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「ん……………」 身体が、動かない―――― 朦朧とする意識を取り戻し、肉体に思考の戻った彼女が初めて思った事がそれだった。 気だるげながら覚醒している意識と相反するように、体のパーツのどれをとっても彼女の思いのままになる箇所が無い。 まるで鎖に縛られているような、金縛りにあってしまったかのような感覚が彼女―――高町なのはを襲う。 (………………) かつてない激戦に苛まれた身体の疲労は凄まじく 自身の肉体が耐えられるダメージ量の限界を三段は超えていた。 起きてすぐ動けるはずがない。 「気がつきましたか……ナノハ」 後遺症が残る可能性―――最悪の事態が頭を過ぎる高町なのはに今、声をかける者がいた。 彼女は今、硬いベッドに寝かされ床に伏せている。 そこまで自分の意思で辿り着いた記憶はない。 そうだ―――そんな事も思考に入れられないほどに彼女は疲労していたのだ。 こちらを心配そうに見下ろす、恐らく自分をここまで運び、介抱してくれた金髪の少女。 「セイバーさん……」 そんな少女が名前を呼ばれ、ほっと一息ついていた。 「手当てしてくれたんだ…」 次いで自分に施された簡素ながらの治療、巻かれた包帯などに気づく。 「ありがとう……面倒かけちゃったね」 「礼には及びません。大した事はしていない。 鞘の回復が良いタイミングで行われたため、元より外傷はありませんでしたから」 アヴァロンの回復は凄まじいものだった。 体組織のほとんどが引き裂かれた再起不能レベルの傷をも蘇生させ 神経に痛みは残るも、骨や筋肉に後遺症が残る事はどうやら無いようだ。 「………ここはどこ?」 現在の状況を確認するなのは。 まだ記憶が混濁している―――― セイバーの語ったところによると、あの後、共に支えあいながら上空を飛び続けた両者であったが 疲労困憊で限界をとっくに超えていたなのはは、戦闘が確実に終了した事を認識した途端 力尽き、その意識を落としたのだという。 なのはという司令塔を失ったセイバーであったが、組み込まれていたレイジングハートのリカバリープログラムのおかげもあり ちぐはぐながらも何とか飛び続け、ここに着陸したというわけだ。 「的確な指示でした。彼女の助力がなければ二人して地面に落下していた事でしょう」 shanks 主人想いの杖に賞賛の言葉を送るセイバーである。 ここは―――山岳地帯。 ただでさえ人気の途絶えたこの世界にて更に人の寄り付きそうの無い秘境じみた景観。 相応の距離を飛んだセイバーはそこに、山師の使うような古びた小屋を見つけ なのはを寝かせるために降り立ち、今に至るというものだ。 こんな人里離れた場所に身体を休める小屋があった事も中に治療道具があった事も出来すぎなくらいの僥倖である。 素直にそれに甘え、ようやっと一息つけたセイバーとなのはであった。 「セイバーさん」 だが、そんな柔らかい空気を否定するかのように―――魔導士は固い声でセイバーに問う。 「どうしましたか? ナノハ」 「…………」 一呼吸、じっくりと一呼吸置いてから―――― 「勝ったの? 私達」 ―――――その問いを口に出していた。 ―――――― 「…………」 「…………」 部屋を沈黙が支配する。 「……………その問いには答えたはずです、ナノハ。 私達の勝ちだと」 「そう、じゃあ質問の仕方が悪かったのかも知れないね。」 やがてゆっくりと口を開いたセイバーに対し、 なのはは黒真珠のような光を放つ目を眼前の騎士に真っ直ぐに向ける。 「私達……………本当にあの人を倒したの?」 「―――――何故そのような事を?」 「うん。一応、確認」 「心配をする必要はありません。 体に障ります。」 その某かの核心を突くような問いかけに―――言葉を濁す騎士。 「あれほどの墜落に巻き込まれたのです。 普通に考えれば無事に済む確率の方が遥かに―――」 「セイバーさん」 歯切れの悪いセイバーを前にして、高町なのはは断固引く気は無い。 彼女の双眸が正面からセイバーを射抜く。 その真っ直ぐな瞳はあらゆる虚偽やはぐらかしを見抜く鷹の目のよう。 (……………) ――――フゥ、と……… 防戦に徹しようとしたセイバーが、その無駄を悟り溜息を一つ。 そして程なく白旗を揚げる。 「アレで大人しくなってくれるような輩なら私も苦労はしていません。」 「……………だよね」 騎士の言葉の意図する所は明らかだ。 十分な答えを得て、なのはは再びベッドに体を横たえた。 最後のあの空で確認をした時からセイバーには分かっていたのだ。 サーヴァントであるが故に――― あの爆炎の中、男の強大な気配が微塵も消えていない事に。 その事実―――倒してなどいない…… まだ何も終わっていないのだという事を。 「しかし何故分かったのです? 最後の一撃は快心の手応えだった。 あの一刀―――相手を打破した事に疑いの余地は無いはず……」 「全然快心じゃないよ。あんなの逃げながら手を振り回してただけ」 試すようなセイバーの問いかけに真っ直ぐに自分の意見を示す戦技教導官である。 「あんなに強い人を倒そうっていうのに気持ちの乗らない攻撃を何発振るったって届くわけが無い。 初めから、撤退しながらの攻撃が通用する相手じゃないのは分かってた。 あの局面じゃ良くて相手を押し返すのが精一杯……そう思っただけだよ」 「………」 「セイバーさんは……」 「え?」 騎士の顔を見ず、天井に視線を彷徨わせながら なのはは躊躇いがちに少女に声をかける。 「もう一度、あの人と戦うの?」 「―――はい」 ――――――即答だった。 「この身は再び、あの男と雌雄を決する事になるでしょう。 それは決して覆せぬ運命のようなものですから。」 瞳に強い意思を込めて、騎士は臆する事無く答える。 あの恐ろしい敵と再び相見える事を――― 天井を見据えていた高町なのはの瞳が揺れる。 「…………死んじゃうよ。あんな人を相手に……ん、」 躊躇いがちに紡がれたその言葉。 止められるものなら止めたい……それは魔導士の偽らざる本心だったが そんな彼女の言葉を遮るように、なのはの口に人差し指が当てられた。 「それ以上言うと、また喧嘩をしなければなりません。」 苦笑混じりにピシャリと、はっきりとその言葉を切り捨てた騎士。 あの男との闘いは聖杯戦争を勝ち抜く上で、決して避ける事の出来ない戦いだ。 なのはとて分かってる。 両者の間に紡がれた並々ならぬ宿業。その感情。 自分の言葉などでは―――到底、止められる域には無い事に。 (…………) しかして、このやるせない気持ちはどうしようもない…… 少女を見ないように寝返りをうち、口を閉ざしてしまう魔導士である。 再び、山小屋を支配する沈黙―――― その中において………… 騎士はいずれ来るであろう、その宿命の戦いに想いを馳せる。 あの強大な王と向かい合う自分の姿を幻視しながら―――――― ―――――― 地平に消えていくその姿――――― 籠の中に囲った鳥が檻を食い破り、空に飛び立っていった…… その様を――――――男は無言で見つめていた。 燃え盛る炎の中、悠々と歩を進め、荒野の只中に立つ黄金の肢体。 「―――ススで汚れた」 その一言。現状の不快感に対する率直な感想を述べていた。 遥か彼方を飛び退るセイバーと魔導士。 あの距離では新たな宝具を展開したとて、もはや影すら掴めまい。 「セイバー」 使用した全ての宝具が男の宝物庫に還っていく 大破したヴィマーナの残骸。 撃ち尽くす寸前だった英雄王の無尽蔵の宝具たち。 これだけの戦力を投入した事などいつ以来であろうか? しかもそこまでして成果が全く芳しくなかったというのだから男の苛立ちは想像に難くない。 「もし次に相対せし時、その輝きが色褪せたままであったなら――― それはお前を見初めた我の見込み違いであったという事。」 遠ざかっていく背中。 金色の髪の少女に向けて真紅の瞳に暗い陰を落としながら――― 「その時は我自らの手で唾棄してくれよう。」 ――――男は言い放つ。 自身が見初め、認めたモノが醜悪なイロに染まる事など在ってはならない。 そのような事―――この万物を支配する原初の王が許せるわけが無い。 「―――――」 次―――――そうだ。 次といえば……… ――― 次は勝とう ――― あの端女――――高町なのはの言葉が耳について離れない。 結局、最後の最後までセイバーとの逢瀬を邪魔してきたあの女。 市井の身でありながら、あの剣の英霊を御し従えるかのような様相も気に食わないし 男の誅殺から逃れ、無礼な発言の数々を償わせられなかったのも口惜しい。 だが、そうだ……認めねばなるまい。 もし、この邂逅が騎士王との一騎打ちであったならば 自分は間違いなくセイバーを陥落せしめていた筈だ。 ならばそれが叶わなかった原因は……もはや語るまでも無いだろう。 あの女の存在が――――覆した…… 決まっていた事象を―――塗り替えたのだ…… ―――――― 「―――言葉には言霊が宿る」 その場凌ぎの言葉だったにせよ「次」と口に出してしまったのならば それが何らかの力を持つ事もあるだろう。 またいつか、あの女は自分の前に現れるかも知れない。 何故かそんな気がする。 ならばその時こそ――― 「最低でも三日は生かさず殺さず―――苦痛と悲鳴を極限まで搾り出し……」 認めてやろう。 自分が手ずから引き裂く価値のある存在と認めた上で 阿鼻叫喚の苦痛と絶望を絡めて―――― 「その後、生きたまま心身ともに刻んで地獄の狗にたらふく食わせてやろう」 処断してくれよう。 どうして生まれてきてしまったのか――― そう後悔するほどの裁可をその身に下しながらに。 男の瞳に残忍な光が灯る。 あの女はこの英雄王を怒らせてしまった。 もはや安らかで幸福に満ちた最期を迎える事はないであろう。 ―――――― 正直、今回の醜態は流石のギルガメッシュにも落胆はあった。 だがその憤りを言葉にして吐露するのも詮無い事だ。 そろそろ常の王の顔を取り戻さねばならない。 いつまでも情念に囚われ、安い感情を暴露したままではいけない。 何せ――――見ているモノがいるのだから……… この身をこそこそと下卑た視線で覗き見ている輩がいる。 初めから気づいていた。 この歪な世界。この作られた矮小な箱庭。 そんなモノを支配して愉悦に浸っている愚かな痩せ犬の存在に。 「―――――ハ、」 英雄王が空を見やる。 その何も無い虚空に目を向ける。 日が昇り始め、燦々とした空気が男の肌を撫でる中―――やおらその宝物庫から一振りの剣。 乖離剣エアを取り出して何もない空へと向けた。 「―――――我がそこに辿り着くまでだ。 それまで精精愉しむが良い。」 そして一言………男は彼らに対して確かなる言葉を放つ。 全てを掴む男であるが故に神にすら宣戦布告するのが男の在り方。 世界を切り裂く剣を虚空の誰かに向けながら――― イレギュラー、英雄王ギルガメッシュは今、セカイに宣戦布告をし―――― そのまま何処かへと去っていった。 金色の残光を、王の威光を存分に場に遺して……… ―――――― 「……どうするの? これから」 「…………」 なのはが騎士に背中を向けたまま、その問いを口にした。 一息ついたその後はどうするのか? なのはの問いに沈黙を以って答えるセイバー。 どうするか、などと――――答えは決まっていた。 セイバーには為さねばならぬ事がある。 当然なのはにも。 互いに未知なる世界に放り込まれた身だ。 一刻も早く己がマスター、仲間と合流して今後の対策を練らなければならない。 本来ならばここで悠長にしていられる時間すら惜しいのだ。 そして互いに進む道が違う以上……自ずと結論は出るのだ。 「当ては無いんでしょう? 行き先や方針が定まらない以上、一緒に行動した方が絶対にいいと思う。」 だが後ろ目で控えがちに少女の顔を見ながら、魔導士は少女に共に行く事を進言する。 「安全面や行動範囲の面から言っても…… ここで別れるよりはもう少し様子を見た方が絶対に、」 「ナノハ」 それは正論にかこつけた心情的な吐露だった。 心配だった……この騎士が。 揺るがぬ意思と強さを持っている筈の騎士王。 その背中が何故か酷く危うく儚い―――そう、なのはには感じられたのだ。 「―――事を為した暁には貴方に紹介したい人物がいます」 そんな秘めた感情を胸に、騎士との同行を求める高町なのはに対し セイバーは――――唐突にその話を切り出した。 「私に?」 「ええ。彼は私のマスターというべき存在。 自分の正しいと思う事を貫き通す強い心を持った好もしい人物です。 きっと貴方とも良い友達になれる事でしょう。」 「えっと……ん、…別にそれは良いけど。」 突然の申し出にキョトンとするなのは。 それを見て、フフ…とイタズラ気に笑うセイバー。 こうしていると二人とも年頃の女の子にしか見えないのが微笑ましい。 「あ――――」 しかしながら―――そのセイバーの微笑が今、突如崩れ、奇妙な表情になる。 自分で切り出しておきながら間の抜けた声を上げる剣の英霊。 「??」 首をかしげるなのは。 迂闊……………… この少女にして我ながら重要極まりない事を失念していた。 騎士の挙動不審な顔を無言で覗き込む高町なのはである。 「いや、その……………こちらから切り出しておいて何ですが 果たして貴方と彼を合わせても良いものか……」 「? どうして?」 「想像を絶するほどの―――――――無茶をやらかすので……彼は。」 ……… こちらと目を合わそうとせずに、しどろもどろになりながら答える少女。 なのはの目が丸くなる。 ビルの屋上で言い合いになった時の事を思い出したのだろう。 この魔導士が命を粗末に扱う無謀な行為を決して許さないという性格ならば 自分の命を採算に入れずに行動する人間を見て、果たしてどういう反応をするか――想像に難くない。 「………うーん」 上目使いにこちらの様子を見てくる少女に対し、やや苦笑いのなのはである。 「セイバーさんが10だとするとどれくらい?」 「貴方を10として測定不能です」 「………………」 迷い無く言い放つセイバー。 控え目な彼女がここまで言うのだ。 それはもう……相当なレベルと見て間違いない。 「うん。何となく分かったよ…」 この騎士のマスターである。 失礼な事はあまりしたくないが…… そこまで無茶苦茶な事をする人物とあらば放ってはおけない。 この騎士の許しが得られるのならば――― 「じゃあ是非とも会ってお話しないとね。」 「お手柔らかに。」 ―――職業柄、少しお節介をするのも吝かじゃない。 と、悪戯っぽく笑うなのはである。 「でもいいの? セイバーさんのマスターなんでしょう? 自分で言うのもなんだけど私は厳しいよ?」 「甘く見ないで欲しい!」 「へっ!?」 そこでガバっと詰め寄ってくるセイバーに心底驚くなのはさん。 物静かな騎士がこんな顔をするなんてまるで予想だにしなかった。 「その厳しい貴方でも矯正しようが無いほどのレベルです! 言葉はおろか相応の体罰を以ってしても――実際に死にかけても改善しない筋金入りの難物なのです! ですからもし教鞭を振るうのでしたら、死なない程度にお手柔らかに!」 拳を握って捲くし立てるように次々と言葉を放ってくるセイバーに防戦一方の教導官。 「全く今回、ナノハと共に戦えて久しぶりに気兼ねの無い連携戦を堪能出来た…… いつ以来でしょうね……こんな開放感は。 パートナーの身を気にせず戦えるというのがこれ程に有意義な物であったとは…… ナノハと引き合わせた際にシロウ―――マスターには貴方の爪の垢をそのまま飲んで貰わなければ。」 (う、うわぁ……) なのはの目は終始、見開きっぱなしだ。 クソミソである。まさかこの少女がここまで人の事をコキ下ろすとは…… 眉をハの字にして腕を組み、う~…と唸りながらにそのマスターを罵倒する騎士。 その姿に唖然としっ放しの魔導士であった。 (………………………でも、何か) だが、そう―――― 聞き手役に徹しながら、知らず自身の口に笑みがこぼれてしまっている事に気づくなのは。 否、魔道士でなくとも……気づく筈だ。 顔をしかめながらぶつぶつと文句を言い続ける少女。 その声色が――――とても暖かい。 こんなに優しく温かい思いを込めて話されてしまっては誰だって気づいてしまう。 そのマスターという人が、この少女にとってどういう存在なのか。 まるでこの世で一番大切にしているものに触れている――― そんな幸せで嬉し気な気持ちが滲み出てきているようで その表情が本当に綺麗で……話を聞きながら少し見とれてしまうなのは。 本当に綺麗だったのだ――瑞々しくて、幸福に満ち溢れていて。 それは自分に似ていると思っていた騎士の、自分には無い一面。 なのはには知る由も無い。未だ自分の中に芽生えた事の無い想い――― それは一人の異性をただひたすらに愛する、という事。 狂おしいほどにその相手一人を求め、己の全てを捧げたいと思う事。 既存の理想と秤にかけてさえ、その者を想う心が勝ってしまう。 この少女をして「己が願いよりもシロウが欲しい」と――そう言わせてしまう程の、 ――― 恋焦がれるという事 ――― ―――――― 自分にはいるのだろうか――― その表情を眺めながらに高町なのはは思った。 頭に浮かべるだけでここまで幸せな気分になれる――そんな人が。 (ユーノくん? フェイトちゃん?) 子供の頃から助け合い、自分を支えてくれた とても大切で、いなくなる事なんて考えられない友達。 (はやてちゃん? ヴィータちゃんやヴォルケンリッターの皆?) いずれもかけがえの無い仲間。 この人たち無くして今の自分は無い。 (スバル? ティアナ? エリオ? キャロ?) 自分の手がけた教え子たち。 自分を慕ってついて来てくれる可愛い後輩たち。 この子達がもし戦場で還らぬ事になったら自分は―――多分、泣くだろう。 (………………………ヴィヴィオ) あの子を助けるため――――自分は一度、公務の身でありながら私情を優先した。 あり得ない事だった。 頭の中がぐちゃぐちゃになって……自分の信ずる道も責任も二の次になってしまった。 もし次、同じ事が起こってヴィヴィオを助けるために周りを犠牲にしなければいけない時 自分は決して私情を優先しない事を心に固く誓っている。 でも――どうなのか…… 本当にそういう場面に直面したとして、自分は――― (…………私、は…) 「――――痛むのですか?」 「えっ!?」 別の事に思いを馳せていた所にセイバーに声をかけられ フリーズしていた高町なのはは咄嗟に反応出来なかった。 「あ………えと、うん…… 聞けば聞くほど無茶苦茶な人だよね、その人…… 腕がなるなぁ。ふふ」 「やはり疲れているようですね。 すみません……私の方が話に夢中になってしまって。」 「ううん、セイバーさんとお話しするのは楽しいよ。」 それはお世辞ではない。 この、どことなく自分に似ている騎士とのお喋りはなのはにとって新鮮で楽しかった。 セイバーにとっても同じ。 尊敬するマスターはいる。 主従を尽くしてくれた者もいた。 だが自分と全くの対等の位置に立って、あくまで同じ目線で、時にはケンカをして時には支え合う。 彼女にとっては初めての感覚であったのだろう……その―――友達、というものが。 他愛のない話をした 自分の事や友達の事を話した 色々な事を話した なのはも今や、目の前の少女が本当に現世の人間でない事――― 何か超常の存在である事は理解している。 だがその事は―――また、今度ゆっくり聞こうと思った。 (…………) そろそろ体力の限界だ。 瞼が絶え間なく重くなる。 だからこの次――― 目を覚ました時にゆっくりと…… ―――――― 談話は長くは続かなかった。 高町なのはの肉体が再び強烈に休養を欲し、彼女に抗えぬほどの睡魔が訪れる。 「ごめん……少し、寝ていいかな?」 重くなる瞼をしばたかせる魔導士。 抵抗し難い睡魔に身を任せてしまう前に一言、セイバーに断りを入れる。 「ええ――お休みなさい。ナノハ」 「はは、流石に疲れてるみたい…… 起きたらまたお話聞かせて。」 「―――――、はい」 既に夢現に入っているかのような、小さくはっきりしない声で問答するなのはに微笑を返し 少女は彼女に毛布をかけて眠りを促す。 それに気持ち良さそうに身を委ね、目を閉じ、数刻を待たずして――― すぅ、すぅ、……と、まるで電源が切れたかのように寝息を立て始める高町なのは。 (無理も無い…) 現世の人間では願っても覗く事すら叶わぬ神代の激戦――― それに身を投じ、戦い抜き、生き抜いた。 硬い寝床に身を横たえる高町なのはを見やる少女。 本来、健康で血色の良い筈の顔が落ち窪み、心なしかやつれている。 そのか細い体には傍から見てもまるで生気が通ってない――まるで病人のようだった。 当たり前だ。 彼女はヒトの身でありながら一晩で英霊と二連戦したのだ。 まさに精魂尽き果てたのだろう。 疲労困憊の痛々しい姿をまともに正視出来ず、目を逸らしてしまうセイバー。 彼女にはもっともっと休息が必要だった。 額のタオルを絞って変えてやる。 そして魔導士が完全に寝入るのを見計らってから――― 「―――ナノハを頼みます」 Allright...Good luck brave knight 「ありがとう……」 床に置いてあるレイジングハートに彼女は別離の言葉を告げた。 自分と共に行くと言ってくれた彼女―――その優しさと気遣い。 だが、セイバーは絶対にそれを受けるわけにはいかない。承知するわけにはいかない。 彼女を同伴させるという事は自分の戦いに魔導士を巻き込むという事だ。 言うまでもなく此度の戦いに彼女を巻き込んだのは自分。 その挙句、高町なのはは負わなくても良い傷を負ってこうして地に伏せっている。 彼女を再びこんな目にあわせてしまう事などセイバーは絶対に了承出来ない。 聖杯戦争とは謂わば参加者各々の私闘。 その私事に関係の無い者を巻き込むなど騎士として恥すべき行為に他ならないのだから。 無防備な彼女を残して去る事には当然、危惧を抱くセイバーであるが このような山小屋では人の目につくかどうかも怪しいし彼女の敵に発見される確率は低いはずだ。 ケモノや魔獣が跋扈していたとしてもこの魔杖――レイジングハートが簡易結界を張って防ぎ、彼女を起こしてくれると言っている。 むしろ自分がここにいては逆効果なのだ。 他のサーヴァントにその身を感知されて襲撃される恐れがある。 そしてこんな状態では他のサーヴァントからなのはを護って戦うなど不可能―――今度こそ彼女を死なせる事になる。 「ふふ、このような気遣い…… 貴方に聞かせたらまた叱られてしまいますね」 それを素直に話した所でこの魔導士は納得すまい。 むしろそんな言い方をすれば逆に食いついてくる。 困ってる時はお互い様、とばかりに助力を申し出てくるはず。 こんな所は本当に――マスターに似ている。 だから――騎士は黙って出て行かざるを得ない。 「――――はぁ………」 ふらつく身体を引きずるように……騎士は山小屋の扉を開け放つ。 自分とてダメージが抜け切っているわけではない。その重い体を引きずるように――― セイバーはゆっくりと勝手口に向かい、その戸を開く。 一面に広がるのは岸壁と渓谷――――― 切り立った崖の下からは針葉樹林による緑の絨毯が広がっている。 苦笑する剣の英霊。 これは冬木の地に戻るのに相当手間がかかりそうだ。 小屋を後にする前に……騎士はもう一度、振り返る。 その部屋の奥。 深い眠りについている一人の魔術師。 否、魔導士に向かって一言―――― 「必ずまた会いましょう……タカマチナノハ。 この剣にかけて―――――――約束です。」 別れは言わない いずれまた再会しよう この素晴らしき友と その思いを胸に秘め―――― エースオブエースと騎士王の道はここで一先ず別れ、別の道を往く事になる。 本来、交わることの無かった二人の英雄の邂逅。 その物語は―――幕を閉じた。 だかしかし、それはこの世界で繰り広げられる事になるであろう 血で血を洗う壮絶な闘争劇の―――――序章に過ぎないのかも知れない。 ―――――― 無限の欲望の手によって起動した神々の遊戯版――― それが次の駒を選別すべく軋みを上げる――― 狂気の愉悦を称えたこの遊戯――― 次に舞台に上がるのは誰なのか…… カラカラと、まるでしゃれこうべの哂いのような音を立てながら起動する選別の祭壇。 その答えは誰にも…………知る由は無い。 ―――――― 「……………」 「……………」 そして時は今――――― 魔導士が騎士の少女と別れた山小屋にて。 「――――取りあえず話、長っ!」 血みどろのレクリエーションを終えた魔法使いが二人。 ズタボロの身体を横たえながらの情報交換の真っ最中であった。 「話を聞かせる気があるのアンタは!? 途中四回ほど眼を開けながら寝てました私スミマセン。」 「貴方が詳しく聞かせろって言ったから……」 「もっとよく考えて話作りなさい! そんなだから、ことごとく説得失敗するのよこのバカメっ。」 「……………」 「全く貴重な時間を無駄にした。 この話で分かった事と言えば貴方がその仕事に破滅的に向いてないって事くらいじゃないの…… ほら、バンザーイ! 早く薬塗って塗って!」 「言いたい放題……私だって必死だったんだよ…?」 かつてセイバーと心温まる話をした場所で それとは全く似ても似つかない、腹ただしい罵倒を飛ばしてくる魔法使い。 蒼崎青子の相手をさせられる高町なのはである。 「それでサーヴァント―――セイバーとはそれっきり?」 「うん……私が起きた時にはもう…」 「ふぅん」 微かに落胆の表情を浮かべる高町なのは。 彼女が再び目を覚ました時―――少女の姿はなく 自分と袂を分かってしまったと理解した時の寂しさは言葉では表せない。 やるせない記憶に苛まれるもその後、身体と魔力の回復を待ってこの山小屋を基点に付近を調査。 その最中に、どこぞの物騒なマジックガンナーにイチャモンをつけられたというわけだ。 (しかし英雄王に騎士王? ……どおりでキモが据わってるわけね。 ウチの世界の上位の神秘と既に一戦交えてたってワケか。) 話を聞くにつれ、内心で驚愕するミスブルー。 やはりこの娘、戦闘力に関しては予想を遥かに上回るレベルにあるという事だ。 「くっそー……こっちはズタボロなのにピンピンしやがってー! 私にやられた傷なんて蚊に刺されたようなもんってか!」 「こちらも相当こっ酷くやられてるよ……見れば分かるでしょう? ブラスターの後遺症も心配だし。」 青子の所持していた怪しげな処方器具の数々を巧みに操り 互いに互いの治療を施している最中の二人。 「姉貴のとこからガメてきた人形処方が役に立ったわ。 たまには役に立つのね、あのメガネも」 「ミッドチルダには無い凄い技術だよ……傷の塞がり方が尋常じゃない。 それもそちらの魔術の力なの?」 「まあね。たまに肉体変異とか起こってえらい事になるけど」 「は………?」 「いや何でもない」 既に自身の傷口に処置を施した教導官にとって聞き捨てならない呟きは どうやらその耳に入る事はなかったようだ。 「ところでもう一度確認するけど―――英霊と戦ったのね?貴方は。 一方的にやられたわけじゃなく、ちゃんと戦いになったわけね?」 「うん。でも互角の闘いだったとは思わない…… 地力では完全に上をいかれてた。」 「奴ら人間超えてるからね。根本的な部分で上をいかれるのは仕方がないわ。 でも――――攻撃は効いたのね?」 「うん。効きは薄かったと思うけど、確かにダメージは与えてたと思う。」 「…………………」 口元に手を当てて考え込む蒼崎青子。 (やっぱり、そういう事…?) 英霊に―――神秘に攻撃を通した。 サーヴァントの対魔力をブチ抜いたという事実。 「魔法」以外では、この世に現存するあらゆる魔術は騎士王の影を突破できないというのに。 同じ魔弾使いでありながら何故かこの相手の「魔法」を見た時、胸くそが悪くなった。 生理的嫌悪が先立ち、何が何でも否定してやりたくなった。 アナタのそれは魔法じゃないと。 そして今聞いた話を総計して……… 目の前の娘やその世界の住人の使う「魔法」とやらが青子の考えている通りのものだとしたら――― (水と、油……) それはどこまでも相反し、反発し合うモノであるのかも知れない。 表情には出さないミスブルー。 だが、あまり芳しくない仮説が立ってしまった事に―――心の底で焦燥を覚える。 「ときになのは―――貴方の所属する……その管、」 「時空管理局?」 「そう、それ。 アナタはその下で動いてるのよね?」 「うん。正式に勤務して結構長いよ」 「じゃあ今ここで起こってる事―――上に揚げるワケ? 英霊や、私の使った……魔法の事とか。」 それは何気ない質問だった。 少なくとも、なのはには他愛の無い質問に聞こえた。 その問いに隠された意味―――その声に微かに込められた危険な響きに―――なのはは気付くのが遅れた。 「そうなると思う。まだ上手く報告書に纏める自身ないけれど…」 故に気付けないままに対話した―――魔法使いに背中越しに答えた。 「正直、話が複雑で私一人の判断では動けない。 もし戻れたら一度、上の指示を仰がない、と…………ッ!」 突然、自身の心臓を背後から貫かれたかのような錯覚に襲われ――― 相手のたくし上げたシャツの下をまさぐって塗りたくっていた軟膏をその場で放り出し、勢い良く飛び退く教導官。 「――――――」 そのまま―――待機モードとなった己がデバイスを握り締め…… 緊張さながらに相手を見据える。 「――――どうしたのよ?」 「どういうつもり……?」 「何が?」 眼前にて向かい合う両者。 その常に称えた笑みを完全に消し去り――― 狼のような鋭い視線をこちらに向けてくるミスブルーに対し、なのはも冷徹なる戦意をぶつけて相対する。 「何かヘンな事言ったかな……私?」 「だから何がよ?」 「どうして……殺気をむけるの?」 「あらら何とも―――――――鋭いね、このコは。 時代劇で主役張れるわ。」 「はぐらかさないで」 ふざけている――そんな言い分は通用しない。 今、背中越しに感じた殺意は紛い様のない本気のものだった。 幾多の戦場を駆けてきた高町なのはがそれを読み間違える筈がない。 「青子さん」 厳しい視線を崩さない高町なのはに対し、青子はため息を一つ――― 「いや何ね……ちょっと愕然としたついでに アナタ、少しおつむが足りないんじゃないの?って思ったのよ。」 「意味が分からないよ」 「分からない? 本当に?」 くしゃ、っと頭を掻き毟るミスブルーである。 「………だから致命的なんだって言ってるの。まあ無理も無いんだけどね。」 なのはに対しての最後の言葉はもはや、ぼやきに近い。 「なのは。歴史のお勉強」 「………?」 「フロンティアを気取る余所者がネイティブに対してする行動。 仕打ちは場所、時代を問わず終始一貫している。 ―――――さて、どうするでしょう?」 「……………」 まるで自分を試すような青子の口調。 威圧されている感がどうしても抜けなくて、なのはの声も固くなってしまう。 「ひょとして……管理局の事を言っているの? 言っておくけど局は征服とか、無茶な武力介入はしないよ。ちゃんと相手の話は聞くし。 過ぎた力の暴走や破壊を止めるために介入はするけど、それは危険な力を抑止・保護するだけ。 必要以上の関与はその趣旨じゃない。」 「保護、ね。 じゃあ対象がその保護を拒んだらどうなるの?」 心の奥底まで覗き込んでくるようなミスブルーの視線にチリチリと全身が総毛立つ。 そんな感触に駆られつつも臆することなく答えるなのは。 「なるべく現地の人達との軋轢や摩擦を起こさないように対処するから 相手や付近に気づかれないように陰ながらに対応する、と思う。」 「ナルホド模範的な答えね。 ハネ返ったマヌケは気づかないうちにビーカーに入れられてるってワケ?」 「介入に対して断固とした姿勢を取ってくる人も中にはいるけれど 仮に戦闘になったとしてもギリギリまで相手を傷つけないよう留意する。 あくまで対象の保護が最優先だから……そのための非殺傷設定だよ。」 「―――――はぁ……」 ため息の連続だ。 本気で気が重くなるブルーである。 やはり根本的に世界が違う……何も分かっていない。 その「保護」という題目が――――まさにこちら側にとって死活問題だという事に。 恐らく目の前の純真無垢な娘はその保護とやらを嬉々として受け入れたのだろう。 そして組織の管理化に入り、平和のために力を与えられ……もとい、その力ごと飼われて尖兵として飛び回っている。 お国のために働く警察や公務員といえば聞こえは良いが、その力はとてもそんなかわいいものでは無い。 単純に自分が、そんな公務に勤しむような連中と相性が悪い事も相まる胸クソ悪さも手伝って―――どうしても尖った思考で見てしまうのだ。 (この目の前の、正義を本気で信じている娘のように……… 管理局とやらの「保護」を素直に受け入れる輩がこちらの世界にいる?) 断言する。そんな奴は一人もいないだろう。 神秘とは人の手の介入を許さないから神秘なのだ。 つまりはよく分からないモノだからこそ力を発揮する。 だが管理局――――ミッドチルダの力とやらは、それとは全くの真逆の存在。 発展に発展を重ねた科学技術。 それによって紡がれたプログラムにより術式を技術化・体系化して行使される力。 その技術は異次元間の航行や人体練成……つまりはこの世界における禁忌の領域。 「魔法」に匹敵する程にまで至っているのだ。 それほどの科学技術を持った相手に保護される。 そんなモノと、こちらの世界が混ざり合えば―――― 秘匿に秘匿を重ね、星に脈々と受け継がれてきた神性は………どうなる? (取りあえず私らは失業ね。 この地球に魔法使いは――――) ――――――――いなくなる……… 全てを白日の下に晒され、犯しつくされる事だろう。 その技術という名のメスによって。 どうだろうか―――そこまでの介入をされた以上、抑止は動くだろうか? 一応、表面上は平和的な営みである以上、アラヤもガイアも静観を決め込むだろうか? 協会とか教会とか、あそこら辺はこの第三者の介入を決して許しはすまいが。 どの道こんな風に力を巡っての異世界間の交流は、大概ロクな結果を生み出さない。 両者間に決して小さくない波紋、諍い、最悪の場合は全面戦争もあり得るだろう。 「………」 目の前の魔法少女の言う時空管理局という組織。 彼女の言葉が眉唾でないのなら、その規模・力は想像の範疇を超えている。 太陽系はおろか、地球圏以外に他の知的生物の存在すら認知していない地球人類の前に突如現れた 宇宙全域に広がる管理局という組織……まるでどこぞのSFだ。 目の前の娘の話だと管理局というのはそこまで物騒な集団ではないとの事だが 物騒な対応をしないのは相手が従順だからであって、もしそうでない場合は……? 徹底的に抗う姿勢を見せた相手に対し、その巨大な力を持つ組織がどういう対応に出るのか…? 彼らの目には、手段を問わず、ただ「頂」に至る事を第一とするこの世界の魔術師はどう映る? 法やら秩序やらを重視する者たちにとってむしろ物騒な存在はこちらではないか? 高町なのはは「魔法使いは大勢いる」と言った。 それはこのテの魔法使い―――似たような武装をした連中がごまんといるという事だ。 この高町なのはレベルの敵がわんさか攻めて来る事を考えると 「ぞっとしないわ……」 シャレにならない事態になる。 英霊と五分に戦う奴らが大挙して攻めてくるのだ。 もはや戦いにすらならないだろう。 (は、はは………何よコレ?) あらゆるifを想定し、考え尽くし――― げんなりしてしまう青子。 これではまるで小学生の頃に見た荒唐無稽なハリウッド映画と変わらないでは無いか? とにかくあまりにも相手の事が分からず、それに大して情報が少なすぎて想像すら出来ない。 事態は深刻な所まで進んでしまっているのか? ただの取り越し苦労なのか? ―――何も分からない…… (何だか重い話になってきちゃったわねぇ……) 額に皺を寄せ、深く考え込むブルー。 そして青子の動向を逐一見逃さぬよう、その表情を凝視するなのは。 エースオブエースの視線に晒されている事をまるで無視して、考え込んだかと思えば、ため息をつき 空気の凍るような表情を見せたと思えば、う~…といったダレ顔になる。 「青子さん?」 「考えてる……話しかけないで」 その百面相をまじまじと見ていたなのはが声をかけるが 決まりが悪そうに青子の方から、つい――、と目を逸らすのみ。 ガシカシと頭を掻く仕草があまりお行儀が良いとは言えない。 (完全に魔法使いの専門から大きく外れる事態になってきた。 イマイチ実感が沸かない……ジェダイの騎士とか呼んで来いっつうの。) そうだ。今の状況を簡単に言うと、それはファンタジーとSFが混ざり合うようなもの。 流石の魔法使いも全ての事態を的確に把握できるはずがない。 そもそも彼女は自分達の愛する世界を護りたい!というガラでも無い。 それはある意味、達観した有り様だっただろう。 超越した力を持つ人間が過度な思い入れで行動すれば、それはときに悪い結果に転がってしまう。 だからこそ浮世の事にはなるべく関与しないよう努めてきたのだが。 「――――――ま、いいや。」 だがそれでもこれだけ大きな事態に関わってしまった以上――スルーは出来ない。 「さて、これからどうしようか……当てはあるんでしょ?」 「いや、当てはこれから探すつもり。 引き続き調査待ちというところだけど……」 「どんくさい公務員ねぇ」 「…………放っといて」 自分は魔法使いなのだから―――そして目の前に魔法少女なんてモノまでいるのだから。 昔のような臭いノリで事に当たるのも悪くはないかも知れない。 「私も付いてったげる」 「え”?」 「………」 「………」 突然に切り出された同行の意―――― いつぞやの騎士に対し、自分が申し出たそれを今度は目の前の女性から自分が受ける事となった高町なのは。 それはあの時と同じで判断としては悪くない。 前後不覚の現状で一人よりは二人で行動した方が間違いなく安全であるからだ。 「………どうやら異世界の魔法使いは礼儀を知らないと見えるわね…」 「う、ううん! ち、違うの……そうじゃなくて。」 だというのに、一瞬表情が強張ってしまった高町なのはに対して こめかみをピクピクさせる青子さん。 流石の傲岸不遜なマジックガンナーも、厚意を向けた相手にあからさまにイヤそうな顔をされて深く傷ついたようだ。 「サーヴァントには一緒に行こうとか言って泣きついたんでしょうが? 心細いアナタのお守をしてやろうという私の親切心が分からない?」 「別に泣きついたわけじゃない……」 「じゃ、取りあえず―――」 「え? あの……」 目の前の長髪の魔法使いが簡素なTシャツをおもむろにたくし上げ その一糸纏わぬ姿をなのはの前に晒していた。 「さっきの続き続き♪」 「……………」 寝床にごろんと寝転がりながら床に落ちてる軟膏を指差して、カモン!と手招きするブルー。 目の前のスレンダーで無駄な肉の無い裸体を全く隠さずに。 (………………つ、疲れる人だ…) 誰とでもニュートラルに接する事が出来るのがこの教導官の美点であり長所だ。 だが、はっきり言って………ちょっと苦手な部類に入るかも知れない。 なのはにとってこの蒼崎青子という人物は。 (アリサちゃんを常時怒らせたようなものだと思えば我慢できなくもないかな……) 礼儀正しさの見本のような彼女であるが故に、ここまで無礼で無遠慮で 人の領域をドカドカ踏み荒らす人間を前にしてはやはり戸惑ってしまうのだろう。 珍しく他人に振り回されながら、塗り薬片手に暴虐ブルーに奉仕するエース。 対して青子の方は――――ぶつぶつ文句を言いながらも存外にも目の前の娘の事を気に入りだしていた。 まああくまでも……根性があって真面目でからかい甲斐のある「玩具」としてであったが。 まるで正義を純粋に信じていた学生時代の恥ずかしい自分を見ているようでSっ気が刺激され、ついイジりたくなってしまうという面もある。 同じような世界を生きていながら、昔、自分が置いてきたものを今もなお持ち続けている異世界の魔法使い。 旅のお供としてこれ以上の肴はない。 退屈しない道中になりそうだった。 「じゃあ塗るから。動かないでね」 「痛くしたらぶっ飛ばすわよ。 ああ、それとそのツインテールが腰に当たって気持ち悪い。 切りなさい。今すぐ」 「…………」 ――――――パンッ!!! 「きゃひィッ!!!???」 軽口をたたく患者の背中の傷口を思いっきり張るなのは。 青子がシメられたニワトリのような悲鳴を上げる。 「ごめん……痛かった?」 「か、――――こ、こ……」 「そう、傷を負えば痛い……その痛みが分かるなら二度と他人に乱暴しようなんて考えない。 簡単に人をぶっ飛ばすとか蹴っ飛ばすとか強い言葉も使わない。 それから……あ、ほら動かないで青子さん。また手元が狂うよ?」 ベッドの上でのたうち回る青子を押さえつけて冷淡な視線を向けながら説教を落とす教導官。 前言撤回。易々と玩具にされるようなタマではない……この高町なのはという人物も。 物静かでとてもそんな風には見えないが―――高町なのはもまた、どちらかと言えばS属性なワケで…… 「このガキ! 歯を食いしばりなさいッ!!」 上に乗っかっていたなのはを押しのけて青子がガバっと起き上がる。 「その若さにして総入れ歯になる覚悟は既に出来てるワケだ! 明日の朝食は何がいい? 噛めない顎で食べられるモノを用意してあげるわ!」 跳ね飛ばされ、ベッドから転げ落ちて床に叩きつけられるなのはだったが そのまま無理なく受身をとって、中腰の姿勢で相手を正面に構える。 「そんな心配しなくていいよ……朝食くらい自分で作れるからっ! バインドッ!!」 山小屋に響くドタンバタンとした喧騒はもはや何度目になるか分からない 魔法使い同士の取っ組み合いの音。 セイバーとは全く逆のベクトルになるが―――これはこれで良いパートナーなのかも知れない この後、暫く彼女たちは行動を共にするわけであるが、道中は終始こんな感じなのであろう。 ―――この娘の世界と自分達の世界は決して関わるべきではないと思う……… だが、喧騒と戯れ交じりの中にあって――青子の思考には未だ拭えぬ陰があった。 閉鎖的な意見と言ってしまえばそれまでだが、それでも彼女は秘匿された世界のその頂点に位置する魔法使いなのだ。 今は悪ふざけのノリで高町なのはと話している彼女ではあるが、自分の立ち位置・彼女の立ち位置を考えた場合 恐らくこの先、迎合の道を往く事は無いのだろう。 ――― いつか本気で……今度は命を賭けて戦うことになるかも知れない ――― ドタバタ騒ぎの喧騒に紛れ、それでも青子は飄々とした笑みを崩さない。 その瞳に暗雲と漂う暗い感情を映すことは無い。 時が来るまで―――決してその隠した牙を表に出さずに、彼女は高町なのはと共に行く。 (このコを見る限りじゃ取り越し苦労だと思うけど…… 多聞に漏れず色んな人間がいるからね。 どの世界にも――――) 各々の思惑が錯綜するこの世界。 今宵、魔法使いたちの夜が―――――人知れず明けていく。 この二人の出会いが幸福なものとなるか………今はまだ誰にも分からない。
