガーと同じ銀色の髪をロングにし、瞳は暗闇の中でなお妖しく光るように錯覚させる。 顔は至って端正。相当な美形だ。両手に握られた得物は、ガンズモードのクロスミラージュ。 「今のうちに食糧を調達しておきたくてな」 にやりと余裕たっぷりに微笑みながら、青年は言い放つ。 遂にこの男が――セフィロスが動いたのだ。 「…お前はこれを持って逃げろ」 セフィロスの姿を睨み付けながら、ゼンガーはDボゥイへと自身の銃を渡す。 「その代わり、その刀をよこしてくれ」 「っ…そんな無茶な…!」 撃たれた右肩を抑えながら、Dボゥイが口を開く。 どう考えても、彼の持っている銃剣の方がこんな逆刃の刀よりも強力なはずだ。 魔力の弾丸を放つピストル相手に、扱いづらい鉄の棒で戦うのは不利。 「そちらの方が慣れている」 しかし、ゼンガーはそれを一蹴した。 有無を言わさぬ強い口調は、Dボゥイの反論を許さない。 そして、恐らく殺人鬼と化したであろう男を前に、これ以上の口論は危険だ。 ついでに言えば、傷を負ったDボゥイは、今や足手まといでしかない。 「分かった…どうか、無事でいてくれ!」 せめてペガスがいれば。あの赤と白の魔人――テッカマンブレードになることさえできれば。 そんな苦々しい思いを抱えながら、Dボゥイは互いの武器を交換すると、全速力でその場を駆け出す。 ゼンガーはそれを見届けると、手にした逆刃刀をセフィロスに向けて構えた。 誇り高き武人の瞳に、鋭くも熱い眼光が宿る。 「いい度胸だ」 木の葉が舞った。 瞬時にダガーモードへと左の銃を切り替えたセフィロスが、疾風のごとき踏み込みでゼンガーへと迫る。 素早く、そして強烈な一撃。 鈍い灰色の輝きをたたえたダガーが、ゼンガーの逆刃刀へと振り下ろされた。 「ぬぅぅぅぅっ!」 凄まじい剣圧。 ゼンガーの両足が大地を踏みしめ、渾身の力と共に受け止める。 (ええい…鬼か魔物かこの力!) 慢心があったわけではない。 ただ冷静に、客観的に、彼は己の力量を評していた。 しかし、まさかただの斬撃で、自分を追い込むような腕力を持った人間がいるとは思いもよらなかった。 ゼンガーの角張った頬を冷や汗が伝う。 そして、それだけには留まらない。 ガンズモードを保っていた右側に魔力が収束される。複数の魔法陣が、さながら照準のように浮かび上がった。 「ファントムブレイザー」 冷たい声が発せられた。 同時に撃ち込まれる、魔力の奔流。 「うぉぉぉっ!?」 ゼンガーの身体が宙を舞った。 (この威力…ディバインバスターにも並ぶかっ!?) 思い出されるのは、あの白いバリアジャケットの幼女。 その思考と共に、彼の身体は地に叩きつけられる。 猛烈な砲火に、ゼンガーは完全に虚を突かれた。 セフィロスが一度に注ぎ込めるだけの魔力を乗せたファントムブレイザー。 確かにそれは、ゼンガーが何かの折に資料で見た、10年前のなのはの砲撃に匹敵する破壊力。 しかし能力制限がなければ、10年後の彼女のエクセリオンバスターにさえ近付くだろう。 そして、新人のティアナが扱うことを前提にしたデバイスは、その威力には耐えられない。 能力制限がクロスミラージュを救っていた。 (せめて、斬艦刀さえあれば…!) 立ち上がるゼンガーの瞳が、苦々しげにセフィロスを睨む。 対するセフィロスは、彼を嘲笑うかのようにその様を見下ろしていた。 こいつは相当な手練れだ。条件が同じでなければ、不利な方が負ける。 すなわち、自分が殺される。 (…否) そうではない。 いつから自分はそんな腑抜けた考えをするようになった? 武人は自問する。 自分を守る魔法の力がなければ戦えないのか? 斬艦刀がなければ何もできない腰抜けなのか? ――否。 断じて否! 「…非殺傷設定を使ったな」 射抜くような眼光が、ゼンガーの瞳から放たれる。 その先に立つのは、あの双銃を携えし男。 セフィロスのファントムブレイザーは殺傷設定ではなかった。 もろに食らったゼンガーに未だ外傷がないのが、その証拠。 殺す気がないとは思えない。 すなわち、遊んでいる。この一撃で決まっては面白くない、と。 「間抜けだな…そこまで言える余裕があるからには、この余裕につけこんでみればよかったものを」 「笑止!」 一喝する。 大地を揺るがすかのような、強く、気高き声で。 古の兵(つわもの)を統べる武将のごとき絶叫が響き渡った。 「本力でかからずして何のための戦いか! その程度の覚悟で、他者の命を奪おうなどと笑止千万!」 嘲笑するセフィロスに向け、ゼンガーは雄叫びを上げる。 「どっちなんだ」 やれやれと言った様子でセフィロスが言った。 殺し合いがしたいのかしたくないのか、と。 要するにゼンガーは、殺したいなら本気でやれと言っているのだ。対主催者側の立場を名乗ったというのに。 「貴様が殺す側に回るのは勝手だ。…しかし! その道を行くのならば、俺は貴様を連中同様の『悪』と見なす!」 ゼンガーは構えた。 一分の隙もなく、全身の随所に神経を走らせ、その闘志を研ぎ澄ませて。 逆刃刀の斬れぬ刀身ですら、彼にかかれば剣呑な刃と化す。 「悪? この狂った地で善悪などと…」 「黙れ!」 セフィロスの言葉を、強い語気をもって遮る。 最早問答は無用。たとえ相手が自分より強かろうと、自分は自分がそうと信じる悪と戦うだけのこと。 「そして聞けッ!」 悪にかける情けなどない。 勝てぬ戦であろうとも、悪に退く脚など持たぬ。 「我はゼンガー=ゾンボルト…」 故に、叫ぶ。 「――悪を断つ剣なり!!!」 【一日目 AM1 41】 【H-1 森林】 【ゼンガー=ゾンボルト@スーパーリリカル大戦(!?)外伝 魔装機神】 [参戦時間軸]17話終了後。ラミア達が「向こう側」のヴォルケンリッターの元へ向かった頃 [状態]健康 [装備]逆刃刀@魔法少女リリカルなのはStrikerS―時空剣客浪漫譚― [道具]支給品一式・ランダム支給品0~2個 [思考・状況] 基本 全ての悪を斬り伏せる 1.無為に他者の命を奪うのを、言葉で咎めはせん。ただ倒すだけのこと! 【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 [状態]健康 [装備]クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS [道具]支給品一式、「治療の神 ディアン・ケト」 [思考・状況] 基本 事態を静観し、潰し合うのを待つ 1.ひとまず今だけは食料を奪うためにこいつを殺す 2.随分喚く奴だ。拠点を移さねばならんな 3.向かってくるのならば、六課の連中だろうと容赦なく殺す 【Dボゥイ@宇宙の騎士リリカルBLADE】 [参戦時間軸]8話。アースラがボルテッカを食らった時 [状態]右肩を撃ち抜かれている。止血はまだされていない [装備]冥銃剣・逢魔ヶ刻@リリカルスクライド//G.U. [道具]支給品一式・ランダム支給品0~2個 [思考・状況] 基本 この馬鹿げたゲームを止める 1.あの人…頼む、無事でいてくれよ…! 2.そういえば、身体の調子が…? [備考] ※テックシステムに蝕まれた肉体は回復しています 025 本編投下順 027
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第二回戦:試合場【活火山】結果 このページではダンゲロスSS3第二回戦、活火山の試合結果を公開します。 投票結果 試合SS キャラクター名 得票数 第二回戦【活火山】SSその1 赤羽ハル 18票 第二回戦【活火山】SSその2 相川ユキオ 17票 コメント 「それでは活火山の決闘・投票状況について、大会実況の私、佐倉光素と」 「解説の埴井きららが紹介するよ!」 「いやー激戦でしたねー」 「接戦だったねー」 「互いに一歩も譲らぬシーソーゲーム」 「抜いて抜かれてを最後まで!」 「いつまでもどこまでもお互い離される事のなかった赤羽、相川両選手」 「投票期間が過ぎるぎりぎりまでどっちが勝つか分からなかったもんね」 「試合内容だけでなく、票の推移でも見事な戦いでした」 「もーずっとどきどきしっぱなしだったよ!」 「ということで第二回戦、活火山の試合を制したのはー」 「「正しく真なる金の亡者!赤羽ハル選手です!!!」」 「「おめでとうございまーす!!!」」 赤羽ハル レベルが高すぎる戦いだったが、自分がいつかやろうと思ってたネタをここまでうまくやられてしまっては投票せざるを得ない。1/2の賭けに勝ったのもスゴイ。 展開にとても惹きつけられた 過去最高にレベルの高い戦いで非常に悩みましたが、本家以上に軽妙な掛け合いに火山の特性を最大限に生かしたバトル、さらりと張られた美しい伏線の数々と、恐るべき完成度を誇るこちらに投票します。とても、とても面白かったです。ありがとうございました! その2は次の対戦相手が困るだけな気がするので。 勝・要因:本来敵側の一人称視点描写が完璧であったこと。なおかつ先手を取れたこと。最後の最後にいたるまで対戦相手を物語の主人公で終わらせたこと。対戦相手が最上の相手だったこと。敗・要因:対戦相手が最良の理解者であったこと。くそ、この領域にはいりこみてぇ はうぅ。しゅごしゅぎりゅ。どっちも勝ちでいいよぉ……。SS2で物議を醸したトーナメント破壊も今回はGK公認面白さ第一主義だから減点要素にならないし……。敢えて言うなら、暗躍エンドを読み切ってカウンターを合わせてきたような、その1の結末が切れ味鋭かった……かなぁ。うーん名勝負れすぅ。 どちらもハイレベルでしたが、こっちはもうハイエンドレベルでした。 その1:人間の換金ダメって書いてあったくせにずるい。でも面白い。 その2:やりとりが面白く続きが気になるのはこっち。ノートン卿の能力はどうしてもなんでもあり感がでてしまい、納得感がうすい どちらもやんごとなき面白さでしたが、「準備」に関する流れがすごく好きでした。 相川ユキオ ユキオの劣等感とか二流根性みたいなのに共感したのと、ラストの決め手の意外さで、紙一重でこっちにします SSその1 格好良さを煮詰めて抽出したのかのようだ…… ノートン卿の声の設定あたりをかませて来るのは流石だと。 しかし分かってたことではあるが、エミュレート性能が高すぎる。本人が書いたと言われても信じるレベルだ。 SSその2: キャンペーンに則った好き放題の極みで、純粋に先が見てみたい。どこまで進むのか。 不動産のアイデアは白眉だなあー。個人的に、凡百のフィールド破壊系とは一線を画した感がある。 こんなものたちに私が票を投じること自体が烏滸がましいのですが、内臓を売るアイデアは思いついていたのでそこの一点で判定をさせて頂きました。面白さで判断できないよ…… 迷いましたが、共闘路線の2で。 超カッコイイ!準決勝も決勝も続きを読みたい! あー、くそったれ!勘だよ、直感。3度目の対決はこっちに投票します。 内臓と不動産、どちらも甲乙つけがたい出来だったが、この最悪タッグへの期待という点でこちらに一票。 悩んだ。悩んだけれど、展開のダイナミックさでこちらに軍配かなー。 落葉さん誘拐しちゃったー!?続きがすごく気になる ミダスの効果範囲がやや拡大解釈ぎみではないかと思ったものの、読みやすさと意外性の両立がポイント高し。 ほとんど内容に優劣が無いので完全に好みで。落葉誘拐という思い切ったネタに笑った&感心したその2に入れます。どちらも相手のキャラクターを尊重したSSとなっててとてもよかったです。
