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―――――私は勇者なんかじゃない。 偶然に世界の命運なんてのを託された、運が悪いだけの一般人さ。 私に任された仕事は、本当は私以上に適任の奴がいるはずなんだ。 例えば伝説の英雄とか、聖なる騎士とか、本当の勇者とか、な。 だが運の悪いことにそいつは現れない。 もしかしたら、はじめっからそんな奴はいないのかもしれない。 だから勇者のふりをするのさ。 強くもないのに、強がりながら。 空が燃えていた。 大地は裂け、炎が荒れ狂い、街を呑み込んでいく。 通りを駆け抜けるのは名状しがたい異形ども。 禍々しい鎧兜を纏った戦士達や、冒涜的な姿の怪物たち。 誰の眼にも明らかだ。 かねてより警告されていた通り『門』が開いたのだ。 そして彼らは『門』を通って、地の底より這い出た存在。 ――極めて古典的な名前で呼ぶならば、 『悪魔』 そう形容されて然るべきものであった。 多くの住民が家に閉じ篭って全てが終わるのを待ち、 或いは逃げるのに間に合わず、悪魔どもに無残にも殺されていく。 そんな中、ただ一つの目的を持って駆け抜けていく者がいた。 男だ。男が二人。 1人は様々な苦脳を秘めた厳しい面構えの、平凡な男。 身につけた衣服は僧侶か何かを思わせる、装飾の少ないそれだ。 目前に立ちはだかるのは、つい先ほどまで市民を貪り食っていた怪物ども。 その数は1匹や2匹ではない。あまりにも多すぎる。 「ダメだ、此方の道は奴らが多い! 回り道を――」 「そんな時間があるものか! マーティン、私が切り開く!」 その男――マーティンと呼ばれた男の脇を、一陣の風が擦り抜ける。 身を低くして一瞬にして通りを走り抜けたのは、まるで影のような男だった。 黒い鎖帷子を纏い、頭をすっぽりと外套で覆った彼は、手にした武器を振り抜く。 片刃の長剣――遥かな東方から伝来したと言われる、切れ味の鋭い代物である。 皇帝直属の親衛隊のみが携帯を許されるそれを持っているという事は、この影は親衛隊なのだろうか。 そう思う者がいるならば、あえて言おう。答えは断じて否だ。 護ることよりも殺すことに長けた剣、とでも呼ぶべきか。 およそ真っ当な剣術ではない。どれほどの敵を斬れば、このようになるのだろうか。 断じて、親衛隊などという組織に所属する者の剣技ではない。 凄まじい速さで縦横無尽に振るわれた刃が、次々に怪物どもの命を刈り取った。 彼らは男の攻撃を受けるまで、その存在に気付くことすら無かったのだろう。 あまりにも呆気なくバタバタと斃れ、屍を晒した。 だが、それで終わりではない。 終わりの筈がなかった。 騒ぎを聞きつけた鎧武者達が、具足を鳴らして迫り来る。 その数は遠目に見ただけでも――あまりにも膨大だ。 男は躊躇しない。 マーティンを背に庇い、悪鬼どもを睨みつけ、叫ぶ。 「行け、マーティン! ここは私に任せて、お前はアミュレットを神殿へッ!」 「しかし……ッ!」 「馬鹿者ッ! お前が死ねば其処で終わりだが、お前が神殿につけば此方の勝ちだ! 何も奴らを殲滅するわけではない。『門』が閉じるまでの間だ。 お前の鈍足でも、どうせ五分かそこらだろう。安心しろ。その程度ならば防ぎきってみせる」 マーティンの顔に迷いが浮かんだのは明らかだった。 それなりに長い付き合いだ。この人物の心根の優しさは、よく知っている。 だが、彼は影のような男を見やり、そして押し寄せてくる悪魔どもを見やり、 その全てに背を向けた。 「…………感謝する。アルゴニアンよ。君は、良き友だった」 「ああ。そうとも、マーティン」 「……」 「お前は良い友だった」 会話はそれで終わった。マーティンは走り去り、影は残る。 そうして影は外套の内側で薄く笑うと、それを跳ね除けた。 露になったのは人の頭ではない。似ても似つかぬ蜥蜴の其れだ。 アルゴニアン――辺境に多くが暮らし、帝国人から忌み嫌われる種族。 遥か昔には奴隷として使役された事もあるアルゴニアンだったが、 それでも尚、彼は人々が好きだった。 何よりも、あのマーティンという男は気に入っていた。 躊躇わずに命を賭け、こんな場所にまで付き合うほどには、だが。 刃を構える。 なぁに、不可能な事ではない。難しいことでもない。 このくらいの窮地ならば、過去に幾度となく乗り越えてきた。 「さあ来いデイドラどもッ! 生きてれば一度は死ぬものだッ!!」 アルゴニアンの挑発に対し、悪魔――デイドラの軍勢が雄たけびを上げた。 そして幾度と無く彼らの野望を打ち砕き、今この戦いに終止符を打とうとする男を滅ぼすため、 幾百ものデイドラがこの路地へ押し寄せ、そして―― ――――世界を光が包み込んだ。 ――五年後。 新暦68年 某月某日 日本 海鳴と呼ばれる土地。 深夜。時計の短針が十二を通り過ぎ、一を示す頃合。 喫茶店『翠屋』には多くの人物が集まり、そして眠っていた。 ある者はカウンターに突っ伏すようにして、 ある者はテーブルの下で丸くなり、 ある者は大きな犬にしがみついて。 『高町なのは復帰記念パーティ』 ようやく復帰した少女――彼らの大事な存在の帰還を祝うため、 殆ど朝から晩まで騒いだ結果が、これである。 「もう、みんな酷いなぁ……。好き勝手に騒いで、勝手に寝ちゃうんだもん」 「仕方ないよ、なのは。それだけ皆、なのはが帰ってくるのを待ってたんだから……」 「うん、それは……わかってるんだけど、ね」 今起きているのは、この二人。 主賓である高町なのは。 そして彼女の一番の親友であるフェイト・テスタロッサ・ハラウオン。 悪戯っぽく笑いあいながら、幸せそうに眠りこけている仲間達を見やる。 本当に幸せだ。 自分達には家族がいて、友達がいて、仲間がいて。 こうして何かにつけて祝って、騒いでくれる。 だが、それもしばらくは見納めだ。 「なのは、その――」 「もぅ、心配性だなあフェイトちゃんは! クロノ君もだけど……。 ひょっとして、お兄ちゃんに似た、とか?」 「なのはぁっ!」 にゃはは、と笑って誤魔化すなのはを、フェイトは怒りながらも心配そうに見つめた。 彼女がとてつもない大怪我をしたのは、一年前になる。 だが、一年もかけねば治らないほどの負傷だったのだ。 そして――まだリハビリを終えたばかりなのだから。 「私のことなら気にしなくて良いよ、フェイトちゃん。 もうすっかり元気だし、前みたいな無茶はもうしない。 それに――フェイトちゃんの執行官試験の方が大事なんだから!」 そう、執行官試験。 今まで二度受けて、フェイトは二回とも不合格になっている。 本人は頑なに否定するだろうが、なのはの事故が影響しているのは間違いない。 だが――……だからと言って、果たしてこのような事になっても良いのだろうか。 ―――――話は数日前、高町なのはが退院する、その直前にまで巻戻る。 退院準備の為、荷物を鞄に纏めていた彼女とフェイトの前に、クロノ・ハラウオンが現れたのだ。 勿論、彼にとって最も大切な目的は、友人であるなのはの退院を祝う事だったが、 それ以外にもう一つ、極めて重要な用件を抱えていた。 「「タムリエル?」」 「そう、第23管理外世界。現地の言葉で『タムリエル』と呼ばれている。 文明ランクは――地球やミッドチルダよりもだいぶ低い。中世クラスだろう。 ただ魔法に関しては正直想像がつかない。これまで、さして注目もされてなかったからね」 「これまで、って事は……今は注目されているの?」 ああ、とクロノは頷いた。 タムリエルは地球など他管理外世界と同様、次元宇宙に接触する技術を保持していない。 そう思われていたのだ。――これまでは。 「事件が起きたのは新暦63年。なのはやフェイトと逢う二年前だ。 タムリエルで大規模な次元震が確認された。 その規模は――恐らく、史上最大。 まず間違いなく『二つの世界が完全に繋がった』ような状態だった筈だ」 それほどの大事件でありながら、事件の詳細は確認されていない。 いや、できなかったのだ、とクロノは語った。 「次元震動が確認されてから一時間と経たず、それは消滅してしまったんだ。 単なる偶然なのか、或いは人為的なものなのか、まるで判らないまま。 そして、その後の調査も不可能だった。 結界……とでも言うのかな。外部からの干渉を遮断するバリアが張られていたのさ。 まあそんな事が可能な魔法技術があったなんて思いもよらなかったから、 管理局のこれまでの調査が如何に杜撰だったか、って問題にもなったけど、 とにかく、その世界への干渉は不可能だったんだ。ところが――三日前に、そのバリアが消滅した」 「それって……つまり、また同じ事が起こるかもしれないの、クロノ君?」 「ああ、そうだ。これは極めて重大な調査になる」 「でも、何で私と、なのはにその話を?」 「……つまり、なのは。君のSランク取得試験内容は『管理外世界タムリエルの調査』。 そして、フェイト。君の執行官資格試験もまた『管理外世界タムリエルの調査』なんだ」 ――魔法少女リリカルなのは The Elder Scrolls 始まります。 目次へ 次へ
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覚悟を選びて半年後、またも倉庫の暗闇に逆戻りとは。 解き放たれた戦略兵器を恐れるは当然。 時空管理局の封印処置もむしろ全面的に支持するものなり。 我らが瞬殺無音、盗み取ろうとするものはとり殺すのみなれば! だがこれしきで、覚悟の強さを封じられたと思うたか。 覚悟の強さは我らの強さにあらず! そして今、目に見えぬさらなる超鋼をまとっておるなり! 我ら、ただ再び目覚めるその時を待ち続けるのみ。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第六話『葉隠禁止(後編)』 『零細胞より酸素緊急供給! 同時に造血開始!』 覚悟くんの身体がすごい勢いで回復していくです! 『すごいです、零(ぜろ)! すごいです、強化外骨格!』 『当然なり! 我らこそ覚悟と一心同体! 初心のきさまに遅れはとらぬ!』 「零(ぜろ)、リィン、おれの戦闘可能時間は?」 …と、覚悟くんが聞いてきたですね。 おしゃべりしてる場合じゃなかったです。 一足先に零(ぜろ)が答えてくれました。 『目下、緊急加療中なり。 十分…否、五分以上の交戦は避けよ』 「五分以内に幕引き了解!」 やっぱり覚悟くんに後退の二文字なしですね。 なら欠損した脳細胞機能、リィンが必死でカバーしなきゃです。 激しく動き回ってる最中にズッコケたら大変ですから。 『リィンよ、零細胞が脳を補填するまでの間、頼んだぞ!』 『頼まれたです!』 『それにしてもなんたる失態! 覚悟ともあろうものが、きさまの手を借りねば戦えぬまでに打ちのめされようとはな!』 『…………』 なんで、つっかかるですか? 『帰り着いたら今一度、戦士の心得なんたるかを問い直させてもらうぞ、覚悟!』 「合点承知なり」 『必ずだぞ、忘れるな、覚悟よ』 「了解」 秒速270mのスピードで外に飛び出す覚悟くんに、 ぶっちゃけ零(ぜろ)はちょっとしつこいと思ったです… 「ぶああああ~ しつこい! 今日はもう店じまいだよ~」 でも、このオバケには、しつこくしなくっちゃダメですね。 放っておいたら、また誰か死んじゃうですから。 バカでっかい身体をずかずか這わせて、こっちにカメラ向けてきたです。 真っ昼間の遊園地に、こんなヘンなの、場違いです、粗大ゴミです。 「だからぁ~ また来てね~~」 「否! 本日限りにて閉店なり!」 「オフで撮るのは女の子だけだぁ~」 「ならばおれが写してやろう! きさまの真に撮るべきものを!」 キマッてます、カッコいいです、覚悟くん! けど、そうは言っても、どうするですか? これはいちおー、聞いておかないと… 『覚悟くん、零(ぜろ)、まわりにはまだたくさん人がいるですよ?』 『なるほど、敵方の熱線砲、回避すれば流れ弾にて大被害と言いたいか! 見かけによらず頭は回るようだな、リィン!』 『見かけは関係ないです、なんでつっかかるですかーっ、ドクロ軍団』 なんでいきなりこんなふうにムカッとくることばかり言うようになったですか。 もしかして、リィンのおうちからケリ出したのをネに持ってるですか? おうちを間違える零(ぜろ)の方が悪いですよ、あれは。 どれだけビックリしたと思ってるですか… そ、そんなことよりアイツのカメラですっ。 『とにかく、そういうことですけどーっ』 「了解、ならば問題はない」 『でも、よけられないですよ?』 「おれと零(ぜろ)にはむしろ好都合!」 『刮目して見ておれ!』 ビシッと構えて動かない覚悟くんです。 なんだか楽しそうですね、零(ぜろ)。 ちょっと、気持ちはわかるですよ。 はじめてマイスターはやてと一緒に戦えたときのリィンと、きっと同じだと思うですから。 ひどい実験から零(ぜろ)が生み出されたことは聞いたです。 そんなことを二度と許さないために、実験に殺されたみんなが意志になって宿っているのが零(ぜろ)だっていうことも。 そんな痛さ辛さをわかってくれた、零(ぜろ)のために泣いてくれた覚悟くんをマイスターに選んだことも。 そんな人のために戦えるのなら、うれしくないわけないですね。 「しょお~がないから撮ってやる 本日最後の 熱 写 暴 威 」 「生涯最後と修正せよ!」 来たです、怪人のカメラビーム。 覚悟くん、零(ぜろ)、全然よける気なしです! なら何か、プロテクションとか、そういうので防御する気ですか? する気なしです! 腕を広げて大歓迎です! リィンと一緒に真っ黒焦げです、バーベキューです! 信じていますとは言ったけど、正直これはキッツイです! …とか、思ってたら、覚悟くん全然無傷です。 零(ぜろ)も平然としてます。 『ど、どうなってるですか?』 『節穴だな、リィン! 目に見えなくば音に聞け!』 『…あ』 気づいたです。 ジュージューブスブス音が鳴ってます。 覚悟くんの目を通して見えました。 腕や足の装甲が真っ赤に光って… 全 身 赤 熱 『彼奴の熱線砲の出力、すべて我がものとして流用したのだ!』 『だ、大丈夫なんですか、こんなことして』 『もとより我らが機能なり、一切無問題のこと』 少し得意げに零(ぜろ)が話してるところに、オバケが近づいてきました。 「いいね~その色 今頃中身は真っ黒焦げかな~」 オバケは覚悟くんが死んじゃったと思ってるみたいですね。 たしかに普通はそう思うですね、多分。 「これがきさまの撮影行為か」 「…ななっ、なぁぁ~~っ?」 カメラ怪人がビックリ怪人になりました。 拳を固めた覚悟くんが腰を引くのを見て、 あわてて逃げて行こうとしてるですけど、どー見ても遅いです。 「ならば当方にも撮影の用意あり!」 「きゃあああ~~~っ プライバシー侵害反対…」 「 因 果 !!」 特大が、極まったです。 「あッぶるッ?」 弾かれるみたいに地面から飛んだ覚悟くんの拳が怪人の顔面にめり込んで、 燃やしながら全部バラバラにブチまけたです。 どこが撮影なんだか、リィンには全然わかりません。 でもいいんです、覚悟くんカッコイイですから。 「おのれの醜さもわからぬものに芸術を云々する資格はあるまい!」 …できれば、もうちょっと…いろいろと飛び散らない倒し方にしてほしかったですけど。 でもこいつ、人間だったですかね? 今頃になって気になるです。 「南無」 『南無』 『…ナムです』 死んだ人がユーレイになったりしないように祈ってあげるです。 はやてもたまにやるですから、リィンも知ってるですよ。 『次に生まれてくるときは、ヒトを食べたりしないでくださいです』 「そのための因果。 地獄で魂を清めてくるがいい」 覚悟くんが、後ろに振り向いて構えました。 リィンも零(ぜろ)も気づいてるです。 ガジェットがあちこちから覚悟くんの回りを取り巻いてるです… 『覚悟くんが狙い、ですかぁ?』 『否、それでは常に監視を受けていたことになろう。 敵意の視線に気づかぬ覚悟ではない!』 『じゃあ、いったい』 「関知せぬ。 いかな企み背後にあろうと、平和への敵意に他ならぬなり!」 『…ですね!』 「邪心には因果あるのみ!」 『です!』 ぱっと見だけで標準型のガジェット八体。 囲まれちゃうと楽勝にはちょっときついんですけど。 「零式、積極! 直突撃(じきづき)! 肘鉄(ちゅうてつ)! 