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どのくらいこうしているのだろうか。 俺は今、山道を歩いている。 念願だった幻想郷への到達は、思ったより簡単だった。……ってか、散歩してたら目の前にスキマが。 ゆかりんありがとう、と心中で呟きながら――――それでも延々と歩き続けることに辟易しながら、道なき道を歩く。 当たり前のことだが、ここは虫が多い……。 ぷぅん、と耳障りな羽音を立てて近寄ってきた蚊を首筋に叩きつけながら、なおも里を目指そうと一歩踏み出して…… 「ちょっとアンタ! 今私の同族殺したでしょ!?」 と、いきなり飛び蹴りを食らった。 「痛っ――たぁぁぁぁ!? ……ん、りぐるん? うわ、本物だ」 目の前にいるマントを羽織り、どことなく少年のような溌剌とした印象を受けるその少女は、正しく「闇に蠢く光の蟲」こと、リグル・ナイトバグその人であった。 「ん? なんで私の――って、幻想郷縁起でも読んだのね? ……それならなおさら、私の目の前で虫を殺すなんていい度胸じゃないの」 殺意のこもった視線で、こちらを見つめてくる。……なんだか、下手なことを言った瞬間、殺されて虫の餌にされそうな……。 「い、いや、待て待て。こちらにも言い分はあるぞ! ほら、あれだ! 刺されたら痒いじゃないか!」 あ、やべ。 「……へぇ、子孫を残すために、あの子たちには血が必要だってのに、あんたはそんなに身勝手なこと言うんだ~」 そう言いながらこっちににじり寄ってくるリグル。ここからは見えないけれど、側にいるらしき蚊たちに「今たっぷり飲ませてあげるからね~♪」と微笑みかけている。 「吸わせてあげる」じゃなくて「飲ませてあげる」と言ってるあたり、本気で拙い。 「あ、ああ、子孫のために俺の血液を提供するのは別にいいんだ、うん。さっきのは単に『痒いのが嫌だなー』って言っただけでな、まあ、その」 そう俺が口走ると、リグルは何かを思案するかのように小首をかしげた。 ……あ、その仕草可愛い。 そして、何か思いついたような顔をしたと思ったら、「えい!」と体当たりをされた。 仰向けに転ぶ俺。……と、リグルは勢いそのままに、馬乗りになってのしかかってきた。 「なるほど、痒いのが嫌なだけなら、こうすればいいのよね」 リグルはそう言うと、馬乗りの体勢からさらに体を倒してきた。近づく顔と顔。 それがさらに近づき、やがて交差して……首筋に鈍痛。 「ぐっ……」 「ほあ、うおあふぁいお(こら、動かないの)」 そのままの体勢で数秒、やっと俺は、リグルが何をしているのか気付いた。 「……吸血?」 「うん」 ちゅーちゅーと、まるで花の蜜を吸うかのように、俺の血液を奪っていくリグル。 ……美味しいのだろうか、喉をこくこくと鳴らしながら味わっている。 「……まだ、か?」 「おうひょっほ(もうちょっと)」 どうやら、死に至るほどの量を奪われることはなさそうだった。 ひりひりした痛みと共に、リグルの吐息が首筋に感じられて、何だか背筋がゾクゾクする。 ……やがて、最後にぺろりと傷口を舐めた後、リグルは口を離した。 「ごちそうさまでした♪」 そう朗らかに言うと、身軽な動きで俺から飛びのいた。 やっと体を開放された俺も、よっこいしょ、と難儀そうに立ち上がるが、貧血になるほど血液は奪われていないようだった。 「……お粗末さまでした」 「うんうん、ありがとう、助かったよ。 これでこの子達も助かりそう」 「後で分けてあげるからね~♪」と中空を見上げてリグルは言う。 「あ、そうだ、お礼に里までの道、教えてあげるね」 と、俺の手を引いて歩いていく。 その申し出は、素直にありがたく思う。リグルに出会った以上、ここは間違いなく幻想郷であるわけで、そうなると、道中で人食いの妖怪に遭遇する可能性もあるということだ。 目の前の小さな虫姫さまにエスコートされ、やがて俺は里の外れにたどり着くことが出来た。 「ありがとう、リグル。 助かったよ」 「いいのよ、さっきも言ったでしょ? これはお礼だって」 あれっぽっちの血液で安全に里までたどり着けるのなら、安いものだった。 だからだろうか、こんなことを口走っていた。 「……俺に出来ることなら、何でも協力するよ」 「え、いいの……?」 今度は唇に人差し指をあてるポーズで考え込むリグル。 言わずもがな、可愛い。 「正直に言うとね、もっと欲しかったところなのよ」 ……一思いに吸い尽くされなかったのは、矮躯ゆえに貯蔵できる量が限られているからか。 「だから、さ……溜まったら、また私の所に来て♪」 そう、妖しく微笑むと、森の中へと飛び去っていってしまった。 残された俺は、しばらく里の方へと歩き出しもせず、呆然と森の方へ目を向けていた。 首筋には、心地よい痺れを残す、傷痕がある――――。 6スレ目 760-761 ────────────────────────────────────────────────────────────── 「・・・・・・来たな」 この感じはあいつしかいない。 俺は近くに落ちていた手頃な石を持ち、気配を探る。 体中で警報が鳴り響く。これ以上接近されるとマズイ。 全神経を集中し気配のする方向距離角度を瞬時に計算し、自称強肩の豪腕が手に持っている得物を亜音速で放つ。 「そこっ!!!」 「いたっ!!!~~~~~~~何するんだよぅ」 完璧だ。 見事なストレートで放たれた小石は標的の頭部を撃ち抜いたようだった。 ぼすんと音を立て木から落ちてきたのは、触覚に黒マントのゴk 「違う!!」 「どうでもいいよ。どうせ同じ蟲だろ」 「どうでもよくないっ!!」 頬を膨らませ必死で訂正を求めてくるのは小粒な妖怪、リグル・ナイトバグだ。 「で、どうした? 朝蜘蛛なら SA・THU・GA・I したが」 「この外道!! 朝蜘蛛は縁起がいいんだぞ!えらいんだぞ!」 「へぇ」 「無関心!?」 全く朝から騒がしい奴。まぁ朝っぱらから森に出かける俺も変人か。 現在時刻午前⑨時過ぎ。 俺は寝起きに台所でカサカサと粘着性のある固有結界を張っていた八本足の生命体を抹殺した後、別段する事も無く暇だったので散歩をしていたところ、蟲の王リグルに見つかり現在に至った訳で。 しかも最近こういった妖怪に好かれていて困る。八目鰻屋の夜雀や宵闇の妖怪、氷精なんかもちょっかいを出してくる。何だろう・・・小物に好かれる程度の能力か。 「今日こそ君を更生させるよ!」 俺が一体何をした? 「五月蝿いな・・・前から言ってるじゃないか、それは無理だって」 「そんなことないよ。ほら、人間は慣れる生き物って言うし」 そう言いリグルは周りに虫を呼び始める。 ぶーんと蜂、ぱたぱたと蝶、がさがさと蜘蛛、もぞもぞと―――― 「駆除『燻蒸式殺虫結界』」 俺はスペルを発動させる。周りに白い煙がたち込み、虫達が見る見るうちに元気を無くしていく。 「うわぁあ!!やめて~」 じゃあやるなよ。 スペルを中断させる。ちなみにこのスペルは人体への影響は限りなく零の安心設計。 何故かリグルに追われる回数が多いので独自に開発したこのスペルカードは大成功のようだ。 「なんで・・・」 蟲達が逃げ去った後、ボソッとリグルが何か呟いた。 「ん?」 「なんでそうやって、いつも私達を苛めるの?」 リグルが拳を握り締め、顔を俯かせる。 よく見ると目には大粒のなm 「単に虫嫌い」 「言い切った!!」 まだツッ込む余裕があるらしいな。 「それに・・・いつも○○は私に近づこうともしないし」 「単に蟲嫌い。 近づくと鳥肌が立つ。頭痛吐き気発熱寒気がおこる」 「増えた!!それに風邪じゃん」 「要約すると生理的に無理。辛うじて、人間の形してるお前だと半径2メートル外までは許容範囲だ」 「・・・・・・」 なんだ黙りこくって。 流石に言い過ぎたか? 動かなくなったリグルが一瞬心配になり○○はぴったり2メートル離れた位置から顔を覗き込もうとした。 が、 「うわぁああああああ!!○○の馬鹿ぁぁあああああ!!!!!!」 「うぉあ!!危ねぇ」 突然大粒の涙と大量の弾幕を撒き散らして、リグルは視界から消えた。 「・・・やっちまったな」 ○○は弾幕によって荒地となった空間に取り残されてしまった。 * * * 「・・・何よ・・・何なのよ・・・」 ○○の場所から結構離れた泉、ここは非常に澄んだ泉でリグルのお気に入りの場所だ。 そこでリグルは水面に移る自分の顔を眺めていた。 「何もあそこまでハッキリ言わなくてもいいじゃん・・・」 私は、善意で○○に虫を好きになって欲しくて頑張っているのに。 私は、虫だけど、妖怪だけど、○○と仲良くなりたいだけなのに・・・。 私は、少しでもいいから・・・○○と・・・・・・・・・ 「・・・何考えてんだろ、私」 嫌いなものを押し付けたって、逆に嫌われちゃう。 私が馬鹿だったんだ。かえってキッパリ言ってくれて良かったかもしれない。 「あーあ。所詮片想いかぁ・・・」 とさっと仰向けに寝転がる。木漏れ日が差し込んで少しだけ気持ちよかった。 「お、いたいた」 突然、差し込んでいた木漏れ日が何者かによって遮られる。 逆光でよく解らないが、相手は箒に乗って飛んでいる。箒で飛びまわる白黒っぽい人間は一人しか思い当たらない。 「なんの用?」 「悪さをした妖怪を懲らしめに来たんだぜ」 箒から降り立った少女は、霧雨魔理沙だったのだが・・・ 「悪さなんてしてなぶぷぅwww」 気怠く起き上がったリグルの視界に入ったのは、鼻先がピエロのように赤く腫れた普通の魔法使いの姿だった。 「・・・やっぱりお前が犯人だな」 魔理沙の声には異常な程の殺気が篭っている。 「ちょっ、私は何もやって無いよ!?」 「嘘つけ!!お前が私の家に蜂を嗾けたんだ!!そうだ、そうに違いない!!!」 なんという狭視野。同朋の仕業=私かこの女は。これはチルノ並だ! 目の前の少女に色んな意味で危機感を感じつつ、リグルは後退る。 「恋する乙女を無残な姿に・・・・・・こんな顔じゃあ霊夢のとこに遊びに行けないじゃないか。 この罪は重いぜ!」 魔理沙は左手に魔力を、右手に構えた八卦炉にエネルギーを充填する。 膨大な魔力が空間を支配している中、リグルは思った。 今日は本当に、ツいてないなぁ・・・ * * * 遠くから轟音がする。どうやら弾幕勝負でもしているらしい。 上空へと視線をやると、大量の星が木々を蹂躙しているのが見えた。 だが見えるのは星だけ。その星の相手の弾幕は見えない。 「こりゃあ一方的だな」 恐らく星の方が相当な強さなのだろう。自分のいる場所まで衝撃が伝わってくる。 ・・・・・・・・・。 気が付けば自分はその場に来ていた。何となく気になっただけ。 周辺の木々は薙ぎ倒され地面は焼け跡が幾つもあり、星の弾幕の強さを物語っていた。 そして○○は、黒白のエプロンドレスの少女と、あの蟲っ娘を見つけた。 あれは・・・確か霧雨 魔理沙だったか。里で売っていた本に英雄として載っていた気がする。分かり易い格好だな。 それと・・・ボロボロじゃんあいつ。圧倒的にも程があるぞ。 リグルは相当痛めつけられたらしい。飛ぶ力も無いのか、フラフラと宙を飛んでいる。対する魔理沙はというと傷一つ無く、何やら喚きながら闘っているようだ。 英雄の妖怪退治ねぇ・・・。 そんな光景を見ていたら、何故か腹が立ってきた。 ・・・・・・・・・・・・はぁ、俺も可笑しくなったか? 弾幕も張れない、魔法も使えない、身体能力は普通の人間○○は、戦闘によって開けた空間に踏み込んだ。 * * * 「あぐっ!!」 痛い・・・。 背中から木に叩きつけられ、全体に鈍痛が響きわたる。 「・・・どうした? いつもの元気が無いな。もうギブアップなのか?」 魔理沙は木にもたれるリグルの正面に立つ。戦闘中に呼び出した使い魔は消えているが右手にはまだ八卦炉が握られている。 「・・・・・・」 なんだか元気が出ない。理不尽な理由で攻撃してきた魔理沙に対し怒りも沸かない。 先程のが余程精神に来ている。 「答えないならギブアップと取るぜ。じゃあ謝るんだ、ごめんなさいってな」 魔理沙が何を言っているのか解らない。聞いてないから当然か。 戦闘中もずっとだ。忘れようとしているのに頭からさっきの事が離れない。 好きな人に振られ、勝負にも負けるなんて最悪・・・・・・ そんな事を考えていると突然、 「おい、何か答えたらどうだ?」 「そうだぞこの野郎!!」 第三者の声が割り込んできた。 その声は朝自分を拒絶した声、ここに居るはずの無い声だった。 「やっと見つけた!! 今日と言う今日はもう許さねぇ!!!」 憤怒の形相でずんずんと距離を縮め、突然の第三者の介入に驚きっぱなしの魔理沙を通り過ぎ私の目の前にまで来た。 「なんで・・・?」 なんでここに来たの・・・私が嫌いな筈じゃない。それに言動が意味不明だ。 ○○は自身の限界だと言っていた2メートルを過ぎ、木にもたれるリグルの眼前まで到達した。 するとリグルにだけ見えるよう顔をグイッと近づけ、一転して真面目な表情になる。 その表情にドキッとしたがよく見ると額には冷や汗が、露出している肌は鳥肌が立っている。 あ、やっぱり無理してるんだ・・・。 今にも倒れそうな顔色の○○は、リグルだけに聞こえる小さな声で呟いた。 「合図したら地面を攻撃しろ」 「え?」 「え?じゃねぇ!!!」 一瞬で表情が元に戻り、怒号とさらに拳骨が飛んできた。 「きゃあ!!」 「貴様散々人の家を荒らしときやがって・・・罪の意識ってのが無いのか!? それに今度はこんな美少zぶぷぅwwwww」 さっとリグルと距離を取り魔理沙に向き直った○○は盛大に噴いた。 「・・・初見の人を笑うなんて酷いぜ」 「あ、すみませんw 確か、魔理沙さんでしたよね? 本で見ました。 兎に角、こんな可愛らしい英雄さんを見るも無残な姿に!! これは重罪だ!!」 「そ、そうだな」 魔理沙は突如現れた○○の雰囲気に圧倒されていた。現にちょっと引き気味だ。 「ではこれより、霧雨 魔理沙さんによる報復の時間とさせて頂きます」 「いや、仕返しなら十分したつもりで――――」 「生温い!!いいですか魔理沙さん、こいつのやった事は重罪です。数々の蟲を使役し私を狂気へと誘い、あまつさえ幻想の乙女達を襲撃するなんてこれは死罪だ!!そう、蟲を操るなんて能力あってはいけないんですよ。こんな凶悪な能力が存在するなんて私には考えられません!!この妖怪の手に掛れば貴女の家のあらゆる所から蟲を湧き出させカオスフィールドへ・・・嗚呼なんて恐ろしいぃぃぃ!!たかが妖怪されど妖怪。蟲達が反逆を起こす前に根源から断つのが最善策でしょう。それと話は逸れますが貴女強いんですねぇ。いやぁ惚れ惚れしましたよ。妖怪相手に一発も被弾せずに圧勝なんて流石です!できれば今度ゆっくりじっくり英雄伝でも聞きたいくらいだぁぁぁぁぁっ、それ貰ったぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!」 「へ?」 八卦炉が手から消失していた。魔理沙は○○の絶技な舌技で完全に気を抜いてしまっていた。 「さらにぃぃぃっ」 構え、照準、角度OK。システムオールグリーン。 「ん~~~~っファイア!!!!!」 振り抜かれた自称豪腕から放たれた八卦炉は亜音速で遥か遠くへと、森の何処へと消えた。 「ちょっ!? お前何して――――」 「今だ!!」 ○○から合図が出た。 「え、うん!!」 リグルの体力は○○が稼いだ時間で僅かながら回復していた。 残った力を総動員して地面に弾幕を放つ。 「うわっ!?」 先の戦闘で剥き出しとなった地面から砂塵が巻き上げられ三人の視界を覆った。 「この・・・お前!!私の八卦炉何処にやっゲホッゲホ」 「知るか馬ぁ鹿!!この黒の悪魔!主婦の敵! そら、さっさと逃げる」 「きゃっ、うわわわわわわわ!!!」 私の腕が○○に引っ張られ、軽く背負われてしまった。 うわぁ、背中広い・・・。 夢にまで見たこの感覚、思い描いていたシチュエーションとはかけ離れていたが蟲の王様の薄い胸は高鳴っていた。 そして○○の顔は土色に変わり今にも死にそうだが、魔理沙の喚き声が聞こえない場所まで蟲の王様を運びきった。 「終点だ」 「あ・・・ありがと」 人里近くまでやって来た所で、○○はリグルを降ろした。 もう少し○○の背中に居たかったが、そうすれば彼は倒れてしまうだろう。今だって相当無理をしているはずだ。 「ふぅ・・・死ぬかと思った」 リグルを降ろした事で○○の顔色は少し良くなった。 寂しい反面、ほっとする。 「ねぇ」 「ん?」 私は背中で揺られている間、ずっと気になっていた事を聞く。 「どうして、私を助けたの? さっき蟲嫌いだって言ってたのに・・・」 「・・・お前が苛められてんの見たら、なんかムシャクシャした」 それって・・・ 「勘違いするなよ。苛められてんのがお前だろうと誰であろうと助けるのが『筋』ってやつだ。 俺はその『筋』を通しただけだからな」 「私のこと、嫌いじゃない?」 「・・・・・・・・・人の形してるお前なら許容範囲。そう言ったろ」 間が空いたが、彼はそう答えてくれた。 「だが蟲は嫌いだ。絶対無理。お前なんか焼殺か氷殺されてしまえ」 「○○顔赤くなってるよ」 「は、走ったからだ!当然だろ!」 何時ものぶっきらぼうな返事ではなく、どこか歯切れが悪くなった○○の返事。 普段ツンケンなくせに受けだと弱いのか。意外意外。 私はそんな○○の一面を垣間見て、さらに彼への想いを強くした。 「おい、行くぞ」 急に○○は里へと歩き出した。 「え? 何処行くの?」 「さっき助けてやったろ。お礼に昼飯おごれ」 「ちょっ、今月ピンチなんだけど!」 「じゃあ体で払え」 「えっ・・・ま、○○がそう言うなら・・・・・・」 「やっぱ無し。蟲でまな板なんてこっちから願い下げだ」 「ひどっ!!それにまな板って、私だってちょっとはあるんだから!!」 「こっち寄んな蟲野郎!!」 「男でもないー!!」 人里へと続く道、何時もの○○とのやり取りの中、リグルは思った。 例え時間が掛っても、絶対貴方を蟲好きにしてあげるからね!! おまけ( in 里の某定食屋) リ「そういえば○○が助けてくれた時の芝居って何?」 ○「ん、あれは俺の固有結界だ」 リ「固有結界?」 ○「そう。我がソウルブラザーであり心の師である御方と比べれば、威力は足元にも及ばないがな。 そもそもこの技はある領域に達していないと発動すら困難なもので―――――――― ~以後5時間延々と続きます~ ・・・・・・・・・と言うわけだ」 リ「○○、もうお店閉まっちゃったよ」 うpろだ343 ─────────────────────────────────────────────────────────── 俺は、〇〇。とある村の一角で、科学者をやってる。 科学者と言えども大した発明品を作り出せるでもない、ただの修理屋として働いてる程度だ。 「最近は、ちょっとゴキ〇リが増えてきて困ってるのよぉ」 と言う話を小耳に聞いたので、とある自作の研究品を試すことにした。 その名も『ホイホイ四号』。 作り方は簡単、大きな箱の中央にエサを置いて、その周りが接着剤となってるモノだ。 しかし一号や二号とは違い、箱の大きさは大の大人が一人入れるほどに改良してある。 「それを家の裏に置いたらあら驚き、村中にいる大量のゴキ〇リが入ってると言う制法よ」 我ながら失敗続きが続いたので、これで終止符を打てると思いウキウキしてる。 はてさて、結果はどうなるのかな? 夜の十時、自分の成果を楽しみに『ホイホイ四号』のところに向かった。 結果から言えば、大失敗だった。 「ぼっ、僕は――Gなんかじゃない!!」 ええと……少年? 少女? どちらとも言える小柄な子どもが罠に掛かってるだけだった。 これで成功してたらこの子が凄いことになってたし、失敗でよかった。 「えぇと、これは人間のご飯じゃないから食べちゃいけないぞ。 下手したら腹壊すぞ?」 「なっ、なめないで。僕は、こう見えても蛍の妖怪なんだから!!」 頭から足元まで、じっくり眺めてみる。 「……どっから、どう見ても……ん?」 頭から、二本ほど突起が出てることに気付いた。 「どう? これで僕が妖怪であることが証明され「ちょっと失礼」 くぃ、っと突起を掴んでみた。 「ひゃぁ!?」 掴みながら、上、下、左右に動かしてみる。はずれない、本物のようだ。 「ふむ、はずれないな。本物らしい」 「あ、ぅう……解ったでしょ? はっ、放してよぉ」 しかし、頭にアロン〇ルファでくっ付けた可能性も考慮して、根元に触れてみた。 「あぅ――!!!」 根元を見るかぎり、自然に生えてきたらしい。 その他、数回に及ぶ検査の後、その子は頭を振りながら、こちらに言ってきた。 「はぁ、はぁ……わ、解ったんなら、放してよぉ!!」 顔が真っ赤なのは何故だろ? まぁ、いいか。 「しかし、これは自分から生えたのか……ってことは」 「これで、僕が蛍の妖怪だってことが証明されたでしょ?」 そんな事を言う蛍の妖怪様は、接着剤のせいで手足がからまって動けないようだ。 「……最近の妖怪は柔らかいイメージが半分で出来ているんだな」 「こう見えても、僕は虫を操る能力があるんだよ。 馬鹿な事を言ってても……いいのかな?」 はったりじゃないのは雰囲気は分かるが、 疑問が一つだけ。 「なんで、最初っから呼ばなかったんだ?」 「……えっと、だって、」 理由を話そうにも、言いにくそうだ。 妖怪らしくこちらの言い分を聞かずに襲い掛かればいいのに、律儀な奴だ。 そんな中、この場に合わない、ぐぅと言う音がした。この子のお腹から。 「あ、」 恥ずかしそうに顔を俯かせる、蛍の妖怪様。 腕が接着剤のせいでまともに動かないから、お腹を押さえられなくて困っているらしい。 やべぇ、こんなにときめいてるのに相手が男だったらどうしよう? 「要するに、だ。お腹減ったから、里に下りてきて何かを食べようとしてた訳だな?」 「――うん」 「それで、くだらない理由で人間に捕まったことを仲間に知られなかったと?」 「――うん」 本当に素直な妖怪だこと。 「俺の名は〇〇って言うんだが、人の料理くらいならば馳走できるが……いるか?」 「えっ、いいんですか!?」 そんな期待に満ちた目で見られたら、こちらとしても困るのだが。 「食べる前に、名を名乗れ。こちらも既に教えたんだぞ」 その名前で、男か女かを特定できる――!! 「あぁ、ごめん言い忘れてた。 僕の名前はリグル・ナイトバグ。よろしくね、〇〇」 やべぇ、本当に男か女かわかんねぇぞ、その名前……。 「んで、リグル。ご飯は人間のものでも食べれるのか?」 「ここで僕を馬鹿にするかのごとく、エスカルゴ出したら君の事食べちゃうけど」 うは、実はこの料理は命がけですか? 「じゃあ、食べやすいようにスープにするが、いいか?」 「うん」 今更ながら思うが……こんなに可愛い子が女の子なはずがない、よな。 「へぇ、〇〇って料理上手いんだ。以外だなぁ」 「以外は余計だ」 とか言いつつ、美味しそうに食べてもらうのは実は嬉しい。 スープを食べ終わったのか、満足気にこちらを向き、 「料理上手いけど、ずっと一人暮らししてるの? 科学者とか言うのも、変な仕事だし」 と、リグルはなんでもないかのように無邪気に聞いてきたが、俺は内心……胸が潰れるかと思った。 「スマン、ちょっとコーヒー入れてくる」 「えっ、〇〇?」 席を立ち、台所に向かう。コーヒーを二人分注ぎながら、言うのを躊躇った。 なんか、変な風に捉えられるのもアレだが――結局、正直に答えることにした。 「三年前に婚約者はいたんだがな――急に現れたスズメバチの大群に刺されて死んでしまった。お腹の子供と共に」 コーヒーを注ぐ音だけが、辺りを支配していた。 「……〇〇」 「だからと言って、そのスズメバチのことを恨んでるわけでもないんだ」 そう、自然の出来事を許容できなくて、何が人間か。 俺が許せないのは――その出来事を何も出来ずに見つめるしかなかった、自分である。 「香水を着けなければとか、黒い服を着なければとか、刺されたときの対処法とか知ってたら、あいつは死ななかったかもしれない」 だからこれ以上後悔しないためにも、知識を取り入れ、二度と俺らのような人間が出ないようにしている。 ――それが、俺が『科学者』と名乗る理由だ。 そんな事を言いつつ、コーヒーと砂糖とシロップを渡す。 「『科学者』なんて名乗る物好きは俺くらいだし、馬鹿っぽいが、結構楽しいぜ?」 お、ちょっとこのコーヒー苦すぎたかなぁ、なんてリグルに注意してやろうと(甘党と勝手に判断)、振り向いた。 リグルの顔を見て、違う言葉が出てきた。 「おぃ、なんで涙ポロポロ流してる、蛍妖怪」 「だ、だって、家にムカデが出てきた程度で僕をつけ狙う奴もいたのに、世の中にはこんな人もいるんだなぁって思ったら」 あー、蛍の妖怪ってだけで、こいつ苦労してるんだなーとコーヒーを飲みながら思った。 「それは勝手な奴だな、いつかこらしめねば」 「えっと、変な装置から出るビームで山を根こそぎ吹き飛ばしたりするよ?」 「――それは勝手な奴だな、いつかそれはダメだと遠まわしに言ってやらねば」 「意見が小さくなってるよ、〇〇……」 その後、他愛ない話をしていたが、壁に掛かった時計で時間を確認したら、既に夜の十二時だった。 「と、もうそろそろ寝る時間だな」 実はもう少し話していたいが、明日、仕事が溜まってるのだ。 「そ、そっか。そうだよね」 明らかに残念そうに、顔を曇らせるリグルを見て、自然と言葉が出てきた。 「まぁ、暇だったら家に遊びに来い、またスープ程度は奢ってやる」 ピンっ、と頭の突起が立った。あれで感情表現できるって、すげぇな。 「いいのっ!?」 「また、うちの『ホイホイ四号』に引っかかってもらっちゃ困るからな」 「えっ、あ……あはは」 顔を背けるリグル……まさか、そんなフラグを狙ってないよな? で、俺とリグルはドアの前で向き合う形になった。 「お土産に、砂糖とシロップまで貰っちゃって、すみません」 ペコリとお辞儀。どうしても、仲間の虫たちにあげたいらしい。本当に律儀な奴だ。 「後、又、ご馳走になりに着ますので。その時は、お土産ももって行きます」 「あぁ、そうしろそうしろ」 んじゃま、明日のためにも寝ますかと、布団に向かおうとし、 「ねぇ、〇〇。外見てよ」 と、腕を引っ張られて、ちょうどドアの外側で二人で仰向けに寝転ぶ形になり―― ――満点の星空と、無数の蛍たちが舞っていた。 「……」 その光景に、言葉に出来なかった。 「僕から、ご飯のお返しだよ」 綺麗だよね、とリグルは呟くが、そんな言葉程度で表していいものではない気がする。 なんか、俺が見てていいのかと思ってしまうほど、美しい――。 「このまま、寝るか」 「そうだね」 二人で笑いながら星空を見ながら、まどろみに溺れた。 「ヘックシュ」 自分のくしゃみのせいで、起きてしまった。 おぉ、寒いところで寝るのは流石にマヅかったな。 「……あれ?」 いつの間にか、俺にマントがかけられてた。 このマントは、リグルんだよな? 「くそぅ、やられたか!!」 俺の仕事を取りやがって、いつか絶対に俺の上着をお前に掛けてやるからな。 そんな事を考えてながら、時計を確認。やべ、もうすぐで開店時間だ!! 「仕事仕事……グスッ」 うぉ、鼻づまりが酷いな。 一応、風邪薬飲んでおこうか。 しかし、風邪が治る気配も見せなかった。 「ねぇ、〇〇? あんた、顔色マヅいけど大丈夫なのかい?」 「大丈夫ですよ。ちょっと夜景が綺麗なんで、外で寝ただけです……ハックシュ」 「相変わらず知識あるくせに馬鹿なんだからねぇ……待ってな、ドリンク剤持ってきてあげるから。 後、今日の仕事は休んどきな。あんたが死んじゃ、私らも困ってしまう」 ご迷惑かけます、と礼を言っておいた。 「されど、研究とか以外にやることがない俺だったわけだ」 だから『ホイホイ五号』の製作に取り掛かってるが、何をどうするべきだろう? ――エサの強化か? 「リグルが引っかかるくらいだから、それは大丈夫だろう」 ふむふむとドリンク剤を摂取しながら考え、 「誰が、引っかかったって?」 後ろにリグルが腕を組んで立っていた。 むすっ、と不機嫌なご様子。 「ん? どっかの蛍の妖怪の話だが、リグルだなんて一言も言ってないぞ?」 「さっき言ってたの聞こえたんだけど?」 うは、バレてたようだ。クシュン。 「――あー、すまんな。と、それよりも七時に来るなんて、結構早いんだな」 「〇〇のために集会早く終わらせた……じゃなくて、顔赤いけど大丈夫なの〇〇?」 「軽い風邪だ、別段体に障る程度でもないし、『ホイホイ五号』の製作に取り掛かってる」 「その件だけど、ここの里のゴキ〇リは全て退去させたけど」 ……あれ? 「虫を操る能力は、そこまで凄いのか?」 「〇〇は、僕を馬鹿にしてたの? 下位の妖怪でも、これくらいは出来るよ」 ため息をつかれた。いや、待てよ、だったら…… 「今まで作った、『ホイホイ一~四号』の意味が無いのでは!?」 うぁー、八クシュン、結構時間かけちまったんだがなぁ。また違う機械をつくりゃいいか。 「いや、だって……『四号』がなかったら、〇〇に会えなかったし……」 「んぁ? あー、マヅいな鼻声になってきた。で、なんて言ったか聞こえなかったから、もう一回頼む」 「~~っ!! だから、風邪なのにそれを作ってても大丈夫なのって、僕は聞いたの!!」 何故、そんなに顔を赤くさせて怒るんだ? 「病は気からってな。『自分は病気にかかってる』って考えてたら、治るもんも治らんだろう? 要は『自分はいつもと変わらない』と考えて行動するんだ。そしたら、いつの間にか治ってる」 ふふん、と自分の意見に自信満々で……あれ、馬鹿な奴を見るような視線を向けられてるぞ、俺。 「病人は病人らしく、布団で――」 Yシャツを前から力いっぱい引っ張ったらしいが、あまりの体重差で動かないらしい。 「……」 「……いゃん、えっち。クシュン」 「……布団に入りなさい」 「ヤダ」 数秒間の睨み合いが、続いた。 そしてリグルから目をはずして、こう呟いた。 「解った。布団に入らないなら、退去させたゴキ〇リを一挙にここに集結させ 言い切る前に布団に飛び込んだ。 負けた気がしたが、本当にされるよりはましだ。 「それで、〇〇。夕ご飯は何食べたの?」 「いや、ドリンク剤で済ました」 「――それじゃ、体を壊しちゃうよ」 「いつものことだから気にするな」 と、スープを作ってあげなきゃなと思いついて、ベッドから出ようとした。 そんな俺の目にエプロンを付けたリグルが目に入った。 「ちょっ、待てリグル。お前、料理できるのか――!?」 「なんでそこまで驚くのさ?」 呆れたようにと言うより、不満げにこちらに振り向き、 「僕だって、嫁修行くらいはしてます。妖怪だからって、馬鹿にしないでよ……もぅ」 俺は愕然としながら、その言葉を聞いていた。 女の子――だったんだ、こんなに可愛いくせに……!! 「? 〇〇、なんでガッツポーズ取ってるの?」 「いや、俺は今になって世界の真理を全て知った気がしたんだ」 可愛い奴が全員女の子じゃないと言う保障はないんだ――!! 「……? まぁ、冷蔵庫見せてもらうよ」 と、出来上がった料理を見て、正直に思った。 絶対に、こいつは女の子だという確信が出来たんだぜ。風邪になって、本当に良かったんだぜ……。 「一人で盛り上がってる時にこれを言うのは、あれなんだけど味に自信ないよ?」 何も言わずに肉じゃがをパクり――ん、肉じゃがだと? もしゃもしゃと、口で咀嚼しながら考える。ゴックン。 「美味いのだが、一言だけ。深い意味は無いよな?」 「なっ、無いよ!! もちろん、普通に食べて欲しかっただけだから」 こちらの誤解だったか、良かった良かった。 いや、深い意味で物言われたら、家の 「でも、この家のコンロって電気から熱を起こす物で助かったんだけど、電力はどっから供給するの?」 あぁ、やはり妖怪といえども蛍だからな、火は怖いのか。 「電力? そんなの簡単に作れるじゃないか」 「えっ、香林堂の人が簡単には作れないって――」 これがそんなに難しいかなと思いつつ、隣の部屋を開けた。 ネズミが一匹、回し車の上で上からぶら下がったチーズを追っかけてた。 「あの、〇〇?」 「一匹だけで家の電力を全て補ってくれるから、このシステムは画期的だよな」 「これは、どこのカンタ〇ロボ?」 「なんだ、それ?」 あまり興味がなさそうなので、部屋を閉めた。 「だったら、こちらからも質問」 「何?」 「リグルは火が怖いんだよな」 「――ま、まぁね」 「だったら、以前はどうやって嫁修行とかってやったんだ?」 「えっ、と……それは、内緒」 俺の予想では、蛍の発光部位が熱を持っているのかと思ったが、違うらしい。 電気による発光と比べて、かなりの効率がいいらしく熱はあまり持たないらしい。 ――まじめにどうやって料理してるんだろう、こいつ。 熱が下がってきたかなぁと思い、質問してみた。 「そろそろ治ったから、布団から出てもいいか?」 「君はどっかの駄々っ子? 風邪引いたんなら寝てなさい」 と、頭にタオルをのせられた。 ――過保護すぎる気がするが、いやではないな。 それにしても、さっきから思ってたのだがこいつは妖怪にしてくのは惜しいくらいお嫁さん気質だな。 「ゴホン……え、えっと、そろそろ帰ろうかな?」 時間は11時か、なんか寂しい気がするが、あちらにも事情があるのだろう。 「やはり、集会とかあるのか? マントは洗濯しといたから、外に行けばかかってる。 また、遊びに来いよ」 ……あれ? なんか不安そうな顔をしてますが。 「呼び止めて、くれないんだ」 か細い声で、そんなことを言われたら――かなり困る。 うpろだ419・420 ─────────────────────────────────────────────────────────── すこし薄暗い部屋の中。 あえて言うなら、自分の部屋だ。 中には気持ちの悪い虫から、これは虫なのか?と思えるほど美しい虫がケースの中で溢れかえっている。 これらはとあるお方のおかげで外の世界から持ち出すことに成功した。 その部屋の中に自分と、ふんわりした緑色の髪の少女がいた。 ―ほら…綺麗だろ? これはオアシスアゲハという蝶で、お気に入りなんだ。 ひらひらと綺麗な緑色の羽を羽ばたかせる蝶を少女に見せた。 「わぁ~…すごく綺麗…」 ショーケースに納められた宝石を見つめるかのように、少女は黒い2本の触角をそわそわ動かしながら見とれる。 「…ねぇ○○。 私とその蝶…どっちが素敵?」 隣からもどかしげに訊いている。 ―もちろん、リグル。 …君のほうさ。 そういいながら、少女―リグルの頭をやさしくなでた。 「ひゃぅっ…、あんまりなでないでよぉ」 リグルは顔を赤くして、抱きついた。 あぁ、どうして君は虫以外見る目の無かった自分をこんなにも魅力させるんだい? こんなにも愛しいなんて――― ―――少女に出会ったのはおよそ3ヶ月前。 その時の自分は虫を事しか一切興味の無い、ダメ人間だった。 大学を考え始める高校生3年生なのに、成績は理科(生物)意外、もっぱらダメで、友達はおろか、全ての人との関わりを隔離していた。 別に人付き合いが苦手ではない。 しかし、虫に関する話をしてくれないのが嫌で堪らなかっただけである。 幼い時から虫を捕まえ、飼育するのが趣味で周りから畏敬と軽蔑の両方の意味を込めて「ファーブルの生まれ変わり」と呼ばれていた。 始業式が終わると同時に学校を抜け出した自分は虫取り網を片手に、山へ駆け出した。 その日から自分の人生はさらにずれ、外れて、変わり果てていった。 お気に入りの場所で虫の採取をしていると、今まで見た事も無い、瑠璃色の玉虫を見つけた。 その虫が森の中に逃げ込んだとき、自分の視界はその虫に釘付けになり、心は捕まえたいと言う気持ちで満たされてしまった。 網を振り回し、全力で追いかけた。 それをあざ笑うかのように逃げる玉虫。 そして、何かに躓いた瞬間、中に半回転し、地面に後頭部がぶつかり、それでも転がり、深い闇に落ちて―。 気がついたときは夜だった。 満月が照らし出し、周りは見た事も無い森の中を視界に映らせていた。 ―…見た事も無いところだな。 ここは一体…? とりあえず体を動かそうとしたが、全く動かない。 先ほどの後頭部直撃で体が麻痺したのだろうか? いや、それは違った。 視点を体のほうに向けると、白い糸が惜しみなく体中に巻かれていた。 「あら、お目覚めのようね」 突然の少女の声を聞いた自分は、視点を前に戻した。 そこには緑色のショートヘアーの少女がいた。 いや、一目見たときは少年のように見えたが、よく見れば、僅かばかり胸があり、体つきに丸みが帯びてたのがわかったので、少女であることを知ることが出来た。 少女はうっすらと笑みを浮かべながら、唐突な死の宣告を告げられた。 「外の世界の人間であるあなたに悪いけれど、蟲達の養分になって、死んでもらうわ」 そういうなり、少女の周りには無数の黒い『蟲』が、その隣には大きな蜘蛛が現れた。 見た事も無い虫に思わず見とれてしまった。 …それにしても、あまりに唐突である。 しかし、これっと言った恐怖は無かった。 何が何だかもうわからない状態だったので、自分でも驚くくらい冷静に…いや、無感情になったのだ。 ―そうか、それなら好きに。 淡々と諦めるような口調で返事をした。 すると、少女は不思議そうな表情を浮かべた。 予想外の返事だったのだろう。 「なぜ? なぜそんな事がいえるのよ」 ―自分、虫の為に生きている人間だから、虫に殺されるのは本望さ。 まぁ、心残りといえば、あの玉虫が見れないってことかな…。 