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246 :1/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 35 08 ID ??? 「え……?」 ピジョットのその一言を聞いたゲラは、戸惑いの視線をこちらへ投げかける。 その視線に、私は確かに焦りを覚えた。 ……いくら普段は疎遠な弟はいえ、私の汚い部分を見せたくはない。 金の為に、人間様を売ったなどと……知られたくない。 そんなことを知られたら、余計に惨めな気持ちになってしまうじゃないか…… ……このピジョットが余計なことをぬかし始める前に、さっさとお金をもらいここを立ち去ろう。 そうだ。もう私にはそれ以外に道は残されていない。 迷っていては余計に惨めになるだけだ、こうなったら開き直ってしまえ……! 芽生え始めた三つ目の感情にも突き動かされ、私はすぐさまピジョットへとこう言った。 「ピジョット……さん。約束のものは? 持ってきたんですよね?」 手を差し出しながらそう言うと、ピジョットは嘴の端を歪めて笑みを浮かべ、こう言ってきた。 「まぁ、まぁ……そう急ぐな。確認ぐらいさせてくれないか。 ゲルくん…… 『人間は確かにこの都市にいるんだな』 ?」 「……!!」 ピジョットが発する容赦ないその言葉に、私は息を詰まらせる。 脇目でゲラを見やれば、その視線の困惑の色はより強まっている。 「は、はい……います、いますよ。ですから、約束のものを早く……!」 そう急かす私を焦らすように、ピジョットはゆっくりとこう言う。 「……どうした、一体何に焦っているんだ? 焦らずともワタシは逃げないよ」 「……!!」 だ か ら そういう問題じゃない!! お前が逃げてしまうことを恐れているんじゃあなくて、 この私が早くここを逃げたいんだっ!! ちくしょう、態度から判断しろよ、それくらい……!! ともすれば喉から捻り出てしまいそうな怒号を私はぐっと抑え―― ――それでも少し声が荒いでしまいながら、私は次の言葉を投げかけた。 「私は、時間が無いのです! ですから早く、早く、『約束のもの』……」 「 そ ん な も の は な い 」 247 :2/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 37 04 ID ??? 「えっ」 ピジョットのその言葉に私は耳を疑うが、 それに反し、その言葉の意味することを私は瞬時に理解する。 理解し、そして……時間が、凍りついた。 そんなものは無い……だって? そんなものは……無い…… 「……どうした、聞こえなかったか? 『キミにやるものは無い』と言ったのだ。 約束など反故だ、反故。『人間の存在をワタシに教えた』くらいで、 あんな『大金』をやれるか……ワタシは『魔王軍』だぞ? フフフ」 「あ……」 凍りついたワタシへと襲い掛かる、ピジョットの言葉。 まるでワタシの隣にいるゲラへと言い聞かせるように…… まるで私の心情を完全に見透かしているかのように…… 一片の容赦のない、吐露。 「え……あ、兄貴……!?」 そして、信じられないといった風なそのゲラの一言。 その二つの言葉が、凍りついた私の体を急激に溶解させていく。 「そ、それ以上……言わないでください……」 気が付けば、私は力なくそう搾り出していた。 ただし、ピジョットがその言葉に応じるわけもなく。 「常識的に考えてみたまえよ。確かに、ワタシたち魔王軍は人間を必要としているよ…… だがしかし、人間の存在を電話一つで教えてもらった程度で、誰が大金など出すものか」 嘲るようなピジョットの言葉。そのピジョットの表情は、嘲笑に満ちている。 「まさか、本当にあれだけの金がもらえると信じていたのか? 信じて期待していたのか? フフフ」 「う……ううぅっ……!!」 248 :3/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 38 28 ID ??? 「ちょっと、そこのキミ」 ピジョットは私からゲラへと視線を移し、そう呼びかける。 「!」 焦りが芽生える。ゲラへ何を言うつもりだ―― 「キミはこのユリル・ゲルの兄弟か何かかね? このゲルくんが何をしたか、 どんなに愚かしいことをしたか、せっかくだから懇切丁寧に教えてやろうか」 「なっ」 ピジョットは、信じられないことを言い始めた。ゲラに全てを言うだと? ――何で……何でそんな……っ!! 制止する間もなく、ピジョットは興奮したような声でゲラへ向かってこう言い始めた。 「このユリル・ゲルは大金欲しさに、何も知らぬ人間をワタシに売ったのだ! ワタシが魔王軍……あの魔王軍であるということを伝えたにも関わらずね」 「そ、そんな……」 ゲラの視線が、非難的な視線が、私を炙る。 ピジョットはそれにも構わず――むしろそれを楽しんでいるかのように、話を続ける。 「数十万ほどの金を見せ紳士的な態度をとれば、すぐさま協力的になってくれたよ。 血も涙もなく、慈悲も温情もない……そして何より、頭の出来が最高にお目出度いっ!」 ピジョットの言葉は、ねちねちと私の急所を的確に衝いていく。 そしてゲラは、眉尻を下げ口を半開きにしながら、その話を黙って聞いている。 一体ゲラは今、私に対してどれだけ失望しているのか…… ちくしょうピジョットめっ、黙れっ、黙れっ――! 「どう考えても、等価交換の体を為していないのにねェ! 考え方が甘ったれそのものだ! 自分に都合のよい現実だけは、一片の疑いも抱かずホイホイと受け入れる! ハハッ!!」 いかに心の中で叫ぼうが、ピジョットの口は止まらない。 私の精神を、プライドを、どん底へと導いていく陰険な言葉。 ……それは、罪悪感が何だの絶望が何だのと心内で後悔しておきながらも、 何だかんだで己に甘えきっていたという事を、はっきりと私に自覚させる言葉であり…… そしてそれを自覚していくと共に競り上がってきた感情は、どうしようもない怒り。 ピジョットへの怒り……!! 249 :4/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 42 04 ID ??? 「わ……私はっ!」 「ん?」 私の声に、ピジョットはこちらを振り向く。 「私はっ……人間様の存在をあなたに報告したことには変わりないじゃないか。 お金はもらえなくとも……ここまで卑下される筋合いは無いはずだァっ!!」 まだ嘲笑を浮かべたままのピジョットへ、私はそう訴えた。 そうだ。大金はともかく、立場的には私は有り難がられる側のはずなんだっ! 理不尽だっ。今この状況は、有り得ないほどに理不尽だっ!! 「……フフッ」 「!?」 なんとピジョットは、私のその訴えに再び笑みを漏らしたのだ。 「このワタシが、そんな礼節を弁えたモンスターに見えるか?」 「な、なにぃ……!?」 横暴でかつ理不尽な返答。それは、とても私の納得のいくものではない。 咄嗟に反論しようとすると、ピジョットは続けてこう言ってきた。 「そもそもキミに頼まなくとも、実際は部下に任せればよかったこと。 ワタシは、キミに対して有り難いとも何とも思っていないよ」 「え……!?」 私は、また耳を疑った。 こいつ、昨晩はいかにも『部下は使えない』といった風なことを言っていたはず。 ……嘘だったのか……!? 私を騙したのか……! そして同時に一つ、大きな疑問が浮かび上がる。 ……それなら一体、なぜ私を使ったのだ……!? 「じゃ、じゃあ何で、私を使ったんだ! 部下を使わずに私を使ったんだっ!! なぜ私を巻き込んだっ!! その理由は何だァっ!? 全く分からないっ!!」 浮かび上がった疑問を、すぐさま私はピジョットへと投げつけた。 ……一層深まるピジョットの笑み。その次の瞬間返ってきた答えは、こうだった。 「キミを見下すためだ」 250 :5/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 45 53 ID ??? 「な……なんだとォ……!?」 まったく理不尽極まる返答だった。こんな答えで誰が納得行くだろうか。 私を玩具か何かだと思っているのか、こいつは……!? 私の心中の怒りは、一層激しくなっていく。 そして、あたかもそれを煽るかのように、ピジョットはこう続ける。 「落胆、後悔、憤怒、羞恥……負の感情が複雑に絡み合ったキミのその表情が、ワタシを強くする。 ワタシが『高み』にいるのだという実感を与えさせてくれる……生きる上では、これが実に重要でね」 「なに……!?」 「他者を見下すことはワタシ達の最大の活力ッ!! そして遥か空に生きてきたワタシ達の習性さッ!! キミのそういうバカ丸出しな表情が、ワタシ達にとっては最高の『糧』なんだよっ!! ハハハハーッ!!」 「ぐ……ぐぐぐ……っ!!!」 狂ったように大声で笑い始めるピジョット。私を全力で見下すピジョット。 怒りに、悔しさに、羞恥心に、頭がぐちゃぐちゃに掻き回されていく。 ……このピジョットがあの時私の元へとやってきてから今までの、 私の悩みは……迷いは……期待は……行動は…… 全てが全て、この者に愉悦を与えるためだけのものに過ぎなかったのだ。 ……つまり、明るい未来を取るか、変化の無い未来を取るか、だの…… ……欲望と良心の狭間だの……幸せがなんだの、絶望がなんだの…… あれ、ぜんぶ完全な一人相撲で……思い込みに基づいた、完全な、一人、相撲でっ これじゃあ、本当に、本当に、本当に、私は単なるバカだったんじゃあないかアァっ!! 「フフッ……ハハハッ! どうしたどうした、そんな俯き気味では、よく顔が見えんぞ! もう少し顔を上げたらどうだ、キミたち虫けらは空を見上げるのが仕事だろう? なぁ そら、顔を見せたまえよ!! もォ~~~っとよォ~~~くゥ~~~見せたまえよォ~~~ン!!」 俯き歯を食いしばっている私の耳へと入ってくる、ピジョットの声。 その嬉しげな調子が、最高に耳障りだ。癇に障るどころの騒ぎではない。 いっそのこと舌を引っこ抜いて喉を潰してやりたい。そうだ、殺してやりたい、殺すっ、殺すっ、殺……!! 251 :6/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 47 29 ID ??? 「ピジョット貴様ァッ!! 黙ってれば調子に乗りやがってッ、ぶち殺してやるッ!!」 湧き上がる怒りによって、恐怖や建前などというものは消し飛んだ。 ピジョットが魔王軍であるというにも関わらず、ゲラの前だというのにも関わらず、 私はかつてないほどに声を荒げさせ、ピジョットへと暴言を投げつけていた。 「……おやおや、どうかしたのか? いきなり」 ピジョットは驚いたような様子も見せずに、虚仮にするような言葉を投げつける。 そのスカした顔と喉、ぐちゃぐちゃに潰してやる――ッ 怒りを、恨みを、感情を、強い視線と共にピジョットへと向ける。 ……念力は精神の力。私の怒りを全て念力に変え、こいつに味あわせてやる……!! 「……むっ? な、こ、これは……」 「な、なんだァ……!?」「あ、頭が……!」 数秒後、ピジョットとその部下達はすぐに異変を起こし始めた。 私の怒りが念力となり、奴らの脳みそに鈍痛を与えているのだ。 「そのまま頭痛で死ね、外道ども……ッ!!」 両の手をピジョットへらと向け、私はより力を込める。 もっと。もっとだ。もっと怒りを……奴らを、殺せ!! 「……やれやれ。まるで駄々っ子だな」 「!?」 ピジョットはまるで私の念力をものともしていないように 冷静にそう呟くと、ゆっくりとこちらへ歩み寄り始めた。 「だが、まぁ……そんな無様な姿も、ワタシの愉悦の一部であるのには変わりないがね」 ピジョットは一度溜め息をつくと、ゆっくりとその優雅な翼を大きく広げ始める。 「き……きさま、なにをするつもりだーッ!!」 怒りの中へと割り込んでくる不安と焦り。私は、より視線に念力を込める。 なぜだっ、あの部下どもは確かに頭痛で苦しんでいるのに、なぜこいつは……! ピジョットは、一度だけ力強く翼を扇いだ。 次の瞬間、猛烈な勢いの空気の壁が私を撥ね飛ばした。 252 :7/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 49 58 ID ??? 「がァっ!!」 空気の壁に押しやられ、私は遥か後方のジャングルジムへと叩きつけられた。 