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リリカルTRIGUNA’s クロス元:トライガン 最終更新:13/06/03 第一話「人間台風と魔法少女」 第二話「選ばれた道」 第三話「台風の天敵、そして魔法少女の決意」 第四話「12月2日・前編」 第五話「12月2日・後編」 第六話「誰でもなく君の為にできること・前編」 第七話「誰でもなく君の為にできること・後編」 第八話「選んだ道」 第九話「自由への扉、開くために・前編」 第十話「自由への扉、開くために・後編」 第十一話「闇の胎動」 第十二話「絡みつく闇」 第十三話「闇、そして夜天との邂逅・前編」 第十四話「闇、そして夜天との邂逅・後編」 第十五話「裏切りの人間台風/未来に架かる橋」 第十六話「最強への布石・前編」 第十七話「最強への布石・中編」 第十八話「最強への布石・後編」 第十九話「始まりの終わり」 第二十話「終わりの始まり」 第二十一話「日々の終わり、夜の始まり」 第二十二話「それぞれの孤独・前編」 第二十三話「それぞれの孤独・後編」 第二十四話「開く扉/覚醒の夜天・前編」 上条当麻がその鬱展開(げんそう)をぶち殺しにいくようです。 クロス元:とある魔術の禁書目録 最終更新:11/06/17 第1話 第2話 第3話 拍手感想レス :これからヴァッシュがどのように関わっていくのか楽しみです :流石ヴァッシュ魔法無しでも強いぞ やった。久しぶりに見たら更新されてる! ですがアームドデバイスは直接攻撃をするものだから、純粋魔力攻撃と違って手加減はできても非殺傷設定なんて事はできないと思います。 そこだけ気になりました。 -- (名無しさん) 2009-12-06 21 45 44 おお、更新されてる!相変わらずのトンガリズムが良い感じです。さて、なのはとフェイトはどんな修行をするのか… -- (名無しさん) 2010-05-19 21 30 01 チートな身体能力と戦闘能力を持つトライガンの超異常人外戦闘集団やヴァッシュ、ナイブズと なのは達の戦闘バランスを取るのは大変そうだけど、頑張ってますね -- (名無しさん) 2010-05-23 03 44 34 最近トライガンにハマり、検索していてこちらを発見、なのはキャラとプラント兄弟の絡みが面白かったです。 -- (名無しさん) 2010-06-02 22 59 44 いい所で更新止まってる……続き見たいです! -- (名無しさん) 2011-03-13 03 02 48 ぜひニコラスの兄貴を -- (ミカエルの(ry) 2011-04-24 11 49 08 フォーン・コラードではなくファーン。 拳銃の使用は、ルネッサの様に申請すれば使用許可が出る例も有るみたいですよ。 -- (名無しさん) 2011-05-17 20 13 42 あの程度のスピードじゃ ヴァッシュは瞬間的な動きは最終レガート戦で分かる通りに音速遥かに超過するレベルなんですが。 あの程度なんて話じゃなくケタ外れもいいとこですが。ナイブズ自身の身体能力もヴァッシュ・レガートと同等か以上です。レガートを指先で身体を縦に押し潰してますし。 -- (名無しさん) 2011-05-26 22 25 29 久々に見たら来てた!久々のトンガリズムです。 ただナイブズの次元刃は児戯などではなく持ってくる力によって発動させてるものです。射程は数 万㌔以上、刃の速度はその射程距離を秒にも満たない速度で比喩じゃなく一瞬で 飛ぶ速度。 その速度で都市を一瞬で瓦礫に出来る程。余程加減しないとヴァッシュや同等の レガート、ネイル、ラズロ級の身体速度と反応がないと対応不可です。 他にも持っていく力で人間を血の痕跡無く消したり、融合後も地下ごと数十㌔範囲を次元消 滅させてます。 なんにせよ乙です。 -- (名無しさん) 2011-05-29 09 00 11 ほぼ一年ぶりの復活ですなw 台風はやはり原作どおり隠遁生活に入ってしまうのだろうか・・・ 管理局とも大きな確執を残しそうだ。 -- (名無しさん) 2011-05-29 09 12 38 更新乙です。 見返して気になったのがTVと原作のヴァッシュの性格が混同されてるかな、と思いました。 TVはおちゃらけてる感じですが、原作は殆んどドシリアスなので -- (名無しさん) 2011-05-29 09 29 05 こんなSSがあったとは お兄さんはこっちの世界でどんな風になっていくのだろう。 -- (名無しさん) 2011-05-29 09 41 15 ↑↑↑↑ なのはが回避した翼手(巨大な刃)と次元斬とは別物では? 次元斬(AA)は『門』から引き出した『持ってくる力』を変換させ、発動するもので、左腕を変化させての刃は『門』とかは関係なしに、プラントの身体を変化させて形成するもの。AAが組み込まれる以前のナイブズも翼手は使用してたし(12巻回想時、名もなき村にて)。 で、次元斬は、上記の通りの知覚不能の超速超規模防御無視のチート能力で、なのは達には対抗できない。でも、それ以前の翼手の攻撃(地の文中での児戯に等しい攻撃)にはギリギリで対応できていたって事では? まあ、ここらへんは原作での描写も漠然としてる上に、個々の解釈になるからアレだけど -- (名無しさん) 2011-05-29 14 10 24 その翼手とAAは描写からみてもまったく同じ物なんですよ。 4巻で宇宙の衛星を粉々にしたのも腕を持ってくる力で変換した次元刃のAA 13巻でもその腕をAAに変化させ都市を粉々にしてとレガートの首を飛ばそうとしています。 プラント船の大虐殺でも腕を持ってくる力で次元刃・巨大な次元刃のAAを使用して黒髪化が起きてます。 12巻のあの描写でも分かりますが、次元刃のAAで虐殺と、よく見ると村自体が真っ二つにされてます。 まあ内藤氏が設定自体を改変してたりしますからここの描写はなんとも言えませんが。そもそも初期と比べ物にならない程インフレしちゃったし。あと忘れられがちだけど、ノーマンズランドどころか5つの月でも地球よりも高重力で遥かにデカイ星って設定。ヘタしたらヴァッシュやAAじゃ地球の月が丸ごと無くなります。まあSSなので個々の解釈は色々ありますね。 -- (名無しさん) 2011-05-29 19 24 32 翼手って呼ばれてる物すら原作には無いんだけどねぇ 8巻の箱舟の中でワラワラ湧いてる羽が唯一呼べそうだ -- (名無しさん) 2011-05-29 19 30 53 なつかしい作品です。 トライガンってもう完結してたんですね コレを期に買い集めるか・・・ -- (名無しさん) 2011-05-29 19 37 14 更新されてるのでビビッたw 一から読み治さなきゃならんぜ -- (名無しさん) 2011-05-29 19 44 25 ARMSみたいに腕を変形させて剣代わりにしてるのを翼手と表現してるだけだろう -- (名無しさん) 2011-06-01 10 23 00 トライガンクロス面白いです。一つ質問したいんですが、これってstsには繋がるんですかね? -- (名無しさん) 2011-06-05 21 15 45 最後の所、フェイトの名字がテスタッロサじゃない -- (名無しさん) 2011-06-07 13 54 47 本気でヴァッシュの心を動かす気があるんなら無理矢理にでも留置場から出すくらいしないと無理だろ。 何にもしないで信じてくれって言われてもね。 -- (名無しさん) 2011-06-13 01 24 10 フェイトが言いたいのは「なのはを信じて」って事より「なのはなら大丈夫だから、あまり自分を責めないで」って事でしょ。ヴァッシュの解放については、一介の魔導師にどうこう出来る問題じゃないしねえ。まあ管理局にマークされて、公然で危険人物扱いされてる現状で自分を責めるなってのも無理あるが -- (名無しさん) 2011-06-13 08 10 05 上条さんの右手でアルフを触ったらアルフの使い魔化が解けて死んだりしないか? ボコボコにされてる時にとっさに顔などを庇った右手にアルフの拳や足が当たったら……。 -- (名無しさん) 2011-06-14 13 39 04 上條当麻が… 3話 右手があっても通信に映らないなんて事にはならない気が。 -- (名無しさん) 2011-06-18 11 57 45 まぁ、当然無理ありますよね(笑)プレシアの通信は完全に魔法を使用しての通信だったという事で解釈お願いします。 どうしてもプレシアとフェイトの関係性を上条に知らせたくて、こういった展開を取らせて頂きました。まあ、あと数話後あたりで上条さんが通信に映っちゃててもそれは機械を使ってんだなーって感じで見てあげて下さい。 ご指摘ありがとうございました -- (リリカルTRIGUN) 2011-06-18 14 03 47 ベツヘレムじゃなくてベツレヘムでっせ -- (名無しさん) 2011-06-21 17 47 34 すっげーおもしれつづきはよ -- (名無しさん) 2012-03-19 10 36 32 貴重なトライガンSS とても面白いので続き待っています -- (名無しさん) 2013-01-13 21 58 26 とても珍しい長期トライガンSS…良い所で終ってて先が気になります。 更新待ってます -- (名無しさん) 2013-05-13 21 05 39 待ってましたーッ! -- (falle) 2013-05-27 20 35 59 名前 コメント すべてのコメントを見る TOPページへ このページの先頭へ