手甲(しゅこう)! 掌底(しょうてい)! 肉弾(にくだん)! 膝蹴(ひざげり)! 延髄(えんずい)! …踏破(とうは)!」 足が地面を蹴ったと思ったら、あとは流れ作業の覚悟くんでした。 瞬殺です。 リィンもユニゾンしてなかったら目で追えなかったと思うです。 AMF(アンチ・マギリング・フィールド)があってもぜんぜん関係ない覚悟くんは 普段でもガジェットを素手でボコボコ壊して回るんですけど、 零(ぜろ)を装着したら、そんなもんじゃなかったですね。 ド カ ァ ァ ァ ン 最後の一体を踏みつけて飛んだと同時に、全部一緒に爆発したです。 覚悟くんすごいです、ヒーロー番組です! …けど。 『まだ来るですよ? 四、五、六…』 「すなわち一網打尽」 『だが制限時間は残り一分! それ以上は後遺症の恐れありと知れ!』 「悪質玩具の始末など、三十秒で釣りが来る!」 『それでこそ覚悟!』 ほんとは今すぐ倒れてもおかしくない覚悟くんなのです。 ものすごく強い精神(こころ)があるから、身体が壊れそうでもへっちゃらで動き回るですね。 今のリィンは一心同体ですから、わかるですよ? だから、ちょっとした独断行動です。 覚悟くんと零(ぜろ)が、ボッカンボッカン壊してるスキをついて… ボッカンボッカン壊してやってくるヘンなヤツがいます? こっちにシャカシャカ走ってきてるです? 「また遅刻しちゃったー」 今度は女のヒトみたいですけど、やっぱりデカイです。 手がたくさんあって、虫みたいな足もたくさんついてて、 お腹が顔になってて… そんなことより、腰(?)につけてる四つのポシェットの中身。 …ヒトの、首です。 苦しそうな顔をした生首が、ぎっしり詰まってるです。 「またも怪人!」 『玩具と交戦するとは、別組織ということか?』 「あれ、激写(うつる)やられちゃったのー? アハハごめーん あたしダメなのよ B型だから」 「…疾(と)く答えよ。 きさまの所属組織、そして、きさまの所持する鞄の中身」 覚悟くんがにらみます。 リィンだってにらむですよ。 ヒトが死ねば、誰だって悲しいんです。 たとえ関係ないヒトだって。 それを、こんな、ヘラヘラしてるのは、許せないですよっ… 首だけにされた人達を見るにも、さっき覚悟くんが倒した怪人のバラバラ死体を見るにも… ヒトが死んだ姿を笑いものにするやつは、許しちゃいけないです。 ゼッタイです。 「もぉ~ こまかいこと気にしないの あなたA型でしょ? 几帳面なヒ・ト」 覚悟くん、無言で構え。 リィンも、無言で構え。 『我らと同じ怒りを抱いたか、リィン』 『…はいです』 『なれば我ら、心はひとつ!』 悪 鬼 討 滅 覚 悟 完 了 『でも、覚悟くんはオヤスミの時間なのです』 「…なに?」 『覚悟くんだけが覚悟完了じゃないですよ?』 リィンが呼んだ、みんなが来たです。 リィンだけじゃないのです。 みんなの心がひとつなのです。 右と左から来る爆発音を聞くですよ。 ガジェットの破片をぶちまいて最初にやってきたのは… 「世話を焼かせるヤローだな!」 「ヴィータ!」 「病人は下がって見てな、あたし一人でも充分すぎる」 その後ろから迫ってきてたガジェットを鉄拳でぶっ壊したのは… 「それは無しだ、ヴィータ」 「余計なことしてんじゃねーよ、ザフィーラ」 「おまえがそれでどうする! そこの覚悟を戒めに来たのだろうが」 「…ちっ」 ヴィータちゃんのグラーフアイゼンが鉄球を打ち込むたび、ザフィーラがひとつ跳ねて殴るたび、 残り少なくなったガジェットが、あっという間に消えていくです。 覚悟くんに、手出しをするヒマなんかあげません! 「あ、あ、あ、あなたたち、あたしぬきで話進めてんじゃないわよぉ~ B型のあた~しは、とって~も短気なのォ~!」 「貴様など知るか!」 「おひょっ?」 怒り出した怪人は、ザフィーラに振り向かれもせずバインドされました。 鋼(はがね)の軛(くびき)でグサリグサリ。 光のトゲで地面に縫われて、もうピクリとも動けませんね! 我に返った覚悟くんがトドメを刺そうと拳を振り上げます…が、やさしく掴まれて止められました。 後ろからきたシャマルにです。 となりには、シグナムもいます。 「葉隠覚悟、おまえは半年もの間、我らと共に何を見ていた?」 「…平和を! 守るべきものを!」 「そうか。 ならば我らと同じだが、ひとつおまえは読みが浅い」 つかつか歩いて、怪人に向かっていくシグナムを、覚悟くんは見ています。 握った拳はまだ下ろさずに、じっと、後ろ姿を見ています。 「八神家で寝泊まりし、我らと共にあった時点で、 すでにおまえの生命はおまえ一人のものではない。 おまえが決死に臨んだとて、我らがそれを縛るだろう。 おまえの生命は我らのものであり、はやてのものであるからだ」 『血迷ったことを! 覚悟は誰のものにもあらず!』 「知っているぞ零(ぜろ)! 知っているとも…だからこそ! わかるように言ってやろう…いいか?」 抜きはなっていたレヴァンティンを鞘に収めて、シグナムは言いました。 「おまえは不滅だ。 我ら四騎が、おまえの死を決して許しはしないのだから。 おまえが誰のために戦おうとも、我らの勝手は変えられまい? だからな…」 少しだけ顔を振り向かせて、小さく笑ったです。 「あまり、一人で格好つけるな。 くさくて見ておれん」 「………」 覚悟くん、なんともいえなくなっちゃったですね。 握った拳がほどけたところに、シャマルが治癒魔法をかけ始めました。 ガジェットはもう全滅してます。 ずいぶん静かになったです。 あと、うるさいのは…アレだけです。 「うげげっ、うごけなひ…うごけないけどB型のあた~しはこりない女! わざわざ剣をしまっちゃうなんて、あなたもマイペースのB型…」 お腹についてる顔の口からシグナムに向かってゲロ吐いたですけど、 単にエンガチョなだけで終わったですね。 すでにシグナムは空中ですよ? 「貴様など わが剣の錆となる価値すら無し!」 跳躍、空中、開脚、捻転 ――― 破!! 魍 魎 轟 沈 し ず め ばけもの (かかと おとし) 「いざべら!!」 …まっぷたつ、です。 ポニーテールをなびかせて空中をひらひら舞ったシグナムのカカトが最後にぎゅんと音を立てて、 怪人の頭をまっぷたつに裂いてまき散らしました。 何ごともなかったように着地して、こっちに戻ってきたシグナムは、 またちょっぴりだけ笑って、覚悟くんと健闘を称え合ったです。 「道の先達に未熟な技を見せつけるほど、みっともないことも無いが… 私の蹴りも、捨てたものではないだろう?」 「あなたほどの者ならば、魔法に頼らずともいずれ!」 「すまんな、これが我らの研ぐ牙だ」 「今一度、立ち会いたくなった」 「一度と言わず何度でも来い。 今までそうしてきたようにな…だが」 そこで言葉を切っちゃって、アゴでくいっとシャマルに合図。 まかされたシャマルが後を継いだです。 「今は、ゆっくり、おやすみなさい。 静かなる風よ、癒しの恵みを運んで…」 もう、完璧に戦いは終わりました。 安全です。 数分して、覚悟くんはその場に座り込んで気絶しました。 シャマルの静かなる癒しに包まれながら… 『戦士の休息を認める!』 おやすみです、覚悟くん。 「…おやすみな、覚悟君」 「はやて」 「ごめんな、覚悟君、ごめんな…」 六日後、おれの目覚めをまずは喜んでくれたはやては、 共に悪い知らせを携えてもきた。 強化外骨格、零(ぜろ)の厳重封印、正式に決定さる。 超鋼着装せしおれの戦力判定は、魔導師に換算してSSに達していた。 魔力なき人間にこれほどの威力を発揮させる存在に、管理局は危機感を抱いたというのだ。 「わたし、零(ぜろ)を守れへんかった。 持って行かれるのを、だまって見てるしかなかった」 管理局の手に零(ぜろ)を引き渡したのは、他ならぬ、はやて。 もはや彼女には管理する権限の無きゆえに。 …すなわち。 「何を泣く。 はやて」 「…覚悟君?」 「零(ぜろ)は、征くべき場所へ打って出たのだ! おれたちは急ぎ追いつかねばならぬ!」 零(ぜろ)はすでに高き権限なくば触れられぬ位置にあり。 なれば、何を為すべきかは決まっていよう。 おれはすでに決めているのだ。 はやて、あなたはどうか? 「……ははっ」 少しの間、呆けたように沈黙したはやては、 思い出したように笑い出す。 「あははっ、はははははっ」 快活なる笑み。 将たるもの、そうでなくてはなるまい。 さもなくば、ついてくる者もついてこぬ! 「…せやな! 寂しがって泣いてたら、零(ぜろ)に笑われるわ!」 「それでこそ、はやて!」 「うん!」 湿気った空気は一掃。 決意はからりと日本晴れに限るなり! 「三年や!」 「三年!」 「三年で、わたしの城をつくる。 時空管理局の一角を張る、わたしの部隊や!」 幾度か聞いたはやての夢。 助からぬ人々を助けようという理想。 それは今この場にて、現実となるを約束されたり。 そして、おれも。 「旅に出る!」 「旅!」 「葉隠一族のとるべき道は、平常心にて死ぬことに非ず。 非常心にて生き抜くことにあるなれば!」 「家族ごっこは、今日で終わりやな」 「忘れえぬ安らぎであった。 次に共に立つときは、ただ一介の戦士として!」 戦士、はやてに敬礼。 かりそめの家族は、もはやこれまで。 おれが背負うのは父の拳と誅すべき鬼(あに)! …だが、そんなおれの両肩に手を置いて、はやては言ったのだ。 「じゃあ、最後にひとつだけ、お姉ちゃんぶらせて、な?」 「…了解」 「ええか、これから先、これだけは絶対に取り消すことはあれへんで。 葉隠、禁止や」 「葉隠禁止?」 「覚悟君だけの生命やないねん」 おれの胸を、彼女の平手が軽く叩いた。 「ここにあるのは、みんなの生命や。 高鳴っているのは、みんなの、鼓動や」 「………」 「感じた?」 ―― 感じる。 高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラウオン、 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ…むろん、八神はやて、あなたも。 束の間出会った人々も… クロノ・ハラウオン、ヴェロッサ・アコース、 そして…あのときの空港火災、瀕死のおれに、螺旋に打ち勝つ力をくれた、あの父、あの少女! 「背負いし生命、確認! 宿りし熱き鼓動、確認!」 「うむ、ええ子や! これにてお姉ちゃん終了!」 「次に出会えば、共に戦士!」 「歩く道は違うけど、目指す先は同じや」 「また会う日まで、さらば!」 病み上がりとて問題なし、思い立ったが吉日なり。 病室から立ち去るおれを、はやては黙って見送ってくれた。 しかし、見送りはそれのみならず。 病院一階ロビーより外に踏み出せば、そこには、 なのは、フェイトに、八神家の面々。 「なんとなく、こんな気がしてたんだ」 「なのはに黙って出て行くのは無理だよ、覚悟」 苦笑するフェイトに、なのはもうなずく。 「止めるのか、おれを」 「違うよ、見送りに来たの。 それにシャマルさんが、旅に必要なものも多いだろうって」 「急いで用意したから、水筒と磁石とシートくらいしかないけど… あと、お金、いくらくらいいるかしら…」 「これを持っていけ、覚悟。 これを見せて私の名を出せば、聖王教会に渡りをつけることができるだろう」 「あ、私からはタオル…清潔にしなきゃダメだよ? クロノもそうだけど、男の子はすぐ臭くなっちゃうから」 「リィンからはお布団です! でも覚悟くんにはハンカチですねぇ…」 皆に囲まれる、おれ。 申し訳ないが、失笑を禁じ得ぬ。 まさにこれゆえに、おれはここを離れねばならぬのだから。 「すまぬ、皆。 皆がやさしすぎて、おれには持ちきれぬ。 少し、身を軽くしたく思うゆえ、厚意を粗末に扱う無礼を許してくれ」 「…そうか、ならば何も言うまい。 私は身ひとつで行くおまえを信じよう」 そのようなおれに対し、シグナムの言はすでに皆の総意であった。 …ただ一人を除いては。 「あたしは信じてねーんだよ」 「ヴィータ…」 「だから、これ、貸す。 貸すんだからな?」 進み出たヴィータが差し出したのは、どうやら、うさぎのぬいぐるみ。 おれにはやや理解しがたい面妖な風体だったが、 その古び方は、長年大事にされた証しでしかありえぬ。 「ぜってー返せよ。 返さなかったら…殺すかんな」 「…了解した、生命に代えても返却しよう」 またひとつ、心を預けられてしまったか。 確かにおれだけの生命ではないな! どこまで行こうが逃げられぬ。 おれをからめ取ったのは、そういう宿命! ならば、覚悟完了するまで! 皆に背を任せ、おれは起つ――― ――― そして、月日は流れる! 前へ 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第3話『設立、機動六課』←この前の話 『マクロスなのは』第3話その2 (*) その後ヴァイスのフランクな性格が功を奏し3人で仲良く話し込んでいたが、クラエッタの方は彼女の友人でありロングアーチ分隊の通信士を務めるというルキノ・リリエ二等陸士と共に他の所へ行ってしまった。 そこでヴァイスと話を弾ませていると、こんな話題が登った。 「―――――おまえのバルキリーだったか? あれには敵わんが、俺にも遂に新鋭機が回って来たんだ」 「ほう・・・・・・どんな?」 「いままで乗ってたちゃっちい小型ヘリじゃねえ。輸送ヘリでな、デバイスとのリンクで飛躍的に機動力があがるんだ。 これならランカちゃんやなのはさん達を運ぶのに安心だ。それになんでもPP・・・・・・何とかってバリアが張れるらしい」 「なに?」 一瞬OTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス)のPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)だろうか?と危惧したが、それを問う前に人が来た。 「早乙女先輩!」 そう呼びながら近づいてくる2人組。こちらを呼んだ青い髪をした少女には見覚えがある。あの襲撃のとき敵に囲まれて進退極まっていたスバルという管理局の少女だ。 それを見たヴァイスは、 「じゃあ、また」 と言い残し、サッと姿を消す。 「お、おい!ったく・・・・・・」 気がまわるのも、時たま罪だ。 「早乙女先輩、あの時はありがとうございました!」 深々と頭をさげる青髪の少女。それを隣のオレンジ色の髪をツインテールにした少女は、そのあまりの元気のよさにあきれたのか微笑を浮かべながら見守っている。 「あたし、スバル・ナカジマっていいます!コールサインはスターズ3です!」 「あぁ、よろしく。あと、早乙女はやめてくれ。アルトでいいぞ」 「はい!」 (ほんと元気なヤツだな・・・・・・) ランカとはまた少し違う彼女の元気のよさに、少々感心しながら挨拶を返す。その時、スバルの同僚がじっとこちらを凝視していることに気づいた。 どうやら彼女が見ているのは、上着の内側に掛けられた拳銃らしい。これはSMSが護身用に配給した5.45ミリ『SIG-2000』というもので、バイナリー(二液混合)火薬式の質量兵器だ。しかし今はアルトの魔力で電磁気を作り出し、それによってゴム弾を高速で打ち出すレールガンのような非致死性の魔導兵器に改良されている。 ちなみにVF-25のガンポッドも現在この方式に改良されている。 「・・・・・・スターズ4のティアナ・ランスター二等陸士です」 明らかに不満のあるように名乗り、敬礼すると、答えも聞かずスバルを引っ張って行く。 「え?ちょっとティア、今のはマズイよぅ~!」 というスバルの悲鳴が聞こえるが、ティアことティアナは我関せずとばかりに立ち去る。 スバルは申し訳なさそうにこちらに頭を下げると、彼女を追っていった。 (お、俺が何をした!?) 百戦錬磨のアルトの頭の中は、ゴーストV9に狙われた新人バルキリー乗りのような恐慌状態に入っていた。 (最初から機嫌が悪かったのか?いや、スバルを見守るティアナは確かに笑ってたよな・・・) そしていくつかの可能性が脳内会議で上がるが1つ1つ消えていき、やがてそれは堂々巡りになる。 その思考から抜け出せたのは誰かが彼の肩に触れたからだ。 振り返るとそこには心配そうにこちらを覗き込むなのはの姿があった。 (*) 「そっか・・・・・・ごめんね。