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時は未来――2004年。 現在の所持金は僅か240円。 持ち者はバイクとヘルメット、今日の日付の新聞のみ。 これが五代雄介を取り巻く現在の状況である。 そして極めつけは、五代が現在いるこの場所。 ――海鳴市 「……ってどこだっけ?」 現在地、不明。 暫くバイクを走らせた五代は、ようやくこの場所の地名を記した看板を見つける事が出来た。 が、しかし。 五代にとって海鳴市などという地名は聞いたこともない。 まず東京ではないのは間違いないとして、何処かに海鳴という名前の街があったかと思考する。 されど、それはやはり冒険家として様々な土地を渡り歩いてきた五代にすら聞き覚えのない地名であった。 しかし五代は、現在の状況をそれほどの危機だとは考えていない。 普通の人からすれば、これこそ最大のピンチなのではとも思えるような状況でも、 五代はいつだって乗り越えてきた。それはやはり冒険家として鍛えられた魂あっての物なのだろう。 そんな五代がまず選んだ道は、なんとかして東京へと戻ること。 そして、自分が住んでいたポレポレへと戻り、再び冒険の準備を整えること。 確かにここが未来――3年後の世界だという事は意外ではあるが、多分自分にはどうしようもない。 それならば、この未来を冒険することが今の自分に出来る最善の行動だと判断したのだ。 「それじゃあ、まずはここが何処なのか……そこから調べないと」 取りあえず、五代は大きな国道を探すことにした。 恐らく国道を道なりに進めば、何処かで大きな高速道路にぶつかるか、 県境を現す標識、もしくは何らかの位置を示す物と巡り合える筈だからだ。 そう考えた五代は、海鳴市の公道の上、バイクを疾走させるのであった。 EPISODE.02 捕獲 同日、次元空間航行艦船アースラ、作戦会議室―――05 42 p.m. 時空管理局が保有する巡航L級戦艦。なのは達が時空管理局と出会うきっかけにもなった船である。 ここに現在集合しているのは、艦長であるリンディ・ハラオウンに呼び出された 高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、アルフ、それからクロノ・ハラオウン以下アースラスタッフの一員だ。 それぞれが自分に用意された椅子に腰掛け、リンディが話を始めるのを待機している。 本日、学校はまだ始まったばかりという事で、なのはもフェイトも早めに帰宅することが出来たのであるが、 帰宅してからややあって、休む間もなく再びリンディによって収集されたのである。 ここに八神はやて及びヴォルケンリッターが来ていないのは、恐らくリンディが気を利かせたからなのだろう。 まだ学校が始まったばかりということもあって、色々な準備や、何よりも家族皆で過ごせる時間を尊重させてあげたい、と。 それに何より、今回の任務にそれほどの戦力は必要ないと判断されたのだろう。 といっても、恐らく後からこれをはやてが聞けば、「何で私らだけ呼んでくれへんかったん!?」等と騒ぎ出すのだろうが。 さて、一同が揃ったところで、リンディが軽く咳払いをした。 「えー……学校が始まったばかりなのに、何だか悪いわね?」 「いえ、気にしないでください」 「私達は望んでこうしてる訳ですから」 ばつが悪そうに言うリンディに、フェイトとなのはが揃って微笑む。 リンディはそれに安心しながらも、二人の優しさに少しばかり嬉しくなる。 「それじゃあ、今回の任務を簡単に説明するわね。エイミィ」 「はい、取りあえず……これを見てください」 と、リンディの言葉に応えるように、エイミィがスクリーンに一枚の画像を映し出した。 なのは達はそれを食い入るように見つめるが、映し出された画像はピントが合っていないのかぼやけてよく見えない。 何となく、空に浮かんだ黒い影のように見えはしたが。 「これは、今朝この第97管理外世界で撮影されたものです」 「私達の世界で……?」 「ええ、なのはさんにはこれが何に見えるかしら?」 問われたなのはは、うーんと唸りながら、画像を見つめる。 画像がぼけていて「黒い影」程度にしか見えないのに、何に見えるのかと聞かれても困るに決まっている。 エイミィがスクリーンに映し出された写真をスライドさせ、次の画像に切り替える。 今度の画像もまた、先ほどと余り変わらない黒い影にしか見えないが――― 「うーん、ツノがある……?」 「そう。二対の巨大な角を持った、未確認飛行体です」 「今朝ほんの小さな次元震があって……コレがこの世界に紛れ込んだみたいなの」 なのはが答えたのは、何かツノがある黒い影。現状ではそれ以上に言いようがない。 リンディとエイミィは、それをこの世界に今朝紛れ込んだばかりの未確認飛行体と説明する。 「それは、ロストロギアなんですか?」 「……現状では何とも言えませんが、恐らくは」 フェイトの質問に、リンディが答える。 次にスクリーンに映し出されたのは、なのは達が住む国――日本列島の簡単なマップだ。 マップに映し出された赤い線は、中心あたりから始まり、だんだんと東京方面に向かいながら移動している。 現在は、位置で言う所の、神奈川県付近で点滅しているが。 「今朝確認された未確認飛行体は、長野県中央アルプスで確認され、 ゆっくりと移動を開始しました。この進路からして、恐らく目的地は東京方面だと思われます」 「それで……今はどの辺りを移動してるんですか?」 「30分程前に、遠見市で確認されたのが最も新しい情報です」 エイミィの報告を聞いたフェイトが、その顔色を強張らせる。 遠見市と言えば、ほんの1年前までは自分が仮の住まいとして生活していた場所。 海鳴市の隣町であり、それはつまり自分達の街に接近しているということになる。 いつの間にかなのはも真剣な表情に変わっており、集められた一同もこの作戦の目的を理解し始めていた。 「もう解ってると思うけど……今回の任務は、この未確認飛行体の捕獲です。 武装局員が海鳴市の一部に結界を張り、アルフさんがそれの補助を担当。 なのはさんとフェイトさんが未確認飛行体を牽制し、クロノが捕獲する。 作戦の説明は以上です。 質問は?」 一気に作戦の全容を説明するリンディ。最後に「質問は?」と一言付け加えるが、一同は特に聞き返すことも無かった。 なのはもフェイトもここまでの説明で作戦の内容は理解出来たし、ついでに言うとあまり時間がないという事も理解出来た。 要はもうすぐ海鳴に侵入しつつある未確認飛行体が、海鳴に入った瞬間に結界を展開。それを捕獲しなければならない、という事だ。 作戦自体は非常に単純。これまで数々の事件を解決してきたなのはにとって、この程度の事件なら何の問題もないと思えた。 リンディも一同の表情に安心しながら、言葉を続ける。 「それじゃあ、早速ですけど、もう時間があまりないわ。 未確認飛行体が海鳴市を出る前に、作戦を開始します!」 リンディの掛け声に、なのは達は大きな声で「はい!」と返事を返した。 ◆ 海鳴市上空―――06 27p.m. 夕方6時ともなると、4月の空は既に薄暗い。もうすぐで日も完全に沈み切るだろう。 そんな夕方の空の下、なのはとフェイトはバリアジャケットに身を包み、各々のデバイスを構えていた。 その表情は緊張に強張っており――といっても、それは当然なのだろう。 相手は戦闘能力も何もかもが謎に包まれた未確認飛行体なのだから。 そんな時、なのはら二人の目の前に空間モニターが展開された。 相手は今回の作戦を共に行うこととなったクロノだ。 「なのは、フェイト……もうすぐ未確認飛行体が作戦エリア内に侵入する。準備はいいか?」 「うん、私はいつでも大丈夫だよ」 「うん……私も、なのはと一緒なら怖いものは無いよ」 なのはがフェイトをちらりと見ると、フェイトは少し照れたように顔を背けた。 そんなフェイトに、「頑張ろうね」と、明るい微笑みを向けるなのは。 フェイトは嬉しそうにうん、と頷くと、力強くバルディッシュを握り締めた。 なのはと一緒の任務で、なのはに頑張ろうねと言われたからには、もう百人力である。 「来たよ、フェイトちゃん!」 「うん……行くよ!」 と、そうこうしている内に、気付けばなのは達の視界に真っ黒の未確認飛行体が入っていた。 速度は恐らく、普通の車と同じくらいか、それ以上。結構な速度である。 上空にいた数名の武装局員が結界魔法を発動し、アルフがそれを強化する形で補助する。 なのはが足もとに桜色の魔法陣を展開し、フェイトが未確認飛行体に向かって飛び出す。 「いいか、なのは。結界はそれほど広範囲に展開できる訳じゃない。出来るだけ迅速に仕留めるんだ」 「りょーかいっ! 私に任せてクロノくん!」 言うが早いか、なのはが構えたレイジングハート本体から三枚の魔力で出来た翼が飛び出した。 同時にレイジングハートの切っ先にも、桜色の魔法陣がいくつか展開される。 「一応聞くけどクロノくん、結界の防御力は完璧なんだよね?」 「あ、ああ……その筈だけど……なのは、まさか……」 「それじゃあ安心! 一撃で仕留めるから、そっちは任せるよ!」 「ちょ、ちょっと待てなのは! 目的は捕獲であって撃墜じゃな――」 「わかってるよ! だから安心してクロノくん!」 クロノの言葉を聞いているのか聞いていないのかは定かではないが、なのははとにかく止まるつもりはないらしい。 「ディバインバスター」のチャージに入ったなのはは、飛び回る未確認飛行体に照準を定める。 逃がすつもりはない。一撃で行動不能に追いやってしまえば、こちらの勝ちだ。 クロノにとってはそれは不安でたまらないのだろうが。 「なのは、私が牽制して動きを封じるから、その隙を狙って!」 「わかったよフェイトちゃん。フェイトちゃんもすぐに離脱してね!」 なのはの自身に満ち溢れた表情に、フェイトは安心したように微笑み、うん、と一言頷いた。 同時に、フェイトが漆黒のマントを靡かせて、未確認飛行体に突撃する。 ハーケンフォームに変形したバルディッシュは、金色の魔力光を噴出しながら、唸りを上げる。 どうやらフェイトもフェイトで、手加減をするつもりはないらしい。 「はぁぁぁぁぁっ!」 勢いよく、正面からフェイトは未確認飛行体へと斬りかかる。 何処かクワガタムシにも似た形をしたそれは、前方に突き出た大きな角でバルディッシュの魔力刃を受け止める。 飛び散る火花に、二つが傷付け合う甲高い金属音が響く。 しかしフェイトも怯む事はない。すぐにバルディッシュを未確認の角から引き抜くと、上空に飛び上がった。 未確認はフェイトに構わず前方へと進み続ける。その姿はまさに、羽根を羽ばたかせるクワガタムシの如く。 その刹那、フェイトはクワガタムシの背中に、輝きを放つ緑の宝石が埋め込まれていたのを見逃さなかった。 「そこがコアか……!」 言うが早いか、フェイトはバルディッシュを振り上げて、再びクワガタムシの背中へと並んだ。 この程度の速度なら余裕で追いつける。寧ろ速度に関してはこのクワガタよりもフェイトの方が圧倒的に上だ。 フェイトは、バルディッシュの魔力刃の切っ先を、勢いよくクワガタムシの背中に輝く緑の宝石へと叩きつけた。 「――――――ッ!!」 「よし……効いてるっ!」 刹那、緑の宝石は火花を散らし、クワガタムシがふらりとよろめいた。 同時に聞き取る事が不可能な言語を洩らすが、フェイトはそれを気にしない。 どうやら背中への攻撃が弱点らしい。フェイトはよろめいたクワガタムシの背中に、再び魔力刃の一撃を叩き込む。 今度は高度を下げて、クワガタムシはフラフラと下降していく。 と、そうこうしていると、フェイトの頭の中になのはの声が流れ込んでくる。 「フェイトちゃん! ディバインバスター、発射するよ!」 「うん、わかったよなのは!」 見ればなのはのレイジングハートは既に切っ先に桜色の魔力を目一杯に溜めこんでいた。 あれを爆発させて、このクワガタを打ち抜くのだろう。 フェイトはすぐにクワガタから離れ、なのはの元へと飛んで行く。 「ディバイィィィィィィィィィン……―――」 同時に、なのはがゆっくりと口を開いた。 対するクワガタムシも、何とか高度を取り戻し、ゆっくりとではあるが元の高さへと戻っていく。 なのはとの距離もだんだん縮まっていくが、問題はない。 なのは的には撃ち落としてしまえば一緒だ。 「バスタァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」 そしてなのはは、レイジングハートは溜めこまれた魔力を、一気にクワガタムシ目掛けて解き放った。 それは周囲の者全員にも聞こえるほどの轟音を放ちながら、クワガタを撃ち落とそうと加速していく。 瞬間、漆黒のクワガタムシはなのはが放った桜色の光に飲み込まれた。 ◆ フェイトの目の前で、なのはが砲撃を放っている。 あのクワガタムシは見事になのはのディバインバスターに飲み込まれ―――否。 何か様子がおかしい。なのはの表情が、強張ったまま変わらない。 なのははただ真剣な面持ちで、ディバインバスターを照射し続けている。 刹那――― 『押し切られます』 「うそ……っ!?」 「そんな……!?」 レイジングハートの警告音が響いたかと思うと、なのはの目の前―― ディバインバスターの魔力照射部から、漆黒のクワガタムシが飛び出してきたのだ。 つまりあのクワガタムシは、ディバインバスターの光の中を、構うこと無く前進していたという事になる。 驚く暇も与えられないままに、なのはとフェイトの二人は咄嗟に左右へと飛びのき、クワガタムシとの激突を避ける。 「そんな……ディバインバスターの直撃で無傷!?」 『ドンマイです、マスター。次、行きましょう』 と、驚くなのはをよそにレイジングハートは第二射の発射を要請する。 だが、そうしている間にクワガタムシは既になのは達を置き去りに遥か後方へと進んでいた。 どうやらあのクワガタムシになのは達を襲うつもりはないようだが――それでも、アレを倒さない事には任務成功とは言えない。 故になのはは諦めない。なのはのプライドが、このまま諦めることを許さないのだ。 再びレイジングハートを構え、カートリッジをロードさせる。 「なのは、今からチャージしてちゃあの未確認飛行体が結界を出るまでに間に合わないぞ!」 「安心して、クロノくん。今度は結界、持たないかもしれないけど……絶対撃墜するから!」 「ちょ……だからそれじゃ困るんだよ!」 「大丈夫だよ、クロノ。今度は私もいるから」 と、クロノは焦って抗議するが、今度はフェイトが答える。こうなったなのはとフェイトはもう止まらない。 なのはに至っては一撃目を防がれた事による悔しさか、今度は心なしか目付きも変わっているように見えた。 次は先ほど以上に魔力を集束させる。相手の防御力が想像以上であるなら、自分はそれ以上の魔力をぶつけるまで。 ただのディバインバスターで無理なら、特別版ディバインバスターEXで。それで無理なら、もっと凄い魔法で。 フェイトもなのはと並んで、足元に黄色の魔法陣を展開させ―――魔法のチャージに入る。 「私のプラズマスマッシャーとなのはのディバインバスターで、あの未確認飛行体を撃墜します!」 「いや、だから目的は撃墜じゃなくほか―――」 「行くよ、フェイトちゃん!」 最早クロノの言葉に聞く耳など持たない。 二人とも、意地でもあのクワガタムシを撃墜して持ち帰るつもりだ。 そんな事を言っている間にも、二人の眼前にチャージされた黄色と桜色の魔力光は増幅していき――― ◆ 黒いクワガタムシが、凄まじいパワーで結界を内側から圧迫する。 二対の角が結界の壁にぶち当たるが、それでもクワガタムシは無視して突き進もうとしているのだ。 アルフは結界を保つため、必死で補助魔法を掛け続けるが――― しかし、それももう時間の問題だ。あと少しでこの結界は絶対に崩壊する。 何故なら。 「全力全壊!」 「疾風迅雷!」 なのはとフェイト。二人が叫んだと同時に、二色の閃光はクワガタムシ目掛けて奔っていた。 結界を破壊しようとただひたすらに力押しするクワガタムシの背後から二色の閃光が迫り、 クワガタムシごと結界を撃ち貫こうとしているのだ。 クロノは最早呆れた表情でそれを見るしか出来ず、アルフはアルフで必死の形相。 とにかく耐えようと、補助魔法を掛ける腕に力を込める。 が、そんな努力も虚しく―― 「駄目だ……あたし一人じゃ、結界を保てな――ッ」 と、アルフが歯を食いしばるように言葉を紡ぐが、それは最後まで間に合わず。 同時に、二色の魔力光は結界を貫き、遥か彼方の空へと吸い込まれていく。 結界が破壊される寸前、結界全体に亀裂が入ったために、アルフが言うまでもなくクロノはもう諦めていたのだが。 そうして、二人の魔法により放たれた光の照射が止んだとき―――そこにあのクワガタムシの姿はなかった。 そんななのはの眼前に現れた空間モニターに映るエイミィの表情は、苦笑い。 『未確認飛行体、ロストしました』 「あれ……撃墜しちゃった?」 「逃げられたんだよ!」 二人の会話に割り込んで、クロノが大声で怒鳴った。 結果として、二人の魔法はあのクワガタムシを加速させる結果となったのだ。 何かの装甲のような物を身に纏った頑丈な体は、魔法では傷を付けられないということなのだろうか。 光に押され、そのまま遥か彼方へと飛んで行ったクワガタムシは、既にアースラ側からの追尾を振り切っていたという。 それが今回の結果。つまり、作戦は失敗だ。 そんな結果に、なのはとフェイトは大きく肩を落としていた。 ◆ 平成13年4月―――科学警察研究所。 ようやく平和になった世界。勿論そんな平和な世の中に未確認生命体などが現れる筈もない。 ――にも関わらず、科学警察研究所……通称「科警研」の科学者である、榎田ひかりは職場へと呼びだされていた。 大切な一人息子である冴との貴重な親子の時間を削ってまで来たのだ。それはやはりつまらない理由である訳もなく。 榎田は、眼鏡の奥の鋭い眼光で、白衣の男を見据え、言った。 「で、ゴウラムが消えたってどういうこと?」 「そのまんまの意味です……ここに保管されていたゴウラムが、突然消えたんですよ」 「ちょっと待って意味がわからない。 消えるって何? 監視カメラは!?」 呆れた口調の榎田に、白衣の男もまた困ったようにパソコンのキーボードを操作した。 男が操作することで、パソコンの画面に小さなスクリーンが映し出された。 そこに映っているのは、「ゴウラム」と呼ばれる戦士クウガの力強い味方。それを保管していた一室だ。 カメラに映し出されたゴウラムは、最初は何の動きも見せなかった。が、やがてその羽根を開くと、ゆっくりと浮かび上がり―― 背中に埋め込まれた翠の霊石――アマダムが、力強く光を放ち始めた。 その光はどんどん強さを増して行く。やがて一瞬ではあるが、カメラに映った全ての映像が緑の光によって遮断された。 カメラに何も映らなくなるほどという事は、それこそよっぽど強力な光を放っていたのだろう。 ややあって、カメラがその視界を取り戻した時――― 「ゴウラムが消えてる……」 「はい……そういう訳です。何が何だか……」 ゴウラムは、その姿を消していた。 榎田はその肩を大きく落としながらも、パソコンの画面をじっと見つめている。 こればっかりは対処のしようもなかった、というかまさか未確認との戦いが終わって 三ヶ月も経過してからゴウラムがその姿を消すとは誰も思わなかっただろう。 もしも戦士クウガが「聖なる泉」を枯らした際には、ゴウラムは砂になる。という説は聞いた事はあったが、 流石に消えるというのは予想外だ。 榎田は腕を組んで、思考する。 五代雄介とBTCSが姿を消したという報告は警視庁から連絡されていたが、もしかしたらゴウラムも何らかの関係があるのだろうか? しかし、未確認との戦いも終わった今、何故彼らが消えるのかがわからない。もしかすると、まだ何かするべき事があるから? だがそれならば何処かでクウガかゴウラムの目撃情報が出る筈である。 「……何にしても、今はどうしようもないわね」 考えても今は推測の域を出ない。榎田は、大きくため息を落とした。 消えてしまった者をどうこう言っても仕方がない。 とりあえず今自分に出来る事と言えば、ゴウラムが消えた事に関する報告資料をまとめる事くらいしかない。 また帰るのが遅くなってしまう事に、我が子への罪悪感を感じながらも、榎田はポケットから携帯電話を取り出した。 仕事で帰りが遅くなる場合は、冴が待つ自宅へと「かえれないコール」を掛けることにする。というのが、榎田親子の約束なのであった。 戻る 目次へ 次へ
