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第一章『佐山の始まり』 己を知って制限を得る 己を知らずに無限を得る 限り無い事が怖く思えて ● 眼下を無数の人影が歩いている。小柄な者が多く、中には長身もあるが大人というには細身だ。 家に帰る寮生達だろうか、と佐山は思う。 「春休みともなれば実家に帰る者も多い、という事か。・・・私の様に帰らぬ者もいるが」 非常階段の踊り場に立ったその少年は見る。普通校舎の2階から、この尊秋多学院という風景を。 教員棟があり、学生寮があり、科目別の校舎があり、武道館や研究所がある。遠くには農場や工場、商店街といった都市としての建造物さえもある。 「尊秋多学院、相も変わらず巨大な学園都市だ。・・・まぁ世界の大企業、IAIが支援するのだから当然か」 IAI、その単語に佐山はブレザーの懐に手を入れ、一枚の紙片を取り出した。 それは招待状だった。それも、IAIからの。 「佐山・御言様。貴祖父、故佐山・薫氏より預かりました権利譲渡手続きの為、三月三十日午後六時に奥多摩IAI東京総合施設まで来られる様お願い申し上げます。・・・by永遠の貴公子 大城・一夫」 そこまで言って佐山は、胸のポケットからボールペンを取る。先端に銀を持つ高級品は、線と追記によって文面の一部を書き換えた。“by永遠に奇行死 大城・一夫”と。 これで誤植は正された・・!! あの老人にはこれこそが相応しい、と佐山は満足する。 祖父が亡くなった時、真っ先に駆けつけて来た初老の男性。IAIの現局長を勤め、幼い頃から祖父と関わりがあったとかで会えばそれなりに話す仲、佐山に自分を御老体と呼ばせて楽しむような奇人だ。 「しかし・・・総会屋の祖父が、IAIにどのような権利を持っていたのか」 そこまで言って佐山はかぶりを振る。考えても仕方の無い事だ、と。 腕時計はアナログで午後二時半が示し、ここから奥多摩を目指すのならば、余裕も含めてそろそろ動き出しても良いような時間だ。 佐山が校舎に入ろうかと振り返れば、そこには非常扉と壁がある。アルミ製の扉は磨かれていたが、壁には砂埃が積もっていた。ふとした好奇心で触れてみれば、砂がこぼれて跡がつく。 「・・・まぁ、だから何だというのだろうな」 自嘲する様に佐山は笑み、指についた汚れを払って非常扉のノブを掴もうとした。 だがそこで佐山は妙な現象を見た。 はて、どうして非常扉の方からやってくるのだろう・・・? と、そこまで思った所で佐山の顔面に非常扉が衝突した。 中々良い音が鳴り、やはり良い顔がぶつかると良い音がなるのだな、と佐山は仰け反りながら思う。 「・・・あれ? 今何か妙な手応えが・・・」 扉の向こう、声がした。関西系のイントネーションを持つ女性の声、佐山はその声の主に心当たりがあった。 「こちらだよ、八神・はやて」 ● 「へ? 佐山君?」 唐突に名を呼ばれて、八神・はやては戸惑いを得た。 扉の解放によって見える様になった踊り場には誰も居ない。 「・・・?」 「ふふふ、一端踊り場に出て扉を閉めてみては如何かな?」 姿の無い佐山の声に従い、はやては踊り場に歩を進めて扉を閉めてみる。そうしたら扉の影から一つの塊が現れた。 ブレザー姿の長身な少年。オールバックにされた頭髪の両サイドには白髪のラインがあり、白い傷痕を残した左手の中指には女物の指輪がある。ここまで特徴的な人物をはやては一人しか知らない。 「なんや佐山君、そんな所に居ったんか」 だが一つだけ腑に落ちない事がある。 「・・・佐山・御言は、いつからフィギュアスケートに目覚めたんや?」 佐山は思いっきり仰け反っていた。両腕は伸びきり、爪先立ちとなってイナバウアーを体現している。それも非常階段の吹き抜けからビル二階の高さがある外へ、上半身をはみ出した状態で。 「ははは、尊秋多学院の生徒会長殿の目は節穴と見える。・・・誰がこの状況を作ったのか解らないとは」 「ははは、ややなぁ生徒会副会長殿。・・・まるで私が作ったみたいな言い方やないの」 「まるでも何もそう言っているだがね? ・・・だがそろそろこの均衡も崩れそうなのだが」 見れば佐山の体が、つま先を中心にして痙攣し始めていた。 慌ててとはやては佐山のブレザーを掴み、踊り場側に引き戻してやる。 自分よりも頭一つ分は大きい佐山の身を引くのは大分苦労で、それを果たしたはやては、 「あー、ええ仕事したなぁ」 と言ったら佐山にデコピンを叩き込まれた。 「痛ぁっ!? 何すんの命の恩人にっ!」 「ほほう、自分で命の危機に叩き落としたとしても助ければ恩人かね。知らぬ間に日本語は大分変わった様だ」 「むぅっ! 大体生徒会長に向かってその偉そうな口調は何やの!?」 「芸風だ。気にしたら負けだぞ?」 「・・・なぁ、生徒会長が春休みに生徒を張り倒したら校内暴力やと思うか?」 「バレなければ大丈夫だろう。だが誰を張り倒すのかね? 八神を怒らせるとは相当な者だな」 「鏡見や自分! ・・・まったく、三年になっても君と一緒かと思うと気が重くなるわ」 はやては額に手を当て、 「何事も本気なんやもん」 「――本気? 私が?」 それを聞いた佐山が小さく笑った。 あれ? 違っただろうか、とはやては思う。 「本気になった事は、無いな。どうにもなりたくなくてね」 「・・・何でや?」 佐山の顔をはやては見据えた。一見すれば笑っているが、 底んとこから笑ってへん・・・ はやてはそう思う。笑っているが、良い笑みではない、と。 「文武共に成績優秀、学内選挙で副会長になって・・・本気と違うんか?」 視線を動かさないはやてを佐山も見据え、だが幾許かの後に軽く肩をすくめた。 「学校の中では、そうなる前に全てが終わってしまうというだけだよ」 「じゃぁ、学校はつまらんか?」 「――いや、学校に文句は無い。確かに学内選挙も学習もテストも私を本気にはさせてくれない、狭いものだ。だが学校がつまらないという訳ではない。狭さこそあるが・・・学校には学校の面白さがあると思う」 ただ、と佐山は区切り、 「生前その事を祖父に叱られたよ。狭い所の大将で収まるな、と」 はやては知っている。佐山の祖父が最近亡くなった事を。そして佐山の能力と意思には、その祖父が大きく関わっているという事を。だがそれについて深くは知らず、だから問うた。 「・・・お爺さんの事、聞いて良ぃか?」 ● はやては佐山と共に普通校舎の廊下を歩く。春休みの校舎では教員さえも見かけない。 非常階段からここまでの間、はやては佐山から彼の祖父について幾らか聞かされた。 祖父、佐山・薫は若い頃に第二次大戦を離れて何らかの研究活動を行っていたという事や、それには当時、出雲航空技研と呼ばれていたIAIが関わっていた事を。 IAIの関係者、という事にはやては軽く驚きを得る。ただそれを知られるのも癪なので、 「あ、ほら見てんか、佐山君。学内選挙後の集合写真やでー」 すれ違い様に見つけた掲示板の写真を指差した。 掲示されているのは、次年度生徒会決定、と銘打たれた学内新聞だ。そこには、はやてと佐山を中心にした数十人が寄り集まるモノクロ写真がプリントされており、 「ほら、私に佐山君、それになのはちゃんとフェイトちゃんもおるでー」 「それに加えてハラオウンの縁者であるというエリオ少年、か。学内での決め事に部外者がいてもしょうがないだろうに」 はやての側に立つ栗色の髪をした少女と金髪の少女、そしてそれに抱き込まれている少年の姿がある。少年は周囲に比べて著しく幼い。 「まあええやんか。幾ら本気やなくても祝われれば嬉しいやろ?」 「祝う、と言うがあれは選挙終了にかこつけた宴会だっただろう。・・・どこの世界に男子生徒十数人が屋上から全裸ダイブしてくる祝賀会があるのかね」 「あの後女子生徒もやらされそうになって、なのはちゃんがキレたんよなー。私があそこで止めんかったら惨劇は続いてたよ?」 「・・・その翌日、高町が胸を隠しながら君を睨んでいたが?」 「いやー、なのはちゃんを止めるにはあれが一番なんよ? 皆嬉しい、私嬉しい、これ一番なー」 何かを揉みしだくような手付きをするはやてに佐山は半目で、 「どこまで話したかな?」 あ、せやった、とはやては大げさに頷く。 「えーと、IAIに関わってた、ちゅうとこかな」 「そうだったな。・・・それで祖父は戦後、その頃の発見やツテで財界に乗り出し、総会屋をやるようになった」 「あ、それやったら一度雑誌で見た事があるよ。・・・佐山の姓は悪役を任ずる、やったか?」 「そう、根っからの悪役だったよ、祖父は。――佐山の姓は悪役を任ずる。私の能力は必要悪を行う為に祖父から叩き込まれたものだ。しかし私は、手段だけを叩き込まれて祖父を失った」 「・・・だから自分の行う悪が、本当に必要なものか解らない?」 「ああ。私は死にたくない。だから本気を出す事があるかもしれない。だが・・・」 一度区切り、 「――自分が本当に必要だと判じられぬ本気を出すのは、恐ろしい事だろうね」 そこまで言って、佐山は胸に手を当てた。 何か思う所があるのだろう、とはやては思い、 「佐山君は佐山君で、大変やね。・・・なぁ、ついでにな? お父さんとかの事も聞いていいか?」 その言葉に佐山が歩みを止めた。 「何故かね?」 「・・・私の父さん母さんな、物心つく前にのぅなったんよ。育ててくれた伯父さんとか一緒に暮らしてる家族はいてくれる・・・でもやっぱ、父さん母さんとかそういうのとは違う気がするんよ」 「だから、父母の事を覚えているなら、どういう感じなのか聞かせて欲しい?」 はやては頷く。 初めはそんなつもり無かったんやけどな・・・ 家族の話を聞かされて、ついもっと聞きたくなってしまった。 「別に話しても構わないが、余り参考にはならないよ? ――私も幼い頃に父母を喪っているのだから」 「・・・え?」 今、佐山は何と言っただろうか。 幼い頃に父母を喪った・・・? 「私の父は祖父の養子でね、だから祖父と血の繋がりがないのだが・・・。まあとにかく父は母と共にIAIに入社。そして父は九十五年末に起きた関西大震災に救助隊として派遣され、二次災害で死亡した。母は――」 「もうええっ! もうええねん!!」 はやての声が響いた。 あかん事、してもうた・・・ 人に喪われた家族の事を話させるなど、知らなかったでは済まされない事だ。 あやまらな、あかん・・・ そうだ、謝らなければいけない。それで赦されるかは別にして。 「――大事な人が待っている場所に行こう、か」 「え?」 佐山が何かを呟き、はやては振り向いた。が、 「あれ・・・?」 そこに佐山の姿は無い。何処に? とはやては見回し、 「――――は」 そして、何か空気が漏れるような音を聞いた。 見下ろせばそこに佐山がいた。胸に手を当て、うずくまる佐山が。 「・・・佐山君ッ!?」 佐山は額に汗を滲ませ、歯を食いしばり、顔から血の気を失っている。 「ど、どないしたんや!? 胸が痛むんか!?」 佐山は答えない。否、答えられないのか。 ど、どないしたらええんや? もし病気やったら私にできる事なんて・・・ 「――あ」 しかしはやては見た。 佐山の目が、ここにいない誰かを見ているのを。まるで焦れるかの様に。 「・・・佐山君」 はやてはしゃがみ、佐山を下から抱きしめた。 佐山の顎を左肩に乗せ、両腕を左右から伸ばして佐山の背に回す抱き方だ。 泣き止んで・・・ まるで子供をあやす様だ、とはやては思い、しかし今の佐山はまるで泣きそうな子供だった、とも思う。 そうして微かに力を込めて抱き、幾許かの間を置けば変化が起きる。佐山の身に力と暖かみが、そして顔には赤みが戻り始めた。 「だ、大丈夫か、佐山君?」 「・・・大丈夫だ」 返事が出来る位には余裕も出来た様だがまだ安心は出来ない。だからはやては、 「辛い時は深呼吸やで? ほら・・・ひっひっふー、ひっひっふー」 「大丈夫だがその対処法は間違っている」 佐山ははやてから身を離し、立ち上がる。 「安心したまえ。・・・こういう話をすると出る、ストレス性の狭心症だそうだ」 「そんなんあるんやったら、なんで私に話を―――」 「聞きたかったのではなかったのかね? ・・・よく考えたまえ。喋ったのは私の勝手、支えてくれたのは、八神、君の勝手だ。君の方が良い事していると思うのだが、どうかね?」 ただ一つ言っておこう、と佐山はこちらを見下ろしながら、 「母はね、私によく言っていた。いつか、何かが出来る様になれるといいね、と。だが本人はどうだったのか。そして、そう言われて育った子供は今、何が出来るか解らない有様だ。だから私は敢えて言いたい。―――どうしたものか、とね」 「・・・確かに。何が出来るか解らない、か」 求めてるのだな、とはやては思う。願わくば、それが早く見つかる様に、とも。 そうしてはやても立ち上がり、佐山と視線と合わせてしみじみと頷いた。 「ようやく私にも、佐山君が常時エクストリーム入ってる理由が解ったわ」 「敢えて無視せず問うが、一体誰がエクストリームなのかね」 「何や、よう聞こえんかったのか? 明言したのに。顔の横についてるのは鼻か・・・?」 と聞き返してやったらまたデコピンを入れられた。しかもさっきと同じ場所に。 ● あの後も何やら言ってくるはやてを追っ払い、佐山が寮を出たのは結局四時過ぎとなった。 はやての追走もあったが、祖父から譲り受けたスーツや録音機、印鑑等を揃えるだけでもかなりの時間が掛かった。寮の受付に外出時間を記し、外に出る。 そうして近道となる普通校舎の裏手を横切る中、佐山は三つの音を聞いた。 一つは裏手に立つ木の上、そこから聞こえた野鳥の鳴く声。 二つ目は二階の音楽室から漏れるオルガンの音だ。その旋律の題名を、佐山は知っている。 「清しこの夜・・・か」 恐らく生徒以外の誰かが弾いているのだろう、卓越とさえ言えるその旋律に佐山は足を止めた。 だがそうしていると、三つ目の音が近付いて来た。 オルガンのそれとは異なる音。低くて重い、旋律ではなく力強さで主張する音だ。 「単車の駆動音。――高町とハラオウンか」 そう呟いて駐車場を抜け、辿り着いた正門の側に彼女達はいた。 止まりながらも未だ音を吐き続ける黒い単車、その前部には金髪の少女、後部には栗色の髪の少女が乗っている。どちらも長髪、ただし栗色の髪の少女は左側でポニーテールに、金髪の少女はストレートでその毛先辺りを黒のリボンで結んでいる。 今日はよくよく腐れ縁と会う日だ、と佐山が考えていると、二人の少女がこちらに気付いた。 「あれ?」 栗色の髪の少女が声を出し、金髪の少女が単車を佐山の側まで進める。そして長身に見合ったその細長い足を立て、しかし堅固に単車を支えている。 「どこかにお出かけ? 万年寮住まいの佐山君が出てくるなんて珍しい」 「私はアナグマか何かか・・・? そういう君とて、一年の殆どを寮で過ごしているではないか」 「残念でした、私は家が近いからちょくちょく帰ってるもーん」 「そうか。・・・やはり野獣には帰巣本能があるのか。人間世界での偽装生活は辛いと見える」 「今何か言ったよね・・・? ボソッと何か言ったよね!?」 「気のせいだ高町。・・・しかし生徒会トップが揃ってこの会話、どうしたものだろうね」 あはは確かにー、と栗色の髪の少女、高町は頷く。 「確か・・・佐山君はIAIに行くんだよね?」 「ああ、そうだ。・・・高町とハラオウンはどこへ?」 「うん、私達は都内に出て来たの。全連際用の新譜とか服とか、フェイトちゃんに合いそうなものを見つけにね」 「わ、私は去年ので良いって言ったのに・・・」 そこで、ハラオウンと呼ばれた金髪の少女が入ってきた。顔を微かに赤くして呟くのは羞恥心故か、と佐山は思う。 「駄目だよーフェイトちゃん、エンターテイメントっていうのは二度ネタ厳禁なんだから。それにフェイトちゃんの場合、・・・色々と大きくなってるし」 高町はハラオウンの身長を見て、足の長さを見て、最後に胸部を見た。最後だけは乾いた目で。 その視線に怯えたのか、ハラオウンは高町から身を離す。 「・・成る程。つまり、生徒会三人娘は本年度も健在、という事か」 「まあ、付き合いは長いからね。もう三人がばらけると周りが気にする様になっちゃったし、寮でもお姐さん扱いが定着しちゃったし、・・・この間はすれ違っただけの下級生に突然敬礼されたし」 「後半何か別のものが混じった様な気がするのだが、気のせいかね?」 本人も解っているのか、高町は明後日の方を見て乾いた笑い。 本人無自覚の天然恐怖の大魔王体質は相変わらず、か・・・ 尊秋多学院が誇る人型大天災、影でそう呼ばれているのをこの少女は知っているのだろうか。それも陰口ではなく、畏怖と敬服の念を込めて。 「そ、そうだ! ミコト、生徒会の今期初仕事をしようと思うんだけどどうかな? 