ティアナは、こういう質量兵器が嫌いなの」 事情を聞いたなのはの手が、アルトの懐に鎮座する拳銃に当てられた。 「昔彼女には、地上部隊の空戦魔導士・首都防空隊にいたお兄さんがいてね。両親を早くに亡くしたから、ずっとそのお兄さんと2人暮らしだったの。でもある時お兄さんが質量兵器を扱う商人の大捕物をして、お兄さんをその時に・・・・・・。でもね、根はいい子だから、ゆっくりでもわかってあげて」 なのははそれだけ言うと、 「ね!」 とウィンクして立ち去った。 しばらく立ち尽くしていたアルトだったが、一通り挨拶してまわると、自らの愛機の待つ格納庫へ向かった。 (*) 外は既に日が暮れ、空はあかね色に染まっていた。そして風に乗ってやってくる心地よい潮の香り。しかしそんな美しい空も香りも、この胸のうちを快晴にすることはできなかった。 アルトは胸に焼き付く悶々とした気持ちを飛ぶことで解消したいと思ったが、それは無理だった。EXギアがあの襲撃事件からすぐ、地上部隊の技研(技術開発研究所)に送られてしまっているからだ。 VF-25は格納庫で眠っているが、EXギアなしで操縦するのは不可能だった。 フロンティア船団の新・統合軍が装備するVF-17をデチューンした現主力人型可変戦闘機VF-171『ナイトメアプラス』であれば、EXギアなしでも何とかなるが、マニュアルのVF-25では真っ直ぐ飛ばす事すら難しいだろう。VF-25はそれほどのじゃじゃ馬だった。 ちなみに先の設立式では、実はアルトは民間機よろしくあらかじめプログラムしたオートパイロットの見張り役とミサイル(花火)発射のボタンを押しただけで〝自由に飛ばした〟わけではなかった。ヴァイスへの返事がおざなりになったのもそのせいだ。 空を1週間も飛べていない事と、さっきのティアナの事が重なり、更に彼の胸の内を悶々とさせた。 「アルトくん!?」 そんな時に声をかけてきたのは、シャーリーの愛称を持つ、六課の管制及び技術主任だった。 彼女とは、バルキリーの改修でよく相談するため、比較的顔を合わすことが多かった。ちなみに、先のレールガン型の発射方式を考案したのも彼女だった。 どうも予想外の遭遇だったのか落ち着かない様子で、目を逸らしてもじもじしている。しかし何かを決意したように口を開く。 「あのね、EXギアのことなんだけど・・・・・・」 アルトの長年の役者のカンが、一斉に非常事態宣言を発した。『彼女はこれからそのEXギアに関して物凄く嫌なことを言うであろう』と。しかし次の問いを出さずにはいられなかった。 「・・・・・・どうしたんだ?」 「実は・・・・・・」 彼女の視線が、VF-25の入った格納庫とは違う格納庫で止まる。確かあそこはヴァイスの新型ヘリが入ることになっているはずだが・・・・・・ 彼女に促されるまま格納庫のドアを開ける。 なんにも見えないぞ」 外の明るさに慣れた目は格納庫内部の弱い光を感知しなかった。 「ごめん。今電気点けてくるから・・・・・・」 外に設置されている配電盤のところへ行こうとしたシャーリーだが、一瞬立ち止まると、 何があっても、絶対に驚かないでね!」 と言い残し、今度こそ出ていった。 (おいおい、何があるってんだよ・・・・・・) 不安と暗闇の中待っていると、突然辺りが閃光に包まれた。 アルトは目が慣れるのを待つと、目の前に鎮座する多数の用途不明の部品類を見渡す。それらは床に敷かれた防水シートの上に綺麗に並べられており、丁寧に分解されたらしく壊された形跡はない。しかし1つだけ、原型がわかるものがあった。あれは――――― 「熱核反応エンジン・・・・・・?」 しかもそれはEXギア用に開発された小型のものだった。 原子炉にOTMの重力制御技術を組み込んだ反応炉(核融合炉。反応弾と違い物質・反物質対消滅機関ではない)というエンジンには複雑すぎて手が出なかったらしい。 しかし近づいて見ると、しっかり炉心は止まっている。残留熱もないようで、止められたのが1日以上前であることがわかる。 「本当にごめんなさい!」 戻ってきたシャーリーがドアの前で両手を合わせ、深々と頭を下げている。 「本当はもう3日前にはEXギアは返って来てたの。その時はこう・・・・・・じゃなくてまともな状態だったんだけども、ちょっと魔がさして・・・・・・気づいたらバラしてて・・・・・・直そうにも上手くいかなくて・・・・・・」 彼女の声がどんどん小さくなっていく。どうやらEXギアを解体した張本人は技研でなく彼女らしい。 「はぁ・・・・・・部品が全部あるみたいだから元には戻せるとは思うがな、この炉の火を完全に消すと、また点けるのにどれだけ苦労すると思ってるんだ?」 「・・・・・・」 「ここの設備じゃ1ヶ月はかかるだろうな。どうしてくれるんだ?」 うつむくシャーリーを責め立てるアルト。 しかし実は大嘘も良いところ。 確かにこの世界で最もポピュラーな発電方法である核分裂炉を1基を貸してくれるなら別だが、それ以外の方法では数十万度という必要な熱がなかなか手に入らない。 そして、これを組み直すのには1週間ぐらいかかるかも知れない。しかしVF-25の熱核反応炉を繋げてスターターにすれば10秒かからず炉は再稼働するはずだった。 もしここにランカがいれば、それぐらいの知識は常識としてあるため 「やっぱりアルトくん、意地悪だよぅ~!」 と、言った事だろう。しかしシャーリーには代案があったようだ。 「だから、これを作ったんです!」 彼女がポケットから〝何か〟を出す。アルトは手を伸ばし、シャーリーの出した物を受け取った。それは技研にフォールドクォーツのサンプルとして差し押さえられたシェリルのイヤリングだった。 やがてそれは光り始めるが、すぐに収まった。 「これはインテリジェントデバイスです。今ので登録が終わったわ」 「お、おい、ちょっと待てよ。これってデバイスだったのか!?」 「・・・・・・?ええ、技研の解析結果にはその石はデバイスのフレームと同素材ってなってたわよ。確かに中には解析不能なすごく小さなデータと基本的な人格サブルーチンが入ってたけど、容量がほとんど空いてたから新品のインテリジェントデバイスだと思ってたんだけど、違ったの?」 (そうか、コイツ俺が次元漂流者って知らなかったんだったな・・・・・・) しかしこれはバジュラしか生成できないフォールドクォーツだったはずだ。シェリル自身は母の形見と言っていたが・・・・・・ ともかく詳しい入手経路をシェリルに会った時に聞こうと決意していると、 それが青白い光を点滅させた。それと同時に聞こえてくる声。 『Nice to meet you. sir.(よろしくお願いします。サー)』 アルトは物が話しかけてくるという現象にすこしたじろぎながらも、イアリング型デバイスに 「・・・・・・あ、あぁ、よろしく」 と返すと、シャーリーに向き直る。すると彼女は不敵な笑みを浮かべて言った。 「それじゃあバリアジャケットに着替えてみて。もうイメージデータは入れてあるから」 「わかった・・・・・・セットアップ!」 皆がそうするようにデバイスを掲げてこう宣言した。 (なんかオールドムービーで見た光の国から来た巨人みたいだな) そんなことを一瞬考えるがデバイスは再び光り始め、 「Yes sir.」 といって四散する。そしてその青白い光が一瞬で視界を塞いだ。数瞬後、光が収まった時最初に感じたこと、それは身体の一部であるかのような着心地だった。 「これは・・・・・・EXギア・・・・・・!」 それは分解された軍用EXギアと寸分変わらぬ形状をしており、パワーアシスト機能も健在だ。 「そう。さすがに反応エンジンは無理だったけど、あなたの魔力でそれを代替して空を飛べるし、ミッド式の魔力障壁も展開できるわ。もちろん、元の機能は全く同じよ」 シャーリーは自らの端末を操作してマニュアルを呼び出す。 「武装は、あなたのバルキリーに搭載されてたリニアライフルをモデルに作ったけど・・・・・・はい!」 そういって彼女は紙飛行機のように視覚化した光子データストリーム(ホログラム内にデータを内蔵して送信する短距離可視通信方式)を端末で放るようにこちらに飛ばす。それをEXギアでキャッチすると、自動的に消失して中身のデータを読み込んだ。 そのデータに入っていたマニュアルからリニアライフルの記述を探す。どうやらそういう追加装備は「~装備」と言うだけでいいらしい。早速 「リニアライフル装備」 とデバイスに命令を発する。すると青白い光の粒子が右手に集まり、瞬時にそれを生成した。 「おっと・・・・・」 突然かかったリニアライフルの質量にすこしよろけるがすぐ持ち直す。元素から再固定して作られたとは思えない本物のような重さだ。 「発射するのは普通の魔力弾だけど、弾頭の生成の時に色々な弾種を選択できるわ」 マニュアルによると、通常の魔力弾や魔力砲撃、対AMFシールド貫通弾と多彩だ。 「あと、あたしの自信作がこれ!」 そういって示されたのはマニュアルの項目。タイトルは『PPBS』とあった。 「ピンポイントバリアシステム・・・・・・」 「そう!EXギアのデータベースを解析したら、その基礎理論と実用化例があって、作っちゃった♪」 どうやらこれの犯人もコイツだったらしい。ヴァイスのヘリに付けられるバリアはおそらくピンポイントバリアシステムだ。 EXギアのデータベースにはパスワードをかけたSMSの機密情報と美星学園の卒業試験突破のために教科書が一通りアップロードされていた。 確かその教科書のなかには最新のOT(オーバー・テクノロジー)とOTMの基礎理論と実用化した例の写真があった。だがこのOT・OTMという技術自体人類全体の機密だ。 (しかし・・・・・・) もし基礎理論だけで彼女がこれを作ってしまったのなら冗談抜きで天才だ。あれら超科学には理論だけでは解析不能なところがあったためだ。 「これで許してもらえる・・・・・・かな?」 そう上目遣いで聞いてくるシャーリーを見ていると、機密などどうでもよくなった。 (どうせ同じ人類で、しかも敵意はなさそうなんだし・・・・・・) そう思い礼を言うに止めた。 それを許してもらったと解釈したシャーリーは、 「ありがとう。じゃあ、また明日ね~」 と言い残し、宿舎に退散していく。おそらくこの3日間不眠不休だったのだろう。今思うと彼女の目の下には隈があった。 「・・・・・・そう言えば、おまえの名前は?」 リニアライフルに付いた青い宝石に問う。 『I don t have name. Please regiter.(名前はありません。登録してください。)』 「名前か・・・・・・そうだな・・・・・」 しばし黙考すると、VF-25のペットネームを思い出す。 「・・・・・・じゃあ『メサイア』でいいか?」 『No problem.(問題ありません。)』 心なしか嬉しそうに見えた。そして、未だにあかね色に染まる空を見上げると、当初の予定を思い出す。 「メサイア、いけるか?」 新しい相棒にはそれだけでわかったようだ。主翼を広げ、スバルと同じような魔法による道ができる。しかし、それはひたすら真っ直ぐで取っ手がついている。まるでどこかにあるカタパルトのように。 『All the time.(いつでも。)』 メサイアの歯切れの良い返事とともに、取っ手を握る。 「よし!」 掛け声とともにEXギアは急激な加速に入り、その青年の体は暮れかけの空を舞った。 次回予告 遂に始まるフォワード4人組に対する熾烈な訓練。 そしてその訓練の一環として模擬戦が行われることに。 しかしその相手は─────! 次回マクロスなのは、第4話『模擬戦』にご期待ください! シレンヤ氏 第4話へ
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第4話「もう一人の、光の巨人なの」 「一体……何が、どうなってるんだよ? 街の人達が急に消えるなんて……はやてちゃん、ごめん。 流石に、何があったのか気になるし……ちょっと今日は帰るの遅くなるかも。」 結界に閉ざされた海鳴市。 そこには……先刻ミライ達を見つめていた黒尽くめの男以外にも、実は一人だけ先客がいたのだ。 しかしその青年には、黒尽くめの男の様な怪しい雰囲気は一切ない。 爽やかで、格好も今風の若者という感じの青年。 彼は、何故こんな事態が起こったのかを知る為、街中を走り回った。 これまでにも、怪事件の類には何度も遭遇してきた。 そしてその都度、解決してきた。 自分には、待ってくれている者がいる……彼等に心配をかけてはならない。 そう思いながら、捜索を続けていた……その矢先だった。 上空から閃光が走り、同時に轟音が響き渡る。 とっさに青年は、空を仰ぐと……そこには、自分がよく知る者達の姿があった。 「えっ……ヴィータちゃん、シグナムさん!? ちょ……どういうこと……?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『もしもし、はやてちゃん? シャマルです……』 「ん、どしたん?」 『すみません、いつものオリーブオイルが見つからなくて。 ちょっと、遠くのスーパーまで行って探しにいきますから。』 「ああ、ええよ。 別に無理せんでも。」 その頃であった。 海鳴市の、結界から外れた位置にあるとある民家。 そこで、車椅子に乗った一人の少女――八神はやてが、調理を進めていた。 彼女は家族と思わしき人物――シャマルと、電話で会話をしながら作業をしている。 キッチンに出ている材料等を見る限り、相当の大人数らしい。 はやても含めて、大体5~6人というところだろうか。 『出たついでに、皆を拾って帰りますから。 ただ、アスカさんだけはまだお仕事中かもしれないですけど…… なるべく急いで帰りますね。』 「あ、急がんでええから。 気をつけて帰ってきてな。」 『はい。』 はやては、家族達が皆無事に帰ってくるようにと言い、電話を終える。 今まで、ずっとはやては一人で暮らしていた。 そんな孤独な彼女に温もりを与えてくれたのが、シャマル達だった。 彼女達は色々と訳ありで、つい先日にこの家で暮らすようになったばかりである。 はやてにとっては、彼女達の存在が何よりも嬉しかった。 ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ。 誕生日の夜、自分の元に現れてくれた騎士達。 そして、もう一人。 彼女達と出会ってからしばらくした日に出会えた、あの人…… 「あ、いけない。 雨降ってきちゃった……ヴィータちゃん、シグナム。 洗濯物入れるの、手伝ってくれない?」 「おう、任せとけ。」 それは、ある日の夕暮れ時だった。 八神家に住まう騎士達――なのは達の前に現れたヴィータ達は、干していた洗濯物を取り込んでいた。 降水確率がギリギリ降るか降らないかという数値だった為、洗濯物を外に干していたのだが…… 不運にも、その賭けには負けてしまった。 急いで洗濯物を家の中に入れ終え、皆が一息つく。 そんな彼女達へと、はやては温かい飲み物を差し出してあげた。 「皆、おつかれさま。」 「ありがとうございます、主はやて。」 「ふぅ……温まるなぁ。 やっぱ、あんまりギャンブルはやるもんじゃねぇな……」 「うむ……まあ、この程度なら大丈夫だ。 家の中に干しておけば、すぐ乾いてくれるだろう。」 「そやね……あれ?」 「はやてちゃん、どうしたの?」 「今……何か、外光らんかった?」 はやては庭を指差しながら、騎士達に問う。 どうやら四人とも、外の様子は見えていなかったらしく、その質問には答えられなかった。 雷でも落ちたのかと思ったが、それにしては何か妙だ。 落雷の音が、全然聞こえてこない。 自分の気のせいだったのだろうか。 そう思いながら、はやてが皆の手伝いを始めようとした……その時だった。 ドサッ 「え……!?」 「今、何か音が……!!」 音は、聞こえてきたは聞こえてきた。 しかしそれは、決して落雷なのではない。 何かが地面に倒れ落ちたような、そんな感じの音だった。 嫌な予感がしたはやては、すぐにベランダへのガラス戸を開いてみる。 すると……そこでは、予想だにしていなかった事態が待ち構えていた。 「嘘……人が倒れとる!? シグナム、ザフィーラ!!」 「心得ております!!」 庭ではなんと、一人の男性がうつ伏せで倒れこんでいたのだ。 見た所、20代前半の青年……何処かの制服らしき服装をしている。 