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時空管理局が解散した。いきなり何を言うんだ? と言われても困るが、とにかく解散したのである。 時空管理局に所属する魔導師達は揃って職を失う事となったが、それでも皆新たな職を見付けて 第二の人生を歩んでいた。八神はやてとヴォルケンリッター達はお好み焼き屋を始め、 ハラオウン家はクリーニング屋を始めた。そんなある日の事… 「それではシャツ3枚とジャケットですね。仕上がりは明日の3時になりますので。」 「よろしくね。」 「ありがとうございました。」 クリーニング屋を始めてしばらく経つが、そのかいあってクロノも仕事に随分慣れて来た。 すると買い物に出かけていたフェイトが帰って来た。 「買い物帰りで済まないけど手伝ってくれないかな? 今日は少し忙しいんだ。」 「ハァ…ハァ…そ…そんな事より…。」 「ん?」 その時のフェイトの顔はまるでとんでもない物を見てしまったかのように真っ青になっていた。 「どうしたんだ? そんな血相変えて。」 「お…落ち着いて聞いて…。な…なのはが…なのはが見付かった…。」 「な…なんだって!? 本当か!? 何処で何をやってるんだあいつは!」 「それが…。」 フェイトは目から大粒の涙を流し始めた。 「お…落ちぶれて…ホームレスに…。」 「な…なにぃ…。」 フェイトはついには泣き出し、クロノも愕然とする他無かった。 一方ハラオウン家の経営しているクリーニング屋の近くの公園でボロボロのコートに身を包み、 目をサングラスで隠したなのはが物陰に隠れて双眼鏡で何かを覗いていた。 そして覗いた先に映っている一人の男の姿を追い、今度はコートの中からカメラを取り出し、 木の陰に隠れて盗撮を始めた。そして男が近所のマンションの中へ入って行く所まで撮った時、 それを遮るかのようにクロノとフェイトの二人が号泣しながら走って来たのである。 「なのは!」 「あ…。」 「何をやってるんだお前は!」 「あ…あ…し~っ。」 クロノとフェイトに迫られたなのはは戸惑うが、この二人とて戸惑いを隠せない。 「職が無いんならどうして言ってくれなかったんだよ! こんな落ちぶれた姿見たく無かったよ!」 二人はひたすらに号泣するしか無かった。時空管理局解散以後行方不明となっていたなのはが まさかこんな落ちぶれた姿で発見されるなど…誰だって泣きたくなる。 「とにかくすぐウチに来い!」 「そうだよ! ウチの仕事もやっとどうにか軌道に乗って来て、今ちょうど自給600円の バイト探してたところなんだよ!」 「あ…ま…まって…今仕事中なの! じゃましないで!」 「な…なにぃ!?」 「仕事って何!?」 「浮気調査なの!」 なのはは不機嫌そうに走り出した。 「今、依頼人の旦那さんが浮気相手のマンションに入る所だったの! 決定的瞬間を 撮り損ねちゃったじゃない! もうバカ!」 「…。」 一体なのはは何をやっているのか。まだ状況のつかめない二人は唖然とする他無かったが、 なのははマンションへ向けて走り、階段を幾つも登って行く。 「何処行ったの!? 依頼人の旦那さんは! ん…? 相手の部屋の窓が開いてるの…。」 そして、そ~っと中を覗いてみると… 「あ…。」 何とまあ依頼人の旦那と浮気相手が物の見事に何かやってますよ。しかも相手からも 見つかってしまい、これは非常に気まずい。 「し…失礼しました! 覗くつもりじゃなかったんです! 物騒ですからこの窓閉めておきましょうか?」 「あ…すみません…お願いします。」 そうしてなのははゆっくりと窓を閉めるが、その瞬間にカメラで二人の浮気現場を映像に収めていた。 「高町探偵事務所!?」 なのはから渡された名刺を見たクロノとフェイトは驚きを隠せない。 「ほ…本当に…本物の探偵になったのか!?」 「どうして探偵なんてやってるの!?」 「そういう話はまだ今度なの…。」 高町なのは 職業探偵 自称変装の名人 おわり 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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「敵、完全に沈黙しました」 その報告を受けたクロノは安堵の溜息と共に艦長席に深く腰掛けた。 まったく想定していなかった事態ではあったが、なのはとヴィータの奮闘のおかげで、無事に殉職者を出すことなく本局に戻る事ができそうだ。 (それにしてもあのAMF搭載型の機械兵器、いったい何だったんだ?今回の魔力反応と何か関係が?第一、あの遺跡にあんな物がある筈がない。 間違いなく、外部からの介入によるものだ。だとしたら、一体何の為に襲撃してきたんだ?管理局に喧嘩を売るのが目的なら、僕達が生還できないようにする為にもっと多く送りこんでくる筈だ。 いや、管理局を唯の実験相手に選んだだけだとしたら?) 疑問は次々に湧いてくる。 その疑問に答えを出すには・・・ (まずは調査だな。だが、今すぐという訳にはいかないな。遺跡内部にあれがいる可能性もあるんだ。ここは一度報告してから、増援を待つのが得策か・・・) そうやってクロノが今後の方針を考えていると 「はい、クロノ君お疲れ様」 補佐のエイミィがコーヒーを持ってやって来た。 「ありがとう、エイミィ」 「なーに、これくらいお安い御用だよ。それよりも、一体何だったんだろうね、あれ。さっき、データバンクにアクセスして調べてきてみたんだけど、全くのアンノウン。どこでも確認されてないね」 「だろうな。分かっているのはAMFを搭載してるってことくらいだ」 「あれ?そういえば、なのはちゃん達が捕まえたって言ってた男の子は?」 「いや、なのは達によれば次元漂流者らしい。だから無関係の可能性が高い。かといって、シロと決め付けるにはまだ早いんだが・・・」 クロノはそう言いながら、レイヴンとシャドーの画像をエイミィに見せた。 「うっわー。可愛げのない顔してるね~。こりゃ、昔のクロノ君といい勝負だわ」 「・・・悪かったな、無愛想で」 「もー、そんなに拗ねないの!ハラオウン艦長!」 苦笑しながらクロノの背中をはたくエイミィ。 「でもよかったよ、一人も殉職者がでなくて。ホント、なのはちゃんとヴィータちゃんには感謝だね」 「そうだな。正直、あの二人がいなかったら結構危なかった」 「うんうん。あれ?そういえば、肝心のお二人さんは?」 「連絡がとれない。あの二人に限って、万が一なんてことはないと思うが・・・」 そう言いながらも、クロノは嫌な胸騒ぎを覚えていた。 最後に繋がりかけたヴィータとの通信。 あの時、ヴィータの声が必死だった様に聞こえたのだ。 (万が一なんてない。ない筈だ・・・!) だが、万が一の事を考えて行動するのも艦長の仕事である。 「エイミィ、急いでなのは達との通信の復旧を頼む。それと、医療室に連絡。大怪我をした奴はいないらしいが、念のため、空きのベッドを5つ程確保するように伝えてくれ」 「了解。それじゃ、私も持ち場に戻るね」 同時刻、遺跡周辺では、機械兵器の残骸の回収が行われていた。 しかし、戦闘直後であることに加え、雪がちらつく程の寒さのおかげで、作業は遅々として進んでいなかった。 そんな中、C班所属の一般隊員がやる気なさげに作業を行っていた。 「うー、寒ぃ寒ぃ。早く、アースラに戻りたいぜ」 「そーだな。大体、何だったんよこの機械兵器は」 「んな事俺に聞くな。それを考えんのは、ハラオウン艦長や高町隊長の仕事さ」 「違えねぇ」 「しかし、あれだ。高町隊長やヴィータ副隊。あの人ら、マジで人間か?って思っちまうぜ、ホント」 「あー、分かる分かる。俺らがあんなに苦戦してたのにあっという間に薙ぎ払っていくんだもんな。正直、あれは次元が違いすぎるわ」 「あれで俺らより年下なんだもんなぁ。末恐ろしいったら、ありゃしねえぜ」 「全くだ。・・・ん!?おい、あれ!」 と、タバコをふかしていた隊員の一人が空のある一点を指差した。 そこには・・・ 「おーおー、噂をすればヴィータ副隊長・・・。ん!?高町隊長はどうしたんだ?」 「つーか、一緒にいんのはあの飛竜とガキじゃねえか!!」 事態を飲み込めないまま二人の目の前に、ヴィータとシャドーは降り立った。 「ヴィータ副隊長!ご無事でし・・・」 「敬礼はいい!!そんな事より、アースラと連絡できるか!?それと本隊の位置は!?」 慌てながら上官に対して敬礼をとろうとする二人を怒鳴りつけるヴィータ。 何故、彼女がこんな態度をとるのか全く呑み込めない彼らは、目を白黒させるばかりで質問に返答することすらすっかり忘れてしまっていた。 そんな二人の様子をみて焦りを募らせたヴィータが再び怒鳴ろうと一歩踏み出す。 しかし、レイヴンが機先を制するようにヴィータより早く口を開いていた。 「高町なのはが大怪我を負った。応急手当は済ませたんだが、意識不明のままだ。このままだと命に関わる。今、移送中だ」 「「・・・!!」」 レイヴンの言葉を信じられずにヴィータを見返すジョンとウィリアム。 しかし、否定の言葉は返ってくることはなかった。 「事実だ!それより急げ!早く本隊と合流したい!」 「り、了解しました!本隊は現在ポイントX0Y5にいます!おい、連絡を・・・」 「アースラ聞こえますか?こちらポイントX10・・・・」 叱責され、我を取り戻した隊員たちが即座に行動を開始する。 それを苛立たしげに見据えると、ヴィータは再び飛び立っていった。 Another View (Raven) いつの間にか雪は止んでいた。 しかし、気温は低いままだ。 (消耗してなければいいんだが・・・) 応急手当から既に10分が経過しており、体が冷えてきていても不思議ではない。 先程合流した隊員の話によれば、本隊はここからさらに10分程の場所にいるらしい。 怪我の具合を考えれば、正直ギリギリだ。 (問題は、治癒魔法とやらがどのくらい効果があるかってとこだな・・・。まあ、俺が考えても事態は変わらないんだが) そんな事を考えながら空を見上げる。 惑星Zi(ズィー)と違い、月は一つしかでていないが、綺麗な夜空だ。 “あのオーガノイドの研究が終わったら、みんなでピクニックに行こう” ふいに死んだ父の言葉が思い出された。 そういえば、あの日も今日の様な星の瞬く夜空だった。 「・・・」 次々に嫌な事ばかり思い出す。 ―――自分の駆るジェノザウラーが惜敗し、右手に消えない傷跡を残したあの日 ―――シャドーが度重なる戦闘の度に無理を重ね、終に赤熱化し、行動を停止したあの日 ―――デススティンガーに無様にも敗北した、あの日 そのいずれの日も、雲一つ無い、月の綺麗な夜ではなかっただろうか? (感傷だな。情けない) 苦笑する。 そんなことは唯の偶然に過ぎない。 今夜が晴れているからといって、高町なのはが必ず死ぬわけがないのだ。 だが、このままでは彼女が危ないのも確かである。 と、そこまで考えてレイヴンは自嘲的な笑みを浮かべた。 (何を考えているんだか・・・。彼女が生きようが死のうが俺の知ったことじゃあないだろう) だが、自分がこの異世界で行動していくにあたって、恩を売っておくにこしたことはないのもまた事実。 その為には、彼女に助かってもらった方が都合がいい。 (結局、俺の本質は変わっていないってことなのか) Another View End (Raven) いつまで経っても見えてこない本隊にヴィータの焦りは、最高潮に達していた。 実際には、まだ2分程しか経過していない。 しかし、今のヴィータには1分が1時間にも1日にも感じられた。 (くそっ!まだなのかよ!もたもたすれば、それだけなのはがヤバクなるってのに!) 後ろを見やるヴィータ。 そこには翼を広げ、ヴィータの最高飛行速度に遅れることなく追従してくるシャドーがいた。 そして、その中には未だに意識不明のなのはがいる筈だ。 彼女の状態を思い、焦りとは別に後悔の念がヴィータに芽生える。 (くそ!もっと私が注意してればあんなことには!いや、それより、なのはの不調に何で気付けなかったんだ!) ヴィータは、速度を落とさぬままに自分を責め始めた。 (第一、予兆はあったじゃないか!あんなに消極的ななのはは初めてだったろ!なんであの時に注意しなかったんだチクショウ!) そこまで考えてヴィータはあることに気が付いた。 そういえば、レイヴンはなのはの不調に気付いていた様なことを言っていなかったか? “今一番気を付けなければいけないのは、お前だ” そう、確かこう言っていた筈だ。 不安を紛らわせる為もあったが、ヴィータはレイヴンに思わず尋ねていた。 「おい!レイヴン!」 「何だ?」 「お前、確かなのはの不調に気付いたようなこと言ってたよな?一番気を付けなくちゃいけねえってよ」 「・・・ああ、言ったがそれがどうした?」 「何でなのはの状態が分かったんだよ?初対面だろ?」 「・・・」 沈黙するレイヴン。 しかし、彼の表情を見たヴィータは地雷を踏んでしまったと悟った。 なぜなら、どこまでも無表情になっていたからだ。 「い、いや。答えたくねーんならそれでいい。別に無理して話さなくても・・・」 「お前と同じさ」 「いい・・・え?」 「俺も今回と似たような経験があってな。あんな思いは二度としたくないからなのか、それ以来他人の不調には敏感になった」 「・・・」 「それだけだ。・・・おい、あれが本隊じゃないのか」 レイヴンがある地点を指差す。 そこには大勢の隊員が行き来しており、テントまで張られていた。 ヴィータとシャドーの姿を認めたのか、担架をもった隊員が向かってくる。 それを見て一安心したヴィータが先程のことを謝ろうとレイヴンに向き直った。 「ん?どうした?」 「・・・悪かったな、変な事聞いてよ」 「気にするな。俺は気にしていない」 「・・・」 「急ぐぞ、もたもたするな」 「ああ、分かってるよ!」 レイヴンとヴィータが本隊と合流するほんの数分前、クロノはアースラの艦長室で彼の母でもあり、総務統括官でもあるリンディ・ハラオウンと通信を行っていた。 内容は勿論、なのはの負傷についてである。 「というわけで、本局医療班へ通達を。待機レヴェル3でお願いします」 「分かりました。すぐに手配します」 一見すると、とても親子とは思えないほど両者の会話は淡々としていた。 しかし、それは内心の動揺を必死に押し殺していることの表れでもある。 「それと高町なのはの親族への連絡を。最悪の場合も考えなければなりません」 「それは私が直接伺いましょう。・・・それはそうとクロノ?」 今まで見せていた総務統括官としての顔を消し、母としての表情になったリンディはクロノを柔らかく諭すような口調になって言った。 「今回の事はあなたの責任ではないわ。だからそう自分を責めるのはよしなさい」 「そんな事は・・・!」 「顔を見ればわかるわよ。“自分も現場に行っていれば”っといったところね。でもクロノ、今回のあなたの判断は決して間違っていないわ。私があなたの立場でもそうしていたに違いないもの」 「ですが・・・」 「過ぎたことを悔やんでも仕方がないわ。今は出来ることをするしかないのよ。だから、冷静になって。試しにこれからするべき事を言ってごらんなさい」 「・・・なのはを収容したらすぐに医療室に運ばせて、応急処置。後に本局へ転送」 「その後は?」 「武装隊の連中も動揺しているでしょうし、今日は引き上げさせます。事後調査は日を改めて行うことにします。むしろ重要なのは、ヴィータと一緒にいる、次元漂流者と思しき人物のほうです。今回の襲撃事件と何らかの関わりがないか、事情を聞くべきです」 「正解よ。でも、事情聴取はあなたがする必要はないわ」 「え?」 「あなたもなのはさんのことが心配でしょ?尋問に関しては、こちらから一人、執務官を送るから、あなたも本局に戻っていらっしゃい」 「母さん・・・」 「むしろフェイトやはやてさん達への連絡を頼めるかしら?さっきも言ったと思うけど、私はこれから高町さんのお宅に直接向かうから」 「分かりました。では・・・」 「落ち着いて行動するのよ、クロノ」 通信画面が消える。 途端、クロノは大きく溜息を吐いた。 リンディと会話していて疲れたというわけではない。 むしろ、今から本格的に心が疲れることをしなくてはならないのだ。 (ふう、フェイトやはやて達に何て言えばいいんだ) もっともストレスのかかる仕事―――親族への直接連絡―――はリンディが行ってくれるとはいえ、義妹や親友へなのはの負傷を伝えるのも充分に堪える仕事である。 だからといって投げ出すわけにはいかない。 これは他の誰でもない、アースラ艦長クロノ・ハラオウンがやらなければならないことなのだから。 (ああ、本当に世界はこんな筈じゃないことばっかりだ) 戻る 目次へ 次へ
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レアスキルとSランク揃いの集団を裏技的に組み上げたキメラじみた部隊。 ゆえに機動六課は疎まれている。 もしもなにか問題を起こせば地上本部のレジアス中将が嬉々として潰しにかかるだろう。 一部の隙も見せられない。 ゆえに内部監査への対策は練りに練ってまさに完璧というレベル。 受け答えも意表をついたものまでありとあらゆる想定をし尽くした。 これでだめならなにをやっても無理。 そんな状態だったはずなのに・・・・・・。 突然舞い込んだみんなの休暇。たまにはみんなで温泉旅行。 魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。 第15.6話たまにはちょっと一休み―温泉旅行へ行こう― 「監査にひっかかったーーーー!?」 絶叫のようなヴィータの悲鳴が部隊長室に響き渡る。 集まってもらったみんなも呆然とした表情。 「で、で、でもどうして?あれだけ万全に対策練ったのに・・・・・・。」 「せやな。フェイトちゃん・・・・・・。」 「ルールはきっちり守るように身体で覚えさせたのに。」 「せやな。なのはちゃん・・・・・・。」 「クルマ叩き壊したり施設叩き壊したり人叩き壊したり訴えられるような問題は起こしてないな。」 「せやな。はんた・・・・・・・。」 「人体実験も最近はやってないし・・・・・・。」 シャマルの言葉に波が引くような勢いでみんなが一斉に距離を取る。 もちろん私もリインも・・・・・・。 いつかやりかねないと思っとったが、まさか本当に・・・・・・。 「あ、あはは。やだな。もう、冗談よ。空気が重かったから冗談を言ってみただけよ。」 「あー、本当にびっくりしたわー。シャレになっとらんよ。」 「まったくだぜ。いつかやりかねないと思ってたからな。」 「はやてちゃんとヴィータ、後で私が作ったイチゴショート御馳走してあげるわね。」 「「謹んで遠慮します。」」 「遠慮しなくていいわよ。みなさんもいかが?」 シャマルの黒い笑みに全員が必死に首を振る。 もげるんじゃないかってくらい必死に・・・・・・。 「それならご馳走になるとしよう。」 「ワン。」 命知らずがいたよ。 1人と1匹も・・・・・・。 でもバレンタインのチョコ普通に食べ取ったし、平気なんかなぁ。 部屋の雰囲気が和やかなものに変わりつつあった。 「それで、なんで監査とかいうのにひっかかったんだ?」 「「「「「「「「「あっ・・・・・・。」」」」」」」」」 はんたの言葉に全員が思い出したかのような相槌をうったのはどうかと思う。 気を取り直して私は口を開いた。 「監査にひっかかった理由やな。なぁ、なのはちゃん。」 「なに?はやてちゃん。」 「昨日何時から何時まで働いとった?」 「んー、早朝にフォワードの朝練やって夜にフォワードの訓練見てデータまとめて資料整理して報告書書いてたから・・・・・・。」 「フェイトちゃんは?」 「私も同じくらい・・・・・・かな。」 「ヴィータは?」 「私もそんなもんだな。」 「シグナム。」 「私もだ。」 「はんた。」 「フルタイム。」 「フォワード4人。」 「「「「同じくです。」」」」 「ええと、その、つまり・・・・・・。」 どこかなのはちゃんが申し訳なさそうに口ごもりながら申し出てくる。 ティアナも薄々感付いたのだろう。 もっとも他のみんなは首を傾げるばかりだが。 思わずため息が漏れる。 「そうや。平たく言えば『前線メンバーのお前ら働きすぎ。過労死してマスコミに騒がれると面倒だからちゃんと休めやゴルァ』ってところや。」 後ろめたそうに皆が一斉に目を逸らす。 まったく冗談みたいな話や。 サボってて監査にひっかかったんならともかく働きすぎで監査にひっかかるなんて・・・・・・。 まぁいい。今回呼び出したのは次の用件が本命や。 「それでや。皆揃って休み取ることになったんやけど、せっかく皆一緒なんやから温泉旅行なんてどうや?って思って呼び出したんよ。」 反対の声は上がらなかった。 ======== 「くぅーーーー、生き返るわーーーー。」 「はやてちゃん、もう少し言葉選ぼうよ。」 「ええやないか。せっかくの貸しきりなんやから。」 「シーズン外れでねらい目だったよね。でもあの垂れ幕はどうにかならなかったの?」 海鳴温泉といえば読者には分かってもらえるだろうか。 無印原作5話のあの温泉のことだ。 平日のど真ん中、シーズン外れのこの時期に1泊2日の小旅行。 働きすぎということで与えられた休暇を消化しながらみんなのリフレッシュとレクリエーションにもなるこの企画。 さすがはやてちゃんだと思う。 ただ、はやてちゃん・・・・・・。 「時空管理局様御一行って垂れ幕はさすがに・・・・・・。」 「手配したんはシャマルやて。シャマル?」 「ええと、その、ついうっかりいつもの癖で・・・・・・。」 あははと苦笑いしているシャマルさん。 バスで到着した一行を出迎えた温泉宿の入り口にでかでかと『時空管理局様御一行』なんて垂れ幕があって 全員が引き攣った顔をしたのは見間違えじゃなかったらしい。 まぁ、不思議な名前の一行が度々訪れているみたいだから向こうも詮索しなかったのだろう。 宿帳をみたら明後日からナンバーズ様御一行という人達が止まるみたい。 ナンバーズって宝くじの会社の人かなとか思いながら、温泉に浸かる。 そういえば以前にみんなでこうやってゆっくりしたことっていつだったかな。 記憶に全然無いことに今更ながら気がつき、日々の疲れを癒す。 「そういえば母さんとレティさん、どうしてここに?」 長い髪をタオルで束ねたリンディさんとレティさんにフェイトちゃんが尋ねる。 あれ?そういえばなんでいるんですか? 物凄く自然にいたから気がつかなかったけど。 「あら、フェイト。私達がいるとまずい?」 「ええと、そうじゃなくって・・・・・・。」 「なんてね。冗談よ。レティがグリフィス君から聞いていたからちょうどいいって便乗させてもらったの。 クロノもミッドにいたら引きずってこれたんだけどね。」 「まったく、グリフィスに事の顛末を聞いたときは呆れてものが言えなかったわ。 働きすぎで監査にひっかかるなんて冗談もいいところね。」 「ええと、その、すみません。」 「ほらほら、今日は休暇なんだから仕事の話はなしよ。たまにはこうやってのんびりしましょう。ね?」 リンディさんの言葉に皆が思い思いにくつろぎ始める。 スバルなんかたれぱんだみたいに今にもたれてしまいそうなほどにくつろぎモードに入っている。 その横にいるティアナも同様に。 お風呂から上がったら宴会で、その後は・・・・・・。 そのとき、カラカラっと露天風呂の仕切りが空けられる音が響く。 あれ?貸切じゃなかった? 湯煙の向こうから現れた金髪の見事な肢体の持ち主は・・・・・・・ってええ!? 「あら?もしかしてはやてさん達?」 「カリムさん!?なんで!?」 「ああ、私が報告がてら手を回しておいた。」 レティさんが言うには騎士カリムも働きすぎらしい。 シスターシャッハが常々休むように行っていたのだが聞き入れないので今回の強攻策になったらしいが・・・・・・。 ただ、シスターシャッハ。 寝起きでヴィンデルシャフトを叩きこんで昏倒させて連れて来るってどれだけ・・・・・・。 目が覚めたカリムさんはもう開き直って休暇をとるしかなかったらしい。 あははと笑い声が露天風呂に響き始める。 