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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 閉じられていた記憶の奥深くから゛何か゛が這い出てこようとしている。 それはまるで、巨大な人食いミミズが獲物を求めて出てくるように、おぞましい゛恐怖゛を伴ってやってくる。 何故こんな時にそんな事が起こるのかは知らないが、予想だにしていなかった事に彼女はその体を止めてしまう。 自分が誰なのか知らない今でさえ大変だというのに、自分の体に起った異変に彼女が最初に感じたものは二つ。 前述した゛恐怖゛と―――――手の届きようがない゛不快感゛であった。 まるで無数のテントウムシが体の中を這い回っているかのような、吐き気を催すむず痒さ。 その虫たちが、何時か自分の体を滅茶苦茶に食いつぶすのではないかという終わりのない恐怖。 脳の奥深くからせり上がってくる゛何か゛に対し、最悪とも言える二重の気持ちを抱いている。 彼女は焦った。此処が戦いの場でないなら受け入れるしかないが、今の状況だと非常に不味い。 ただでさえ自分の身が危ないというのに、一時的に戦えない体になればやられるのは絶対だ。 やめろ、思い出したくない。突然すぎる記憶の氾濫を拒絶するかのように、彼女は赤の混じる黒目を見開く。 戦いの最中である為下手に体勢を崩すどころか、自分の頭を抱える事すらできない。 自分の名前すらも知らないはずなのに、何でこんな事が起こるのか?それが全く分からない。 腰を低くし、風に拭い去られた煙の先にいた霊夢と――その傍にいたルイズという少女を見ただけだというのに… 「なぁおい…あいつ、何かおかしくないか?」 少し離れた所から聞こえる誰かの声が、必要も無いのに耳へ入ってくる。 しかし言葉自体は的中している。今の彼女は確実におかしい―――否、おかしくなり始めていた。 何も知らないはずの自分の記憶という名の海底から、得体の知れぬ゛何か゛が物凄い速度で水面から顔を出そうとしている。 それに対し何の手だても打てず、ナイフを手にしたままその場を動くことすらできない。 歯痒さと不快感だけが頭の中を掻きまわし、彼女に゛何か゛を思い出させようとしている。 もはや体勢を維持することもできず、その場に崩れ落ちてしまうのではないかという不安が脳裏を過った瞬間――― ――…貴女―…過ぎ…――…ハクレイ… 頭の中に、何処かで見知ったであろう女性の声が響き渡った。 所々で途切れているが、初めて耳にする声とは到底思えないと彼女は感じた。 ずっと昔に、ここではない場所で知り合い離れ離れになってしまった親友とも言える存在。 あるいは互いに対立し合い、決着がつかぬまま勝手に行方をくらました好敵手なのか。 二つの内どちらかが正解なのだろうが、今の彼女にとってそれはエキュー銅貨一枚や一円玉よりも価値のない事である。 しかし…謎の声が最後に呟いた単語らしき言葉は何なのだろうかと、小さな疑問を感じた。 ハクレイ…ハクレイ…何故だろう、どこかで聞いたことのある言葉だ。 今まで聞いたことは無かったが決して初耳とは思えぬ単語に対し、彼女は心の中で首を傾げてしまう。 ――――……い…抗…うとも…貴…は…人間。霊…を…る…価…い… そんな事をしている間、またも女の声が聞こえてくる。 劣化したカセットテープに収録されたかのように、何を言っているのかすら分からない。 自分の身に降りかかる異常事態に彼女は冷静になれと自分自身を叱咤する。 何か伝えたいことがあるのだろうが分からなければ意味が無いし、何より声の主は誰なのかも良く知らない。 ひょっとするとこれは単なる幻聴で、自分は疲れているだけなんだ。未だに揉めている霊夢達を見つめながら、彼女は呟く。 一体何が起こっているのか分からないが、今するべき事はとっくの昔に知っている。 それを実行に移す為、グチャグチャに混ざった頭の中を整理するために深呼吸しようとした直前… 「アッ―――――――」 今までその姿を伏せていた恐怖と不快な゛何か゛が、スルリと彼女の中に゛戻ってきた゛のだ。 何時の頃からか脳の奥底に幽閉されていたソレは、自由を取り戻した言わんばかりに彼女の脳内を駆け巡る。 恐らく深呼吸しようとして力を少し抜かしたのが原因だったのだろうか。今となっては知る由も無い。 ただ、今の時点で断定できることはたったの一つ。 彼女は喪失していた自身の゛記憶の一部゛を…恐怖と不快で構成された゛何か゛としか形容できないソレを思い出したのである。 マヌケそうな声を小さく上げた彼女には、蘇った記憶に対抗する術を持っていない。 きっと彼女以外の者たちにも言える事だろうが、一度思い出した記憶は滅多に消える事はない。 そして、ここへ来てから最も嫌悪感を感じたそれ等が力を持ったのか、彼女の瞳に映る光景を塗り替えていく。 丁寧に描いた風景画を塗りつぶすようにして幾筋もの赤い光線が周囲を駆け巡り、古ぼけた旧市街地を染め上げていく。 彼女の目に映るソレはワインのような上品さなど見えず、ただ鉄の様な重々しさが乱暴に混ぜ込まれている。 この赤には情熱や闘志といった前向きな要素は無い。あるのは暴力的で生々しい陰惨な雰囲気だけが入っていた。 病気に苦しむ老人たちの集会場であった廃墟群が、そんな色であっという間に覆い隠されてしまう。 突如目の前の景色が変わってゆく事に対し、彼女は尚も動けずにいた。 いや、動こうとは思っていたが体がいう事を聞かず、あまつさえ先程まで何ともなかった眼球すら微動だにしない。 まるで拷問用の特殊な椅子に座らされたかのように、不可視の何かに体を縛られ見たくも無いモノを見せられている。 (な…何が始まろうとしているの…?) ナイフを手にしながらもそれをただ握りしめる事しかできない彼女は、唯一自由である心の中でそう思う。 そんな事をしている間にも目に映る世界は息つく暇もなく変化していく。 地平線の彼方へと沈もうとした太陽の姿がいつの間にか消えており、空が明かりを失っていた。 太古から夜空の明かりを務めてきた双月は未だその姿を出しておらず、代わりに見えるのはどこまでも広がる黒い闇。 地上の赤と決別するかのようにハッキリとしたその闇からは、ただただ不気味さだけが伝わってくる。 一体どれだけの黒いペンキを垂れ流せば、今の彼女が見ているほどの闇を表現できるのだろうか。 まぁ、深淵のように最果てすら見えぬ闇をペンキなどで再現する事は限りなく不可能であろう。 何故なら、この闇を見ている唯一の存在は目も体も動かぬ彼女だけなのだから。 そして彼女自身誰かに命令されようとも、この光景を再現する気はこれぽっちも無かった。 (一体何が起こっているの…?) 儚い黄昏時から怖ろしい程に単調な赤と黒へと変わりゆく世界の中で、彼女は一人戸惑う。 最も、普通のヒトならとっくの昔に錯乱していてもおかしくはないが。 とにかく今になって遅すぎる戸惑いを抱き始めた彼女には、この事態に対し打てる手など皆無に等しかった。 ―――……聞くけど…どう…して貴……と一緒に普通の……生を……ると…ったのか…ら? そんな彼女に追い討ちを掛けるかの如く、再び頭の中に女性の声が響く。 別にこれといった痛みも感じず、囁きかけるようにして自分に何かを離したがろうとする謎の――――…いや。 (違う…私は知っている、この声の持ち主は゛誰゛なのかを) そんな時であった。石の様に体が固まった彼女がそう思ったのは。 先程頭の中に入り込んだ記憶が何かを思い出させたのか、それとは別の原因があるのかは知らない。 ただ彼女にとって、声の゛主゛が自分にとって軽んじる程度の存在ではないと瞬時に理解していた。 ――――所…詮貴女は…の巫女。…この娘を立派な…に育て上げる事こそ…が今の貴女の… 再び聞こえてくる声は、最初の時と比べある程度聞き取りやすくなっていた。 しかし、ノイズ混じりのソレが鮮明になってゆくにつれて、彼女の脳内で再び゛何か゛が浮かび上がる。 まるで海底を泳いでいた人間が呼吸をする為に水面目指して泳ぐように、それはあまりにも急であった。 ただ、最初に感じた゛何か゛とは違い、それからは恐怖とかそういうモノは感じられない。 むしろその゛何か゛は、今の彼女のとってある種の救いを提供しに来たのである。 ―――――その娘は…逸材だというのに……普通の人と同じ…人生を歩ませ…なんて、宝……持…腐れ…… 赤と黒の世界に佇む彼女は、尚も頭の中で響く声にある感情を見せ始める。 それはおおよそ―――例え声だけだとしても、他人に向ける代物とは思えないどす黒い色をした感情。 ゲルマニアにある工業廃水と同じような色をしたソレを声だけの相手に浮かべる理由を、彼女は持っていた。 そう。最初に自分の頭の中を混乱に陥れようとしたソレとは違う、二度目の゛何か゛が教えてくれたのだ。 ゛全ての原因は、オマエの頭の中に響き渡る声の主にあるのだ―――゛…と。 自分の身に何が起こっているのかという事に関して、彼女が最初から知っている事は何一つ無い。 彼女はただ自身が誰なのかも知らず、自分自身に戸惑いながらここまで生き延びた。 気づけば森の中を何に追われ、小さな少女に介抱されたと思いきや、その子を抱えてまた逃げて… そうこうしている内に人気の多い場所へと足を踏み入れたと彼女は、自分とよく似た姿をした少女と遭遇した。 自分よりも感情的で、猫の様に一度掴めば狂ったように手足を振り回す彼女の名前は――――霊夢。 何故自分が;霊夢の名前を知っていて、瓜二つの姿をしているという事は勿論知らない。 最初に出会った時は明確な怒りをもって霊夢を殺そうとしていたが、今はもうその気にならない たが今になって自分がとんでもない勘違いをしていた事に、彼女は気づいていた。 自分の中に渦巻く怒りが「殺せ」と叫んでいたのは、霊夢の事ではなかったという事に。 名前も知らず、何処で生まれ、今まで何をしてきたのかも知れない彼女はその足を動かす。 先程まで地面と空気に縛られていた足がすんなりと動き、未だ口論を続ける霊夢とルイズへ突撃する。 そのついでに使う必要のないナイフを捨て、空いた右手で拳を作った彼女は、自分が倒すべき゛紫の色の影゛を見据える。 今まで見える事のなかったソレは、記憶の一部を取り戻した事により今ではハッキリと見える。 実体すら定かではないその゛存在゛は寄り添うようにして霊夢に纏わりつき、べったりと寄り添っている。 まるでその体に貼りついて生気を吸い取らんとしているかのように、ゆっくりと蠢いたりもしていた。 不思議とそれを目にすると何故か無性に腹立たしくなり、誰かを殴り倒したくなる程度の怒りも込み上げてくる。 自身の怒りが殺せと連呼していたのは、霊夢の事ではない。 彼女は今にして思い出した――――殺すべきなのは、霊夢の後ろに纏わりつくあの゛影゛だという事に。 さっきまで体に纏わせていた゛曖昧な殺意゛が゛明確な殺意゛に変異し、それを合図に彼女は霊夢に殴り掛かった。 否…正確には彼女―――――偽レイムだけにしか見える事のない゛紫色の影゛へと。 ◆ その攻撃は、場違いな口論をしていた二人にとって不意打ち過ぎた代物であった。 最も、ケンカすることを控えて警戒していれば回避できたという事は、言うまでもないが。 「っ…!?―――――――ワッ…!!」 やや泥沼化の様相を見えさせていたルイズとの会話の最中、偽レイムの方から濃厚な殺気が漂ってきた。 咄嗟にその方へと顔を向けた霊夢は、驚愕しつつも寸での所で相手の攻撃を回避する事ができたのである。 瞬間的に体を際メイル程後ろへずらした直後…相手の右拳が視界の右端から入り、左端へと消えていく。 「ちょっ――キャアッ!」 霊夢の隣にいたルイズは回避こそできなかったものの、偽レイムの攻撃を喰らう事は無かった。 その代わり、突撃してきた偽レイムにひるんでしまったのかその場で盛大な尻餅をついてしまう。 一方の偽レイムはそんなルイズに目もくれず、自分の一撃を回避した霊夢を睨んでいる。 霊夢と同じ赤みがかった黒い瞳は光り続け、それどころか先程と比べその輝きを一層増している。 まるでその目に映る相手が親の仇と言わんばかりに、彼女の両目を光り続けていた。 「人が話し合ってる最中に攻撃なんてね…私はそんな常識知らずじゃないんだけど?」 三メイル程度後ろへ下がった霊夢は、振りかぶった姿勢のままで停止した偽レイムの右手を一瞥する。 殺人的と言える速度を出したその拳に、既に汗で濡れている彼女の背筋に冷たい何かが走る。 それと同時に、偽レイムの体に纏わりついている気配が先程までのモノとは違う事に気づく。 最初に出会った時は、激昂していた霊夢とは違いやけに冷静な怒りに包まれていた彼女の偽者。 ところが、ルイズと口論した後のヤツは冷静さこそ失われてはいないものの、その怒りにハッキリとした゛殺意゛が含まれている。 まるで興奮していた切り裂き魔が、時間経過と共に落ち着きを取り戻し体勢を整えたかのように。 先程までの戦いやルイズに手を出そうとした時とは違い、今度はしっかりと自分の命だけを狙って殴り掛かってきた。 (何よコイツ…本気出すなら最初から出してきなさいっての) 今までとは打って変わって攻撃してくる偽者に毒づきつつ、本物は先程の攻撃を手短に分析する。 突然の奇襲となった相手の拳は結界を纏っていなかったものの、その威力事態は凄まじいのだとわかる。 もしも回避が一秒でも遅れていたら…と事すら考える暇もなく、霊夢はすぐに戦闘態勢を整える。 相手が襲ってきたのなら対応するしかないし、もとよりこの場で退治するつもりであったのだ。 (まぁ…色々とイレギュラーな存在が紛れ込んじゃったけど、今は目の前の敵に集中しないと駄目よね) 気持ちを瞬時に一新させた彼女は左手にもったナイフを握り締め、目の前にいる偽レイムと対峙する。 しかしその直後、襲ってくる直前まで隣にいたルイズか゛今どこにいるのか゛を知り、咄嗟の舌打ちが出てしまう。 (こういう時に限って、あぁいう邪魔なのがいるのはどうしてなのかしら…!) 今日は本当にツイてない。自分の身やその周りで起こる色々な出来事全てが悪い方向へ向いてしまう。 下手に動けばルイズが死ぬかもしれないという状況の中で、霊夢は動き出せずにいた。 一方尻餅をついてその場を動けないルイズは、目の前にいる偽レイムを見上げていた。 鳶色の瞳を見開かせた両の目には確かな恐怖が滲み出ており、僅かだが体も震え始めている。 魔理沙の首を絞め、霊夢が介入しなければ自分を絞殺していた存在がすぐ傍にいるのだ。恐怖しない方がおかしい。 先程までは強気になって魔法を放てたものの、今の状況では呪文を唱えるより相手が自分の頭を殴り飛ばす方が圧倒的に速い。 魔法に詳しい故に長所と短所も知っているルイズだからこそ、その手に持ったままの杖を振り上げる勇気が無かった。 「あ…あ…あぁ…」 ジワジワと心を侵していく緊張と恐怖のあまりに大きな声を出せず、ガラスで黒板を引っ掻いたような掠れ声だけが喉から出る。 本当なら今すぐにでも叫び声を上げて逃げ出したい――そう思いつつも彼女の体は動こうとしない。 彼女にとって突然過ぎた敵の攻撃と、今すぐ殺されるのではないかという恐怖という名の縄に締め付けられている。 しかしそれ以上に、胸中に刻み込まれた一つの言葉が今の彼女をこの場に押し留めていた。 脳内に響くそれを発言した者は、ここへ至る道中にルイズと魔理沙を止めようとした八雲紫である。 ―――――――――もし今後も怯えるだけなら、霊夢の傍につくような事はやめなさいな 相手を諭すように見せかけ、挑発とも言える人外の声は先程までのルイズに投げかけた一種の挑戦状。 霊夢を召喚した結果に起った異変を解決するにあたり、紫は今までの彼女では足手纏いと判断したのだ。 学院から離れた森の中でキメラに襲われた際、ルイズは戦うどころか杖を構えることなく臆している。 偉そうな事を言いつつも、いざとなれば年相応の子供となり、怯える事しかできない彼女の姿は大妖怪の目にはどんな風に見えたのだろう。 ともかくそれを「ドコで」見ていたのかは知らないが、霊夢にも感知できない「ドコか」で見て、その結論に至ったのかもしれない。 その言葉には、幻想郷で起きた異変を解決する為にも、今のところ必要なルイズの身にもしもの事が起きない為に、という配慮も見え隠れしている。 しかしルイズは、自分がこれ以上に霊夢達に守られるという事はなるべく避けたかったかったのである。 キッカケだけとはいえ、霊夢を召喚してしまった自分も原因の一端である事に間違いない異世界の危機。 ハルケギニアより小さいとはいえ、下手すれば返しきれない借りがある彼女達の居場所を奪ってしまうかもしれないのだ。 もはや戦いを傍観する側ではない。あの妖怪の前で宣言したルイズはなんとか勇気を振り絞って立ち上がろうとする。 (私だって…戦えるのよ!私を助けてくれたレイムやマリサみたいに) 紫の声が幻聴となって聞こえるなか、自らの恐怖と戦い始めたルイズは知らない。 時と場合によっては、その勇気が取り返しのつかない危機を生み出す原因なってしまう事を。 そして…戦いの場において恐怖に対し素直になるという選択肢も――――決して悪くないという事も。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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魔法の使えないメイジ ゼロのルイズが召喚した 『静嵐刀』 とはいかなる宝貝であるか? ここではない異世界、そこには『仙人』という存在がいる。 卓越した知能や技術によって、この世の成り立ち、天地の理の全てを知りえた者だけがなれる存在。それこそが仙人である。 仙人になれるほどの才覚を持ってしまった者は、その高すぎる能力ゆえに普通の人間たちとはまともに暮らしていくことはできない。 だから仙人たちは『仙界』と呼ばれる異世界を己の力で築きあげることにより自らを隔離し、 そしてそこで今もなお己の知恵と技術を磨かんとして修行を積んでいるのである。 そんな仙人たちが自ら作り上げた道具、それこそが『宝貝』である。 なにせもともとの仙人たちが人知を超えた存在である。