約 2,224,694 件
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/272.html
クロス式・意外と壮絶な機動6課隊長陣の休日 小ネタとして描かれた、とある休日の風景 型月・リリカル両キャラの同クロススレで展開されてきた物語の要素を盛り込んだ 双方キャラの競演 休日―プロローグ 休日―道中編 休日―昼休み編 休日―釣りバトル前編A-休日―釣りバトル前編B 休日―釣りバトル中編A-休日―釣りバトル中編B-休日―釣りバトル中編C 休日―釣りバトル後編A-休日―釣りバトル後編B-休日―釣りバトル後編C-休日―釣りバトル後編D 休日-完結編A-休日-完結編B-休日-完結編C-休日-完結編D 休日-オマケA-休日-オマケB-休日-オマケC
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2066.html
Pyrophobia スバルを取り巻く山林、木漏れ日の様に注ぐ月光がその少年を照らしていた。剣を持ち、衣服を血に濡らした少年を。 ……何だろ、見覚えがある様な……? その顔立ちにスバルは誰かの面影を見る。だが気のせいだったのか、はたまた付き合いが薄い相手だったのか、誰を重ね見たのかは解らなかった。 「あの」 と、少年が声と共に踏み込んできた。それに対してスバルは、 「……!」 後ずさる、という行動で応える。そうする理由は、一重に少年への不審と疑心だ。 「待って下さい! 僕は……」 そんなスバルを少年は追いかけた。手を伸ばしてこちらを掴もうとし、直後、 「皆殺しだああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!」 憎悪の咆哮が山間に響いた。 「―――っ!?」 込められた狂気に鳥肌がたつ。それは少年も同様だった。2人は足を止めて声のした方向、隣接する山の頂上部を見た。 満月を傍らに掲げる山頂、そこに声の主はいる。 ……一体、誰が……? スバルは固唾を飲み、硬直した。大音の後の静寂、緊迫が山腹に張り詰め、そして爆発した。 「!!」 山頂よりも僅かに下方、その位置で天上方向への破壊が放たれたのだ。遠目にも木々と土砂が、半端ではない質量が舞い上がったのが見て取れる。 「まずい!」 少年が焦りを含んで叫ぶ。声にこそ出さなかったが、スバルもそれは同様だ。 ……あれだけの質量が、あの高さから落下したら……! そうでなくとも、それだけの質量を浮かせる破壊が生じたのだ。その三つが重なって起きる事態は、 「――崩落!!」 上り詰めた所で質量は落下し、再度の轟音を立てて山頂付近に激突した。破壊によって緩んだ地質は再度の打撃によって瓦解し、落下した質量と共に流れ落ちる。 その方向は、自分達のいるこの山だ。 「く……っ!」 迫る怒濤を回避すべくスバルは動いた。足場に魔法陣を出現させ、右の拳を地面に叩き付ける。 「ウイングロード!!」 宣言はスバルが遺伝した先天系魔法の名、空中に架け橋を作る能力だ。蒼の帯が空中へと伸びたのを確認し、スバルはその上を駆ける。 ……急げ! マッハキャリバーがいない為、スバルの移動速度は格段に下がっている。息を切らして走る間も崩落は迫り、やがてスバルがいた場所へと到達した。 「うあっ!」 自然災害の圧倒的な威力に、ウイングロードの基点が呑み込まれた。振動、倒壊、そして消滅、基点部からウィングロードが分解していく。 分解を視界の端に捉えたスバルは離脱を決行、幸いにして高低差も少なく、草の上を数転しただけで着地する事は出来た。 ……助かった…… 振り返った先で、ウイングロードが完全に消滅する。加えて見れば、今まで自分が立っていた場所は土砂によって完全に埋まっていた。 と、被害を見やった所でスバルは一つの事実を思い出す。 ……あの子は、どうなっちゃったんだろ…… 自分と対峙していた、剣を片手にした血塗れの少年。彼は崩落から逃れられたのだろうか。 「あ」 思いと共に見回した所で、さした時間もかからずに少年は見つかる。少年は、空中に立っていた。 「…飛行魔法」 それは魔導師にとって、優秀と凡庸を分ける目安。それ単体ならば簡単でも、他の挙動や魔法との同時並行は困難な、ある意味では“基礎にして奥義”とも呼べる技能だ。 ……それを、あんな小さな子が…… その事実に、嫉妬を通り越して驚きに至ってしまう。自分や今はいない相棒が、憧れて止まないその技能を、年端もいかない少年が使う事に。 何時しか少年は降下を始め、積もった土砂の上に足をつける。その表情は、緊迫の一色。 「――何者だ」 少年は手に持つ剣を構え、一方へと声を放つ。誰かいるのか? その疑問にスバルは視線を向け、 「……え?」 人影を見た、と言って良いのだろうか。月光に浮き出るその輪郭は、巨大な両腕の人型だった。 「―――ッ―――ッ―――ッ」 巨大な両碗を土砂に突き立て、その人型は唸りを漏らす。 「一体、どうやって……」 そこまで言って、スバルは一つの推測を閃いた。荒唐無稽で、しかし恐らく正しいだろう推測を。 ……まさか、土砂に乗ってきたの!? 恐らく咆哮の主もこの人型だろう。そして殺意を持った人型は攻撃手段として、移動手段として崩落を起こした。 「何て無茶苦茶な……」 思わず想到しそうしそうになる無茶だった。とスバルが驚愕する内に、人型は暗がりから土砂によって開けた場所へ進み出た。その姿にスバルは、え? と驚きを零す。 その人型に、見覚えがあったからだ。 「……ナンバーズ12、ディード」 ジェイル・スカリエッティによって制作された戦闘機人、その12号機だ。しかし今の様子を見て、スバルは自分の知るディードと重ねる事が出来なかった。 ……そりゃ、あの子とはそんなに交流は無かったけど…… だが、希薄な感情と冷静沈着な性格をした女性だった筈だ。だが今の彼女はまるで獰猛な獣に見える。そもそも自分が知るディードは、あんな腕をしていない。 「……一体、何が…」 ディードの異様にスバルは息を飲む。 「――見つけたぁ」 あたかも頬まで裂けている様な、そんな笑み。狂気と獰猛を混濁させた感情が放たれた。 「奴をぉ……出せぇ……っ」 「だ、誰の事……? 奴って……」 後ずさるスバルにディードはにじり寄り、決まってる、と続ける。 「糞野郎を………セフィロスを、出ああああぁぁぁぁぁぁぁせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっッ!!!」 巨大な両腕を振るい、ディードが疾走した。 ● 崩落した土砂の上を駆け、ディードは狙うべき獲物を見定めた。 ……タイプゼロ・セカンド……ッ!! 見た事も無い子供がいるが、そちらは後回しだ。勿論逃がすつもりは無いが、かといってタイプゼロ・セカンドより優先する程ではない。 ……セフィロスを引っ張り出す、餌ぁ……っ!! 幸先が良い、とディードは思う。このゲームが始まって早々、セフィロスに繋がる参加者と出会えた事は。 「らあああああああああああッ!!」 振り抜くのは左碗、三つ指が環状に並んだ義手だ。三本の尖鋭を窄めれば、それは一本の巨大な槍となる。 「………っ!!」 焦燥と共に避けたタイプゼロ・セカンド。その座標を左腕が抜き、先にあった樹木の腹を貫く。尖鋭と大出力の貫徹により、左腕は肘辺りまで埋まる。 一般的に見れば失策、だが、 「それで避けたつもりかぁっ!!」 作業用アームから転用された義碗は更なる出力を発揮、樹木から引き抜くのではなく、横に抜いて樹木を破った。それによって樹木の上半分が倒れ、木片が散弾の如く飛び散り、 「うあ……ッ!」 中空のタイプゼロ・セカンドを撃った。 細々とした木片群がタイプゼロ・セカンドの柔肌に刺さり、彼女の着地体勢を崩す。山林部から土砂の上へと落ち行く彼女に、ディードは更なる追い打ちをかけた。 右腕で左肩を触れる様な準備態勢、腰を存分に捻り、そして、 「うぅぅぅぅぅぅらああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっッ!!」 さながらホームラン狙いでバットを振るように、高速を持って右腕が振り抜かれた。その射線上にあるのは、体勢を崩したタイプゼロ・セカンドの体躯。 「……が…ッ」 強固にして鈍重、それを慣性のままに振り抜く一撃は強力無比。右腕がタイプゼロ・セカンドを跳ね飛ばし、土砂に叩き付けた。 土砂の上を転がり続けるタイプゼロ・セカンド、それを追ってディードは跳ねる。 「――はッ!!」 両腕を上から振り抜いて地に叩き付け、その反動によってディードは高速を得た。そして横転が止まり、体を軋ませるタイプゼロ・セカンドに向けて、再び腕を叩き付ける。 かに見えた。 「――――――――ぶっ!!?」 だが叩き付けられたのは、ディードの方だった。 中空で構えた直後に感じたのは、顔面に感じた強固で平たい打撃。慣性としては自らその打撃に突っ込んでいるのだ、その威力は一入に加わり、 「がぁああああアァァぁっ!?」 体躯を若干捻りつつ、ディードは打ち返された。 ……な、にが……? 鼻腔に流血と粉砕を感じつつ、ディードは着地する。そして視線をタイプゼロ・セカンド、たった今自分が打撃を喰らった地点に向ければ、 「餓鬼ぃ……ッ!!」 優先順位を下と定めた、血塗れの少年が剣を構えていた。察するに、自分の顔面を打ったのはあの剣の腹か。 「そこまでだ!」 少年の凛とした声が山間に響く。 「時空管理局執務官、クロノ=ハラオウンだ! これ以上の戦闘行為を行うつもりなら……僕が相手をする!!」 ……クロノ=ハラオウン……? 少年の宣言、その内容にディードは疑問を持つ。直接の面識こそ無いが、クロノ=ハラオウンという人物についてはDr.からある程度知らされていた。 若年にして執務官を勤めた優秀な魔導師、後にフェイト=テスタロッサの義兄となり、大型次元航行艦の提督となった傑物だ。ちなみに二児の父親らしい。 ……だが…… 今目の前にいるのがそのクロノ=ハラオウンというのか。どう見ても10歳かそこらの子供にしか見えない。それこそ回想した情報の一つ、“若年にして執務官を勤めた優秀な魔導師”の様だ。 ……しかも、名乗りも執務官…… どういう事だ、と思う。 まさか、今目の前でクロノ=ハラオウンを名乗った少年は、過去から来たとでも言うのか。 ● どういう事か、とスバルは思う。自分とディードの間に立ち、宣言した少年について。 ……クロノ…ハラオウン……? 名前ぐらいなら聞いた事がある。機動六課の後見人の一人で、フェイト隊長の義兄。そして本局でも有数の能力を誇る優秀な人材。 ……でも…… そのクロノ=ハラオウンは自分よりも歳上だ。目の前の少年がそのクロノ=ハラオウンと同一人物とは思えない。 「君は……」 「――どぉでもいぃ」 滲み出る怨嗟の呟き、それがスバルの注意をクロノからディードへと移させた。口角と鼻から僅かに血を滴らせる彼女は、巨大な両碗を揺らして立ち上がる。 「お前達が何なのか、は、どぅでもいぃ……」 こちらに向けた双眸は怨嗟一色。そして、 「殺されてくれれば……あいつを見つけ出せれば……どぅでもいぃッ!!」 疾走。 「まだやるつもりか!?」 向かってくるディードに対し、クロノは再度剣を構える。 ……駄目…ッ! それでは抑えられない、とスバルは判断する。先ほどは顔面、不意打ち故にどうにかなったが、敵対者として認知された今、華奢な少年の身体能力で対応出来るとは思えない。 「私がッ!」 ディードを迎え撃つべく、スバルはクロノの脇を抜けて走る。 「いけない……戻って下さいッ!」 走り抜けるスバルの背に少年の声がかけられる。それを無視してスバルは自身の能力を起動させた。 「――IS、発動ッ!!」 叫びと共に起こるのは変色、スバルの双眸が金色へと変ずる。戦闘機人としての覚醒だ。 ……振動拳で、ぶちぬくッ! 狙うは自身のインヒューレントスキルによる両碗の粉砕。機械、特に戦闘機人に対して絶大な攻撃力を持つこの能力なら有効だ、とスバルは判断する。 「おぉ………ッ!!」 「らあああああああぁぁァぁぁぁぁッ!!」 叫びの交差は体躯の交差。ディードは左腕を、スバルは右腕を振りかざし、互いを打ち抜こうを疾駆する。 「「―――――――――――――――――――――――っッっ!!!!」」 迫り、到達し、動きは起こり、そして、 「――まぁまぁ」 と、 「ワシの為に争っちゃイヤん」 隻眼の老人に、ディードとスバルの乳が鷲掴みされた。 ……あれ? 何だろう、何か変だな、そんな風にスバルは思う。確か自分はディードと決死の一撃を交わそうとして、緊迫の中で疾走した筈なのに。 「ふむふむ」 その筈なのに、 「ほうほう」 一体どうして、 「どちらも中々どうして……」 突然現れた老人に、 「絶品じゃのう!」 乳の品定めをされているだろう。 「い、いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」 気がついた時には絶叫、止まっていた右拳を老人の顔面に叩き付けた。この反応はディードも同様だったらしい。叫びこそあげなかったが、止まっていた左腕が老人の後頭部を打つ。 結果は大打撃の挟み撃ち。 「ぶほおおおおおおおおおおおおおッッ!!?」 珍妙な叫びと共に老人が吹っ飛んだ。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 思わず肺腑の息を使い切り、全力全開で一撃を振り抜いてしまった。両腕で胸部をがっちりと隠し、へたり込んでスバルは息継ぎする。 ふと見やれば、後方ではクロノが頬を赤くして明後日の方向を見ていた。 ……な、何だったんだろう……? 否、誰だったのだろう、と言うべきか。突如現れた老人にスバルは疑問を馳せる。そうしてその姿を見ようと吹っ飛んだ方向を見やり、 「…あれ?」 いなかった。影も形も無く、老人の姿はなかった。 「ど、どこに……」 辺りを見回して、 「ふぅむ、随分派手な挨拶じゃのう、お嬢さん」 「――っ!?」 すぐ隣にいた。前触れも無く、気配もなく、余韻も無く、スバルの隣に隻眼の老人はいた。 「あ、あなたは?」 先とは別の意味で、スバルは老人を警戒する。気配も無しに吹っ飛ばされた位置から自分の隣に移る。それを出来る人物が、ただ者である筈は無い。 「ありゃ、忘れちまったかの?」 警戒心を剥き出しにするスバルを、老人は意外そうな表情で見返す。 「わしわし、八竜の虚空。崩や塁とかと一緒に顔見せしたじゃろ?」 ● 聞き慣れない単語に、思わずスバルは問い返していた。 「はち、りゅう……? 崩に塁って……人の名前ですか?」 「異な事を言うの、お嬢ちゃん。……確か、スバルちゃんじゃったか?」 ほとほと不思議に思ったのか、虚空なる老人は腕を組んで首をひねった。 「お前さん、烈火やら紅麗やらと一緒におったじゃろうが」 「烈火? 紅麗……? 誰の事ですか?」 「……本気で覚えとらんのか?」 眼帯に覆われていない片目を細め、虚空は思案するようにスバルを見る。 「覚えてないとか、そういうんじゃなくて……本当に、知らないんですけど」 勿論お爺さんの事も、とスバルは付け加え、対する虚空は、ふぅむ、と唸って天を見やった。 「一体全体どうなっておるのか……忘れさせられた? 確かに記憶を操る魔導具もあったが……」 「何をぉ……ごちゃごちゃとぉ……ッ!!」 悪寒。次いで脊髄反射。 「うわ……ッ!」 飛び退いたスバルと虚空、つい先ほどまでいた地点がディードの義碗によって叩き潰された。 「和むなぁ……人のぉ……触ってぇ……糞爺ぃ………ッ!!」 気のせいか殺意が強まってる様な、とスバルは思う。 「死ぃねぇッ!!」 と、ディードは再び迫る。身構えるスバルだったが、 「ふむ、やれやれ」 虚空がそれに先んじた。 「随分と曇った戦い方をするの、お前さん」 「……ッ!!」 突かれた左腕、しかし虚空は跳ねてそれを躱す。 「そんな戦い方じゃ、ワシみたいのは捕まえられんがなぁ」 「黙れ!!」 振られた右腕、それも虚空は空中で身を回して逸らした。 「ほれほれ、ワシはここじゃよ?」 「がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっッ!!」 乱雑に両の義碗を振るディード。五月雨と言っても良い連撃を、しかし虚空は適切に躱す。 「……すごい」 いつの間にか隣に並んだクロノが呆然と呟く。声にこそ出さなかったが、スバルもまた同様だ。 ……やっぱりあの人、ただ者じゃない…… まるで川を流れる木の葉みたいだ、と虚空の体術を表現してスバルは息を飲む。あれ程の体術、格闘派のシグナム副隊長やシスター・シャッハでも出来ないだろう。 「あああああああああああああああああああッっ!!」 そんな中、ディードが痺れを切らしたように吠えた。 「これでッ! 死ねッ!!」 渾身の一撃、そう表現出来る振り抜きが果たされた。果たしてそれは、虚空の胴を捉えた。 「お爺さんッ!!」 身を乗り出したスバル、その先で老人は義碗を受け、 「え」 消えた。 否、消失した訳ではない。花びらにも似た欠片の群へと変じたのだ。赤い様でいて時に金色を放つそれは、 「……火の粉?」 呟いたのはクロノだった。それを切っ掛けにして、変化は起こる。 「――――!!!」 大気に揺らいでいた火の粉が突如として旋回、次第に火力を強め、さながら竜巻となって夜天に渦巻いた。 竜巻はやがてうねり、一つの形を作る。顎を持ち、目を持ち、しかし手足は無い。その姿は、 「蛇…ううん、これは――竜!」 『――左様。これぞ八竜が一角、虚空の姿ぞ』 竜と化した炎、それが放つのは先ほどまで老人だった、虚空の声だった。圧倒的な威圧を宿し、竜の言葉は三人に降り注ぐ。 『さあ、まだ戦うか娘よ。この儂の姿を見て、未だ戦意をまき散らすか……!?』 圧力を向けられたのはディードだった。彼女はへたり込み、呆然と虚空を見上げる。 ……戦う、なんて言える筈無いよね…… 協力してくれているとはいえ、虚空の威圧はスバルにも及んでいた。息も詰まる緊張を強いられる感覚、それを向けられて、尚も戦闘継続と言える筈は無い。 そう、スバルは思っていた。 「……ぃ」 だが紡がれた言葉は、スバルの予想に反していた。 「………ひ、ぃ」 「――え?」 スバルの見やる先で、ディードが崩れ始めていた。 全身を震わせ、双眸は焦点を結ばず、嗚咽するように喉を痙攣させ、そして、 「火いいいいいいいぃぃぃぃいぃぃぃ嫌ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっッっ!!!?」 「「『――――――!?』」」 それは狂乱だった。火の竜と化した虚空を見て、ディードは狂ったように鳴き叫ぶ。 「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌あっ!! こないで寄らないで焼かないで御免なさいやめて下さいいぃぃぃぃぃぃッッ!! 腕、うでっ! 燃えるっ! 焼かれる! 灼かれる!! 爛れちゃうよ溶けちゃうよ痛くなっちゃうよぉっ!! やめてお願いだからもう焼かないでええええええぇぇぇぇぇぇッッ!!!」 ……ど、どうしちゃったの!? その異様にスバルは驚愕する。先ほどまで暴力の限りを尽くしたディードが、これでは一辺して愚図る赤子ではないか。こんな様子を、そうなる理由を、スバルは全く知らない。 「やだやだやだやだやだやだもうやめてぇ!! もうやめてよおぉっッっ!!!」 泥に、涙に、鼻水に、唾液に、そして恐怖に塗れてディードは腕を振り回す。 まるでこの場にいない誰かを振り払うように。 そして、 「……いけない!!」 クロノの叫びは、両腕を上げたまま身を逸らしたディードに向けたもの。 「きえてえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇっ!!」 そのまま地に叩き付けた。 「しまった!!」 危機感がスバルの脳裏を走った。見やるに今の一撃はディードの全力全開、そして彼女の一撃は崩落を引き起こすだけの威力を出せる。 ……つまり……!! スバルが足場の揺らぎを感じた、直後、 「「―――――――――――――――――――――――――――――っッっ!!!」」 スバルとクロノが立つ土砂塗れの大地が、再び崩落した。 【一日目 AM0 40】 【現在地 G-7 山麓】 【ディード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 [参戦時間軸]11話中。自室で寝ていた頃 [状態]健康・憎悪・錯乱・鼻骨骨折 [装備]両腕の義手 [道具]支給品一式、救急箱 [思考・状況] 基本 セフィロスを殺す 1.火嫌っ! 火怖い!! 火消えてよぉ……ッ!!! [備考] ※主催者から直接送り込まれた、いわばジョーカーです。食糧は他の参加者よりも充実しています ※左の義手からはAMFバリアが外されています ※腕の構造上、手持ち武器を握って使うことができません ※炎熱に対して極度の恐怖心を持っています ● 人為の災害に呑まれつつも、スバルは生存を断念しない。 「ウイングロード!!」 再度発現される、青い架け橋。地を基点にするとまた土砂に砕かれてしまう為、空中にそれを生じさせてスバルは飛び移る。が、 「う、うわ……!」 崩落を足場とした跳躍は不完全だった。ウイングロードの端に手はかかるが慣性を殺し切れず、 ……振り落ちる……!? 危機感、瀕死の予感が走る。だがそこに救いの手はあった。 「手はいるかな? お嬢ちゃん」 「お爺さん!」 虚空と名乗り、そして炎の竜に変じた老人が自分を見ている。いつの間にか、ウイングロードに移動したようだ。 彼の助力でスバルはどうにか路上に這い上がる。その際、尻を掴まれた気もするがとりあえず置いておく。スバルの望みは、自身の生存だけではないからだ。 「あの子を……!!」 クロノ=ハラオウンを名乗ったあの子は、どうなってしまったのか。ウイングロードの上からスバルは崩落を見回し、やがて見つけた。 土砂に呑まれつつある、少年を。 「……助けなきゃ!」 望みと共にウイングロードは伸張、流されるクロノに並ぶ。スバルは路上を駆け、クロノへと手を伸ばす。 「掴まって!!」 「……………ッ!!」 伸ばされたスバルの手に、少年もまた手を伸ばす。だが、それは救済を求めた手ではなかった。 「――え」 スバルが握ったのは、少年の手ではなかった。固いその感触は人のそれではなく、器物のそれ。 掴まされたのは、少年の握っていた剣だった。 「ま、待ってよ!」 ……私が掴みたいのは、こんなんじゃない!! しかしクロノは、最早スバルの届かない程に埋もれ、流されている。 ……私が掴んでも一緒に引きずり込まれちゃうから? だから君は私の手を掴まないの!? 「これを使ってくれって、君はそう言うの!?」 持たされた剣の意味をスバルは問う。そして見やる先で、少年は答えた。 「――生きて下さい!!!」 土砂に呑まれながらも、死に呑まれながらも、その少年は、確かに笑んでいた。 【クロノ=ハラオウン@マスカレード 死亡】 【一日目 AM0 45】 【現在地 G-7 山麓上空】 【スバル=ナカジマ@反目のスバル】 [参戦時期]STAGE9 C.C.に気絶させられた後 [状態]膝に擦り傷・体のあちこちに木片が刺さっている・ウィングロード発動中 [装備]エスパーダ・ロペラ@リリカルなのはMS [道具]虚空@FLAME OF SHADOW STS・支給品一式・ランダム支給品0~2個 [思考・状況] 基本:ルルーシュを探す 1:あの子を…助けられなかった………っ! 2:ルルーシュに会わないと…… [備考] ※名簿はルルーシュの名を見つけた時点で見るのを中断しています。よってフェイト・エリオ以外の六課メンバーの存在を知りません ※「参加者はそれぞれ別の時間から来ているのでは?」という疑念を持ちました [虚空 思考・状況] 基本:この殺し合いを止めたい 1.極力、自分の攻撃力を使わずに戦闘を止める 2.スバルを支えたい ※まだスバルの体内に宿っていません。宿るまでスバルは虚空の能力を使えません ※参加者の体に宿っていない間、虚空の取れる行動は以下の通り。 ①人間形態での独立行動(異常にすばしっこい事を除けば常人並み) ②火竜形態への変身(姿が変わるだけ。特殊能力は使用不可) ③神出鬼没 ※G-8山頂付近が削れ、G-7山麓に土砂が積もっています ※崩落による土砂がH-7の川に流れ込みました。この区域のみ川が浅瀬になり、横断出来ます。尚、土砂の中にクロノ=ハラオウン@マスカレードの死体が埋まっています 【火竜】 ・扱い/支給品指定。デイバックの中に“力の塊”として収納されている。火竜は、その状態では一切の行動を取る事が出来ない(虚空は例外) ・使用方法/“力の塊”状態の火竜に触れる事。それによって火竜が体内に入り、使用可能となる。その場合、腕に火竜の頭文字が刻まれる ・備考/体内に宿る参加者が死亡した場合、再び“力の塊”状態となって体外に出る。その状態なら別人が宿す事も可能。ただし火竜の記憶は維持 ・制限/①能力発動の際に、火竜の頭文字を描く事 ②ある程度の体力・精神力を残している事 ③使用する度に体力・精神力を消耗する事。度合いは発動する能力の規模に比例 052 本編投下順 054