そんなとき、はやてちゃんのアレが始まった。 「しかし、みなさん。たいそうなものをお持ちで・・・・・・。」 はやてちゃん、本当にその癖はどうにかならないのかな。 私達の身体の一部を凝視しながら手をわきわきさせて近づいてくるはやてちゃんに皆が距離を取り始める。 知らないはずのティアナとスバルも何かを感じたのだろう。 もっとも大まかな推測はついているのだろう。 「あれ?そういえばキャロは?」 逃げた矢先、ふと気がついたスバルの声に皆が辺りを見回す。 あれ?そういえばいないね。 露天風呂の前までは皆一緒だったから迷子ってことはないはずなんだけど・・・・・・。 「エリオくーん。一緒にお風呂はいろー。」 竹で作られた衝立の向こうにある男湯のほうから声が聞こえてきたのは気のせいですか。 ======== 「キャ、キャロ。こっち男湯、男湯!!」 「でも、11歳以下なら大丈夫ってほら・・・・・・。」 慌てたエリオに応える声。 思わずティアナは頭を抱えた。 まぁ、薄々は感じてはいたけど、羞恥心はないのだろうか。 辺境育ちとか差し引いてもちょっと問題があるように思える。 冗談抜きに管理局の教育プログラムに組み込むよう上申しようかしら。 「だったらこっちで入っていくといい。洗うからそこに並べ。」 「あ、はい。」 「わかりまし・・・・・・ってはんたさんの・・・・・・すごく大きいです。」 エリオ!!主語を消すな主語を!! いったいなにがすごく大きいのか。 隊長たちもさっきまでのざわめきがパタリと止んで、耳をダンボにしている。 「そのうちエリオもこうなるさ。」 「でも、僕のは指1本ぐらいで・・・・・・。」 「エリオ君。1本半はあると思うよ。」 「でもはんたさんみたいに拳1つはないよ。それにほら、ぼこぼこで血管が浮き出てるし。」 はい?いまなんておっしゃりやがりましたか? 指1本とか拳1個の大きさのもの・・・・・・。 ぼこぼこで血管が浮き出ている・・・・・・。 リンディ提督がレティ提督の肩をきゃーきゃーいいながらバシバシ叩いている。 カリムさんはシャッハさんにいろいろ耳打ちしているが、刻々と顔の赤さが加速している。 まじまじと自分の拳を見つめている隊長達。 いやいや、そんなことがあるはずはない。 思い浮かべた身体部位を頭をふって振り払う。 そんな私達に追い討ちをかけるように会話が進む。 「あの触ってみてもいいですか?」 「かまわんぞ。」 「うわぁ。すごく硬いです。まるで鋼みたいだ。」 「わー、本当だ。すごい・・・・・・。」 「僕ももう少し硬くしたいんですけど、まだまだ柔らかくて・・・・・・。」 「成長すれば大丈夫。」 「わふ。」 硬いってなんですか!? 成長すればってちょっと・・・・・・。 キャロもどこ触ってるのよ!! いや、きっと聞き間違えたんだ。 きっと身体を洗うのに軽石なんか持ち出して洗ってるから硬いとかいってるんだ。 そうだ。エリオもキャロもスポンジだった。 きっとはんたのはビッグサイズの軽石なんだ。 ぼこぼこなのは軽石なんだ。 こすりすぎて血管が浮き出ちゃったんだ。 うん、そうに決まっている。 「やっぱり大きくて硬いほうがいいんでしょうか。」 「どれだけ使えるかが重要だな。大きさや硬さは二の次でいいと思う。」 「わー、ポチさんのもとっても硬くて、フリードよりすごいかも。」 キャロ、アナタなにをしているんですか。 ってフリードよりっていったいなにが!? ぶんぶんと首がもげそうな勢いで必死に頭を振る。 「あの、その、ぶらさがってみても・・・・・・。」 「かまわないが?」 「あの、私もお願いできますか?」 「いいぞ。2人いっぺんで。」 「「わー。すごいや。」」 どこにぶらさがってるんですか!?!?!? 子供とはいえ体重40kg前後はあるのに。 というか持ち上がるんですか!? 折れないんですか!? 「いつか僕もそうなりたいです。」 「エリオ君ならきっと大丈夫だよ。」 「わふ。」 悶々とした想像が頭に残ったまま、会話がぱたりと止んだ。 あれ?そういえば妙に皆静か・・・・・・って。 「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーー。隊長たちしっかりしてー!!!!!!!!!!。」 顔を真っ赤にして気絶しているなのはさん達の姿思わず悲鳴を上げた。 ======== 「あー。一生の不覚やったわ。せっかくのチャンスが・・・・・・。」 「なのはちゃん、大丈夫?」 「ええ、だいぶ収まってきました。フェイトちゃんは?」 「私はもう平気。でも、母さん達、タフですね。」 「タフじゃなければ生きていけないわよ。」 「スバルは?」 「うー、だめー。」 湯上りの女の子の群れ。 そう書けば色っぽいはずなのに、その半分が顔を真っ赤にして横になっているあたり色気がない。 中でも一番熱いお湯のところにいたスバルが一番重症だった。 ゴシップ好きが女の子のサガとはいえ、こんなことに自分がなるなんて・・・・・・。 まったく恥ずかしいところをみせてしまったものだ。 でも、本当にあんな会話・・・・・・。 思い出したら顔が再び熱くなってくる。 指一本とか拳1個ってきっとたぶん・・・・・・アレだよね。 小さい頃に見たお父さんとかお兄ちゃんのものを思い出してさらに顔が熱くなってくる。 「ただいま戻りました。」 「同じく戻りました。」 「いったいどうしたんだ?」 「わん。」 そんなとき、戻ってきたはんた君達3人と1匹。 視線は自然と下半身に向いてしまう。 「どうしたじゃないだろ。てめぇ、いったいエリオ達になに触らせてやがるんだ!!」 ヴィータちゃんとはんた君、本当に相性悪いのかな。 そんなときだった。 真っ先に突っかかっていったヴィータちゃんの背後からシグナムさんが口を開いた。 「しかし、私も是非触らせてもらいたいものだな。」 レティさんとリンディさんが口に運んでいたビールを勢いよく噴出す。 あ、シャマルさんが転んだ。 唖然としたような表情のティアナとフェイトちゃんとはやてちゃん。 あ、あのシグナムさん、今なんて・・・・・・。 「あ、シグナム副隊長もですか。やっぱり興味ありますよね。」 「ああ、鋼のような硬さとは実に興味深い。」 「ちょちょちょちょちょシグナム。おま・・・・・・なにいってやがるんだ!!」 「だから、温泉の会話の続きだろ?ヴィータ。」 「違う。そうじゃなくてどこ触ろうとしてやがるんだよ。このムッツリ!!」 「・・・・・・?二の腕を触るのがムッツリになるのか?」 「「「「「「「「二の腕?」」」」」」」」 はんた君達とシグナムさんを除いた全員が一斉に疑問の声を上げた。 「ええ、そうですよ?力瘤つくっても僕のはまだこんなに小さくて・・・・・・。」 「でも指1本半は絶対にありますよ。」 「拳1つって・・・・・・」 おもむろに浴衣の袖を捲り上げて力瘤を作ってみせるはんた君。 あ、本当だ。たしかに拳1つある。 「硬いとか柔らかいとか!!」 「僕のはまだ少しぷよぷよなんですよ。でもはんたさんのは凄いですよ。」 「ほう。これは凄いな。硬くてしなやかで、まるで鋼のワイヤーが詰まっているようだな。」 「・・・・・・ぶらさがるとか。」 「こうやってぶら下がらせてもらったんです。こういうことしてもらった記憶がないので・・・・・・。」 「私もちょっと憧れがあったんです。」 そう言ってはんた君の二の腕にエリオ達がぶら下がるとなんでもないかのように持ち上げる。 ああ、なるほど。 エリオ達って肩車とかそういうこと、してもらったことないんだ。 それなら納得・・・・・・って。 「それで、二の腕じゃないならなんだと思ったんだ?ヴィータ。」 「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・。」 「ああ、ヴィータ。ちょっと落ち着いてー。」 自身のバリアジャケットのように真赤な顔をして奇声を上げて暴れはじめるヴィータちゃん。 いや、気持ちは分かるけどさ。 シャマル先生が必死で止めているけど、またシグナムさんが当身で黙らせるのだろうか。 それにしても・・・・・・。 「バトー博士がいなくてよかった。」 「ハハハハハハハ、まったく四六時中盛ることしか考えてないムッツリスケベのエロガキがこんなにいたなんて天才のボクも想定外だったよ。 機動六課あらためムッツリスケベ小隊にしたらどうだい。ハハハハハハハハハハハ・・・・・・。」 慌てて辺りを見回すけど当然バトー博士はいない。 ああ、幻聴が聞こえる辺りもうだめだ。 このカオスな場をどうすればいいんだろう。 狂乱しているヴィータ達とは正反対にしげしげと興味深そうにはんた君の腕に触れているレティさんとリンディさんが あまりにもミスマッチで・・・・・・。 さっさと寝てしまおう。 ======== 「それにしても紛らわしい会話だったわね。」 「あの、みなさん、いったいなんだと思ってたんですか?」 「それはその・・・・・・。」 「まぁ、あれだ。」 「その、ねぇ。うん、あれよ。あれ。あはは・・・・・・。」 純真なキャロの言葉に私やヴィータ副隊長、シグナムさんが歯切れ悪くどうやってごまかしたものかと口ごもっている。 リンディ提督たちはまだ宴会場でお酒を飲んでいるみたいだからここにはいないし。 なのはさん達がフェイト隊長に視線でなんとかしろと訴えているのがはっきりわかる。 私もすがるような目を向けているのだろう。 昏倒しているスバルがうらやましい。 みんなの前に押し出されるように出てきたフェイト隊長はしばらく考え込んだかと思うと口ごもりながら言葉を紡ぎ始める。 「ええと、キャロ。あの、ええと・・・・・・男の子と女の子の身体の違いってわかるかな?」 「はい。男の子にはオチ・・・・・・むぐっ。」 「言わなくていいから。」 フェイト隊長の言葉に口を塞がれたままのキャロがこくこくと頷く。 「それで、みんなはそれの話だって勘違いしちゃったんだ。間違いは誰にでもあるでしょ?」 「はい。」 「うん。いいお返事。それじゃこの話はここでおしまい。」 「あの、フェイトさん・・・・・・。」 「なに?キャロ。」 「それじゃ、ええと大きさとか硬さって重要なんですか?」 ああ、キャロもきわどい質問を・・・・・・。 助けを求めるようなフェイト隊長の視線。 なのはさんやはやて部隊長は視線を合わせないようにしている。 ヴィータ副隊長達も同様に・・・・・・。 そして私も・・・・・・。 「ティアナはどう思う?」 「教えてください。ティアナさん。」 そこで私に振るんですかー!? ああ、ほんとうにどうしよう。 ええと、うーん、あー、そうだ!! 「それよりエリオ達のはどうだったの?指1本や拳1つなんかじゃないんでしょ?」 ヲイヲイと言わんばかりの視線が突き刺さる。 でも、しかたないじゃないですか。 他にどうやって切り返せって言うんですか? 「はい。指1本や拳1つどころじゃなかったです。」 「そうよね・・・・・・はい?」 なんかおかしいところがあった。 指1本。これは大丈夫。 拳1つ。これも大丈夫。 どころじゃなかった。これも大丈・・・・・・夫じゃない!! 本当に!? そんな視線を感じたのか戸惑いながらキャロは言葉を続けている。 「エリオ君のはえーと、うん。クロスミラージュって感じでした。」 ちょ、ちょっと待ってキャロ。 クロスミラージュって・・・・・・まじですか!? キャロの言葉は止まらない。 「ポチさんのはグラーフアイゼンって感じで、はんたさんのは・・・・・・うーん?」 え?ちょっとなんでそこで悩むのよ。 いったいどんな大きさなのよ。 ちょうどいいものがあったのか、ぽんと手を打つキャロ。 そのまま拳を握り締めると天高く突き上げた。 「ヴォルテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーールってかんじでした。」 「・・・・・・ヴォルテール?」 「違います。ヴォルテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーールです。」 拳を突き上げて叫んでいるキャロ。 ええと、龍召還で呼べるフリードともう1匹のほうがそんな名前だったか。 どれだけ大きいのよ? 「分かりますか?ティアナさん。ヴォルテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーールなんです。」 「ヴォルテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーールなのね。」 「そうです。ヴォルテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーールなんです。」 突き上げる拳に何の意味があるのか。 高々と突き上げる拳が重要らしい。 あと、ヴォルテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーールのアクセントも・・・・・・。 まぁ、なにはともあれ、この話はここで終わったからよしとしよう。 その後、休暇が終わっていつもの機動六課に戻ったのだけど、 数日間はクロスミラージュやグラーフアイゼンを見るたびに顔を赤くする隊長達の姿と、 ヴォルテールを見てみたいと訴えるヴィータ副隊長の姿が見られた。 追伸 エリオのをヴァイス陸曹とグリフィスさんが興味本位で覗き込んだところ心を圧し折られたらしい。
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クロス式・意外と壮絶な機動6課の慰安旅行 小ネタとして描かれた、とある旅行の風景 型月・リリカル両キャラのオールスター出演による温泉旅館での3日間 双方キャラの競演 慰安旅行―プロローグA-慰安旅行―プロローグB-慰安旅行―プロローグC 慰安旅行―一日目A-慰安旅行―一日目B-慰安旅行―一日目C 慰安旅行―二日目A-慰安旅行―二日目B-慰安旅行―二日目C 慰安旅行―二日目祭A-慰安旅行―二日目祭B-慰安旅行―二日目祭C-慰安旅行―二日目祭D
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あくる日、なのはとユーノの二人にクロノから召集がかかった。 「実はなのは、君の世界でロストロギアが発見されたのだが…その回収に行って欲しい。 あと…ついでにそこのフェレットもどきもな。」 「誰がフェレットもどきだよ…。」 相変わらずフェレットもどき呼ばわりするクロノにユーノも機嫌良く無かったが、 気を取り直してなのはは訪ねた。 「で…一体何処に行けばいいの?」 「地球の日本国北海道…そこの大量の粗大ゴミが不法投棄されている地域あるのだが、 そこにあるこれを回収して来て欲しいんだ。」 クロノがそう言いいながら一枚の写真を渡す。その写真には小さな小瓶の中に入った 可愛いコックさん人形が写っていた。 「小瓶の中の…可愛いコックさん人形…。」 「これはひょっとしてギャグで言っているのか…。」 なのはもユーノも呆れてしまうが、クロノは真剣だった。 「確かに一見するだけならこれはただの小瓶の中に入った可愛いコックさん人形だが… 侮ってはいけない。何故ならこの可愛いコックさん人形の中にはその昔、 破壊の限りを尽くしたと言う恐ろしいアストラル生命体が封印されているんだ。」 「アストラル生命体!?」 「このアストラル生命体がどの様にしてかつて破壊の限りを尽くしたと言うのかは 定かでは無いが…これの封印が再び解かれる様な事があれば君の世界だけの問題では無い。 いずれは次元世界全体に関わる大事になるのは必至だ。だから早急に回収して来て欲しい。」 「うん分かったの。」 「そこのフェレットもどきもちゃんとなのはを補佐しろよ。」 「だからフェレットもどきはやめろって…。」 地球は日本国北海道にて、大量の粗大ゴミが不法投棄されている地域があった。 周囲をゴミに囲まれた場所に一つの掘っ立て小屋が建っていた。 その掘っ立て小屋の主の名は「ドクター剛」。知っている者は良く知っているし、 知らない者は全く知らない悪の科学者である。彼はかつて自身の作り上げたサイボーグ猫軍団 「ニャンニャンアーミー」による世界征服を企んでいたが…諸所の事情に よってことごとく失敗に終わり、今ではすっかりその野望を諦めてしまい、 サイボーグ猫の最初期型にして彼の下に唯一残った「ミーくん」と 共にのんびり暮らしていた。そしてそんな彼等の平穏を脅かす存在が 今日もまたやってくるのである。 「お~っす剛! 暇だから遊びに来てやったぞ!」 「ゲゲ! クロ!」 突然剛のもとを訪れた者は人間では無い。剛の作ったサイボーグ猫の一体である「クロ」である。 彼も本来は剛のニャンニャンアーミーとして世界征服の尖兵となるはずであったが、 彼自身はそれを拒絶し、逆に剛の世界征服の障害となると共に剛が 世界征服を諦めてしまった最大の原因の黒猫である。 クロの方から剛のもとを訪れるのはロクな事が無い証拠であるが、 その時のクロは妙に機嫌が良かった。 「おい! 今日ここに来る途中でイタチを捕まえたんだが…今夜はイタチ鍋にしようぜ!」 「キュー! キュー!」 サイボーグ故に人間との対話は愚か二足歩行さえ可能なクロの右前脚に 一匹の小さなイタチが掴まれてもがいていたのだが…そのイタチ…何処かで見覚えのあるイタチだった…。 「よーしミーくん! 今直ぐコイツを捌いてくれ!」 「よっしゃ任せろクロ!」 「キュー! キュー!」 クロは料理の得意なミーくんにイタチを放り、ミーくんも嬉しそうに包丁を 取り出していたが、そんな時だった。 「待って! ユーノ君を返して!」 「ん?」 一人の少女が駆け付けて来た。その少女こそ先に説明された任務によって 北海道にやって来た高町なのはである。 「何だ!? コイツお前のペットかよ。」 「あ~あ~、せっかくイタチ鍋にして食べようと思ったのに。」 「あ~あ~、イタチ鍋食べたかったな~。」 「ユーノ君をイタチ鍋にしちゃだめだよ!」 つまり、クロが捕まえて来たイタチとはフェレットモードのユーノだった事が明らかになり、 解放されたユーノはなのはの肩まで登っていた。 「ユーノ君が助かった所でちょっと聞きたいんだけど…。」 「ん? このイタチを追って来ただけじゃないのか?」 「私、ここにコレがあるって聞いて来たんだけど…分かる?」 なのははロストロギア指定された小瓶に入った可愛いコックさん人形の写真をクロ達に見せた。 「何だ? これ何処かで見た事があったな~。」 「これデビルが封印された奴じゃないか!」 「ああ! あったなそんな事が!」 「デビル?」 クロ達の言うデビルと言う単語に首を傾げるなのはだったが、そこで剛が その写真に写った可愛いコックさん人形の入った小瓶をゴミの山から持って来た。 「写真に写っているのはこれだな。」 「あの…これ…持って行ってもよろしいですか?」 「ああ持ってけ持ってけ! コイツには二度も酷い目にあわされてるからな! だが…この小瓶のフタは絶対に空けるなよ! じゃないと大変な事になるからな!」 「ご忠告ありがとう…って…私…今猫と会話してるぅぅぅぅ!!」 「気付くの遅いよ!!」 「(あの…なのは…今更驚く事なのかなそれ…。)」 まあとりあえず…目的のロストロギアを回収する事に成功したなのはとユーノは その可愛いコックさん人形の入った小瓶を持ってミッドチルダ時空管理局に帰還した。 目次へ 次へ
