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何時もの夢。 何時か見た戦場の光景。 何時か嗅いだ血と硝煙の臭い。 何時かの断末魔の叫び。 どれもこれも、俺が銃で作った物だ。 「=%&¥%&‘()?」 その見慣れていた世界に、見慣れないピンクの人影が現れた。 ―殺セ ―殺セ殺セ ―殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ 彼女は何か叫んでいる様だが、耳鳴りの所為で全然分からない。 何を言っているのか近付いて尋ねたいが、体が自分の意志で動かせない。 機械仕掛けの人形の様に俺は少女に銃の狙いを付け……引き金を引いた。 【青い鬼火の使い魔】『Cold Maid』 普段通り目覚めは最悪だ。 しかも、今日は寒気までする。 何かこう……腰から膝の辺りまでがスースーしている気がする。 「お目覚めになりました? ああ、此処は魔法学園の医務室です。 使い魔さんが突然倒れられたので、皆さんが運び込まれたんです。」 目を開けると、黒髪のメイドさんがいた。 片手には尿瓶を持っている。 もう一方の手は、俺のズボンとパンツをずり下ろしている。 そして、淡々と状況を説明している。 検査とかで下着姿を見られた事はあるけど、それでもこれは恥ずかしい。 そもそも、催してないし。 一先ず何としてもズボンを引き上げようとする。 流石に話し掛ける時にこんな格好はイヤだ。 「ねぇ、メイド!! わたしの使い魔、まだ眼を……覚まさな……いの……?」 丁度パンツを引っ張り上げた所で、あのピンク髪の女の子が部屋に入って来た。 顔が真っ赤だけど、俺の方も顔の温度が上がってるのが分かる。 そんなにマジマジと見ないで下さい。 そう言えば、何時の間にか俺にも女の子は理解出来る言葉で喋っている。 俺の方をちらちら見て『一本ダタラ』とか変な事を言っているけど、 一先ずさっきまでの『理解以前に聞く事自体が不可能な言葉』とは違う。 俺が帝国の人間と分かったから言葉も切り替えたのかと思ったけど、 さっきのは良く考えてみたら俺じゃ無くてメイドさんに話し掛けていたみたいだし。 「ああ、ミス・ヴァリエール。 丁度良かった。 代わりに採尿して下さいます? やっぱり使い魔さんにはご主人様の方が。」 『は?』 尿瓶を渡されて固まる女の子と淡々と使い方を説明するメイドさん。 あのメイドさんは多分、 キスの手伝いとか言って人の頭をグリグリと押したりした事とかがあるに違いない。 正直、リアクションに困る。 呆気に取られた俺は、メイドさんがお辞儀をして出て行くのを止められなかった。 女の子に至っては、尿瓶を片手に視線を虚空を彷徨わせてる。 オーランドですが、医務室の雰囲気が最悪です。 See You Next Time!
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前ページ次ページ死人の使い魔 第三話 グレイヴを召喚してから数日が過ぎた。ルイズとグレイヴの生活にも 一定のパターンができあがってきていた。 朝、ルイズがベットで目覚めるとともにグレイヴは初日に与えられた イスで目を開く。特に本人からの要望はなかったのでイスが彼の寝床と なった。寝床兼生活スペースかもしれなかった。ルイズの部屋にいる間は、 ほとんどをそこに座って過ごしている。 案外気に入っているのかしらね。そんな風に思う。 グレイヴとの生活が始まってからルイズの目覚めはよくなった。 一度寝坊しかけて彼に起こされたときは心臓が止まるかと思った。 割と本気で。それ以来、彼より早く起きるように心がけている。 朝の準備を終えるとルイズは朝食をとるために食堂へと向かう。 グレイヴは食事をとらないため、授業まで部屋で待機させている。 授業の時間になると教室でグレイヴと合流する。 恐らく、グレイヴは教室に移動するときまで、部屋のイスに 座りっぱなしのはずだ。確認したことはないが正しいと思う。 もしかして私が部屋を出たあと、私のベットでゴロゴロしてたりして。 そんなことを想像する。 ……ありえないわね。万が一それが真実だったとしてもその場面だけは 目撃しないようにしないと。私の今後のために。 グレイヴは喋らない平民の使い魔として学院で少し知られてきた。 ときどき、本当にときどきだが彼の正体について言ってやりたくなる ときがある。 昼食の時間になると再びグレイヴと別れる。部屋で午後の授業まで 待たせているのだが、コルベールに呼ばれ彼の研究室、もしくは トレーラーに行くことがある。少しでも手掛かりが欲しいらしいが 結果は芳しくないようだ。 そんなある日、コルベールは彼の左手に目をやる。 召喚されたものにばかり気を取られていましたが、珍しいルーンですね。 一応メモしておきましょう。 その日の夜、彼はそのルーンが伝説の『ガンダールヴ』のルーンと 同じであることに気づく。すぐにオスマンに知らせたが、彼も頭を 抱えていた。 『ガンダールヴ』とは始祖ブリミルの使い魔であったされるものだ。 あらゆる武器をつかいこなし、その強さは並みのメイジでは歯が 立たないくらいだったとされている。 「ただでさえ厄介なのにこのうえ『ガンダールヴ』じゃと」 「とりあえずこれも秘密じゃな、ミス・ヴァリエールにもな」 「彼女にもですか?」 「これ以上秘密を抱えさせるのもかわいそうじゃろ、それに、この問題は ひょっとしたらガーゴイルということよりもやっかいかもしれんしな、 他言無用じゃ」 「わかりました」 最近というかグレイヴを召喚してからルイズは、彼のことを考える時間が 多くなった。もちろん、恋などではない。グレイヴの正体についてだ。 彼はなんのために作られたのだろうか?そう彼が人為的に生み出されたの ならきっと何か目的があるはずだ。それも並大抵ではない。なんせ人の血で 動くのだ。家事などをするために作られたのだとしたら、ちぐはぐ過ぎる。 人の生き血をすする召使い。ありえないわね。 しかし想像はつく。ミスタ・コルベールも気づいているだろう。 彼は戦うために生み出されたのではないか?その想像はきっと正しい。 想像を裏付けるものの一つとは彼の持っている鞄と棺桶だ。 非常に重いのだ。それを軽々と持ち運ぶ怪力。鞄の中に入っている二つの ものは鈍器なのでは?棺桶もなんらかの武器かもしれない。 そう考えると彼が鞄を手放さない理由もわかる。戦うために生み出された 彼が武器を手放すわけにはいかないのだ。 両手にあの鈍器を持って戦う彼を想像する。少し、いや大分かっこ悪い気がする。 ちゃんとした武器を与えたほうがいいかしら?見栄えのする大剣とか。 でも買う前にミスタ・コルベールに相談したほうがいいかもしれないわね。 剣を持たせるなどとんでもないと反対されるかもしれないし。 しかしそれは杞憂に終わった。彼は特に反対しなかった。 コルベールは相談されたことについて考えていた。グレイヴに剣を持たせる。 彼は『ガンダールヴ』でもあるのだ。どんな反応をするか、持ち前の好奇心が うずいた。 彼が剣を持つ危険についても考えてみたが、剣を持たせるくらいは 大丈夫な気がする。ここ数日、彼と付き合ってみての印象だ。少なくとも 学院の人々に危害は加えないと思う。もしかしたらこの学院で一番 グレイヴを信用している人物は彼かもしれなかった。 虚無の曜日になりルイズはグレイヴを連れ剣を買いに出かけた。 遠出をするとグレイヴに伝えると、彼はいつもの鞄に加え棺桶まで 持っていこうとした。あんなもの馬に乗せられるわけないと置いてこさせたが、 鞄はしっかり持ってきている。 トリステインの城下町を武器屋に向けて歩いているが、グレイヴはやはり 目立っていた。長身に加えてあの格好である。かなり目を引く。 それに彼の雰囲気を感じてか、微妙にだが周りの人が道を譲ってくれている ように思える。見た目だけでも護衛の役目を果たしているわね。そんなことを 考えながら歩いていると、武器屋に到着した。 どんな剣がいいか分からないので、グレイヴに選ばせてみる。 「グレイヴ、好きな剣を選んでいいのよ」 しかし彼は何も選ばない。イライラし声をかけようとすると、不意に声が 聞こえた。 「迷っているなら俺を買え、おめえさん『使い手』だろう?体格も立派だし、 雰囲気もただもんじゃねえ。是非とも、おめえさんに使って貰いてえ」 グレイヴは声のほうを向く。ルイズには彼が驚いているようにみえた。 そこには一本のボロボロの剣があった。ルイズも最初驚いたが インテリジェンスソードと知って納得する。 それよりもグレイヴの反応が気になった。