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<ジュエルシード>―――! 我々は、この宝石を知っている! いや! この禍々しい輝きと忌まわしい魔力の淀みを知っている! この奇妙な物語の始まりを司り、中核を担う遺失物。 『願いが叶う』宝石。 その正体は、次元干渉型エネルギー結晶体である! 全部で21個あり、シリアルナンバーが各個に1~21と振られている(この数字は、実際にはローマ数字が使われている)。 能力的には、ナンバーに関係なく、全てほぼ同等だと思われる。 ジュエルシードは、遺跡探索を生業とするスクライア族によって発掘された。 この発掘作業の指揮をとっていたのがユーノ=スクライアで、発掘後の輸送中に原因不明の事故により、海鳴市近辺にばら撒かれてしまったのだ! 輸送時の管理に直接ユーノは関係していなかったが、それでも責任を感じたユーノは、独力でジュエルシードを回収しようとしたが、暴走したジュエルシードは手に負えず、傷を負って倒れたところでなのはと出会うことになる―――。 それが、『高町なのは』とその相棒『レイジングハート』が紡ぐ、長い戦いの歴史の……全ての始まりだった。 「アイツを……ジュエルシードを解き放ってはいけない!」 深夜。不吉で生暖かい風が吹きすさぶ中、なのはと、その傍に立つフェレットの姿をしたユーノは、眼前に聳え立つ巨大な影と対峙していた。 「アナタには素質があります! 『魔法』のパワーを行使する為の才能が! ボクに力を貸してください!!」 「……」 自らの無力を噛み締めながら、ユーノは出会ったばかりの少女の背中を見上げていた。 なのはの手には、つい先ほど渡したデバイス『レイジングハート』が待機モードで収まっている。未だなのはと契約も済ませていないこの状態で、デバイスの能力はほとんど発揮できないだろう。 しかし、奇妙な事になのはは怯えてはいなかった。 武器もなく、目の前には陽炎のように揺らめく黒く大きな影の化け物が蠢いている。そんな異常な状況下に立たされながら、しかしこの少女は、怯えて震える事もなく佇んでいるのだ! (なんだろう……この娘には、魔力の素質以外にも、言葉では言い表せない『凄み』がある!) ユーノは奇妙な感覚に捉われていた。 警戒すべきは、目の前で暴走するジュエルシードであるのに、意識はソイツと臆す事無く対峙するこの不思議な少女に吸い寄せられてしまう。 一般人を事態に巻き込んだ迂闊さを呪いながらも、『この少女なら何かを仕出かしてくれる』という、そんな妙な期待感があった。 「……ねえ」 「! ……な、何ですか?」 怪物と真っ向から睨み合っていたなのはから唐突に声を掛けられ、ユーノは思わず身構えた。 「この子、目とか口みたいなのがあるけれど、生き物なのかなァ……? ご飯とか食べるの?」 「え……ええ!?」 あまりに唐突で予想だにしなかったなのはの言葉に、思わず一瞬呆けてしまう。 「ねえ、アナタ……口があるんだから言葉は喋れないかなー? ハロォ~~」 この状況下で一体何を言ってるのか……? 混乱するユーノを尻目に、なのはは動物園で初めて見た動物と接するような態度で無防備に歩み寄っていた。 この状況下で一体何をやっているのか……? ついに少女の正気を疑い始めたユーノの錯乱振りをやはり気付かず、なのはは明るい身振り手振りのジェスチャーで蠢く影の化け物とコンタクトを取ろうとしていた。 「ご機嫌いかが~~~? ハッピー、うれピー、よろピくね―――♪」 「あ、あのぉ……?」 「ジュエルシードさん。さあ、ごいっしょに……さん、し―――ハッピー、うれピー、よろピくねー♪」 ……この少女は、ひょっとしてちょっぴりネジの緩い子なのではないだろうか? この緊迫した状況下で、全く事態を把握できていないとしか思えない程気楽な声でリズムを取るなのはの姿に、ユーノは別の意味で戦慄した。 ジュエルシードの暴走体がなのはの行動に律儀にも沈黙する中、ユーノはしばらくてようやく我に返った。 「―――って、君! 一体何してるの!?」 「いやぁ~、ひょっとしたらこの子いい子なのかもしれないと思って。ちょっと探りを入れてみてるの。 雪男やネッシーとかにも、出会った時悪い者と最初から考えるのは良くないと思うの、わたし」 「何をバカな! アレに考える能力なんてない、ただ暴れるだけの危険なモノなんですよ!」 「うーん、でも何事も最初はお話する事で歩み寄れると思うんだ。大切だよ、お話って」 「無理だよ! アレには会話するだけの思考力も―――来るッ!?」 なのはの独特のペースに巻き込まれそうになっていたユーノだったが、とうとう動き出した暴走体に感付き、警告を叫んだ。 黒い塊が空高くジャンプし、全身を使ってなのはを押しつぶそうと落下してくる。 これには結構呑気してたなのはもビビった! 「うわぁああああーーー!?」 慌ててその場から飛び退れば、一瞬遅れて黒い巨体が岩石のようにアスファルトへ激突する。地面と共に自らの体も弾け、暴走体の欠片が炸裂弾のように周囲に飛び散った。 ブロック塀は無数の弾痕を刻み、電柱はへし折れて倒れる。 「何、アイツすごく危険なヤツだよ!?」 「だからそう言ってるんです! さあ、早くレイジングハートの力を解放して! まず呪文を……」 一国の猶予も無い事を理解したユーノはなのはを急かす、が、しかし! 「……」 その時、なのはが意識を向けていたものはユーノの言葉などではなかった。 「……『アレ』……『アレ』はッ!」 「君、一体何を見て……!?」 なのはを叱責しながらも、視線を同じ方向に走らせてユーノはようやく彼女の注目する物を発見した。 それは、ついさっきまで『生物』だった『物』だった―――。 猫が一匹、死んでいた。 弾けた暴走体の破片を受け、首を抉るように吹き飛ばされたその仔猫は、どう見ても確実に死んでいた。 首輪も吹き飛んでしまったのか確認できない。あるいは、あれは野良猫だったのかもしれない。 しかし、重要なのは―――今ひとつの犠牲が出てしまったという現実だった。 「……急ぎましょう。これ以上犠牲を増やさない為に」 惨い死に様から思わず眼を逸らし、ユーノは苦い口調でなのはを促した。 猫とはいえ、この犠牲は自分のせいで起こったものだと言えた。 体を四散させた暴走体は、すでに再び集まり、形を取り戻しつつある。再び攻撃が可能な状態になれば、封印は更に難しくなるのだ。 ―――だが、ユーノが促すまでも無くッ。すでにッ! 「……戦いたくなったよ。アイツを博物館にかざってやる!」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 高町なのはは戦闘態勢に入っていたッ!! 先ほどの間の抜けた行動から一切を切り替えた『覚悟』に満ちた表情。 内に煮え滾る『怒り』を宿したなのはの横顔を見て、ユーノは全身に鳥肌が立つのを感じた。 今のなのははさっきとは違う。何らかのスイッチが入ってしまっている。 「この世で最も大切な事が『信頼』であるのなら、最も忌むべき事は『侮辱』する事なの。アイツは、あの無関係な猫の命を、たった今『侮辱』したッ! 『レイジング・ハート』!!」 『stand by redy.set up―――!』 「バ、バカな……! 正式な手順を踏んでもいないのに、レイジングハートが起動した!? それに……なんて魔力なんだ……っ」 なのはの手の中で赤い宝玉が光を放ち、ユーノはその有り得ない光に驚愕する。 レイジングハートがなのはの戦いの意思に呼応したものか、彼女の怒りの精神の波長がデバイスの何かに影響したのか……とにかく、デバイスはなのはを主と認めたのだ。 同時に告げる無機質な声。なのはは純白の光に包まれた。 その光の中でなのはの服は徐々に光と同化し、やがて光の粒子となって消え去る。 それとほぼ同時に別の何かが身体を覆い、新たな服を形作る。 デザインは装着者のイメージを基に―――完成する。なのはだけの『鎧』が! 「これは……?」 光がおさまった後には、その身をバリアジャケットに包んだなのはと、本来の杖の形状に変化したレイジングハートが佇んでいた。 「それが『魔法』です! どういうワケか、今アナタはレイジングハートの使い手として認められました。それによって、アナタを守る力が、その衣服になったんです」 「『魔法』……そう、わたしは『魔法少女』になったんだね」 さすがのなのはも驚きを隠せなかった。 漠然としていた未来の目標が、今唐突に自分の手に飛び込んできたのだ。 しかし、すぐに我に返った。 なのはの魔力の放出と光に、暴走体が反応し、ついに彼女に明確な意識を向けたのだ。虚ろな二つの眼球が、なのはとユーノを捉える。 「いけない、目を付けられた! とりあえず、何処かに隠れましょう。基本的な魔法の使い方も分からない今じゃ、真正面からアレに立ち向かうのは危険すぎる。まず様子を見て……」 「―――ううん、そんな事はしない! これが『いい』の!」 睨みつける敵を警戒しながら忠告するユーノに対して、しかしッ、なのはは逆にレイジングハートを構えた。 『え?』と呆気に取られるユーノを尻目に、視線を敵に向けたまま、先ほどの僅かな戸惑いを既に無くした凛々しい横顔でなのはが答える。 「この『敵に見つかった』状況。隠れるなんてとんでもない! これがいいの! アイツがわたしに意識を集中してくれる、この状況が『いい』んじゃないッ!」 「な、何を言っているんですか!? このままだとアイツはアナタだけを執拗に狙って……ハッ!!」 笑みさえ浮かべそうななのはの横顔を見て、焦ったユーノは引き攣った声で言いかけ―――その途中でなのはの意図に気付いた。 今度こそ、なのはは笑みを浮かべる。少女らしい無垢なそれではなく、牙を持った獣が歯を剥くような、闘争心に満ち溢れた微笑を。 「そう、それが『いい』―――アイツがわたしを狙う限り、これ以上無関係の犠牲が増える事は少なくなるからなの」 「……~~~ッ!」 ユーノ全身を冷たい感触が走り抜ける。それは戦慄だった。目の前の少女の、己の命を賭す程の『決意』に対する畏怖だった! 無謀と言えば、それまでかもしれない。 だが、そんな言葉で言い表せない『凄み』をなのはが持っている事を、ユーノは理解した。 いや、自分に彼女の決断をどうこう言う資格など無い。 自分が、自らの失敗に対する後悔や罪悪感でジュエルシードの封印に躍起になっていた時、彼女はすでに自らの意思で戦い守る事を『決意』し、『覚悟』していたのだ。確かな勝利へのビジョンを持って! ユーノはなのはという少女に圧倒され、愕然とした。 何も知らない少女を戦いに巻き込んだ、と気に病んでいながら、その実何も分かっていなかったのは自分ではないか!? 「アナタは……ッ、覚悟の上だというんですか……? 何故、そこまでして……」 「……この高町なのはには、正しいと信じる夢がある!」 なのはの発した曇りの無い言葉に、レイジングハートの輝きが応える。 その輝きは、ユーノにはまさに『黄金の輝き』に見えた。彼女の精神が放つ光と同じように! ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「『ジュエルシードは封印する』『この町も守る』 『両方』やらなくっちゃあいけないっていうのが、『魔法少女』のつらいところだね」 (か……彼女は、やっぱり違うッ! ただの女の子じゃない。 この娘……アイツを『倒す』気だ! ちょっと前までただの小学生だったのに、突然現れた得体の知れない怪物を倒そうとしている! 本気だ! 彼女には、『やる』と言ったら『やる』…………) そして、不気味に蠢くジュエルシードの暴走体に対して、なのはは自ら駆け出した。 (『スゴ味』があるッ!) 「―――『覚悟』はいい? わたしは、出来ている」 バ―――――z______ン! リリカルなのは 第一話、完! to be continued……>(各小ネタへ) <次回予告> CV:田村ゆかり わたし、高町なのは。 極々平凡な小学三年生のハズだったのですが……何の因果か運命か『魔法少女』に任命されてしまいました! 待ち受けるのは、どんな運命? でもどんな『運命』だろうと『覚悟』があれば幸福です。『覚悟』は『絶望』を吹き飛ばすからですッ! (ズギュゥゥ――z___ンッ!) あと、まだ名前も聞いてないこのフェレット君は家で飼っても大丈夫なんでしょうか? 次回、魔法少女リリカルなのは! 第二話『魔法の呪文は燃え尽きるほどヒートなの』 リリカルマジカルがんばります! 前へ 目次へ 次へ
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魔法少女フルメタなのは第三話「新たな生活」 機動六課内 訓練場 ここでは現在、六課フォワードメンバーと、嘱託魔道士二名が魔法戦の訓練を行っていた。 「はい皆そこまで~。次は模擬戦だよ。」 なのはがそう言い、六人は手を止めて集まって来る。 「今日の模擬戦は私とじゃなくて、嘱託の二人対正規メンバーでやってもらうよ。」 「相良さん達とですか?」 「うん。二人の覚えた魔法のチェックも兼ねてね。」 「よろしく頼む。」 「お手柔らかにな~。」宗介、クルツの両名が四人と向き合う。 「相良さん、今日は負けませんよ!」 「自分の意志は言葉でなく行動で示せ、ナカジマ。」 宗介とスバル、 「クルツさん、今日こそは倒させてもらいます。」 「おいおい、もっと気楽に行こうぜティアナちゃ~ん。」 クルツとティアナがそれぞれ言う。 実はこの四人宗介達が嘱託となった時に一度模擬戦をしており、スバルとティアナはその時にボロ負けしたのだ。 あたし達、あれから猛練習したんです。この前の二の舞にはなりません!」 「二度言わせるな。意志は行動で示せ。アーバレスト!」 「よし、俺もいくぜ。M9!」 『『了解、起動します。』』 宗介達が嘱託魔道士となったのは、次の様な経緯がある。 シャマルが運ばれてきた二人の男を検査した時に、体内から大型のリンカーコア反応を検知したのだ。 その報告に興味を持ったのが、六課のちび狸…もとい部隊長のはやてである。 戦力の確保に貪欲な彼女は、「管理局に協力すればより早く元の世界の座標を調べ、当面の生活も保証する」 という条件を持って来て、尚且つ管理局の規則やリミッターからも逃れられる嘱託魔道士という形での協力を求めたのだ。 異世界でのアテなどある筈のない二人は、少し悩んだ後承諾したのである。 「ほな、これは君らに返さんとな。」そう言ってはやては鞄から白と灰色の宝石の様なものを取り出し、二人に渡す。 「これは?」 「インテリジェントデバイスや。君達専用のな。」 「俺達専用?それはどういう…」 『ただ今戻りました軍曹殿。二日振りですね。』 「アルか!?」 聞き慣れた男性の機械音声が響き、宗介は驚く。」 『肯定。姿はだいぶ変わりましたが、私は私のままです。』 アルは以前と変わらぬ抑揚のない声で言う。 