勧誘祭とか全連際とか・・・私達だけでとりあえずやっとこうと思うんだけど」 黄昏れて意識を手放してした高町に代わり、ハラオウンがフォローを入れる。姓ではなく名前で呼ばれる事にこそばゆさを覚えるが、もう慣れたものだ。 「今日はこれから出るので・・・私は何時になるか解らないぞ、ハラオウン」 「じゃあ明日は? 午前中は私達もまた都内に出ちゃうから・・・午後九時に衣笠書庫で」 「衣笠書庫、か・・・」 覚えも深い施設の名を聞き、佐山は振り返る。 背後に見える普通校舎の一階、その西側をまるまる使った巨大な図書室を。 「この学校の創立者が作った図書室で初仕事、っていうのも良いでしょ? 司書のグレアムさんには選挙の時もお世話になったし・・・このまま基地にしちゃおうって、はやてが」 「今年も会長は言う事が違うな。いや、会計と広報もか?」 「副会長さんも随分違うと思うけどね?」 と、ハラオウンは上品に笑い、そこで意図を区切った。 「・・・どうかな? 私達は君の自尊心に釣り合うだけの先輩になれてる?」 「今の発言だけで充分釣り合えてると思うがね、自尊心の意味では。だが少なくとも君達以上の適任者はおるまい。――生徒会会計、高町・なのはと広報のフェイト・T・ハラオウン、それに向かう所敵無しの生徒会長、八神・はやて。縁もゆかりも深い問題児トリオだ」 「・・・・・・」 「幾ら何でも、世間が君達をどう見ているのかを全く知らない訳ではないだろう? それで平然としていられる君達は充分尊敬に値する」 生真面目な君だけは別か? と続ければ、そんな事無いよ、とハラオウンは返事を一つ。 「なのはもはやても悪い子じゃないよ。ちょっとだけ、強引過ぎる所があるだけ」 「ちょっとでは無いような気もするのだが・・・まあそう言う事にしておこう」 「・・・でもそれは、ミコトだって同じなんだよ?」 ハラオウンは佐山を見据え、 「完成してる様に見えるけど・・・ちょっと難しいよね、ミコトは」 「何がかね?」 「一緒にいる人がどんな人なのか、想像出来ない。――私にとってのなのはやはやてみたいな、ミコトを支えてくれる人が、ちょっと想像出来ない」 「居ないだろうよ、そんな人間は。・・・この私と同等に渡り合えるなど」 そうじゃなくて、とフェイトは苦笑。 「必要なのはバランスだよ。同等じゃ秤の同じ側にしか乗らないでしょ? ――必要なのは、対等」 「その様な者は・・・私の敵か、足手まといだろう」 「じゃあなのはとはやてにとって、私は敵か足手まとい?」 問いは笑みで放たれ、しかしその目は別の意図を含む。 「・・・それは私の知り得る所ではないよ。知っている君とでは論じ得ない」 佐山の答えに、フェイトは今度こそ本当に笑む。 「珍しく素直なんだね」 「誤解している様だが、私は至って純粋無垢のピュアハートだよ?」 「ああ・・・だから思ってる事そのまま口にしちゃうのか」 「君が私をどう見ているのか、そこについては議論の余地があるようだ」 あはは、とハラオウンは声に出して笑い、佐山は、まあいい、と切り上げ、 「君や高町、八神の様な関係があるのは認めるとも。・・・だが、私がそれを得られるかは別だ。そして、その相手が私の側にいてくれるのか、それも問題だろうな」 「問題?」 「佐山の姓は悪役を任ずる。――誰が好き好んで悪の隣に来るだろうか」 ハラオウンは答えない。ただ肩を落として嘆息を一つ。 「・・・複雑だねミコトは。ホントに」 「八神にも言われたよ、先ほど」 「皆思ってるよ? ミコトが本気になるのはどんな時だろう、ってさ」 「なった事が無いから解らないな。・・・なったとしても、未熟な私は己を恐れるだろうよ」 「・・・複雑だね」 二度も言う必要は無い、と言おうとして、それがハラオウンの声では無い事に気付く。それがハラオウンの後ろに座る高町のものだと気付いて、 「還って来たのか高町。・・・幽体離脱してそのまま召されれば良かったのに」 「何か君からは私に対して悪意の様なものを感じるね・・・? まあいいや、用事を済ませて早く帰って来なよ。――今年のお仕事はこれから始まるんだから」 高町はハラオウンに目をやり、ハラオウンはそれに頷きを返す。 「じゃあ私達はそろそろ行くね?」 「ああ、とっとと帰ってただれた日常に突入すると良い」 そうするよ、とハラオウンはくだけた笑みを返し、単車を走らせた。 駐車場へと向かう二人と一台の後ろ姿を見送り、ふと佐山は人影を見た。 裏手を抜けた普通校舎の二階から、一人の男が階段を下りている。経年によって色褪せた銀の髪と髭を持つ英国風の老人、その名を佐山は知っている。 「衣笠書庫の司書、ギル・グレアムか」 本の坩堝とも言えるあの空間に棲む老人。あそこから出てくるとは珍しいと佐山は思い、 「・・・む」 唐突に風が吹いた。 風は微かに砂を巻き、木々を揺らし、そして再び空へと帰っていく。 そうして改めて見れば、そこにあるのは春の盛りも近い学校の風景だ。 「・・・静かなものだな」 ● ご、とも、が、ともつかない激突音が夕暮れの森に響いた。 一人の男が、その背を木に打ちつけられたのだ。 「は・・・っ」 意図せず肺から空気が出る。幾許かの血液と共に。 男の姿は白と黒の兵服に似たものだ。しかしその殆どは泥と血に汚れ、額から流れた血の線は閉じられた右目を横断している。男は通信機を取り出し、 「こちら通臨第一、現在位置は奥多摩・白丸間ポイント3付近山中。・・・敵の逃走阻止と自弦振動の解析に成功、送付した。現状は―――全滅だ」 その言葉に通信機からノイズ混じりの声が応える。それは女性の声で、 『――Tes.、そちらに向かうべく特課が準備中、救護も送られます。・・・死にはしません』 「Tes.、と言いたい所だがそりゃ無理だ。治療器具も術式も一緒に砕かれちまったし、・・・救護が来るで持ちゃしねぇよ」 男は自らの体を見る。そこにあるのは、左肩から右脇にかけての大きな裂傷だ。三本を並列させて刻まれた傷は深く、明らかに骨を割って臓腑を傷付けている事が伺える。 「来るべきは救護じゃねぇ。・・・その特課さ」 男の荒い呼吸に呼応し、胸の裂傷から血が流れる。 「敵は1st-Gの一派、そう、王城派の人狼だ。和平派との交渉に来たんだろうさ。・・・野郎、1st-G系の賢石でも持ってたのか、通常空間で獣化しやがった」 『喋らないで下さい。五分後には概念空間を展開して駆けつけます、だから―――』 「はは、銀の弾丸が効く様にしておけよ? 後な姉ちゃん、いや、お嬢ちゃんか? ・・・アンタ、俺達に対して済まないとか思ってないだろうな?」 『・・・』 返るのは無言と言う、発言より明確な返事。 「いいか、そんな事考えんな。・・・俺達通常課には任務に対する拒否権がある。これは俺の判断の行きついた先さ」 やはり返事は無く、しかし男は、 「お嬢ちゃんは何処の部隊だ? 特課の中でも女がいる部隊は少ない筈だ。だが最近組まれたっていうのがあったな。・・・上層部子飼いの変人奇人美人が入った部隊が」 そこまで言って男は言葉を止める。 草と木を揺らす音、それと共に巨大な影が現れたからだ。 「・・・ぐ」 漏れるのは唸り、込められたのは殺意、影はその両手の先に備えられた長大な爪を構える。 あ、と通信機から声が漏れる。しかし男は、へ、と笑い、 「なあお嬢ちゃん、帰ったら花を持って出迎えてくれ。今は何が盛りだ?」 『――Tes.、今は雪割草などが』 「はは、違ぇよ。・・・そこで言うもんだ、私が、って」 影が躍りかかった。到達は一瞬、その爪が男の胸を貫いた。 通信機は男の手を離れ、草の上に落ちる。そして影が足を上げ、それを踏みつぶす前に一つの声を放った。それは通信の切断を行わぬまま喋った為に届いた、通信機の向こうにいる人間の声。 『概念空間の展開を急いで下さい。――全竜交渉部隊が向かいます!』 ● 「・・・む」 急な振動を感じ、佐山は目を覚ました。 座るのは奥多摩へと通じる山中電車の座席、うたた寝の原因は背より感じる西日のせい、そして目を覚ましたのは、 「――電車が停止を」 佐山は車内を見渡す。乗客の姿は殆ど無く、自分を除けば離れた所に座る二人だけだ。 一人はサングラスをかけた黒のスーツに白髪の男、もう一人はその隣に座る、やはり黒服に白髪の少女だ。ただし少女の服は侍女服だったが。 男の方の趣味だろうか・・・ 佐山は思う。世の中、様々な趣味の人間がいるものだ、と。自分は関係ないが。 黒服に白髪の二人は一様に向かいの窓を見ている。そこから見える情景は、夕暮れで朱と影に彩られた山々だ。 「白丸あたり、二つ目のトンネルの間か」 佐山は現在位置に目当てをつけ、あと一駅で奥多摩に着けたものを、と呟く。 しかし自分には土地勘はある。幼い頃にこのあたりの山に放り出された事があるからだ。 「ははは。――あの山など、ナカジマ先生に無理矢理走らされた山にそっくりだ」 土地を覚えねば春先に発見される所だった。おそらく凍死体で。 頷きと共に佐山は左手を見た。白い傷の残る手の甲、そこから伸びる中指の根元にあるのは女物の指輪だ。 「あの時、母に連れられて来たのもこのあたりだっただろうか・・・」 呟いて感じるのは胸の軋み。しかしそれを抑えて腕時計を見れば、今が午後の五時半頃だと解る。 「IAIへの招集は午後六時・・・、電車が動き出すのを待つ訳にはいかないな」 「そうかな?」 そこで唐突に、声をかけられた。 見れば先ほどの男がこちらを見ていた。顔を向けられ、佐山は彼が思った以上に若い事に気付く。一見は初老に見えたが、よく見れば中年の入り際と言った所。そして隣の少女が、歩行補助用の鉄杖を持っていた事にも気付く。 「ひょっとしたらすぐに動き出すかもしれないが? 後悔先に立たずと言うぞ?」 「貴方が誰は知らないが言っておこう。――後悔と同様に、喜悦も先に立たぬものだ」 白髪の男は忠告し、しかし佐山は止まらずに座席の上に立つ。そして窓を開けて身を乗り出し、 「気遣いはありがたいが、私はこの土地に慣れている。大体、危険がこの世にあるかね?」 窓を出口として車外に出た。線路が乗る小石の群を踏み進めば直ぐに道路へと出る。 そして佐山は聞いた。電車を出る直前、男が呟いた言葉を。 「確かに。・・・ああ、確かにこの世に危険は無いな」 ● 白髪の男は、一人の少年が飛び出していった窓を見ていた。窓は開け放たれ、微かに風が入ってくる。 「おいSf、見たか今のガキを。――随分と思い上がった馬鹿だろう」 「Tes.、確認しています。至様もそれに同意していましたが」 白髪の男は隣に座る少女、Sfに話しかけた。そしてSfもまた男の名と共に返事をする。 「・・・お前には言葉のあやというものが解らんのか?」 「Sfは至様を至上とし、その言葉を全肯定します。・・・つまり至様以外の言葉はSfにとって無価値であり、至様の言葉のみが意味を持ちます」 故に、とSfは続け、 「至様が馬鹿と仰った事は馬鹿であり、それに同意した至様は馬鹿だという事になります」 「お前は主人の事を馬鹿呼ばわりか・・・?」 「Sfは優秀です。・・・主の言動を非とする様な粗相はいたしません」 「ああそうだな本当に優秀だなお前は。嬉しすぎて涙が出るよ」 それは何よりです、と礼をするSfを至は無視、電車の先頭車両側を見る。 「おい、そろそろこの電車を動かさせろ。・・・ギンガに連絡をつける」 「でしたらどうぞSfをお使いください」 何? と振り返った至にSfは胸を張り、 「本局謹製のSfは万能無欠、至様がお望みなら通話機能を起動させます」 「ほほう、それは初めて知った。では万能無欠のSf殿は、俺が電話を携帯するのが嫌いだと知らないのか?」 「勿論存じております。ですので今までお話ししませんでした」 「ああそうかい。・・・とっとと通話機能とやらを起動させろ」 「Tes.」 Sfは頷き、そして頭部と表情を停止させた。幾許かの間が空き、Sfの口が微かに開き、 『こちらギンガ。監督、お呼びでしょうか?』 半開きで固定された口からSf以外の声が放たれた。それも、 「・・・口の開閉無しに喋られると気色悪いな」 『え、えぇ? 何か失敗しましたか、私』 Sfの口から放たれる声が動揺する。至は、気にするな、と一言。 「実は今面白い馬鹿を見つけてな。Sfがその馬鹿の自弦振動を記録した。データを送付させるから概念空間にそれを付加しろ」 『・・・監督、その馬鹿とやらは誰ですか? 無関係な方なら・・・』 「はん、気にする事は無い。無知でこの世を安全と決めつけたガキに思い知らせてやるだけだ。この世界の真実には全てが存在し、故に全てが否定されるのだという事を。――肯定と否定は繰り返される、それこそこの世界が満足するまでな」 データを送付しろ、と至は眼前のSfに命令、それは即座に果たした。 ● 下の道路に出た佐山は首を傾げていた。手にした携帯電話が起動しないのだ。 「バッテリーは寮を出る前に確認したが・・・」 電波の関係かと思って移動し、バッテリーの交換もしてみたが反応はない。 「一体どういう事だ・・・?」 そこまで呟き、そして佐山は聞いた。 それは聞き覚えのある声だった。一体誰のだろうか、と佐山は思い、すぐに答えが出た。 私の声・・・? 佐山のそれに似た声が響いた。 ―――貴金属は力を持つ。 ―CHARACTER― NEME:佐山・御言 CLASS:生徒会副会長 FEITH:悪役希望 戻る 目次へ 次へ
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登録日:2009/06/23 Tue 14 59 43 更新日:2021/06/15 Tue 17 55 27 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 PULLTOP ゆのはな エロゲー ゲーム ハートフル ホナニー 冬ゲー 四音タイトル 泣きゲー 満ちる季節 藤原々々 隠れた名作 風評被害 ものがたりの季節は、冬 2005年3月25日にPULLTOPより発売された恋愛アドベンチャーゲーム。 ジャンルは「賽銭おねだりADV」。 サブタイトルは「A heart-warming fairy tale of winter」(心暖まる、冬のおとぎ話)。 基本はアルバイトで、賽銭を稼ぐが、そのアルバイト先のヒロインとの親交を深め、人と人との温かさをテーマにしたハートフルコメディ。 タグにあるとおり泣きゲーに分類される。 だが、よくある感動物ではなく、心に暖かい何か残すタイプのもの。 小説・ドラマCD化もされた。 ストーリー あても無くバイク旅行に出掛けた『草津拓也』は、片田舎にある『ゆのはな町』を訪れた矢先に交通事故を起し、 道端に建っていた祠にバイクごと突っ込み、意識を失ってしまう。 再び目を覚ました時、視界に飛び込んできたのは、宙に浮かんだまま覗き込む、奇妙な格好をした少女の姿だった。 「あ、お目覚めですね。ご無事のようで何よりです」 不思議な格好をした少女は、自らを土地の守り神である 『ゆのは』だと名乗る。 ゆのはは土地神としての力を使って、瀕死の重傷を負っていた拓也を治療したことを語る。 「いえいえ、お礼を言われるほどのことではありません。その代わりと言っては何ですが、壊れた祠の修理代を負担して頂けないでしょうか」 ――こうして半ば強制的に、ゆのはの要求を聞くことになった拓也は、『ゆのはな商店街』の中でバイトに明け暮れる日々を送る羽目になった………。 登場人物 草津拓也 声:ヘルシー太郎(ドラマCD) 主人公。基本は単純でバカで能天気。謝る時は土下座ではなく五体投地。 でも、ヘタレずに熱血な一面も見せる良主人公。 ゆのは 声 七原ことみ ゆのはな町の土地神。拓也の妹という設定にしている。 毒舌で守銭奴。また、三文芝居で金銭を巻き上げたりもする。そして大食い。若干ウザイがだからといって投げ出してはいけない。 メインヒロインということで、他ヒロインを攻略後に個別ストーリーとして最後に攻略する事ができる。 主人公を「…ばらばら?」と脅したりする。 伊東わかば 声 生田香織 拓也とゆのはが居候する伊東家の娘。銭湯「華の湯」を営む。 少し抜けてるが明るく、神様に見えるくらい優しい子。ゆのはな商店街のマスコット的存在。 ちなみに、小説版のヒロイン。 高尾椿 声 一色ヒカル 高尾酒店の看板娘。でも酒に弱い。 男勝りの「姐さん」。一応常識人。ライトノベル作家。 桂沢穂波 声 木葉楓 喫茶「白摘茶房」を榛名とともに切り盛りする。 オカルトが大好きで霊感もある。「研究・実験」が大好き。拓也とゆのはの正体を見破った。 通称「ほなみん」。とある理由でゆのはからは「ほなにー」と呼ばれる。 エロシーンと差分が一番多かったりする。 宇奈月由真 声 福島梨亜 「ゆのはな町の暴れ牛」と言われる作中最強のキャラ。ちなみに料理の腕は「最凶」。 わかばの親友…を通り越して百合の領域にいるが、当のわかばは全く気付いていない。 「まゆ」と呼ばれてるとキレる。ゆのはとは仲が悪い。 何故か攻略不可。企画当初は攻略対象だったとか。何故だ!! 桂沢榛名 声:楠鈴音 穂波の母。巨乳でメガネ美人。祐司の嫁なので攻略できない。 高尾渋蔵 声 棟方一志 椿の祖父。スーパージジイ。 「しぶぞう」が愛称だが、一部の人しか呼ばせてもらえない。 伊東みつ枝 声 茶谷やすら お饅頭みたいなわかばの祖母。いつもニコニコしているが全てを知っていそうな人物。 高尾祐司 椿の父。榛名とはLove×2。 腰を痛めた理由は…。 スタッフ 企画・ディレクション:朝妻ユタカ シナリオ:丸谷秀人、J・さいろー 原画・キャラクターデザイン:藤原々々 SD原画:仁之丞 ゲーム中の音楽 1.まどろみの昼下がり 2.粉雪の踊る町 3.月と星の見る夢 4.祠に棲む神さま 5.湯気の向こうの笑顔 6.ほろ酔い看板娘 7.やさしいうた 8.俺のテーマ 9.気まぐれ守銭道 10.吶かぁぁぁぁぁん! 11.つないだ手ぶくろ 12.恋ごころ 13.時の足音 14.伏せたてた瞳に映るもの 15.わらわのありがたいお話 16.雪のまほろば 17.おしえてゆのは 18.吐息の距離 19.あたたかい涙 20.満ちる季節 21.ゆのはな 22.冬だより 23.約束~resume~ PULLTOPソングまとめCDである『うたのかんづめ』に満ちる季節のVocal版が収録されている。 追記・修正よろしく。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 原曲も良かったけど、「満ちる季節」のVOCAL版が神がかってた。 -- 名無しさん (2016-08-11 23 49 08) 名前 コメント
