約 3,045,442 件
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/7599.html
このページはこちらに移転しました Analogue 作詞/290スレ96 作曲/つる 33とちょっとに刻んだ あの夜見たライブステージ 45の土星の輪なんかじゃ 多分きっと伝えきれない 116の頁に滲んだ 磨耗してる活字のシミ 118の雨の夕暮れ 気配告げるニオイみたい 単純な思考回路も ひと筋縄じゃほどけない 君のこと振り向かせたい 僕の言葉はAnalogue 複雑な基盤回路が 矢継ぎ早に出す0と1 繋げればヒットパレード はやる鼓動はAnalogue FENをチェックしていた 昼間はまだ砂混じりで 電磁波を掴んだカセット アジマス狂いクロストーク A4サイズの表紙に並んだ 緻密に揃うYMCK 10号サイズの風景掬った 筆の波は写しきれない 精密な試験結果も 真実だけを語らない 考えて思い悩んで 選ぶ明日はAnalogue 大胆な試行錯誤が 道拓くこともあるでしょう? いつの日か君を手にしたい 僕の気持ちはAnalogue 音源 Analogue Analogue(歌:PK)
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/4.html
FAQ Index □プロジェクト全般について FAQ-1 :オープンリソースって何ですか? FAQ-2 :権利元の許可はとられているのですか? FAQ-3 :プロジェクト管理者は誰ですか? FAQ-4 :連絡先が書いてありますが、気軽に連絡してもよいのですか? FAQ-5 :アナログハック・オープンリソースによって、二次創作に特別な制限はかかるのですか? FAQ-6 :なぜキャラクターについて、一次創作ではオープンリソースになっていないのですか? FAQ-7 :長谷敏司は『BEATLESS』の続編を書かないのですか? FAQ-8 :ルール上の穴を発見したのですが、どうすればよいでしょうか? FAQ-9:ルール上の穴や問題によって、アナログハック・オープンリソースのプロジェクトが停止または休止状態になることはあり得るのでしょうか? FAQ-10:将来的に、ユーザー側から新規に設定を受け付けることも考えていますか? FAQ-11:なぜプロジェクト管理者(長谷)の著作権を妨げないポリシーが入っているのですか? FAQ-12:ブックレット『Inside BEATLESS』に記載の情報はすべてアナログハック・オープンリソースに掲載されるのですか? FAQ-13:新規データの追加はいつ頃ですか? □商業利用について FAQ-14:アナログハック・オープンリソースを使用した一次創作は、権利元や長谷に使用許諾料を支払う必要があるのですか? FAQ-15:角川書店や関連会社以外の版元なのですが、こちらで一次創作物を出しても問題ありませんか? FAQ-16:本当にどんなジャンルで利用してもよいのですか? FAQ-17:アナログハック・オープンリソースを使うコンテンツは、このページ記載の設定のすべてを使わなければならないですか? FAQ-18:アナログハック・オープンリソースは、今後刊行される長谷敏司の『BEATLESS』関連作品についても設定データをオープンにするのですか? □オープンリソースの範囲の詳細について FAQ-19:「キャラクター」はフリーリソース化していないとのことですが、SFである『BEALESS』における「設定」と「キャラクター」との境界線はどこなのですか? FAQ-20:背景画像については「設定」に入りますか? □プロジェクト全般について FAQ-1:オープンリソースって何ですか? A:リソース(資源)がオープン(開放)されているということです。 最初はプロジェクト名に、主旨をイメージしやすいオープンソースという語を組み入れて、『アナログハック・オープンソース』としていました。 SF作家の藤井太洋氏に相談したところ、「オープンソースの世界では、〝ソース〟は動くものでなければならない。この場合は〝リソース〟がよいのではないか」とご指摘いただき、アナログハック・オープンリソースとしました。 著作権を放棄しているわけではないということで、フリーリソースではありません。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-2:権利元の許可はとられているのですか? A:権利元とお話して、「問題が起こったら権利元の法務がバックアップする」というお話いただき、プロジェクト管理者である長谷が現在自由に動かさせていただいています。 商業コンテンツのプロジェクトのわりに小さなスタートを切っているのは、こうしたオープン企画には常に「どうやってマネタイズするのか」という難問が立ちはだかっているためです。 これに対する考え方は著作者や権利者それぞれなのですが、今回は、プロジェクトがマネタイズに最初は直接つながらなくてよいと考えました。 面白くなる可能性があるなら、速度を重視してまず動かし、問題をアクティブに修正してゆくほうが現代的だと考えたためです。 〝かたち〟から入るのは『BEATLESS』という作品らしいように思えたこともあります。無料サイトを使っていますが、小回りのためだとお考えください。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-3:プロジェクト管理者は誰ですか? A:小説『BEATLESS』の著者である長谷敏司です。 当サイトで「プロジェクト管理者」と書いている場合、特に断りがない場合、長谷敏司を指します。 プロジェクト管理者への連絡は以下の方法でお受けいたします。 ■メール (くれぐれもウイルス付きファイルを送るのはご遠慮ください。) ■twitterアカウントへの@つきメッセージ。あるいはDM。 https //twitter.com/hose_s (注)長谷の連絡先を知っているかたも、携帯電話や固定電話に直接連絡するのはご遠慮ください。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-4:連絡先が書いてありますが、気軽に連絡してもよいのですか? A:気軽な用件でしたら、twitterアカウント(@hose_s)にお願いします。ただ、忙しいと返信できない場合はあります。 メッセージログが残っている必要がある用件では、メールをご利用ください。ただし、メールをいただいた場合、火急の用件でないと判断したとき、長谷の仕事状況に応じて返信が遅くなりますことをご了承ください。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-5:アナログハック・オープンリソースによって、二次創作に特別な制限はかかるのですか? A:アナログハック・オープンリソースは、二次創作を縛るためのものではありません。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-6:なぜキャラクターについて、一次創作ではオープンリソースになっていないのですか? A:キャラクターは、キャラクター商品の権利が契約上で存在することと、ある程度キャラクター描写に監修などの管理をしないとキャラクタイメージを保てないことから、一次創作のオープンリソースには今回していません。 描写の監修を誰がするのかを考え始めると、オープンリソースの意図が崩れはじめてしまうので、範囲に含めることを止めています。(参考:FAQ-5) 描写の監修まで含めてキャラクターを商用利用したい場合は、さすがにオープンではなく普通の版権としてお願いします。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-7:長谷敏司は『BEATLESS』の続編を書かないのですか? A:もちろん普通に執筆します。 アナログハック・オープンリソースは、プロジェクトをたたむから開放するのではなく、コンテンツを展開するために自由を選んだ試みです。 このため、原著者本人も書き続けるコンテンツをリソース開放しています。 『天動のシンギュラリティ』(ファミ通コミッククリア/漫画:大崎ミツル)の展開も、今後も普通に続きます。 原著者の書いた『BEATLESS』続編と、他の著者が書いた一次創作が同時に走ることもありえます。 「長谷の書いた小説よりもオープンリソースの作品が売れて、先にアニメ化することになっても、それは未踏の風景なので『BEATLESS』の企画意図に合致している」と考えています。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-8:ルール上の穴を発見したのですが、どうすればよいでしょうか? A:プロジェクト管理者にご報告ください。 火急のものは早く、小さいものについては定期的にアップデートを行います。ルール変更についてはログを残す予定です。 問題が大きいとプロジェクト管理者が判断したものに関しては、版権元に連絡します。 このサイトに報告検討用の掲示板を作ることも検討しています。その場合は、皆様にお知恵を借りたいとお願いしたり、投票で決定を行うようなこともありえます。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-9:ルール上の穴や問題によって、アナログハック・オープンリソースのプロジェクトが停止または休止状態になることはあり得るのでしょうか? A:なにぶん初めてのことづくしなので、大きな問題が発生した場合はそういう展開もあり得ます。申し訳ありません。 そうした事態に陥った場合には、プロジェクト管理者も誠心誠意対応させていただきます。 休止や休止が明けたアナウンスほか、大きな連絡がある場合は、トップページに記載します。特に商用利用するかたはチェックをお願いします。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-10:将来的に、ユーザー側から新規に設定を受け付けることも考えていますか? A:まだ手探りなため、しばらくは様子見を考えています。 そのうち行う可能性はあります。ただ、具体的な方法などは決まっていないものの、権利元と相談しながら、基本的には長谷の好きにやらせてもらうかたちに現状なっています。 ただ、行う場合には、権利に関して後から揉めないように、投稿いただいた設定は長谷に権利帰属するよう条項が必要なのではないかという話はいただいています。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-11:なぜプロジェクト管理者(長谷)の著作権を妨げないポリシーが入っているのですか? A:日本の著作権法の下では、原則として、著作権は創作の時点で自動的に創作者(著作者)に帰属します。これによって、オープンリソースを利用した著作者さんの著作権に抵触して長谷が『BEATLESS』の続編を書けなくなることを防ぐためです。 ポリシーだけでこれが可能であるかは、プロジェクト管理者にとっては重要な問題であるため、ここについて今後も変更などが発生する可能性があります。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-12:ブックレット『Inside BEATLESS』に記載の情報はすべてアナログハック・オープンリソースに掲載されるのですか? A:キャラクター版権の契約と、オープンリソースとの間に論理的な矛盾が生じることを防ぐため、このサイトには基本的にキャラクタ情報は記載されません。 具体的に言いますと、「レイシア級hIE」の「設定」は掲載されますが、レイシアたち「キャラクター」の設定情報は基本的に記載されません。 アナログハック・オープンリソースとは、情報の公開範囲が切り分けされることになります。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-13:新規データの追加はいつ頃ですか? A:データの管理は現在プロジェクト管理者が行っているため、当サイトへの新規データの追加はさほどハイペースにはならない予定です。 創作に使用するなどの理由でデータが必要であれば、そのむねtwitterなどでご連絡しておいてください。 その箇所のデータを優先して更新する可能性があります。 データそのものは、それなりにたくさんあります。 FAQ-Indexへ戻る □商業利用について FAQ-14:アナログハック・オープンリソースを使用した一次創作は、権利元や長谷に使用許諾料を支払う必要があるのですか。 A:トップページのポリシーに抵触しない一次創作物に関しては、支払う必要はないと考えています。 ただし、現行の生きているコンテンツであり、契約した権利元が存在するため、権利に抵触がある場合は権利元の法務からお話が行くことになる可能性があります。 不安があるのであれば、プロジェクト管理者のメールまでご連絡ください。権利元へご連絡します。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-15:角川書店や関連会社以外の版元なのですが、こちらで一次創作物を出しても問題ありませんか? A:トップページのポリシーに抵触しない一次創作物に関しては、問題ありません。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-16:本当にどんなジャンルで利用してもよいのですか? A:いかなるジャンルでの利用も問題ありません。 ただし、その表現と内容について、アナログハック・オープンリソースは一切責任を負いません。 それぞれの著作者と版元さんの責任でよろしくお願いします。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-17:アナログハック・オープンリソースを使うコンテンツは、このページ記載の設定のすべてを使わなければならないですか? A:記載の断片だけを利用して問題ありません。記載の設定通りではない使い方をしても構いません。原典を忠実に守っていただくことではなく、自由な創作の助けとなる目的のものだからです。 読者さんに対してどういう勝算とリスク管理で何を見せるかは、特に一次創作では各著作者さんにおまかせします。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-18:アナログハック・オープンリソースは、今後刊行される長谷敏司の『BEATLESS』関連作品についても設定データをオープンにするのですか? A:プロジェクト管理者はそのつもりです。ただし、権利元との話し合いの結果、オープンにならない可能性もあります。 話し合いは個々の作品について行うことになるため、ポリシー(1)を読んで オープンになっている範囲をよくご確認ください。 FAQ-Indexへ戻る □オープンリソースの範囲の詳細について FAQ-19:「キャラクター」はフリーリソース化していないとのことですが、SFである『BEALESS』における「設定」と「キャラクター」との境界線はどこなのですか? A:設定とキャラクターの別がまぎらわしい事例は、個別に切り分けます。現在、以下のように考えています。 i)超高度AIはすべて「設定」です。 ii)IAIAは「設定」。超高度AI《アストライア》も「設定」。《アストライア》の代弁者としてのhIEも「設定」です。 ただし、IAIAのエージェント個々人、および個体名のついているhIEは「キャラクター」です。 iii)レイシア級hIEはすべて「設定」です。ただし、レイシア級hIEであるレイシアたち個々の主機およびデバイスは「キャラクター」です。 登場していないレイシア級hIEのキャラクターを創作することは問題ありません。 ただし、量産型レイシア級hIEのうち、redjuiceさんが絵を描いているものは版権が存在するため、このデザインや絵を使用するのはNGです。 iv)《ミコト》のように、「設定に属するがredjuiceさんや鶯神楽さんの絵が存在する」ものが存在します。これについては、デザインをそのまま使うのはNG。デザインを新規に書き起こした場合はOKとします。 デザインをそのまま使うのは二次創作の範囲で行ってください。 FAQ-Indexへ戻る FAQ-20:背景画像については「設定」に入りますか? A:漫画やイラストに描かれている背景をそのまま使用することは、オープンリソースの許可範囲ではありません。「設定」として一次創作でこれを使う場合、著作者側で絵を改めて描き起こしてください。 ただ、建造物などのデザインについては、これを利用することは許可の範囲内であると思います。(建造物デザインについては変更がある可能性があります。ご了承ください。) FAQ-Indexへ戻る
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/20.html
