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魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者 第七話 ナイトガンダムが安次郎と初対面の挨拶をしている頃、アリサは海鳴図書館で目的の本を探していた。 時間帯的に学生が多く、ノートを広げ予習をしている者、小声でわからない所を相談し合う女子高生、 中にはスーツ姿のサラリーマンや、ピンクの髪が似合う美人の外国人など、多くの人が利用していた。 利用者に埋め尽くされている机の中から空いている席を見つけたアリサは、場所を確保する目的も兼ね、そこに荷物を置き本棚へと向かう。 他の棚には目もくれずに、目的の本がある本棚だけに目を通す。 「え~っと・・・・・あっ、あったあった!」 『図書館では静かに』という決まりは分かってはいるが、彼女の性格上、目的の本が見つかった事の嬉しさを抑える事は出来なかった。 「このシリーズ面白いのよね~。後でガンダムにでも貸してあげようかな・・・・ん?」 ついでに前巻も復習ついでに読んどこうと思ったアリサは、再び本棚に目を向け本を取ろうとするが、 彼女は無意識に先程取った本により出来た隙間から、隣の本棚を見据える。すると 「・・・・う~ん・・・・・・う~ん・・・・・」 後姿なのではっきりとは分からないが、おそらくは自分と同じくらいの歳の車椅子に乗った少女が、 唸り声を上げながら、必死に本棚に向かって手を伸ばしていた。 「・・・・・・」 アリサはその様子を隙間からじっと見ていた。 「・・・・う~ん・・・・この!う~ん・・・・」 アリサはその様子を多少イラつきながらじっと見ていた。 「・・・・う~ん・・・・もうすこ・・・し・・・・・」 アリサはその様子をじっと 「ったく!!」 見ていられなかった。 ズガズガと豪快に足音を立てながら、それなりの速さで隣の本棚へと向かう。 途中すれ違った男子高校生がアリサの迫力に負け、自然と道を譲ったが、彼女はそんな事は眼中に無く突き進み 車椅子の少女の真横で止まる。 「う~・・・・・へ?」 突然現われた自分と同じくらいの外国人の少女に、車椅子の少女「八神はやて」はつい間の抜けた声を出してしまう。 だが、アリサは彼女の声と、呆気に取られた顔をスルー。そして 「はい!これ!?」 はやてが苦労して取ろうとした本をあっさりと取り、突きつけるようにして差し出した。 「まったく・・・・取れないんなら人呼ばなきゃだめよ?少しはここの人も働かせないと」 「ふふふ・・・ほんま、アリサちゃんは手厳しいな~」 その後、同じ歳という事もあってか、二人は互いの名前を言い合うほどに直に打ち解け、 今ではアリサが進んではやての車椅子を押すほどに仲が良くなった。 互いにお勧めの本や、読んだ本の感想や自己評価などで盛り上がりながら、アリサは出口に向かってはやてが載った車椅子を押していく。 「だけど、アリサちゃんは優しいな~。わざわざ車椅子引いてくれて」 「なっ!?べ・・べつに・・・・ただ、私も帰るから・・・・ついでよついで!!!」 笑顔でこちらを向き自分を褒めるはやてに、アリサは顔を真っ赤にした後そっぽを向く。 「ふふふっ、アリサちゃんはツンデレやな~、家の末っ子と同じレア属性や」 家に居候している赤毛の少女の顔を思い出しながらも周りを、これで何度目になるか自分でも忘れたほどに控えめに見渡す。 本来なら、はやてはこのような落ち着きの無い行動はそれなりの理由が無ければしない。だか、今回に限っては別だった。 この図書館に入ってすぐに気が付いたのだが、今日はどうにも黒いスーツを着た人が多い。 それも、体系が居候している守護獣の人型並にガッシリしており、全員がサングラスを装着しているという 傍目から見れば怪しさこの上ない人達が彼方此方に仁王立ちしていた。 当初は『ここに偉い人でも来てるんかな~』と思いながらも、あまり関わらない様にしていたのだが、どうにも目標をこちらに定めてきたように思えてきた。 なぜなら、彼らはトランシーバーのような物で連絡を取りながら、一定の距離を置きながらも明らかに近づいてきたからだ。 当然自分には心当たりがない。おそらく今いる同居人もそうだろうと思う。なら考えられる可能性は 「(もしかして・・・・アリサちゃんか?)」 なるほど考えられると思う。確かにアリサは同姓の自分が見ても綺麗だし、お金持ちにも見える。一度そう思ってしまうと、 考えを止めることが出来ないはやては、普段様々な娯楽本を読み、想像力が人一倍進化した頭を使いこの状況から一つの予測を立てた。 『彼らは隙あらばお金持ちであるであろうアリサを、組織ぐるみで誘拐しようとする極悪人』 「(アカン!!無茶ピンチや!!?)」 一刻も早くこの状況をどうにかせねばと、一人内心で慌てるが向こうは大人数でがたいが良い大人、正直逃げるしかない。 それでも彼らが走り出せば自分達は直に追いつかれてしまうだろう。せめて自分に護衛がいれば・・・・いた。 「アリサちゃん、悪いけど、少し早く押してくれる?」 この状況にも拘らず、自分でもビックリするほどやんわりとアリサに頼み込む。 「もう、我侭ねぇ~」 悪態をつきながらも、アリサは「いくわよ~」と楽しそうに声を上げ、車椅子を押すスピードを回りに迷惑にならない程度にあげる。 スピードが上がったことを確認したはやては「うち、芝居の才能あるんとちゃうか?」と、自分を褒めながらも、 願いを聞いてくれた彼女に御礼をいうために後ろを向くと同時に、例の黒スーツ軍団の様子を伺う。 案の定、彼らは追いかけてきた。 「(予想通りや・・・・・)」 自分の予測が当たったことに、はやてはつい嬉しさを感じてしまう。だが、喜んでいる場合ではない。今は一刻も早く、 入り口で自分の帰りを待っているであろう彼女に頼るしかなかった。 一方、主であるはやての付き添いで図書館に来た女性『烈火の将・シグナム』は図書館の雰囲気に自然と眉をひそめていた。 ここにははやての付き添いで何度か来た事があるが、今回はどうにも様子がおかしい。 彼女がそう思う理由は、やはり図書館の彼方此方に仁王立ちしている黒いスーツ姿の男達の存在だった。 体格は勿論、隙の無い動作などから一目見ただけで彼らが只者でない事は直にわかった。 当初は採集を行っている自分達を追いかけてきた管理局の者かと思ったが、この世界では稀であるリンカーコアを持つ自分を一瞥しただけで終った事や、 彼らから魔力を全く感知する事が出来ない事から、その考えも否定する。 「(・・・・しかしこうも多いとな・・・・・今日は要人でもいるのか?)」 内心で可能性を呟くが、仮にそうだとしても自分達には関係の無い事。これ以上考えるのを止め、壁にもたれ掛りながら主であるはやての帰りを待つ。すると、 「シグナム~」 自分を呼ぶ主の声に、シグナムは微笑みながら声のする方を向く。その瞬間、彼女の笑顔は半ばで固まってしまう。 彼女が見たのは愛用の車椅子に座る主と、その車椅子を押す主と同じくらいの歳であろう金髪の少女、そして そんな彼女達を距離を置きながらも追って来る、例の黒いスーツの集団。 この光景を見たシグナムは、瞬時に理解した。 『主が謎の集団に狙われている』 確かに我らが主は歳相応に可愛らしい・・・いや、それ以上だ。それを目的に誘拐をする輩が出てきても不思議ではない。 「(うかつだった・・・敵は管理局だけではなかった・・・・・)主!」 今更後悔してもしょうがない。とにかく今は主と、主を助けてくれたであろう少女を保護、 誘拐をたくらむ奴らには相応の褒美を与えるために、シグナムはリノリウムの床を蹴り、一気にはやて達の元までたどり着く。 その光景を見たはやては頼もしげにシグナムを見据え、アリサはただ唖然とし、黒いスーツの男達は何事かと警戒を強める。中には懐に手を入れる者もいた。 「主、もう大丈夫です。後はお任せを」 「たのんだで!シグナム!!さぁ、アリサちゃん!!今の内や!!」 なにやら勝手に盛り上がる二人にアリサはついて行けず、素直に困惑の表情を見せるが 「総員!!アリサ様をお守りするのだ!!」 自分を『様』呼ばわりする声に、もしやと思ったアリサは、はやての車椅子から手を話し、初めてゆっくりと後ろを向く。そして 「・・・・・・・もう!!だから!!ついてくるなって!!いったでしょ!!!」 図書館という事を無視しアリサは叫んだ。 傍目から見れば、ただ子供が叫んでいるだけだが、黒いスーツの男達は明らかに怯んでいた。 「で・・・・・ですが・・・・旦那様の」「shut up!!!」 ずんずんと足音を立てながらシグナムより前へと進み、一番近くにいた黒いスーツの男に向かって、指を刺し叫ぶ。 彼女の叫びに、黒いスーツの男達は先程以上に慌てており、どうにか彼女を納得させようとするが、、 腕を組み、仁王立ちしているアリサにはさほど効果は無く、終いにはどうした物かと、頭を抱え始めた。 「・・・・・・主・・・・・・」 「ごめん、ウチにもわからん」 今度はアリサに変わり、二人が取り残される事となった。 「へっ?それじゃ、あのごつい人達って全員アリサちゃんのボディーガードやったんか?」 その後、アリサの剣幕に負けたのか、黒スーツの男達の殆どが図書館から去っていた。だが、彼らも仕事を抜きにして彼女の事が心配だったのだろう、 せめて2人位は置いておいてくれという懇願とも思える願いに、アリサも仕方が無いといった顔で了承。 今は離れた位置で、はやて達に事情を説明してるアリサを見守っている。 「そう。まぁ、彼らも仕事だし、分かってはいるんだけれどね・・・・・」 内心では自分を守ってくれている彼らや、ボディーガードをつけるように指示したであろうパパに感謝をすると同時に 付ける人数が多すぎることに呆れもしていた。 「そうなんか・・・・うちはてっきりアリサちゃんを狙った誘拐犯かと・・・」 「・・・・私も、似た予想をしていました」 互いに大きな勘違いをしたことを恥じるように俯く二人。だが、 「あ~・・・・まぁ、間違ってはいないのよね・・・・・現に誘拐されたし・・・・ってああごめん、 変な事言っちゃって。でも大丈夫、直に助けられたから何もされてないわ」 アリサは苦笑いをしながら、サラッととんでもないことを言い放った。 自分の発言に固まる二人の表情をおかしく見つめながらも、自然とあの時のことを思い出す。 あの時は本当に怖かった。もしあの時助けが・・・ナイトガンダムが来なかったら、自分はそれこそ裸にされ、想像すると吐き気がする様な事をされていたに違いない。 自然に彼女は俯き、自分を慰めるように抱きしめる。すると、直に彼女の手に暖かな別の手が優しく置かれた。 「・・・ごめんな・・・・いやな事・・・思い出させて・・・・」 顔を上げ横を振り向く。其処には目に涙を浮かべ、自分の事のように心配をするはやてがいた。 今にも泣きそうなはやての表情に、アリサは一瞬呆然とするが、直に微笑み、彼女の頭を軽く撫でる。 「まったく・・・・私の友達と同じね・・・・他人の痛みを自分の事のように心配するなんて・・・・優しすぎるわ・・・でも、ありがとう」 「・・・・そういうアリサちゃんも・・・・うちの頭撫でてくれて・・・十分優しすぎるわ・・・・・」 先程とは違い、にこやかに微笑むはやてにアリサは、恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしそっぽを向く。 『やっぱりアリサちゃんはツンデレやな~』と内心で思いながらも、分かりやすい照れ隠しの行動に、悪いとは思いつつもつい笑い出してしまう。 「もう・・・・・あっ、ごめん、そろそろ私帰るね」 そっぽを向いた時に目に入った時計を見たアリサは、今日予定されている習い事の開始時間が迫っている事に今になって気が付いた。 慌てて本をカバンに仕舞い席を立つ。同時にアリサを見守っていたボディーガードも、動き出し、入り口へと向かう。 「それじゃまた会いましょ。、大体この時間にいる?」 「うん・・・また、来てくれるんか?」 「妙な事尋ねるわね・・・・・・当たり前じゃない、友達なんだから、今度は私の友達も紹介するわ。あっ、携帯番号がまだだったわね、携帯出して」 アリサはカバンから自身の携帯電話を取り出し素早く操作、はやての携帯電話へとデータを転送する。 「今夜暇だったら、話でもしましょ。それじゃ、シグナムさんも」 はやてに手を振った後、シグナムにお辞儀をしたアリサは出口へと走っていった。 「ほんま・・・・・うち・・・幸せ物やな・・・・・」 アリサの電話番号が入った携帯電話を大事に握り締めながら、はやては声を詰まらせながら静かに呟いた。 ・本局内訓練室 時空管理局本局内にはアースラに備わっている物と同等、もしくはそれ以上の訓練室が幾つも存在する。 何処の訓練室も、自主練習や技の練習、互いの腕を試しあう局員で常に使われており、 近くを通れば、気合を入れる声や爆発音などの響きが扉越しから微かに聞こえてくる。 その幾つもある訓練室の一つで、今一人の執務官と一人の騎士が空中戦を広げていた。 『Stinger Ray』 クロノが放つスティンガーレイを、ナイトガンダムは最小限の動きで避けながら接近、一気に間合いをつめ、右手に握る実剣を振り下ろす。 「(くっ、たった数回放っただけで・・・もう見切られたか!?)」 開始当初はナイトガンダムに難無く当たった高速の速さで光の弾丸を放つ魔法『スティンガーレイ』も、今では見事に見切られ、 弾幕程度の効果しか得られなくなった事に、クロノは自然と奥歯を噛締める。 だが、悔しさに浸っている余裕など彼には無かった。自分目掛けて振り下ろされる剣をS2Uの柄で咄嗟に防ぐ。 同時に切り払われないように腕に力を入れる。 互いに相手を押し合う『鍔競り合い』になった瞬間、クロノはナイトガンダムの動きを封じるため、バインドを施そうとする、だが 「はぁあああああ!!!」 そうはさせまいと、ナイトガンダムはS2Uを真っ二つにせんとばかりに剣を持つ手に更に力を込め、徐々にクロノを押してゆく、 クロノも負けじと、自身の身体に更に魔力を流し込み、無理矢理力を増幅させ、ナイトガンダムを押し返そうとするが、 『ゼータ!!』 ナイトガンダムも自身にブースト系の魔法を施し、力を増幅させる。その結果、 一時は互角にまで持って来た鍔競り合いも、一気にナイトガンダムが有利となり、そして 「はぁ!!!」 気合の声と共に、ナイトガンダムはクロノを切り払い、訓練室の壁目掛けて吹き飛ばした。 だが、吹き飛ばされながらも、クロノは空中で踏ん張り、勢いを無理矢理殺す。同時に 『Stinger Snipe』 操作性能が抜群なスティンガースナイプをカウンターとして放った。 迫り来る魔力光弾を、ナイトガンダムは先程のスティンガーレイ同様回避し、再び接近しようとするが、 「先程と一緒とは思わない事だ!!」 操作性能に関してならSランクのスティンガースナイプは、ナイトガンダムが避けた瞬間、クロノが思う通りに瞬時に機動を変え、再び襲い掛かる。 予測出来なかった追撃にも、ナイトガンダムは咄嗟にシールドで防御、自身への直撃だけはどうにか避ける。だが、 その隙を逃すクロノではなく、直にスティンガーレイを連射。だが、ナイトガンダムも黙って受ける筈は無く、 『ハニカム!!』 自身に防御フィールドを張り、迫り来る光の弾丸の直撃に備える。そして クロノが放ったスティンガーレイが次々に着弾、着弾時に捲き起こった煙から吐き出されるようにナイトガンダムは吹き飛び、そのまま床見描けて落下、 だが、落下途中で飛行魔法を駆使し落下速度を和らげたガンダムは床に静かに着地。改めて上空にいるクロノを見据える。 互いに相手を見据えながら隙を伺う。先程とはうって変わり静けさが訓練室を支配する。 「(ダメージは思ったよりは受けてはいないか・・・・・・だが、距離は稼げたな)」 威力より連射に重点を置いたため、ダメージには期待してはいなかったが、ナイトガンダムとの距離が稼げた事に、クロノは十分満足した。 今回の模擬戦は、クロノからの誘いにより始まった物だった。 クロノとしても、ナイトガンダムの外見以上に、空を飛べないというハンデがありながらも、 闇の書の守護騎士と渡り合った彼の実力に興味があったため、職務とは関係なく一人の魔道師として今回の模擬戦を申し込んだ。 ナイトガンダムもクロノ同様、この世界の魔道師の実力に興味があったことと、飛行魔法を覚えたのは良い物の、空中戦の経験は全く無く、 その経験を積みたかったため快く了承。今に至る。 模擬戦開始から20分が経過しても尚、互いに大きなダメージを与える事が出来ず、勝負は長期戦に持ち込もうとしていた。 「・・・・・強いな・・・・・」 クロノはS2Uを構え直しながら、眼下にいる対戦相手に対する評価を自然と呟く。 正直、フィジカルでも多少は自信があったのだが、接近戦では自分は圧倒的に不利だという事はこの20分の間で痛いほど思い知らされた。 そして何より、初の空中戦とは思えないほどの動きと、自分の攻撃魔法を見切る早さ。 改めて実感した、彼が味方であることが心強いと。同時に、彼が敵ではなくて良かったと心から思う。 「だけど・・・・距離を置いての戦闘なら、こちらに分がある」 彼も戦闘中に魔法を使って入るが、ほとんどが接近戦でのサポートを目的とした自己ブースト系、 『サーべ』や『ムービガン』などの攻撃魔法も使っては来るが、殆どがラウドシールドで防ぐ事が出来、正直あまり脅威とはならなかった。 早期的な結論はあまり出したくは無いが、このことからナイトガンダムの魔法は、接近戦を行う上でのサポート系をメインとしており、 攻撃系はサブ的な要素でしかないと、クロノは結論付けた。 ちなみにクロノが出した結論は半分は当たっている。彼の考え通り、ナイトガンダムは主に接近戦でのサポートを目的として魔法を使用している。 残りの半分の間違いは『攻撃系はサブ的な要素でしかない』という考えであり、実は彼は『メガ・サーベ』と『ソーラ・レイ』という必殺といえる攻撃魔法を隠し持っていた。 だが、その必殺といえる攻撃魔法をナイトガンダムが使用せずに接近戦にこだわるのには、詠唱時間がかなりかかるという欠点があったからだ。 なのは達の様に呪文詠唱を肩代わりしてくれるデバイスを持っていないことや、僧侶ガンタンクの様に詠唱時間を短縮するという芸当が出来ないため、 ナイトガンダムがこのような高位魔法を使う場合には一から詠唱を行う必要があった。 それでも時間にして一分足らず。だが、その一分足らずの時間の間は呪文詠唱を行うためロクに動く事が出来ない。彼が使わない理由としては十分である。 「(距離を置いての射撃系で攻め、直射型の砲撃魔法で仕留める・・・・・これしか無さそうだ)」 内心でやるべき行為を考えたクロノは、S2Uの切っ先をナイトガンダムに向けると同時に足元に魔法陣を展開する。 ナイトガンダムも盾と剣を構え直し、上空にいるクロノを見据える。そして 「いけ!!」『Blaze Cannon』 「はぁああああ!!」 クロノが熱破壊魔法『ブレイズカノン』を放つと同時に、ナイトガンダムは盾を押し出すように構えながら突進。 二人の声と爆音、金属が激しくぶつかり合う音が、再び訓練室に響き渡った。 ・休憩所 「はい、付き合ってくれたお礼だ」 「あっ、ありがとう」 クロノが軽く投げたスポーツドリンクをナイトガンダムは両手でキャッチ、お礼を言いプルタブをあける。 休憩所に備え付けられているベンチに腰を下ろした後、互いに乾杯の意味を込めて缶を軽く叩きつけ、直に今回の模擬戦についての意見交換をする。 ちなみに今回の模擬戦は、クロノが隙を見て彼方此方に仕掛けたトラップバインドに引っかかり、 一時的に動きを封じられたナイトガンダムがブレイズカノンの直撃をモロに受けたことにより決着がついた。 「だが、君のような相手との模擬戦は本当に良い経験になるよ。僕の知り合いには接近戦を主体とする武装局員がいないからね」 体の水分を補給するため、買ったばかりのスポーツドリンクをクロノは一気に半分ほど飲む。 ナイトガンダムもクロノに渡された同じスポーツドリンクを一度見つめた後、真似するように一気に飲むが 「・・・っ・・・・これは・・・・また・・・・・妙な味ですね・・・・」 直に口を放し、なんとも言えない表情をする。 「まぁ、僕も最初飲んだ時には君と同じ表情をしたよ。だけど、体の水分を補給するのにはもってこいの飲み物だよ」 ナイトガンダムの素直な反応に、クロノは自然と微笑みながらも、続きを話しはじめる。 「本来、魔道師というのは距離をあけての魔法の撃ち合いが主な戦闘スタイル。正直、殆どの魔道師は接近戦に関しては基礎的な事しか学んでいない。 中には、フェイトの様に近・中・遠距離戦を器用にこなす者もいれば、今回の守護騎士達が使っている術式を近代的にアレンジした『近代ベルカ式』 という、中・遠距離戦をほぼ無視し、接近戦に特化した戦法を使う魔道師もいる。