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ライダー大戦2010(中編) ◆gFOqjEuBs6 ここに二人の男が邂逅してしまった。 身体は化け物でありながら、心に人間を宿してしまった仮面ライダーと。 身体は人間でありながら、心はまさしくモンスターである仮面ライダーと。 化け物の皮を被った人間と。人間の皮を被った化け物。 ここまで二人は、他社の命を奪う為に行動を起こすも、誰の命も奪えなかった。 そういう意味では、良く似た二人と言える。 そんな二人が出会った時、その刃が交差するのは必至。 これは最早、誰にも止められない事だ。 浅倉は、自分のデイバッグの中からペットボトルを取り出した。 にやにやと笑いながら蓋を開け、それを口元へと持っていく。 一口水を飲めばそれで満足。ペットボトルを足元に放り投げた。 それを踏みつける事で、中の水が噴出する。 「さぁ、始めようぜ……ライダーバトルって奴をよ」 アスファルトに出来た水たまりに、紫のカードデッキを翳した。 たちまち装着されるVバックル。元の世界では、これも良く慣れた行動だった。 翳した左手を腰へと引いて行き、右手をカンフーの型のような動きで眼前へと回す。 緩く開いた指で、蛇の牙をイメージ。それを前方へと突き出し、叫んだ。 「変身ッ!」 右手で作られた蛇は、前方の得物をその牙で噛み砕くように突き出された。 すぐに顎まで引かれた右手は、得物を握り潰すように。 左手に掴んだデッキをVバックルへと装填した。 幾つもの銀色の虚像が現れ、オーバーラップ。それは浅倉の身体へと集まって行き。 すぐに紫の装甲――グランメイルを形成した。 気だるそうに息を吐き出しながら、首元を回し、右手をぶらつかせる。 真の仮面ライダー王蛇が、ここに復活した。 ◆ 「らぁっ!」 王蛇は、手した黄金の剣――ベノサーベルでカリスへと切り掛かった。 そんな直線的な攻撃がカリスに通る訳が無い。すぐにカリスアローの弓部――ソードボウで受け止めた。 一瞬の激突。火花が散り、お互いが肉薄する。 蛇をイメージした鎧なのだろうか。何処となくコブラに似た外観の仮面だ。 カリスはすぐにベノサーベルを弾き、身を翻した。 カリスアローを構え、フォースアローを連射する。 「ハハハハハハハハァッ!!」 だが、通用しない。 発射した光弾は全てベノサーベルによって阻まれてしまった。 王蛇はベノサーベルを巧に振り回し、その全てを撃ち落としたのだ。 流石に、使い慣れた武器は違うという事か。 いいだろう、掛って来い。 それでこそ戦い甲斐があるというもの。 戦えば戦う程、自分の中で眠っていた闘争本能が目覚めて行く。 そうだ。自分も目の前の男と大して変わらない。 自分とて本質的には戦いを求めているのだから。 「ハァッ!」 「フンッ!」 二度目の激突。 カリスアローとベノサーベルが、鋭い金属音を鳴らして激突した。 力で押し切る王蛇に、華麗な戦法を得意とするカリスでは部が悪いか。 カリスの腕が、肩が。ベノサーベルとの激突による振動で震えた。 王蛇の一撃は、確かにカリスに響いていた。 カリスアローでベノサーベルを跳ね上げ、今度は自分から前方へと躍り出る。 素早く王蛇の眼前へと潜り込めば、両手で構えたカリスアローを上段から振り抜いた。 されど、それが通る事は無く。 「ははぁっ! やっぱり最高だよなぁ、ライダー同士の戦いってのはぁ!」 「ああ、否定はしない」 ベノサーベルで受け止められた。 嬉しそうに宣言する男に応え、カリスはそのまま弓を振り下ろした。 フォースボウは弓の形をした剣。ゆるやかにしなった弓は、ベノサーベルから滑り落ちるように振り抜かれた。 王蛇の身体の表面を浅く傷つける。 軽い火花が発せられるが、王蛇は大したダメージを受けてはいない。 今度は弓を持つ手を翻し、両刃の剣を振り上げる。 対処しきれずに、王蛇はカリスアローに傷つけられる。 だが、やはり元々大した威力を持たない攻撃では王蛇を仕留めきれない。 「ハァ……ッ!」 「!?」 今度は王蛇の攻撃だ。 溜息を吐き出すように息を漏らし、ベノサーベルを下方から振り上げた。 カリスベイルに火花が走り、後方へと仰け反ってしまう。 すぐに体制を立て直し、腰を低く落とす。獣のように唸り、眼前の王蛇を見据える。 仮面を付けた男との戦いは、忘れかけていた感情を呼び起こさせる。 それはまさしく、研ぎ澄まされた獣の本能。 何が人間らしさだ。 何が優しさだ。 そんなセンチメンタルな感情など捨ててしまえ。 これこそが、戦いという行動こそが。 乾きを癒す事が出来る唯一無二の神聖なる儀式なのだ。 唸るように吠え、カリスは王蛇へと飛びかかった。 「トゥッ!」 防がせはしない。 カリスアローを右上段から振り抜き、手首を翻す。 両刃の剣は左上段から王蛇を切り裂き、同じ容量で右上段から刃を叩き付ける。 何度も、何度も。得物を刈り取る獣のように、フォースボウからの斬撃を王蛇に浴びせる。 激しい火花が王蛇のグランメイルで爆ぜ、今度は王蛇の身体が仰け反って行く。 王蛇が苦し紛れにベノサーベルを叩きつける。が、それが当たる事は無い。 カリスは身体を翻し、左足を軸に一回転。上半身の硬度が下がった事で、ベノサーベルは空を切るしか無かった。 そのまま回転の勢いを活かし、カリスが繰り出すは後ろ回し蹴り。 王蛇の胴を思い切り蹴りつける。 「ぐ……あぁ……ッ」 胴にめり込んだ蹴りは、王蛇にダメージを与えるには十分。 蹴りの衝撃で、王蛇は数歩後方へと蹴り飛ばされるように後退。 すぐに体制を立て直し、ベノサーベルを構え直した。 挑発するように、カリスが吠える。 「どうした! そんなものか仮面ライダーッ!!」 「はっはは……はははは! はっはっはっはっはぁっ!! いいぜこの感じ! 面白いじゃねぇか、お前!」 王蛇はベノサーベルを投げ捨て、腹部のデッキから一枚のカードを取り出した。 何処かから取り出した牙召杖ベノバイザーに、そのカードを装填。 そのままカードホルダーをバイザーの内部へと叩き込んだ。 ――STRIKE VENT―― 王蛇の右腕に装着されるのは、犀の頭部を模した銀色の手甲。 腕を覆い隠して余りある装甲の先端からは、黄金の角が装備されている。 見ての通り、先程始を襲ったメタルゲラスの頭部をそのまま武器にしたものだ。 それを構えたまま腰を低く落とし、王蛇はすかさずカリスの間合いに踏み込んだ。 当然カリスも黙ってはいない。攻撃される前に、王蛇をカリスアローの横一閃で薙ぎ払う。 が、王蛇はその動きを身切ったように、腰を落とした。 結果カリスアローの一撃は防がれ―― 「――ぉぉらぁぁぁッ!!」 「ぐっ……ガァ……ッ!?」 カリスの胸部装甲・シャドウブレストに、強烈な一撃が叩き込まれた。 下方から撃ち出されたストレートパンチと、メタルホーンの貫通力は凄まじい物だ。 メタルホーンはそもそも、どんなに分厚い鉄板であろうと容易く貫通してしまう程の武器。 それを、仮面ライダーの腕力で力任せに叩き付けられるのだからたまったものじゃない。 生半可な相手ならばこの一撃で死に追いやる事も可能だ。 だが、このカリス相手にそう簡単には行かない。 カリスベイルに使用されているのは、古代の超鉱石・シャドウクリスタル。 シャドウクリスタルは、ライダーシステムを造った人類ですら発見し得なかった超鉱石。 自己再生機能を持った、地球上でも最高硬度に属する物質なのだ。 それをさらにシャドウタールで強化し、何層にも重ねた装甲は、そう簡単には破られはしない。 カリス自身もそれを自負していた。だが、だからこそ驚愕は隠せない。 それを持ってしてもメタルホーンの威力を完全に防ぎきる事は叶わなかった。 予想外に大きなダメージに、カリスの動きが止まった。 「どうした、その程度かよ!?」 繰り出されるのは、王蛇からの追い打ち。 ふらふらと、まるで隙だらけな動きでカリスを挑発する。 いや、隙だらけに見えはするが、実際はそうでは無い。 王蛇はどの体制からでも、攻撃に入れるのだ。それを理解しているからこその、あの態度。 現に今だってカリスアローを叩きつけるつもりが、王蛇のメタルホーンに受け止められてしまった。 メタルホーンはそのままカリスアローを跳ね除け、力任せにカリスの左肩に振り下ろされた。 肩部への痛みに、左腕から指先までがびくんと震える。 「ぐ……ぁぁ……ッ!」 メタルホーンは、連撃でカリスベイルを傷つけて行く。 一撃目は、カリスの胸部装甲を、脇腹から振り上げるように。 二撃目は、メタルホーンから繰り出す力任せのパンチ。それをカリスの心臓部へと叩き付ける。 三撃目は、仰け反るカリスに追い打ちを掛けるように左側からメタルホーンを叩き付けた。 最後の一撃を受けたカリスは、仰け反る瞬間に地面を転がった。 このまま王蛇の射程内に居続けるのは拙いと判断し、王蛇と距離を取ったのだ。 相対する王蛇は、挑発するように構え、言った。 「クク……ハハハハハァ! どうした、ライダーなんだろう! 俺をイライラさせるな!」 「黙れ……! 俺を、仮面ライダーと呼ぶなぁッ!!」 怒気を込めた咆哮。 そうだ。俺は仮面ライダーなどではない。 オリジナル仮面ライダーと言えば確かにそうだが、その行動に仮面ライダーらしさなど皆無。 正義の為に戦う彼らと、命を奪う為に戦う自分とでは、根本的に違うのだ。 だが、目の前の男にそれを言ったところで無駄だろう。 何故なら、目の前の男だって仮面ライダーとは言い難い殺人鬼だからだ。 立ちあがり様に、腰のカードホルダーから二枚のカードを取り出した。 カリスは二枚のカードを立て続けにラウズする。 ――CHOP―― ――TORNADO―― ラウズしたカードは、チョップヘッドとトルネードホークのカード。 一枚目。チョップの効果は、カリスの手刀に力を与え、絶大な威力を引き出す事。 二枚目。トルネードの効果は、カリスの攻撃に風の属性を追加し、威力を高める事。 二枚のカードは空中に蒼い紋章を描き、カリスの身体へと吸収されて行く。 カリスの周囲を竜巻が覆い、その手刀には雷が宿る。 二枚のカードによるコンボが発動。 ――SPINNING WAVE―― ――CONFINE VENT―― 「なにっ!?」 驚愕した。 カリスの周囲から、巻き起こる竜巻が消え失せた。 カリスの腕から、その輝きが消え去ってしまった。 確かに二枚のカードによるコンボを発動した筈なのに、その効果は何処にも表れない。 何故だ、と。考える前に、カリスの目に入ったのは、牙召杖を構える王蛇の姿。 なるほど、そういう事か。王蛇が使った何らかのカードに、スピニングウェーブは無効化されてしまったのだ。 二枚のAPの合計は2000。これでカリスは、2000ものAPを無駄に消費した事になる。 最初のフロートで1000、今回で2000。残ったAPは4000。 使用可能な大技は、あと一回。それを無効化されてしまえば終わりだ。 仮面の下で舌打ちをしながら、再びカリスアローを構える。 相対する王蛇は日光を浴びるように両手を広げて、言った。 「ライダーだろうがモンスターだろうがそんな事はどうでもいい! 戦えるのなら同じだ!」 「……ああ、そうだ。貴様の言う通り、俺は戦う事しか出来ないモンスターだ……! ならばせめてモンスターらしく、殺すことでしか他者と向き合えない化け物(ジョーカー)として……俺は貴様をブッ殺す!!」 力の限り宣言した。 そうだ。何を躊躇う必要がある。 今この瞬間だけは、戦いの瞬間だけは。 俺は何もかも全てを忘れる事が出来た筈だ。 だから、ギンガには悪いが今だけは戦わせて貰う。 本能に任せて、獣の様に戦わせて貰う。 相手は仮面ライダー。自分はライダーの宿敵である化け物。 化け物らしく醜く戦う事こそが、仮面ライダーと自分との宿命。 ならばこそ。その宿命に応える為にも、眼前の仮面ライダーを徹底的に叩き潰す! そうだ。今、一人の化け物・ジョーカーとして、目の前に居る仮面ライダーをブッ殺す! 「―――ル゙ァァァァァァァアアァァァァウアアアアアアアアッ!!!」 両手を広げ、咆哮する。 天に向かって、まさしく獣の様に。 凄まじい威圧感が込められた咆哮。 大気が、大地が、びりびりと振動する。 王蛇は更なる力の解放に素直に喜んでいるのか、嬉しそうに笑い続けていた。 走り出したこの身体は、もう誰にも止める事は出来ない。 本能に突き動かされるままに、奴をブッ殺すまで走り続ける。 あの仮面ライダーに、俺をこの姿にさせた事を後悔させてやる。 その笑いが、二度と発せられない様にしてやる。 その余裕を、硝子の様に撃ち砕いてやる。 ◆ カリスを包むシャドウフォースが霧散した時、そこに居るのはカリスでは無くなっていた。 人間の恐怖心を掻き立てる鬼の様な表情。それを覆うのは、クリアグリーンのフェイスカバー。 剥き出しの筋肉組織は、まるで人体構造を模したかの様で。醜悪な身体は、まさしく死神を連想させる。 この姿こそ。最強にして、最凶の死神の姿。 並みのアンデッドなどは、只の一撃で封印に追いやる程の戦闘力。カテゴリーキングですら恐れる化け物。 死神ジョーカーは、今ここに復活した。 「そうだ、それだ! もっと俺を楽しませてくれ!」 強大な力を前に、感じたのは狂喜。 ジョーカーの威圧感は、王蛇にも良く解る。 解るからこそ、喜んでしまう。強い相手と戦う事が出来る快感に、酔いしれてしまう。 目の前の化け物が先程までのカリスの比では無い事も。 生半可な戦いをすれば、たちまち死においやられてしまうであろう事も。 全て解っているからこそ、感覚が研ぎ澄まされていくようなこの快感を止める事が出来ない。 最初の一撃は小手調べとして、大きな技をぶつけさせてもらう。 これで死んでしまうようであれば、それまでという事だ。 精々がっかりさせてくれるなよ。 ――FINAL VENT―― 電子音が鳴るや否や、現れたのはメタルゲラス。 装填したのは、犀の紋章が描かれたファイナルベントのカード。 かつて仮面ライダーガイが使用した、どんな障壁をもブチ抜く大技だ。 右腕に装着したメタルホーンを左手に乗せ、とんとんを軽く叩いて、軽い余裕を見せた。 走り出したメタルゲラスに飛び乗り、その肩に脚を乗せる。 突き出したメタルホーンは、一直線にジョーカーを狙い定めて。 されど、ジョーカーは動じない。深く腰を落として、手に持った緑のナイフを構えていた。 真っ向からぶつかる気だ。 面白い。その自信を打ち砕いてやる。 メタルホーンは鋭い閃光を放つ。仮面越しで無ければ目も開けられない程だ。 そして――凄まじい加速で、ジョーカーに激突。 「グウアァァァァァァッ!!」 「なんだと……ッ!?」 刹那。ジョーカーが咆哮と共に、緑のナイフを一閃したのだ。 光り輝く刃は、同じく光り輝くメタルホーンを正面から受け止めた。 そのままメタルホーンの黄金の切先は、ぱきぱきと砕かれ。 一瞬の後には、王蛇の身体はメタルホーン毎弾き飛ばされていた。 身を以て体感したのは、とんでも無い威力と、とんでも無い破壊力。 王蛇の身体は地に足を付ける事も叶わず、全身をアスファルトへと打ち付けながら吹っ飛ばされた。 急激な勢いで弾き返された王蛇の身体は、遥か後方の建物へと叩き付けられる。 瞬間、建物の壁は清々しい程の破壊音と共に大きく穿たれた。 コンクリートで造られた建物の壁には、王蛇の激突によって大きなクレーターが出来あがったのだ。 「が……あぁ……」 それでも、負けはしない。 何とか着地し、よろよろと立ち上がり目線を上げる。 上げられた視界が捉えたのは、眼前に佇む化け物・ジョーカーの姿。 死神は既に距離を詰め、王蛇の眼前まで迫っていた。 ジョーカーは王蛇の仮面を片手で掴み、軽々と持ち上げる。 凄まじい威圧感。凄まじい腕力。凄まじい握力。 浅倉が今まで戦ってきた仮面ライダーなどとは比較にもならない程の力の体現者。 王蛇の仮面が、みしみしと音を立てる。 ジョーカーの爪が仮面の表面装甲を割り、内部へと侵入してきたのだ。 紫の仮面全体に亀裂が走る。頭を割られるような鈍痛が、浅倉を襲った。 仮面ライダーの仮面を素手で割るモンスター等、浅倉自身も聞いたことがない。 掴まれた王蛇の仮面は、そのままジョーカーの眼前まで引きつけられた。 「仮面ライダァァァァアアアアアア……!」 剥き出しの牙が動く。 気味の悪い吐息と共に吐き出されたのは、憎むように告げる正義の名前。 そんなに仮面ライダーが憎いか。そんなに仮面ライダーを殺したいか。 ならばとばかりに、王蛇は浮き上がった身体から力の限りの回し蹴りを打ち出した。 「ぐっ……ぁ……ッ!」 されど、結果は予想通り。 王蛇の蹴りは、届きすらせず。ジョーカーの身体に当たる前にその左腕によって阻まれたのだ。 左腕の筋肉から無数に生えたトゲに激突した王蛇の右脚の装甲には、幾つかの亀裂が走った。 しかし、それだけで済みはしない。 ジョーカーは王蛇の蹴りを受けた左腕を、そのまま真っ直ぐに突き出した。 王蛇の胸部グランメイルを、突き出された拳が打ち砕いた。仮面の下で、浅倉が鮮血を吐き出す。 パンチの勢いはそのまま突き抜け、王蛇の身体は再び遥か後方へと吹き飛ばされ―― 先程の衝撃で亀裂の入ったコンクリの壁に、再び叩き付けられた。 今度は流石のコンクリの壁と言えども耐え切れず、粉々に砕け散る。 王蛇の身体が、穴が開いた壁から建物の内部へと叩き込まれた。 「は……はは、は……いいぜ、これだ! これをやりたかったんだ……!」 だが、それでも。それでも王蛇は笑っていた。 目の前のジョーカーが化け物なら、浅倉威と言う男もまた化け物。 人間の皮を被った化け物にとって、これ程楽しめる戦いは未だかつて有り得なかった。 これで最後だ。こんなに楽しい戦いで死ねるなら、本望だ。 最後の力を振り絞って、浅倉はデッキから一枚のカードを引き抜いた。 ――FINAL VENT―― 窓硝子の鏡面から、紫の大蛇が召喚された。 大蛇は地を這うように王蛇の背後へと迫り、王蛇も大蛇と共に走り始める。 地を這う蛇と同じように、低く、速く。 大蛇と王蛇は一つとなり、全身全霊を込めて駆け抜ける。 この戦いの相手への、最高の礼儀で応える為に。 建物の壁に開けられた穴から飛び出し、王蛇は空高く飛び上がった。 それに呼応するように、大蛇・ベノスネーカーは口から溶解液を吐き付ける。 その効果は、吐き出された溶解液による更なる加速。 両足を交互連続で突き出し、下方のジョーカーへと迫る。 「そうだ、来い仮面ライダァァァァアアアア! 俺を倒して見せろォッ!!」 ジョーカーもまた、王蛇に応える様に腰を深く落とした。 王蛇が見たのは、緑の閃光。眩い程の輝きを放つ武器。 それは先程と同じ、緑の輝きを放つジョーカーの固有武装。 それは見る間に光を強めて行き――投擲された。 「ルァァァアアァァァアァアアアアアァァァァァアアアアアァァァァアアアアアッ!!!」 「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」 咆哮、激突。全ては一瞬。 王蛇の脚が投擲された刃を蹴った。一撃、二撃と蹴り続けた。 されど、いくら蹴られようともジョーカーの刃はビクともしない。 輝く刃を蹴れば蹴る程、王蛇の脚の装甲に亀裂が走って行く。 やがて刃は、王蛇の脚の装甲を見事に引き裂き、打ち砕いた。 当然、それで終わる程生易しい攻撃でも無い。 輝きを放つ刃は、王蛇の胸部のグランメイルにまで到達。 そこで刃はブーメランのように旋回し、横一線に胸部を切り裂いた。 ジョーカーの攻撃で既にダメージを負っていたグランメイルに、刃を防ぐだけの耐久力は残っては居ない。 切り裂かれたグランメイルから、浅倉の鮮血が飛び散った。 ぐるんぐるんと回転しながら、刃はジョーカーの手中へと戻って行く。 されど、対する王蛇に戻る場所は無い。 キックをするだけの体力も、精神力も。 今の浅倉には何も残されては居ない。 全てを出し切った王蛇の身体はそのまま重力に引かれ、落下。 硬いアスファルトに、王蛇の装甲は叩き付けられた。 ◆ 「はは……楽しいなぁ……戦いってのは……」 激しい戦闘によるダメージに、王蛇の装甲は限界を超えていた。 それでも、ここまで浅倉を守る為に戦い続けたあたり、流石仮面ライダーの装甲と言える。 アスファルトとの激突による衝撃を防いだのを最後に、グランメイルは虚像と共に消えてしまった。 最早浅倉の身体を守る物は何もない。浅倉は血まみれの身体で、青空を見上げていた。 されど、致命傷に至る攻撃はまだ受けてはいない。 そんな浅倉にトドメを刺すのは、死神ジョーカー。 「楽しかったぜ、お前……最後に教えろよ、名前」 「相川……始」 ジョーカーは、牙が剥き出された醜悪な口元を動かし、答えた。 浅倉は無言で笑う。今からジョーカーは、浅倉の命を刈り取る。 右腕から生えた緑の鍵爪を、天に向かって振り上げた。 それを浅倉の喉元に突き刺せば、この戦いは自分の勝利に終わる。 ようやく人を殺して、最初の一歩を踏み出す事が出来る。 ジョーカーはその鍵爪を、勢い良く浅倉の喉元へと突き立てた。 ――なんで……! どうしてそんな人間らしさを持ってる貴方が、平気で人を殺せるんですか!? ―― 不意に、女の声が脳裏を過った。 浅倉の喉元に付き付けられた鍵爪は、浅倉の喉の皮を貫く直前で止まる。 何故だ。自分に問いただす。 自分は殺す事でしか他者と向き合えない死神の筈だ。 それなのに、どうしようも無くあの女の顔が浮かんでしまう。 だけど、それでも。殺さなければ自分は前には進めない。 今度こそ殺そうと、鍵爪に力を込める。 ――貴方はまだ引き返せる! 人殺しなんて絶対にさせない!―― 何故だ。何故邪魔をする。 自分の中の何かが、人の命を奪う事に抵抗していた。 それは、相川始としての人間の心。それは、ギンガに教えられた人間らしさ。 人間らしさ等と、考えるだけで笑ってしまう。 所詮は弱い者が慣れ合うだけではないか。 それなのに。解っているのに。どうしようもなくて。 ――SPIRIT―― 相川始は、浅倉威に背を向けた。 ジョーカーラウザーに通したカードは、人間の姿に戻る為のカード――スピリット。 ラウザーから現れた半透明のゲートをくぐり抜け、人間の姿に戻ったのだ。 「何で殺さない」 「わからない」 背中に投げ掛けられたのは、先程まで戦っていた男の声。 始は一言そう告げると、浅倉には見向きもせずに歩き出した。 「いいのか、俺を殺さなくて。後悔するぜ?」 「その時は、もう一度戦ってやる」 それまでに、答えを見付ける。 何の為に戦うのか。自分は強さの果てに何を目指して戦えばいいのか。 それまでは、戦いなどやるだけ無駄というもの。何度戦ったって、このような結果になる筈だ。 背後から、高らかな笑い声が聞こえる。あの男もまた、自分と似ているのだろう。 ただ闘争本能に突き動かされるままに、戦いを求めて。戦う為だけに戦う男。 その戦いの果てにあるのは、“死”だけだ。意味も無く戦い続けたって、いつかは死ぬしか無い。 だが、自分は違う。限りなく似てはいるが、決定的に違う。 始は、“生きる”為に戦っているのだ。生きて、答えを見付ける為に戦っている。 その先にあるものが何かはまだ解らないが、死ぬ為に戦うのは御免だ。 だから、始は戦う。答えを見付ける為に。 「……生きる為に戦え」 最後に一言だけ、そう告げた。 この言葉は、果たして誰に向けて発せられた言葉なのだろうか。 浅倉に対してか。それとも、自分に対してか。 始が踏み締める大地は、瓦礫の山になっていた。 何者かの戦闘によるものか、元々こうなっていたのかは始には解らない。 だが、それでも始は道無き道を進んで行く。 闇の中に潜んだ答えを、見付け出す為に。 【1日目 午後】 【現在地 F-7 壊滅した街】 【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状態】変身による疲労(大)、言葉に出来ない感情、一時間変身不可(カリス、ジョーカー) 【装備】ラウズカード(ハートのA~10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、 録音機@なのは×終わクロ 【思考】 基本:何の為に戦うのか、その答えを見付ける 1.生きる為に戦う? 2.アンデッドの反応があった場所、もしくは他の施設に向かう。 3.アンデッド、エネル、赤いコートの男を優先的に殺す。 4.アーカードに録音機を渡す? 5.あるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。 6.ギンガの言っていたスバルが気になる。また他の4人(なのは、フェイト、はやて、キャロ)も少し気になる。彼女達に会ったら……? 7.ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない。 8.浅倉が再び戦いを挑んでくるなら受けて立つ。 【備考】 ※自身にかけられた制限にある程度気づきました。また、ジョーカー化の欲求が強まっている事を自覚しました。しかしジョーカーに戻るつもりは全くありません。 ※首輪を外す事は不可能だと考えています。 ※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝者となるのではないか」という推論を立てました。 ※相川始本人の特殊能力により、アンデットが怪人体で戦闘した場合、その位置をおおよそ察知できます。 ※エネルという異質な参加者の存在から、このバトルファイトに少しだけ疑念を抱き始めました。 ※ギンガを殺したのは赤いコートの男(=アーカード)だと思っています。 ※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。 ※殺し合いには乗っているつもりですが、今は誰も殺すつもりはありません。 【現在地 F-6 レストラン跡地付近】 【浅倉威@仮面ライダーリリカル龍騎】 【状態】充実感、疲労(大)、全身にダメージ(大)、一時間変身不可(王蛇) 【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル龍騎 【道具】支給品一式×2、ヴィンデルシャフト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、肉×10kg、魚×10kg、包丁×3、 フライパン×2、食事用ナイフ×12、フォーク×12、ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、カードデッキ(ベルデ・ブランク体)@仮面ライダーリリカル龍騎 サバイブ“烈火”(王蛇のデッキに収納)@仮面ライダーリリカル龍騎、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:戦いを楽しむ。戦える奴は全員獲物。 1.一先ずは体力の回復を待つ 2.その後は天道の居る温泉に向かうか、相川始を追いかけるか、市街地に向かう? 3.相川始ともう一度戦い、今度は決着を付ける 4.回復した天道と戦う時にはベルトを返した上で戦う。 5.なのは(StS)と遭遇した時にはヴィヴィオの名前を出してでも戦ってもらう。 6.キング、鎌を持った奴(キャロ)、なのは、フェイト、はやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、ユーノと戦う。 7.首輪にイライラ、外したい。 8.プレシアには「規定の人数を殺害した参加者には、望む人間の居場所を教える」という特典を採用してほしい。 【備考】 ※プレシアは殺し合いを監視しており、参加者の動向を暗に放送で伝えていると考えています。 ※ヴィンデルシャフトのカートリッジシステムに気付きました。 ※カブトに変身できる資格があるかどうかは分かりません。 ※なのは、フェイト、はやては自分の知る9歳の彼女達(A s)とヴィヴィオの言っていた大人の彼女達(StS)の2人がいると考えています。 ※王蛇のカードデッキには未契約カードがあと一枚入っています。 ※ベルデのカードデッキには未契約のカードと封印のカードが1枚ずつ入っています。 ※「封印」のカードを持っている限り、ミラーモンスターはこの所有者を襲う事は出来ません。 Back ライダー大戦2010(前編) 時系列順で読む Next ライダー大戦2010(後編) 投下順で読む 相川始 浅倉威 柊かがみ
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876 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 05 08 大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 幕間 -ハイダ工廠強襲- GAEハイダ工廠は、ネクストの接近を知らせるアラート音が響き渡っていた。 GAはついにグループ盟主の意に反したアクアビットとの取引を続けるGAEの粛正に乗り出したのだ。 標的となったのは、アクアビットと提携して建造が進められている大型兵器『ソルディオス』。 いくらかは完成状態の物を無事に送り出すことに成功しているが、まだ工廠内部には製造中で残っている。 何とかそれを運び出すか、あるいは技術者を逃がすか。いずれにせよ時間稼ぎが必要だった。 「いそげ!GAの戦力が接近中だ!」 「まだ作業員が……」 「最優先で離脱させろ!警備部門は白兵戦用意!」 工廠の警護のための部隊が次々に展開されていく。アラート音には兵員が動いたり、兵器が起動する音が混じっていく。 MT、ノーマルAC、ガードメカ、あるいはパワードスーツなどなど。それらは一つの工廠を守るにしては過剰過ぎた。 無論、過去にテロリストによって襲撃を受けたことがあるハイダ工廠はその警護を増強していた。その際はGAの紹介で アナトリアの傭兵がテロリストを排除したが、それでも工廠の持ち主であるGAEは油断なく戦力を配置した。 否、見方によっては、GAEがGAA(グローバル・アーマメンツ・アメリカ)に警戒を強めたと言えるかもしれない。 そこについては、GAE上層部しか知りえない。ノーマルACやガードメカは通路にも展開し、外部に設けられた砲台などがレーダーの情報に従い順次砲の向きを変える。しかし、そのうち一つがいきなり弾け、爆発した。 「!?」 発砲音が遅れて届く。 遠距離からの狙撃で、大型砲が撃破された。続くようにミサイル砲台や対空砲が破壊される。 展開していた警備部隊が敵影を探す。いた。しかし、その位置ははるか遠くだった。 『狙撃だ!狙い撃ちにされてる!稜線に隠れろ!』 『迎撃用意!ネクストが突っ込んでくるぞ!』 悲痛な声で通信が交わされ、絶望的な戦闘が始まった。 877 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 06 21 『命中。左4度、大型ミサイル搭載車両』 『ラジャー』 発砲音と、数瞬遅れた着弾。 スポッターとスナイパーのコンビネーションで2機のネクストは敵陣に穴を穿っていた。片方のネクストはスナイパーライフルを持ち、片方のネクストは左の背部武装に観測機器を積み込んでいる。それによって、一定速度に維持しながらとは言え、時速500kmもの速度でOBで飛行しながら標的を狙撃してのける仕組みだった。十数発の発砲が行われGAEハイダ工廠の入り口を固める戦力が減少していく。 的確に、ネクストの進行を妨げるような大型火器やノーマルACが優先的に狙われる。 『ハイダ工廠入口を捕捉した、このまま突入する』 『了解。俺はここで時間稼ぎをする。GAEのリンクスだとミセス・テレジアがいるが……まあ、何とかする』 『任せた』 ハイダ工廠へと突入していくのは、白いカラーリングのSUSANOWO-01に黒い鴉のエンブレムを刻む『白鴉』だった。 『アナトリアの傭兵』あるいは『レイヴン』と呼ばれる彼は、ここからが本番だ。彼がこの工廠で建造している大型兵器を見せしめを兼ねて破壊する。背中に背負っていた観測装置はパージしていく。ここからは不要だ。 他方で、SUSANOWO-01にBFFの4脚パーツをアセンブルしたネクストは防衛線を強行突破するために続けていたOBを緩めて、徐々に速度を落としていく。そのネクストの名前は『水破兵破』。日企連のオリジナルリンクス『虎鶫』の愛機だった。 スナイパーライフルとアサルトライフル、垂直ミサイル、レーザーキャノンという重武装のアセンブルだ。 そのようなアセンブルをした理由はすぐにわかる。ノーマルACやMTがあちらこちらからわらわらと湧いてきたのだ。 『数だけは立派ってか?』 しかし、虎鶫はおびえない。この程度の数ならば、国家解体戦争時に経験してきた。 数百の敵を圧倒的な質で覆す、まさに一騎当千の古強者。それがアーマードコア・ネクストであり、リンクスだ。 『さて、お仕事お仕事』 優先するのは大型兵器やノーマルAC。スナイパーライフルの弾丸は的確に砲塔やコア部位を貫いていく。 並行して、アサルトライフルがMTを撃破していき、硬い敵はレーザーキャノンで消し飛ばす。 彼の役目はアナトリアの傭兵をハイダ工廠に送り込み、ことをなし終えるまで包囲網を排除し、撤退できるようにすること。 その為にこそ、このような重武装。無論殲滅力ではアックスブロウも適しているのだが、迅速の撤退には自分の方が有利だ。 878 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 07 10 「さて、来るかな……」 虎鶫はAC4のシナリオを知っている。それがアックスブロウではなく自分が派遣された理由。 ハイダ工廠の粛正は、アナトリアの傭兵が工廠内部で製造中の大型兵器の破壊を目的として行われた。 しかし、ハードモードにおいてはなぜかGAのリンクス『メノ・ルー』が操るプリミティブ・ライトが増援として表れる。 何故GAの戦力がGAEの工廠へと救援に訪れたのか。何故アナトリアの傭兵という、GAに協力的な戦力を攻撃するのか。 GAEが偽の情報で彼女をだましたという説もあるが、真実は分からない。 ただ一つ言えることは、彼女がここに現れる可能性があるということ。 (まぁ……レイレナードを通じて手を回しているんだろうがなぁ) ハイダ工廠ではGAEとアクアビットの製造しているソルディオスがあるのだろう。 そして、完成しているソルディオスは襲撃の前にいくらか運び出されている。そして技術者もすでに逃げ出している。 アクアビットの親企業はレイレナード社だ。そして、密かに日企連はレイレナード社との伝手を持っている。 GAの依頼とはいえ、GAEの粛正に日企連のオリジナルリンクスが投入され、そして襲撃の前になぜか襲撃が露見した。 (まあ、はっきり言えばやらせの開戦理由だよなぁ) 果たして運び出されたソルディオスがすべて無事にレイレナード陣営の元に届けられるか。 あるいは、技術者たちは本当にレイレナード陣営の所に逃げ込めたのか。 その技術者たちが本当にGAEとアクアビットに殉じるのか。 この粛正のタイミングは誰かの意思によって決まったのか。 この粛正で連鎖的に発生するであろう戦争は、本当に自然な企業間闘争なのか。 (おお、エグイエグイ……) 盛大なマッチポンプ。 レイレナードと日企連が、オーメルらが密かにレイレナードを潰そうとする動きを利用した、壮大なモノ。 一体どこの誰が、自社の崩壊さえも計算の上で戦争を起こすと考えるだろうか。 879 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 08 08 白鴉が突入してから10分余り。水破兵破の正確な射撃は、一定距離より内側に防衛部隊を近寄らせずにいた。 追加弾倉を格納している水破兵破の弾薬には余裕があった。元々そういう役目と割り切っていれば、このようなアセンブルも可能だ。 『退屈だな……流石に無駄に突撃はしてこないか』 その時、水破兵破のレーダーに反応があった。ネクストの運搬に使われる高速飛行輸送機。所属はGAE。 このタイミングでとなれば、おのずと候補は絞られる。 『ネクストの反応、急速接近。GA社のプリミティブ・ライトです!』 『おいでなすったか……って、反対側かよ!』 出現位置が予想外だった。工廠の反対側まで追いかけなければならない。ハイダ工廠は大きい。 元々は虎鶫が何とかプリミティブ・ライトを足止めして「GAによるソルディオス破壊」という事実を成立させるはずだった。 しかし残念なことに日企連は「プリミティブ・ライトがハイダ工廠に現れる」ことは知っていても、どのようにして現れたかまでは知らない。 あっという間にプリミティブ・ライトはハイダ工廠内部へと突入していく。追いかけたいところだが、あいにくと 水破兵破の装備は大型で工廠内部で使うには不向きだ。それに、白鴉が出てくるための退路を確保し続けなければならない。 『クソ!今の水破兵破じゃ工廠内部に突っ込めない!オペレーター!レイヴンに注意を飛ばせ!多分GAEの馬鹿に騙されてる!』 『すでに通達してあります……あ!白鴉、プリミティブ・ライトと会敵!戦闘を開始しました!』 『遅かったか……!』 工廠内部はそれなりに広いとはいえ、ネクストが通過するのはギリギリだろう。 白鴉も突入用装備の為、そこまで火力があるわけではない。狭い空間なら互いが回避ができないままにダメージレースとなり、重量二脚型ネクストのプリミティブ・ライトの方が有利となる。負けるとは思えないが、殺してしまうのは寝覚めが悪い。 そう思ったとき、水破兵破の周囲に大口径弾が着弾する。 『ぐぉっ……!?まだいたのかよ!』 クエーサー。PAも展開可能で大型砲や機銃などを搭載した巨大兵器。 ネクストほどではないにしろ、厄介な戦力だ。倒せなくはないが、面倒なことに変わりがない。 『敵増援を確認。どうやら続々と到着しつつあるようです!』 『展開が速過ぎるな……やはりGAE側に漏れていたか。 こっちで可能な限り通常兵力を排除する。最悪プリミティブ・ライトを撃破して回収、そのまま離脱させろ!』 『了解しました!ご健闘を!』 白鴉のオペレーターのフィオナの声に、水破兵破のスナイパーライフルの銃声が答える。 祈るような銃撃は、着実に敵機を吹き飛ばしていく。大量のMTはミサイルやレーザーキャノンで塵に変え、生き残りをライフルが打ち抜く。 『早く済ませてくれよ……!』 レーダーが感知する敵の数はじわじわと増えている。 というか、地形や配置によって包囲を構築しつつあった。その包囲網を破るべく、虎鶫は攻撃を続行した。 880 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 08 48 この事態を俯瞰的に見れば、GAEの意図が見えてくる。メノ・ルーはGAにとっては貴重な戦力であることは間違いない。 GAはメノ・ルー ローディー エンリケ・エルカーノ ユナイト・モス マタドール・フェザーなどの リンクスを戦力として抱えている。しかし、後続のリンクスの養成は順調とは言い難く、アナトリアの傭兵が国家解体戦争以来、屋台骨の一人として雇用され続けているのも、使い勝手の良い戦力が不足していることに由来する。 だが、ここでそのGAのリンクスを日企連リンクスが、ほぼGAに出向しているアナトリアの傭兵かBFFと関係の深い 虎鶫が撃破すれば、確実にGAと日企連の関係はこじれ、さらにBFFとGAの関係まで連鎖的にこじれる。 そうすればGAEはGAからの離脱の状況を生み出しつつ、GAの戦力を削ることができる。 そもそもメノ・ルーが欧州にいたこと自体、GAEの要望によるものだった。確かにアナトリアの傭兵は使い勝手の良い戦力だが、結局体は一つしかない。そして、プリミティブ・ライトはGAE工廠の救援要請にこたえて駆けつけ、戦闘を開始した。 『くっ……』 SUSANOWO-01をベースとする白鴉の機体表面にガトリングガンの弾丸が命中する。 基礎的な防御が堅いことが幸いとなったのか、弾丸は弾かれる。しかし、ダメージを受けたことに変わりはない。 レイヴンは正直状況の悪さを呪っていた。遮蔽物が多く、おまけに地形として引っかかりやすいハイダ工廠内部は、白鴉の機動力が逆に足かせとなっていた。動いてかわせない。向こうはこちらの攻撃を躱さない。重量二脚型の機体は、防御において遥かにこちらより優れている。ガシャンと機体が工廠の隔壁にぶつかる。それ無理やり押しのけてバズーカの一撃を回避する。 今度は天井から釣り下がるクレーンにぶつかった。ワイヤーが背部武装に絡まるが、無理やりちぎった。 『諦めて、お願い!』 メノ・ルーの声が届く。だが、諦めてやるわけにはいかない。 スウッと息を吸う。そして、ゆっくり吐き出す。意識が冴え、焦りを追い出す。 『おい、聞け!プリミティブ・ライト!』 反応なし。オープン回線で呼びかけるが、攻撃の手は緩んでいない。 『話さえ聞かないか……!』 いや、無線が妨害されているのか。それとも、機体そのものに細工がなされているのか。 だとするならば、プリミティブ・ライトは間違いなく捨て駒として利用されている。 自分が撃破すればGAEと敵対することになるし、GAと日企連の関係にもひびが入る。 もしプリミティブ・ライトが自分を倒せるならばそれもよし。その時は『処理』をすればいい話だろう。 その時、虎鶫から通信が入る。 『レイヴン、悪い知らせだ。GAE所属と思われる重爆撃機を近くで捕捉した。とっとと片付けないと丸ごと焼かれる。 こっちで足止めするが何時増援が来るかわからん!』 『了解した……!』 予感は的中。 虎鶫が爆撃機を迎撃しているが、何時まで持つだろうか。 10分という制限時間を、レイヴンは自分へと課した。それがおそらく限界。 AMS接続状態での最大戦闘時間はおよそ1時間程度。敵性が低いことで、一目連のように長い時間は戦えない。 直感がその数字を導き出した。離脱のことを考えれば、あまり負荷のかかる戦闘はしない方がいい。 短く、簡潔にしなければならない。 881 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 09 41 白鴉は、巨大兵器の製造ドックに飛び込んだ。 ハイダ工廠でも比較的広い空間が確保されている場所で、今も巨大兵器の残骸が煙を上げている。 ようやくガトリングガンやバズーカから逃れる空間を得た白鴉は、機敏に飛び回って回避する。 だが、同時にプリミティブ・ライトも背中の大型ミサイルを使える空間を得た。狭い空間なので爆風が拡散せず、逆に反響することで機体にダメージを与えやすくなっているだろう。事実、プリミティブ・ライトはミサイルを発射し始めた。 『被弾も考慮せず……!』 だが、理にかなったミサイルの使用だ。そもそもサンシャインは重装甲で防御しながら戦う設計思想を持っている。 リンクスの技量をネクスト本体でカバーするというGAの方針が、その重装甲を作らせた。咄嗟に右手のマシンガンで破壊する。 爆風が工廠内部を破壊するが、構わない。 (ジリ貧か……どうする!?) 白鴉の武装は軽装だ。狭い空間でも取り回しの良いマシンガンと大型兵器用のレーザーブレード。 右の背部武装には軽量レーザーキャノン。だが、どれも弾数が通常兵器との戦闘で減っている。 爆風で機体が揺れる。辛うじてミサイルの直撃を避けたが、爆風は確実にダメージを与えている。 バズーカを反射で回避。天井にぶつかって、慌てて下方へとQB。そこにガトリングガンが追いかけてくる。 戦闘を継続しながらもレイヴンはコンピューターのライブラリーを呼び出す。GA社のネクストサンシャインについての情報は日企連もつかんでいる。コクピットの配置や内装関連については戦闘を行う際に必要となる情報としてコンピューターに登録されているのだ。 並行して、自分が荒らした工廠のドック内構造を精査する。AMSを通じて頭の中に鈍痛が走る。歯を食いしばり、堪える。 そして、必要な情報がもたらされる。 (ええい、南無三!) レイヴンは己の戦闘経験に全てを委ねた。 一気に加速。プリミティブ・ライトへの接近を選択したのだ。 882 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 10 12 (おかしいわ) 白鴉との戦闘を続行しながらも、メノは疑問を感じていた。 相手のネクストは日企連のSUSANOWO-01をベースとしていた。そしてエンブレムはアナトリアの傭兵のそれだ。 GAEの工廠を所属不明ネクストが襲撃しているとの情報を受けて出撃してきたが、なぜアナトリアの傭兵が? 先程からジャミングによって自分の機体とオペレーターの通信は途絶している。相手の通信もこちらに届いていない。 とりあえず攻撃をしてきているから反撃しているが、当初の目的がずれているのを感じていた。 所属は分かり切っている。しかし、彼の所属を考えれば日企連かGAの依頼で動いているはず。 それはつまり、GAか日企連がGAEを攻撃する理由があったということ。 (どういうことなの?) メノ・ルーはGAの最高戦力。それ相応に情報は得ていた。 確かにGAEは独自路線をとっているところがあったが、GAそのものとの関係は悪くはなかった。 日企連との関係も悪くはないはずとメノは理解していた。 しかし、残念なことにそれは一介のリンクスが知ることができる範疇の知識。 根底には旧大陸と新大陸という、陸地を隔てることで生まれていた確執故の不和が確かに存在していた。 ともかく話を聞かなければと思いながらも、攻撃を続ける。 メノ・ルーは認識していないが、彼女のゆがみはそこにあった。 争うことを口では忌み嫌いながらも、しかし体には争いの為の力しかない。 そして戦うことに抵抗を覚えていない。そういうところで、彼女は歪んでいた。 メノ・ルーは見た。白いネクストが、自分への接近を選んだのを。 相手の武装で警戒すべきだったのは、左手のレーザーブレード。 軽装備の敵ネクストの中で、唯一プリミティブ・ライトの重厚な防御を破って、致命的な一撃を与え得る武装だった。 だが、接近はこちらにとってもバズーカやガトリングガンの命中率が上がることにつながる。 軽量二脚型よりましとはいえ、中量二脚型ネクストの防御ではバズーカの一撃には耐えられない。 (来た!) 接近してきた。 落ち着いてバズーカを放つ。それは紙一重で回避される。PAをかすめながらも、ネクストそのものには当たっていない。 ガトリングガンのトリガーを引こうとした瞬間、頭を突然殴られた。頭部に損傷。真上からの攻撃。どうやって? どうして?と思う間もなく体が、機体がバランスを失う。手からバズーカが離れてしまう。首が真上から叩かれ、 ネクストの頭部パーツとコアパーツをつなぐ部位に予想外の衝撃が加わり、一瞬不具合が発生。首が回らなくなる。 883 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 10 52 その時、メノは見た。 敵ネクストのマシンガンを投げ捨てた右手が真上に挙げられ、何かをしっかりとつかんでいるのを。 『作業用クレーンのフック……!?』 力任せに引っ張られたそれは、巨大兵器の製造時にパーツを釣り上げるために使われていた。 そしてそれは、巨大兵器が破壊された際に損傷していた。それをネクストの力によって無理やり引っ張ればどうなるのか。 巨大なパーツを持ち上げることができるクレーンがそっくり落ちてくる。プリミティブ・ライトは、その巨大な鉄骨に殴られていたのだ。 『あっ!?』 そして、白鴉の左手に残ったレーザーブレードが一閃される。 PAが鉄骨の打撃で消失していたプリミティブ・ライトは、コクピットの内蔵されたコアパーツの前面装甲を一気に破られた。 AMSを通じてメノの頭に激痛が走る。疑似的に胸を斬られたようなものだ。すぐさまコンピューターが痛覚を遮断する。 しかし、続けて何かを引きずり出されるような感覚が走った。接続が無理やり解除されていく。 『流石GAのコア。頑丈だな』 接触回線で、アナトリアの傭兵の声が届く。 白鴉はプリミティブ・ライトからコクピットブロックをごっそりと引き抜いていた。前面装甲を綺麗に破り、 尚且つコクピットに傷をつけないようにブレードを振るう。それは単なる適性だとか計算でできるものではない。 数千数万もの訓練を重ね、長年戦場に身を置いたからこそできる芸当だ。 ほっとしたような声。だが、次の瞬間焦ったような声が届けられる。 『今すぐ出ろ!』 促されるままにコクピットから脱出する。イジェクションレバーを引き、対Gゲルを廃棄。ハッチを開いて飛び出す。 自分の体は白鴉の右手に掴まれた。白鴉の左手はプリミティブ・ライトのコクピットブロックを投げ捨てた。 直後、爆発。それは明らかにコクピットが破壊されたことに由来するものではなく、コクピットに仕込まれていたモノが 起動して爆発した結果だった。 「そんな……」 ここに来る直前、プリミティブ・ライトはGAEスタッフによって調整を受けてた。 それはネクストという機動兵器を扱う上では当然の事。しかし、あまりにも状況が悪すぎた。 『PAはカットした。急いで白鴉のコクピットに入れ……このまま離脱する』 呆然としたままの彼女は、鉄骨の下で力尽きているプリミティブ・ライトを、ただ眺める事しかできなかった。 斯くして、アナトリアの傭兵および虎鶫はGAEハイダ工廠への粛正を遂行し終えた。 残酷なむなしさが、任務完了時だというのに漂っていた。 884 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 11 40 ハイダ工廠は嘗てのポーランド クヤヴィ=ポモージェ県南部にある。 そこから陸路、あるいは海路を通じてソルディオスは逃がされていた。一部はインテリオルの手によってアフリカへ。 あるいはBFFの艦隊に護衛されて北欧へ。そして現在、北海を航行する巨大兵器『ソルディオス』を搭載したGAEの輸送艦隊は事前の打ち合わせ通りにアクアビット本社のある北欧を目指していた。そう、事前の打ち合わせ通りに。 護衛についているのはBFFの主力艦隊で北海を担当とする第3艦隊。リスクを避けるために分散させるということで数は多くはない。 現在この輸送艦隊が運んでいるソルディオスはおよそ3機分。1機は組み上がった状態で、残りはパーツ単位で分解されて搭載されている。 「これだ、ソルディオスがあれば企業戦力の差はひっくり返せる」 GAE重役の男は、輸送スペースにある巨大兵器を思う。レイレナード陣営の企業は新興企業が中心であり、GAのように企業体力に優れているわけではない。GAEとてGAグループであるが、あくまでヨーロッパにおいている出先企業に過ぎない。 アクアビットは技術性に特化した企業であるし、レイレナードもネクスト戦力は優秀だがそれ以外はいまいち。 残るのはBFFとなるのだが、海上企業としてはGAと良好な関係にある日企連がいるために安心はできない。 だが、ついに企業の技術力はネクスト以外の方法で体力差を引くり返すことができる兵器を開発した。 それがソルディオス。ネクストさえ浴びれば危険なコジマキャノンを搭載し、PAも展開可能。通常の火器も搭載しているため、これが戦場に出るだけで大きく変わってしまう。多少変わった兵器を投入しょうが、力でねじ伏せるのだ。 「しかし、殺風景な船だな……」 BFFが急遽用意した船舶は人員が少ない。タンカーだったものを改修して何とか積み込んでいるとの話だが、 VIPルームはあまり整備されているとはいえなかった。まあ、それでも快適な船旅が出来ているので不満はないのだが。 「ん?」 その時、水平線の彼方にぽつりと何かが現れた。 最初は船かあるいは鳥かと思った。しかし、それは見る見るうちに大きくなってく。 それは、人型をしていて、翼もないのに飛行をしている。つまり、飛行型ノーマルACなどではない。 885 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 12 31 「ネクスト!?」 咄嗟に近くに置いてあった双眼鏡をとってのぞき込む。 目に飛び込んできたのは、三日月に雲と刀をあしらった、まるで武家の家紋のようなエンブレム。 「あ、あのエンブレムは……日企連のオリジナル、一目連!?ま、まさか……!」 そうGAEの重役が叫んだ時、その部屋めがけてレーザーブレードが突きさされた。 一瞬にして、重役の体は熱量により蒸発した。しかし、艦艇は動き続けていた。 いくつもの艦艇をQBを連発して飛び越え、標的の直前で艦の航行に影響が出ないように急停止しつつ、レーザーブレードをつかって定められた船室だけをピンポイントで貫く。高いAMS適性と技量がなした、とてつもない曲芸。 『流石は剣豪一目連。見事だ』 『お気に召していただけたようで光栄だ』 BFF第三艦隊の旗艦からの通信に、一目連は短く礼を述べる。 輸送艦内部では目撃者の処理が行われている。油断しきっていたし、輸送のための人員をBFFに任せきりにしていたことで、GAEはそれほど人を用意していなかった。GAEの重役がいたが、たったいま処理がなされた。いや、正確に言えば 『海に落ちてしまって遺体が回収できなくなった』。襲撃を受けたのだから、仕方がないことである。 ソルディオスはとかくコジマキャノンを搭載した兵器という点が注目されているが、本来注目すべきはその設計にある。 戦場では単独で強力なユニットとして運用可能で、対処するにはネクストを引っ張ってくるしかないような、企業にしか 開発・運用不可能な大型兵器。そう、ソルディオスはアームズフォートの草分けともいえる兵器なのである。 そして、このような大型兵器の中でも最先端と言えるこれは、非常に貴重なサンプルなのだ。そもそもこの兵器の製造には日企連がGAを介して提供した技術も盛り込まれていた。大型兵器建造は日企連もだいぶ重ねてきたが、やはりAFの 建造には技術的発達段階を踏む必要がある。 『救難信号を受信した船舶を発見した。BFF第三艦隊は別途任務があるため、日企連にこれの保護を要請する』 『承った。丁度良く母艦があるのでそちらから人員を移して、日企連が保護する』 白々しい会話がなされ、BFFはネクストによる奇襲を受けたとレイレナードに報告し、レイレナードもそれを受理する。 そして、『襲撃』した日企連と『襲撃』を受けたレイレナードの関係は言うまでもない。 短い奇襲が完了し、BFFの艦隊と日企連のネクスト搭載母艦は分かれていく。 これは記録には別な形で残る、ほんのわずかな出来事に過ぎなかった。 886 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 13 35 斯くして、GAはアクアビットとのグループ盟主の意に反した取引を行っていたGAEの粛正を実施。 ハイダ工廠を皮切りに、各地の工廠や企業機能を持つ都市を襲撃した。特にGA最高戦力たるプリミティブ・ライトを GAEが捨て駒として利用したことはGAの逆鱗に触れていた。 これに対し、アクアビットは提携先たるGAEへの攻撃は自らへの直接攻撃にあたるとして難癖をつけ、GAに対して報復攻撃を実施した。 GAEもまたプリミティブ・ライトがハイダ工廠攻撃の片棒を担いだと証言し、GAと袂を分かつかのように行動を開始。 同時に粛正を行ったリンクスの所属であるアナトリア及び日企連に対しても報復攻撃を開始した。 これは即日の内にパックス全体に波及し、歴史的背景も含む長年の対立関係を火薬として一気に爆発。 世界は、レイレナード陣営(レイレナード アクアビット BFF GAE インテリオル)とGA陣営(GA オーメル ローゼンタール イクバール テクノクラート)に真っ二つに分断され、理念なき闘争へとなだれ込んでいく。 唯一態度を鮮明化していなかった日企連も、GAEの報復を退け、序盤戦が終わった後からGA陣営への参加を表明。各企業は、磨き上げていた戦力同士をぶつけ合う、泥沼の戦争へと突入していった。 後の第一次リンクス戦争は、こうして幕を開けたのであった。 887 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11 15 09 以上です。wiki転載はご自由に。 うん、ひどすぎる。これでもマイルドにしたのに、ひどい。 オーメルもインテリオルも怒っていい。あとイクバールとGAEも。 大体日企連とレイレナードのせいだから。 ハイダ工廠の位置がXBOX版とPS3版とで異なっていたので、XBOX版の位置を採用しています。 一目連のやったのは、分かりやすく言うと「ローラースケートで音速で滑りながら、時速30kmで動いている車の前で急制動を掛け、車にもぶつかることなく窓越しに車内の人間の口の中に箸で食べ物を突っ込む(無論口の中にぶつけない)」ようなもの。 さて、これでリンクス戦争は勃発となりましたー。 虎鶫が何気にお気に入りなので動かしたくなる。悪い癖かもしれませんな。 では次回をお楽しみに
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三戦英雄傅 第二十二回~晋国に英雄集い、袁家軍は天の時を待つ~ 晋国の摂政にして後漢の相国・袁紹は群臣を前に思慮深げに黙したままでした。 群臣は、二人の男を囲むようにして立ち尽くしていました。 人々の見つめる視線の先には、袁紹の乾いた唇。重い空気が、群集の肩に寄りかかり、 時だけが過ぎてゆきます。 男1:「袁紹様、ご返答をいただきたく存じます」 沈黙を破ったのは、円の中にいた二人の男のうちの一人でした。 袁紹は、男の声に僅かに首を傾けたまま、沈黙を守ったままでした。 時は南漢(晋)暦:栄安二年一月。所は、晋国の南陽城。 正月を迎えたばかりで、後漢には様々なできごとが起こりました。 ①荀攸が小魔玉暗殺を謀るも、失敗し、晋国へ亡命 ②漢朝の忠義の士・丁原は小魔玉の手により歴史上から抹殺された上に 、不幸にして小魔玉の先妻に顔が瓜二つだったことから性転換手術をさせられ 監禁される(当事者以外知らず) ③奇矯屋onぷらっとが甘寧を倒し、ひょーりみと共に晋国へ亡命 ④協皇子の生母・アダルト日出夫が小銀玉皇后の女の嫉妬を買い、 何進により暗殺される まこと、栄安二年は激動の時代でございます。 ひょーりみ:「袁紹様、ご英断を」 先ほどより袁紹に決断を促している男の名は、ひょーりみでございます。 ひょーりみと、奇矯屋onぷらっとは晋国の群臣に囲まれた中、大尉の小魔玉討伐を 袁紹に献策したのでした。 ひょーりみと奇矯屋onぷらっとの様子に固唾を飲む聴衆。その中には、天性の 博打打・荀攸もおりました。 荀攸:「(ひょーりみ・・・・奴はただの男ではない。勝負師だ。しかも、かなり 重症の。同じ臭いがする・・・・しかし、奴の言うことを聞いてもいいのか? 信頼するに当たるのか?そもそも奴は、大尉・小魔玉の義兄弟だ。これは、小魔玉の罠 とも考えられる。奇矯屋onぷらっとは武勇に優れているが、根が優しすぎる。 ひょーりみに騙されたと考える方が自然ではなかろうか)」 曹操:「ひょーりみ、大尉・小魔玉の義兄弟が何をしに来たかと思えば・・・・ 洛陽にはまともな謀臣がいないと見える。こんな見え透いた嘘、皆の目は騙せても、 この曹孟徳の目は誤魔化せぬぞ!」 郭図:「ひょーりみ殿、仮に貴公の大尉暗殺の意図が真であったとしよう。しかし、 貴公と大尉の間柄ならいくらでも暗殺の機会はあろうに。わざわざ大軍を以って 一人の男を殺すまでもありますまい」 突然やってきた怪しい男、ひょーりみの心中を探らんと晋国の群臣はひょーりみに 議論を投げかけようとしてきます。奇矯屋onぷらっとは、武官という身分のためか敵意を持たれぬ 人徳のためか群臣からは何の議論も投げられませんでした。 ひょーりみ:「はははは!!」 曹操、郭図:「何がおかしい!」 ひょーりみ:「これが笑わずにおられようか。いや、おかしい。可笑しい。とんだ初笑いだ」 曹操:「・・・申してみよ。答えによっては、三族皆殺しも覚悟されよ」 郭図:「(後で讒言してやる・・・・覚えてろ・・・・ひょーりみ)」 ひょーりみ:「俺の進言が、言葉が嘘だと思われるのか?」 曹操:「当たり前だろう。何を根拠に信用しろというのだ。大体、自ら信用しろという輩にろくな 奴はいない。まして、お前は小魔玉の寵愛厚い義弟だ。信用しろというほうが無理ではないか」 ひょーりみ:「我が横には、漢朝きっての武人・奇矯屋onぷらっと。何か不審な動きがあったなら、この 細首、繋がって晋国には入国できまい。俺は、確かに未だに小魔玉の兄上を思っている」 ひょーりみの言葉に群集が動きました。そこへ、ひょーりみの一喝が飛びます。 ひょーりみ:「黙らっしゃい!! 最後まで聞かれよ。義兄の小魔玉を愛しているからこそ、 俺は、この手で、小魔玉の悪徳に終止符を打ってやりたいのだ。そして、故郷の南海に立派な墓を 建ててやりたい」 郭図:「愛しているなら、生を望むのが本当ではないか?この嘘つきが!」 ひょーりみ:「死んだ人を悪く言う奴はいない。大尉・小魔玉も死ねばこれ以上人の恨みは買うまい」 曹操:「・・・・・・なんと・・・・それほどまでに」 ひょーりみ:「俺は、漢を、小魔玉を救うために敢えて小魔玉討伐を提案した。しかも、独立政権とはいえ 事実上漢の領土である晋国でだ。無論、死の覚悟はしている。このまま、大尉暗殺を企てた謀反者として 小魔玉に差し出せば相応の報奨金は得られるだろうよ。だが、諸君はどうだ? 肥沃な土地に、袁家軍、曹家軍合わせて百万。文武に優れた憂国の士数千。ただ、徒に 時間を潰しているだけだ。これが笑わずにおられようか。あ?どうだ?」 郭図:「詭弁はいい。そんなに小魔玉様を殺したければ、単身、洛陽へ帰り毒殺でも何でもなさるがいい。 ひょーりみ殿なら疑われずに容易くできましょうぞ」 ひょーりみ:「昔、伯夷・叔斉の兄弟は互いに国を譲り合い国の皇子といく身分にも関わらず餓死を選びました。 兄弟の愛情とはかくの如き強き物。たとえ、義理であろうとも何でこの手で兄を殺せましょう」 郭図:「(史記を持ってくるとは・・・・・・くっ・・・・逢紀!)」 郭図は親友の逢紀に助けを求めましたが、逢紀はニヤニヤするばかりで助けてはくれませんでした。二人の友情は、所詮このようなものでした。 ひょーりみの独り勝ちかと思われたその時、一人の少年がひょーりみの前に進みでました。 田豊の食客の果物キラーの長男の無双ファンでございます。 無双ファン:「先ほどから聞いておりますと、ひょーりみ殿は我が軍を頼って、ご自分は何の危険も 被ることはない。我が晋国からすれば、とんだ疫病神ですね」 ひょーりみ:「くっ・・・・・」 果物キラー:「おやおや、どうした?無双ファン。ひょーりみ殿はノーマルのようだから手加減してやりなさい」 無双ファンがひょーりみを追い詰めるのを、父親の果物キラーは公開言葉責めと勘違いしたようで、 息子の成長に目を細めておりました。 果物キラー:「(初対面の男に公開言葉責めとは・・・・・無双ファン、我が息子ながら恐ろしい子だ)」 審配:「実は、我が家の家計も晋国の予算も、内情は厳しくてな。どうしても、年度末の調整がうまくいかないようだ。 ここは、ひょーりみ殿、貴公の首一つでやりくりしようかと思うのだが。行け、顔良!」 顔良:「はっ!!」 審配の指示に、晋国一の猛将・顔良が立ち上がりました。ひょーりみの危険を奇矯屋onぷらっとが察知し、 奇矯屋onぷらっとと顔良、二人の武人が対峙します。袁紹は、未だ言葉を発しません。 顔良:「俺と出合ったのが運の尽きだな。しねえええええええ!!」 荀攸:「止めてくれ!!!!!!」 ひょーりみ:「!!!!」 奇矯屋onぷらっと:「!」 顔良の剣がうなりをあげたその時、ひょーりみと奇矯屋onぷらっとの衣が真っ二つに切り裂かれ、 二人は生まれたままの姿を群集に晒しました。 奇矯屋onぷらっと:「何のつもりだ!!」 顔良:「殿、審配殿、二人は今、過去を捨て生まれ変わりました。どうでしょう?ここは、過去のしがらみを 捨て、真に漢朝を考える時が来たのではござらぬか?」 無双ファン:「しかし、漢朝の鼎はとうに折れている。いっそ、我が殿の晋国で新しい王朝を作り、学徒殿の 自治を徹底したなら民草のためにもなりましょう。わざわざ漢朝に拘る必要もありますまい」 顔良:「無双ファン、見損なったぞ。この売国奴が!!」 無双ファン:「何とでも言え」 袁紹:「そこまでだ」 袁紹は、やおら立ち上がり腰に差した長剣を頭上に振りかざし、机を真っ二つに斬りました。 一同:「おおおー!!」 袁紹:「元より、この袁本初の心は常に漢朝と共にある。漢朝の佞臣は生かしてはおかぬ。 しかし、今は時が到来していない。以後、これより余計なことを口にする輩と漢朝の佞臣は この机と同じ末路になると覚悟せよ!!」 こうして、袁紹は反小魔玉軍を水面下で結成し、訓練することにしました。 晋国と洛陽は関所で隔たれただけの距離、当面は袁紹と小魔玉の化かし合いが続くでしょう。 しかし、ただの演技では為せない熱いものが袁紹の心には燃え盛っているのでした。 三戦英雄傅、つづきはまた次回。 三戦英雄傅 第二十三回~曹操は天下を案じ、果物キラーは不審な動きを見せ、丁原は計略を練る~ 袁紹の机斬りから、一月ほど経った栄安二年二月。 曹操は、月下で従兄弟の夏侯惇と曹洪を相手に酒を酌み交わしておりました。 夏侯惇:「孟徳。相国殿の机斬りもあるから、かようなことは言いたくないのだが・・・・ 訓練ばかりで実戦が無くては兵士の士気を保つのも難儀なことだ。それにいつ来るかとも 知れぬ小魔玉討伐の時期を待てというのも。ここは、俺たち曹家軍単独で小魔玉討伐を しないか? なあに、こちらは精鋭。向こうは訓練も忘れ贅肉のついた名ばかりの兵。 恐れるに足りないだろう」 曹操:「元譲。お前のいうことにも道理はある。だが、相手は仮にも漢の大尉。大義を 欠いては逆に、曹家軍が逆賊の謗りを受けよう。ただでさえ、我等一族は宦官の末裔と いらぬ中傷に耐えてきたのだ。お前は忘れたのか。幼き頃から受けてきた屈辱と いじめの数々を」 曹洪:「あれは、いじめの満漢全席だった・・・・・」 辛い幼少期を思い出し、銭ゲバの曹洪は珍しく涙を浮かべました。 最終的に曹洪は学生時代にこともあろうか、「曹洪って、援交してるって」と書かれた紙を 市中にばら撒かれ退学に追い込まれた過去がありました。今でいう、学校裏サイトのような ものです。この頃から、曹洪は心を閉ざし、「信じられるのは金と親戚だけ」と貯金に精を出しました。 夏侯惇:「子廉。済まぬ」 曹洪:「いいんだ。それに学校だけが社会じゃないさ。寧ろ、学校のいじめなんか今にして思えばかわいいものさ。 宮仕えなんかしてみろ。小魔玉による脱衣麻雀に鷲巣麻雀。拒めば逆臣と言われ、家族は路頭に迷い、 世間から遮断される。受ければ待っているのは屈辱と死だ。一番辛いのは仕官先での理不尽な中傷や要求だよな」 曹操:「子廉も大人になったな。泣きまくって顔がいつも濡れていた餓鬼の頃が嘘みたいだ」 曹洪:「兄上」 曹洪は照れたように頭を掻きました。 曹操:「それにしても、いったい洛陽はどうなっているのだろうか。袁家十人衆から情報は入ってはくるものの 漢に王允殿と丁原殿と陳羣殿がいれば漢も持ちこたえるだろうとは思っていたものの。甘かったか」 夏侯惇:「陳羣殿は、名士・まあcの孫。徒に洛陽に止まっているわけでもありますまい」 曹洪:「王允殿は荀攸殿の小魔玉暗殺に手を貸したとか。彼は演技が上手いので事後の処理は なんとでもできるでしょうが」 曹操:「問題は丁原殿だ」 夏侯惇:「孟徳は何か知ってるのか?噂では鷲巣麻雀で殺されたとかなんとか」 曹操:「儂の懸念は丁原殿の容姿だ」 夏侯惇:「確かに酷い女顔だったな。それも極上の美女のような。でも、女顔と天下の形勢とどう関係があるんだ?」 曹操:「ただの女顔ではない。丁原殿は、小魔玉の亡くなった奥方に生き写しだ」 夏侯惇、曹洪:「なにぃ!?」 夏侯惇:「孟徳、それは真か?」 曹操:「ああ、あそこまで似ていると空恐ろしいものがある。まるで何か、天が小魔玉を滅ぼすために 遣わした遣いか何かのようだ」 曹洪:「亡くなった妻女に瓜二つの丁原を小魔玉は黙って殺さない。つまり、兄上は丁原殿は 生きているとお考えなのですね?」 曹操:「それが、丁原殿にとって良いことかはわからぬ。