いつもと明らかに違う反応。 もしやあの剣の言ったことに何か関係しているのだろうか?確か『使い手』 とか言っていた。 本当はインテリジェンスソードの存在を知らなかったからの反応だったの だが、ルイズには分からなかった。まさかインテリジェンスソードの存在を 知らないとは思いもしなかったのだ。 よし、これにしよう。 見た目はみすぼらしくグレイヴに持たせたくはなかったが、彼の正体を知る きっかけになるかもしれない。インテリジェンスソードを買い、グレイヴに 持たせる。デルフリンガーというらしい。 帰る道中デルフリンガーにグレイヴのことや、『使い手』のことを尋ねて みるが、どうにも要領を得ない。 グレイヴも特に反応はしないし、あの剣を買ったのは失敗だったかしら? 学院に着くとルイズはグレイヴを連れて中庭に向かう。そこでルイズは グレイヴにデルフリンガーを抜かせてみた。詳しいことは分からないが様に なっているようにみえる。するとデルフリンガーが気になることを言う。 「おでれーた、相棒、おめえさん人間じゃないな?それに心も感じられねえ」 ルイズが驚きながらに言う。 「あんたグレイヴのことが分かるの?教えなさい。今すぐ、できる限り詳しく」 「待て、待て、落ち着け、俺もそんなに詳しく分かるわけじゃねえ。 ただなんとなくそう感じただけだ」 「なによ、当てにならないわね。でもグレイヴが人間じゃないってことは 秘密だからね、誰にも言うんじゃないわよ。それからグレイヴのことが何か 分かったらすぐに教えなさい。いいわね」 「いいともさ、俺も相棒のことを言いふらしたりはしないよ」 そんな会話の中、グレイヴは突然デルフリンガーを地面に突き立てる。 「おーい、相棒?」 アタッシュケースを開けケルベロスを手に取る。 何をしたいのかしら?ルイズは疑問に思うが、デルフリンガーは気づいた ようだった。 「そりゃないよ、せっかく俺を買ったんだから俺を使ってくれよ。銃より剣の ほうがいいぜ」 「あれって銃なの?」 あんな形の銃など見たことがない。そういわれてみれば引き金らしきものがある。 「ねえ、グレイヴ、一発撃ってみなさい。どれくらいの威力があるか 見てみたいわ」 横でデルフリンガーが銃なんて邪道だ、などと言っているが無視する。 しかしグレイヴは撃たない。何故かしら?目標を決めてないから? 周囲を見ると丁度いい目標があった。本塔の壁である。確か固定化の魔法が かかっていて、そのうえ厚みもあり凄い丈夫なはずだ。いい的だと思ったのだ。 そのときは。 変な形をしているし片手で扱う銃のようなので、かなり距離のある的まで 届きすらしないかも、そう思い気軽に言う。 「ほら、撃ってみてって」 グレイヴが本塔の壁に銃を向ける。 せめて届いてほしいわねなどと考える 引き金が引かれる。 轟音が響き、思わず耳を押さえる。本塔に近づき銃弾のあとを確かめようと する。しかしそんなに近づかずとも本塔の壁にヒビが入っているのが見えた。 「嘘……」 思わず声が漏れる。あれがあの変な銃の威力?信じられない威力だ。 「おでれーた、これが相棒の銃の威力かい?」 デルフリンガーも驚いている。 突然、グレイヴの気配が変わった。持っていたデルフリンガーを投げ捨て、 先ほど撃った銃を一丁ずつ両手に構える。下からデルフリンガーの苦情が 聞こえてくる。 どうかしたの?と聞こうとするが、その言葉を発する前に巨大な土ゴーレムが 現れた。ゴーレムはルイズ達のことなど気にもせず、本塔のヒビの入っている 壁を殴り、穴を開ける。 ルイズはあまりのことに頭がついていってなかった。グレイヴも銃を構えた まま動かない、様子をうかがっているのかもしれない。 それからゴーレムは学院の外へと歩き出す。 我に返ったルイズがあわてて言う。 「あそこは確か宝物庫だったはずよ、急いで追いかけないと」 「もう無理だ、追いつけないって。ずいぶん離されちまった」 デルフリンガーが引き止める。しかし追いつけなくとも、何か手がかり くらいは見つけられるかもしれない。ゴーレムの逃げたほうへ走り出す。 グレイヴもついてくる。 「お~い、置いていかないでくれえ」 後ろでデルフリンガーが叫んでいたが気にしている余裕はない。 上空には何か飛んでいるのが見える。あの盗賊の使い魔だろうか? 空を飛んで逃げられたら絶対に追いつけない。焦りながら懸命に走る、 すると遠くでゴーレムが突然崩れるのが見えた。 空を飛んでいた何かも、いつの間にかいなくなっていた。崩れたゴーレムに 追いついたが、そこには土の山があるだけだった。 こういうときこそ、落ち着かなくては。そう自分に言い聞かせ事態を 整理する。 あのゴーレムは本塔にあったヒビを殴っていた。その結果穴が開き、 宝物庫が襲われた。つまり襲われた原因、少なくとも穴が開いた原因は あのヒビのせいということになる。あのヒビの原因は考えるまでもない。 盗賊について思いだそうとするが離れていたこともあり、黒いローブに すっぽり身を包んでいたことくらいしか分からない。 盗賊には逃げられ、手がかりもない。ルイズは頭を抱えた。 前ページ次ページ死人の使い魔
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前ページ次ページ鋼の使い魔 トリステイン魔法学院の敷地内で、もっとも広い中庭に集められた生徒達が、それぞれに整列して、教師達を待っている。 やがてそこに学園長オールド・オスマンを筆頭に、教師達は生徒に対面するように並んだ。 オスマンは拡声の魔法をかけた杖に両手を乗せて、集まった二百人近い生徒達に向かって声をかける。 「諸君。本学院の今年度上半期の学期は、本日の正午をもって終了し、ふた月ばかりの休暇に入るわけだが、本年度は隣国との紛争などもあり、領地に帰っても休まらない生徒もおるだろう。 そこで儂は、通年確保しておる夏季休暇中の在学許可の枠を広げ、例年より多くの生徒や教師が学院に残れるように準備しておる。勿論、係累等後見人の承認は要るがの。 この休暇をどのようにつかうのも諸君らの意思次第である事を言っておこう。避暑に赴くもよし、独自に何がしかの研究に励むのもよいじゃろう。しかしこの学院の責任者として、 諸君らが壮健であって次学期を迎えられることを切に願っておる。 ふた月後にまた会うとしよう」 生徒側から感謝の拍手が送られ、次に教師達を先導とした移動が始まる。移動は学院の内壁正門で止まり、再び整列する。オスマンはそこで正門に向かって杖を構え、魔法で厳重な鍵を掛けた。 この鍵は原則、次学期の始業式まで掛けられたままになっている。裏門や脇の出入り口がいくつかあるから、学院に残る者たちにとって不便というほどでもない。 祭事の時に鳴らされるいつもとは少し違った鐘の音が学院に響いた。 終業式が終わり、生徒達は各々の予定に従って行動しはじめる。既に学院の裏門の前には生徒達を迎えに来た大小の馬車が並んで待っているのである。ルイズ・フランソワーズはまず、私物をトランクに詰め込むところから始めた。 「といっても、大したものはないのよね。姉さまのところに大体揃っているし」 ルイズの夏季休暇は、王都トリスタニアでアカデミー研究員をしている姉エレオノールが住むヴァリエール家所有の別宅で過ごす予定である。暫くの寄宿だが昔から使い慣れた勝手知ったる場所で、 わざわざ持っていかなければならないものはそれほどない。 したがって、ルイズの手荷物は貴族の旅荷としては比較的軽量な規模に収まった。 それを運んだシエスタ曰く、 「えぇ。ミス・ヴァリエールのお荷物はとてもよく纏められていて、他のお嬢様達が大型トランクを三つはお使いになるのに、ミス・ヴァリエールはお一つしか使われてませんでした」 人一人は優に入るトランクを引っ張るシエスタを連れて、ルイズは学院の本棟から少し離れた小塔に向かう。そこはコルベールが自分の為に学院で用意した研究室だ。 塔の脇に建てられた小屋からは細く煙が煙突より伸びている。ルイズが小屋の中に入ると、壮年の男が小屋の奥に作られた炉の火を落としているところだった。 「早かったじゃないか。手伝いに行こうと思ったんだが」 「煤けた格好で手伝いに来られても迷惑だわ」 「聞いたかい相棒、嬢ちゃんは使い魔である相棒の手なんて借りたくないってさ」 「それは困ったな。明日から職の手を探さなくちゃならないな」 「あんた達……!」 ルイズの癇癪が弾けると同時に炉の中に残っていた小さな火がかっと燃えて弾けた。溜まった煤が炉口から噴き出して二人と一振りに降りかかる。 二人は盛大にせき込んで、ルイズは息を吐いた。 「まぁいいわ。あんたはもう準備できてるの?」 