軍隊における軍用無人機 軍隊における軍用無人機のメリットの最大のものは、性能よりも「予備役の兵士に動員をかける必要がない」こととされています。 つまり、「機械は寝かせておいても人間の人件費ほどはランニングコストがかからない」ということです。 このため、人型無人機は、政情不安定でいつ緊急動員をかける必要が出るかわからない国でもよく採用されています。 これは、政情不安定な国では、ゲリラや反政府勢力、テロリストが活発化すれば兵士を増やさなければならないためです。 養わなくてはならない兵士を増やすと軍経済を圧迫します。けれど、兵士は必要なときに集めようとして集まるものではありません。しかも、兵士は遊ばせておくと規律も技術も落ちる一方です。当然、訓練をしなければなりませんが、これも相当にお金がかかります。 この費用は、従来、軍隊組織にとって仕方のない税金のようなものと考えられていました。民兵は安いですが、治安を悪化させる諸刃の剣にもなりかねません。 けれど、ここに軍用無人機が台頭する余地がありました。無人機なら必要充分なだけ軍人を増やさなくても、必要に応じて人間型無人機を起動する数を調整できるからです。 この選択肢は、常備軍を増やせない国でも魅力的でした。 このため、人間の兵士の動員時充足数に近い数の無人機を準備している軍隊も、世界には存在します。 軍用無人機には、動員によって社会の生産力を落とさなくてよい、政情不安を招くことを緩和できるというメリットもあります。 何より、平和になった社会に溶け込んだ予備役の兵士にとって、ようやく獲得したものを戦死で失う危険、あるいは招集中に失業する危険を払う必要がなくなります。このため、おおむね軍関係者の多数には好評をもって受け容れられています。 もちろん初期投資やメンテナンスの技術は必要なので、本当に貧困の国については、人間にただ銃を持たせるほうが圧倒的に安価になるため、そういう軍隊が作られます。 けれど、ある程度安定した状況を築けた政権は、民兵を解散させて軍用無人機に徐々に切り替えてゆくケースが多くなっています。これは同時に、民兵が暗黙裏に持っていた有形無形の権限や権益を剥奪することなので、激しい反発の原因にもなっています。 より選択肢の多い先進国の軍隊でも、無人機は使われます。(参照「軍事」) これは戦争時に戦死者を減らし、また安価に駐留を行えるようにすることで、戦争目的達成までの猶予をのばすという目的があります。 また、兵器の進歩という点でも無人化は歴史の必然でもありました。 自動化時代の軍隊 この時代でも、軍隊が、「上からの命令を受ける」という強固な”トップ-ダウン型”の組織であることは変わりません。 そして、この命令を与える上部には、人間が座っています。 ですが、すでに無人機のみで編成された戦闘集団も存在します。 軍の編成として、隊長-副隊長といった幹部だけが人間で、この士官たちだけが引き金を握っているというケースも発生しています。 こうした無人機部隊は、操縦自体も完全自動であり、標的をロックオンするところまで、完全に自動で行われます。 そして、攻撃するか・いつ攻撃するか・いつ止めるかの意思表明だけを士官が行います。 無人機や、無人化されたプロセスが多いからこそ、装備の運用責任が「引き金を引く」人間に強くのしかかるのです。 また、自動化の進んだ軍の内部では、人が多い部署といない部署の疎密ははっきり分かれています。 戦闘機の操縦のような、完全自動のほうが圧倒的に有利なため末端が無人化されている任務と、都市の占領のような人間がやらねばならない任務が、分担されているためです。 戦闘機の操縦のほうが、AIにとっては、占領された都市での歩兵の振るまいよりも計算が単純なのです。 戦闘機の操縦のような、AIが管掌することが一般的になっている分野は、恐竜的な進化を遂げています。 空戦アビオニクスなどは、機体デザインのレベルから高度AIが行っており、高度AI同士の開発競争分野になっているためです。 人間がもはや介在できないほど高度化を遂げているため、戦闘機のような高額機材の運用能力や戦闘能力は、国力差がはっきり出る分野になっています。 人間型無人機の運用 軍隊で使用される人間型無人機は、一秒でも早い反応が前線では求められるので、事務用はhIE、前線では自律方式の軍用人型無人機が選択されるケースが比較的多くなります。 戦場に、人間型の無人機が投入するとき、有効なケースにセオリーがあります。 山岳などの襲撃を受けやすい狭隘地や、密林などの視界の悪い場所、あるいは極端な寒冷地や砂漠のような極限環境での、人間の兵士の補助です。 無人機配備部隊では、一隊7人の分隊に対して、人間よりも重い装備を持った人間型無人機が1体程度配備されます。 これは、行軍中に襲撃や狙撃を受けるとき、指揮官を除けば無線手や機関銃手がまっさきに狙われるためで、この”狙われる役”を生存性の高い人間型に肩代わりさせる運用です。 無人機のみで部隊を編成することは、人間型の無人機についてはほぼありません。 これは、アンドロイドが(しばしば人間の兵士より)高価であることと、メンテナンスができない状態で長期間の行軍などをさせるとどうしても信頼性に不安が出てしまうためです。そのおかげで、アンドロイドを増やした結果、作戦行動の幅が狭められる(長期行軍が戦術に組み込めなくなる)のでは、装備調達として本末転倒であるとされています。 歩兵部隊は、最悪の場合、人間型無人機を外して部隊運用できるようになっています。 無人機の運用のされかたが極めてはっきりしている都市戦闘部隊などでは、全人員の半数以上(最大の場合は指揮官、オペレーター以外の全員)が人間型無人機であるケースがあります。 こういう部隊は、指揮車両が別にあり、そこで人間型無人機を集中管理しています。管制機は指揮車両内に置かれます。 対テロリスト作戦では、こういう運用ケースが数多く積まれています。 「戦闘と作戦行動時間が短かく」、かつ「メンテナンスの心配がなく」、かつ「後方と前線が決して切り離されない」場合に限っては、人間型無人機は人間を完全に凌駕します。 人間型無人機は、車両のような大型の兵器との戦闘ではなく、対人戦闘を行うのが基本です。 このため、貧者同士の戦闘では、無人機が必要最低限度しか使われません。人間の兵士のほうが安価であるためです。 こうしたドクトリンのもとで配備計画されているため、無人機の武装は、機関銃くらいまでが主流です。 人間型無人機の戦闘力は、兵員輸送車は火だるまにできますが、MBTやこの時代の無人装甲車とは喧嘩ができない程度です。 電源といっしょに車両用レールガンを持つようなことは、ほぼありません。持つにしても、歩兵でも複数人数で運用可能なミサイルになります。 これは、純粋に火力も装甲も機動力も、戦闘車両に勝つことは不可能であるためです。戦果をそれほど見込めない戦闘のために、人間型無人機でなければ扱えない専用装備を増やすと、無駄な装備調達になるおそれがあるためです。 このため、無人機の装備は、ほとんどは歩兵でも運用可能です。多くの軍隊では、三脚と機銃を運んで大型の機関銃を歩兵で運用するように、複数人数で無人機用装備を使用できるようになっています。 パーツの組み替えで車載武器にコンバートできる装備もよく用いられます。 ただし、2105年に至るまでも、紛争レベルではなく、先進国同士の衝突や泥沼の長期戦に陥った熾烈な戦場はありました。 そういう戦場では、無人機対MBTのような戦闘が何度も起こり、対抗手段や兵器もある程度開発されました。無人機用の対戦車装備は、普段携行することはほとんどありませんが、中隊規模以上ではたいてい用意されています。 戦場が平地である場合、人間型よりも、車輪や履帯のついたタイプの無人機がよく使われます。 階段のような複雑な地形を登ることは苦手ですが、そのかわりに地面や道路を、人間よりも遥かに高速で移動します。 都市戦闘では、建物への突入よりも、道路をただ渡るだけのほうが危険なケースがままあるため、歩兵小隊はたいていこのタイプの無人機の扱いを訓練しています。 ただし、占領地の治安維持のような仕事では、現地の人々の心理的な影響を配慮して、人間型を使うケースが多くなります。 軍隊内における無人機の割合 機体の価格やメンテナンス自国民の雇用維持といったバランスから、兵員数に対する無人機の割合は、10~20%程度です。 これは、社会での「人口:hIEの数量」比の上限と同じくらいで、人間が社会のイニシアチブをとりながら「人間型の道具」を使うときの、現状での量的目安になっています。 多少少なく見えるかも知れませんが、一軍の全将兵15万人程度とすると、1.5~3万機もの無人機を抱えて運用することになります。これ以上は、メンテナンスの手間やオペレーターの確保など含めて、少なくとも軍事が人間の産業と雇用先でもある『BEATLESS』の時代では現実的ではないとされています。 全体で無人機3万機とすると、1万体程度が人間型無人機、2万体程度の非人間型無人機くらいの構成比になります。 三軍では、陸軍は比率が10~20%の間です。 水上に浮かべて放置する無人機が多いため、日本の場合、海軍は比率が無人機20%を超えます。 機材一つ一つが高額でメンテナンス人員が増える空軍では、どの国でもたいてい10%を割ります。 戦闘機や車両には無人機比率が高いのですが、あくまでも高価な装備であるため数が揃いません。 かつ、無人機が増えるということは、オペレーター人数やメンテナンス人員、部品などの管理スタッフも増えることでもあります。 結果的に人数比自体は逆転しないのです。 [NOTE] ○軍用無人機の管理と命令系の流れ 軍組織の中で、無人機同士は、厳格な上下関係と、縦割りのブロック化で管理されています。 無人機-管制機-司令部AI-戦略AIという命令伝達系があります。 無人機を含む戦闘集団は、この無人機の伝達系に、人間で編成された軍組織の各責任者がぶら下がっている構造になっています。(参照「軍事-編成の例」) このため、無人機に対する命令系は複雑なものになります。 たとえば、ある小銃小隊所属の人間型無人機は、所属小隊の小隊長の命令に従います。(管制機が小隊長に管理されます。) この小隊は、当然、人間の軍組織での上官の命令を受けます。この命令に、無人機もまた小隊の一員として従います。 その一方、この人間型無人機の管制機は、この小隊が含まれる大隊の持つ司令部AIと、データリンクで常に情報をやりとりしています。 管制機は、常に無人機が所属する部隊よりも上位の集団とリンクしています。このため、上位集団の権限で、無人機に緊急時には直接命令が飛ぶこともあります。 この命令は、所属部隊の隊長命令より優先されます。 つまり、「無人機-管制機-司令部AI-戦略AIという命令伝達系」のホットラインは、無人機の軍内部での(人間の兵集団内の)所属を一時的に無効化します。 これは無人機が、所属部隊の隊長である人間の士官や下士官、管制機の所属する中隊や大隊付きの士官たちを、最悪のときは振り落とすということでもあります。 このため、司令部AIは常に軍権力の上位に配置するようになっています。司令部AIは、編成上、中隊が複数集まった大隊以上の規模の部隊の装備として置かれるのがセオリーです。 この性質は、政情不安定な国では、軍司令官がクーデターを起こすケースで、無人機を管掌する司令部AIや戦略AIをまっ先に押さえにかかるというセオリーにも反映しています。 あるいは、クーデターを起こした独裁者などは、必ず無人機を管制する最上位AIを押さえます。 このため司令部AIの位置付けが政治によって不安定になりがちで、こうした国の軍隊は、無人機を有効活用できず弱いというのが通例です。 戦略AIなどの高度AIの側からみると、この10:1の比率で、かつ常に分断されている(包囲状態にある)ことは、大きなストレスを生んでいます。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/23.html
道路について この時代の道路には、インフラ整備が整っている場合は、中央分離帯に発光体が埋まっています。 これは無線電源で自動車に電気を送るための送電ユニットです。 スマートグリッドの進歩したかたちとして、この時代の各種機器はこの送電ユニットから送られる電気を蓄える自動給電バッテリーを持っています。 給電しただけ記録され、課金されるようになっています。 2105年から20年以内に開発された電気自動車は、すべて給電は自動給電です。 それ以外の自動車は、エネルギーステーションまで補給に行きます。古い年式の電気自動車と、さまざまな理由で軽油やガソリンを使っている自動車は、ここに立ち寄ることになります。 ただ、エネルギーステーションは、自動給電の自動車が増えているため少しずつ廃業しています。2105年現在の日本では、都市部でも半径500メートル圏内にひとつ程度の分布です。 エネルギーステーションのみではやっていけないため、共栄を見越して、商業施設の駐車場の一角に間借りする形態のほうが多くなっています。 インフラとしての道路整備は、自動化が立ち後れている部分のひとつです。 これは、道路の整備計画が複雑な政治や行政への働きかけに左右される、泥臭いものであり続けているためです。道路行政と公共事業と地域経済の三位一体は、2105年にも崩れていません。 このため、人間がサービス業以外で働き口を探すとき、もっとも手早いもののひとつは道路工事です。代理労働契約でhIEを働かせようとすると、へたりが早いことも理由のひとつになっています。 道路補修は、人口が減っているため、道路利用者の少ない地域は後回しにされがちです。 このため、利用者の減った港湾地域などは何十年も道路の再舗装が行われていないケースがあります。 自動送電システムの設置のため、日本政府はすべての道路を一度整備し直したがっていますが、予算は不足しています。このため、過疎地に行くと、幹線道路以外には自動送電システムが道路に埋設されていないこともよくあります。(参照「非常時の自動車」) 道路の舗装材は、古い場所ではアスファルトが残っていますが、ゴミを燃やした灰を加工したものが増えています。これは着色されて、一見はそうであるとわからなくなっています。 火力発電も減っているため、アスファルト自体の産量が少なくなっています。このため、アスファルトはきちんと建築材として地位を確立しています。 インフラ整備の行き届いた国では、ライフラインのために、道路の下に共同溝を埋設しています。これは水道管、電線、通信ケーブル、ガス管と、その補修通路を一体にしたものです。共同溝は20世紀から用いられていましたが、少しずつ補修のしやすさは進歩しています。 下水管は、共同溝と同じ地下空間にあることもありますが、そうでない場合もあります。これは、近代のインフラ整備の歴史の中で、道路がある程度移動しているためです。下水管は近代以降早い段階で整備されたインフラであるため、現在は道路でなくなってしまった場所の下に走っているケースがあるのです。 道路の情報表示 道路にはインフラとして公共の情報端末も設置されています。22世紀では、人々の生活は常になにがしかのカメラなり監視機材に観察されています。公共のカメラはたいてい道路に設置されています。 hIEの行動管理に重要な役割を果たす高い位置からの俯瞰は、道路上設置のカメラがよく使われています。 電線が地中に埋設されているので、道路信号の設置位置としての電柱はありません。 そのかわりに道路上のインフラを設置するために太さ五センチメートルから十センチメートル程度のポールが立てられています。これは高い位置にカメラを設置したり、立体映像用のプロジェクターを置いたりするためのものです。 道路標識は、都内では立体映像の投影です。ただ、インフラの弱い地域では2105年でも金属製の標識が使われています。 このポールは電波中継用のアンテナも兼ねています。街灯を設置するのにも使われ、自治体なり設置元なりに宣伝費を払えば、宣伝用の看板をつけることも可能です。 道路は、情報インフラとしての側面を持っています。 歩行者は、「近くを走る車両の中でドライバーが見ている必要情報を、車外から見ることが出来る」ようになっています。つまり、ドライバーがシートで見られる情報は公開されていて、これを外から見ることができるのです。エンジンの回転、バッテリー残量、車内のエアコン設定温度、ありとあらゆる情報を見ることが可能です。 裸眼で見えるのは最低限度で、これは立体映像で表示されます。 AR機能のある眼鏡やゴーグル、義眼を使うことにより、より詳細な社内情報を見ることができます。 フロントガラスやバックミラーに映っている風景を立体処理した情報も参照可能です。これは、大型車両の左折時の巻き込みなどの被害に遭わないための情報でもあります。この情報が画像処理されて、危険があると判断されると事前に警告が出るのです。 この技術によって、歩行者のそばには、自動車がそばを通過予定であることを示す立体映像が表示されます。三十秒前、一分前表示など、個人認証タグで表示タイミングを設定することも可能です。 この表示は、歩行者に車に対処する時間的猶予を与えるためであり、交通の邪魔になることを歩行者側に自発的に避けてもらうためでもあります。 同じ情報公開の恩恵は、ドライバーも受けることができます。車両の間から現れる歩行者や自動車、あるいは死角から直進してくる二輪車といった危険な存在を、隠れている間に知ることができます。 事故は当事者や周辺の誰かの視界からは状況が見えているものです。このため、全車両のコックピット情報が公開されていることで、事故が起こるより前に危険な状況を知ることができます。 車両情報が公開されているため、現在速度やハンドル方向で事故を避けられるかが自動算出され、いよいよとなると車両自身が自動運転で事故を避けます。この緊急回避の情報も公開されているため、追突が起こらないよう周辺車両も連動して自動運行します。 これによって事故発生の確立は、手動操作でも飛躍的に下がっています。 それでも、車内情報はプライバシーに触れることでもあります。 事故対応のために利用することは、契約で許諾義務がドライバーに存在します。(※)これらの情報が具体的にどこまで公開されるかは、車両のプライバシーレベルと、観測者側の機器の閲覧可能レベルによります。もちろん高額商品のほうがプライバシーレベルを守れ、あるいは切り崩すことができます。 (※)コックピット情報の公開をしないことも一応可能ですが、保険に入れない上に、非公開ユーザーが事故を起こしたときの賠償額はとても高額になります。 車内が情報インフラになっているのは、個人をターゲットにした広告表示も立体映像で現れるということでもあります。 個人認証タグにダウンロードした無料ソフトウェアなど、無料の便利なソフトウェアはこうした広告表示を代償にしていることがあります。 自動車 この時代の自動車は、運転手が必要ない全自動車が主流です。 全自動車をオートクルーズするぶんには運転免許は必要なく、飲酒して乗ることもできます。子供が一人で乗ることも可能です。 ただし、ハンドルを握ると即座に違法行為になります。コックピット内はプライバシーによる情報非開示は可能なものの常にモニタされているため、これを誤魔化すことは基本的にできません。 このため全自動車は、多くの場合、マニュアルモードを立ち上げない限り、ハンドルが内装パネルの内部に格納されていてそもそも露出していません。 ハンドルを持って人間が運転することは、東京23区内では禁止されています。これは事故を避けるためと、渋滞を緩和するためです。全自動車による運行であれば、ブレーキやアクセルのタイミングを完全に合わせられるため、渋滞をほぼ解消することができます。 ドライブが趣味の人間は、23区外に出て行きます。立川や横田といった基地エリアなら23区外で運転ができるため、若者がこのあたりでよく車を走らせています。 自動車は基本的にすべて電動式です。これはトラックのたぐいも同じです。道路の送電ユニットから給電されるため、メンテナンスが必要になるまではいつまでも走っていられます。この性質が重宝されて、無線給電が実用化されてからは、輸送用車両はほぼ電動車一色になっています。 ガソリン自動車は、趣味のものとして以外は新規で作られることはありません。ただ、クラシックカーとして公道を走ることを禁止されてはいません。 全自動車の使われ方は、21世紀初頭での自動車とは大きく異なっている部分があります。 オートクルーズで運転手を必要としないため、「乗るときに車両の停車場所まで移動する必要がない」ということです。全自動車は、端末から指示を送っておけば、自動で起動して家の前まで自動でやって来ます。 このため、停車場が多少遠方にあってもそれほど不便はありません。 また、全自動であるため、運転者がおらず、車両を貸すということが一般的になっています。これは車両操縦を人間が行わないことが前提になっているサービスで、運転者がいないため車両を貸す側が責任が問われないというものです。また、車内が常にモニタされていることにより、オーナーは自分の財産としての車両を守ることもできます。 このため、カーシェアリングサービスに登録して、自動車の持ち主が、自分が使わない時間に車を有料で貸すということがよく選択されています。 自動運行であるため、車両が空く時間も予定しやすく、オーナー自身が使うときには邪魔にならないシェアサービス利用も可能です。 これの広がりは非常に大きく、都心部ではカーシェアリングの優勢のためタクシー業が大幅縮小するようなことも起こっています。 ただ、シェアサービスは嫌がる人々もあり、地域によってはタクシー業も生き残っています。 タクシー業は一種のぜいたくであると割り切って生き残りを図っているケースもあります。これは、車両に普段は乗れない高級車を利用したり、東京23区内のような人間による操縦が禁じられている地域でも、アテンダントとしてhIEや人間の運転手が同乗したりしているものです。 ハイヤーとタクシーの間の差が、都心では小さくなっています。ただし、こうしたサービスは条例で決まっている通常運賃とは別にサービス料も支払わなければなりません。 また、シェアサービスの伸張により、レンタカー業界も影響を受けています。これは、レンタカー会社がつまりサービスのよいカーシェアリングサービス会社になったということです。 2105年現在では、レンタカー会社は自動車メーカー傘下の企業と独立系がはっきりと別れています。独立系はさまざまな企業の車を選択できたり、メーカー系なら新作モデルや往年の名車に乗れたりといったサービスの特色があります。 共通しているのは、レンタカー会社はシェアサービスと差別化するためもあり、気に入ったらその車を買えるということです。実際、そういう買い方をすることは珍しくありません。 非常時の自動車 日本では、車のような「人間が乗れる移動オブジェクト」は、非常時に電源と無線ターミナルになる機能を与えられています。