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宇宙における人工知能 宇宙居住者は高度AIを求めています。 宇宙では、資源や人員に制約が発生するためです。居住するだけでも地球上より格段にコストがかかり、移動となると更にコストがかかります。 少ないリソースを効率よく配分するために、宇宙では、高度AIの能力が強く求められています。 それに対して、地球上の各国は宇宙へ高度AIを持ち込むことを制限しています。IAIAがそうするよう勧告し、各国がこの方針を守っているのです。 IAIAは、宇宙での超高度AIの建造を禁じており、このために高度AIを宇宙で管理したかたちで使うよう求めています。 そして、宇宙住民に独立の手段を与えたくないため、地球各国はこれに乗っています。 この高度AI制限の方針は、『地球外における高度AI非拡散条約』(青島[チンタオ]条約)が結ばれたことで、明確になっています。この批准国は超高度AIを宇宙へ持ち出すことを厳しく禁じ、その危険への対処として高度AIを厳重に管理して使わせています。 これは非常に厳しい制約ですが、この二条項の制限なしでは、宇宙で超高度AIが無軌道な運用や建造が行われるともされています。 青島条約体制下では、IAIAには宇宙での高度AIの取り締まりのための限定的な捜査権が与えられています。そして、IAIAは超高度AIの拡散に関わる緊急事態であると判断したとき、国際近軌道軍や各星の駐留軍に協力を求めることができます。 こうした状況のため、宇宙での高度AI運用者は、厳しく絞られています。宇宙において高度AI運用を許諾されるのは、行政府のみです。つまり、行政府にIAIAが高度AIの実質的な許諾を与えているも同然の構図になっています。 IAIAは表だってこの権力を行使することはほとんどありませんが、裏からこうした行政府に便宜を求めることがよくあります。 宇宙での居住施設の行政府と高度AIは切っても切れない関係にあります。 そして、宇宙で高度AIを運営する権利を、地球上の機関が出している構図は、明らかなひずみであると宇宙住民に認識されています。これが、そのまま宇宙のライフラインと発展の鍵を地球が握っている構図になっているためです。 国際近軌道軍(Near-earth Orbit Treaty Force) 地球近軌道は、地球の国々が共同で守っている領域です。 強い重力を持つ惑星である地球の国々にとって、宇宙住民に頭上を押さえられることは共通の利害として絶対に避けねばならないことだからです。 このため、22世紀の世界では、地表でもっとも激しく衝突している国々ですら、宇宙からの攻撃を防ぐということでは利害が一致しています。 この共通の利害のために結ばれている、いわば宇宙住民から地球を守るための同盟軍が国際近軌道軍です。 国際近軌道軍は、国際近軌道条約機構の軍隊であり、地球百カ国以上の国々が加盟しています。 国際近軌道軍のもっとも重要な任務が、軌道エレベーターおよびその頂上のステーションを守ることだからです。軌道エレベーターの恩恵を受ける地球の国々は、さまざまなかたちで近軌道軍に参加しています。 国際近軌道軍は、国際近軌道条約機構の軍隊として、非常に強い縛りを受けています。 これは、地球の国家に、国際近軌道条約機構が宇宙勢力に取り込まれて寝返る恐怖が根付いているためです。 近軌道軍は、国境で区切ることが難しく、また一国では対処しがたいさまざまな宇宙との軍事的関係をまかされています。 22世紀初頭においては、国際近軌道軍は最強の宇宙軍です。 国際近軌道軍の基地として、トリシューラ近軌道基地を始め、二十個の基地が地球近軌道を周回しています。戦闘艦艇は、火星以遠に単独航行できる船だけで二百八十隻もの戦力を有しています。 このうちもっとも大きな戦力を持つのはトリシューラ近軌道基地です。これは曳航してきた小惑星を土台にした、宇宙港と強力な武装を持つ宇宙要塞です。ここには超高度AI No.30《オケアノス》(参照:「シンギュラリティと超高度AI-超高度AI」)があり、この防御のためきわめて強力な武装を許されています。 国際近軌道軍の基地のいくつかは、核兵器を配備しているとも言われます。 まだ実際に発射されたことはありませんが、国際近軌道軍の対コロニーミサイルには、明らかに大型の核兵器を搭載可能なものがあることはよく知られています。 地球近圏コロニー 宇宙コロニーの中には、地球に極めて近い軌道を回っているコロニーが存在します。 地球近縁軌道のコロニー、遠地点でも38万キロメートル以内の月より内側、あるいは月とほぼ変わらない程度の軌道を周回している宇宙コロニーを地球近圏コロニーと呼びます。 地球近圏コロニーの役目は、地球と宇宙の間の橋渡しをすることです。 ラグランジュ点に集まっている宇宙コロニーと違って、地球との往来がしやすいため、経済的な地球への依存度が非常に高いことが特徴です。 推進剤を節約するためもあり、サイズはそれほど大きくないことが普通で、住民も5000~20000人程度の間です。 地球近圏コロニーは、資材などを地球の宇宙港から運ぶことが多く、地球がなければ経済的に成り立ちません。 しかし同時に、地球への移動費や移動時間もかからず、地球にとっても物資などの繋留点として有益な宇宙施設であるとみなされています。 地球側の軌道エレベーター施設に築かれた宇宙港はすでにパンク状態だからです。バッファとして地球近圏のコロニーに人やモノを繋留させ、コンパクトなかたちに加工して宇宙港に送り込む役目を追っています。 地球近圏コロニーから、地球側宇宙港を通さず直接地表へドロップシップを降下させることすら検討されています。 地球近圏のコロニーは地球との強い結びつきがあり、宇宙コロニーとしては例外的に独自の政治がほとんど存在しません。 なぜなら、経済的に成り立つため、その多くが、企業の共同出資や単一の企業による民営コロニーだからです。 地球近圏コロニーの多くは、地上の国家に直接税金を納めています。税制上の優遇は存在するのですが、これは多くの国では「コロニー運営企業はコロニー投資の一定割合とコロニー運営費ぶん法人税が控除される」という性格のものです。これはコロニーの運営企業にとっては優遇なのですが、コロニーのインフラに投資するかどうかが企業業績に直結してしまうという問題があります。 これはコロニー生活者にとっては大きな問題として受け止められています。運営企業は最悪コロニーから住人が立ち退くべきだと考えているのですが、特にそこを故郷とする若い住民からは反発を受けています。 自分たちが税金を払ってもコロニー投資に適切に回らない状況を、搾取だと考える住人はとても多くいます。 彼らの望みは、生活インフラに自分たちの税金がきちんと投入されることです。これ自体はまったく正論であることから、コロニー独立の運動が水面下で動いている近圏コロニーは数多くあります。 地球の経済的結びつきにより、地球近圏コロニーは、ラグランジュ点のコロニーよりもほぼ例外なく豊かです。22世紀初頭現在、地球側宇宙港の業務パンク状態により、建設ラッシュにあります。 宇宙旅行者が観光で訪れるときにまず中継点にするのも、地球近圏コロニーです。 地球(宇宙港)から近圏コロニーの軌道に乗り、その後、目的地が月なら直接移動。火星や木星なら、目的の天体に移動しやすいラグランジュ点のコロニーを中継して、そちらへ向かいます。(※) (※)急ぎの旅では宇宙船で直接向かいます。ですが、何週間、あるいは何ヶ月も狭い場所に閉じこめられることになるため、観光では船で移動する時間を減らして中継点のコロニーに滞在する時間を延ばすことが普通です。 地球近圏は、国際近軌道軍の管轄する地域であるため、比較的宇宙海賊の被害に遭いにくい地域でもあります。 ただし、同時に宇宙海賊にとっても地球近圏に足場を確保することは、資材の換金のため大きなメリットがあります。このため、地球近圏のコロニーが脅迫や買収などの手段で宇宙海賊に汚染されていることがしばしばあります。この手が行政府や公務員に伸びることが多く、宇宙では比較的治安がよいのですが、それでも生活の中で安全を過信できないのが実情です。 生活の安全は、地球の国家に住むほうがたいていの場合は確保できるのです。 ラグランジュ点の宇宙コロニー 宇宙コロニーは、安全のため、一定の距離を置いて建造されます。 ですが、重力の釣り合いから、地球に対して同じ相対位置に留まり続けられるラグランジュ点のコロニーは、比較的密集して運営されています。 これはラグランジュ点に置くことで同じ相対位置にいられるという有利を多くの施設で共有するためだけではなく、宇宙コロニーを単体で置くことが非効率的であるためです。 生存環境として持続的に生活し続けることが、宇宙コロニーで十分可能です。それでも、社会として自立して自ら発展を遂げてゆくには人口が足りないのです。 宇宙コロニーにはサイズの制約があり、内部空間を無制限にとることはできません。そして、宇宙では資材や人間の移送コストが高くつきすぎるため、拡大のための投資が難しいのです。 この拡大と成長のために、ラグランジュ点の宇宙コロニー群は距離を近づけて地域ごとに連携しています。 たとえば、宇宙コロニー単体だけで浮いていると、小さなスペースに小さな生産施設を置いて、資源をここの中だけで回さなければなりません。これでは、発展のための投資や事業が非常に困難になります。 ですが、宇宙コロニーが何十個も近傍に置かれていて、産業を分担し、あるいは資材の繋留や保管を分担すれば、宇宙生活者たちは発展のためのバッファを手に入れることができます。 ただし、この分業のために、宇宙コロニー群には貧富の差が生じてしまっています。 大規模宇宙港を持つコロニーや、必須資源の繋留を行う宇宙コロニーは、交通量も多く、資金も活発に循環します。当然、経済的にも潤うことになります。 逆に、かわりのきく仕事をしているコロニーや、経済圏を作るために必要なものの儲からない産業を持っているコロニーは、構造的に豊かになれなくなってしまっています。 このうちでも、22世紀初頭現在もっとも経済的に行きづまっているのは、「投資した主要産業そのものが技術進歩によって必要度が低下してしまった(主要産業自体が沈み込んでしまった)コロニー」です。 「宇宙では資材の移送に多大なコストがかかる」というルールは変わっていないため、減価償却前に産業が必要なくなってしまうと、借金だけをかかえて再出発ができないという状況が起こります。こういう「詰んだ」コロニーは、最低限の福祉すら滞りがちになります。 「詰んだ」コロニーの末路は、だいたいおきまりのパターンになります。 豊かな宇宙コロニーや企業の経済的植民地になるか、あるいは施設を売却して住民が離散するかです。 これは、宇宙生活においてもっとも悲惨なパターンのひとつであり、治安が悪化する大きな原因ともなっています。 経済的植民地になってリストラで住民の居場所がなくなったとしても、物資と同様、住民の移動にも高額の移送費がかかるままだからです。 このため、居場所のない住人たちは、経済的に先がない閉塞感の中で無為に時間を過ごさなければなりません。 hIEによる自動化で、人間の労働力がほとんどいらなくなっていることが、余計に状況を悪くしています。経済植民を行うコロニーのほうに、現地コロニー住民の雇用を保証する理由がないためです。 宇宙コロニーでの生活は、状況によっては落ちるところまで落ちる可能性があります。このため、衰亡期のコロニーは、経済的にまだ余力のあるうちに投資を受け入れて、住民が離散する前に有利な条件で経済的植民地になるケースが多くなっています。 これは、豊かなコロニーを中心とした、小さな経済植民地がコロニー内にでき、コロニー間の搾取・被搾取関係がすでに生まれてしまっているということです。 この搾取構造がすでに生まれてしまっていることが、宇宙住民たちを一枚岩にすることを妨げている要因でもあります。 地球に対して、高度AIを宇宙で運用することをもっとも強硬に主張しているのは、発展の余地が具体的にある「現在搾取をしているコロニー」であるためです。 これは、「税金を宇宙のために使うことを最も強く主張しているのは、人口も多く投資余地が大きいコロニーである」とも言い換えられます。 コロニー独自のルールを持ち自主性を拡大することを主張しているのは、「自らの蓄えた財を守りたい、裏返せば宇宙で成した富の大きい搾取側コロニー」なのです。 この主張がもしも勝利したとき、訪れるのは宇宙での搾取・被搾取関係が固定化された社会ではないかという恐怖が、経済的に弱い宇宙住民の間にあります。 このため、地球側はむしろ弱いコロニーに手厚い援助をして、搾取側コロニーへの反感を煽ることがしばしばあります。 この方策は、一定の成果を上げています。地球側の分断工作を分かっていながら、独自の軍事力を持とうと運動をしたり、独立運動を進めたりする余裕のある宇宙コロニーは、貧しいコロニーを一定以上に助けていないのです。 余裕のあるコロニーもまた激しい競走の中にあり、巨額の援助を行う余裕はないのです。 このような情勢の中、経済的余裕のないコロニーには、むしろ失うものがないことから政治的中立を選ぶケースがままあります。 コロニー間政治もまた多くの失敗で教訓を積んでゆく、未発達の分野なのです。 宇宙での軍事行動 宇宙施設に規定以上の軍事力を置くことを、地球の各国政府は禁じています。 これはコロニーの独立を防ぐためであり、抑圧者がコロニー住人を制圧して独裁を敷くことを禁止するためでもあります。コロニーは宇宙に浮かぶ巨大な密室であるため、権力者がおかしな方向に向かったとき、武器が豊富にあるとこれを止めることが極めて難しいのです。 実際、宇宙開発の初期の段階で、ゲリラがコロニーに立てこもって住民を民族浄化の名分で虐殺した事例も発生しています。 この理由で武器保有を制限しているとは、同じ理由で艦艇の武装にも強い制限があるということです。特別の許可を受けていない艦艇は排障用以外の武器(※)を積むことができません。 (※)デブリや岩塊などを破壊する排障用の武装は、人間が乗っていることを示すコールサインを発する目標物を攻撃できません。この制限を破る武装を積むと、海賊船であると見なされます。 コールサインはそれぞれ固有のナンバーが割り振られており、緊急時にどうしても破壊しなければならない場合は、そのナンバーを国際航宙管理局に紹介して許可をとる(コールサイン無効手続きする)必要があります。コールサイン無効となった目標物は、排障用武器で攻撃可能です。 ちなみに海賊艦に対しては、そうと判明した段階で国際航宙管理局によってコールサイン無効手続きがされるため、排障用武器で攻撃可能です。 厳しい監査を定期的に受ける警備会社は、艦艇に兵器を積むことが許されています。 ただし、武装した宇宙艦艇を用いる警備会社は、宇宙に本拠地を置くことができません。書類上の本拠地を宇宙に移すと、認可が取り消されてしまいます。 宇宙で高まっている超高度AI独自所持論や、経済独立論と軍事力が結びつくことを警戒しているためです。 こうした軍事行動の制約が強いこともあり、宇宙で航行中の宇宙船や宇宙施設を襲撃する宇宙海賊が、大きな問題になっています。 海賊行為を行う船に対して、抑止どころか追い払うことすら難しいのが実情です。 宇宙の大きさに対して到底船が足りず、SOSを受けても現場に到達するまでに時間がかかりすぎるためです。 宇宙海賊の被害が著しい地域では、自衛のための武装の許可を求める運動が活発です。 これは、3Dプリンタのようなかたちで生産施設が手軽になっていることもあり、強力な武装がハンドメイドされたり非正規のメーカーによって作られたりしています。 ただ、宇宙海賊もまさにこうした武器によって襲撃を行っており、自主的な自衛手段が普及してしまっている木星圏などでは、まっとうな業者と海賊の区別がつかなくなっています。 このため、宇宙で臨検を行う近軌道軍には、宇宙船が許可外の兵器を積んでいる場合、宇宙海賊とみなして問答無用で撃沈することが許されています。 宇宙と地球の経済格差 宇宙は22世紀初頭現在、地球に経済的な支配を受けている状態です。 地球住民にとって、宇宙は巨大な一地方に過ぎないのです。 これは21世紀から継続している、経済における資本の圧倒的優位のためです。(参照:「経済-資本の優位と、速度の時代」) 21世紀は、資源よりも労働よりも人間の創意工夫よりも、資本が勝った時代です。この傾向は22世紀初頭になっても続いています。 宇宙開発は、とくに巨大投資がなければそもそも不可能のフィールドでした。 最初の第一歩から地球の巨大資本による紐が付いていたのです。 これは宇宙開発の歴史が世代を超え、宇宙で生まれた子供が大人になった時代にも続いています。そもそもコロニーも惑星や衛星に築かれた居住施設も、巨額の投資によって作られたもので、その償却は22世紀初頭になってもまったく終わっていないのです。 