それきり、沈黙が続いた。 その沈黙がしばらく続いた後、突然糸が切れ、束縛から解放された。 ―どうした、殺すのではなかったのか? 「…さっきのは無かったことにするわ。 その代わり、あなたの話を聞かせて頂戴」 目の前にいた少女は先ほどの嘲笑から、穏やかな笑顔に変わっていた。 最初は互いに自己紹介をし、ここはどこなのか、ここに来るときの経緯について、質問しあった後、虫に関する話を語り合った。 どうやら彼女はリグルと名の蟲を操る妖怪で、ここは幻想郷と呼ばれる異世界であるそうだ。 ムカデや蜘蛛と言ったすごい虫から、蛍と言ったかわいい虫を見せてくれたときには思わず感嘆してしまい、見とれてしまった。 それに負けじと自分もここでいう『外の世界』での虫を教えた。 その話に興味津々に聞いてくれるリグルがすごく嬉しかったのと同時に…別の感情が動き始めた。 語り合ううちにいつの間にか明け方になった。 これだけ長く会話をしたのは人生で初めてだろう。 その時、リグルが質問した。 「ねぇ、あの時…○○は死ぬの怖くなかったの?」 ―全然、と言ったらうそかな。 「そっか、やっぱり怖かったんだね」 ―あぁ、そうさ。 じゃ、逆に訊くが、どうして殺さなかった? 「…虫が好きな人がいたって言うのをしったからよ」 なんとなくわかってたが、敢えてきいてみた。 答えは予想通りであった。 「…そろそろ日が出てくるね。 私帰らなくちゃ。 楽しい話聞かせてくれてありがとう!」 リグルはにこっと笑って、別れを告げた。 …あっ、大事なことを忘れていた。 どうやってここで生きていこうか。 夜でリグルに会うまでは、サバイバル生活をすることは…幸いにも無かった。 たまたま出会った女性、確か…けーねだったか。 その人に人間の里と呼ばれるところに案内させてもらい、空家で住むことになった。 食料のほうは外で取れる魚と木の実を主に、時々けーねと呼ぶ女性から差し入れを頂いて、困ることは無かった。 衣類の方は・・・里の中で売られている服を数着、なけなしのお金で買った。(もともと日本の土地だったからなのか、現在の紙幣が使えた) それからはここでずっと暮らすことになったときを考えて、アルバイトをすることにした。 ただ、心配なのは自宅の虫たちのことだ。 虫を捕まえて飼育することが趣味の自分にはすごく不安である。 皆無事だといいんだが…。 まぁ、いいか。 それからと言うものの、夜毎にリグルと会って話し合ううちに、虫の事よりも、彼女のほうに好意の対象が変わっていった。 彼女の話を聞くたび、彼女が帰るたび、心は彼女のことでいっぱいになって、また会いたいという気持ちが抑えきれなくなってしまうのだ。 これが恋という奴なんだろう。 何とか伝えてやりたい。 しかし、虫のことにしか興味の無かった自分にはとてもじゃ言えないだろう。 …いや、いつかは言っておかないといけない。 ここに住み込んで2ヵ月後、彼女に告白する決心をついた。 そして―――来るべき夜がやってきた。 いつもの様に彼女はやってきた。 うむ、いつものりグルだ。 そう確認した後、すこし大げさに息を吸って、告白の第一歩を踏んだ。 ―リ、リグル。 今夜キミに言いたいことがあるんだ! 第一歩目はまずまずだったかもしれない。 予想通り、リグルは「な、何よ?」とすこし動揺している。 そこで第二歩目を踏み込む。 ―最近、虫のこと…好きでなくなったんだ。 わざと、気を落としていう。 「えっ、えぇ…!? ○○、今日はどうしたの?」 突然のわけのわからない発言に困惑するリグル。 そしてとどめの三歩目。 ―今は、虫のことよりも……リグル、お前のほうがずっとずっと、好きになったんだよ!! 初めてだす、大声。 一斉にリグルの周りにいた蛍が飛び散った。 その声にただ単に驚いたのか、「よく言った!」と賞賛の行動のどっちなのか、自分にはわからなかった。 このどきどき感はしばらく止まりそうも無い。 ―長い沈黙が漂う。 実際はそれよりももっと長かったかもしれないし、あっという間だったかもしれない。 その間、リグルは顔を真っ赤にさせ、震えていた。 今にも泣き出しそうな表情である。 突然、その長い沈黙は終わった。 彼女から、抱きしめたことによって。 「…本当に、わ、私のことが好きなの? ここで冗談だよなんて、言わないよね…?」 上目遣いで問いかける彼女をみて、次の言葉がなかなか見つからなかった。 ―ぁ、あぁ。 これでも自分、すごく勇気を振り絞って、言ったんだ。 それでも、嘘だと思う? 「ううん、そう思わない。 疑ってごめんね…そして、ありがとう…。 私もあなたが大好き」 リグルは涙をこぼし、より強く抱きしめ、かわいい顔を自分の鳩尾にうずめた。 少しして、お互いに微笑んだ後、半月をバックに長いキスをした。 その二人に祝福するかのように蛍が舞っていた。 しばらく抱きしめたあと、ふとリグルの頭をなでたくなったので、優しく頭をなでた。 いや、正確に言うと触角をなでたといったほうがいいか。 なでなでなでなで。 「ひゃぁっ!? あぅぅぅ…///」 驚いたことに、リグルは裏声を上げ、ぶるぶると震えだした。 ―ご、ごめん! 触っちゃだめだったか? 「あんまり、触らないで欲しいな…だって、デリケートな部分なんだよ?」 …どうやら、この触角はただの飾りではないと言うのがわかった。 後ほどの話によると、この触角で空気中に漂う気、魔力、霊力をコントロールし、弾幕を放ったり、蟲たちを操っていると言うことだ。 ―そうだったのか、それはすまなかった。 「いいよ。 けど、あんまり…触っちゃだめだよ」 リグルは再び真っ赤になって手で顔を隠してしまった。 今夜は珍しい一面が見れて内心大満足な自分だった。 ―――それからというものの、結局は幻想郷で暮らすことにきめた。 外の世界に関しては今まで育ててきた虫たちがとある方の協力のおかげで部屋の中に存在している。 なので、もう一切帰りたいなんて思わなかった。 隣にいるリグルが愛しくてたまらない。 あの日から、リグルと一緒に人里で暮らすことにした。 案外周りからの反対はなく、けーねからいくつかの約束事(主に人に襲ってはいけないこととか)を守るだけであった。 そして、今でも幸せに暮らしている。 しかし、自分は人間ではなくなった。 愛しいリグルを守るため。 お世話になっている人里を守るため。 自分自身が強くなりたいため。 彼女に頼んで、自ら虫の妖怪になった。 そして、『虫を操る程度の能力』を得た。 FIN おまけ その一 作中に出てくるとあるお方はゆかりんです。 その二 ○○は後の武●●金のパp(リグルキック) うpろだ620 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「お~い。○○いる?」 「チッ……香霖堂め。掴ませやがったな」 「え? どうしたの?」 「この蚊取り線香ききやしないじゃないか」 「私は蛍だよ!」 「はぁ……で、なにようだリグル」 「里でお祭りやってるみたいなんだけど、一緒に行かない?」 「おいおいおい、勘弁してくれよ。折角いい気分で酔ってるんだぞ? だってのに、何でわざわざ人ごみにくりださなきゃならないんだ。ここでこうしてるほうが楽しいに決まってる」 「うわぁ、おっさんくさい」 「…………なに?」 「そんなんだから年より老けて見えるとか言われるんじゃない?」 「いい度胸だ蟲っ娘。俺という全存在に賭けて祭りを楽しみぬいてやる」 「いや、別にそこまでしなくても」 「はっはっはっ、ついて来い、お前に俺がまだ若いってことを思い知らせてやる」 「いいけど……それって暗に自分が老けてるって認めてない?」 「…………」 「…………」 「いやいやいや、そんなことないぞ。そうともそんなことない」 「いいけどね。私は○○と出かけられたら、それでいいんだし」 「んなッ……」 「へへへ」 「は、恥ずかしいやつめ……まぁいい、おごってやるからついて来い」 「うん!」 8スレ目 282 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ん~♪今日も暖かくて心地いいね」 「……リグル、その発言は敵を作るよ」 「そう? こんなに蟲たちも活発になって、心地いいじゃない」 そりゃ、蟲の天下な季節だけどさ。フツーの人間には厳しいよ。蒸し暑くて死にそうだ 「でも、〇〇の元気がないのもつまらない~。川辺あたりに遊びにいく?あそこなら涼しいと思うよ」 「ふっふっふ、そういわれると思ってな。実は外界の水着を用意してあるんだ。 リグルも着るかい?きっと似合うと思うよ」 スク水ジャスティス 8スレ目 617 ─────────────────────────────────────────────────────────── 森の中を虫たちと一緒に散歩していると見知らぬ子供に出会った。 彼の話を聞くに、どうやら外の世界から来たようだ。 「僕、これからどうなっちゃうの……?」 不安そうな彼のしぐさは、まるで小動物のようでとても可愛らしかった。 ぶっちゃけると私のツボに直撃した。 だから私は彼を助けてあげようと思った。 「大丈夫。私が里まで送っていってあげる。あとはたぶん巫女に頼めば帰れるよ」 「ホント? ホントに!?」 「うん。だから安心して」 「良かったぁ……」 私の言葉に彼は安心した様子を見せた。 「じゃ、日が沈まないうちに早く行こう」 彼の手をとって立ち上がる。 すると彼は満面の笑顔を浮かべながらこう言った。 「うん。ありがとう、リグルおにーちゃん」 11スレ目 169 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ふぁ~あ、今年もよく寝たぁ……ん?」 「よぅ、待ちくたびれたぜ」 「おはよう、いっぱい待たせちゃったね」 そういってリグルは俺の首に手を回してくる。 俺も一冬振りのリグルの感触を楽しみながら抱きしめた。 そこでリグルがふと気づいた様に聞いてきた 「そういえば去年わたしが冬眠するって言ってからどれくらい来てたの?」 「……お前が寝付いてから毎日だ」 「もぉ…恥ずかしいなぁ、暖かくなってからでいいって言ったじゃん」 「惚れた女に逢えないならせめて傍に付いててやりたいのが男ってもんだ」 「馬鹿……。エッチなことしてないでしょうね?」 「そういうサービスはこれからじゃないのか?」 「ホントに馬鹿なんだから……、ほら」 そうため息をつき、リグルは目を瞑って顔を寄せ、キスをせがんで来た。 俺も苦笑しながらそれに答える、そして今年も春が訪れたことを感じるのだった。 13スレ目 379 ───────────────────────────────────────────────────────────
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701. 名無しの心子知らず 2011/02/18(金) 08 02 34 ID PCdsRj7a 700 「その他」って具体的に何ですか? 702. 名無しの心子知らず 2011/02/18(金) 14 23 25 ID dIQgbAIX 特定のDNAを依頼していない限り、他の染色体異常じゃないのかな? 転座とかの結果なんじゃね? 日本でも同じだと思うんだが。 社会保障でカバーされるのは裏山。 703. 700 2011/02/19(土) 19 14 36 ID ghtBbhMr 検査後とくに何の異状もなく2日経過しました 仕事は検査日+翌日のお休みいただいています(病欠扱いで100%有給) トリソミー18ではなく、ソリソミー21の結果が1週間で出るとの事 702 さんの仰るとおり、「その他」は他の染色体異状についての検査だと思われます 顕微授精でしたので、遺伝子検査は治療開始前に一通り検査しました こちらも43歳まで、計6回社会保障負担です 自己負担約2-3万円/回ほどです 705. 名無しの心子知らず 2011/02/27(日) 15 04 30.49 ID HhWQbEmI 野田聖子が、産まれた子供がかなり重い障害(心疾患、肝疾患、食堂閉鎖) であることを公表したな。 まだ、ちゃんと因果関係が取れているわけではないが、 「ゲノムインプリンティング異常症」の原因が体外受精である説 を補強するサンプルになってしまった。 706. 名無しの心子知らず 2011/03/03(木) 11 23 56.78 ID hZJeHCYp 妊娠したかも?って思ってる時期に義兄が 「ダウンの子が居る知人が立候補するので協力して」 って言って来てなんちゅうタイミング悪い人かと思ってるところへもって、 つい先日「決起集会に参加よろ」という葉書が届いてトドメ刺された。 「お前もこっちの世界に来い」って言われてるみたいで絶賛憂鬱中。 万一産まれた子がダウンだったら鼻息荒くして近付いてきそうだし…… 現在30代前半で11w。 9wでは順調で問題なしと言われていたけど、 最近物凄く不安になって、夫と相談して羊水検査受ける事に決めた。 病院のサイト見ただけだと、検査は受けられるけど病院側の検査に対する考えや、 陽性だった場合に処置出来るのかってのは判らなくてちょっと不安。 次の検診でちゃんと相談してこよう。 ここのスレも凄く参考になったよ。 707. 名無しの心子知らず 2011/03/03(木) 22 16 07.34 ID gVrPzDe3 野田議員 胎児に異変見つかるも羊水検査を断固拒否していた http //toki.2ch.net/test/read.cgi/dqnplus/1299149092/ 自己満で産みたいってだけの人はやっぱ受けないんだね。 708. 名無しの心子知らず 2011/03/04(金) 10 18 11.34 ID rV93wzn8 706 病院・医師によって、検査に対するスタンスはもちろん、価格も大きく違う。 通ってる総合病院の医師は「もし判ったらどうするの?」という人だった。 おまけに近くの個人医の倍額もした。 結局早く結果も知りたいし、結局大阪で絨毛検査をしました。 出生前診断って、誤解を恐れずに言えば、「早く安心を買う」ってことに尽きると思う。 709. 名無しの心子知らず 2011/03/04(金) 13 24 19.25 ID T5VJmPZy 707 何があっても産むつもりの人が羊水検査受けないのは当然の事だと思うけど。 710. 名無しの心子知らず 2011/03/04(金) 17 24 46.57 ID uw/vVuXk 興味深いな。 野田の子供は、臍帯ヘルニアとかあるから、 もし「遺伝子刷り込み疾患」だとすると、こんなところか。 http //www.nanbyou.or.jp/kenkyuhan/pdf/21109.pdf (そのほか参考資料) http //lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=1997 number=4216 file=X6HPvOboh981mwpMhIlXOQ== こちらの資料では、ICSIが遺伝子刷り込み疾患を誘発する可能性を示唆している。 ttp //www.jsog.or.jp/PDF/60/6009-377.pdf 711. 名無しの心子知らず 2011/03/05(土) 07 38 34.35 ID iBQHuaAO 18トリじゃないかって言われてるみたいだけど。 712. 名無しの心子知らず 2011/03/05(土) 08 39 52.38 ID Z9TbC2yf 18トリじゃ、これから1年に6度の手術は こどもがもたないんじゃないの? 713. 名無しの心子知らず 2011/03/16(水) 08 45 30.24 ID P/OgdEN9 高齢じゃないのにクアトロが二桁でてしまったから羊水うけてきた 手慣れてる先生だとすごいわ 消毒10秒、胎盤確認10秒、ちくっとしますよーといいながら針さす3秒、羊水抜く20秒ってかんじで1分以内で終わった 痛がる暇がないから痛くなかった しかしその後、子宮収縮のせいか鈍痛で1時間ほど回復室でうなる おさまってから会計して帰宅 流産しちゃう人はなぜしちゃうんだろう とてもそんなリスクが高い検査とは思えない 子宮収縮がおさまらなくてとかそんなかんじなのかな 714. 名無しの心子知らず 2011/03/17(木) 15 15 37.91 ID VlT7XyYu 713 この論文によると、羊水検査による 流産確率は0.06%。 つまり、1667分の1の確率で、全ダウン症児の出生確率よりも低い。 http //journals.lww.com/greenjournal/fulltext/2006/11000/pregnancy_loss_rates_after_midtrimester.5.aspx 10w3dと13w6dの35,003人の妊婦という、 かなり大規模なサンプルを基に 24w未満で流産したかどうか追跡調査したもの。 で、31,907人は羊水検査せず、その流産確率は0.94%。 これがこの時期の一般的な流産率とする。 そして、3,096人が羊水検査を実施。その流産確率は1.0% つまり、羊水検査が影響したと見られる流産の確率は0.06%。 羊水検査の流産の副作用は、通常考えられているよりも はるかに低かった、というのが結論。 ということで、これもまとめWikiにまとめておけ>まとめ人 716. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 09 17 48.34 ID YNFHuUrf 腹部に針を刺さないダウン症診断法、2年以内に普及の可能性(2011年03月09日 14 59) http //www.afpbb.com/article/life-culture/health/2789516/6932569 危険性を盾に羊水検査診断反対が厳しくなりそう これなら危険もないし、早く普及して欲しい 今いる染色体異常児は手厚く支援すべきだと思うけど 今後は「染色体異常児だと分かって産む親」が非難される世の中になって欲しいよ 親への非難だから、子供が可哀想とか議論のすり替えは不要 717. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 09 28 31.15 ID B3n9m9YH 713 確かに。思ったよりたいした検査ではなかった。 母親の細胞取るのにチクッ、羊水は二回デカ針で刺して麻酔もなしで2分かかってない。 ハイリスク妊娠の人には検査しないと言い切っていたし、 羊水検査で流産って元々検査しなくても駄目になってた人の流産も含まれているのかも。 中期流産も結構多いしね。特にダウン症が気になるような年齢の母親だと。 718. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 11 00 51.45 ID zNXSuHyM 今後は「染色体異常児だと分かって産む親」が非難される世の中になって欲しいよ なんで? 719. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 14 21 51.39 ID s4XSXo+1 717 私は大阪のあそこで絨毛検査だった。あっという間。 通ってる総合病院(周産期医療センター指定)は羊水検査1泊2日だった。 値段も高い。 手慣れてる所でやるのが一番だよね。 ただ、1週間以上鈍痛がした。 720. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 18 32 25.65 ID /Mwr0WBa 来週初期の胎児ドッグを受ける。 結果によっては、育てる自信もないし、転勤が多く適した環境とも思えないので あきらめるつもり。 そんな考えもあって、検査が終わって安定期に入るまで 誰にも言わないでおこうと夫と決めていた。 なのに夫が今日会社の先輩に話してしまったらしい。 口止めはしたらしいけど、その先輩が誰かにしゃべると仕事の関係で 義父にばれてしまう可能性が高い。なんで家族とつながりのある人に言うかな!! 友人はもちろん、親兄弟にもまだ言ってないのに。すごく腹が立つ!! 721. 名無しの心子知らず 2011/03/19(土) 18 55 26.25 ID oqWezQdl 胎児ドッグならぱっと羊水検査して白黒つけた方がいいような 722. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 01 29 35.00 ID 83/gxisT 粘着してた基地外は東北エリアに住んでるのか? 723. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 08 53 21.65 ID kpAgR3u6 716 検査はいいし嫌なら堕胎も個人の自由だとは思うけど 私はそういう子を産んだこと、検査を拒否した事を非難されるような世の中はどう考えても嫌だな。 どんな命でも自分できちんと育てる覚悟があるのならそれは尊重し万全の態勢でサポートすべきだと思う。 産むことが罪、授かった命を選別するのが罪、そういう考のどちらもそれなりの理はある。 そして、自分の中で正誤の葛藤もあると思うしどちらを選んでも後悔があるかもしれない。 だからこそどちらを選択しても他人があれこれ言うべきではないと思う。 724. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 17 19 49.82 ID XHB66c6N 723 に同意 725. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 18 56 05.32 ID lwfvvY0Y 723 私はそういう子を産んだこと、検査を拒否した事を非難されるような世の中は どう考えても嫌だな。 これって、微妙に 716 のレスを変更していない? 「染色体異常児だと分かって産む親」が非難、だよ? 今までは、 「どんな子も助けるべき」 って意見ばかりが大きくて、 「無駄な濃厚治療は慎むべき」って意見は 大っぴらに言えないのが現状だったんじゃないの? やっぱり、そういうことも公平に非難できた方がいいと思うよ。 今、そしてこれからの日本の現状考えると。 あなただってイヤでしょ。 先に入院していた90歳の死にかけのおじいさんの下血の 対処療法に貴重な血液を湯水のように消費されてしまっていて、 もし、あなたの子供が事故起こして緊急輸血が必要なときに、 「すみません血液の確保がむずかしくて…」 なんて言われたら。 これと同じことが染色体異常児でも起こるよ? 特に18トリや重度合併症の染色体異常児だと。 後から早剥などで緊急母体搬送された母子はNICUの空きがなくて 死の危険にさらされるのだから。 726. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 21 37 27.56 ID kpAgR3u6 725 それは国や病院やなんかがきちんとストック、余裕を持っておくべき事で 私は基本的にはどんな子も望む人がいるなら助けるべきだと思う。 NICUに長期間いる子は別に染色体異常児だけじゃないんだから。 というか、それ以外の子の方がずっと多いんだよ? あなたの子は産まれちゃいけない子、人に迷惑をかける子だから殺すべきなのにって見ず知らずの他人に言われて それを誰もが認め、誉める世界があなたの望むべき世界? 私は絶対に嫌。 染色体異常だけが特別に「見捨てるべき命」だと当たり前のように認識すべきではないと思う。 そもそも産まれてみないと重度の合併症かどうかはわからないのに。 大体、そんな事が当たり前の世界で染色体異常「だけ」が救う必要のない命だなんてなるわけないし。 産まれてから親が延命治療を望まないと言うのだったらそれもまた認めるべきだとは思う。 産むことなく、堕胎したいというのならばそれもまた認めるべき事。 でも、産んじゃいけないとかわかってて産んだら親を責めるべきとかはおかしい。 そして、産まなかった事で責められるのもまたおかしい。 検査を拒否する事も、検査を望むこともどちらも認められるべき事。 考え抜いて結論を出してもし堕胎するならば、延命を望まないのならば きちんと自分たちが何を選択したのか忘れることも目をそらすこともなく自覚すべき事。 どう考えても他人があれこれ口を出すべきことではないよ。 「国の方針」なんて甘ったれた事で自分で判断する事やその結果に責任を負う事をせずに 自分たちの子供に関しての判断は自分達だけが責めを負うべき事だよ。 だから国はどちらの考えであってもサポートする体制を整えておくべきだと思う。 727. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 01 10 36.89 ID OTyH9yqm 726 私は絶対に嫌。 別にあなただけが認めないのはかまわないけど、 実際問題として、すべての子供を助けるのは無理。 だから、出生前に予後不良の確率が高いケースは、 他人である医療側がそれとなく「あきらめた方が」と誘導しているでしょうに。 それが普通なんだけど。 そもそも産まれてみないと重度の合併症かどうかはわからないのに。 例えば、無脳児や全前脳胞症って、18トリ以上に「生まれたらすぐ死ぬ」 というのが常識で、医者も早期に中絶勧めるのが普通だけど、 本当の意味では、すぐ死ぬかどうか生まれてみないとわからない。 ごくまれに濃厚治療施して、比較的長期間生存する例があるからね。 (大脳が機能していない状態で延命されるのもどうかと思うけど) 最近は人工死産が当たり前だから、出生数は1万人に6人くらいだけど、 あなたみたいな考えで、とりあえず全部産ませてみたら、出生数 跳ね上がるだろうね。精神的ショックを受ける母親の数も。 「絶対無理だと言われてたけど、マラソン完走できる子がいるんだよ。」 「だから、やってみる前からあきらめるのなんて絶対ヤダ。」 で、とりあえずどんな子でもスタートダッシュやらせてみて、 そのために42.195kmまでの間に死屍累々と生き倒れの山を築きあげても かまわないってことなのかな。 そっちの方が恐ろしいなぁ。 728. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 01 26 31.42 ID OTyH9yqm あと気になったのはこれ↓ それは国や病院やなんかがきちんとストック、余裕を持っておくべき事で 本当、自分は要求する一方で、まったく頭を使わずに無責任な感じだね。 国や病院はきちんとやろう、余裕をもってやりたい、と考えていると思うよ。 でも、「何でも助けるべき」って考えの患者・家族が多いから なかなかうまく行かないんだと思うな。 で、そういう人たちのために結局、医療機関の方が先に壊れてしまう。 以前にC市の公立病院が閉鎖になってしまったとき、 「4年間も入院していたのに、病院から追い出すなんてひどすぎる」 って怒っていた人がいたけど、病院が立ち行かなくなった原因の一つが 自分たちであること、平気で長期入院していた人たちだってことに、 まったく気付いてない点に唖然としたな。 で、結局その地域全体の人々が以前と同じような医療を 受けられなくなってしまう、と。 本当に悲劇であり、喜劇だよね。 731. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 09 50 53.43 ID 9rv9NIka C市の公立病院が閉鎖問題は地元市議が 公立病院の医者の給料が高すぎるから減らせ!とか 医者の変わりならいくらでもいる!とか言ってたことも大きな原因だよ。 都会の病院以下のお給料で僻地で医療をしていたのに 地域のためと思って相場よりも低いお給料で 子供の教育を犠牲(都会の進学校に入れたいのに田舎の公立)にして 踏ん張っていた医者が引き上げたんだよ。 医局が手を引いたのよ。 732. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 15 11 51.59 ID tG+Er0Vk 729 728 じゃないけど、エゴにまみれてるのは 726 だと思うよ。 国や病院が準備すべき、と実務的な部分は他人に転嫁、依存して、自分の希望を叶えることしか語ってないもの。 例えば家計で考えてみても、自分や家族の欲求を全て叶えたり、常に最高のものをふんだんに用意したりはできないでしょ? クラシックが聴きたくなったら毎回ウィーン行きのチケット押さえて行く? 子供がバイオリン習いたいって言ったらストラディバリ買う? しないでしょ。 CD買ったり安いこども用買ったりして、学費や食育にもお金まわすんじゃない? 国や病院のリソースも同じように考えて。 ひとりのこどもだけにリソースをふんだんに使うことはできないでしょ。 そんなことしたら、他の人の治療の機会を奪うことになるんだよ。 悲しいけど、リソースが限られてる以上、できることはどうしたって限られるでしょう。 優生学とか視野とかの問題じゃないでしょ。 まあただ罵倒してるとこ見ると、 728 の正しさはわかっての事だと思うけど… 733. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 21 30 01.55 ID kFhxNBib 727 >とりあえず全部産ませる 誰もそんなお花畑な極端な事いってないでしょうよ。 もう一回読みなおしてよ。 産みたくない、自分には無理、他の子を生かすために自分の子は諦めるっていうのを認めるのと同じ様に それでも産みたい、治療して欲しいと願う親の気持ちも尊重すべきで 他人が「染色体異常の子を産んだ」って非難する国はどうかって言ってるの。 産まれる前からわかる病気や障害は染色体異常だけじゃないのにさ。 染色体異常児をすべて堕胎したら今のNICUがガラガラに空いたり 他の子がすべて十分な治療を受けられるようになる訳じゃないのになぜそこだけ「産んだ親が非難されるべき」になるのか。 うちの上の子も3か月NICUに入院してた。 後期に心疾患が見つかってたから生まれる前にエコーでわかっていた病気。 もしかしたら他の合併症もあるかも、なんらかの染色体異常があるかもと言われてたけど無かった。 羊水検査はしてたけど染色体異常ってダウン症とか18トリだけじゃないし。 染色体異常じゃなかったから責められる必要が無く産んでいい治療すべき命で もし染色体異常だったら産んだことを責められるべきだってか? はっきり言ってNにいる子は染色体異常児よりもそれ以外の子の方がずーっと多いんだよ。 うちの子みたいなのは許されて染色体異常は許されないっていうのはおかしいでしょ。 単にどちらを選んでも認められてサポートを受けられるようにすべきというのがそんなにおかしいかねえ。 734. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 22 40 31.51 ID OTyH9yqm 733 うちの子みたいなのは許されて染色体異常は許されないっていうのはおかしいでしょ。 そんなこと誰も言っていないでしょ? 何のために、 727 で、無脳児や全前脳胞症の例を出したか、 理解できていないわけか。 あなたのいう、 「親が望めば、親の望み通りの医療が受けられるべき」 というのは、正しいことなのか、ってことだよ。 そんなの間違っているという意見だって、当然あるはずだよね。 じゃ、聞くけど、親さえ望めば 脳みそが溶けてしまっているような無脳児や全前脳胞症 を出生させてしまっていいの? 生まれつき腎臓がないポッター症候群の子はm羊水まったく生成できず まるで真空パックのように子宮の中で押しつぶさているんだけど、 そんな子を親が望めば、子宮の中で40w耐えさせて出生させてしまっていいの? 体の中の毒素を排出できないからものすごく苦しんだあげく死ぬと思うけど。 染色体異常の子も同じことだよね。 無脳児やポッターと同じように、出生前にはっきりわかってしまうことがある。 そして、予後不良であることも多い。 まだ、知らずに産まれてしまったというのならわかるよ。 事前にわかってたのに、そんな子を親が望みさえすれば、 産ませちゃってもいいのだろうか、ってことさ。 735. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 23 05 27.90 ID OTyH9yqm 726 そして、そういうケースは、産ませたら産ませたで、 莫大な医療資源の消費、コストがかかることも事前にわかっているんだよね。 そのコストに社会は耐えられるのか、その割を食って、不幸な人が連鎖的に 発生することを防ぐことができるのかってことを考えなくてはならない。 普通、みんなそのぐらいの考えには及ぶはず。 それを、さも簡単なことのように、他人ごとのように 「そんなことは国や病院がなんとかすべき」 と言ってしまう 726 の無神経さには、がっかり、というか呆れてしまう。 自分たちで「ほかの人のことはどうだっていい。とにかくわが子を延命したいのが正義」と言っているのだから、立場が違う人から見れば、自分たちの安全のために そういう子供の濃厚治療は慎むべき、って意見が出てしまっても当然なんじゃないかな。 確信犯的に 726 みたいな考え方する人がいるっていうのは よく理解できるよ。 誰だって、わが身やわが子はかわいいし、自分の周りのものしか見えていない。 だから、被災地そっちのけで、ガソリンスタンドの行列に並んだり、 スーパーで米、パン、ティッシュ、乾電池を買い占めたりしてしまうのも 人間のエゴイスティックな面としては理解できる。 でも、そこはぐっとこらえて、視野を広げて、自分本位にならない 選択をとるべきだと思うし、他人からそう誘導されたりしても、ヒステリックに 反発せずに、それに従うのも大事なことなんじゃないかな。 736. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 07 33 56.18 ID qsbB3tPL なんだろねー。 どっちもそれなりに一理あってどっちにもすべて納得させるほどの理は無いから 結局は人それぞれ、他人の選択に口出ししない方がとしか結論出ない気が。 元茄子産科務め10年の経験者から言わせてもらうとそもそも染色体異常児の出生って現場の混乱やものすごい負担になるほど多くないよ。 それ以外の病気、早産なんかの方がずっと多い。 うちはNICUあったけどダウン症児は多くて年に2,3人、いない時もあった。 その他のはっきりと染色体異常が判明したのを含めても長期でNICUにいたのは大した人数ではない。 ダウン症なんかは割と早く退院出来る子多いし。 現場のモチから言わせてもらえれば「産まれられる子はどんな子でも産んで治療する」が一番モチ上がる。 医療現場で最終的な生死を決めるのはあくまでも身内の方の望みを優先だよ。 医療従事者は「これ以上の治療方法はありません」って言う事は出来るけどそれ以上は職責を超える。 正直言えば当然のように産まれる前に諦めろと誘導するのを 医者や看護師に求めるのはやめて欲しい。 そうやって健常である事を望む親がいるから産科や小児科は心理的負担が大きくなるんだからさ。 737. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 10 14 54.25 ID sWasYKZw 金が無限に沸いてくるとでも思ってるのかね そういった子に多額のお金が回る分、しわ寄せはどこかに行くってことをちゃんと自覚してんの? 738. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 10 50 06.50 ID yuZyStSQ どこかにじゃなくて自分に これ以上税金あがったらかなわん 739. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 11 20 00.39 ID q42Ob4Xg かつての裕福な時代になら理想論もある程度現実化できたけど、 かねてよりの不景気にこの大震災直撃、かつここから訪れる停電による震災大不況で 手助けの必要がなかった人たちの多くが、これから福祉を必要とするようになって来る。 自分は貧乏な家に育ったので、もし自立不能な障害を持って産まれてきたら 堕胎されるか早くに「事故」で死ぬか、他の兄妹を水商売や中卒で働かせ 底辺の人生に突き落としながらも生き長らえる道しかなかったと思う。 幸いにも偶然、きょうだい全員が健常児に産まれて就職できたからそれは免れたけど そのことを思うから自分はID OTyH9yqmの方に同意する。 カネがなきゃ人間は生きて行けず、他人の情におすがりするにも限度がある。 740. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 15 17 25.80 ID G6saSQ5x 736 元茄子産科務め10年の経験者から言わせてもらうとそもそも染色体異常児の 出生って現場の混乱やものすごい負担になるほど多くないよ。 数が少ないというのは当たり前ですよね。 NICUって「新生児」集中治療室のことですよ。 本来は新生児のうちに、つまり数週間で回復していく子たちが入る設備です。 重度障害児の長期療養のための施設ではありません。 だから、数ヶ月以上入院する子を受け入れるのは システム的にもかなりイレギュラーな運用なのです。 早産児が多いのも当たり前でしょう。先天異常のない 早産児は予後が良く、多くはちゃんと退院していきます。 では、負担についてはどうでしょうか? 現場にいたというのに、2、3人くらいなら問題ない といっていますが、長期入院者が1人いるだけでも大変なことですよ。 大都市圏で、最も大きいとされるような総合周産期センターでもNICUは20床前後。 地方やそのほかの病院に併設されるのは5床前後というところがざら。 それが3か月入院する子が一人いるだけで、2週間で退院していく子が 6人受け入れ不能になります。そんな子が1年に4人いれば、26人も受け入れ不能。 5床しかないNICUのところは、20%機能低下の状態でNICUを運用して いかなければなりません。 NICUを急遽必要とする人にとっては死活問題ですよね。 だから、よくわかっている人は、NICUの長期入院を非常に懸念しています。 ま、 736 はすでに現場を離れたのは、幸いですね。 こんな認識でいられたら、NICUをとりまく現場でがんばっている人がかわいそうです。 741. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 22 02 06.14 ID qsbB3tPL 740 長期にNにいる染色体異常児が2,3人じゃなくて ダウン症児の出生児数そのものが多い年で年に2,3人だったって言ってるんだけど。 で、Nに2,3か月いる子は1000グラム以下の極低体重早産児や重度の心疾患児が多くて それは染色体異常の子に限った事では無い。 ダウン症でも重い合併症が無ければ普通に一週間か2週間で退院するんだよ。 Nに入らない子すらいる。 だから、特に染色体異常児だけをターゲットにあれこれ言う意味はそれ程無いと言ってるの。 単に染色体異常児を全員堕胎したとしてもNがガラガラになる訳じゃないって言ってるのに。 生まれる前にわかる障害児、病児全般を堕胎っていうのなら筋が通ってるし 経済的な問題、Nの定員を常に危急の為に空けておく為になるっていうのならわかる。 染色体異常児だけをなぜそこまで憎むのかがわからん。 742. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 23 09 26.17 ID G6saSQ5x 741 だから、特に染色体異常児だけをターゲットにあれこれ言う意味はそれ程無いと言ってるの。 だから、染色体異常児だけをターゲットにしているとは一言も言ってない と何度言えばわかるのかなぁ。 「出 生 前 に 予 後 不 良」だとわかるケースだよ。 これを親が望んだからといって、そのまま産ませていいのか、ってこと。 あなたははぐらかして答えないけど。 予後不良の主な原因は、やはり染色体異常など奇形症候群、多因子の多発奇形、 神経管の重度障害が多いでしょうに。 そして、極低体重早産児は決して「予後不良確定」じゃないんだよ。 救命率は95%超えているし、特に染色体異常や心疾患を有さない子供 の救命率は100%近いんだよ。障害も残らないことが多い。 こういう子は回復するのだから、長期間(と言ってもせいぜい長くて3ヶ月だけど) 入院させる価値があるし、診療報酬体系も低体重児向けにちゃんと考えられている。 一方、染色体異常の予後不良例は、下手すると3か月以上入院しっぱなしも 珍しくないし、決して健常に回復することはない。そして、そのままま生きて 退院できないことも多い。 早産児と比較しても全く意味がない、というか、コストに対するリターンが まるで違うことが、何でわからないのかなぁ。 743. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 00 50 10.91 ID wYF2svjq 「出 生 前 に 予 後 不 良」だとわかるケースだよ。 これを親が望んだからといって、そのまま産ませていいのか、ってこと。 そのまま産ませていいのかって言われてもねぇ 命を選別する権限を持った人間がいないわけだから この手の話は堂々巡りになるだけだよね 744. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 08 42 23.02 ID TXkJCb+6 いちばんよくないのが、 命を選別する権限を持った人間がいないわけだから この手の話は堂々巡りになるだけだよね と言って思考停止してしまうことですね。 今の産科・新生児医療では、現場で働いている人は 緊急なNICU入院依頼を断ってまで、予後不良の子への 濃厚医療を続けることに疑問をもっていても、 「これは仕方ないこと」「何も考えないように」 と視野を狭めて、ただ目の前の治療をするだけです。 これでは正常なモチベーションを保てません。 回復することが期待できる子への濃厚治療なら 救命や障害が残らないように全力で治療することに対して モチベーションが上がるでしょうし、周りの理解も得られやすい でしょうけど。 事実、モチベーションが上がったからこそ、 低出生体重児の救命率が劇的に改善したわけですが。 これは医療側にすべて任せきりにしていい問題ではなく、 ちゃんと国民一人ひとりが、特に子を持とうとする親が 社会の将来像を考えながら、改善していくことが必要でしょうね。 実際「トリアージ」という考え方は、ちゃんと客観的に物事を 考えられる人にとっては浸透してきています。この災害時ならなおさら。 「トリアージ」ってそのまんま「選別」っていう意味なんですけどね。 745. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 08 58 47.33 ID FmMJIL7w 742 はぐらかすと言うかそのまま産ませていいのかって言われても私は神様じゃないからさ。 個人的な考えとしては産ませていいと思う、だけどね。 どっちが正しいとか間違ってるとかじゃなくて 単に何処に重点を置いて考えるかで結論は変わるものでしょうね。 ま、そりゃもう他人が決められる事じゃない、親や身内の判断に任せるべきとしか言えないねえ。 あなたはコストの関係で考えるならあなたの子や身内の時はそう判断すればいい。 でも、それを他人に強制する事は出来ないよ。 746. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 09 51 19.00 ID K7No7YZ6 現実としてそのコストは結局、社会がサポートとして支給しないとならいし その負担は全ての国民に圧し掛かってくるわけで、個人や身内だけの問題じゃない。 産ませてあげればいいと思う人のみが負担するという仕組みはないからね。 747. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 10 19 48.14 ID TXkJCb+6 725 この非常時なので 「買い占めはやめましょう」 「節電に協力しましょう」 ↑ 「実際買い占めするか、節電するかは個人が決めること」 「他人が強制することではない」 何が言いたいかというと、あなたの言っていることは幼稚です。 被災地にもかなりの妊婦がいるでしょうから、それを受け入れる ほかの地域の周産期施設はその運用に頭を悩ませているでしょうね。 実際に、医師は予後不良が堕胎可能時期にわかった場合は、 出産しない前提で説明し、最後に決めるのは夫婦であるというのが普通でしょう。 確かに決めるのは親ですし、医師が強制することはできません。 多くの方が、 745 みたいな考えの人ばかりでないことを せつに願っています。 748. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 10 23 11.56 ID TXkJCb+6 725 は 745 ですね。 749. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 10 31 16.94 ID PXe9vxgJ 「自分の子を諦めれば、低体重で危機的状況にある他の子が1人だけ助かる」 という状況なら、我が子を助けてと叫ぶことは全ての親に容易いかも知れないけど 「子を諦めれば、他の子が5人助かる」「10人助かる」という状況でも その5〜10人の子を見殺しにして我が子を助けてと叫べるかどうかだね。 重度病児を持つ多くの親がそこを見て見ぬ振りをしているし、 社会も医療関係者も親に気を遣ってそんな事口に出さない。 それでもその事実は厳然として存在するわけで、 その事実に見て見ぬ振り出来る恵まれた時代ももう終わりだと思う。 750. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 11 16 52.22 ID FmMJIL7w 749 結論ありきの議論は無駄だよ。 あなたは何を言われても自分が絶対的に正しいのだから「あなた基準の予後不良の意味の無い命」を救う事を 受け入れるつもりも認めるつもりもこれっぽっちもないんだから。 あなたは生かしといても納税者になれる訳でもない命は見捨てるべきと考え続ければいい。 まあ、単にあなたの意見も私の意見も同じようにどちらかが絶対的に正しくて 誰もがへへ〜とひれ伏して納得して受け入れられる意見ではないってだけ。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/232.html
すっかり日も暮れ、夜行性の動物たちが活動を始める時間となった幻想郷の森。その中 から、今日もゆっくり達の悲鳴が聞こえてくる。 「……うー! うー!」 「や゛め゛て゛え゛え゛え! ゆ゛っぐりざぜでえ゛え゛え゛え!」 四匹のゆっくり達が、まだ体の生えていないゆっくりれみりゃから逃れようと、必死の 形相で飛び跳ねているのだった。目を覚ましたばかりで空腹のれみりゃは、獲物をいたぶ るような真似はしない。懸命にぴょんぴょん逃げる二匹ずつのゆっくりれいむとゆっくり まりさにあっという間に追いつくと、一気に急降下して最後尾にいたれいむの後頭部にが ぶりと噛み付いた。 「ゆっ、ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ! やめでやめではな゛じでえ゛っ、ゆ゛っぐ りざぜでえ゛え゛え゛え゛え゛っ!!!」 両目を剥き、涎を飛ばしながら絶叫するゆっくりれいむ。それを聞いた他の三匹は、愚 かにも、もしくは立派なことに、足を止めて後ろを振り返る。三匹の目に映ったのは、満 面の笑みを浮かべながら獲物に牙を突き立てるゆっくりれみりゃと、牙が皮を貫く痛みに 震えるゆっくりれいむの姿だった。 「は、はなしてね!」 「ゆっくりやめてってね!」 「ゆっくりできないよ、ゆっくりさせてね!」 三匹が抗議の声を上げる。本当ならばすぐにでも助けてやりたいが、全員でかかっていっ たところで、単に全滅が早まるだけ。だがそれでも、これまでずっと一緒にゆっくりし てきた仲間は見捨てられない。三匹にできるのは、こうして叫び続けることだけだった。 そんな三匹の苦悩などどこ吹く風、ゆっくりれみりゃは自らの空腹を満たすため、ゆっ くりれいむに噛り付く牙に力をこめた。 「いだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛い゛い゛いぃぃぃぃ!! あああ゛あ゛あ゛ あ゛っ゛!!!」 れいむの皮に突き立った牙が餡子に到達し、その中に潜り込んで容赦なく進んでいく。 れいむの絶叫が夜の森に響く中、れみりゃはそんなものお構い無しに食事を続ける。 「ゆああ゛あ゛っゆっがっあっあっあっあっああ゛あ゛っ゛っ゛っ゛!!!!」 ついに、れいむの体はれみりゃによって噛み千切られた。れみりゃの牙が餡子の中心に 達したとき、れいむの体は飛び跳ねんばかりに大きく痙攣した。その光景に、残された三 匹の声も止まる。六つの眼に映るのは、体の四分の一以上を噛み千切られ痙攣を続ける仲 間の姿と、その四分の一を口一杯にほおばり幸せそうに咀嚼している捕食者だった。 「……ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……」 体の一部を欠き、白目を剥いて、涙と涎でぐちゃぐちゃになったれいむの口から、体の 痙攣にあわせてそんな泣き声ともつかぬ音が断続的に漏れていた。一方、れみりゃは満足 そうな顔で口の中のものを飲み込むと、残った餌を食べようと再びその口を開き、れいむ へと噛み付いた。れいむの顔の内、口より上の部分がすっぽりと、れみりゃの口の中に納 まった。 「ゆうっあっ、がっ゛っ!!!」 ろくな叫び声を挙げる暇もなく顔を噛み切られると、残ったれいむの体からは力が失わ れ、そのまま動かなくなった。仲間の身に降りかかった惨事に言葉を失っていた三匹のゆ っくりも、その死を目の当たりにして再び声を上げ始めた。ただし、今上げるのは抗議の 声ではなく、仲間の無残な死を嘆く声だ。 「れいむう゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ!」 「どおじでえ゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ!!」 「もっどゆっぐりじだがっだよお゛お゛お゛お゛お゛!!」 三匹の悲痛な叫びが周囲を満たす。しかし、三匹とずっと一緒にゆっくりしてきた仲間 は、その叫びを聞いても、もう何も言ってはくれなかった。それが悲しくて、叫びは更に 高まる。 「……うー!」 場違いに楽しそうな声が上がり、唐突に叫び声が止まる。あまりの出来事に忘れていた。 今自分達は、危険な捕食者の前にいることを。気付かなかった。哀れなれいむを食い散ら かしたれみりゃが、次の獲物に狙いを定めていることに。思い付かなかった。逃げ出すこ となど。 「いっ、いや゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!! ゆっぐりざぜでえ゛え゛え゛え゛え゛ え゛!!!」 ついさっきまで仲間だったものに背を向け、三匹は全力で駆け出した。死にたくない。 もっとゆっくりしていたい。仲間の死に様が更なる恐怖を駆り立て、三匹を追い立てる。 「ゆっ!」 二匹いるゆっくりまりさの内の片方が、木の根に引っかかった。あっと思う間もなく、 そのまま顔から地面に転がる。真っ白になったまりさの頭の中に絶望が襲い掛かるよりも 早く、れみりゃの牙が二匹目の獲物を捉えた。 「……ゆううううう゛う゛う゛う゛っ゛!!!」 まりさの絶叫に、残りの二匹が思わず振り返る。しかし、先程と違って何やらまごつい ている様子だ。このまま逃げる足を止めてしまえば、また同じことの繰り返しになるとい うのが、ゆっくりの頭でも分かっているのだろう。だが、 「だっだずげで!!! だずげでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ……」 助けを求める仲間の声が、二匹を逃がしてはくれなかった。恐怖と友情の板ばさみの中、 喰われ行くまりさを見つめながら、二匹はみんなでゆっくりできた頃のことを思い出して いた。四匹でずっと一緒にゆっくりしてきた。ずっと一緒にゆっくりしていけるのだと思っ ていた。悔しかった。無力な自分たちが惨めでたまらなかった。もう声も出ない。代わり に涙があふれて止まらなかった。 二匹目の餌が動かなくなると、れみりゃは更なる獲物を求めて飛び上がった。そのまま、 何かを諦めてしまって動かなくなった二匹のゆっくりへと飛び掛る。二匹はそれを避けよ うとはしなかった。 「うー! うーぐえっ!?」 と、突然妙な声が上がった。思わず二匹が顔を上げると、そこにはれみりゃではなく、 もっともっと大きな影があった。突然の乱入者に涙も止まる。 そこにいたのは人間だった。片足を、今まさに何かを蹴り上げたかのように上げたまま の、一人の人間だった。二匹がそれを呆然と見上げていると、 「……う゛あ゛あ゛あ゛っ!! いだぁいよお゛お゛お゛お゛お゛!!!」 ちょうど上がったままの人間の脚が向いている方から、こんな泣き声が聞こえてきた。 見れば、れみりゃが地面に転がって泣き叫んでいる。呆然とする二匹には目もくれず、人 間は上がったままだった足を下ろすと、れみりゃへと歩み寄っていった。 「う゛っ? うー! だべぢゃうぞー!!」 目の前にまで近づいた人間に対し、泣きながらも威嚇をするれみりゃ。しかし人間はそ れを完全に無視してれみりゃの前にしゃがみこむと、無言でその脳天に手刀を叩き込んだ。 手刀と地面にはさまれたれみりゃは短い悲鳴を上げると、そのまま気絶した。 動かなくなったれみりゃの羽をつまみあげ、人間は残された二匹のゆっくりの方へと振 り向き、初めて口を開いた。 「……大丈夫か?」 れいむとまりさは床の上で身を寄せ合っていた。二匹とも疲れ切った表情で部屋の隅っ こにうずくまったまま、床の一点を見つめたまま動かない。魂が抜けてしまったかのよう だ。憔悴しきっていたが、先程のショックのせいで眠ることなどできないようだった。 がらり、と戸の開く音がして、二匹は緩慢に顔を上げる。そこにいたのは先程の人間だっ た。その人間が、二匹を食い殺そうとしていたれみりゃを叩きのめし、家に連れ帰ってく れたのだ。 彼は二匹の前にやって来ると、手に持っていた皿を床に置いた。そこにあったのは二つ のおにぎり。 「……ほれ、食え」 ぶっきらぼうにそう言い放ち、皿を差し出した。二匹は人間の顔を見、差し出されたお にぎりを見て、のそりのそりと動き出し、皿の上に乗っかっておにぎりに噛り付いた。 それは具も入っていなければ海苔もまかれていないただの塩おにぎりだったが、人の食 事を初めて口にした二匹にとっては、格別のご馳走だった。最初はぼそぼそと覇気の感じ られない食べ方だったが、一口、また一口とかじりつく度に、二匹に活力が戻ってくるよ うだった。二匹は飲み込むごとに元気を取り戻していった。疲れ切った頭が回り始め、一 度は折れた心も徐々に立ち直っていく。 だからこそ不意に、 ―――いだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛い゛い゛いぃぃぃぃ!! ―――だっだずげで!!! だずげでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ…… 仲間の断末魔が脳裏をよぎってしまう。 半分ほど食べ終えたあたりで、二匹は唐突におにぎりに噛り付くのを止めた。人心地つ いたせいで、かえって先程の悲劇を思い出してしまうのだった。 二匹は皿の上で震え始め、こらえ切れないというようにぼろぼろと涙をこぼす。四匹は 兄弟ではなかったが、生まれてすぐの頃からずっと一緒にゆっくり過ごしてきた親友だっ た。……だった。過去形の話だ。その内の二匹は、すでに物言わぬ饅頭になってしまった。 れみりゃの牙に噛み千切られ、無残に変わり果てた親友の姿が頭から離れない。死ぬ間際 の叫びが耳に残ったままだ。 「……ゆっ、ゆっ……」 「れいむぅ……まりざあぁぁ……」 いつも通りの元気があれば泣き叫ぶこともできたろうが、今の二匹には親友の死を嘆く ように泣くのが精一杯だった。 そんな二匹の様子を見た人間は、ふらりと立ち上がると部屋を出て行った。程無くして 戻ってきた人間は、箱を一つ抱えていた。そのまま食べかけのおにぎりの前で泣き続ける 二匹の前に、その箱を置く。二匹の注意を引くように、わざと大きな音を立てて。二匹は 突然の音にびくりと震え、顔を上げる。涙でにじんだ視界に映るのは、透明な箱に収まっ たれみりゃだった。 『……ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っっ!!!』 ガチャガチャン! と、思わず後ずさりした二匹は皿から転げ落ちた。後頭部を床にぶ つけながらも、必死の形相で再び部屋の隅へと逃げていく。 「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! たべないでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!」 「だずげでえ゛え゛え゛! だれかだずけでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛! おがあざああ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛んん!」 親友の死に様で頭が一杯になっていた二匹は、一気に混乱の極みに追い込まれた。今ま でさめざめと泣いていたのが嘘のように泣き叫ぶ。死にたくない。食べられてしまった二 匹のようになりたくない。その思いに囚われた二匹は、目の前に自分たちを助けてくれた 人間がいることも忘れて泣き叫んでいた。しかしながら、いつまで経っても二匹が襲われ ることはない。 「……いやあ゛あ゛あ゛あ゛、ああ、あ?」 そのことに先に気付いたのは、れいむの方だった。襲われないどころか、よく見ればそ もそもれみりゃは動きさえしていなかったし、更によく見れば、どうやら箱の中に閉じ込 められているようだった。 「ゆっ。まりさ、まりさっ」 「……だずげでえ……おがあざぁん……」 「まりさっ!」 親友の喝に、まりさも顔を上げる。そして一足遅れて、現状が認識できたようだった。 二匹はしゃくりあげながら、隅から離れてれみりゃの収まった透明な箱を見つめた。れみ りゃはピクリとも動かない。人間に喰らった手刀によって気絶したままのようだった。 そんなれみりゃを見つめたまま動かない二匹に向けて、人間が口を開いた。 「……お前ら……」 二匹が顔を上げる。人間は二匹の目を交互に見、言った。 「仇を討ちたくないか?」 思いがけない言葉が飛び出てきた。仇を討つ。食べられてしまった親友の仇を、自分た ちが。あのれみりゃに対して、自分たちが。 ……無理だ。 「俺がお前たちを勝たせてやろう」 うなだれる二匹に、人間はそう言い放った。 「やる気があるなら、まず飯を食え」 れみりゃが目を覚ましたとき、目の前には二匹のゆっくりがいた。赤いリボンのゆっく りと黒い帽子のゆっくりが、互いに少し距離を置いて、床の上にいた。それがさっき追い かけていたゆっくりだと気付いた途端、なぜか頭に残っていた鈍痛のことなど綺麗さっぱ り忘れ去り、背中の羽を広げて勢いよく 「うー! たべちゃう゛っ゛!?」 飛び立てなかった。何もないはずの場所で壁にぶつかったれみりゃが感じたのは、痛み よりも混乱であった。そもそも満足に羽根を広げることもできていない。れみりゃはうー うー唸りながら暴れ回る。しかしどれだけ力をこめても事態は好転せず、自分が陥った窮 屈さを実感させられるだけであった。 じたばたもがくれみりゃだったが、突然視界がぐるりと回転した。そのまま床の上に落 ち、転がっていく。これは人間の手によって透明な箱から落とされたから、なのだが、ゆっ くりの中でも一等出来の悪いれみりゃの肉饅脳に分かるはずもない。れみりゃが理解でき たのは、羽を存分に伸ばせるようになったことと、これで目の前のゆっくりを食べられる ということだけだった。 「うー! うー! たぁべちゃぁうぞぉー!!」 自由な身となって宙へと舞い上がったれみりゃは、それはそれは楽しそうに言った。既 に食事は済ませている。今、目の前にいるゆっくりたちは、存分になぶり、いたぶって遊 んでからおやつにしてやろう。 「うー! うー! うー……、う?」 馬鹿の一つ覚えで唸っていた肉饅脳が新たな異変に気付いた。目の前のゆっくりたちが、 自分の威嚇に全く動じていないのだ。普通なら自分の姿を見かけただけで大混乱に陥って 逃げ惑うというのに。これに不満を覚えたれみりゃは、いつもより大きな声で威嚇を始め た。これを怖がらないゆっくりなどいない、と本人は自信満々の威嚇であったが、ゆっく りたちがおびえる様子は微塵もない。それどころかゆっくりにはありえないくらいに険し い面持ちで、こちらを睨み付けているではないか。 「……ううううううっ!!!」 空中から一気に飛び掛る。れみりゃにはゆっくりたちの態度が我慢ならなかった。もう いい、どうせ自分に襲われたら無様に泣き叫んで助けを請うのだから。苛立ちに任せて、 れみりゃは赤いリボンのゆっくりへと襲い掛かった。それでもゆっくりは動かない。逃げ 出すこともせず、自分を更に睨み付けてくる。それがれみりゃの苛立ちを助長した。 繰り返すが、れみりゃの頭は、様々な種類がいるゆっくりたちの中でも一等出来が悪い。 普通の人間であれば、否、普通のゆっくりであってもすぐに気付いたであろう二匹の異 変にも、だから最後まで気付かなかったのだろう。 「うあ゛っ!?」 赤いリボンのゆっくりに気を取られて、もう一匹の存在を忘れていたれみりゃの横っ面 に、そのもう一匹が体当たりをした。黒い帽子のゆっくりはそのまま綺麗に着地し、不意 打ちを喰らったれみりゃは衝撃で床を転がっていく。 自然の世界ではありえない反撃。しかしれみりゃは力ある捕食者であり、相手は所詮、 やわらかい饅頭のゆっくり。森の中を勢いよく飛んでいて木にぶつかったときの方がはる かに痛い。 「……うっ、うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!! いだい゛っ゛、いだあ゛あ゛ あ゛あ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛っっっ!!!」 はずだった。本来ならば。 「ぢ、ぢぐっでじだ! ぢぐっでしたあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛!!」 れみりゃが泣き叫んでいるのは、黒い帽子のゆっくりに体当たりされたときの衝撃が思 いのほか大きかったから、ではない。 自分の皮に何かが突き刺さる痛みを、それも一箇所ではなく何箇所にも、味わったから だった。 ――ちくっとした。鋭く尖った小枝ににぶつかってしまったかのような痛みが、体当た りされた頬のあちこちを襲ったのである。予想外の痛みにれみりゃはごろごろと床の上を 転げまわった。 そこへ容赦なく追撃が入る。赤いリボンのゆっくりが、痛みにのた打ち回るれみりゃに またも体当たりを敢行した。 「うぶえ゛っ!?」 痛い痛いと泣き叫ぶことさえ忘れ、不細工な悲鳴を上げるれみりゃ。転げまわることを 中断させられたれみりゃは、改めて、自分のおもちゃになるはずだったゆっくりたちを見 る。そして、出来の悪い肉饅脳がようやっと、ゆっくりたちの体の異変に気が付いた。 とげが、生えている。ゆっくりたちの全身に、鋭いとげが何本も。それが体当たりの際 にれみりゃの皮を突き刺していたのだと、肉饅脳がゆっくり理解する。この痛みの原因は あのとげなのだ。 とげの生えたゆっくりなど、れみりゃは見たことがなかった。あれは食べられるのだろ うか。そもそもあれはいつもと同じゆっくりなのか。足りない頭の中をそんな考えがぐる ぐると巡る。しかし、悠長に考えている暇はなかった。ゆっくりたちが再びこちらに体当 たりしようと向かってきたのだ。れみりゃの肉汁に濡れて怪しく輝くとげが、どんどん近 づいてくる。 「う、う゛う゛う゛――――――っ!!!」 すんでのところで、れみりゃは宙へと飛び上がって体当たりを避けることができた。そ うだ、自分には羽がある。とりあえず飛んでいれば、体当たりをされることもないではな いか。それが分かると、さっきまで泣き喚いていたれみりゃも一転、どこか自慢げに部屋 の中を飛び回り始めた。その顔は、自分は決して捕まることはないのだという自信にあふ れていた。 人間の大きな手がれみりゃの体をむんずとつかみ、ゆっくりたちが待ち構える方へと軽 く放り投げた。赤いリボンのゆっくりがタイミングを合わせて、自分の方へと飛んでくる れみりゃに体当たりをかます。とげに貫かれ衝撃に跳ね飛ばされて、れみりゃは再び床の 上に転がった。思い切りぶつかったために、赤いリボンのゆっくりも少々ふらついている。 「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!! めえ゛え゛え゛え゛え゛っ!!!! れ゛み゛ り゛ゃ゛の゛め゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」 とげの一本が運悪く、れみりゃの右目に突き刺さったのだった。片目を潰されたれみりゃ は激痛にのた打ち回る。そこに黒い帽子のゆっくりが飛び掛った。体当たりを仕掛けるの ではない。狙いはれみりゃの背中。転げまわるれみりゃに上手く飛び付くと、その片羽に 思い切り噛み付いたのだ。 「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! はなぜ、はなぁぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛っ!!!」 全身全霊を込めて振り払おうとするが、黒い帽子のゆっくりは喰らい付いて離れない。 むしろ暴れ回るせいで、羽に噛み付く歯がより深く食い込んでいく。そして、あっけなく 羽は噛み千切られた。 「い゛だぁい゛い゛い゛い゛い゛い゛!! はねっ、れ゛み゛り゛ゃのはね゛え゛え゛え゛ え゛え゛え゛!!!! がえ゛ぜっがえ゛ぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!! う゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」 バランスの悪くなった体で泣き叫びながら、れみりゃは自分の羽を取り戻そうと黒い帽 子のゆっくりへと向かっていった。そこへダメージから回復した赤いリボンのゆっくりが 襲い掛かり、残った羽に喰らい付いて全身の力を使って引き千切る。両翼を失ったれみりゃ は、ただの肉饅となって床に転がった。 肉饅が二匹の腹の中に納まるまでに、そう時間は掛からなかった。二匹は満腹感の中で、 勝利の余韻に浸っていた。憎き親友の仇を、自分たちが取った。しかもあのれみりゃを相 手取って。その事実に、二匹はかつてないほどのゆっくり感で満たされていた。 ――そうだ、おにーさんにおれいをいわないと。 ゆっくりにしては割と賢い二匹は、自分たちを助けてくれた人間の方へと向き直った。 人間はちょうど、二匹が食べ残した肉饅の羽を拾い集めているところだった。 『――おにーさん!!!』 自分を呼ぶ声に、人間は二匹の方を振り向いた。 「おにーさん、ありがとう! おかげでふたりのかたきがうてたよ!!」 「もうこれでれみりゃなんかこわくないよ! ありがとう、おにーさん!!」 興奮気味に礼を言う二匹。まあ、人間の手助けがあったとは言え、捕食種を自力で倒す ことができたのを考えれば当然かもしれないが。 二匹の体に突如生えたとげ。それは、画鋲であった。人間はれみりゃへの対抗手段とし て、接着剤で二匹の体に画鋲を貼り付けていったのだ。こうすれば食べられることはない し、その上反撃することだってできる。二匹は人間にそう言われて、全身武装化に踏み切っ たのだった。 そんな二匹を見た人間は、ふらっと部屋から出て行った。どうしたのだろうと思ってい ると、程無く、瓢箪を手に人間が戻ってきた。そのまま二匹の前に座り込んで胡坐をかく。 そして、黙って両手を二匹の前に差し出した。 『……ゆっ?』 差し出された両手は、手のひらを上に向けていた。理解できない様子の二匹に対し、人 間は両の手のひらを招くように動かす。乗れ、ということなのだろうか。 事情はよくわからないが、とにかく二匹は人間の手のひらに乗ることにした。体の画鋲 を手に突き刺してしまわないように慎重に飛び乗る。右手にまりさ、左手にれいむ。人間 は手のひらの上の二匹を自分の肩ぐらいの高さまで持ち上げると、二匹に向かって笑いか けた。これまで無表情だった人間の笑顔を見て、思わず二匹も笑い返す。手の上の二匹は 互いに目配せをすると、タイミングを合わせて 『ゆっくりしていってね!!!!!』 元気一杯、お決まりの挨拶をした。それを見た人間は笑顔をより濃くする。そして、両 手の指で二匹をしっかりとつかんだ。無論、画鋲が刺さらないように気をつけて。 「ゆ、ゆ、ゆっ? おにーさん?」 「ゆゆっ、おにーさん、どうしたの?」 人間は笑顔のまま、ゆっくりと、二匹が乗った両手を揺さぶり始めた。 「おにーさん、やめてね!」 「ゆっくりゆらさないでね!」 突然の揺さぶりにゆっくりと抗議の声を上げるが、人間はそれを完全に無視して、更に 強く揺らし始める。がくがく揺れる視界に翻弄されながらも二匹は抗議を続けるが、一向 に止まる様子はない。 「ゆっ……ゆうう……」 「ゆっ、ゆっ、ゆー……」 揺さぶられる二匹の目が、次第にとろん、とし始める。それを見た人間はさらに揺さぶ りを強めていく。体の奥底から湧き上がる衝動に、二匹は抗うことが出来なかった。 しばらくして、人間は二匹を床の上に置いた。呼吸の荒い二匹。完全に発情しきってい た。二匹は同時に相手の方を向いた。 「ま、まりさぁ! まりざあ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!」 「れっ、れいむう゛う゛う゛うううぅぅぅ!!」 駆け寄る二匹。早く、早く触れ合いたい。一つになりたい。その一身で、最愛の親友の 元へと飛び跳ねていく。 そして、 『い゛っっっっっっっっ!!!!!!』 互いの体に画鋲が深々と突き刺さった。 反射的に距離を取る二匹。突然の痛みに混乱したまま、改めて、相手の体を見る。理解 するのは、どこかの肉饅よりずっと早かった。 『……うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛っ゛っ!!!!!!』 絶望の声が上がる。二匹は距離をとってぶるぶる震えたまま、悲痛な叫びを上げていた。 早く肌をこすり合わせたい。でもできない。体のとげが刺さってしまう。 『お゛に゛い゛ざん゛っ!!!』 二匹の様子を見守りながら瓢箪の酒を傾けていた人間に向かって、二匹は助けを求めた。 「とっで、おにいざんこのとげとげとっでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」 「おねがい゛い゛い゛い゛! すっきりできないのお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」 必死の形相で訴えかける二匹。それを見て、人間は酒を一口。 「おにーざぁん、ゆっぐりしないでえ゛え゛え゛え゛!!」 「はやぐこのとげとげとってえ゛え゛え゛え゛!!」 「……いいのか? それがないと、また襲われるぞ」 人間の言葉に、二匹はびくりと体を震わせる。確かに、このとげを取ってしまったら、 またれみりゃに襲われたときに反撃できなくなる。だが、 「まっ、またつけなおせばいいよお゛お゛!」 「またあとでつければいいから、だからこのとげとげとってえ゛え゛え゛え゛!」 「……無理、だな」 『!!』 「簡単には剥がれん。無理に引っ張れば皮ごと剥がれて死ぬぞ」 『!!!!』 人間の言葉は、二匹を絶望のどん底に突き落とすには十分なものだった。二匹は人間を 見て、お互いを見て、がくがくと震えだした。両目からは涙があふれて止まらない。やが て体の震えが最高潮に達し、二匹に我慢の限界が訪れた。 「……うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! ま゛り゛ざっ!! ま゛り゛ざあ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」 「れ゛い゛む゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!! れ゛ぇい゛ぃむ゛ぅう゛う゛う゛う゛ う゛う゛う゛う゛!!!!」 『い゛だあ゛っっっっっっ!!!!!!』 「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! ずっぎり、ずっぎりじだいよ゛お゛お゛お゛お゛!! れ゛ い゛む゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!! あ゛づっっっっ!!!!!!」 「ま゛り゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ずっぎりできないよ゛お゛お゛お゛ お゛お゛お゛お゛!!!! う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ !!!! あぁぁい゛だい゛い゛い゛い゛!!!!!!」 二匹はお互いの肌をこすり合わせようとするが、近寄るたびに全身の画鋲が体に刺さり、 思わず飛びのいてしまう。それでも何とか画鋲が刺さらないように触れ合える場所を探そ うとするのだが、どれだけ身をよじってもそんなものは見つけられなかった。二匹は号泣 しながら、近寄っては離れるを繰り返している。 人間はそんな二匹の様子を、肉饅の羽を酒の肴に、楽しそうな笑顔で眺め続けていた。 このSSに感想を付ける