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第7話「超獣の来襲」 「人の持つ負の心を力に変え、生きる悪魔か……」 時空管理局本局。 グレアムは自室にて、リンディから渡されたミライについての資料を眺めていた。 彼はヤプールと呼ばれる異世界人との戦いの末、異世界の崩壊に巻き込まれこの世界に来たという。 その時、ヤプールも彼と共に次元の裂け目に落ちたという……グレアムは、危惧していた。 もしかするとヤプールは、ミライと共にこちら側へとやって来ているのじゃないかと。 次元の狭間に落ち込んだとき、ヤプールは瀕死の重傷を負っていたというが…… ミライが言う限りでは、ヤプールは完全消滅させる事が不可能な、邪悪の化身という。 瀕死の状態から復帰する事は、不可能ではない筈だ。 もしも危惧している通りの事態になれば、管理局はヤプールと激突する事になるだろう。 超常の存在たるウルトラマンでさえも苦戦を強いられた強敵……はたして、勝てるのだろうか。 「……いや、あるかどうか分からない事を考えていても仕方ないな。 今はそんなことよりも、もっと大切なことがあるのだし……」 自分が知る限り、最悪のロストロギアである闇の書。 本日付で、教え子であるクロノ達の部隊がその捜索担当に当たる事になった。 恐らくこの事件は、本局にも―――自分のところにも協力要請がくるであろう程の規模になるだろう。 事実、過去にそれは起こった。 大切な友人を、多くの仲間を失うことになった……忌まわしき闇の書事件。 闇の書は、決して滅ぼす事が出来ない禁断のロストロギア……奇しくも、ヤプールと同じ性質を持っている存在である。 時空管理局が闇の書を取り扱うのは、実は今回が初めてではなかったのだ。 あの悲劇だけは繰り返させてはならない。 「そういえば……元気にしているだろうかな。」 実はグレアムは、闇の書に関する調査を、前事件の終結後にも極秘で続けていた。 あの事件の所為で多くのものを失ってしまったのだから、無理も無い行動である。 そして、これはつい最近の事なのだが……調査を続けているうちに、グレアムはある一人の男とで出会った。 出会ったのは、過去に起きたこれまでの闇の書が関わる事件に関しての聞き込み中。 その男は、自分と同じ―――闇の書によって、仲間を失った者であった。 それ以来グレアムは、その男と共に秘密裏に事を進めていたのだが……最近、彼と直接顔をあわせていない。 色々と忙しく、直に会う機会が無かった為であるが…… 「ウルトラマンの事、話したら驚くだろうかな…… また、ゆっくりと酒でも飲みながら話したいものだ。」 今も自分と同じく、闇の書に関する調査を続けているであろう友人を思う。 彼の様な者の為にも……自分が、頑張らねばならないのだ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「いただきまーす♪」 丁度その頃であった。 ハラオウン家では、引越しの後片付けもすっかり終わって、夕食の最中であった。 勿論、夕食は引越しそば。 なのはとユーノの二人もお邪魔して、ご相伴させてもらっている。 すずかとアリサにも誘いはかけていたのだが、残念ながら用事の為に不在である。 なのはとフェイトにとっては、少しばかり残念だった。 まあ、二人とは昼間の内に一緒に過ごす事が出来たのだし、良しとしよう。 それに……明日からは、四人揃って同じクラスで学校に通う事になるのだ。 共に過ごす機会は、これから幾らでもある。 「ふぅ……おそばって初めて食べたけど、美味しいですね♪」 「え……ミライさん、食べた事ないんですか?」 「うん、僕が地球にいたころには、食べる機会がなくってね。 本当、地球って美味しいものが多くていいなぁ……」 「そうだったんですか……でも、気持ちは分かりますよ。 私達も駐屯任務とかで、現地の見たことも無い食べ物を食べた事が何回かありますし……」 「まあ、不味いものにあたることも何度かあったけど……去年のアレとか。」 「ああ、アレかぁ……アレは悲惨だったよねぇ……」 「アレって……?」 「そうだなぁ、なのはちゃん達にもわかりやすいように言うと…… 納豆とクサヤと発酵ニシンを足して三で割ったみたいな、とんでもない臭いの食べ物?」 「……え゛?」 一つ一つだけでも結構強烈な臭いを持つ食べ物ばかり。 それを足して割るって、一体どんな代物なんだ。 リンディ達の表情から察するに、どうやら味の方もアレな出来だったらしいが…… これでは、折角のそばの味も悪くなってしまう。 何とか、状況を変えねばなるまい。 そう思っていた……その矢先だった。 ピピピピピ…… 「あれ……?」 「この音……通信?」 「あ、私の部屋からだ。 ちょっと行って来るね。」 「はいはーい、エイミィですけど。」 「あ、エイミィ先輩。 本局メンテナンススタッフのマリーです。」 エイミィ宛の通信は、時空管理局本局からのものであった。 引っ越し祝い……という様子ではなさそうだ。 どちらかというと、かなり困った顔をしている。 「うん、どうしたの?」 「実は、預かってるインテリジェントデバイス2機なんですけど……なんだか、変なんです。 部品交換と修理は終わったんですけど、エラーコードが消えなくって……」 「エラーって、何系の?」 「必要な部品が足りないって……このデータです。」 「えっと、何々……え?」 送られてきたデータを見て、エイミィは唖然とした。 そのエラーコードに記述されていたのは、予想外の一文だった。 それは、本来ならば絶対に出ない筈のエラーコード。 『エラー解決のための部品、”CVK-792”を含むシステムを組み込んでください』 「これ……何かの間違いですよね? 二機とも、このまま情報を受け付けてくれなくって……」 「……レイジングハート、バルディッシュ……本気なの? CVK-792……ベルカ式カートリッジシステム……!!」 エラー解決用の部品。 それは何と、自分達の敵が用いていた代物―――ベルカ式カートリッジシステムだった。 2機がどうしてこんな要求をしてきたのかは、容易に想像がつく。 ヴォルケンリッターとの戦いにおいて、なのはとフェイトは手痛い敗北を負わされた。 その最大の敗因は……デバイスの性能差が大きかったから。 そしてそれが最も悔しいのは、他ならぬデバイス達自身だった。 自分達の力不足の為に、持ち主を傷つける事になってしまった。 もう二度と、あんな事態を起こさないためにも……2機は、この決断を下したのだ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ふぁ~……」 翌日、早朝。 八神家では、一番最初に目を覚ましたはやてが、朝食の準備をしていた。 リビングの方を見てみると、シグナムがソファーに座ったままの体勢で眠っていた。 はやてはそんな彼女を見て微笑み、作業に戻ろうとする。 すると、その瞬間に丁度よく、彼女は目を覚ましたのだ。 つられて足元にいたザフィーラも、一緒に目覚める。 「んっ……」 「ごめんなー、おこした?」 「あ、いえ……」 「シグナム、ちゃんとベッドで寝なあかんよ? 風邪引いてまうやんか。」 「す、すみません……」 「ふふ……はい、ホットミルク。 あったまるよ……ザフィーラの分もあるよ、おいでー。」 「では……」 用意しておいたホットミルクを二人に手渡す。 程よい温度になっており、飲めば十分あったまるだろう。 その時、ドタバタと音を立てながら二階からシャマルが降りてきた。 そしてその後ろから、欠伸をしながらヴィータがついてくる。 「すみません、寝坊しちゃいました~!!」 「おはよう、シャマル。」 「はやてちゃん、ごめんなさ~い!!」 「ふぁ~……」 「ヴィータ、めっちゃ眠そうやな……」 「うん、ねむい……」 「……そういえば、アスカはまだ寝てるのか?」 「みたいですね……」 どうやら今日も、一番最後はアスカの様である。 これで四日連続のびりっけつだ。 仕方がないと、シグナムは立ち上がり彼を起こしにいこうとする。 すると、そんな彼女の行動を予知したのかどうかはしらないが、アスカが部屋へと入ってきた。 「ぅ~……おはよ、皆。」 「おはよう、アスカさん。 すぐ朝ごはん出来るから、待っとってな~」 「ありがと、はやてちゃん……じゃあ俺、郵便受け見てくるわ。」 「は~い。」 アスカは瞼を擦りながら、玄関へと向かう。 至って平和で平凡、しかしそれでいて幸せな朝の光景。 こうして過ごしていると、戦いのことを忘れさせてくれる。 そう……こんな日々こそが、自分達の目的なのだ。 「……あたたかいな。」 必ず、手にしてみせる。 大切な主と、大切な家族との日常を…… ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「はい……ありがとうございます、レティ提督。」 そして、時刻は昼頃になる。 ハラオウン家では、学校にいるフェイトと、買い物中の為不在のリンディとアルフを除き、全員が作業に取り掛かっていた。 クロノは本局との連絡等を、エイミィは周辺探査ネットワークの整備を。 そしてミライは……メビウスに変身して、ベランダにいた。 彼は仲間との連絡がつくかどうか、一か八かで試している最中だった。 事件解決まではこの世界で戦うことを決意したとはいえ、流石に連絡の一つも入れないのはまずいからである。 手を上空へと向け、光を発した。 すると空に、光の国で使われている特殊な言語―――ウルトラサインが浮かび上がる。 普通の人間には、それを見ることは出来ない。 一部の怪獣や宇宙人、そしてウルトラマンでのみ、ウルトラサインを目視することは出来るのだ。 これを使い、ウルトラマン達は緊急時に連絡を取るのである。 別世界であるから、果たして仲間達がその存在に気づいてくれるかどうかはわからない。 だが、やらないよりかはマシである。 ミライは変身を解き、そして部屋の中へと戻っていった。 勿論、この時の彼の姿は誰にも見えていない。 ばれない様、ちゃんと細心の注意を払ってミライは行動している。 「ウルトラサイン、一応送ってみました。 これで兄さん達が気づいてくれるかどうかは、まだ分かりませんけど……」 「ん、OK。 クロノ君の方は、どうかな?」 「グレアム提督とレティ提督の根回しのおかげで、武装局員の中隊を借りられた。 捜査を手伝ってもらえるよ……そっちは?」 「良くないね……夕べもやられてる。 今までより少し遠くの世界で、魔導師が十数人と野生動物が約四体。」 「え、野生動物ですか?」 「魔力の高い、大型生物。 リンカーコアさえあれば、人間でなくてもいいみたい……」 「へぇ~……あ、でも考えてみたら、ユーノ君とかアルフさんも……」 「いや、それはちょっと違うよミライ君。」 エイミィはスクリーンに映像を映し出し、襲われた大型生物の映像を出す。 ユーノやアルフとは、はっきり言って程遠い外見の相手ばかりである。 確かにこの二人は、こっちに来てから動物形態で過ごす事が多いが、一緒くたにしたら可哀想だ。 しばらく行動を共にして分かったが、ミライはかなり天然が入っている。 素直で純粋なのはいいが、こうどこかが普通の人とずれているような感じである。 「まさになりふり構わずだな……」 「でも、闇の書のデータを見たんだけど……何なんだろうね、これ。 魔力蓄積型のロストロギアで、魔導師の魔力の根元となるリンカーコアを喰って、そのページを増やしてゆく……」 「全ページである666ページが埋まると、その魔力を媒介に真の力を発揮する……次元干渉レベルはある力をね。」 「本体が破壊されるか、所有者が死ぬかすると、白紙に戻って別の世界で再生する……と。」 「様々な世界を渡り歩き、自らが生み出した守護者に護られ、魔力を喰って永遠を生きる。 破壊しても、何度でも再生する……停止させることのできない、危険な魔導書。 それが、闇の書だ。」 「……絶対に消す事が出来ない存在。 まるで、ヤプールみたいだな……封印とか、そういうのは出来ないの? 兄さん達は前に一度、ヤプールを消滅させるのは不可能って考えて、封印に踏み切った事があるんだけど……」 「今までにも、それを試した人はいるみたいなんだけどね。 あまりに闇の書の力が大きすぎて、封印するのが無理だったみたいなんだ。」 ミライは、奇しくもグレアム提督と同じ感想を抱いていた。 何度滅ぼそうとも、執念を以て地の底から蘇る不死身の悪魔ヤプール。 何度消滅させようとも、転生を繰り返し永遠に行き続ける闇の書。 この両者は、どこかが似ている。 そう考えてみると……この戦いは、決して他人事ではないと思えてしまう。 ここまで首を突っ込んだ時点で、既に他人事では勿論無いのだが……どうしても、重ねてしまうのだ。 闇の書と、あの悪魔とを。 「だから私達にできるのは、完成前の闇の書を捕獲する事になるね。」 「あの守護騎士達とウルトラマンダイナを捕獲して、さらに主をひきずり出さないといけない。 ……かなり、厳しい戦いになるだろうな。」 「そうだね……守護騎士達はなのはちゃんやクロノ君達、魔道師組が相手するとして。 当然ダイナは、ミライ君に割り当てられちゃうよね……勝算ってありそう?」 「はっきり言うと、分かりません。 僕も、そしてダイナも……この前の戦いだと、出さず終いに終わったのがありますから。」 ウルトラマンダイナは、恐らくあの戦いではまだ本気を出してはいない。 何か隠し玉があるに違いないと、ミライは直感的に感じ取っていた。 そしてそれは彼も同じ……メビュームブレードにバーニングブレイブと、ダイナに見せていない力がまだある。 次の戦いでは、ダイナも本気で来るに違いない……力を使わなければならないだろう。 ダイナの実力が未知数なだけに、ミライは少しばかりの不安を覚えていた。 だが……戦う前から、マイナスなイメージを持っていては駄目だ。 ミライは気を奮い立たせ、はっきりと答えた……己の、勝負に向けての意気込みを。 「でも……僕は勝ちます。 必ず、勝ってみせます……!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「……ウルトラマンダイナ、か。」 黒尽くめの男は、建物の屋上に立って風景を眺めていた。 その視線の先にあるのは、闇の書の主―――八神はやて。 彼女は今、アスカに車椅子を押されながら、友人であるすずかと楽しそうに話をしていた。 その様を見て、男は全てを察する。 調べによれば、はやてには家族が一人もいないという。 その為、ヴォルケンリッターがその元に現れるまでは、一人暮らしだったはず。 だが……今車椅子を押しているアスカは、ヴォルケンリッターではない。 なら、彼が何者であるかはすぐに分かる。 先日の戦いで、守護騎士と共になのは達と対峙していた、あのウルトラマン―――ダイナだ。 「何故、奴が闇の書側にいるかは分からんが……頃合を見て消すべきだろうな。 最悪の場合でも、ヴォルケンリッターどもは操ろうと思えば操れる……一番厄介なのは敵は奴だ。 ……いや、奴だけというわけではなかったな。」 時空管理局―――特に、先日メビウスと共に現れた者達はかなりの凄腕だった。 最後に放たれたスターライト・ブレイカーが、その全てを物語っている。 実力が分かっているメビウスは別にして、他の魔道師達が全員、あのレベルはあるとすれば…… 「……闇の書を一気に完成へと導けるな。」 男の手から、どす黒いガスが噴出す。 そのガスの見た目は、彼が使役する寄生獣―――ガディバに酷似していた。 だが、それはガディバではなく……そもそも、生物ですらなかった。 そのガスを眺め、黒尽くめの男は微笑を浮かべる。 「ほう、もうページは半分を超えている……あの白い魔道師だけで、随分と稼げたものだな。 全員分を吸収できれば、間違いなく闇の書は完成する……」 リンカーコア自体は、死亡した生物からも採取は可能。 そろそろ、本格的に動き出しても問題は無いだろう。 唯一不安要素があるとすれば、やはりメビウスとダイナになる。 特にダイナは、実力が未知数……慎重に相手せざるを得ない。 手のガスが、より勢い強く噴出される。 とてつもなくどす黒い……暗黒という呼び名に相応しい色だった。 「さて、どう始末をつけてくれようか……」 「じゃあね、はやてちゃん。」 「うん、すずかちゃん、またね。」 「帰り道、気をつけてね。」 日も暮れ始めた頃、三人は帰路に着いた。 アスカは嬉しそうなはやての様子を見て、笑みを浮かべている。 今度の休みに、すずかが家に遊びに来てくれることになったのだ。 今から、その日はどうしようかと、はやては色々と考えていた。 「じゃあ、俺達も帰ろっか。 きっと皆、待ってるだろうしね。」 「うん。」 車の助手席にはやてを乗せ、アスカも運転席に座ろうとする。 だが……その時だった。 アスカの全身に、強烈な悪寒が走った。 例えるならば、喉元に刃物を突きつけられたかのような感じ。 額から、冷や汗が零れ落ちる。 とっさにアスカは、後方の建物―――黒尽くめの男がいた場所へと振り向いた。 だが、そこには……誰もいない。 「!?」 「……アスカ、さん?」 「あ、いや……ごめん。 なんでもないよ。」 「そっか、ならよかった。」 (……なんだ、今の……嫌な感じは……?) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 戻る 目次へ 次へ
