約 2,615,782 件
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/719.html
注意書 *相変わらず駄文です。 *誤字脱字があるかも知れませんがご容赦を *一部のゆっくりが漢字を使います。 *人間がちょっとだけ酷い目にあいます *anko1826『殴る』の続きになります。 *3作目になります、生温かい目で見守ってください。 ピンポーン 「お姉さん、お客さんお客さん」 「ん?先輩っスね、きめぇ丸お出迎えお願いっス」 「おお、お迎えお迎え」 ドアの向こうから後輩とその飼いゆの声が聞こえてくる 前回のお家宣言被害の後、会社でそれをネタに雑談していると後輩がゆっくり用の忌避剤を分けてくれる言う そんな訳で会社の休みに後輩の家に訪れたのはいいのだが。 「おお、お兄さん、いらっしゃいいらっしゃ・・・」 「悪い、タオル貸してくれ」 「きめぇ丸?先輩?いつまで玄関に居るんっスか?」 「お姉さん、お兄さんが・・・・・」 「うわ、先輩なんでそんなに汚いんっスか」 「いや、それがな・・・・」 『蹴る』 忌避剤を貰う為に出掛ける用意をしていたのだが家を出るにはかなり時間に余裕が出来てしまった。 後輩の家までは自転車で20分ほど掛るのだが約束は10時、そして今は9時だ 準備が整ってしまったので今更家で時間を潰すのもアレなので自転車ではなく徒歩で向かうことにした。 徒歩でなら40~50分位は掛かるがたまには奴らの言う『ゆっくり』を体感するものいいだろう。 「そう言えば、あの時のゆっくりは群れで一番強いとか言ってたけどこの辺りにも本格的にゆっくりが入ってきたのか」 周囲を田んぼと畑、山に囲まれゆっくりが住み着くには十分な環境が揃っている事を再確認し これからのゆっくりへの対策を考えつつ、山の新緑を楽しみながら歩いていくと茂みから何かが飛び出してきた。 「ゆっへん、ここはまりささまのみちなのぜ!とおしてほしかったらあまあまをよこすのぜ!!」 「は?」 「ゆへへ、まりささまはむれでいちばんつよいのぜ!さからわないほうがいいのぜ」 目の前に現れたゆっくりまりさは定番の挨拶である『ゆっくりしていってね』すらなく山賊まがいの要求を突きつけてきたのだ。 ただ歩いているのにも飽きて来てた所に丁度いい、少し時間潰しに協力して貰おう。 「おい、ちょっと聞きたいことがあるんだが」 「ゆ?そんなことよりさっさとあまあまをだすんだぜ!」 「あぁ、質問に答えてくれたら考えてやる」 「はぁ?なにいってるのぜ!!いいからあまあまよこすのぜ!!!」 「そんな態度でいいのか?おまえはあまあまが欲しいんだろ?」 「そうなんだぜ、ここをとおりたかったらあまあまをよこすのぜ」 「俺はここを通らずに帰ってもいいんだぞ、そうすればお前にあまあまをやる必要も無いしな」 「そ、それはだめなんだぜ!まりさはあまあまがほしいのぜ」 「だったら質問に答えろ」 「いいから、ゆっくりいそいであまあまをだすのぜ」 「はぁ・・いいか?俺が帰ったらこんな田舎だ、次はいつ人が通るかわからないんだぞ」 「ゆ?」 「通ったとしても車かトラクターだ、そんなのの前に飛び出したら潰されて死ぬだろうな」 「ゆゆ!!」 「どうだ、質問に答えてくれる気にはなったか?」 「しかたないのぜ、こたえてやるからあまあまをよこすのぜ!たくさんでいいのぜ」 「いや、質問に答える方が先だ、わかったか?」 「ゆぎぎぎ、ゆっくりりかいしたのぜ」 なんとか質問ができる状態にはできた、まともな答えが返って来ないとは思うがその辺はどうでもいい 「まりさ、お前の居る群れってのはどのくらいのゆっくりが居るんだ?」 「たくさんなのぜ!」 「あー、そう言えばお前らって2までしか数えられないんだったな」 「ゆゆ?」 「聞き方を変えよう、お前の群れにはどんなゆっくりが居るんだ?」 「まりさにれいむ、ありすやぱちゅりー、ちぇんとみょんもいるのぜ」 この間の黒帽子がまりさで赤リボンがれいむなのは分かったがテレビ等ではこいつ等を一括りに『ゆっくり』としか呼ばないし 雑誌には載っていたがおぼろげにしか記憶をしていない、なので名前だけではさっぱりだ。 兎に角6種類のゆっくりが入り込んできたのは分かった、後輩にでも聞けば色々分かるだろう 「では、次の質問だ」 「ゆゆ!!まだしつもんさんがあるのぜ?」 「誰も一つだけとは言ってないだろ?」 「ゆ、じゃあゆっくりしないでしつもんさんをするのぜ」 「ゆっくりの癖に忙しい奴だな、まあいい、この辺りに他の群れはあるのか?」 「まりさたちのむれいがいのゆっくりはみたことないのぜ」 だと、この間のまりさはコイツの群れのゆっくりって事になるのか コイツのようなゲスが多い様なら早めに駆除した方がいいのだろうが・・・・正直面倒だ 「しつもんさんはおわりなのぜ?」 「ああ、もう聞く事は無いな」 「それならあまあまをよこすのぜ!!」 「え?やらないよ?」 「ゆがーん、どうしてなんだぜ!!しつもんさんにはこたえたのぜ!」 「ああ、質問に答えたらあまあまをやるかを考えてやるって言ったんだ」 「ゆ?」 「それで考えた結果、あげない事にしたんだよ」 「ゆゆゆ!!!もう、おこったのぜ!!うそつきはせいっさいするのぜ」 あまあまを貰えない事に怒ったまりさが足へ体当たりをし始めた。 相変わらずマッサージにすらならない体当たりを続けるまりさの帽子に手を伸ばしながら思う まだ時間潰しは始まったばかりだ、もう少しこのまりさには付き合って貰わなければ困ると 「ゆへへ、どうなのぜ、あまあまをだすきになったのぜ?」 「あまあまは無いが、いい物をやるよ」 「ゆ?いいもの?つぼさんなのぶべっ」 前回も同じ事を言ったような気がするが饅頭如きの為にわざわざ別の台詞を用意するなんて勿体無い まりさの顔面を蹴飛ばしながら帽子を奪う、ゆっくりは衝撃を与えた時の反動とリアクションが心地良い なので今回はまりさを使って石蹴りをしようと思う、道端に転がっている石を前方に蹴り出し、その石に向かって歩みを進める 誰しもが小さい時にやった事があるはずだ、ちなみに帽子を奪ったのにはキチンと理由があるそれは・・・ 「いだいいいいいい、もうおうちかえるうううう」 「おいおい、帰るのはいいが帽子はいいのか?」 「ゆゆ!!!まりさのすてきなおぼうしかえしてね!」 ゆっくりにとって帽子やリボン等のお飾りは命の次、いや命と同じくらいに大切なものらしい なんでもゆっくり同士はお飾りで固体を判別し、お飾りが無いものや壊れているものは迫害され酷い時は殺されてしまうそうだ 「かえしてね!まりさのおばふぇ!」 「まりさは群れで一番強いんだろ?取り返してみろよ」 「そうだよ!まりさはむげふっ」 「ほら、どうした?」 「まりさは、いちべへっ」 蹴り飛ばされては起き上がり帽子を求めて近寄る、そしてまた蹴り飛ばされ帽子を求めて這い寄る そう、帽子を奪ったのはゆっくりの習性を利用して逃げ出せなくする為だったのだ。 これで思う存分まりさを蹴り続けられる、楽しい散歩になりそうだ 「よっと」 「ゆべ」 目がつぶれた 「まりさのひかりかがやくすてきなおめめがああ!!」 「ほっと」 「ゆが」 歯が砕けた 「まりさのしろくかがやくすてきなはがああああああ!!」 「はっ」 「ふご」 髪の毛が一部剥げた 「まりさのおうごんにかがやくすてきなかみのけさんがあああああああ!!」 「いやいや、輝きすぎだろお前」 石蹴りならぬゆ蹴りを楽しみならが道を歩いてどれ位経っただろうか、すっかりまりさからの声が聞こえなくなっている。 「さて、そろそろあいつの家に着く頃だな」 「ど・・・・・で・・・・・・・・の」 「ん?何か言ったか?」 「どおしてこんなことするのおおおおおお!」 「おお、意外と元気だな」 ボロボロになりながら自分の身に起こった出来事に説明を求めるゆっくりのような何か 折角楽しませてもらったのだお礼に説明してやっても罰はあたりはしないだろう 「どうしてって、お前らボールみたいだろ?」 「まりさはボールさんじゃないでしょおおおおおおおおおおお」 「え?ボールじゃないの?」 「あたりまえでしょおおお、まりさはゆっくりでしょおおお!」 「それじゃ、ボールじゃないまりさはゆっくりしないで消えてね」 「ゆゆ!!どういうことなの!!!ちょうてんかいさんはゆっくりできなぶべらっ」 ボールは友達、友達ではないゴミには早々に御退場願おう 雑木林へまりさを蹴り飛ばし、靴に付いた汚れを返し損ねた帽子で拭き取り同じく雑木林に放り込む 運が良ければ元の持ち主の下に戻れるだろう 「帰りにもゆっくりに会えればいいな」 そんな淡い期待を胸に秘め、再び歩き始めようとしたその時だった まりさが消えた雑木林から何かが飛び出してきたのだ、先ほどのまりさが戻ってきたのかと目を向けると 「ゆ?にんげんさん、ゆっくりしていってね」 短い金髪に赤いカチューシャを着けたゆっくりが飛び出してきた。 雑誌で見た記憶では確かゆっくりありすという名前のゆっくりだと思うのだが、確信がもてない 「ありすはありすよ、にんげんさんはゆっくりできるにんげんさん?」 どうやら、ありすで良かったようだ。 「ん?ああ、さっきまでゆっくりしてたんだがな」 「ゆゆ!!それはたいへんだわ!ありすがきょうりょくしてあげるからゆっくりしましょう!」 先ほどのまりさとは違い善良なゆっくりのようだ。 お誘いを断るのはこのありすに対して失礼だろうが一応確認をした方がいいだろう 「本当に協力してくれるのか?」 「もちろんよ!とかいはなありすがゆっくりさせてあげるわ」 「そうか、ありがとう」 足元のありすを胸の高さまで持ち上げながら前方に人が居ないことを確認する。 「ゆ?にんげんさん、ありすはなにをすればいいのかしら?」 安全を確認できた後はありすをゆっくりしたスピードで前方やや低めに放り投げる 「ゆ~♪おそらを・・・」 放り投げたありすを追いながら着地地点の真横に左足を置く 「とんでる・・」 そして、落ちて来るありすを右足の甲で捕らえ 「みたぶべっ」 全力で振り抜く ところで水がパンパンに入った風船を全力で蹴飛ばすとどうなるかご存知だろうか。 答えは簡単だ、『破裂して水浸しになる』だ ならば、餡子よりも水分の多いカスタードがたっぷり詰まったありすを全力で蹴飛ばすと? バンッ!!! 「うお!!!」 そう、『破裂してカスタードまみれになる』のだ 「あ、ありえねぇー、コイツの中身って餡子じゃないのかよ・・・・」 全身をカスタードまみれにし自分の曖昧な記憶と勘違いを呪う 「はぁ・・・・あいつの家でタオルでも貸してもらおう・・・はぁ・・・」 先ほどまでの高揚感は何処かへ消え去り意気消沈しきったまま歩き、先ほど目的地に到着したのだ。 「おお、災難災難」 「先輩、少しゆっくりについて勉強した方がいいっスね」 「ああ、とりあえず先にタオルを貸してくれ、甘ったるくて仕方ない」 「おお、了解了解」 「濡れタオルの方がいいっスね、ゆっくり急ぐっス」 「いや、普通に急いでくれ」 ドタバタと家の中に戻っていく後輩と飼いゆ、それを見ながら思わず呟く 「はぁ、ゆっくりした結果がこれだよ・・・・」 あとがき 前回の予告通りにゆ虐SSの投稿になります。 我慢あき様、挿絵を描いて頂きありがとうございます。 これを励みに頑張ってゆ虐SSを書きたいと思います。 今まで書いた物 anko1826 『殴る』 anko1842 『伝える』
https://w.atwiki.jp/hutaba_ranking/pages/305.html
『街中の狩人』 9KB 観察 野良ゆ 捕食種 現代 独自設定 れみりゃ可愛い 【街中の狩人】 秋に入り、日差しの強さが煩わしくなくなってきた。 ついこの間までは日向になど一分一秒たりともいたくはなかったのに、今は気分良く日光浴が出来る。 公園のベンチには、二人の女性が座っていた。 ひとりは眼鏡をかけた長髪の女性で、今は雑誌を読んでいる。 もうひとりは髪を肩まで伸ばした女性で、特に何もしていない。言うなれば、『ゆっくり』している。 「何か面白い記事でも?」 「『ゆっくりしていると思うゆっくり』投票の結果発表、一位がかぐや、二位がめーりんで、三位がこまち」 「…それはどちらかというと、怠惰なゆっくりランキングじゃないかしら?」 「他には、最近人気ブリーダーの育てたゆっくりがブランド化しつつあるとか」 「何それくだらない」 「十中八九、君のせいだろうけどね。君が自分の育てたゆっくりに、独自の赤いバッジを付けるのを真似た奴が増えた結果だろう」 「わかってるわよ。だからくだらないって言ってるの」 平日の真昼間から公園で雑談に時間を取らせる二人だが、仕事が無い訳ではない。 時間に捕らわれない仕事をしているのだ。 長髪の女性が空になったペットボトルを見て、自動販売機に向かおうかと悩み始めたころ、 「「「「ゆっゆっゆっゆ……」」」」 日本各地、どこに行っても聞かれるようになってしまった、不快な音声が聞こえてきた。 「まりさとれいむの番。子はれいむが2」 「子まりさだけがいない辺り、あのれいむが潰した可能性大、かしら」 「だろうね。親まりさには外傷もないし。ようやっと出てきてくれたか」 二人がなにやら怪しげな会話をしていることも知らず、汚れた饅頭の行進がベンチの前まで来て、立ち止まった。 「にんげんさん! おちびちゃんをみてゆっくりできたんだから、あまあまちょうだいね!」 「「きゃわいくっちぇごみぇんにぇ~!!」」 普通の人ならば、この時点でこの家族を踏み潰すか、親を蹴り飛ばすかするだろう。 甘いものなど渡すのは、せいぜい虐待鬼意惨ぐらいだということを、この家族は分かっていない。 「挨拶も無しに、いきなり要求に走るとは、期待以上かしら?」 しかしこの二人は、特に行動を起こす事をしなかった。 職業柄、ゆっくりの『鳴き声』を聞き流す事に慣れている事もあるかもしれない。 「まりざざまのがぞくをむじずるなぜえええ!!」 「ゆ! きっとこのにんげんさんたちはばかだかられいむたちのことばがわからないんだね!」 「「ば~きゃば~きゃ!」」 好き勝手なことを喚く饅頭ども、子供は親の後ろで思い思いにのーびのーびしている。 この光景を直視して眉を動かさないところを見るとこの二人、相当ゆっくりの扱いに手馴れている事がうかがい知れる。 「ばかなにんげんさんでもわかるようにいってあげるね! れいむのおちびちゃんはかわいいよね!!」 「あ、かわいー」 「ゆゆ! ちゃんとわかってくれたんだね! おめめがくさってるのかとおもってたよ! そんなかわいいれいむのおちびちゃんをみたんだから、あまあまちょうだいね! やまもりでいいよ!」 キリッとしたうざい顔で、れいむは身勝手な要求を再び叩きつけた。隣ではまりさも同じ顔をしていて、実に不快だ。 しかし、人間さんがあまあまをれいむ達に献上しようとする様子は一切ない。 「どぼぢでむじずるんだぜえええ!! あばあばをざっざとよごぜえええ! いまならぜんっごろじでゆるじであげるんだぜえええ!」 「ゆっくりしてないであまあまさんをみついでね! それともおみみがくさってるの? ば「「ゆゆ、おしょらをとんでるみちゃーい!」」ゆゆ?」 背後から聞こえて来た子供達の声に、一旦抗議を取りやめて振り向く二匹、しかし、 「「どぼじでおぢびぢゃんがいないのおおおおおお!!???」」 そこにいるはずの子れいむの姿が無かった。 まりさはもう一度振り返り、 「ごのぐぞにんげんんんん! おぢびちゃんをどこにがぐじだんだぜえええ!!?」 「でいぶのおぢびぢゃんをがえせえええ!! このげずううう!!」 「私も彼女も何もしてないよ。君達の子供達は、ほら、上だ」 言われて上を向くまりさ、しかし、何も見えない。 「それじゃみえないでしょ。はい」 そういって片方の女性がまりさの帽子を後ろにずらした。 普段なら帽子に触られた事に対して激怒しただろうが、今回はそうではなかった。 帽子が今まで隠していた光景が、まりさの餡子脳の処理能力を超えていたからだ。 「どぼぢででびりゃがごごにいるんだぜええええええ!!!!?」 「うー☆うー☆」 本日何度目かの絶叫を捻り出すまりさ。忙しい奴だ。全然ゆっくりしてない。 一方のれいむはやけに静かだと思ったら、気を失っていた。 無理も無いだろう。れみりゃが咥えている子れいむ二匹は、既に皮だけを残したようなぺらぺらだったのだから。 「おぢびぢゃあん! ゆっくりじちゃだめなのぜ! おりでごいでびりゃあああ! まりざざまがせいっさいじでやるのぜえええ!!」 威勢良くまりさが吼えているのを、れみりゃは一切気にしていない様子だった。 れみりゃは依然として、人間がジャンプしてもぎりぎり届かないであろう高度を維持している。 それはつまり、まりさにはどうあがいても届かない距離だという事だ。 「賢いわね。ちゃんと人間に捕まらないように動けるのね。それに可愛い」 「だろう? 君の捕食種萌えは知っているからね。見せてやろうと思ったんだ」 一方、女性二人はいたって冷静だった。 というよりはこの状況を観察する事こそが、二人が公園にいた理由だったのである。 街に住む野良ゆっくりは、野生のゆっくりとは毛色が違う。 食料が非常に限られており、なおかつ危険に満ち溢れた街で生き残るため、野良たちの群れは野生のそれより強固になった。 ご近所さんのような、なあなあの集まりではない。 チームで食料を手に入れ、危険を事前に察知するために、非常に組織だった運命共同体のような群れを作り上げたのだ。 (無論、それでも野良の死亡率はべらぼうに高い) その事態に困る事になったのが、れみりゃ達捕食種である。 森の中の野生のゆっくりというのは、非常に警戒心の薄い間抜けで、狩り易い。 しかし、組織だって動く野良ゆっくりを狩るのは簡単ではない。 奴らは危険に敏感で、独りで動くような真似をしない。 無理に襲っても、下手を打てば数に負けて帰り討ちだ。 捕食種は選択を迫られた。 危険を冒して群れのゆっくりを狩るか、 なんとか群れに属していないゆっくりを探し出して狩るか、 そして前者を選んだ者は駆逐され、後者を選んだものが生き延びた。 この街のれみりゃ達が見つけた、群れに属さないゆっくりを見つける方法。 それは人間を使う事だった。 野良のゆっくりの群れは、ゲスと無能に厳しい。 これらのゆっくりは群れに入れず、生活に困窮して人間に襲い掛かるか、人間に集るかになる。 要するに、人間に向かって『ゆっくり出来ないような言葉』を吐いているゆっくりは、群れに属していない野良ゆっくりだということだ。 それに、ゆっくりは複数同時に行動を起こせないから、それらは野生のゆっくりよりも隙だらけだ。 勿論、人間は強くて怖い。だから、狩りは慎重に、迅速に。 それがれみりゃ達が街で生き抜くために身につけた『知恵』だった。 「うー☆もうあじがしなくなったからぽーいするんだどー」 れみりゃはまりさに見せ付けるように、少し離れたところに子れいむの成れの果てを捨てた。 さっきまで子れいむの命を包み込んでいたそれは、その重さを失った事を示すようにふわふわと落ちてきた。 「おぢびぢゃあああん!!」 子れいむの亡骸に駆け寄るまりさ。 だが、もう少しのところでまりさの身体に強い衝撃が走り、突き飛ばされてしまう。 「うー!」 「ゆがっ!」 れみりゃが横からまりさに体当たりしたのが衝撃の正体だった。 「おー、やるわねぇ。あのれみりゃ」 「野良のれみりゃは、ああやって餌を使って獲物を誘導する事がある。 ああやって家族を釣ったり、奪った飾りを使って飾りなしのゆっくりを誘い出したり。 これは野生のれみりゃではまず見られない行動だ」 解説する長髪の女性の声は、些か興奮気味だ。 「野良のれみりゃは私達が思ってるよりずっと賢い。ひょっとしたら烏に並べるかもしれない。 この間なんかね、れみりゃがマンホールに獲物を押し付けるところを見たんだ。 始めは潰して甘みを上げてるのかと思ったけどね。違うんだよ。 夏場に熱を持ったマンホールにあんよを焼かれるゆっくりを見るだろう? つまり、れみりゃはゆっくりを焼こうとしてたんだ。 残念ながらもう秋口だったからマンホールの温度が足りなくて決定的瞬間は見られなかった。 けど、来年にはこの仮説が正しい事が証明されるよ。 街のれみりゃが獲物を加熱処理――つまり、『料理』して食べる文化を得た事がね」 長髪の女性がやや早口で解説している間に、れみりゃはわざわざまりさの帽子を外してから、その餡子を吸い取った。 「やべっ、やべでね!? まりざのあんござんずわないでえええええ!!!!」 「うー☆ あまあまでりしゃすなんだどー☆」 まりさの餡子を吸い尽くすと、れみりゃは帽子を咥えて飛んでいった。 人間の近くに転がっているれいむには、目を向けなかった。 「本当だ。わざわざ死臭を避けて帽子を持ち帰った」 「まりさ種の帽子だと、木の枝にかけたりして巣にする事もある。 あるいは、子供に餌を持ち帰るときの袋にしたりね」 「本当に賢いのね。それと可愛い」 「でも、危機的状況であった事も無い『さくや』に助けを求めるのは変わってないんだよね。なぜか」 「あはは! 何それ面白い」 それから数分程街のれみりゃの行動について談義した後、二人は公園を去った。 後には未だ気絶しているれいむだけが残された。 今回は運良く生き延びたこのれいむだが、長くは生きられないし、生き延びてもゆっくりなど無理だろう。 ここは人間の作り上げた街であり、森や山とは何もかもが異なる環境。 そこで生き延び、僅かながらでもゆっくり出来るのはその違いに対応出来た者か、人間の保護下にある者のどちらかしかない。 適者生存の牙は、今日も野良ゆっくり達の命をを無慈悲に刈り取っているのである。 ******************************** 街ゆっくりの話はいろいろあるけど、捕食種の話はあんまり見ないなぁってお話。 ちなみに女性二人は前回の人+電話相手と同一人物です。 しかし登場キャラに満遍なく台詞言わせるのって難しいですね。 れみりゃかわいいよれみりゃ。 今までに書いたもの anko2458 どっちが本当?
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/4025.html
『幸せなら手をたたこう』 7KB 愛で 愛情 飼いゆ 野良ゆ 現代 タイトル通りです 一応愛でです ただしまりちゃ、テメェは駄目だ あっさりしてます 今日は良い事があった。 内定が決まったのだ。 公務員試験に落ちたときはどうしようかと思ったが、学生時代に取った宅建のお陰で不動産屋に内定してもらえた。 卒業に必要な単位は取得してあるので、あとは就職だけだったのだ。 「幸せなら手を叩こー。幸せなら手を叩こー」 あまりに嬉しくて、公園のベンチに腰掛けているというのに、思わず歌を口ずさんでしまう。 「ゆわ……ゆわあああああああああああああああん!」 そこに、人の幸せにケチを付けるものが現れた。 野良ゆっくりだ。 れいむ種の子供――所謂れいみゅと呼ばれる土饅頭が、俺の後ろの木の下で泣きわめいているのだ。 「ひじょいよおおおおおおおおおお! そんなのってないよおおおおおおおおおお!」 無論、俺の知り合いに公園で野良をやっているゆっくりはいない。 にも関わらず、このれいみゅは俺が歌い出してから泣き出したのだ。 「酷いのはどっちだ、この汁饅頭がっ!」 人がやっと手に入れた幸福を噛み締めているというのに、それを邪魔するとは何事だ。 俺の一喝に、れいみゅは一瞬で泣き止んだ。が、直ぐにまた泣き始めた。 「あー、なんなんだよ。なんでないてんだよ」 普段の俺なら直ぐに潰しているところだが、今の俺は来年以降の居場所を確保して心に余裕がある。 その心の余裕とほんの些細な気まぐれから、俺はれいみゅに事情を聞くことにしてみた。 「ゆっぐ、ゆっぐ…………れいみゅにはおててさんがないのに、そんなおうたをうたうおにいさんがわるいんだよおおおおおお!」 「…………えぇー」 あまりに予想外な理不尽な理由に呆然とする一方、涙混じりにれいみゅが語り始めた。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ つい先程、れいみゅが妹のまりちゃと共にゆっくりしていたら、虐待鬼意惨に見つかった。 「ヒャッハァ! まりちゃは虐っ待だああぁぁっ!」 「ちゅっ、ちゅぶりぇりゅううううううううううううう!」 「やめちぇにぇ! れいみゅのきゃわいいいもうちょにひどいことしないでね!」 無論、れいみゅ如きの言葉で虐待をやめるくらいなら、そもそも接触せずに放置している。 「まずは帽子っ!」 「ゆあ! まりちゃのしゅてきなおぼうしさんがあああああああああああ!」 「そしておさげ!」 「やめっちぇぇぇぇぇぇ!」 「からのー、アマギリっ!」 「まりちゃのすべてをみとおすしっこくのおめめさんがああああああああああ!」 「ついでに口を癒着!」 「~~~~~~~~~~~~~!!」 「そしてぇ……まりちゃ(元)を公園のゴミ箱にシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」 一分も掛からずに、まりちゃは自動処理機能付きの公園の野良ゆっくり用ゴミ箱に叩き込まれた。 「ど、どうしてこんなひどいことするのおおおおおおおおおおおお!」 まだ無事なれいみゅが、目の前の惨劇を引き起こした元凶である鬼意惨に疑問を投げかけた。 「れいみゅたちはただゆっくりしてただけだよ! れいみゅたちにもしあわせーになるけんっりがあるんだよ!」 「んん~? いやいや、君たちに幸せになる権利なんてものはないよ」 「なんじぇええええ!」 「いやだってほら、君たちには“手”がないじゃないか」 「…………おててさん?」 見ての通り、ゆっくりには手がない。それどころかあるのは頭だけである。 胴付きにでもなれば話は別だが、この姉妹は生憎と普通のゆっくりだ。 ここで、件の歌が出てくる。 「幸せなら手をたたこう、幸せなら手をたたこう。幸せなら態度で示そうよ、ほらみんなで手をたたこう」 突然歌い出した鬼意惨にれいみゅは呆然とした。 歌詞が酷いからではない。単純に理解するのに時間がかかっているだけだ。 それからたっぷり4分程かかって、そこでやっと鬼意惨の歌った歌の意味を理解した。 「しょ、しょれ、どういうこちょ? おててさんがないとれいみゅはしあわせーになっちゃだめなの?」 「だって『幸せなら手を叩く』ってことは、手を叩くから幸せだって言えるってことで、手を叩けないなら幸せって言えないだろ?」 詭弁にも程がある理屈だが、それでも頭が可哀想なれいみゅは、とりあえず『手を叩けない自分は幸せになれない』という結論を導いた。 「い……いやじゃああああああ! れいみゅもしあわせーになりちゃいいいいい! おててさんをたたきたいいいいいいいい!」 「ヒャッハァァァァァァ! けど残念! れいみゅちゃんにはおててはありませーん! これは事実! 変えようもない事実っ!」 「ゆ、ゆわあああああああああああああああん!」 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 以上、回想終わり。 ちなみにその虐待鬼意惨は昼休みが終わりそうだからという理由でれいみゅを放置して帰ったらしい。 「つまり、お前はどうしたいんだよ」 「れいみゅも……れいみゅもおててをたたきたいよぉぉぉぉぉ!」 左右のもみあげをぶんぶんと振り回しながら駄々をこねるれいみゅ。 その様子に俺は一言、 「…………無理だな」 「な、なんじぇ!?」 「だってお前、努力してねーじゃん」 「ど、どりょく?」 「お前、幸せになる権利があるとか言ってたけど、まぁ、確かに幸せになる権利はある」 その言葉にれいみゅの顔がパッと明るくなる。 「だが、今のままでは幸せになる事はない」 「ゆゆっ!?」 結果的に上げて落とされる事になったれいみゅがまた泣きかける。 「まぁ待て。誰にだって幸せになる権利はある。だが、お前は自分が不幸だという事を嘆くばかりで、自分で何かするという訳でもない」 「そんなあああああああああ! れいみゅだっちぇいきてるんだよおおおおおおおお!」 「ただ生きてるだけで幸せになるなら苦労はしねぇよ」 「ならどうしろっていうのおおおおおおおおお!」 「どうしても幸せになりたいか?」 「ゆ……ゆぅ……しあわせになりたいよ……」 「――――よしわかった」 今の俺は内定が決まって、何もせずに卒業出来る。蓄えもそれなりにある。 「何が何でも努力するな? ゆっくり出来ないぞ?」 「どりょくすればしあわせーになれるの?」 「まぁ、お前次第だがな」 「……………………ゆん、れいみゅがんばるよ」 その言葉を待っていた。 それから半年が経った。 「ただいまー」 「お兄さん、おかえりなさい!」 仕事を終わらせて家に帰ると、あのれいみゅ――れいむが玄関で待っていた。 「お兄さん、何か良い事あったの?」 「ん? ああ、始めて契約がとれたんだ」 入社して2ヶ月という、かなり珍しい速さで不動産契約を取る事が出来たのだ。 普通は入って半年してもまだ見習い期間として契約を取るまで行かないのだが、運が良かった。 「ゆふふ、お兄さん、一緒に手を叩こ!」 そういうやいなや、れいむはパチパチと手を叩き始めた。 「おう、そうだな。“みんなで手をたたこう”」 れいむと一緒に俺も手を叩く事にした。 そう、れいむは胴付きになったのだ。 あれかられいみゅはかなりの努力をした。 人間と一緒にゆっくりする事を覚えさせるためにバッチ試験の勉強をした。 胴付きに進化するゆっくりの多くは金バッチを取得している。 それは、金バッチレベルのゆっくりならば、人間と共にゆっくりしようとするからだ。 胴付きになる理由は多々あるが、その中で最も主流な理由は「人間への憧れ」らしい。 要は人と共存しようとする上で一番適した姿に進化した結果なのだ。 ともなれば、胴付きになる一番手っ取り早い方法がバッジ取得という事になる。 れいみゅはただの野良ゆっくりだ。 並のゆっくりならば、銅バッジレベルの勉強でさえ投げ出して「自分はなんて不幸なゆっくりなんだろう」と、悲劇のヒロインを気取り出すものだ。 それなのに、れいみゅは諦めずに頑張った。 全ては自分の手を叩いて幸せになるため。 自分で手を叩くために、れいみゅは公園で誓った通り、努力したのだ。 そして、今日も今日とでれいむは叩く。 「どうだれいむ。手を叩けれて幸せか?」 「ゆ! 楽しいよ! とってもしあわせーだよ!」 「そりゃよかった。せいぜい気の済むまで手を叩くがいいさ」 「ゆーん、ゆーん、ゆーん!」 手を叩いているうちにれいむのテンションがだんだん上がり始めた。 「お兄さんも一緒に叩こうよ!」 「はいはい」 渋々手を叩く。 「ゆっゆっゆーん!」 「はっはっは! 俺も楽しくなってきたわ!」 そして今日も今日とで、幸せなのでれいむと一緒に手を叩く。 あとがき 郵便局でのバイト中にふと思いついたネタを、適当に書いて見ました。 最初はれいみゅではなくまりちゃを出すつもりでしたが、まりちゃは幸せになってはならないという世界の不文律によりボツになりました。 教授あきの過去作品 http //www26.atwiki.jp/ankoss/pages/3754.html 教授あきの感想掲示板 http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1314547340/l50
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3054.html