しかし、母に似た丁原殿を子のリンリン友は黙って殺させることはあるまい」 夏侯惇:「気骨の士、丁原が生きていたなら小魔玉を許すことはあるまい」 曹操:「うむ・・・・・・・」 曹洪:「おや、あれにおわすは果物キラーと無双ファンの親子」 曹洪の目線の先には果物キラーと無双ファンがおりました。見ると、二人して仲良く庭石に腰掛け、肩を並べて月明かりで書物でも読んでいるようです。 曹操:「詩でもひねっているのだろうか?」 夏侯惇:「なかなか風流ですな」 曹洪:「感覚的に少し受け入れ難いものがありますが、あの親子、本当に仲が良いですね。 微笑ましいくらいです。普通あの年頃になれば父親をうざったく感じるものですが」 曹操:「文学という共通点があるからだろう。どれ、儂らも参加するか」 曹操一行は果物キラー親子と合流することにしました。 果物キラー:「よし、できた!!息子よ、これでどうだ?」 無双ファン:「・・・・・・すばらしい!!さすがは父上です」 果物キラーと無双ファンは、果物キラーの書いた文章を絶賛し合っておりました。 果物キラー:「いやー我ながら我が文才が恐ろしくなるよ。夜じゃないと頭が働かんのだがな」 そこへ曹操たちが現れました。 曹操:「月夜の詩会とは風流ですな。儂らもお仲間に入れてくれませんかな」 果物キラー:「こ、これは曹操殿・・・・いや、拙作は曹操殿のお目汚しに・・・・」 曹操:「いやいや、果物キラー殿のご高名は耳にしておりますぞ。陳琳か果物キラーかと 洛陽の紙価は高まるばかり。どれ」 果物キラー:「あああ!!! 」 曹操:「蒼天已死 黄天当立・・・・・これは!!」 曹洪:「今、流行っている黄巾賊の歌です!!なぜ、果物キラー殿が」 夏侯惇:「未発表の続きがあるぞ!!歳有甲子 天下大吉、俺の股間も正に勃っている。 俺の一物も屹立す・・・・・なんたる卑猥な!!」 無双ファン:「あなたがたには関係ありません。これは、父上の、袁家十人衆の任務ゆえ」 曹操:「袁家十人衆の」 曹洪:「袁家と黄巾賊は関係があるのか?」 夏侯惇:「孟徳、ここはやはり曹家軍が単独で!!もはや袁家は頼りにできん」 曹操:「いや、兵法に敵を騙すにはまず味方からと言う。袁紹も袁術も何か考えがあるに違いない」 無双ファンは曹操の言葉に薄い唇を上げました。 果物キラー:「では、我々はもう寝るか。行くぞ。無双ファン」 無双ファン:「はい。父上。では、皆さん、ごきげんよう」 果物キラーは無双ファンを肩車して帰りました。 夏侯惇:「15を超えた息子を肩車・・・・・果物キラー、やはりただものではない」 曹洪:「肩車される無双ファンも無双ファンです」 曹操:「まあまあ、それだけ仲のよい親子なんじゃないか。ハハハ」 曹操たちが笑いあっている頃、洛陽の小魔玉邸では噂の丁原(媚嬢)に危機が迫っておりました。 丁原は好色の小魔玉の夜の誘いを「今日は、あの日だから」と毎晩断っていたのですが、 もう一ヶ月も拒み続けていたので、さすがに小魔玉も丁原に疑念を抱くようになっていました。 小魔玉:「媚嬢、オイラは流血プレイもお前相手なら構わないよ。って、生理が一月も続くなんて 学会でも発表されてません( ^∀^)ゲラゲラ」 媚嬢(丁原):「(しまった!こいつ、医師だったんだ!!仮病は使えまい・・・・どうしよう)」 小魔玉:「生理が一ヶ月も続くなんて、それは病気だよ。媚嬢。オイラの太~い御注射を打てば 一発で治るよ( ^∀^)ゲラゲラ」 媚嬢(丁原):「(もう嫌だ。こんな変態と暮らすなんて。小魔玉の奥方の実家、 加ト清正に助けを求めるか?離縁して・・・・・)あ、あなた。私、薬も注射も苦手なの」 小魔玉:「媚嬢の大好きな御注射だよって、一発じゃ済まさないぞ( ^∀^)ゲラゲラ」 媚嬢(丁原):「薬物を取ると二人目を作るときに良くないわ・・・・う・・・・」 小魔玉:「どうしたんだ?媚嬢!」 媚嬢(丁原):「ご、ごめんなさい・・・つ、つわりかもしれないわ」 小魔玉:「悪阻って・・・・・オイラのはそんなに強いのかな。まだ交わってもないのだが( ^∀^)ゲラゲラ」 丁原は悪阻を装い、厠に駆け込み、己の不遇を嘆きました。 媚嬢(丁原):「もはや、月のもの作戦も押し通せまい。このままではあの変態の物ぐさみに陥るだけ・・・・ かといってこんな体では・・・・いっそ、清い体のまま・・・・」 丁原は腰帯を解き、厠の梁で首を吊ろうとしました。 リンリン大友:「どうしたの?ママ・・・・」 そこへ現れましたのは小魔玉の息子のリンリン大友でした。 媚嬢(丁原) 「(こいつ・・・・確か、小魔玉が目に入れても痛くないほど可愛がっている息子であったな。 天運、未だ我にあり。こいつを利用して小魔玉の命を!!)」 さてさて、気骨の士・丁原は何やら陰謀を考え付いた様子。 小魔玉は、袁家は、果物キラーの不審な動きの正体は? 三戦英雄傅、つづきはまた次回。 三戦英雄傅 第二十四回~攻めのムコーニン登場し、丁原は復讐を天に誓う~ 栄安二年二月。丁原(媚嬢)が悪阻を装い、小魔玉の魔手から逃れ、 自害を思い立った厠にて、また後漢の歴史が変動の兆しを見せておりました。 リンリン大友:「ママ・・・・泣いてるの?どうしたの?」 目の前で己の身を案ずる優しき青年・リンリン大友。丁原は、漢朝の未来のため、 打倒小魔玉のため、この純粋な青年を利用しようというどす黒い陰謀を抱いておりました。 媚嬢(丁原):「リンリン大友ちゃんね・・・・いいのよ。子供はもう、寝なさい。 ママは・・・・ママのことはいいの」 丁原は、手にしていた帯を投げ捨て、厠の床に崩れました。 リンリン大友:「ママ!!」 リンリン大友が母親を抱き起こすと、母の着衣は乱れ、美しい顔は青ざめ、 紅はすっかり落ちていました。 綺麗な瞳は充血し、涙が止まる様子を見せません。 リンリン大友:「まさか、パパと何かあったの?」 媚嬢(丁原):「子供はね・・・・知らなくていいこともあるのよっ」 丁原は、堪えきれなくなったように嗚咽を漏らし始めました。 リンリン大友:「僕は、ママの味方だよ。ママを虐める奴はパパでも許さないよ!」 リンリン大友の言葉に丁原は、一瞬目を光らせました。 媚嬢(丁原):「リンリン大友ちゃん、本当?」 リンリン大友:「本当だよ!」 媚嬢(丁原):「ああ、でもだめよ。可愛いあなたまでパパに、あの人に何か されたらと思うと・・・・・」 リンリン大友:「僕、ママのためなら、人だって殺せるよ」 媚嬢(丁原):「ありがとう。その言葉だけでもママは生きていけるわ・・・・でも、 あの人に、小魔玉に・・・・・とても変態的なことを強要されるの。拒めば薬物を 使うぞって暴力まで・・・・力ずくで・・・・もう、毎晩よ。いくら夫婦でも、 もう限界だわ」 リンリン大友:「ママ・・・・・」 リンリン大友は泣き崩れる母を抱きしめ、力強く言いました。 リンリン大友:「待っててね。僕がママを助けてあげるから」 媚嬢(丁原):「(フフフ・・・・これぞ、連環の計。可愛がっている我が子に殺される・・・ 世にこれほど滑稽で悲惨な末路はあろうか。逆賊のお前には、ちょうど良い。 お前の悪事も今日までよ。今まで散々な目に遭わせおって)」 丁原の復讐、それは、大尉・小魔玉を己の命よりも大切にしている息子・リンリン大友の手により 殺させることでした。 世の男は、全てマザコンと言います。母が嫌いな男は皆無と言っても過言ではありますまい。 そこを突いた、丁原の謀略や、如何に・・・・・・。 厠の事件より十数日、大尉の小魔玉はまた愛息のことで悩んでおりました。 リンリン大友が小魔玉と口を利かなくなってしまったのです。 小魔玉:「う~ん・・・・媚嬢は悪阻とか言って夜の生活を拒むし、リンリン大友からは無視されるし 遅い反抗期か( ^∀^)ゲラゲラ」 小魔玉は( ^∀^)ゲラゲラという割には、額に皺寄せ、貧乏揺すりをし、とても心に余裕がないようでした。 ムコーニン:「なんだよ。お前ら、やっぱり俺がいないと何もできねえんじゃないの」 小魔玉:「む、ムコーニン!?」 中山幸盛:「ムコーニン、久しいな」 現れました、この男。名をムコーニンと言いまして、『攻めのムコーニン、守りの中山』と言われた 小魔玉の二大知恵袋でありました。 ムコーニン:「え?何?後漢の大尉が嫁とのセックスレスで悩んでるだあ?馬鹿かお前? 呂后の故事知らんわけ?」 中山幸盛:「戚夫人の故事のことですかな」 小魔玉:「・・・・・・なるほどの。さすがは、ムコーニン。オイラの前職も考えた上での 発言・・・・・上手く行った暁には褒美を取らせよう( ^∀^)ゲラゲラ」 ムコーニン:「息子のことは、俺が言い含めてやる」 小魔玉:「オイラのリンリン大友に何かあったら、たとえお前でも容赦しないぞ( ^∀^)ゲラゲラ」 一方、丁原は自室で髪を梳かしながら、リンリン大友が小魔玉を殺すのは今日か明日かと待ちわびておりました。 小魔玉:「媚嬢、待たせたね( ^∀^)ゲラゲラ」 媚嬢(丁原):「ご・・ごめんなさい・・・まだ悪阻が酷くて・・・・」 小魔玉:「いいんだよ。媚嬢はオイラの大切なお嫁さんだからね( ^∀^)ゲラゲラ オイラとしたことが戚夫人の逸話を忘れていた・・・・・人間って手足を切断しても生きていられるんだよね ( ^∀^)ゲラゲラ。オイラたち夫婦が愛し合うのに手足なんか必要ないよね?媚嬢?」 小魔玉は人の顔ほどある大きな肉切り包丁を持って丁原の前に立っておりました。 応戦しようにも、豊かな胸が邪魔になって思うように動けません。 ムコーニン:「奥様、悪く思わないでくれよ」 中山幸盛:「これも、大尉様の御所望なのです」 媚嬢(丁原):「いや、やめて!!リンリンちゃん!!助けて!!」 丁原は、己の駒のリンリン大友を呼びました。 リンリン大友:「ママ・・・パパがママを愛しちゃどうしていけないの?パパは ママを愛しているのに。ママの方がおかしいよ。パパから逃げようとするなんて」 小魔玉:「そうだな。リンリン大友よ。よし、パパとお前でママの悪い、お手手と 足を切っちゃおう( ^∀^)ゲラゲラ」 リンリン大友:「愛してくれるパパから逃げようとする足なんて、悪い足だよね」 リンリン大友は、すっかりムコーニンに洗脳されていました。丁原の叫びは 市中の誰にも届きませんでした。小魔玉は、手足を斬った丁原をよりいっそう 愛するようになりました。 無いはずの手足が訴える鈍痛、遠のく意識。抵抗もできぬまま受ける陵辱。 それでも丁原が正気を保っていられたのは、漢朝への忠義と小魔玉への憎悪だけで した。 栄安二年六月。小魔玉邸で宴会が催されました。宴には、晋国の者も招待され、 袁紹、袁術、曹操、学徒出陣、袁家十人衆が来場しておりました。 厠へ立った曹操と学徒出陣が廊下を歩いてゆくと、なにやら美しく物悲しい歌が 聞こえてきます。 曹操:「なんだ?」 学徒出陣:「大尉の屋敷の妾か何かでは?」 曹操:「小魔玉は好色だが、奥方一筋。奥方亡き今は、つまみ食いはしても 妾は置かぬはずだ」 学徒出陣:「では、ますます変です」 無双ファン:「小魔玉の奥方の幽霊、とか」 曹操:「無双ファン、お主いたのか?」 無双ファン:「オカルト好きが逃すはずはありません。こんなネタ」 こうして三人は無双ファンを先頭に声のする方へ行きました。 歌声は屋敷の奥から、聞こえています。 学徒出陣:「帰ってこれないんじゃね?」 曹操:「この声・・・・どこかで聞いたことのあるような」 無双ファン:「この部屋からです!!やはり、女人の部屋でしょうか?」 見ると、豪華な、貴婦人のために作られたような部屋でした。 どこからともなく歌声は聞こえてきます。 「お待ちしておりました。晋国の、漢を真に思う忠義の士たち・・・・」 三人の目の前に現れたのは、小銀玉皇后にも劣らぬ絶世の美女でした。 学徒出陣:「女・・・・・・」 無双ファン:「甕に入れられている」 曹操:「お主、もしや、丁原か!?」 媚嬢(丁原):「ええ、その通り話せば長く思い出したくもない。私を晋国に連れて行って欲しい」 曹操は、丁原の強い視線で全てを理解し、衣装箱の中に丁原を隠し、晋国へ連れて行きました。 丁原は、袁紹に全てを話し、袁術の計らいにより晋国の軍師となりました。 手足がないために特注の車椅子に乗り、丁原は洛陽を目に捉え、次なる策を練っておりました。 車椅子の軍師・丁原の救国の策とは? 小魔玉の悪運はいつまで続くのか? まだ出ていないコテの活躍はあるのか? 小銀玉皇后と小魔玉の愛憎の行方は? 後漢と晋の運命は? 弁皇子と王允の運命は?謎が謎を呼ぶ歴史物語。 気になる続きは、第二部へ。 三戦英雄傅、第一部はこれにて閉幕! 第二部は五月あたりに連載再開予定。 それでは、第一部、ご愛読ありがとうございました。
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武の戦争記 少年と少女 作者:邪神mod ◆VcLDMuLgxI氏 ラークは村に続く道を急いでいた。 今日の昼までには用事を済ませ、自分の村に帰ってくるはずが、ついつい久しぶりの町に浮かれてしまい遅くなってしまった。 アリシアおこってないかな…… ラークの村は、クレアモルン南方に存在している田舎だった。 最もクレアモルン自体が田舎ということもある。 昔はアイシア王国から来る商人や旅客が訪れ、村も賑わっていたのだが、今ではそれもめっきりと減ってしまっていた。 そのため必要なものがあると、一山越えた先にある町に行かないといけない。 そういうわけで、ラークは町に行っていたのだ。 でも……これを買ったから遅くなったんだしな。 ラークはポケットに入っている髪飾りをそっと触る。 彼の恋人であるアリシアに上げる予定だった。 このために、ラークは町に行くことを村長に希望したのだ。 アリシアというのは、村長の娘で村一番の美人だった。 いや町を含めてもアリシアほどの美人はいない、ラークはそう思っていた。 ここら辺では珍しい真っ黒な髪にパッチリとした目、ラークはまだキスもしたことはなかったが、彼女が笑うと柔らかそうな赤い唇がぷるんと揺れる。 幼馴染だったラークはずっと彼女のことが好きで、何度もアタックした結果、漸く先日恋人になれたのだ。 ふふ、これアリシア喜んでくれるかな。 彼女のことを思い浮かべると自然と足が速くなる。 だがそれが致命的だった。 彼女のことを考えるあまり、ラークは村の異変に気づかなかったのだ。 村に戻ったラークは、まず村長の家に向かう。 アリシアに会いに行くことと、村長に町で買ってきたものを渡さないといけない。 村長の家は山の麓。隣町からは一番近い場所にあった。 すっかり周りは真っ暗になってしまい、人の影も見えない。 あれ、まだ起きているのかな。 ラークは村長の家から光りが漏れているのを見つけた。 しかも光りが漏れていたのは、アリシアの部屋だ。 いいことを思いついた。 アリシアが起きているなら、今髪飾りを渡せるかもしれない。 彼女の喜ぶ顔を思い浮かべると、顔がにやけてくる。 ラークはそう思い、窓に近づく。 「あ、あ、あ、やぁ。」 女の喘ぎ声が窓から漏れてくる。 快楽に咽び泣き、男に媚びるような甘い声がラークの耳に入る。 うそだ、そんな…… ラークの手から髪飾りが落ちる。 彼の耳に間違いがなければ、その声はアリシアのものだった。 普段聞いた事のない甘い声、それがラークに届く。 「ああ、あ、あ、あぅ、いいのぉ」 そして窓の中から部屋の中を覗く。 ラークは自分の目を疑った。 アリシア……なんで…… 部屋に据え付けられているベッドの上で、彼女の真っ白な裸体が、男の腕の中で肌を火照らせ歓喜に喘いでいた。 窓からはうっすらとしか見えなかったが、彼女の身体は綺麗だった。 胸は大きくはないが、お椀型の美乳、そして村の女達にはないようなキュッと引き締まった腰、そして引き締まったお尻が男の動きに合わせて振られていた。 そうアリシアの腰は、男のペニスがあるべき場所にぴったりとくっついていたのである。 しかも彼女の細い腕は男の首に回され、足は腰に絡み付く。 アリシアの美貌は悦楽に蕩け、男を愛しげに見つめる。 二人は恋人のように抱き合っていた。 ラークは動揺していた。 自分の恋人が、知らない男と睦み合っているのだ。 なんで……こんなことに。 どこかおかしい、ラークはそう思った。 アリシアは浮気をするような女じゃないし、男も知らない人間だった。 よくよく見ると、男は大和の民みたいだった。 幼い頃に一度だけ見たことがあっただけだが、おそらく間違えていないだろう。 大体これだけ大きな物音がしているのに、村長さん達が起きてこないのもおかしい。 ラークが悩んでいる間に、男とアリシアの動きはクライマックスにさしかかろうとしていた。 アリシアの喘ぎ声が大きくなり、ぎゅうっと男に抱きつき、腰を揺らす。 男もそれに答え、腰を大きく振る。 「だめぇ~、私またいっちゃうぅぅぅぅ」 アリシアは絶頂した。 身体をぴくぴくと痙攣させ、その美貌を蕩けさせる。 「俺もいくぞ、アリシア」 男は腰をアリシアに押し付ける。 もしかして……中にだしているのか…… ラークの想像通りだった。男はアリシアの最奥に押し当て、次から次へと射精する。 アリシアはそれを拒むことなく、絶頂したまま男の精液を飲み干していた。 「ア、アリシア!?」 ラークは、窓から部屋に侵入しようとする。 彼に何が出来る訳でもなかったが、この状況を座視する事は出来なかった。 ドスッ。 あれ……なんで、空が見え………… 後ろから鈍い音が聞こえ、視界が反転する。 意識が薄れてゆく中で聞こえたのは、アリシアの歓喜の声だった。 「大尉殿、周辺の調査が終わりました」 武は腰の上の少女を犯しながら、報告を聞いていた。 昼にこの村を制圧してから、かれこれ10時間近くこの少女を犯している。 この村に来るまでの2週間の間、前線で死と隣り合わせでいたためか、一度女を犯し始めると止まらなくなるのだ。 「そうか、ごくろうだった。それでここら辺に敵戦力は存在するのか?」 武は腰をグイッと突き上げる。 それに反応して少女の膣内はきゅーっと収縮し、先ほど出した精液を子宮が吸い込んでいく。 正直、この少女はかなりの当りだった。 名前はアリシア・ラングストン、村長の娘ということだった。 この村の女性達の中でも飛びぬけた美貌を持っており、その身体も素晴らしい。 処女を奪ったときから、彼女の膣内はずっとぎゅうぎゅうに武の肉棒を締め付けていた。 それに彼女の胸、括れ、腰、どこをとっても芸術品だった。 「近くの町に、一個小隊が配置されているだけで、後の防衛戦力は見当たりません。ですが、この村のように抵抗は起きるでしょう」 兵士はにやりと笑う。 この村を襲ったとき、男達は全員で武の部隊に抵抗した。 もちろん戦争のプロフェッショナルである武達は素人の抵抗など、屁でもなかった。 ほぼ全てを殺戮し、残った男達は捕虜として監禁していた。 市民に抵抗されることは武達にとって好都合だった。 規約によれば、軍に対して抵抗を行う町村の人間は潜在兵士として扱われる。 潜在兵士は正規兵とは違い、条約等々には守られない。 女を犯そうが何をしようが、後から戦争行為の一環だとすることが出来るのだ。 つまり男達は、自分達の村を守ろうとして、逆に武達に献上してしまったのだ。 もし彼らが降伏していたら、村は連邦との協定によって守られ、こうしてアリシアが武の上で犯されることもなかった。 「ここを拠点にして、一月も王国の補給線を叩けば、本隊も突破してくるだろう。神埼少尉、君も楽しんできたまえ。噂通りクレアモルンは美人が多いぞ」 武はアリシアの顎を掴み、見せ付けるように口づけする。 アリシアも拒むことなく積極的に、口付けに答え、部屋の中にちゅぱちゅぱと水音が響く。 その光景に、兵士達はごくりと喉を鳴らす。 敗北した後、集められた女達を待っていたのはお世辞にも幸せとはかけ離れていた。 もしかしたら、武に犯されているアリシアは幸せな方かも知らない。 他の女達は、処女であっても母親であっても関係なく多くの兵士達に犯されている。 山の麓にあるこの家までは聞こえていなかったが、下に降りれば女達の嬌声がこの村を満たしていた。 それに比べれば武に性感を開発され、恋人のように優しく犯されているアリシアの方がましだった。 「大尉殿、この部屋の外で少年を見つけたのですが、いかがなさいますか」 そういえばさっき、外で声がした。 武は彼女に種付けすることで忙しく、気にも留めなかった。 「そうか、じゃあこの部屋に連れて来い」 すぐさま、若い男が担ぎこまれる。 裸で縛り付けられたまま、意識を失っていた。 「ラークなの……?」 少年の顔を見て、アリシアが反応する。 「そうか、彼がラーク君か。もういいぞ、君らは楽しんでこい」 兵士達はラークを椅子に縛りつけ、部屋から出て行く。 「アリシア、どうだ?恋人の前で犯されるのは……?」 武は彼女の耳元で囁く。 アリシアは顔を真っ赤にして隠す。 「そ、そんな……あぅ」 武は一度彼女を持ち上げる。 鍛えられた武に彼女は軽かった。 ほとんど武のペニスが抜けるところまで持ち上げ、彼女を反転させる。 対面座位から背面座位になり、ラークが目を開ければ、二人の結合部が目の前にくる。 「いやよ。お願い……ラークには見られたくないのぉ」 泣きそうな顔で武を見つめる。 だがその顔は悦楽にそまり、男に媚びているようにしか見えなかった。 武は彼女のことを無視して、腰を動かす。 ずん、ずん、ずん、ずん、ずん。 「あ、あん、あん、だめぇ。動かないでぇ」 言葉とは裏腹にアリシアの膣肉は武のペニスを受け入れ、甘えるように絡みつく。 「ほらアリシア、愛しのラーク君に見せつけてやろう」 武は腰の動きを早める。 激しくアリシアの膣内を出入りし、淫靡な香りが部屋に充満する。 その度にアリシアのピンク色の肉襞が、雁に引っかかり外に引き出される。 すぐにアリシアの抵抗はなくなり、武の上で甘えるように喘ぎ続けるだけだった。 「あ、あ、あ、気持ちいいのぉ~~」 あれ、ここは……? ラークは女の喘ぎ声と、ぴちゃぴちゃと響く水の音に目を覚ます。 後頭部に鈍痛を感じ、意識が朦朧としていた。 少しずつ、ラークは今の状況を思い出す。 俺は街に行って、そうだアリシアに髪飾りを買ったんだ。 それから村に戻って…… 何か恐ろしいものを見た、そんな感じがした。 「んぁ、奥に当たってるぅぅ。あぅぅ、きてるぅ」 甘い声がラークの劣情を刺激し、自分のペニスが勃然としてくるのを感じた。 次第に意識が覚醒してくる。 そして、ラークは目を開いた。 え……? 最初ラークは目に飛び込んできたものが、何なのか認識できなかった。 恐らく男と女の下半身、そしてそれらはガッチリと結合していた。 ラークの目の前で、男のペニスが女の中に出入りし、くちゅ、くちゅ、と水温をたてる。 「おや、アリシア。愛しのラーク君が起きたみたいだぞ」 男の声がラークの耳に入る。 まだラークは状況を理解できず呆然としたままだった。 「え!?いやぁぁぁ、ラーク見ないでぇ~~」 アリシアはラークがじっと自分と武の繋がっている場所を見ている事に悲鳴を上げる。 手を当てて隠そうとするが、武はぐいっと手首を掴みそれを許さない。 むしろ大きく腰を振り、アリシアの秘部を抉る。 「ア、アリシア!?」 漸くラークは眼前の状況を知った。 自分の恋人が目の前で犯されているのだ。 彼が夢にまで見たアリシアの白い体が男に貪られ、自分のものになるはずだった彼女の花園は男に蹂躙されている。 「ラークぅぅ、ごめんなさい。私、私ぃぃ。あん、あん、あん」 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ。 目の前で男の肉棒が出入りするたびに、恋人が嬉しそうに喘ぐ。 愛液と男の精液が飛び散り、ラークの顔にかかる。 「どうしてだよ。何でこんな…………」 ラークは目の前の光景を信じたくなかった。 「すまないね、ラーク君」 アリシアを犯している男が口を開く。 彼を見てラークは少し驚く。 どちらかといえば優男という言葉が似合う男だったからだ。 それに口調も丁寧で、諭すようにラークに話しかける。 「でもクレアモルンと連邦は戦争しているんだよ」 男はゆっくりと続ける。 だがその腰はアリシアに突きこまれ、彼女に甘い喘ぎを上げさせている。 「君達の村が抵抗したおかげで、こちらの兵士も4人死んだ」 この村の人間がそれ以上に死んだが、男はそれを語らなかった。 「つまり君達の村は連邦の敵になったんだ。敵に何をしたって構わないだろ?」 男は上品な笑みを浮かべ、アリシアの首筋を舐める。 アリシアはくすぐったそうに微笑む。 まるで仲睦まじい恋人同士のようだった。 「じゃあクレアモルンは負けた……?」 ラークはポツリと呟く。 彼も自分達の国が戦争をしていることは知っていた。 現に彼の村からも何人かが戦争に行っていた。 だが1年近く前から戦線は一進一退であったし、クレアモルン方面は第4次アナタリウスの主戦場ではなかった。 そのため両陣営は余り戦力を投入せず、ラーク達は普段の生活を乱されることなく、いつもどおりの生活を送っていた。 だから、戦争の話をされても実感がないというのが本当のところだった。 「いやそうじゃない。正直君の国や援軍を送っている枢軸側はよくやっている」 男は一呼吸置いて、くすりと笑う。 「でも少し甘かったな。連邦は浸透作戦でいくつかの部隊を戦線の後ろ、つまりここに送り込んだのさ」 とん、とんとベッドを叩く。 つまりこの村がその標的になってしまったということだ。 「後は補給線が絶たれ、主戦線は崩壊。そしてクレアモルンは崩壊する。こういうときは何というべきなのかな……」 男は視線を漂わせて、言葉を選ぶ。 だが的確な言葉が見つからなかった。 「お悔やみ申し上げる、まあ大和ではこうかな。俺が言うことではないか」 男は自嘲気に言った。 「あん、あん、あん、あん」 ずん、ずん、ずん。 愕然とするラークの目の前で、二人は交わり続けていた。 経験のないラークにも分かるほど、アリシアは快楽に溺れる。 「ごめんね、ラーク。私、もう……」 アリシアの白い体が紅潮し、ひくひくと痙攣する。 男もそれに答えるように、激しく腰を動かす。 「アリシア……なんでこんな男と……」 自分の前で絶頂しようとしている恋人を前に、つい彼女を責めてしまう。 ついこの間、自分の気持ちを受け入れてくれた彼女が男に犯され、歓喜の声を上げる。 ラークの目には彼女が嫌がっているようには見えなかった。 「そんなにアリシアを責めるなよ、ラーク君」 男は彼女の太腿を掴み、思いっきり開く。 ラークの目と鼻の先に二人の結合部が突き出される。 「彼女は可哀想なぐらい、必死に抵抗したぞ。何度も俺に犯されながら、君の名前を呼んでな」 今度はゆっくりとした動きでアリシアを焦らす。 彼女はラークの事など目に入らぬようで、切なげな視線で男を見つめる。 「最も……」 首筋から、彼女の唇まで舌でなぞる。 そしてアリシアの唇に優しく口づけする。 彼女も蕩けた顔でそれに答え、ちゅぱちゅぱという音がラークを苦しませる。 「今は俺のものだがね」 ぐちゅう。 男の肉棒がアリシアの性器に完全に埋まり、結合部がガッチリと合わさる。 アリシアは歓喜の声をあげ、自分からぐりぐりと腰を押し付ける。 男の巨根がアリシアの子宮を圧迫し、彼女に途方もない快感を与える。 「アリシア……」 ラークはアリシアが犯される姿に涙と共に、ペニスを立ててしまっていた。 素っ裸で縛られ、自分のペニスを晒される姿はラークには耐えられない屈辱だった。 ぐちゅう、ちゅく、ちゅぷ。 「いい……大きいのが奥でぇ、さいこぉ…あ…あぁ」 男はアリシアの最奥まで征服したまま、円を描くように動かす。 肉棒が膣壁をすみずみまで刺激する。 「……アリシア、今の君をラーク君にも教えてあげてくれないか」 男は腰を動かしながら、アリシアの耳元で囁く。 「あん……ラークぅ、私、今気持ちいいのぉ、この人の大きいのが私をみっちり満たしてるのぉ」 アリシアは快楽のあまり、朦朧とした意識のまま、自分と男との交わりをラークに伝える。 ラークが今まで聴いたことのない、男に媚びる甘い声だった。 「それでねぇ……何度もつかれると、彼のが私の中を擦るのぉ。それが気持ちよくって」 生まれてから十何年もアリシアを見てきたラークが、見たことのない悦楽の表情だった。 白い腰が、男を求めて揺れる。 「ほらアリシア、ラーク君のを見てごらん。君を見てあんなに大きくなっているんだよ」 男は晒されているラークのペニスをアリシアに示す。 彼女は言われるまま、そちらに目を向ける。 アリシアの美貌にじっと見つめられ、ラークのペニスはぎんぎんに固くなる。 「……でもラークのそんなに大きくなってないよぉ。少し皮も被ってるし」 だが彼女の言葉にラークは衝撃を受ける。 恋人の口から男として最悪の言葉を吐かれ、彼はどん底の気分だった。 「ラーク、私そんなに魅力的じゃない?」 アリシアの綺麗な顔が、淫靡な表情でラークを見つめ、体を見せ付けるように男の首に手を回す。 彼女の抜群のプロポーションが見せ付けられ、ラークは滾るほどの欲情を股間に感じた。 「違うよ、アリシア。ラーク君のはあれで最大なんだ。それに皮を被っているのも別に可笑しいことじゃないんだよ」 男の目線が蔑む様なものにラークには感じられた。 ラークのペニスは別段小さいという代物ではなかった。 しかし男の巨根しか知らないアリシアにとって、比較するとラークのものは目劣りしてしまう。 「そうなの……」 アリシアはがっかりしたように、ラークのペニスを見つめ、視線を自らの結合部に移す。 そこには男の大きな肉棒が自分を貫いていた。 「うふふ、やっぱり私これがいいのぉ~……大きくて、硬くて、太くて、あなたの最高ぉ……」 アリシアは腰を揺らし、男の肉棒を食い締める。 「でもラーク君は恋人なんだろ?」 男はそれに合わせて腰を揺らす。 二人はぴったりとくっついたまま、厭らしく腰を動かしあった。 暫しアリシアは黙って考え込む。 「ラーク、ごめんね。私この人のを知っちゃったから、もうラークのそれじゃあだめだと思うの……」 そう悲しげな顔で話す。 だがその腰は快楽を求めて貪欲に動き、ラークの目の前にある彼女の花園は悦びの涎を垂らしていた。 ラークはその光景に思わず目を背ける。 「それじゃあアリシア、そろそろ中に出すからな」 男はそう宣言する。 アリシアは嫌がるようすを見せず、むしろ嬉々として腰を振る。 慌てたのはラークだった。 「な、中に出すってそんなことしたら……」 彼の言葉を男が続ける。 「出来ちゃうかもしれないな。アリシアは今日から危険日らしいしな」 ラークの顔が青ざめる。 対照的に男はニヤニヤとしながら、アリシアの胎を摩る。 彼女は頬を染め、恥ずかしそうに顔を俯ける。 「何で……アリシア!!」 離れようとしないアリシアに、ラークは問いかける。 「でもねラーク、私もう彼から離れられないの……あん」 くちゅくちゅと、結合部が音をたて、彼女の愛液がシーツにしみを作っていた。 アリシアの手は後ろに伸ばされ、男にしがみ付いていた。 つらい態勢だろうに、彼女はしっかりと抱き付いて離れなかった。 男はアリシアを思う存分突き、その度にラークの顔に汁が掛かる。 「じゃあラーク君。ずっとここから目を離さなかったら、外に出してあげてもいいよ」 そういって男は二人の結合部を指差す。 男の巨根が出入りし、アリシアのピンク色の肉襞が覗いていた。 「あん、あん、あん、奥まで来てるぅぅぅ」 ずちゅ、ずちゅ、ずちゅ。 男は勢いよく腰を動かす。 今度はとめずに何度も抉り、二人の官能をどこまでも押し上げる。 アリシアの膣肉は男の肉棒をキュウキュウと締め付け、男の射精を誘う。 「いいのぉ、気持ちいい~~!」 ぐちゅ、ぐちょ、ぐちゅ。 アリシアはもう、ラークのことなんて忘れていた。 ただひたすら、男と男の肉棒と自らの絶頂のために腰を振る。 快楽にアリシアの美貌が淫らに蕩け、彼女が動くたびに形のいい乳房が弾む。 「はぅ、あん、あぅ、私、いっちゃう。もう、だめぇ」 ぐちゅ、ずちゅ、ずちょ。 アリシアは絶頂に昇り詰めていく。 彼女の白い肢体が痙攣し始め、その顔が悦楽に染まる。 男はラークがじっと見ていることを確認すると、彼女を持ち上げ肉棒を限界まで抜く。 それにラークがほっとしたとき、アリシアが叫んだ。 今まで何度も注ぎ込まれ、その快感を味わってきたアリシアには我慢出来なかったのだ。 「いや、抜かないでぇ。中に、中に頂戴ぃぃぃぃ」 男は嘲笑するようにラークを笑うと、思いっきり彼女を降ろし思いっきり突き入れる。 ずちゅう。 亀頭が彼女の最奥まで侵入し、そこを強烈に圧迫する。 「い、いくぅぅぅぅぅぅぅ」 ドピュルゥゥゥゥゥ。 アリシアはかつてない絶頂を迎えた。 自分の恋人の前で犯される背徳感、行為を人に見られているという被虐心、そして男の肉棒が注ぎ込まれてくる、本能から来る圧倒的な快感。 アリシアは大きく絶頂し、体をひくひくと痙攣させる。 それが男の肉棒を刺激し、とてつもない量の射精を促す。 ドピュゥゥゥ。 「出てるぅ、ここに一杯……あ」 アリシアの女としての本能が、目の前の逞しい男の子を孕むために自動的に動き始める。 彼女は膣奥に痺れを感じる。 くぱぁ。 彼女の子宮口は口を開き、男の鈴口に吸い付く。 ぱくっと咥え、そこから出る精液を全て飲み干す。 「あん、もっとぉ」 アリシアは上目遣いで男に媚びる。 男は笑ってそれに答え、一層腰を押し付けさらには彼女の唇を奪う。 アリシアは男の首にまわした手を引き寄せ、熱心にキスを受け止める。 くちゅ、ちゅく、はむ。 唇の間で舌が絡み合い、銀色の糸を引く。 舌で優しく互いを舐めあい、深いキスに移っていく。 あむ、ちゅう、ちゅく。 情熱的な口付けが続き、二人はその行為に没頭していく。 上の口で体液を交換し合い、下の口で一方的に体液を注ぎ込まれる。 ドク、ドク、ドク。 目の前で恋人に何度も精液が種付けられ、他の男の子を孕ませられていく行為にラークは呆然と見ることしかできなかった。 アリシアの性器から白い粘液が零れる。 そのとき……ドピュ、ドピュ、ドピュウ。 ラークのペニスから精子が出る。 だがそれはアリシアの卵子はおろか、体にすら掛からなかった。 二人は男の射精の最後の一滴が、子宮に入るまでぴったりとくっつきあい、舌を絡めあって情熱的なキスをしていた。 