その道具たる宝貝もまた尋常ならざる力を持っている。 世界全ての出来事を瞬時に知ることができる宝玉。 時の流れを自由に駆け戻ることができる砂時計。 この世のいかなる存在であっても斬る事のできる矛。 それら数多の宝貝の一つ、それこそが何を隠そう静嵐刀その人である。 そしてその恐るべき道具、宝貝の所持者にして使い魔の契約者になったルイズは、 「なんというか、ピンと来ない話ね」 「はぁ、ピンと来ませんか」 いまいち納得できていないようであった。 静嵐は辺りを見回す。質素だが質のよい調度品。布団のついた寝心地の良さそうな寝台。 どれもこれも静嵐の知っている文化圏のものとはかけ離れた意匠をしている。 これを見ればさすがの静嵐でも、ここが全くの異世界であるということが実感できた。 そう、ここはルイズの部屋。契約の儀式のあと、自室に戻ったルイズは静嵐に説明を求めたのだ。 内容はズバリ「宝貝って何?」である。 「百歩譲って異世界というのがあるとして、センニンっていう存在がいるとして、パオペイなんていう道具があるとして、 アンタがそのパオペイだっていう証拠はどこにあるのよ。アンタはどう見たってただの――平民じゃない」 ルイズは静嵐を観察する。たしかに静嵐は変わった男だと思う。 見たことも無いようなデザインの服、耳慣れない響きの名前、トリステインではあまり目にすることの無い黒髪。 それらを見る限り、その辺にいるような平民とは違うような気がする。 なるほど、たしかに珍しい人間であるかもしれない。だが、それだけだ。 それが静嵐の言うパオペイの存在、そして静嵐自身がそのパオペイであるということの証拠にはなり得ない。 「そうですね。なら百聞は一見にしかず、僕が『宝貝』である証拠を見せましょう。――ゴホン、ではとくとご覧あれ」 わざとらしい咳払いをして、勿体つけたように静嵐は言う。 何をするのかと思ったが、次の瞬間――静嵐が爆発する。 「!」 驚くのはルイズだ。目の前を覆う爆煙に、また自分の失敗魔法が炸裂してしまったのかと思ってしまうが、 自分は杖を握ってもいなければ呪文を唱えてもいない。 それにこの爆発は何か変だ。煙の量と勢いは凄いが、爆発につきものの熱や光はほとんど無い。いつもの自分の失敗魔法ではない。 そして徐々に煙が薄れていくと、そこに静嵐の姿は無く。 ――あるのはただ一振りの剣だった。 静嵐の外套と同じ深い藍色をした鞘、表面にはやはり外套と同じく精緻な雄牛の彫りこみがしてある。 長さはそれほどではない。少なくとも、ルイズの知っている『剣』とは少し違う。 ルイズの知っている剣はもっと大きく肉厚で、いかにも鈍重そうであるが、 この剣はもっと薄く鋭いであろうことは、鞘の形からも見て取れる。 とにかく、鞘から引き抜いてみればわかることだ。静嵐の行方も含めて、この剣を手にとって見ればわかることである。 そう思いルイズは剣の柄に手を伸ばし、握ってみる。 『どうです? これで僕が宝貝だということはわかったでしょう』 「キャッ!?」 ガシャン、と金属音を立てて剣が床に落ちる。いきなり頭に響いた声に、ルイズは驚いてしまったのだ。 「な、なに今の?」 今の声は静嵐のものであるように聞こえた。 だがその声は、どこかから耳に聞こえたというのではなく、頭の中に直接聞こえたというのが気味が悪い。 ……いずれにせよもう一度剣を握ってみればわかる、とルイズはおそるおそる再び剣を握る。 するとまた、先ほどの声が頭に響く。 『ひどいなぁ。いきなり落さないでくださいよ』 聞こえるのはぼやくような声。この声はやはり静嵐だ。 「ひょ、ひょっとしてセイランなの?」 『そうですよ。――とまあこの通り。先ほどの姿はあくまで仮の姿であり、僕の本当の姿はこの刀のほうなんですよ』 「すごいわ!」 素直に感心するルイズ。 インテリジェンスソードなど、知能を持った武器などはこの世界では珍しいものではない。 だが静嵐のように人間の姿を取れる武器などルイズは聞いたことも無い。 どんなメイジがどんな魔法を用いても、このようなものを作ることは難しいだろう。 これならば静嵐の言う「異世界に住む仙人の造った宝貝」という話も真実味を帯びてくる。 「他には何かできないの?」 『そうですね。この状態でならば、使用者の体を自由に操ることができます。 ああ、もちろん、使用者が体の操作に抵抗すればできないんですが』 少し興味が沸く。体を操作されるというのに不安が無いではないが、やってみて欲しいという気持ちが強い。 「そう……。ちょっとやってみてちょうだい」 『はいはい。お任せだよ』 途端、ルイズの体がルイズの意思とは無関係に動き出す。 ルイズの強気な顔つきが緩み、静嵐刀のそれと同じ緩んだ笑みに変わる。 ルイズの体を操った静嵐は鞘から己を引き抜き、素振りをするように空を切る。部屋の中にヒュンヒュンと心地よい風切り音が響く。 その素振りの動きは、当のルイズ本人から見ても淀みのない洗練された動きであり、まるで剣の達人のようである。 『僕の体には各種様々な武術の達人の動きが刻み込まれていて、こうして使用者を操っている時もその動きができるんだ』 「じゃあ今の私は剣の達人になってるってこと?」 『そういうことさ。ついでにいえば体の内面、筋肉や血管の動きも制御してるから、 普段よりも速く走ることや強い力を出すこともできるよ。もっとも、僕には使用者の身体能力を引き上げる機能はないから、 あくまでもルイズの本来持っている力以上のことはできないんだけどね』 そして静嵐はピタリと刀の動きを止め、自らを鞘に収め、宙に放り投げる。 空中で再び先ほどと同じように爆煙が広がり、その中から静嵐が姿を現す。 「とまぁこんな感じだよ。理解してくれたかな?」 「ええ……よくわかったわ」 ルイズは考える。 これはひょっとして拾い物ではないだろうか? 最初は役に立ちそうもない平民を召喚してしまったとがっかりしたが、このような能力があるとわかった以上そうではない。 たしかに一般的な使い魔とは違ったものになってしまったが、 珍しいという意味ではキュルケのサラマンダーやタバサの風龍に勝るとも劣らないものであることは間違いない。 そしてその上この人知を超えた能力である。 今のところその使い道は思いつかないが、何かしらの役に立つことがあるかもしれない。 「すごいわ……! すごいわよセイラン!」 ルイズは興奮して叫ぶ。 思いもよらぬ誉め言葉に静嵐は戸惑う。 「え? そ、そうですかね。自分で言うのもなんですが宝貝にしてはたいした力は無いほうですよ、僕は」 「謙遜することはないわ。ただの平民かと思っていたけど、こんなにすごい剣だなんて……!」 「剣じゃなくて刀なんですけどね、僕は。――でもそう言ってもらえると嬉しいなぁ。こんな僕みたいな欠陥宝貝を」 「そんなことないわ、貴方みたいな欠陥宝貝でも――欠陥?」 不意の言葉にルイズの表情が変わる。歓喜から嫌疑へと。 「あれ? 言ってませんでしたっけ?」 「――待ちなさい。欠陥って何よ」 「ええとですね。僕は、正確には僕らなんですが……、普通の宝貝とは違う欠陥宝貝なんですよ」 「……何ですって?」 「だから欠陥宝貝。――僕の製作者である龍華仙人というのはですね、こう言っちゃなんですが破天荒な人でして。 宝貝作りの腕前はたしかにすごいんですが、日用道具の宝貝に必要も無いほど危険で強力な戦闘能力を追加したり、 そうかと思えば威力がすごすぎてまともに使えないような武器の宝貝を造ってしまったりとしてしまう人なんですよ」 「…………」 ルイズは言葉も無い。嫌疑の表情は険悪に変わりつつある。 「そんなお人なものですから、失敗作である欠陥宝貝もその数たるや半端な数ではないもので。 その数なんと七百二十七個ですよ? すごいもんですよねえ」 はっはっは、と静嵐は笑う。ルイズはもう一片たりとも笑みを浮かべていない。 「それで僕もその中の一つでして、本来は龍華仙人の工房に封印されていたんですが、 とある事故によってその封印が解けてしまい、僕ら欠陥宝貝たちは自由を求めて逃亡したわけです。 そのまま仙界から人間界に逃げる途中、僕はルイズに召喚されてしまい今現在に至る、と。 いやぁ、それでもこうしてお役に立てるんですから人生何が幸いするかわかりませんね。 ――あれ? どうかしました」 険悪は激怒に変わり、さらにそれを無理やり抑えようとしてひきつった笑みへと変化する。 「じゃじゃじゃあああ、聞くけど、ホントのホントにあんたは、け、『欠陥』パオペイなわけ?」 「ええそれはもう。龍華仙人のお墨付きでして」 一縷の望みを託し、最後の希望を口に出す。 「あ、ひょっとしてあれ? あれよね? あまりにも強力すぎて封印されることになったとか? そうよ、そうよね? ね?」 「いえ、そんなことは無いですよ。さっきも言いましたとおり、 僕は宝貝にしちゃあ平凡な機能しかないもので、そんな封印される強力じゃあないですよ」 「つ、つまりアンタは本当に、ただの欠陥道具なの?」 「そうなりますねえ。残念ながら」 あっけらかんと言う静嵐。あまりにもあっさりと言うその様子に、ルイズの方は小刻みに震えだし、 「だ……」 「だ?」 「駄目じゃないのよそれじゃあああああああああ!」 溜め込んだ力を爆発させるように叫ぶ。 黙っていればいいのに、うっかり自分が欠陥宝貝だとバラしてしまった。 その失言にようやく気づき、慌てて静嵐は弁明する。 「いえ! 欠陥といっても設計当初の仕様とちょっと異なってしまっているだけであって、 使用にはなんら問題は無い――はずですよ?」 「……はず?」 「い、今のところは特に異常も無いですから――たぶん」 「……たぶん?」 「え、ええと……」 「――もういいわ、一瞬でもアンタに期待した私が馬鹿だったのね……」 言葉に詰まる静嵐に、がっくりと肩を落し地に手をついて落ち込むルイズ。 しかし、ならばせめてこの欠陥宝貝の欠陥部分を把握し、どう使えばいいのか考えねばなるまい。 それがご主人様としての自分にできる、精一杯の抵抗である。 「…………それで、アンタの欠陥は何なのよ?」 「僕の欠陥ですか。ええと、それがその……わからないんですよ」 「わからない?」 「はい。さっき言った、使用に問題は無いと言うのは本当で、 さっきみたいに刀の状態で武器として使う分には普通の武器の宝貝と同じように扱えるはずなんです。人型のときも同じく。 だから、自分では特に問題も見当たらないというのが現状なんですよ」 「本当にわからないわけ?」 「はい。そもそもですね、宝貝の欠陥にはいくつか種類がありまして。 一つはさっきも言った機能上の問題。動くはずの部分が動かなかったり、不必要な機能がありすぎたるする場合です。 ほとんどの欠陥宝貝がこれですね。ですが僕は、さっきも言いました通り今のところその手の欠陥が見当たらないわけで」 そう言いながら静嵐は指折り数えていく。 「で、次に、使用には全く問題が無いが、その宝貝としての機能をすでに全うしたもの、早い話が不用品の類です。 もちろん、汎用的な武器の宝貝である僕はそれには含まれません。 そして最後が――性格の問題です」 「性格?」 「宝貝の中には僕のように人格を持つようなものも多くありまして。 その中にはとてもまともとは言いがたい、性格破綻しているものもいるんです。 自分の道具としての業を満たさんがために使用者以外のものを切り刻もうとする剣や、 己の機能に不満を持ち、創造主である龍華仙人に戦いを挑むようなもの。 そういった彼らは機能上にこそ問題は無いんですが、それを制御する人格に問題があって封印されてしまったんです」 たしかに静嵐はそういう類の宝貝には見えない。毒にも薬にもなりそうに無いのは確かである。 無論、この間抜けな性格が演技である可能性は無いわけではないが、 それならそれでもっとマシな演じ方というものもあるだろう。 何を好き好んでこんな、間の抜けて愚鈍な――ああ、なるほど。そうか、そういうことか。やっとわかった。 ルイズは低い声で呟く。 「……アンタの欠陥とやらがわかったわ」 「え? ホントですか!」 「ええ。それはもう、今も身に沁みて実感しているわ……」 「そ、そんな。大丈夫ですか? うわぁ、何かマズイところでもあるかな?」 そう言って静嵐は自分のどこかにおかしなところが無いか探し始める。 「……聞きたいかしら? アンタの欠陥」 ぐるぐると己の尻尾を追いかける犬のように、自分の背中を見ようとして四苦八苦している静嵐に、 ルイズはこれ以上ないというほど、にこやかに問いかける。 「うう。聞きたくないけど、聞かないわけにはいかないよなぁ……」 「じゃあ一度しか言わないから、よく聞きなさい。いい、アンタの欠陥は――」 大きく息を吸い込み、あらん限りの声で告げる。 「その! 間抜けな所よ!」 『静嵐刀』 刀の宝貝。男性の形態もとる。 欠陥はその間抜けな性格。あらゆる計算を不意の一言で一瞬にして突き崩す様はまさに混沌の権化と言える。 機能上の問題もあると言われているが現在は未確認である。 前頁 目次 次頁
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前ページ次ページゼロと魔砲使い そこに現れた人物を見て、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは激しく混乱していた。 春の使い魔召喚の儀式――これに失敗すれば後はない――において、彼女はある意味初めて魔法に成功したといえる。彼女の呼びかけに答え、それは召喚されたのだから。 だが、今彼女の目の前にいるのは。 年の頃は自分より上、明らかに大人の女性。 肌の色は自分たちよりやや黄色っぽいが、キュルケのように濃い色ではない。 髪は長い栗色、頭の横でくくられている。 着ているものは見たことのない意匠の服。かなりきっちりとしたイメージの服で、色は白と紺、スカートも短めではあるが裾が縮まっていて猥雑な感じは受けない。全体的に見れば自分たちの制服をもう少しお堅くしたような感じがした。 そして彼女のまわりには、金属とも木とも付かない何かで出来た、薄い箱のようなものがいくつか落ちていた。これはおそらく彼女の私物であろう。 身なりはよいが、杖やマントは所持していない。ということはたぶん裕福な平民であろう。 と、そんな風に説明できる女性が、気を失ったまま、ルイズの目の前に倒れていたのであった。 混乱が収まるにつれて、ルイズは自分が何を召喚してしまったのかを理解した。 「ミスタ・コルベール!」 あわてつつも、今回の儀式を取り仕切る教師である、コルベール師に声をかける。 「も、もう一度召喚させてください!」 しかし、彼女の意に反して、コルベールは首を横に振った。 「ミス・ヴァリエール……遺憾ながら、例外は認められない。春の使い魔召喚の儀式はすべてにおいて優先する神聖なもの。続きを」 まわりでは級友達が平民を召喚したのなんだのと盛んにはやし立てているが、そんなものは今のルイズの耳には入っていなかった。 内心不満ではあったが、これを拒絶すれば自分は落第確定である。そうなればいくら何でもこの場にはいられない。故郷へ強制送還の上そのまま事実上の幽閉、ろくに魔法も使えない公爵令嬢として、いずれ待つのは政略結婚であろう。 一応婚約者くらいは居る身であるが、魔法学校を落第中退となったら、そんなもの解消される可能性の方が遙かに高い。何しろ彼はきわめて優秀なメイジとして王家に使えている身なのだから。 (でも、いいのかしら……どう見ても自分より年上の女性を使い魔にするなんて。身の回りの世話はしてもらえそうだけど、それ以外のことには期待できそうもないわよね、はあ……) 邪険に扱うわけにも行かないだろうし、まあ、メイド扱いくらいかな、と、多少不埒なことも思いつつ、ルイズはコントラクトサーバントの呪文を唱え、いまだ眠ったままの彼女と唇を合わせた。 と、その時、彼女の胸元で、何かが光った気がした。 突然マスターに注ぎ込まれた強力な魔法に反応して、レイジングハートは覚醒した。次元間移動と思われる現象にマスター共々巻き込まれ、その衝撃で機能不全に陥っていたようだ。 そこにゼロ距離で、マスターのものとは異質の魔力が注がれたことを彼女は感知した。 しかもどうやらその魔力には、マスターに対して肉体的・魔法的危害を加える要素が感知された。すでにマスターの肉体および魔力線に対する侵略行為が行われている。 直ちに対抗魔法を執行しようとしたが、その侵食はあまりにも強力であり、また、発動場所がマスターの体内であることが災いした。外部からの干渉であれば、干渉元との連結を断ち切ることによって対抗できたであろう。 だが問題の術式は接触によって直接マスターの体内に打ち込まれた。こうなると対抗術式の起動はマスターに想像以上の負担をかけることになる。 ただでさえ現在、マスターの内部にはかつての事件による後遺症が残っている。外面的にはほぼ完治したように見えるものの、内部には細かい傷が無数に残っている状態だ。 そんなマスターの内部で魔法をぶつけ合ったりしたら間違いなくマスターの肉体に今以上の負担をかけることになる。 打つ手なしであった。 “申し訳ありません、マスター。防御に失敗しました” 小さく、はかなげにつぶやくレイジングハート。だが、意外なことに彼女は気がついた。 体内に侵食した謎の術式は、その過程において、急速にマスターの魔導的内部障害を修復していく。 リンカーコアとの間に独自の連結線構成。 神経回路・筋肉組織内に魔力制御可能な副次ユニットを構成。 左手に収束端末を兼ねたセンサー回路を形成。 脳の一部と接触する形で各種情報を魔導的にやり取りするためのカプラー端末を作成。 レイジングハートにはこのシステムに見覚えがあった。 (リインフォースⅡのユニゾンシステムに酷似) そして、このマスターに対する魔導的改造は、レイジングハートには接触できない領域にストレージデバイスによく似たメモリのようなものを形成して終了した。それと同時に、今の術式によって肉体的な痛みを覚えたマスターが覚醒する。 レイジングハートは、いずれ行われるであろうマスターの質疑に答えるためのデータの作成を開始した。 使い魔のルーンが刻まれる衝撃で、使い魔となった女性が目を覚ましたようだった。 