硬い鉄柱が背中と後頭部に強烈な衝撃を与え、私は地面へと崩れ落ちる。 痛みで、体に力が入らない。当たり所が悪かったか、意識が朦朧として眩暈がする。 ぼやけた視界の中、ピジョットがこちらへと歩み寄ってくるのが見える。 もう、念力を浴びせてやる余力は無い……結局、私はこいつを一つも苦しめられなかった。 「……ゲルくん。一つだけ、キミに教訓を与えてやろうか」 ピジョットは再び笑みを浮かべると、こう言い放った。 「世の中、理不尽なくらいで丁度いいものだ」 「坊やっ子は誰だって、痛みや理不尽さを知って成長するものさ…… キミにとって、この出来事はよい薬になったはずだ。よい教訓になったはずだ」 あまりに勝手な発言。だが、もはや何も言い返す気力が起きない。 「ワタシのせめてもの慈悲だ……キミはこのまましばらく眠っていたまえ。 そして今後はこの教訓を活かし、理想の未来を目指し頑張ってくれ……フフフ」 背中を向けるピジョット。それと同時に、私の視界は徐々に暗転していく。 ……薄れ、消え行く視界。 それまで怒りの対象だったピジョットが見えなくなっていくと共に、 私の怒りは、次第に私自身へと向けられていく。 ……私は、子供の頃からちぃっとも変わっていない…… いつかは幸せが転がり込んでくるのだと、知らぬ所で根拠も無く信じ込んでしまっていた。 だからピジョットがやってきた時に私は、心の奥底で『その時が来た』のだと判断し、 根本的に疑うことはしようとはせずに、アッサリと信じ込んだ……甘んじてしまった。 そうだ。今回の事態は、そんな私の常識知らずの甘えが導いた結果なのだ…… ……ようやく、ツケが来たということなのだ。『お坊ちゃま』で居続けていたツケが…… ……はは……もう、後悔しても……遅いやァ…… ――強烈な自己嫌悪と共に、私の意識は闇へと落ちていった。 253 :8/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 52 22 ID ??? ゲル兄貴は、今まで私があまり見たことのない怒りを露わにした姿を晒したが、 魔王軍のあの鳥(確かピジョットとか言ってたな)の一煽ぎによって、一瞬にして鉄柱へと叩きつけられた。 そして兄貴は今、鉄柱へ背を預けたまま項垂れている。気絶してしまったのだろう。 ……ゲル兄貴…… ――当然の報いだっ 魔王軍が犯罪集団であるということは、いかに頭の悪いあの兄貴でも知らないはずは無い。 その上であのゲル兄貴は、何も知らぬ人間様を魔王軍へと売ったのだ。 ただ、金に目が眩んだという理由のみで。 ……至極当然の報いだっ。至極当然の結果だっ。 仕事もせず苦労もせずニート一筋の兄貴が、そう楽して金を手に出来るはずが無い…… 最終的に痛い目を見るのは当然だ。 気絶してしまった兄貴を見ても、私は可哀相などとは一片も思わない。 あるのは、『ついに落ちる所まで落ちたな』という達観とした感情のみ。 私は、絶対にあのゲル兄貴のようにはならないぞ。 そう、あいつのような悪人には……!! 「ところで、キミ」 「!」 不意に耳に入ってきたあのピジョットの声に、私は心臓を跳ねさせる。 そしてそのピジョットの視線は、明らかに私へと向けられていた。 「わ……私のことを呼んだんですか」 「そうだ」 返事と共にこちらへ歩み寄ってくるピジョット。 ……しまった。逃げ遅れたか……? 一テンポ遅れて、己も危機に晒されているのだということを自覚する。 そして私の目の前に立ったピジョットは、私へとこう問いかけた。 「人間の居場所を知っているかね?」 254 :9/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 54 28 ID ??? 「実は、今から人間を迎えに行く所でね。あのゲルくんの報告によって 人間がこの都市にいることまでは分かっているのだが…… 肝心の詳細な居場所までは分かっていないのだ。教えてくれないか?」 「…………」 ……まるで、先ほど心中で唱えた誓いを試されているかのようだ。 私は、私だけは、人間様の詳細な居場所を知っている。 だが無論、こんなヤツにそれを教えるわけには行かない。 魔王軍は犯罪集団だ。言うまでもなく悪者だ。 こんなヤツに人間の居場所を教えては、私の善人してのプライドはバラバラに崩れ去る。 私の生き方においては断固として許されざる、バリバリの悪行。 誰が教えるかよ。あーん……? 「ひ……ひ……っ」 わざと、そしてなおかつ自然に息を乱れさせ、顎を震わせる。 あたかも心底恐怖しているかのように。心底怯えているように。 そして私は、ピジョットへと懇願するようにこう訴えた。 「し……知っていたら教えますよォーー! で、でも私は、そんなこと知らないし…… あ、あのっ、その、本当なんですよぅ! だ、だから命はっ、命だけはァっ!」 手をつき、涙で目を滲ませ、繰り返し「見逃してください」と懇願する私。 私はさも『生きるためなら何でもする』といった風な男を、ピジョットの前で演じてみせる。 私の今演じている人物像なら……知っている情報を教えないということは絶対に有り得ない。 人間様をわざわざ庇う必要などありゃしないのだから、それは全く意味のない事である。 ……このピジョットは私の本当の性格なんてこれっぽっちも知らないのだから、そのことを疑う余地は無いはずだ。 ……完璧だ。完璧な演技……完璧な虚構……完璧な欺瞞…… 尿意があらば、わざとオシッコ漏らしてやってもいいな。 ……必要ないな。今の時点でも、こんな鳥頭に私の演技が見切れるものか……! 「キミは、何をしているんだ?」 255 :10/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 55 54 ID ??? 「えっ」 ピジョットが口にしたその不自然な言葉に、私は呆気に取られた。 ……今、こいつ何と…… その言葉の意図を探ろうとすると、ピジョットは続けてこう言い放った。 「ワタシは、『命乞いしろ』とは一言も言っていないぞ。 ……ワタシは、『人間の居場所を教えろ』と言っているのだ」 ……なにぃ……!? 信じられない言葉に、私は驚愕する。 こいつ、私の言ったことをちゃんと聞いていなかったのか? それとも、私の言うことをちゃんと理解していないのか、この鳥頭はっ それとも―― 三つ目の推測は、ピジョット自身の口から語られた。 「ワタシのように高みにいる者は、虫けらの習性は全て分かりきっているものだ。 キミのそれは『演技』だな。なぜ隠すかは分からんが、キミは人間の居場所を知っている」 何――っ!! なんと、私の演技が見破られていたのだ。 いや、これはただの推測かもしれない。私をカマにかけようとしているだけなのかも…… 「え、演技なんてっ!! 何を言ってるんですか、私は人間様の居場所なんて……」 「何をうろたえているんだ? 別にキミ自身が損するわけでもないはずなのに、なぜそう頑なに隠し通す?」 「ぐっ……!」 こ……こいつっ! もはや私が嘘をついているということを前提に語っているっ! 己の考えに、己の推測に、一切の疑いを持っていないっ! そう信じ込む根拠は一体どこにあるんだ、一体何なんだコイツは……! くそう。なぜ、なぜ私がこんな目に……! 256 :11/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 58 08 ID ??? 「……言わぬというのなら」 ピジョットはふと、勢いよく息を吸い込み始めた。 張り出したピジョットの胸の筋肉が、更に膨張していく。 「……!?」 その意図の分からぬ動作に、私は焦りを覚える。何をするつもりだっ ……次の瞬間。 「うがっ!!」 一瞬のち肩へと激痛が走り、私は呻き声を上げた。 気がつけば、焼けつくような痛みが肩口に張り付いている。 そこに心臓があるかのように、肩に熱い脈動が走っている。 「な、なんだァ……!?」 肩に目をやると、まるで銃弾にでも撃たれたかののような穴が一つ開いている。 貫通はしていないみたいだが、傷口の中に異物感も感じない。 こ、こいつ……何をしたんだ……!? 胸を満たし始める不安と恐怖。 そしてそれを助長させるかのように、ピジョットはこう言い放った。 「言わぬというのなら、もう一度キミの体を貫いてやろう。次はどこがいい? また肩ではつまらないだろう……次は腕か? 手か? 腿か? 脇腹か? まぁ、いずれにせよキミが口を割らぬなら、順番など関係はなくなるがな。フフ、フッフフフ」 「ひっ……」 今度は、決して演技などではなく…… 純粋な感情のままに、私は小さく悲鳴を漏らした。 自然に乱れる息。自然と震える顎。自然と滲み出てくる涙。 肩口に確かに存在する痛み。激痛。そこだけ熱湯にでも浸っているかのような熱さ。 捻じ曲がっていく背景。ぼやけていく視界。消えてゆく現実感。 258 :12/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 20 02 44 ID ??? 「今ならまだ遅くないよ。キミの体に面倒くさい傷が増えていく前に、さっさと居場所を漏らすんだ。 サァ、早く。早く、早く、早く。今ならまだ遅くはない、いィ~~~まァ~~~なァ~~~らァ~~~」 追い詰めるようなピジョットの言葉。 ピジョット。ヤツは魔王軍、モンスターぐらい躊躇い無く殺す犯罪集団 人間様の居場所。誰が、誰が、誰が、誰が誰が誰が教えるか、そんなこと 私は私は善人だぞォ! このプライドに傷がつくぐらいなら体に傷がつくぐらいどうってことは 「聞き分けの悪い子だな」 そう呟くピジョットは、また大きく息を吸い込み始める。 「まぁ、例え最悪殺してしまったとしても……ワタシには構わん話だがね。フッフ フ フ」 耳を疑う。信じられない言葉。あってはならない現実。 最悪殺してしまったとしても? 何を言ってるんだこいつは、死ぬ? 殺す? そんな、横暴な 「や、やめろォォ!!! やめてください、やめてェェ!!!」 「やめて欲しいのなら人間の居場所を言うことだな。言わなかったら続ける、ただそれだけのこと」 「な……な……な……」 言えるかボケ、言えるわけねえだろカス、言ったら私は悪人になっちまうんだぞぉぉォ!! あの愚か者のゲル兄貴と同類になっちまう、私の善人像が消え去る、崩れ去る、朽ち果てる 私は善人なんだ……言えるか、言えるわけがない、言いたくない、言わない、 私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ! 私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ! 積み重ねてきたんだこれまで、私が善人である所以、それを積み重ねて来たんだ だから言わない 言わない 言わない絶対言わない、言わない言わない言わ…… 言わなかったら? 言わなかったら、私は……死ぬ? 死んだら全部ムダになる、 これまでの全てがムダになる、しかも痛い、最高に痛い、とても痛い、 言ったら崩れるっ!! 言わなかったら痛いっ!! 崩れる、痛い、崩れる、痛い、痛い、崩れる、痛い、痛い、崩れる痛い痛い痛い痛い痛いいいィいィいィィいィ 「に、人間様はッ!! コサイン川沿いの屋敷ッ、マジシャンバリヤードの屋敷にッ!! 今はそのご子息マネネの住む屋敷に、居ますッ! 居るはずですうううッ!!!」 259 :13/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 20 08 13 ID ??? 「あ……」 叫び終えた瞬間、人間様の居場所を完全に吐露し終わった瞬間、私は我に返った。 「……フフ、情報提供感謝するよ」 ピジョットはそれだけ言うと、さっと身を翻す。 そして何やら、部下であろう周りの小鳥達に指示をしていたと思うと、 一斉に大きく翼を広げ、再び空へと飛び立っていった。 再び影となってゆく鳥達。魔王軍。 止めようも無く、影の群れはぐんぐん私の視界から遠ざかっていく。 あの影達は、私の漏らした情報を元に人間様の元へと向かうのだろう。 人間様はおそらく魔王軍に捕まり、そして人間様の取り巻きであるあの二人も、 屋敷に居るであろうマネネ坊やも、そのお手伝いも、全員が犠牲になるのかもしれない。 全ては、私の一言のせいで。 そう、私は魔王軍に情報提供をしてしまったのだ。『加担』してしまったのだ。 自己弁護のしようが見つからない。 私は恐怖に負けた。痛みに負けた。負けて、あっさり従ってしまった。 結局私は、弱かった。目先の苦痛に負けてしまうような、弱い善人だった。 ……いや、元々私は善人でもなんでも無かったのかもしれない。 ただ善人ぶっていただけ…… 自分が善人なのだと意識し思い込んで、全ての行動を無理やり善行へとこじつけて、 ……責任を取ろうとしていなかっただけ……甘えていただけなのかもしれない。 ……考えてみれば、こんな事態を招いたのも全て私のせいだと言える。 私が人間様の存在を広く知らしめなければ……ゲル兄貴に教えなければ…… そもそもこんな事態にはならなかったのだ。なるはずがなかったのだ。 ……全て……私のせい…… 崩れ去ったプライドの中から現れる、膨大な自己嫌悪。 私はもはや、そのまま動くことが出来なかった。 つづく
