約 849,920 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7892.html
『彼』の手が、笑顔を忘れた少女の顔に触れる。 「あ……」 タバサは思わず、声を漏らした。 心臓が激しく脈打ち、顔が熱くなる。 この人のおかげで、私は今ここにいる。 『彼』は私の恩人。『彼』は私の勇者様。 『彼』との出会いが、思い出される。 トリステイン魔法学院で、ゼロのルイズとあだ名される少女が召喚したのは、メガネをかけた長身の少年だった。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 そんな声の後、皆が一斉に笑った。 嘲笑の対象となった桃髪の少女は、クラスメイトたちに怒鳴り返していたが、私はそんな声を聞き流す。 平民の使い魔。 特殊な事例のため、ほんの少し気になったが、その時はまだ、私は『彼』に何の感情も抱いてはいなかった。 私が『彼』に興味を持ち始めたのは、使い魔召喚の儀式の翌日。 『彼』とギーシュ・ド・グラモンが起こした決闘騒ぎの時からだった。 香水の壜を拾ったとか、二股がばれたとか、そんなくだらない理由で始まった決闘。 私は親友のキュルケに付き合う形で、本を捲りながらその見物に混ざっていた。 とは言っても、平民と貴族の決闘など、結果はわかりきっている。 私自身、決闘に興味はなかったが、平民の『彼』が勝つことは無いだろうと思っていた。 だが『彼』は、そんな常識を、異能を持って覆した。 迫り来る青銅のゴーレム達に、『彼』はすっと手を伸ばし、短い言葉を発する。 すると一瞬の光の後、彼の腕に巨大な大砲が現れ、砲口から吐き出された鉄塊がゴーレムを一撃で蹴散らした。 杖を手放し、降参するギーシュに、彼は指でメガネの位置を直しながら、何かの数字と、自らの名を名乗った。 それから何日もしないうちに、私は『彼』のさらなる力を目の当たりにする。 決闘騒ぎから数日、巷を騒がす盗賊、土くれのフーケが学院を襲い、宝物庫から秘宝を盗み去る事件が起きた。 『彼』の主であるルイズと、私の親友のキュルケ。 この二人がフーケの討伐に立候補した。 私は友人が心配だったことと、『彼』の能力への興味から杖を掲げた。 だが、フーケ討伐は、私の想像以上に危険なものだった。 フーケの隠れ家らしい廃屋で、早々に目当ての秘宝を発見したはいいが、その直後にフーケの巨大なゴーレムに襲われ、私の魔法も、キュルケの魔法も通用しない。 だが『彼』は、スケート靴の様なもので高速移動し、ゴーレムを翻弄。 ギーシュとの戦いで見せた大砲をはじめ、人の顔を模した立方体や、いくつものブロックが連結したような武器を召喚して、巨大なゴーレムを圧倒した。 その時も、『彼』はメガネを上げながら、何かの数字と名前を名乗っていた。 『彼』の活躍は、それだけに留まらなかった。 アルビオンへの秘密任務では盗賊を蹴散らし、トリステインを裏切った、スクウェア・メイジのワルド子爵さえ倒してのけた。 タルブ戦役においては、未知の機械を操ってアルビオンの竜騎士隊を壊滅させ、アンドバリの指輪で蘇ったウェールズによるアンリエッタ誘拐事件も、『彼』の力で事なきを得た。 アルビオンからの撤退戦。 『彼』はたった一人で七万の軍勢を足止めした。 その後、しばらくの行方不明から生還。 そして、シュバリエの受勲。 まるで物語に登場する英雄のような、『彼』の活躍の数々。 私は次第に、『彼』に興味以外の感情を抱くようになっていった。 そんな折、祖国の王にして、憎き敵である叔父からの無慈悲な命令が届く。 それによる彼と敵対。 そして、任務の失敗。 私は囚われの身となった。 だが、私は『彼』に救われた。 『彼』はあの恐ろしいエルフをも退け、私と私の母を救い出してくれたのだ。 その時もまた、彼はメガネを直して、何かの数字と、自分の名前を名乗った。 そして今、私は『彼』と一緒に、キュルケの実家の一室にいる。 『彼』は私の頬に触れ、私の目を真っ直ぐに見つめながら、今まで私に好意を寄せていたことを、告白した。 メガネの奥の『彼』の知的な瞳に、私は頭がくらくらしそうだった。 嬉しさと恥かしさで顔が熱くなり、頭がとろける様な幸福を感じる。 不意に『彼』の顔が近づく。 私は『彼』に身を預け、ぎゅっと目を瞑った。 私のメガネが、外される。 私は目を瞑ったまま、『彼』の唇の感触を待った。 だが、一向にそれは訪れない。 我慢ができず、私が目を開けると『彼』は――私のメガネにキスをしていた。 それはもう、愛おしそうに。 数秒の混乱の後、私は悟った。 『彼』が見つめていたのは、私のメガネ。 『彼』が好意を寄せていたのは、私のメガネ。 『彼』が救ったのは、私のメガネ。 『彼』が告白したのも、私のメガネ。 恍惚とした表情で、私のメガネに口付ける『彼』。 耐えられなくなった私は、脱兎のごとく逃げ出しながら、人生で一番の大声で叫んだ。 「変態だーーーーーーーーー!!!!」 後ろから、『彼』の声が聞こえた。 「変態じゃない!!! キルノートンだ!! IQ179 キルノートンだ!!!」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6570.html
前ページ次ページ残り滓の使い魔 悠二が学院長室で互いの情報を交換している頃、ルイズは部屋で目を覚ました。 悠二がいなくなってしまったと思い込み、枕を濡らしているうちに眠ってしまっていたのだった。眠ったからなのか、ルイズは寝る前とは心機一転していた。 (使い魔がご主人様を置いていなくなるなんて、ありえないわ) ルイズは、昨日から今日にかけての悠二の発言を振り返ってみることにした。 (そういえば、使い魔のこと何も知らないわね) 今更ながら、自分が使い魔から何も聞いていないことを思い出した。 (まあそれは、あいつが帰ってきてから聞けば良いわよね) 自分が覚えている限りのことを思い出そうとするが、 (……あいつの話ちゃんと聞いておけばよかった) 悠二の話をあまり覚えていなかった。 (でも、ミスタ・コルベールのこと聞いていたわね) 朝食を食べているときに、悠二にコルベールについて聞かれていたことを思い出した。この時は気にも留めていなかったが、よくよく考えてきるとおかしかった。 (ミスタ・コルベールとは何も関係なかったはず。ということは、ミスタのところ!) ルイズは飛び起き、一直線に部屋の外に出ようとしてドアの前まで行き、すぐさま回れ右した。 (泣いたまま寝ちゃったし、ひどい顔になってるかも) そう思い鏡を覗いてみると、案の定目は腫れて、頬には涙のあともついていた。 (まずは、顔を洗わなきゃね) ルイズは顔を洗ってから、本塔と火の塔の間にあるコルベールの研究室である小屋に来ていた。 「ミスタ、いらっしゃいますか?」 何度かドアをノックして、呼びかけてみたが中からの反応はなかった。 失礼します、と言ってドアを開けると、立ち上ってきた異臭にルイズは顔をしかめ、鼻をつまんだ。 鼻をつまみながらも、小屋の中に入ってコルベールがいるか確かめようとしたが、それも即座に頓挫した。 「もう限界! この臭いには耐えられないわ! それに何回も呼んだのに返事がなかったし、いないのよね」 ルイズの悠二の手がかりは早くも無くなってしまった。 (そういえば、昼食抜きにしたからお腹空いてるはずよね) 今度は、厨房に向けて歩き出した。 厨房に来てみると、昼食の後片付けと夕食の下ごしらえのためにコックやメイドたちが忙しなく働いていた。 貴族の存在に気づいたのか、黒髪でそばかすがあるメイドが近寄ってきた。 「何か御用でしょうか?」 「私の使い魔ここに来てない?」 それを聞いたメイドは昼食の時に食堂の前で会った少年を思い出した。 「ミス・ヴァリエールの使い魔の方なら、ミスタ・コルベールに会いに図書館に行きましたよ」 「そう。もし、私の使い魔が来たら、私に教えに来てちょうだい」 ルイズはそう言い残し、図書館に向けて歩き出した。 結論から言うと、図書館にはコルベールも悠二もいなかった。この時は学院長室でまだ話をしていたのだが、ルイズには知る由もない。 この時、図書館に司書がいなく、生徒が一人いるだけだった。 (あれは、確かタバサよね? キュルケの友達の) ルイズよりも小柄な青髪の少女に話しかけた。 「あの、私の使い魔かミスタ・コルベール見なかった?」 タバサは読んでいた本から顔を上げ、ルイズの顔を一瞥し短く告げた。 「知らない」 タバサはそれだけ言うと再び本に顔を向け直した。 ルイズは再び自室に戻ってきていた。戻ってくる途中、キュルケに話しかけられたが思考の海の中を漂っていたルイズはキュルケに気づかなかった。 (図書館に向かってから消息が不明ね。これは迷宮入りかもしれないわ) そう結論付け、ルイズはうんうん唸りながらベッドに腰掛けていた。しばらくすると、ドアがノックされた。 「開いてるわよ」 「失礼します。ミス・ヴァリエール、使い魔の方が厨房にいらっしゃいました」 メイドの言葉を聞き、 (あんの使い魔ったら、ご主人様に心配かけるなんて……) クククと黒い笑みを浮かべて厨房に向かうルイズに、黒髪のメイドことシエスタは言い知れぬ恐怖に震えた。 悠二、オスマン、コルベールの三人は厨房に来ていた。 オスマンとコルベールが来たにもかかわらず、厨房で働いている人たちは挨拶もそこそこに、すぐに仕事に戻ってしまう。 学院長室からここに来る間に、二人から、ハルケギニアの身分階級を聞いていた悠二はこの態度に首をかしげた。 (この態度から、二人とも厨房によく来てるみたいだし、貴族とか平民とかの身分もあまり気にしないみたいだな) そして、悠二は思い出していた。こっちに召喚されてから、ルイズには同じ椅子に座ることさえ許されなかった。 