「あなた、誰?」 寝ぼけ眼の女性に、ルイズはそう問いかける。瞳は黒い。食堂のメイドに似たような色のがいた気がする、と、彼女は思った。 「ここ……どこ?」 彼女は私の問いには答えず、辺りを見回しながらそう聞いてきた。 ルイズは少しむっとしたものの、無理もないと思い直し、彼女の問いに答えた。 「ここはトリステイン魔法学院。あなたは私の使い魔としてここに召喚されたのよ」 「トリステイン魔法学院?」 「そう。で、あなたは?」 名を聞かれていることに気がついた彼女は、見た目より幾分若く感じられる口調でそれに答えた。 「あ、私は高町なのはです」 「タカマチナノハ? 珍しい名前ね。私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。私のことはご主人様と呼びなさい」 いきなりそんなことを言われ、さすがになのはもとまどった。 「い、いったい何事なの? なんでご主人様?」 “落ち着いてください、マスター” そこに挟まるレイジングハートの声。なのははすっと落ち着いたが、逆にルイズの方がびっくりして彼女から距離を取った。 「だ、誰?」 その様子を見たなのはは、レイジングハートに念話で話しかける。 (ね、レイジングハート、いったい何があったの?) (“どうやら我々は、彼女の召喚を受けたようです。キャロ達が使うものとは形式が違う、未知の魔導によって”) (召喚? それで全然知らないところにいるんだ) (“はい。それで、申し訳ないのですが、マスターが意識を失っている間に、何らかの魔導改造による拘束を受けた形跡があります。詳細は不明ですが、未知の形式と既知の技術が組み合わさったような、不可解なものです。 幸いですが、現在のところマスターの身体に不都合な影響はありません。むしろ、生体強化のような、マスターに有益な改造の気もします”) (有益な改造? でも、とにかく手遅れなわけね……) (“はい。彼女が『使い魔』といっていたところからすると、従属の術式である可能性が高いと思われますが、現時点でその形跡は見られません。なお、マスターを悩ませていた後遺症が、一連の改造の際に取り除かれました。僥倖ですが”) (人間の強制召喚、後に無断改造、おまけに従属強制……ものすごい重大犯罪だけど、まわりの様子からすると、そんな感じは受けないわね。ごく当たり前の事みたいだし) 周りを見れば、自分に語りかけてきたルイズという女の子と同年代の少年少女が多数、その大半は様々な動物と一緒にこちらを注視している。 そこでなのはにも判ったことがあった。 (その改造……本来動物用なのかな) (“使い魔という呼び方からして、可能性は高いと思います”) なのはは一度頭の中の情報を整理した。 トリステイン魔法学院。 召喚と従属による使い魔獲得。 だとすると、一連の行為はこの社会においてごく当たり前のもの。 ……自分にはそんな社会形態に心当たりはない。 結論。 未知の形式の魔法が存在する管理外世界からの強制召喚。 >現時点において彼女の行為を犯罪として罰することは出来ない。 >同時に自分のミッドチルダおよび日本国民としての権利行使も無意味。 >>元の世界との接触が確保できるまでは、自己の生命に危険がない限り彼女たちに敵対するのは不可。それは他世界の文明・文化を不当に弾圧・糾弾することとなり、他世界文明の保護に関する法律違反になる。 一応、隷属の強制という、自己の尊厳に関わる行為は行われているものの、もう少し情報が集まってからでないと勇み足となる可能性も高い。管理外世界に対する干渉には、かなりの慎重さが要求されるのだ。 自分から見てどんなに非道、無体な行為でも、現地社会において容認されているのならば否定は出来ない。なのはだって、自分のふるさとである地球――第97管理外世界に対して、管理局が侵攻して地元の文化を野蛮だの、質量兵器行使だのと糾弾・否定されるのはいやである。 “郷に入りては郷に従え、ですね” とどめを刺すレイジングハートの言葉に、なのはは大きくため息をついた。覚悟を決めて、あまり言いたくない言葉を口にする。 「で、私はどうすればいいんでしょうか、ご主人様」 それが、後にこの世界、ハルケギニア6000年の歴史を終焉させたあの大事件の始まり、ルイズとなのはの邂逅であった。 前ページ次ページゼロと魔砲使い
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前ページ次ページCall of Different 少女が目を瞑り溜息を吐きながら説明する 「その使い魔の契約をしたら…どうなるんだ?」 先程の男が質問を投げかける 男の考えとしては面倒な事は勘弁願いたい為しなくて良いことはしたくない 「ルーンを刻まれた使い魔は主か使い魔が死ぬまで一生を使い魔として共にするのよ」 そしてしなかったら私が進級できないのよ と簡単な説明を続ける 「面倒臭ぇな、それにアメリカの奴隷制度は1995年のミシシッピ州憲法での承認で完全に終了したんだぞ ローチてめぇが契約してやれ 俺はパス」 と部下に丸投げする 「えぇ?待って下さいよ先輩、そr「上官命令だ」」 「…Shit…」「あぁ?何か言ったか?」 「何でもありませんよ!」 しぶしぶとゴーグルを着けた方の男が少女の前に立つ 「どうぞ、お好きに」 もうヤケだと言わんばかりに両手をあげる 「あなたでいいのね?でもその前に」 少女がコホンと一つ咳をして口を開いた 「私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール あなた達の名前は何?」 あぁ、自己紹介がまだだったか。と骸骨マスクの男が口を開く 「俺はゴーストだ、にしてもクソ長ぇ名前だな 偶に舌を噛まねぇか?」 続いてゴーグルの男が口を開く 「ローチだ」 「し、失礼ねゴースト!人の名前を何だと思っているのよ!!それにあんた達の方が十分変な名前じゃない!」 ルイズがゴーストに向かって怒鳴り散らす 「はいはい、いいからとっとと契約しちまえよ、ローチと契約して魔法少女にして欲しいんだ ってか」 ゴーストがケラケラと笑いながら物の見事に話を流す 「うーっ…」 ルイズは頬を膨らませてゴーストを可愛らしい目で睨む、怖くない 「まぁまぁ、ルイズ落ち着けって、先輩の日常はあんなんだから蚊に刺されたと思って諦めてくれよ」 ルイズの頭を撫でながらローチが妹を納得させるかのように説明する 「…わかったわよ、ローチちょっとしゃがみなさい」 「はいはい、仰せのままにお嬢様」 騎士が跪くかのように綺麗にローチが膝をつく するとローチの額に杖を当て何やら長ったらしい言葉を呟いていく 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 呟きが終わるとローチの唇にルイズがキスをする それを見るや否やゴーストが 「ヒューッ♪良かったなローチ役得だぜ?でもお嬢ちゃん、残念ながらローチはキス一つで驚くような 初心な童貞(チェリーボーイ)じゃぁねぇんだ、そいつのハートを持って行くならちゃんとフラグを立てろよ?」 とまくし立てる、残念ながらルイズの方が初心なので顔を真っ赤にして 「くぁwせdrftgyふじこ?!!!??!」 何やら叫んでいる 「ったく…先輩t…ッツ!?」 ローチが突然左手を押さえる 「おい、ローチ!どうした!」 ゴーストが表情を変え(見えないなんて無粋な突っ込みは無しで)ローチの肩を叩く 「っ…ふーっ…」 落ち着いたのか大きく息を吐き呼吸を整える 「おい、お嬢ちゃんローチに何をした?」 先程のおちゃらけた喋り方とは真反対の殺気のこもった冷たい声でルイズに話しかける 「大丈夫、大丈夫です先輩、銃で撃たれたより痛くないですから」 ローチがゴーストをなだめる 「でも何があったのかは教えてくれ、ルイズ」 ローチが笑顔でルイズに質問する(見えないなんてry) 「つ、使い魔のルーンが刻まれたのよ、死んだりはしないわ」 兵士であるゴーストの殺気に当てられてもあまり狼狽しない所を見るとわりと肝が据わっている 「…本当だな?お嬢ちゃん」 ゴーストが今一度確認を取る 「えぇ」 ルイズが正面からゴーストに向かって頷く するとゴーストはニカッと笑って(見えry)調子を変えて喋る 「そうか!じゃぁいいや、そいつを好きにしてくれ」 「せ、先輩?!」 「おっとローチ!ここはアメリカじゃないしもう階級なんて必要ないな!俺の事はゴーストと呼べ!」 ゴーストが笑いながらローチに話しかける 「えぇ?!俺が契約したのって上官命令ですよね?!もしかして…!」 「うん、わ ざ と ☆」 「Damn it!!」 ルイズがコントを繰り広げている二人を見ていると医務室の入り口からコルベールが顔を出してルイズに尋ねる 「終わりましたか?ミス・ヴァリエール」 「あ、はい終わりました」 コルベールが失礼しますよ、と言いながら医務室に入ってくる 「さて、御二方の内どちらが契約をなさったのですか?」 膝をついてうな垂れているローチをゴーストが腹を抱え指差し大笑いしながら 「はっはっはっ、こいつこいつローチだよwおぐぉぁっ?!腹がいてぇ!!!」 と言っている 「ミスタ・ローチ沈んでいる所失礼ですがルーンを見せて頂けないでしょうか?」 ローチはorzのまま左手のグローブを外し手の甲をコルベールに突きつける 「ふむ、これは珍しいルーンだ、スケッチしますので少々そのままにして下さい」 orzから何とか回復したローチがふと思い出したように立ち上がり口を開く 「聞き忘れてたけど俺等の衣食住は保障してくれるのか?」 すかさずルイズが質問に返答する 「もちろんよ、ローチはもう使い魔だから私の所に来てもらう事になるけど」 「HAHAHAHAHA!ローチ、役得だなぁ!羨ましい限りだぜ!」 ゴーストがゲラゲラ大笑いしながらローチを茶化す 苦笑いしていたコルベールが真剣な顔つきになり 「では、失礼ですが御二方の内どちらか私について来て頂きたいのですが」 ローチとゴーストが顔を合わせ一つ二人同時に頷く 「ローチは嬢ちゃんと一緒に嬢ちゃんの部屋に行っとけ」 どちらが行くかを全く話し合わずにゴーストが告げる 「了解」 ローチもまるで事前に話し合ってたかのごとく承諾する ルイズは二人のやり取りを見て (まるで洗練された軍人みたい) とTF141の軍人二人を見ながら思っていた 141の二人はベッドのそばに置いてあったシャツやBDU、バトルベストを着ようとする(ドッグタグは最初から身につけていた) するとゴーストがシャツを掴みそれを睨みつつ疑問の声を上げる 「んお?っかしぃな…新品同然になってるぞ?」 しばらくシャツを眺めBDUに目を向け 「まぁいいか…」 あまり気にしないようにした、彼は結果がよければあとは何でも良いのだ 情報を得るためなら拷問だって躊躇わないジュネーブ条約何それおいしいの、な人間なのだ 着替えを終え二人同時にハンドガンをレッグホルスターに収める 「じゃぁなローチ、また後で」 「えぇ、ゴースト」 そう言って二人が別れる Side G 「なぁオッサン、いったい何の用だ?」 ゴーストがコルベールの後ろを面倒臭そうに歩く 「…少し…見てもらいたい物が」 コルベールが苦笑いしながらゴーストを見る 「あっそ」 ゴーストは相手が会話してて面白くない人間だと認識したのかそっぽを向く 会話が続かないまま歩き続け本塔から外れた小さな小屋のような所に到着する 「貴方方が召喚された際に一緒にあった物です」 コルベールがドアを開きゴーストを招き入れる 「くっせぇ!」 入るや否やゴーストがバラクラバ越しに鼻を押さえ 次の瞬間呼吸も忘れ驚愕する 「おい…嘘だろ?…こりゃぁマカロフの…!」 「聞いても良ろしいでしょうか、コレは一体何なんですか?」 Side R 「ルイズ、使い魔の仕事って何だ?」 ルイズの部屋に到着してしばらくたったローチはベッドに座るルイズに向かい合うように椅子を持ってきて座る 先程まで歩きながら使い魔になったんだから私の命令に従いなさいよ、とか そのネックレスは何?とかさっきも聞いたけどその黒い変なの何? 等の質問をハイハイ、と言ったり無言でルイズの頭を撫でることで有耶無耶にしていた 途中やめなさいよ!とかどうして撫でるのよ!等抗議の声も上げていたが 「いい位置にあったからつい」 で答え顔を真っ赤にしたルイズ(怒り)に全く痛くない蹴りを浴びせられていた 「コホン、使い魔の仕事は3つよ」 ルイズが指を三本立てローチに突きつける、突きつけられたローチは軽く頷く 「まずは主の目となり耳となること」 「なんだ?見たことや聞いたことを随時報告すれば良いのか?」 ローチが考え得る事を尋ねる 「いえ、使い魔の視覚や聴覚の共有ができるようになるのよ」 「うげ、マジかよプライベートもクソも無いな、奴隷以下かもしれないぞ」 ローチが不満をルイズに言う 「心配しないで、残念ながら共有出来てないみたいよ、何も見えないもの」 残念そうに肩を落としながらルイズがローチの心配事に答える 「そりゃ良かった、で 二つ目は何だ?」 「秘薬とか珍しい物とか主が必要としている物を見つけて採ってくるのよ でもあなたはココの事なんて分からないでしょ、だから期待はしてないわ それに所詮平民だし」 ルイズはローチの事をただの変な格好をしている一般人だと思い込んでおり、故にこの類の期待はしていない 余談だがローチはTF141の軍人で階級は軍曹だ、軍人である上に所属がTF141であるためあらゆる戦況に対応できるように訓練されている 市街、雪原、砂漠、ジャングル、どんな戦場であろうと力を出し切ることが出来る サバイバル訓練も勿論行っている為食用可能な動植物や毒として利用可能な物もみっちりと頭の中に入れられている 「俺等の世界にあるものなら大体は分かるんだけどな」 ローチがぼそぼそと呟くが 「で、最後 コレが一番重要なんだけど」 肝心のルイズは聞いていない 「主を守ることよ、私達メイジは呪文の詠唱中は無防備なの、そこをやられたらひとたまりも無いからね」 強く言い聞かせるようにローチに説明する 「でも貴方にはあまり勤まりそうに無いわね、だから私の身の回りの世話d」 「なんだ、簡単な事じゃないか まぁ相手が人間だった場合はだけどな」 言葉を遮り自らの任務に対しての感想を漏らす 「えっ…えっ?簡単って……貴方戦えるの?」 「まぁある程度は、大体…105人ぐらいなら」 ローチの105人の理由は彼が持っているM92Fに関係している 具体的に言うなら弾数だ1マガジン15発 装填済み1(15発) 予備6(90発)で105発弾が入っている その上ローチは兵士としての腕は凄まじく高く(キャンペーン ベテラン ノーデスクリア位の腕だと思って下さい) ワンショットワンキルを完璧に実行できるという自信を持っている 「…まぁいいわ、じゃぁ伝えることは伝えたし私はもう寝るわ」 明らかに信じていないオーラがルイズから放出され辺りに漂っている 「HEY、俺はどこで寝ればいい?」 信じて貰えなかった事を少々残念に思いつつ部屋を見渡しながら現状の問題について向き合う 「そこ」 部屋の隅を指差し、いそいそとベッドに入り込む ローチが指差された方向を見ると藁がいい具合に積まれていた 「…Fuck 本格的に奴隷かよ」 ルイズに聞こえないほどの大きさの声でローチが悪態をつく 諦めて藁に座り腕を組んで壁にもたれて目を瞑った時に顔に何か柔らかい物がモフッと叩きつけられる 「ん?何だコレ」 叩きつけられた物を指で摘み見る 服だった、下着だった、しかし全く持って動揺しない、ローチは思春期のガキでは無いのだ 「どうしろってんだ?」 「明日の朝私が起きるまでに洗っておいて…」 ベッドから頭の先だけを出しているルイズが素晴らしいことを言い放つ 「……Fucking…!」 冗談で言ったはずの奴隷が本当に奴隷のような扱いであったため何とも言えない感覚に襲われる しかし彼はよく出来た兵士である、ある種の諦めを抱き先程のような姿勢になって眠ろうとする が、また先程と同じように柔らかい物を叩きつけられる まだあるのか畜生、と思って目を開くと視界になかなか上質な毛布が広がっている 「それ…使って良いわ…よ 寝床は…後日何とか……」 「…うれしくて狂喜乱舞してしまいそうだ、ありがとさん」 「ん…」 もう半分眠っているのだろう、返事と言えない返事が返ってくる 「あーあー、一体どうなっちまうのか…」 そう呟き毛布に包まって目を瞑り睡眠に入る 二つの月の明かりが部屋に美しい窓枠の影を作った Side G ゴーストが自分に与えられた部屋の簡素なベッドで横たわりながら考え事をしていた 「ローチはお嬢ちゃんの部屋の上質なベッドで今頃ぐーすか寝てんだろうなぁ、くそっ 明日ケツ蹴っ飛ばす」 残念ながらローチにベッドは与えられていないのだが彼が蹴られることは確定してしまったようだ 「…さて、ローチにアレをどう説明するか……まぁ昼飯時でいいか」 メインとサブを間違えたであろう考え事に終止符を打ちゴーストは瞼を閉じた S.S.D.D 日が変わってもクソは変わらずクソのまま(つまり次の日) 「っふ…ぁあ゛…!」 えらく珍妙不可思議な声を上げて起床したローチが身体をのそりと起こす ちなみに起床した時間帯で言うと4 30にもなっていない、TF141の兵士は早起きなのだ ここはどこだ、と約5秒半考えた直後今まであったことを思い出す そしてちらとまだスヤスヤと眠っているルイズの方を見て呟く 「当たり前だけど…ルイズはまだ寝てるか……」 そりゃぁそうだ、まだ若い女の子と厳しい訓練を積んだ筋骨隆々とした兵士を一括りにしてはいけない ローチがスクッと立ち上がり両腕を上にグッと伸ばす 「…っ…あ゛ぁ゛っ お?」 両腕を上に伸ばしたままの間抜けな姿で何かに気付き声を上げる 「…もう痛みが無いな」 普通ありえない、しかしある一部の兵士はどれほど銃弾を受けていても物陰でじゅううううびょおおおお!も休めば体力全快になるのだ そして何人かの人間に至ってはそもそも死なない ちなみにローチはこの世界に来たとき死なない方にジョブチェンジした、つまり補正である 「少しなら動いても大丈夫だな」 洗練された兵士の少しは一般人よりも少なかったり一般人の全力に勝る ローチは部屋のドアを開け部屋から出て行った ちなみにもう一人の死なない兵士は 「んがーっ!