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此処は首都クラナガンに存在する広大な地下水路、其処に一つの小さな影が存在する…… その容姿は金髪に翡翠色と紅玉色のオッドアイの瞳、小さく幼い左手にはレリックケースが二つ鎖に繋がれていた…… そして少女は、か細い声で母を探しながら水路を歩き続けているのであった…… リリカルプロファイル 第十九話 交戦 …此処はスバル・ティアナの出身地であるミッドチルダ西部エルセア地方に存在するポートフォール・メモリアルガーデン、スバルの母、ティアナの両親と兄が眠る墓地である。 休暇を貰った二人はヴァイス陸曹からバイクを借り、この期を利用して墓参りに来たのである。 二人はそれぞれ参る墓へと赴き花を生け手を合わせると、今まで起きた出来事を近況として報告していた。 そして墓参りを終えた二人は一つの慰霊碑へと赴く、その慰霊碑はミッドチルダ失踪事件の被害者を弔う物である。 慰霊碑には被害者の名が刻まれており、二人はカシェルの名を見つけると手を空わせ静かに目を閉じる。 暫く静寂が続くと、スバルはゆっくりと目を開き慰霊碑を見つめた。 「此処で見ていてねカシェル、私達絶対に強くなって夢を叶えるから!」 スバルの決意が滲む言葉に呼応するように頷くティアナ、すると優しい風が二人の髪を揺らす。 その風はまるでカシェルが優しく答えてくれたように感じ、二人は微笑みを浮かべ慰霊碑を離れ墓地を後にするのであった。 場所は変わり此処はゆりかご内、現在ベリオンはオットーとディード、そしてルーテシアの相手をしていた。 だが相手と言ってもその巨体に乗り、ゆりかご内を探索しているだけなのであるが。 「やれやれ…遊び道具として作った訳では無いのですがね……」 レザードはその光景に頭を押さえ首を振る、作成後のベリオンはナンバーズの遊び道具と化していた。 大抵は模擬戦の相手なのであるが、オットーとディードはベリオンの肩の上がお気に入りらしく、良く乗っかっており、 更に先日では、セインとウェンディによる自作のメイド服を着せられていた。 二人の言い分ではベリオンの「御主人様」と言う一言のみで作り上げたのだという。 メイド服を着たベリオンの姿はまるで、足の無い某宇宙用MSを彷彿としており、 その姿を思い出し思わず苦笑しているとレザードの下にスカリエッティの緊急の通信が入る。 「どうしたのです?ドクター」 「レザード、困った事態が起きた………“鍵”が逃走した」 「………それはどういう事です?」 レザードの問いかけに説明を始めるスカリエッティ、事の発端は首都クラナガン近郊に存在する地下施設、スカリエッティは此処で“鍵”を作成していた。 “鍵”は順調に成長しレリックを融合できるまでに至った為、運送車で此処ゆりかごへ運送していた。 ところが、その道中に“鍵”が覚醒、生体ポットを破壊し暴走を始めた為 “鍵”の暴走を止めるべく同行していたガジェットI型が起動したのだが、瞬く間に破壊、そのまま“鍵”は逃走したのだという。 “鍵”にはレリックケースが二つ繋がれており、レリックの存在によって管理局が動く可能性がある。 管理局より早く“鍵”を回収しなければならない、其処で“鍵”に繋がれているレリックを利用してガジェットと不死者を囮として用い、 その間にナンバーズが“鍵”を回収して欲しいとの事であった。 “鍵”はSランクの砲撃にも耐えられるような造りをしているらしく、いざとなったら“鍵”ごと攻撃してもかまわないとスカリエッティは語る。 するとレザードは手を顎に当て考え始める、スカリエッティの依頼は“鍵”の回収、それに適した人物はセインぐらいであろう。 だが……もし管理局が先に“鍵”を回収したとしたら、それにデコイは優秀なモノの方が良い…そう考えるとクアットロとディエチが適切だと判断する。 何故ならばクアットロが持つISシルバーカーテンは視覚からレーダーまで情報を妨害させる特性を持ち、幻影すら見せる事が出来る。 そしてディエチの砲撃能力は高く正確でもある、つまり管理局の目を欺き、砲撃による強襲をかけるには十分な組み合わせなのである。 すると今までの話を聞いていたルーテシアがベリオンの肩から飛び降り、自分も向かうと話しかけてきた。 ルーテシアの話では自分が召喚するガリューは今回の回収作業に適しているという。 しかしルーテシアの護衛役であるゼストは他の世界へレリック回収の為に行動中である。 すると護衛は私に任せろ!っと無い胸を張るアギトだが、それを不安な目で見つめるレザード。 「仕方ありません…ベリオン、ルーテシアの力になりなさい」 「了解シマシタ、御主人様」 レザードの命令にベリオンは肩に乗せていたオットーとディードを降ろすと、ルーテシアと共に“鍵”の回収に向かうのであった。 …そしてその背中をジッと見つめるオットー、更にその光景を見つめていたディードは、徐にオットーの頭を撫でると二人はその場を後にする。 その背中はとても寂しい印象を醸し出していた…… 場所は変わり此処は交通事故が起きた現場、其処に紫の長髪の女性が存在していた。 彼女の名はギンガ・ナカジマ、陸上警備隊第108部隊に勤めている捜査官でスバルの姉である。 現場には大破した運送車が一台転がっており、ただの自動車事故と思われていたのだが、 よく調査してみると車両には内部から破壊されている形跡があり、更に運送車の外部・内部共にガジェットの残骸が散らばっていた。 そんな現場の状況に不審を感じたギンガは運送車の荷台を調べると一つの装置を目にする。 「生体……ポット?」 荷台に乗せられていた生体ポットもまた破壊されており、辺りには強化ガラスの破片が散らばっている。 ギンガは一度荷台から降り考え始める、現場の状況から見て恐らく破壊されたガジェットは生体ポットにいた存在によるものだろう。 そしてガジェットの残骸が散らばっているとなると、レリック…もしくはそれに準するロストロギアが関わっている可能性がある。 となると…あの部隊に連絡を取らなければなるまい…するとギンガは自分の考えを上司であるラッド・カルタスに伝えるのであった。 …一方現場から数キロ離れたビルの上、クアットロ率いる捜索チームが遠くで現場を視察しており、 クアットロは現場から少し離れた位置に水路への入り口が開いているのを発見、 恐らく“鍵”はあの入り口からクラナガンの地下水路に向かったと推測し、メンバーに指示を送る。 ベリオンはルーテシアの護衛、ルーテシアはガリューを召喚後セインと共に地下水路を探索、 そしてディエチは自分と共に行動、自分はシルバーカーテンを起動させて待機、何故ならば三十分後に来る予定である囮のガジェットと不死者の幻影を作り出す為であるからだ。 クアットロの指示の元、それぞれは割り当てられた任務をこなす為、散らばって行くのであった。 その頃エリオとキャロはシャーリーが立てたスケジュールを黙々とこなしていた。 二人は次の予定である洋服店でのショッピングの為に、町を歩いていると、ふと路地裏に目を向けるエリオ。 エリオが目を向けた先には一人の少女が倒れている姿があり、二人は少女の下へ急ぐ。 少女は衰弱している様で、左手には鎖に繋がれたレリックケースがあり、 更に先には繋がっていた形跡のある鎖が伸びており、恐らく鎖の先にはレリックケースが同じく繋がれていたと判断、 そして少女が倒れている先には地下水路への入り口が開いており、恐らく此処から来たのだろうとキャロは語る。 その話を聞いたエリオは頷きストラーダでロングアーチと連絡を取るのであった。 暫くすると現場にシャマルが姿を現し、二人は少女を任せるとロングアーチから連絡を受けたスバルとティアナがバイクを二人乗りでやって来た。 「休暇中悪いんやけど、任務や!」 はやての申し出に力強く返事するフォワード四名はデバイスを起動、レリックを回収する為次々に地下水路へと赴くのであった。 フォワード陣が地下水路に向かう前、キャロからの連絡を受けたロングアーチはその後すぐにガジェットと不死者が地下水路へと向かっているのを確認、 恐らく目的は少女の手に繋がっていたと思われるレリックの回収だと考え、 なのはとフェイトをガジェット及び不死者の迎撃に向かわせ、スバル達を地下水路に向かわせると、 他の位置から複数の反応が現れ、その幾つかは別の入り口から地下水路への進入を許してしまう。 そこではやてはヴィータを地下水路にいるフォワード陣の下へ向かわせるように指示したその時、一つの連絡がロングアーチに届く、連絡先は第108部隊のラッドからである。 連絡の内容は部下の一人であるギンガが地下水路へと赴いており、目的は機動六課と同じであるという。 そこで機動六課と共同戦線を張り、迅速にガジェット及び不死者を撃破、そしてレリックの回収を提案した。 はやてはその提案を承諾すると、なのは達にもその旨を伝えるように指示した。 一方なのはは襲撃を受けているポイントに向かうと、瞬く間にガジェットを撃破、 次のポイントへ急ぎ標的に攻撃を仕掛けると、ガジェットと不死者は陽炎のように消えていった。 「まさか…フェイク?!」 肉眼で騙す幻影、それはティアナがよく使う幻術に近いが、レーダーすら騙すとなるとそれ以上に厄介な代物である。 取り敢えずなのはは今起きた事をロングアーチに報告すると、ロングアーチの答えはとにかく片っ端から片づけろというものであった。 ロングアーチの答えに頬を掻くも仕方がないと感じるなのは、 何故なら幻術系は分析にかなりの時間を要する為、分析して把握するより幻影ごと潰した方が早いからだ。 なのはとフェイトはロングアーチの指示に了解すると続けて一つずつ潰しに掛かるのであった。 一方地下水路ではセインと分かれたルーテシアがガリューと共に“鍵”を探していた。 その時、待機していたクアットロから連絡が入る、内容は“鍵”が管理局側の手に落ちた事、ガジェット及び不死者が幻影ごと片っ端から片づけられている事、 そして“鍵”に付けられていたレリックケースが一つしか無いことを伝える。 そこでセインとルーテシアは“鍵”の回収からレリックケースの回収の変更を指示、ルーテシアは一つ頷くとレリックの捜索に移る事に、 そして暫く地下水路を道なりに進むと広い場所に出る、奥には既に局員が存在しており、手にはレリックケースが握られていた。 「ベリオン、ガリュー、奪い取って」 ルーテシアの命令にガリューとベリオンは局員に襲いかかるのであった。 一方スバル達はギンガと合流し先を進むとガジェットI型がレリックケースに手を伸ばしていた。 それを見かけたスバル達はガジェットと応戦、見事撃破しレリックケースはキャロに渡すと、 キャロは怪しい音を聞き顔を向ける、其処には巨大な機械が姿を現していた。 「なっなにあれ!?」 「私ノ名ハベリオン、レザード様に造ラレシ、ゴーレム」 ベリオンと名乗るゴーレムは礼儀正しく答えている瞬間、不意を付いて使役虫らしきものがキャロが持つレリックケースを奪おうとに手を伸ばすがエリオに阻止される。 その光景にティアナとギンガは分散するように指示すると、柱を壁代わりに全員が分散した。 その時スバル、ティアナ、キャロは同じ柱を壁にしており、相手の目的はキャロが持っているレリックケースの強奪だとティアナは考える。 するとスバルが代わりにレリックケースを持とうと進言するが、他にいい方法があると言うとキャロの帽子を取るティアナなのであった。 一方ベリオンとガリューの両名はスバル達を探しており、周囲を探索していると、 ギアセカンドを起動させたスバルがベリオンの下へ、そしてデューゼンフォルムを起動させたエリオがガリューの下へと飛び出す。 「リボルバァァキャノン!!」 「メッサァァアングリフ!!」 エリオの不意の一撃を辛うじて左に避けるガリューに対し、ベリオンは正面からスバルの攻撃を受け止めていた。 不意からの一撃を正面から受け止められたスバルは流石に驚いた表情を見せると、ベリオンはスバルの様子に好機と捉え右拳を振り下ろす。 だがスバルはすぐに気を取り直し後方に跳び、ベリオンの一撃を辛うじて回避した。 一方ガリューはエリオの一撃に合わせ右膝によるカウンターを狙っていた。 だがエリオはストラーダに備え付けられているサイドブースターとヘッドブースターを点火させ左に急速回避を行い難を逃れるのであった。 一方でキャロはレリックケースを大事に抱え、キャロの前ではギンガが前傾姿勢で、ティアナがクロスミラージュを向け構えていた。 その様子を遠くで見つめるルーテシア、すると後ろから殺気のようなモノを感じる。 「…動かないで」 「……幻術…渋い魔法ね…」 「……それはどうも」 するとキャロを守るティアナが陽炎のように消えていく、フェイクシルエットと呼ばれる幻術魔法である。 ルーテシアの賛美に答えつつ後頭部にダガーモードに変えたクロスミラージュを突きつけるティアナ、 ティアナは攻撃を中止するように命令するとルーテシアは温和しく応じる。 「アナタ……名前は?」 「……アギト」 ルーテシアはそう名乗ると上空から巨大な火球がティアナ目掛けて落ちてくる。 ティアナはとっさに後方へ飛ぶとルーテシアもまた火球を回避した。 そしてルーテシアの目の前に30cm程の小さな少女が炎を操りながら現れる。 「オラオラァ!かかってこいやぁ!この烈火の剣精アギト様が相手だぁ!!」 そう名乗ると手招きをして挑発するアギトであった。 一方ロングアーチでは海上から新たなガジェット及び不死者の群れを確認した。 しかも一つの群れに30~40と数が多く此方に向かっている事から増援であることには間違いない。 そしてその異常な数から町中のガジェット達と同様にフェイクが混じっている可能性がある。 其処ではやてが直々に海上の増援を相手にしようと立ち上がると、モニターにクロノの姿が映し出された。 「クロノ君?何で此処に?!」 「説明は後回しだ、時間が惜しい、海上の方は俺に任せてくれ」 「なんか良い手でもあるんかいな」 「まぁな…」 クロノの意味深な返事にはやては困惑するが、迷っている時間はない為、海上をクロノに任せる事となった。 はやての素早い判断にクロノは頷きモニターを切ると今度はもう一つのモニターに目を向ける、其処には最高評議会のエンブレムが映し出されていた。 「これでよろしいのですか?エインフェリアは切り札のハズ」 「…構わん、それにエインフェリアの実力を世間に見せるには良い機会だ」 世論を味方に付ける、その為にはエインフェリアの実力を見せる事が一番であり、それに加え地上本部に牽制を促すことができる。 更に地上を護る事にも繋がる為、一石二鳥どころか三鳥だと話す。 最高評議会の考えにクロノは無言になるが、此処で揉める事が出来る程時間があるわけではない、 クロノは最高評議会の考えに不満を覚えつつもエインフェリアに指示を送った。 エインフェリアには五タイプ存在し、フロントアタッカータイプの接近戦型、ガードウィングタイプの高速戦型、 フルバックタイプの防衛戦型、センターガードタイプの遠距離戦型、そしてどれにも属さない広範囲攻撃型である。 今回出撃するのは広範囲攻撃型のゼノンとカノンの二体である。 二体はクロノの指示の下、早急に現場へと向かって行くのであった。 一方地下水路ではアギトがレリック奪還に参戦、自分の周囲に火球を作り出すと一気に放ちスバル達を牽制する、ブレネンクリューガーと呼ばれる魔法である。 辺りは炎に包まれる中、スバル達フォワード陣は柱を盾にアギトの攻撃を防いでいた。 「どうしよ?!ティア」 「落ち着きなさい!スバル」 慌てるスバルをティアナは嗜め、状況を把握させる。 現在レリックはキャロが手にしている、その為自分達はキャロを中心にして防戦、 そして先程手にした情報では現在、自分達がいる現場にヴィータ副隊長が向かっており、自分達はヴィータ副隊長が来るまでレリックを死守すればいいのである。 するとヴィータ副隊長から念話が届く、今現在ヴィータはリインと共に現場の近くまで来ており、もうすぐで到着すると伝えられた。 「っ!ルールー、上から魔力反応!……こりゃでけぇぞ!!」 「そう……じゃあベリオン、足止めをお願い」 「了解シマシタ、ルーテシア様」 ルーテシアは淡々とベリオンに命令するとベリオンはヴィータを押さえる為に飛び立つのであった。 その頃、ヴィータは最短距離でスバル達の下へ向かっていたのだが、目の前には壁が隔れていた。 そこでヴィータはギガントハンマーで壁をぶち抜こうと考えた時、リインが声を上げる。 「ヴィータちゃん!前方に熱源反応!!」 「何だと!?」 次の瞬間、目の前の壁は砕け巨体が姿を現す、それは先程までスバル達が戦っていたベリオンである。 ベリオンの出現に戸惑うリインであったが、寧ろ壁を壊す手間が省けたとヴィータは応え、 グラーフアイゼンをラテーケンフォルムに変えベリオンに突撃した。 「邪魔だ!どけぇぇぇ!!」 ヴィータはそのままの加速を維持して一気に振り下ろすが、ベリオンは左手でヴィータの一撃を受け止めると、右手を握り締めヴィータへと振り抜く。 だがヴィータはとっさにパンツァーシルトを展開させ攻撃を受け止めるが、衝撃までは受け止められず吹き飛ばされる。 ヴィータは吹き飛ばされつつも姿勢を直していると、目の前にいるベリオンは銃口を覗かしている右手をかざし、直射砲を撃ち鳴らす。 ヴィータはとっさに右に回避、後方では光を放ち爆音が響くと、一つ舌打ちを鳴らし目の前のベリオンを睨みつけていた。 一方地下水路のスバル達は、未だガリューとアギトに苦戦を強いられていた。 互いの攻防が行き来する中、ルーテシアがアギトに念話で進言する。 (…アギト、私に会わせて轟炎を撃って) (なんか手があるんか?) ルーテシアは頷くと右手をスバル達に向け足下に紫紺色の五亡星の魔法陣を展開させる。 「…バーンストーム」 かざした手の指をパチンッと鳴らし唱えると周囲を巻き込むように大爆発を起こす、 更にそれに合わせアギトは巨大な火球、轟炎を放ち辺りは炎の渦で真っ赤に染まっていた。 しかしその炎の渦から飛び出すようにスバルとギンガがら姿を現し、まっすぐルーテシアの下へ向かいつつ攻撃態勢をとっている。 だがルーテシアは待っていたと言わんばかりに五亡星の魔法陣を展開させおり、既に指を二人に向けていた。 「ライトニングボルト」 次の瞬間、強烈な電撃がルーテシアの指から放たれ二人の体を貫き、なす統べなく倒れるスバルとギンガ、 その頃炎の中ではキャロによるホイールプロテクションで轟炎を分散させ更に竜魂召喚させたフリードリヒが舞い上がり、背中にはキャロが乗っていた。 キャロは大事そうにレリックケースを抱えて持っており、それを確認したガリューはすぐさまキャロの下へ向かう。 しかしそれを阻止しようとスバルとギンガは立ち上がろうとするが意識が朦朧として動けないでいた。 ルーテシアが放ったライトニングボルトにはスタンマジックと呼ばれる追加効果が含まれており、 この効果を持った魔法を受けると一定時間気絶もしくはそれに近い影響を受けるのである。 二人の様子を見て柱に隠れていたティアナが代わりにクロスミラージュで応戦するが、ガリューは体を回転しつつ魔力弾を回避、更には手を刃に変え撃ち落としていた。 キャロの下へガリューが迫る中、未だ燃えたぎる炎の中からストラーダをガリューに向け構えるエリオの姿があった。 「うぁぁあああ!!メッサァァァアングリフ!!」 エリオはカートリッジを三発消費すると一気に加速、ガリューの左わき腹を捉えると一気に吹き飛ばした。 エリオの一撃によって誰もが安心していた瞬間、エリオとキャロは紅いバインドに縛られてしまう。 キャロの後ろにはルーテシアがいつの間にか乗っており二人をレデュースパワーで縛り付けたのだ。 しかもキャロを縛り付けているレデュースパワーはフリードリヒをも縛り付けており、その効果によってエリオとフリードリヒは力が抜けるように落ち始めていた。 その落下中にルーテシアはキャロが手にしているレリックケースを奪うとフリードリヒから飛び降り、そしてガリューがルーテシアを抱えるように受け止めたのであった。 「……それじゃ逃げるよ…アギト、しんがりをお願い…」 「任せろぉおい!!」 ルーテシアの言葉にアギトの頭上に巨大な火球、轟炎を作り出すとそれをフリードリヒに向け投げつけ、フリードリヒを中心に辺りは火の海と化していた。 その様子を確認したルーテシア達は地上への出入り口へと向かうのであった。 …先程まで燃えさかっていた炎が消えていく中、フリードリヒを中心にスバルはプロテクションを、ギンガはシェルバリアを張り難を逃れていた。 「みんな!大丈夫?」 「なっなんとか……」 「くぅ、まだそんなに遠くには行ってないハズ!追いましょう!!」 「あっあの?ちょっと―――」 ティアナの制止を一切聞かず飛び出すように後を追うギンガ、 ティアナとスバル、そしてキャロは苦笑いを浮かべながらギンガの後を追うのであった。 一方ルーテシア達は地上に続く通路を進んでいるとアギトが後方から魔力反応を感知、先程の局員が追って来ていると判断した。 「どうする?ルールー!!」 「…うろたえないで、アギト」 ルーテシアには策があるらしく手を床に向け不死者召喚の詠唱を始める。 そして詠唱を終えると魔法陣から一体の不死者を召喚する、 その姿は楔帷子に緑の甲冑、むき出した太ももが印象的な女性の姿をしていた。 ルーテシアは不死者に足止めを命令すると不死者は槍型のアームドデバイスを起動させ構える、ルーテシア達はそれを確認すると先を急ぐのであった。 するとその道中にアギトはルーテシアに問いかけてくる。 「なぁルールー、あの不死者一体だけで大丈夫なのか?」 「……あの不死者は特別製…らしいから」 ルーテシアの答えにアギトは首を捻ると説明を始める。 あの不死者はレザード曰わく管理局にとって最も“有効的”な足止めであるという。 そう話しながらルーテシア達は入り口へと急ぐのであった。 一方スバル達はギンガを先頭にエリオとキャロを乗せたフリードリヒ、ティアナを背負ったスバルがルーテシアを追っていた。 そしてギンガ達の前に一つの影が目に写る、その姿はスバルとティアナが良く知る存在であった。 「あれは!!」 「エイミ姐さん!!」 そう…その姿は紛れもなくエイミであった。 だがその顔は土気色に染まり無表情で、かつてのカシェルと同様不死者化されていたのである。 その様子にスバルはティアナを心配する、何故ならばティアナはエイミを姐さんと呼ぶ程までに親しい関係柄であるからだ。 だがスバルの心配をよそにティアナはクロスミラージュを額に当てて祈るように目を閉じている。 「エイミ姐さん……今、救います!」 そして目を見開きエイミを直視する、不死者化したエイミを救うのは自分しかいない、 カシェルの時と同じ過ち繰り返さない!……ティアナの瞳には決意と覚悟が滲み出ていたのであった。 一方地上では海上からの増援の対抗策である、白いフードを被った金髪の男性ゼノンと、 黒いフードに覆われ手には引きちぎられた印象を持つ手錠が掛けられたカノンの二体が海岸上空で待機していた。 「数は30~40の群れ……さて、どうする?」 「どうもこうもないよ、片っ端から片付けるだけさ」 ゼノンはサラリと言うと詠唱短縮に特化した杖型ストレージデバイス、エーテルセプターを起動させると円状の魔法陣を展開する。 そしてカノンはやれやれ…といった様子で同じくエーテルセプターを起動させ円状の魔法陣を展開した。 ゼノンの杖の前には炎が火球の形になって燃え続け、カノンは中が吹雪いている印象を持つ球体を作り出していた。 それぞれは魔法を撃つ準備を進めていると、先に完了したゼノンが不死者の群れの位置を杖で指し示す。 「先行する、エクスプロージョン」 すると杖の前で真っ赤に燃えていた火球が不死者の群れに向かい、群れの中心にて一気に膨張、一瞬にして不死者を焼き尽くした。 すると今度は準備を終えたカノンがガジェットの群を指し示す。 「次は俺の番だ、グラシアルブリザード!」 カノンの魔法もまた先程と同様に群れの中心に向かうと一気に膨張、海ごとガジェットを凍り付かせた。 両名は互いに交互しながら魔法を撃ち続け、ガジェットと不死者の数を次々に減らし続けていくのであった。 その様子をモニター越しで見つめるはやて、この様子だと全滅も時間の問題と考えるも、あの二名はかなりの実力者だと判断していた。 一方一足早く地上に着いたルーテシアは入り口から離れた高速道路にて地下水路の様子をモニターで見ていた。 地下水路ではエリオがエイミを攪乱させ、ティアナが牽制、動きを止めたエイミにキャロがバインドをかけ、スバルとギンガのコンビネーションによる一撃を与えていた。 その連携によりエイミは苦戦を強いられており、その様子にルーテシアは一言つぶやく。 「手緩いか………」 そしてルーテシアは手をかざすと召喚を始める、召喚したのは地雷王と呼ばれる巨大甲虫である。 地雷王とは生体電流を放電し魔力を用いて振動させる事により、局地的に地震を起こす事ができる能力を持つ。 ルーテシアは召喚した地雷王3体を地下水路に通ずる位置に配置するとアギトが心配そうに叫ぶ。 「ルールー、いいのか!?アイツら潰れて死んじゃうかもだぞ!!」 「…別に……問題はない」 レリックケースは既に手元にあり、ベリオンは瓦礫程度で破壊されるハズは無くセインにはISがある、失うのは足止めに使った不死者と局員のみであるという。 