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谷口「皆さんは人の生命という物を、どうお考えですか?」 谷口「人道的な意味でいうならば、大切な物。生物的な意味でいうならば、自己維持や増殖の総称」 谷口「倫理的な観点から言えば、人の命とは何よりも重要なものであり侵すべきではない絶対的なもの、ということでしょう」 谷口「命は大事なもの。だからそれを維持し、支える物も全て大事で重要なもの」 谷口「食料であったり、それを手に入れるためのお金であったり、あらゆる行動を執るための手足であったり」 谷口「もっと直接的なものを言うならば、臓器なども」 谷口「たとえば肝臓。肝臓をなくしてしまうと体内の毒素を分解できず、人は徐々に生命を失っていきます」 谷口「食料。金銭。四肢。臓器。それらに執着を持つことは生命の保持に執着する生物として当然の欲求です」 谷口「では人が生命への執着を捨て、死を望んだなら。やはりそれら全ては不要なだけの物になり下がるのでしょうか?」 谷口「今回ご紹介するお話は、そういった類のお話です」 谷口「ふほほwww」 鶴屋「うるさいにょろ! 誰だか知らないけど夜中に人の部屋でなにをごそごそと……って、なんであんたが私の部屋に!?」 谷口「へひん、やべえ、こそこそ忍んでたのにとうとう見つかってしまったにょろ!」 鶴屋「人のキャラ作りパクルな! 『にょろ』 は私が10年の苦心の末に編み出したアーキタイプの集大成なんだ! 安易にマネしたら訴えるにょろよ!」 鶴屋「って、おま、なにやってんの!? 夜中に人の部屋に忍び込んでると思ったら私の下着かぶってやがる!」 谷口「ああん、僕のひそかな楽しみが鶴屋さんに知られてしまった! 恥ずかしい! ゲスゲスゲスwwww」 鶴屋「てめぇ、ちょっと尻出せ!」 ~~~~~ 冷たい風が俺の頬をなでていく。世知辛い世の中に適応できなかった俺をあざ笑い厳しい言葉をぶつけるように肌を打つ冬の風が俺の涙までも奪い去っていく。 ぽっかりと風穴が空いた胸の中心をもえぐりとるように、空っ風は吹きつける。 くすんだ色のビルの屋上。暗い灰色の曇り空。その狭間で柳のようにゆらゆらと揺れながら立ち尽くす俺は、ぼーっと、呆けたように、目もくらむ眼下の光景を眺望していた。 ここから飛び降りれば、きっと俺は楽になれるんだ。きっとすごく痛いだろうし、それに、とても恐ろしい。でもそれは一瞬のことだろうし、これからも何十年もだらだらと続いていく苦難の人生に比べればはるかに楽なことで、慈悲深いことなのだろう。 心だけでなく身体からも芯が抜けてしまったかのように、おぼつかない足取りで俺はビルの屋上の端に立った。 遺書をそろえて靴を脱いだ。花束を墓前に供えるようにそうすることが自殺者のこの世で最期の礼儀作法に違いと思ったから。俺はテレビや漫画なんかを見よう見真似で、そっと靴を揃え、その上に白い封筒を載せた。 自分の魂が一足先に身体から抜け出し、天使の輪っかが頭上に浮遊するようにその場でゆらゆらと漂う感覚。ふわふわと魂が、今の俺の行動を逐一見下ろしている。 自分で自分の行いが客観的に伺える。これからビルの頂上から飛び降りようという直前に自分の靴を神経質なまでに整理する自分が、とても滑稽だった。 「よし」 自分を鼓舞するように小さくつぶやくと、俺はコンビニで買ってきたウィスキーの小瓶をぐっとあおり、のどの焼けるような痛みをこらえながら空を見上げた。 この世の見納めがこんな曇天なんて。ついてない。まさに俺の人生そのものじゃないか。いや、だからこそ、こんな空模様の下で逝けることが幸福なのかもしれないな。 思えばついてない人生だった。誰かのせいというわけじゃない。全ては俺自身のせいなんだ。自業自得ってやつさ。 苦しいとか辛いとか、嫌だとか面倒だとか。そんなことばっか言って非生産的で怠惰で反社会的で周囲を気にしない馬鹿な生活を送ってきた俺にふさわしい人生の終焉だ。 目を閉じれば家族や仲間たちのまぶしい笑顔、暖かい体温が記憶の断片からよみがえってくる。それらを思い出すたびに飛び降りを思いとどまりそうになる。 しかし無残で無慈悲な冷たい風が、そんな俺の甘えた思考をねじり取り、吹き飛ばしてくれる。 俺は目を開けた。 いい感じで酔いが回ってきた。頭の奥のあたりがヒリヒリと恍惚感に熟れている。悪くない。今なら気分よく死ねそうだ。 迷いはない。未練はあるが、もういい。もういいんだ。ショートカットの女の像が俺の頭の中で何事かを呼びかけていたが、それも俺の耳には届かなかった。 さあ。飛ぼう。 「お待ちください」 突然のことだったので、ひどく驚いた。不意をつかれたとはいえ、誰もいないと思い込んでいたビルの屋上に俺以外の人間がいたなんて。意外だった。 「どうも。お久しぶりです。僕のこと、覚えておいでですか?」 肩越しに振り返った俺は、わずかに酔いが醒めていくのを感じた。このにやけ顔には覚えがある。 お前……古泉か? 「はい。あなたの高校時代からの友人にして、つい先日まで同じSOS団の団員だった古泉一樹です」 グレーのスーツを肩にかけ、ダブルカフスのカッターシャツ。地味な色合いのネクタイに光る控えめな銀のネクタイピン。その商社マンのような姿が、不思議と古泉には似合いすぎるほど似合っていた。 「……何か用か? 残念だが、俺は忙しいんだ」 しばらく互いに視線を交し合った後、俺は苦笑まじりにそう言った。別に忙しくはないが、今この決意を誰かに抑止されるのはとても不愉快なことだと思った。 てっきり古泉は俺の飛び降りを思いとどまらせようと現れたのだと思っていたのだが、どうやら俺の予想は外れていたようだ。 「そう警戒しないでください。別に僕はあなたの決意を覆そうと思ってここにきたわけではありませんよ」 何の企みもないといった様子で、古泉はつかつかと俺の目の前まで歩み寄ってきた。 古泉に無理矢理屋上の中心まで引きづられるかもしれないと懸念したが、それは杞憂に終わった。古泉は胸ポケットから取り出した一枚の紙切れを俺の眼前に差し出した。 「あなたがそこから飛び降りようと思ったのなら、あなたの中に、それに見合う都合があってのことでしょうし、僕にそれを否定する権利はありません」 慇懃な態度の古泉の手から、俺は紙を受け取る。長方形のそれは厚紙で作られた、ごくごく一般的な名刺だった。 そこには、少しばかり格式ばった字体で古泉の肩書きが記されていた。 「……総合、プランナー?」 満足げに、古泉はそれを肯定してうなづいた。 「はい。今僕は、あらゆる物事をプロデュースさせていただく、トータルプランナーを生業とさせていただいております」 プランナー? 企画者? 確か、披露宴とか葬式とかの進行を企画する人のことだったっけ。 「その通りです。さらに私どもトータルプランナーは、あらゆる物事をよりすばらしいものに演出するお手伝いをさせていただいております」 ふん、と鼻を鳴らして俺は古泉に名刺をつき返した。そのプランナーが、これから飛び降りる俺に何の用があるってんだ? 金ならないぜ。 そう。金がないんだ。俺は自嘲気味にそう繰り返した。 俺は定職に就くこともなくふらふらし、ずっとニートやってきたボンクラだ。収入がないから貯金なんてありゃしない。 それだけならまだしも、中学の頃の友人である国木田が会社を興す時に借りた借金の連帯保証人になっちまって。今じゃ会社の経営に失敗して夜逃げした国木田の多額の債務を肩代わりする身だ。 家族に迷惑かけてる身で、さらにいわれのない、目が飛び出るほどの借金を作っちまったダメ男。 こんな俺に何を期待する? 生きていれば生きているだけ、蔓延する厄病のように害をまきちらす腐れ人間だぜ? 取り柄といえば健康なことくらいだ。学も無いコネも経験もない。俺には何もない。人様に役立てることなんて何もないんだ。 「だからいいのですよ」 俺は一瞬言葉につまり、ムッとした表情で古泉を見返した。世に絶望して死を決意した俺でも、こう言われると腹が立つんだな。 「身体は健康そのものなんでしょう? だったら何も言うことはございません」 どこからともなく取り出した電卓をタンタンと叩き、素早い手つきで古泉はそれを俺に見せた。 「この金額です。あなたの抱えている負債。あなたがご家族に抱いている後ろめたさを払拭するに値する金額。そしてあなたのご家族が今後何不自由なく暮らしていける額。これだけの額をご用意させていただきます」 唖然とする俺に向かって、古泉は感情の読めないニヤニヤ笑いを浮かべたままささやいた。 あなたの臓器を買い取りましょう。 目が覚めると、そこは白い壁に囲まれた病室だった。薬品くさい布団から身を起こすと、浅黄色のカーテンが風に翻った。 「お目覚めですか? ご気分はいかがです?」 とても爽やかだ。いい気分だぜ。 「それはよかったです。これから人生にピリオドを打とうと言う大切な時に気分がすぐれないのでは、未練が残りますからね」 部屋の隅のクローゼットに自分の衣服が収納されているのに気づき、俺はシンプルなガウンを着替えた。 「お約束通り金融会社には僕から負債を返金しておきますし、ご遺族にも残金をお渡ししておきますよ。あなたは、何も思い残すことなく気の済むように命を絶っていただいて結構ですよ」 目はすっかり冴えてしまった。しかし未だに夢の中にいるような心地だった。 いっそのこと、手術が終わった時点で安楽死させてくれりゃ、俺も楽でよかったのに。 「はっはっは。勘弁してくださいよ。臓器摘出だけでも危ない橋だというのに、その上、自殺幇助にまで手は出したくないですよ」 言えてるぜ。ま、自分の死に場所くらい自分で決めるさ。 俺と古泉は静かに窓外に目を向けた。空は、もうすっかり晴れていた。 「キョン! キョンじゃないか! こんなところにいたのか、探したよ!」 またあのビルに向かおうと思い、街道をふらついていた時のことだった。まるでテレビかラジオの向こう側の音のように身近に感じられなかった町の雑踏から、俺のあだ名を呼ぶ声がする。 俺のあだ名を指名してくるってことは、昔馴染みの知り合いか。この面倒な時に、一体誰だよ。 「ごめんね、本当に、ごめんね!」 息を弾ませて俺の背に追いついてきた人物を見て、俺は驚いた。そこにいたのは、俺に多額の負債をおしつけて蒸発したと思っていた中学時代からの知人、国木田だった。 生に執着を失い全てのことに無関心になっていた俺の心に、懐かしい感情、怒りが湧いてくる。こいつさえいなけりゃ、こいつさえいなけりゃ……! しかしその憤懣も、汗だくで微笑む国木田の笑顔の前に霧散してしまった。 「会社を立て直すための資金を集めるために金策にあちこち駆け回ってたんだ。キミに連絡するのをすっかり忘れていてね。ずいぶん迷惑をかけちゃったんだじゃないかと思ってる」 申し訳ないという様子で、国木田は荒い息を整えようともせずに背負い袋から茶封筒をひとつ取り出した。 「こんなのでキミにかけた迷惑を償いきれるとは思っていないけど、せめて僕にできるお詫びだよ。とっておいて」 茶封筒をあけると、そこには札帯のついた札束が5つほど入れられていた。 ……く、国木田? おま……これは? 「迷惑料だよ。とっといて。キミには本当にすまないことをしたからね。例の借金は、全部僕が自分で返したから。もうキミに心配はかけさせないよ」 何がなんだか分からず、俺はさっきまでとは違った意味で呆け、目を点にして立ち尽くしていた。 「僕の狙い通り、我が社で作った商品が市場で大きな反響を得てね。特需といってもいいくらいの莫大な資本ができたのさ! そのおかげで会社は軌道にのるし、株価も跳ね上がるし。いいこと尽くめだよ!」 これも全ては僕の会社興しに賛同して借金の連帯保証人になってくれたキミのおかげだよ!と言って、感極まった国木田は観衆の視線も気にならないという感じで男泣きに泣いた。 「だからね。そんなキミに、是非ともうちの会社の副社長になってもらいたいんだ!」 真っ青な空の下、俺の頭はますますシェイクされたようにこんがらがっていった。 俺はなりふりかまわず走っていた。身体がだるい。やはり臓器摘出の影響だろうか。息が上がるのが早い。 借金持ちだった俺は携帯も解約してしまっている。だから古泉に連絡をしようと思えば家に帰るか、最近じゃさっぱり見なくなった公衆電話を探すしかないのだ。 ようやく緑電話を発見した俺は、ふるえる手で10円玉を2,3枚投入し、焦りながら番号をプッシュした。 『もしもし、あなたの生活をきらびやかに彩るトータルプランナー、古泉一樹でございます』 こ、古泉か!? 俺だ。 『おやおや。どうされましたか? ずいぶんと慌てた様子ですが』 単刀直入に言おう! お前に出してもらった金はそっくり返すから、俺の臓器を返してくれないか!? 『唐突なお話ですね。一体何があったのですか?』 少し困惑気味の古泉に、俺は最初から事情を説明した。最初からといっても、偶然国木田と再会して借金を返す目処がついて就職先も決まったから死にたくなくなったってだけの説明内容だが。 俺が全てを話し終えてからも、古泉はしばらく電話の向こう側で黙りこくっていた。 『あのですね。あなたのおっしゃりたいことも分かりますよ。死ぬ意味が全て帳消しになったから、死にたくなくなった。だから生きるために臓器を返してもらいたくなった、と言うのでしょう?』 その通りだ。都合の良いことばかり言って申し訳ないんだが、腹に脱脂綿の詰まっている俺の身体じゃ、長くは生きられない。早いところ臓器を元に戻してもらいたいんだ。 『無理を言わないでください。僕も趣味でこんなことやっているわけじゃないんですよ。ちゃんと需要があって、その希望にあった物を用意して品を揃え、信用の名の下に取引する。返してください、はいそうですか、で通用することじゃないんですよ』 予想外の古泉の反応に俺は狼狽した。いや、よくよく考えてみればそれが当然なのかもしれない。臓器の密売なんて一般人の俺でも知ってるレベルの重罪だ。そこに個人の私情など挟めるはずもないに違いない。 いかに相手が長年の友人である古泉であっても、たかが友情ごときでどうこうできる問題じゃないのだろう。なんせ、下手を打てば手が後ろに回ることになりかねない事なのだから。 「それでも、それでも俺は生きたいんだ! 頼む古泉、俺の内臓返してくれ!」 ふぅ。と受話器越しに古泉のため息が聞こえた。あきれてるんだろうな。あきれればいいさ。とにかく俺は生きていたんだ。輝かしい未来が突然やってきたんだ。こんなところで死ねるかよ。 『あれはまっとうな取引じゃなかったことくらい、あなたも承知されているでしょう』 ああ。臓器密売なんて公にできる話じゃないしな。 『ですから、返してほしくなったから返してね。であっさり済ませられる話じゃないんですよ。僕にも顧客からの信頼というものがありますし』 お前には悪いと思ってる。本当にすまない。だが、俺だって命にかかわる一大事なんだ。引けないことは分かるだろ? 『仕方のない人ですね。まったく。それじゃ、こうしましょう。あなたが顧客として、自分が売りに出した臓器を買い戻す。客として商品を買う分には、問題ありませんからね』 ああ。古本屋に本を売ったけど、やっぱり手元に置いておきたくなったから改めて買い戻すみたいなものか。分かった。買おうじゃないか。 ふぅ。と、また古泉のため息が電話の向こうから聞こえてきた。 『あなたね。簡単にそう言いますが、分かってるんですか? 臓器各種はけっこうな値がするのですよ?』 お前から受け取った俺の腸、肝臓、膵臓、腎臓などの代金は、合計1億だったな。それを全部つぎ込むぜ。 『1億で買った物を1億で売ったら、純利益がないじゃないですか。手間賃や手術料、そっち方面への上納金などを含めても、1億ぽっちじゃ到底及びませんよ。話になりません』 じゃ、じゃあ、いくらあったら足りるってんだよ? 一応、国木田から500万もらったから、1億500万までなら出せるぜ。 『庶民にとっては大金でも、500万なんて屁の一発でふっとぶ端下金ですよ。そんなの、業者に払う手間賃にもなりません』 そ、そんな……じゃあいくらならいいって言うんだよ!? 『1億5000万。あなたと僕の仲です。割引に割引し、さらに勉強して、その値段で結構ですよ』 ば、馬鹿な! ニートで中流階級家庭の俺に、あと4500万も用意できるわけないじゃないか! 『1億500万なら、そうですね。肝臓と小腸大腸くらいは売ってあげられそうですよ。何せ若い男性の最高に健康な臓器ですからね。もっとも需要の高い、値段の張る商品なのですよ』 足が、ふるえる。頭からサーっと血が引いていくのが感じられる。受話器をつかむ指先も、5本全てがわなわなと痙攣している。 頭が痛い。耳が痛い。指が痛い。首が痛い。胸が痛い。腕が痛い。腹が痛い。内臓が痛い。足が痛い。きりきりと痛い。 体中から血が噴出しているような幻想にとらわれ、俺は力なく両膝をついた。 『死ねばいいじゃないですか』 笑いをこらえるようなくぐもった声で、古泉はそう言った。 死ぬ? 俺が? 何で? どうして? 死ねばいい? いやだ、死ぬのは、いやだ! 生きたい! 俺は、生きたい! あの日、ビルの上で死のうとしてたのは、あれはただの気の迷いだったんだ! そう、ヤケ酒を飲んで酔って、ついついあんな馬鹿げたことしちまっただけなんだ! 俺は死にたくないんだ! あなたもつくづく、調子の良い人ですね。と古泉が哂った。 ニートで負債をかかえて家族に迷惑をかけたから死ぬ、止めてくれるな、と喚いていたのは酔った勢いなのですか? 酔いが醒めて冷静になっていれば、事態を好転させられるだけの良案が思い浮かんでいたというのですか? 確かに死んで責任をまっとうしようなんて言い逃れは酔いのもたらす逃避思考だったのかもしれませんが、結局はなんとかしようと思えば、今のように身体を売るかそれに準じる何かをしなければいけなかったわけじゃないですか。 むしろあの場に僕が現れてあなたに臓器提供の話を持ち込んであげたから、本当に本当のバッドエンドにならずに済んだんじゃないですか? なのに、その臓器を買い戻すために大枚をはたく? また新しい負債を発生させようと言うのですか? ふふふ。結局は、ほら。あれですよ。あなたが死ねば万事解決するんですよ。 「それでも俺は、死にたくないよ!」 あらん限りの力を振りしぼった俺の声は、料金切れで自動的に通話の切れた受話器の向こうには届いていなかった。 俺は、人目もはばからず声をあげて泣いた。 まるで曇り空のあの日に逆戻りしたようだ。ゆらゆらと、さながら幽鬼のような足取り。呆けた頭。だらしなく弛緩した腕。 生に絶望してビルを登ったあの日。しかし、今は違う。死に抗うため、生に執着して、でもそれが叶わなくて、力およばず、力なく。ふらふらと。 気づくと、俺はあの病院の前に立っていた。斜陽が、まるで病院の白亜を巨大な地獄への門のように彩っていた。 ここで俺は臓器を抜き取られた。変わりに脱脂綿を腹の中に詰められた。まあ、それは俺が自分で望んだことだから誰にも文句は言えないのだが。 きっともうここには俺の内臓も、古泉も、いないだろう。ここに来たからといって奴の足取りが知れるはずもない。でも、再度古泉に連絡をとる勇気もなく。 ああ。腹が痛い。 「おや? どうされましたか?」 頭上から聞き覚えのある声がふってきた。それも、ごく最近聞いた声。この声は…… 「ずいぶんとしょぼくれて、どうされました? もうとっくにお亡くなりになったとばかり思っていたのですが?」 病院の2階の窓から、夕日に溶暗したように黒々とした古泉の顔がにゅっと突き出されていた。 突然、俺の身体に底をついていたはずのエネルギーが蘇ってきた! 腕に、足に、腹に、頭に、爆発しそうなほどの熱が、沸騰する! 気づくと俺は駆け出していた。病院の扉を突き飛ばすように開き、獣のような勢いで階段を駆け上る。痛みなど感じない。ただ、狂おしいほどの何かが、俺の内部で渦を巻いて猛っていた。 「古泉!」 視界が狭くなるような幻覚の中、俺は古泉がいたであろう部屋の前まで駆け上っていた。そこは大きな会議室のような部屋であろうと、閉じられた扉の規模からして想像がつく。 金属製のドアノブを乱暴にゆすってみるが、しっかり施錠された扉は容易には開かない。 『どうされました? 忘れ物ですか?』 扉の向こうから古泉の声が聞こえる。間違いない。古泉はここにいる。ということはもしかして、俺の身体の一部もこの向こうにあるのか!? 「頼む古泉、開けてくれ! 助けてくれ!」 あらんかぎりの声を張り上げる。死ぬか生きるかの瀬戸際だ。世間体なんて微塵も感じない。 『臓器の件ですか? それについては電話でお話していた通りですよ。1億5000万はご用意できたのですか?』 「ない。そんな金、逆さに振ったって出てきやしないさ。でも、それでも、俺の臓器を戻してくれないか?」 『おやおや。ずいぶんなことをおっしゃられる。代金もないのに、商品をよこせと? これは恐喝か強盗と解されてもしかたないことではないでしょうか?』 「違うな。俺はクーリングオフに来たんだ。強盗じゃなくて客だ」 『またまた。うちは取引から7日過ぎていなくても、クーリングオフは受け付けていないのですよ』 「なら力づくでもクーリングオフさせてもらうまでだ」 『ここへ押し入るつもりですか? 馬鹿な真似を。たとえここへやってきて臓器を取り戻したとしても、それをあなたの体内へ戻す医師がいなければ意味がないでしょうに』 「それでも、俺はやる! その時はその時だ! 臓器を取り戻すことで少しでも生きることへの可能性が生まれるのなら、俺はなんだってやってやる!」 『………。やれやれ。あの日、ビルの上に立っていたあなたはあんなにも弱弱しくて、ビルの上から飛び降りなくても死んでしまいそうな外見をしていたというのに。今はこんなにも生き生きと、生を望んでいらっしゃる』 「ああ、そうだ。あの時の俺はどうかしていた。絶望っていう一過性の毒にやられて、完全に頭がいっちまってた。だが、今なら言える! 俺は生きていたいんだ、と!」 しばらく、俺と古泉は、扉をはさんで黙り続けていた。こうしていると、目の前の分厚い扉も紙のように薄っぺらく、まるで手を差し出すだけで突きやぶれそうな気がしてくる。 『覚悟はあるのですか? もう、絶対に自殺などしない、寿命が尽きるその日まで、あがき続けると』 「ああ! もちろんだ!」 渾身の力をこめた俺の主張。最高に熱のこもった、熱をこめた声が、扉のむこうへ浸透して行った。古泉にその叫びは……伝わっただろうか。 『……分かりました。その言葉を、信じましょう。さあ。こちら側へいらしてください』 静かな古泉の声とともに、すっと巨大な扉が開いて行く。 ああ……明るい……白く、明るい光が……開き行く扉の向こうからさしてくる……まるで、そう。俺を別天地へといざなうかのような………え? 扉が完全に開ききったところで、パンッ!と乾いた破裂音がした。俺の頭上に、火薬くさい紙の束がふりそそぐ。 「遅かったじゃないの! まったく、なにやってたのよ、待ちくたびれちゃったわ!」 そこには、クラッカーの筒を持ったハルヒが立っていた。え? ハルヒ? なんで……ここに? よく見るとハルヒだけじゃない。俺のよく知っている人たちが大勢、大挙して扉の向こうに立っていた。 「もう、死ぬなんて軽々しく言っちゃダメですよ!」 朝比奈さん? なんで、これ、え? パーティー会場? え? え? 「死というものを曖昧にしか実感していなかった彼に時間を与え冷静さを取り戻させ、改めて明瞭な死を感じさせる。そこでクランケ自らに生への執着を抱かせる。見事な演出。さすがプランナー」 長門? なに言ってんだ、古泉の隣で? 扉の中から押し寄せる知人や家族たちに率いられ、放心状態の俺はパーティー会場の中へ連れ込まれる。 200人規模で会議が開けそうな広い部屋に、「生還おめでとうパーティー」 とヘタクソな字で書かれた大きな垂れ幕が吊り下げられている。 ここに至って、ようやく薄ぼんやりと俺は事の次第を理解し始めたのだった。 「いかがでしたか? プランナー古泉の企画は」 何故かお神輿の上にかつがれて上下に揺さぶられている俺は、どっと疲れが出たのを露骨に顔に出しながら、「最悪だったよ」 と答えてやった。 しかし内心では、まんざらでもないな……と少し思っていた。 「分かっているとは思いますが、安心してください。全ては僕の企画したプランです。あなたの内臓を摘出したというのも嘘ですよ。あなたのお腹の中には脱脂綿ではなく、ちゃんと自慢の臓器が詰まっているのでご安心を」 もうそれが分かっただけでも十分だよ。さっさと帰らせてくれ。今日はとっとと眠りたい気分だ。 「まあまあ、そういわず。全てが僕のプランだったわけですが、ひとつだけ真実もあるのですから」 そう言う古泉の隣で、はにかみながら手を振っていた国木田を見て、俺も思わず笑い返してしまった。これからよろしく頼むぜ、社長。 なんだかんだ言って、楽しいひと時だった。結局途中から俺の生還パーティーではなくただの同窓会になってしまったのだが、それはそれで文句ない。 古泉にずいぶん酷いことを言ってしまったが、悪かったな。騙されてたとはいえ。 「いえいえ。気にしていませんよ」 こんな時は、古泉のこのニヤケ顔もありがたく映る。そう言ってもらえると助かる。 「さてさて。これで僕の今回の仕事は完了です。それでは、最後にこれを」 そう言って、古泉は一枚の紙切れを俺に差し出した。以前同じように差し出した名刺よりも、薄く、大きな紙だ。 「今回のプランの総額ですよ。いろいろと手間がかかってしまったので、この金額になってしまったのですが、まあいくらか引かせていただいているのでご心配なく」 再び俺の腹に、きりきりとした鈍痛が走る。……え、これ、俺が払うの? その請求書に書かれていた金額を見て、また死にたくなってきた。 ~~~~~ 鶴屋「尻出せや!」 谷口「ほひぃん! かかか鰹節だけは、鰹節だけはッ!」 鶴屋「往生せぇやあああぁぁああぁぁ!」 谷口「アッー!」 おわり
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前ページNameless Archives/2ちゃんねる・エロパロ板/スーパーヒロイン系・総合スレ 題 無題1 作者 117(ID nN5Kl1J9,kaCWjEGf,wfKiSqv/,gUy+Dgrb) 取得元 スーパーヒロイン系・総合スレ,http //pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1071976937/ 取得日 2007年11月04日 タグ cb 概要&あらすじ バーンフォウスの戦いは続く…… ページ 1-2 ご注意:以後の作品の著作権は、作者(書き込み主)にあります。 148 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 55 ID wfKiSqv/ 143 私立世衣木高等学校。現在四限目数学の授業、残り時間十三分。分かりやすく言えば 十二時三十七分である。 グラウンド側の席でぐっすり熟睡しているのは兵藤涼。すぐ隣では穂村煉が迷惑そうで 心配そうな、だがやはり迷惑な顔をしていた。気持ちよさそうな寝息が授業に対する彼女 の集中力を乱していた。 宿題の写しを授業開始直前に終え、それからたっぷり熟睡中。本当なら煉が叩き起こし てもいいのだが、寝ていてくれればまた宿題を見せてくれと頼まれる……。それが嬉しかっ たりする。 ブルッ―― 「ッ――! 先生、トイレ行ってきます」 挙手すると同時に煉は席を立ち、教師の言葉を待たずしてすたすたと教室のドアに向か った。 「ん? おお、いっといれ」 薄ら寒いギャグにあちこちから失笑ともとれる笑い声が起こった。いつものことだが、その 教師のギャグに背筋が震えるのを感じながら彼女は教室を後にした。 149 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 56 ID wfKiSqv/ 足音を立てずに走るのは彼女の特技である。誰もいない廊下を疾走し、女子トイレの前 を素通りし、階段を長いストライドを生かして軽く六段近く飛ばして駆け上がる。左胸ポケッ トにまるで束縛されているかのようにぱっつんぱっつんに収められていた折り畳み式の携 帯電話を手にすると、それを開き耳に当て、 「私です」 ボタンを操作することなく会話を始めた。よく見るとその携帯電話にはボタンの類はなく、 上部に全面を覆う画面と通話に必要な部位しかない。そもそも彼女は授業中に携帯を鞄の 中に――しっかり電源まで切って――しまっている。 『こんにちは』 電話から聞こえてきたのは幼さを含む女性の声。日本防衛企業特務課のオペレーターの 女性である。何度か面識もあり、歳もあまり変わらない。 『エビル・ネイションの攻撃が確認されました』 「場所は」 『世衣木高校から南南西に五十五キロ。臨海都市予定地域周辺が被害を受けています』 「直接向かいます」 『気を付けて』 屋上へ通じる扉を開け放つと上方に跳躍し、給水タンクの上に着地し首を巡らす。 (南南西……五十五キロ……) 携帯電話らしきものを胸ポケットに戻し、受けた情報を頼りにその方角を視認する。身体が 次第に熱くなる。戦闘に向けて力が漲っていく。 「――見えた」 壇ッ、左足で踏み切ると、先程とは比較にならない跳躍を見せた。 「炎武ッ――」 振りかざす右腕に炎が蛇……いや龍のように渦を巻き、 「――超甲ぉぉッ!!」 炎龍が煉の頭から爪先までを見事に覆いつくす。 「っはぁ!!」 掛け声とともに火球から常識離れしたスピードで飛び出して行ったのは、紛れもなくバーン フォウスであった。一条の紅い線が世衣木高校上空数百メートルから南南西へと尾を引き、 瞬く間に消え去った。 150 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 57 ID wfKiSqv/ それはまるで重戦車を髣髴とさせた。 「…………」 一見しただけでも分かる強固な外穀。ヒトに例えると頭部の、額に当たるところから生える 長大な角。さながらカブトムシである。 「…………」 エビル・ネイションの怪人は本能の趣くままに生きている。一匹一匹それぞれが曲者揃い であるが、圧倒的な『力』の元で怪人どもは統率・管理されている。 「…………」 そんな怪人の中で黙々と破壊を行うこのカブトムシは、特殊といえばそうである。だが、こ いつの後ろは灰塵となり、押し潰された人間の亡骸が電光に集まり死んだ小虫のように点在 していた。 「――そこまでだっっ!」 「…………?」 カブトムシ怪人の聴覚が遠方より迫り来る声を、見上げた視覚が紅く輝く光点を捉えた。 「バァァニングゥゥッッ」 バーンフォウスの拳から生じた炎が再び空を真っ赤に灼く線を創り出す。 「ナァァァァッッッックゥゥ!!」 マグマの熱を凝縮したような超高熱を誇る拳が怪人の角を瞬時に粉砕、蒸発させる。 ピキッ 「なにッ!?」 今までの戦闘からその結果を確信していた煉は状況が不利と判断すると背後に大きく飛び 退いた。 151 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 58 ID wfKiSqv/ 「ちぃっ」 バーンフォウスの右手甲には小さなひびが走っていた。対して怪人の角は未だ健在。奇襲 からの懇親の一撃にも拘らず、だ。 (あ、でも奇襲は違うか。だって私から叫んでたし) などと呑気に考えている場合ではない。これは敵の硬度がバーンフォウスの超甲より勝って いるということを知らしめている。 「向こうは私を調べてる……ってことか」 そのせいで今回の怪人は苦戦しそうだと煉は直感した。が、彼女はできる限り早く始末し学校 に戻るつもりである。四限目終了まで、後十分。 「ッんぁ――ッッ!?」 バーンフォウスの身体が後方に弾け飛ぶ。勢いはひどく、一度後転してしまってから二つの脚 でようやく制動をかけた。粉塵を巻き上げ数十、百メートルいやそれ以上の距離を慣性に従い 飛ばされた。 「っっっ痛ぅ……、何を……」 されたかは至極単純であった。怪人の体当たりである。顔を上げた煉は先程まで自分がいた 位置に甲骨をまとう怪人がいるのを目にした。 「馬鹿っ速いじゃないか」 気を抜いていたわけではない。しかし距離を詰められた瞬間を目で捉えることができていなか った。 「…………」 「?」 絶対的に優位にいる怪人が自分を見据えたまま巨角を指で示すのを怪訝な表情――顔は 超甲で覆われて見えないが――で見返していると、 「…………」 「ッ――!」 バーンフォウスに、いや煉に対して中指を突き立てる仕草をして見せた。それはつまり、 あの角で煉の女性を貫くというやつなりの挑発であった。 「――――下衆が」 腹の深奥で何かが熱く滾った。超甲をまとい始めて数ヶ月も経たない煉はいとも簡単に理性の 箍が外れ、本能に任せるだけの攻撃的な戦闘スタイルにシフトした。 152 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 59 ID wfKiSqv/ ――憎い 『……ん』 ――父を殺したあいつらが 『れ……ん』 ――母を殺したあいつらが 『煉……』 ――やつらを殺すことだけを考えているのに 『煉さ……』 ――さっきから耳に張り付く雑音は、何……? A.呼びかけに答える B.呼びかけに答えない 155 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 42 ID ri/YzF8D 152 「――ダメです、応答ありません!」 オペレーターの叫びが防衛企業特務課作戦司令室に木霊した。 「トランス状態に堕ちました!」 報告を受け、社長の顔が険しくなる。こうなってしまうと戦闘を終えるまでこちらから できることは皆無である。煉を信じて待つしか、彼らにはできない。 今までも何度かトランスに陥っていたが、その都度危機を脱している煉の実績は驚嘆に 値するが、今度の相手は闘争本能に任せた戦い方では勝てないかもしれないと彼は考えて いた。 「社長。先程からの戦術兵器開発部の轟博士のエマージェンシーはどうされます?」 「私が出よう」 戦闘中に煉へ呼びかけたのは、轟博士が緊急に煉と連絡が取りたいと要求があったから である。攻撃が通用していないと兵器開発部へ即座に報告したところ、すぐさま返事があ った。 『そんなこともあろうかとこいつを開発しといたのじゃ』 最強の台詞とともにバーンフォウスの新型兵器のデータが送られ、いざこれから……と いう時になってのトランスであった。 煉の動向を見守りつつ、最悪の事態に備え何か手はないかと思案していた。 156 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 43 ID ri/YzF8D 「はああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」 愚直とも思えるほど煉は真っ直ぐ突っ込んだ。カブトムシ怪人はその巨体に似つかわし く緩慢な動作で腕を振り上げ、煉が交差する一瞬を待った。 紅い弾丸が目にも止まらぬ速さで距離を詰める。タイミングを見計らう敵の腕が、まだ 待ち、待ち続け、そして、 「っ――」 轟音を上げ空気を切り裂き、いや空を切った。 「遅い!」 声がしたのは背後。踏み込む左足。捻る腰。振り返る暇も与えず力を込めた渾身の右拳が、 甲殻に覆われるカブトムシの背に突き刺さる。 「…………く」 突き刺さったと思われた拳は、怪人の固い外甲の表面で止められた。超甲に入る亀裂が 音を立てて一段と大きくなる。 もしその怪人が表情を浮かべるなら勝ち誇った笑みを顔中に滲ませているだろう。――が。 「うおぉぉぉぉぉぉっっっっ!!」 止められた動きを強引に再動させる。左足はコンクリートを踏み砕き、腰は限界まで捻り回す。 「――」 怪人は微かな呻き声を残し、振り抜かれたバーンフォウスの右腕から弾け飛んでゆく。大地を 転がる巨躯を立て直して顔を上げると、そこには始めと同じく炎塊が弾丸のように迫っていた。 怪人が腰を落とし一撃に備えるのと、一撃が腹を捉えたのはほぼ同時だった。 確実な手応えが豪拳に伝わる、勝利を手にしたと確信した瞬間、右腕全体に亀裂が拡がった。 「な……っ!?」 驚愕。そして一瞬の隙。刹那、バーンフォウスの胴を怪人の腕が締めつける。 「かはっ――」 肺の中の空気が絞り出され頭が真っ白に塗りつぶされる。