『取り返すために』 37KB 虐待 差別・格差 群れ 赤ゆ 希少種 自然界 現代 虐待人間 独自設定 17作目 「ゆ、ううまれるよ、まりさぁ!」 「ゆゆ、れいむまつのぜ。いまおぼうしをよういするのぜ!」 春のある日の事、とある森のとある番のれいむが出産の時を迎えていた。 夫のまりさは妻の言葉に、慌てて自分の頭からトンガリ帽子を外して構える。 「ゆぅ……ゆぐぐゆぅ!」 力む声の後に何かがすっぽ抜けるような音が巣の中に響く。 そしてれいむの体から飛び出す新たな命、それを受け止めるまりさのお帽子。 「ゆ、う、うまくうけとめられたのかぜ?」 そう言ってまりさは自分のお帽子の中を覗く、 「ゆ、ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」 その中には待ち望んで居た自分に良く似たおちびちゃん、赤まりさが天使のような微笑を目の前の父に向けていた。 「ゆ、ゆわ~ゆっくりしたおちびちゃんだよぉ。ゆっくりしていってね!」 その子供に向って満面の笑みと共に挨拶をする。 そんなまりさの至福の時間は、切羽詰った妻の言葉で中断される事になる。 「ま、まりさ……つぎの、つぎのあかちゃんが!」 「ゆ、れいむ!わかったのぜ!」 そう言って赤まりさをお下げで掴み、お帽子の中から取り出し脇にどける。 赤まりさは一瞬寒そうに身震いすると、隣の父に擦り寄った。 「ゆぅ、れいむ!もうだいじょうぶなのぜ!」 「ゆぐぐぐ、ゆぅ!」 そうして飛び出す新たな命、今度の子供は赤れいむだった、先ほどと同じように親子が挨拶をする。 先に生まれた姉も妹の誕生を歓迎し、いっしょにすーりすーりをする。 続けて生まれたのは、またもや赤まりさ。自分の同じおちびちゃんのたくさんの誕生に父まりさの頬は緩みっぱなしである。 苦しそうな母れいむも、番のそんな様子にゆっくりとした笑みを向ける。 「ま、まりさまただよ、おちびちゃんがあとひとりいるよ!」 自分の体の様子から最後の子供であることに気が付き番に用意を促す。 「いつでもだいじょうぶなのぜ!」 最初は慌て居た父まりさも、4回目となるともう慣れたものである。 傍に3匹の赤ゆっくりを待たせ、母れいむに向けてお帽子を構える。 「ゆぐぐぐ、ゆぅ、まりさ!」 母れいむから飛び出した赤ゆっくりが、放物線を描いて父まりさのお帽子に入った。 「ゆ、れいむ!さいごのおちびちゃんもちゃーんとうまれたのぜ!」 最後の赤ゆっくりをしっかりと受け止めると、先に番が気になったのか母れいむの様子を見に行く。 苦しそうな息をしていた母れいむも何とか息を整えると待望の我が子のいる場所へやってきた。 「ゆ……ゆ~おちびちゃん!」 そう言って涙を見せる母れいむ、赤ゆっくりとの最初のご挨拶はゆっくり達にとって重要な儀式である。 植物性妊娠であれば、出産は短時間であるため両親は一度に子供達とご挨拶が出来るが。 動物性妊娠の場合、母体になるゆっくりにもその番にも負担がかかるため、一度にご挨拶という訳には行かない。 しかしそれでも重要な儀式であることに変わりは無いのである。 近寄ってくる母親に顔を輝かせる赤ゆっくり達、体の自由の利く父まりさは番のれいむと子供達の始めてのご挨拶の為に先行して最後に生まれた赤ゆっくりをお帽子から出してあげるつもりである。 「ゆ~おちびちゃん!でてくるのぜ!」 そう言ってお帽子にお下げを伸ばす父まりさ、地面に置いて潰れたお帽子を開いて中にお下げを差し込む。 「おちびちゃんも、おかあ……ゆっ!」 その時父まりさの顔に驚愕が走った。背後の母れいむも先に生まれた赤ゆっくり達も「ゆっくりしていってね」と言おうとしたところで上がった大声に動きを止めている。 「ゆ……ゆぅ?ま、まりさいったいどうしたの、おおごえはあかちゃんがこわいこわいだよ?」 そう言って父まりさに近づいた母れいむ、そんな彼女も後ろからお帽子の中を覗き動きを止める。 「ゆっ!……ど、どぼじでぇ?」 「ゆあぁ、ど、どういうことなんだぜえええ!」 その言葉に反応して再度疑問の大声を上げる父まりさ。 「「「ゆ、ゆっきゅ!」」」 赤ゆっくり達も引きつった顔になっている。 「ゆ……ゆっきゅり……ゆ?」 父まりさのお帽子の中でそんな家族の様子に驚きを隠せない赤ゆっくり。輝く金髪に真っ赤なカチューシャを飾ったその子供は赤ありす――ゆっくりありすであった。 おうちの中は大混乱に陥った。ゆっくりの常識に置いて両親と違う子供が生まれることなど無い。 子供達とのご挨拶もそこそこに父まりさはおうちを飛び出し、群れの長であり森の賢者であるぱちゅりーを頼るべく長のおうちを目指した。 長のおうちはこの森の外るとても大きな木の下に作られており。中にはいくつもの部屋と食料庫や倉庫、外には侵入者対策の防壁と水害対策の浅い溝が備えられたこの群れでも有数の立派なおうちである。 そのおうちに父まりさが駆け込むと、長ぱちゅりーは保存食を開けてむーしゃむしゃしていた。 「ゆぅ、おさ!ぱちゅりー、たいへんなのぜ!」 「む、むきゅ、まりさ、いったなにがあったの?」 保存食を巻いていた木の葉で食べかけを隠し、口の中の物を飲み込んで聞いてくる。 「たいへんなのぜ、おさ!まりさのおちびちゃんが、たいへんなのぜ!」 慌ててぱちゅりーを連れ出そうと、もみ上げを引っ張ろうとする父まりさ。 「ま、まちなさいちゃんといくから!」 視線と態度で急かすが体が弱いぱちゅりーの動きはゆっくりとしたものである。 結局後ろから父まりさがせっつくようにして、ぱちゅりーを自分のおうちまで連れて行く事になった。 「ふうふう、おじゃまするわね」 息を切らした長ぱちゅりーが、まりさとれいむのおうちに辿り着くと。中で待っていた母れいむが不安そうな顔で歓迎する。 赤ゆっくりとはご挨拶を済ませたのか寄り添っているが、常識外れの事態にやはり皆不安だったのかどこかぎこちない様な空気が流れていた。 しかし番のまりさと頼れる長のぱちゅりーが来た事によって母れいむの顔にも少し明るさが戻る。 「ゆぅ、おさ!きてくれたんだね!」 「むきゅ、だいじょうぶよれいむ!それにしてもまりさ、いったいなにがあったの?」 そう言っておうちの中を見回す、こういう場合ぱちゅりーが呼ばれるのは大体出産がらみのトラブルと決まっている。 しかし既にれいむは出産を終えているようだし、赤ゆっくり達が病気と言うようにも見えない。 その事を疑問に思ったのか、父まりさに問いかける。 「お、おさ、みてほしいのぜ!まりさとれいむのおちびちゃんが!」 「むきゅ……たくさんよね、ゆっくりしたおちびちゃんよ!」 「ちがうのぜおさ!あのおちびちゃんをみるのぜ、ありすなのぜ!」 「むきゅ……む、むきゅーほんとうだわ!ありすよ!」 その言葉におうちの中の視線が赤ありすに集中する。生まれていきなりこんな状況に放り込まれ、唐突にやって来た家族以外のゆっくりに不安そうな表情だった赤ゆっくり達、その中でも特に不安だった赤ありすの顔に驚きが走る。 「ゆ、ゆぴぃ!」 「そうなんだよ、おさ!れいむとまりさのおちびちゃんなのに、あのこだけありすなんだよ!」 「そうなのぜ、いったいなにがあったのぜ?」 「むきゅ……むきゅ……えーと、れいむ?うわきなんて……してないわよね!」 「ゆ!な、なにいってるのぉおさ!れいむがまりさいがいと、そんなことするわけないでしょうぉ!」 「そ、そうなのぜ!れいむはそんなゆっくりじゃないのぜ!」 「それにみるのぜ、おさ!まりさのおちびちゃんもうまれているのぜ!」 「む、むきゅう……こ、これはいじょうなじたいよ……」 「「ゆゅ!!!」」 「まりさ、れいむ、すこしまちなさい!けんじゃのぱちぇのまどうしょをみてくるわ!」 「そうすれば、なにもかもわかるわ!」 そう言って巣の外に走り出す長ぱちゅりー、おうちの中には家族が残された。 「ゆ、ゆぅ、だいじょうぶなのかな、まりさ?」 「だいじょうぶなのぜ、おさはもりのけんじゃなのぜ!」 家族と寄り添う父まりさ、赤ゆっくり達もしばらくぶりの父に体を擦り付ける。 「いままでだって、ぜーんぶおさがおしえてくれたのぜ。だからだいじょうぶなのぜ!」 父まりさと母れいむはあの長のぱちゅりーを信用していた。この群れの長としてはまだ短いが森の賢者と呼ばれ、この群れ一番の知恵を持つゆっくりであり、その知恵と知識でこの群れを助けてきた。 何よりあのぱちゅりーの先祖は、群れの英ゆんなのである。 まりさ達が生まれるより前、この群れが沢山のふらんに襲われると言う大事件があった。 沢山の犠牲を出しながらもふらんを撃退し生き残った賢者でこの群れの基礎を作ったゆっくりでも有るのだ。 あの立派な長のおうちや群れの制度、梅雨や冬に向けて作る保存食の技術を作ったのも彼女であると聞いている。 長のおうちにはそんな「けんじゃのまどうしょ」が有り、長ぱちゅりーだけがそれから様々な知識を読み取る事が出来るのである。 しばらくすると再び息を切らせた長ぱちゅりーがおうちに現れた。 「はぁはぁ、むきゅ、はぁ、わ、わかったわ!」 「ゆぅ、ほんとうなのぜおさ!」 「す、すごいよおさ!」 「はぁはぁ、そうよ、けんじゃのぱちぇにはわかったわ!」 「そのおちびちゃんは……"チェンジリング"なのよ!」 「「ゆっ!?」」 「なんなのぜおさ、そのちぇんじりんぐって?」 「ゆぅ、はやく「むきゅ、まちなさい!」 「ゆ?」 「まりさ、れいむ、ちょっとそとではなしをしたいわ!」 「ゆ、わ、わかったのぜ!」 「ゆぅ、わかったよ!」 母れいむは赤ゆっくりの方を不安そうに見ると、もみ上げで抱きしめ少し外で話すと言い含めて外に出た。 おうちから出ると長ぱちゅりーは神妙な顔になり、二匹を見回す。 「むきゅ、あのおちびちゃんは、とりかえられてしまったよ!」 「「ゆゅ!」」 「まずはききなさい、あなたたちのおちびちゃんは、とってもゆっくりしているわ」 「そういうゆっくりしたおちびちゃんは、よーせいにねらわれるのよ。よーせいがじぶんのおちびちゃんと、とりかえていくのよ!」 「ゆ、そ、それじゃあ、まりさのおびちゃんは?」 「よ、よーせい?そのゆっくりが、れいむのおちびちゃんをさらったの!」 「むきゅ……よーせいは……むきゅ!そうよれいぱーありすよ!」 「れいぱーありすがまりさたちのおちびちゃんをねらって、じぶんのおちびちゃんといれかえたの!」 「げんにあのおちびちゃんは、ありすのおちびちゃんでしょう!」 「ゆ、ゆぅーれいぱーはゆっくりできないのぜ!」 「ゆわーん、れいむの、れいむのおちびちゃんがれいぱーありすに!」 「むきゅ、だいじょうぶよ!おちびちゃんをとりかえすほーほうがあるの!」 「ゆ……お、おさ。ほ、ほんとうなのかぜ?」 「れ、れいむのおちびちゃん、かえってくるの!」 「むきゅ、そうよ!」 「すごいのぜ、やっぱりおさはけんじゃなのぜ!」 「すごいよ、はやくおしえてね、いますぐでいいよ!」 「むきゃっきゃきゃ、ちょちょっとまちなさい!」 詰め寄ってくる親2匹を押し留め、長ぱちゅりーは息を落ち着けて語りだした。 「まりさたちののおちびちゃんをとりかえすには、あのありすをいじめるひつようがあるわ!」 「ゆ、いじめるのぜ!」 「おちびちゃんをいじめるのは、ゆっくりできないよ!」 「そうよ、あのありすのおちびちゃんをいじめることで、よーせい……れいぱーありすがおちびちゃんをかえしにくるのよ!」 「まりさたちもじぶんのおちびちゃんがいじめられたら、ゆっくりできないでしょう!」 「ゆぅ、そうなのぜ……」 「わかったよ!れいむはあのありすをいじめるよ、れいむのおちびちゃんをとりかえしたいからね!」 「れいむ……そうなのぜ、まりさのおちびちゃんをれいぱーなんかにわたせないのぜ!」 そう言って気炎を上げるまりさとれいむ、長ぱちゅりーはそんな2匹を慌てて止める。 「まちなさい、ふたりとも!とりもどすには、いくつかのちゅういがあるの!」 「「ゆっ!」」 こうして長ぱちゅりーは2匹に子供を取り返すための注意を行った。真剣な顔になる父まりさと母れいむ、しばらくしてから長はおうちに帰り、2匹もおうちの中へ戻って行った。 「おきゃーしゃん、おちょーしゃんおかいえりなしゃい!」 父まりさ達がおうちに入ると放置されて不安だったのか赤ゆっくり達が擦り寄って来る。 それには笑顔で返す2匹、おうちの中に明るい空気が広がった。 「おちょうしゃん、ありしゅにも!」 そう言って父まりさに擦り寄る赤ありす、 「れいぱーのくそがきはちかよらないでね!」 「ゆぴぃ!」 そんな空気も赤ありすが父まりさに吹き飛ばされると凍りついた。赤ありすは倒れて痛みにうめいている。 「ゆぴゃぁ、どうちて、れいみゅのいもーちょをどうしちぇ、おきゃーしゃん、おちょーしゃんが!」 母れいむに訴える赤れいむだが、母れいむの目も冷たいままだ。 「ゆ、おちびちゃんいいんだよ、あれはみんなのいもーとじゃないんだよ!」 「そうなのぜ、あれはれいぱーのくそがきなのぜ!」 「しょ、しょーなの!」 「そうだよ、はやくこっちにきてね、おかあさんいっしょにむーしゃむしゃしよーね!」 そう言って赤ありすの方に向おうとした赤れいむを呼び寄せる。 赤れいむもしばらくは倒れている、赤ありすを気にしていたが姉妹と同じように母れいむの元へ向った。 父まりさがおうちの食料庫からとっておきのあまあま――木苺を持ってくる、生まれて直ぐに母れいむから茎を噛み砕いて与えられていた赤ゆっくり達だが、それから随分と時間が経ってしまった。 はじめて見るあまあまによだれを垂らし、目を輝かせている。 「ゆわーおいししょうだよ、おきゃーしゃんたべちぇいいの!」 「いいんだよおちびちゃん、いっぱいむーしゃむしゃしてね」 その言葉に3匹の赤ゆっくりがあまあまに飛びつく。 「「「むーちゃむーちゃ、あみゃあみゃしあわちぇー!」」」 その言葉に父まりさと母れいむの顔にも笑顔が広がった。 「あ、ありちゅにも、ありちゅにもあみゃあみゃちょうだいね!」 しかし、痛む体を押して赤ありすが戻って来ると、その顔に影が差す。 「ゆ、なにいってるの?あまあまはれいむのおちびちゃんのだよ、くそがきはだまってね!」 そう言って蹴飛ばそうとして母れいむを父まりさが抑えた。 「まつのぜれいむ、おさのことば、わすれたのかぜ!」 「ゆっ!」 2匹の頭に長ぱちゅりーの言葉が蘇る。 「むきゅ、あのおちびちゃんだけど、えいえんにゆっくりさせてはだめよ!」 「えいえんにゆっくりさせずにいじめなくては、よーせいはこどもをかえしにこないわ!」 父まりさは再び食料庫に戻り、食料を咥えて来る。 「さぁ、おまえのごはんはこれなのぜ、かんしゃしてむーしゃむしゃするのぜ!」 投げるようにして与えたのは、親達でも保存食としてしか食べない苦い草であった。 「ゆ、ぎょはんにゃのね、ちょかいはよ……むーちゃゆぎぃ!」 草といえば生まれて直ぐに食べたあの茎しか知らない赤ありすは喜んでそれにかぶりつく、しかし口の中に広がったのは刺すよな苦味であった。 「ゆぎぃ、ゆぎゅう、きょれぢょくはいっちぇ……」 草とクリームを吐き出す赤ありす、それをニヤニヤと笑って見つめる両親。 「おお、あわれあわれ、れいぱーのくそがきがくるしんでるよ!」 「きたないね、おちびちゃんはあんなふうになっちゃだめだからね!」 両親の態度に赤れいむと赤まりさ達は驚きを隠せない。 「ゆぅ、れーみゅのいもうちょが……」 しかし赤ゆっくりにとって正義とはイコール親である。 「きにしにゃくちゃいいよ、れいみゅ!」 「しょーじゃよ、ありぇはまりしゃたちのいもーちょじゃにゃいんだよ!」 「で、でみょ……」 「それにあのこはまりしゃでもれいみゅでもないよ、ゆっくりできにゃいこだよ!」 そう言って赤ありすに冷たい目を向ける赤まりさ達、赤れいむは困惑しているがそれ以上は何も出来ない。 「ゆっ、おねーちゃん、どうしちぇありしゅをそんなめで……」 苦しんで誰かに縋ろうと家族の方に目をやるが相変わらず両親からは冷たい目で見られている。 それならば姉達に、と向いた姉達かたら向けられたのは同じような冷たい視線だった。 「ゆぴぴ、どうしちぇ?」 「さっさとたべてね、れいぱーのくそがきにはそれでもぜいたくだよ!」 動きを止めていると父まりさに小突かれる、お下げで口に苦い草が押し込まれる。 吐き出そうともがくが、結局それは赤ありすが全ての草を飲み込むまで続いた。 「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ……」 おうちの端では赤ありすが体を震わせながら泣いている。非ゆっくち症一歩手前である。普通の赤ゆっくりであれば既に発症してもおかしくは無い、しかし赤ありすは何かに守られているかの様に発症する事は無かった。 「さぁおちびちゃん、おかあさんがおうたをうたってあげるからね。ゆっくりすーやすーやしようね!」 母れいむが赤ゆっくり達を柔らかい草を敷いた場所に呼び寄せる。赤ゆっくりが集まると柔らかい草の中に入れて歌い始めた。 「ゆ~ゆ~ゆっくりしていってね~♪、おちびちゃんはゆっくり~したこだから~ゆっくりおねむしてね~♪」 その歌と隣に居る母の温もりに、赤ゆっくり達のまぶたがストンと落ちる。 寝息が立ち始めた、母れいむは歌いながらゆっくりとした笑顔を浮かべる、父まりさもその様子を見て微笑んだ。 お歌の効果は赤ありすにも平等に現れていた。涙が止まり心の中が少しだけ暖かくなる、まぶたがゆっくりと落ち始めた。 何かを叩いた鈍い音が響いた。 「ゆぴぃ!」 眠りに落ちようとしていた赤ありすが飛び起きる、父まりさが咥えた木の枝で赤ありすを叩いたのだ。 「お、おちょうしゃんにゃに!」 「れいぱーのくそがきがすーやすーやなんてぜいたくだよ、ゆっくりくるしんでね!」 父まりさは長ぱちゅりーの言葉を思い出す。 「むきゅ、それでねあのおちびちゃんをきのえださんでたたくの!」 「ほんとうはめーらめーらでいじめるのもいいんだけど、めーらめーらをつかえるゆっくりはいないし……」 「おちびちゃんのめのまえでむずかしいことをやって、よーせいのこどもにボロをださせるってもあるけど……」 「むきゅ……それはこのけんじゃのぱちぇがきょうりょっくするわ!」 「おまえがくるしまないとまりさのおちびちゃんがかえってこないんだよ!」 「ゆぴぃ、いちゃいいちゃいわ!」 そこに子供を寝かしつけた母れいむがやってくる。 「おきゃーしゃんちゃすけちぇ、おちょーしゃんが!」 「まりさ、おちびちゃんはすーやすーやしちゃったよ、だけどしずかにしてね!」 「ごめんなのぜれいむ」 「おきゃーしゃん!」 「れいむもきょりょっくするよ、だからおそとでやろうね!」 「やじゃあ、やめちぇえ!」 父まりさは赤ありすの髪を咥えお家のそとに放り出す。 「ゆびぃ!」 「れいむ、うまくたたくのぜ、そうしないとおちびちゃんがかえってこないのぜ!」 「わかってるよ、あしたからはむれのみんなにもきょうりょっくしてもらうよ!」 「ゆびぃ、やめちぇえいぎぃ!」 森の中に何かを叩く音が響き渡った。 赤ありすは寒いお外で倒れ付していた、体中に鈍い痛みが広がり意識も朦朧としてくる。 目の前ではおうちの扉が父と母によって厳重に閉じられている、隙間も漏らさぬけっかいは赤ありすへの拒絶への表れだ。 「おちょうしゃん、おかーしゃん、どうしちぇどうしちぇありしゅに……」 「うるさいよ、れいぱーのくそがきがおとうさんなんてよばないでね!」 「そうだよ、これはゆっくりするためにひつようなことなんだよ!これは、れいむたちのおちびちゃんを……」 「「とりかえすためなんだよ!!!」」 夜になった群れの森、空には満月が煌々と浮かび、夜とは思えない明るさである。 本来捕食種の活動時間であり、ゆっくりの居ないはずの時間に出歩いている者があった。 それは通常のゆっくりより一回り大きい体を重そうに動かし、ゆっくりと森の中を進んでいる。 頭には2本の角、薄緑色の髪を月明かりに輝かせる、ゆっくりけーねである。 満月の今夜、ゆっくりけーねは「はんじゅう」に変化し様々な「れきし」の知識を有するのである。 そんな能力を持つけーねだが、決して戦闘能力に優れたゆっくりでは無い。 しかし夜の森を歩くけーねの歩みには少しの怯えも含まれて居なかった。 彼女は知っていたのだ、もうこの森には捕食種は居ない事を。 しばらく進んで森の広場まで来ると、けーねは満月を見上げる。 「久しぶりだな……」 その瞳に映るのは空の満月でも、他のゆっくりでも無い。 この森のゆっくりの達の歴史であった。 「あぁ、もこう、らん、みんなも!」 うつろな目で過去の歴史に浸るけーねの顔には、堪えようの無い喜びが浮かんでいた。 楽しい時間は早く過ぎるもので、しばらくすると月に雲がかかる、興を削がれ不満そうな顔になるけーね。 溜息を付いて長のおうちへの道を引き返す。その途中、ゆっくりのおうちの前に通りかかると泣いてけっかいにすがり付く赤ありすが目に入った。 「……すまない、謝って済むものではないが」 そう言って目を伏せるけーね、 「いや、全て私のせいだな……」 そう、今目の前に居る傷付いた赤ありす、全ての原因はこのけーねにあった。 この森のゆっくりの群れは、このけーねとその番のもこうが作ったものであった。 昔居た群れで希少種という事から、差別されたり危険な仕事を押し付けられていた2匹は旅立ちを決意した。 住み慣れた場所を離れ、旅暮らしをしながら新しい住処を探す。その旅はとても辛く危険な物だった。 多くの場所には先住のゆっくりの群れが居たし、旅のゆっくりであり希少種の2匹を快く迎え入れてくれる群れは無かった。 多くの場合で追い出されたし。受け入れてくれる場合もその能力目当てであったり、すっきりーの対象として狙ったり。 ゲスやレイパーの襲撃を受けた事も一度や二度では無かった。 そんな2匹が長い旅の果てに見つけたのがこの森であった。豊富な自然と豊かな水源を持つこの場所はゆっくりの生活に必要な物が全て揃っており。何故か近くに他の群れが居ないという優良なゆっくりプレイスであった。 さっそくこの場所に自分達のおうちを作り始めるけーねともこう。旅の途中で出会い同じような悩みを抱えていた希少種や仲良くなった通常種の仲間達もいつしか現れ、この場所に群れが作られたのはそれから少し経っての事だった。 群れの長にはもこうが就任し、その番であるけーねが群れの参謀としてサポートすることになったこの群れは順調に発展する事になる。 この辺りで一番の大きな木の下に空いていた穴を拡張して、群れの全てが越冬したりいざと言う時に篭城できる「長のお家」として整備したり。 食料を計画的に収集し、何らかのトラブルや梅雨や冬の食糧不足に備えて「保存食」として加工するなど様々な工夫が凝らされた。 群れの掟も整備され、多くの群れが陥るゆん口問題に向けて妊娠を胎生妊娠で行う事もこの時決まった。 この時期がけーねにとっての幸せの絶頂であった。 けーねともこうの番にもおちびちゃんが一匹生まれたし。仲間達も子宝を授かり群れは拡大していく。 群れが大きくなってくると、その噂を聞きつけて群れに加わりたいと言って来るゆっくりが現れ、もこうは寛大に彼らを仲間に加えた。 そんなけーねの幸せを引き裂く事件が起きたのは季節が変わった頃であった。 この場所に群れを作ったけーねともこうだが、2匹はとある重大な見落としをしていた。 何故こんなゆっくりした場所に、ゆっくりが暮らしていなかったかである。 その答えは、ある夜に群れに襲い掛かった。 「うーしね!しね、しね!」 ふらん達捕食種の集団であった。群れを作った彼女達によって、この場所はゆっくりに荒らされていなかったのだ。 元々この辺りに住んでいたれみりゃすら追い出したふらんの群れの攻撃力は凄まじく、群れの被害がいきなり増大する事になる。 長のもこうは外で戦えば数を生かす間も無く殺されるだけであるとして、長のおうちを使って迎え撃つ事を提案。 元々越冬にも使えるようにと大きく作られていたおうちの外にバリケードを作ったり、中に罠を張り巡らせたりと要塞化を行う。 ふらん達の襲撃を警戒して狩りの成果は振るっていなかったが、群れに残っていた全ての食料を運び込み襲撃を待った。 それまで夕方に外に出ているゆっくりを一気に囲んで捕食していたふらん達だが。ゆっくり達がおうちに篭って出てこないとしばらくは警戒するように外を飛び回っていたが、焦れたのか長のおうちへの攻撃を仕掛けてきた。 長のおうちのでの闘いは熾烈なものになった、子ゆっくり達を奥に隠しておうちの入り口と入って直ぐのホールに仕掛けた罠とで迎え撃った群れのゆっくり達だが。 敵にはふらんが10匹は居たのである、罠にかかったところを奇襲して2匹、中で囲んで4匹を討ち取ったが。 4匹を残して罠は尽きてしまい、おうちの中にも進入されあとは完全な実力の戦いとなった。 けーねはそれまでの襲撃とこの戦いで敵のふらんの数を正確に把握していた。残るふらんはおうちの中に居る者だけである。 長のおうちに作られた隠し通路から、子ゆっくりの脱出を声に出さず提案するけーねに、もこうが目で指示を送る。 その場をもこうに任せて他のゆっくりと共に隠し通路を空けて奥に居た子ゆっくり達を外に送り出す。 それを見送って引き返そうとしたけーねが目にしたのは信じられない事態であった。 「むきゅ、ぱちぇはこんなところでしんでいいゆっくりじゃないのよ、ぱちぇがしねばせかいのそんしつよ!」 「ゆ、まりささまはにげるのぜ、あとはおさたちにまかせるのぜ!」 「ゆぅぅ、れいむはもうこんなところにいたくないよぉ、はやくにげるよ!」 「わかるよーここからにげるんだね!」 子ゆっくりを逃がすための抜け道から、我先にと逃げ出す群れのゆっくり達であった。 もちろん子ゆっくりだけで外に出すことは出来ない、奥に居たみょんを1匹先に出していたし。 後からも数匹追わせるつもりであった。しかしこの時ほとんどのゆっくりが逃げ出してしまったのである。 引き止めるけーねの言葉に耳を貸すものは居ない。結局残ったのはけーねともこう、そして2匹と仲の良かったこの群れの初期から居るゆっくり達だけであった。 この事は重大な危機をもたらした、おうちの中に入っているためふらんの飛翔能力は無いもの考えてよいが、それでもなお捕食種は強敵である。 しかし狭い場所であるため攻撃が避けづらく、犠牲は大きくなるが物量でぶつかれば勝利も掴めるはずであった。 ところがそのためにゆっくりが居なくなってしまったのである、残ったゆっくりには希少種のもこうとらんの攻撃力の高いものも居るがそれでも圧倒的に足りなかった。 もこうの元に駈けて戻る。けーねの表情にもこうは何かを察したのか、 「わかったよ、だいじょうぶ。けーねはもこうがまもるよ!」 そう言って体に炎を身に纏いふらんに飛び込んだ、その後ろかららんが尻尾の米粒の発射で援護する。 それに合わせて仲間たちがふらんに飛び掛った。ふらんの攻撃で一匹また一匹と潰されながらも前に行った者の死体を目隠しにしてふらんに木の枝を突き刺す仲間達。 それはまさにぶつかり合いであった、もこうは噛み付いてきたふらんを一匹消し炭に変えたが、そのふらんから出たところで後ろのふらんの「れーばてぃん」に刺された。 らんは米粒を乱しながら突っ込み方耳に噛み付かれながらもその相手に射撃を集中して相打ちとなった。 他の仲間たちは全ゆで1匹のふらんにあたり、皆潰されながらも相手のふらんをいが栗の様な姿に変えた。 おうちの最奥で最後のふらんと対峙するけーね、ふらんの背後では愛しい夫が、大切な友が仲間が死んでいる。 厳しい表情を崩さずに涙を流す、口に咥えた木の枝を向けられたふらんは、仲間の死が堪えていないのかむしろ面白がるような顔をしている。 「う~しね、しね!」 近づいてくるもこうの敵のふらん、敵は1匹こちらも1匹であった。 にじり寄って来るふらん、けーねが覚悟を決め特攻しようとしたとき、けーねの足元から火の玉が飛び出した。 「おかあしゃんは、もこうがまもるよ!」 飛び出したのけーねともこうのおちびちゃん、子もこうであった。 「ふじゃまぼるけーの!」 そう叫び、ふらんの口の中に飛び込む。 「う、しね?う……うがあああああ!」 ふらんの口から火の手が上がった。目が白く濁り、小さな火柱が噴出す。 まるで炎がゆっくり体を嘗め回しているようだ、全身が炎に包まれると一瞬強い光を発し黒焦げの球体が残る。 辺りに焦げたよう臭いが充満した。 湯気とも煙ともつかないものを上げている、ふらんだった物。 けーねはそれに飛びつくと熱さも忘れて中を開いた。 「おちびちゃん、何処だ?何処に居るんだ?」 消し炭の中を必死になって探すが求めている物は見つからない、気が付くと目の前に残るのは黒い灰だけであった。 周囲を見渡す、長のおうちの中はこげた臭い甘い臭い、そして耐え切れないようなゆっくり出来ない臭いでいっぱいだった。 何処を見ても永遠にゆっくりしたゆっくりの死体が転がっている。目を凝らせばそれらは皆けーねの仲間達である。 仲の良かったらんが居た、頭の良かったまりさが居た、子供達に優しいれいむが居た。 そして、そして奥に転がる黒い物は…… 「も、ぼごうー!」 けーねはそれに駆け寄った、愛しいもこうだと思われるそれにすーりすーりをするが、先ほどのものと同じように粉々の炭に成ってしまう。 「ゆ、ゆがああああ!」 けーねの絶叫が長のおうちの中に響き渡った。 その後の事は思い出したくも無い。暗いおうちの中で家族や仲間たちの死骸を集めて埋めていると隠し通路を戻ってくるものが居たのだ。 それは群れのぱちゅりーだった、その顔には見覚えがあるあの時隠し通路から真っ先に逃げたやつである。 「む、むきゅ……けーね、ふらんたちは?」 覗うような目でこちらを見てくるぱちゅりーを無視して埋葬を続けるけーね、皆はおうちの奥にまとめて埋める事にした。 しばらくキョロキョロろしていたが、何かに納得したのか引き返すぱちゅりー。しばらくすると群れの仲間達も戻ってきた。 その後で群れのゆっくり達が話していたのは信じられない事であった。 「むきゅきゅ、わたしたちはふらんにかったのよ!けんじゃのしょうりよ!」 「むははは、さいっきょうのまりささまにかかればこんなもんなのぜ!」 「れいむたち、ゆっくりしているゆっくりをたべようとするから、こんなことになるんだよ!」 「わかるよー、つよいんだよー!」 何と最初の戦いでも後ろに隠れ、その後は隠し通路で逃げ出したゆっくり達がこれを自分達の勝利だと言い出したのだ。 必死に戦って散っていったゆっくりの埋葬を続けるけーねを手伝おうとするものは居ない。 「むきゃきゃきゃ、これからけんじゃのぱちぇがむれのおさになるわ!」 何がどうなったのかは分からないが、最初に入ってきたぱちゅりーは仲間達の中でゆん望を得たらしく長となっていた。 その様子をけーねは、ただ冷たい目で見ていた。しかし、声を上げようとは思わなかった大切な家族や仲間を失ったけーねの心は凍り付いていたのだから。 この時をもってこの群れはぱちゅりーを長とする群れに変わった。けーねは長ぱちゅりーのおうちとなった、長のおうちの一室を使い何をするでもなく、自分の食料は自分で集め他のゆっくりと関わる事無く暮らしていた。 長ぱちゅりーがそんなけーねに何か言う事は無かった、自分でも分かっていたのかもしれない。しかし困った事があると密かにけーねに知恵を借り、それを自分の知識として群れには発表していた。 元々完成していた群れ、外敵の居ないゆっくりプレイス、この群れは再び発展を始めた。 しかし昔のように新たな掟を作ったり、新しいものを作り出すそんな進歩は起きなかった。 元々あった群れのままゆっくりの数だけ増える、そうしてこの群れは大きくなっていった。 けーねの唯一の心残りは、永遠にゆっくりしてしまった仲間達の子供だったが、彼女達も大きくなるとこの群れに何かゆっくり出来ないものを感じたのか、歯が抜けるように群れから出て行った。 こうして時が流れ、長ぱちゅりーが代替わりし孫の代になる頃には、けーねはかなりの老ゆっくりと成っていた。 けーねの生活は自分のおうちでもある、家族と仲間の墓に祈る事と、簡単な狩りだけになっていた。 そして希少種としてのけーねの力が最も発揮される満月の夜には、その力を使い群れの歴史を読み取って家族や仲間たちに再会するのだ。 月に一度の満月の夜は、けーねにとって失ってしまった者に出会える唯一の日であった。 それは自分ともこう、そして仲間達が作り上げた輝かしい群れの歴史だった。多くの苦労があった、しかしそれを必死で乗り越えたからこそ、今こうして歴史に刻まれているのである。 今の群れは停滞という緩やかな死の中にあった。完成された群れのシステムと居ない外敵、そして問題があったときに頼れる知恵袋の存在は、若いゆっくりを酷く頭の悪いものにしていた。 今の長のぱちゅりーにしてもそうである、その祖母の頃にはある程度の頭の良さがあったが。今では他のゆっくりと変わらない程度である。 このまま行けば長い時間をかけて群れは滅びるかも知れない、しかしそれはけーねの寿命よりも後のことだろう。 あの子ありすの問題がけーねの耳に入ったとき、けーねにはそれが直ぐに「チェンジリング」であると分かった。 低い確率で生まれる両親とは異なる種の赤ゆっくり、チェンジリングは幸運を呼ぶと言われている。 けーねの持つゆっくりの歴史においてもそれは証明されていた。チェンジリングはそれを得た者に幸運を呼び、自身もその幸運によって守られるゆっくりである。 しかし、チェンジリングは両親と異なる外見を持つゆえに、両親に疎外されたり虐待されたりする事の多い子供でもある。 けーねの知る中でも多くのチェンジリングは親に追い出されるなど壮絶なゆん生を送る事となった。 幸運に守られたチェンジリングはそれでも何とか生き延びる事が多いのだが、その幸運の加護をその子を産んだ両親が受けられないのは皮肉と言えるだろう。 その幸運から人間に拾われ、人間を幸せにしているものも多いと言う。 あの赤ありすはこの群れでゆっくりと育てれば、その力をこの群れで発揮しただろう。 しかし、けーねは自分に相談に来た長ぱちゅりーにはそれを教えなかった。 ただチェンジリング――取替え子――に関する知識は与えたのだ。 それは人間の知識であった、人間の歴史においてそう呼ばれた存在がどのような目にあったか、それを教えたのだ。 あのぱちゅりーはけーねの教えた間違った知識を嬉々として親達に教えるだろう。そうなれば子供を取り戻すために何が起きるかは自明の理である。 そしてその結果は今目の前に居るのである。 けーねはゆっくりのチェンジリングに関する負の面も知っていた。幸運を呼ぶ彼女達だが、無下に扱った者や群れに不幸を呼ぶ例があるのだ。 いくら歴史を知っているからとはいえ、そんな物に縋るのは愚かしいと思う、何もしていないあのありすを陥れた自分は間違いなくゲスゆっくりなのだろう。 しかし長い時間をかけてけーねの中にはこの群れのゆっくりへの悪意が育っていたのだ。 何もしないで惰眠をむさぼり、さもその繁栄を自分達の手柄であるかのようにゆっくりしているこの群れのゆっくり達。 違う、この群れは私達の作った群れだ、決してお前達のものでは無い。 もし自分の力がとても大きければ、この群れの歴史を消し去ってしまったと思う。しかし自分にそんな力は無いのだ。 老いたけーねに出来るのは悪意の種を蒔くだけである、その種は育つのだろうか。 今も赤ありすがおうちの扉にすがり付いて泣き声を上げている、中に居る親から怒鳴られた様だ。 「すまないな……これも取り返すためなんだ」 「畜生っ!」 血の滲むジーパンを押さえ込み思わず叫んでしまった。追っていたものに気を取られていたとは言えまさかこんな所で転んでしまうとは。 飛び出していた木の根に足を引っ掛け坂を転がり落ち飛び出していた鋭い枝を刺してしまったのだ。 上を見るが既にアレは居ない、逃がしてしまったか。近道しようとこの道を通ったとき偶々森の中に飛んで行ったゆっくり、銀髪に変わった翼のゆっくりだった、まず間違いなく希少種のゆっくりだろう、場合によっては2桁の福沢諭吉で取引されるそれに引き寄せられるかのように森に入ったのが失敗だった、意外と早く飛ぶそれに対して慣れない森の中では追いつく事が出来ず結局かなり森の奥まで入ってしまった。 その結果は既に見えなくなったあいつと、この足の傷であるとてもじゃ無いがやってられない。 「野郎、捕まえてペットショップに叩き売ってやろうと思ったのにつつっ!」 足を押さえて立ち上がる、何とか歩ける。 「ゆゆ~ん、ちょうちょさんまつのぜ!まりさのおちびちゃんはちょうちょさんがすきなのぜ!」 前方の茂みの奥から癇に障る声がする。これはゆっくりまりさか?ゆっくりで失敗した所にである、畜生あいつを捕まえて潰してやろうか。 「つかまえたのぜ!まりさはおちびちゃんのまつおうちにかえるのぜ!」 ん、今聞き捨て為らない事を言ったぞ、お家……この辺りには野生のゆっくりが住んでいるのか……もしかしてさっきの希少種もこの辺りに住んでいるのでは。 痛む足でもゆっくりなら後を追うのは難しくない、後を着けると確かにそれはあった――野生のゆっくりの群れである。 早速希少種を探そうかと思うが、この足では飛ばれたら逃げられてしまう、ここは我慢してしっかり準備をしなくては。 何群れの位置は確認済みだ、この場所にあの希少種が居れば捕まえるのは簡単だろう、もし居なければ……あの群れにこのイライラを解消させて貰おう。 「ゆ!にんげんさんなのぜ、ここはまりさたちのゆっくりプレイスなのぜ、さっさとでていくのぜ!」 翌日傷の手当てをして装備を整えあの群れに訪れると、早速1匹のまりさに見つかってしまった。 町に居る野良と違い人間を恐れていないのか、こちらに対して高圧的な態度に出てぷくーをしている。 面白い、最近町では味わえない反応である、町の野良はこういう場合は大体逃げてしまうからな。 「きこえないのかぜにんげんさん!みみさんがないのかぜ、おぉあわれあわれ「ゆが!」 うん、どうも随分長い事人間に会って居ないゆっくりの様だ、感動して撃ってしまった。 「ゆがぁいだいのぜ!なんなのぜこれはあんよがうごかないのぜ!いぎゃ!」 指に力を入れると金属を引き抜くような音がする、おぉちゃんと致命傷は避けているし動けなくしている。 意外と冷静だったな自分、3本の釘がまりさの顎の部分と体の左右を地面に縫いとめている。 良かったまりさの態度に当初の目的を忘れるところだった。 「ゆぎぃ、えだざんぬげるのぜ、まりさをはなすのぜ!」 「まりさぁちょっと聞きたい事があるんだけどなぁ!」 「ぬけるのぜぇ、ゆぎぃ!」 話を聞かないまりさの帽子に1本打ち込んでやる。 「まりさ……聞きたい事が有るんだけど」 「は、はひぃなんですか!?」 