ルーテシアは説明を終えると指を鳴らし、地雷王はその音を合図に放電し始めるのであった。 一方地下水路のスバル達はいきなりの揺れに戸惑いを見せていた。 その揺れは徐々に大きくなり地下水路の壁に亀裂が走り、破片が落ちてくる。 その状況にギンガは地下水路が崩落する可能性を考慮し、いち早くこの場から去ろうと提案、 他のメンバーはギンガの提案に乗るが、目の前にはエイミが立ちはだかっていた。 「くっ!押し通るしかないようね」 「待ってください!私に考えがあります」 キャロには何か得策があるらしく、援護をして欲しいとのことである。 四人はキャロの策を聞くとそれを受け入れ、配置に付いた。 キャロはセカンドモードを起動させると早速桃色の魔法陣を展開、 するとエイミの持つ槍から薬莢が二つ排出されると紅い魔力が槍を伝って全身を纏わせ、一気に加速、キャロ目掛けて突撃してきた。 スピニングエッジと呼ばれるエイミが得意とする攻撃である。 そのエイミのスピニングエッジに対しスバルが間に入りプロテクションで受け止め動きを止めると、スバル肩を踏み台にエリオのスタールメッサーが振り下ろされる。 しかしエイミはバックステップで回避すると、逆にエイミが槍を振り下ろす。 しかしエイミが槍を振り上げた瞬間をティアナは狙い、クロスファイアはエイミの槍を撃ち落とすと、 前方にいたスバルとエリオが左右に展開すると中央からギンガが加速しながらエイミに突撃、 ギンガのナックルバンカーがエイミの腹部に突き刺さると、九の字に曲げながら後方へと吹き飛ばす。 「行きます!鋼の軛!!」 その瞬間を狙いキャロはフィンが展開されている右手で床に触れると、床を介して桃色の鋼の軛がエイミの体に突き刺さる。 ミッド式の鋼の軛、ザフィーラとシャマルの訓練とシャーリーによって追加されたバインドである。 鋼の軛によって動きを止められたエイミを確認後、急いで地下水路の入り口へと向かう一同。 その中エイミに目を向けるティアナであったが、頭を横に振りその場を後にした。 地下水路の天井が瓦礫となって落ちる中、鋼の軛に縛られているエイミから紅い魔力が溢れ出していた。 「体ガ熱イ……チカラガ……目覚メル!!!」 次の瞬間、体から溢れ出ていた魔力がエイミの体を包み込むと同時に、エイミの頭上の天井が崩れ飲み込まれるのであった。 一方ヴィータとベリオンの戦いは、床を撃ち砕き、壁をぶち壊し、柱はへし折られ、地下水路崩壊の一端を担う程の熾烈さを繰り広げていた。 そしてヴィータの一撃がベリオン頭を捉え吹き飛ばすと、リインが地下水路の崩壊を示唆、 フォワード陣は既に出入り口へと向かっている事を確認したと伝えるとヴィータもその場から去ることを決める。 しかし土煙の中からベリオンが姿を現し、ヴィータは苦虫を噛んだ表情で睨みつけていた。 「ちっ!しつけぇ奴だ!!」 「…システム、バスターモードニ移行、スキル・マイトブロウ起動シマス」 そう言うとヴィータに目を向け佇むベリオン、 ベリオンが起動させたマイトブロウとは、相手を気絶、更にガードを破壊する効果を持つスキルである。 そしてベリオンの足下が光りだすと魔力を噴射、一瞬にヴィータの懐に入り右手を握り締めた。 ヴィータは一瞬の動きに戸惑うがすぐに冷静になりパンツァーシルトを展開、ベリオンの一撃に備えた。 しかしマイトブロウを起動させたベリオンの一撃はヴィータのシールドを一瞬に打ち砕きヴィータを直撃、まるで弾丸のように吹き飛び柱にめり込むのであった。 ヴィータは柱の中で気絶をしているとベリオンが近づき左拳で柱ごとヴィータを殴りつける、 柱はバラバラに砕け散りヴィータと共に吹き飛ぶと、ベリオンは追い打ちとばかりに目の前に現れ両手を組み床に叩き付けた。 案の定床は砕け、ヴィータは瓦礫と共に下層へと落ちるが途中で意識を取り戻し下層の床へと着地、しかし足下はおぼつかずよろめいており顔は俯いていた。 しかしヴィータを追って来たベリオンに捕まり右フックを振り抜かれる。 するとヴィータは左手をかざしパンツァーシルトを展開するが空しく打ち砕かれなす統べなくベリオンの一撃を受ける……ハズであった。 ベリオンの一撃はヴィータの左手によって受け止められており、ヴィータの左手…いや全身は赤い魔力に覆われていた。 パンツァーガイストと呼ばれるフィールド魔法を纏っていたのだ。 ヴィータは顔を上げると口の端から血が流れているが、その瞳は蒼く激怒していた。 「デカブツがぁ!!図に乗ってんじゃねぇ!!!」 そう叫ぶとカートリッジを二つ消費してギガントフォルムに変えると勢いよく振り抜き、ベリオンは壁に激突した。 するとヴィータが落ちてきた穴からリインが心配そうに降りてくると、それを確認したヴィータはユニゾンを要求する。 ユニゾンとは、ユニゾンデバイスであるリインフォースIIと融合する事を指し、 ユニゾンすることで能力の向上、更には補助などの支援を受ける事ができるのである。 ヴィータの言葉にリインは一つ頷くとヴィータの目の前に立ち、そして―――――― 『ユニゾンイン!!』 二人の声が重なり合って叫ぶと、リインは吸い込まれるようにヴィータの体と融合、 ヴィータの魔力が高まり騎士服は赤から白く染まり、髪はオレンジ色、瞳も青く変化していた。 「リイン!詠唱短縮!」 「任せるです!」 ヴィータはリインに命令するとギガントフォルムのままベリオンに突撃する。 一方ベリオンは左手のマシンガンで応戦するも先程とは打って変わって素早く懐に入られギガントハンマーがベリオンの胴体に突き刺さる。 しかしベリオンも負けてはおらず右ストレートを繰り出しヴィータのシールドを砕いて吹き飛ばす。 すると融合しているリインが後方にヴァルヒ・スツーツと呼ばれる白い柔らから支柱を展開させ激突を免れる。 そしてお返しとばかりにラテーケンフォルムに切り替え突撃、見事にベリオンの胴体に突き刺さる。 そしてカートリッジを三発消費すると噴射口から大量の魔力が吹き出しベリオンごと回し始め――― 「一対一の戦いでぇ!ベルカの騎士はぁ!!」 「負けはないです!!」 二人の息のあった台詞と共にベリオンを天井に向け投げ飛ばし、ベリオンは天井を突き破りながら姿が見えなくなっていく。 それを確認したヴィータは口の端の血を拭い中に溜まった血を吐くと、今度こそ脱出の為入り口へと向かうのであった。 一方地上では未だ地雷王が地震を起こしており、その振動により地下水路は轟音と共に崩壊した。 「あ~あ、やっちゃった……」 アギトのやりずぎじゃね?感を醸し出した感想を浮かべる中、一つの轟音が響く。 其処には先程ルーテシアが戦っていた局員の姿があった、どうやら先程の音は瓦礫を砕いた音のようである。 「たっ助かったぁ」 「どうやらみんな無事みたいね」 瓦礫で塞がれていた入り口を先行していたギンガがナックルバンカーで打ち抜き、どうにか脱出できたようである。 ティアナはメンバーの確認を終え周囲を見渡す、地下水路が崩壊した影響かビルの一部が倒壊、道路の一部が陥没している状況であった。 その酷い状況にギンガは他の部隊に救援を要請していると、キャロが地下から強大な魔力を感知したという。 すると地面が盛り上がると中から紅い竜が姿を現した。 「赤い竜!?……まさかエイミ姐さん!!」 その竜の姿は猛禽のような爪に猛獣のような牙、鋭利な角に鋼のように強固な赤い皮膚と柔軟で強靭な巨大な体躯と尾、 そしてその肉体を浮かばすことが出来る程の翼を持ち、ティアナがグレイから聞いた特徴と同じモノを持っていた。 つまりあの竜はエイミが竜化した姿であるのは間違いないのである。 ティアナがエイミを説明しているとエイミはその巨大な拳で道路を砕き、尾で倒壊したビルを叩き、口から吐き出した炎はビルのガラスを砕き溶解させた。 今のエイミは不死者化に加え竜化している為、力が暴走しているのは明白、目に映る物全てに攻撃を仕掛けていた。 このままエイミを暴れさせていてはさらに被害が増える!そう考えたギンガはスバル達と共にエイミの下へと向かうのであった。 ウィングロードにて近くで見るエイミは思いの外巨大でベリオンの三倍近くあるように思えた。 これだけ巨大であると通常の攻撃は通用しないと考えるスバル、 しかしここで怖じ気つく訳には行かない!……そう自分を鼓舞するとエイミに突撃、額辺りにリボルバーキャノンを撃ち込む。 しかしスバルの攻撃にいっさい動じず寧ろ左手で弾かれ吹き飛ばされる。 すると足元からエリオがソニックムーブを用いたスタールメッサーを放つが傷は浅くエイミの膝を付かせるまでには至らなかった。 エリオの攻撃に気付いたエイミは踏みつぶそうとするが、ストラーダがソニックムーブを用い危ういところで回避する事が出来た。 その頃フリードリヒに乗ったキャロがエイミの前に立ちふさがるとフリードリヒはブラストレイを放つ。 だがエイミの炎には叶わずブラストレイを押しのけキャロ達を飲み込む。 「っ!キャロ!!」 その光景にエリオは叫ぶが、炎は渦のように円を描き分散、その中央には光の渦を張ったキャロの姿があった。 キャロはホイールプロテクションを用いてエイミの炎を防いだのである。 それぞれの戦闘を見ている中ティアナはギンガに考えがあると話す。 その内容を聞いたメンバーは一斉に頷くとそれぞれの位置に付く。 「一番!エリオ行きます!!」 エリオはスピーアフォルムの石突と噴射口部分から金の突起物が現れるウンヴェッターフォルムに変えると カートリッジを三発消費、ストラーダの先端に雷を纏う。 そして加速してエイミに突き刺さると周囲を雷に包まれ直撃する。 サンダーレイジと呼ばれるエリオの電気変換資質とフェイトの魔法を元に生み出した魔法である。 エイミの体に雷が撃たれている中、左手にフィンを展開させたサードモードを起動させたキャロがエイミの後方で魔法陣を展開させていた。 「二番キャロ!鋼の軛を撃ちます!!」 そう言うと両手を開き魔法陣に触れる、すると先程以上の巨大な桃色の鋼の軛が六本、 六角形の角部分を彷彿するような位置から伸びエイミの体を貫く。 するとエイミの正面にはナカジマ姉妹が構えていた。 「スバル!先に行くよ!」 「了解!ギン姉!!」 「三番!ギンガ、突貫します!」 そう言うとカートリッジを三発消費しエイミに向かっていく。 そしてエイミの目の前まで向かうと左拳を振り下ろし更に振り上げる、ストームトゥースと呼ばれるコンビネーションである。 だがギンガの攻撃はまだ終わらず、今度はウィングロードを螺旋の形に展開させて今度は左拳によるナックルバンカーを鳩尾あたりに打ち込む。 「スバル!今よ!!」 「応!四番スバル、ギア・エクセリオン!!」 スバルが叫ぶとマッハキャリバーから片足に二枚、計四枚の翼を展開、A.C.S モードを起動させる。 そして一気に加速するとカートリッジを二発消費、右拳に魔力が纏い、そのまま姉ギンガと同様エイミの鳩尾あたりに拳がめり込む。 更にスバルはカートリッジを三発消費すると拳に環状の魔法陣が展開、めり込んだ拳の先には魔力弾が形成されていた。 「ディバイン…バスタァァァ!!!」 ゼロ距離からのディバインバスターはエイミの体内で炸裂し内側から強固な皮膚を貫き穴という穴から魔力光が溢れ出す。 もはやとどめと思われた一撃であったが未だエイミは鋼の軛を外そうとしており、それを倒壊寸前のビルの屋上で見つめるティアナ、 するとクロスミラージュをダブルモードに変えるとビルから飛び降り、左の銃でエイミの額あたりにアンカーショットを打ち込む、 そして一気に巻き上げ加速させると右の銃をダガーモードに切り替える、狙いは脳髄である。 ティアナが迫る中、エイミは顔を上げティアナを見上げ口から炎を吐き出す。 炎はティアナに直撃する瞬間、ティアナは陽炎のように消える、お得意の幻術である。 本物は飛び降りたビルの中心、遠距離型狙撃銃ブレイズモードに切り替えたクロスミラージュを握り標準は見上げたエイミの頭である。 「さようなら…エイミ姐さん…」 そう一言呟くとティアナは引き金を引きファントムブレイザーを撃ち出す。 クロスミラージュから放たれたファントムブレイザーは高密度に圧縮されており、 エイミは小細く声を上げると頭を撃ち抜かれるのであった。 …撃ち抜かれ頭部を無くしたエイミの体は轟音と共に倒れ光の粒子となって消滅、その光景を涙を流し見つめるティアナとスバル… すると突然フリードリヒが雄叫びを上げ、キャロは戸惑い目を向けるとその目には涙が浮かんでいた。 「どうしたの?フリード」 キャロの問いに答えないフリードリヒ、何故フリードリヒは泣いているのか…それはエイミが消滅する瞬間にあった。 …ティアナの一撃がエイミの頭に直撃する瞬間、か細い声で一言「ありがとう…」と言っていたのだ。 …エイミには元々から意識があったのか?…それとも死の一瞬だけ意識を取り戻すのか? それはもう分からない…だがフリードリヒの耳には確かにエイミの感謝の言葉が届いていたのだ。 フリードリヒはまるで弔うように涙を浮かべ何度も雄叫びを上げるのであった。 一方、一部始終を見ていたルーテシアはモニターを閉じガリュー及び地雷王を送還する。 「いいのか?ルールー」 「……私の目的は果たしたから」 そう言ってレリックケースをアギトに見せ足早に去ろうとした瞬間、 アギトはバインドに縛られルーテシアの右コメカミ辺りにはラテーケンフォルムが向けられていた。 「やっと見つけたぜ、テメェラ」 ルーテシアの後ろにはヴィータが睨みつけており、レリックケースを置くように指示すると温和しく従い手を挙げる。 ヴィータ達はベリオンをぶっ飛ばした後出口へと向かい崩壊前に脱出していたのだ。 その後巨大な竜が姿を現し、ヴィータはあの少女の仕業だと考えリインに少女の詮索をさせその後に発見、現在に至ったのである。 その後しばらくしてヴィータの連絡をもらったスバル達が駆けつけ、レリックケースをキャロに持たせるヴィータ、 スバルとティアナは複雑そうな面持ちでルーテシアを見つめていたが、当人は涼しい顔をしていた。 ルーテシアはバインドにて縛られていると、クアットロからの念話が届く。 (…ルーお嬢聞こえていますかぁ?) (……クアットロ、今まで何していたの?) ルーテシアの問いかけにクアットロは説明を始める。 ルーテシアが地下水路で戦っている頃“鍵”を回収する為シルバーカーテンを用いて隊長クラスを足止め、その隙にセインが回収するハズであったのだが、 管理局はヘリを用意し“鍵”を運ばれるところであった。 そこで第二プランの強襲による“鍵”回収を試みる為ディエチがイノーメスカノンをチャージ中、地雷王の地震に竜化したエイミの暴走が影響してヘリを飛ばす事が出来なくなったのである。 だが今は地震王もエイミもいない為強奪にはもってこいの条件であると語る。 今セインはルーテシアの近くにおり、レリックケース回収後、ルーテシアも回収するという。 (其処で強襲の切っ掛けとなる合図の言葉を言ってほしいんですぅ) (……分かったそれで何をすればいいの?) (慌てないでねぇ、まだディエチのチャージが―――) (早くして……私…じらされるのは嫌いなの……) ルーテシアの言葉に両の手のひらを広げ肩をすくめるクアットロ、 仕方ないと考えたクアットロは眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべるとあの紅い魔導師に向かってこう言うように仕向けるのであった。 一方ヴィータ達はヴァイスが操縦するヘリを見送ると、ルーテシアに目を向ける。 「取り敢えずてめぇは公務執行妨害で逮捕だ」 『逮捕は良いけど……大事なヘリは放っておいていいの?……また貴方は…守れないかも』 その言葉にヴィータの目が蒼くなる、この少女は八年前の事件の事を知っているんじゃないのか、 そう考え詰め寄ろうとした瞬間、リインが強力なエネルギーを感知したと、そしてその方向に指を指すと其処には女性が二人おり、 その一人が大型狙撃砲でヘリに向け直射砲を撃ち抜いた。 ヘリは急速回避出来ず激突は免れないと思った瞬間、ヘリと直射砲との間に桜色の光が割り込み爆発を起こす。 爆発によりヘリの周りには白煙が包まれ徐々に晴れていくと、其処にはエクシードモードを起動させたなのはの姿がありどうやら先程の光の正体のようである。 一方ヴィータはヘリの無事を確認していると、キャロの叫び声が上がり目を向ける。 其処には水色の髪の少女の姿があり、手にはキャロから奪ったレリックケースが握られていた。 ヴィータはその少女を捕まえるように指示するが女性は腰に付けた手榴弾のような物を投げつけると、まるで水面を潜るように道路の中を潜った。 すると置き土産である手榴弾のような物が光を放ち爆発する。 「くっ!閃光弾か!!」 目をくらましつつ周りを確認すると既にバインドが解かれた二人を抱えている姿があり、ヴィータは必死に捕まえようと飛びつくが健闘空しく空振りに終わる。 そしてリインは反応を調べるが対象は既にロスト、逃げられたという空しい事実だけが現場に残されているのであった。 一方クアットロとディエチはなのはに追われていた。 ディエチが手にしていたイノーメスカノンは重すぎるため現場に放棄、ビルの屋上を飛び移りながら逃走していた。 「待ちなさい!」 「待ちなさいと言って待つ人なんていませんよぉ」 そうクアットロは軽口を叩くとカンに障ったのかアクセルシューターを撃ち出される。 するとディエチは右足に力を込め思いっきり踏み込み跳躍、体を半回転しつつ腰に付けていたスコーピオンを抜くとアクセルシューターを迎撃した。 そして逆さまから落ち掛けたところをクアットロが足をつかみ難を逃れる。 「助かったわぁ、ディエチ」 「こっちも助かった」 そんな事を言いながら逃走を続ける二人、それを追うなのはにフェイトが追加されこのままでは本当にまずいと考えるクアットロであった。 一方逃亡者を追いかけているなのはとフェイトの下に一つの念話が届く。 (此方はエインフェリア、クロノ提督の名の下援護します) その聞き慣れない名前に困惑するもクロノの名が出た為、信用する二人、 二人はエインフェリアに指定された位置に向かうこととなった。 一方、エインフェリアのゼノンとカノンは海上を離れなのは達が追っていた場所を確認する。 「さて…何を撃つつもりだ」 「空を飛ぶ物にはこれが相応しいだろうな」 そう言うと左手に雷を走らせるゼノン、その考えに乗ったカノンもまた雷を走らせると魔法陣を展開させる。 そして二人の目の前に稲光が走る球体が出来上がるとゼノンは右、カノンは左に撃つこととなり そして―――― 『サンダーストーム』 撃ち出された魔法は真っ直ぐ現場に向かって進むのであった。 一方で隊長クラスの追撃を受けなくなった二人は少し戸惑いを見せ後方を見据える。 何も起きない、まるで嵐の前の静けさだなと考えていると上空に稲光が起きている物を発見する。 「あれは…グラビディブレスぅ?」 「いや…違うと思うけど、多分あれは……」 『広域攻撃魔法!?』 二人は声を合わせてそう言うと二つのサンダーストームは広がりを見せる。 その広がりの早さにクアットロは焦りつつ飛び抜けるが、後方ではサンダーストームから無数の雷がクアットロ達目掛け落ちていた。 「きゃああああ!?」 「ちょっと、クアットロ姉さん!?もっと高く飛んで頭が擦れる!!」 しかし上昇すればあのサンダーストームの渦に巻き込まれる、しかし低いままでもあの雷の雨にやられる。 クアットロは再度シルバーカーテンを使用して自分とディエチの姿を消すのであった。 一方なのはとフェイトは指定された位置で周囲を確認していると、先程の二人組が姿を現す。 「ビンゴ!行こうフェイトちゃん!」 「分かった、なのは」 そう言うとなのははレイジングハートを二人に向けカートリッジを一発消費し、フェイトは左手をかざしカートリッジを三発消費する。 そして互いの足元に魔法陣が展開され魔力弾が形成されていく。 そして―――― 「エクセリオンバスター!」 「トライデントスマッシャー!」 二人の魔法はクアットロ達を挟むように放たれ、クアットロ達は逃げられないと覚悟する。 そして二つの魔法がぶつかり合い相殺され辺りには魔力の残滓が舞っていると、 二人を片手ずつ掴む紫の短髪の女性が佇んでいた。 どうやら監視役としてスカリエッティに派遣されたようだが、妹達のピンチに思わず手を出したようである。 「たっ助かりましたぁトーレ姉」 「…早くディエチを連れて行け、しんがりは私に任せろ」 トーレの言葉に甘えるようにクアットロはディエチを抱えシルバーカーテンを使ってその場を後にする。 するとなのは達が逃がさないとばかりに追うとすると、 トーレの両手足にエネルギーの翼を展開、そして瞬間移動を彷彿させるようなスピードで なのはの腹部にミドルキック、更にフェイトの腹部にも後ろ蹴りを与えそのまま退避した。 その一瞬の出来事になのはは痛む腹部を押さえ困惑する中、 フェイトは先程の女性の速度はかつて自分が使っていたソニックフォーム、もしくはそれ以上の速度を出していたと考えていた。 なのはからの連絡を受けたヴィータは今回の失態は自分のせいだと話し、ギンガもまた同じ事を言っていた。 その中、恐る恐る手を挙げるティアナ、ヴィータ達には忙しくて連絡が遅れていたが、 スバルとティアナはレリックケースに仕掛けをして置いたと話しヴィータとギンガは首を傾げる。 一方“鍵”回収チームは合流地点に次々に集まり、其処にはベリオンの姿もあった。 今回、回収出来たのはレリックケース一つ、その事をどうドクターや博士に報告しようか考えていると、セインがレリックを見たいとダダをこね始める。 トーレはやれやれと言った表情を見せつつ了解するとセインは早速レリックケースの鍵を開錠、ふたを開けると中にはレリックは一つも入ってはいなかった。 「なんでぇぇぇぇぇ?!」 「…してやられたようだな」 中身は空っぽ今回の任務は徒労に終わり疲れがドッと出るメンバーであった。 一方行方知れずのレリックはキャロの帽子の中に隠されていた、戦闘面では後方支援のキャロに持っていてもらえば安全だとティアナのが出した提案であった。 その事にヴィータとギンガは苦笑いを浮かべていると、ヴィータがあきれた様子で話し始める。 「しっかし、いくら後方支援でもよく大丈夫だったな」 「えっ!?」 ヴィータの言葉に目を丸くするキャロ、レリックは高エネルギーの結晶体、いくら封印処置をされていても、 魔法が直撃すれば暴走する可能性があると語り、その言葉に冷や汗を垂らすキャロ、そして恐る恐る聞いてみた。 「もし…暴走させたら?」 「そりゃあもちろん……頭がパーン」 そう言って頭が爆発する様子をジェスチャーするヴィータに顔を青ざめるキャロ、 そしてキャロは涙目でティアナに抗議するのであった。 一方ゆりかごに戻ったクアットロ達はレザードとスカリエッティが待つ部屋に向かう。 そして今回の一部始終を話すと腕を組むスカリエッティ、その行動に息をのむ一同。 「つまり“鍵”もレリックも管理局側に回収されてしまったんだね」 「申し訳ございません、ドクター」 「まぁ、仕方がない、今日は疲れただろう…もう休みなさい」 そう言って皆を帰らせるスカリエッティ、一同はその行動に疑問を感じるも一礼して部屋を後にした。 暫く静寂が包み込む中、レザードの口が開き始める。 「いいのですか?お咎めなしで」 「あぁ、“鍵”はまた回収しに行けばいいからね」 それに地上本部を崩壊させるきっかけにもなると、狂喜に満ちた表情を現すスカリエッティであった…… 前へ 目次へ 次へ