「そこに置いてある荷物で全部だな。あとはコルベール師に挨拶して終わりだ。あの人は休みの間も学院にいるらしいな」 「休暇の時くらい家に帰ればいいのにね。何処の出身なのか知らないけど」 壮年の男は己の荷物が入った背負い袋を身体にくくりつけた。月日に焼けた金髪を長く後ろに撫でつけ、その動きは実年齢よりもいくらか若々しい。身なりからみて貴族ではない。しかし平民らしからぬ振る舞いに、 どこか気品がにじみ出ていた。 コルベールは自室に居た。窓の少ない塔の中は、埃っぽさと熱気が入り混じって、入ってくるものを立ち竦ませる不快さを感じさせた。 しかし塔の主人はそんなことはまったく気にしておらず、訪問者を快く迎え入れてくれる。 「おや、ミス・ヴァリエールにギュスターヴ君。今日は何か……?」 「はい。私はルイズについてここを離れますので、その間小屋の管理をお願いしたいのです」 自分の使い魔はこの禿頭の教師と仲が良いな、とルイズは前から思っている。趣味が合うのだろうか? そんな少女の呟きも知らず、コルベールは壮年の男――ギュスターヴの要請を聞きいれてくれた。 「ではお二人とも、休暇の間息災で」 「ありがとうございます。では」 「そう言えばシエスタは休まないのか?」 「メイド仲間のうちで何人かはこの機会に帰省するみたいですけど、私は残ってお仕事しますよ。お手当ても出るんですから」 「学院長も太っ腹よね」 裏門までの道でそう話していると、三人を誰かが呼びとめる。 振り向けば、赤髪の娘と青い髪を短く刈った少女が木陰から手招きしていた。 「ハァイ」 「なによキュルケ。私達急いでるんだけど」 赤髪のキュルケと言われた娘はルイズの険のある言葉に肩を竦ませた。 「ちょっと声掛けただけじゃない。もう少し肩の力抜いたら?」 「どうでもいいでしょう。で、何か用?」 「私達休暇中も学院に居るんだけど、何か休みの間予定があったら教えて頂戴、遊びに行ってあげるから」 「遊びに行って『あげる』ですって?」 ルイズのこめかみがぴくぴくと動いているのがギュスターヴから見える。この娘は感情の波が激しいことこの上ない。それを知っているくせに、キュルケはこう言い放った。 「だって貴方の事だもの。どうせ帰っても相手してくれるのがギュスだけじゃ、流石にギュスがかわいそうでしょう?」 「そ、そんなこと……」 「そんなことは、ないさ」 言いよどみかけたのを遮って、ギュスターヴは自信満々といった風に言った。 「俺たちはトリスタニアに行くんだ。ヴァリエールの末娘なら顔くらい見たい貴族だっているだろう。それほど暇じゃないかもしれないぞ」 「そうかしら?」 「そうさ。……だから遊びに行きたいなら素直にそう言ったらどうだ?」 「う……」 口ごもってキュルケは隣に居て沈黙を守る青髪の少女タバサに向けられた。 見返すタバサの目に表情はない。それが鏡を覗きこむような気分にさせた。 「……そうね。実はねルイズ。寮に残るのは女生徒ばっかりで男が全然いないの。当然よね、戦争になりそうなんだもの。だから退屈になったら、貴方のところにいってもいいかしら?」 ルイズは煮えかけた頭がだんだんと冷めてくるのがわかった。要するにキュルケは寂しいから構ってくれと言っているのだ。そう思えばほんの少し、自尊心がくすぐられる。 「来てもいいけど、姉さまも一緒にいるから居心地は保証しないわよ」 「あのお姉さんはいじり甲斐がありそうでいいわね」 キュルケの答えにルイズはさらに頭が冷めていくのであった。 寄越した馬車に乗せられたルイズとギュスターヴが到着するのが見えて、エレオノールは階下のロビーに降りることにした。 ヴァリエールの別邸は、王都の高級住宅街に数ある貴族の邸宅の中でも、上から数えた方が早い位に豪華な屋敷である。勿論ヴァリエール領にある本家と比べれば慎ましい出来であるが、調度品や建築の見事さは是非に及ばない。 ロビーでは使用人に荷物を託したルイズと、使用人について屋敷の奥へ行こうとするギュスターヴの後ろ姿があった。 それがちらっと見えただけでエレオノールは胸の奥がかっと熱く打たれてしまうのだ。 (あぁ、あの人もここで過ごしてくれるのね……) 一目会ったその日から、密かにエレオノールはギュスターヴへ思慕の情を募らせており、一時期は暇さえあればギュスターヴが立ち上げた百貨店に通いつめて、ギュスターヴの姿が無いか歩いたものだった。 ……その姿は周囲から「貴族の婦人が通い詰めるほど百貨店は良い店なんだ」というというように見られていたりする。おかげで店を切り盛りするジェシカは右肩上がりの左団扇である。 「……姉さま?」 出迎えに来てくれたらしい姉があらぬ方を見たままぼうっとしてるので、ルイズは手持無沙汰のままロビーに立たされる羽目になったのだった。 正気に戻ったエレオノールはルイズを連れて談話室に入ると、テーブルで薬湯と菓子を啄みながら学院での生活について事細かに聞き出し、オスマンが休暇中の寮滞在を認めた話を聞いて関心していた。 「よくそんな財布の余裕があったものね。アカデミーなんて予算を削られてしまうんじゃないかって汲々としてるのに」 「どうして?」 「軍備に国費がかかるからよ。アルビオンの奇襲で軍艦はほぼ全滅で、タルブでの合戦では勝ったけど王軍も被害甚大だそうだから」 そういうエレオノールに相槌をルイズは打てない。王軍の被害の一端は自分が行った虚無の発動が原因やも知れないから。 「王軍はタルブ戦役で功あった傭兵部隊を正規軍に組み入れたと聞くし、トリステインの格が落ちるというものよね。アンリエッタ女王には頑張ってもらいたいわ」 「姉さま、陛下を助けるのが私達貴族の義務でしょう?」 「当然よ。現にヴァリエール家は王家に資金と人足を供出したし、私もアカデミーでアルビオン軍が残した船から見つかった、砲弾の解析に駆り出されてるもの。うちで何もしてないのはあんたとカトレアだけよ」 「……仕方がないでしょう、まだ学生なんだもの……」 だがルイズは先日、内々にアンリエッタから彼女直属の女官としての権限を与えられているのだ。いざ王女からの命令があれば一目散に駆けつけなければならない。 その時は意外に早く訪れるのだが、ルイズとギュスターヴが別邸に着いたその日の夜、ギュスターヴはあてがわれた部屋で背中を伸ばしていた。 部屋を見渡すに一応、使用人用の部屋らしい。質素なベッドと椅子、テーブルと小さな衣装箱が一つだけ置いてある部屋だ。 「あまり歓迎されてないようだな、俺は」 独り言に答える声が荷物から帰ってくる。 「まぁ、仕えてる貴族のお嬢様がどこの馬の骨ともしれない男を連れてきているんだから、歓迎はされないわな」 答えたのは荷物に収まっている一振りの剣だった。知恵ある魔剣インテリジェンス・ソードの一つであり、古の虚無の使い魔『ガンダールヴ』が使っていたと自ら主張するデルフリンガーである。 「時に相棒よ。あんたはこれからどうするんだよ?お嬢ちゃんはひと夏ここで過ごすわな。その間それにつきあっているつもりかい?」 「そこなんだ、デルフ」 ベッドから起き上がって荷物からふた振りの剣を引っ張りだすと、それぞれをテーブルに乗せた。一方はデルフだが、もう一方は石でできた長剣だ。 「俺がルイズにアニマの使い方を教えたのは、一つにはそれがルイズの未来につながるものだと思ったからだ。この世界ではアニマの術を使えるものは居ない。ただ一人のアニマ術師になる。 あとはそれを自分で使いこなせるだけの精神を持っていれば自由に生きられるだろう」 世間知らずでわがままなルイズだが、ギュスターヴはそれが出来ると信じている。 「一つってことは、もうひとつあるんだな」 「始祖の祈祷書とやらが変化した卵型のクヴェルが気になる。鉛の箱にしまってあるが、あれは尋常な代物じゃない」 「アニマとやらが無い相棒に解るのかよ?まぁ、俺っちもありゃやばい代物だと思うどな……」 虚無に使われる立場のデルフから見ても、卵形と化した祈祷書は異常な存在なのだという。 「もしあれを再びルイズが手にする時があれば、ルイズ自身で制御できるようにならなきゃいけないだろう」 「それまでの訓練、ってことかい?」 「そんな時が来ないに越したことはないんだがな……」 ちらりと目が白い石剣を映す。 「嬢ちゃんに対する理由はそれでいいとして、あんたはその、なんだ……サンダイルってところに、帰りたくないのかい?」 「……帰りたいさ。帰って友人達に謝りたいな、黙っていなくなって済まないってさ」 「相棒は妻子居ないんだろ?その年でやもめたぁ、寂しいよなぁ……」 そこまで言って、デルフは何か閃いたようにカタカタと鳴った。 