ラークの射精を知ってか知らずか、アリシアは結合部に指を入れ、白濁とした粘液がこびりつくのを見せ付ける。 「ごめんねラーク。私、彼の子供できちゃったかもしれない……」 アリシアは見せ付けるように腰を摩り、幸せそうに微笑んだ。 それから部屋に朝日が差し込むまで、ラークの目の前で二人は交わりあった。 次の日、アリシアはラークが監禁されている部屋に話に来た。 だがラークは彼女と面向かって話すことができなかった。 彼女は自分の用件を手早くラークに伝えた。 昨日の事の謝罪。 ラークの事を今まで好きだったということ。 乱暴なことはされていないから、安心してくれということ。 これからあの男の情婦になること。 そしてそれは自分の意思だということ。 ラークはただ黙って聞くだけだった。 それから二ヶ月間、武の部隊はこの村を占領した。 その間、アリシアは武の情婦として扱われ、毎日のように彼に抱かれた。 ラークは他の男達と共に幽閉され、一つの建物での生活をよぎなくされた。 女達は兵士達に犯され、何人かは気が狂ってしまっていた。 そして彼らが出て行くとき、女達は老女と幼女を残し全て連れ去られ、男達は監視付で解放された。 平穏だったこの村は、もうその面影がどこにもなかった。 武が言っていた通り、戦線は連邦に破られ、クレアモルンは瞬く間に占領されつつあった。 噂では聖都で必死な抵抗が続いているらしかったが、それも時間の問題らしい。 そしてラークは2ヶ月ぶりにアリシアと再会した。 久しぶりに会ったアリシアはゆったりとしたワンピースに身を包み、ぐっと大人っぽくなり女の色気を振りまいていた。 肌にも脂が乗り、甘い香りがラークの鼻腔を刺激する。 「ラーク、久しぶりね」 彼女の顔は、ラークが思っていたようなやつれきったものではなく、幸せそうだった。 「ああ、久しぶり」 話したいことはいくらでもあったが、最初に口から出たのはそれだけだった。 「ふふ、何かラークと話すのに何か緊張しちゃう」 口を手で覆って笑うだけなのに、ぞくっとする色気があった。 「ラークにね、話したいことがあって……」 「俺もアリシアに話そうと思っていたんだ」 アリシアの言葉を遮る。 「そのアリシア……これからの事なんだ。俺達これから……」 もう一度やり直せないか、ラークはそう言おうとした。 だがその言葉は口から出ることはなかった。 「わかっているわ、ラーク」 母親のような暖かい視線でラークを見つめる。 「そ、それじゃあ!」 ラークは二ヶ月離れていても心が通じた、それだけで雲の上に昇るような気分だった。 「ええ、昔の事はお互い忘れましょう。その方がお互いのためよ」 アリシアはあっさりと口にする。 「そのね、私もよく考えてみたんだけど、あれは恋じゃなかったと思うの」 アリシアは微笑を浮かべながら続ける。 ラークは絶望の淵で彼女の話を聞いていた。 「二人でいてもどきどきしなかったし、それにね……」 違う俺はいつもどきどきしていた。 「私、武様……あの軍人さんの事が好きになっちゃったの」 そんなことは聞きたくない。 「ラーク、あなたも恋をしてみれば分かると思うけど、私達のときとは全然違うのよ」 俺は君に恋していたんだ。 「いつもあの人の事が頭から離れないし、近くにいるだけで心臓がどきどきして破裂しそうになるのよ」 そんなこと知っている。俺の心臓は今でもどきどきしているんだ。 「でもよかったわ、ラークも同じこと考えてくれていたなんて」 違う、違うんだアリシア、俺は…… 「そうそう実は私、大和に行くことになったのよ」 アリシアは無情にも、この上なく嬉しそうに話す。 「まだあの人は戦場にいるけど、帰ってくるまで大和で待っていてくれって。うふふ」 ラークが見たことのないような幸せそうな顔。 それを見ると、ラークはやるせない気持ちになる。 「大和には彼の正妻もいるらしいけど、私うまくやれるかな?」 行かないでくれ、そう言いたかった。 だが今の彼に、それを言う権利がないことをラークは知っていた。 「そうだ、ラークは知らないのよね」 アリシアは白いワンピースのお腹の辺りを摩る。 「ほらラークも触ってみて」 彼女の白い手がラークの手に重ねられ、彼女のお腹に当てられる。 ぽっこりとした僅かな膨らみが手のひらに感じられる。 まさか…… 「ねっ。すこし膨らんでいるでしょ。私、ママになるんだ」 そうやって微笑むアリシアの顔は、優しい母親のものだった。 この赤ちゃんの父親が自分だったら、どれほど嬉しかっただろう。 ラークの胸の内に暗いものがよぎる。 「こんなときに私だけ幸せになるのはどうかなって思ったんだけど、彼が産んでくれって言ってくれたの……」 彼女がどうしようもなく幸せだということはラークにもよく分かった。 実際のところ、ラークには彼女をこんな幸せそうな顔には、させられなかっただろう。 「だからね、ラークも幸せになってね。大変なこともあるけど、いいお嫁さん見つけて子供を作るのよ」 それは今のラークにとって止めの一言だった。 「それでは、また会いましょう」 アリシアは昔と同じ、優しげな笑みをラークに向ける。 でもその笑みはもうラークのものではなかった。 戦火は人の人生を容易に変える。 一人の少女は自分の幸せを手に入れ、一人の少年は不幸のどん底に突き落とされた。 誰が悪かったわけではない。 人は戦火の前には無力な存在でしかないのである。 武の戦争記 少年と少女 完
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「あら…遅いお目覚めだこと」 舞園を見る時とは違い、愛しさのうちにも苛立ちを含んだ目で、セレスは朝日奈を見る。 言うことを聞かないペットをたしなめるような目つき。 「あ…私…」 ややあって、朝日奈は自分の現状を思い出し、そして舞園と目を合わせ、途端に顔を真っ青にした。 「あなたがなかなか起きないから、仕方なく私が舞園さんの相手をしていたのですよ」 セレスは舞園から手を離し、ベッドを下り、朝日奈の方へと歩み寄る。 朝日奈は上体を起こそうとして、 「んっ…」 どうやら下半身に力が入らないようで、腕で状態を支えたまま、床で突っ伏した。 今更という感じだが、片手で自分の胸を隠し、もう片手で自分の体を支え…ようとして、力が入らずに四苦八苦。 見かねたセレスが、朝日奈の腕をつかみ、その場で立たせた。 ――助かった… 咄嗟に、舞園は思った。 偶然とはいえ、朝日奈が目覚めてくれたことで、セレスの興味が自分から外れた。 そう、愚かにも、舞園は安心してしまった。 その一瞬の気の緩みが、 「ほら…ここからはあなたが舞園さんを責める番ですわ」 より深い反動となって、彼女を絶望へ突き落すことになる。 「「え…」」 朝日奈は胸の前で手を組み、青い顔のまま舞園を見る。 「む、無理だよ…私、出来ないよ」 セレスは目を細くして、朝日奈をベッドに突き飛ばした。 「あぅっ!?」 「ペットが飼い主に逆らうな、と言いましたわよね。あなたはただ、ワンワン吠えて、私が言うとおりにすればいいのです」 「そ、そんな…だって…」 「…まだ、イき足りないようですわね」 ビクッ、と、朝日奈が震える。 すでに心が折られている。舞園は把握した。朝日奈はもう、セレスには逆らえない。 「わ、わんっ…」 「…分かればいいのですわ。そうそう、くれぐれも舞園さんは丁重に扱うこと。あなたと違って繊細なのですから」 「…わん」 セレスは満足そうにうなずくと、例の道具群に手を伸ばした。 「さて、次はどれを…」 舞園は唾を呑みこんだ。 高鳴る鼓動に耳を閉ざし、絶対期待なんかしていないと、自分に言い聞かせながら。 セレスが道具を漁る間、朝日奈は居心地悪そうに、ベッドの上でもぞもぞとしていた。 時折舞園に視線を向けては、目が合うと気まずそうにそらす。 「?」 「…」 おそらく、何かを言いたいのだろうが、セレスの手前で喋ってしまえば、また絶頂させられるのだろう。 それでも朝日奈が、意を決して口を開こうとしたその瞬間に、 「はい、朝日奈さん」 セレスが振り向いて、途端に彼女は口をつぐんでしまった。 手渡されたのは、大きな注射器の尖端に、ゴムのチューブがついたようなもの。 「ふぇ…?」 「使い方は、以前教えたとおりですわ」 「…っ、…わん」 異議を唱えようとして、やはり朝日奈は口をつぐんだ。 「あ、あの…」 代わりに尋ねたのは、舞園。 「それ…浣腸器ですよね…何に使うんですか…?」 尋ねた声はか細く、細い方は頼りなく震え、目には怯えの色が浮かんでいる。 何に使うか、そんなの尋ねる必要はなかった。認めたくないだけなのだ。 「ねえ…『お尻で感じちゃうアイドル』なんて…そそるフレーズじゃありませんか?」 セレスがにこやかにそう言った途端に、どこかに潜んでいた恐怖心が、どっと噴き出してきた。 「やっ、やだっ!嫌ぁっ!」 拘束されていたことも忘れ、パニック状態で舞園が暴れ出す。 「大丈夫、ちゃんと気持ちよくして差し上げますから、安心してくださいな。 私じゃ舞園さんをバスルームまで運べませんから、朝日奈さんが起きるのを待っていたのですけど。 『アイドルはう○ちをしない』って都市伝説…ねえ、舞園さん…本当なのでしょうか?」 セレスは笑っている。笑っているということはつまり、本気ということだ。 舞園は真に恐怖した。背骨が震えていると錯覚するほど。 少しでも期待してしまった自分が、本当に恨めしい。 「嫌ぁあっ!たっ、助け…ふぁああっ!!」 再びセレスがローターの電源を入れ、舞園の助けを求める声もかき消されてしまう。 「んっ…しょ」 朝日奈に軽々と抱えあげられ、宙に浮いた状態で、太ももを掴まれている。 放尿を強制されているような、不安定な体勢が羞恥心を煽る。 背中に柔らかな朝日奈の乳房を感じて、舞園は更に顔を赤くした。 「ひぁっ…」 相変わらずローターで敏感な乳房を刺激され、地に足が付かない不安定さも相まって、 「あっ、あ、あぁああぁっ…」 再び舞園は、簡単に絶頂を迎える。 「あっ…やっ!あぁあぁ…」 辺りに潮を撒き散らし、大きく背をそらせた。 「ま、舞園…ちゃん?」 朝日奈が抱えたまま、心配そうに尋ねる。 「あら…期待しすぎて、先にイっちゃいました?」 セレスがからかうように、ニヤニヤと舞園の顔を覗き込む。羞恥に耐えきれず、舞園は目を潤ませてセレスを睨んだ。 「そんな可愛らしい顔で睨まれても、怖くありませんわよ」 本当に子供をあやす姉のような仕種で、セレスが舞園の頭を撫でる。 悔しさと羞恥心に身を委ね、舞園は唇を噛んだ。 バスルームの中には簡易便器が用意され、舞園はその便座の上に下ろされた。 セレスは汚れ役は嫌なのか、「終わったら呼んでください」と言って、ベッドに戻ってしまった。 朝日奈はローターの電源を切ると、居心地悪そうに扉に背を向けてしまった。 浣腸器を握り締めたまま、不安そうに視線を泳がせている。 やはり彼女としても、浣腸などしたくはないのだろう、なんて考えていると、 「…怒って、るよね」 おもむろに朝日奈が口を開いた。 「へ?」 何のことかわからずに、聞き返してしまう。 その舞園の問い返しを、何と勘違いしたのか、可哀そうなほどに肩を震わせた。 怯えたように後ろを向き、話しながらいそいそと浣腸器の準備を進めていく。 「ゴメンなさい…でも…」 「あっ…ちょっと…!」 何のことかを尋ねる前に、朝日奈が舞園に覆いかぶさった。 「やらなきゃ、私がやられるんだ…だから!」 「いっ、あ゛…!」 注射器にとりつけられた細い管が、肛門を押し分けて入ってくる。 舞園は、声にならない声をあげた。感じたことのない苦しさや嫌悪感が、背筋を駆け上がった。 鋭い痛みと、異物感。 「いくよ…!」 「いやっ、嫌ですっ…!朝日奈さん、待って、ダメっ!!」 問答無用に、注射器の取っ手が押し込まれた。 「うぁ…!は、入ってくる……やっ…あ、ぅあ、っく…いやぁああぁあっ…」 「うっ…ぐ…!」 余りの異物感に、吐き気さえ催す。 内臓が痙攣しているような錯覚さえ覚える。 「いやっ…ひやぁああ…気持ち、悪いぃ…」 舞園はその苦痛から逃れるように体を捩った。 しかし動くたびに、注射器の管が存在を主張し、より強い苦痛を訴えてくる。 朝比奈は注射器を管から外して、追加の液体を込める。 まるで自分がされているかのような、そんな苦悶の表情を、朝日奈は浮かべていた。 だが、舞園にはそれを確認する余裕すらもない。 「ふぅう、うぅううぅ……」 「ゴメン、ゴメンね…」 「ま、まだ…っ、入れるん、ですか?」 朝日奈も、舞園も、涙目のまま声と肩を震わせ、互いが互いに怯えていた。 朝日奈は肯定の代わりに、たっぷりと液体を補給し終えた注射器を、管に取り付ける。 追いつめられた顔のまま、朝日奈は舞園の肛門に注ぎ続ける。 「いやっ…いやぁあはぁああぁう…ダメ、だめっ…もう入らないっ、ですっ…くぁああぁあっ!!」 下腹が少し膨れたのがわかる。管から発射される液が、腸壁を刺激する。 どんどん注がれているのに、気を緩めれば全て出してしまいそうだ。 舞園は必死に足先に力を込め、苦痛と排泄欲に耐える。 キュルルルルル 可愛い音を立てて、腹が異常を訴えている。 「はっ、はぅ、はっ…」 苦しさの余り、肩で息をしてしまう。 「力抜いてね…お尻の穴、無理に力をかけると切れちゃうみたいだから…」 「力を抜いたら…っ、ぐ…出ちゃいますっ…」 それを聞いて、朝日奈は舞園の肛門から管を抜くと、朝日奈は舞園の膨らんだ腹部を、力強くさすった。 「やめっ…!…だ、ダメ、朝日奈さんっ…出ちゃう…!」 「いいよ、出して…もう入れてから時間経ってるから」 「なっ…!?」 舞園は驚愕の眼差しで、朝日奈を凝視した。 言葉が出ない。顔から血の気が引いていく。嫌な汗が額に浮かぶ。 「何…言ってるんですか、朝日奈さん…」 常識的に考えて、人が見ている前で、排泄なんかできるわけがない。 「わ、私…これでも、アイドルなんです!そんな、人の見ている前で、出すなんて…」 「舞園ちゃん…ここじゃもう、アイドルとか、関係ないんだよ。私たちはただ、女であるだけ。 ただ、女に生まれたことを後悔しながら、セレスちゃんのオモチャにされていくんだ…」 舞園に諭すように、自分に言い聞かせるように、朝日奈は言った。 朝日奈の言葉を、舞園は理解できないでいた。 舞園は、自分たちはまだ平穏な日常に戻れると、信じていたから。 「うぶっ!!」 そして、そんな儚い希望を押しつぶすかのように、朝日奈が体重を乗せて腹を押すと、 「ぐっ…うぁあ、ダメ…見ないでっ…!!」 滑稽な空気音とともに、液体が飛び散った。 いやだ。 こんな屈辱、耐えられない。恥ずかしすぎて、死んでしまいたい。 人前で、こんな… 「やだっ…朝日奈、さん゛っ!う、…ふぐっ!!…あ、…ダメぇ…」 何度も、何度も、舞園の腹を朝日奈が荒々しく押しつける。 余程必死なのか、手加減すらなく、殴打のように腹に鈍痛が走る。 しかし、痛みなど、舞園には些末な問題。 朝日奈が腹を押すたびに、我慢しているのに、肛門から飛沫が飛び散る。 そのうち朝日奈が押さずとも、緩まった肛門から、尿のように液体が押し出されてくる。 肛門を水が通り抜けていく。気持ち悪いはずなのに、肛門を刺激されるのが心地いい。 もう、いやだ。こんな羞恥、耐えられない。死んだ方がましだ。 目から、大粒の涙がこぼれおちる。 舞園が、声をあげて泣き出した。 「ふぇっ…うぇえぇええぇっ…っ、うぁあああぁあぁぁ…」 乳首を弄ばれて絶頂した時のような、すすり泣きではない。 本物の、号泣。 けれど泣いても、排泄は止まらず、彼女の肛門を刺激し続ける。 貫くような罪悪感に駆られたのは、朝日奈。 押さえつけていた、考えないようにしていた自責の念が、一度にあふれ出してくる。 テレビ画面の向こう側にいた、笑顔の眩しい、汚れを知らないような、あの憧れのアイドル。 それを裸に剥いて縛り上げ、浣腸器を指し込み、嫌がっているのに排泄を強要し、そして泣かせてしまった。 たちが悪いのは、罪悪感に責め立てられつつも、 この現状に興奮している自分が、ここにいるということ。 『泣いても、乳首をいじめてあげれば、すぐに彼女は泣きやみますわ』 ベッドに戻る前の、セレスの言葉を思い出し、朝日奈はローターの電源に手を伸ばした。 「ふぇえぇえ……っ!?あっ、う…ふひゃあぁ!!」 涙でゆがんでいた舞園の瞳が、一気に見開く。 「あ、さひな、さ…何を…」 ふるふると、顔が震えている。見開かれた目は朝日奈を捉え、懇願するような色を浮かべている。 ぞくり、と、背徳感を刺激される。 「大丈夫だよ、舞園ちゃん…乳首の気持ちいいのに、集中してて…」 「んっ…あぁ、はぅ…」 舞園の様子はまさに、セレスの言葉通り、といったところ。 まだ涙の跡を光らせてはいるものの、その頬にはもう赤みが差している。 「乳首、そんなに気持ちいの…?この器械のせい?それとも…舞園ちゃんが、特別敏感なの…?」 「やだっ、やだぁあ…変な事、言わな…っん、あぁああ…!」 「でも、こうやって耳元で恥ずかしいこと言われるの、ホントは気持ちいいでしょ…? 自分のエッチなところを容赦なく責められるの、ホントは大好きでしょ…? わかるんだよ?そういうの…私も、同じなんだから…」 今度は、朝日奈が舞園の痴態に当てられる番だった。 裸のまま縛られて泣きじゃくる舞園は、とても可愛らしくて、とても官能的。 小動物のような愛おしさがあるのに、これ以上ないくらいにエロい。 守ってあげたくなるのと同時に、もっといじめてやりたくなる。 胸の刺激に耐えきれないのか、大きく背をそらしているけれど、それで胸が突き出されて、 結局もっと刺激を与えられ、跳ねるように体を震わせて、背を丸め…という一連の仕種を、舞園は繰り返している。 「もっかい、入れるからね」 そう言って浣腸を準備する朝日奈を、舞園は蕩けた目で見ている。 「や、やめ…ふぁ…」 言葉だけでも抵抗しようと声を上げるも、意識は半分向こう側にイってしまっているらしい。 心なしか、浣腸を準備する自分の手つきが、焦って見える。 もっと彼女をいじめてやりたい。もっと彼女を堕としてやりたい。 管に注射器を取り付け、舞園の肛門へと差し込む。 一度経験したからか、それとも快感で緩んでいるのか、彼女の肛門はさっきよりも簡単に、奥までそれを加えこんだ。 「まだ、痛い?」 朝日奈が尋ねる。 「ふえ…よ、く、わかんない…です…っく、んぅ…」 蕩けたままの目で、舞園が答える。 乳首に意識を集中させたのは、正解だったかもしれない。 同じ要領で、何度も彼女の中に、ぬるま湯が流し込まれて行く。 「やだ、やだっ…ふあぁああ、乳首、ダメぇ…!」 管を抜くと、だいぶ抵抗なく、ほぼ透明なお湯が押し出され、流れ出てくる。 舞園も嫌がってはいるものの、乳首をこねくり回されて力が入らないようだった。 何度も、何度も。 自分の肛門にぬるま湯が注がれ、そして排泄を繰り返すうちに、 その排泄に、明らかに性的な心地よさを覚えてしまっていることに、舞園はまだ気が付けずにいた。 「そろそろ綺麗になりましたか?」 どれくらいの時間が経ったのか、下着姿のセレスがしびれを切らしたように顔を出す。 舞園は文字通り、『出来あがって』いた。 「はぁ…はぁう…」 パシャパシャと音を立てて水流がアナルを舐めあげ、そのたびに背筋を得も言われぬ感覚が走り抜ける。 たった今、直接内側を泡立てたボディソープで洗われたところだった。 朝日奈がシャワーのノズルを伸ばし、舞園の肛門に当てがっている。 もう力は入らず、時々肛門が物欲しげに開いてはヒクつく。 水流がもたらす、苦しみにも似たむず痒い刺激に、彼女は息を荒げていた。 「良い具合ですね、舞園さん」 セレスが舞園の頬を掴み、顔を自分に向けさせる。 力が入らず、睨み返すことさえできない。蕩けきった目で、舞園はセレスを見上げた。 「痛みや苦しみが消えて、別の感覚が肛門から伝わってくるでしょう? お尻の穴だって、ちゃんと開発してあげれば、立派な性感帯になるのです」 朝日奈に舞園を運ばせ、ベッドの上に横たえさせる。 舞園の身体は、とっくに弱りきっていた。 数分、いや数十分、肛門への刺激を耐え続け、我慢も限界に達している。 そして、結局一度も、まともに股間を弄ってもらえていない。 女としての欲が、絶頂へのフラストレーションが、徐々に肛門から感じる刺激を、性感と認識し始める。 さっきとは逆に、舞園はベッドの上にうつ伏せにされていた。 顔は枕に押し付けたまま、膝を曲げて尻を突き出すような格好を強要されている。 今度は、何をされるのだろう。 抵抗など頭になく、訪れるだろう未知の刺激を、顔を枕にうずめて待つ。 中々触れられず、セレスが朝日奈に何か命じているのも、自分を焦らすためではないかと思ってしまう。 「緊張していますか?」 セレスが身を乗り出し、ベッドの上の舞園に、自分の体を添える。 「あ…」 密着する、肌と肌。 セレスの肌から香る、香水に混じった、雌の匂い。 とても、いやらしく感じてしまう。 「大丈夫、力を抜いていれば、痛くはありませんから」 唐突に、冷たいローションが肛門に垂らされる。 「ふぁっ!?」 急な感覚に戸惑い、思わず尻を締めてしまう。 「ほら、力を抜いて…」 朝日奈に続いて、舞園もまたセレスに屈服しつつあった。 朝日奈のように心を折られたのではなく、純粋に女としての快感を期待させられて。 ほんの数時間前まで、舞園はアイドルである自分に、少なからず矜持を持っていたのに、 今ではその肩書は、『アイドルなのに』と、自分を辱めるための材料でしかなくなっていた。 力を抜いて、なんて言われても、そんな簡単に脱力なんてできるわけじゃない。 まだ感じたことのない、知識でしか巡り合ったことのない、アナルでの快楽に期待してしまう。 「うふふ…お尻の穴、弄って欲しそうにヒクつかせちゃって…もう我慢できないのでしょう?」 枕にうずめた顔の耳元で、セレスが囁いた。 表情を見られたくなくて、もっと力強く枕に顔を押しつける。 「言っておきますが、弄るのは、基本的に朝日奈さんですわ…」 「わん…」 なんでもいい。 とにかく早く弄って欲しい。 気を抜けばそんな、アイドルにあるまじき言葉を口走ってしまいそうで、枕に顔を押し付ける。 それでも体は、彼女の意思とは無関係に、腰をつきあげて誘惑するように振るのだった。 「うぅ…」 朝日奈の指が尻を掴み、その溝をなぞる感覚に、うめき声を上げる。 彼女はいささか力が強く、触り方もどこか乱暴に感じる。 けれど今の舞園には、それは十分すぎる刺激。 アナルの周りにローションをすりこむように、指の腹が円を描く。 「ふっ…う、んっ…」 枕に顔を押し付けているから、何とか声を我慢できた。 あまりにじれったくて、拘束さえなければきっと、今頃自分で自分を慰めているだろう。 「そう、もっと丁寧に…まずは周りのお肉を、ほぐしてあげてください」 「…わん」 こすったり、引っ張ったり、振動を与えたり。朝日奈の指が、単調ながらも変化を与えて刺激する。 「…ん……ふっ…ぅ…っ!!」 「あ…」 「どうしました?…ああ、人間の言葉で答えてよろしいですよ」 「お尻の穴…膨らんできた」 言われて、ビクッと舞園が震える。 顔から火が出る思いだ。 「あらあら…ふふ、顔が真っ赤ですわよ、舞園さん」 恥ずかしくて、思いっきり枕に顔を押し付けるのに、腰は刺激を求めて勝手に高く上る。 「もうそろそろ、指を入れてあげてもいいですわ」 「わん」 ぬるり、と、唐突に、何の抵抗もなく、舞園のアナルが朝日奈の指を咥えこんだ。 「あっ、ぐ…!!!」 余りの感覚に、顔をあげてしまう。 異物感。肛門がそれを排除しようと、力強く締まる。 朝日奈の指は、途中で躊躇いがちに止まったが、 「ほら、奥まで入れてあげなさい」 「っ、わん…」 セレスの言葉に逆らえず、指の根元まで舞園のアナルに突き刺していく。 「ふっ、う、ぅうう…」 「ゆっくり呼吸して…力を抜いてください」 そんなこと言われても、と舞園は当惑した。 天性の脱力の才能があった朝日奈とは違い、緊張した舞園の身体からは、そんな簡単に力を抜けはしない。 痛いくらいに、朝日奈の指を締め付けている。 「はっ、はっ……痛い、苦しい、です…っ、抜いて、ください…」 舞園が苦しそうに訴える顔を、セレスは楽しげに覗きこんでいる。 「…だ、そうですよ、朝日奈さん。ゆっくり、優しく、抜いてあげてください」 「わんっ…」 ずるり 「――っひ…!?」 なまめかしい音が、耳に届く。 実際はそんな音はなかったのだが、あまりの感覚に、舞園の脳がそれを知覚してしまった。 締め付けられたままの指を、ゆっくりと朝日奈が抜いていく。 ぬるぬると、内壁が擦れて引きずり出されてしまうような感覚。 「ふっ、うぁっ…!?……やっ、ダメっ!これダメですっ!!」 舞園は腰を大きく跳ねあげた。 けれども拘束されてろくに抵抗も出来るはずなく、結局自分で暴れて刺激を増長させてしまう。 「あなたが抜いてとお願いしたんですよ?」 跳ね上がった舞園の顔を、セレスがしっかりととらえる。 「あっ、あ、あぁああぁあ…!」 「お尻の穴を弄られて蕩けちゃうアイドルの顔…しっかりと見せてください」 「いやっ、あ、言わないで、くださ…んっ、う…!!」 入れられた時の苦痛とは全く異なる、全身の力を抜きとられるような感覚。 刺激される排泄欲に、自分から朝日奈の指を締め付けてしまい、ますます感覚が強くなる。 くぽっ、と、吸盤のはがれるような音がして、朝日奈が舞園の肛門から、指を引き抜く。 「ふぅ、んっ…ふぅ、んっ…ふぅ、んっ…」 「あら、一度指を出し入れしただけで、こんなになっちゃって…これからもっとすごいことをするというのに」 潤んだ目、真っ赤な頬。 荒い息、蕩けた顔。 もう、セレスに顔を見られていることすら、気にならなくなってきた。 震えながら息を吐く舞園の頭には、もうその一つのことしか浮かばない。 「も、許してくださ…」 「あら、まだまだこれからですわよ?」 「違…ちゃんと、ちゃんと…おまんこ、弄ってください…もう、切なすぎて我慢できないんです…」 結局一度も、まともに弄ってもらえていない。セレスも、それをわかって放置していた。 先ほどからずっと、緩んだ蛇口のように愛液が垂れ続け、膝を伝っている。 「…次は、舌で舐めまわしてあげてください」 「わ、わん」 朝日奈の顔をアナルに押しつけながら、またセレスが舞園の顔を覗き込む。 この、顔を覗きこまれるという行為が、たまらなく羞恥心を煽ってくる。 けれど、もう枕にうずめて顔を隠す力もない。 快楽で蕩けきった自分の顔を、まじまじと覗かれる。 それだけの行為なのに、ひどくドキドキする。 まるでセレスの瞳から、催眠でもかけられているかのようだ。 「ふふ…あのアイドルの舞園さんの口から、そんなエッチな言葉を聞けるなんて…」 すりすりと頬を撫でられる。 それまでは恥ずかしいだけだったのに、頬を滑るセレスの指が気持ちいい。 頭が熱い。 いいのだろうか、こんな。 自分はアイドルなのに。 こんな恥ずかしい恰好をさせられて。 あんな恥ずかしいことを言ってしまって。 「ふっ、うぁっ!?…んっ!」 アナルに入り込んだ朝日奈の舌が、舞園の思考を寸断する。 生温かいザラザラとしたそれが与える刺激は、先ほどまでの指とは比べ物にならない。 「私も鬼じゃありません…アナルでイけたら、ちゃんと前の穴も弄ってあげますわ」 「そ、そんな…無理です…ふっ、うぁあ、ん…」 舞園は泣きじゃくりながら、セレスに訴えかける。 朝日奈の舌が、器用に入口を舐め濡っている。 気持ちいいのに、感じてしまうのに、絶頂には辿りつけない。 「もう、頭おかしくなっちゃいます…んっ……ぁ、ダメ、ダメなんです… さっきからイきそうなのに、ずっと寸止めされてるみたいで、もう無理です…ふっ、ん…! おまんこでイかせてください…お願いします…!」 ゾクリ、と、セレスが恍惚の表情を見せた。 舞園のその懇願だけで、あやうくイってしまいそうなほどに興奮させられる。 「ふ、ふふふ…舞園さんの、こんな…苗木君あたりが見たら、一生もののオカズになるのでしょうね」 「…あっ、うぁあっ!!」 自分の声じゃない。 獣のようなうめき声が漏れた。 想像してしまう。彼の顔を。 全身に緊張が走り、忘れかけていた羞恥心がよみがえってくる。 「ふあっ……舌、押し出されちゃった…」 朝日奈が、口を離す。 舞園の顔を覗き込んでいたセレスは、いやらしく笑ってにじり寄る。 「へえ…」 「まさか、あなたも苗木君を…」 「な、なんの話ですか…」 聞くまでもない。舞園本人も、自身の反応の変わりように驚いていた。 自分の中にある彼への好意を隠すことは、恥ずかしいことではない。 しかし、この状況で、この女に知られることは、 何かとてつもなく致命的な弱みを握られてしまうことのように思えた。 「とぼけても無駄ですわ…体は正直でしたから」 「くっ…」 「…?」 朝日奈に気が付かれなかったことは、せめてもの救いかもしれない。 「…初めてお尻でちゃんと、感じてしまったのでしょう?苗木君のことを考えて…」 「…」 「それならそうと、早く言ってくれればいいのに…良い夢、見せてあげますわ」 セレスは例の小箱を漁る。 おもちゃ箱をひっくり返したように、様々な小道具がベッドの上に広げられた。 ただ散らばったその道具たちは、おもちゃと呼ぶにはあまりにも生々しい。 ヘッドホンが取り付けられた、大仰な目隠し。 男性器を模した、ピンク色のゴムのディルドー。 1㍍はありそうな、定間隔にゴムのこぶが付いているゴムの紐。 「今度は何を…するつもりなんですか」 弱弱しく震えた声で、舞園がたずねた。 答えずにセレスが、ヘッドホンの取り付けられた目隠しをする。 視覚と聴覚を奪われ、思わず舞園は口を閉じた。 どんどん、抵抗ができなくなる。 服を剥がれて体の自由も利かなくなり、目と耳まで塞がれて、忘れていた恐怖心を思い出す。 快感と恐怖の間で弄ばれ、舞園の心はもう壊れかけていて、 だからこそセレスの毒が、より深くしみ込んでいく。 『…舞園さん』 「え…?」 ヘッドホンから届く、その声は。 聞き違うはずはない、愛しい彼の声だった。 目隠しのその向こうでは、ただセレスが蝶ネクタイ型の変声器に声を当てているだけ。 しかしそんなことを、舞園が気づけるはずもない。 それがヘッドホンを通して、耳元で話しかけられているような錯覚を与えられる。 『今から舞園さんのお尻…本格的にぐちょぐちょにしてあげるからね』 「あっ…」 違う、これは彼じゃないと必死に自分に言い聞かせても、 彼女には、耳から流れ込んでくるその声だけが真実だった。 体は彼の声に反応して、じわじわと愛液を流し続ける。 何かがアナルに突きいれられ、そこから冷たい液体が流れ込んでくる。 「うっ、ふぁっああぁあっ…!?」 すぐにローションだと理解する。 冷たさがゾクゾクと背中を這い上がる。 「な、何を…」 『力抜いて…今からすごいの入れるから』 「っ…ふ、う…」 苗木の声に当てられて、本当に力が抜けていく。 耳が気持ちいい。 耳元で直接、彼に囁かれているような。 目を開けば、すぐそばに彼がいて、自分のこんなあられもない姿を見られているかのような。 そんな錯覚に陥らされる。 ぐ、と、肛門の壁を押し分けて、何かが押し入れられてきた。 「うぁあっ…!」 異物感を感じ取り、反射的に排泄を行うと直腸が収縮し、 『ホラ、力抜いて』 「んっ…!?」 苗木の言葉に、身体が従ってしまう。 『ゆっくり深呼吸するよ…吸ってー、吐いてー』 「んっ、ふ、ふぅうう…はぁあぁあ…」 逆らえない。逆らう気力さえ奪われている。 苗木誠の声に、逆らえない。 視覚も聴覚も奪われた彼女にとっては、快楽に似た異物感と、苗木誠の声だけが全て。 それだけが彼女の世界。逆らうことのできない、催眠の世界。 それを、セレスはこの短時間で作り出してみせた。 わざと秘部を弄らなかったのも、彼女のアイドル時代の秘密を暴露したのも、 乳首だけで絶頂を与えたのも、慣れない肛門での性感を覚えさせたのも、 全てはこのため。 もう舞園の意識は、苗木の声――セレスの命令には、逆らえない。