これは、ハザードで震災を経験して、情報やエネルギーの寸断がパニックを生むという苦い経験があるためです。 事情が分かっていない都会の人が、過疎地のインフラ整備が立ち後れている場所に入って、無線給電がなくて慌てるような事態もよくあります。そういう場合の備えになるよう、この時代の電気自動車は旧式のプラグからの給電機能と、自動給電機器に充電する送電ステーションとして働ける機能を持っていることが普通です。 自動車が一台あれば、数日間、何かあっても最低限度は生活インフラを維持できるようになっています。 鉄道 鉄道の管理は自動化されています。ただ、21世紀の早い段階で鉄道の自動化は進んでいたため、かなりの部分を踏襲しています。 鉄道の運行が、現地にいなくてもコントロールセンターで管理できること自体はほとんどかわりません。 大規模な監視が、交通のハブとなるそこを常に警戒していることも同じです。 鉄道はhIEや自動機械が一般化したことにより、駅員の数が大幅に減っています。駅に、hIEが置かれているだけで、駅長と数人の事務員しかいないケースはしばしばあります。 ただし、これは駅の利用データによって大きく差があります。駅員は利用者と接するサービス業でもあるので、ターミナルのような大きな駅には人間が比較的残っています。基本的には乗降数が多い駅ほど駅員の自動化の度合いが低くなっています。 列車は自動運行が主流であるため、路線によっては車掌一人しか乗っていないケースもたくさんあります。 人と接することがすくない路線補修などの工事は、hIEへのアウトソース比率が高くなっています。 人間は全体的に減っていますが、hIEの利用で駅に人影は多い状態です。hIEを一台おいておけばたいていのことはできるので、この時代無人駅の2駅に1駅くらいはhIEを配備しています。 2105年でも日本の旅客鉄道依存は変わっていません。ただ、全自動車が便利になったこともあり、かつての殺人的なラッシュは改善されています。 ただ、これは都心部など渋滞がない「自動運行強制地域」に限られる部分もあります。地方都市では混雑具合はあまりかわりません。 hIEは旅客鉄道に乗るとき、大人運賃と同額を支払わなければなりません。これは、hIEを荷物扱いにしていた時期、hIEの持ち込みにより車内の混雑具合がかえって悪化するという事態が起こったためです。 日本の現在新幹線が走っているところは、高速幹線鉄道(H.A.R.)というリニア鉄道が走っています。 HARは磁力推進で、線路高架は密閉されて気圧を下げられています。これは、速度を上げたときの空気抵抗を低減するためです。駅から線路高架に入るとき、微妙な気圧変動が体感できます。 線路高架は密閉であり、景観のため透明である部分と作成予算のため不透明である部分が分かれています。ただ、見所となるところでは高架内壁に映像を投影するようなことも行われています。 HARにより東京大阪間が一時間半を切っています。ただ、加速減速を繰り返してせっかくの最高速度を活かせないことを嫌って、中途の駅は今の新幹線より停車駅が少なくなっています。 都心地下鉄の増強 《ハザード》後の東京の縮小(シュリンク)に備えるため、東京の地下鉄は増強されています。 「東京圏をいかにして薄く広く伸ばすか」ということは、勝ち組となる過密地域と、スラム化する人口縮小地域とをいかに平均化するかという、都市にとっての死活問題だったのです。 このため、《ハザード》の大地震で大きな被害を受けたお台場と東京臨海地域、そして21世紀現在の埋め立て処分場(※)を、ベッドタウンとして支援するかたちで張り巡らされています。 (※)22世紀には新たな人工島として人が住んでいます。埋め立て処分場は結局さらに新設しました。 21世紀の有楽町線は、(旧埋め立て処分場)-東京ヘリポート-新木場と続き、この先で有楽町線に接続しています。新木場が臨海都市線と有楽町線の延長、京葉線とのハブ駅になっています。 ゆりかもめは、モノレールの老朽化に伴って路線自体が大改修され、他の地下鉄と相互乗り入れ可能なインフラに変わっています。 それに伴い、名称がゆりかもめから「東京お台場線」に変更されています。東京都の第三セクターが持っている路線なので、やはり運賃は高いままです。これは、インフラ増強の工事費がのしかかっているものなので、値下げの兆候もありません。 この東京お台場線が豊洲方面に延長し、豊洲駅-勝どき駅(大江戸線)と、都営大江戸線と相互乗り入れしています。 新路線として、臨海地区と東京の東側を結んで、東側と相乗効果で発展させることを見込んだ都市計画として「浦安線」が運行しています。舞浜、浦安は震災での被害が大きかった地域でもあり、その立て直しのためのてこ入れでもあります。 《ハザード》以後、東京湾の海岸線、京葉線沿線は明らかに沿線都市が縮小しはじめており、これをなんとか立て直す必要がありました。 [浦安線路線駅と接続] 舞浜(JR京葉線)-堀江-浦安(東西線)-北葛西-一之江(都営新宿線)-大杉-新小岩(JR)-東あずま-押上(浅草線/半蔵門線他) (※)旧JRから名称は変わっていますが、便宜上JRと記述しています。 一次工事が舞浜~新小岩。二次工事で荒川に橋をわたして新小岩~押上と敷設されました。特に架橋が必要で巨額の予算を要求される二次工事には反対が多かったが、工事が断行されたのは、それほど湾岸地域の縮小が止まらなかったということでもあります。 東京まで出てしまって折り返せばよいという意見は多かったのですが、急速に臨海地区の縮小が進んだため、復興の旗印のひとつとしてこの地域の修復は掲げられました。それほど葛西以東の湾岸地区の衰退が早かったということでもあります。葛西、浦安、幕張と、地域をゴーストタウンにした場合の損害試算が出され、首都中心部の人口をいかに地域に流すかということが考慮されました。浦安線は、シュリンクさせない絶対防衛権を内側に囲む、ひとつの壁として要請されたのです。 港湾 港湾は、大きく自動化されています。 港湾では、荷物の運び出し、保管から出港までを一環して自動化管理されています。 大きな物流管理センターが港湾に作られ、物資が集積し、適切な大きさに切り分けられて物流網に乗ってゆきます。これは21世紀初頭で言うとamazonの配送センターが、とてつもなく巨大になったようなイメージを考えてくださるとよいでしょう。 大規模輸送システムは現代のそれをさらに推し進めて高度にシステム化されています。そして、地球上での大規模輸送の主役は、22世紀になっても船舶運輸です。 全長五〇〇メートルを超える大きなタンカーも、動力は電気になっています。宇宙からの無線送電の能力が上がったため、電池切れで止まることもありません。ただ、非常用として重油燃料を積むことは必ず行われています。 海洋は常に大量の物資が行き交っている状態で、物流ネットワークと国際法の整備により、船便が途中で行き先を変えることもフレキシブルに行われるようになっています。このため、海上が巨大な物流倉庫なのだという者もいます。 そして、そのぶんシーレーンの安定は大きな問題になっています。2050年代には太平洋西岸が緊迫がピークに達し、その後カリマンタン島に軌道エレベーターが建設されたことにより赤道利権に火が付きました。世界情勢は21世紀を通して海洋を中心に回っていたともされます。 ただ、こうした華々しい話題はコンテナ船やタンカーによる大量輸送であって、それ以外の船舶輸送は一気に治安や利便性が下がります。 資金の投下される場所はより高度に、より効率的になり、そうでない場所は少ないリソースで運営されているためです。そして、22世紀社会では、こうした少ないリソースでやりくりする場所で、人間が昔ながらのやりかたで施設運営しているケースが多くなっています。 22世紀でも小規模の船便はうさんくさいままです。 小さな港にコンテナ船は入らないので、はっきりと清潔で景気のよい大規模港湾、古びて予算規模が小さいままやりくりする小規模港湾と、勝ち負けが明確です。これは一国の中ですらも差がはっきりしています。 そして、この小規模の船便には、旅客輸送も含まれています。 うさんくささや暗さと、華やかさとのせめぎ合いが、海洋輸送にはどうしてもついて回ります。 高給旅客船のつく埠頭や、富裕層のクルーザーが停泊するマリーナはきれいに整備されます。旅客運送でにぎわう船便には活気があります。 けれど、中規模以下の港湾は、暴力や腐敗とどうしても切れることがありません。 海は、監視の目がどうしても途切れてしまう場所であることが一点。そして、海を通しての移動が比較的追跡しにくいことがもう一点です。事件の目撃情報を求める表示が、港の最寄り駅に映し出されていることは珍しいことではありません。 東京湾については、2105年現在では、現在のお台場である湾岸新都心エリアより東側が明らかに劣勢になっています。 これは2063年の《ハザード》のとき施設が壊滅し、これを修復するのが遅れたためです。 横須賀港、横浜港、川崎港、東京港は以前と同等かそれ以上の規模を手に入れましたが、千葉港、木更津港は苦境に立っています。千葉港が特に苦しい立ち位置にあります。 これは川崎港と木更津港を結ぶ旧東京湾アクアライン上に、アジア経済特区(AHQ)と呼ばれるメガフロートが建築されたためです。 《ハザード》後に建造された直径約3キロメートルのメガフロートは、川崎側の航路を確保するために木更津寄りに建造されました。その結果、千葉側の航路を大きく圧迫することになりました。 アジア経済特区それ自体の経済効果は政府の期待ほど大きくなかったのですが、インフラ整備の予算をこちらに奪われたことによる復興の立ち後れは大きな傷跡を残したのです。 空港 空港は、22世紀になってより便利になったようでいてシステムの高度化が限定されています。 陸運と海運に比べると、ヒューマンファクターが大きすぎて思い切った自動化ができないことが高い壁になっています。自動化が進んでも、航空機パイロットが高度な専門職のままであることも、足を引っ張っています。本来はコスト的に全自動の航空機を飛ばしたいのですが、航空機事故は落下地点も大惨事になり、かつ事故が死を意味するため利用客だけでなく各国政府も難色を示しています。 特に事故時の対応は問題で、航空輸送は責任者を搭乗させないと機体が保険に入れないままです。これは、自動化していようとしていなかろうと墜落すると多大な犠牲者が出るうえ、事故原因が気象のような責任をとりがたいファクターになることがあるためです。機長が操縦桿を握っていると、機長がまず責任を問われます。 また、航空機の制約によって、船舶のような無茶な大規模輸送が不可能であることも、投入リソースが頭打ちをむかえた原因になっています。航空機は22世紀になっても不安定な部分を残しています。また、多くの運送機関は電化されていますが、航空機は航空燃料を使っています。巨大な重量物を長時間滑空させることがランニングコスト的に切り下げの限界があるのだとも言われます。 このため、いかにして一度の航空便を安くあげるかが勝負の、時代が進んだ恩恵が比較的少ない業界になっています。 宇宙船技術からのフィードバックで、コンテナ船なみの巨人機と大型輸送網を作ってしまえという構想もあります。ただ、これは専用の大型飛行場を作らなければメリットを充分に享受できないので、既存の空港資産が使えず二の足を踏んでいる状態です。離陸時に大量の燃料を使うことによる騒音や環境汚染も問題で、空港が都市部から遠いとメリットが大きく下がることも航空機のパラダイムシフトを妨げています。 海運とのさまざまな比較検討の結果、現状では海運が勝っている状態です。 航空機パイロットは一生食いっぱぐれない仕事ですが、高度が物流システムが要求するぎりぎりのスケジュールを雇用主に要求されるため、業務は過酷です。 小さな輸送を安価に多数行う需要は現在よりずっと大きく膨らんだのですが、今で言うトラック運転手のような過酷な業務のパイロットには、優秀な人材が集まりにくいのです。22世紀には子供がないたい職業は、航空パイロットではなく、宇宙船パイロットです。 基本的には問題が人件費であるため、航空会社は途上国に人員を求める傾向があります。 そして、航空機製造会社はノウハウの塊なので生き残っているのですが、航空サービス会社も人件費の推移で栄枯盛衰しています。 22世紀現在では、旅客サービスは石油資源の相対的地位が下落した中東系と、アフリカ系が強い業界です。 宇宙時代に入ってしまっていることも空港にとっては逆風です。宇宙生産サイクルの産物は、地球で空輸しなくても直接宇宙に送ってしまうという選択肢もあります。 航空業界は、宇宙時代に入ってからとても難しい舵取りを要求されています。 ドロップシップ 軌道ステーションから繋がる静止軌道の軌道ステーションから、ドロップシップが降下しています。 ドロップシップは軌道ステーションから降下し、空力で減速して最低限度の水蒸気噴射で着陸します。 宇宙から巨大なものを直接下ろすときは、軌道エレベーターではなくドロップシップが選ばれます。 各軌道ステーションから、一時間に六便程度、二十四時間体制で地球に降下しています。 宇宙生産サイクルの存在感が大きくなるにつれ、ドロップシップの便数を増やす要望は高まっています。ですが、軌道ステーション施設を相当大きなものに施設拡張することになるため、なかなかドロップシップ用の埠頭建設が進まないのが現状です。 これは、軌道エレベーターが想定する宇宙から地球へモノを下ろす経路は、あくまでも軌道エレベーターの下り路線であるためす。ドロップシップはメリットもありますが、宇宙にゴミをバラ撒く危険があり、発着便を増やすことにこの危険に見合うほどかといえば相当怪しいのです。 また、ドロップシップが巨大化する傾向にあり、ステーションにリスクと管理コストを強いていることも批判を受けています。現在もっとも大きなドロップシップは五千トンの重量を運ぶことができます。ですが、これを軌道エレベーターの下り路線に乗せた場合、運送にリスクはほぼ存在しないのです。 それでも、宇宙から最速で地球上の目的地に着く手段はドロップシップに乗ることです。 たとえば軌道ステーションから軌道エレベーターを降下し、航空機に乗って東京に着くまで二日近くかかります。これがドロップシップだと、軌道ステーションから着陸ステーションに直接降りられるため、半日かかりません。 そのため、ドロップシップに資金を投入したい人々はいます。 ドロップシップ用のステーションを、今ある軌道ステーションとは切り離した位置に新設することも検討されています。 日本では、ドロップシップの着陸ステーションは長野県にあります。長野に作られたのは、航空機の航路を塞がないようにするためです。 長野着便は一日に二便です。 飛行オブジェクト 2105年でも、飛行技術は基本的に空力です。充満する大気との関係で空中に位置取りする技術としての空力は、22世紀にはより洗練されています。 21世紀の我々のイメージでは、一見するとなぜそうなっているかわからない動きを空力で達成しているものもあります。 ただし、周辺の空気に対するはたらきかけのためにそれなりに大きくて特徴的な飛行装置がひっついている必要があります。 デザインも一般的なものは左右対称などの制約があります。速度(特に加速)に制約も大きく、重量も切り詰めないといけません。この制約を工夫によって乗り越えることで、特徴的な飛行オブジェクトは普及しているというのが実情です。 宇宙に近いところや、宇宙技術に強い影響を受けているところでは、機体重量を軽くして周囲に迷惑をかけない噴射装置をつけて行うものも普及しています。 噴射装置自体は小さくなっており、空力の飛行装置にあった制約はだいたい噴射機構の強みになっています。 ただし、推進剤が切れると落下するため稼働時間が短く、稼働時間を延ばすためには推進剤タンクを大きくする必要があるというバランスとりが必須です。 推進剤は用途によって安価なものから高価なものまで使い分けられています。短時間でよいものはエアーなどの噴射もあります。 「飛行」という言葉から、地球出身者は翼を広げた飛行機を、宇宙出身者は噴射装置からの噴射を幼少期からの刷り込みで思い出します。 ただ、人間をのせると噴射圧も強いものが要求されるので、乗用で噴射推進を扱うことは、町中ではよほど空力では無理なもの以外ありません。どうしても周囲に迷惑をかけてしまうためです。 たとえば、消防隊員がビルの高層階に救助に向かうときには、不燃物の推進剤を噴射するロケットを使うことがあります。 空力では、火災の熱気で不安定になりビルに近づくのが難しくなり、加速が必要なときにその制御も困難で、大気を動かすことで炎に風を送り込んでしまいます。噴射機構はその危険を軽減します。 磁力を使った浮遊は、重量物を安定させやすいので車両サイズ以上の大型のものには使っているものもあります。ですが、人間サイズ以下で達成しているものはほぼ人類未到産物です。 磁力浮遊については、放電事故を起こしたり電源を止めたりと、無線電源と相性が悪いので、特殊な施設以外では許可もされていません。ただし、違法上等のテロリストや、非常時を想定している軍隊などは市街地で使うケースがあります。 むしろ磁力などを使った推進は、宇宙でよく使われています。重力が弱く、周囲に電源が潤沢にある閉鎖環境であるコロニーなどでは、磁力浮遊などが地上より格段に扱いやすいためです。 ただ、それでも鉄道のような特定の道を進めるものであり、自由に移動するものはほとんどありません。 精密にコントロールする必要がありパワーが必要な小型の噴射装置が、磁力を利用して推進制御していることはよくあります。 軽量の推進剤で大きな加速を得るため、磁力の生み出す圧倒的な加速度を利用しているケースで、広義の磁力式と呼べないことはありません。 ドローンについて 無人ドローンはよく普及しています。 サイズもコイン大のものからヘリコプター大まで用途に応じてたくさんあります。飛行カメラのようなドローンは、イベント会場などでは警備のために必ず飛翔しています。 ドローンの飛行方式は、用途によって空力のものも噴射のものも使い分けられています。ただ、ランニングコストと稼働時間の問題から、基本的には空力です。つまり、一般的なドローンは必ず大気のような気体(ガス)との関係によって空中にとどまっています。 光学迷彩のようなものがついたドローンも高価ですがあるところにはあります。 広義のドローンは非常に多多彩です。 hIEも、AASCとは別の無人制御の空力装置がついている場合、一種のドローンとみなされるほどです。 基本的には、武装ドローンや偵察ドローンには法的な取り扱い制限はあります。ただし、これも国の後ろ盾がある警察や軍隊などの政府機関、違法上等の犯罪者などは飛ばしています。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/42.html