そして、周りの人たちもそれを当たり前のように見ていたことを。 それを鑑みると、学院長室に入り盗み聞きを咎められなかったこと(普通は身分階級にかかわらず、盗み聞きをしてはいけない)や、 同じ椅子に座ったことなどが特殊なケースであることを自覚した。 そこに、四十過ぎくらいの丸々とした体の男性がオスマンとコルベールに笑顔で話しかけてきた。 話によると、その男性はコック長のマルトーと言い、二人とは中々に仲が良いようだった。 「それで、お二人さんの横にいるその少年は誰だい?」 マルトーが二人との冗談の言い合いも終わると、二人の横にいた悠二に訝しげな視線と共に問いかけた。 「彼は、ユージ君と言っての、この間の使い魔召喚の儀式で呼び出された少年じゃよ。今では、私らの友人じゃ」 「ああ、お前が噂の使い魔か! 貴族にこき使われて大変だろうが、俺らは味方だからな!」 悠二の首に腕を回し、ガハハと豪快に笑った。 「シエスタ! 三人に何か食べるものを持ってきてくれ!」 喧騒に包まれた厨房の中で、二人は悠二の話に耳を傾けていた。オスマンからの助言で、悠二は東方から来た平民と言うことでマルトーに紹介され、マルトーが仕事に戻ってからは地球での生活を話すことになった。 やはり、異世界の話というのは興味深いのか、二人とも熱心に聞いていた。 コルベールに至っては、そのまま近づいて悠二に熱い接吻をしてしまうのではないか、と誤解してしまうくらいに前のめりになって話を聞いていた。 「身分階級がなく、誰でも教育が受けられるというのは素晴らしいことじゃのう」 悠二が、まずは、と思い学校の話をすると、二人とも感慨深いからなのか、うんうん唸りながら頷いていた。そこへ、マルトーに食事の用意を言われたシエスタがおいしそうな料理を運んできた。 「たいしたものは出せませんが」 そうは言っていたが、見ているだけで涎が出てしまうくらいの料理が目の前に並んだ。並べ終わった後に、シエスタは悠二の耳元に口を寄せ、 「さきほど、ミス・ヴァリエールがユージさんをお探しになってましたよ」 囁いた。では、ミス・ヴァリエールをお呼びしてきますね、とぺこりと礼をしてからシエスタは厨房からいなくなった。 疑問に思う。ルイズは、あまり悠二自身に興味ないはずなのに、なぜ探しているのだろうか、と。 (どうせ、使い魔は側にいないとダメなのよ、とか言われて怒られるんだろうな) その予想はあながち間違いではなかったが、実際は惨劇が繰り広げられると思うほどルイズが怒っているとは、その時は思っていなかった。 内心で大きくため息をつき、目の前にある料理を頬張った。 「これ、すごくおいしいですね!」 悠二は召喚されてから初めてまともなものを食べ、感動のあまり大きな声で言っていた。 「私はこれを食べたいがために、こうして厨房まで足を運んでしまうんじゃ」 「マルトーさんが作る料理は絶品なんですよね」 オスマンもコルベールも、そう言って食べ続け、悠二はつかの間の幸せを貪った。 (あんの生意気な使い魔にどんな罰を与えてあげようかしら) 勝手にいなくならないように首輪でもつけようかしら、一週間縄で縛っておくのもいいかもしれないわね、などぶつぶつと言いながらルイズは厨房にやって来た。 ちなみに、ルイズの後ろをついてきていたシエスタは、厨房に着くまでルイズから発せられ続けた毒の強い言葉に顔面蒼白になりつつあった。 悠二は厨房の入り口からの不穏な気配を感じ取り、振り向いてみると青筋を立てながら笑顔を浮かべているルイズがいた。 この時悠二は、笑顔は肉食獣が獲物を前にしたときに浮かべる表情だと聞いたことを思い出していた。 (ははは、冗談には聞こえないな……) これから自分の身に降りかかる不幸を思い、それから逃れられぬことも知り、自身の境遇を呪った。 「おお、ミス・ヴァリエール! いいところに来ましたな!」 そういった彼の輝く頭頂部に、悠二は希望の光を見た。 「ミスタ・コルベールにオールド・オスマン! どうして厨房なんかで私の使い魔と!?」 「そう! そのことでルイズに大事な話があるんだ!」 ルイズからの怒りを逸らすために、ここぞとばかりに大きな声を出した。 幸いにもルイズは混乱しているようで、既に悠二に対する鬱憤は霧散していた。 (え? なによ、急に大事な話って。まさか、私がひどいことをしたとか言い出すんじゃないでしょうね。 そんなわけないわね。ということは、わわ、私の、み、魅力に……) ポカンとした表情を浮かべたと思ったら、急に頬を赤く染めてもじもじし始めたルイズに、悠二は訝しげな視線を向けたが、 ルイズは、いきなりそんなことを言われても、だとか、貴族である私が平民なんかとは、とか小声で独り言を言い続けていた。 「と、とりあえず今日の夜にヴェストリの広場で待っておりますぞ」 そう言い残し、コルベールは、メイドたちにいやらしい視線を送っているオスマンを引っぱり、去っていった。 残された悠二は、厨房にいる人たちに感謝の辞を述べ、いまだにくねくねしているルイズを連れ部屋に戻った。 部屋に戻る頃にはルイズも冷静になっていたが、そうなると次第に悠二に対する怒りがふつふつと沸きあがってきた。 (だ、大事な話とか言ってご主人様を騙すなんて! やっぱり一回しつけなおさないとダメかしら) しかし、とりあえず主人である自分がいかに寛大であるかを教えてあげよう、と思ったらしく、部屋に入るなり怒鳴り散らす、などということはせずに、ルイズなりに優雅に椅子に腰掛け、 「それで、大事な話って何かしら?」 やはり上目線で問いかけた。 「学院長とコルベール先生にはもう話したんだけど、実は、……僕はこことは違う魔法がない世界から来たんだ」 悠二がそう言うと、ルイズはまるで汚いものを見るかのような目で悠二を見下した。 「で、それをどうやって証明するわけ? そうじゃなくちゃ信じられないわ」 オスマンとコルベールをも納得させた道具──財布──を、(仰々しく、とまではいかないが)悠二がポケットから取り出す姿には、 ──これを見たら絶対に信じる──という自信が滲み出ていた。実際に悠二の自信はその通りで、ルイズも一応は信じたようだった。 「あんたが異世界から来たってのはわかったわ。で、それが大事な話ってわけ?」 「いや、ここからが本題なんだけど、簡単に言うと、僕は普通の人間じゃない。それで、元の世界を守るために戻らないといけない」 悠二は言ってしまった後に後悔した。 (うわ、この言い方だと自分を正義の味方だと思ってる頭の痛いやつみたいだな) 自分の今の発言を思い出し、あまりの酷さに笑いそうになったが、ここで笑ってしまうと場違いだし、ルイズに信じてもらえないだろうと思い必死に我慢した。 ルイズはそんな悠二を、養豚場のブタでもみるかのように冷たい目で見ていた。 「あんたの大事な話ってそれ? 冗談を言うならもっと面白い冗談を言ってよね」 「冗談に聞こえたかもしれないけど、本当なんだ。それを今日の夜に証明するから」 ルイズはまだ悠二を軽蔑の視線で見下していた。その視線を感じながらも、 (ルイズに“この世の本当のこと”は教えたくないしな) 聞いたとき受けるであろう衝撃を考慮し、何も言わなかった。 その後、夕食を食べ(悠二は当然のように床で固いパンとスープのみ)、ほとんどの生徒の部屋から明かりが消えた頃、ルイズと悠二はヴェストリの広場にいた。 「ちょっと! 私、明日も授業あるんだから早くしてよね!」 「静かにして。他の人たちに気づかれたら困るから」 ルイズはつむじを曲げながらも、とりあえず静かになった。 魔法学院近くの森の中。 (こんな夜に、誰……?) 彼女は女性の甲高い声が聞こえ、目を覚ました。 数分後、オスマンとコルベールが暗闇に包まれたヴェストリの広場に現れた。 「待たせてしまったかの?」 「いえ、じゃあ始めますね」 悠二がそう言うと、オスマンは周囲にサイレントの魔法をかけ、コルベールは悠二にディテクトマジックをかける。 「これで音が外に漏れることはないから安心じゃ」 「探知魔法でも、やはり普通の人間のようですな」 こうして準備が整い、悠二が自在法の基礎でもある炎弾を見せる運びになった。 悠二は目を瞑り右手を胸の前に出す。 (僕の体を形作っている“存在の力”を統御する) 一度実戦で使用したことにより、明確に『戦うための力』として認識できるようになった、 (そして、炎のイメージで──) 己の力を、具現化する。銀色の炎が悠二の手のひらの上に浮かぶ。その大きさは、ちょうど手に収まるほど。 悠二は具現化と同時に目を開け、他の三人の様子を伺う。三人とも驚愕の表情を浮かべている。 「先住魔法のようだが、それとも違うようじゃな。色も普通の炎とは違うしの」 「ええ、先住魔法も詠唱無しでは使えませんからね」 オスマンとコルベールは悠二の手のひらの上に出ている炎について検証しているが、 ルイズは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしたまま、硬直してしまっていた。 闇の中に銀の炎が浮かんだ。 (──あれは、──?) 手のひらに炎を浮かべる少年を、彼女は目撃した。 手のひらにあった炎は、悠二の元を放れ、あらかじめ用意していた的──数本の木の枝──に向かう。 手のひらの炎は残滓も残さず飛んでいき、的を吹き飛ばした。 (よし。今までより確実にコントロール出来てる!) 力の繰り方にも満足し、三人へ振り返る。 「とまあ、こんな感じです。まだ基礎しか出来ませんが、他にも色々パターンはありますよ」 説明をちゃんとした二人は納得したようだったが、ちゃんとした説明をしてない一人──ルイズ──は腑に落ちないという顔をしていた。 「おぬしの判断次第じゃが、あまり公にはしないほうがいいのう」 その言葉に悠二は頷き、四人は各々帰った。 部屋に戻るとルイズが一気にまくし立ててきた。 「あんた、なんで先住魔法のようなもの使えるのに言わなかったのよ! それで、なんか他にできることはないの?」 ルイズにとっては、使い魔がなぜ力を使えるかではなく、使い魔として何が出来るか、自分の使い魔が有能なのかのほうが重要なようで、自在法についての質問は一切なかった。 「あとは、剣が使えるんだけど、今は持ってないから……」 実際には『吸血鬼』を栞にして持っていたが、あまり自分の手の内を見せたくない、それとハルケギニアでの武器が見たかったという理由で言わなかった。 (魔法がかかってる武器があるかもしれないし) すると、ルイズはわずかに考え込み、 「次の虚無の曜日に剣を買いに行くわよ」 宣言した。 深い闇の中。 彼女は先ほど目にした現象を思い出す。 ──銀の炎に映し出された黒髪の少年の姿を。 前ページ次ページ残り滓の使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1189.html