意識が途切れかけるが、ぎりぎりと 締めつけられる背部の鈍痛がそれを許さなかった。 「くぁ……、はっぁ」 鯖折りから逃れようとするも右腕は戦えるだけの力がない。左腕だけで外せるほど敵の力も弱く ない。 157 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 44 ID ri/YzF8D この時、煉はトランス状態から回復していた。一瞬意識が遠のいたために興奮状態が 醒めていた。そして、自分の愚かしさを激しく悔やんだ。一時の感情に任せたための失態、 しかも今回は致命的な結果を招いている。 「く、そぉぉ……っ――!」 己の愚行に打ちひしがれるのに追い討ちをかけるように、煉の腰が鈍い音を立てた。 (背骨が、砕けた……?) 自覚するが、不思議と痛みは感じられなかった。だがこれでもう戦えないかもという絶望 の感が煉に重く圧し掛かった。 怪人が腕の力を緩めると、煉の身体が面白いように力なくコンクリートの大地に崩れ落ちた。 転がる煉を足蹴にして仰向けにさせたカブトムシ怪人は、まるで値踏みでもするかのように ねちっこい視線をその身体に落とした。その目に頭が熱くなるが、今度はぶち切れたりはしな かった。代わりにどうすればこいつを倒せるか、それだけを考える。 右腕は使い物にならない。下半身も、腰から下は動かないかもしれない。本当に感覚がない 気がする。残されたのは……左腕。 (どうする? これだけで、どう戦う?) いかにシミュレートしても有効な手は思い浮かばない。心は焦れ、自然と左拳に込められる力 も増し、それは見逃されはしなかった。 重量級の怪人の右足がコンクリート諸共煉の左腕を踏み砕いた。 「……はっ――」 一瞬間の後、断末魔の叫びが一帯の大気を震撼させた。 158 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 44 ID ri/YzF8D その悲鳴に司令室の多くの者――特に女性は耳を塞ぎ、モニターに映る凄惨な光景から 目を背けた。 「ぐ……っ。せ、戦闘時間、五分突破。右腕、腰部中破。左腕……大破」 ざっくばらんにスーツを着こなす青年がいち早く気を持ち直し、現在の煉の状態を苦しげに 報告する。 「社長! これ以上は生命に危険が」 「分かっている。木崎くん、轟博士に繋いでくれ」 「あ……は、はい!」 社長の一声がきっかけとなり全員が気を取り直した。新人ばかりのこの課において、今しがた の映像は衝撃が大きかった。しかし、慣れてもらわなければ、困る。 「轟博士。例のあれは準備できましたか?」 『おお。ばっちりじゃ。今すぐにでもかっ飛ばせるぞい』 「頼みます」 それだけで通信を切る。司令の目はすでに正面の大画面モニターに映し出される怪人と煉の 姿に戻されていた。 「煉くん、あと少し……あと少しだけ耐えてくれ」 159 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 45 ID ri/YzF8D 「――があああっっっっ!! っっっあああ!!」 左腕に走る激痛。頭を振り乱す煉の姿がその凄まじさを物語っている。 「……」 足元でもがき苦しむ彼女に向けられる視線はひどく落ち着き払っていた。冷静に煉のもがく 様を見ている。 「……」 ようやく動いたカブトムシ怪人の手が煉の腰、無数に亀裂が走る超甲へ伸ばされた。亀裂の 隙間に指を捻じ込み、力任せにそれを剥ぎ取った。 頼りない音を立てて剥ぎ取られた装甲が大地を転がる。白日の下に晒されたのは、女性らし い艶やかな肌をした。首から上で醜く騒ぎ立てる女性とこの肌の持ち主が同じだというギャップ。 その差が怪人の変態的な欲情を駆り立てる。 「……」 腰から下を覆う装甲に手をかけ飴細工のようにそれを容易く剥ぎ取ると、薄い恥毛が茂る女性 が現れた。 「あ……っ、あ、……」 そんな辱めを受けても、煉は苦しげに呻くことしかできない。左腕から全身に広がる痛苦に犯さ れ、もはや虫の息、といったところだ。 そんな状態に構うことなく、怪人の無骨で醜悪で汚らわしい指が彼女の女性部に這わされた。 撫で、さすり、強く抓りあげられようが煉の身体はまったく反応を示さなかった。 「……」 手を離したカブトムシの股間から長い肉塊がじゅるりと粘液を垂れ流しながら飛び出し、その身 を太く固く剛直にしていく。 未だ超甲に包まれる煉の脚を大きく開脚させ、すでに限界まで充血したものを彼女の秘孔へと 近づけた。 162 :名無しさん@ピンキー:04/02/20 01 02 ID 8DzCZU3B 159 (私……どうなった、の?) 霧散する意識。白く染まる視界。左腕を締めつける激痛……いや痛みは感じなくなり 始めていた。まるで肘から、肩から先までが消失してしまったような感覚に蝕まれ、彼女 は堕ちていく気分に襲われた。 (――あ。触られてる……) 闘争心の剥げ落ちた頭が、今何をされているのかを冷静に伝える。まだ誰にも晒した ことのない純潔な箇所をどんなに弄られても、闘う意思を忘却した彼女は立ち上がること ができなかった (……やだな。こんなところで終わるなんて) 心が拒んでも、身体がついてこない。敵に対する憎しみも、何もかもが消え失せていた。 しかし、せめて自分のバージンをここで喪失してしまうならいっそ、左腕と同じく何も感じな ければいいのにと心の片隅で願った。 (………………あ、れ……) そこで体感していることの喰い違いに気が付いた。左腕は潰された。だからあんなに痛か ったのに、じゃあどうして腰は痛みを教えてこないのか。 「――――ッグ」 痛くない……なら、動くんじゃないのか。鈍い音を聞いて腰が砕けたと思い込んだだけ じゃないのか。 「っあ、……く」 手にした一縷の望みは、彼女を奮い立たせるには十分すぎた。彼方に飛ばされた意識を、 闘うための勇気を引き寄せる。 163 :名無しさん@ピンキー:04/02/20 01 03 ID 8DzCZU3B 「くっ、ど――」 一度は死んだ心が甦った時、彼女の腰から下は思い通りに動いた。太腿の間に身を割り 込ませていた甲殻生物の腹回りに両足を絡ませ、 「退けええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!」 「……!」 腰を巧みに捻り、脚に挟んだ怪人を開放し竜巻のように吹き飛ばした。超速で身体を弾き 出された甲虫は地面を削りながら欠損した道路をどこまでも転がっていった。 息を荒げる煉は立ち上がり、腰に小さな痛みを感じながらもまだ動くことをようやく意識した。 右腕だって超甲が損傷しただけだ、動かせる。左腕も力強く握り締める。 「――ぁああっ!!」 まだ動くじゃないか!痛みを感じる、神経は通ってる。……闘える! 「はっ、はは……はははっ」 彼女は笑った。痛みで気が触れたわけではない。まだ闘えることが、人のために闘える ことが、私怨を晴らせることが嬉しかった。 今度は感情に囚われない。溺れない。クールに冴え渡る意識に身を委ねる。ようやく自分 を取り戻したのと同時、通信が入った。 『煉くん』 聞き慣れた渋い男の声。戦闘中に聞くのはこれで何度目かである。 「社長!」 『説明している暇はない。轟博士に代わる』 『……よお煉くん、苦戦しとるようじゃのお』 「用件は何です? 急いでください」 『いやいや何とも魅力的な格好しとるじゃな』 「殴りますよ?」 『冗談じゃ。さて、そろそろ君の元に新たな力が届くはずじゃ』 「力……?」 164 :名無しさん@ピンキー:04/02/20 01 04 ID 8DzCZU3B 轟博士の言葉どおり、それはすぐにやってきた。彼女の聴覚が、遠方から聞こえてくる 甲高い音を捉え、次第にそれが近づいてくる。耳を劈くほどの音響をともなった時、彼女 の前にそれはを大気を振動させて落ちてきた。というより地面に突き刺さった。 「な……っ?」 銀色に輝く物体。高出力のブースターによって強大な推進力を得たそれは未だに火を噴 き出し、その先端……ではなく本体は高速で回転している。螺旋を描いて刻まれた溝が円 錐状の体に巻きつくその様はまさに、 「――ドリル……?」 『そうじゃ! これこそ敵の装甲を貫く破壊力と男のロマンを兼ね備えた最強の兵器・ブース タードリルじゃ!』 熱弁する轟博士に対し、いつもなら少し呆れ気味になる煉だが、今は心底感謝していた。 「これは……使える。ありがとう、博士」 目の前ですでに回転を止めたドリル、後部に取り付けられている火の噴きやんだブースター。 その中央に空けられている丸い空洞にひびだらけの右腕を突っ込んだ。中に挿し込んだ腕 が種々のケーブルに絡めとられ、きつく締め上げられる。 「んくっ……! き、つい……っ」 強度を失った超甲では耐え切れずに苦しげに漏らすが、腕を引き抜こうとは考えもしなかった。 完全に接続が終了した時、彼女の脳裏にこの兵器を扱うためのマニュアルが焼き付き、同時 に欠損、欠落していた超甲が活性化し、瞬時に再生していく。左腕の神経深くまで染み込んだ 痛み以外、違和は感じられない。 「セット!」 ドリルを装着した腕を振り上げて叫ぶと、一瞬にしてドリルが秒間五千回転という阿呆みたい な最高回転速度に達する。 「行くぞぉ……っ」 今しがた吹き飛ばしたばかりの敵めがけ、煉は勢いよく突き進んだ。 165 :名無しさん@ピンキー:04/02/20 01 05 ID 8DzCZU3B 「……」 どうにか体勢を立て直したカブトムシは、こちらに一直線に迫り来るバーンフォウスの姿を 捉えた。直線上から逃れようと身体を動かすが、思うように動かない。吹き飛ばされた衝撃で 身体の機能が狂ってしまったらしい。こうなってしまえば、後は自分が信じる強固な装甲で身 を守るしかない。 「……」 両腕を身体の前で交差させ、敵がどこを狙うのか確実に見極めて防ぐつもりだ。 「はあっ――」 引き絞られたバーンフォウスの右腕が突き出される。ドリルの切っ先、そこが狙っているのは ……胸。 「……」 冷静に対処する。切っ先が身体に触れる寸前、強靭な外穀に覆われる両腕を二人の隙間に 滑り込ませ、ドリルを完全に受け止めた。 瞬間、怪人の肘から先は粉砕された。 「……!」 「甘いっ!」 凶悪な回転を続けるドリルの先端が怪人の胸に捻じ込まれる。茶色がかった汚物が無数に 飛び散る。 「バーストッッ!」 怒号とともにドリル本体が爆炎に包まれる。貫かれた傷口が香ばしい音を立てて焼け爛れて いく。バーンフォウスの能力を生かした獄炎の味である。 「ブーストォッッ!」 再びブースターが火を噴き始める。その威勢は飛んできた時の倍、数倍以上に膨れ上がっ ている。 「吹き飛べ!!」 ブースタードリルは怪人の身体を貫いたまま、バーンフォウスの腕から飛び離れた。凄まじい 音を轟かせ空気を切り裂くその勢いに、強靭な外骨格に覆われていた怪人の身体は無残にも 粉となり、塵と化した。 「…………」 空に捧げる右腕に舞い戻ってきたのは、妖しいほどに光を放つ銀色の凶器だけだった。 168 :名無しさん@ピンキー:04/03/03 00 50 ID gUy+Dgrb 165 空が橙色に染まるかという時刻、煉は自宅へ帰り着いた。 戦闘終了後、本部に向かってから体の熱を鎮め、負い過ぎた傷の治療をしてもらった。 「……」 左腕は肘から先まで包帯が巻かれている。外傷はほとんど癒えているが、神経が未だに 悲鳴をあげていた。数日はこのまま過ごすようにと念を押されて注意された。 「…………」 ひどく反省していた。今回もなんとか切り抜けたが、もしあの兵装が間に合っていなければ 自分は犯され、生命も奪われていただろう。 「はぁ……」 もっと自身の感情の制御を上手くしなければ……それが彼女の最大の課題である。 自室に入るとベッドに大の字に寝っ転がった。 「――あ」 そこで鞄を学校に置きっ放しであることをようやく思い出した。午後の授業を欠席してしまっ ていたことも同時に。 「……参ったな」 これから取りに行こうかとも考えたが、すでに帰りのホームルームも終わっている時間だ。 今からのこのこと学校に出向くのも気が引けるし、何よりベッドに横になった瞬間から下腹部 がまた疼き始めていた。 「……ほんとに参った」 鞄は明日でいいか。今は腹の底で蠢く不快な欲求を解消しなきゃ――解消したい。 身体を丸め、水色縞柄のショーツを膝まで下げると、玄関からチャイムの音が聞こえてきた。 「――!」 さっとショーツを上げ制服の乱れを正すと、太一の部屋の前を通り階段を駆け下り玄関の 戸を開いた。 顔、ちょっと赤くないかな?という思いがよぎった時にはすでに戸を開け放っていた。 169 :名無しさん@ピンキー:04/03/03 00 51 ID gUy+Dgrb 「よう」 煉の前に立っていたのは、肩を上下させ額に汗を浮かばせる涼だった。彼の熱気が彼女 の鼻腔をくすぐった。 どうして彼がここにいるのか分からない彼女が目を丸くさせていると、視界が真っ暗に覆 われた。 「お前の鞄。持ってきたぞ」 「え……、あ、うん」 突き出されたのは煉の鞄だった。おずおずといった風に両手で受け取った。 「早退すんのはいいけどな、鞄忘れていくなんてポカやらかすんじゃねえよ」 「ご、ごめん」 「……いいけどさ、別に」 存外に素直にしおらしく謝られ、居心地の悪さを感じた涼が言葉を付け足した。 「でも今日は部活があるんじゃないの? 持ってきてくれるなら涼が帰る時でよかったのに」 「ん? ああ、まあ……うん」 困ったように目を泳がせる涼を不審に思い見ていたところ、彼の目が鞄を手にする彼女の 左手で留まった。 「その手どうした?」 「これ? ちょっと捻っちゃって」 「気を付けろよな。どれどれ」 「あ――」 涼が煉の手を取ると、不意のことに驚いた彼女はその手を振り解いた。 「わ、悪い! そんなに痛がるって思わなかったから……」 「ちっ、違……」 歯切れ悪くもじもじと黙り込み、気まずい沈黙が数秒だけ流れた。 170 :名無しさん@ピンキー:04/03/03 00 53 ID gUy+Dgrb 「俺……部活行くわ」 「う、うん……行ってらっしゃい」 じゃあと言い合い、煉は振り解いてしまった左手を振って涼を送り出した。彼が角を曲がり 完全に見えなくなったのを確認してから、煉は玄関の戸を閉めて家に戻った。 「はぁっ」 途端に腰が砕け、扉に背中からもたれかかった。最早立っていることさえ困難な状態である。 「やだ……」 スカートの中ではショーツがぐっしょりと濡れ、粘液が膝まで伝い流れていた。頭の中まで 刺激するような彼の汗の匂いと触れられた手の温もりが彼女の理性をがたがたにしてしまった。 自身の制御――を誓ったはずだが、これは、この想いだけは抑えることはできそうになかった。 今にも倒れそうな危な気な足取りで自室へと戻った。 (太一……帰ってこないよね?) 沸騰し蒸発し霧散しそうな意識の中で最後に思ったことは、唯一の家族にだけは自分の卑し い姿を見せたくないな。という顧慮であり、そう思ってもやめることのできない自分への蔑みの 念だった。 前ページNameless Archives/2ちゃんねる・エロパロ板/スーパーヒロイン系・総合スレ Counter today - ,yesterday - ,summary - . 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826. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 22 48 54.53 ID ilK9qszfo 2日目:開始 直後コンマ:夢判定 827. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/16(火) 22 49 00.74 ID uZB2ALhYo おk 828. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 22 55 19.28 ID ilK9qszfo 827 判定:4 結果:失敗 ―――ここは? カーテンから刺さる日光を感じて、貴方は意識を覚醒する 見覚えのある天井 どうやら、ここは自分の泊まっているホテルだ 貴方は、昨夜のことを思い出す ―――ッ! 途端に感じるのは頭蓋が焼けるような痛み …そうだ、自分は――― 『ライダー』との対戦で貴方は マスターの葛木宗一郎に手酷いダメージを負った 身体を動かすたびに鈍痛が全身を襲う ここ2日間は…痛みが響くだろう セイバー「お目覚めになったのですね、マスター」 貴方の覚醒に気付いたのか、椅子から立ち上がる『セイバー』 セイバー「少々お待ちください。ただ今、水を持ってきます」 貴方の行動選択 1.身体を休める 2.学校へ行く 3.自由安価 ↓3 829. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/16(火) 22 55 56.98 ID uZB2ALhYo 1 830. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 22 56 01.80 ID pd4pp9Vzo 1 831. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) 2012/10/16(火) 22 56 48.33 ID lz6rkRJp0 1 833. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 03 32.56 ID ilK9qszfo 831 選択: 貴方はベッドの上で身体を休める 正直言えば、身体が動かない ―――葛木宗一郎 貴方の担任にして、『ライダー』のマスター 彼の拳はあまりにも奇怪なものだった 宝具と化した自分の武器でさえ砕き、貴方を一撃で昏倒させた 独特の構えから放たれた剛拳 敢えて言うのであれば『蛇』 全く、軌道を読むことさえも叶わず、的確に貴方の身体と脳の命令を断ち切った 驚愕と言うしかない… 神秘の庇護も魔術師でもない人間が、己の武だけで神秘へと行き着くものなのか… あながち自分の『伝承』もそういったものなのかもしれない セイバー「どうぞ、水です」 貴方は『セイバー』に身体を起こしてもらって水を飲む 貴方の会話選択 1.昨日は助かりました 2.あれが私の『宝具』です 3.自由安価 ↓3 834. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 03 59.82 ID oz9tdoie0 1 835. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 04 29.84 ID MeskILIDO 1 836. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 04 30.67 ID pd4pp9Vzo 1 837. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 12 57.47 ID ilK9qszfo 836 選択: 冷たい水が全身に潤いを与える 貴方は、水を飲み干し身体を休める 『セイバー』もベッドの隣に座り貴方を見ている …あまりじっと見られるのは恥ずかしいかもしれない 「昨日は助かりました。ありがとうございます」 恥ずかしさを誤魔化すために貴方は、『セイバー』に感謝を伝える セイバー「そう思うのであれば、今後は無謀な行動は控えてください」 軽く釘を差す『セイバー』に貴方は苦笑する だが、そうとも言っていられない 無言でその意を伝える貴方に『セイバー』は溜息を吐く セイバー「なら、少しでも早く、回復してください」 貴方の昼の行動 自由安価 ↓3 ※貴方の行動が制限されます ※『セイバー』の行動を安価指定できます 838. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) 2012/10/16(火) 23 14 33.54 ID lz6rkRJp0 申し訳なさそうに家に有るインスタント食品を食べるよう言う 839. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 15 37.81 ID pd4pp9Vzo 申し訳なさそうに家に有るちくわを食べるよう言う 840. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/10/16(火) 23 18 15.45 ID OjPl8Mn80 セイバーで 疑問を聞いてみる? 842. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 23 34.53 ID ilK9qszfo 841 選択: こーいう意味ですか? 『セイバー』は椅子に座り、『マスター』である貴方の看病を続ける しかし、貴方は手間が掛かるわけでもなく、 大人しく体を休めているために、『セイバー』としては手持無沙汰だ 「私のことは気にせずに」 どうやら、自分の手持無沙汰に気付いたマスターに気を遣わせたみたいだ けが人のマスターに気を遣わせるわけにも行かない 丁度良い、『セイバー』も聞きたいことがあったのだ 少しでも話し合うことは重要だ 『セイバー』の会話選択 1.敬語は入りません 2.マスターの魔力について 3.マスターの宝具について 4.自由安価 ↓3 843. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) 2012/10/16(火) 23 24 02.45 ID lz6rkRJp0 3 844. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/16(火) 23 25 43.05 ID uZB2ALhYo 1 845. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 25 45.21 ID pd4pp9Vzo 3 846. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 33 16.55 ID ilK9qszfo 845 選択:3 結果:そんなに地雷の上でダンスをしたいのですか 『セイバー』は昨日の戦闘を思い出す 自身と同じように風を纏い魔力で武具を編んだこと 濃密な魔力に指向性を持たせたこと それこそ、『セイバー』に宿る魔力炉心たる竜炉と同じ働き だが、彼女にとってそれ以上に気になったのは彼の『業』だ その手に持ったあらゆるものは宝具のような輝きを持つ 否、あれは間違いなく宝具だった 信じられない、ただの木の棒が貴方が持てば宝具と化す だが、自分はそれを知っている… それを担う男を知っている セイバー「マスター…貴方は私の子孫ではないと言いました」 ―――貴方は、ランスロットの血族なのですか? 直後コンマ:貴方の感情判定 1-3:全く持って忌むべきものです 4-6:私の『宝具』です 7-9:私の誇りです 847. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 33 27.25 ID pd4pp9Vzo ほい 850. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 44 27.34 ID ilK9qszfo 847 判定:5 結果:普通 『セイバー』の言葉に貴方は事務的に答えた 「はい、私の先祖は湖の騎士『ランスロット』です」 貴方の一族が持ってきた魔術回路とは異なる魔術特性 それは、一つの時代で無双を手にした英雄の『業』そのものを『伝承』として保管してきた 簡単に言えばウイルスだ。 一族の血を苗床にして、共生し続ける 単に、貴方達の血族が、共生に適していたともいえる 貴方は生まれた時から、その菌を保有し続けた そして、菌が持ち続けた『伝承』は貴方の全身に行き渡され、 『伝承』は『宝具』と化した セイバー「…そうですか」 『セイバー』はどこか気を落としているように見える 貴方は考える 『セイバー』にとって『ランスロット』は自身の国を滅ぼした要因だ そんな男の子孫に出会ったのなら、それは胸中穏やかではないだろう ―――サー・ケイやガウェインの子孫と名乗った方が良かったのかもしれない 貴方は、そんな的外れなことを考えていた 貴方:【普通】取得 貴方の夕方の行動 自由安価 ↓3 ※貴方の行動が制限されます ※『セイバー』の行動を安価指定できます 851. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) 2012/10/16(火) 23 47 19.23 ID qesyix4Wo セイバー:ご飯作る 852. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 47 50.94 ID oz9tdoie0 出前で食事 セイバーにリクエストがあれば聞いて 853. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/16(火) 23 49 14.96 ID uZB2ALhYo セイバーにリクエストを聞いてルームサービスを頼む 854. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 54 15.43 ID ilK9qszfo 853 選択: 気付けば、日も暮れている 貴方はルームサービスを頼むことにする といっても、自分は食欲はそこまでない スープなどがあればいいが… 貴方はメニューを開ける ビジネスホテルのルームサービスだ 期待するようなものではない だが、貴方の懐的には多少はありがたいだろう 直後コンマ:『セイバー』判定 偶数で「私は牛ステーキセットを」 奇数で「マスターからの魔力供給は問題ありません」 855. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2012/10/16(火) 23 54 30.21 ID g7uGWhCjo つ 856. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/10/16(火) 23 58 09.21 ID OjPl8Mn80 リリィちゃんマジ最優だな 気は効くしマスター助けるし 食費も掛からない 857. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 00 04 17.97 ID k2vY55pdo 855 選択:奇数 貴方は『セイバー』にメニューを渡す ずっと看病をしてくれたのだ。小腹も空くだろう だが『セイバー』は柔らかく首を振る セイバー「マスターからの魔力供給は問題ありません」 霊体化出来ないからといっても『セイバー』はサーヴァントだ 魔力供給さえ保てれば、自身の竜炉で魔力を無尽蔵に回復できる 貴方としても、これほど運用に適したサーヴァントには助かるばかりだ そうして、運ばれたルームサービス 貴方は食事をする ―――少し困ったことがあるとすれば セイバー「好き嫌いはいけません!」 セイバー「食べ残しはいけません!」 セイバー「そんな小食では治る怪我も治りません!」 少し、甲斐甲斐しすぎるところだろうか ―――ブロッコリーは好きじゃないんだが… 貴方の夜の行動 自由安価 ↓3 ※貴方の行動が制限されます ※『セイバー』の行動を安価指定できます 858. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/17(水) 00 06 04.89 ID /bzJTIqb0 昔話を聞く 859. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/17(水) 00 06 50.18 ID Y8x5h7eyo 襲撃を警戒しつつセイバーと話す 860. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 00 07 39.30 ID GnuY2Cu30 互いに身の上話 862. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 00 21 24.52 ID k2vY55pdo 直後コンマ:身の上話判定 偶数で貴方の身の上話が主体 奇数で『セイバー』の身の上話が主体 863. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 00 21 39.49 ID gOd5F8TKo ほい 865. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 00 28 44.27 ID k2vY55pdo 860 選択: 貴方は夕食を済ませる頃には完全に日も暮れてた しかし、寝るにはまだ、早い 貴方と『セイバー』は、無言で時を過ごしていた だが、そんな無言の状態は貴方の一言で終わる 「『セイバー』にとって、『ランスロット』とはどんな人物でしたか?」 貴方の持つ伝承を聞いた後、気を落としていたように見える『セイバー』 貴方は、少し気になっていた 裏切りの騎士 『ランスロット』を一言で表せばこれに尽きる 円卓最強の騎士にして、アーサー王の唯一無二の友であり同胞 そんな男に裏切られた やはり、何世紀経った今でも、その怨恨は拭られないものであろう ―――だが『セイバー』の口から聞いたランスロットという人物は、貴方の知らない男であった 続く 本日はここで終了します お疲れ様でした。 ※『セイバー・リリィ』&『ランスロット』開放によりIFフラグが立ちました ※貴方の身の上は夢イベントにでもしようと思いましたが、安価選択すれば確定します 888. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 28 55.63 ID k2vY55pdo それは物語に綴られた話とは差異があった 召使だった少年が『選定の剣』を抜いた時、その物語は始まった 一〇の歳月をして不屈 一二の会戦を経て尚不敗 その勲は無双にして その誉は刻を越え不朽 そう…アーサー王物語 ただ、一つだけ史実と…物語とは違うこと それは、召使は少年では無く少女だったことと キング・アーサーではなく、 クイーン・アーサーであったことだ ―――私は、自分の身を偽ることなく王として駆け抜けました 貴方は、その言葉に少し驚きを感じた 事実は小説より奇なりというが あまりにも、奇天烈ではなかろうか 周りの人間は反対しなかったのですか―――? 貴方の質問に彼女は答えた ―――あの時代は、王を求めていました ―――故に、王の資格を満たした者であれば、誰でも良かったのでしょう どこか、苦笑交じりの声 ―――ですが、私がいつまでも少女のままだった所為か…臣下達は割と過保護でしたね 特に、サー・ガウェインとサー・ランスロットは凄かったらしい その他にもサー・ケイ、サー・ベディヴィエールの話も、物語でも味わえないような不思議なのに真実だと感じてしまう 貴方はその感覚を楽しんでいた ―――ランスロットの事ですが… 何故か、『セイバー』は貴方の顔を一瞬だけ見て伏せ目がちになった ―――彼は、何も悪くないのです。彼に落ち度はありませんでした。 それから、始まったのはランスロットとギネヴィアの物語 王の為に女の喜びを捨てたギネヴィア王妃を、誰よりも親身に接してくれたのがランスロットだ ギネヴィア王妃との逢引でさえ、『セイバー』にとってはその気持ちを肯定したかった 『王』としてではなく、『女王』として生きて来たからこそ――― セイバー「私は、ランスロットを裁いてしまった」 セイバー「そして、私は彼に罪を負わせてしまった」 セイバ-「ギネヴィアと共に去れと…ギネヴィアと幸せを得るまでは…この地を踏むことは許さんと」 それは、どの物語とも違う顛末 『女』王であったが故に感じた怒り ランスロットとギネヴィアを真に想っていたからこその裁き…そして彼に負わせた罪 ―――それからは史実の通りです その後円卓は分裂し、キャメロンにて息子であるモルドレッドの反乱を起こし、そしてブリテンの落日 セイバ-「きっと、貴方にしてみれば私は先祖の敵でしょう」 セイバー「今更、このような事を申すのは筋が違うと思いますが」 セイバー「どうか、彼を…貴方の先祖を誇ってほしい」 ―――彼は、誉ある円卓最高の騎士であり、私の親友でした 貴方の会話選択 1.彼も貴方を誇りに思っていた 2.彼は自分を悔やんでいた 3.自由安価 ↓4 889. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 29 29.82 ID GnuY2Cu30 880 このスレではいつものこと 890. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/10/17(水) 20 31 02.42 ID fX7e2nzwo 2 891. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 32 30.69 ID gOd5F8TKo 1 892. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 32 34.62 ID VgyBqAHDO 1 894. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 47 32.25 ID k2vY55pdo 892 選択:1 結果:フラグ解放条件1達成 ―――きっと、彼は私を恨んでいたでしょう そういって、自嘲する『セイバー』 貴方はその『セイバー』の憂いを帯びた表情を見たとき、どうしてだろうか… 胸が…焼けるように熱かった そして、とても…申し訳ないとそう想ってしまった だから、その焼ける思いを口にしてしまった ―――彼女のその想いはその後悔は違うんだと言えないとしても… 「それは…違います」 貴方から発せられたのは否定の言葉 それは貴方の口から『セイバー』に向けられた言葉 彼は、最後まで『セイバー』を…アーサー王を案じていた 例え、円卓が分裂しても、例え誰もが自分を肯定しても否定しても 顧みず、彼は王の元へと戻りたかっただろう 裁いてくれたのが貴女だったから 罪を与えたのが貴女だったから そして…贖罪を求めることが出来たのだから だから、彼は恨んでなどいない そして、彼も貴女のことを――― 「彼も、貴女を誇りに思っていました」 それは、根拠はないが、確信だと感じている セイバー「え…?」 「彼は貴女を誇りに思っています」 ―――だから、どうか…自分を責めないでください 貴方はそう言って目を閉じた 口下手な自分にとっては少し話し疲れたのもあるが 彼女の頬に伝わる涙を見ることはいけないと…勝手に思ったから それに…貴方は彼女に【真実】を告げることが出来なかった 彼は贖罪を求めたが結局見つけることは出来なかった そう…それは運命の歯車が狂ったのか、それともそれは避けようがない運命だった為か 彼が自分を許せなかった理由を… 彼の心が、ギネヴィアの心が追い込まれてしまった本当の理由を… ―――自分と言う存在が知っている ―――自分と言う存在がそれそのものが償えない【罪】なのだ 『セイバー』【友好】取得 二日目:終了 895. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 51 03.72 ID k2vY55pdo 1日目の情報が更新されました 貴方はその血に宿すものは異質にして異端故に魔法使いの家系に生まれ(家系判定 0) その才覚は魔法使いに及ばぬものの、神童と謳われた(才能判定 8) 才覚故か、特性の偏りは持たなかった(特性判定 失敗) 保有スキル: プライマリ:【伝承保菌者】 『宝具』を付与 家系値によって扱えるランクが異なる セカンダリ:【竜の因子】魔力不足による-補正を受けない。 竜に所縁のある英霊をサーヴァントにした場合、戦闘直前に判定 成功で補正:+1 【伝承保菌者】専用スキル:『騎士は徒手にて死せず』 戦闘補正:+1 手にする武器によって補正値変動 エクストラスキル:【破綻者】 破綻者専用スキル:【人の心が解らない】 感情による補正を全て無効 【友好】以上を取得出来ない(例外有り) 貴女の性格:中立・虚無 貴方の現状:戦闘により重傷 徐々に回復中(ダメージ補正:-1) 貴方のサーヴァント 白き百合騎士【感情:友好】 クラス:『セイバー』 対魔力(A):魔術師スキルの補正無効 魔術攻撃による攻撃判定:7以下まで無効 直感(A):奇襲攻撃の補正を完全無効 宝具:風王結界 攻撃判定:成功(大)以上で補正:+1追加 :??? ??? 貴方視点の感情一覧 『セイバー』:無関心 NPCマスター一覧 『アーチャー』:黄金の甲冑を身に纏った男 マスター:??? 『ライダー』 高潔で弱者をいたわる武人 マスター 葛木宗一郎 『バーサーカー』 巨人と見紛うほどの巨躯を持った、巌(いわお)のような男性 マスター ??? 『キャスター』 妖艶な半獣の女性 マスター:??? 『アサシン』 中華の武術家の服装の男性 マスター ??? 『???』 マスター:トワイス・H・ピースマン 脱落: 896. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 54 46.07 ID k2vY55pdo 各陣営行動判定 直後コンマ:『アーチャー』陣営 成功で活動開始 慢心:-3 ↓2『バーサーカー』陣営 活動判定 成功で活動開始 失敗でマスター生存判定 ↓3『アサシン』陣営 活動判定 成功で活動開始 897. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 55 05.48 ID gOd5F8TKo ほい 898. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 55 19.97 ID GnuY2Cu30 そい 899. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 55 48.37 ID gOd5F8TKo ほい 901. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 58 53.74 ID k2vY55pdo 897 判定:5 結果:活動開始 898 判定:7 結果:活動開始 899 判定:7 結果:活動開始 皆、アグレッシブやでぇ…! 直後コンマ:『キャスター』陣営 活動判定 成功で陣地作成完了 クリティカルで敵陣営行動捕捉 902. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 59 13.32 ID gOd5F8TKo ほい 904. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 21 00 52.70 ID k2vY55pdo 902 判定:2 結果:イチャイチャなう☆ 直後コンマ:敵マスター感情判定 成功で友好 失敗で嫌悪 クリティカルで… 1で… 905. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 21 01 07.72 ID yUSzs+20o あ 906. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 21 05 24.44 ID k2vY55pdo 905 判定:2 結果:嫌悪取得 2日目は如何でしたでしょうか? 1日中、コミュニケーションしても友好までしか上がらない貴方まじシャイな子 きっととても緊張しているのでしょうね 活動判定に『ライダー』が無かったのは初日で遭遇しているので活動済みになっています 3日目:いくかい? キャラメイク/一日目/二日目/三日目/四日目/五日目/六日目/七日目/八日目