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まだ、完成していません・ VOCALOIDのカラオケあたりが終わったら作り始めます。 目次 目次 ア行ア イ ウ エ オ カ行カ キ ク ケ コ サ行サ シ ス セ ソ タ行タ チ ツ テ ト ナ行ナ ニ ヌ ネ ノ ハ行ハ ヒ フ ヘ ホ マ行マ ミ ム メ モ ヤ行ヤ ユ ヨ ラ行ラ リ ル レ ロ ワ行ワ ヲ ン A~K L~Z ほか ア行 ア イ ウ エ オ カ行 カ キ ク ケ コ サ行 サ シ ス セ ソ タ行 タ チ ツ テ ト ナ行 ナ ニ ヌ ネ ノ ハ行 ハ ヒ フ ヘ ホ マ行 マ 魔法少女リリカルなのはシリーズ 魔法少女リリカルなのは 魔法少女リリカルなのはA s 魔法少女リリカルなのはStrikerS まりあ†ほりっく ミ ム メ モ ヤ行 ヤ ユ ヨ ラ行 ラ リ ル レ ロ ワ行 ワ ヲ ン A~K L~Z ほか link_trackback
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「? なんだろう……これ」 キャロ・ル・ルシエがそれを発見したのは『引越し準備の偶然』だった。 どんな人間でも遭遇しうるありきたりなイベントにより、彼女はそれを見つける事になる。 必要な物をまとめ、要らない物を整理していた時に荷物が詰まっていた古い箱の底から。 金色の大きな輪とその中にデフォルトされた一つ目が刻まれた三角形。 輪からは数個の楔が垂れており、全てが埃の中で確かに輝く金色をしている。 紐がついているコトから首に提げて使うと言う事も理解できた。 「何か大切な物なのかな……」 少なくともキャロ自身の私物ではない事は直ぐに解る。 何せ新しいものが少なく物持ちが良い小さな集落、この生まれた頃に彼女に与えられた箱も何世代も前から使われる骨董品だ。 ならばその神聖な雰囲気から村に伝わる祭具か何かだろうか? 「なんだか不思議な感じだし……お祭りか何かで使ってたのかも……」 お祭り……外界との交わりが少ないこの村では誰もが愛するイベント。 もちろん遊びたい盛りであるキャロも大好きだった。そう……過去形。 もうこの村の全てに関われない。もう直ぐこの村を出て行くのだから。 白き竜を従えた事、強すぎる力を獲たこと。 理由としては充分なものなのだと、どこか子供ながらに達観しているキャロは考える。 だけどソレは必死に自分を納得させるための言い訳。 「ちょっと位……着けてみても良いよね?」 重要な祭具は選ばれた者だけが、儀式の時にのみつける事を許される。 それが埃を被っていたものだろうと勝手に付ける等、普通のキャロならば考えられない事。 しかし今夜限りだと思えば、気も緩む。村に居た最後の記念に……少し位なら…… 「っ!?」 首に掛けた件の物体を瞬間、異変は起きた。 中央の目が眩い光を放ち、輪から垂れる楔が意思を持ったように揺れた。 傍らですやすやと眠っていた白竜フリードリヒが異変に気がついて飛び起きる。 数秒で光は収まり、静寂が戻る。だが子供とは言え竜の本能が、背を向けたまま静止している主に異変を感じ取った。 「キュウ……」 トコトコと歩み寄り、心配そうに見上げた先。フリードは首をかしげる。 『あれ? 私の主人はこんなに怖い顔をしていたか?』と 「クックックッ……ヒャーハッハハ!!」 「キャウン!?」 不意にキャロが上げた気政治見た笑い声にフリードは動転。荷物をまとめていたカバンに飛び込む。 そんな愛竜の様子など目にも入らないと言いたげに、キャロは顔を上げ自分の姿をまるで他人のもののように見渡す。 「おいおい、随分と可愛らしくなっちまったな~このバクラ様がよ!!」 自分をバクラと表現したのはキャロが身につけた『千年リング』に宿りし邪悪なる意思。 大邪神ゾークの欠片であり、三千年前古代エジプトで暴れていた盗賊の魂。それが今のキャロの体を動かしている。 「まったく……三千年の因縁が気に喰わない形とは言え決着したってのに。オレ様は冥界にも行けないってか!?」 怠惰さを感じさせながらも戦闘態勢を保つ姿勢、闇を切り裂く鋭い目つき、世界の愚かさを知っている皮肉った笑み。 キレイに整っていた桃色の髪はボサボサと掻き揚げ、作り置きしてあったビスケット状の保存食数枚を一気に口に放り込んでボリボリと咀嚼。 完全に粗暴な盗賊の雰囲気を纏った主人にどう対応して良いのか?とフリードがカバンの中で困り顔。 「盗賊に安寧の地獄は相応しくないってか……なら最悪の天国で楽しく遊ばせてもらうとするぜ」 自分が置かれた状況と言うのは強制的に眠ってもらった宿主 キャロの記憶から与えられた知識で容易くバクラには理解できた。 しかもこの宿主の力は前のソレを軽く凌駕する。体が子供という事で些か不満があるが、彼にとってそれを補って余りある魅力。 「そうだな……まずは宿主様に恩返しでもさせてもらうとするか?」 「グハッ!? 貴様……何者だ……」 「見てわかんねえか長老様よ~キャロ・ル・ルシエさ」 長老の居住で行われているその事態を冷静に説明できるものなど居ないだろう。 『村の長老が追放を言い渡した小娘に足蹴にされている』 余りにも異様だ。だが確かに発生している音に誰かが反応する気配も無い。 部屋を覆う夜以外に闇がそれを妨げているのだろうと長老はおぼろげにも理解した。 「キャロであるはずが無かろう……その邪悪な気配」 「邪悪だぁ? テメエに何が解るんだよ、このガキを村から放り出すテメエによ~」 嗜虐の快楽に歪むその顔は決して十歳には見えない。 奇妙で奇抜な表情はそれだけで既に『魔』として認識できそうな存在感。 首から提げた千年リングが黄金の光を放つが、ソレは闇を増す邪悪な光。 もう一度長老の腹を蹴り上げ、キャロの体でバクラは嗤う。 「ほんとにお優しい宿主だぜ、この嬢ちゃんは。 急に僅かな金と荷物持たせて『村を出て行け!』で文句一つ言わないんだもんなぁ~ だからテメエも安心して送り出せるわけだが……腹の中じゃどう思ってるかねぇ?」 「クッ! だがそれは村の平和に過ぎた力は……『ふざけんじゃねえ!!』…グフォッ!?」 「過ぎた力? 強大な力? 大いに結構なことだぜ! 問題はよ~その力を恐れるテメエの心の闇なんじゃねえか?」 『いつか手に負えなくなるのではないか?』 ソレは長老が積み重ねてきた努力を簡単にひっくり返す存在に対する解り易い恐怖だ。 後はただ村の昔の風習にでも習って理論付ければいいだけ。 痛い沈黙は肯定を意味する。鉄壁な聖者など数えるほども世界には居ない。 黙った老人の様子にバクラが浮かべるのは勝利の笑みだ。 「まっ! いまさら出て行かなくて良いとか詰まらない事は言わなくて良い。 だがよ? やっぱ……罰ゲームは必要だぜ!」 一気に光を増す千年リング、そして突きつけられる人差し指。 「罰ゲー…あぁ? 何で宿主の意思が……ちっ! 解ったよ……宿主の力が多いのも困りモノだぜ……」 だが長老が恐怖した瞬間は訪れなかった。何かと話しているらしい邪悪なものが残念そうに掲げた指を下ろす。 光も薄れ、同時に緊張の糸が解けて掻き消える意識の向こう、何時ものキャロが言った。 「ご迷惑をおかけしました」 朝に意識を取り戻して、長老が最初にしたのは後悔だった。 『あ~ぁ……せっかく自由に過ごせるかと思ったら宿主に押さえ込まれるなんてな……』 「勝手に寄生しておいてソレはヒドイです……」 「キャウ?」 あの後急遽村を飛び出してきたキャロとフリードが丘の上で一息ついていた。 そしてキャロの胸で揺れているのは千年リング。そこに居る姿無きバクラ。 基本的に彼の声は表に出ている状態でなければ、キャロ以外には届かない。 独り言を呟く主にフリードは生まれて間もない頭脳を必死に捻るが、答えが出る筈もない。 故にフリードは『主は優しい時と猛烈に恐ろしい時がある』と認識をしてたりする。 『でも良いのか? 千年リングを捨てちまわなくて』 「貴方を呼び覚ましたのも、寄生されているのも私の心の弱さ……闇だと思うんです。 ソレに対する戒めとして……残しておこうかな~なんて……」 正直な話、キャロはそこまで自分に厳しく捉えているのではない。逆に甘さ故の行動。単純に言えば『話をする相手』が欲しかったのだ。 近くの村まで子供の足で三日ほどかかる。その間は物言わぬ仔竜と森の中で過ごす。その先も知り合いも居ない見知らぬ土地で過ごすことになる。 今までも経験が無かったわけではない野宿や旅だが、それは帰る村が在ったからこそ耐えられたのだ。 「心の闇……そこまで解ってるなら気を抜くなよ。闇に食い殺されるか、闇を従えるか? 油断してると乗っ取っちまうぜ、宿主さん?」 「はいっ! 精進します!!……あの~出来れば名前で読んで欲しいんですけど……」 「あん?」 『理解できない小娘だ』とバクラは内心で首をかしげる。 こちらの力の行使すら止めて見せる力在るにもかかわらず、孤独を紛らわす存在を極悪な盗賊に求めた。 闇の力を恐れながらも、それを真摯に見て理解し、従える心意気を持っている。 「キャ……」 言いかけてバクラは猛烈に恥ずかしい感情に襲われる。 全く馬鹿らしい時を過ごして来た精神には考えられない初心な一面。 断ろうかとも思うが、流石にずっと宿主と言うのも味気ない。 浮かんだのは憎き宿敵、『王様』が宿主を呼ぶときの言葉だった。 「……まあ、よろしく頼むぜ? 相棒!」 「相棒……なんかちょっと……」 「相棒は世間知らず丸出しだからな……オレ様が生きる術を教えてやるぜ。とりあえず『盗掘』からやっとくか?」 「やりません!!」 単発総合目次へ 遊戯王系目次へ TOPページへ
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マクロスなのは 第26話『メディカル・プライム』←この前の話 『マクロスなのは』第27話「大防空戦」 1502時 クラナガン上空2000メートル そこではアルト率いるサジタリウス小隊がCAP任務に従事していた。 既にクラナガン上空で任務を開始してから2時間を超えている。 普段ならあと2時間足らずでこの任務を終え、引き継ぎに交代する。しかし今日は航空隊のオーバーホールのため、あと4時間は缶詰の予定だった。 こうなると普段禁止されている私語が多くなる。天城はその軽い性格からか、いつもおしゃべりが過ぎる。しかしこの日、真面目なさくらまでもその岩戸が軽石になってしまっていた。 『─────それでさ、基地のパン屋のお姉さん、ほら、あの・・・』 『・・・ああ、いつも基地にパンを持って来てくださっている事務員のお姉さんですね。』 『そう、それ!でさ、昨日パン屋さん午前中休みだったろ?』 『そう言えばそうですね・・・・・・何かあったんでしょうか?』 『うん、それがさ、そのお姉さんが朝の7時ぐらいにミシェル中隊長の部屋から出ていくのを見たやつがいるんだよ!』 『え!?ということは朝帰りぃ!?』 (・・・・・・おいおいミシェル、もう噂になってるぞ・・・・・・) アルトは昨日、彼の部屋に入ろうとしてドアにハンカチが挟んであったことを思い出し、「やっぱりそういうことだったのか」と、全く変わらない戦友であり友人である男に頭を抱えた。 『その公算は大だな。・・・・・・ああ、俺も一度でいいから、女を抱いてみてぇ~!』 『・・・・・・天城さん、私の前でそんなこといっていいんですか?私も一応女なんですけど』 『あっごめん!さくらちゃんだとあんまりにも気兼ねなく話せちゃうからつい・・・』 『もう知りません!』 『あぁ、さくらちゃぁ~ん!』 この会話を聞いたアルトは「ざまぁみろ」と思ったそうだが、定かではない。 『もう・・・・・・あ、ところでアルト隊長、』 突然の天城の転進に「な、なんだ?」と生返事を返す。 『噂で聞いた話なんですが、アルト隊長が〝ランカちゃん〟と付き合ってるってのは本当なんですか?』 その予想外だった問いにアルトは制御を誤り、機体は機位を崩して5メートルほど落下させる。VF-25がピーキーな機動性能を誇るゆえに可能とした機動だが、今は彼の動揺を証明する役目しか果たしてくれなかった。 増速によって編隊まで高度を持ち直す。 「い、いきなりなにを─────」 『あっ、それ私も聞きました!本当なんですか、アルト隊長?』 さくらは左を飛んでいるため、左耳から聞こえる無線に、アルトは嫌気がさす。 「おいおい、さくらまで・・・・・・お前らバルキリー隊の隊長を色恋で話題にすると、突然撃墜されるってジンクスを知ら─────」 2人を説き伏せようと説明していると、天城の〝叫び〟がそれを遮った。 (え!? マジ?) 右後方のバックミラーに天城の機体が飛んでいるのを確認する。 流れる動作でレーダーを警戒するが、敵機なし。 変わったことと言えば、少し離れたところにヘリが飛んでいるだけだ。 (ん、待てよ・・・・・・ヘリだと?) アルトはヘリに視線で照準すると、モニターでズームをかける。 すると予想は的中。ヘリは六課のヘリだった。 そのヘリの窓にはどういうわけか、出張中なはずのランカの姿がある。 そして間の悪いことに、こちらを見つけたのか手を振っており、彼女の唇を読めば自分の名を呼んでいることはバレバレであろう。 「うぉぉぉ!アルト隊長!ランカちゃんのサインを3枚お願いします!うちの家族がランカちゃんの大ファンなんです!」 どうやら天城は完全に恋人認定してしまったようだ。 アルトは溜め息をつくと、ヘリに繋ぐのは嫌なため、上空のAWACS(空中警戒管制システム)『ホークアイ』に回線を繋いだ。 無論なぜこんなところを六課のヘリが飛んでいるのか聞くためだ。すると、 15分ほど前にクラナガン外辺部で休暇中だったライトニング分隊の2人がマンホールから出てきた5~6歳ほどの少女を発見したこと。 その少女はガジェットが狙っているロストロギア「レリック」を1個引きずっており、大変衰弱していること。 六課のヘリが保護のため急行しているが、なのは達はデバイスの調整のため出撃できず、準備の出来ていたランカが代わりに緊急時に備えて乗せられていたこと。 などの情報が提供された。 「レリック絡みか。わかった。サンキュー、ホークアイ」 『いやなに、君たちの会話の方が楽しかったよ』 「なぬ!?」 『私にも5枚、サインをよろしく頼むよ。うちの甥っ子もえらくご執心でね。交信終了』 アルトは無線に 「ちょっと待てぇぇぇーい!!」 と怒鳴るが時すでに遅し、回線は切られていた。 『・・・・・・アルト隊長』 「・・・・・・なんだ?」 『認知しましょう』 「いや、だ・か・ら、俺とランカは別にそんな関係じゃないんだぁ!」 アルトの叫びが澄んだ青空に響き渡った。 (*) その後ガウォーク形態で3機はヘリの護衛に入った。 