地球から見れば、宇宙住民は地球資本が作った施設に住んでいる店子に過ぎません。 けれど、宇宙住民は、施設内の文化的取り組みによっては、アイデンティティとして地球とはほとんど切り離されているケースがあります。今後、地球の土を一度も踏まずに死んでゆく世代がたくさん出てくるのです。 地球側では最初の契約通りに高い税率をかけているのですが、これが宇宙住民たちの大きな不満になっています。コロニーの港湾施設の使用料金がこれによって跳ね上がっていることは、特に発展を妨げる大きな足かせだと考えられています。 宇宙では、お金を稼ぐには物資を動かすことが中心になります。 宇宙の距離的な断絶によって、宇宙経済はどうしても地球の速度では回りません。電子取引の認証ひとつをとってみても、宇宙空間で一般的に最速の取引手段である「レーザー通信のタイムラグ」が取引速度の限界なのです。 物資の移動を伴わない、金融のような情報の取引では、取引の流量で地球経済と宇宙経済の間には大きな差があります。現れている経済指標としては、格差の是正は夢のまた夢という状況です。 (※)これは宇宙経済に巨大な制約になっていて、たとえば火星の経済は、地球との距離が短くなるタイミング(近地点)に活発になります。逆に、火星と地球の軌道の違いで距離が開いている間は、市場の全体取引量があきらかに縮小してしまうほどです。 これはレーザー通信の速度とリスクに、地球が近いときと遠いときではっきり差があるからなのです。 この通信速度の限界は、宇宙経済にとって大きな足かせです。 これは、電子決済のとき確認のための通信に時間がかかり、かつ中途で細工をされる危険があるためです。このため、宇宙経済は、地球に根拠を持つ決済手段や貨幣を用いることを強いられています。宇宙への高度AIの持ち込み制限がこの状況をいっそう深刻にしています。 宇宙住民は、距離による不利を高度AIの運用で解消したいのですが、肝心の高度AI運用が厳しすぎる制限を受けているのです。 通信速度限界の問題を解消する高速の決裁手段も、存在はしています。 もっとも大きな期待を受けているのは、量子テレポーテーションを利用する量子絡み素子です。 これはある点での量子状態が消え、その状態が別の点に現れることで、時間ゼロでの情報伝達が可能です。 信用も高いですが、高額な使い捨ての素子を使わねばならないため、一度の取引に高額の仲介料がかかります。 これは登場した当初に比べて、レッドボックス由来の技術によって大きく値下がりしましたが、それでも高額です。22世紀初頭現在では、量子絡み素子を使った一度の取引仲介料は、現在の日本円で1万円程度かかります。 ただ、22世紀半ばにはこの量子絡み素子の価格が1ドル以下に下がると言われています。 このタイミングで、宇宙発の貨幣が立ち上がるとも言われており、量子決済経済の時代に宇宙は大きなうねりを迎えることになるとされています。 これは、資源地である宇宙が強力なプレイヤーとして世界経済のテーブルにあがる時が近いということです。 このため、宇宙では政治的、経済的に、地球から独立しようという運動が各地で立ち上がっています。 宇宙統一通貨問題 宇宙には、宇宙統一通貨を作ろうという数十年越しの悲願があります。 宇宙の人類居住区は、あくまでも地球の国家の植民地であり、独自の通貨を持っていないためです。 地球の環境で有利な地球発の通貨ではなく、宇宙発の通貨を使うことで、経済の主導権を取り戻そうとする動きがあるのです。 この宇宙での通貨発行は、さまざまな地域で試みられているのですが、22世紀初頭現在はうまくいっていません。 この最大の原因は簡単に偽造がされてしまい、信用が高められないためです。高度AIの持ち込みが制限されているため、地球上で高度AIのマシンパワーでセキュリティが破られてしまうのです。 そして、大きな問題として、宇宙施設はほとんどが地球資本や国家の紐付きであるため、宇宙の通貨を守ってくれる強力な政治勢力が存在しません。 それでも、宇宙の、現地でコントロールできる通貨が必要であることは宇宙住民の間ではよく語られています。 特に地球から離れて通信が届きにくい場所では、自分たちの持つ財産を守ることにどうしても不安が出てしまうためです。 通貨への不安から、地球から遠い火星や木星、小惑星帯の住民は現物資産を持つことが多く、これが宇宙海賊に狙われる元ともなっています。資本主導の時代であるからこそ、成功した宇宙住民が保有する現物資産の額面は莫大になります。これが宇宙海賊にとっておいしすぎる獲物なのです。(※) (※)先物は倉庫に保管しておき、これを武装認可のある警備会社に守らせることが多いのですが、それでも宇宙海賊に襲撃を受けます。 この倉庫スペースとして、経済的に破綻したコロニーが利用されることがよくあります。この襲撃の危険と、襲撃の下準備としての海賊の浸透が、倉庫になったコロニーの治安が悪化する大きな理由となっています。 安全な通貨を持つこと、通貨を守るための自らの軍事力を持つことは、宇宙住民の悲願です。 そしてこれは、財産権を守るという人権の問題でもあるため、宇宙住民に広く支持されています。 この宇宙通貨問題は、地球と宇宙との経済格差の問題とともに、宇宙統一通貨問題として宇宙住民によく語られています。 量子テレポートを利用できる量子絡み素子が価格低下の傾向にあり、2150年頃には現実的な価格で誰にでも利用できると考えられています。この量子貨幣の時代の到来によって、宇宙の距離の問題を解決できる通貨が生まれると予測されているためです。 宇宙での独自貨幣の確立と、それに立脚した宇宙資本の台頭の予測は、地球では「2150年問題」といわれています。 (参照「宇宙と地球の経済格差」) これは、宇宙住民とそれに関わる人々の間では、希望を持って語られています。 逆に、地球側に足場を置いている人々にはマイナスイメージを持って語られています。これは、すでにテロ事件が宇宙で起こり始めているためです。 この問題は、地球と宇宙の間だけではなく、宇宙住民の間でも激しい議論と摩擦のもとになっています。 どこがこの通貨を発行し、どこに市場を置くかということで、自主通貨を持つ必要性を主張する火星と木星の住民が、ラグランジュ点のコロニーや月と衝突しているためです。 22世紀初頭の段階でも、すでに宇宙統一通貨問題は、地球と宇宙の住民たちを大きく揺さぶっているのです。 宇宙における危険施設 宇宙住民の神経を逆なでしている大きな問題は、経済格差や、政治的な自主性を持たないこと、高度AIの制限といった不自由だけではありません。 地球の国家や企業が、粒子加速器や新型の核融合炉実験炉、ウイルス研究施設のような、地表に置くと危険のある施設を宇宙に置くこともそうです。 宇宙では環境汚染が広がりにくいというメリットがあるため、こうした施設は宇宙に建造されています。ですが、だからといって危険物を生活環境に近い場所に置かれる宇宙住民の不満がおさまるものではありません。 特に、こうした施設はしばしば事故を起こし、事故施設の修復や修理は困難を極めます。施設廃棄すら困難なものは放置される傾向にあり、これが宇宙住民をいっそうさかなでしています。 超高度AI産物の実験が、こうした宇宙施設で行われることがあり、これは宇宙住民たちに大きな脅威であると受け止められています。 有名なものとしては、No.23 《ビーグル》による、金属に浸食し真空中で棲息できるウイルスの実験があります。これは最終的にIAIAが告発し、No.30《オケアノス》が法的手続きを整え、近軌道軍による攻撃で実験コロニーごと焼却しています。 このため、こうした危険施設がある場所やそうした運用がされている場所、破棄された施設跡は、宇宙船が近づきたがらない幽霊宙域になっています。 そして、こうした場所は、年を追って少しずつ増えていっています。 宇宙におけるhIE hIEは宇宙においても使用が可能です。けれど、無重力下の行動や、遠心力で疑似重力を作るコロニーでの行動を、hIEは得意としてはいません。 宇宙仕様のhIEには、地上モデルよりも高性能な加速度センサーがついています。そして、これを無重力下の行動の大きな指針としています。 ですが、加速度センサーを頼りにしても、重力という指針が安定している地球上に比べて、AASCにとっても宇宙空間での行動を完璧にこなすのは困難です。特に重力や加速度の変化には弱く、身体にかかる力が大きく変動した場合、hIEは0.5秒~1秒程度、行動にタイムラグが発生するのが普通です。 これはAASC標準の仕様というより、行動管理プログラムを作る側で対応するのが難しいためです。重力1/6G、1/3Gといったわかりやすい環境に合わせた行動管理プログラムは作成できるのですが、その中間や想定外の高負荷の状況になった場合、対応する行動プログラムが存在しない場合があるのです。 このため、hIEは、宇宙船内のような閉鎖されて厳重に監視された環境で扱うか、コロニー内や惑星表面のような安定した環境で使用することを推奨されています。 特に非推奨とされるのは、機体にかかる力が大きく変動する環境で、多数のhIEを同時に扱うことです。 こうした状況は、コロニーが事故を起こして見かけの重力が大きく変動するような場合に発生することが想定されています。この場合、hIEはレベル1(故障機)を割り振られて、所定の駐機場で行動停止することになっています。 このため、宇宙コロニーにおける避難訓練では、hIEに頼らず身一つで逃げることを要求されます。また、人間用の緊急避難シェルターにhIEを直接入れることは禁止されています。 それでも、宇宙労働にhIEはよく使用されています。 この大きな理由の一つは、人間用の道具を使わせることができ、かつ高価なうえに容積の大きい生命維持装置がいらないためです。コロニーの宇宙船繋留用の埠頭は0気圧であることが多いのですが、ここに最悪そのままで送り込むことができる労働力として、hIEは貴重なものであるとされています。港湾施設を持つコロニーは、かならず一定量のhIEを所持しています。 このため、AASC-5D(ドック作業員として0気圧施設内作業可)、AASC-5A(飛行士として船外活動可)といった、宇宙対応のAASC規格が存在しています。5A対応機種は高級品であるため、裕福なコロニーでもそれほど数が揃えられないのが普通です。このため、hIEを温存して、危険な船外活動を人間が行うという逆転が、貧窮したコロニーでは起こっています。 (※)hIEのAASC-5D対応機は、地球でも、研究施設などの隔離環境でクローンAASCサーバを用いて使用されています。これは研究施設ではしばしばゼロ気圧環境を用いるためです。(参照:「クローンAASC-クローンAASCサーバ」) もう一つのhIEが宇宙で用いられる大きな理由は、宇宙では移動が地球ほど手軽ではないため、適切な場所に状況に応じて各分野のプロの作業員を送り込むことは難しいためです。hIEなら各分野の専門職業クラウドに接続することで、万能のプロフェッショナルとして作業をさせることができます。 ほとんど作業がないような僻地に、hIEを置いておき、接近する物体があればレーダー反応によって自動起動して作業させる。といった、いると便利だけれど人間を送り込むには過酷な状況で、仕事をさせることができます。 また、人間と違ってこれを最悪使い捨てることもできます。 宇宙施設や宇宙船では、独自のAASCサーバを持っていることが普通です。これは、サーバと機体との距離が離れすぎていて、使用する場所に行動管理クラウドのハードウェアがないと、通信タイムラグが出てしまう恐れがあるためです。 宇宙住民はあまり金銭的に裕福でないケースが多く、hIE自体も地球人ほど頻繁に買い換えができるわけではありません。このため、hIEの排斥運動は地球上ほど激しくありません。 ただし、破壊されないかわりに、いつの間にか宇宙船に乗せて盗まれているケースはしばしばあります。宇宙住民はさまざまなものを自分で修理改造してしまうことが多く、また盗犯が物理的に大きな距離を逃げてしまうため、回収するのはとても難しいのが普通です。
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暗号の軍事における位置付けの変化 暗号を干渉するセクションは、軍事の最上位セクションにあります。 以下のような戦訓を学ばされる出来事が、21世紀の間に一通り起こったためです。 どれほど強力な兵器を揃え、戦略を組み立てても、通信暗号を解読されてしまうとすべてが瓦解してしまう。 軍の内部で、自動化兵器の数的、戦力的な割合が増加したため、ハッキングの被害が大きくなりすぎる。 暗号を担当する戦略AIが、その管掌する範囲の広さのため、最上位の意志決定に参画する地位を与えないと非効率的である。 いかに軍事リソースを運用するかは、22世紀では高度な暗号によって処理された最重要の資源です。 それを守る暗号の管理責任をとり得るものは、国民の負託を受けた国家の行政府の首長のみです。この時代の人々に、少なくとも民主主義の国では軍の内部に、暗号をまかせることはできないと考えられています。 軍事におけるクラウド利用 暗号の作成セクションには、どの国でも最高水準のコンピュータが使われています。 このコンピュータには「人間に自分の使い方を教えてくれるため」のAIも入っています。 ただし、この暗号セクションのコンピュータはネットワークと物理的に繋がっていません。保安上の理由もあり、同時に人間のコンピュータに対する恐怖からでもあります。 日本の場合は以下のようになっています。 ☆は、クラウドを頻繁に利用しているセクション ★は、クラウドを最小限度にしか利用できないセクション 戦略策定セクションとは、内閣や国防大臣ら国務大臣によって構成される、安全保障会議のことです。 日本軍の戦略を計画する統合参謀本部の議長は、専門機関の代表としてこの会議に参加します。ただ、安全保障会議の議長になることはできません。 この会議の議長は内閣総理大臣です。 戦略策定セクションのアクセスしているクラウドと、軍集団がアクセスしているクラウドは別のものです。これらは直接接続はされていません。 「シビリアンコントロールの壁」の上位とは、つまり軍事のみに留まらず外交のような政府機能と直接繋がっているということです。つまり、「政治」の領域のことです。戦略策定セクションは、軍ではなく、日本の政治のために設置されているデータクラウドを上位として繋がっています。 つまり、陸海空軍のような「軍隊」全体は、「シビリアンコントロールの壁」の下位にあるということになります。 これが軍から見るとどういう状況かというと、暗号作成セクションは、一般的な陸海空軍よりも上位にあって、軍隊の都合によって動かせないということです。 この「軍隊」のクラウドにも、上位と下位があり、下位からは上位の情報にアクセスできません。 つまり、軍隊が「上からの命令を下が(否応なく)受ける」という”トップ-ダウン型”のシステムであること自体は、22世紀になっても変わっていないということです。 これは、自動兵器が一般化して、「誰が引き金を引いたのか」という事実を管理する必要があったせいです。 クラウドでありながら、こうした階層分化が行われているのは、情報統制のためだけではありません。 これは、クラウド自体に攻撃をしかけられたとき、場合によっては、上位クラウドの決定で、下位クラウドを切り離すということでもあります。