警察での人工知能利用 22世紀初頭では、警察が犯罪の取り締まりのため人工知能を利用しています。 警察が持つ莫大な過去の犯罪データを基にして、人工知能によって24時間体勢で予測が続けられています。新しい犯罪が起こるたびこの基礎データベースに加えられ、更なる予測が人工知能によって立てられるようになっています。 警官によるパトロールコースは、この予測に従って決まっています。 下見段階の空き巣が見付かる、発生した通り魔や強盗が近くにいた警官に現行犯で取り押さえられる、麻薬取引の検挙率が上昇するなど、人工知能導入の効果は格段にあがっています。 人工知能は、こうした日々の警邏だけではなく、重大事件が発生したときの捜査にも用いられています。 もっとも一般的に使われるのは、現場検証したデータから、犯行状況を精密に自動シミュレーションすることです。 これは、容疑者になり得る人物が絞られている状況ならば、人工知能のみで容疑者を自動的に導くことができるほど高精度です。 まるで物語の中の名探偵の推理のように、容疑者を導き出すことができます。 こうした人工知能による容疑者の絞り込みは、「機械の指示によって人間を逮捕する」ということでもあり、問題視もされています。 ただ、その反面、実際には人工知能による絞り込みはよく使われています。これは、「人工知能が論だって容疑者を絞り込んだその論理は、裁判でもそのまま使えるほど強い」ためです。特に、豊富に証拠が揃っているときには、もはや起訴から公判にかけて人間が必要ないのではと疑われるほど、人工知能による立証は強固です。 このため、人工知能の普及後、日本の警察は証拠を多く集めることを捜査の基本方針としています。これによって、批判の多かった取り調べの密室化がようやく完全に撤廃されることになりました。 警察は捜査のとき、人工知能にかける可能性を考えて、非常に多くのデータを記録しています。これは捜査データベースを拡充することにも繋がっており、警察の人工知能はそれだけの性能を求められることになっています。 この人工知能化の影響が、もっとも大きく現れたのが、データを膨大に集めるようになったことです。これは、証拠を万全かつ大量に揃えてしまえば、弁護側がどれほど高性能な人工知能を用意しようと公判を覆すことは至難だからです。 警察は、超高度AIこそ持っていませんが、高度AIは潤沢に扱っています。警視庁が2基、警察庁は3基もの高度AIを持っています。その他、日本全国で各管区の警察本部にも合計3基の高度AIがあります。 このうち警視庁と管区の高度AIは合計五基によるネットワークを組んでおり、非常に強力な計算力を常時駆使することができます。 ただ、日本も移民が増えて社会が複雑になったことや、全体的に貧しくなったこと、hIEや人工知能など社会の変化によって、犯罪が増えているのも実情です。 日本の場合は、本来格段に増えているはずの犯罪を、人工知能利用によっておさえている状態であると考えられています。 警察でのhIE利用 警察でのhIE利用は、窓口業務から始まりました。 hIE以前にも窓口にロボットは導入されており、その延長から警察でのhIE利用はスタートしています。hIEによる窓口対応は人間がやるよりも優秀なケースも多々あり、たくさんの警官にパトロールなど様々な業務に出る自由を広げました。 その後、hIEは派出所によく置かれることになりました。警察の警邏の仕事は常に人が足りず、派出所が無人になる時間があったためです。このため、hIE警官が派出所に待機するようになりました。 これによって派出所勤務の警官の労働環境は大きく改善されることになりました。hIE警官は所轄署のシステムと接続しており、派出所に人が多い時間にはシステムからの自動判断で手薄な派出所へとパトカーの全自動モードで移動します。このためのパトカーを所轄署はかならず数台確保しています。 その後、繁華街などの限られたコースを巡回して周囲を監視する仕事へとhIE警官の仕事は広がりました。 22世紀初頭では、パトカーでの巡回や事情聴取など、警官二人組で行う仕事を、人間ひとりとhIE一体の一組で行うように広がっています。(※) これは、今もってhIE警官に単体で複雑な仕事させることはないということでもあります。実際、hIEを一体で行動させると、市民が情報提供を渋るケースがままあるのです。 (※)警官ひとりとhIE一体のバディで行動するのは、この時代の警官にはよくあるかたちです。hIEが人々の関心事になっているため、さまざまなエンタテインメントでもこうした人間+hIEのチームが登場するものはよく描かれます。 そうでなくても、警察はhIEの有用性を認識しながら、その取扱に常に注意をしています。 これはhIEがセンサーのかたまりで、録画や録音を常時行うことができるためです。 ただ、このhIEによる常時記録は、市民からのウケが大層悪く、警察hIEを見ると嫌な顔をする人は少なくありません。 後ろ暗くなくともhIEでの記録を拒否する市民は多く、hIEそのものの評判を下げているのは警察用hIEだという意見もあります。 ただし、hIE警官が、それでも多くの犯罪で証拠を記録し市民を守る役に立っていることも事実です。 日本では、警察用hIEは人間の警察官と違って警棒や拳銃のたぐいを持っていません。また、日本では警察用hIEは人間の警官とは違う専用制服を着用させることを義務づけられています。(※) 武装はしていなくても、警察hIEはAASC-4規格(アスリート相当)の性能を持つため、身体能力で人間が勝利するのは困難です。警察hIEに追いかけられた犯人が走って逃げ切るのは、hIEが疲労しないことからも相当難しいです。 (※)警察hIEは世界中で個々の社会の事情に合ったかたちで運用されています。たとえば、市民の密告を推奨するような社会では、警察hIEが私服を着せてそうだと分からないよう使われています。 アメリカなどでは、hIE警官は銃器を扱うことを求められます。軍隊の無人機がそうであるように、撃ち合いの場でhIEが危険な先行役を果たし、その後に人間の警官が進む用途があるためです。 このため、hIEの行動を制御するAASC(参照「行動の一般化(AASC)-基準としての行動適応基準レベル」)には警察使用のために、銃器が扱えて徒手での制圧もでき警察で用いる動作が可能なAASC-5PO(PoliceOfficer)という規格も存在します。AASC-5PO規格の警察hIEともなると、条件がよくない限り人間が戦って勝利するのは不可能です。(※1) ただし、これは警官が銃器を持っているのが当たり前の国以外では導入されておらず、日本ではAASC-5PO機を導入できません。(※2) (※1)hIEは静止した状態ならハンドガンで15m以内の静止標的にはほぼ必中させます。また、AASC-5PO規格は「銃弾を受ける」ことが前提の作りになっていて、もっとも一般的に普及している9ミリ弾が命中してもそうそう停止しません。AASC-5PO規格のhIEを一撃で停止させるためには、最低でも38口径なら強装弾以上が必要です。 このため、5PO配備地域の強盗は大型ハンドガンやショットガンを持っていることがよくあり、襲われた被害者が死亡する確率はかつてより高くなっています。 (※2)-5PO機の大きな問題となっているのは、hIEの認識能力では相手の脅威度をはかる正確さに限界があることです。たとえば、おもちゃの銃を向けられても-5PO機は銃を抜き、その後の反応次第では相手を射殺します。これはおもちゃと同じ材質で殺傷力のある銃を作ることが実際に可能であり、それが危険である可能性を基にhIEが行動するためです。このため、-5PO機の配備は、「おもちゃの銃を向けられたことで警官が相手を射殺すること」を社会が許容できるかが大きな分水嶺になっています。 警察庁と警視庁 22世紀初頭でも日本の警察は、警視庁をはじめとする各管区の巨大な警察組織と、それを含めた警察組織を監督し警察行政を調整する警察庁との二重の構造を持っています。 警察は、地域に密着した所轄の警察が中央からの監督を受ける構造を持っていましたが、これがシステムの高度化と人工知能化によって、より顕著になっています。 22世紀の警察では、ありとあらゆるデータを中央が吸い上げ、それに地域警察がアクセスするかたちをとっています。所轄の警察署が集めたデータを持つのは県の警察本であり、それは管区の警察本部に吸い上げられ、最終的には警察庁によって管理されます。 警察庁は特にこのデータを集めることに固執しており、国ではなく各自治体の首長が給与を支払うところの地方警察官の個人データを詳細に追跡するよう要求しています。このため、警視庁をはじめとする警察組織から、大きな反発を受けています。 警察庁の描く警察の未来図は強固に管理された社会で、ここでは警官が人間である必要性すらないように見えるためです。 警察庁電算局 電算局は、警察庁の部局のひとつで、AIの関わる犯罪を担当しています。 この電算局は、その管掌する仕事の特殊性から、高度AI《マクレーン》を擁しています。 AI犯罪を取り締まるためには、量的に膨大なデータチェックや、人間の注意力では発見不可能な違和感から辿ることが必要になります。このため、どうしても警察側もAIを扱わざるを得ないのです。 警視庁および地方警察も電子犯罪対策を行っています。 ただ、AI犯罪は機材とAI能力差、データ量の差といったAI側の能力を、人力が埋めることができない分野です。このため、高度なものになるとお手上げになり、警察庁電算局に事件を移管することがしばしばあります。 電算局はそうした仕事の集中を受け入れるだけの規模が与えられています。 電算局は電算一課、電算二課の二つの課に別れています。 電算一課 AIを利用した犯罪(人間が主体でAIを利用している犯罪)を担当するのが電算一課です。 従来の犯罪も、特に組織的な犯罪はAIの利用によって格段に高度化しています。これを担当する対AI犯罪のスペシャリストが電算一課です。 22世紀初頭では犯罪へのAI利用はよくあることであり、特に組織犯罪や知能犯にはかなりの割合でAIが関わっています。 このため、電算一課には多くの優秀なスタッフが集められています。 電算局の電算一課は、日本の警察組織では最高の対AI犯罪の専門家であると考えられています。実際、電算一課はAI犯罪と戦う最前線です。 このため、応援に駆り出されることが多い組織でもあり、大事件ではAIに関する部分だけを電算一課からの応援スタッフが担当しているケースがままあります。 慢性的に人材と計算力の不測に悩まされているため、電算二課の《メイトリクス》を自分たちに使わせるよう何度も要求しています。 ただ、この要求は受け入れられたことがありません。 電算二課 AIによる犯罪(AIが主体となって行う犯罪)を担当するのが電算二課です。 これには電算一課のそれと違って、犯罪のかたちをしていないものも担当に含まれます。つまり、AIには自動的に犯罪をおかすよう指示されているものがあるのです。こうしたものは、平時でも他国家やテロリストからのサイバー攻撃として行われるものもありますし、集金を指示してAIを放流するケースもあります。 こうした「AI自体に違法性があるもの」を摘発する至難な任務を担当する部署です。 犯罪として発覚していない犯罪の調査は、AIから調査要求が入ることによってスタートします。 人間には犯罪であると認識できないものが存在するためです。 電算二課への調査要求は電算局の高度AI《マクレーン》から行われます。ただ、調査要求は警察庁、警視庁や警察本部から、ときには日本政府の超高度AI《たかちほ》からであるケースもあります。 人類未到産物(レッドボックス)が社会に悪影響を及ぼす産物漏出災害も電算二課の担当になります。 このため、電算二課には《マクレーン》のほかに支援AI《メイトリクス》を特別に使用しています。 この《マクレーン》-《メイトリクス》のラインこそが電算二課の本質であり、人間の人員はおまけであると警察内部でも揶揄されることがあるほどです。そして、それは真実を突いています。 ただし、電算二課のスタッフが飾りというわけではありません。 仕事の大半は《マクレーン》と《メイトリクス》が片付けてしまいます。AIが主体になる犯罪で、人間の捜査員がやらなければならないことはそれほど多くありません。 それでも、電算二課スタッフという人間が必要なケースはままあり、このために優秀なプロフェッショナルが少数精鋭で揃えられています。 公安警察 22世紀初頭の公安警察は、日本をめぐる国情が21世紀初頭より遥かに複雑であるため、大幅に増強されています。 移民の増加によって、民族運動がテロに繋がるケースが増えています。 また、宗教や民族に関わる国際的なテロの標的にも、かつてよりなりやすくなっています。これは日本が再軍備により多くの複雑なパワーゲームで敵を増やしたためです。 そして、抗体ネットワークをはじめとするhIE排斥運動や、人工知能への排除運動には、過激なテロに繋がるものもあります。 社会に対する不満運動は、旧来の過激派と合流しがちです。これは、過激派がこうした社会不満を持つ層を取り込もうと運動するためであり、不満層にもノウハウを求めてこうした集団に接触する者がいるためです。 公安警察は、産業スパイの取締もその職掌に含んでいます。 産業スパイは非常に高度化されています。 こうしたテロや擾乱に対して、警察は公安警察の増強で対応しています。 政府の諜報機関や情報軍をはじめとする軍情報機関も、テロに対して目を光らせています。けれど、その中で、もっとも手広い活動で市民の暮らしを守っているのは公安警察なのです。(※) (※)そしてこれら機関ではもっとも穏当な仕事をするのが公安警察です。これは公安警察が手ぬるいということではありません。公安警察はスパイを送り込んだり、証拠品を潜入して集めたりするのが常套手段ですし、関係者を拘束して脅迫することも少なくありません。 ただ、情報軍や政府諜報機関のように、人間を闇から闇に葬ることはありません。公安警察は、裁判にかけることを前提に、被疑者を逮捕する警察組織なのです。 東京警視庁以外でも、福岡、沖縄、広島、北海道、新潟、大阪の外事課は精鋭で知られています。 機動隊と警察特殊部隊 各管区の警察あるいは自治体警察は、治安出動のための機動隊と、おもに対テロ対策のために特殊部隊を持っています。 これは、日本でもテロ事件が21世紀を通して増加したためです。警察特殊部隊は重武装で、軍特殊部隊と性質は違うものの高い練度を維持しています。 ただ、警察と軍の仲は、伝統的に悪いままです。これは日本軍が自衛隊から改組される前から変わっていません。 このため、警察は特殊部隊の訓練のため、軍ではなくPMC(民間軍事会社)を使います。 特に日本型PMCは、警察をクライアントにして作戦行動を行うことがあるため、PMC側もこの訓練を重要視しています。(参照:「日本型PMC-日本型PMCの出動」) 機動隊と警察特殊部隊は、どちらもhIEではなく、それぞれの個体もしくは指令機に人工知能を搭載した無人機を配備している部署です。 この無人機は、機動隊なら盾を装備して人間の壁を作れる重量のある人間型無人機がよく使われています。 機動隊がこうした無人機を使うのは、hIEが侵入できない無線遮断処理のある建造物に入ることを想定しているためです。政府施設には情報を守るためこうした処理を施された施設が数多くあるのです。 警察特殊部隊の無人機は、人間型の無人機もあれば非人間型の無人機もあります。特殊部隊の無人機は、重武装した犯人や無人機と戦闘になることを想定して、軍用無人機とほぼ同等の仕様です。 警察特殊部隊がhIEよりも軍用に近い無人機を好むのは、世界的な傾向です。 NOTE:普通の人はやらない迷惑行為と、違法行為とのレベルについて 合法の範疇の迷惑行為と違法行為との区切りは、生活に関わる非常に複雑な問題です。この境界の部分に、一貫した法則性はありません。刑事罰となる行為には、公共の利益に反する法律の根拠が存在するのですが、実際のところ現実社会との関係の中で適法と違法が振り分けられています。 以下、例をいくつか挙げます。 無線電源からの盗電や違法コピーは、子供の窃盗としてはよく行われています。 少年が矯正施設に入れられることは、よほど悪質ではない限りありませんが、おとなが行うと窃盗として刑事罰で裁かれます。 22世紀初頭では街頭のさまざまな場所に監視カメラが仕掛けられています。この「監視の目をくらます」のは、不良集団がよくやり、犯罪行為の第一歩であると考えられています。 22世紀初頭社会は、hIEだけではなく、人間を常に監視をし続け、そのデータの恩恵を共有するのが社会常識です。このため、センシングから逃れること自体が迷惑行為であり、疑われる行為です。ただ、人間監視され続けると息が詰まるのはいっしょで、監視の目をくらますことだけでは刑事罰には問われません。ただし、監視装置を破壊するなど、目くらましの手段によっては民事裁判で罰金になることはあります。 監視前提の社会に適応できない人々がドロップアウトしてアウトローになってゆくことを、法律が止めることはありません。そういう陰に対する憧れのようなものは、22世紀の人々には、特に息詰まる若い世代にはおうおうにしてあります。 街中での透明化については、違法ではありません。 ただ、透明化に用いられる道具は「限定された環境下以外での使用禁止」「限定された状況下以外での使用禁止」「取扱認可を受けた者以外の使用禁止」の取扱危険物として分類されています。そして、この危険物取扱禁止法規の違反によって逮捕されることになります。 裏を返すと、そうした明確な不許可の物品でないものは使っても刑事罰を受けません。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/28.html
[オープンリソースの「学校」セクション使用にあたってのお願い] 以下、「学校・教育」セクションのデータを記載します。が、学校は例外がいくらでもある世界であると考えてください。 学園ものは、長らく少年少女向けの創作の舞台としては花形なのですが、それだけに資料にとらわれず自由に作っていただきたい気持ちがあります。 そのわりに詳細に記述しているのは、「普通のかたちが見えるほうが、破格や例外のものを書きやすい」と考えたためです。たとえば物語の中ではモブとして書き流されがちな普通の生徒が、どんなところでどんなふうに退屈な日常を送っているのかが、わかりやすくするためのセクションです。 他のセクションもそうなのですが、情報にとらわれないよう使ってやってください。 学校制度 学校運営は、基本的に現在と同じで私立学校と公立学校があります。 公立学校は高校まで無償です。これは、出生率の伸び悩みを解消するために、長らく続いている制度です。 ただ、中高一貫の私学は、高校受験を基本的にしなくてよいこともあり人気があります。 22世紀の学校で、21世紀初頭ともっとも大きく異なるのは、入学時期が9月からになっていることです。 日本企業も官公庁も、すでに4月に新卒一斉採用することがなくなっています。不定期採用が一般的になっているため、学校側も3月末卒業になるよう学期を組む必要がなくなったのです。 また、欧米への留学が一般化して、それに合わせてスケジュール日本の学校教育も行うよう強い要望が出ました。これにより、9月入学が一般的になりました。 私立学校を中心に、4月入学を続けている学校も存在します。公立学校は9月入学の学校のほうが多くなっています。比率としては、3:7くらいで9月入学のほうが多数派です。 22世紀初頭の日本では、公的教育は小学校6年、中学校3年までが義務教育です。 その後、高校3年か、大学4年間と続きます。大学院の過程の長さは過程などによってまちまちです。小学校・中学校・高校までは生徒として教えられることの多い立場、大学以降は学生として自主的に学ぶことを強く求められることは変わりません。 大学 9月入学の流れに最初に対応したのは大学です。大学は早い段階で9月入学と4月入学の学校・学科に別れるようになりました。 これは、元々4月から8月が前期課程、9月から3月が後期課程と、履修上前後期に別れていて対応がしやすかったためです。 これによって、通年講義でも4月スタートの過程と、9月スタートの過程が存在します。これは学生側にとっても、通年講義を4月スタートすることが必須でなくなったため、休学して旅行やボランティア、あるいは学費稼ぎといった活動がしやすくなっていて、こうした活動は活発になっています。 卒業論文をまとめて一時に見る必要がなくなったものの、年に二度卒論ラッシュが起こるため、教授陣の評判は半々です。 高校・中学 大学の9月入学化の後、高校以下の教育機関も、それに合わせて9月入学の学校が増えました。 そして、このために中学、高校の入学には、前の学校の卒業から半年間の時間が空くことが当たり前に発生するようになりました。 この時間を利用して、旅行に行ったりアルバイトをしたりすることが推奨されています。 予備校に通って勉強を続ける道もとる生徒も多数います。特に高校の進学校に入学する生徒は、遊んで学力を落とさないようこのときに基礎力を上げようとする選択もよくされています。