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虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』 清涼院護剣寺、刀大仏が祭られる剣士達の聖地、そして無刀の姉弟達による決闘が果たされた地。 「はあ、なんでこんなとこに来ちまうのかね」 巨大な大仏を見上げながら、これまた大きな男、鑢七花は似合わぬため息を吐いた。 「まあ、元からどこに向かってるのかなんか全然わかってなかったけどさあ」 誰もいないながらも呟き続ける姿は不気味であるが、これは仕方の無いことだろう。 なんせ、さっきのさっきまで否定姫と話しながら歩いていたと思ったら、わけのわからない 場所へと放り込まれ、何かの説明がされたと思ったらここに一人放り出されてしまったのだから。 「誰もいないのかよ」 要するに七花は寂しいのである。いつでも道中には連れがいたのが今では一人。 どれだけ言葉を発しても返事してくれる相手が全くいない状況にまだ慣れてないのだ。 決して七花が悲しい性格だからではない。 「それじゃ、別の場所探してみるか」 別に誰も聞いてないのに、やっぱり寂しい七花は声に出して言う。 だが、別に七花は話し相手を探しているわけではない。確固たる目的があった。 (あの場所に確かにとがめが…いた) 自分が惚れ、そして守りきることが出来なかった女。自分の腕の中で死んでいった彼女が 確かにいた。 そんなはずがない。 とここに来る途中に何度も思った。 とがめはあの時に死んだ。 あの冷たくなった肌、消えていくぬくもり、死体から脱がせそして今自分が羽織っている形見の豪奢な着物。 全てが記憶に残っている。 けれど、確かにとがめはあそこにいた。 あの時のままの姿で あの時のままの格好で (あれは、間違いなくとがめだった) 死んだはずのとがめがなぜいたのか、考えれば考えるほどわからなくなっていった。 そもそも考えることは自分に向いていない。 それでも考えて、考えて、考えて、一つの結論に至った。 「会って、確かめるしかないよな」 単純ではあるが、一番確実な方法である。 考えぬかなきゃいけないようなことか?とかは思ってはいけない。 これでも七花もがんばったのである。 「けど、今俺どのへんにいるんだ?」 とがめを探すと言う目的に行き着いたが、重大な問題が出てきてしまった。 自分の現在地がわからないのである。 「さっき捨てたあの紙切れってやっぱ地図だったのか?」 と七花は気づいた時に持っていた紙と何かが入った袋のようなもののことを思い出した。 袋に関しては、開け方がわからないので全部置いてきたし、紙にしても読めない字がいくつも あるので捨ててしまった。 「全く、そうならそうと配る前にさっさと言えよ」 ちゃんと水倉林檎から説明があって、それをあの時七花はとがめに気を取られ聞き逃しただけなのだが、 それには気づかない。ついでにまにわにの首が吹っ飛ぶのも気づいてなかった。 まにわに哀れなり。 「ま、いっか、あの部屋にいた他の連中でも見つけてみるかな」 さらに信じがたいことだが、七花はこのゲームの説明にしてもあんまりよくわかってなかった。 とりあえず、うっとうしい首輪がつけられ色んな所に飛ばされた程度にしかわかってない。 とがめや否定姫がいないと駄目駄目な七花であった。 「それにしてもここにいると色んなこと思い出すよな」 この場所でのことも鮮明に覚えている。 血を分けた姉との戦い。 異端なる才能、そして最悪たる刀を携えた。紛れも無い最強の敵、勝てたことが今でも信じられない。 いや、正確には勝ったとはいえない。 とがめの奇策、そして虚刀流であるがゆえの宿命、刀の呪縛があればこそ、手に出来た勝利。 そこまでしなければ勝つことが叶わなかった許されざる天才。 「姉ちゃん…か」 七花が見つけたのは何もとがめだけではなかった。 あの天才もまたあの場所にいた。 あの時と同じ全てを見透かすような眼をして、 ちなみにまにわにに関しては誰一人として発見していない。 やはり哀れなり。 「やっぱり、俺のこと恨んでんだろうな」 とがめは七実は殺されたかったのだと言ってくれた。 けれど七花は納得できなかった。 なにせ姉が自分の腕の中で恨み言を言いながら死んでいくのを目の前で見てしまったのだから。 もしも、もしも姉とも出遭ってしまい、今度は憎悪を込めて襲ってきたら勝てるだろうか。 「勝てないだろうな…」 実力にしても当然ながら、姉が自分を殺したいと思っていたら殺されてもいいと考えてしまう。 こんな気持ちで勝てるわけがない。だが、負けてしまえばとがめを捜せなくなる。 「ええい、考えても仕方無いか!」 と七花は頭を振って考えを払いのける。 もしもの考えをめぐらせても答えなど出せるはずがない。そういうことには自分は向いていない。 「そろそろ行くか」 ここから早く出ないとまた考えてしまう。 そう判断した七花は最後にもう一度刀大仏をよく見ておこうと顔を上げ、眼に入ったのは 刀大仏の腹から突き出る漆黒の刀身だった。 「な…」 何が起きているのか理解出来ないうちに刀身を中心に亀裂が走り、大仏の腹がはじけ飛ぶ。 そして、 あたかも神の腹を喰い破る悪魔のように、 “それ”が姿を現した。 赤い、いや赤というには明るすぎる橙色の髪と同じ色の眼をした小柄な少女だった。 小柄な体に似合わぬ大振りの黒い刀を持ち、狂気に染まった眼で七花を睥睨する。 視るのでも診るのでも観るのでも看るのでもなく、ただじっと見つめる。 七花にはわからない。 この少女の名が想影真心ということも、 この少女が人類最終と呼ばれる存在であることも、 ただ解るのは 少女の持つ刀が『毒刀・鍍』であること、 そして 圧倒的な殺気。 「なんだよ…」 体が震える。 「なんなんだよ…」 足が、竦む。 「こんなの、こんなの」 この感触、過去に味わったことが、ある。この感覚は、 「あの時の姉ちゃんと同じじゃねえか…」 あの時に見せられた、姉自身ですら抑えられなかった姉の本気、その時と同じ殺意を その少女は放っている。 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 七花の心境をよそに真心は笑う、笑う、笑う。 心底おかしいように、心底嬉しいように、心底狂ったように。 そして目の前の獲物を見つめ、 次の瞬間に七花の目の前で刀を振り上げていた。 「な!?…くそ」 震える体を無理やり動かし、紙一重で刀の切っ先をかわし。後ろとびで距離を取り (なんて…速さだ!!) そして、さっきまで真心がいた場所を見上げ、 信じられないような光景を目にした。 大仏の腹に空いた穴から後ろの壁ではなく外が見えていた。 そのことから示される事実は一つ。 「外からここまでぶち抜いてきたってのか…」 あまりの常識破りの行動に言葉を失う七花に構わず、再び真心が切っ先をこちらに向け 飛び掛ってくる。 「っこの!舐めんな!!」 突き出される切っ先を体をわずかにひねる最小限の動きでかわし、構え、 「虚刀流『薔薇』!!」 迎え撃つように蹴りを放つ。 突っ込んだ勢いを抑えきれず蹴りをまともに喰らった真心の小さな体は後方に吹っ飛び そのまま床に叩きつけられ、 何事も無かったのように立ち上がった。 「嘘だろ!?」 今の一撃は完全に決まっていた。相手の速度を上乗せして叩き込んだ蹴りは相当の威力だったはずなのに、 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 真心は笑いを止めることなく再び突っ込んでくる。 「く…『杜若』!!」 七花もまた前に飛び出す。 だが、速さの差は歴然、真心が先に間合いを詰め刀を大上段から振り下ろす、 より先に七花が一気に加速して横に回り込む。 相手から見れば七花が突然消えたかのように見えるだろう。 この極端な加速の切り替えこそ、虚刀流の歩法『杜若』! 目測を誤って空振りし、隙が出来ている真心の横にそのままの速度で一気に突っ込み、身構え 「虚刀流奥義」 放とうとした瞬間、 真心の眼がぎょろりとこちらを向いた。 「なっ!」 本能的に七花は減速し後方に跳ぶ、 と同時に胸部を凄まじい衝撃が襲い、 胸を蹴られたと気づいたのは床に叩きつけられてからだった。 「なんてこった…」 今度こそ七花は驚愕する。 変幻自在の『杜若』がこんな早くに見切られた。 からでは無く 「今の攻撃、さっきの俺の『薔薇』じゃねえか…」 そう、真心の放った蹴りは紛れも無く自分自身が放った『薔薇』だった。 しかも 「なんつう威力だ…」 喰らう直前に後ろに跳んで威力を殺したはずなのにあばらが軋んでいる。 その痛みに気を取られる間も無く、 追撃してきた真心が再び刀を振りかぶる。 咄嗟に身構えた七花の前で、 真心が突然消えた。 (やばいっ!!) 考えるより先に体が動き、真横から振られた斬撃をかろうじてかわす。 が、 真心は刀を振り払った勢いをそのままに一気に加速し、再び『薔薇』で七花を蹴り飛ばす。 「ぐお!!」 今度は後ろに跳ぶ暇も無かった。 猛烈な衝撃が七花を襲い、まるで紙くずのようにその大きな体が大きく弾き飛ばされ、 壁に叩き付けられる。 (今の動きは『杜若』、間違いない…こいつ、俺の技を…) 痛みが全身に走りわたるのと同時に絶望感もまた広がる。 (冗談じゃねえ…これじゃ、まるっきり姉ちゃんと一緒じゃねえか) まだ一度しか見せていない自分の同じ技をより的確に繰り出す。 まさにあの姉に瓜二つ、いや、病魔による弊害が無いぶん、もしかしたら、あの姉より強いかもしれない。 そんな相手に、姉さえ凌駕しかねない、相手に勝てるだろうか? 否 勝てるはずがない。 あの時の姉には刀の呪縛と、そしてとがめの奇策が、守る物があったからこそ勝てた。 だが今度の相手は刀の呪縛があるように見えない、 なによりとがめが、守るものがいない、 (逃げるか…) 少し前の自分ならこんなこと考えもしなかった。 逃げるくらいなら最期まで戦うことを選んだろう。 だが、この敵はそんな信念すら覆す。 そんなことを考えている七花に、真心は歪んだ笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。 (遊んでやがんのかよ、ちくしょう!) その事に憤りを感じても、どうすることもできない。 奥義を出そうにもその暇すら与えられない。 最速の『鏡花水月』 なら繰り出せるかもしれない。 だが、威力に劣る『鏡花水月』では致命傷は与えられない。 逆に吸収され、そっくりそのまま返されるのが関の山だ。 逆にあの筋力で『鏡花水月』を喰らえば、間違いなくこちらが致命傷に至る。 まさしく八方塞がり。打つ手が無い。 (ここで殺されたらとがめに会えない) 今回の戦いは逃げることが許されている。 だったら逃げればいい。 勝てもしない相手に喰らいつき虫けらのように殺されることが自分の目的ではない。 そうだ、姉に会っても逃げればいい、逃げて逃げて逃げて、生き残れればそれでいい。 今の自分には目的がある。 信念より矜持より大事な目的が、 (一か八かで入り口まで走るか!) ここから出てしまえば、逃げることは難しくない。 七花は『杜若』の体勢のため体を縮め、 自分の着ている着物がざっくり斬られているを目にした。 さっきの斬撃をかわしきれていなかったのだろう。 そこにうっすら血がにじみ着物に染み込んでいる。 その光景は、あの日と似ていた。 とがめが炎刀に貫かれたあの日と、 その斬り口を七花はじっと見つめ、そして、跳んだ。 生き残るための出口へ ではなく、真心へ、眼前の敵へと! そしてその勢いで手刀を叩き込む!! (は、何が目的だ) その一撃に揺るぎもせず、真心は反撃の拳を叩き込んでくる、が、避けない! (何が生き残る、だ) 拳が腹にめり込み、鈍痛が走る。 それでも、 七花もまた揺るがず『薔薇』で真心を蹴り飛ばす。 (逃げて、逃げて、逃げて) 後ろに仰け反る真心に合わせ、七花もまた前に出る。 休ませないために、反撃する暇も与えないために、そしてなによりも 勝つために!! (それで一体どんな顔してとがめに会えるってんだ!!) きっと、そうやってとがめに会っても、もうマトモに顔を合わせることも出来ないだろう。 折れた刀など、なんの役にも立たない。とがめに折れた刀など使わせられる訳が無い。 例え、どんな化け物でも、それが姉でも、刀は斬る相手は選ばない!! 刀が斬ることを放棄したとき、刀の役目は終わってしまう。 一度守りきれなかった女を今度こそ守るために、それだけは許されない!! 「うおおおおおおおおおおお!!」 雄たけびとともに、体勢を立て直せていない真心に連続して打撃を叩き込む。 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげら」 が、それほどの連撃を受けても全く動かず受けた打撃とそっくり同じ打撃で反撃に転じる。 充分な体勢でなくても、繰り出される攻撃は速く、確実に七花を捕らえる。 手数こそ七花には及ばないが一撃一撃が、重い、とてつもなく重い。 それらは七花の体に叩き込まれ、骨を軋ませる。 それでも、それでも七花は退かない。休むことなく攻撃を続ける。 これこそが虚刀流の本質! 虚刀流の技を余すことなく攻撃へと転化する!! これこそが虚刀流の防御を捨てた戦い! 「はあっ!!」 その気迫に真心ですら圧され、わずかに、ほんのわずかに隙が出来る。 それはほんの一瞬、けれど、七花にとっては充分だった。 瞬時に加速し、真心の右にまわり、構える。 「『雛罌粟』から『沈丁花』まで打撃技混成接続!!」 それは姉から教わった奥義、この天才に繰り出すにはふさわしい技だった。 一つ一つに人を殺せる重みを持った二百七十二種類の打撃が放たれ、あらゆる方向から 外れることなく真心を打つ!! 「が…!」 それらの攻撃を受けても、まだ、真心は倒れない。さすがにかなりの打撲を負ったようだが、 それでも、倒れない。 どころか、攻撃が終わった瞬間を狙い、直突きを叩き込む。 攻撃の直後の隙をつかれ、かわす間もなく直撃を受け再び七花の体が後方にすっ飛ばされる。 「やっぱ、あれじゃなきゃ、駄目か…」 荒い息の下で七花は呟く。 直突きが当たる瞬間に筋肉に力を込めて威力を抑えていなければ、腹をつぶされていた。 それほどの威力は抑えてなお体に激痛を走らせる。 ただの直突でこの威力、次に体勢を立て直され、何かの打撃を喰らえばそれだけで沈むだろう。 そのうえ手は爪がはがれ、甲の皮が向け 血が流れ落ちている。 あの体に二百七十二発の打撃を喰らわせた手が耐え切れなかったのだ。 もう長くは戦えない。 (次で決める!) 七花は満身創痍の体を無理に立たせ、『杜若』を構える。 幸い、今の相手ならばなんとか最後の奥義を繰り出すことができる。 「げらげらげらげらげらげらげら」 対する真心は全身に打撲を負いはしてるものの、全く衰えを見せていない。 狂ったように笑い続ける。 その姿を見て、七花は何かが腹の奥底から湧き上がってくる物を感じた。 限界の見えない敵への恐怖 ではなく、腹の底から煮えくりかえるようなこの感情は 「…ふざけんな」 そう、怒り。 「ふざけてんじゃねえぞ!!」 怒りがどんどんこみ上げてくる。 「そんだけの力があって、そんだけの才能があって、なんでそんなくだらねえ毒なんかに 振り回されてんだ!!」 始めは呪縛などないと思っていた。 だが違う、この少女は誰よりもこの刀に縛られている。 もし、最初から理性を保っていれば、ここまで食い下がることすら出来ていなかっただろう。 刀に縛られた才能。それは七花にとっての幸運。 けれど許せなかった。 同じような才能を力を、生き残るために毒を使ってまで抑え込んでいた人間を知っているから。 許せなかった。 姉が手にすることの出来なかった力を容易に振るいながらも毒に縛られるこの少女が。 「お前は、あんな、あんな刀鍛冶に負けるような奴じゃないだろ!!眼ぇ覚ませ!!」 その言葉が届いたのか、 それともさっきの二百七十二発の打撃を受け、毒刀に亀裂が走ったのが原因か、 「げ…げらげ…しきざき?げらげら…俺…様はっ…」 笑いが尻すぼみになり、少女は頭を抱え、うめく。 まるで、自分自身を取り戻そうかとするように。 それは絶好の好機、だが七花は動かない。 言葉をつむぎ続ける。 「お前は誰なんだよ、四季崎記紀か?」 「ちが…う………違う……違う違う違う違う違う!俺様は俺様は俺様はぁああああ!!」 叫びながら少女は手に持つ毒刀を柄を持っていないほうの手で刀身を掴み、 「俺様は……四季崎記紀なんかじゃ……無い!!」 万力の力を込め、刀をへし折った。 「俺様は………想影…真心だ!」 『毒刀・鍍』が破壊されたところで、一度まわった毒は消えはしない。 だが、少女の真心の眼からは狂気の光が消え始めている。 毒に打ち勝とうとしている。 「真心……か、いい名前だな」 皮肉でもなんでもなく、心の底よりそう言い七花は今度こそ身構える。 「来いよ真心、決着を付けようぜ、まあその頃にはおまえは八つ裂きになってるだろうけどな」 その言葉に真心もまた折れた毒刀を投げ捨て構える。 今までのめちゃくちゃな体勢ではなく、戦うための体勢を。 片や、人類の最終の存在『橙なる種』。 片や、完了変体刀の最終の刀、虚刀『鑢』 意味合いの違う二つの最終は、微動だにせず、にらみ合い。 「がぁああああああ!!」 「虚刀流七代目党首、鑢七花!参る!!」 ほぼ同時に動いた。 二人の距離は一気に詰まり、一瞬にして近接する。 至近距離で七花は『鈴蘭』の構えを取る。そこから繰り出されるのは『鏡花水月』虚刀流最速の奥義! 真心の攻撃より先に七花の嘗底が突きこまれ、さらにそこを起点に 『花鳥風月』 『百花繚乱』 『柳緑花紅』 『飛花落葉』 『錦上添花』 『落花狼藉』 それら六つの奥義を連続して繰り出す、これこそ、七花の最終奥義!! 「『七花八裂』!!」 七つの奥義は余すことなく真心に叩き込まれる! が (おかしい…) 最後に『柳緑花紅』 を放つ途中で七花は違和感に気づく。 『七花八裂』の最大の弱点、それは『柳緑花紅』の溜めの長さ、 そして、当然その合間に反撃されることを覚悟していた。 だが、反撃が来ない。 そしてその理由はすぐに判明する。 真心は両腕を大きく振りかぶっていた。 その構えが何なのか七花にはわからない。 だが確実なのは、あれを受ければ、自分が死ぬということだ。 (はめられた!) 恐らく、今出そうとしている技には『柳緑花紅』以上の溜めが必要なのだろう。 それを確実に当てるために、攻撃終了後に出来る隙をつく為に、わざと反撃を控えていたのだ。 さっきまでのように本能で反撃するのではなく、先を見通し反撃を控え、必殺の一撃を繰り出すための戦略。 気づいた時にはすでに遅く、攻撃は止められない。 そして、それが耐え切られることも七花には直感でわかった。 だが、それでも、それでも、七花は勝ちをあきらめない! 全身全霊最後の力を振り絞る!! 「『七花八裂』より『七花八裂(改)』へ奥義強制接続!!」 『柳緑花紅』を起点に『鏡花水月』、『飛花落葉』、『落花狼藉』、『百花繚乱』、『錦上添花』、『花鳥風月』の 順番でつながれる『七花八裂(改)』。 七つの奥義を最速のそして最大の威力を発揮する順序で放つ正真正銘の最後の奥義。 真心の前に構える暇が無かった『柳緑花紅』を『七花八裂』の最後に放つことで補った、 最終を始点にする、究極の強制接続! どの戦いでも、あの姉との戦いですら使わなかった、いや使えなかった自分の限界点。 それを七花の勝ちへの執念が打ち破る!! 「ちぇりおーーーーーっ!!」 大切な人から教わった掛け声とともに放たれた『七花八裂(改)』は、真心の攻撃の発動を許さずに 最大の威力を持って、真心の体を吹き飛ばした。 人類最終『橙なる種』と完了変体刀完成形『鑢』との戦いはここに幕を下ろした。 「はあ、ひでえ目にあった」 ボロボロの体をひきずりながら、七花は護剣寺の門の前でため息をついた。 その仕草はやはり似合っていない。 「ってか、あれからあんまり時間経ってなかったのかよ」 体感的には一晩中戦ってた気もするが、実際は月の位置がほとんど変わっていない。 「さて次はどこに行くかな」 体のあちこちに激痛が走るが、それでも休む気は無かった。 そんな時間も勿体無い。 「本当にめんどうだ」 口癖である言葉を言い、さらに自分の担いでいる物を見てさらに深くため息をつく。 「余計な荷物も増えちまったし」 そこには、橙の髪をした少女。 想影真心が背負われていた。 「全く、なんでとどめを刺さなかったんだ?俺」 『七花八裂(改)』を喰らい吹き飛んだ真心は、それでもまだ生きていた。 全身ボロボロで気を失って、それでも息をしていた。 本来ならば、その場でとどめを刺しておくべきだった。 だが出来なかった。 やろうと思えば、すぐにできることがなぜか出来なかった。 なぜだろう? 気絶した相手を殺すのは誇りが許さないからか? 相手が子供だからか? それとも 「とがめに、似てっからかな」 気絶して眠っているような顔は昔、自分の隣で眠っていたとがめを思い出させる。 本人が聞いたら。 「だれが童子属性じゃーー!!」 と突っ込まれてたかもしれないが、残念ながらとがめは不在だった。 「まあ、いいや」 どこかで村でも見つけて、そこで後の面倒でも見てもらえばいいか、と、 相変わらずゲームのことなど全くわかっていない七花であった。 「それにしても変わった格好だよな」 七花は出遭った時から感じていた感想を口にする。 見たこともないような材質の服に、下はもっとわからない構造の何かを履いている。 現代人ならこれがスパッツと言う物だとわかり、さらにちょっとアレな趣味の持ち主なら、 色々と感じることもあったのだろうが、七花にそんな趣味は無いので、変という感想しか浮かばない。 「なんで、こんなめちゃくちゃな力を持ってて、こんな変わった格好した奴のこと 知らなかったんだ?」 とがめと刀を捜して日本全国を旅している間もこんな奴の噂は全く耳に入ってこなかった。 「これなら日本最強も余裕で獲れそうなもんだけどな」 現日本最強であり、数々の戦いでほとんどかすり傷すら負ったことのなかった七花をここまでに できる実力ならば、日本でダントツの最強になっていてもおかしくない。 実際は真心は人類最終という日本どころか世界最強といっても全く過言ではない存在なのだが、 七花はそんな別世界の事情など知る由もない。 「別に考えなくてもいいか」 単純に欲がなかったとかそんな理由なんだろうな。 と、深く考えるのをやめる。何度もしつこいようだが、七花は考えるのが苦手なのである。 「おかげで心構えも出来たし」 真心と戦うことで、七花は吹っ切れた。 もし、姉と会い、憎悪の眼差しで見つめられても、逃げることはきっと無い、立ち向かえる。 「まあ、会わないに越したことはないけどさ」 立ち向かえるといっても、やはり実の姉とは戦いたくはない。 「否定姫のほうも捜さないとなあ」 今まで薄情にも忘れていた否定姫のことも今更のように思い出す。 一応、とがめ亡き後に旅を共にした間柄である。そちらも無視はできない。 「まあ、先に会ったほうと一緒に捜せばいいか」 結局適当にまとめて、七花は歩き出した。 とがめと否定姫を捜すために、 だが、この時点で七花は知らない。 捜すべき相手と会いたくない相手が共に行動していることを。 七花は知らない。 今背負っている少女がどれほどの存在なのか。 そして自分の現在地すら、七花はわかっていなかった。 「ま、歩いてりゃどっかに着くさ」 恐ろしく単調な思考で七花は行く。どっかに着くために。 七花が去り少し経って、護剣寺の門の上で立ち上がった者がいた。 「すごい…!すごいすごいすごいすごいじゃないさ!!」 その人物、体中に刺青のような紋様を付けた少女はさきほどの戦いを思い出し 興奮したように叫ぶ。 真心といい、この少女といい、よく少女に目を付けられる男である。 だが、正確には彼女は少女ではない。 彼女の名は真庭狂犬、ゲームが始まるより前、首をすっ飛ばされたまにわにの皆さんの 生き残りである。 「あの虚刀流をあそこまで一方的に…なんて娘なの、あいつ!!」 彼女は自分の意識を別の女性の体に移し変えることで永い時を生きてきた。 その彼女でさえ、あれほどの強さは見たことが無かった。 始めは七花の気をそらす程度の相手としてしか見ていなかった。気さえ反らしてくれれば、 後は背後から襲うつもりでいた。そのための囮と、 卑怯な戦法である。 だが、卑怯卑劣こそが忍者の売り、ましてや相手が虚刀流ともなればなおさらである。 だが、 すぐにそれは間違いであったと気づかされる。 実際には卑怯卑劣など入り込む隙間も無かった。 それほどの存在。 「く、全く、この体なのが悔やまれるわね」 もし、あの時の凍空一族に乗り移る前の体なら、あの瞬間に飛び出し体を乗っ取れていただろう。 だが、今の体は戦乱の時代の頃の体になっていた。 この体は隠密行動には向くが、速さが足りない。 いくら手負いとは言え、虚刀流に迎え撃たれてしまうだろう。 「けど、あきらめないわよ…」 あの体さえあれば、鳳凰と人鳥の二人以外の敵を殲滅することも夢ではない。 そして、最後に自分が死に。 優勝者となる者を二人で決めてもらえばいい。 仲間を目の前で殺した水倉林檎とやらに頼るのは癪だが、この際仕方ない。 どちらが勝ち残ったところで、真庭の里には永遠の繁栄が約束されたも同然だ。 里の未来のために、この命を投げ打てるなら悪くない。 そのためにも、 「あの体を…頂く!」 その決意と共に狂犬は七花の後を静かに追う。 狂犬らしく食い散らかすために。 【1日目 深夜 D-5清涼院護剣寺】 【鑢七花@刀語シリーズ】 [状態] 満身創痍(一応健康) [装備]捨てた [道具]捨てた [思考] 基本 とがめと否定姫を捜す 1 とりあえず姉ちゃんには会いたくないな 2 とりあえず、この女をどっかに引き渡さないと 3 なんで砕いた毒刀がここにあるんだ? 4 げーむ?るーる?何ソレ?食い物の名前か? ※参戦時期は否定姫と旅してる最中です。 ※ゲームがなんなのかわかってません ※毒刀に斬られました。 ※とりあえずこのままだと爆死の危険大です。 【想影真心@戯言シリーズ】 [状態] 現在気絶中 [装備] なし [道具]落とした(地図くらい残ってるかも) [思考] 基本 不明 ※まだ、毒が残ってるかも ※七花の繰り出した技は全て習得した? ※二人とも体に制限がかかってます。どっちも全力なら護剣寺消し飛んでました。 【真庭狂犬@真庭語】 [状態]健康 [装備]なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本 真庭鳳凰と真庭人鳥を勝ち残らせる。 1 隙を見てあの小娘の体を乗っ取ってやる 2 真庭の里にもう一度繁栄を ※参戦時期は七花に殺された後です。 ※体は戦乱時代の物です。 018← 019 →020 ← 追跡表 → ― 鑢七花 ― 015 想影真心 ― ― 真庭狂犬 ―
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すっかり日も暮れ、夜行性の動物たちが活動を始める時間となった幻想郷の森。その中 から、今日もゆっくり達の悲鳴が聞こえてくる。 「……うー! うー!」 「や゛め゛て゛え゛え゛え! ゆ゛っぐりざぜでえ゛え゛え゛え!」 四匹のゆっくり達が、まだ体の生えていないゆっくりれみりゃから逃れようと、必死の 形相で飛び跳ねているのだった。目を覚ましたばかりで空腹のれみりゃは、獲物をいたぶ るような真似はしない。懸命にぴょんぴょん逃げる二匹ずつのゆっくりれいむとゆっくり まりさにあっという間に追いつくと、一気に急降下して最後尾にいたれいむの後頭部にが ぶりと噛み付いた。 「ゆっ、ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ! やめでやめではな゛じでえ゛っ、ゆ゛っぐ りざぜでえ゛え゛え゛え゛え゛っ!!!」 両目を剥き、涎を飛ばしながら絶叫するゆっくりれいむ。それを聞いた他の三匹は、愚 かにも、もしくは立派なことに、足を止めて後ろを振り返る。三匹の目に映ったのは、満 面の笑みを浮かべながら獲物に牙を突き立てるゆっくりれみりゃと、牙が皮を貫く痛みに 震えるゆっくりれいむの姿だった。 「は、はなしてね!」 「ゆっくりやめてってね!」 「ゆっくりできないよ、ゆっくりさせてね!」 三匹が抗議の声を上げる。本当ならばすぐにでも助けてやりたいが、全員でかかっていっ たところで、単に全滅が早まるだけ。だがそれでも、これまでずっと一緒にゆっくりし てきた仲間は見捨てられない。三匹にできるのは、こうして叫び続けることだけだった。 そんな三匹の苦悩などどこ吹く風、ゆっくりれみりゃは自らの空腹を満たすため、ゆっ くりれいむに噛り付く牙に力をこめた。 「いだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛い゛い゛いぃぃぃぃ!! あああ゛あ゛あ゛ あ゛っ゛!!!」 れいむの皮に突き立った牙が餡子に到達し、その中に潜り込んで容赦なく進んでいく。 れいむの絶叫が夜の森に響く中、れみりゃはそんなものお構い無しに食事を続ける。 「ゆああ゛あ゛っゆっがっあっあっあっあっああ゛あ゛っ゛っ゛っ゛!!!!」 ついに、れいむの体はれみりゃによって噛み千切られた。れみりゃの牙が餡子の中心に 達したとき、れいむの体は飛び跳ねんばかりに大きく痙攣した。その光景に、残された三 匹の声も止まる。六つの眼に映るのは、体の四分の一以上を噛み千切られ痙攣を続ける仲 間の姿と、その四分の一を口一杯にほおばり幸せそうに咀嚼している捕食者だった。 「……ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……」 体の一部を欠き、白目を剥いて、涙と涎でぐちゃぐちゃになったれいむの口から、体の 痙攣にあわせてそんな泣き声ともつかぬ音が断続的に漏れていた。一方、れみりゃは満足 そうな顔で口の中のものを飲み込むと、残った餌を食べようと再びその口を開き、れいむ へと噛み付いた。れいむの顔の内、口より上の部分がすっぽりと、れみりゃの口の中に納 まった。 「ゆうっあっ、がっ゛っ!!!」 ろくな叫び声を挙げる暇もなく顔を噛み切られると、残ったれいむの体からは力が失わ れ、そのまま動かなくなった。仲間の身に降りかかった惨事に言葉を失っていた三匹のゆ っくりも、その死を目の当たりにして再び声を上げ始めた。ただし、今上げるのは抗議の 声ではなく、仲間の無残な死を嘆く声だ。 「れいむう゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ!」 「どおじでえ゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ!!」 「もっどゆっぐりじだがっだよお゛お゛お゛お゛お゛!!」 三匹の悲痛な叫びが周囲を満たす。しかし、三匹とずっと一緒にゆっくりしてきた仲間 は、その叫びを聞いても、もう何も言ってはくれなかった。それが悲しくて、叫びは更に 高まる。 「……うー!」 場違いに楽しそうな声が上がり、唐突に叫び声が止まる。あまりの出来事に忘れていた。 今自分達は、危険な捕食者の前にいることを。気付かなかった。哀れなれいむを食い散ら かしたれみりゃが、次の獲物に狙いを定めていることに。思い付かなかった。逃げ出すこ となど。 「いっ、いや゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!! ゆっぐりざぜでえ゛え゛え゛え゛え゛ え゛!!!」 ついさっきまで仲間だったものに背を向け、三匹は全力で駆け出した。死にたくない。 もっとゆっくりしていたい。仲間の死に様が更なる恐怖を駆り立て、三匹を追い立てる。 「ゆっ!」 二匹いるゆっくりまりさの内の片方が、木の根に引っかかった。あっと思う間もなく、 そのまま顔から地面に転がる。真っ白になったまりさの頭の中に絶望が襲い掛かるよりも 早く、れみりゃの牙が二匹目の獲物を捉えた。 「……ゆううううう゛う゛う゛う゛っ゛!!!」 まりさの絶叫に、残りの二匹が思わず振り返る。しかし、先程と違って何やらまごつい ている様子だ。このまま逃げる足を止めてしまえば、また同じことの繰り返しになるとい うのが、ゆっくりの頭でも分かっているのだろう。だが、 「だっだずげで!!! だずげでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ……」 助けを求める仲間の声が、二匹を逃がしてはくれなかった。恐怖と友情の板ばさみの中、 喰われ行くまりさを見つめながら、二匹はみんなでゆっくりできた頃のことを思い出して いた。四匹でずっと一緒にゆっくりしてきた。ずっと一緒にゆっくりしていけるのだと思っ ていた。悔しかった。無力な自分たちが惨めでたまらなかった。もう声も出ない。代わり に涙があふれて止まらなかった。 二匹目の餌が動かなくなると、れみりゃは更なる獲物を求めて飛び上がった。そのまま、 何かを諦めてしまって動かなくなった二匹のゆっくりへと飛び掛る。二匹はそれを避けよ うとはしなかった。 「うー! うーぐえっ!?」 と、突然妙な声が上がった。思わず二匹が顔を上げると、そこにはれみりゃではなく、 もっともっと大きな影があった。突然の乱入者に涙も止まる。 そこにいたのは人間だった。片足を、今まさに何かを蹴り上げたかのように上げたまま の、一人の人間だった。二匹がそれを呆然と見上げていると、 「……う゛あ゛あ゛あ゛っ!! いだぁいよお゛お゛お゛お゛お゛!!!」 ちょうど上がったままの人間の脚が向いている方から、こんな泣き声が聞こえてきた。 見れば、れみりゃが地面に転がって泣き叫んでいる。呆然とする二匹には目もくれず、人 間は上がったままだった足を下ろすと、れみりゃへと歩み寄っていった。 「う゛っ? うー! だべぢゃうぞー!!」 目の前にまで近づいた人間に対し、泣きながらも威嚇をするれみりゃ。しかし人間はそ れを完全に無視してれみりゃの前にしゃがみこむと、無言でその脳天に手刀を叩き込んだ。 手刀と地面にはさまれたれみりゃは短い悲鳴を上げると、そのまま気絶した。 動かなくなったれみりゃの羽をつまみあげ、人間は残された二匹のゆっくりの方へと振 り向き、初めて口を開いた。 「……大丈夫か?」 れいむとまりさは床の上で身を寄せ合っていた。二匹とも疲れ切った表情で部屋の隅っ こにうずくまったまま、床の一点を見つめたまま動かない。魂が抜けてしまったかのよう だ。憔悴しきっていたが、先程のショックのせいで眠ることなどできないようだった。 がらり、と戸の開く音がして、二匹は緩慢に顔を上げる。そこにいたのは先程の人間だっ た。その人間が、二匹を食い殺そうとしていたれみりゃを叩きのめし、家に連れ帰ってく れたのだ。 彼は二匹の前にやって来ると、手に持っていた皿を床に置いた。そこにあったのは二つ のおにぎり。 「……ほれ、食え」 ぶっきらぼうにそう言い放ち、皿を差し出した。二匹は人間の顔を見、差し出されたお にぎりを見て、のそりのそりと動き出し、皿の上に乗っかっておにぎりに噛り付いた。 それは具も入っていなければ海苔もまかれていないただの塩おにぎりだったが、人の食 事を初めて口にした二匹にとっては、格別のご馳走だった。最初はぼそぼそと覇気の感じ られない食べ方だったが、一口、また一口とかじりつく度に、二匹に活力が戻ってくるよ うだった。二匹は飲み込むごとに元気を取り戻していった。疲れ切った頭が回り始め、一 度は折れた心も徐々に立ち直っていく。 だからこそ不意に、 ―――いだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛い゛い゛いぃぃぃぃ!! ―――だっだずげで!!! だずげでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ…… 仲間の断末魔が脳裏をよぎってしまう。 半分ほど食べ終えたあたりで、二匹は唐突におにぎりに噛り付くのを止めた。人心地つ いたせいで、かえって先程の悲劇を思い出してしまうのだった。 二匹は皿の上で震え始め、こらえ切れないというようにぼろぼろと涙をこぼす。