手に持った物をふらふらさせながら聞いてやる、ちなみにこいつは釘打ち機だ本当はこうやって使ってはいけない。 「この群れに変わったゆっくりは居ないか?銀色で羽が生えたやつなんだけど……?」 「れ、れみりゃはいません!」 「れみりやじゃねーよ!」 もう一方の手に持ったを動かしてやる、金属の回転音が響いた。 「ゆひぃいしりません、しりません!ほんどうにしらないんです!」 回転するドリルの先端を額に当ててやると騒ぎ出した。知らないのか……いやこいつが馬鹿という可能性もある。 「ゆぅ、うるさいよまりさ。ゆぅ、なんでにんげんさんがいるのぉ!」 うん、次の証言者が来た……まりさ、お前は用済みだ。 「ゆ、それをちかづけ、ゆぎゃあああああああ!」 「ゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴゆぴ……」 ドリルでまりさの顔面を掘ってやる、表面を掘るつもりだったが最初に力を入れすぎたのか中枢餡にいったのか変な事を言いながら痙攣してる。 「ゆ、ゆわぁ!」 ん、れいむがおそろしーしーを流しながら硬直している。まぁまりさのを見せたしな。 「れいむ……次はお前だからな!」 そう言って釘打ち機をれいむに向けた。 「ちっ、こいつもダメか!」 目の前でボロボロになったちぇんを蹴り飛ばし、悪態をつくあの後10匹ほど同じような目にあわせて話を聞いてみたが誰もあの希少種について知って居ない。 これは……間違えたか。このまま時間が経てばたとえこの群れに居たとしても逃げてしまうかも知れない。 「まりさはおちびちゃんをまもるよ、ぷくーーー!!!」 あー、だいぶゆっくりを殺したんだが、何かこの群れの連中は逃げるって事を知らない。今も1匹のまりさが巣の前で膨らんでいる。 面倒だしムカつくのでさっさと絞めたいがあの希少種を諦めるわけにはいかない、しかしゆっくりの処刑で活躍したドリルはさっきのちぇんのチョコレートで少し切れ味が下がっている。 「にんげんさん、さっさとでていってね!」 「ゆぎっゆぎっゆぎぃ!」 とりあえず動けないように撃っておいてと。 「銀色で羽が「おとうさんはまりさがまもるよ!」 あ、いきなり奥から子まりさが飛び出してきた、 「おちびちゃんさがっているのぜ!」「まりさはおとなだよ、おとうびぃ!!!」 子ゆっくりは知らないだろう、叩く事に定評のあるバールでとりあえず潰しておく。 「お、おぢびじゃああああん!!!」 最近何処の秘密結社だか知らないがバールの様なものなどといって類似品が出回っているが、やはり基本は押さえておきたい。 「お、おねえちゃーん!ぷっぷくー!びぃ……」 あ、奥から子まりさが出てきたから思わず撃ったら何か良いところに当たったのか沈黙してしまった。 「ばりざのおぢぃびじゃんがぁ!」 「れいむはにげるよ、まりさはじかんをかせいでね!」 今度は成体のれいむか、出てきたと思ったら逃げるとか……でいぶってやつか。 「れいむはおちぶぅ!」 「おきゃーしゃーん!」 バールで叩いたら中から何か子れいむが出てきた、煩いが無視する。 「ゆひ、ゆひ、まりざのかぞぐがぁ!」 さてと本番、いやそうだな聞き方を変えてみるか。 「まりさ、この群れで一番物知り……いやこの群れの賢者(笑)は誰だい?」 「まりざの、ゆひぃ、ぱ、ぱじゅりーです!おざのぱじゅりーがけんじゃです!」 「長のぱちゅりーか……で何処に住んでるの?」 「あぞごです、あのおおぎなおざのいえにずんでいまず!」 「そうか、ありがとう!」 「ゆぎぃぃいいい、いじゃいやめで、やめでぐだざい、いじゃい!」 長か盲点だった、最初にそいつに聞けばよかったんだ。このまりさには感謝の気持ちとして小型の鋸で胴体を横に切ってやった。上半分がきれいに後ろに落ちたのは感動だ。 ん、まりさが半分になって巣の中が見えて気が付く。奥で子ありすが倒れてるぞ、こいつらの娘か……いや種類が違うし、れいぱーの子供でも制裁されてたのだろう。長と言う情報源があるので放っておく。 「むきゅうこれはなんなの、なにそこのじじいは!」 まぁぱちゅりーだから逃げてはいないと思ったが、言われたとおり大きな木の前に行くと待ち構えているとは思わなかった。 どうやら群れのゆっくりは長の下に逃げたようだ。 とりあえず、あの希少種はこの場には居ないようだし、話せる口はあの賢者(笑)だけでも良いか。 「おさ、あのじじいだよあのじじいがまりさをころしたんだよ!」 「むきゅう、なんですって!ゆっくりしていないじじいね!さっさとはいじょしなさい!」 「ゆっゆおゆぎぃ!」「ゆが!」「ゆぎぃ!」「ゆぶ!」 「むぎぃぃいだいわぁ!」 釘を乱射しておく、あれぱちゅりーにも当たっちゃったか、まぁ右の頬に刺さっただけだ。死にはしないだろう。 釘が体に刺さり、逃げようとするとさらに刺さって呻いているゆっくり達を避けてぱちゅりーに近づき掴み上げる。 汚ねぇ、クリームが手についたぞ。 「おい!お前がこの群れの長だな!」 「むきゅ、そうよぱちぇがこのむれのいだいなおさよ!ふとうなあつかい、ひぃ!」 何か生意気なので鋸で撫でてやる。道具を背に仕舞いぱちゅりーの頬に刺さった釘を撫でながら優しく聞いてやる。 「なぁぱちゅりー、実は珍しいゆっくりを探してるんだけど……銀色で羽が生えてるんだ、知らないか?」 「むきゅしらな……ゆきぃ、え、と、その、むきゅうそうよ!しってるわ、けーねよ!ひぃおうちのなかにいるわぁ!」 んー、けーね?あれって空飛んだっけ? 何か別のやつが出てきたっぽいがあれも希少種だ、ラッキーと言えるだろう。いやしかしゆっくりの証言だ命乞いの嘘って事を考えないと。 足元で呻いているまりさを足で蹴り起こして聞いてやる。 「おいまりさ、おまえけーねって知ってるか?この群れに居るんだろうな?」 「ゆぎ、けーね……しらないのぜ!そんなゆっくりこのむれにいないのぜ!」 「話が違うじゃねぇか!」 「む、むぎゅううう!むぎ、ぎ、ぎ、ぎ!」 怒りから手に持っていたぱちゅりーを地面に叩きつけ、釘を打ち込んでしまう。 「ちぃ、時間を無駄にした!せめてストレス解消くらいはさせろよ!」 「あの希少種を売ってこの間の馬の負けを取り返そうと思ったのによぉ!」 まったく怪我を押して暑い中時間までかけて収穫なしである。せめて虐待でストレスを発散しておこう、唇を舐め周りを見回す、ゆっくり達の恐怖の視線が気持ちよかった。 あの後30分ほどでストレス解消は終わった。ここに居なかったやつも大半は餡子脳で、こちらにつっかっかって来たので色々と試させてもらった。 とりあえずあの群れのゆっくりほぼ殺したと言っても良いだろう、楽しみに使われた工具の手入れと空の透明な箱が心残りだが気分は爽快だ。 それと全て終わった後、長のお家と呼ばれる大きな木の下の穴を覘いて見ると、大きなゆっくりが白くなって死んでいた。 恐らく老衰だろう、体の大きさからしてかなり高齢だったのかもしれない、なんと驚く事にそのゆっくりがゆっくりけーねであった。 つまりあの長とやらは正しい事を言っていたのだ、悪い事をした、それならもっとじっくり殺してやったのに。 とりあえずバールで殴っておいたが、あのけーねが笑顔で死んでいたのは妙に気にかかった。 終わり 公民あき 後書き 最後まで読んでいただきありがとうございました。 今回のネタは「チェンジリング」です、これを話に使ってみたくてウィキペディアで取替え子について調べたら…… 人間の方が餡子脳だった時代もあるようです。 あと台詞の間に入れていた改行を無しにしてみました、今までのとどちらが読みやすいでしょうか? こちらの方が読みやすいようでしたらこれからはこっちにして見ます。 過去作品 http //www26.atwiki.jp/ankoss/pages/2942.html 挿絵:車田あき
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/4373.html
『いちゆんまえのまりさ』 61KB 虐待 観察 差別・格差 現代 失礼します。 anko2611 ゲスゆっくり奮闘記1 anko2622 ゲスゆっくり奮闘記2 anko3414 ゲスゆっくり奮闘記3 anko3417 ゲスゆっくり奮闘記4 anko3456 れいむのゆん生 anko3458 まけいぬとゆっくり anko3461 ゆっくりに生まれて anko3484 ゆっくりブリーダー anko3489 休日とゆっくり anko3652 ドスについて anko3715 ゆっくりに餌を anko3729 はじめてのぎゃくたい anko3730 はじめてのしいく anko3741 ゆっくりショップのバイト anko3794 まりさとの勝負 anko3843 野球部のゆっくり anko3855 ゆっくりと会話してみた anko3932 ゆっくり観察日記 anko3933 ゆっくりと子供 anko3953 しんぐるまざーの朝は早い anko4016 虐められるためのゆっくり anko4094 普通の人とゆっくり anko4153 愛された果てに anko4153 愛された果てに anko4170 むっきゅーさん anko4290 肉体的暴力とゆっくり anko4219 教育番組とゆっくり 「」ゆっくりの台詞 『』人間の台詞でお願いします 「おにいさんっ! いいっかげんにしてね!」 おにいさん、そう呼ばれた青年の飼いゆっくりである成体のまりさ、銀バッジ2980円也が顔を歪ませ叫んでいた。 うんざりとした気分を隠さず残さず溜息にして表した青年は、読みかけの雑誌を伏せて、まりさの方を見た。 まりさがいるのは居間の隅に作られた1m四方のドッグサークル、木で作られた軽い柵だが、ゆっくりの出入りを封じるくらい簡単なレベルだた。 この家では基本的にその中でまりさを飼育している、理由はこのまりさはあまり出来が良くなくていつになっても部屋を荒らすからだ。 青年とまりさが住んでいるのは、彼の親戚筋から借りた一人で暮らすには広い一軒家、その分ボロいけれど、十分な作りになっている。 部屋も余っているしと、青年はまりさを買った当初は放し飼いにしていたのだけれども。 まりさは青年が少し出かけた内に、ゴミ箱を荒らし、物を壊し、そこらにしーしーうんうんをしてしまう。 何度も注意しても直らない、否治さないまりさに業を煮やした彼は物置にあったドッグサークルに放り込むことに決めた。 決めたは良いけど、狭い場所が気に入らないらしいまりさは一々文句を言ってくる。 今日もその類だろうと、青年は立ち上がりサークルの前まで行く。 サークルの中でまりさはふくれっつらをしていた、しかも餌皿をひっくり返して、水もまけてくれやがった。 ……餌も水もタダじゃねーんだぞ。 そんなことを思いながら、また溜息を一つと幸福を交換して青年は口を開く。 『今日はなんだよ、散歩なら明日な明日』 適当にそのものに告げ、水だけでも汲み直そうと腰を屈めて手を伸ばす――が。 「ばかにしないでね!」 叫び一つで、まりさは伸ばされた手に体当たりをしてきた。 実に弱い一撃ではあったけど、その行為自体は人を怒らせるのに十分なものだった。 当たり前であろう、ゆっくり程度に攻撃をされて平静を装えるような奴は聖人君子か、某愛護団体のものくらいだ。 『っ、なにすんだよ!! てめぇ、飯抜きにすっぞ!』 聖人君子でも、愛護団体所属でもない彼は、当然の怒りに任せて、まりさの頭を掴んで押さえつけた。 成体ゆえにある程度雑に扱っても平気だけれども、当たり前に苦しいらしく「ゅぎぐべぇっ!?」と、気色悪い声を漏らしていた。 その情けない姿に少しだけ溜飲を下して、青年はまた溜息一つ。 『んで、今日は何なんだよ? マジでくだらねぇことだったら飯抜きだからな』 饅頭如きに怒るのも馬鹿馬鹿しいと思ったのか、手を離して質問する。 まりさは苦しかったのか、二三度咳き込んでから口を開いた。 「ここからだしてね!」 やっぱりそれか、と部屋にまた溜息が落ちる。。 青年は呆れ顔をしながら、まりさを見下ろす。 『やだよ』 「どうじで!?!」 拒否の言葉に、まりさは納得いかないと言わんばかりに歯を剥き出しにして食いついてくる。 『どうしても何も、お前馬鹿で何度も言っても部屋荒らすだろ、だからだよ』 はい、話はお仕舞い、と青年は肩を竦めながら踵を返す。 彼はまりさとこの手の話は何度もしたし、これからもするだろうから無駄に時間を使いたくないのかも知れない。 雑誌を読み直そうと、元居た場所へ戻ろうとした背中にまりさの声が押し付けられた。 「いいからここからだしてね! まりさはもういちゆんまえなんだよ!」 『はいはい、一人前ねぇ、そんなん自分で生活できるようになってから言おうな?』 具体的には部屋を荒らさないレベル。 青年はそう考え、どうせ無理だと諦めながら雑誌に手を伸ばし、座りなおそうとしたが……。 「ゆぐぐぅ! まりさはおにーさんの おせわになんか ならなくても もう じゅうぶんくらしていけるよ! いちゆんまえなんだよ!」 『…………』 まりさの根拠不明の叫びを聞いて、伸ばした手をそっと戻して振り返った。 『……お前、今なんつったよ?』 視線を受けて、まりさは一瞬ビクっと震えたけれど、直ぐにまた強がる顔に戻り。 「なんかいもいわせないでね! まりさは もう いちゆんまえだよ!」 ……そこまでは良い、饅頭の自意識過剰は今に始まった訳じゃない、と彼は頷く。 「おにーさんの おせわになんかならなくても じゅうぶんくらしていけるよ」 『そうか、わかった』 まりさの言葉に笑顔で頷く青年。 最近何度か、どうしてコイツを飼い始めたんだったか疑問に思い出していた彼は、とびきりの笑顔を見せた。 そして、その手でまりさの頭をむんずと掴むと……。 「ゆ? おにいさんやっとわかったんだね! これからは まりさのいうこ、ゆびゅべっ!?」 『んじゃ、お前今日から庭住みな、しっかり生きろよ?』 庭へ続く戸を開けると、手入れをしていないので草が生え放題のそこへ放り投げた。 まりさは顔面から着地して、情けない声と共にうんうんを漏らして震えている。 青年は胸がスーッとするような爽快感に、久しぶりにまりさといて笑顔になれたな、最初からこうすれば良かったな、と頷いてた。 そして青年は、震えるまりさの背中というかあにゃるに声を放り投げた。 『んじゃ、頑張れよ、いちゆんまえのまりさちゃん』 「ゆ?」 彼がピシャリと戸を閉めると同時に、震えていたまりさは身体を起こした。 そして直ぐに周囲をキョロキョロ見渡して自分が外に、普段おにーさんに頼んで頼んでたまの出して貰う庭にいると気づいた。 「ゆっ! まったくおにーさんは ようやくまりさが いちゆんまえってみとめたんだね!」 まりさは、青年が自分のお願いを聞いてくれて外に出してくれたものと判断したらしく偉そうに踏ん反りかえると直ぐに庭で遊びだした。 普段なら青年が監督しているからあんまり好き勝手出来ないからと、まりさは庭を跳ね回り、草や花を無造作に引きちぎったりして遊んだ。 それから数十分、一人遊びでは限界が来るし、今日は餌も食べずに遊んでいるから空腹を覚えたまりさはしっかり閉められた戸の前に踏ん反り返る。 「おにーさん! まりさはおなかがへったよ! はやくふーきふーきしておうちにいれてね! すぐでいいよ!」 声を高らかかに青年を呼ぶが、まりさの声に応えるものは無く。 戸は閉じられたまま、むなしくそこにあるだけだった。 「ゆゆー!! おにーさん! まりさがよんでるんだよ! はやくでてきてね! なにやってるの!!」 反応が無いことに腹を立てて叫んでみても戸は開かれることはない。 何故なら青年は居間から離れた位置にある自室で、音楽を聞きながら漫画を読むという優雅な時間を過ごしているから。 まりさの声は聞こえないし、例え聞こえていても生意気饅頭の言うことを聞くつもりは一切ないのだ。 そんなことを知らないまりさは、戸の前でぴょんぴょん跳ねながら何度も何度も青年を呼んでいたけれど、やがて疲れたのかその場でつぶれ饅頭みたいに身体を休ませ出した。 「ゆひー、ゆへー……おにーさん、なにしてるのぉ? かわいいまりさが、よんでるのにぃ……」 疲労と空腹、そして着てくれない寂しさに涙を滲ませながら、ゆっくりと暮れだしている空を不安そうに眺めていた。 それから2時間ほどして、泣きつかれたまりさが眠っていると暗くなって久しい居間に電気がついた。 漫画に夢中になっていた青年が、そろそろ夕飯にしようとこちらに出てきたのだ。 光と音でそれを察知したまりさは飛び起きると、頬を膨らませながら待った。 「…………(おにーさんがきたら まりさおこるよ! まりさをこんなにまたせるなんてゆるされないんだから!)」 待った。 「…………(それからあまあまだよ! シュークリームさんをようっきゅうするよ! そのけんりがまりさにはあるんだから!)」 待った。 「…………(それからそれから、きょうからおにーさんがあのさくのなかでくらすんだよ! おうちはまりさのだよ!)」 待った。 だけど、戸は開けられることはかった。 まりさの予想予定妄想では、直ぐに戸が開けられて青年は怒るまりさに平謝り。 それを寛大に許してあげて、あまあまとおうちを手に入れるのだったけれど、青年はまったくこちらに来ようともしない。 『夕飯どーすっかなぁ……おっ、コロッケ買ったの忘れてた、これでいっか』 青年はまりさをかなり本気で忘れて、冷蔵庫から発見したお惣菜を見て笑顔になっていた。 彼にとってこの夕飯時は、一々自分の食べてるものを寄越せと叫ぶまりさと一緒で心休まらない時間だった。 それが今日はないので、とてもゆっくりとした表情のまま夕飯の準備をしていた。 『あー、肉が賞味期限やばいし冷しゃぶにでもするかな……軽く日本酒混ぜて、タレはごま油に醤油に、おっ。トマト缶あるからオリーブオイルのタレもつくっちまおっかな♪』 普段ならば騒ぐまりさにイライラしながらなので、適当な料理になってしまうけれど今日はとても穏やかな気持ちで、ちょっと凝った料理をやってみようかな、とまで思えるほどにリラックスしている青年。 そして、戸の外で今か今かと青年来るのを待つ魔理沙、しかしその今は一向にやってこないでいた。 青年が料理を終えて、それらを座卓に運び終えたときに、彼は初めてまりさを意識した。 『あ……ちっ』 意識した感情は『嫌なもん見た』と言ったものだった。 そこに来てまりさは自分が無視されて―――正確には忘れられて―――いることに気づいてプルプルと怒りに身体を震わせ。 「おにぃいさぁぁぁああああぁぁあん!! なにじでんだぁああああ!! まりさがまってるでしょおおおぉおおおおお!?!?!」 爆発するように叫び出した。 疲れも空腹も忘れて、その場でボスンボスンと地団太を踏みながら大声で喚く。 涙を流して、怒りをそのままに。 だけど、青年は―――。 『トマト冷しゃぶやばいな……正直はまりそう』 「きげぇぇえええええええ!!!! どぼじでぇ! どぼじでむじずるのぉおおおぉおおおお!?!?」 ―――優雅に楽しく夕飯に熱中しているようだった。 「まりざはおながずいですんだよぉおおおぉお!! ざっざどごはんんんんん!!!!!」 『………………』 居間にいて、直ぐそこにいるまりさの声は聞こえてはいるけれど、青年は明らかに無視をしていた。 しかも、無視をしながら必死に自分に声をかけてくるまりさを見ながら優越感に似た喜びを感じているようで、普段よりリラックス出来ている。 それから20分ほど、夕飯を終えてまったりと食後のお茶を飲みながらテレビを見ていた青年は、ふと思い出したように立ち上がり。 今では飛び跳ねる元気もなくなり「ゆぐゆぐ」泣いているまりさの目の前にガラス戸を開けた。 「ゆっぐゆっぐ、ばりざ、ごはんん、ゆ!?」 『さっきから五月蝿いんだけど』 片手の小指で耳を穿りながら、明らかに面倒臭そうな顔をした青年はまりさを見下ろしながらそう言い放った。 「ゆゆ!? なんなのぞのだいどはぁぁぁぁあああああ!!!」 『あー、うるせーうるせー』 青年のあまりにダルそうな態度にまりさは目を見開き、大声で吠え出した。 まりさにしたらここは申し訳なさそうに頭を下げて、そしてあまあまを献上するのが筋だと思っていた。 そしたら「まりさもおにじゃないからね! おにーさんとくべつにゆるしてあげるよ!」と言ってあげるつもりでもあった。 その予定が根底から一気にポーンしてしまったので、まりさの薄い理性もポーンしてしまった。 「ゆっが! ゆが! ゆっぐぉおおお!!」 『何語だよ、それ』 怒りで言葉も喋れなくなったまりさは、その場で身を捩りだしていた。 それを見ながら青年は『うわぁ、きめぇ』と小さく呟く。 「どーゆーつもりなのおにいさん!!! まりさをこんなにまたせておいて! じぶんだけゆっくりしてたくせにぃい!!」 ポーンと飛んでいった理性を拾ってきたのか、まりさは再び人語を喋るようになって怒りのままに青年を怒鳴ったが。 『どーゆーつもりも何も、言ったろお前今日からそこで暮らせって』 「はぁぁぁああぁあああ!?!? なにいっでるの?!」 青年はつまらなそうに言って、まりさはそれに跳ねながら大声をあげた。 その声にイライラするのか、彼は溜息をついてから、戸に手をかけて。 『お前はもう一人前なんだろ? 言ってたろ、俺の世話にならなくても生きていけるって。じゃな、頑張って生きろよ、特別に庭にはいさせてやるから』 「おにぃいさあぁああん!? なにいっで、ちょっどぉおおお!?! なんでしめちゃうのぉおおお!?!?」 言うことを言うと、まりさの反応なんてまたずに青年はさっさと戸を閉めて、そのまま居間の電気を消すと部屋に戻っていた。 そして、優雅にだらだら過ごして寝てしまった。 その間もまりさは騒いで跳ねて、声をあげてそして泣きつかれて寝た。 ……。 …………。 『うーっし、行ってきまーす』 「おにいざん!! ばりざのごはんがまだでしょ!? あとおふろいれてね! あとあまあまちょーだいね!!!」 青年が起きて、朝食を取っている間は騒ぎ倒して、そして無視をされてたので今度は玄関先で待ち伏せをしていたまりさ。 昨日言われたこと、そしてその前に自分が言ったことを忘れてるのか、忘れたことにしているのか、まりさは偉そうに汚れた身体をふんぞり返らせた。 が、しかし―――。 『お前は一人前なんだろ? 一人で頑張れよー、んじゃな』 「ちょ、ま、まっでえっぇええぇええ!!! ごはああああああん!!」 彼はまりさに視線を向けることすらしないで、さっさと家を出ていた。 この家は少し街中から離れた場所にあるので急がなくてはならにのだった。 その分、家賃は安いし、まりさがいくら騒いでも苦情もない。 そんな訳で、爽やかな朝日の中青年はゆっくりでは追いつけない速さでどんどん歩いていってしまう。 「まっで! おにーざん! まっで! ばりざおごってないよ?! いまならゆるずからぁぁああぁああ!!!」 まりさは的を外れて自分に跳ね返ってきそうな勘違いな言葉を吐きながら青年を追うが、直ぐに追いつけなくなってしまう。 人間との運動能力の差は激しいを取り越して無理だし、昨日から何も食べていないまりさは身体に力が入らなくなっていた。 「おなか、すいたよぉ……なんで、まりざがこんなめにぃっ!」 涙を流しながら、ずりずりと這いずってまりさは家の庭に戻ってきた。 「ごはん、おにーさん、どうしてぇ……」 そして、庭に戻ってうろうろ歩き回って、どこかに自分の食事が用意されていないかを探し回るけれど。 青年は何一つ用意することは無かった。 このまりさは生粋の飼いゆっくり、両親も飼いゆっくり、そして自身もある会社の大量生産とは言え飼いゆっくりの教育をされてペットショップを経て青年に買われた。 その間に、野良の生活は見たことはあったけど自分とは関係ない世界の話と思っていたので、こんな状況になると食べるものなど存在しない。 家の庭は草や虫が結構いるので、野良ゆっくりなら数家族楽に養える狩場ではあるのだけれど、まりさには自分の周りにあるものが食べ物と認識出来ていなかった。 なので、その場で蹲って「おにーさんがかえってきたら こんどはまりさおこるよ!」等と空腹を誤魔化すしかなかった。 「ゆぅう、まりさのごはんさん、まりさのごはんさぁん…………」 昨日食べずに撒き散らした餌が今になって恋しくなったまりさは、涙を流しながらうなり続ける。 それでも、まりさの空腹が満たされることなんて絶対なくて、ただただ疲れが溜まるだけだった。 それから数時間、まりさはただただ青年が帰ってくるのを待っていた。 日が暮れた頃に青年が帰ってくると、まりさはずりずりと底部を這わせながら寄っていき。 「……おにーさん、いったいなにをしてたの? まりさおなかがすっごくすいてるんだよ? それなのに ごはんもよういしないで………………いっだいなにじでだんだぁぁぁあぁああぁっぁあぁぁぁあぁああぁああああ!!!!!!!!!」 今まで怒りを溜め込んでいたのか、それを一気に爆発させて口を限界上に開いて叫んだ。 『はぁ?』 完全にまりさを忘れに忘れていた青年は、帰って来て今日は夕飯何にしようかな? とか上がっていたテンションが一気に下降したのを感じた。 足元でぎゃーぎゃー騒ぐ汚い饅頭を見ながら、青年は溜息をつくと、話を聞いてあげるつもりはあるのか家には入らずにその場に立ち止まった。 『んで、何だよ? 要があんならさっさとな』 「な、な、なんなのそのたいどはぁっぁああぁあああああああ!!?!?」 『あー、うるせーうるせー』 叫ぶまりさに、流す青年。 彼は片耳を塞ぎながら、つまらなそうに眼を細める。 『んで何だよ、俺腹減ってんだからさっさと言えよ』 「おながへっでるのはばりざのぼうだよぉおおぉおおおおぉおおおおおおおおお!!!!!」 『話進まねーな、んで何だよ一人前のまりさちゃんよ』 「なにって!! おなかがへってるっていってるんだよ!? まりさが おなかへってるっていったら おにーさんはごはんださなきゃダメでしょぉおおおおお!!!」 まりさの必死に叫びに、青年は溜息一つで。 『なんで?』 「はぁぁぁああああぁぁあっぁあああああああぁぁぁっぁああああぁぁぁぁっぁあああぁあ?!!?!?!?!?!?!?!?!?!」 『うるっせー』 若干まりさの反応が楽しくなってきたのか、彼はニヤニヤ笑いながら耳を塞いでいた。 そして、見下すのに疲れたのかしゃがみこむと、ニヤニヤ笑いながら。 『んで、何で俺が餌を用意しなきゃなんねーんだよ?』 「なんでって、なんでって! おにーさんがまりさにごはん くれるのはじょーしきでしょぉおおぉおお?!!?」 所詮安物銀バッジ、この程度の知能である。 人間が餌をくれるのは当然と思ってはいたけれど、奴隷とまでは見下さないそのレベルだった。 そして、青年もその常識に則ってまりさに餌を与えていたけれど、それも昨日までの話だ。 しゃがんだ青年は、楽しそうに笑って口を開いた。 『常識じゃねーよ、つーか、お前は昨日言ってたろ? 自分はもう一人前だから俺の世話にならないってよ。なのになんで俺に餌貰うんだよ? ばっかじゃねーの?』 「ゆが!? そ、それとごはんさんとはべつでしょぉおおぉおお?!」 投げかけられた正論に言葉をつまらせたまりさは、表面に砂糖水の汗をかきながらゆっくり特有の〔れいっがい〕理論を発動させる。 〔れいっがい〕理論とはゆっくりが正論言われたときに、自分の行いだけは全て正しいから例外だと主張したりするゆっくりなら誰もが備えている餡子理論である。 そんな理論を叫んで青年が納得するハズもなく。 『例外の訳ねーじゃん、お前は俺の世話にならなくても大丈夫って言ったんだぞ? あ、もしかして嘘? やっぱりまりさは俺の手助けなくちゃ生きられないゆっくりなんだぁ、へー、もう大人なのに、ぷっ、赤ゆっくりかっての』 「な、なにほざいてるのぉおお!? まりさはいちゆんまえだよ! おにーさんなんかいなくてもだいじょーぶなんだよぉおおお!!!」 『はい言質取りましたー、んじゃ、ソロ生活頑張れよ?』 まりさの叫びを聞いて彼は立ち上がると、さっさと家の中に入っていってしまった。 その背中を見ながら、叫んだ状態のまま固まっていたまりさ。 再び動き出すのは2分後だった。 しかし、動き出しても、叫び倒しても青年は庭に出ることはなく、まりさ今日も庭で一夜を明かすことになった。 ……。 …………。 「おなが、へっだよ…………」 次の日の昼間、日差しを避けるように庇の下で潰れ饅頭になっているまりさ。 いくら成体で、しかも一昨日までは栄養たっぷりの餌を食べていたとしても二日の絶食と、野宿のゆっくり出来なさに限界が来ていた。 まりさは何で青年が自分に〔いじわる〕するのが未だに解らなかった。 それが自分の根拠の無い見栄や自信により引き起こされている物と気付かないまま、青年が今日は〔かいっしん〕してくれると信じていた。 しかし、そんな訳もなく青年は自分の食事を済ませると、まりさを室内で飼っていたときなんかよりずっとゆっくりした表情で家を出て行った。 その背中を昨日より元気なく追いかけたが、青年はまた。 『まりさは一人前なんだよな? 俺の世話なんかいらないんだよな?』と聞いてきて。 それに反射的に「そうだよ! まりさはなんでもできる いちゆんまえなんだよ!」と答えていた。 それが原因だと未だに気付かないまりさ。 それもそうなのだ、まりさにとってご飯は人間が出してくれるもの、水も巣も全て人間が提供するのが当たり前。 極端な話、人間にとっての呼吸の認識なのだ。 して当たり前、して貰って当たり前、否して貰っているという感覚すらない。 だから、自分を〔いちゆんまえ〕と称してもそれらは自分のすることの範疇に入っていないのだ。 故にまりさは自分が〔いちゆんまえ〕という発言は撤回しないし、今の状況を〔いじわる〕くらいにしか思えないのだ。 このまま食事をしなければ早ければ後2日くらいで死に至ると言うのに。 そして極力動かないまま夕方になり青年が帰ってくるのを玄関先で待っていたまりさ。 『あー、今日は何食うかなぁ……ん? 何してんだ? 邪魔』 「まっでね、おにーさんごはんちょーだいね、まりさ、もうおなかペコペコなんだよ……」 やつれたまりさの言葉を聞いての反応は。 『ふーん』 と、それだけ。 叫ぶ気力もないらしいまりさは、悔しそうに歯を食いしばって彼を見上げると。 「おにーさん、まりさがなにかしたならあやまるよ、だからごはん、ちょーだいね」 まりさにしたら〔なにもわるいことしてないのに〕仕方なしに謝る状況。 その悔しさがしっかり顔に出ているので、青年にはその心境が丸見えなのはご愛嬌。 それが解っているから青年はニヤニヤしながら。 『いや、だからさぁ、まりさは一人前なんだろ?』 「そうだよ、まりさはいちゆんまえだよ? それがどうかしたの?」 『お前さ、一人前ってどんなことか知ってるの? 野良の成体がどんな風に暮らしてるかとか?』 まりさの話に付き合うように、話し出した。 「ゆぅ? いちゆんまえは、いちゆんまえ、だよ? それがどーしたの?」 しかし、悲しいかな安物餡子脳、青年の言葉を簡単には理解してくれない。 『良いかまりさ、一人前ってのはな? 自分で自分の住む家を見つけて、餌も自分でとって、何でも全部出来て一人前なんだよ』 「ゆ、ゆがーん!!」 知らされた一人前の事実にまりさは口を開けてショックを受けていた。 今までまりさが言っていた〔いちゆんまえ〕は特に何の根拠もない発言だったのだ、そこに普段自分では絶対しないことを追加されてしまうとは思いもしなかった。 『お前は、俺に家も餌も水もなんでも用意して貰ってようやっと生きてるマジで赤ちゃんレベルなんだよ、理解できる?』 「ゆ、ゆ、ゆぐぅ…………そ、そんなのうそだよ!! そんなわけないよ! おにーさんはうそつきだよ!」 『はぁ? なんでよ?』 しかし、ゆっくりは自分の常識を覆すことを大いに嫌う。 青年の言葉を嘘だと断言して睨みつける。 「そんなのまりさきいたことないよ!」 『そりゃお前は教えられなかっただけだっつの』 「ちがうよ! うそなんだよ! おにーさんがらくをしたいから まりさにうそいってるだけなんだよ! いじわるだけじゃなくて、うそまでつくなんてゆっくりできないよ!!!!」 『…………』 「おにーさんのうそつき! うそつき! うそつき! このゲス! いいからさっさとまりさにごはんよういしてね!!」 『…………はぁ』 事実を受け入れられない、元から受け入れる気が無いまりさは大声で青年を「うそつき」と罵りその場でゴロゴロと身体を転がしだした。 溜息をついた彼は頭を掻いて立ち上がると、呆れたような眼で、事実呆れきった眼でまりさを見下す。 「なんなの!? なんなのぉおおおおぉお?! わるいのはおにーさんでしょぉおおお!? そのめはなんなのぉおおおおおおおお!!!!」 『何か面倒になっちまったな、ちょっと待ってろ……』 「ゆ! やっとはんっせいしたんだね! さっさとごはんもってきてね!!」 青年はつまらなそうに手を振ると、家の中に入っていき、まりさを飼っていたサークル内に置かれたダンボールと買い置きしておいた餌を皿に盛って庭に戻ると、それらを放り投げた。 『ほれ』 「ゆわーいごはんさんだよぉおおお!! ゆわわーい!!」 まりさは涙を流しながら喜ぶと、餌皿の中に身体全体を突っ込むと久しぶりの食事を堪能していた。 それを見ながらゆっくりは、庭の隅にダンボールを設置すると尻を振りながら食事するまりさをつま先で軽く蹴り飛ばした。 「ゆびゅ!? なにずるの!! やべでね!」 『とりあえずよ、餌はお前にくれてやるよ』 「ゆ?」 彼は庭の隅に設置したダンボールを指差した。 『巣もくれてやるよ、だから、一人前なら一人前らしく一人で生きてみろ』 餌と巣を貰っている時点で一人前には程遠いのだけれど、優しい優しい青年はそう言い放った。 それを聞いたまりさはしばらくフリーズしてから。 「ゆ! わかったよ! おにーさんはやっとじぶんのやくめをおもいだしたんだね! ゆふふ、よかったよ」 そう解釈したらしく、さも理解ある父親みたいな顔をして笑った。 一瞬踏み潰しそうになったのを堪えた青年は、まりさに何度もしっかり約束をさせた。 庭で暮らす。 餌をやるが一日分をまとめて。 それ以外は全部自分でやれ。 と、簡単にこれだけだった。 まりさは「まりさはいちゆんまえなんだよ! これくらいかんたんだよ!」と自信満々と言うか。 新しい生活に希望を抱ききっているようだった。 そして最後に青年は『もし、どうしてもダメだと思ったら、自分が一人じゃ何も出来ない赤ちゃんゆっくり以下のゴミと、認めたら助けてやんよ』と告げて家に入っていった。 まりさはそれに「ぷくー」と膨れて威嚇をして怒りをあらわしていた。 青年が餌をくれて、巣も用意してくれたことでしっかり無敵気分になっているらしい。 そして、まりさは久しぶりにゆっくりとした食事を取ってダンボール内で睡眠をとった。 ……。 …………。 「ゆっ! ゆっくりおきるよ!」 本格的に庭で暮らしだしたまりさの生活は幸せだった。 ダンボールの小屋から外に出れば軒先に餌皿に山盛りになったご飯が置かれているのだ。 それを存分に食べたら、以前は狭いサークル内だったけれど今は広い庭を走り回って遊べる。 