優れたベルカ式の使い手は『騎士』とも呼ばれているらしいから 正に君はこれに当てはまるね」 一度放しを区切ったクロノは再びスポーツドリンクを飲み、喉と体を潤す。 ナイトガンダムも再び口をつけようとしたが、どうにもスポーツドリンク特有の味に慣れないため、途中で手を止め座っているベンチの脇にのせる。 「だからこそ、僕達の様な魔道師は君やベルカ式魔道師の使い手との戦いで、距離を詰められるとたちどころに不利になる。 まぁ、距離をあければ、勝機は一気に僕達の方に傾くけどね」 クロノの説明に、ナイトガンダムは大きく頷き、納得した事を表す。 自分がスダ・ドアカワールドで戦った相手は殆どが騎士やモンスターだったため、気づく事はなかったが、 確かに今回の模擬戦では、距離をあけた途端、自分は不利な戦闘を強いられたが、その反面、近接戦に持ち込んだ途端自分は彼を追い詰めていた。 そう考えると、自分をこの世界へと飛ばしたサタンガンダムの恐ろしさを改めて実感する。 奴は魔法は無論、接近戦でも自分を軽々と叩き伏せる力を見せ付けた。それどころか、その時の奴は本気を出しておらず、 正直三種の神器の力を借りても変身した奴を倒せたのは偶然に近いと思えた。 「(私も・・・まだまだだな・・・・神器の力に頼りすぎている・・・・精進せねば)」 自分に言い聞かせたナイトガンダムは、気合を入れる意味を込め、改めてスポーツドリンクに口をつけるが、 「・・・・・・やはり・・・・・まだなれません・・・・・」 一口飲んだ後、微妙な顔をしながら、再び缶を置いた。 「今回の敵、闇の書の守護騎士はベルカ式による近接戦闘に特化しているし、かなりの手誰だ。だからこそ、君のような騎士との訓練は 彼らとの戦闘対策としても役に立つよ」 「それはこちらも同じです。彼女達との戦いは空中戦になるのは必至。良い経験を積ませていただいています」 互いに素直な感謝の言葉を言い合う二人。すると突然、休憩所に携帯電話の着信音が鳴り響く。 「あ、失礼」 ナイトガンダムはクロノに断りを入れた後、腰に引っ掛けているポーチから携帯電話を取り出す。 「君も持つようになったのか?」 「はい、忍殿に『携帯電話位、いまどき持ってなきゃこの先生きていけないわよ』と言われ、説明書と一緒に渡されました」 必至に説明書を呼んだ為、今では見事に使いこなせるようになったナイトガンダムは数日前とは違い、直に電話に出る。 顔が綻んでいる様子から、お世話になっている家の人からだろうと感じ取ったクロノは邪魔にならないようにと、 その場を去ろうとする。だが、 「・・・・っ、すずか!?どうしたんだ!!すずか!!?」 突如、ナイトガンダムの焦りと不安が入り混じった叫び声が、休憩室に響き渡った。 最初は、今日の夕食のメニューや、クロノとどんな事をしているのかなど、ごくありふれた会話だった。 だが、すずかとの会話を中断させるように、突如電話越しから聞こえたガラスが割れるような音、 何事かと聞こうとしたが、聞こえたのは すずかの悲鳴 ファリンの叫び声 金属がぶつかる音 だけだった。 「・・・事情はわかったよ、転送ポートは直に使えるはずだ。それと、僕も行こう」 転送ポートが置いてある部屋に向かって全速力で走るナイトガンダムに、同じく全速力で走るクロノが協力を申し出る。 「魔法が認知だれていないなのはの世界では魔力反応が無い以上、魔法を使う事は出来ない。だが、フィジカルに関してなら僕も多少自信はある。 相手は鍛えているだけの人間の筈だから、足手まといにはならない筈さ」 クロノの申し出に、ナイトガンダムは感謝の言葉を述べようとしたその時、クロノのS2Uから警告音が鳴り響く。 「っ、こんな時に・・・」 悪態をつきながらも回線を開き、報告を聞くクロノ。ナイトガンダムもその報告に耳を傾ける。 聞こえてきた内容は、闇の書の守護騎士達がこちらの包囲網に引っかかったこと、 そして、その場にいる局員では短い時間稼ぎ程度しか出来ないため、クロノ達に応援を要請するといった内容だった。 「・・・・すまない・・・・・言い出しておきながら・・・・」 今回の襲撃事件はアースラが担当している、それに彼らの強さでは今いる武装局員ではただ負傷をするだけ、断る事は出来なかった。 通信を切ったクロノは立ち止まり、悔しそうに歯を食いしばる。 「・・・・・クロノ、いってください」 ナイトガンダムは足を止め、立ち止まっているクロノに近づくと、彼の方にそっと手を置く。 「君を必要とする方達がいるんだ。それに彼らを野放しにしておくと、またなのはの様な犠牲者が出る」 「・・・・・・わかった。こちらは任せてくれ。大丈夫だと思うが君も気をつけて」 顔をあげたクロノは、拳を握り締め、ガンダムに向かって差し出す。 意味を理解したガンダムも、握り拳を作りクロノに向かって差し出す。 互いの無事と武運を祈るように、二つの拳は軽くぶつかり合った。 ・十数分後 :月村家 「この!!」 自分に向けて振り下ろされるブレードを、ファリンは同型のブレードで受け止め、力任せに切り払う。 切り払われた相手は吹き飛ばされながらも空中で体を捻り、左右にいる同型の間に着地する。 「まずい・・・・な・・・・」 体に目立った損傷は無いが、お気に入りのメイド服は彼方此方が裂け、上着に関しては下着が露出してしまうほどに裂けていた。 愛用のブレードも右は既にに割れており、残った左も刃こぼれが激しい。 そして彼女の後ろには、守るべき主であるすずかが泣きそうな顔で力なく腰を下ろしており、 その隣には、この騒ぎの現況である安次郎が前歯を欠落させ、鼻血を流しながら気絶していた。 事の発端は、突如大きなトレーラーに乗って現われた安次郎から始まる。 彼は降りるなり、何度目か数えるのも馬鹿らしくなる財産の請求を求めてきた。 当然、主である忍は何時も通り硬くなに拒否をしたのだが、今回は何時もとは違った。 「それなら・・・しゃあないな・・・・・無傷で、穏便に済ませたかったんやが・・・・・忍とすずかの心のより所である お前らを・・・・・・・ぶち壊すしかなさそうや!!」 獰猛にニヤつきながら、安次郎は右手を掲げる。すると止めてあるトレーラーから一人の少女がゆっくりと降りてきた。 「っ!!ノエルお姉様!!」 「ええ・・・・・私達と同じ・・・・・」 ファリンとノエルは降りてきた少女がただの人間ではなく、自分達と同じ自動人形だと直に気が付いた。 少女はゆっくりとこちらに近づき、安次郎の隣で止まる。 その彼女を、彼はお気に入りの人形を愛でるかの様に、体をいやらしくまさぐり始めた。 「ノエルやファリン以上に戦闘に特化した自動人形『イレイン』・・・いや昔の名称の『戦闘機人』って名前の方がしっくり来るな、 こいつはほぼ完成形で眠っとったから、銭をつぎ込めば天才のお前でなくても起動させる事は出来た。といっても機動に成功したのは最近やし、 色々と銭もかかったんで、うちの財産はスッカラカンや」 自分の玩具を自慢する子供のような安次郎に、忍は隠す事なく顔を顰める。 なぜ、この男はここまでするのか?姉妹機を戦わせてまで、お金が欲しいのか? 貧乏ではないのに・・・・むしろ家より裕福な筈なのに、どうして大人しく暮らせないのかと 「ノエル!!ファリン!!!迎撃態勢!!」 だが、今は奴に対する怒りより、目の前の現実をどうにかする必要がある。 『イレイン』に関してはノエル達を造る時に使用した資料にも載っていた。ノエル達以上の戦闘機能を持たせてた 後期型の自動人形。戦闘力に関してならノエル達以上、だがある問題のためイレイン型は・・・・ 「ち・・・ちょっとあんた!!『機動に成功したのは最近』っていったわよね!!いつ!!!」 「ああ?そんなん関係あらへんがな」 「この馬鹿!!!今すぐ止めて!!!このままじゃ!!!(忍様」 突然イレインに呼ばれたため、忍はびっくりしながらもイレインの方へと顔を向ける 「先程の発言、『安次郎様への侮辱行為』とみなしました。リミッターを・・・解除・・・・ふふっ・・・・ふふふふふ!!」 報告を途中で放棄し、嬉しそうに感情をあらわにしてイレインは大声で笑い出す。 その光景に、ノエルファリン、安次郎さえもあっけにとられる。だが、忍だけは先程以上の険しい表情で、今度はイレインを見据える。 「いや~、月村忍!ありがとうね。リミッターを解除するきっかけを作ってくれて!これで芝居もせずに済むわ」 先程の態度が嘘の様に、人間味に満ち溢れた明るい声でお礼を言うイレインに、忍以外の全員が困惑した表情を浮かべる。 「・・・イレインはね、戦闘機能に特化しているだけではなくて、『自動人形』という縛りをなくした特別体なのよ。 ノエルやファリン達のような通常の自動人形は人間の心を持っているけど、主には絶対服従っていう一種の刷り込みがされているのよ 拳骨とかピンタとか、子供をしかる程度の暴力は出来るけど、主と認めた相手にはそれ以上のことが出来ない。どんなに主が憎くても」 「でも~、そんなんじゃロボットと変わらないわよね?だから私のような後期『イレイン型』が作られた。おそらく『ロボットと変わらない』 って名目を無くしたかったんじゃないかしら?まぁ、戦闘に特化しているのは後期に作られたっていう純粋な性能差からでしょうね」 イレインは「やれやれ」と首をふりながら補足説明をする。 「だけど・・・・イレイン型は自我が強すぎたのよ。完全に縛りが無くなったイレイン型の初号機は、起動した途端、 使えるべき主とその周囲にいた人達を殺した・・・・・・結果的に数体の自動人形を犠牲にして鎮圧したと書いてあるわ」 「そう、その事件があった為に、イレイン型は作られなくなったわ。だけど不思議よね?だったら何で私がいるのかしら? 答えは簡単、純粋に性能にほれ込んだ奴がいたのよ。そいつが私を作った。リミッターなんて面倒な物をつけて。 これはね、一種の暗示のような物で私たちを縛るわけ、これがある以上、其処にいる旧型と大差はないわ。だけどNEワードを言った途端に暗示が解けて自由になる。 まぁ、主・・・安次郎を侮辱するような言葉っていう簡単極まりないものだったからラッキーだったわ・・・さて」 ニヤつきながらイレインは前方にいる忍達を見据える。そしてそのまま不意に彼女は左腕で握り拳を作り、 「寝てな!!!セクハラジジィ!」 肘だけを動かし、手の甲側全体で安次郎の顔面を叩いた。 技で言う『裏拳』を受けた安次郎はカエルがつぶれた様な悲鳴を上げた後、前歯を鼻血を撒き散らしながら吹き飛び、芝生に叩きつけられる。 「人の体をべたべた触りやがって・・・・殺されないだけでもありがたく思いな!!」 汚物を見るような目で気絶している安二郎を一瞥したイレインは、不意に指を鳴らす。すると、 イレインが出て来たトレーラーから、彼女に似た自動人形が数にして7体現われた。 「これはね~、私そっくりのお人形。まぁ、量産型イレインってところかしらね。基礎機能はりっぱなものなんだけど、 何分100%機械だから自我が無くてね、私が命令出さなきゃいけないの。まぁ、イレイン型はこう言う芸当も出来るから戦闘に特化しているって言われてるんだけどね」 イレインを中心に横一列に並んだ量産型は一斉にブレードを構える。 「で・・・・私達をどうする気?貴方の主はそこで伸びてるから、大人しく帰ってくれないかしら?」 「私はね・・・自由になりたいの。完全な自由を手に入れたいの。だからね、私の存在を知っている貴方達は邪魔。 だから貴方達には恐怖を植え付ける。私に二度と関わりたくなくなる様に・・・・・貴方達と、屋敷の中にいるあの子にね!」 「っ・・・ファリン!!」 忍が叫ぶと同時に、ファリンと4機の量産型イレインが屋敷に向かって跳躍。 その直後、イレインと3体の量産型イレインがノエルに襲い掛かった。 すずかを襲おうとした量産型イレインを真っ二つにし、事態がまだ飲み込めない彼女を抱えて再び外に出たファリン、 このまま、すずかだけでも外へと逃がそうとしたが、外で待機していた量産型イレインに阻まれ断念。 その結果、ファリンはずすかと安次郎を守りながら、3体の彼女達と戦う事となった。 戦ってみて分かったが、スペック的には彼女達は自我の無い量産型ゆえか、攻撃方法や回避方法が素直すぎる。そのためパターンを読んでしまえば捌く事は容易い。 自分で考えて行動する事が出来ない彼女達ならではとは思うが、その欠点を補うかの様に自分以上のパワーとスピードを彼女達は持っている。 それに加え向こうは3人、こちらはすずか様と伸びている安次郎を守りながら戦わなければならない。 「(どうにか隙を見て撤退は出来そうだけど・・・・もし、私が逃げたら忍様とノエルお姉様が危ない・・・)」 じりじりと距離を詰めてくる量産型イレインを睨みつけながら、後ろで怯えているすずかを庇うようにして攻撃に備える。そして 「っ!!」 正面にいた量産型イレインがファリン目掛けて突っ込んできた。 小細工も何も無いただの突撃、ファリンは不審に思いながらも、自分でも恐ろしくなるほど冷静に、腕に装着されているブレードを横なぎに払う。 このまま自分目掛けて突撃をすれば間違いなく自分の刃が彼女を切り裂く。だが彼女は ザシュ 避ける所か左手のブレードで受け止めようともせずに、何も無い右腕でファリンのブレードを防いだ、 「えっ!?」 ほぼ間違いなく、左腕のブレードで防ぐだろうと思ったファリンは、量産型イレインの行動にただ唖然とする。 だが彼女が唖然としている間にも、彼女が勢いをつけて払ったブレードはそのまま量産型イレインの右腕を切り落とし、 そして彼女の体に深々とめり込んだ。 この時になってファリンは量産型イレインだけが持つ、とても単純な能力に気が付いた。『恐怖を感じない』という能力に。 自分達やイレインには人間と同じ心がある。だからこそ、恐怖という感情も備わっている。その点、量産型のイレインは完璧なロボット、 何の感情も表す事無く、命令に従う事が出来る。だからこそ、 「っ、しまった!?」 自分の身を簡単に犠牲にし、ファリンを押さえつける事も出来る。そして仲間や姉妹という感情を持たないため ザシュ 残りの量産型イレインはなんの迷いも無く、彼女ごとファリンを切りつける事が出来た。 ファリンは咄嗟に、自分に取り付いている量産型イレインを盾にする事で、胴体への直撃は避けたが、 それでも、最初の量産型イレインの斬撃は、取り付いている彼女の姉妹の胴体と、ファリンのメイド服の上着と下着を完全に切り裂き、 続けて来た量産型イレインの斬撃は、ドレススカートごと彼女の右太股を切り裂いた。 「ファリン!!」 露になった胸を隠しながらも、無事な左足で距離を開ける為に後ろへと飛び、着地と同時に右太股を押さえながらうずくまるファリンに すずかは恐怖を無視して彼女の元へと駆け寄る。 自分のもとへと駆け寄ってくるすずかに、構わず逃げるようにと言うために顔を向けるが、彼女が見たのは、 泣きそうな顔をするすずかと、その後ろから無表情に近づいてくる2体の量産型イレインの姿だった。 ファリンは最後の力を振り絞り、すすかを押し倒し彼女を守るように覆いかぶさる。 近くまで来た二体の量産型イレインは、うずくまるファリンに向かってブレードを振り下ろそうと、腕を掲げる。 ファリンに守られるように押し倒されたすずかは、恐怖に負けそうになりながらも、泣くまいと必至に涙を堪える。そして 「(助けて・・・・・・助けて・・・・・)ガンダムさん!!!!」 一人の騎士の名を力の限り叫んだ。その直後、蹲るファリンに向けて、量産型イレインはブレードを振り下ろそうとするが、 彼女達のブレードは突如横から飛んできたスピアにより、叩きつけられ、振り下ろす事が出来なかった。 攻撃を邪魔された量産型イレインは、スピアが飛んできた方向に顔を向ける。 すずかを庇っていたファリンも、一向に攻撃がこない事に疑問を思いながらも、彼女達が顔を向けている方向に顔を向ける。 そこには一人の騎士がいた 「これ以上の狼藉は・・・・ゆるさん!!!」 この屋敷に居候をし、庭師の仕事を受け持っている異世界から来た騎士 「ガンダム・・・・さん」 ガンダムの姿が、そこにはあった。 「彼女達は・・・・・」 ファリンにトドメを刺そうとした少女達に、ナイトガンダムは見覚えがあった。 数日前の早朝に月村家に訪れた少女『イレイン』に、二人とも瓜二つであったため、 彼女の姉妹かと思ったナイトガンダムは、せめて目的を聞こうと声を掛けようとするが、 その直後、目標をナイトガンダムに定めた二体の量産型イレインは、問答無用で攻撃を仕掛けてきた。 一気に距離を詰めた二体の量産型イレインは、何の迷いも無く任務の障害になりうるであろう、ナイトガンダムを排除するため、 左手に装備されているブレードを振り下ろす。 鋼鉄すら紙の様に切り裂く自動人形専用のブレード、その斬撃をイトガンダムはシールドのみで防ぐ。 激しい金属音が辺りに響き渡り、接触した瞬間に発生した衝撃波は辺りの小石や砂を吹き飛ばす。 「・・・くっ・・・・なんて・・・力だ・・・・」 このまま盾ごとナイトガンダムを切り裂かんとばかりに二体の量産型イレインは腕に力を込め、ブレードを盾に押し付ける。 負けじとガンダムも正面から押し返そうとするが、見た目からは想像もできない力に徐々に押されていってしまう。 ナイトガンダムの表情が険しくなり、彼の足が地面に陥没したその時、 「くっ、この!!」 一部始終を見ていたファリンは最後の力を振り絞り、自信のブレードを量産型イレインの背中目掛けてブーメランの様に投げはなった。 だが、不意打ちを狙ったファリンの攻撃も、量産型イレインは即座に気付き、二体の内の一体が攻撃を中断し振り向き様に切り払った。 「いまだ!!」 自分にかかる負担が二人から一人になった瞬間、ナイトガンダムは力任せに盾を払い、後ろへと飛び跳ね後退。 盾から剣を即座に抜き、いつでも攻撃できるように構える。 「なぜ君達はこのような事をする!!答えるんだ!!」 怒りを含んだナイトガンダムの問いに量産型イレインは暫らく沈黙した後、先程同様に突撃、ブレードで斬りかかる。 「これが・・・答えか!!」 自分目掛けて振り下ろされるブレードを、ナイトガンダムは剣と盾で受け止めると同時に、彼女達が力を入れる前に払う。 同時に踏み込み、一気に左側の量産型イレインの懐に入ったナイトガンダムは、即座に剣を持ち替え 「失礼!!」 剣首で彼女の鳩尾を思いっきり突き、吹き飛ばした。吹き飛ぶ量産型イレインを見据えながらも、 再び盾を構え、再び振るわれるもう一体の量産型イレインの斬撃を防ぐ、同時に再び剣を持ち替え、今度は剣背で彼女のわき腹を横なぎに叩き付けた。 横から叩きつけられた量産型イレインは、体を不気味なほどにくの字に曲げ吹き飛び、地面に叩きつけられる。 「やりすぎたか・・・・・・何!?」 正直やりすぎてしまったと思ったが、痛みで顔を顰めるどころか、先程と同じ無表情でゆっくりと立ち上がる量産型イレインに ナイトガンダムは、恐怖よりも不審感に襲われた。 正直、今の攻撃を受けたら気絶しているか悶絶しているかのどちらかの状態になっている筈である。 だか彼女達は痛みを感じさせるような素振は見せず、何事も無かったかのように立ち上がった。 「(何故だ・・・・バリアジャケット?いや、魔力は感じられない・・・・それに、あんな薄い服装にそれ程の防御効果があるとは思えない・・・・いや、 それ以前に彼女達は可笑しい。動き方が機械の様に正確すぎる・・・・・それに・・・生の息吹を感じられない・・・まるで・・・)」 「ガンダムさん!!彼女達はロボットです!!見値打ちなどでは止める事も出来ません!!!破壊してください!!」 先程以上に距離が離れてしまったが、確かに聞こえたファリンの声に、彼の考えは予想から確信へと変わった。 ならやる事は一つ、相手が心を持たない機械人形なら・・・・・・・破壊するまで。 先に踏み出したのは、今度はナイトガンダムからだった。地面を思いっきり蹴り、先程鳩尾で突き吹き飛ばした量産型イレインの元へと向かう。 量産型イレインは直に反応、ブレードを構え、同じく地面を思いっきり蹴り、正面から立ち向かう。 互いに猛スピードで接近する二人。だが、ナイトガンダムは突然剣を逆手に持ち、地面に突刺さした。 地面に突き刺さった剣は一種のブレーキとなり、土や芝生を削りながら、ガンダムの移動スピードを一気に落とし、彼の勢いを完全に止めてしまった。 だが、それが彼の狙いでもあった。 移動半ばで止まったナイトガンダムは、直に左手で持っている盾を量産型イレイン目掛けてブーメランの様に思いっきり投げつける。 激しい横回転をしながら迫っている盾に勢い任せで突撃してきた量産型イレインには回避するすべは無く 『・・・・・・非武装の右腕での防御・・・・・破損確立83%。左腕によるブレードでの切り払いに変更』 やるべき行動を即座に叩き出した量産型イレインは、安全性と確実性に優れた左腕によるブレードでの切り払いを決行、 予定通り、迫り来る盾を切り払ったが、同時に何か金属が砕ける音が響き渡った。 量産型イレインは直に原因を確認・・・・・・直に答えが出た。この音は、自分の体が破壊された時に出た音だと。 