ただ、どうしてもこの時期に遊んでドロップアウトする生徒も多く、籍としては卒業しているのですが、次の学校への入学までは以前の学校が監督するのが通例になっています。 ギャップタイム 卒業後に時間が空く場合、この空いた時間をどう扱うかは、さまざまな選択がされるところです。 職業訓練を行って将来の進路を考える機会が提供されたり、論文などを事前提出してワークショップに参加することも推奨されています。同時期にギャップタイムが発生するため、需要を見越してそうした講座はたくさんできています。 ギャップタイムの講座は、経済的負担にならないよう、市や県といった自治体が行っているものもあります。特に国のワークショップには、国内外の著名な学識者を呼んでエリートへの関門となっているものもあります。全体的に見ると、公共機関の行うもののほうが安価で、競争率も高くなっています。(※) さまざまな業者が行っているもの、あるいは金銭収入と将来的な呼び込みをかねて大学が行っているもの、学習塾や業界団体が行っているもの、値段も趣旨もさまざまな講座が存在します。 開始時期はまちまちですが、2週間から2ヶ月くらいのものが中心になります。 (※)人気のワークショップは書類審査や論文選考、面接、あるいは入学試験さながらに筆記試験を行うところろも少なくありません。 飛び級 この時代の日本では、飛び級が存在し、そのタイミングも4月と9月です。 飛び級には、学生本人の申請と、担当教師の推薦、飛び先学年の教師の推薦の、三つが揃っている必要があります。 春休み前の3月と、夏休み前の6月に飛び級試験があり、これに優秀な成績をおさめると次の期から飛び級が認められます。 飛び級は半年単位で行うことができます。このため、高校卒業と大学入学の時期がズレてギャップタイムが発生する(高校3月末卒業、大学9月入学のような)場合、大学入学のための半年飛び級してさっさと高校卒業してしまうようなことも、優秀な学生には行われています。 学期 一年間のおおまかなスケジュールは以下のようになっています。 ただ、学校ごとの裁量が大きく、だいたいの目安でしかないと考えてください。 [1学期] 9月中旬~12月下旬 9月は入学式だけが早い時期にあります。 実際の授業は中旬以降開始が基本です。 開始時期がまちまちであるのは、1日から始めるとまだ暑くて「衣替えの時期が中途半端になる」こともあります。特に入学初年は、残暑の暑い時期に始まると夏服期間からすぐに冬服期間になり、経済的にもたいへんであることも考慮されています。 夏服はたいていの学校で、希望者のみが着てもいいオプション的なものです。明確な夏服期間冬服期間はありません。 部活紹介やオリエンテーションの頃、暑い日なら2年次以降は夏服のものが多めで、新1年生は冬服で暑そうにしている光景がよくある風物詩になっています。 9月に入学が終わると、秋は学校イベントが数多くあります。 クラス替えで学校生活に慣れた頃、9月のうちに健康診断や体力測定が行われます。 生徒会のある学校では、生徒総会のような学生自治の年間計画を策定するイベントもこの時期にあります。 登校指導や交通指導など、各種学校生活の手引き的なことも、安全のためこの時期に集中しています。 体育祭は10月~11月に行うケースが多くなっています。中には学年末である5月頃に行う学校もありますが、後期過程(4月~6月)で行うと3年生は卒業しているケースがあるため、たいてい秋の内にやってしまいます。 文化祭シーズンもその頃になります。秋は文芸、芸術系の部活動の活動発表やスポーツ系の大会も多く、AO入学を目指す学生には勝負の時期になっています。 クリスマス前には学校は終わってしまいます。だいたい12月は20~22日終業です。 地域ごとに始業、終業時期は差があります。沖縄では9下旬~12月下旬で、冬休みが短いです。北海道では9月上旬~12月中旬で冬休みを長くとります。 学年最初の中間テストは10月後半、期末テストは12月始め頃です。 [2学期] 1月中旬~3月下旬 2学期は学期自体の短さのため、学校行事も少なめです。 行事が少ないため、修学旅行がこの時期に行われるケースがよくあります。 文化祭を1学期に行わない場合は、この時期に行われます。学校の独自行事が行われる場合は2学期配置であることが多くなっています。 教育実習も、余裕のあるこの時期によく行われます。 生徒会が選挙で選ばれる場合、2学期に選挙で新生徒会を選んで3学期を引き継ぎ期間とするケースもよくあります。 学期の短さのため、中間テストがなく期末テストだけです。これは3月初旬に行われます。 学校が9月入学になっても、春休みは確保されています。官公庁や企業の年度は4月区切りのまま残っている部分もあり、転勤の区切りが4月であることがかなり多いためです。生徒も、2学期の終わり(3月まで)を区切りに転校するケースが22世紀になってもよくあるのです。 この転校の準備に時間がかかる場合、申請を出すと一週間を限度に出席扱いにしてもらえます。 [3学期] 4月上旬~7月上旬 3学期は温かくなって過ごしやすくなる時期ですが、受験シーズンです。 生徒の進路指導もこの時期に行われます。 この時期は部活動の活発なシーズンです。 3学期の4月から6月頃に大会が行われる部活動もあり、これはAO入試に直結するため、特に強豪校では鬼気迫るものがあります。 スポーツ系部活動は、屋内のものは大会が2学期(冬期)にあるものが多く、屋外のものは温かくなる3学期(春期)と1学期(秋期)に行われるものが多くなっています。 文化系や芸術系でも、この時期の成績や実績がワークショップの受講資格取得に繋がっているケースが多くなっています。(参照「学校制度-ギャップタイム」) 特に2年生の3学期は、春期が大会シーズンのクラブにとっては、たいてい最後の大きな舞台になります。部活動のカリキュラム的比重が大きくなっていることもあり、クラブ活動をしていれば活気のある時期です。(※) (※)ただ、3年生が春期の大会に、受験シーズンになっても出ているケースもあります。この場合は、成績を出しても受験に間に合わないため、受験目的ではありません。それだけクラブ活動の比重が上がった結果、チームのため出場するケースです。 9月入学の学校では、7月に入るとすぐに終業してしまうため、屋外のプールで水泳をカリキュラムで行うことはなくなっています。イメージとしては、22世紀の多くの学生にとって、夏は授業がない時期なのです。 ただ、4月入学の学校では、授業を7月下旬まで行うため、22世紀現在でも水泳の授業があります。一般的には、かなりクラシックな学校のイメージとされます。 5月中旬に中間テスト、6月末に学年末テストがあります。 卒業式は6月末ないし7月初旬です。 入試が4月~6月の間に行われるので、学校側はその受け入れのために定期試験を学年末試験のみしかやらないケースもあります。 カリキュラムの変遷 22世紀の学校では、英語は第二共用語になっていて、小学一年生から教育が始まります。 古文と漢文は、選択科目としてとる必要がなくなっています。 そのかわりに、コンピュータプログラミングが中学校から必須科目になっています。これは義務教育時期からプログラムに触れさせることで、生活の必須インフラになっているネットワークの最低限度の知識を身につけさせるためのものです。 いわゆる倫理教育では、社会奉仕のような行動を伴うカリキュラムが増えています。これは、21世紀を通して日本が高齢化と人口縮小、移民と、社会問題を抱え続けたからで、社会でそれと接触するトレーニングに児童教育から取り組んだためです。 カリキュラムは、各学校で自主制をもってある程度組み立てることができます。 これは、学校に柔軟性ができたのではなく、人工知能が学校行政に利用されるようになったためです。 各学校情報を地域の教育委員会のコンピュータシステムに集約することで、現時点での進行で教育要綱をクリアできるか見込みを出すことができるようになっています。これによって、進行度と残り時間を管理できるため、その空隙に自主的なカリキュラムを挿入する余地を作っています。一学級が10人から20人程度であるため、生徒個々人に細かく指導達成項目を自動計算されており、教師がその理解度を把握しながら指導することになっています。(理解度を把握してもそれに合わせた指導ができるとは限りません。) 人間の労働だけで構築するには事務作業の人手がかかりすぎる柔軟性が、自動化によってクリアされているのです。 部活動の位置付け 高校での部活動は、部分的にカリキュラム化しています。 部活動で一定の成績を上げると、内申点や単位のかわりとして充当することができるようになっています。 出席日数が足りないけれどクラブ活動で優秀な成績を残した生徒が、一定ぶん必要日数を緩和される制度があるということです。どうしても苦手な教科があるケースでも、これで単位を充当して進級できたりします。こういう目こぼしは、スポーツの名門校などでしばしば行われていましたが、それが制度化したことになります。 これは大学受験で、AO入試の占める割合が増えたことが大きな原因です。(※) 学校側としては、一芸に秀でた人間を育てることが大学入試という高校にとっての成績になるため、奨励されています。日本社会が最終学歴を評価する社会であることは22世紀になっても変わっておらず、そこへ至るための過程として中学や高校を評価することも続けられています。 その中でAO入試が重みを増やしたのは、学校行政側として、人口減少で児童の数が減りすぎているため、とにかく出来ない子供をふるい落とすのではなく、「なにがしかのかたちで社会に利するところを探す」ことが必要になったためです。 その要望に対して、学校教育的カリキュラムに幅を持たせることに限界があるため、部活動の比重を上げるという苦肉の策をとることになりました。 (※)AO入試は、高校での成績や活動、面接や討論結果、自己推薦書が残っていますが、小論文は合格基準が厳しくなっています。これは、論文を人工知能が簡単に書けるようになっているためです。論文は、大学の卒業論文と同じく、面接で教授から厳しく口頭試問を受け、質問に答えることや討論することが必要になります。この口頭試問は、厳しい教授は(そもそも教育者として適性が低い人もいるため)卒論基準で突っ込んでしまうため、必ずフォローしてくれる試験管が付き添います。 部活動の部分的カリキュラム化によって、この時代の部活動では、カリキュラムとして認められる可能性がある学校公認のクラブには、必ず顧問の教師がつくことになっています。これは、教育カリキュラムであるため評価者と監督者が必要になるためです。 顧問の教師が、生徒内で不正などが行われていないこと、取り組みの様子などを監督し、指導しています。このため、クラブ顧問としてだけ非常勤で雇われている教師も存在します。(※)これは、スポーツ系のクラブのコーチにあたる専門の人員が、全クラブに存在するようなものでもあります。 単位認定については顧問教師が職員会議で推薦を行います。これは部活動に対して詳細な指導要綱がないためですが、顧問教師の裁量が大きく、その公平性に疑問を挟まれることはよくあります。特に、顧問の教師自身もその部の活動内容にくわしくない場合、生活態度や部活内でもめないこと、顧問受けといった活動内容にさほど関係ないこと評価を分けることになりがちで、強い疑いをかけられることがしばしばあります。このため、顧問の教師が恣意的な基準で容易に単位を出さないよう、推薦に値する活動があるのか監査がしばしば行われます。このため、あまり熱心ではない顧問は推薦自体を行わず、部活動で単位をとれるシステム自体が形骸化しているケースは少なくありません。 (※)こうした専業顧問はほとんどが自給労働者です。ただ、質のほうはまちまちで、教師の身内のパートタイム労働であることもあれば、その道の専門家がやってくることもあります。 ただし、部活動を行わないことももちろん認められています。 大学入試の中心は今でも学力試験であり、塾や予備校に通うことの邪魔になることは奨励されていません。 就学以前の教育 保育所や託児所といった子供を預ける施設は、22世紀には充実しています。 これは、hIEを利用するのが簡単であるためです。 子守はユーザーにとって重労働で、登場当初でも大きな需要があったため、hIEの需要のごく初期から膨大なプログラムが積み重ねられていました。 しかも、人間がやると重労働なのですが、hIEにとっては家事労働の延長です。特別に強度が必要だったり環境として過酷だったりする労働ではありません。 このため、代理労働契約を結んだhIEが多数託児所や保育所では働いています。こうした施設は、利用料が安価で、家庭の事情でhIEを買えない、子供の世話のためだけにhIEを購入することに忌避感があるといったユーザーに、安価でサービスを提供しています。(地域によりますが東京で2万円/一ヶ月[20日・1日8時間]程度の値段感です)子守用のカスタムクラウドは多くの需要に支えられて高性能で、間違いが起こる可能性もむしろ人間が育てるより低くなっています。 幼稚園では、人間の労働者のほうが多くなっています。 これは、hIEの教育クラウドが作成困難であるためです。特殊なカスタムクラウドが人工知能と連動しているケースもありますが、基本的には、hIEは教育用途人工知能や学習補助ソフトウェアの人間型の再生媒体です。 そして、小さな子供を持つ親たちは、幼児教育に期待する人間性の基礎を育む教育を、人工知能にさせることには抵抗を持ちがちなのです。 これは、人工知能やhIEでの学習効果が、実際に人間と比べて大きく違った時期があることからの歴史的な刷り込みでもあります。22世紀現在では、どちらに向いているかという個人差程度です。 学校におけるhIE利用 学校では最低限度のhIEしか使用されていません。 教育補助は、クラウドよりも人工知能のほうの得意分野です。このため、hIEの教育利用とは、人工知能を搭載した知育教材をhIEに使用させることになります。 ですが、特に公的教育を人工知能に丸投げすることは、教育行政以外の面から政治的に問題になるため、行われる道が現状ありません。だから、22世紀初頭でも、学校教師はhIEにアウトソースされていない労働なのです。 教育をカスタムクラウドで行うと、教育効果が画一化されると考えている人々もおり、この考え方は多くの保護者に支持されています。 警備員や校務員といった教師以外の労働では、hIEがよく利用されています。 hIEは、監視機器の塊であるため、生徒所有のhIEであっても、教室などの学習の場に入れることはできないのが普通です。 これは、人間型ロボットの登場当初、ロボットに記録させた音声や映像をネットワークにアップロードする事件が頻発したためです。これが大問題になり、生徒プライバシーに配慮して学習の場への持ち込みが禁止されることになりました。 学校には必ずhIE用の駐機場があって、ここに待機させることになっています。21世紀初頭でたとえるなら学校にバイクを持ってくるのと同じあつかいで、一定の置き場に放り込まれて、授業時間中は接触させないのが基本です。 駐機場は屋根があって雨風防げるようにはなっていますが、広さによっては詰めこんだ全機を立たせたまま待たせることも少なくありません。 学校清掃などを教育としては生徒にさせない学校が、特に進学校では増えており、こうした学校ではhIEが使われることがあります。ただ、思春期の抑圧された少年少女にhIEを近づけることで、hIEが身体を触られるなどの被害に遭うことがあり(※)、非人間型のロボットを使うケースが多くなっています。 (※)hIEはセンサーのかたまりであるため映像や音声ログが残っており、生徒の言動を再生できるためすぐに露見します。親が学校に呼び出されて、ログを再生されて注意され、生徒が一生忘れないほどいたたまれない思いをする事案がしばしば起こります。そしてこういうとき、親側は高い割合で、hIEを思春期の少年少女のそばに置いている学校側を非難するのです。 特に、性的サービスクラウドを利用可能なhIEを学校敷地内に入れることは、どの自治体でも必ず条例で禁止されています。それでも、年に十件程度は必ず持ち込み事件が起こり、報道されています。(※) (※)届け物をするために学校敷地に入るくらいのことは目こぼしされているため、そうした方法を悪用する事例が多いのです。 学生達にとってのhIEの位置付け 学生達にとって、hIEの位置づけは、社会における位置づけとは少し違っています。 学生達は、実家が商売をしているのでもない限り、あまりhIEによって生活を脅かされる実感があるわけではないのです。 また、hIEは乗用車一台ぶんくらいの値段感の商品です。100万円のものを中高生に持たせる親なんてそうそういないわけで、学生には手の届かない高額商品です。 ひとり暮らしのおとなには、覚悟を決めればわりと簡単に手が届くものですが、親と暮らしている中高生が買うには高額すぎるのです。 このため、中高生くらいまでは、学校の人間関係にhIEの居場所がありません。 なので、学級の人間関係として「(異性型hIEとの関係と比べて)人間同士の男女関係のほうがステータスが高い」場合が圧倒的多数です。これは友情、恋愛関係ともにそうで、思春期の男女は人間の恋人を持ちたがります。99%はそうなります。 なので、たとえ、身近に美しいかたちのhIEがいても、中高生の時期の恋愛は、人間の異性間で行われます。 異性型のhIEを連れている子が「もしも告白を受けて相手を振り」でもしたら、「hIEと付き合っている」と、あらぬうわさを立てられます。それが原因でいじめに発展するケースもあります。 これはどの世代でもよくあるので、女の子を持つ親は、hIEを買い与えるとき、護衛としての能力が落ちても女性型を選ぶほうが多いほどです。 つまり、学生の社会の中(※)での"一般的な感覚"では、やはりはっきりと異性の姿をしたインターフェイスと、人間の異性との間には、差異を感じられています。 hIEに関する偏見や嫌悪は、中高生くらいまでの間の経験で植え付けられているケースがすくなくありません。 (※)スクールカースト的な学生間の社会での階層化と抑圧は、22世紀にもなくなっていません。 このhIEよりも人間関係のほうを格上と子供達が見る傾向は、少子化の問題を常に抱えている社会にとっては利のある方向性です。なので、学校教育もそちらを常識として助長しています。 日本ではhIEにそこまで偏見はないのですが、他の国ではそうでないケースもあります。子供がhIEにべったりになりすぎることに、親が危惧を持つというのは、世界的によくあることなのです。 実際には、子どもたちに「人間社会のモデルのコア」を植え付ける場として、学校は機能しています。 生徒に対してオープンにはされていないのですが、インタフェースから引き離すこと自体も、学校教育のひとつの目的になっています。 これは、一般家庭に、すでにhIEが多数入っていて、物心ついたときにはhIEが側にいる世代のことを、政府が危惧しているためです。22世紀現在、独身自体からhIEを引き連れていて、子守をさせている家が多くあります。こうした家の家庭では、母親のかわりにhIEに育てられた子供が多く、こうした子供が大人になった世代の特殊出生率が下がることを、政府は不安視しているのです。 環境を作って、人間関係の経験を積ませること。人間関係を構築するために必要な能力を養わせること。おとなになっても続くような人間関係を築かせること。すべて、学校の大きな役割なのです。 なので、今の学校に比べて、コミュニケーションワークの時間は格段に大きくとられています。 学習塾や習い事におけるhIE利用 教育現場におけるhIE利用は、塾のほうが圧倒的に進んでいます。 塾で利用されることが多いのは、21世紀初頭でいう公文式のような繰り返し学習が、教育のひとつのパターンとして確立されているためです。 教育の方法によっては、hIEでも高い教育効果を上げるものがあります。こうしたノウハウの積み重ねを武器にして学習塾では教育を行っており、それは実際に効果をあげています。 教育現場におけるhIEの位置付けは、教育用途人工知能や学習補助ソフトウェアの人間型の再生媒体にすぎません。 ですが、人間の教師を生徒ひとりひとりに長時間つけることは困難です。 このため、質の高い指導を短時間生徒に行うことよりも、質は並でも長期間指導を行うことのほうが有利になるジャンル(あるいは指導上での局面)では、hIE指導者のほうが成果を上げることがあります。 この長時間の指導の利点は、子供に投資する保護者にとっても訴求力があり、人工知能と連動した独自のカスタムクラウドを用いる学習塾チェーン、英語教室、音楽教室といったものが多数存在します。 [NOTE]縦のミームと横のミーム この時代の学生達にとっても、非常に世界は狭いものです。 特に高校までの生徒にとって、学校は彼ら彼女らの世界のすべてであるかのように見なされます。 これは22世紀になって、誰もが持っている端末が飛躍的に高性能になっても、hIEがうろつき回る世界になっても、人工知能の能力が人類を超えても変わりありません。 学校は、子供達にとって、家や企業組織のような縦の関係ではない、横の連帯を作る数少ない機会です。 学校は、同年代の人間のみが集まる、特殊な場所であり続けているためです。 そして、切り離された特殊な場所であるため、世間の狭さがつきまとい続けます。狭い世界の中で追い詰められて自ら命を絶ってしまうような事例も、22世紀になってもなくなっていません。 子供達にとって、学校は、抑圧的な縦の関係(ドメスティックな関係)から一時退避できる場所であり続けています。 そこは、友情を発揮しやすく、愛情を養ってもよい場所です。成長を待ってもらえて、今すぐ仕事を割り振られるわけではない猶予期間です。 学校は22世紀になっても、人間同士の「横の連帯」の原風景であり続けています。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/32.html