夢を見ていた。 故郷ラ・ヴァリエール家の領地内にある屋敷の、誰も寄り付かない中庭の池にある『秘密の場所』。そこはルイズが唯一安心出来る場所。 幼い頃、叱られるとよくここに来て、たった一艘浮かべられている小舟の中に隠れた。 夢の中の幼い私もその小舟の中に隠れていた。 しばらくするとマントを羽織り、つばの広い帽子を被った『彼』がやってきた。 「ルイズ、泣いているのかい?」 『彼』は夢の中の自分に優しく声をかけた。 「可哀相に…また怒られたんだね…。」 『彼』とは領地が近くにあったことから晩餐会を共にしたこともあり、また父と彼の交わした約束もあって、会う度によく会話したものだ。 幼い頃も、そして会わなくなった今も紳士的だった『彼』は私の憧れだ。 「僕の可愛いルイズ。ほら、僕の手をおとり。もうじき晩餐会が始まるよ。 ……安心して。お父上には、僕から取り直してあげる。」 …今思えばかなり陳腐で芝居がかった言葉である。多分今同じ事言われたら「キモい」と言ってしまうだろう。 それでも夢の中の幼い私は立ち上がると、差し出された彼の手を握ろうとした。が、その時、いきなり足元がぐらついた。 「!?」 私は思わずしゃがみ込んだ。何故ぐらついたのか分からなかった。舟の揺れが収まってから立とうとしたが、立てなかった。違う、身体が怠くて動けないのだ。だんだんと睡魔が襲って来た。 私は助けを求めるように彼を見たが、いつの間にか手はひっこめられ、彼は彼じゃ無くなっていた。つばの広い帽子をしていたが、マントが無くなり、全身が真っ黒だった。しかし、何故かそれをどこかで見た気がし、同時に頭が淋しい気もした。 結局夢の中の私は眠気に耐え切れず、舟の中で眠り込んでしまった。 「はう!」 目を覚ますと学生寮の自分の部屋にいた。 「夢か…って何で夢の中でまで寝るのよ。」 私は自分の頭を触った。…よし、髪はある。 「やっと起きたか。」 ポルナレフがベッドのすぐ側に立っていた。洗濯から帰ったばかりらしく(どこでやってるかは知らないが)籠を持っていた。 「…なんか嫌な夢見たわ。いきなり憧れの人が帽子を被った真っ黒い人影みた…「それ以上言うなッ!」!?」 ポルナレフはそう叫ぶと籠を取り落とし、その場にうずくまった。また何かのトラウマに触れたのだろうか?それにしてもこいつってトラウマが無駄に多いわね。若い頃何やってたのかしら? 「言わないでくれ…あそこはああするしかなかったんだ。さもなければやつに、ディアボロに矢を…」 もうなんだかよく分からない。完全に頭の中がどっかにトリップしているらしい。 「ほら立ちなさい。もう言わないから。誰も責めてなんかないわよ。早く朝ご飯食べにいきましょ?」 ポルナレフは泣きじゃくりながら頷くと私の後についてきた。この姿をあのシエスタとか言うメイドやキュルケが見たらどう反応するだろうとか考えつつ外に出るとほぼ同時にキュルケが部屋から出て来た。 「あら、おはようダーリン。」 とだけ言うとキュルケは私を無視してポルナレフに抱きつこうとした。いつものようにポルナレフは避けると私を指差した。 「なんだ、いたの。いろいろ小さくて全然気付かなかったわ。」 「ちょい待ち。いろいろも気になるけど、こいつの情けない顔見て何も…」 振り返ってポルナレフの顔を見ると普段と全く変わらない落ち着いた表情をしていた。 「何も…やっぱりダンディねぇ…」 キュルケが頬を赤らめる。 いや、それより何でもう元に戻ってんの? 「レディに情けない顔など見せられん。」 「私はレディじゃないのかしら?」 私はにっこり微笑みながらポルナレフの股間を蹴り飛ばした。 今日は何となくルイズに着いて行き、授業を受けることにした。股間の痛みも収まってきたし、気分転換にはちょうどいいだろう。 教室のドアを開け入って来た教師は黒い長髪に黒のマントと全体を黒で統一したスネイプもどきの男だった。 「では授業を始める。知っての通り私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ。」 疾風ということは風のメイジか。 「さて、最強の系統をご存知かな?ミス・ツェルプストー」 「『虚無』じゃないんですか?」 「伝説に…」 この時点でもう聞く気になれなかった。どうせギトーは「風が最強だァーッ!」と言うだけだろう。 土が金属を作り、火が生活のための火を起こし、風は舟を進ませ、水は治癒に関する。つまり優劣等無いはずだ。あるとしても虚無だけが別格といった所か。 ましてや大人と子供では格差というものがある。それを考慮すればあのギトーがキュルケをみせしめにした所で意味は無い。生徒の不満を呼ぶだけだ。 そこまで考えると寝る体勢に入った。どうせ自分は使い魔の平民だ。起こされることはあるまい。 「…残念ながら試したことは無いが、我が風は『虚無』すら吹き飛ばすだろう。…貴様寝ているなッ!」 右手で顔を隠し、左手を半分開け人差し指だけをピンと伸ばし指差してきた。面倒だな… 「生憎俺は生徒じゃなく使い魔なんでな…」 「だからといって寝る奴がいるかッ私が講義しているのにッ!自覚をもたんかッ!」 少しむかっとした。お前よりは人生経験は豊富だぞ。若造が。 「講義?まさか生徒一人吹っ飛ばして『風は最強なんだ。風のメイジは最強のメイジなんだ!』とか自慢することが講義な訳はあるまいな?そうだったら余りにも大人げ無いぞ。」 タンカを切ってやった。生徒達がどよめく。 「おいおい、あの平民頭大丈夫か?」 「まあ、あの『ゼロ』の使い魔だし。」 「さすが平民!俺達に出来ない事を平然とやってのけるッ!そこに痺れない!憧れないィ!」 「大人げないだと…?」 わなわなとギトーが震え出した。そしてどよめいていた生徒達は一気にシンとなり、心配そうに自分とギトーを交互に見た。 「ああ。子供と大人じゃ場数が違うからな。」 ルイズが「やめなさい。殺されるわよ。」と言ってきたが無視する。 「ほう…なるほど、つまり君は自身が痛い目に逢わないと私の言う事が分からないのだね?使い魔君。」 ギトーが杖を構える。多分もう詠唱し始めているだろう。 「貴様も前のギーシュと同族か?やれやれ、反吐がでる…」 立ち上がって机に立て掛けていたデルフリンガーを引き抜き臨戦体勢に入る。トライアングルメイジ相手だ。容赦せずチャリオッツも使ってもかまわないだろう。 ここまで来るとさすがのルイズも「勝手にしなさい。」とそっぽを向いた。 じりじりと距離を詰めていく。相手がまず出す魔法はエア・ハンマーか、あるいはウインド・ブレイクに違いない。 相手の方が射程が広く、シルバー・チャリオッツの剣も風で弾き飛ばされるかも知れない。だがそれを乗り越えるのが闘いの年季というものだ。もうそろそろ相手の射程に入るかな。 「エア・ハンマー!」 ギトーが叫び、身体に空気の塊が直撃する。チャリオッツを使い防御するが剣の先が飛んでしまい自分も風圧に耐え切れず吹っ飛ばされてしまったが、デルフを床に刺しその抵抗で勢いを殺す。そのおかげで壁に激突する前に止まることが出来た。 「ほう、やるじゃあないか。私の風の勢いに剣を刺して耐え切るとはね。」 ギトーが余裕のある声でそう言った。だが、『もう遅い。』 ドスッバタン ギトーの首筋にチャリオッツの剣が刺さり昏倒した。馬鹿め、剣が折れたときに首筋を狙ってやったのだ。最もスタンドが無い貴様には何も見えなかっただろうがな。 さて、後の処理はルイズに任せようか。 「ルイズ、よくやってくれた。私の失態をカバーしてくれるとはさすが私の主人だ。」 俺は振り向き、うやうやしくそう言った。ルイズが戸惑った様子を見せたが、このまま俺に合わせろと目で合図を送る。 「え?ま、まあね。私にかかればあれぐらいお安い御用よ。」 皆一斉にルイズを見た。まさかゼロのルイズが魔法を!?というような表情である。ルイズもそんな皆の態度に少し嬉しそうだ。 皆から「何をしたのか」と聞かれた時にコルベールが入って来た。 金髪ロールのカツラ、レースや刺繍によって華やかさを演出しているローブという明らかに似合わない、珍妙不可思議で胡散臭い恰好をしている。 「ミスタ・ギトー!授業などやっている場合では…なんと眠っておられるのか!情けない!生徒に居眠りを許さないあなたが自分の授業で居眠りするとは!」 …何を勘違いしたらそうなるの… 「はっ!そんな場合ではありませんぞ! …おっほん。皆さん、今日の授業は全て中止であります!」 教室から歓声が上がる。そりゃ誰だって授業が無くなったらうれしいだろう。 だが、コルベールはその歓声を押さえる様に両手を振り、言葉を続けた。 「えー、皆さん。本日はトリステイン魔法学院にとって名誉な日です。我が国に咲く一輪の華、アンリエッタ姫が急遽行幸に参られることになりました!」 教室中がどよめく。 「したがって、粗相があってはいけません。急な事ですが、今より全力を挙げて歓迎式典の準備を行います。各人、正装して門に整列すること」 生徒達は緊張した面持ちで頷いた。 「皆さんが立派な貴族になったこと(この時ポルナレフはギロリとコルベールを睨んだ)を姫殿下にお見せする絶好の機会です。 御覚えがよろしくなるよう、しっかりと杖を磨いておきなさい。よろしいですな!」 コルベールの言葉に全員が重々しく頷くと学生寮のそれぞれの部屋に戻って行った。私も行こうとするとポルナレフはコルベールに目配せして「コルベールと話がある」と言って中に残った。 今更ミスタ・コルベールと話?と気になって教室のドアに耳を当てて盗み聞きしてみると中で 「このスネイプもどきがァ!てめーをこの事だけで20年は減給になるようにしてやるぜ!」 「ゆ、許して~私は…実演しただけだァーッ」 「トンチキがァ!! 俺はてめーのような長髪野郎がでー嫌いなんだ。だがな、俺達はいい奴なんだ。これから毎週2エキューずつ俺達の所に持ってこい。それから生徒から取り上げた物の半分もだ!」 …二人がかりでギトーからカツアゲしていた…。 後で取り分の半分を脅して上納させようかしら?そんな事を考えながら部屋に向かった。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9154.html