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「もし……今後、他の女の子に一切ハレンチなことしないって約束するなら……わ……私……私なら…………」 上擦った声で訥々と告げる唯は、顔を赤らめながら彼女の上に覆い被さっているリトをじっと見つめている。 唯が素肌に纏うのはワイシャツ一枚のみで、ベッドシーツの上に長い黒髪が無造作に広がっていた。胸元も太もももあらわになっている唯の言葉に、モモはベランダで一人目を輝かせた。 (かかっ完全に火が点いちゃってるじゃないですかぁ――!!) まさかあのストイックな唯がそんなことを口にするなんて――モモはうっとりとした表情を浮かべながら、勝負をかけている唯に心の中からエールを送る。 (勇気を出して! あと一歩です!! あなたの全てを! リトさんの前でさらけ出すんですよ~~~っ!!) 口角から涎をこぼして頬を赤くしながら、モモは唯とリトの動向をひそかに見守る。 「こ……古手川…………」 女の子を押し倒している形のリトは、唯の言葉になかなか体勢を戻すことが出来ないでいた。 さもありなん、いつもきりっとした伝法肌の唯の口からこんな言葉が出れば、日頃の彼女を知っている人なら動揺するなという方が無茶な話だ。 このままいい雰囲気に発展すれば、とモモの脳内ではピンク色の妄想が飛び交っていた。モモの姦計に陥っているとはしずくも知らないリトと唯は、ただじっと目を合わせていた。 リトの視線はおのずとシャツを押し上げる形のいい膨らみにいっていた。突き出た胸は下着を着けていないから横に流れているはずだが、それでもモモのとは比べるまでもない大きさだ。 男の子なんだしやっぱり大きい方がいいのだろうし、モモのまだ豊満とはいえないバストにも初心な反応を見せてくれるリトだが、なんだかちょっと面白くなく下唇を突き出す。 シャツの裾からすらりと伸びる脚は、程よく肉がついていて女性の柔らかさがうかがえる。裸にワイシャツという身なりはまさに鬼に金棒だ。 「……何をされても…………構わないわ」 ぽつりと呟くように言うと、唯はリトの首に回していた手を無造作に投げ出し横を向いて目を閉じた。その仕草の毒気にあてられたのか、リトは顔を紅潮させて喉を上下させた。 (ああ、リトさんのあの目…………) 二人のやり取りを見ているだけで、モモの心臓の鼓動が徐々に速まっていく。唯の持つ毒は相当に強かったものらしく、リトの理性を麻痺させるには充分な役割を果たした。 リトはベッドに突いていた右手をそろそろと持ち上げて、シャツの上から豊かな盛り上がりをそっと撫でた。 「……ん」 唯は一瞬眉根を寄せたが、すぐに何でもないといった表情を浮かべた。 リトの手の動きによって唯の胸はころころと形を変える。その変化にリトの手つきにも次第に熱が入っていく。手のひらに収めるように胸を寄せたりして、ぷるぷるとした動きを楽しんでいる。 モモはリトの手の動きを真似て自分の胸を弄る。なるだけリトの動きに合わせながら、あたかも唯が自分であるかのようにリトを感じようとしていた。 「ゆ、結城君……胸が好きなの?」 薄目を開けてリトを見やった。訊ねられたリトは慌てて口を開く。 「べ、別にそんなこと…………なくも……ないけど」 口ごもりながら煮え切らない返答をするリトに、唯が片眉を上げていつもの調子で切り返す。 「どっちよ……はっきりしなさいよ」 「う……す、好きだよ」 「そ、そう」 自分から訊ねておきながらリトの返答に鼻白むというのは、なんだかちぐはぐだが面白い掛け合いだった。 唯は無自覚に男の子をその気にさせる言動をしてしまう。いつものいなせな態度とのギャップが男心をくすぐるというのはモモにも分かっていたことだし、むしろそれを自然体でやってることを羨んでさえもいた。 リトはシャツの上から触るばかりで、モモはそんな奥手さにじれったい思いをしていた。 (リトさん……!! 今こそ狼になるべき時ですっ!) 強く念じたのが伝わったのか、リトはシャツを少し横にずらして唯の鎖骨をなぞり始めた。左肩が剥き出しになり、しかし胸だけは器用にも隠れているという少年誌みたいな格好だ。 「……ん、ふ」 「こ、古手川……触っても、いい……か?」 「ふ……ふん…………好きに、しなさいよ」 唯はつっけんどんにリトに采配を託す。リトは喉を動かして、シャツと素肌の間から胸元に手を潜り込ませた。直にリトの手を感じたのか、唯は僅かに身を強張らせた。 (ああ……いいですよリトさん) 対してモモは自らのブラウスの中に手を突っ込んで胸に触れ、空いている手の指を口元に当てて二人の行為に見惚れていた。身体はこれ以上となく火照っていて、ますます二人の行く末に身を焦がされる。 リトがもぞもぞと手を動かすたびに、下で寝ている唯の身体がぴくりと細やかな動きを見せる。リトは気付いていないが、唯の脚がときおり閉じたり開いたりしていた。 「……ぁ……ぅ」 唯のかすかに開いた口から漏れ出る甘い声にリトが興奮しているのが窓越しにも分かった。手つきは荒くなり、心なしか胸も大きく上下している。唯はと言えばシーツを掴んだりしていた。 リトがさらにワイシャツを下げると形のいい胸があらわになり、たちまち唯の顔が真っ赤に染まった。咄嗟に唯は胸元を隠してしまい、リトを困惑させた。 「古手川……すまん、ちょっと調子に乗り過ぎた」 「あ……いや…………これは…………」 おろおろと目を泳がせながら唯が言い淀む。シャツを押さえて沈黙に身を任せている唯は、さながら禁断の愛に走ってしまうことに対して罪悪感のようなものを覚えている無垢で純情な少女だった。 しばらくすると唯は覚悟を決めたのか屹然と目を上げて、首に手を回してリトを引き寄せた。あっ、とモモが思った時には二人の唇は互いのそれで塞がれていた。 思わずこっちまでドキッとなってしまうくらい、そのキスはモモの瞳に素晴らしいものに映った。すぐに唯は唇を離してぼふっとベッドに頭を落としたが、キスの間は何十分のように濃厚だった。 「わ……わかるでしょ」 少々の苛立ちを含ませて唯がぼそっと言った。 「…………いや、わからないんだけど」 リトは言外の意味を悟ることなく、手で頭の後ろを掻くばかりだ。 (リトさん……あなたって人はっ!!) 焦れる唯は、もう一度リトの唇をついばんだ。さっと唯が唇を離すと、熱っぽい瞳でリトを見上げる。 「……も、もっと…………触って?」 同性のモモから見ても、小首を傾げてお願いする唯の姿にアブナイ欲が掻き立てられてしまうのだから、男のリトなんかはイチコロだった。弾かれたように、シャツの中で手が暴れ出す。 「っあ――……」 「はあ、はあ…………古手川…………」 リトは夢中になって唯の胸を弄った。鎖骨や耳を舐めたりもして、モモは自分がそうされないことに嫉妬を覚えた。自分の胸を揉みながら、モモはリトに身体を舐められているという夢想に耽った。 唯が無意識に脚を上げると、太ももがリトの股間に触れたのが分かった。リトは慌てて腰を引いて気まずそうに股間を押さえている。 「な……な……な…………」 「ちがっ……これは…………」 鯉のように口をパクパクさせて、唯が言葉を継げないでいた。 「し、仕方ないだろ…………」リトは言い訳がましく口を尖らせている。「それに…………古手川は、どうなんだよ?」 「え、わ……私!?」 突如、リトはいきなり左手を唯の股間に滑り込ませた。 (ああ、リトさんそんないきなり……) モモは二人の動作一つ一つに興奮しながら、自分もまた股間に手をやっていた。下着越しでも分かるくらいにモモは濡れていて、触れただけで心地よい刺激が背中を走り抜ける。 「古手川だって……濡れてるじゃないか」 「い、言わないでっ……!!」唯はわなわなと肩を震わせながら、恥ずかしげにリトの股間を一瞥した。「結城君だって……その、ハ、ハレンチな…………」 その後が続かない。気まずい空気を破ったのはリトだった。 リトは身体を少し引き、身を屈めて唯の股間に顔を埋めた。 「結城君!? あなたなにやってるの……!?」 リトはそれには応えなかったが、ついで唯の嬌声が上がったのを聞いて何をされているのかを悟ったようだ。 唯は下着を着けていないから、直接性器を舐められていることになる。リトの舌が割れ目をなぞってクリトリスをせせる様に、モモは異様な興奮を覚えていた。 下着はもうぐちょぐちょで、指を入れて弄るとどんどん液が溢れてくる。 (リトさんっ……そんな、とこ……あッ!) 「結城君……いやっ…………そんな、とこッ――!」 唯はリトの顔を押し退けようとするが、太ももをがっちり掴まれているため離れない。反抗しようとする唯だが、あまりにも刺激が強いのか脚がぴんと張って腰が浮いてしまっている。 犬のようにリトは股間を舐め上げていて、そのたびに唯は身体を震わせて喘いでいる。はたから見れば、感じているようにしか見えなかった。 「ゆっ――結城君…………っあん」 「――古手川、気持ちいい?」 「……え? わ、わからないわよ…………そんなこと…………」 リトは顔を離すと、今度は指で唯の膣を弄り始めた。 「古手川……でも、さっきより濡れてる」 「だ、だから言わないでって……」 リトの腕が前に動いたかと思うと、唯の腰がはっきりと分かるほど浮き上がった。突っ張った脚がぷるぷると震えていて、声も上げられない様子だ。 「……動かすよ」 唯が否定する前に、リトは指をやんわりと動かし始める。脚を大きく開いている唯は、閉じることもままならないままにリトの与えてくる刺激に身を流されていた。 「あああっ……な、何これ……!?」唯は自分の頭に手をやって、頭痛でもするみたいに抱えていた。「……お、おかしくなっちゃう……」 唯の甘い声にリトは手の動きを激しくしていく。モモの指も過激な動きを見せ、音を立てんばかりに自慰に精を出していた。 (ふあ……リトさんの…………指…………んっ、はあ) リトの指が唯のを突いたり、押し上げたりすると、唯は顔を顰めて呻き声を上げていた。身を捩って快感に抗っている姿は欲情を掻き立てられること請け合いだ。 長いことリトが膣を指で責めていると、唯の身体が間欠的に震え始めた。リトがひときわ大きく責め立てると、震えが痙攣に変わってあっという間に全身に広がった。 「あっ――――~~~~~~!!」 唯の身体が弓のようにしなって、顎がつんと上を向いたまま身体を幾度か震わせた。どうやら軽くイったらしかった。 と同時に、モモの股間も熱い液体が滴っていた。手にべっとりと液体が付着して、ぬらぬらと汚している。 リトが指を引き抜くと、汚れをふき取るように舐め取った。 「……やあ…………舐めないで…………汚いから」 「汚いもんか……古手川のなんだし」 舐め終えると、リトはにこりと微笑んで汚れていない方の手で唯の頭を撫でた。 「ごめんな、断りもせずに……夢中になっちゃって」 「べ、別にいいわよ…………」 唯は照れ隠しなのか、いつものように裏のある言葉を放った。リトはそんな古手川節に安堵したのか、また魅力的な笑みをこぼした。 「……ねえ、私だけ?」唯がリトを横目で見てぼそっと言う。「私だけ、こんな恰好なの?」 唯の裸ワイシャツとは打って変わって、リトの恰好はラフとはいえきちんとした上下物だった。 「わ、悪い……」 リトは謝ると上の服をそそくさと脱ぎ、ズボンに手をかけてピタッと静止した。 「それも!」 「は……はい」 観念してリトはズボンもおずおずと脱いだ。モモからも分かるほどリトの股間は立派にそそり立っていて、トランクスの先が唯の方を向いている。 唯は四つん這いになると、まじまじとテントを張ったリトの股間を見つめた。 「ハレンチね…………」 「う……」 「これも脱ぎなさいよ…………私だって…………は、穿いてないんだから…………」 唇を突き出してそっぽを向く唯に抗えずに、リトはトランクスも脚から引き抜いた。