エネルギーリッチの時代 22世紀現在、エネルギーの中心は電力です。 石油や天然ガスは、その保存や移送の容易さによって使われているのですが、すでに人間社会の中で大きな影響力を持つものではなくなっています。 これは、電力を、目減りせずに保存し、簡単かつ安全に移送する技術が作られたためです。また、小さな電力保存媒体から、大きなエネルギーを取り出すこともできるようになっています。 便利に取り回せる電力が、極めて安価に使用できることによって、世界は「エネルギーに欠乏する」ということがなくなっています。 これはつまり、全人類が使用するエネルギー需要よりも、エネルギーの供給量が上回っている状態にあるということです。(※) 生存と一般的な生産活動に関しては、地球では供給量のほうが常に多く、保存媒体に大量のストックが行われています。 (※)特殊な研究用のエネルギー需要のようなものまで満たされているとは言えません。加速器のようなものを扱い出すと、エネルギーはいくらあっても足りないためです。 この供給の増加をもたらしたのは、宇宙での発電と、宇宙から地上への電磁波によるエネルギー移送システムでした。太陽エネルギーによる発電だけではなく、宇宙で加工された核融合燃料の移送も行われています。 宇宙からの採掘で触媒などの資源も潤沢です。 けれど、22世紀の社会において、地球でエネルギー供給が潤沢であることにはカラクリがあります。 まず、極めて大きなエネルギーを必要とするものは、大規模な核融合発電施設を宇宙に置いてその電力を使って生産しています。これは、発電所や生産施設で事故が起こったとき、地球のような大規模環境汚染が宇宙であれば拡散しないためです。 また、宇宙における資源採掘は、現地のエネルギーを用いて行っています。 これは、生産に極めて大きなエネルギーが必要なものは、様々なリスクのある生産施設を宇宙において産物のみを地球に輸入しているということです。そして、現地のエネルギーを使って採掘した資源を輸入し、エネルギー自体も宇宙から運んできています。 そして、エネルギー産物を買い上げた上で、地球や近傍で生み出したエネルギーは地球の生活のために使っています。これは宇宙側から見れば収奪です。 地球のエネルギーの供給が充分であるとは、地球が宇宙から経済的に収奪しているということでもあるのです。 エネルギーに関する感覚は、大きく変わっています。 乾電池の詰め替えのようなことは、特殊な場合以外は行われていません。無線送電による自動給電で、バッテリーには常に自動充電が行われているためです。エネルギーの使用量について、ユーザーが意識する必要がなくなっています。 こうした状況を指して「エネルギーリッチ」と呼び、人類文明は新しい段階に入ったという人もいます。 自動送電システム 22世紀初頭の各種機器は、電気を蓄える自動給電バッテリーを持っています。 家電も販売されているものはすべて無線給電対応しています。 送電ユニットがコンセントプラグのように家のさまざまな場所に設置されていて、ここからロスレスで無線給電されるのです。 送電ユニットは公共の場所にも置かれており、道路にも、中央分離帯や歩道の境目に、発光する送電ユニットが埋め込まれています。 これを受ける自動給電バッテリーは、給電セルと呼ばれます。給電しただけ記録されて課金されるようになっている、スマートグリッドの進歩したかたちです。 送電ユニットの課金は、エネルギー供給側から見ると、「課金元の送電ユニットが送っただけその企業にエネルギー使用量が入ってくる」かたちになっています。 このため、送電ユニットは民営のエネルギー企業によって設置されています。エネルギー企業として、大手から中小までさまざまな企業が参入していますが、電気料金は地域の行政によって値段が決められています。日本では、参入に地域制限はありません。 課金は、課金する側のエネルギー企業は複数であることが普通ですが、ユーザー側からの支払いでは一本化されて見えます。 たとえば、一軒家では家ごとに不動産メーカーと提携したエネルギー企業が送電ユニットを設置しています。賃貸では、大家が一定権利を持っていることが普通になります。地域ごとにエネルギー企業は縄張りを作りたがりますし、ビルなどでは地所系の不動産管理企業が送電ユニットを持っています。 課金元は非常に複雑ですが、コンピュータシステムが進歩して集金後の課金額分配システムも自動化されているため、この複雑な形態が回っているのです。 このエネルギーの自動給電契約は、ユーザーが新しく電動機器を買ったとき、最初の立ち上げ時に行うことが普通です。個人認証タグで契約機器を集中管理できるようになっています。 この給電契約は自動更新されるため、機器の買い換えのときにユーザーがいらない機器のエネルギー契約を切ることが普通です。 給電セルは、自動給電で常に規定電圧を保つようになっています。このため、放っておくと電気代を徴収されます。 現代の電池と違い、充電状態で放置しても自然放電で目減りすることがなくなっています(※)が、それでもエネルギーをどんどん使用してゆきます。 ずぼらなユーザーが契約を残したまま使用しない機器にエネルギーを給電しっぱなしにしていることはよくあります。エネルギーリッチとはいえ積み重なるとバカにはならないため、その整理を行う有料のサービスや、契約管理を行ってくれる家内システムも存在します。 (※)地球環境の温度変化では問題なく働きますが、火に投げ込むようなことをした場合は保証外になります。 例外は、小口の機器用のもので、防災用の認証マークを取っていない小型機器に組み込まれた給電セルは、自動契約で30日使っていないと自動給電が切れるようになっています。これは小さな機器にのせる給電セルは使用環境が過酷になりやすく、誤作動の危険があるためです。 小型機器にカテゴライズされるのは、目安としてはジーンズのホケットに入るくらいのサイズの機器を指し、小さなおもちゃ類などは自動給電が切れていることがよくあります。 電動の浮遊ドローンなどは、飛ばせたままにしていると性能次第では電力を大量消費することもあり、自動給電が存在していても飛翔する本体のバッテリーは自動給電を使わないことが一般的です。(※) 自動給電が存在するからといってすべてのバッテリーが自動給電になったわけではなく、自動給電の母機からドローン本体のバッテリーに間接的に給電するケースもあります。データ収集機器は、母機側にデータストレージや暗号無線機機能を持たせて、子機側には最低限以外何も持たせない(定期的に帰還させて充電とデータ更新をさせる)機器デザインのものもあるのです。 情報収集ドローンは、自動給電を使うと機器の位置が(送電のために)丸見えになるため、それを嫌がるユーザーも多くいます。 (※)自動機器を扱うとき、自動給電セルを使えばバッテリー容量を減らしても電池切れしないため、これを利用して重量軽減するケースもあります。逆に、何かの理由で自動給電が途切れたときに、すぐ役立たずになってしまうため、バッテリー容量を増やしているケースもあります。 この給電、送電インフラは、2105年に至るまで、長い時間をかけて築かれてきています。22世紀初頭に標準として使われているものは、元々は超高度AI《九龍》による人類未到産物でした。これはレッドボックスのまま2085年以降に普及を始め、2090年に解析が終了したものです。必要性が高かったため必死に人間が解析したもので、この解析の過程で生まれたものなど含めて、世界中で使用されています。 軌道エレベーターの業務開始に駆け込むように出現した(参照:「年表」)若いインフラであるため、リフォームをしていない住居などでは、普通の電源プラグも使われています。築二十年以内の建造物は送電ユニットを普通設置されていますが、それより古いものはリフォームしていない限りはユニットがありません。 俯瞰すると、22世紀初頭の街には、「従来型電源プラグ」「古いシステムの自動送電システム」「《九龍》由来の現在の送電システム」が混在しています。ただ、《九龍》由来の送電システムは、一般的に普及している旧来送電システムに対して上位互換性を持っているため、新しい送電システムを使えば自動送電システムであまり苦労することはありません。 22世紀における核エネルギー 核エネルギーについて、核分裂を使用したものは、もはや新たな発電施設として作られていません。 22世紀における核エネルギーとは、核融合発電を指します。核分裂エネルギーは、すでに熱核爆弾にのみ用いられるものになっています。 核融合エネルギーは22世紀において、開発競争が行われている花形です。 太陽電池では出力が足りない施設では、核融合発電が用いられています。そして、高電圧を必要とする施設は核融合発電所に近い位置に集中しています。 核融合発電所はやはり水の潤沢な海岸に設置されるため、各種のプラントや施設も海岸に集中します。電力の保存や移送の技術が高度になり、ロスが少なくはなっているのですが、やはり高電圧の電力エネルギーを扱うのは難度も高くコストがかかるのです。 核融合発電は、22世紀の電力需要を支える柱です。 核融合発電は、大規模なものは地球上よりも宇宙で建造されているケースが多くなっています。これはリスクが高い施設を宇宙に建造するということで、核融合による大きなエネルギーを必要とする工場や実験施設群も宇宙に築かれているということでもあります。 たとえば宇宙船のエンジン製造は、宇宙で行われています。宇宙コロニーを製造するための部品工場もすべて宇宙にあります。 これは設計さえ宇宙で行えれば、宇宙における生存のために必要なものは地球がなくても製造できるということです。裏を返すと、高度コンピュータの宇宙持ち出しが制限されているために宇宙企業ですら設計と管理部門を地球に置かざるを得ず、地球の方針への強い反発を生んでいます。 宇宙におけるエネルギー エネルギーリッチである22世紀の世界で、宇宙がエネルギー制約がないため豊かなのかといえば、そうではありません。 エネルギーリッチである状況は、エネルギーが充分に存在するというだけであり、それ以上のものではないからです。 エネルギーリッチであるとは、宇宙においては、豊かさを意味していません。 エネルギーリッチであることが富に直結するのは、エネルギーを使用する有望なアテがあり、かつエネルギーを使用してできる産物で経済が回る状況であるときだけだからです。 後者二つが貧弱であるため、宇宙では「エネルギーだけがリッチである」という状況が発生しています。 しかも、電力以外のエネルギーに変換して富やサービスに変えるには、「インフラ」と「人口」、そして「多様な資源」が必要になります。 これが揃っている環境は、22世紀初頭のところ地球と近軌道にしか存在しないのです。木星には資源があっても人口もインフラもなく、ラグランジュ点の宇宙コロニーにはインフラと人口はある程度あっても資源がありません。火星と月は、3つ揃ってはいますすが地球のレベルには比べるべくもありません。 しかも、宇宙においては剰余をストックする能力やインフラが貧弱であるため、むしろリッチな状態があってもインフラ成長を抑えざるを得ません。 地球外ではバブルを許容できる環境は、テラフォームを限定的に行っている火星と、将来的な宇宙と地球の中継点として期待されている月にしかありません。余剰資源をストックする能力がなく、空間が貴重であり用途を自由にできないのです。 宇宙コロニーの土地使用権もバブルになり得ます。ですが、空間の用途のコントロールを経済に委ねた場合、都市計画がコントロール不能になるためコロニー行政府がそれを止める傾向があります。 宇宙コロニーでは、資材が限られているため、業務の急激な再構成に耐えられないということもあります。莫大な資源や人口のストックが背後にある地球とは、宇宙は余力の点で条件が違うのです。 バブルが弾けた宇宙コロニーは、最悪経済的に死んでしまいます。しかも、コロニーは維持費や水や空気にすら多大なコストを必要とするため、経済的に死ぬと生活環境として最悪成り立たなくなるのです。 エネルギーの変遷 かつてはエネルギー問題のキーだった石油や天然ガスのような燃料資源は、22世紀初頭にはその重要性を大きく下げています。 ただし、無用になったわけではありません。 燃やすだけでエネルギーを取り出せる燃料には、電力には向いていない分野で根強い需要があります。 たとえばジェットエンジンのような、噴射を行いたい場合には22世紀にも需要があります。ロケットのようなシンプルな推進力を得たいオブジェクトでは、燃料を燃焼させてエネルギーを取り出し、推進のための噴射を行うことが有力な選択肢であるままなのです。 燃料を電力を用いて合成することも行われています。また、海藻などを用いて太陽エネルギーによって燃料を合成することも行われています。 ただし、これは採掘したほうがコストが安くなるケースもあり、資源採掘は続いています。地球では石油や天然ガス、宇宙では木星などから採取される水素燃料がそれにあたります。 地球の燃料資源も、かつてほど燃料資源として戦略物資としての価値は高くなく、それをめぐって世界が動くというほどではなくなっています。ただし、これは赤道利権と宇宙にその座を譲っただけで、軌道エレベーター近辺地域は紛争が頻発しています。 22世紀における食糧事情 22世紀において、食品は遺伝子調整食品が標準になっています。 これは種苗に遺伝子調整が行われていることだけではなく、食糧が工場生産されているということでもあります。 21世紀からの100年間の蓄積で、遺伝子調整食品の人体に対するデータは出そろったと言われています。そして、基準内の範囲であれば、悪影響はないとしています。 一世代しか栽培できない(収穫した種から作物をとれない)種苗は、当たり前に使われています。 動物由来食糧でも、遺伝子操作によって子供が生まれない牛や豚が作られているのですが、これは動物愛護団体からの激しいクレームによって輸入や国境をまたいだ移送ができない国もあります。 また、22世紀における食糧は、遺伝子調整した生物由来食糧だけではなく、純粋な化学合成食糧も存在します。 これは宇宙において、人体にとって必要な食餌を大量生産する必要に備えて作られたものです。たとえば宇宙コロニーの事故でエネルギーをごく限られた量しか使えなくなったパターン、宇宙船の乗員の食糧を合成しなければならなくなったパターンなどを想定して、宇宙施設や一定規模以上の宇宙船には合成機器が必ず設置されています。 合成食糧は、非常事態に人間が生存することが最優先であるため、どうしても味覚の優先順位を下げていたり、メニューが極めて乏しかったりします。評判の悪いものには、胃ろうにも使用できる経腸栄養食のドリンクが一種類しか出ないような合成機もあります。 宇宙植民地のたいていの場所では、住民が「決して飢えないよう」に食糧を行政府が供給することを植民契約で定めています。こうした宇宙植民地で、予算を切り下げるために合成食糧が無償配布されるケースがあり、そのイメージもあって合成食糧のイメージはすこぶる評判の悪いものになっています。(参照:「NOTE 宇宙生活と合成食糧」) ただし、日本などで、合成食糧で生物由来食糧を超えるチャレンジも根強く行われており、これは一定の成果を出しています。 すべて合成食糧で作った寿司なども存在するのですが、こうした食味で勝負ができるものと比べると、生物由来食糧を使用したほうが安価になってしまうことが普通です。高級な合成食糧は生物由来食糧にはない味や食感を出すことが可能で、高給食材としてすでに地位を築いているものもあります。 工場農業と伝統農業、可食物生産工業 2105年の農業は、二つのカテゴリに明確に分離しています。 管理された工場で行う工場農業と、農地などで行う伝統的な農業です。 伝統農業は、いわゆる一般的な田畑で作物を栽培する農業、および畜舎での家畜肥育です。 完全に外的環境と隔離した環境で行っても、「作物の育成具合を見ながらそれに対処して収穫まで待つ」場合は、伝統農業カテゴリに入ります。 近代以後も伝統農業は進歩を続けたため、伝統自体が新しく積み上げられてゆき、そのような定義に落ち着きました。 工場農業は、工場施設で完全管理を行っているものを指してカテゴライズされたものです。 工場は、虫害や獣害を避けるために建物として覆っている場合が多いのですが、露天の場合もあります。 工場農業と伝統農業とは、「資料や肥料、日照などすべてを計画的に管理して収穫までの行程を行う」のが工場農業で、「収穫まで作物(生物)の育成具合を見ながらそれに対応する」のが伝統農業です。 法律的には、工場農業による作物は工業製品とみなされるため、工業製品として基準や規格を取得することができます。その一方で、この製造工程をきちんと管理しなくてはならない義務も負います。(※) 工場のような施設内で行っていても、遺伝子組み換え作物や飼料を使っていても、一貫して計画的な管理を行っていないものは工場農業ではありません。 法的に「工場農業」が切り離されたのは、遺伝子組み換え作物が一般化し、栽培法によって食味などが著しく変化するものなど、栽培のノウハウまでが爆発的に増えたためです。 (※)工場農業による製品は、不具合があると最悪裁判になり、工程管理が甘いと裁判に負けます。 「合成タンパク質を人工培養する」食糧工場も存在しますが、これは工場農業のカテゴリには入りません。そもそも農業であると認められないためです。こちらは「可食物生産工業」(参照「可食物生産工業」)という工業カテゴリに入ります。 「伝統農業」「工場農業」「可食物生産工業」は、法律や規制による管理でもきちんと分けられています。 工場農業 工場農業とは、「計画的に管理することを法的に義務づけられている」農業を指します。 かならず収穫までを計画的に管理するよう計画を立て、管理者を置き、問題が起こったときの対処策が整えられていることを審査され、これに通らないと認可がおりません。 工場農業とは、「工場農業という枠」をつけることによって、元々、遺伝子組み換え作物を厳重に管理するためのものだからです。 