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「待てヒロ、話は後だ・・・」 ヒロの言葉を遮る姫。 「え?何か?」 姫はベッドから起き上がり、ふらつきながらもバルコニーへと足を進めた。 「姫、何を?」 「魔法を使える者達!お前達が何の目的で来たか話せ! そうすれば、話し合いの席の着いてやろう!」 そう、大声で庭に向かって叫んだ。 「大丈夫、そんな大声だして?」 「これで向こうから出てくるだろう・・・」 大声を出したせいで少し息を荒くさせる姫。 「でも、もし刺客とかだったら・・・」 「これは兄弟の仕組んだことではない・・・ ならば、話し合いの余地はあるだろう・・・?」 「姫・・・」 なぜそう言い切れるのか?ヒロは不安だった。 しばらくして 「・・・その言葉、信じさせてもらいます」 1人の女性、はやてが姫の視線に入った。 「ふふん、来てくれたか・・・ヒロ、迎え入れろ」 「あ、うん」 魔法少女リリカルなのはStrikers×怪物王女クロスオーバー 「魔法王女」第2話 ふがふが 『汝有罪・・・強制送か パシュッ! 「いたっ!」 「はっはっはー!どうだケルベロッテちゃん!お得意の強制送還も発動できなければお前はただのお子様だな!」 「ひ、卑怯だぞ!魔法の発動中を狙うなんて!悪の組織だってヒーローの変身中には攻撃しないじゃないか! 大体子供に向けてエアガンを撃つな!」 「卑怯結構!常識無視結構!傷害罪適用結構!私達は悪魔だからな!」 「く・・・!」 さあ絶対絶命のケルベロッテちゃん!果たしてどうする! 「やっぱり、こういうときにはアニメが一番ね~」 紗和々はリザと一緒にのんびり借りてきてもらったDVDを観賞していた。 「悪魔の連中・・・誇りも何もないな・・・」 「あとでフランちゃんやヒロと見ましょう」 だが、彼女の借りてきてもらったDVDは・・・ 「地獄に道連れ ケルベロッテちゃん」 「スウィートハウス」 「呪いアリ」 「伝染回路」 「フランドル」 アニメ1本、ホラー映画3本、ジャンル不明の映画1本である。 「ホラーばっかり借りてるな・・・でもこのフランドルって映画は・・・」 「あら?フランちゃんが出てる映画じゃないの?」 紗和々・・・フランドルは戦争映画だぞ。 (フランドルって映画はマジであります、「映画 フランドル」でGoogle検索してください) 「まあ元気そうだな、とりあえず今日はそれ見てじっくり休め」 そうしてリザは紗和々の部屋を出た。 招き入れられたのははやてとシャマル、他のメンバーはヒロに案内され客間へ通された。 姫の部屋に通されるが、姫はベッドの上で寝ていた。 「ふが」 フランドルに勧められ、イスに座るはやてとシャマル。 「ありがとうな、メイドさん」 「さて、屋敷に出向いてくれたわけを聞かせてくれぬか?」 姫ははやてに当然の事を質問する。 「・・・それは、あなたの方が知ってるはずです」 「魔法のことだな?」 その問いにはやてはうなづいた。 「私は時空管理局の八神はやて言います、管理局の事は・・・」 「良い、私を治してくれれば、それ以上そちらには何も求めない・・・それでいいか?」 「そうですか、あの・・・」 はやては話を続けようとしたが。 「姫でいい」 名前がわからなかったが姫が名乗った。 「あ、そうですか。では姫さん、あなたがロストロギア、魔力を持つ物の場所を答えてください」 「それなら、私の体内にある」 その言葉にはやては凍りついた。 「ふが」 フランドルがつんつん、とはやてをつつく。 「はやてちゃん、気をしっかり!」 シャマルもはやてに呼びかける。 その頃、客間のなのは達は 「どうぞ、あまりやった事ないですから・・・」 自らが悪戦苦闘して入れた紅茶をなのは達に配るヒロ。 「ありがとうヒロ君」 なのはは紅茶が入ったカップを受け取り、そのまま口に紅茶を含んだ。 「うん、おいしいよ」 「あ、ありがとうございます」 ヒロはなのはに軽くお辞儀をすると他のメンバーにも紅茶を配った。 「それで、姫は治るんですか?」 ヒロはなのはに質問した。 「大丈夫、今はやてちゃんとシャマルさんが調べてるから・・・」 「お願いします、どうか姫を救ってください!」 再び、今度は深くお辞儀するヒロ。 「ヒロ!さっさとメシにするぞ!さっさと作るぞ!」 バァンッ! と、大きな音を立て客間の扉を開けてリザが来た。 「リザ!お客さんが来てるんだから、少し静かにしてよ・・・」 「んな事言ったって、腹減ったんだから・・・ん?」 その時、リザの頭の上に何かが生えた。 「え、耳?」 なのはの言うとおり、頭に耳が生えた。 「リザ、何なの?」 「・・・ヒロ、メシの支度は後だ・・・!」 「リザ・・・まさか・・・!?」 ヒロは瞬時に理解した。 敵が来たのだと 戻る 目次へ 次へ
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ワームとの戦いの末に、一人の少女が死亡した。 黒の瞳を剥き出しにして、その瞬間を瞳に焼き付ける。 焼き付ける、というよりは見せつけられた、と言っても過言ではないが。 人の死を、それもたった一人の妹の死を、素直に受け入れられる訳も無く。 絶句したクロノは、何も言えずにただただ空間モニターを見詰めているだけしか出来なかった。 もうフェイトは居ないし、帰っても来ない。頭では理解していても、心では理解出来なくて。 フェイトがやられたと解って居ても、それが「死」なのだとすぐには納得出来る訳もなくて。 だけど、時間が経つに連れて、否応なしにクロノの心はフェイトの死を受け入れて行く。 しかし当然自分にどうにか出来る訳も無く、それが悔しくてクロノは拳を握り締めた。 ――そんな時だった。 「これはっ……次元振!? そんな、なんで!?」 「駄目だ! これじゃ、この艦も次元震に巻き込まれます!」 「艦長! クロノ艦長! この距離じゃ、回避出来ません!」 エイミィの絶叫に続いて、スタッフ達が口々に叫び出した。 喧騒が、受け入れ難い現実に思考を停止させていたクロノを現実へと呼び戻す。 気付けば緊急事態を意味するアラートが、艦内のあちこちでけたたましく鳴り響いていた。 一体何が起こっているのかと理解するよりも早く、アースラは次元震の波に飲み込まれ――時間が、逆行した。 クロノは絶句していた。 空間モニターを通して見守る戦いに、突如として現れたのは一人の戦士。 背から噴出するは光の翼。煌めく太陽の光を受けて燦然と輝く赤と銀の身体。 カブトムシを彷彿とさせる巨大な角を持った戦士は、見まごう事なきカブトのもの。 間違いない。今この場に現れたあのライダーは、仮面ライダーカブトだ。 しかし、現状でクロノが問題としているのは、そんな事ではない。 「何だこれ……!? あのライダーが現れると同時に、大規模な次元震が発生!」 「一体何をしたんだ、あのライダーは! 周囲の管理外世界にも影響が出てるぞ!」 「第19管理外世界、第78無人世界……駄目です、あちこちの世界で次元震が発生してます!」 開かれた空間モニターに映る、様々な世界。 緑豊かな世界や、荒廃した砂漠の世界、月が二つある世界や、人々で賑わう世界。 モニターに映し出された世界は全て、今現在次元震によって影響を与えられた世界だ。 その全てに共通して言えるのは、太陽光が遮断され、仄暗い闇に包まれている事。 幸い次元震はすぐに収まり、それぞれの世界はすぐに元の平穏を取り戻した。 それに伴って、展開されて居た銀色のカブトの装甲が、閉じて行く。 表情を顰め、クロノが叫ぶ。 「あのライダー……カブトがこれをやったのか!」 「カブトは時間を越えたんです!」 「――っ!?」 クロノの問いに答えたのは、立川大悟であった。 しかし、それはまともな人間ならばすぐに理解するのは難しい答え。 意味が解らなかったクロノは、瞬間的に言葉に詰まったのだった。 ACT.10「乱心!完全調和第三章」 圧倒的な力を持って敵を撃破したカブトは、悠々と天を指指していた。 太陽光を受けて煌めく銀色の体躯を、周囲の誰もが眩しいとすら感じる。 これ程の力を持ったライダーが、もしも敵に回ったら――きっと恐ろしい事になる。 なればこそ、今ここでカブトとは……否、天道総司とは、きちんと話をつけておくべきだ。 最早敵の居なくなった市街地で、余裕の態度で直立するカブトへと歩み寄ろうとした、その時だった。 クロノから、空間モニターで通信が入ったのは。 それからややあって、変身を解除した一同はバラバラに解散する事となった。 乾巧は特にこれといった挨拶も無く、サイドバッシャーで何処かへと走り去り。 加賀美は天道やなのは達に軽く別れを告げると、いつの間にか置いてあった青のバイクで帰って行く。 天道もまた、赤のバイクに跨りヘルメットを被ろうとしていたのだが――このまま帰す訳にはいかない。 天道とはまだ話が終わって居ないし、それに何よりも、帰す訳には行かない理由がある。 なのはが一歩踏み出して、天道を呼び止めた。 「あの、天道さん」 「何だ、まだ何か用か」 ヘルメットのバイザーを上げて、煩わしそうに告げる天道。 「天道さん、私達の戦艦まで任意同行をお願いしたいんですけど」 「ほおう……時空管理局の方からこの俺に話があるとは、穏やかじゃないな」 「悪い様にはしませんから、ここは一つ穏便にお願いします」 一歩踏み出して、気まずそうに告げるフェイト。 天道は呆れた様な溜息を一つ落として、きっぱりと告げ、 「断る」 しかし、すぐにヘルメットを外した。 長い脚を振り上げ、赤のバイクから降り立ち、 「と、言いたい所だが、お前達に用があるのはこっちも同じ事だ」 不遜な態度を崩さずに、冷ややかに告げた。 なのは達を見下ろす天道の瞳が、何処か恐ろしく見えたのは、気のせいだろうか。 いつもの天道とは違った、非常に人間らしい……ともすれば怒りとも取れる印象を抱いた。 彼が何を考えているのかなど解る筈も無く、なのははただ黙って天道をアースラに連れて行くしか出来なかった。 天道は意外にも、アースラに訪れても何の行動を起こす事もしなかった。 カブトゼクターを呼ぶ、という事も無く、何か棘のある発言をする訳でもなく……。 本当に言われた通り穏便に、大人しくなのは達の後ろについて黙々と歩いて来ていた。 そんな天道が醸し出す雰囲気は何処か重苦しく、なのは達もどう声を掛けていいのか解らず。 気付けば、険悪なムードのまま潜った自動ドアは、ブリッジへと続く扉。 天道を迎える様に立つクロノと、立川……ついでに海堂。 「君とは初めまして、だな。僕はこの次元空間航行艦船、アースラの艦長、クロノ・ハラオウンだ。よろしく」 「ほう、意外にもご丁寧な挨拶をする奴だ。俺は天の道を往き総てを司る男――」 「――天道総司……いえ、日下部総司」 天道の言葉を遮ったのは、クロノの後方に控えていた立川だった。 日下部、という苗字を言われた途端に、天道の表情が険しくなった。 その場に居る一同全員もまた、現状を理解出来ずに頭上に「?」を浮かべる。 そんな沈黙を引き裂く様に、立川の横に控えていた男が勢いよく一歩を踏み出した。 「そして俺様の名前はだな! 海堂――」 「黙れ。お前には聞いてない」 「っ!! な、何だっちゅうんだこの野郎! 人が折角自己紹介をだな」 一人憤慨する海堂を視界から外し、天道はクロノに向き直る。 「クロノとか言ったな。管理局の方から俺に話があるとは、一体どういう事だ」 「おい、テメエ天道この野郎! 無視か! 俺様は無視なんか、おい!」 「なら単刀直入に言おう。カブト、君は時間を巻き戻したな?」 クロノと天道の間“だけ”で、神妙な空気が流れる。 例え流されても自己アピールを続ける海堂の裾を、くい、とフェイトが握り締めた。 少し悲しげな表情を浮かべて、無言のまま首を左右に振るフェイトを見て、流石の海堂も悟る。 ここは自分の出る幕では無かったのだ、と。そう判断してからは特に出しゃばる事もなく、自ら身を引いた。 「銀色のカブトが現れると同時に、君の居る世界で大規模な次元震が発生した」 「ほう」 「君の居る世界だけじゃない。他の次元世界にまで影響が及んでいるんだ」 「やれやれ。俺もついにこの世界には収まり切らない程の存在になってしまったか。 狭い風呂に無理に入ろうとすれば、湯が溢れ出るのも仕方ないからな」 「ふざけるな!!」 やれやれとばかりに嘆息する天道に、クロノが声を荒げる。 自分の世界を“狭い風呂”とするなら、他の世界に及ぼした影響は“湯”。 どう捉えてもふざけているとしか思えない返答に、真面目なクロノがキレるのも無理はない。 しかし、そんなクロノなど意に介さず、今度は天道が神妙な面持ちで問うた。 「こっちからも質問がある。ネイティブとは何だ? お前達管理局とは一体どういう関係がある?」 「ネイティブ……? 一体何の話を――」 「我々ネイティブは、争いを好みません」 クロノの返答を遮ったのは、立川だった。 表情一つ変えずに淡々と告げる立川には、流石のなのは達も違和感を覚えざるを得なかった。 ネイティブとは何なのか。一体なぜ立川がZECTと管理局の両方に顔が利くのか。 今まで抱いていた疑問が、一気に膨れ上がってゆく。 「貴様、この前もネイティブとか言ってたな。俺にとっての大切な人とは、一体誰の事を言っている?」 「貴方も解って居るでしょう。貴方にとってたった一人の、血の繋がった妹です」 瞬間、天道の表情が変わった。 つい先刻までの冷静な表情など吹き飛ばし、激情を隠しもせずに。 声を荒げ、大きな瞳を剥き出しにして、天道は立川の肩に掴みかかった。 「お前、ひよりを知ってるのか!!」 「その答えを知りたければ、貴方も我々管理局に従い、これからもワームを倒す事です」 「何だと……?」 天道の腕に込められた力が、抜けて行く。 怒りとも困惑とも取れない複雑な表情を浮かべた後、天道は再び冷静を取り戻した。 立川一通り睨みつけた後、クロノ、なのは、フェイトの三人を一瞥し、告げる。 「俺は俺の道を行く。お前達に協力してやる義理はない」 「どうして……! 私達だって、ZECTと同じで人々を守る為に戦ってるのに」 「それが胡散臭いと言ってるんだ。ZECTもお前ら管理局もな」 「……だから、ZECTにも管理局にも従わないんですか?」 なのはが天道を見上げ、神妙な面持ちで告げる。 信用出来ない組織だから、自分は自分の道を行き、一人で戦う。 それが天道の言い分であり、それを邪魔する者はZECTであろうが容赦はしない。 弟切ソウの言葉を思い出して、なのはの天道を見る表情をより一層険しくさせる。 「そうだ。俺の道を阻むなら、俺はそいつを組織ごと叩き潰す。 それがZECTだろうが管理局だろうが関係無い。同じ事だ」 「どうしてそういう事言うんですか! 貴方には人と仲良くしようって気は――」 「下らん!」 絶叫でなのはの言葉を遮り、しゅばっ! と右腕を掲げた。 人差指で天井を差し、表情を変えずに続ける。 「おばあちゃんが言っていた。本当の名店は看板さえ出していないってな。 何を言われようが、俺はお前らの様な胡散臭い組織と協力する気はない」 その言葉には、なのは達も呆れるしか無かった。 まるで子供だ。自分の我儘を押し通す子供の言い分だ。 そんな訳の解らない理由で組織を潰されてたまるものかと思う。 「君はもう少し自分の立場を考えて喋った方がいいと思うぞ、天道総司」 一歩踏み出し、一同の心中を代表して述べるのはクロノ。 この船の艦長であり、この場で最も責任のある立場であるからこそ。 天道とは違い、憤りを顔に出す事もせずに、クロノは続ける。 「歴史の改変に、その余波による次元震……君は今、只でさえ僕達管理局に目を付けられているんだ。 その上で君が、そこまで表だって管理局を潰すと言うのなら、こっちだって君を犯罪者として扱わざるを得なくなる」 「俺には関係の無い事だ。俺の行く道を塞ぐなら、俺はお前達を潰してでも進む。それだけだ」 「そうか……君とはいくら話し合った所で無駄なんだろうな」 残念そうに、クロノが嘆息した。 この場で天道を拘束してやりたい、とすら思っているのだろう。 だけど残念ながら、そういう訳には行かない。まだこの男の逮捕状は出ていないし、何よりこれは任意同行。 天道にはこの動向を拒否する権利だってあるのだから、クロノだってこの場で事を荒立てたくはないのだろう。 それに何より、天道が変身するカブトはZECTの、ひいては協力体制にある管理局の切り札でもある。 そう易々とカブトたる天道をどうこうする訳にも行かないと言うのが、管理局の事情でもあった。 誰も何も喋らなくなった後で、天道が踵を返し、言った。 「話はこれで終わりか。なら俺は帰らせて貰う」 「ひよりさんの事は、いいんですか」 「お前たちの事だ。どうせこれからも俺にちょっかいを出してくるんだろう」 ちらと立川を一瞥し、 「だが、向かってくるなら容赦はしない。ひよりも必ず連れ戻す」 厳しい視線を投げつけた。 荒げられた口調は、まるで怒りを表しているかのようで。 天道はクロノとなのはを一旦眇め見て、そのままブリッジを立ち去った。 後に残されたのは、なのは達と、不安感だけだった。 ◆ ブラインドから差し込む太陽光だけでは、光源としては心もとない。 昼間だから問題は無いとは言え、夕方にもなると真っ暗闇になってしまう程の薄暗さ。 そんな薄暗い一室に、ZECTのエリート部隊・シャドウの隊長である弟切ソウは居た。 目の前に座るはZECT総帥たる加賀美陸。そして、その脇に立つのは側近の三島正人。 本来ならば陸が最も頂点に立つ人物である筈なのだが――弟切は、そんな素振りを見せない。 堂々と陸の眼前まで歩み寄ってから、陸に進言する。 「カブトが時空管理局と接触したらしい」 「ほう、天道君が、彼らと」 「……あんたが何を考えているのかは知らないが、俺はカブトを潰すぞ」 「弟切君が、カブトを、かね?」 それだけ言うと、陸は不敵に笑った。 口角を吊り上げて、にやりと……不敵に、薄気味悪く。 弟切は、この男が苦手だった。何を考えているのか解らないし、油断が出来ないからだ。 今すぐにでもその歪んだ笑い顔を殴り飛ばしたい衝動に駆られながら、弟切は続ける。 「奴の性格を考えてみろ。天道は絶対に時空管理局と仲違いを起こす。 後は管理局と、管理局に協力するライダーとで上手く潰し合わせれば」 「青の、カブト」 「は……?」 弟切の言葉を遮る、陸の言葉。 訳が解らない。カブトは赤であって、青である筈がない。 片方しか無い瞳に、何を言ってるんだ、という気持ちを込めて、弟切は陸を睨みつけた。 「君は、青い色をしたカブトを、知っているかね?」 「何を訳の解らない事を……ガタックの事か?」 「ほう、知らない、と」 次いで、くつくつと笑い始めた。 片手でわざとらしく口元を押さえて、不敵に、不気味に。 殺気が湧いた。人間の癖に態度のでかいこの男を、縊り殺してやりたい。 そんな激情に駆られるが、ここで事を荒立てるのは弟切の為にはならない。 故に我慢し、陸の言葉に耳を傾ける。 「知らないという罪と、知りすぎる罠」 「……さっきから、何を言いたいんだ?」 「全ての切り札を一つに纏め、勝利へと導くは、赤のカブト。 最強の切り札として君臨し、運命を切り拓くは、青のカブト」 「一体誰の事を言っている?」 「赤のカブトと、青のカブト……もうすぐ、二人が揃う」 これ以上無いと言う程に、陸はにやりと笑った。 しかし当然の事、彼が何を言っているのかなど理解出来る訳もなく。 これ以上話しても自分のストレスが溜まるだけだと判断した弟切は、陸のデスクを思いきり叩いた。 「もういい。俺は俺のやり方でカブトを潰させて貰う」 「君に、出来るかな」 「種は撒いた。後は俺が上手く立ち回る」 それだけ言うと、弟切は陸の部屋を後にした。 そう。種は既に撒いたのだ。あの日高町なのはと出会った時に。 不和という名の種を、なのはの心の中に植え付けて置いたのだ。 こうして一度芽生えた不和は、疑惑となってその者を蝕み続ける。 天道の性格を考えれば、奴がそれを解消するとも思えない。 後は自分が上手く立ち回るだけで、憎きカブトを潰す事が出来るのだ。 あの日からずっと憎み続けて来た宿敵を、仲間同士で潰し合わせる事が出来るのだ。 そしてトドメは、自分がこの手で刺す。この右目の傷を、奴の命で償わせるのだ。 今でもハッキリと思い出せる、あの日の屈辱を―― そう。あれはある日の夜の出来事だった。 ネイティブワームである彼は、その日一人の青年を殺した。 名も知らぬZECTの隊員を……自分の正体を目撃してしまったそいつを、この手で。 そもそもネイティブとは、ワームとは同種でありながら、ワームと敵対する宇宙生命体。 ワームよりも先に地球に訪れたというのに、ワームは我が物顔で地球を侵略しようとする。 それが気に入らなかった彼らネイティブは、自分達の生態研究を地球人に許し、その力を分け与えた。 こうして生み出されたのがZECT製のライダーシステムであり、その最たる特徴がクロックアップ。 時間軸を切り離し、超高速での行動を可能とする、ワーム特有の特殊能力だった。 さて、そんなネイティブではあるが、彼らには二通り存在する。 地球人と共に歩み、ワームを撃退する事で平穏を手にしようとする者。 