「何故アルがデバイスとやらになっているんだ?」 「えーとね…見つけた時はまだロボットだったんだけど…触れたらなんかそうなっちゃったの…」 なのはが言い辛そうに説明する。 「俺のM9もか…」 呟くようにクルツが言う。 「とにかく、うちのデバイスマイスターに見てもろたけど、デバイスとしての使用に問題はないそうや。 その子ら使って、魔道士としての仕事に励んでや。」 だが二人は… (元の世界に戻った時、上に何と報告すれば…) (M9て確か数千万ドルだよな…もし弁償になったら…) 拭い切れない不安に、表情を暗くしていた。 その後紆余曲折あったものの、何とか二人とも試験をパスし、現在に至る。 「アル!」 「M9!」 叫んだ二人の身体が光に包まれ、バリアジャケットが装着される。 宗介のは全体的に白く、肩回りが大きく張り出したデザインで、腰にはショットガンの様な銃型デバイスが付いている。 クルツのは上腕全体を覆う装甲板と、色が灰色な所以外は宗介のと似通っており、手には大きなライフルを持っていた。 「それでは模擬戦、スタート!」 なのはの合図を皮切りに、六人は瞬時に動き始めた。 宗介はショットガンを前方に構え、クルツは転移魔法で狙撃ポイントに移動する。 「うおおお!!」 突っ込んできたスバルに牽制の魔力散弾を撃つが、素早く回避され距離を詰められる。 「センスは良いが攻撃は一直線だな。アル、GRAW‐2!」 『了解。GRAW‐2』 宗介の左脇の兵装ラックが開き、そこから大型のナイフが表れた。 『魔力刃、展開します。』 アルがそう言うと、青みがかった白い魔力が刃の部分に集まり、発光する。 (余談だが、この魔力刃は高速で動いている為、ナイフと言うよりチェーンソーに近い武器となる。) 体を捻ってスバルの一撃を避けた宗は、体を戻す勢いを利用して斬り掛かる。スバルは咄嗟に左の手甲で防ぐが、GRAW‐2の威力に体勢を崩す。 「うわっ!」 宗介はその隙を見逃さず、ショットガンをスバルの腹に押し付けた。 「寝ていろ。」 ズドン!! 言うと同時にトリガーを引き、零距離で散弾を食らったスバルは吹き飛んだ。 「スバルさん!くっそー!!」 ストラーダを構え、ソニックムーヴで迫るエリオ。 だが宗介は顔色一つ変えず、ショットガンをしまいながら命じた。 「アル、ATDだ。」 『了解。ATD』 すると宗介の手の中に投げナイフ型の凝縮魔力が形成され、それをエリオに向けて放った。 エリオは障壁を張るが、ATDはその障壁に刺さり、爆発を起こす。 「うわあっ!!」 エリオが怯んだその一瞬で宗介は背後に回り、エリオを俯せに倒す。 そしてGRAW‐2を首筋に当てて気絶させ一言、 「訓練が足らんな。」 と言った。 その頃後衛組は、 ズガン! 「くっ、このままじゃ…」 クルツの狙撃により、身動きが取れないでいた。 二人は現在、物陰に隠れている状態である。 「キャロ、アイツの位置は?」 「だめです、特定出来ません。見つけてもすぐに場所を移されるんです。」 「ちぃっ…こうなったら!」 「悪ィけど、援護には行かせないぜ。子猫ちゃん達。」 クルツはビルの屋上から屋上へと転移魔法を使い、ポイントを移しながら狙撃を続けていた。 「ホントは女の子をイジメるのって嫌いなんだがな…ん?」 スコープを覗いていたクルツは眼下で起こった出来事に目を見張る。 そこには、ティアナのフェイクシルエットによる多数の幻影が、四方八方に飛び出すという光景があった。 「ワ~オ、美女大増量だぜ。でもね~ティアナちゃん、俺は偽物には興味ないのよ。M9。」 『はい、ウェーバー軍曹殿。』 「“妖精の目”を発動だ。」 『了解。“妖精の目”起動』 スコープの先に緑色の魔力フィルターが表れる。 そのフィルター越しにスコープを覗くと、多数の人型の魔力の中を移動するティアナとキャロの姿がはっきりと映っている。 「見つけたぜ子猫ちゃん。」 言うと同時にクルツは鈍色の魔力弾を発射する。 「キュウッ!」 「フリード!キャッ!?」 魔力弾が連続で命中し、落下するフリードとキャロ。 「嘘でしょ!?この数の幻影の中で本物を見つけるなんて…キャアッ!」 ティアナの頭部と胴体にも命中して、ティアナは倒れ伏した。」 「ハイ終わり、と。やっぱ良い気分はしねぇな…」 金髪碧眼の天才狙撃手は一人呟いた。 「クルツの方も終わったか。これで模擬戦は…」 宗介はそこまで言い、背後の殺気に気付く。 「ディバィィィン、バスタァァー!!」 いつの間にか復活していたスバルが、宗介に向けて魔力スフィアを撃ち出す。 しかし、その瞬間アーバレストの背面装甲が開き、放熱板が出て来る。 そして宗介の目前に迫った魔力スフィアは、発生した不可視の壁に遮られる。 「いっ!!?」 自身の全力の技を止められ、スバルは驚愕に目を見開く。 『ラムダ・ドライバ、正常に展開。』 「ふう…デバイスでの発動は初めてだったが、何とか上手くいったな。」 『肯定。私も作動を確認できて一安心です。』 「…お前がそれを言うか?」 『何しろこんな状態ですので。機能があるのは分かるのですが、発動するかどうかは疑問でした。』 「………」 ここでも漫才する一人と一機。 「相良さん、何なんですかそれ!?」 「アーバレストの特殊機能だ。魔法とはまた別のな。」 事も無げに言う宗介。 「特殊機能ってそんな、ズルイ!!」 「戦場でズルイもくそもあるか。今度こそ寝ていろ。」 ラムダ・ドライバの効果を魔力弾に付加し、発射する宗介。スバルは障壁で防ぐも、魔力弾は弾かれる事なく突き進み、遂には障壁を貫通、スバルはまたしても吹き飛ばされた。 「そ、そんなぁ~…」 スバルが目を回して完全にダウンした所で、この日の模擬戦は終了した。 「今日の訓練はここまで。後は皆しっかり休んでね。」 「ありがとうございましたぁ~…」 グロッキーとなった四人はふらついた足取りで宿舎へ戻っていく。 シャーリーにデバイスを預けその後を追う宗介だが、クルツに 「話がある。後でロビーに来い。」 と言われる。 「それで話とは何だ、クルツ?」 着替えを終え、ロビーにやって来た宗介。 「お前よ、今日一日ずーっとイラついたまま訓練してたろ?」 「…何を言って「とぼけるんじゃねぇ。」 宗介の言葉を遮るクルツ。 「ダテに長く相棒やってねぇよ。表情の変化くらい分かるさ。今のオメーは情緒不安定ですって面してるよ。」 自分の心情を言い当てられ、押黙る宗介。 「大方、元の世界になかなか戻れねぇ事に不満なんだろ?それと向こうの連中、特にカナメを気に してるって所か。」 宗介は自分が守ると言った、大切な女性を思い出す。 「ああ、お前の言う通りだ。」 「ったく、前にも言ったろ?オメーの悪い所は、マジメすぎて一人で戦争してる気になってる事だって。俺らがいなくなったからって簡単にやられる程ヤワな連中か、西太平洋戦隊は? それにカナメだって、お前がいなくなったからってダメになる娘じゃねぇだろ?」 その言葉に宗介ははっとする。 (そうだ、あの娘は千鳥かなめ。俺の事を信じてくれた娘だ。そんな彼女を俺が信じてやらないでどうするんだ。) 「じたばたしたって始まらねぇんだ。ここで俺達が出来る事を全てやる、それでいいじゃねぇか。今は彼女達が助けるべき“仲間”なんだしよ。」 「…そうだな。すまないクルツ、心配をかけたな。」 それを聞いたクルツはニカッと笑い、叫んだ。 「よ~し!!では青少年の悩みが解決した所でぇ、今日は飲むぞ、皆!!!」 「おーっ!!」(×11)物陰から突然出て来たはやてとシャマルを含むフォワードメンバーに、宗介はギクリとする。 「なっ…!」 「相良君には黙っとったけどな、今日は二人の歓迎会するんや。相良君普通に言っても驚きそうに見えへんかったからなぁ~。」 「にゃはは、悩んだままお祝いしてもつまらないから、終わった後でって事で隠れてたんだ。」 「レクリエーションルームに準備してあるんですよ。早く行きましょう。」 「カナメさんて人の事、詳しく聞かせてもらいますからね~。」 スバルとティアナに両脇から押さえられ、呆然としたまま強制連行される宗介だった。 尚、この後の歓迎会で、はやてが酔って服を脱ぎ始めたとか、クルツがそれを手伝おうとしてヴォルケンズにボコボコにされたとか、スバル達に無理やり酒を飲まされた宗介がヤバイ事になったとか、色々とあったのだが、それはまた別のお話。 続く 戻る 目次へ 次へ
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番外編その一「馬鹿騒ぎのレディーズ’バス」 機動六課隊舎内 大浴場 ここは、はやての要望により建設され、つい最近完成したばかりの設備である。 ちなみにその経費は、はやてがクロノを脅s…ゲフンゲフン、説得して捻出したとかしないとか。 まぁそれはさておき―― 「いっちばーん!」 夜九時、訓練と仕事を終えたスバル達が浴場に入ってきた。 「スバル、お風呂場で走るんじゃないの!転ぶわよ!」 「へーきへーき…ってあ痛ぁっ!?」 濡れたタイルに足を取られ、スバルは派手に後頭部を打った。 「言ってる側から…」 「あはは…」 呆れ返るティアナと苦笑するキャロ。 「う~、頭がバカになったらど~しよ~。」 涙目で頭を押さえているスバル。 「心配ないわよ、もうなってるから。」 歯に衣着せず言うティアナ。 「ひどいよティア~…」 「いーから早く入んなさいよ。いつまでそこにいる気?」 「う~…」 体を流した後、湯船に浸かる3人。 「「「ほ~~~~。」」」 のんびりと湯に浸かり、同じ声を出す。 「お風呂って良いですね~。」 キャロが緩みきった表情で言う。 「ホントね。最初は慣れなかったけど、シャワーよりずっと良いわね~。」 「仕事とか訓練の疲れを取るにはもってこいだよね~。…ところでティア。」 急に隣りにいるティアナに話かけるスバル。 「何よ?」 「思うんだけどさ…」 そして素早くティアナの背後に回り 「またおっきくなったでしょ?」 その胸を揉みまくるスバル。 「何やってんのよアンタはーー!!」 「やっぱりそうだ。前より柔らかい。」 「シカトすんなっ!早く離れなさいよ!」 「んーこれはD、もしくはそれ以上かな?」 「離れなさいっての、このバカスバル!!」 誰もいないのを良いことに騒ぎ立てるティアナ達。 だが彼女達は、物陰から自分達を見詰める視線に気付いていない… (ぐふふふ。いいねいいね~、眼福だぜこりゃ。) その視線を放つのはもちろんあの男、希代のエロ男にして歩くワイセツ物、クルツ・ウェーバーである。 何故コイツが全くバレずにここにいるのかというと、M9にセットされている魔法の一つ“ECS”(電磁迷彩)を使用して透明化しているからだ。 しかもクルツはスナイパーという仕事柄、気配を消す術に長けているので尚更バレないのだ。 (大浴場の完成を待ち続けた甲斐があったな。俺は今日、この光景を一生、目に焼き付ける!!) 間違った方向に情熱を燃やす男だった。 カラカラカラ 大浴場の扉が開き、隊長組が入ってきた。 「二人とも何を暴れている。風呂では静かにするのがマナーだぞ。」 シグナムが二人の様子を見て咎める。 「「すいません…」」 ショボンとうなだれる二人。 「まぁまぁシグナム、そう怒らなくても。二人も悪気があった訳じゃないだろうし。」 フェイトがフォローを入れる。 「お前は部下に甘すぎるな、テスタロッサ。 まぁいい、我々も入るとしよう。」 「はやてちゃん、後でリインが背中を流してあげますです~。」 「うん。お願いするで、リイン。」 「はいです♪」 「ヴィータちゃん、後で頭洗ってあげるよ。」 「別にいいよ。一人でやるからよ。」 「そう言わずに♪」 「あたしの髪をいじくるな!」 そんなヴィータを見てくすくすと笑うなのは。 (うひょっ!!部隊長達のナイスバディまで! 今日は人生最高の日か!?) 予想外のハプニングに大興奮のクルツだが、その思考は冴え渡っていた。 (シグナム姉さん、フェイトちゃん、ティアナちゃんは予想通りのデカさだな。 なのはちゃんとはやてちゃん、スバルは次点だが形が良いな。 ヴィータとキャロ、リインは…まあ今後かな。しかしああいうスレンダーもまた…) エロオヤジ思考全開で品定めするクルツ。 人として末期だった。 「それにしても、さっきはなんで騒いどったん?」 何気なくティアナに質問するはやて。 「スバルがまーたセクハラしてきたんですよ。人の胸を揉んで…」 そこまで言ってティアナはハッと気付く。 はやてが黒い笑顔を浮かべている事に。 「ほ~~。そういや私、最近は忙しくてそーゆー事しとらんかったな~。」 意味ありげな発言を聞いたなのは、フェイト、シグナム、ヴィータは瞬時に危険を察知してその場から離れようとするが、はやてはそれを上回る速度で接近し、 「きゃっ!」 「ひゃっ!」 「あうっ!」 「うひっ!」 瞬く間に四人の胸を揉み終えた。 「ふむふむ、なのはちゃんとフェイトちゃんは前よりええ感じや。 シグナムのゴージャス感とヴィータのぺったり感は相変わらずやけどグッドやで。」 「あの速さで四人の胸を揉んで、さらには評価まで下すなんて…!」 「感心してる場合じゃないですよスバルさん!このままじゃ次の標的になるのは…」 「さ~て、今度はフォワード陣やな~。今日は特別にリインも揉んだげるで~。」 「え、遠慮しますです~~~!!」 そして響き渡る乙女達の悲鳴。 セクハラ魔人はやての独壇場だった。 (ぬおおおーー!!もうたまんねえーー!!!)鼻血を流しながらそれを見るクルツ。 だが、彼の幸運はここまでだった。 ECSは非常に魔力を食う魔法なのでクルツから直にではなく、デバイス内のコンデンサに貯めた魔力を使用するのだが、長時間の使用により残量が僅かになってきたのだ。 (ちっ、もう時間か。それじゃ最後に至近距離から…) しかし、湯船に近付くクルツの足下には先程の騒ぎで湯と一緒に流れてきた石鹸が。 (都合良すぎと言いたければ言ってくれ) クルツは当然それを踏んでしまい、思いきりすっ転ぶ。 「ぐおっ!?」 「何?誰かいるの!?」 クルツの上げた声に反応し、全員がこっちを向く。 (やばい!急いで撤退を…) 立ち上がり出口へ向かおうとするクルツだったが、丁度その時M9が 『コンデンサ内の魔力、エンプティ。ECSを強制解除します。』と告げた。 そして露わになクルツの姿。 「…クルツ君?」 やけに低い声で言うなのは。 「ふーん、クルツ君覗きしてたんや~。」 目が笑ってない笑顔で言うはやて。 「これはちょっと、許せないね…」 怒気を含んだ声で言うフェイト。 「覚悟の上での行動だろうな、クルツ?」 修羅の形相で言うヴィータ。 そしていつの間にか、全員がデバイスを起動し、包囲網を狭めてくる。 「ち、違うんだ!これはその…そう!魔法の使用テストで…」 「へー、魔法のテスト?ほな皆、私らも攻撃魔法のテストしよや。 内容は『非殺傷設定の威力限界を知る』で、的にはクルツ君がなってくれるそうや。」 「りょうかーい。」