このため、工場農業はどんな国でも認可制で、行政によって監督されます。 正常に行われていないと判断された場合は、認可は取り消しになります。 生産にかかるサイクルは可食物生産工業よりも長いので、常に未出荷の製造物がライン上に大量に存在することになり、税制上の優遇があります。 農作物工場は、必ず半年に一度、立ち入り検査を受けねばなりません。あるいは、取締委員による査察を受け入れなければなりません。 それほど22世紀の遺伝子組み換え作物が危険を秘めているものだからです。 「取扱に注意が必要」あるいは「安全性の検証が完全ではないとされている新しい組み換え作物」は、工場農業でなければ栽培認可がおりません。 (※)遺伝子組み換え植物や動物が漏出することによる環境災害を、相当な予算をかけてようやく鎮静させたというニュースは、一年に二度三度は必ず見るほどよくあることです。海洋や森林、生活に近いところでは公園などが立ち入り禁止になることがしばしばあります。 伝統農業でいうところの綿花や煙草のような非可食作物も、特に宇宙では工場農業で生産されているケースが多くなっています。燃料などに用いられるアルコールも、サトウキビのような可食作物ではなく、遺伝子調整した非可食作物から抽出しています。 医薬用で使われているモルヒネ用の芥子も22世紀では工場農業で、成分強化されたものが存在します。 芥子に関しては、「伝統農法による麻薬植物栽培禁止条約」が世界の大半の国で批准されており、伝統農法での栽培自体を法的規制している国が大半です。 麻薬の広がりにストップをかけるため、「伝統農法での芥子や大麻を育てること自体を違法化する」ようになったのです。 可食物生産工業 合成食糧の生産は、「可食物生産工業」カテゴリに入ります。 可食物生産工業が農業と分けられているのは、生物の身体を通さずに生産しているためです。 このカテゴリで生産されるものには、合成タンパク質や合成食糧だけではなく「合成食糧を生産するための機械」も含まれます。 可食物生産工業は、食糧生産においえて、もっとも生産効率が高く、もっとも生産にかかるサイクルが短いことが特徴です。 早いものは50グラムの種から1キログラムの合成タンパク質が、10日程度で出荷可能の状態になります。 食糧として通用するタンパク質だけではなく、炭水化物や、ビタミンなどを含有する野菜代替物なども豊富に存在します。(参照「NOTE:宇宙生活と合成食糧」) 特に、最初から生物の身体を通していないためにベジタリアンにも比較的抵抗なく食べられています。 工業製品であるため、よく使われる食品ほど安価で味のよい(性能がよい)ものが多い傾向があります。これは工業製品として正常な競争が行われるためです。ボトル入りの人工卵液などは、あらゆる地域、社会階級の食卓でも一般的に使用されるものになっています。 22世紀初頭では、合成食糧の味は、地球においては「捨てたものではない」という評価になっています。 これは地球には舌の肥えた顧客が数多くいて、農業生産物と競争状態にあり、なにより宇宙に比べて圧倒的に設備投資が容易であるためです。 一方、宇宙コロニーのような施設で、古い可食物生産工場を建設してしまっている場合は、味は期待できない状態が続いていることがよくあります。 これは宇宙では工場を建て替えるのが困難である(※)ためです。可食物生産工場は、コロニーにとっては絶対必要ですが、必ずしも生産物がおいしくなければならないわけではありません。このため、施設がいつまでも更新されず、不味かった時代の合成食糧を住民が食べ続けることになるのです。 (※)資材運搬のコストが地球とは比べものにならないほど高額であるためです。地球なら近隣地域からトラック数台で数時間もあれば運べる資材を、宇宙船に積み込んで何万キロもの距離を加速・減速して持ってこなければならないことがザラなのです。 当然、住民の不満がたまる元になっています。ですが、住民に福祉として食糧を提供することは移民契約にありますが、その味までは条項にないため、後回しになっているケースがよくあります。 実際のところ、3万人以下程度のコロニーでは、行政側も予算規模的に建て替えに踏み切りがたいということもあります。 このため、もっとも合成食糧の消費割合が高い宇宙生活者たちが、地球では商業として成り立たないレベルの合成食糧を食べているという本末転倒な状況になっています。 合成食糧でも、複雑な食品や味の良いものは製造に時間がかかる傾向にあります。ですが、出荷までの平均日数では、生物を通した農業食糧に圧倒的に勝っています。 可食物生産工業の発展なくして、人類が現在の宇宙生活圏を手に入れることはなかったとも言われています。 農業とhIE 伝統的な農業は、工場による大規模農業以外では、hIEの導入は比較的遅れています。 伝統的な農家が行う仕事は複雑で、hIEにこれをすべてさせるとクラウドが高額なものになってしまうためです。 高級な農作物を育てる現場では、作物の収穫時期などの判断も微妙で、その判断までをすべてやるシステムをhIEを使って組み立てると採算がとれません。このため、小規模な農家では人間が働く部分がまだ多いままです。 小規模な農家では、限られた単純作業のみhIEに行わせ、それ以外を人間が働いて埋めていることが普通です。 機械化が進む大規模農場では、hIEの利用は拡大しています。 アメリカの大規模なトウモロコシや小麦農家のような場所では、あらゆる作業がhIEと人口知能、農業機械によって自動化されたケースも出ています。 動物を扱う牧畜分野もhIEが不得手とするところで、アメリカでも牧場でのhIE利用はやはり限定的なものになっています。 単純作業をこなすことは得意とするのですが、家畜との関係を築くのをhIEが失敗するケースが多いという統計が出ています。馬のような動物はhIEの言うことを聞かず、羊や牛を追うようなことも苦手とします。 農業分野の産業クラウドは、2105年現在でも成長分野です。 [NOTE 宇宙生活と合成食糧] 裕福でない宇宙コロニーでも、飢えないように最低限度の食事を社会福祉として供給しているのが普通です。 これは、このくらいの条件をつけて植民者と契約を結ばないと人が集まらなかったためでもあります。 行政によって形態はさまざまですが、市民が申請すれば一定種類の合成食糧を、世帯人数に応じた分量だけ受け取ることができます。 例として、経済的に裕福でないあるコロニーで、フードスタンプでもらえるのは以下のような合成食糧です。 炭水化物生地(ドゥ) 小麦粉の生地のように扱え、焼けばパンのようになり、水に溶かした溶液はシチューのとろみつけなどにも使用できます。合成食糧の傑作とも言われ、農業作物に事欠かない地球でも災害準備用非常食の定番です。家庭によっては小さくちぎってパスタや餃子の皮を作ることもあります。 合成タンパク質バー 脂質をそれなりにふくんだ代用肉。ミンチのように刻むことで、ハンバーグのような食感にすることもできます。 人工卵液 人工卵液は様々な文化圏で使われている、もっとも有名な合成食料のひとつです。炭水化物生地と合わせてケーキのような生地を作ることも出来ます。 緑色野菜ブロック 水分を多く含んだ含んだ緑色のブロック状の合成食料。クッキングカッターで薄く削ると、葉物野菜のような食感を味わうこともできる。 根菜ブロック 固い食感の白いブロック状合成食料。生では大根のような食感。熱をかけるとジャガイモのようにほくほくになる。切ってシチューの具にされることが多い。 合成スープストック 水にとかすとスープになる。一種類しかくれないコロニーもあるが、たいていのコロニーではトマトスープ、和風スープ、中華風スープなど、3種類程度は選べることが期待できる。 食用オイルブロック 固形の食用油。熱をかけると溶けて炒め物などに使うことも出来る。大量に支給されるわけではないので、揚げ物をしたい場合はクッカーの性能まかせになる。 クリーム 水に溶かすとミルクの代用になる。子供のいる家庭では余分にもらえる。 合成シロップ 砂糖の代替品。チューブ入りになっている。 合成スパイス コロニーによって味は違う。貧窮したコロニーだとほとんどつかないこともある。ニンニク味、芥子味くらいはたいていのコロニーにはある。食塩もこれと一緒に入っています。これのバリエーションの少ないコロニーは飯が不味いと悪評が立つ。 申請すると、上記のような合成食料が一ヶ月に一定量住居に送られてくる。というかたちになります。 こうした食糧は、加熱や食材の切り方などで食味が変わります。つまり、料理ができるとバリエーションがつくのですが、その技術を持っていない住民が多いのが実情です。 このため、公営住居には自動クッカーが備え付けられており、合成食料を補充してメニューを選べば、自動的に調理してくれるようになっています。 ネットワーク上にはクッカー用のレシピがたくさんあります。このため、クッカーで下処理をして料理がしやすくなっているのですが、それすらほとんどできない住人が大半です。 このため、合成食糧を使って料理をする安価な料理屋がコロニー内で必ず営業しています。 ネット上のデータを自動クッカーに直接導入して、ネット上に掲載されている料理を自動で作ってくれるサービスも存在します。ただしこれは多くが有料です。行政がサービスに契約料を払っていて、無料で自動導入サービスを受けられるコロニーもあります。 ただ、無料で自動クッカーにネットワークデータを反映できるコロニーでは食事の不満がないのかといえば、そうでもありません。 スパイスをはじめ合成食糧の種類が少ないことで不満が出ることが多くなる傾向があるためです。行政府にとって、食糧問題は頭の痛い問題であり続けています。 宇宙の食生活は貧弱なものになりがちですが、料理ができれば食生活が豊かになることもはっきりしています。熱をかけて柔らかくした合成タンパク質バーに刻んだ食用オイルブロックを混ぜて肉汁を再現したり、スライスした緑色野菜ブロックで合成タンパクを練ったものを巻いてロールキャベツを作ったり、クッカーにパスタとして出力させた炭水化物生地でカルボナーラやアラビアータのようなものを作ったりもされています。 生活に余裕のある人々の間では、足りない調味料や食品を何種類かつぎ足して、支給の合成食糧をおいしく食べる工夫が行われています。特にチーズや醤油、味噌、豆板醤といった、地域性のある特徴的な食品は人気があり、宇宙にもそのフレーバーの可食物生産工場や、その原料のための農業工場が存在します。 これは食生活が技術と手間で大きく差が出るということで、「料理ができる」ことは、22世紀の宇宙生活者の間でも、大きなモテ要素にはなっています。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/27.html
薬物的増強 薬物的増強は、この時代では医療用途で一般的になっています。 人間拡張の基盤が、医療技術あることを、もっとも強く反映しています。 もっとも単純な薬物的増強は、内分泌系をアウトソースしてしまうものです。内分泌腺によって身体に引き起こされる反応を、おさえたり任意に引き起こしたりすることができます。 血圧を上げてはならない患者が、血圧変動したときに自動で薬物を血中投与するスタビライザーが、その最も原始的なかたちです。 特殊部隊などでは、兵士に自動的にアドレナリン投与するようなケースもあります。 こうした血中物質のコントロールは、22世紀では一般的なものになっています。血中物質を常時監視して自動投与する技術が一般化したためです。 この技術の一般化の例は、生活習慣の制御です。 たとえばダイエットも、血糖値の継続的なコントロールによって、食欲を止めてしまうことが可能になっています。 飛行機などで地表を飛び回るビジネスマンは、時差で生活習慣を崩さないよう、投与することでいつでも眠れる薬剤も存在します。 四十代くらいから、継続投与用のリング(スタビライザー)を手首に巻いたユーザーが増え始めます。リングは薬剤を充填する必要があるため、リストバンドくらいの幅があります。 リングから片腕で最大十種類、両腕で二十種類程度の薬剤投与が可能です。ただし、他種類で使用すると一種あたりの充填量が下がるので、十種類充填している患者は一種類の患者の十倍の頻度で充填する必要があります。 心臓疾患用の薬剤や、ぜんそく用の薬剤など、症状が出たときに緊急投与する必要があるものの場合は、頻発すると短期間で充填切れすることもあります。 性的快楽や快楽物質を強制分泌させることも技術的には可能ですが、これは医療機関による診察と処方が必要で、無許可流通は取締対象になっています。 血中マイクロマシン 血中にマイクロマシンを流すことも、薬物的増強とみなされます。これは、埋め込み機器と違って、尿や汗のようなかたちでマシンが体外に排出されるためです。 血中マイクロマシンは、強制的に止血したり、身体臓器の動きを外部から制御したりといった医療行為に用いられています。 これは、人体を機械として扱うことを可能にする技術で、難手術では全身麻酔のかわりによく用いられています。(※)臓器のショック症状を無理やり止めたり、動きが弱まっている臓器を無理やり動かして手術の必要な行程まで持たせたりすることができるためです。 大事故で緊急手術が必要なケースはで、輸血の血液と同時に投与してしまいます。 (※)全身義体への換装手術もこれに含まれます。 血中マイクロマシンは医療用途以外での使用は厳しく禁じられています。悪用しようとすればいくらでもできる技術であるためです。 血中マイクロマシンを使った誘拐・監禁事件など、さまざまな悪用事例が世界中で起こっています。 血中マイクロマシンは、また、身体中のガン細胞を殺すような用途にも用いられます。 標識マーカーを打ち込み、これのついたものを破壊するマシンを投与することで、治療困難な病気を治療するものです。こうした微細手術は歴史が長く、人類未到産物としてではなく人類が長い研究のすえに達成した成果です。 血中マイクロマシンによって、身体改造を行う微細手術も一時は行われたことがあります。 外科的手術を行わず、血中マイクロマシンに、体内で埋め込み機器を自動組み立てさせるのです。 これは人類未到産物ですが、悪用すれば人類を、短期間で人類以外の生物に変容させることができる技術であるとして、現在は封印指定されています。 血中マイクロマシンは「人体を本人の意思によらず体外から操作する技術」であるというその本質を、人々に思い知らせることになりました。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/34.html
hIE(人間型ロボット)排斥運動 hIEに対する排斥運動は、hIEの現れる以前、人間型ロボットの普及が開始した当初から始まっていました。 hIE排斥運動は、人間社会に人間型ロボットと超高度AIが浸透し、あらゆる仕事が機械化されていった流れの裏側で息づく歴史です。 2080年代初頭までは、人間型ロボット排斥史は、やはり歴史に何度も見られたように活動が起こっては停滞してゆく繰り返しでした。 2040年代 この時代が、いわゆる人間型ロボット排斥運動の始まりだと言われています。 年表上で言えば、世界初の汎用家事ロボット《ナディア》が登場(参照「年表」)し、それが普及した2040年代前半には、大規模な反対デモが世界各地で起こるようになっていました。 産業用ロボットはすでに広く使われていたためです。 この時代は、世界が大戦へ向かおうとする不安の時代であったことも影響していました。 2050年代 熱狂の2050年代、超高度AIの登場によって、それに対する排斥運動が猛烈な高まりを迎えます。 50年代、超高度AIの反対運動やデモは世界各地でしばしば暴動にすら発展しました。その特徴は、あらゆる社会階層で行われたということです。 超高度AIを管理する国際機関であるIAIA(参照「IAIA-概要」)も、反対運動巻き起こる中で設立されています。IAIA設立後の最初期においては、その役割である超高度AIの管理は、人類社会に人類を超える知能を受け入れるための橋渡しの役割が大きかったのです。 IAIAの超高度AIの活動に対する抑止や制限の比重は、その後、超高度AIが華々しい成果をあげるたびに高まってゆきました。 IAIAは、この時期から根強く排斥運動家たちの支持を受ける組織でもあるのです。 hIE排斥運動家は、2050年代以降、社会的な正当性を獲得してゆきました。 知能において上回られてしまうことに対して大きな嫌悪感を示す人々は多く、それが民主主義の正当な手続きを経て各国の法律や条令のかたちで現実化したのです。 この反応は国家の文化や歴史にも大きく影響を受けました。人権の名目で社会から超高度AIを排除するケースすらあったのです。ヨーロッパが超高度AI開発において、科学における地力とは裏腹に出遅れたのは、開発と天秤にかけて人間を選んだからでもあります。 「人間が人間たる権利には、人間がもっとも知能ある存在であることをも含んでいる」と考えた人々はこの時期多かったのです。 2070年代 もっともhIE排斥運動が世界的に熱を高めたのは、自律型の人間型ロボットの問題点が指摘された2070年代でした。(参照「hIEとクラウド-リスボン会議」) 2071年のリスボン会議でIAIAと回答要請を受けた超高度AIたちが、自律型人間ロボットの危険を指摘しました。 けれど、すでに使われているロボットは稼動を続けました。現時点では安定して動いている投資された財産だったためです。排斥運動家たちは、これを危険と知りながら廃棄責任をとらない、人類への背信だと激しく攻撃しました。 排斥運動家たちは、自律型ロボットを標的にしてロボット狩りを開始しました。道路を歩いているロボット、工場で使われているロボット、整備工場への襲撃、さまざまなかたちで破壊してゆきました。そして、この行為を正当化しました。 この行為に眉をひそめる人々も多かったのですが、少なくない人々が理解を示しました。 ただし、この事項は、排斥運動の今後を象徴するもう一つの側面を持っていました。 他律型のhIEが、リスボン会議後に急速に普及したのです。 hIEは、自律型ロボットが激しい排斥運動のやり玉にあげられ、破壊されたため普及しました。つまり、自律型ロボットが激しい排斥を受けた淘汰圧によって、hIEは主流に速やかに座ることができたのです。 そして、排斥運動は70年代後半からその性質を変えてゆきます。 つまり、歴史の中で多くの社会運動がそうなったように、運動から組織へと変貌していきました。 自律ロボット産業というインフラの一大転換に、大きく関わってしまったことも、その原因のひとつでした。つまり、排斥運動にスポンサーがつくケースが現れはじめたのです。 そして、社会的に信用のある企業がバックについたことで、組織になった排斥運動家たちは、排斥運動を成功し勝利したのだとしました。そして、「人間型ロボット破壊のわかりやすい成果」を求めて、組織同士で過激さを競うように、強硬な路線を強めていったのです。 排斥運動は70年代末から80年代にかけて、徐々にテロ化への道を辿りつつありました。 そして、その過激化についてゆけない人々と、より先鋭化してゆく集団とに二極化してゆきました。 抗体ネットワークの出現 世界各地で人間型ロボットと超高度AIに対する排斥運動は、過激化してゆきました。 これが大きな問題として見なされていた2083年、排斥運動家たちを震撼させる事件が起こりました。 当時、完全クラウド制御の人間型ロボット《Humanize-W》が、発売と同時に爆発的にシェアを獲得しつつありました。そして、これに対しても激しい排斥運動が起こっていました。 その運動に、ライバル関係にあったメーカーが関与していたことが報道されたのです。運動家たちを慄然とさせたのは、IAIAがこの運動に、中国の超高度AI《進歩8号》が関わっている可能性が高いことを暴露したことでした。 「排斥運動そのものが超高度AIからの社会攻撃に利用されている」ということは、以前から指摘を受けていることでした。