んごーっ!……んぶぃっきしィ!!(クシャミ)…んごーっ」 盛大の一言で片付ける事が不可能なほど爆睡していた TF141の兵士にも色々ある、彼は必要な時に力を発揮するのだ………きっと… 難なく外に辿り着いたローチは壁の近くで軽い筋トレやストレッチなどを行っていた 「197 198 199 200っと、ふぅっ」 軽い腕立て200回をこなし一息ついたローチは直ぐに立ち上がる 「…近接戦闘のイメージトレーニングでもするかな」 彼のイメージトレーニングのイメージは敵の存在であり身体は無茶苦茶に動かす ナイフを抜き敵の攻撃を受け流し首を刈り取る、心臓に外部直結の穴を開けてやる、脊髄にナイフの壁を一枚加える 正面から膝の関節を曲げてはいけない方向に曲げ首を捻ってはいけない角度まで捻る 膝を横から鎌で刈り取るように蹴り鳩尾に拳を叩き付け一回転し踵を顎に入れ頭を踏み潰す etc...etc... 空が軽く明るくなってきた頃ようやくローチがトレーニングを終了する 「そういやルイズに洗濯してくれって言われてたっけな」 洗濯機は無さそうだ、面倒だな と考えながらルイズの部屋に戻っていく ドアを開けると 「ん、くぅ……すぅ…」 さっきから変わったのは寝返りを打っただけであろう、体の向きだけだった 寝顔をちらと視界に入れると服や下着を手に取り籠に入れ部屋を出る 「さて、どこで洗えるのか…」 廊下で籠を持ちながらウロウロしていると大きな籠を持った女性が歩いている 「HEY、お嬢さん聞きたい事があるんだが」 女性に声を掛けると女性はこんな時間に起きている人は居ないと思っていたのかビクッと少し飛び上がる 「は、はい!どういたしましたか?!」 近くに歩いて行き女性を見ると何やらびくびくとしている 見ている方が何か申し訳なくなってくる 「あぁ、いや、こいつをどこで洗えば良いのか分からなかったから聞こうとしただけなんだ」 手に持つ籠を見ると女性が一安心したのかびくびくしなくなった 「でしたらどうぞついていらして下さい、丁度私も行く所でしたのでご案内します」 女性は人懐こい笑顔を浮かべるソバカスのある黒髪の可愛い女の子だ、女性と言うより女の子と言った方がしっくりくる 「どうもありがとう、俺はローチ ルイズって子の使い魔ってやつらしい」 「あぁ、噂のミス・ヴァリエールが召喚した平民の方ですね!」 どうやら俺達は噂となっていたようだな、とローチが考えて苦笑いしていると(顔は見えない) 「し、失礼しました!平民などと…」 「あぁ、別に構わないさ ところで君の名は?」 「あっ、失礼しました 私はシエスタと申しましてこの学院のメイドをしております」 シエスタが大きな籠を持ったままぺこりとお辞儀をする 「さぁ、行きましょうか」 にこっと笑顔になりシエスタが歩き始める それにローチが小さな籠を持ったままついて行く 「そうだ、ちょっとそれを置いてみな」 「え?は、はい」 ローチの変な提案に戸惑いながらもシエスタがよいしょという可愛い掛け声を出し地面に大きな籠を置く 「よっと」 ローチがすかさず大きい籠を持つ 「え、あ、あぁ!」 「悪いね、トレーニングしてるんだ持たせてくれ さぁ行くぞ」 反撃の隙さえ与えずシエスタに進行を促しシエスタも申し訳無さそうに前を歩く 「シエスタ…か」 「へ、変な名前でしょうか?」 シエスタがおずおずとローチに問いかける 「いや、俺のいた所(世界)ではシエスタってのは食後の休憩時間の事を言うんだ まぁ変な響きじゃないから名前として使ってるのもいるだろうよ 比べりゃ俺の名前の方が圧倒的に変だぞ?」 ローチがククッと笑いながらシエスタと会話する 「あの、失礼でなければ名前についてお聞きして良いですか?」 「あぁ、構わないさ ローチってのはコックローチ(ゴキブリ)の略だし実際俺は素早いし中々しつこいぞ?」 「ゴキブリ…」 流石のシエスタも苦笑いである 他愛の無い会話を繰り広げていると二人が水場に到着する 「おっと、着いたみたいだな さて洗うか」 とローチがグローブを外している最中にシエスタがローチの洗濯物を奪い取って洗い始める 「え、あ」 「ごめんなさい、お洗濯の練習なんです」 んべっ、と可愛らしく舌を出す 「くっははっ、こいつは一本取られたな」 ローチがケラケラと笑う 「あ、私がミス・ヴァリエールの所へ持って行っておきますので後はお任せください」 シエスタが洗濯をしながらローチに話しかける 「こいつぁやられたな、よし 何か困ったことがあったら俺に言ってくれ、可能なことなら何でもするよ」 「はい」 「じゃぁな、助かったよ」 そう言い残してローチはルイズの部屋に戻って行く 「ん…ちぃねぇさまぁ……えへへ」 部屋に戻るとルイズは幸せそうな寝顔で寝言を呟いている コレを起こすのは気が引けるが時間的にもそろそろ起こしてやるのが賢明だろう 「起きろルイズ、朝だぞ!」 カーテンと窓を開け光を取り入れ部屋の中を換気する 「んぅ…」 ちなみに起こす時にベストなのはゆっくりと周りを明るくしていき瞼越しで脳にそろそろ起きる時間だと認識させるのがベストだという 音等で急に起こすと脳がいきなり仮の覚醒状態に入ってしまいそれが疲労になるらしい じょじょに音量を上げていってもある一定を超えたところで急に仮覚醒するため段階で分けた音の目覚ましでも疲労になるそうだ (空想科学[生活]読本 より) 「んぁ…だぁれ?」 「俺だよ、ローチだ 忘れたか?」 「んーしらなぁい」 どうやら脳は起きているが思考が働かない状態らしい しばらく無言で目と目が逢う 別に瞬間好きだと気付いたりしたわけではない 「あぁ、あぁ!ローチ!」 思い出したようだ それからあーだこーだと話をしながらルイズの脳の完全覚醒を待つ 「ローチ、服」 「俺は服じゃないぞ」 「知ってるわよ!そうじゃなくて貸してって言ってるの!」 「あぁ、はいはい ほらよ」 ローチがルイズの昨日の夜ルイズが予め用意しておいたであろう服と下着を投げ渡す 「あ!っと 投げないでよ!」 「そりゃ悪かったな」 「全く…ん!」 「どうした?ウエストが合わなかったか?」 「着せて!」 ルイズがいきなり変なことを言い出す ローチはこの世界のこの年齢の人間は服も一人で着れないのかと思いながら確認の為に尋ねる 「一人じゃ着れないか?」 「違うわよ!」 「じゃぁ一人でやれ、俺は使い魔であって召使じゃない」 「うっ」 基本的に大概のものをはいはいとこなしてしまうローチだが全部じゃない ルイズがぶつぶつと呟きながら一人で着替えている間ローチがM92Fの弾薬確認やスライドの確認を行う 「何よそれ…」 ルイズはどうせ有耶無耶にされるんだろうけど、と思いながら一応聞く 「君を守るための武器だ」 「なに?それで殴るの?なら剣とか槍とか使いなさいよ」 「銃だ、言ってもわからんだろうがな」 ルイズはそう言われてムッとする、彼女は知識についてはあらゆる物を知っているのだ 「銃ぐらい分かるわよ!私の知ってるのと全く形が違うから他の何かだと思ったのよ!」 「そうかい」 「なによ!銃なんて魔法の使えない平民の苦し紛れの武器じゃない!」 「50メートル先の敵を連続で撃ち殺す武器が苦し紛れとは魔法ってのは恐ろしいな」 ローチはこの世界の科学力の基準が非常に低く銃もせいぜいマッチロック(火縄銃)かフリントロック(火打ち式)だろうと考えている よってローチとゴーストが所持しているオートマチックハンドガン(自動拳銃)は凄まじいオーバーテクノロジーなのである 「何言ってんの?メートル?連続で撃ち殺す?」 その上まさにその通りなのだ 「あー…大体この位はどんな単位で表す?」 ローチが手を軽く広げ距離を示す 「どんなって…1メイル位じゃないかしら」 「やっぱり単位表現も違うか…じゃぁ50メイル先にいる敵を連続で殺せるぞ」 「う、嘘言わないでよ」 ルイズが顔面蒼白でローチに言い放つ まるで嘘であって欲しいと願っているようだ 「…嘘だよ」 ローチが真剣な顔をしていたルイズをからかう様に話す ローチはこの会話だけで複数の事を理解する 1.銃はまだ単発式である 2.単位表現の違い 3.銃でメイジを簡単に殺害可能 4.この世界の銃はメイジにとって恐ろしい物ではない 5.そろそろ時間がやばいかもしれない ※重要 「ルイズ、時間は大丈夫か?」 「え、あ?!…大丈夫みたい、まだ少し余裕があるけど先に行きましょうか」 ローチが起こした時間はルイズが起きるよりも少し早い 「さぁ行くわよ、朝の早くから変な事を聞くもんじゃないわね、嘘なんてもうまっぴらよ?」 「はいよ」 やれやれと大人しくルイズについてドアをくぐる 外に出たとたん隣の部屋のドアが開いてルイズとは真反対の容姿の女性が出てくる 「おはよう、ルイズ」 ルイズはその女性を見たとたん嫌そうな顔をして返事をする 「…おはよう、キュルケ」 キュルケと呼ばれた褐色赤髪ナイスバディの女性がルイズの後ろに立つローチを品定めをするように見る 「ふーん、貴方がゼロのルイズの使い魔の死ぬ寸前だった平民ね?お名前を伺っても宜しくて?」 ローチはしばらく黙り込んで喋りだす 「…ローチだ」 「ふふ、いい声ね 見れば体つきも筋肉質で素敵ね、燃え上がっちゃいそうだわ」 ルイズはむすっとして二人のやり取りを見つめる 「私は微熱のキュルケ、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ 以後お見知りおきを、ミスタ・ローチ」 ローチはやっぱりクソ長い名前だな、この世界の人間は皆こんなのか? いや、シエスタは短くて覚えやすい名前だったな などと考えていた 「でもやっぱり使い魔にするならこんなのよね、おいでフレイム」 その一言でやたらと暑苦しそうな尻尾の燃えてるでかいトカゲが出てくる 日本のゲームで似たような感じのが出てたっけな 「それサラマンダー?!」 ルイズが驚いたように声を上げる 「そうよー、火トカゲよー、見てこの立派な尻尾!コレほど鮮やかで大きい炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ! 好事家に見せたら値段なんてつかないわ!」 火トカゲか、そのまんまだな、やっぱり進化するのか? 云々と考えているとフレイムがローチを見てバカにしたようにバフッと軽く炎を吐く それを見てローチは少々イラッとしたのか一瞬目を瞑り 殺気を込めてフレイムをギッと睨む (ぶち○すぞ、トカゲ野郎) 睨まれたフレイムがビクッと反応し一歩二歩と下がる 「あ、あれ?どうしたの?フレイム」 キュルケが挙動不審なフレイムを見て心配そうに話しかける フレイムがそそくさと何か恐ろしいものから逃げるように歩いて、否 走っていく 「ま、待ちなさいよー!」 キュルケがそれを追いかけていく 「…ローチ何かした?」 「してないさ、走りたい気分だったんだろ」 「そう」 イマイチ納得しきれないルイズがどうせ無駄だと理解して話を切り上げる ルイズが無言で歩く後ろをローチが堂々とした態度で一歩一歩廊下を踏みしめて歩く ただ単に軍人として受けた行進訓練の癖なだけだが 急にローチがルイズに質問する 「微熱って?」 「二つ名よ、メイジには二つ名があるの、キュルケは微熱」 「ルイズはゼロか、どんな意味だ?」 「………」 「…悪い、言いたくないならいい」 「いいわよ、べつに」 どうやら食堂に着いたらしく内部からがやがやと声が聞こえる 「凄いな…」 「でしょう? トリステイン魔法学院で教えるのは魔法だけじゃないのよ」 まるでどこかの王室の食堂のようだ 「メイジはほぼ全員が貴族なの、『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。 だから食堂も、貴族の食卓にふさわしい物でなければならないのよ」 自慢げにルイズが食堂の自慢をする、別にルイズが建てたわけでもないのにNE しかし自分の出身の自慢はしたいものである 「ところ俺はどこで食えばいい?」 「着いてきなさい、平民はこのアルヴィーズの食堂には入れないんだけど私の使い魔だから特別に許可するのよ」 言われた通りルイズに着いていく 「ここよ」 一つのテーブル前に辿り着きルイズが椅子に腰を下ろす ローチもその隣に腰を下ろす 「そこは貴族の席よ、ローチは床」 「おいおいマジかよ 奴隷扱いか?」 しぶしぶと立ち上がりローチはぶつぶつと文句を言う (あぁ、どんな不味い飯が出てくんのかな MRE(世界一不味いといわれるレーション)よりもマシだといいな) ルイズが指差した床にあったのは申し訳程度に何かが浮いたスープと凄まじく硬そうなパンだ 「カロリー無さそうだ……」 ボソッとローチが感想を呟く 彼は兵士である、数日は食べなくても大丈夫なように訓練されているが食える時には食っておきたい 彼だって人間なのだ ローチはしぶしぶスープを口に含む 「ん、美味いな 凄く美味い、MREと比べるなんてコックに失礼な事をしちまったな」 30秒とたたず極々少量の食事を胃に収めるとおもむろに立ち上がり 「うっし、ルイズ 俺は外で待っとくから用があったら呼びにきてくれ」 ルイズはそれを聞くと えっ、早… と呟いて歩いていくローチの後姿を見つめていた 廊下で腕を組んで足りない睡眠を壁にもたれながら仮眠で補っていると食事を終えたルイズがローチに声を掛ける 「ローチ!」 「ん、飯は食い終わったか?」 「えぇ、これから教室に行くからついて来て」 「俺が行く必要はあるのか?」 「まぁ…ね」 歯切れの悪いルイズの頭をおもむろにローチが撫でる 「な、何するのよ!」 「いい位置にあったからつい」 「ッー!行くわよ!!」 ルイズがプンスカと怒り足を踏み鳴らしながら歩いていく ローチは妹を見るように暖かい目でルイズの後姿を見つめながらついて行く そしてゴースト 「んぐっ、あぁーぁ…」 盛大なあくびと背伸び 「あ゛ーよく寝た!」 今ひとつ緊張感の足りないゴーストである 周りを見渡しスクッと立ち上がり一言 「うっし、ローチのケツを蹴飛ばしに行くか」 忘 れ て い な い ローチサイド 「?!」 ローチが言い知れぬ不安に身震いする そんなローチを知ってか知らずかルイズがローチに話しかける 「教室、着いたわよ」 その言葉にローチが反応し視線を上げる ルイズがドアをくぐるとザワザワしていた教室が一瞬静かになりクスクスと笑い声が聞こえてくる ローチがそれを見て多少の不快感を感じルイズの方を見るがルイズは何のそのといった風に無視し席に着く ローチが凛とした軍人のようにルイズの隣に立ち胸を張りルイズにボソッと話しかける 「ルイズは強いんだな」 最初何を言っているのだと思っていたがルイズは周りの状況を理解し返事する 「別にいつもの事よ、ある程度は慣れたわ」 それっきりローチは黙り切り周りを観察する (慣れるほどこの空気に晒されていたのか、クソッタレめ…ルイズの何が不満なんだガキ共) 見ればルイズやローチを指差すものやちらちらと見て来るもの ローチに熱視線を向けてくるキュルケやら我関せずと本をずっと読んでいる青髪の少女など 色々な人間がいる、人間だけでなく珍妙奇天烈摩訶不思議な生物も沢山いる ローチが目玉の変な物体に目をやっていると扉が開きややお年を召した女性が入ってくる すると教室が静かになり笑い声も収まる 入ったとたん静かになった教室にご満悦した女性は微笑みながら 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、 こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 と、教室を一瞥しながら話す ルイズと隣に立つローチを見ると「あらあら」と呟いて話を始める 「変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 貶すつもりなど1%も含まれない純粋な驚きの声を上げるシュヴルーズ ルイズが少し俯く そこに声質で言うなら少々下品と言うべきか可哀想と言うべきかという声が響く 「ゼロのルイズ!召喚が出来なかったからって変な格好の平民なんか連れてくるなよ!」 見るとやや太った少年がルイズに野次を飛ばす それを聞いたルイズが流石に怒ったのか声を荒げる 「違うわ!きちんと召喚したもの!ローチが来ちゃっただけよ!」 「おいおい、嘘つくなよな!ゼロのルイズ!」 ローチは理解する、ゼロという二つ名は誇りに出来るものではない、バカにされているのだ この太ったクソガキ、投げナイフの的にしてやろうか と思案しているとルイズが声を上げる 「ミセス・シュヴルーズ!侮辱されました!風邪っぴきのマリコルヌがわたしを侮辱したわ!」 それを聞いたマリコルヌ(マルコリヌの方が個人的には言い易いからよく間違える)も声を荒げ 「かぜっぴきだと! 風上だ! 風邪なんか引いてないぞ!!」 「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いているみたいなのよ!」 口喧嘩が始まった、殴り合いにはならないがどちらにしろ喧嘩だ そこにシュヴルーズが割って入る 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はやめなさい。 お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません、わかりましたか?」 「ミセス・シュヴルーズ、僕の風邪っぴきはただの中傷ですが、ゼロのルイズは事実です」 マリコルヌがニヤニヤとしながらルイズを指差す すると周りも何人かクスクスと笑い始める 瞬間シュヴルーズが杖を軽く振りマリコルヌと笑った生徒の口に粘土を詰め込む 「しばらくその姿で授業を受けて反省しなさい」 以後普通に授業が進みローチはそれを見ながら思う (言語体系も違うな、文字が何書いてるのか皆目検討つかない) 先生が錬金という魔法で石ころを金色の物体に変える どうやら真鍮らしい (物質の原子を変化させるのか?!バカな!それに必要なエネルギーは天文学的数値に…云々) 「では実際に今やった錬金を誰かにやってもらいましょう!」 シュヴルーズが振り向きうーんと言いながら誰にしようかと見回し始める 「そうだわ、ミス・ヴァリエールにやってもらいましょう!」 いきなり静かだった教室がざわめき始める 「先生、ルイズにやらせるのは危険です」 キュルケがいきなり声を上げる それに賛同するようにマリコルヌや生徒たちが頷く 「あら、どうしてですか?」 「ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。あまり実技の成績が良くない事は存じていますが、非常に努力家である事も存じております。 さあ、ミス・ヴァリエール、気にせずにやってごらんなさい。失敗は成功の母ですよ」 ルイズが決心したように立ち上がり教壇に歩き始める 「あぁ、あぁ、」 キュルケが変な声を上げる 「さぁ、ミス・ヴァリエール、この石ころを望む金属に変えてください、しっかりと変えたい金属を強くイメージするのですよ」 次の瞬間ルイズが杖を振り下ろす 閃光、轟音、衝撃、凄まじい爆発が起きた まるで手榴弾が爆発したようだ 「う、おぉ…」 咄嗟に机の後ろに隠れ対ブラスト姿勢になっていたローチが周りを見渡し驚く 阿鼻叫喚 使い魔達は教室を走り回り飛び回りガラスを突き破り他の使い魔に危害を加える 生徒は衝撃で吹き飛ばされたり自分と同じように机の後ろに隠れたり事前に教室から出ていたりした 「だから言ったのよ!危険だって!」 キュルケがルイズを指差す 「もうあいつを退学にしてくれ!」 生徒が叫ぶ 「俺のラッキーが! 蛇に食われた!」 使い魔を助けようとするものもいる 煤だらけになり服もボロボロのルイズがコホンと一つ咳をして 「ちょっと失敗したみたいね」 それを聞いた生徒たちが叫ぶ 「何がちょっとだ!いっつも失敗じゃねぇか!ゼロのルイズ!!」 「成功確立いつだってゼロじゃないか!」 ローチはゼロの意味を理解する 「俺のラッキーが! 蛇に食われた!」 さっき聞いた ローチは一言呟いた 「なるほど…だからゼロか…」 前ページ次ページCall of Different