相変わらず半日くらいで飽きはくるけど、少ししたらそれも忘れてまた遊びだす、それを繰り返して一日は過ぎていった。 そして、夕方に青年が帰ってきたら。 「おにーさん! まりさよごれたよ! さっさときれいにしてね! きいてるの!? まりさよごれ、はなしをきげぇぇえぇええええ!!」 要求を叫んで無視される日々だった。 本当に口だけ一人前のまりさは、常に青年に頼ろうとしていた。 最初の頃は、一日分の餌を一気に食べつくしてしまい空腹のまま青年を怒鳴りつけたりもしたが、今は何とか学習出来たらしく分割して食べていた。 青年はもはや無視をして、惰性でまりさを飼っているレベルだったので、庭のことは完全に無視をしていた。 毎朝、餌皿に適当にゆっくりフードをぶち込むだけで後は知らない。 そんな関係での生活が続いたある日。 「ゆ、ゆっ! ゆふー、ちょっとつかれたから ごはんにするよ!」 いつもの様に昼間庭を動いていたまりさ。 家で暮らしていた頃より大分汚れているが、餌は十分食べているので元気なようだった。 そして、今もまた朝の食べ残しを食べようとしていたら、不意に背後から声をかけられた。 「ま、まりさ、ゆっくりしていって、ね?」 「ゆん?」 食事をしようとしていたまりさが振り向くと、そこには一匹のれいむがいた。 正確にはれいむと、その影に隠れるように子れいむ子まりさも、だ。 そのどれもが実にボロボロ。 母親なのだろうれいむは、リボンは端々が切れていて汚く汚れているし。 もみ上げをまとめるお飾りも片方なくなっていた、そしてしーしー穴の周りはぐちょぐちょ、あんよは真っ黒。 体中にゴミやらをつけていて、子ゆっくり二匹もそれよりかはまし、程度の一般的な野良だった。 この辺りは民家が少なく、かといってゆっくりが住めそうな場所もないので、まりさは青年に公園へ連れて行って貰う以外にゆっくりを見たことは無かった。 庭で暮らし出してからは、散歩にも連れて行って貰えていなかったのでまりさ的には久しぶりに見たゆっくりだった。 しかし、まりさの眼には警戒というか嫌悪の色が浮かんでいた。 「……なんのようなの? ここはまりさのゆっくりプレイスだよ!」 「ゆ、お、おこらないでね、まりさ……おちびちゃんがこわがってるよ」 「こ、こわいのじぇ……」「おきゃーしゃん、だいじょうぶ?」 庭への招かれざる侵入者を睨むまりさ、そして窺うように見てくれるれいむと、怯える子ゆっくり。 常に綺麗な飼いゆっくりばかり見ていたまりさにとって、目の前の三匹は汚物くらいにみえていたのだ。 そんなまりさも庭暮らしで自分で身体を綺麗にするやり方も知らないもで、綺麗な野良くらいにはなっていたりするのだけれど。 それでも、れいむ達よりかは遥かに綺麗だった。 このれいむは、まぁ、ありがちなくらいありがちなテンプレしんぐるまざーだった。 熱愛そして夫の死というどこでも見られることを経て、自分で狩をしていたけれど満足な餌をとれずにフラフラここに迷い込んだのだ。 そして、そこで美味しそうなものを食べるまりさを見つけて声をかけたのだった。 「まりさ、その、よかったられいむたちにごはんをわけてほしいよ、おちびちゃんが、おなかすかせてるから……」 れいむは控えめに、ゆっくりとしては下からお願いをした。 だけど、まりさは……。 「なにいってるの!? これはまりさのごはんだよ! おまえらみたいなきたないのにはひとつもあげないよ!!」 「ゆゆゆぅ!?」 断られる可能性は考えていたものの、あまりに強い否定にれいむは驚いているようだった。 このれいむが子ゆっくりに二匹を連れて狩をしているのは、子供を見せて同情を引く為でもった。 出汁にするために、虐待をしたりは決してしていないけれど、少しでも餌が手に入るならとの考えで。 可愛い子ゆっくりがお腹を空かせてる可哀相な姿を見せれば、きっと餌が手に入ると信じていた。 なのに、まりさに「きたない」と一蹴されて悔しさに涙が出てきていた。 それを子れいむ子まりさが「ぺーろぺーろ」と舐め取っていく。 「お、おねがいだよまりさぁ! おちびちゃんがおなかをすかせてるんだよぉおお!? そんなにあるんだからすこしぐらい れいむたちにくれても……」 自分の子供に同情される悲しさで、更に涙を流して、れいむは餌皿にある大量の―――野良なら三日は食いつなげる―――食料を見つめた。 「なにいってるの! これはまりさのだっていってるでしょ!」 「ゆう、しょんなにあるのに……」「じゅるいのじぇ」 子ゆっくりたちは、自分たちの身体より高く積まれたゆっくりフードを羨ましそうに眺めていた。 それでも、成体サイズのまりさが怖いのかれいむの影からは出ない窺うだけに留めていた。 「まりさぁ、おねだいだよ! そんなにごはんあつめられるってことは まりさはかりのたつゆんなんでしょ? だったらすこしくらい……」 「ゆ? たつゆん? かり……」 れいむの言葉にまりさは、ボーっと反応した。 頭の中の何処かにあった言葉「かり」そして「たつゆん」 まりさ種ならば大抵一度は自称する「かりのたつゆん」 それがまりさの頭の中に初めて埋め込まれた。 「そうだよ! まりさはかりのたつゆんだよ!」 「だよねだよね! だったられいむたちにすこしくらいわけてくれても だいじょうぶだよね?」 れいむは少しでもまりさをおだてて、どうにか餌を貰おうと必死になっていた。 そんなれいむの心境に気付かないまりさは、自分が「かりのたつゆんだ!」と笑みを漏らして。 「ゆふぅー、しかないね、まりさはかりのたつゆんだし、いちゆんまえだから、れいむみたいなおちびちゃんゆっくりにごはんをあげるよ!」 「ゆ、お、おちびちゃん、ゆっくり?」 それはかつて青年に言われた一言、まりさを強く傷つけた言葉だった。 まりさはそれをれいむに向かって言い放った。 「そうだよ! まんぞくにかりもできないゆっくりは、おちびちゃんといっしょだよ! まったくまりさをみならってほしいよ……」 「ゆぐ!!?」 優越感から汚い笑みを浮かべながら、れいむにそんな言葉を向けた。 自分が以前と何も成長していない、青年の庇護の下に生きるしか出来ない「おちびちゃんゆっくり」だと言うのに。 ゆっくりながら必死に子供二匹を育てるれいむを見下していた。 れいむは悔しさを覚えながらも、ここでまりさの機嫌を損ねる訳にはいかないと歯を食いしばっていた。 「ゆっ、これをあげるからさっさとかえってね!」 そのれいむの前に、まりさはゆっくりフードを一粒放り投げた。 「ゆ、ゆ? ま、まりさ、これ、だけ、なの?」 目の前に落ちたゆっくりフード一粒、大きさは人間の小指の第一関節ほどの円柱型をしているそれが、たった一つ。 れいむはゆっくり出来ないことまで言われて、これしか貰えないのかと呆然としていた。 餌皿にある全て、とは言わないけどせめて半分くらいは貰えるのでは、と内心思っていたのでその落差に開いた口が塞がらなくなっていた。 「まりさ、せめて、せめておちびちゃんが 「あまえないでね!」 ゆひ!?」 「あのねれいむ、らくしてごはんがてにはいると おもわないでね! れいむはおちびちゃんゆっくりだから わからないかもしれないけど まりさは たっくさんがんばってかりをしてるんだよ!!」 一ミリも頑張っていないまりさちゃん(生後5ヶ月)の言葉でした。 「わかったらさっさとそれをもってどっかいってね! まったく、おなじゆっくりとしてはずかしいよ!」 「ゆぅう……」 れいむは目の前のゆっくりフード一粒を頭の上に乗せると、悔しそうに帰ろうとする。 だけど、それまで母の影に隠れるだけだった二匹が初めて前に出た。 「まりしゃおじしゃん! だったらそれがあるばしょおしえてほしいのじぇ!」 「れいみゅたちが がんばってかりしゅるから!」 「お、おちびちゃん…………」 自分の前で必死にまりさに教えを乞おうとする二匹の子供に、れいむは涙を浮かべていた。 そして、自分の不甲斐なさから、れいむ自身も頭を下げる。 「れいむもおねがいするよまりさ! おねがいだから、かりのばしょをおしえてね!!」 「ゅ、ゆゆぅ…………」 三匹に頼み込まれて困ったのはまりさだ。 何故なら、このゆっくりフードは朝青年が持ってきてくれるものなのだから。 どこにあるか、それは家の中なんだろうけれど、それすらまりさには思いつかない。 まりさにとって餌は「おにーさんから、かってにはえてくる」ものなのだ。 「ゅ、そ、それは、えっと……」 「おねがいしゅるのじぇ! かりのたつゆんのおじしゃん!」 「かりのたつゆんしゃん! おねがいしましゅ!」 「まりさぁぁああ!! おねがいだよぉお、かりのたつゆんなんでしょぉおおお!?!?」 困惑するまりさを、三匹は「かりのたつゆん」と褒めながら頭を下げてくる。 そう呼ばれることに快感を得てしまったまりさは、本当のことを言うなんて出来ない。 だからまりさは誤魔化す為に……。 「きょ、きょうはもうまりさつかれたから、ほら、もっとあげるから、またこんどおしえてあげるよ!」 「「「ゅ、ゆわぁぁあ!!」」」 餌皿から、親子三匹なら十分以上のゆっくりフードを明け渡した。 「ありがとうかりのたつゆんのおじしゃん!」 「とってもゆっくちしてるのじぇええ!!」 「ありがとう、ありがとうばりざぁぁあ!!」 涙を流して感謝してくる三匹。 生まれてこの方味わったことない快感に餡子を震わせていたまりさは、ニヤニヤしてしまう。 そして、餌を三匹が食べ始めれば、これまた感謝の「しあわせー!」の連呼。 かつて無いゆっくりを感じているまりさだった。 そしてその後は、子ゆっくり二匹が久しぶりの満腹感に眠りだしてしまった為、れいむ一家はまりさの段ボールに泊まることになった。 そこでもまりさは優越感を得ることになった。 まりさが住んでいる段ボールは数日前まで室内にあったり、野良のゆっくりが使うようにただ横倒しにしたのではなく、青年がしっかり密閉してから壁面にまりさが出入りする穴を開けたものだった。 そして、何より広く中にも雑巾が何枚か敷かれている野良ではありえない豪邸だ。 れいむたちが眼を丸くしているのを見て、それまではあって当然だった段ボールがとても誇らしく思えてきたのだった。 感心して羨ましがり、まりさを褒めるれいむ一家にまりさは気分良くして、久しぶりに他のゆっくりと頬を触れ合わせて眠った。 ……。 …………。 「ゅ、ゆわぁあああ!! すっごいごはんさんだよぉおお!」 「「しゅっごぉおおおおい!!」」 「ゆっへん! それほどじゃないよ!」 次の日の朝、疲れからか、それとも元からかぐっすり寝ているれいむ一家が起きる前に、まりさは青年が用意してくれたゆっくりフードをわざわざ帽子に入れて段ボールまで持ってきた。 目の前に積まれた大量のゆっくりフードに、れいむと子ゆっくりたちは眼を丸くしていた。 昨日は既にまりさが半分近く食べていたので減っていたが、今あるのは青年は補充してくれたばかりなので大量も大量だ、あくまで野良視点ではあるが。 「おじしゃん、こりぇ、たべていいのじぇ?」「ゆっきゅり、ゆっきゅりぃ……」 涎を垂らして眼を輝かせる二匹と、こちらも涎だらだらのれいむ。 「ゆーん、どうしよっかなぁ、まりさがかりしてきた ごはんだし……」 「「「ゆ!?」」」 まりさの言葉に三匹は一気に悲しそうな顔をした。 子れいむはもみ上げをパタパタさせて泣きそうになりながら、子まりさは涎を垂らしながらお下げを振り回していた。 「まったく、しかたないゆっくりたちだね! いちゆんまえのまりさがとくべつにわけてあげるよ!!」 「「「ゆわぁあああい!!」」」 まりさの言葉で爆発するように三匹は食事を始めて、まりさも直ぐに食べだした。 優越感と、同種と一緒に食べる食事にまりさはゆっくりを感じなている。 そして食後、一日分のほとんどを食べ散らかした4匹は、体中を汚していた。 野良一匹ならば六日分くらいはあった食料、それを限界まで食い散らかしたのだった。 まりさも、覚えてきた配分も忘れて入る以上に食いまくった。 「ゆげっぴゅ!」「おなかいっぱいなのじぇえ……」 「まりさ、ほんとうにありがとうね……」 そんな3匹の言葉にまりさは胸を張って。 「ゆふん! まりさはいちゆんまえだからね! これくらいかんたんだよ!」 と偉ぶって宣言したが。 昨日の約束通りに、と狩場を教えるように3匹が言ってきた。 まりさはそれに「きょうもつかれているから!」そう言って、庭で遊びだした。 れいむを含めて、子ゆっくりたちにはこの庭は天国だった。 草が生い茂っていて、危ないものはないし、野良ならば食べられる草が山ほどあった。 しかもそれを横取りするゆっくりもいないという、最高のゆっくりプレイスだった。 れいむは、辛らつなことを言うまりさに感謝しきりで、子ゆっくりたちも感謝を示した。 それがまりさには気分が良くて良くて、今日も段ボールに泊めることになった。 朝ゆっくりフードを食い散らかしたけれど、れいむ一家は草や虫を取って食べていたので食事は特に問題はなかった。 まりさは普段より少なめな、ゆっくりフードを満足しながら食べて寝る。 そんな生活をしばらく続けていた。 早起きなまりさが、青年からの餌を狩の成果といって持ち帰り、それを食べてから餌場への案内を求められて断る、それからは庭で遊んで夜寝る、そんな生活。 その内に、性欲を満たすためのすっきりーをしてしまい子供が出来ると、なし崩しに二匹は番になった。 住食満たされたら次は性欲と、実に欲望に忠実な饅頭らしい流れだ。 れいむの頭には茎が生えて、そこに実ゆっくりがなった。 「ゆわぁああ、まりさのあかちゃん、かわいいよぉお!」 「ゆっくりしてるね、まりさ」 「いもーとたち、はやくうまれてね!」「すぐでいいのぜ!」 一応家族はそれを見てゆっくりしていた。 子ゆっくりも栄養沢山のゆっくりフードのおかげでどんどん成長して、実ゆっくりも順調に育っていた。 初めての我が子にまりさはもうメロメロだった。 こんなに可愛いものが世界にあって良いのかと、本気でそう思うくらいには。 そしてついに生まれることになった赤ゆっくり。 れいむに言われてまりさは帽子でその小さな饅頭たちを受け止めた。 「「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!!!」」 「ゆ、ゆわっぁあああああ!! ゆっくりしていってねぇぇええええ!!!」 帽子の中で無駄にキラキラ光る眼で挨拶をした我が子にまりさは破顔して喜んだ。 その動きの一つ一つに感動して、感涙を繰り返した。 「おちょーしゃん! おちょーしゃん! れーみゅきゃわいい?」 「あったりまえだよぉおおおおおぉ!! せかいいちだよぉおおおおお!!」 わざとらしい赤れいむの問いかけにも全力で叫び。 「おちょーしゃ! みりゅのじぇ! まぃちゃこーんにゃにじゅーりじゅーりできるのじぇ!」 「さっすがまりさのおちびだよぉお!! さいっきょうかくていだねぇぇぇええ!!」 ちょっと這いずっただけの機動力ナメクジ以下の赤まりさを褒めちぎった。 「まりさは、まりさはしあわせだよぉおおおぉおおおお!!!」 しかし、そんな幸せは続く訳が無い。 「「「むーちゃ、むーちゃ、ゲロまずぅ」」」 赤ゆっくりが生まれて数日、段ボールではゆっくり出来ない声が響く。 それは母れいむ、そしてもう大分大きくなった子れいむ子まりさだった。 彼女らが食べているのは柔らかい草や虫。 以前は大好物だったけれど、ゆっくりフードに慣らされた為のゆっくり出来ない味になっていた。 何故そんなものを食べているかと言うと……。 「むーちゃむーちゃ! しゃぁわしぇぇぇえええ!!」 「おちょーしゃ! おいちいのじぇええええぇええ!!」 「ゆふふ、たくさんたべてね!」 そう、赤ゆっくりだ。 サイズは小さくても食べる量回数が半端じゃない。 しかも、それだけではなく自分の餡子を継ぐ赤ゆっくりをまりさが溺愛しているのだ。 その為に、義理の子である子れいむ子まりさ、そしてれいむにはゆっくりフードをほとんど分けないのだった。 最初はそれに抗議をしたがまりさが「これはまりさがじぶんのおちびちゃんにとってきたんだよ! じぶんのくらいじぶんでどうにかしてね! まったく、いつまでもおちびちゃんきぶんでいないでね!」と、初めて会ったときのように辛辣に言い放ったのだ。 まりさは赤ゆっくりに付きっ切りで、ゆっくりフードを与えて、れいむたちは段ボールの隅で苦い草を食べている。 そんな日々に限界を感じた子ゆっくり二匹は普段よりも早起きをした。 そして、まりさが狩に行った後をつけようとしたのだ。 自分でとったならば誰も文句は言わないだろうと、まりさが起きるのをずっと待っていたら。 『あー、だっりぃ』 「「ゆ?」」 子ゆっくりたちの耳に見知らぬ声が届いた。 そう、この家の庭の一応の持ち主の青年だ。 出かける前に、いつのものように餌皿にゆっくりフードを流し込みにきたのだ。 「れいむ……」 「まりさ……」 二匹は顔を見合わせると、まだ自分たち以外誰も起きていない段ボールからゆっくり出て行く。 「「ゆ!?」」 出た先で見たのは「にんげんさんが、いつもおとーさんが かりしてとってくるおいしいごはんさんを もっている」姿。 まぁ、青年が餌皿にゆっくりフードを注いでる姿そのままなのだけれど。 子ゆっくり二匹は、この状況が理解出来ずにポカンとしていた。 少し前までは野良をやっていたので、人間の存在は勿論しっていたけれど、まさかこんな近くで、しかもいつもまりさが持ってくるご飯とセットで見ると状況の判断が出来なくなるらしい。 この二匹は人間に激しい暴力を受けたことはないけれど、強く自分たちを簡単に殺せることが出来る生き物くらいには理解をしていた。 それと美味しいご飯の結びつきを出来ずにフリーズしていたら、餌を注ぎ終わった青年が二匹に気付いた。 『あぁん? いつの間にガキなんか作ったんだよあいつ』 まりさを庭で飼いだしてから本当に興味を失っていた青年は、今日始めて庭のゆっくりが増えていることに気付いたらしい。 「「ゆひっ!?」」 青年は軽く見ただけだけれど、子ゆっくり二匹は大げさにリアクションを取って、短い悲鳴をあげた。 ゆっくりフードの袋をそこらに置くと、数歩近づいて青年は子ゆっくりに二匹の前でしゃがみこんだ。 『お前ら何してんだ? まりさ、あー、いや、とーちゃんの代わりに餌を取りにきたんか?』 青年は何となく話しかけだした。 彼にしたら、呆れて放置に等しいことをしたまりさが、口だけじゃなくて一人前になって子供まで作ったのか、と少し感慨深かったからだ。 「ゆ?」「えさ?」 『ん? あー、これだよこれゆっくりフード、お前らの餌、代わりに取りに来たんじゃねーの?』 青年の質問に二匹は首を傾げていた。 〔えさ〕も解らなかったし〔ゆっくりフード〕はもっと解らない。 ただ、何となくそれが〔ゆっくりしたごはんさん〕だと理解したらしく、二匹は顔を見合わせた。 「ち、ちがうよ、れいむたちは おとーさんがそのゆっくりしたごはんさんをどこのかりばからもってくるのかしりたかっただけだよ」 「そうなのぜ、おとーさんはさいきんいもーとにしかそのごはんさんあげないから、まりさたちゆっくりできないのぜ!」 『ん~?』 子れいむ子まりさの訴えを聞いて、青年は首を捻った。 どうやらまりさが成長していないのを、何となく感じ取ったらしい。 『そう簡単に赤ちゃんゆっくりから成長しねーか』 「ゆ!? ぁ、あかちゃんゆっくりじゃないよ! れいむはおちびちゃんゆっくりじゃないよ!」 「そうなのぜ! まりさもしっかりかりもできるのぜ!」 青年の一言に妙に敏感に反応する二匹を、彼はまじまじと見ていた。 『なぁ、ちょっとお前ら話を聞かせろよ、ゆっくりフード分けてやるからさ』 ……。 …………。 『ぷっははははは♪』 「わ、わらいごとじゃないのぜ! まりさたちこまってるのぜ!」 「そうだよ! おかーさんもゆっくりしたごはんさんたべたいっていってるのに!」 『いや、悪かった悪かった……へぇ、あのまりさが、ねぇ』 子ゆっくりに二匹を部屋に招いた青年は、今日までの話を聞いていた。 まりさとの出会い、そして罵倒、自慢、家族になり、そして新しい家族が生まれて態度を変えるまでを、感情論メインのゆっくり語りで。 それを聞いた感想は、見ての通りの笑いだった。 青年にとっては実に笑える話なのだ、口だけ一人前のまりさが自分から貰っている餌をさも苦労して手に入れているように語り、あまつさえ野良として厳しい世界を生きてきたれいむ親子を馬鹿にしたなんて、笑うしかなかった。 しかし、事情を知らない二匹は自分たちが馬鹿にされてると思い不機嫌に頬を膨らませていたが、青年の謝罪で渋々空気を吐き出した。 『それで、おとーさんが言ったのか』 「そうなのぜ、いつまでもおちびちゃんきぶんでいるんじゃない、って」 「れいむだってかりしてるのに、でも、ゆっくりしたごはんさんはどこにもはえてないんだよ!」 『へぇ…………』 憂鬱そうにしている二匹を見ながら青年は考えていた。 放置していても良いけれど、自分の知らないとこで調子に乗ってるまりさはうざいな、と。 『俺の存在を隠しているのも小賢しくてうざいし…………』 話を聞くに、まったくと言って青年の話が出ていないので、まりさは意図的に存在を隠しているようだった。 彼にとってそれも気に入らない要因にだった。 『どーすっかなぁ………………あ』 「ゆ? どうかしたのぜ?」 「にんげんさん! やくそくのごはんさんちょうだいね!」 何やら思いついた青年に、まりさは不思議そうに、れいむは空腹が限界なのか約束のご飯をねだっていた。 『ちびっこい赤いの、ちっと待て待て……お前ら良く聞け』 「「ゆ?」」 青年は悪い笑顔で子ゆっくりに話を持ちかけた。 ……。 …………。 それから数日後の段ボール。 「ゆっち、ゆっち! おちょーしゃ! みちぇ! みちぇ! れぃみゅこぉんにゃにうごけりゅよ!」 「ゆゆ! さすがはまりさのおちびちゃんだよぉおお! てんっさいだね!」 「おちょーしゃ! おちょーしゃ! まぃしゃもみるのじぇ! ゆふん! ありしゃんをちゅかまえたのじぇ!!」 「さっすがまりさのおちびちゃん! さいっきょうだねぇぇえ!! まりさもはながたかいよ!」 いつものように、まりさは自分の餡をついだ赤れいむ赤まりさを溺愛しまくっていた。 ちょっと動いた、自分より遥かに小さなを蟻をしとめた、それだけのことを報告してくる一口饅頭を、まりさはその度に褒め、自分のことのように喜んでいた。 「おちびちゃん! がんばったらおなかすいたでしょ? はい、ごはんたんべよーね!」 「ゆわーい!」「まぃちゃごはんだいしゅきなのじぇ!!」 そして、いつものように青年から与えられたゆっくりフードの一部を二匹の前に並べていった。 「ゅう、まりさぁ、れいむたちにも、すこしちょーだいよ、ゆっくりしたいよ」 それを見ながら、れいむはオズオズと無駄と知りながら懇願をする。 自分の前に並ぶ、子れいむ子まりさがとって来てくれた草や虫を見ながら溜息をついていた。 そんな自分の妻を見ながら、まりさはわざとらしく溜息をつくと。 「なんかいもいわせないでね! これはまりさがおちびちゃんのためにとってきたんだよ! じぶんのことはじぶんでやってね! これだからおちびちゃんゆっくりはいやなんだよ! はやくまりさみたいないちゆんまえになってね!」 辛らつに、優越感と侮蔑を合わせた様な視線を向けて言い放った。 れいむは、それを言われるとシュンとなり「ゅう」と小さく鳴くだけだったが。 普段なら一緒に小さく鳴く子れいむ子まりさはお互いに顔を見合わせて。 「ゆぷ、ゆぷぷ」「ゆぷぷぷ♪」 と笑っていた。 「おかーさん、もうすぐだよ、まっててね」 「まりさたちがきっとおいしいごはんをとってくるのぜ!」 「ゆぅ? ……ありがとうね、おちびちゃん」 れいむは二匹の言葉を慰めと判断して、優しい子供を持って幸せだと思いながら笑顔を浮かべた。 しかし、それがただの慰めじゃないと知るのは次の日だった。 ……。 …………。 「ゅ、ゆっくりおきたよ…………」 まりさはいつものように誰よりも早起きをすると、皆が寝ているのを確認してからのそのそ段ボールから出て行った。 そして、青年がいつもゆっくりフードを入れてくれている場所に向かっていき……。 「ゆ? ゆゆ? ゆゆゆゆ?」 普段ならばそこに置かれた餌皿に山盛りあるハズのゆっくりフードが見当たらずに、首を傾げていた。 この時点ではまりさは、焦るのではなく「おにーさんはねぼうしてる」くらいに考えてそこで待っていた。 そして、遅れてやってきた青年を叱ってあまあまを要求しよう、とかまで考えていた。 ここ最近顔を合わせていなかった青年に、未だに何か思うところはないらしく、自分が悪い部分は特にないと考えていた。 「ゆ! そうだよ! いつまでもおちびちゃんをこんなばしょでそだてられないよ!」 そんなまりさが、ふと思いついたのは、再び家に上がり込むことだった。 何で庭で暮らしているかなんてのは最初から頭になかった、ただ向こうの方がゆっくりしているのは知っている。 ゆっくりしたおちびちゃんを育てるならゆっくりした場所で、そんな思考から青年が来たら今日からまた家で暮らすと伝えるつもりになっていた。 お願いするとかではなく、既に決定事項。 青年がまりさとおちびちゃんの身体を丁寧に拭いて、食べきれないあまあまを差し出して、ついでに家も全て今度こそ自分の物になるだろうと確信していた。 「ゆゆん! それがいいよ! いつまでもこんなばしょじゃ おちびちゃんがゆっくりできないからね!」 名案とうんうん頷くと、まりさは青年を待った。 青年を待った。青年を待った。 青年を待った。 「…………おそいよ、おにーさん」 しかし、待てど暮らせど青年はこない。 まりさは苛立ちで身体を揺らしながら、庭に面したガラス戸を睨むけれど、そこにひかれたカーテンが開くことはなく、ただ時間が過ぎていく。 「ゆぅ…………!」 次第に苛立ちに混じって焦りも出てきたまりさ、チラチラと段ボールを見つめては「おにーさん! まだなの?!」と小さ目の声で催促をする。 まりさの感じる焦りは、青年から餌を貰っている姿を見せることだった。 しばらくれいむたちと暮らしている内に、ゆっくりの狩の概念を薄ぼんやり理解したまりさは、自分の「かり」を見られまいと隠してきていた。 自分は「いちゆんまえのかりのたつゆん」で無くてなならないという糞そのままのプライドを持っていたのだ。 青年から餌を貰うのは当然だけど、その姿を見られたくない妙なジレンマを抱えたまま待つ。 が、しかし青年はやって来ない。だけど、代わりに段ボールからはれいむと子ゆっくり二匹が這い出てきた。 「ゆ!?」 「ゆっくりおはよう、まりさ」 「おとーさん、まだかりにはいってないのかぜ?」 「ね、おかーさん、れいむがいったとおりでしょ?」 出てきた三匹、れいむは少し不安そうな顔をしているけど、二匹の子ゆっくりはニヤニヤ笑っていて、子れいむは母に何やら耳打ちをしていた。 まりさは子ゆっくり二匹の行動に気付く余裕もなく。 「かりはいろいろじゅんびがあるんだよ! おちびちゃんゆっくりのおまえたちにはわからないだろうけどね! だまってどっかいってね!」 イライラとそう言い放った。 それに対して子まりさは、逆らうこともなく。 「わかったのぜ、まりさたちはきょうはちょっととおくにかりにいくから もうでるのぜ! おかーさん、れいむいくのぜ!」 「「ゆん!」」 子まりさの言葉に頷いて、三匹は庭のスペースから離れていった。 その背中を見ながらまりさは安堵の溜息を漏らして、またイライラを感じながら戸を睨んでいた。 だけど、相も変わらず青年はやって来ないでその内。 「ゆぴゅ? おちょーしゃん?」「おにゃかしゅいたのじぇぇえええ!!」 「ゆゆ?!」 いつもなら朝起きたら大量の餌がある生活をしていた赤ゆっくり二匹が眼を覚まして直ぐに泣き出した。 その声を聞きつけてまりさは急いで段ボールに戻っていく。 「おちびちゃん! だいじょうぶ?」 「だいじょーぶじゃないのじぇえ! おにゃかがすいたのじぇ!」 「れーみゅも、おにゃかすきまくりだよぉおお!!」 満たせない食欲にもみ上げたしたし、お下げをふりふり二匹は不満を漏らす。 生まれて以来空腹を感じた経験もない甘やかされてきた二匹が初めて感じる痛みに似た感覚に涙を流していた。 普通のゆっくりなら、餌がとれなくてもそれなりの貯蓄をするから一日くらいは何とかなるけれど、相手はこのまりさ、貯蓄なんかする考えすらない。 していないのに、何かないのかと段ボールを見渡すと隅の方にれいむたちが集めて保存しておいた草、虫、花などが置かれていた。 「ゆぅうう、こんなのしかないの!? ほっとにおちびちゃんゆっくりはつかえないね!」 それでも無いよりましかと思い、まりさは以前食べてそれなりに食べれた思い出のある花を下で持つと、無く赤ゆっくりの前においた。 「ほら! おちびちゃん! かりのたつゆんのまりさがごはんとってきたよ! たべてね!」 「ゆぅ?」「にゃにこりぇ」 しかし、相手は生まれてこの方ゆっくりフード育ちの赤ゆっくり。 目の前に置かれた花を食物と認識できないでいる。 それに拍車をかけているのが、親であるまりさが日常的にれいむたちを馬鹿にしていることがあった。 幼くてもゆっくり、他者を見下す性能は世界最強。 自分たちが食べている美味しい物を食べれずに羨ましがるれいむたちを、幼いながらに見下しまくっていた。 実の母、半分は餡子が通じている姉妹をも馬鹿にしていて、そいつらが食べているものなど食べれる訳が無い、という理屈だった。 「やじゃやじゃぁぁああ!! こんにゃのゆっくりできにゃぃいい!!」 「おちょーしゃ! かりのたちゅゆんなのじぇぇぇええ?! はやきゅとっちぇくるのじぇえええぇええ!!」 「ゆ、ゆゆぅ…………」 出した花を弾かれて、まりさは困り顔をする。 いくら泣かれてもないものはないのだから。 まりさは再び庭に出て、未だに空の餌皿に歯軋りをすると……。 「おにぃいいさぁぁぁあぁあああん!!! なにグズグズしてるのぉおお!! さっさとごはぁぁああん!!!」 全力で叫び、戸の下で跳ねまくる。 そこまでしても餌は補充されず、まりさが疲労していくだけに留まった。 「もう! せいっさいだよ! おにーさんにはあきれたよ! おちびがないてるのにぃい!!」 青年を制裁する想像をしているのか、その場で何回も跳ねるまりさ。 そのまりさの背後から元気な声が聞こえてきた。 「たいっりょうだったのぜ!」 「ゆふふ、おちびちゃんはほんとうのかりのたつゆんだね!」 「とうっぜんだよ! れいむたちはいちゆんまえだからね!」 「…………」 暢気に狩の成果を褒めあうれいむたち、まりさは「まぁたおちびちゃんゆっくりがゴミみたいのをもってきたね……」と見下しながらそちらを見て眼を丸くした。 「ゅ、ゆえぇぇえぇええええ!? どぼじでぇぇえええ!!!」 「ゆ? おとーさん、まりさたちかえってきたのぜ!」 「ゆふんたいっりょうだよ!」 まりさが見たのは、れいむ一家全員が口にくわえた透明な袋に入れられた大量のゆっくりフードだった。 ありえない光景に眼を見開いたまりさに見せ付けるように、子ゆっくり二匹はその袋を突き出してみせた。 「ど、どぼ、どぼじで?!」 「どーしてって、まりさがかりのたつゆんだからなのぜ!」 「そうだよ、れいむもたつゆんだよ!」 「じゃあ、おかーさんもたつゆんだね!」 「「「ゆふふ♪」」」 仲睦まじく笑いあう一家とは対照的に、開いた口の塞がらないまりさ。 笑い合っていた一家は、まりさに向き直るとニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべる。 「あれぇ? おとーさん、かりはどうしたのぜぇ?」 「かりの‘たつゆん!‘のおとーさんだから、もういってきたんだよ! そうだよね?」 「ゆぐ、ゆぐぐぐ…………」 青年の発案でまりさに餌をやらずに、庭の反対側で餌を貰い、そこでしっかり事情を教えられた三匹は完全にまりさを見下していた。 今まで馬鹿にされたこともあって一入だ。 それでも、まりさはまだ自分の狩はバレていないと信じているらしく。 「きょ、きょうはちょうしがわるかったんだよ! だから、きょうはおまえたちのとってきたのでがまんするから、さっさとわたしてね!」 偉そうな態度のままそう言い放った。 しかし、そこで「ゆん! わかったよ」と渡す訳もなく。 「ゆあーん? おちびちゃんじゃないんだからじぶんのはじぶんでとってくるのぜ! それとも、そんなこともできないおちびちゃんゆっくりなのかぜぇ?」 「ゆぎ、ゆぐぐぐぐ!!」 子まりさはニヤニヤ笑いながら、そう告げた。 まりさは悔しそうに歯を噛み締めながら。 「い、いままでのおんをわすれるなんて……」と呟いていた。 その様子に大層ゆっくり出来たのか、三匹は笑顔のまま顔を見合わせると。 「それじゃあ、みんなでゆっくりたべようか!」 「そうするのぜ!」「れいむおなかペコペコさんだよ!」 「「「ゆっくりいただきます! むーしゃむーしゃ! しあわせぇぇえぇえぇえええええええ!!!!!」」」 れいむ一家は久しぶりの美味に顔を綻ばせ、まりさは久しぶりの空腹屈辱に顔を歪ませていた。 そこに、声を聞きつけたのか段ボールから赤ゆっくり二匹が這い出てきた。 「ゆ!? ぎょはん!」「やっちゃ! おちょーしゃがかりからかえってきたのじぇ!」 まりさを、父を「かりのたつゆん」と信じる二匹は眼を輝かせていた。 そして、れいむたちが食べているのを見ると不機嫌そうな顔をして。 「ゆ!? おちょーしゃん! なんじぇれぃみゅにじゃなくて、あんなおちびちゃんゆっくちにぎょはんさきにあげちぇるの!?」 「しょーなのじぇ! あいちゅらはさいぎょにあまったらがじょーしきなのんじぇ!」 家族を見下す発言をしながら、頬を膨らませていた。 「ゆ、ゆゆ……」 それにまりさは困ったように小さく声を出すだけだった。 そして、とりあえず赤ゆっくりを段ボールに戻さないとゆっくり出来ないことになる予感を感じて、そちらに進もうとしたら。 予感的中、子まりさ子れいむがニヤニヤ笑いながら赤ゆっくりを見つめて。 「いもーとたち、これはねれいむたちがかりでとってきたんだよ!」 「おとーさんは、きょうはなにもとってないのぜ!」 「「ゆゆ!?」」 まりさにとって絶対言われたくないことをハッキリと言われてしまった。 「お、おちびちゃん! おうちにもどるよ! はやくね! はやくね!」 自分の愛する子供に知られたくないと、まりさは急いで赤ゆっくりを巣に戻そうとしたけれど。 「にゃんでぇぇえ!? れいみゅおにゃかへっちぇるよ?!」 「まぃしゃにもぎょはん たべしゃせりゅのじぇええええぇえぇえ!!!」 「ゅ、ゆゆ、ゆゆぅ!」 二匹の赤ゆっくりは、れいむたちが食べているゆっくりフードを涎を垂らしながら見つめて、まりさの影から出て行く。 「おねーしゃ! まぃちゃにたべさせるのじぇ!」 「れぃみゅがたべてあげるよ! しゃっしゃとよこしてね!」 「お、おちび…………」 赤れいむ赤まりさは、小さな身体をもぞもぞ這わせながら一応の姉妹に近づいていく。 それを見ながらまりさは「ゆ、かわいいおちびちゃんたちになら、きっとあいつらもいじわるはしないはず」と少し安心していた。 