地球人を利用し、ワームを殲滅した後は、自らが地球を支配しようとする者。 その日ZECTの隊員を殺した彼は、後者のネイティブワームであった。 たまたまワームの姿を取った瞬間を目撃されたから、殺した。 そうして、思い付いた。ネイティブの力を使えば、ゼクターは自分に従う。 となれば、今現在資格者の居ないザビーゼクターとて自分の意のままに動かせるのでは、と。 故に彼は、殺した青年の姿を借りて、ZECTきってのエリート部隊・シャドウの隊長になろうと画策したのだが―― 出来事はそう何でもかんでも自分の思い通りに行く筈がなかった。 あの日の記憶を思い起こす。 あの廃工場での一幕。 「お、お前は……カブト!!」 黄金に近い体色をしたワームが、目の前に佇む赤の戦士におののいた。 運悪く、自分はZECTの隊員を殺す瞬間をカブトに目撃されてしまったのだ。 人間の姿に擬態する間もなく、彼は――フィロキセラワームは、カブトに襲撃された。 結果的に彼はカブトから逃げ切る事が出来たのだが、その代償は大きく。 カブトが振るったイオンビームの刃が、フィロキセラワームの右目を大きく抉った。 それは当然只で済むダメージではなく、人間の姿に擬態した所で、回復する訳も無かった。 しかし、それは彼の心に余計に火を点ける事となるのだった。 彼はすぐに、ザビーの資格者に相応しいとされるシャドウ隊長の座へと就いた。 その際に、名前が必要だと判断した彼は「弟切ソウ」という名前を考案した。 それはシャドウの初代隊長・矢車想と、三代目隊長・影山瞬から取ってつけた名前だ。 ソウと言う名前は矢車から。弟切という苗字は、兄弟ぶって慣れ合っている彼らへの皮肉。 自分は彼らの様な落ち零れザビーとは違う。弟だろうが何だろうが切り捨てる事も厭わない。 だから弟切は、最強のザビーとして君臨する為にこの名前を考え、権力を手に入れたのだ。 ……また、ソウという名前にはもう一つの意味合いが込められている。 あの日、自分の運命を変えた相手。自分の憎しみの炎を燃やした相手、天道総司。 ソウジという名前から一文字抜けば、それはそのままソウになる。 それが意味する事とは何か。何て事はない、人間臭い、簡単な理由だ。 今でこそ天道を好きに泳がせてはいるが、いつか自分は天道を倒し、天道を越える。 奴を殺して、この復讐に終止符を打つのだ。それを果たした時、始めて自分の存在意義が示されるのだ。 その時、自分が天道に擬態し、足りない一文字を補って、ソウからソウジへと改名するのも悪くは無い。 そんな野望を胸に抱き、様々な思いを込めて考え付いた名前が、弟切ソウなのであった。 「見ていろカブト……お前を叩き潰して、いずれはこの俺が世界を支配してやる!」 くつくつと笑いながら、弟切は歩を進める。 それが、失敗に失敗を重ねて来た「完全調和」の新たな姿。 矢車も影山も、結局は成し遂げる事が出来なかった思想を、自分が完遂させて見せる。 矢車を越え、影山を越え、最終的には天道をも越えて、弟切の奏でる調和は真に完全となるのだから――。 ◆ 並居るワームを薙ぎ倒し、前進を続ける仮面ライダーカブト。 黄金の短刀が秘める威力は、一撃必殺。ただの一撃でサリスワームを緑の炎と変えてゆく。 いくらワームが徒党を組んだ所で、圧倒的な戦力の違いを持つカブトに敵う訳がなかった。 風の様にカブトが駆け抜けた後には、緑色に燃え上る炎だけが残され――最後に残されたのは、集団を率いていたワーム。 緑の体躯は、地球上に暮らす蟷螂に似たフォルム。セクティオワームが、その腕の鎌をカブトへと向けていた。 「前の様に行くと思うなよ、カブト」 「貴様こそ、前の様に逃げられるとは思わない事だ」 そう。敵は以前、フェイトを騙し、その命を奪おうとしたワーム。 突如として現れ、カブトに追いつめられた末に逃走した蟷螂のワームだった。 一拍の間を置いて、二人は深く腰を落とし、それぞれの獲物を構え―― ――CLOCK UP―― 戦いのゴングたるは、カブトのシステムが鳴らす電子音。 鳴り響くと同時に、二人の居る空間の時間軸が周囲から切り離された。 風も、音も、周囲の全ての時間も。加速する二人の前では、停まっているも同然。 眩ゆい光が煌めくクロックアップの世界で、カブトとワームが武器を交差させる。 一合、二合と獲物をぶつけ合わせる度に、形勢はカブト一方へと傾いていく。 力の差は歴然。一介の成虫ワーム如きが、カブトに敵う訳も無かった。 「ハッ」 「グゥッ……!」 ワームの拳を回避し、カウンターの一撃を叩き込む。 イオンビームを纏った刃がワームの上体を引き裂いて、火花を舞い散らす。 カブトの閃きを予測出来なければ、当然回避できる訳も無かった。 ダメージが蓄積されたワームは、たまらず加速を終了させる。 ――CLOCK OVER―― それを感知したカブトのシステムもまた、クロックオーバーを告げた。 大口を叩いただけに何か策があるのかと思ったが、そう言う訳ではないらしい。 尤も、天道総司程の男が、一度刃を交えた相手との戦いで遅れを取る事などあり得ないのだが。 上体を切り裂かれたワームがその場でたじろいでいる、この隙に一気にカタを付けてやろう。 そう判断し、カブトゼクターに設置された三つのボタンを押そうとした、その時だった。 「フォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォウッ!!!」 木霊する、奇声。 甲高い声が、まるで拡声器でも使ったかのように響き渡った。 これには流石のカブトもたまらず動きを止めて、周囲を見渡す。 そして目撃した。蟷螂のワームの後方から悠々と歩いて来る、一人の男を。 丸いサングラスに、派手なアクセサリの数々。極めつけは、中々見掛けないド派手なアロハのジャケット。 イヤホンから大音量の音楽を漏らしながら歩くそいつは、ともすれば海堂直也とも似た雰囲気、かも知れない。 あろう事か男は、戦場のド真ん中へと堂々と歩を進め、両腕で以て奇妙な舞を披露してみせる。 「何だ、お前は」 「フゥー! 仮面ライダーの実力、そいつを使って試してやろうと思ったんだけどよぉ」 言いながら、アロハの男が蟷螂のワームを指差した。 指差された蟷螂のワームは、男の傍らまで移動し、その場に傅く。 まるで男を恐れている様な、ワームらしからぬ畏怖の念が感じられた。 「噂に聞く程じゃあないなぁ、仮面ライダー?」 「……成程な。貴様もワームという事か」 「フォォォォォォウ! ワームだってぇ? 僕をこんな奴らと一緒にすんなよ、仮面ライダー!」 奇声と共に返された答えは、ワームとは異なる存在。 となれば、オルフェノクかアンデッドか――その答えを考える前に、行動したのは男だった。 男はその口をがぱっ、と大きく開いて、相対するカブトに向けて青色の火炎放射を吹き付ける。 ごうっ! と音を立てて迫るそれを回避し、上空へと跳び上がったカブトは、クナイガンを構え、急降下。 イオンの刃は男へと迫り、その脳天へと突き刺さる――かと、思われたが。 「――ッ!!」 首を僅かに傾け、その一撃を回避。 逆にクナイガンを握るカブトの腕を、捻り上げた。 強引な力で無理矢理カブトを眼前まで引き寄せ、嘲笑う様に告げる。 「無駄よぉ! 君レベルじゃあ、僕は倒せない!」 それだけ言うと、男は口を開き――ほぼ零距離でカブトに熱線を吐き掛けた。 当然回避出来る訳もなく、カブトは胸部装甲を青の熱線に焼かれ、大きく吹っ飛ばされる。 もんどりうって後方の大樹にその背を激突させ、地べたへと落下し、その場で敵を睨み付ける。 気付けば、今がチャンスだとばかりに、蟷螂のワームがカブトに向かって走り出していた。 「チッ」 舌打ち一つ、その場で足を振り上げて、蟷螂の胴に減り込ませる。 その衝撃で後方へと振ったんだ蟷螂を尻目に、カブトは立ち上がり、男を見遣った。 目の前に立つあの男はワームではない。となれば、必然的に残った可能性は二つ。 だが、人類の進化系も、地球の覇権を争う奴らもワームとは敵同士である筈。 となれば、一体どんな理由があって手を組んだのか。 その疑問を口にした。 「貴様、ワームと手を組んだのか」 「ああ、本当は僕ら敵同士なんだけど、ちょっと力を見せつけてやったらホラ、この通りよ」 「なるほどな」 力による支配。 それが、ワームが強制的に従わされている理由だった。 目の前の蟷螂ワームは、この男と戦い敗れ、なし崩し的に配下にされたのだろう。 ワームという勢力と、オルフェノクもしくはアンデッドが手を組んだ訳ではないのは、せめてもの救いか。 小物のワームが一人他の勢力の支配下に置かれた程度ならば、そのワームを倒せば済む話だからだ。 それよりも現状で問題視すべきは、この得体の知れない男がどれ程の力を持っているのか、だ。 相手の実力が未知数なら、何が起こっても動じない様に、最初から全力で叩き潰すべきである。 蟷螂のワームがこちらへ向かって再び走り出した。ならば、まずは格下のこいつから倒す。 その判断の元で、カブトは時空の扉を開かんと手を伸ばした、その刹那―― 「ウェイッ!!」 「――ッぐ!?」 突如として現れた青のバイクが、蟷螂のワームに激突。 結構な速度で激突された蟷螂は、そのまま吹っ飛んで、近くのビルディングの壁に叩き付けられた。 苦しそうに悶えるセクティオワームなどまるで意に介した様子も無く、青のバイクから、紫紺のライダーが降り立つ。 仮面ライダーブレイド。カブトと同じく、カブトムシをモチーフとする仮面ライダーだった。 腰に装着されたホルダーから、しゃきん、と音を立てて醒剣を引き抜き、構える。 右手で構えるブレイラウザーに左手を軽く添えて、カブトをちらと一瞥。 「話は聞いた。あんた、あの時は研究員に擬態したワームを倒そうとしてたらしいな」 「その話は後だ。今はこいつらを何とかするぞ、ブレイド」 「……後で話は聞かせて貰うぞ、カブト!」 名も知らぬ相手を、お互いにシステムの名で呼び合う。 些細な事でいがみ合って来たカブトとブレイドが共闘するのは、これが始めてだった。 と言っても、お互い解決しなければならない誤解も未だ残ったままである事もまた事実。 だが、それに関して話し合う機会を得る為には、眼前の敵を退けなければならない。 天道にはあまり相手と話をしたいという気はないのだが、一応の目的は一致していた。 「行くぞ」 カブトの青の視線と、ブレイドの赤の視線が交差した。 戦士としての心構えは十分。ならば、お互いにそれ以上の言葉は必要としない。 先に駆け出したのはカブト。それに追随して、ブレイドが醒剣を構え、走り出した。 何が起こったのかと理解する間も与えずに、カブトの黄金の刃が蟷螂のワームを擦れ違い様に引き裂いた。 蟷螂の身体が火花を散らした次の瞬間には、駆け抜けたブレイドが醒剣の刃で蟷螂を切り裂く。 二人の矢継ぎ早の攻撃に対処し切れない蟷螂は、数歩後じさった後―― 赤のカブトと、紫紺のブレイド。 赤の戦士はその脚に。紫紺の戦士はその剣に。 バチバチバチ、と激しい音を掻き鳴らす稲妻を纏っていた。 ――RIDER KICK―― ――LIGHTNING SLASH―― 響き渡る電子音は、二人のライダーの必殺技の証。 カブトのライダーキックと、ブレイドのライトニングスラッシュ。 駆け出したブレイドが稲妻の剣でワームの身体を両断し、激しい電撃が迸る。 数歩よろめいて、受けた電撃を振り払おうとするが……最早ワームには、それすら叶わず。 迸る電撃に苦しむワームの身体に叩き込まれたのは、飛び上がったカブトが放つ必殺の飛び蹴り。 カブトの足裏から叩き込まれたタキオンの電撃に、いよいよもってワームが受けたダメージは許容範囲を越え。 次の瞬間には、蟷螂のワームは二人の稲妻にその身を焼かれ、跡形も無く爆散していた。 「何故だ!? 協力なんかしちゃって、お前ら仲悪かったんじゃないのかよぉ!?」 「ああ、確かに俺達の仲はいいとは言えない!」 「だが、今は争う理由がない」 ブレイドに続いて、カブトがその問いに答える。 それが第2ラウンド開幕のゴングの代わりとなった。 駆け出したブレイドが、アロハの男に向かって醒剣を振り下ろす。 対する男は、右脚を一歩後方へと後じさらせ、ブレイドの一撃を回避。 続け様に男の身体が変質し、次の瞬間には異形となったその腕で、ブレイドを殴り飛ばしていた。 数歩よろめいて、ブレイドとカブトの視線が現れた異形へと突き刺さる。 左右非対称の身体。左右非対称の体色。左右非対称の装甲と、武器。 漆黒の仮面に顔を隠したそいつは、見まごう事無きアンデッド。 「お前、アンデッドか!」 「仮面ライダー、僕はその辺のアンデッドとは一味違うんだ」 真っ赤な瞳でブレイドを睨み、両手を広げて余裕綽々の態度で告げる。 頭や肩、体中から山羊(ヤギ)に似た角を生やしたそいつは、見た目の通りの山羊の始祖。 他のアンデッドとは明らかに雰囲気を違える、言わば上級のアンデッドと呼ぶに相応しい存在であった。 カプリコーンアンデッドと呼ばれるアンデッドに対し、ブレイドはブレイラウザーを投げつける。 びゅん、と風を切って迫るブレイラウザーが、その切先で以て山羊の肩を掠めた。 「ウオッ!?」 回避し損なった山羊が、その肩から緑色の血液を噴き出した。 この瞬間を、逃しはしない。カブトとブレイドの両方が、ほぼ同時に大地を蹴った。 ライダー相手に一瞬でも動きを止めてしまったのが、カプリコーンアンデッドの運の尽き。 閃いたカブトの短剣が山羊の身体を引き裂いて、その瞬間にブレイドが後方を陣取る。 地面に突き刺さったブレイラウザーを回収したブレイドが、山羊の背中を叩き斬る。 受けた衝撃のままに前方へとよろめけば、待ちうけているのはカブトの斬撃。 二人の剣が、連携攻撃でカプリコーンアンデッドを追い詰めてゆく。 「ハッ!」 「ウェイ!」 声にならない嗚咽を漏らす山羊に、無数の連撃が叩き込まれ。 二人の刃が、反撃すら叶わない山羊の身体を何度も何度も切り裂いた。 その身体から夥しい量の緑を噴き出しながら、山羊のアンデッドはよろめきながら数歩後退。 頭の角が青の光を放ち――次の瞬間には、その光を二人のライダーへ向けて発射していた。 カブトもブレイドも、地べたへと跳び退る事でかろうじてそれを回避。 しかし――次に二人が立ち上がった時には。 「……逃げたられた!?」 山羊のアンデッドの姿は、何処にも無かった。 流石にこの状況で二人のライダーを相手にするのは不利だと判断したのだろう。 奴は当初カブト一人を潰すつもりで仕掛けて来たのだ。ライダー二人との戦いなど想定してはいない。 不利な状況となれば、やられる前に逃げてしまうのが得策と言うのは、戦法としては悪くは無い。 結局カブトとブレイドだけが残されて、その場で二人は向き直った。 仮面の下で、先に口を開いたのはブレイドだった。 「なあ、あんた。何でいつも誤解される様な事ばかりするんだよ。 聞いたぞ、時空管理局の皆とも何か問題を起こしたらしいじゃないか」 「俺は俺の道を往くだけだ。所詮お前達一般人とは歩むべき道が違う」 「……何だよそれ! ちょっとは見直してもいいかと思ったけど、お前やっぱり嫌な奴だな」 やれやれとばかりに嘆息して、呆れ口調で告げるブレイド。 やはり剣崎一真は、こいつの、カブトのこういう所が気に食わない。 この相手を見下した様な態度さえなければ、カブトとも一緒に戦って行きたいのに。 出来る事なら管理局の皆とも協力して、人々の為に一緒に戦いたい。そう思っているのに。 なのにカブトには、取りつく島がない。話そうとしても、話が通じないのだから仕方がない。 募る苛立ちを吐き出す様に、ブレイドは叫んだ。 「俺達、同じ仮面ライダーだろ? どうして一緒に戦えないんだ!」 問い詰めても、カブトは答えない。 解っては居た。まともな返事が返って来ない事は。 だけど、剣崎一真という人間は面倒臭いまでに真っ直ぐで。 だからこそ、解っては居ても問わずには居られなかったのだ。 しかしカブトはそんなブレイドなど意に介さず、黙って背を向ける。 そのまま歩いて立ち去ろうとする背中を、ブレイドは慌てて掴んだ。 「おい、ちょっと待てよ! まだ話は終わってないだろ!」 声を荒げて、カブトを引き止める。 何の返答も返さぬカブトの所為で、居心地の悪い沈黙が流れる。 周囲でさえずる小鳥や虫の羽音だけが響き渡って、嫌に神妙な空気が流れ。 いい加減この空気に耐えられなくなったブレイドが、何事かを言おうとした、その時だった。 「いいのかい、仮面ライダー。早くお仲間を助けに行かなくて」 この静寂の中で、誰かの声が響き渡った。 まるで射抜く様な鋭さを秘めたその声に、二人は硬直する。 しかしそれもほんの一瞬。すぐに視線を声の主へと向け、その主を見遣る。 そこに居るのは、黄色のハイネックに、黒のジャケットを羽織った眼鏡の男だった。 知的な雰囲気を醸し出す男は、銀縁の眼鏡を指でくい、と持ち上げて、話を続ける。 「今頃あんた達の仲間が、ワーム共に襲われてる頃だぜ」 「お前に言われるまでもない」 言うが早いか、カブトはブレイドの腕を振り払った。 そのまま近くに停車されていた赤のバイクへと跨り、エンジンを吹かせる。 このままでは、またカブトは行ってしまう。何の話も出来ないままに。 その前にせめて――せめて、 「……ならせめて、あんたの名前を教えてくれ!」 「俺は天の道を往き、総てを司る男……天道、総司」 「天道……天道だな! 俺は剣崎! 剣崎一真だ!」 「……覚えておこう」 それだけ告げると、赤のバイクは一気に走り去って行った。 仮面ライダーカブトに変身して戦う男の名は、天道総司。 不遜で生け好かない奴だが、もしかしたら話せる相手かもしれない。 今まではこちらもカブトを敵だと思っていた。だから最初から剣を交えていたのだ。 だが、今回は違う。最初から喧嘩腰で向かわなければ、突然殴られるという事も無かった。 だから、いつかは天道とも共に闘える日が来るのではないか――そう、剣崎は思うのであった。 そんな時だった。不意に、先程現れた眼鏡の男が口を開いたのは。 「スペードのカテゴリークイーンか……口だけだったな」 「あんた、さっきから一体何なんだ? 何を知ってるんだ?」 「心配せずとも、今はまだあんた達と事を構える気はないさ」 剣崎がその言葉の意味を理解するよりも早く、眼鏡の男は何処かへと歩き去って行った。 何故か追いかける気にもなれず……と言うよりも、男の背中が追いかけるなと言っている様に感じて。 その背中から、不思議と感じた威圧感と存在感。それに気圧されたかのように、剣崎はその場から動けなかった。 戻る 目次へ 次へ
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8:百合ショッカー本部殴り込み編 なのは・ユーノ・士・光太郎の四人は数多の戦いの末ついにクラナガンにやって来ていた。 「ついにここまで来たぞ。後一息だ。」 「でも私達四人だけで百合ショッカー総本部を攻撃なんて無茶な気がするんだけど…。」 最終決戦へ向けて静かにながら意気込んでいた士に対し、なのはは不安げだった。仕方が無い。 今のクラナガン、かつての時空管理局ミッド地上本部は百合ショッカーの総本部と化している。 それ故に敵の防衛網も今までとは比較にならない事は想像に難くなかった。 「いや、むしろ逆かもしれないよなのは。」 「え? ユーノ君それどういう事?」 「今まで見て来た通り、百合ショッカーは色々な世界に侵攻しているけど、それぞれの世界にも 百合ショッカーと戦う人達がいた。彼等と戦う為に百合ショッカーもさらに兵力を送り込まなければならない。 …と言う事は、逆に総本部のあるここは守りが手薄になっている可能性が高いと言う事だよ。 それに、下手に大人数で行くよりも少数で一気に奥まで忍び込んで頭を取ると言うのも立派な手。」 ユーノの言葉になのはも思わず納得していた。例え姿はフェレットであろうとも、流石はなのはのブレーンとも言えるユーノだった。 「しかし安心ばかりもしていられない。絶対数こそ少なくとも、総本部ともなれば敵も精鋭が守りに付いているはず。」 「うん…いずれにせよ激戦は避けられないんだね…。」 光太郎の言葉になのはは不安げだった表情を引き締めレイジングハートを握っていたのだが… 「その通りだ。良くぞここまで来たな。」 「ほらおいでなすったぞ!」 早速現れた百合ショッカー総本部の防衛部隊。しかし、それは仮面ライダー1号&2号と瓜二つの者達… それがのべ数十人も揃っていたのだった。 「仮面ライダー!? しかもあんなに…。」 「違う! あれはショッカーライダーだ!」 「ショッカーライダー!?」 「仮面ライダー1号及び2号は元々ショッカーが一怪人として改造した者だと言う事は以前にも話したが、 それに対抗する為にゲルショッカーが作った仮面ライダーの同型改造人間達だ!」 ショッカーライダー。元々自分達が作り上げた仮面ライダー1号及び2号に苦渋を舐めさせられたゲルショッカーが 対仮面ライダー用に仮面ライダー改造時の設計を基に、戦闘員の中でも優秀な者を改造して作り上げた存在… それがショッカーライダーであった。手袋及びブーツが黄色く、そして赤を除く色とりどりのマフラーを巻いているのが特徴である。 「その通り。確かにこの者達はショッカーライダーだ。しかし厳密には違う。百合厨の中でも特に優秀だと判断された者を 素体とし、百合ショッカーが改造した百合ショッカーライダーだ。」 「!!」 ショッカーライダー…いや百合ショッカーライダーの軍団の中心に立つ一風変わった全身を甲冑に覆われた男がいた。 「地獄大使か…。」 「地獄大使? 違うな。今の私は地獄大使改めガチ百合大使だ。」 地獄大使。『仮面ライダーの世界』においてショッカーの幹部の一人だった地獄大使。それが百合ショッカーに 参加する事によってガチ百合大使と名乗っていたのだった。そして、ショッカーライダー部隊もまた彼の言葉通りなら 百合厨の中でも特に重度の百合厨を元にした百合ショッカーライダーであると思われる。 「シャドームーンの奴は高町なのはを首領と引き合わせる事によってなのフェイの百合を復活させ それによって各世界の百合厨からの支持を得て百合ショッカーの支配体制を固める事を狙っている様だが… 我々はその様には考えていない。」 「そうだ。もう淫獣に股開いて中古になったなのはに価値は無いね。」 