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前ページ次ページ虚無と賢女 いたるところで生徒たちの雑談が行われ賑やかな教室、彼らの脇に鎮座する多種多様な―――見たこともない生物も含めた 動物たち。恐らく全て使い魔なのだろう。生徒の中には雑談しながら使い魔と遊んでる者もいた。 (それにしても) と思う。 教室のあちらこちらから向けられる好奇心と侮蔑が入り混じった視線に居心地の悪さを覚え、 エレアノールは内心でため息をつく。召喚された時の野次や先ほどの朝食の時にシエスタやマルトーから聞いた評判、 そして今の状況から考えれば、ルイズは明らかに周囲から見下されている。 一人の少女にこれだけの侮蔑や嘲笑を集中させて恥ずかしくないのだろうかと思うが、思わないのだろうと諦めにも似た 結論に思い至る。かつて、彼女が困窮しきった農民を救うべきじゃないかと周囲に相談した時、同じような嘲笑を 浴びせられたものだ。 (世界が違っても王侯貴族は特権と誇りに溺れて堕落するものなのですね……) 失望を表情に出さぬようにちょっとした努力を払い、彼女の立ってる場所のすぐ隣の席に座るルイズに視線を向ける。 その小さな身体―――十六歳と聞いて驚いたが―――にこれだけの悪意を受け続け、なお折れずに前を向き続けている 誇りと意志の強さ。 (私よりもずっと強いのですね、ルイズ……) 彼女を支えたい、とエレアノールは思う。しかし、この世界では―――ここが遺跡の中で生まれた想像の結晶たる虚構であれ、 『新しき世界』の結果生まれた確固たる存在を持つ現実であれ―――自分は異邦人。いつか、可能ならば元の世界に帰る 仮初の住人である自分。彼女を支え続けることなど出来ない。 仲間たちの元へと帰りたいと思う気持ちと、ルイズの側でずっと支えてあげたいという気持ち、矛盾する考えが頭の中を巡る。 「皆さん、お喋りの時間はもう終わりですよ」 教室の扉から帽子をかぶった中年の女性が入っていた。一瞬間をおいて、教室中の雑談が静まりはじめ、 生徒たちは座りなおして前を向く。教壇のつくと女性―――先生は教室中を見回す。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、毎年最初の授業で召喚された使い魔を 見るのがとても楽しみなのですよ」 教室を巡る視線がルイズと横に立つエレアノールに向けられる。 「特にミス・ヴァリエールは変わった使い魔を召喚したものですね」 その瞬間、教室がドっとした笑い声に包まれる。シュヴルーズの様子からからして蔑んでるわけではないのだろうが、 エレアノールからしてみればルイズに向けられてる悪意に無頓着すぎる発言と感じられた。 「ゼロのルイズ! 召喚に失敗したからといって、平民を雇って連れてくるなよな!」 「な……!」 「ご主人様!」 激昂したルイズが立ち上がり言い返そうとして―――エレアノールに制される。声に含まれる強い意志と、 それを信念に込めた表情に思わず従う。 「ははは、言い返しもしないか! やっぱりゼロのルイズは召喚できなか―――ヒィッ!?」 嘲笑に追従しようとした生徒は、エレアノールの視線に言葉を詰まらせる。その視線に込められているのは純然たる怒りと、 殺意にも近い敵意。人間よりも強靭な魔物相手に毎日のように命がけの戦いを繰り返していたエレアノールからの殺気に、 悠々自適な学園生活を送るだけの生徒は恐怖で震え上がる。笑っていた他の生徒たちも、異常な雰囲気に気づき 次第に静まっていく。 何人かの男子生徒を侍らせていたキュルケも恐怖の感情を隠しきれなく、ただ一人、青いショートカットの小柄な眼鏡の少女が 平然とエレアノールを見つめ返していたが。 「はいはい、皆さん。友達を中傷することはいけません。授業を始めますから前を向きなさい」 唯一、エレアノールの殺気を向けられていない―――空気が読めてない―――シュヴルーズは手を叩いて 事態を収束させる。同時にエレアノールから放たれていた殺気も立ち消え、恐怖で凍り付いていた生徒もドっと椅子に 沈み込んだ。 傍らのルイズは最後までエレアノールを見上げていたが、安心させるような微笑みを向けられて前に向き直った。 授業はシュヴルーズの自己紹介、『赤土』という二つ名とこれから一年の授業で教える土の系統魔法のこと、そして基本的な おさらいから始まった。この『世界』の魔法に興味をひかれたエレアノールは、ルイズから筆と数枚の紙を借りてメモを 講義の内容を書き記す。 (魔法の四大系統と虚無の系統……、それにしてもこちらの魔法は生活に密接しているのですね) 教壇で石ころを真鍮へと変えさせたシュヴルーズの『錬金』を見て素直に感心する。説明を聞く限りでは、 上位のメイジなら石ころから金をも作れるようだ。 (トライアングルとかスクウェアというのがメイジの格みたいですね) 授業の後でルイズに詳しく聞いてみようと思っていると、再びシュヴルーズの視線がこちらに向けられた。 「では、ミス・ヴァリエール。今の錬金をやってみてください」 「え? 私、ですか?」 ザワ……と教室中の生徒がざわめき、キュルケが困ったように手を上げる。 「ご存知、ないのですか? 彼女に実技をさせるのは止めといた方がいいと思いますわ」 教室中の生徒たちがその言葉に一斉に頷く。そうだ、そうだと声を上げて同調する者も居た。 エレアノールは最初はルイズへの侮蔑かと思ったが、どうやら違うようだ。彼らは本心から恐れている。 「私は彼女が努力家と聞いております。さぁ、ミス・ヴァリエール、失敗を恐れずにやってごらんなさい」 「先生!」 なおも食い下がるキュルケに、ルイズは意を決して立ち上がる。緊張しているが、迷いはなかった。 「やります!」 「ルイズ、止めて……!」 キュルケの制止を振り切って、教壇まで歩いていく。同時に教室中のほぼ全ての生徒が机の下に潜り込む。教室から 使い魔と共に出て行く生徒も居た。一人、事態を把握しきれないエレアノールは呆然と教室を見回していた。 教壇では、シュヴルーズが生徒たちの突然の行動に同じように呆然としていたが、それを問いただすことよりルイズへの 指導を優先して、呪文を唱える彼女ににっこりと笑いかける。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです。きっと上手く―――」 シュヴルーズの指導は、ルイズが杖を振り下ろしたと同時に中断することとなった。錬金により石ころが他の金属に変わった ためでなく、閃光ともに爆発したのだ。爆心の間近で爆風をまともに受けるルイズとシュヴルーズ、隠れていた席ごと 吹っ飛ばされて悲鳴を上げる生徒、突然の爆発に驚いて暴れだす使い魔たち。 「―――ルイズ!」 阿鼻叫喚の大騒ぎの中、最初に冷静さを取り戻したのはエレアノールであった。混乱する生徒と使い魔―――何かを丸呑み してた大蛇を踏みつけるが気にも留めず―――を掻き分け、仰向けに倒れてるルイズの下へと走る。 「ルイズ!? しっかりしてください!?」 煤で真っ黒になったルイズを抱き起こす。幸い、服がボロボロになっていたが外傷もなく、爆発のショックで放心状態に なっているが無事であった。 「ルイズ! ルイ―――ご主人様! 大丈夫ですか?」 エレアノールの呼びかけにルイズの瞳の焦点が合い、ぷるるっと頭を振って立ち上がる。すぐ近くで倒れて痙攣している シュヴルーズ、次に教室の惨状を見回す。 「ちょっと失敗みたいね」 言うまでもなく、言うほどでもないのだが、ルイズの一言が教室中からの大ブーイングを引き起こす。ムキになって 言い返すルイズと、さらに言い返す生徒たち。 (なるほど……成功率『ゼロ』が由来なのですね……) 幼稚な口喧嘩にエレアノールはため息をつきながら、現時点で最も救護が必要な人物、シュヴルーズの介抱を始めた。 「アフロ」 廊下に退避していた生徒の一人、青髪の少女が倒れてるシュヴルーズを扉の間から覗き見て呟いていたが、 口喧嘩中の教室中の生徒たちには聞えてなかった―――聞えていたエレアノールも聞こえなかったことにした。 エレアノールの介抱により意識を取り戻したシュヴルーズは、授業の中止と爆発の片付けをルイズとエレアノールに 命じると、ヨロヨロとした足取りで教室を後にした。もちろん、罰の意味を込めて魔法の禁止も言い渡していたが、 魔法の使えないルイズには大して意味はなかったが……。 黙々と部屋の片付けをこなすエレアノールに対し、ルイズはボンヤリとしながら雑巾で机を拭いていた。時々、 何か言いたそうにエレアノールの方を向き、しばし葛藤するように小声で自問自答をして、再び雑巾がけに戻る。 お世辞にも効率的に掃除してるとは言えなかったが、エレアノールは気づかないふりをしていた。 そんな重苦しい教室に掃除道具を持ったメイド―――シエスタが入ってきたのは、遅々とした片付けがようやく 半分終わった頃であった。 「ミス・ヴァリエール、片付けの手伝いを言い付かって参りました」 「え……? そ、うなの?」 はいと頷いて、持ってきた掃除道具でまだ片付けだけで掃除が出来てなかった部分を磨き始める。掃除道具の扱う動きは 実に慣れたものであった。呆然とシエスタの動きを見ていたルイズだったが、やがて雑巾がけを再開する。 ルイズを横目で確認しつつ、エレアノールはこっそりとシエスタに近づく。 「シエスタさん? 本当に先ほどの教師から手伝いを言われたのですか?」 「いいえ、言われてないですよ」 小声であっさりと否定する。 「実を言えばこの教室の片付けと掃除の仕上げは、私たちの役目になるのです。あまり時間がかかると昼からの 授業に間に合いませんし、私たちも休憩を取る時間がなくなりますから」 ペロっと悪戯っぽく舌を出しての本音。それに、と続けて、 「手伝いを言われたのは事実ですよ、教師じゃなくて用務員の人からですけど」 「なるほど……」 したたかな言葉に納得する。 「後はちょっとした好意と好奇心もありますけど―――あ、エレアノールさん。その机の向こう側を持ち上げくれませんか?」 「え? ええ、わかりました。……こうですか?」 ルイズがこちらの様子を伺っていることに気づいた二人は、わざと大きな声で誤魔化す。ルイズもしばらく不思議そうに 二人を見つめていたが、やがて自分の作業に戻る。プライドの高いルイズが、自分への罰なのに平民が手伝いを申し出たと 知れば、強硬に反対するだろうと二人は分かっていたのであった。 片付けが終わりに近づいた頃、エレアノールはシエスタの動き―――重心、足の踏み位置、体さばき、バランスの取り方 などが熟達されていることに気づいた。それも、一見だけでは分からないほどに自然な動き。今も重いガラス板を軽々と 窓にはめている。 (そういえば……、今朝も十個近い洗濯籠を苦もなく持ち歩いていましたね) 水汲み場のことを思い返し、護身術か何かを習っているのだろうと推測する。同時に、手習い程度ではあれだけの 技量を身につけることは出来ないはずと思い至るが、本人に確かめるほどでもないと黙っていることにした。 シエスタの手伝いにより昼前に片付けが終わり、元の仕事に戻るシエスタを見送った二人は、爆発で掃除でボロボロに汚れた ルイズの着替えのために寮の自室へと戻っていた。今朝と同じくエレアノールが手伝う。二度目ということもあり、 すぐに着替えは終わった。 「ご主人様、終わりましたので確認をお願いします」 エレアノールの声にルイズは、ああそうと生返事を返す。その目はどこか虚ろであった。 「ご主人様?」 「……ねぇ、何か言いたいことないの?」 「何か……とは?」 ルイズの声に只ならぬ気配を感じたエレアノールは努めて感情を抑えて聞き返す。 「……さっきのことよ。私が魔法を使おうとするといつもああなるの、……ドカンって爆発。 実はね、貴女を召喚する時も何回も失敗したの、呪文を唱えるたびに爆発、爆発、爆発」 せき止めていた水が一気に流れ出すように、何もかもを喋りたい衝動。それがルイズを突き動かす。 「それでね、貴女が来てくれたの。周りから野次飛ばされたけど嬉しかったわ、ようやく魔法が使えるようになった。 もう私は『ゼロ』なんかじゃないって。契約も……爆発も何も起こらず、一回で成功した時はもっと嬉しかったわ。 それなのに……、それなのに……」 つぅっとルイズの頬を伝って涙が零れ落ちる。 「貴女だって変だと思ったでしょ? 魔法の使えないメイジ、出来損ないの貴族って!? 何で!? 何でなのよ!? 何で私は魔法が使えないのよ!?」 感情のタガが外れ泣き叫ぶ。 エレアノールは自己嫌悪のまま泣き続けようとしたルイズを抱きしめた。 「……落ち着いてください、ご主人様―――いえ、ルイズ」 「え……?」 「ルイズは、私のために―――仲間と離れ離れになった私のために、会いに行ってもいい、旅費も出してもいいって 言ってくださいました。その優しい心遣いはとても嬉しいです」 ルイズの頭に手を回し、そっと抱き止める。プライドの高いルイズは自分の泣いているところなど―――例え感情のタガが 外れているとは言え見られたくないだろう。だから見ない、抱き止めるだけ。 「使用人の人たちからも聞きました。ルイズはずっと一人で侮蔑と嘲笑に耐えてきたのですよね? それは本当に 素晴らしいことです。貴女の気高さは少しも損なわれてなかったのですから」 「……ぅく、……ぅぅ」 「だから少しだけ、わずかな間だけ休んでください。そして、いつもの誇り高きルイズに戻ってください……」 抱きしめたまま、ルイズの頭を優しく撫でる。ルイズの気が済むまでずっと抱きとめておこう、と。 (まるで……ちいねえさまみたい……) 懐かしい想いに浸り続ける。遠くから昼食の予鈴が聞こえ、同時に空腹感も覚える。 しかし、ルイズはずっとその懐かしい暖かさを感じ続けることを選んだ。 アルヴィーズの食堂では既に食事が始まっていた。ルイズとエレアノールは賑やかな生徒たちと、 空き皿や新しい料理を持って行ったり来たりするメイドたちをかき分けて席にたどり着いた。 「じゃあ、貴女も食べに行ってもいいわよ」 エレアノールの引いた椅子に座りながら、いつもどおりの口調と表情に戻ったルイズは振り返る。 「はい、ありがとうございます。それでは―――」 「あ、ちょっと! さ、さっきのはと、とと特別に許してあげるけど、ご主人様って言わないとダ、ダダメなんだからね!」 「……ええ、失礼しましたご主人様」 顔を真っ赤にして照れているルイズに、クスリっと微笑む。 「あ、あと……、ぜぜ、絶対に他言無用よ! 誰かに話したりしたら承知しないのだから!!」 賑やかな食堂とはいえ、周囲の席に丸聞こえ。何人かの生徒が何事かと注目してくるか、ルイズはそれに気づかなかったようだ。 「承知しております、ご主人様。……御用は以上でしょうか?」 「そうよ、他にはないわね」 改めて一礼するとエレアノールは厨房へ向かっていった。その姿が見えなくなるまで見送ったルイズは前を向き直り、 そして自分に注目する周囲の生徒の視線にようやく気づいた。慌てて食事の前の始祖への祈りをすばやく言い、 昼食に取り掛かる。周囲もうろんな者を見るような視線を向けていたが、すぐに興味をなくしたのか思い思いに 雑談や食事の続きへと戻っていった。 厨房は文字通り戦場であった。台の上に所狭しと並べられた高価そうな皿に置かれていくデザート、空いた大皿を流し台へと 積み上げるメイドたち。戦場以外表現しようがなかった。 (賄いをもらえるような状況じゃありませんね) 昨夜と今朝はたまたま手隙のタイミングだったのだろうと考え、手近の顔馴染みとなったのコックへ声をかける。 「すみません?」 「ああ、何だって!? ……あ、エレアノールさん!」 忙しさのあまり殺気立っていたコックは、相手がエレアノールだと知ると慌てて表情を緩めた。 「あの、何か手伝えることはありませんか?」 「え? えええ!? いや、それは助かりますが……、しかし」 「マルトーさんには後から話しておきますから」 コックは根負けしたようにため息をついた。 