(×8) その言葉に戦慄を感じたクルツは逃亡を試みるが、踏み出そうとした足は氷で固定されていた。 「何っ!?」 「逃がしませんですよー♪」 リインフォースⅡの「凍て付く足枷」だ。 「さてウェーバー、制裁を下す前に、何か言い残す事があれば聞いてやるぞ?」 レヴァンテインをシュツルムファルケンの形態にしてシグナムが言う。その顔には一片の憐れみもない。 他のメンバーもすでに魔力チャージが完了している。 処刑の準備は出来ている、といった感じだ。 「…出来ることなら…」 観念したように俯いていたクルツが、ぽつりと言う。 「ん?」 「出来ることなら、俺がこの手で皆の胸を触りたかったあーーーーっ!!!!」 絶叫するクルツ。 「「「「「「「「「死ね!!」」」」」」」」」 ドゴォォォーーーン!!! 発射された色とりどりの魔力の奔流はクルツを飲み込み、壁をブチ破って突き進む。 「エロスは正義だぁぁーー・・・・」 そしてクルツは夜空の星の一つとなった。 「ふぅ、これで悪は滅んだね。」 なのはの言葉に一息つく一同。 だがその直後 ガシャーン! 出入口の扉が蹴破られ、そこから飛び出す影が一つ。 「全員無事か!!敵はどこだ!?」 ショットガンを構えた宗介が言う。 その場の空気が数秒間停止する。 しかし、すぐに自分への殺気の篭った視線を感じ取り、脂汗を流す宗介。(いかん…良くない…。この状況は非常に良くない…) 「主、いかがなさいますか?」 シグナムがはやてに尋ねる。 「状況はどうあれ、見た事に変わりないしな。おしおき決定や。」 そして再チャージされる魔力。 「待て!俺は…」 「「「「「「「「「問答無用!!」」」」」」」」」 ズドォーーーン!! クルツ同様に吹き飛ばされる宗介であった。 ああ、この哀れな軍曹に幸あれ… 終わり 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第6話『蒼天の魔弾』←この前の話 『マクロスなのは』第6話その2 「リパーシブシールド最大!」 『Alright.』 1週間前、ランカのデバイスと一緒にレイジングハートにかろうじて装備されたOTである薄緑色の全方位バリアは即座に展開され、超音速で飛来した弾丸を容易く弾く。しかしそれと同時にカートリッジが2秒に1発、湯水のように消費されていった。 元々マクロスフロンティア船団でもバトルフロンティアの大型反応炉を使って無理やり発生させるシールドだ。被弾しながらのエネルギー消費は半端ではなかった。 加えてベルカ式カートリッジシステムのカートリッジは、決して魔力の電池のような物ではない。 例えば、リンカーコア出力がクラスBの魔導士がカートリッジを大量に用いれば、なのはクラスの砲撃が放てるだろうか? 実はそれは出来ない。 それを行えば、魔法を行使する際に発生するフィードバックに魔力コンバーターたるリンカーコアが耐えられないからだ。 これは奇しくも、シャーリーの事故によって証明されている。まだ試作されて間もなく、ノウハウのなかったベルカ式カートリッジシステムは彼女の絶好の研究課題だった。 しかし、無知による大量消費によって彼女のリンカーコアは田所の説明通り8割も小さくなってしまったのだ。 つまり、ベルカ式カートリッジシステムは有効な手段だが、使用法を誤ると大変な傷痕を残すのだ。 なのははリンカーコア出力がS+のためリンカーコアはこの連続消費に耐えうるが、そのフィードバックは想像を絶する痛みに還元されて彼女の端正な顔を苦悶の表情に歪ませた。 しかし彼女は朦朧とする意識の中、視界の端にキラリと光る物を捉えた。 「鳥・・・・・・?」 大きく翼を広げたそれは周囲に大量の光の球を生成、その光球は青白い尾を引いて攻撃に夢中のガジェット達をぶっ叩いた。 (*) 「間にあったか・・・・・・」 アルトは呟く。 VF-25にはOT『アクティブ・ステルス・システム』の最新バージョンが搭載されており、『隠密接近すればゴースト(新型空戦ガジェット)のセンサーには探知できないだろう』と思い試したが、予想通りの成果をあげてくれた。 アルトは落ちていくゴースト達を見送る。1機は煙を引きながら雲の下に、もう1機は空中分解を起こしてバラバラになっていった。 「大丈夫!?」 親友の危機に、急いで自らに残った2機のゴーストを撃破し、急行してきたフェイトがなのはに問う。 「私は大丈夫・・・・・・それより4人の支援を!」 なのはは山の向こう側に行ってしまったリニアレールの方向を見る。 「うん、わかった。アルト君、なのはをお願い」 そう言い残し、フェイトはリニアレールへと飛翔していった。 アルトは彼女を見送ると、毅然とその後ろ姿を見送っていたなのはを流し見る。 無傷のようだが、かなり無理をしていることがうかがえた。足首に浮かび上がる桜色の羽も小さくなり、点滅している。 アルトはホバリングするガウォーク形態のVF-25のキャノピーを開き、エンジン音に負けないぐらい大きな声で呼び掛ける。 「キツいならなら無理するな!乗れ!」 アルトの舞台で鍛えられたよく通る声に、なのはは微笑みを返してくる。しかし、突然浮力を失ったように倒れ込みながら半回転し、そのまま頭を下にして自由落下を始めた。 「おいっ・・・・・・!」 アルトは慌てて180度ロールするとスラストレバーを押し出す。機体はエンジン噴射によって自由落下を上回る速度で急降下すると、落ちるなのはを通り過ぎる。そこで再び180度ロールして制動掛けつつガウォークの腕を伸ばす。そして彼女がバルキリーの装甲に頭を打たないよう、慎重に受け止めた。 「ああ、ごめんね・・・・・・カッコ悪いところ見られちゃったな~」 なのはは水平飛行に戻ったガウォークの手のひらに座り込むと、頭を掻きながら恥ずかしいような笑顔をこちらに向ける。しかし、その笑顔とは対照的に息が上がっていた。やはり相当な無理をしていたらしい。 「・・・・・・大丈夫だ。新人とかフェイトには山で隠れて見えなかっただろうし、俺はあいつら―――――ゴーストに撃墜(おと)される奴を何人も見てきた。だから初見で撃墜して、尚生きてるお前をカッコ悪いとは思わないさ」 アルトは励ますつもりで言ったのだが、当のなのははクスクス笑っている。 「・・・・・・な、何がおかしい?」 意味がわからず問うアルトに、なのはは暖かい目をして答える。 「いや、優しいんだね。アルト〝くん〟は」 アルトは予想外の答えに顔を真っ赤にして押し黙る。それがまた面白いのか、彼女はまだコロコロ笑っていた。 (*) その後、この事件―――――リニアレール攻防戦は、あっけなく終わる。 はやて達の属する後方指揮・支援分隊『ロングアーチ』の報告によると、キャロの持ち竜である『フリードリヒ』が谷底に落ちる間に主人を助けるため覚醒。 その覚醒したフリードリヒの働きによって運転室のガジェット達を掃討した。 その後スターズ分隊が運転室を制圧して列車を停め、今は合流した第256陸士部隊の本隊と共に列車に残る陸戦型ガジェットの殲滅戦を行っているそうである。 「―――――だってさ。俺達が合流する必要はないな。俺はこのまま六課に帰投するが、お前はどうする?」 アルトは後ろに座るなのはに呼び掛ける。 彼女は今、魔力の回復を早めるためにバリアジャケットを解除して、元着ていた服に戻っている。どうやら訓練の真っ最中に出撃命令が下ったようだ。その服は青白の教導服だった。 「うん、六課までお願い」 「りょう解」 くだけた調子で言い、アルトはVF-25の機首を六課に向けると、ガウォークからファイター形態に可変。空域からのおさらばを決め込む。 しかしその時、安心したアルトの耳にけたたましいミサイルアラートが入った。 「畜生!」 反射的に180度ロールし、スラストレバーを絞る。そしてチャフ、フレアを発射しつつ下降した。 数発のマイクロミサイルが目標を見失うかフレアに釣られて無益に爆発する。 後ろから来たミサイルはゴーストの物だ。どうやらまだ生きていて、身を潜めていたらしい。 元の機体もそのリフティングボディ(機体全体で揚力を得ようとする形状)にある程度のパッシブ・ステルス性は有していたが、これほどではなかった。 となれば最低でもAVFのYF-21クラスのアクティブ・ステルスシステムを搭載しているようだった。 それを証明するようにゴーストが1機、雲のカーテンから出てくるが、レーダーに映るその機体は全長1メートルの鳥程度のレーダー反射しか捉えられなかった。 そしてその1機は迷わずこちらを追ってくる。 迎撃しようにもVF-25は今、大量に迫るミサイルの回避に専念しており、ひどく遅い。それは高熱源になるアフターバーナー使わず、赤外線探知型ミサイルの探知から逃れるためだったが、それが仇となっていた。 迎撃しようにも、ロールしたため頭部対空レーザー砲は射角に入れない。また、自慢の高機動で逃げようにも、EXギアを着けていないなのはは無事では済まないだろう。ベルトに押さえつけられて肋骨を2,3本〝持って〟いかれるかもしれない。 そのため速度も上げられず、ゴーストから見ればこちらはのろくさい的だった。 (仕方ないか・・・・・・すまん、なのは) このまま撃墜されては元も子もない。断腸の思いでスラストレバーを押し出そうとした時だった。 前方の森の中から青白い光を帯びたものがこちらを目掛けて飛んでくる。しかし反射的に避けようとする手を彼の奥底に眠る何かが止めた。 果たしてそれはVF-25の機首スレスレを擦過していく。 そしてそれは回避運動という名のダンスを踊るミサイル群を目前に、ベルカ式カートリッジシステムのカートリッジ弾を散布し、花火のように自爆した。それは5~6発のミサイルを道連れにした。 (あれは・・・・・・対空散布弾か?) 対空散布弾とは第25未確認世界に存在する対地、対空用の弾種でバルキリーやデストロイド(人型陸戦兵器)から発射される。内部に多数の子爆弾を内蔵していて、主に敵バルキリーなどの近くで本体から子爆弾が散布され、敵に当たると炸裂。それに被害を与えるものだ。 同様の砲撃があと2回続き、ミサイルは全て撃墜された。 回避の必要のなくなったアルトは、アフターバーナーを焚いてゴーストに肉薄。ハイマニューバ誘導弾との連携攻撃にゴーストはあっという間に撃墜された。 「5時の方向、30度下よりアンノウン接近!速度500キロ!」 どうやらフェイズドアレイレーダー(三次元レーダーの一種)の見方と使い方を知っているらしいなのはからの報告。 アルトは通信で所属を訊くよう彼女に頼むと、いつ狙撃されてもいいように十分なマニューバをとる。 「こちらは時空管理局本局、機動六課所属のフロンティア1とスターズ1です。そちらのIFF(敵味方識別信号)が発信されていません。ただちにIFFを起動し、通信に応じて下さい。」 その呼び掛けに対する返事は一度で来た。 『ごめんね、まだIFFもらってなかったからさ。・・・・・・それにしてもかわいい声だね。今度お茶でもどうだい? いい店知ってるんだ』 なのはは顔を真っ赤にして 「ちゃ、茶化さないで下さい!」 と怒っていたが、アルトにはそれが誰か一瞬でわかった。しかし到底信じられなかった。 『つれないなぁ・・・・・・わかった。それらしいのがあるから送るよ。そっちの〝姫〟になら、わかるはずだ。』 なのはは 「姫?」 と首をひねっていたが、アルトの疑心は確信に変わり、IFFによってそれは証明された。 そのIFFはフォールド発信式でこの世界には発信及び受信する技術はない。しかし、VF-25はそれを受信した。 多目的ディスプレイに表示される機種、そこは 『VF-25G』 となっており、所属は 『第55次超長距離移民船団マクロス・フロンティア SMS所属 スカル小隊 スカル2』 と認識していた。 前方を見ると、青に塗装された機体。VF-1・・・いや、もっと大型の統合戦争で使われたVF-0『フェニックス』によく似た機体がこちらとすれ違うところだった。 その瞬間コックピットに捉えた姿はまごう事なきかつての友人の姿――――― そして送られてくるダメ押しの通信。 『久しぶりだなアルト姫。シェリルとランカちゃんの次はその子か?』 彼の軽口に 「お前には言われたくないぜ、ミシェル!!」 と返しながらも、アルトは彼の口から再びその愛称を聞くことができて、心から嬉しいと思った。 ―――――――――― 次回予告 VF-0『フェニックス』で現れたミハエル・ブラン。 アルトは彼の無事を喜ぶが・・・ そして明かされる、レジアスの計画とは!? 次回マクロスなのは、第7話『計画』 今、アルトの翼に秘められた意味が明かされる・・・・・・ ―――――――――― シレンヤ氏 第7話へ
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魔法少女ニニンがなのは伝2 「女風呂…それは神が与えた最後の楽園(エデン) by音速丸」 前回のあらすじ、世界一の美男子こと音速丸様が美少女だらけの世界に降臨! 心優しき音速丸様は全ての女どもを妻にしてやるのだった… 「音速丸さん! 何を勝手なナレーション入れてんですか!?」 「ぶるうああああ! 黙れサスケエエエ!!! こういう世界は言ったもん勝ちなんだよおおおお!!!(若本)」 「なんですと!? それじゃあ俺はあの美少女たちのお兄ちゃんになるううう!!」 「ずるいっすよサスケさん! それなら俺は白衣のシャマルさんと医務室でムフフ…」 「なら俺は未亡人のリンディさんとおおお!!」 音速丸とサスケ&忍者その1と2は今日も勝手な妄想で限界ギリギリなヒートアップを巻き起こす。 本当のあらすじ、なのはの召喚魔法で呼び出された音速丸たちは何故かこの世界に居座っていた。 「リンディさんお茶ください」 「フェイトちゃんお醤油とって」 「クロノ君、ご飯のおかわり頂戴」 「お~いクロスケ~、その焼き鮭を1/3+1/6+1/2だけくれ~(若本)」 ハラオウン家の食卓で勝手放題の音速丸とサスケ軍団、彼らはどういう訳かすっかりアースラにも馴染んでハラオウン宅に居候していたのだった。 「誰がクロスケだ! それに君の要求じゃ僕のおかず全部くれって事だろうが!」 「ちっ、ばれたか~(若本)」 「音速丸さん、そんなにおなか空いてるなら私のおかず上げますよ。食べかけでよかったら」 「お~ありがとさんフェイト~。やっぱり持つべきものは美少女だな~(若本)」 「ずるいっすよ音速丸さん! 美少女の食べかけなんてレアアイテムを!」 「なら売ってやるぜサスケ、一口5000円だ~(若本)」 「なら俺は5500円出します!!」 「いい加減にしろおおお!!」 今日もクロノが突っ込みを叫ぶ、そんなクロノに母リンディは微笑んで口を開いた。 「クロノ、そんなに怒っちゃダメよ。賑やかでいいじゃない」 「でも母さん!」 「さすがマダムは話が分かる。でもあまりお美しいと美人罪で逮捕しますじょ~(若本)」 「まあお上手♪」 呆れるクロノをよそに食卓の賑わいは続いた、当分クロノは音速丸たちに頭を悩ませることになるだろう。 