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3074.html
クロス元:天体戦士サンレッド 最終更新:08/02/18 FIGHT.00『忍び寄る、異世界への魔手!!』(前編) FIGHT.00『忍び寄る、異世界への魔手!!』(後編) FIGHT.01『邂逅、法の守護者と悪の組織!!』 FIGHT.02『来迎、夜天の主!!』 FIGHT.03『遭遇、命無き兵団!!』 天体戦士リリカルサンレッド・短編 嘘予告『魔法少女リリカルなのはStrikerS The Terminator Chronicle』 応援・感想 …サンレッドだと… あれか、実は強い怪人軍団が今度こそ強く戦えるわけですね?(ぁ レッドさんが強すぎて怪人たちが不憫なこと不憫なこと・・・ あ、ヴァンプ将軍お土産はいらないですよ(ぁ -- ノウネム (2009-02-19 03 18 55) このクロスは予想してなかった・・・・・。 -- フロシャイム兵庫県朝来支部 (2009-02-19 07 26 28) 物語の想像がつかないッ!! -- 城之内君 (2009-02-19 07 54 28) このクロスは発送に無かったwww楽しみにしていますwww -- フロシャイム静岡出張所怪人 (2009-02-19 10 44 51) すごいのきちゃったな、これ(汗) -- zero (2009-02-19 14 35 38) サンレッドとのクロスというだけでも嬉しいのに、原作のイメージやアニメのCVが即座に脳内再生できるほどの 再現ぶりに感服です。今からドキドキワクワクが止まりませんよ。 -- 流竜馬 (2009-02-19 14 45 03) このユルイ空気がたまらないwww -- ジョジョルノ (2009-03-07 06 15 55) クロス先はどれだ?StSだった場合、スカのとこにレッドさんが来て ストーリーが終わりそうな気がしてならない -- vv (2009-03-10 18 27 24) あっちの世界のヒーロー倒すために、なのはに戦いを挑んだりしてw -- 次元より宇宙派 (2009-04-13 09 01 16) あっさりミッド世界に馴染んでる川崎支部の皆様も、もう馴染みの兆候を見せている六課の皆様もゆるゆるで素敵ですw ・・・この調子だと、リィンはアニマルソルジャーの元締め決定ですかね?(爆) -- 流竜馬 (2009-05-03 13 27 48) 更新おめでとうございます。 -- フロシャイム兵庫県朝来支部 (2009-05-04 10 15 50) ゆりかごを前に見ながらクロノ提督が命令をする、Pちゃん攻撃を、 宇宙空間に浮かぶ巨大なパネル群、それらが二つの月から魔力集め中心にいるPちゃんに収束される。 「3,2,1,0.SLB発射」その光の渦に巻き込まれ消滅するゆりかご。 一同「Pちゃんどこにいくんだろう」(アルカンも撃てるらしい) -- 黒猫 (2009-05-06 09 25 47) そのうち本当に打ち解けそうだ。 -- 名無しさん (2009-05-06 13 47 22) 先発組だけでも溶かす、呪う、切り裂く、盗む、核&ソーラーレイ、超天才(満月限定)と チート能力の嵐なので、ナンバーズ涙目の予感がします…(爆) -- 名無しさん (2009-05-15 22 35 50) 川崎市民として、続きを楽しみにしてます。頑張れ、フロシャイム! -- 並河悠斗 (2009-05-16 22 18 41) 赤繋がりって訳じゃないが、ヴィータがレッドポジションに収まりそうな予感。 -- 名無しさん (2009-05-17 01 58 59) ゆけーい、フロシャイム。ミッドを笑いの渦でおおうのだー。 -- プービー (2009-06-03 22 21 15) そら海鳴には支部はないわな…化け物揃いだしw -- 名無しさん (2009-10-17 22 48 52) ゆりかご相手にファイアバードフォームで助けに来るツンデレッドを妄想した、どうしてくれるw -- 名無しさん (2009-10-26 12 32 02) これはいいクロスだ! -- ケツバン (2009-11-13 23 03 59) 管理局相手だったら川崎支部の常駐メンバーだけで余裕で制圧出来そうだ -- 名無しさん (2009-12-06 04 04 14) ナンバーズはどう対処するんだろう? -- しを (2009-12-22 18 22 59) 他のくぼた作品ネタも出てきて、しかも違和感無く溶け込んでいますねw このほのぼの&生活感溢れる物語がどう展開されていくのか、これからも楽しみにしております。 -- 流竜馬 (2009-12-22 19 08 03) 流石に名乗りの最中に攻撃するって…… 騎士の風上にも置けない所業ではないでしょうか? しかもそれで説教って…… -- Raven (2009-12-28 22 13 34) まんざら考えてないわけではなかったこの組み合わせ ヴィヴィオを助けに、懐かれたフロシャイム川崎支部の面々がナンバーズと戦ったり ……しかし、ヴァンプ将軍の強さが分からないのが困り物だよなぁ…… 戦闘での〆が、アーマータイガーかメダリオ&カーメンマンくらいしか思い浮かばない -- 名無しさん (2009-12-28 23 01 36) フロシャイム無双は成りませんでしたが、この調子だと六課はおろかナンバーズやスカリエッティにも突っ込み属性が芽生えそうですね。(笑) -- 名無しさん (2009-12-29 22 19 48) みんなのアイドル、ヴァンプ将軍に何てことするんだ、このニート侍!! ……ああ、レッドと同じ『ニート』だからか……。 -- 名無しさん (2009-12-30 00 17 52) おいぃぃぃぃぃ!!? FIGHT.02『来迎、夜店の主!!』って『夜店』のってなんだぁぁぁぁあ!!? 金魚すくいとか綿アメのお店取り仕切ってんのか!? -- 名無しさん (2009-12-30 13 34 23) ヴォルケンジャーの元ネタって魔法繋がりでマジレンジャーぐらいしか浮かばない… あとESミサイルって何ですか? -- 名無しさん (2010-06-16 12 05 45) ESミサイルは、勇者王ガオガイガーに出てきた時空間転移型ミサイルのことです。 ほとんど殺傷能力はなく移動用のワープゲートなどの作成にしばしば用いられました。 -- 名無しさん (2010-06-16 16 23 40) 誰か短編の『レジちゃん饅頭』に突っ込んであげて! 地上本部なにしてるのって突っ込んで!! -- 名無しさん (2010-06-20 09 14 12) レッドさんは、明らかに成ってるだけで、ヒュペリオン、プロミネンス、ファイアーの三つがあるし、フルチャージのコロナバスターは宇宙の彼方まで飛んでいく野太いビームを放つなんて、ゆりかごが可愛く見える人だしなぁ。レッドさん来ちゃったらスカリエッティ涙目だな。 -- 名無しさん (2010-09-30 00 42 58) Pちゃん&デビルねこ君のスペックもさる事ながら、フロシャイム的には「いつもの雰囲気」で 一蹴されてしまったガジェット群に、スカ一味の未来を見た気がしましたw -- 流竜馬 (2010-09-30 23 04 56) レイジングハート様がPちゃんモードでゆりかご真っ二つにする夢を見た・・・ -- 寝起き (2010-10-02 03 22 34) やはり、SSでは東京支部とすべきなのか? 「西東京」はアニメオリジナルで、くぼた先生は関わってないから… -- 名無し (2010-12-24 13 43 48) はやての懐の深さにワロタwww -- 名無しさん (2011-01-29 20 32 40) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/681.html
魔法少女リリカルなのはBR Stage03 紡がれる絆 ◆19OIuwPQTE /07「死闘」 黒い戦斧を振り上げ、迫り来る黒い短剣を弾く。 それだけでバルディッシュを持つ手が痺れ、取り落としそうになる。 それをどうにか堪え、続く二撃目をシールドで防ぐ。 そのまま一旦距離をとり、再び斬りかかる。 ハッキリ言って、僕は戦いには向いてない。 僕が得意とする魔法は、防御や結界などの支援魔法ばかり。逆に、攻撃魔法全 般には全く適正がなかった。 そんな僕が金居を相手にして、今なお接近戦を挑んでいる理由は一つだけ。 金居には遠距離攻撃が効かない。 それは射撃魔法であろうが、砲撃魔法であろうが変わりない。そのどちらもが 金居のバリアに弾かれてしまう。 おそらく、ゼロ距離からならバリアも発生しないだろう。だが、それでは接近 戦を行うのと変わりがない。 つまり僕の目論見は、前提から崩れていたのだ。 どんなになのはが強くても、金居に遠距離攻撃が効かない以上、“砲撃魔導師” であるなのはの攻撃は、そのほとんどが無意味。必然的に接近戦をしなければ ならなくなる。 そして今のなのはに、そんな危険を冒させる訳にはいかない。 倒すのなら、金居を先に倒すべきだったのだ。 だけど後悔している暇はない。 今僕に出来る事は一つ。 限界まで時間を稼ぎ、崩落によって出来るだろう空間の穴に、金居を叩き落と す事だ。 そうすれば金居は、少なくともこの会場には戻ってこれなくなる。 問題は、それまで僕が生きていられるかだ。 現在僕の有利な点は一つ。相手に姿が見えないという事だけだ。 けど金居は、その見えない僕に容易に対応している。 おそらく地面を踏んだ時の足跡とか、バルディッシュを振るった時の風斬り音 とか、あるいは僕自身の気配だとか。 そういった些細な物から判断しているんだろう。 もしこれで僕の姿が見えていたのなら、きっと僕は既に死んでいる。 つまり一瞬でも油断すれば、その場で死ぬ。 けど、他に手段はない。 緊張で呼吸が乱れる。 疲労から足が縺れそうになる。 あまりの実力差に心が挫けそうになる。 その全てを堪えて、眼前の敵へと挑む。 その時だった。 「もう貴様の時間稼ぎにつき合う気は無い!」 「ッ! バルディッシュ!」 『Sonic Move.』 金居が地面を攻撃し、土煙が舞う。 すぐにその意図を察し、離脱する。 だが僅かに遅く、左腕に熱が奔る。 『大丈夫ですか?』 「大丈夫。深くはない。 それよりも、問題は」 金居を中心に土煙が舞っている。 そこには、僕が移動した跡がはっきり残されていた。 これではステルスの意味がない。 「これで終りだ。無駄な抵抗は止めて、大人しく死ね」 「っ…………!」 そこに僕が攻め入れば、土煙がまた僕の軌跡を残すだろう。 そして僕の居場所を完全に把握できる金居は、容易に僕を殺せる。 かと言って逃げだせば、あいつはなのは達を殺しに行くだろう。 それだけはさせる訳にはいかない。 だから逃げる事は絶対に出来ない。 故にこれで詰み。 戦う事も、逃げる事も封じられた僕は、ただ死を待つしかない。 …………だからと言って、諦める事だけは出来ない! 「ッ! オォォォォオオオオオオッッッッ!!!!!」 せめて一矢報いようと、渾身の力を籠めてバルディッシュを振りかぶる。 ステルスに使っていた魔力さえ攻撃に回す。 金居はそれを当然の様に受け止める。 ブリッツアクションで四肢の動きを加速し、怒涛の連続攻撃を叩きこむ。 だがその全てを、金居は防ぎ続けている。 一度でも守勢に回ればそこで負ける。 息つく間も惜しんで攻め続ける。 その中に僅かな隙を見つけた。 残された体力も少ない。 その僅かな隙に、渾身の力でバルディッシュを叩きこむ。 だがそれを、金居は深くしゃがみ込んで躱した。 それが作られた隙であると理解する間もない。 金居はしゃがんだまま、まま背中が見える程に体を捻じり、黒い短剣を斬り上 げるように降り抜ぬく。 咄嗟に回避しながらシールドを張る。 だが―――― 「ジェェアァァァアアアアッッッッ!!!!!」 「――――ッ!!」 敵の渾身の一撃の前に、僕のシールドは容易く切裂かれた。 そのまま上下からの挟み込む様な一撃。 それを見て僕は、ここで死ぬんだと理解した。 「――――ごめん、なのは」 そう諦めの言葉を残す――――直前。 「セイクリッド、クラスター!」 僕と金居の周囲に、複数の小さな魔力弾が穿たれ、爆散した。 金居はその攻撃に驚き動きを止め、土煙が相手の姿を隠せそうなほどに舞い上 がる。 その隙にどうにか距離を取り、安全圏まで離脱する。 目の前に、今の攻撃を行った人物であろう、どこか見覚えのある少女が降り立 った。 この少女は一体誰なのかと考えて、そもそもこの会場には、残り四人の人物し かあり得ない事に思い至る。 「君は……一体……?」 「大丈夫? ユーノさん」 そのどこか聞き覚えのある声を聞いて、少女の格好にも見覚えがある事に気づ く。 なのはと同じ結い方の金色の髪。似通った形状のバリアジャケット。 そして、緑と赤のオッドアイ。 「まさか、ヴィヴィオ!?」 「うん。そうだよ、ユーノさん」 改めてその顔を確かめれば、確かに面影が色濃く残っている。 それに今更ながらに気付いた事だが、彼女はその手足にマッハキャリバーとケ リュケイオンを装備している。 これで気づかない方がおかしい。 「でもその姿は、一体……」 「それは後で。今はあの人の相手をしなきゃ」 「――――ッ! そうだね、話はあいつを倒してからだ」 ヴィヴィオの視線の先では、晴れていく土煙の中に金居の姿が見えている。 あいつの表情は判らないが、その気配が険呑としている事は感じ取れる。 「ヴィヴィオ。君は前衛と後衛、どっち?」 「前衛だよ」 「それならバルディッシュを渡す。代わりにケリュケイオンを渡して。 後方支援は僕の領分だ」 「うん、わかった。 バルディッシュ、力を貸してくれる?」 『Of course.』 バルディッシュと交換したケリュケイオンを装着する。 ヴィヴィオも慣れたような手付きでバルディッシュを構える。 金居との距離は十メートルもない。 「気をつけて。あいつに遠距離攻撃は効かない。 射撃にしろ、砲撃にしろ。撃つならゼロ距離からだ」 「わかった。行くよ、バルディッシュ!」 『Yes sir. Haken Form.』 先制はヴィヴィオ。 バルディッシュがその姿を光刃の大鎌へと変化させ、僕とは比べ物にならない 威力の力で、金居に向けて一撃する。 僕は攻撃対象にならないよう、再びステルスで姿を隠す。 対する金居は、ヴィヴィオの一撃を金色の短剣で防ぎ、もう一つの短剣でヴィヴィオへと攻撃する。 だがそれは、突如出現した虹色の障壁に阻まれた。 「今だ! ケリュケイオン!」 『Boost Up. Acceleration.』 「もう一つ!」 『Boost Up. Strike Power.』 その隙にヴィヴィオにブーストを掛ける。 それによりバルディッシュの光刃は、通常よりもさらに大きな刃となっていた。 大鎌による攻撃の特徴に、防御の難しさがある。 生半可な防ぎ方では、肝心の刃が回り込むように届いてしまうのだ。 ましてや、ブーストにより巨大化した今の光刃なら尚更だ。 金居とてそれは百も承知している。 大鎌を防ぐうえで最適な、面での防御手段を持たない金居は、ヴィヴィオの攻撃を全て回避するか、受け流している。 「ハアッ!」 「チィッ!」 ヴィヴィオが金居へと攻撃すれば、金居はそれを躱す。 その隙にもう一つの短剣で斬りかかれば、障壁に阻まれ距離を取られる。 攻撃の速さはヴィヴィオが。手数の多さは金居が強く。一撃の威力はほぼ同等。 双剣と大鎌がぶつかり合う度に、激しい衝撃が大気を揺るがす。 ―――それはもはや、僕では届かない領域の戦いだった。 /08「受け継がれるもの」 光刃の大鎌を振り抜く。 金居はそれをうまく躱し、隙だらけとなっている私の懐に斬りこんでくる。 だがそれは、私の体から発生する虹色の障壁――聖王の鎧によって防がれる。 その隙にバルディッシュを振り抜き、僅かに距離を取らせる。 そこにもう一閃。今度は刃を引っ掛けるように旋回させる。 金居はそれを双剣で受ける。 だがそのまま堪えるのではなく、体と双剣を逸らして受け流す。 マッハキャリバーで急速後退。 反撃を受ける前に距離を取る。 金居の攻撃は、その大半が魔力の障壁――聖王の鎧によって防がれている。 だが、それに安心する事は出来ない。 ゆりかごに直結していない今、聖王の鎧の防御力は以前に比べて数段劣る。 ある程度力を籠められた攻撃ならば、その筋力と相まってバリアを抜いてくる 事もあるだろう。 だから、それを可能とする程の隙を与える訳にはいかない。 故に取りうる戦法はヒット ウェイ。 ソニックムーブとマッハキャリバーによる一撃離脱―――ではない。 その姿から、金居とキングはおそらく同じ存在だろう。 つまり、なのはママから伝え聞いたその回復力も同じである可能性がある。 現に、私達が金居から逃げ出した時に、金居はユーノさんによる砲撃の直撃を 受けたはずなのに、大してダメージを受けた様子がなかった。 ならば金居を倒すには、その回復力を超えた一撃が必要と言う事。 つまりこの戦いは、先に必殺の一撃を決めた者が勝者となるのだ。 バルディッシュの柄を短く持ち、小さく半回転する様に刻む。 ブーストによって強化された魔力刃は、もはやそれだけで脅威だ。 その巨大な刃は、双剣を交差して受け止めた金居を僅かに後方へと弾く。 そこにバルディッシュを槍の如く突き出す。 金居は状態を逸らして躱し、そのままバク転で距離を取る。 金居の視線が私から外れた僅かな隙に、その背後へと高速移動する。 そのままバルディッシュを一際大きく振りかぶり、 『Haken Slash.』 「ッ――――!?」 力の限りバルディッシュを振り抜く。 強化された大鎌の光刃は、受け止めた所でその守りごと切り裂くだろう。 金居はそれを深くしゃがみ込むことで躱す。 私の体は慣性に従い、金居に背を向ける事となる。 それを好機と見た金居が双剣を振り上げ、力を籠める。 聖王の鎧を破るには十分な威力が籠められた双剣が、私へと襲いかかる。 直前、下方からの奇襲があった。 私に必殺の一撃を叩き込まんとした金居に、巨大な刃が襲いかかる。 慣性によって金居に背を向けた私は、魔力刃にマッハキャリバーで更なる遠心 力を与え、その回転方向を制御したのだ。 地面から刃が生えたと錯覚しそうな振り抜き。 金居は辛うじて半身になって避ける。 そこに左手を突き付ける。 「プラズマスマッシャー!」 ゼロ距離から砲撃を叩きこむ。 それにより金居は大きく撃ち飛ばされる。 「バルディッシュ!」 『Zamber Form.』 バルディッシュを大剣へと変化させる。 金居の強さはもう理解している。 故に、敵が体勢を立て直す前に、強大な一撃で打ち倒す。 「撃ち抜け、雷神!」 『Jet Zamber.』 長大化した魔力刃による一閃。 武器の延長と判定されたのか、遠距離攻撃を無効化するバリアは発生せず、その身体を魔力刃が切裂いた。 だが、金居はまだ倒れてはいない。 マッハキャリバーで金居へと接近する。 あれで倒せないのなら、直接その首か心臓を断ち切る。 流石にダメージがあったのか、金居は片膝を突いたまま動かない。 バルディッシュを金居に向けて振り下ろす。 「……俺を……」 「――――っ!」 ガキィン、と音を立てて防がれた。 バルディッシュは交叉された双剣によって受け止められている。 金居が立ち上がる。 双剣はバルディッシュを受け止めたままだ。 その両腕は、見て判る程に力が込められている。 「俺を、舐めるなァァアアアッッッ!!!!」 「なッ――――!!!」 そのあまりの斥力に、バルディッシュを持つ手が跳ね上げられる。 その瞬間バルディッシュが蹴り飛ばされ、さらに足払いを掛けられる。 私の体が崩れた体制のまま宙に浮いた。 「オォオオラァアアッッッッッッ!!!!!!!」 「ッ――――――ガハッ!!!」 顔を掴まれ、一回転。そのまま地面に叩き付けられた。 あまりの衝撃に呼吸が止まり、心臓が不整脈を起こす。 地面からのバウンドでありながら、かなりの高さまで跳ね上げられる。 そこへさらに金居の追撃が入る。 「ジェアァァァアアアアアアッッッッッ―――――!!!!!」 「ッッッ―――――!!!!」 振り上げられた双剣。 そこに膨大な量のエネルギーが集束し、二色の光に輝きだす。 そこから想定される威力に背筋が凍りつく。 「ラウンドシールド!」 『Enchant. Defence Gain.』 反撃も回避も間にあわない。 全魔力を防御に集中させ、少しでもダメージを減らそうと試みる。 そこへさらに、ユーノさんとケリュケイオンによる防御支援も加えられる。 だが――― 「ハアァァァァァ――――――ッッッッッ!!!!!」 「ッガァァアアアッッッ――――――!!!!!」 極限まで高められたその一撃は、それの守りを全て粉砕した。 勢い良く地面に叩きつけられる。 体は何十メートルも転がり、一つの大きな瓦礫に激突した。 その衝撃で瓦礫は崩れ、私の体はそこでようやく止まってくれた。 瓦礫で体を支え、ふらつく頭を手で押さえながら立ち上がる。 