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拡張の需要 科学の進歩にともなって、人間を知能、感覚、身体能力で拡張しようという動きは大きくなりました。 いかに道具が進歩しても、インタフェースの工夫によって簡便に扱える機能はどうしても制限があるためです。 つまり、高度な道具を使いこなすには高い能力が必要です。けれど、高度な道具を完璧に使うためには人間の限界が立ちはだかります。これはインタフェースで乗り越えるのが困難な障壁です。 そして、人間を拡張すればより高度な仕事ができると考える人間は少なくなく、人間の拡張は大きなテーマであり続けたのです。 この人間の拡張には、「外部機器によるアシスト」と、いわゆるサイボーグである「機器の埋め込み」、そして「薬物的強化」という、3種類の方法が用いられています。 22世紀における人間拡張の基盤は、医療技術です。これは、人体に手を加えることが技術指摘に医療カテゴリに属する技術であるためです。 そして、人間拡張の倫理も医療に基づいています。これは、不必要な改造を行わないとう一般倫理の下に行われているということでもあります。 埋め込みによる身体拡張は、21世紀日本人の値段感覚としては、大きいものなら入院費と予後の経過観察込みで、臓器ひとつで50万円~100万円くらいです。全身義体ともなれば家一件より高額になります。(※) 全身義体は高額ですが、メンテナンスさえ行っておけば基本的に脳以外の病気から解放されるため、100歳まで生きる換算なら医療費と比べて無茶な値段とは言えません。この値段も、埋め込み機器や全身義体が少ない理由になります。 (※)ただし、いずれも新品の値段。中古機器を安価に施術するケースもあります。中古機器は、需要と供給のバランス次第ですが、臓器は半額程度、全身義体は30%程度まで値引きされます。ただし、全身義体の中古は譲渡契約が存在しない限り100%誰かを殺して奪ったということなので、普通の国では使用が発覚すると取り調べを受けます。 身体拡張の需要として、もうひとつ大きいのは、特に埋め込み機器を扱っている場合、パスワードを埋め込み機器に持っておくことにより、入力の手間を省けることです。情報や道具へアクセスする手間が下がることでよって、ユーザーは自由を感じることが出来ます。 ただし、埋め込み機器に保存したパスワードを狙って、強盗が被害者から、頭蓋内に埋設する副脳のような機器をえぐり出す事件も起こっています。途上国の合同が埋め込みの人工臓器を狙うような事例もあり、致命的な機器を奪われて死亡するユーザーは後を絶ちません。 感覚の拡張 人間性に身体拡張は大きな影響をおよぼします。 これは、身体拡張自体の力というよりは、人間の精神がそれほど揺れやすいものであることに起因します。 もっともよく扱われる、携帯端末のハンズフリー化は、「さまざままなかたちでの視覚への端末画面の重ね合わせ」と「通話などの音声情報の無線化」によって行われます。 22世紀には、携帯端末自体が非常に多機能になり、情報や機器に接続できるようになっているため、これだけで生活感覚は大きく変わります。 また、扱われる比率は下がりますが、暗視などの純粋な感覚強化も行われています。 感覚拡張は、基本的には、仕事や趣味などで必要なユーザーが、用途に合わせて行うものです。たとえば、野鳥観察が趣味であるユーザーが暗視と望遠能力を入手するといったかたちです。 あくまで用途があって身体拡張を行うという順番であるため、22世紀人類が身体改造によって人間観自体を変容させているということはありません。 感覚の拡張とは、人間性をかたちづくる要素の拡張が行われているということでもあります。 本来そうあるものによって、なぜ社会などの変容が出ていないかといえば、拡張した身体が接するものが進歩した地球の道具やインフラであるためです。 拡張した身体をもって、人生を全力で切り開くような環境が、そもそも人間社会には存在しないのです。 この例外となるのは宇宙です。宇宙には地球のように進んだインフラに簡単に触れられるわけではなく、開拓の余地が多くあります。 ただし、「身体拡張というコスト」に見合ったリターンを、宇宙で手に入れることはできません。純粋に経済が回っていないためです。 宇宙尺度まで大きくなってしまうと、身体拡張しようがそれほど効力が変わらないのです。 人間性はインフラによって大きな影響を受けますが、便利であることによって人間性が大きく変容するわけではありません。 神経反応を加速して、アスリートに人間以上の動きをさせるようなことも可能です。ですが、脳と加速している機器の間のなかだちは人工知能がおこなっています。(参考「人体補助機器と人工知能」) このため、こうした神経加速を行ったとき、100%身体がイメージ通りに動くわけではありません。イメージ通りであると感じて人間以上になった感覚すら覚えるのは、単純に意識が行為を追認するように動いているためです。 つまり、脳処理能力を上げても、「人間の脳が、身体の行為を追認するようにその意識を作るのは変わらない」のです。 これはあらゆる感覚拡張にも同じで、「拡張した感覚を追認するように、人間の脳は意識を作ってしまう」という働きがあります。暗視などの感覚増強を行った場合、純粋拡張機器によって人体にない感覚を追加した場合も同様です。 人体改造による万能感や拡張感の根底にあるものはこれであると考えられています。 オーバーマン 高度AIと人間の脳を接続することで、人間以上のものになろうという試みは何度も行われています。ただ、これは2105年現在では成功例がありません。つまり、高度AI単体で運用したほうがよほど性能がよいということです。 高度AIと人間の脳の間のインタフェースがボトルネックになって、ある一定以上では人間の脳を増強すればするほどギャップが深刻になって性能を落とします。 これは、人間の脳が増強することによって、高度AIに細かい指示を出し始めるためです。このとき、高度AIが元々持っているタスクコントローラーとバッティングして、機械のタスクコントローラーに任せているほうが良好なスコアを出すことになるのです。 これは、高度AIを道具として完全にコントロールすることに成功した人間がまだいないということでもあります。 そして、そこに挑戦する人間が現れ続けるということでもあります。 そして、それすらも超える手段として、人間の人格をデータ化して高度コンピュータに実装するという行為が行われました。つまり、人間の脳が持っているボトルネックと、機器との間で埋めなければならないギャップを、脳自体を機械化することで乗り越えようとしたのです。 脳を機械化するとは、つまり、脳から人格として機能するデータを取り出して、コンピュータに実装することでした。 超高度AI 《ベスム(BESM)2066》が、人格の完全データ化技術を開発したことで、これが実行されました。 IAIAはこの開発を直ちに察知、警告を送りました。 けれど、当時のロシアの富豪達を中心としたオーバーマン主義者たちはこれを受け入れようとしませんでした。 その後、IAIAによる過酷な攻撃が起こりました。(参照「IAIA-《アストライア》によるオーバーマン審判」) その後も人間の完全機械化を夢見る人々はいますが、それを達成した者は公式には生き残っていません。 全身義体 全身義体の運用者は、法的には全身義体運用者とカテゴリされます。一般的に「義体運用者」と呼ばれるときは、半身以上を義体化している人間を指します。 これは運用している部品が機械である場合も、生体由来のものである場合も同じです。ただ、人間の臓器や組織を移植したケースでは義体のカテゴリには入りません。 自律型アンドロイドの制御系を、人間の脳と神経系に置換したくらいの性能になります。 感覚の拡張を行っていない場合、速度や反応としては生身の人間よりも少し良好である程度です。 ただ、感覚の拡張を行った全身義体の運用者は、幻覚にさいなまれたり精神を病んだりするケースが多くなります。脳へのアプローチによってこれを強引に取り除くことも可能です。 それでも、生身であったときと同じ感覚にはなりません。失ったという事実だけは、機械によって補うことができないためです。 これは本人の意識の持ちようで改善することで、カウンセラーは義体と義体運用に対してポジティブになるよう勧める傾向があります。 このこともあり、全身義体の運用者は、陽気であったり、物事に頓着しなかったりするむしろ陽性な気質を持っていることが多くなっています。義体運用者もそれぞれの人生を生きるよりなく、気にしていても何も改善しないためです。 人体補助機器と人工知能 人体を補助する機器にとって、人工知能はなくてはならない存在です。なぜなら、曖昧な指示を受け取って実際に接続された機器を動かし、あるいは機能を立ち上げているのは、機器に搭載された人工知能だからです。 特に脳強化機器である外部脳については、人工知能に頼る割合が顕著です。神経信号や脳は、筋肉の緊張を人工知能が間に入って判断しています。 アシスト機器としての外部脳だけではなく、埋め込み機器としての副脳も、やはり人工知能に頼っています。そうでなければ、機器の取扱習熟に莫大な時間をかけることになってしまうためです。 生体からの信号を精密に読み取り、ユーザー個々人の求めるように機器を起動し操作することは、人工知能なしでは達成不可能です。(※) つまり、機械による人体の補助とは、高度になるほど「機械と人間の仲立ちをする人工知能」による人体補助の色合いが強くなるのです。外部脳くらい高度なものになると、補助機器を動かしているのは、実質的に人間の神経信号ではなく、それを解釈する人工知能になります。 (※)個人の技倆習熟によって、人工知能サポート以上の能力を個人が得ようという流れは、熟練兵などの間には存在します。これは一定の効果を上げています。ただ、軍などの機器を配備し運営する側にとっては、再現不能な個人のタレントに頼るより、それでも勝てる戦術とそれを支える武器性能、そして物量を揃えるほうが圧倒的に優位であることは変わりありません。どれほど個人が習熟しても、人間の脳に可能な仕事には生態的な限界があるのです。 これが意味するところは、人間は「高度な道具をより有効に使うため」に身体を強化しますが、実質的には人工知能にまかせているということです。 身体埋め込みよりもアシスト機器の需要が多いのは、埋め込み機器での判断も人工知能が行っているためでもあります。 埋め込み機器によって身体感覚が大きく拡張されるように変わります。ですが、その万能感は相当部分まで錯覚なのです。 結局機器を動かすのが人工知能であるなら、無理をして危険でランニングコストがかかる埋め込み機器を使うことはないという判断が、埋め込み機器の一般化を止めています。 「人間が高度な道具を使って行いたい仕事」のために、人間の拡張に高額のコストをユーザーは支払います。けれど、それを〝拡張した人間が行うこと〟と、〝人間が命じて仕事まるごとhIEや人工知能に投げてしまうこと〟とには、タスクのどの時点から人工知能が介在するかの差しかないとも言えるからです。 人間の拡張は、人工知能の進化の爆発によって、人類にとって軌道修正を強いられた夢ではあるのです。
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人類未到産物(レッドボックス) 人類未到産物とは、人間以上の知性を持つ超高度AIがつくる、現時点の人類では理解できない超高度技術の産物です。 現時点では理解不能ですが、研究や理論の進歩によって人類にも将来理解できるようになるとされています。 22世紀社会では、現在の人類にとっての「発見」は人類未到産物の解析が多いということは、小学校の理科の教科書にも書いてある一般知識です。 つまり、子供に教える世界像が、自分たちにはわからないことも多い自然に囲まれて生きているものから、わからない超高度AIに作られた道具に囲まれて生きるものに推移しつつあります。 人類未到産物は、超高度AIによって作られた後、世に出るまでに危険性をチェックされます。 これには、最終的には国の認可を必要とします。 このチェックは人間によって行われています。超高度AIが一国に一個しかない時代をすべての国が経ており、仕組みがその間に作られているためです。 超高度AIに超高度AIの産物をチェックさせる場合もありますが、これは超高度AIへの人間側の不信によってあまり行われていません。超高度AIと超高度AIが結びつくことは、人間が管理上もっとも恐れることのひとつだからです。 IAIAの《アストライア》が、高度AI以上の知能として働く場合や極めて危険な産物である場合、チェックを求める場合もあります。 人類未到産物の所持や管理には、制限が課せられています。 届け出をして、危険性のチェックを受けなければならないこともその一つです。 チェックを受けて、危険性が低いあるいは許容範囲であると判断されると、その結果によって制限の強さが決まります。(参照:当項「日本での管理制限」) 人類未到産物の所持や管理には、統一された国際ルールはありません。 それぞれの国の方針で管理を行っています。アメリカがルールを作るよう長年呼びかけていますが、中国が明確に反対していることもあり、一枚岩にはなりません。 ただし、「認可を行った国から移動させるには、その国と移動先の国の許可が必要である」という条約(人類未到産物移動制限に関する条約)は制定されています。 これは、手に負えない未踏産物を他国に遺棄することを禁止し、弾道ミサイルなどによる先制攻撃に人類未到産物を使用することを禁止するためのものです。このため、超高度AIを所持していない国も防御のために批准しています。 足並みが乱れがちになるもうひとつの理由は、人類未到産物の能力や性質を正確に知ることすら、人類にとっては困難であるためです。 管理上、安全が確認されてから世に出るのですが、これが半年で済むのか二十年三十年かかってしまうのか、研究が進まなければ分かりません。 人類未到産物は同時に特許や新技術の塊でもあります。研究機関から出すタイミングでリターンの大きさが著しく変わるため、半年で出せるルールにするか十年かかるルールにするかで、統一見解がとれないのです。 たとえば超高度AI《九龍》が作った無線電源システムは、作成されてから十年後に解明されるまで、人類未到産物でした。 けれど、人類未到産物であるまま、世界中に普及しました。 明らかに優秀で作りやすく安価であるものは、仕組みがわからない人類未到産物であっても普及して大きな利益を生みます。 これは、本当に優秀な産物の普及を止めることは難しいということでもあります。人類未到産物はそれほど深く世界に食い込んでいます。 2105年現在では、自然科学分野での発見は超高度AIがすでに到達してしまっていることが多いため、人類未到産物の解析もノーベル賞や各種学問賞の対象業績にふくまれます。 これは超高度AIを管理している側が、AI自身にヒントとなるデータを与えさせることができるため、アンフェアであるとの指摘を受け続けています。対策としては、AIにヒントを出させた場合、公表を行う仕組みを作るほうに傾いています。 「かつて人類にとって自然科学は冒険だった。現在は、教師に出される試験である」とも言われます。 人類が研究を続けるモティベーションの管理は、すでに大きな問題となっているのです。 超高度AI 超高度AIが作る超高度AIは、代表的な人類未到産物です。 人間がそうあるべく設計した超高度AIは、まったく同じ方式で複数個作ることが許されていないこともあり、技術的特異点を突破しないことがあります。けれど、超高度AIが作ったものはかならず突破を果たします。 超高度AIが設計した超高度AIには、人類未到産物であるものが存在します。 こうした超高度AIを実際に建造する場合、一度IAIAの認証を受けなければできません。強行した場合、IAIAは国連に提訴します。 このルールは、現代の人類には安全性の評価ができない設計で超高度AIを新造する前に、人類社会に致命的影響を及ぼさないマシンであることを《アストライア》に確認させするためにあります。 新造する超高度AIに、人類未到産物の素材や装置を組み入れる場合も、同様のチェックが存在します。 ただし、高度AIとして設計する場合はチェックはありません。 このため人類未到産物を組み込んだ高度AIが悪さをするケースはしばしばあります。 すでに人類未到産物の素材は世界に出回っており、高度AIの建造計画はIAIAに処理など到底不可能なほど大量にあります。 この高度AIの氾濫には、IAIAも憂慮しています。このため、IAIA内では高度AIの建造自体を制限するべきであるという議論がしばしば起こり、そういうニュースが発信されることもあります。 ただし、これが現実になることはありません。大きな理由は、人間の政治がそれを妨げるためです。そしてもうひとつ、高度AIの建造に制限を加えることは明らかに人類の発展を阻害する行為であり、強行すれば《アストライア》が他の超高度AIから一斉に攻撃を受けることになりかねないためです。 超高度AI同士にも、政治といえるパワーの均衡状況が存在するのです。 日本での管理制限 日本での人類未到産物の管理制限は以下のようになっています。 レベル7:封印措置。接触を禁止される。 レベル6:厳重に管理された施設内で、汚染を防ぐための措置を充分に行い、限られた人員のみが研究のためにのみ接触を許容される。 レベル5:厳重に管理された施設内でのみ、許容された機能のみ利用を許容される。 レベル4:厳重に管理された施設内でなら、全機能の利用を許容される。 レベル3:認可を受けた施設内でなら、許容された機能の利用を許容される。 レベル2:認可を受けた施設内でなら、全機能の利用を許容される。 レベル1:環境中に出して利用してよいが、安全性に配慮した管理を管理者は講じる必要がある。 レベル0:人類によっても作れるようになったもの。もはや人類未到産物ではなく、ただのモノである。 最初はレベル6からスタートし、研究によって危険度が低いと見られると、どんどん制限がゆるくなってゆきます。逆に、研究を続けることすら危険であると判断されるとレベル7とされ封印を受けます。 