あらわになった男性器を唯は視界の端に収めるだけで、まだ直視できていない。 モモは食いつくようにリトのものを熱い眼差しで見ていて、どんどん股間が疼いていくのを感じていた。気が付いたら、デダイヤルで男性器を模したバイブレーターを取り出していたくらいだ。 「さ……触っても、いい?」 「え、あ、ああ…………」 唯は断りを入れると、手を伸ばしてペニスに触れた。きっと触れた時にぴくっとなったのだろう、唯は目を瞠って咄嗟に手を離してしまった。しかしそれも束の間で、今度は掴むようにぎゅっと握った。 「……こんな風に、なってるんだ…………」 息を荒くして唯はペニスを観察している。すると唯はいきなりリトのものを舌で舐めた。 「こ……古手川!?」 「……あなただって、さっき私の…………舐めたじゃない…………だから、仕返しよ」 言うが早いか、唯はペニスの先っぽをチロチロを舐め始める。 (ああ……あの人が、あんなハレンチなことを……!!) 矢も盾もたまらずに、モモもバイブを口に含んで舐め出した。リトに奉仕しているつもりで、丹念に裏筋を刺激しながら口の中を行き来させる。そうこうしているうちに膣がひくひくしてくる。 「ねえ結城君……今後、他の女の子にハレンチなことしないわよね?」 「……あ、ああ、もちろんだ」 「も、もしハレンチなことしたくなったら…………」つっかえながら唯が口を開いていく。「わ、私に……して、いいから…………べ、別に結城君のためじゃないんだからね……」 おもむろに、唯がリトのペニスを口に含んだ。当事者のリトはもちろんのこと、モモでさえも唯の敢行には度肝を抜かれた。フェラチオを知っているとは、そしてするとは思ってもみなかったからだ。 「古手川っ――さすがにこれはまずいッ!!」 リトの動転して上擦った声にも、唯は耳を貸さなかった。身体ごと揺すってリトのペニスを扱く唯に、モモは性的な衝動を感じて自らもバイブを頬張る。 唯の献身的な口での愛撫に堪らないのか、リトは身体を仰け反らせて呻き声を上げている。あのお堅い風紀委員の唯が、およそもっともハレンチな行為に及んでいるというだけでも、相当な刺激だろう。 モモでさえ振起していたほどだ。 唯は手も使ってリトのペニスを扱きながら、口と舌で愛撫していく。どこで覚えたのかは知らないが、男を悦ばせるという点では間然するところがなかった。 リトはいまや骨の髄まで唯に首ったけだ。口元を涎でべとべとにしても唯は汲々と奉仕に耽っている。ときおりリトの顔色をうかがうためにする上目遣いが、何とも言えない。 モモのバイブを舐る舌も気乗りがして、ますます淫蕩な姿になっていく。見境なく奥までバイブを咥え込んで舌で激しく味わう様は、色情狂もかくやという乱れっぷりだ。 いっそう奥までリトのペニスを口に含むと、唯は舌で裏筋を舐めたり全体を吸い上げたりと、変化に富んだモーションを見せる。 唯はペニスを口から吐き出すと、べっとりと濡れた口元を拭うことなく喘ぎ交じりにリトに訊いた。 「はあはあはあっ――結城君……気持ち、いい…………?」 悩ましげな表情で見上げる唯の頬は上気していて艶めかしいことこの上なかった。リトは生唾を飲み込んで「あ、ああ」とどうにか応えた。したらば、唯は嫣然と微笑んだ。 「そう、なら……よかった」 その瞬間、リトの全身を情火の手が回った。 リトはすかさず唯の背後に周ると、腰に手を回してがっちりと固定した。 「ゆ、結城君……?」 唯は首を回してリトを見やったが、目は合わなかった。唯は防衛本能からシーツに手を突いてにじり逃れようとするのだが、リトの手は牢として払い難く引き摺られるばかりだ。 傍から見れば、ちょうどいたい気な少女が無理やりに姦通させられるようだった。 リトはペニスの先端を膣口に宛がうと、躊躇いつつゆっくりと沈めていった。 「――ッ…………!!」 初めての感覚によるものか、唯は逃げることを忘れてシーツを力一杯に手繰り寄せて眉根を寄せた。心身ともに構え、来るべく破瓜に備えているらしい。 モモはバイブを口から抜き取った。ペニスの形を模したゴム質の竿は、唾液でべっとり濡れていた。それを膣に宛がうと、物欲しげに涎を垂らし始めた。まさにパブロフの犬だ。 恥も外聞も忘れてモモは一気にバイブを押し入れた。きゅうっと膣壁が収縮して、一ミリの隙間もなくバイブを締め付けた。手に取るように形が分かり、神経を集中させて全身で感じた。 リトは今まさに唯に己の滾りを突き入れん状況だった。 唯は鈍痛で声にならない声を漏らしながら、胴震いして必死に辛抱していた。 「……ッ――――――」 「古手川…………あと少し、我慢してくれ」 そしてついに、リトの分身が唯の中にすっぽりと収まった。しばらくリトも唯も身じろぎ一つ出来なかったが、やがて唯が肩越しにリトを振り返ると、恥ずかしげな表情で言った。 「……初めてが後ろからじゃ…………結城君の顔が、見れないじゃないの」 目尻に涙を浮かべてそんなことをのたまう唯に、リトのペニスが一段と猛々しさをいや増した。リトはひとたび腰を引くや否や、強く唯の尻に打ち付けた。 「ああああッ――――…………っ!!」 唯の艶っぽい声が大きく響くと、リトの理性のダムも決壊寸前だった。 普段から気丈な振る舞いを見せて風紀を第一に考える唯が、これまでの行為だけでこうも妄りがましくなるのに、リトの興奮の針は振り切ってしまいそうだった。 リトは一心不乱にペニスを突き入れて、唯に嬌声を上げさせるためにリズムや突く位置などを度々変えて試していった。破瓜の痛みも潮のように引いていったのか、唯も少しずつ甘い声を漏らし始めていた。 ペニスが奥に入るたびに、唯は髪を振り乱しながらくぐもった声を漏らした。涙ぐましく声を押し殺そうとする唯の姿に、リトの――男の生来の嗜虐心が首をもたげた。 唯の片腕を取ると、勢い良く引っ張りつつ押し付けるように腰を打ち当てた。その衝撃が凄まじいものだったのか、 「――うああああッ…………!?」 驚きの叫び声が室内を揺るがせた。あまりの声音に、リトもモモも動きをピタッと止めてしまう。 「……古手川?」 「……あ…………あぁ…………」 唯は一気に力が抜けたのか、蹲るように自らの腕を枕のようにして突っ伏している。下半身はぶるぶると震えていて、モモは絶頂を迎えたのだと瞬時に察した。 モモがそう感じているように、ある一点を超えると女性は男性よりも性に正直になってしまう。これはもう恥じらいとかがどうでもよくなる類の衝動だ。 唯が腰をグラインドさせていることに驚きを隠せないリトだった。 「……あ…………結城…………君…………結城君…………っ」 さめざめとすすり泣きながら、唯がペニスを膣で扱いていく。その興奮たるや、真面目一筋の唯がフェラチオをした以上の快感をリトにもたらした。 リトは唯の片足を抱え込むように持ち上げながら、唯の身体を横に向けたままペニスを深く刺し込んだ。 「アッ――――…………」 ペニスの当たる位置が変わったからか、唯の上げる声の質も変化した気がした。 ふたたび刺し入れると、唯が口角から涎をこぼしながら快楽に淫しているのが分かる。眉根を寄せているし、ちらほらと歯を食いしばっているのも見受けられるが、同性のモモにはそれがはっきりと伝わってきた。 ペニスやバイブで奥を突かれると、とてもじゃないが手放しに笑っていられないほどの衝撃が身を襲うのだ。それは頭の中が吹っ飛んでしまうくらいのもので、ゆえに自然と堪えるような表情になってしまう。 唯もその口で、ましてや初体験なのだから笑えという方が無理な要求だ。 唯が半ばベッドからずり落ちていながらも、リトは取りも直さずにひたすらペニスを抜き差しするのに忙しない。 突くたびに二人がにじり進んでいくのだから、どうしても唯の方が先にベッドから落ちてしまう。リトは縁に腰掛けて、背面座位で唯を自身の股座に座らせた。 抱き締めるようにして、唯の身体を上下に揺する。時には髪を撫で、頬を撫で、口づけを交わしながら、二人はヒートアップしていく。 「……んっ……はあっ…………ゆっ結城君……結城君」 唯は熱のこもったキスをリトと交わす。なめずり、舌を絡め捕っては唾液を啜って飲み干していく。互いに口元を唾液でべとべとにしながらも、二人の運動は止まらない。 唯は身体を捻ると、リトの右肩を押してベッドに倒した。 「……結城君ばっかりじゃ……疲れるでしょ」 そう言うと、唯はさらりと波打つ黒髪を手で払って、リトの上に跨ってくる。唯の重みが腰辺りにかかって、余計に深くペニスが入り込んだ。 「あっ……くうっ」一弾指を快感に身体を震わせつつも、唯はしっかりとした目でリトを見下ろしてくる。「……こんなハレンチなこと、自分でも信じられない」 かく言うも、唯は腰を前に押し出すように振ると、リズムに乗ってきたのか自分のペースで動き始めた。 身体を折り曲げたり仰け反らしたりしながら、唯がペニスを全身で感じているのをリトは下から眺めていた。上気した頬、荒れる息遣い。どれも唯のイメージとはかけ離れたものに思え、いっそうギャップに情欲が掻き立てられる。 リトも負けじと腰を持ち上げて、唯の動きに合わせて打ち付ける。すると唯が狂おしそうに身体を痙攣させるから、リトとしてももっとしてあげたくなる。 が、リトのペニスはもう抑止の利かないところまできていて、爆発寸前に膨らんでいた。 体位を対面座位に変えると、リトは唯の腰を持って下に打ち付けるように腕を下ろした。しかしそれではうまく事が運べなかったので、唯だけ中腰にさせた。 俯瞰すれば奇妙な交わり方だった。唯だけ地面につま先立ちになって、スクワットするように動いているのだ。 「あっ……古手川…………もう、イく――――」 「なっ名前で呼んで……リト……リト…………」 「唯……唯ッ…………」 「あっあっあっ――…………ッ!!」 互いの昂りが飽和点を超えると、リトは弾かれたように唯の肩を突き飛ばしてペニスを引き抜いた。唯は地面に雪崩れ込むように後ろ向きに倒れ、そこに向かって勢いよく欲望が迸った。 ペニスから吐き出された白濁は、みるみる内に唯を汚していった。髪に始まり、顔、口元、胸、腹部と、およそ上半身のほとんどを生臭い液体が撃ち付けられた。 リトのペニスは凄まじい量の精液を吐き散らした。唯の顔は半分以上がどろりとした液体に埋まっていたし、顎から糸を引いて垂れる白濁は胸元にもべっとりと張りついていた。 六回ほど強く脈動して、ようやく収まったのだから、相当の快感だったことが推し量れた。 「っ……はあ、はあ、はあ」 「…………ん、む」 鼻息荒く腰を抜かしたリトは、目も開けられない唯をただ呆然と眺めていた。唯は口元を舌で舐めると、付着した精液をぺろりと舐めた。リトもこれには目を瞠って、すぐにやめろと言った。 しかし唯はそれを流して、顔や胸に付いた精液も指で掬いながら口に含んでいった。 ようやく目を開けられるようになると、唯はいたずらっぽく笑った。 「……こんなに出すなんて…………相変わらず、ハレンチね」すんすんと鼻を動かしながら、強烈な匂いを唯は吸い込む。「顔とかにかけられちゃうとは思わなかったわ…………舐めるとも、思わなかったけれど」 「ご……ごめんっ!!」 リトは手を合わせて頭を下げた。唯はそんなリトの姿を見てくすくすと笑いながら、四つん這いになってリトに近づいた。 太ももをひと撫でして、熱っぽい視線でリトを見上げた。 「……他の女の子に、もうハレンチなことしないでね」うっとりとした笑みを浮かべて唯が続ける。「私……結城君のためなら…………何でもするから」 そうすると、唯は気取りを込めて僅かに萎れたリトのペニスを口に含んだ。這わされた舌の感触が妙にくすぐったくて、変な声がリトの口から出る。 丹念にリトのペニスを清めていく唯の献身的な姿に、ついにモモも絶頂を迎えてしまった。 実を言えばバイブのスイッチも早い段階で入れていて、自動的に刺激を与えていた。だがあまりにも二人の行為が気になって、今になってようやくそっちに気が回ったのだ。 振動とピストンを回転を同時にする特別製のバイブレーターは、昂ったモモをエクスタシーの海に沈めるのに苦労しなかった。モモはおもらしをしたように、ベランダに潮を作ってしまった。 今までに感じたよりも心地よく刺激的な快感に、モモの意識がホワイトアウトしてぷつりと切れた。 そこからリトと唯の間でどんな睦言やらピロートークが繰り広げられたのかは、モモには知る由もないことだったけれど、きっと仲睦まじい言葉の応酬だったのだろう、とのちにモモは思うことになる。