前ページ次ページ暗の使い魔 薄暗い洞窟内を、壁に備え付けられた僅かな松明の明かりが照らしていた。 湿った岩壁からシトシトと、わずかに水が滴り落ちる。 その音を聞くものは、岩の亀裂に潜む蝙蝠のみであろうか、いや。 「見つけたぞ!」 「ぐっ……畜生!」 無数の足音が洞窟内にこだました。 そして同じ数の荒い息遣いとともに、甲冑に身を包んだ大勢の兵が、狭い通路内に押し寄せる。 「逃がすな!追え!」 無数の兵士は、皆一様に長槍を携え、背には赤地に黒色であしらわれた桐花紋の旗印。 今この日本において、最も強大な力を誇る勢力。 豊臣の軍勢である。 時は戦国時代の日本。そしてここは九州・石垣原の洞窟。 その屈強な軍勢に追われるのは一人の男。 薄暗い洞窟の中、その男は迷路のように入り組んだ洞窟内を、己の足で必死に逃げ回っていた。 ズルズルと、重いなにかを引き摺っており、その足取りは決して速くはない。 しかし男は、己が誰よりもこの洞窟の構造を把握している事を武器に、決して捕まらない自信があった。 「ふぅ……とりあえず撒いたか?」 洞窟の暗がりに潜みながら、ゆっくりと腰をおろす。 もう何度こうして身を潜めただろうか。 男には、自分がこうして追われる理由について、心当たりが有りすぎた。 「なんで小生だけがこんな目に」 己の不運を悔やんでも何も始まらない。 しかしながら、いつもこうして災難に遭う度に、男はその理不尽さを呪わずにはいられなかった。 がしゃりがしゃりと、甲冑の武者が通り過ぎ去る音が聞こえる。 そして、音が完全に遠くへ行った事を確認し、暗がりから身を表したその時。 「だから貴様は間抜けなのだ」 男の心臓が飛び上がった。 背後から、冷たく淡々とした声が男の耳に届いたのだ。 「ッ!?」 慌てて背後の暗がりを見やる。 「貴様は、最後の最後で詰めが甘い。それでいて決断が早すぎる」 変わらぬ調子で、冷淡な声が闇の中から響いてくる。 「だ、誰だ!」 男の問いかけに、声の主が暗がりから姿を現した。 「毛利!」 そこにいたのは、緑の甲冑に身を包んだ一人の男であった。 その手に身の丈ほどもある輪状の刃を携え、ゆっくりと歩み出でる。 端正な顔立ちだがそこに表情はなく、冷たい視線だけが男を捕らえていた。 毛利元就、日の本・中国の地を治める武将である。 「なんでお前さんがここに!」 敵意半ば、恐れ半ばといった様子で男は毛利に問う。 だが、当の毛利は意に介した様子も無く、静かに輪刀と逆の手を掲げる。 すると、どこからとも無く、一文字に三つ星の旗印を掲げた無数の兵達が現れ、男を取り囲んだ。 毛利元就の手勢である。 「ぐっ……!」 「貴様の考える事など、たかが知れている」 なお淡々と告げる毛利を、男は歯を噛み締めながら睨みつける。 「観念するのだな」 「ふん!何の目的があって小生を捕らえる?」 「それはあの男に聞くのだな」 「あの男、刑部か……!」 自分に兵を差し向けた人物を知り、男の表情はますます歪んだ。そして、それと同時に男は悟った。 このまま、ここで捕まるわけには行かないと。 「捕らえよ」 毛利の指示に5、6人の兵士達が武器を携えにじり寄ってくる。男は観念したかのように両腕を頭上に掲げる。 ようやく観念したか、と兵達が警戒を解いた、その時であった。 「うぉらあっ!!!」 ずどん!と、男を中心に辺りに凄まじい衝撃が走った。 取り囲もうとしていた5・6人の兵達は、予想だにしない振動をもろに受け、洞窟の岩壁に一人残らず叩きつけられる。 周囲を取り囲む兵士らも、一瞬なにが起きたか理解できなかった。 見れば、男が両腕を何かに叩きつけているのが見え、そのたびに辺りの兵達が木の葉のように宙へと舞っていた。 「どうだ!油断したな!」 混乱する兵らを見て、男はほくそ笑んだ。隊列は乱れ、もはや包囲どころではない。 逃げるなら今のうちだ、と崩れた隊列の一角から脱出を図ろうとする。だがしかし。 「詰めが甘いと言っている」 「うおっ」 突如、男の眼前を刃が通り過ぎた。 咄嗟に後方へと退避すると、己の前髪の端がぱらりと地面に落ちるのが見えた。 すとん、と男の目前に毛利元就が着地した。 空いた手で、自分の服についた土埃を軽く払いながら、毛利は変わらず冷ややかな視線で男を見下ろしていた。 「詰めが甘いだと?」 「そうよ」 どちらも至って冷静に答える。 「いや、そうでもない」 その一言と共に、毛利にむかって駆け出す男。 「ここでお前さんを叩きのめせば!それで詰みだ!」 「笑わせるわ!」 毛利の右に構えた輪刀と、男の引き摺るそれが、激しい金属音と共に激突した。 再び辺りに衝撃が走る。ガツンガツンと、互いの得物が火花を散らす。 それは、周囲の何者も介入できない、激しい剣劇であった。 ギシギシと互いの腕が軋むほど、そのぶつかり合いは激しさを増していった。 混乱から回復し、再び隊列を組み直した兵達は、成すすべなく勝敗を見守る。 ここで勝敗を分けるは、純粋なパワーと疲労。 純粋な力で言えば、毛利よりも男が勝っていた。しかし、長時間の逃亡による疲労を加えれば、勝負は互角。だが…… 「負けるか!」 「くっ!」 軍配は男に上がりつつあった、そして。 「おらぁ!」 ぎん、と鈍い金属音が響いた。男の左斜め下よりの一撃が、毛利の輪刀を吹き飛ばしたのだ。 勢いよく打ち上げられた輪刀がざくりと、固い岩の天井に突き刺さる。 「もらった!」 男が勝利を確信し、丸腰の毛利に向かって攻撃を加えようとした、その時であった。 「なっ!?」 眩いほどの光と共に、毛利元就の周囲が爆ぜた。 「ぐあっ!」 そのまま後方へ吹き飛ばされ、男は地面にずしゃりと転がる。 みれば毛利の全身がまばゆいほどの光を放ち、辺りを照らしているではないか。 薄暗い洞窟が真昼のように光を浴びる。兵達は目を覆った。 毛利から発せられるその光こそ、この日ノ本に生きる将である証。 そして戦国の世に生きる武将のみが扱える、奥の手である。 その感覚が、より鋭く研ぎ澄まされた時発動し、脅威の力と、空間を超越した速度を得ることが出来るという秘技だ。 そのまま毛利は3~4mはあろう天井に向かって飛び上がると、突き刺さった輪刀を勢い良く引き抜く。 そして、目にも留まらぬ速さにて男に迫り、その全身を切り刻んだ。 「ぐっ!があ……っ!」 まるで舞を踊るかのような、怒涛の連続の斬撃が、上下斜めから襲い来る。 体制を立て直す暇も無い男は、それらの攻撃を避け切るすべも防ぎきる術も持たなかった。そして。 「ハアッ!」 「うああああっ!」 下段よりの強烈な切り上げ、その一撃が再び男の身体を軽々と吹き飛ばした。 あたりを囲む兵もろとも吹き飛ばし、男は固い岩壁に叩きつけられた。 「ぐっ……!」 壁を背に、そのまま力なく床に崩れ落ちる男。 「手こずらせおるわ……!」 若干のイラつきを含んだ言葉を男に投げかけ、毛利元就は男を見やった。 毛利が輪刀を男の喉元に突きつけ、男は荒い息をつきながらギロリと毛利を睨みつける。 全身に傷を負いながらも、戦意を失わないその態度は周囲の兵達を驚かせた。しかし、もはや男に成すすべはない。 再び男を兵達が囲む。その光景を見て、男は悔しそうに歯噛みした。 「(結局こうなるのか。何とかならないのかっ)」 男が勝機を諦めかけた、その時。 「鏡!?」 男の目と鼻の先、毛利と男を隔てるように突如、鏡のようなものが出現したのだ。 「何?」 毛利自身も目を疑った。謎の物体の出現に、急ぎ距離をとる毛利。そして次の瞬間。 「なっ!何だ?何だぁ!?」 鏡が男に迫る。そして鏡に触れた男が、見る見るうちにそれに吸い込まれていくではないか。 これには流石の毛利元就も言葉を失った。一体何が起きたのか、恐らくその場に居た誰もが理解出来なかったであろう。 「毛利っ!畜生!離せ、離しやがれ!」 半身を鏡に飲まれながら、男は精一杯の抵抗を示す。しかしながらその抵抗むなしく、男は。 「なぜじゃああぁぁぁぁ……」 情けない叫びとともに、謎の鏡の中へと消えていった。 そしてその鏡自身も消え去ると、後には何一つ残っては居なかった。 辺りを沈黙が支配する。薄暗い空洞を僅かな松明が照らす。 湿った岩壁から滴り落ちる水の音のみが、ただただ虚しく洞窟内に響き渡った。 それを聞くのは残った無数の毛利兵と、ただひたすらに冷たい表情を浮かべる一人の将のみであった。 暗の使い魔 第一章 『召喚!不運の軍師、異世界へのいざない』 前ページ次ページ暗の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2108.html