四匹は 兄弟ではなかったが、生まれてすぐの頃からずっと一緒にゆっくり過ごしてきた親友だっ た。……だった。過去形の話だ。その内の二匹は、すでに物言わぬ饅頭になってしまった。 れみりゃの牙に噛み千切られ、無残に変わり果てた親友の姿が頭から離れない。死ぬ間際 の叫びが耳に残ったままだ。 「……ゆっ、ゆっ……」 「れいむぅ……まりざあぁぁ……」 いつも通りの元気があれば泣き叫ぶこともできたろうが、今の二匹には親友の死を嘆く ように泣くのが精一杯だった。 そんな二匹の様子を見た人間は、ふらりと立ち上がると部屋を出て行った。程無くして 戻ってきた人間は、箱を一つ抱えていた。そのまま食べかけのおにぎりの前で泣き続ける 二匹の前に、その箱を置く。二匹の注意を引くように、わざと大きな音を立てて。二匹は 突然の音にびくりと震え、顔を上げる。涙でにじんだ視界に映るのは、透明な箱に収まっ たれみりゃだった。 『……ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っっ!!!』 ガチャガチャン! と、思わず後ずさりした二匹は皿から転げ落ちた。後頭部を床にぶ つけながらも、必死の形相で再び部屋の隅へと逃げていく。 「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! たべないでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!」 「だずげでえ゛え゛え゛! だれかだずけでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛! おがあざああ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛んん!」 親友の死に様で頭が一杯になっていた二匹は、一気に混乱の極みに追い込まれた。今ま でさめざめと泣いていたのが嘘のように泣き叫ぶ。死にたくない。食べられてしまった二 匹のようになりたくない。その思いに囚われた二匹は、目の前に自分たちを助けてくれた 人間がいることも忘れて泣き叫んでいた。しかしながら、いつまで経っても二匹が襲われ ることはない。 「……いやあ゛あ゛あ゛あ゛、ああ、あ?」 そのことに先に気付いたのは、れいむの方だった。襲われないどころか、よく見ればそ もそもれみりゃは動きさえしていなかったし、更によく見れば、どうやら箱の中に閉じ込 められているようだった。 「ゆっ。まりさ、まりさっ」 「……だずげでえ……おがあざぁん……」 「まりさっ!」 親友の喝に、まりさも顔を上げる。そして一足遅れて、現状が認識できたようだった。 二匹はしゃくりあげながら、隅から離れてれみりゃの収まった透明な箱を見つめた。れみ りゃはピクリとも動かない。人間に喰らった手刀によって気絶したままのようだった。 そんなれみりゃを見つめたまま動かない二匹に向けて、人間が口を開いた。 「……お前ら……」 二匹が顔を上げる。人間は二匹の目を交互に見、言った。 「仇を討ちたくないか?」 思いがけない言葉が飛び出てきた。仇を討つ。食べられてしまった親友の仇を、自分た ちが。あのれみりゃに対して、自分たちが。 ……無理だ。 「俺がお前たちを勝たせてやろう」 うなだれる二匹に、人間はそう言い放った。 「やる気があるなら、まず飯を食え」 れみりゃが目を覚ましたとき、目の前には二匹のゆっくりがいた。赤いリボンのゆっく りと黒い帽子のゆっくりが、互いに少し距離を置いて、床の上にいた。それがさっき追い かけていたゆっくりだと気付いた途端、なぜか頭に残っていた鈍痛のことなど綺麗さっぱ り忘れ去り、背中の羽を広げて勢いよく 「うー! たべちゃう゛っ゛!?」 飛び立てなかった。何もないはずの場所で壁にぶつかったれみりゃが感じたのは、痛み よりも混乱であった。そもそも満足に羽根を広げることもできていない。れみりゃはうー うー唸りながら暴れ回る。しかしどれだけ力をこめても事態は好転せず、自分が陥った窮 屈さを実感させられるだけであった。 じたばたもがくれみりゃだったが、突然視界がぐるりと回転した。そのまま床の上に落 ち、転がっていく。これは人間の手によって透明な箱から落とされたから、なのだが、ゆっ くりの中でも一等出来の悪いれみりゃの肉饅脳に分かるはずもない。れみりゃが理解でき たのは、羽を存分に伸ばせるようになったことと、これで目の前のゆっくりを食べられる ということだけだった。 「うー! うー! たぁべちゃぁうぞぉー!!」 自由な身となって宙へと舞い上がったれみりゃは、それはそれは楽しそうに言った。既 に食事は済ませている。今、目の前にいるゆっくりたちは、存分になぶり、いたぶって遊 んでからおやつにしてやろう。 「うー! うー! うー……、う?」 馬鹿の一つ覚えで唸っていた肉饅脳が新たな異変に気付いた。目の前のゆっくりたちが、 自分の威嚇に全く動じていないのだ。普通なら自分の姿を見かけただけで大混乱に陥って 逃げ惑うというのに。これに不満を覚えたれみりゃは、いつもより大きな声で威嚇を始め た。これを怖がらないゆっくりなどいない、と本人は自信満々の威嚇であったが、ゆっく りたちがおびえる様子は微塵もない。それどころかゆっくりにはありえないくらいに険し い面持ちで、こちらを睨み付けているではないか。 「……ううううううっ!!!」 空中から一気に飛び掛る。れみりゃにはゆっくりたちの態度が我慢ならなかった。もう いい、どうせ自分に襲われたら無様に泣き叫んで助けを請うのだから。苛立ちに任せて、 れみりゃは赤いリボンのゆっくりへと襲い掛かった。それでもゆっくりは動かない。逃げ 出すこともせず、自分を更に睨み付けてくる。それがれみりゃの苛立ちを助長した。 繰り返すが、れみりゃの頭は、様々な種類がいるゆっくりたちの中でも一等出来が悪い。 普通の人間であれば、否、普通のゆっくりであってもすぐに気付いたであろう二匹の異 変にも、だから最後まで気付かなかったのだろう。 「うあ゛っ!?」 赤いリボンのゆっくりに気を取られて、もう一匹の存在を忘れていたれみりゃの横っ面 に、そのもう一匹が体当たりをした。黒い帽子のゆっくりはそのまま綺麗に着地し、不意 打ちを喰らったれみりゃは衝撃で床を転がっていく。 自然の世界ではありえない反撃。しかしれみりゃは力ある捕食者であり、相手は所詮、 やわらかい饅頭のゆっくり。森の中を勢いよく飛んでいて木にぶつかったときの方がはる かに痛い。 「……うっ、うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!! いだい゛っ゛、いだあ゛あ゛ あ゛あ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛っっっ!!!」 はずだった。本来ならば。 「ぢ、ぢぐっでじだ! ぢぐっでしたあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛!!」 れみりゃが泣き叫んでいるのは、黒い帽子のゆっくりに体当たりされたときの衝撃が思 いのほか大きかったから、ではない。 自分の皮に何かが突き刺さる痛みを、それも一箇所ではなく何箇所にも、味わったから だった。 ――ちくっとした。鋭く尖った小枝ににぶつかってしまったかのような痛みが、体当た りされた頬のあちこちを襲ったのである。予想外の痛みにれみりゃはごろごろと床の上を 転げまわった。 そこへ容赦なく追撃が入る。赤いリボンのゆっくりが、痛みにのた打ち回るれみりゃに またも体当たりを敢行した。 「うぶえ゛っ!?」 痛い痛いと泣き叫ぶことさえ忘れ、不細工な悲鳴を上げるれみりゃ。転げまわることを 中断させられたれみりゃは、改めて、自分のおもちゃになるはずだったゆっくりたちを見 る。そして、出来の悪い肉饅脳がようやっと、ゆっくりたちの体の異変に気が付いた。 とげが、生えている。ゆっくりたちの全身に、鋭いとげが何本も。それが体当たりの際 にれみりゃの皮を突き刺していたのだと、肉饅脳がゆっくり理解する。この痛みの原因は あのとげなのだ。 とげの生えたゆっくりなど、れみりゃは見たことがなかった。あれは食べられるのだろ うか。そもそもあれはいつもと同じゆっくりなのか。足りない頭の中をそんな考えがぐる ぐると巡る。しかし、悠長に考えている暇はなかった。ゆっくりたちが再びこちらに体当 たりしようと向かってきたのだ。れみりゃの肉汁に濡れて怪しく輝くとげが、どんどん近 づいてくる。 「う、う゛う゛う゛――――――っ!!!」 すんでのところで、れみりゃは宙へと飛び上がって体当たりを避けることができた。そ うだ、自分には羽がある。とりあえず飛んでいれば、体当たりをされることもないではな いか。それが分かると、さっきまで泣き喚いていたれみりゃも一転、どこか自慢げに部屋 の中を飛び回り始めた。その顔は、自分は決して捕まることはないのだという自信にあふ れていた。 人間の大きな手がれみりゃの体をむんずとつかみ、ゆっくりたちが待ち構える方へと軽 く放り投げた。赤いリボンのゆっくりがタイミングを合わせて、自分の方へと飛んでくる れみりゃに体当たりをかます。とげに貫かれ衝撃に跳ね飛ばされて、れみりゃは再び床の 上に転がった。思い切りぶつかったために、赤いリボンのゆっくりも少々ふらついている。 「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!! めえ゛え゛え゛え゛え゛っ!!!! れ゛み゛ り゛ゃ゛の゛め゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」 とげの一本が運悪く、れみりゃの右目に突き刺さったのだった。片目を潰されたれみりゃ は激痛にのた打ち回る。そこに黒い帽子のゆっくりが飛び掛った。体当たりを仕掛けるの ではない。狙いはれみりゃの背中。転げまわるれみりゃに上手く飛び付くと、その片羽に 思い切り噛み付いたのだ。 「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! はなぜ、はなぁぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛っ!!!」 全身全霊を込めて振り払おうとするが、黒い帽子のゆっくりは喰らい付いて離れない。 むしろ暴れ回るせいで、羽に噛み付く歯がより深く食い込んでいく。そして、あっけなく 羽は噛み千切られた。 「い゛だぁい゛い゛い゛い゛い゛い゛!! はねっ、れ゛み゛り゛ゃのはね゛え゛え゛え゛ え゛え゛え゛!!!! がえ゛ぜっがえ゛ぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!! う゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」 バランスの悪くなった体で泣き叫びながら、れみりゃは自分の羽を取り戻そうと黒い帽 子のゆっくりへと向かっていった。そこへダメージから回復した赤いリボンのゆっくりが 襲い掛かり、残った羽に喰らい付いて全身の力を使って引き千切る。両翼を失ったれみりゃ は、ただの肉饅となって床に転がった。 肉饅が二匹の腹の中に納まるまでに、そう時間は掛からなかった。二匹は満腹感の中で、 勝利の余韻に浸っていた。憎き親友の仇を、自分たちが取った。しかもあのれみりゃを相 手取って。その事実に、二匹はかつてないほどのゆっくり感で満たされていた。 ――そうだ、おにーさんにおれいをいわないと。 ゆっくりにしては割と賢い二匹は、自分たちを助けてくれた人間の方へと向き直った。 人間はちょうど、二匹が食べ残した肉饅の羽を拾い集めているところだった。 『――おにーさん!!!』 自分を呼ぶ声に、人間は二匹の方を振り向いた。 「おにーさん、ありがとう! おかげでふたりのかたきがうてたよ!!」 「もうこれでれみりゃなんかこわくないよ! ありがとう、おにーさん!!」 興奮気味に礼を言う二匹。まあ、人間の手助けがあったとは言え、捕食種を自力で倒す ことができたのを考えれば当然かもしれないが。 二匹の体に突如生えたとげ。それは、画鋲であった。人間はれみりゃへの対抗手段とし て、接着剤で二匹の体に画鋲を貼り付けていったのだ。こうすれば食べられることはない し、その上反撃することだってできる。二匹は人間にそう言われて、全身武装化に踏み切っ たのだった。 そんな二匹を見た人間は、ふらっと部屋から出て行った。どうしたのだろうと思ってい ると、程無く、瓢箪を手に人間が戻ってきた。そのまま二匹の前に座り込んで胡坐をかく。 そして、黙って両手を二匹の前に差し出した。 『……ゆっ?』 差し出された両手は、手のひらを上に向けていた。理解できない様子の二匹に対し、人 間は両の手のひらを招くように動かす。乗れ、ということなのだろうか。 事情はよくわからないが、とにかく二匹は人間の手のひらに乗ることにした。体の画鋲 を手に突き刺してしまわないように慎重に飛び乗る。右手にまりさ、左手にれいむ。人間 は手のひらの上の二匹を自分の肩ぐらいの高さまで持ち上げると、二匹に向かって笑いか けた。これまで無表情だった人間の笑顔を見て、思わず二匹も笑い返す。手の上の二匹は 互いに目配せをすると、タイミングを合わせて 『ゆっくりしていってね!!!!!』 元気一杯、お決まりの挨拶をした。それを見た人間は笑顔をより濃くする。そして、両 手の指で二匹をしっかりとつかんだ。無論、画鋲が刺さらないように気をつけて。 「ゆ、ゆ、ゆっ? おにーさん?」 「ゆゆっ、おにーさん、どうしたの?」 人間は笑顔のまま、ゆっくりと、二匹が乗った両手を揺さぶり始めた。 「おにーさん、やめてね!」 「ゆっくりゆらさないでね!」 突然の揺さぶりにゆっくりと抗議の声を上げるが、人間はそれを完全に無視して、更に 強く揺らし始める。がくがく揺れる視界に翻弄されながらも二匹は抗議を続けるが、一向 に止まる様子はない。 「ゆっ……ゆうう……」 「ゆっ、ゆっ、ゆー……」 揺さぶられる二匹の目が、次第にとろん、とし始める。それを見た人間はさらに揺さぶ りを強めていく。体の奥底から湧き上がる衝動に、二匹は抗うことが出来なかった。 しばらくして、人間は二匹を床の上に置いた。呼吸の荒い二匹。完全に発情しきってい た。二匹は同時に相手の方を向いた。 「ま、まりさぁ! まりざあ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!」 「れっ、れいむう゛う゛う゛うううぅぅぅ!!」 駆け寄る二匹。早く、早く触れ合いたい。一つになりたい。その一身で、最愛の親友の 元へと飛び跳ねていく。 そして、 『い゛っっっっっっっっ!!!!!!』 互いの体に画鋲が深々と突き刺さった。 反射的に距離を取る二匹。突然の痛みに混乱したまま、改めて、相手の体を見る。理解 するのは、どこかの肉饅よりずっと早かった。 『……うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛っ゛っ!!!!!!』 絶望の声が上がる。二匹は距離をとってぶるぶる震えたまま、悲痛な叫びを上げていた。 早く肌をこすり合わせたい。でもできない。体のとげが刺さってしまう。 『お゛に゛い゛ざん゛っ!!!』 二匹の様子を見守りながら瓢箪の酒を傾けていた人間に向かって、二匹は助けを求めた。 「とっで、おにいざんこのとげとげとっでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」 「おねがい゛い゛い゛い゛! すっきりできないのお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」 必死の形相で訴えかける二匹。それを見て、人間は酒を一口。 「おにーざぁん、ゆっぐりしないでえ゛え゛え゛え゛!!」 「はやぐこのとげとげとってえ゛え゛え゛え゛!!」 「……いいのか? それがないと、また襲われるぞ」 人間の言葉に、二匹はびくりと体を震わせる。確かに、このとげを取ってしまったら、 またれみりゃに襲われたときに反撃できなくなる。だが、 「まっ、またつけなおせばいいよお゛お゛!」 「またあとでつければいいから、だからこのとげとげとってえ゛え゛え゛え゛!」 「……無理、だな」 『!!』 「簡単には剥がれん。無理に引っ張れば皮ごと剥がれて死ぬぞ」 『!!!!』 人間の言葉は、二匹を絶望のどん底に突き落とすには十分なものだった。二匹は人間を 見て、お互いを見て、がくがくと震えだした。両目からは涙があふれて止まらない。やが て体の震えが最高潮に達し、二匹に我慢の限界が訪れた。 「……うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! ま゛り゛ざっ!! ま゛り゛ざあ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」 「れ゛い゛む゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!! れ゛ぇい゛ぃむ゛ぅう゛う゛う゛う゛ う゛う゛う゛う゛!!!!」 『い゛だあ゛っっっっっっ!!!!!!』 「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! ずっぎり、ずっぎりじだいよ゛お゛お゛お゛お゛!! れ゛ い゛む゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!! あ゛づっっっっ!!!!!!」 「ま゛り゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ずっぎりできないよ゛お゛お゛お゛ お゛お゛お゛お゛!!!! う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ !!!! あぁぁい゛だい゛い゛い゛い゛!!!!!!」 二匹はお互いの肌をこすり合わせようとするが、近寄るたびに全身の画鋲が体に刺さり、 思わず飛びのいてしまう。それでも何とか画鋲が刺さらないように触れ合える場所を探そ うとするのだが、どれだけ身をよじってもそんなものは見つけられなかった。二匹は号泣 しながら、近寄っては離れるを繰り返している。 人間はそんな二匹の様子を、肉饅の羽を酒の肴に、楽しそうな笑顔で眺め続けていた。 このSSに感想を付ける
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旧校舎の悪夢 単行本6巻途中から 「ん…んぅ…」 萌香が目を覚ますと、そこは旧校舎の廃墟だった。 (私はどうして…こんなところに…) 「……!」 萌香の頭の中に、先程までの記憶が瞬時に思い出される。 「よお、お目覚めか?」 前方から声がし、萌香が目を向けると、さっきまで自分と対峙していた男 御堂とその何人かの手下が自分を見下ろしていた。 「まだ死んでいないとはバンパイアのタフさには呆れたぜ。 だが、とっさに致命傷は避けたとはいえ、オレの全力の一撃を喰らったんだ。 もう殆ど体力は残っていまい」 「く…!お前!…っつあ!」 反射的に体を力を入れて動かそうとするが、その時体に激痛がはしる。 「か…かふっ!」 それと同時に襲ってきた嘔吐感を我慢できずに、吐血した。 どうやら、内臓が損傷しているらしい。 (そうだ…さっき私は、この男の攻撃を避けようとしたが 水のせいで体が上手く動かず、避けきれなかったんだ… それでダメージを受けて、気絶してしまっていたのか…。) 「無理はしない方がいいぜ。 いくらバンパイアとはいえ、本来なら生きているのが不思議なくらいだからな」 「…ちっ…なんだこれは…放せ!」 そしてそこで萌香は初めて、自分がさっき表のモカがされていたように 後ろ手で梯子にくくりつけられていることに気づく。 「いや、単に保険だよ。用心にはこしたことないんでな。 まあ、さっきみたいにブチ破ってもいいんだぜ?そんな力が残っているもんならな」 「…!こ、の…!」 萌香が渾身の力を込めて戒めを解こうとするが、手を縛める鎖はビクともしない。 もう殆ど力が残っていないらしい。 設置されていたシャワーはもう止まっているようだったが これではもう、勝機は殆どないといってもよかった。 「無理みたいだな」 勝ち誇ったように言う御堂に、萌香は思わず歯を食いしばった。 「私を…殺すのか?」 「それもいいと思ったんだがな。もっと楽しいことを思いついた」 「楽しいこと、だと…?」 萌香が問うと、御堂はそれには答えず、忌々しいといった目で萌香の方を睨んだ。 「お前…さっき、また俺達の事を見下しやがったよな…?はぐれ妖「ごとき」ってな」 「…フン。本当の事を言ったまでだ。 お前達が私を人質にして月音を誘い出すようなクズだから…。 …っ!?」 自分で月音の名前を出した時、萌香は気づいた。 そう言えば辺りに月音の姿が見当たらない。 萌香の背中に嫌な汗が流れ落ちた。 「おい…月音をどうした…?あいつをどこにやったんだ!?」 そこまで言った時、御堂の腕がぶれたかと思うと、萌香の右頬に鈍痛がはしった。 ゴッ! 「あぐっ…!」 「言葉に気をつけろよ?お前は今、そのクズに命を握られているんだぜ?」 「くっ…。月音を、どうしたかと訊いてるんだ…!」 殴られたことなんかに怯んでいる場合ではなかった。 今はとにかく月音の安否が知りたくて仕方が無かった。 そんな萌香を見て、御堂が面白そうに顔を歪める。 「いや…あいつにはうちの奴が世話になったからな… まあ、下っ端の下っ端だが。とりあえず、落とし前は付けさせて貰ったぜ」 御堂が首で近くの手下に合図をすると、少しして旧校舎の入り口から別の手下達が入ってきた。 そのうちの一人が、手に何かを引きずりながら。 「なっ…!月、音…。月音ぇえええ!」 手下に引きずられていたもの、それはぐったりとして動かなくなった月音だった。 服も泥まみれで、さっきまでの面影は無く、まるでぼろ雑巾のようになっている 月音の変わり果てた姿を見て、萌香の全身の血液が一瞬で沸騰する。 「貴様ぁ!!殺してやる!!」 萌香が、怒りで我を忘れて御堂に飛び掛ろうとする。 が、両手を拘束されているため、それは叶わなかった。 それでも、どうにかして鎖を引きちぎろうと、悲鳴をあげる体にムチを打って、何回も何回も体に力をいれる。 しかし何度やっても結果は変わらず、鎖が千切れることはなかった。 「くそ…!くっそお!!どうして…!どうしてこんなものも壊せないんだ!」 あのお人よしの月音、表のモカの想い人である月音、そして、自分にとっても特別な存在である月音。 その月音が殺されてしまったというのに、何もできない。 そんな自分に、萌香は気が狂いそうな程腹がたった。 そしてそれは、月音を殺した張本人である目の前の男にも。 「…!!」 萌香がありったけの憎悪を込めて御堂を睨む。 「おお、怖い怖い。眼力だけで殺されそうだぜ。だが落ち着けよ。こいつはまだ死んでない」 「な、何…?本当か!?」 「ああ。それなりに痛めつけたが、まだ息をするのはやめちゃいない」 月音が生きている。 そんな、ついさっきまで当たり前だった事実に、自分でも滑稽と思うほど萌香は救われていた。 しかし、そんな喜びも束の間、次の瞬間には萌香の心に暗雲が立ち込めることになる。 「だが、これからコイツが生きるか死ぬかはお前次第、ということになるがな」 「私次第…だと?」 「さっきの話に戻すぞ?お前はまた俺達をクズ扱いしやがった。 俺達をクズ扱いした純種のお前を、この俺が殺してやるのも爽快だと思ったが…せっかく生きていたんだ。 それもそんな鎖も千切れないほど弱った状態でな…。なら別にすることがあると思ってな」 そう言うと、御堂が舐め回すように萌香の体を見た。 「…?何を、言ってるんだ?」 その視線に若干の悪寒を感じながら、御堂に問う。 すると御堂は呆れたようにして言った。 「鈍い奴だな。お前はこれから俺に犯されるんだよ」 「…な…!」 萌香は、一瞬耳を疑った。 女が戦いに敗れた末路としてこういう事が起こりえるというのは知っていたが まさか自分にもそのような時が来るとは思わなかったからである。 しかし萌香は、そんな結末を享受するつもりなど、さらさらなかった。 「ふざけるな!誰がお前のような奴に体を許すか!」 「許さなくてもいいぜ。俺が決めたことだから、お前の意思なんか関係ない」 「フン…みくびるなよ? 例え力がなくなったって、お前のような奴に辱めを受けるくらいなら、私は死を選ぶ。 自害してでも、お前の好きになど…」 「いいのか?月音が死ぬことになるぞ?」 「…!な…なん、だと…?」 (月音が死ぬ…?何を、言ってるんだコイツは…?) 月音の名前を出されて、萌香の表情に影が差す。 「その為にこいつを生かしておいたんだ。お前なら必ずそういうと思ってな」 「お、お前の目的は私だろう!さっさと月音は解放しろ!」 「わかってないみたいだな。俺達には月音を生かしておく理由がないんだぜ? 力のないお前がこいつを守るには、黙って俺の言う通りにするしかないんだよ」 「嘗めるな…!どうして私が…」 「もっとも、こいつのことがどうなってもいいというんなら好きにすればいい。 後からこいつもあの世に送ってやる」 「…ッ!」 萌香がぎゅっと口をつぐむ。 そして、自分なりに考えを巡らせた。 もし私がここで自害したなら、月音を殺すだと…? ハッタリだ…。 私が死んだ後にコイツ等が月音を殺したところでなんのメリットも無いはずだ。 コイツはこう言って、私をいいように扱おうとしているだけだ。 …だが確かに、さっきコイツが言ったように、このはぐれ妖達が月音を生かしておく理由は何もない。 むしろ私を弄べなかった憂さ晴らしを月音でするかもしれない。 この連中なら、それくらい平気でやる…。 … …駄目だ、やはり。 月音は何があっても、無事人間界に帰さなければいけない… 萌香には、初めから選択肢など無かった。 「…私がお前の言う通りにしたら、月音の事は助けるんだな?」 「ああ、そうしてやる。俺もそこまで鬼じゃないからな」 「わかった…。私はお前の言う通りにする。だから月音は殺すな…」 「くく、よっぽどこの使い魔の事が大事みたいだな。いいだろう。お前ら、月音から離れろ」 御堂が満足そうに笑い、手下に命令する。 すると、月音の周りにいた連中が一斉にそこから離れた。 「そしてお前、この女の鎖を解いてやれ」 「い、いいんですか?御堂さん」 「ああ、この女に力が殆ど残っちゃいないのはさっき証明されたからな。 元がいくら強くても、今はどう転んでも俺には勝てない」 そして手下の一人が萌香の手の鎖を外す。 「…く…」 今の自分では、その辺のはぐれ妖に勝てるかどうかすら怪しい。 萌香は御堂の言葉通りの現状に歯噛みしながら、その男の前に立った。 「…それで、どうすればいいんだ…?」 御堂の前に立った萌香が問うと、御堂がズボンから自分の一物を取り出した。 「そうだな、まずはこれを舐めてもらおうか」 「……!!」 萌香が思わず息を飲む。 まさか萌香は、自分が生まれて初めて見る勃起した男性器というものが、目の前のような男のものだとは思いもしなかった。 そう驚くと同時に、自分がどうしてこのような男のモノを舐めなければならないのかと思うと、悔しくて涙が出そうになる。 そもそもこの男の言う通りにしたところで助かる保障はどこにもないのだ。 それならいっそのこと、イチかバチか目の前の男を倒そうとした方がいいんじゃないか、と思う。 勝率は絶望的だが、今はもうシャワーも止まっているしさっきよりは戦える。 上手くいけば月音も助け出せる…。 考えれば考えるほど、萌香にはそれが魅力的な考えに思えてくる。 だが、そこまで考えて、萌香ははっと我に帰り自分の考えを打ち消した。 (何を考えてるんだ私は…わざわざ月音を危険にさらす気か…!) 少し離れたところでぼろぼろになっている月音に目を向ける。 (…すまないな…ただの人間であるお前をこんなことに巻き込んでしまって…) 心の中が、月音に対して申し訳ない気持ちで一杯になる。 自分が関わったせいで月音を不幸にしてしまった事が、何度後悔してもしきれなかった。 しかし、過ぎてしまったことをいつまでも嘆いていても仕方が無かった。 (今、私が月音の為にできること…それはなんだ?) 自問し、さっき自分が誓ったことを思い出す。 そうだ…私はついさっき、月音をここから無事人間界に帰すと誓ったじゃないか。 少なくともこの連中は、自分が言う通りにしている間は月音には手を出さないらしい。 今は、それだけでもいい。 きっといつかチャンスがまわってくるはずだ。 たとえ助かる可能性が0に近くても、0でないのなら… 月音が助かる可能性が少しでも上がるなら、私はなんだってしよう。 大丈夫だ月音…お前は私が守ってやる… 萌香は、覚悟を決めた。 「これを…舐めればいいんだな?」 「ああ。それで俺をイカせて貰おうか」 「…」 萌香が跪き、勃起した御堂のそれに手を添えた。 顔を近づけた瞬間、ムっと濃い雄の臭いがして思わずえずきそうになったが我慢し、それを咥え込んむ。 「ん…」 そして萌香なりに目の前の男を悦ばそうと思い、舌を滑らせた。 「んっ…んっ…」 「噛んだりしたら、その時点で月音を殺すからな」 「んは…。わかっている!」 一度、咥えていた口を離し、頭上から聞こえてきた忠告に語気を荒くして答えると 今度は舌先でペニスの先端をチロチロと舐めてみる。 ちゅ…ぴちゃ…ちゅぱ…… 「おい…バンパイアが御堂さんのモノをしゃぶってるぜ。 あんなに御堂さんの事を見下してたのに、ざまあないな」 「…くっ…!」 時折周りから聞こえてくる嘲笑にも耐えながら、萌香は懸命に御堂のペニスを舐め続けた。 だがしばらく経ったところで、おかしな事に気づく。 いつまでたっても、御堂が果てる様子が無い。 (男というものは、ここに刺激を与えていたら、そのうち精液を出して終わるものではなかったのか…?) 萌香が自らの拙い性知識と現実との違いに戸惑っていると、御堂がわざとらしくあくびをして言った。 「おい…そんな眠くなるような舌使いじゃ、いつまで経ってもイケないぞ?」 「…なっ…!」 お前のやり方が下手だ、と言われて、思わず萌香の顔が赤くなる。 「し、仕方ないだろう!!やり方がよく分からないんだ!」 「こんなこともろくにできないとは、バンパイアも意外と使えないな」 「なんだと!?だいたい貴さ…っんう!?んぐううぅ!」 不当な侮辱を受けて激昂した萌香の頭をいきなり掴むと、御堂はそのまま萌香の小さな口に自らのペニスを挿入した。 ペニスの先端が喉のほうまで到達して、萌香が一瞬吐きそうになる。 「おお、こりゃいい。生暖かくて最高だぜ」 だが御堂がそんな萌香の事情など気にするはずもなく、萌香の頭を掴んだままそれを激しく前後させる。 「んぐぅ!!んんん!ぐぅ…!」 頭を動かされるたびに、喉の奥にペニスの先端があたる。 吐き気に加えて、息もまともにできず、思わず目に涙が浮かんでくる。 好き勝手やっている御堂とは違い、やられている萌香にとってはまさに地獄の苦しみだった。 「ぐぅうう!うむうぅう!…うぐ…!」 どれくらい経っただろうか。 軽い酸欠と吐き気で、萌香の意識が朦朧としてきた頃、萌香が咥えさせられているペニスが一段と固くなった。 「そろそろイキそうだ。しっかり受け止めろよ!」 そう言うと、御堂が萌香の頭をガシっと掴んで押さえ込んだ。 「んむう!!んぐ…!うぐううううぅ!!!」 ビュク!ビュク!ビュク! 頭を押さえ込まれると同時に、萌香の口内に大量の精液が発射される。 何回かペニスを振動させ終わると、御堂はやっと萌香の頭を解放した。 「!!うぅ…!!ゲホッ!!ケホッ!ケホ!うえぇ!」 「あ~あ、もったいねえな。せっかく口の中に出してやったのに」 涙目で酸素を取り込みながら、口に出された精液を吐き出している萌香に、御堂がまるで他人事のように言う。 それを聞いた萌香は、一瞬にして頭に血が上った。 「…っこの、クズが!!よくもこの私にこんな…ぁああ!!」 グイッ 御堂が、喋っている途中の萌香の髪を掴んで、力任せに引っ張り上げた。 「何回も言われないとわからないみたいだな?お前は今、そのクズ以下の存在だってな」 「こ、の…離せ!!」 髪を引っ張られながらもなお、萌香は射抜くように御堂を睨む。 すると御堂が、やれやれといった様子で言った。 「反省の色が無いな。ここでお前を痛めつけるのは簡単だが、それよりも…」 御堂が倒れている月音がいる方を向く。正確には月音の近くにいる手下の方を。 そして、ごく普通の口調でその手下に命令する。 「おい、そいつ殺せ」 その言葉を聞いて、萌香は血の気がひくのを感じた。 「…!?待て!!貴様、一体何を!?」 「何って…お前が俺の機嫌を損ねたから、月音が死ぬことになったんだ。 かわいそうだな、あいつ」 少しも感情のこもってない声で御堂が答える。 その声を聞いた萌香はぞっとする。 目の前の男は、本当に月音を殺す事なんかなんとも思ってないのだ。 そうわかった時、萌香は自分のとった行動を心底後悔した。 「や、やめろ!!…わかった…謝る!お前を不快にさせた事は謝る!だから、あいつには手を出すな!」 「謝るにしては、随分と偉そうだな?言葉使いがなっちゃいないようだが…もっと誠意を見せてもらおうか?」 「…っ!」 (この下衆が…!調子に乗りやがって…!) 萌香がギリっと歯を食いしばり、無意識のうちに目元を吊り上げる。 すると、その目が気に入らなかったのか、御堂がいらいらした口調で言う。 「なんだ、その目は?よっぽど月音を殺したいらしいな」 「!?ま、待て!」 (駄目だ…これくらいで腹を立てていてどうする…。月音の為だろう…?) 萌香はそう自分に言い聞かせると、気を落ち着かせ、やがて呟くようにして言った。 「…わ…わかり、ました…謝ります…。