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第二次ニコロワ大戦Ⅳ ――巨人の目覚め、そして ◆qwglOGQwIk (非登録タグ) パロロワ ニコニコ動画バトルロワイアル 第230話 その何ともいえない不協和音が紡がれると、不思議なことが起こった。 体が軽い、吹けば吹くほど楽になる。 「んっ……体が……直ってるだと!?」 「嘘、全然体が痛くない……力が沸いて来るッ……!」 「あいたたた……あれぇ、でも何か体が痛くなくなってきた」 日吉も、レナも、遊戯も起き上がった。 赤とんぼは皆を癒していた。Fooさんの笛に宿る力が、赤とんぼの旋律に合わせて力を与えたのだ。 「ぬ、ぬわんだとぉ!?」 のろいに悶えていたアナゴは驚愕した。 あの無茶苦茶な演奏のせいで奴らが復活したとは、考えようともしなかった。 こうなれば、あの演奏をとめるしかない。 「その演奏をやめろおおおお、サイコクラッシャー!」 「きゃ、きゃああああああ」 サイコクラッシャーがつかさに襲い掛かる。 レナ達が飛び出したが、間に合わない。 しかし、サイコクラッシャーはつかさへと到達することは無かった。 「たいやきさん!」 「何ぃ! この汚い魚のどこにそんな力がぁ!?」 たいやきは勢いよくはねた。 天高く上る鯉の王者が力いっぱい跳ねたとき、それはサイコクラッシャーの軌道さえも捻じ曲げた。 それだけでなく、瀕死のたいやきがじたばたしたため、猛烈な力でアナゴを傷つけさえした。 たいやきは演奏の援護にも関わらず力尽きたが、その時にはもうアナゴの体はボロボロだった。 「くっ、ベリーメロン!ベリーメロン!」 アナゴはベリーメロンを取り出してひたすら回復する。 だが、それは防戦にならざるを得ないほどアナゴの体力が低下していることを表していた。 当然のその隙を皆が見逃すことは無く、レナや日吉が追撃を加える。 遊戯も手に持つベレッタで必死に援護を加える。 ピエモンはつかさに新たな曲、夕焼け小焼けを伝授する。 夕焼け小焼けの気の抜けたBGMが、更にアナゴの力を奪う。 「くっ、ジェノサイドカッター!」 「効かないよ!」 「ざまぁないな、タラコ野郎!」 アナゴは焦っていた、必殺のジェノサイドカッターでさえ大したダメージを与えることが出来ない。 サイコクラッシャーも同様、GENKI-DAMAどころかKIDANやフタキワにさえ押し返されるほど威力が低くなっている。 これが夕焼け小焼けのせいだというのか。その力を攻撃力減衰によって奪われたアナゴは、やがて満足に反撃することさえできなくなっていた。 三連殺もレナの鉈と打ち合い、相殺されるほどだ。 ベリーメロンを食べる暇さえない。もうアナゴはなりふり構ってなど要られなかった。 ここで自分がやられるわけにはいかない、ピエモン様には悪いが、全力を出すしかないと感じていた。 攻撃力減衰中とはいえ、本気の力でなんとかレナと日吉だけでも殲滅するのはたやすい。 最後に残ったつかさの補助は脅威とはいえ、どうにでもなる。遊戯もカードさえ使えなければものの敵ではない。 ならば、やるしかない。 アナゴは、パワーをチャージし始めた。 「させないよ!」 「させるかよ!」 レナと日吉の攻撃を空中に飛び上がって回避する。 飛行しながらKIDANを回避し、パワーチャージを完了させる。 これで、準備は整った。位置も悪くない。 この距離なら、ピエモン様を殺してしまうことも無いだろう。 「このアナゴ、ただでは死なぬ! 天よ!今一度の力を! 受けるがいい、このアナゴ最後の拳、ワァールドデストロイヤァァァァァァアアアアア!!!!!!!」 ジェノサイドブレイバーとは規模が違う、はっきりいって桁が違う威力でアナゴが迫る。 レナは盗賊の棺桶を構えて迎え撃つが、一緒に隠れるべき日吉若の姿は無かった。 日吉はそれを見てさえ引かなかったのだ。むしろ笑っていた。 「百錬自得の極み! 吹っ飛びやがれぇぇぇぇえええええ!!!!!」 日吉の体がオーラに包まれる。 そして手に持つフライパンでアナゴの拳を思い切り打ち返した。 その爆発的なオーラのうねりが逆流し、日吉たちへ向かうはずだった力はアナゴへと逆流する! それが百錬自得の極みの力、全ての玉を倍返しにして打ち返す無我の扉ッ! 「ぬぁああああああああ!!!!!」 先行が逆流し、空中に吹き飛ばされたアナゴがうねるエネルギーによって爆発した。 その様子を見守るレナ達、アナゴは全ての切り札を出した。だからもう立ち上がることは無い。 だが、アナゴはそれでも立ち上がってきた。背広はボロボロで、ネクタイは切れ、額から血は流しながらも、 それでも、アナゴは両の足でこちらへと歩く。一歩一歩踏みしめて。 「よく、ぞ……アナゴの一撃を耐え切った。これで、終わりだと思うなよ。 もう一発、ワールドデストロイヤーをくれて……」 アナゴの言葉はそれで唐突に打ち切られた。 アナゴは自身の胸を鷲掴みにすると、猛烈に苦しんだ。 ことのはの放ったのろいが、ここにきて最後に発動したのだ。 これで、アナゴが立ち上がることは無い。 そして、魔王アナゴはその場に倒れた。 「ピエ……モンさま……」 「アイスデビモン…………」 「わ、私は……ただ…………お二人が仲良く……して……ほし…………」 アナゴに駆け寄ったピエモンは敬虔なる部下の死に涙を流した。 それは、ピエモンがもうアイスデビモンのことを疑っていないという証拠でもあった。 アナゴは滅び、アイスデビモンだったものはピエモンの手の中で赤い宝石へと姿を変えてしまった。 「レナ」 「うん、遊戯君」 あの光景を見たレナと遊戯の答えは一つ、真実に気が付いたピエモンを葬ること。 幸いまだ動く気力はある、アナゴ戦の後で辛いとはいえ、覚醒した日吉とつかさもいるし、相手をする余裕はまだある。 いざ動こうとした所で、遊戯とレナはピエモンが言い放った一言のせいでその方針を変えざるを得なくなる。 「許さんぞマルクッ! アイスデビモンの奴を口先八丁で騙しくらさってッ!」 盛大にずっこけた。そして遊戯は思わず言ってしまった。 「そ、そこはアイスデビモンの言葉を信じてマルクと仲良くする所じゃないかなぁ?」 「いいや、マルクは敵だ。何せアイスデビモンは言ったからな。邪魔をするなら殺してこいと。 そしてアイスデビモンは嫌々ながら命令に従った。だから私だけには手加減をしてくれたというわけだ アイスデビモンの奴は本当は私の相手などしたくなかったのだ。今までの行動は全て私を気遣い、マルクの要求に答えるためだけのもの!」 雛身沢症候群もビックリの超理論だが、とりあえずピエモンを始末しなくて済んだ……ということになるのか。 そもそもアイスデビモンは倒すとはいったが、殺すとは言っていないはずだ。でもそれを言うほどお人よしの遊戯ではなかった。 「でも、私は少し迷っているのだ。遊戯が言うように実はマルクが私を殺そうとしているのはただの妄想じゃないかと……。 アイスデビモンの真髄な態度を見ていたら、たしかにそうとも一度は考えた。だがそれでは今までのことに説明が付かないからだ」 「ふぅん、それよりも早くハルバードのほうを案内してよ、ビーちゃん」 「おお、そうだったな。いくぞお前たち!」 調子のよさそうなピエモンを先頭に、一向は大戦闘の被害を奇跡的に免れたハルバードへと向かう。 途中で日吉が右腕を押さえ、苦しんでいたため、つかさの赤とんぼで急いで治療をする。 そんなトラブルがあったのとは別に、つかさだけがかなり遅れてハルバードへと乗り込んだ。 そのつかさの行動は、目元の涙と、後ろに立てられた妖精の剣に寄り添うポケモンの亡骸が何よりもよく物語っていた。 【クッパ城 格納庫のハルバード内部/三日目・深夜】 【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】 [状態]:悲しみ、やや疲労 [装備]: リアルメガバスター(97/300)@デッドライジング、メタルブレードのチップ、包帯 サイレンサー付き拳銃(6/6)@サイレンサーを付けた時とry、鉈@ひぐらしのなく頃に クロスミラージュ@リリカルなのは、バリアジャケット(龍騎士レナフォーム)@07th Expansion [道具]:支給品一式*13(食料3・水2消費)、日本酒(残り半分)、オミトロン@現実?、モモンの実*5@ポケットモンスター、鉄パイプ、 本『弾幕講座』、アイテム2号のチップ@ロックマン2、暗視ゴーグル@現実、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、初音ミク@現実、オボンの実*1@ポケットモンスター ポケモンフーズニ日分(四食分消費)@ポケットモンスター、ほんやくコンニャク(1/4)(半分で八時間)@ドラえもん、テレパしい@ドラえもん(残り2粒)、五寸釘@現実、 雛見沢症候群治療セット1日分(C-120、注射器、注射針)@ひぐらしのなく頃に、サイレンサー付き拳銃の予備弾95発@サイレンサーを(ry 桃太郎印のきびだんご(24/25)、ウルトラスーパー電池(残り30%)@ドラえもん、ゼットソーハードインパルス@現実、ハイポーション×2、北米版パッチ 、 飛行石のペンダント@天空の城ラピュタ、十得ナイフ@現実、ナイフとフォーク×2、包丁、首輪の機械部品、MASTER ARTIST01~10@THE IDOLM@STER、 壊れたオセロ@現実、ノートパソコン(バッテリーほぼ満タン)@現実、RPG-7(残弾5)@GTASA、RPG-7の予備弾薬95発@GTASA 富竹のカメラ@ひぐらしのなく頃に、ピッキング用針金、 盗賊の棺桶@勇者の代わりにバラモス倒し(ry、フィルム、 ピーピーマックス@ポケットモンスター、ウィンチェスター M1895/Winchester M1895(狙撃銃、残弾5)@現実、ウィンチェスターM1895の予備弾95発@現実 無限刃@るろうに剣心(フタエノキワミ アッー!)、10円玉@現実?、札束(1円札百枚)、琴姫の髪 、クラモンD、Nice boat.のメインコンピュータ、フタエノ極意書@ニコニコRPG 思考・状況] 1.少数派による運命の打開、まずはハルバードを調べる。 2.ピエモンは勘違いしていると推測。勘違いに気づかないように、遊戯の『煽り』をサポートする 3.クラちゃんは一応信用しておく。 4.霊夢ちゃんやみんなと合流したい 5.罪滅しをする。アリスちゃんを助けられなかった分も ※時期は大体罪滅し編後半、学校占領直前です。 ※身体能力が向上しています。それによってレナパンが使えるようになりました。 ※ノートパソコンに海馬の残した何らかのファイル(飛行石関連その他)とメッセージがあります。 メッセージは打開が成功したら読め、との事です。 ※レナはジアースと直接は相対しなかったので、ロボ入りiPodは発動しませんでした ※バリアジャケットはひぐらしを起動すると出てくるアレ、もしくは07th Expansionのトップのアレ 【武藤遊戯@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ】 [状態]:軽度の精神疲労、それでもまだ闇AIBO、古泉に対する殺意 [装備]:小型爆弾 包丁 千年パズル [道具]:支給品一式*4(食料四食分・水二食分消費)、、王者の剣@DQ3(刃毀れ)、ベレッタM92F(7/15) 、ヲタチ(HP30%)@ポケットモンスター、北高の制服 ゾンビマスク@現実(ゾンビーズ)、蒼星石のローザミスティカ、ミニ八卦炉@東方project、 ゴム@思い出はおくせんまん、自動ぶんなぐりガス(残り1/5)@ドラえもん、ヴェルタースオリジナル*1@ヴェル☆オリ 真紅のローザミスティカ@ローゼンメイデン、くんくん人形@ローゼンメイデン、ヤクルト@乳酸菌推進委員会、水銀燈の体、 デジヴァイス@デジモンアドベンチャー 、北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱、毒入りパン、 DCS-8sp*1、予備弾薬各100発@現実(ベレッタM92F用41発消費、トカレフTT-33用16発消費、サイレンサーを(ry全消費、RPG-7用全消費、ウィンチェスターM1895用全消費、リアルメガバスター用全消費) デュエルディスク@遊戯王DM、顔芸のデッキ(魔法、罠カード抜き)@遊戯王DM 、 【DMカード@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ】 使用可:プチモス、カタパルト・タートル、ラーの翼神竜(遊戯、海馬のみ)、真紅眼の黒竜、バーサーカーソウル、マジックシリンダー、攻撃誘導アーマー 使用不可:聖なるバリアミラーフォース(次の朝まで) 、融合(次の日中まで)、青眼の白龍*2(次の夕方まで)、魔導戦士ブレイカー(次の夜まで)、光の護封剣(次の日中まで)、ブラックマジシャン(次の深夜まで) [思考・状況] 1.