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愛有るが故に、時として非情にならなければならない。それが戦場なら尚更のこと。 それをいつまでも仲間だから、友達だから、と同情を引きずる戦士は居てはならない。 その戦士は必ず、一人のために大勢を犠牲にするからだ。そんなことはあってはならぬこと。 なのに、ここの戦士たちはそれを知らない。いや、知ろうとしない。まるで、高校の友達のように接している。 それがアイクにはにわかに信じ難かった。戦いを生業とする者が、いつまでもヘラヘラしていることに。 アイクの部隊は決してそんなことはなかった。 確かに、戦いが無い場ではこんな風に楽しく過ごしていたのだが、いざ戦いとなると、 お互いのことを決して心配しないようになる。自分の身は自分で守るしかないからだ。 そのことをこの模擬戦が終わったら伝えよう、そうアイクは思っていた。 せめてこのことだけは、と思っていたのだ。 しかし、模擬戦の後に伝えるのはもはや手遅れだと、アイクは感じることになる――――――――。 第7章「愛情と友情と」 「たぁぁぁっ!!!」 「でやぁぁぁ!!」 スターズの隊員となのはが空中で戦っている。今日の訓練のおさらいも兼ねているらしい。 ふと、セネリオは違和感を感じた。その正体は分からない。 ただ、何かが起こる――――――――――――そう感じた。 アイクはその違和感の正体に気付いているらしい。 「アイク、これは一体…?」 「セネリオ、ティアナをよく見てみろ。」 そういってティアナを顎でしゃくる。次いで、なのはをみる。 セネリオはまだその意味がわからないでいるようだった。 「一体どういうことですか?」 「……ティアナはこの模擬戦で一発もなのはの弾を相殺していない。」 セネリオとなのはの「撃った弾」を見る。 言われてみれば、確かにオレンジの弾はなのはの撃ったピンクの弾を狙わず、なのは自身を狙っている。 ふとその正面にスバルがやってきて、なのはを思いっきり殴りつけようとする。 (危ない!) 反射的に感じたアイクは体が少し前に出ていた。スバルを救おうとして、やめた。 今は彼女の訓練中だ。他人が余計な口をはさむのは許されないだろう。 無意識的に握ったラグネルを再び壁に立てかけ、フェイトやエリオ達と一緒に傍観をすることにした。 そんな行動をしている間に模擬戦は進んでいく。 ビルの屋上からティアナが砲撃を撃とうとする。砲撃は今の彼女には使えぬ代物だ。 皆が驚いている中、セネリオは危機感を感じる。 セネリオはなのはの葛藤を感じていた。 自分の思った通りに動いてくれないという苛立ちと、予想外の行動に出始める部下への焦りを。 このままでは危ない。セネリオが感じた刹那のことだった。 「一撃必殺!!」 クロスミラージュからオレンジの刀身がなのはを襲おうとする。 確かに、この高密度の魔力の刃を食らえばただでは済まないだろう。 だが、――――――――― 「………レイジングハート。モードリリース。」 杖の様なデバイスを引っ込める。 そして、スバルの拳とティアナの刃がなのはに当たった、様に見えた。 しかし、その拳も刃も、なのはに届くことはなかった。 なぜなら、 「…おかしいな。みんな…どうしちゃったのかな?」 なのははその両方を素手で受け止めていた。 アイクは戦慄する。食らえばひとたまりもないであろう攻撃を両方素手で食い止めたのだから。 さらに、なのはの醸し出す雰囲気も変わった。 それは殺気でもなく、怒りや憎しみでもなかった。純粋な悲しみ。今のなのはからはそれが感じられた。 「練習のときだけ言うこと聞く振りして本番でこんなむちゃするなんて…練習の意味…ないじゃない。」 拳を掴まれているスバルは恐怖を、デバイスを掴まれているティアナは驚きを感じた。 血を、流している…。 ティアナの心が罪悪感で満たされつつあった。 誰も傷つけたくないから、強くなりたい。そんな思いがあったから、彼女は今まで頑張っていたのだ。 だが、今は恩師を自分の手で傷つけている。その事実にティアナは大きく動揺し、涙をにじませる。 「私は!!誰ももう傷つけたくないから!!強くなりたいんです!!」 そう叫ぶティアナはどこか、己自身を断罪しているかのようだった。 まるで、罪人が神に許しを請うように。 「……少し、頭冷やそうか…。」 スバルにレストリクトロックをかけ、なのははティアナを狙う。 「ファントムブレイズ!!!!!!」 「クロスファイア…シュート。」 二つの魔力弾がぶつかり、相殺される。 ティアナは絶望したように立ち尽くすのに対し、なのはの攻撃はまだ終わっていなかった。 「よく見てなさい…」 スバルに言い放つ。 それは、仲間がやられる様を見ていろと言うのか。 それとも、彼女が罪人に正義の鉄槌を下す瞬間を見ていろというのか。 何にせよ、質問の時間は与えられなかった。 ドウッ!!! そして、二発目が放たれる。それは一直線にティアナへと向かって行き、そして―――――― 「くっ!!」 魔力弾が当たった時特有の轟音と爆発が起きる。 しかし、クロスファイアシュートを食らった時の声は明らかにティアナではなかった。 「…………」 アイクが無言でティアナの前にたたずむ。 その姿はまさに修羅だった。 「なぜ撃墜しようとした?」 「あなたには関係ないわ。どいて。」 冷たくなのはが言い放つ。並みの人間ならば、その一言だけで足が震えるに足るものだろう。 しかしアイクは歴戦の勇者。この程度ではびくともしない。 「…………」 しばし、無言の圧力が場を支配する。その間は永遠に匹敵するほど長く感じられるものだった。 そんな二人の醸し出す殺気と圧力にエリオときゃ路の二人は脅えきってフェイトにしがみついている。 「フェイトさん……」 キャロが不安げにフェイトに抱きつく。そんなキャロにフェイトは優しく言った。 「大丈夫。あの二人は私たちを悲しませるようなことは、絶対にしないから。」 そう言って二人の頭をなでる。だが、今の二人はまさに、一触即発だ。 きっかけがあれば、爆発する。 そんな様子だった。 「……裏切られるのが怖いか?」 静寂を破り、アイクがなのはに問いかける。 それは恨みや憎しみはおろか、悲しみさえも含まない感情のない声だった。 アイクは純粋にそれが聞きたかったのだ。 「…何が言いたいの?」 「お前は「今」が変わってしまうのが恐いのか、と聞いているんだ。」 その場にいる誰もが首をかしげる。 ただ一人、なのはだけはビクン、と肩を震わせ動揺を示していた。 「誰だって突然「今」が変わってしまうことには恐怖を抱く。 だから、部下にいつもと違うことをさせぬよう徹底させ、不変の日常を演じようとする…違うか?」 「あなたに何がわかるっていうの!?それがわかってるんだったら、どうして!!」 いつにもなく、なのはが大声を出す。相当動揺しているようだ。 そんな中、アイクはすっと目を閉じ、語り始めた。 「…俺がいた世界には、対をなす二人の女神がいた。 片方は絶対の秩序こそが争いを生まぬと信じ、世界中の人々を石に変え、世界に静寂と絶対の安定を作った。 もう片方は進化こそが人間の希望だと信じ、石にされなかった俺達とともに、その女神と戦う道を選んだ。 その後、その二人の女神は一つになり、「見守る。」という判断を下した。 …確かに、「今」が変わるのは怖い。だが、それが進化のためならば、俺たちは見守ってやるべきじゃないのか?」 アイクが懐かしく語りだす。 その様子は過去を懐かしく思うようであり、また、戦うことしかできなかった自分を悔やんでいるようにも見えた。 そんなアイクの言葉に耳を貸さず、なのははレイジングハートを起動させ、アイクに向けてアクセルシューターを放とうとする。 「だから何!?私のこと何も知らないくせに、そんなこと言わないでよ!!」 アクセルシューターが放たれた。 しかし、それはアイクに届くことはなかった。 ゴウッっ! 突然、アイクを覆うように竜巻が生まれ、アクセルシューターをすべて弾きだしてしまった。 「え……?」 スバルも、ティアナも、フェイトもエリオもキャロも、もちろんアイクも。 何が起きたのか、全く分からない様子であった。 竜巻が晴れ、辺りの景色が見やすくなる。よく見ると、アイクの前に小さな人影があった。 「…大丈夫ですか?アイク。」 そこにはセネリオがいた。しかし、様子がいつもと違う。 セネリオは怒っていたのだ。自分の最も信頼する人を傷つける人に対して。 そして、なにも語ろうとしない癖に、自分のことを理解してないくせに、という人に対して。 「なのはさん。あなたは何もわかっていない。では聞きますが、あなたはアイクの過去を知っていますか? アイクの背負っている物を知っていますか?僕のことを完全に理解しているというのですか? それが説明できない者に、そんなことを言う資格はありません。」 痛烈な言葉を浴びせるセネリオ。 だが、それはすべて的を射ており、反論の余地がない。 アイクは事実上、両親を目の前で殺されている。 しかも、母親を殺した人物は父親である。 そんな複雑な家庭を持ち、さらに傭兵団団長を務めているというのはあまり人には言えぬだろう。 セネリオもそこを察知して、あえて語らなかったのだろう。 その態度と言動にすっかり心を乱されたなのはは、 「今日の訓練はここまで」 と言い渡し、さっさと帰ってしまった。 時刻は9:30. ロングアーチの階段にティアナは座っていた。 (私…どうしたらいいんだろ…) ティアナは迷っていたのだ。 自分が変わっていってほしくないから、なのははティアナの変化を拒んだ。 しかし、アイクにはその変化を受け入れてくれた。 どちらかといえば、アイクに受け入れてもらえてうれしかった、と感じてしまう自分がいる。 それはいいことなのか、それともいけないことなのか。 そう考えていると、背後から声がした。 「ティアナ…」 不意にティアナは名前を呼ばれ、反応する。 そこに立っていたのはアイクだった。 「俺は何があろうと、お前を信じる。だから、変化を恐れるな。 何かを得るには、何かを捨てなければならない。今の自分を捨て、新たな事に挑戦しなければならない。 強くなりたければな…。だから、頑張れ。」 アイクも階段に座り、そう言ってくれた。 ティアナはアイクが心配してくれているのがうれしかった。それだけで自分は強くなれる気がする、そう思えるようになっていた。 「はい!…ありがとうございます。」 ティアナは戦士として、一人の女性としてアイクに例を告げた。 そして、気になっていたことを聞いてみた。 