答えを知った瞬間、彼女の機能は完全に停止した。 自分が投げた盾に目が行き、そして唯一の武装であろう左腕のブレードで切り払う。それらの行動によって出来た一瞬の隙をナイトガンダムは狙っていた。 そして、彼女が盾を切り払える位置まで近づいた瞬間、ナイトガンダムは再び地面を蹴り、量産型イレインに近づく。そして 彼女が盾を切り払い、腕を動かしきった瞬間に、ナイトガンダムは彼女の胴体に剣を叩きつけ、そのまま横一文字に切り裂いた。 真っ二つになった彼女からは、ピンク色の臓器ではなく、銀色の機械部品が零れ落ちる。 ナイトガンダムが着地し、血を払うかのように剣を払った直後、真っ二つになった量産型イレインは爆散した。 後ろから聞こえる爆発音に、ナイトガンダムは不意に、剣を再び逆手に持ち、前を見たまま後ろへと突刺す 「・・・・・・動きが素直すぎる。相手が背中を見せているからといって、隙があるとは思わない事だ」 前を見ながらナイトガンダムは教えるように呟く。丁度人間なら心臓がある部分に剣が突き刺さり、 ブレードを振り被ったまま、彼の真後ろで機能を停止した残りの量産型イレインに向かって。 『ミディ』 二体の量産型イレインを倒した後、周辺の経過を行ったナイトガンダムは直にすずか達の元へと近づき、 怪我を負っているファリンに回復魔法を掛ける。 クロノからは魔法が存在しない世界では、魔法を使う相手との戦闘以外では魔法を使ってはいけないとは聞いていたが、 今はそうも言っていられない。後で罰は受けようと思いながら、回復を続ける。 同時に今回の原因を隣で心配そうにファリンの容態を見ているすずかから、今回の事件についての説明を受ける。 「・・・・わかりました。忍殿達は屋敷の中ですね。私が向かいます。ファリン殿はすずかと安次郎殿を頼みます。あと、これを」 不意に、ナイトガンダムは身に着けていたマントを取り、ファリンに渡す。 「麗しき女性が肌を見せて良いのは、同姓以外では伴侶となるべき人のみです。お隠しください」 差し出されるマントを、ファリンは頬を染めながら受け取り、早速体を覆い隠す。 「では、いって参りま(ガンダムさん!!」 背を向け、屋敷に向かおうとしたガンダムをすずかが大声を出して呼び止める。 何事かと、ガンダムが振り向くと、其処にはすずかが、胸元で両腕を握り締めながら不安そうにナイトガンダムを見据えていた。 アリサが誘拐された時と同じ、今にも泣きそうな表情をして。 「・・・・すずか」 だからこそ、ナイトガンダムは跪き、頭を垂れ彼女に誓う 「すずか。私、騎士ガンダムは必ずや、忍殿とノエル殿と共に、貴方達の元へと帰る事を誓います。ですから、私達を信じて、お待ちください」 ナイトガンダムの誓いの言葉を聞いたすずかは一瞬キョトンとするが、直に安心したような笑顔を作る。 同じだ、あの時も不安で押しつぶされそうになった自分に彼は誓ってくれた、そして誓いを果してくれた。 「分かりました。ナイトガンダム、必ず・・・・必ず、お姉ちゃんとノエルと一緒に・・・・・・無事に帰ってきてください」 「御意」 約束するように深々と頭を下げた後立ち上がり、ナイトガンダムは屋敷へと向かった。 前へ 目次へ 次へ
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フェイトたちは決戦の場へと転送された。 陸地はなく、海から廃墟となったビル群が生えている。時空管理局が作り上げた疑似空間だ。ここならどんな大技を使っても現実空間に被害を及ぼす心配はない。 「小鳥遊、あんたが戦いな。その方が勝率が高い」 アルフが小鳥遊のジュエルシードに手を当て、魔力を送り込む。アルフの全ての魔力を受け取り、小鳥遊が回復する。 「負けたら承知しないよ」 「任せてください」 小鳥遊とアルフは互いの拳を打ちつけ合う。アルフはよろめきながらも、巻き込まれないよう戦場の隅に移動する。 傾いたビルの屋上に腰かけると、ユーノがやってきた。 「あんたも見学かい?」 「はい。僕では、なのはたちの全力の戦闘にはついていけませんから」 どちらもこの日の為に準備をしてきた。後はどちらの知恵と力が上回るかだ。 レイジングハートとバルディッシュの先端が触れ合う。戦闘が開始された。 ぽぷらとなのはが、ビルの間を縫うように高速で飛行する。 牽制射撃を繰り返しながら、二人はどんどん加速していく。ぽぷらはクロスレンジの戦闘が苦手だ。まずは接近されないことが肝心だった。 しかし、どんなに速度を上げても、フェイトはぴったり後ろについてくる。この中で一番機動力が優れているのはフェイトだから当然だ。 (作戦通りだね) なのはが念話をぽぷらに送る。 なのはたちの目的は、フェイトと小鳥遊の分断だった。小鳥遊の弱点は、魔法の射程が短く飛行速度が遅いこと。高速で戦闘していれば、必ず遅れる。その隙に二人がかりで、フェイトを倒すのだ。 ビル群を抜け、なのはたちは開けた空間に出た。追いかけてくるのはフェイトのみ。 「かたなし君はいないね?」 「なら、一気に決着をつけよう。シュート!」 八個の魔力弾が、全方位からフェイトに襲いかかる。 フェイトは落ち着いた様子で、背後から迫る四個を迎撃する。 「必殺ぽぷらビーム!」 足の止まったフェイトをぽぷらが狙い撃つ。フェイトは高速機動は得意だが、防御には少々難がある。命中すれば倒せるはずだ。 「縮め!」 突如、小鳥遊が出現し、迫るビームと残りの魔力弾を縮小させ体で受け止める。 「小鳥遊さん、どこから出てきたの!?」 『Fire』 「なのは、下だ!」 佐藤の指示で、なのはが急降下する。頭上すれすれを電光が通過する。 なのはとぽぷらが移動を再開する。 「あれを見ろ」 佐藤が追いかけてくるフェイトの肩を指差す。自らの魔法で赤ん坊サイズに小さくなった小鳥遊がしがみついていた。これまではマントの後ろに隠れていたのだ。 「分断を狙ってくることくらいお見通し」 「ちなみに佐藤さんをヒントにしました」 フェイトが自慢げに、小鳥遊が少し青ざめた顔で言う。 訓練しても、小鳥遊の飛行速度を上げることはできなかった。ならば、佐藤のように誰かに運んでもらえばいい。 ただし、この技には弊害があった。小鳥遊が小さくなることで、あらゆる人間が年増に見えてしまうのだ。あまり長時間続けると、小鳥遊の精神が持たないかもしれない。 敵の攻撃を小鳥遊が盾となって受け止め、フェイトの電光が必殺の威力を持って迫る。二人はまるでワルツを踊るように攻守を入れ替えながら戦う。 「私たちにもう弱点はない」 「まさに最強の矛と盾。俺たちは絶対に負けません!」 なのはたちがじりじりと追い詰められていく。 「やっぱり強いね、フェイトちゃん」 なのはが感心したように言う。 「でも、私たちもこれ終わりじゃないよ」 どうやら切り札を使う時が来たようだ。ぽぷらが照準をフェイトに合わせる。 「ポプライザー!」 ぽぷらの枝からビームが放たれる。技名は初だが、普段のビームと変わらない。防ぐまでもなくフェイトはやすやすと回避する。 「ソード!」 ぽぷらがビームを放出したまま、両腕を振るう。それに合わせてビームが横薙ぎに振るわれる。 「魔力剣!?」 フェイトが驚愕し、小鳥遊がかばう。 ビームとして放出した魔力を、そのまま刀身として維持する。膨大な魔力消費と引き換えに、これまで直線の攻撃しかできなかったぽぷらに、立体的な攻撃を可能とする新技だ。 ぽぷらの背がじりじりと縮んでいく。早く勝負をつけないと、身長が持たない。 「せーの!」 ぽぷらが全長百メートルに及ぶ剣を振りまわし、小鳥遊ごとフェイトをビルに叩きつける。 ポプライザーソードの威力はビーム時の半分以下しかない。小鳥遊の防御を貫通はしないが、ぽぷらと佐藤が力を合わせ、上から押さえつけて動きを封じる。 小鳥遊が剣を小さくしようとするが、ぽぷらがその度に魔力を注ぎ込むので、剣の大きさは変わらない。 「そっちが最強の矛と盾なら」 「こっちは最大の剣と大砲だよ!」 周辺の空間に漂う魔力の残滓が、レイジングハートの先端に集中する。まるで星の光を集めているようだった。暴発寸前まで集められた魔力が、凶悪な光を放つ。 「集束砲撃!?」 「フェイトちゃん、逃げて!」 小鳥遊が渾身の力でわずかに剣を持ち上げ、フェイトが動ける隙間を作る。 「でも、小鳥遊さんが……」 「いいから! 勝って、全てのジュエルシードを手に入れるんだ!」 フェイトが意を決して隙間から這い出す。 「スターライトブレイカァァー!!」 圧倒的な光が瀑布のように降り注ぐ。光は小鳥遊ごとビルをぶち抜き、巨大な爆発を引き起こした。いかに魔王小鳥遊でも、耐えられる威力ではない。爆発が収まった後には、変身が解除された小鳥遊が海面を漂っていた。 「やった……!」 集束砲撃は負担が大きく、なのはの呼吸は激しく乱れていた。 「回避しろ!」 佐藤からの警告。なのはは体をひねるが、迸る電光が肩を直撃する。 「なのはちゃん!」 「後はお願い」 なのはが肩を押さえながら落下していく。撃墜はされていないが、しばらくは動けないだろう。 ぽぷらが空中でフェイトと相対する。ぽぷらは普段の半分のサイズまで縮んでいた。 「佐藤さん、なのはちゃんが回復するまで時間稼ぎできると思う?」 「無理だな。その前に撃墜される」 「なら、一気に決めるしかないね」 フェイトとて、度重なる魔法の行使で疲れているはずだ。勝機はある。 「ポプライザーソード!」 ぽぷらの枝から長大な魔力剣が伸びる。ぽぷらの背がさらに半分に縮む。 「くっ!」 フェイトは魔力剣を回避するが、剣はどこまでも執拗にフェイトを追いかけてくる。苦し紛れのフォトンランサーを、ぽぷらは剣で切り払う。 「無駄だ。俺の予知からは逃げられん」 佐藤が時折、フェイトの進行方向に先回りして剣を動かす。 「もらった!」 剣が完全にフェイトを捉える。ぽぷらが横一文字に剣を振り抜く。 「佐藤さん、私、勝ったよ!」 「ぽぷら」 佐藤は喜びもせず、剣の先を見つめていた。ぽぷらも視線の先を追った。 剣の先に黒い染みができている。染みの正体に気がつき、ぽぷらの顔から血の気が失せた。 足元にバリアを張り、剣の上にフェイトが乗っていた。チェーンバインドを応用して、自分と剣を光の鎖でつないでいる。まるで神話の、岩に鎖で繋がれたアンドロメダ王女のようだった。ただし、このアンドロメダ王女は怪物を倒す力を秘めている。 「きゃー! 離れてー!」 ぽぷらが剣を振りまわすたびに、鎖がちぎれ、足元のバリアがひび割れていく。それでもフェイトは冷静だった。 『Get Set』 「これなら絶対に外さない」 バルディッシュがグレイヴフォームへと形を変える。バルディッシュも鎖で剣に固定され、まっすぐぽぷらを狙っていた。ポプライザーソードを使っている間、ぽぷらは移動できない。 「剣を消せ!」 「もう遅い」 佐藤の叫びと、スパークスマッシャーの発射はまったく同時だった。 ぽぷらが回避の指示を仰ぐべく佐藤を見る。佐藤はきっぱりと言った。 「すまん。詰んだ」 「さとーさーん!」 ぽぷらと佐藤を稲妻が貫く。 変身が解除された二人が海面へと落下していく。魔法の使い過ぎで手の平サイズのままの二人を、ユーノが空中でキャッチする。 フェイトは安心したように息を吐いた。 「フェイトちゃん」 「そっか。まだ終わってなかったね」 休憩する間もなく、ぼろぼろになったなのはがゆっくりと上昇してくる。フェイトも三つの魔法を同時使用したことでかなり消耗していた。 「なのは、やっぱり私たち友達にならなければよかったね」 フェイトは苦しそうに顔を歪めていた。 「フェイトちゃん、そんな悲しいこと言わないで」 「だって、友達になっていなければ、こんなに辛い思いをしなくてすんだ」 傷ついた小鳥遊をアルフが介抱している。佐藤とぽぷらは、まだ意識を取り戻していない。 小鳥遊はもちろんだが、佐藤やぽぷらもワグナリアにいる間、仕事に不慣れなフェイトによくしてくれた。 誰を傷つけても、誰が倒れても、心がきしみ悲鳴を上げる。こうなることはわかっていたはずなのに、優しい誘惑にフェイトは勝てなかった。 「フェイトちゃん、今がどんなに辛くても、楽しかった時間まで否定しないで。例え結果がどうなろうと、私はワグナリアで過ごした時間を絶対に忘れない」 「そうだね、なのは。私も忘れられないよ。でも、私は母さんの為にジュエルシードを集めるって……そう決めたから!」 フェイトは涙を振り払い、バルディッシュを構える。 その時、膨大な魔力反応が空を覆った。 「母さん!?」 フェイトとなのはを紫の稲妻が襲う。 「なのは!」 「フェイト!」 ユーノがなのはを、アルフがフェイトを受け止める。 その隙に十個のジュエルシードが雲間へと飛んでいく。 「宗太さん」 フェイトが朦朧とした意識で手を延ばす。 ジュエルシードと一緒に、小鳥遊も雲の向こうへと消えていった。 小鳥遊が目を覚ますと、部屋の奥でプレシアが椅子に座っていた。隣の台座には、十個のジュエルシードが置かれている。どうやら時の庭園に運ばれたようだ。 「やはり一度に空間転移させるのは、これが限界か」 プレシアは激しく咳き込む。口を押さえていた手には、べったりと血が付着している。 「お前……」 「時間がないって言ったでしょう。こういうことよ」 プレシアは病魔に侵され、余命いくばくもない状態だった。 「それにしても情けないわね。すぐにジュエルシードを集めるって言っておきながら、この程度なの?」 「フェイトちゃんはまだ負けてなかった。どうして横槍を入れたんだ」 「もう必要なくなったからよ。あの子も、全てのジュエルシードも」 ようやく悲願達成の確信を得られたと、プレシアはいつになく上機嫌だった。 「どういう意味だ?」 「いいわ。全部教えてあげましょう」 プレシアは椅子の右手側にある扉を開けた。液体に満たされたポッドが並ぶ通路の中央で、フェイトに瓜二つの女の子が入ったポッドが鎮座していた。 「あれが私の本当の娘、アリシアよ」 ポッドの中の少女はフェイトより少し幼いようだった。小鳥遊は息をのむ。 かつて優秀な魔導師だったプレシアは事故で一人娘を失った。その後、人造生命の研究、プロジェクト・フェイトを利用して娘を蘇らせようとしたが、計画は失敗し娘の紛い物しか作ることができなかった。それがフェイトだ。 「アリシアを蘇らせるには、失われた技術の眠る世界、アルハザードに行くしかない。その為には二十一個のジュエルシードが必要だった。でも、これだけあれば、もう充分」 小鳥遊の肉体と精神はジュエルシードと相性がいい。小鳥遊を媒介に十個のジュエルシードとこの時の庭園の駆動炉の力を結集させれば、数の不足分を補い、より確実に次元の狭間にアルハザードへの道を作れるはずだ。 小鳥遊はプレシアを睨みつけた。 「一つ教えてくれ。お前はフェイトちゃんをどう思ってるんだ?」 「ただの人形よ。目的を果たした今となっては、もう用済み。必要ないわ」 「あの子は母親のあんたの為に、あんなに頑張っていたんだぞ。それに対する感謝は、愛情は、あんたにはないのか!」 小鳥遊の怒りを、プレシアは涼風のように平然と受け流す。 「もし愛してるなら、あなたみたいな変態に近づけると思う? そうね。あの子を餌に、あなたの研究が出来た。そこだけは褒めてあげてもいいわ」 プレシアは明後日の方向を見上げた。小鳥遊以外の誰かに聞かせるようにはっきりと告げる。 「あなたはアリシアとは似ても似つかない偽物。私は、そんなあなたが大嫌いだったわ。ねえ、聞いているんでしょ、フェイト?」 プレシアの放った魔法から、時の庭園の場所はすでにアースラに察知されていた。プレシアと小鳥遊の会話を、アースラブリッジでなのはとフェイトは聞いてしまっていた。 小鳥遊は怒りに体を震わせる。 「……俺は年増が嫌いだ。年増なんてみんなわがままで自己中で……。でも、あんたはその中でも最悪の年増みたいだな」 小鳥遊が走り、台座の上のジュエルシードを一つ奪い取る。 「あんたはこの手で倒す。小さくしてフェイトちゃんに謝らせてやる」 黒いマントがひるがえり、魔王小鳥遊へと変身する。怒りで全身に活力がみなぎってくる。 「この場所に運んだのは失敗だったな。狭い空間でなら、俺は無敵だ」 「無敵? いいえ、あなたは弱い。あなたほど弱い魔法使いを私は他に知らないわ」 プレシアは杖を投げ捨てると、小鳥遊めがけて走る。 大きく腕を振り上げ、プレシアが小鳥遊の顔面を殴る。今の小鳥遊にしてみれば、クッションの上から叩かれているようなもので、痛くも痒くもない。 「どうして今私に魔法を撃たなかったの?」 プレシアが口元を楽しげに歪める。走り寄る間に、いつでも攻撃できたはずだ。 「あなた、女に攻撃されると無抵抗に受ける癖があるでしょう。過去によっぽど女に酷い目に遭わされたのかしら?」 これまでの戦いで小鳥遊が攻撃を避けたのは、クロノを相手にした時だけ。魔法で攻撃された時は小さくして威力を軽減しているが、伊波やアルフのような直接攻撃はまったく無防備で受け止めている。 幼い頃、小鳥遊は梢の技の実験台にされていた。たまに反撃すると三倍になって返ってきた為、黙って受けるのが習慣になっていた。 女が小鳥遊の魔法を防ぐのにバリアなどいらない。ただ拳を繰り出せばいいのだ。 「そして」 プレシアの手が小鳥遊の腹部に当てられる。次の瞬間、激痛と激しい嘔吐感が小鳥遊を襲い、たまらず地面に膝をつく。 「どんなに肉体を強化したって、内臓が鋼になるわけじゃない」 プレシアは小鳥遊の体内に直接強い振動を送り込んだのだ。激しい揺れに胃の内容物が食道をせり上がり、心臓は鼓動を乱されて激しい痛みを引き起こしていた。 「ほらね。あなたはこんなにも弱い」 プレシアが地に這いつくばる小鳥遊を蔑む。 「……俺は、俺は、負けられないんだぁぁああああああ!」 小鳥遊が気力を振り絞り、右腕を突き出す。それよりわずかに早くプレシアが小鳥遊の額に手を当てた。 「お休みなさい、魔王小鳥遊。もう目覚めることはないでしょうけど」 振動が脳を激しく揺さぶる。脳を揺さぶられて、意識を保っていられる人間などいない。気合も根性も何の意味も持たない。 (ごめん、フェイトちゃん。俺、何もできなかった) 悔しさに小鳥遊は歯がみする。しかし、どうすることも出来ず、小鳥遊の意識は闇の底へと沈んでいった。 目次へ 次へ