だから…月音には、手を出さないで、下さい…」 御堂はそんな萌香の様子を見て、満足そうに嗤った。 「…クク、やればできるじゃないか。おい、やっぱり月音は殺すな」 「…っ…」 萌香は、改めて、自分と月音の運命が目の前の男に握られているということを認識させられ その理不尽さに、泣きたいような叫びたいような、なんともいえない気持ちになった。 しかし、萌香が気分を沈めている暇もなく、次の命令が下される。 「そうだな…次は、服を全部脱いでもらおうか?」 「…くっ…。…わかった…」 萌香にとって、それは屈辱的ではあったが、予測していたことだったので、ショックは少なかった。 言われたとおり、制服に手をかけ、ブレザーを脱ぎ、カッターシャツのボタンを外していく。 一つ服を脱ぎ捨てる度に、周りから品のない野次があがったが、萌香は聞こえないフリをして 今、最後の衣服であるショーツを脱ぎ去った。 「…これで…いいのか?」 「ほう…綺麗な体をしているじゃないか」 御堂が一糸纏わない萌香の体をまじまじと観察する。 本来、人前で肌を見せる事にはあまり抵抗のない萌香だったが、多数の男達に晒しものとして自分の体を凝視され 流石に不快感を感じずにはおれず、頬が紅潮してしまう。 萌香がしばらくその羞恥に耐えていると、突然、御堂が萌香の胸に手を触れた。 「っ!」 生理的嫌悪感を覚えて、萌香が即座に手を払うと、御堂が萌香にとって呪いの言葉とも言える言葉を吐く。 「月音がどうなってもいいのか?」 「…ッ!…好きにしろ!」 萌香が手を下ろし、再び御堂の手が萌香の胸に触れる。 むにゅ、むにゅと、形のいい胸が御堂の手によって歪んでいく。 「意外に柔らかいな。もっとゴツゴツしていると思っていたが。月音の奴には触らせたのか?」 「…貴様に答える義務はない」 ふざけた口調で出された質問にそう返すと、萌香は再び口を閉じる。 さっきから萌香は、月音の名前を出されると、なぜかおかしな気持ちになった。 月音の為ならばこそ、この状況にも甘んじてる自分だが、なんだか酷く後ろめたい気分になった。 それになぜさっき自分は…月音には触らせたことない、と言えなかったのだろう? 萌香にはそれが、どうしてもわからなかった。 そんなことを考えていると、萌香が自分の体の異変に気づいた。 「…!?」 (なんだ、これは…体が熱い…) 突然、体が汗ばみ、動悸が激しくなり、息が荒くなる。 そして、さっきまでは不快感以外何も感じなかった目の前の男の愛撫が 次第に官能的なものになっていくのを感じる。 じわ…と、萌香の全身に、胸から甘い痺れが広がっていく。 萌香は唇をきゅっと結び、その快感を自らの中へ押し込めた。 「…っ…っ」 それでもなお大きくなっていく快感に、萌香が戸惑いながらも抗っていると 御堂がわざとらしく萌香を気遣うような事を言った。 「どうした?随分と苦しそうな顔をしているじゃないか?」 「…つ…!」 「そろそろ、あの薬が効いてきたか」 「な…なん…だと…?」 萌香は、目の前の男が何を言っているかわからなかった。 すると御堂が、今萌香の体に起こってる異変のタネを明かす。 「実は、お前が気を失っている間に特別な薬を体に注射させてもらった。 それは知り合いの看護師から貰った媚薬でな…体の感度を何倍にも高めるんだ」 「く…き、さま…!」 萌香は、月音を人質にとっただけでなく、自分にこのような薬まで投与した目の前の男に改めて怒りを覚え 罵声の一つでも浴びせたくなったが、今は体の快感を抑えるだけで精一杯だった。 そして、それが御堂にもわかったのか、にやっと笑みを浮かべて言った。 「クク、その様子じゃ、効果は抜群みたいだな。バンパイアと言えども、所詮はただの女ということか」 「な、何を戯けたことを!!この私がそんな薬などに…ぅうん!!」 萌香が言い返そうとした時、御堂が既に固くなっていた萌香の乳首を摘み上げた。 「じゃあなんなんだ、これは? 薬のせいじゃないとしたらお前は、好きでもない男に体を嬲られて悦んでいる変態ということになるが… それとも、こんな大勢に見られて興奮でもしているのか?」 御堂が萌香の乳首を玩具のように引っ張りながら言う。 「くぅ…!そ…そんなわけあるか!!いい加減、離せ!…んああ!!」 萌香は胸を触っている御堂の手を掴み、無理矢理離そうとするが、もう片方の乳首を指で弾かれて手の力が抜けてしまう。 さらにそれだけでは終わらず、御堂の指が萌香の乳首を弄んでいく。 「あっ…あっああ!!…ふぁあ!んんん!!」 摘まれたり、指で愛撫されたりする度に、萌香の脳に胸から強烈な快感が響く。 ただ乳首を指で転がされるだけで、自分では意識せずとも勝手に声が出てしまう。 まるで体が自分のものではないように。 萌香は、薬のせいとはいえ、目の前の男の愛撫に過剰に反応してしまう自分の体を憎らしく思った。 「っ…はあ…!はあ…!はあ…!」 「随分と気持ち良さそうだな?」 散々乳首を弄られて、息も絶え絶えといった様子の萌香を見て、御堂がからかうようにして言う。 「…っ!き…気持ち…よくなんか、ないっ!」 あまりの快感に、瞳を潤ませ、口を半開きにしていた萌香だったが 御堂の言葉によって我に帰り、怒りで快感を押さえ込んだ。 「離せと言っただろう!!」 そして、力任せに、御堂の手を払う。 御堂はそんな萌香の行動に、気分を害された様子もなく言った。 「そんななりで言っても説得力がないぜ?素直に言っちまえよ。気持ちよくて仕方ないです、ってな」 「ふざけるな!!私はそん…なあぁ!?」 くちゅ… そんな淫乱ではない、と萌香が反論しようとしたが、御堂が萌香の秘所に指を這わせ、それを許さなかった。 「そんな…なんだ?下のほうもこんなに濡らしてるじゃねえか」 そして、御堂が指を萌香の秘所に侵入させると、粘性のある液体がそこから滴り落ちた。 それを見て、萌香がかあっと顔を赤くする。 「や、やめろ!!」 咄嗟に萌香が御堂の手を押さえ、手をどかそうとするがまるで効果は無く 御堂はそのまま、進入させた指を萌香の中で蠢かせる。 くちゅ…くちゅ…くちゅ… 「くあ…!やめ…ろぉ!!うあっ!…あっ…あぁ!!…くはあぁあああ!!!」 御堂の指が秘所を掻き回す度に、萌香の体に電撃的とも言える快感が走る。 もはやされるがままの状態になっていた萌香は、なんとか現状を脱しようとしたが、それは叶わなかった。 体に全く力が入らず、目の前の男の指先一つで自分の体をコントロールされてしまう。 萌香は、そんな自分がなんとも不甲斐なく、そして情けなくて仕方がなかった。 更に、そんな萌香に御堂が追い討ちをかける。 「まさか、高貴なバンパイアが、見られながら嬲られるのが好きな変態だったとは思わなかったぜ」 「く…ぅん!!だ、黙れ…!んああぁ!!黙れええええ!!!」 本来この快感は萌香自身のせいではないのだが、冷静さを失った萌香の心をえぐるには 御堂の言葉は充分すぎた。 (この私が、このような奴に嬲られるのが好き、だと…?そんな筈はない! ましてや…私がこんな姿を下衆な連中に、見られるのが…好きなわけ… 好きな、わけ…) だが、皮肉にも萌香がそう思えば思うほど、体の性感はどんどん高まっていった。 加えて、御堂の指の動きがさっきにまして激しくなる。 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ… 「あ…ああっ…!あああぁ!!」 秘所から分泌される蜜が明らかに多くなり、萌香は自分の中で徐々に何かが大きくなっていくのを感じた。 するとその時、御堂が不意に、充血しきっていた萌香のクリトリスをきゅっとつまみ上げた。 「ひっ…!!」 その瞬間、萌香は、瞼の裏が真っ白になり何も考えられなくなる。 そして、体がひとりでにのけぞった。 「んあああああぁああああ!!!」 ビクッビクっと体を何回か痙攣させ、萌香は立っていることも叶わず地面に倒れこんだ。 「はあ…っはあ…っはあ…」 絶頂の余韻で脱力し、肩で息をする萌香をあざけ笑う声が、周りから聞こえてくる。 萌香は、あまりの羞恥に、そのまま地面に突っ伏して泣きたい気分になったが 「派手なイキっぷりだったな」 頭上で今もなお自分の羞恥を煽ろうとしている男や、自分を見世物として楽しんでいる連中に己の弱さを見せるのは プライドが絶対に許さなかった。 怒りと悔しさを押さえて、ぎゅっと口をつぐむ。 一方で、羞恥に身を震わせる萌香を面白そうに見下ろしていた御堂が、不自然と思えるくらいの軽い口調で口を開いた。 「じゃあ、そろそろやるか」 「…!やるって…これ以上何をする気だ!!」 この男は、自分にこんな醜態を晒させただけでなく、まだ何かするつもりなのか。 そう考えただけで、萌香は腸が煮えくり返るような感覚に襲われた。 だが御堂はそんな萌香とは対照的に、顔に冷たい笑みを浮かべ言った。 「何言ってるんだお前。本番はこれからだろう?」 「なっ…!」 萌香は絶望した。 今までも散々な辱めを受けてきたが、それはまだ序章に過ぎなかったことに。 そうだ…この男は自分を犯すといった。 今から自分はこの男に純潔を奪われるのだ。 そう思うと、月音を救う為ならなんだってしてみせると覚悟を決めたはずなのに 萌香はどうしようもなく怖くなった。 「オラ、いくぞ」 御堂が萌香に手を伸ばしてくる。 「ま、待て!!」 萌香がなんとかその手から逃れようとするが、先ほどの絶頂もあって体に上手く力が入らない。 御堂はあっさり萌香を捕まえると、四つんばいの体勢をとらせた。 「頼む!それだけは…!それ以外の事ならなんでもする!だから…」 プライドも捨て、藁にもすがる思いで萌香が懇願する。 しかし、萌香の願いが聞き入れられることは無く それどころか御堂は、必死になっている萌香を見て口元を吊り上げた。 「まさか今頃になってビビッたのか?だがどっちにしろ、そんな要求、呑むわけ無いだろう?」 御堂がニヤニヤ笑いながら言うと、萌香の腰を掴んだ。 「…っ!…嫌だ…やめろ…」 得体のしれない恐怖に襲われ、萌香が無意識のうちに首を振る。 だが御堂は、そんな萌香の言葉を軽く聞き流すと、自分のペニスを掴み、それを萌香の秘部に近づけた。 「…やめろおおおおおおおお!!」 旧校舎に、萌香の叫び声が響いた。 -悪夢の終わり、そしてへ続く。
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四人戦SSその3 ――――合コン。 ――――それは、見知らぬ男女同士による、親睦を深め合う集い。 ◆◆◆◆ シュッ、チッ ボゥ……ジジ……―――― 眩いネオンに彩られた暗闇を眼下に、1点の熱を帯びた光が灯る。 夜のオフィス街。連なる摩天楼群。 高層ビルはひしめき立ち、人工的な明かりを以って自己主張している。 まるでその高さを、派手さを競いあっているかのようだ。 ネオンが放つ作り物の光とは対照的に。 マッチが灯す暖かみのある光。 灯りはゆっくりと煙草に近づいていき、その熱を分けてやる。 「スゥーッ____」 燻られた煙草の煙が、ゆっくりと肺に届けられる。 気管を巡った空気は鼻腔を抜け。 「フゥーッ____」 紫煙と共に、勢い良く体外へ放出される。 「戦いの前の一服は、最高だなぁ」 噴流煙は言葉を漏らすと、続けざまに煙を含んだ。 闇夜。無人の高層ビル群。その一角の屋上。 ここが、噴流煙の”夢の戦い”出現位置。 屋上には噴流煙以外の姿は無く。 周りには高低連なる無数のビルの群れ。 見下ろせば、眼下から照らし出されるネオンの光が沸き立ち。 見上げれば、より高いビルの群れが悠然と聳え立っている。 噴流煙が再び紫煙をくゆらせると、煙は瞬く間に霧散した。 ビル風だろう。うねりを上げた風がビルにその身をぶつけ、乱舞している。 シュッ、チッ ボゥ……ジジ……―――― 2本目の煙草に火を点け、噴流煙は思い返す。 先日見た“無色の夢”。 その最中、まるで煙が脳まで回ってきたかのように、頭の中に入り込んできた情報を。 「戦闘空間」、「対戦相手の名前・能力」、「戦闘のルール」、「戦闘空間での負傷」、「勝者と敗者への賞罰」。 自分同様、これらの情報は他の対戦相手にも知れ渡っている。 そう推理するのは当然の帰結であった。 「賞罰……ねぇ」 口内で反芻した煙ごと、吐き出される言葉。 噴流煙は、褒賞など望んでいない。 専ら現実の暮らし、学園での生活こそが彼の望むものだ。 何だったら、特別な夢を見たいヤツがいるのならば手を貸すのも良いとすら考えている。 ただ――――。 「――――煙草の無い世界に閉じ込められるのだけは堪らんらぁあ」 現実世界から持ち込んだ煙草の本数は500本。 早くも3本目の煙草に火を点ける。 そのまま力無く屋上の手すりに身を預けたのは。 その体勢が最も楽に街下を眺められたからだ。 街下からこちらを覗き込む、ボヤっとにじんだネオンの光。 まるで火の点いた煙草のようだ、と、噴流煙は苦笑した。 口に咥えた煙草の煙がゆらゆらと昇っていく。 バカと煙は何とやら。 煙に導かれるように、噴流煙は歩き始めた。 頂上を。一番高い場所を目指して。 ◆◆◆◆ ピリッ、ペリペリッ ベリベリリリリリ………… ビル風が巻き起こす喧騒を引き裂くかのように、 顔パックの剥がされる音が暗闇に響く。 夢の戦いは、転送時に身に着けていたものが持ち込まれるルール。 であれば。 白鳥沢ガバ子が日課としている、就寝前の顔パックが持ち込まれるのは至極当然の道理。 お肌のケアに何よりも大事なことは、継続すること。 目に見えない日々の努力こそが、白鳥沢ガバ子の真骨頂であった。 バリッ、ボリボリッ ムシャッ……ボリッ……―――― キメ細やかな肌。 その形成に必要な要素とは即ち。 そう、保湿と潤いである。 顔パックは肌の生成・維持に十分な湿度を保つ。 ならば、潤いは何を以って与えるか。 即ち、輪切りにしたきゅうり。 輪切りにしたきゅうりを、顔パックの上から貼り付ける。 90%以上もの水分で構成されるきゅうりの瑞々しさ。 それこそが、肌に潤いを与えるのに最も適している事を、白鳥沢ガバ子は理解している。 「ふむ。戦闘領域のう……」 立入禁止。 目前に立てかけられた看板を尻目に、白鳥沢ガバ子は思案する。 看板から伸びた有刺鉄線は、ゆるいうねりを生じながら、どこまでも伸びており、戦闘領域の外周を覆っていた。 まるで、外部からの侵入を拒むかのように。 まるで、内部からの逃走を阻むかのように。 「……なるほどのう」 ぷるん、と頬は弾み。零れるは笑み。 しっとりとキメの細やかな餅肌は、さながら赤ん坊の如し。 吹き荒れるビル風に頬を撫でられるも、その弾力で押し返す。 米の研ぎ汁。 栄養素の溶け込んだ水を塗布する事により、赤ちゃんの肌は完成する。 「グハハハハ! どれ、そろそろ向かうか。戦場にのう」 乙女の戦場とは是即ち、恋の始まる場所である。 恋の始まる場所とは。 決まっている。最もムードのある場所。 夜景を一望出来る、最も標高の高いビル。 そこでこそ、ロマンティックは始まる。 眩く照らされる、凛と輝くネオンの光。 まるで星屑の海のようだ、と、白鳥沢ガバ子は歓喜した。 「ククっ。ワシ、なんだか……」 「ドキドキしてきたわ」 恋する乙女の戦いが始まる。 ◆◆◆◆ ヤマノコが先ず確認したかったことは。 この空間における人間の存在。 対戦相手以外に果たして人間は存在するのか、という点である。 戦闘領域は「巨大な高層ビルが立ち並ぶ、無人のオフィス街」。 対戦相手以外の人間が存在しないことは、半ば無理やり理解させられた。 だが。それでも、ヤマノコは己が目で確かめたかった。 「……やっぱり、だれもいないね」 たくさんの灯りの下には、皆それぞれの生活があって。 灯り一つ一つに、誰かの願いがある。 おぼろ気だが芯のある光は、まるで、叶えたい願いごとのように思えた。 だから、確かめてみたかった。 自分には叶えたい願いなんてないから。 他の人が願うものを見てみたかったから。 そんな思いも露虚しく。 ヤマノコの行為は既に知りえた情報を確証づけるに過ぎなかった。 「……えっ?」 ヤマノコの小さな手と、ヘヴィ・アイアンの筋張った手。 繋いでいた手を、僅かながらも強く握られ、ヤマノコは思わず声を上げた。 「ヨー・プリティ・リル・ガール」 相も変わらぬ陽気な笑顔で微笑みかけるヘヴィ・アイアン。 ヤマノコの掌が、ヤマノコの心が、暖かいもので包まれる。 「安心しな」「大丈夫だ」 握られた手から伝わってくる言葉。 あの丘で聞いた、軽やかな音色。 あの丘で聞いた、大切なおまじない。 その言葉はヤマノコを強くした。 「……いこう?」 強く握り返し、視線を宙に投げる。 視線が射抜くは、闇を飲み込み、悠然と立ち尽くす鉄と光の世界。 それは、この領域で最も標高の高いビル。 少女と大男。 守られる者と守る者。 ネオンによって映し出された二つの影は、今再び闇夜に溶けていく。 ◆◆◆◆ 私、菱川結希は、ビルの屋上から街下を見下ろしていた。 眼下には無数のネオンが照らし出され。 上空には今にも落ちてきそうな夜空だけがあった。 恐らく、ここがこの戦闘領域で最も高いビルなのであろう。 そこが私の出現位置だったのは幸か不幸か、未だ知る由も無い。 高さにして700、いや、800mはあるだろうか。 少なくとも、文乃と一緒に昇ったスカイツリーよりも高いであろうことは容易に想像できた。 「はぁ~っ……」 思わず漏れ出た溜息を抑えようともせず、私はそこから動けずにいた。 キャンドルライトのように淡く広がったネオンの光は、いつか消える時が来るのだろうか。 くっきりと彩られた光もいつかその輝きを失くし、闇に飲み込まれる。 まるで、私の記憶のようだと悲哀する。 ――――アムネジアエンジン。 記憶と引き換えに瞬間的に身体能力を強化する、私の能力。 ギアを上げるほど、身体能力は向上する。 単純だが弱い能力では無いと考えていた。 だというのに。 「はぁ~っ……」 再び深い溜息が漏れる。 だというのに、私と同系統の身体強化能力者が、他にもあと2人いる。 これでは、必然的にシンプルな真っ向勝負になる、 言い換えれば、削り合いによる長期戦となることは想像に容易い。 その考察が、私の能力制約が、この戦いのルールが。 憂鬱という名で私に重く圧し掛かってきていた。 長期戦になるということは、それだけ能力の使用回数が増えるということだ。 能力の使用回数が増えれば、その分だけ私の記憶はくべられる。 そして、この戦闘のルールでは”肉体の負傷”は全て回復されるが、 消えた記憶は肉体の損傷に含まれるのか、という疑問がある。 私の考えでは、答えはNoだ。 記憶の損傷は、肉体に何らダメージを帯びていないのだから。 私の導いた三段論法が、否が応にも溜息を漏らさせる。 この場に文乃が居れば、「よく気づきましたねー。結希ちゃんは聡明ですねー」だなんて褒めてくれるだろうか。 有り得もしない自分の妄想に辟易する。 「はぁ~っ……えっ……?」 三度目の溜息が漏れると同時、言いようも無い圧力を感じた。 ここは、私達以外は無人の空間。 つまり。 「……敵!」 ガチリ、とスイッチを切り替える。 空気が淀む。 段々と近づいてくる圧力は、体の内側から内臓を弄られているかのようだ。 戦いの始まりを予感した私の胸は、私の意思とは無関係に脈動する。 ガチャッ ここ、屋上へと続く扉が勢い良く開かれる。 そこから飛び出してきた男は、私が予想だにしない言葉を発した。 「た……たすけてくれらぁーーーー!」 「……えっ?」 何かから必死に逃げ惑う男。 恐らく噴流煙であろう、の様子から、私の警鐘は全力で鳴り響いた。 違う! 圧力の正体はこの男ではない! 噴流煙も私と同じ……圧力にあてられ逃げてきたのだ! 「~~~~っ!?」 背骨に氷柱を刺し込まれたかと誤認するような悪寒を感じ、振り向かされた。 そこには。 動物の毛皮に身を包み、丸太のような太ももが印象的な2m近い巨漢の女の子が聳え立っていた。 「グハハハハ!屋上まで誘い出すだなんて……オヌシ、見かけによらずロマンチストじゃあ!のう?」 間違いない。 この女性こそ、白鳥沢ガバ子。 人呼んで――――。 ――――人類の到達点。 ◆◆◆◆ その重量感。 その威圧感。 戦車に砲塔を突きつけられた時も、きっとこのように感じるのだろう。 私は、額から染み出す汗を拭うことすら忘れていた。 のそり、のそり。 獲物を狙う肉食獣のように、ゆっくりと距離を詰めてくる白鳥沢ガバ子の姿を、ただ見ているだけしか出来なかった。 「ん?……ヌシ。菱川結希じゃな?」 「えっ……?あっ、はい」 思わず素っ頓狂な返事を返してしまうと。 白鳥沢ガバ子は、まるで山賊の酒宴を想起させるかのような、大きな笑い声をあげた。 「グッハッハッハ!そうか!ワシはとことん”ユキ”という名に縁がある。のう?」 白鳥沢ガバ子から感じる圧力は相も変わらずだが。 悪い人では無いのかもしれない。 そんな考えが頭をよぎった。 「そっちに居るのが噴流煙じゃな?残るは1人……いや、1組か。ガハハハハ」 どっこいしょ。空耳が聞こえた気がした。 そのまま、白鳥沢ガバ子はその場に腰を下ろす。 どうやら。 どうやら、即座に戦闘を開始するつもりでは無いらしいが。 この人は、本当に戦う気があるのだろうか。 そんな考えすら浮かんでくる。 釣られて私も腰を下ろそうとした、その瞬間。 白鳥沢ガバ子に押し倒された。 「危ないところじゃった。のう?」 先ほど私が居た位置には、黒ずんだヘドロ状の物体が蠢いている。 私は直感した。 これは。 「チッ!」 苦虫を噛み潰した顔で私達を見据えている、噴流煙の魔人能力だ。 キセルから煙を吸い上げ、再び宙を舞うヘドロ。 山賊染みたステップで回避しながら、白鳥沢ガバ子は私に告げてきた。 「むぅん。ならばここはワシが相手をしちゃろう」 「手出し無用じゃ。男女問題は常に1対1じゃあ!」 その申し出は正直、有り難かった。 噴流煙からしても、身体強化系能力者2人を一度に相手取るのは得策では無いだろう。 夢の戦い。 初戦。 噴流煙VS白鳥沢ガバ子。 ◆◆◆◆ 風が強く吹いていた。 うねりながら、地面からせり上がって来るビル風。 風は、気ままにその形を変える。 そして。 噴流煙の吐き出すヘドロもまた、風に煽られ躍動する。 予測不可能。変幻自在。 不規則に乱舞するヘドロが白鳥沢ガバ子を襲う。 「ぬうぅぅんっ!!」 雄叫びと同時に踏み抜かれるタイル。 畳返し、否、タイル返しとでも言うべきか。 直立に跳ね上げられたタイルは、その身を以って白鳥沢ガバ子を守る。 見れば、白鳥沢ガバ子の身体は、先ほどよりも一回り大きくなっているようだ。 息も荒々しく、太ももは牛の2,3頭をまとめて蹴り殺せるとすら思わせられる。 白鳥沢ガバ子の能力。コンカツ。 その特性は、ドキドキを力に変える。 噴流煙にとっての不運は、この場所で戦闘を行ってしまったことであろう。 「吊り橋効果」 恐怖心を恋のドキドキと錯覚させるそれは、この地上700、800mの高所では、否応なく効果を発揮する。 「グハハハハ!」 タイルを踏み抜きながら接敵する白鳥沢ガバ子の拳が、噴流煙を捉える。 噴流煙は、己の武器であるキセルごと腕をへし折られ、柵まで吹き飛ばされた。 噴流煙にとっての不運が、この場所で戦いを挑んでしまったことであるならば。 白鳥沢ガバ子の不運は、噴流煙のキセルを折ってしまったこと。 煙草の吸えなくなった噴流煙は、思いもよらぬ行動を取る。 禁 断 症 状 ゆっくりと近づいていく白鳥沢ガバ子。 噴流煙は、朦朧とした目で体勢を入れ替え、ガバ子を追い込むように柵に手をつく。 私は、この体勢を知っている。 壁ドン。 かつて文乃に冗談半分にやられたそれを思い返すと、 不思議と頬に熱が篭るのを感じた。 壁ドンの威力を、私は身を以って知っている。 これは、本能に訴えかける技だ。 女性であれば例外無く、この技から逃れる術は持たない。 かつて私がやられたそれは、女性同士によるものだ。 にもかかわらず、身体は熱を帯び、思考回路は停止した。 胸がドキドキするとは、あのような状態を言うのだろう。 もしも――――。 ――――もしもこれが、年頃の男女同士であれば。 ――――もしもこれを受けるのが、恋する乙女であれば。 その威力、筆舌に尽くし難い。 多分に漏れず、白鳥沢ガバ子はその動きを停止した。 先ほどまでの、全てを飲み込む濁流は。 油の切れたぜんまいロボのように、鈍音を漏らしながら動きを止めた。 思考回路はショート寸前であろうことは、傍から見ている私の目からも明らかであった。 そして。 あろうことか、噴流煙は。 そのまま――――。 ――――白鳥沢ガバ子の唇を奪った。 「ガバァッ!?」 それが噴流煙の攻撃だと気づいたのは。 白鳥沢ガバ子の口から漏れ出る黒ずくんだヘドロ状の物体が見えたからだ。 これが、噴流煙の奥の手。隠し持った刃。 口内を通じた直接投与。ゼロ距離からの射出。 だらり、と下げられた白鳥沢ガバ子の腕が、不規則に脈動している。 噴流煙は、なおもその唇を離さず、死にも等しい接吻を与え続ける。 白鳥沢ガバ子と言えど、ここから逃れられる技など皆無であろう。 …………技、という言葉を用いたのには理由がある。 もはや、あれは―――― ――――技ではない。 白鳥沢ガバ子の肉体が、赤く、どす黒く変色していく。 白鳥沢ガバ子の能力。コンカツ。 その特性は、ドキドキを力に変える。 そして、その効果は、幾重にも累積される! 吊り橋効果によるドキドキ。 唇を奪われたことによるドキドキ。 毒素による発熱、そして動悸。 積み重ねられたドキドキは、ガバ子の身体を何倍にも膨れ上がらせた。 そして。 「ぬううんっっっっ!!」 噴流煙を抱きしめ、そのまま脊椎を破壊する。 毒素ではなく血を吐いた噴流煙もろとも。 そのまま、2人は街下へと落ちていった。 「ガっ、ガバ子さん!」 私の伸ばした手は、白鳥沢ガバ子の手をするりと抜け。 落ちていく2人を、ただ見つめていることしか出来なかった。 そして。 ビルの壁を駆け上がってくる、もう1組の2人を眺めることしか出来なかった。 ◆◆◆◆ ビルの外壁を駆け上ってきた2人。 ヤマノコと、ヘヴィ・アイアン。 挨拶代わりとでも言わんばかりの蹴撃に、私の身体は容易く吹き飛ばされた。 まるで、2トン トラックに跳ねられたかのような衝撃。 鋭く走った鈍痛が、ゆっくりと悲鳴を上げ始める。 口の中一杯に広がる鉄錆の味を無理やり噛み締めさせられ、這いつくばることしか出来なかった。 「ヨー・プリティ・ガール。ダンスはここからだぜ?」 狙撃銃の如き威力と精密性は、的確に私の急所を打ち据える。 アムネジア・エンジンはすでに使っている。 否、使わされている。 消え行く記憶の中で、先ほど私が感じていた懸念が。 記憶の消去は回復しないのではないかという懸念が消え去ったのは、幸か、それとも不幸か。 アムネジアエンジンのギアを2速、3速と上げていくが、 それでもヘヴィ・アイアンの猛攻を御するには至らない。 「ぐっ……ゲ、フッ……」 猛攻という雨が止んだのは、私の腹部からヘヴィ・アイアンの拳が引き抜かれたからだ。 足が震え、膝を折る。 視界もぼやけ、ヘヴィ・アイアンの声だけがやけにはっきりと聞こえ始めた。 「ヨー・プリティ・リル・ガール。言っただろ?”安心しな””大丈夫だ”ってな」 隅で座っているヤマノコにかけるその言葉は、慈愛に満ちていた。 跪(ひざまず)いたまま、私はその光景を見ていた。 痛い。何でこんなことしてるんだっけ。 痛い。何で戦わなくちゃいけないんだっけ。 痛い。何で。 何で、帰らなくちゃいけないんだっけ。 ____私は、今でも思い出す。 ____1年前 ____全てが終わり、始まった ____あの瞬間を。 そうだ。 そうだったんだ。 あの時も、私は同じように跪いていたんだ。 そんな時。 文乃が差し伸べてくれた手が。 文乃が差し伸べてくれた景色が。 文乃が差し伸べてくれたその日から、白黒(モノクロ)の世界が色づき始めたんだ。 身体は立ち上がれる。 立ち上がる方法は知っている。 でも。 立ち上がれる私にしてくれたのは、文乃だ。 「文……乃……」 だから、私は立ち上がる。 立ち上がれる。 「ありがとう……」 何で帰りたいかだって?決まっている。 私にとって大事なものは、文乃との約束以外ない。 私にとって守りたいものは、文乃との約束以外ない。 私にとってのイチバンは―――― ――――文乃以外に、いるはずもない! 記憶の”重要度”が書き換わる。 アムネジアエンジンは、大事な記憶から順に消えていく。 ならば、私にとって大事な記憶とは、文乃との思い出に他ならない。 差し伸べてくれたその手があったから、私は強くなれた。 差し伸べてくれたその思い出が!私に力をくれた! 「アムネジアエンジン――――」 かつて私に力をくれた言葉を。記憶を。思い出を。 「――――オーバードライブ」 今再び、力に変えて! ◆◆◆◆ パンッ。 乾いた音が、私の後を追いてくる。 それが、空気の壁を破る音、音速を超えた際に生じる衝撃波(ソニックブーム)だとは気づくことが出来なかった。 だって。 私には、その乾いた音は、シャボン玉の割れる音に聞こえたから。 キラキラと煌くシャボン玉が。 キラキラと煌いた思い出が、まるでシャボン玉のように弾けたと思えたから。 「速く……! もっと、疾く……!」 ヘヴィ・アイアンが狙撃銃であるならば、私は散弾と形容するのが相応しい。 狙いなどなく。 ただ、ただひたすらに、一撃でも多く撃つ。 「ハッハーッ!楽しくなってきたぜプリティ・ガール!」 血飛沫が舞い、打撲音が木霊する。 文字通りの血の雨が、最も空に近い場所で降っている。 「ああああああっ!!」 足刀でヘヴィ・アイアンを弾き飛ばし、距離をとる。 僅かばかり、ヘヴィ・アイアンが笑った気がした。 ……恐らく、ヘヴィ・アイアンも気づいている。 否、戦っている私達しか気づけないだろう。 この勝負、不利なのは私の方だ。 ヘヴィ・アイアンと私の能力。 出力は恐らく互角。 ならば、明暗を分けるのは。 素体の強さに委ねられる。 過去、数々の伝説を作った偉大なる人物と、一介の女子大生。 どちらの肉体が優れているかなど、火を見るよりも明らかであろう。 だから。 「…………一撃に賭けるってかい?」 その通りだ。 このままじり貧であるならば、一撃に全てを賭ける。 文乃。 どうか私に。 ――――力を! ◆◆◆◆ ヘヴィ・アイアンは思い出していた。 愚直に向かっていった男のことを。 既に負けると分かって駆ける一人の男の思いを。 死ぬと分かって前へ進むと決めた男に対して、同じ志を持った男の思いを。 愚直に向かってくる菱川結希に、あの時の自分を重ねてしまった。 だから。 その迷いがヘヴィ・アイアンを鈍らせた―――― ――――刹那にも満たない戸惑いによって。 ◆◆◆◆ 「安心しな」「大丈夫だ」 その言葉は、ヤマノコを強くさせた。 そして。 「安心しな」「大丈夫だ」 その言葉は、ヤマノコを弱くさせた。 ヤマノコは気づけなかった。 否、戦っている2人しか気づけないだろう。 どちらが優勢かなど。 だから。 傷つき血を流すヘヴィ・アイアンの姿を見て、仕方無いだなどと思えなかった。 おきることがおきているだけ だなんて、思えるわけが無かった。 だから。 ヤマノコは願ってしまった。 「ヘヴィ・アイアンを…………まもって!」 ◆◆◆◆ 私の拳は、あっけなくヘヴィ・アイアンの眉間を打ち抜いた。 紙飛行機のように吹き飛ぶヘヴィ・アイアン。 だが。 その身体には、傷一つ無く。 その身体からは、先ほどまでの闘気が嘘のように消え去っていた。 「「えっ?」」 ヤマノコと私の声が反響する。 同時に、私は気づいた。 ヤマノコは、願いを使ったのだ。 内容は恐らく、ヘヴィ・アイアンを守るというもの。 でなければ、私の渾身の一撃で無傷だなどと考えられない。 しかし、その願いこそが勝敗を決定づけた。 ヘヴィ・アイアンの能力は、”守るもの”のために強くなるというもの。 ヤマノコが願ったその瞬間。 2人の関係は逆転したのだ。 ”守られる者”であるヤマノコが、”守る者”であるヘヴィ・アイアンを守った。 ヤマノコは、”守られる者”では無くなってしまったのだ。 「あ……あ……」 ヤマノコも気づいたのであろう。 最善と思われる願いが、ヘヴィ・アイアンにとって最悪の結果を招いてしまったことに。 ヘヴィ・アイアンも察したのか。 何も言葉を発しない。 ヤマノコは、今にも泣きそうな顔をしている。 「後は……」 後は、ヤマノコを倒せば私の勝利でこの戦いは終わる。 しかし。 しかし、私にヤマノコを攻撃することなど出来るだろうか。 失敗し、絶望し、泣きそうになっているヤマノコに。 私は、かつての自分を重ねてしまった。 そんなヤマノコを攻撃して手にした勝利で……文乃に胸を張って会うことが出来るだろうか。 「……良いんじゃよ。ヌシはそのままのヌシで良い」 私を現実に引き戻してくれたのは、 「ガバ子……さん!?」 恋する乙女の一言であった。 ◆◆◆◆ 噴流煙を背負ったまま、白鳥沢ガバ子は外壁をよじ登って来た。 「グハハハハ! 地面に落下する直前、そりゃもうドキドキしたわい!」 そう、極限までドキドキした乙女の胸は、落下の衝撃すらにも打ち勝ってみせたのだ。 「ガバ子さん……そのままで良いって……」 先ほど投げかけられた言葉を問いただす。 「そのままの意味じゃよ。ヌシは優しいヌシのままで良い」 でも……それじゃ、いつまでも勝負が…… 「のう。ヌシ、この夢の戦いについて、不思議に思わんか?」 言葉に詰まる私にかまわず、ガバ子は続ける。 「身体強化能力者が3人。そして、紛れを起こせる即死級の能力者が1人。どう考えても出来すぎたマッチングじゃあ」 「まるで……面白い戦いになるように仕掛けられたマッチング。そうは思わんか?」 「そう考えると……今度はおかしな事に気づくのう。面白い戦いになるよう仕掛けたマッチングなのに、場外負けがあるとはどういうことじゃ?面白い戦いなら、最後の1人になるまで闘わせるべきじゃろう」 「なんでじゃあ!?なんでじゃあ!?知りたい知りたーい!のう!?」 「……だから、ワシはこう考えた」 「戦闘可能領域。それは、場外負けのルールのためにあるわけではない」 「そこから先に進んで欲しくない。その領域までしか、この空間を作成出来んかったとな」 「……っ!」 「この空間を作ったのが誰かはわからんが」 「こんな巨大な空間、無尽蔵で作りきれるわけないからのう」 「この摩天楼群は、1km四方までしか作れなかったと考えちょる」 確かに、確かにガバ子の推理は一理ある。 マッチングの不自然さについては、私も思いついてはいた。 「のう。ヌシ。オムライスは好きか?」 「えっ?」 「オムライスは好きか?と聞いておる」 ふるふる、と首を横に振る。 文乃はオムライスを好物としているが、私は卵アレルギーなのだ。 「ククク。やはりヌシとは気が合いそうじゃ」 「ひよこになる前に食べられる卵が可愛そうじゃ。だから、ワシがひよこだったら」 「食べられる前に、殻をぶち破りたいと思うちょる」 「……この空間も壊せる。そういう事ですか?」 「察しが良いのお、ヌシ。GP(ガバ子・ポイント)1点じゃ」 「この空間を破壊できれば――――」 「――――全員、元の世界に戻れる。のう?」 最初は、この人は本当に戦う気があるのか疑った。 この人は、最初から戦う気なんてなかったんだ。 最初から、全員で脱出することを考えていたんだ。 この人には……敵わないなあ。 「どうじゃ?乗るか?」 ゆっくりと首を縦に振る。 話を聞いていたヤマノコ、ヘヴィ・アイアン、噴流煙も後につづく。 「でも……空間を壊すっていっても……壊す前に場外負けになっちゃうんじゃ……」 ふと沸いた疑問に対しても、ガバ子の回答は準備されていた。 「なら、場外負けにならないようにぶち壊せばええ」 そう言うと、ガバ子は上空を指で示した。 「空中には流石に、立ち入り禁止の看板もなかろう。のう?」 やっぱりこの人には敵わない。 そう思った矢先、ガバ子は屈伸運動を始めた。 このまま、空中へ跳び上がり、空間を破壊するつもりだ。 「それじゃ、一仕事してくるかのう」 白鳥沢ガバ子の能力。コンカツ。 その特性は、ドキドキを力に変える。 そして、その効果は、幾重にも累積される。 吊り橋効果によるドキドキ。 唇を奪われたことによるドキドキ。 毒素による発熱、そして動悸。 そして――――。 「グハハハ! しかし、こんなことをするやつは何者なんじゃろうなあ!」 「まるで神じゃ! 出来ることなら、一度拝んでみたいのう」 「ククっ。ワシ、なんだか……」 「ドキドキしてきたわ」 それは果たして恋心か。 神に対する想いを胸に秘め。 膨れ上がった肉体をバネに、ガバ子が宙を駆け上っていく。 夜空に光が灯り、視界が真っ白になる。 いつの間にか、私の足場は消えていて。 落ちていく、落ちていく、苦しみながら、もがきながら、伸ばした手は空を切る。 終わりを告げる時計の音を聞きながら、私は、奈落の底へと落とされた。 ――もがきながら、苦しみながら、私はどんどん落ちていく。 ――それにしてもおかしい、もう随分と長い間落ちている気がする。 ――ああ、息が苦しい。呼吸ができない。これはまるで……鼻を……つままれているような……? 「ふがっ!」 息苦しさで目を覚ますと、視界いっぱいに誰かの手が見えた。 「起きてください、ねぼすけさん」 「あ……文乃……」 「はい、文乃ですよー。よくわかりましたねー。それじゃあ聡明な結希ちゃんはなんで鼻を引っ張られてるかわかるかな~?」 ちらり、と時計を見やる。 試験の時間には……遅れていない。 ちゃんと帰ってこれた。 しかし、となると、鼻を摘まれている理由はさっぱり分からない。 大方、忘れてしまったのだろう。 今はただ、文乃に会えたことが嬉しくて仕方無い。 だから、私は文乃にこう伝えるんだ。 「文乃……ありがとう……」 ◆◆◆◆ 噴流 煙。 ヤマノコ(&神代の旗手 ヘヴィ・アイアン)。 菱川 結希。 そして、白鳥沢 ガバ子。 彼らの、彼女らの夢の戦いはクリアされた。 だが。 今までの戦いは序章にすぎず。 これから始まる戦いの前哨戦に過ぎなかった。 「グハハハハ! 神はまだこのゲームを続けるつもりか」 「ククっ。ワシ、なんだか……」 「ドキドキしてきたわ」 ――――合コン。 ――――それは、見知らぬ男女同士による、絆を深め合う集い。 ~~ダンゲロスSSドリームマッチ 了~~ ――――ダンゲロスSSドリームマッチSet2へ続く