「アイクさん、セネリオさんはああ言ってましたけど、…過去に何があったんですか?」 決して安易に尋ねてはいけないであろう質問をするティアナ。 その質問にアイクはどこか複雑な豊穣を浮かべて話した。 「俺は………………」 「すみません…こんなこと聞いて。」 つらい過去を思い出させてしまったという自責の念に駆られるティアナ。 だが、アイクはそんなことはこれっぽっちも気にしていなかった。 「いや、俺の過去は俺のものだからな。俺が背負って生きていかなきゃならない。 だったら、拒絶するより受け入れるほうがいい。それを全部ひっくるめて、俺なんだからな。」 ティアナはしばらく絶句した。 なんて、強い人だろう…。 率直にそう感じた。 ここまでつらい過去を背負って尚、一人で生きようとする意志を持てる人間はそういないだろう。 百歩譲っていたとしても、その目標を達成するのは不可能に近いだろう。 「さて、俺はこれから寝るが、大丈夫か?」 「はい!ありがとうございました!」 いい笑顔で返事をするティアナ。 アイクはそれで少しは安心した。 「じゃあ、お休み。」 そう告げて、アイクは寝室へと戻って行った。 「ぐっ………」 ティアナと別れ、寝室に戻ってきたアイクは突然膝をついた。 理由は、全身を駆け巡る体の痛みだった。 「これが、加護の反発…。」 アイクが受けた痛みの正体は、体の中にあるアスタルテの加護t、ラグネルのユンヌの加護の反発。 お互いがお互いを倒すために作られた加護。 とはいえ、ラグネルを握っただけでこの痛み。 「これで戦ったら、どれほどの痛みが…が…」 さすがに、訓練などで体力を消耗していたからか、痛みで意識が混濁し、アイクはそのまま眠りに落ちてしまった。 to be continued..... 前へ トップへ 次へ
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スバル・ナカジマはその日、最高に浮かれていた。訓練後だというのに息を切らして、病院へと走る。手に握りしめたカードは、ティアナのデバイスであるクロス・ミラージュ。 スバルも同席するという条件で、持ち出しは許可された。難しいかと思ったが、なのはもシャーリーも意外にもすんなりと快諾してくれた。 ティアナからの頼みだと聞くと、なのはは困ったような、寂しいような、複雑な顔をしていたが。 病院の玄関を通り、一直線にティアナの病室へ。少し遅れてくるというエリオとキャロには差し入れを頼んでおいた。 自分は一分でも一秒でも早くティアナにクロスミラージュを会わせたかった。 「ティアー、クロスミラージュ持ってきたよ……って、あれ?」 ドアを開ければすぐにベッドが目に入る。しかし、いつもそこにいるはずのティアナの姿がない。これは初めてのことだった。 てっきりティアナも早く対面したいだろうと思ったのだが。 室内に入り、見回しても姿はない。 「どこ行っちゃったんだろ……出かけてるのかな」 沈黙すると微かに音が聞こえる。これまで声で掻き消されていた小さな物音は、入り口横の個室からだった。そこにはトイレと洗面台が備え付けられている。 「ティアー、いるの?」 といっていきなり入るわけにもいかず、ノックをするが返事はない。しばらく耳を澄ましていると、蛇口から水の流れる音が延々と続いている。 その音に隠れたほんの僅かな声をスバルは聞き逃さなかった。 正確にはそれは声というより、喘ぎ。誰に対してでもなく、ひたすら荒い呼吸音が繰り返される。 「ティア!? 大丈夫!?」 鍵は掛かっていなかった。思い切って扉を開け放つと、ティアナは洗面台の横で座り込んでいた。こちらに気付いた様子も無く、俯いて肩を上下させている。 「ティア!!」 「……スバル?」 跪いてティアナの肩を揺すると、小さく返事を返した。 肩を掴んだだけで異常な熱が伝わってくる。喉が乾いて水を飲みに来たが、途中で力尽きたのだろう。 「待ってて、今人を呼んでくる!」 「やめて!!」 立ち上がろうとしたスバルの服をティアナが掴んだ。どこにこんな力が残っていたのか、不思議なくらいの強い力で。 横顔は真っ赤に上気し、全身にびっしょりと汗を掻いている。呼吸は未だ治まらず、それでも掴む手は緩めない。 スバルはその場に縫い止められた。それは腕力によってではない。彼女の発した叫びが、動くことを許さなかった。 「スバル……傍にいて。さっきから見えるの……ずっとあたしを見てる」 「ティア……」 「融合体が……デモニアックがずっと……! あたしを笑ってるの……!」 「ティア!!」 服を掴む手は小刻みに震えていた。背中合わせに戦ってきた彼女が、背中を預けてきた彼女が、今はこんなにもか細く怯えている。 ひょっとしたら、あの日の記憶がフラッシュバックしているのかもしれない。ただ自分が気付いてやれなかっただけで、これまでも何度もあったのかもしれない。 それが無性に切なくて、瞳から涙が零れた。思わず抱き締めたくなる衝動に駆られる。そして自分が付いていると言ってあげたくなる。 でも駄目だ、それでは何の解決にもならない。大事だからこそ、このまま放ってはおけない。 スバルは大声で人を呼ぶ為に、息を吸い込んだ。 突然掴まれた手が動き、直後に身体が引き倒され天井が映る。掴む力より更に強く、不意を突かれたこともあって抵抗もできなかった。 ティアナが馬乗りになり、首に手が添えられる。細い指がゆっくりと滑らかに絡みつく。 その光景はどこか現実味に乏しく、金縛りになった。 「ティア……どうして……?」 荒い息も、体の震えも変わらない。なのに、ティアナの纏う雰囲気は別種のものに変わっている。 これまで感じたことのない異質な気配。目の前の少女は自分の知るティアナではないように思えた。 包帯の下の目を窺うことは叶わず、その目が何を見つめているのかは分からない。 「どうして? ねぇスバル……あんた、あたしに何か言うことがあるんじゃないの?」 吐息混じりの一言がスバルを撃ち抜いた。目が見開かれ、表情が強張る。 思い当たることは一つしかない。それはずっと胸に秘めていたこと。それを見抜かれた驚きで、スバルの心は大きく揺さぶられた。 本当は、ティアナが目を覚ましたあの時、最初に言うべきだった。何度でも懺悔して許しを請うべきだった。そうすればこんなことにはならなかったのに。 実際、ティアナの前でこそ平静を装っていたが、毎日病室を訪ねる前に深呼吸をしていた。 自分が奪った彼女の夢は両手に余るほど重く、謝罪は鉛のように胸に沈んで出てこなかった。 日に日に重みを増す罪悪感。責めてくれれば楽もなっただろうが、彼女は自分を労ってくれさえした。 彼女はきっと気付かない。いつも自分が、彼女の眼を覆う包帯を直視できなかったことに。そして今、それは目の前にあった。 ティアナの指に力が入り、首が絞められる。スバルは抑えていた手でティアナの手を撫でた。 こんなことは自己満足に過ぎない。彼女を救うことにはならない。でも、この手を振りほどくこともできそうにない。それがティアナの答えなら、甘んじて受けようとさえ思う。 「あたしの……」 ティアナに応え、スバルの弾丸も装填される。 それは他でもない、自分自身を撃つ為の銃弾。もう逃げることは許されない。たとえ、それが心を砕いたとしても。 ※ 何か言いかけるスバルに、ティアナはゆっくりと力を掛けていく。抵抗しようと思えば簡単なはずなのに、彼女は受け入れようとしている。 それを俯瞰的に見ているもう一人の自分がいた。それは完全に乖離した存在ではなく、あくまで同じもの。冷静でいようとしている自分だった。 冷静な自分は今も叫び続けている。 (馬鹿スバル! 早く逃げて!) スバルを認識した途端、身体と心の制御が利かなくなった。融合体の姿がスバルと重なり、沸々と熱いものが込み上げ、被害妄想と強迫観念が自我を歪めていく。 それを見つめる自分は、封印していた闇が曝け出される痛みに悲鳴を上げている。 それは心の奥深くに確かに眠っていたもの。それ故に恐ろしかった。暴走し、増幅された怒り、憎しみ、嫉妬がスバルを殺めようとしていることが。 (馬鹿! なんで! なんでそんな……!) スバルは子供をあやす様に優しく手を撫でる。それが意味するものは分からないが、彼女が何かを受け入れ、諦めていることは理解できた。 瞼の裏で融合体が踊る。愚か者二人がすれ違い、食い違う様が最高に楽しいとでも言うかのように。 たとえ幻でもそれが我慢ならなかった。自分の人生を歪め、最も見せたくないものを最も見せたくない人に見せる、最悪の拷問。 胸の中からどす黒い炎が燃え上がる。それは、これまで冷静でいようとした自分すら呑み込み、そして狂っていく。 融合体の姿がスバルに完全に重なった時。 ティアナの口は"ティアナ自身"に止めを刺す為に言葉を紡ごうとしていた。 「あんたの……!」 ※ 上下に向き合う二人。しかし、ティアナはスバルを、スバルはティアナの目を見ることはない。 互いの目に映るのは、相手ではなく自分。ティアナは瞼の裏で蠢く無数の融合体の中に、スバルは罪の象徴であるティアナの目を覆う包帯に、それぞれ目を背けてきた鏡像を見つけた。 ティアナにとってそれは、絶対に言いたくなかった言葉。言えばスバルを傷つけ、自身の醜さと弱さを露呈することになる。 それでも、その言葉は心の底で澱のように凝り固まって、スバルから寄せられる優しさでも溶けることはなかった。 スバルにとってそれは、言わなければならなかった言葉。でも言えなかった言葉。沈黙の理由を問われた時、その言葉を肯定された時、この関係は壊れてしまう。 何度病室に通っても言い出せず、どれだけ献身的に尽くしても罪悪感は消えなかった。 言ってしまえばもう戻れない。言葉は矢となって突き刺さり、鎖となって心を縛る。例え相手が許したとしても、自分自身を決して許せなくなる。 それは呪詛。沈黙、吐露、どちらを選ぼうとも苦しみ、己を苛むことになる呪い。そうと知っていても止められない。胸の内に渦巻く激しい感情の波に飲み込まれ、 急きたてられ――そして呪いは放たれた。 「あんたのせいで……!」 「あたしのせいだ……!」 二度と引き返せない決別の台詞は、二人、計ったように同時に放たれた。 一度堰を切ってしまった思いはもう止められず、荒れ狂いながら全てを押し流していく。 「あんたのせいであたしの目は……!!」 「ごめん……あたしのせいでティアは……! 本当にごめんなさい……!」 それきり言葉は途絶えた。水の流れる音と、ティアナの吐息、スバルのしゃくりあげる声、それだけだった。