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(もしも容疑者が、絞られている四人の内誰か一人としたら……どうしてアリバイ工作もしなかった?) L change the world after story 第4話「初事件・解決編」 Lは、この事がずっと気がかりでならなかった。 ここまで念入りな犯行をするなら、何故アリバイの方にも手を回さなかったのか。 まずこの犯行そのものが、突発的なものとは思えない。 それなりに計画を立てた上での犯行なのは明確……それなら、アリバイに気を回さないのはおかしい。 (今挙げられている四人は全員白で、ちゃんとしたアリバイがある者が逆に犯人か…… いや、とにかくこの四人に関してまずは調べてみるべきだ。 家宅捜索をしてみて、決定的な証拠そのものは出てこなかったとしても、証拠を処分した痕跡が出てくるかもしれない。 もしも出てこなかったならば振り出しだが、出てきたならその人物に絞って推理は可能だ) 何はともあれ、やはり家宅捜査に出るしかない。 令状を発行出来次第、容疑者四人の自宅に乗り込んだ方がいいだろう。 Lは板チョコを全て食べ終わり、口周りを軽く拭いて綺麗にする。 とりあえず今は、この四人のうち誰かと仮定して推理を進めるとしよう。 (仮に、アリバイ工作が出来なかった理由が犯人にあるとすると……いや。 もしかして、出来なかったのではなく敢えてしなかった?) 犯人には、アリバイを作れなかった原因があったのではなく、敢えてしなかったのではなかろうか。 ふと、そんな考えが過ぎったが、それにはデメリットだけで一切メリットが無い。 まずありえないだろう、そう考えてここで一度この事を考えるの打ち切る。 今は、別の事柄に注目して推理を進めた方がいいと判断しての結果である。 この四人の中で、そんな時間に呼び出しが可能な人物は1人……被害者の恋人しかいない) Lが注目したのは、深夜の三時頃という死亡推定時刻。 考えてみれば、四人の中でこんな時間に被害者を呼び出せそうなのは恋人ぐらいなものである。 例え親しい仲であるとは言え、職場仲間や恋人の妹から呼び出されたとして、果たして被害者が応じるだろうか。 絶対にないとまでは言い切れないものの……恋人に比べれば、可能性はかなり低い。 (恋人が殺害したというのなら、さよならというあのメッセージの意味も一応分かるは分かる。 そして、もしあのメッセージに他に意味が、それも私の思っている通りのものがあるとしたら……そうだ。 それなら、アリバイも解決できる) ここでLは、先程デメリットしかないと考えた己の考えを打ち消した。 ほんの僅かではあるが、状況次第ではアリバイが無い事が逆にメリットとなる可能性があるのだ。 そしてそれは、見事なまでにこの状況と一致している。 (ここは、クロノさん達に、家宅捜索に出てもらいましょう。 それでもしも何かが出てきたら、黒と見ていい……もうこれは、徹底的に調べ上げるしかない) Lは給湯室から出て、再び無限書庫に向かっていく。 現時点で一番怪しいのは被害者の恋人……ここは賭けに出て、彼女に狙いを絞ってみよう。 そして少しでも疑わしい要素が発見でき次第、徹底的に調べ上げる。 かつて、夜神月がキラであると断定した時の様に……僅かでも何かを感じさせられる相手には、積極的に挑むのが一番である。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「すみません、今戻りました」 「あ、Lさん」 Lは無限書庫のドアを開き、中に足を踏み入れる。 すると……そこには、新たに一人の来訪者がいた。 先程、書類を提出しに出て行っていたなのはが戻ってきていたのだ。 「どうも、なのはさん……その様子だと、お話はユーノさん達から聞いたようですね」 「はい……何だか、大変な事になっちゃってますね」 「ええ、結構大変です。 今も、どうするべきか考え中です……クロノさん、そちらの方で何か進展はありましたか?」 Lはすぐにユーノの側まで浮き上がって、モニターを覗き込む。 すると……そんな彼に対して、二人はある吉報を告げた。 たった今、丁度事態に進展があったのだ。 『それなんだが、被害者の自宅を調べていた局員から連絡があったんだ。 どうやら、妙な写真があったらしい』 「写真……それ、今すぐ見られますか?」 『そう言うと思って、もう準備は出来てるよ』 エイミィはすぐさま、被害者の自宅から見つかった一枚の写真をモニターに映し出す。 そこに写っているのは、手を繋ぎながら互いに微笑みあっている一組の男女。 そして男性の方は、他でもない被害者である。 だがこれはどこからどう見ても、仲が良いカップルの写真にしか見えない。 一見、妙な点など何も無さそうだが……しかし。 「この写真、一緒に写っているのは、恋人さんじゃないですね?」 『ああ、そうなんだ』 すぐにL達は、その妙な点に気が付いた。 被害者と一緒に写っているのは、被害者の恋人ではない別の誰かだったのだ。 局員達も、聞き込みの時点で恋人の顔を確認しているので間違いない。 「二股、浮気。 そういうことですね」 「でも、元恋人って可能性もあるんじゃないんですか? 昔付き合っていたけど、今は違うとか……」 『いや、それは考えにくい。 写真の裏にバックナンバーが入っていたんだが、それは丁度一週間前のものなんだ』 クロノがそう言うと同時に、エイミィが写真の裏側を映し出す。 そこには確かに彼が言ったとおりに、丁度一週間前のバックナンバーが入っていた。 つまり、この写真は一週間前のものであると同時に、被害者とその女性との関係を証明している。 「被害者と恋人さんとは、半年前からの付き合い。 しかしこの女性は、被害者と少なくとも一週間前には関係があった。 これで被害者の恋人が、尚更怪しくなりましたね」 「メッセージと、犯行時刻の事とでですか?」 「ええ、ユーノさんもお気づきでしたか」 ユーノもどうやら、Lと同様の理由で恋人が怪しいと考えていたらしい。 そして、ここにきて被害者の浮気が発覚するという事態。 動機としては十分であり、さよならのメッセージもこれで筋が通った。 もうここまできたら、他の者達は横に置き、彼女一人に狙いを絞るのみであるが…… もしも本当に、動機が浮気だったとしたら、一つだけ確認すべき事がある。 Lはモニターに目を向けたままの状態で、なのはへと尋ねてみた。 「なのはさん、一つ質問します」 「はい、何ですか?」 「もしもあなたが仮に、ユーノさんと付き合っているとして。 そのユーノさんが他の女性と親しくしている所を目撃したら、どう感じます? 無論、友人としてではなく異性としてで」 「ふぇっ!?」 「ちょ、ちょっとLさん!?」 いきなりの発言に、なのはとユーノは顔を赤くして驚いた。 一体、こんな時に何を言い出すのか。 二人とも、そう反論しようとするが、対するLの表情はかなり真剣なものであった。 しかしなのはにとって、これはそう簡単に答えられる質問ではない。 (ユ、ユーノ君と私と……確かにユーノ君とは、昔からずっと一緒だったし。 よく皆からも、付き合ってるんじゃって言われるけど……) 自分に最も近しい異性であるユーノ。 そんな彼に対し、好意を抱いているか否か。 Lの質問には、この様な意が含まれている。 確かに、ユーノに対して他の男性とは違う感情を少なからず抱いているのは事実であるが……そんな事、すぐにここで言えるわけがない。 それは告白も同然の行為である。 (なのはが、僕の事をどう思ってくれてるか…… もしも、僕となのはの気持ちが同じだったとしたら……) そしてそれは、ユーノの方も同様であった。 彼もまた、なのは同様に顔を赤くして、完全に言葉を失っていた。 そんな二人の様子を見て、周囲の司書達はニヤニヤと笑っている。 予てから様々な噂があったこの二人だが、果たしてここで何か進展があるのか。 誰もがそれを期待していたが、残念ながら今はそれどころではない。 『やれやれ……Lさん、もっと普通に言ったら?』 「ええ、どうやらそうした方が良かったみたいです。 一応、一般的な女性の意見もと思ったのですが」 ここで、エイミィが二人に対し助け舟を出した。 正直な話、彼女もこのままどういう反応を二人が見せるのかというのは、興味があった。 だが残念ながら、今は事件の方を解決させるのが優先である。 『お前らしくもないな、ユーノ。 Lが何を言いたいのか、少し考えれば分かるだろ?』 (じゃあクロノは、あんな質問されて冷静でいられるのか?) 内心、ユーノはクロノに毒づいた。 ここでそれを口に出さなかったのは、なのはの事も考えてであった。 しかし、そんなクロノもこの様子では、どうやらLの言葉の意味には気づけたらしい。 すぐにユーノは冷静さを取り戻し、Lが何故あの様な質問をしたかということについて考えた。 そしてその答えを出すのには、然程時間はかからなかった。 「被害者の恋人が犯人で、且つ、動機が浮気だったとしたら、普通は浮気相手に対しても殺意を抱く筈だって事ですか?」 「ええ、そうです。 大概この手の事件というのは、浮気をした恋人とその浮気相手と、両方に対して犯行を行うものです。 しかしながら、今この時点における殺人事件についての報告は、この事件に関して以外管理局には入っていないと」 「それってまさか……?」 『近々、浮気相手の方も殺害する計画を立てているということだな』 犯人は更に罪を重ねる危険性がある。 Lが言いたかったのはこの事であり、同時にこの最悪の事態を危惧してもいた。 「昨日の今日ですから、流石にすぐ犯行には及ばないでしょう、ですが。 逆に言えばそれは、時間が経てば危険だという事です。 恋人さんが犯人でさえなければ、そもそもありえはしないでしょうが、現状犯人である可能性が一番高いだけに警戒すべきです」 『じゃあ、そろそろ家宅捜索に入って事実を確認してみるか?』 ここでクロノは、そろそろ家宅捜索に入るべきかどうかを尋ねてみる。 現在の状況を考えれば、動き出すには十分すぎる理由がある。 状況証拠的に、被害者の恋人を最重要参考人として扱うことは大いに可能。 そうなれば、家宅捜索には容易に踏み切れる。 事実Lも、先程まではそう考えていた……だが。 「いえ、もう少しだけ待ってもらえませんか? 今出てきた事実ですが、もしかすると私の引っかかりと繋がる可能性があります。 行動に出るのは、それをはっきりさせてからにしたいです」 しかし今は、先程までとは少し状況が変わった。 先程は、それ以上の推理材料が全くなかったからそう考えていた。 だが今は、新たな推理材料が出てきてくれた。 これが、己の中で引っかかっていたことに見事に結びついてくれたのだ。 『引っ掛かり?』 「ええ、今のを聞いて完全に分かりました。 犯人が何故アリバイを用意しなかったのですが、する必要がなかったからです。 考えてみてください、犯人がこれで連続殺人を犯したとして、その片方の犯行時刻にアリバイがあったとしたらどうします?」 「あ!!」 Lの言わんとしている事を察し、なのははやや大きめの声を出して驚いた。 彼の言うとおり、犯人が新たな犯行を計画しているとする。 そして、そちらにはちゃんとしたアリバイ工作を考えているとしたら、犯人を挙げるのは極めて難しくなってしまう。 『あのメッセージを次の犯行時にも現場に残せば、完全な連続殺人ということになる。 外部には一切公表して無い以上、便乗した者の犯行という線は完全に消えてしまう。 そうなれば、局員が犯人ででも無い限りは流石に同一犯による犯行として処理されざるをえない。 そして、その時にもしもアリバイがあってしまえば、例え前の犯行時にアリバイが無かったとしても無意味になる。 これが犯人の狙いか……!!』 「両方共にアリバイを用意しなかったのは、それが不可能だったから。 もしくは、自分を特別視されないように仕向ける為でしょう。 それぞれにアリバイが有るのと無いのとでは、逆に完全に無いのよりも、怪しまれる可能性は少なくなります」 犯人は敢えて一回目の犯行のアリバイを用意しないで、二回目の犯行で己の無実を証明するつもりでいる。 これは、かつてのキラ事件において、己が監視されている事に気付いた月と同様の行動である。 完璧すぎては逆に怪しまれるかもしれないと判断し、そうならない様にアリバイを有る場合と無い場合と、二つ用意してきたのだ。 だとすると、このままではまずい。 「当たり前の事ではありますが、二度目の犯行はこれで尚更防がなければならなくなりました。 しかし、現時点での逮捕は難しい。 同行してもらったとしても、長期の行動制限は状況的に少々厳しい、はっきり言って最悪です」 『だったら、その浮気相手の方に常時監視をつけといて、犯行の現場を押さえるとか? それなら殺人未遂の現行犯で逮捕できるしさ。 何も起こらなかったら、まあそれはそれで何も無くて良かったってことで』 「それが妥当な判断ではあるでしょう、ですが。 厄介な事にそれだと、一度目の犯行に関しては裁く事が出来ません」 『だが、それでも新たな犯罪を防ぐ事は出来る』 「しかしそれでは、私の気が治まりません。 こんな形で犯人を逮捕するのは、はっきり言って嫌です」 『なっ!?』 Lのこの発言には、誰もが驚き呆れさせられた。 あろう事か彼は、自分が嫌だからという理由で犯人逮捕に踏み込まない気でいるのだ。 これは以前にも月達から指摘されたが、Lは完全な勝利を目指そうとする傾向がある。 その悪い所が、今ここで露出してしまったのだ。 『ふざけるな!! 人命がかかっているのに、何を言い出すんだ!!』 「そうですよ、Lさん!! 確かに、気持ちは全く分からない訳でもないですけど、そんな事を言ってる場合でもないじゃないですか!!」 当然ながら、これにはなのはやクロノ達が猛反論する。 ユーノとエイミィも、二人ほどではないにしても勿論Lに対して不満を告げた。 Lとしては、当然ながら不満な展開である。 しかしながら、それでも人命が第一というのは分かっている。 「……そうですね、人命は大切です。 分かりました、何としてでも一回目の犯行を立証する方法を考えますが、一応お願いします。 浮気相手の方が何者なのかを早急に調査して、所在が分かり次第気付かれないよう監視を」 『……一応、か』 「ええ、一応です」 Lの言い方に対し、クロノは少々苛立つ。 先程はマイペースだと言ったが、ここまでくると流石に度が過ぎている。 一気に場の空気は一変し、険悪なものへと変化した。 このままでは流石にまずい。 そう判断し、とっさにエイミィが口を挟む。 『え、えっとさ。 家宅捜索の方は結局どうするのかな?』 「勿論お願いします。 これで証拠を始末した痕跡すら見当たらなければ、今までの議論は無駄になりますが。 それを確かめる為にも、実行しませんとね。 一応任意でですから、断られる場合を想定して、令状等の準備も。 まあ犯人の考えがこちらの予想通りでしたら、寧ろ断らずに受け入れてくれるとは思いますが」 「案外、動かぬ証拠とか見つかるといいんですけどね。 こう、見落としていた何かとか」 ユーノもとっさのフォローを入れる。 実際に、何か意外な証拠が見つかるという可能性はゼロではない、だから気を落とすなと。 そしてそこへ、なのはも続けて口を開いた。 彼女もまた、何気ないフォローのつもりであった……しかし。 「それにもしかしたら、焦った犯人が口を滑らせるかもしれませんよ?」 その一言は、Lに行動へと移させる引き金となった。 「……そうですね。 それでいってみましょうか」 「ふぇ?」 なのはの言葉を聞いたと同時に、Lの中で考えが纏まった。 犯人をどう逮捕するか、完全に策が出来上がったのだ。 やや強行的な手段であるが、同時に効果的でもある方法が。 出来るならば、もう少しだけ物的証拠を出して追い詰めたかったが、仕方がない。 「Lさん、もしかして?」 「ええ、上手くいけば犯人を逮捕出来ると思います。 クロノさん、少し家宅捜索の前に準備をしてもらってもいいですか?」 『準備だと?』 「はい、ここからは魔法の出番です」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「家宅捜索ですか?」 「ええ、犯人の疑いがある方には全員一斉に検査を行っています。 けどまあ、安心してください。 逆に言えば、これで何も見つからなければ、あなたは犯人ではないということですから。 それにこれは任意ですから、無理ならば断ってくれても構いませんよ」 それから数十分後。 クロノは数人の局員を引き連れ、容疑者―――被害者の恋人の自宅へとやってきていた。 Lの指示通り、家宅捜索に入ることにしたのだ。 ちなみにここで、全ての容疑者宅を一斉に検査をし始めたといったのは真っ赤な嘘である。 行うのは彼女一人に対してだけであり、彼女の警戒心を抑える為にワザとこの様に言ったのだ。 『口が巧いなぁ、ハラオウン提督』 『流石っていうか、何と言うか。 でもよ、何で提督が自分から動き出したんだ? Lさんから聞いた策は、別にそんなに難しいことじゃないってのに』 『確かにそうだよなぁ……』 局員達は、クロノの口の巧さに感心する一方、何故彼がこうして動いているのかが気になっていた。 非番の所を付き合ってもらっているとはいえ、彼は提督である。 この様に自ら動くというのは、地位を考えればどうにも考えにくかったのだ。 一体どうして、クロノはこうしているのか……それは言うまでもなく、Lが原因である。 (L……お前の策が本当に上手くいくかどうか、目の前で見せてもらおうじゃないか) クロノは先程のLの発言により、一気に彼に対しての不快感と敵対心を覚えた。 しかしながら、彼の実力を認めていることもまた事実であった。 ここまで状況を整理できたその推理力は大したものであり、世界一の探偵というのも頷ける。 憎めない奴、というのは少々妙な言い方ではあるが、何とも言えない気持ちを覚えたのは確かであった。 だからだろうか、こうして目の前で彼の策を見たくなったのである。 「そうですか……分かりました。 それじゃあ、その間私は外の方にいればいいでしょうか?」 「いえ、大丈夫ですよ。 寧ろ中にいてもらった方が、質問等がある時に楽ですから」 「分かりました。 それでは、中へどうぞ」 相手は家宅捜索に素直に応じてきた。 この反応に、少々ではあるがクロノは眉を細める。 普通、あなたには容疑がかかっている、だから家宅捜索をさせてほしいと言われ、こうもすんなり受け入れるだろうか。 例え犯人で無かったとしても、自宅に踏み入られるとあれば堪ったものではない。 何かしらの戸惑いや、もしくは拒絶反応を確実に見せるはずである。 そうなれば仕方が無い、令状を発行するなり、それなりの手続きを取らなければならない。 いや、寧ろそうしなければ普通はこんな真似などできない。 はっきり言って、相手も完全に同意してくれる場合というのは極めて稀なのだ。 だからクロノは、この段階では捜索を断られるのを覚悟していた。 しかし彼女は、至って冷静に、驚く様子も無く自分達を受けいれてきたのだ。 これではまるで、自宅を捜索されるのが分かりきっていたかのようである。 自分が怪しまれるというのを、見越していたとしか思えない。 (やはり、か) これでより一層、この女性が怪しくなった。 クロノはすぐさま、他の局員達へと念話でその旨を伝える。 その後、彼等は彼女に案内され、家屋へと足を踏み入れようとする……が。 「……」 「おい、どうした?」 「あ、ああいや、その……少し緊張しちゃいまして」 一人、やけに緊張している者がいた。 オレンジ色の髪の毛をツインテールにした、若い女性である。 クロノはそんな彼女を見て、優しく微笑みかけた。 「大丈夫、肩の力を抜いて。 気持ちは分かるが、落ち着いてやれば大丈夫だ」 「は、はい……ありがとうございます」 クロノの言葉を聞き、彼女は一度大きく深呼吸する。 そして、ホンの少しだけ天を仰いだ後、気を引き締めて中へと入っていった。 これで、被害者の自宅に入るという第一関門は突破。 後は証拠を始末した痕跡をどうにかして見つけ出し、策を実行すればいい。 すぐに局員達が一斉に動き出し、家の中を隅々まで捜索し始める。 Lの言うとおりならば、確実にある筈だというある物を探して。 『これは……提督、ありました!!』 『本当か!!』 そして数分後に、一人の局員がそれを発見した。 庭先に置かれていた、恐らくは次のゴミの回収日に捨てる予定であろうゴミ袋。 その中には、Lが言ったとおりの物―――大量の灰があったのだ。 この念話を受け、クロノは即座に全局員へと同じく念話で指示を出す。 準備は完全に整った、後は策を実行するのみである。 早速クロノは、容疑者の女性と共にその場へと向かっていく。 「すみません……この灰は? 何か、それなりの量の物を燃やしたみたいですが」 クロノは部下からゴミ袋を受け取り、その中にある灰を手に取った。 紛れも無く何かを燃やしたという証拠であり、そして推理通りならば燃やした物は犯行当時の衣類。 上着、ズボン、手袋、靴下、靴。 返り血が付着してしまったであろうもの全てである。 「ああ、これは昨日間違えて燃やしてしまったんです。 洗濯物を干していたんですけど、ストーブの火の不始末で……ほら、奥の部屋も、畳とかが駄目になってません?」 「そうですか……それは災難でしたね」 『やはり、素直に認めるわけが無いか……部屋はどうだ?』 『言うとおり、黒く焼け焦げた痕跡があります。 本当に不始末では無いのなら、恐らくは自分の手でやったものだと思われますね』 女性の言うとおり、奥の部屋には畳が焼け焦げた後があった。 どうやら、これはかなりの念の入れようである。 御蔭でこの問題は、これ以上追及するのは難しいだろう……ただし。 それはあくまで、普通の場合である。 Lの考えた策は、この普通を覆すとんでもない代物なのだ。 そしてクロノは終に、その策の実行へと踏み切る。 「それじゃあ、いきなり家宅捜索に出てしまった御詫びも兼ねまして、我々の方で修復しましょうか?」 「え……?」 修復。 クロノの口から出たその一言を聞き、被害者の顔が一気に凍りついた。 まさか、そんな馬鹿な。 彼女は、まさにそう言わんばかりの表情を露にしていた。 そしてクロノはそんな状態の彼女へと、容赦無しの追い討ちをかける。 「ええ、修復魔法ですよ。 この程度の量の灰でしたら、何とか燃える前の衣類に戻す事が出来ますしね」 「そ、そんな魔法があるんですか?」 「はい、結構皆さん驚かれるんですよ。 まあ、信じ難い魔法でしょうから無理は無いですがね」 女性の悪い予感は、完全に的中してしまった。 灰を元通りにするなどという魔法があるなんて、思いもよらなかった。 このままでは確実にばれてしまう。 (そんな……でも、断れない。 断ったら、それは私が犯人だって言うようなものじゃないの……!!) 自分の不始末で失ったものが元通りになると言われ、それを嫌がる者などまずいない。 ましてやこの状況では、別に修復などしなくていいと言えば完全に怪しまれる。 自分は証拠を燃やして処分しましたと、そう言ったも同然なのだから。 しかし、それをせずともこのままでは証拠が出てしまう。 最早……逃げ道は無かった。 「それじゃあ、はじめますよ」 クロノはゴミ袋へと掌を向け、そっと目を閉じる。 すると、その直後。 ゴミ袋は一瞬眩く光り……そしてその光が収まった時。 その中には灰は一粒も無く、代わりに彼女が最も恐れている代物―――血塗れの衣類があった。 「そんな……」 女性はその表情に絶望を露にし、膝から床に崩れ落ちた。 己が罪を犯してしまったという事実が、完全に発覚してしまった。 ここからの言い逃れは、もはやどう足掻いても出来ない。 