が、しかし。 「あげないよ! これはれいむたちのだよ!」 「そうなのぜ! たべたかった、ゆぷぷ、かりのたつゆんのおとーさんにたのむのぜ! まっ、できれば、なのぜぇ」 「「なんじぇぇぇぇえ?!?」」 赤ゆっくりたちもまりさと同じく、可愛い自分たちならくれると信じていたのに、それを裏切られてプルプル震えだした。 「たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい!」 「おちょーしゃ! ぎょはんもっちぇくるのじぇぇぇえぇええええ!!!」 不満を我慢する機能なんて備えていない二匹はその場でジタバタ暴れだすが、れいむたちはその姿を見ながら久しぶりのゆっくりとして食事を続ける。 「おちょーしゃんはかりのたつゆんなんでしょぉおおぉおお!!? しゃっしゃともっちぇくるのじぇぇぇええ!!」 「あんにゃやつらでもとってこれるにょを、おちょーしゃんはとっちぇこれにゃいのぉおおお?!」 「ゆ、ゆぐ、あ、あのね、おちびちゃん、かりは、そのとってもつらくて、いくらかりのたつゆんでも むずかしいひはあるんだよ、ゆっくりりかいしてね?」 「できにゃぃいいいいぃいい!!!」 「おにゃかしゅいたのじぇぇえ! ぎょはん! ぎょっはぁぁあん!!」 まりさの言い訳も空腹の赤ゆっくりの前では意味を成さない。 今の二匹に必要なのは言い訳ではなく食事、それを満たせなければ赤ゆっくりにとって親は親じゃない。 自分のゆっくりを阻害する敵に代わるのだ。 「まいちゃにごはんよこすのじぇぇえぇええ!! しゃっしゃとしろぉおお!!」 「れいみゅをゆっくちさせにゃいくじゅはしにぇぇぇぇえええ!!」 「お、おちびちゃん…………」 怒りに任せて、まだまともに跳ねることも出来ない二匹はまりさの身体にまるですーりすーりするように攻撃を開始したけれど、もちろんダメージなんかはない。 それでも、まりさは自分の子供から向けられた敵意に泣きそうになっていた。 愛情を注ぎ続けた和が子からの攻撃はかなり心に響いたらしい。 そのまりさに追い討ちをかけるように……。 「ゆぷぷ! なさけないねぇ、ゆぷぷ!」 「なさけないのぜ! じぶんのおちびにまともにごはんもあげられないなんて、ゆぷぷ!」 「だめだよぉ、おちびちゃん、あんなんでもいちゆんまえのつもりなんだからぁ」 「ゆぎぎぎぃ!」 れいむたちの言葉にまりさは、悔しそうな顔で俯いていた。 昨日までは自分がずっと上にいたという意識があるために、見下される悔しさもかなりだ。 だけど、青年から餌を貰えない以上まりさにゆっくりフードの入手はありえない。 「おちょーしゃん! はやきゅ! ぎょはん! とってきちぇよぉおお!!」 「そーなのじぇ! そーなのじぇぇぇえ!!」 「お、おちびちゃん、だから、ゆっくりしたごはんは、その、すっごくきけんなとこにしかなくて……」 「きけんって、じゃあ、なんであいちゅらがとってこれてるのじぇええぇぇええ!!」 「ゆぐ!」 言い訳を続けるまりさの痛いところを赤まりさは一突きしてくる。 言葉をつまらせたまりさは、何か上手い言い訳を考えるけれど思いつくはずはなく、れいむたちのニヤニヤを一層強めることになった。 「かりのたつゆんのおとーさんはぁ、まりさたちでもとれるのをとれないのぜぇえ?」 「ゆぷぷ! それでよく かりのたつゆんなんていえたね!」 「だめだよぉ、そんなにいじめちゃ、おちびちゃんたちぃ♪」 見下され続けた恨みから三匹は徹底的にまりさを追い詰めていく。 それに解決策を講じられないまりさは、俯くだけしか出来ない。 「ゆぐ、ゆぐぐぐぐぅううう!!」 『よー、何してんだまりさー』 「ゆ!?」 追い詰められていくまりさ、それを笑うれいむたちが揃う庭に青年がゆっくりと現れた。 まりさは、一瞬皆に狩の正体を知られてはまずい、と焦ったけれど。 直ぐにニヤリと笑い―――。 「おにーさぁぁぁぁああん!! まりさのおうちにゲスなゆっくりがきたんだよぉおおお!! たすけてねぇぇええ!!」 「「「ゆ!?」」」 大声で仮にも家族を売り渡し、排除することを決めたらしい。 まだ小さな自分の子供は後でどうにでも言いくるめられる、良い機会だからいらない家族を排除して家に戻ろうと画策したようだ。 「さっさとこいつらをおいだしてね! せいっさいでもいいよ! はやくしてね!!」 「お、おとーさ 「おにーさぁぁああん!! はやくしてねえぇええ!!」 ゆゆ?!」 自分を父と呼ぼうとしたまりさの言葉をかき消すように叫んで、あくまで家にやってきたゲスとして処理する腹積もりらしい。 『…………へぇ』 「なにやっでるの!? ゲスはさっさとせいっさいだよ! せいっさい! ゆぷぷ! おまえらもおわりだよ!」 動こうとしない青年を怒鳴りつけて、れいむたちを嘲笑う。 まりさの脳内では輝かしい未来への栄光しかなくて、それが破綻する想像なんか一ミリも考えていなかった。 次の瞬間まで―――。 『追い出されるのはお前な、まりさ』 「ゆぇ? ゆべぇぇ!??!」 青年はまりさを踏み潰して、しばらくグリグリと足を動かしてから離した。 すると、中枢餡へのダメージかまりさは目を回して気絶していた。 そのまりさを掴みあげると、青年はれいむ一家を見る。 『んじゃ、お前ら俺に迷惑かけないなら庭に住んでいーからよ』 「ゆ! ゆっくりりかいしたよ!」 「ありがとうなのぜ! まりさはおとーさんみたいな おちびちゃんゆっくりじゃないからだいじょうぶなのぜ!」 青年は子れいむ子まりさに、そのような話をしてあったのだ。 何となく惰性で飼っているまりさ、それがあまりにも調子に乗っているので捨てることを決めて、それだと何か寂しいからと庭の賑やかしにれいむ一家の居住を許すと。 その前にと、子れいむ子まりさは、まりさにやり返したいというので今回のことを仕組んだのだ。 まりさに餌をやらずに、れいむ一家に餌を渡して見下す返す、ただそれだけなのだけれど、日常的に馬鹿にされていたれいむ一家は随分ゆっくり出来たようだった。 「にゃ、にゃに? にゃんにゃ? ゆびゅ!?」 「や、やめりゅのじぇ! まいちゃににゃにかしちゃら、おちょーしゃ、ゆびゅ!?」 『一口饅頭も捕獲っと、んじゃ、俺はこいつら捨ててくっから、餌は毎日やんねーけど適当に暮らせよ』 「ゆ、ゆっくりりかいしたよ」 「おいしいごはんさんは まいにちたべられないのぜ?」 「ゆーん、おちびちゃん、がまんしよーね! くささんも むしさんもがんばればおいしいよ!」 「ゆっくりがまんするのぜ……」 れいむ一家の声を背中に聞きながら、青年は家を出て、まりさと赤ゆっくり二匹を少し離れた場所にある公園に放置した。 ……。 …………。 それから数日後。 「ゆ! おかーさん! たくさんとれたよ!」 「まりさもなのぜ! きょうはあまいこのみがあったのぜ!」 「ゆーん! おちびちゃんたち、もうすっかりいちゆんまえだね! おかーさんもはながたかいよ!」 『ねーだろ、鼻』 「どぼじでぞんなこというのぉおおお!?!」 青年の庭では、何とか草や虫を食べる生活に戻れたれいむ一家が平和に暮らしていた。 庭の持ち主の青年も案外ゆっくりと上手くやっているようで、飼い主飼いゆっくりほどじゃないけれど、微妙な隣人のような距離感をとっているようだった。 居間の戸をあけて、ボーっとする青年に声をあげて、もみ上げをふりながら叫ぶ母れいむ。 狩から帰ってきた二匹の子ゆっくりと、平和な光景がそこにあった。 そして、場面は公園に移る。 「ゆひぃ、ゆひぃいい!! ゆっくり、ゆっくりできないぃい!!」 庭に住みだしてかなり汚れていたけれど、まだそれなりに綺麗だったまりさは見る影もなく、帽子は誰かに踏まれたのか潰れて、金髪にはゴミが絡まり、黒く汚れていた。 饅頭の皮にはいくつも穴のような傷があり、眼の下には涙の痕に沿うようにゴミがついて黒く汚く目立ち、頬には人間の靴痕が刻まれたいた。 青年に公園に放置されたまりさは、何とか生きているようだった。 公園内を這いずり回って、ゴミを探し回っていた。 この公園には群れはないけれど、何匹かのゆっくりが暮らしている。 そのゆっくりたちは……。 「ゆぷぷ、みるのぜ!」「なさけないんだねー」 「みっともないね! あんなゆっくりにはなりたくないよ!」 飼いゆっくりから野良に落ちて、帽子までボロボロのまりさを遠巻きに見ながら嘲笑っていた。 かつて、飼われていた頃はこの公園にやってきていたまりさ、自分たちとは違う世界のゆっくりと羨望と嫉妬をしていた相手が自分たち以下に落ちた姿は、彼女らを実にゆっくりさせているようだった。 「なんで、なんでぇえ! なんでばりざが、ごんなめ、ゆびゅべ!?」 『きったねぇんだよ! 堂々と真ん中歩いてんじゃねぇえよ! ゴミ饅頭が!』 「やべ! いちゃ! ばりじゃ、やべでぇぇ!!」 成果のない狩をしていたまりさを、学生服を着た少年が気に障ったのか尻を蹴り飛ばしてから、更に何回も踏みつけていた。 まりさは痛みに涙を流し、泣き震えていた。 『ったく、気分悪くさせんなよなぁ……ぺっ』 「ゆびゅ?!」 蹴り飽きたのか、最後に唾を吐きかけると少年はその場を去っていった。 殺さなかったのは恐らく気まぐれだろう。 まりさはその気まぐれに助けれた何とか生きていた。 痛みで身体を動かないまりさは、その場でしばらく痙攣を繰り返して少し回復したら、今度は道の端っこをゆっくり這いずっていく。 そして向かっていく先は、公園のトイレの裏側。 そこには薄汚れたビニール袋が一枚おかれていて、その上にやつれた赤ゆっくり二匹が転がっていた。 「ぎょ、はん……まだにゃの?」 「まいしゃ、し、しんじゃうのじぇぇえ」 まともに食事をしていない二匹は、中の餡子が減っていて頬はげっそりこけ、眼球も落ち窪んでいた。 ゆっくりフードで育った二匹は公園で取れるような餌をまともに食べられないのだった。 「お、おちびちゃん、た、ただいま……」 「やっちょ、かえってきちゃのじぇ! しゃっしゃと、ぎょはん、しろなのじぇ……」 「なにやっでるの、むのう、は、さっさと、ぎょはんになっちぇ、ね」 まりさの声に反応してギラギラした瞳を見せる赤ゆっくり二匹は萎びかけた身体を動かして、まりさに近寄っていく。 その眼には親に対する敬意もなく、ただ餌と見ていた。 「きょ、きょうは、やめに、しない? おとーさん、い、いたいいたいは、ゆっくりできな―――」 「「はぁぁぁぁぁあああぁあああ?!?!? なにいってるのぉおおぉおおおお!!!!!」」 「ゆひ!?」 親の言葉に死にかけの姿はどこにやら、怒りと怒りと怒りを混ぜ込んだ赤ゆっくりらしからぬ表情で叫ぶ。 「おばえみだいな むのうのせいで まりちゃたちはくるしんでるのじぇえええ!!!」 「おやづらするなら こどもぐらいゆっぐちさせろおぉおお!!!」 「「ごのおちびちゃんゆっぐりがぁぁぁぁああああ!!!」」 「ご、ごべん、ごべんねぇ…………」 最愛の我が子に詰め寄られてまりさは、涙を流して謝罪をしたが、それでも赤ゆっくりは怒りを納めない。 「あやばっでるひまがあったら、ぎょはんだろぉおおがぁああ!!」 「ごのむのう! くしょげしゅぅううう!!」 「…………ゆ、ゆぅ、ゆっくりりかい、したよ」 まりさはビニールの隅に置かれた、重石代わりの尖った石をお下げで持ち上げると、トイレの壁と自分のお腹の間に挟んで。 「ゆ、ぐ、ゆっぐ、ゆぐ…………」 「しゃっしゃと!」「すぎゅしろ!」 チラッと視線を向けた先では、赤ゆっくりは涎を垂らして待ちかねていた。 「かりもろきゅにできにゃいんだから!」「しゃっしゃとぎょはんになるのじぇえ!!」 その声に背中を押されて、まりさは尖った石をお腹に押し付けたまま、前にジャンプをした。 「ゆっぎぃいぃいいいいいいい!?!?!?」 「やっちゃのじぇ!」「あみゃあみゃ! あみゃあみゃぁああ!!」 お腹に押し付けたままジャンプをした結果、まりさの柔らかい饅頭皮を突き破って石が刺さっていた。 「ゆぐ、ゆぎ、い、いじゃい……!」 涙を流しながら、まりさは石を引き抜くとそこから餡子が漏れ出していた。 赤ゆっくり二匹は、そんなまりさに見向きもしないで零れ落ちた餡子に群がっていく。 これがこの二匹の主な食事だった。 「あみゃあみゃ! あみゃあみゃぁあ!!」「くじゅのあんこでも、しょれなりなのじぇえ!!」 「お、おちびちゃん、ゆ、ゆっくりしてい、ゆぎゃぁぁあああ!!」 何とかゆっくりしだしてくれた我が子に涙の中で笑顔を見せようとしたが、直ぐにそれも苦痛に変わる。 「もっちょ! もっちょだしゅのじぇ!」 「いいよ! まいしゃ! きいちぇるよ!」 「やべ! おちび、やべでぇぇえええええ!!」 赤まりさが、もっと餡子を零させようとまりさの傷口近くに体当たりを繰り出していた。 餡子に響く傷みにまりさは身体をもるんもるんと震わせて、大声を上げて泣いていた。 「まんじょくにかりもできにゃい、おちびちゃんゆっくちなんじゃから、これぎゅらいしてとーじぇんなのじぇ!」 「しょーだよ! れいみゅたちをゆっくちさせられにゃいむのーなんじゃから!」 その泣く姿を見て、赤ゆっくりたちは心を満たして、親の餡子で腹を満たしていく。 まりさは、枯れない涙をいつまでも流していた。 どうしてこんな目にあっているか、死ぬその日まで考えながら。
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/745.html
『一緒に遊ぼう』 とある公園にて、ゆっくりがいた。 全体的に薄汚れたその様は野良ゆっくりと呼ばれる、少しでも害悪な行動をすれば害獣の様に駆除される存在だ。 日差しがサンサンと公園を照らしている。 そんな日に一匹のゆっくりまりさが成体として家を離れることになった。 その晴れた空に、まりさとその親のまりさは、まるで自分達を祝福してるようだと感じる。 「おとうさん、まりさはこれからがんばっていくんだぜ」 「まりさ……」 親まりさは、自分譲りの奇麗な髪と素敵な帽子を持つ、精悍な顔つきになった自分の子供のまりさを頼もしく思った。 番のれいむは子守を任せていたら、住んでいた家と共に蒸発、その際一緒に居た子れいむ達も消えてしまった。 その時子まりさだったまりさは、親まりさと共に狩りをしていため、いなくならなかった。 ついでに周囲に居たゆっくり達もいなくなってしまい。 それ以来、親まりさとまりさは、二匹だけになってしまった。 それから、寂しさを紛らわすように、まりさは遊ぶことを止め、親まりさと共に狩りの練習を続けた。 成体になり立てだというのに、もはや狩りの腕は親まりさに並ぶものだろう。 これなら引く手数多だと親まりさは思う。 それに加えて、自分譲りの綺麗な髪、素敵な帽子、精悍な顔、相手が羨ましいとさえ思った。 ここまでくるともはや自画自賛以外何物でもない。 じゃあ、なぜその親まりさ基準でモテモテのまりさと似ているという自分がモテないということは、そういうこと。 狩りに行けば、他のゆっくりにも会うことがあるが、何も言われたことがない。 所詮、石を投げれば当たる様な有象無象の野良ゆっくりの一匹でしかないということだ。 「まりさはもういちっにんまえだぜ! まりさはまりさのほこりなんだぜ!」 「おとうさん……」 親まりさの激励にまりさは胸を熱くする。 しかし、これ以上話すと別れがもっと辛くなる。 もっと話したいことを我慢する。 まりさもおとうさんがほこりだぜ! あのごはんおいしかったんだぜ! おそらとんでるみたい! がんばるんだぜ! いろんな言葉が浮かぶ、しかしどれも別れに相応しくない。 ブツブツと呟きながら、ようやく相応しい言葉が見つかる。 最初から、この言葉しかなかったのだ、どんな気の利いた言葉よりも、別れ際に使うなら。 親まりさも心を決めたようだ。 二匹はまるで心がつながったように、一斉に口にする。 「「ゆっくりしていってね!!」」 そう言うと、親まりさはまりさをその場で見送り。 まりさは何度も振り返りながらその場を後にした。 「れいむ、まりさはちゃんとまりさをいちっにんまえにそだてんだぜ……」 藪の中に消えて行く我が子を涙ながら見送った親まりさ。 空に浮かぶ雲が居なくなったれいむ達に様に見えた。 「さあ、まりさもゆっくりかり おそらとんでるみたい!」 突如高くなる視界。 持ちあげたのは人間で、これからどうなるのかは、言うまでもないだろう。 「ゆぅ……」 親元を離れたまりさは、聞いたことがある様なゆっくりできない叫び声を聞き、眉をひそめた。 まさか今しがた離れた親がすぐに人間に見つかり甚振られた末に死ぬなんてことはまりさの餡子脳の欠片すら考えていなかった。 「ゆっくりできないぜ」 そう呟いた。 まりさには、友達が居ない。 れいむも、まりさも、ありすも、ちぇんも、姉も妹もいつの間にかいなくなってしまった。 同じ時期に生まれた、幼馴染達。 同じ茎から生まれた姉妹。 そのいきなりの喪失は、子ゆっくりの時のまりさには大変堪えた。 一人で遊ぶことは空しく、否が応でも友達を姉妹を思い出させた。 そこでまりさは、親の狩りを手伝い続けた。 狩りはあまりゆっくりできないが、ゆっくり出来ない辛い気持ちを胸に抱えるよりマシだった。 広場で、人間の子供たちが何かを楽しげに蹴って遊んでいる。 その様子をまりさは隠れながら見た。 人間の間ではサッカーと呼ばれる遊びだが、まりさにはそれが何かを蹴り合うことにしか見えない。 少年達を見て思い出してしまう、ああやって皆と丸い石を蹴り合っていたことを。 ただ楽しかったあの時を。 「行くよ! 林君!」 「来い! 羽井!」 「行けぇぇぇぇぇぇえ!」 そんなことを叫びながら、羽井と呼ばれた少年は何かを蹴る。 林と呼ばれた少年は、それを取るべく真横に飛ぶが、届かず、何かは壁にぶち当たり黒い染みを作る。 「ナイスゴール羽井君!」 「やった!」 「やられたぁ!」 「くそっ」 少年達が集まり、羽井少年を褒めたたえる。 一方、林と呼ばれた少年と同じグループの少年達は悔しそうにしている。 その讃えあいもすぐに終わり、壁の染みに視線が注がれる。 「あー、ボールがついに壊れたか」 「じゃあ、補充だね」 そう言うと、少年達は各々に散った。 少年達が何かを探す中、羽井少年がまりさを見つけた。 「ゆっ!」 まりさは楽しげに遊んでいた少年達を見て、自分を重ねた。 昔の楽しかったはずの思い出を今はゆっくりできなくても、昔は確実にその時、その一瞬をゆっくり楽しんだはずなのだ。 思い出に浸っていた、まりさ。 それゆえ、少年の接近に気付かず、こうして目の前までの接近を許してしまった。 「ゆ、ゆっくりしていってね!」 慌てて挨拶をする。 人間はゆっくりできない、親まりさにそう言われていたし、餡子脳にもそう刻まれていた。 しかし、少年達が遊んでいる姿は紛れもなくゆっくりしていて、どうにかなるのもしれないと思ったのだ。 その願いが通じたように、羽井少年は答えた。 「ゆっくりしていってね」 まりさは驚いた、まさか挨拶を返してもらえるとは思っていなかったのだ。 「まりさも一緒に遊ばない?」 そして、そう問われる。 餡子脳に衝撃を受けるほど、その言葉は唐突なことだった。 「ま、まりさと?」 「そうだよ、そして友達になろう」 友達がいなくなった。 成体となった今でも、その事実はまりさの餡子を締め付ける、悲しい過去である。 友達がまたできる。 まりさは気付くと頷いていた。 しかし、頷いたことを否定しようとは思わなかった。 消えてしまった友達、失われた皆と遊ぶ時間、成体ゆっくりにもなってようやく取り戻せるかもしれない。 「……わたったん、だぜ!」 一筋の涙を零し。 まりさは、そう元気よく返事を返した。 「じゃあ、僕達とまりさは友達だ!」 「ともだち……、そう、そうなんだぜ! まりさたちはともだちなんだぜ!」 ああ、ああ、まりさは涙する。 失われたモノが取り戻されていく。 思い出すのが辛かった皆と遊んだ思い出が、楽しかった思い出へと昇華されていく。 口の中で転がすように、友達と何度も呟く。 「おーい、みんな見つかったよ!」 「おー」 「わかったー!」 羽井少年が大声でそう言うと、いろんな場所から返事が聞こえてくる。 はて、見つかったとは何なんだろうと、まりさは思ったが、すぐに忘れた、どんな遊びをするのだろうと思ったからだ。 羽井少年はまりさを持ち上げ、広場に戻った。 少年達が集まり、まりさがその中心に居る。 こんなに人間に囲まれたら恐ろしくて泣いてしまうだろう、しーしーも漏らしてしまうかもしれない、しかしそんなことはない。 まりさと少年達は友達なのだから。 「じゃあ、そっちがゴールしたから、こっちボールな」 「うんわかった」 「わーくわーく」 そう言うと、羽井少年グループはまりさから離れ、林少年グループの数人がまりさの近くに残った。 羽井少年グループの動きが無くなる。 まりさは今からどんなことが起こるのかと、胸を躍らせる。 「いっくぞー!」 その掛け声ともに。 まりさは蹴られた。 「ゆっ?」 いきなり反転する視界、空が地面になり、地面が空になる。 しかしそれも一瞬、景色が何度も入れ替わる。 地面と顔が何度もぶつかる。 回転が弱まった時。 「ゆべっ!?」 また別な方向から衝撃が来る。 それが何度も。 「いだっぃぃぃぃぃぶけぇ!! たずぶぇぇえ!!」 現状に混乱しながら、まりさは痛さを叫んだ。 友達に助けを求めた。 しかし、一向に助けは来ない、蹴りが続く。 と、今まで一番強い衝撃がまりさの右頬を襲い、同時に浮遊感が伴った。 「おぞらどんでるみだ、ゆげっ!?」 一瞬でまた地面と熱いちゅちゅをすることになり。 また、衝撃がまりさを襲う。 その時、まりさの頭の大事な大事な帽子が脱げる感覚にみまわれた。 転がりながら、既にボロボロになった帽子を見つける。 「まりざのおぼぉい!!」 今まで以上の強い衝撃がまりさを襲う。 今度は両方向からだ、ぶちゅりという音とともに、まりさの餡子が口からあにゃるから出た。 目も今にも飛び出しそうなほどに、体内に圧力がかかる。 「!!!」 叫ぶ余裕すらなく、まりさは声もなく絶叫する。 そしてまりさは弾かれ、ようやく止まった。 「線出たぞー」 「わかったー」 その声とともに、羽井少年がまりさに近づいてくる。 まりさは、物理的なダメージ、精神的なダメージを両方受け、ピクリとも動けない。 そして、羽井少年がまりさを両手で掴み、持ち上げた。 そこでようやく、まりさは言葉を口にする。 「どぼじで……」 まりさは痛みで気絶しそうなのを堪える。 ただ一つ、言いたいことがあるために。 「どぼじでごん゛な゛ごどずる゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」 友達だと、そう言ってくれたはずの少年に。 精一杯の力を込めてそう叫んだ。 「ボールは友達さ!」 そうまりさを友達と言った時と変わらぬ様子で言うと、羽井少年はまりさを思い切り振りかぶり、まりさを熱い視線で待つ少年達の元へ投げた。 今まで書いたモノ anko1083 サンプル anko1097 暗く湿った穴の中 anko1308 すろーりぃな作戦 anko1394 投げた! anko1425 声 anko1477 さよなら生物 anko1503 山彦恋慕 anko1632 親の脛かじり anko1739 楽しい朝餉 anko1823 梅雨が来て、人が来て anko1879 飼い(仮)ゆっくり 子れいむ 12作目です。 わりとゆっくりが頑丈になってしまった気がします。 最後のセリフ使いたかったです。 では、最後まで読んでいただけたら幸いです。 挿絵:
https://w.atwiki.jp/hutaba_ranking/pages/265.html
『弱くないまりさ』 26KB いじめ いたづら 自業自得 日常模様 お家宣言 野良ゆ 自然界 現代 独自設定 ありがちネタ ありがちなネタな気がするから被ってる可能性がとっても高いよ! それを考えるとすっごい怖いよ! しかもそんなネタですら上手く料理できてないよ! ネタ被ってたらごめんね! つまんなかったらごめんね! 許してね! 許したらあまあまもってきてね 注意事項 ・俺設定注意 ・善良(?)ゆっくり死亡注意 ・虐待殆ど無し注意 それではどうぞ 実のところ、ゆっくりという生物(ナマモノ)は決して弱くないのだ。 『弱くないまりさ』 まりさは群れで一番強いのだ。 自分でそう思っているし、森の中に住んでいる群れのみんなもそう考えている。 その若ゆっくりのまりさは、群れでもダントツに素早いちぇんにかけっこで勝つことができた。 また、木の枝を巧みに操るようむにちゃんばらで勝つことだってできた。 長である年老いたぱちゅりーのきょうっいくっにもまりさ種とは思えない理解力を示し、 とかいはなありす達に並ぶほど物作り(笑)の技術もある。 は? れいむ? ゆっくりプレイスに襲来した胴無し子れみりゃを死闘(笑)の末に打ち倒した頃には、 文武両道を地で行くまりさは群れの勇者(笑)として尊敬と羨望の眼差しを一身に受ける存在になっていた。 普通であればここで驕り高ぶり、ゆっくり特有のゲス気質を発揮して群れを壊滅させたりするものだが、 まりさは鍛練や実績からくるプライドを持ちつつも他ゆんを見くびることをしないゆっくりに育った。 殊更に美ゆっくりとして生まれたわけではないが、おぼうしの形も悪くない。 いや、どちらかと言うのならば、むしろ整った方である。 誰にでも分け隔てなく爽やかな笑顔を向けるまりさと会話をして、頬を赤らめずにいられる未婚ゆっくりはいなかった。 力が強く、技を持ち、頭も悪くなく、そして善良。 野生ゆっくりの群れの中では数十世代に一匹生まれるか生まれないか、 まりさはそんな優れたゆっくりである。 ―――――――――――――――――――― 「ゆっ! それじゃあ、まりさはかりにいってくるよ! おやさいさんをたくっさんっとってくるからゆっくりきたいしててね! かってにはえるおやさいさんをひとりじめするにんげんさんたちをこらしめてくるからね!」 「「「ゆぅーっ! まりさ、ゆっくりがんばってね!」」」 これである。 いかに優秀とは言え、そこは野生ゆっくりの限界。 "勝手に生えてくるお野菜さんを人間さんは独り占めしている" "人間さんは強いけど、まりさ程の勇者なら懲らしめることだって不可能ではない" 残念だが、このような幻想から逃れることはできなかったようだ。 狩り(笑) …群れを離れて数日、辛く険しいまりさの長旅の終着点には素晴らしい景色が広がっていた。 見渡す限りの広大な空き地に、数え切れないくらいのお野菜さん。 群れのみんながここで暮らせば、一体どれほどのしあわせーを享受することができるのだろうか。 ぱちゅりーのおはなしできいてはいたけど、まさかここまでのゆっくりぷれいすだったとはっ…! 幼馴染である"はやぶさのちぇん"や"えんげつさっぽうのようむ"と共に幾多の冒険を繰り広げ、 野生ゆっくりでは考えられないほど多種多様な経験を積んだ"ゆうしゃまりさ"ではあるがしかし、 想像を絶するほど豊かなプレイスを前にして、うれしーしーとおそろ(畏ろ)しーしーを止めることなどできなかった。 胸(?)をぐるぐると駆け巡る感動、そして畏れ。 筆舌に尽くしがたい感情(笑)の渦に身を震わせていたまりさの中に、一つの言葉が浮かんでくる。 は…… た…… け…… それは自分の両親から聞いた言葉ではなく、尊敬する老賢者の長から教わった単語でもない。 まりさの体の内側よりじわじわと滲み出てきた温かい気持ち。 ゆっくりである自分の中に代々受け継がれてきた、本能が伝えてくる言葉であった。 は…た…け…? はたけ…。 ゆっ、そうなんだね このゆっくりぷれいすは"はたけ"さんっていうんだね! 不思議な感覚であったが、まりさはそれを素直に受け止める。 恐るべき咆哮で大地を揺らす獰猛な魔獣(子イヌ) 剣を弾く鎧のような鱗を纏った死を司るドラゴン(子ヘビ) 旅の途中、それまで培った知恵と勇気が通用しない死地において、常に自分を救ってくれたのはこの"本能"だったのだ。 毎日へとへとになるまで繰り返した肉体の鍛練。 ゆっくりと時間をかけて育ててきた知恵と知識。 そしてどんなときでも心の片隅に置いていた全てのゆっくりのしあわせー。 それら全てを駆使して辿りついた場所は、もはやこの世のものとは思えない桃源郷であった。 まりさは理由も分からずぼやける視界を戻すように、一度だけ時間をかけてまばたきをした。 ほんの少し顔を上げ、いまだ止まらない体と心の震えに全てを委ね、その顔はキリッとしたドヤ顔を形作る。 深く深く息を吸い込んで、自然に生まれた笑顔が大きく口を開き…… 「このはたけさんを、まりさたちのゆっくりぷれいすにするよっ!!」 万感の想いと共に、輝かしい"おうちせんげん"が飛び出した。 ―――――――――――――――――――― 「またか…」 思わず溜息をついてしまった。 諦めに似た気分で四、五メートルほど離れた場所で騒ぐ不思議饅頭に目を向ける。 手に持っていたクワを傍に置き、少しずれた麦わら帽子の位置を戻して、 農夫は黒い帽子のゆっくりに近づいて行った。 確か"まりえ"…… いや、前にテレビで聞いたのは"まりあ"だったか? そのゆっくりの名前は覚えていないが、まあそんなことはどうでもいい。 大切なのは、森に近い場所に作ってしまったこの畑の野菜を、時々現れる饅頭が狙っているということだ。 「おい、そこのゆっくり」 「…ゆ?」 なんだかぷるぷると震えていたゆっくりが、こっちを向いた。 声をかけられると思っていなかったのか、不思議そうな表情をしている。 小汚い。 人間の帽子を真似たような形の物体を頭に乗せているが、途中からぐちゃっと折れ曲がっている。 体には土がついているのか、ところどころ茶色い染みが出来ていた。 食品である普通の饅頭と同じ材質、成分だとは知られてるが、 あんな薄汚れた物が地面に転がっていて、食べる人間なんているのだろうか 肌にこびりついている茶色い染み。 土ならばまだ水で流せばいいが、自然の野原を転げまわっている野生ゆっくりのことだ。 それが野生動物の糞などでないという保証はどこにもない。 衛生的に問題無いよう加工するとは言え、肥料として家畜の排泄物を畑にまくことは現在でもある。 この野菜も糞尿にまみれて育ったと考えられないことはないが…。 いやいや、それでもアレは無いな(笑) というか野菜と一緒に考えるのは極端すぎたか 「…………? …………? …………! ………ゆっ!?」 ぽかんとした間抜けな顔が、短い鳴き声と共に驚愕の表情っぽいものに変化した。 他の生物と比べたゆっくりの無能ぶりを舐めてかかってはいけない。 こちらを向いてたっぷり1分は使ったが、ようやく目の前の自分に気がついたのだろう。 これが噂の餡子脳だ。 いつもなら即潰して捨てるだけのゆっくりだが、そろそろキリのいい時間帯である。 休憩がてら野生の饅頭にちょっかいを出してみるのも悪くはない。 このゆっくりはどういう反応をするのだろうか。 気分がのっている今なら、意味も無く潰したりすることもしない。 素直だったり運のいいゆっくりなら生き延びることはできるだろうが、さて。 ―――――――――――――――――――― 突如現れた巨大な影に、まりさは素早く警戒を強めた。 大地に突き刺さる、巨木を思わせる二本の柱。 更に見上げれば、その上に用途の分からぬ謎の塊。 両側からはれいむのおさげさんと同等の働きをする二つの触手。 そして遥か頂上に見える、ゆっくりのお顔を模した体。 ぱちゅりーに聞いている。 その性質は野蛮で残忍。 餡子もクリームも(人間で言うところの「血も涙も」)無い卑劣な手段を好んで使う。 軽々と振るう力は大のゆっくり数ゆん分。(笑) かけっこ自慢のちぇん種に負けずとも劣らぬ速度で大地を移動し、(笑) その無尽蔵の体力と言ったら、狩りの得意なまりさ種を僅かに凌ぐほど。(笑) そして悪知恵だけならぱちゅりー種をも超えるという。(笑) 主にお野菜の勝手に生えてくるゆっくりプレイスに生息する、最凶最悪の巨大生命体…!(笑) その名も"にんげん"さん!! 人間さんには十分注意しろ、と老賢者は眉間にしわを寄せて何度も言っていた。 群れの誰もが遭遇したことは無いが、その恐ろしさだけなら誰でも知っている。 人間さんの中にも道理を理解し、穏やかな気質でゆっくりに従う種族がいると伝わっているが、 それも他の種族と比べたらほんの少ししか生息していないという。 少なくとも、目の前の一匹がマトモな方だと考えるのは早計に過ぎる。 お野菜さんのことを習って人間さんの存在を知った日から、 たとえ相手がその恐るべき悪魔であろうと勝利を勝ち取るため訓練を積んできたという自負を持つまりさ。 しかし、それでも戦闘になれば苦戦を強いられることは間違いない。 いや、下手をすれば負けてしまう可能性だって考えられないことではないのだという。 目の前の人間さんは知性を持った"めで"種族か、それとも強大な力を無闇に振るう"ぎゃくたい"種族なのか。 判別法をぱちゅりーに教わったことを思い出したまりさは、勇気を振り絞って巨大な生き物に問うた。 「ゆっ… にんげんさん! ゆっくりしていってね!?」 「はいはいゆっくりゆっくり」 なんと、彼方の空より響いてきたのはちゃんとした挨拶ではなかった…! ゆぅ、ゆっくりしてないごあいさつだよ これは"めで"じゃないにんげんさんなんだね… まりさは人間さんに気付かれぬよう、警戒の度合いを少し強める。 だが、お野菜さんの生えるプレイスを人間さんが徘徊しているだろうことは百も承知。 その個体が"めで"ではないという可能性だって、もちろん考慮していた。 そう、この次に待っているのはカスタードをチョコレートで(人間で言うところの「血を血で」)洗う死闘なのだ…! しかし如何に理知に欠け、ゆっくりしていない種族とはいえども、無闇に傷つけることをまりさはよしとしない。 全てにおいて完全であるように思えるまりさ。 その唯一の欠点は、獰猛な獣に対しても優しさとゆっくりを与えてしまうという"甘さ"であった。 「にんげんさん! このゆっくりぷれいすはまりさがおうちせんげんしたんだよ! にんげんさんはでていってね! でも、すこしくらいならゆっくりしてもいいからね! ゆっくりしていってね!」 まりさは人間さんを理性で説き伏せることはできないと知ってはいたが、 それでも、温かい慈悲を見せれば心を入れ替えることもあるのではないかと少しだけ期待をかけていた。 ほんの短い間とはいえ、自分のゆっくりプレイスでゆっくりすることを許す。 まりさは人間さんが怯えることの無いよう、優しく穏やかな笑顔を浮かべて伝える。 「……………………」 しかし人間さんは答えない。 彼方を向いて、ああ…そうそう"まりさ"だった…、などと呟いているが、まりさに喋っているのではないのだろう。 もしや、言葉が通じないのか…? 致命的に問題をややこしくさせる可能性にも頭がいったまりさだったが、 一応、言語を扱うことはできると長が教えてくれたのを思い出し、落ち着きを取り戻すまりさ。 そう言えば、先ほども"ゆっくり"という言葉を使っていた。 カタコトではあるが、聞いたり喋ったりする程度の知恵はあるのだろう。 