来るかわからない航空型の警戒より、周囲に敵がいる公算の高い場所へ赴く、ヘリの警護が優先されたのだ。 その間にアルトはランカに対し念話を試みる。 『(おーい、ランカ?)』 『(あ、アルトくん久しぶりぃ~)』 『(・・・大丈夫なのか?)』 『(うん。向こうの人達にはすっごいよくしてもらったし、戦争だって終わったんだもん!)』 念話は言葉を介した意志疎通とは少し違う。これには言葉以外に言語では表現不能な概念・思考すら載せる事ができるのだ。 こう表現すると「そんな役立つものがあるのに、なぜまだ不完全な言葉など使っている?」という話になるが、実は念話は慣れていない相手だと稀に、相手に与えるのには好ましくない思考を載せてしまう事があるのだ。 つまりごく稀に本音が丸見えになるという事だ。 本音と建前の人間の世界、話す時に稀にでも相手の本音が見えたら決して成立しないだろう。 だから念話で話すにはそれ相応の勇気が要り、よっぽどの親友や仕事でない限り用いられなかった。 しかしランカから流れ込んだ思考には本当に嬉しいという思いだけが伝わってくる。 自分自身彼女に対する本音がわからない分、どう伝わっているか不安が残るが、彼女の無事が確認できただけでもよかった。 それから1分も経たない内にヘリは現場に到着。少女のヘリへの搬送が開始された。 しかし───── 「こちら機動六課、ロングアーチ。地下にガジェット反応多数!搬送を急いでください!」 ロングアーチの警告とともにガジェットが地上に出てきた。 幸い付近は既に交通規制で人はいない。ガジェットは用さえなければ家の中まで入ってこないので民間人は大丈夫だ。しかし道路でアイドリングするヘリに敵が迫る。 シャマルとランカが、担架(たんか)に乗せた少女を急ぎヘリに搬送しているが、まだ遠くとても間に合わない。 休日返上で集まっていたフォワードの4人も搬送する2人を守るので精一杯で、ヘリまで手が回らないようだ。 「ヘリを死守する!行くぞ!」 『了解!』 アルトの命令に呼応してガウォークからバトロイドに流れるように可変すると、3機でヘリを囲み、地下からワラワラと出てきて全方位から迫るガジェットに相対した。 『やっとなまった体が動かせるぜ』 天城のVFー1Bが凝りをほぐすように腕と肩をぐるぐる回した。そんな天城にさくらが釘を刺す。 『天城さん、抜かれないでくださいよ』 『へいへい』 市街地なので発砲は厳禁。しかしヘリを1機、1分ほど守るだけなら、彼らにはそれで十分だった。 「サジタリウス小隊、交戦!」 アルトは宣言と共に先頭にいたⅠ型をぶっ潰した。 (*) 一度途切れた意識が五感と共に帰ってくる。 頭の中が霧がかかったかのようにぼやけているが、1つだけわかる事がある。ここは戦場だ。 何かと何かがぶつかり、轟音と共にどちらかが、もしくは両方が壊れてしまう。 大人達は自分を縛りつけ、自らに眠る〝ちから〟を使ってヒトや物を壊すことをいつも強要した。 ぼやけた視界に映る、必死の形相をして自分を運ぶ金髪と緑の髪したお姉ちゃん達も、自分に戦いを強要するのだろうか? 彼女は自らの運命を呪うと、意識と共に記憶を閉じた。 (*) 『ヘリの離陸を確認!』 VFー25の外部マイクがティアナの声を拾う。 アルトが見たときにはヘリは(バトロイド形態の)目線の位置まで来ていた。ヘリはそのまま急速に上昇していき、安全高度まで行くと病院へと直行した。 「よし、長居は無用だ!さくら、先に飛べねぇ3人を連れて上に上がれ」 『了解!』 さくらは頭部対空レーザー砲で牽制しつつ後退。バトロイドからガウォークに可変すると、さっきまでヘリが駐機していた位置に移動する。 現在サジタリウス小隊とフォワード4人組は、ヘリのいた位置を中心に円陣を組んで全周位から迫るガジェットに対抗している。そのためヘリが居なくなろうと、その場所が一番安全だった。 『皆さん、聞いた通りです。早く手に乗ってください!』 さくらがVF-11Gの手(マニピュレーター)を地面に広げ、外部スピーカーで呼び掛ける。 しかし円陣の内郭を構成するティアナやキャロはともかく、自分達と共に外郭で戦うエリオはおいそれと戦線から後退することは出来なかった。アルトはハイマニューバ誘導弾による援護を準備しようとした矢先、その宣言が聞こえた。 「クロスファイアー・・・シュート!!」 一斉に放たれたオレンジ色の誘導弾は、数を優先したためかガジェットのシールドを抜くことはできなかった。しかしその進攻を遅らせ、エリオが後退する時間とアルト達が穴を埋める時間をひねり出した。 「いいぞティアナ。ナイス判断!」 アルトの掛け声にティアナは 『どうも!』 と応じると、後退してきたエリオ共々ガウォークの手のひらに収まった。 『じゃあしっかり掴まっていてくださいね!』 さくらは警告すると、時を置かずエンジンを吹かして離床。急速に高度を稼いでいった。 「おっし、天城にスバル、次は俺達だ」 『了解!』 上空から再び放たれたティアナの誘導弾に援護されながら、アルトと天城はガウォークで、スバルはウィングロードを展開して上空に退避した。 こうして目標を失ったガジェット達は撤退して・・・・・・いや、新たな目標を見つけたらしい。戦闘機動レベルのスピードで次々マンホールに入っていく。理由はすぐに知れた。 『こちらロングアーチ。今までジャミングにより探知できなかったレリック反応を地下から2つ確認!回収に向かってください!』 「・・・・・・っておい、ロングアーチ!あの大軍の中に4人を突入させる気か!?」 なに1つ反論せずバカ正直にも 『了解』 と応答しそうな4人の代わりに異議を訴える。 軍隊では捨て駒にされるなど日常茶飯事だ。 例えばフロンティア船団でも中期の対バジュラ戦に投入された新・統合軍がその典型例だ。 バジュラの進化によって彼らの保有する武装が何1つ効かなくなった状況で、出撃を命令され無駄に命を散らしていった。 軍隊とはそういうところだ。だから生き残るために常に最善の努力を必要とする。反論など大した努力は必要ない。それで作戦の穴が見つかり、手直しされて生存率が上がるなら、それに越したことはないのだ。 しかし六課は〝軍隊〟ではあっても無策のバカではなかった。 『そのことなんですが、おそらく問題ありません。現在ガジェットの優先命令はレリックの確保と思われ、積極的な攻撃はないと推測されます。また、事態を聞きつけた第108陸士部隊の陸戦Aランク魔導士が1人、5分で支援に駆けつけてくれるそうです』 「・・・・・・なるほど」 とアルトは呟くと、やる気満々という目をした4人に視線を投げる。 「・・・だそうだ。お前らの力を存分に発揮してこい!」 『『了解!』』 4人は敬礼すると地面に降ろされ、マンホールへと突入していった。 「・・・・・・全く、お人好し揃いだな。管理局は」 アルトの呟きにさくらが割り込む。 『それを隊長が言います?』 「・・・・・・そうだな」 俺もいつの間にかお人好しになってしまったらしい。 しかし敵はそんな感慨を抱く平和な一時(ひととき)すら許さなかった。 『こちら『ホークアイ』、クラナガン近海の相模湾に敵の大編隊が多数出現!機種はおそらく改修前のガジェットⅡ型とゴーストだ。目標はヘリでなくクラナガンの模様。サジタリウス小隊は即座に迎撃行動に移れ!』 嫌な現実が耳に入った。しかし過去を振り返るにはもう遅い。今はやれることをやるしかないのだから。 「サジタリウスリーダー了解!これより迎撃行動に入ります!」 ファイターに可変したVFー25を始めとする3機は最加速。目標空域海上に急いだ。 (*) 『『ホークアイ』よりサジタリウス小隊。いま増援を要請した。5分で六課のスターズ1とライトニング1が。その20分後に緊急出動するバルキリー隊が合流する。それまで何とか持ちこたえてくれ』 「了解」 VFー25率いるサジタリウス小隊は中距離ミサイルの射程に入ると、中HMM(中距離ハイマニューバミサイル)を一斉に放つ。 今度のミサイルは今までの2系統の誘導方式のシステムに改良を加えたもので、通常の回避手段にもある程度対応できるようになっていた。とは言え、今まで敵が回避手段を講じたことがないため、効率面から誘導システムがセンサーを全面的に信用するようセットしていた。今回はそれを通常の設定に戻しただけだったりしたが。 サジタリウス小隊の保有する全中HMM、都合20近い光跡を残してマッハ5で飛翔するそれは、30秒程度で着弾した。しかし全てではなかった。 「なんだと?」 半数以上が目標を見失ったかのように迷走していた。 しかしフレアに代表されるような妨害装置の使用は見られない。強いて言えば当たったのに当たらなかったというか───── 『こちら『ホークアイ』。命中しなかった理由が判明した!敵は幻影魔法を展開している!現在術者を走査中だ。十分注意して迎撃せよ。実機はおそらくレーダーに映っている半数以下だ!』 どうやらガジェットを使役する者達が本格的に動き始めたらしい。アルトは猛る血を抑えると、僚機に指示を出す。 「各機、陣形〝トライアングラー〟!行くぞ!」 『『了解!』』 さくらはバトロイドに可変すると三浦半島の海岸線に着陸し、アンカーでしっかり片膝撃ち姿勢を取る機体を固定。己の長大なライフルを敵の迫る南へと向けた。 続いて天城がガウォークに可変すると、さくらの直掩に入った。 この陣形は『アルトが突入して敵をかき乱し、さくらが援護狙撃を行い、天城が撃ち漏らしを排除する』という時間稼ぎと敵の一地域の釘付けに主眼を置いた陣形だった。 ちなみにこのネーミングセンスだが・・・アルトの前隊長によるものが大きいと予想される。 ともかくアルトは、天城のマイクロハイマニューバミサイル。さくらの狙撃、そして自身のハイマニューバ誘導弾と共に敵に突入していった。 (*) サジタリウス小隊が交戦に入ってから5分後の横浜上空。 そこでは今、2人のワルキューレが天を駆けていた。 「スターズ1よりホークアイ、現状は?」 『こちら『ホークアイ』。先行したサジタリウス小隊が敵大編隊を迎撃中。現在おかげで戦闘空域は相模(さがみ)湾上空に限定されている。船もないので安心して撃墜して構わない。また、幻影はロングアーチの協力で実機との区別がつきつつある。これはデバイスに直接IFFとして送信する。また、混戦なため誤射に注意せよ』 「了解」 なのはは答えると、『Sound only』と表示された通信ディスプレイを閉じた。 そして今や10キロメートルを切った戦闘空域を睥睨する。 そこでは真っ青なキャンバスをバックに、自分達魔導士には無縁な白い飛行機雲が、幾筋も複雑な螺旋模様を描いている。 「綺麗・・・・・・」 思わず素の感想が口に出る。 しかしその作品を作っているのがアルトのVF-25と、ガジェット・ゴースト連合であることを思い出し、あわてて頭を振ってその考えを吹き飛ばした。 「フェイトちゃん、行くよ!」 頷く10年来の親友。 「スターズ1、」 「ライトニング1、」 「「交戦(エンゲージ)!」」 2人は文字通り光の矢となって、空域に突入した。 (*) ガーッ、ガーッ、ガーッ───── 鳴りやまないミサイルアラート。多目的ディスプレイは真紅の警告色に染め上げられている。 VF-25は魔力のアフターバーナーを焚きながら上昇を続ける。 アフターバーナーを焚いたVF-25は、推進剤である魔力が機体の推進ノズルや大気との摩擦で発熱するため、赤外線カメラを通して見れば太陽のように光輝いて見えることだろう。 周囲を飛翔する全ての敵ミサイルが、そんなVF-25に打撃を与えんと、回避運動すらせずに追いすがる。 それを確認したアルトはスラストレバーを下げ、フレアを撒くと足を60度機体下方に展開する。 こうすることによって推進モーメントが突然変わったバルキリーはクルリと前転、機首を下に向ける。 そして再び足を戻して下降するVF-25を尻目に、高熱源体となったフレアにミサイルが引き付けられ、そのすべてが誘爆した。 「ふぅ・・・」 アルトは前方を塞ぐ実機のガジェット達を徹甲弾を装填したガンポッドで次々葬っていく。 しかし敵は全天を覆っていた。 彼は顔をしかめて敵を俯瞰していると〝衝突コース!〟という警告がディスプレイに表示された。 しかしレーダーに映る敵機はIFFには反応なし。 つまり目視できるしレーダー反射もあるが、六課のスーパーコンピューターが『あれは幻影だ』と、結論を出したという事だ。 正直幻影だろうと実機だろうと撃墜か回避したいが、おそらく敵の罠だ。 確かに発砲してあれが実機でないと証明するのは簡単だ。 しかし敵が作戦を変更してしまうので、こちらが『あれが実機でない』ことに勘づいたことを知らせる訳にはいかない。また、機動を操作されるわけにはいかないため、回避もできない。となればそのまま突入するしかなかった。 迫る敵機。もし実機なら正面衝突で大破は免れない。 (南無三!) アルトは一瞬で全ての神仏に祈る。 次の瞬間には敵機はVF-25を通り抜けていた。 後方を振り返ると、やはり罠があったようだ。ガジェット数十機がホバリングして袋を形成している。回避していればあの袋に飛び込んで集中砲火という結末だったらしい。 (最近は罠を作るぐらいの頭ができたんだな・・・) アルトが感心する内もガジェットは半ばホバリングしているためさくらの狙撃が面白いほどよく当たる。 しかしゴーストが対応を開始した。 彼らは三次元推力偏向ノズルで機首を無理やりこちらに向けると向かってきた。 いつの間にか囲まれている。 このままでは包囲、殲滅される!と危惧したアルトは遂に奥の手を出した。 「メサイア、〝トルネード〟パック装備!」 「roger.」 VF-25の胴体全体を一瞬青白い光が包み、背面に2門の大口径ビーム砲を、そして両翼には旋回式追加ブースターと装甲を装備した。 機動重視の装備として開発されたこれは、FAST(スーパー)パックを数倍する機動性能を発揮する。バジュラとの抗争では開発未了であったが、これさえあれば被害は4割は減らせたと言われている悲願の追加装備だ。 さくらの速射狙撃が包囲するゴーストの一角に穴を開ける。 アルトはスラストレバーを一杯まで押し上げると、その穴から一気に突破、包囲から脱出を図る。 しかし援護にも限界がある。上方より数機のゴーストと火線。 アルトは両翼に装備されたブースターを左右逆に旋回して急激に90度ロール機動をおこなうと、間髪いれずに主機、旋回ブースター、スラスター・・・すべての機構を駆使して上昇をかける。その瞬間的なG(重力加速度)は『ISC』、『イナーシャ・ストアコンバータ』、デバイス由来の重力制御装置の限界を越え、アルトの体に生のGを掛ける。しかしいままで反吐が出るような訓練に鍛えられた彼にはどうということはない。 機体はゴーストでも真似できないような角ばった急旋回を行って敵の火線を回避すると、ガウォークで急制動。擦れ違おうとしたゴースト数機に背面のビーム砲を照準すると立て続けに見舞った。 魔力出力にしてSランククラスの砲撃を受けたそれらは、瞬時に己の体を空中分解させて海の藻屑へと帰した。 『こちらサジタリウス2(さくら)。弾が切れました。これより魔力砲撃に切り替えます』 遂に持ってきた砲弾を撃ち尽くしたらしい。魔力砲撃ではこの空域全体に作用したAMFにより威力が格段に低下するが、致し方ない。 アルトとてガンポッドに残る残弾など雀の涙だ。 熱核反応エンジンは戦闘機に無限の航続能力を与えたが、積める弾薬量が決まっている以上、まともな戦闘可能時間は旧式の戦闘機と変わらないのだ。 (荷電粒子ビーム機銃さえ使えれば・・・・・・) 現在も封印(シール)状態でVF-25の両翼に装備されているこのビーム機銃は、最初からバジュラには効かなかったが、AMFが作用しないためゴーストやガジェットなら苦もなく落とせるはずだった。 だが局員となった今、そんな物を使えば暖かい寝床から一転、鉄格子の部屋で寝ることになる。 アルトは無駄なことを考えるのをやめると、戦術に集中する。 トルネードパックで機動力の上がったVF-25に対し、ゴーストとガジェットはその機動性と数で対抗してくる。 更にゴーストの撃ち出す実体弾は、バルキリーの転換装甲のキャパシティをすごい勢いで消耗させていく。 (というかこれはマジ物の対(アンチ)ESA(エネルギー・スイッチ・アーマー。エネルギー転換装甲)弾じゃないのか・・・・・・?) 通常の実体弾はこれほどの消耗を強いるものではないはずだった。 とにかく、客観的に見てこれ以上の進攻阻止は無理だった。 しかしすでに1キロ程先に三浦半島の海岸線があった。 (現行戦力でこれ以上の足止めは無理だ。しかし半島上空を戦場にするわけには・・・・・・) そこに見える民家が、彼に後退を躊躇わせた。 