「さて諸君、緊急だが緊急定例会議だ!(若本)」 「緊急なのに定例会議ですか…」 「何か激しく嫌な予感が…」 音速丸に呼び出されたサスケ+忍者1と2がいつものごとく突っ込みを入れるが音速丸は気にせずに続ける。 「ま~気にすんな。それより今、アースラ女性陣はどこにいると思うかね諸君~(若本)」 「女性陣? さっき訓練するって言ってましたよ音速丸さん」 「甘え~なサスケ~、食べごろのベリーメロンのように甘え~よ。今あのメス猫どもは訓練の汗を流すべく入浴中と来たもんだ…そこで俺たちがすることなんて~決まってるよな~(若本)」 「ま、まさか覗きに行くって言うんじゃ…」 「その~まさかよサスケ~(若本)」 「いや、さすがにそれは問題あるんじゃ…」 「そ~言えば、シグナムもシャマルも入るとかなんとか~リンディママンもいるってよ~(若本)」 「隊長! 我らあなたに死ぬまで付いていく所存であります!」 「どうか指示を!」 「奴隷とお呼びください! 音速丸様!」 「ふっ話の早い奴らめ…よ~しでは女どもの肢体をた~っぷりと覗き尽くしてやるとするか~行くぞ野郎共おおお! ぶるううああああ!!!(若本)」 音速丸を神輿に担いだサスケ+忍者1号、2号はアースラ内の風呂場に向かって駆け出す、その彼らの前にクロノとユーノが立っていた。 「ぶるううあああ!! そこを退け~いチビコンビ!! 俺たちは弾ける女体の神秘をこの目とカメラに収めるという重大な使命があるんじゃああ!!!(若本)」 「っていうかただの覗きだろうが! そんな不謹慎なことを許せるか!」 「音速丸さん、僕はなのはの裸をあなただけには見せる訳にはいかない!!」 「音速丸さんヤバイっすよ~あの二人って子供だけど凄い魔法を使うそうじゃないですか…」 「しかたあるめ~。忍者1号、2号~ちょっとこのセリフを呼んでみろや~(若本)」 「はい、何々~“ここは俺にまかせて先に行け!”」 「“俺、帰ったら実家のパン屋を継ぐんだ”ってこれ死亡フラグ的なセリフじゃないすか!?」 音速丸とサスケは二人を置いて既に先に進んでいた。 「ぬはははは!! 死亡フラグを立てたお前らを生贄に~覗きに行くって寸法よ~。だが安心しろ~いお前らの分もこのキャメラ(カメラ)にたっぷりと女どもの痴態を収めてやるぜ~(若本)」 「了解です隊長! 我らの分も天使たちの姿をそのキャメラに収めてきて下さい!!」 「おう! おう! お~うチェリーボーイズ! 俺たちをただのアニメオタクだと思ったら火傷するぜ! 音速丸さん! 俺たちの分もエロ写真とエロ画像お願いします!!」 「邪魔するな変態忍者!! 母さんとフェイトを覗くなんて許さ~ん!」 「退け~! なのはの裸体を他の男に見せられるか~!!」 「あっ! 本音を言いやがったなこのエロガキ!!」 クロノとユーノを相手に忍者二人は(かなり絶望的な)戦いを挑むのだった。 「よ~し、ここが天国~つまり風呂場か~(若本)」 「音速丸さん…俺、漂う石鹸の匂いだけでどうにかなりそうっすよ」 「ふふっ…青いな~サスケ~。よしそれじゃあキャメラをスタンバイレディ!! 風呂場の通気口にドライブ・イグニッションとしゃれこもうぜ~(若本)」 「ラジャー!」 「そこまでだ! 変態ども!!」 その時、覗き準備を整える音速丸とサスケに青き狼ザフィーラが立ち塞がった。 「むむむ~犬ッコロが~邪魔をするんじゃねえ!! 俺たちはこれから聖域(サンクチュアリ)へと羽ばたかねばならんのじゃああ!!(若本)」 「どうします音速丸さん!? ザフィーラさんを足止めする生贄はもういないっすよ」 「よしサスケ、ちょっとこれを読んでみろい(若本)」 「え~っとなになに“おいこのバター犬野郎、俺のモノでも舐めやがれ”って何てモン読ませるんですか音速丸さん!!」 「ほう…サスケ貴様どうやら本気で死にたいらしいな?」 「うわ~!! ザフィーラさんが獲物を狩る獣の目で俺を見てる~~!! どうするんですか音速丸さん!? あれ音速丸さん?」 音速丸は既にカメラを持って一人で風呂場の通気口へと侵入していた、そしてサスケはザフィーラを激昂させて注意を引く生贄として捨て置かれたのだった。 「サスケ~おめえの尊い犠牲はムダにはしねえぜ~。さてさて~女どもはど~んな痴態を晒しているのやら~もう俺っち辛抱たまらんぜよ!!(若本)」 通気口の出口に来た音速丸はカメラを構えて風呂場を覗いた!! 後日、音速丸の遺体(本当に死んだ訳ではないが…)が風呂場の隅で発見された、彼の脳裏とカメラに残っていたのは輝かしい女体などではなくアースラ所属の屈強な武装局員の入浴シーンだった。 時間を間違えた…ただそれだけの話である、音速丸のガラス細工のように脆い精神は武装局員たちの筋肉質な身体と無駄毛の映像に破壊されたりした。 続かない…たぶん 前へ 目次へ 次へ
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あの頃のあたしは弱くって、ただ、泣くことしか知らなかった。 新暦0071年のミッドチルダ空港火災。 逃げ遅れて、火にまかれて…私はただ、悲鳴を上げた。 お父さん、お姉ちゃん…おかあ、さぁん。 助けてほしくて、やけつきそうな喉で叫んで、でも、誰もいないのがわかってて。 やっぱり、あたしは泣くだけだった。 そのときだったんだ、初めて見たのは。 あの人の背中と、拳を。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 雪に埋もれたはずだった。 鬼へと堕ちた父殺しの兄、散(はらら)が滅技、螺旋(らせん)を前に、 因果(いんが)を極めることあたわず破れたわが身は谷底に埋葬を完了されたはずであった。 では、ここは地獄であろうか? 八大地獄が一、焦熱地獄なれば燃え盛る炎にもうなずけようが、否である。 「…声」 天魔外道の行き着く果てたる釜の中、無垢なる叫びが聞こえる道理があろうか? 助けを求めている。 父を、母を、家族を求めて泣いている! 葉隠覚悟(はがくれ かくご)は立ち上がった。 目、鼻、耳より体液噴出! その躯もはや痛みさえ訴えず。 (わが体内、完膚無きまでに螺旋到達せり 臓器破損! 毛細血管に至るまで断裂! 以上より算出せるわが余命…) 三 十 分 也(なり) 委 細 承 知 覚 悟 完 了 鍛えしわが身のことごとく、これ牙なき人の剣なり。 力無くして泣く人の、祈りの声があらばこそ! 少女の悲鳴、聞こえたる位置は、あちら。 壁を抜き進むべくして固めた拳より冷静を回復。 (当施設は炎上中! 無軌道な破壊は全体の倒壊に直結 さすれば助かるものも助からぬ!) 「爆芯靴!!」 噴進装置、戦略兵器が機動の要。 轟音発し、焔(ほむら)を裂いて進むなり。 背部、脚部ともに加速良好! 我が身を鎧う零(ぜろ)へ、心中にて敬礼。 おまえのおかげで生あるうちに少女を救出できよう! 侵略戦争の鬼畜が証明にして、三千の英霊の血涙やどる、魂の結実…強化外骨格、零(ぜろ)。 おれはおまえと同じ涙を流すときめたのだ! そして理不尽に侵される生命など、あってはならぬ。 ならば立ち向かおう。 なんだか知らぬが、この火事という理不尽! 無力な少女が猛火の中とり残されて泣き叫ぶ大理不尽! 「当方に救出すべき未来あり!」 零(ぜろ)の頭はどこに行ったのか。 兄との最後の一撃を前に取り外してはいたが、それからどこへ行ったのか… 少し心配にはなるも、気を回す余裕、今はなし。 少女の姿、眼前にとらえたり。 その頭上に倒れ来る石像、理不尽の大権化なり! 今こそ示すべし。 踏み込み、そして跳び――撃つ!! 「 因 果 !!」 石像、爆散す この少女に 死なねばならぬ理由 なし その…わたしも、なんて言ったらいいのか。 あれ自体には、あまり驚かなかったんだ。 わたしと同じで、陸士の人が偶然居合わせてくれたんだなって。 すごく仰々しいバリアジャケットだな、とも思ったけれど、 そんなことより、あの子が助かった方が、ずっと「よかった」って気持ちだったから。 でも、近づいてみてからはびっくりした。 だって、鼻とか耳だけじゃなくて、目からまで血が流れていたから。 もう、ほとんど死にかけだって、近づかなきゃわからなかったんだよ? そのくらい毅然としてて、痛みも辛さも全然顔に出さなくて。 「この娘を頼む」 なんて言って、また火事の中に走っていこうとしたものだから、 わたし、後ろからバインドしちゃったんだ。 それしかなかったんだもの。 それでやっとお話を聞いてくれたときは安心したなあ。 「死にかけのあなたより、わたしの方がずっとみんなを探せるよ。 それだったら、あなたがこの子を連れて行った方が、あなた自身も助かっていいと思うんだけどなあ」 「…了解した。 ついてはこの捕縛の撤去を望む」 「うん、がんばってね。 死んだらやだよ」 あとは知っての通りね。 わたしのディバイン・バスターで道を作ってあげたから。 神 聖 巨 砲 ディバイン・バスター 敵の正体わからざればその矛先、大砲の砲門と思うべし。 幾度となく父、朧(おぼろ)に聞かされた言葉であった。 それをもってしてもこの威力… 杖より放たれた光条一閃にして天に穴穿つ大破壊! 葉隠覚悟は瞠目せざるを得なかった! まさしく戦略級! 大日本帝国最後の超々弩級戦艦大和の46サンチ砲でさえ、ここまでの真似をなしえるだろうか? が、問題ない。 力におぼれた者の傲(おご)り、この女性には見えず。 正義に威力は関係なし! それよりは託された信頼に応えるべし。 「感謝する」 「わたし、高町なのは、あなたは」 「葉隠覚悟、そして、強化外骨格、零(ぜろ)」 「…インテリジェント・デバイス、レイジングハート」 「Nice to meet you. Good luck」 名乗りと同時に各々の方角へ離脱。 斜め上へ穿たれた穴、三角跳びにて攻略せん。 その前に、腕の中の少女に伝えておかねばならぬ。 「きみの名は何という?」 「あぅ…う…」 「これより脱出する。 舌を噛まぬよう顎を引いていなさい」 「ま、待って…おねえちゃんは? お姉ちゃん、まだ中にいるの?」 脈打つ心臓に冷水きざす。 少女の家族、ともに取り残されている可能性、大。 「すまない、私にはわからぬ」 「お願い、お姉ちゃんを助けて、助けて」 「了解した。 だが、きみを安全な場所に送り届けてからだ」 「お姉ちゃんが死んじゃう!!」 少女の涙が零(ぜろ)の胸を打つ。 ――この少女に味わわせてはならぬ! かけがえなき人を失う痛み、身をもって知ったばかりであろう! 「一分以内にきみの安全を確保しよう。 その後、きみの姉上を間違いなく救出する!!」 爆芯靴、最大出力! 飛び上がり、壁を蹴る衝撃はすべて我が身へ。 父上、感謝いたします。 あなたより伝授された零式防衛術が、一人の少女を救い、 今一度内部へ突入する時間を啓(ひら)こうとしています… あのとき、わたしは直感的に思ったんだ… 「今日見たこの空を、絶対に忘れることはないだろう」って。 血だらけで、ごつごつで、ひやひや冷たかったけど、 それでも、どうしようもなく暖かかったあの手に抱かれて飛んだ空は… そして、見上げたるは見知らぬ天。 地平線の彼方まで続く高層建築群は、覚悟にとっては見慣れぬ光。 それは、人の営みの色。 見渡す限り、延々と拡がる… 21世紀初めの大破壊はどうした? ここまで復興した楽園など、聞いたこともない。 だが、それよりも今は。 「前方に装甲車発見、指揮車と思われる」 腕に抱いた少女に負担のかからぬ最大速度で目前に到達。 直後、傍らより飛び出してくる男あり。 「スバル、スバルじゃねえか」 「スバルとは、この少女の名か」 「おれの娘だ…」 ひったくられた。 間違いなく父であろう。 同時に、明るいところまで来て気づく。 「スバルさん」 「…う、うん」 「ご家族に買ってもらった大事な服を私の血で汚してしまったこと、申し訳ない」 頭を下げる。 弁償など今の自分にはできぬから、これがせいぜいなのが情けない。 「…な、なぁに言ってやがんだ、おまえは」 彼女の父から上がった声は、呆れそのものであった。 「ンな死にそうなザマでカッコつけてる場合かよ! おまえどこの所属だ? 誰かー、衛生班呼んでこーい」 「お気持ちだけ、ありがたく頂戴いたします」 固辞せねばならぬ。 治療など、している時間なし。 スバルの言う通り、今この間にも彼女の姉が危険! 「おまえはバカか! 死ぬぞ」 「スバルさんと約束しましたゆえ… お姉さんの救出に向かわねばなりません」 「お姉…ギンガか、ギンガのことか?」 「ギンガさんというのですか、お姉さんは」 「確かにまだ中に取り残されているらしい…おれとしても心配でならん。 だがな、だからといって半死人を手伝いに駆り出すようなゲスな父親にはなりたかねえよ。 だからな…行くな、おまえ!!」 (…父親だ) 男の態度は覚悟を打った。 どうりで真っ直ぐな子が育つわけだ。 一人では泣き叫びながら、伸ばされた助けの手に「姉を助けてくれ」と叫ぶ少女が! なんということだ。 なおさら征きたくなった! 征かねばならぬ! 「では私はここから逃げ出します。 そして、勝手に征く!」 「は、はぁ?」 「御免!!」 たとえ、あの高町なのはが探していようと、 間に合わぬものの現れる可能性ある限り、死力尽くして屋内探索せん!! だが跳躍の間際、わがマフラーの端をにぎりしめるものあり。 「…スバルさん、危険だ。 放してほしい」 「もういいよ」 「もういい、とは?」 「お兄さん死んじゃう。 無理したら死んじゃうよ。 お姉ちゃんは…お姉ちゃんは、あたしが助けに行くから! だからお兄さんここにいて!」 覚悟の胸中、さらなる熱いものが通り抜けた。 …この子は、私のために涙を流してくれている。 そして、勇気を振り絞って、自らあの地獄に戻ると! 決意千倍、わが身すでに必勝。 父の言葉、今、真に理解せり。 無垢なる人の思いと言葉が、この身にありえぬ力をくれる!! しゃがみ、スバルに視線を合わせ、その頭をやさしく撫でた。 「心配せずに、待っていなさい。 私も、きみの姉上も、無事にここに戻る」 「絶対だよ、ウソはイヤだよ…」 「男に二言はない!」 嘘をつく私は地獄行きだ。 だが彼女の姉はそうはいかん! 今度こそ征く。 わが余命、残り十五分なり。 この父と娘がくれた力を勘案すれば、二十分なり! 「ちょっと待つですーっ」 「む…?」 面妖! またも振り向かされた先にいたのは…小人! 空を飛ぶ女性に先ほど出会ったばかりであるからさほど驚かぬが。 「あ、今、ちっちゃいって思ったですねー?」 「申し訳ない」 「いいです、ホントのことですから。 それよりギンガさん、見つかったですよ。 たった今」 「本当か!」 「本当です。 だから行かなくていいですよ。 おとなしくここで治療を受けるです」 「…だとよ。 さっさと医者にかかんな。 落ち着いて礼も言えねえじゃねえか」 小人の少女に相槌を打つのはスバルの父。 それだけ聞ければ安心というもの。 救出したのはきっと先に出会った、白を纏う女性…高町なのはであろう。 彼女は彼女の役目を果たしたのだ! 「…スバルさん」 「え…あ、はい」 「よかったな、姉上は無事だ」 安心した途端、意識が手から放れていった。 大理不尽、撃退せりといえども、まだ火事は終わらず。 戦わねばならぬと身を奮い起こすが、亡者に足を引き込まれるようにして堕ちてゆく―― 螺旋(らせん)、ついに極まれり。 見事だ、兄上… 「あっ、コラッ、倒れんじゃねえ! おーい担架っ つか…ぐおおおっ重てえっ なんだこのバリアジャケット! 気絶してるんならほどけろよな! …いや、デバイスか? こいつは…」 そこで、やっとあたしは気がついたんだ。 この人は、とっくの昔に限界を超えていたんだな、って。 それなのにこの人は、痛さも辛さも全然顔に出さないで… あたしにやさしく、ほほえみかけてくれたんだ。 弱いのをやめようと思ったのは、このときだった。 倒れたそばで泣きながら、ひたすらに願った。 このひとみたいに、強くなりたい。 そしてあたしは、あの人の拳を追い始めた。 心の奥にやきついた、くじけない拳を。 目次へ 次へ