「解ったぜ、相棒がこっちに後ろ髪引かれて元の世界に帰る方法を探し渋っている理由。あんたは嬢ちゃんを自分の娘か何かみたいに思えて仕方がねぇんだ」 「ルイズが娘だって?」 「そうさ。手元で大事にしたいって気持ちがあるんだろ。だから離れるのを渋ってるのさ」 得意そうに魔剣は笑った。 だがそう指摘されたギュスターヴは、怒るでも笑うでもなく、むしろ神妙に表情を暗くして考え込んでしまうのだった。 「ど、どうしたよ?」 「……これが親の気持ちという奴のなのか?」 「いや、そうなんじゃないかって思っただけだよ。実際のところは知らないね」 そう言ってやるとギュスターヴはますます悩み深げにうつむいた。 皺を寄せて黙っている相棒をどうしたものかとデルフが考えていると、夜更けだというのに部屋を尋ねる者が居た。 「客だぜ相棒」 ノックにギュスターヴが答える間もなく訪問者は勝手にドアを開け部屋へと入ってくる。 部屋着に着替えたルイズだった。ルイズは部屋を一瞥し、自分の使い魔の境遇に文句をつけた。 「こんな貧しい部屋がこの屋敷にあったなんて知らなかったわ。私の使い魔に相応しくないと思うの」 「それで嬢ちゃんはどうするのよ?」 「明日から家令に言いつけて他の部屋を用意させるわ」 「別にこの部屋でいいだろう。気を使われると居づらくなる」 「あんたはそれでいいかもしれないけど、それで召使たちに舐められているんなら許しがたいわ」 部屋にやってくるなり青筋立てて息を巻くルイズに、先程まで考えていた事を頭に押しやり、ギュスターヴは言った。 「わざわざこの部屋に文句をつけにきたのか?」 「あっ、そうだったわ。姉さまと夕食を済ませた後、私宛に手紙が来たの」 これよ、とルイズが懐から出したのは小奇麗な封筒だった。送り主の名前はなく、ただ宛名だけが記されている。しかし、封蝋等の格式から見て、貴族の使う梟便で運ばれたものらしい。 「梟便?」 「伝書用に調教された梟に手紙を持たせて送るのよ。貴族の屋敷なら梟を受け入れる鳥小屋が天井裏にあって、そこに手紙を持った梟が入ってくるのよ。学院には何十羽も入ってこれる梟小屋が置いてあるわ」 「わざわざ梟に持たせるなんて手間暇かけるもんだな」 「中には自分の使い魔にやらせる人もいるけど……って、そんなことはいいのよ。問題はこの中身よ」 言ってルイズは剥がされた封蝋の下から便箋を取り出して見せた。その様子なら既に中身は確認済みなのだろう。 「読んでも構わないか?」 「汚さないでよね」 ギュスターヴは受け取ると、便箋に目を走らせる。ジェシカと手紙のやりとりをするようになって、一応日常の読文に支障はない。 「なんて書いてあるんだい?」 「かいつまんで言えばお茶のお誘いさ」 「茶ぁ?」 「もっと上品に言ってくれる?陛下からわざわざ謁見に来るようにという申し渡しよ。内々に送ってくるところを見ると、何か任務を与えられるんじゃないかしら」 一見、そう冷静にルイズは言っているが、内心では働ける事に喜んでいるに違いないと、ギュスターヴは思った。この娘のアンリエッタ女王への尊敬とトリステイン王国への忠誠は揺るがないものらしい。 「この手紙の日付を見ると明後日になっているな」 「そうよ。それまでに身の回りの物をそろえなくちゃいけないわね。明日は忙しくなるわよ」 「どうして?」 「休み一杯任務に費やすかもしれないから、明日のうちにめいいっぱい遊んでおくのよ。あと、買い物とか」 にひ、と意地の悪い顔をするルイズを少し疲れた気持ちでギュスターヴは見た。女の買い物に付き合うのはいつ何時でも大変なのだから。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ蒼炎の使い魔 翌朝、学院長室ではそれはもう大変な事になっていた。 「土くれのフーケ! 宝物庫を荒らした盗賊が!」 「随分とナメた真似をしてくれる!!」 「衛兵達は何をやっていたんだ!!」 「平民なんぞ当てにはならん!」 ワーワーギャーギャーと教師連中は大声を上げる。 そんな大騒ぎの中、ルイズと使い魔のカイト、 そしてギーシュ達3人と今朝、生徒の話を聞いたコルベールは呆気に取られた表情でその光景を見ていた。 昨晩の事を報告しに学院長室に来たと思ったらこれである。 朝からテンション上がりまくりの教師陣は更にヒートアップしていく。 (あ、倒れた。) とうとう、頭の血管でも切れたのか教師の一人がドサリと倒れた。 しかしその教師は生徒のルイズに影口を叩くような人間だ。 別にいいかと思いながら、皆が冷静になるのを待っている。 さて、この教師陣は一体何をしてるのかというと… 「当直は誰だったんだね!?」 「ミセス・シュヴルーズ! 貴方ではありませんか!」 所謂責任の擦り付け合いである。 こんな事をしてる暇があればさっさと何らかの対策を立てればいいのに。 ルイズはともかくギーシュまでもがそう考えていた。 ミセス・シュヴルーズという女性はあまりの剣幕に泣きながらも謝罪の言葉を述べる。 ギーシュがそれを見て足を出そうとしたが、それはルイズによって止められた。 「何をするんだ?」 「オールド・オスマンが来たわ」 ルイズの言うとおり、奥からオールド・オスマンが登場した。 彼はこの学院の最高責任者だ。 決めるときには決める。 決まらない時はエロイ。 きっとクーンが年を取ったらこんな感じになるのではないだろうか。 …多分。 そんなオスマン氏は今は決まっているらしく、騒ぐ教師陣を宥めはじめた。 そして、昨夜の状況をルイズたちに聞き始めた。 「お主達じゃな、土くれのフーケを目撃したのは。」 ルイズは答える。 「はい、正確に言えば私とギーシュの2人だけですが。」 「ん? 使い魔の…カイト君はどうしたのかね?」 オスマン氏はカイトを不思議そうに見ながらもルイズに問いかけた。 「用事があったとかで一緒には居ませんでした」 ルイズの言葉に周りの教師陣の様子が変わる。 彼女は少し失望した。 何が何でも今のうちに責任者を見つけたいのだろう。 ルイズは小さくため息を吐いてカイトに話しかけた。 「ほら、あんたも言いなさい。」 カイトはその言葉にコクリと頷いて背中からデルフリンガーを取り出した。 「…ハアアアアア」 「ん、ああ。 えっと、自分は昨夜はシエスタって言うメイドの所へ行っていた、ってさ。」 「「なっ!」」 ルイズとギーシュは同時に驚愕の言葉を出した。 「ふうむ…、ならばミスタ・グラモンの方は…?」 突然話を振られたギーシュは驚きつつも努めて冷静に言葉を返した。 「ぼ、僕の使い魔は昨夜は寝ていました。」 オスマン氏はその言葉を聞いてそっと目を閉じる。 そして、謝罪の言葉を2人に掛けた。 「ふむ、すまんかった。疑いを掛けるような真似をして。」 オスマン氏の言葉に2人は頷く。 ルイズは握りこぶしを作っていたが… きっとその握りこぶしはカイトに対する物に違いない。 室内に沈黙が下りる。 そこでふとコルベールが、思い出したかのように口を開いた。 「そういえば…ミス・ロングビルは?」 言われてみれば彼女がいない。 どうしたのだと話を始めた矢先に、扉が開いた。 「土くれのフーケの所在が分かりました!」 それはミス・ロングビルだった。 その瞬間カイトの様子が変わった。 「…!」 いきなり警戒の姿勢になったカイトを横の2人は不思議に思う。 そして、右腕がスーっと光り始めた。 ルイズは慌てながら、カイトを止めた。 「ちょっと馬鹿! 何やってるのよ!」 飽くまで小声でカイトの腕をつかむ。 カイトは少し黙った後、腕の周りに浮かび始めていた光を消した。 そんなやり取りをしてる間に、教師陣の様子が変わった。 「では土くれのフーケはそこに…」 「はい、証言者の話を聞けば間違いないと思います。」 「それでは、早速王室に報告に…」 「しかし、それでは逃げられてしまうぞ!」 騒がしくなってきた教師陣をオスマン氏は止める。 「おほん!!」 そして、ある策を出した。 ならば、こうしよう。 学院内の不始末は学院でつけると。 だから、こちらから少数で奪還しよう。 オスマン氏はそう提案して、有志を募る。 「では、これから捜索隊を編成する。自分がというものは杖を上げよ! 貴族として名を上げたいと思うものはおらんのか!」 オスマン氏が声を出しても教師連中は顔を見合わせるだけだ。 ルイズはそれを見て、杖をあげた。 「ミス・ヴァリエール! ここは教師に「誰も上げないじゃないですか!」…っ!」 堂々と言い放ったルイズにミス・シュブルースは口を閉じた。 そしてそれを見て、ギーシュも杖をあげた。 「ミスタ・グラモン! 貴方まで!」 「な、何考えてるのよ!」 ルイズもこれには戸惑うばかりだ。 ギーシュはその言葉を聴いて、堂々と反論する。 