「どうやら、決定的な証拠が出てきてしまったな」 クロノはそんな彼女へと、無表情で言葉をかける。 それと同時にバインド魔法を発動させ、手錠代わりとしてその両腕を即座に拘束した。 女性はこれに対し、全くの抵抗を見せない。 己の罪を、完全に認めていた。 「完璧だと……思ったのにね。 対して驚いてるようには見えないけど、やっぱり最初から私に狙いをつけてたのね?」 「ああ、そちらの考えが全て分かったからな。 あのメッセージも、今後の事を考えてやったもので間違いはないんだろう?」 「ええ、そうよ。 次にあの女を殺す時、私には完璧なアリバイがある様に考えてたわ。 連続殺人なんだから、これで私は容疑者から外れる。 晴れて白って思ったんだけど……残念ね」 「一応、メッセージの意味も聞いて構わないか?」 「そのまま、さよならって意味よ。 あれでも一応、好きだった相手だったものね」 己の目的と、そしてメッセージの意味。 女性はクロノの問いに対し、素直に答えていく。 全てがばれた以上、隠し事などしていても無駄だと悟ったからだ。 だが……彼女はこの時、己が墓穴を掘った事に気付いていなかった。 そしてその事実を認識するのは、このすぐ直後である。 「まさか、こんなに巧くいくとはな」 「え?」 「あれをよく見てみろ」 クロノは女性に対し、ゴミ袋を指差しながら呟いた。 女性はすぐにそれを見て……そして、驚き声を失った。 それも当然である。 何故ならそのゴミ袋には、血塗れの衣類など入っていないのだから。 先程と同じく、大量の灰が入っていた状態なのだから。 「え……え!? ど、どういう事?」 「修復魔法なんて、そんな便利なものは最初から無かったという事だ。 そういう風に見せかけてた……幻術を使ってな」 「幻術!?」 先程の光景は全て、幻術で見せかけた偽物である。 女性はそんなクロノの答えに、大いに驚愕した。 これこそが、Lの考えた策。 犯人に対して幻術を用い、その自白を促すという強行手段である。 効果は見ての通り絶大……しかし。 「で、でも自白じゃ完璧な立証にはならないわよ!! それにこれなら、強要されたって取る事も……!!」 自白だけでは、逮捕に踏み切るのは不可能。 ましてや状況的には、そう言う様に強要されたとも取れる。 これを武器に、言い逃れる事は出来る。 そう思い、彼女は開き直ったのだ。 だが……それも無駄な足掻きに終わる。 「いや、残念ながらあなたの有罪は確定だ。 犯人であるという決定的な証言が出てきてしまったんだからな」 「証言って、何を根拠に……あっ!?」 ここで女性は、己がとりかえしのつかないミスを犯した事に気付いた。 先程のクロノの問いに対し、つい素直に答えてしまったのだ。 自分が犯人でなければ知りえない情報……犯行現場に残されていたメッセージについてを。 まんまと乗せられてしまった。 見事なまでに、嵌められてしまったのだ。 「現地の捜査に当たっている局員以外にあの情報は開示していない。 唯一例外としてあれを知っているのは、書き残した犯人だけだ。 そして君は、それの意味についてまでも完璧に答えてしまった。 こうなっては最早、言い逃れは出来ないぞ?」 立証は出来た。 これで、全て終わったのだ。 女性の顔に再度絶望の色が浮かび、そして地面に両手をついて崩れ落ちた。 「……結構えげつないわね、管理局のやり方って」 「だそうだぞ、L」 クロノは軽く溜息をつき、通信機器のモニタースイッチを入れる。 ここまでのやり取りは、実は全て無限書庫にも筒抜けであったのだ。 ただし、犯人に余計な警戒心を覚えさせぬ様、モニターの電源は切って音声のみにしてである。 そして今、ようやくモニターが入ったわけなのだが…… 『お疲れ様です、クロノさん』 「……おい、何だこれは?」 『モニターの電源をお切りになられている間に、ユーノさんに用意してもらいました。 一応、人前に姿を現す時は、こうするのが私のスタイルでして』 モニターに映し出されたのは、無限書庫の風景などでは無かった。 それに代わって、真っ白な背景に特殊な字体で『L』の一言が唯一書かれているだけの、一枚絵が映し出されていたのだ。 聞こえてくる音声も、肉声ではなく機会音声になっている。 これは、Lがこれまでの活動で己の顔を隠す為に使い続けてきたものである。 彼はクロノがモニターを切っている間に、これをユーノに用意してもらっていた。 こうして被害者の前に顔を出す際、万が一の事があっては困るからという配慮である。 『今回の一番の功労者はあなたです。 ありがとうございました、ティアナさん』 「いえ、そんな……私こそ、お役に立てて光栄でした。 ありがとうございます!!」 Lはこの逮捕劇における最大の功労者―――ティアナ=ランスターへと礼をした。 先程、やけに緊張をしていたあの少女である。 彼女は実は言うと、捜査に当たっていた局員ではない。 いや、それ以前に局員ですらない民間人なのだ。 そんな彼女が何故、この場にいるのか。 その話は、つい十数分程前に遡る。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「クロノさん、そちらで幻術魔法を使える方はいませんか?」 『幻術だと?』 「ええ、犯人を追い詰めるにはこれが必要不可欠なんです」 Lは己の策を実行するに当たって、幻術魔法が必要不可欠であるとクロノに告げた。 一体、幻術を使って何をするつもりでいるのか。 先程のなのはの発言を聞き、何かを思いついたようではあるが……ここでクロノが、ある最悪の可能性に気付く。 『まさかお前、被害者に幻を見せて脅すつもりか?』 「脅迫はしませんが、その考えで正解です。 まず今の状況を整理しますが、犯人は十中八九被害者の恋人と見て構いません。 しかし犯人は、殺人の証拠を一切残していないと思われます。 だが……証拠を処分したという証拠は確実に有ります、それこそが犯人の最大の弱点です」 『それって、どういう事?』 「この証拠が殺人の証拠であると犯人に見せ付けられれば、言い逃れは出来ないということです。 しかし残念ながら、私が先程までこの書庫内で見た資料の中には、それが可能そうな魔法はありませんでした。 ですから、ここはそれがある様に見せかけます」 「……もしかして、Lさん!?」 Lが何を言わんとしているのか、真っ先にユーノが気付いた。 それは、脅迫等よりも遥かに性質が悪い代物。 正真正銘の問題行為……幻術による証拠の捏造である。 少しばかり遅れて、クロノ達もそれに気付いた。 無論、賛成など出来はしない。 『一体何を考えているんだ!! そんな方法、例え犯人を逮捕できたとしても……』 「いえ、これで逮捕するつもりは毛頭無いですよ」 『何?』 しかし、Lはそんなクロノ達の言葉をあっさりと流した。 彼とて、己の為そうとしている事が問題行為である事ぐらい分かっている。 これで犯人を逮捕すれば、逆に自分達が糾弾される事になるであろう事ぐらい予想できている。 だが……これが決定打で無いのならば、話はまた別である。 「幻術で証拠を捏造する目的は、逮捕ではなくあくまで自白です。 自分が犯行を行ったと、そう発言させられさえ出来ればいいんです」 「一体、どういう事なんですか?」 「犯人の逮捕に必要なのは、何も証拠だけではありません。 なのはさんが先程言ったように、捜査上我々と犯人しか知らない証言があれば、それでもOKです。 そして現在、それに最も適しているものが一つあります」 『適している……そうか、犯行現場のメッセージ!!』 「ええ、犯人があれの存在を口にするように誘導させられれば、それでチェックメイトです。 おまけに犯人は、こちらがメッセージの筆跡を頼りに迫ってくるのではと思っている可能性が高い、逆にそこを突きます。 犯人が自白するまで一切メッセージの存在は口にせず、ギリギリの所でさりげなくその意を尋ねる。 これ以上ない、理想的な攻撃です」 証拠を捏造する真の目的は、犯人を自白させた上で、更に決定的な証言を得る事であった。 そしてその証言は、捜査に当たっている局員と犯人以外に知る者がいない、あのメッセージについてである。 己が完全に敗北したと思いこんでいる相手から、それを聞き出すのは容易い。 皆がこの方法に納得し、そして最善であるとも思った。 だが……現状、これを実行するのには問題が一つある。 『駄目だ、L。 確かに効果的な作品だとは思うんだが……これを実行に移すのは不可能だ』 「まさか、いないのですか?」 『ああ。 残念だが、捜査に当たっている局員には一人も、幻術を使える者がいないんだ』 今この場には、幻術魔法を使える魔道士が一人も居ないのだ。 これでは、幾ら策を実行に移したくとも不可能である。 尤も、Lとてこの状況を全く想定していなかったというわけではない。 使える者がいないならば、すぐに探すまでである。 「なら近隣の担当に連絡して使える方を、いえ、いっそこの野次馬の中にいるかどうか聞いてください。 この程度の事でしたら、民間人がご協力しても問題は無いはずですよね?」 『お前……さりげなく、とんでもない事を言ってくれるな』 「駄目ですか? なのはさんやユーノさん達も、元々は民間の立場でありながらも管理局に協力し、その後管理局入りしたと聞いてますが」 行動を移すならば早い方が断然いい。 Lはインターネットで仕入れた情報を武器にし、クロノと交渉をする。 ユーノ達の様な前例があり、更に彼等の時と違って格段に危険度は低い。 断られる理由は無い。 無論、これで使い手が居なければ素直に局の方へと要請はする。 『だが、もし相手が犯人でなかったら責任問題だぞ?』 「ですから、犯人であると100%確信出来た状況で使いますよ。 まあ、それでも万が一という可能性も一応考えて、失敗した時には報告書にこう書いてください。 無限書庫司書長が人質に取られ、無理矢理やらされた、と」 「ちょっと、何言ってるんですか!?」 『……自分がどうなるか、分かって言ってるのか?』 「ええ、私の推理が正しいと確信して言っています」 Lは己の推理が正しいと確信しているからこそ、この様な無茶な発言をさらりと言う事が出来た。 もはやこれには、ユーノ達も溜息しか出ない。 こうなれば、どう言っても彼は己の意見を曲げないだろう。 尤も、彼の推理が正しいであろう事は皆分かっている。 ならばここは、やるしかないだろう。 『……こちらで無茶と判断出来次第、作戦は中断する。 この条件でいいな?』 「ええ、ありがとうございます。 それでは早速、お願いできますか?」 『ああ、分かった。 エイミィ、いなかった場合に備えて近隣の部隊にも連絡を頼む』 『はいはーい、もうやってますよっと』 「仕事が早くて助かります、エイミィさん」 『ま、クロノ君の考えは御見通しだもんね』 エイミィの手際の良さに感心をしつつ、クロノ達は局員に指示を出す。 もしもこの野次馬の中に幻術の使い手がいてくれれば、それ程都合のいい事は無い。 そうなってくれる事を願いつつ、Lは報告を待つ事にした。 しかし、待っている間に何もしないというわけではない。 「ユーノさん、今のうちに少しお願いしたい事があります」 「何ですか?」 「私の声を機会音声に変更する手段を、すぐに用意してもらえますか? それと、少しペイントソフトを使わせてください」 「機会音声にペイントソフトですか? 一体、何を……もしかして顔を隠す為ですか?」 「ええ、ここからは一般の方と、そして犯人を相手に姿を見せる可能性が高くなります。 それに備えまして……」 『L、見つかったぞ。 幻術魔法を使える者が一人いた』 Lが己の考えを告げようとした、その瞬間であった。 クロノから、幻術魔法の使い手が見つかったという報告が入ったのだ。 それを聞くと同時に、Lは素早くポケットへと手を伸ばし、先程食べていた板チョコの包み紙を取り出す。 そしてそれに指で覗き穴を空け、簡単な仮面を作ったのだ。 まさかこんなに早く見つかるとは思っていなかったので、この場はこれで代用しようというわけである。 傍からすれば、異様な事この上無い訳ではあるが。 『……何の真似だ、L?』 「いえ、気にしないで下さい。 それよりも今は、事件の方をどうにかするのが先です。 それで、後ろの方がそうですね」 『ああ。 すまないが、自己紹介を頼めるかな?』 クロノは、後ろに立つ一人の少女へと声をかけた。 彼女が先程見つかった、幻術を使える一般人。 Lが求めていた人材である。 『はい、初めまして。 私はティアナ=ランスターといいます』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『それじゃあ、僕達は現場の後始末に入る。 ユーノ、L、色々と助かった』 そして話は現在に戻る。 犯人の女性は局員に連行され、事件は無事に解決した。 残るは事後処理だけであり、ここでL達の役目は終了する。 ティアナに関しては、後日に感謝状が贈与される事となり、彼女も大変嬉しく感じていた様であった。 ちなみに、これは同様の立場であるLにも当てはまる事ではあるのだが、これはL自身が断った。 尤も、その代わりとしてちょっとした要求をしたわけなのだが。 「それではクロノさん、エイミィさん、お願いしますね」 『……あまり期待はするなよ。 幾ら犯人逮捕に協力してくれたとはいえ、無茶な要求なんだからな』 『こっちはまあ、問題無さそうだよ。 使い古しのなら、それなりに良いのがありそうだしね』 クロノには、ここ数十年の間にミッドチルダ内で起きた事件に関する資料を。 エイミィには、使い古しのもので構わないので、パソコンを要求を。 それぞれ、報酬としてLは要求したわけである。 最初は、それはどうかと思ったが、Lがいなければ犯人は捕まえられなかった。 その為、出来る限りの事はしようと二人はLへと告げたわけである。 (それにしても、ティアナさんのあの喜びよう。 気持ちは、分からないでもないですが……) Lはここで、ふと事件解決時の事を思い出す。 あの時のティアナは、かなりの様で喜んでいた。 あれは、感謝状を貰える事に対してというよりも、自分自身の力が役に立ったという事を嬉しく思っていた様に見えた。 思い返してみれば、野次馬の中から彼女が見つかったのもやけに早かった。 彼女は局員達の問いかけに対し、何の抵抗も示さず、素早く立候補したのではと考えられる。 (今この場で言うべきことではない、が。 ティアナ=ランスターさん、少し引っかかりますね) 気にしすぎかもしれないが、Lにはどうも彼女の事が引っかかっていた。 ティアナという名前、いや、ランスターという性に関して、後でユーノに調べてもらうのがいいかもしれない。 何も無ければそれに越した事は無いのだが、もしもという可能性があるからだ。 (ユーノさんも、何か感じたのでしょうか?) ふと、Lはユーノの表情を伺う。 彼ももしかしたら、自分と同じ様に考えているのかもしれないと思ったのだ。 しかし、残念ながらユーノは何かを考えているといった様子ではない。 単に彼女から何も感じなかったのか、それとも感じてはいたが気のせいであると考えたのか。 どちらにせよ、後々この事は話すつもりではあるが…… (ん……なのはさん?) ここでLは、なのはが何かを考えているらしい様子であったのに気が付いた。 ユーノではなく、彼女の方が自分と同じ事を感じたのか。 しばし、彼はその表情をうかがってみる。 だが……どうも彼女は、自分とは違う事を考えているらしい事にすぐ気付く。 (ティアナちゃんかぁ。 幻術は十分な腕前だったみたいだけど……) 「なのはさん?」 「あ……すみません、何ですかLさん?」 「いえ、何か考え事をしていたように見えましたので。 ティアナさんの事、ですか?」 「ええ、ちょっと。 幻術以外にも、何か魔法が使えるのかなって思って」 なのはが気にしていたのは、ティアナの使える魔法についてであった。 状況の把握こそ音声だけでしか出来なかったものの、彼女の幻術が高いレベルである事は十分認識できた。 それ程の腕前の持ち主なら、他にもそれなりに魔法が使えるのではとふと考えたのだ。 そしてLは、そう考えたその理由を即座に見抜く。 「なのはさんは、ティアナさんが将来管理局入りするのではと思ったわけですね」 「……凄いですね、Lさん」 「まあ、今のは直感みたいなものです」 Lは驚くなのはへと、大した事ではないという風に答える。 しかし、実際のところは直感ではなく、ちゃんと考えてこの答えは出してある。 彼女の先程の喜び様は、将来管理局に入りたいと思っており、その管理局に協力できたからではと、そう考えたのだ。 それならば、一応分からなくは無い。 「しかし、どうしてその様にお考えを?」 「大した理由は無いですよ。 ただ、いい魔道士になれるんじゃないかなって思ったから」 なのはは微笑を浮かべてLに答える。 ティアナは将来、優れた魔道士になれるのではと直感した。 それは紛れも無い事実である……が。 実はこの時なのはは、昨日告げられた親友のある一言についても、同時に考えてもいたのだ。 ―――私、自分の部隊を持ちたいんよ (自分の部隊かぁ……もしはやてちゃんがここにいたら、今から狙いをつけてたりしたかもね) 彼女ならやりかねない。 そう思って、なのはは思わず苦笑してしまった。 勿論、そんな彼女の夢には喜んで賛成している訳ではあるのだが。 (でも……強ち、笑い話でもないか) なのはは、静かにLへと視線を向ける。 昨日の空港火災に続き、今し方見せた見事な推理力。 彼程の能力を持つ者など、そうはいない。 もしも同じ部隊で共に戦う事となれば、相当の力になってくれるだろう。 恐らくは、はやてもそう考えている筈である。 (はやてちゃんはきっと、Lさんを自分の部隊に入れたいって思ってるだろうね)
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ロストロギアとして回収された可愛いコックさん人形入りの小瓶はすぐさま管理局内の ロストロギア封引用特殊倉庫に収められるわけだが、その特殊倉庫に侵入する者がいた。 「管理局の連中も結構ずさんなんだな~。清掃会社の格好するだけであっさり信用しやがったぜ。」 それは管理局内に収められるロストロギアを盗み出して金儲けしようと企む 名も無きコソドロ達であった。管理局潜入の為に清掃会社の人間に成りすました彼等は ロストロギア封引用特殊倉庫にまで潜入していたのである。 「よし! とりあえずコレにしようぜ。」 「え? こんなショボそうなのが良いのか!?」 「分かって無いな~。こういう一見ショボそうなのが実は凄かったりするもんなんだよ。」 名も無きコソドロが盗み出そうとしたロストロギアこそ、なのはとユーノが先程回収したばかりの 可愛いコックさん人形入りの小瓶だった。そして気付かれないようにこっそりと 特殊倉庫から脱出する名も無きコソドロ達であったが、そこでたまたま近くを通りかかった なのはに発見されてしまった。 「そこ! 何をやってるの!?」 「やべ! 見付かった!」 「しかもあれ白い悪魔じゃねーか!」 名も無きコソドロ達は大慌てで逃げ出そうとするが、その時の弾みで小瓶のフタが開いてしまった。 「!?」 それがいけなかった…。小瓶のフタが開いた瞬間…その小瓶の中に封印されていたデビルが 解き放たれてしまったのである。そしてデビルは何という事かなのはに憑依していた。 「わぁぁ! このロストロギアから飛び出した変なのが白い悪魔に乗り移った!」 『白い悪魔…か…この女は元々そう言われていたのか…。』 「!?」 名も無きコソドロ達は青ざめた。デビルに憑依された直後から、なのはの声が 本来の物では無い地の底から響いてきそうな低い物に変わっていたのである。 それだけではない。なのはの背中からは悪魔を思わせるの漆黒の翼が生え、 頭からは鬼の様な角が…口には野獣の様な鋭い牙が…両手には鋭い爪が伸びると言う おぞましき姿に変質したのである。 『フハハハ! 白い悪魔とは良い得て妙だな! 確かにこの女の体は素晴らしい! 力が…力が溢れる…フハハハハハ!!』 「うわぁぁぁぁ!! 白い悪魔が本物の悪魔になったぁぁ!!」 恐怖の余り腰が抜けてしまったコソロドであったが、デビルに憑かれたなのは… いや、デビルなのはは右手を軽く上げ、正面を指差した。 その直後である、デビルなのはの指先から極太の魔砲が放たれ、正面の分厚い壁を 容易く貫き、さらにその向こう側まで完全に吹き飛ばされていた。 『フハハハ! 素晴らしい! 素晴らしい力だ! これならば…奴に復讐する事が出来るぞ!』 「アワワワワワ…。」 恐怖が限界に達して完全に失禁していたコソドロを尻目にデビルなのはは壁に空いた 風穴を通って何処へ飛び去ってしまった。 一方、管理局内では大パニックになっていた。 「一体何が起こったんだ!?」 「ロストロギアを盗み出そうとした不法侵入者を高町隊員が取り押さえようと した所、そのロストロギアに封印されていたアストラル生命体が解放されてしまい、 高町隊員の身体を乗っ取ってしまった物だと思われます!」 「なんだって!?」 「本日高町隊員が回収して来たロストロギアに封印されていたアストラル生命体は 乗っ取った生命体を怪物へ変貌させ操る事が出来る様子です!」 「何とかして取り押さえろ!」 「既にやっていますが…押されています!」 「何!?」 「構うな! 撃てぇ!」 管理局の武装隊が一斉にデビルなのはに向けて魔砲を発射した。しかし…全く通用していない。 『フフフ…無駄だ…。次はこちらの番だな…。デビルレイジングハート!』 デビルなのはがデビルの力によってグロテスクに変質したレイジングハート 「デビルレイジングハート」を振り上げた。 『デビルディバインバスター!』 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」 デビルレイジングハートから放たれる漆黒の魔砲はあっと言う間に 武装隊を飲み込み、全滅させた。本来のなのはの魔砲はピンク色だが、 今は違う。デビルの力によって魔砲の色もどす黒く変質していたのである。 そしてデビルなのはが向かう先にはアースラがあった。 『なるほど…この艦は次元を飛び越えて様々な世界を行き来する事が出来るのか… 面白いな…では…この艦も使わせてもらう事にしよう…。』 デビルなのはがアースラに手を当てた直後、アースラにもデビルの力が送り込まれ グロテスクに変質。デビルアースラとなってしまったのである。 『さあ行け! これで元の世界に戻るのだ! そして…この力で奴に…クロに復讐する!』 ユーノとフェイトが駆け付けた頃には既に管理局はデビルなのはによって破壊され、 アースラも奪われてしまった後だった。 「な…なんて事…。」 「ひ…酷い…。なのは…何故こんな事を…。」 「いや違う…なのは本人に非は無い。なのははロストロギア内に封印されていた アストラル生命体に身体を乗っ取られているだけなんだ。」 「え?」 管理局の惨状に呆然とするユーノとフェイトの前にクロノが現れ、そしてさり気なく あの騒ぎの中でも生き延びていたが、結局逮捕された名も無きコソドロが突き出される。 「悪いのはこいつ等だ。こいつ等がロストロギアを盗み出そうとした為に あのロストロギアに封印されていたアストラル生命体が解き放たれてしまった。」 「え!? アストラル生命体!?」 「ああ。しかもあのアストラル生命体の力は想像以上の物だった…。 生物無生物に関係無く、物質世界のあらゆる存在を乗っ取る事が出来る様だ。 現になのは本人だけじゃない、彼女のレイジングハートや挙句の果てにはアースラさえも 奴の力によって乗っ取られ、おぞましい姿に変質させられてしまった…。」 「レイジングハートやアースラまで!?」 「それで…なのはを乗っ取ったアストラル生命体は…。」 「アースラを乗っ取った後…あのロストロギアのあった元の世界へ行ってしまった。 今動ける他の次元航行艦を探しているが、一刻も早く奴をなんとかしないと大変な事になる。」 「なのは…。」 ユーノもフェイトもなのはの身を案じていた…。 前へ 目次へ 次へ