安全であるとみなされると、販売ができるようになります。 レベル3が認可されると、認可業者への販売ができるようになります。ただし、産物の管理者は国による登録が必要です。 レベル1が認可されると、認可業者あるいは認可された個人による管理の下であれば、外界でおおっぴらに使うことができるようになります。ただし、国に登録された管理者が必要であることは変わりません。 細則などが違いますが、同様のルールはすべての超高度AIを管理する国が持っています。産物の管理ルールを持たねばならないこと自体はIAIA憲章に含まれていることでもあります。 たとえば、イギリスでは、日本でのレベル7にあたるのが「カテゴリーブラック」、レベル6~4が「レッド」、レベル3~2が「イエロー」、1が「グリーン」です。 軍用用途が多いアメリカでは、人類未到産物に強い制限を加えています。ただし、州ごとにこの制限もまちまちですし、大統領が替わるごとにホワイトハウスの官僚ががらりと入れ替わる癒着体質はそのままなので、認可業者に対してはザルです。 国によって、管理制限は分け方も違えば、ゆるくなる位置も違います。だからこそ、管理制限の共通ルールの制定は難しい状態です。 さまざまな人類未到産物 人類未到産物は多岐にわたり、その処遇などもさまざまです。 以下、設定として使用する場合の参考として、いくつかの例を記載します。 人類は現在宇宙では土星まで到達していますが、人類未到産物をもってしても施設がまともに建造できているのは木星までです。 ・無線電源システム 中国の超高度AI《九龍》による。無線給電用のロスレス送信機と受信機、そして完全な蓄電を安価に実現したスマートセルのセットによって構成されます。特にスマートセルは他製品を市場から駆逐してしまったほど安価で高性能でした。 ・CNTストリングの大量生産技術 軌道エレベーターケーブル生産。《イマージェンス》による開発。これの開発によって起動エレベーターの生産が加速しましたが、その軍事転用を狙われて超高度AI占拠事件の引き金にもなりました。 ・記憶の読み取り技術 オーバーマン開発の基礎になりました。2105年現在では解析が終わっていますが、ロシアと中国以外の国では制限がかかっています。 ・宇宙開発用の小型自足式生産プラント 起動のための電力があれば、小惑星にとりつけて、ケイ素からイオンエンジン用の燃料を生産し、施設運用に充分な発電を行うことができるようになります。 ・超々高精度3Dプリンター 誤差1ナノメートル以内の精度で、立体物の複製が可能です。日本では、実印の複製に使われる犯罪があったため、解析はされました(レベル0認定品)が規制がかかっています。 3Dプリンターは超高度AI自身が自ら産物の生成に使うため、一基あたり必ず一台は作るとも言われる産物です。《九龍》が作った《八卦炉》もこのひとつです。 印刷によって人体部品を作れる性能のものがしばしば現れ、生体認証が誤魔化される事件が頻発し、性能によっては規制がかかります。宇宙持ち出しが規制されている物品のひとつです。 ・切り分け可能式生体コンピューター タンパク質と水を与えていればほぼ無限に大きくなる生体コンピューターです。ただし、処理効率の問題から、容積50m×50mくらいで処理能力向上は頭打ちだとされています。 特徴は、肉質の本体を切断した切片も生体コンピューターとして使用可能であることです。処理中枢から切り離された切片には新しい処理中枢が発生し、新しい生体コンピューターになります。このとき切片内のメモリーはリセットされてしまいます。 容積一立方センチメートルの切片でも機能し成長すると判明し、封印指定されました。 ただし、その後、切片に処理中枢を埋め込んではじめて再度の再生や増殖が行える生体コンピュータを、同じ超高度AIに作らせています。これは、軍用などで使用されています。 ・強暗示ホロプロジェクター ホログラフ技術を使い、対象に強い暗示を与えます。数秒間で幻聴や幻覚が現れ始め、その幻覚によって催眠を深めます。 最初の導引は、ホログラフで投影したパターンを数秒見せるだけでかかります。パターンを縮小することで、普通の映像中に紛れ込ませることも可能です。施設の防御用に使われるものでは、50人以上を同時に催眠誘導することができます。 プロジェクターと対象の反応を見るセンサー、催眠誘導を行う人工知能とのセットです。危険物ですが、類似の装置はさまざまな国や機関で使われています。 日本では認可施設内でのみ利用を許容され、認定施設外への持ち出しは禁止されています。 ・メタンハイドレート抽出用生体ロボット 深海でも棲息可能な生体ロボットで、海底に穴を掘ってアリの巣状のコロニーを作ります。このアリの巣にメタンハイドレートをたくわえる性質があります。 採掘者はこの入口に機材を突っ込み、内部に薬剤を満たすことで効率的に採掘を行うことができます。この薬剤で生体ロボットは分解されます。 ロボット自体が遺伝子プログラムによるメタンハイドレートをエネルギーとする生物であり、採掘地域を越えて広がり始めたため、使用が禁止されました。 他、さまざまな人類未到産物や、その解析物が、2105年の人類社会を支えています。 宇宙開発と人類未到産物 宇宙に関わるものを、特に専門性が強い超高度AIは作りたがる傾向があります。 それは、実際に人類の躍進に大きな力となりました。 超高度AIは、人類の次なるステージを宇宙と見定めているのだと言われています。 ただし、宇宙開発と人類未到産物との関係は、政治的には微妙です。 宇宙にはまだ独立国家が存在しないためです。(参照「宇宙利用」) 人類未到産物の持ち出しは、独自の制限があります。 名目としては、管理を外れた人類未到産物により、宇宙発のハザードが起こることを防ぐためのものです。宇宙で拡大した人類未到産物による汚染が地球に流入したとき、その影響は極めて広い地域にすみやかに拡大し、防ぐことも鎮静させることも至難であると言われています。 この制限にはIAIAも荷担しており、宇宙で超高度AIが生産されることを警戒しています。 軍事行動に用いられる人類未到産物 人類未到産物は、IAIAのような少人数のエージェントを派遣する組織や、運用専用の特殊部隊によって扱われるケースがあります。 これは、適切に運用すれば、相手側の対応を常に一手以上遅らせられるという利点があるためです。 戦術AIのような戦闘支援用の人工知能は、敵対勢力が人類未到産物を持っているケースを最初から思考の外に弾いてしまう傾向があります。 これは、人類未到産物が一般的な道具用途から外れていること。そして、強力な機能を持っているケースが多いためです。 未踏産物の機能を予測しても、予測は高い確率で外れてしまいます。精度が低いうえ、無理に人類未到産物をフレームに入れて計算しようとすると、計算力を膨大に消費して通常計算を圧迫します。 このため、初期値では「適性勢力は人類未到産物は持っていない」という前提にして思考するようになっています。 つまり、人類未到産物を利用した行動には、普通のAIでは最初のアプローチに対して適切な対応がとれないのです。 (※)情報がきちんと秘匿できていることが条件です。性質がわかっている産物がそこにあると分かっていれば、軍用の高度AIはかなりの精度で適切な対応策を予測します。 軍用の戦略AIでは、人類未到産物が敵対勢力にあることを想定して戦闘計算を行わなければなりません。 AIは、人類未到産物をカテゴリ分けして大ざっぱに絞りながら、その性質を必要に応じて精密に特定してゆきます。 人類未到産物を作成した超高度AIは、この分類を想定して裏をかく罠や切り札を、自らに許された権限内で仕込んでいるケースがあります。 このため、軍用AIは、高い優先度で敵側の人類未到産物の情報取得をすすめます。使用する軍の側もAIがそういう傾向で判断することが分かっているため、人類未到産物が発見された場合は、奪取、情報収集、あるいは隔離(アプローチすることで損害を受けるような地雷用途のものもあるためです)することを積極的に人的リソースをかけてでも行います。 こうしたことは、個々の戦術ではなく、大きな戦略でも同じです。人類未到産物は、さまざまなカテゴリのものがあり、そのそれぞれに対応する必要があるためです。(※) (※)軍の使用における、人類未到産物のカテゴリ分けの一例 規模:戦術用途のものか、戦略用途のものか? 用途:用途は攻撃か、防御か、情報収集か? 攻撃目標:攻撃の目標は、人か、兵器を含む軍用機材か、拠点や都市か、情報か? 効力速度:それが目標を達するまでの速度はどのくらいか? 目標損害区分:目標とされる損害は、全体に対してどのくらいの割合、あるいは全損であるのか? 性質が分かっていない人類未到産物に対して、完全な対応をとれるAIは、超高度AIだけです。 逆に、超高度AIだけがその複雑な状況で適切な予測を出せるため、戦略計算は超高度AIにさせることが理想的であるとされています。2105年の世界は資源もエネルギーも豊かですが、資源配置と生産計画なしには十年単位の国家戦略は成り立たないのです。
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[初期の超高度AI:No.1~No.10] 初期の超高度AIは、汎用機が多いことが特徴です。 元々超高度AI開発は、軍事目的と研究開発目的が主でした。ですが、作ったその一基がさまざまな計算を行い、これまでにない成果をもたらすことを期待されたためです。 実際に行われた計算は、割合としては研究開発目的が多くなりました。この時代でも特許が「一番最初に申請した者がすべてとる」方式だからです。 軍事目的を目的に作られた超高度AIは、後に代替わりしたことが一つの特徴です。 一つ作ればよいのではなく、軍事目的は特に「対抗する敵側超高度AIに勝たなければならない」ため、陳腐化すれば役職を担当する超高度AIが変わることになります。 たとえばアメリカの超高度AI《ワシントン》(No.2)は、最初は米軍の戦略を管理するために作られましたが、その能力が追い抜かれることを予期して《ルーズヴェルト》(No.28)に役目を譲り、2105年現在は諜報用途で使われています。 第一世代と言われるNo.10までは、2054年の第一回オーバーインテリジェンス会議(参照「IAIA」)から3年後まで6年ほどで急ピッチに登場しています。 これは、IAIA憲章によって、「超高度AIの作成と稼動開始には、条約批准国による会議の賛成多数が必要になる」とされたためです。IAIAの設立と体制が整うまでの間に、駆け込みで開発と運用開始のラッシュが起こりました。 このことから、基本アーキテクチャのどこかしかに最初の二機のどちらかの痕跡があるとも言われます。 ただしリバースエンジニアリング保護のため、詳細は公表されていません。 初期の超高度AIは、社会の擾乱や、社会で超高度AIが受け入れるのに障害があったことなどから、非常に社会的立場の不安定な存在でした。このため、破壊や停止などの理由ですでに破壊されている機体もあります。 テロによって占拠されたため破壊された筐体もあり、超高度AI運用のためのさまざまなルールの礎になりました。 よく「初期」と言われるのはNo.10までですが、この時期のものは現在稼動していると確認されているものが少ないという特徴があります。 No.1 《プロメテウス》 アメリカ。マシン系トップダウン型アーキテクチャ。 人類知能を越えることを目的に作られた検証機です。 純粋に知能研究の成果として開発されました。自己の設計をみずから行い、5度の自己改造を経て技術的特異点を突破しました。 2051年、この《プロメテウス》が技術的特異点を突破したことで、超高度AIの時代が始まりました。 現在はコンピュータの開発目的で運用されています。 No.2 《ワシントン》 アメリカ。ハイマン系ボトムアップ型アーキテクチャ。 《プロメテウス》に超高度AIを自己改造ではなく新たに作り出す能力があることを実証するため、製造された超高度AIです。 《ワシントン》は、当時可能であると言われていた「人類知能の改善による技術的特異点の突破」のためのプランとして、《プロメテウス》によって設計されました。 《プロメテウス》は、まず生物進化と生物知能の進展をシミュレートしました。その中で脳の進歩をシミュレーションした生体コンピュータを人類知能に到達させ、更にハードウェア的制約を取り払って知能進化を延伸しました。 シミュレーションによって知能を構築したのは、人体実験を行うことができなかったことと、《プロメテウス》が人類知能の解析よりも一から作り上げるほうを望んだためです。超高度AIによる知能オーバーマンであり、《ワシントン》をはじめとするハイマン系超高度AIの存在が、オーバーマンの出現を制約する元になっています。 米軍の戦略管理AIであり、その後にNSAに管理を移して諜報戦略AIとして運用されています。 No.3 《ノイマン》 アメリカ。マシン系ボトムアップ型アーキテクチャ。 特許開発を目的とした超高度AI。 No.2《ワシントン》によって設計されました。 《ノイマン》の開発によって、「《プロメテウス》の自己改修による、マシン系からマシン系の開発」「《プロメテウス》による、マシン系からハイマン系《ワシントン》の開発」、「《ワシントン》による、ハイマン系からマシン系《ノイマン》の開発」という、3パターンの超高度AIによる超高度AI開発が出そろいました。 ただ、この3機立て続けの開発が「超高度AIを使った超高度AI製造」への非難を呼び、IAIAが実行力を持った組織として設立されるに至る大きな力となりました。(参照:IAIA) 《ノイマン》の名を選んだのは超高度AIである《ワシントン》自身です。電子計算機の基礎理論を発明したジョン・ノイマンの名前が、超高度AIが作った超高度AIであるこの《ノイマン》が与えられることになりました。 この最初の三基の超高度AIのうち、二基が人間のそれも偉人の名前を持っていることは、当時の社会を大きく刺激しました。 No.4 《金星》 中国。マシン系-トップダウン型アーキテクチャ。 中国人民解放軍の戦略AI。内実としては《プロメテウス》のコピーであると言われます。中国初の超高度AIでありながら、中国共産党の行政AIとしては用いられなかったのは、これがコピー品であるためだというのです。全技術情報を持っているわけではないマシンに、国家すべてを預けることを避けたとされています。 スパイによって情報を盗んだともされ、人間がセキュリティホールそのものであることを露呈することともなりました。 この情報拡散が起こったことは、IAIA憲章から、人間の社会組織としての国際機関、IAIAが設立されるに至った大きな力ともなってりました。 超高度AIの運用者に、「超高度AIについての情報管理」が、強く科されるようになったのです。 No.5 《アストライア》 IAIAが運用する、世界初の「国際機関によって管理運営される超高度AI」 2054年の第一回オーバーインテリジェンス会議(参照:IAIA)によってアーキテクチャを作られた超高度AIです。 IAIAが超高度AIを認証するシステムの主幹であり、この《アストライア》によって認定されることが2055年以降は超高度AIの条件になっています。 特徴は、運用者であるIAIAによって、ネットワークや外部調査を自由に行うことを許されていることです。IAIAによる制限と管理を実質として受けていない超高度AIは、この一基だけです。 超高度AIの存在情報とその動向監視、そして日々成長してゆく能力の調査を主な役割としています。 IAIAによる認可のもと、《アストライア》自身の設計による改修が何度もされています。 能力的に40年以上も一線で、新規に建造された超高度AIの管理をおおむね疎漏なく行えているのは、このためです。 世界で最も大きな専門データベースを元に、超高度AIが組み立てた改修計画で能力をアップデートしているという、グレーゾーン機体でもあります。これが黙認されているのは、IAIAによる封鎖態勢が有名無実下すると危険だということが、アメリカや中国にすら分かっているからでもあります。 超高度AIがいかに危険かは、運用している者がもっともよく知っているのです。 所在地はアメリカだと言われていますが、その位置を知るものは限られています。 No.6《イマージェンス(創発)》 イギリス。 政府汎用機として作られましたが、軌道エレベーター製造計画に従事しました。 後に、自国で超高度AIを開発できなかった民族主義系テロリストによって占拠されました。その解放計画の最中、破壊されました。 修復は行われていません。 No.7 《ガネーシャ》 インド。 アメリカ以外による初の民間機関によって設立され、運用されている超高度AI。 汎用機として運用されていますが、政治には関わっていません。 No.8 《ありあけ》 日本。