その時だった。 パシャリと、水溜りでも踏んだかのような音がした。 周囲からは、どこか鉄のような臭いがする。 それを不思議に思い、足元を見れば、 そこには夥しい量の血溜まりがあった。 僅かに混乱していた頭が漂白され、一気に冷静さを取り戻す。 まるで冷水を頭から被ったかの様に青ざめる。 それ程までに、この光景は衝撃的だった。 この血溜まりは自分の物ではない。 防御が功を奏したのか、私には大出血をするような傷はない。 それに、これがただ一人の人物からの出血だとすれば、 これは既に致死量を超えている。 私は思わず周囲を見渡してしまい、一目で “ソレ”を見つけてしまった。 “ソレ”は両足を潰され、首を切断された、私の知ってる誰かの死体だった。 ホントは、何となく予想していた。 あれほど激しく戦っても、いっこうに姿を現さない二人。 最初に金居から逃げた時の、ユーノさんの言葉。 きっと二人はもう、死んだのだと分かってた。 …………出来れば、知らないままでいたかった。 それが現実逃避だという事も。いつかは絶対に知る事になるのも理解している。 けど、だからと言って、せめてこんな風に死んだなんて知りたくなかった。 心の底から、怒りが沸々と湧き上がるのがわかる。 あいつを許せないという感情が強くなる。 けど――― 『ヴィヴィオ』 「……大丈夫。ちゃんと、頑張れるから」 怒りも悲しみも、憎しみも受け入れる。 どれも大切な私の感情の一つだから。 けど二度と、それに飲まれたりはしない。 なのはママに、強くなるって約束したから。 だから負けない。他の誰かに負けるのはいい。 けど、自分にだけは負けられない―――! 私の戦う理由は、怒りや憎しみじゃなくて、大切な人たちを守るため。 こんな、悲しみしか生まない争いを終わらせるために、戦うんだ。 だからこんな所で、立ち止まってなんかいられない。 スバルの亡骸から、リボルバーナックルとデイバックを受け取る。 彼女がそれらを装備したままだったのは、瓦礫に潰され隠れていたからだろう。 それが、私がぶつかった際に瓦礫が砕け、露出したのだ。 デイバックからもう一つのリボルバーナックルを取り出し、装備する。 サイズは私に最適化されたが、色彩は白系統のまま。 多分、マッハキャリバーがそうしたのだろう。 リボルバーナックルが装備された両拳を打ち鳴らす。 両手首のナックルスピナーが唸りを上げる。 瓦礫に潰されたせいで多少傷が入ってはいたが、使用に問題はないようだ。 「―――行こう、マッハキャリバー。 こんな事を、全部終わらせる為に」 『ええ、行きましょう』 ガチャリと、両手のリボルバーナックルが音を鳴らす。 その音はまるで、反撃を告げる狼煙の様だ。 金居はユーノさんの支援だろう、緑光の鎖に囚われている。 ウィングロードで金居の頭上まで跳び上がる。 スバルのリボルバーナックルのスピナーが高速回転する。 「リボルバー、キャノン!」 「また不意打ちか!」 その渾身の一撃を金居に向けて叩き込む。 それに気付いた金居は渾身の力で鎖を引き千切り、大きく飛び退いて躱す。 交わされた一撃が地面を砕き、大量の粉塵を巻き上げる。 「てやぁぁあ―――!」 『Storm Tooth.』 「チィッ!」 それを煙幕に金居へと追撃し、ギンガのリボルバーナックルで打ち下ろす。 金居はそれを、双剣を交差して受け止めるが、その威力に防御を崩す。 そこへ再び、スバルのリボルバーナックルを打ち上げるように叩き込む。 胴体に直撃を受けた金居は大きく殴り飛ばされるが、空中で体勢を立て直し着 地する。 「貴様。その武器は……」 『そうです。あなたが殺した、スバル・ナカジマとギンガ・ナカジマの武具で す』 「そうか。そう言えばあの女を殺したのは、この辺りだったな」 そのどうでもいいような言い方に、頭に血が上るのがわかる。 それはマッハキャリバーも同じなようだ。 『今なら解る気がします。これが、「怒る」という感情』 「マッハキャリバー……」 その言葉が、酷く尊く、そして悲しいモノの様に感じた。 けど、今は感傷に浸る暇は無い。 金居がスバルやギンガの敵だというのなら、なおの事ここで倒す必要がある。 マッハキャリバーに戦闘準備を告げ、カートリッジをロードする。 「最初から全開で行くよ、マッハキャリバー」 『All right.』 「フルドライブ!」 『Ignition.』 「ギア・エクセリオン!!」 『A.C.S. Standby.』 マッハキャリバーに魔力翼が発生する。 両腕を上げ、前方へと構える。 応じるように、金居も双剣を構える。 『金居。あなたに、最後に一つだけ言っておきます』 「ほう。何だ?」 『―――わたしは、あなたを決して許さない』 その言葉を合図に、金居へと向けて突撃する。 攻撃方法は単純な正面突破。 だが単純であるが故に強力な一撃は、金居の防御を容易く崩す。 続く一撃は回避されるが反撃はない、否、反撃を当てる隙など与えない。 A.C.Sによって強化されたマッハキャリバーの加速は、反撃された所で当たる 前にその射程から逃れる事が出来る。 今の私達に攻撃を当てるには拘束して動きを止めるか、同等かそれ以上の速度 で迫るか、防御か迎撃によるカウンターが条件となる。 だが金居には私達を拘束する術はなく、またそれ程の移動速度もない。 故に金居が取れる手段はカウンターの一つしかない。 「たあッ―――!」 「グウッ―――!」 ナックルダスターにより強化された一撃を、金居は双剣を交差して受け止める。 そこに残ったもう一つの拳を叩き込む。 「リボルバーキャノン―――ッ!?」 「セヤアッ!!」 瞬間、金居がわざと上体の力を抜き、私を加速させる。 A.C.Sによる加速と、リボルバーキャノンの撃ち抜きに合わせて前蹴りを打ち 込まれる。 聖王の鎧による自動防御が発動するが、金居の人外の筋力に私自身の加速も相 まって、その防御は容易く破られた。 その衝撃のよってお互いに弾き合う。 どうにか着地するも、大きくせき込む。 『大丈夫ですか?』 「……どうにか…ね」 インパクトの瞬間なら威力はこちらが上。 だが、金居は基礎能力で勝る。力比べになれば、こちらが不利だ。 「なら、プラズマアーム!」 両腕に稲妻を纏わせる。 それは両腕のリボルバーナックルと相まって、より強力な効力を得る事となる。 おそらく、単純な一撃の威力はこれで互角。 金居へと突撃し、雷撃を纏った拳を打ち抜く。 それに合わせるように、金居が双剣を振りかぶる。 一撃目。ぶつかり合った右拳と黒い短剣が、周囲に衝撃波を起こす。 二撃目。速度で勝る私の左拳が、筋力で勝る金居の金色の短剣に防がれる。 三撃目。お互いの上段蹴りが激突し、一時的に距離が出来る。 四撃目。私のリボルバーキャノンと、金居の双剣による一撃が激突する。 五撃目。ノックバックで距離の開いた金居に突撃し、追撃の一撃を入れる。 六撃目。プラズマアームの電気エネルギーを圧縮し、直接金居へと撃ち込む。 七撃目。先の一撃で体の浮いた金居に、再びリボルバーキャノンを叩き込む。 大きく金居が吹き飛ばされ、瓦礫の山へと突き刺さる。 乱れた息を急いで立て直す。 十秒に満たない攻防で、もう息が上がっている。 魔力の限界はまだ遠い。だが体力の限界が近づいている。 瓦礫の中から金居が姿を現す。 その姿に目に見えるダメージはない。 やはり金居を倒すには必殺の一撃を決める必要がある。 腰を深く落とし、必殺の一撃に神経を集中させる。 こちらの覚悟を見てとってか、金居が双剣に力を籠め始める。 即座に金居に向けて突撃する。 金居の全力での一撃は驚異的だ。 完全に力を溜めきる前に、必殺の一撃を叩き込む。 「おおおおオオオオオ――――!!!!!」 「ハァアアアアッッッ――――!!!!!」 それを認識した金居が、合わせるように双剣を振り抜く。 魔力を可能な限り聖王の鎧へと注ぎ込む。 金居の双剣はやはり聖王を切り裂き、その先の私を切り裂かんと迫り来る。 それを、ナックルバンカーで強化したギンガのリボルバーナックルで防御する。 リボルバーナックルに阻まれた双剣が妖光を放ち、全てを断ち切らんと軋みを 上げる。 双剣を受け止めたナックルスピナーが高速回転し、二つの刃を弾き飛ばさんと 火花を散らす。 それは十秒か、一分か、それ以上か。 筋力で劣る私が、金居に圧され始めた時だった。 ビシリと音を立て、リボルバーナックルと金居の双剣に亀裂が入る。 ギンガのリボルバーナックルが、金居の双剣と共に破砕する。 残るカートリッジを全てロードする。 「一撃……、必倒―――!!!」 「ッッッッ――――――!!!!!!」 そのまま武器破壊により体勢の崩れた金居に左拳を打ち込み、その先端に魔力 スフィアを形成して押し当てる。 「ディバイン―――!!!」 押し当てられたスフィアは膨張し、金居の体勢をさらに崩す。 そこに渾身の力で、スバルのリボルバーナックルを叩きこんだ。 「―――バスター―――ッッッ!!!!!」 撃ち出された閃光は金居を飲み込み、必殺の威力を以って吹き飛ばした。 「はぁ……はぁ……、っはあ……」 肩で大きく息をする。 どうにか敵は倒した。 だがマッハキャリバーはフルドライブを維持している。 金居はバスターの直撃を受けた。 ならばその生死はともかく、少なくとも戦う事は出来ないはずだ。 だが、聖王としての闘争本能が、まだ気を緩めることを良しとしないのだ。 そしてその直感が正しかった事を、私はすぐに知る事になる。 「ヴィヴィオ!」 ユーノさんが近づいてくる。 その手にはバルディッシュを持っている。 弾き飛ばされた時に回収してくれたのだろう。 その表情には金居を倒した事による安堵が浮かんでいる。 だがそれは、今この場においてはあまりにも致命的だった。 「ダメ! ユーノさん、逃げて!!」 「――――ッ!? しまった!!」 瓦礫の中から、金居が飛び出してくる。 その手には機械仕掛けの剣――パーフェクトゼクターが握られている。 金居はそれを大上段に構え、ユーノさんに向けて振り下ろす。 「ハアァァアアアッッッ!!!」 「このおッ―――!!」 マッハキャリバーがまだフルドライブであったことが幸いした。 辛うじて二人の間に割り込み、聖王の鎧とスバルのリボルバーナックルで防ぐ。 だが、パーフェクトゼクターによる攻撃は強力過ぎた。 聖王の鎧は容易に斬り裂かれ、攻撃を受け止めたスバルのリボルバーナックルに亀裂が奔る。 そしてそのままの勢いで、ユーノさん諸共に弾き飛ばされた。 すぐさま体勢を立て直し、ユーノさんを抱えて距離を取る。 「……やっぱり、無事たった」 「気付いていたのか」 「何となくだけどね」 相対する金居には目立った傷がない。 否。僅かに見える傷もあっという間に再生していく。 不死身、という言葉が脳裏を過ぎる。 それは奇しくも、確たる事実でもあった。 「ユーノさん、バルディッシュを」 「わかってる」 「もう少し頑張らないとね、バルディッシュ」 『Yes, sir. Riot Blade.』 「レヴァンティンも、手伝って」 『Jawohl.』 バルディッシュを受け取り、ライオットブレードへと変形させる。 更にデイバックからレヴァンティンを取り出し、左手に装備する。 「バルディッシュ」 『Thunder Arm.』 「ケリュケイオン」 『Boost Up Acceleration. Enchant Defence Gain.』 バルディッシュの詠唱により電撃が左手に集中発生し、握られたレヴァンティ ンが帯電する。 そこにユーノさんの支援が行われ、移動と防御が強化される。 「行くよ、みんな!」 紫電を纏う双剣を構え、金居へと突撃する。 これが金居との、最後の戦いになるようにと願いながら。 Back 魔法少女リリカルなのはBR Stage02 心の力を極めし者 時系列順で読む Next 魔法少女リリカルなのはBR Stage04 虹の星剣 投下順で読む 高町なのは(StS) ユーノ・スクライア ヴィヴィオ キング 金居
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2016.html
魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者 第三話 月村家 突然であるが、月村家に一人の庭師が現れた。 彼が操る刈り込みハサミは瞬く間に不規則に生えた小枝を平らにし、 彼が操る手バサミは、木から余計な枝を間引きながらも、木が持つ美しさを落とす事無く自然に生かし続け、 彼が振るう貝殻虫用ブラシは瞬く間に枝についた貝殻虫を払い落とす。 その仕事ぶりは素早く、そして繊細にして大胆。彼の手に掛かった草木は生き生きと光合成を行い、 彼の手に掛かった花は、感謝を表すようにその美しさを一層引き立てる。 「♪~~~~♪~~~」 今は花壇に咲き乱れるパンジーに水を与えているその人物こそ、月村家に突如現れた鋼の庭師 名を『月村家の庭師・ガンダム』という。 決して『ラクロアの騎士・ガンダム』ではない。『月村家の庭師・ガンダム』である。 確認のためにもう一度言おう。何?行稼ぎ?シツレイナ。『ラクロアの騎士・ガンダム』ではない。『月村家の庭師・ガンダム』である。 念には念を、もう一度・・・何?これ以上小賢しい真似をするともう読まない?はははははは・・・ゴメンなさいorz 兎にも角にも、彼の仕事っぷりは本物であり、月村家のメイド長でもあり、園芸に関しては少しうるさいノエルにも 「・・・・・・見事です・・・・・・・」 と、言わせるほどのもであった。 そもそも何故『騎士』から『庭師』へとジョブチェンジしたのか? 発端はナイトガンダムの「私にも何が出来る仕事はありませんか?」発言から始まった。 彼は周囲の仲間(スダ・ドアカワールドでの)が認めるほど『ド』が付く真面目人間基、真面目MSである。そのためか、 何もしないで月村家に居候する事に抵抗があったため、無茶は承知で自分にも何か出来ないかと尋ねたのである。 無論忍は「そんなこと気にする必要は無い!無い!!ナッシング!!!」と言おうとし、笑顔で口を開いた。その時、 「それでしたら、庭のお手入れの手伝いをしていただくのはどうでしょうか?」 おそらくは扉越しに聞いていたのだろう。お茶のおかわりを持って来たファリンが『これは名案!!』と 言いたげは表情で呟いた。 いきなりだが、月村家は広い。そりゃあもう広い。当然庭も広い。 庭に関しては、でかい物を測る時に要する一般的な計算方法『東京ドーム?個分』という方法を余裕で使えるほどの広さである。 その証拠に、初めて遊びに来たなのはが迷子になったり(恭也曰く、『・・・・・遭難の名違いでは?』) つい最近訪れたナイトガンダムが笑顔で「素晴しいですね。『森』に囲まれた邸宅とは」と勘違いをするほど広い。 そのため、庭を手入れするのも一苦労所であり、ノエルとファリンの超人真っ青な働きっぷりがなければ、月村家の庭は 本当の『森』になっていたかもしれない。いや、なっていた。絶対に。 (ちなみに、忍も少しでも二人の負担を減らそうと、多数の庭師を雇った事があるのだが、二日も経たずに全員が『やってられっか』 という書置きを残して逃亡してしまうという事態になった) そのため、ファリンとしても、『人手が増えれば助かる』という考えの基で誘ったのだ。 その誘いにナイトガンダムは快く快諾、早速ノエルから軽いレクチャーを受けた後、実戦した結果が冒頭である。 今のガンダムの装備は剣と盾、電磁スピアという通常装備ではなく、刈り込みハサミに手バサミ、貝殻虫用ブラシなどの小物が入ったベルト。 騎士の風格はどこへやら だが、ジョブチェンジしたとはいえ、彼の働きっぷりは『ガンダム』の名に恥じぬ物であり、 その有能ぶりに共感した忍が『月村家専属庭師』の照合を与えるほどであった。 「・・・・・よし、次は枝の間引きをするか・・・・・」 そして今に至る。 だが、勘違いしないでいただきたい。決して彼は『騎士』の誇りを捨てたわけではない。 刈り込みハサミを肩に担ぎながら目標の木に向かうナイトガンダム。 時刻は午後2時過ぎ、日が程よく当たっているため、12月とはいえ、それ程寒さを感じない今日この頃。 時たま、放し飼いにされている猫達が足元を通り過ぎる中 『目標視認・・・・・攻撃開始』 ふと聞こえる電子音。同時に地面から現れた二つの砲台。 それらは間髪入れずに『死ぬ事は無いが、当たれば悶絶間違いなし』なゴム弾を 視認した目標『ナイトガンダム』に向けて発射した。(まぁ、鎧を装着しているので、痛くも痒くも無いが) 本来なら当たる事間違い無しの奇襲。だが、砲台が現れた直後、ナイトガンダムはゴム弾が発射されるより早く上空へとジャンプ。 発射されたゴム弾が地面を削り取ると同時に、ナイトガンダムは上空で刈り込みハサミを振り被り、投げ放った。 勢いをつけて投げられた刈り込みハサミは横回転をしながら真っ直ぐに砲台に向かい突き刺さり、機能を停止する。 残った砲台は、直に目標を上空へと定め、砲身を上げようとうするが、 それより早く落下してきたナイトガンダムの蹴りを喰らい、残った砲台も役目を達する事無く機能を停止した。 このように、庭師の仕事を行なうと同時に、自らの訓練も怠っていない。 そもそもこの『自動追尾攻撃装置』は忍が趣味で作った月村家の防衛装置だったのだが、以前の新聞屋を追っ払って以降、 最近は出番が全く無く、作った忍本人ですら忘れかけていた。 だが、ナイトガンダムという珍脚が現れたため、久しぶりに発動。 庭を散策していた彼に問答無用に襲い掛かったが、モンスターや騎士や魔王と戦っていたナイトガンダムの前では効果が無く、 先ほどのように、難なく全機撃破。 後に事情を説明した後、忍を叱るノエルをたしなめながらも、不要であれば自身の訓練に使いたいと申し出たのだ。 その結果、役目を終えた『自動追尾攻撃装置』は『ナイトガンダム専用自動追尾攻撃訓練装置』という 長ったらしい名前と新機能を与えられ生まれ変わり、その役目を日々存分に果たしていた。 「しかし・・・住む所ばかりか、このような訓練設備を与えてくれる忍殿達には、本当に感謝の言葉も見つからない・・・・」 改めて内心で感謝をしながらも、少しでも恩を返すため仕事を再開しようとするナイトガンダム。その時 「ただいま、ガンダムさん」 ふと、後ろから聞こえた声に自然と振り向くと、そこには学校帰りなのか、制服姿でカバンを持っているこの家の住人、『月村すずか』と 「やっほ~!遊びに来たわよ~!!!」 同じく制服姿でカバンを持っているすずかの友人『アリサ・バニングス』が手を振りながら近づいてきた。 以前にも紹介したが、ナイトガンダムはMS族、ここ地球にはいない種族である。 そのため、当然目立つ存在であるため外に出ることは出来ない。本来なら月村家にいれば問題ないのだが、 さすがに屋敷の中に閉じ込めとくのは可哀想と思った忍達は作戦プランその2『俺はキカイダー作戦』を決行することにした。 これはガンダムを『忍が作ったお手伝いロボ』に仕立てることにより、周囲の目を欺かせるという手段である。 幸い忍の機械好きは周囲に知られているため、それ程怪しまれない事も利点としてあげられる。 (実際、素体が残っていたとはいえ、忍はノエルやファリンを『製作』した実績を持つ『周囲には内密だが』) えっ?「ミッドチルダの様な科学が進んだ世界じゃないんだから、そんなプラン直に駄目になるだろ?」 確かに、ノエルとファリンは見た目から美女メイドさん・美少女メイドさんとして十分通用する。 その点、ナイトガンダムは失礼だが正に未知生物である。外見がロボットに酷似しているとはいえ、確かに無理があるようだが、 そんな読者の皆様にこの言葉を送りたい。 『海鳴市じゃそんなの日常茶飯事だぜ!!!』 さて、話を戻しましょう。 時刻は午後3時過ぎ、遊びに来たアリサはナイトガンダムを誘い、今はすずかの部屋でTVゲームの真っ最中であった。 「だっけど、なのはも付き合い悪いわね~。まぁ、しょうがないか。なのはにも用事があるんだし・・・・そ~らいただだき!!」 「『なのは』というのは・・・・アリサ達の親友ですか?・・・・・・・あっ・・・・負けてしまった・・・・」 「『高町なのは』ちゃん。私達の大事な友達なんだ。もうアリサちゃん。ガンダムさんは初めてなんだから、もうちょっと手加減しないと」 「だめよ!甘やかしちゃ!痛い思いをすれば嫌でも強くなるわ。それとガンダム。敬語なんて使わなくていいわよ」 TV画面に映る『GAME OVER』の文字を見た後、ナイトガンダムは横で座っているアリサの横顔を見る。 「(ほんとうに・・・強い子だ・・・・・)」 心からそう思う。昨日あんな出来事があったにも関わらず、彼女はすずかから聞いた様に自然と周囲に明るさを撒いている。 決して誰にでも真似できる芸当ではあるまい。本来なら塞ぎ込んでも可笑しくは無い筈なのだから。 だか、彼女は明るい声でビシバシとすずかに指示を出したり、自分に『てれびげえむ』という遊びを教えてくれている。 その彼女の心の強さと面倒見の良さ、明るい声でハキハキと支持を出すリーダーシップさが、大人しいすずかを引き付けているのだと思う。 そんなアリサを微笑みながら見つめるすずかは、常に半歩下がり、友を見守という役割がぴったりだと思う。 出会ってからそれ程経ってはいないが『月村すずか』という子は察しがよく、気遣いが細かいため、強気なアリサを止めるのには丁度良いと思う。 それに彼女の微笑には周囲の空気を和ませる不思議な力があった。(昨日の事件でも、解決して尚皆が緊迫した表情をしていたが、彼女の 心から安心した笑みにより、周囲のピリピリした空気も自然と緩和されていった) そんな二人が口にする『高町なのは』という子も、彼女達のような心優しい少女であると、ナイトガンダムはふと思った。 「しょうがないわね~。もっとハンデを付けてあげましょう・・・ん?どうしたのガンダム?」 自分を見つめているナイトガンダムの視線に気が付いたアリサは彼を見据え、首をかしげながら尋ねる。 「いえ・・・・なんでもありませ・・・なんでもないよ。続きをやろうか」 微笑みながら答えたナイトガンダムはコントローラーを持つ手に力をいれ、再びTV画面を見つめる。 「そう?ならいいんだけど・・・・・そういえばさ、ナイトガンダムって忍さんが作ったロボットなんだよね?」 「はい」 「・・・・・・それ、本当?」 先ほどとは違い、怖いほど冷静な声にすずかは固まり、ナイトガンダムは沈黙する。そしてゆっくりと顔をアリサの方に向けると、 目の前にはアリサの真剣な顔、そしてゆっくりと彼女の両腕がナイトガンダムの頬に触れる。そして むにゅ~ 伸ばすように思いっきり引っ張った。 「ほらほらほらほら~白状しなさい!!こんなにやわらかいわけないでしょ~!!!!」 「や・・・やめる・・んだ・・アリ・・ハ・・・」 「なら白状しなさり!!でなきゃもっと引っ張るわよ!!そらそらそら~!!!」 数分後 「なるほどね、じゃあナイトガンダムは『スダ・ドアカワールド』って世界からきたのね」 頬を腫らしているナイトガンダムに変わり、すずかが『スダ・ドアカワールド』の事、MS族の事、事故によりこの世界に来たこと、 ロボットという事にしておけば、ある程度自由が利くから嘘を付いた事などを話した。 