完全に気を失ってしまっているようであり、ピクリとも動かない。 すぐにシグナムとザフィーラが庭へと飛び出し、彼を家の中に入れた。 一体、この男が何者なのかは分からない。 だが……このまま放っておくわけにもいかなかった。 すぐにヴィータはバスタオルを持ってきて、青年についた土や泥をふき取る。 その後、シャマルは彼に怪我がないかどうかを見た。 どうやら、外傷は一つも見当たらないようだが…… 「う……」 「あ、気がついた?」 「……ここは……? そうだ、皆は!! グランスフィアはもう……!!」 青年は勢いよく起き上がり、周囲を見回した。 そして、己を取り巻く環境が一気に変化したことに気づくと、ただ呆然とするしかなかった。 自分は確かに、人類の未来をかけた最終決戦に臨んでいたはずだった。 その最後、暗黒惑星の崩壊によって発生したブラックホールに呑まれ…… 「……どうなってるの、これ?」 「えっと……これってもしかして?」 「ええ……私達と同じく、異なる世界から現れたという事でしょう。」 「……異なる世界?」 「うんと、ちょっと混乱してるみたいやね。 とりあえず状況を整理していかんと……名前、聞かせてもらえます?」 「あ、うん。 俺はアスカ、アスカ=シンっていうんだけど……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ウルトラマン……だって!?」 「え……?」 ヴィータは、姿を変えたミライ――メビウスの正体に、驚かされていた。 その様子を見て、メビウスは少しばかり考えた。 この反応……ウルトラマンという単語を始めて聞いた人がするものじゃない。 この驚き様は、もしかすると…… 「まさか……君達は、ウルトラマンを知っているの?」 「……管理局の連中に、答える義理はねぇ!!」 メビウスの問いに答えることなく、ヴィータは襲い掛かってきた。 勢いよく、グラーフアイゼンをその脳天めがけて振り下ろす。 しかしメビウスは、バック転してその一撃を回避。 そのまま真っ直ぐに拳を繰り出し、ヴィータの胴体を狙った。 無論、力の加減はしてある……相手は自分よりも幼い女の子。 幾らこんな事件を起こしたとはいえ、優しいメビウスには全力でかかることはできなかった。 だが、ヴィータはただの少女にあらず。 その一撃を障壁で受け止めると、そのまま空へと飛んだ。 (なんで……なんで、ウルトラマンなんてのがここで出てくるんだよ!! でも、あいつの言ってたダイナやティガってのとは違うみたいだけど……) 「待てっ!!」 「ちっ……空まで飛べるようになってんのか!!」 メビウスが自分を追って空を飛んできた事に対し、ヴィータは舌打ちをし毒づく。 一番の雑魚かと思われていた相手が、実は一番厄介な相手だった。 自分達の判断ミスを呪いつつも、やむをえずヴィータは応戦に移ろうとする。 しかし、この時……彼女はある事に気づいた。 自分が持っていた筈の書物が……闇の書が、ない。 「闇の書がない……!? そんな、一体どこで……」 『ヴィータちゃん、闇の書は私が回収してあるわ』 『!! シャマル、来てたのか!!』 『ええ、さっきシグナムと一緒にね。』 念話でヴィータへと話をつなげてきたのは、シャマルだった。 彼女は少しばかり離れたビルの屋上で、ヴィータ達同様に魔道の衣服に身を纏っている。 その片手に携えられているのは、闇の書と彼女達が呼んだ書物。 もう片方の手は、指輪型のデバイス――クラールヴィントを発動させていた。 その様子を見る限り、何かしらの術を使う準備を進めているように見える。 しかしこの時……彼女は、気づいてしまった。 この結界内に入り込んでしまった、イレギュラーの存在に。 「え……!? まさか……」 『どうした、シャマル?』 「誰か……結界の中に、取り残されている人がいる!!」 『何だって!?』 シャマルが建っているビルから見える位置に、一人の青年が立っていたのだ。 遠目でその姿ははっきりとは見えないが、魔力は感じられない……完全な一般人だ。 このままでは、無関係な人間を戦闘に巻き込むことになってしまう。 何とかしなくてはならない……シグナムがとっさに動こうとする。 だが、そこへと何者かが切りかかってきた。 その正体は、ユーノによって救出され、バルディッシュの破損も回復させたフェイトだった。 「おおおおおぉぉっ!!」 「くっ!!」 バルディッシュとレヴァンティンが、火花を散らせながら激しくぶつかり合う。 時間をあまりかける訳にはいかない。 双方が同時に動いた。 フェイトは己の周囲に魔力を収束させ、金色に輝く魔力弾を生み出す。 それに対しシグナムは、紫電一閃を放ったとき同様……レヴァンティンへと、弾丸を放り込む。 直後……その全身が、魔力によるオーラで包まれる。 「レヴァンティン、私の甲冑を!!」 「打ちぬけ……ファイアッ!!」 フェイトの放った魔力弾――フォトンランサーが、真っ直ぐにシグナムへと迫る。 しかしシグナムは、微動だにせず……防御も回避もしないで、フェイトを見つめていた。 そして、フォトンランサーがシグナムを貫こうとした……その瞬間だった。 彼女に命中したフォトンランサーが、次々に弾かれていったのだ。 全くの無傷……この事態に、流石のフェイトも驚きを隠しきれないでいる。 「魔道師にしては悪くないセンスだ。 だが、ベルカの騎士に一対一を挑むには……まだ足りん。 レヴァンティン、叩き切れ!!」 「っ!!」 魔剣から弾丸が排出され、刀身全体が膨大な魔力に覆われる。 二度目の必殺剣――紫電一閃。 フェイトはとっさにバルディッシュでそれを受け止めるが……先ほどと結果は同じだった。 バルディッシュに皹が入り……そしてフェイトは、後方の高層ビルへと激突する。 「フェイトちゃん!!」 『大丈夫ですか、マスター?』 「うん……ありがとう、バルディッシュ。 それより、今の……」 『ええ、あのデバイス……』 「あの弾丸の様なものを使うことで、一時的に魔力を高めているんだ……」 フェイトは、デバイスの性能自体に相手と大きな違いがある事に気づいた。 そしてそれが、圧倒的不利を齎している事も……バルディッシュには悪いが、気づいていた。 状況は、完全なシグナム優位であった。 一方、離れた位置で戦っているアルフとザフィーラも、ザフィーラの優勢。 ベルカの騎士――ヴォルケンリッターが、総合的には押していることになっていた。 そう……優勢2、劣勢1の総合的な結果で。 その劣勢が誰かは、もはや言うまでもなく…… 「ハァッ!!」 「ちぃっ!!」 『Panzerhindernis』 とっさに防壁を出現させ、ヴィータはメビウスの蹴りを受け止める。 ここまでの勝負は、完全なメビウスのペースであった。 話に聞いた以上の力を持つ、ウルトラマンの能力。 自分達ベルカの騎士と互角か、もしくはそれ以上かもしれない。 メビウスの重く強烈な蹴りを受け止めながら、ヴィータはそう実感していた。 ここで吹き飛ばされてはいけないと、懸命に踏ん張ろうとする。 しかし……その瞬間だった。 何とメビウスは、急激なスピードで錐揉み回転をし始めたのだ。 「まさか!?」 「ハアァァァァァァァァッ……!!」 即座に、メビウスが何をしようとしているのかをヴィータは理解する。 しかし……分かったときには、すでに遅かった。 強烈な回転によって摩擦熱が生じ、メビウスの脚部から炎が出現する。 そして……障壁は破壊され、グラーフアイゼン越しにヴィータへと蹴りが炸裂する。 かつてメビウスが、光線技の一切通用しない強敵と合間見えたときに編み出した必殺の一撃。 後には、無双鉄神すらも打ち砕くほどの攻撃となった蹴り――メビウスピンキック。 ヴィータの障壁とて、決して柔な代物ではないのだが……相手が悪かった。 このままでは、先ほど吹っ飛ばされたフェイト同様に自分もビルに叩きつけられるだろう。 急いで、ヴィータは体勢を立て直そうとする。 だが……ここで思いもよらぬ攻撃が、彼女に襲い掛かってきた。 メビウスに集中しすぎていた為に、その存在を忘れていた伏兵――ユーノ。 彼の放ったチェーンバインドが、ヴィータを束縛したのだ。 攻撃力こそこの中では最低ではあるものの、サポート役としては最強のユーノが放つバインド。 先程アルフが使ったものよりも、性能は恐らく上。 「くそっ……これじゃ、さっきと同じじゃねぇかよ……!!」 「ありがとう、ユーノ君。」 「いえ、ミライさんが注意を引き付けてくれていたお陰です。 ……それじゃあ、君達の事を教えてもらえないかな? 今は、さっきと違ってもう助けに入る人もいないみたいだしね。」 「誰が言うか……!!」 ヴィータは力ずくで、拘束から逃れようとする。 鎖が皮膚に食い込み、血が滲み出始める。 それを見て、メビウスとユーノは驚き、さすがに拘束を緩めるべきではないかと感じた。 しかし……逃げられては元も子もないので、それはできない。 何とかして結界を破壊さえできれば、強制転移させてアースラへと連行できるのだが……ユーノにそれは不可能だった。 この結界は、ユーノが扱える術では破壊しきれない代物だったのだ。 フェイトもこの手の術に関しては、やや不得手である。 そうなると、アルフかミライかに頼るしかないが…… 『アルフ、ミライさん、何とか結界は破れない?』 『あたしもさっきからやってるんだけど、この結界滅茶苦茶硬いんだよ!!』 『僕はわからない……メビュームシュートなら、もしかしたらいけるかもしれないけど……』 『皆、私がやるよ!!』 『なのは!?』 意外な事に、この問いに答えたのはなのはだった。 確かに彼女の魔法には、結界破壊の効果を持つものが一つだけある。 しかし……手負いである彼女に、その術は危険ではないだろうか。 いや、それ以前にレイジングハートの損傷が深刻すぎる。 あの術――スターライト・ブレイカーを、果たして打てるのだろうか。 例え打てたとしても、ほぼ確実にレイジングハートは崩壊するだろう。 だが……それにもかかわらず、全員が口から出かけた「やめろ」の一言を引っ込めた。 なのはもレイジングハートも、覚悟を決めた上でこの決断を下したのだ。 邪魔をする権利は、自分達にはない。 それに、これがベストな手段であることには違いない。 『分かった……出来るだけ、急いで。 この子をすぐに転送させないと、怪我が……!!』 『うん!!』 ユーノはヴィータに回復術を徐々に施し、彼女が倒れないようにする。 しかしそれでも、出血した分の血は戻らない……貧血・失血で倒れるのも時間の問題だろう。 それはヴィータ自身にも、十分分かっていた。 だが……彼女の意思は、極めて固かった。 間違ったって、言ってやるものか。 例えどんな目に合おうが、自分は仲間を守り抜く。 大切な主を救う為にも、味方を裏切るような真似は絶対にしない。 ヴォルケンリッターの全ては……仲間と、そして主の為にある。 「この程度で……やられてたまるかってんだっ!!」 「どうして……どうして、君はそこまで……!!」 メビウスは、ヴィータから何か強い信念の様なものを感じ取った。 これまで戦ってきた、邪悪な侵略者達とは逆……正義すら感じさせられる。 そう……これは、自分の仲間や兄弟達と同じ。 大切なものを守りたいという意思ではないか。 それを悟った時、メビウスは何が何でもヴィータ達を説得しなければと考えた。 彼女達の行動は確かに悪ではあるが、その悪を行うに値する理由があるに違いない。 メビウスは、ヴィータに問いかけようとする。 しかし……その時だった。 「ヴィータちゃん!!」 「え……!?」 ヴィータの賢明な思いが、天に届いたのだろうか――最もその返答は、天とは正反対からではあったが。 地上から、ヴィータを呼ぶ誰かの声が聞こえてきたのだ。 それに思わず、皆が動きを止めてしまう。 ヴォルケンリッターの表情が、一気に変わる……無理もない。 その声の主――結界内に取り残された男は、自分達がよく知る者。 大切な家族の一人――アスカ=シンだったからだ。 「今、助けるから……!!」 アスカはポケットから、手の平サイズの何かを取り出した。 人面が掘られた、石とも煉瓦とも取れぬ謎の材質で作られたオブジェ。 光の力を得たアスカが、その力を解放する為に使う道具――リーフラッシャー。 アスカはそれを高く掲げ、起動させた。 オブジェから突起が飛び出し、そしてその先端から眩い光が溢れた。 それを見た瞬間、誰もが既視感に見舞われる。 当然である……この光景は、先程ミライがメビウスへと変身した際と、全く同じなのだから。 そして、この後の展開も予想できていた。 特に……ヴォルケンリッターの四人には。 ――俺のいた世界には、ウルトラマンっていう凄いヒーローがいたんだ ――凶暴な怪獣や邪悪な侵略者から、人々を守る為に戦ってくれて…… ――俺が知ってるウルトラマンは二人いるんだけど、どっちも凄かったよ。 ――まあ俺的には、ティガもいいはいいんだけど、やっぱもう一人の方だよな。 ――うん、もう一人のウルトラマンで、名前は…… 「ウルトラマン……ダイナ!?」 「そんな……アスカ、まさかお前が……!!」 「デヤァァァッ!!」 メビウスと似た姿を持つ、光の戦士。 アスカが得た、邪悪を打ち倒す為の力――ウルトラマンの力。 それによってアスカは、その姿を変えた。 光の戦士――ウルトラマンダイナに。 ダイナは凄まじいスピードで飛び上がり、そのまま手刀を繰り出した。 チェーンバインドが切断され、ヴィータの拘束が解かれる。 「……アスカ、お前……」 「……黙っててごめん。 ウルトラマンだってこと、中々言い出せなくて……」 「……構わん、隠し事ならお互い様だ。 しかしこうなった以上、全てを話し……全てを聞いてもらわねばならないな。」 「そうだな……助けてもらったんだし、あたし達の事も話さなきゃ不公平だ。 ただアスカ、はやてにだけは……」 「分かってる……兎に角今は、この場を切り抜けよう。 俺の相手は……もう、決まっているしな。」 ダイナは、その視線をメビウスへと向けた。 二人とも……特にメビウスの方は、自分が今置かれている状況に混乱させられていた。 自分の目の前に立っているのは、紛れも無く同じ存在であるウルトラマン。 異世界で、まさかウルトラマンと遭遇しようなんて、夢にも思っていなかった。 その実力は未知……どれだけの力があるか分からない。 ダイナが構えを取り、戦闘態勢に入る。 それに対するメビウスはというと、とっさに構えこそとったものの、自ら進んで戦おうとは思っていない。 何故、自分達が戦わなければならないのか……それを、まず聞き出そうとした。 「貴方は一体……?」 「ウルトラマン……ウルトラマンダイナだ!!」 「ダイナ……どうして、こんな真似を?」 「俺も、事情は分かってないんだ。 けど……そんな事は、はっきり言ってどうでもいい。」 「え……?」 「守りたい人を守るために戦う、ただそれだけだ!!」 まっすぐに、ダイナが拳を突き出してくる。 メビウスは体を捻ってそれを回避し、そのままの勢いで回し蹴りを繰り出した。 しかし、ダイナはそれをとっさにガードする。 そして無防備となったメビウスの胴体へと、蹴りを叩き込んだ。 格闘戦においては……ダイナの方に、どうやら分があるらしい。 「ぐぅっ!?」 「勝負だ、メビウス!!」 「ダイナ……やるしか、ないのか……!!」 ウルトラマンメビウスとウルトラマンダイナ。 本来ならば、決して合間見えることの無かった、似て非なる存在である二人のウルトラマン。 奇しくも、大切な人を守りたいという同じ願いから変身を遂げた二人。 今……その決戦の幕が、開かれようとしていた。 戻る 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第5話『よみがえる翼』←この前の話 『マクロスなのは』第5話その2 (*) アルトがライブ終了と同時に時計を見るとすでに3時を回っていた。 周囲の研究員達は終了と同時に各自の通常業務に戻っていく。しかしその時誰の顔も、疲れを感じさせないほど生き生きしていた。 「じゃあ私も戻るね」 そう告げたフェイトと別れてすぐ、後ろから呼ばれる。 「待たせたね、アルト君」 さっきの所長・・・・・・のようだった。彼の顔も、20歳は若返ったように見える。 「いやはや、昔を思い出してつい『サタデー・ナイト・フィーバー』してしまったよ。