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南イタリア ネアポリス空港 両替所にて、クロノはある程度まとまった金を両替した。 「すまない、市内までタクシー代はどれくらいかかるだろうか?」 「4000~5000ってとこかね」 「そうか、ありがとう」 金を財布に入れ、もう一人の同行人の元に戻ると、札束の半分辺りを手渡す。 「おおよそ、10、20万あるはずだ、ある程度雑貨品も買い込む必要があるし足りなくなれば言ってくれ」 「お金の管理はちょっと苦手かも…ユーノ君お願い出来るかな?」 「いいけど、持つときは複数の場所に分けてね、スられた場合の保険に」 肩にフェレット、ユーノを乗せた高町なのは。いつもの制服ではなく私服なので、多少は周りに溶け込めていた。 「こういう服はあまり着た事無いから…ちょっと慣れないな」 「似合ってるよクロノ君、普通の人みたい」 「いや、普通の人だが」 対してクロノはいつもの執務官服ではなく、黒の上下に藍色のジャケットを羽織っていた。 二人とも少々大きめのスーツケースを引いている。ぱっと見は単なる旅行者以外の何物でもない。 「普段は普通に見られていなかったのか…」 「さて、タクシーで拠点に向かおうか、なのは」 がっつりと落ち込むクロノはあえて無視する。 「そ…そうだね…」 「ねえ、タクシー探してる?」 二人(と一匹)に声をかける者がいた。 「アルバイトでこれから帰る所だから安くしておきますよ…8000でどう?」 服は胸元がハートの様な形に開いた、暗い配色の…制服…だろうか? 輝く様な金髪の前髪を3つ丸めて束ねている、年の瀬はクロノより少し年上なのだろうか。 「厚意はありがたいが、ちゃんとタクシー乗り場で乗る事にするよ…流石にそこまで暴利ではね」 「く…クロノ君…」 なのはは物言いを多少咎めるのと同時にタクシー乗り場に目をやった。 乗り場にはかなりの長蛇の列、タクシーが来る時間の割合を考えると1、2時間で済むだろうか…? 「…あっちの客には声をかけないのか?」 「君達が断るなら…これから…、じゃあ、2000円ならどうかな?」 「…いきなり安くなったな」 「チップは無しなんだから、荷物は自分で助手席に積んでくれ、そっちのレディは別だけどね…」 「…わかった、それでいい…なのはは後部に荷物と一緒だ、僕は荷物を前に載せて後ろに」 「うん」 かなり大きめの荷物を前に乗せるクロノ。 「ちゃんと指定の場所まで送ってくれよ?僕らはただの観光客じゃないんだからな…」 「正直に送り届けますよ」 そして、なのはとクロノが後ろに乗り込もうとした時 「ただし、空のバッグだけを、ですがね」 車が急発進した。 「…ふぇぇ!?ま、まだ乗ってないよ!」 「早速か…やれやれ…誰も手をつけたがらないのも納得だ…」 「止めるよ!」 少年はバックミラーで二人の表情を確認した。呆気にとられて慌てる少女と頭に手をあてやれやれと首を振る少年。 だが、追ってくる様子すらない、奇妙に思ったが振り切ってしまえば此方の物だ。 「チャオ」 だが空港を抜けようとしたその時、車がガクン!!と前につんのめり、止まった。 タコメーターはエンジンの不調を訴えてはいない、ガソリンも十分。だがタイヤは地面を空回りするばかりで前に進まない。 「ユーノ君……凄い…」 「一瞬でこれだけのバインドを編んだのか…」 一般人には見えないが、二人には見えていた。周囲にあるガードレールや電柱に縦横無尽に絡まり車を二重三重に捕縛したチェーン・バインドが。 「僕だって一応修行してるんだよ、ま、奴への引導は二人にお願いするけど」 クロノは焦る事無くゆっくりと車に近づく。運転している少年はまだ車を弄っていた。 「言っただろう?ただの観光客じゃないって…」 声をかけ、助手席の扉に手をかけると、流石に感づいた様で少年は運転席から飛び出した。 「荷物だけ置いていけばいい、追う必要もない…」 当然、クロノはこの少年が計画が失敗した事でパニックと罪悪と敗北の表情をするだろうと思った。 しかし…彼はそのどの表情もしなかった…少年は微笑んでいるのだ…… ただ平然ともの静かに微笑んでクロノを見ていた……… その表情には『光り輝くさわやかさ』さえある様にクロノには感じられた………。 少年はそのまま、さっと踵を返し何処へと消えた。 「クロノ君、大丈夫?」 「ああ…だがちょっと奇妙な奴だった…しかし、」 「二人とも…後ろの二人がちょっと面白い事を話してる…」 クロノの話を遮ってユーノが割り込んできた。二人はそのまま聞き耳を立てるが旨く聞こえない。 「念話で聞こえる様にするよ…」 「案外万能なんだな…」 「ユーノ君の一族遺跡発掘のプロだからね、言語、念話関連は凄く得意みたいだよ」 話の内容を漏らさぬ様に、急いだユーノのお陰ですぐに声が聞こえてきた。 「…ョルノの奴エンストして失敗したみたいだぞ」 「あいつ、半分日本人のくせして日本の旅行者をだまそうとするからバチが当たったんだ」 「もっとも、あの髪の色じゃあジョルノ・ジョバーナを日本人とわかる奴はいないがな…」 「いや…染めたんじゃないらしいぜ、黒い髪だったのがここ最近、急に金色になったらしいんだ、妙な体質だな…」 「本人はエジプトで死んだ父親の遺伝と言っている…」 「ジョバーナ…?」 クロノは胸元から写真を取りだした、黒髪の少年で、此方の組織と取引している条件…体組織の採取するべき少年だ。 「ジョルノ・ジョバーナ…汐華初流乃………初ルノ…シォハナ…」 「それ…さっきの人なのかな?」 なのはに言われて、先程の男の顔と当てはめてみる、確かに似てはいるが、まだクロノには今ひとつ確信が持てない。 「わからん…組織とコンタクトをとってより情報が手に入れば良いんだが…」 「クロノ、ところで君の荷物は…?」 言われて助手席に目をやるが、先程確かに自分で助手席に積んだ筈のスーツケースだが、それが今は影も形も無い。 「無い…だがさっきの奴は何も持っては……?」 よく見ると、助手席のところに何かへばりついている。粘性のボールの様な『それ』は更に内部に何かが入っている。 「これは…僕の荷物…なのか!?」 先程のクロノのスーツケースについていた名札『黒野』と言う文字が中に見える。 しかしそれは何度か鼓動を脈打ちながら別の物に変化…いや成長してゆく。 『それ』は呆気にとられているクロノの目の前で生物に変わってしまった。 『カエル』に 「魔法なのか…聞いた事もないぞこんな魔法はッ!!」 カエルはぴょいっとクロノの手にのっかる、ペトリとした粘性の手足の感触、重量、それは蛙に他ならない。 「生き物だ…変化魔法の類や幻術でもない…本物のカエルだ…」 「で、でも…最初はスーツケースみたいだったし、生き物だとしたらクロノ君の荷物は…?」 狼狽える二人を尻目に、カエルはクロノの手を飛び降り、そのまま排水溝から下水へと消えた…。 「…なのは、すまないが別行動だ僕はあいつを捜してみる、拠点の住所は覚えているだろう?そこに向かっていてくれ…なのはを頼むぞユーノ」 「はいはい」 「あまり無理しないでね…」 クロノはそのまま、市街へ向かって駆けだしていった。 「で、どうしようか、なのは」 「地図で見ると…少し歩くけどケーブルカーがあるみたい…そっちの方が良いかな」 二人は流石にこれからタクシーに乗る気は起きなかった。 ジョルノ・ジョバーナを探しに市街方面に向かったクロノだったが、その本人はまだ空港敷地内にいた。 滑走路の外れ、離陸する飛行機を眺めているジョルノ、待ち合わせしている様にもみえる。 相手はすぐに現れたようだ。先程のカエルが側の排水溝から、ジョルノの手の上に飛び乗った。 「よし…」 そのカエルは見る間に膨れあがり、先程のクロノのスーツケースへと戻った。 その場で中身を改めるジョルノ、だが容量の割に中身は少なく金になる物はせいぜい衣類か宿泊セット、目的のパスポートや財布は鞄の中ではなかったようだ。 「……やれやれ…無駄骨か…これだから無駄な事は嫌いなんだ、無駄無駄…」 前へ 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第8話『新たな翼たち』←この前の話 『マクロスなのは』第9話「失踪」 ────────── 『真相は駆け落ちだった!? ランカ・リー失踪事件』 超時空シンデレラことランカ・リー(17)の失踪からはや4日。 現在も彼女が失踪した地球・フロンティア間の宙域では、新・統合軍と民間の必死の捜索が続けられているが、未だ痕跡すら発見出来ていない状態だ。 彼女は4日前、地球のマクロスシティで行われた第一次星間戦争終結50周年記念コンサートで歌うため、フロンティアの民間軍事プロバイダ『SMS』の機体で地球へと向かった。 この民間企業が選ばれたのは、かつて彼女がやってのけたガリア4での暴徒鎮圧を演出で再現するためであった。 この民間企業は当時彼女が暴動を止める際に搭乗していた最新鋭の人型可変戦闘機『VF-25/MF25(VF-25/第25次新マクロス級移民船団マクロス・フロンティア版)』を保有しており、これにフォールドブースターを着けた上でフォールドしていた。 また、このフォールドブースターはフロンティア随一の大企業『L.A.I社』の開発した「フォールド断層を飛び越える」という新型のフォールドブースターであったことがわかっている。 しかしこのフォールド機関はまだ運用が始まったばかりで、専門家はそれの故障による事故だろうという結論が大方である。そのためか「生存は絶望的」との声も多い。 だが我が社の取材スタッフはフロンティアでの聞き込みを続けるうちに他の可能性を発見した。 実はランカ・リーの乗ったバルキリーは彼女の恋人がパイロットをしていた可能性が強まったのだ。 気になる彼は1年前の『惑星フロンティア奪取作戦』(バジュラ本星突入作戦)において多大な功績を残した早乙女有人(18)だ。 彼は同船団内に存在するスペシャリスト養成校『美星学園』にて戸籍とは違う早乙女アルトの名で学籍登録しているが、その実同船団の歌舞伎役者、早乙女嵐蔵の息子である。 ランカとは学部違いの同級生で、「度々仲良く町を歩いている所を見た」という情報が多数寄せられている。 また真偽は不明だが「どちらかの家で泊まることがあった」との情報も寄せられており、恋人である可能性は高い。 L.A.I社の公式発表によると、その新型フォールドブースターが正常に稼働し続けた場合、現在探索された銀河のどこへでも7日以内に行けるという。 そのことより我々スタッフは───── ────────── 「シェリルさん?」 「なに?」 彼女の現在のマネージャーであるエルモの呼び掛けに、シェリルは端末機で読んでいた胸糞悪い芸能雑誌を机へと放り投げた。 彼女はアルトが、そしてランカがそんなことをしないと固く信じていた。そしてまた、生存も同様に信じていた。 「いやどうもネ、なんか手がかりがあったみたいなんですヨ」 「本当!?」 「ハイ。ブリッジの方で説明があるそうなので、行ってみましょう」 ここは民間軍事プロバイダ『SMS』の母艦であるマクロスクォーター艦内だ。 シェリル達はコンサートが中止になってからずっと、この艦を根城に2人の捜索を続けていた。 2人を探す手がかりが遂に見つかったのだ。シェリルは小走りしながらブリッジに向かった。 (*) 「高周波のフォールド波?」 ブリッジに着き、興奮するルカから聞いた最初の言葉はこれだった。 「はい!今までは単なるノイズにしか見えなかったんです。でもダメもとでスローにしたらわかったんですよ!」 「えっと・・・・・・なにが?」 わかっているのはどうやらルカだけらしい。他に集まった人々も、同様に彼の話に耳を傾けている。 ルカも「論より証拠」と、コンソールパネルに向かい、操作を始める。 「最初はただのノイズだと思って統合軍も僕たちも見逃していたんです。・・・・・・これは失踪7時間後に惑星『フロンティア』で観測されたフォールド波です」 画面に表示されるその波形。確かに周波は多少変化しているが、とても短く、機械的なノイズにしか見えない。 「でもこれを24分の1の速度にして、フォールドスピーカーに繋ぐと─────」 ルカの指が「ENTER」ボタンを弾く。すると同時に暖かく力強い声がブリッジを包んだ。 『─────進め! 〝きどうろっか〟誇り高き名を抱いて 飛べ! 〝きどうろっか〟眠れる力呼び覚ませ・・・・・・』 聴き入ってしまっていたシェリルが我に帰る。 「これって・・・・・・!」 「そう、ランカさんの歌です。2人はそう遠くにいません。もっと惑星『フロンティア』の近くにいたんです。少なくとも1光年以内に」 そこにランカの義兄であるオズマが口を挟んだ。 「でもよ、この時空差はなんだ? なんでまた向こうが24倍速になってるんだ? それに俺の勘違いかもしれんが、どうして歌詞が〝フロンティア〟でなく〝きどうろっか〟になってやがるんだ?」 「歌詞についてはわかりません。ですがこの時空差は変動しているらしく、僕の概算によればランカさん達はもう20日以上向こうにいるはずです。それでもランカさんが生きているとなれば何らかの方法で、ある程度の生命維持方法を確保できていると推測します。ワイルダー艦長」 ルカはこの艦を取りしきる責任者に向き直る。 「調査隊を組織する許可をください。発信源を特定したいと思います」 「うむ。許可しよう。人選は任せる。必ず見つけてくれ」 「了解しました」 ルカは敬礼すると、作戦を練るため出ていった。ワイルダーは帽子をかぶり直すと、凛とした号令を発す。 「艦首を惑星『フロンティア』に。フォールド安全圏まで最大船速!」 「アイ、キャプテン!」 