ハルバードを調べる 2.ピエモンは勘違いしていると推測。勘違いに気づかないように、マルクをより憎む方向に心理を誘導する。 言葉、行動、煽るのに手段は選ばないが、ピエモンに怪しまれない程度にする。 3.ピエモンは情報源として利用。 4.ピエモンをちゃんと従うように包丁で脅す、……必要はあるのかなぁ? 5.永琳の話が本当なら、ハルヒには十分気をつけて遭遇しないようにしたい。 6.レナ、日吉、霊夢の三人は信頼できそう。 7.つかさのことはもう一人の僕に任せよう 8.ゲームを終わらせ、主催者を倒す 9.あの夢についての情報を得る ※闇AIBO ニコニコの闇AIBOタグで見られる、腹黒AIBO。 AIBOの持ち味である優しさが欠損して、笑顔で毒舌を言ってくれます。 ルールとマナーを守らずに楽しくデュエルしますが、過度の僕ルールは制限されるかも。 【闇遊戯の思考】 [思考・状況] 1:相変わらずテラ空気wwwwwww出番くれよAIBOwwwwwwww 2:相棒と合流できて安心 3:相棒に命を預ける。自分で出来る限り生き残るよう努力はする 4:AIBOの無事を優先する (保留 5:このくだらないゲームを破壊し、主催者に闇の罰ゲームをかける。) ※闇のゲームは行えますが、罰ゲームに制限がかかっています。(再起不能には出来ない程度) ※今のAIBOとカタパルトタートルに何か同じものを感じました。 【日吉若@ミュージカル・テニスの王子様】 [状態]:ほぼ回復、中程度の疲労、悲しみ、覚醒、右腕に少し鈍痛 [装備]:カワサキのフライパン@星のカービィ、サテライト30@真赤な誓い [道具]:支給品一式*7(食料一日分、水二本消費)、ネギ@ロイツマ、長門の首輪、コイン*2@スーパーマリオワールド 孔明ブロック(大)@スーパーマリオワールド、 炎道イフリナのフィギュア@ふぃぎゅ@メイト、首輪の残骸、上海人形、テニスボール*3、ジアースの機械、電気部品 [思考・状況] 1.とりあえずハルバードを調べる 2.天衣無縫の極みを会得し、主催に下克上する。 3.下克上の障害は駆除する。 ※無我の境地をマスターしました。KIも操れるようになりました。 ※フタエノキワミをマスターしました。 ※無我の扉の一つ、百錬自得の極みに到達しました ※ピーちゃんの事を間違えてビーちゃんと呼んでいます。 ※遊戯やレナのように、ピエモンについて何か考えているかもしれません。 【ピエモン@デジモンアドベンチャー】 [状態] 幼女ピーちゃん、対主催の主催?、マルクに対して疑心暗鬼?、B(笑) [装備] 萌えもんパッチ@ポケモン言えるかなで擬人化してみた、トランプソード [道具] 千年リング、魔血魂@ニコニコRPG [思考・状況] 1:まずはハルバードへ 2:裏切ったマルクに報いるため、対主催と協力して倒させる? 3:霊夢がマルクを倒してくれるのを密かに期待する 4:遊戯やめてくれ 5:ノヴァを手に入れるのは諦めた。マルクに裏切られたし、ロワを完遂させる前に死にそうですよ皆さん…… 6:神になるのも諦めた。生贄が足りないんですよ皆さん…… 7:だけど世界征服の野望はなんだかんだで諦められないんですよ皆さん…… ※萌えもんパッチで幼女化しました。詳しくは絵板の幼女Bを参照するべし。 ※遊戯に包丁を押し当てられています。萌えもんパッチは背中の、彼の手の届かない所に付けられているので、自分では外せません。 ※本当はアイスデビモンの言葉を信じていて、マルクが裏切ってないと気が付いたかもしれません。 【柊つかさ@らき☆すた】 [状態]:熱と貧血と疲労、アナゴ戦の嘔吐でかなりグロッキー [装備]: ロールバスター@ロックマンシリーズ(損傷有)、くうき砲@ドラえもん、 SIG P210(残弾8)@MADLAX、スタンガン@ひぐらしのなく頃に、Fooさんの笛@ニコニコ動画(γ) [道具]: 鬼狩柳桜@ひぐらしのなく頃に、iPod@現実(【残り16時間】) 、宝石みたいな物@呪いの館、 毒針@ドラゴンクエストシリーズ、SIG P210の予備弾92発@MADLAX、プラスパワー*3@ポケットモンスター [思考・状況] 1.みんなについていく 2.もう一人の遊戯に会ったら謝罪する。 3.罪滅ぼしする。死んでいった人、殺した人の意志を受け継ぐ。 4.春香の最期が気になる。 5.ハルヒ達のことが気になる。 ※レイジングハートがスターライトブレイカー・プラスに関するデータを抹消されているようですが、今のつかさの知識ではそこまで理解できませんでした ※ヤンマーニBGM+SIGP210によるヤンマーニモードは、肉体、精神に膨大な疲労を残します。 ※ヤンマーニBGM+SIGP210による覚醒中のみ、鬼狩柳桜が抜けました。 他の人にも抜けますが、本来の抜く方法ではないためか、BGM終了後、人知れず鞘に戻っています。 ※遊戯やレナのように、ピエモンについて何か考えているかもしれません。 ※Fooさんの笛技を身につけました。全体回復の赤とんぼ、敵全体の攻撃力減衰の夕焼け小焼けはマスターしました。 他にマスターする技に関しては、ニコニコRPGを参照http //www5.atwiki.jp/nicorpg/pages/118.html ※日吉、レナ、ピエモン、つかさのDCSは解除されました、副作用とかは今の所ないです ※ことのはの持っていた妖精の剣と鋸、気合の鉢巻は格納庫の一角に突き立てられています 【ことのは@ヤンデレブラック 死亡】 【たいやき@ポケモン金コイキングだけでクリアに挑戦 死亡】 【オクタン@ポケットモンスター 死亡】 【アイスデビモン@若本 死亡】 【残り10人】 ◆ ◆ ◆ 「神(笑)だ!」 「本当だ、中二病だ!」 「痴女だ!」 オペレーター室が嫌に騒がしくなる。 それもそのはず、突如現れた竜巻に乗ってハルヒこと神(笑)こと自称超鬼神(ryが現れたのだ。 神(ryはただその場で何もしていなかったが、騒ぎが煩いのか、中心にいたオペレーターを捻り潰した。 そして見せしめを捕食した段階でその騒ぎは止まった。 「さっきから神(笑)、神(笑)……うるさいのよ! このニコ厨どもが! 私は本物の神! 鬼超神聖究極世界魔帝王全知全能唯一神(アルティメットワールドインテリジェントデーモンエンプレス・ゴッドカーニバルアトランティス)HALなのよ!」 「でもなぁ……」 口答えを始めたオペレーターがまた捻り潰し、再び起こりそうだった騒ぎを止めた。 「あんたらに要求することはただ一つ。 今すぐニコ厨を止めてHAL厨となり、私に協力してあのクソピエロどもをふんじめること。 もしそれが出来ないっていうなら……」 「死ぬ、ということですか?」 「そう、少しは物分りがいいじゃない。今ならサービスでさっきの非礼は許してあげるわよ」 神(ryは問う。その答えを。 もちろん、デジモンたちの胸中は全員決まっていた。 「そんなくだらないことはお断りだね! 俺達はロリコン、てめぇみたいな年増に興味はねぇんだよ! そうでなくてもお前みたいなゲロ臭せぇ本物の外道についていく奴は、この中に誰も居やしねぇんだよ! 俺達は、誇り高いエリートオペレーターにして、ニコ厨だ! HAL厨なんてごめんだね!」 その啖呵を切ったリーダーらしきデジモンに賞賛の声、拍手が上がる。 しかし、それは長続きしなかった。啖呵を切ったデジモンが血の塊に変化したからだ。 「ああ、ちょっとばかり間違ってたけど、断るなら全員私の腹の中 情報改変もして逃げられ無くしたし、そうでなくても逃げようなんて考えてる奴はあのセイバーが逃すはずはない。 というわけで、神を侮辱した無礼者には死んでもらうわ」 「……はい、主」 そして、虐殺が始まった。 ほんの数分のうちに、オペレータールームは血の海に変わり果てた。 その中心にいる神(ryは、手にデジモンの肉片を持ち、口を咀嚼させながらオペレーター室のコンソールを弄っている。 「んー、なかなかうまくいかないものねぇ。 まぁいいわ、あのマルクとか言うクソピエロの首を持って来れば少しは気も変わるでしょ 最も、そんな気はさらさら無いけどね、HAL厨なら喜んで私の血となり肉となるはずだもの」 セイバーは神(ryの姿を見る。 "神は死んだ"、そう考えた。 自分を救うものは、もう誰もいたりはしない。 【クッパ城 オペレーター室/三日目・深夜】 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:鬼超神聖究極世界(ry、全裸マント、デーモンの肉体、 神への覚醒、超機嫌、食事中 [装備]:デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、 [道具]:支給品一式*19(食料7食、水16食分消費)、DIGIZO HYPER PSR(残り二十分程度)@現実、 テニスボール*2、雛見沢症候群治療セット1.5日分(C-120、注射器、注射針)@ひぐらしのなく頃に 、 マウンテンバイク@GTASA、花粉防止用マスク、ドリルアーム、笛@スーパーマリオ3 糸(あと二メートルほど)、裁縫針、武器になりそうな薬物、DCS-8sp、退魔の剣@怪~ayakashi~化猫、 アニマルマスク サラブレット@現実、ダンボール@メタルギアシリーズ、ヴェルタースオリジナル@ヴェル☆オリ、 庭師の鋏@ローゼンメイデン、おたま@TOD、 カワサキのフライパン@星のカービィ、 ワイン(残り半分)、傘@現実 、A.C.E.3@現実(少し詩音の血がついている)、塔組の推理メモ、 塔の『バグ』について纏めた紙 、グルメテーブルかけ(残り15回)@ドラえもん、 アイスソード@ロマンシング・サガ、 スパイダーブレスレット@東映版スパイダーマン、黄色甲羅@スーパーマリオシリーズ、コイヅカの生首 【DMカード@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ】 使用可:死者蘇生 深夜まで使用不可:ブラック・マジシャン・ガール、ホーリーエルフの祝福、ゴキボール、強制脱出装置 次の朝まで使用不可:オレイカルコスの結界、オシリスの天空竜、オベリスクの巨神兵 次の午前まで使用不可:エネミーコントローラー 次の深夜まで使用不可:セイバー [思考・状況] 1.食事しながらオペレーター室を調べ、マルクやピエモンの居場所を探す 2.残った者は全員神たる自分の一部とする 3.主催者や対主催を皆殺しにして新世界を創造する。神である私が絶対である世界に。キョンは神の眷属として蘇らせてやる 4.全世界の破滅を救う神として、すべての世界に名を残す。 5.ニコニコ動画をぶっ潰して、代わりにHALHAL動画(神)を開設する ※狂いました。それを自覚していません ※自分の能力を信じました。神人を召喚したりなど、能力を使えるようになりましたが、 会場全体にかけられた制限があるためまだ完璧ではありません。 デーモンの能力と混じったためかなり弱まってしまいました。 ※古泉を『吸収』し、彼の能力を手に入れました ※水銀燈のローザミスティカを『吸収』して能力を手に入れました ※完全に体を乗っ取っています。誰がデーモンのように反乱して来ても、神(笑)には勝てないと思います ※閣下の死体を少し食べましたが、体に変化はないようです。 吐きそうなほどまずいらしいので、食べずに放置しました。 ※細かいところは違いますが、ニコロワが開かれた理由について理解しました。 ※支援動画を全て見ました ※城突入時にケンジのカメラとバルサミコ酢を落としました。焼失はしていません ※クッパ城の端で火柱が上がりました。損害は軽微ですが遠方にも光は届いたはずです ※オペレーター室のデジモンが全滅しました。 ※BKMGのカードは捕食され消滅、ハルヒの一部になりました sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 時系列順 sm231:終端の王と異世界の騎士 sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 投下順 sm231:終端の王と異世界の騎士 sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 竜宮レナ sm231:終端の王と異世界の騎士 sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 柊つかさ sm231:終端の王と異世界の騎士 sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 武藤遊戯 sm231:終端の王と異世界の騎士 sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 日吉若 sm231:終端の王と異世界の騎士 sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 ピエモン sm231:終端の王と異世界の騎士 sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 アイスデビモン 死亡 sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 博麗霊夢 sm232:青の炎Ⅰ ~ラスボス空~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 カービィ sm232:青の炎Ⅰ ~ラスボス空~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 マルク sm232:青の炎Ⅰ ~ラスボス空~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 KAS sm232:青の炎Ⅰ ~ラスボス空~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅲ ――バルバロッサ作戦 涼宮ハルヒ sm231:終端の王と異世界の騎士
https://w.atwiki.jp/yousuikensa/pages/72.html
701. 名無しの心子知らず 2011/02/18(金) 08 02 34 ID PCdsRj7a 700 「その他」って具体的に何ですか? 702. 名無しの心子知らず 2011/02/18(金) 14 23 25 ID dIQgbAIX 特定のDNAを依頼していない限り、他の染色体異常じゃないのかな? 転座とかの結果なんじゃね? 日本でも同じだと思うんだが。 社会保障でカバーされるのは裏山。 703. 700 2011/02/19(土) 19 14 36 ID ghtBbhMr 検査後とくに何の異状もなく2日経過しました 仕事は検査日+翌日のお休みいただいています(病欠扱いで100%有給) トリソミー18ではなく、ソリソミー21の結果が1週間で出るとの事 702 さんの仰るとおり、「その他」は他の染色体異状についての検査だと思われます 顕微授精でしたので、遺伝子検査は治療開始前に一通り検査しました こちらも43歳まで、計6回社会保障負担です 自己負担約2-3万円/回ほどです 705. 名無しの心子知らず 2011/02/27(日) 15 04 30.49 ID HhWQbEmI 野田聖子が、産まれた子供がかなり重い障害(心疾患、肝疾患、食堂閉鎖) であることを公表したな。 まだ、ちゃんと因果関係が取れているわけではないが、 「ゲノムインプリンティング異常症」の原因が体外受精である説 を補強するサンプルになってしまった。 706. 名無しの心子知らず 2011/03/03(木) 11 23 56.78 ID hZJeHCYp 妊娠したかも?って思ってる時期に義兄が 「ダウンの子が居る知人が立候補するので協力して」 って言って来てなんちゅうタイミング悪い人かと思ってるところへもって、 つい先日「決起集会に参加よろ」という葉書が届いてトドメ刺された。 「お前もこっちの世界に来い」って言われてるみたいで絶賛憂鬱中。 万一産まれた子がダウンだったら鼻息荒くして近付いてきそうだし…… 現在30代前半で11w。 9wでは順調で問題なしと言われていたけど、 最近物凄く不安になって、夫と相談して羊水検査受ける事に決めた。 病院のサイト見ただけだと、検査は受けられるけど病院側の検査に対する考えや、 陽性だった場合に処置出来るのかってのは判らなくてちょっと不安。 次の検診でちゃんと相談してこよう。 ここのスレも凄く参考になったよ。 707. 名無しの心子知らず 2011/03/03(木) 22 16 07.34 ID gVrPzDe3 野田議員 胎児に異変見つかるも羊水検査を断固拒否していた http //toki.2ch.net/test/read.cgi/dqnplus/1299149092/ 自己満で産みたいってだけの人はやっぱ受けないんだね。 708. 名無しの心子知らず 2011/03/04(金) 10 18 11.34 ID rV93wzn8 706 病院・医師によって、検査に対するスタンスはもちろん、価格も大きく違う。 通ってる総合病院の医師は「もし判ったらどうするの?」という人だった。 おまけに近くの個人医の倍額もした。 結局早く結果も知りたいし、結局大阪で絨毛検査をしました。 出生前診断って、誤解を恐れずに言えば、「早く安心を買う」ってことに尽きると思う。 709. 名無しの心子知らず 2011/03/04(金) 13 24 19.25 ID T5VJmPZy 707 何があっても産むつもりの人が羊水検査受けないのは当然の事だと思うけど。 710. 名無しの心子知らず 2011/03/04(金) 17 24 46.57 ID uw/vVuXk 興味深いな。 野田の子供は、臍帯ヘルニアとかあるから、 もし「遺伝子刷り込み疾患」だとすると、こんなところか。 http //www.nanbyou.or.jp/kenkyuhan/pdf/21109.pdf (そのほか参考資料) http //lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=1997 number=4216 file=X6HPvOboh981mwpMhIlXOQ== こちらの資料では、ICSIが遺伝子刷り込み疾患を誘発する可能性を示唆している。 ttp //www.jsog.or.jp/PDF/60/6009-377.pdf 711. 名無しの心子知らず 2011/03/05(土) 07 38 34.35 ID iBQHuaAO 18トリじゃないかって言われてるみたいだけど。 712. 名無しの心子知らず 2011/03/05(土) 08 39 52.38 ID Z9TbC2yf 18トリじゃ、これから1年に6度の手術は こどもがもたないんじゃないの? 713. 名無しの心子知らず 2011/03/16(水) 08 45 30.24 ID P/OgdEN9 高齢じゃないのにクアトロが二桁でてしまったから羊水うけてきた 手慣れてる先生だとすごいわ 消毒10秒、胎盤確認10秒、ちくっとしますよーといいながら針さす3秒、羊水抜く20秒ってかんじで1分以内で終わった 痛がる暇がないから痛くなかった しかしその後、子宮収縮のせいか鈍痛で1時間ほど回復室でうなる おさまってから会計して帰宅 流産しちゃう人はなぜしちゃうんだろう とてもそんなリスクが高い検査とは思えない 子宮収縮がおさまらなくてとかそんなかんじなのかな 714. 名無しの心子知らず 2011/03/17(木) 15 15 37.91 ID VlT7XyYu 713 この論文によると、羊水検査による 流産確率は0.06%。 つまり、1667分の1の確率で、全ダウン症児の出生確率よりも低い。 http //journals.lww.com/greenjournal/fulltext/2006/11000/pregnancy_loss_rates_after_midtrimester.5.aspx 10w3dと13w6dの35,003人の妊婦という、 かなり大規模なサンプルを基に 24w未満で流産したかどうか追跡調査したもの。 で、31,907人は羊水検査せず、その流産確率は0.94%。 これがこの時期の一般的な流産率とする。 そして、3,096人が羊水検査を実施。その流産確率は1.0% つまり、羊水検査が影響したと見られる流産の確率は0.06%。 羊水検査の流産の副作用は、通常考えられているよりも はるかに低かった、というのが結論。 ということで、これもまとめWikiにまとめておけ>まとめ人 716. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 09 17 48.34 ID YNFHuUrf 腹部に針を刺さないダウン症診断法、2年以内に普及の可能性(2011年03月09日 14 59) http //www.afpbb.com/article/life-culture/health/2789516/6932569 危険性を盾に羊水検査診断反対が厳しくなりそう これなら危険もないし、早く普及して欲しい 今いる染色体異常児は手厚く支援すべきだと思うけど 今後は「染色体異常児だと分かって産む親」が非難される世の中になって欲しいよ 親への非難だから、子供が可哀想とか議論のすり替えは不要 717. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 09 28 31.15 ID B3n9m9YH 713 確かに。思ったよりたいした検査ではなかった。 母親の細胞取るのにチクッ、羊水は二回デカ針で刺して麻酔もなしで2分かかってない。 ハイリスク妊娠の人には検査しないと言い切っていたし、 羊水検査で流産って元々検査しなくても駄目になってた人の流産も含まれているのかも。 中期流産も結構多いしね。特にダウン症が気になるような年齢の母親だと。 718. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 11 00 51.45 ID zNXSuHyM 今後は「染色体異常児だと分かって産む親」が非難される世の中になって欲しいよ なんで? 719. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 14 21 51.39 ID s4XSXo+1 717 私は大阪のあそこで絨毛検査だった。あっという間。 通ってる総合病院(周産期医療センター指定)は羊水検査1泊2日だった。 値段も高い。 手慣れてる所でやるのが一番だよね。 ただ、1週間以上鈍痛がした。 720. 名無しの心子知らず 2011/03/18(金) 18 32 25.65 ID /Mwr0WBa 来週初期の胎児ドッグを受ける。 結果によっては、育てる自信もないし、転勤が多く適した環境とも思えないので あきらめるつもり。 そんな考えもあって、検査が終わって安定期に入るまで 誰にも言わないでおこうと夫と決めていた。 なのに夫が今日会社の先輩に話してしまったらしい。 口止めはしたらしいけど、その先輩が誰かにしゃべると仕事の関係で 義父にばれてしまう可能性が高い。なんで家族とつながりのある人に言うかな!! 友人はもちろん、親兄弟にもまだ言ってないのに。すごく腹が立つ!! 721. 名無しの心子知らず 2011/03/19(土) 18 55 26.25 ID oqWezQdl 胎児ドッグならぱっと羊水検査して白黒つけた方がいいような 722. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 01 29 35.00 ID 83/gxisT 粘着してた基地外は東北エリアに住んでるのか? 723. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 08 53 21.65 ID kpAgR3u6 716 検査はいいし嫌なら堕胎も個人の自由だとは思うけど 私はそういう子を産んだこと、検査を拒否した事を非難されるような世の中はどう考えても嫌だな。 