「プロペラ、回します!」 その一言と同時に、シエスタが真空殲風衝を放ち、ゼロ戦のプロペラを回す。 その事実に、江田島は少しだけ驚いた。まだ年端もいかない少女が、真空殲風衝を使うとは思わなかったのだ。 しかし、その目を見て納得する。外見は全く違うとは言え、確かに彼女の目は「大豪院」に連なるものの目であったのだ。 だから、江田島は 「大義である!ルイズとやら、準備は良いか?」 そう言ってルイズを見つめた。その目には、深い海のような優しさがあった。そして威厳があった。 その様子に、ルイズは一瞬言葉に詰まる。しかし、彼女はやはり誇り高いトリステインの貴族であった。 「誰に向かっていっているのよ!それよりとっとと追い払って、帰ってくるわよ!」 初対面にも関わらず、ルイズは江田島の目を見つめ返してそう言った。 その様子に江田島は大きくうなずく。おそらく彼女にとっては初めての戦場であるのだろう。その瞳にはほんの少しの恐れがあった。 しかし、それを遥かに上回る大きさの、純粋な何かがあった。 ルイズはずっと考え続けてきたのだ。自分は魔法を使えない、シエスタや使い魔達のように強くはない。 考えて考えて考え抜いた結果、今のルイズがある。 (私は貴族よ。ならば決して後ろを見せない!取り乱さない!それに……) ルイズは親友のアンリエッタのことを考える。 今の彼女ならば、自分から先頭に立つに違いない。そして敗北が決まるまで決して退くまい。 そう、ウェールズの死を告げた時、アンリエッタがそう心で誓ったのをルイズは見ていたのだ。 ならば、今のルイズは、自分がアンリエッタのためにできることをするだけである。 そんな気持ちが江田島にも伝わったのか、江田島はにやりと笑って大きく叫んだ。 「道を開けーい。ゼロ戦、発進するぞ!」 その瞬間、ゼロ戦に命が舞い戻る。 ふわりと浮き上がったとき、ルイズは興奮を隠せなかった。 そう、これほど巨体が魔法によらずして空を飛び始めたのだ。 数十年ぶりに命を取り戻したゼロ戦は、一瞬で遥か彼方へと消えていった。 その瞬間塾生達は、確かに塾長の声を聞いた気がした。 「わしが男塾第三の助っ人である!」 「むう。少し遅れたようだな。」 「王大人!」 桃が驚いて振り向くと、そこには王大人がいた。 富樫の治療はいいのかと詰め寄る桃に、王大人はにやりと笑って振り返る。 そこには、助っ人二号の肩を借りて地面に降りる富樫の姿があった。 そのことに安堵の表情を浮かべる桃達に、王大人は真剣な顔をして言った。 「それよりも、早く江田島殿を追いかけるぞ。少々気になることがあってな。」 王大人と、ルイズの使い魔達は、戦風吹き荒れるタルブの村を目指すことになった。 時は数分前に遡る。 江田島平八が意識を取り戻したとき、そこには最近行方不明になっていた一号生達の姿があった。 そのことに江田島は安堵する。そう、彼らは無事生きていたのだ。 彼らは、一様に呆けたように江田島を見つめていた。そう、まるでこれが白昼夢であるかのように。 だから、江田島は応えることにした。 「わしが男塾塾長江田島平八である!」 その言葉に、周りにいたシエスタとルイズは思わず耳を押さえてうずくまる。 頑丈に作られたはずの新男根寮すら、大きく震えていたのだ。 だが、効果は抜群であった。 見る見る内に一号生達の顔色に生気が戻る。それと同時に虎丸などは感極まって泣き出しそうな顔をしていた。 それを見届けた江田島は、桃の方を見ると声をかけた。 「状況を報告せい!」 「押忍!一号生筆頭剣桃太郎、状況を報告します。」 そして桃は手短に状況を報告した。 ここが異世界のハルケギニアであることを。自分達がこのルイズなる少女の使い魔をしていることを。 そして今は戦争中であり、この少女の手助けをしようとしていることを。 それらの言葉一つ一つを江田島はかみ締める。 桃は、意味もなく嘘を言うような男ではない。おそらく言っていることは全て真実であろう。 そう判断した江田島は、まずはルイズの方へと向き直った。 「こいつ等が世話になった。この江田島、礼を言おう。」 「え、いえこちらこそ。」 思わぬ江田島の言葉にルイズは困惑していた。 この男からは、ルイズ自身の母である「烈風カリン」から感じるものと同じものをルイズは感じていたのだ。 そんな怖い時の母と似た雰囲気を持つ江田島に頭を下げられたルイズが思わず困惑してしまうのも無理はなかろう。 そうして礼を言い終わった江田島は、ゼロ戦と幻の大塾旗を見上げる。 かつての友、佐々木武雄が己の命をかけて守ったものだ。決して粗略に扱えるものではない。 (お主の故郷を守るため、今しばらく借りるぞ。) そうして心の中の佐々木に語りかけた江田島は、先ほど話を聞いていた通りにルイズを乗せると空高く舞っていった。 「「「塾長!ルイズ!御武運を!!」」」 一号生達が敬礼をしてその様子を見送っていた。 江田島は怒りを隠そうとはしていなかった。 ギリギリと歯をかみ締める。怒りの炎の宿った目で眼下のタルブの村を見つめる。 そこにはかつて美しかったであろう平原が移っていた。 アルビオン軍は、官民の区別なくこの平原を焼き払おうとしているようであった。 (塾長。後は頼みます。) そんな時、江田島の耳に、ふと大豪院邪鬼の声が聞こえたような気がした。 そう、ここは大豪院邪鬼が、その生涯の果てに命をかけて守り抜いた地でもあるのだ。 そんな大切な場所を汚すようなやつ等を、江田島平八は許しはしない。 その時、江田島の視界の端に、敵竜騎兵の姿が映った。 「ルイズよ。あのでかぶつの前には必ず送り届けるゆえ、今しばらく辛抱せい!」 「へっ?」 まだ竜騎兵を捉えることのできていないルイズが一瞬間抜けな声を上げる。 しかし、江田島はそれを無視して急上昇を開始した。後ろから、苦しそうな呻き声が響いていた。 「三匹目だ」 そうしてブレスを放とうとした竜騎兵は己が目を疑った。 信じられない速度で敵竜は急上昇をすると、次の瞬間には自分の後ろにいたのだ。 江田島が、かつての友人坂井某から教わった必殺技『ひねり込み』である。 (ば、ばかな!) そう思った瞬間、その竜騎兵は爆散した。 ゴホゴホと咳き込んだルイズは、荒っぽい運転に文句を言おうとして思いとどまる。 そう、ここはすでに戦場であるのだ。 「右下から三騎来ているわよ。いい?絶対にわたしを『レキシントン』まで送り届けなさい!」 その言葉に江田島は不敵な笑みで応えると、続いて襲いかかってきた三騎へと逆に襲い掛かった。 天下無双江田島平八、それを止めるに足る技量が、知力が、そして何より度胸がレコンキスタ軍には足りていなかった。 そう、この男を除いては。 次々と味方が落とされていくのをワルドはじっと眺めていた。 そうして分析する。今の竜では、真正面からでは勝てない。 たとえ不意を突いても、一対一では手傷を負わせるのが精一杯に違いない。 だからこそワルドはじっと勝機を待っていた。 見渡す範囲の敵騎を打ち落とした江田島は、再度『レキシントン』へと侵攻を開始した。 しかしその時、予期せぬトラブルが襲う。 ガクン、とゼロ戦がぶれる。 「きゃあ!」「ぬう!」 かつての大戦の後、ほとんどメンテナンスされることのなかったこのゼロ戦である。 また、韻竜とすら戦った歴戦の機体でもあるのだ。 いかに魔法によって劣化をとどめてあるとはいえ、修理には限界がある。 このハルケギニアにおいて、これ程壊れかけたゼロ戦を修理しきることはできなかったのだ。 韻竜との戦いで負った損傷部からパーツが一部剥がれ落ちる。 機体が不安定そうに空で揺れていた。 その瞬間を見逃すワルドではなかった。 「勝機!」 ワルドは思わず叫んでいた。 完全無欠に思えた敵が、思わぬトラブルか何かで手間取っているようであった。 これを見逃しては、おそらく自分に勝機はあるまい、そうワルドは考えていた。 (それに) その竜の中には、ピンク色の髪をした人物が乗っていたのだ。 ならば、一緒に乗っているのはルイズの使い魔に違いない。 ワルドの左腕がうずいていた。その顔には残忍な笑みが浮かんでいた。 今、エア・スピアーがゼロ戦を襲う。 ドン! 硬い何かが機体をたたく音がする。計器が次々と警報を告げる。 ついに、ルイズは死を覚悟した。この高度から落ちて助かるはずはない。 ただ、アンリエッタの力になれそうにないことだけが残念であった。 最後にルイズは、憎き敵を見つめた。 そこには、残忍な笑みを浮かべるワルドの姿があった。 何とか機体を立て直そうとする江田島であったが、もはや機体は制御を受け付けなかった。 コクピットが爆発する瞬間江田島は、今は亡き友、佐々木武雄の声を聞いた気がした。 「やった!」 人が乗っている部分が爆発するのを確認したワルドは、思わず右手を握り締める。 あれでは乗っていた人物は生きてはいまい。 しかし、それでもまだゼロ戦は飛んでいた。 パイロットを失って、致命的な損傷を受けて、それでもまだ『レキシントン』へと飛んでいた。 往生際が悪い、そう思ったワルドは地面へと叩き落すべく、己の竜をゼロ戦へと進めた。 ドスン ワルドの耳に、何か重いものが着地する音が響いたのはその時であった。 (江田島よ。後は任せろ。) 確かに江田島にはそう聞こえた。その瞬間江田島はルイズを抱えて空へと飛び出していた。 男の、友の言葉である。二言はない。 ならば自分は眼前の露払いをするだけである。 そう考えた江田島の下に、敵竜の姿があった。 振り向いたワルドは、一瞬己の目を信じることができなかった。 確かに殺したはずの敵が、自分の竜へと乗り移っているのだ。無理もあるまい。 しかし、その一瞬が致命傷となった。 慌てて呪文を唱えようとする。 「ライトニング……」 「遅い!」 