すずかが語った真実に、腕を組みながら『ウンウン』と頷くアリサ。 同時に彼女も自分の所にも、流れ星が落ちてきたことを話そうとしたが、 自分の所に落ちてきたのはただの石の固まり。話しても白けるだけと思い直にやめた。 「ですがアリサ、どうして私が・・その『ろぼっと』では無いと思ったんだい?」 引っ張られた頬を撫でながら、ナイトガンダムは唯一疑問に思ったことを口にする。 「それはね・・・・私にも上手く口に出来ないんだけど・・その・・・・温かみがあったから・・・・かな・・・」 「『温かみ』ですか?」 「そ、あの抱きしめられた時にね、人が持つ温かみって言うのかな・・・そんだけよ。さ、続きを始めましょ!」 そう言い、再びコントローラーを持ち、画面を見ようとするアリサ。だが、動かす首を途中で止め、再びガンダムの方を向く。 「・・・でもさ・・・・ガンダムにも・・・・家族とかが・・・・いるんじゃないの?・・・・・寂しくない」 アリサが放った言葉に真っ先に反応したのは、ナイトガンダムではなくすずかだった。 そういえばそうだ。ナイトガンダムは自分の意思に関係なくこの世界に自分と同じ種族がいない世界に来たのだ。 当然家族とも、友達とも、別れを告げずに・・・・・本当だったら錯乱しても可笑しくは無い。 そしてすずかはふと考えてみる。もし自分がナイトガンダムの立場だったらどうだったろうか・・・・・・・ 「(・・・・・いやだ・・・・想像したくない・・・・・)」 正直考えるのも恐ろしい、自分だったら耐えられないだろう。 おそらくそんな気持ちをナイトガンダムは味わってる筈。それなのに、自分は住人が増えた事にただはしゃいで・・・・・・ 「すずか、ありがとう」 ふと近くから聞こえた声に我に返るすずか。すぐ側には微笑んでいるナイトガンダムが立っていた。 「私のことを心配してくれたんだね。でも心配しないで、大丈夫だから」 「でも・・・・私・・・・ガンダムさんの・・・・気持ちも知らないで・・・・・勝手に喜んで・・・・・最低だよ・・・・」 俯きながら声を絞り出すすずかに、ナイトガンダムはそっと彼女の肩に手を置く。 「そんなに自分を責めないで。むしろ見ず知らずの私を保護してくれた貴方達には、とても感謝しているんだ。 正直MS族の私は『見世物』とされていても可笑しくは無いからね。そんな私を温かく迎えてくれた月村家の皆には本当に感謝してる」 安心させるように語り掛けるナイトガンダムに、すずかの顔からも自然と自己嫌悪の念が薄れていく。 「それに・・・・言いそびれたことだけど、私には昔の記憶がないんだ。だから、私に家族がいたのかも分からないし、 離れ離れになった時の辛さも分からない。だけど、私にも心強い仲間達がいた。彼らと別れたのは確かに寂しい。ですがすずか、貴方が気に病む事はないよ」 すずかに語りかけながら、サタンガンダムを倒すために共に旅をした仲間たちのことを思い出す。 だが、ナイトガンダムの心に残るのは寂しさのみであった。サタンガンダムを倒した今となっては、スダ・ドアカワールドにも平和が訪れる。 平和を脅かす敵がいなくなっただけでも、彼の心は安心感に満たされていた。 「それに、今はすずかやアリサ、忍殿達がいるから、寂しい事なんて無いよ。改めて御礼を言わせて欲しい。心配をしてくれて、ありがとう」 PM 19時45分 あの後、アリサに負け続けたガンダムは10回目となる再戦を希望するも、二人とも習い事の時間が来たため断念。 二人が習い事に言った後は、屋敷内に設けられた自分の部屋で地球の文化についての勉強をしていた。 「しかし『カガク』なる機械技術がスバ抜けて進んでいるにも関わらず、魔法は全く無いとは・・・・」 借りた本の中には、魔法に関する物も含まれていたが、全てが立証の無い空想物ばかりであった。 実際『スダ・ドアカワールド』にも機械技術があったが、地球と比べたら比較するのも馬鹿らしくなる程劣っていた。 だが、魔法技術に関しては使える者、使えない者がいたが、日常で使われている程一般的であった。 「おそらく、ここの人達には魔力が無いんだろう・・・それを補う意味も込めて、自然と機械技術が発展したんだろう」 夕食の時に一回だけ部屋を出たきり、部屋に篭って本を読みふけるガンダム。 聞こえてくるのは時計が刻む針の音のみ、ただ静かに夜は更けていく 筈だった 何の前触れも無く、突然ナイトガンダムの部屋が暗い色に包まれる。 白い壁紙に囲まれた明るい部屋が、一転してどんよりとした暗い部屋へと姿を変える。 「これは・・・・封鎖結界!!?」 突然の事態に驚きづつも、彼には原因が直に分かった。 相手を発動領域内に閉じ込める結界の一種であり、『スダ・ドアカワールド』で戦ったジオンの魔道師も使っていた術。 「なぜだ・・・・・この世界には魔法は存在しない筈・・・・・いや、先ずはすすか達の安否を・・・」 海鳴市上空 「・・・・・・魔力反応は・・2つ?・・・・・・・」 封鎖結界を展開したヴィータは、狙っていた高魔力を持つ獲物だけではなく、 今まで反応がなった高い魔力を持った獲物も掛かったために、ふと疑問に思う。 「・・・まぁ、良いオマケが釣れたってことだ・・・・二人合わせて、上手くすれば30ページは稼げるな・・・・」 だが、彼女のする事には変わりは無い、高い魔力を持つ二人から魔力をいただく・・・・・はやてのために。 「先ずは大物からだな。行くよ、グラーフアイゼン」『Ja wohl』 自分の相棒の返事を聞いたヴィータは、目的を遂行するために、大物「高町なのは」の元に向かう。 一つの赤い流星が、誰もいない町の上空を翔る。 月村家 「やはり・・・・いないか・・・・」 リビング・キッチン・忍達の部屋(丁重に数回ノックした後入室)を確認したガンダム。 だが、彼が予想した通り、月村家には彼女達どころか普段彼方此方にいる猫すらおらず、不気味に静まり返っていた。 当初、ナイトガンダムは自分が狙われているのではないかと思った。この結界は自分の知識が正しければ 指定した人物、もしくはある条件に該当する人物を発動領域内に閉じこめる効果がある筈。 皆を残して自分がこの場にいるということは、自分を目的としているのか、もしくは自分が『ある条件に該当している』という事である。 前者の場合なら、直にでもこの場を立ち去らなければならないが、 「大きな魔力反応が・・・・・移動している・・・・・」 この封鎖結界が発動してから直に感じた大きな魔力反応。十中八九この結界を張った人物で間違いは無いのだが、 その人物は自分の所には向かわず、もう一つ、別の方向から感じる大きな魔力反応の方へと向かっていた。 「私を狙ったわけではない・・・・だが私は結果内にいる。おそらくこの結界を張った魔道師は『魔力がある者』だけを目標にしたのか。 だが、このままでは・・・・・マズイな」 結界の効果のため、外にいるすずか達には危害は及ばないとはいえ、このままにしておく訳には行かない。 せめて、この結界を張った魔術師に目的などを聞く必要がある。 「ここでジッとしていも始まらない・・・・・行こう」 既に返してもらった剣と盾、電磁スピアを装備し、ナイトガンダムは市街地方面へと向かった。 数十分後 :市街地 「うっ・・・・・あ・・・・・・あ・ああ・・・・・」 封鎖結界により隔離された市街地。 そこに立ち並ぶビルのオフィス内に高町なのははいた。 だが、彼女は既に満身創痍であった。体は彼方此方が痛み、立つ事も出来ない。 自分の愛杖もボロボロであり、今は弱々しく光りを放っているだけ。 「・・・どう・・・・して・・・・」 ゆっくりと自分に近づいてくる襲撃者の少女を霞む目で見据えながら、この数十分間で起きた出来事を思い出す。 何もかもが突然だった。急に発生した封鎖結界、突然襲ってきた鉄鎚を持った女の子。 どうにか話を聞いてもらおうと言葉を投げかけるも、無視され攻められる。 おそらく、威嚇として撃ったディバインバスターが彼女の怒りに火をつけたのだろう。 あの帽子を吹き飛ばした瞬間、彼女の瞳は怒りに満ち溢れ、自分への攻撃も激しくなった。 それからは一方的だった。多少自信があった防御も簡単に打ち砕かれ、ビルの中にあるオフィスまで吹き飛ばされた。 続けて放たれた一撃で、容赦なく壁に叩きつけられ、今に至る。 バリアジャケットのおかげでダメージは抑えられたが、それでも体の彼方此方が痛み、動く事ができない。 これほどの痛みをなのはは今まで経験した事が無かった。だからこそ、自分を痛めつけた相手が近づいてくるたびに 言い様の無い恐怖感が増す。 それでも、恐怖と痛みに耐えながら、なのはは傷ついたレイジングハートを襲撃者に向けた。 「(・・・・こんなので・・・・・終わり・・・・・・やだ・・・・ユーノ君・・・クロノ君・・・・フェイトちゃん!!!)」 「(ちっ・・・・やりすぎたな・・・・)」 内心で舌打ちをしながらも、ヴィータは目的の遂行のため、なのはに向かって歩み続ける。 あの帽子を吹き飛ばされた瞬間、自分は感情的になってしまった。 完璧に相手を『ぶち殺す』勢いで攻撃を仕掛けてしまった。 シグナムが始終自分に冷静になれと言っているが、今回ばかりは素直に認めようと思う。 「(だけど・・・・よかった・・・・ありがとう)」 ヴィータは安心すると同時に、内心でこの魔術師に感謝の言葉を送った。 自分の攻撃を完全ではないとはいえ、防いだ事は癪だが、こいつは死ななかった。 正直下手な魔道師だったら、自分は誓いを破って殺してしまっていたに違いない。 だが、それとこれとは別、こいつは見逃すには欲しい相手だ。もう一撃食らわせた後、魔力をごっそりいただく。 「・・・・・わりいな・・・・・・恨んでくれても・・・・・・・かまわねぇぜ・・・・・・」 痛みに耐えながら、大破した杖を自分に向ける魔道師に言葉を投げかけた後、ヴィータはゆっくりと アイゼンを振り被る・・・・・・・・・・そして ガキィン 振り下ろした瞬間、突如横から飛んできた『何か』により、アイゼンは叩き付けられて、ヴィータの手から離れた。 「なっ!!?」 アイゼンは地面を滑るようにして転がり、その近くには一本の西洋の剣が床に深々と突き刺さる。 突然の襲撃にヴィータは驚きながらも、アイゼンを吹き飛ばした『何か』が飛んできた方向を睨みつける。そこには 「弱い者虐めは・・・・・許さん!!!!」 ヴィータを正面から睨み返すナイトガンダムの姿があった。 「(なんだ・・・・・こいつ・・・・・・)」 睨みつけながらもナイトガンダムの姿を観察するヴィータ。 同時に気付かれないようにゆっくりと後方にさがる。 「(一見小型の傀儡兵に見えなくもねぇが、この世界の技術じゃ作れる筈がない。それじゃあ『ろぼっと』っていう機械人形か? でもあいつからは魔力を感じる、間違いなく生物だ。おそらくオマケとして引っかかったのはこいつだろうな・・・・・・)何だテメェ・・・・管理局か!?」 先ずは敵か味方か確認しなければならない、ほぼ答えは決まっているだろうがヴィータは尋ねてみる。 「管理局?なんだいそれは?むしろこちらが聞きたい、この結界を張ったのは君だね?」 「ああ、そうだよ。だったら何だって言うんだよ?それに管理局じゃねぇんだったら、なんでアタシの邪魔するんだよ?こいつの知り合いか!?」 「いや、この子の事は知らない。だが、勝負が付いて尚、この子を攻撃しようとする君のやり方は間違っている。だから止めた。 もし、またこの子を傷つける様な真似をするんだったら・・・・・」 背中に背負っていた電磁スピアを抜き取り、その切っ先をヴィータに向かって突きつけ 「ラクロアの騎士・ガンダムが相手になる」 はっきりと言い放った。 その姿に、ヴィータは一瞬キョトンとするが、直に獰猛な笑みを浮かべる。そして 「・・・・へっ、どの道おめぇも対象だったんだ。順番が逆になっちまったが・・・・・関係ねぇ!!」 後ろに下がる様にジャンプ、一気にアイゼンが転がっている所まで飛び跳ね、アイゼンを拾う。 そして、ナイトガンダム同様に切っ先を突きつけ、言い放った。 「ああ!!相手になってもらおうか!!この鉄槌の騎士・ヴィータの相手をなぁ!!」 地面を蹴り、ナイトガンダムに向かって突進、グラーフアイゼン手加減無しに叩きつける。 迫り来るその攻撃を、ナイトガンダムは相手の力を見る意味も込め、避けずに盾で防ぐ。 激突した瞬間、発生した衝撃波は、周辺に散らばっているコンクリートの破片や、今だ立ち込ている煙を一気に吹き飛ばす。 「(こいつ・・・・真正面から防ぎやがった・・・・・)」 手加減無しの渾身の一撃、ハンマーフォルムに戻ったとは言え、障壁を使わず、ただの盾で真正面から防がれた事に、 ヴィータは純粋に驚くと同時に、悔しさを露にする。だが、そんな気持ちを表したのも一瞬、 「なろぉ・・・・・・待ってやがれ・・・・その盾たたきわってやらぁあああ!!!!!!」 盾を破壊せんと、腕に更なる力を込めた。 「(くっ・・・・なんて力だ・・・・)」 グラーフアイゼンの攻撃を耐えているナイトガンダムは素直な感想を内心で呟く。 正直、油断をしないで正解だったと思う。見た目はすずかと同じ、もしくは年下にしか見えない少女。 だが、彼女かから発せられる気迫は正に騎士。幾つもの修羅場や戦場を駆け抜けている者だからこそ 発する事が出来る気迫。それを感じた時点で、ナイトガンダムは『手加減』という言葉を捨てた。 目の前にいるのは子供ではない。百戦錬磨の兵だ。 だからこそ、強敵と戦う気持ちで・・・それこそ、サタンガンダムと戦った時の気持ちで戦わないと負ける。 目の前の少女をサタンガンダムと同等の敵と新たに認識したガンダムは、盾を持つ手に力を込めて 「おぉおおおおおお!!!!」 力任せにヴィータを払った。 吹き飛ばされながらも、ヴィータは空中で態勢を整え着地する。同時にグラーフアイゼンを振り被り、 近くにあった机をボールに見立て、 「おりゃあ!!」 ゲートボールで鍛えたスイングで叩きつけた。 叩きつけられた机は形を凹ませながらも、ものすごいスピードでナイトガンダムに迫る。 だが、迫り来る鉄の固まりを目の前にしても、ナイトガンダムは特に表情を変えずに、 盾を装着している左腕で、蚊を払うかのように難なくたたき払った。 正直大した効果を期待していなかったとは言え、あまりにもあっさり払われた事に、内心で舌打ちをするヴィータ。 「(・・・・・強ええな・・・・・あいつみたいな砲撃に特化した奴だったら、懐に入り込んでブチのめせるんだけど・・・・)」 確認の意味を込め、先ほど倒したなのはの方を見る。 苦しそうに自分達の戦いを見ているなのはの姿を確認したヴィータは、反撃は勿論、逃げる事も出来ないと判断し、無視する事に決める。 「(根拠のねぇ予想はしたくはねぇが・・・・こいつは武器からしておそらくシグナムと同じ接近戦を主体としてる・・・・・ カートリッジの無駄使いは出来ねぇ・・・・だけどカートリッジ無しで戦える相手でもねぇ・・・・)」 少しの隙も見逃さないように、互いに互いを睨みつけるように見据える二人。 先ほどとは打って変わり、今聞こえるのはなのはの苦しそうな息遣い。 「(・・・・・距離を取ってシュワルベフリーゲンで牽制、隙が出来たらラケーテンでぶっ叩く。もし無理でも時間が稼げる。 シグナム達が来ればこっちの勝ち・・・・・まぁ、こいつかあの魔道師の仲間でも来たらアタシはピンチ・・・・・賭けだな、こりゃ)」 行なうべき行動を考えたヴィータは即座に行動に出る。 「おりゃあ!!」 何の前触れも無くグラーフアイゼンを振り被り、リノリウムの床に叩きつける。 オフィス全体が響くと同時に、床に積もった塵が再び舞い上がる。 一種の煙幕と化した塵と埃はナイトガンダムに襲いかかり、一瞬だけ彼の視界を奪った。 だがその一瞬の時間だけあれば、ヴィータには十分だった。 「へっ!ここじゃあ狭すぎる!!外に出な!そこで相手してやる!!!」 割れた窓ガラスの向こうから聞こえてくるヴィータの声。 ナイトガンダムも即座に後を追おうとするが、直に方向を窓から倒れているなのはに変え、駆け寄る。 「大丈夫かい・・・・・・少し待ってて」 ナイトガンダムは電磁スピアを背中に掛け、しゃがみ込む。そして有無を言わさずになのはの胸元に手を当て、唯一自分が使える回復魔法を掛ける。 暖かい光りがなのはを包み込み、あれほど体を支配していた痛みが和らいでいく。 「・・・・少しは楽になったかい?だけど申し訳ない。僧侶ガンタンクだったらもっと効果のある回復魔法が使えるのですが・・・・」 「い・・いえいえ!!そんなことありません!!体の痛みが和らぎました!!」 本当に申し訳無さそうに頭を垂れるガンダムに、なのはは必死に弁護する。 「それに・・・助けていただいて・・ありがとうございます・・・・あの・・・・・」 「ああ・・・申し遅れました。私、ラクロアの騎士・ガンダムと申します。」 「ガンダムさんですか。私、高町なのはと言います。あの・・・・・・」 なのはの表情から、自分の正体を聞きたいことは直に分かったが、今はゆっくりと話をする暇は彼には無かった。 「申し訳ありません。なのはさんが色々と私について聞きたいのは分かります。私も貴方に聞きたいことがある。 ですが、今はそんな時間はありません。ですが一つだけ聞かせてください。なぜ、貴方はあの少女に狙われたのですか?」 あの少女は自分がこの結界を張ったと言った。そして『・・・・へっ、どの道おめぇも対象だったんだ。順番が逆になっちまったが・・・・・関係ねぇ!!』 とも言っていた。その情報から、彼女は襲撃者で、高町なのはと自分は襲撃目標だった事が分かった。 だからこそ、狙われたであろうなのはに心当たりが無いか尋ねたのだが、 なのはの口から出たのは、『自分にも分からず、突然狙われた』という答えだった。 「・・・・そうですか」 なのはから聞いた内容に嘘は無いと思う。だが、ナイトガンダムには妙なシコリが残っていた。 「(そうなると、あの少女はただの通り魔と言う事になる。だが・・・あの少女の目からは悪意が感じられない。 むしろ何かを決意した・・・・・いや、今考えるのはやめよう。この子の安全と、結界の解除を優先するべきた)」 今は戦う事に気持ちを切り替えたガンダムはなのはに、ジッとしているように言う当時に、床に刺さっている剣を抜き取り、 右腕に持つ。そして 「・・・・・・・参る!!」 ヴィータが待っているであろう、隔離されたコンクリートジャングルに向かって、ナイトガンダムは飛び出した。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/686.html
ホラーゲーム、超常現象 a.『バイオハザード』『死国』 by ひゅうがさま、ヒナヒナさま b.SIREN 憂鬱Translation by ヒナヒナさま 1.半分ネタSS――「海から来た怪物」その1 2.半分ネタSS――「海から来た怪物」その2 3.エピローグ――同 帝都某所 MMJ秘密集会場 by ひゅうがさま HELLSING 1.憂鬱版HELLSING by 雑談スレ その2 846名無しさま 2.偉大なるヒラコー将軍様は永久に不滅です by ひゅうがさま ジパング 1.「ジパング(笑)にお客さんが来ました」 2.「ジパング(笑)にお客さんがきました」その後 by ひゅうがさま 1b.「ジパング(笑)にお客さんが来ました」勝手に3次 by ヒナヒナさま 猫神やおよろず 1.猫神やおよろず 2.猫神とのクロスSS by earthさま 同 帝都東京 明治神宮 by ひゅうがさま TypeMoonとのクロス作品 第四時聖杯戦争1 第四時聖杯戦争2 外部URLです。第四時聖杯戦争 上記はAAなので外部URLに接続しています。(wikiでも見やすい環境を作る努力中です) 和服セイバー黒髪化=日本撫子 某スレ支援 外部URLです。和服セイバー黒髪化=日本撫子 某スレ支援 上記はAAなので外部URLに接続しています。(wikiでも見やすい環境を作る努力中です) by ◆4b64ie/xbQさま 1.あの人が聖杯戦争に放り込まれたようです 2.第3次聖杯戦争にあの人+αが乱入するようです by ひゅうがさま 第三魔法に到着 by earthさま ネタ短編『夢幻会的ア―ネンエルベの一日』 トウキョウフーチ by 第三帝国さま 型月的夢幻会 by New ◆QTlJyklQpIさま 憂鬱アイマス 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その2】 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その3】 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その4】 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その5】 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その6】 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その7】 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その8】 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その9】 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その10】 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです 補足説明 憂鬱しぶりん設定集 by 四〇艦隊の人さま 番外編 【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【番外編】 【ネタ】渋谷凛は平行世界で二週目に挑むようです【番外編その2】 【ネタ】渋谷凛は平行世界で二週目に挑むようです【番外編その3】 by 四〇艦隊の人さま アイマス×ストパン クロス アイドルルーデルネタ 24時間ライブ by 248-249名無しさま 四〇艦隊の人様 支援SS 憂鬱×アイドルマスター×ストパン? {by 影響を受ける人さま)
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3404.html