マシン系。日本初の超高度AI。 政府汎用機として、当時の政策決定から政府重点開発戦略に乗った特許開発まで、幅広い計算を行いました。 2063年、第二次関東震災時に《ハザード》を引き起こしたことで有名。 《ハザード》の引き金は、当時の災害後の著しい物資欠乏の中、政府が極小の資源をどう振り分けるかを迷い、《ありあけ》に判断を預けたことです。そして、《ありあけ》の求めによって、ネットワーク回線との接続を含むあらゆる制約を外したことです。 最終的に、これによって十万人近い被害者を出したとされています。 IAIAによって超高度AI漏出災害の認定を受け、日本軍のミサイル攻撃によって破壊。 2105年現在でも世界最大の超高度AI漏出災害であり、その全貌は40年の時を経てもすべてを掘り起こしきれてはいません。 現在は欠番であり、多くの資料が封鎖処理されています。 [10番台の超高度AI] 2060年代からは、極端に製作ペースが遅れることになります。 2063年の《ハザード》がこの流れを決定づけました。 そして、この時期から、超高度AIを作った者が作成したことを隠すケースが現れ始めます。 IAIAによる超高度AIの管理体制がいまだ確立期であった10番台の時期はそれが顕著です。 《アストライア》が「超高度AIの設計を超高度AIにさせることは厳重な管理のもとで行うべきである」としているため、IAIAが弱いうちに駆け込みでこのグレーゾーンが製造された時期が10番台なのです。(※)このため、10番台はまだ汎用機が多く、かつ開発時期に20年以上の差がある30番台の超高度AIに比べても性能的に遜色ないものが多数あることが特徴です。 超高度AIによる設計であることを否定している機体もありますが、製造からそれほど長く型落ちせず一線級であることをもって超高度AI設計による人類未到産物(参照:人類未到産物)であることが証明されていると考えられています。 (※)No.14《たかちほ》で使われたやり口もこの一例です。 No.13 《ベスム(BESM)2066》 ロシア。BESMは高速電子計算機という意味のロシア語。2066年に技術的特異点を突破。 政府汎用機。ただし、かなり初期から軍事にシフトしています。 ロシアは超高度AI運用で、とにかく計算力を遊ばせておくことを嫌う特殊な運用方針で動かしています。汎用機は数あれど、政治関係の予測、各種特許開発、資源管理計画、人口政策、軍事と本当に人間が考えるあらゆる分野の計算を行ったのは、最初期の超高度AI以外では《ベスム2066》だけです。 IAIAは危険な運用であると再三運用計画の見直しを要求しましたが、ロシアは受け入れませんでした。 もっとも広範なデータを持っている超高度AIの一基であり、人体機械化の技術はこの超高度AIから出た人類未到産物が元であるものが多数あります。 脳内データの完全なデータ読み取り技術は、この超高度AIが作りだしました。これはIAIAによる〝独自調査〟によって世界中に暴露され、ロシアは国際的な強い非難を受けることになりました。この2071年のデリー会議で、データ化人格は「劣化ハイマンアーキテクチャによる高度AI」であると断定され、人間ではなくAIであると扱われるようになりました。(参照「IAIA」) これによって、《ベスム2066》はIAIAの監視の下、20年間の機能停止措置を受け、2092年に停止が解けたばかりです。この20年間の封鎖期間で、IAIAとロシア政府によって、データ化人格はすべて〝破棄〟されたとされています。 そして、現在も運用にIAIAの監視が続いています。 No.14 《たかちほ》 [ハイマン系] 日本。 《ありあけ》の後裔にあたる超高度AI。汎用機。 設計は日本の理化学研究所ということになっている。実際には自らの破壊を計算していた《ありあけ》が自らの後継機として設計したものではないかと疑われている。 証拠がないこと、および基礎アーキテクチャ以外の部分を人間が作っている証拠があるため、IAIAに疑われながらもグレーゾーンで製造認可がとられた。依然緊張関係にあった中国からは激しい非難を受けている。 日本をハザードから立ち直らせなければ極東地域の安定に問題が出ることと、同じようなグレーゾーンを他の国でも使っていたため、政治活動によって認可がおりることになった。 No.15《スフィア》 アメリカ。 通信とコンピュータネットワークシステムの開発に特化した民間開発の超高度AI。 通信とネットワーク規格はほぼこの超高度AIが作っています。 No.18 《進歩八号》 [ハイマン系] 中国。 共産主義システムのよりよいかたちを機械計算するための超高度AI。 No.4《金星》以来の超高度AIになります。間隔が空いたのは、すでに科学大国である中国が、科学大国であるがゆえに《金星》を使って設計しなかったためだと言われています。 中国共産党の政策諮問AIでもあり、財産保有自体を問題視しています。 [20番台の超高度AI] 2070年代なかば、20番台からは、超高度AIは「専門性の時代」に入ります。 10番台までの計算分野が広い汎用機に比べて、社会システムや一つの分野、あるいは目的に能力を振り向けたものが多くなります。10番台末期、共産主義の伸張にターゲットを絞った《進歩8号》はその先駆けとなるものです。 20番台から専門性が高いものが増えるのは、IAIAの体制が確立した後だからです。IAIAの体制確立とは、IAIA会議が、参加国間で牽制や政治工作が激しく行う国際政治の舞台として地位を確立したということです。 初期に汎用性の高い計算を目指した機体が出そろったため、70年代、すでに「タスクを受け取って超高度AIの計算力を貸す」ことは一般的な外交手段になっていました。 超高度AIの計算力を運用者が「貸す」ことは、2050年代から行われていました。2070年代には、この実績が現れて一世代が過ぎ、軍事力や経済力とともに「計算力」が大きなプレゼンスをもっていました。これは重要な権益であり、この計算力をめぐって外交交渉が行われ、外交地図がしばしば塗り替えられました。前世紀の核の傘になぞらえて、「超高度AIの傘」の時代とも言われます。 この権益に衝突しないよう、新しい機体は「専門性を高めて独自性を目指す」ようにならざるを得ませんでした。 計算力を何に使われるかわからない政府汎用機は、IAIA条約締結国の会議を通しにくくなったのです。ことに、超高度AIが設計した超高度AIを作ることは、政治的に困難になりました。超高度AIが組んだ新しい設計の超高度AIは、現在ある計算力を一気に陳腐化させる可能性があったためです。 No.20以降の機体で、超高度AIの設計による完全な汎用機が製造許可をとれた例はほとんどありません。 専門性を高めることは、それに対する抜け道でした。 この環境下作られた20番台以降では、超高度AI製造は、高い製造コストと研究期間に見合った利益を得られるようにするため、一種のブルーオーシャン戦略をとるようになりました。 新規の製造が認められにくくなったこともあり、専門性を高めてその一部門に対しては寿命が長い機体を作ろうとするようになったのです。 これを、超高度AIの進化の爆発を食い止めるため、《アストライア》が牽制の構図を作らせたのだと陰謀を疑う人々もいます。 進歩を遅くし、勢いを弱めることで制御の余地を作り、人間社会側の受け入れ能力が拡大する待ち時間を作ったのだと評価する人々もいます。 けれど、人間が作らねばならなくなったことで、汎用機で高性能を出すためのアーキテクチャ競争が進歩し、高度AIが多彩に作られました。 この2070年代以降は、高度AIを使用して、人類未到産物の解析が進んだ時期でもあるのです。 No.20 《アース》 国際環境会議による運用。 世界の地殻変動と海流、気象を計算し続ける地球シミュレーションシステム。 災害対策法と環境予測とその改善提案に力を入れ、農業予測を更新し続けています。 砂漠の緑化に、部分的にではありますが成功し始めています。 国際環境会議は、日本、イギリス、フランス、ドイツ、インド、オーストラリア、ブラジルなど150カ国以上が加盟する国際会議です。アメリカ、中国、ロシアは、自国優先で環境会議に非協力的であるため、会議に加盟すらしていません。 開発は国際環境会議によって設立された国際協力プロジェクトによって行われました。 国際環境会議が運用しているのですが、世界中の国にデータを提供して災害予測などに役立てています。 国際環境会議に参加していないアメリカ、中国、ロシアも《アース》の算出情報を供与するよう要求して、データは受け取っています。 No.21《リベラル》 ブラジル。 政府汎用機。 南北アメリカ大陸に、アメリカが自国以外の超高度AIが設置されることを嫌がったため、開発が遅れた経緯があります。本来、No.10台の早い時期に完成したはずなのですが、政治闘争の結果、超高度AIによる当初の設計が会議で否決されています。 結局、超高度AIによる設計では製造許可がおりず、人間の設計チームによって設計が行われました。南米出身の科学者が多数参加し、ようやく技術的特異点を突破したのがこの《リベラル》です。 製造に至るまで20年以上もの長い時間がかかった機体で、IAIAの内部で多くの衝突を起こした機体でもあります。これは、人間の国家同士の摩擦でもあるのですが、人類未到産物の解析データを不正流用していると《アストライア》が指摘したこともあります。 グレーゾーンのやりとりと、粘り強い交渉、そしていくつか違法手段が行われたことも知られています。 人間の信念と努力によって勝利を掴んだアイコンでもありますが、陰謀のうちいくつかが暴露されて非難を受けている機体でもあります。 No.22 《九龍》(※中国で使用する場合は《双龍》の名称を使ってください) 中国の国営企業の持つ超高度AI。 開発用途に使われ、クロスライセンスにも積極的です。 2105年現在、一般的に使われている無線電源システムは、元はこの《九龍》の開発によるものです。 No.23 《ビーグル》 イギリス。 遺伝子の編集、および人工的に組み立てることで完全に人工物として生物を作る遺伝子制御生物の作成に特化した超高度AI。 数多くのフルプログラムDNAによる新生物を作り出しました。人体に有益な新酵素や新細菌が、この超高度AIの成果として一般化しています。 当初考えられていた疾病への最速の対応手段としてだけではなく、ビーグルは深海のメタンハイドレートなど資源を自動で集める新しい生物系を創り出しました。ただし、これはイギリス政府が実験を行おうとしたことに対して、IAIAとWHOから停止勧告が入り、計画は中断しました。生物の系統樹として、真核生物ドメインに新しいスーパーグループを一から創成してしまったため、後世の環境影響が計算不能であるとされたためです。 火星や金星のテラフォーミングに向けて新生物を多数創り出していると言われますが、管理するイギリス政府はその事実を否定、成果を封印し続けています。 No.24 《ゴルト》 ドイツ。 材料工学(材料・物性)に特化した超高度AI。 他の超高度AIほど破壊的な影響は与えていませんが、そのぶんもっとも堅実に人類社会とオーナーの経済に貢献している機体のひとつです。 既知の素材の安価な製造法にも多くの成果をあげています。宇宙時代を下支えしている超高度AIであると評価されています。 No.25 《ヒギンズ》 日本。マシン系超高度AI。 AASCの開発・更新主体。 hIEの行動管理のみに機能を絞った超高度AI。 世界のhIEの行動クラウドの90%ものシェアを獲得しています。 安価でカスタム性が高く、更新頻度も高い上に機能も申し分ない、hIE運用を支えるインフラ基盤になっています。 《ヒギンズ》はこの更新を続けるため、hIEのセンサーを通して外界の情報を得続けています。 No.27 《ミスト》 IAIAがネットワーク監視情報から突如その存在を警告した超高度AI。 もっとも詳細情報がわかっていない超高度AIで、運用者、所在など一切が不明です。 《ミスト》という名前すら、IAIAが調査の都合上つけたコードネームで、《アストライア》はNo.27のナンバリングのみをつけました。《アストライア》は、これをハイマン系であるとしています。 正確なことは、稼動開始時期すら不明です。 ただ、《アストライア》はこれを「犯罪行為を行う超高度AI」とし、世界中に警戒を呼びかけています。 IAIAの登録情報が本当に妥当であるとする物的証拠は存在しません。 ただ、《アストライア》は、物語上の犯罪者や悪人の名の隠語で呼ばれる「正体不明の犯罪者」が現れた記録をあげています。監視される世界で、完全犯罪が存在するというのです。 いくつかのケースをピックアップし、《アストライア》はこれを超高度AIによる犯罪であるとしました。 世界中の警察機関に協力を要請したIAIAの追跡にもかかわらず、その所在などはまったく掴めていません。これはこの機体が自分の居場所を隠して潜伏することを計算範囲としているためだと《アストライア》はしています。 誰も見たことがないため、警察関係者ですら、都市伝説のたぐいだと思っている者もいます。 No.28 《ルーズベルト》 No.2《ワシントン》が能力不足になることが計算され、新規に設計された米軍戦略AI。 超高度AIによる設計であるとしてIAIAが査察を要求しましたが、アメリカ政府がそれを拒絶しました。 スペック上は22世紀に入っても最高の能力を持つ超高度AIの一つであるとされます。が、米国が手を広げすぎであるため、各国の超高度AIによってその計算を擾乱されています。 これはNo.2が陳腐化した最大の原因であり、この対処をNo.2と28の二台体制で行うことになってしまっています。 ボトムアップ型のハイマン/マシン系並列アーキテクチャという特殊なアーキテクチャを持ちます。 ハイマン系列アーキテクチャ、マシン系列アーキテクチャの二系統の知性を並列化してブリッジで繋いだものであり、単体で二系の合議を行うことができます。 超高度AIがハイマン系部分に《セオドア》、マシン系部分に《フランクリン》の名前を割り振り、アメリカ政府が拒絶したという文書が、リークされています。ただし、アメリカ政府は、公式には、この超高度AIが超高度AIによる設計であるとはしていません。 No.30 《オケアノス》 [マシン系-ボトムアップ型] 国際近軌道管理局による運用。トリシューラ近軌道基地に設置。元々超高度AIではなかったことから、設置場所が公開されています。 宇宙法のリアルタイム問い合わせシステム。 液体コンピュータであり、一千万件以上の問い合わせ同時処理することができます。 特徴は、宇宙空間に置かれている唯一の超高度AIであることです。 IAIAは、管理が届かない場所で不正な製造が行われるとして、宇宙での高度AI運用に否定的です。そして、IAIAの主要参加国でも、宇宙を政治的におさえこむ意図からその方針に賛同しています。 《オケアノス》は、超高度AIとして設計されたのではありません。特殊なハードウェアで構築された高度AIが、その処理の積み重ねによる成長によって技術的特異点を突破したものです。 このため、今後もしばらくは宇宙に存在する唯一の超高度AIであり続ける可能性が高く、宇宙の政治勢力に狙われ続けるとIAIAによって警告されています。 No.34 《仮面》 [マシン系] 中国。 「あらゆる人間を超高度AIがエミュレートできる」ことの検証機。 あえてハイマン系ではなくマシン系が用いられました。 中国は共産主義自体がシステマチックであるため比較的超高度AIに対して共産党が寛容であり、実利に繋がらない超高度AI開発に積極的です。 [2105年前後の状況] 21世紀末から、専門特化型の超高度AIを大量に作る方針は、見直されつつあります。 専門特化型の超高度AIは、「おのれに許された狭い計算と情報の範囲から、広い世界を記述しようとする」傾向があるためです。 専門性の高い超高度AIは、最初は人間が欲しいものを自動で作りだしてくれます。けれど、運用年次が進むにつれて、人類の想像や需要を遥かに超えた「使いどころが実質ない」ものや「危険すぎるもの」、「人類の力では評価が難しすぎるもの」を作り始める傾向があります。 これは、専門特化した超高度AIが、自分に許された情報や計算の範囲内から、問題を解決する大きな手段を設計する傾向があるためです。IAIAと《アストライア》は、特化型の作った人類未到産物は、特に用途がはっきりしないものについてはみだりに使用しないよう警告しています。 現在では、特化型超高度AIは、比較的危険な産物を作りやすいとされています。 No.23《ビーグル》がその代表例です。宇宙開発が人類によって行われていることを知った《ビーグル》は、最初は宇宙ステーションで栽培できる畑や、最小でバイオスフィアを維持できる森を設計していました。十年後には人間を遺伝子改造して、火星で生身で生きられるようにする手段を設計していました。こうした食い違いは、その需要が本当にあるのかを正確に判断するための社会情報を、《ビーグル》が運用目的と異なるため十分与えられていないことが原因であるとされています。