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3649.html
プレダトリー・カウアード 日常編 03 「――――何?」 吸血鬼は、この家へ来て、初めて目を見張った。 一人の少年、彼の獲物になるはずだった少年の身体を、一本の巨大な腕が、貫いている。 ……一体、いつの間に。 つい一秒前まで、そこには何もなかった。 何の予備動作もなく、現れた腕。 吸血鬼にはそれが、まるで瞬間移動でもしてきたかのように、見えていた。 「馬鹿な。誰だね、私の今日の夕飯を横取りしたのは」 腕からの返答はない。 それどころか、ずるずると、少年から腕が抜けていく。 少年の後方、吸血鬼から死角となった空間へ腕が抜け切ると、少年の腹部から、夥しい量の血が流れ出した。 血が、あたり一面を赤で染め上げる。 雑誌も、霊装も、教科書も、床に散らばったものは全て等しく、赤に、緋に、色を奪われる。 支えが消えると、少年はそのまま重量に引かれ、崩れ落ちる。 少年の背後へと抜け落ちたはずの腕は、どこかへ消えていた。 ここへ来てから、ずっと吸血鬼の顔に張り付いていた笑みが、消える。 「ああ、ああ…………なんと、もったいない」 吸血鬼は総じて誇りが高い。 その中でも特に、この吸血鬼は、自尊心で己を固めていた。 いざと言うときは輸血パックで、なんて真似は決して行わないし、一度でも外気に触れたら、その血すらも飲む気が失せる。 地面に這いつくばってまで血を吸うような存在に成り下がるつもりなど、彼には一ミリたりとも、なかった。 少年の前に、吸血鬼が片膝を立てて座る。 せめて、少年の体に残った僅かな血だけでも、絞り取って「あげよう」 傲慢にもそう思い、吸血鬼は少年の身体へと、手を伸ばして―― 「――――っ!?」 ――しかし弾かれたように、その手を引き戻した。 驚愕に顔が染まる。 別に、何かが起こったというわけではない。 少年が突然動き出したわけでも、先ほどの巨大な腕が再び現れたわけでもない。 ただ、彼の本能が、その行為、少年に触れる行為を、咄嗟に止めさせたのだ。 ――――決して、触れてはならない。 困惑とも、錯乱とも取れる奇妙な感覚が、吸血鬼の身体を支配する。 「何だ……何だというのは、これは」 わけの分からない巨大な腕、わけの分からない少年への恐怖。 そう……恐怖だ。 生まれて初めて、吸血鬼はその感情と出会った。 恐怖とは己を超越する「何か」に出くわした時、初めて芽生えるもの。 これまで、如何なる都市伝説相手にも、そのような感情に捕らわれたことなどなかったのにも関わらず、彼は少年を、何の力も持たなかったはずの少年を、恐れた。 ――――本当に、わけが分からない。 この少年に、一体何があるというのだろう。 失策を重ね、吸血鬼の前にただ怯える事しかできなかった、こんな少年に、一体何が。 「…………いや、いや、全く。何だろうね」 不愉快だった。 こんな少年に恐怖を感じる、己が。 そしてそんな状況を作り出したあの腕が、この少年が、不愉快だった。 不愉快で、そして、怖かった。 ……逃げたい。一刻も早く、この場から、この少年の傍から、離れたい。 しかし、吸血鬼は誇りと自尊心に満ちていた。 そんな行動は、彼と彼のこれまでの人生が、許さない。 「ふむ、ふむ。ならば答えは一つしかあるまいに」 引けないならば、向かうしかない。 元凶を、この少年を「きっちりと」殺せば、きっとこんな薄気味悪い感情からは解放されるだろう。 一歩引いた足を、再び少年に近づける。 こんな瀕死の、ひょっとしたら死んでいるかもしれない少年など、誰にだって殺せるに違いない。 一動でその命を刈り取る事など、容易いはずだ。 ――――では、この身体の震えは、何なのだろうか。 手が、震える。 それでも強引に、力でそれを押さえつけた。 肩を上げる。指先を整え、貫手の構えを作る。 狙うは喉。平時ですら死へと追い込む一撃を以って、少年を沈めよう。 ゆっくりと息を吐いて、吸う。 冷静に、冷徹に。 今まで何度も行ってきた事だ。今更何を怯える必要がある? 吸血鬼には、プライドがある。 そう――――そうなのだ。 決して後退の余地など、残されては、いないのだ。 「――――シッ」 小さく息を吐いて、腕を撃ち抜く。 吸血鬼の腕力で放たれた掌は、一本の黒い線と化して少年へと向かう。 重症の少年に、その一撃を止められるはずなど、ない、 止められるはずなど――――ない、のに 「…………何故だ」 ――――その手は、少年の差し出した手の平に、包まれるようにして、握り込まれていた。 動かないはずの少年。動かないはずの手。 それが、吸血鬼を止める。それが、吸血鬼を恐れさせる。 「何だと、言うのだ」 力を入れる。しかし手は動かない。 少年が何かした雰囲気はない。 ただ、握るだけ。 それだけで、吸血鬼の腕は、その用を成していなかった。 「一体、何だと――――」 「そう急くな、若僧」 ――――声。音源は下。少年の口。 顔が引きつるのが、分かる。 違う。この声は違う。 こんな重低音ではなかった。こんな聞くだけで身体が震えるような声では、なかった。 あの少年の声では……なかった。 ……呼吸を、整える。冷静に、出来るだけ冷静に、相手へと語りかける。 「……君かね、私の『食事』を邪魔したのは」 「いかにも」 「……君かね、今私を、止めているのは」 「いかにも」 「……君かね、私をここまで――――怯えさせるのは」 「いかにも、そうだ」 「そう、か――――」 一呼吸、間を置いた。 心を、身体を、落ち着かせるために。 「――――君は、何だ?」 「我か? いや、残念だ。その問には答えられそうにない」 くつくつと、少年の身体をした「何か」が、笑う。 ――答え、られない? どういう、ことだ。 それ程高名な都市伝説で、弱点すらもその名と同時に知れ渡っているような都市伝説であると、そういう事だろうか。 それなら、いい。相手はただの都市伝説だ。どんなに強大であれ、それは変わらない。 しかし……しかしもし、そうでなかったのなら―――― 「我に名はない。人に語るべき名など、何も、持たない」 ――――「コレ」は一体、何だと、言うのだろうか。 焦燥。困惑。恐慌。震撼。狼狽。 そのどれともつかない感情が、頭の中で渦巻く。 捕まれた手を、振り払った。 一歩、二歩。よろめきながら後ずさる。 目をドアへ、窓へと走らせる。 この部屋の出口は、その、二つだけ。 「――――退却は、恥だろう? 吸血鬼よ」 声と同時に、閉じる。 窓が、ドアが、この部屋に残されていた退路が、閉ざされる。 それだけではない。 閉じたそれらを、そしてこの部屋の四面上下全ての壁を覆うように、淡く青い光が、この部屋を囲んだ。 ――――本能で、悟る。 この部屋からの退避など、不可能。 ここから立ち去りたければ、生きて帰りたいのなら―――― 「我が主の初舞台だ。興のないことなどしてはくれるな」 ――――目の前に横たわる「コレ」を倒さねば、殺さねば、ならない。 ***************************************** 「我が『主』……?」 「貴様の前にいるだろう。我の声がするだろう。『ソレ』だ。『ソレ』がこそ我が主」 「何を、たわけた事を」 既に死に体の少年が、主? 笑おうとした。笑おうとして――――気づいた。 少年の身体。傷つき、血を流していた少年の腹部が……治りかけて、いる。 赤く、丸く開いていた「穴」は消え、 その内臓が、その皮膚が、再生して、いた。 吸血鬼は、知っている。これが一体、何を示すのか。 「『契約』かね? 己で害した人間を、己が契約して助けると、そういうことかね」 『契約』。人と都市伝説の間に絆を作り、それを媒介にして双方に力をもたらす行為。 人からは都市伝説に見合った「器」を、都市伝説からは器に見合った「力」を、それぞれ提供する。 そうする事で人は人外の力を手に入れ、都市伝説はその名を知られぬ土地での活動を許される。 吸血鬼は、知っている。 知っているからこそ、安堵する。 未知が既知へ。闇に光が照らされる事で、吸血鬼の怯えは、恐れは、消えていき―――― 「『契約』? 我が、主に対して力を貸し与える? 馬鹿な。何故、そんな非効率な事をしなければならない?」 されど安堵は、裏切られる。 笑っていた。強者が、弱者を、無知を、笑っていた。 「貴様ら吸血鬼とて、我と同じ事をするだろうに。何故、気づかない? 何故、分からない?」 ――――同じ事? 吸血鬼は、知らない。そんな方法など、知らない。 しかし「コレ」は言う。知っているはずだと、知らないはずなどない、と。 では……では――――? 「――――まさか」 ある。確かに、あった。 契約以外、それ以外で、人間に力を与える方法が、あった。 「そう、そうだ。分かっただろう?」 吸血鬼は、人間の血を吸って生きる。 そして、伝説の中には、ある。確かに、ある。 「今の主は、我と同じ――――」 その人間が、血を吸われた、人間が―――― 「――――『都市伝説』だ」 ――――その者と同じ、吸血鬼に、都市伝説になることが、ある。 ***************************************** 「う…………ん…………」 目を、開ける。 真っ先に目に入ったのは、青く発光する天井だった。 あれ……? 僕の部屋の天井って、青かったっけ……? というか、こんなに派手に光ってたっけ……? 頭がぼんやりとしている。 手を頭に当てながら、身体を起こす。 青く輝く、僕の部屋。 次に僕が見たのは、部屋の壁際、クローゼットの前で、呆然と立っている…… 「うわっ!?」 そうだ。そうだった。 明滅を繰り返していた思考がクリアになり、記憶が蘇る。 家に帰ってきた時のこと、居間で吸血鬼と、二つの骸があったこと。 僕は逃げて、でも追い詰められて、妙な「声」がして それで――それで…………? 僕は、死んだ――――? 慌てて僕は腕の生えていた、何者かによって刳り貫かれたはずの腹を見る。 服が綺麗に、丸く破けていた。 血で下半身が、赤く濡れていた。 ……けれど、それだけだった。 大きな腕も、飛散った内臓も、グロテスクな穴も、ない。 ――僕は、生きていた。 どういう、事だろう。 夢? そんなはずはない。 破れた服も、血もある。ないのは傷だけだ。 じゃあ、これは……? ≪目が覚めたか≫ 頭に、声が響く。 さっきと同じ、声。 僕を殺した、声。 ≪体調はいかがかな。不快な所、吐きそうな気配、どこかしらの痛み。あるならすぐに、どうにかした方がいい――――≫ 疑問が、あった。 この声は一体、何なのか。 何故、僕を殺したのか。 何故、僕は今、生きているのか。 たくさん、たくさん、聞きたいことが、あった。 ――けれど ≪――――あちらは既に、動き始めているからな≫ 拳で身体を思い切りぶん殴られて、質問の一つも、口から出す事は許されなかった。 治ったばかりの腹に拳がめり込む。海老反りのように身体が湾曲する。 吹き飛ばされた先は青く輝く壁。見事に背から突っ込んだ。 身体に激痛が走る。 痛い。一歩間違えればまた死んでいたかもしれない。 「いや、いや、驚いた。てっきりまた受け止められるものだと思っていたのだが」 手についた血を拭い、青い光を携えて、吸血鬼が首を傾げる。 「さて、さて。先ほどのはまぐれだと、そういうことかね」 ――――先ほど、といわれても。 僕にはあんな攻撃を止めた記憶なんてない。 口に競り上がってきたすっぱい物を強引に飲み下して、僕は吸血鬼と対峙した。 僕が死ぬ前にはなかった青い「何か」が、吸血鬼の身体から立ち昇っている。 部屋の壁を覆う光と、同じ色だ。 ではやはり、それもこの吸血鬼が行った事なのだろうか。 「ああ、ああ。手加減ならしなくていいよ。先の一連では驚いてしまったが、もう割り切った」 歩く吸血鬼の足元で、ぺきぺきと、潰された雑誌の付録たちが悲鳴を上げる。 「君を殺せばいい。それで丸く収まるんだ」 丸く収まる。その意味が分からない。 吸血鬼の様子を見る限り、僕が「死んで」いる間に何かあったらしいのだが。 「せいぜいあがいて、死んでくれ」 その「何か」を声の主に聞こうにも、吸血鬼がその時間を与えてはくれない。 速かった。 これまでの穏やかな、のんびりとした動作が嘘であるかのように、吸血鬼は速かった。 僕の目は、一つとして吸血鬼の行動を見切れない。 タコ殴りだ。 殴られ、蹴られ、また殴られて 血塗れになりながらも、僕はしかし――――倒れなかった。 ――――おかしい。 身体が、熱い。 殴られた箇所、蹴られた箇所は幾百。しかしなぜか、殴られた次の瞬間には身体が既に元の綺麗な状態へと戻っていた。 出血も、痣も、骨折も、その全てが負った傍から癒えていく。 殴られるのは痛い。蹴られるのも、突かれるのも、痛い。 けれど、痛みさえ我慢すれば、それさえ我慢すれば、僕の身体が倒れる事は、ない。 「……ふむ、ふむ。なるほど、回復系だと、そういうことだね?」 幾ら殴った所で無駄だと悟ったのか、吸血鬼がその攻の手を緩めた。青の揺らぎも同時に、止まる。 「死んだ」後に見た、狼狽の色はもうない。 全き平静さで、あいつは僕を、細めた目で見ていた。 「いや、いや、死にかけた、或いは本当に死んだ状態から蘇生したのだ。これくらいは想像していたさ」 吸血鬼から発せられる青い輝きが揺らぐ。それから少し遅れて、吸血鬼が再度行動を開始した。 黒い影としか捉えられない吸血鬼の一撃は、腕を突き出した僕の抵抗空しく、最初同様に僕の腹を歪める。 リピートのように僕は飛び、壁に激突し、そして起き上がった。 その様子を見て、どこか満足そうに吸血鬼が頷く。 「なるほど。なるほど。そうか、よく分かった。君に物理的な打撃は効かないらしい」 口から垂れてきた血、僕はを拭う。 今ので内臓のどこかが破裂し、そしてまた再生したのだろう。 想像すれば気味の悪い光景だが、それが今は僕を救ってくれている。 「しかし、君の側にもまた、私に対する有効打がないらしいね?」 その通りだ。 今の戦いの最中無茶苦茶に振り回した腕は、相手に当たるどころか掠りすらしなかった。 「ふむ、ふむ…………」 一歩。跳躍して、吸血鬼が僕の眼前に迫る。 じっと僕の顔を、舐めるように見る。 「いや、いや、それならば――――」 そしてその視線は、僕の首筋で、止まった。 「――――君を、永遠に私に血を与え続ける『餌』にすればいいと、そうは思わないかね?」 「なっ…………」 避けようとするが、もう遅い。 既に動き始めていた吸血鬼の刃、その犬歯は、抵抗する暇すら与えず、僕の首へと飲み込まれた。 ぞわり、と奇怪な感覚が背筋を走る。 ――血を、吸われている。 吸血鬼の喉が動いた。 一度、二度、三度。 そして―――― 「ぬ、ぐ、くはっ…………」 ――――苦しそうな、声。 上げたのはしかし、僕ではなかった。 「…………なんだ、コレは」 吸血鬼が、僕を突き飛ばす。 首筋から歯が抜け、鮮血が舞う。 僕自身も一瞬浮遊感を覚え、しかしそれでも、今度は壁に追突するような事はなかった。 明らかに、吸血鬼の力が弱い。 一体何が起きたのかと、首筋に手をあて、僕は吸血鬼へと視線を向けた。 「……不味い。ああ、ああ、なんという不味さだ。君は本当に人間かね?」 …………ちょっと、へこんだ。 そう、そうなのか。僕の血は不味いのか。 意識した事はなかったが、やはり冷血な人間ほど血が不味くなったりするのだろうか。 ≪――――我が主の血肉を啜るか。愚かな≫ ……そして、その時になって、ようやく――――本当に、ようやく、あの「声」が戻ってきた。 戦闘とも言えない一方的な虐激の最中、ずっと沈黙を守っていた「声」 この、身体。 不気味な程に丈夫なこの身体を作っただろう当人に対して聞きたいことが、聞かなければならない事が、幾つもあった。 ≪さて、如何にするや? 主よ、そろそろ『掴めて』は、来たのだろうな≫ しかし、「声」は疑問を許さない。 一方的な会話だ。 「声」の主は、僕にただ答える事だけを要求してくる。 ≪見えたはずだ。感じたはずだ。何度奴の拳を受けた? 何度奴へと接触した? 分かっただろう? 気づいただろう?≫ ――――僕にはまだ、分からない。 「声」の主の目的も、「死」のことも、この身体のことも。 ≪理解すべき事がある。理解する必要のないことがある。主よ、目的があるだろう。我ではなく、主に、目的があるだろう?≫ ――――そう、それは、分かる。 「死んで」尚、僕の頭は、目的を、やらねばならない事を、その内へと留めていた。 ≪そうだ、それでいい。主よ、目的は何だ。我の事でも、彼奴の事でも、「死」でもない。主の目的は、何だ≫ ――――姉ちゃんを、救うこと。 ≪そう、それだ。では、主よ、その為に主は一体、何を為す?≫ ――――あいつを、吸血鬼を、殺す。殺さなければ、ならない。 ≪目的は定まった。主よ、分かるか。分かるだろう。『やるべき事』は何だ。『理解すべき事』は、何だ≫ それ、は―――― 「――――さて、さて。どうしたのかね? 呆ける余裕が、君にはあったのかね」 ――――前方で、青い光が、爆発的に膨れ上がった。 ≪主よ、分かっているだろう。分かっているはずだ。考えろ、主が見てきたものを、感じたものを、考えろ≫ 吸血鬼が、地を蹴る。 ≪やれるはずだ。出来るはずだ。既に主はそれを『経験』している≫ 三度、腹に鈍痛。 今度は脚だ。吸血鬼の右足が、僕の腹部に炸裂している。 ≪後は主よ、己で探れ。全て、何もかもが、揃っている≫ 脚と腹部とが反発する。脚に身体が押し込まれる。 ≪さあ――――≫ 身体が、浮いた。 ≪――――やって、みろ≫ しかし――――しかし、それだけだった。 身体は浮かされ、飛ばされかけ、それでもその先へは進まない。 「…………ふむ」 ――――僕の腕が、吸血鬼の脚を、腹へと入ったその脚を、上から抱え込んでいた。 衝撃はある。飛ばされる事で消費されるはずだった吸血鬼の力が全て、僕へとのしかかる。 しかし、耐えた。 痛みになら、慣れたのだ。 「は、は…………」 僕の口から、乾いた笑いが漏れる。 そうか、分かった。 すべき事が、理解すべき事が、分かった。 「分かった。そうか、『掴んだ』ぞ」 「ふむ、ふむ。それは良かった」 抱えた吸血鬼の脚に、体重が乗る。 それにつられ、前へと引っ張られた身体に、横から衝撃が襲った。 捕まった右足を支点にしての、左足の蹴り。 今度こそ、僕は宙を舞った。 「それで? 離してしまったようだがね」 床に落ち、何度も転がる僕へと、吸血鬼が声をかける。 黒いマントには傷一つない。対して僕の身体には傷こそないが、既に服はボロボロだ。 これが、僕とあいつとの、違い。 しかし「これまで」の違いだ。 「これから」の違いではない。 立ち上がった。 肩にかかった埃を、手で払い落とす。 「さて、さて? 一体何を、してくれるのだろうね」 吸血鬼が、黒い弾丸になる。 今までは全く見えなかった、速度。 ただの「黒の塊」としか認識できなかった、速度。 いや、それは今も変わらない。 あれはまだ「黒」にしか、到底僕には、見えない。 それでも――――それでも、だ。 ――――その「進路」だけなら、僕にも、見える。 脚に「力」を込め、横へと身体を飛ばす。 間一髪。「進路」を直線に進んだ吸血鬼の打撃から、その身が離れる。 「――――ふむ」 繰り出した拳。当たらなかった拳。 吸血鬼は不思議そうに、そして興味深そうに唸った。 「いや、いや。今のが偶然でない事を願うばかりだよ」 二度目の追撃。 「進路」はまだ見える。 わざわざ飛び退る必要もない。 今度は余裕を持って、僕は右へ、追撃の届かない範囲外へと、逃げる。 「――――ふむ、ふむ」 当たらない。 これまで必中を誇っていた拳が、脚が、当たらない。 吸血鬼の表情が変わる。 今度こそ初めて、「僕」に対して吸血鬼は警戒を、見せた。 ――――青い輝きが、見える。 今までは吸血鬼の気かなにかだと思っていた「青」 しかし、違った。 見えていた「青」は、吸血鬼の闘気でも、なんでもない。 「力」の流れだ。 あいつが動くたび、「力」はそれに先立って動く。 そして、それだけでは――――ない。 地を蹴る。今度は僕が。 この「戦闘」で初めて、僕は攻勢に出た。 「愚かな」 奇しくも先ほどの「声」の主と同じ言葉を、吸血鬼が吐いた。 そう、確かに愚かかもしれない。 僕の拳はのろい。あいつからしてみれば、止まったようにすら見えるのだろう。 吸血鬼が、心もち首を傾ける。 それだけで、僕の拳の直線状から、吸血鬼の身体は消えていた。 けれど、それでいい。 僕の狙いは、あいつの身体ではない。 あいつの身体を覆うようにして、青く発光している―――― 「…………ぬっ!?」 ――――「掴んだ」。青い輝きを、青い力を、この手で。 吸血鬼には見えない青い「力」。 けれど「何か」されている事は分かったらしい。 「一体、何を…………っ!」 捻じ曲げる。 強引に、掴んだモノを、捻り上げる。 一体だった「力」に、皹が入る。 僕の掴んだ部分だけが、「青」から離れる。 「止めッ――――」 吸血鬼が、僕を脚で僕を跳ね飛ばす。 しかし、遅い。 既に僕の手中には、青い輝きが残されていた。 輝きは、僕の掌の中へと吸い込まれるようにして入って、消える。 「あ、く、何だ、君は、一体、何をした……?」 吸血鬼が、苦痛で身体を歪める。 一見すれば、身体に異常などない。 当たり前だ。僕が攻撃したのは「内」であって「外」ではない。 僕が強奪したのは「内」の力。詰まるところの「存在基盤」そのものだ。 ――――身体が、熱い。 分かった。何故僕の身体が死んでしまわないのかが。 僕には「力」が見える。恐らく、都市伝説にとっての根源的な、その有無で「存在」そのものが揺らいでしまうような「力」が、見える。 そして今の僕の身体は、その「力」で構成されている。 つまり、相手と同じ、都市伝説。 相手と違うのは、僕がその「力」を奪い、それを身体へ取り込めること。 相手が触れるたび、僕を拳で殴るたび、触れた箇所から、殴られた箇所から、相手の「力」を奪い去る。 傷ついた分だけ、害した分だけ、僕の身体は相手の「力」を奪い、そして僕の身体は相手の「力」によって再構成される。 分かった。分かってしまった。 僕は、再び吸血鬼へと向かって走る。 「くそ、くそ。そうか、吸収。ドレイン系の都市伝説か」 ≪ドレイン? 異な事を言うな、若僧≫ 走りながら、脳内で、そして今度は部屋にも、吸血鬼にも聞こえる声で、「声」の主が言った。 ≪我が主が行うのは、そんな愚劣なものではない≫ 先ほど取り込んだ「力」を使って、脚を強化する。 あいつにさえ匹敵するように、速さを、どこまでも速さを求めて、強化する。 ≪これは、慈悲も、慈愛も、仁慈もない、ただの――――≫ 景色が流れる。青が背後へと消える。 吸血鬼が回避の動作に入った。 しかし、遅い。今の僕を前に、あいつはあまりに、遅すぎた。 「力」を、吸血鬼の「存在基盤」を、掴む。 吸血鬼が、顔を恐怖で見開くのが、青い輝きの中に、見えた。 ≪――――『捕食』、だ≫ ***************************************** 「はっ……はっ……」 全てを終えた、部屋。 既に部屋を覆う青い輝きは消え、血の赤だけが蔓延する空間へと成り代わっていた。 その部屋の中央、今にも崩れて消えそうな吸血鬼を前に、僕は粗い息を繰り返していた。 ボロボロになった襟を握り、吸血鬼を引き寄せる。 「姉ちゃんは、どこだ…………」 吸血鬼は、答えない。 いや、答える気力が、最早残っていないのかもしれない。 「答えろ。姉ちゃんは、どこにいる…………?」 やり過ぎた。分かってる。 もう少し、死ぬ一歩手前で、止めるべきだった。 吸血鬼が、輝き始める。 先ほどまで部屋を覆っていたのと同じ、青い光。 吸血鬼の崩壊が、始まった。 「くそ…………」 掴んだ襟から流れ出た光が、僕の身体へと飲み込まれていく。 崩壊は止まらない。 襟が消え、僕の手から吸血鬼が離れる。 後方へと倒れこむ、吸血鬼の身体。 それが完全に地面へと着く前に―――― 「くそっ!」 ――――その身体は、消滅した。 立ち上がる。 あいつからは聞き出せなかった。しかし、姉ちゃんは階下にいるはずだ。 「声」の主に聞こうかとも思ったけれど、やめた。 戦いが終わり、部屋に満ちた青い光が消えてから、声の主は一言も発していない。 そしてなにより、自分で探すべきだとも、思った。 ――――身体が、熱かった。 歩くたび、身体が右へ左へとふらふら揺れる。 どうして、僕の身体はこんな事になっているのだろう。 極限まであいつの「力」を奪い去り、その全てを僕へと継ぎ足した、はずなのに。 ふらり、ふらり。 一瞬でも気を抜けば、床に顔面から落下しそうだった。 駄目だ、まだ倒れるな、僕。 姉ちゃんが生きてるかどうか、確認するって決めたじゃないか。 それまでは、何があっても、倒れ、ら、れ―――― 視界が反転する。おかしい。さっきまでドアへ向かって歩いていたはずなのに、どうして窓の方を向いているのだろう。 ≪……ふむ。駄作だったか≫ 声が、脳に響く。 なにを、言っているのか、よく聞き取れない。 くそ、どうしちゃったんだよ、僕の身体。 進めよ。やり残した事があるんだ。やらなきゃいけないことがあるんだ。 なのに、どうして、どうして僕の周囲が、暗く、なって…………? ≪主よ、しばし休め。後は我が担おうぞ≫ ――――僕の意識が、闇に飲まれる。 最後に聞いた声は、何を言っているか分からなかったけど それでも、少しだけ――――安心、した。 【Continued...】 前ページ次ページ連載 - プレダトリー・カウアード
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BRAVE SAGA『未来』 ◆0zvBiGoI0k ◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◇ 「……やはり質量と材質の差は覆らんか」 忌々しげな口調で荒耶は機体を見上げる。言葉の通りに衝撃を受けた装甲は、少なくとも見かけ上は損害はないようだ。 「それでも支障はない。肉(そと)は無事でも臓(なか)が耐えられぬのは人も機械も同じであろう」 だが、装甲は無事でも内部の精密機械、特に中にいる人間(グラハム)にとっては十分効果がある。 中の操者を仕留めた後にコクピットのコンソールのひとつでも砕けば、それでこれはただの動かぬ的に成り下がるだろう。 「…………………………………………」 視界の外で蠢く雑音に、意識を引き戻された。 蜘蛛の結界に囚われた枢木スザクを横目に見る。 動力を停止されて縛られなおその目には生存を諦めていない。 ルルーシュ・ランペルージが宿した隷属の魔眼ギアスにより受けた「生きろ」という命令。 尋常ならざる身体能力を誇るスザクとはいえ、ここにはそれをしのぐ猛者がひしめいている。 決して少なくない戦闘を経験して生き残っているのはその力によるところが大きいだろう。 他を潰し、倫理を捨てででも生にしがみつく。ある意味、それは荒耶の憎む人類の性。 だが、どう足掻こうが既に糸に絡まれた身。人の範疇でこれを破ることは叶わない。 ここでこの兵器を砕き、その次にスザクを落とせば前準備は成る。 荒耶が信長と相対する式を放置しスザク達へ近づいた目的は自ら口にしたように手に入れようとした機動兵器の破壊だ。 ただしそれはあくまで前段階、両儀確保のための露払いだ。 この機械人形を参加者の手に渡すのは危険過ぎる。主催に反攻を志す一勢の戦力になるというだけではなく、混乱を招来するものとして。 これらの性能は計り知らないが超巨大な人形―――ゴーレムとすれば対人においては無類無敵なのは揺るぎない。 ただ乱入されるだけでも計画に支障が生まれる可能性は十分以上にある。 そして可能性があるというだけでも、抑止力はそれを現実に引き出してくる。 式と信長との決着には短いながらも猶予はある。その間にこうして出向き一片の可能性を摘みに来た次第だ。 枢木スザクとグラハム・エーカー。人形に搭乗さえさせなければ二人同時でも負けようのない相手だ。 懸念といえたギアスによる超反応を持つスザクもこうして抑え込んだ。どれだけ潜在能力を引き出そうとあくまで人の身、 機先を制すれば遅れを取る道理もない。 補足を付けるのならば、今このとき式が敗れてもそれは好都合でもある。 荒耶に必要なのは「両儀式」の肉体。脳が潰れても数分程度ならば許容できる。その間に自らの首を挿げ替えれば根源へは通じる。 代償として荒耶は死ぬが目的が叶う以上問題などあろうはずもない。そもそも一度死んだ身なのだ。何を躊躇うことがあろうか。 危惧するのは魔王の発する瘴気で跡形もなく消滅することだが、式の持つ直死の魔眼の性質上そこに至る心配は低い。 真剣での唐竹割りで両断されることについては……それこそ天運に託す他あるまい。 世界を憎む男が最後に神頼みとは嗤える話だが、翻せば、そうならなければ抑止力が荒耶を阻めなかったひとつの証明もなる。 そういった意味で、荒耶にとってこの戦場は正念場といえた。 そう、荒耶はこの戦場に全てを賭けたのだ。 近辺に戦場に加わっていないほぼ隔離された空間。敵戦力とのバランス。地形。全ての条件がクリアされている。 参加者の残数から、これ以上の望むべく状況は恐らく来ない。 ならば、ここで全霊を尽くすのみ。 螺旋(セカイ)の果てを目指す魔術師は己が悲願へ一歩一歩近づいてることを感じながらも、高揚もなく次の手を動かす。 機動兵器さえ潰せれば良いが数を落とすに越したことはない。まずは機動兵器を先決し拳を開こうとした。 それを、緋色の意思が阻む。 すぐ傍で何かが動く振動がする。荒耶の目に映るのは墓標の如く沈黙していたモビルスーツの腕。 それはそのまま―――荒耶目掛けて振り下ろされた。 「――――――!」 反応はどうにか間に合い拳に潰される真似は避ける。だが人間を覆い隠して余りある巨人の腕だ。飛散するコンクリートも存分に凶器として機能する。 それを防ぐため、地に平行して展開されている結界を全面に出す。結界を貫くだけの硬度がない破片は砂に散っていく。 続けて、結界の位置を変えたため戒めを逃れただろう枢木スザクを見る。 運良く破片群に巻き込まれなかったのか、もしくは自力で回避せしめたのか、その肉体は未だ壮健だ。 「―――潮時か」 ひとつの決意を込め、荒耶は意識を傾ける。 そうして、音も前触れもなく魔術師は姿を消した。 ◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆ 「消えた……!?」 風景に溶けるように消えた魔術師を探すも姿は見つからない。 この場を不利と思い離脱したのだろうがまだ近くに潜んでいる危険はある。 すると背後から機械の駆動音が鳴る。振り返るスザクの前には、ナイトメアをも超える機械の騎士。 「グラハムさん、無事ですか!?」 「ああ問題ない。Gには慣れているからな……」 スピーカー越しにグラハムの声が聞こえる。コクピットの中にいるため姿は見えないがどうやら無事であるようだ。 「……君も機体に乗りたまえ。生身よりはそこの方が安全だ。私の機体なら抱えて運ぶこともできるだろう」 「はい、わかりま―――」 グラハムに促され自分も残った機体へ近づこうとしたその時、異変は起こった。 地震。それもかなり大きい。 コンクリートの大地に亀裂が走る。 まるでこの区画が大きな力で握りつぶされるように、軋みを上げていく。 「これは、何が――――――」 「―――急げ、スザク!!」 世界が、崩壊を始めた。 ◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◇ 眼に映るのは、彼方の光景。 空より自分へ堕ちていく瀑布の周囲、この戦場に充満するおぞましい声。 死ね。死ぬ。殺す。殺せ。 音として耳に入るものでなく、脳内へ直接這いずり回っていく。 暗く昏いその死を、かつて知っている。 生きる誰もが還る場所。死者しか到達しない世界。生者では観測できない根源。 光も音も、闇さえもない海の中。底はなく、果てもない「」の風景。 けれど、其処と違って是には見えるものがある。 何時かの何処か。誰かの何か。 人も街もガレキのカラクタ。空さえ焼け焦げた世界。 原因はきっと、天(ソコ)に浮かぶ黒い太陽。 夜なのに太陽があることも、太陽が黒いのも疑問には思わない。 所詮幻視だ。幻想にすら劣る妄想に理屈も意味もないだろう。 脳があてられたのか、それともこの声(のろい)が行き着く場所なのか。 分かるのは、「死」が起きるとしたらこんな風になるのだろうということと。 あんな場所に逝くのは絶対に御免だということくらい。 それは普通のことだ。生きてるものなら誰だって死が恐い。 死が視えようが視えまいが、死を望まないなんてのは当たり前のことだ。 当たり前なら考えることなんてないはずなのに私は考える。 死にたくないと生きたいは違う。 死ねない、死にたくないとは思っても、私は生きていたいとは思えない。 夢は、人が生きていく根源になるという。 どんなに小さいものでも、ユメのためなら人は強く生きていけるという。 私の中にも夢があった。なんでもない、普通の日常を暮らす夢。 それは式の陰の人格、殺人鬼という縛りを持つ両儀識がいる以上、決して叶わない夢だ。 誰かを傷つけ、否定して、殺すことでしか識は存在できなかった。それが彼の生み出された理由だからだ。 けど、識も夢を見ていた。私と同じ、けれど彼にはどうしても望めない幸せなユメを。 やがて夢が黒桐幹也という現実になって表れた時、識は自ら消えることを望んだ。 否定しかできない彼(シキ)が、好きな彼(ユメ)を殺してしまうことのないように。 シキに幸せになって欲しくて。なにより自分のユメを守りたくて。 そのユメもここで失くしてしまった。 殺し合いという狂ったセカイで、彼は命を落とした。 おそらくは、傍にいた誰かを捨てきれなくて当たり前のように前に立ち、当たり前のように死んでいったのだろう。 絶対に口にしたりはしないけれど、 そんな彼を、シキはずっと好きだったんだから。 けれど、ユメは私を置いて去ってしまった。 