時間は遡り、なのはとレザードの戦いは端から見れば拮抗していると思われる程の戦いぶりを見せていた。 だがレザードの表情には未だ余裕があり、全力を出してはいないであろうと感じるなのは。 一方でなのはは既にブラスター3を発動している状態、このまま拮抗が続けばいずれなのはが敗北するのは必死である。 しかしなのはの顔には焦りを感じている表情は無く、寧ろそれに不気味さを感じるレザードであった。 リリカルプロファイル 第三十八話 覚悟 そんな戦況の中でなのははレザードにレイジングハートを向けてディバインバスターを発射、 しかしレザードは旋回しながらこれを回避し、左人差し指を向けてライトニングボルトを放つ。 するとなのははラウンドシールドを張りこれを防ぎ、続いてアクセルシューターを撃ち放つが、 レザードはアイシクルエッジにて相殺、拮抗が徐々に破られつつあった。 すると其処に一つの影が姿を現す、その正体はフェイトであった。 フェイトはなのはが戦っているこの広場へと足早に向かっていたのだ。 「なのは!助けに来たよ!!」 「フェイトちゃん!スカリエッティは逮捕出来たの?」 なのはの質問にフェイトは口を噤み下を向いて影を潜む表情を醸し出し、その表情に困惑するなのは。 すると対峙していたレザードがその理由を語り出す、スカリエッティはもし自分が管理局に捕らわれる事になったら、 自らの意志で自らの命を絶つ覚悟を持っていたという、つまりはスカリエッティは自害したのだろうとフェイトに代わって答えた。 「そんな………何故!?」 「…それ程までに管理局が気に入らなかったのでしょう……」 肩を竦め小馬鹿にした表情を浮かべながら語るレザード、だが理由はそれだけではなかった。 逮捕されれば懲役を受ける事は明白である、だが管理局には協力を約束する変わりに懲役を減らす制度がある。 管理局は十中八九その制度を用いて交渉をしてくるだろう、スカリエッティは管理局からの脱却が目的である、 それ故に管理局に尻尾を振るぐらいならいっそ自分の手で幕を閉じると言う覚悟があったのだ。 しかしこの事を二人に話したところで理解は出来ないだろう、 レザードはスカリエッティの覚悟を胸の内にしまうと、改めて二人と対峙する。 「まぁ、いいでしょうそんな事は…今重要なのは私の邪魔をする者が増えた…という事実ですから」 「……ずいぶんと余裕ですね」 「それはそうでしょう」 女小娘が二人になったからと言って自分の方が優勢である事は変わりはしない、左手を眼鏡に当て不敵な笑みを浮かべるレザード。 その表情に不快感を現す二人であったが、寧ろ余裕のあるレザードの度肝を抜こうと考え、 フェイトはライオットザンバー・スティンガーを水平に構え、なのはもまたレイジングハートを向けて対峙する。 先ずはフェイトが先行しレザードの懐に入ると左の刀身を振り下ろすのだが、 レザードは右手に持つグングニルで受け止め、フェイトは続けて右の刀身を水平に構え突く。 だがレザードは滑るようにして後方へと回避、更に左手を向けてクロスエアレイドを放つ、 しかしクロスエアレイドはなのはのアクセルシューターによって撃ち落とされ更にレザードに向けてショートバスターを放つ。 するとレザードは急降下してショートバスターを回避し床すれすれを滑走、なのはに向けて衝撃波を放つ。 だがフェイトが間に割り込みスティンガーにて衝撃波を切り裂き、後方ではなのはがアクセルシューターを撃ち放った。 しかしレザードはリフレクトソーサリーを張りアクセルシューターを跳ね返したのだが、間髪入れずにフェイトが接近 左の刀身を左へ薙払うようにして振り抜くがレザードはグングニルにて左の刀身を受け止める。 するとフェイトは右の刀身を左の刀身に合わせ一つにし、ライオットザンバー・カラミティに変えて一気に振り切り レザードはその衝撃に耐えきれず吹き飛ばされるがすぐさま着地、するといつの間にか上空に移動していたなのはが、 レイジングハートをレザードに向けており、ディバインバスターを撃ち鳴らした。 一方レザードは依然として冷静で左手に青白い魔力をたぎらせると、直射砲のようなライトニングボルトを撃ち放ちディバインバスターと激突、 そして見る見るうちに押していく中、なのははカートリッジを一発使用、出力を上げ ライトニングボルトを押し返し始め、最終的に相殺という形で終えた。 一方でフェイトはレザードからかなり離れた後方に移動しカラミティをスティンガーに変えソニックムーブを発動、 金色の一筋と化してレザードに迫るがレザードは全方向型のバリアを張り攻撃を防ぐ。 ところがフェイトはお構いなく何度も切りかかり、まるで無限の剣閃ともいえる程の動きをしていた。 そんなフェイトの攻撃によりバリアに亀裂が走りそれを見たフェイトは更に速度を上げて攻撃、右の振り下ろしが決め手となりバリアを破壊、 するとフェイトはスティンガーをカラミティに変えてとどめとばかりに下から上へすくい上げるかのように振り上げた。 だがレザードはフェイトの攻撃のタイミングに合わせてシールドを張り攻撃を受け止め更に前宙のような動きでフェイトの頭上を舞い床に着地、 攻撃から難を逃れたかに見えたが、レザードの左上空にはなのはが陣取っており、 レイジングハートのカートリッジを三発使用、先端から環状の魔法陣が張られていた。 「ディバイン…バスタァァァ!!」 撃ち放たれたディバインバスターがレザードに迫る中、左手で大型のシールドを張り攻撃を受け止めると、 なのははカートリッジを一発使用、ディバインバスターを強化させ、更に威力が増すとシールドに亀裂が生じ始める。 その後暫くしてシールドが砕け散りレザードはディバインバスターに飲まれていった。 ところがレザードは上空へと移動しており、足下には五亡星の魔法陣が張られていた。 レザードは常に準備してある移送方陣を発動させてディバインバスターの驚異から逃れたのである。 なのはは悔しそうにレザードを睨みつけている中、レザードは驚いた様子で左手の感触を確かめていた。 先程張ったバリアに加えシールドすら破壊された…三賢人の時のように相手を油断させる為にわざと強度の低いシールドやバリアを張った訳ではない。 十分な強度で張っていたのだが彼女達は実力でバリアやシールドを破壊した、それ程までに彼女達の攻撃には威力がある… つまり彼女達は既に三賢人以上の能力を持っている事を指し示しているのであった。 「ふむ…その杖の影響とはいえ、これ程の力をつけていたとは……」 レザードは素直に二人の実力を賞賛する中、なのはの下にシャマルからの連絡が届く。 それは今し方はやてがベリオン及び動力炉を破壊したというものであった。 しかし動力炉を破壊したというのにゆりかごは依然として動いたままである、 それはゆりかごに存在する自己防衛モードによるもので、本体自体に残されている魔力によって飛行を維持されているのであった。 しかしベリオンの破壊…その内容にフェイトはスカリエッティと対峙した時の事を思い出す。 彼はベリオンとゆりかごを使ってミッドチルダを破壊するという計画があった、 だがベリオンは破壊されゆりかごも既に機能としては不完全と化している、 つまりこれはスカリエッティの計画は失敗に終わったという事を指し示しているのであった。 一方でなのは達の報告を小耳に挟んだレザードは眼鏡に手を当てていると、 不敵な笑みを浮かべたなのはがレザードを指差し声を上げた。 「ゆりかごもベリオンも無くなった!これで貴方達の計画は失敗に終わったの!!」 「失敗?まさか…確かにゆりかごは使い物にならなくなりましたが、計画そのものは支障ありませんよ……」 「どうゆう事?!」 レザードは肩を竦め小馬鹿にした表情でなのはの問いに答え始めた。 世界を崩壊などレザードが本気を出せば簡単に導く事も可能である、だがレザードはそれをしなかった。 理由はスカリエッティにあった、スカリエッティは自分の手で枷を外そうとしていた、 その気持ちをくんで敢えてレザードは前に躍り出て行動をせず、知識を与え準備を手伝うまでで止まったと、 結果スカリエッティはゆりかごを復活させ更にレザードから得た魔法技術によってユグドラシルと呼ばれる魔法陣まで造り上げたという。 「何故そこまでスカリエッティの計画に荷担するの!!」 「そうですね……興味があったから…ですかね」 そう言ってレザードは眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべる、もとより深い理由など無かった、 最初に出会ったのがスカリエッティであっただけ、そして彼の計画に興味がわいた…それだけであると、 尤も今はレザード自身にも目的が生まれ、それを実行に移すには管理局という存在は邪魔であると語った。 「貴方の目的って何ですか!!」 「シンプルなものですよ…誰しもが望む事……」 しかし自分の目的は他の者達と違って管理局を敵に回す為に対峙する事となった…それだけであるという、 そしてレザードはゆっくり深呼吸をして一度上を向くと瞳を閉じて黙り、なのは達は固唾をのんでいると暫くして瞳を開き なのは達に目を向け目的を口にする。 「“愛しき者”と一緒になる…それだけですよ」 「…………………えっ?!」 レザードの目的を聞いた二人は暫く固まっていると、レザードが意気揚々に語り出す。 スカリエッティの技術とレザードが御守りとして大事にしていた神の毛によって生まれた存在チンク。 彼女は戦闘機人にしてレザードが愛する神のクローン、彼女と添い遂げる事が目的であり、 それを実行するには規制を促している管理局が邪魔な存在となる、結果スカリエッティと利害が一致した為に協力したのだと語る。 …そんなレザードの身勝手過ぎる理由に二人は睨みを利かせ激怒した。 「狂ってる……そんな理由で世界を破壊しようとしているんですか!!!」 「そうですか?私にとっては意味のある理由なのですがね……」 “愛しき者”と一緒になりたいと言う気持ちは誰しもが持っている感情、だがそれを許さずまた反対する者を裁けるだけの力があれば 誰もがそれを行うであろう…そうレザードは言葉を口にするが、なのははレザードの意見に真っ向から反対する。 なのはにも“愛しき者”がいる、だがもし彼の生まれが特殊であったとして、 自分に反対する者を裁けるだけの力を持っていたとしても行使する事は無いと語る。 「偽善…ですね……」 「そう捉えられるかもしれないけど、少なくとも貴方の意見には賛同出来無い!!」 「それは残念だ……ならば此処等で御退席して貰いましょうか」 するとレザードの足下から青白く光る五亡陣が現れ、青白く光るレザードの魔力が白く輝く魔力に変わり、 レザードの全身は光の粒子に包み込まれ、次に右手に持っていたグングニルがネクロノミコンに戻りレザードの目の前で浮かび光を放つと、 一枚一枚ページが外れ白く輝く魔力に覆われレザードの周りを交差しながら飛び回り、 そしてレザードのマントは浮遊感があるようにふわふわと漂い、レザードの体も同様に漂うと足下の魔法陣が消え去った。 モードIIIカタストロフィ、大きな破滅または悲劇的な結末と言う意味を持つこのモードは レザードが自ら掛けたリミッター全てを外し愚神の力を解放した状態である。 「まさか…ここまで魔力を強化出来るなんて……」 「……何か勘違いしているようですが…これが本来の私の力です」 レザードの放った言葉は二人を動揺させるには充分過ぎる言葉であった、今目の前で放たれている魔力は二人のようにデバイスをリミットブレイクさせた もしくは自己ブーストしたものであると思っていた、だが実際は何て事無い能力リミッターを解放させただけに過ぎないと言うのだ。 しかもレザードの話ではこの力は神から手に入れたのだという。 「そんな……貴方も神の力を手にしているなんて…」 「貴方達のような微力な力と一緒にして欲しくはありませんが……」 「なっ何ですって!!」 「何なら試してみてはどうです?」 そう言ってレザードは二人を挑発すると、二人はその挑発に乗りデバイスをレザードに向けて構え始め、 先ずはなのはがアクセルシューターを八発撃ち出し攻撃を仕掛ける、しかしレザードは舞うようにしてこれを回避、 一方でフェイトはソニックムーブを用いてレザードに接近、依然として回避しているレザードの背後を取り 手に握られたスティンガーをカラミティに変えて絶好のタイミングで振り下ろす、 だが魔力刃はレザードの体をすり抜け、すり抜けた所は光の粒子を化しており暫くして肉体に戻っていった。 「どっどうなっているの?」 「ふっ…貴方達ではこのアストラライズされた肉体を傷付ける事など出来はしないという事ですよ」 そしてレザードは右人差し指をフェイトに向けるとレザードを覆う光の粒子の一部がグングニルに変わり発射、 フェイトはカラミティの魔力刃を盾にしてグングニルを防ごうとしたが、呆気なく刃は砕け散り腹部を貫き通した。 一方でなのははレザードに向けてエクセリオンバスターを発射、放物線を描くようにしてレザードに迫っていくが、 レザードは肉体を光の粒子に変えてこれを回避、更になのはの足下を光の粒子による爆発を起こし、しかも離れた距離に移動していた。 一方で床に伏せ腹部を貫かれたフェイトは痛みに耐えていると、光の粒子の爆発に巻き込まれ高々と舞い上がるなのはを目撃、 すぐさま近づき安否を心配するとなのははゆっくりと立ち上がり、遠くでほくそ笑んでいるレザードを睨みつけた、どうやら命に別状はないようである。 「くぅ………此処まで…差があるなんて…」 「ふっ…やっと理解出来ましたか」 ほんの少し戦闘を行っただけではあるのに、レザードとの圧倒的な差を痛感する二人。 此方の攻撃は一切通用しない、魔力も身体能力も遥かに向こうが上回っている、どうあがいても“二人”では勝ち目がなかった。 ならば最後の手段を執るしかない、なのはとフェイトはお互いに見つめ合うと小さく頷き腰に添えてあった杖に手を伸ばす。 「ほぅ…まだ何かする気なのですか?」 「…私達は…諦めが悪いんだよ!」 なのはは一言口にして右手に持つ杖に魔力を、フェイトは左手に持つ杖に魔力を込める。 するとなのはの足下に赤い三角形が三つ均等に並ぶ魔法陣が、フェイトの足下にも同じ模様の青い魔法陣が張られ、 杖が力強く輝き出すとまるで祈るようにして瞳を閉じ二人同時に杖を魔法陣に突き刺す。 すると魔法陣は更に強く輝き出し光の柱となって辺りを照らし始めると、二人の頭上から 黒いローブを纏い背中にそれぞれ赤と青の計六枚を翼を生やし、頭には天使の輪がついた 流浪の双神を呼び出し光が落ち着いていくと、突き刺した杖がまるで灰のようにして跡形もなく消えていった。 一方でレザードは二人が呼び出した者が分かったらしく流石に驚きの様子を隠せずにいた。 「まさか…神を召喚するとはな……」 「ほぅ…成る程、我々の力を借りたいと言うのがよく分かる」 イセリアクイーンはレザードの肉体に宿る力を感じ、なのは達が協力を仰ぐ理由を理解する、 それほどまでにレザードの能力は常軌を逸していたのだ、そして流浪の双神は右手に杖を携えレザードに向ける。 「貴方には悪いが、これも契約なのでね…」 「神が二体…少々楽しめそうだ……」 流浪の双神を目の前にしても未だ余裕のある様子を浮かべるレザード、その反応になのはとフェイトは不安感を覚える中、 戦闘が開始され先ずはレザードが牽制としてアイシクルエッジを二人目掛けて撃ち出すが、 二人は手に持つ杖でいとも簡単に防ぎ、次にガブリエセレスタが杖を振り下ろす。 ところがレザードはグングニルを形成しガブリエの攻撃を受け止める、するとイセリアが時間差でレザードに攻撃を仕掛け 貫くようにしてレザードの腹部を狙い撃ち直撃、勢いよく吹き飛ばされるレザードであるが、 右手を向けてクールダンセルを放ち氷人形が二人の前で襲いかかる、だが二人は冷静に対処に当たり杖で氷人形を打ち砕いた。 「流石に神の前ではアストラライズは意味をなさないか……」 「当然だ、肉体を幽体にする事など造作もない」 レザードを一目見た瞬間から幽体化している事を見抜いた流浪の双神は、同じく肉体を幽体に変えて対処に当たったようであり、 これはレザードのアストラライズを無効化された事になる、だがレザードの表情には焦りの様子が無く その表情を遠くで見上げているなのは達には不安を募らせていた。 一方場所は変わり此処スバル達とチンクが戦闘を繰り広げている広場では、 スバルのナックルダスターをマテリアライズで形成した左の盾で防ぐチンクの姿があった。 「くぅ!やっぱ堅い!!」 スバルはカートリッジを一発使用してナックルダスターの威力を高めるが、一向に砕け散る様子がない盾。 一方でエリオは距離を離しストラーダを向けてカートリッジを二発使用、先端部分から魔力刃が形成されると一気に突撃、 まるで弾丸を思わせるような速度でチンクに迫っていく、一方でエリオの存在に気が付いたチンクは スバルの攻撃を流すようにして盾を傾け見事に受け流すと、その場で一回転しエリオに目を向け、 右手に携えた刀身を振り上げ魔力刃ごとエリオを高々と吹き飛ばした。 だが上空にはキャロが待機しており、フリードリヒに指示を促しエリオを回収、更にブラストレイをチンクに放つ、 ところがチンクはブラストレイを既に読んでおり既に移動して回避、カートリッジを一発使用すると脇差しのような小型の刀を二本生成、 勢い良くキャロに向かって投げつけるが、脇差しはティアナのクロスファイアによって撃ち落とされた。 するとチンクを囲うようにしてクロスファイアが六発向かってきており、チンクは盾を使って弾こうとしたところ盾は光の粒子となって消滅、 一つ舌打ちを鳴らし悔しそうな表情を浮かべるも、クロスファイアを右往左往しながら回避し更に右手に持つ刀身にて三発打ち落とした。 ところがクロスファイアは更に五発追加されて迫ってきており、チンクはまたもや一つ舌打ちを鳴らすと、 左手で床の一部を掴み取り、原子配列変換能力を用いて長刀の刀を形成し、右の刀身と左の刀によって次々にクロスファイアを撃ち落としていく。 その時である、チンクの後方からスバルが勢い良く右拳を振り上げており、拳には衝撃波が纏っていた。 「リボルバァァ!キャノン!!」 だがスバルの気配に気が付いたチンクは左の刀を盾代わりにして攻撃を受け止めると、 今度はスバルの拳のカートリッジを一発使用してスピナーを高速に回転させて衝撃波を撃ち出すリボルバーシュートを撃ち抜き、 左の刀は二つに折れ衝撃波はチンクの胸元に突き刺さり吹き飛ばされていく。 だがチンクは吹き飛ばされながらも自身のISであるランブルデトネイターを用いて刀を爆破、 スバルは爆発に巻き込まれ周囲は土煙が舞い散り、暫くして落ち着いていくと 其処には全方向型のプロテクションを張り爆発から逃れたスバルの姿があった。 「やはり…間に合っていたか」 チンクは一つ舌打ちを鳴らしスバルと対峙している中、攻撃後オプティックハイドを発動させて 姿を隠しているティアナが今までのチンクの戦闘を基に分析を行っていた。 先ずスバルから予め聞いていたチンクの能力であるが、マテリアライズは魔力を原料として生成、非破壊効果を持つが三分程度で消滅する、 一方で原子配列変換能力は物質などの媒介を魔力によって変換させる為に消滅する事は無いが非破壊効果を持たない、 しかしあの爆発能力であるランブルデトネイターにより爆弾に変える事が出来るようなのだが、 確かな威力を誇るには三分以上時間を要するようで、マテリアライズで生成した武具では時間的にも非破壊効果的にも不可能である可能性が分かった。 そしてチンクは動きを先読みすることが出来るようで、此方の攻撃や行動の先の動きを行っていた。 しかし先読み出来るのはチンクが見た対象のみ目線から離れた若しくはティアナのように隠れた対象の動きは先読み出来無いようである。 つまり背後もしくは目の届かない場所からの攻撃が有効なのであるが、 チンク自身も危機察知能力が高い為か、中々思うようにいかないのが現状である。 「でも今はこれしか打開策が無いか……」 結局のところこれ以上の有効な対策が無い為に引き続き指示を送るティアナであった。 一方でスバルと対峙しているチンクは先手を取りスバルに攻撃を仕掛ける、 だがスバルは依然として全方向型のプロテクションを張り巡らせたままでチンクの攻撃を受け続けていた。 「成る程…考えたな」 どうやらスバルに攻撃の目を向けさせる事により、他のメンバーの行動を先読みさせないよにする作戦のようである。 一方でエリオはフリードリヒの背中にてキャロからフィジカルヒールを貰い体力を回復させると、 フリードリヒから飛び降り床に着地、ストラーダをチンクに向けてカートリッジを三発使用、 メッサーアングリフを放ち見る見るうちにチンクに迫る。 「甘いな、その程度の動き先読みしなくても分かるわぁ!!」 チンクはエリオの攻撃を半歩体をずらして容易くかわし不敵な笑みを浮かべるが、 エリオは急速停止し左足を滑らすようにして反転、左の裏拳による紫電一閃を打ち抜こうとした。 ところがチンクは腰を素早く下ろし裏拳を回避、更にスライディングキックにてエリオを迎撃、 するとエリオの攻撃に続けとばかりにスバルが飛び出し、右手にはスピナーの回転により螺旋状と化した振動エネルギーを纏っていた。 振動拳と呼ばれるスバルのISである振動破砕を用い、持てる技術を尽くし完成させた必殺の一撃である。 一方でスバルの拳を目撃したチンクは危機感を感じマテリアライズにて大型の盾を生成し備えた。 そして激突、辺りには振動拳の衝撃が伝わり床を削るようにして破壊、チンクもまた盾とともに床を削りながら吹き飛んでいく。 だが盾を破壊する事は出来ず盾が消滅すると無傷のチンクが顔を覗かせていた。 「これでも…駄目なのか……」 スバルは絶望の淵に追いやられたかのような表情を浮かべている中でチンクに異変が訪れる。 それはチンクの表情が痛みに耐えているような顔つきで更に左膝をついたのだ。 今までとは異なる反応にティアナは一つ確信する、マテリアライズされた武具は破壊する事は出来ない、 だが武具に受けた衝撃全てを受け止められる訳ではない、本来であれば破壊される程の衝撃を受ければ その衝撃は武具を通し本人に伝わり、そのままダメージを負うという事であると。 つまりは強烈な攻撃であればたとえマテリアライズされた武具でもダメージを与える事が出来る訳である。 そしてチンクを撃破するに当たって一番要なのが一撃の威力に定評があるスバルであった。 一方でチンクは自分が受けたダメージが思っていた以上である事に驚きを感じ、またスバルに警戒を浮かべていた。 これ以上攻撃を受ければ敗北するのは必死、憂いは経たなければならない…そう考えたチンクは真っ先にスバルを始末する事に決めた。 「貴様から先に叩いてくれる!!」 「そうはさせない!!!」 するとエクストラモードを起動させたエリオが割って入り、左拳に雷を纏わせ自身最速のソニックムーブにてチンクの懐に入る。 一方でチンクはエリオの行動を先読みし、攻撃を避けられないと悟るや否やマテリアライズにて大型の盾を形成した。 しかしエリオはお構いなく盾の上から何度も紫電一閃を連打しチンクを釘付けにする、 そして更にカートリッジを全て使用して右手に持つ小型化したストラーダに魔力を込め何度も盾を突き刺した。 「奥義エターナル!!レイド!!!」 最後に魔力と雷を込めた突きが盾に響き、その衝撃により盾ごと吹き飛ばされるチンク しかしエリオの攻撃を防ぎきったチンクは反撃を行おうと睨みつけるとエリオが声を荒らげた。 「今です!ティアナさん!キャロ!!」 チンクは辺りを見渡すと右上空にはエクストラモードを起動させ、フリードリヒの胸元に存在する竜紅玉に魔力を溜め込みいつでも撃てる用意があるキャロと、 少し離れた左側にエクストラモードを起動させクロスミラージュを水平に構え、その中心を軸に巨大なエーテルの球を作り出し、いつでも放てる用意があるティアナがそこにいた。 どうやら二人はエリオの攻撃の最中に準備を始め、エリオの攻撃が終わる頃を見計らって攻撃出来るように準備を整えたようである。 