その時、待ちに待ったものが来た。ディスプレイに表示される〝空域マップを貫く太く赤い線〟と〝退避要請〟という文字。 敵は大量に後ろに引きつけている。ここで撃てば最も多くの敵を巻き込めるだろうが、時空管理局、特に彼女がそれをするはずがない。かといって一度意図を図られてしまってはその効果は急速に薄まる。 ならば自分にできることは何が何でも急いでこの位置から退避するしかなかった。 アルトは操縦桿を倒すと左ロール、続いて主観的な上昇をかける(つまり左旋回)。もちろんその間スラストレバーは限界まで前へと押し上げられている。 機体が転換装甲の使用を前提とした設計限界である25Gの荷重によって悲痛な悲鳴をあげる。VF-25のF型(高機動型)としてスペシャルチューンされた『新星/P W/RR ステージ II 熱核バースト反応タービン FF-3001A改』が己の力を示すように、そして左右エンジンでハーモニーを奏でるかのようにその雷のような轟音によって圧縮した空気と魔力を後方へと吐き出す。両翼のブースターも主翼の空力だけでは成し得ない無理な上ベクトルの力を捻り出す。 アルトもまた、転換装甲維持のため機載のISCが止まった事により、襲いくる津波のような力に必死に抗う。 そして赤い線の示す射軸線をVF-25が越えると同時に、海岸線から桜色をした魔力砲撃が伸び、射軸上にいたゴーストとガジェットに突き刺さる。それは幻影含めて50機近くを瞬時に撃墜した。 『アルトくん、大丈夫!?』 天使の声が聞こえる。 「ああ、なのは。助かった」 しかし安心したアルトの機動は少しだが単調になっていた。 ゴーストはその機を逃さず肉薄してきた。 そのゴーストから横になぎ払うように機銃弾が放たれ、VF-25に迫る。 (緊急回避は・・・・・・間に合わない!) アルトはトルネードパックの装甲パージによる囮回避に備える。しかし機銃掃射はバルキリーまで来ない内に止まった。 不思議に思ったアルトはゴーストを仰ぎ見る。 そこには金色の矢に貫かれ、海に力なく落ちていくゴーストの姿があった。 外部マイクが女性の声を拾う。 『・・・・・・もう、私の事も忘れないで欲しいな』 彼女は大鎌形態のそのデバイスを、その華奢な肩に担ぐと大見得を切った。 同時に周囲に展開する他のガジェット、ゴーストにもランサーの雨が襲い、その多くを撃墜、爆炎が花を添えた。 「フェイト!」 外部スピーカーを通して放たれたアルトの声に、彼女はニッコリ微笑みを返した。 (*) 六課の合流後、すぐに役割に応じて部隊を再編する。 高機動型であるアルトとフェイトの2人は、引き続き敵を掻き乱す前衛部隊。 2人に構わず進む編隊には、さくらとなのはの火力部隊が当たり、天城は機動部隊として2人の直掩と撃ち漏らしの掃討を続行。 この後の戦いは比較的スムーズに進んだ。 そして10分後、更なる援軍が到着した。 『こちら機動六課フロンティア2。これより、支援します!』 聞こえた声はランカのものだった。レーダーを見るとヴァイスのヘリが戻って来ていた。 どうやら保護した少女を、この近くの聖王教会中央病院に置いて、とんぼ返りしたようだった。 『みんな!抱きしめて!銀河の、果てまでぇ!』 フォールド波に載ったランカの常套句が、半径10キロに渡って響き渡った。 続いて流れてくる歌声。 アルトはそれを聞いて、先ほどの念話以上の安心感を抱いた。 彼女の歌声は、いつかのような迷いある歌声ではない。 誰に向けてのものかはわからない────きっと、生きとし生きるもの全てにだろう────が、晴れ晴れとした澄み渡った空のように、暖かい歌声が沁み渡っていった。 (*) ランカの参入は戦闘の趨勢を激変させた。 魔導兵器であるガジェットⅡ型はレーザー攻撃を封じられボロボロ落とされる。 ゴーストには魔導技術がほとんど導入されていないらしく相変わらず元気だったが、ガジェットが脅威でなくなった分、楽になった。 しかし、ランカの超AMF範囲内にありながら、幻影魔法が解除されることはなかった・・・・・・ To be continue・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 ランカ「ずっとそばにいたかった。でも、もうあなたまで届かない・・・・・・」 マクロスなのは第27話「撃墜」 追悼の歌、銀河に響け! ―――――――――― シレンヤ氏
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第12話「敗北、そして新たな出会いなの」 「ゾフィー、ヒカリ……!! ついに現れたか、宇宙警備隊め……!!」 異次元空間。 ゾフィーとヒカリの乱入という事態を目にし、ヤプールは歯軋りした。 宇宙警備隊の介入は、全く予想していなかったわけではない。 メビウスが時空管理局側にいる以上、時空管理局がメビウスの世界を見つけ出すかもしれない。 逆に宇宙警備隊側が、メビウスを探してこちらの世界にやってくるかもしれない。 そう、可能性としては考えてはいたが……実際に現れたとあっては、やはり厄介だ。 ヤプールは掌から黒いガスを噴出させ、それを凝視する。 「……まだだ。 仮に、奴等のコアを全て使ったとしても……まだ届かん。 完成さえしてしまえば、宇宙警備隊も時空管理局も……誰が相手であろうと…… 暗黒四天王や、皇帝さえも……!!」 闇の書さえ完成すれば、全ての目的は達成される。 そうなれば、もはや止められる者はいない……だが、まだまだ完成には遠い。 フェイトのリンカーコアを吸収しても、まだ闇の書のページは埋まりきっていなかったのだ。 今の所、ページを大幅に増やす方法が一つだけ、あるにはあるが……それを用いても、まだ届かないだろう。 ヴォルケンリッターやダイナが、地道な蒐集を進めるのを待つか。 答えは否……こちらからも、出来る事をやらなければならない。 ページを増やす手立てが……無い訳ではないからだ。 (尤も、これで奴等が倒れてしまえばそこまで……かなりの賭けにはなるがな。 奴等に、それだけの力があるかどうか……) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「超古代の戦士……それが、ウルトラマンダイナの正体か。」 『うん……ミライさんの様な、光の国のウルトラマンってわけじゃないらしいんだ。』 時空管理局本局。 ユーノは、ウルトラマンダイナについて調べ上げた事に関して、なのは達に報告していた。 分かった事は、ダイナはミライと同じ光の国のウルトラマンではないと言う事。 ダイナは異世界において、超古代の時代に悪と戦い続けてきた光の戦士の一人。 そして、スフィアと呼ばれる知的生命体の火星襲来を機に、現代に目覚めたという事である。 ミライの予想は、見事に的中していたのだ。 「そう言われてみると、確かに納得できるね。 なんかダイナって、ゾフィーやヒカリと違って、色が派手だったしさ。」 「ダイナは、レッド族・シルバー族・ブルー族のどれに当てはまるのか、分からないウルトラマンでしたからね。」 「え……ウルトラマンって、そういう風に色で分けられてるんですか?」 「うん、そうだよ。 だからそれもあって、ダイナが異世界のウルトラマンだって思ったんだけど…… まあ、どれに分類したらいいのかっていう例外みたいなウルトラマンもいるにはいるから、不安だったんだ。」 ミライは、恐らく自分が知る限りは最強のウルトラマンであろう、ウルトラマンキングの事を考えて溜息をついた。 正直な話、あのウルトラマンキングだけは、どれに分類したらいいか未だに悩む。 シルバー族といえばシルバー族なのかもしれないが……カラーリングが、少々独特すぎる。 本人に聞いてみれば分かるのかもしれないが、相手が相手だけに、会える機会は極めて少ないだろう。 兎に角、この事は一旦置いておくことにして、ユーノの報告を聞くのに専念する事にする。 『ダイナのいた世界では、他にもウルトラマンは確認されてる。 ウルトラマンティガ……ダイナと同じ、超古代の戦士が現代に目覚めたウルトラマンなんだ。 一応、他にもイーヴィルティガっていうウルトラマンもいたらしいけど……こっちは悪党だったらしいからね。 怪獣とか侵略者とか、そっちの方に分類されてたんだ。』 「じゃあダイナは、そのティガっていうウルトラマンと、一緒に地球を守り続けていたの?」 『いや、それがそうじゃないんだ。 ティガが現れたのは、ダイナが現れる七年も前なんだけど……ティガはある戦いを切欠に、姿を消したんだ。』 ユーノは画面に、ティガに関する資料を映し出す。 ダイナと似た姿を持つ、もう一人のウルトラマン―――ウルトラマンティガ。 その異世界において、初めて人々の前に現れた、最初のウルトラマンである。 ティガが現れたのは、ダイナが現れるよりも八年も前。 超古代の戦士の遺伝子を受け継ぐ一人の青年―――マドカ=ダイゴが、ティガの力を手にした事が全ての切欠であった。 ―――もっともなのは達は、ダイゴの名前までは分からなかったようだが――― ティガは、数多くの悪と激闘を繰り広げ、人々を守り抜いてきた。 しかし、月日が経つに連れて戦いは熾烈を極めるようになり……ティガも、苦戦を強いられる用になっていった。 そして終には、ティガとは対極をなす『闇』の存在―――最強の敵、邪神ガタノゾーアが復活を遂げた。 ガタノゾーアの力は恐ろしく強大であり……ティガも、その前に敗れ去ってしまったのだ。 だが、それでも人々は希望を捨てなかった。 闇に屈しまいとした人々の希望は、光となってティガを蘇らせたのだ。 希望の光を得たティガ―――グリッターティガは、その圧倒的な力でガタノゾーアを打ち倒した。 そして、戦いが終わった後……ダイゴは、ティガへと変身する力を失ってしまったのである。 「希望が力になって、闇を倒した……」 「最後まで諦めず、不可能を可能にする……それがウルトラマン。 異世界でも、それは変わらないんだね。」 『それからしばらくの間、ティガは人々の前に現れることはなかったんだけど…… 邪神との戦いから二年後に、ティガは再び現れたんだ。』 邪神ガタノゾーアとの戦いから、二年後。 超古代遺跡ルルイエより、闇の力を持つ巨人が復活を果した。 そのリーダー格である戦士カミーラは、かつてティガと恋人同士にあった。 彼女はティガと再び出会う為、ダイゴの前に現れ、ティガへと変身する力を与えたのである。 その後、ダイゴは彼女等を打ち倒す為にとティガへと変身を遂げたのだが……現れたティガは、かつての彼と違った。 その全身は、闇を連想させる漆黒のカラーリングをしていた。 そう……ティガは本来、彼女達と同じ闇の力を持つ戦士だったのだ。 二年前は、正義の心を持つダイゴがその力を手にした事により、光の戦士として覚醒した。 だが今回は、カミーラの力の影響が大きかった為か、闇の戦士―――ティガダークとして目覚めてしまったのである。 そして、その変身は極めて不完全なものであった。 正義の心を持ったまま闇の戦士として覚醒してしまったが為に、本来の力を発揮できないでいたのだ。 しかし、それでもティガは諦めず、彼女等に戦いを挑んだ。 その結果……奇跡は起こった。 ルルイエに眠っていた超古代の光の戦士達が、戦いの最中にティガへと光を分け与えたのだ。 ティガは戦士達の光を得、グリッターティガへと覚醒し……そして、カミーラ達を終に打ち倒したのである。 『そして、この戦いから六年して……終にダイナが現れたんだ。』 「じゃあ、それを最後にティガは消えたんだね。」 『いや、それがこれが最後じゃないんだ。』 「……ふぇ?」 『さっき言ったのと矛盾しちゃうけど……実はティガは、一度だけダイナと共闘してるんだ。』 それは、ティガが最後に現れてから六年後の話。 地球侵略を目論む異星人―――モネラ星人が、地球に襲来してきた時の事である。 ダイナは、モネラ星人の切り札である超巨大植物獣クィーンモネラに、敗れ去ってしまったのだ。 圧倒的な力を持つ巨悪の前に、ウルトラマンが倒されてしまう。 奇しくも状況は、かつてのティガとガタノゾーアとの最終決戦と、同じであったのだ。 そして……この絶望的な状況を救ったのも、かつてと同じもの―――希望の光であった。 希望を捨てず、諦めなかった人々の想いが光となり、そしてその光が……ティガとなったのである。 ティガは己の光を……人々の希望をダイナへと分け与え、ダイナを復活させた。 そして、ティガとダイナはついにクィーンモネラを打ち倒したのである。 「……全く、とんでもない話だね。 信じてさえい続ければ、必ず奇跡は起こるって……でも、そういうのも嫌いじゃないよ。」 『これが、ティガが人々の前に姿を現した最後の戦いだよ。 それからは、ずっとダイナが戦い続けていたんだけど……』 「……ダイナはある戦いを切欠に、姿を消した?」 『うん、その通りだよ。 ダイナは、暗黒惑星グランスフィアとの戦いを最後に……消え去ったんだ。』 地球と一体化を遂げようとした、暗黒惑星グランスフィア。 周囲に巨大なブラックホールを持つ、近づくもの全てを飲み込む巨大な闇。 ダイナは仲間達と力をあわせ、グランスフィアとの決戦に臨んだ。 そして、グランスフィアを消し去る事に見事成功し、地球を救ったのだが…… ダイナは、グランスフィア消失時に発生した巨大なブラックホールに、そのまま飲み込まれてしまったのである。 これが、人々がダイナを見た最後だと記録されている。 「えっと……そのブラックホールが、私達の世界に通じていたってことでいいんだよね?」 『多分そういうことだと思う。 そして、その後は……何らかの切欠でヴォルケンリッター達と出会って、行動を共にしてる。』 「しかし分からないのは、ダイナが何で彼等と一緒にいるかだな。 こうして見てる限り、ダイナはミライさんと同じ……人々を守るために戦ってきた、ウルトラマンなんだろう? なら、どうして闇の書側の味方なんか……」 ダイナの正体が分かったのは良いが、御蔭で尚更謎が深まった。 何故ダイナが闇の書側についたのかが、皆目検討がつかなくなってしまったからだ。 もしも、ダイナが悪党であるのならば話は分かる。 だが……彼は正義の味方として戦い続けた、ウルトラマンなのだ。 ならば何故、闇の書を完成させようとしているのだろうか。 仮に、ヴォルケンリッターに恩義を感じているのだとしても……やはり、考えられない。 「……ザフィーラの奴は、自分達の意思で闇の書の完成を目指してるって言ってた。 主は関係ないって……もしかして、闇の書を完成させなきゃいけない理由があるのかな?」 「けど、闇の書は破壊にしか使えないはずだし……あ、ユーノ君。 その闇の書に関しては、何か分かってるのかな?」 『はい、御蔭で色々と分かりました。 とりあえず、今分かってる事は全部話しますね。』 ユーノは画面に、闇の書に関する資料を映し出した。 ここまで調べてみて、様々な事が分かった。 まず最初に、闇の書というのは正式な名称ではないということ。 闇の書の本来の名前は『夜天の魔道書』ということである。 その本来の目的は、各地の偉大な魔道師の技術を吸収して研究する事。 それらを記録として半永久的に残す為に造られた、主と共に旅する魔道書……それが、夜天の書であったのだ。 そんな夜天の書が破壊の為に力を発揮するようになったのは、ある持ち主がプログラムを改竄したから。 圧倒的な力を欲しさに、全てを捻じ曲げた者がいたからである。 この改竄の結果、旅をする機能・破損したデータを自動修復する機能が暴走してしまった。 転生と無限再生の機能は、これが原因で生じてしまったのだった。 だが闇の書には、これらを遥かに上回る凶悪な機能が、更に搭載されてしまっていた。 それは、主に対する影響の変化にあった。 闇の書は、一定期間蒐集がない場合……主自身の魔力を侵食し始める。 そして完成した後には、破壊の為だけに主の力を無際限に使い続ける。 その為、これまでの主は皆……完成してすぐに、その命を闇の書に吸い取られてしまったのである。 「……ロストロギアの持つ、強大な力を求めた結果か。 どこの世界でも、そんな奴はいるんだな……」 「封印方法や停止方法については、分かった事はあるか?」 『それは今探してる。 でも、完成前の停止は……多分難しい。』 「え……どうして?」 『闇の書が真の主と認識した人物でないと、システムへの管理者権限が使用できない。 つまり、プログラムの停止や改変ができないんだ。 無理に外部からアクセスしようとしたら、主を吸収して転生するシステムも組み込まれてる…… だから、闇の書の永久封印は不可能って言われてるんだ。』 「……ファイナル・クロスシールドも、破られる可能性がありえるんだよね……」 闇の書の封印は、流石のウルトラマンでも厳しいようであった。 