クォーターの操舵手であるボビーがその手に握る操縦桿をゆっくりと切る。広い宇宙にあっても威厳をもって旋回する400メートル級戦艦はクラスターエンジンの噴射口から盛大に火を噴くと、現宙域である小惑星帯を後にした。 (*) 今、シェリルは満点の星空の下にいた。そこはクォーターにある展望室だ。 2回の長距離スーパーフォールド(フォールド断層を無視したフォールド航法)を経て惑星フロンティアの衛星軌道上を周回しているため、強化ガラスで作られた床からはその美しい緑の星が臨める。 星空など宇宙(そら)を渡るものならいつも見るものだが、彼女には今、違ってみえた。 (このどこかにランカちゃんとアルトがいるのね) 気づいた時には設置されているベンチから立ち上がり、歌い始めていた。 〝アイモ アイモ ネーデル ルーシエ・・・・・・〟 その歌は彼女の友人であり、相方であり、ライバルである者の歌だった。 そして空では変化が起こっていた。幾筋もの赤や青の光跡が集まってくる。大小のバジュラ達だ。シェリルの放つ希望の想いのこもったフォールド波に引き付けられ、集まって来るのだ。 シェリルにはそれがバジュラ達がお祝いをしてくれているように映った。 〝ルーレイ ルレイア 空を舞うひばりは涙・・・・・・〟 その時シェリルのア・カペラにハーモニカの伴奏が入った。 透き通るようなシェリルの歌声を伴奏が引き立て、バジュラ達の舞いが空を彩る。 狭い展望室には豪華過ぎるコンサートだったが、その歌声は艦内のフォールドスピーカーに共振。電源なしでもそれを中継し、働く者達の心を和ませた。 歌と伴奏が終わり、シェリルは振り返る。そこには体に密着するインナースーツを着て、ハーモニカを持った青年がいた。 「どうしたのかしら、ブレラさん? まだ半年間の星間パトロール任務があるんじゃなかったの?」 彼は真新しいハーモニカを口から離すと応える。 「いや、妹の急を聞いて1ヶ月間の有給休暇をもらって来た」 ブレラは生命維持のためとはいえ、その身のインプラントが災いしてフロンティアの市民権を得られていなかった。 そのため彼はSMSにその身を置き、外敵から星を守る任務に従事していた。 「ごめんなさいね、ランカちゃんの歌じゃなくて・・・・・・そのハーモニカ、確かこの前メールしてきた物よね?」 「ああ」 ぶっきらぼうに応えるブレラ。 両親の形見であったハーモニカは、フロンティア奪取作戦(バジュラ本星突入作戦)の折りに紛失し、ブレラは同じものを作らせていた。 それは彼がパトロールから帰ると丁度ランカの誕生日にあたり、仲間内で催される誕生会では彼女をこれで驚かそうというのが狙いだった。 ブレラは仕込みのためこの事をランカ以外の参加者に通知しており、皆それを楽しみにしていた。 「だが俺も音楽家のはしくれだ。こんな希望の喜びに満ちた声で歌を聞かされたら、いてもたってもいられない。─────そんなことより、お前に伝えなければならないことがあった」 「ん? なに?」 「ルカ・アンジェローニによれば、今回の作戦にはお前の歌が必要だと言っていた」 ブレラによると、バジュラのネットワークを介してこの付近数光年に強力な歌エネルギーによってフォールド波の探信波を流すという。 するとVF-25Fの装備していた新型フォールドブースターのフォールドクォーツがそれに反応して、同じ波を反射するらしい。 確かにこの方法ならフォールド空間内だろうが通常空間だろうが一瞬で検索することができる。 「つまり、でっかいアクティブ・ソナーってことね」 「そういうことだ。作戦決行はカナリア大尉のVB(バリアブル・ボマー)-6『ケーニッヒ・モンスター』の準備が完了次第始まる。それまでにバジュラ達に展開を終えてもらってくれ」 ブレラは空を見上げて言う。すでに全天をバジュラの光跡が覆っていた。 「わかったわ。伝える」 シェリルは答えると、バジュラ達に歌いかけた。 (*) 6時間後 バジュラ達は予定通りの位置に展開し、VB-6のサウンド仕様も準備が完了した。 シェリルはケーニッヒ・モンスターの機内から外を窺う。 周囲にはもしもの事態に対処するために、オズマ少佐率いる2機になってしまったスカル小隊やクラン大尉率いるピクシー小隊などのSMSの機体。ブレラのVF-27。そして直掩のバジュラ達が展開を終えていた。 (ランカちゃんも初陣はこの機内だったっけ・・・・・・) シェリルは不思議な懐かしさを覚えていた。 その頃の自分はバジュラ達を鎮める力はなく、自分の見い出したランカという友人に嫉妬していた。 (でも、あたしはあたし。自分の信念を貫いて見せるわ!) 決意を新たにした丁度その時、ルカからのGOサインが出た。 「行くわよみんな!あたしの歌を、聞けぇ!!」 宇宙に向けて放たれた常套句と同時に始まる伴奏。シェリルは精一杯に歌う。 それはかつて歌で山を動かさんとしていた熱い、熱い男のように宇宙を満たした。 〝─────私は 今 I realize that I live. ここにいるわ FEEL!I m a shinin STAR!・・・・・・〟 (*) RVF-25 ルカ機 彼はVB-6に搭載された特殊なバッテリーに蓄積していく歌エネルギーの数値を冷静な目で追っていた。 この作戦はどこまで強力な探信波を放てるかにかかっている。弱すぎると探知範囲や精度が低下し、役に立たないからだ。 (さすがシェリルさん。目標の1000万チバソングまであと少し・・・・・・) しかし逆にこれを越えると危険だった。なぜなら探信波を放つことになっているRVF-25のレーダードーム『アルゲス』がもたないからだ。 失敗した場合、サウンドウェーブによる過度な量子反応によって機体が急激な縮退反応を起こし、反応弾頭(物質・反物質対消滅弾頭)規模の大爆発を起こす。しかしそれでもまだいい方で、最悪の場合周囲に展開する護衛部隊を余裕で飲み込む程度のマイクロブラックホールとなってしまうだろう。 とどのつまり、ミスは許されないという事だ。 (ナナセさん・・・・・・) 彼はディスプレイのピンに挟んだ写真を撫でる。そこで微笑んでいる愛しい人が、彼の全てだった。 彼女にプロポーズしてはや半年。OKの返事からずっと夢のような日々を彼は味わっていた。 別に何か特別なことをしたりしたわけではない。彼女との他愛ない会話や一緒にいられるだけで彼には幸せだった。 例えば彼女の部屋で、趣味の話が弾んだ時だ。 その時ナナセは 「ルカくんのために描いたの」 といって1枚の大きな画板を彼に渡した。それにはルカが描かれており、その絵には繊細な愛情がこもっていた。 ルカはその時、あらためて自分の幸せを実感したという。 しかしそんな日々も、失踪事件によって暗転した。ランカの失踪を知ったナナセはショックで寝込んでしまったのだ。 それ以来彼女は心を閉ざし、ルカが会いに行っても 『ごめんなさい。あなたの私への気持ちに嘘はないと思うの。でも、今あなたに会ったら平静でいられないかもしれない』 云々といって門前払いを食らっていた。 彼女の過去の事件(彼女が12、3歳の時に遭ったペドフィリアによる誘拐事件)による男性不信については、L.A.Iの御曹司としてのネットワークと、彼女から直接聞いたというアルトから聞いていた。 そのため彼はこの半年間、その傷が癒えるよう努力したが、結局彼女を救えるのはランカの無邪気な笑顔だけらしかった。 頼りになる二人の先輩もいない今、想い人の笑顔を取り戻せるのは自分だけ、と奮い立たせることで彼はこの重圧に耐えていた。 (ナナセさん。きっと僕がランカさんを連れ戻して、あなたの笑顔を取り戻して見せます!) そこにはかつてアルトが〝愛玩犬〟と揶揄した彼は鳴りを潜め、1人の〝漢(おとこ)〟がいた。 そうして遂にその時を迎えた。 「ピンガー、打ちます!」 コーンッ・・・・・・ 絶妙なタイミングで放たれた歌エネルギーのピンガー(探信音)は彼の予定通りの出力で宇宙に放たれる。そしてバジュラネットワークのフォールド波と一緒に大きなうねりとなって全時空、全次元を振動させた。 この場所から3光年以内の惑星、宇宙船問わず全ての場所でこのピンガーが観測されたという。 (*) 同時刻 第1管理世界 聖王教会 リニアレール攻防戦と呼ばれる事件が発生していたこの時、カリム・グラシアは地上部隊に提出する預言の解釈についての報告書を書いていた。 「─────ふぅ、こんなものかしら?」 カリムは書き上げた報告書をためすすがめつしながら読み直す。 先代や自らの預言を無視する姿勢を貫いていた地上部隊であるだけに伝統的におざなりになっていたこの作業だが、はやての出現によって2、3年前ぐらいから変わった。 地上部隊のある人物がはやての意見に耳を貸し、しっかり目を通してくれているというのだ。 人間無駄とわかっている作業をするのは嫌だが、ちゃんと読んでくれる。これは物書きにとって大喜びするほど切実な願いである。 カリムも〝彼〟が読み、実際に動いてくれていることに大きな責任と同時に大きなやりがいを感じ、熱意をもって作業に臨んでいた。 そうしてOKを出そうとした時だった。 コーン・・・・・・ どこからか聞こえる金属をハンマーで叩いたような音。 それはとても小さく、ややもすると部屋に自ら1人しかいないカリムですら全く気づかなかったかもしれない。 「耳鳴り・・・・・・?」 カリムそう考えて気のせいと片付けようとしたが、机に視線を落とした彼女は驚愕する事になった。 資料として開いていた自らの預言書が光を発している。 (うそ・・・・・・まだ前回の預言から半年も経ってないのに・・・・・・) しかしこれは紛う事なき預言の受信の知らせであった。 カリムは受信手続きとして自らのレアスキル『プロフィーテン・シュリフテン』を起動。不可視の情報を人に解る言語、古代ベルカ語に変換し、預言書に転写した。 「これは・・・・・・!?」 儀式魔法が終わり、新たに加わった預言の一文。そこには───── カリムは即座に六課のはやてに連絡を入れるよう、シャッハに要請した。 (*) ルカの方は遂にレーダードーム『アルゲス』が微かな反射波を捉えていた。 即座に逆算。 (返ってくるのが予想より早い。でも通常空間にしては減衰率がひどいな・・・・・・) どうやらブースターはフォールド空間に浮いているらしい。 結果、場所は───── 「ここ!?」 正確には通常空間の座標に直すと、アルト達がフォールドした場所から1AU(天文単位。地球から太陽までの距離)も離れていない場所だった。 どこかの星に不時着して救援を待っているとばかり思っていたルカは、驚きと嬉しさのあまり操作パネルから手を離してガッツポーズを取っていた。 (2人はこんなに近くにいたんだ!) 彼ははやる気持ちを抑えながらクォーターへの通信回線を開いた。 ―――――――――― 次回予告 カリムの要請を受けて聖王教会へ赴くことになったはやて達4人。 そこで聞かされる驚愕の未来予知とは!? そしてアルトに突きつけられる1枚の紙切れ。そこに書かれていた内容とは!? 次回マクロスなのは、第10話『預言』 「おい、はやて!俺は〝クビ〟ってことか!?」 はやては不敵な笑みを見せて首を縦に振った。 ―――――――――― シレンヤ氏 第10話へ
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マクロスなのは 第14話『決戦の果てに・・・・・・』←この前の話 『マクロスなのは』第15話「魔導士とバルキリー」 後方のはやては爆撃のチャージに入っていた。 「『ホークアイ』、敵の正確な座標を送ってください!」 『了解。二佐の火器管制デバイス(はやての場合はリィンフォースⅡ)へ座標を送信します。1発でかいのを頼みますよ!』 「了解や。任しとき!」 「・・・・・・来ました!未来位置予測開始・・・・・・着弾位置、高度1万メートル。座標、0120-333-906。30秒以内に爆撃してください!」 リインフォースⅡが報告する。 (なんだか聞いたことある番号やな・・・・・・) 一瞬思考を巡らせたはやてだが、今はそんな時ではない。先ほどと同様、合計6つの魔法陣を展開。時間がないため負担が大きいが予備チャージ と詠唱を破棄する。 「フレース、ヴェルグ!」 すると魔法陣より再び白い光の奔流が発射される。しかし予備チャージしなかったので同時にデバイスの魔力コンデンサがオーバーフローして セーフモードに突入した。 バリアジャケットを除く全ての魔法が消失し、融合するリィンの飛行魔法で何とか高度を保つ。 そして詠唱破棄したときの全身に来るピリピリとした痺れにも似た痛みに耐えながらAWACS経由のJTIDS(統合戦術情報分配システム)の戦術俯瞰図を流し見る。 そこではバルキリー隊と魔導士各隊が指示通りの位置に防衛ラインを構築している様子が伺えた。 範囲攻撃に特化した自分はこれから起こるであろうガジェットとの戦闘への参加は、この一撃が最初で最後となる。 確かに全く関与しないわけではないが、それは指揮任務であって実際に目視して戦う彼らとは次元が違う。 彼女は心の中で『みんな頑張ってや!』とエールを送ると、意識を誘導に集束させた。 (*) ゴーストは高空へ。ガジェットは低空にそれぞれ分かれたため、集合したフロンティア基地航空隊は高空にて迎撃態勢に入っていた。 演習に参加した25機の内15機が演習で撃墜され、演習中止までフロンティア航空基地で整備していた。 そのため迎撃するフロンティア基地航空隊の戦力は残った9機(ライアン二尉は現在急行中)と、付近に警戒配備されていた2期生操るVF-1A部隊25機の合計34機。 50を超えるゴーストを相手にするには少し心許ないが、これでも現状出来うる限りの全戦力だった。 しかしそれでも隊の士気は高い。なぜならMMリアクターは一定時間無負荷で休ませたため満タンになっているし、弾薬もVF-1A部隊の持ってきた実弾を補給、換装していた。 そして何よりスペック上ではなく、本当に高ランク魔導士部隊と対等以上に渡り合える事が証明された事が大きかった。 彼らの横を白い光の奔流が通りすぎていく。はやての魔力爆撃だ。 それは遥か前方で炸裂すると、敵をその圧倒的な魔力衝撃波で破砕していった。 この凄まじさに隊の者は一様に息を飲む。 『自分たちはあんなものに狙われていたのか・・・・・・』 と。 幾つかの編隊に分かれていたゴーストだが、その衝撃波に触れた瞬間粉微塵になる。 あのゴーストはどうやらリニアレール攻防戦の時の自律AIでも、最新ゴーストの純正AIである『ユダ・システム』も搭載していないようだ。おそらくガジェットの物を流用して一本化しているのだろう。 狡猾な彼らは本来なら退避する所だが、愚直なまでに直進。その半数ほどが撃破された。 『すげぇ・・・・・・』 2期生の1人が呟く。 VF-25のセンサーによると、それは5発でキロトン級の対空反応弾2発に匹敵する空間制圧力を示していた。 