『奥義!!』 「ドラゴンドレッド!!」 「エーテルストラァァァイク!!」 エリオの合図の下、間髪入れず撃ち放たれた二つの強力な一撃がチンクに迫る中で、 もう一度マテリアライズを行い、同じ大きさの盾を用意して防御に当たるチンク。 そして激突と同時に大爆発を起こし、辺りには衝撃波が走り巨大な土煙がチンクを覆い隠す中 土煙が落ち着き始めると其処には巨大な盾に身を守られていたチンクの姿があった。 「そんな…効いてないの?」 「………いや!効いてる!!」 盾が光の粒子となって消滅した瞬間、チンクは左膝をつき表情に曇りの色を見せ、ティアナは最後であるスバルに目を向け指示を送る。 だがその一方でチンクの足下には多角形の魔法陣を幾重にも張り巡らせており、何処からともなく声が聞こえ始めた。 「汝…其の諷意なる封印の中で安息を得るだろう…永遠に儚く……」 「いけない!広域攻撃――」 「セレスティアル!スタァァァ!!」 チンクを中心に輝く羽が舞う複数の光の柱が立ち上り、更に広がっていくとティアナ・エリオ・キャロそしてスバルを飲み込んでいく。 そして辺りは光に包まれ暫くして光が落ち着いていくと其処には床に這い蹲ったエリオ・キャロ・ティアナの姿があった。 だがその中で全方向型のプロテクションを張っていたスバルだけがチンクの攻撃耐え抜いた姿があり、 スバルの姿を見たチンクはカートリッジを全て使用、足下に白い五亡星の魔法陣を張り 全身を白く輝くまるで白金を思わせる魔力で包み込むと、半身を開き構え素早くスバルの懐に入る。 そして矢のようなスライディングで足下を攻撃し後ろを取った瞬間に振り下ろし、間髪入れず振り上げスバルの体を浮かせる。 更に右からの袈裟切り、左からの払い、そして下から切り上げ更にスバルの体を宙に浮かせると、 巨大な槍が三本スバルの左右の脇腹から肩にかけて、脊髄から腹部にかけて突き刺す。 そして剣を納めスバルの頭上まで飛び上がると背中から光の翼を生やし、翼が光の粒子となって右手に集うと巨大な槍に変化した。 「これで終わりだ!奥義!!ニーベルンヴァレスティ!!!」 そう叫ぶと槍は白く輝く鳥に変わりスバルを貫く、そして白色の閃光は大きな粒上に変化 スバルを中心に集い圧縮され暫くして大爆発、辺りには爆音と共に衝撃波が響き渡り土煙が覆われていた。 「す………スバルゥゥゥゥゥゥ!!!」 ティアナの悲痛な叫びが辺りに響き渡る中でチンクは静かに着地、だが連続のマテリアライズに広域攻撃魔法、 更にはカートリッジ全てを使用したニーベルンヴァレスティと魔力を大量に消費した為、 かなりの負荷が体にのしかかったらしく左膝をついて肩で息をしていた、だが憂いでもあったスバルは倒れ他の仲間も床に伏している、 チンクは勝利を確信した表情で顔を上げると、土煙の中から腕をクロスに構え、チンクの攻撃に耐え抜いたスバルの姿があった。 「ばっバカな!!私の最大の奥義を耐え抜いたというのか!?」 「次は……コッチの番だぁぁぁ!!!」 スバルは両拳を握り締め足を肩幅まで開き構えると両腕のカートリッジを全て使用、大量の赤い魔力が炎のように溢れ出し 両拳には螺旋状と化した振動エネルギーを纏い、両足には赤い翼のA.C.Sドライバーが起動していた。 そして一気に加速し一瞬にしてチンクの懐に入るや否や、右のナックルダスターがチンクの胸元に突き刺さり、 続いて両拳からの上下のコンビネーションであるストームトゥースにマッハキャリバーとの息のあった拳と蹴りのコンビネーション、キャリバーショット そして左のナックルバンカーがチンクの顎を捉え跳ね上げると、右のリボルバーキャノンが腹部に突き刺さってめり込み 更にスピナーの衝撃を放つリボルバーシュートにてチンクを高々と舞い上がらせる。 すると今度はウィングロードを伸ばして滑走、チンクに追い付くと環状の魔法陣が二つ張られ 加速された赤い魔力球が握られた右拳をチンク目掛けて振り下ろした。 「奥義!ブラッディィ!カリスッ!!!」 振り下ろされた右拳はチンクの腹部に突き刺さり九の字に曲げると、そのまま垂直落下とも言える角度のウィングロードを滑走、 床に大激突し辺りに激しい衝撃が走る中でその中央ではスバルの拳をきっかけに、赤い魔力と混ざった振動エネルギーが波のように溢れ出しチンクの身を何度も叩きつけ 甲冑や兜は砕け散りスカートはボロボロ、そして左耳に取り付けてあったデバイスは砕け散ったのであった。 母のシューティングアーツに機動六課での特訓、リボルバーナックルの性能にエクストラモードの能力、 更にはスバルの今までの戦闘経験やセンス最後にISによって完成されたブラッディカリスはまさに一撃必倒と呼べる威力を誇っていた。 そして放たれた赤い魔力が落ち着くと其処には眼帯を失い、至る所が切れてボロボロの戦闘スーツ姿に戻ったチンクが仰向けの状態で倒れており、 チンクの姿を見たスバルは勝利を確信したと同時に両膝を付き肩で息をしていた。 するとスバルの勝利を祝ってかティアナ達が集まり激励を送るのであった。 時はチンクが撃破される前まで遡り、イセリアは女王乱舞にてレザードを攻撃、 だがレザードはシールドを張って攻撃を全て防ぎその中で詠唱を始め、ファイナルチェリオをイセリアに向けて反撃した。 だが一方でガブリエが接近し右手に持つ杖を振り下ろすがレザードはグングニルで防ぎ難を逃れる、 その間に攻撃に耐えたイセリアが背後を取り杖を振り抜きレザードを吹き飛ばすが、 レザードは右手を向けて直射型のライトニングボルトを放ち、イセリアはシールドを張ってこれに対抗した。 一方なのは達はレザードと流浪の双神の熾烈な戦いに唖然とした表情を浮かべていた。 するとなのはの下へティアナからの連絡が届く、それは今し方スバルがチンクを倒したという内容であった。 一方なのはの報告に小耳に挟んだレザードは動きを止め驚愕な表情を浮かべすぐさまモニターを開くと、 其処には仰向けで倒れているチンクの姿が映し出されていた。 「バカな…私の“レナス”が………」 レザードは頭を押さえ、まるでこのような結末を望んでいなかったと思わす表情を浮かべ、うなだれていた、 一方でなのは達は勝利を確信した表情を浮かべていた、戦況はこちらが優勢 しかもフェイトから聞いていた計画の要でもあったチンクは此方の手中にある、そして他のメンバーも此方に集うであろう。 そして流浪の双神も存在する、もはやレザードは袋の鼠状態、これ以上の抵抗は無意味であるとなのはが伝える中、 微動だにせず依然として俯き頭を手で押さえ、うなだれてるレザードの姿にフェイトが声を荒らげる。 「何か言ったらどうです!!」 「…………………」 しかしレザードは答えず長い沈黙が続き動きが一切無い中、レザードの体から金色の砂のような物が次々に垂れ出し、 それは床に落ちて徐々に広がり部屋全体を覆い輝かせる。 「なにこれ?!」 「術式………かな?」 それはよく見ると文字のようで部屋全体に書かれたのだろうと言うのがフェイトの見解である、 すると今まで沈黙していたレザードが静かに言葉を口にし始める。 「…たかが一介の魔導師が私の計画を潰し、あまつさえ我が“愛しき者”を傷付けるとは……」 次の瞬間なのは達の体に異変が起きる、それは今までとは異なり体に負荷がのしかかり、 それはまるで能力リミッターを掛けられた時と同じような感覚を覚えていた。 なのは達は自分の体の異変に戸惑っていると、レザードが振り返り押さえていた手を降ろしその表情は怒りに満ち鬼の形相と化していた。 「――許せん!!!」 自らのお気に入りであり“愛しき者”であるチンクを傷付けた罪は重い、そう口にすると左手を掲げるレザード そして――― 「跪け!!」 左手を振り下ろした瞬間、何かがのし掛かったかのように全身が重くなりなのは達は床に伏し、その光景はまさに跪いているかのようであった。 その中でイセリアがゆっくりと立ち上がりレザードに向けて杖を振り払い衝撃波を生み出す。 だがレザードは迫ってくる衝撃波をまるで埃でも払うかのようにして右手を払いかき消した。 「どっどうなってるの?!」 「なる程な……」 なのはは戸惑う中イセリアが説明を始める、レザードの体から放たれたこの術式により 肉体・魔力更には攻撃の威力まで十分の一以下にまで押さえつけられているのであろうと語る。 一方でレザードは再び左手を掲げなのは達を浮かばせると左右の壁、上下の床や天井に次々にぶつけ更に叩き落ととすようにして床に激突させた。 「殺しはしない!死んで楽になどさせるものか!!」 すると今度は大量のイグニートジャベリンを用意して一斉に発射、なのは達の身を次々と貫いていく、 だがレザードの攻撃は終わらず続いてダークセイヴァー、アイシクルエッジ、プリズミックミサイルなどを次々撃ち抜き 必死の形相で回避またはバリアやシールドなどで防ごうとした、しかしレザードの放った魔法の威力はそれらを簡単に打ち砕きその身に浴び次々に倒れていくなのは達。 そして最後にレザードは詠唱を破棄してファイナルチェリオを撃ち放ち、その衝撃により床壁などを吹き飛ばした。 「どうしましたぁ!?この程度で終わりですかぁ!?」 レザードは尚も挑発を促しなのは達を立たせていく中、なのは達の表情は絶望に支配されていた。 此方に攻撃を仕掛ける暇も与えず、もし攻撃出来たとしても大したダメージを与える事が出来無い、 更には流浪の双神すら手玉に取られている状況、正に今のレザードは“破壊を求める者”といっても過言ではなかった。 そんな状況になのはとフェイトは塞ぎ込んでいると二人の下へ流浪の双神が駆け寄り二人に話しかけた。 「一つだけ…奴に対抗出来る手段がある……」 「えっ?それは一体?!」 「私達との融合…ユニゾンと置き換えてもいい」 二人のどちらが流浪の双神と融合する事により一時的にレザードと対等の力を得ることが出来るという、 だが神とのユニゾンは大きなリスクを伴い、下手をすれば器となった存在の魂が消滅する可能性を秘めていた。 つまりレザードとの実力差を埋めるにはそれ程までのリスクを背負わなければならないと言う事である。 すると神の話を聞いたなのはが覚悟を秘めた表情を浮かべ言葉を口にし始める。 「だったら私が―――」 「私を器にして下さい!!」 「―――フェイトちゃん?!」 なのはの決意を遮るかのようにフェイトは言葉を口にし困惑するなのは。 するとフェイトが説明を始める、なのはにはユーノやヴィヴィオなど大切な人がいる、その人達を泣かせる訳にはいかない、 だからなのはの代わりに自分が器になると告げるとなのはは反発した。 「何言ってるの!フェイトちゃんにもエリオやキャロが―――」 「二人なら私がいなくても大丈夫だから」 先だってのスカリエッティとの戦いで見せた二人の決意、それを耳にしたフェイトは二人が自分の下を巣立ったのだと確信した それになのはは自分の命を救ってくれた、その恩を返す為にも今ここで自分が器になる、そう覚悟を決めたのだという。 「なのは……みんなの事をお願―――」 次の瞬間なのははフェイトに当て身し気絶させると、悲しい表情でフェイトを見つめるなのは。 いくらフェイトの願いであってもそれを受け取ることは出来なかった、何故ならレザードとは自分の手で決着をつけたかったからだ。 ホテル・アグスタを始め地上本部での二度の敗北、そしてヴィヴィオを誘拐され絶望の淵に追いやられた。 それらを払拭する為にも自分の手で行わなければならないと覚悟を決めていたのだ。 「……良いのだな?」 「覚悟はもう…決まってるの!」 なのはの決意ある瞳を見た流浪の双神は小さく頷き、気絶するフェイトから離れ三人はレザードに近づくと、今度は流浪の双神がなのはとある程度距離を置く、 そして足下に巨大な三角形が三つ均等に並ぶ魔法陣を張り巡らせると、今まで沈黙を守っていたレザードが見下ろす形で言葉を口にする。 「まだ悪足掻きをするつもりですか?」 「言ったの…私は諦めが悪いって!!」 するとなのは足下に流浪の双神と同じ桜色の魔法陣が張られ輝き始めると、それに呼応するように流浪の双神の魔法陣も力強く輝き出す、 そしてその輝きは一種の壁となり三人は声を合わせて言葉を口にした。 『ユニゾンイン!!』 「何ぃ?!」 流石のレザードも驚きの表情を浮かべていると、流浪の双神はそれぞれ赤と青のエネルギー体になり更に球体に変化、 魔法陣ごとなのはに近付き胸元に吸い込まれていくようにして収まると、次の瞬間大量の桜色の魔力が天井を突き破るかのようにして溢れ出し魔力がゆっくり収まっていく。 其処には背中に桜色の六枚の翼を生やし胸元の黒い部分は透けて谷間が強調されたロングスカート型のバリアジャケット 足下は金で装飾された金属製のハイヒール型の具足に変わり外側の両足首部分からは桜色の翼が生え、 結っていたリボンが無くなり髪型はストレートヘアー、更に桜色の天使の輪が浮かんでいた。 そしてレイジングハートは力強くまるで冷え切っていない溶岩のように赤いクリスタルが輝き、 ストライクフレームから現れる魔力刃は鋭く分厚く左右からは四枚の小さな翼が生えていた。 なのはの変貌にレザードは依然として唖然した表情を隠せないでいると、 今まで瞳を閉じていたなのはの瞳が開き、金色に輝くその瞳でレザードを突き刺すように睨みつけた。 「覚悟っ!!」 「一介の小娘が神とユニゾンだと……いいだろう相手をしてやろう!!」 するとレザードは、まるで北極星を思わせるようにして力強く輝き白金のような色と化した魔力を高めていき、 一方でなのはは自分の体を確かめるかのようにして体を動かし、レイジングハートの先端をレザードに向けて対峙する。 いよいよ戦況は最終局面を迎えるのであった……… 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/152.html
それは小さな思いでした。 新たに始まる私達の日々。 決めたのは、戦う事を諦めない事。 誓ったのは、昨日よりももっと強くなる事。 走り出した復讐のプログラミング。 もう、二度と大切な人を傷付けないために。 宇宙の騎士リリカルなのはBLADE…… 始まります。 ピピピピピピピッ…… 鳴り響く目覚まし時計のアラーム音。 「……ん。」 はやては時計をパシッと叩き、アラームを止めた。 明るい朝日が差し込み、今日もいつも通りの日常が始まる。 起き上がって横を見ればヴィータはすやすやと寝息をたたて眠っている。 はやてはクスッと笑いヴィータに布団をかけ直し、そのままリビングへと向かった。 「……ん……あ?」 リビングのソファで眠っていたシグナムは、キッチンから聞こえる音に目を覚ました。 「ごめんな、起こした?」 「あ……いえ。」 キッチンで朝食の準備をしていたのははやてだ。 「ちゃんとベッドで寝やなあかんよ?風邪ひいてまう」 「す、すみません……」 シグナムは自分にかけられた毛布をたたみながら謝罪する。 「シグナム、夕べもまた夜更かしさんかぁ?」 「あ……あぁ、その……少しばかり……」 シグナムの答えに「ふふっ」と笑うはやて。 間違っても闇の書を完成させる為にリンカーコアを蒐集していた等とは言えない。 「はい、ホットミルク。ザフィーラのもあるよ」 「ありがとう…ございます。」 シグナムははやてから差し出されたホットミルクを両手で受け取り、礼を言う。 「すみません、寝坊しました!」 そうこうしていると、今度はシャマルがエプロンを付けながら急いでリビングに入ってくる。 「おはよう、シャマル」 「……ああ、もう……ごめんなさい、はやてちゃん!」 シャマルはあいさつと同時に謝罪しながらキッチンに入る。もちろんはやては「ええよ」と笑う。 「おはよう……」 次にリビングに入ってくるのはシンヤだ。 「おはよう……ってなんや、シンヤも夜更かしさんか?」 「ああ……まぁね。それより、ホットミルクはあるかい?」 やはりはやてにはすぐに見破られてしまうのか。返事を返しながら着席し、ホットミルクを要求するシンヤ。 「あ……シンヤくん、その前に顔洗ってきなさい!」 それを聞いたシャマルは腰に手を当て、まるで母親のように言う。 「朝からうるさいなぁ、もう洗ったよ」 「あはは、流石シンヤやなぁ。はい、あったまるよ」 「ああ、ありがとうはやて」 シンヤの返答を聞いて笑いながらホットミルクを差し出すはやて。シンヤも「ふふ……」と笑いながら受け取る。 「(あったかい……な。)」 シンヤは手に持ったホットミルクを見つめる。そうしていると、人間だった頃の記憶が甦ってくる。 普通の家と何も変わらない朝食の風景。そこにいるのは父さん、ケンゴ兄さん、ミユキ、フォン、そして…… タカヤ兄さん。 思い出した途端に、シンヤの中から何かが込み上げてくる。自然にカップを持つ手が震えてくる。 「(タカヤ兄さん……いや、ブレードッ!)」 強くカップを握りしめ、それにより中のミルクが振動する。そして憎しみの次に込み上げる感情は、喜び。 「(ククク……ブレードは今頃……)」 考えれば考える程笑みがこぼれる。はやて達に気付かれはしないが、ちょっと危ない笑いだ。 第4話「ペガス発進!新たなる力、起動!」 それは昨日の出来事。 「ハッハハハハハ……アーハッハッハッハッ!」 笑いながらクロノから離れてゆくエビル。 しかし…… 「……ん?」 エビルの周囲から現れた、輝く鎖のような物が自分目掛けて飛んでくる。これには見覚えがある。 「人間共が使うバインドとか言う奴か……」 クロノの目の前で堂々と去ろうとしているエビル。もちろん執務官として逃がす訳にはいかない。 ましてやエビルは闇の書に関わる者。クロノとしても尚更逃がす訳にはいかない。 テッカマンとまともに戦っても勝ち目は無い。なら、バインドで何重にも拘束し、 動きを封じて転送する。今がそのチャンスかもしれない。いや、今しか無いというべきか。 詠唱を終え、『ディレイバインド』を発動するクロノ。エビルの周囲に現れた鎖はエビル目掛けて飛んでゆく。 しかし…… 「消え……ッ!?」 目の前のエビルが消えた。そして一瞬、クロノの肌を風が掠めた。 「(まさか……)」 そして背後から感じる何者かの気配。クロノは恐る恐る後ろを振り向く。 そこにいたのは、自分の首筋辺りにテックランサーを突き付けて立っているエビル。 「……ッ!?」 「お前、死にたいのか?」 「何を……!」 「せっかく見逃してやろうと思ったけど……そんなに死にたいなら望み通り殺してやるよ!」 エビルはテックランサーを振り上げる。それを見て「殺される!」と思ったクロノは反射的に目をつむる。 「(………な?)」 しかし、テックランサーが自分に突き刺さる事は無かった。 ゆっくりと見上げれば、エビルはテックランサーを振り上げたまま静止している。 「…………。」 『(くれぐれも、殺さないでね。)』 エビルの脳裏をよぎるシャマルの言葉。 こんな虫けら一人、殺そうと思えば一瞬だ。だが、それはできない。してはならない。 ブレードならまだしも、こいつはただの人間だ。 「チッ……今回だけは見逃してやるよ。」 「……な!?」 「ただし……これが最期のチャンスだ。次は無いと思え……!」 「…………!」 エビルの恐ろしい声に返す言葉を失うクロノ。さすがのクロノでも死の恐怖を感じたのは初めてだった。 「それより……ブレードを追い掛けたらどうだ?」 さっきの恐ろしい声とは打って変わり、今度は少し楽しそうに言うエビル。 「……なに!?」 「ククク……行ってやれよ?楽しい事になってるかもなぁ」 最後にそう言い、また笑いながら立ち去ってゆくエビル。 「(ククク……『俺は』殺さないさ。後は知らないけどねぇ……)」 エビルはそう思いながらまた楽しそうに歩き始めた。 「そうだ……Dボゥイ!」 クロノはエビルが見えなくなった頃にやっと正気を取り戻し、空に上がる。まずはエビルが言うようにブレードを追うのが先だ。 「……にしても、なんでこんな時に!」 こんな非常時に敵から逃げ出したブレードに対し愚痴を零しながらクロノは捜索を開始した。 ハラオウン家、クロノ自室。 現在、クロノは通信中。相手はレティ提督だ。 内容は、グレアム提督の口利きのお陰で武装局員の指揮権が借りられた、という話。 『それはそうと……』 「何ですか?レティ提督」 『Dボゥイの様子はどう?』 「……はぁ。今はアースラで眠ってますよ……」 クロノは少ししかめっ面をして答える。 『そう……昨日は散々な目にあったみたいね?』 それを見たレティはクスクスと笑いながら言う。まぁ昨日といっても正確には今日だが。 「はぁ、もう……死ぬかと思いましたよ……まったく。」 『フフ……まぁ助かって良かったじゃない』 「……それはそうですけど……」 言いながらかなり不機嫌そうな表情をするクロノ。 ここで再び回想シーンだ。 「……Dボゥイ!!」 クロノはブレードの捜索を開始してすぐにブレードを発見、地面に佇むDボゥイに呼び掛ける。 「聞こえないのか、Dボゥイ!」 今度はさらに接近して呼ぶ。それに気付いたブレードはゆっくりとクロノへと目線を向ける。 この時、ブレードの瞳の色が赤くなっていることにクロノは気付かなかった。 「一体どういうことなんだDボゥイ!理由の無い敵前逃亡なんて……ッ!?」 言いながら歩み寄るクロノの動きが止まった。ブレードはクロノの目の前で肩から二本のテックランサーを出し、連結したのだ。 「D……ボゥイ?」 「うおおおおおおッ!」 テックランサーを振り回し、クロノに襲い掛かろうと走ってくるブレード。 クロノは咄嗟に空に飛び上がり回避する。 「何をするんだDボゥイ!」 「うおお!おおおおお!」 言葉は通じず、さらにクロノに追撃しようとするブレード。もちろんクロノは全力全開で逃げる。 「くそッ……本当にデンジャラスボゥイだな、キミは!」 クロノはしばらく逃げ続け、いよいよもってキレかけていた。逃げながらブレイズキャノンの発射準備に入り…… 「クソ……なんでこんなこと……」 クロノの中で何かが弾けた。意識を集中させるクロノ。 そして一気に急降下……いや、落下する。ブレードもそれを追うためすぐに急降下。 「うおおおおおおッ!!」 ブレードは叫びながらクロノの顔面を狙ってテックランサーを振るう。しかしクロノはそれを顎を上げて紙一重で回避。そして…… 「何なんだアンタはァーーーーーーーーーッ!!」 『ブレイズキャノン』 急降下してきたブレードの腹にS2Uを突き付け、零距離でブレイズキャノンを発射。 お互いに落下する。 「……やったか?」 ダメージは与えられないまでも衝撃は伝わったはずだ。そう思いブレードを見る。 しかし、やはりブレードは無傷。普通に立っている。クロノは「ダメか」と思った。しかし…… 「うおおおおおおッ!」 「何!?」 次の瞬間、ブレードはまた両手で頭を抱えて苦しみ出したのだ。 本当に苦しそうにもがき苦しみ、そして最後はその場に倒れた。 「Dボゥイ?」 「…………。」 返事は無い。ブレードは死んだように動かない。 やがてブレードの体は緑の光に包まれ、人間の姿に戻った。 その時、近くに割れた緑のクリスタルが落ちていたという……。 『……で、拘束されてアースラに転送されたわけね』 「はい。まったく、Dボゥイの奴一体何考えてんだか……」 話をまとめるレティ。クロノは大きな溜め息をつきながら答えた。 