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――――――パァァァァァァァァァン!!! 耳に届いたのは風船が破裂した様な凄い音――― 痛みも、声を出すことさえ出来ない――― 悲鳴っていうのは苦痛を感じた時に出すもので そんなものを感じるヒマはなかったし―― 苦痛っていうのは体が脳に送るシグナルのようなもので そんなものを送る暇もなかったから―― 「こ、ふ………」 やられた…………… 唇の端から血の糸が零れ落ちる。 BJの耐久値を超えた決定的なダメージ。 これ、まずい…… ダメ……あの時と同じ… 忌まわしい墜落の記憶が蘇る。 でも体の自由がほとんど効かなくて…… 危機感すら薄れ往く意識と共に彼方へと消えていき――― 私は………負けた。 ―――――― 既に強襲される事3回。 今度は絶対に負けまいと思って戦ったけれど…… 強い……圧倒的だった。 武装隊に入って十年。 どんな敵が来たって互角以上に戦える――― それだけの事をしてきたつもりだったんだけど……… 自惚れていたのかな? ちょっと悔しいよ、レイジングハート…… 白濁とする意識の隅で彼女、青子さんの相貌だけが視界に残り――― 閉じかけた意識の中、私はなつかしい記憶―― ガムシャラに高く飛ぼうとしていた頃の自分の夢を見ていた。 ―――――――― ファーンコラードを初めとした戦技教導隊の魔導士たちに囲まれて 高町なのははウソみたいに、いっぱいいっぱい負けた。 負けて叩きのめされて、自分の未熟を知り―――「戦技」の深さに感動して一心不乱に教導を受けた。 教導の日々は本当にキツかったけれど強くなるのは楽しかった。 自分が強くなる事で、より人の役に立てると思うと嬉しくて仕方がなかった。 そんな環境の下、高町なのはの素質が、才能が そしてそれに溺れぬ妥協しない精神が天井知らずに――自身を高みへと押し上げていく。 故に―――歯車が狂い出したのはいつからだろう? 人は彼女の素質―――潜在的な高魔力を羨んで止まないが 強すぎる力は時に自らを傷つけてしまう。 常に迷わず全力全開の魔力行使をしてきた幼少の高町なのは。 その小さな身体に不釣合いな魔力を惜しげもなく行使してきた。 故に少しずつ確実に、破滅は突然に―――力はなのはに牙を剥く。 無敵のエースと言われた彼女のまさかの墜落。 運良く一命を取り留めた彼女が最初に見た光景。 それは自分の軽率な行動のせいで、悲しみ、焦燥し、むせび泣く友達の――家族の姿だった。 自分は大丈夫……いつだって何とかしてきたから――― そんなヒロイックな気分で皆に迷惑をかけ、悲しい思いをさせてしまった。 それが情けなくて、申し訳なくて………彼女はベッドの中で一人で、泣いた。 その後、現場に復帰した高町なのはの魔導士のしての生き方は 教導で日々進歩していく技術と痛んでいく体との鬩ぎあいだった。 ソフトにハードが付いていかないもどかしさ――― それを抑え付け、常に安全なマージンを残すよう心掛けた。 後先考えない蛮勇が許されるのは守ってくれる大人がいるから。 未熟だった自分がクロノやリンディ提督にどれ程守られていたのか―― それが分かってくるにつれ、子供の頃の自分がどれほどに未熟で拙かったかが理解出来る。 そんな思いから 時が経ち――― 教導官として教え子を、そして隊長として部隊を預かるようになった高町なのは。 その頃には彼女はもう勢いに任せたガムシャラな行動をほとんどしなくなった。 そのような隊長に部下を預かる資格は無い。 皆が彼女を、子供の頃の危なっかしさは消え、冷静沈着なエースになったと褒め称える。 彼女自身、それで良いんだと思っている。 ――― 人は変わっていかなきゃいけない ――― いつまでも子供のままではいられない。 今やなのはの力と体の天秤はその限界を超え 全力行使をすれば、自身のカラダをも削り取るほどになっていた。 リミットを越える度に動かなくなる体。 ベッドに横たわる弱い自分の肉体をもどかしく感じる事はある。 でも、それはしょうがない事――― こんな弱々しい体でも出来る事はあるのだ。 たくさんの人を救って、育てて……… 意識したくもない自身の「天井」の存在を切に感じながら 自分の限界というものに、その深層心理が意識せざるを得なくなっていた頃から なのはは教導官として自分が培ってきたもの―― 自分が飛んできた証のようなものを残したいという夢を、殊更強く抱くようになる。 6課で出会った教え子達に自分の技を一つ一つ伝授したのも そうした無意識下での想いがあったのかも知れない。 なのははここ数年、ある意味、本当の全力全開で戦った事がない。 全力を出してもそれは確実にフォローが入る状況――― 頼りになる仲間や戦略の上の勝算に裏打ちされた行動だ。 完全無欠のエース―――今や「不沈」と言われるその在り様。 だがそれは、がむしゃらだった頃の自己との決別によって得た 堅実な計算と確実な数値に裏打ちされた予定調和のようなものだったのである。 ―――――― そんな今の自分が、咄嗟にブラスターまで使って――この戦いに何を求めていたんだろう? 真っ向から全てを受け止められて、スターライトブレイカーすら破られての完璧な負け。 ここまでの力の差を感じたのはあの時以来…… 私とフェイトちゃんが二人でかかって手も足も出なかった人―― ファーンコラード校長。そして教導隊の怪物じみた先輩達。 ……………………… ……………………… ああ―――――――そうか…… そういえば、そう――― 似てるんだ………彼女は。 魔法使い蒼崎青子さん。 とても強くて、凄くて、飄々としていて 全てをぶつけても弾き返されそうな雰囲気を持った人。 一つの到達点にいる人間、特有の気配――― 参ったな……… そんな相手の空気に当てられて私は 今日、柄にもなくムキになっていたのかも知れない。 オーバードライブは諸刃の剣。 下手に使えば自らの魔導士としての人生を縮めてしまう。 だから使用するのは理由がある時だけ。 負けられない理由が存在している時でなければいけない。 ――――この戦いは多分、そんなんじゃない……… 恐らく何の因果もなければ、何かを守るために命をかける場面でもない。 確かにいきなり襲われたという事を鑑みて……管理局の魔導士である以上 毅然とした対処をしなきゃいけない場面だった。 けれど相手が自分を上回ってると感じた時点で逃げようと思えば逃げられた筈。 敵から殺気は感じなかった。 だから回避しようと思えば出来る闘いだった筈。 なのに、気がつけば踏み込んでいた――― 無意識に、踏み込んでいた――― 不意に放り込まれた戦場。 サーヴァントという巨大な壁をその目で見せつけられて―― 自分の力に不安を感じ始めていた時に出会った彼女。 底知れない雰囲気を持ったこの人に、かつて雲の上の存在だった教導隊の先輩の姿を重ねていたんだ。 そしてただひたすらに自分の全力をぶつけて向かっていった事を思い出していたんだ。 ――― 人は変わらなきゃいけない ――― そんな、今となってはあまりに妄執じみた思い。 ――― 大人になっても忘れない ――― 駄目だなぁ………私は。 無茶はもうしない。 そう決心して、心の中にしまい込んでなお―――その相反する思いを消す事が出来ない。 エースでも隊長でも教導官でもなく、一人の空の人間としての私の自我(エゴ) もっともっと高く、強く、飛びたいという―― 空が大好きだから、空では誰にも負けたくないという想い。 もしかしたら今―――それが足りないのか、とすら思う。 それが足りないから 知らずのうちにセーブするのが当然になってしまっているから だから、勝てないのかなって思っちゃってる。 ――― だったら……………昔みたいにやってみようかな…… ――― がむしゃらに、ただがむしゃらに、壁にぶち当たるように。 まだ全てを出しきっていない。 幼少時代、意識を無くすまで体を苛め抜いたあの頃に比べれば、全然……余力が残っている。 ちゃんと意識だってある。 「――――ク、シ……ド…」 レイジングハート――― この相棒にもこれ以上の敗北を味あわせたくない。 だからもう少し、あと少しだけ、力を貸して…… 掠れた声しか出せなくて、だから精一杯念じた。 all right exseed mode set up そんな私の声を―――いつだって、しっかりと受け止めてくれる。 ほぼ力を失った私の目に光が戻る。 最後のセーフティゾーン――己の心に誓った、最後のリミッター。 子供の頃に封印した「絶対に無茶をしない」という誓いを…… 今、私は外す。 ―――――― 「……………………?」 頬に風を感じ―――髪が鼻腔をくすぐっていた。 体は中空にあって―――地面を遥か頭上に感じていた。 重力に任せるままに堕ちていく……… この感覚は――― 「リ………」 即ち、墜落っ! 「リカバーッッッ!」 寝起きの九官鳥のような素っ頓狂な声でデバイスに指示を出す。 声が裏返ってしまって恥ずかしい…… All right それを受けてデバイスが急遽、私の頭上に力場を形成し、姿勢制御の取っ掛かりを作る。 それを両手で受けてくるん、と上体を返し―――私は意識を自身の肉体へと戻す。 「やばい……気絶してた」 それは実際には2、3秒ほどの意識の混濁。 凄まじい衝撃を全身に受けた事で生じたブラックアウトだったんだろう。 全身が凄く痛い…… 保険としてBJに魔力を裂いてなければ、終わってた。 そのBJも無残に裂けて、飛び散って、もう普通の衣服程度の―― 腰と胸を隠すくらいの用途しか果たしていない。 「でも……何とか残ったよ。」 そう―――だけど、私はまだ負けていない。 覚醒していく意識が再び戦場に自身の身の置き場を認識させ あの強い魔法使いがこちらを見据えているのを確認する。 思いを受け取ってくれた私のパートナーの両端から 勢いよく―――その翼が展開される。 「ごめん………いける? レイジングハート」 Yes Of course もう余力は無いけれど――― 本気で行くよ……蒼崎青子さん。 当たって砕けろなんて本当はいけない思考だけど…… 私も今回は壁を越えなくちゃいけないから――― だから、受けてみて! これが私の……本当に最後の攻撃ッ! エクシードへと変化したデバイスが残った魔力の全てを変換し――― 一条の槍を構えて私は立つ。 超えなければいけない者―― 踏み出さなければいけない時―― それを心に抱きながら―― 私は次で決まるであろう攻防にその身を委ねのだった。 前 目次 次
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昭和57年10月22日作戦決行二時間前 アースラ 「クロノ」 自分の名を呼ばれ振り返る 「フェイト―なんだい?」 フェイトは気まずそうにクロノの左腕を見る。前の作戦でAMFとプログラム破壊型の 電磁情報でBJの左袖が消失し一発のライフル弾が貫通したのであった 「シャマルの見立てじゃ骨にダメージは無いみたいだから一両日で回復するさ」 「―っ、でも私のせいで大事な情報が―」 反論しようとするフェイトに 「いいかい怪我は君のせいじゃない!僕のミスだ!――彼等は強い、甘く見ていると今度は誰か死ぬことになりかねない」 「ごめんなさい…」 「…いや、ちょっと言い過ぎた。大丈夫現場には出られないけどさっさと終わらせてみんなで翡翠屋で打ち上げをしよう」 クロノはフェイトの頭を優しくなでるとさっきまで曇っていたフェイトに笑顔が戻った 昭和57年10月22日午後9時45分 作戦開始 そこには現場の指揮を取る八神はやての姿があった 「いくでなのはちゃんフェイトちゃんシグナム3・2・1」 「「「GO!!!」」」 当初の作戦通り建物の制圧を後回しにしAMF発生装置の破壊に重点を置くことを再度、念話で簡潔にメンバーに通達する 「……なぁシャマル、確か清掃車って…」 目標を目前にヴィータはシャマルに問いかける 「えぇぇっと…確か…」 確かに清掃車である上部の「重機関銃」と「追加装甲」を除いて 「散れっ!」「てぇっ!!」 どががが!! 銃身が唸りを上げる 「主はやて!清掃車両から銃撃を受けています!!目標も逃走!」 「そっちも!?フェイトちゃんとことおんなじ使用やな」 「はやてちゃん!!」 なのはかから念話が入る 「こっちは順調!ディバインシューターで追撃中…チャンス!スターライ…え?」 「どないしたんや!?」 「ひ・非常識、おなか見せてるのに銃身がこっちむいて…」 航空機から光が瞬き―― ガララララッ!! シールド魔法を展開しぎりぎりでなのはは防ぎきった 「うぁ…みんな手間取ってるなぁ。せやけど…まだAMF発生装置が作動してへん今のうちに…」 どかん!! フェイトが追っているAMF発生装置の方角で爆炎があがる!! 第一段階が成功したかに思えた 「はやて!想定外の事態が!!」 「どないしたん!?」 「所属不明の装甲車が施設内に進入しAMF発生装置を破壊!」 同時にハウンドも動きを見せる 建物から部隊を一斉に展開させ隊長の矢島から全周囲の無線が入る 「我々は貴官達との戦闘を一方的に破棄し本来の目標『化け猫』との戦闘を開始する。邪魔をするな」 「うちらは眼中に非ずか…」 はやては一人、悪態をつきつつ各班に新たな指示を出す 「AMF発生装置はうちらの獲物や。それに本をただせば『化け猫』が一番悪いんや!!目標一時変更っ! 目標「化け猫の装甲車」!!」 戻る 目次へ 次へ
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彼はごく普通の男だった 父と母、そして妹の3人が彼の家族だった 彼は戦士だった 父、母、妹を殺され復讐のため、彼は戦士になった 彼には仲間がいた 技の戦士がいた 力の戦士がいた 足りない力をその知恵で補った戦士がいた 海を駆ける戦士がいた 野性の力を宿す戦士がいた 電気と拳で戦う戦士がいた 大空を翔る戦士がいた 五つの腕と拳法で戦う戦士がいた 完全機械の忍びの戦士がいた 彼らとともに、人類の自由と平和を守るために戦った ―――●●●●●●!!!頼む!俺を●●●●にしてくれ!!!――― それは決意と始まりの言葉 ―――後は頼んだぜ!!●●!!――― 激しい戦いが続き、戦友は一人、また一人と散っていった 彼は独りになった それでも彼は戦い続けた 友が信じた正義を、託された想いを胸に抱き 傷つき、倒れようとも立ち上がり ついに平和を手に入れた 誓った仲間はもう誰もいなかったが彼は満足だった 穏やかな日々が続き そうして、人類は自ら滅んだ 彼は本当に孤独になった ―――魔法少女リリカルなのはA s―S.I.C―帰ってきたV3――――始まります 見渡す限りの砂漠の世界。時折、文明の名残かビルの残骸が見える 天空には三つの太陽が輝き、地表を灼き尽くさんばかりに照り付けている 人類が滅んだこの世界では砂竜が食物連鎖の頂点である。 彼らは環境の変動による突然変異で誕生した。 本来ならばこの世界のかつての人類のように魔力をもつことはあまりない しかし、稀にこの種の中から莫大な魔力を持つリンカーコアを保持するものが生まれることがあった。 「なんなんだよこいつは……!?」 はやての為、リンカーコアを回収するためにヴィータは砂竜と戦っていた そこそこ手強い相手ではあるもの、その強さに比例しない強大な魔力を持った相手であり、ページを増やすにはうってつけの相手の"はず"だった。 そう、そのはずだったのだ。 単なる経験値の高いボーナスモンスターのような存在だと思った。 敵を侮り、逃げる砂竜相手に狩猟気分を味わいながら追い詰めた。 実際は深追いし、気がつけば巧みに誘導され、20匹ほどの群れに囲まれてしまっていた。 ヴィータが追っていた砂竜は他の固体とは明らかに際立っていた。 ふたまわりも大く全身が白く、後頭部(?)から2本の触覚が生えていた。 先ほどから周囲を囲んでいた雑兵は手を出さず。ボス砂竜は"にやり"と嗤った 「!!?」 明らかに嘲笑だ! この鉄槌の騎士ヴィータが嗤われた!ベルカの騎士である自分が!嘲られた!蟲ごときに!! いや、もう蟲とは呼ぶまい!獲物とは呼ぶまい! 鉄槌の騎士ヴィータはこいつらを倒すべき"敵"と認識した! 「でえええええええええゃゃああああああああああ!!!!」 吼えた!目の前の敵を打ち倒すべく、愛する主に誓いを立て騎士は立ち向かった!! GUUUUUOOOOOOOOOOO!!!!!!!! 鬨の声をあげ砂竜が応える。 1対20 覚悟を決めたヴィータの相手にはやや不足の相手かもしれなかった。 しかし「鉄槌の騎士」といえど連日の戦闘、管理局の目を盗んでのリンカーコア回収による疲労は確実に戦闘力を削いでいた。 それに加え、砂竜どもは巧みに連携し、死角をつき、仲間が倒されようともかえりみず襲い掛かる。 6:4でこちらのやや不利だったが気にしない邪魔する相手を叩き、潰し、崩し、抉り、鬼神の如き有様で葬り去っていった。 「テートリヒ・シュラーク!!」 最後の雑兵が倒れた。 こいつらをいくら倒してもリンカーコアを得ることはできない。 ボスはそこにいた。 どうやら2本の触覚で雑兵を操っていたようだ こいつにとっては部下など換えの聞く駒でしかないらしい 全ての雑兵が倒れようやく動き出す。 「残りはてめぇだけだ!!」 魔力はほとんど残っていなかったがそれを微塵も感じさせぬほどの気迫だった。 ボス砂竜は大きく口を開け、灰色の巨大な魔力を収束させている 原始的な魔力砲だ。普段なら何の問題もないが満身創痍の自分には危険だ。 一撃で決めるしかない! 「ギガント……シュラーク!!」 残りの魔力を全てつぎ込んで、相棒グラーフアイゼンが身の丈10倍に迫る巨大なハンマーに変化する。 それと同時に魔力砲が発射された。 魔力砲をぶち抜いて、本体を潰す!ギガントシュラークをたたきつけようとした瞬間 「轟天………!!爆さ…!?」 ガゥン!!! 轟音とともに巨大砂竜の頭部が揺らぐ 「………あ?」 ガゥンっ!!ガゥン!!!ガゥン!!! GUSYAAAAAAAAAAAAA!!!!! 最初の銃声から3発、計4発で巨大砂竜は断末魔の叫びを上げて崩れ落ちた 穿たれた穴から毒々しい色の体液が噴出し、ヴィータに降り注ぐ 「うぇ!べっべっ!!きたねぇ! くせぇ!!」 降り注いでくる体液に辟易しつつ射撃地点と思われる方向を見る。 そこに人の容をした"ナニカ"がいた。 赤い仮面、緑の複眼、2つの風車を模したようなベルト、継ぎ接ぎに見えるプロテクターをまとった"何か"がマフラーを棚引かせて立っていた。 その手には先の砂竜を屠ったと思われるひょうたん型の奇妙な銃が、硝煙をくゆらせている。 「いったい…なんなんだよ………?」 「……人間?………女の子だと?」 目次へ 次へ
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[たかまち なのは] 登場作品:都築真紀/ivory「魔法少女リリカルなのは」 ◎ 会うは盗みの始めなり ◎ 【R-18・あんこ・安価】あんこ大戦【サクラ大戦】(完) ◎ あんこのガッシュ(完)(R-18) ◎ 神様だって恋をする ◎ 自衛官だって恋がしたい(完) ◎ 【反】なのはな【DQ1】(完) ◎ Fate another やらない夫の聖杯戦争(完)【R-18】 ◎ やらない夫とフェイトが職場でイチャイチャする話(完) ◎ やらない夫は剣を取るようです(リレースレ)(完) ◎ やらない夫は甲子園を目指すようです(リレースレ)(完) ◎ やらない夫はそっと寄り添うようです ◎ やらない夫は妻に隠れてロ◯エロ漫画を読むようです(短編)(完結) ◎ やる夫がモデラーになるようです ┗◎ やらない夫となのはと美琴のワリとただれた学生性活【R-18】 ◎ やる夫とミスティアは夫婦のようです。(完) ◎ やる夫は自分らしく生きるようです(完) ◎ やる夫はひと夏の思い出から始めるようです ◎ LET IT GOな政治家たち(完) ○ やらない夫は獣の世界で生きているようです【R-18】 ○ やる夫たちは「勇者の証」を手に入れたようです(完) ○ やる夫はリィンバウムに召喚されたようです ○ やる夫は銀河の英雄『魔術師』になるようです △ 凹凸MS特務遊撃隊が一年戦争を生存戦略 △ パイロットになって一年戦争を生存戦略 △ プライドモンスターズ! △ やらない夫でリリカルなメモリアル(エ) △ やらない夫とやらない子は科学捜査をするようです(完) △ やらない夫は悪鬼なのだ(エ) △ やらない夫はお悩み相談所をはじめたようです(完) △ やらない夫は艦長やってます △ やらない夫は小さな村の冒険者のようです(完) △ やらない夫は魔導士(笑)で騎士団所属のようです △ やらない夫は魔法使い?達と旅をするようです △ やらない夫はロリコン呼ばわりされるようです(エ) △ やる夫がたった一人の最終決戦に挑むようです(完) △ やる夫がフロンティアでハンターになるようです(エ) △ やる夫達は嘘を重ねるようです △ やる夫は“裏切り者”を名乗るようです(エ) △ やる夫は帝都の守護者のようです(完) △ やる夫でいきなりトルネコ3(完) △ リリカルマジカルイノセンツな世界で生存戦略 そのに(完) △ 【あんこスレ】りりかるまじかるなの【R-18】 ◇ 魔法少女「…補導された」(エ) ◇ やらない夫が落とし物回収を手伝うようです ◇ やらない夫達の美しき青春 ◇ やらない夫となのはさんと珈琲豆と。(完) ◇ やらない夫は魔王と暮らしているようです(エ) ◇ やる夫と座敷わらしのいる生活(エ) ←小鳥遊六花 タに戻る 鷹守ハルカ→