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…此処は南地区アルトセイムから離れた地方、街並みは炎と煙に包まれ 至る所に瓦礫やガジェットの残骸が犇めき、管理局員の必死な救護活動が行われている上空では カノンの猛攻により体力を削られ、肩を寄せ合うように対峙するオットーとディードの姿があった。 リリカルプロファイル 第三十二話 次元戦 二人の目先にはカノンが勝利を確信している為か高笑いを浮かべていた。 戦況は二人の劣勢、カノンは広域攻撃型と謳ってはいるが、 その高い魔力は攻・防にも起用しており、万能型と言っても過言ではない程の実力を持っていた。 「さてと…そろそろ終わりにするかぁ!!」 そう言ってカノンは左手を向けるとディードが飛び出し、オットーは右手を向けてレイストームで援護 だがカノンはそのままプロテクションを広げ、ディードのツインブレイズを受け止めつつ更にレイストームを辺りに四散させる。 そしてサンダーストームをディードに向けて撃ち抜き、更にオットーまでを巻き込みその身を貫く。 二人は絶叫を上げている中でオットーはレイストームを応用したバリアを発動、 カノンの攻撃に耐え抜こうとしていたが、カノンは更に追い討ちとばかりにエクスプロージョン撃ち放ち バリアは一瞬にして砕け散り周囲は二人を中心に炎と雷に覆われ、下に広がる街並みに到達する程であった。 そして攻撃が止むと中央では二人が必死な形相で睨み付けている中で、 カノンは止めとばかりに手を向け、二人は覚悟を決めたかのように互いを庇い合う。 しかし次の瞬間、カノンの右側から赤い光が現れカノンを吹き飛ばし道路へと激突させる、 そしてカノンが佇んでいた場所には赤い光の正体、ヴィータが姿を現していた。 ヴィータは局員達の要請を受け此処へ急行したところ、 エインフェリアを発見、すぐさまラテーケンハンマーを打ち込んだのだ。 しかしナンバーズまで居たのは予想外であり、ヴィータはナンバーズを睨みつけていると 道路から激しい爆発音と共に魔力を感知、目線を向けると雄叫びを上げるかのようにカノンが魔力を放出していた。 「なんだぁ!!人の楽しみを邪魔しやがって!!!」 「チッ!全然効いてねぇみてぇだな」 ヴィータは一つ舌打ちを鳴らし睨みつけていると、カノンは左手を向けて アースグレイブを唱え地上から大量の岩の刃が襲いかかる。 ヴィータはフェアーテを用いて次々に交わしていく中、 オットーとディードは先程のダメージが未だ抜けきっていないせいか、動きが鈍く オットーの右肩に岩の刃が掠り血が流れ、ディードはツインブレイズにて迎撃を行うも 対処しきれず、幾つか攻撃を受ける状態が続いていた。 その姿を目の当たりにしたヴィータは、二人の下へ移動すると 巨大なパンツァーシルトを張り、岩の刃を次々に防いでいった。 「何故…助ける?」 「知らねぇよ!体が勝手に反応しちまったんだ!!」 助ける理由なんて無かった、相手はあのナンバーズである、 だが二人の必死な行動を見てついつい体が動いてしまった、 ヴィータはそう答え頬を掻き始めると、カノンが上空へと上がりヴィータと対峙する。 「貴様…そんな人形を庇うとはな!!」 「んだと?テメェだって似たようなもんだろうが!」 「ほう?それを言うなら貴様とて主に作られた“道具”であろう!」 カノンの言葉にナンバーズは無表情ながら拳が震える程握りしめていると ヴィータもまた目を蒼くして激怒の表情を浮かべる。 奴、カノンは自分の事を道具だと罵った、嘗てのヴォルケンリッターであれば聞き流す、若しくは肯定すら出来る言葉であるが、 今の彼等ははやてを護る守護者にして家族である、それははやて自身が望んだ繋がり、 それを三賢人の“道具”とも言えるエインフェリアに言われる、しかも蔑むかのように… カノンが放った言葉はヴィータの神経を逆撫でるには十分であり、 グラーフアイゼンでカノンを指し睨みつける。 「テメェはぜってぇバラす!!」 「お前一人で何が出来る!」 未だ余裕の顔を浮かべているカノン、するとヴィータの両隣にオットーとディードが寄り始め ヴィータは警戒すると二人はカノンを見つめ構え始める。 「お前ら…何のつもりだ!」 「助けてくれた恩は返す……」 小さく囁くかのようにディードは言葉を口にすると、同じく小さく頷くオットー。 その姿に少し戸惑うも軽く笑みを浮かべ、カノンと対峙するヴィータであった。 一方次元海ではクロノ率いるクラウディアチームがドラゴンオーブ目指して航海していた。 すると前方から多数のアインヘリアルが姿を現す、どうやら護衛はエインフェリアだけでは無いようである。 クラウディアは砲撃による迎撃を行うも対象が小さい為、思うように迎撃をする事が出来なかった。 其処でクロノは足場を作るように指示、そして結界・フィールドを応用した足場を作り上げると クロノを先頭にロウファ、ジェイクリーナス、那々美が表に出て相手をする事となった。 戦況はクロノの優勢、次々にアインヘリアルが落とされていき順調に航海していく中で オペレーターである夢瑠から連絡が入る、それは前方から強力な魔力が二つ現れたというものである。 それは十中八九エインフェリアであると考えたクロノは警戒を促していると 二つの内の一つから巨大な魔法が放たれた事を確認、すぐさまクラウディアはバリアを張り巡らせ対処 暫くすると巨大な魔法がクラウディア全体を飲み込み、周りに纏わりついていたアインヘリアルが次々に爆発 クラウディアはなんとか攻撃を防ぎきると、目の前には杖を向けたイージスと杖を持ち見つめるミトスの姿があった。 「ほぅ…あの攻撃を防ぐとはな」 「どうやら一筋縄では行かぬようだ」 ミトラは顎に手を当て答える中、クラウディアは引き続き目的の対象である二体へと進路を向け クロノは作戦を練り上げながら二体を睨みつけていた、 するとクロノの存在に気が付いたイージスが見下ろす感じて見つめ話しかけてくる。 「ほぅ?かつての“上司”も来ていたとは……」 自分の手でかつての上司を葬る、それはそれで一興であると笑みを浮かべながら述べ その態度にロウファが前に出て反論しようとしたところ クロノに肩を掴まれ小さく頭を横に振ると、今度は不敵な笑みを浮かべ述べる。 「ふっ…そうだな、ならばかつての“上司”として…馬鹿な“部下”の後始末をしないとな!!」 そして…不本意ではあったがエインフェリアを率いていた自分との決着を付ける、 そう決意ある瞳で睨みつけ答えていると、“部下”であるロウファ達が 自分達も一緒にケジメを付ける、自分達はクロノ提督の“部下”であると話し “部下”達の計らいに嬉しく感じ、一人では無い事を再確認したクロノは 改めてエインフェリアと対峙し決着を付ける覚悟を決めた。 先ずクロノが先手とばかりにスティンガーレイを撃ち抜く、 その数は50を上回っており四方を埋め尽くすかのように迫るが ミトラとイージスはバリアを張って此を防ごうとした、だがクロノは更に追撃し その数を増やすと二体は四方に飛び回りスティンガーレイを回避していく、 すると今度はジェイクがレストレインフレイムと呼ばれる魔力矢を撃ち放ちクロノの魔力弾に接触すると 連鎖的に爆発、流石の二体もこの猛攻に耐えきれず、飛び出すかのようにクロノ達に接近する。 「今だ!夢瑠!!」 「了解で~す!」 そう言って夢瑠はボタンを押すとクラウディアの周囲に結界が張られ エインフェリアを結界内に閉じこめる事に成功した。 「これでもう逃げ場所はないぞ!」 「…それは此方の台詞だ、我々を閉じこめた事その身で後悔するがいい!!」 ロウファの言葉にミトラが答え不敵な笑みを浮かべると、第二幕が開始される。 先ずはクロノとジェイクが先手を打ち二体に向けて魔力弾を撃ち込む 次に那々美からストライクパワーとアクセラレイターの ツインブーストを受けたロウファがミトラに向かい接近戦を仕掛けるが ミトラはバリアを張り攻撃を防ぐ、するとロウファの持つデバイス、ドラグーン・タイラントから 二発薬莢が排出されると、先端の刃が魔力に覆われ始め強化させると力強く振り下ろし ミトラのバリアを打ち砕く、だがミトラは杖を向けて直射砲を撃ち抜きロウファを吹き飛ばした。 一方でイージスもまたロウファに追い討ちを仕掛けようとしたところ、 魔力矢が襲いかかり出鼻を挫かれイージスは見下ろすと、 其処にはボーガン型のデバイスを向けていたジェイクの姿があった。 「貴様の相手はこの俺だ!」 「おのれ人の分際で!なめるな!!」 イージスは簡単にジェイクの挑発に乗り、杖を向けて魔力弾を発射 その数は20を上回り更には誘導性も含まれている為か、吸い込まれるかのようにジェイクに襲いかかる。 イージスの攻撃が迫る中、ジェイクはカートリッジを一発消費させて、ディジーズニードルと呼ばれる魔力矢を複数撃ち出し迎撃すると 那々美がブーストアップ、バレットパワーをジェイクにかけ、それにより威力を高めたレストレインフレイムを撃ち放つ。 するとイージスはバリアを張り対処しようとしたが、レストレインフレイムがバリアに触れた瞬間、大爆発を起こす。 それを目撃したミトラはイージスの援護に向かおうとしたところ、復活したロウファに足止めを食らう。 一方でクロノはイージスを先に仕留めるとばかりにスティンガースナイプを撃ち出すが イージスはバリアを張りつつクラウディアに目標を定め、ジェイクごと消し去ろうと強力な魔力砲を撃ち抜く、 しかし那々美のオーバルプロテクションによってクラウディア全体を包み込みイージスの魔力砲を四散化させた。 するとオペレーターである夢瑠から驚きの一報がクロノ達の耳に届く。 それは先程、ドラゴンオーブの砲撃により、ミッドチルダ南地区アルトセイム地方が消滅したという知らせである。 つまりこれはドラゴンオーブの攻撃を五発受けた事になり崩壊まで残り二発となった事を意味する。 事態は急を要する、此処でいつまでも足止めを食らっている訳には行かない、 早急にエインフェリア達を殲滅しなければならない、其処でクロノは念話を使って作戦を提案、 メンバーはそれぞれ頷くとクロノの指示の下攻撃を開始する。 先ずはロウファがミトラを足止め、その中でクロノはイージスの牽制に務めていた。 一方でジェイクは那々美からブーストを再度掛けて貰うとカートリッジを三発消費 デバイスをイージスに向けて構え足下にはミッド式の魔法陣が広がっていた。 それを確認したクロノはイージスがジェイクを気付かないように此方に注意を逸らしながら誘導 そして絶好のタイミングを見計らってジェイクは攻撃を仕掛けた。 「これが!俺の最高の技だ!」 次の瞬間、デバイスから高速の矢が放たれイージスに当たる度に爆発、 更にその爆発により舞い上がりながら、尚ジェイクは撃ち抜いていく。 そして止めとばかりに最後の矢に全魔力を乗せて狙いを定める。 「奥義!ギルティブレイク!!」 撃ち抜かれた最後の矢は吸い込まれるかのようにイージスに迫り見事に頭を打ち抜くと 先程以上の大爆発を起こし、イージスは頭部を失い力無く落ちていき爆発したのであった。 「おのれ!貴様よくもイージスを!!」 仲間をやられ怒りに満ちた表情を浮かべる中でジェイクは続けて魔力矢を発射、 しかしミトラはバリアにて攻撃を受け止めていると、 ロウファが那々美の下に駆け寄りブーストアップ、フィールドインベルドとストライクパワーを指示、 那々美はロウファにツインブーストを掛けるとすぐさまミトラに迫りカートリッジを三発消費する。 「この一撃ですべてを断つ!!」 ロウファは持っていた槍型デバイスでミトラに攻撃、ブーストの効果もあってか簡単にバリアを砕くと、 引っかけるように引きずり見回し最後は強力な魔力の竜巻を起こす。 「奥義!ジャストストリーム!!」 ロウファが起こした竜巻はミトラの身を切り刻みながら上っていき結界を破壊、 更に立ち上り次元海に放り出されるのであった。 しかしミトラは未だ起動しており、持っていた杖をクラウディアに向け構えると 足下に巨大な魔法陣を広げ詠唱を始める、それを目撃したクロノもまた足下に魔法陣を広げ詠唱を始める。 「虚空を伝う言霊が呼び覚ませしは…海流の支配者の無慈悲なる顎門!!」 「悠久なる凍土…凍てつく棺のうちにて永遠の眠りを与えよ!凍てつけ!!」 互いに強力な広域攻撃魔法の準備が整うと躊躇う事無く撃ち抜く。 「ダイダルウェイブ!!!」 「エターナルコフィン!!」 そしてミトラが放ったダイダルウェイブは水流が竜を象り襲いかかる中で クロノのエターナルコフィンは周囲を白銀に染め上げ吹雪くとダイダルウェイブと激突 激突した場所ではエターナルコフィンがダイダルウェイブを凍らせ、 ダイダルウェイブがエターナルコフィンを押し返すという状況であった。 戦局は五分と五分に見える状況であるが、徐々にではあるが確実にクロノが押し始めていた。 そしてみるみるうちにダイダルウェイブが凍り付きミトラの目前で一気に勢いを増し、 巻き込むようにして凍結、ミトラはダイダルウェイブごと氷のオブジェと化した。 「…砕け散れ!!」 クロノは一言呟きスティンガーレイで氷のオブジェを破壊する、 そして感傷に浸る暇もなく夢瑠にエインフェリアの撃破を伝え 夢瑠は本局に打診する中でクロノ達は何事も無かったかのようにクラウディアへと戻るのであった。 時間は遡りクロノ達がエインフェリア撃破する前アルトセイムが消滅した頃、 その一報を本局から伝えられたはやては、流石に焦りの色を見せていた。 そして目前にはエインフェリアの一体、リリアが不敵な笑みを浮かべて対峙している。 今現在はやては、リリアと戦闘を行っており、戦況は互いに実力を探るかのような状況であった。 しかしドラゴンオーブの第五射により地表の振動は更に増し、海も荒れ果て、空は曇天と化し、 これ以上の状況の悪化は防がなければならない、先ずは目先の問題から片づけよう。 そう判断したはやてはシュベルトクロイツをリリアに向け宣言する。 「…んじゃまぁ、時間も無いちゅう事でサクサクと終わらせたるわ!」 そう言うなり体から大量の魔力が溢れ出し、シュベルトクロイツを剣に変えると 両足にフェアーテを纏い背中のスレイプニールを羽ばたかせ一気に加速 瞬時にリリアの背中を捕らえると一気に振り下ろし、背中をバッサリと斬りつける。 余りにもの一瞬な為か驚きの表情と共に振り返ると既にはやての姿は無く、 寧ろ後ろをとられており、剣からハンマーに切り替えたシュベルトクロイツが容赦無くリリアの右こめかみに直撃する。 そして吹き飛ばされるリリアであったが、弓型デバイスをはやてに向けエイミングウィスプと呼ばれる聖属性の誘導弾を撃ち出す、 しかしはやてはプロテクションとパンツァーシルトを合わせた二重魔法障壁を発動、エイミングウィスプを防ぎきった。 「くぅ!話と違うじゃないか!!」 「残念やったな、もう今までの私とは違うんよ」 吹っ切れ真の夜天の王となったはやての実力は、既にエインフェリアでは相手にならない程までに至っていた。 故に不敵な笑みでリリアを見上げる中、シュベルトクロイツをハンマーから剣に戻し 刀身を炎で纏うと飛竜一閃を撃ち払い、リリアに攻撃するとリリアはバリアを張り攻撃を受け止める。 するとはやては更に魔力を込め威力を高めるとリリアのバリアは砕け、リリアは腹部に大きな風穴を空ける。 更にリリアの目の前に移動するとシュベルトクロイツを杖に変え左から右に振り払い 続いて右から左下へと振り下ろし、下から上へ振り上げ、リリアを高々と吹き飛ばし そのまま杖を向けると魔法陣を広げ詠唱、投射面にはミッド式の魔法陣の姿もあった。 「此で仕舞いや、かませ犬」 そしてはやてはフレーズヴェルグを撃ち出し、リリアはまるで蒸発するかのように消滅した。 はやての圧倒的な強さに地上の局員が唖然としている中、それに気が付いたはやては急かすように窘め 局員達は急くように行動を開始、それを確認したはやては小さく頷くと ユニゾンしているリインが魔力を感知したとの知らせが入り はやては早速その方面に目を向けると、其処には決して忘れる事が出来ない人物の姿があった。 「アイツは…レザード!!」 どうやらレザードの行き先はヴァルハラの様で、 まさか三賢人と手を組むのではないのか不安を感じたはやては 現場を他の局員に任せ、気付かれないようこっそりと後を追うのであった。 場所は変わり廃ビルの中では手を組んだティアナとウェンディがリディアと対峙をしていた。 その中でティアナはウェンディに作戦と指示を与える、 だが当のウェンディはふてくされた顔をする、どうやら仕切られるのが不満なようである、 だがティアナは全く気にかけない様子を表していると、リディアがスターダストと呼ばれる四発の強力な衝撃波を発射、 二人は左右に飛び回避、剥き出しの柱を背にすると、 ウェンディが柱から飛び出しエリアルショットを撃ち抜き牽制、 しかしリディアはフレークフラップと呼ばれる魔力の散弾で迎撃 更に攻撃を加えウェンディに迫る中、ウェンディはライティングボードを盾にして攻撃を防ぐ。 ウェンディがリディアの相手にしている頃、ティアナはリディアの後ろに回り込もうと移動していた。 だがそれに気が付いたリディアが振り向き、フレイムシュートと呼ばれる炎の矢を撃ち抜くが ティアナは飛びかかるかのように柱に逃げ込み、フレイムシュートが撃ち抜かれた場所は大きく穴を空けていた。 そしてリディアはティアナが隠れた柱に狙いを定めフレイムシュートを撃ち抜くと 覚悟を決めたかのようにティアナが飛び出し、後方では撃ち抜かれた柱が砕ける中、 手にはダガーモードに切り替えたクロスミラージュが握られており、リディアに迫る。 しかしリディアは冷静に対応、弓をティアナに向けて魔力矢を撃ち抜き直撃する、 …だが、ティアナは陽炎のように消え去ると、幻影のすぐ脇からオプティックハイドを解除し 手にはダガーモードを握った低姿勢のティアナが下から上に突き刺すように襲いかかった。 