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このSSは、 ゆっくりいじめ系2954 野菜の生え方について本気出して叩き込んでみた 前 ゆっくりいじめ系2966 野菜の生え方について本気出して叩き込んでみた 後の続きです。 未読の方は、そちらを先にお読み下さい。 また、厨性能ゆっくりがでます。ご注意下さい。 ぱちゅりーは、とってもゆっくりしていた。 優しいおかーさんぱちゅりー。かっこいいおとーさんまりさ。 そして仲のいい姉妹達に囲まれ、森の中でゆっくりと暮らしていた。 ある日、おとーさんがこう言った。 「にんげんさんのところに、おやさいさんをたべにいくよ!」 にんげんさん? おやさいさん? 初めて聞く言葉だった。 「むきゅ、おかーしゃん、にんげんしゃんってなに?」 「むきゅ......にんげんさんは、ゆっくりできないいきものよ。おやさいさんをひとりじめしてるの」 「おやしゃいしゃんって?」 「おやさいさんは、とってもゆっくりできるたべものよ。つちさんから、かってにはえてくるの。 でも、にんげんさんは『じぶんたちがそだてている』なんていって、ひとりじめしているのよ」 人間さんはゆっくりできない。お野菜さんはゆっくりできる。 「にんげんさんはれみりゃよりつよいから、みつからないように、 そろーりそろーりしのびこむのよ。むきゅ。わかった?」 「むきゅ! わかったわ!」 家族全員で、人間さんが独り占めしているお野菜さんの生える場所に忍び込む。 「「そろーり! そろーり!」」 「「「しょろーり! しょろーり!」」」 お野菜さんの前に着いた。お野菜さんは、赤くて小さな、おいしそうな実だった。 「むーちゃ、むーちゃ、ちあわちぇー!」 食べてみると、やはりおいしかった。こんなに甘くてゆっくりした物は初めて食べた。 家族も、みんな幸せそうに赤い実を食べていた。 「「しあわせー!!」」 「「ちあわちぇー!!」」 「こらぁっ!!」 突然、目の前にいたおとーさんが破裂した。 ぱちゅりーの顔に、餡子が飛び散った。 「むきゅうううう!!」 見上げると、れみりゃのように胴体を持ち、それでいてれみりゃよりずっと大きな生き物がいた。 「むきゅう! にんげんさんよ! みんなにげべへぇっ!!」 「おかーさああぁばっ!」 「たじゅげでべっ!」 人間さんが、みんなの頭の上に足を振り下ろす。 おかーさんも、おねーちゃんも、いもうとも、みんな次々に破裂した。残りはぱちゅりーだけになった。 「ったく、懲りないな、この野菜泥棒共!」 低くて大きな声。体がガタガタと震えた。こわい。人間さんは、本当にゆっくりできない。 目の前で、足が持ち上がって、ぱちゅりーの頭の上にも落ちてきて―― 「待って! お父さん!」 横合いから入った声に、振り下ろされかけた足がピタリと止まった。 「わぁ、これぱちゅりーじゃない! 私初めて見た」 向こうからもう1人、人間さんがやってきた。今度はかなり背が低く、声も柔らかい。 「やーん、かわいい。お父さん、この子家で飼おうよ!」 「おい、待て、だめだ。野菜を勝手にかじるような野良だぞ。 この前のゆっくりだって、家の中を暴れ回って、大変だったろうが」 「あれはまりさだもん。ぱちゅりーは大丈夫だよ、頭いいから」 そう言って、小さな人間さんはぱちゅりーを両のてのひらで包み込んだ。 「むきゅん! はなして! たしゅけて! おかーしゃん!」 「大丈夫よ。私はあんたにひどいことしないから」 「......むきゅう?」 優しい声。ぱちゅりーは、この人間さんは何だかゆっくりできると思った。 「ったく。じゃあ最後のチャンスだ。ちゃんとしつけするんだぞ」 「ありがとう、お父さん!......ぱちゅりー、今から私があんたのお姉さんよ」 こうして、少女とぱちゅりーの生活が始まった。 ぱちゅりーは、とってもゆっくりしていた。 優しいお姉さん。一日三回、必ずおいしいご飯を食べさせてくれる。 毎日3時になったら、あまあまさんも持ってきてくれる。 ぱちゅりーは、お姉さんから色々なことを教わった。 数の数え方や、文字の読み方、薬草の見分け方、ゆっくりできるおまじない。 「いい、薬草は野菜と同じように根っこがあって、その根っこの形が......」 お姉さんはゆっくり教えてくれるので、ぱちゅりーは全部理解することができた。 「やっぱりぱちゅりーは頭いいね!」と、頭をなでてくれるのが嬉しかった。 ぱちゅりーの楽しみは、お姉さんと一緒に雑誌やテレビを見ることだった。 「みてみてぱちゅりー! このきれいなウエディングドレス! あぁー、いいなあ! 私もいつか、こんな素敵な結婚式あげたいなあ!」 「......すごい、あれ、催眠術だって。うわ、何もないのにラーメンすすってるよ。さすがにやらせかなぁ、あれは」 何もかもが楽しかった。外で生活していたときよりずっと快適だった。 家の中にいれば、れみりゃに襲われる心配もない。 しかし、家にはゆっくりできない人間もいた。 ある日のこと。ぱちゅりーは玄関の脇に置いてあった段ボールの中をのぞき込んでみた。 そこには、昔食べたことのあるお野菜さんがぎっしり詰まっていた。 小さくて、赤くて、甘くて、おいしい実。 ぱちゅりーはつい、それに飛びついてしまった。 次の瞬間、ぱちゅりーは吹っ飛ばされていた。廊下をごろごろと転がっていく。 「きゃあああああ!! 何するの、お父さん!」 「うるさい! お前、しつけちゃんとしてるのか!? また野菜に手を出したぞ!」 「ち、ちゃんと言っといたよ! お野菜さんは食べちゃダメって......」 「現に手を出してるだろ! 商品に傷を付けるようなゆっくりは、うちには絶対に置いておけんぞ!」 「......」 「いいか、次はないぞ。脳の随まで叩き込んでおけ」 お姉さんの部屋に戻っても、ぱちゅりーは目眩が収まらなかった。 「むきゅ......あのおじさんは、ゆっくりできないわ......」 「......ねえぱちゅりー。うちのお父さんが育てたお野菜は、食べちゃダメよ」 「むきゅう! あのおじさんは、おやさいさんをそだててなんかいないわ! ただ、はえてきたおやさいさんをひとりじめしてるのよ!」 「違うの。野菜は、お父さんが畑を耕して、種を蒔いて――」 「ちがう! ちがうわ! おやさいさんは、かってにつちさんからはえてくるのよ! おかーさんがいってたのよ! おかーさんが......むきゅうぅぅ......」 ぱちゅりーの奥底から、悲しみがせり上がってきた。 実の家族を、ぱちゅりー以外皆殺しにしたあの人間。 あのゆっくりできない人間が、お野菜さんを独り占めしてるんだ。絶対そうだ。 ぱちゅりーの目から、すうっと涙が流れ落ちた。 お姉さんは大きくため息をつくと、優しくぱちゅりーに話しかけた。 「わかったわよ。それでいいから、もう絶対に野菜を食べちゃダメよ? お野菜さんはみんなのものだけど、ぱちゅりーだけの物じゃないんだから」 「......むきゅ、わかったわ」 納得はできなかったが、ぱちゅりーは頷いた。 確かに、野菜を食べたらあの欲張りなおじさんにゆっくりできなくさせられてしまう。 味方はお姉さんだけだった。基本的に人間はゆっくりできない。でも、お姉さんだけは特別だった。 「テーブルの上にある食べ物は全部食べていいからね! じゃ、いいこにしててねー!」 「むきゅ! いってらっしゃい!」 お姉さんとおじさんは、2泊3日の旅行に出かけていった。 ぱちゅりーは留守番だ。居間のテーブルの上には、きっちり3日分の食料が置いてある。 「むきゅ! しっかりるすばんするわよ!」 だが、3日後。お姉さん達は帰ってこなかった。 「むきゅ......どうしたの? おねえさん......」 3日分しかない食料は当然尽きた。ぱちゅりーはお腹が空く一方である。 「こうなったら......しかたないわね」 ベランダの鍵は開けてもらっていた。ぱちゅりーが暑さで倒れないように、という配慮だ。 おかげで、ぱちゅりーは自由に扉を開け閉めできる。 扉を開けてベランダへ、そして柵の隙間を抜けて、その外へ飛び出した。 目指すは、隣接している畑。 「むきゅ。しかたがないのよ。ちょっとくらいわけてもらってもいいはずよ」 食べたことのある赤い実の野菜はなかった。そのかわり、緑色の細長い実を付けた野菜が生えていた。 ぱちゅりーはそれに歯をつけた。 「ぱちゅりー! ごめん! ちょっと事故に巻き込まれちゃって!」 その時、家の奥の方からお姉さんの声が聞こえてきた。 「お腹空いたでしょ! いっぱいお土産買ってきたから......あれ? 居間にいないなあ」 「おい、まさか畑にいるんじゃないだろうな」 「えー、そんな訳ないよ! ちゃんと言っておい......たし......」 窓越しに、お姉さんと目があった。 するとお姉さんは血相を変えて、ベランダの柵を飛び越えて走ってきた。靴も履かずに。 「むきゅ、おねえさんおかえりなさ――」 お姉さんに抱きかかえられた。そのまま連れ去られる。 「む、きゅ、もっと、ゆ、ゆっぐ、りして、ね」 疾走するお姉さんは速かった。家からどんどん離れていく。 ――ごめんね、ごめんね。 後ろにすっ飛んでいく景色に目を回しながら、ぱちゅりーはお姉さんの謝る声を聞いた。 ――ごめんね、ごめんね。 お姉さん、どうして謝るの? どうして、泣いてるの? 前のまりさは潰されちゃったって......どういうこと? ようやくお姉さんは止まった。ぱちゅりーは地面に降ろされる。 そこは、見たこともない山の中だった。 「ごめん、本当にごめんね。でも、こうするしかないの。 ごめん......ぱちゅりー、生きてね」 涙をぽろぽろこぼしながら、お姉さんはそれだけを言って、踵を返して走っていった。 「......むきゅ?」 捨てられた、と理解するまでに、ぱちゅりーは長い長い時間を必要とした。 ねえ、どういうこと? どうして捨てられたの? お野菜さんを食べてたから? だから、お姉さんもぱちゅりーを捨てたの? お姉さんも、お野菜さんを独り占めしたいの? だから、あんな怖い顔してたの? 泣くほど悔しかったの? その後、親切なゆっくり一家が通らなければ、ぱちゅりーの命はその日のうちに尽きていただろう。 ぱちゅりーは、悟った。 人間は、自分で野菜を育てていると主張し譲らない。 強大な力を持っているにもかかわらず、勝手に生えてくる野菜の独り占めしか考えない、強欲な生物。 拾われたゆっくりの家族の中で、ぱちゅりーは今までに得た知識をフル活用して役に立とうと努めた。 実際にぱちゅりーは重用された。これだけは人間に感謝した。 季節が一回りする頃には、ぱちゅりーは群れの長になっていた。 群れを統率する規則も作った。医者として、たくさんのゆっくりを治した。 結果、群れのゆっくり全員から、絶対の信頼を勝ち得た。 ......それなのに、それなのに―― 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛......ば、ばりざのあたまがあ゛ぁぁ......」 「む、ぎゅう......」 頭に乗っている重い痛み。どうしようもない喉の渇き。 「よう、ぱちゅりー、まりさ。今日も元気か?」 全ては、この男のせいだった。 一週間前、群れの成体ゆっくり達は人間をやっつけに山を下りていった。 ぱちゅりーと子ゆっくり、赤ゆっくり達は、突撃隊が帰ってくるのを今か今かと待っていた。 しかし、帰ってきたのは指揮をしていたまりさだけ。ゆっくりできないおまけも付いていた。 「ば、ばづりーはあぞごだぜぇ! あぞごのきのじだだぜぇ!」 ぱちゅりーは人間に捕らえられた。襲撃は失敗に終わったのだ。 人間は子ゆっくりと赤ゆっくり達を無視し、ぱちゅりーとまりさだけを連れ去った。 その日から、2人の拘束監禁生活が始まった。 ビニールハウスの中にある木の板。その上に2人並んで接着剤で固定された。 そして頭に小さな粒を埋め込まれた。 「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛ぁぁ!! やべろ、やべるんだぜえ゛え゛ぇぇ!!」 「む、むぎゅう゛う゛う゛う゛ぅ!!」 すぐにかけられた甘い液体のおかげか、その日の痛みはすぐに治まった。 しかし日が経つにつれて、チクチクという痛みから、じわじわと慢性化した鈍痛に変わっていった。 「ほら、これが今のお前だよ」 男が、まりさの目の前に板のような物を立てて見せた。鏡だ。 「ゆ゛わ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!! ばりざの、あだまがら、くきさんがあ゛あ゛あぁぁ!!」 おそらくそこには、頭から野菜の茎を生やしたまりさが映っているのだろう。 2人は同じ方向を向いて横に並んで固定されているので、真横のまりさを見ることはできない。 だが、見せられている物の予想はおおよそ付いていた。 「ぱちゅりーも見てみるか?」 「むきゅ、けっこうよ! そんなものみたくもないわ! それより、はやくさいみんじゅつをときなさい!」 そう。ぱちゅりーには分かっていた。これは、れいむが掛けられたのと同じ催眠術だ。 この痛みも、異常な喉の渇きも、全てが幻。 どうしてこんなことするのだろう。一体何がしたいんだろう。 そんなに、ぱちゅりー達に大ボラを見せることが楽しいのか。痛めつけるのが楽しいのか。 無駄なことをせずに、早く殺してしまえばいいのに。 「催眠術......ね。お前、本当にそう思ってるのか」 「あたりまえよ! まりさ! だまされちゃだめよ!」 「......ふーん」 今日の男は、これまでの一週間と違い饒舌だった。 表情も今までのような無表情ではなく、口元がニヤついていた。 「ぱちゅりー、ちょっと話をしよう。 お前の考えでは、れいむは催眠術に掛けられていて、野菜が自分の頭に生えていると思い込んでしまった。 そしてその術は周りにもうつり、群れのゆっくり全員がそう思い込んでしまった。そうだな?」 「むきゅ! そうよ!」 「つまり、れいむの体自体は実は何ともなくて、外傷もなく、皮に異常もなく、いつも通りだった。そうだな?」 「むきゅ、だから、そうよ! れいむのからだにはなんにもいじょうはなかったの! ただ、やさいがはえているというまぼろしをみせられていたのよ。それだけよ!」 「それだけだな?」 「それだけよ!」 なんなんだこの男は。未だにニヤニヤと笑っている。図星をごまかすためか。 喋る度に頭に響くのだが、小馬鹿にされているようで許せなかった。 「じゃあ、本題に入ろう。 お前、れいむの体がぱりぱりに乾燥してるのを、見たよな?」 「......むきゅ?」 それと今の話と、どう関係が......? 「ゆっ! なんでそのことをしってるんだぜ!? やっぱり、さいみんじゅつでまりさのあたまのなかを......」 その時、まりさが口を挟んできた。 「......あー、そこも説明しなくちゃならんのか。面倒だな」 男は懐から小さな黒い2つの物体を取り出した。 1つは四角い板。もう1つは奇怪な形をした、管のような物。 男は板をまりさの前に、管のような物をぱちゅりーの前に置いた。 「こっちがマイクで、こっちがイヤホン。まりさ、何か喋ってみろ」 『「ゆぅ? なんなんだぜ?」』 「むきゅう!?」 ぱちゅりーは飛び上がった。いや、足を固定されてはいるが、飛び上がったつもりだった。 まりさの声が真横と、目の前の管から同時に聞こえてきたのだ。 「わかるか? 盗聴器って言ってな、離れたところの音を聞ける機械だよ。 これをれいむの頭に埋め込んでたんで、お前らの会話も筒抜けだったわけ」 「ゆ、ゆぅ!? じゃ、じゃあさいみんじゅつじゃなくて」 「話を戻すぞ、ぱちゅりー」 男はまりさを無視して、再びぱちゅりーと向かい合った。 「お前、れいむが乾いてるのを見たよな。 そして、『このままではひからびてしまうわ!』とも言ってたよな」 「む、きゅ......」 「そして、群れのゆっくりに水を掛けるように指示した」 「む......!!」 「れいむの体に、水掛けたよな。だいぶ長い時間掛けてたよな。何ともないはずの、れいむの体に」 「む、むきゅ! むきゅ!」 「おかしくないか? あれだけ水掛けられたら、普通のゆっくりは溶けちゃうんじゃないか? 溶けないとしても、その日のうちに、山から俺の家までマラソンするのは無理なんじゃないのか?」 「ち、ちが!」 「お前も今、喉カラカラだろ? それはな――頭に生えた野菜が、水分を吸い上げてんだよ」 違う。違う。そんなわけない。 「むきゅ! ちがうわ! それは......むれのみんなに、みずをもってこさせるというさいみんじゅつよ! みずをかけたのもまぼろしなの! じつはれいむにみずをかけていないのよ!」 「......自分で言ってて苦しくないか?」 「そんなことないわ! そうじゃなかったら、れいむがおにいさんのいえにいったのがまぼろしで......む、むきゅう!」 「うん、まあ、考えててくれ。納得できる答えは出ないと思うけど」 男は背中を向けて歩いていった。 「まりさ、だまされちゃだめよ! さいみんじゅつなのよ!」 「......だぜ......」 「むきゅう! まりさ!? ねえ、きいてるの? まりさ!!」 まりさは口の中で何かをブツブツと呟いている。 ぱちゅりーは底知れない不安を感じた。 「ああ、そうそう。言い忘れてた」 男はビニールハウスの出口で振り返って、こう言った。 「今日、すごい面白いもの見つけたんだ。 自然に根がお前らを突き破って終わりにするのを待とうと思ってたんだけど、 それじゃあちょっと早すぎるから、それ以上粘ってもらうからな。 大体60日後くらいまで、死なずに頑張ってくれ」 それからの日々は、四六時中ゆっくりできなかった。 日に日に増していく、体の中に異物が深く潜り込んでいく感触。 少しでも体を動かせば訪れる激痛。 目の奥をねじられ、視界がどんどん狭まっていく恐怖。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛ぁ......いだい、ぜぇぇ......」 「むぎゅ、ぎゅう゛......」 生クリームを吐き出してしまったのも一度や二度ではない。 しかし、その度に男がやってきて、“オレンジジュース”という甘い液体を掛けていくのだ。 すると、ぱちゅりーの体は潤い、腹は満たされ、力が湧いてくる。 地獄から解放させないための処置だ。鬼。悪魔。 「ジュース代がかさむんだよなぁ」とか言いつつ、男は惜しげもなくジュースをかける。 それなら、さっさと掛けるのを止めてくれればいいのに、楽にしてくれればいいのに―― ああ、違うか。これらは全て、催眠術なのだ。わざわざジュースをかけて回復させる幻まで見せる。 なんて悪趣味なんだ。 時間の感覚が薄れ、今は何日目なのかも分からなくなったとき。 「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 隣のまりさが突然絶叫した。もうそんな余裕はないはずなのに。ちょっと声を出しただけでも全身が痛むのに。 何事かと、ろくに動かない目をゆっくりと右に向けた。 「む、ぎゅう゛う゛う゛!!」 ぱちゅりーも叫んでしまった。まりさの前に、ポテンと落ちている白い球体。 目玉だった。 「何だ何だ、どーした? おお、ついに開通か。それもちょうど目の部分が」 悪魔がやってきた。オレンジジュースを片手に。 まりさの頭にジャバジャバと掛ける音がする。 「うーん、さすがに目は復元しないか。でも、ちゃんとふさがったな。根っこは飛び出てるけど。 これで餡子が流れて行かなくて済むぞ、よかったなまりさ」 「......おでぃーざん」 「ん?」 「ばりざを、ばりざをだずげてくだざいぃ!」 ついに、まりさが折れてしまった。 「むぎゅう! だめよ、まりざ! たえて!」 「もう、おやざいざんどか、さいみんじゅづどか、どおでもいいから゛あ゛あ゛あ゛! まりざを、だずげで、ゆっぐりざぜでくだざい!」 「無理」 即答だった。 「どぼじでぞんなごどいうのぼお゛お゛ぉぉ!」 「だから、言ったろ。60日耐えろって。今日であの日からちょうど20日。あと3分の2だ。頑張れ」 「ゆああああ!! ゆっぐりじだいんだぜえええぇぇ!!」 まりさはそれから、「あ゛、あ゛」と言うだけの置物になってしまった。 「ばりざ......がんばって......」 ぱちゅりーが精神を保っていられるのは、これが催眠術である、と知っているからだった。 絶対に、あんな男には屈しない。あの男からは、あの強欲なおじさんとそっくりな臭いがする。負けてなるものか。 しかし催眠術を解かれたとしても、素直に放してくれるはずがないとも分かっていた。 間違いなく殺される。だがもういい。心残りはない。 ......いや、1つだけあるとすれば、群れに残してきた子どもや赤ちゃん達だった。 ぱちゅりーの家の中で全員で待機していたのだが、家には食糧の貯蓄はほとんど無かったはずだ。 方々の家から取ってきたとしても、一週間も持つまい。 子ゆっくりの中には狩りができる者も数匹いたが、自分の分が満足に取れるかも怪しい。 ましてや、たくさんの赤ゆっくりを食べさせるほどの食料は取れるはずがない。 想像したくないことだが、阿鼻叫喚のさなかで共食い劇を演じた可能性もある。 その前にれみりゃに襲われたかもしれない。どちらにしろ、全滅は間違いなかった。 ごめんなさい、みんな。ぱちぇをゆるして。 「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」 まりさは、たまに絶叫をあげるときもあった。根が新たに皮を突き破ったときだ。 「む、むぎゅう゛う゛う゛っ!」 それはぱちゅりーも同じだった。根は1日に1回は、新たな穴を開けた。 「はーい、オレンジジュースですよー。 ......しかしお前らすごいな。もう10本くらい飛び出てるぞ」 オレンジジュースをかけられた貫通部分は、根を飛び出させたまま塞がる。 根の中腹を、復元する皮が隙間無く握り込むのだ。 そして次の日、その根はまた伸びて、塞いだ場所をまた引きちぎる。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 「むきゅう゛う゛う゛う゛!!」 開いた傷口から生クリームが噴き出す。体の十箇所から噴き出す。 しかし一日の終わりには修復される。また、その日新たに根が飛び出した場所が作られる。 日に日に、血が噴き出す箇所が、増えていく。 きっと今の2人の姿は、見るもおぞましい化け物の姿だろう。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! だずげで、だずげでおにーざあ゛あぁん!!」 幸い、まりさの残った方の片目と、ぱちゅりーの両目が飛び出すことはなかったが。 「む、ぎゅうぅ......」 負けない。これは催眠術なんだ。 おかーさんが言ってた。人間は独り占めする生き物。 おやさいさんは、つちさんからかってにはえてくるのよ。ぱちぇのあたまから、はえてくるわけないの。 「おつかれさん。約束の日だ」 ぱちゅりーは、そう言われても何のことだか分からなかった。 オレンジジュースをかけられた直後でも辛い。 何もしなくても押しつぶされてしまいそうなほどに、今のぱちゅりーの頭は重かった。 「面白い物を見せてやるって言ってただろ? これだよ」 男は、大きなカゴを持ってきていた。成体ゆっくりが3人は入りそうな、木で編まれたバスケット。 「お前らも見たことあるはずだぞ。ほら――」 地面に置いたカゴに両手を入れ、引き出す。 「――おさ、やっぱりれいむたちがまちがってたよ」 れいむだった。 群れに置いてきたはずの子ゆっくり。今はもう野垂れ死んでいるはずの、子れいむ。 確か、頭に茎を生やしていたれいむの妹...... ぱちゅりーは、頭を思いっきり殴られた気分だった。 「むぎゅうう!! どぼじでえ゛え゛えぇ!!」 男がぺらぺらと喋り始めた。 「いやぁ、驚いたね。お前らが襲ってきたときから一週間くらい経って、 そういえば残してきた子ゆや赤ゆはどうしてるかなあ、生きてたら潰してきた方がいいかなあ、と思ってさ。 群れに着いてみたら、ボロボロの子れいむが口に水含んでよたよた歩いてた。 何してんだって聞いたら、お野菜さんを育てるって。一本だけ、小さな芽が生えてたんだよ。 いや、本当に驚いたわ。土もちゃんと柔らかくしてあったし。野菜の育て方を知ってた。 そこで俺は急いで帰って、救急道具を持ってとんぼがえりして......」 うそよ。 うそようそようそよ。 ありえない。ありえない。ありえない。 「......でさ、まだぱちゅりーは生きてるよって言ったら、ぜひ会いたいって言いだして」 男は次々にカゴの中に手を入れ、引き出す。 その度に1人ずつ、群れの子ども達が出てきた。 子まりさ、子ありす、子ちぇん、赤れいむ、赤ちぇん、赤みょん―― 「たねさんからおやさいさんがはえてきたよ! とってもおいしかったよ!」 「つちさんをたがやして、おみずさんをあげれば、ゆっくりそだったわ!」 「おさがうそをついてたんだねー! わかるよー!」 「おかーしゃんも、おとーしゃんも、おしゃのせいでゆっくちできにゃくなったんだよ!」 「ゆげぇ、おしゃ、きもちわりゅいよー......でも、じごうじとくにゃんだよー! わかっちぇねー!」 「ちち、ちんぽっ!」 赤みょんがぱちゅりーに向かって跳ねてくる。ぱちゅりーの頬に体当たりした。 普通ならなんてことない攻撃。でも、今のぱちゅりーには身体の芯まで響いた。 「むぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」 「みょん、だめだよ。もどってきてね」 子れいむがみょんを諭し、落ち着いた口調で話し始めた。 「あのよる、おねーちゃんはまよってたよ......おさか、おにいさんか、どっちがただしいのか。 あのときのおさはおかしかったよ。ぜんぜん、ゆっくりかんがえてなかったよ。 そして、ただしいのはおにいさんのほうだったよ」 うそ......よ。 れいむが......こんな、こと......いうはず......ないもの...... 「れ、れいぶ......」 隣で、まりさのかすれた声がした。 「ほがの......おちびちゃんたちは......どうじたんだぜ......?」 そうだ。子ゆっくりや赤ゆっくりはもっとたくさんいたはず―― 「――みんな、ずっとゆっくりできなくなったよ......!」 子れいむが、絞り出すように答えた。 その言葉は、ぱちゅりーを真っ直ぐ貫いた。 「うがあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁっ!!」 狂ったように大きな絶叫が響き渡った。 「ぜんぶ、ぜんぶおざのぜいだあ゛あ゛あ゛っ! おざのぜいで、でいぶも、みんだも、ゆっぐりできなくなっだんだぜえ゛ぇっ!」 「あーあ。れいむ、みんな一旦出た方がいいな」 「じね゛え゛え゛えぇぇっ! じね゛え゛え゛えぇぇっ! なにがざいみんじゅづだぜえ゛ぇ゛ぇぇ!」 まりさもぱちゅりーも、動けない。 しかし、一方的に右半身に叩きつけられる悪意がビンビンと伝わってくる。 「じね゛え゛え゛えぇぇっ! じねえ゛え゛えぇぇっ! うそづぎばづりーはざっざとじね゛え゛ぇぇ!」 いや、まりさは動いていた。 必死に右の方向に向けた目が捉える。 足を固定されているのもかかわらず、全身を根に押さえつけられているのもかかわらず、 ぱちゅりーの方へ向かってこようとするまりさ。 「じね゛え゛ぇぇっ......! じね゛ぇ゛ぇ゛ぇぇ......!」 体を強引に揺らすまりさは、こちらに倒れ込むようにしてぐちゃぐちゃに崩れていった。 その姿は、踏みつぶされたおとーさんそっくりだった。 「ばづりー......じ......ね......」 ぱちゅりーの頭に、何かがバサリと落ちてきた。 まりさの頭に生えていた、お野菜さんの苗だった。 両目の間でぶらんぶらんと揺れる物がある。 ずっと昔に見たことがある、赤い実だった。 男が近づいてきて、その実をもいだ。 「......このまりさは、とことんゲスだったな」 半開きのぱちゅりーの口に、実を挟んだ指が突っ込まれた。 舌の上に、瑞々しい果汁がしたたる。 久方ぶりに味わった。 ゆっくりできるけど、ゆっくりできない、“ほんとうの”おやさいさんのあじだった。 「む゛ぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う」 「ちなみに、俺は何も嘘はついてないぞ? みんな実話だ。 俺が群れに着いたときも、あの7匹しか生き残りはいなかった」 「......」 「あいつらは、あの子れいむがいる限り大丈夫だ。あいつ、ゆっくりにあるまじき頭の良さだぞ。 それこそ、お前とは比較にならないほどのな」 「......」 「まあ、それでも7匹じゃ群れとしてやっていくのはむずかしいしな......いざとなれば、保護も考えてる」 「......」 「あの、頭に茎生やしたれいむも悩んでたみたいだし。そうとは知らずに、決めつけてやっちまったけど。 ......罪滅ぼしという意味でも、あいつらを助けていこうと思う」 「......」 「じゃあな、ぱちゅりー。今まで引き止めて悪かったな。最後まで、ゆっくりしていけよ」 もはや痛みは感じない。ただ、体が重い。 全身から生クリームが噴き出し始めても、男はオレンジジュースを掛けに来てくれなかった。 もし。 もしもよ。 これが、ほんとうにさいみんじゅつだったら。 ぜんぶがぜんぶ、もうどこからなのかわからないくらいから、さいみんじゅつだったら。 そのなかでしんだら、どうなるのかしら。 生クリームを全て噴き出すまで、ぱちゅりーはそんなことを考えていた。 あとがき 長編は実力が出ますねえ......もっと精進します。 最後まで見てくださった方、本当にありがとうございました。 過去作品 ゆっくりバルーンオブジェ 暗闇の誕生 ゆっくりアスパラかかし 掃除機 ゆっくり真空パック このSSに感想をつける