たったそれだけでも、二人はお互いの言いたいことを痛いほど理解していた。 どれだけ嘆いても時は戻らない。だが、止められなかった。諸刃の剣で傷つけ合う行為に意味などないと分かっていても。 ※ 膠着は長くは続かなかった。やがてティアナに限界が訪れる。 ドクンと胸の奥深くが疼く。心臓が更なる暴威を以て胸を締め付ける。血液が沸騰しているのではないかと思うほど身体を巡る熱は高まり、 渇いた喉からは呻きすら出てこない。犬のように舌を突き出し、必死に酸素を取り込もうと喘ぐ。 体中の細胞が作り変えられていくのを感じる。全身を襲う痛みは目を抉られる比ではない。 皮膚が張り裂け、肉を食い破って何か別の生き物が体内から生まれようとしている気がした。 全ての自分が焼き尽くされていく感覚。激しい頭痛で思考はままならず、視界が赤く染まり、無数の融合体がケタケタと声を上げてティアナを嘲笑する。 それら全てが相まって、比喩でなく発狂を予感させた。 ※ 「ティア……ごめん」 掛けられる言葉は無く、ただ名前を呟く。どんな言葉でもティアナを救うには至らないだろう。 それが何に対しての謝罪なのか、最早分からない。人を呼ぼうにも、身体が動かないことか。苦しみを和らげてやることすらできないことなのか。 そもそも彼女が自分を庇ったことか。或いはその全てなのか。 意識が朦朧とし、視界がぼやける。喉を締め付ける力は増すばかりで、とてもティアナの力とは思えない。 残された力でそっと右手を伸ばし、ティアナの頬に触れる。その腕も凄まじい力で握られ、立てられた爪が食い込む。それでも撫でる手は止めない。 彼女の痛みは想像するしかないのがもどかしい。分かるのは何かにしがみつかないと耐えられない苦しみだということだけ。 できることなら代わってあげたいと思う。その原因を作ったのは自分だから。せめてこれで彼女の痛みの何分の一かでも自分に刻まれればいい。 抗おうとする身体を意志で捩じ伏せ、意識を失うまで、スバルはずっとティアナを見つめていた。 ※ 後悔も激情も完全に消え去り、残ったのは痛みと苦しみ。じきにそれすら麻痺していく。このまま死ぬか狂ってしまえば解放されるのだろうか。 緩やかに消えていく意識に触れるものが一つ。とうに触感も無くなっているのに、それだけは感じられた。 それは以前にも悪夢から救い出してくれた手だった。 その手を握る。固く強く握って、絶対に離れないように。離れればもう二度と帰れない気がした。 手は無意識を漂うティアナを導く。向かう先には光が見えた。光は膨らみ、その中へと入っていく。 ずっと待ち望んでいた。悩み、苦しみ、それでも渇望し続けた光。自分はようやく帰ってこれた。これで戻れる、取り戻せると思った。 眩い光が目を刺激する。これまで形容できなかった光は、気づけば蛍光灯の光に変わっていた。滲むようだった視界は徐々に鮮明に変わっていく。 まだ実感が湧かないが、地獄のような悪夢から自分は現実に立ち帰っていた。あれほど苦しかった身体は嘘のように楽になっている。 そして、現実に帰ってきても手が消えていないことに気付く。左手に伝わる感触――自分を導いてくれた優しい手。これのおかげで帰ってこれたのだ。 やがて完全に光に慣れた目に、最初に飛び込んだもの。 それは自分の右手の下で動かなくなった優しい手の主。 目が見えるようになった暁には極上の笑顔を見せてくれるはずだった、スバルの姿だった。 ※ おかしい。そんなはずはない。そんな言葉が最初に浮かんだ。 混乱し、纏まらない思考を必死に整理していく。まず自分は薬を飲んだ。そして水を求めて洗面所へ――駄目だ、ここから先が思い出せない。 誰かが来た気がする。多分、自分にとってとても大事な人物。 「……スバル!」 ティアナは全てを思い出した。スバルに馬乗りになり、首を絞め、そして責め立てたこと、その全てを。 すぐさまスバルから降り、肩を掴んで身体を揺らす。脱力したスバルは人形のように首をがくがくと揺らすだけで、目を覚ます様子はない。 (まさか――) 全身に悪寒が走る。六課に戻れなくてもいい。もう一度、光を失ったとしても――構わない。 スバルを失うことが怖かった。他の何を取り戻しても、対価に彼女を失えば意味がなくなってしまう。 「起きて! 起きてよ、スバル!!」 願いを込めて名前を呼ぶと、微かに呻き声が聞こえた。口に手をかざすと息が当たる。 生きている。生きていてくれた。喜びのあまり身体を抱き締めようとする寸前、ティアナは違和感に気付いてしまった。 まずスバルの肩を抱く手。黒いグローブが嵌められている。BJのものと見た目は近いが、それは肘の辺りまでをすっぽりと包んでいた。 自分はいつの間にこんなものを付けたのだろう。記憶を辿ってみても、やはりそんなことはしていない。 見た目はグローブであるにも関わらず、触感は皮膚に近い不思議な感触だ。 続いて声。ヘルメットやマスク越しのようなくぐもった声に聞こえる。そのくせ、エコーが掛かったように不自然に響く。 もう何度目か、急速に不安が膨らんでいく。ざわめく胸を押さえても柔らかさはなく、早鐘を打っているはずの鼓動は感じられない。 鎧のようでもあり、甲殻のようでもあり、ざらついて乾いている。 ティアナはふらつきながら立ち上がり、正面を見据える。そこにはいるはずのないものが立っていた。 「なに……これ……」 数秒間、思考が止まった。 色合いを濃くしたオレンジの髪は後ろへ放射状に流れ、ライオンのたてがみを思わせる。 双眸は左右に鋭く吊りあがり、明らかに人とはかけ離れている。瞳の色は髪よりも濃い朱。髪の色、鼻から下を覆うマスクと合わせて燃え盛る炎のようでもあった。 上半身には、胸元から体のラインを浮き彫りにする白のドレス。青く発光する線で縁取られている。衣服という感覚は無く、露出した肩と二の腕と同じく質感は硬い。 肌はまるで石像のようで、やはり人のそれではない。 下半身は更に異常だった。スラリとした人間的な上半分と正反対の怪物的な姿。太腿から下は本来の脚より一回りは太く、より鎧に近い。 金属の体毛とでも言うべきか、黒光りする突起に覆われ、尖った爪が並んだ脚は強靭な肉食獣の後肢という印象を受ける。 人のようで人でなく、獣のようで獣でない。通常の融合体とは違うが、紛れもなく融合体である。 瞬間、ティアナは拳を振り上げた。 これが融合体ならスバルを守らなければ、と咄嗟に考えた。或いは、そう考えることで自分を守る為の方便としたかったのかもしれない。 ともかく、融合体目がけて拳を叩きつける。この心を蝕む不安と恐怖が消えることを願って。 結果、融合体は目の前から消えた。しかし同時に、自分の中でも何かが壊れた。 ガラスが割れる音と共に拳は白い壁にめり込み、亀裂を生じさせた。割れた鏡の破片が水に流されて耳障りな音楽を奏でている。 普通の人間ではないスバルを失神させることができたのは、この力のせいだ。あの声も、手のグローブも、それで全てが繋がる。 おそるおそる後ろ髪を触ると、隠れて二本、螺旋に捻じれた角が並んでいた。 全てが理解できた。自分は融合体に――デモニアックになってしまったのだと。 「――――!!」 声にならない叫びが病院中に響いた。しかし、それを悲鳴と思う者はいまい。聞けば誰もが、怪物の咆哮だと恐れるだろう。 発した本人でさえそうだったのだから。 ※ 院内はあっという間に混乱に陥った。原因は突然院内に轟いた咆哮。逃げ惑う人波に逆らって走る少年が一人。エリオ・モンディアルだった。 キャロと共に差し入れを買い、スバルに遅れて病院に来たエリオは、咆哮の時には既に院内に入っていた。幼い顔は途端に精悍に変わり、キャロに先んじて声の元を探す。 階段を駆け上がり、人の流れを頼りにその階を目指す。走りながらも、ティアナの病室に近付いていると感じていた。 違っていてほしいという願いも空しく、ティアナの病室の前に辿り着く。 扉の前には小さな人だかりができていた。異変を感じても、それを確かめる勇気がないのだろう。 「通してください、管理局の魔導師です! 扉から離れて、すぐに避難してください!!」 蜘蛛の子を散らすように人だかりが崩れる。やがて完全に人が消えたのを確認すると、ストラーダを構えて扉を開け放つ。 入り口から見る限り姿もない。しかし水の流れ出る音と、気配から何かがいることは確か。 ゆっくりと入口横の個室を覗き込んだエリオは、思わず声を抑えられなかった。 「スバルさん!!」 瞬時に身体を乗り出す。そこには朱色の髪をした何者かが昏倒したスバルを抱きかかえて立っていた。声に反応して振り向く顔は想像通り、人ではない。 融合体はスバルを手に掛けようと、彼女の首を指でなぞっている。もう片方の左手はスバルの手を握っていた。 言葉よりも動く方が速いと、ストラーダを融合体目がけて突き出す。融合体は抱えていたスバルを背後に突き飛ばし、遅れて自分も回避行動を取るが、 一瞬速くストラーダが右腕を貫いた。 叫びも上げず、鮮血が飛び散るより先に融合体は傷口を押えて、エリオの脇を走り抜ける。下手すると自分でも追いつけない速度で。 爆発的な瞬発力に限っては完全に上回っていた。 エリオが振り向いた時、既に融合体は窓ガラスを突き破って逃走していた。 「エリオ君!」 「僕は融合体を追いかけるからスバルさんを!」 「エリオ君、一人で追っちゃ駄目だよ!」 「でも放ってはおけない。この下は通りなんだ! 大丈夫、無茶はしないから! ロングアーチへの連絡もお願い!」 追いついてきたキャロと一通りのやり取りを済ますと、エリオは窓から通りを見下ろす。民間人の悲鳴は、融合体の逃走経路を示すかのように順番に上がっている。 それを見たエリオは顔を歪め、忌々しげに舌打ちした。 「許さない……! 絶対に許さないぞ、融合体……!」 無茶はしないとキャロの手前は言ったが、守りきれる自信は無かった。今、この瞬間も融合体への怒りが爆発しそうになる。 ヴァイスを殺め、ティアナを傷つけ、スバルまで――次から次へと自分の大事なものを奪っていく。 こんな気持で戦ってはフェイトに叱られるだろうが、今はこの感情が力になる。全ての融合体を殺し尽くすまで戦える。 ティアナが抜けてからというもの、戦闘はなかなか思うようにいかず、三人全員がストレスを内に抱えていたように思う。 しかし、その中で支えになったのは間違いなく融合体への怒り。少なくとも自分はそう思っていた。 首を振って迷いを振り払う。すぐさまエリオも飛び降り、再び悲鳴を頼りに走り出した。あの融合体を必ず仕留めると暗い決意を誓って。 ※ 恐怖――思考はそれ一色に染まっていた。 逃げて、逃げ続けて、無数の人間とすれ違った。