「まっまだそんな事してないよ////////」 ガチ百合大使と百合ショッカーライダーの言葉になのはとユーノは赤くなってしまっていたが、 彼等のその態度、それはなのはをフェイトを引き合わせようとしていたヴィータ達とは明らかに違っていた。 「故に我等は高町なのはとユーノ=スクライアを殺す事に躊躇いは無い。覚悟しろ!」 「流石は特に重度の百合厨を改造しただけの事はある…か…。」 重度の百合厨ともなればなのフェイの百合以外は考えられず、それ以外のカップリングは根絶の対象となる。 特になのは×ユーノともなれば、彼等にとってはゴミクズ以下だろう。ならば、今なのはとユーノが一緒にいる と言う状況は彼等にとって忌むべき物であり、ユーノと一緒に入る事を当たり前に受け入れているなのはもまた 彼等にとって忌むべき対象なのだろう。 「我々の愛した高町なのははもう我々の心の中にしか生きていない。今目の前にいるあの女はただのビッチ…。 淫獣に股開いたただの中古女なんだ! あんな奴に価値などありはしない!」 「だからそんな事してないよ////////」 「凄い言われ様だな…。」 百合ショッカーライダー軍団にビッチだの中古だの言われて凄いショックを受けるなのはだったが、 逆に士と光太郎は呆れるばかりだった。しかし、百合ショッカーライダー軍団が脅威である事は事実。 故にそれぞれ変身をして戦闘態勢を取る。 「変身!」 『カメンライド! ディケーイド!』 「変身!! 仮面ライダーBLACK!」 「セーットアーップ!」 なのはとその肩に乗ったフェレットユーノ・ディケイド・BLACKの四人と、百合ショッカーライダー軍団が 相対し、今戦闘が始まった。 「やれい! 百合ショッカーライダーども!」 「ユリィィィィ!!」 ガチ百合大使の号令に合わせ、百合ショッカーライダー軍団が一斉に駆け出していく。伊達に仮面ライダー1号・2号の 設計を流用して作られただけの事はあり、物凄い脚力と速度で接近して来ていた。 「来るぞ!」 ディケイドはライドブッカー・ソードモードを握り振り上げ、BLACKはパンチで跳びかかって来た 百合ショッカーライダーを迎撃した。しかし、百合ショッカーライダーは軽やかにそれを回避し、 逆にキックを打ち込んでいた。それには思わず怯んでしまうディケイド・BLACK。 「ディケイドとBLACKは後回し。まずあのビッチと淫獣をゲゲルしろー!」 「わっくっ来る!」 百合ショッカーライダーはディケイドとBLACKの相手を後回しにし、なのは・ユーノへ向けて猛烈な速度で 駆け寄せて来る。なのははレイジングハートの先端を向け、ディバインバスターで迎撃しようとしていたが間に合わない。 「させるか!」 『カメンライド! 響鬼! アタックライド! 音撃棒・烈火!』 ディケイドは響鬼のカードをディケイドライバーに差し込む事で仮面ライダー響鬼に変身し、 さらにアタックライド・音撃棒・烈火から放たれる火炎弾を連続で発射するが、それさえ百合ショッカーライダーは 回避しつつなのはとユーノへ接近して行く。 「くっ!!」 ユーノはなのはの左肩の上に立ち、防御魔法を展開して百合ショッカーライダーを阻もうとする。 しかし…その行動はお見通しとばかりに百合ショッカーライダーは構わず突撃を続けていた。 「ライダーパーンチ!!」 百合ショッカーライダー軍団のライダーパンチがほぼ同時にユーノの防御魔法へ打ち込まれ、 直後にそれが破られ砕けていた。こと防御に関しては実質Sランク級にも匹敵し得る物を持つユーノの防御魔法を 破った百合ショッカーライダーの集団ライダーパンチ。後は彼等の拳が直接なのはとユーノを襲う…と思われたが… 「危ない!」 とっさにディケイド響鬼が跳び、なのはとユーノを突き飛ばす。そのおかげでなのはとユーノの二人は何とか助かったが、 代わりにディケイド響鬼が百合ショッカーライダーのライダーパンチを受けてしまった。忽ち響鬼への変身が解除されてしまうのは 勿論の事、超硬度・超耐衝撃性・超耐熱性を誇るディヴァインオレ鉱石製のディケイドのボディーの彼方此方から激しい火花が散り倒れ込んでしまう。 これは百合ショッカーライダーの攻撃力の凄まじさを物語っていた。 「ぐぁ!」 「士さん!」 「くっ…邪魔が入ったか。だがディケイドに大ダメージを与えられただけでも良しとしよう。」 なのはとユーノは大急ぎでディケイドへ駆け寄り起き上がらせようとしていたが、ディヴァインオレ製の スーツでも完全には耐え切れなかった程にディケイドのダメージは大きいらしく中々起き上がれなかった。 「くそ…量産型ライダーのくせに何て強さだ。」 「だから言ったでは無いか。百合ショッカーライダーは百合厨の中でも特に優秀な百合厨を改造してあると。」 確かにその通りだった。百合ショッカーライダーは量産型とは言え、百合厨の中でも特に重度の百合厨を 基にして改造された存在。それ故に戦闘力は百合戦闘員やユリトルーパーとは比較にならなかった。 「ディケイドにBLACKよ、ここで高町なのはとユーノ=スクライアを大人しく渡すのであれば お前達二人の命だけは助けても良いと思うが…どうかね?」 「断る!」 「何時までそんな強がりが言えるかな? 今このクラナガン近辺にいる反抗勢力はお前達四人だけだ。 今までの様に助けは来ないぞ。」 ガチ百合大使及び百合ショッカーライダー部隊の目的はなのはとユーノを闇に葬る事。 それ故にこの二人を消せるならディケイドとBLACKはどうでも良いと考えていた。 無論そんな事はディケイド・BLACKが許容出来るはずが無いが、今この状況で 誰かが助けに来てくれるとは到底思えなかった。 「私達が貴方達に素直に殺されれば…士さんと光太郎さんを助けてくれるんですね?」 「お…おい…。」 ここでなのはとユーノがゆっくりと百合ショッカーライダー部隊へ向けて歩み寄っていく。 「おい! やめろ!」 「士さん…光太郎さん…。私達が時間を稼いでいる内に逃げて下さい。」 「そして今一度体勢を立て直し、何時の日か百合ショッカーから…世界を守ってください…。」 なのはとユーノは自身の死を賭してでもディケイドとBLACKを助けるつもりだった。 元より誰かを守る為に時空管理局に入った身。その為に誰かを助けられるなら本望。そう考えていたのである。 「やめろ! 奴等がそんな約束を守る物か!」 「ハッハッハッハッ! 潔いとはまさにこの事だな。やはりこの世は百合こそが絶対的な正義。 なのは×ユーノを支持する奴など何処の世界にいると言うのだ。」 「ここにいるぞぉ!!」 「!?」 突如として響き渡った謎の声。まるで三国志における馬岱の名台詞を連想させる言葉を叫び放ったのは 一体何者なのかと思わずその場にいた誰もが騒然としていたのだが… 「とぉ!」 「うあっ!」 直後として何者かが乱入し、百合ショッカーライダーの手に掛かろうとしていたなのはとユーノの二人を 救出し、ディケイド・BLACKの所まで連れ帰していた。 「おっお前は…ユウスケ!」 「この二人の笑顔は…俺が守る!!」 突如として乱入し、なのはとユーノの窮地を救った者、それはディケイドの旅の仲間であった 仮面ライダークウガこと小野寺ユウスケだった。しかし、現れたのはそれだけでは無かった。 「大丈夫ですか士君!」 「夏みかん…。」 倒れていたディケイドを掴み支え上げていたのは、同じくディケイドの旅の仲間である仮面ライダーキバーラこと光夏海。 そしてクウガはなのはとユーノの二人を守る様に前に立ち、構えていた。 「俺も一緒に戦うぞ!」 「お前等今頃…来るのが遅いんだよ!!」 思わずディケイドはクウガとキバーラにそう怒鳴り付けていたのだったが、表面的には怒りつつも 何処か喜びが感じられた。 「実は僕もいるんだ。」 「海東…。」 次に現れた者…それは仮面ライダーディエンドこと海東大樹であった。士がディケイドになる以前から 数多の世界を旅し、その世界のお宝を手に入れるドロボ…ゲフンゲフン…怪盗をしており、時にはディケイドの ライバルとなる事もあったが、色々あって彼もディケイドの旅の仲間となっていた。 「西も東も百合で塗れたこのご時勢だからこそ…なのは×ユーノは逆にとても貴重なお宝になってると思うんだよね。 まぁ…僕のポケットに入る様な物じゃないし、持ち帰る事も出来ないけどね。」 「とりあえず協力してくれると言う事で良いんだな?」 クウガ・ディエンド・キバーラの増援で一気に勢い付くが、百合ショッカーライダー軍団が圧倒的なのも事実だった。 クウガ・ディエンド・キバーラの救援を受けたなのは・ユーノ・ディケイド・BLACK。 しかし百合ショッカーライダー軍団の相手はそれでも辛そうであった。 「たった三人が増えただけで何が出来る! 数で押し潰してやる!」 「さて、それはどうかな?」 ディエンドは銃として右手に持つディエンドライバーを百合ショッカーライダー部隊へ向け、何処からかカードを 取り出しディエンドライバーへ差し込んでいた。元々ディケイドと同系統の技術によって作られたディエンドもまた、 カメンライドによって様々なライダーを召喚したり、また実体のある幻影を作り出して戦わせる事が出来た。 それによって物量差を覆そうとしていたのだった。 「実はね、僕は士を探すついでに三国志の世界へ行っていたのさ。」 「三国志の世界?」 「残念ながらお宝らしいお宝は手に入らなかったけど、その代わりに三国志武将をライドする事が出来る様になったんだ。」 「わぁ! 何か戦力として頼りになりそうな予感!」 ディケイドがプリキュアの世界へ行ってプリキュアをライド出来る様になったのと同じ様に、ディエンドもまた三国志の世界へ行き 名だたる三国志武将をライドして呼び出す事が出来る様になったと言う。それにはなのはとユーノの二人も思わず期待せざる得ない。 『三国ライド! 五虎大将!』 「おお! いきなり五虎大将か!」 五虎大将とは、三国志の魏・呉・蜀の三国の内の蜀における関羽・張飛・趙雲・黄忠・馬超の五人の武将を指す。 いずれも今日においても語り継がれる程の有名武将である。あくまでもディエンドがライドして呼び出した 実体のある幻影であるとは言え、今と言う状況下においては頼りになる存在と思えたが……… 「よりによって恋姫無双版かよ!!」 何と言う事であろうか。ディエンドがライドして呼び出した五虎大将とは、恋姫無双版だったのである。 「海東! お前が行った三国志の世界って恋姫無双の世界の事かよ!」 「うん。それがどうかしたのかい?」 「てっきり横山三国志とか三国無双とか最強武将伝あたりから連れて来ると思ってたからな…。」 恋姫無双の世界は三国志の世界と似て非なる世界。何しろ三国志の名だたる武将達が女性化してる世界だからね。 美髭公と呼ばれる位に立派な髭を蓄えていた事で有名な関羽も、恋姫無双の世界では美しく長い黒髪を持った女性になってる位だ。 「あの…僕達はあれが何なのかちょっと良く分からないんですけど…本当に大丈夫なんですか?」 「安心しろ。俺も良く分からん。」 五虎大将と言うからには絶対に頼りがいのありそうな強そうな男達が現れると期待していた事もあり、 恋姫無双版の五虎大将を見て、それについて良く知らないユーノとなのはは凄い不安げな顔になっていた。勿論BLACKも。 「けどあいつ等強いぞ!」 「本当だ! ってか強っ!」 「何で!?」 皆の不安とは対照的に彼女達は強かった。黄忠のさながらマシンガンの様に高速連射される矢によって 百合ショッカーライダーは次々に射貫かれ、関羽・張飛・趙雲・馬超の四人もまた女性の細腕からは想像も出来ない力で 手に持つ大きな得物をブンブンと振り回して百合ショッカーライダーを次々に薙ぎ倒していく。 彼女達はあくまでもただの人間のはずなのにどうしてあそこまで強いのか意味が分からない程であった。 「もう全部あいつ等五人だけで良いんじゃないかな。」 「いやいや、実はもう一人必要なんだよ。」 「え?」 ディエンドはもう一人必要だと言うが、一体誰を呼び出すと言うのだろう。 『三国ライド! 孔明!』 「はわわ~、ご主人様、敵が来ちゃいました~。」 「で?」 ディエンドが三国ライドで呼び出した諸葛亮孔明…勿論恋姫無双版である事は言うまでも無い事だが 先の五人と違ってあたふたするばかりでとても戦力になるとは思えない。一体何の意味があるのだろうか? 「何か意味あんの?」 「当然あるさ。筆者が喜ぶ。」 何を隠そう筆者は朱里ちゃん好きだからこれだけは絶対にやっておきたいのであった。 とまあこんな感じで百合ショッカーライダー部隊は五虎大将に任せとけば間も無く全滅する…と思われたが… 「ええい不甲斐無い奴等め! こうなったら私が直々に相手をしてやる。」 ここでガチ百合大使が前に出て来た。無論五虎大将は一気にガチ百合大使へ向けて駆け寄せるが… 「百合ショッカー百合幹部ガチ百合大使。してその実態は…ユリユリユリユリ…ユリユリンダァ!!」 「ああ! あの人怪人に変身したよ!」 地獄大使が怪人ガラガランダに変身する事は知られている。そしてガチ百合大使もまた、ユリユリンダなる怪人へ変身し、 しかもそのまま右手のムチで五人まとめて払い倒し、一気に消滅させてしまった。あくまでもディエンドのライドによって 呼び出された複製の悲しさ。この通りある程度のダメージを受けると消滅する仕組みになっていたのだった。 「あぁ! 強い!」 「邪魔者は消えた! 一気に畳み掛けろぉ!」 「ユリー!」 ユリユリンダの号令により、百合ショッカーライダーが再び勢いを取り戻し突撃を開始した。 「くそ! こうなったら今度こそ本当にやるしか無いぞ!」 迫り来る百合ショッカーライダー部隊に対し皆は戦闘態勢を取り、再び戦いが始まった。 ディケイドはライドブッカーソードモードで百合ショッカーライダーを斬り倒し、BLACKはバトルホッパーで轢き飛ばし、 ユーノがチェーンバインドで縛り上げた隙になのはがディバインバスターで吹き飛ばすし、クウガはライダーキックから放たれる 爆発で吹き飛ばし、ディエンドはディエンドライバーから放たれるディメンションシュートを撃ち込み、キバーラは 光夏海本人が持つ人を笑わせるツボを突く事が出来る能力を利用して百合ショッカーライダーを笑わせる等、 各々の持てる能力を駆使して百合ショッカーライダー部隊と戦っていたが、やはり百合ショッカーライダーは 百合厨の中の百合厨が基になっているだけあってそれでもまだ足りない強さと勢いを持っていた。 「これはさらなる戦力の増強が必要だね。」 「また誰かを呼び出すのかい?」 ディエンドはカードを取り出し、ディエンドライバーに差し込む。またカメンライドかはたまた三国ライドで 誰かを呼び出して戦うのかと思われていたのだったが…… 『カメンライド! ダブルドライバー!』 「え!?」 ここで予想だにしない事が起こった。フェレット形態であったユーノが突如として人間の姿に戻り、 さらに彼の腰には『仮面ライダーW』の世界における仮面ライダーが巻くベルト・ダブルドライバーが巻かれていたのである。 「あの…これは一体どういう事なのかい?」 「ちょっと待って。これはもう一人いないとダメな事なんだ。」 ユーノはさっぱり意味が分からず問い掛けていたが、ディエンドはキョロキョロを辺りを見渡していた。 だが、そんな時に… 「僕はダメかな?」 「クロノ!」 「リンディさんまで。」 ここでクロノとリンディの二人が何処からか姿を現していた。 「でもどうして?」 「百合ショッカーに囚われていた所を私が救い出したんです。」 どうやらクロノも百合ショッカーに囚われていたらしく、そこを既に百合ショッカーの呪縛から解き放たれていた リンディが救い出した様子であった。 「今更出て来てこんな事を言うのも何だけど…僕にも協力させてくれ。フェレットもどきばかりに良い格好はさせられないからな。」 「よし。君なら丁度良い。ならば行くよ。」 『カメンライド! ダブルドライバー!』 クロノの腰にもダブルドライバーが巻かれ、さらにユーノの右手には緑色の、クロノの左手には黒のUSBメモリ状の物体… ガイアメモリが握られていた。 「さあ、それをダブルドライバーに差すんだ。」 「行くよ…。」 「ああ…。」 ユーノ・クロノはそれぞれの手に握るガイアメモリをダブルドライバーへと差し込んだ。 「今この瞬間だけは僕達は二人で一人の仮面ライダーだ!」 『サイクロン!』 『ジョーカー!』 次の瞬間、ユーノの姿が左半身が黒の、右半身が緑の姿へ変貌して行く。それこそ『Wの世界』におけるライダー、 仮面ライダーW・サイクロンジョーカーである。 そして、ユーノがサイクロンジョーカーへ変身するのに伴い、クロノの精神はサイクロンジョーカーの内の ジョーカーの部分へ移る形となり、魂を抜かれた様にグッタリと倒れそうになっていたクロノをリンディが受け抱き上げていた。 「ユーノ君が緑と黒のライダーになっちゃった!」 ユーノの変貌になのはは驚くばかりだったが、サイクロンジョーカーとなったユーノとクロノは 自分がライダーに変身した事によってテンションが上がったのか、百合ショッカーライダー部隊を指差しポーズを決めていた。 「さあ! お前達がヲカズにした百合カップルを数えろ!」 ユーノとクロノの声が思い切りハモり、普段はいがみ合っていても何だかんだで仲良い事を暗示させていた。 「あの…私はその仮面ライダーWと言うのが良く分からないんだけど、とりあえずクロノ君の方もそっちに入ってるって事で良いのかな?」 「うん。そう考えてもらって結構。」 ユーノがただライダーに変身するだけならまだしも、クロノの精神まで入り込むのはどういう理屈なのだろうと なのはは不思議に思っていたのだが、とりあえずはそういう物だと理解するしか無かった。 「淫獣がライダーになったぞー!」 「うろたえるな! ただのコケ脅しだ!」 「何か変な事をされる前に出鼻を挫いてしまえ!」 百合ショッカーライダー部隊の何人かがユノクロWへ向けて突撃を開始した。しかし、ライダーに変身した事でテンションを上げた ユーノ・クロノはそれに戸惑いを感じていなかった。 「今の僕達は一味も二味も違うよ!」 ユノクロWが右手を前に突き出す。するとどうだろうか。直後にその右手から猛烈な強風が吹き荒れ、それには思わず 百合ショッカーライダー数名も進撃速度を鈍らせてしまう。これがサイクロンジョーカーの中のサイクロンの持つ能力。 サイクロンであるが故に風を操る事が出来るのである。 「ただの風だ! 怯まず進め!」 「たかが風…されど風と言う事だよ。はっ!」 ユノクロWの右半身であるサイクロンの力によって起こした強風で百合ショッカーライダーの進撃速度が鈍った隙を突き、 さらに風の力を利用して勢いを増したユノクロWの左拳が百合ショッカーライダーを殴り飛ばしていた。 これがサイクロンジョーカーの内のジョーカーの持つ能力。特にそれと言った特殊能力は無いが、純粋に身体能力を高める 能力を持ち、そのシンプルさがかえって使い勝手の良さに繋がっていた。 「うわ! 凄ーい! ユーノ君もう別人みたい!」 クロノも半分混じってるけど、ユーノの別人みたいな活躍になのはもビックリだった。だが、少し残念な気持ちもあった。 「けど…個人的には士さんの力で大きなフェレットさんになる方が私個人としては嬉しかったかな…。」 なのは個人としてはライダーとして活躍するユーノよりも、ディケイドのファイナルフォームライドで巨大フェレットの 姿になって活躍するユーノの方が好きだった。しかし今と言う状況では個人的な好き嫌いを言っている場合では無かった。 「まあ良いや。どうせなら私も何かライダーになりたいな~。何か良いの無いの?」 「いや、君はそのままでも十分強いから必要無いでしょ?」 「ショボーン」 ユノクロWに影響されて自分もライダーになって見たいと思い始めたなのはであったが、即効でディエンドに 拒否されてガックリと肩を落としていた。 「とりあえず今は奴等を倒すのが先決だ。」 「敵の数はまだまだ多いからな。」 その通り。今目の前にはまだまだ沢山の百合ショッカーライダーの大軍とガチ百合大使ことユリユリンダがいる。 これを倒して先に進まねばならぬ…と思われていたが…その直後だった。 「とぉ! ライダー! トリプル! キィィィィック!!」 「何!?」 なのは達の背後から何者かが三人、高々とジャンプして跳び超えると共にキックで百合ショッカーライダー達を 蹴り飛ばしていた。一体誰なのか? 「ここは俺達に任せてお前達は先へ進むんだ!」 「1号! 2号! V3!」 ここでさらに現れたのは仮面ライダー1号・2号・V3だった。秋葉原の世界で、後々合流すると言っていた彼等だが、 本当にその通りにやって来ていたのである。そして三人は百合ショッカーライダーを次々に殴り倒し蹴り倒し、 投げ飛ばしながらディケイド達に先へ進む様叫んでいたのだった。 「ここはあいつ等に任せて俺達は先に進むんだ。」 「で…でも士さん…大丈夫なんですか?」 「アイツ等だって仮面ライダーだ。心配はいらない。」 「本当に倒すべき敵はこの先にいるんだしね。」 なのははたった三人に百合ショッカーライダー部隊の相手を任せる事に不安を感じていたが、 敵は目の前の百合ショッカーライダー部隊だけでは無いのである。故にここは三人に任せて先へ進むしか無かった。 「おっと夏みかん。お前はあの二人と一緒に何処か安全な所へ行くんだ。」 「え?」 ディケイドはキバーラの肩に手を置きつつ、ユノクロWに精神が移った事によって魂が抜けた様にグッタリしていた クロノを抱き支えていたリンディを指差していた。 「士君。私は戦力として当てにならないと言うんですか?」 「違う! あの二人を守ってやれと言うんだ。特にあっちの黒い服の男の方は精神がWの方に移ってるから その状態でやられたら大変な事になる。それにあっちのオバサ―――」 少々お待ちください 「あ…あっちの綺麗で美人のお姉さん一人にあの男担がせるのも大変だろう。これも重要な事だ。」 「分かりました士君。そういう事ならば私はこの二人を守ります。」 「ありがとう助かります。」 先程途中で台詞が途切れた様な気がしたが、とりあえずここでキバーラはクロノ・リンディを守ると言う名目で 二人と共に世界と世界を繋ぐ次元のオーロラを通って安全圏へと脱出した。 「よし。とにかく1号・2号・V3が奴等を引き付けている内に俺達も行くぞ。」 今も1号・2号・V3の三人が百合ショッカーライダーの軍団と激しい激闘を繰り広げている。 故に今の内に皆は先へ進むのだった。