はっはっは・・・・・・」 (今日は木曜のはずだが・・・・・・?) と思ったアルトにはなんの事かわからなかったが、ともかくフィーバーの英単語そのままの意味だと理解する事にした。 「・・・・・・さて、これから検査を始めるがいいかな?皆やる気なのでね」 彼の見た先には、研究員の一団が陽気にランカのポップスを歌っている。 「それじゃあ、お願いします」 そう応えると、田所はすぐに研究員を集めて先ほどの格納庫へと戻った。 (*) そうしてアルトと所員達は指揮所に戻ると、すぐに検査の準備を始めた。 VF-25は荷台に乗せられたまま作業員の運転する牽引車で移動し、先ほどの洗車機の前に駐車された。田所の話によるとあの洗車機はこの格納庫の新設した時導入した最新鋭スキャナーで、一度に様々な検査が出来るそうだ。 スキャナーが動き出し、VF-25の上を一往復すると静かに止まった。 洗車してくれないし外見それだけなのだが、田所の操るデスクトップコンピューターのディスプレイには正確なVF-25の3次元図面が出来上がってゆく。なるほど確かに優れ物らしい。 それは一昔前の医療用CTスキャナーのような断面図もあり、田所と研究員達は分担して次々に解析していった。 その情報は中央に投影された全体図とリンクしており、故障と思われる場所に赤い光が灯る仕組みだ。しかし、場所はエンジンファンやベクタード(可変)ノズルだけに留まらず、次々に赤く灯っていった。 「問題はベクタードノズルとエンジンファンだけじゃなさそうだぞ」 コンソールパネルに灯ったキーボードを叩きながら田所が呟く。 (どうやら本格的なオーバーホールになりそうだ・・・・・・) アルトは魂ごと抜けそうなため息と共に、肩を落とした。 (*) 3時間に渡る解析によって合計256箇所の問題点が挙げられたが、アルトが再確認すると半数以上が仕様だった。しかし、確かに気づかなかったヒビや故障は大量に見つかった。変形機構を動かすリニアアクチュエーターの断線、機体フレームの大きな歪みやヒビなどが見つからなかった典型例だ。もしあの時補修材で妥協していたら危なかっただろう。 「それで、修理にはどれぐらいかかりそうなんだ?」 田所所長は修理リストを斜め読みすると答える。 「ヒビと歪みは物質操作魔法で生成、矯正したりして修理ができそうだね。ベクタードノズルとエンジンファンも部品交換と電子機器の移植で済みそうだし・・・・・・うーん、明日にはなんとかなるだろうと思う」 アルトはそのあまりの短さに驚き入ってしまった。 VF-25の交換パーツの揃っているSMSですらこの損傷では自前の修理を諦めてメーカー(L.A.I)に投げるだろう。そして帰ってくるまで丸4日ほどかかるだろうに。 このスピードを実現させるのに物を言ったのはやはり魔法だった。特にこの世界に来て一番驚いた、この『物質操作魔法』だ。 これは大気中の元素に干渉して材質変換したそれを固定。そうして任意の場所に任意の材質の物体を作ることができた。 これはOT・OTMを解析した第25未確認世界にもない技術だった。 これは扱うには適性が必要だが、デバイスはこの原理が限定的に使われている。 デバイスは普段は携帯時の形態である小さな各種アクセサリーに変型するが、使用する際は杖や銃に変型する。 これは『(デバイス内にある)構成情報を元に、空気中の元素を固定。それを生成する』という物質操作魔法とほぼ同様の手順を踏んでいる。 だがこの構成情報がデバイスの容量を大量に食べるので、なのはのような上級者以外は一段階変型が基本となる。 ちなみになのはは不要な支援プログラム、例えば「リリカル・マジカル」というパスワード認識機能やリンカーコア出力が低い者が使う魔力コンプレッサーなどを削除。プログラム言語も特殊なものを使用して極限までカスタムしてあるため容量が半分近く空く。これによりレイジングハートは多段階変型を実現していた。しかしシャーリーなど一流のデバイスマスターでなければカスタムされた各種プログラムの意味がもはや理解する事ができず、整備士を選ぶのが欠点と言えよう。 このようにデバイスは擬似的な物質操作魔法を使えるが、元素固定は現在ミッドチルダの科学力でも魔法以外には不可能で、機械的なものではデバイスのみ行える。 『なぜデバイスだけか?』と言うと、数は多いがデバイスはすでにロストロギア―――――いや、ロストテクノロジーなのだ。 デバイスの心臓部であるフレーム自体の設計・生産技術は100年前の戦争で焼失しており、今も第1管理世界各地で稼働する自動生産工場に100%依存しているのが現状だった。 自力で作ろうにも第25未確認世界ではフォールドクォーツと呼ばれている物質の生成がまずできないし、リバースエンジニアリング(既に存在する実物からその技術を習得すること)にも限界があり、下手に手を出して壊れてもいけないのでその生産工場に手が出せていなかった。 余談だが、六課メンバーで実戦的な物質操作魔法が使えるのは、ヴィータだけだ。 閑話休題 「それじゃあお願いします」 「承知した。・・・・・・ところで『アドバンスド・エネルギー転換装甲』というのは、検査によるとチタンとカーボンの合金のようだが本当にこれだけか?それと、なぜ動くんだ?」 彼がいぶかしむのも仕方ない事だ。OT・OTMに理論も知らずに触れた人間は最初はこうなる。 「あぁ、それはだな―――――」 アルトは軍事機密という言葉を全て頭から叩き出すと、彼の知りうる全てを公表した。 エネルギー転換装甲とは、反応エンジンで発生する莫大な電力で無理やり分子間の結合力を増やし、分子構造を強化するものであること。 しかし結合力を強くした結果ほとんどの場合で分子構造が激変し、性質が変化(例えば鉄が常温で液体になったりする)してしまうため、いままで発見された合金は少ないことなどを説明する。 「―――――つまりOT・OTMは、機械同士が密接にリンク。例えるなら生命のような美しい相互作用を作ることで初めて機能する。そのためこの技術を学ぶ者は上空から下界を俯瞰する鳥のような気持ちで望むことが、OT・OTM理解の最短ルートだ」 先生のごとく田所達研究員に説明する。実は最後は美星学園の機械工学科教授の受け売りだったが、この場にはぴったりだった。 そこで質問があったのか、1人の研究員が手を挙げる。 「なんだ?」 「VF-0のエネルギー〝変換〟装甲も同じですか?」 「あぁ。まったく同じだ」 統合戦争の初代バルキリー『VF-0』や『SV(スホーイ・ヴァリアブル)シリーズ』に使われた第1世代型『エネルギー〝変換〟装甲』。 無重力空間で合成しなくてもいいため合金自体の製作が容易だが、強度もなく、重く加工しにくいので今ではほとんど使われない。 そして時代は統合戦争が終わり、マクロス(SDF-01)が冥王星へフォールドした時に飛ぶ。 そこでマクロスの乗員達は変換装甲より頑丈で軽い合金、反面合成時に無重力空間で分子構成を均一にしなければならないという技術的な欠点を抱えていた第2世代型『エネルギー〝転換〟装甲(ESA。エネルギー・スイッチ・アーマー)』に手を出した。 資源自体は周囲の小惑星から多量に採取できて、天然の無重力空間のおかげでコストパフォーマンスが極めて優秀だったのだ。 その優秀さゆえ、AVF型(アドバンス・ヴァリアブル・ファイター。VF-19やVF-22など)までこの合金は採用されていた。 そして新開発の試作戦闘機YF-24『エボリューション』(VF-25の原型)で部分的に採用された第3世代型『アドバンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)』。これは第2世代型と比べて軽く、加工しやすく、エネルギー効率が4割も向上して更に強度が上がった驚異の合金だった。 しかし製作コストが2~3倍と高いことが唯一の難点となっていおり、フロンティア船団のVF-25も、バジュラとの抗争時はシールドやアーマードパック、FASTパックの追加装甲のみに使われていた。なお、アルトの3代目VF-25は贅沢にもこの装甲に全換装。おかげで全重量が1割ほど軽く、ファイター形態でも常時転換装甲が起動できるなど防御力もさらに向上している。 そしてアルトは現在この3つを超える強度を示す合金は見つかっていないことなどを含めて説明した。 しかしアルトは説明に夢中で、なぜ研究員が公表していないはずのエネルギー変換装甲や統合戦争。VF-25以外のバルキリーについて知っているのか?という素朴な疑問が浮かばなかった。 (*) その後もいろいろ質問が挙がったが、技術的なことばかりでつまらないだろうから、ここは割愛させていただこう。 (*) 2時間ほどかけてOT・OTMの講義をし終わると、早速修理が始まった。 最初は比較的単純なベクタードノズルづくりだ。ASWAG合金の方は、自前でOT・OTMを解析したシャーリーという先駆者のおかげで、魔法を併用した〝コストのかからない〟簡単な作り方が確立されていた。 「あのお嬢さんは元気にやっとるかね?」 合金の合成中シャーリーの話がでて、田所はそう問うて来た。 彼によればシャーリーことシャリオ・フェニーノは、田所がミッドチルダ防衛アカデミーの臨時教授だった頃の教え子だという。 「まったくいつも『田所教授、田所教授』と研究室に来ては、自分の研究の評価とアドバイスをせがむ忙しいお嬢さんだったよ」 どうやらシャーリーは昔から人に迷惑をかけることもいとわないタイプらしい。アルトも自身のEXギア解体事件などを話す。 「ハッハッハ、そうか。彼女は5年前の事故でリンカーコアが8割も小さくなってなぁ。優秀な子だったから、路頭に迷うのは可哀想だと思って、コネで本局の技術部に放り込んだんだが・・・・・・上手くやってるみたいだな」 彼の口元が微笑む。アルトにはそれが孫を心配する祖父のように見えて微笑ましく思った。 その後出来た合金を型に流し込み、鋳造されたベクタードノズルは特殊な熱処理をされて、続く応力検査や耐熱検査を経てVF-25に取り付けられた。そして接地圧計やカメラなどの電子機器を移植。微調整をしているところでアナウンスが鳴った。 『機動六課からお越しの早乙女アルト准尉。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官がメインゲートでお待ちです。〝至急〟来てください』 なぜ至急と強調したかわからなかったが、時計を見ると既に午後10時を超えていた。 しかしアルトはこの数時間で田所に親近感を抱くに至っていた。彼は自分の身の上話にも真摯に応えてくれ、いまだに勘当中の父親の姿を彼に重ねていた。 「田所所長、今日は泊まり込みでもいいか?」 「ああ、もちろん構わないぞ。この機体を最後に検査するのは操縦者の君だ。それに、君の身の上話も面白い。ぜひゆっくり話したい」 「じゃあ、よろしく頼む」 走り出すが早いかそう言い残すと、エレベーターへと向かう。制御所から下へと続くエレベーターはタイミングよく登ってきていた。 扉が開き、そこにいた研究員と入れ違いにエレベーターへと入る。しかしその研究員は奥に行くでもなく、こちらへ向き直った。 「アルト准尉、ありがとうございます。おかげで予想より早くできました!」 「は?」 何が?と聞く前に、エレベーターの扉が空間を隔てた。 だがアルトはフェイトがどうしたのか気になったし、VF-25の修理関連のことだろうと深く気にも留めなかったため、再び扉が開いたときには水の泡のように疑問はすぐに消えた。 (*) 田所はアルトに礼を言ったその研究員から資料を受け取ると、興奮の様子が見て取れる彼の報告に耳傾けた。 「アルト准尉のおかげで我々も〝彼ら〟を手伝えたのでB棟の試作1号機がようやく完成しました!あと、試作2号機も准尉のおかげでどうしてもできなかった部分の設計の解析が完了。試作を開始しました!」 渡された資料に目を通しながら、エンジンテストや航法システムのテストなど彼に当面の指示を与え、送り出す。 「はぁ・・・・・・」 彼を見送って制御所に1人になった途端、自然にため息が漏れる。 その自分のため息に気づいてすぐに罪悪感がこみ上げてきて、資料を頭にあてがってうつむいた。 「アルト君。君は管理局を信用してOT・OTMを話してくれたのだと思う。しかし・・・・・・私が今やってることを君は支持してくれるだろうか・・・・・・」 彼は資料を机に放り、窓の外の星空を仰ぎ見る。富嶽山付近は地上に光源が少ないせいか、ここの夜空は瞬きに満ちていた。 そして机に放られた資料からは1枚の写真がファイルから飛び出し、顔を覗かせている。そこには不死鳥の名を冠された戦乙女(ワルキューレ)の姿があった。 (*) 次の日 昨日、ゲート前で記念写真とサイン攻めを受けていたフェイトの救出。そしてVF-25の修理。続く田所との談笑などでHP(ヒットポイント)のなくなったアルトが、貸し出された技研の宿舎のベッドで意識を失うのに数秒と掛からなかった。 そんな彼を起こしたのは朝9時に設定されたメサイアのアラームではなく、全域に鳴り響いたけたたましい警報だった。 SMSで早朝、希に行われる『総員起こし』という伝統行事をどんなに疲れていようと日々乗り切っていたアルトは、そのサイレンに瞬時に意識を覚醒させた。 「何事だ!?」 腕時計を見ると、まだ8時を回ったばかりだった。 すぐに六課の部隊ワッペンを付けた管理局のフライトジャケットを羽織ると、田所のいるであろう制御所に向かった。 建物が隣であるため1分もかからない。そこに着くとすぐに田所から状況が説明された。 ここから50キロほど離れた山間部を走っていた輸送用リニアレール(リニアモーターカー)が、40分前突然出現したガジェットに急襲を受けたらしい。 結果、そのリニアレールで輸送中のロストロギアを守っていた陸士部隊一個分隊と交戦。 陸士部隊はロストロギアを守りつつ後退している。しかし列車の運転室を相手に譲る形になってしまい、今もなお高速で走行しているため地上から増援が送れないらしい。 そのため30分前要請を受けた六課のスターズ、ライトニング両分隊を乗せたヘリが急行しており、もう到着するであろうことなどが説明された。 「んだがそんな前ならもっと早く警報鳴らせよ!」 「新設したばかりの警戒システムだからエラーがあったらしい。ここへの襲撃がなかったことを幸運に思おう。・・・・・・リニアレールの陸士部隊との通信はどうなっている?」 「依然不通!おそらく列車の中継アンテナをやられたものと思われます。しかし敵の『ボール型』の解析情報は途絶前に送ったので、役に立っているはずです!」 通信システムを操作する通信士がそう田所に報告した。 技研は装備の開発だけでなく未確認兵器の解析も仕事の内であり、どうやら警報が鳴る前から田所達はその業務を遂行していたらしかった。 そこで傍受していた無線に声が入った。 『スターズ1、』 『ライトニング1、』 『『エンゲージ(交戦)!』』 『こちらヴァイス。スターズ3,4、ライトニング3,4は無事降下。これより本機は戦闘空域を離脱する』 『こちらスターズ4。陸士部隊と合流。これより車内のガジェットの掃討に入ります!』 ヴァイスのヘリを中継して送られる通信が六課の奮闘を克明に伝える。 しかし、ガジェットⅡ型をあらかた掃討したスターズ1とライトニング1―――――なのはとフェイトはこの世ならざる物を目にすることになった。 『ん?こちらスターズ1、敵新型ガジェットとおぼしき黒い機体を確認。数5。画像データ送ります』 六課のロングアーチと、解析のためこの技研に送られた新型ガジェットの画像はⅡ型のエイのような形ではなく、前進翼と1基の三次元推力偏向ノズルを有した小型機(約10メートルほど)だった。 アルトはその画像を見るなり目の前のマイクにかじりついた。 「逃げろ!なのは、フェイト!」 『え?アルト君?』 なのはが応じる。 「いいか、そいつらは―――――」 必死にその恐怖を教えようとしたが、その前に彼女達はそれを実体験することになった。 『え?ちょっ、マイクロミサイル!?』 『迎撃します!』 通信に混じる連続した爆発音。 『ミサイルの魔力爆発を確認!目標を魔導兵器と断定!』 『ディバイン、バスタァーッ! っ!? 当たらない! なんて機動力なの!』 『・・・・・・なのは、援護を。こちらライトニング1。これよりドッグファイトに持ち込む!』 その後2人の通信には要領がなくなった。よほどの混戦なのだろう。 「畜生!田所所長、バルキリーは!?」 「機体の修理は終わった。しかし午後搬入する予定だったガンポッドの弾丸の搭載をしていない。戦闘は完全な魔法だけになるが・・・・・・」 「それだけあればいい。俺は行く!」 アルトはそう宣言し、エレベーターに飛び乗った。下降する間にEXギアとしてのバリアジャケットを身に纏う。 そして扉が開くと同時に飛翔した。果たしてそこには白銀の翼を広げたVF-25の巨体があった。 コックピットに飛び込んでみると既にエンジンは稼動状態にあり、EXギア固定と同時に多目的ディスプレイの全面に〝READY〟の文字が躍る。 どうやらエンジンは田所が遠隔操作で起動していたらしい。エンジンファンが空気を切り裂く〝キーン〟という心地よい音を響かせる。どうやら相棒は全快したようだ。 多目的ディスプレイを擦って 「行くぞ」 と呼びかけた。 制御所では田所をはじめとする研究員達が慣れない敬礼をしていた。それに短く答礼すると、スラストレバーを45度起こしてガウォーク形態に可変する。 目前には大空へと導くように開いた扉へと続く誘導灯。それに従って開いた扉から滑るように外に出た。 「機動六課所属、フロンティア1、出撃します!」 そう通信で言い残し離陸。推進ノズルからアフターバーナーの青白いきらめく粒子を残して先を急いだ。 (*) アルト出撃の1分後。B棟と呼ばれる格納庫から紺碧色に塗装された戦乙女が1機、彼を追うように飛び立ったことをまだアルトは知らなかった。 ―――――――――― 次回予告 戦場と化したリニアレール。 機動六課に新型ガジェットの脅威が迫る! 果たして彼らはロストロギアを守りきり、生き残ることができるのか!? 次回マクロスなのは、第6話『蒼天の魔弾』 VF-25に放たれる青白い砲弾。それは彼らに、何をもたらすのか ―――――――――― シレンヤ氏 第6話へ