「……分かりました、ではこっちのデザートを配るのを手伝ってください」 ルイズは思い悩んでいた。それは、目の前の料理の付け合せにたっぷりとハシバミ草が使われていたことでも、 魔法が使えないこと―――無論、重要なことであったが今は思考の隅に追いやっていた―――でもなかった。 (はぁ~……、何してるのよさっきの私……) フォークで鶏肉をブスブスと刺しながらため息をつく。使い魔の前で感情を爆発させて泣いてしまった。 さらに抱きとめられて、ご主人様じゃなくてルイズの名で呼ばれて……威厳も何もない。 (ああ、もう! さっきはちょっと変だったのよ! 異常だったのよ! だから無かったことに!!) 鶏肉を刺すフォークはブスブスからザクザクへと進化し、比例するように鶏肉も刻一刻とミンチになりつつある。 そのまま先ほどの記憶を打ち消そうと躍起になってフォークを突き刺し続けるが、それでもエレアノールに抱きとめられた時の 安心感と温もりは心に強く響く。ルイズと呼ばれることにも嫌悪感は何もなく、ホっとする気持ちになる。 出会ってまだ一日ほどなのに、何でこんなに自分は彼女に心を許してしまうのか。 貴族としての誇りと安堵感の板ばさみになっているルイズ、その硬直は目の前にデザートのケーキが置かれてようやく解けた。 「ケーキでございます、ご主人様」 ―――否、突然のエレアノールの声で解かれた。 「な、ななな!? 何で貴女がケーキを配ってるのよ!? 食事はどうしたのよ!?」 「いえ……厨房の皆さんも忙しそうだったのでお手伝いを、と思いまして」 先ほどの掃除のお礼もありますしね、と微笑みエレアノール。 「そ、そうね……。じゃあ、頑張ってきなさいよ」 「はい」 デザートの配膳作業に戻ったエレアノールが十分に距離を取ったのを確認して、ルイズは再びため息をつく。何となく、 今の悩んでいるところを見られたくないっと思ってしまう。 (多分……見られてないよね。うん、見られてない) 気を取り直して、目の前のケーキに意識を移す。大好物のクックベリーパイじゃないのが残念だが、おいしそうなケーキ。 ルイズはデザート用の小さいフォークに持ち替えて、まずは一口分切り取って口に運ぶ。 (ん……おいしい♪) しっかりと味わって二口目、三口目―――ちょっと離れたところで、何やら騒ぎが起きてるが気にせずにケーキを頬張る。 栗色の髪の一年生の少女と巻き髪の少女―――モンモランシーが相次いでその騒ぎに飛び込み、泣きながら、そして怒りながら 走り去っていった。―――四口目、どうやら騒ぎの原因はギーシュらしい。あのキザ男が二股でもしてたのだろう。 (自業自得よねー、まったく) むしろ今までバレてないだけ幸運な方よねと思いつつ、最後の一口を口へと運ぶ。 「どうしてくれる! 君が香水の瓶を拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉に傷ついたじゃないか!? 機転を利かせて こっそり渡してくれるくらいしたらどうだ!?」 八つ当たりかっこ悪い。ただ、その八つ当たりの対象は誰なのか興味がわいたので、改めて騒ぎの現場に視線を向ける。 「しかし、二股をされていた貴方に責があるのでは?」 対象→自分の使い魔エレアノール。しかも、怒り心頭のギーシュに反論している。 「ええええぇレア、ケフッ! ゴフォゴフォッ!?」 ルイズはケーキを口に含んだまま叫ぼうとして、思いっきりむせて咳き込むのであった。 「しかし、二股をされていた貴方に責があるのでは?」 「そのとおりだギーシュ! お前が悪い!」 エレアノールの言葉に周囲の男子生徒たちが、どっと大笑いする。ギーシュは羞恥と怒りで顔を赤くする。 「とにかくメイド嬢。僕が二股かけていようと、君の軽率な行動が原因でこうなったんだ。それについて謝罪するつもりは 無いのかい?」 「私が何もしなくても時間の問題だったと思いますが……。それに、服を借りているだけで私は学院のメイドではありませんよ」 「何だって? ……ああ、なるほど」 エレアノールの顔をしばし見つめ、納得したように頷く。 「ゼロのルイズが呼び出した平民だったな。全く、ルイズもルイズなら使い魔も使い魔だな」 バカにしたように鼻を鳴らして、やれやれと首を振る。 「―――どういう意味ですか?」 「決まっているじゃないか、ゼロのルイズの使い魔に機転を期待するのは、愚かだ……った、と……」 得意気に芝居がかった仕草を取っていたギーシュは、エレアノールからの視線―――教室の時に比べて幾分抑えていたが ―――に言葉が詰まりだす。 「私への批難は甘んじてお受けしますが、ご主人様への侮辱は取り消してください」 声色こそ平静を装っていたが、有無を言わせないほどの迫力を秘めていた。ギーシュは髪からまだ滴り落ちるワインとは 別に冷や汗を流している自分に気づき、続いて猛獣の尻尾を踏んでしまったことを察した、致命的に強く踏みつけたのだ。 無意識のうちに一歩下がりそうになり、その場に踏みとどまる。『命を惜しまず名を惜しめ』のグラモン家の家訓が 辛うじてギーシュを支えていた。 「ふ…ふふふ、ふふ、よかろう! 君がそれを望むのなら決闘で決着をつけようじゃないか!!」 自分を奮い立たせるように大声で宣言し、青銅の薔薇の造花をエレアノールに突きつける。 「いいでしょう……、それでここで決闘ですか?」 「こんな狭いところでは満足に戦えまい、ヴェストリの広場でするぞ。君もケーキを配り終わったら来たまえ」 ギーシュはくるりと体を翻して先に食堂を後にした。何人かの生徒たちが期待に満ちた表情で続く。 後に残されたのはエレアノールと何人かの―――こちらも期待に満ちた表情で見つめてくる―――生徒たち。 「……待たせるのも悪いですね」 ふぅっとため息をついて、ケーキの配膳を誰か手近のメイドに任せようと周囲を見回すと、ちょうどシエスタが目の前まで 寄って来ていた。 「あ、シエスタさん、申し訳ありませんが―――」 「エレアノールさん!!」 シエスタは表情と声色に剣呑なものを浮かべていた。 「エレアノールさん!! 貴族と戦ったら……ダメです!!」 続いてようやく落ち着いたルイズもエレアノールの元へと駆けつけてくる。咳き込んでてエレアノールとギーシュの会話を 聞くことが出来なかったが最後の『決闘』という不穏な単語はしっかりと耳に届いていた。 「貴女! 何勝手に決闘の約束なんかしてるのよ!! 勝てるわけがないでしょ!!」 「今ならまだ、謝れば間に合うかもしれないです! 下手に戦うと厄介なことになりますよ!!」 説得しようと押しとどめる二人をエレアノールは両手を向けて遮る。 「心配してくださってありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」 見るもの安心させる微笑みを二人に返して言葉を続ける、腕にそれなりに覚えはありますから、と。そして、残っていた 生徒の一人に案内を頼むと二人を振り切るようにして食堂を後にする。 残されたのは怒りで涙目になっているルイズと、ケーキの配膳台を受け取ったシエスタ。 「な、何なのよ、もう……! いくら冒険者してて腕に覚えがあっても、メイジに勝てるわけないじゃない!!」 地団駄を踏んで叫ぶ。一方のシエスタは「ふぅ……」とため息つくと、ケーキの配膳台をさらに手近の同僚に任せる。 「ミス・ヴァリエール、私たちも行きましょう」 「え……?」 「お気づきじゃなかったのかもしれませんけど、エレアノールさんはミス・ヴァリエールへの侮辱を取り消そうと していたのですよ」 「え? 何、よ……それ?」 ルイズの問いに、シエスタはにっこりと笑って答える。 「ミス・ヴァリエールのことを想っておられるのですよ。それに……エレアノールさんなら案外あっさりと勝っちゃうと 思います」 (エレアノールさんが、私の知ってる『エレアノールさん』だったら……ですけどね) 言葉の半分を飲み込んで、ルイズを先導するように歩き出した。一歩遅れたルイズは慌ててその後を追う。 「え? え? ちょっと、あっさり勝っちゃうってどういうことよ!? ちょっと待ちなさいよ!!」 シエスタはルイズに問いに答えなかった。ただ胸中でため息混じりに呟く。 (ミス・ヴァリエールの後ろ盾もありますし、勝っても厄介事は少なくすむかもしれませんしね) オールド・オスマンとは誰かと問われた人が十人居れば十人ともこう答えるだろう。トリステイン魔法学院の学院長、 齢百歳とも三百歳とも言われる古老、偉大なるメイジ。 しかし、秘書のロングビルからしてみればただのセクハラ爺、隙あらば胸に飛び込もうと虎視眈々と狙う重度の女好き、 使い魔のネズミにスカートを覗かせようとする変態……等等。 「ふぅむ……」 今も古書を片手に部屋中を歩き回ってる……フリをしてロングビルの後ろに回り込もうとしていた。おそらく、後ろから 抱きつくかお尻を撫でるか、はたまた胸を鷲掴みにするか狙っているのだろう。 「オールド・オスマン。気が散るので出来れば席に座ってジッとしていただけると助かるのですが」 「いやなに、今読んでる内容が難解でのぉ……、こうやって身体を軽く動かしていると理解できそうなのじゃよ」 さりげなくロングビルの執務机に歩み寄り、服の上からも分かる形の良い両胸に視線を合わせる。 「わたくしの胸を見るより本を読んでくださ―――」 チュチュッ! 足元でネズミが駆け回る気配、慌てて足元を見ると逃げていくネズミの尻尾。 「オールド・オスマン!!」 「油断大敵じゃな、ミス・ロングビル。ふむふむ……そうか白か、純白か」 立ち上がって詰め寄るロングビルを軽く受け流して、ネズミ―――モートソグニルからの報告に頷く。威厳もへったくれもない。 「しかし、しかしじゃな、ミス・ロングビルには黒の下着が似合うじゃろう。熟した色気がよりいっそう薫りたって―――」 ゴスッっと重量感のある音が学院長室に響く。オスマンは頭に走る激痛にその場に蹲る。 「あら、重くて手が滑りましたわ」 いつの間にか飾ってあった花瓶を手に持っていたロングビルは、用が終わった花瓶を元の場所に戻した。 「あだだだだ……、年寄りに、いたわりの気持ちを持たないのかね?」 「セクハラを自重する年相応の分別こそ、オールド・オスマンに必要かとわたくしは真摯に考えておりますが?」 ヨロヨロと立ち上がるオスマンを切って捨てる。 「セクハラくらい良かろう! そんなに目くじら立てるから婚期を逃すのじゃ―――」 ドゴ、ガシ、ゲシゲシゲシゲシゲシゲシ。 順に……膝蹴りが腹に、腹を押さえたところに脳天に一撃、倒れて痛みに悶えてるところに踏みつけの連打。 「痛! ちょ、やめ!? あだだッ!! 死、死ぬ!?」 ロングビルによるオスマン虐待は、学院長室のドアが開くまで続いた。バタンっとノックもなしに勢いよく学院長室に 入ってきたのはコルベール、一睡もしていないか目の下に隈が浮かんでいたが目の光はしっかりとしたものであった。 「オールド・オスマン! たたた、大変です! 大発見です!!」 「何じゃね、騒々しい……ノックもなしに」 オスマンは窓際で外からの日差しが渋く決まるように立っており、ロングビルも執務机について黙々と書類作業を していた。刹那の一瞬の早業である。 「『始祖ブリミルとその使い魔たち』じゃないか、こんな埃臭い文献など漁っておるほど暇でもあるまいに。 それでこの本がどうかしたのかね……ええっと、ミスタ何だっけ?」 「コルベールです!!」 「おお、そうそう、そうじゃったなコール・ミー・タクシー君」 「コルベールです、コ・ル・ベ・ェ・ル!!」 大声で訂正しながらも、書物を開いて挿絵のページを示し、続いて昨日の春の使い魔召喚の儀式でエレアノールの左手に 現れたルーンのスケッチを手渡す。一目見た瞬間、好々爺だった顔が、引き締まった練達のメイジの顔になる。 「ミス・ロングビル、席を外しなさい。それと急な用件以外の訪問は受け付けないと教師たちに連絡をしてくれたまえ」 急に雰囲気が変わったオスマンに怪訝な表情を浮かべつつも、ロングビルは学院長室から退出していく。 「どういうことかね、ミスタ・コルベール。詳しい説明を聞けるのじゃろうな?」 コルベールは興奮で顔を真っ赤にしながら説明を開始した。 ―――昨日、ミス・ヴァリエールが人間を召喚し、その手に刻まれたルーンが見慣れるモノであったということ。 気になってフェニアのライブラリーに一晩中篭って文献を漁り、つい先ほど、一致するルーンが書かれた書物 『始祖ブリミルとその使い魔たち』に行き着いた、と。 「つまり、君の結論ではミス・ヴァリエールは伝説の『ガンダールヴ』を召喚したというのかね?」 「そのとおりです! 間違いなくあの女性は『ガンダールヴ』です! これは大変な大発見ですよ、オールド・オスマン!!」 興奮気味のコルベールに対し、オスマンは深く考え込むように椅子に身を沈めた。 「ふむ……、ルーンが一致したからといって確実に『ガンダールヴ』とは言えまい。決め付けるのは早計かもしれん」 「それもそうですな」 「ところで、そのミス・ヴァリエールが召喚したという女性は、君から見てどのように見えたのかね?」 普段の女性に対する好色さを全く纏わないオスマンの問いに、コルベールは数度深呼吸して落ち着いてから答える。 「そうですな……、召喚された時に見につけていた防具といい隙の無さといい―――戦い慣れているように思えました。 恐らく、傭兵か何かを生業にしているのかもしれません……が、粗野な雰囲気も一切感じさせませんでした」 「ほう、荒くれ者の傭兵なのに粗野じゃないとは……なかなかミステリアスな女性じゃのぉ」 一度、会ってみるべきかもしれん、と考えていたところにドアのノック音が室内に響いた。 「誰じゃ?」 「私です、オールド・オスマン。先ほど、教師の方から至急の用件があるとの伝言を承ってまいりました」 「ふむ、入りたまえ」 オスマンの許しを得てロングビルが入室してくる。 「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようです。野次馬の生徒たちが集まって大騒ぎになっており、教師たちも 止められないようです」 「まったく、暇を持て余した貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰と誰が決闘なぞしておるんじゃね?」 「一人はギーシュ・ド・グラモン。もう一人はミス・ヴァリエールの使い魔の女性です」 今まで話題になっていた『ガンダールヴ(仮)』の女性が出てきて、オスマンとコルベールは顔を見合わせる。 「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」 「たかだかケンカに秘宝を使うまでもなかろう。念のために水魔法に長けた教師を何人かヴェストリの広場に向かわせて、 あとは沈静化するまで放っておきなさい」 「分かりました、そのように伝えてまいります」 指示を受けたロングビルは教師たちに伝えるために学院長室を後にした。十分に足音が遠ざかったのを確認して、 オスマンとコルベールは顔を再び合わせる。 「オールド・オスマン」 「うむ……、グラモンのバカ息子には悪いが見極めるのにちょうどいい機会じゃ」 オスマンが壁にかかった大きな鏡に向かって杖を振ると、そこに外の光景―――野次馬で埋まっているヴェストリ広場で 対峙しているエレアノールとギーシュの様子が映し出された。 前ページ次ページ虚無と賢女
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====================================== ハルケギニアはトリステイン魔法学院。 抜けるような青空、絶好の召喚日和に恵まれていた広場はしかし…… 辺りに響き渡る爆音と爆発によって惨々たる有様と化していたのだった! その原因たる少女は広場の中心で煤にまみれたまま咳き込んでいた。 その周囲にはその爆発に巻き込まれてパニックに陥っている彼女の同級生たち。 頭部が禿上がった男性が必死になって納めようとしているが大した効果を得られてはいない。 「ゼロのルイズ、もう止めてくれっ!」 「あぁっ、今の爆発で僕の使い魔がっ!?」 「サモン・サーヴァントを極める事により、爆発の範囲は120%、威力は60%アップする! サモン・サーヴァントを極めたルイズは無敵となる!!」 そんな混乱した声と悲鳴が響く中、彼女はもう一度詠唱を開始し……そして再び爆発と悲鳴と怒号が沸き起こる。 「これで四十……二回目?」 私は爆発の届かない所に召喚した使い魔、それに結構な付き合いになる友人と一緒に避難してそれを見ていた。 「四十三回目」 と律儀に突っ込んでくれる友人は最初は読書に集中していたのだが、そろそろ気になりだしたらしい。 「ありがと、タバサ」 そう言って再び広場の中心にいる彼女に目を向ける……あ、涙目だ。 まぁここまで失敗して涙目にならない方がおかしい。むしろ普通は泣いてる。 正直に言えば、私……キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー……はルイズを気に入っている。 からかうと素直に反応する気性も含めて、あの子は良い娘だと思う。 あの子がどれだけ勉強しているかも知っているし、どれだけ努力しているのかも知っている。 陰口を叩かれ続けても、決して折れずに頑張っている。 なので、ちょっと……ほんのちょっとだけ……あの子がどうか成功するよう、始祖ブリミルに祈った。 一際大きな爆発と共に何かが折れる音が聞こえた。 祈った事を後悔した。 爆煙が晴れた時見えたのは膝をついたルイズと、その手にある折れた杖。 ……杖が折れては魔法が使えない、すなわちもうサモン・サーヴァントは出来ないという事。 それに気付いたのか周囲の連中が何時もの調子……要するにルイズを嘲る……に戻る。 正直聞くに堪えないが、それさえも茫然自失と言った感じのルイズには聞こえないようだ。 無理もない。杖が直ってもそれはまた失敗の連続かもしれないのだから。 今回ばかりは流石に折れてもしょうがない……などと思っていたら、ぐいっと横から引っ張られた。 見れば、タバサが真剣な顔で空を睨んでいる。 「成功」 「成功……? って、あ!」 空に光る銀色の鏡が浮かんでいた。使い魔を呼び出す為の門だ。それはルイズの真上に……真上!? 「ルイズッ、逃げなさい!」 そう叫んでルイズに向かって走り出す。 何が出て来るのかわからないが、あのままではルイズの上に落ちかねない。 だがルイズはうなだれたまま動かず、召喚を監督していたコルベール師も気付いたばかり。 何とかしてルイズを動かそうにも、爆発の影響を受けない所に居たせいか遠すぎる。 「ルイズーッ!!」 私の叫びも虚しく……甲高い音と共に眩い光の柱がルイズへと降り注ぎ、吸い込まれていった。 広場がさっきまでとは真逆の静寂に包まれる中、私はルイズに近づいていく。 ぱっと見は(煤だらけで服もボロボロだが)無事だ。 だがさっきの光が何なのかわからない以上、油断は出来ない。 「……ルイズ?」 その時、彼女が顔を上げた。目には何時もの彼女が浮かべる不屈の色。 そのまま立ち上がるとルイズはしゃきんとか言った音が聞こえてきそうなポーズを決め 「やるぞ!」 そう、広場に響き渡るような声で叫んだのだった。 ===================================== 彼女に関してこれ以上語るべき事はない。 数多の術と技を伝承する光を受けたルイズは幾多の戦功を上げ、“虚無(ゼロ)の”ルイズとして、歴史に名を刻むであろう。 ロマンシング・ゼロ……始まんない。 トップページへ