だがアルトはいつの間にかディスプレイから目を離し、その〝花火〟に見とれていた。それは破壊の光だが、反応弾と違ってただひたすら美しい光景だった。 『こちら『ホークアイ』。今の爆撃によりガジェットは4分の1、ゴーストは3分の1が撃破された。今後爆撃の支援はない。各隊市民の安全を確保し、敵を撃退せよ!』 『『了解!』』 ホークアイの指令にこの空を駆け、戦う者達の声が唱和した。 同時にゴーストから中距離ミサイルが雨あられと発射される。その数、250以上。 『迎撃ミサイル発射!』 間髪入れぬミシェルの掛け声に各機から6発ずつ、合計で204発の中HMMが発射され、ゴーストの発射したミサイルへと突入を敢行していった。 (*) 低空域 フロンティア基地航空隊と違って長距離誘導兵器のない魔導士部隊は、目視照準で己が魔力を込めた砲撃を運河のごとく攻め寄せるガジェットに送り込んでいた。 しかしまだどこからか送られているらしく、ガジェットは減らなかった。 また、演習で生き残り空中に残った魔導士は約80名。撃墜組は遠い所に集められて来るのに時間がかかる。それに来た所で民間人の退避と、新たに出現した陸戦型ガジェット(Ⅰ型及びⅢ型)の対応に追われるだろう。空への増援は望みようがなかった。 防衛ライン上ではひっきりなしに魔力砲撃と無線が飛び交う。 『こちら第1小隊、あれから2人やられた!八神隊長、早く増援を!』 『被害が大きい第1小隊は第2小隊と交代。第3小隊は交代を援護しつつ─────』 『こちら第14小隊、敵が多すぎる!高町空尉に援護砲撃を要請する!』 『こちら高町なのは。現在中央で手一杯なので支援砲撃はできません!〝宮原君〟、教導を思い出して、何とか持たせて!』 『り、了解しました!第1、第2分隊で左右に展開!全力で迎撃!なのはさんはオレらを覚えてるぞ!叱られたくなかったら体を盾にしてでも、奴らを決して後ろに通すな!』 『『了解!』』 『ワレ第10小隊第1分隊。孤立した!至急援護を!』 『こちら独立遊撃隊のフェイトです。第10小隊第1分隊、そこを動かないで!今行く』 現在魔導士部隊は14の小隊に再編成され、旧市街(廃棄都市)を守るため南北に小隊間を500メートル間隔にして並んでいる。 両側からこぼれるガジェット逹もいるが、このラインを放棄したら旧市街に現在の10倍以上の数のガジェットが雪崩れ込むことになる。おこぼれは地上派遣隊(撃墜された演習参加者)に任せるしかなかった。 また、初動が早かったため即座に防衛ラインを築けた魔導士部隊だが徐々に押されて来ていた。 そして遂にラインにほころびがでてきた。 『こ、こちら第12小隊、ガジェットにラインを突破された!突破された穴が塞げない!支援を!』 『こちら第11小隊。手が回らん。わかってくれ』 『こちら第13小隊。すまないがこちらも無理だ』 フォローするはずの左右の小隊も自分の持ち場だけで手一杯だった。そこに他から無線が入る。 『こちら特別機動隊空戦部隊だ。第12小隊、これより支援する』 演習中、ガジェットの出現に備えるために温存されていた地上部隊きっての対テロ特殊精鋭部隊『特別機動隊』が遂に到着したのだ。 彼らの到着に戦線の穴が塞がれる。しかしこの濃度のAMFの中では既にラインを突破した20機を超えるガジェットまでは手が回らない。 『誰かラインを抜けたガジェットを迎撃して!』 ホークアイとともに指揮を任されているはやてが無線の向こうから指示を飛ばす。しかし前線の誰もが手が離せない状況だった。 だが後方から飛来した紫と青白い2つの魔力砲撃がそのうち10機近くのガジェットを一瞬で葬った。 急行してきたのはシグナムとライアンのVF-11Sだった。 『『隊長!』』 機動隊の面々が歓喜の声をあげた。 (*) シグナムとライアン、そして特別機動隊空戦部隊の参入により徐々に戦線を盤石なものへと変えつつあった。 『ライアン、そっちは任せたぞ』 「了解。隊長こそ抜かれないで下さいよ」 ガウォークに可変したライアンのVF-11Sとシグナムの2人は左右に分かれて敵へと斬り込み、最も敵の集まる中央と少数の敵が展開する左右の3つに分断する。 そんな2人の分けた左右のエリアを制圧するは特別機動隊の魔導士達だ。 元々同じ部隊の一同は絶妙な連携で敵を排除していった。 そして中央は本隊の鶴翼陣形によるクロスファイア(十字砲火)によって撃破されていった。 (*) ライアンは愛機VF-11Sで担当のガジェット群を切り裂いていく。しかし撃ち漏らした1機がファイター形態のVF-11Sに特攻を仕掛けてきた。 ファイター形態ではエネルギーの大半を推進に使うため、アドバンスド・エネルギー転換装甲の出力が下がって耐久性はバトロイドの時の10分の1以下に低下する。 これは他で例えると20世紀末の重装甲車程であるが、例え人間大の物体であっても相対速度が音速を超えているだけで大破は免れない。 ガウォークに可変するも、もはや回避は間に合わないと見たライアンは反射で目を瞑ってしまう。しかし覚悟した衝撃はいつまでたっても来なかった。 目を開けるとキャノピーの外には懐かしい顔があった。 『よう、ライアン。危なかったなぁ』 彼がいつものお気楽調で言う。 彼─────ウィリアム・ハーディング三等空尉はライアンが特別機動隊に所属していた頃の同僚で、彼とライアンは同部隊で名の知れたコンビだった。 彼は転送魔法のエキスパートであり、同隊では幾多の戦闘を共に駆け抜けてきた。 どうやら、彼の転送魔法に救われたらしい。見るとさっきまで自分のいた位置にミッドチルダ式魔法陣が展開されていた。 「ああ、サンキュー。ウィル」 彼は手をヒラヒラさせると 『気にするなって』 とあしらった。 そんな彼の後ろにキラリと光る物を視認した。ガジェットだ。どうやらウィリアムを狙っているらしく、急接近してくる。 ライアンはスラストレバーを倒して即座にバトロイドへ可変すると、何が起きたか分からない友人を尻目に彼の背後のガジェットとの間に割って入った。 それと同時にガジェットのレーザーが放たれる。ライアンはそれをバトロイドの左腕に装備した防弾シールドで防ぐと、間合いを見て回し蹴りを放った。 空を切り裂き高速でやってきた巨大な足に蹴り飛ばされた哀れなガジェットは、急速に金属部品へと還元されていった。 「借りは返したぜ」 ライアンが外部フォールドスピーカーを通して伝えると、ウィリアムは 『相変わらず律儀な奴だな、お前は』 と笑った。 (*) その後再会したこのコンビは、後の手本となる画期的な戦法を編み出す。それはバルキリーと魔導士の連携だ。 魔導士はなのはやフェイトのようなハイクラスリンカーコア保有者以外は絶望的なまでに殺傷設定の攻撃や、連続する強力な物理衝撃を伴った攻撃に弱い。だがバルキリーの陸戦兵器並の耐久性には定評がある。 またバルキリーはレーダー等が補助するがファイター、ガウォーク形態の時は圧倒的に視界が悪い。しかし魔導士はなんと言っても生身なのでそんな制約はない。 こうして短所が相殺されると長所が生きてくる。 バルキリーでは操縦者はバルキリーと常にコネクトし、武装やその他に魔力を使ってしまう。そのためリンカーコアが最低Aクラスでなければまともな魔法は使えない。一方魔導士はバルキリーとは違い、各種魔法(高速移動魔法や転送魔法など)が豊富だ。 バルキリーも常時、クラスBのリンカーコアにしてクラスAA以上の砲撃力。撃ちっぱなしミサイルの大量使用による制圧力。そして高い耐久性に汎用性。 こんな長所を持つ両者が手を組むとどうなるか。彼らはその答えを示した。 (*) 雨のように降り注ぐレーザーの弾幕の中を突入していくVF-11S。その後ろにウィリアムが続く。 VF-11Sはウィリアムの最高速度である亜音速に合わせており、エンジン出力に余裕ができたため、余剰エネルギーはPPBSと火器に回されている。 そのため前部に展開したPPB(ピン・ポイント・バリア)の出力は4割向上し、この弾幕の中でも耐え抜く。また魔力砲撃の出力も2割ほど向上し、火力と防御力がパワーアップした。 ウィリアムとしても盾代わりがいて安心だ。 しかし通常この速度で飛ぶと、ガジェットはその数と機動力に物を言わせて多方向から攻撃してくる。 その場合加速して振り切るか可変して迎撃することが通常の対処法だ。 今回もガジェット数機がライアンの死角から攻撃しようと忍び寄る。 しかし彼らは後ろで警戒するウィリアムによって発見、迎撃が行われた。 彼はエンジンノズルの真後ろに居るため、青白く光る粒子状の推進排気に曝される。しかしこれは悪い訳ではない。ミッドチルダ製のバルキリーや今のVF-25は推進剤を完全魔力化している。 これは圧縮した魔力を噴射して反動を得るという効率の悪い推進方式だが、今回は好都合だ。魔導士から見れば圧縮した魔力をわざわざ(予備)チャージせずに受け取れるのだ。 仮にこれが莫大なチャージ時間を要するなのはのスターライトブレイカ-であっても魔力のフィードバックやデバイス冷却を無視すればカートリッジを使わず10秒毎。エクセリオン状態のディバインバスターであれば1秒毎で速射できる。となれば通常の魔力砲撃など理論上常時照射すら可能なのだ。 クラスAAのウィリアムの魔力砲撃は空冷の影響もあってまるで速射砲の如き驚異的連射速度で撃ち出され、敵を残らず叩き落とした。 ライアンは死角を心配せず、前方の敵にだけ集中すればいいためずいぶん気楽だ。 2人はそのまま分散していた敵を追い回して暴れ回る。そして敵が包囲作戦に移ったと見るや敵中真っ只中で即時転送魔法を行使。脱出した。 突然目標を見失ったガジェットは一瞬棒立ちになる。そこに集中するは後ろに控えた本隊の130(演習参加組80人、特別機動隊50人)近い魔力砲撃だ。 〝たくさん飛ぶ蚊も集まって止まってしまえば叩きやすし〟 はやての発案のもと実行されたこの囮作戦は、なのは達オーバーSランクを含め魔導士部隊だけでもバルキリー隊だけでもできない。双方が手を組んで初めて実現出来る作戦だった。 しかし敵は多い。まだまだガジェットはたくさんいた。だが遂に高空より援軍が到着した。 その援軍は青に塗装されたVF-11SGを先頭に編隊を組んでいる。 『こちらフロンティア基地航空隊。上空のゴーストは掃討した。これより援護する!』 放たれる大量のミサイル。 逆落としに迫るミサイルにガジェットは一瞬にして火葬にされた。 この時、初めて防衛側は優勢になった。 (*) 時系列は戻って演習中止直後 地上では旧市街(廃棄都市)のスタジアムから近い「核シェルター」への民間人の誘導と避難が進んでいた。 しかし出現した陸戦型ガジェットがそれを襲わんと市外から迫る。 そこで総合火力演習に参加していた陸士達は民間人の安全を確保しようと奮戦していた。 陸士部隊の中には約3ヶ月前にリニアレール攻防戦で活躍した第256陸士部隊もいた。 その部隊でも同攻防戦でロストロギアを守りきった第1分隊隊長であったロバート・ジョセフ准尉は昇進し、小隊を任されていた。 彼の小隊はガジェットを市街に入れぬよう市外に広がる森林に防衛ラインを設定。踏み止まって迎撃していた。 「ロバート隊長、北東40メートル先よりガジェットⅠ型が8機、Ⅲ型が1機接近中。」 声を潜めた観測班の報告を受けたロバート三等陸尉は、小隊に指示を発する。 「Ⅰ型には89式かMINIMI(ミニミ軽機関銃)で対応しろ。Ⅲ型は俺が吹き飛ばす。いいな?」 彼の部下は 「了解」 と応ずると散開していく。 第97管理外世界のJSSDF(日本国陸上自衛隊)の装備をまるまるバリアジャケット化した彼らの緑に溶け込む迷彩は、日本型の森の色彩に合って更に威力を発揮。すぐにどこへ行ったか見えにくくなった。 続いてロバートは自らの愛銃である89式小銃に指令を発する。 「『エイトナイン』、ランチャーパック装備」 『Alright.』 89式小銃のハンドガード下にM203グレネード・ランチャー(米軍の装備する40mmグレネード弾発射機)の口径を小さくしたものが生成された。 彼は弾帯に付けられたパウチを探ると1発の弾を取り出す。それはベルカ式カートリッジシステムの大容量カートリッジ弾だった。だが少し違う。弾頭の部分に後付けの信管が着いているのだ。 ロバートは信管を遅発に設定し、ランチャーに装填。草に隠れて伏せ撃ちの姿勢になる。彼の突然の出現に驚いたのか蛙がピョコピョコと逃げていく。その逃げていく先に敵を視認した。 同時にこちらへと進撃するガジェットに向かって部下達の銃撃が始まり、にわかに騒がしく動き回る。 頭の悪い〝あいつら〟は、多方向同時攻撃に対して一瞬パニックに陥るのだ。 (まったく馬鹿で助かる。バジュラじゃこうはいかないからな・・・・・・) 彼は以前の職場を思い出す。 マクロスフロンティア船団の新・統合軍『アイランド3・地上防衛隊』に所属していた彼は、第2形態のバジュラの大群が船内で暴れた際に同船で必死に市民を守ろうとした1人だった。 (しかしなんで脱出挺なんかに避難民を誘導しちゃったかな・・・・・・) 彼はそう考えて思考の脱線に気づいた。 ロバートは邪念を振り払って意識を集中する。そして目標を狙うと発射機の引き金を引いた。 ひゅぽんっ シャンパンの栓を抜いたような音をたてながら、魔力(で発生させた電磁気)によって加速されたカートリッジ弾が発射された。 音はショボいが、その実音速で飛翔するカートリッジ弾は目標であるⅢ型に着弾した。 しかし遅発のためシールドと装甲を破って内部に侵入。そこで強制撃発すると内包する魔力を解放した。 内側から文字通り吹き飛んだⅢ型。そして部下達がⅠ型を撃破したことを確認すると一息入れた。 そして自身のインテリジェントデバイスである愛銃『エイトナイン』に礼をいう。 「いつも補正ありがとな」 『No problem. This is my job.』 「ふっ、生真面目なやつだ」 彼は銃身を擦ると笑いかけた。しかし休憩もそこそこ再び観測班から通信が入った。 「続いてガジェットⅠ型が5、6・・・・・・くそっ!24機!Ⅲ型も7機確認!続々増加中!」 さっきの数程度なら小隊単位で対処できるが、これだけ増えると手に負えない。 「佐藤分隊、吉田分隊、共に後退しろ。ポイントデルタに集合だ。両隣の第4,6小隊にも後退の旨伝えろ」 隊の皆に指示を出すと、自らも伏せ撃ちの姿勢から起き上がり後退する。 バリアジャケットである各種装備(ヘルメットや防弾チョッキ、野戦服)は純正の物より軽く、物理・魔法攻撃に強く、コンパクトにできていた。 そのため例え森林であっても動きに支障はなかった。 (*) 1分後 ポイントデルタ─────つまり旧市街入り口にロバートが到着した時にはすでに小隊全員の集合が完了していた。 周りを見ると両隣だけでなく、森に展開していた第256陸士部隊全ての小隊が後退していた。 しかし幸いなことにどこも戦略的後退で被害はないようだった。 (*) ロバートの部隊はその後市街入り口にて水際戦をやることになった。 