素早く懐にもぐりこんだ江田島の拳が一閃する。 次の瞬間ワルドは、自分が凄まじい速度で水平に飛んでいくのを感じた。 そしてワルドの意識は闇へと落ちていった。 「わしが男塾第三の助っ人である!」 ワルドを遥か彼方へと吹き飛ばした本人は、そう名乗っていた。 ようやくルイズは我に帰ったとき、江田島は竜を手なずけていた。 『何故か』『拳状に』頭部を変形させていた竜は大変従順であった。 「佐々木武雄少尉に敬礼!」 江田島の声が走る。思わずルイズは手を頭のところに上げていた。 見ると、江田島も見事な色気のある敬礼をしていた。 その視線の先には、黒煙をあげながらも『レキシントン』へと突撃をしていくゼロ戦の姿があった。 『レキシントン』から次々と魔法の火が飛ぶ。 一撃一撃とゼロ戦はその姿を削られていくが、勢いは止まらない。 (馬鹿な!何故落ちない!) 『レキシントン』にて砲撃を担当していた士官は、そう思ったところで意識を失った。 ルイズはその様子をじっと眺めていた。 ただの機械仕掛けのゼロ戦に、何故かシエスタや自分の使い魔達のことを重ねてしまったのだ。 ボロボロになりながらもゼロ戦は進軍していく。その勢いは微塵たりとも衰えない。 ついにゼロ戦が『レキシントン』へと突撃して爆散する。 その時、ルイズに耳には、見知らぬ男の雄叫びが聞こえていた。 気づくと、ルイズの口からは呪文が漏れていた。 「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……」 『レキシントン』では消火活動が続いていた。 敵竜の突撃によるダメージは決して少なくはない。しかし、それでもまだトリステインと戦える。 ボーウッドはそう判断していた。 そしてそれは正しかった。その瞬間までは。 相変わらずルイズの視線の先では、『レキシントン』が黒煙をあげ続けている。 しかし、徐々にその煙は治まりを見せていた。 そのことを確認したルイズは、最後の呪文を唱えることにした。 あのゼロ戦が作った隙を逃すわけにはいかないのだ。 「エクスプロージョン!」 その瞬間膨大な魔力がルイズの体を駆け巡る。 そうして発動したエクスプロージョンは、空間にすら歪みを与え、敵艦隊を炎上させた。 アンリエッタと、ようやく到着したルイズの使い魔達は、その瞬間を見ていた。 凄まじいまでの閃光が走り抜けた次の瞬間、全敵艦隊が炎上していたのだ。 全員事態の変化についていけない中、アンリエッタだけが祈りを捧げていた。 「ありがとう、ルイズ。わたしのお友達……」 そう言って、彼女は進軍を宣言した。 トリステインの勝利は目前へと迫っていた。 そんな中ルイズは、息を荒くしながら江田島にもたれかかっていた。 エクスプロージョンはルイズの全精神力と引き換えに莫大な成果を挙げていた。 見れば、まだ空間が歪んでいるのが分かる。 その時、 「ぬう!」「きゃあ!」 白い光が彼らを包んでいた。 「お、おいアレを見ろ!」 虎丸が思わず空を見上げて叫ぶ。 そこでは、ルイズと塾長を載せた竜が白い光に包まれているのが見て取れた。 次の瞬間、そこには何も残ってはいなかった。 ただ、その光の先には、懐かしい男塾の校舎があったのを、彼らは見ていた。 状況が全くつかめないまま、飛燕が皆の気持ちを代弁するかのように呟いたのが印象的であった。 「……我々は恐ろしい人を塾長に持ったようです。」 しかし、王大人だけはその様子を真剣な様子でじっと見つめていた。 (さすがは江田島殿。これで手がかりがつかめた!) 男達の使い魔 第一部 完 NGシーン 雷電「むう、あの技は!」 虎丸「知っているのか雷電!?」 雷電「あれぞまさしく周の時代に失伝したとされる飛念離個魅(ひ・ねんりこみ)!」 周の時代、最強と謡われた拳豪に風魯経羅(ふう・ろへら)なる人物がいる。 彼が最強と謡われた理由の一つにその技があった。 風魯経羅は、己の手に持った二つの棒をまわして自由自在に空を飛びまわったという。 時には遥か上空へ、時は急旋回を。 念を駆使して飛び回るその姿はとても一個人の保有する念の量では不可能と言われるほど人間離れしていたという。 しかし、その姿は優美を極めて人々を魅了した。 そんな人々が尊敬の意を込めて、彼の技を飛念離個魅と呼ぶようになるまでそれほど時間はかからなかった。 なお、このような故事に明るい坂井氏が、己のゼロ戦での技をひねり込みと呼ぶようになったのは、極めて納得のいく理由である。 また余談ではあるが、この話がシルクロードを伝わって欧州とハルケギニアに伝わり、 回転するもの一般をプロペラと呼ぶようになった、というのは今やもう常識である。 民明書房刊 「古代中国に学ぶ一般常識百撰」(平賀才人撰)
https://w.atwiki.jp/phoenix-feather/pages/69.html
遠隔武器の使い方 正式開始時に比べて、移動しながらの再装填や射撃が可能になった弓に代表される遠隔武器。しかし、遠隔武器はDDOではあくまでもサブウェポンという扱いであることに留意すること。 個人的にメインキャラが弓使いなので、その経験を元に書き起こしてみました。 遠隔武器の使い方音pullに使う遠隔武器 戦闘で有利に使う場合 取り扱いの注意点最初のヘイト取得には有効 逃げ撃ちの覚悟 何時までも遠隔をしない 後衛と同じポジションで遠隔をしない やたらめったら撃たない まとめると…扱いが難しい武器である 各クラス向け遠隔武器の取り扱いPal/Ftr/Bbn/Mnk Rng Rog/Brd Clr/Wiz/Sor 遠隔特化にする弓特化レンジャー 弓特化バーバリアン 音pullに使う遠隔武器 遠隔武器の着弾地点に敵は反応して寄ってきます。これを上手く利用することで、敵勢力を分断して戦いやすいようにする事が出来ますが、AI変更などにより現在はかなりのプレイヤースキルが要求されます。従ってあまり使われていません。 戦闘で有利に使う場合 地形を利用して、敵が上がって来れない場所から一方的に攻撃を加えられる場合があります。これはその地形をある程度熟知していないと出来ません。また、そのような箇所は以前より減っている気がします。 レンジャーのメニーショットによる弓の一斉射はかなりの威力を持ちます。雑魚がワラワラ…なんていうここぞという時やボス戦で使うとかなり効果的です。 取り扱いの注意点 最初のヘイト取得には有効 他のメレー職よりも最初にヘイトを取りやすいですが、これは諸刃の剣であることを認識して使うこと。例えば、ちょっと離れてしまった後衛に襲いかかってきた敵からヘイト奪う様なシチュエーションにはかなり有効ですが、打たれ弱いキャラで意味もなく先制攻撃をするのは非常に危険で、戦術的には無意味です。 逃げ撃ちの覚悟 ヘイトを取って逃げ撃ちという作戦は、それこそ序盤は有効な戦術ですが、クエストレベルの上昇に伴って、逆にGrpに迷惑が掛かるほど不要な戦術になります。 そのまま仕留める自信が無いなら仲間の前衛の所に引き寄せたり、そのままメレーに切り換えて叩き伏せるべきです。 何時までも遠隔をしない ギリギリまで引き付けてからメレー攻撃をしたいのは判りますが、敵が約15~20フィートまでに近づいたら即メレー武器に切り換えるべきです。DDOでは遠隔武器はサブウェポンでしかないことを認識して下さい。メレー攻撃のDPSには絶対に適いません。持ち替えの時間を考慮して、多少早めに切り換えるのがポイントです。 後衛と同じポジションで遠隔をしない 範囲DD呪文をいきなり撃たれたら、後衛陣が壊滅する恐れがあります。 やたらめったら撃たない 敵を倒したと思ったら、必ず照準を近くの床に向けられるようにする。変なところに打ち込んで敵がワラワラとか目も当てられません。 まとめると…扱いが難しい武器である 上記のことから、遠隔武器はレベルが上がっていく毎に、実はメレー武器やスペルよりも繊細で的確な扱いが求められます。 各クラス向け遠隔武器の取り扱い Pal/Ftr/Bbn/Mnk サブウェポンにしかなりませんが、1つは持っておきましょう。通常はまず使う事はありません。トランスPGやプリシジョン付きがあるといいかも。 Rng メニーショット用に強力な弓を数種類用意することをお勧めします。出来ればウンパン(ウーンディングのみでも可)弓、トランス弓、厄介なタイプ(エレメンタル等)のGベイン弓は用意するといいです。 メニーショットはここ一番で使うつもりで。要所を見極める事が肝心です。 Rog/Brd 暇だから遠隔する場合があります(対アレ戦など)。ただし、たいした火力にならない事が多いので、デストラやシャタマン、カース付き等のデバフ系や、ウィークニングやウーンディングが付いた、出来ればリピーティング系のクロスボウなどで用意したいところです。リーピーターはフィート取得しないと無意味なので、その辺りが考えどころですが…。 元々打たれ弱いクラスなので、ヘイトを取らない様に使うことが肝心です。 Clr/Wiz/Sor 念のために持っておく程度で。インベントリ圧迫するなら無くてもいいですw 遠隔特化にする 本来はサブウェポンの遠隔武器を、特化ビルドにしてみるとどうなるか…結局サブのままですが、かなり使える用になります。 以下のビルドが弓特化になりますが、詳しくは書きません。各々がシミュなどで弄ってから作るといいです。 ポピュラーとは言えないレアビルドだと思われます。変わったことをしたい人にお勧めw 弓特化レンジャー エンハンスのディープウッドスナイパー取得を目指すタイプのレンジャーで、武器習熟、クリティカル強化などを全て遠隔で取るレンジャーのビルドです。 遠隔の攻撃判定はDEXなので、DEX優先のフィネッセ二刀との相性はいいと思われます。但し、メレー系のクリティカル強化まで取れるかどうかはビルド次第です。 メニーショット時にウンパン弓や高DPS弓(シルバーロングボウやミネラル、ライトニング弓)を使う事で、多数の雑魚を掃討する事が可能になりますが、クールダウン中は普通の前衛と同じになります。クールダウン終わったら即使うのではなく、要所を見極めて使用するのがポイントです。 弓特化バーバリアン レンジャーとバーバリアンのマルチです。激怒時のクリティカル強化、STR強化と、シルバーロングボウの組み合わせによって、考えられない高DPS遠隔攻撃が可能になります。メニーショットを使ったら凄い事になるかも。 ただし、基本が逃げ撃ちの戦闘になるため、周囲から理解されにくい事が多々あります。紹介文などにその旨を記しておくといいかと思われます。 シルバーロングボウ(非キーンなのにクリ域19-20の+3ホーリー弓)が必須になります。これはVamp(チャーチ・アンド・カルト)のユニーク弓なので、持ってない人は頑張って取得するしかありません。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/508.html