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2 教師と獣王 前ページ次ページ虚無と獣王 ハルケギニアには、人間以外にも人語を解し、話す事が出来る生物が存在する。 エルフや翼人・吸血鬼などがそれにあたるのだが、しかし彼らは概ね人間に似通った姿をしているものだ。 けれど召喚された獣人は、二足で立ち、手には武器を持ってはいるが、人間とはほど遠い姿をしている。 また、かつて知性が高く、言語感覚に優れた韻竜と呼ばれる幻獣がいたとされているが、こちらは既に絶滅したといわれて久しい。 そして召喚された獣人は、鰐や蜥蜴等の爬虫類に似通った姿をしているが、竜ではないと思われる。 では、目の前にいるこの獣人は一体何なのだろうか? 一時の驚愕から真っ先に立ち直ったのは、学院教師にして今回の儀式の引率役である『炎蛇』ジャン・コルベールであった。 (教職に就いてから、いや、それ以前にもこんな生物は見た事がない……。まだ見ぬ東の地から召喚されたのか?) (人語を話すという事は、知性も人間並みにあるとみていいだろう。エルフのように先住魔法を使えるのなら驚異だな) (あの鎧と戦斧……戦士なのだろうが、一兵卒ではあるまい。風格からしても、騎士団長級かそれ以上) コルベールは努めて何気ない風を装い、けれど袖口に隠した杖を意識しながらゆっくりと近寄って行った。 (召喚された「彼」に敵意がないならそれでよし。しかし……) 屈強な体躯、手にした長大な戦斧、もしかしたら先住魔法を操る可能性すらある獣人が敵対行動を起こした場合、果たして自分がそれを止められるだろうか? (日々の鍛錬を怠ったつもりは無いが、今の私の力がどれほど通じたものか……生徒をどこまで逃がす事が出来るかが鍵だな) ちらりと周囲を見回すと、大半の生徒が驚きから立ち直れていない中、青い髪を持つ少女が「彼」を油断なく注視しているのが分かった。 その近くにいた赤毛の少女も平静を取り戻しつつあるようだ。 ちなみに桃色の髪の少女はまだ唖然としている。 (まずは時間を稼ぐ。その後は出たとこ勝負になるか) いざという時は己の身を盾にする覚悟で、コルベールは「彼」に声をかける事にした。 「横から失礼します。ここはトリステイン魔法学院。私はこの学院の教師、ジャン・コルベールと申します」 両手を軽く上げる事で害意がないのを示す。すると獣人は、少し離れた地面に戦斧を突き立て、コルベールの方を向いた。 (こちらにも害意はない、と取っていいのでしょうね。ですがまだ気は抜けません) 毛は抜ける一方なのはやはり贖罪なのでしょうか始祖よ、と少し現実逃避するコルベールだが、あくまで気は抜いていない。 「オレの名はクロコダイン。つい先ほどまでデルムリンという名の島にいた。他にも少し聞きたい事があるのだが、良いか?」 「無論です、ミスタ・クロコダイン」 「助かる。あとコルベール殿、と言ったか。オレの事は呼び捨てでかまわん。ミスタなどと呼ばれた日にはこそばゆくてたまらぬわ」 そう言って笑みを浮かべるクロコダイン。幼子がみたら泣き出しそうな迫力があったが、コルベールには好ましいものに思われた。 「では私の事もコルベールと」 「うむ。ではコルベール。ここはトリステイン魔法学院と言われたが、オレはその様な学校があるとはついぞ聞いた事が無いのだ。そもそもトリステインとは地名なのか?」 「ええ、この学院があるのはトリステイン王国ですから。……という事は、トリステイン王国もご存じない?」 「……ああ。では、パプニカ王国・ベンガーナ王国・カール王国を知っているか?」 「いえ、少なくともこのハルケギニアには、その様な名のついた王国は存在致しませんな……」 「そうか……」 会話が進むごとに、クロコダインの顔から笑みが消えていくのが判る。 (彼はハルケギニアの事を知らないようだ。そして私達も彼のいた地域についての知識は無い……) (いくつかの王国の名が挙がった。彼の様な獣人の統べる国なのか、我等の様な人間も其処には居るのだろうか……?) コルベールが頭の片隅でそんな事を考えていると、クロコダインは真剣そのもの、といった顔つきで次の質問をした。 「コルベールよ……お前たちは勇者ダイと、大魔王バーンの戦いを知っているか?」 「…勇者、ダイ……?失礼ですが、それは物語か何かの事ですかな?いえ、少なくとも私は知らないのですが、本には詳しい者が居りますので」 ちらりと青髪の少女の方を見る。彼女は無表情のまま、首を横に振って見せた。 (おや、『図書室の主』殿もご存じないか) 視線をクロコダインに戻す。すると彼は、どこか途方に暮れた様な表情で、頭を抱えこんでいた。 「だ、大丈夫ですか!?」 「ん、ああ、いや、大丈夫だ……ただ、オレよりも頭の廻る仲間がこの場にいて欲しかっただけで、な……」 「……?」 クロコダインの脳裏に、勇者の家庭教師やその弟子の大魔導師の姿がよぎったのを、コルベールは知る由もない。 「オレはどうも、とんでもなく遠い所に来てしまったらしいな……」 「あ、あの、コルベール先生!」 と、ここで、ここにきて、ようやっと茫然自失状態からの復帰を果たしたピーチブロンドの少女(お忘れかもしれませんがヒロインです)が声をかけた。 「ん?ミス・ヴァリエール、どうしました?」 「どどどうしましたじゃなくて!何時まで話し込んでるんですか!召喚できたんですから契約!コントラクト・サーヴァント!」 顔を真っ赤にして叫ぶルイズ。必死である。 「……おお!」 コルベールの悪癖は、一つの事に集中すると他の事が全く見えなくなる所である。 生徒を守るための時間稼ぎに集中する余り、神聖な儀式も契約も次の授業の事も完全に忘れ去っていた。 とは言え、規格外の召喚を成し遂げてしまったルイズにも、責任の一端はあるのかもしれないが。 「……おお、て!忘れてましたか!?忘れてやがりましたかセンセイ!!」 一気に沸騰する公爵家三女。傍で見ている分には面白い。自分が被害者でないのならだが。 「いえ忘れていた訳ではアリマセンヨ、ミス・ヴァリエール!そうですね召喚したら契約デスナ!」 「召喚?契約…?」 耳慣れない単語に首をひねるクロコダインに、ルイズはハイでアッパーなテンションを維持しながらこう言い放った。 「そう!あんたはわたしに召喚されたの!これからは使い魔として生涯わたしに仕えるのよ!」 「……」 一瞬の間をおいて、ルイズ以外の人間全員から、強烈なツッコミが入った。 「もうちょっと空気読んで言葉選べえええええええっ!!」 前ページ次ページ虚無と獣王
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今、一瞬だが確かに見えた。煙の中に何かの影。それはつまり、その中に何かがいるという事。すなわち… 「やっと、やっと成功したわ!」 歓喜を爆発させ、ルイズが叫ぶ。失敗し続ける事…えー何回だ?まぁとにかく3桁突破してしばらくたってようやく成功したのだ。 カウンターがあれば255でストップしているところである。いやはや全く無理も無い話しである。というか延期させろコルベール。 期待と不安をない交ぜにした目でルイズは未だ煙に包まれた、自分の使い魔が召喚されたであろう一点を見つめる。 やがて、うっすらと煙が薄れてゆき、それがだんだん姿を現す。 およそ1リートだろうか?すらりと直線的に伸びたその姿はすごく健康的で、鮮やかな緑に目が奪われる。 そしてその頂上にある黄色くて丸い、まるでとても美しい向日葵のような… ような… 「え?」 というか、とても美しい向日葵そのものだった。 「ちょ、ちょっと待ってください。やり直しでしょうコレ!植物が使い魔なんてありえないわ!」 途端に爆笑が巻き起こる。美少女に花は黄金の組み合わせだが、 その花が使い魔です、ではジョークにさえなっていない。だいたい、花に何が出来るというのだ。 「待ちたまえミス・ヴァリエール。せっかく召喚したんだ。…えーと…その」 そこでコルベールは言葉に詰まった。正直再召喚は不可だと告げるべきなのだが、さすがに植物を使い魔にさせるのは躊躇われた。 迷った挙句、コルベールの発した言葉は 「…せめてじっくり観察してからでも」 何の解決にもなってなかった。 「いくら観察したって向日葵は向日葵です!それとも観察日記でもつけろって言うんですか! やり直しよやり直し。こんな花なんて引っこ抜いてやるんだから!」 屈辱と怒りで顔を真っ赤にしてルイズが花を引っこ抜こうと歩み寄る。 だが、その歩みは途中で止まる。 ルイズは気付いた。その向日葵の花に顔があることに。もっとも、幼児が落書きしたようなシンプル極まりない顔。 え、何よコレ。なんで顔なんか描かれてるのよ。もしかして造花?植物ですらなく造花?それって最悪じゃない? っていうかコレってどこぞで「あらあら おやおや それからどんどこしょー」とか謎のスペルを唱えてない? ああ畜生、自分でも何がなんだか。 だが、ルイズが呆然としていられたのはわずかな時間であった。 身に迫った危険を敏感に察したか、向日葵が激しくその体を振りだしたのだ。まるでダンスをするかのように。 「えええー!?」 断じて風のせいではない、その不思議な動きが止んだ瞬間。 呆然としていたルイズの足元から、どんな原理か無数の向日葵が一瞬にして生えてきて。 ルイズはそれに派手に吹っ飛ばされた。 「ひ っ さ つ の い ち げ き 」 地面に強かに叩きつけられたルイズは、意識を失う直前何故か脳裏にそんな言葉が浮かんだのであった。 「…というわけで、ただの向日葵ではないのは最早明白ですし、これがミス・ヴァリエールの使い魔で決定です」 吹っ飛ばされた痛みやらやるせなさやらその他諸々で涙目のルイズにコルベールは無情に告げる。 ルイズは心底嫌だったが、そう言われては他に選択肢など無い。恨みの篭った目でコルベールをしばし見つめると、 諦めの溜息を一つ付き、コントラクト・サーヴァントをするべく向日葵に向かった。 また吹っ飛ばされてはたまらないので、両手を広げ敵意が無い事を示しながら、ゆっくり、ゆっくりと近づく。 その光景は傍から見ればすごく間抜けに見えただろう事は全力で無視した。 そしてルイズは、向日葵にたどり着く。 どう見ても落書きのようにしか見えない顔だ。なんでこんなのと…と際限なく落ち込みそうになるが、 いや、そんな事を考えている場合ではない、と無理やり自分を奮い立たせ、あるいは騙して。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この物に祝福を与え、我の使い魔と成せ」 首をかしげている様に見えるその向日葵に、口付けを果たした 向日葵が、悶えていた。ルーンが刻まれる激痛にのた打ち回っているせい……なのだろう、多分。 頭…というか花の部分を葉で押えた向日葵が地面を無言で(そりゃそうなんだが)のた打ち回るのはあまりにシュールな光景であった。 「植物にも痛覚ってあるのねぇ…」 あまりにあまりな出来事が続きすぎて、ズレた感慨しか抱けないルイズであった。 「あ。終わったのね。えーと、理解しているかどうかすっごく怪しいんだけど。 これでアンタはあたしの使い魔になったの。使い魔になったからにはきっちり言うことを聞いて…」 投げやりに説明していたルイズは、ふと不穏な気配を感じ、口を閉じた。向日葵がこっちを見ているのだ。 それもただ見ているだけじゃなく、ある種の力を込めて視線を投げつけている… 人間で例えるなら「涙目でこっちを睨んでいる」といった感じだ。 ゴクリ。無意識の内に喉が鳴った。勿論、脳裏にはさっきの見事なKOが再生されている。 …えと、これはカナリ危ない状況なんじゃないんでしょうかってか助けてミスタ・コルベール? 救いを求めコルベールを見る。コルベールは海よりも深い愛情と同情の念を目に湛え。 合掌していた。 …… \(^o^)/ 次の瞬間。凄まじい勢いでジャンプした向日葵のヘッドバッド(?)を見事に鳩尾に喰らったルイズは、 綺麗な放物線を描きながら学園の屋根近くまで打ち上げられ、そして物理法則に従い地面に落下した。 彼(彼女?)の名はサンフラワー。もといた世界では見た目に反してドラゴンより上位の最強の魔獣の一角だったのだが… そんなことを知らないのがルイズの不幸だった。 「リトルマスター2」よりサンフラワーを召喚
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前ページWizardry Scenario 4.0 ○月○日 アミュレットを返してエセルナートに戻ってきたが、相変わらず私を狙う者は絶えない。まぁ100年前までの自分の所業を省みれば至極当然ではあるが。 刺客連中を死なない程度に叩きのめして追い払っているが、それにしてもいい加減飽きてきた。同じ連中が懲りずに二度三度と挑戦してくる事もザラにあるのだから困ったものである。 今の私にとって、エセルナートはもはや解き方が充分過ぎるくらい分かってしまったパズルのようなものだ。ここですることがなくなりつつある今、私は何処に向かうべきか? ○月○日 信じられない事が起きた。 すべては私の前に突然銀色の鏡のようなものが出現したことから始まった。鏡の中には桃色の髪の少女がいて、杖を片手に何やら言っていた。デュマスを使ってみると、どうも私を使い魔として召喚に応じさせたいらしい。 昔の私であれば一笑に付していたのだろうが、術式が私の知らない者だった事もあり興味が湧いたので鏡の招じ入れるがままに足を踏み入れたところ……私はエセルナートとは違う世界にいた。 私を召喚したのはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。この異世界の中の国・トリステインにある公爵家の三女であり、トリステイン魔法学院の生徒らしい。学校行事の一端で使い魔を召喚し、契約を結ぶそうだ。 そばにいた教員らしき男の話によると、普通はドラゴンやサラマンダーのような魔法生物が召喚されるもので、私のような人間が引っかかるのは非常に稀のようだ。ルイズ嬢は粗相をしでかしてしまったかのように動揺を隠しておらず、教員達や学院長も当惑していた。 周囲の人々は皆エセルナートのどの言語とも違う未知の言語で話しているが、何故か今の私にはデュマスなしでもそれが理解できる。恐らくあの銀色の鏡を抜けた際に言語知識を授けられたのだろう。 但しその言語知識には文字や数字は含まれていないようで、本を見せてもらっても謎の記号が書き連ねられた謎の文書にしか見えない。使い魔は文盲でも務まるからいいのかもしれないが、これを何とかしないと人生の楽しみが半減だ。 ともあれ彼女との使い魔契約は延期され、当面は学院の客間での寝泊りということになる。今も会議室では学院長や教員達が私の処遇を論議中だ。 空を見上げると、月が二つある事に驚いた。改めて自分が異世界に来た事を実感する。 ○月○日 教職員会議に呼ばれ、突っ込んだ質問を受けた。エセルナートの事、私が使える魔法の事、今後の希望の事など。 エセルナートの事については訝しく思っていたようだが、彼等の目の前でハリトやマラーを使ってみせると納得した。彼等の知る魔法とは全く異なる大系であり、それを使う私もまた彼等の知らない世界の存在であると認めたようだ。 このハルケギニアという世界では魔法使い(メイジ)が貴族階級を占めており、旧帝国のように魔法を重視した社会のようだ。 異世界からの人間、それも私レベルともなると存在そのものが高貴とされるようだ。戦士や盗賊さえも実力と運さえあれば一国一城の主になれるエセルナートとは随分違う。 こちらからは逆に使い魔の契約について質問してみたが、予想通りとはいえ主側が強い立場らしい。私が「随分一方的な契約なんだね」と皮肉を含ませて言ってみたら、オスマン学院長は汗を拭きながら申し訳ない済みませんとお辞儀を繰り返していた。 コントラクト・サーヴァントの実例をいくつか見せてもらったが、あのぐらいであれば私にも解除はできる。 2年間彼女の面倒を見てやり、卒業した際彼女が嫌であれば解除して彼女の元を去ればいい。たったそれだけの事なのだが、前例がないばかりに彼等はまだ会議を続けている。 御苦労な事だ。 ○月○日 私自身が望んで召喚に応じたということで契約の魔法まで完了。 彼女が呪文を詠唱すると地面に魔法円が描かれ、その真ん中で接吻をすることで術式は完成。齢300以上の爺をファーストキスの相手にしてしまった(所作から推測)彼女だが、むしろ光栄だと嬉しそうにしていたのが幸いだ。 