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マクロスなのは 第27話『大防空戦』←この前の話 『マクロスなのは』第28話 『撃墜』 「あら、来たのね」 スカリエッティにすら知らせていない隠れ家で潜伏していたグレイスが呟く。 彼女はその美貌に似合う凄みある笑みで微笑むと、隠れ家の回線から民間の回線をハック。刹那のうちに地球の衛星軌道上を回る通信衛星の一つを自らの支配下に置くと、その更に高みに存在する静止衛星軌道上の、ある座標へとそのアンテナを向けさせた。 (*) 第1管理世界(時空管理局本部の置かれている世界) 太陽系第3惑星「地球」 静止衛星軌道上 かつてアルト達の乗ったVF-25がフォールドアウトした宙域に、再びフォールドゲートが開いた。 ゲートは向こう側から砲撃でもされたのか、爆風がゲートから吹き出す。そして静かになったかと思えば、おもむろに何かが出てきた。 赤いノーズコーンが確認できてから極めてゆっくり出てくる。しかし機首部分であるはずのそこは、次の瞬間には赤い咆哮をあげて逆噴射を行った。どうやら強力な逆推進スラスターを括り付けていたようだった。 そして4秒近くかけてようやく緑色のキャノピーをもつコックピットが、その姿を表し始めた。 (スラスター燃焼完了。廃棄(パージ)。減速率は94%で予定値をクリア。ISC大容量エネルギーコンデンサより電力を出力、該当の転換装甲に集中。現在は機体構造維持率62%。なお低下中・・・・・・) ようやくこちら側に来たVF-27のパイロット、ブレラ・スターンは、フレームから悲鳴をあげる己の機体に起きている事態に対処するために、全力で対応する。 あちら側でフォールドゲートに突入した時間は機体全体で2秒に満たぬが、こちら側ではその時間は十数倍に引き伸ばされ、その時差が機体を、ゲート部分を断面として引き裂かんとしているのだ。 これに対処するために開発したディストーション・シールドを、艦全体に張り巡らす改良を施さんとしているマクロスクォーターと違って、コックピットとエンジンだけと最低限のそれしか装備しなかったVF-27はそのツケを払っていた。 機体の構造維持はその大部分を内部フレームと外装の転換装甲が担っているが、どちらも主機である反応エンジンの電力を供給してその強度を高めている。しかしエンジン部との時差が十数倍となった機首には、通常の15分の1程度の出力しか到達しなかった。そのため機首にあるISCのコンデンサから電力を出力し、無理やり構造維持を図っていたのだった。 もっとも当初から予想されていた事態だったこともあり、その対応は難しいものではなく、最初の対応から20秒ほど経った頃には主翼がその姿の6割ほどをのぞかせていた。 すでに機体のこちら側の慣性は吸収し尽くし、両翼の反応エンジンとも通常コネクトを果たしてISCを全力運転。ゲート断面部から新たに現れる慣性を打ち消し続けている。予定ではあと10秒ほどで機体全体が通常空間に復帰できるはずだった。 (アイツがここにいるかはともかく、ランカがいるのは間違いないな) 電子の目を通して近くにあった地球型惑星を見ると、惑星フロンティアのようにバジュラクイーンクラスのフォールドネットが惑星全体を覆い尽くしている。どうやらフォールドクォーツの資源に恵まれているようだ。それと同時にランカがそこで歌っていたのであろう期間の長さが窺える。 しかしなにより今、惑星上の弓状列島から放たれる超強力なフォールド波に、機内のフォールドスピーカーが共振して伝わる生の歌こそが、彼女の生存を声高にさえずっていた。 その歌声に安心していると、機体の受信機がいくつかのフォールド式トランスポンダ(IFF)を拾う。 どれもフロンティア船団籍。どうやら探し物以外にも思わぬ拾いものをしたらしい。 それら反応が集まる弓状列島へと電子の目を収束していると、彼女はやってきた。 『(久しぶりだな。ブレラ少佐)』 「オコナー大佐!?」 突然の声に思わずリアル(生身)の口がその叫びを放つ。 そして死んだはずの女が何時の間にか自らの電脳空間に侵入を果たしていることを認識するのに、25ミリ秒ほどの時間を要してしまう。その一瞬でローテクな通信衛星からのハッキングという大きなハンデを背負っていた彼女は、情勢をひっくり返した。 電磁妨害などの機構を使う間もなく彼のシステムは瞬時に乗っ取られ、その自意識には何十ものシステムロックがかけられた。 その数秒後にはVF-27は通常空間に復帰したが、メインシステムであるパイロットはシステムの牢獄にとらわれたままだった。 人間らしさを失い無機質となってしまったかの翼は、アップデートされていたLAI製の最新アクティブ・ステルス・システムを駆使して、誰に観測される事なく現域から離脱した。 それから10分ほど経つと、残されていたフォールドゲートから赤く、長い針の様なものが生える。しかし針は時と共にその全長を伸ばして行き、最終的には10メートルを超えた。 そして本体部分まで出現が始まると、本能からかフォールド波をばらまいて擬似的なディストーション・シールドを展開。時空差を捻じ曲げて赤い物体が高速でゲートから飛び出した。 その赤い物体─────個体名称「アイくん」は、フォールドアウトと同時に不思議な感覚を味わっていた。 クイーンからのリンクが切れたから・・・・・・ではないようだ。しかし自分達(バジュラ)にとってとても懐かしい気のする感覚だった。 アイくんはそれを『〝彼女(リトルクイーン)〟が歌っているからだ』と結論づけると、発信源である弓状列島の中心に進路をとった。 ちなみにこの時巡回任務についていた管理局のパトロール挺は、VF-27ではデフォルトのアクティブ・ステルス・システムでゲートごと観測データを書き換えられて気づかず、アイくんでは彼の発する生体電気シャミングによってシステムダウン。どちらにせよ、あまりに無力だった。 (*) 同時刻 空きビルの屋上には2人の人影があった。 「ディエチちゃん、ちゃんと見えてる?」 そうもう1人に問いかけたのは、メガネを掛けた少女だった。 しかし彼女こそ、海上のガジェット・ゴースト連合を幻術で強化している張本人だった。 彼女の魔法、IS(インフューレントスキル)「シルバーカーテン」は従来の幻術とは違って魔力素の結合に頼らぬため、ランカの超AMFも効果がなかった。 そしてディエチと呼ばれたもう1人の少女は、ある一点を見据えていた。 「うん、遮蔽物もないし空気も澄んでる。よく見えるよ」 彼女の瞳に内蔵されたスコープが、目標である管理局の大型輸送ヘリを捉える。 「でもいいのかクワットロ?撃っちゃって?あの子はただ〝歌ってる〟だけだよ」 ディエチの問いに、クワットロと呼ばれた幻術使いは微笑むと答える。 「ふふふ、ドクターとウーノ姉様曰く、あの子の歌がこのAMFの発生源なんですって。だから今後の計画のじゃまになるし、〝殺しちゃって〟だって」 まるで「今夜のおかずはハンバーグよ~」というような軽い口調で物騒なセリフを吐くクワットロに、ディエチは 「ふーん」 と無感情に返した。 (*) 次々に出現する敵の増援に、サジタリウス小隊はランカが参入してからも20分以上付き合わされた。 そして今でも空域では空戦が続いている。 しかし弾薬の欠乏と疲労の蓄積したサジタリウス小隊は、フロンティア基地から緊急出動した部隊が到着した頃には、帰投せざるをえなくなっていた。 さくらのVF-11Gは今回狙撃任務オンリーだったため、最初に陸戦型ガジェットと格闘戦をやった時に作ったダメージ以外は無傷だ。しかし魔力砲撃の度大出力を使うため、機載の小型魔力炉(MMリアクター)が悲鳴をあげていた。 その横を飛ぶ天城のVF-1Bはひどい有り様だった。さくらと違って直接戦闘の場面が多かった彼の機体は、エネルギー転換装甲なのに所々貫通孔が残り、ガンポッドも紛失していた。また、左右のエンジン出力が安定しないのか何度か編隊を離脱しそうになっていた。 そして2機の前を飛ぶVF-25は飛行を続ける機動こそしっかりしているが、その純白の翼はVF-1Bに劣らぬほどの損傷を抱えていた。 それは最新鋭機に最高レベルのパイロットと言う、理想的な組み合わせでも、敵がしかるべき装備さえ配備すれば大打撃を被るという証明であった。 だがそれより、トルネードパックである両翼のブースターと上部の旋回レーザー砲がなくなっているのに、戦闘空域外ではデッドウエイトになる追加装甲がそのまま残っている。 実はVF-25は度重なる被弾により、反応エンジンと機体本体のエネルギー転換装甲を繋ぐ配電システムが全て断絶し、その機能を完全に失っていた。 通常このまま飛行を続けると構造維持すら困難になり、最悪の場合空中分解という事すらある。 そのためアルトは機体を覆う追加装甲に電力を回し、無理やり構造維持を図っていた。 アルトは細心の注意を払いながら機体を操作する。 転換装甲のないバルキリーなど旧式のジェット戦闘機と同じだ。ミサイル1発、機関砲弾数発で大破する。 アルトは『昔の人は偉かったんだなぁ』としみじみ思った。 60年ほど前、彼らはこの状態で戦い合ったのだ。ほとんど場合で〝たった一撃で墜ちる〟ような戦闘機に乗って。 アルトは感慨に耽けりながら、そして機体を労わりながら、戦闘空域から離れていった。 (*) ユダ・システムである〝彼〟はこの戦いにはゴーストとして参加していた。 彼は満足だった。ガジェットⅡ型改のような急ごしらえの改修機でなく、元から限界ギリギリの高機動に耐えるよう設計されているこのQF2200『ゴースト』という機体に乗り換えられたことに。 しかし前回とは致命的に違う事がある。実は前回の戦闘で被った被害は、ユダ自身にまで及んでおり、記憶喪失に近い状況にあった。 ほとんどはレストアして無事だったが、それでも忘れてしまった内容は、実戦経験を数値化して蓄えられたデータだ。このデータは彼自身の経験だけではなく、第25未確認世界の新・統合軍が統合戦争より脈々と練り上げてきた戦闘アルゴリズムが主である。 それを忘れたとあっては、人間に例えるなら戦場に出たばかりで知識しかない新兵のようなものだ。おかげで今回も無人機部隊を指揮していると言うのに、その指揮と機動には以前と違って稚拙さが目立ってしまっていた。 彼は以前の最後の記憶でこちらを落としかけたVF-25を今度こそ落とすことを目標としていた。しかしVF-25には、こちらの単純な物量戦術や罠がまったく通用しなかった。 また、そうこうするうちに友軍であるガジェットは〝謎の音波兵器〟で弱体化され、他の敵に集中するうちに手負い程度には追い詰めたVF-25も撤退してしまった。 ここに至りあの機体はほんとに最精鋭であり、自分は新兵であると認識した彼は、奴を落とすため経験を積むことを最優先とした。 幸い敵には事欠かなそうだ。フロンティア基地からスクランブルしてきたバルキリーが数多く飛翔している。 そこで彼は手始めに一番動きの鈍い〝VF-1A〟という機種に狙いを絞ることにした。 VF-1Aはまだまだ経験の浅い2期生の乗る機体であり、比較的弱く映るのは当然の結論だった。もし本当に狙われたら航空隊にとって堪ったものではない。 しかし弱点とは言え後進の指導は必須なのだから、航空隊の先輩たちは全力でそれらのフォローを行っている。そのためVF-1Aが全体に占める割合は30%程度のもので、常に連携を維持していた。それに2期生達は「(先輩達の)ケツの匂いが嗅げる位置から離れるんじゃない」と教え込まれている事から、その隙を突くことは中々に困難な事だった。 しかし万事がそうであるとは一概には言えなかった。 彼は不如意にも頭出した1機に狙いを着ける。 傍受した彼らの無線によると、ほぼ無力化されたガジェットをゴースト部隊から離して迂回侵攻させていたのだが、それを発見したらしいその機は英雄的にも立ち塞ごうとしているようだ。 2期生と言えど毎度のスクランブル、そして数ヶ月前の演習空域での大規模空襲ですら持ちこたえて来たという自負を持っている。その事から多少の慢心が生まれるのは必然だった。 しかし今回はその多少が命取りとなる。敵は今までと違って、曲がりなりにも戦術を持った敵なのだから。 彼は管制として高空を飛行していたが、近衛として周囲に展開するゴースト一個編隊におっとり刀でVF-1Aを追ってきた編隊機を押さえ込むよう厳命すると、その1機にドックファイトを挑んだ。 それは高空から急降下した彼に〝上昇〟して迎撃してきた。 彼の持つ知識によれば、それは全く持ってナンセンスな機動だった。 速度の乗ったこちら(ゴースト)に比べてエンジン出力とせっかく稼いだ運動エネルギーを持っていかれるあの機体(VF-1A)。勝敗は明らかなはずだ。 果たしてこちらの放つ新型弾頭『超高初速20mm対(アンチ)エネルギー転換装甲(ESA)弾』が面白いように命中するのに比べ、敵の弾丸はかすりもしない。 そして遂に転換装甲のキャパシティを超えたのか主翼やエンジンナセルがもげる。 数瞬の後、キャノピーが吹き飛び爆散した。 しかし操縦者はキャノピーが吹き飛ぶと同時に脱出し、EXギアで飛翔していた。どうやら判断力は一人前なようだ。 ユダ・システムである彼にとってこれはまだ撃墜とは認定せず、その砲口は当然のようにEXギアに向いた。 伸び行く曳光弾。しかしそれはかわされた。 (ほう、なかなかやるな・・・・・・) 彼は初めてその敵を評価した。 元々フロンティア基地航空隊のパイロットは、全員空戦魔導士の出であり、2期生レベルだとまだ魔導士時代の戦闘スタイルを引きずっている者が多数いた。 さきほどの機動もバルキリーではナンセンスな機動だが、魔導士としてなら実は問題ない機動だった。なぜなら彼らは浮遊魔法で重力を打ち消し、水平飛行と同様の速度で、ある程度の高度までなら上昇できるからだ。 そして本来の身軽な体に戻った彼はなかなか善戦した。しかし、どんなに優秀でも所詮はBランクレベルのリンカーコア。リミッター付きとはいえ、なのはやフェイトといった強者がてこずるゴーストにユダ・システムという彼には敵(かな)いようもなかった。 戦闘から十数秒、事態は動き出した。 突然敵の音波兵器が〝止まった〟のだ。 それによりガジェットが勢力を盛り返し、再び空域をAMFで満たした。 AMFによってその魔導士の飛行速度が遅くなる。 彼はガンポッドを照準すると、一斉射した。たった1発の20mm弾に被弾した彼は、一瞬にして全身バラバラになると、血飛沫を上げて落ちていった。 この時、初めて彼の中で撃墜数1がスコアボードに記録された。 (行ける!これなら行けるぞ!) 敵は音波兵器が止まって浮き足立っている。彼は勢力を盛り返した友軍と共に侵攻を再開した。 (*) 時系列は少し戻る。 ようやく横浜上空に到達したアルトは、懸案事項を思い出していた。 『敵の大軍に突入していったフォワードの4人は大丈夫だろうか?』と。 そこで通信機を操作し、六課のロングアーチに繋いだ。 『お疲れ様です。〝早乙女〟一尉。』 画面に映る〝アルト〟。偶然自分と同じ名を持つ彼女とは、ファーストネームで呼び会う取り決めだった。 また、彼女とはある過去の境遇が同じで、なかなか馬があった。 その境遇とは、自身の性別の誤認だ。 上にも下にも男の兄弟しかいなかった彼女は、最近まで自らが男だと思い込んでいたという。 お笑い草にしかならないこの話題も両アルトにとっては切実なものであり、お互いのシンパシーは強かった。 「サンキュー、クラエッタ。・・・・・・ところでフォワードの4人は大丈夫か?」 『はい。レリックを1つガジェットに確保されたらしいですが、もう1つは確保。途中、アグスタ攻防戦時にガジェットを操作したらしい召喚士一味と戦闘になりましたが、ヴィータ副隊長とリイン曹長の援護で逮捕に成功しました』 それを聞いたアルトは六課の底力に素直に感心した。 援護があったとは言え、入局から半年の新人がこの活躍。全く持って目を見張るものがあった。 『・・・・・・なんなら通信を繋ぎますが、どうしますか?』 そう聞くという事は向こうも暇なのだろう。アルトは 「そうしてくれ」 と頼んだ。 待っている間にも機外から歌声が聞こえてくる。 外部マイクは損傷で断絶しており、気密の高い機内には通常聞こえないはずだった。しかし破損が酷かった事と、ヘリがたった10メートル先を飛んでいる事は無関係ではないだろう。 ヘリの窓からは歌い続けるランカの姿が確認できた。 ランカの方もこちらに気づいたらしく、曲の見せ場である〝キラッ☆〟をこちらに向かってやってくれた。 頷きと共にすれ違い、目前の多目的ディスプレイに向き直ると、すでに通話状態だった。 『─────お、アルトか。私が居ない間に新人達が世話になったな』 ヴィータがグラーフアイゼンを肩に担ぎながら礼を言った。 「なんて事はない。・・・・・・ところで、召喚士は?」 アルトの問いにカメラの位置が横に移動し、リインと4人、そして見慣れぬ青い色の長い髪をした女性を映す。彼女が陸士部隊から来た増援らしい。 しかしアルトの目はその召喚士に釘付けになっていた。 「子供?」 アルトは 10代(ティーンエージャー)にすら達していないであろう、その紫の髪をした少女に意表を突かれた。 『ああ。だが魔力光も魔力周波数もアグスタ攻防戦当時の記録に相違ない。・・・・・・なんだか子供をいじめてるみたいでいい気はしねぇが─────』 (お前が子供って言うな) 『─────少なくとも公務執行妨害、市街地での危険魔法使用についての現行犯逮捕だから間違いねぇ』 ヴィータは言うと、詰問している6人に呼びかける。 『どうだ? なんか喋ったか?』 ヴィータの問いにスバルが否定の仕草を返した。 しかし不意に、少女が口を開いた。 『・・・・・・逮捕もいいけど、大事なヘリは放って置いていいの?』 そのセリフに一同は凍りつく。 『なんだよ!爆弾でも仕掛けてあるのか!?』 ヴィータが詰め寄る。 しかし少女はその問いには答えず、無感情な目でヴィータを見やると言い放った。 『・・・・・・あなたはまた、守れないかもね』 そのセリフはアルトにはピンと来なかったが、ヴィータには効いたようだ。 彼女の顔が蒼白になる。 しかしアルトはこれ以上この通信を見る事ができなかった。 ロングアーチがこの通信をオーバーライドする最優先通信を繋いだからだ。 『こちらロングアーチ!そこから8時の方向、距離3キロの位置にオーバーSランククラスの魔力反応!砲撃です!』 「バカな!ここはランカの超AMF下だぞ!」 アルトは信じられない事態に、まず相手を確認する。 操縦者のその方向への振り返りに機体のセンサーが呼応して、発生地点がホロディスプレイを介して拡大される。そこには全長が2メートルほどの〝大筒〟を構えた人間の姿が映っていた。 大筒の先端では光の粒子が集束されており、何かはわからないが発砲体勢に入っていることは間違いない。 そしてその照準は間違いなく、ランカの乗ったヘリに向けられていた。物体を狙う場合は破壊設定であることは言うまでもないだろう。 