「僕はミス・ヴァリエールとその使い魔君に多大な借りを作ってしまった。 だから、僕は彼女達に力を貸したい!」 本当は名も上げたいのだが、そこら辺は流石に空気を読んだらしい。 ギーシュの顔は所謂、漢の顔になっていた。 「ふむ、では頼むとしようか。」 オスマン氏は志願した2人(カイトは強制)を捜索隊に編成した。 だが、それに異を唱えるものがいた。 コルベールである。 だが、オスマン氏はコルベールを含め全ての教師に口を開いた。 先の決闘でギーシュとカイトの実力は知っている。 圧倒的に負けたとはいえ、あの時のギーシュの力は教師陣に引けを取らないほどの強さだったのだ。 それに、メイジの価値は使い魔を見よという言葉があるように、またルイズの力も未知数だ。 そんな3人相手に勝てる者はいるのか? そう言えば、異を唱える者は誰も居なかった。 「ふむ、ミス・ロングビル。3人を手伝ってやってくれたまえ」 ミス・ロングビルはそれに頷いて、部屋から出て行った。 「さて、決行は今日の夕方じゃ。ミス・ロングビルに迎えに行くように指示を出しておく それと今日の授業は休んでよい。 ただし、準備を怠らずにの。」 授業免除を受けても3人の顔は真剣そのものだった。 オスマン氏はそれに満足げな顔を浮かべると、解散の言葉を放った。 「では、これにて解散じゃ!」 数十分後… 「サボってるみたいで気持ち悪いわね…」 ルイズは学院の外にある野原に座っていた。 部屋にいると落ち着かないのだ。 そんな彼女に一緒に居たギーシュは声を出す。 「まあ、たまにはいいんじゃないかな。」 ギーシュは寝転んで学院を眺めている。 そんなギーシュに彼女は当然の疑問を出した。 「でも、なんであんたまで?」 「決まってるだろ? ここで逃げたら名が廃る…ってね」 彼は命よりも名を惜しめと教えられてきた。 しかし、今の彼にとってそれは言い訳だった。 「僕は力を手に入れて調子に乗った。 それを止めてくれたのは君たち二人だ。」 「…」 「だから本当は、君たちに力を貸したい。 ただそれだけの事だから安心してくれ。 僕だって戦えないわけじゃない。女性を傷つけるのは流儀に反するからね」 それは何時ものような口説きの姿勢ではなく、社交辞令的なものだった。 何時も女性の事と自分の名誉ばかり考えているわけではないらしい。 彼女もそれに好感を覚えたのかギーシュに言葉を掛けた。 「ま、期待してるわ。」 「任せたまえ。」 さて、と2人が立ち上がったのはほぼ同時だった。 2人は後ろの人物に目を向ける。否、睨んだ。 カイトはその様子に?マークを頭に浮かべた。 「さ~て、カイト。少し聞きたいことがあるんだけど。」 「ああ、僕も聞きたいことがあったんだ」 「…?」 「あんた、何でシエスタのところに行ってたのよ!」 「そうだ! 僕の方が先に君と約束しただろう!!」 「それに、あんた何でミス・ロングビルに攻撃しようとしてたのよ!!」 あまりの剣幕にカイトは一歩後ろに下がった。 作戦まであと7時間… 本当に大丈夫なのだろうか… 前ページ次ページ蒼炎の使い魔
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テレポーターの使い方 町とマップを行き来するためにはテレポーターを使います。 テレポーターはマップ上の大きなアイコンの位置にあり, テレポーターの近くに居るNPCに話しかけると,転送先が選べ, 走るよりも早く目的地に向かえます。
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前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第五話 浅倉が広場を後にした、ちょうどその頃。 本塔最上階の学院長室では、魔法によって映し出された広場の光景に、二人の人物が見入っていた。 「オスマン殿、やはり彼は……」 「……概ね間違いはないじゃろう。」 一人は、サモン・サーヴァントの際にルイズたちの監督をしていた、禿げた頭が特徴のコルベールという男。 もう一人、コルベールにオスマンと呼ばれたその人物は、白い髪に白い口髭の年老いた男。 彼こそが、この学院の学院長である。 そんな二人が、なぜこんなことをしているのか。 それは、ギーシュと浅倉が決闘を始める少し前。 コルベールが慌てて学院長室に入ってきたのが始まりである。 コルベールが手にしていたのは、珍しい形のルーンが描かれた一枚のスケッチ。 サモン・サーヴァントの際に騒動を起こした、ルイズの使い魔の平民のものであるという。 コルベールはそれを、伝説の『ガンダールヴ』のものと一致した、と言った。 「なるほど……。じゃが、たまたま似た形のルーンが現れただけかもしれんぞ?」 「しかし、オスマン殿……」 コルベールが言いかけた時、部屋のドアがノックされた。 「失礼します、オールド・オスマン」 入ってきたのは、オスマンの秘書であるミス・ロングビルであった。 「なんじゃね?」 「ヴェストリの広場にて、生徒が決闘をしているようです。」 オスマンが呆れた顔をして、やれやれと呟く。 「して、誰が決闘をしておるんじゃ?」 「一人は、我が校の生徒、ギーシュ・ド・グラモン。もう一人は……」 「もう一人は?」 「ミス・ヴァリエールの喚んだ、平民です」 その言葉に、オスマンとコルベールは顔を見合わせる。 「噂をすれば、ですな。」 「全くじゃ。……丁度いい。様子を見てみるかの。」 そう言うとオスマンは魔法を唱え、広場を映し出した四角い画面を眼前に出現させた。 「駆けつけた教師たちが、『眠りの鐘』使用の許可を要求しておりますが……」 尋ねてきたロングビルに、オスマンは映像を見たまま、振り返らずに答えた。 「平民相手なら使わずとも十分じゃろ。そう伝えといてくれ」 「……分かりました」 失礼します、と一礼すると、ロングビルは映像に夢中な二人を残し、部屋を出ていったのだった。 そして、現在に至る。 決闘の結果は圧倒的なものであった。 様々な武器を自在に操り、瞬く間に敵を蹴散らして退けた、あの平民。 これなら、彼が『ガンダールヴ』だというのも頷ける。 (それにしても……) 窓際に移動し、オスマンは考える あの平民が持っていた、紫色の奇妙な箱。 色や描かれた模様は違えども、この学院に存在する『破滅の箱』と形状が酷似している。 つい最近手に入れた、手にした者は呪われるという秘宝…… 彼なら、何か知っているかもしれない。 (あとで尋ねてみる必要がありそうじゃのう……) 「ところでオスマン殿。この事を王室に報告しないのですか?」 オスマンの思考が一段落した時、コルベールが思い出したように尋ねた。 「なに、あんなやつらにわざわざ報告せんでいい。そんなことをしたら、彼の身が心配じゃ」 「それもそうですな」 コルベールはそう応えると、そろそろ授業がありますので、と言い部屋を出ていった。 (最近は奇妙な出来事が多いのう……) そう考えながら、オスマンは白髭を撫でながら、窓の外に広がる空を見上げた。 晴れ渡った青空の中に、幾ばくかの薄雲が漂っていた。 その日の夜。 「ねえ、昼間のあの変な格好、何? あ。あと、あのでっかい蛇! 教えなさいよ!」 ルイズは自室で浅倉を質問攻めにしていた。 「うるさい奴だ。俺はもう寝る」 そう言うと、浅倉は部屋の隅で寝転がった。 両手を頭にあて、すぐに目を閉じる。 「ち、ちょっと待ってよ! せめてあんたの名前くらい教えなさい! それぐらいならいいでしょ!?」 「浅倉だ」 目を開けずに、浅倉は答えた。 「アサクラ? アサクラね。それと……」 「じゃあな」 「あああ待って! 最後に一つだけ!」 浅倉が目を開け、ルイズを睨む。 「しつこい奴だ。そんなに俺をイライラさせたいのか?」 その形相に、ルイズは思わずひっ、と声をあげた。 「ほ、本当に最後よ! ……あんた、私のことどう思ってる?」 真剣な目付きでルイズが問う。 浅倉はしばらく天井を見て考えると、目だけをルイズの方に向け、答えた。 「この生活は悪くない」 「え? それってどういう……」 ルイズが言い終える前に、浅倉は再び目を閉じた。 (結局、よく分からなかったわ……) 満足のいく答えを得られなかったルイズは、両手で頬杖をつき、ふぅ、とため息を吐いた。 もう一度、寝ている浅倉を見る。 「でも、私と一緒にいるのは嫌じゃないみたいだし……大丈夫、かな」 そう自分を納得させるように呟くと、ルイズは浅倉から視線をずらし、窓の方へと目をやった。 雲に覆われた二つの月が、その隙間から弱々しい光を放っていた。 所変わって、部屋の片隅に大きな置き鏡がある、学院のとある一室。 その鏡の中に広がる虚像の世界に、銀色の鏡のような空間が出現していた。 それは少しずつ大きくなっていき、しばらくすると、人型の白い物体を四つばかり吐き出した。 吐き出すと同時に、謎の空間は跡形もなく消滅した。 二メイルほどもあるその四つの物体は、しばらくすると不気味な呻き声をあげながら、ふらふらと立ち上がった。 鈍重な動きで顔を動かし辺りを見回すと、おぼつかない足取りでどこかへと去っていく。 後には、何事もなかったかのように部屋の様子を映し出す、その大きな置き鏡があるのみであった。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