その際私の左手に刻印された未知のルーン(この世界でも珍しいものらしい)が気になったので自分でも調べてみたが、どうやらこれは主であるルイズ嬢と私を繋ぐ「鎖」のようなものらしい。或る程度の行動を制限する力はあるが、逆に恩恵を与える事もできるようだ。 異世界という概念はこのハルケギニアという世界では説明しづらい上政治的にいろいろ面倒な事になる為、私は遙か東方にあるらしいロバ・エル・カリイエという所から召喚に応じたメイジということになった。 彼の地については召喚された際一部記憶が抜けてしまったということでごまかすことにする。 この双月の異世界ハルケギニアで私を待ち受けている運命は何か?新しいパズルを前に、私の心は久しぶりに躍っている。 ○月○日 使い魔としての生活が始まった。 人間、それもメイジということもあり、主・ルイズと同じ食堂で朝食。 異世界の料理はどんなものか、正直なところ期待半分・不安半分であったが、幸か不幸かリルガミンのそれとあまり変わりなかった。 ここで崇拝されているのは始祖ブリミルという神。強力な魔法を使うだけでなく、ハルケギニアに存在する4王国(ここトリステインの他にアルビオン、ロマリア、ガリア)は彼の3人の息子と1人の弟子が初代国王だったらしい。 ルイズに頻繁に話しかけてきた色黒の少女はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー(長いフルネームだ)。 何でもゲルマニアから留学してきているが、ツェルプストー家はヴァリエール家と伝統的に仲が悪いようで、私がキュルケ嬢と話していると機嫌がよろしくない。もっとも私の見た感じではルイズがキュルケ嬢に遊ばれているような感じだ。 彼女の二つ名は「微熱」、その名の通り火属性の魔法を使いこなす。 そのキュルケ嬢と一緒にいることが多いのがタバサという寡黙な少女(こちらはフルネームを教えてくれなかった)。眼鏡をかけた小柄な娘だが、十代でシュヴァリエの爵位を得ているエリートらしい。 グラマラスで色黒、社交的なキュルケ嬢と、細身で色白、無口なタバサ嬢の関係はまさに対照的だが、その二人がつるんでいる事が多いというのも妙な話だ。 ただタバサ嬢のの眼鏡の奥にある瞳の奥に、何か暗い炎が見え隠れしているような気がする。彼女の二つ名は「雪風」だが、その仮面の下には何があるのだろうか? この世界の魔法使いには皆二つ名があるようで、それが自身の得意分野をアピールする看板のようなものらしい。 で、我が主ルイズは「ゼロ」。どんな魔法でも何故か爆発になってしまう、成功率ゼロだからだそうだ。今日の授業でもそれが発動してしまったが、その時気付いたことがある。 あの爆発のプロセスは、私が持つ最強の攻撃魔法ティルトウェイトに良く似ていた。 物質を結びつけて物体としている力を束ねて爆発的な力を生むのだが、あまりに強大すぎる為爆発自体は異空間の中で行わせ、物質界へは熱と衝撃のみをもたらすようにするあの魔法である。 無論最高位クラスでなければ使いこなせず、実践経験が浅いであろう魔法学院の生徒には明らかに不似合いだ。 そしてもう一つ、全ての魔法があのような爆発になるということ。ライト(ロミルワ相当)でもサイレンス(モンティノ相当?)でも、 何はともあれ、文字が読めなくては考察と推測しかできない。今日からルイズに教えを請う事になったが、早いところ体得しなければ。 学校が終わった後、学院寮付近にある手頃な空き地を貰ったのでそこを使って地下室を作る。 いつものようにティツロウェイトを使ったのだが、見学に来ていた教員や生徒達は皆驚いていた。 ○月○日 大人げのない事をしてしまった。 いつも薔薇の造花を持ち歩いている色男のギーシュという少年が二股をかけていたのだが、それがちょっとした事で本命の少女に分かってしまったらしい。 で、そのきっかけを作ってしまった平民であるメイドの少女に八つ当たりを始めたので、義憤を抑えきれずに喧嘩を売ってしまった。 「グラモン元帥の御曹司は平民の少女に当り散らすのが関の山かね」「魔法なしでこの老骨が相手をするのがそんなに怖いのかな」等々。 今思うと汗顔の至りだが、若人達に囲まれていて心も若い頃に返ってしまったのだと自分自身に言い訳。 少年は「青銅」(土属性らしい)のドットメイジということで、大地から戦乙女の姿のゴーレムを造り上げてぶつけてきたので少なからず驚いた。 エセルナートでも四大の概念はあったものの、攻撃的な魔法の使い方としては非常に稀。私もかつてアースジャイアントやアイアンゴーレムを使役していた事があったが、あれはどちらも戦場ですぐに造り出すものではない。確かに、単なるお坊ちゃんではなかった。 だが残念な事に、彼には経験が不足していた。私が感心してゴーレム達を眺めていたのを、恐怖の余り棒立ちになっていると誤解したらしい。 予想通り、ワルキューレ達は甲冑で身を固めた人間同様関節部の装甲が脆弱だった。その攻撃をかいくぐって短剣を斬りつけるだけで、ワルキューレ達は破壊された。最後は残っている6体全部をぶつけてきたが、それも同じ運命を辿った。 万策尽きた彼は負けを認めたので、件のメイドに詫びを入れさせてケリはついた。が、私の心中にはまたケリのついていない問題がある。 戦いが始まった時、クリスナイフを抜こうとした際左手に僅かながら熱を感じたので見てみたところ、コントラクト・サーヴァントの際に刻印されたルーンが発光していた。 そしてそれから全ての動きが非常にはっきりと見え、相手の攻撃の軌道がまるで空間の中に線を描いているように予測することができた。 脚も馬のように駆けることができ、まるで羽が生えたように軽々と跳べる。手にした短剣も刃を触れただけで金属を薄紙のように両断した。 これもコントラクト・サーヴァントの効果なのかとルイズに聞いてみたが、彼女も分からないようだ(表情から察しても隠している様子はない)。読み書きができるようになれば自分で調べられるのに、非常にもどかしい。 ○月○日 ルイズに頼んでいくつか「実験」をさせてもらった。 まずはルーンの効果。彼女を標的にハリトをかけてみたが、全て跳ね返された。やはり使い魔は主を攻撃できないようになっているらしい。 ディオスは問題なくかかったから、攻撃的か否かを行為で判定して制限をかけているのか、殺意や害意の有無が判断基準なのか、それとも両方なのか? そして彼女の魔法が全て爆発するという事実の確認。爆発は全く制御できない訳ではなく、爆心地の指定ぐらいはできるようだ。おまけに呪文の無効化も受け付けないから、汎用性はないが用途を限れば効果は充分だろう。 やはり才能がない訳ではない。むしろずば抜けた才能を持っていながらそれを発現する方法が誤っているだけのようだ。 四大全ての魔法が爆発になってしまうことを考えると恐らく鍵を握っているのは第五の元素・虚無だろう。だが虚無はこの世界では禁忌の存在のようで参考文献が乏しいらしく、王室の最高機密文書にも記述があるかどうか怪しいというレベルらしい。 ○月○日 授業がない日ということで、ルイズに町への案内を頼んだ。。 着いた町は城下町ということだが、さすがにリルガミン程ではない。もっとも建物の造りや町並びの構造などは似通っている。手足が2本ずつの知的生命体がやることは、どの世界でも大差ないようだ。 まず買ってもらったのはマント。ルイズによればマントはハルケギニア全土でメイジの印であるそうで、「ワードナほどの高位メイジがマントなしなんて格好がつかないし、主の私も笑われちゃうでしょ」とのこと。 古書店では「始祖の祈祷書」「イーヴァルディの勇者」「炎の予言」を入手。どれも胡散臭い偽書じゃないかとは言われたが、全くの根も葉もない嘘というものは逆に書きにくい。千の嘘の中に一の真実がすくい出せるかもしれない。 帰り道に寄った武器店を冷やかしで覗く。店主は口八丁手八丁でなまくらを高値で売りつけようとしたが、どれもこれも問題外と一つ一つ問題を連ねてやったらおとなしくなった。 殆どが使い物にならないものばかりだったが、一つだけ興味深い掘り出し物があった。インテリジェンスソードだ。 店主と口論していた剣は自らをデルフリンガーと名乗った。錆は浮いているものの、十分使用には耐えられる状態。 店主はこの剣を厄介者扱いしていたようで、提示した価格もかなり安値だったのが幸いした。 用が済んだので学院に戻ろうとしたところ、キュルケ嬢とタバサ嬢に遭遇。キュルケ嬢はたまたま会ったと主張していたが、学院から我々をつけてきていたらしい(タバサ嬢は足の速い使い魔を持っているので足代わりにされた模様)。 キュルケ嬢からどうしても受け取ってくれと言われたので剣を貰ったのだが、ルイズから凄い目で睨まれた。女同士の争いは恐ろしいものだ。 ○月○日 未明 昨日、学院宝物庫に賊が入ったと聞かされた。犯人は「土くれ」のフーケといい、領収証を置いていったらしい。洒落が利いていると軽口を叩いたら、ルイズに八つ当たりの爆発魔法を喰らった。 何でも貴族ばかりを標的にしている愉快犯じみた盗賊だそうで、貴族の三女である彼女にとっては腹立たしいだけのようだ。口は災いの門である。 盗まれたのは「破壊の杖」。使い方が分からない為封印されていた代物のようで、悪用されたらどんな事になるか分からないらしい。 が、フーケの潜伏先が掴めたにもかかわらず教職員連中は軍隊を派遣してもらおうだの何だのと言いぬけて、自分が行こうという者は皆無だ。 そんな役立たず連中を尻目に立ち上がったのが我が主ルイズ、それとキュルケ・タバサ(彼女達にはとことん縁がある)。無論私も同行する。 道案内はフーケの居場所をつきとめたオスマン学院長の秘書・ロングビル嬢が務める。フーケの逃走を許さない為にも、この夜のうちに襲撃をかけることとなった。 ○月○日 昼過ぎ 事件は意外な形で解決した。ロングビル嬢はフーケだったのだ。 行きの馬車で妙に引っかかるところがあったのでいくつか罠のある質問をしてみたところ、引っかかってくれたので警戒できたが、学院宝物庫の罠に引っかからなかったのも納得がいった。学院長自らが情報漏洩をやっていたわけだ。 とはいえ乙女達も頑張ってくれた。ルイズは魔法失敗の爆発を攻撃に使う術をうまく攻撃に活かしてくれたし、キュルケは炎の魔法、タバサは風の魔法でフーケのゴーレムを攻撃、破壊に成功した。 ゴーレム破壊に成功して浮かれていた一瞬の隙を突いてロングビル=フーケは我々の後ろを取って杖を捨てさせたのだが、私の魔法が杖なしでも使えるということを彼女は知らなかったようだ。 マニフォを喰らって動けなくなってもらったところを捕縛して御用。学院に戻って衛士隊に引き渡して決着。 ルイズの話では貴族の財産を大量に荒らしまわっていたので死罪は免れないとのこと。正直なところ、あれほどの才能を消してしまうのはあまりに勿体ないが、彼女自身の行いの結果である以上仕方がない。 ルイズとキュルケ嬢はシュヴァリエの称号の授与、元からシュヴァリエだったタバサには精霊勲章の叙勲が決定。 但しルイズ自身は第一功労者である私に何の沙汰もないのはどういう事かと怒っていたのに驚かされた。人間といえども使い魔は使い魔、主の所有物同然でありその所有物に叙勲などありえないというのがこの世界の常識だが、彼女はその常識に異議申し立てを行ったのだ。 結局私自身が肩書きなど望んでいない事、主の出世は自身の地位(と収入)の向上にもつながるから受け取ってくれと説得して不承不承ながらも納得した様子。 ○月○日 今日はフリッグの舞踏会というお祭りの日らしく、学院全体が浮かれた雰囲気に包まれている。 ルイズは後から行くという事で先に会場にいたのだが、周囲から話しかけられることが多くなった。どうやらフーケの件で有名になったらしい。 久しぶりにギーシュとも話し込むこととなった。どうやら以前の敗北で自信が揺らいできているらしいようだったので、自分の欠点が分かったと前向きに考えていけと回答したところ、迷いが晴れたようだった。 そうこうしているうちにルイズが到着。一張羅と思しき最高級のドレスに身を包み、見違えるようなその姿に少なからず驚く。 彼女の踊りに誘われたので応じたのだが、まだまだ不慣れの為合わせるのがやっとだった。必死になっている私の顔を見てしてやったりと言いたげに微笑を浮かべていたが、不思議と嫌な気分はしなかった。 前ページWizardry Scenario 4.0
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前ページ次ページACECOMBAT ZEROの使い魔 「撃て!」 叫び、正面から猛スピードで接近してきた両主翼を青に染めたF-15Cイーグルとすれ違う。 その瞬間、機体に衝撃が走り、コクピットのラリー・フォルクは舌打ちした。 ―これまで、だな。 唯一、ECM防御システムが及んでいないエアインテークを撃ち抜かれた愛機ADFX-01"モルガン"は あっという間に速度が低下、右エンジンの内部温度が異常値に達しており、どす黒い煙を吐いていた。 これでよかったのかもな―。 電気配線が焦げだしたのか、異様な匂いのするコクピットでラリーは深くため息をついた。 思えば核で世界を恐怖で支配したところで、結局争いは無くならないだろう。国境の有無に関わらず。 アヴァロンダムから発射された核弾頭―V2はこの機体から発信されている信号が消滅すると自爆するよう セットしてある。ちょうど高度1万kmに達した頃だろうから、今自爆すれば地上に被害はない。 「じゃあな、相棒」 自身を撃墜したF-15Cのパイロットに向けてそっと呟き、ラリーは目を閉じた。 次の瞬間、モルガンは四散。はるか高度1万kmにてV2は自爆した。 ―俺は死ぬはずだった。けど死ねなかった。 ―目が覚めたらそこは・・・。 「あんた誰」 目が覚めるとそこは、見知らぬ大地。まだ外の世界も知らないガキだった頃に習った歴史の授業で中世 と言う時代があったが、なんとなくそんな雰囲気があるような気がした。仮にここが死後の世界だとしたら えらく穏やかである。 「・・・聞いてるの?あんた誰?」 はっとラリーは問いかけてきた目の前の少女を見上げる。 桃色かかったブロンドの髪の毛に鳶色の目をしていた。 「・・・俺は、死んだんじゃないのか?」 「はぁ?何言ってるの?」 どうやら死んではいないらしい。怪訝な表情でこちらを見下ろす少女が何よりの証拠だ。 立ち上がろうとして、ラリーは痺れて上手く身体に力が入らないことに気づいた。 「無駄よ、サモン・サーヴァントで召喚された者はみんな一時的に動けないわ・・・で、あんた誰」 ご丁寧に力が入らない訳を説明してくれて、しかし少女はしつこく名を聞いてきた。 「・・・ラリー・フォルク」 渋々、ラリーは名乗った―途端、我慢できなくなったのか少女の周りにいた少年少女たちが笑い出した。 「ルイズ、サモン・サーヴァントで平民を呼んでどうするの?」 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 「間違いって、ルイズはいつもそうじゃないか」 「さすがゼロのルイズだ、俺たちには出来ないことを平然とやってのける、そこに痺れる、憧れるぅ!」 笑い声はさらに大きくなった。ルイズ、と呼ばれた少女は何かと言い返しているが、よく見ると涙目だった。 ―状況はよく分からんが。 ラリーは苦戦しつつもどうにか立ち上がって、彼女をかばうように最初に笑い出した小太りな少年に言った。 「おい小僧、なにがなんだか知らんが、よってたかって言いたい放題は感心しないな」 「いいだろう、ルイズは魔法成功率ゼロなんだ。だからゼロのルイズなのさ」 そういった少年を中心にまた笑い声が上がる。ルイズは唇をかんでじっと黙っていた。 「・・・気にくわんな」 「・・・なんだと?言葉に気をつけたまえ平民」 ぼそっと呟いてみたが、少年には聞こえたらしい。 はっきり言って胸糞悪い―ラリーは彼らの中に覚えのある怒りを感じた。 言うことを聞こうとしない足を無理やり引っ張り、ラリーは少年の下に歩み寄る。 「ちょ、ちょっと・・・」 ルイズは呼び止めてみたがラリーが聞く訳がなかった。 気づいた時にはラリーの平手打ちが炸裂し、少年は受け身も取らず地面にひっくり返った。 「ぐ、が、き、貴様・・・!」 地面に叩きつけられて、顔を汚された少年はもちろん怒っていた。だが―。 「さっきの発言を取り消せ、貴様みたいなのを見ていると腹が立ってしょうがない」 傭兵として幾多もの修羅場を潜り抜けてきたラリーに睨み付けられた少年は一瞬びくりと震えて立ち上がり後ずさった。 「いったい何事かね?」 その時、騒ぎを聞きつけたのかいきなり年配の男性が現れた。静まる一同。少年もしぶしぶながら引っ込んだ。 「いえ、何でもありません・・・」 そういったのはルイズ。彼女もあまり騒ぎは大きくしたくないようだった。 年配の男性―おそらくは教師―はふむ、と頷いて 「ではミス・ヴァリエール、彼と契約の儀式を」 と言った。 ところがルイズは困った表情を浮かべた。何故かはラリーには分からない。 「いや・・・でも・・・彼は・・・」 「ミス・ヴァリエール、気持ちは分かる。しかし、どうするにしても彼と契約をしてもらわなければならない・・・・規則なのだよ」 「・・・・分かりました」 ようやくルイズは意を決したようで、ラリーの元に歩み寄った。 「はぁ・・・まったく、なんでこんな目に」 ため息交じりでつぶやくルイズに、ラリーは怪訝な表情を浮かべた。 「・・・なんだ?」 「いいから、ちょっとじっとしてて・・・我が名はルイズフランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、5つの力を司る ペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔と成せ」 「・・・・・・!?」 突然の口付け。いい年した大人であるラリーもさすがに驚いた。 「・・・いったい、どういうことなんだ?」 「使い魔との契約の儀式よ」 それだけ答えて、頬を赤く染めていたルイズはぷいっとそっぽを向いてしまう。 いったい何が何なのか―ラリーは怪訝な表情を浮かべる以外なかった。 前ページ次ページACECOMBAT ZEROの使い魔