また、オーバーSランククラスの砲撃ではヴァイスのヘリのPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)では紙くず同然である。 「メサイア!発砲までの予想時間は!?」 「6 seconds.(6秒)」 聞くと同時にアルトは機体を急旋回、スラストレバーを全開にまで上げてヘリまで戻る。 「ジャマだぁ!」 重い追加装甲がパージされ、多目的ディスプレイに『非常用構造維持エネルギー、限界まで60秒』という文字が躍る。 VF-25が〝ガタガタ〟と軋みを上げ、自機の限界を主張する。 しかし機体だけでなく無線も悲鳴をあげた。 『アルト隊長!無理です!やめてください!』 さくらの叫び。しかし修羅となった彼は止まらなかった。 そして無慈悲にも発砲された(魔力)素粒子ビームに、その機体を曝した。 バトロイドに可変したVF-25は防弾シールドを両腕で保持してPPBSをフルドライブ!着弾したビームが四方に分散する。 しかしビームは減衰するが、止めるには至らなかった。 コックピット内で最後に彼が認識したのは、分子レベルにまで分解されてゆく己の体だった。 (*) ランカにはそれは極めてスローモーに映った。 ヴァイスのいるコックピットからロックオンアラートが聞こえた。 そちらを向こうとしたとき、視界の端につい先ほどすれ違ったはずのアルトのVF-25が映り、そちらに意識が向く。 「ビーム拡散弾、散布。PPBS最大出力!全速回避!!」 ヴァイスの叫びが聞こえると同時に、三半規管が床の傾きを感じ取る。 その刹那、正面に捉えていたVF-25から強烈な閃光が発せられ、視界が白く覆われた。 普段ならば、眩しさに思わず目を細めるはずのその光景。 しかしこの時だけはなぜか目を離さず、凝視し続けていた。 光から視界が開く。 最初に目に入ったのは、炎に包まれ四散する物体。 10秒にも満たないこの時間に凝縮された圧倒的な情報量。 それにより思考は完全に停止し、〝ボーッ〟っとその現場を眺める。 管理局の国籍表示マークをつけた魚のヒレのような主翼や、透明なキャノピー。その他白や赤に塗装された大量の部品が力なく落ちていく。 その光景に自身の脳は一つの結論を導いた。 アルトが、死んだ そんな。 少なくとも緊急脱出(イジェクト)はなかった。 あり得ない。 着弾時に背中に移ってキャノピーを包むファイター形態後部ユニットはそのままだったのだから間違いない。 信じられない。 また、そこから魔力反応は感じられず、転送魔法を使った形跡はない。 嘘だ。 つまり。 そんなはずがない。 結論に。 なにかの。 間違いが、ない。 「い、や・・・いやああぁぁぁぁぁぁぁ!」 (*) 「畜生・・・・・・」 ビームの余波によってPPBSがオーバーヒート。コックピットから小さな火の手が上がって、自動消化装置の液剤まみれになったヴァイスは、よく伸びるソプラニーノの悲鳴を、つぶやきと共に聞いていた。 幸いにして敵はアルトの忘れ形見たる編隊機によって追走。もう攻撃される事はないはずだ。 しかし少女に植え付けたであろう精神的ショックは大きい。 「まだ何も言ってないよアルトくん!もう一度、もう一度『好きです』ってちゃんと言おうって思ってたのに!・・・・・・さっきの念話だって、私の事、本当に大切に思ってくれてるって感じたもん!だからここまで頑張ったんだよ!さっきの歌だって、アルトくんのために歌ってたんだよ!?ねぇ、お願いだから応えて!・・・・・・大丈夫だって言ってよ・・・・・・」 耐圧ガラスを叩いているのであろう鈍い音と共に、その悲痛な叫びが後頭部に届く。それは慟哭にとって変わられ、悲しみを振りまく。 このパイロットという畑に来てそれなりに長いヴァイスから見ても、アルトの生存は絶望的だった。緊急脱出も、転送魔法も、シールド魔法の類も魔力反応の残留すら感じない。 例えこの魔導世界であろうと、それらがなければ大破した機体から操縦者を守る術はない。 彼女を励ませるように何か声をかけてやりたかったが、何もその材料は存在しなかった。 しかし声をかける材料は意外と簡単に見つかった。それが良い事か悪い事かに関わらず。 無線から入荷したその材料に歯噛みし、彼女に唯一してあげられることは自ら直接伝えに行くことだけだと席を立った。 (*) 気づくとコックピットから出てきたのか、目の前にヴァイスの姿があった。どうやら自分はヘリの床に座り込み、膝を抱えて小さくなっていたようだ。 「・・・・・・すまん、こんな時にこんなこと頼みたくないんだが・・・・・・歌ってくれ。AMFが消えて勢力をぶり返したガジェットが押して来てる。もう戦闘空域は三浦半島上空になっちまったらしい。頼む、これ以上〝犠牲者〟を出さないためにも・・・・・・」 ヴァイスが頭を下げて頼んでくる。そんな彼の眼には、涙があった。 (・・・・・・あぁ、悲しいのは自分だけじゃないんだ) 〝自分にはやることがある。〟と自らにムチ打ったランカは立ち上がり、歌い始めた。 〝─────あなたの言葉をひとつください 「さよなら」じゃなくて・・・・・・〟 その歌声は聞く者に、知らず知らずのうちに涙を出させる旋律であった。 私はずっとそばにいた。微笑めば繋がっていたはずだった。六課のみんなと、全ての人がひとつに調和していたあの日々。 ずっとそばにいたかった。でも、どんなに声に託しても、もうあなたまで届かない・・・・・・ 〝蒼い 蒼い 蒼い旅路・・・・・・〟 ―――――――――― 次回予告 姫の悲しみを見たアイくんの逆襲 そしてランカの歌が消え、窮地に残されたフロンティア基地航空隊 次回マクロスなのは第29話『アイくん』 「・・・あら、あなたがアイくん?」 ―――――――――― シレンヤ氏 第29話へ
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この広い世界には幾千、幾万の人達がいて。 いろんな人たちが、願いや想いを抱いて暮らしていて。 その願いは時に触れ合って、ぶつかりあって。 だけど、その中の幾つかは、 きっと繋がっていける。伝え合っていける。 これから始まるのは、そんな出会いとふれあいのお話。 ――――魔法少女リリカルなのはThe Elder Scrolls はじまります タムリエル。 正確に言えばニルンと呼ばれる世界に複数存在する、大陸の一つ。 その全土を支配している、セプティム朝タムリエル帝国の事を示す。 つまり管理局の見解による『第23管理外世界』とは、この世界の一部でしかない。 とはいえ、このタムリエルのみを『管理外世界』とする判断も、決して間違っているわけではない。 何故ならタムリエルと他大陸の間に広がり、互いの交流を阻む「ムンダスの大海」とは、 我々の認識する「水によって満たされた海」ではなく、異世界と半ば地続きとなっている「精神世界」だからだ。 管理局風に呼ぶならば「ムンダスの大海」は「次元空間」と置き換えても良いのかもしれない。 最も、非常に危険が伴うとはいえ通常船舶で航行が可能な以上、やはり厳密な意味で「次元空間」とは別物なのだが。 結界に揺らぎが見られた時点より密かに調査を実施した結果、上記の通り、ある程度以上の情報収集に成功している。 この世界の文明レベルは中世の封建社会に酷似しており、それほど進歩した技術などは持っていない。 石造りの街並みが広がり、機械類は未だ出現せず、よって世界は「剣と魔法」によって支配、運営されている。 しかしながら魔法技術に関しては、時間や様々な技術的要因から調査は難航しており、現在の所は何も判明していない。 だが、外部世界からの接触を遮断する結界。それも管理局に感知、解除できない結界。 このような大規模魔法を行使できることから、その魔法技術は詳細不明なれども高度であると予想される。 本任務は、その結界の基点であると思われるタムリエル中央、シロディール地方へと降下し、 結界の揺らぎ――即ち大規模次元犯罪の前兆と思われる要因を調査し、可能ならば対応する事である。 この異世界タムリエルは前述の通り、極めて未知の世界に等しく、その調査は多大な危険が伴うだろう。 「――――故にくれぐれも注意されたし、か」 深い森の奥で、なのはとフェイトは出立前にクロノから言われた忠告を思い出し、小さくため息を吐いていた。 成程、確かに注意力散漫であったかもしれない。 タムリエル――シロディール地方に広がる森林の風景は、とても素晴らしいものだった。 他都市に比べて多少なりとも自然の多い海鳴町は元より、ミッドチルダでも、こんなに綺麗な森は無いだろう。 彼方此方から小鳥達の歌声が聞こえてくるし、青々と茂った木々の隙間から差し込む木漏れ日は、とても暖かだ。 目を凝らせば林の奥には鹿の姿も見て取れた。周囲を探せば野兎なんかもいるかもしれない。 そして何よりも、なのはが復帰したばかりであったし、二人っきりでの任務なんて本当に久しぶりだったのもある。 ピクニック気分、とまでは言わなくとも浮かれていたのは事実だった。 そしてこの世界で初めて人影を見かけて、ウキウキと話しかけてしまったことも認めて、なのはは頷いた。 「クロノ君、確かに私達が悪かったかもしれない」 でもね。 だけどね。 「こんな猫さんみたいな人に襲われるっていうのは、注意しようがないと思うの」 「猫じゃねえっ! カジートだッ! 良いからさっさと金を出せ! 無けりゃ親御さんに出してもらうんだなッ! それも嫌だってんなら、ぶっ殺して身包み剥ぐだけだ! どっちにしたって手間は大して変わらねぇんだぞ!」」 一方、吼える猫さんみたいな人――もといカジートの山賊は酷く頭が痛かった。 カジートとは、つまり判りやすく説明するならば『猫の獣人』とでもするべきか。 獅子か猫のような頭部を持ち、その体を覆う毛皮や、尻に生えた尾も獣のそれだ。 そして何より特徴的なのは、その頭部に見合った瞳――暗視の力を持っているという事。 その為、多くのカジートが盗賊や山賊へと道を誤ることが多いのだが、 彼もまた、そうして犯罪者へと成り果てた――新米の山賊である。 基本的に山賊、追剥の類は街道沿いの砦跡や、野営地に居座ることが多い。 街道を行く旅人や何かは旅費を持っている事もあるし、良い稼ぎになるのだが―― その一方で、山賊にとって酷く危険な場所でもある。 数時間間隔で街道を巡回している帝都兵は、駆け出しの山賊にはとんでもない脅威なのだ。 何せ帝国軍正式採用の鋼鉄鎧は酷く頑丈であり、その技量は並々ならぬものがある。 まともに戦ったのでは当然太刀打ちできないし、隠れていても見つかるのが関の山だ。 当然、駆け出しの山賊である彼にとって、街道沿いはリスクが高い。 そこで彼は帝都南方に広がるグレートフォレストの、更に街道から南に外れたあたりを根城としている。 洞窟や遺跡が点在し、新米の冒険者が訪れるこの辺りは非常に良い『穴場』なのだ。 なにせ駆け出しの冒険者というのは新米の山賊と、たいして力量の差が無い。 更には身に着けている装備は高く売れるし、上等な品だったら自分の物にしても良い。 勿論、返り討ちにあう可能性だってあるのだが――今回に関しては、その心配はなさそうだった。 何せ上等そうな衣服を身に着けた少女が二人、だ。 杖を持っているのを見た所、魔術師の類かと思って警戒したが……呪文を唱えてくる気配も無い。 というか、このシロディールでも見たことのない形の杖だ。 噂に聞くMOD(意味は知らない。彼はモロウウィンド産だろうと見当をつけているが)とかいう品だろうか。 何にせよ、高値で売り飛ばせるのは間違いあるまい。 「なのは、なのは。ひょっとしたら猫じゃなくてライオンなんじゃないかな」 「そっか……ごめんね、ライオンさん。間違えちゃったよ」 「だーかーらーっ!!」 ああもうやり難いなァッ! まったくもって緊張感が無い。――どこぞの箱入り娘か何かだろうか。 カジートの存在すら知らなかったようだし、そうと見て間違いは無い筈だ。 噂じゃあ、レヤウィンの伯爵夫人は酷い異種族嫌いだとかで、 折りを見ては異種族人を拷問にしかける――のだそうだ。 まあ、其処まで過度じゃないにしろ、差別主義者に育てられた良いところの娘達。 ――なんてところだろう。 こうして威嚇の声を上げて斧を振り回してもまったく動じない辺りを見ても、 やっぱり世間に慣れてないに違いない。 ――そうやって声を荒げるカジートに対し、なのは達もまた途方に暮れていた。 いや、確かに強盗に襲われるなんてのは二人とも初めての経験だったが、 今までの人生――特にここ数年で――それに倍する程の修羅場を潜り抜けている。 それに第一……その、何だ。持っている武器がデバイスでも何でもないただの鉄の斧では……。 正直、バリアジャケットや防護シールドを抜けるとは思えないし……。 彼の纏っている革鎧だって、此方の砲撃魔術に耐えうる品だとはとても……。 「どうしようか、フェイトちゃん?」 「この世界のお金なんて持って無いし――……」 「……泥棒さん相手だったら、お話を聞いてもらうのも、良いと思うの」 「それはちょっと、物騒なんじゃないかなぁ……」 「てめえら、何をごちゃごちゃ喋ってやがるッ! うるさ「いや、五月蝿いのはお前のほうじゃないか?」 その声は、なのは達の背後から、本当に突然響き渡った。 驚き、振り返った二人の前にいたのは――――影のような男。 本当に今の今まで、彼が存在する事にまるで気がつかなかった。 果たして何処からか転移してきたのだと言われても、疑う事は無かっただろう。 或いは、ひょっとするとそれは、このカジートの山賊も同様だったのかもしれない。 明らかに視線の先――視野に入っていたはずの空間に、突如現れた人物を、 彼はこの世のものでない物を見るように見つめていた。 何故なら、その腕には既に弓が引き絞られていたからだ。 この距離だ。弓に矢をつがえる前ならば斧を持つカジートに分があった。 だが、既に矢をいつでも発射できるのなら……話は別だ。 よほど下手な射手でもない限り外すことはないだろうし、 そしてこの男が『よほど下手な射手』である事に賭ける勇気は無い。 だがカジートの山賊は、それでも精一杯の虚勢を張って叫んだ。 「なんだ、てめぇっ! 俺の獲物を横取りする気か!?」 「特段、そんなつもりは無いが。 此方としては彼女達を見逃すのと、少し夢味が悪くなりそうでね。 なので止めに入らせて貰った。 良いから早く逃げ出す事をお勧めする。さもなければ君の頭を射抜くだけだ。 ――どちらにしても、手間は大して変わらない」 その最後の言葉――つまり『いつでも殺せた』という一言が、決定打だった。 カジートは泡を食ったように斧を放り出すと、一目散に街道のほうへと走り出していく。 当然の判断だったろう。それは、なのはとフェイトにも良く理解できた。 この影のような男は、最初から見ていたのだ。一部始終を。 そして――……三人が三人とも、その存在に気づかなかった。 どれほどの力量の持ち主だというのか。 ――若干12歳の二人には、とてもじゃないが見当がつかない。 「……やれやれ、まったく。 ガードの奴ら、鹿狩りには熱心な癖をして街道外の山賊退治は……。 君達、二人とも怪我は無いかい? どこの出身だか知らないが、街道や街から離れない方が良いぞ」 そう言いながら近づいてくる男に対して、二人は礼を言うべくその顔を見上げ――そして固まった。 クロノ君。確かにクロノ君の言うとおり、この世界は色々とわからないことが多いみたいです。 だって、その、さっきの猫さんにも驚いたけど――この人。 助けてくれたし、すっごく優しそうな声なんだけれど、そのお顔が――……。 「「……蜥蜴さん?」」 ……アルゴニアンだ、と蜥蜴頭の男は、苦笑しながら訂正した。 戻る 目次へ 次へ
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街に夜の帳が下りる頃、高町家の道場には未だ明かりが灯っている。 道場には二人だけが相対し、構えたまま互いに微動だにしない。 どうやら打ち込むタイミングを計っているようだ。 窓からは涼やかな風が流れ込み、火照った身体を僅かに冷ます。聞こえるのは風が木々を揺らす音のみ。 ほんの数秒が何時間にも思える程の静寂――。 先に動いたのは左側の剣士だった。一足飛びで面を振り下ろす。 完全に動きを読まれていた。鋭い一撃を相手は的確に受け止め、流れるように胴を薙ぐ。 辛うじて胴を柄で庇う。読んでいたのはこちらも同じ。 それでも、並の遣い手に対応できる速度ではなかった。 面や胴こそ着けているものの、元より剣道としての形式や動きは踏んでいない。完全な模擬戦だった。 そこから先は乱打の応酬。しかし、ぶつかりあうのは竹刀のみで身体には一撃も入っていない。 その剣閃は最早目で追いきることはできない。それはおそらく当人も同じだろう。 可能な限り相手の剣先を読み、捌き、掻い潜って打つ。 二人の激しい熱気が渦のようになり、場を支配する。 呼吸すら忘れて打ち合うこと数分。 先に息を乱し、姿勢を崩したのは先に打ち込んだ剣士だった。 乱撃の中に垣間見えた一瞬の隙を相手は見逃さず、開いた脇の下に逆胴を叩き込んだ。 「がはっ!」 大きく息を吐いて床に膝を着く。胴の上からでも呼吸ができない程、その一撃は重かった。 「腕を上げたな、秋水〔しゅうすい〕」 「……ありがとうございました。恭也さん」 早坂秋水は息を整えて立ち上がり、高町恭也に一礼した。 閉店後の喫茶店『翠屋』の店内で秋水は遅めの夕食を取っている。テーブル席の向こうには恭也と妹の美由希が座っていた。 「食事までお世話になってすいません」 カウンターで微笑む店長の高町士郎、桃子に何度目かの礼をする。勿論、代金は払うつもりだが。 「いいのよ、遠慮しなくても」 「ああ、ほとんど半年振りに恭也と手合わせしたんだ。疲れただろう?」 ニコニコ笑っている4人に釣られて笑みを零す。同年代との会話とはまた違う、 一家の団欒は痒いようなくすぐったいような不思議な感覚がして、どうにも戸惑ってしまう。 「ええ、恭也さん本当にありがとうございます」 「いいさ、たまに日本に帰った時くらいしか相手してやれないしな」 「お兄ちゃんを追い越す日も近いかもね」 士郎、桃子夫妻。長男の恭也、長女の美由希。あと一人、妹がいるらしいが秋水は面識が無かった。 彼らと出会ったのは昨年の春のことだ。 ホムンクルスの集団『L.X.E〔超常選民同盟〕』の子飼いの信奉者として、姉と共にホムンクルスとなる為にひたすら強さを求めていた頃――。 休日の練習後、剣道部の連中に誘われ偶然入った喫茶店が翠屋だった。 わざわざ隣町まで引っ張ってこられたのは迷惑極まりなかったし、その時は味にも大して興味は無かった。 さっさと帰るか、と席を立った時に店に入ってきたのが荷物を持った恭也だ。 顔は優男だが鍛えられた肉体は服の上からでも分かったし、その気配に何か感じるものがあったのかもしれない。 彼が道場に行く、と告げた言葉を聞いた時、思わず手合わせを申し出ていたのだ。 ――結果は敗北。彼の速く重い剣戟を受け止めきることができなかった。 その際も面や胴を着けて竹刀で臨んだが、それが彼の本来の戦い方ではないと知った時は更に驚かされた。 思えば、それが高町家との出会い――。 「どうしたの?秋水君」 「食欲無いのかい?」 桃子と士郎に声を掛けられた。どうやら思い出している内に手が止まっていたようだ。 並んでいるメニューはチキンカレーとサラダとスープ。ごく有り触れたものだが、口に入れると優しい味が空腹に染みる。 「いえ、美味しいです。凄く……」 秋水は僅かにはにかんで、本心から答えた。 恭也は秋水に手合わせを求められた時、最初は断るつもりだった。恭也を動かしたのは秋水の眼。そして彼の言葉。 「俺は今、強くなれるだけ強くなりたい」 彼がそこまで強さを求める理由は解らない。だが、彼に少し興味が湧いた。 全国4位というだけあって腕はかなりのものだ。 それだけではない。それ以上に彼の剣には鬼気迫るものを感じた。そしてそれは追い詰められるに連れて強まっていく。 何が彼をそこまでさせるのか――それは未だに解らないし聞く気も無かった。 御神流を教えろと言うなら断るつもりだったが、どうやら強い相手と稽古をしたいだけらしかったので、以後も美由希が何度か相手をしたらしい。 