かつてヤプールを封印したファイナル・クロスシールドでも、下手をすれば打ち破られる危険性がある。 そしてそれは、破壊に関しても同じ事が言える。 アルカンシェルで跡形もなく吹き飛ばしても再生するというのであれば、自分達の光線はまず通用しない。 例え、一撃で惑星を一つ消滅させるだけの破壊力を持つ最強兵器『ウルトラキー』を使ったとしても、恐らく結果は同じだろう。 しかし……それでも、主を闇の書の完成前に捕まえ、闇の書を破壊するしか手はない。 結果を先送りにするだけではあるが、現状を何とかする事は可能だ。 皆の顔つきが、一層険しくなる。 こんなに危険な魔道書を作り上げたかつての主に対して、少なからず怒りを感じているようである。 するとそんな中、アルフがふと口を開き、疑問に思ったことを訪ねてみた。 「ユーノ、闇の書を改竄したかつての主ってのがどんな奴なのかは、分からないのかい?」 『名前とか出身世界とか、詳しい事までは分からないけど……古い歴史書には、こう書いてあった。 まるで血の様な赤い色をした、悪魔の様な存在だって……』 「悪魔……」 悪魔という単語を聞くと、どうしてもヤプールの事が頭に思い浮かんでしまう。 散々、ミライやゾフィー達といったウルトラマン達が、ヤプールの事を悪魔と呼び続けていたためであるが…… 流石に考えすぎだろうと、皆が苦笑する。 しかし……唯一、ミライだけは引っ掛かりを感じていた。 何故ならば、ヤプールも……赤い色をしているからだ。 (本当に……単なる偶然なんだろうか……?) 単なる偶然として片付けるには、何かが引っかかる。 ヤプールが闇の書を狙うのは、本当に、唯単に強い力の存在を感じ取っただけだからなのだろうか。 それとも……もしかしたら、最初から闇の書の存在を知っていたのではないだろうか。 そう……闇の書の改竄を行ったのは、ヤプールなのではないだろうか。 そんな悪い予感を……ミライは、少なからず感じていたのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「入院?」 「ええ……そうなんです。」 翌日。 はやて達は、彼女が通っている病院へとやってきていた。 今朝、急にはやてが強烈な痛みに襲われ、倒れてしまったのだ。 慌ててアスカ達は、彼女を病院へと運び込んだのだが…… そこで、彼女の担当である石田女医から、入院を勧められたのだ。 どうやら、麻痺が徐々に広がり始めている可能性があるらしい。 事態が事態だけに、流石にアスカ達もそれを承諾せざるをえなかった。 そして今、はやては病室でその事実を伝えられ、少し落ち込んでいる。 「あ、でも……検査とか、念の為だとか言ってたしさ。 そんな心配しなくてもいいって。」 「うん、それはええけど……私が入院したら、皆のごはんは誰が作るん?」 「う……」 「ま、まあそれは……何とかしますから。」 「大丈夫ですよ……多分。」 「はやて、毎日会いに来るからな。 だから……心配、しなくても大丈夫だからな?」 「うん……ヴィータはええ子やな。 せやけど、無理に毎日来んでも大丈夫やからね。 やる事ないし、ヴィータ退屈やろ?」 「う、うん……」 自分の身よりも、周りの者の事を第一に心配する。 そんなはやての優しさを前に、誰もが言葉を発せられないでいた。 彼女が何故倒れたのか……その原因は明らかだ。 闇の書の侵食が、早まってきているのだろう。 何としてでも、彼女を救わなければならない。 より早くの完成を……目指さなければならない。 この優しい主を、絶対に死なせてなるものか。 「あ、でもすずかちゃんからメールとか来るかもやし……心配せぇへんかな……」 「それでしたら、私が連絡しておきますね。」 「まあ、はやてちゃんは普段から頑張ってるんだしさ。 たまには三食昼寝つきの休暇ってことで、ゆっくりするといいよ。」 「そやな……じゃあ、ありがたくそうさせてもらうわ。」 「じゃあ私達は、一度荷物を取りに戻ります。 また後ほど。」 「うん、気をつけてな。」 アスカ達は、はやてが入院中必要になるものを取りに帰るため、病室を後にした。 しかし……それから、しばらくした後だった。 はやては胸を押さえ、苦しみ始めたのだ。 アスカ達に心配をさせまいと、ずっと痛みを堪え続けていたのである。 これまでに経験した事のないレベルの激痛が、体中を駆け巡る。 一体、自分に何が起こっているのか。 はやては、何も分からぬまま、ただ痛みに耐えていた。 (あかん……しっかりせな。 このままじゃ、皆が困るんやもんね……) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん……ちょっといいかな?」 「すずか?」 翌日。 フェイトは無事に意識を取り戻し、なのは達と共に学校にいた。 彼女のリンカーコアの回復には時間が少しばかりかかるが、日常生活には一切支障はない。 その為、これまでと変わらずに学校生活を送れている様だった。 二人は管理局から指示があるまで、現場待機という形になっている。 そして今は、丁度下校時なのだが……仲良し四人組が教室を出てから少しして、すずかがふと口を開いた。 なのは達はその表情を見て、何か深刻な悩み事があるに違いないとすぐに察する。 そして、その予感は見事に的中した。 「実は……はやてちゃんが、入院しちゃったって。」 「え……入院?」 「うん……そうなの。」 すずかの心配事とは、昨日の事―――親友であるはやてが、入院してしまったということだった。 なのは達も、直接の面識がないとはいえ、はやての事はすずかから色々と聞いている。 メールの文面を見る限りでは、然程重い症状というわけではなさそうだが……事が事だけに、流石に心配だった。 彼女は、自分に何か出来ることはないだろうかと思っていたのだ。 そしてその思いは、なのは達三人も同じく感じていた。 ならばと、早速アリサが提案する。 「じゃあさ、皆でお見舞いに行こうよ。」 「うん、私もそれがいいと思う。 今日いきなりは流石にだから、連絡入れて、明日辺りに。」 「うんうん……メールに、励ましの写真とか一緒に乗せてさ。」 「皆……ありがとう。」 「何言ってんの、すずかの友達なんでしょ? 私達にも、紹介してくれるって言ってたじゃないの。」 皆ではやてのお見舞いに行く。 四人の意見は一致し、早速すずかははやてへとメールを打とうとする。 そのまま、四人は学校の外へと出てバス停へと向かう。 そして、十字路に差し掛かったときだった。 「あ、ミライさん。」 「あ、皆。」 四人は、丁度外に出かけていたミライと出会った。 アリサとすずかの二人は、翠屋で始めてあった時以外にも、ミライとは何度か会っていた。 なのは達がハラオウン家の夕食に招かれた時や、なのはの父である士郎が監督を務めるサッカーチームの応援に行った時。 エイミィがなのはの姉の美由希と意気投合して、皆で銭湯に行った時など、色々だ。 ちなみに当たり前だが、賑やかな女性人とは対照的に、ミライは一人男湯で過ごしていた。 ユーノは事情を知らないアリサ達がいる手前一緒には行けなかったし、クロノも都合が悪く仕事ときたからだ。 だが、一人で空しく過ごしていたかというと、全くそんな事は無い。 実は言うと彼は、その銭湯で偶々同じ境遇の男性と出会い、そのまま意気投合してしまっていたのである。 この出会いは後々、色々と波紋を巻き起こすわけなのだが……まあそれは別の話。 ここで、なのは達はミライにある頼みをする事にした。 「ミライさん、よかったら写真撮ってもらってもいいですか?」 「写真……いいけど、どうしたの?」 「実は、友達が入院しちゃって……励ましのメールを送ろうと思ったんですけど。」 「考えてみたら、誰かにとってもらわないと四人全員映れないんですよね。 それで、どうしようかって思ってたんだけど……」 「それで写真かぁ……うん、いいよ。 早速撮ってあげる。」 「ミライさん、ありがとうございます♪」 その後、ここでは流石に通行人の迷惑だからということで、五人は近くの公園へと移動した。 ミライははやての事は知らないが、きっと彼女達の良き友達なのだろうと思っていた。 だから彼は、早く良くなって欲しいと願いを込め、四人の写真を撮る。 しかし、この時はたして誰が思っただろうか。 この写真が、思わぬ波紋を呼ぶことになろうとは…… ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「あ、すずかちゃんからだ。」 数分後。 八神家では、シャマルが食事の下ごしらえをしている最中であった。 はやてが入院中のため、今は彼女がはやての携帯電話を預かっている。 早速、シャマルはすずかからのメールを確認する。 メールの内容は、明日の放課後に友達と共に、はやての見舞いに行くという事。 はやてにとって、すずかは誰よりの親友である。 彼女から励ましの言葉があれば、きっとはやても喜ぶに違いないだろう。 それに、すずかが友達を連れてきてくれるというのならば、はやてに新しい友達が出来る。 思わずシャマルの顔に、笑みが浮かぶ……が。 この直後、メールに添付されていた一枚の写真を見て……彼女の表情は、凍りついた。 「え……!?」 シャマルは目を見開き、硬直する。 思わず、握っていた菜箸をシンクに落としてしまった。 しかしそれも無理は無い。 その写真に、あの二人―――なのはとフェイトが映っていたのだから。 まさか、すずかが彼女達と友達だなんて、思ってもみなかった。 このままではまずい……そう感じ、すぐさまシャマルは他の四人へと念話を飛ばす。 『シャマルか……どうした?』 「た、大変なの!! テスタロッサちゃんと、なのはちゃんと、すずかちゃんとが……!!」 『落ち着け、シャマル。 一体、テスタロッサ達がどうしたんだ?』 「あの二人が、管理局魔道師が……明日、はやてちゃんに会いに来ちゃうの!!」 『ハァッ!? ちょ、それって……俺達の事、ばれたの!?』 「ううん、そうじゃないんだけど……あの二人、すずかちゃんのお友達だから……!!」 『何だって……?』 あの二人は、すずかの友人だった。 ヴォルケンリッター並びにダイナ達は、その事実に驚き言葉を失う。 何と言う偶然だろうか。 はやてが闇の書の主であるという事までは、どうやらばれてはいないようだが……それでもこれはまずい。 シャマルが焦りを覚えるのも、無理は無い。 「どうしよう、どうしたら……!!」 『落ち着け、シャマル。 幸い、主はやての魔術資質は全て闇の書の中だ。 詳しい検査をされない限り、まずばれはしない。』 「そ、それはそうだけど……」 『つまり、私達と鉢合わせることがなければいいわけだ。』 「うぅ……顔を見られちゃったのは、失敗だったわ。 出撃する時に、変身魔法でも使ってればよかった……」 『今更悔いても仕方ない。 ご友人のお見舞いには、私達は席を外そう。 後は主はやてと、それと石田先生に我等の名前を出さないようにお願いしておこう。』 「はやてちゃん、変に思わないかなぁ……」 『仕方あるまい……頼んだぞ。』 「うん……」 『……ちょっと待った。 確かに、シグナムさんとか皆はやばいけどさ……俺はセーフなんじゃない?』 「……あ。」 アスカの一言を聞き、皆がハッとした。 確かに蒐集の際には、アスカはウルトラマンダイナに変身して出撃している。 自分達と違い、顔も名前も知られていない筈だ。 彼だけは、なのは達と接触してもセーフなのではなかろうか。 誰もがそう思ったが……すぐにこの後、皆があることを思い出す。 『駄目だ、アスカ……お前も顔が割れている可能性がある。』 『え?』 『お前さ、一番最初に変身した時……ほら、あたし助けた時だよ。 あの時、一瞬だけど顔見られてなかったか?』 『……あぁっ!?』 自分でもすっかり忘れていた。 この世界に来て、一番最初にダイナへと変身した時。 あの時、一瞬だけとはいえ姿を見られていた可能性があるのだ。 ばれていない可能性もあるが、それでも顔を見せるにはリスクが高すぎる。 結局のところ、誰もなのは達の前に姿を現す事はできないということだ。 アスカは大きく溜息をつき、己の不運を呪った。 本当に今更ではあるが、この世界に来る前までの様に、隠れてこっそり変身すべきだったか。 いや、それではこうしてはやての為に戦うことも出来なかったし……どちらにせよ、どうしようもない。 『……落ち込んでいても仕方ない。 気を切り替えて、蒐集に戻るか……あ~、くっそ……』 「……兎に角、それじゃあ急がないと……」 早速シャマルは、身支度を整え外出しようとする。 はやて達に、自分達の名前を出さぬよう注意をしなくてはならない。 一体、どう説明すれば納得してくれるだろうか。 病院に着くまでに、いい言い訳を考えなければならない。 これまでにないこの事態に、シャマルは相当の危機感を抱いていた。 (怒っちゃうかな、はやてちゃん……) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「シャマルの奴、大丈夫かな……?」 異世界、大海原。 その上空を飛びながら、ヴィータはシャマルの事を考えていた。 自分達の名前を出さないようにとはいうものの、どうはやて達に説明するのだろうか。 下手な事を言って、彼女達を怒らせたり、不安がらせたりしないだろうか。 どうにも、マイナスな方向へばかり物事を考えてしまう。 「……いけねぇ。 今は、こっちに集中しないといけないのに……」 ヴィータは大きく頭を振り、蒐集活動に集中しようとする。 闇の書さえ完成させてしまえば、後はどうにだってなる。 はやてを一刻も早く回復させるのが、自分達の役目。 そう思おうとするが……ヴィータには、すぐにそれが出来なかった。 昨日から、何かが自分の中で引っかかっていたからだ。 (……何かがおかしいんだ。 こんな筈じゃないって、私の中の記憶が訴えている……でも。 今は、こうするしかないんだ……!! はやてが笑わなくなったり、死んじゃったりしたら……!!) しかし、ヴィータはその引っ掛かりをすぐに否定する。 自分がこうして躊躇ったりしている内に、はやてに何かがあったらどうしようもない。 彼女の命は、後どれだけもつか分からないのだ。 だから、やるしかない……やるしかないのだ。 自分達には、迷っている暇は無い。 「やるよ、アイゼン!!」 『Ja!!』 海中から、巨大な海蛇の様な魔道生物が出現する。 ヴィータはカートリッジをロードし、その脳天へと全力でグラーフアイゼンを叩きつけた。 だが、一撃で倒れてはくれない……どうやら、それなりに実力があるようだ。 ならばそれだけ、リンカーコアから蒐集できる魔力も期待できる。 久々に当たりを引いたと確信し、ヴィータは一気に勝負に出た。 再度カートリッジをロード、グラーフアイゼンの形態を変化させる。 とてつもなく巨大な破壊槌―――ギガントフォームに。 「ぶちぬけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 グラーフアイゼン最強の一撃が、魔道生物の横っ面にぶち込まれた。 流石にこれには耐え切れなかったようであり、魔道生物は悲鳴を上げて崩れ落ちる。 すかさずヴィータは、アイゼンを振り下ろして追撃。 その頭部に、強烈な一撃をぶち込んだのだった。 これで、魔道生物は完全に沈黙。 すぐにヴィータは、リンカーコアを生物から摘出させる。 結果は予想したとおり……これまでの生物に比べて、比較的強い魔力であった。 これなら、それなりにはページを埋められそうだ。 すぐに、蒐集に移ろうとする……が。 この直後……予期せぬ事態が、彼女に襲い掛かった。 ドッバァァァァァァァァンッ!! 「えっ!?」 「ギャオオオオオォォォォォォォォッ!!」 突然、背後から大津波が襲いかかってきたのだ。 ヴィータはとっさに障壁を展開、それに飲み込まれないようにと踏ん張る。 この津波は、自然に発生したものではない。 同時に聞こえてきた鳴き声こそが、何よりの証拠である。 すぐにヴィータは、その声の主であるだろう相手の迎撃に移ろうとする。 しかし、この直後だった。 もう一発、続けて津波が発生したのだ。 それも今度は、正反対……魔道生物のいた方からである。 よりにもよってこのタイミングで、敵は二体現れたのだ。 ヴィータは片手で障壁を維持しながら、もう片方の手でも障壁を展開し、背後の津波に対応する。 なのはの砲撃魔法なんかに比べれば、この程度の相手は何とかしのげるレベルだった。 そして、津波をしのぎきった時……彼女は、信じられない光景を目にした。 「なっ……嘘だろ!?」 「ギャオオォォンッ!!」 魔道生物がいた方に出現した、その大型生物。 