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「AHMのあれ」概要「AHMのあれ」の使い方 情報提供コメント 「AHMのあれ」概要 「AHMのあれ」使い方とは273様が作成された。 簡易セーブデータ改変ツールです。 とても簡単に扱えるようになっていますので特に説明はいらないとは思いますが、一応作成させていただきました。 「AHMのあれ」の使い方 Step1 まずは下記の「AHMのあれ」を起動させます。 Step2 次に参照をクリックして改変したいセーブデータを選択して 「ロード」をクリックします。 セーブデータの格納場所はデフォルトのインストール環境で「C \illusion\@ふぉーむメイト\data\save」となっています。 ※クリックで別窓で拡大できます。 Step3 後は、下記に書かれているステータスを記入していき、下記画像の用に 忘れずに「書き換え実行」をクリックすれば、セーブデータの改変は完了しています。 ※クリックで別窓で拡大できます。 Step4 実際に見てみないとわからないということで、 スクリーンショットを用意させていただきました。下記画像をご覧下さい。 ※クリックで別窓で拡大できます。 見事に、セーブデータの書き換えが選択した部分が書き換えられているのがわかると思います。とても簡単ですね。 ※作成していただいた職人様に感謝して使用させていただきましょう。 情報提供コメント パスが分からないのですが -- maka (2010-05-23 01 02 13) すべて全角で -- osn (2012-01-10 22 34 38) お名前 コメント
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バスタード!よりダイ・アモン伯爵を召喚 美的センスゼロの使い魔-1 美的センスゼロの使い魔-2
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(豪三郎先生の声で) ハイ 295続きぃ 「その言葉、忘れんなやぁ!!!」 雄叫びと共に超巨大ウツボを屠った瀬戸豪三郎が、脱いだ羽織を永澄に放る。 それを受け取った満潮永澄は、そういえば今日他に託されたものがあったことを思い出した。 『……はいこれ。巡の靴下。イザというときに使ってね』 あの時は全く意味が解らなかったが、イザという時があるとすれば、それは今ではないだろうか。 ポケットをまさぐり、黒いソックスを取り出す。どう使うのか一瞬思考を巡らせた永澄は、 豪三郎から受け取った羽織に袖を通すと、転がっていた瓦礫から手頃な石を掴んで走り出した。 魚 (←区切りでごぜぇやす) 「――こんなウゼェ女だとは思わなかったぜ、もう死んでくんねぇ!?」 正気を取り戻し、啖呵を切った燦に、義魚が豪華な装飾を施された拳銃を向ける。 そこに永澄が燦を庇うようにして割って入った。 「女の子になに向けてんだよ……! 燦ちゃんに、なに向けてんだよぉぉッ!!!」 「永澄さん! いま英雄の詩を――」 永澄に力を与えようと、人魚古代歌詞『英雄の詩』を唱えようとする燦。 だが、遅い――義魚はニヤリと笑った。詩で力を与えるまでの間隙を狙うべく引鉄を引こうとする。 ――しかし。 がしゃっ 拳銃が弾き飛ばされ、大理石の床に音高く跳ねる。 呆然とした義魚は、どこか焦点の合わない瞳で赤く腫れた手の甲を見た。 ゴツッと音を立てて、永澄の手に握られていた即席のブラックジャックが落ちる。 ただの人間に出し抜かれて硬直する義魚。そして燦の英雄の詩が発動して――決着が訪れた。 魚 十字架のシルエットを浮かべる瓦礫の下で寄り添う燦と永澄。下では留奈や豪三郎が騒いでいる。 戦いの余韻と愛しい人の触れ合いに浸っていた永澄は、ふと思い出して歩き出した。 銃を叩き落した即席のブラックジャックを拾い、石を取り出して、ただの使用後の黒ソックスに戻す。 「永澄さん、それなに?」 「ああ、これは巡が持たせてくれたんだ。イザというときに使ってくれって。おかげで助かったよ」 「はぁー、さすがお巡りさんじゃー。なんでもお見通しやんねー」 婚礼衣装のような白いドレス姿で、いつものように天然の感心と笑顔を浮かべる燦。 それを見て、永澄は本当に大切なものを取り戻すことができたのだと実感する。 (……靴下、これからはちゃんと裏返して洗濯に出さないとな) 永澄はそんなことを思いながら、手を繋いで皆の元に降りて行った。 魚 『翌朝ぁ』 (←チビッこっぽい声で) 川に架かる橋で潜水艦に乗った永澄を敬礼で送り出した翌日、銭形巡は困惑していた。 やたら逞しい超戦士状態のガッチリした幼馴染、満潮永澄から深い感謝と共に靴下を返されたからだ。 しかもその隣には彼が昨日連れ戻したであろう、親戚にして同居人の少女、瀬戸燦の姿もある。 「ムゥ、巡、これに危ないところを助けられた。深く感謝する」 「巡ちゃんありがとー。ちゃんと洗ってきたきん。安心してな」 薄い水色の小さな紙袋に入った靴下を、呆然としたまま受け取る。 巡にはさっぱりわからなかった。 『靴下を貸したことを感謝された』ことがではない。 『燦と共に返しに来た』ということが、だ。 続き→靴下の使い方・2
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前ページ次ページサイヤの使い魔 悟空とギーシュの決闘が始まる数分前、空きっ腹を抱えて食堂へやってきたコルベールは、食堂に残っている生徒がごく僅かで、その中にミス・ヴァリエールの使い魔は含まれない事に気付いた。 そして、遅めの昼食(材料が足りないのか、何故か賄いで出るようなスープとパンが少しだった)を採っている最中耳にした生徒の会話から、件の使い魔がヴェストリの広場でミスタ・グラモンを決闘を交えようとしていることを知った。 昼食を喉に詰まらせて激しく咳き込んだコルベールは、皿に残ったスープの残滓を急いで飲み干し、再び学院長の元へと駆け戻った。 学院長室の入り口の前で、ミス・ロングビルにばったり出くわす。 「ごきげんよう、ミスタ・コルベール。凄い汗ですが、急いでどちらへ?」 「実は、生徒たちが決闘を行おうとしているので、その件で報告をと」 ミス・ロングビルの顔色が変わる。 「ミスタ・グラモンとミス・ヴァリエールの使い魔ですね?」 「ご存知でしたか?」 「私もその件で報告をしようとしていたところです。宜しければ一緒にどうですか」 「是非に!」 ミス・ロングビルが扉をノックし、一言二言会話を交わして学院長室に入る。コルベールも後に続いた。 「なんじゃ? 二人揃って」 「ヴェストリの広場で、決闘をしようとしている生徒がいるようです。大騒ぎになっており、止めに入ろうとしている教師がいますが、生徒たちに邪魔されて、止められないようです」 「まったく、暇をもてあました貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れおるんだね?」 「1人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「あの、グラモンとこのバカ息子か。オヤジに輪をかけて女好きじゃからの、おおかた女の子の取り合いじゃろう。まったく、あの親子は。相手は誰じゃ?」 「ミス・ヴァリエールの使い魔です」コルベールが口を挟む。 「…それは本当か、ミスタ・スポック」 「コルベールです。って、いきなりそんな突拍子も無い名前が出るのは非論理的です」 「そういうお前さんだってちゃっかり返してきとるじゃないか」 「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」 「アホか。たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」 「判りました」 ミス・ロングビルの退室を見届けると、オスマンはコルベールに目配せした。 「さてと、ミスタ・コルベット」 「コルベールです。さっきよりマシですが、微妙に間違ってます」 「件の人物が本当にガンダールヴの幽霊かどうか、確認する機会が訪れたようじゃな」 オスマンが杖を振るうと、壁にかかった大きな鏡に広場の様子が映し出された。 ヴェストリの広場は、重苦しい沈黙に包まれていた。 ギーシュのワルキューレから繰り出される攻撃は、当たり所によっては一発で人間の骨くらい簡単にへし折るほどの威力がある。 それを何発も、しかも数分に渡ってその身に受け続けた男は、骨折どころか擦過傷すら負った様子が無い。 ミス・ヴァリエールの使い魔は化け物か。 物言わぬ彫像と化したギャラリーは、あれが「天使」という言葉だけでは説明できない「何か」である事を薄々感じ始めていた。 そしてギーシュは、この化け物に対し最も適切な自分の行動を、女性に浮気がバレた時の言い訳を考える時よりも遥かに速い速度で考えては没にしていた。 ワルキューレを再構築して戦う――精神力が保たない。それに、さっきの攻撃の結果から、徒労に終わるのは目に見えている。 自分が戦う――ワルキューレより遥かに劣る自分の攻撃が、この男に通用するはずが無い。 逃げる――有り得ない。貴族が決闘の最中敵に背を向けるのは、敵に倒されるよりも屈辱的な事だ。 降参する――尚更有り得ない。他に選択肢が無いとしても、グラモンの家名を汚したこの男にだけは。そう自分のプライドが言っている。 その他――考えろ、考えるんだギーシュ・ド・グラモン。この状況を打つ手を、1秒でも早く、考えろ……! 聞こえてきた足音に、ギーシュは我に返った。 ミス・ヴァリエールの使い魔が、こちらに向かって歩いてくる。 ギーシュは立ち上がろうとした。だが、腰が完全に抜けてしまって足に力が入らない。 やがて、悟空がギーシュの眼前に立ちふさがった。 こちらに手を伸ばしてくる。 止めを刺されることを悟ったギーシュは、生まれて初めて心の底から震え上がった。真の恐怖と決定的な挫折に……。 恐ろしさと絶望に涙すら流した。 これも初めてのことだった……。 ギーシュは既に戦意を失っていた…しかし、それは悟空にとっても同じだった。 既にギーシュからは闘志が失われているのを悟空は感じていた。 戦いとは、双方の実力が拮抗してこそ面白いものだ。 今のように、自分より遥かに力量の劣る相手と戦ったところで、悟空には面白くも何とも無い。 彼は常に、互いに全力を出し切って戦うことを望む男であった。 「立てっか? 手貸してやるから、つかまれ」 「は、はえ?」 涙と鼻水にまみれた顔のギーシュが、情けない声をあげる。 「今のおめえじゃオラには勝てねえ。多分さっきのがおめえの目一杯だったんだろ?」 見透かされていた。 その上、敵に情けをかけられた。 ギーシュは夢遊病者のように、無意識に悟空の手を取った。 悟空に手を引かれ、震える足腰に活を入れて立ち上がりながら、自分のプライドがズタズタにされているのを感じた。 ついさっきまで殺されることをあれほど怖がっていたのに、今はむしろ死んでしまいたい。 「悪かったな、おめえの家名に泥塗っちまって」 「え…?」 「ルイズに聞いたんだけどよ、名前間違えるってのはこっちじゃ誇りを傷つけることなんだってな。本当に悪ぃ事したな」 「あ…ああ」 誇りを傷つけられるのが我慢できないのはどうやらルイズだけではなく、この学院の生徒、いや、貴族というものは総じてそうらしい。 悟空は、貴族とは要するにベジータみたいなヤツなのだと結論付けた。 そして、自分にサイヤ人であることの誇りを教えてくれた男に、密かに感謝した。 「だからよ、今度からギーシュって呼んでいいか?」 「な、何だって?」 「オラあんまり長い名前だと覚えてても言い間違えちまいそうだからさ、単純に最初の名前でなら呼べると思うんだ」 「あ、ああ、それは構わない」 「じゃ、宜しくな」 使い魔が手を握手の形にして差し出す。 ギーシュは考えた。 この男は何なんだ? あれ程攻撃を加えた自分に対し、反撃してくるどころか手をとって立ち上がらせ、挙句自分の非を詫びてきた? 食堂での一件を差し引いても、自分の非を詫びるのは普通、敗者の行いだ。 それをこの男は…。 少しの間迷った後、ギーシュはそれに応えた。 「まったく…君は色々と凄い奴だな、参ったよ。よければ名前を教えてくれ」 「オラ悟空。孫悟空だ」 「珍しい名前だな。ゴクウと呼んでいいかい?」 「ああ」 「改めて自己紹介させてもらう。ギーシュ・ド・グラモンだ。呼び方はさっき君が言ったとおり、ギーシュでいい」 「わかった」 「それと、僕からも宜しく」 握った腕を軽く上下に振る。 ギーシュは悟空の手を離し、ハンカチで涙と鼻水を拭き取り、晴れ晴れとした顔でギャラリーに向き直った。 「この決闘、ギーシュ・ド・グラモンの敗北をもって終了とする!」 ギャラリーのそこかしこからぽつぽつと不満の声が聞こえてくるが、ギーシュにはこの上ない完敗であった。 だが、不思議と悔しさは無かった。 「なあ、ギーシュ」 「何だい?」 「おめえが修行してもっと強くなったらさ、もう一度戦おうぜ。今度は決闘じゃなくて試合がしてえんだ」 ギーシュは苦笑した。そして清々しい気持ちで一杯になった。 「はは、僕が君と対等に戦えるようになるまではずいぶん時間がかかりそうな気がするね。…でも悪くない提案だ。僕が今以上に強くなったら、その時はまた手合わせ願うよ」 「ああ! …あ、そうだ」 悟空は腰に巻いた帯の隙間から小瓶を取り出した。 食堂でギーシュが落としたものだ。 「よかったー、割れてねえや。これ、おめえのだろ?」 「…これは……。ありがとう。さっきは無視して済まなかった」 「何だ、やっぱり無視してたんか」 悟空からギーシュに手渡された小瓶を見た生徒――ギーシュの取り巻きの一人だ――から声が上がる。 「おい、あれはモンモランシーの香水じゃないか?」 その一言は、池に投げ入れられた小石が立てる波紋のように周囲に影響した。 「そうだ、あの鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 「ギーシュ、お前モンモランシーと付き合ってたのか!」 沸き起こるギーシュに対する追求の中から、栗色の髪をした少女が歩いてきた。 目には涙を浮かべ、わき目も振らずギーシュの元へと歩いてくる。 「ギーシュさま…やはり、ミス・モンモランシーと……」 「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ…」 ケティと呼ばれた少女がギーシュの頬に張り手を食らわす。 「その香水を貴方が持っていたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」 少女は涙も拭かずにその場を去った。 ギーシュが赤くなった頬を擦っていると、更にもう一人、金色の髪を巻き毛にした少女が歩いてくる。悟空はそれが件のモンモランシーだと理解した。 ギーシュが必死に弁解する。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」 首を振りながら言いつつ、冷静な態度を装っているが、冷や汗が額を伝っているのが目に取れた。 氷のような目つきでモンモランシーがギーシュを見つめる。 「やっぱりあの一年生に、手を出していたのね?」 「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」 「ふん!」 電光石火の速さで振り上げられたモンモランシーの右足が、寸分違わぬ正確さでギーシュの股間に深くめり込んだ。 『オウ!!!』 悟空を除く、その場の♂がギーシュを含め一斉に苦悶の表情を浮かべて股間を押さえる。 ギニュー特戦隊も驚きのチームワークがそこにあった。 「うそつき!」 怒鳴るように吐き捨て、その場を立ち去るモンモランシー。 白目をむき、冷や汗を脂汗へと変えながら前のめりにうずくまるギーシュ。 辺りにはギーシュの鳥を絞め殺したような呻き声と、呆れ顔の悟空がギーシュの腰を叩くトントンという音だけが聞こえる。 やがて、顔面蒼白になりながらフラフラと立ち上がったギーシュが、首を振りながら芝居がかった仕草で肩をすくめる。 「あ、あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解してないようだ…」 「ははっ、おめえ、ヤムチャみてえなヤツだな」 「うぐ、何だかよくわからないがひどく馬鹿にされてる気がする……」 「まあ、後で謝りに行ったほうがいいんじゃねえか?」 