次に秋水と会ったのは昨年の暮れだった。 どこか纏う雰囲気が変わり、剣からも鬼気は感じない。とはいえ弱くなったのではなく、むしろその太刀筋は見違える程に鋭く研ぎ澄まされていた。 そして最も変わったのは、よく笑うになっていたこと。 恭也は頬杖をついて秋水を見る。美味そうにカレーを口に運ぶ彼は、仮面を被っていたような一年前とはやはり違う。 「秋水、"強くなれるだけ強くなりたい"気持ちは今も変わってないか?」 彼は突然の問い掛けに少し戸惑っていたが、すぐに恭也の眼を見返し 「はい」 と短く答える。その眼と感じる想いは一年前と少しも変わっていなかった。 今宵は新月。夜陰に乗じて行動できるとはいえ、やはり月が見えないのは寂しい。 だがそれも一時のこと、すぐに明るくなる。それに見えなくとも月はそこに在るのだ。 街で最も高いビルから街を見下ろす。 街の中心部はもう21時を過ぎたというのに、派手なネオンや道行く人間の声で賑わい、なんとも喧しい。 だがそれも一時のこと。やがて全ての音は止み、更に眩い光が照らすことになる。 「むぅ~ん、さあ始めようか。月のように美しい光で夜空を照らし、月のように丸い門を開こう」 指を弾いて鳴らし、パーティーの開始を告げる。パチンと寂しく響いた音は人々の耳に届くことはないが、少なくとも彼らには伝わったようだ。 「それじゃあ、ご馳走様でした」 秋水が店の扉を開けると、外がやけに騒がしい。 それが悲鳴だと解る頃には、既に奴等は近くまで迫っていた。 「ホムンクルス!?」 トカゲを模した機械の化け物、そしてバタフライの造った醜悪な人型の蝶整体が4匹、商店街を闊歩していた。 何故、ホムンクルスがこんなところにいるのかは分からない。 分からないが、秋水はすぐさま扉を閉じた。 「どうしたの?秋水君」 「しっ!黙って」 口に指を当てて全員を黙らせた後、急いで電気を消す。 冷静に携帯を取り出し、連絡を試みる。 連絡先は警察ではなく、私立『銀成学園』寄宿舎。 錬金戦団の活動凍結後、秋水は戦団と関わることは無かった。それゆえ戦団にこちらから連絡する手段は持っていない。 卒業し寄宿舎を出てから約三ヶ月経つが、まだ寄宿舎にはあの三人がいるはず。 武藤カズキ、津村斗貴子、キャプテン・ブラボーの三人。そういえば火渡戦士長と中村剛太、毒島華花もだ。 不思議なことにあの学園には六人もの錬金の戦士が集まっている。助けを求めるなら彼らが適任だ。 ブラボーなら戦団への連絡手段も持っているだろう。それに武藤は核鉄をその身に宿している。 しかし確かに番号をプッシュしたはずの携帯からは電子音しか聞こえてこない。 「ちいっ!」 秋水は苛立ちながら携帯を仕舞った。 窓の外を人型の影が過ぎる。 これならやり過ごせるかもしれない、と淡い期待を抱くが――どうやら甘かった。 ガラスの割れる音と共にホムンクルスが飛び込んできた。 蝶整体だ。こちらに気付いているのか? 息を潜めていれば或いは――。 「きゃああああ!」 美由希か桃子か。どちらかは分からないが悲鳴を上げてしまった。これで他のホムンクルスも寄ってきてしまう。 秋水はすかさず蝶整体に駆け寄り、腹を全力で蹴り飛ばす。 不意を突かれた蝶整体を店の外に蹴り出すくらいはできた。 「逃げてください!早く!」 幾多のホムンクルスを屠ってきたからこそ解る。 武装錬金無しで挑むことがどれほど無謀なことなのか。そして狩られる側に回ることがどれほど恐ろしいことか。 この家族だけは絶対に守らなければ。 たとえ核鉄がなくとも自分は錬金の戦士だ――そう考えることで秋水は自分を奮い立たせる。 包囲しているホムンクルスは現時点でおよそ8、9体。低級な動物型か蝶整体ばかりだ。 たったその程度の相手でさえ今の自分には驚異である。 壁を壊されて四方八方から掛かられてはどうしようもない。入り口を開いたのはその為でもあった。 秋水は振り回される蝶整体の爪をかわし、がら空きの頭部に打ち込み、外に叩き出す。 三人は全員がトカゲ型ホムンクルスを相手にしている。敵が緩慢とはいえ、三人ともホムンクルスをものともしていない。 「はあああああ!!」 特に恭也の力は凄まじい。恭也の渾身の一撃でホムンクルスの頭から砕けるような耳障りな音が響いた。 異形の化け物でもこの程度ならば人でも勝てないこともない。ただ、問題はその先にある。 襲い来る敵をただひたすら叩くこと十数分――。 秋水含む全員が既に疲弊しきっていた。 ホムンクルスは致命傷となるような打撃でも、ものの数十秒で起き上がってくる。通常の武器ではホムンクルスを殺すことはできないのだ。 現在、まともに攻めても勝ちは薄いと学習したのか、ホムンクルス達は遠巻きに道場を覗いている。 「大丈夫ですか?皆さん」 戦闘に立つ秋水が全員を振り返る。 「こっちはまだまだいけるが……」 「秋水君は大丈夫?」 「だが、このままじゃまずいな……」 「みんな……ごめんなさい……」 恭也、美由希、士郎、桃子が答える。余力は残っているようだが、三人とも疲労は隠せていない。 今は散発的にしか接近しようとしないが、じきに総攻撃を仕掛けてくるだろう。そうなれば防ぎきることはおそらくできない。 その前に他のホムンクルスがここを嗅ぎつけてくるかもしれない。 (それでも……俺が守らなければ……!) 具体的な策は何もない。選択肢は自分が消し去ってしまった。 それでも諦める訳にはいかない。 重くなりつつある足を踏み込む彼の許に、救いの天使は風を切って飛び込んできた。 「秋水~~!!」 「ぶっ!?」 突如視界が真っ暗になる。力一杯引き剥がすと、顔面には何か奇妙な生き物が張りついていたようだ。 天使には違いないが――それは天使と呼ぶにはあまりにも珍妙な容姿をしていた。 「ゴゼンか!?」 「秋水!核鉄だ!桜花から核鉄預かってきたぞ!」 それでも彼にとって救いの天使には違いなかったが。 『弓矢〔アーチェリー〕』の武装錬金『エンゼル御前』――それが早坂秋水の双子の姉、早坂桜花の武装錬金である。 このキューピッドと言うよりも肉まんのような珍妙な自動人形〔オートマトン〕はその一部である、通称『ゴゼン様』。 ゴゼンの手には確かに核鉄が握られていた。 「姉さん!?なんで核鉄が――」 ゴゼンは桜花と意識を共有しており、ゴゼンを通じての通話も可能だ。秋水はゴゼンの頭を掴んで姉に質問を投げつけようとした。 「(秋水クン、話は後よ!)」 二体の蝶整体が道場の両側面の壁を突き破るのと、桜花の声はほぼ同時。勢いのまま突進し、振り上げた拳は桃子と傍らの士郎を狙っている。 「(エンゼル様!)」 桜花の号令でゴゼンの腕が高速で動き、一体の頭に無数の矢が刺さる。蝶整体はその場に崩れ落ち煙を立てて消滅した。 それでも残った一体は止まろうとはしない。拳を正面から受けることは士郎でも不可能だ。そして桃子がかわすことも間に合わない。 以上を考えるよりも早く、秋水はゴゼンから核鉄をひったくり身体ごと蝶整体の前へと飛び込んだ。 「武装錬金!!」 拳が秋水へと届く寸前、突き出したXX(20)の核鉄が輝きを放つ――。 「秋水君!」 士郎が目の前に割って入った秋水に叫ぶ。 光に目が眩み、次の瞬間には化け物は拳ごと両断され床に転がっていた。 反り返った蒼の刀身、先端の刃は両刃に分かれた小烏造。彼の手に握られているのは紛れもない日本刀だった。 「休んでて下さい。俺が片付けてきます!」 彼は振り返ることもなくそう告げると、外へと飛び出していく。続けて連続した化け物の悲鳴。 数分、たった数分でそれは止んだ。何度戦っても斃すことのできなかった化け物を、彼は 僅か数分で斃してしまったのか。 秋水は妙な高揚感に包まれていた。手元には馴染んだ感触。柄のXの印が蝶に変わっていることを除けば、何一つ変わらず懐かしい。 ようやく――ようやく自分の手に皆を守れる力が戻った。それが『日本刀〔ニホントウ〕』の武装錬金、『ソードサムライX』。 「姉さん、この核鉄はまさか……」 「(ええ、パピヨンのものを借りたの)」 秋水はホムンクルスの掃討を手伝ったゴゼンに、正確にはゴゼンの向こうの桜花へと話しかける。 「やっぱり……。だが、どうやって?」 パピヨンが核鉄を素直に貸し出すはずがない。享楽的で自己中心的、パピヨンとはそういう男だ。 「最初は彼が人を拾っているところを私が発見したの。二人を重そうに担いで飛んでいたわ」 桜花はその二人――大学の同級生でもある月村すずかとアリサ・バニングスを見やる。彼女達は二人揃ってベッドに寝かされている。 服は全身血に染まっているにも関わらず、かなり疲れているのか起こしても起きようとしない。 「電話は通じないし、秋水クンや海鳴の様子も気になった。その点は彼も同じだったみたいね」 「(あいつは自分で見に行かなかったのか?)」 「彼は助けた二人が余程気になるみたいね。だから私を情報収集に使った。その見返りに私は核鉄を借りた……そういうこと」 当のパピヨンは二人から離れた場所で読書中だ。それでも会話はおそらく聞いているだろう。 「(姉さん……今何処に?)」 「パピヨンパークよ」 向こうで秋水の息を呑む音が聞こえた。弟の驚く姿を想像すると可笑しくなり、桜花はいたずらっぽく笑った。 何にせよ、これで脱出の目処はたった。このまま街中を突破して銀成学園へ走るのが最適だろう。 「桃子さん、立てますか?」 「ええ……」 力無く答える桃子を士郎が支える。 「皆さん、今は事情を話している暇はありませんが付いてきて下さい」 全員がそれに頷く。理由を訊く者はいなかった。 ――どれほど走っただろうか。ゴゼンが上空から探してくれたおかげでホムンクルスと遭遇することはなかった。 街は明かりが消えているはずなのに、やけに明るく感じる。 原因はすぐにわかった。それは街を覆うようにたちこめる銀の煙。 暗闇の中でもわかるキラキラ光る美しい銀の煙だ。気付けば全員が銀の煙の只中にいた。 それでも構わず走り続ける内に、恭也達の動きが鈍くなっていく。 〈ぜひ……ぜひ……〉 掠れた呼吸音――水を求める犬のように舌を出し、必死に空気を取り込もうとしている。 腕は喉を押さえ、顔には苦悶の表情を浮かべる。 「どうしたんですか!?恭也さん、美由希さん!?」 遂には走ることもできなくなり、その場に座り込んでしまう。 だが、秋水には全く理解できなかった。銀の煙を吸収していても、自分の身体には全く異常はないのだから。 「士郎さん、桃子さん!?」 しかし、何度呼びかけても彼らからは〈ぜひぜひ〉と掠れた呼吸音しか返らなかった。 背後で耳を劈〔つんざ〕く轟音が響き、近くの民家の屋根に大きな穴が開く。爆発、炎上する民家。 「まだ動ける人間どもがいたのかァ?」 銀の煙の中から現れたのは戦車。 しかし無骨なデザインのものではなく、四足歩行の脚部も長い砲身も、 そして中心にある頭部も――全てが色とりどりの原色や模様で飾られたなんとも派手な戦車だ。 (ホムンクルス……ではない?何なんだこいつは) 「逃げたきゃ逃げてもいいんだぜ?後ろからはこの『ピンボール―「K」』様の大砲で狙わせてもらうけどよ!ぎゃははははは!!」 そう言って戦車は下卑た笑い声を上げた。何にせよ戦うしかないことだけは確かだ。 (だが遠い……) 奴の武器は背中の大砲だ。そして秋水は一足飛びに懐に入れる距離にはない。 左右はあまり広くなく、障害物もないから奴としては狙いもつけ易いだろう。 「やる気なら相手になってやるぜえ!」 戦車の放った砲弾が壁を抉り破片を撒き散らす。 「ぐうっ!」 破片は容赦なく秋水を、そして高町家の人々を打ちつける。秋水は衝撃で地面を転がった。 (まただ……また、迷っている間に危険に晒してしまった……!) 全員で逃げるという選択肢は最早不可能だ。戦うにせよ、砲弾の直撃を受ければ人の身体など容易く粉砕される。 だが避ければ動けない彼らが危険だ。 秋水は選択を迫られる。それも、またしても時間制限付きの選択を。 「どうしたあ、人間!来ないならこっちから行くぜ!」 恭也の目の前で早坂秋水は傷ついた身体を引き摺って戦っている。自分達が彼の足を引っ張っている。 珍妙な生物は矢を連射しているが大きなダメージは与えられていないようだ。 そして戦車の二射目は確実に秋水を捉えて放たれた。 彼は刀でそれを受けて逸らせる。砲弾は再び壁面で炸裂し、熱と破片で彼を痛めつける。 衝撃で吹き飛ばされた秋水は恭也の近くまで転がってきた。 息も絶え絶えになり、全身から血を流し、それでも彼は起き上がろうとしている。 「もういい……〈ぜひ〉秋水、君だけでも逃げろ〈ぜひ〉……」 美由希や士郎もそれに頷く。これ以上、自分達を守る為に犠牲にさせる訳にはいかない。 それは高町家の全員の総意に違いなかった。 「そうそう、一人で逃げるか、全員で死ぬか選びな!尤も逃がしゃしねえけどな!」 戦車はそう言ってまた嗤う。 「いえ……俺は逃げません。俺は皆さんの御陰で強くなれました……ですから勝ちます」 彼は頭から血を流しつつも自分に、いや全員に微笑んでみせた。 それはきっと強がりなのかもしれない。それでもその『笑顔』を見ると胸がふっと軽くなるような――。 気付くと痛みも呼吸困難も徐々に治まっていた。 ギリギリの状況で迫られる選択。最初はその重さに迷いどの選択肢も選べなかった。 今は違う。 「そうそう、一人で逃げるか、全員で死ぬか選びな!尤も逃がしゃしねえけどな!」 どちらも選ばない。自分も死なないし、彼らを死なせるつもりも毛頭無い。 拾える命は全て拾う。そう、彼のように。 日本刀の武装錬金、『ソードサムライX』。エネルギー攻撃を無力化できる以外は単なる強力な刀でしかない。 秋水はこの武装錬金が嫌いではなかった。それは言い換えれば自らが強くなれば、武押す錬金もどこまでも強くなれるはずだから。 秋水は微笑み、立ち上がる。 逆胴の構え――その構えから薙ぎ払う以外に無いが、 恭也をして「その速さの前に避けるは叶わず、その重さの前に防ぐも叶わず」と言わしめた構えである。 「今度こそバラバラに吹き飛ばしてやらあ!!」 迫る砲弾に足を止めることなく走り続ける。 すれ違う直前に右腕に力を込め、溜めに溜めた剣を解き放つ。 砲弾は秋水とすれ違うと同時に爆散。銀でない爆煙が濛々(もうもう)と秋水の姿を覆い隠す。 煙が晴れた時、既に秋水は戦車の上に立っていた。 服は焦げつき、傷は更に増えているが、されど身体は逆胴の構えを取っている。 「てめえ――!」 ピンボール「K」は振り向きながら頭部に隠された機関銃を秋水へと向けるが、それより速く機関銃の銃身、砲身、四肢、そして首に線が走った。 「おおおおおおおおおお!!」 高速の剣閃は乱雑にひたすらに線を刻んでいく。 やがて線の走った箇所は同時に、そして静かに切り離され、ピンボール「K」は無数の欠片と化した。 ゴゼンが秋水の許に下りてくる。 「やばいぞ秋水!ホムンクルス共がこっちに集まってる!!」 今の戦闘で随分派手に音を立ててしまったせいだろう。 どうやら、まだ倒れる訳にはいかないようだ。秋水は途切れそうになる意識を必死で繋ぎとめる。 「ゴゼン、お前は皆を聖サンジェルマン病院へ案内して、その後学園の寄宿舎へと向かえ。俺はホムンクルスをここで食い止める」 「無茶苦茶だ!もうふらふらじゃねーか!」 「行け!」 食い下がるゴゼンを無理やり黙らせると、代わりにゴゼンから桜花の声が聞こえる。 「(秋水クン……私達の場所も安全とは言えない。ここにいる二人を守る為には核鉄が必要になる。 あなたはまだ誰かの命を背負っていることを忘れないでね)」 「分かってる、核鉄は必ず返しに行くから。……ありがとう姉さん」 回復した高町家の人々が秋水に駆け寄ってくる。皆、怪我を負っているのに秋水を心配している。 「皆さん、ここからは別行動にしましょう。俺はホムンクルスを引き付けながら逃げます。 こいつがホムンクルスから逃げられる道を指示しますから、皆さんはそれに従って逃げてください」 「おう!オレ様に任せとけ!」 全員が胸を叩くゴゼンに僅かに不安げな顔をしたが、それしかないことと、話す時間もないことは分かっているらしく頷く。 「でも秋水君……そんな身体で……」 「大丈夫です。考えはありますから」 そう微笑う秋水に安心した三人はゴゼンを追って走り出す。ただ恭也だけは最後まで秋水の眼を見続けていた。 迫り来る足音と唸り声を感じる。 秋水は彼らが逃げた方向に背を向けてソードサムライXを構える。 傷と疲労は深く、核鉄の治癒力でも間に合わない。 「やっぱりあの人は騙せないな……」 銀の混じった闇を見据える秋水は、頭の中で状況を打開する選択肢を模索していた。 この日、一人を除いて海鳴市に動く人間は誰一人、いなくなった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 船内でも一際広い一室、銃器で武装した男達を前に彼は一人で立っていた。敵の数は十人といったところか。 長い金髪を後ろで結び、金の瞳は彼らを臆することなく睨みつけている。 黒の詰襟、フード付きの赤いコート、厚底のブーツ、白い手袋――それが彼のバリアジャケット姿だ。 男達は彼を見るや即座に銃を構え、発砲。 彼は避ける動作もなく、それに身を任せる。銃弾は彼の身体を通過し背後の壁に穴を開けた。 男達は何秒間も、彼を完全に殺す為に撃ち続ける。常人には余計な程、銃弾を消費するのは彼が魔導師だからだろう。 煙が消えた時、彼の姿はそこには無かった。 当然、跡形もなく消滅したはずもなく――。 パン! と掌を合わせる音と共に、金の鎖が五人の男の四肢を繋ぎとめた。 身動きを封じられた男は勿論のこと、それ以外の連中も彼の姿を探す。 先程まで何も無かったはずの空間、部屋の片隅に彼の姿はあった。決して小さくて見えなかったのではなく、本当に何も無かったはず。 彼は幻影と同じ強い眼で彼らを睨み、残った五人へと走り出す。 小さい――いや、コンパクトな――いや、回避に適した効率的な体格を生かして障害物を銃弾の盾にして一人に接近。 下から顎を突き上げ昏倒させる。仲間ごと彼を撃つ為に他の男達は狙いを変えた。 彼は両手を叩き、シールドを弾道に合わせて展開。 何発かはそれに弾かれた。こういう時、表面積が少ないと便利である。 昏倒させた男を物陰に叩き込み、三人組へと跳躍。 そのまま首筋に足刀を当て、着地。二人目の腹に肘鉄を加え、三人目の銃を掴み投げ飛ばした。 瞬く間に九人まで制圧してしまった彼に驚く最後の男は、手にデバイスらしき杖を握っている。どうやら魔導師らしい。 彼は最後の一人に向かい掌を合わせ、不敵に笑った。 笑みに逆上した男は四つの魔力弾を彼へと発射する。同時に彼も男へと走る。 左右から迫る弾をシールドで防ぐ。彼は左右の衝撃へと意識を集中させた。 ここまでは男も予想していた。左右の魔力弾は囮、本命は左下から迫っている。 肉迫する直前でようやく彼はそれに気付く。 今更気付いたところで遅く、回避は体勢を崩してしまう。彼はそう判断し――。 左足で魔力弾を蹴った。 男は目を見張った。殺傷設定の魔力弾を蹴るなど、まずありえない。 だが、現実に弾かれた魔力弾は壁へとぶつかり消滅する。 受け止めながらも走るのを止めなかった彼は男の間近まで接近していた。 だが、まだ最後の一発が残っている。それも最大の威力を込めた一発が。 正面からの魔力弾に彼は片手でシールドを張り、防ごうとした。 そこで彼は初めて驚きを顔に出した。シールドが持たないのだ。 激しい光を放ち、魔力弾とシールドが拮抗する。衝撃に身体を押されそうになる。 彼は負けないよう、強く足を踏み込んだ。 瞬間、シールドを魔力弾が貫いた。魔力弾は彼の右腕を吹き飛ばした――かに見えた。 勝利を確信し、男は笑った。 その顔は笑顔を張りつかせたまま歪む。 めり込んだのは確かに彼の拳。 殺傷設定の魔力弾を正面から受けてびくともしない腕。 「その腕……その足……手前、何者だ……?」 倒れる寸前、男の言葉に彼は答えない。 その後、通信で船内全ての制圧が完了したことを確認。 部屋中をひっくり返し、目的のもの――紅い宝石『レリック』を回収した彼は再度掌を合わせる。 足元に魔法陣が現れ、彼はクラウディアへと転移、帰還した。 「海賊船の制圧、ご苦労だった。『エドワード・エルリック』」 次元空間航行艦船、クラウディアの艦長室に、彼――エドワード・エルリックは呼び出された。 