ユメを奪われた人はどうすればいいのか。殺した奴を殺し返すのか。 確かに、彼を殺した奴が眼の前にいれば、私はそいつを許せないだろう。 それで色々なものを無くしてしまうとしても、手に持つ刀に躊躇いは生まれない。 それが終われば、それで終わりだ。 あいつがいなければ―――私は生きてさえいられない。 だというのに、私は生きている。 死ねないと思うのは本当だ。このまま死ぬのは嫌だった。 何も得られず、何も変われず、何もなく死ぬということが許せなかった。 しかも、ここで会った人はみんな奇妙だ。 殺人鬼の私に構って、助けて、友と言って、「許さない」と言って。 幹也でもないのに、その言葉は私を縛り付ける。 胸の穴は消えないけれど、 穿たれた私が壊れないように周りを補強してくれる。 頼んでもないし、勝手とも思う。 ただ―――求めてないとは、断言し切れない。 ユメをみることは苦しいけれど。 ユメをみない、というコトの方はどれほど感情のない事なのか。 今の私は識の見るユメだ。シキが幸せに暮らしている未来。 同じシキである私もそのユメを壊したくなかった。 2度と叶わないユメを、彼はずっと夢見ている。 私が生きているのなら、彼の夢はまだ死んでないといえるのだろうか。 問いかけても答えは返らない。 けれど、それは確かめる価値のあることだ。 だから、今は生きていよう。 罪を省みて、夢を見直す時間は、きっと残されているから。 頭上の死を見つめる。 空を覆い隠す泥のその先にいる武者を透視する。 織田信長。 奴は殺人鬼じゃない。そして荒耶とも、近似しながら大極だ。 あれは人が死ぬ意味を愉しんでいる。死体の山を築き上げその頂きに足を乗せることを是としてる。 荒耶は人間への憎悪で動いてるが、こいつは人間へ純然たる殺意を抱いてる。 表現するとしたら、やはり魔王という言葉が一番しっくりくる。 “けど―――私の死は、お前なんかじゃない” 脳が蕩けるような熱を感じる。漏れ出た熱は両眼から溢れてくる。 それだけで、鮮やかにおぞましく視えていく。 汚濁した空に伸びる線、悪意すら殺す死を、初めて式は綺麗に思えた。 ◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆ 唐突に、泥塊が弾け飛んだ。 地面が押し潰されることもなく、まるではじめからなかったかのように消滅する。 その様を、上空から睥睨する信長が瞠目する。 渾身ではなくても致命を確信して放った瘴気の大波。それが跡形もなく吹き飛ばされたのだ。 景色が晴れた先には、相対している和服の少女。 蒼い両眼からは、涙のように血が流れている。 両儀式が、死に誘う魔眼を以て、凄絶に魔王を見上げていた。 数秒経って、地上に降り立つ。それと同時に、死神が駆ける。瞬く間に縮む互いの間合い。 馬(あし)は着地の衝撃で動き出せない。先手は式が握った。 「うつけがぁっ!!」 ただしそれが信長に攻め手を失わせることにはならない。纏う瘴気を地に這わせ、影のように地を走る。 染められた大地から飛び出す剣山。信長の前方を針の山が覆い尽くす。 だが式は足を止めることをせず、むしろより勢いを込めて針山地獄へ飛び込んでいく。 自殺志望では断じてない。ただそれが自分の命を脅かすでも、障害にもならなかったからだ。 刀を地に突き立て、払う。それだけで事は済んだのだから。 事もなげに消し飛ばされる剣の山。それどころか背中まで覆っていた瘴気すらもが霧散していく。 一度理解出来た以上、死の想念を宿す瘴気は式にとってむしろ見やすい部類ですらある。 遠距離の反撃を封じ馬も膠着状態。距離を詰め切れない要因を全てクリアし遂に式の斬撃の間合いに入る。 それでもなお、慮外の反撃を受けても信長は的確だった。 信長の瘴気による攻撃を悉く消し去る小僧―――上条当麻との戦いを経験してるからこそ反応できたことだ。 馬上目掛けて飛びこむ式。それを止める信長の腕の方が速い。 瘴気によるアドバンテージなど、彼にとって強さの一要素に過ぎない。剣のみによる斬り合いでも、魔王の力量を知らしめるには十分以上だ。 だから防御が間に合わなかったとすれば、それは別の要員によるものでしかない。 「ぬおおっっ!!」 突然起こる異変。視界が揺れ、手元が狂う。 跨る軍馬が全身を震え喚き散らしたことだと信長は即座にわかった。 この期に及んで疎意を起こした?あり得ない。畜生如きにそのような気概も知恵もあるはずがない。 そしてその原因を探る余裕も、あるはずもない。 眼前で、死神が首を刈り取る様を見せつけられていては。 斬、という音が響きわたる。 過不足なく、振り切られる両腕。 死を意味する線を、鮮やかに刀が通り抜ける。 切り取り線が付いていたかと思えるほどに、野太い首が落ちる。 動脈どころか全ての筋を断たれて噴き出す血飛沫に濡れる者はいない。 何故なら両儀式は次なる目標を見定め既に駆けだし、 馬の頭を斬られる寸前に織田信長は再び空へ逃れていたのだから。 ずん、と地を踏みしめる音がする。 馬を失い自らの足で立つ第六天魔王は不動の位で首のない死体を見下ろす。 憐憫の類は毛頭ない。あの時に突如発生した謎の行動の意味を探ろうとしたに過ぎない。 程なくしてその理由も目に入った。 筋肉で固められた強靭な腿に深々と突き刺さる簡素な小刀。 現代で市販で売られているペーパーナイフだということに露知らず。 名称などどうでもいい。知るべきは因果の源、この小刀を飛ばした下手人の姿だ。 即ち、信長の背後にいる白井黒子に他ならない。 討ち漏らした。黒子の内情はそのようなものだった。 身体的には並みである黒子があの戦闘に割り込める機会というのはそう多くない。 自分が手を出したとて、式が刃を切り込むための隙を作ることはできない。 よって、式が作った隙を更に広げることこそが己の役割だと決めた。 戦いの佳境で敵が大きく飛び立った瞬間。そこなら付け入れられると思った。 自分がそう思った以上、前線の式ならより的確に気付くだろう。 滝のような大津波に飲まれた式を見た時、若干の不安があったが波を食いしばった。 むしろそんなとこで溺れてないでさっさと出てきなさいコンチクショーなくらいの気概だった。 自分でも滅茶苦茶で杜撰と思ったが相手も滅茶苦茶なのだ。それ位で丁度いいと疲弊し切った頭で考えてた。 そして期待(?)通りに復帰した式の姿を確認し次第、テレポートで接近をかける。 動き始めたてからでは遅い。その間に式と敵との距離は詰められてるだろうから。 敵との距離が25メートルに達したところで、手をかざす。手中には小さなペーパーナイフ。 テレポートの凶悪な使い方に「生物の体内に転移させる」というものがある。 ジャッジメントとしての黒子の活動で使った事はない。必要性がなかったし、そこまで殺意を向ける対象もいなかったからだ。 今は、いる。敵意というよりは、戦い、勝ち、打ち破るべき存在に。 距離が離れ過ぎ、制限もあることから正確に敵の心臓を潰せるとも限らない。 黒子の脳が痛む。万力で頭蓋を締め付けられるような鈍痛が絶え間なく続く。 それでも集中を切らさない。そんな痛み、行使を止める理由になどならない。彼なら、「正義の味方」なら、こんな程度で弱音を吐くものか。 式と敵との交差が起きる直前を見計らって、ナイフを飛ばす。 下の馬に刃が突き刺さる。敵の背中には当たらなかったものの、式に誤射されなかっただけ及第といえよう。 なにより、大きな隙を曝け出せたのなら自分の役割は終えた。 勝利を確信した瞬間、だが現実はより過酷に立ちはだかる。 これ以上ない、最高のタイミングに関わらず、相手は式の刃を抜けたのだ。 馬を潰すという一定の成果は上げたものの、会心の一撃と思えた攻撃の結果としては余りに少ない損傷。 戦力を削れたのは疑いないが、それでも今の敵と自分達の間にどれだけ力の開きがあるか……。 戦慄に身を震わせながらも、武者震いと誤魔化し敵を見据える。 「……賞美を受け取れ。小娘の分際で我にここまで粘りおるとはな」 野太い、威厳と傲慢が混合した声が伝わる。 その貌は健闘を称えるものとしては謙虚さが欠如しているが、それでも織田信長は彼女らのあがきを称賛した。 思えばこの戦場でまみえるのは殆どが女子供の群れであった。 偉丈夫共が闊歩する戦国の世においては当初は失望の念があったがいずれも脅えず従わず反抗する者ばかり。 そしてこのように己と切り結ぶ骨のある者までもいる。 油断はない。慢心も抱いてはいない。だが力を出し惜しんではいた。 疲労だの先の戦いだのを見据えて目の前の戦いが疎かになるなどうつけよりなお愚かの極み。 力を築き、覇を唱え、天下を治める。その障害は幼童だろうが老人だろうが皆殺す。 そこに貴賎はない。そこに慈愛など不要。加減など侮辱にほかならない。 それが悪鬼住まう戦乱で戦う武士への唯一の、そして絶対の礼儀だ。 「是非もなし。我は第六天魔王織田信長、うぬら寡兵が如何に群がろうと必滅は免れぬ。 ―――天下布武、阻めるものなら阻んでみせい!!」 宣戦と共に湧き上がる覇気。紅黒い影は魔王と呼ぶに相応しい恐怖と災厄の象徴。 前の式と後ろの黒子の間に立ちその支配を強める。 自分には届かないと分かりつつも後退していく黒子。見ているだけでも臓腑を掴まれているような悪寒を憶える。 対して式はより一歩を踏みこむ。信長の後ろの黒子が見えてないのか一瞥もくれない。 頬を血で濡らしながらも衰えなく、躊躇いなく、眼前の敵を注視する。 「ハッ!」 破顔一笑。韋駄天足をもって踏み出す信長。先か後か式も構えを取る。 二人が撃突しようとするのを黒子は眺める。 戦況が式に傾くように随時差し込んでいけばいい。 自分に凶刃を向けてくるのならもうけものだ。その分式が切り込む隙になってくれる。 当然、捨て駒になってやる気もない。 裁断官が見届ける中、魔王と死神がぶつかりあう。 魔王の心臓が貫かれるか、死神の首が落とされるか。 結末は2つに1つ。覆らない取捨選択。 だが。 「「「―――――――――――――――!!!?」」」 あまりにも唐突に、破滅が訪れた。 ◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◇ 荒耶宋蓮は、このエリア一帯を圧縮した。 自らの構築した術の中で最後の手段として用意されていたものだ。 かつて、小川マンションでの戦いで式を斃すために、マンションそのものを倒壊させる手に打って出た。 結果としては失敗に終わったが、マンションと違い逃げる場所のないこの会場なら成功率は高いものと見ていた。 当然、自ら会場を破壊するという行為を帝愛が認めるわけもない。 この会場が荒耶とは異なる魔力源で機能してるのも、そうした自爆行為を防ぐための意味もある。 だが、どれだけ手を加えようとここは荒耶の造った世界なのだ。抜け道など如何様にも用意できる。 確かに会場全域を潰すには届かないが、特定の1エリアを潰す分なら支障なく行使が可能だ。これなら式がどこにいようと使用に踏み切れる。 そうして、混乱の極みにある戦場で会場を壊し、その隙に乗じて式を殺害する。 式を捕らえるにおいて何十種も構築したパターンの中ではかなり追い詰められている状況での戦略だったが、だからこそ効果も高い。 あとはここから式の居場所へ転移して肉体を奪えば荒耶の悲願は成るのだが―――魔術師は動かない。 「……どういうことだ」 崩壊の規模が、緩い。 本来なら五分と経たずエリア全域の地面が倒壊する規模での圧縮だったはずだ。 なのに崩れる建築物が少な過ぎる。じょじょに、予定よりも遥かに遅いペースで地盤が沈んでいっている。 これでは、万一といえど逃げ延びられる危険がある。 何を誤った?何が原因か? エリア内に不備があったのか。否、短時間ながらも工房内で最終調整も行った。 ありえるとすれば血脈に手を加えて計算を狂わせたとことだがそんな真似ができる参加者はキャスター以外に該当は―――――― 「―――――――そうか」 雷鳴のような衝撃が、確信となって荒耶を駆け巡る。 この会場は荒耶の製作物だが完全に独力ではない。 その補助員として帝愛の雇われとして遣われた男がいた。 軽薄な態度で底の見えない怪しさを持つものの、結界の構築の手腕は確かなものだった。 そうだ、あの男なら。荒耶が帝愛から密かに機巧を仕込んだように、こちらを妨害する仕掛けを施すのも不可能ではない。 あるいは東横桃子により一度死んだ一瞬の隙に、術の働きを遅らせる細工を違和感のない程度に弄っていてもおかしくない。 そして何より、帝愛から要請され、このバトルロワイヤルのための会場の製作に着手する初期からこの男がいたことを思えば。 ここまでにあった全ての邪魔にも、説明もつく。 「貴様が此度の抑止力であったか……忍野メメ」 全人類六十億を憎むのと同規模の憎悪を以て、荒耶は己の真の“敵”を認識した。 ◇――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◇ 本当に、脚色なく、世界が終ったと思った。 地震は止まず、地面は至る所が罅割れ、隆起し、崩れていく。 衣を抱える阿良々木のいる場所もその例外もない。 身を隠そうと工場地帯に入ったのはむしろ失敗だった。地盤沈下に耐えられなくなった工場が次々と倒壊していく。 「っ!!……あああっ!」 頭上から降ってきた身長ほどの瓦礫をぎりぎりでかわす。 何処へ行こうと何もかもが壊れていく。 逃げ場なんて、どこにもない。 「くそっ!ふざけんなあ!!」 叫ぶ。叫んだところでどうにもならないなんて分かってても叫ぶしかない。 死にたくない。死なせたくない。生きてるんだったらそう思って当たり前だ。 だから叫ぶ。 それくらいしか今は生きてる実感を持てそうにない。 だが運命サマは、ここで自分を殺しにかかってきたらしい。 ぎぎぎぎ、なんていう破滅の音がまたしても頭上から聞こえてくる。 気にせず走る。見た所で意味もない。 けどがっしゃあああああ!!なんて音が聞こえたなら、見上げちゃうだろ、普通。 大雨警報。瓦礫のスコール。致死率100パーセント。 あ、やばい。 頭に浮かぶ今までの思い出。 駄目だ。まだそっちに行きたくない。 生きているのに。助けられたのに。 負けて死ねとばかりに慈悲なく雨は降り止まない。 せめて、腕に抱える子だけでもどうか助かってくれるように抱きしめて――――。 「………………………………は?」 唖然とする。 するしかない。 夢オチかと疑いたくもなる。 自分めがけてまっしぐらに降ってきた瓦礫の雨を、巨人の腕が守ってくれるなんて。 腕の伸びる先を辿って見る。 そこにいたのは、正に巨人。 鎧を纏って、翼も生えて、色合いもなんだかダークっぽい。 阿良々木の主観でいえば、主人公機よりもボス格のマシンの方がイメージ強い。 その中で、ただ一人がその威容に友の姿を見た。 視界は霞む。耳は遠い。肌は冷たい。 そもそも見えるのは機械の巨人のみで操主の姿は隠されて一切見えない。 にもかかわらず、天江衣は答えた。そして言い当てた。 「……グラハム?」 天江衣の声に呼応するかのように巨人は膝を屈み、胸部のコックピットが開く。 予見の通り、居座る戦士はグラハム・エーカー。 空翔ける翼を手にした、阿修羅すら凌駕する男。 「―――待たせたな、天江衣!」 ◆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆ 紅き翼が翻る。流線形のそれは、圧倒的な巨体と色合いとを併せて悪魔の翼を思わせる。 そのイメージは半分は正解といえよう。これに乗ることは悪魔の同伴を許すのと同義だ。 この機体に乗って勝者になってはならない。この機体を産み出した男はそう言った。 悪魔の誘いに屈すればそこに残るのは意味のない勝利。ただ殺し、破壊したというだけの結果しか生まない。 それは兵器にして兵器にあらず。勝者となった人間にこの機体に乗る資格はない。 だが、誘惑を断ち切り、悪魔を御する駆る戦士が乗り込めば、それは本物の騎士へと姿を変える。 それらの総称である称号。武力による戦争根絶、歪みを孕みながらも人類の革新のために存在してきた天上人の剣。 明日を目指す戦士のための、未来を切り拓く力。 冠する名は次世代。人心なき大量破壊兵器が跋扈する戦争、人間の介在しない無味乾燥な戦場を憂いた男の精神の象徴。 迷える戦士へ回答を指し示す道標。 称号の名はガンダム。 象徴の名はエピオン。 歪んだ世界を破壊し、未来を再生する力―――ガンダムエピオンは、確かにグラハム・エーカーの手に託された。 時系列順で読む Back BRAVE SAGA『死踏』 Next BRAVE SAGA『螺旋終落』 投下順で読む Back BRAVE SAGA『死踏』 Next BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『絶望』 荒耶宗蓮 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『死踏』 白井黒子 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『死踏』 阿良々木暦 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『絶望』 グラハム・エーカー 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『絶望』 枢木スザク 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『死踏』 天江衣 291 BRAVE 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パウル=ミュンツァー、本編以前のエピソード0的な何か SSスレに投下したものを一部修正したものです 「ショーダウン……フルハウス!」 響く歓声が、場に走ったカタルシスの大きさを端的に表していた。煌びやかな空間に、割れんばかりの拍手の音が続く。 取り繕いきれない渋面のジェントルマンの手から、ジャラジャラとチップが『勝者』の手へと渡されていった。 「っへへ……最後に大事になってしまったけど、結局勝つのは、女神様に愛される男って事だな」 テンガロンハットを微調整し、金髪の男は愉快気に葉巻を一息吸い込む。手元に残ったのは、換金すれば約400,000程にはなろうかと言う、カジノのチップ。 そのうち半分は、この勝負に自分の手元から出したものだから、200,000の勝ちと言う事になる。 ドレスアップした紳士淑女のひしめくこの場において、Yシャツにスラックスと言う、風采の上がらない男の大勝利は、場を沸き立たせるのに十分な出来事だった。 ――――夜の国の某大型カジノホテル。勝利と敗北、欲望と諦観が交差する、大人の遊び場にして、金の伏魔殿。 そこから勝利を拾い上げた男は、ちょっとした札束を手に、御満悦の様子で退出する。あちらこちらから立ち上る熱気の気配を背にして。 「今日はツイてた、いつも以上にツイてた。……どうやら今日は、ご機嫌みたいじゃないの……女神様?」 今日はあえてドレスアップせず、普段着のままで『勝負』に挑む事に決めたのだが、どうやらそれが良いゲン担ぎになったらしい。 すれ違いざまに、時折向けられる奇異の眼も、胸元に押し込められた札束に、跳ね返されてしまう。 勝利の夜と言うのは、やはり気分が良い――――強運に身を任せる、自分の判断の正しさの証明と言う意味もある。 幾重もの愉悦を身に纏いながら、男は自室へと足を向ける。 「おっと、おにーいさん! その様子じゃ、良い感じに遊べたみたいだね! どう、この後であたしとも遊ばない?」 「ぉ、目ざといなぁ……随分フランクじゃないか。良いよ、気に入った。で、いくら出せば良いんだ?」 金と服装、2つの意味で目立つ男は、程なくしてコールガールに声を掛けられる。 質素ながら扇情的なドレスに、肩から少し下がるくらいの眩しい金髪、透き通るような大きく青い瞳――――結構な『上玉』だ。 「部屋は取ってあるんでしょ? じゃ、そっちにお邪魔して60,000! あと、晩御飯も食べたいなぁ」 「良いぞ、この際野暮は言いっこなしだ。パッと明るくやろうじゃないか……!」 商談はあっさりと成立し、男は女性の腰に手を回して抱き寄せ、歩調を合わせて廊下を進む。 ――――こういう『商売女』に対して、値切りなど絶対にやってはならない。見せ金があるのなら、尚の事だ。 自慢げに歩く男の姿は、正に『勝者』のそれだった。 「おにぃさん、どんな感じで勝ったの? これだけ行ったからには、一発モノにしたんでしょ?」 「お、聞きたいのか? んじゃ教えてやるよ! 今日の俺はポーカー一本でいこうって決めてたんだよなぁ……」 (――――どこで聞いたんだったかな……「恵まれない分には、腐っちまうのもしょうがない」って……全くその通りだ、俺もそう思うよ) 既に軽いトークでじゃれ合いながら、男の胸中に、ふと思い出された言葉があった。 ――――自分の強運に自信のあった男は、賭場と言う運の戦場に足を踏み入れ、そして勝利を引っ提げて生還した。 もしもこれが、ツキの無い奴の行動だったなら、そいつは何もかも失っていたはずだ。 金だけならまだ良いだろう。運と言うのは馬鹿にならない。下手をすれば、こんなままならないモノのおかげで、命を失う事だってあるのだ。 (ま……俺ほど運に恵まれてる奴も、そうそう居ないだろうよ……なんせ、今の今まで生きてこれたんだからな……) そんな感慨なんて今まで無かったはずなのに、ふと体に残る古傷が疼く様な気がした。恐らく気のせいだ。 気のせいながらも――――男はふと、己の運に対して思いを馳せる。今まで何度も、死んでもおかしくない目に遭ってきた。 それでも、こうして五体満足で生きているし、金を稼いで旨い物を喰い、時には良い思いをしている。 だからこそ――――この男は戦うのだ。世間に背を向けて、高いオッズに手を伸ばすべく。 信じるのはただ、己自身の運と、女神の祝福だけ。それ以外、彼には何もいらないのだ――――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「おーいパウル! 試験明けの打ち上げ、お前も来るだろ!?」 「おぅ、今度は誰んちに集まるんだ!?」 ――――昼の国。 夜の存在しない、太陽とリゾートの国にあっても、学生と言うのはやはり、他の国と大差ない存在で。 それが学生の本分と、勉学に明け暮れる者もいれば、仲間たちと青春を謳歌する者、流れる日々をただモラトリアムとして過ごす者、様々だ。 とは言え、大多数の彼らは、ごく当たり前の目立たない存在。学生の内から一味違う存在など、そうはいない。 「やっと全教科終わった訳だけどよ、パウルお前、出来の方はどれくらい自信あるんだ?」 「あぁ、今回は良い感じだ。ひょっとしたら学年トップ10、いけるかもな?」 「あぁ!? お前いっつも遊んでんのに、なんでそんなに自信あるんだよ!?」 「バーカ、お前ら授業の時、ちゃんと目ぇ開いてんのか? ちゃんとノート取って集中してりゃ、家の勉強時間なんて短くて済むだろ。授業は昼寝の時間じゃねぇんだぞ?」 「いやー、あんな詰まんない授業、よく集中してられるよね。あたしいっつも眠くなっちゃうんだけど……」 「そういやお前、先週も涎垂らして爆沈してたっけな?」 「うっ、うっせ! 人の寝顔見て喜んでんの!? 変態なんだパウルー!」 ――――その『学生の頃から一味違う』存在を連れた一団が、校門から開放される。 ある種のタレント性とでも言うべきか、いつでも仲間内の輪の中心にいる存在。そんな風に日々を過ごしていれば、畢竟、目立つ事になる。 成績が良く、交友関係が広く、ノリも良い。絵に描いたような、青春の若者の周りに、やはり友人は引き付けられるのだ。 「あっ、悪いちょっと待っててな――――おーい!」 「……なんだパウル」 一団から離れた少年は、1人足早に帰り道を行く級友に声をかける。うんざりした様子で、彼は振り返った。 「いや、3日前掃除当番変わってもらっちゃって、悪かったよ。どうにも約束断り切れなくてよ」 「……別に良いよ、あいつら強引だもんな。1回ぐらいなら、別に……」 ぶっきらぼうに答える級友にめげず、少年は自分のカバンの中を漁る。 「んな訳で、埋め合わせって訳じゃないんだが……ほらこれ、あの時のお礼にと思って。助かったよ」 「え……これは、明日発売の『怨念戦記』39巻!? ど、どうして……」 「お前のキーホルダーが見えたの、覚えてたんだよ。それ、怨念戦記の愛羅姫だろ? だったら、読んでんじゃねぇかなと思ってさ。 知り合いの、本屋のおっちゃんから、今朝無理やり買い取ってきたんだよ。いよいよ最終章突入だし、早めに読んだ方が良いだろ?」 「……パウルもこれ、読んでたのか。なんか意外だな……」 「……けど、俺は謝瑠姫派だな」 「……へぇ」 「おっと、一家言ありそうだな。けど、積もる話はまた今度って事で、それじゃな、本当にありがとよ!」 どこかリアクションに乏しい、それでも何か言いたげな級友に対し、最後まで笑顔で語りながら、少年は仲間の輪に帰っていく。 「パウルお前、漫画まで詳しいって知らなかったぞ……」 「どんな漫画なの、あれ?」 「お前らが読んでも面白いとは限らねぇぞ。櫻の国を舞台にした、ホラー伝奇超能力バトル漫画だからなぁ、ありゃあ漫画慣れしてる奴が読むものだよ」 「お前は分かってるって事は、結構なもんじゃねぇか! 読んでんだろお前!」 ガヤガヤと盛り上がりながら、一団もまた学校を後にする。 単行本を渡された級友は、少しだけ羨ましそうに、その背中を見つめていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「さーてね……っと、来た! やったよ2等、大当たりだぜ! 後で親父に換金してもらって――――」 夜の無い部屋で、少年は籤券を前にほくそ笑んでいた。 夜の無い国と言えども、人々には相応の生活リズムというものがある。窓の外を見れば、今の通行はまばらだ。 風を求めて開け放たれた窓には、寝るときの為に陽の光を遮光する、分厚いカーテンが掛けられている。 その窓から入り込んでくる、温かい光と風を満身に感じながら、少年は会心の笑みを浮かべていた。 ――――第72回昼の国産業振興記念くじ、それで当選金1,000,000を引き当てたのである。 「っと、それは良いとして……そろそろ、先生から頼まれたアレ、片付けとかないとな……」 小躍りしたいほどの喜びが胸に溢れてくるが、そればかりに浮かれてもいられない。学校の先生からの頼まれごとを、少年は抱えていたのだ。 机の上を片して、紙とペンを用意すると、少年はじっと思索を重ねるために動きを止め、時折ペンを紙に走らせていく。 ――――彼にとって、こうした事は珍しい事では無かった。これまでの生活の中で、何度かあった事に過ぎないのだ。 ――――文武両道、才色兼備、更に類まれなる強運に恵まれている。「天は二物を与えず」と言う言葉は、彼には当てはまらない様だった。 誰彼構わず交友関係が広く、目上の人間からの信頼も厚い。そうした周辺の期待に応えられるだけの能力も持ち合わせている。 誰もが人生の主役、という様な言い回しがあるが、正に彼は、自らを中心にして人生が回っていく、その中核に存在するものだったのだ。 「――――うん、良い感じだ。これで、次回の集会発表も、お願いするけど良いよな?」 「勿論ですよ先生。もう読み方の練習まで始めちまってますよ。任せて下さいって!」 「……本当にお前、やるもんだなぁ……」 翌日には、少年は教師と打ち合わせ、片付けた頼まれ事を仕上げた事を報告する。受ける教師の表情は、完全にシャッポを脱いだものだった。 何でも卒なくこなす彼にとっては、この程度は片手間だったのだろう。事前に知らされていないオプションまでつけて、見事にうならせていた。 「……そうだ、面倒ついでにもう1つ、お願いしても良いかな?」 「何ですか、改まって?」 「お前、6組のカルロス達ともそれなりに親しいんだろ? あいつらに、いい加減他所との喧嘩は止めろって、言ってやってくれないか? よその生徒に怪我でも負わせたりすると、色々と問題なのだが……どうも聞く耳持たんで、上手く行かなくてなぁ……」 「先生そりゃ、頭ごなしに「止めろ」って言われたら、反発もしますって。そういうの、あいつら一番嫌う事ですからね 上から目線だって思われたら、終わりなんですよ。ちゃんと理路整然って奴を貫徹しないと あいつら、馬鹿じゃないですから。話してる相手が「こっちをチンピラだって見下してる」っての、ちゃんと見抜いてきますよ ……まぁ、地雷原を歩くような話ですけど、そこら辺の加減を間違えなきゃ、案外話は通じますって」 「そ、そうか……」 「まぁ、俺の口から伝えてはみますよ。でも、それで俺がぶん殴られても、それでまたオイコラって向かっちゃいけませんからね?」 通常、教師が生徒にする範疇の相談を超えてなお、少年は涼しい顔で答える。既に彼は、能力的な範囲に留まらず、『自己』を確立し始めていたのだ。 モラトリアムと言う事は、もはや彼には当てはまらない。その中で、少年は精一杯、青春を楽しんでいた。 「……で、顔に青あざ作って帰ってきたと」 「――――我慢するからお前をぶん殴らせろってね……ちょっと言い方不味かった。まぁ、約束は取れたから良かったよ……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「――――あーあ……ツイてねぇな。つまらねぇ……」 ――――個室型の病室で、少年は1人、ため息を吐いていた。 急病に倒れて入院。しかもその為に、修学旅行への参加を断念せざるを得なかったのである。 学生生活最大級のイベントを堪能できない――――常に楽しく過ごしてきた少年の落胆は大きかった。 「今頃みんなは、風の国の大山脈ツアーかよ……はぁ、高原チーズ、俺も食いたかったよチクショウ……」 せめて染みの数でも数えてやろうかと天井を見上げても、そこには綺麗な白しか広がっていなかった。 思うままに体を動かす事も出来なければ、自分の生活リズムで、いたずらな夜更かしをすることも出来ない。 持ち込んだ漫画も、他にする事も無いので、もうすぐ3週目に突入してしまう。ひたすらに気だるかった。 これ幸いに骨休め、などという疲れた感性とも無縁だった少年は、完全に時間を持て余してしまったのである。 「かと言って、昼間はマシなテレビなんてないんだよなぁ……ニュースもすぐに同じ事ばっかりで慣れちまうし…… 国会中継って言ったって、テロ対策か馬鹿な質疑応答しかしないし……ある意味面白いけど……」 あと、日替わりでランダムな話題を持ち込んでくれるものと言ったら、病室備え付けのテレビしかなかった。 ぼんやりとつけっぱなしにしたテレビに見入る。なんだか、自分の頭が鈍化して行く様な感覚に、少年は囚われていた。 「やぁパウル君、相変わらず暇そうだね。検温と……どうだい、体調は?」 「あぁ先生……ま、腹の奥に、相変わらずの鈍痛はありますけど、熱は特に……それよか、早く起きたいですよ 旨いもの食べたいし、外を歩きたいし……はぁ……」 「ま、1ヶ月ほどの我慢さ。君なら、勉強の遅れを取り戻すのも楽だろうし、その体力なら病状も悪化しないだろうしね」 検診に来た医者と、他愛ない会話を交わす。これもまた、少年の数少ない心の慰めとなっている、今の日常だった。 ――――その終わりを知らせたのは、つけっぱなしにしていたテレビである。 『――――番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします 本日、午前11時27分頃、昼の国太陽航空、第245便旅客機が、「エンジントラブルに見舞われた」という通信を最後に、グランツ北東400㎞沖合の海上に墜落したとの情報が入りました』 「!? おいおい……飛行機の墜落かよ……」 「……大変な事が起きてしまったね……」 『この、245便には、修学旅行中の高校生を含む、377人が搭乗しており――――』 「――――ッ!?」 キャスターの、緊迫した言葉が、原稿のその場面を通り抜けた時、少年の頭は真っ白になった。 「ぱ、パウル君……!?」 「ちょっと待てよ……まさか、まさかみんな……!? 先生、ちょっと、確かめてくださいよ……俺の友達、これに乗ってたんじゃ……!?」 「お、落ち着くんだ。興奮は、腹の病変に悪いって分かるだろう?」 「だから、ちゃんと確かな事を知りたいんですよ! 教えてください先生! 俺の代わりに調べて!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「……みんな……みんな……なんでだよ……」 果たして、墜落した飛行機は、少年の学友たちが乗っていた航空機だった。そして当然――――飛行機の墜落で、乗客乗員全員死亡は、当たり前の話である。 少年は、親しい友人たちを、大人たちを――――かけがえのない日常を、一気に失ってしまったのである。 (ツイてないって思ったけど、俺だけ生き残ったのか……でも、これでツイてるって言えるのかよ……!) 急病で修学旅行に参加できない事は、全くの不運だと思っていた。だが、その為に彼は生き残り、学友たちは全滅してしまったのだ。 現実味の無い事実を突きつけられて、少年の思考は空転し、同時に混乱に見舞われていた。起こった出来事を、受け止めきれなかったのだ。 さしもの少年も、こんな急転直下の事態を、どう受け止めれば良いのか、それに答えを出せるだけの人生経験を積んではいなかった。 これから自分はどうなるのか、今ここに自分がいるのはどういう事なのか、少年の意識は、取り留めなくそんな疑問を見つけては、有耶無耶のまま霧散してしまう。 ただ、友人たちの死を悼む事くらいしか、病人の身である彼にはできなかった。 「……なんで俺、のんきに寝てるんだろ。みんな……凄い怖くて、最後の瞬間に痛い目見て、死んでったんだろ……?」 飛行機内のパニックに、思いを馳せる。友人たちはきっと――――どうなってるんだと叫び、死にたくないと叫び、そうして死んでいったはずなのだ。 いや、それは友人たちだけに留まらない、先生だって、そして他の乗客たちだって。地獄みたいに、恐怖と振動に振り回された挙句に、死んでいったはずなのだ。 ――――それを思うと、病を患いこんな所で伏せっている我が身が、たまらなく腹立たしく、情けなく、悔しかった。 「……俺1人生き残ったんだったら、生きてかなきゃいけねぇな。身体治して、弔わなきゃ……」 しかし、こうも考える。自分1人が生き残る巡り合わせにあったと言う事は、そこに何らかの意味があるんじゃないか、と。 別に道徳教育を尊ぶつもりはないし、運命論者になった覚えもない。ただ、何かしらの意味と言えるものは、そこに確かにあるのではないか、と。 その手始めとして、まずは死んでいった知人たちに、ちゃんと冥福を祈り、ちゃんと遇する礼を尽くさなければならない。 明かりを消した暗がりの中、ベッドに横たわりぼぉっと天井を見上げていた少年は、どうにか自分の感情にケリをつけることが出来た。 ――――眠りは、深かった。重く、昏く、熱く。 ――――ずるい……ねぇか ――――なん……お前だけ…… ――――こっ……一緒……来なってば…… ――――1人だ……不公へ……! 「――――っぅ、ぐ……ぅぅぅ、ぅ……!」 ――――お前も、俺たちと一緒に死ねよ……! ――――勝手に腹壊したとか言って、死ぬのさぼってんなよ……! ――――命を抜け駆けなんて、冗談じゃないぞ……! ――――来いよ、お前もこっちにッ! 「――――っぐぁぁぁぁぁ…………ぁ、ぐ、っ……!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「――――しっかりしなさい、大丈夫か!?」 「っぐ、ぐ、うぅ…………」 ――――深夜、個室のドアが開け放たれる。少年の個室に足を踏み入れてきたのは――――見知らぬ老人だった。 「おい、おい! 私の声が聞こえるか!?」 「ぎっ……は、腹が…………ッ、あ、熱い……ッ、焼ける……!!」 「生まれたばかりの悪霊共が……引きずり込んでいくつもりか。そうはさせん!!」 少年は、腹部を抱え込む様に抑えたまま、うずくまっている。呻きながらも、意識は朦朧としている様で。 ――――老人はそれを悪霊の仕業と見切り、すぐさまその手で、少年の額と腹を押さえつける。 青く澄んだ光が掌に集い、少年の体に衝撃が走る。がくんと少年の体が跳ねる様にのけぞった。老人の白髪も、白髭も、空気の振動にそよぐ。 「がぁっ!?」 「我慢しなさい……自分を失うなよ……!」 「ぐあっ、はがぁ!!」 ドクン、ドクンと、鼓動の様に衝撃は連続する。少年の口から苦悶の悲鳴が漏れ、塊の様な空気が絞り出される。 ガクガクと体は痙攣し、それも老人の手に抑え込まれる。まるでAEDを行使される様に、ビクビクと身体は跳ね上がった。 「ぼ、っふぁ……ッ!?」 「出たな、死霊の呪いが……もう大丈夫だ」 何度目かの衝撃で、少年の口から何かが吐き出された。空気だけではないそれは、黒い煙のような物で、中空に漂う。 それを視認して、老人は少年から手を放し、その黒い塊に向けてかざして見せた――――青い光が、眩く光度を上げる。 ――――なんでよ……ひどいじゃない…… ――――なんで、なんで俺らだけよぉ…… ――――恨むぞ……お前を一生……! ――――俺たちが死んだから、お前が生きた様なもんだろ…… ハッキリと、2人の耳に恨みの声が聞こえてくる。