まるで刃の様に鋭く尖った尾びれを持つ、紅い体色の二足歩行獣―――レッドギラスが、空を仰いで大きく雄叫びを上げた。 あろうことかこの怪獣は、今ヴィータの目の前で……彼女が倒した魔道生物を、食らったのだ。 それも……摘出したリンカーコアごとである。 これにはヴィータも、怒りを感じずにはいられない。 何としてでもぶち倒し、リンカーコアを引きずり出す。 すぐさま、彼女はレッドギラスに襲いかかろうとする……が。 それよりも早く、彼女の背後にいたもう一匹の怪獣が動いた。 レッドギラスと全く同じ、唯一の違いはその体色が黒色である怪獣―――ブラックギラス。 ブラックギラスはヴィータへと、全力で拳を振り下ろしてきた。 「くっ!!」 ギリギリのところで気付き、ヴィータはこれを回避した。 どうやら、二体纏めて相手にする必要があるらしい。 ならば、このままギガントフォームの一撃をぶち込んで、打ち倒してくれる。 ヴィータは大きく振り被り、そして二匹へと振り下ろそうとする。 しかし、それよりも僅かに早く……レッドギラスとブラックギラスが動いた。 二匹はまるでスクラムを組むように、互いの肩をがっちりと掴んだのだ。 そして……その体勢のまま、急速で回転し始めた。 これこそが、かつてウルトラセブンとウルトラマンレオを苦しめた、双子怪獣必殺の攻撃―――ギラススピンである。 グラーフアイゼンとギラススピンが、真っ向からぶつかり合った。 鉄槌の騎士必殺の一撃と、双子怪獣必殺の一撃。 相手にうち勝ったのは…… 「ぐっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」 グラーフアイゼンが弾かれ、ヴィータが大きく吹っ飛ばされる。 うち勝ったのは、ギラススピンの方であった。 ヴィータは当然知らなかっただろうが、ギラススピンはかつて、ウルトラセブンのアイスラッガーにもうち勝った程の攻撃。 彼女の最大の一撃をもってしても、うち破るには届かなかったのだ。 勝ち誇るかのように、双子怪獣は唸りを上げる。 そしてヴィータは、海面へと叩きつけられ……海中へと沈んでいった。 (嘘だろ……? こんなんで、終わりなんて……) まさかこんな所で、こんな敗北をするなんて、思ってもみなかった。 絶対にはやてを助け出そうと、そう誓ったばかりだというのに……何という様だろうか。 悔しくて仕方が無い。 こんな所で、終わりたくなんか無い。 ヴィータは、徐々に薄れ行く意識の中……大切な仲間と、そして主の事を思った。 (シグナム、シャマル、ザフィーラ、アスカ……はやて……はやてぇ!!) 「……はやてぇっ!!」 ヴィータが大声を上げ、起き上がる。 大きく肩で息をし、周囲を見回す。 するとここで彼女は、風景がそれまでとは全く変わっていることに気がついた。 大海原とは一転、緑色の木々が生い茂っている。 目の前では焚き火が燃えており、海水で冷えた体を温めてくれる。 もしかして、誰かが自分を助けてくれたのではないだろうか。 そう思ったヴィータは、他に誰かいないのかと、周囲を見渡してみる。 すると……少しばかり離れた位置から、何者かが近寄ってきた。 馬を連れた、カウボーイハットを被っている中年の男性。 そのわきに抱えられている薪を見て、助けてくれたのはこの人に違いないとヴィータは確信する。 「お、気がついたか……大丈夫そうだね。」 「はい……えっと、助けてくれてありがとうございます。 ……助けてくれたんですよね?」 「ああ、そうだ。 浜辺に流れ着いていたところを見つけてね……本当、驚かされたよ。 ……一体、何があったのかな?」 「……あたしは……」 先程の出来事を思い出し、ヴィータは唇をかみ締める。 突然現れた、謎の生物二匹に負けてしまった。 それも……グラーフアイゼンの最強形態であるギガントフォームが、真っ向勝負で破れたのだ。 鉄槌の騎士と鉄の伯爵にとって、これ以上ない屈辱だった。 そんなヴィータの表情を見て、男は少しばかり暗い表情をする。 どうやら、よっぽどのことがあったに違いない……これは、聞くのをよした方がいいだろうか。 そう思って、話を中断しようとするが……ヴィータが話をし始め、それを遮った。 「……あたしは、負けたんだ。 あの、黒と赤の二匹の怪獣に……アイゼンが……!!」 「……!!」 ヴィータの言葉を聞き、男は表情を変えた。 赤と黒の二匹の怪獣……場所は海。 彼には、思い当たる節があったのだ。 だが……それ以上に問題が、最後の一言―――アイゼン。 まさかと思い、男は確認をとろうとした。 「……よかったら、名前を教えてもらえないかな?」 「あ……ヴィータです。」 「ヴィータか……」 男はその名前を聞き、軽く一息をついた。 やはり、予想したとおりだった……偶然とは恐ろしいものである。 まさかこんな所で、出会う羽目になろうとは。 しばし、男は言葉を失っていた。 そんな彼をヴィータは、不思議そうな顔をして見つめてくる。 流石にこのままではまずいと感じて、男はすぐに口を開いた。 そして……己の名を、彼女へと告げる。 「……俺はダン。 モロボシ=ダンだ。」 モロボシ=ダン。 かつて、地球防衛に当たった一人の戦士。 ウルトラ兄弟の一人であり、そしてウルトラマンレオの師―――ウルトラセブンその人である。 戻る 目次へ 次へ
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カウンター 合計 - 人 今日 - 人 昨日 - 人 現在の表示者 更新履歴 管理者の受験とかの関係で、なかなか更新できないと思います。 取得中です。 未作成のページ 初音ミク 魔法少女リリカルなのはa s 魔法少女リリカルなのはstrikers 魔法少女リリカルなのはvivid 魔法戦記リリカルなのはforce 鏡音レン がくっぽいど 鏡音リン kaito 巡音ルカ meiko ~ 亞北ネル(初音ミク) 神威がくぽ 鏡音リン 鏡音レン (yanagi) 重音テト メグッポイド 亞北ネル 管理者の紹介 まりあ†ほりっく 登場人物 原曲 akaito めぐっぽいど ryo wing webデザイン アナロ熊のうた〈long ver.〉 星空に願いを込めて -good night- アナロ熊のうた long ver. スサノヲ 旋律王姫 -senritsuouki- soundless voice mirror from y to y 月花ノ姫歌〈秦野pver.〉 目の無い私 無条件幸福 never cross u adam レンゾク♪リンク♪ 1st summer the 9th 画面サイズの横が1024以下の場合は、スタイルが崩れる可能性があります。 ここを編集
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~ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは 小ネタ集~ ○戦闘機人 ミライ「戦闘機人って、身体に機械を入れてパワーアップした、サイボーグみたいな人の事だよね?」 なのは「はい、そうみたいですけど……」 ミライ「じゃあ……」 『恐竜戦車』 ミライ「まさか、あれも戦闘機人の一種……」 なのは「ミライさん、それ何か違いますから」 ユーノ「そもそも元が人じゃないですって」 ~その頃のスカリエッティ家~ スカ「よし、新しいナンバーズの完成だ」 ウェンディ「ドクター、それ絶対戦闘機人と違うっすから」 ノーヴェ「てか、こんな妹嫌です」 【スカリエッティ 改造パンドン作成確認】 ○変身ポーズ エイミィ「ミライ君の変身するところって、何か結構カッコイイよね」 アルフ「うん、こう見事に決まってるけど……変身ポーズの練習をしてるとか? 」 ミライ「まあ……一応、タロウ教官にちょっとだけね。 それに、他の兄さん達だって……」 なのは「へぇ~……他のウルトラマンさん達がどんな変身するか、ちょっとみてみたいかも」 ミライ「うん、皆カッコイ……」 スカイドン戦 ハヤタ「……?」(ベータカプセルと間違えて、カレーライスのスプーンを掲げる) モットクレロン戦 光太郎「タロウー!!」(大根片手に変身) ミライ「……」 なのは「……ミライさん?」 ○変身ポーズ その2 ヴィータ「そういえばアスカって、変身する時に掛け声とかないよな。 ただ、リーフラッシャーを掲げるだけで……何っつうか、迫力にかけるって言うか……」 アスカ「掛け声かぁ……時々、ダイナーって叫びながら変身したりはしてたんだけどね。 よし……いい機会だし、何か考えるか」 ~数日後~ シグナム「アスカ、敵だ!! ダイナに変身してくれ!!」 アスカ「よっしゃあ!! 新しく考えた、変身の奴を試すチャンスだ!!」(リーフラッシャーを掲げる) ザフィーラ「ふむ……どんなの考えたんだ?」 アスカ「ヘキサゴン!!」(変身) 全員「「それは色んな意味でアウトだ、つるのぉ!!」」 ○特訓のお約束 ~14話のヴィータの特訓が、レオのアレだったら~ ゲン「その顔は何だ!!その目は何だ!!その涙は何だ!!」 ヴィータ「んなもんで追いかけられたら、誰だって泣くわぁぁぁぁぁ!!」 ダン(……ゲン、お前にとっての特訓はやっぱりそれなのか) 【ゲン 轢き殺さない程度のスピードで、ヴィータをジープで追い回す】 ○管理局の白い悪魔 ミライ「管理局の白い悪魔?」 フェイト「ええ、まあ……一部じゃ、なのははそう呼ばれちゃってて……」 クロノ「誰かが冗談で言ったことが、そのまま広まってしまったんだよな」 ミライ「白い悪魔……」 なのは『仏様を大切にしろ!! 大切にしない奴は、死ぬべきなんだ!!』 ミライ「ま、まさかなのはちゃんの正体って……!!」 ユーノ「いや、そっちの悪魔じゃないですから!?」 ○最初に見た時、茶を噴いた(作者談) ~11話、バードン戦終了後~ リンディ「じゃあこれからは、ウルトラ兄弟の皆さんも協力してくれるんですね?」 ミライ「はい、確かにそう言ってくれました」 アルフ「いやぁ~、頼りになる味方が増えて助かるよ」 なのは「きっと今も、怪獣や超獣と、一生懸命戦ってるんですよね……」 ミライ「うん。 この世界の為に、きっと今も兄さん達は……!!」 その頃、噂されてるウルトラ兄弟の一人はと言うと。 セブン「あ、舘さん。 それロンです」 欽ちゃん「お前、喋れんの!?」 セブン「メンタンピン、ドラ3。 12000です」 元気に、ジョージアのCMで麻雀やってました。 セブン「ちなみに今は、登山にも挑戦中だ」 ゾフィー「それより地球を守れや、オイ」 目次へ
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本日の献立は! …肉じゃが! おひたし! ぬか漬け! 味噌汁の具は、油揚げとほうれん草なり。 配膳確認、各自、箸の置き忘れはないか? ヴィータよ、速やかに席につけ。 飯が冷めるなり! シグナム、シャマル、リィン、はやて、覚悟…着席完了。 ザフィーラに猫まんまの用意あり。 全員…そろった、準備よし。 いざ! 「いただきます」 強化外骨格は飯を食えぬが、家族は皆で食事を摂るが八神家の掟なり。 今宵もただ、食卓に席並べて鎮座す。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第四話『葉隠禁止(前編)』 あの日、いきなりはやてが知らない男を連れて帰ってきた。 シャマルがそいつの名を知っていた…葉隠覚悟。 クソ重てえユニゾンデバイス、零(ぜろ)のマスター。 大ケガしてるくせに空港火災で人助けに走り回ってた、 死んでない方がおかしいケガで走り回ってたやつだ。 それだけでも胸クソ悪い…のに、一緒に話してるはやてが楽しそうにしてるのを見て、決定的にムカついた。 最初は数日世話になるだけ、とか言ってたけど、何考えてんだか全然わかんねーし。 わざとお茶、頭にこぼしてみても、なんにも言わねーで拭きやがるし。 怒るとかなんとかしろよ! バカにしてんのかよ! あの目つきがムカつく。 なんか色々見透かされてるみてーでムカつく。 もっとムカついたのは、こんな風にキレてたのがこのあたし、ヴィータ一人だけだったってことだ。 シャマルがいきなり言い出しやがったんだ。 「いっそ、ここにずっといれば? 覚悟君」 入院中はずっと身の回りの世話してたんだっけか、情が移りすぎだってんだよ。 「はやてちゃんは簡単に言うけどね、首都圏だと住む場所も高いのよ」 おめーこそ簡単に言ってんじゃねえよ、男だぞこいつ。 「はやての力になる気があるなら、ここに居る方がよほど実際的だ」 なのにシグナムまでこれモンだったから、あたし一人で認めねー認めねーって言ってたら、 「本日まで、まことお世話になりました」 荷物まとめて敬礼してよ、さっさと出て行きやがったんだよ、あいつ! 完ッ璧あたしが悪モンじゃねーか、ざけんな! その後、はやてに本気で怒られた。 「覚悟君、独りぼっちなんよ。 独りぼっちの子をほっぽり出すなんて最低や」 全員で探しに出て、なのはとフェイトにも手伝わせて、 明け方、あいつが高級住宅街の川べりで座り込んでたのを見つけたのは、よりにもよってあたし自身だった。 帰ってこいなんて言いたくなかった。 あたしは心を許していない…だから。 「メシ、できてんぞ、来いよ…いいから!」 それで突っ張り通して連れ戻したのが、早くも半年前の出来事だ。 今じゃずいぶん慣れたもんだよ、我ながら。 はやての言う通り、あいつが管理局の仕事を手伝うこともあった。 戦力としては、くやしいけど認める。 うちに来て早々、なのはとの対戦結果を聞いてたシグナムが心待ちにしてたみてぇに模擬戦を申し込んだんだけど、 正午に始めてから日が落ちるまで、ずーっとにらみ合ったまま動かねえのな。 で、最終的には、 「積極!」 「紫電!」 同時にしかけて相打ち。 剣と拳が紙一枚の隙間で止まってた。 「葉隠覚悟は袈裟懸けに深き一太刀浴び、即死いたしました!」 「烈火の将シグナム、貴様に首を砕かれて二度と立てん!」 「零(ぜろ)の意志、果たせぬまま終わりました」 「主はやてを置き去りに散ってしまったか」 「不甲斐なき也(や)!」 「私もだ!」 なに、固い握手してんだよ。 戦い通じて友情はぐくんでやんの。 これだからバトルマニアはイヤだよ。 それからはもう、ヒマを見つけては試合(しあ)ってて、たまにあたしも巻き込まれたから、 弱いわけねーってのはよーくわかった。 ラケーテンハンマーを『因果』された時は最低の気分だった。 回転始めて力を溜めた瞬間に「隙あり 因果」とか、やってらんねーよマジで。 空気読めってんだよ。 おかげで、より遠くから打ちかかれるように技自体を改良するしかなかった。 そんくらいには、強い。 だから、ガジェットドローンを素手でズッコンバッコンぶっ壊されても、別に驚かなかったな。 零(ぜろ)は仮封印処置を取られてて許可がないと使えねぇって話で、 シグナムと立ち会ったときにも実際装備しなかったけど、ぶっちゃけあいつ武器いらねーって。 ま、そんなこんなのそんなこんな。 全員一緒の休日がとれたあたし達は、遊園地に行くことになった。 クラナガン・サン・ガーデン。 最近できた遊園地だとか。 んなことはどうでもいいんだ、楽しけりゃな。 だけどよ…こいつ、完ッ璧、ダメだ。 マッハがつくポンチ野郎だ。 はやてにムリヤリ組まされて、その辺はっきしわかった。 ガンシューやったんだよ、ガンシューティングな。 『スーパー・リアル・アサルト3』。 最近ゲーセンに入ったばかりの新作が、大迫力の立体映像で遊べる。 遊園地だと後がつかえるから、二人プレイでライフ共有になってるけどな。 うん、まあ、銃自体はうまかったんだよ。 ほとんど百発百中であきれたしな。 だけど弾は切れるようにできてるのがゲームってもんで、 「弾、切れるだろ、あれ撃てよ」 向こう側に出てきたカートリッジを指さしたんだけどよ… 「なにやってんだよ、撃てってば」 「火薬の塊たる弾倉に銃弾叩き込むなど、正気か、ヴィータ!」 「いやこれ、ゲームだから! ゲームだから! そういうモンなんだってば、そういうルールなんだってばよ」 「しかし…これはリアル、すなわち現実的であると銘打たれていたからして、そのような…」 「だーっ、アホヤローッ」 銃をぶん取ってあたしが撃ったら、弾が満タンになって、 あいつは釈然としない顔でゲームを続けてた。 あたしもぶちぶち言いながら結構先まで行けたんだけどよ、それで終わりじゃなかったんだよなあ。 ガンシューだとよ、ヘルプミーとか言って出てくる民間人いるじゃん。 撃つとワンミスになる邪魔なやつ。 ボスの直前に大量配置されてたんだよな、今作。 