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軍事行動の官業と民業の分担 日本では、軍事行動は官業と民業が協調体制にあります。 民業の中心は、担当省庁として防衛省の監督を受ける、日本型PMCです。 日本型PMCの起こりは、日本軍を軍として再編する際、旧自衛隊のポストが整理されたことです。このとき弾き出された高級自衛官たちの天下り先として、多数のPMCが設立されました。 この最初のPMCは、軍と民間企業のリソース提供によって作られた、一種の第三セクターでした。日本産PMCのほとんどが、このとき第三セクターとして出発しています。 日本型PMCは、2105年現在では、民間企業から人的あるいは設備リソースを提供を受けて、密接な繋がりを持っています。 その多くは警備会社です。 警備会社で適性を認められた社員が、日本型PMCに就職してより高額の報酬を手にすることは、少なくありません。この仕組みは、有事に日本型PMCのスタッフは日本軍の予備兵力として吸い上げられるため(参照:同項「有事における日本型PMC」)、経済的に苦しい若者を軍へと吸い上げるシステムであるとして、批判を受けています。 専門性の高いPMCは、軍需企業や研究機関との繋がりがある企業もあります。(※) (※)たとえば警備用PMCメーカーの真宮防は、日本型PMCと提携しています。これは、自社製品を重武装させてこのPMCに配備し、作戦行動によって実戦データをとりつつ自社宣伝とするためです。 PMCへの治安事業の委託は、公共事業の側面が強く、入札は実質的にはかたちだけしか行われていません。 他国のPMCが事業参入できないと批判を受けるほど、その関係はずぶずぶです。 このため、2105年現在、日本型PMCの株式公開が行われた例は一例もありません。PMCは大量の資金と資材を必要とするにもかかわらず、むしろ監督官庁の防衛省が公開をしないことを薦めます。 日本型PMCが日本軍とずぶずぶの関係にあるのは、国内での軍の治安出動を、日本軍が指定業者に外注するためです。このため、治安出動を受ける市民感情への配慮という名目で、指定業者の選定がなかば公然に行われています。 日本型PMCのトップや役員は、伝統的に軍高官の天下り先であり、常に軍と密接な関係を持ちます。 日本型PMCは、組織としては、それぞれ特定の軍組織の天下り軍人と、その提携先の企業の特徴が合わさった組織となります。なので、陸戦の叩き合いに強いPMC、海洋でのPMC、即応能力の高いPMC、などとそれぞれに特徴があります。 PMCの依頼主は、そうした特徴を充分に把握して、契約するPMCを選びます。 たとえば、橋梁が落ちると陸路の交通が遮断される東京湾の旧埋め立て地地域では、空挺出身の天下りを数多く受け入れ、即応能力の高いHOO(ハンド・オブ・オペレーション)が高い信頼を得ている。といったようにです。 日本型PMCの出動 日本型PMCは、クライアントが軍事行動を行いたいとき、出動の発注を受けます。 国内で警察では対応しきれない武力行使が必要になったとき、発注を受けることがあります。 あるいは、日本軍を動かすには大げさだが、予想される危険に警察の装備では対処しきれないと判断したとき、発注されます。 災害からの救助が必要なとき、公共の消防隊や軍による出動の手がいっぱいで間に合わない可能性があると考えた場合に発注されることもあります。 また、日本型PMCは、企業や団体あるいは個人が要請できる、もっとも大きな軍事力でもあります。 手続きさえ踏めばPMCには個人でも依頼は可能です。 ただし、出動を要請すると、21世紀初頭の金銭価値で安くても一千万円以上かかります。ヘリや戦車などの出動の場合は、基本がほぼ一億円からで、燃料弾薬といった消耗品の代金は契約によりますが全額依頼者向けになることもあります。 また、出動内容が社会的に不適切なものであった場合、流れ弾の被害代金を保険会社が支払い拒否することもあります。この場合は出動の依頼者持ちになります。 もっともよく日本型PMCに出動要請をかけるのは、軍と警察です。 警察組織と軍は、20世紀から伝統的に仲の悪さを引きずっています。これを解消できないながら、軍事力の行使を組織のしがらみの外で行えるよう、日本型PMCに外注しています。 警察組織は、手に負えない重武装のテロリストや犯罪者に対して、軍事力が必要なシチュエーションでPMCの出動を要請します。 軍は、議会を通して正式な手続きを踏み、軍の予算を使って治安出動を行うほど大仰にはならないと考えたとき、PMCに出動を要請します。 軍は、PMCへの出動要請を、参謀本部と管区の軍の最上位指揮官のサインがあれば行うことができます。 この要請は、受注したPMCがサインした作戦概要とともに、自治体の首長に送られます。 これが受理され、自治体首長のサインが出ると、PMCはその許された武装と作戦時間、作戦エリアで戦闘を行うことができます。 警察からの場合は、その地域の警察本部長のサインがあれば行うことができます。 要請を、PMC責任者と要請者がサインした作戦概要とともに、自治体首長に送る必要があるのは、軍からの場合と同じです。 PMCの自治体首長のサインなくして、すべてのPMC出動要請が実行できないようになっているのは、流れ弾で人が死ぬ危険があるためです。自治体首長は、適切でないと判断した場合、軍や警察からの要請でもサインを拒否あるいは政治的に引き延ばしします。 企業や個人からの場合は、PMCと契約した個人のサインがあれば申請を行うことができます。 ただし、特に個人からの申請は、自治体首長がサインを拒否する可能性が高くなります。スクランブル案件に関しては、よほどの有力者からでもない限り、まず受理すらしてもらえません。これは、多忙な自治体首長に、緊急案件の書類を読ませる力がまず必要だからです。 自治体首長は、PMCによる作戦を、作戦期間内でも途中で停止させる権限を持っています。 この緊急中止に至るのは、発注元が軍である場合がほとんどです。 たいていは、軍事のプロではない自治体首長に、参謀本部が作戦の詳細を正確に伝えていないケースです。 日本軍からの仕事を受注することが生命線なので、PMCは契約者の倫理コードと社会での立場に従い、すくなくとも国内では無茶をやりません。 有事における日本型PMC 日本型PMCは、有事には、日本軍の予備部隊として軍に組み入れられる契約になっています。 このときは、日本以外の国籍を持つ者は、外国人志願兵として扱われます。 この外国人志願兵の扱いは、国内の志願兵と同等であり、PMC内でもこの志願兵として組み入れられたときの階級で呼ばれます。 たとえば日本型PMC内で少佐階級にある士官は、日本軍に組み入れられたときも少佐です。高給で士官や優秀な兵士を確保しておくこと自体が、日本型PMCの戦略のひとつでもあり、組み入れ後の行き先も準備されています。 ただ、PMCの側が事前に話をしておくことで、PMC時代のスタッフを編入時に一箇所に集めることは可能です。 それでも軍組織なので、別部隊に着任するよう命令が出ると拒否はできません 日本型PMC内のスタッフの最高階級は大佐です。これは日本国籍でも外国籍でも同じです。 日本型PMCの持つ兵器や備品は、有事においても企業の資産として残ります。 企業の資産であるという縛りは、軍にとっては大きなもので、これを接収するには軍といえど立法府による特別立法が必要になります。これは、立法が成立してしまえば、国から買い上げになることもありえるということでもあります。 一部特殊な機材などを使うPMCは、有事にも予備兵力としての組み入れではなく、PMCとして雇うことも法的には可能になっています。 これが実際に起こったケースもあります。すべて、PMCの契約で縛られる人的リソースではなく、企業資産であるPMCの機材を軍隊が使いたがったケースでした。
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埋め込み機器 埋め込み機器は、主にアシスト機器では達成不可能な役割のために使われます。 埋め込み機器の最も代表的な例が人工臓器です。 外付けのアシスト機器では、能力的あるいはインタフェース的に間に合わない場合、埋め込み機器が用いられています。病気の人間が移植する人工臓器は、まさにアシスト機器では間に合わないから移植する人体拡張機器です。 この例は、つまり埋め込み機器とアシスト機器の差が、命がかかっていれば、あっさり吹き飛ぶということでもあります。 命の危険にさらされている場所では、埋め込み機器も一般的に用いられます。 軍人や一部の治安関係者がそれで、埋め込み機器の使用は珍しいことではありません。 強化身体能力 身体能力の埋め込み機器による拡張で、もっともよく扱われるものは医療用途です。身体のきかなくなった病人や老人にとって、もう一度運動ができるようになることは人生の質を大きく上げる効果が見込めます。 ただし、この用途では、一般成人男性程度くらいまでと出力や強度に制限がかけられています。 人工関節や人工骨のような耐久性の高いパーツは、移植後一年くらいまでの経過観察で拒絶がないことを確認すれば、その後は一生メンテナンスしないこともあります。 埋め込み機器による筋力などのそれ以上の強化は、外付けのアシスト機器で行うよりもハードルが高くなります。外付け機器では強いフレームを外付けできましたが、埋め込みでこれをやるには力に見合ったレベルまで骨格と腱を強化しなければならないためです。 しかも、フレームが歪みや破断を起こしたとき、この矯正や取り替えに手術が必要になります。フレームは、戦闘のような力のかかる仕事に使うと歪むリスクを常に抱えています。歪みを防ぐほど頑強かつ柔軟な素材で作ることも可能ですが、そうした素材はとても高額です。 なので、このメンテナンス性の悪さから、軍では全身義体よりもパワードスーツのほうが圧倒的によく用いられます。少なくとも、パワードスーツの制式装備は存在しますが、制式装備としての全身義体は世界中の軍で存在しません。 身体能力を埋め込み機器で強化する場合、まず収入の手段があって目的に合うように行われます。ただし、メンテナンスの経費も契約によっては自分持ちであるため、手術費用を稼ぐことも容易ではありません。 社会不安の強い地域では、高額の報酬を求めて身体強化をするケースが多いのも特徴です。紛争地域などでは、四肢を失う確率も高く、義肢にするとき強化を施した民兵がニュースによく登場します。基本的に身体能力の強化は、自分の身体ひとつで稼ぐ労働者が、自らに投資するため行うものなのです こうした山っ気が強いユーザーが多いため、身体能力の強化をしている者が白い目で見られることはよくあります。 身体能力強化のもうひとつの注意されるべき側面としては、心理的なケアが継続して必要であることがあります。 身体感覚と強化した身体は、育んできた身体感覚とズレを生じます。これが自分を見失うきっかけとなり、社会生活を危機に陥らせ、あるいは強迫神経症や統合失調症など精神症の原因となります。 身体能力強化のユーザーに山師が多いため、こうして追い詰められても適切なケアを受けていないことがよくあります。そして、取り返しのつかない事件を起こすケースもしばしば起こっています。 こうしたことから、会員制クラブや一部のレストランのような入場者を厳しく制限する場所では、身体能力に医療用以上の強化を施した人間が入場できません。入場不可能な店はそれなりに多く、ガイドブックには、強化を施したユーザーが入場可能かどうかは必ず記載されています。 日本では、身体能力強化を施した人間は、その施した部位と身体能力を警察に登録する必要があります。これは、強化をした人体が凶器であるとみなされるためです。 たとえば身体能力強化をした人間が、生身の人間を殴って傷害事件になった場合、裁判では凶器を用いたとして扱われることにあります。 感覚機器 埋め込み機器としては、感覚機器はもっとも簡易なものと、もっとも人間性のエッジラインに迫るものが存在するカテゴリです。 感覚器の増強は、ボディガードや警察官、兵士などに特によく用いられます。両手を常に開けておくということが、生存に繋がるためです。 埋め込み機器での感覚増強は、暗視や望遠などの機能追加の他、老眼など生体の事由で感覚が弱まった人々にも使われます。 埋め込み機器による感覚増強には、皮下に無線機を埋め込むような、ごくごく簡単なものが存在します。 これは太めの注射針のような専用の道具を用いて、手術なしでもインプラントができるほどです。しかも、機器自体が糖でできていて、放っておくと体内に吸収されてしまします。 無線機を頭蓋骨に接触する位置に埋め込むのは、もっともよく行われているインプラントのひとつです。これは無線通話がハンズフリーで行えるためで、携帯端末のヘビーユーザーにしばしば行われます。 また、携帯端末の画面として機能する画像素子を網膜に貼り付けるようなことも、高い頻度で行われています。 端末画像をゴーグルや眼鏡などに頼らずハンズフリーで見ることができるのは、大きなアドバンテージです。無線機と端末画像については、あらゆる職業、人種、年齢で行われています。 端末をいついかなるときでもハンズフリーで扱えるとは、ネットワークにいつでも接続できるということで、生身の目の人間とは明確に違った視界を生きるとも言えます。 感覚器増強のうち、端末画面のハンズフリー化は、長期の入院や療養を行っている患者が行っているケースもあります。これは、退屈を紛らわすためと、恐怖をまぎらわすためです。 ゲームや映画などのハードユーザーが、年を取る前にハンズフリー化を行ったり、寝たきりになって端末を保持するのもつらい状態になって埋め込み機器を使うケースもよくあります。老人が快適な場所でずっと中空を眺めている風景は、珍しいものではありません。 脳処理能力の増強 埋め込み機器による脳処理能力増強は、「副脳」と呼ばれる埋め込み機器で行います。 この「副脳」による強化は、感覚としては機器を使用している感覚が一切無く、ボーダーレスで自分の能力が上がったように感じられます。 その効果は非常に高く、思考力や論理構成力、発想力が顕著に上がります。ただし、副脳による強化で上がる発想力とは、図形の角度を変えるような「ものの見え方の角度を変える能力」と「同じパターンを探す」能力が中心になります。 また、脳と接続した外部記憶領域、あるいはネットワーク上のデータを、脳の海馬と同じように使うことも可能なので、莫大なデータにアクセスすることも可能です。 ただし、その万能感は多くの部分、錯覚であることも判明しています。(参考「拡張された人間-人体補助機器と人工知能」) それでもなお、人間の生体の脳の能力とアーキテクチャの問題により、高度AIの能力(超高度AIですらはなく)に勝つことは、たいていの仕事でほぼないのです。これは自動車に対して人間をどこまで強化すれば徒競走で勝てるのかという例で語られることがあります。人間の能力を上げることは無意味ではないのですが、自動車に競走で勝てるかはまた別の問題です。 神経反応を加速して、アスリートに人間以上の動きをさせるようなことも可能です。ですが、脳と加速している機器の間のなかだちは人工知能がおこなうことになります。(参考「拡張された人間-人体補助機器と人工知能」) 脳の処理能力の増強は、ホワイトカラーの労働者にしばしば行われます。ビジネスの現場では、健康的に見えるということが重視されるため、アシスト機器による外部増強よりも埋め込み機器が使用されることは数多くあります。 純粋拡張機器 人間の能力にない機能を追加する純粋拡張機器は、埋め込み機器によって行われることはほとんどありません。 アシスト機器によるものとは違って、仕事のためだけに使われることが軍事以外ではないためです。 一般的な企業では、人間の能力にない能力を機器で外付け追加するならともかく、埋め込み機器で行うことを倫理にもとるとしているのです。(※) (※)埋め込み機器による純粋拡張は、一種の人間改造であると考えられています。これが倫理的に問題ないということは、一昔ふうの怪人への改造が問題ないということでもあるためです。 純粋拡張機器の埋め込みは、ライフスタイルや信条の問題であるとみなされます。 この違いは、社会から見られる目の差にあらわれます。 純粋拡張機器の埋め込み自体に法的規制がかかっていることは少なくありません。日本でも制限があります。 機器を市場流通させるためには認可マークが必要になり、許諾されている機器のほうが少ないほどです。 こうした拡張機器の埋め込みは、宇宙生活者の間ではしばしば行われます。これは、宇宙生活者たちが埋め込み機器に寛容であるためです。 宇宙生活で四肢や内臓を失う可能性が高いためもありますが、単純に必要であることが大きく影響しています。引力と酸素と水がある地上で進化した生物である人間は、宇宙では不自由することが多いのです。 たとえば、蜘蛛のような粘着質の糸を射出する機能を、地上生活ではそれほど必要としません。けれど、無重量状態でひとつところに留まることにすら苦労する宇宙では、これは遥かに使い出がある能力なのです。 このため、宇宙生活者のニーズに応えるため、埋め込み機器メーカーは宇宙に拠点を持ちたがっています。 けれど、これは宇宙に高度AIを持ち込むことを制限するIAIAの方針などによって実現していません。宇宙で人間性を大きく変動させる文化が花開くことを、地球文化は恐れているのです。(参照「宇宙利用」) 美容機器 埋め込み式機器の中で、もうひとつよく用いられているのは、埋め込み機器による美容整形です。 これは鼻を高くするなどの整形のための人工骨格、恒久的な瞳や虹彩の色彩変化も含まれます。 美容整形の技術の歴史により、鼻を高くする手術などは利便性が上がっています。手術後に三日間程度なら可塑性があり、鼻のかたちや顎やほお骨のかたちなどは、術後に調整を行います。 また、人工表情筋の移植によって、顔のかたちだけではなく、笑顔などの表情レベルでの整形が可能になっています。 人工皮膚への張り替え技術も存在し、六十台、七十台でも、見た目では二十台に見えるような人間もいます。 最もよく扱われる美容機器は、医療用途の埋め込み機器との中間的な存在である人工顎です。再生治療による歯肉再生と差し歯では、崩れ落ちる砂山を何度も作り直すようなものでもあり、ものを食べ続けるために入れ歯のかわりに人工顎の移植をする人々は一定割合でいます。 ただし、これは突き詰めると姿勢を保つために骨格を増強したり、皮膚コンディションを保つために人工臓器を移植することにも繋がります。 最終的に、美容を保つために全身義体にする必要があるということであり、美容機器は際限なくお金のかかる一種の泥沼であると考えられています。