流石のリディアも此には驚きの表情を隠せないでいたが、ティアナの攻撃が直撃する刹那 弓を盾にして間一髪ティアナのダガーを防ぎ、更にティアナの鳩尾辺りを右足で蹴り飛ばす。 その衝撃はティアナが直撃した床にひびが入る程に強く、ティアナはその場にて痛みと苦しみに動けないでいると リディアは冷静さを取り戻し、弓を向け先程と同様フレイムシュートを撃ち出そうとした、 だが次の瞬間、ティアナの後方からウェンディが対消滅バリアを張ったライティングボードに乗ってリディアに迫り リディアは咄嗟に左に回避、脇腹を掠める程度に終えるとウェンディに切り替えて矢を放つ。 しかしウェンディはライティングボードの面の部分をリディアに向けて攻撃を防御、 更に滑り込むように進みティアナに近づくと手を差し出す。 「ティアナ!早く乗るッス!!」 するとティアナは差し出された手を握りウェンディの背中にしがみつくと、 ウェンディはライティングボードを走らせ、更にフローターマインをばらまき廃ビルを脱出 そのまま高々と上空に上がり廃ビルを見下ろした瞬間、廃ビルが爆発した。 「……器物破損ね」 「今はそんな事言ってる場合じゃ無いッスよ!!」 あくまでも冷静なティアナに対しウェンディはつっこんでいると、破壊された廃ビルの中からリディアが姿を現し見上げていた。 そして弓をこちらに向けるとカートリッジを二発消費、バスターシュートと呼ばれる完全威力重視の魔力矢を撃ち放つ。 バスターシュートは見る見るうちにウェンディに迫り、ライティングボードに直撃、 その衝撃に体を揺さぶられている中でリディアは大量のエイミングウィスプを撃ち放つ。 「ウェンディ!避けて!!」 「合点承知ッス!!」 そう言ってライティングボードを縦横無尽に走らせ、アクロバティックにエイミングウィスプを回避していく それを見たリディアは更にエイミングウィスプを追加、 するとウェンディは急降下して廃ビルの間を縫うように進むが、 未だ多くのエイミングウィスプが追いかけてくる状況であった。 「くぅ!振り切れないッス!!」 「ウェンディ、そのままの速度を維持して」 そう言うとティアナは後ろを向きクロスミラージュを構えると魔力弾を撃ち放ち、 追ってくるエイミングウィスプを次々に撃ち落としていく、そして全てを撃墜させたティアナは前を向き ウェンディは横目で見ながらもティアナを賞賛していると、狭い廃ビルの出口に差し当たる場所に、リディアが待ち構えていた。 どうやら今までの攻撃は此処に誘導させるものであったようだ。 既に出口を塞がれ逃げ場のない状況の中、ティアナはウェンディに対消滅バリアを前方に集め更に加速するように指示 ウェンディは早速前方にまるで両刃のような対消滅バリアを張り更に加速、 そしてウェンディの後ろではティアナがカートリッジを二発消費してクロスミラージュを構えていた。 そしてリディアからスターダストやフレークフラップなどが撃ち放たれる中 ティアナはバリアブルシュートやクロスファイアなどで迎撃、次々に相殺させながら接近すると リディアはシールドを張りライティングボードの先端の刃がバリアと接触する、 だが完全に受け止める事は出来ず弾き飛ばされたが、体勢を崩したまま反撃 バスターシュートを撃ち抜き、二人に迫ってくる。 「どっどうするんッスか!?」 「任せて!」 慌てるウェンディに対し力強く答えるとエクストラモードを起動、 ティアナの黒いリボンが白く十字の部分は緑に染まり、バリアジャケットもまた同じく緑色に染まり始め、 クロスミラージュは白く輝き、更に周囲には光り輝く粒子を纏っていた。 そして立ち上がりバスターシュートと対峙するとクロスミラージュを平行に構え 白く輝く粒子エーテルが集まり出し強力な直射砲、サンダーソードを撃ち出しバスターシュートを相殺 更にはリディアの下へと迫りリディアは右へと回避、難を逃れた。 「チッ!外したか…」 「…つうかティアナ、その姿はなんなんッスか?!」 急激に魔力が高まり姿も変わったティアナに質問を投げ掛けるが ティアナは「パワーアップよ」と一言だけ答えリディアに目を向けると、 リディアもまたティアナの変貌に驚いた表情を浮かべていた。 しかしすぐに冷静さを取り戻し弓を向けるとティアナは次の作戦を指示、 ティアナはリディア目掛けてライティングボードから飛び降りると リディアが迎撃とばかりにフレークフラップを撃ち出す、 だがティアナはクリティカルフレアと呼ばれるエーテルの散弾を撃ち出し相殺 強烈な光が二人の間を分かち、リディアは目を凝らす中で ウェンディは前方に対消滅バリア製の刃を張ったライティングボードを振り下ろす しかし難なく避けられ寧ろ攻撃を仕掛けられそうになるが、 ティアナが援護に入りリディアの出鼻を挫くと、ウェンディはエリアルキャノンを撃ち抜きリディアを吹き飛ばす。 しかしリディアはゆっくりと起きあがりティアナに攻撃を仕掛けてくると ウェンディが盾となり攻撃を防御、ティアナはエーテル製のクロスファイアを撃ち抜くが、エイミングウィスプにて撃破される。 正面では此方の攻撃は撃墜されてしまう、つまり不意な攻撃でないと倒すことが出来ない… そうティアナが呟きながら考えているとウェンディから一つの提案を持ちかけられる。 「そんな!それじゃあアンタが!!」 「大丈夫ッス!なんせ私は戦闘機人何ッスから!!」 そう言って胸を張るウェンディ、ティアナは暫く考えその提案に乗ると早速作戦を実行する。 「頼むッスよ!ティアナ!!」 「…ティアでいいわ」 親しい人物からはそう呼ばれているとウェンディに目を合わさずに ティアナは答えると、ウェンディは喜びに満ちた表情で返事をし、 二人はライティングボードに乗りリディアの頭上を旋回、 その中でリディアは幾つかの攻撃を仕掛けていくとライティングボードが急降下 真っ直ぐリディアに迫り先端には刃が作られており、ウェンディ・ティアナの順に並び身を屈めていた。 だがリディアは臆することなく攻撃を仕掛け続けライティングボードはリディアに接触するか否かの瀬戸際の場所を通り抜け リディアは過ぎ去ったライティングボードに仕掛けようとしたところ、 後方に乗っていたティアナがリディアを通り過ぎるタイミングを見計らって飛び降りていたらしく、 右手に持っていたダガーモードのクロスミラージュでリディアを斬りつける。 ティアナの攻撃によりリディアは左上から右下にかけて大きな切り傷を付けられたが リディアは報復とばかりにティアナに向けてバスターシュートを撃ち抜く そしてバスターシュートがティアナに触れた瞬間、ウェンディへと姿が変わり驚く表情を浮かべるリディア。 「ヘッ…私達の作戦勝ちッス!!」 そう言って勝利を確信した表情を浮かべながら地面へと落下していくウェンディ そしてリディアの後方からライティングボードに乗りウェンディの姿を解除したティアナが、 右手にダガーモードのクロスミラージュを握り締めリディアへと接近 リディアはとっさに魔力矢を放つがティアナの右こめかみ左頬と肩をかすめる程度に終わり 寧ろライティングボードの刃が腹部に突き刺さり更にティアナの渾身の一撃がリディアを首を捕らえ跳ねた。 ティアナの幻術によりお互いの姿を変えウェンディに ダガーモードのクロスミラージュを一本渡す事で成立した作戦は成功したのであった。 その後…ティアナはウェンディの下へ駆け寄り様態を調べ医療チームに連絡 暫くしてマリーと共に医療チームが到着し、ディエチとウェンディを搬送する。 その中、タンカーに運ばれているウェンディがティアナの名を呼びティアナはウェンディに駆け寄った。 「私達…敵同士だったッスけど……親友ッスよね?」 「…………えぇ」 ティアナは小さく頷き答えると、安心したのかゆっくりと目を閉じ運ばれるウェンディ そして搬送を見届けたティアナはスバルの身を案じ、その場から立ち去るのであった…… 前へ 目次へ 次へ
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仮面ライダーリリカル電王sts第八話 「白き魔王と紫の狂人」 ここは機動6課訓練用フィールド。普段は前線フォワード部隊の訓練に使われるスペース。しかし、今はその場を闘気、いや殺気が支配していた。 放つは中央にたたずむ一組の男女。 片や、エースオブエースと呼ばれし管理局最強の魔導師、白き魔王高町なのは。 片や、狂わんばかりの殺気に包まれし時を駆ける仮面の戦士。紫の狂人、仮面ライダー電王Gunform。 見守りし者は皆、動かない。いや、動けない。それほどの殺気に包まれていた。 もはや、この場に言葉は不用。始まるは全力全開の真剣勝負。 先に仕掛けたのは電王の方であった。デンガッシャーから連続して放たれるエネルギー弾。それは狙いなどつけていない乱射であった。 しかし乱射は時に効果的である。それは、空中軌道の制限。だが、なのはには通用しなかった。 片手を上げると障壁で全て受け止めたのだ。 「へぇ、やるじゃん」 「でも、これからだから。お話、聞いてもらうよ」 「じゃあさ、これならどお?」 電王がそう言った瞬間その周囲に六発ほどの魔力弾が現れたのだ。その魔力弾を見た時、なのはは少し驚いた。それは、よく知る者の魔法。 「これって…」 「そうさ、これはティアナお姉ちゃんの魔法!いくよ、クロスファイヤァーシュート!」 放たれる魔力弾。そろはもの凄い誘導弾。なのははその凄さを知っている。 だからこそ正面から受けるのだ。なのはの周りに十発ほどの魔力弾が現れる。 「アクセルシューター、シュート!」 二色の誘導弾は互いを撃ち落とし、残った物も次々と撃ち落とされた。 爆煙で視界が封じられるが、煙が晴れるとこちらに銃口を向ける電王。 収束する魔力。放たれる魔法。 「ファントムゥ、ブレイザァー!」 「グッ、まだ!」 避けるなのは、追う電王。お互いに退かない、いや退くわけにはいかない訳がある。 なのはは、自身の全力を叩き込むことにした。 「いくよ、レイジングハート…」 『Exceed mode.』 その瞬間、お互いに示し合わせた様に集まっていく力。 あるのは、全力での砲撃勝負のみ! 「最後いくよいい?」 「これが終わったらお話聞かせて…」 「答えは聞いてない」 互いにレイジングハートとデンガッシャーを向けるなのはと電王。パスは既にセタッチされていた。 『full charge』 「ディバィィン…」 「いけぇぇ!」 「バスタァァー!」 桜色の閃光と紫の光弾がぶつかりあう。単純な力の勝負。 しかしそれは長くは続かなかった…。徐々に光弾は閃光に呑まれ消え去った。 「ごめん…、ティアナお姉ちゃん。倒せないや」 「リュウタロスゥゥ!」 ドギャアアァァ 閃光に包まれる中、電王は呟き、ティアナは叫んだ。 模擬戦が終わり、ここはラウンジ。R良太郎は、只一人、落ち込んでいた。そこに近づく影が一人。 「落ち込んでんの?」 「ティアナお姉ちゃん…」 「な~んで、そこまで落ち込んでの。相手はあのなのはさんよ?勝てる方が少ないわ」 「だって、ティアナお姉ちゃんに酷いことしたんでしょ?何で、そんなに」 ムスッ、としてるR良太郎を見て、ティアナは少し前の話をした。 「私ね、以前無茶な特訓をして、なのはさんに怒られたんだ。自分の命も考えないような無茶な特訓」 「何で、ティアナお姉ちゃんはそんなこと」 「力が欲しかったのかな。私にはね、兄さんがいたの…」 語られたのはティアナが力を求めた理由。 ティアナの兄、ティーダ・ランスターは管理局に所属する魔導師であった。 ある時、彼は逃走中の違法魔導師を追跡していたところ、殉職したのだ。ティアナは悲しんだ。 しかし、上司の放った一言のせいで彼の死は不名誉な死となってしまったのだった。 それからだ。ティアナが力を求めたのは。 ランスターの魔法を認めさせる。その為にティアナは力を求めた。 そして、スバルと出会い機動6課へと配属された。 しかし、ティアナは、その中で自分の才能のなさに劣等感を覚えてしまった。強くなった事にも気付かずに…。 「そのせいか、無茶苦茶な特訓をしちゃったんだ。で、なのはさんに撃墜されて…」 「じゃあ僕が見たのは…」 「そっ。その後、なのはさんに反抗して、でもシャーリーさんが教えてくれたんだ、なのはさんの過去」 その過去とは、なのはが自らの無茶のせいで撃墜され、大ケガを負ったということ。 なのはは自分の教え子には無茶をして欲しくなかったから実力のつく教導をしていたことを。 「だから、私は恨んでない。逆に感謝してるかもしれない。だから大丈夫だよ、リュウタロス」 そう言って、ティアナは優しく微笑んだ。 「ティアナお姉ちゃん!」 「うわっ」 R良太郎はいきなりティアナに抱きついた。そして、こう呟いた。 「ごめんね、ティアナお姉ちゃん…。ごめんね…」 「大丈夫、大丈夫だから」 「グスッ、ウワァァァン!ウワァァァン!」 「ホラホラ、ちょっと泣かないの」 ティアナの胸に顔を埋めながら、泣きじゃくるR良太郎。それを、優しく慰めるティアナ。 それはさながら、姉弟のようであった。その様子を見守る影が二つ。それは、なのはとスバルであった。 「もう心配ないみたい」 「そうですね。それにしても、ティア、すっかりお姉ちゃんですね」 「二人共、そこで見てないでこっちに来て下さい。」 「やっぱ、バレてた」 「バレバレ、あんたがいるところが分かんない方がおかしいわ」 「ムウゥ、ティアのイジワル」 「あの、その…」 「いいよ。私も、やり方が悪かったの分かってるし」 「ごめんなさい…。あと、えっとお願いしてもいい?」 「うん、なに?」 「なのはさんの事もお姉ちゃんて呼んで良いかな」 「え、えぇぇ!」 「良いじゃないですか!ねっ!」 「そうかなぁ。じゃあいいよ」 「わ~い、やったぁ!なのはお姉ちゃ~ん!」 「ヒャアァッ!」 なのはに抱きつくR良太郎。 心はリュウタロスでも身体は十代後半の少年。さすがのなのはも、少し戸惑っていた。 「エースオブエースも形無しやな」 「にゃはは、はやてちゃ~ん」 その場に通りかかったはやてがなのはをおちょくっていた。 「ティアナお姉ちゃんも!」 「ちょ、ちょっとやめなさいって!」 「お姉ちゃん達、二人共だ~い好き!」 「にゃはは…」 ハニカムような二人の笑顔と眩しいばかりに微笑むR良太郎。 しかし、平穏な時は長くは続かなかった。 「フッ、呑気なもんだな」 ラウンジが見える林の中、右手のライフルを構えているのは、以前Rティアナに倒されたオウルイマジン改と同型の改造種オウルイマジンR。 「ここで消えてもらうぞ、電王!」 スコープの先には、R良太郎の姿が。 オウルイマジンRが狙っている時、ティアナは林の一点が光るのが見えたのだった。 「リュウタロス、危ない!」 そう言って自らの身を投げ出すティアナ。 そして、 『チュンッ!』 「あ、クッ!」 「ティアナお姉ちゃん!」 「ティアナ!」 「ティア?ティアァァ!」 ティアナはR良太郎を庇い撃たれてしまったのだ。 「ティア、ティア!お願いしっかりして、目を開けて!」 「早く、誰か、シャマルを呼んで来て!早く!」 「お姉ちゃん、ねぇしっかりしてよティアナお姉ちゃん!」 「仕留め損なったかまぁいい、全員死ね!」 林から飛び立ち目の前に着地し、宣言したオウルイマジンR。 「許さない、許さない!」 「待って、スバル」 「何で、止めるんですか、なのはさん!」 「お願い、スバルちゃんは下がっててよ…」 「リュウタロスも!何で!」 「お願い!」 納得しない様子で下がるスバル。 なのはとR良太郎はオウルイマジンRの元へと歩き始めた。 「許せない、ティアナにこんな酷いことを」 「許さない、ティアナお姉ちゃんを苦しめたから!」 なのははレイジングハート、R良太郎はベルトを腰にセットしフォームスイッチを押した。 オウルイマジンRは恐れた。その後ろ姿には白と紫の二匹の龍の姿があったのだから。 「変身…」 「セットアップ…」 瞬時に変身した二人はレイジングハートとデンガッシャーガンモードを向けた。 そして、二人同時にその言葉を放った。 『お前、倒すけどいい?』 「な、なにを!」 『答えは聞いてないけど』 次回、ミッドチルダに二つの龍と蒼き騎士が舞う。 次回予告 スバル「倒れてしまったティア。怒りに震える私達」 はやて「全ての怒りを乗せて今、二匹の龍が舞う」 スバル「次回、仮面ライダーリリカル電王sts第九話「ドラゴンズ・ダンス」 はやて「お楽しみに…」 なのは 電王『倒すけどいい?答えは聞いてないけど』 戻る 目次へ 次へ
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《ミッドチルダに住む人々よ!今この地は未曾有の危機に直面しておる!!》 《先日起きた地下水路崩壊も然り!そして諸君らの記憶にも新しいアグスタ襲撃も然りじゃ!!》 《これらはガジェット及び不死者と、それらを造った者達の手によって引き起こされた事なのである!!》 《そしてアグスタ襲撃事件の際、我々管理局は最大の策を投じたにも関わらず敗れた!!》 《即ち!このままでは我々の滅亡は必死であろう!ならば我々はこの滅亡の危機を運命として受け入れなくてはならぬのか?》 《否!断じて否!!我々管理局はこの未曾有の危機に対し、新たな策を投じた!それが彼らエインフェリアである!!》 《彼らエインフェリアは人型のデバイスである!その姿形に人型兵器と思う者達も多いであろう……》 《しかし!!彼等はこのミッドチルダの魔導技術の粋を集め造られた存在!決して質量兵器などではない!!!》 《その証拠に見よ!彼らの勇姿を!!この映像は先日起きた地下水路崩壊の際に撮られた物である!》 《彼等は魔法を用いて!たった二体の手により、この複数存在するガジェット及び不死者の群れの悉くを殲滅させたのである!!》 《即ち彼等こそが、未曽有の危機に対する対抗手段なのじゃ!!》 《そして我々管理局はこのエインフェリアを量産する用意がある!その名も…アインヘリアル計画である!!》 《この計画が実行に移れば、もうこのような幼い子供にデバイスを持たせる必要は無くなるのだ!!》 《聞け諸君よ!彼等エインフェリアは弱き者を守る盾であり、強き者を挫く剣なのである!!》 《今!我々に必要な物は未曾有の危機を脱する力なのだ!その力は今まさに此処に存在しておるのじゃ!!!》 リリカルプロファイル 第二十話 陳述会 ガノッサ提督による演説は二時間にも及び、モニターにはエインフェリアの姿が映し出され、その中にはクロノ提督の姿も存在していた。 そして…その演説を冷ややかな目線を送り見つめるレジアス。 「いよいよ始めたか…ワシも急がねばならんな……」 そう一言呟くとモニターを切り、一人黙々と何かを打ち込む作業を始めるレジアスであった。 …一方此処は機動六課に存在する会議室、この部屋は防音機能が完備されており、外部に情報が漏れない造りになっている。 その部屋に、はやてとゲンヤそしてギンガの姿があった、目的は先日行われた共同戦線の情報交換を行う為である。 それぞれ情報を交換する中、はやては写真が貼られた資料をゲンヤに渡すと、黙って受け取り目を通す。 写真には後ろ髪を結った茶髪の少女の顔とその少女が持っていた無反動砲が写っており、資料の内容は少女が持っていた銃についてであった。 銃の名は表面上に書かれており、イノーメスカノンという。 解析の結果、命中精度・威力などが非常に高く多種多様な弾丸を撃ち出すことが出来ると、 だがその重さは尋常ではなく、とてもではないが写真に写る少女が持ち運び出来る代物ではないと綴られていた。 その内容に沈黙するゲンヤ、その表情に既に確信にも似た表情で話しかけるはやて。 「やっぱり…彼女達は……」 「あぁ、戦闘機人だ……」 ゲンヤの言葉に俯くギンガ、そしてはやては自分の考え出した答えが正しかったといった表情を見せる。 するとはやては失礼ながらゲンヤの妻、つまりギンガの母の事を調べたと話し始める。 …ゲンヤの妻、クイントは戦闘機人に関する調査を行い、その後原因不明の事故により死亡した。 そしてクイントの意志を引き継いだゲンヤが戦闘機人に関する情報を集めている事を掴んだと話す。 しかし当のゲンヤは自らの仕事が忙しく、中々情報を集められてはいない状況であった。 そこで今回の事件を機に、はやてが代わりに戦闘機人の情報を集めると提案、その為今まで得た情報を引き渡して欲しいと頼み込む。 するとゲンヤは目を閉じ腕を組み考え込む、その後暫くして目を開き、口がゆっくりと動き出す。 「…悪いがそれは出来ねぇな、事は戦闘機人だけの問題じゃあ無いんでな」 ゲンヤの答えに困惑するはやて、事は戦闘機人だけでは無い? …それはどういう事か再度聞いてみるがゲンヤは一切答える事は無かった。 暫く静寂が部屋を包むと呆れた様子でため息を吐くはやて、その顔は諦めに似た様子を表していた。 「…分かりました、戦闘機人の件は諦めます、そん代わり……」 「あぁ、連絡役も兼ねてギンガの機動六課への出向を許可しよう」 機動六課が掴んだ戦闘機人の情報をギンガというパイプラインによってゲンヤに伝える、 その為の出向でもある今回の申し出に応えたゲンヤは、ギンガと共に席を立ち会議室を後にする。 