前ページ次ページ蒼炎の使い魔 午後 彼女は授業を終え自室に戻る最中だった。 当然カイトも一緒だ。 今日は何もなく、いい気分だった。 周りのものがあからさまに彼女に皮肉を言わなかったのである。 また、昨夜つっかえたものを吐き出したこともあるだろう。 いつもと変わらない世界が新しく見えた。 そんな感じで廊下を歩いているとメイドが突然声をかけてきた。 ルイズはその声に振り返るとそこには自分よりはるかにスタイルのよい少女がいた。 この生意気な体の女は誰? 「えと、あなた誰だったっけ?」 その問いに慌ててメイドは答える。 「え、あ!す、すいません。私はこの学院のメイドをさせてもらっているシエスタといいます。 昨日のギーシュ様の件についてのお礼をしたいのですが…」 そこまでいわれルイズは思い出した。 そうだ、あのときギーシュにひたすら謝ってた…。 話を聞くとどうやら自分の不手際を助けてくれた2人にお礼がしたいらしい。 どうか厨房まで来てくれないか、と彼女は頼んだ。 だがその誘いをルイズは断った。 「別にいいわよ。あれは勝手にやっただけの事だから」 「で、でも」 食い下がるシエスタを見てルイズはカイトを見る。 「私は休んでいるから、あんただけでも行って来なさいよ」 「…ハアアアアア」 それじゃ、と言ってルイズはその場を去った。 残されたのはシエスタとカイトの2人だけ。 彼女はルイズを誘うのを諦めたのかカイトの方を見て微笑む。 「それでは、こちらにいらしてください」 そういってカイトを連れ出そうとする。 了解したのかカイトは声を出した。 「…ハアアアアア」 ビクッ! 彼女の反応は分かりやすかった。 普通なら、「わかった」とか言う所をいきなり唸るともため息とも取れない声を出したのだ。 ルイズだって未だに慣れていない。 震えながらも彼女は声を出す。 「あ、あの。あなたは平民の使い魔なんですよね?」 「…ハアアアアア」 こればかりははっきりいって相手が悪い。 少し涙目になりながらシエスタはカイトを厨房へと連れて行った。 何度か勇気を振り絞って話しかけてみたがすべて撃沈だったと言う…。 場所は変わり厨房 待っていたのはコックとその料理長である。 「『我等の剣』が来たぞ!」 彼はうれしそうに大声で言う。 どうやら歓迎しているようだ。 「よくシエスタを助けてくれた。あの生意気な貴族がお前にコテンパンにやられた時はスカッとしたぜ」 「…ドウモ」 彼は豪快に笑う。 マルトーはカイトを無理やり椅子に座らせご馳走を持ってくる。 それを見て彼は不思議そうにそれを見る コレハナニ? 「The World」では食料などない。 仮想の世界なのだから当然だ。 だからカイトにとってそれは未知のアイテムにしか映らなかった。 ご馳走を出しても何も反応しないカイトにマルトーは不思議そうな顔をする。 (もしかしてこいつロクなもの食わされてねえんじゃないのか?) 彼はカイトが作られたモノだとは知らない。 だからカイトのことをこう曲解した。 ご馳走に反応しない→今までロクな物を食わされたことがない →主人がそうするようにした→その主人→貴族=敵! ぜんぜん違う。というか論点がずれている。 「けっ!これだから貴族ってやつは!」 だがカイトはそれを否定する言葉を出すことは出来ない。 彼がヒートアップしていくのにシエスタは気づいた。 この悪くなってきた空気をかえようとカイトに声をかける。 「あの、カイトさんって言うんですよね?これはシチューって言って…」 そういってスプーンを持たせシチューをすくわせる。 一から教えていくシエスタはまるで出来の悪い弟を見る姉のようだった。 カイトは難しそうにスプーンでシチューをすくい口に入れる。 瞬間、彼は満たされていく感じがした。 なるほど、ルイズが厨房に行けとあの日言われたのはこのことだったのだろう。 口の中の料理が彼の舌を刺激する。 以前グルメのカードを送られたときは「ナイ」と返した。 だが今なら彼は「シチュー」と返すだろう。 普通の人間なら当たり前の事が彼にとっては革命に近かっただろう。 シエスタは一心不乱にシチューを食べるカイト見て不憫に思っていた。 それほどまでにひどい物しか食べてこなかったのだろうか、と。 そして、無邪気な子供を見ているようで、かわいいとも思ってしまった。 最初は怖かった。何者も寄せ付けない雰囲気に。 でも、助けてくれた。 決闘のときは怪我をすると思った。 自分のせいで。 だけど、彼は勝った。 シエスタは微笑んだ。 いつの間にか周りはにやついている。 いつもなら顔を赤くさせ、逃げてしまうところだが、 今日ぐらいは良いだろう。 (もっと、あなたのことが知りたいです。カイトさん…) 次に来たときは自分の料理をご馳走させようと誓ったシエスタだった。 前ページ次ページ蒼炎の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5617.html
前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第六話 ルイズは一人、夜の学院を歩いていた。 窓を見やると、雲一つない澄みきった夜空に、二つの月が皎々と輝いている。 暗い学院の敷地内のあちこちを淡く照らし出す月の光を見て、ルイズはその光源に顔を向けた。 (月が綺麗……) そう思った瞬間、突然強い耳鳴りがルイズを襲う。 「……っ!」 ルイズは思わず両手で頭を抱え、しゃがみこむ。 辺りを見回したが、特に変わった様子はない。 そう思った時、壁に掛けられた鏡に気づいた。 鏡の方を向き、恐る恐る覗いてみる。 すると、そこには異様な物が映り込んでいた。 全身真っ白で、のそのそと動く人の形をした影のようなものが、丁度ルイズが立っている後ろの辺りを通り過ぎようとしている。 その光景にルイズは総毛立ち、あわてて後ろを振り返る。 が、誰もいない。 もう一度鏡を見ると、そこに映っていたはずの白い影もなかった。 いつの間にか、耳鳴りも消えている。 ルイズは再び、その場にへたりこんだ。 「ま、まさか、今のって……」 「……と、いうことがあったのよ」 そう言うと、ルイズは紅茶の入ったカップを口に運んだ。 残っていた紅茶を飲みほすルイズの姿を見ながら、キュルケが言う。 「へぇ……。でもそれ、本当に幽霊だったのかしら。顔つきとか分からなかったの?」 「暗くてよく見えなかったし……」 腕を組み、眉をひそめてあの時のことをよく思いだそうとしながら、ルイズは答えた。 「でも、幽霊以外に考えられないわよ。あんな姿の生き物なんて聞いたことないし……ねえ、タバサ?」 ルイズはタバサの方に顔を向け、尋ねる。 が、彼女からの返事はなかった。 それどころか、タバサは大きく目を見開き、小刻みにその小さい体を震わせている。 開かれている本のページが、先ほどからいっこうに変わっていない。 答えられそうにない彼女に代わって、キュルケが言った。 「ああ。この子、幽霊とか大がつくほど苦手なのよね。女の子っぽいっていうか、なんというか……」 「へぇ……タバサにも苦手なものとかあったんだ。」 何があっても動じない、常に冷静な普段のタバサを思うと、ルイズは少し親近感をおぼえたのであった。 ギーシュと浅倉の決闘から三日。 あの日以来、ギーシュは毎日のように浅倉に呼び出されていた。 あの手この手で浅倉がワルキューレたちを次々と打ち倒していく光景に、その物珍しさからか、いつも見物客が集まっていた。 今では、広場のちょっとした名物となっている。 今日もそんな「決闘」を終えた浅倉は、いつものように意気消沈しているギーシュをよそに、厨房の方へと向かっていった。 「あ。浅倉さん、いらっしゃい。」 厨房に着くと、黒髪の給仕シエスタが笑顔で浅倉を出迎えた。 結果的にシエスタを庇ったことになる浅倉は、彼女にすっかり気に入られていた。 料理長のマルトーを始めとする厨房の面々にも、貴族に臆せず立ち向かう浅倉は平民の鑑であるとして『我らが剣』と崇められる始末。 いつの間にか、厨房で好きな時に食事ができるという権利を獲得していたのであった。 浅倉は厨房にあった椅子にどっかりと座り込むと、脇にあるテーブルに肘をつき、足を組む。 「何か食い物は……!!」 言いかけた時、元いた世界で感じ慣れていた「あの」感覚が突然、浅倉を襲った。 タバサは廊下で立ちすくんでいた。 あの二人がいつまで経っても別の話題に移ろうとしなかったため、思わず部屋を飛び出してきてしまった。 とりあえず気分転換にでもと図書室へ向かっていたのだが、今になってこの判断をしたことを悔やんだ。 誰かに見られている気がする。 ルイズの話を聞いていなければ、ただ気配に気をつけるだけで先に進めただろう。 