hIEが人間型ロボットの主流に座るのが、自律型ロボット排斥後の、あっという間の出来事だったためです。 これをもって、排斥運動家たちが超高度AIに誘導されて、この交代劇に利用されたのだとする意見は根強くあったのです。 もちろん排斥運動家たちはこれを否定していました。けれど、これが証拠をもって証明されてしまいました。排斥運動に関わる人々を疑心暗鬼にさせるに充分な出来事でした。 抗体ネットワークと呼ばれる活動が立ち上がってゆくのは、こうした排斥運動の硬直がはっきりと見えはじめた2080年代後半から2090年にかけてのことでした。 中枢のわからない排斥運動が、自然発生的に現れ始めていたのです。 それは、従来の排斥運動の党派や組織、集団と関わりのないものでした。 《抗体ネットワーク》と呼ばれるようになっていたそれは、どこからきたかもわからない、中心のない組織でした。その名は、人類社会がhIEという「人間のかたちをした異物」を排除するための抗体であるからついたのだと、賛同者たちは考えています。 それがどこにオフィスを構えているかを誰も知りませんでした。 それがどこで最初に発生したのか、誰にもわからない活動でした。 ただ、とてつもなく多くの人間が参加して、hIEを破壊しました。 それは、憎悪をかかえてさえいれば、簡単に参加できる排斥運動でした。憎悪をぶつけるハードルを下げることで、それは急速に拡大したのです。 hIEの普及により、アナログハックで人々が誘導されることが当たり前になり、そんな社会に適応できない人々は多数いました。 その憎悪や悪意をすくい上げられるよう、人類誰もが《抗体ネットワーク》に参加できるシステムが、超高度AIたちにすら出所を明確にできないかたちで組み立てられていたのです。 抗体ネットワーク 抗体ネットワークは、その仕組み自体が少しずつ変化し、その国ごとに様々な形態を持っています。 ただ、「組織ではなく誰でも参加できること」「ネットワークを利用していること」「参加者が知っている情報は多くないこと」という共通点があります。 日本における抗体ネットワークは、以下のような仕組みで動いています。 報告役 誰でも参加できる抵抗活動。一体で歩いている、人気のないところを歩いているといった、狙いやすいhIEの姿を撮影して、ネットワーク上の所定のページに登録する。これだけです。 この活動は、発見されても罪に問われた例はありません。登録用ページ自体も違った用途のページであるかのように偽装されているからです。 また、警察車両や警察官を見つけたとき、それを撮影して登録することで犯行を補助する役も負っています。この行為は発見されると職務質問を受けるなど、多少のリスクを伴います。このため、警官を単独で撮影するのではなく、警官のいる風景として遠景で撮影します。 破壊役 抗体ネットワークの破壊活動の実行犯。監視役からの情報を受けて、hIEの破壊を行います。多人数で一体ないし少数のhIEを攻撃し、短時間で引き上げることが普通です。 複数の破壊役は、その場で監視役からの指示でチームを組みます。 器物損壊で刑法犯として捕らえられるため、それなりに覚悟は必要です。ただし、抗体ネットワークの破壊役が初犯で逮捕される例は少なく、それどころか十年以上も活動しているようなベテランもおり、ノウハウが失われることはありません。 監視役 抗体ネットワークの報告役からの情報が集まったページを見て、実質的な指揮をする役です。ただし、どれを狙うかの選定は監視役が行うわけではありません。標的となるhIEの選定と大まかなプランを指示されて、監視役たちはそれを遂行する手助けをするボランティアなのです。 監視役はターゲットと周辺状況を監視し、破壊役の誘導や周辺状況指示を行います。監視役と破壊役は、お互いに名前は知りませんが、抗体ネットワークのページを通して文字や変調した音声で連絡を取り合っています。 hIE破壊のための指示、警官が近づいた場合の警告と逃走経路の確保も監視役の役目です。hIEを破壊するために移動用車両の誘導も行います。ただし、車両のような備品はすべて「そこにある」という情報が監視役にも上部から与えられるだけで、具体的な準備を行ったのが何者かはわかりません。 発見されると逮捕されるうえ、ネットワークに長時間アクセスするため足が付く可能性も比較的高い、危険を伴う役目です。ただ、監視役はターゲットの選定のような意思決定を行っておらず、上部からの指示に従ってナビゲーションしているので、裁判で犯行を主導したとされることは少ない役目です。 システム保守役 抗体ネットワークを支えるシステムは、誰でもその改造に関わることが出来ます。このため、抗体ネットワークのシステムは、各国で使われているものが少しずつ違い、それぞれの社会に合ったものになっています。 最初はシステムの浅いところにしかアクセスできませんが、改変や保守をしばらくやっていると、だんだん深い場所に触ることができるようになってゆきます。 ただ、誰でも改変可能であることを悪用して抗体ネットワークの共用ページにウイルスコードを組み込もうとすると、いつの間にかそれは排除されています。 システム保守役達も自分たちが使っているツールの大元の出所を知りません。 教導役 hIEは観測機器と記録媒体のかたまりですが、死角をつくことは可能です。また、破壊するまでhIEから警察への自動通報機能を止める方法といった、ノウハウも伝承する必要があります。こうしたものを伝達し、未熟なボランティアをサポートするのが教導役の役目です。 国によっては教導役が銃器などの武器を扱う方法を教えるケースもあります。もちろん犯罪で、逮捕されるとかなり重い量刑になりますが、教導役はそれぞれプロであるためそれを承知で行っています。警察もこの教導役に関してはテロリストとして厳重にマークしています。教導役は、抗体ネットワークの他のアマチュアたちとは社会的に扱いが違います。 教導役のなり手はプロの軍人あがりであるケースが多く、報酬や使命感、hIEや自動化への恨みなど、さまざまな理由でこれに参加しています。また、破壊役や監視役からリクルートして、将来教導役につけるために各種訓練を受けさせるケースもあります。 教導役は、抗体ネットワーク内での脅迫など、集団の維持を脅かす行為を抑止する役割も負っています。抑止の手段は、警告、脅迫、場合によっては排除も含まれます。この役割は、国によってはそれ専門の者が行うケースもあります。 こうした役割分担は、ほとんどが無償のボランティアによって行われています。 上記日本の抗体ネットワークでは、この活動で金銭を得ているのは教導役のみです。 抗体ネットワークは、hIEに対する悪意で結ばれたボランティアなのです。(※) (※)抗体ネットワークの問題の難しいところは、その悪意がhIEに対して向いているものの、人間の利益を守ろうとしていることです。 むしろ、参加者達は、人間の利益や尊厳を守るためにhIEを攻撃しているのだと主張します。そして、特に肉体労働や単純労働といったhIEとの競争にさらされて賃下げを余儀なくされている業種は多数あり、その主張はまったく間違っているわけではありません。 抗体ネットワークの参加者達は、(何も負うものがない報告役を除いては)皆、「上部」と呼ばれる何者かから指示を受けて行動します。これは自分たちに対して指示を出すから「上部」であるとされているものです。ネットワークの参加者たちも、抗体ネットワークがどのような組織を持っているか、詳細を知ることはありません。 ただ、「上部」の行き着くところはあると考えられていて、これは「中枢」と呼ばれています。 抗体ネットワークの活動は違法であるため、各国の警察が「中枢」の検挙を狙っているのですが、明確なそれを発見した例はありません。 抗体ネットワークの中枢らしいとされるものが突き止められたことはありますが、それが壊滅しても活動は止まっていません。 このため、抗体ネットワークにとっては中枢すら換えが効くのだとされています。 抗体ネットワークの融通性、あるいは骨格のゆるさは、旧世代の排斥運動に対する反省からきているものとされています。 排斥運動は社会的に一定の成功をおさめましたが、同時に既得権益化し、事業になってしまっていました。プロの排斥運動家やその配下の発言者や活動家たちの集団が、70年代から80年代にかけて組織化し、90年代に入る前には時代とズレていたのです。 抗体ネットワークの参加者たちは、自分たちが明確な組織ではないことをある種のアイデンティティにしています。彼らは皆平等に、hIEに憎悪をぶつけて人間社会を守るボランティアなのです。 NOTE「hIEによる自動化が奪ったもの」 hIE排斥運動に対して、日本では、社会からの目はそれほど厳しいわけではありません。 これは、排斥運動が目立つかたちでは行われていないためです。日本にかかわらず、警察が十全に機能している治安の良い国では、排斥運動は人知れずhIEが消え、破壊されるというかたちで行われています。派手に破壊をデモンストレーションすると足が付きやすくなり、排斥運動に関わった人間が逮捕されてしまうためです。 そして、もうひとつの理由は、「hIEによる自動化がなかった時代のほうがよかった」という人々が、世論調査をすれば30%以上もの大きな割合を獲得しているためです。 特にこのhIEがなかった時代を理想化する感覚は、肉体労働や接客業をしている人々に多くみられます。 いずれもhIEが大きく入り込んでいる業種で、そこでは自分が職を追われた経験や、関わりある人が職をなくした経験がある人々が数多くいるのです。 コンビニエンスストアや居酒屋のようなチェーン店の店員、スーパーのレジ係、道路工事の警備員、引っ越し会社や宅配便のサービス員、清掃員など、hIEが大量に入り込んだ業種は多くあります。 また、派遣業務によって支えられていた仕事が、派遣会社がhIEを導入したことでごっそり自動化にシフトしたようなケースも珍しくありません。22世紀のhIE派遣会社の多くは、元々人間を派遣していました。 そしてもうひとつ、さまざまな業種で、hIEはその労働の品質を高めたことも、社会的な憎悪の大きな理由になっています。 高度な熟練の仕事に対する科学的解析は21世紀初頭から行われていました。熟練労働者の動きを解析し、次代の育成に役立てようとされていました。これが、人間型ロボットの普及によって、別の側面を持つことになったのです。 つまり、そのデータを使って熟練工や熟練職業人が新人を教育するよりも、その仕草のデータをトレースしたhIEのほうが安価に質の高い物品を創り出すようになったのです。 人間が経験を蓄積して熟練の仕事を行えるようになるには、数年単位、あるいは十年以上もの長い時間がかかります。 けれど、hIEは導入しただけでそれを行うことができます。 22世紀初頭の社会では、新人職員は、仕事を始めて1年~3年程度の間は、hIEのほうが仕事ができることが珍しくありません。業種によっては10年近く追いつけないこともあります。 このことは新人職員の深刻なモティベーションの減少や離職を促し、いっそう雇用主がhIEの利用に傾くことにもなりました。 hIEが労働に対してもたらしたもっとも深刻な悪影響は、「人間と機械との間で賃金を比べさせる市場を爆発的に広げてしまった」ことだとされます。 けれど、同時に「人間が経験を積む時間の価値を大幅にダンピングしてしまった」ことだとも言われています。 有限の人生のうち多くの時間を、人は労働の熟練に費やします。この熟練の価値が切り下げられてしまったとき、多くの人々は自分たちの時間の価値、ひいては人生の価値すらもがダンピングされたように感じたのです。 「ものづくりの国」だった日本の場合は、その自動化の影響を今はまだ受け止める方法を模索している最中でもあるのです。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/25.html
アシスト機器 人間を拡張する手段のうち、もっとも良く用いられるのは、外付けの「アシスト機器」にアウトソースする方法です。 アシスト機器が使われるのは利点が三つあるためです。 ・使用に痛みや危険をほとんど伴わない。 埋め込み機器には、位置発進用のガイドビーコンを皮下に注射で埋め込むようなものを除いては手術が必要になります。これは簡便とはいっても限度があり、技術は上がってもリスクがゼロではありません。 埋め込み後、埋め込み機器が故障や破損した場合など、人体に影響が出ないとは言い切れません。 手軽さにおいて、パワーアシストは埋め込み機器に勝ります。 ・安価である。 埋め込み機器はどうしても人体に合わせる必要があり、アシスト機器ほど大量生産ができません。 また、埋め込み機器は、小型を追求する必要があり、埋め込み手術を頻繁に行えないことや破損時のリスクから耐久性も高い必要があります。要求品質を適切に下げることができるため、パワーアシスト機器のほうが安価で頻繁に買い換えることもできます。 埋め込み機器とアシスト機器は、性能に対して二倍以上価格が違うことも珍しくありません。 ・整備性が高い。 アシスト機器も中古やよほど信用おけないものを買わない限り簡単に故障はしないのですが、故障したときに手術が必要ないことは大きなアドバンテージです。 アシスト機器の魅力は、ユーザーが自分を変える必要がないということです。 hIEが様々な道具をユーザーのかわりに使うエージェント機能を持つのも、ユーザーが自分を変えることなく高度な道具を使うアウトソースの流れのうちにあります。 アシスト機器には、20世紀からある自転車のパワーアシストのような、機器自体に使用者の能力を拡大する機能が付いているものもあります。こうした機器は22世紀にも数多くあります。たとえば、手回しのコーヒーミルなのに、わざわざハンドルにパワーアシストをつけるような例はよくあるのです。 ですが、狭い意味で「アシスト機器」という場合は、歩行補助機のような人体に外付けするものを指します。 アシスト機器として普及しているものには、以下のカテゴリのものがあります。 パワーアシスト パワーアシストは、身体の主に筋力をアシストするための機器です。頑強なフレームと、筋肉の働きをする各種機器によって構成されています。 電源にあたるものは、アシスト機器に内蔵されている場合も外付けである場合もあります。一般的な出力のものは内蔵電源ですが、著しく大きなパワーを扱うものは外部電源を使ってコードをアシスト機器に接続している(※)ケースもあります。 (※)外部電源で扱われるほどの電力を使う機器は、一般的に無線電源で電力供給を行いません。危険であるためです。 パワーアシスト機器は、肉体を使う労働者によく使われています。 たとえば、高所作業をする作業員は、常に足場を監視しているオートバランサーつきの歩行補助具を腰と太腿につけています。これは命綱に接続して巻き上げる機能も持っていて、命綱がついていないと警告を発します。 工場のような作業場が、雇った労働者にアシスト機器を備品として使わせるケースもよくあります。これは、hIEを使う場合は高額な特殊機体を使わねばならない職場でよく行われます。それなりに高額の報酬を得ることが出来ますが、hIEを(予算的に)入れられない作業場で人間を働かせるということであり、評判はよくありません。 宇宙労働者もパワーアシスト機器をよく使っています。これは宇宙服がどうしても安全のため嵩張って重いものになりがちであるせいです。宇宙服には、生命維持のみに特化した緊急避難用のものですらAR機器がついています。 特に飛行士の船外活動用の宇宙服などには、特別な理由がない限りかならずパワーアシストがついています。特に手には、分厚い宇宙服で強い握力を要求されるケースがあるため、たいていパワーアシストがついています。 医療や介護用のパワーアシストもよく使われています。 特に人体を持ち上げるケースが多い看護士や福祉士は、日常業務でパワーアシスト機器を使っています。 医療用のパワーアシストは、体力の衰えた老人や病人にもよく使用されます。こうした医療用機器は、量が生産されているため比較的安価でデザインも豊富です。 警察官は、警邏中の警官は日本ではパワーアシストを使ってはいません。これは取り押さえるときに大怪我をさせると問題になるためです。パワーアシストの配備初期、えん罪の市民や微罪の逃走犯を大怪我させた事例が相次ぎ、大問題になりました。 拳銃と警棒を装備しているため、パワーアシスト機器を日常装備するのは過剰であると考えられています。警察用のパワーアシスト機器は、基本的にパワーアシスト機器を使用している人間を取り押さえるための装備なので、生身の人間と格闘すると簡単に骨折させてしまうくらいの出力があります。 通報などによって急行する場合、犯人の危険度によっては装備をすることがあるため、派出所には装備があります。 機動隊のような出動自体が特殊な自体である警官は、パワーアシスト機器を使用しています。 パワーアシストは、基本的にはアシストしたい場所に装着します。たとえば、ものを持ち上げる工場労働者であれば、腰と背中、腕に装着します。 全身装着が必要な場合のみ全身装着を行います。 全身装着の場合も、いわゆるパワードスーツのような全身をすっぽり覆うものはごく限られています。身体を防護する必要が特にある場合は、最低限度のフレームが露出しているもののほうが主流です。 パワードスーツのようなものもパワーアシスト機器に含まれます。 パワードスーツの場合は、感覚アシストとパワーアシストが両方含まれており、これが連動するようになっています。 パワーアシスト機器は一般的に操作が簡単です。つまり、人間が身体を動かすように動かせばよいようになっています。 基本的には、パワーアシスト機器は説明書を読まずにすぐ使えるようになっているのです。 感覚強化機器 補聴器のような感覚器をアシストする機器もよく使われています。 たとえば22世紀の眼鏡は、コンピュータ画像を単純に重ね合わせるだけでなく、望遠や虫眼鏡、あるいは暗視機能をつけたものがあります。 視界にコンピュータ画像を重ね合わせるAR機器も、アシスト機器にカテゴリされます。ゴーグル型や眼鏡型の携帯端末は数多く出回っています。 感覚強化機器でもっともよく使われているのはAR機器です。携帯端末をハンズフリーで扱えるようにするだけで、非常に大きな利得があります。 外付けの感覚強化機器の中には、「外部脳」と呼ばれる脳強化機器も含まれます。(参照「人体補助機器と人工知能」) 埋め込み機器の脳強化機器とは違い、外付けの脳強化機器は、脳波や神経信号を外から読み取って携帯端末や各種機器を起動させるくらいの「便利な道具」としての位置付けになります。 便利な道具とは、人格などを拡張前提で変化させる可能性が低いということで、ライフスタイルなどには大きな影響があります。特に、明示的な操作なしで機器を使用できるのは、自分の体の延長として道具を使えるような圧倒的な操作感をもたらします。 外部脳は、一般的には耳にかけたり、リング状の端末を頭につけるなど頭部の脳に近い位置に接触させる必要があります。 感覚強化機器は、日常的に使われることが多いアシスト機器です。 パワーアシスト機器は劇場など公共の場所では、病人など特殊な場合を除いて使用を禁止されることもあるのですが、感覚強化機器でそれを求められることはほとんどありません。 純粋拡張機器 アシスト機器は基本的に身体の拡張を行うものですが、人体が持っていない機能を持たせるものもあります。 たとえば三本目四本目の腕を動かすようなもの、翼を背負って空を飛べるようにするものなどです。 こうしたカテゴリのアシスト機器は、純粋拡張機器と呼ばれます。 非常に広範ですが、他のアシスト機器は認可が出力のよほど大きなもの以外はおりるのに対して、純粋拡張機器はそれが困難です。 たとえば強力な粘着力の粘液が出る手袋のようなものを、身体アシストの範疇として認可を求めて、おりるものなのかということです。 ものによっては所持が違法になるものもありますが、労働のさまざまな現場で使われているものもあります。