そう思ったまりさは、人間さんの返答をゆっくり待つことにした。 「ふむ、まりさよ お前がおうちせんげんした時、俺は少し向こうにいたよな? だからこのエリア…… いや、ここらへんのプレイスは俺がいないと思ったんだろう」 雲を突き抜ける高みから、人間さんのものと思われる声がようやく届いてきた。 「だがな、お前が今立っているプレイスも俺がさっきいたプレイスも、 実は一つに繋がっているんだ つまり、お前は俺がいたゆっくりプレイスでおうちせんげんしてしまったんだよ」 な…、何を言っているのだこいつは? まりさは愕然とした。 自分達の"おうちせんげん"には、たった一つだけ欠点が存在している。 それは「誰かがいることに気付かず、おうちせんげんしてしまうこと」である。 おうちせんげんは、そのプレイスが自分のものであるという唯一にして確実な証拠。 しかし、先住ゆんの存在に気付かずに行ってしまえば、そのプレイスは誰のものになってしまうのか? この複雑怪奇な問題に対し、ゆっくり達は正しい答えを持っている。 即ち、先に住んでいるゆっくりが後から来たゆっくりのおうちせんげんを邪魔すればいい、ということだ。 そうすれば、先住ゆんに気付かずにおうちせんげんをしかけたゆっくりも、誰かが先にいた事実を理解する。 丁寧に問題点を洗い出され、緻密に組み立てられた"おうちせんげん"システムは完全無欠の法となった。 これは自分達の群れだけではなく、他の群れでも同様に行われているようだ。 まりさが子供の頃にこのお話を聞いたとき、餡子に衝撃を受けたことを覚えている。 自分達の群れだけではない、この広い世界全てのゆっくりが使っている完璧な"おうちせんげん"。 それはつまり、住んでいる土地や文化に関わらず、ゆっくりなら誰でも"おうちせんげん"を思いつき得るということ。 "ゆっくり"という生命に眠る知恵のポテンシャル。 その高さに、まりさは大きな感動を覚えたのだった。 ……だと言うのに! この人間さんは意味の分からない理論を展開し、自分を正当化しようとしてくる! 先にゆっくりプレイスに住んでいる場合、他ゆんのおうちせんげんには途中で声をかける。 生後一週間を過ぎれば赤ゆっくりでも知っているこの方法を、人間さんは行わなかったのだ。 それどころか、恥知らずな人間さんは勝手に都合よくシステムを作りかえ、ゆっくりプレイスの所有権を主張してきた。 それは即ちルール違反! ゆっくりしていないゆっくりとして、即座におうちから叩き出されても仕方ないのだ! 心優しいまりさとて、流石にこれには怒りを覚える。 正義感の強い父に育てられたまりさは、卑劣な行為をなによりも憎んでいるのだ。 「にんげんさん! おうちせんげんがふふくなときは、おうちせんげんのとちゅうにおうちせんげんをするんだよ! そんなこともしらないの!? ばかなの!? かってなことをいわないでね!! まりさおこるよ!!」 それでもまりさは怒りに耐える。 人間さんは卑怯なのではなく物を知らないだけなのだと考え、丁寧に説明をしてあげる。 普通なら「ばかなの? しぬの?」と続けるところを「ばかなの?」で止めてあげることさえした。 それに対する返答は…… 「ほう、なるほどなるほど だがなあ、お前らゆっくりは知らないかもわからんが、 人間さんは元々"おうちせんげん"というのを使わないんだ」 「…………ゆ?」 一瞬、その生物の言っている言葉の内容が理解できず、まりさは硬直した。 その隙をついて、人間さんは更に話を続ける。 「そのルールだと、お家を留守にしている場合 他のゆっくりのおうちせんげんの途中に邪魔できないだろう? だから人間はおうちせんげんの代わりに"ここは自分のお家です"って文字で伝えることにしてるんだ」 めろすは激怒した。 失礼。 まりさは激怒した。 おうちを留守にするとおうちせんげんが邪魔できない? だからみんな、苦労をしておうちに"けっかい!"を張るのだ!! そう言えば、けっかい!が張れないなどと文句を付けるのか? だったらおちびちゃんにお留守番をしてもらえばいいだろう!! ああ言えばこう言い、こう言えばああ言う。 揚げ足取りにすらなっていない屁理屈を繰り返す人間さんの態度に、まりさは目の前が真っ白になったように錯覚した。 それは無論、生まれてこの方感じたことのないような怒りによるものである。 「ふっざけたことをいわないでねええええええええええええ!!? いまどき、おちびちゃんだってもっとまともないいわけをするよおおおおおおおおおおお!!!」 わなわなと怒りに震えるまりさ、ついに堪忍袋の緒が切れてしまった。 にんげんさんがこんなにもわからずやだったとはおもわなかったよ! まりさはもうおこったよ! ぷくー!じゃあすまされないよっ!! そしてまりさは話し合いで解決する意思を放棄する。 もちろん、まりさの知らない事実であるが、それは同時に"まりさの生存する可能性"を捨てることでもあった。 ―――――――――――――――――――― 「いいかげんにしろおおおおおおおおおおおおお!! おんっこうっなまりさもどたまにきたよおおおおおおおおおおおお!!!」 ぶるぶる痙攣していたと思ったら、そのゆっくりは突如ヨダレを撒き散らしながら怒りだしたようだった。 「う、うわっ…… これはキモい……」 歯をむき出しにして作られた表情は、はっきり言って通常の人間では直視に堪えないほど醜い。 ぐねぐねと軟体生物っぽく暴れまわるその動きは、地面と垂直に円を描いているようにも見える。 農夫は少し前のニュースで見た、急に人数が倍増した音楽ユニットのパフォーマンスを思い出した。 本題には関係ないが、先程まりさの主張した"おうちせんげん"。 これは通常「この○○○を、○○○のゆっくりぷれいすにするよ!」という言葉で行われる。 その言葉が開始してから終了するまでの間に先住ゆっくりがおうちせんげん返しをすることのできる可能性は、 普通種、希少種、胴付き、あらゆるゆっくりで調べた結果、0%だと加工所から発表されている。 ゆっくりはただでさえ頭が鈍く餡(脳)の回転が遅い生物(ナマモノ)であり、言葉を理解するだけでワンクッション、 自分にとってショックな内容の言葉だとさらにツークッションを必要としている。 他ゆんのおうちせんげんを言葉が完了してから理解するまでにかかる時間は、普通種で大体1分45秒とのことだ。 このまりさの群れでも、先住ゆんに気付かずにおうちせんげんが為されることは多い。 そうした場合は当然の如くゆっくり同士の殺し合いになるのだが、それを原因として一週間に平均5匹のゆっくりが死亡している事実は、 まりさは当然、長のぱちゅりー以下全てのゆっくりが知らないことである。 よくそれで群れとしてやっていけているものだ。 「ゆっうううううううううううううう!! もうがまんのげんっかいっだよ!! にんげんさんはすこし、いたいめにあったほうがいいよ!! まりさがこらしめてあげるよっ!!」 ひとしきり激昂してから動きを止めたまりさは、へたったおぼうしから木の棒を取り出して口に咥える。 「えいえんにゆっくりはさせないからあんしんしてね! ゆっくりしねええええええええええええええええええええええええ!!!」 とんでもなく矛盾したことを口走りつつ、こちらに向かってぴょんぴょん飛び跳ねてくるまりさ。 その鬼気迫る表情から、恐らく突進をしかけているつもりではないかと予測できる。 ゆっくり如きに人間を怪我させられる道理もないが、それでも尖った木の棒は危険だ。 ズボン越しとはいえ、スネにあたったらかなり痛いだろう。 もしかしたら絆創膏を貼らなければならない事態に陥る可能性もある。 「ふぁーんふぁーんうぃーひっざ……おっと」 当然だが、農夫はまりさが到達する前に軽く足をあげた。 するとこれまた当然、まりさは地面に顔から突っ伏すことになる。 口に木の棒を咥えていたために地面さんと熱いちゅっちゅをかますことにはならなかったが、 激突の瞬間にした"ベキィ!"なる音から、砂糖細工の歯が何本か折れたことが分かる。 「ゆべっ!? ……ばっ…! ばりざのさわやかにしろくかがやくしんじゅのようなはさんがああああああああああ!!?」 言うまでもないが、まりさの歯は白くない。 ゆっくりの歯は砂糖で出来ており、歯磨きなどしたら簡単に歯が削れてしまうのだ。 故に、飼いゆっくり以外のゆっくりの歯はすべからく薄汚れているのが常識である。 「お前の歯が真珠だってんなら、豚にくれてやっても惜しくないなあ… それはさておき、大丈夫か?」 「ゆぐぐ…! まりざのひっさつわざをよけたことはほめてあげるよ! でも、まぐれはなんかいもつづかないよ! こんどこそしねええええええええええええええええええええええええ!!(ぴょーん)」 「ほいっと」 「ゆばぁっ!?(バキィ!) ……ばっ…! ばりざのあらゆるまだむをみりょうするはりうっどはいゆうのようなはさんがああああああああああ!!?」 「そんな俳優はそもそもオーディションで落とされると思うなあ… もう5、6本は歯が抜けちまったぞ?」 「ゆふうっ…… ゆふふうっ……」 そんなやりとりが数回続き、まりさの口の中で無事な歯が2本以上続けて並んでいる場所が無くなってしまったころ、 ようやくまりさは人間に攻撃が当たらないことを理解したようだった。 「ど……! どぼじであだらないのおおおおおおおお!!? どぼじでええええええええええええええええええええ!!!?」 「そりゃあ、あんなに遅い攻撃じゃあな どんなにトロい人間でも、命中させるのは難しいと思うぞ」 「ゆううううううううううううううううううううううう!!?」 ちなみに一般的なまりさ種であれば、歯が1本折れた時点で負け惜しみと共に「もうおうちかえる」と叫び出すところだが、 このまりさはゆっくりにしては驚異的な忍耐力で痛みに耐え、攻撃をし続けた。 群れ一番の勇者の呼び名は、伊達ではないのだ(笑) 「あだればしぬんだああああああああああああああ!! よげるなあああああああああああああああああああああ!! よげないであだれええええええええええええええええええええええ!!」 先程の動きをぐねぐね再現しながら泣きわめくゆっくり。 凄まじく醜い。 「じゃあ、まりさ お前は他のゆっくりと喧嘩をするとき、相手の攻撃を避けないで当たってやるのか?」 「ゆ゛っ…!?」 キモい動きと漫画のような滝状の涙を止め、ちょっと考え込むまりさ。 農夫の一言で、自分の発言がかなりアホだったことを理解したのだ。 これはゆっくりにしては驚異的な理解力である。 群れの賢者に教えを請うた時間は、伊達ではないのだ(笑) 「…まあいいか ほら、次は当たってやるからもう一度攻撃してきな」 「ゆゆ!?」 調子に乗って余裕を見せてくる人間に、まりさは不敵な(と自分では思っている)笑みを浮かべた。 ゆぐふふふ… にんげんさんはばかだね! にんげんさんのぶきはその"ちぇん"とおなじくらいのすぴーどさん! そのすぴーどさんでこうげきをよけることのできるのがつよみなのに、 それをぽーいぽーいしてじぶんからあたりにきてくれるなんてね! こうっかいっするじかんはあたえないよ! せいぜいちょうしさんにのりすぎたことをこうっかいっしていってね! どうしろと言うのだろうか。 まりさはところどころ…いや、大多数が欠けてしまった歯で、再び木の棒を咥えた。 「くらえええええええええええええええええええええええええ!!」 ぴょーんぴょーん 間抜けな音とは裏腹に、憤怒の表情で迫ってくるキモ饅頭。 あの気持ち悪い顔が触るのはちょっとやだなあ、と農夫は若干後悔したが、約束は約束なのでぶつかるまで待ってやる。 「こんどこそほんとうにしねええええええええええええええええええええええ!!(ぴょーん)」 ザクゥッ!! まりさの咥えた木の枝は、かなり危険な長さまで一気に突き刺さった! お分かりだろうが、当然まりさ自身にである。 「…………………… ………あ…… あがああああああああああああああああああああああ!!? いだいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」 地面に落ちてから数秒後、びったんびったん飛び跳ねながら、まりさは大口を開けて泣き始めた。 正しく言葉を操れているところを見ると、幸い木の枝は中枢餡に届いていないのだろう。 「どっでええええええええええええええええええええええ!!!(びったんびったん) ごれどっでええええええええええええええええええええええええ!!!(びったんびったんびったん)」 いましがた自分が攻撃した人間に情けない顔で懇願する汚饅頭。 はっはっは、と朗らかに笑いながら、農夫は木の枝を抜いてやった。 「ゆ゛ひっ… ゆ゛ひぃっ… …………………… ……………どっ… どぼじでばりざにざざるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!? どぼじでええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」 餡子の比重はそれなりに高い。 中身が全部餡子のれいむ種やまりさ種、それも成体ゆっくりとなればかなりの重量を誇る。 たとえ勢いの皆無なぴょーんぴょーん攻撃と言えども、全体重を木の枝に乗せてぶつかれば人間も大怪我は免れない。 が、それは木の枝とゆっくりがガッチリ固定されている場合に限る。 一般的に、人間が物を噛む力の最大値は体重と同程度と言われる。 しかしゆっくりの場合、自分の体重と同じくらいの力が砂糖の歯に加われば、即座に歯が砕け散ってしまうのだ。 故にゆっくりの咬筋力は他の生物と比較して、驚くほどの弱さを誇る。 健康的な成体まりさが全力で噛んで歯ぎしりした結果、十分に濡れたコピー用紙にギリギリ穴が開いたと加工所から発表されている。 そんな力で雑多な食事をすることができるのは、ゆっくり特有の思い込みの力によるものだとか。 そういった意味のことをまりさでも理解できるように、農夫は簡単な言葉で懇切丁寧に教えてあげた。 噛む力が弱ければ、武器を持ったとしてもダメージは与えられない。 ならばと体当たりをすれば、ゆっくり程度の跳躍力では中身入り2Lペットボトルをどうにか倒すのが関の山だ。 ゆっくりが人間にも有効な攻撃をするのは、非常に非常に非常に難しい問題なのである。 「……………う…… うぞだああああああああああああああああああああああ!!! ばりざはむれいちっばんっのゆうしゃなんだあああああああああ!!! にんげんにもまげないんだあああああああああああああああああああああ!!!」 再び凄まじい表情で何度も飛び跳ねるまりさ。 確かにこの顔の醜さ、情けなさなら人間のそれにも負けることはないだろう。 「ゆがあああああああああああああああああああああああ!!!(びったんびったん) ばりざはよわぐないいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!(びったんびったん) ばりざはよわぐないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!(びったんびったん) よわぐないっでいえええええええええええええええええええええええええええええ!!!(びったんびったん)」 「おう? いや、お前が弱いとは言ってないよ」 「ゆがあああああああああああああああああああああああああああ!!(びったんびったん) ゆががああああああああああああああああああああああああああ……(びったんびったん) …………………(びったんびったん…) …………ゆっ?」 やはり数テンポ遅れて言葉の意味を理解したまりさは農夫を見る。 その顔には、侮蔑や冷笑の類は浮かんでいなかった。 「ま゛っ… まりざ、よわぐないの? まりざ、にんげんざんよりよわぐないの?」 「ああ 人間はゆっくりのことを"弱い"なんて思っちゃいないよ」 体の下半分に涙の痕を帯状に残したまりさの顔に、希望の光が差し込んできた。 「まりさ、お前はお花さんや虫さんを食べたりするよな」 「だ、だべるよっ! まりざ、おはなざんもむしざんもいっぱいだべるよっ! まりざはむれでいちっばんっかりが……」 「まりさはそのお花さんや虫さんを"弱い"とは言わないだろ?」 「………………ゆ?」 「そこらに転がってる石や草、空に浮かんだ雲、近くを流れてる川 別に、そういった"物"に強い弱いとか無いだろ?」 伊達ではないまりさには、農夫の言っている言葉の意味がおぼろげにだが理解できてきた。 漠然とした不安を抱え、ゆ? ゆ? と何度も聞き返す。 「だからな、まりさ "強い"とか"弱い"っていうのは、自分と少しはやりあえる生き物を表す言葉なんだ 人間にとってお前らゆっくりは路傍の石コロと大差無い 強さを測る以前に……」 不安はじわじわと大きくなる。 もはやまりさは自分でも理由が分からずに泣きそうな顔だ。 「……"敵"じゃないんだ "物"なんだよ まりさを含め、ゆっくりってのはさ」 群れの老賢者、とても賢いぱちゅりーの元できょうっいくっを受けたまりさは、やはり伊達では無かった。 とてもとても驚くべきことに、"価値観の違い"、"相手が自分をどう扱っているのか"をゆっくりながらに理解できてしまったのだ。 まりさはついに泣きだした。 「…ぢっ! ぢがうよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! ばりざはものじゃないよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 群れの勇者まりさ。 文武両道のまりさ。 強く賢く、みんなの憧れまりさは、群れの赤ゆっくりと同等以上の情けない顔で泣きわめく。 「ばりっ! ばりざっ! ばりざば! にんげんざんをごらじめにぎだんだよおおおおおおおお!! にんげんざんのでぎなんだよおおおおおおおおおおおお!!」 「はっはっはっは まりさ、敵っていうのは攻撃をしてくるものなんだぞ? お前くらい人間に無害な"物"は無いさ」 「ぢがうよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! まぢがっでるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! ぼらっ!(ぽいーん) ぼらぁっ!(ぽいーん) ばりざっ! ごうげぎじでるでじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」 ぽいーん、ぽいーん、と農夫に向かって飛び跳ねるまりさ。 しかし日々の農作業で鍛えこまれた足腰を持った農夫はビクともせず、ぶつかっては跳ね飛ばされるまりさを笑いながら見ていた。 「はっはっはっはっは そこの石コロが風で転がって足にぶつかってるのと変わらないなあ いや! それよりも痛くないかもしれないなあッ! はっはっはっはっはっは!!」 「ぢがうっ! ぢがうううううううううううううううう!! ぢがうよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! ぢがうでじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! ごうげぎでじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 「はっはっはっはっはっは!! あっはっはっはっはっはっは!! あっはっはっはゴホッ!ゲフぅっ! はひっ、はひーっ! むせたっ! あーっはっはっはっはっはっは!!」 「ぼらああああああああああああああああああ!!!(ぽいーん) ぼらあああああああああああああああああああああああああああ!!!(ぽいーん) ごうげぎだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!(ぽいーん) ごうげぎでじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?(ぽいーん) ごうげぎじでるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?(ぽいーん)」 あっはっはっはっは……… ぽいーん、ぽいーん……… 十数分後。 周囲に響く間抜けな音と笑い声がやんで静かになった畑の一角には、ひとりの人間と、ひとかたまりの"物"があった。 少しずつ少しずつ黒ずんでいくその"物"は、しばらくの間微弱な痙攣を繰り返していたが、 笑い過ぎで腹筋を痛めた人間に通行の邪魔にならないよう道の端に放り投げられてから1分後、完全に動きを止めた。 野原に咲いた花は弱くない。 道端に転がっている石は弱くない。 ゆっくりも決して、弱くないのだ。 他に書いたSSさん ・anko2094 体感時間は黄金色
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3325.html
『子ゆっくりのゆん生が終わるまで』 30KB 虐待 制裁 観察 越冬 家族崩壊 姉妹 自然界 現代 虐待人間 6作目 これは、とある埼玉の小さな小さな山に住むゆっくりたちのお話です。 季節は秋。 赤い紅葉がはらはらと舞い落ちる様は、食料を集めるゆっくりたちも時折それに見惚れるほどに美しいもので した。 とはいえ、もうすぐ寒い冬がやってきます。えっとうっ、の準備を急がなければなりません。それでもやっぱ り、ゆっくりたちは燃えるような葉の嵐を見ては少しだけゆっくりするのでした。 さてさて。 その小さな山にはぱちゅりーを長とする小さなゆっくりの群れが住んでいました。彼らは小さな群れでしたが、 賢いぱちゅりーのおかげでそれなりーにゆっくりな毎日を過ごしていました。 ただ、どんな群れにもやはり「ゆっくり反りがあわない」という者が出てきます。 狩りの名手であるそのまりさは、かつてぱちゅりーの群れの一員でしたが、ある出来事をきっかけに番のれい むと共に群れを出ました。 とはいえ、発見即せいっさいというような厳しいものではなく、ただ群れの保護から離れるだけのこと。そし て、この山は人間も滅多に来ず、食料もそれなりーにあるので、家族はとてもゆっくりできていました。 『子ゆっくりのゆん生が終わるまで』 vol1.長男 子まりさ その子まりさは、親まりさのことが本当に好きでした。 子が親を愛し尊敬するのは、人間動物問わず極々当たり前のことですが、子まりさの信奉っぷりは群を抜いて いました。 というのも、子まりさはれみりゃに襲われたとき、果敢に戦った親まりさに救って貰ったという思い出がある のです。 ――お父さんのようになりたいよ。 子まりさは常日頃、その夢を口にしていました。母親である親れいむの温かい眼差しを受けつつ、子まりさは 日夜走り回って体力をつけていました。 狩りにはまだ行かせて貰えなかったのですが、父からは「もうすぐおちびちゃんにも狩りを教えてあげるね。 いっぱいごはんさんをみつけていっぱいむーしゃむーしゃできるようにしてあげるね」と言われていました。 子まりさはそう言われた日の夜、親れいむにベッドに寝かしつけられるまで興奮のあまり眠れませんでした。 一つ残念なことに、子まりさに友達はいませんでした。自分が生まれたときには既に、親まりさたちは群れを 離れていたからです。 一度、お散歩の途中で見かけたぱちゅりーに話しかけてみましたが「むきゅ。あのいっかのおちびちゃんね。 あなたとわたしはむかんけいだから、はなしかけちゃだめよ」と言われてしまうだけでした。 そのことを子まりさが伝えると、親まりさは仕方ないねというように寂しげに笑い、それを親れいむがすーり すーりして慰めました。 子まりさは子まりさなりに、この話題がタブーなのだと理解しました。 代わりに妹たちとはよく遊びました。 次女のれいむは、姉である子まりさの目からみても「しょうらいゆっくりしたおよめさんになれるね」という 感じのしっかりした子でした。 末のまりさは、二人より少し歳が離れているせいかちょっと甘えん坊ですが、すぐ泣いてすぐ笑う、家族のム ードメーカーです。 狩りに連れて行くと親まりさが言った日から「たいようさんに3かいゆっくりおはようといった」日が過ぎて。 とうとう待望の狩りに連れて貰う日がやってきました。 「おとうさん、ゆっくりかりをするよ!」 「ゆふん。おちびちゃん、ちょっとまってね。ちゃんとおとうしゃんのいうことをきかないと、ゆっくりできな くなるからね」 「ゆっくりりかいしたよ! おとうさん、どうすればいいの!」 親まりさの教えを受けた子まりさは、子まりさなりに頑張ってみたがどうにも上手くいきません。 「ばったさん! どうしてゆっくりしてくれないの! まりさおこるよ! ぷくーするからね、ぷくーだよ!」 そんな風に言っても、バッタはいうことを聞いてくれないのです。 結局その日、子まりさが狩りで手に入れたのは小さな小さなきのこ一つ。それも、親まりさが見つけてくれた ものでした。 帰り道に涙ぐむ子まりさに、親まりさはこう言って聞かせました。 「おちびちゃん。さいしょはだれでも、うまくいかないものなんだよ」 「おとうさんも……?」 「そうだよ。まりさもさいしょは、ぜーんぜんとれなかったんだよ。おとうさんについていって、たくさんのこ とをおしえてもらったんだよ……」 「まりさも、かりがうまくなれる?」 親まりさがすーりすーりしてくれました。 「もちろんだよ、おちびちゃん」 焦らずゆっくりと育つ。それがゆっくりにとってゆっくりできる成長なのです。 子まりさはその日、一つ大人になりました。 vol2.次女 子れいむ 甘えん坊の妹と、元気いっぱいの姉に挟まれた次女れいむは、親まりさより親れいむにべったりで、必然的に 家のお手伝いをよくすることが多くなりました。 親れいむは、子供の目から見ても色んな知識を蓄えていました。特に、母親がありす種だったせいか「こーで ぃねーと」の腕は、ありす種に勝るとも劣らずといった感じでした。 「こうやってはっぱさんを口ではむはむして、おさらさんをつくるんだよ」 「ゆゆ~……おかあさん、ゆっくりすごいよ!」 「ゆふん。おちびちゃんもつくってみる?」 小さな葉っぱさんを渡された次女れいむは、うんしょうんしょっと舌で一生懸命葉っぱを折りたたんでみまし たが、いつまで経っても「おさらさん」にはなりません。 「ゆぅ……」 次女れいむは、上手くいかない自分に嫌気がさして涙ぐんでしまいます。それを見てとった親れいむは、あら あらと苦笑しながらすーりすーりして言いました。 「てつだってあげるね、おちびちゃん」 「うん!」 親れいむが舌を出して、分かりやすくおりたたみ方を説明していきます。次女れいむもそれを見ながら、ゆっ くりがんばります。 その日の夕食、子まりさの「おさらさん」が変わりました。 「ゆゆ? まりさのおさらさん、いつもとちがうね!」 「ゆふふ。それはね、れいむがつくってくれたおさらさんなんだよ」 「ほんとう、れいむ!?」 次女れいむは照れたようにもみあげをもじもじさせながらいいました。 「ゆゆ~……お、おねえしゃんにぷれぜんとしたかったの……」 「れいむ! まりさかんげきしたよ! ゆっくりありがとう!」 「ゆふん……」 温かく姉妹愛を見守る両親。その後、末っ子が「まりしゃもほしい!」と我が侭を言っててんやわんやしたの は、また別の話。 vol3.三女 子まりさ 末っ子の子まりさは、いつも劣等感を抱えていました。 長女である姉まりさは、お父さんに狩りに連れて行って貰えるほどの元気の良さ。 次女である姉れいむは、いつもおうちのお手伝いをしているしっかりもの。 自分だけが、何もできない気がしていました。まあ、この末まりさ。実はまだ一人でうんうんもできないほど の甘やかされっぷりなので、まずはそこからだろうという話なのですが。 まず最初に、姉のように狩りに連れて行って貰うように頼んでみました。親まりさは困ったような顔で、彼女 を宥めるようにすーりすーりしました。 「ゆゆ~ん。おちびちゃんにはまだはやいよ! でも、たくさんあしたがきたらすぐにかりにいけるからね!」 「ゆぅぅぅ! まりしゃだいじょうぶだよ! いもむししゃんだってちょうちょしゃんだってむーしゃむーしゃ できるよ!」 「おちびちゃん。おとうさんをこまらせたらゆっくりできないよ?」 「うぅ……うぅぅ……うあぁぁぁぁぁん! やだやだやだああああ! まりしゃもかりにいくぅぅぅぅぅ!」 こればっかりはどうすることもできず、親たちも溜息をついて、肩ならぬもみあげとおさげを竦めるしかでき ませんでした。 「まりさ、まりさ」 「ゆぅぅ……にゃに……?」 ある日、末まりさは皆が寝静まっている夜に起こされました。起こしたのは、姉まりさです。 「ゆっくりおはなしがあるんだよ、しずかにね」 「ゆゆ。まりしゃゆっくりするよ」 「じつはね、かりのとちゅうでおはなさんがいっぱいあるゆっくりプレイスをみつけたんだよ」 「ゆゆ~……おはなさん。おはなさんはゆっくりできるにぇ」 「ゆふん。しょろーりしょろーりとそのおはなさんをつみつみしようね」 「ゆうう……でも、まりしゃまだひとりでしゃんぽはできないよ……」 「ひとりじゃないよ。まりさとれいむとまりさで、ゆっくりいこうね」 「ほんと!? ゆわぁ……! ゆっくち! ゆっくちだね!」 浮かれて飛び跳ねる末まりさを、姉まりさは慌てて押さえました。 「しーっ、しーっ!」 「ゆう……おちびちゃん……よふかしはゆっくりできないよ……」 「ゆ! ご、ごめんなさいおかあさん」 次の日の朝。 姉まりさと姉れいむ、そして末まりさは三匹で一緒にお花畑に行きました。お父さんお母さんには「ゆっくり あそびにいくよ」とだけ伝えてあります。 「ゆわぁ……」 そこには白いお花さんがたくさんたくさん咲いています。ゆっくりたちにとっては種類なんてどうでもいいで しょう。ともかくそのお花はたいへんゆっくりできるものでした。 「いっぱいむーしゃむーしゃするよ!」 「ちがうよまりさ! このおはなさんで、はなわさんをつくるんだよ!」 「ゆぅぅぅ!? むーしゃむーしゃできないの!? どぼじでえええ!?」 次女れいむが諭すように言います。 「まりさ。まりさはおとうさんおかあさんみたいになりたいよね?」 「ゆうう……あたりまえだよ! まりしゃだって、おとうしゃんみたいににゃれるもん!」 「だったら。おとうさんおかあさんにはなわさんをぷれぜんとしようよ! そうしたら、おとうさんもおかあさ んもまりさのこと『すごくゆっくりしてるね!』ってほめてくれるよ!」 「ゆ……ほ、ほんとう?」 「ほんとうだよ! だって、おはなさんではなわさんをつくるのってすっごくゆっくりしているからね!」 言われて、末まりさは周囲を見回します。 このきれいなお花さんで花輪をつくれば、確かに両親も自分のことを見直すかもしれません。子ゆっくりにと って、食欲は何よりも優先されるべきものですが、彼ら三匹はとても優秀なようですね。 「うん! まりちゃつくるよ! はなわさんをつくるよ!」 子ゆっくりたちは、息せき切ってお花を集めます。それから、次女れいむの指示に従って、お花さんを加工し ていきます。 「ゆうう……かんせいしたよ!」 花輪がとうとう完成しました。 「ゆわーい……とってもゆっくりしたはなわさんだよ!」 「おとうさんよろこぶかな?」 「おかあさんよろこぶよね!」 子ゆっくりたちは花輪を大事そうに抱えて、お家へと向かいます。 長女まりさが鼻歌を歌い始めました。 「ゆっくりのひ~♪」 次女れいむがそれに合わせます。 「まったりのひ~♪」 末まりさも続けます。 「すっきちのひ~♪」 三匹の合唱は、秋の森に春のような明るさを与えてくれます。 「ゆゆ? おちびちゃん、おそかったね……ってどうしたのこれ!?」 「ゆぅ……まりしゃからのぷれじぇんとだよ!」 「まりさたちはちょっとおてつだいしただけだよ!」 「まりさがおとうさんおかあさんのためにがんばってくれたんだよ!」 「ち、ちがうよ! まりしゃはおてつだいしただけで、おねえちゃんがぜんぶ……」 末まりさは慌てて訂正します。 聡い両親はすぐに、どうしてそんなことをしたのかを理解しました。これこそ愛です、家族の愛情なのです。 「ゆ……ゆ……ゆ……ゆううううん! おちびちゃああああああん! すーりすーり! すーりすーりだよーー ーーーー!」 両親は二匹でこれまでで最大のすーりすーりを三匹に与えました。 「「「ゆわあああああああい!」」」 その日の夜。厳しい冬を乗り越えるためのゆっくりエネルギーを補充するかのように……彼らのお家では、い つまでもいつまでもすーりすーりと歓声が絶えることなく続くでしょう。 秋にしては珍しくぽーかぽーかした日和。 頭に花輪をつけた親まりさと親れいむは、自分のそばでお昼寝する子ゆっくりたちを見ながらのんびりとすー りすーりしていました。 ――ゆわあああ……すごくゆっくりしたおちびちゃんたち! ゆっくりしていってね! ――ゆっくちちていってね! ――うんうんはここでしなきゃ、ゆっくりできないからね! ――ゆっくちりかいちたよ! ――ゆうううう!? どぼじでうんうんもらしてるのぉぉぉ! ――ゆううう! れみりゃがああ! れみりゃがあああ! ――だいじょうぶだよ、おちびちゃん。れみりゃはおとうさんがやっつけたからね。 ――すーりすーり……あんしんしておやすみ、おちびちゃん。 ――ゆ、ゆ……ゆっくちぃ……。 ――きゃわいいまりしゃのすーぴゃーうんうんちゃいむだよ! ――ぎゃんばれぎゃんばれま・り・しゃ! ――ぎゃんばれぎゃんばれま・り・しゃ! ――うん、うん……しゅっきりいいいいい! ――やったね! ひとりでうんうん、できるようになったね! ――ゆわああい! おかあしゃん! しゅーりしゅーりしてー! 「ゆっくり……しあわせー」 「まったり……しあわせー」 「……ねえ、れいむ。えっとうっ、がおわったら……」 「ゆぅ……はずかしいよ、まりさ。おちびちゃんがいるんだし……」 「だいじょうぶ。ねむってるよ……」 春になったら。 おちびちゃんたちに、また妹が出来るのかもしれません。 二人はその日を夢見て、でもまずは……今のゆっくりしたしあわせー、を噛み締めるのでした……。 ――まあ、そんなハートフルストーリーなど一切合切関係なく君たちは死ぬんですが。 vol4.いつものマンネリ打破お兄さん ゆっくり埼玉研究所の「博士」から「虐待もできてお金も貰えるというアルバイトしませんか?」と誘いを受 けた。 日曜で暇を持て余しているということもあり、喜び勇んでやってきた次第である。しかし、山に登るときまで 白衣なんですか博士。 「ここには、ぱちゅりーが長をやっている小規模な群れがあります」 「その群れを全滅させるんですか!」 俺の言葉に、博士は苦笑した。 「せっかちすぎますよ。全滅はよろしくありませんね。ゆっくりの群れは中規模レベルになると個数の厳密な管 理が必要になります。大規模レベルになると、森の生態系を乱す恐れがあるからです。ただ、中規模はともかく 小規模になるとなかなか国も管理しきれない」 「はぁ……」 「そこで。