しかし、話の内容はすでに記憶済みだ。 その上運の悪いことに、ここの壁には鏡が掛けられているのである。 ルイズの話を思いだし、全身に鳥肌が立つ。 タバサは覚悟を決め、顔をゆっくりと、壁に掛けられた鏡の方へと向けた。 しかし、鏡はいつもと同じ廊下の風景と、緊張してこわばったタバサの姿以外、何も映し出していなかった。 (特に変わった様子はない……) ふぅ、と思わずため息をつく。 そして、急に馬鹿馬鹿しくなってきた。 そもそもルイズの話だって、どこまでが本当なのか分からない。 それをそのまま真に受けてしまったなんて。 そう思うと、いくらか気持ちが楽になった。 鏡から顔を背け、再び歩き出そうと足を一歩踏み出した、その時。 後ろから、ウヘ、という声がした。 タバサが反射的に後ろを振り向くと、そこには、見たこともないものが立っていた。 二メイルほどの、所々に線状のくぼみがある白い体。 頭部は透明の膜のようなものに覆われていて、顔と思わしき部分が透けて見える。 口元に生えた金属製の牙や、何かを着けたような丸みを帯びた両腕は、およそ生物とは思えない出で立ちであった。 常に絶やすことのないぐねぐねとした動きに合わせて、ウへ、ウへ、という不気味な声をあげている。 タバサは絶句した。 何もいなかったはずの場所に、いつの間にか奇妙な怪物が存在していたのである。 (これが、噂の幽霊……!?) 見た目からして、明らかに幽霊ではない。 それどころか、生物かどうかも怪しい。 ゴーレムやガーゴイルの類だろうか……? タバサが観察していると、目の前の怪物がのそのそと動き出した。 杖を構え魔法の詠唱に入ろうとした時、怪物の口から突然何本もの白い糸が吐き出された。 「!!」 いきなりの動きに反応できず、四肢と首を取られ、杖を手放してしまう。 怪物が相変わらずぐねぐねと動きながら、タバサを鏡の方へ引きずっていく。 タバサは必死に糸を掴むが、抵抗らしい抵抗ができない。 怪物が鏡まであと一歩と迫った、その時。 何処からか駆けつけた浅倉が、横から怪物に飛び蹴りをくらわせた。 怪物の糸に絡まれたままのタバサも吹き飛ばされる。 突然の乱入者に驚いた怪物は、タバサを捕らえていた糸を回収すると、慌てて鏡の中に消えていった。 浅倉はその光景に笑みを浮かべながら、呟く。 「まさかこの世界にもいるとはな……。ま、戦えればどうでもいい」 言い終わると鏡の方を向き、紫の箱をかざした。 タバサは吹き飛ばされた体勢のまま、呆然とその様子を眺めている。 機械のベルトが装着された後、右腕を胸の前で前後させ、叫んだ。 「変身!」 ガラスの割れるような音と同時に、その姿が紫の蛇の鎧へと変わる。 ため息とともに首を回すと、王蛇は一瞬タバサの方へ顔を向けたが、すぐに鏡の方へと向き直し、鏡に向かって歩き出した。 王蛇が鏡に吸い込まれるようにして消えると、廊下の奥からバタバタという足音が聞こえてきた。 見ると、ルイズがこちらに向かって駆け足で近づいてくる。 タバサは杖を拾って立ち上がり、服についた埃を払った。 「タ、タバサ! 大丈夫!?」 ルイズが慌ててタバサに駆け寄る。 「どうしてここが?」 キョロキョロしているルイズに、タバサが尋ねた。 「変な耳鳴りがしたから、それがする方に近づいていったら……それより、一体何が?」 タバサが鏡の方を向き、彼女とルイズを映し出している鏡面を指さして、言った。 「怪物」 「えっ!? よ、よく分からな……」 ルイズが鏡に顔を向けると、口を開けたまま、その目を大きく見開いた。 「あ、あのときの……バ、バケモノ!? 白いバケモノが後ろで……あれ?」 後ろを振り向くが、誰もいない。 「ど、どういうこと……!? あっ、アサクラ!! アサクラが中に!!」 ギーシュとの決闘の時と同じ格好をした浅倉が、鏡の中で怪物に剣を振るっている。 「見える? 何が?」 タバサが再び尋ねた。 タバサには、普段通りの鏡の様子しか見えていない。 アサクラと呼ばれたルイズの使い魔が鏡に消えていくのは目撃したが、その後の消息は分からない。 「えっ……? 見えないの?」 王蛇と怪物が鏡の中に存在し、タバサはそれが分からないという。 ルイズの頭は混乱しきっていた。 「い、一体何が、どうなって……」 「ハァッ!!」 かけ声とともに剣が突き出され、白い怪物、シアゴーストが火花を散らしながら弾き飛ばされる。 後から湧いて出た二体を巻き込み、呻き声をあげながら廊下の床に倒れ込んだ。 「ふん……餌には丁度いい」 王蛇はそう言うと、箱から素早くカードを抜き取り、杖に装填する。 『FINAL VENT』 杖から音声が鳴り響くと、王蛇のいるすぐ後ろの壁をぶち破り、鋼鉄のサイ、メタルゲラスが姿を現した。 銀色の表皮に包まれたその体は王蛇より一回り大きく、二・五メイルはあるだろうか。 頭部には黄色い角が反り立ち、顔の両脇では赤く鋭い目が光っている。 唸り声をあげ、肩を上下に揺らしながら、王蛇の真後ろで待機していた。 右腕にメタルホーンが装着されると、王蛇は飛び上がり、後ろから走り出したメタルゲラスの肩に足を乗せる。 まるで一本の巨大な角と化した王蛇は、猛スピードで廊下を駆け抜けていく。 起き上がった三体のシアゴーストたちは、必殺の一撃をその身に受けると、ウヘァという断末魔の叫びとともに爆発し、消滅した。 「あっ! アサクラ!!」 浅倉が廊下の鏡から元の世界に戻ると、その場にいたルイズとタバサが、驚きの表情とともに出迎えた。 ガラスの割れるような音とともに王蛇の姿が砕け散り、浅倉の姿に戻る。 「一体何がどうなってるのよ!! あのバケモノは何なの!? それになんであんなところにいたのよ!?」 困惑した表情で、ルイズが浅倉に向かって矢継ぎ早に質問を浴びせる。 だが、浅倉はニヤリと笑うと、踵を返して無言で廊下を去っていった。 「あ、待ちなさい! 質問に答えなさいよー!!」 ルイズが慌てて浅倉を追いかける。 「お礼……」 追いついたルイズが捲し立て、浅倉がそれを無視して歩き続ける。 礼を言うタイミングを完全に失ったタバサは、そんな二人の姿を見ながら、ぼんやりと立ち尽くすのであった。 日は既に傾き始め、大地を朱色に染め上げていた。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6106.html
「ドスペラード」のエイジを召喚 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-01 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-02 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-03 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-04
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1436.html
何時もの夢。 何時か見た戦場の光景。 何時か嗅いだ血と硝煙の臭い。 何時かの断末魔の叫び。 どれもこれも、俺が銃で作った物だ。 「=%&¥%&‘()?」 その見慣れていた世界に、見慣れないピンクの人影が現れた。 ―殺セ ―殺セ殺セ ―殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ 彼女は何か叫んでいる様だが、耳鳴りの所為で全然分からない。 何を言っているのか近付いて尋ねたいが、体が自分の意志で動かせない。 機械仕掛けの人形の様に俺は少女に銃の狙いを付け……引き金を引いた。 【青い鬼火の使い魔】『Cold Maid』 普段通り目覚めは最悪だ。 しかも、今日は寒気までする。 何かこう……腰から膝の辺りまでがスースーしている気がする。 「お目覚めになりました? ああ、此処は魔法学園の医務室です。 使い魔さんが突然倒れられたので、皆さんが運び込まれたんです。」 目を開けると、黒髪のメイドさんがいた。 片手には尿瓶を持っている。 もう一方の手は、俺のズボンとパンツをずり下ろしている。 そして、淡々と状況を説明している。 検査とかで下着姿を見られた事はあるけど、それでもこれは恥ずかしい。 そもそも、催してないし。 一先ず何としてもズボンを引き上げようとする。 流石に話し掛ける時にこんな格好はイヤだ。 「ねぇ、メイド!! わたしの使い魔、まだ眼を……覚まさな……いの……?」 丁度パンツを引っ張り上げた所で、あのピンク髪の女の子が部屋に入って来た。 顔が真っ赤だけど、俺の方も顔の温度が上がってるのが分かる。 そんなにマジマジと見ないで下さい。 そう言えば、何時の間にか俺にも女の子は理解出来る言葉で喋っている。 俺の方をちらちら見て『一本ダタラ』とか変な事を言っているけど、 一先ずさっきまでの『理解以前に聞く事自体が不可能な言葉』とは違う。 俺が帝国の人間と分かったから言葉も切り替えたのかと思ったけど、 さっきのは良く考えてみたら俺じゃ無くてメイドさんに話し掛けていたみたいだし。 「ああ、ミス・ヴァリエール。 丁度良かった。 代わりに採尿して下さいます? やっぱり使い魔さんにはご主人様の方が。」 『は?』 尿瓶を渡されて固まる女の子と淡々と使い方を説明するメイドさん。 あのメイドさんは多分、 キスの手伝いとか言って人の頭をグリグリと押したりした事とかがあるに違いない。 正直、リアクションに困る。 呆気に取られた俺は、メイドさんがお辞儀をして出て行くのを止められなかった。 女の子に至っては、尿瓶を片手に視線を虚空を彷徨わせてる。 オーランドですが、医務室の雰囲気が最悪です。 See You Next Time!