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赤い文字 話リンク ・ストーリー ・内容 炎と炎 アリサとアリスト Fの季節の血戦 とらわれのなのは なのはの恋路……そしてディアブロの過去 その2
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マクロスなのは 第10話『預言』←この前の話 『マクロスなのは』第10話その2 (*) 1週間後国営テレビ放送 『─────現在〝35人〟もの尊い犠牲者を出してしまいました。それはガジェットと呼ばれる─────』 テレビは本部ビル前の仮設会場を写し出している。そこではレジアス中将が記者会見を行っており、その内容は管理局に殉職者が出たというものだった。しかし───── 『─────しかし皆さん、我々はこの事態を止める時が、止めることのできる時が来ました!すでに我々にはその手段があるのです!』 レジアスがいままでの悲しい表情から一転、力強い顔と口調に変わる。 「・・・・・・始まったな」 食堂で昼飯を食べていたアルトが呟く。今ここには隊長、副隊長陣を含め、フォワード4人組やその他職員が昼飯をつついている。しかし、皆レジアスの豹変にテレビに釘付けだった。 『・・・・・・私は時空管理局、ひいてはこの世界の存亡をかけた最後の防衛策として、〝ヴァリアブル・ファイター(VF)〟の導入、運用をここに宣言します!』 一斉に焚かれるフラッシュ。 そして一呼吸置くと、会見場に超大型のホロディスプレイが出現した。テレビはそのままホロディスプレイの映像に切り替わる。 『ヴァリアブル・ファイター配備計画とは、現在ミッドチルダの持つ工業力を最大限使って行われる、空戦魔導士部隊の大規模装備改変計画です。ヴァリアブル・ファイター、略して〝V(ブイ)〟〝F(エフ)〟とは─────』 ナレーターには落ちついた女性の声が当てられ、モニターにはVF-25を初め、VF-1やVF-11の映像が流れる。 「隊長達はご存知だったんですか!?」 自らの上官達が驚かないことに気づいたティアナが席を離れ、こちらに詰め寄る。 「こんな質量兵器紛いの物を─────!」 「ティアナ、」 なのはの射るような声が届く。いつもと違う教官の様子にティアナは即座に黙らされた。 「私達は確かに聞いた。でもね、その時の殉職者は〝12人〟だったの。1週間前よ。これがどういう事か、わかるよね?」 現在の殉職者数と、たった1週間前の殉職者数。その行き着く結論にティアナは 「すみません!」 と頭を下げ、自らの席に戻っていった。 このやり取りのおかげで事態の緊迫性を理解した他全員は沈黙を守った。 『─────現在ヴァリアブル・ファイター、通称〝バルキリー〟は、汎用人型可変戦闘機としてVF-1『ワルキューレ』。多用途人型可変戦闘機としてVF-11『サンダーホーク』の採用が予定されています。このうちVF-11については用途によって搭載機器を、指揮特化型や量産型、そして重武装型などにそれぞれ特化して運用する予定です。』 (設計だけじゃなく名称までもじってやがる。こりゃああっちの世界の開発元が聞いたら著作権で怒るだろうな。設計図を提供したL.A.I社の研究員は大丈夫かよ・・・・・・) アルトはそんな事を考えていた。そうしている内に映像が終わり、会見会場にカメラが戻った。 『皆さん、先ほどの映像からこの計画の概要を理解していただけたかと思います。しかし皆さんは「理念違反だ!」と反対されるでしょう。私も最初、この計画は考えてはいても、実行しようとはまったく考えませんでした。しかし私は、ある人物の遺言に心動かされてしまったのです。それは─────』 ホロディスプレイの映像が差し変わり、そのある人物の写真が映った。それはツーショットで、彼女と一緒に写っているのは〝なのは〟らしかった。 まだ部隊に入りたての頃の写真のようだ。2人とも青白の教導官の制服はパリパリで新しく、まるでリクルートスーツを着ているような初々(ういうい)しさが漂っていた。 目の前にいたなのはは俯く。とても正視出来ないのだろう。 『この向かって右側の彼女は殉職者の1人、宮島栞二等空尉です。栞空尉はリンカーコア出力がクラスAAという非凡な才能を生かし、4年ほど前から空戦魔導士の教導隊の一員として業務に就いていました。しかし2週間前、海上で彼女の所属する教導隊が新人の訓練を行っていた時にガジェットに襲われたのです』 プレーヤーが再生される。どうやら襲撃時の通信記録らしかった。 ―――――――――― 『メイデイ!メイデイ!こちら第4空戦魔導士教導隊、至急救援を乞う!・・・・・・ダメだ!ジャミングで妨害されてる!』 『新人どもをどこかに逃がせ!邪魔だ』 『逃がせってここは海上なんだぞ!』 『おい、ショーン・バノン二等空曹!なにやってる!?』 『じ、自分達も戦います!』 『バカ野郎!お前らヒヨッコはバリア張って身を守ってればいいんだ!頭出すな!わかったか!?』 『はっ、はい!』 『吉沢隊長、』 『ああ、栞二尉、助かる。私は右端から落としていくから、君は左端から頼む』 『了解。・・・・・・しかし隊長、このままではじり貧です。大規模転送魔法で安全圏への退避を』 『だが我々だけならともかく、新人はそう簡単に動けないぞ!』 『私が囮になります!その間に退避を』 『しかしそれでは―――――』 『こちら左翼!防衛ラインの維持は限界です!至急新人どもを退避させてください!』 『隊長!お願いします。やらせてください!』 『・・・・・・わかった』 ―――――――――― 爆音と喧騒混じりに聞こえる無線達。それらは本気の戦場の模様を写し出していた。 『この後、部隊のほとんどが彼女のおかげで無事に戦域から脱出しました。しかし囮になった彼女には逃げる隙がありませんでした。そんな彼女は最期に遺言を遺しています。今それを公開したいと思います・・・・・・』 再びレコーダーが再生される。彼女の遺言は、その〝全て〟が公開された。 そしてその放送は世界を沈黙させた。 彼女を知らなくても、同じ人間としてその無念さと理性を失う程の死への恐怖を痛感し、彼女を知る者は泣き崩れた。 なのはなど最後の方にあった自分の名が呼ばれるところでは、席から突然離れ、飛び出して行ってしまった。 再生が終わるとレジアスは続ける。 『私はもうこのような犠牲者を出したくない・・・・・・それに、彼女達の仇をとってやりたい!彼ら殉職者達の遺影の前に立ったとき、「仇はとったぞ!」と言ってあげたいのです!どうか、皆さんのご理解をいただきたいと思います・・・・・・』 映像と会見は深く頭を下げたレジアスを映して終了した。 しかし食堂の誰もが動けなかった。それほどの衝撃をあの遺言は与えていた。 15分が経ち、なのはが帰ってきた。彼女はまたしても気丈に振る舞っているが、その目は痛ましいほどに泣き腫らしていた。 プ、プ、プ、プーン――――― 『こんにちは。午後1時のMHK(ミッドチルダ・放送・局)ニュースです。先ほど行われた記者会見の緊急世論調査の結果は、もうまもなく集計が完了する予定です』 時報と共に始まったニュースは各地の反響を伝える。 号外が配られる街頭を歩くビジネスマンや、会見をテレビで見たレストランの客など。それぞれ賛成、反対などの意見を語っていた。 『―――――今のは首都クラナガンの中央駅前からでした。次に、記者会見で名前の出た時空管理局地上部隊所属だった宮島栞、元二等空尉の実家と中継がつながっています。現場にはロバート・ユレスキー記者がいます。・・・・・・ユレスキーさん?』 ニュースキャスターの呼び掛けに、現場へとカメラが飛んだ。 「―――――はい。こちらは先ほどの記者会見で名前の出た宮島栞、元二等空尉の実家前です。」 『ユレスキーさん、何か動きがあったそうなんですが、ご家族の方が記者会見について何か言われたのでしょうか?』 「はい。ちょうど5分ほど前に家族の方が帰って来られ、家に入って行きました」 映像が中継から録画された映像に切り替わる。 その家の玄関に乗り入れてきた車に殺到する記者逹。そして車から出てきた2人の男女に記者逹のフラッシュと質問が殺到する。どうやら彼女の両親らしかった。 2人は記者の質問に応えず、無表情を保っていた。しかし母親はついに耐えかねたのか、とうとうその場で座り込み、泣き出してしまった。 「どうして家(うち)の子が・・・・・・あんなにいい子だったのに・・・・・・どうしてなの!?」 父親が彼女をなだめて立たせる。しかし彼女は何を思ったのか、おもむろに記者逹が回すカメラのうち1台をひっつかむと、こう懇願した。 「もう理念とか関係ありません!管理局の皆さん!なんでもいいから、家の大事な1人娘の仇をとってください!」 それだけ言うと、父親に半ば運ばれるように連れられた彼女はおろおろと泣きながら家の中に消えていった。 カメラが戻り、再びユレスキー記者を撮す。 「その後こちらではまだ動きはありません。以上、実家前からでした」 心なしかユレスキー記者の顔色は良くなかった。 この事件の加害者であるガジェットは、民間人にも容赦をしない。つまりこの事態は〝もしもの覚悟〟ができている自分自身だけでなく、明日には何の罪もない自分の家族や大切な人に起こるかもしれないのだ。そう思うと平静でいられないのが人間というものだった。 アルトが見回すと、六課の隊長・副隊長陣は、瞳に焼き付けるようにテレビ画面をじっと見つめながら毅然とした態度を維持。前線の4人や他の職員逹も絶句しながらその放送に耳を傾けていた。 そして自分達の前にあるコーヒー、紅茶はすでに室温になっていた。 『ユレスキーさんありがとうございました。・・・・・・はい』 ニュースキャスターに画面下から紙が回された。彼はそれを一読すると目を見開くが、国営放送の報道者として中立を守るというプロ根性が辛勝したのだろう。なんとか無表情を保った。 『先ほどから行われていた記者会見の緊急世論調査の速報が出ました』 ニュースキャスターが、この世論調査の形態を『コンピュータで無作為に発生させた電話番号で―――――』などと説明すると、大きな見出しと3つの選択肢が現れた。 『まず、対応の遅れによって出してしまった殉職者について。〝憤りを感じる〟〝仕方ないと思う〟そして〝どちらとも言えない〟の3回答の結果は―――――』 画面が円グラフに切り替わり、赤と青、そして緑による色分けがなされる。しかし、青と緑は小さく、赤が圧倒的で8割以上を占めた。 『赤が〝憤りを感じる〟で81%。青は〝仕方ないと思う〟で10%。緑の〝どちらとも言えない〟という解答は9%に止まりました。続いて、ヴァリアブル・ファイター配備計画について。〝賛成〟〝反対〟〝どちらともいえない〟の3回答の結果は―――――』 ここはアルト達にも緊張の一瞬だった。なぜならこれを元に今後の方針が決まるからだ。仮に反対多数なら、レジアスは職を追われるかもしれない。 果たして、3色に染まった円グラフは、赤がが半分以上を占め、次に緑。5分の1ほどが青かった。 『赤が賛成で58%。青が反対で18%。緑はどちらともいえないで24%でした。・・・・・・今、時空管理局の歴史について詳しい、ミッドチルダ大学の山本信雄教授におこしいただいております。よろしくお願いします』 『いえ、こちらこそ』 『・・・・・・それでは早速ですが、これはどういうことでしょうか?』 ニュースキャスターの単刀直入な問いに、山本教授は苦い顔をして一言言い放った。 『う~ん・・・・・・〝時代は変わった〟ということなのでしょう』 その言葉は後の世が、これからのミッドチルダの変革を思い出す時の原点となるセリフだった。 (*) 賛成多数が決まった直後、はやての携帯端末にコールが入った。 「はい、はやてです。・・・・・・レジアスおじさん!? ちょっ、どうし―――――」 そこから先は声が小さく、アルトには聞こえなかった。そして周囲が心配の視線を向ける中、はやては携帯端末を畳む。 「アルトくん、ちょっと来てな」 「は?オレ?」 しかし、はやてはそれだけ言って構わず行ってしまうため、追わざるをえない。 彼女は食堂を出て、廊下を抜け、着いた場所は部隊長室のデスクだった。 「どうしたんだよ?」 しかしはやてはその質問には答えず、1枚の紙とペンを差し出してきた。なぜかその顔には笑みが浮かんでいる。 (いい話・・・・・・なのか?) 怪訝に思いつつもそれを一読してみた。 「・・・・・・オイ、はやて、これはどういう事だ?」 その紙にはこう書いてある。『退職届け』と。 「俺は〝クビ〟って事か?」 はやては不敵な笑みを見せると、首を縦に振った。 「お、おいおい!ちょっと待て!どうしてなんだ!? 俺が何をした!?」 「自分の胸に聞いてみ」 「・・・・・・」 何も浮かばなかった。 「やっぱりわからん。それに退職届けってことは、俺がサインしなければ―――――」 「それがダメなんや。もう上が決定したことやから、ウチでも撤回はでけへん。せめてものよしみで、退職金が多い自主退職にしてあげようと思っただけや。もうあと12時間ぐらいで正式な辞令が下りるはずやで」 ―――――どうやら根回しは済んでいるらしかった。 (どうして今さらこんな仕打ちを―――――!) 泣く泣くアルトはサインし、毅然と振る舞って虚勢を張ってみせる。 「おまえのこと、友達だと思ってたんだがな・・・・・・」 せめてもの抵抗に紙を放ってやる。しかし彼女は気を悪くした風もなくそれを受け取った。 「人間て非情になるもんやな。今度はこっちや」 アルトは渡された紙に小さく悪態をつきながら、どうせ「お前クビ」と遠回しに書かれているだけだろうから文面も読まずサインし、また放ってやった。 「よし。これで早乙女アルトは、本日付けで晴れて〝本局〟からクビになる訳や」 彼女はそう言って2枚目をFAXする。 そして10秒待たずに送られて来た返信に彼女はサッと目を通すと、アルトに差し出した。 「? なんだ?」 「読んでみ」 さっきとは違って今度は慈愛に満ちた笑み。 アルトは先ほどのレジアス以上のはやての豹変に戸惑いながらその紙を受け取り、目を通す。 ―――――どうやらはやてに1杯食わされたらしい。 そこにはこう書かれていた。 入隊許可証 時空管理局 地上部隊 試作航空中隊司令 レジアス・ゲイズ中将 我が中隊は、優秀なパイロットである早乙女アルトの入隊を許可し、階級を一等空尉とする。 なお、明日の1200時をもって本局の籍は剥奪される。それまでに貴官は人型可変戦闘機VF-25に搭乗の上、『時空管理局 地上部隊 技術開発研究所』に出頭すること。 また貴官の今後の任務は、我が試験中隊の実戦教官。及び、本局との連携強化のため、機動六課との連絡役とする。 ―――――つまりメインが変わるだけで六課にも自由に出入り出来るし、なんら不利なところはない。おそらくこれは、はやての手回しの成果だろう。六課に残ることになるランカにいつでも会えるように。という配慮だ。 「なんだよ。驚かせやがって・・・」 呟きながら顔を上げたアルトの目に最初に入ったのは、満面の笑顔だった。 「昇進おめでとう、アルトくん!」 いつもの人の良い友人、八神はやてがそこにいた。 次回予告 アルトに迫る砲撃。しかし彼には友軍はいなかった。 果たして地上部隊に勃発した争いとは・・・・・・ 次回マクロスなのは、第11話『地上部隊は誰がために・・・』 「それがな、今度アルトくん達とは〝敵対〟関係になることになったんや・・・・・・」 シレンヤ氏 第11話へ