任務はできるだけ時間を稼ぐこと。その間に残りの部隊は後方にトーチカ(防御陣地)を設営する。 幸い入り口付近に木はなく、森から入り口までの間30メートルほどが比較的開けているため間を渡ろうとする移動物の迎撃は容易だ。 また、入り口以外の場所は当時戦時中だったためか鉄条網(100年以上放置されても錆びていないことから〝鉄〟製でないため、この表現が正しいかわからないが・・・・・・)が張り巡らされており、実質的な入り口はこの付近では唯一だった。 部隊は入り口の両隣に建ったビルの2階と道路に展開する。 道路は遮蔽物がなかったので、特殊合金のためか100年経っても原型を保っていた車3台を押してきて横倒しにし、盾代わりとした。 車の背後に隠れたロバートは部下がしっかり展開しているか確認する。 今、彼の小隊の全ての89式小銃にランチャーパック(15mmカートリッジランチャー)が装備されている。 しかしこれらは彼らの魔力によって生成したものではなく、工場で生産されたものだ。 魔法で物を生成するにはインテリジェントデバイス、またはアームドデバイスの補助と、クラスB以上のリンカーコア出力が必要なのだ。 だが大半の隊員は量産された安価なストレージデバイスでクラスCの者が多い。 予算が増えても隊員のリンカーコアの出力が上がるわけではない。昔も今も陸士は空戦魔導士と違って泥臭く、大変な職場だ。そうなると空にいるディーン・ジョンソンのようなポストを狙って本局から来た転職組に代表される優秀な人材は陸士にはならなかった。 しかし昔と違って今はミッドチルダの誇る工業力が彼らを支えていた。 ちなみにロバートの装備するインテリジェントデバイス『エイトナイン』は支給品ではなく、彼が大枚叩(はた)いて買った貴重な代物である。 閑話休題。 小隊は4挺のMINIMIと21挺の89式小銃を保有している。MINIMIは面制圧を得意とするため両ビルに配備され、虎視眈々と待ち受けている。 現在ロバートの小隊は道路に13人、両隣のビルに6人ずつ分散配置されており、上手く立ち回れば撃墜組が到着する20分後(撃墜組は演習空域 の外まで転送されていたため時間が掛かる)まで足止めが効くはずだった。 そしてついに、奴等は姿を現した。 ガジェットⅠ型が数十機、一斉に森から姿を見せたのだ。 「撃ち方始め!」 彼の号令が飛ぶと、MINIMIや89式小銃が一斉に火蓋をきった。 魔法の世界とは思えない〝タタタッ〟という喧しい連発音(これはできうる限り微小な魔力で無理矢理電磁気を産み出しているために発生する音で、〝断じて〟設計者の趣味ではない)。 超音速で飛翔する5.56mm徹甲弾によってガジェットは確実に倒され、骸を中間地点にさらしていく。 銃撃が小康状態になった。 どうやら第1波は重武装、重装甲のⅢ型の姿がない事から斥候部隊だったようだ。 時を置かず、次はⅠ型、Ⅲ型の連合部隊がやってきた。Ⅰ型はともかくⅢ型は通常の徹甲弾ではダメージが少ない。 ここで役立つのが新開発のランチャーパックだ。 ロバート達は待ってましたとばかりにⅢ型にカートリッジ弾を撃ち込む。 一番前にいたⅢ型は他の隊員からも放たれたカートリッジ弾数発を受けて擱座。後続もほとんど同じ運命をたどった。 「圧倒的ではないか我が軍は!」 ロバートの部下である佐藤曹長が高笑いながら言う。確かにこの分なら後方のトーチカはいらないかもしれない。そう思い始めたロバートだったが、 こういう快進撃は長続きしないのが世の常だった。 その2へ
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「いったい……何なんだよ?……てぇ!リンカーコア!!!」 しばらく呆然と仮面男をみていたが本来の目的を思い出すと、砂竜に目を向ける。 ビクビクと痙攣ていたが回収には問題なさそうだった。 「よかった……間に合った」 ホゥっと安堵のため息をつくと倒れた砂竜に近づきリンカーコアを回収した。 「あ……」 そこで気が抜けたのかヴィータは意識を手放した。 「む、いかん。トォッ!!」 ジャンプし少女をキャッチする 「どうみても人間の女の子だな……」 ―――魔法少女リリカルなのはA s―S.I.C―帰ってきたV3―――第2話「仮面ライダーだった男」 彼は混乱していた。 いつものように当てもなくこの世界を彷徨い、砂竜を狩る いつか自分を倒せるほどの個体と出会うこと ここ最近はこのあたりで発生した新種を探していた。 ルーチンワークとなりかけた自分が期待していたのがヴィータと戦っていた巨大砂竜だった。 通常の固体よりも強い識別呼称『白い悪魔』 暴れた後には高熱によりガラス化した砂が残っていたことから なんらかのエネルギーを使用した攻撃をすると予想された。 打上げたV3ホッパーからの情報を解析し最大の熱量を探し出し、現場に急行したときにはすでに戦闘が始まっていた。 自分の標的と戦っている者、その相手は可愛らしい衣装を纏った少女だったことに驚きつつも、 とうにこの世界で滅亡してしまった人類の姿をこの異常な事態のなかで目撃した。 「生き残りの筈がない。あんな地獄で……生き残れるはずが……」 核の炎が全てを吹き飛ばしたとはいえ、初めの頃は僅かな生き残りもいた。 しかし、激変した地球環境は人類に優しくは無かった。 ”タスケテ” ”ナンデ オマエダケ?” ”クルシイ クルシイ” ”シニタクナイ” 怨嗟の声を上げながら死にゆく人々をみることしかできなかった自分。 あの地獄ですらこの躯を機能不全に陥らせることができなかった。 生命維持装置、パワー調整装置、その他いくつかの装置は正常に稼動し、平時と変わらないコンディションを保つようにしていた。 あのときほど自分の躯を呪ったことはなかった。 かつてない程の無力感を感じた。 何度倒されても諦めず戦い続けた いくらかましになったとはいえ、今でもこの星は人類が生活できるような生易しいものではない。 そう、彼のような改造人間でもない限り。 だが、Oシグナルの反応では機械的な部分は関知できない 。 「普通の少女だというのか?しかしあの力は……む?これは…」 腕の中で眠る少女へセンサーを稼動させるとやはり違和感を感じた。 さらに精査を行おうとしたその時… 「ヴィータ!!」 桃色の髪を結わえた剣士と、何故か犬の耳が生えた筋肉質の男が宙に浮かんでいた。 シグナムは混乱していた。 定時連絡がこないのはいつものこと(蒐集に夢中になって忘れている)だったが、こちらからの連絡には応えていた。 しかし、今回はこちらがいくら呼びかけても反応が無い、ただでさえ管理局だけでなく妙なやつらもうろついているということが 焦りに拍車をかけていた。そのために念のためザフィーラとともにヴィータがいった世界へ向かっのた。 そこでシグナムが見たものは夥しい砂竜の屍の山と黒煙、そしてその中心にいる仮面男だった。 人間型の生命体が存在しないはずの世界にいる人型の存在。 この世界に人類はいないはずだった。正確にははるか昔に滅亡している。 ならばこれはいったい?この砂竜の屍の山をやつが築いたのか? 実際はほとんどヴィータがやったのだが、この状況ではやつが殺戮者にしかみえなかった。 ふと、その腕に抱えられている小さな姿に気づき思わず叫んでしまった。 「今日は千客万来だな」 「貴様!ヴィータに何をした!?」 仮面男の飄々とした態度にいらつきを隠せず怒鳴った。 「慌てるな、気を失っているだけだ」 言いながらヴィータの体を横たえた 「貴様いったい何者だ?」 「それはこちらが聞きたいな招かれざる客だというのは分っているのだろう」 「……ヴォルケンリッター、烈火の将シグナム」 「盾の守護獣ザフィーラ」 「ヴォルケン、リッター……ドイツ語?」 かみ締めるように呟いた。 「そんなことより貴様は何者だ!」 ククク、と笑い声を上げる シグナムは怪訝な顔で男を見た 「悪いな、”人”と会話をしたのは久しぶりでな、この世界でのただ一人の生き残りとしては、歓迎すべきかせざるべきか……俺の名はV3、か…いや、ただのV3だ」 「V3……?」 「なるほど、見た目どおりただの人間ではないか、存外、戦闘能力も高そうだ」 こちらを品定めをするような様子で見た。 「ちょうどいい、久しぶりに戦い甲斐ののありそうな相手だ……俺と戦え!」 「なにっ!?」 「くっ! ザフィーラ!ヴィータを頼む。私はこいつを抑える!」 「トオオォッ!!」 雄叫びを上げ一直線に電光石火のパンチを打ち込む。 軌道を剣で逸らし、返す刀で切り込むが 「オオオオオオオッ!」 続けざまに打ち込まれる拳をレヴァンティンでいなす。 「V3ィ!」 エネルギーを左腕に集中させる。 「電熱チョップ!!」 赤熱化した左腕を振るいレヴァンティンのガードを弾いた。 「V3パァンチッ!」 がら空きになった胴体めがけて繰り出された拳を辛うじて左腕で防御する。 が、 「ああああああああ!!」 ガードした右腕ごとシグナムは弾き飛ばされる。 「ヤアアアアッ!」 その隙を逃さず、キックを繰り出すが、シグナムは長剣レヴァンティンを振って弾き飛ばした。 V3は弾かれた反動を加えて跳ね、体勢を整えると身を翻して再度蹴りを叩き込む。 「V3ィ!反転キック!」 「がああああああ!」 衝撃を受けきれず、シグナムは砂漠に叩きつけられた。 V3は追撃せずに待つ。 「どうした?この程度か?」 もうもうと噴きあがる砂煙の中から声が聞こえた。 「レヴァンティン、カートリッジロード!」 「Jawohl.(了解)」 レヴァンティンを鞘に収めカートリッジを消費する。 「Nachladen. (装填) 」 ガシュンと使用済みカートリッジが排莢された。 「Schlangeform.(シュランゲフォルム) 砂煙の中から飛び上がったシグナムは変形して連結鎖刃形態となったレヴァンティンから必殺の一撃を放つ。 「はあぁっ! 飛竜一閃!!」 莫大な魔力を纏った炎の蛇の突撃は最早突きではなく砲撃だった。 上空から迫るその一撃を避けることができず真正面から食らってしまった。 「オ、オオオオオッ!!」 大音響と共にV3は爆炎で包まれた。 「はっ!はっ!危なかった。が、これでお終いだ……!?」 息を整え、せめて亡骸を確認しようと煙が晴れるのを待ったシグナムは信じられないものを見た。 爆炎が晴れた先にはV3はそこに立っていた。 両腕を交差させ、完全防御体勢をとっていたが 「馬鹿な!? 直撃だったはずだ!」 自分の技を喰らって魔力も持たないモノが無事でいられるはずがない。 シグナムは知らなかったがV3の躯は脳以外を全て機械化している。 そのため、純魔力攻撃では思ったほどのダメージを与えることができなかったのだ。 思わず呆然としてしまったシグナムに構わず、V3は防御をといて次の攻撃に移った。 「今度はこちらの番だ!決めさせてもらう……ハリケーン!!」 ブオオオオオオオオオオオンンッ!!! 馬がいななくようにあたりにエンジン音が響く。 長年連れ添った相棒。長い戦いの末に共に改造を受け続けたハリケーンは主の呼び声に応え、 砂地をアスファルトと変わらぬ速さで駆けてくる。 「トオッ!!」 V3とハリケーンは同時にジャンプ、高速回転するタイヤに足をつけ反撥。 V3自身の体を高速回転させ超スピードで目標に向かっていくが、シグナムはその軌道を読み回避した。 「甘い!」 しかし、V3はOセンサーで正確に居場所を探り、軌道を変えて直撃コースに載せ変えた。 「なっ!?」 今度は避けきれなかった。 「V3ィィィイ!!!マッハァッ!!!キィィィィィィィィィック!!!!」 猛特訓の末に編み出しツバサ一族の長、死人コウモリを葬り去った文字通りの必殺キックがシグナムの腹部に炸裂した! その瞬間両者は弾かれ、砂の大地に叩きつけられていた。 「………くっ!なんて威力だ…!」 騎士甲冑で軽減されたとはいえ 腹部に手を当ててよろめきつつもシグナムはまだ立っていた バリアジャケットはボロボロになっていたがその役目はしっかりと果たしていた。 本来ならば改造人間を真っ二つにするほどの威力を秘めた一撃を大きく減衰させたのだ。 それでも無視できないダメージを与えられてしまった。 まさかここまでとは……! シグナムは驚愕を隠せなかった。 スピード、パワー共に強力 一撃一撃が、単なるパンチやキックでは無く、自分の体を知り尽くした上で数々の修羅場を潜り抜けてきて鍛えあげた技だ。 リンカーコアは持っていないようだがその不利を補って余りある、いや不利にならないほどの強さだ この男は魔法を使えない、それでもかつて戦ったフェイト・テスタロッサどころか、 自分たちヴォルケンリッター以上の戦士であるかもしれない。 ヴィータはザフィーラに任せたのは正解だった。 言いたくは無いが気絶したヴィータがいてはザフィーラとの2対1とて危なかっただろう。 そんなことを考えていると人影が見えてきた。やはりあの程度では倒せなかった。 砂煙で隠されていたV3の姿が顕になった、胸の装甲が斜めに切り裂かれている。 「ハハ」 V3は笑いを堪えられなかった。 キックのタイミングにあわせてカウンターを仕掛けてきた! 彼女ならが俺の望みを叶えてくれるかもしれなかった。 この永遠の躯に終止符を打ってくれるかもしれない どんなに苦しくとも自殺はできなかった、最後まで戦士であるためだ。 それは、自分の信じたもののために戦った自分の最後を誰かに見届けて欲しいという願望だった。 もう”仮面ライダー”とは名乗れないのだから。 世界の平和と人類の自由を守るために戦う戦士が仮面ライダーだ 己自身の自殺のために戦う今の自分に"仮面ライダー"を名乗る資格はない そして、仮面ライダーは無敵でなければいけない だからこそ自分は戦士"風見志郎"として戦い、死ぬしかないのだ。 そこで、ふと思い出す。かつて恩師との会話を “ オヤジさん・・・だめだ あの怪人は強過ぎるんですよ ” “ でも俺は精一杯やっ ― あっ っううっ― ” “ 俺は無理な事を頼んでいるんだ! ” “ 仮面ライダーV3は無敵で在って欲しい! ” 仮面ライダーは無敵である 唯一絶対の約束を守って今まで生きてきた。 「……わかってるさ、オヤジさん。俺は……仮面ライダーV3は無敵『だった』。だから……もう、いいよな?」 「いくぞ!俺を………殺して見せろ!!!!……騎士よ!!!」 「来い!戦士V3!!」 仮面ライダーだった男、V3! 風見志郎は死ぬために戦う! 両者は再び構える。 次で勝負が決まる。 どちらも自身の最大の技を繰り出す構えを取ったのだ。 だが、そのときだった。 「何!?」 「馬鹿な!?…こいつらは!!」 GLUUUUGAAAAAAA!!!!! 奇怪な雄叫びが砂漠に木霊する。 10や20どころではない、100にも届こうかという数だ。 この世界においての”古代の遺物(ロストロギア)” ミイラの改造人間、不死身の兵たちが砂の中から出現し、2人の周りを取り囲んでいた。 前へ 目次へ 次へ