その内、自分を恐れなかった人間は一人もいなかった。誰もがデモニアックと呼び、恐れ戦いた。 ひたすら走り、いつの間にか姿は人間に戻っていた。それでも走り続けた。行く当てなどないというのに。 どれだけ走っても息が切れず、裸足なのに痛みもほとんど感じない。エリオに刺された傷はもう出血が止まっていた。 こうなると、自分は本当に融合体へと変貌してしまったのだと実感する。 ティアナは、エリオに理解を求めようとはしなかった。こんな自分を見られたくないというのもあったが、怖かったというのが一番の理由。 問答無用に自分を狩ろうとするエリオ。恐怖と憎悪の視線を送る人達。そして何より自分自身が怖い。このまま何もかもから逃避したかった。 ポツリと雨粒が顔に当たる。曇天だった空は、いつの間にか泣き出してしまったらしい。ふと頬に触れると、雨でないもので濡れていた。 やがて雨は本降りとなり身体を濡らす。ティアナは途方に暮れた。目が見えるようになったなら、こんな天気も喜んで眺めていられると思っていたのに、今は孤独を助長するだけ。 しかも自分は寝間着姿だ。道行く人が、今度は好奇の視線で見ていることに今更気付いた。 人の流れから弾き出されるように、ティアナは裏路地に逃げ込む。 暗く湿気た壁。ゴミや様々なものが入り混じった異臭が鼻についた。 転がるように、どこかの店の裏口、非常階段の下に座り込む。臭いが気になるが仕方無い。近くて雨が防げて、なるべく死角になる場所と言えば、ここしかなかった。 そういえば、と握り締めていたものに今になって気付く。 一枚の白いカード。相棒であるデバイス、クロスミラージュ。スバルが握っていたのを思わず持ってきてしまっていた。 今、自分の右手には、デモニアックの証である黒い紋章が刻まれている。皮肉にも人でなくなった証と、それから人々を守る為の力だったものが両手にあった。 病院で鏡に映った姿と同じ。いくら半身に魔導師としてのBJの名残を残しても、もう半分はデモニアックそのもの。 どちらでもあるが、どちらでもない。人間には戻れず、かといって悪魔にも堕ちきれず、孤独に怯えている。 「なんで……なんでこんなことになったんだろう」 全てが怖くて堪らなかった。人を守るはずだった自分が無力で守られる立場になり、一転して今は狩られる立場にある。 訳も分からず、人という種から弾き出された戸惑いは、誰にも理解できるはずがない。 エリオの判断は正しい。頭ではわかっていても、同僚に化け物扱いされて追い立てられるのは悲しくて、辛かった。 「仕方無いか……ほんとに化け物だもんね」 これまで特に神の存在を信じたことは無かった。でも今はほんの少し信じてみようと思う。きっと神は自分が疎ましいのだろうと。 両親を失い、兄を失い、夢を、同僚を失った。守ってきた人や共に戦った人々には拒絶され、そしてこの有様。 分かっている。真に呪うべきは己の愚かさであるということも。 だが、言わずにはいられない。この仕打ちは無いだろうと。もう自分には生き場所もない。 誰かに寄りかからず、他人のせいにもしない。起こった事実を受け止め、自分の糧とする。常に前を見て上を目指す。 それがティアナ・ランスターだったはずなのに。 ただ取り戻したかっただけ。単に視力でなく、ねじ曲がったティアナ・ランスターという自分を含めた全てを。無い物ねだりだと知っていた。 でもそれの何が悪い。願いは――そんなに我がままなことなのか。 待機モードのクロスミラージュを回しながらティアナは溜息をついた。昨日、スバルに頼んだ時にはこんなことになるとは思ってもみなかった。 ただ別れを言いたいだけだったのに、何の因果か、今となってはこれだけが自分の唯一の味方である。 話したいと思った。クロスミラージュと別れて一週間と少し、話したいことは山ほどある。 だが、ティアナはぐっと飲み込んで堪えた。今、こんなところで会話していては誰かに気付かれてしまう。ただ傍にいてくれるだけでいい。それだけで少しだけ安心できた。 膝を抱えてひたすら雨が過ぎるのを待っていると、安心したからか急に睡魔が襲ってきた。そういえば、昨日からろくに睡眠をとっていない。 融合体でも眠くなるのか、などとどうでもいいことを考えた。 抗おうとしたが、動くのも面倒だったので、次第に身を任せていった。 目が覚めたらまた暗闇でもいい。それでもいいから、この悪夢が終わってほしいと思いながら。 うたた寝を初めて数分後、ドアが開閉し、誰かが階段を下りてくる音で目を覚ました。即座に、近くのゴミ箱の影に隠れる。 じっと息を殺して通り過ぎるのを待つ。そうすることで余計に緊張が増した。 何故隠れたのだろう、突然の不意打ちで驚いたのだろうか。ただ怖いと思ったら自然と身体が動いていた。 まるで怪我をした野良猫そのもの。暗がりを選んで潜み、惨めにも身体を震わせている。 「おい、こんなところで何してるんだ?」 低く太い男の声がして、ティアナはビクンと身体を跳ねさせた。縮こまり、固く目を瞑って聞こえない振りをする。 しかし見逃してはくれなかった。足音は徐々に近づいてくる。 目を開けると、そこにはイメージ通りの屈強な男が立っていた。 「嫌……来ないで!!」 叫んでも男は聞いてくれず、それどころか手を伸ばしてきた。 一瞬で恐怖が加速する。視界が赤く染まり、またも融合体が視界の端からちらついてきた。耳鳴りが酷く、キーンと甲高い音で全ての音が掻き消されていく。 この男の目的は暴行なのか保護だったのか、どんな理由だろうと関係ない。今のティアナにとっては、近づく者全てが恐怖の対象だった。 ティアナは首を振って最後まで抵抗を試みたが、男が腕を掴むと同時に、男の姿は完全に融合体と化す。その瞬間、声にならない悲鳴が突き上げ、理性の針は振り切れた。 ※ 件の融合体を目撃証言を頼りに追跡するエリオ。それも途中で途切れ、見当もつかなくなってしまう。 全力疾走を歩きに変え、冷静さを取り戻したエリオの頭には幾つも疑問符が浮かぶ。 何故あの融合体は誰も襲わないのか? 負傷しているからなのか? それに越したことがないとはいえ、なんとも不気味だった。 もう一つ、あのスピードなら回避は十分できたはずなのに、何故余計なアクションを挟んだ? スバルに構わなければ反撃までできたのに。 あの病室にはティアナがいなかった。スバルが逃がしたのかもしれない。その際に融合体に攻撃され気絶したと考えれば一応の辻褄は合う。 咆哮からの時間差――殺すにせよ逃げるにせよ時間はあったはず。争った形跡もほとんどない。腑に落ちないことだらけである。 本当にあの融合体はスバルを殺そうとしていたのだろうか。ふと、そんな有り得ない考えが過るが、一度芽吹いた疑惑はそう簡単に消えてくれない。 そうだとして一つ可能性はある。だが、それはエリオにとって最悪の可能性であるが故に、考えることを拒否したかった。 でも、まさか――そんな考えを繰り返していた時、遠くで轟音が響いた。ざわめきは波紋となってエリオの元まで届く。推理を中断し、エリオは再び走り出した。 とある店の裏路地、そこに朱の髪の融合体はいた。4~5メートル先の壁には男が白目を剥いて叩きつけられていた。おそらく殴られただけで死んではいない。 「やっぱりお前は……! やっぱりお前も同じだ!! 人殺しの悪魔!!」 胸に再び怒りが灯る。荒れ狂う感情に任せて怒りの言葉を叩きつけても、融合体は反応しない。しかし、今度は先程とは違い、明らかな殺気が感じられた。 エリオはストラーダを構える。同時に、殺気は急速に膨れ上がり、形を成して襲ってきた。 脇腹、紙一重を拳が掠める。咄嗟に身体を捻らなければ確実に鳩尾に叩きこまれていた。 後ろへ跳躍、距離を取る。融合体はその距離を一跳びで縮め、回し蹴りが頭上を通過。 エリオはまたも距離を取った。 今度も紙一重。同じ紙一重でも、今度は確実な紙一重だった。 エリオには融合体の動きが見えていた。厳密に言えば、視認は追い付いていない。 しかし、その動きは完全な直線。点と線の攻撃しかない。しかも大振りである為、軌道の予測は容易だった。病室で見た動きは気のせいだったのかと思うほど、単調で単純。 融合体は両手を垂らし、腰を落とし身を低く保つ。その髪、その下半身からも四足の獣を連想させるが、はっきり言えば獣にも劣っている。 エリオは目を凝らし、融合体の動きに最大限の注意を払う。動く瞬間さえ分かれば勝てる確信があった。 じりじりと距離を開いて攻撃を誘う。対する融合体はそれを逃げると思ったのか、一気に迫る。それも右腕を大きく振りかぶりながら。 思わず笑いが零れそうな程に単純な打撃。エリオは加速しながら前に踏み出す。お互いが猛スピードで走る為、激突は一瞬だった。 その瞬間、エリオは小さい身体を僅かに逸らした。右の耳を突風が駆け抜ける代わりに、ストラーダは融合体の右脚の大腿を深々と貫いていた。 本来は腹を狙ったつもりだが、激突があまりに速く狙いが定まらなかった。 ストラーダの穂先を半ばまで脚に埋め込んだ融合体は苦悶の叫びを上げ、エリオごと強引にストラーダを引き、投げた。 それも予想内と、エリオは軽々と受け身を取る。猫のように器用に空中で態勢を立て直し、これで止め――と思いきや、融合体は負傷しているにも関わらず、背を向けて走り出した。 「逃がすか!!」 と、追いかける寸前で踏み止まる。融合体に殴られたらしき男を放っておくわけにもいかなかった。おそらく命に関わる程でもないだろうが。 あの傷ではそれほど遠くにはいけない。この男の傷の確認を早々に終わらせてから追うことにした。 ※ 恐怖で狂乱状態に陥っていたティアナは、更なる恐怖と痛みによって冷静さを取り戻しつつあった。しかし、依然として理性は戻っていない。 むしろ狂気はそのままに、狩人を排除することにのみ知恵を絞り、意識を研ぎ澄ませる。ある意味ではより悪化したと言えた。 未だ心は人ではなく、獣のままで言葉と狩りの仕方を思い出しただけに過ぎない。 今のティアナにとって、エリオは"エリオという名の敵"でしかなく、それが自分にとってどんな存在だったかは完全に吹き飛んでいた。 或いは、ここまで堕ちてしまえば思い出さない方が幸いと、心が拒否しているのかもしれない。 単調な攻撃では、どう足掻いてもエリオには勝てないと、ティアナは考えた。せめて武器さえあれば、身体能力に分のある自分が有利になるのだが。 周囲を見回しても武器になりそうなものはなかった。かといって鉄パイプや角材では話にならない。 何か武器はないのか。武器は――あった。手に握りしめたカード、切り札はずっと自らの手の内にあった。 