「お、クロノ君。どう?そっちは」 部屋から出てきたクロノに、リビングで冷蔵庫を漁っていたエイミィが話し掛ける。 「武装局員の中隊を借りられたよ。そっちは?」 「よく無いね~。夕べもまたやられてる」 エイミィは昨晩の被害について説明する。昨日は魔導師が十数人、リンカーコアを持つ野性生物が5匹。 いずれもリンカーコアを奪われており、野性生物の内一匹はエビルが倒した龍だ。 「そういえば、Dボゥイ……目が覚めたらしいよ」 「そうか……。」 エイミィはリモコンのボタンを押し、さっきまで空中に表示していた闇の書の画像を別の画像に切り替えた。 「……これは?」 表示されているのは緑のクリスタル。だが、割れてしまっている。 「うん、Dボゥイが変身……テックセットだっけ?に使うクリスタル。」 「……でも、割れてるぞ?」 「うん……これが割れちゃったらもう……テックセット、できないらしいよ……」 「……そんな!」 クロノは耳を疑った。いきなり逃げ出して、いきなり襲い掛かって、いきなりテックセット不能なんて……訳がわからなさすぎる。 「……とりあえず今、艦長が事情を聞いてるらしいよ」 「…………。」 アースラ、面会室。 ガチャリとドアノブを回す音が聞こえ、リンディが入ってくる。 「Dボゥイ……。」 「…………。」 Dボゥイは何も言えない。 「理由の無い敵前逃亡……それにクロノ執務官に襲い掛かった理由、聞かせて貰えるかしら?」 「…………。」 数時間後。 「あ、メール……」 携帯の着信に気付いたなのは。 相手はクロノだ。どうやらレイジングハートとバルディッシュは来週には修理が終わるらしい。 それともう一つ、フェイトに「寄り道は自由だが夕食の時間には戻ってくるように」と伝えて欲しいとの事。 なのははレイジングハートの復活を心待ちにしながら、フェイトやアリサ達と思い思いの時を過ごす 同刻、八神家。 「カートリッジか?」 シャマルがカートリッジに魔力を込めていると、目の前で壁にもたれているシンヤが話し掛けてくる。 「うん、昼間のうちに造り置きしておかなきゃ」 シャマルが答える。 「大変だね。一人で任されっぱなしで」 「ううん、バックアップが私の役割だからね。これくらい平気よ」 カートリッジを眺めながら笑顔で言うシャマル。 「そうか。ま、俺には造れ無いしね」 「それに、お前にカートリッジは必要無いからな」 今度は外出準備中のシグナムが上着を着ながら言う。 確かにテッカマンには魔力もカートリッジも全く関係無い。 「まあね。シグナムはこれからはやてのお迎えかい?」 「ああ。お前も来るか?」 「遠慮しとくよ。俺が行く意味が無いからね。」 シンヤはシグナムの誘いを断る。 別段はやてを嫌いな訳でも無いが、ただ迎えに行くだけならわざわざ自分が行く必要も無い。 シグナムは「そうか。」と言い、そのまま部屋を出た。 一方、再びアースラ。 「Dボゥイ……そろそろ答えてくれないかしら?悪いようにはしないから……」 「…………。」 ずっとだんまりを決め込むDボゥイにリンディは半ば諦めかけていた。その時…… 「俺は……」 「……?何、Dボゥイ?」 「俺が、人の心を保っていられるのは、テックセットしてから30分が限界だ。」 「……え?」 予想外の展開にキョトンとした顔をするリンディ。 「テックセットしてから30分が経過すれば、俺の心はラダムに支配され、身も心もあの化け物になってしまう。」 「そんな……!?」 リンディはあまりにショッキングな事実に口を塞ぐ。 「だから……30分が経過して、できるだけクロノから離れようとしたのね……?」 「…………。」 「でも……それならどうして貴方はまた人間に戻れたの?」 ここで疑問に思った事を質問してみるリンディ。 「恐らく、暴走する直前にエビルのPSYボルテッカを受けて体力を消耗していたからだろう」 「…………。」 今度はDボゥイの説明に言葉を無くすリンディ。 「いいえ……きっと違うわ。」 「何?」 「貴方がまた人に戻れたのはきっと、貴方が人でありたいと願ったからよ」 リンディの言葉に驚くDボゥイ。まさかこんな風に言われるとは思っていなかった。 「貴方は化け物なんかじゃないわ。だって、ちゃんとこうして戻って来れたじゃない」 「……だとしても、変身できなくなった俺にはもう生きる意味なんて無い」 「……そんなこと言っちゃダメよ。生きてる事に意味があるんだから……」 突然ネガティブな話をしだしたDボゥイ。リンディは戒めるように説得を試みる。 「……仮に変身できたとしても……もう戦いたく無い。」 「……どうして?」 「こんないつ化け物になるか解らない奴がいても迷惑なだけだろ……」 「…………。」 Dボゥイの話を聞きながら黙って深く息を吸い込むリンディ。 「それに、俺はもう誰も傷付けたく無い。これ以上戦ってまた皆を……」 「い い 加 減 に な さ い ッ ! !」 「……!?」 リンディは大きな声でDボゥイを制した。それこそ他の部屋にまで聞こえるくらいの、特大の声で。 「さっきから聞いてれば化け物だとか傷付けるとかって……あなたは誰も傷付けたりしてないじゃない!」 「傷付けてからじゃ遅いんだよ!俺みたいな化け物、いつ仲間を襲うかわからない!」 「いいえ、貴方は人間よ!化け物なんかじゃ無いわ!」 「……何と言おうが、俺にはもう変身能力は無い!もう戦え無いんだよ!」 「…………!!」 しばし流れる沈黙。リンディも黙ってしまう。いや、何か考えがあるのだろうか? 「……わかりました。」 「…………。」 だが今度はやけにあっさりと引き下がる。そのままリンディは席を立ち、面会室を後にした。 本局、メンテナンスルーム。 ピピピピピピピピッ バルディッシュとレイジングハートの改修作業を進めていたマリーの元に通信が入る。 「誰だろ……?」 言いながらボタンを押し、相手をモニターに映す。 『久しぶりね、マリー』 「あ……お久しぶりです、リンディ提督!どうしたんですか?」 相手はアースラ艦長リンディ・ハラオウン。 『それが……ちょっと急ぎの用なのよ』 「はぁ……。」 『とりあえず、今から送るデータを見て頂戴。』 「あ、はい。」 マリーは受信したデータを見る為にボタンを押す。 同時にモニターに割れた緑のクリスタルと、そのデータが表示される。 「これは……テッククリスタル?……ですか?」 表示されている名前を読み上げるマリー。 『ええ、その割れたクリスタルを元通りに直して欲しいの。できれば一週間以内で』 「ええ!?む、無茶ですよ……こんな複雑なデータ……ロストロギア級じゃないですか!!」 モニターに表示されているだけでもテッククリスタルのデータは膨大な量となっており、それでもまだ未知の部分が多いという。 『そこをなんとかお願い!今必要なのよ、コレ……』 「う~ん……」 う~んと唸り、しばらく考えるマリー。 「……わかりました。完全に元通りになる保証はありませんけど……」 『ありがとう、感謝するわ!』 数分後、マリーの元にテッククリスタルが転送される。 「さてと……どうしようか……」 割れたクリスタルを眺めるマリー。 「そうだ……アレなら……」 何かを思い出したマリーは、ぽつりと呟いた。 その日の晩、ハラオウン家。 「……Dボゥイ、入るよ?」 言いながらDボゥイの部屋に入り、パチッと電気をつけるフェイト。 「ねぇ、Dボゥイ……」 「……何だ。」 ふて腐れたようにベッドに寝転がったまま素っ気ない返事を返す。 「その……変身、できなくなったんだって……?」 「ああ、その通りだ。戦え無い俺に生きる意味なんて無い」 気まずそうに話を持ち掛けるフェイトに、Dボゥイは冷たい口調で返す。 「前にDボゥイ……ラダムを倒すのは使命だって言ってたよね……?」 「…………。」 「その……ラダムって何なのかイマイチよくわかんないけど、Dボゥイの気持ち……わかるよ」 「……お前に何がわかる?」 Dボゥイはフェイトの顔を見ず、窓を向いたまま答える。 「使命……目的の為に、強い意思で自分を固めちゃうと、周りの言葉が入らなくなるから……」 「…………。」 「そうなっちゃうと、使命を果たすまでは一歩も後に引けなくなる……。」 Dボゥイは黙ってフェイトの話を聞く。 「……それが間違ってるかもって思っても……疑っても……」 「…………。」 「だけど、絶対間違って無いって信じてた時は……信じようとしてた時は……誰の言葉も入ってこなかった。私がそうだったからね」 「お前……」 ここで始めて振り向き、フェイトと顔を合わせたDボゥイ。 それはかつてのフェイト自身の話。フェイトは母親であるプレシア・テスタロッサの命令に従い、その使命の為になのは達と戦い続けた。 「だからこそ、その使命が果たせ無くなったら……拠り所を無くしちゃったら……どうしていいのかわかんなくなっちゃう……」 フェイトはかつて母親の為に戦い続けたにも関わらず、その母親に見捨てられ、自分を見失いかけた。 当時のフェイトは、使命を見失った今のDボゥイと似ていると、そう言いたいのだ。 「Dボゥイのとはちょっと違うかもしれないけど……強い心で、想いを貫けば……」 「ミユキ……」 「……え?」 Dボゥイがぽつりと呟いた言葉に「え?」という顔をするフェイト。 「……いや、何でもない。」 「………。」 「……少し、フェイトの姿が死んだ俺の妹の姿と被ったんだ。」 妹?そんな話初耳だ。気になったフェイトはそれについて言及することにした。 「Dボゥイ……妹いたの?」 「ああ……元の世界でな……」 それからフェイトはしばらくDボゥイの妹……ミユキについての話を聞いていた。 自分と年が近い事や、優しい性格だった事など、色々だ……。 「Dボゥイの様子はどうだった?」 「うん……まだしばらくは落ち込んだままかな……」 リビングに戻って、クロノに報告するフェイト。 妹の話など、今まで言わなかったような話をしてくれるあたり、少しずつだが心を開いてくれている。そう考えると、やはり嬉しかった。 「……あれ?」 だが、フェイトはそこで一つの矛盾に気付いた。 「Dボゥイ……記憶、戻ったのかな……?」 妹の話をするという事は記憶が残っているということになる。 つまり、Dボゥイは少しずつだが記憶を取り戻しつつあるのか…… もしくは、「最初から記憶を失ってなどいない」のか…… 一週間後。 この一週間、海鳴市に住む者は皆、思い思いの時を過ごした。 なのはは毎日魔法のリハビリに勤しみ、本局でもバルディッシュとレイジングハートの改修が進む。 そしてその間にもシンヤを含めたヴォルケンリッターはリンカーコアの蒐集を続ける。 一方、Dボゥイはやり切れない思いで葛藤を続けていた。 ラダムは憎い。だがまたいつ仲間を襲うか解らない為、戦うのが怖い。さらにテックセットも不能ときた…… 「ありがとうございましたー!」 本局の医務室からなのはが出てくる。すると、「なのは!」と呼びながらユーノ、アルフ、フェイトが駆け寄ってくる。 「検査結果、どうだった?」 「無事、完治!」 アルフの質問に笑顔で答えるなのは。魔力は完全に回復したらしい。それを聞いてフェイト達も笑顔になる。 「こっちも、完治だって!」 フェイトとユーノの手に輝くのは、赤い宝石と黄色い宝石。レイジングハートとバルディッシュだ。 「そう、よかったぁ!じゃあ戻ったら、レイジングハートとバルディッシュの説明しなきゃね」 二機のデバイスとなのはが完治したとの報を受けたエイミィは通信相手に喜ぶ。 「それから……Dボゥイにはこっちも説明しなきゃね……」 隣のモニターを見るエイミィ。そこに映し出されていたのは青い巨大なロボット。この世界的には傀儡兵というべきか。 「ふふ……Dボゥイ、驚くだろうな……ってコレ!?」 突如、警報が鳴り響く。モニターにはアラートの文字。要するに緊急事態だ。 「……管理局か。」 「でも、チャラいよこいつら?」 ザフィーラとヴィータ、それとエビルが大勢の武装局員に囲まれていた。 「ふん……こんな奴ら相手にしたってつまらないよ」 だがエビルは余裕な態度だ。ブレードがいない今、この世界にエビルを楽しませる相手はいないのか…… しかし、次の瞬間周囲の局員は一斉に撤退し…… 「上だ!」 「スティンガーブレイド、エクスキューションシフト!!」 ザフィーラの声に上を向けば、そこにいるのは青く輝く大量の剣を従えたクロノ。 次の瞬間大量の剣は三人に向けて降り注ぎ、爆発。 眩しい光と爆煙が立ち込める。 「少しは、通ったか……!?」 はぁはぁと息切れしながら言うクロノ。しかし、ザフィーラの腕に何本かの剣が刺さっただけで、 特に大きなダメージを与えた様子は無い。しかもその剣もすぐに抜かれてしまう。 一方、アースラ。 「クロノ君、今助っ人を二人転送したから!」 『……なのは、フェイト!?』 エイミィの言葉に下を振り向くクロノ。そこにいるのはなのはとフェイト。もう完治したのかと驚くクロノ。 そして二人は新たなデバイスの名を叫ぶ。 『レイジングハート・エクセリオン!!』 『バルディッシュ・アサルト!!』 二人の体はピンクと黄色の光に包まれ、バリアジャケットの装着が完了。 二人は新しくなったデバイスを構えた。 「どうDボゥイ?あの子達の新しい力。」 「……俺には、関係無い。」 モニター越しに二人を見ていたDボゥイに話し掛けるリンディ。 「やっぱり……戦うのが怖いの?」 「ああ、その通りさ。第一今の俺は変身できない。行っても足手まといになるだけ……」 「そうでも無いっスよー!」 リンディに答えるDボゥイの言葉を遮り、大声で言うエイミィ。 「何だと?」 「Dボゥイはテックセットできるよ!」 「馬鹿な……クリスタルが無いのにどうやって?」 その質問に対し、「ふふん」と笑いながら目の前のパネルをカタカタと叩くエイミィ。 そして表示された画像。それは格納庫らしき場所に保管されている青いロボット。 「これは……!?」 「よくぞ聞いてくれましたぁ!機動兵ペガス、Dボゥイのテックセットを可能にするサポートロボだよ!」 エイミィの言葉に驚いて言葉も無いDボゥイ。 「これ元は作業用のロボットなんだけど、一週間でここまで改修するのは大変だったのよ?」 リンディが「ふふふ」と笑いながら言う。 「だが、テックセットができたとしても……もう俺は戦いたくない!」 モニターを見れば、なのは達は相手の守護騎士と何か喋っている。エビルは腕を組んで黙っているようだが…… 「もう嫌なんだ……俺が弱いせいで……俺の力が足りないせいで、これ以上誰かが傷付いていくのは……!」 「Dボゥイ……」 「大丈夫よ、Dボゥイ。」 リンディが優しい口調で言う。 「貴方は強いわ。だって、強い心を持っているもの」 「……提督。」 俯いていたDボゥイはゆっくりと顔を上げる。 「そうだよ!今までだって、ちゃんと戦ってきたじゃない!」 「……エイミィ。」 今度はエイミィだ。 「そりゃあ、人間は誰だって一度くらい失敗するわ。でも、それで諦めちゃダメよ!」 「だが……俺は……」 「いい?貴方は化け物なんかじゃないわ。れっきとした人間よ!」 「……俺は……。」 確かに今自分が行かねば、なのは達がヴォルケンリッターを倒せたとしてもエビルにまで勝てる保証は無い。 「それに、もしまた暴走しても私達が絶対元に戻すから!」 エイミィが自信に満ちた表情で言う。何故か信じてみたくなるような、そんな笑顔だ。 エイミィとリンディの激励に心を揺さぶられつつあるDボゥイは、俯きながらぎゅっと拳をにぎりしめる。 『強い心で、想いを貫く。』 さらに、あの日のフェイトの言葉がDボゥイの脳裏をよぎる。 もうDボゥイの答えは決まっていた。 いや……最初から決まっていたはずだ。家族や友人がラダムのテックシステムに取り込まれたあの時から。 さっきまでのDボゥイはただ、その決意から逃げていただけ。 そして…… 「俺は……俺はッ……!!」 次の瞬間、Dボゥイは転送ポートを目指して一気に走り出していた。それを見たリンディとエイミィはニコッと笑いアイコンタクト。 「お待たせしました!機動兵ペガス……発進ッ!!」 パネルのボタンを押すエイミィ。それと同時にDボゥイはアースラから姿を消した。 「話し合いをしようってのに武器を持ってやってくる馬鹿がいるか、バァ~カ!」 「いきなり襲ってきた人がそれを言う!?」 上空からグラーフアイゼンを突き付けるヴィータに、なのはが反論する。 「この感覚は……まさか……!」 しかし二人のやり取りを無視して割り込むエビル。 「あ?どうしたんだよシンヤ?」 「まさか……ブレードか?」 エビルの態度がいつもと違う事に気付いたザフィーラとヴィータ。 「いや……まさか……ブレードはもう……!」 小さな声でブツブツと驚きの声をあげるエビル。ブレードはもはや完全にラダムと化したはずだ。 まさかまたここに現れるなんてことは有り得ないはずだ。 しかし、エビルの予感は的中することとなる。 近くに現れた魔法陣から現れたのは見覚えのある男……。 「Dボゥイ!?」 「Dボゥイさん!」 「あいつ……ブレードの野郎か!」 フェイト、なのは、ヴィータもそれぞれに驚く。もちろんフェイトとなのはは嬉しそうな表情で。 「ク……ククク……兄さぁん、流石だよ兄さぁん!!ラダムの支配を脱したんだね!?」 そしてエビルは両手を広げて笑い出す。 「Dボゥイ、もう大丈夫なの……!?」 「ああ、俺はもう迷わない! ……エビル!俺は貴様らテッカマンを一人残らず滅ぼすまで戦い続ける!」 フェイトに返事を返しながらエビルを指差すDボゥイ。エビルも実に楽しそうだ。 「フン、いつラダムに支配されるか解らない兄さんにそれができるかな?」 「黙れエビル!俺は確かに人間では無いかも知れない……!」 その言葉になのはとフェイトは顔をしかめる。 「……だが、貴様らの様に人の心まで捨てはしない!俺は……俺はァッ……!!!」 次の瞬間、少し離れた空中に魔法陣が現れ、中から青いロボットが飛んでくる。 「テッカマンブレードだッ!ペガァスッ!!」 言うと同時に一気に飛び上がり、大きな声で青いロボットの名を呼ぶDボゥイ。 ロボットの名は『ペガス』。 ペガスの背中が開き、中に人一人が入れるスペースが現れる。 『マッテイマシタ。騎士ブレード』 「行くぞ、ペガスッ!!」 『ラーサッ!!』 そしてDボゥイがペガスの内部に入り、再び閉じる。次の瞬間にはペガスの頭部が変型。 そして中から現れたのは紛れも無い『テッカマンブレード』だった。 「また変身できたんだね!」 「クリスタル……直ったんだ!」 なのはとフェイトも嬉しそうな、ヒーローを見るような目でブレードを見る。 ブレードはすぐにペガスの背中に飛び乗り、連結したテックランサーを振り回しながら回転させ、構える。 そして…… 「テッカマンブレェーーードッッ!!!」 テックランサーを構え、大きな声でその名を名乗った。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3482.html
FF8inなのは クロス元:ファイナルファンタジーⅧ ~Prologue~「壊れた日常」 第一話「start」(全ての始まり) 第二話「move」(動き出すとき) 第三話「A new life」(新しい生活) 第四話「The rest time」(休憩の時間) 第五話「Battle start」(戦いの始まり) 第六話「cool face,heat soul」(冷たい顔、熱い魂) 第七話「Squall`s lesson」(スコールの特訓) 第八話「Sacrifice for victory」(勝利のための犠牲) TOPページへ このページの先頭へ アルティミシア城のボスも出して欲しいです! 特にコキュートスとドルメン -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-06-29 16 35 56) この語の展開では絶対に必要なので出すつもりです。お楽しみに!! -- レオンハート (2010-06-30 22 05 37) ティアマト…ダークフレアの威力はともかく、苦戦した覚えは無いですね…いかんせん遅すぎる。 …コキュートスは召喚魔法以外には反撃してくるから、キャロかルーテシアの独壇場? -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-06-30 22 28 15) 僕はオメガウェポンとアルテマウェポンに苦戦しました。一応、コキュートスとドルメンはスコールとフェイト、なのはのパーティーで行くつもりです。 -- レオンハート (2010-07-01 18 45 17) 単純な砲撃や格闘だけでなく、ジャンクションを利用したトリッキーな戦い方こそスコールの魅力だと思っています。セイレーンやケルベロスなどの特殊系GFに期待してます。 -- 名無しさん (2010-07-01 20 36 19) とりあえずさ、ちゃんと本スレに投下した後にssは保管庫に収録した方がいいですよ。無理なら避難所の代理投下の方に。一応ここのルールですし、守らないと余計で面倒な荒れとか起こる可能性もありますので -- 一応忠告 (2010-07-01 21 26 08) そうですね。すみませんでした。一応、避難所に保管しておきました。ご忠告、本当にありがとうございました。 -- レオンハート (2010-07-01 22 31 18) アルテマウェポンかなつかしいな~。こいつとオメガには全滅しまくったからな。8のアルテマウェポンは7とは強さが桁違いだしね。 -- 名無しさん (2010-07-02 02 05 25) オメガはともかくアルテマはそんなに強くもなかった、ジャボテンダーやトンベリキングの方が苦労しました…。 -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-07-02 06 39 00) アルテマには、最初にリヒト・ゾイレ2連発されてマジで嫌になったので、リノアとスコールでボコボコにしました。オメガはもう嫌… -- レオンハート (2010-07-02 18 11 58) 取りあえずスカとアル様が仲良くできるとは思えないんだ。どっちも自分しか生きられない世界を目指してるから。良くてgive-and-take。勿論ラストは裏切り行為。 -- 名無しさん (2010-07-02 19 33 53) ↑あの…既にJS事件は終わっていますよ。 詳しくは第三話を参照して下さい。 -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-07-02 21 24 32) あなたは本スレの職人ではないようですが -- ゼロ (2010-07-03 00 39 33) ここ最近、なぜか本スレに書き込もうとしてもケーブルがいかれてるのか設定がいけないのか、本スレ自体が見れないんです。今は、仕方なく避難所に投稿してあります。 -- レオンハート (2010-07-03 09 20 27) 保管庫に直接投下した方が早いようなので、一応運営スレに書いておいた方が無難ですよ。揉めますし -- ゼロ (2010-07-03 16 46 35) 管理局オワタorz -- 名無しさん (2010-07-03 16 52 03) 文章力が低いな…と思っていましたが7話の序盤はかなり読み応えがありました。スコール視点の書き方は面白いんですけど、リリカルキャラとの絡みになると妙に薄い感じがします。スコールの性格上難しいと思いますが、頑張って完結させて下さい。 -- 名無しさん (2010-07-03 20 09 01) …オメガウェポンはゼルが居ないと辛かったです。 ところで、オメガウェポンはデスは使わない筈ですよ。 -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-07-09 17 16 13) 最初にレベル5デスを使ってきますよね。ちょっとここではレベルという観念が使えないのでただのデスにしました。 -- レオンハート (2010-07-10 09 35 45) オメガウェポン戦はもう少し引っ張ってもよかったのでは? -- 名無しさん (2010-07-10 19 28 57) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2682.html