今はバリアジャケット姿ではなく、時空管理局の制服に身を包んでいる。 「連中の持ってたレリックの出所はわかったのか?艦長」 エドは目の前の椅子に座った艦長、『クロノ・ハラオウン』に訊ねる。 「お前は敬語を使えと……まあいい。複雑なルートを経由しているらしく正確な出所は奴等も知らないらしい。まあ気長に捜査するしかないだろう。」 「それで俺をわざわざ呼び出したのは?」 クロノはエドを一瞥して一度、溜息を吐く。 「転属だ、エドワード・エルリック。古代遺物管理部、機動六課に転属を命じる。正式な辞令は後日だ、以上」 「ちょ、ちょっと待てよ!」 一方的なクロノにエドは食って掛かる。当然だ、飛ばされる理由がない。 こうなることを予想していたように彼も切り返す。 「理由がないだと?あんな無茶な命令無視をしておいてよく――まあ理由は別にある。最近ミッドで確認された奇病は知っているか?」 「ああ。激しい痛みを伴う呼吸困難。今は数人しか確認されてないとか」 「あれには錬金術が関わっているという情報がある」 「錬金術!?」 エドは飛び上がる程驚いた。この世界に来て久し振りに聞いた響きだ。 「お前の知ってる錬金術かどうかは解らない、直接調べろ。六課はお前が回収したレリックを専門に扱う部隊だ。 六課の隊長達の出身、第97管理外世界にも昔は錬金術が存在したらしいしな」 この世界に来て二年以上、なんとか次元世界を行き来できるようになったが、未だ元の世界の手掛かりさえ掴めず自棄になりかけていたところだった。 このままよりは幾らか前に進めるかもしれない。断る理由はなかった。 「分かった!機動六課だな!?」 「ああ、以上だ。下がっていい」 一変して眼に力が戻ったエドを呆れたようにクロノは見る。余程元の世界に帰りたいのだろう。 「今までありがとうな、艦長。あんた部下の扱いが上手いところだけは俺の元上司と似てるぜ」 「他は似てないのか?」 「ああ、特に既婚で愛妻家ってところが特にな。たまには奥さんにも連絡してやったらどうだい?」 「余計なお世話だ」 にやにやするエドを追い払ってクロノは一人溜息を吐く。 錬金術の発達した別の世界から来た――いつだったかエドを問い詰めた時、彼はそう答えた。 正直、半信半疑ではあったが、彼はたまにどこか遠くを見つめているような感じがしていたのは確かだった。 「本局に帰ったら連絡するか……」 エドの捨て台詞を聞いて、海鳴市に残した妻エイミィと子供達を思い出す。 今頃どうしているだろうか?母リンディとアルフもこっちに来ている為、今は三人だけだろう。 クロノは机の引き出しの写真を見る。 そこには自分と子供を抱いたエイミィ、リンディ、義妹フェイトが幸せそうに笑っていた。 次回予告 弟を救う為、弟と別れてやってきた世界。ようやく掴んだ糸口を逃さない為にエドは動き出す。 「待ってろ、アル。俺は必ず帰るからな」 友の為に、友と反してやってきた世界。解決の鍵を求めるフェイトに老婆は無情に言い放つ。 「しろがねは管理局に協力する気はない」 第3話 真理の扉/からくり~しろがね 第1幕 開幕ベル 戻る 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第10話『預言』←この前の話 『マクロスなのは』第11話「地上部隊は誰がために・・・・・・」 周囲は至って静か。バルキリーから出るエンジン音しかしない。 現在VF-25はミッドチルダ領空の海上を飛行しているが、パイロットであるアルトはくまなく周囲を警戒し、レーダーに気を配っている。そう、ここは〝敵陣〟のまっただ中だからだ。 刹那、曇り空の1点が小さく光る。アルトは即座に操縦桿を倒してロール。続いてバルキリーを急旋回させる。 すると同時に青白い光の束が襲い、VF-25のベントラルフィン(垂直尾翼の一種で機体下方に斜めに突き出した小さな整流板)に当たって、転換装甲のキャパシティを削った。 魔力砲撃は2発、3発と続くが、位置の割れた砲撃など避けるのは容易い。 不意討ちに失敗した敵が降下してくる。どうやら敵機はVF-1『バルキリー』のようだ。 バルキリーは第25未確認世界では初の量産仕様の人型可変戦闘機として有名である。しかし、目の前の機体は細部が異なる。随所にVF-25の技術転用が認められ、エンジンも熱核タービンから最新の熱核バーストエンジン(ステージⅡ熱核タービン)になっている。 また、第3世代型エネルギー転換装甲への全換装により純正の機体重量より40%軽くなり、その軽い機体に熱核バーストエンジンという強力な心臓を持たせたため、VF-25から3世代ほど離れたロートルにもかかわらず、その動きは俊敏だった。 VF-1は高度の優位のためか悠々とこちらを牽制しながら近づいてくる。 しかしアルトはそうはいかない。敵機はVFー1だけでなく、他にもどこにいるかわからない。 アルトは可変を駆使して加速と減速を繰り返し、ロックをかわし続けた。そして頃合いを見計らうと機体周囲にハイマニューバ誘導弾を生成する。 「メサイア、誘導を頼む」 『Yes sir.』 対する敵もパイロンに懸架された箱型ミサイルランチャーから魔力推進型のマイクロハイマニューバミサイルを一斉に放ってきた。 アルトはスラストレバーを一杯まで上げて一目散に海面に向かう。 ミサイル達にはアフターバーナーを焚いたVF-25がよほどおいしい獲物に見えるようだ。一目散に向かってくる。 VF-25は海面ギリギリまでミサイルを引き付けると、ガウォークに緊急可変。足を振り出し機体がへし折れるのではないかという機動で海面への激突を回避した。 しかしハイマニューバミサイルもノズル基部に追加展開された偏向・集束バインド(環状魔法陣)を駆使して推力偏向。海面スレスレで急旋回する。だが彼らの目の前にあったのはVF-25ではなく水の壁だった。 実はアルトはミサイルの追尾性能を看破、ガンポッドで海面を掃射していたのだ。 しかし通常水に当たったぐらいで起爆するハイマニューバミサイルではない。 だがミサイル達は重力の加速によりただの水を鉄板と間違えるほどの速度に達していた。 水の雫が信管に当たり、搭載AIは衝撃からそれを鉄板と誤認。内包する力を解放していった。 (*) アルトは次々誘爆するミサイルを横目に、VF-1を流し見る。 どうやら敵機はこちらのハイマニューバ誘導弾に、バトロイドに可変して全火器で迎撃する積極的迎撃を選んだようだ。 頭部対空レーザー砲とガンポッドから魔力砲撃の筋が伸び、誘導弾が墜ちていく。 しかしバトロイドでは出力の関係で高度を維持できないため、徐々に降下してくる。 アルトはこの機を逃すまいとファイターに可変。一気に距離を詰める。 だが突然、背中に悪寒が襲った。アルトは今までの経験からこれは本物だと感じ、反射に近い速さでバルキリーの足だけを展開、エンジンを吹かして横に跳ぶ。 すると案の定今までいた位置にこれまた青白い光に包まれた大口径の〝砲弾〟がすり抜けていった。しかし上からではない。下、つまり海中からの砲撃らしかった。 だが目の前の敵機に背を向けるわけにはいかない。アルトは魔力推進へと全換装された高機動スラスターで機体を上下左右ランダムに振る。 現在VF-25のOT『ISC(イナーシャ・ストア・コンバータ。慣性エネルギーを時空エネルギーに還元蓄積、これによりパイロットにかかる重力加速度を最大27.5Gまでを一定時間無力化する)』とEXギアシステム、そしてミッドチルダ由来の重力制御装置(デバイスに内蔵。この場ではパイロットにかかる重力加速度の相殺に使用する)によってVF-25は一定時間ならば、無人機レベルの機動が可能となっていた。 そんなゴーストもびっくりな機動で続く第2、第3射を回避しながらVF-1に肉薄する。 そのうち友軍への誤射を恐れたのか狙撃が止んだ。 目の前のVF-1も覚悟を決めたようだ。そのままバトロイドでこちらに突撃してくる。 「よし、来い!」 アルトは叫ぶと自身もバトロイドに可変。左腕に装備された防弾シールドからアサルトナイフの柄を抜き放ち突撃する。 勝負は一瞬で決した。 VF-1はVF-11の『GU-15 30mm多目的ガンポッド』を元にしたガンポッドから魔力刃の銃剣を生成し突撃してくる。しかしアルトは突き出された敵のガンポッドを紙一重で左腕の防弾シールドによって上に受け流す。 そして無防備となったコックピットのある胴体を斬りつけた。魔力刃となっているアサルトナイフは確実に相手の戦闘力を奪い、無力化した。 友軍機が撃墜されたため海中からの狙撃が再開された。しかしアルトはそれらを難なくかわす。 当たらない事に業を煮やしたのだろう。敵機が海中から出て来た。 今度の機体はカナード翼が特徴的なVF-11『サンダーボルト』だ。しかし装備されたそのライフルは極めて長大であり、形状はVF-25Gのライフルと寸分の違いもない。 本来重力圏内でそのような重量物を装備すればエンジン出力の大半を持っていかれるはずだが、その動きは俊敏だった。その理由としてはVF-1と同様の熱核バーストエンジンへの換装や、ミッドチルダの魔法技術によってはるかに用途の拡大したOT改『アクティブ空力制御システム』などの新技術の導入などが挙げられる。 それらの機体の改良がこのような重装備を可能たらしめていた。 両機とも低空、それも至近にいたためミサイルは使えない。勝負はガンポッドか近接格闘で着くはずだ。 両者はファイターでヘッドオン(正面から相対)、互いにガンポッドまたはライフルで牽制し合いながら接近する。そして定石通りVF-11は激突寸前にバトロイドに可変し、ピンポイントバリアパンチを放ってくる。 速度の乗ったそれはほぼ必中のはずだったが、アルトの方が1枚上手だった。 当たる寸前にガウォークに可変したVF-25は翼のフラップ(主翼後縁にある小翼。高揚力装置)、スポイラー(主翼上面の稼動板。揚力を減少し抗力を増加させる)を全開。その結果翼の空気抵抗が増大して失速し、VF-11の懐に労せず回り込んで、それの腹にガンポッドの一斉射を叩き込んだ。 (*) 『サジタリウス2の撃墜を確認。サジタリウス小隊、演習を終了する』 撃墜と同時に通信機から渋いが聞き取りやすいいい声。 成層圏で〝演習〟を管理していたAWACS(エアボーン・ワーニング・アンド・コントロール・システム。空中警戒管制システム)、M級レーダー護衛艦改『ホークアイ』だ。 これは元々本局で運用されていた艦である。しかし以前の教導隊の襲撃事件を察知できなかった教訓からミッドチルダ本土のレーダーシステムと航空部隊の指揮管制能力向上のために地上部隊が老朽化から廃艦寸前だったこの艦を本局から払い下げてもらい、反応炉、OTM『時空変動レーダー』、スーパー量子コンピューターと6室にも渡る大型管制所を増設。加えて100人以上の管制員を乗せ、地上部隊の全ての航空部隊の監視と随時の管制を行っている。 艦船のため補給次第で後続能力は無限大であり、転送魔法によって人員の行き来は簡単。 ミッドチルダ全土を24時間見渡すまさしく鷹の目であった。 「サンキュー、ホークアイ」 アルトが応える。 終了の合図とともに、先ほど撃墜した2機がやってきてVF-25と並進を始める。2機ともペイントでぐしゃぐしゃだ。 『隊長、強すぎっすよぅ~』 右側を並走する、管理局の国籍表示マークを着けたVF-1B(性能向上型)『ワルキューレ』から泣きつくような声がする。 彼はアルトの指揮するサジタリウス小隊の3番機、天城義雄三等空尉だ。 「しかしお前らも2週間前、その機体に初めて乗った時よりは上手くなってるぞ。海中からの狙撃は危なかったな・・・・・・考えたのはおまえか?さくら?」 左側を並進する2番機、VF-11G(狙撃特化型仕様)『サンダーホーク』に呼びかける。 『はい。でも水中で弾道が乱れて、なかなか大変だったです』 そう応えるのはこの世界初の女性バルキリー乗りになった工藤さくら三等空尉だ。 「砲弾に魔力を纏わせて弾道と威力を保つとはよく考えてある。あとは少し連射速度を遅くしてよく狙った方がいい。少し急ぎ過ぎてる。・・・・・・いや、そもそも次があると思うな。狙撃は最初の1発目が肝心だからな」 『はい!了解しました!』 彼女はバトロイドに可変、それを使って器用に敬礼した。 (*) その後3機は基地へと向かった。 彼らの基地はクラナガンから200キロ離れた場所に位置している。しかしアルトはある理由のため、コースを大幅にずらした。 海岸線を目視するとモニターで拡大する。 果たして拡大されたカメラ映像には六課の訓練場が写っていた。どうやら今は市街地戦の訓練らしい。 スバルのウィングロードが綺麗な螺旋模様を描いて上昇していき、ホログラムのガジェットを撃破していく。 また、比較的高いビルに陣取り支援射撃するティアナや覚醒したフリードリヒに乗ったキャロ、エリオの姿も確認できる。 なのはも忙しく指示を発していて元気そうだ。 「今日も六課は平常運転だ」 アルトは安心して基地への帰途についた。 (*) 試作航空中隊の基地はまだ作りかけで、着工から1週間しか経っていない。そのため予定されている格納庫は15棟だが、まだ3棟しか完成していなかった。 だがアルトはそれがいいと思っていた。 今11棟目と12棟目で骨組みが組まれているが、組み立てているのはクレーンに代表される重機ではなく、2期生操るVFー1A(初期量産型)だ。 これは2期生達がバトロイドの操作に慣れる目的で行われていて、訓練としては最適だ。また、精巧なバルキリーのマニピュレーターは作業効率を格段に上げていた。 戦闘用のVF-1は第2次生産のB型までで、A型,B型合わせても50数機のみしか生産されていない。しかし製作委任企業である『三菱ボーイング社』とその傘下の中小企業の生産ラインは現在もフル稼働を続けている。それはこのシリーズを民間用デチューン機『VF-1C』としてこの第1管理世界内だけで販売が行われているからだ。 C型の主な変更点としては4つ。 製作コストの安い第1世代型低出力熱核タービンエンジンへの換装。 MMリアクター(小型魔力炉)を積まない。 第3世代型エネルギー転換装甲を通常合金に。(無論各形態で工作機械としてまともに使えるレベルには強力な合金である) 各種オーバーテクノロジーをできうる限り現代レベルの既存の機材に換装。 また、各種武装が取り除かれていることは言うまでもない。 これは利潤を目的とする企業には巨額になった生産設備を最大利用、無駄にしないためには必要なことであり、どうしても避けられない事だった。 そして管理局としても生産コストの低下、予備パーツの供給問題。さらにはバルキリーが活躍する報道(特に重機の入れない場所での災害救助や海難救助、工事現場など)によって世論の支持も強かったため、やむを得ぬとして黙認していた。 すでに50数機が消防・レスキュー部隊、建設業者などに買い取られ、全国で使われていた。 閑話休題。 アルトは基地へのアプローチに入る前に回線を合わせて呼びかける。 「こちらサジタリウスリーダー、フロンティア航空基地管制塔どうぞ」 『こちらフロンティア航空基地管制塔』 「着陸許可を願う」 『現在、スカル小隊の出撃が遅れているため、上空待機願います』 「サジタリウスリーダー了解」 アルトは応えると、回線を閉じる。 どうやら機体の整備がまだ終わってないようだ。 周りは郊外と言えど平原ではなく田園だ。そのため降りる所は基地しかないが、アプローチを断念して横切った下界の基地は、ラッシュアワー時のハイウェイのような様相を呈していた。 基地の試作航空中隊―――――『フロンティア基地航空隊』には1期生達全員が移籍しており、それぞれに機体が配備されている。 構成は、最初にアルトとミシェルに2カ月間徹底的にしごかれた6人の生徒と実戦教官である2人を中心に小隊が組まれ、現在航空隊には予備機を含め56機(VF-1が47機、VF-11を8機、そしてVF-25が1機)、実戦部隊8小隊(3~4機編隊)と第2線を張る2期生部隊(25人、25機。機種は全てVF-1A)を擁している。 この可動機の多さに比して完成した格納庫が少ないことからこの大所帯の整備は難航を極めていた。 しかしレジアスの打ち出した衝撃的な記者会見から3ヶ月、設立から2カ月半。管理局初のバルキリー部隊であるフロンティア基地航空隊の働きぶりは好調だった。 敵出現の報を聞くやすぐさまスクランブルし、音速の数倍という速度を生かして全国レベルでそれを迎撃する(といっても出現率はクラナガンが最も高い)。ゴーストはあれ以来出現していないため、ガジェットⅡ型が主な敵だ。 初期の頃はクラナガンに基地があり、スクランブル慣れした六課に先を越されることが多かった。 しかし8小隊制の確立によってCAP(空中警戒待機。武装して拠点上空で待機し、有事の際は即座に敵を迎撃するという仕組み)が導入されると、六課とかち合うことが多くなった。 現在六課とは撃墜数で競う好敵手になっているためあまり仲が良くない。 しかしケンカにならないのは、ひとえにアルトとミシェルのフォローと今まで地上を守ってくれていた六課への尊敬。そして最も大きくランカ・リーの存在があった。 事実、彼女の超AMFで助かった者も少なくない。 そしてフロンティア基地航空隊設立以来空で管理局に殉職者は出ていない。(航空隊はこの3ヶ月で3機が撃墜されたが、パイロットはいずれも無事脱出) 何だかんだ言っても『ミッドチルダを守りたい』というところで一致する2部隊は、意識的にしろ無意識的にしろ、お互いの存在を心強く思っていた。 アルトが基地に再び目をやると、青に塗装されたVF-11SG(狙撃型指揮官機仕様)を先頭に3機ほどが飛び立つところだった。 スカル小隊はミシェルの部隊であった。 4機はCAPだった自分達と入れ違いに首都へと翼を翻して行く。 アルトは『そろそろ管制塔から通信が入るだろう』と思い、再び回線を開いた。 (*) アルトが基地に帰還しようとしている頃、時空管理局本部ビルの1室では激論を戦わせていた。 クラナガン西部方面首都防空隊の長が額に筋を浮かべて怒鳴る。 「バルキリーなどというものに〝戦力〟として頼るなど、容認できるか!」 それにクラナガンの海岸線を守備範囲にもつ空戦魔導士連隊の連隊長が怒鳴り返す。 「そっちの部隊は半分近くがAランク魔導士だから言えるんだ!うちの部隊など六課と、フロンティア基地航空隊がなけれは既に全滅している!」 今度は広報担当者が 「そんなのだから『時空管理局が質量兵器を採用した』などと、次元世界から批判が出るんだ!」 と、各次元世界の世論調査の結果を記載した紙を叩いて怒鳴る。 これには地上部隊・技術開発研究所所長、田所が言い返した。 「バルキリーは魔導兵器だ!断じて質量兵器ではない!」 「詭弁だな」 「君たちは・・・・・・全てを魔導士に押しつける事が不可能になっている事がわからないのか!?」 ドン! 机が容赦なしにぶっ叩かれ、机に置かれている水に波紋を作らせれた。 そんな田所の激昂ぶりに、陸士西部方面隊(守備範囲は九州全体)を指揮する陸将が言い返す。 「現に我々は今までそうして来た。質が保てないのは君達の怠慢に過ぎない。責任をとりたまえ!」 時代は推移していくというのに、過去を持ち出し責任転嫁。 最早これは理性的な論戦ではなく、ヤジの飛ばし合いだった。 今日ここには地上部隊の各方面、各部門の長が集まっていて総勢80人を超えるが、今そこは2つの勢力に分断されていた。 1つはレジアス中将率いるバルキリー推進を主軸とする革新派。 もう1つは表向きには『管理局の理念を守る』という大義名分を掲げているが、実際には過去と既得権益に縛られている保守派だ。 この会議には特例として本局所属の機動六課部隊長、八神はやて二等陸佐も参加しており、推進を表明している。しかし悪いことは、保守派がほとんどの陸士部隊と一部の空戦魔導士部隊で形成され、推進派より圧倒的に多いことだ。 それは時勢を無視し、自らの利権のみを追求する蛮勇と言えよう。 はやては地上部隊という組織自体が腐敗を始めている事を改めて実感した。 そして議論とはお世辞にも呼べないヤジの飛ばし合いが90分を超えたとき、やっと会議が進む事件が起こる事となる。 シレンヤ氏 第11話 その2へ