クロスミラージュ――これは自分の武器。使い慣れた武器だ、とそれだけは覚えている。 「あんたで……。あんたがあれば、あいつを殺せる……!」 手放す時、別れを告げたいと思ったほど苦楽を共にした愛器。 十数分前まで唯一の心の拠り所だった相棒。 ティアナの、十二日振りに再会したクロスミラージュへの第一声はそれだった。 変わり果てた主に対し、クロスミラージュは困惑の言葉を返した。 『マスター、相手はライトニング03ですが、本当によろしいのですか?』 「うるさい!! あんたまであたしを裏切るって言うの!?」 ティアナは、クロスミラージュに激昂で返した。たかが武器でさえ意のままにならない。その憤りを一方的にぶつける。 本当は誰もティアナを裏切ってなどいない。それでも、ティアナは誰よりも孤独に打ち震えていた。 『……現在、待機モードでロックされています。解除の許可は出ていません。解除にはスターズ01と――』 「そんなことなら……あたしがあんたを解き放ってあげる」 『マスター!?』 クロスミラージュを握り締める。青い光が瞬くと、クロスミラージュは掌に吸い込まれるように埋もれた。 頭の中に無数の情報が流れ込んでいく。クロスミラージュの構造、その全てがそこにはあった。 ロック、リミッター、出力etc――全てが自由自在。これまでより、そしてこれから何年掛けて共に戦うよりも深く、ティアナはクロスミラージュを理解し、一体となった。 とはいえ、あまりに乱雑に弄り過ぎては修正できない。そもそも専門家でないティアナには知識が不足していた。 その為、今回はロックの解除に留め、融合を解除。ついでにうるさいAIも少し黙らせておく。 「行くわよ、クロスミラージュ」 準備は整ったとばかりに、ティアナはそこでエリオを待ち受ける。 融合によって、デバイスとのシンクロはより高度なものとなった。 しかし、それはクロスミラージュを託したシャーリーやリィンの意思である同調ではなく、支配と呼べるものだった。 今のティアナは獣ではない。狂戦士か或いは戦鬼か――少なくとも人でないことだけは確かだった。 術も叩き込まれた戦技も全てを思い出した。その理念、理由、それを教えてくれた人の顔を除いて。 前へ 次へ 目次へ
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なのは 魔法少女空中決戦 (劇場予告バージョン) なのはPROJECT (会社名) 乗組員A:「緊急連絡! アースラが何かで座礁しました!」 乗組員達「うわああ!」 リンディ・「何かが動いたの?」 クロノ「・・・・・アースラの真下です」 リンディ「こんな次元に環礁があるはずないわ!」 アースラの真下に巨大なロストロギアのようなある。 タイトル:なのは 魔法少女空中決戦 予告編(もちろん嘘予告) (海をバックに) クロノ「北の方角から次元の波に乗って漂流している と考えてもまず間違いないでしょう」 荒れる次元の波で何かが目覚める。 グレアム「巨大な魔力を持つ者?」 クロノ「それが一直線にここに向かってるんです。」 ユーノ「管理局員の最後の通信で黒いマントを着けた少女と・・・・」 すずか「少女・・・?」 死神のような少女が飛ぶ。 エイミィ「これが謎の少女なの? はやてちゃん」 モニターに映る反応を見る。 はやては逃げる少女を追う。 はやて「ただの少女やない。 魔力数値約500万 しかもこの子人ば襲いよる」 ?「プラズマァァァ! ブレイカアアアアアアア!」 はやてを見たこと無い魔法で攻撃して逃げる。 はやて「なっ! おい! おい おーい! だめやっ! 逃げられてもうた。」 はやては逃げる少女を見つめる。 その頃、ロストロギアにあった碑文の解読に成功したユーノ はこうつぶやく。 ユーノ「災いの影、フェイト・・・・」 エイミィ「えっ?」 ユーノ「碑文の一節です。」 ナレーター「はるかなる時を超え、現代の時間に蘇った超危険人食い魔法少女、フェイト。」 すずか「1万2千年前、時の揺り籠、なのは」 遺跡を破壊し目覚めるなのは。そしてフェイトの元に迎い、お互いを睨みあう。 ナレーター「そして、フェイトを追うかのよう長い眠りから目覚めたなのはも この世界にやってきた。」 なのは「フェイトちゃん、もう逃がさないよ。」 フェイトとなのはは空高く飛行する。 時空管理局員は二人を見つめる。 なのは「ディバイン・バスタアアアアアアアアアアアッ!」 なのはとフェイトはお互いの必殺技をぶつけ合う。 管理局員「危険です。下がってください!」 タクシーに乗ってきたすずかとアリサは戦う二人を見つめる。 アリサ「あれがあんたの言っていた・・・・・」 ナレーター「今、次元全土を破滅の恐怖に叩き込む二人の戦いは都市から海へ・・・・」 シャマル「巨大な波がっ!」 リンディ「アルカンシェル、発射!」 なのはは、ディバインバスターを撃ちながら、フェイトを追い詰める。 ナレーター「遂に全次元の存亡を賭けた最終バトルへのカウントダウンが始まった!」 フェイト「また食事の邪魔するなんてもう許さない! なのはぁぁぁぁぁぁ!」 フェイトはバルディッシュでなのはを斬りつけるがなのははリボンが斬れただけ でたいした傷は無かった。そして激しい魔力のぶつかりあいであちこちで爆発が起こる。 そしてフェイトはなのはから逃げる為に宇宙まで急上昇した。 クロノ「なのはとフェイト、急上昇! これ以上、僕には追尾できません!」 すずか「来るよ! なのははきっと来るよ!」 ナレーター「超音速の大決闘! なのは 魔法少女空中決戦」 なのは「スターライト・ブレイカー!」 フェイト「ザンバー・スマッシャー!」 お互いの必殺技がぶつかり合い、スターライト・ブレイカーが勝ち、 その光がフェイトを飲み込む。 フェイト「きゃああああああ!」 ナレーター「最後の希望・・・・それはなのは」 「平成7年、3月11日ロードショー」 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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フェイトたちは決戦の場へと転送された。 陸地はなく、海から廃墟となったビル群が生えている。時空管理局が作り上げた疑似空間だ。ここならどんな大技を使っても現実空間に被害を及ぼす心配はない。 「小鳥遊、あんたが戦いな。その方が勝率が高い」 アルフが小鳥遊のジュエルシードに手を当て、魔力を送り込む。アルフの全ての魔力を受け取り、小鳥遊が回復する。 「負けたら承知しないよ」 「任せてください」 小鳥遊とアルフは互いの拳を打ちつけ合う。アルフはよろめきながらも、巻き込まれないよう戦場の隅に移動する。 傾いたビルの屋上に腰かけると、ユーノがやってきた。 「あんたも見学かい?」 「はい。僕では、なのはたちの全力の戦闘にはついていけませんから」 どちらもこの日の為に準備をしてきた。後はどちらの知恵と力が上回るかだ。 レイジングハートとバルディッシュの先端が触れ合う。戦闘が開始された。 ぽぷらとなのはが、ビルの間を縫うように高速で飛行する。 牽制射撃を繰り返しながら、二人はどんどん加速していく。ぽぷらはクロスレンジの戦闘が苦手だ。まずは接近されないことが肝心だった。 しかし、どんなに速度を上げても、フェイトはぴったり後ろについてくる。この中で一番機動力が優れているのはフェイトだから当然だ。 (作戦通りだね) なのはが念話をぽぷらに送る。 なのはたちの目的は、フェイトと小鳥遊の分断だった。小鳥遊の弱点は、魔法の射程が短く飛行速度が遅いこと。高速で戦闘していれば、必ず遅れる。その隙に二人がかりで、フェイトを倒すのだ。 ビル群を抜け、なのはたちは開けた空間に出た。追いかけてくるのはフェイトのみ。 「かたなし君はいないね?」 「なら、一気に決着をつけよう。シュート!」 八個の魔力弾が、全方位からフェイトに襲いかかる。 フェイトは落ち着いた様子で、背後から迫る四個を迎撃する。 「必殺ぽぷらビーム!」 足の止まったフェイトをぽぷらが狙い撃つ。フェイトは高速機動は得意だが、防御には少々難がある。命中すれば倒せるはずだ。 「縮め!」 突如、小鳥遊が出現し、迫るビームと残りの魔力弾を縮小させ体で受け止める。 「小鳥遊さん、どこから出てきたの!?」 『Fire』 「なのは、下だ!」 佐藤の指示で、なのはが急降下する。頭上すれすれを電光が通過する。 なのはとぽぷらが移動を再開する。 「あれを見ろ」 佐藤が追いかけてくるフェイトの肩を指差す。自らの魔法で赤ん坊サイズに小さくなった小鳥遊がしがみついていた。これまではマントの後ろに隠れていたのだ。 「分断を狙ってくることくらいお見通し」 「ちなみに佐藤さんをヒントにしました」 フェイトが自慢げに、小鳥遊が少し青ざめた顔で言う。 訓練しても、小鳥遊の飛行速度を上げることはできなかった。ならば、佐藤のように誰かに運んでもらえばいい。 ただし、この技には弊害があった。小鳥遊が小さくなることで、あらゆる人間が年増に見えてしまうのだ。あまり長時間続けると、小鳥遊の精神が持たないかもしれない。 敵の攻撃を小鳥遊が盾となって受け止め、フェイトの電光が必殺の威力を持って迫る。二人はまるでワルツを踊るように攻守を入れ替えながら戦う。 「私たちにもう弱点はない」 「まさに最強の矛と盾。俺たちは絶対に負けません!」 なのはたちがじりじりと追い詰められていく。 「やっぱり強いね、フェイトちゃん」 なのはが感心したように言う。 「でも、私たちもこれ終わりじゃないよ」 どうやら切り札を使う時が来たようだ。ぽぷらが照準をフェイトに合わせる。 「ポプライザー!」 ぽぷらの枝からビームが放たれる。技名は初だが、普段のビームと変わらない。防ぐまでもなくフェイトはやすやすと回避する。 「ソード!」 ぽぷらがビームを放出したまま、両腕を振るう。それに合わせてビームが横薙ぎに振るわれる。 「魔力剣!?」 フェイトが驚愕し、小鳥遊がかばう。 ビームとして放出した魔力を、そのまま刀身として維持する。膨大な魔力消費と引き換えに、これまで直線の攻撃しかできなかったぽぷらに、立体的な攻撃を可能とする新技だ。 ぽぷらの背がじりじりと縮んでいく。早く勝負をつけないと、身長が持たない。 「せーの!」 ぽぷらが全長百メートルに及ぶ剣を振りまわし、小鳥遊ごとフェイトをビルに叩きつける。 ポプライザーソードの威力はビーム時の半分以下しかない。