山の持ち主から依頼されて、定期的に間引きを行う訳です。ゆっくりは小規模なら生態系を乱さず、 定期的に死亡することで土壌を豊かにしますからね」 「なるほど。間引きですか」 「ええ。さて……まずは群れから追放されたり、出て行った『はぐれ』を間引くとしましょうか」 「分かりました! って、『はぐれ』かどうかってどうやって分かるんですか?」 「ああ、案内ゆっくりがいますから」 博士はそう言って、きょろきょろと周囲を見回した。天然の花畑のようだ。真っ白い花が、風にゆらゆら揺れ ている。その景色にまったりしていると、草むらからがさがさと音を立てて、ぱちゅりーが現れた。 野生のゆっくりにしては、妙に小綺麗で金バッジ付のような知的な眼差しを持っていた。 「むきゅ。おひさしぶりです、はかせ」 「お久しぶりです。長ぱちゅりー」 「『はぐれ』のところにあんないするわ。ついてきてください」 「ありがとうございます。あ、そうそう。こちら今回の助手さんです」 「むきゅ。これは、しつれいしました。おさぱちゅりーです」 「ああ、こちらこそご丁寧に……」 ぺこりと頭を下げるぱちゅりーに、何故か恐縮して思わず頭を下げてしまった。 「あの……博士」 「はいはい?」 思わず小声で囁く。 「間引きに、群れの長が協力するんですか?」 「賢い長なら、ですがね。ここの長ぱちゅりーは、その辺ドライですから」 「はかせ。『はぐれ』の一家はあそこです」 ぱちゅりーがもみあげで指した先には、確かにゆっ、ゆっ、ゆっ、という歓声が聞こえてくる。 「今回はそれ以外にも?」 「むきゅう。もうそろそろ、いまあるしょくりょうのけいさんがおわります。ただ、まびきしないわけにはいか なさそうです……むきゅ」 「では、ひとまずあの『はぐれ』からということですね。了解です」 「それではよろしくおねがいします。むきゅ」 長ぱちゅりーががさがさと草むらに消えていく。 「食料の計算って何ですか?」 「越冬用の食料を計算して、何匹間引かないと駄目か、計算しているんですよ。冬直前に、もう一度間引きに来 なきゃいけないようですね」 「へぇ……凄いですね」 「どこの群れもこうなら、楽なんでしょうがね。さて、まああの『はぐれ』は我々の獲物です。今回の虐待道具 は……」 鼻歌交じりで博士が取り出した道具。それは博士のオリジナル虐待道具らしい。 「名付けて――『お母さんのおくちのなかはとってもゆっくりできるね』です」 ネーミングセンスはないな、と俺は思った。 ぽかぽかした陽気のせいか、一家は揃ってうたたねしている。 「親まりさ・親れいむ・子まりさ・子れいむ・子まりさ……普通ですね」 「普通が一番じゃないですか。起こしますか?」 「ええ。打ち合わせ通りによろしくです」 俺はクラッカーを取り出し、彼らの鼻先でぱん、と爆発させた。 「「「「「ゆ゛っっっ!!!」」」」」 飛び起きた一家は、目をぱちぱちさせている。 「よっ!」 「ゆ……だ、だれ……ゆっくりできない……」 「に、にんげん……さん?」 「ゆう……ゆんやあああああああ! うるじゃいいいい! うるじゃいよおお!」 「ゆ、ゆっくりできないよぉ!」 「にんげんさん! なんだぜ! ま、まりさたちになにかようなのかだぜ!?」 親まりさがようやく立ち直り、四匹を守るように立ちはだかる。俺は笑って子ゆっくりの一匹を指差した。 「そのガキどもが欲しい」 「「「ゆ゛ッ!!?」」」 子ゆっくりたちは硬直したが、親たちの反応は速かった。 「おちびちゃん! おかあさんのおくちのなかにはいるんだぜ!」 子ゆっくり三匹程度なら、楽勝で口の中に入るだろう。 博士は道具を構えて、今か今かと待ち構えている。 「ゆうう! おちびちゃん、ゆっくりしないでいそいで!」 「ゆ! ゆっくりりかいしたよ! まりさ!」 「ゆう……きょわいよおおお! ゆあああああん!」 まりさが泣きながら、れいむがきりっと眉を吊り上げて口の中に入った。が、一回りだけ体の大きいまりさは 口の中に入ろうとしない。 「ゆゆ! おちびちゃん、さっさとはいってね!」 「いやじゃ! まりしゃもたたかうよ! こんなゆっくりしてないにんげん、まりさもせいっさいするよ!」 ……ふむ。どうします? やっちゃってー、と博士の指示が出たので俺は素早く動いて子まりさにデコピンを喰らわせた。呆然としてい た子まりさの皮が、じんわりと赤くなり……見る見る内に子まりさの目に涙が浮かぶ。 「ゆび!? い、い、いじゃああああああああああああああああああい! ゆんやあああああああああああああ あ!」 子まりさは飛び跳ねて痛みを訴える。相変わらず、痛みに弱いなぁコイツ等。 「おちびちゃあああああああああああん! はやくおかあさんのおくちのなかにいいい!」 「ゆんやああああ! おうちかえるうううう!」 ぴょんぴょんと子まりさがお家に入ろうとする、おいおい違うだろ。 「おうちはだめだよおおおお! おちびちゃんはこっちいいいいい!」 親まりさが誘導して、ようやく子まりさは口の中に入ってくれた。ホッと一息。 「では、始めるとしますか」 「かぞくにはてをださせないよ! ぷくーーーーーっ!」 膨らんだ親まりさの帽子を取り上げ、中に入っていた凶器(木の枝)を念のために奪ってから、親まりさの頭 に座り込んだ。 「ゆぶべ!? ど、どいてえええええ! どいてよおおおおおお!」 ケツでじたばたする親まりさがたまらなく鬱陶しいので、適当に突っついて大人しくさせる。 「いだっ、いだだだっ! やべっ、やべでええええ!」 「まあ、落ち着いて見てなって」 「さてさて、まずはご開帳♪」 博士が鼻歌交じりで、親れいむの口をこじ開けた。 「ゆんやあああああ! どぼぢでおくちさんがひらくのおおおおおお!?」 「きょないでええええ! れいむぷくーするからねえええ!」 「やじゃあああ! きょわいのやじゃああああああああああああああ! いだいのやじゃああああああああ!」 「ふぇご! ふぇげええ!」 訳の分からない鳴き声をあげる親れいむの喉に、まずは第一の装置をセットする。アクリルの板は喉に複数の フックで引っかかり、絶対に子ゆっくりたちを飲み込ませない。 「続いて枠をつけて、と……」 親れいむの口に、自動車のタイヤ交換に使用するジャッキのような金属装置を取り付ける。このジャッキで口 は限界まで広げられる。 「ふぉ……ふぁ……」 「よし、大きさはこんなものか……」 それから、透明なガラスをその枠にセットして終了である。 「ふぉげ!? ふぁ……ふぉぁああああああ!?」 「やべろおおおおおお! れいむになにするんだあああああああああ!」 目を白黒させる親れいむ。 必死になってもがく親まりさ。 「あんよ焼きかあんよ剥がししますか?」 「ちょっとやそっとじゃ、外れませんからねえ。せっかくですし、あんよを焼かない状態で成体ゆっくりを押さ えつける経験もしておいた方がいいでしょう」 「そうっすね」 まあ、うねうねもがくのが多少鬱陶しいが、慣れればどうということはない。 「それより見えますか?」 「ええ、バッチリです」 子まりさ二匹、子れいむ一匹が、不安そうにこちらを覗き込んでいた。恐らく、彼らは気付いていないのだろ う。お母さんの口の中は安心できる、としか知らないのだ。 ……どんな場所でも、長く居すぎるとロクなことはないんだぜ? 何ということでしょう。 悪辣な「にんげんさん」が突如、しあわせーな一家を妬んで襲いかかってきました。勇敢な親まりさが戦い、 親れいむは子供を守るために口の中に入れました。 一緒に戦おうとした子まりさも、親の愛情を受け止めて仕方なく口の中に入りました。決してデコピンが痛か ったから、などという理由ではないのです。 「ゆぅ。おかあさんのおくちのなか、とってもあたたかくてゆっくりできるね」 「ゆふふふふ。にんげんもこまっちぇるね!」 「あとはおとうさんがにんげんさんをせいっさいするのをまつだけだね!」 そんな風に、三姉妹は笑い合います。彼らにとって父親は絶対的な存在です。親まりさが負けることなど、あ り得るはずがないのです。 ところが……。 「ゆゆっ! おくちさんがひらいちゃったよ!」 「ゆんやあああああああああ! きょわいよおおおおおおおおおお!」 「やめじぇええええええ!」 何ということでしょう。人間さんの手がするすると伸びたかと思うと、お母さんのお口に変なものを入れまし た。どうやら、『透明な壁さん』のようです。 「ゆゆうう! おそとがみえるよ!」 「ゆぅ……おとうさん、なにしてるんだろうね?」 「おとうしゃん、うんうんたいそうしちぇるの?」 「ちぎゃうよ! きっとあれは……ぽんぽんあそびをしているんだよ!」 ぽんぽんあそびとは、親まりさのおなかをトランポリン代わりにする遊びです。 「ゆう。じゃあ、にんげんさんとなかよくなったのかな?」 「きっとこうさんしたんだよ!」 「ゆうう……じゃあまたゆっくちできるね!」 「ゆっくり、ゆっくりー!」 子ゆっくりたちには、父親が椅子にされていることが分かりません。だって、お父さんは無敵なのですから。 今まで幸せだったのだから。これからもきっと幸せ。 そんな幻想を、この子ゆっくりたちは抱いているのです。人間の言葉でいうところの、現実逃避ですね。 人間の場合は、冷静な判断力が戻れば現実に立ち向かおうともするのでしょうが、子ゆっくりたちには、そも そも現実を認識できる力がありません。 だから、子ゆっくりたちは自分たちにできることをしました。 「おねーちゃん、ゆっくりしようよ!」 「……そうだね、みんなでゆっくりしよう!」 「ゆっくり♪ ゆっくり~♪」 長女まりさが歌を歌い始めました。 「ゆっくりのひ~♪」 次女れいむがそれに合わせます。 「まったりのひ~♪」 末まりさも続けます。 「すっきちのひ~♪」 三匹の可愛らしい合唱は、お母さんのお口の中で響きます。 「ふぉふぇー! ふぉふぉっふぇー!」 親れいむは、必死になって口の板を何とかしようともごもごしています。でも、当然ながら無駄な努力です。 親れいむは知っています。 長時間口の中に居た子ゆっくりが……どうなってしまうのかを。 人間たちが何か言っています。 「どうです。水槽で見ているみたいでしょう。時間制限つきですが」 「なんか歌ってるみたいですね。微かに声が聞こえますし」 「無邪気なものですね。さて、第二段階に移行するのにあと十分というところですか」 「じゃ、ゆっくり待ちますか」 「ゆっくり待ちましょうか」 親れいむにはよく分かりませんが……とにかく、すごくゆっくりしてないことを言っていると、理解できまし た。 ――十分後。 「ゆ? ゆゆ? あんよしゃんが……むずむずするよ!」 れいむが飛び跳ねます。が、いつもの半分も跳べません。それはそうでしょう。もう既に、彼女のあんよは溶 けかかっているのですから。 「ゆううう!? まりさのあんよしゃんもへんだよおおおお!」 「ゆんやああああああ! べとべとしゅるううう! おかあしゃんのおくちのなか、べとべとしゅるよおおお!」 三匹がぴょんぴょんと飛び跳ねます。 その度に、どんどんとあんよは溶けていきます。 親れいむはあまあまな味が口の中に広がってきたことに絶望します。 「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 「いじゃい! あんよしゃんがいじゃいいいいい!」 「うあ……でるううう! おうちかえるううううう!」 「まりしゃも! まりしゃもおうぢいいいいい!」 三匹がお母さんのお口から出ようとします。ですが、透明な壁さんがそれを阻んでいます。 「かべしゃん、かべしゃん! ゆっくりどいてね!」 「ぷくーしちゃうよ! ぷくうううううう!」 「れいむたち、おくちからでたいの! だからどいてよおおおおおおお!」 ぽこんぽこんと、ピンポン玉のようなしょんぼりした勢いで壁に当たっては弾かれを繰り返しています。 その様は、二人の人間からはとてもゆっくりできるほどに滑稽でした。 「やべろおおおおお! おぢびちゃんが! おちびちゃんがああああああああ!」 「あんよが溶けたと気付いてから、五分後に次の虐待に移りますよー」 「どげじゃうううう! ゆっくりしていたおちびちゃんがとげじゃうよおおお!」 おや? 白い人間さんが立ち上がりましたね。 親れいむの横に回って、何やらゆっくりしてないものを取り出しましたよ? 「さくっ、さくっ、さくっと」 「ふぉふぇええええええええええええええええええええええ!?」 なんと、白い人間さんはナイフで親れいむの頬に四角い切れ込みを入れました。それから、手でその頬をぶち りと引き千切りました。 親れいむは激痛でびったんびったんと暴れ狂います。その度、子ゆっくりたちは悲鳴を上げました。 「やべでええええ! おかあしゃん、やべでよおおおおおおお!」 「おかあさあああああん! ゆっくりしでよおおおおおお!」 「ゆんやあああああああ! もうやじゃあああああああああああ!」 ――と、そんな彼らの前に光が現れました。何と、お母さんの頬がぱかっと開いて、出口が作られたのです。 「おーい、こっから出られるぞー」 「ゆ゛! でられるよ! ここからでられるよ!」 「いもーしょ! しっかり! しっかり!」 「ゆうっ……ゆっくち! ゆっくちぃっ!」 人間さんの声に、子ゆっくりたちは無我夢中でそちらに向かってずーりずーりします。ところが不思議なこと に、段々と傾斜がキツくなってきました。 「ふぇあああああああああああああああああああああああ!」 「おー、なるほどなるほど。そういう風にすれば絶対にクリアできないと」 「おまけに間近で絶望する子ゆっくりも見られますよ」 「あ、じゃあ替わってくれませんか」 「いいですよ。どうぞ」 人間が入れ替わります。中を覗き込んだ人間は、満面の笑顔を浮かべました。 「どぼじで……どぼじでのぼれないの……」 次女れいむが泣きながらよじよじしては、滑り落ちています。 「ゆんやあああああああああああ! ゆんやああああああああああ!」 長女まりさは、ただ泣き喚くだけです。おまけにうんうんとおそろしーしーまで漏らしてます。親れいむはそ れどころじゃないのが救いですね。 「うんしょ、うんしょ、のーびのーび……のーびのーび」 もう歩けないと判断した末まりさは一生懸命のーびのーびしますが、無駄な努力です。 どんどんどんどん。 子ゆっくりたちは溶けていきます。 思い出も、成長も、大切なものは何もかも全部。 「ゆう……ゆゆ……ゆび……ゆびびびびび…」 長女まりさは、溶ける痛みと恐怖に狂いました。 「どぼ……じで……おか……しゃ……」 次女れいむは、どうして大好きなお母さんが自分を殺そうとするのか、理解できません。 「とけるの……やじゃ……」 末まりさは、無慈悲な現実に涙しました。 「おちびちゃああああああああああああああん! まりさの! まりしゃのゆっくぢしだおぢびじゃあああああ ああああああああああああああああああん!!!!」 「ふぁあああああああああ! ふぉおおおおおおおおおおお! ふぇおおおおおおお!」 長女まりさには夢がありました。 いつか、狩りでおとうさんを追い越すのです。 「ゆぅ……ついにまけたよ! おとうさん、これであんしんしていんたいっ、できるね!」 「まかせてよ、おとうさん! まりさが、ずーっとごはんさんをむーしゃむーしゃできるくらいに、とってきて あげるからね!」 次女れいむには夢がありました。 いつか、長女まりさと同じくらい格好いいまりさにぷろぽーずっをしてもらって、ゆっくりした家庭を築くの です。そしてこーでぃねーとしたおうちで、子ゆっくりたちと一緒にゆっくり暮らすのです。 「ゆふふふ……まりさ。れいむ、しあわせー」 「せかいでいちばんびゆっくりのれいむをつがいにした、まりさこそしあわせーだよ」 末まりさには夢がありました。 近くにぱちゅりーの率いる群れがあります。そこに次の長として、立候補するのです。 そうして、どんどんと群れを大きくして世界を制覇するのです。 「うへええええ。人間ではとてもまりささまに敵いません」 「ゆっくりとうぜんだね! さっそくだけどあまあまもってきてね! そしたらまりさせんようのどれいさんっ、 にしてあげるから!」 「おおまりささまなんとありがたい。さあ、ゆっくりしないであまあまを集めるんだ!」 そんな他愛もない夢は。 母親の口の中で、どろどろに溶けて消えていったのでした。 「さて。すいませんが、れいむの方はこっちで潰しますので、まりさよろしくお願いします」 「はーい」 俺は親まりさを潰そうと立ち上がった。 「うぎぎぎぎぎ……がああああああああああああああああああああ!」 復讐と殺意に満ちた視線を、はいはいとおざなりに受け流す。 「どぼぢで……どうじでごんなごどおおおおおおお! ぐぞじじい! じね! じねええええええええええええ ええええ! おに! あぐまあああああああああああ!」 「どうしてってなぁ……間引きってどう説明したらいいものか」 「ああ、じゃあ僕が説明してあげますよ」 中枢餡を素早く突いて即死させたのだろう、親れいむは既に事切れていた。何ちゅう早業だ。 「いいですか、まりさ。この山は小さくて、ぱちゅりーの群れがちょっと増えただけでも、山の資源が枯渇して しまいかねないほどなのです」 「……ゆ?」 「要するに、越冬するためにまりさが食料を集めますよね?」 「えっとうっ、するからあたりまえだよ……」 「あの群れもみんなえっとうっ、しますよね? そうすると、ごはんさんが足りなくなるのです」 「たり……ない?」 「ええ。あなたたちゆっくりの食欲は旺盛すぎて、放置しておくと山の食料が全部なくなりかねないほどなので す。だから、我々は定期的にやってきてゆっくりを駆除するのです」 「くじょ……? これが、これがくじょ……?」 「ええ」 親まりさが歯を剥き出しにする。 「うぞづげえええええええええええええええ! まりさは! まりさはゆっぐりじでだんだああああ! ぞんな まりざだぢが! くじょされでいいもんかあああああああああ!」 「ええ。……掟を破ってまで、ですよね」 「え゛」 親まりさが凍りついた。 家族が全て殺されたにも関わらず、彼はそれどころじゃないとばかりに狼狽し始めた。 「おちびちゃんは一家族につき一匹。何らかの事情があるときのみ、もう一匹追加を許される。忘れたとは言わ せませんよ?」 「ど……どぼじで……どぼじでおぎでじってるのおおお!?」 長ぱちゅりーから聞いていたからだが、博士は俺にそっと目配せした。教えるつもりはないらしい。 「まあ、ともかく。掟を破って子供を三匹も作ったあなたは、山の敵なんですよ」 「おやまさんの……てき……」 「あなたたちがゆっくりすると、群れの誰かがゆっくりできなくなるんです。だから、死になさい」 「ゆ――――」 親まりさがビクンと全身を震えさせる。カチカチと歯を鳴らす。 れいむに助けを求める――死んでいる。 長ぱちゅりーに助けを求める――ここにはいない。 「むきゅ。まりさ……おちびちゃんはいっぴきだけよ。ほかのおちびちゃんは、みゆっくりのときにかりとらな いといけないわ」 「やじゃあああ! やじゃああ! おちびちゃんはゆっくりできるんだああ! ごはんさんだって、まだまだた くさんあるだろおおお!」 「むきゅう……それはいまのはなしよ。あきさんがくるころには、どうなるかわからないわ」 「うるざいいっっ! まりざはれいむといっしょにむれをでるよっっ!」 「……わかったわ。それがまりさののぞみならしかたないわね。みんな! まりさはむれからついっほうされた わっ! ごはんさんをわけたりするとせいっさいのたいしょうになるからね!」 「まりさぁ……」 「ゆ。れいむ、だいじょうぶだよ……まりさがまもるから」 「ゆ゛……ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」 まりさが博士に飛びかかる。博士は右手に持っていた針で、素早くまりさの目から中枢餡を突いた。 「はい、終了っと」 「ゆ゛。ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ぐ……ぢ……」 まりさには、夢がありました。 「それじゃあおとうさん……いってくるのぜ!」 「おとうさん、れいむいってくるよ!」 「おとうさん、いってきます!」 とうとう、最初の子供三匹が巣立ちのとき。精悍な顔立ちになった長女まりさ、誰もが振り返るような美ゆっ くりになった次女れいむ、元気溌剌の末まりさ。 みんなみんな、ゆっくりしたゆっくりでした。 それを見送って、れいむと二匹でゆっくりのんびりと暮らし――。 「ゆ。れいむ……」 「ゆふん。……つぎのおちびちゃんも、りっぱにそだてようね」 そうして、どんどんとまりさの餡筋のゆっくりたちが増えていくのです。彼らは世界中どこでもゆっくりして いるゆっくりと大評判。 たくさんたくさんの月日が流れて――。 子ゆっくり、孫ゆっくり、ひ孫ゆっくりたちがお家に集まる中、まりさとれいむはすーりすーりしながらゆっ くりと息絶えるのでした。 そのあと、たくさんのゆっくりしたゆっくりを作ったゆっくりとしてゆっくりえいきに認められ、ゆんごくで 二匹、のんびりと暮らすのです。 そんな夢を中枢餡が破壊される瞬間まで、まりさは考えていました。 中枢餡に針が突き立った瞬間、それが夢だと分かりました。 現実を理解した瞬間、一気に非ゆっくり症になるほど、まりさは絶望しました。 中枢餡を損傷して、激痛に動くことすらできないまま――時間は、ゆっくりと流れます。 (もっと……ゆっくり……したかった……) そう考えて、息絶えるまで現実では一秒にも満たなかったでしょう。 しかし、まりさにとっては――何年何十年もの時間に感じ取れたのでした。 残された死体は、群れのゆっくりたちが見つけないように叩き潰され土に撒かれました。 風が吹き、埋めた土の上に偶然にもあの花輪が二つ、ころころと流されてきました。 それはまるで、親まりさと親れいむの死を悼んでいるかのようでした。 「いやあ、めでたしめでたし」 博士はそう言って、笑ってこの物語を締めくくった。 <あとがき> 口の中ネタは、もうちょっと幅を広げたいなあ。 過去の作品 anko3216 愛するでいぶ anko3238 ゆ虐思考 anko3257 赤ゆ十連発(前編) anko3263 赤ゆ十連発(後編) anko3271 手を触れずに殺害せよ 挿絵: 挿絵:
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3574.html
『ゆん生のロープ』 28KB 制裁 独自設定 うんしー 26作目です。ラリアットはもともと、カウボーイの投げ縄のことを指すそうです とある田舎の畑にて。 1匹のゆっくりれいむが、キャベツの葉っぱをむしゃむしゃと食べている。 「むーしゃむーしゃ、し、しあわせぇええええ!!ゆっ♪ゆ~ゆゆっゆーーー♪」 このゆっくりは、つい最近つがいができたばかりの個体で、 ゆっくりできるおちびちゃんを産むために栄養を蓄えようと、 連日に渡って人の畑の野菜を盗み食いする、いわゆる野菜泥棒の常習犯である。 「おやさいさんはとってもゆっくりしてるね!!むーしゃむーしゃ・・ゆ、ゆゆ?ゆ、はなせくそじじい!!」 「これでちょうど30匹目っと」 紺色の帽子をかぶった男がれいむの前に突然姿を現し、 キャベツを頬張るれいむの頭を掴んで、そのまま林の方へと向かって行った。 男が向かったその先には、少し妙な光景が広がっている。 雑木林の一角に、何匹ものゆっくりが吊るされているのだ。 『ゆん生のロープ』 「おろせぇええええええ」 「さいっきょうのまりさをおこらせるといたいめにあうんだぜ!!」 「くちょじじぃはとっととれいみゅをはなちぇ!!!」 雑木林の入り口付近の木の、地上から5mほどの高さに複数のゆっくりが吊るされている。 個々のゆっくりはロープで十字結びに縛られ、身動きが取れない状態になっている。 ゆっくりたちは、柔らかそうな体を動かして抵抗を試みるのだが、 その度にロープがジリジリと音をたてて頬に食い込んでいく。 「ゆぐ、いじゃいのぜ」 「きたないてでれいむにさわらないでね!!ぜんぜんゆっくりできないよ!!」 男は先ほど捕まえたゆっくりを、あらかじめ木にぶら下げておいたロープで縛り、 口笛を吹きながらロープの片側をぐいぐいと手繰リ寄せ始めた。 ずりずりというロープの擦れる音と共に、ロープで縛ったゆっくりが宙に吊り上がっていく。 「ゆぎっ、ほっぺがいたくてゆぎっ、ゆっくりできないよ!!ゆぎっ、だからいたいっていってるでしょぉおおゆぎっ」 「よし、こんなもんだろう」 ゆっくりを吊り終えた男は軍手を外し、近くの切り株に腰を下ろした。 首に巻かれたタオルで汗をぬぐう男の姿は「一仕事終えた漢」という言葉がとてもよく似合う。 「やぁお前ら、少しは反省してるか?」 「ゆ!とっととおろせくそじじぃ!!」 「むきゅーーっこんなひどいことするにんげんさんにはおしおきがひつようだわ!!」 「いなかもののにんげんはとっととみんなをおろしなさい!!」 宙にぶら下がった合計30匹ものゆっくりが、一斉に男に対して罵声を浴びせ始めた。 ゆっくりの出す言葉は品を欠き、知らぬ間に人を苛立たせることが多々ある。 そのため、ゆっくりたちのおしゃべり好きな性格は、ゆっくりたち自身の平均寿命を低下させる一因ともなっている。 男は、そんなゆっくりたちの罵倒を気にせず、穏やかな表情でゆっくりたちを眺める。 穏やかそうな男の様子を見て、調子に乗った一部のゆっくりが、ロープの隙間から頬をぷくーっと膨らませて男を威嚇した。 「ぷくーーーっ!!どうしてれいむがこんなめにあわないといけないの!?れいむをこんなめにあわせるくそじじいはとっととしんでね!!」 「いやいや、もとはといえばお前らが悪いんだろ。お前らは山から下りてきて、人の畑へ勝手に入ってきた挙句、 そこに植えてある野菜を盗み食いした。まさか忘れたとは言わせんぞ」 「ゆ、おやさいさんはかってにはえてくるんだよ!!」 「そうなんだぜ、おやさいさんをかってにひとりじめするくそじじいには、かってなこというけんりはないんだぜ!!」 男の言葉を聞いて憤怒したゆっくりたちは、声を荒らげながら自ゆんたちの正当性を訴え始めた。 大きな声が発せられる度に、ゆっくりたちを吊るすロープがペンデュラムのようにゆらりゆらりと揺れる。 ゆっくりを吊るすロープは、ゆっくりの頭上方向にピンと伸び、 それからツルツルと滑る茣蓙が巻かれた太い木の枝で方向転換し、そのまま地上まで続いている。 ロープの先端は、男の近くの太い木にまとめてくくりつけられている。 男は再び軍手をはめ、ハープの弦をはじくように一本一本ロープの張力を確認してまわる。 「色々説明しても時間の無駄だから、一つ宣言しておこう。お前らは、俺の育てていた大事な野菜を勝手に奪って食べてしまった。 目には目を歯には歯を。ということで俺も、お前らにとって大事であろうゆん生をこれから勝手に奪いとっていく」 「ゆ!?ゆんせいをうばう??」 「なにかってなこといってるんだぜ!!かってなことをいうくそじじいはせいっさいするからかくごするんだぜ!!」 「ゆんせいはみんなのものだわ、それをかってにうばうなんてぜんぜんとかいはじゃないわ!!」 「にんげんさんはぜんぜんゆっくりしてないんだね、わかるよー」 「れいみゅはこれきゃりゃいっぱいゆっくちしゅりゅんだよ!!ゆっくちしちぇにゃいじじいはとっととちんでにぇ!!」 「さて執行の準備は整った。そろそろ始めるとしよう」 男は木に括っておいたロープのうち、一本をほどいて左手に握る。 それから静かに目を閉じ、右手の指をピンと張ってそのまま軽く腕をあげた。 「せいっさいだ」 男は目を見開き、あげた右腕を勢いよく振り下ろす、 と同時に、左手のロープをぱっと手放した。 ロープはそのまますっと流れていき、その動きと連動して一匹のゆっくりが真下に落下していく。 「ゆ、おそらをゆげっ・・・・いじゃい゛・・・・ゆっぐり゛・・でぎない・・・・・・」 ゆっくりはそのまま地面に衝突し、本来ゆでたまごのようにふっくらとしていた体は、ペチャンと潰れてハンバーグのように平らになってしまった。 「ど・・ぢで・・・・ごんな゛・・ごどに゛・・・・・・」 かろうじて形をとどめていたゆっくりの口から、悲痛の声が漏れてくる。 ロープの縛り目を中心に皮のいたる所が裂け、そこから黒い餡子が漏れ出している。 このまま放っておけば、このゆっくりは間違いなく死ぬだろう。 「もっど・・・・ゆ゛っ・・ぐり・・・じだがっ・・・・だ・・・・・」 あまりにも突然のことで、一部始終をぽかんと傍観するだけのゆっくりたちだったが、 仲間のゆっくりできない断末魔を聞いてようやく我に返る。 「ゆっ、れいむ!!」 「むきゅ、れいむしっかりしてね!!」 「ゆ゛・・・・・ゆ゛・・・・・・・・・・ 」 落下してからおよそ40秒後、ゆっくりの動きが完全に止まった。 「むきゅーーーーー!!なんて・・なんてこと・・・むきゅ、えれえれえれ」 「れいむゆっくりしてね!!ゆっくりしてね!!・・・ゆっぐりじでっでよぉお゛お゛お゛お゛お゛」 「わからないよおおおおおおおおおお」 「どぼぢでごんなごどずるのぉおおおおおゆっぐりだっていぎでるんだよ!!」 「なに、ここにいる30匹のコソ泥のうちの、たった1匹が死んだだけだ、 同情する義理なんてないさ。ふふ、いずれお前らも同じように死ぬから覚悟しておけ」 「いやじゃああああああれ゛いむ゛じにだぐな゛いよぉおおおおおおおおおお」 「もうやめてね!!こんなのぜんぜんとかいはじゃないわ!!!」 「ゆぴぃいいいいいゆっくちしちゃいよぉおおおおおおおお」 ゆっくりを殺してしまったにも関わらず、不気味なほど冷静な男に、 ゆっくりたちは底知れぬ恐怖を覚え、一斉に恐ろしーしーを漏らしてしまった。 ゆっくりたちの尿道を覆うロープにしーしーが染み込み、やがてそれが滴となって地面にぽたぽたと落ちていく。 パニックになった一匹の子ゆっくりは、ロープが頬に食い込む痛みも忘れて、体を強く揺すり始めた。 「いやじゃぁあああああいやじゃいやじゃいやじゃ」 「おいおい、そんなに暴れたら落ちるぞ」 「ゆっ、おちびちゃんもっとゆっくりしてね!!そんなにあばれたら、からだがいたいいたいになってゆっくりできなくなるよ!!」 「いやじゃいやじゃいやじゃああああ・・・・ゆげっ・・・・ゆ゛、お゛じょりゃ・・ゆ゛びょっ・・・・・」 「ゆっ、お・・・・おちびちゃん!?・・・おちびちゃんが、れいむのおちびちゃんがぁあああああああ」 「あらら即死だな、言わんこっちゃない」 無理に暴れ続けた子ゆっくりは、ロープの食い込んだ部分から皮が裂け、そのまま地面に落下してしまった。 「お゛ちびぢゃんが、れ゛いむのゆ゛っぐりできるおぢびぢゃんが、ゆ゛っぐ、ゆ゛っぐ」 「ゆ゛っぐ、ごんなのひどいんだぜ、ま゛りざだぢなにもわ゛るいごどじでないんだぜ」 「むぎゅっ、れ゛いむも、あのおぢびぢゃんも、とっでもゆっぐりじだゆっぐりだっだのに゛・・・」 「まあそう泣くなよ、俺がおもしろい話をしてやるからさ。 実はな、こんな絶望的な状況のお前らにも、一閃の救いを与えてやろうと思うんだ。 ここにいる30匹、いや既に2匹落ちたから残り28匹か、そのうちの1匹にだけ、無事に助かるチャンスを与えてやろう」 「ゆ゛っ、ぞれは、ゆっぐ、ほんどうなのぜ??」 「むぎゅ、ほ、ほんどうに゛だずがるの゛???」 「本当だ、条件を満たせば1匹は確実に救ってやる。ただし、それ以外は全て落下させる。こんな感じにな」 一本のロープが蛇のようにくねくねと動き始める、 と同時に「ゆっ」という声がして、1匹のゆっくりが地面へ一直線に落下していく。 「おそらゆぐっ・・・・いじゃい・・・・ゆ゛っぐり・・・・・・・・・・・・」 このゆっくりは最近、6匹もの赤ゆっくりに恵まれ、 しゅっさんを終えたつがいのために、お祝いの食べ物として野菜を持ち帰る予定だった。 「もっど・・・・ゆっぐりじだがっ・・だ・・・よ・・・・」 「こんな風に、俺の手元にあるロープはそれぞれお前らと繋がっていて、ロープを離せばそいつが連動して落下する仕組みになっている。 この一本一本のロープは、言うなればお前らの命綱だ。この命綱を、これから残り一本になるまで離していく。 一本のロープが残るということは、つまり1匹は最後まで落下せず残ることになるな。 先程言った条件というのはそれだ。その最後の1匹になることができたら、制裁を加えることなく無事に解放してやろう」 「ゆ!!」 「ただし、ロープの途中には目隠しを設けてあるから、どのロープがどいつに繋がっているかは俺にも分からない。 つまり、落下するやつはランダムで抽選されることになる。 それとお前らにとっては残念なことだが、ここにいる大半のやつは、 すでに落下してしまった3匹のように、無惨にも息絶えることになるだろう。 まあ、もともと無条件で奪われるはずだったゆん生だ、助かる可能性があるだけでもありがたく思え」 「いやじゃああああじにだぐないよぉおおおおおおおおお」 「もうやじゃぁああああああああれいみゅおうちかえりゅぅうううううう」 「仕方ないなぁ。もう1つ、お前らが喜びそうなルールを付け加えてやろう。二度は言わないからお前ら静かに聞けよ」 仲間のゆっくりが死んでしまったことで、ゆっくりたちはぎゃあぎゃあと喚いていたが、 自ゆんの生き残りを左右する男の話をしっかり聞こうと、口にぎゅっと力を入れて、声をなるべく出さないようにした。 特におしゃべりな子ゆっくりでさえ、自ゆんの口にしっかりとチャックをした。 「追加するのは『落下しても、無事生きていれば解放する』というルールだ。最後の1匹になれれば当然解放してやるが、 その1匹に選ばれずに落下してしまったとしても、運よく生きていればそのまま解放してやろう。どうだ?」 それを聞いたゆっくりたちの顔がぱーっと明るくなった。 どうやらこのゆっくりたちは、男の言葉の意味をただ、ゆっくりできるかできないかの印象だけで判断しているようである。 「ゆ!れいむはさいっきょうだからじめんにおちてもへいきだよ!!だかられいむはおうちにかえれるよ!!」 「ゆゆ!!れいみゅもさいきょうだかりゃおうちにかえれりゅよ!!」 「むきゅーっ、これでみんなおうちにかえれるわ!!」 「嬉しそうで何よりだ、お前ら全員が条件を理解したということで先に進めよう。さて、次はどいつが落ちるかな?そらっ」 1本のロープがシャーッと音を立てて茣蓙の上を滑っていく。 その音は、ゆっくりたちにとって耳障りな音として記憶されたようで、 ロープの擦れる音がするたびに、ゆっくりたちは不快そうな顔をする。 「ゆ?ゆゆ!!ゆびゅっ・・・・い・・いなかもの・・・だわ・・・・・」 「ありす!?ありす!!」 「これで無事に生きていれば、そこのありすとやらは解放だ」 「ゆ、そうだったんだぜ、ありすゆっくりするんだぜ!!」 「ゆ゛・・・・・ゆ゛・・・・・もっど・・・・・」 「ゆ?ありす!?ありす!!えいえんにゆっくりしちゃだめなんだぜ!!おうちにかえって、これからずっとまりさといっしょにゆっくりするんだぜ!!」 