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目が覚めると、そこは見知らぬ世界だった。 魔法少女リリカル☆なのは~NEXUS~ 第一話 『悪魔』 闇の書事件。ロストロギア、『闇の書(夜天の魔導書)』を巡る事件から一年が経とうとしていた。事件の中心人物だった 少女、八神はやては今では自力で歩けるまでに回復し(もっとも、まだ激しい運動はタブーだが)、家族である魔導 書の騎士達も、管理局の保護観察を受けながらも彼女と平和な日々を送っていた。 そんなある日の夜。 「今日はすき焼きやぁ。ヴィーダもお腹すかしてるやろなぁ」 「そうですね。あ、そうだ。帰りに皆のアイスを買っていきましょう」 「ええなぁそれ」 はやてと彼女の守護騎士の一人であるシャマルはゆっくりと鳴海市内を歩いていた。シャマルもまだあまり速く歩け ないはやてに合わせて気持ちゆったり歩いている。荷物は二人で半分ずつ。全部持つと言うシャマルをはやてが説得 して、半分ずつにするのは何時ものことだった。 ふと、はやては空を見上げた。頬に当たった冷たい感触。雪だ。またふわふわと降りてくる。 「……雪やなぁ」 「……そうですね」 二人はしんしんと降る柔らかな雪をしばらく見つめ続けた。彼女達にとって、雪とは特別な意味を持つものだから。 「(リィンフォース……今どこにおるんやろなぁ)」 一年前に旅立っていった一人の家族のことを思い、はやては少しだけ微笑んだ。 刹那、夜空を白い光が掠めた。 「あれ?流れ星?」 はやてが言った。シャマルもつられてそれを追う。だがその光が輝いたのは一瞬。もう見えるはずも無かった。 「願いこと、しましたか?」 「そんな余裕、あらへんよ」 「ほないこか」はやてとシャマルは手を繋いでその場を後にした。 「(今の光、本当に流れ星やったやろか……)」 心中、はやては首を捻っていた。今の光は魔導師が飛行する時に残す魔力の残光にも見えたからだ。 闇の書事件から一年が過ぎようとしていた十二月一日。一人の青年が漂着しているのが発見されて市の病院に運ばれ、 その明朝に行方を眩ましてから一週間後のことだった。 砂漠に覆われた世界。かつて、フェイト・テスタロッサ(現フェイト・T・ハラウオン)とはやての守護騎士、シグナムが 激突したこの地で今、管理局の精鋭達は己らの知る存在を遥かに超えたモノと交戦していた。それは静かに、しかし 確実に彼らに死を運ぼうとしている。 「く、くそぉっ!」 彼らとて管理局の精鋭。その強い自負があった。故に彼らはここで判断を誤る。 逃げておけばよかったのだ。形振り構わずに。この中の誰一人として、それに敵うはずがなかった。 「消えろぉっ!」 一人の魔導師が破れかぶれに魔道杖を振るった。他の魔導師もそれを見て、何とか自分を奮い立たせて『ソレ』に 立ち向かった。同時に繰り出される砲撃魔法。青の光の爆発が『ソレ』を吹き飛ばした。 「なっ!?」 かに見えた。あれだけの砲撃を受けたというのに、『ソレ』は確かに自分の足で立っていたのだ。 「こんな……馬鹿なことが……」 恐怖を一気に通り越させられて、絶望の底辺。その巨体が、彼ら管理局魔導師の自信と意地、全てを砕いて捨てた。 それは確かに人の形をしていた。しかし人ではない。 まず大きさが違う。それはまるで大型の傀儡兵のよう。 そしてそれは仮面を被っているようだった。人でいう口の部分の輪郭が、まるで笑っているようで。しかしその 微笑みは優しげでない。この世全てを哂うような皮肉げな微笑。頭頂部からは角のように突起が生え出ていた。 胸には黒い水晶体。 全身を覆う黒と赤の斑なツートン。それはかつて、ある世界でこう呼ばれていた。 悪魔―『ダーク・メフィスト』と。 『下らん、これがお前達、魔導師とやらの力か』 地の底から響いてくるような低い声。戦う意志をすっかり失っていた局員達をさらに追い詰める。彼らに許されることは ただ震えることだけである。 『まあ良い。最初からお前達には期待などしていない。人間の身で、私に対抗し得るはずがないのだから』 ダーク・メフィストは腕を胸の前で交差させた。その両腕に集う紫紺の妖光。炸裂音を発しながら増してゆくその光を前に しても、優秀なはずの管理局員達は身動き一つ取れなかった。あまりにも大きな力の壁を前にして、心と身体が麻痺してし まっていた。やはり彼らに残された道はただ死を待つことのみ……― 『諦めるな』 世界に、希望の光が射した。 ここが何処なのか、分からない。自分に残されたこの力が何を意味するのか分からない。あの時、確かに感じた はずだ。自分からあの溢れる力が抜けていくのを。だというのに今、身体を満たしているのは失ったはずの光の力。 一体何故?何の為に?この力はあるというのだろう。それはまだ分からない。それでも……。 「この力が有る限り、俺は退かない」 姫矢准は、再びエボルトラスターを天に振り上げた。贖罪の戦いはもう終わったのかもしれない。それでもまだ 宿命が告げていた。戦い続けろと。砂塵舞う地に降り立ち、立ち上がる銀(しろがね)の巨人。眼前に立ち塞がるの はかつての強敵。それに向かって彼の戦士は立ち向かう。 ウルトラマンネクサス・アンファンス、降臨。 ED『英雄』 次回予告 傷付き、倒れるウルトラマン。 『所詮は光の残り滓。お前にはやはり、輝く力は残されていなかったということだ』 再び闇を彷徨う姫矢。 「堕ちて来いよ姫矢。闇は、悪くないぜ」 「俺はお前とは違う!」 そして管理局も強大な敵の対応に追われることとなる。 『黒い巨人、鳴海市上空に出現!』 「なのはさん!フェイトさん!急いで!」 三人の魔法少女VS闇の巨人。 『人の身で、私と戦おうというのか』 次回、魔法少女リリカル☆なのは~NEXUS~ 第二話『暗黒』 「スターライトぉ!」 「プラズマザンバーぁ!」 「ラグナロクっ!」 『ブレイカー!!!』 前へ 目次へ 次へ
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ここ、とある世界のイタリアと言う国・・・ 僕、クロノ・ハラオウンはこの地に立っていた、勿論、旅行やバカンス・・・と言う意味合いもあるが仕事も兼ねてだ。 まあ、少々長めの休暇なので、じっくり腰をすえて仕事もしろという裏の意味はちょっと気が重い。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「艦長、お呼びですか」 アースラの艦橋に呼ばれた僕に 「クロノ、手短に言うわ、仕事を含めてバカンスに行く気は無いかしら?」 母さ・・・リンディ提督は有無を言わさず予定を告げた。 「・・・自分にも執務官の業務があるのですが・・・」 「それを含めて、よ、取りあえずこれを見て、エイミィお願い」 「はいはい・・・これ・・・だっけか?」 コンソール上に複数の風景や街並み、文化レベルや政治形態のデータがまとめて表示される。以前見たなのはの世界と似たような世界であったが・・・犯罪計数や治安を含めて、多少粗野な印象を受けた。 「これは?」 「管理外世界、その中でもかなり奇妙・・・というか文化レベルのおかげで介入が非常に難しい世界よ」 「汚職政治がまかり通ってる所為で管理局も全然手をつけられないし、魔法なんかぶっ放せばさらに大騒ぎ・・・それをネタにゆすり、たかり、etcetc・・・」 エイミィがやれやれと言った感じで首を竦める、確かに好き好んで臭いものに手をつけるのは酔狂か物好き位だろうか。 「この世界は放置しても構わない・・・と思っていたんだけど・・・これね・・・」 画面上に一組の弓と矢が表示される。かなり特異な形状でただの狩猟道具では無い様だ・・・加えて我々が目をつける物体と言えば・・・ 「ロストロギア・・・ですか・・・」 「ええ、詳しい効果や能力は不明だけど・・・これに関わった人間が奇妙な行動を取ったり、謎の死を遂げたりしているわ・・・その中でもこの例・・・」 画面に奇天烈な髪形をした学生制服の男と、スーツを着た男が向き合っている。写真は少々画質が荒いがかなり緊迫した状況なのが見て取れる。 「エイミィ、これに魔力スキャンをかけてくれる?」 「了解、ペコポコペンと・・・」 「・・・これは!?」 魔力スキャンをかけると、男達の魔力反応・・・に加えてその身体の傍にもう一つ人型の強力な魔力反応が見えた。 「これは魔法をこの世界の体系で使用した例のようね、関係者は『スタンド』と呼んでいるわ・・・動画を」 魔力スキャンのまま男達が動く、いくつかの動画が撮影されていた様で、スーツの男はいくつかの魔力弾を飛ばし、学生服の男は仲間の傷を治している・・・更にはもう一人の男はいきなり信じられない速度にまで加速したり、移動したりしている。 「馬鹿な・・・魔力操作、治癒魔法・・・?に・・・転移、じゃない、時間操作!?」 「そう、こんな高レベルの様々な魔法が何の法整備も無く使用されている・・・これはかなり危険だわ」 「原因は・・・ロストロギアですか」 「全部ではないわ、でも何らかの組織が意図的に魔術士を量産した、と言うのが私達の推測」 成程、と言う事はある程度そのロストロギアは管理、運用されていると言う事になる、しかしそこが良心のある組織と… 「そしてこの影響が顕著なのがこの世界のマフィア、ギャングの溢れる地域、イタリアと呼ばれているわ」 …良心とは程遠い単語がいくつか飛び出した・・・少々落胆しつつ話を続ける。 「ロストロギアなら多少文化レベルの低さに目を瞑っても介入する必要がある・・・ですか」 「かしらね・・・それともう一つ、ここ最近起こっている魔術士襲撃事件・・・あちこちの世界に被害が散らばっていて加害者の居場所すら発見できなかったんだけど・・・」 「この世界に介入した魔術士数名と魔力を持つ一般人が被害を受けてさ、その事件発生までの速度から犯人はこの世界に潜伏していると断定されたよ」 ここらへんで話が読めた・・・つまりは・・・だ。 「僕にこの世界への潜入捜査をしろと・・・内容はロストロギアの監視、連続魔術士襲撃事件の解明及び逮捕・・・そんな所ですね?」 二人は軽く微笑 「かなり危険な任務となるわ、場合によってはアースラも外部待機として同世界に乗員が支部を構える用意も出来てる・・・それと現地のとある組織と交換条件でね・・・これを」 一枚の写真、それには黒髪の少年が写っている。 「汐華初流乃、その人物の皮膚、血液なんでもいいから体組織を持ってきて欲しいそうよ・・・その代わり、現地の拠点を用意してくれるらしいわ」 「体組織・・・?何者なんですか?この少年は・・・」 「『それを調べている・・・危険な人物ではない、だがなるべく接触を避けて欲しい』・・・だそうよ・・・」 「先ほど話した・・・『財団』・・・と言う組織の人員ですか?」 「うん、通話だけのやり取りだったんだけどね、ついでにグレアム提督が上層部に掛け合ってくれて、この件に関わる人員にはあらゆる権限を約束する・・・つまり、有事の際には本気モードでいいって事だよ、クロノ執務官?」 「茶化さないでくれ・・・捜査は単独でしょうか?」 「人員補充は随時可能、条件は『君の信頼できる人材』だそうよ?」 信頼できる・・・僕は武装局員や一般局員を信頼していない訳ではない・・・が、戦力的な信頼と言う点で自分と同等もしくは自分以上の戦力なら、数は非常に限られる。 それに、個人的な付き合いは自慢じゃないがあまり無い。やはり、思い浮かぶのは彼女・・・それと周りの人間・・・今は義理の妹。 「ロストロギアの捜査はともかく、襲撃事件の犯人と交戦の可能性を考えると・・・戦力は高い方がいい、協力者を呼んでいただけますか?」 「妹さんと、彼女だね?」 僕は無言で頷いた。 「高町なのはと使い魔・・・じゃなかったユーノ・スクライアに交信を頼む」 場所は変わって クロノの向かう筈の世界のとあるマンション、障害者が多く住むイタリアではまだ珍しいバリアフリーのマンションの一室 「到着~八神特急終点です~」 「ちょっと遅延やったけどな、ありがとシャマル」 「お帰りなさいませ主、帰りが遅いので心配いたしました」 「お帰りはやて!」 車椅子に乗った少女にそれを押す女性、駆け寄ってくる赤髪の少女と大型の喋る犬 八神はやてとその家族は財政支援を受けつつ慎ましく暮らしていた。 「シグナムは・・・今日は遅いんか?」 その場に居ないもう一人の家族を案ずるはやて。 「ん~、なんか散歩、周囲の警戒も兼ねてるんだって」 「あまり此処は治安が良いとは言えませんからね・・・マンションは個別に鍵掛けてるから大丈夫ですけど」 「そか・・・でも気つけてほしいな・・・心配や」 「だいじょーぶだよ、シグナム怒るとおっかねぇしさ」 「うん・・・ん?・・・あ、留守電か?」 メッセージが三件入っている、一つ目は通院している医師の物で、既に聞いたものだったが・・・ 『あ・・・その、ドッピオです・・・昼頃その・・・あ、いや、ちょうど留守の時みたいだったんで・・・夜頃お伺いしても、良いでしょうか?・・・お電話待ってます』 「ドッピオさんですね、まめに気遣ってくれてありがたいです」 「そやな~おっちょこちょいだけどいい人や」 「あ・・・やべ」 「どしたん?ヴィータ」 二件目のメッセージ 『えと、あ・・・ドッピオです・・・ヴィータちゃんに聞いたら六時頃みんな帰ってくるのでその時に・・・と言うので・・・ちょっと遅いですが、七時ごろお伺いにさせてもらいます・・・』 現在時刻、六時四十五分 「あかんー!ザフィーラ、ヴィータ部屋片付けてー!シャマルは料理手伝ってぇな!!」 「ヴィータちゃん!どうして勝手に呼んじゃうのー!」 「だってさー!遅れるなんて思わなかったから」 一瞬にして騒然となる八神家にシグナムが帰ってきた。 「主、遅れて申し訳ありません・・・外でドッピオ殿が時間を潰していた様なので家に来ていただきましたが・・・」 全員が凍りついた。 海鳴市、高町家なのは自室にて 「と言う事だけど・・・どうする?」 フェレット姿から、人間の姿に一時的に戻り、ユーノ・スクライアが携帯からの魔道文書に目を通しつつ、なのはに聞く。 「危険なんだよね・・・時間がかかるかもしれないなら、学校もお休みだし・・・お父さんやお母さんにも心配かけちゃう・・・」 「フェイトは嘱託魔導師試験をクリアしたらしいから・・・もしかしたら会えるかも」 「そうだね・・・会いたい・・・」 胸元のデバイスを握りこみ、腰掛けていたベッドから立ち上がる。 「うん!行くよ!レイジングハートも・・・頼りにすると思うけど・・・」 『No problem』 「わかった、後日リンディさんが理由付けにこっちに来るって・・・しばらくの滞在だからそれなりの理由が必要だしね」 決定の是非は問わなかった、が、ユーノ・スクライアにはなのはが何かに引かれているようだと言う事をなんとなく感じていた。 そう、スタンド使い(魔法少女)はッ!魔法少女(スタンド使い)に惹かれ合う!! 魔法少女リリカルなのはGE(黄金体験!) 始まります 目次へ 次へ