それを、あいつな…反射的に撃っちまったのな。 アーオゥ! とかいう悲鳴と一緒にワンミス。 「…今のは!」 「民間人だな、撃つとワンミス」 「なんだと…」 「あいつの盾になるよーに配置されてんじゃねーかな」 「外道許さじ! 正しき因果極めてやる」 んで、銃をピッタリ構えたかと思ったら、奥にいた敵キャラにしこたまぶち込みやがった。 一発撃てば死ぬのによー、こいつはもー。 「あらがえぬ人々の痛み、覚えたか」 「ノリノリだよな、おめー…あ、でも一発残したのな」 弾の補充のために残したか、やっと飲み込めてきたみてぇだな。 ここからはフツーにやれそうだ、そう思ってたのによぉ。 「…何やってんだ? それ、何のマネだ?」 「自害なり」 大真面目に銃口をてめえの頭に向けているこいつに、そろそろ泣きたくなってきたあたしは正常だよな? 「誤射にて罪なき人の生命を絶ったとあらば、我が生命、捧ぐ以外に償う途(みち)なし」 「だから、これゲームだから! それより、ボスが来っぞ」 「首魁(ボス)!」 また眼鏡をギラリと光らせやがった、こいつ。 嫌な予感がするんだけどよ、とりあえず言うだけのことは言って… 「弾一発じゃどうしようもねーから、おめーはすっ込んで」 「問題なし」 「はぁ?」 「胸すわって進むなり。 正義に敗走は無い!」 もう、何言っていいんだか全然わかんねえ。 その後すぐ、ライフ共有のせいで、あたしもろともゲームオーバーになった。 「あっはっはっはっは!! ふわはははははははっ!!」 何が悪かったのであろうか。 てめえはリアルで死ねと言われて蹴飛ばされたゆえ、 昼食がてらはやてに一部始終を伝え是非を問うてみたのだが。 …なにゆえ、皆は笑うのか? シャマルに、リィン、シグナムまで。 「あー、もうダメ、お腹痛くなっちゃって、もう…あはは、ははははっ」 「お腹が痛い?」 「言っておくが違うぞ覚悟、ぷっ、くくくくくっ」 食事に悪いものでも入っていたのかと立ち上がりかけたのを シグナムの両手に軽く制された。 「いや、すまん、おまえを笑い物にする気はない。 むしろその馬鹿正直さは好ましい」 「なにが悪かったかって、本気で聞いてるんだもんね、ふふっ」 「リィンはそんな覚悟くんが大好きなのですよー」 「わたしもや。 もー、ほんと、覚悟君らしーわぁ」 笑い物にされているなど、最初から思っておらぬなり。 皆の微笑みが、これほどに暖かければ。 ザフィーラに目をやると、尻尾をひとつ振って寝転んで居た。 その脇にかがみ、なにやら下を向いていたヴィータが立ち上がり、こちらに向けるは鋭き視線。 「どいつもこいつも…あたしの身に、なれッ!」 ずかずかと歩み来て、わが傍らに置かれたトランクをばんと叩く…何をする。 「零(ぜろ)よぉー、おまえ、こいつにどういう教育してんだよ、こらぁっ」 『我らはただの強化外骨格なれば、常識一般を教えることはできぬ』 零(ぜろ)はすでに心を許していた。 はやてに近しい人全てに。 やはり、はやて主導による徹底した人間扱いが効いているのかも知れぬな、と思う。 零(ぜろ)も一度は止めたらしいが、郷に入りては郷に従えと逆に諭されてしまったという。 ヴィータがこうしてからむのも、今日では日常茶飯事なり。 「にしてもよぉー、もうちょっとよー」 『生まれた世界が違うのだ! やむをえぬ部分は許してくれぬか』 「あんまり、零(ぜろ)を困らせたらあかんよ、ヴィータ」 荒れる様を見かねてか、はやてがたしなめにかかるも、 ヴィータはますますへそを曲げている様子。 やはりおれに落ち度ありか。 「あたしが困らされてんだよ、こいつに! とにかく、もうあたしはイヤだからな、こいつとは行かねー」 「よくわからぬが、申し訳ない」 「謝ってんじゃねーよ、もっとムカつくんだよ」 ではどうしろというのだ。 半年も共に生活しているが、このヴィータのことは未だわからぬ。 彼女らは皆、かつては闇に囚われた戦鬼(いくさおに)であったとは シグナム、シャマル自身の口よりすでに聞いており、その強さにも首肯せざるを得ぬが、 日常のヴィータがただの少女に過ぎぬことに変わりなし。 おれの何が彼女の機嫌をそこねるのか… 「ほなら、しゃーないわぁ」 はやてが席を立ち、おれのとなりに来た。 彼女もまた、たまにわからぬことをするので困るが… 「覚悟君、一緒に行こか。 お化け屋敷」 「お化け屋敷?」 「ヴィータが行きたないみたいやし…怖いんやね」 「彼女ほどのものが恐れる場所とは!」 奇っ怪至極! 遊園地、まっことわからぬ場所(ところ)なり。 先の射撃訓練施設といい…ここは民間人の遊戯場ではないのか? 「わたしは覚悟君と一緒なら怖ないねん」 「了解、謹(つつし)んで護衛させていただく」 …なぜ笑う、シャマル、シグナム。 これは試されていると見るべきか。 よかろう、ならば応えよう。 お化け屋敷がいかなるものであろうとも、はやてに指一本触れさせぬなり! 「征くぞ!」 「うん。 みんな、零(ぜろ)のこと見ててなー」 「待て、っつの」 突如、足を踏みならしたヴィータに振り返ると、 またずかずかとした足運びにて我らの征く道阻みたり。 「止めるな、ヴィータ」 「あたしも行くってんだよ」 「怖くはないか」 「ざけんな」 「良し!」 やはり彼女も戦士であった! ならば共にいざ征かん。 目標、お化け屋敷! 「あ、リィンも行くです、行きたいですーっ」 ―――これが、わが腑抜けぶり思い知る、実に五分前であった。 「覚悟くんたら、もう、ねえ?」 「まったく、少しは洒落のわかる男になれと言いたいが…どうした、零(ぜろ)?」 『侵略行為が行われている!』 「…なに?」 『半径50m以内、室内なり』 「なん、だと」 『追うのだ、覚悟を! はやてを!』 「言うに及ばず!」 「くるしい、ひぐっ、たすけて、息が…」 「撮るよーっ! 次は脱いでスマイル!」 「い、いやだあっ」 「お肉も脱いでスマイル!」 「ぎゃっ、ぐぶげっ!」 「バッチリ撮れたよー、お代は結構! だってボクの写真は芸術だから!」 「ひ、人喰った…お化け屋敷に、ホントにオバケ…おまえ、なに? ナニモノ?」 「ボクは戦術鬼(せんじゅつおに)、激写(うつる)! さあスマイルスマイル、撮るよーっ!」 「助け、うげぇっ」 前へ 目次へ 次へ
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――――――パァァァァァァァァァン!!! 耳に届いたのは風船が破裂した様な凄い音――― 痛みも、声を出すことさえ出来ない――― 悲鳴っていうのは苦痛を感じた時に出すもので そんなものを感じるヒマはなかったし―― 苦痛っていうのは体が脳に送るシグナルのようなもので そんなものを送る暇もなかったから―― 「こ、ふ………」 やられた…………… 唇の端から血の糸が零れ落ちる。 BJの耐久値を超えた決定的なダメージ。 これ、まずい…… ダメ……あの時と同じ… 忌まわしい墜落の記憶が蘇る。 でも体の自由がほとんど効かなくて…… 危機感すら薄れ往く意識と共に彼方へと消えていき――― 私は………負けた。 ―――――― 既に強襲される事3回。 今度は絶対に負けまいと思って戦ったけれど…… 強い……圧倒的だった。 武装隊に入って十年。 どんな敵が来たって互角以上に戦える――― それだけの事をしてきたつもりだったんだけど……… 自惚れていたのかな? ちょっと悔しいよ、レイジングハート…… 白濁とする意識の隅で彼女、青子さんの相貌だけが視界に残り――― 閉じかけた意識の中、私はなつかしい記憶―― ガムシャラに高く飛ぼうとしていた頃の自分の夢を見ていた。 ―――――――― ファーンコラードを初めとした戦技教導隊の魔導士たちに囲まれて 高町なのははウソみたいに、いっぱいいっぱい負けた。 負けて叩きのめされて、自分の未熟を知り―――「戦技」の深さに感動して一心不乱に教導を受けた。 教導の日々は本当にキツかったけれど強くなるのは楽しかった。 自分が強くなる事で、より人の役に立てると思うと嬉しくて仕方がなかった。 そんな環境の下、高町なのはの素質が、才能が そしてそれに溺れぬ妥協しない精神が天井知らずに――自身を高みへと押し上げていく。 故に―――歯車が狂い出したのはいつからだろう? 人は彼女の素質―――潜在的な高魔力を羨んで止まないが 強すぎる力は時に自らを傷つけてしまう。 常に迷わず全力全開の魔力行使をしてきた幼少の高町なのは。 その小さな身体に不釣合いな魔力を惜しげもなく行使してきた。 故に少しずつ確実に、破滅は突然に―――力はなのはに牙を剥く。 無敵のエースと言われた彼女のまさかの墜落。 運良く一命を取り留めた彼女が最初に見た光景。 それは自分の軽率な行動のせいで、悲しみ、焦燥し、むせび泣く友達の――家族の姿だった。 自分は大丈夫……いつだって何とかしてきたから――― そんなヒロイックな気分で皆に迷惑をかけ、悲しい思いをさせてしまった。 それが情けなくて、申し訳なくて………彼女はベッドの中で一人で、泣いた。 その後、現場に復帰した高町なのはの魔導士のしての生き方は 教導で日々進歩していく技術と痛んでいく体との鬩ぎあいだった。 ソフトにハードが付いていかないもどかしさ――― それを抑え付け、常に安全なマージンを残すよう心掛けた。 後先考えない蛮勇が許されるのは守ってくれる大人がいるから。 未熟だった自分がクロノやリンディ提督にどれ程守られていたのか―― それが分かってくるにつれ、子供の頃の自分がどれほどに未熟で拙かったかが理解出来る。 そんな思いから 時が経ち――― 教導官として教え子を、そして隊長として部隊を預かるようになった高町なのは。 その頃には彼女はもう勢いに任せたガムシャラな行動をほとんどしなくなった。 そのような隊長に部下を預かる資格は無い。 皆が彼女を、子供の頃の危なっかしさは消え、冷静沈着なエースになったと褒め称える。 彼女自身、それで良いんだと思っている。 ――― 人は変わっていかなきゃいけない ――― いつまでも子供のままではいられない。 今やなのはの力と体の天秤はその限界を超え 全力行使をすれば、自身のカラダをも削り取るほどになっていた。 リミットを越える度に動かなくなる体。 ベッドに横たわる弱い自分の肉体をもどかしく感じる事はある。 でも、それはしょうがない事――― こんな弱々しい体でも出来る事はあるのだ。 たくさんの人を救って、育てて……… 意識したくもない自身の「天井」の存在を切に感じながら 自分の限界というものに、その深層心理が意識せざるを得なくなっていた頃から なのはは教導官として自分が培ってきたもの―― 自分が飛んできた証のようなものを残したいという夢を、殊更強く抱くようになる。 6課で出会った教え子達に自分の技を一つ一つ伝授したのも そうした無意識下での想いがあったのかも知れない。 なのははここ数年、ある意味、本当の全力全開で戦った事がない。 全力を出してもそれは確実にフォローが入る状況――― 頼りになる仲間や戦略の上の勝算に裏打ちされた行動だ。 完全無欠のエース―――今や「不沈」と言われるその在り様。 だがそれは、がむしゃらだった頃の自己との決別によって得た 堅実な計算と確実な数値に裏打ちされた予定調和のようなものだったのである。 ―――――― そんな今の自分が、咄嗟にブラスターまで使って――この戦いに何を求めていたんだろう? 真っ向から全てを受け止められて、スターライトブレイカーすら破られての完璧な負け。 ここまでの力の差を感じたのはあの時以来…… 私とフェイトちゃんが二人でかかって手も足も出なかった人―― ファーンコラード校長。そして教導隊の怪物じみた先輩達。 ……………………… ……………………… ああ―――――――そうか…… そういえば、そう――― 似てるんだ………彼女は。 魔法使い蒼崎青子さん。 とても強くて、凄くて、飄々としていて 全てをぶつけても弾き返されそうな雰囲気を持った人。 一つの到達点にいる人間、特有の気配――― 参ったな……… そんな相手の空気に当てられて私は 今日、柄にもなくムキになっていたのかも知れない。 オーバードライブは諸刃の剣。 下手に使えば自らの魔導士としての人生を縮めてしまう。 だから使用するのは理由がある時だけ。 負けられない理由が存在している時でなければいけない。 ――――この戦いは多分、そんなんじゃない……… 恐らく何の因果もなければ、何かを守るために命をかける場面でもない。 確かにいきなり襲われたという事を鑑みて……管理局の魔導士である以上 毅然とした対処をしなきゃいけない場面だった。 けれど相手が自分を上回ってると感じた時点で逃げようと思えば逃げられた筈。 敵から殺気は感じなかった。 だから回避しようと思えば出来る闘いだった筈。 なのに、気がつけば踏み込んでいた――― 無意識に、踏み込んでいた――― 不意に放り込まれた戦場。 サーヴァントという巨大な壁をその目で見せつけられて―― 自分の力に不安を感じ始めていた時に出会った彼女。 底知れない雰囲気を持ったこの人に、かつて雲の上の存在だった教導隊の先輩の姿を重ねていたんだ。 そしてただひたすらに自分の全力をぶつけて向かっていった事を思い出していたんだ。 ――― 人は変わらなきゃいけない ――― そんな、今となってはあまりに妄執じみた思い。 ――― 大人になっても忘れない ――― 駄目だなぁ………私は。 無茶はもうしない。 そう決心して、心の中にしまい込んでなお―――その相反する思いを消す事が出来ない。 エースでも隊長でも教導官でもなく、一人の空の人間としての私の自我(エゴ) もっともっと高く、強く、飛びたいという―― 空が大好きだから、空では誰にも負けたくないという想い。 もしかしたら今―――それが足りないのか、とすら思う。 それが足りないから 知らずのうちにセーブするのが当然になってしまっているから だから、勝てないのかなって思っちゃってる。 ――― だったら……………昔みたいにやってみようかな…… ――― がむしゃらに、ただがむしゃらに、壁にぶち当たるように。 まだ全てを出しきっていない。 幼少時代、意識を無くすまで体を苛め抜いたあの頃に比べれば、全然……余力が残っている。 ちゃんと意識だってある。 「――――ク、シ……ド…」 レイジングハート――― この相棒にもこれ以上の敗北を味あわせたくない。 だからもう少し、あと少しだけ、力を貸して…… 掠れた声しか出せなくて、だから精一杯念じた。 all right exseed mode set up そんな私の声を―――いつだって、しっかりと受け止めてくれる。 ほぼ力を失った私の目に光が戻る。 最後のセーフティゾーン――己の心に誓った、最後のリミッター。 子供の頃に封印した「絶対に無茶をしない」という誓いを…… 今、私は外す。 ―――――― 「……………………?」 頬に風を感じ―――髪が鼻腔をくすぐっていた。 体は中空にあって―――地面を遥か頭上に感じていた。 重力に任せるままに堕ちていく……… この感覚は――― 「リ………」 即ち、墜落っ! 「リカバーッッッ!」 寝起きの九官鳥のような素っ頓狂な声でデバイスに指示を出す。 声が裏返ってしまって恥ずかしい…… All right それを受けてデバイスが急遽、私の頭上に力場を形成し、姿勢制御の取っ掛かりを作る。 それを両手で受けてくるん、と上体を返し―――私は意識を自身の肉体へと戻す。 「やばい……気絶してた」 それは実際には2、3秒ほどの意識の混濁。 凄まじい衝撃を全身に受けた事で生じたブラックアウトだったんだろう。 全身が凄く痛い…… 保険としてBJに魔力を裂いてなければ、終わってた。 そのBJも無残に裂けて、飛び散って、もう普通の衣服程度の―― 腰と胸を隠すくらいの用途しか果たしていない。 「でも……何とか残ったよ。」 そう―――だけど、私はまだ負けていない。 覚醒していく意識が再び戦場に自身の身の置き場を認識させ あの強い魔法使いがこちらを見据えているのを確認する。 思いを受け取ってくれた私のパートナーの両端から 勢いよく―――その翼が展開される。 「ごめん………いける? レイジングハート」 Yes Of course もう余力は無いけれど――― 本気で行くよ……蒼崎青子さん。 当たって砕けろなんて本当はいけない思考だけど…… 私も今回は壁を越えなくちゃいけないから――― だから、受けてみて! これが私の……本当に最後の攻撃ッ! エクシードへと変化したデバイスが残った魔力の全てを変換し――― 一条の槍を構えて私は立つ。 超えなければいけない者―― 踏み出さなければいけない時―― それを心に抱きながら―― 私は次で決まるであろう攻防にその身を委ねのだった。