「もっど・・・・・ゆっぐり・・・・・・・・」 「ありす!!!おうちにかえったらゆっくりできるおちびちゃんをつくるんだぜ!!みんなでいっぱい、いっぱい、ゆっくりするんだぜ!!ありす!!!!」 「36、37、38・・・」 「ゆっぐりじだがっだよ・・・・・」 「ありすぅうううううううう」 「46、47・・・・・・53、54。54秒か、案外長かったな」 「ゆあああああああああどぼぢでぇええええええええええ」 まりさはロープの食い込む痛みも忘れて号泣する。しかし、落下したありすはもう動かない。 どんなに叫んでも、どんなにもがいても、ありすが二度と動くことはない。 お家に帰ってありすといっしょにゆっくりしたい、というまりさの夢は、希望は、永遠に叶わなくなってしまった。 途方に暮れたまりさは、ありすの頭のお飾りをじっと見下ろしたまま泣き続けた。 ところが他のゆっくりたちは、仲間のゆっくりが永遠にゆっくりするところを見ていながら、顔をニヤニヤとさせている。 先程までの状況からは想像もできない、何とも異様な光景である。 「ゆぷぷ、ゆぷぷ」 「ゆひひひ、ゆっくちーーー!!」 「なるほどな。今、お前らが考えていることをずばり言いあててやろう。 『他のゆっくりは死ぬかもしれないけど、自分だけは何とか助かるはず』どうだ?」 「ゆっ、さいっきょうのれいむはぜったいにたすかるんだよ!!」 「れいみゅもだいじょうぶだよ!!れいみゅもしゃいきょうだよ!!」 「ありすはゆっくりしてなかったからえいっえんにゆっくりしちゃったんだね、わかるよー」 ゆっくりたちは思い思いのことを口にする。 男はそれを無視して、独り言のように話を続ける。 「自分はきっと最後の1匹に残れるだろう、もしくは、自分ならこの高さから落ちても大丈夫だろう、そんなことを考えてるんじゃないか?」 「ゆ?なにいってるの??れいむはさいっきょうだから、べつにじめんにおちたってへいきだよ!!」 「むきゅー、ぱちぇもうんがよかったらきっとたすかるわ!!ぱちぇのうんうんもゆっくりしてるだけにね!!」 男はすーっと息を吸い込み、自分の腹部に手を当てて腹筋に力が入ることを確かめる。 それから、体の内部に溜まっていた感情を一気に爆発させた。 「ばーーーーーか、お前らは死ぬんだよ!!!」 「ゆ!?」 比較的温厚そうだった男の顔が、急に鬼のような表情に変わった。 その気迫に圧倒されたゆっくりたちは一斉に黙り、辺りはしんと静まり返ってしまった。 「ぬるいんだよてめぇら、5mっていう高さは想像以上に恐ろしい。 お前らよりはるかに頑丈な人間でさえ、5mもの高さから地面に落ちたら怪我をするし、打ち所が悪ければ命を落とすこともある。 それなのに、お前らみたいな柔な糞饅頭が落ちて助かるわけないだろ。自信過剰も甚だしいわ」 「ゆ、れいむはくそにんげんよりつよくてさいっきょうだからぜんぜんへいきだよ!!」 「れいみゅもしゃいきょうだよ!!れいみゅもくしょにんげんよりちゅよいかりゃへいきだよ!!」 「どんな境地が待っているかは、お前らが実際に体験してみればいい、落下すれば本当のことが分かるだろう。とりあえずせいっさいを続ける」 一本のロープが放たれ、一匹のゆっくりが間抜けな表情で落下していく。 次の瞬間に何が起こるのか全然分かってないようなゆっくりの表情が、その状況に不釣り合いでとてもシュールに見える。 「ゆ?・・・ゆぎぃっ・・・・・ゆぐ・・ゆ゛っぐり・・・・・ゆ゛っ・・・・・・ゆ゛ゆ゛っ・・・・・」 地面に叩き付けられて半分潰れたゆっくりの顔は、やがて苦しみに満ちた表情へと変わり、 さらに憤り、哀願、哀愁に満ちた表情へと変化していく。 絶望に満ちた表情に行きついたところで、落下したゆっくりはそのまま物言わぬ饅頭になってしまった。 ちなみにこのゆっくりは、最近このあたりに引っ越してきたばかりのゆっくりで、 群れの一員として、これからみんなといっしょにゆっくりする予定だった。 「ほらな、そんな所から落ちて助かる訳がない。落下してしまえばそれはそれは、 この世のすべてがひん曲がるんじゃないかと思えるほどの、地獄のような苦痛が待ってるから、お前ら覚悟しておけ」 「ゆっ・・・れ、れいむはさいっきょうだから、きっとだいじょうぶだよ!!」 「そうか?ならここで一つ、面白い話をしよう」 男はその場で強く手を叩く。 ゆっくりたちはその音に反応してビクッとする。 「俺は今まで、これと同じような制裁を幾度となくしてきた。その中で、最後まで残るやつを予想してきたんだが、 俺が予想したやつは結局、全ゆんが落下の衝撃で死んでいる。今回の予想は……そうだな、お前だ。今回はお前が残ると予想しよう」 「ゆ!?」 「今までの経験上、俺の予想が外れる確率は非常に高い。ということはだ、今回も予想が外れる可能性は非常に高い。 つまりお前は、俺の予想が外れて、これから落下して死ぬことになるだろう」 「ゆ!?どぼぢでぞんな゛ごどいう゛のぉお゛お゛お゛お゛お゛」 「ゆぷぷ、いいきみだよ!!」 指名されたゆっくりは悲しそうな顔をする。 その他のゆっくりは、指名されなかったことでほっと一安心したようで、 中には他ゆんの悲しんでいる様子を笑うものもいる。 「ゆへへ、さいっきょうのれいむはやっぱりだいじょうぶなんだよ!!」 「すでに笑ってるやつもいるが、本当だよなぁ、笑えるよなぁ。なんでって?それは、こう言えば事情が変わるからだ」 「ゆ?くそじじいはさいっきょうのれいむにかったつもりなの??ばかなの?しぬの??」 1匹のれいむがへらへらと笑いながら男を見おろす。 その姿に勇気づけられたのか、他のゆっくりたちも顔をニヤニヤとさせる。 男はゆっくりたちを見上げながら、スローテンポで話を始める。 「今、ここにいる二十数匹のゆっくりそれぞれに、最後まで残るという予想をしよう。 するとどういうことが起こるか。今までの経験上、俺の予想が外れる確率は非常に高い。 つまりそこのれいむも、お前も、そっちのお前も、死ぬことになるだろう。どうだ、おもしろいだろ?」 「ゆ!?どぼぢでぞんなごどいうの!!!れいむは、れ゛いむはさいっきょうだからだいじょうぶだよ!!」 「むきゅっ、そんなのうそにきまってるわ!!ぱちぇはおりこうさんだからわかるわ、みんなだまされないでね!!」 「そもそも俺が予想しようがしまいが、抽選はランダムで、最後まで残るのは一匹だけだ。 それなのにお前らは言葉遊びに釣られて、自分だけは助かるよーみたいに思ってたわけだ。 はは、本当笑えるよな。死ぬ確率なんてみんな一緒なのにな」 「ゆ!れいむはくそじじいよりつよいんだよ!!だかられいむはくそじじいをせいっさいするよ!!」 「むきゅ、ぱちぇはにんげんさんよりおりこうさんだわ!!だからぱちぇのいうことはただしいはずだわ!!」 ゆっくりたちは、自ゆんたちが男の頭上にいるという理由から、 自ゆんたちの方が優れているのだ、と信じて疑わない。 それもそのはず、この山のゆっくりたちの間では、高い位置にいるゆっくりのほうがより優れているとされるからだ。 その理由は、高い場所の方が何かと攻撃に有利だからとか、高い場所のほうがより遠くを見渡せるからといったもので、 時々ゆっくり同士で、どちらがより高い場所にいられるかを競う、権力争いを始めることさえある。 位置関係でいえば、確かにゆっくりたちは男の上にいる。 しかし立場でいえば、その位置関係はコロッと逆転する。 このゆっくりたちは、物事を客観視する能力が非常に劣っているようである。 「ふふ、哀れなもんだ。手の平の上でゆん生をもて遊ばれてることに気がつかないとは。そらっ」 「に、にぎゃああゆぐっ・・・わ゛がらな゛い゛・・・・・・わ゛がらないよぉお゛お゛・・・・・・」 このゆっくりちぇんは、お腹を空かしている子ゆっくりにおいしいものを食べさせようと、 はるばる遠く離れた巣穴からやってきたゆっくりだった。 その子ゆっくりたちにはもう、二度と会うことはできないだろう。 「その顔だ、その苦しそうな顔。お前らも見てみろよ、おもしろいぞ。 一度落下したゆっくりはもう助からない。取り返しはつかない。だから、おもしろい」 「に゛んげんざんも゛うやべでぇええええごんなの゛ぜんぜんゆっぐりでぎないよ!!」 「それは、お前がゆっくりできないと思うからゆっくりできないだけだ。お前ら、感覚を研ぎ澄ませ。 今、目にみえるもの、今、聞こえる音、今、考えられること、今ならそのすべてが新鮮なはずだ。 本来はそう、すべてが新鮮なものとして存在する。ただじっとしてるだけでは、それが新鮮に感じられなくなってしまう。 だから今を感じろ、仮に数十秒後には死んでしまうとしてもだ。そうすればおのずとゆっくりできるはずだ」 「ゆっぐ・・・じにだぐない・・・・・じにだぐないよぉおおお」 「そうだ、望め。ひたすら望め。そうすれば最後の1匹に残れるかもしれない」 「ゆっぐりじだい・・・ゆっぐりじだい・・・・ゆっぐりじだいぃいいい!!!」 「そうだ望むんだ。とはいっても、ここにいる大半が落下することに変わりはないがな」 「どぼぢでぞんなごどいうのぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛」 「ゆぴぃいいいいれ゛いみゅぜっちゃいぜっちゃいじにだくにゃい゛よぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」 「はは、せいぜい叫べ。そのほうが見てるこっちも面白い。さて次はこのロープ・・・いや、こっちのロープにしよう」 男にとっては、落下させるロープを変更することにさほど意味はない。 どれを選んでも、似たような姿かたちのゆっくりが落ちてくるだけである。 しかしゆっくりたちにとっては、その選択が大きな意味を持ってくる。 選択を免れたものは命拾いをするし、新たに選ばれたものは否応なくゆん生を奪われる。 それは天と地ほどの差。 ゆっくりたちのゆん生が、男の気まぐれによって左右される。 「どれが死ぬかな?ほらっ」 「ゆ、おそらをむぎゅっ・・ぐぃ・・・・・・・む・・・っきゅ・・・・・・・・・・」 このゆっくりぱちゅりーは、群れの賢者としてみんなから慕われるゆっくりだった。 やがては山のゆっくりの長として、みんなを統率していくつもりだったが、 どうやら、もうダメなようだ。 「落下したらあとは数十秒苦しむゆん生が残ってるだけだ。ゆっくり死んでいってくれ」 「お゛ねがいじばずがらも゛うやべでぐだざい、れ゛いむ゛だぢをだずげでぐだざい、も゛うお゛やざいざん゛をがっでにだべだりじまぜんがら゛」 「なに今更謝ってるんだ。謝るくらいなら、野菜を盗み食いしなければ良かっただけの話だ。そんな当たり前のことも分からないの?馬鹿なの?死ぬの?? それに、最後の1匹になれれば解放してやるんだから、そうなればいいだけの話だ。それ以外のやつは知らん、落ちて勝手に死ねばいい」 「ぞんなぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「ゆぐ、れいむなんだがぎぼぢわるぐなっでぎだよ・・・ゆげっ、ゆげぇ・・・にんげんざんもっどゆっぐりじでね、れいむ゛はぜんぜんゆっぐりでぎないよ゛」 「ん、せいっさいをもっとスローペースでやれってことか?でもまだロープは20本以上残ってる。 それにお前らだって、最後の1匹になれるかどうか早く知りたいだろ?ならなおのこと、もっと早いぺースでせいっさいしてもいいくらいだ」 「どぼぢでぞんなごどいうの゛ぉお゛お゛お゛お゛れ゛いむ゛はまだごごろ゛のじゅんびができでな゛いんだよ゛!!・・・ゆ゛っ、ゆげぇ、ゆ゛げぇえ゛え゛え゛」 「心の準備も何も、残り一本になるまでロープを落下させることに変わりはない。 それならいっそのこと、早くその不安な状況から解放してやろうじゃないか。 次は10本同時に、これとこれと・・・・・・これでちょうど10本だ、そらっ」 「や゛めでやめでやめでゆぐっ・・・・・ゆっぐじ・・・・・・ゆっぐぃ・・・・・」 「いじゃ・・・・・いじゃい・・のぜ・・・・・ゆ゛っ・・ぎ・・・あ゛りす・・」 「ゆ゛ぴっ・・も゛っ・・・ゆ゛っぐじ・・・・・・・・・」 「ゆ゛っぐ・・・・・ゆっぐり・・・じだっが・・・・・」 「ゆ゛っ・・・・・・ゆ゛っ・・・・・・・」 たった1秒。 男がロープを手放してからたった1秒で、ゆっくりたちは地面に衝突する。 その1秒が終わると、今度は平均で約40秒ほど、ゆっくりたちはその場でもがき続ける。 そしてその40秒が終わると、ゆっくりたちの動きは完全に停止する。 あまりにもあっけないゆん生の終焉、それも一度に10匹分、 それが現に、残されたゆっくりたちの眼下で起こっている。 「本当に10匹落ちたな。ちなみに余談だが、子ゆっくりは比較的軽いから、ロープを離しただけでは落下しないことがある。 そこでそうならないよう、子ゆっくりのロープにはいくつか石を取りつけてある。 これで体重の軽い子ゆっくりも地面まで到達することができる。よかったな、最強の子ゆっくりたち、 ロープに縛られた状況ではどうにもならないが、ロープさえ放たれれば、 その屈強な足で地面に着地して、そのまま俺にせいっさいを加えることができるぞ」 「ゆぇえええええんれいみゅさいきょうにゃにょに、ほっぺがいちゃくてゆっくちできにゃいよぉおおお」 「ゆっ、ほらおちびちゃんがないてるよ!!ないてるおちびちゃんはとってもゆっくりしてるでしょ? だからゆっくりできるおちびちゃんとさいっきょうのれいむをとっととおうちにかえしてね!!」 「何がゆっくりできるおちびちゃんだ、泣き虫で、性悪で、おまけにションベン垂れてて、ただのゲスじゃないか」 「ゆぇえええええんれいみゅげしゅにゃんかじゃにゃいよぉおおおおおお」 「ゆ!おちびちゃんはげすなんかじゃないよ!!げすはくそじじいのほうだよ!!」 「おうおう、口の悪いゆっくりは痛い目にあわせてやりたくなるじゃないか。よし、さらに5匹同時せいっさいだ。これと、これと・・・・・これもだな」 「いやじゃああああああああああ・・ゆ、ぎぼぢわるい゛、ゆげぇええ」 「よし、上から汚い餡子をまき散らしてくるそいつに免じて、さっきと同じく10匹落としてやろう。そらっ」 複数のロープが放たれ、大小さまざまなゆっくりが落下していく。 11匹ものゆっくりが同時に落下していく様子は、 もはや『落下』というより、『破滅』という言葉がしっくりとくる。 「ゆぺっ・・・・・」 「ゆぐぅううう・・・いじゃいいい・・・ぐじゃいよぉ・・」 「ざいっ・・ぎょうの゛・・・れ゛いむ゛・・・ゆ゛っぐり゛・・・・」 「ゆぴっ・・・ゆっぐじ・・・・・・・・・」 「そういえばお前ら2匹は最強だったよな、最強ならそのくらいどうってことないよな?」 「ゆ゛っ・・・・ゆ゛っ・・・・もっどゆっぐり・・じだがっだよ・・・・・・」 「まだ20秒も経ってないじゃないか、これならまだ、ありすってやつのほうが長持ちしてたぞ。 さっき笑ってやったことをゆん獄のありすに……って、もう聞いてないか。最初から最後まで口だけのやつらだったな。 さて残りは1、2、3、4・・・・・おや、おもしろいことになってるな。まあいい、そのまま続けよう」 「ゆげぇえ、ぎぼぢわるい゛、ぜんぜんゆっぐりでぎないよ・・・・」 「おお、神経質なお前、案外運がいいな。もしかしたら最後まで残れるかもしれんぞ、そらっ」 「ゆ・・・・ゆげぇ・・・・・」 「と言ってるそばから落ちるとは、運が良いのか悪いのか。そらよっ」 「ゆぁ?ゆげっ・・・・」 男の手によって、立て続けにせいっさいが行われていく。 何事もないように綽々と、そして一つの作業のように淡々と。 ゆっくりたちは抵抗の甲斐なく、ただ、落ちていく。 お野菜さんさえ食べなければ、こんなことにならなかったのに・・・ 苦しみと失意の中、ゆっくりたちはやがてえいえんにゆっくりする。 「ゆ゛っぐり・・じだい・・・のに゛・・・・」 「もっど・・・・・・・ゆっぐり・・・」 そしてあっという間に、残るゆっくりは1匹だけになってしまった。 「ゆふふ、ほかのゆっくりはいなくなってれいむだけのこったよ!!だかられいむはおうちにかえれるんだよ!!」 「いや、違うな。お前はまだ最後の難関を突破しなければならない」 「ゆ!?はなしがちがうよ!!さいごまでのこったらおうちにかえしてくれるってやくそくだよ!!にんげんさんはそのやくそくをやぶるんだね!!!」 「そうじゃない。覚えてるか?最初の方に落ちた子ゆっくりのことを。暴れ回って勝手に落ちた子ゆっくりだ」 「ゆ、れいむのおちびちゃん・・・れいむのかわいいかわいいおちびちゃん・・・」 「実はな、手元には今2本のロープが残ってるんだ。つまりどういうことか分かるか?」 「ゆ?」 木に吊るされたゆっくりはれいむ1匹だけ、 しかし、男の手には確かに2本のロープが握られている。 「一方のロープはお前と繋がっている。しかし一方にはゆっくりが繋がっていない、ただの石が繋がっているだけだ。 そう、手元にある2本のロープのうち一方は、もともとお前の子ゆっくりが繋がっていたロープだ」 「ゆ!?」 「お前はこれから、すでに落下して死んだ子ゆっくりと運試しの勝負をしなければならない。お前が生き残れる確率は50%、2つに1つだ」 「ゆゆ!」 「大吉と出るか大凶と出るか、一瞬ですべてが決まる。いくぞ」 男の手から1本のロープが放たれた。 それは本当に一瞬、たった1秒の出来事。 1秒後には生か死か、れいむの運命が確定する。 「ゆっ・・・?ゆげっ・・・・・・」 「惜しかったな」 れいむは、最後の最後で落下してしまった。 「いじゃい・・・・ゆっぐ・・いじゃい・・・・ゆ゛・・・・」 (れいむはさいっきょうだから、じめんにおちてもへいきなはずだよ) (それなのに、それなのに、からだがいたくて、こえがでなくて、あんよがおもくて、ぜんぜんゆっくりできないよ) 「ゆ・・・・・・ぐじ・・・・ゆっぐ・・・・・れ゛いむ゛・・さい゛きょう゛・・・・・」 (れいむはさいっきょうだから、もうすこししたらゆっくりできるはずだよ) (それなのに、それなのに、いたいよ、くるしいよ、ぜんぜんゆっくりできないよ) 「ゆ゛っ・・・・・・・ゆ゛っ・・・・・・・・」 (もういやだよ、もうがまんできないよ、ゆっくりしたいよ) (もうげんかいだよ・・・・・もう・・だめだよ・・・) 「ゆ゛っ・・・・・ゆ゛っ・・・・ゆ゛っ・・・ゆ゛っゆ゛っぐり・・・もっど・・・・ゆっぐり・・・じだがっ・・だ・・・・・・よ゛・・・・・・」 「38、39、40」 地面に落下してから40秒後、れいむの体の痙攣が完全に止まった。 「お前らは人間の食べ物を盗み食いしたんだ、まともな償いができないお前らは、死で代価を支払うのが当然だ」 男は、足元のゆっくりの死骸を眺めながらそうつぶやいた。 それからゆっくりのお飾りを全部拾い集め、その場から撤収を始めた。 西の空から灰色の雲が迫ってきている。男のいる辺りの空もやがて雨模様になるだろう。 「こりゃ一雨来るな。雨の降った後にこれを撒いておけば、少しは畑も平和になるってもんだ」 ゆっくりは雨に弱く、雨の降った後しばらくは畑に姿を現さなくなる。 さらに死骸のお飾りには、ゆっくりだけが感じることのできる独特の死臭がこびりついているらしく、 それを畑に撒いておけば、死臭を嫌がるゆっくりたちは畑に寄ってこなくなる。 これは、ゆっくりによる作物被害を極力減らすための農家の知恵として知られている。 それにしても、男には一つ分からないことがあった。 「なんであいつら、懲りもせず畑に来るんだろうな」 男は今まで、1000匹を遥かに超えるゆっくりを吊るしてせいっさいしてきた。 にも関わらず、ゆっくりたちはお構いなしに畑を荒らしに来るのである。 人間の怖さを学習してないからだろうか、いや、 人間の恐ろしさは確かに伝わっているはずである。 今回のせいっさいでは全ゆんが死んでしまったが、 普段は、残った1匹を約束通り解放している。 その生き残った1匹が、自ゆんの体験した恐怖を他のゆっくりに伝えることで、 人間の畑を荒らすのは危険だ、という情報がゆっくりたちの間に広く伝わるだろう、 男はそう考えている。 しかし、実際はそうではない。 自ゆんの都合のいいように物事を解釈するゆっくりたちは、生きて帰ってきたゆっくりの体験談を聞いて、 「お野菜さんを食べて帰ってきたこのゆっくりは、自ゆんがおいしいお野菜さんを独占するために、都合のいい嘘をついてるに違いない」と考えるのである。 しまいには、生きて帰ってきたゆっくりでさえ、自ゆんが体験した恐怖をすっかり忘れてしまい、 やがて、率先してゆっくりたちを畑に連れてきてしまうのである。 ゆっくりには、人間の常識が分からない 逆に人間には、ゆっくりの常識が分からない どうやら両者の間には、ある一定の情報を遮断してしまう鉄格子のようなものが存在するようである。 男は自分の畑に戻ってきて、はぁ、と一つため息をついた。 畑では、新たに1匹のゆっくりが野菜を盗み食いしていた。 「むーしゃむーしゃ、しあわせーー!!・・・ゆ?ゆゆ!!」 男はそのゆっくりを予備のロープで縛り、上下逆さにして近くの木に吊るしておいた。 「にんげんさんはれいむをここからとっととおろしてね!!さかさまでぜんぜんゆっくりできないよ!!」 「どうか連日、雨になりますように」 そういって、男はその場を後にした。 翌日、木に吊るしたゆっくりは溶けていなくなっていた。 ------------------------------------- 鉄籠あきです。 餡庫に作品を投稿し始めてから、早いものでそろそろ1年が経とうとしています。 最初の方に投稿した作品はすでに、自分が書いたという感覚が薄れていて、 改めて読んでみると、書いた自分でも作品が新鮮に感じられるから不思議なものです。 最近は、書きかけの作品がいくつか溜まっているものの、 なかなか投稿できるレベルにまで仕上げることができず、少々停滞気味の身です。 ですが、これからも餡庫のほうにはお世話になりたいと思っていますので、 今後とも、鉄籠あきの名前を憶えていてくだされば幸いです 鉄籠あき過去の作品 ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー http //www26.atwiki.jp/ankoss/pages/1213.html
https://w.atwiki.jp/hutaba_ranking/pages/66.html
「にんげんさんはゆっくりできるひと?」 「ゆっくりできるひとならいっしょにゆっくりしてもいいのぜ!」 ペットショップで銅バッジゆっくりのれいむとまりさを買った。 成体二匹で1000円(税込) お手ごろ価格。 家に持ち帰り、用意してあったゆっくり用のスペースに置いたとたんに言ったことがこれである。 なんともまあ、ふてぶてしい言い草ではあるが銅バッジだ。この程度なら気にするほどでもないだろう。 「私はゆっくりが好きなんだ。ゆっくりを見てるとゆっくり出来るから君達を買うことにしたんだよ」 先ほどの質問に答えてやる。 ゆっくり達はそれを聞くと、パァァという擬音が出ているかのように顔を輝かせ 「ゆっ!ゆっくりできるひとなんだね!ゆっくりしていってね!!」 「いっしょにゆっくりしていってもいいのぜ!!まりさもゆっくりするのぜ!!」 と、喜びの声をあげている。ちょっとうるさい。 「はいはい、あんまり大きい声で話さないようにね。じゃあ今から君達の住む場所の説明をするから」 「「ゆっくりせつめいしてね!!!」」 私の家ではリビングの端の方をちょっとした柵で囲い、そこをゆっくり専用の空間としている。 約2畳ほどのスペースだが、「立って半畳、寝て半畳」のゆっくりにとっては十分な広さだ。 床には柔らかい絨毯を敷き、寝床となるクッション、餌皿水皿、トイレ、ちょっと隠れられる屋根などなど ゆっくりが生活する上で快適な空間を用意している。 二匹はそれぞれを説明するたびに「ゆっくりしてるね!」「ゆっくりできるね!」などのリアクションを返してくる。 うんうん、喜んでくれると用意した甲斐もあるというものだ。 「……さて、これで説明は終わりだ。わかったかな?」 「「ゆっくりりかいしたよ!!」」 「いい返事だ、じゃあ次はここで暮らす上で守って欲しいルールを教えるよ」 「「ゆっくりせつめいしてね!!」」 「ルールといっても一つだけだ。『勝手に子供を作らない』これだけ守ってくれればそれでいい」 「ゆー?どうして?おちびちゃんはゆっくりできるよ?」 やはりれいむが食いついてくるか。まりさも何も言わないが、納得してはいなさそうな顔だ。 「まあ落ち着け、子供を作るなってのはご飯が足りなくなるからだ。私としては今のところ君達の分しか用意できない。 おちびちゃんの分のご飯が足りないから自分達の分をあげるよ!ってのもいいが、それじゃあ君達がお腹いっぱいになれないだろう? 結局みんなゆっくりできなくなるから、子供は作らないようにしようってことさ」 「「ゆー……ゆっくりりかいしたよ……」」 あらら、なんだかしょんぼりしてしまった。 助け舟を出しておくか。 「そんなにガッカリすることもない。「勝手に」するなってだけだ。私が許可を出せば子供を作っていい」 「「ゆゆっ!?」」 バッと伏せていた顔を上げるゆっくり達。現金というか、素直というか。 「それじゃあはやくきょかをだしてね!!たくさんでいいよ!!」 「きょかをだすのぜ!ゆっくりしなくていいのぜ!?」 おやおや勢い余って調子に乗ってきたな。 「ダメダメ。そんなすぐに許可を出したら最初にルールを決めた意味が無いだろう。 君達がルールを守って、とてもゆっくりしているいい子だってことがわかれば、その時許可をだしてあげよう」 「ゆっくりりかいしたよ!!ゆーん、はやくおちびちゃんほしいよー!」 「ゆっくりするのぜ!まりさはいいゆっくりなのぜ!!」 本当に調子のいいことだ。 まだしつこく食い下がってこないだけ聞き分けがいい方……だと思いたいが。 「それじゃ、今日から君達はうちのゆっくりだ。ゆっくりしていってね!」 「「ゆっくりしていってね!!!」」 その後、餌と水を用意してやり、むしゃむしゃガツガツ食うニ匹を眺めた後、夜も遅かったので寝ることにした。 明日はボールでも使って遊んでやろうか。私はベッドに入りながらそんなことを思っていた。 ……思っていたのだが。 「ゆゆーん!れいむたちのおちびちゃんとってもゆっくりしてるよぉ~!!」 「まりさたちのおちびなんだぜ!!ゆっくりしてるのはとうぜんなのぜ!!」 次の日リビングに行くと、れいむの額には立派な茎が生えていた。 ……まさか一日持たないとは思ってなかった。 ぼんやりゆっくりを眺めていたら、こちらに気が付いたのだろう、二匹揃って自身ありげな顔をして話し掛けてきた。 「れいむたちのおちびちゃんかわいいでしょ!れいむすごくゆっくりしてるよ!だからはやくきょかをだしてね!!」 「いまのまりさたちよりゆっくりしてるゆっくりなんていないのぜ!これじゃあきょかをださないわけにはいかないのぜ!」 「……勝手に子供作っちゃいけないって言っただろ?覚えてないのか?」 「ゆふん!そんなことしってるよ!ゆっくりしてればおちびちゃんのきょかがもらえるんでしょ? おちびちゃんがいるとすごくゆっくりできるんだよ!!だからぜったいきょかがもらえるんだよ!! ぜったいきょかがもらえるんだからおちびちゃんがいてもいいんだよ!だからはやくきょかをだしてね!!」 ……なるほど。なんとも突飛な考え方をしてくれたものだ。 元々、ゆっくりの言う「ゆっくりりかいしたよ!」をそこまで信用していた訳でもないが。 「ゆっ!ゆっ!きょーか!きょーか!はやくきょか!!」 「きょかするのぜ!ゆっくりしないではやくするのぜ!」 大きな声で「きょか」を求めるれいむとまりさ。 もう、これは……「限界」かな。 私はゆっくり用スペースの中に入り、柵に掛けてあったゴム手袋を両手に付けると れいむの額に生えている茎を引き抜いた。 「きょーか!きょーか!きょ……ゆ? ゆゆゆゆゆゆっ!!!?」 一拍遅れて現状を把握したれいむが喚く。 「れ、れいむのおちびちゃんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 目を見開き、大声で叫ぶれいむ。 「どうしてこんなことするの!!?はやくもどしてね!!れいむおこるよ!!!」 どうやら怒ってしまうらしいれいむを見ながら手の中の茎をポキポキ折り畳む。 3回ほど折り、片手に収まるサイズまで纏めた後、一息に握り潰す。ぐちゃりという音に混じって小さくチュブッという音が聞こえた。 「あ、あ、あああああああああああああ!!!おちびちゃんがぁぁぁぁぁ!!!れいむのかわいいおちびちゃんがぁぁぁぁぁ!!!!」 潰した茎をとりあえずゆっくり達のトイレに置く。既に2つうんうんがあった。 ゆっくりに目を戻す。 れいむはこちらをすごい形相で睨み付けていた。まりさは今だ現状についていけていないらしく目を見開いたまま身動き一つしていない。 「うそつき!!!にんげんさんはぜんぜんゆっくりできないにんげんさんだったんだね!!!れいむおこったよ!!!」 れいむは顔を膨らませる、いわゆるぷくーの体勢をとりながらこちらを非難している。 「もうゆるさないよ!!れいむのおちびちゃんをころすようなげすなにんげんさんは、れいむがせいっさいすぶゆぇ!?」 喋っているれいむの口の中に右手を突っ込む。そして左手で頭頂部を掴みトイレの上まで運ぶ。 れいむはいきなり口に手を突っ込まれパニックに陥っているようだ。ぐにぐにと動く餡子の感触が手に伝わる。 「んんー!!んんんーーーー!!んぐぶっ!!!??ぶごごごっ!??」 私はれいむの中で右手を動かし、中身を攪拌していく。 「ゆう゛っ!!?ゆごぼぉぉっ!!ぶべうぐっ!!?ごっごごごごっ!!?ぶぎゅごろぇ!?」 奇声を上げながら目を上下左右とせわしなく、ぐりんぐりんと動かすれいむ。 下の穴からはうんうんとしーしーが垂れ流され、体全体がビクビクと痙攣している。 握り潰された茎の上に、排泄された餡子と砂糖水が重なってゆく。 2分ほど手を動かし続けると、れいむが痙攣しなくなった。 手を引き抜く。れいむはもうピクリともしない。 私はれいむをトイレの横に置くと、先ほどからやけに静かなまりさを捜した。 まりさは隅の方で体を縮こませ、震えながらこちらを見ていた。 私がまりさの方へ歩を進めると、まりさは泣きながら叫びだした。 「ゆぁぁぁぁ!!!ごっちくるな!!!こっちにごないでぇぇぇぇ!!うそつき!!うそつぎぃぃぃぃぃ!!!!」 む、いきなりの嘘つき扱いは心外だ。 「嘘つきって何がだい?むしろ「勝手に子供を作らない」ってルールを破ったまりさ達の方が嘘つきだろう」 「にんげんざんはゆっくりがすきっていったんだぜ!!まりさだちをみでるだけでゆっぐりできるっていったのぜ!! だっだらおちびをみでもゆっぐりできるはずなのぜ!!だがらきょかをだずはずなんだぜ!! なのになんでごんなごどするのぜ!!ぜんぜんゆっぐりできないのぜ!!うそつきなんだぜ!!うぞつぎなんだぜ!! うぞづきうそづきうそづきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」 ……ああ、なるほど。まりさは勘違いをしている。 「なあまりさ。確かに私はゆっくりが好きだし、ゆっくりを見てるとゆっくりできる。これは嘘じゃない」 「ゆ゛っ!!だ、だっだらどぼちて」 「でもそれは別に君達じゃなくてもいいんだよ」 「…………ゆ?」 「私は別にどうしても君達じゃないとダメってわけじゃないんだ。君達が言う事を聞かない悪い子だったら また別のいい子を買ってくるだけさ。変わりはそれこそ掃いて捨てるほどいる」 「ゆ……ゆあ……」 「君らがルールをちゃんと守れるいい子だったなら、君達が喜んでくれていたご飯もベッドも思う存分使ってもらって構わなかったし、 しばらくしたら許可を出して、本当に子供を作ってもらってもよかったんだ。これも嘘じゃないさ」 「ゆ……ひ……」 「でも君達はルールを守れない悪い子だったから」 「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ」 「私はまた新しいゆっくりを買うことにするよ」 「ゆあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 ゆっくりをペットとして飼おうとした場合、そののほほんとした間抜けな外見からは想像もつかないほどの手間がかかる。 そもそもペットに適した金バッジゆっくりが結構なお値段になっているということで最初のハードルが高い。 そこをクリアしたとしても、そこからは脆弱な肉体を持つゆっくりへの配慮、記憶力の低さを補うための継続的な躾。 ゆっくりのことを常に考えていなければやり遂げられないような「正しい付き合い方」をしていかねばならない。 それらを全てやり遂げたとしても、事故的なゲス化は100%防ぐことはできないそうだ。なるときはなる、らしい。 高い金を出し、手間隙をかけて育てた結果が「おい!くそどれい!」では泣くに泣けない。不幸すぎる。 一段劣る銀バッジであっても、まだ簡単に買い換えられる価格ではない上、その分躾の手間が余分にかかってしまう。 根本的な解決にはならない。 私はゆっくりをペットとして飼うことを諦めた。 ゆっくりを消耗品として割り切り、「喋って動くインテリア」として買い換えていくことにしたのだ。 安価な銅バッジゆっくりを買い、衣食住だけ用意してあとは放っておく。眺めたり、気が向いたら話しかけてみたり遊んでみたり。 結果として、不慮の事故で死のうが、ゲス化しようが、なんかイラッとさせてこようが、潰して買い換えればすべてが解決するという寸法だ。 ゆっくりを眺めて楽しむという目的を満たす手段としてはこれが一番性に合っていた。 一つ「ルール」を決めるのも、躾をしたいというわけではなく、単に観察する上でのちょっとした変化を楽しもうという遊び心だ。 今回は「勝手に子供を作るな」だったが、「勝手に歌を歌うな」「餌の催促をするな」「跳ねて移動するな」などそのときの気分で適当に言っている。 最初から守る気の無かった奴、守ろうとしたが我慢できなかった奴、だんだん調子に乗って守らなくなった奴、など様々な性格がわかって楽しい。 こんな生活を半年ほど続けているが、未だに出費が銀バッジ一匹買うより安いというのがなんともいえない。すごい価格差。 まあ、金のかからない趣味としては悪くないかなと思っている。 さて、今回は一日も持たなかった。やはり番で買うのは失敗だったか。 しかし、前回は一匹だけ買ったら番が欲しいと駄々をこねた挙句のゲス化だったし……難しいものだ。 次は何を買おうか。ありすを買おうか。ちぇんにしようか。1匹?2匹?3匹以上ってのもありかもしれない。 そんなことを考えながら、私はもう動かなくなったまりさから右手を抜いた。 おしまい 前に書いたの ・anko1665 『ゆっくりの飼い方』 ・anko1676 ゴミの分別 書いた人 ボンジョビあき