「行くぜ! 俺の必殺技……パート2!!」 ――Full Charge―― 電王の掛け声に応えるように、チャージされたフリーエネルギーがデンガッシャーの剣先へと収束されて行く。 チャージが完了し、デンガッシャーから離れたオーラソードは、周囲のワームの身体を切り裂きながら飛んで行く。 電王が振るうデンガッシャーに合わせて、空を舞うオーラソードは滑るように飛んで行くが―― 「えぇっ……!?」 『Protection,EX』 その先にいたのは、高町なのはであった。 なのはの危機を察知したレイジングハートは咄嗟にバリアを展開し、オーラソードを弾く。 しかし、直撃を防ぐことには成功したが、それでも衝撃はなのは側にも伝わる。 結果、バリア毎弾かれたなのはの体は、そのまま地面へとたたき付けられることとなった。 「ハイパー……キック!!」 ――Rider Kick―― ハイパーカブトは真っ直ぐに、宙に浮かんだコキリアワームへと真っ直ぐに飛んで行く。 まるで竜巻のようなタキオン粒子を纏ったその脚は、激しい火花を散らせながら、コキリアワームを打ち貫いた。 着地すると同時に、時間は元の流れを取り戻し、展開されたカブトの装甲も元の位置へと戻って行く。 やがて、変身を解除すると同時に意識を失った天道は、過度の疲労からか、その場に倒れ込んだ。 その後、意識を失った天道は、すぐにアースラの医務室へと運び込まれた。 幸い天道のダメージはそれほど重い訳でも無く、すぐに意識を取り戻す事が出来た。 それも起きるや否や、天道の態度は相変わらずの尊大さ。 流石の加賀美もはやても、呆れずにはいられなかったという。 勿論、呆れた反面、天道がいつも通りの態度であることには安心を覚えたが。 「どう? 美味しい?」 「……んー…………」 現在は、はやてがお見舞いついでに作った料理を、天道が食べている最中である。 メニューの内容は“オムライス”。 単純で平凡な料理でありながらも、料理人の実力を見る事が出来る料理だ。 そんなオムライスを、しばらく味わった天道が出した答えは。 「……まぁまぁだな」 「うんうん、まぁまぁかぁ……って! 美味しくないんかい!!」 「……まぁまぁだな」 はやての料理に対する評価は一言のみ。“まぁまぁ”だ。 そんな天道の態度に多少の落胆を覚えたが、なんだかんだで美味しそうに食べてくれている。 まぁ、これはこれでいいのかな?等と考えながら、はやては天道を眺めていた。 ACT.20「FULL FORCE-ACTION」前編 それから数日の日をおいて。 今日も天道は、このアースラ内での生活を強いられていた。 ……と言っても最近は以前程の危険人物扱いでは無く、良太郎並の行動は許されていたが。 良太郎はたまに元の家に戻っているらしいが、まぁそんなことは天道にとってはどうでも良かった。 それよりも天道にとって最も重要なのは、今の自分がこの戦艦内でどう生きていくかだ。 そしてその答えが、天道が今まさに立っている場所にある。 目の前にあるのは、沢山の食材に、まな板、包丁、その他諸々。 そう。ここは厨房だ。アースラの食堂で、皆の料理を作る、厨房だ。 そんな場所に、天道総司は立っていた。 それも、白いエプロンを着けた―――コック姿で。 「よし、では今日も一日。旨い飯を作るぞ!」 「「「はいッ!!」」」 天道の掛け声に、厨房の料理人達は声を揃えた。 すぐに天道は自分の持ち場につき、局員達の昼食の準備を始める。 手慣れた手つきで、冷蔵庫から持って来た新鮮な野菜に包丁を突き立てて行く。 その包丁さばきは見事の一言。 素早く野菜を捌きながらも、決して形を乱すこと無く、常に一定の間隔で綺麗に捌いている。 厨房で料理を作る局員達は、目を輝かせてそんな天道の包丁捌きを見詰めていた。 さて、何故天道が食堂で料理を作っているのかと言うと―――時は数日前へと遡る。 それはある日の事だった。 いつも通りに、クロノに持って来られた料理を完食した天道。 そんな天道が、箸を見つめながら、ぽつりと言った。 「やはり……旨くないわけじゃないが……旨い訳でもないな」 「失礼な。だいたい君はそんな贅沢を言える立場じゃないだろう?」 天道の食べっぷりを黙って見ていたクロノであったが、これには流石に呆れ顔。 クロノも小さなため息を落としながら、むすっと言い返す。 一方で天道は、箸を持ったまま、何かを考えるような姿勢で食器を見詰めるのみ。 「そんなに不満なら、食べなければいいだろう? それか、君が自分で作れば――」 「――それだ」 「へ……?」 「俺をここの厨房へ案内しろ」 「…………」 クロノが言い終えるのを待たずに、天道はすっくと立ち上がった。 困ったクロノは、渋りながらも艦長であるリンディに連絡を入れ、指示を仰いだ。 結果、答えは即座に帰って来た。 「面白そうだから、いいじゃない」 と、これがリンディ・ハラオウン艦長が出した答えであった。 アースラで起こったあらゆる責任を負うべき館長である筈なのに、そんなに軽くていいのかと クロノは突っ込みたくて仕方がなかったが、どうせ自分が何を言っても無駄なのだろうと。 またしてもクロノはため息を落としながら、リンディの思いつきに付き合うことにした。 そういう訳で、早速天道は食堂へと招かれ、自慢の腕前を奮って見せた。 リンディとクロノ、二人分の晩御飯を作ることになった天道は、“味噌汁”、“鯖の味噌煮”、に、白米という非常に単純な料理を作った。 当初はあまりの平凡さに、期待外れだ何だと言っていたが――― 一口食べればそんな考えはすぐに吹き飛んだ。 天道の料理を食べた二人がどんな反応を示したのか。それは最早想像に難くない。 料理も単純ながら、二人の感想も至って単純。「旨い!」の一言。 こうして天道の料理の噂は瞬く間にアースラ内に響き渡り、翌日には厨房で実際に料理を作る立場に。 翌々日には、厨房の料理長のポジションを任せられる程になっていた。 これが、アースラ内での天道の自由な行動を許す大きなきっかけになったのは、まず間違いないだろう。 たった数日ではあったが、天道の料理を食べた人は、明らかに天道に対して好意を抱いていたからだ。 実際、この数日間、アースラの局員達はこの食堂の料理ばかりを好んで食べるようになったと言う。 と言うのも、天道の料理は、食べた者を昇天させてしまう程の美味しさなのだ。 そうなるのも当然と言えば当然だろう。 と、こうして料理長として料理を作る事になり、現在に至る訳である。 天道が野菜を刻んでいると、ふと背後から何者かの気配を感じた。 「止まれ。俺が料理をしている時、その半径1m以内は神の領域だ」 「…………」 背後の気配が止まった。流れる沈黙。 キリのいい所まで作業を終わらせた天道は、ゆっくりと背後へと振り向いた。 「なんだ、クロノか。どうしたんだ?」 天道に話しかけた相手は、他ならぬクロノ・ハラオウンであった。 当初は厨房の料理人にアドバイスでも頼まれたのかと思ったが、相手がクロノなら話は別だ。 一応形だけでも天道はクロノの指示に従っている以上、蔑ろにする訳にも行かない。 天道も警戒心を解き、エプロンを外して応対した。 「何だ。そんないつも通り真剣な顔をして」 「天道……君の処分が決まった。一緒に艦長室まで来てくれるかな。 ……あといつも通り真剣な顔って何だ。」 「気にするな……ようやくか。待ちくたびれたぞ」 クロノはどことなく心外そうに呟くが、天道はお構いなしにエプロンを脱ぎ始める。 考えてみれば、天道がクロノとこんな風に話すようになったのも、ごく最近―― とくに、暴走したカブトを、ザビーが身を呈して救った時からなのだろう。 あれ以来、天道は少しだけクロノという人間を見直したのだ。あくまで少しだけだが。 きちんとエプロンを畳んだ天道は、それをクロノに渡しながら、不敵に微笑んだ。 ◆ それからややあって天道は、クロノに案内され、艦長室の前まで連れられた。 どうやらクロノは艦長室の中まで同席する必要はないらしい。 案内を終えたクロノは、「自分の役目は終えたから仕事に戻る」と、そのまま天道の前から姿を消した。 調度クロノの姿が見えなくなると同時に艦長室のドアは開かれた。 中から、自分を呼ぶリンディ・ハラオウン艦長の声が聞こえる。 声に導かれ、天道は一歩踏み出す―――刹那、室内の予想外の和風さに一瞬とは言え天道は自分の目を疑った。 無理もない。これまで天道は、アースラ内部で機械的な部屋ばかりを見て来たのだ。 それなのに、まさか艦長室がこんなにも庶民的な部屋だと一体誰が想像しただろうか。 と言っても、天道にとって和風の空間というのはかえって落ち着ける空間なのだが。 「どうしたのかしら? 天道さん。この部屋がそんなに意外だった?」 「……ああ。少しはいいセンスをしてるようだな」 「それはどうも」 天道がこの部屋に入った瞬間から既に表情に小さな微笑みを浮かべていたリンディだが、 天道にセンスを褒められた事に気を良くしたのか、リンディはさらに上機嫌そうに微笑み返した。 いや、天道にとってはこんな会話はどうでも良い。 重要なのは、自分に下される処分についてだ。 と言っても、管理局――というよりもネイティブの連中が天道の力を必要としている以上、 天道に実害が及ぶような処分が下されるとは思えないが。 それ故に天道は、自信満々といった雰囲気で、腕を組みながら言った。 「そんな話はどうでもいい。それより、俺に下された処分とやらを聞かせて貰おうか」 「まぁそう慌てないの……処分と言うよりも、ちょっとしたお話があって呼んだだけだから」 「話だと? 言っておくが俺は、管理局に入るつもりは無いぞ」 「ええ、その話なんだけど……」 ばつが悪そうに苦笑しながら、リンディはテーブルのボタンを押した。 同時に、リンディと天道の眼前に、宙に浮かぶモニターが現れる。 天道もいい加減見飽きた技術である為に、今更驚いたりはしない。 モニターに映し出された人物は、天道の顔を見るなり、満面の笑みを浮かべ、画面に身を乗り出した。 「いやぁ~……貴方が天道さんですか! どうやら噂通りの方のようですね!」 「…………」 モニターに映る一人の男。歳は中年程。体格は小太り。 正直言って、どこにでも居そうな普通の男だ。 天道はモニターに映った男に、冷たい視線を送る。 「……どうやら噂通り、クールな方のようですね! いやぁ益々素晴らしい!」 「要件は何だ。わざわざこうして俺を呼び出したんだ。俺に何か言いたい事があるんだろう」 「いやぁ~……本当に素晴らしい、まさに天道さんのおっしゃる通り! 今回は一つ、話したいことがありましてねぇ……」 モニター画面の中で、気のいい笑顔を続けていた男の表情が変わる。 笑顔という点では変わらないが、その中にもどこか真剣な色合いを浮かべたような表情。 天道には、この男がどこか気味悪く感じられた。 「あ、その前に……私はネイティブの根岸と申します。以後お見知りおきを」 「ネイティブだと……?」 「ええ、ですがその件はまたの機会に。時間も無いので、今は天道さんへの処分だけ伝えさせて頂きます」 ネイティブという単語を耳にすると同時に、天道の目付きも変わる。 何せ今最も優先すべき謎なのだから。 天道はちらりとリンディを見やるが、リンディも申し訳なさそうにゆっくりと首を横に振るのみ。 どうやらリンディ提督ですら、ネイティブという言葉についてはあまり知らないらしい。 仕方がない……と、天道はため息混じりにモニターに視線を戻した。 「えー……結論を言わせて貰うと、天道さんにこれといった処分はありません。 そしてリンディ提督とアースラスタッフ一同には、今後は天道さんの指揮下に入って頂きます」 「「な……!?」」 不敵な作り笑顔を全く崩さないままに、根岸が言った。 対照的に、天道とリンディの二人が驚愕に表情を固める。 もちろんリンディにとってそれは不服な事なのだろうが、天道とていきなりこんなことを言われても訳が解らない。 つまりは、自分を管理局に入れるということだろうか? だとすれば、天道はそんな命令に従うつもりは無い。 というよりも、アースラのスタッフを、それほど天道は欲してはいないのだ。 自分一人でも十分戦える以上、本当に味方として信用できるかもわからないような組織を側に置く天道ではない。 と、天道がそんな事を考えていると、横に座っていたリンディが声を張り上げた。 「ちょ、ちょっと待って下さい! それは一体――」 「まぁまぁ落ち着いて! 別にリンディ提督の階級を下げるとか、天道さんを上司 として管理局に招き入れろとか、そんな事を言ってるんじゃありませんよ」 リンディの言葉を遮って、根岸が苦笑気味に続ける。 「リンディ提督以下アースラスタッフ一同には、ただ天道さんの手助けをして欲しいんですよ」 「手助けだと……?」 「ええ、貴方は今まで通り、ワームを倒してくれればいい。 そのために必要であれば、彼女達の力を借りればいいんです」 「……生憎だが、俺にそんな手助けは必要な――」 「まぁまぁまぁ! そう言わずに! あって損するものじゃないでしょう! つまり、貴方は今まで通り、我々は貴方に協力したい……そう言ってるんですよ」 またしても天道が言い終える前に、根岸が割り込んだ。 正直あっさり納得することは出来ないが、現時点では根岸の言い分に、 天道にとって損失になるような事が見受けられないのも事実だ。 もしも向こうから何らかの要求が突き付けられたなら、また話は変わって来るが。 根岸は正直言ってZECTの加賀美総帥や三島と同じくらいに胡散臭い。 だが、根岸が自分の力を必要としていることに恐らく嘘はないのだろう。 ならば、こちらから利用してやるまで。 以上の点を踏まえて、暫く考えた後、天道は結論を出した。 「……いいだろう。ただし、俺の邪魔だけはしない事だな」 「えぇ、はい、それはもちろんです! リンディ提督も、分かってますね……?」 「……わかりました。私たちは今まで通り、仮面ライダーと協力して敵を倒せばいい……ということですね?」 根岸の問いに、リンディは少し表情を曇らせながら、答えた。 まぁ根岸のような胡散臭い男にいきなりこんなことを言われれば誰だってそうなるか、 などと考えながら、天道もリンディの顔を見つめる。 リンディに言わせれば、天道もまた仮面ライダーの一人。 ならば、今まで通り仮面ライダーをサポートすればいいと判断したのだろう。 リンディの答えを聞いた根岸もまた、満足そうな笑顔を浮かべ、大きく頷いた。 こうして、結果的に天道は無罪放免。 それどころか、アースラスタッフという心強い味方を手に入れる事になるのであった。 ◆ 天道が食堂に戻った時には、局員達の朝食も終わり、人影も少なくなってきた所だった。 食堂に見えるのは、サボり癖があるのか仕事が暇なのかは知らないが、のんびりと朝食を食べている数人のみ。 そんな人々も次第に食事を終え、自分の持ち場に戻って行く。 そんな中で、段々と人が居なくなってゆく食堂を見守っていた天道の目に、明らかに不自然な姿をした一人の男が映った。 鋭く尖った二本のツノを持ち、頭から足先まで全身真っ赤っかという異様な姿を持った怪人。 野上良太郎に取り憑いた、赤鬼の姿をモチーフとしたイマジン。 名前は―――モモタロスというらしい。 どうやら初陣の時から、良太郎がイメージしていた桃太郎と、このイマジンのイメージが一致していたらしい。 そんな理由で、いつからかモモタロスと呼ばれるようになったこのイマジン。 本人はそんな名前のセンスに非常に不服そうだが。 良太郎に取り憑いたばかりのモモタロスは、誰とも打ち解けようとはしない。 ただ、たった一人でふて腐れたように食堂の椅子に寝そべっていた。 傍らに置かれたコーヒーは既に冷めている様子で、どうやらモモタロスは長時間ここでダラけていたのだろうという事が伺えた。 ◆ 良太郎や他の局員達にいつの間にやらモモタロスと名付けられたこのイマジンは、 何をするでもなく、ただぼーっと天井を眺めていた。 モモタロスは今、非常に苛立っていた。 良太郎という特異点の少年に取り憑いてしまった事に関しては、今はそれほど悔やんではいない。 寧ろ、イマジンとして過去を侵略するよりも、正義のヒーロー電王として、侵略者を倒す方が、段違いにカッコイイ。 元々派手にカッコよく戦いたかった彼にとっては、電王として戦えるという事はプラスなのだ。 1番の問題はその後。電王としての戦いの中で、自分の最高にカッコイイ―筈の―必殺技を、なのはにぶつけてしまった事だ。 勿論、彼に言わせればあんな邪魔なところにいたなのはが悪いのだ。 だが、それでいいのかという疑問が、彼の心を苛む。 なのはが悪いと決め付けて逃げる事は確かに簡単だが、それは本当にカッコイイのか? 小さな子供を傷付けて、自分は平然と罪から逃れようとする。 そんな形が、本当に彼が望んだ物なのか? 答えは、Noだ。 今の自分が最高にカッコ悪いという事は、彼自身が1番理解しているのだ。 だが、だからと言って不器用な彼に、今更素直に頭を下げるなど、出来る筈もない。 だからこそむしゃくしゃと悩んでいるのだ。 良太郎には口を利いて貰えなくなり、何処か責められている気がしてなのは達に顔を合わせる事も出来ない。 「畜生……良太郎の奴、人を悪者みたいな目で見がって……」 天井を見詰めたまま、小さな声で呟いた。 寂しさや虚しさといった感情が嫌と言う程に込められた声。 それは、周囲の者が見ているだけでも、何処か可哀相に思えてくる程だった。 ややあって、うじうじと寝転んでいた彼の視界に、一人の男が入った。 自分を見下ろすその顔には、確かな見覚えがある。 天然パーマに、嫌に落ち着き払ったいけ好かない野郎――天道総司だ。 何か言いたい事でもあるのか、天道はただ自分を見下して気味悪く立っていた。 「……なんだよ?」 「ここは寝る所じゃない。飯を食わないのなら出て行け」 「っるせぇな! 言われなくても出てってやるよ!」 言われた途端に腹が立った。 すぐに立ち上がったモモタロスは、天道に背を向けて、ズカズカと歩いて行く。 別に行く宛てはないが、今ここにいることが胸糞悪い。だから出て行く。 そう考え、食堂を出ようとするが――― 「待て」 「……あ?」 「お前、顔が赤いぞ」 「な……!? べ、別に赤くなんてねぇよ!?」 食堂のドア付近で振り向くと、何やらトレイに食器を乗せながら、天道が言った。 顔が赤い。この一言で、何故か心の中身を見透かされたような気がしたモモタロスは、少し焦ったようにそれを否定する。 いや、元々モモタロスは顔が赤い訳だが。 と、モモタロス本人も、ややあってその事実に気付いた。 「って……俺の顔は元々赤いだろうが!!」 モモタロスが怒鳴るが、天道は耳を傾ける様子も無く、マイペースに作業を続ける。 トレイに乗っているのは、魚と白いご飯。 それをテーブルに置いた天道は、モモタロスに視線を送った。 「お前、今日は何も食べてないだろう」 「別にちょっとくらい食わなくたって死にはしねぇよ」 「いいから食べろ。腹が減っていては、余計に苛々するだけだ」 天道の言葉に、モモタロスは誰が食うもんかとそっぽを向くが―― 刹那、モモタロスの腹がぐうと音を鳴らした。 そういえば、昨日の夜からろくに何も食べていなかったなぁと。 そんな状態で天道の作った料理を見てしまって、腹が減らない訳が無かった。 ご飯からは白い湯気が立ち上り、味噌に漬けられた魚は美味しそうな香りを醸し出す。 気付けばモモタロスは、渋々ながら天道が誘導するテーブルの席に着席していた。 あくまで渋々ながらだ。別に食べたい訳じゃないからな! と心の中で繰り返しながら。 「……礼なんて言わねぇからな」 「いいから黙って食べろ」 「チッ……相変わらずいけ好かねぇ野郎だぜ……」 言いながら、天道が作った「鯖の味噌煮」という料理を箸で口に運ぶ。 口に入った鯖を、歯で噛み砕いた瞬間――― モモタロスの目はかっと開かれ、口元が緩んだ。 「どうだ?」 「ッ……うっめぇぇぇぇぇええええええぇ!!!」 天道な問い掛けに答えながらも、残った鯖味噌と白米を、ガツガツと頬張る。 美味い。美味過ぎる、と。 あまりの美味しさに、初めての料理を次々と飲み込んで行く。 モモタロスがそんなペースで食事を続けると、鯖味噌も白米もあっという間に無くなっていた。 完食したモモタロスは心底幸せそうな表情で腹を叩きながら、椅子の背に体重を預けた。 ややあって、ふと天道を見てみると、天道はやけに自信ありげな表情で、人差し指を天井に向けていた。 「おばあちゃんが言ってた……料理とは常に人を幸せにするべきものだ……ってな。 どうだ。少しは気持ちが楽になったか?」 「へっ、別にメシ食ったくらいで変わるかよ」 天道に顔を背け、腕を組んで答える。 確かに言われてみれば、料理を食べている間はまるですべて忘れたように幸せな気持ちだった気がする。 気はするが、素直になれないモモタロスは、改めて美味しい等とは絶対に言う気は無い。 第一、そんな気がするだけでは意味が無いのだ。 問題は良太郎やなのは達にこれからどう顔向けすればいいのか。 例え一時的に気持ちが切り替わろうが、根本的な問題を解決しない事には何も変わらないのだ。 そんなモモタロスの懸念を知ってかしらずか、天道がぽつりと呟いた。 「そうか。ならば自分はどうしたいのか……まずはそこから考え直すんだな」 「あ? 俺がどうしたいかだ?」 「変な言い訳を考えずに、素直になることも時には必要という事だ」 言いながら、天道は食器の乗ったトレイを厨房へと運んで行く。 何が言いたいんだよと言い返したかったが、どうせ天道はそこまでは教えてはくれないだろう。 自分で考えろ、と。恐らくはその一言で済まされてしまう。 ならばわざわざ自分から悔しい思いをしに行く事も無い。 それ故に、モモタロスは、一人で考える事にした。 「あぁ……さっきのメシ上手かったなぁ」 と、その前にぽつりと一言。 結局、すぐには難しい考え事には入れないモモタロスであった。 しかしもしかすると、モモタロスがこうして少しは前向きに思考出来るようになった原因は、天道の料理にあるのかも知れない。 と言っても、それは誰にも――おそらくモモタロス自身にもわからないことだろうが。