オスマンとコルベールは顔を見合わせた。 「あれのどこが決闘なんじゃ」 「座っているミスタ・グラモンをあの使い魔が立たせて、二人が握手したと思ったら…今度は痴話喧嘩ですか?」 「まったく人騒がせなヤツらじゃわい」 ミス・ロングビルとの会話のせいで、二人は肝心の戦闘を見過ごしていた。 「しかし、やはりあの使い魔のことは王室に報告すべきではないかと…」 「いや、仮にあれがガンダールヴの幽霊だったとしてもまだ時期尚早じゃ」 「何故です?」 「頭の眩し…ゲフンゲフン、頭の固い王室のクソッタレどもが幽霊の存在なんか信じると思うか?」 「言われてみれば……」 「お前さん、その反応じゃとまだあの使い魔にその辺訊いておらぬな?」 「ごもっともな事で。申し訳ありません」 オスマンは杖を握ると窓際へと向かった。遠い歴史の彼方へ、思いを馳せる。 「ふう~。…伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……。一体どのような姿をしておったのだろうかのう…」 「『ガンダールヴ』あらゆる『武器』を使いこなし、敵と対峙したとありますから」 「…そういえば、あの男武器を持っとらんかったな」 「あ」 昼休みがそろそろ終わる。 決闘が終わったヴェストリの広場には、まばらに生徒が残っていた。 大多数の生徒は次の授業のため、教室へと移動している。 「本当に勝っちゃったわね…。…ていうかあれ、勝ったの?」 「負けてはいない。それに、実力では彼の方が上」 「そうね。本当、タバサの言うことは正しいわね」 賭けの配当金で懐が暖かくなったキュルケは、うっとりした顔で悟空を見やった。 「それにしても、改めて見るといい男よねえ…。あたし強い男って大好き」 タバサは一瞬読んでいる本から目を離してチラリとキュルケを見たが、何も言わず再び視線を本に落とした。 「正直言って、あんたがあんなに強いとは思わなかったわ」 「見直したろ?」 「…まあね。使い魔としては結構いいセン行ってるかしら。ところで教えて欲しいんだけど」 「何だ?」 「あんたがそんなに頑丈なのって、死んでるから? それとも、元々?」 「元々からだ」 「…マヂですか」 ルイズが悟空のことを彼女なりに褒めていると、顔を輝かせたシエスタが走ってきた。 「ゴ、ゴクウさん凄いです! 貴族相手に決闘して、勝っちゃうなんて! 私あんなに強い人見たの初めてです!!」 「死ななかったろ?」 「はい! 」 悟空の冗談はシエスタに気付かれなかった。どうやら、未だに悟空の事を「もの凄く強い天使」だと思っているらしい。 「シエスタ、っていったっけ」 「はい、ミス・ヴァリエール」 「わたしたち、授業があるから」 「あ、そうですね。私も料理長にこの事を報告しに行きたいので、これで失礼します」 ぺこりと頭を下げて、立ち去ろうとするシエスタに悟空が声をかける。 「シエスタ!」 「何でしょう?」 「今朝の洗濯物、いつ取りに行きゃいいんだ?」 「あ、私がミス・ヴァリエールの部屋に届けますから大丈夫ですよー」 「わかった。サンキュー」 午後の授業の後、ルイズはコルベールに呼び出された。 「君の使い魔の件だが…。彼に何でもいい、武器を与えてやってくれないか?」 「構いませんが…どうしてですか?」 「ちょっと思うところがあってね。とりあえず資金の幾分かは私が出すよ」 そう言って、ルイズにエキュー金貨20枚を手渡す。 「何分安月給なもので、これだけしか渡せないのが申し訳ないが」 「お気持ちだけで十分です。これは取っといて下さい。それに、わたしもあいつに武器を持たせたらどうなるか、ちょっと興味が出てきました」 「ありがとう。武器を与えたら教えてくれ」 「わかりました。明後日の虚無の日に街へ行ってみます」 「宜しく頼むよ」 「よう、待ってたぜ、『我らの拳』!」 夕食時、厨房に入ってきた悟空を、マルトーが抱きつきながら出迎えた。 「うわっ、何すんだ、気持ち悪ぃ! 我らの拳って何のことだ!?」 「あんたは俺たちと同じ平民なのにあの偉ぶった貴族の小僧に拳骨ひとつで勝ったんだ。我ら平民の誇り、我らの拳だ」 どうやら、マルトーは悟空を平民だと思っているらしい。 ふとシエスタの方を見ると、「忘れてた」といわんばかりの表情を浮かべて悟空とマルトーを交互に見つめている。 スキンシップを終えて満足したマルトーが厨房の奥へ引っ込むと、シエスタが謝ってきた。 「ご、ごめんなさいゴクウさん、私料理長にゴクウさんが天使だって事言うのすっかり忘れてました」 「オラも言うの忘れてたんだけどよ、本当はオラ、天使じゃねえんだ」 「へ?」 「話せば長くなるんだけど、とりあえずはその『平民』って事にしてくれてもいいぞ」 「は、はい!」 自分たちと同じ平民だと聞かされ、シエスタの笑顔がいっそう明るくなった。 やがて、悟空に食べさせるためのスペシャルメニューが運ばれてくる。 食器の数は減ったが、量は昼に勝るとも劣らない。 「見た目は少ないかも知れねえが、量は昼とあまり変わらねえはずだ。思う存分食ってくれ!」 「サンキュー! じゃ、いただきまーす!!」 惚れ惚れする勢いで料理を胃袋に収める悟空。 そしてそれを惚れ惚れと見つめながら悟空におかわりを注ぐシエスタ。 そんな二人を惚れ惚れと見つめるマルトー。 満腹の者が見てもまだ空腹を覚えそうな、見事な食べっぷりであった。 「なあ、お前どこで修行した? 一体どんな事をしたらあんなに強くなれるのか、俺にも教えてくれよ」 「別に特別な事はねえぞ。毎日ひたすら修行するだけだ」 悟空の言葉は嘘ではない。 今日見せた強さは、あくまで氷山の一角であり、日頃の鍛錬で十分に出せる実力の範疇であった。 「お前たち! 聞いたか!」 マルトーは厨房に響くような大声で怒鳴った。若いコックや見習いたちが、返事を寄越す。 「聞いていますよ! 親方!」 「本当の達人と言うものはこういうものだ! 大事なのは日々の積み重ねだ。見習えよ! 達人は怠けない!!」 コックたちが嬉しげに唱和する。 『達人は怠けない!』 「やい、『我らの拳』。そんなお前がますます好きになったぞ。どうしてくれる」 「あひふふおああんへんひへうえお」 「何だって?」 ずぞぞぞぞ、と口に含んだヌードル状のものを啜り込み、そのまま飲み込む。 コックから、「おい、今の量一食分はあったぞ…」とか、「ちゃんと噛めよ…」などと呟きが漏れた。 「抱きつくのは勘弁してくれよ」 「そうか、そりゃ残念だ。じゃあお前の額に接吻させてくれ」 「もっと嫌だ! オラそういう趣味はねえぞ!」 「がはは、冗談だ。おい、シエスタ! 我らの勇者に、アルビオンの古いのを注いでやれ」 「はい!」 先に食事を終えたルイズは、そっと厨房の中を覗き見、自分の使い魔が厨房の皆と打ち解けているのを見て少し嬉しくなった。 強い、素直、人望がある。宇宙人の使い魔も結構悪くない。 翌朝、昨日の宣言通りに自分で洗濯をこなしてきた悟空をルイズはとても褒める気になれなかった。 靴下やブラウスなど、それなりに強度があるものは一応綺麗に洗ってある。 だが、肝心の――ルイズのお気に入りである――シルクの下着がひどい有様だった。 恐らく他の衣類と同様にジャブジャブと水洗いしてしまったのだろう、よれたりところどころ破れたりしていて、もう二度と履けない。 「……あんた、これ見なさい」 「わ…わりい。慎重に洗ったつもりなんだけど、どうしても布地が戻んなかったんだ」 「あんた、シルクの下着洗ったことある?」 「ねえな」 「…はあ、やっぱりね……。いい? シルクは水洗い厳禁なの。ぬるま湯で2、3回押し洗いするの。揉み洗いだとすぐに繊維が駄目になってしまうわ」 「へえ」 「そして、洗った後は軽く絞って陰干し。軽くよ。いいわね」 「難しいな…。自分から言っといてなんだけどよ、やっぱシエスタに頼んだ方がいいんじゃねえか?」 「なんで? 他のはちゃんとできてるじゃない」 「いや、力加減が難しくてよ、実を言うとあっちだっておっかなびっくりだったんだ」 そう言って、手際よく洗えている靴下を指差す。 悟飯が小さい頃は悟空も洗濯を手伝っていたが、人造人間と戦うための修行の頃から、だんだん洗濯中に服を破いてしまう事が多くなって、チチに洗濯はもういいと止められていたのだった。 「…まあ、あんたがシルクの洗濯をマスターするまでに何枚もわたしの下着が駄目になる可能性を考えたら、確かにそっちの方がいいかもね」 ルイズは妥協すると、悟空を連れて朝食へと向かった。 前ページ次ページサイヤの使い魔