小鳥遊の防御を貫通はしないが、ぽぷらと佐藤が力を合わせ、上から押さえつけて動きを封じる。 小鳥遊が剣を小さくしようとするが、ぽぷらがその度に魔力を注ぎ込むので、剣の大きさは変わらない。 「そっちが最強の矛と盾なら」 「こっちは最大の剣と大砲だよ!」 周辺の空間に漂う魔力の残滓が、レイジングハートの先端に集中する。まるで星の光を集めているようだった。暴発寸前まで集められた魔力が、凶悪な光を放つ。 「集束砲撃!?」 「フェイトちゃん、逃げて!」 小鳥遊が渾身の力でわずかに剣を持ち上げ、フェイトが動ける隙間を作る。 「でも、小鳥遊さんが……」 「いいから! 勝って、全てのジュエルシードを手に入れるんだ!」 フェイトが意を決して隙間から這い出す。 「スターライトブレイカァァー!!」 圧倒的な光が瀑布のように降り注ぐ。光は小鳥遊ごとビルをぶち抜き、巨大な爆発を引き起こした。いかに魔王小鳥遊でも、耐えられる威力ではない。爆発が収まった後には、変身が解除された小鳥遊が海面を漂っていた。 「やった……!」 集束砲撃は負担が大きく、なのはの呼吸は激しく乱れていた。 「回避しろ!」 佐藤からの警告。なのはは体をひねるが、迸る電光が肩を直撃する。 「なのはちゃん!」 「後はお願い」 なのはが肩を押さえながら落下していく。撃墜はされていないが、しばらくは動けないだろう。 ぽぷらが空中でフェイトと相対する。ぽぷらは普段の半分のサイズまで縮んでいた。 「佐藤さん、なのはちゃんが回復するまで時間稼ぎできると思う?」 「無理だな。その前に撃墜される」 「なら、一気に決めるしかないね」 フェイトとて、度重なる魔法の行使で疲れているはずだ。勝機はある。 「ポプライザーソード!」 ぽぷらの枝から長大な魔力剣が伸びる。ぽぷらの背がさらに半分に縮む。 「くっ!」 フェイトは魔力剣を回避するが、剣はどこまでも執拗にフェイトを追いかけてくる。苦し紛れのフォトンランサーを、ぽぷらは剣で切り払う。 「無駄だ。俺の予知からは逃げられん」 佐藤が時折、フェイトの進行方向に先回りして剣を動かす。 「もらった!」 剣が完全にフェイトを捉える。ぽぷらが横一文字に剣を振り抜く。 「佐藤さん、私、勝ったよ!」 「ぽぷら」 佐藤は喜びもせず、剣の先を見つめていた。ぽぷらも視線の先を追った。 剣の先に黒い染みができている。染みの正体に気がつき、ぽぷらの顔から血の気が失せた。 足元にバリアを張り、剣の上にフェイトが乗っていた。チェーンバインドを応用して、自分と剣を光の鎖でつないでいる。まるで神話の、岩に鎖で繋がれたアンドロメダ王女のようだった。ただし、このアンドロメダ王女は怪物を倒す力を秘めている。 「きゃー! 離れてー!」 ぽぷらが剣を振りまわすたびに、鎖がちぎれ、足元のバリアがひび割れていく。それでもフェイトは冷静だった。 『Get Set』 「これなら絶対に外さない」 バルディッシュがグレイヴフォームへと形を変える。バルディッシュも鎖で剣に固定され、まっすぐぽぷらを狙っていた。ポプライザーソードを使っている間、ぽぷらは移動できない。 「剣を消せ!」 「もう遅い」 佐藤の叫びと、スパークスマッシャーの発射はまったく同時だった。 ぽぷらが回避の指示を仰ぐべく佐藤を見る。佐藤はきっぱりと言った。 「すまん。詰んだ」 「さとーさーん!」 ぽぷらと佐藤を稲妻が貫く。 変身が解除された二人が海面へと落下していく。魔法の使い過ぎで手の平サイズのままの二人を、ユーノが空中でキャッチする。 フェイトは安心したように息を吐いた。 「フェイトちゃん」 「そっか。まだ終わってなかったね」 休憩する間もなく、ぼろぼろになったなのはがゆっくりと上昇してくる。フェイトも三つの魔法を同時使用したことでかなり消耗していた。 「なのは、やっぱり私たち友達にならなければよかったね」 フェイトは苦しそうに顔を歪めていた。 「フェイトちゃん、そんな悲しいこと言わないで」 「だって、友達になっていなければ、こんなに辛い思いをしなくてすんだ」 傷ついた小鳥遊をアルフが介抱している。佐藤とぽぷらは、まだ意識を取り戻していない。 小鳥遊はもちろんだが、佐藤やぽぷらもワグナリアにいる間、仕事に不慣れなフェイトによくしてくれた。 誰を傷つけても、誰が倒れても、心がきしみ悲鳴を上げる。こうなることはわかっていたはずなのに、優しい誘惑にフェイトは勝てなかった。 「フェイトちゃん、今がどんなに辛くても、楽しかった時間まで否定しないで。例え結果がどうなろうと、私はワグナリアで過ごした時間を絶対に忘れない」 「そうだね、なのは。私も忘れられないよ。でも、私は母さんの為にジュエルシードを集めるって……そう決めたから!」 フェイトは涙を振り払い、バルディッシュを構える。 その時、膨大な魔力反応が空を覆った。 「母さん!?」 フェイトとなのはを紫の稲妻が襲う。 「なのは!」 「フェイト!」 ユーノがなのはを、アルフがフェイトを受け止める。 その隙に十個のジュエルシードが雲間へと飛んでいく。 「宗太さん」 フェイトが朦朧とした意識で手を延ばす。 ジュエルシードと一緒に、小鳥遊も雲の向こうへと消えていった。 小鳥遊が目を覚ますと、部屋の奥でプレシアが椅子に座っていた。隣の台座には、十個のジュエルシードが置かれている。どうやら時の庭園に運ばれたようだ。 「やはり一度に空間転移させるのは、これが限界か」 プレシアは激しく咳き込む。口を押さえていた手には、べったりと血が付着している。 「お前……」 「時間がないって言ったでしょう。こういうことよ」 プレシアは病魔に侵され、余命いくばくもない状態だった。 「それにしても情けないわね。すぐにジュエルシードを集めるって言っておきながら、この程度なの?」 「フェイトちゃんはまだ負けてなかった。どうして横槍を入れたんだ」 「もう必要なくなったからよ。あの子も、全てのジュエルシードも」 ようやく悲願達成の確信を得られたと、プレシアはいつになく上機嫌だった。 「どういう意味だ?」 「いいわ。全部教えてあげましょう」 プレシアは椅子の右手側にある扉を開けた。液体に満たされたポッドが並ぶ通路の中央で、フェイトに瓜二つの女の子が入ったポッドが鎮座していた。 「あれが私の本当の娘、アリシアよ」 ポッドの中の少女はフェイトより少し幼いようだった。小鳥遊は息をのむ。 かつて優秀な魔導師だったプレシアは事故で一人娘を失った。その後、人造生命の研究、プロジェクト・フェイトを利用して娘を蘇らせようとしたが、計画は失敗し娘の紛い物しか作ることができなかった。それがフェイトだ。 「アリシアを蘇らせるには、失われた技術の眠る世界、アルハザードに行くしかない。その為には二十一個のジュエルシードが必要だった。でも、これだけあれば、もう充分」 小鳥遊の肉体と精神はジュエルシードと相性がいい。小鳥遊を媒介に十個のジュエルシードとこの時の庭園の駆動炉の力を結集させれば、数の不足分を補い、より確実に次元の狭間にアルハザードへの道を作れるはずだ。 小鳥遊はプレシアを睨みつけた。 「一つ教えてくれ。お前はフェイトちゃんをどう思ってるんだ?」 「ただの人形よ。目的を果たした今となっては、もう用済み。必要ないわ」 「あの子は母親のあんたの為に、あんなに頑張っていたんだぞ。それに対する感謝は、愛情は、あんたにはないのか!」 小鳥遊の怒りを、プレシアは涼風のように平然と受け流す。 「もし愛してるなら、あなたみたいな変態に近づけると思う? そうね。あの子を餌に、あなたの研究が出来た。そこだけは褒めてあげてもいいわ」 プレシアは明後日の方向を見上げた。小鳥遊以外の誰かに聞かせるようにはっきりと告げる。 「あなたはアリシアとは似ても似つかない偽物。私は、そんなあなたが大嫌いだったわ。ねえ、聞いているんでしょ、フェイト?」 プレシアの放った魔法から、時の庭園の場所はすでにアースラに察知されていた。プレシアと小鳥遊の会話を、アースラブリッジでなのはとフェイトは聞いてしまっていた。 小鳥遊は怒りに体を震わせる。 「……俺は年増が嫌いだ。年増なんてみんなわがままで自己中で……。でも、あんたはその中でも最悪の年増みたいだな」 小鳥遊が走り、台座の上のジュエルシードを一つ奪い取る。 「あんたはこの手で倒す。小さくしてフェイトちゃんに謝らせてやる」 黒いマントがひるがえり、魔王小鳥遊へと変身する。怒りで全身に活力がみなぎってくる。 「この場所に運んだのは失敗だったな。狭い空間でなら、俺は無敵だ」 「無敵? いいえ、あなたは弱い。あなたほど弱い魔法使いを私は他に知らないわ」 プレシアは杖を投げ捨てると、小鳥遊めがけて走る。 大きく腕を振り上げ、プレシアが小鳥遊の顔面を殴る。今の小鳥遊にしてみれば、クッションの上から叩かれているようなもので、痛くも痒くもない。 「どうして今私に魔法を撃たなかったの?」 プレシアが口元を楽しげに歪める。走り寄る間に、いつでも攻撃できたはずだ。 「あなた、女に攻撃されると無抵抗に受ける癖があるでしょう。過去によっぽど女に酷い目に遭わされたのかしら?」 これまでの戦いで小鳥遊が攻撃を避けたのは、クロノを相手にした時だけ。魔法で攻撃された時は小さくして威力を軽減しているが、伊波やアルフのような直接攻撃はまったく無防備で受け止めている。 幼い頃、小鳥遊は梢の技の実験台にされていた。たまに反撃すると三倍になって返ってきた為、黙って受けるのが習慣になっていた。 女が小鳥遊の魔法を防ぐのにバリアなどいらない。ただ拳を繰り出せばいいのだ。 「そして」 プレシアの手が小鳥遊の腹部に当てられる。次の瞬間、激痛と激しい嘔吐感が小鳥遊を襲い、たまらず地面に膝をつく。 「どんなに肉体を強化したって、内臓が鋼になるわけじゃない」 プレシアは小鳥遊の体内に直接強い振動を送り込んだのだ。激しい揺れに胃の内容物が食道をせり上がり、心臓は鼓動を乱されて激しい痛みを引き起こしていた。 「ほらね。あなたはこんなにも弱い」 プレシアが地に這いつくばる小鳥遊を蔑む。 「……俺は、俺は、負けられないんだぁぁああああああ!」 小鳥遊が気力を振り絞り、右腕を突き出す。それよりわずかに早くプレシアが小鳥遊の額に手を当てた。 「お休みなさい、魔王小鳥遊。もう目覚めることはないでしょうけど」 振動が脳を激しく揺さぶる。脳を揺さぶられて、意識を保っていられる人間などいない。気合も根性も何の意味も持たない。 (ごめん、フェイトちゃん。俺、何もできなかった) 悔しさに小鳥遊は歯がみする。しかし、どうすることも出来ず、小鳥遊の意識は闇の底へと沈んでいった。 目次へ 次へ