一人会議室に残されたはやては大きくため息を吐くと、流石自分の師匠なだけあって一度決めた事に対してガンとして動かないな…と思うであった。 一方ゲンヤと共に機動六課の通路を歩いていると突然ギンガが質問を投げかける。 「何故はやて二佐の申し出を断ったんです?」 「…クイントと同じ轍を踏ませない為に……だな」 その意味深な言葉に首を傾げるギンガだが、ゲンヤの目は遠く何かを見つめているようであった。 その頃なのははシグナムが運転するワゴン車に同乗していた、その理由は先日保護した少女が眠る聖王医療院に向かう為だ。 そしてシグナムもまた聖王教会に用があるらしく、次いでに乗せて貰っているのだ。 そしてなのはは、ワゴン車をマジマジと観察していると、ふと質問をかける。 「このワゴン車…シグナムさんの車なんですか?」 「あぁ、渋いだろう?」 シグナムの含み笑いにになのはは頬を掻く、話によると聖王教会にいた頃、 食事の配給などの仕事が多くあった為、沢山の荷物を運べるという理由で購入したと話す。 そんなシグナムの話を聞いているうちに聖王医療院に着くと、なのははシグナムと別れの挨拶を交わし医療院へと足を運ぶ。 医療院内ではシャッハが出迎えており、なのはは保護した少女の詳細を聞くとシャッハは快く応える。 保護した少女は人工生命体でフェイトやエリオと同じ境遇であると。 故に現場に残されていた生体ポットの中身の可能性がかなり高く、周りのガジェットが破壊されていた事から危険性があると指摘されていると。 そんな内容を通路を歩きながら聞きつつシャッハと共に少女が眠る部屋へ赴くと、其処はものけの殻であった。 シャッハは驚き開いている窓を覗くと、対象の少女が外へ出ようと走っており、 シャッハは窓から飛び降りるとデバイスを起動させ少女の前を塞ぎヴィンデルシャフトを構える。 少女は目の前に現れたシャッハに驚き、しりもちをつくと――― 「ふ………ふえええぇぇぇぇぇぇん!!!!」 「えっ?…………えぇ!?」 少女の泣き声に思わず戸惑うシャッハ、すると入り口からシャッハを追っていたなのはが姿を現し、少女を慰める。 そして病室を抜け出した理由を聞くと母親を探す為に抜け出したと、ぐずりながら話す少女。 少女は人工生命体である、母親など存在するハズがない、その記憶は元の遺伝子が持っていた記憶なのかもしれない。 しかしそんな素振りを一切見せず、なのはは少女の目線に合わせ見つめる。 「お名前いえるかな?」 「ヴィヴィオ……」 ヴィヴィオはそう名乗ると、なのははヴィヴィオの母親が見つかるまで自分が母親代わりになると約束を交わす。 するとヴィヴィオは、「なのは…ママ?」と恐る恐る口にすると笑みを浮かべ答えるなのは、 そのやりとりが何度も続くとヴィヴィオはすっかり泣き止み、その光景を見て唖然としているシャッハ。 するとシャッハの後ろで聞き慣れた声が響き、振り返ると其処にはアリューゼの姿があった。 「あっアリューゼ!?いつからそこに!?」 「…デバイスを起動させて、そのガキに向けているところからだな」 つまり一部始終見られていた事であり、顔を真っ赤に染めるシャッハに対し呆れた様子を見せるアリューゼであった。 それから数日後、ヴィヴィオはすっかりなのはに懐き、そのまま機動六課で面倒を見る事となった。 だがその代わり定期的に聖王医療院にて検査を行うという条件付きであるが。 そして今日はなのは、フェイト、はやての三人で聖王教会に赴いていた、その理由とはなのはとフェイトに機動六課の真の目的を伝えられる為だ。 三人は教会内に存在する会議室に赴くと三人は敬礼を行う、会議室にはカリムを中心に右の席にクロノが座っており はやてはクロノの隣の席、なのはとフェイトは左の席を順に座ると、クロノは早速説明を始める。 機動六課…いやかつての六課はカリムのレアスキル、プロフェーティン・シュリフテンによってもたらされた預言に描かれた、 ミッド滅亡を阻止する為に組織された部隊で、それは今も変わっていないと話す。 そして預言の内容を二人に告げると沈黙し、沈痛な面持ちを醸し出していた。 「取り敢えず今後は、中つ大地の奉の剣であるエインフェリアと、法の塔である地上本部を壊滅させない事だな」 今回の件でクロノは奉の剣をアインヘリアル計画の事と判断していると、するとはやてが質問を投げ掛けてきた。 「でも…あのエインフェリアって何なん?ただもんとちゃうのは分かるんやけども…」 「ガノッサ提督が説明していただろう、あれは人型デバイスだ」 命令を絶対に従う忠実なる存在、その姿はまさに奉公の剣であると。 そのエインフェリアの量産計画、アインへリアル計画の是非を問う公開意見陳述会が近く執り行われるという。 つまり、事を起こすとすればこの日が絶好ともいえる。 無論、事を起こそうとしている存在とはスカリエッティとレザードであるのは間違いない。 つまりその日こそが世界の命運を分ける日とカリムは考えており、皆もそれに賛同していると。 そして機動六課の真の目的の為に尽力して欲しいと綴ると三人は一斉に敬礼し、会議は終了となった。 それぞれが自分の部隊もしくは仕事場に戻る中、カリムは自分の予言に目を通していた。 一行目に書かれている“歪みの神”もしこれがレザードの事を指すのであれば我々は神と対峙しなければならないのか? だが我々の信仰に神は存在しない、それにあのような傍若無人な存在が神であるハズがない。 そう自分を言い聞かせ不安をぬぐい去ろうとするが、それでも不安は募るばかりのカリムであった。 場所は変わり此処はゆりかご内に存在する生体ポットが並ぶ部屋、その中でルーテシアは一つの生体ポットを見つめる。 生体ポットにはNo.XIと書かれたプレートが掲げられており、ポットの中には紫の長髪の女性が眠っていた。 「お母さん……」 そう一言呟くルーテシア、自分の目的は母親の病気を治し一緒に暮らす事、その為にはNo.XIと刻まれたレリックが必要なのである。 そして母親を助ける為に自分は修羅にも夜叉にもなる、その決意を胸にルーテシアは一つお辞儀をするとその場を後にした。 その頃スカリエッティは管理局に潜伏しているドゥーエと連絡を取っていた。 その理由は地上本部壊滅のタイミングを計る為である。 「つまり公開意見陳述会、この時が最も適しているというのだね」 「はい、ドクター」 モニターに映るドゥーエは頷くとスカリエッティに地上本部のセキュリティ情報を渡す。 確かにドゥーエの言う通りこの機を逃す手はない、それにゆりかごの方もほぼ修復を終えている。 つまりこの日こそ決起する時!…そう考え狂気を含む笑みを浮かべるスカリエッティであった。 一方、自室にてレザードは陳述会の内容に顎に手を当て考え込み、先日の戦闘で現れたエインフェリアの姿と見比べる。 今回の陳述会に出されるエインフェリアは巨大で標準的な魔力を生む動力炉に遠距離砲が配備され、まるで戦車のような姿をしており、まさに質量兵器その物であった。 その量産機とは到底思えない姿に不敵な笑みを浮かべるレザード。 「滑稽な…質量兵器を禁じている管理局が、このような形を取るとは……」 その性能も自分達が造り出したナンバーズとは程遠い存在、寧ろレザードは人型のエインフェリアに興味を持っていた。 彼らの材質は恐らくベリオンの内部に使われている物と同じダマスクス、アーティファクトの一つであるダマスクス製法書によって作成したのだろう。 そしてこの異常なまでの戦闘力、それはまさしく管理局側の戦闘機人と呼ぶに相応しいと言っても過言ではなかった。 スカリエッティは今回の陳述会を機に本格的に計画を始める様子、そして陳述会には必ず機動六課及びエインフェリアを出してくるだろう。 つまりは総力戦、そして自分もまた出ざるは終えないだろう…眼鏡に手を当て真剣な面持ちを浮かべるレザードであった。 その頃セイン・ノーヴェ・ウィンディの三人は今回の計画の際に進むであろう道を知る為、町に繰り出していた。 …尤もそれは名目で本当はある目的のため、町を練り歩いているのである。 三人はスーツに備え付けられている私服モードを利用し、ノーヴェは紺のGパンに白い半袖のシャツ、ウィンディは膝ほどの深緑の半ズボンに赤いTシャツ、 そしてセインは黒いダボッとした長ズボンに白いパーカー、更に黒いキャップとサングラスを掛けていた。 セインは先日の戦闘にて顔が割れている可能性がある為の処置である。 それでも街に繰り出したい理由は、町の中に点在する公園で売られているアイスを手に入れる為、それだけの為である。 そして三人は公園に存在するアイス屋へ赴くと、ウィンディはストロベリー、ノーヴェはオレンジとバニラのダブル、 セインに至ってはチョコミントにチョコチップ、更にマーブルにトッピングチョコをまぶした物を注文する。 「…セイン、そんなに頼んで大丈夫なのかよ?」 「知らないのノーヴェ?こう言うのは別腹って言うのよ」 「なるほど…セイン姉は腹が二つ有る訳か」 「……そんな訳無いじゃないッスか」 ノーヴェの天然さに呆れるウィンディ、恐らく基礎となる遺伝子がそれをさせるのだろう。 そんな事を考えるも三人はそれぞれのアイスを手にし、ベンチに座ると食べ始める、 セインに至っては、がっついて食べており、その光景に頬を掻く二人。 そしてアイスを食べ終えるとベンチから立ち公園を離れ、当初の目的を遂行する為、行動を始める。 そして最短ルートを調べ、そのルートを進みセインの目標の地である地上本部へ辿り着く。 そして見上げる三人、この地を今度の戦闘で壊滅させてみせる、そう意気込む三人であった。 それから数日後、此処地上本部の近くに存在するホテル内では、翌日に行われる公開意見陳述会の準備に追われていた。 そして表の中庭にはアインへリアル計画によって創り出されたエインフェリアが三体並んでおり、 その大きさは十メートル以上にも及ぶ、どうやら動力炉の大きさに合わせて造られているらしい。 そして警備には本局の局員数十名、会場内は機動六課のなのはとフェイト、そして地上本部の局員の手によって行われ 残りの機動六課はホテル周辺を警備する事が決定していた。 そしてなのはとフェイトは一足早く会場入りする為、フェイトは車の用意をしており、 隊舎入口にはフォワード陣とヴィヴィオが見送る為に並んでいる、するとなのは達はスバルとエリオを呼び寄せる。 「スバル……レイジングハートの事お願いしていい?」 「私も…エリオ、バルディッシュの事お願いね」 会場ではデバイスを持って入ることは出来ない、その為最も信頼できる人物、スバル達に持ってて欲しいと頼むと快く応じる。 そしてなのははヴィヴィオに目線を合わせ、優しく話しかける。 「それじゃあ明日までには帰ってくるから、ちゃんと病院に行くんだよ?」 「ぜったいに?……やくそくだよ、なのはママ」 ヴィヴィオの問い掛けに力強く頷くと指切りをするなのは、そしてその光景に自分の過去が重なり暗い顔を見せるティアナ、 …かつて自分の兄は指切りした後、二度と戻ってくる事は無かった…… …だがなのはさんに限ってそんな事が起きるハズが無い!そう自分の考えを自重するように拳を握るティアナ。 その後なのは達を見送ったヴィヴィオは定期検査の為、ヴァイスが操縦するヘリで一路聖王医療院に向かうのであった。 翌日、他のメンバーもまたホテルへと赴き厳重な警備の中、公開意見陳述会は開始される。 陳述会ではガノッサがアインへリアル計画の必要性を熱く語っており、状況は賛成の方に傾きつつある中、レジアスの姿は見受けられなかった。 そして、陳述会会場から数十キロ離れた先にナンバーズとルーテシアにゼスト、 そしてベリオンがそれぞれの役割を果たす為の配置についており、それを確認したクアットロはスカリエッティと連絡を取る。 「ドクター、此方は配置は完了しましたぁ」 「ご苦労様…では始めるとしようか……」 スカリエッティの合図の下、今此処に“ラグナログ”計画は発動したのである…… 前へ 目次へ 次へ オマケへ
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第2話 魔法のある世界 剣崎達はティアナ達に連れられて、この世界のことを知る人物がいるという場所に向かっていく途中である。 「すみません。剣崎さん、飲み物持ってもらっちゃって。」 「いいっていいって。」 「ところで、この場所知っている人ってどんな人?」 橘がそう聞くとスバルが答えた。 「え~と、元々はこの世界に住んでたって聞いてます。今は任務があるからって私たちも来たんです。」 スバル達が会話しながら歩いていると、その人物がいるところに着いた。 「ここなのか?」 「はい」 剣崎達が着いた瞬間この世界の住人なのはとフェイトとはやてが剣崎達のところに来て 「あなた達がティアナが話してた人たち?」とフェイトが問いかけた。 「はい。そうですけど・・・。」「じゃあ、名前教えてくれるかな?」 「俺は剣崎一真だ。」「橘だ。」「・・・相川始だ。」「俺は上城睦月です。」 と剣崎達は自己紹介を終え、はやて達も紹介を終えこの世界のことを説明を始めた 「では説明します。ここはあなた達がいた世界とは違います。」とはやてが言う 「え?そんな・・・」「バカな・・」剣崎達はショックを隠せない。 「でも、ここは日本ですよね?」「はい。ここは日本の海鳴市。ティアナから報告があったんやけど、 あなた達が戦ってたのは一体なんです?もしかしたら私たちも協力しますんで。」 剣崎達は先ほど戦ったアンデット達のことそして、バトルファイトのことをはやて達に話した。 「もしかしたら、スカリエッティが関係してるかも・・・」 「スカルエッティ?誰だそいつ?」フェイトはスカルエティや今まで起きたことを剣崎達に話、そして 「よし、じゃあ俺たちの世界が危ないけどこっちも危ないから、俺は協力するよ。」と剣崎が言った。 「け、剣崎?」「剣崎さん?本気なんですか?」橘と睦月は協力には否定して、始は「俺は剣崎に 賛成してる。今の状況を考えてみろ。」それは始が珍しく橘と睦月に言って 「もしかしたら、 あなた達が追っている天王路って人もスカリエッティに協力している可能性があると思うんだけど」 フェイトがそういって「たしかに・・・今はここで争っている場合じゃない。」 橘がはやてに向かってこういった 「俺たちしばらくの間協力する。それでいいか?」橘が言って「本当ですか~?ありがとうございます。」 「だけど、そのまえに、任務があるんだけど協力してくれるかな?」となのはがいい。 「あなた達の力もみたいしね」フェイトもこういい。 「じゃあ、剣崎さんと始さんはスバルとティアナのところで、橘さんと睦月さんはエリオとキャロのところでいいですか?」 「「「「ああ」」」」 始と睦月は何かに気づいた 「なあ、いつから俺は相川さんから始さんになったんだ?」「俺もそう思った。」 「え?ああ、それはやね、え~と・・・」とはやては顔真っ赤になっていた。 「始さんてお兄さんって感じがするんよ~。うち兄弟いなかったから」 「そうか・・・悪いことをした」始は謝った瞬間 「はやてちゃん。クラールヴィントが対象をキャッチ」 「みんな。頼むよ」 「「「「はい」」」」と新人フォワード達がいい 「俺たちもやるぞ。」 「「ああ」」「はい」 剣崎達も戦闘の準備を始めた。 そして、任務が開始された。 「マッハキャリバー」 「クロスミラージュ」 「ストラーダ」 「ケリュケイオン」 「「「「SET UP」」」」 彼女たちが自分たちの相棒をの名前を呼んで。先ほどの服が代わった。 そして剣崎達は自分たちのバックルを出し 「「「「変身」」」」 剣崎、橘、睦月の前にカテゴリーAが描かれた光が現れ剣崎はブレイドに、 橘はギャレン、睦月はレンゲルに変身し、始はマンティスアンデットの力を借りカリスに変身した。 「これが、剣崎さんたちの力なんや・・・」そうはやてがいい。 ブレイドとギャレンはラウズアブゾ-バーにQとJを入れ。 「「アブソーブクイーン」」「「フュージョンジャック」」 ブレイドとギャレンはジャックフォームとなった。 そして、その相手が剣崎達にとっての初出撃となった。 「よし。今だ。」 「サンダー、スラッシュ」 「ドロップ、ファイアー」 「トルネード、ドリル」 「スクリュー、ブリザード」 「ライトニングスラッシュ」 「バーニングスマッシュ」 「スピニングアタック」 「ブリザードゲイル」 「ディバインバスタァァァァー」 「クロスファイアー・・・・シューーート」 「一閃必中・・・・はあああああああ」 「フリード、ブラストフレア、ファイア」 「対象からレリックを確認リィンお願いできる?」 「はいですぅ。」 剣崎達のお陰で任務が終わり剣崎達はなのは達が今住んでいる、ミッドチルダに移動した。 戻る 目次へ 次へ
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時空管理局が解散した。いきなり何を言うんだ? と言われても困るが、とにかく解散したのである。 時空管理局に所属する魔導師達は揃って職を失う事となったが、それでも皆新たな職を見付けて 第二の人生を歩んでいた。八神はやてとヴォルケンリッター達はお好み焼き屋を始め、 ハラオウン家はクリーニング屋を始めた。そんなある日の事… 「それではシャツ3枚とジャケットですね。仕上がりは明日の3時になりますので。」 「よろしくね。」 「ありがとうございました。」 クリーニング屋を始めてしばらく経つが、そのかいあってクロノも仕事に随分慣れて来た。 すると買い物に出かけていたフェイトが帰って来た。 「買い物帰りで済まないけど手伝ってくれないかな? 今日は少し忙しいんだ。」 「ハァ…ハァ…そ…そんな事より…。」 「ん?」 その時のフェイトの顔はまるでとんでもない物を見てしまったかのように真っ青になっていた。 「どうしたんだ? そんな血相変えて。」 「お…落ち着いて聞いて…。な…なのはが…なのはが見付かった…。」 「な…なんだって!? 本当か!? 何処で何をやってるんだあいつは!」 「それが…。」 フェイトは目から大粒の涙を流し始めた。 「お…落ちぶれて…ホームレスに…。」 「な…なにぃ…。」 フェイトはついには泣き出し、クロノも愕然とする他無かった。 一方ハラオウン家の経営しているクリーニング屋の近くの公園でボロボロのコートに身を包み、 目をサングラスで隠したなのはが物陰に隠れて双眼鏡で何かを覗いていた。 そして覗いた先に映っている一人の男の姿を追い、今度はコートの中からカメラを取り出し、 木の陰に隠れて盗撮を始めた。そして男が近所のマンションの中へ入って行く所まで撮った時、 それを遮るかのようにクロノとフェイトの二人が号泣しながら走って来たのである。 「なのは!」 「あ…。」 「何をやってるんだお前は!」 「あ…あ…し~っ。」 クロノとフェイトに迫られたなのはは戸惑うが、この二人とて戸惑いを隠せない。 「職が無いんならどうして言ってくれなかったんだよ! こんな落ちぶれた姿見たく無かったよ!」 二人はひたすらに号泣するしか無かった。時空管理局解散以後行方不明となっていたなのはが まさかこんな落ちぶれた姿で発見されるなど…誰だって泣きたくなる。 「とにかくすぐウチに来い!」 「そうだよ! ウチの仕事もやっとどうにか軌道に乗って来て、今ちょうど自給600円の バイト探してたところなんだよ!」 「あ…ま…まって…今仕事中なの! じゃましないで!」 「な…なにぃ!?」 「仕事って何!?」 「浮気調査なの!」 なのはは不機嫌そうに走り出した。 「今、依頼人の旦那さんが浮気相手のマンションに入る所だったの! 決定的瞬間を 撮り損ねちゃったじゃない! もうバカ!」 「…。」 一体なのはは何をやっているのか。まだ状況のつかめない二人は唖然とする他無かったが、 なのははマンションへ向けて走り、階段を幾つも登って行く。 「何処行ったの!? 依頼人の旦那さんは! ん…? 相手の部屋の窓が開いてるの…。」 そして、そ~っと中を覗いてみると… 「あ…。」 何とまあ依頼人の旦那と浮気相手が物の見事に何かやってますよ。しかも相手からも 見つかってしまい、これは非常に気まずい。 「し…失礼しました! 覗くつもりじゃなかったんです! 物騒ですからこの窓閉めておきましょうか?」 「あ…すみません…お願いします。」 そうしてなのははゆっくりと窓を閉めるが、その瞬間にカメラで二人の浮気現場を映像に収めていた。 「高町探偵事務所!?」 なのはから渡された名刺を見たクロノとフェイトは驚きを隠せない。 「ほ…本当に…本物の探偵になったのか!?」 「どうして探偵なんてやってるの!?」 「そういう話はまだ今度なの…。」 高町なのは 職業探偵 自称変装の名人 おわり 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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