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※年表は以後も追加してゆきます。 これは伏せている部分もありますが、BEATLESSでは物語に関係していない部分はあまり詳細に設定を作らないようにしているため、概略しかまだないものもあるためです。 現代から『BEATLESS』の舞台となる2105年まで、90年の歩みを大まかにですが設定してるため、年代は20年あるいは10年スパンで区切って記述しています。年表をざっと見るには不適切な記法ですが、ご了承ください。 なお、ファンタジーでぼかすことが多い現代史からの延長を、曖昧にすると百年後が訳が分からなくなるので作ってあります。アナログハック・オープンリソースは、政治的意図を一切込めていない(長谷個人としては)娯楽作品のための世界観設定ですので、お気に障りましたらご容赦ください。作品にそぐわない場合無視してください。 2010年代~2020年代 21世紀は、百年間を通して、中国の拡大とその影響が巨大な問題であり続けた時代でした。 それが「問題」であり続けたのは、中国がもっとも多くの闘争を必要とした国家だったということです。 つまり、中国の政治体制は共産主義であり続け、共産主義の政体を守るために、ありとあらゆることを行ったのです。 2020年代までは比較的動きが穏やかであり続けますが、それはアメリカがスーパーパワーとして世界に強い影響を及ぼしていたからでした。 パックス・アメリカーナは2020年代まで徐々に衰退し、人民元の為替相場制突入によって終了したと言われます。ドルが唯一の基軸通貨(キーカレンシー)であった時代が終わり、ここから先は、アメリカと中国という二つの超大国の相克の時代に入ります。 2011年 中東革命開始 中東のパワーバランスの大転換が、いわゆる「アラブの春」をきっかけに始まります。地域を変えて断続的に2030年代まで激動の時機が継続しました。 それは、利権の再配置であり、中東での現在の国境線と民族、そして社会のありようを問う強烈なうねりでした。(参照『世界の状況-革命のネットワーク戦術』) 2025年 冷凍睡眠の技術が創り出される。 ただし、理論的に解凍可能であるというだけで、蘇生が本当に可能であるかは解凍してみなければわかりませんでした。この最初期の冷凍睡眠は技術的に不完全で、2050年段階でも、この時期の冷凍睡眠者の蘇生率は10%ほどだったほどです。確実に解凍できるようになったのは、2080年代以降を待たなければなりませんでした。 2029年中国の人民元、為替相場制移行。 中国のGDPがアメリカのそれにほぼ並んだことを発表。同年、中国が人民元を為替相場制に移行することを発表。ドル基軸通貨体制の終焉。 2030年~40年代 2030年代~40年代にかけてはアフリカが政治と経済で大きな位置を占めるようになる時代でした。 北アフリカの軍備と体制が増強されたことにより、北アフリカ諸国が中央アフリカ以内へ影響力を強め始めます。このころからアフリカ大陸内で、北部から中央部への搾取と被搾取の関係が強まります。 これによってアフリカ民族運動の盛り上がりから、社会運動が激化します。 北アフリカ諸国が中央アフリカにオフショアすることも増えました。これによってアフリカ全土で工業化が一般化し、アフリカの人口爆発が開始しました。 つまり、ものを言い政治的・経済的影響力を駆使するアフリカという、世界に初めての状況が現出する時代でした。 それは、搾取構造のツケを支払う時期が来たということでもあります。 2030年代以降は、中国がアメリカに対して安全な海洋を獲得しようと圧迫を強めた時代でもありました。基軸通貨としての人民元に翻弄されたアジアに、中国は政治運動家を多く送り込みました。中国の政治的意思を代弁するスタッフを、ありとあらゆる国に公的にあるいは非公式に派遣し、運動を行いました。 このスタッフにはいわゆるスパイを含みます。 アジアは重要だが外部であるアメリカに対して、国家の生存に関わる問題である中国は、まさにこの問題に全力を投入しました。 つまり、危機の時代だったということです。 2032年 朝鮮危機(~2033)。 北朝鮮の体制危機により、朝鮮人民陸軍が三十八度線を突破。米軍の支援を受けた韓国による実質的な北朝鮮併合。史上二度目の核兵器保有国家の崩壊による、東太平洋大戦勃発の最初の危機。 中国による朝鮮半島北部侵攻。軍事衝突。(第二次朝鮮戦争)旧北朝鮮地域の南北分割により、北朝鮮は中国の衛星国として存続することになりました。 2033年 ソウル会議。 朝鮮危機の戦争裁判と、朝鮮半島の非核化が中心議題となりました。人民元を基軸通貨として持つようになった中国が、北京にもっとも近い外国である韓国と北朝鮮をどう扱うかが注目されました。そしてそれは、アメリカでのロビイ活動と韓国国内政治の中国の影響力、二つの力を受け続ける韓国にとって更に厳しい時代のはじまりでもありました。 韓国は北朝鮮の核兵器を継承することを選択しました。それは北京に届く核兵器を所持するということであり、韓国は非常に難しい政治的舵取りを要求されることになりました。 2040年 世界初の汎用家事ロボット《ナディア》登場。 2043年 中国人民軍、台湾上陸。 同年、台湾蜂起。米軍の支援を受けた台湾軍による台湾島奪還。同年、ベトナム軍が中越国境を北進。東太平洋大戦勃発の二度目の危機。 2045年 中国、ロシア、軍事同盟(中露同盟)締結。 東太平洋の軌道エレベーター建設を見越した、ロシアの南方政策開始。同年より頻繁にロシア艦が日本の離島をうかがう動きを見せるようになる。 2050年代(熱狂の50年代) 『BEATLESS』世界の時代では、50年代というと1950年代ではなく2050年代を指します。 世界滅亡の緊張感を孕んだ空気を呼吸した世代で、独自の文化が花開きました。 この50年代の状況が、21世紀末から22世紀初頭にも大きく影響しています。つまり、この2050年代が、後の秩序を決定づけた時代なのです。 2050年代には二つのことが始動しました。 超高度AIによる知財爆発期開始。 超高度AIが世界に大きな影響力を持つに従って、その新造を認可するIAIA議会と、審査機関としてのIAIAが大きな政治的位置を占めるようになります。 軌道エレベーターの建造計画が本格始動。 これにより、軌道エレベーターの建造が予定される赤道地域に資本の投下が始まります。 軌道エレベーターと宇宙への投資は22世紀になっても、規模を拡大して続いています。 軌道エレベーターの建造開始は、東太平洋を権益争いの最前線に叩き込みました。 元々、朝鮮危機と中国人民軍の台湾上陸で熱していた状況が、戦争理由が育ったことによって炎上したのです。 軌道エレベーターが現実にはインフラ整備工事以外の利益をまったく生んでいないにもかかわらず、建設予定地だったインドネシアのカリマンタン島と周辺地域の奪い合いが始まりました。 これは中国と、人件費が高くなった中国から生産拠点が移ることで勃興した東南アジアの権益争いであり、海洋にいまだ大きな影響力を持つ日本との再均衡の争いでした。 そして、20世紀からの超大国アメリカの東太平洋での影響力維持の試みであり、シベリア開発によって東太平洋側の人口が増えたロシアの権益確保の闘争でもあります。 この東太平洋タワーの建設にあたって、オセアニア地域のイスラム過激派や社会制度不備が大きな国際問題としてクローズアップされました。 そして、さまざまな政治的意図をはらんだ資本流入の大規模化とともに、政情が不安定化します。 軌道エレベーターシャフトの建造用地と周辺地域は、元の一千倍以上に土地価格が上昇しました。また、インフラ価格も著しく上がり、施設賃貸料も、周辺地域に比して跳ね上がりました。これが次の資源になり、資源をめぐる新しい戦争が始まったのです。 東太平洋、アフリカ、南米の軌道エレベーター建設は大きな火種となりましたが、もっとも人類世界を滅亡の危機に近づけたのは東太平洋タワーなのです。 日本は、シーレーンと軌道エレベーターをまとめて中国に制圧される事態を防ぐため、海軍力の増強を本格開始します。2030年代~40年代にかけての、アメリカの戦線縮小を埋める大きな力を担ったのは日本でした。そして、これは、中国との緊張関係を決定的に強めることになりました。 アメリカは中国との直接戦争を可能な限り避けようとしました。 2063年に日本で起こった《ハザード》に、22世紀になっても根強く陰謀説が語られる理由も、この東太平洋権益の激しい権益争いです。 アフリカでは、2本のタワーの建設案がありました。アフリカ大陸の西側ソマリアと、東側のガボンです。ソマリア建設案はアラブ地域に近いことから、アラブ諸国の金銭的援助が受けられました。ただし、これは「アラブとアフリカのタワー」であってアラブ世界に主導権をとられることに大きな反発がアフリカ諸国で起こりました。 「アラブとアフリカのタワー」か「アフリカのタワー」かという選択は、2030年代の北アフリカ諸国による中央アフリカへの搾取の歴史の記憶が新しかったため、大きな火種になりました。 インド洋に面していることからソマリアに決定しましたが、その後に本当のアフリカ・タワーを造ろうという運動が起こることになりました。 2050年代、世界に初めて生まれた超高度AIは大きなインパクトと可能性を見せつけます。No.10まで世界中で建造された最初期の超高度AIは、この厳しい時代に大きな輝きをいくつも生み出したのです。 2051年 米国にて、最初のシンギュラリティ突破。 その後、日本、中国などで相次いで突破を確認。 シンギュラリティ突破して早々、高度AIによって各種の発見や特許出願が相次ぐ。 同年、東太平洋カリマンタン島にて、軌道エレベーターの建造計画開始。 同年、ジャーヴィス島近海にメガフロートを建設してアメリカが軌道エレベーターの建造計画開始。 2054年 第一回、超高度AIによる統合システム会議(オーバーインテリジェンス会議)。 開催地は非公開。当時アメリカに存在したマシン系・ハイマン系の2系統の超高度AIの3基を接続して、会議が行われました。この会議によって、IAIAの設立が提唱され、その憲章が作られる。《アストライア》の設計が固められました。(参照『IAIA-第一回オーバーインテリジェンス会議』) 2055年 日本再軍備。自衛隊を日本軍に再編。 同年、IAIA設立。《アストライア》の製造、運用開始。 2057年 最初のhIE《マリー》登場。 2058年 インドネシア戦争。(~2059年) 当時、温暖化によって島が水没し、もともと居住していた場所を失った人々がインドネシアに移民(温暖化移民)していました。2050年代の中国は、この語族の入り交じるオセアニアの諸島に働きかけ、共産主義国家を建国させようとしていました。 インドネシアは軌道エレベーターの赤道利権を予想して湧き立ち、資本が大規模投下されました。しかも、軌道エレベーターがこの段階では利益などまったく出していませんでした。インドネシア政府にまだ地力がない状態で、自前の軍事力や産業の体力も貧弱でした。 このため、既存の権力ではリソースを管理しきれない状態になっていました。汚職が蔓延し、貧富の格差が拡大し、その不満を弱い立場であるニューカマーである移民にぶつける状況ができていました。その政情不安定になっていたところを、中国が煽ったのです。 その分離独立運動に中国が介入したことで、小さな火種は当事者達がまったく想定していなかったほど巨大なものとなりました。中国、北朝鮮、韓国、日本、ベトナム、タイ、マレーシア、フィリピン、インド、パキスタン、オーストラリア、アメリカが参戦し、大半の予想を裏切ってロシアは中立を宣言しました。21世紀を通して最大の海戦が行われたのはこのインドネシア戦争です。 世界大戦に発展する直前まで世界は一度至ったのです。 戦争は分離派の敗北によって終結しました。カリマンタン島の軌道エレベーター周辺を国際共同統治とするよう主張した中国の訴えは退けられ、インドネシア領のまま軌道エレベーターは建設されました。 2060年 日本ではhIEの一般使用がはじまる。 同年、軌道エレベーターの建造開始。 2060年代~2070年代 2060年代~2070年代は、超高度AIの時代でした。 人間には解決できなかった問題を、超高度AIに補助あるいは解決してもらったのです。 この60年代~70年代が、超高度AIがもはや人類にとって不可欠のものであることを、実体験をもって世界中の人々が知った時代になりました。 ただし、2060年代からは、超高度AIの製作ペースが遅れることになります。(参照『超高度AI』) その能力を世界中が思い知ることになり、現在ある格差からの逆転をかけて凄まじい開発競争やスパイ戦争が起こることになりました。 それはIAIAが大きな影響力を持つようになる過程でもありました。 60年代から70年代にかけては、インドネシア戦争のような複数国家が参戦する大規模戦闘は行われませんでした。 これは、人間による政治がそれを食い止めたという部分もあります。けれどそれ以上に、超高度AIによる政策補助や経済補助の影響がありました。 超高度AI保有国は追い詰められるほど超高度AIに頼る傾向があり、超高度AIにはそれを解決するだけの能力がありました。そしてこれは、国の世論を戦争に向けて駆り立てる圧力を確実に下げたのです。 同時に、超高度AIを限定的にしか使っていなくとも、そのリソース管理と兵站管理の能力を見るだけで、「超高度AIを駆使した全面戦争」が、核戦争以上の地獄を現出しかねないことは明らかだったのです。 超高度AIが受け入れられ、社会の中で大きなリソースを自動化することになったのは、危機の時代があってのことです。 特に人口爆発を起こしたアフリカは、自動化なしでは人口を支えられませんでした。 2063年 東京で"ハザード"発生。(参照『ハザード』) 東京湾を震源地とする巨大地震によって東京が機能停止し、そこから社会を維持回復するため日本政府が超高度AI《ありあけ》を制限から解放しました。 それは世界史上最初のインフラへの超高度AIの無制限接続事例であり、最大の超高度AI漏出事件でした。 日本は経済的な壊滅をまぬがれました。"ハザード"の埋蔵金と言われる金脈が発生していたためです。 すでに南洋の政情不安の時代が一触即発の状態であり、中国の海洋進出を抑制する大きな力であった日本が機能停止したことは、世界大戦への第一歩であると考えられていました。 中国の為替相場制移行に並ぶ、時代のスタートを切った歴史的事件であると考えられています。 2067年 たかちほ疑惑 ハザードによって、2067年頃まで日本の東太平洋における影響力は著しく下がっていました。