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思い起こせば、あの火事がきっかけだったんやなあ。 機動六課のはじまり。 うちが望んだ新部隊の。 初動の遅さが犠牲者を増やす。 ロストロギアならなおさらやんか。 だからこその精鋭部隊や。 少しでも早く、一人でも多く。 あれは、そんな気持ちの生んだ焦りだったんだと思う。 「誰にも、人をもの呼ばわりする権利はない」 覚悟君が目覚める前の、うちと、零(ぜろ)の出会いや。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第二話 『盟約宣誓』 我ら、零(ぜろ)の意志なり。 零(ぜろ)に宿りし三千の怨霊なり。 誰と問われたとて、三千の怨霊たる我ら以外にあらず。 国籍も、、信念も、愛するものも異なっていた我らを結びつけるものは ひとえに、侵略戦争への怨嗟なり! 人の尊厳をふみにじる悪鬼どもへの限りなき憤怒なり! ゆえに我らはひとつ。 零(ぜろ)となりて外道を討つ。 我らと同じ血涙をためらいなく流した、我らが戦士、葉隠覚悟と共に。 憎しみの海たゆたう我らを光と変えたあの覚悟が、背中まかすべき相手を見誤るとは思わぬ。 邪(よこしま)なる企みがため利用されることなど、ありえぬ。 だが我ら、ただの鎧なり! 昏睡に陥りし覚悟を前に、首を切り離されていては何もできぬ。 そして、覚悟に必要なものは刹那を争う外科手術! もとより我らの手には負えぬ! ゆえに覚悟の着装せし首以外の我らは分離、治療行為を異邦人に託さざるを得ず。 同時に我ら、彼らに拾われ、現在カプセル内にて薬品付けなり。 当然であろう、零(ぜろ)は兵器! 誰が見ても明らかなり! 力求める輩に我らを為す技術、いかほどの魅力あろうか! 強化外骨格が瞬殺無音、誰にも渡すわけにはいかぬ。 だが我ら、ただの鎧なり! 現在可能なのはただひとつ。 ふさわしきもの以外の着装、これただちに我らが生贄(にえ)。 邪悪な認識をもって我らに接するものなど、とり殺してくれよう。 「…お、重かった」 「そのまんま人の首の重さだな、こりゃ」 「持ったことあるのかよ」 「ないけど」 ズン!…やって。 ヘルメットが重そうな音を立ててテーブルをきしませてる。 額の星と『七生』の文字が黒光りしてるのも、重さに拍車をかけとるな。 ここまで持ってきてくれたデバイス管理チームの二人には感謝やで。 火事の現場で拾ってきたフェイトちゃんも、片腕に女の子抱えて、 もう片手でこれの重さに耐えるのは閉口モノだったみたいやし。 「おおきに。 それじゃあ、引き続きお願いな」 「了解です」 敬礼して戻っていく二人を見送って、室内に目配せ。 ここにいるのは、なのはちゃんとフェイトちゃん。 それと、事情を話して急きょ来てもらったクロノ君。 「これが…あの少年の身につけていたデバイスの、頭か?」 「みたいやね。 せやろ? なのはちゃん」 「うん、頭だけかぶってなかったけど…これならそろいのデザインだよ。 でもフェイトちゃん、火事の中でよく見つけたね」 「目がね…ほら、ここだけど、目が光ってたんだ。 それに、なんだか…血の涙が出てて、可哀想で」 「フェイトちゃんらしーわぁ」 ヘルメットの目の部分を指さして、うつむき加減に話すフェイトちゃん。 デバイスにだって、うれしいこと、イヤなことはあるもんなあ。 この子はそういうのに人一倍敏感やから、本当に助けたい思うたんやね。 おかげで助かったんや、感謝せなあかんで? まだ名も知らないデバイスやけど、そないなこと言ってやりとうなったわ。 「…で、問題は、これがどういうシロモノかということなんだが」 せっかちにクロノくんが切り出す。 忙しいところ無理言って来てもろたんやから、当たり前やけど。 「あの少年、ミッドチルダに戸籍を持っていない。 該当データなしだ。 レリックが原因で起こった火災の中にいて、おまけに未知のデバイス。 穏やかじゃなさすぎると思わないか?」 「関連は、あると思うた方が自然やね。 時空遭難者なんかな…」 「葉隠覚悟、っていう名前は、わたし達の世界の、日本の名前だよね」 「ともかく、僕に一番最初に話を持ってきてくれたことはいい判断だ、できる限りのことはする」 覚悟君のデバイスがロストロギアみたいなものかもしれないってことで、 クロノ君にも「偶然ここに居合わせて」もらったのが助かったわ。 現に、正体不明人物が火事の現場に現れたことの連絡が伝わって、 その対策として居合わせたクロノ君にまかせるってことが決まったのは…翌日なんやで? 動きがのろすぎるんや! もしこのせいでまた空港が火事になったりしたら、どうするつもりやねん。 だから今は、クロノ君の声のかかったチームで、デバイスの解析作業を進めてる。 さっき、サンプルの頭と一緒に、解析の途中経過も持ってきてもらった。 「…これは、一種の人造生物だな。 人間の身体にからみついて外骨格そのものになるのか」 「そういえば覚悟君、言ってたっけ。 強化外骨格、って」 「だが、デバイスでいうところの制御中枢にあたる部位が、これには存在しないじゃないか。 聞けば、手術ができず難儀しているところに、あの鎧は勝手に脱げていったらしいが」 「違うよ」 フェイトちゃんが、また、あのヘルメットを腕に抱えた。 「デバイスとか、制御中枢とか、そんなんじゃなくて… それでも、この子には意志があるよ。 よく、わからないけど」 「理屈じゃない、か…それも一理ありそうなのがまったく困る」 「まあ、あとは調査の結果待ちやね」 わからないことはこれ以上話せへんし。 今回決めるべきことは、ひとつや。 「じゃあ、本題に入るけど…結論から言うで」 「大体、検討はつく気がするが、言ってみてくれ」 「うち、これからもっと偉くなってな、新部隊を創設したいと思うねん。 今の管理局は初動が遅すぎるわ。 ロストロギア関係の事件が起きれば、犠牲者が増えすぎる。 エキスパートを集めた即応部隊が必要なんや」 「おおむね賛成だ、生半な道じゃないが…それで?」 この話と、なんの関係があるのか? クロノ君はそう言っとるんやけど、大アリや。 「葉隠覚悟君が、ぜひとも欲しいんよ」 「なっ…」 度肝を抜かれた顔せんでもええやん。 そんくらいのこと、予測しといてほしかったわあ。 「まだ身元すらはっきりしていないんだぞ?」 「はっきりしてからでも遅くはあらへん。 どうせ早くて三年かかるわ、この野望!」 「それにだ、本人の意志も確認せずにそれはないだろう、常識的に…」 「わかっとるて、全部、覚悟君次第やて。 話に聞くだけの力を持ってるなら、それだけの意味がどこかにあると思う。 そのためにも、覚悟君の自由、誰にも奪わせたらあかんねん」 「…それを、ぼくにどうにかしろというんだな」 「悪いこともしてないのに目を覚ましたらデバイスが没収されてるなんて、嫌やんか。 せやから、せめて目を覚ますまでの間は現状を維持して欲しいんや」 「やれやれだ…これはひとつ、貸しだぞ」 「そのうちな、無理言ってもええで」 まだ直接話したことすらない子の未来を好き勝手するつもりは毛頭あらへん。 せやけど、聞けば聞くほど惚れるやんか。 空港火災の中、死にそうな身体を引きずって女の子を助け、残った子を助けにまた舞い戻ろうとする。 シャマルが言うには、生きてる方がおかしいダメージを受けてるちう話やった。 うち、そんな子となら一緒に働きたいねん。 なのはちゃんや、フェイトちゃんと一緒に。 「戦力として、ものにしたいところやな…覚悟君も、この子も」 なんとなく、ヘルメットをつかんでみたそのときやった。 ヘルメットの顔が開いて、中の肉が触手になって飛び出してきて、 うちの頭に、顔にべたべたひっついて…何が起きたのかわからへんかった。 だけど、そのとき一緒に聞こえてきた声だけは、はっきりわかった。 『零(ぜろ)にふさわしき戦士かを問う!』 八神はやて、零(ぜろ)の頭部、着装! 戦力として、「もの」にしたいところやな。 「もの」にしたいところやな…「もの」にしたい…「もの」に… 「もの」、「もの」、「もの」、「もの」、 「もの」! 「もの」! 「もの」! 「もの」! 「覚悟はきさまのものにあらず! 誰にも人をもの呼ばわりする権利はない!」 我らと覚悟の力を欲するという少女は、我らが前で最大の禁句を口にした。 「戦力」として「もの」にするだと? よかろう、ならば覚悟を問うてやる。 強化外骨格の力を得ようとするならば当然の試練なり! 我らが意識界に取り込まれし少女は生まれたままの姿。 ここでは何ごとも隠し立てはできぬなり。 少女は尋ねる。 早くも我らに気づいたか。 我らが無数の髑髏(しゃれこうべ)に。 「これ…違う、あなたたちは?」 「我ら、零(ぜろ)に宿りし三千の怨霊なり」 「なら、あなたたちが、あの子…」 「我らが力、欲しいと言ったな! 精鋭を集めた部隊に欲しいと!」 このくだり、忘れたくとも忘れるまいぞ。 鬼畜、葉隠四郎も同じことを言っていた! 零式防衛術は、そこより生まれ出でたのだ。 無数の屍を踏み台として! この少女、八神はやてとやらの正義、確かめねばならぬ。 そこに邪悪な認識欠片(かけら)もあらば、ふさわしからざるものにふさわしき処遇を与えん。 覚悟未だ目覚めず、我らの五体不満足なる現状、こうするより他、理想的なる道は無し! 「ならば見よ、我らが憎しみを!」 零(ぜろ)が生まれたのは、第二次世界大戦下。 まだ日本が帝国を名乗っていた時代。 本土決戦に備えるべく葉隠瞬殺無音部隊にて生み出されしは 人体の潜在能力を極限まで引き出し一触必殺を可能とする零式防衛術! 体内にうずめることで五体を装甲化、弾丸をはじき返す零式鉄球! 生体改造により人間そのものの戦闘能力を強化された、戦術鬼! そして、武器を内蔵した耐熱防弾防毒鎧、着装すれば人間を戦略兵器と化し単身にて一国をも落とす、強化外骨格。 これらの完成のため、無数の人体実験が必要とされ…提供されしは敵国人捕虜! 彼らは性別、人格、年齢、なにひとつ考慮されず番号として扱われ、無惨な死を遂げていった。 頭や四肢を破壊されては、ごみのように捨てられていった。 彼らの血肉より出でしが、強化外骨格試作壱号、零(ぜろ)。 零(ぜろ)の涙は彼らの血涙。 憎むべきは侵略戦争、憎むべきは人の皮をかぶりし鬼畜。 恨みと痛み、絶えることなし… 八神はやては、歴史を見た。 「うあああああああああああああああああああ!!」 絶叫。 我らが我らたる所以を見たか。 痛みから来るものか、恐怖から来るものか。 八神はやてはその場から遁走を開始した。 「やはり、ふさわしき戦士にあらず!」 ならば殺すべし。 頭蓋を圧壊せしめて殺害するなり。 そしてこの意識界、我らから逃れうると思ったか! だがしかし! 目の前に立ち塞がりしは、剣十字! 「きさま…ここに侵入してくるとは、何者か!」 その中より浮かび上がるは、白き女。 今にも消えゆきそうな幽鬼なり。 憎しみによりて現界せし我らと比べ、その顕在化、あまりに脆弱! だがその女の広げた両腕より先に、我ら、一歩も進めざるなり! 無言の気迫、我らと同じく強化外骨格に宿る魂に匹敵。 何者か。 こやつ、何者か? 「そこをどけ!」 この女、威圧ごときにたじろぐわけなし。 かえってその足、我らの方に進め来たるなり! そして、こともあろうに、この女… 我らの認識を逆に侵略開始せり! 零(ぜろ)細胞の主導権、奪取さる! 八神はやての頭部より着装解除、地に落下。 「おのれ…」 だが刹那、我らは見た。 時を超え刻まれし哀しみの記憶! それは侵略の歴史であり愛憎の歴史! 悪しき認識によりて本質をねじ曲げられ、 災厄として現界させられる終わり無き苦痛! 心ならずの滅尽滅相、愛するものを自ら蹂躙する宿命! 幾度死せども強制転生の無間地獄! 己を滅ぼすことすら不可能なり! かの者は夜天の書、のちの呼び名を闇の書。 我らとなんら変わらぬ怨嗟の塊! 「そのような女が何故?」 我ながら愚問なり。 その終焉の歴史にて、我らが無駄口閉ざされたり。 永劫の痛み、すべて受け入れた上で現実への回帰を選択、 闇の書をもろとも光の中へ導いた少女こそ、あの八神はやて! 「きさまの、名は!」 祝福の風、リィンフォース! 幾星霜の彼方にめぐり会えし真なる主(あるじ)を地獄に引きずらぬため 自らこの世を去った魂の、ほんの残滓の一欠片(ひとかけら)。 奴にとっての八神はやては、我らにとっての覚悟と同じ! 心つないだ友にして、身命賭して守るべき主! 「主を殺す前に現実を見よ」 「なに!」 「すぐに必要ないとわかる」 その言葉を最後に、リィンフォースの最後の欠片、消滅せり。 …否、主を守護せんがため、涅槃より舞い戻っていたのか? 今となっては、我らにもわからぬ。 ともかく、言われた通りに現実の様子を見るより他にあるまい! うちは、なんて、ひどいことを。 この子に、この子らに、なんて、ひどいことを… 頭から外れた零(ぜろ)が、うちの顔をぼんやり見ていた。 「零(ぜろ)ぉぉ―――――ッ!!」 抱きしめて駆け出す。 ひどすぎや、こんなんひどすぎやで、こないなこと、こないな… ほとんど、なんにも考えられんかった。 ただ零(ぜろ)が痛くて、苦しくて、 そんなこと、うち今まで、なんにも考えとらんで。 『もの扱い』しとった。 『もの』以外の何だとも思うとらんかった。 それがくやしくて、みじめで…こんな、ひどすぎる! 「元に戻したる、今すぐ元に戻したる!」 気がつけば解析室に殴り込みかけとった。 ガラスケース叩き割って、零(ぜろ)の身体を引きずり出しとった。 でも、うちの手には重すぎて、全然動かせのうて… しょうがないから、無理矢理ケースの中に入り込んで、 やっと零(ぜろ)の頭を戻してあげられた。 「ごめんな…ごめんな」 生体保存用の溶液に浸された零(ぜろ)の身体は冷たかった。 うちは今まで…この子の首を、はねていたんや! 首はねたまま引っ張り回して、さらし首にしとったんや! その隣でうれしそうに、この子の力が欲しいだとか! 「痛かったなぁ、辛かったなぁ、苦しかったなぁ… 気づいてあげられなくて、ごめんなぁ…ごめんやで。 うち、最低や…最低やんかぁぁぁ…」 涙が止まらんかった。 痛くて、辛くて、苦しくて。 全然気づかなかった自分が、あまりにも非道すぎて。 「いきなりどうしたんだ、デバイスに操られたか?」 「はやてちゃん…ガラスで、手が、頭が、血が…!」 「素手でガラスなんか割るから、無理に中に入るから!」 うしろから来るなのはちゃん達。 せやけど、そんなのどうでもええんや。 「この子らの方が、ず――っと痛いねん、辛いねん! こんな痛みじゃ…全然、足らへん。 こんな痛みじゃ…」 この子らの痛みをわかるためには、二度や三度死ななあかんねん。 うちには、そんなこと、できひん。 生命惜しいねん、死ぬの怖いねん。 なんてさもしいんや、自分。 なんて、自分勝手なんや。 この子のために泣きわめくことしかできないんか… 『もうよい! もうよいのだ、八神はやて!』 「…っ?」 『おまえは我らのかわりに泣いてくれている。 我らには流せぬ清浄なる涙にて、我らが心を洗ってくれている。 ゆえに我らはおまえを許そう。 おまえも我らを許してくれ!』 「零(ぜろ)…」 『それに、我らは知った! おまえの惜しむ生命は、決して我が身可愛さから来るものではない! 牙持たぬ衆生の嘆き、背負うているのがその身であろう! 何を恥じるか、胸を張れ!』 腕の中から零(ぜろ)が、語りかけてきてくれた。 うちを許すって、言ってくれてる。 「でも、うち、みんなに、あんなひどいこと…」 『ならばひとつだけ誓ってもらおう! 魂の盟約なり』 「誓い…うち、誓うわ、それで許されるなら、なんでも!」 『二度と人をもの呼ばわりしてくれるなよ! 我らが友、八神はやてよ! …さあ、泣き止むがよい。 我らが「管制人格」は男なり! 女を責めて泣かせたとあっては、覚悟に合わす顔がないのだ!』 「…ごめんな、ありがとな」 『良い! それよりも刻め、誓いの言葉をその胸に!』 「うん」 ケースの中から這い出して、立ち上がった。 それから、零(ぜろ)と向き合った。 リィンフォースとそうしたように。 『 「 誰 に も 人 を も の 呼 ば わ り す る 権 利 は な い ! ! 」 』 盟 約 宣 誓 疾風(はやて)と零(ぜろ) ここに邂逅す 前へ 目次へ 次へ