光に当てられて霧散していくその黒い煙は、最後に恨み言を残して消えていった――――。 「ハァ、ハァ……い、今のは……?」 「……どうやら事故で死んだ、君の知り合い達の霊魂の様だ。それが君の病気にとりついて、死の道連れにしようとした様だね…… ……未練が残るのは当たり前と言え、逆恨みも良い所だろう。だからこそ悪霊になってしまったのだろうが」 「――――ひどい、ひどいぜ、みんな……」 異変が収束し、少年は埋火の様に熱を残す腹部を抑えながら、老人の言葉に俯く。自分は恨まれ、呪われる存在なのか、と。 彼らの死に、思うところはあったが、それがこんな形で跳ね返ってくるとなると、少年の胸にもやりきれない思いが込み上げてくる。 何かのせいにしなければ、彼らの無念が浮かばれないのは勿論なのだろうが、その矛先が、自分に向けられるとは……。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「――――しかし、君は運が良かった。隣の病室に寝てたお陰で、気が付けたよ……じゃなきゃ、君は急な病変と言う事で、死んでいただろう……」 「……!?」 ホッと一息ついて、老人はポツリと呟く。どうやら霊能力者らしい彼の手によって、少年は救われた訳だが、その言葉が胸に刺さった。 (……運が良かったって? そりゃ、みんな死んだ事に比べたら運が良かっただろうよ……でも、それで良かったのか……?) 不運に巻き込まれて死んだ友人たちに比べれば、病気の為に墜落する飛行機に乗らずに済んだ自分は、確かに運が良い。 だが、それは果たして本当の幸運なのか――――本当に運が良ければ、そもそも友人たちも死なずに済んだのではないか? (こうやって、呪われて殺されかかっても生き延びたって事で、運が良いって事になるんだろうけど……でも、本当にそうか? これは本当に運が良いのか? 悪運ってだけじゃないのか? ……運が良いの悪いので、こうまであっさり運命じみたものが決まってしまって、いいのか?) 我が身に起こった出来事に、実感が沸かないのだろう。窮地を2度も偶然で生き延びた少年は、「運が良い」の一言の為に、思考の沼に陥っていた。 ――――人生と言うのは、運の良さだけで、こうもあっさりと片付いてしまう程に儚い物なのだろうか。 自分の身を守ったこの『運』と言うのは、そういう性質のものなのだろうか。 だとしたら――――結局、全てはそれで片付いてしまう事になる。人生がどうのこうの、なんてレベルではない、この世界のすべてが――――。 (――――もし、本当にそうなのだとしたら――――) 「……どうしたね、まだショックか? まぁ、放心してしまうのは分かるが……」 「いや――――これからどうしようかって、思ってたところです。これでもう、学校にも帰れなくなりましたし 俺は……これから、自分の力で生きてかなきゃならないなって……あ、そういえば……ありがとうございました」 「……何を思いつめたか知らんが、今はゆっくりと休みなさい。君のその病気も、これで快方に向かうだろう」 少年の瞳に、ハッキリとした光が宿る。彼は、何か得心が入った様子で、老人に頭を下げた。 ――――腹の中に、まだわずかに燻る熱と、先ほどの呪いの声の残響を聞きながら――――。 ――――足元で死んでいる両親を見下ろす。退院して真っ先に行った事が、それだった。 考えに考えた手はずで襲う。悲鳴をあげさせもしなかった。恐らく外に今の事態は漏れていまい。 金を都合し、家に火を放ち、姿を消す――――全ては、思いの外上手く行った。両親は死亡、自分は行方不明。だが、事件はそれ以上の進展を見なかった。 「……ツイてる。やっぱりそうなんだ。俺にはツキがついてる。そして、あいつらがくれたこの呪いが…………ッ」 両親の魂が、腹の中で泣き叫んでいる事を、少年は感じている――――あの呪いの残滓は、身体に焼き付き、魂を縛る力場として機能していた。 ――――これが、運の力なのか。因果応報など嘘八百だと、少年は確信した。全ては運、善悪など関係ない――――。 やけっぱちで起こした行動が、悉く運に恵まれた事で、少年は己の人生を確信した。 ――――そして、彼は世界に対して「逆」を行くという、一生をかけたギャンブルに身を投じる――――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (――――ま、こんなもんよな。人生は結局、勝つか負けるか、それだけよ……) 隣で寝ている女の息吹を感じながら、男はその裸身をシーツにくるみ、ぼぉっとテーブルの上の食事跡を眺めていた。 今では、カノッサ機関のナンバーズ。それを話しても、この女は驚きこそすれ、むしろ興味をもって身を乗り出してきた。 ――――ひと時の濃密な時間を過ごして、古傷だらけの体は充足感に満ちていた。 「――――随分、ご機嫌ね……」 「ん……なんだ、起こしちまったか?」 眠っていた金髪の女が目を覚ます。ぴったりと身を寄せ合って、その温もりを感じ取る。 「いいえ、ずっと起きてたの……――――あなたがこんな所で息抜きをしてるから、ちょっと揶揄ってあげようってね」 「は……!?」 だが、男は肝を冷やした――――女は己の首を、左手でむしり取ったのだ。同時にその体は輝き、姿を変える。 そこには――――黒い髪にすっきりした目鼻立ちの、先ほどとはまた違ったタイプの美人が、勝気な笑みを浮かべて横たわっていた。 「あ、殺狩!? ……お前、さっきの変装かよ!!」 「えぇ、あなたが遊びにうつつを抜かしているって聞いたから、ちょっと揶揄ってあげようってね でも、相変わらずねぇ……こんな所で賭け事して、好い気になって遊んでるなんて」 「あー、あぁ……あー……勿体ねぇ。それであの娘殺してなり替わったのかよ……結構な上玉だったのに」 「随分余裕じゃない? ……あたしの目の届かないところで女遊びなんて、少し調子に乗り過ぎてるんじゃないかしら?」 「良いだろ別に。そこんところ、お前はそううるさくなかったと、思ってたんだけどよ」 「うるさくするつもりはないわよ。でも、だからって野放図を認めるつもりも、無かったんだけどね?」 ――――ベッドの中の痴話喧嘩。しかしてそれを繰り広げているのは、≪No.21≫と、機関の頭領の1人。 世界にとっての恐怖の象徴の様な2人だが、今はただの個人に過ぎなかった。 「まぁ良いさ。俺は女神様に、まだ懇意にさせてもらってるっての、分かったからな。そこは収穫だよ」 「……露骨に話を逸らさないでくれるかしら?」 「で、だ――――お前とも、懇意である事を確かめさせてもらいたいんだけどな?」 「……そうやって誤魔化すつもり? 少しは捻りなさい、芸が無いわよ」 「必要か? お前だって乗り気だったんだろう? わざわざ姿を変えてまでな」 「そう面と向かって言われると、冷めちゃうのよ……全く、そこら辺がさつな人ね……」 「……でも、実際悪くないだろ。飾らないって言うのも、偶にはな――――」 呆れた様な笑みを浮かべながら、男は女の白い肩に手を回す。眉を顰めながらも、女はその身を男へと預けた。 ――――そっと唇が重なる。クールダウンしていた体が、再び熱を帯び始めた。 ――――幸運の女神と死霊の呪いは、今も男の体を包み、渦を巻いている。 男の行き先は、流れ流されて、ただ雲水の如く――――。
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『ゆっくり除け』 22KB いじめ 虐待 野良ゆ 子ゆ 虐待人間 ドゴスッ 「うぐおおぉぉぉぉぉぉぉ………!」 第一声が俺の汚いうめき声で大変申し訳ない。 だが思い出して見てほしい。 タンスの角に足の小指をぶつけた時の痛みを。 俺は今、現在進行形であの筆舌に尽くし難い苦痛を味わっているのである。 「畜生……! やっと月一の部屋掃除が終わりそうだって時に……おおぅ……」 ひょこひょこと無様な足取りで救急箱を取りに行く。 …えらく…遠く感じるな……。こういう時、2LDKの大部屋を借りている事を非常に悔やむ。 しかし痛い……これだけ鈍痛が長いって事は爪が割れてる可能性がある……。 ……早く処置したい。 「ゆ!? ありす! このおうちはまどさんがあいてるのぜ!」 「ほんと! これはゆっくりしてるとかいはなありすたちへのみつぎものね! まちがいないわ!」 「みちゅぎものだにぇ~~!!」 (声……?…………!………まさか!?) 「「ここをまりさ(ありす)のゆっくりぷれいすにするよ!!」」 「ちゅるよ!」 壁に手をやって可能な限り足早に隣部屋に行くと、薄汚れた饅頭が3匹。 埃が立つから換気がてら窓を開けっ放しにしていたのが不味かった。 俺がいることにも気づかず、3匹の饅頭は部屋を跳ねまわり始めた。 「ゆうぅぅぅ! ひさしぶりにゆっくりできるのぜ!」 「みたことないものがいっぱいあるわ。 これもどれいからのみつぎものかしら?」 「きっとそうなのぜ! ここにあるものはみんなまりさとありすのものなのぜぇ!!」 「そうね、そのとおりね。 でもはいちがとかいはじゃないわ……ありすがもっとうつくしくこーでぃねいとしてあげるわ!」 「ぴゃぴゃ! ありちゅも~!」 「もちろん、おちびのものでもあるのぜ!」 掃除したての部屋はみるみる泥で汚れていく。 畳んであった夏物の服はぐちゃぐちゃに、小さい三段本棚は倒され……etc。 って解説してる場合じゃなかった…。 これ以上汚される前にさくさく処理するか。 と、割と冷静に分析していた俺の目に飛び込んできたのは、 「おいおま……おわーーーーーーーーーーーーーっ!? やめろ!それに触るなぁぁぁぁぁ!」 「「ゆひぃぃ!? なに、なんなのぉぉぉ!?」」 「ゆぴぃ!?」 売って金にしようとゲーム類をまとめていた場所。 買って開ける事も無かった新古品も多くあった為、結構な値段で売れるはずだった。 止める声も間に合わず、むしろ叫んでびびらせたのが良くなかったらしい。 饅頭共はパニックを起こして3匹バラバラに部屋中を跳ね始めた。 「だぁぁぁ! 待て、動くな! とまれぇぇぇぇ!」 「ゆひぃぃぃぃ!? なんなのぜぇぇぇ!?」 「おおきいおとこわいぃぃぃぃぃぃい!!! とかいはじゃないわぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「たちゅけてみゃみゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」 どうやら恐怖で俺の姿を認識もできていない、というより後ろを振り返ろうともしない。 ってだから分析してる場合じゃぁぁ……ああああぁぁぁぁ……。 「お…俺のあぶく銭が………」orz 縦積みしてたソフトが崩れてハードに若干の汚れ……それだけなら良かったものを……。 あいつらがびびった時に漏らしたしーしーで、ハードは完全に浸水していた。 もちろんソフトの外箱もだ。 これでは乾いても売り物になるかわかったもんじゃない。 さようなら、今月の豪華な昼飯。 また一か月、昼はカップ麺か百円ショップだ……。 俺は右足の痛みも一時忘れて膝から床に崩れ落ちた……。 「ゆひっ、ゆひぃ……いったいなんなのぜぇ……ゆ?」 どうやら帽子の饅頭、まりさが一番最初に正気を取り戻したらしい。 そして何も追加の音や痛みが襲ってこないから不審に思ったのだろう。 声の主、俺の方をゆっくりと振り返った。 目の端に捉えていただけだが、まりさの体はたるんだ中年の贅肉のようにたるんでいた為、えらく気味悪かった。 そして奴は項垂れている俺を見るなり、急に踏ん反り返って大声で捲し立てた。 「なんだ、にんげんなのぜ。おどろいてそんしたのぜ! ありす、おちび、だいじょうぶなのぜ! にんげんはもうまりさがせいっさい!したのぜ」 「ゆひぃぃぃ……ぃ? にんげん? それならあんしんね……。 ありすのだーりんがにんげんなんかにまけるはずないもの!!」 「とうぜんなのぜ……あいしてるのぜ、ありす……! すーりすーり♪」 「ありすもよ、まりさぁ……すーりすーり♪」 「ゆぴぃぃぃぃい! きょわいよぉぉぉぉぉ! たちゅけてぇぇぇぇぇぇぇええ!」 いつの間にかまりさに倒された事になっていた。 それはそうとまりさの大声にカチューシャ付きの饅頭、ありすは顔中の涙と涎をまき散らしながら、同じく涙と涎塗れだが眉だけをキリっとあげたまりさに跳ね寄った。 子供がいまだにパニくってるのも忘れて、すっかり二匹の世界である。 さて……怒りのボルテージが沸々と湧き上がってきたわ。 こちとら隔月の「ゆっクリーン作戦」には常に参加。 ゆっくりについての知識はそれなりにあるつもりだ。 「……さて、とりあえずゴミ袋、と」 「ゆあーん? にんげん、いきてたのぜ? ならもういっぺんしぬのぜぇぇぇ!」ボスン 「うぐおおぉぉぉぉぉぉぉ………!」 まりさがしょぼいスピードで突進してきてるのは見えていたが、こいつらの突撃なんて痛くもかゆくもない。普段なら。 奴の着地した地点はなんとちょうど立ち上がろうとしていた俺の右足の爪先。 こいつら、詰まってるのは餡子なので、意外と重い。 今の俺の敏感な爪先にその重さは……きつかった。 再悶絶……。 「おおおぉぉぉぉぉ……」 「ゆーっひゃっひゃっひゃ! ざまあないのぜ! そこでえいえんにゆっくりしてたふりしてればよかったのぜ!!」 「あぁん! まりさすてきぃぃぃぃぃぃ!」 「ゆぴぇぇぇぇぇえん! みゃみゃー! ぴゃぴゃー!!」 ……もう絶対に許さん。 適当にゴミ袋に突っ込んで潰そうと思ったが……。 この痛み、数十倍にして味あわせてやる……! 俺は震えながら立ち上がると、左足の内側まりさをサッカーのパスの要領で小突いた。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁ……げぶっ……!」 まりさはボールよろしくゴロゴロ転がり、半分だけ閉じてあった網戸に激突。 若干餡子を吐いて気絶した。 側面には細かい網目上に無数の傷が付き、中心部は深めに裂けて餡子が滲んでいる。 起きたら大騒ぎだろう。 「ゆ………? え…………? ………………………………………まりざぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!? ごべぶっ」 遅いだろ、とは思いつつありすも同じ要領で軽く蹴り飛ばす。 蟻の死骸や草が張り付いた気持ち悪い歯が何本か砕けて落ちた。 さっきより軽く蹴ったのだが、急にこっちを向いたので顔面にクリーンヒットしてしまったようだ。 ありすは少し浮き上がってすぐに落ち、小タンスの引出しに顔面を強打して意識を失ったらしい。 部屋はこいつらが来た時よりさらに汚れてしまったが、今はそんなことどうでも良かった。 人はある程度キレると後先考えなくなるものである。 「みゃみゃーーーー! ぴゃぴゃぁぁぁぁぁぁああ!!! ありちゅはいだいにゃるえんじぇるしゃん!」 まだ何かから逃げ回っていたらしい子ありすは、蹴ると潰しそうなのでそのまま掴みとる。 さらに蹴り飛ばしたまりさとありすを回収して、俺は汚れた方の部屋を後にした。 舞台は元いた部屋へ。 まずはまりさとありすを引っ張り出してきた水槽に放り込み、小ありすを降ろす。 端からありす、まりさ、子ありすの順だ。 かなり大きめの水槽だが、3匹入れるとそれなりに隙間が埋まる。 少なくとも跳ねまわったりできる広さじゃない。 「にゃんかここくちゃいぃぃぃぃ! みゃみゃー! ぴゃぴゃーー! ちっかりちてぇぇぇぇぇ! ありちゅをたちゅけてよぉぉぉぉぉおお!!」 この水槽、ゆっくり用では無く、昔大量のザリガニを飼っていた時の物で、何故か長い事引っ越し荷物の中に埋もれていた。 古い箱だと思って興味本位で開けた時は失神するかと思うくらい生臭かった。 一応ある程度は洗ったが、それでも臭いは完全には落ちず、今は鼻栓をして臨んでいる。 大きさはこの3匹が入ってちょうど。 今日という日の為に出てきたんじゃないかと少し運命を感じた。 「オレンジジュースよし、竹定規よし、プラスチック定規よし、ペットボトルよし……」 必要な物を準備し終えたが、まりさとありすはまだ目覚めていないので、一足先に喧しい子ありすでも弄って鬱憤を晴らす事にする。 プラスチック定規をしならせた俺の手は、気づかれることなく子ありすの真後ろへ。 ぶりぶりと変な汁を出しながらナメクジみたいに這いずり回るその尻に狙いを定めて、一撃。 「ありちゅがこわがってりゅんだよ!? はやくたちゅけ [ベシィィィィィィィィン!!!] ゆぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!? いぢゃいぃぃぃぃぃぃいいい!!!!!?」 突然尻に訪れた凄まじい痛みに大声で泣き叫ぶ子ありす。 みるみる内に赤く腫れ上がる尻をさっきより高く地面から上げて振っている。 地面に触れただけで痛いのだろう。 だが相変わらず元気に、今度はうんうんとしーしーを漏らしながら尻を振っている。 「そんなに挑発されたら……もう一発やりたくなっちまうわ!」 ベッシィィィィィィィィン!!! ベッシィィィィィィィン!!! 「ゆっぴょあぁぁぁぁぁぁああああ!? にゃんで!? にゃんでありちゅのおちりいぢゃいのぉぉぉぉぉぉおおおおお!!?」 今度はさっきより少し強めにしならせ、二発。 いい音が鳴って、同時にいい具合に喧しく汚い悲鳴が部屋に響き渡る。 角が当たってしまったのか、皮の色が薄くなっていた部分が切れている。 連続二発は調整が難しいようだ。 餡子が漏れて終わってしまってはかなわないので、ゴム手袋を装着。 オレンジジュースを塗った人差し指ですぐにほぐして傷を塞ぐ。 「みゃみゃぁぁぁぁぁぁあああ!! はやくたちゅけてぇぇぇぇぇぇええ! ゆっくりさせちぇよぉぉぉぉぉぉおお!!」 涙と涎、うんうんとしーしーをまき散らしながら眠りこけている親を呼び続ける子ありす。 親子だな、と思う。 そんな子ありすに死角から天の声をかけてあげることにした。 「ありす」 「ゆぴっ!? だれなにょ!? 」 「親が目を覚ませば、お前はゆっくりできるぞ」 「ゆぅ! ほんちょ!?」 「……だが親が目を覚まさなければ、この痛みは永遠に続くぞぉぉぉぉ」 「ゆぅぅぅぅ!? いぢゃいのやじゃよぉぉぉぉおおお! みゃみゃ! はやきゅおきてぇ! ぴゃぴゃも! ありちゅゆっくりしちゃいのぉぉぉぉぉぉおお!」 にんげんの声であることには気づいていない。 都合よく神様とでも考えたのだろうか。 言葉の真偽も確かめぬまま、子ありすは再び両親を起こす為に泣き叫び始めた。 傷が痛むのか、相変わらず尻は上げたままだが。 「それでは第2ラウンド…………レディー…………ゴォ!!」 ベッシィィィィィィィィン!!! 「ゆぴぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」 「ゆ……? ここはどこなんだぜ……? まりさはたしか、まりさのおうちにふほうしんにゅうしてきたにんげんをぶっとばして……」 視界の端で草と泥だらけの湿った帽子が蠢く。 ようやくまりさが目を覚ましたようだ。 混濁する意識を呼びもどうと必死なのか、顔の皮を大きく振っている。 ぶるんぶるんっという効果音が聞こえそうだ。 そして意識がハッキリするにつれ、痛みも戻ってきたようである。 「ゆ?……ゆぎいぃぃぃぃぃぃぃいいい!? おもにがおが! ほっべがいだいのぜぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!?」 「……ゆ……? ま……りさ………? ………ゆぅぅ……なんかおくちがいたいような……っていぢゃぁぁぁぁぁぁあああああ!?」 まりさのたるんだ頬についた無数の小さな網目状切り傷。 殴られた時のような強烈な痛みは無いが、とにかく断続的に痛む。 痛みにじっとしていられなくなったのか、悲鳴に合わせて身体を震わせるまりさ。 その振動でありすも目覚めたようだ。 こちらはすぐに覚醒したようで、顔と口の痛みに悶絶し始める。 「ゆっぎゃぁぁぁぁぁああああ!? まりさのたまのおはだが!? かまきりさんとたたかったときもむきずだったれきせんのゆうしのあかしがぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」 「いぢゃいぃぃぃいいい!! いぢゃいわぁぁぁぁぁぁあああ! だずげでまりざぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」 自分でやっておいてなんだか、気持ち悪い光景だった。 草と泥と虫の死骸と、外のあらゆる物で汚れた身体……からさらにとめどなく粘っこい汁を出してうねうねと動く二匹の饅頭。 目は餡子で黒く血走り、血管のような物も浮いている。 そんなに痛いのか、口を大きく開けすぎて端が少し裂けている。 もしかしてこいつら、全身が人間でいう爪先みたいなものなのか? それなら痛みに敏感なのも頷ける。 どこかに身体をぶつける度にこの足みたいな痛みが走るなんて想像しただけで身震いする。 と、同時に自分の顔がにやついていくのもわかった。 「もうやだぁぁぁぁ! おうちかえるんだぜえぇぇぇぇぇえ!」 「おっとまりさストップだ」 「ゆ!?」 痛みに耐えかねたのか、水槽からジャンプして逃げようとしたまりさの前に俺は手を突き出した。 「にんげぇぇぇぇえええん!!! おまえのしわざかぁぁぁぁあああ! はやくまりざざまをだずげろぉぉぉぉおお!」 「いいから、横見てみ」 「ゆぎぎぎぎぎぎぎ! ……ゆ? 横?」 「……ゅ……ゅぴ……」 「ど、どぼじでおぢびがぼろぼろになってるんだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!?」 「あんまり動くと大事な子供がつぶれるぞ? ジャンプしようと力こめた瞬間押しちゃうぞ?」 「ゆっぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……!」 子ありすと遊び始めてからまりさが起きるまできっかり30分。 その間、休む暇も無く俺に尻を叩かれ続けた子ありす。 最初のうちは限られたスペース内で逃げようと必死になっていたが、しばらくすると叩いても反応すらしなくなった。 尻を打つ度にビクンッと反応はするので、痛みは継続しているようだが。 「ゆっがぁぁぁぁあああああ!!!! おばえはぜっだいゆるざないのぜぇぇぇぇぇえええ!!!」 「ふんっ!!!」 ボグゥッ! 「ごべびっ!?」 血相変えて叫ぶところまでは予想通りだったが、ここまで汚い唾が跳んでくるとは想定外だった。 思わず竹定規で縦殴りしてしまった。 中心からは少しずらしているので死んではないだろうが、痙攣してるな……。 竹定規はまりさの中心から少し右へずれた脳天へ直撃。 片目をぶちゅっと潰したところで止まった。 やりすぎた、とりあえずジュースはかけておこう。 「さて、次は加減を間違えないように……」 「ゆ……いだがっだのぜ………いっだいなにが…… [ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!!] ゆっぐぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!?」 意識を取り戻した瞬間、今度は横向きにして引っぱたく。 これなら潰れたりはしないだろう。横叩きなら子ありすの時にある程度の力加減は覚えている。 叩かれたまりさの右頬は赤を通り越して餡子が透けて薄黒くなっていた。 衝撃で左頬の切り傷から少量の餡子が飛び出したのも確認している。 「おいおい、あんまり動くなよ。 子供潰しちまうぞー?」 「ゆぐぅぅぅぅぅぅぅぅううう!! おぢびぃぃぃぃぃ! ばやぐどぐのぜぇぇぇぇぇええええ!」 この四方壁に囲まれた状況で子供相手に何言ってるんだこいつは。 俺は口汚く子供に「どけ」と言い続けるまりさの頬にさっきと同じくらいの一撃を打ち込む。 ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! 「ゆぎゃっ!?」 次は二発。 ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! 「ゆげっ! ゆっびぃぃぃぃぃ!!!?」 次は四発。連続打ちにも慣れてきた。 ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! 「ゆぼっゆごぇっっゆぎゃぼっっっゆっぎゃぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!?」 ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! 「………ゆ……ごぶぇ…………ぼ……ぼぅ………ゆるじでぐだざぃ………」 つい夢中で叩きまくっていたら、息も絶え絶えのまりさがえらく弱気になっていた。 それもそのはず、まりさの姿は蜂の大群に襲われたように歪な形状になっていた。 腫れているだけかと思ったがそうでは無いらしい。 なまじ皮が破けないように加減している為、逃げ場が無くなった餡子が叩かれる度に衝撃でめちゃくちゃに移動しているのだろう。 瞼も腫れぼったくなって前が見えているかも怪しい。 その証拠に俺が移動しても同じ場所に向かって謝っている。 「ばり………ざ……がわるがっだでず……ぼういだいの……やべで…………」 あらぬ方向へ謝り続けるまりさ。 そんな状態でも何気に子供を潰してないのは正直驚いた。 後で知ったが、ゆっくりは他のゆっくりが死んだ時に出る死臭とやらを非常に嫌うらしい。 子思いじゃ無さそうなこいつが子供を潰さなかった理由も多分それなんだろう。 定期的にオレンジジュースをポタポタと垂らして延命処置していたのもあるが。 「ゆっぐり………ゆっぐりじだぃぃぃぃ………………」 最早まりさは息も絶え絶えといった感じだ。 歯は残っていないし、舌もだらしなく出しっぱなしになっている。 自慢のおかざりやおさげも叩かれ続けでズタボロだというのにそれすら気にしない。 放っておけば5分持たず死ぬだろう。 だが、 「そうかそうか、ゆっくりしたいか。 ほれ、じゃあゆっくりさせてやるよ」 ドボドボビチャビチャ 「ゆっぐ、ゆっぐ、ゆっぐ……ゆぅぅぅぅぅ! なんだかげんきになってきたのぜぇぇぇぇぇ! まりささまのふっかつなのぜぇぇぇぇええ!!」 俺はまりさの上からオレンジジュースを飲ませつつかける。 案の定、まりさの腫れはあっという間に引いていった。 失った目や葉、おかざりやおさげの破損は戻らないが。 「よう、まりさ」 「ゆぁーん? まりささまにきやすくこえをかけるんじゃないのz [ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!!] ゆひぃぃぃぃい!!!!?」 先程まで誰に何されたのか忘れていたようなので、水槽の表面を叩いて思い出させてやる。 打撃音がトラウマになったのか、それを聞いただけでまりさは飛び上がって涙としーしーをまき散らして縮こまってしまった。 これでは面白くない。 そこで俺の目についたのはすっかり忘れていた端のありす。 「そういやこいつ、ずっと気絶しっぱなしだな」 そういて俺はゴム手袋をつけた左手でありすをの髪を束ねて掴み上げた。 何本かの髪がミチっと音を立てて抜け始めたところで、ようやくありすが目を覚ます。 そしてさっきと同様、すぐに大声でわめき始めた。 ミチミチミチ 「ゆ……? ありすは………? ……いぎゃああああぁぁぁぁぁぁああ!!!」 それにしてもとんでもなく喧しい。 まりさも相当うるさかったがそれ以上だ。 どうもこいつはまりさ以上の痛がりらしい。 すぐに気絶するのも納得できる。 となると力加減が今まで以上に重要になってくる。 下手すりゃショック死だ。 そう簡単に潰す訳にはいかない。 まだ処置していない右足の痛みが俺にあの瞬間に膨れ上がった痛み怒りを思い出させる。 「じゃあまずはある程度痛みに慣れてもらうかね」 俺はありすを水槽に落とすと、間髪入れずにその頬に狙いを定める。 「いだぁ!? あんよいだぃぃぃぃぃいいい!!!」 ベッシィィィィィィィィン!!! 「ゆぐべっ!? おがおいだぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!」 プラスチック定規に持ち替え、子ありすの時と同じくらいの強さでありすの頬を引っぱたく。 軽く叩いただけでやはりわめく。 まずはこれに何発耐えられるか試してみるか。 ベッシィィィィィィィィン!!! ベッシィィィィィィィィン!!! ベッシィィィィィィィィン!!! 「いぎゃっ!? ゆべしっ!!!! あぎゃぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」 「うおー……本当にうるさいなこいつ……スカっとはするけどさすがに耳痛いから黙ってもらうか」 耳がキンキンしだしたので、少しありすに静かにしてもらうべく、俺はオレンジジュースで延命処置していた子ありすをありすの口内に放り込んだ。 「ぁ………!? ……、………!」 案の定、まりさと違いありすの方は子供を大事にしているようで、口に入れられる寸前の子ありすの状態を見て何かを叫ぼうとした。 だがそれはかなわず、子ありすはありすの口内に。 これで少しでも喋ってしまえば瀕死の子ありすは潰れてしまう。 それどころか、不用意に口内を動かせば子ありすを飲み込んでしまうかもしれない。 ありすは血走った目から黒い血涙を流して俺を睨んだ。 ベッシィィィィィィィィン!!! 「…………っっっっ!!!!!!」 ベッシィィィィィィィィン!!! ベッシィィィィィィィィン!!! ピトッ ベッシィィィィィィィィィィィィィィィィン!!! 「…………! …………! ……っ! ………?…………………っゅぐぅぅっっ!!」 「……ゅ……ぴぃ………!」 「………………!?」 三発目と四発目の間にフェイントをいれたせいか、ついに声を上げてしまうありす。 その動きで一本の歯が子ありすに当たって傷つけてしまったようだ。 我が子のか細い悲鳴に再び身が竦む。 ぷるぷると小刻みに震えながら、ありすは来たるべき痛みに備えた。 これ以上、子ありすに苦痛を与えないようにというありすなりの覚悟なのだろう。 だが、 ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! 「……………!!!!!? あぎゃぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!?」 プチュ 「」 「いだぃ、いだぃぃぃぃ……! ゅ…? おちび、ちゃん……?」 いつもの痛みと思わせて、こっそり竹定規に持ち替えて力任せに脳天を引っぱたいた。再度響き渡るありすの悲鳴。 叩いた時の小気味よい音にかき消されたが、カチューシャは真ん中から真っ二つに折れてしまい、叩かれた頭の一部ラインは竹定規のように平らになっていた。 想像していたものとは比較にならないその痛みに、ありすの覚悟はあっさりと終焉を迎えた。 「おぢびぢゃん!? おぢびぢゃぁぁぁぁぁああん!!!? へんじじでぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!」 途端、ありすの目からは滝のように涙が流れ出す。 そして大きく痙攣したと思うと、今度は口からクリームを吐き出した。 野良だからだろうか、クリームは乳白色では無く、からしと牛乳がブレンドされたみたいな汚い斑模様になっている。 「ゆげぇぇぇぇ!!! ゆべろぼぇぇぇぇぇぇええ!!!!?」ビチャビチャビチャ 「とっとと、このままだと死んじまう」 ドボドボドボ 「ごぶっ!? ごぶぉぉっ! ぐべっ!? ぶぐぅぅぅぅぅぅぅぅうううっっ!!!!?……っご……ぶ………」 俺は慌ててオレンジジュースをかける。 ついでに吐かれたクリームをありすの口に戻した。 吐こうとするので、落ち着くまで口の上下を掴んで開かないようにする。 1分程待つと大きくゴキュンという音が聞こえたので、ようやく手を放すことができた。 と同時に、ありすは白目を剥いて三度気絶した。 まだ右足はジクジクと痛む。 気絶したありすの横で下を向いて震えるまりさを見た。 「お? 番があんな目に合ってるのに気絶してなかったのか?」ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! 「ゆひっ……! ひっ……!」 自分の掌を叩いて大げさな音を出す。 その度にまりさは大きく体を震わせ、勢いのなくなったしーしーをちょろちょろと垂れ流す。 「永遠にゆっくりしたフリしてりゃ良かったのに~」ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! やっぱり、顔がにやけてしまう。 どうやら新たな趣味に目覚めてしまったようだ。 「さあて」ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! 「ゆひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!?」 「もう一回戦いってみようか」 ッパァァァァァァァァァァアアアアアアアン!!! 「っゆっぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 ――1か月後 「ふー、今月の掃除も終わりっと」 1か月ぶりの部屋掃除は無事完了。 換気もしやすくなって、今まで以上に捗っている。 ゆっくりが寄ってこないだけでここまで難易度が下がるものかと思い知った。 「これもお前らのおかげだわなー。 感謝してるぞー」 「「………っ………っ!」」 あの日、人の部屋を汚した上に余計な痛みを追加してくれた饅頭二匹は、現在うちの窓辺でオブジェとして稼働中。 おかざりと髪は適当に毟ってわざと微妙に残してある。 この方が惨めさが際立つからだ。 この格好で逃げ出しはしないと思うが、念のため足も傷つけてあるので、万に一つも逃げられはしない。 その後、例によって全身の形が丸状を保てなくなるほど殴った後、水槽に入れて放置。 歯は全部抜き、舌も声が出せない長さまで切り取ってあるのでご近所にも迷惑をかけない。 「お前ら置いとくだけで野良ゆっくりは悲鳴あげて逃げてくし、大声あげて逃げるもんだからすぐに加工所呼んで処理してもらえるし」 昨今の加工所は儲かっているのか、駆除対象である野良ゆっくりを引き渡すとパンやお菓子などの食品と交換してくれるのである。 今日も掃除中に悲鳴が聞こえたので見に来れば、五匹の親子連れが悲鳴を上げたまま漏らして固まっていた。 その場で全匹足を傷つけて動けなくした後、加工所を呼んでパンと変えてもらったわけである。 「食費まで浮くとは思わなかったわー。 っと、そろそろ飯の時間だな。 待ってろよ」 「「………っ………」」 俺がそう言って立ち上がると、大して動かせない体を必死に捩って拒否の姿勢を取ろうとする。 その訴えはもちろん却下。 ゴム手袋を両手に装着し、うねうねと無駄な足掻きをするありすを抑える。 そして、歪な形状の額から生えた茎をたどり、生まれる寸前まで成長した実ゆっくりをもぎ取った。 「おー、今回は6匹も大きくなったぞ。 良かったな、飯が増えて」プチップチップチッ ガバッ ポトッ ポトッ ポトッ 「…………っっっっっ!?」 摘んだ実ゆっくりは相変わらず無駄な抵抗を続けるありすの口の中へ。 そう、このゆっくり除け、自給自足させることもできる。 ゆっくりは寄ってこなくなり、食費も浮き、ストレス解消もできて、何より金がかからない。 「正直もうゲームとかしばらくいらんなぁ……」プチップチップチッ ガバッ ポトッ ポトッ ポトッ 同じように頭を抑えて上を向かせたまりさの口にも落としていく。 二匹は唯一まともに動かせる目からとめどなく涙を流す。 栄養が足りてないのか、はたまたストレスか、最近は例の粘っこい汁も出なくなった。 ゴム手袋越しに触るときの不快感が薄れるので、個人的には助かる。 同時に思う。 このままだとこいつらそろそろ死ぬのでは?と。 「と、いうことで、次のお前らのガキのうち、二匹を二代目ゆっくり除けとして育ててやろう」 「「!!?」」 「活きがいいのを頼むぞ~」 「「……っ! ………っ!」」 無理やり口の上下を掴んでさっきの実ゆっくりを咀嚼させる。 まりさとありすは一層泣いた。 「ゆ? まりさ! このおうちはまどさんがあいてるよ!」 「でかしたのぜ、れいむ!」 その声にならない声が他のゆっくりを逆に惹きつけるのか、今日もまた野良ゆっくりが寄ってくる。 寄ってくるんじゃ、除けになってないって友人に言われた事もあるけど、 集まってきたゆっくりから「ゆっくり」を除去する訳だから、間違っては無いだろ? ==================================== 感想板、定期的に読ませてもらっています。 感想は励みに、批判は勉強になります。 ありがとうございます。 【過去作】 anko4408:まりちゃと草むらの森 anko4403:まりさと大きな石