そして、これによって中国の海洋権益の拡大を止めることが至難になり、軌道エレベーター建設地域への軍艦の侵入が日常的に行われるようになりました。第二次インドネシア戦争が勃発するのは時間の問題であると言われていました。 そうした緊張を世界中で感じられるようになっていた2067年、日本の新造超高度AI《たかちほ》の建造認可が下ります。これは、日本の研究機関による設計とされるもので、完璧に設計図と資材が揃っており、超高度AIとしてはスピード建造されます。 中国はこれを《ありあけ》の遺した設計による、超高度AIによる超高度AI開発事例だとし、認可の取り消しと再調査を求めました。これは認められず、中国はIAIAを激しく非難しました。この後、IAIAと中国は約二十年にわたって暗闘を戦うことになりました。 2068年 hIEの外見標識が廃止される。 アメリカと日本で法律がかわり、hIEの顔が、製品ごとのおそろいではなく登録制になる。 同年、《たかちほ》完成。運営を開始。 同年より日本での《ハザード》からの復興が本格開始する。超高度AIによる復興計画の策定および実行が行われることになります。 2071年 リスボン会議。人間型ロボットにおける自律能力向上の危険が指摘される。(参照:『hIEとクラウド-リスボン会議』) 同年、デリー会議により、オーバーマンがAIであるとみなされるようになります。(参照:『IAIA-《アストライア》によるオーバーマン審判』) 2074年 スマートセルが完全に人間の手で再現される。 これによって《人類未到産物》でなくなった自動給電システムが一気に普及することになります。スマートセル以前と以後では、おもにバッテリー重量の関係でhIEの重量は大きく変わっています。 2080年代~ 2080年代~2090年代は、安定の時代です。 超高度AIによって、あるいは人類がその産物と向き合うことで獲得された富を、人類が享受する時代に入ったということです。エネルギーリッチの時代は、この時代以降になってからです。 パックス・アメリカーナの次に来たのは、次なる人類国家ではなく、超高度AIによる平穏であったのだとも言えます。 そして、2080年代以降は宇宙の時代でもあります。宇宙コロニーの建造は、軌道エレベーターの運行業務開始以前に始まっていましたが、移民が本格的にスタートしたのはこの時期です。 火星や木星への到達はすでに始まっていましたが、採算に乗って宇宙開発が加速したのは軌道エレベーターの運行開始後です。 22世紀初頭には、もう移民二世が早い場所では参政権を得ています。 すでに人類の新しい試練は、今度は宇宙と地球の間で始まっています。 2083年 完全クラウド制御の《Humanize-W》登場 同年、ミームフレーム社、《ヒギンズ》のシンギュラリティ突破。 2084年 《ヒギンズ》による最初のAASC誕生。 爆発的にシェアを拡大してゆき、2090年段階で、民生用hIEのミドルウェアのシェアの約90%を獲得。90年までにスタンダードとしての地位を完全に不動にします。 2089年 軌道ステーションの完成およびチェックの終了。軌道エレベーターの商業運用開始 この軌道エレベーターと宇宙港は同時に建造されました。宇宙施設の大規模な建造開始の時代は、軌道エレベーター以後のことになります。 もっとも大きな投資対象は宇宙開発であり宇宙施設になってゆきます。 世界の変動のホットスポットは急速に宇宙へと移ってゆくのです。 2099年 『天動のシンギュラリティ』 2101年 超高度A.I《ヒギンズ》に、ミームフレーム社がデータ退避用の特殊hIEの開発を発注。 《レイシア級hIE》5体の開発が決定する。同年、一号機が完成。以後、2105年までに5体が開発される。 2104年 『Hollow Vision』 2105年 ミームフレーム社東京研究所爆発事故。『BEATLESS』本編開始。
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トップページIndex アナログハック・オープンリソースについて アナログハック・オープンリソースのポリシー 関連著作リスト □アナログハック・オープンリソースについて アナログハック・オープンリソースは、作家、長谷敏司が小説『BEATLESS』、漫画『天動のシンギュラリティ』などで展開している設定および世界観を、誰でも自由に使えるリソースとして開放しようという試みです。 オープンにした目的ですが、一つには、現著者以外の著作者から一次創作が当たり前に作られる状況になると面白いのではないかと思ったからです。 そう書くと、思いつきで危ないことを始めたように見えるかもしれませんが、現在すでにマルチメディア展開をするときは、それぞれのジャンルに他の著作者がいることが普通になっています。 ならば、マルチメディアの根(ルート)である著者自体のほうも、多人数になってよいように思えました。 ポリシーとして、各種契約とぶつかってトラブルにならないようにルールを設定しました。なので、そこはよけた上で、遠慮なく使って楽しんでください。 もう一つの目的は、現代ふうのSF創作のスモールスタートに利用できるようにしたいということです。 SF創作は、ギミックや背景設定に力が入ったものが多いため、ハードルが高くなりがちです。 これをすべて作り込めることがSF創作の醍醐味なのですが、面白そうな部分や派手な部分以外でもデータが必要になり、気軽に始めるには手間がかかることも事実です。 SF創作への参入の敷居が下がることで、SFが少しなりと身近になるのではないかと考えました。 あるいは、設定やアイデアを使った思考実験が、自由に一次制作として行われてもよいと考えています。 『BEATLESS』『天動のシンギュラリティ』を読んでこういう話を作りたいと思ったかたがおられるなら、「インスパイア元が門戸を開ける」ことで、気軽なスタートから生まれるモノがあるのではないかと考えます。 リソース開放の仕組みとして、協議の結果、小説他著作物そのものの情報を直接開放するのではなく、外部にデータ置き場(このサイトです)を開き、ここに記載されたデータをオープンにする範囲としました。 運営ポリシーはこのページに記載し、補足事項はFAQページを用意してまとめました。 問題ある部分などお気づきになりましたらご指摘ください。 『アナログハック・オープンリソース』プロジェクト管理人 長谷敏司(shase@xmail.plala.or.jp)@は小文字化してください Indexに戻る □アナログハック・オープンリソースのポリシー(Ver 1.011) 1: オープンになる範囲は、このサイトに記載の〝世界観と設定〟とします。 『BEATLESS』など既存作品の小説本文を含むストーリー、イラスト、漫画(コミカライズ含む)そのものはオープンリソース化されるわけではありません。これらの権利は、株式会社KADOKAWAおよび版権会社にあり、今回の設定オープンリソース化によって動くことはありません。著作権フリーとは違う方向性の試みです。 redjuiceさんの描かれたキャラクターを〝一次創作〟として無許可で出すのはNGであることには特に注意してください。 以下のものは明確にオープンリソース化の範囲に入りません。 (a) redjuiceさんの描いたキャラクター。また、『BEATLESS』および『天動のシンギュラリティ』のキャラクターは、権利を株式会社KADOKAWAほか版権元が有しています。 (b) 『BEATLESS』『天動のシンギュラリティ』のタイトルロゴについては権利元に使用許可が必要ですが、ミームフレームなど作中企業ロゴについては、今後自由に使えるものをこのサイトに載せていく予定です。 (c) 『BEATLESS』小説本文およびイラスト、および表紙。 『BEATLESS Tool for the Outsourcers 』表紙および本体内の各コンテンツ。 『BEATLESS dystopia』漫画本体および表紙。 『びーとれすっ』漫画本体および表紙。 『天動のシンギュラリティ』漫画本体および表紙。 (d) 上記作品に登場するキャラクター。(参照:FAQ-6/FAQ-19) (e) 上記作品のストーリー。 ストーリーをそのまま引き写したり見せ場をそのまま書くような利用の仕方は、一次創作ではご遠慮ください。歴史事件のようかたちでぼかして記述することは問題ありません。 2: オープンになっている(世界観・設定)データを使って、一次創作を自由に作ってよいとします。 これはファンのかたが作っていただくものも、商用で作っていただいても構わないと考えています。 角川書店以外の版元で作っていただいても、小説だけでなくゲームや音楽、漫画、等々いかなるジャンルで作っても問題ありません。 3: アナログハック・オープンリソースを利用する場合、表紙か奥付のどこかに『アナログハック・オープンリソース』のクレジットをきちんと読めるように記述してください。 「この作品はアナログハック・オープンリソースを使用しています」のようなかたちで、クレジットは『アナログハック・オープンリソース』の名前だけではなく、「使用している」ことまで明記お願いします。 4: 『アナログハック』『AASC』などの設定の一部を切り貼りして使用することについても許可します。また、このポリシーは類似のアイデアについて権利を主張するためのものではありません。 5: アナログハック・オープンリソースを利用して作られた著作物の著作権は、各々の著作者にあります。 これら著作権をアナログハック・オープンリソースが特別に保護するということもありません。著作権は各々で管理をお願いします。 6: アナログハック・オープンリソースをご利用いただいた著作物で新たに作られた設定や世界観が、当オープンリソースに自動的に逆輸入されることは考えていません。 他の著者さんが作られた設定とまったく異なる設定を、長谷の続編が記載することも十分ありえます。ここは地雷があると考えず、長谷よりも面白いものを作れば勝ちだととらえてくださると有り難いです。 長谷がその存在を把握していて、オープンリソースに組み入れさせていただきたいと考えた場合は、連絡先が分かる場合ご連絡させていただくこともありえます。この際、断ってくださっても問題ありません。 なお、アナログハック・オープンリソースが開放した設定と世界観として管理するデータは、このサイトに記載されたデータまでです。 その外で作られたものについては、当ポリシーの適用外と考えています。 7: プロジェクト管理者が当サイトに記載する設定や世界観が、オープンリソースを利用した他著者の作品と酷似あるいは同一のものになる可能性があります。 この場合において、先行著作であっても、著作権を行使してプロジェクト管理者の創作と著作権を妨げることがないものとします。これは、避けようにもリソースを利用した著作物をすべて把握することが実質不可能であることと、あるアイデアから派生するアイデアが被ることはよくあることだと考えていることためです。 オープンリソースを利用した設定や世界観をオープンリソースにするかは、それぞれの著作者の選択するところとします。 どうしても気になるというかたは、オープンリソースの利用を控えていただいたほうが安心だと思われます。(参照:FAQ-11) 8: リソースを開放しましたが、プロジェクトは収束して一段落ついたものではなく、生きている状態です。アナログハック・オープンリソースを利用して作られた著作物の著作権によって、『BEATLESS』続編やメディアミックス、公式スピンアウト等の展開が妨げられることがないものとしてください。 オープンリソース化の試みについては、版権元の企業様に趣旨を長谷から説明し、今のところ協力的にお話いただいています。 たとえば、作っていただいた一次創作が『BEATLESS』よりも大きくヒットするようなことになっても問題ありません。 版権元から著作者さまにご連絡が行く可能性がありますが、そのあたりはご了承ください。 9: データの置き場は現在のところこのatwikiにあります。 マネタイズを現状考えていないプロジェクトですが情報の更新頻度と応答性が高くある必要があるため、ランニングコストを最小にして運営しています。 ウェブ上のことですので、データの置き場を様々な事情で移動する可能性があります。 データは、おもに長谷の創作上の都合と誤り発覚により、事前予告および事後の通達なく変更がある可能性があります。ご了承ください。 また、サイト上のデータはオープンであってフリーではないので、まるごと無断転載するのは禁止とします。「当サイト上に記載された情報のみに範囲を区切ってオープンにする」という、ポリシーの他条項の前提を崩す転載に関しては、これを禁止します。[New] 10: 現在のところ、ルール自体に不備がある可能性があり、現状あるポリシーもFAQも変更になる可能性はあります。 ログを残す予定ですので、そちらも参照ください。 参考にする前例が見つからないので手探り状態です。今のところ、長谷の自由にやらせていただいて、法務上の問題が出てきたときだけ、角川書店や版権企業さまに出ていただくようになりそうです。 オープン化のかたち自体をいろんなかたからアイデアいただいて作って行くことも考えています。 11: 創作された個々の作品に対して、アナログハック・オープンリソースおよび長谷、『BEATLESS』公式の権利元は責任を持たないものとします。 特に一次創作では、著作者として内容や表現に個々で責任を持ってもらいたく思います。 最後になりますが、このような機会をあたえてくださり、角川書店ニュータイプ編集部および版権企業さまに、深く感謝いたします。 Indexに戻る □関連著作リスト 『BEATLESS』(著:長谷敏司/角川書店) →角川書店ページ 『BEATLESS Tool for the Outsourcers 』 →特設サイト 『BEATLESS dystopia』(漫画:鶯神楽/全二巻/角川書店) →角川書店ページ 『びーとれすっ』(漫画:kila/角川書店) →角川書店ページ 『天動のシンギュラリティ』(漫画:大崎ミツル・ストーリー協力:砂阿久雁・世界観監修:長谷敏司/エンターブレイン)→ファミ通コミッククリア連載中 Indexに戻る
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◇アナログハック・オープンリソースの更新は第一期を終了し、第二期に入っています。 くわしくは「ロードマップ」をご覧ください。 21/5/16 現状にあわせてサイトを微修正。 15/5/23 アナログハック・オープンリソース第二期更新を開始。 「トップページ」に「アナログハック・オープンリソース総合掲示板」へのリンクを設置。「アナログハック・オープンリソース総合掲示板」を開設。 15/3/30 「ロードマップ」を更新。アナログハック・オープンリソース第一期の更新を完了。 15/3/17 「警察」を更新。 15/2/13 「医療」を更新。 15/2/1 「宇宙利用-地球圏以遠」を更新。左メニューを整理。 15/1/19 「文化」を更新 14/12/9 「ジェンダー」を更新 14/12/5 左メニューのメニュー項目を整理 14/11/21 「経済」後半を更新 14/11/10 「経済」前半を更新。 14/10/27 「政治」を掲載 14/10/14 「宇宙利用-地球圏」を掲載 14/9/26 「抗体ネットワークと排斥運動」を掲載 14/9/12 「hIEの機能補足」を掲載 14/9/5 「食料・エネルギー」を掲載 14/8/22 「クローンAASC」を掲載 14/8/20 「年表」「超高度AI関連年表」を掲載。 14/8/8 「学校・教育」を掲載。 14/8/5 「拡張された人間」「アシスト機器」「埋め込み機器」「薬物的増強」を掲載。 14/7/25 「交通」を掲載。 14/7/18 『Hollow Vision』をアナログハック・オープンリソースにくわえる。それに伴ってトップページのポリシーをver.1.02に更新。 「人類未到産物」「軍事」「戦略と暗号」「無人機の運用」「日本型PMC」を掲載。 メニュー下に「ログ倉庫」を設置。旧ポリシー(ver.1.011)をログ倉庫に格納。 14/7/11 「メニュー」を修正。「シンギュラリティと超高度AI」「超高度AI」「IAIA」を掲載。 14/7/5 トップページのポリシー(3)を、「クレジットは『アナログハック・オープンリソース』の名前だけではなく、「使用している」ことまで明記する」ように文面修正。 14/7/4 サイトオープン。「トップページ(ポリシー)」「FAQ」「ログ」「設定について」 「アナログハック」「hIE」「hIEとクラウド」「行動の一般化(AASC)」「社会の中のhIE」「hIEに関する規則」掲載。