どんな命でも自分できちんと育てる覚悟があるのならそれは尊重し万全の態勢でサポートすべきだと思う。 産むことが罪、授かった命を選別するのが罪、そういう考のどちらもそれなりの理はある。 そして、自分の中で正誤の葛藤もあると思うしどちらを選んでも後悔があるかもしれない。 だからこそどちらを選択しても他人があれこれ言うべきではないと思う。 724. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 17 19 49.82 ID XHB66c6N 723 に同意 725. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 18 56 05.32 ID lwfvvY0Y 723 私はそういう子を産んだこと、検査を拒否した事を非難されるような世の中は どう考えても嫌だな。 これって、微妙に 716 のレスを変更していない? 「染色体異常児だと分かって産む親」が非難、だよ? 今までは、 「どんな子も助けるべき」 って意見ばかりが大きくて、 「無駄な濃厚治療は慎むべき」って意見は 大っぴらに言えないのが現状だったんじゃないの? やっぱり、そういうことも公平に非難できた方がいいと思うよ。 今、そしてこれからの日本の現状考えると。 あなただってイヤでしょ。 先に入院していた90歳の死にかけのおじいさんの下血の 対処療法に貴重な血液を湯水のように消費されてしまっていて、 もし、あなたの子供が事故起こして緊急輸血が必要なときに、 「すみません血液の確保がむずかしくて…」 なんて言われたら。 これと同じことが染色体異常児でも起こるよ? 特に18トリや重度合併症の染色体異常児だと。 後から早剥などで緊急母体搬送された母子はNICUの空きがなくて 死の危険にさらされるのだから。 726. 名無しの心子知らず 2011/03/20(日) 21 37 27.56 ID kpAgR3u6 725 それは国や病院やなんかがきちんとストック、余裕を持っておくべき事で 私は基本的にはどんな子も望む人がいるなら助けるべきだと思う。 NICUに長期間いる子は別に染色体異常児だけじゃないんだから。 というか、それ以外の子の方がずっと多いんだよ? あなたの子は産まれちゃいけない子、人に迷惑をかける子だから殺すべきなのにって見ず知らずの他人に言われて それを誰もが認め、誉める世界があなたの望むべき世界? 私は絶対に嫌。 染色体異常だけが特別に「見捨てるべき命」だと当たり前のように認識すべきではないと思う。 そもそも産まれてみないと重度の合併症かどうかはわからないのに。 大体、そんな事が当たり前の世界で染色体異常「だけ」が救う必要のない命だなんてなるわけないし。 産まれてから親が延命治療を望まないと言うのだったらそれもまた認めるべきだとは思う。 産むことなく、堕胎したいというのならばそれもまた認めるべき事。 でも、産んじゃいけないとかわかってて産んだら親を責めるべきとかはおかしい。 そして、産まなかった事で責められるのもまたおかしい。 検査を拒否する事も、検査を望むこともどちらも認められるべき事。 考え抜いて結論を出してもし堕胎するならば、延命を望まないのならば きちんと自分たちが何を選択したのか忘れることも目をそらすこともなく自覚すべき事。 どう考えても他人があれこれ口を出すべきことではないよ。 「国の方針」なんて甘ったれた事で自分で判断する事やその結果に責任を負う事をせずに 自分たちの子供に関しての判断は自分達だけが責めを負うべき事だよ。 だから国はどちらの考えであってもサポートする体制を整えておくべきだと思う。 727. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 01 10 36.89 ID OTyH9yqm 726 私は絶対に嫌。 別にあなただけが認めないのはかまわないけど、 実際問題として、すべての子供を助けるのは無理。 だから、出生前に予後不良の確率が高いケースは、 他人である医療側がそれとなく「あきらめた方が」と誘導しているでしょうに。 それが普通なんだけど。 そもそも産まれてみないと重度の合併症かどうかはわからないのに。 例えば、無脳児や全前脳胞症って、18トリ以上に「生まれたらすぐ死ぬ」 というのが常識で、医者も早期に中絶勧めるのが普通だけど、 本当の意味では、すぐ死ぬかどうか生まれてみないとわからない。 ごくまれに濃厚治療施して、比較的長期間生存する例があるからね。 (大脳が機能していない状態で延命されるのもどうかと思うけど) 最近は人工死産が当たり前だから、出生数は1万人に6人くらいだけど、 あなたみたいな考えで、とりあえず全部産ませてみたら、出生数 跳ね上がるだろうね。精神的ショックを受ける母親の数も。 「絶対無理だと言われてたけど、マラソン完走できる子がいるんだよ。」 「だから、やってみる前からあきらめるのなんて絶対ヤダ。」 で、とりあえずどんな子でもスタートダッシュやらせてみて、 そのために42.195kmまでの間に死屍累々と生き倒れの山を築きあげても かまわないってことなのかな。 そっちの方が恐ろしいなぁ。 728. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 01 26 31.42 ID OTyH9yqm あと気になったのはこれ↓ それは国や病院やなんかがきちんとストック、余裕を持っておくべき事で 本当、自分は要求する一方で、まったく頭を使わずに無責任な感じだね。 国や病院はきちんとやろう、余裕をもってやりたい、と考えていると思うよ。 でも、「何でも助けるべき」って考えの患者・家族が多いから なかなかうまく行かないんだと思うな。 で、そういう人たちのために結局、医療機関の方が先に壊れてしまう。 以前にC市の公立病院が閉鎖になってしまったとき、 「4年間も入院していたのに、病院から追い出すなんてひどすぎる」 って怒っていた人がいたけど、病院が立ち行かなくなった原因の一つが 自分たちであること、平気で長期入院していた人たちだってことに、 まったく気付いてない点に唖然としたな。 で、結局その地域全体の人々が以前と同じような医療を 受けられなくなってしまう、と。 本当に悲劇であり、喜劇だよね。 731. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 09 50 53.43 ID 9rv9NIka C市の公立病院が閉鎖問題は地元市議が 公立病院の医者の給料が高すぎるから減らせ!とか 医者の変わりならいくらでもいる!とか言ってたことも大きな原因だよ。 都会の病院以下のお給料で僻地で医療をしていたのに 地域のためと思って相場よりも低いお給料で 子供の教育を犠牲(都会の進学校に入れたいのに田舎の公立)にして 踏ん張っていた医者が引き上げたんだよ。 医局が手を引いたのよ。 732. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 15 11 51.59 ID tG+Er0Vk 729 728 じゃないけど、エゴにまみれてるのは 726 だと思うよ。 国や病院が準備すべき、と実務的な部分は他人に転嫁、依存して、自分の希望を叶えることしか語ってないもの。 例えば家計で考えてみても、自分や家族の欲求を全て叶えたり、常に最高のものをふんだんに用意したりはできないでしょ? クラシックが聴きたくなったら毎回ウィーン行きのチケット押さえて行く? 子供がバイオリン習いたいって言ったらストラディバリ買う? しないでしょ。 CD買ったり安いこども用買ったりして、学費や食育にもお金まわすんじゃない? 国や病院のリソースも同じように考えて。 ひとりのこどもだけにリソースをふんだんに使うことはできないでしょ。 そんなことしたら、他の人の治療の機会を奪うことになるんだよ。 悲しいけど、リソースが限られてる以上、できることはどうしたって限られるでしょう。 優生学とか視野とかの問題じゃないでしょ。 まあただ罵倒してるとこ見ると、 728 の正しさはわかっての事だと思うけど… 733. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 21 30 01.55 ID kFhxNBib 727 >とりあえず全部産ませる 誰もそんなお花畑な極端な事いってないでしょうよ。 もう一回読みなおしてよ。 産みたくない、自分には無理、他の子を生かすために自分の子は諦めるっていうのを認めるのと同じ様に それでも産みたい、治療して欲しいと願う親の気持ちも尊重すべきで 他人が「染色体異常の子を産んだ」って非難する国はどうかって言ってるの。 産まれる前からわかる病気や障害は染色体異常だけじゃないのにさ。 染色体異常児をすべて堕胎したら今のNICUがガラガラに空いたり 他の子がすべて十分な治療を受けられるようになる訳じゃないのになぜそこだけ「産んだ親が非難されるべき」になるのか。 うちの上の子も3か月NICUに入院してた。 後期に心疾患が見つかってたから生まれる前にエコーでわかっていた病気。 もしかしたら他の合併症もあるかも、なんらかの染色体異常があるかもと言われてたけど無かった。 羊水検査はしてたけど染色体異常ってダウン症とか18トリだけじゃないし。 染色体異常じゃなかったから責められる必要が無く産んでいい治療すべき命で もし染色体異常だったら産んだことを責められるべきだってか? はっきり言ってNにいる子は染色体異常児よりもそれ以外の子の方がずーっと多いんだよ。 うちの子みたいなのは許されて染色体異常は許されないっていうのはおかしいでしょ。 単にどちらを選んでも認められてサポートを受けられるようにすべきというのがそんなにおかしいかねえ。 734. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 22 40 31.51 ID OTyH9yqm 733 うちの子みたいなのは許されて染色体異常は許されないっていうのはおかしいでしょ。 そんなこと誰も言っていないでしょ? 何のために、 727 で、無脳児や全前脳胞症の例を出したか、 理解できていないわけか。 あなたのいう、 「親が望めば、親の望み通りの医療が受けられるべき」 というのは、正しいことなのか、ってことだよ。 そんなの間違っているという意見だって、当然あるはずだよね。 じゃ、聞くけど、親さえ望めば 脳みそが溶けてしまっているような無脳児や全前脳胞症 を出生させてしまっていいの? 生まれつき腎臓がないポッター症候群の子はm羊水まったく生成できず まるで真空パックのように子宮の中で押しつぶさているんだけど、 そんな子を親が望めば、子宮の中で40w耐えさせて出生させてしまっていいの? 体の中の毒素を排出できないからものすごく苦しんだあげく死ぬと思うけど。 染色体異常の子も同じことだよね。 無脳児やポッターと同じように、出生前にはっきりわかってしまうことがある。 そして、予後不良であることも多い。 まだ、知らずに産まれてしまったというのならわかるよ。 事前にわかってたのに、そんな子を親が望みさえすれば、 産ませちゃってもいいのだろうか、ってことさ。 735. 名無しの心子知らず 2011/03/21(月) 23 05 27.90 ID OTyH9yqm 726 そして、そういうケースは、産ませたら産ませたで、 莫大な医療資源の消費、コストがかかることも事前にわかっているんだよね。 そのコストに社会は耐えられるのか、その割を食って、不幸な人が連鎖的に 発生することを防ぐことができるのかってことを考えなくてはならない。 普通、みんなそのぐらいの考えには及ぶはず。 それを、さも簡単なことのように、他人ごとのように 「そんなことは国や病院がなんとかすべき」 と言ってしまう 726 の無神経さには、がっかり、というか呆れてしまう。 自分たちで「ほかの人のことはどうだっていい。とにかくわが子を延命したいのが正義」と言っているのだから、立場が違う人から見れば、自分たちの安全のために そういう子供の濃厚治療は慎むべき、って意見が出てしまっても当然なんじゃないかな。 確信犯的に 726 みたいな考え方する人がいるっていうのは よく理解できるよ。 誰だって、わが身やわが子はかわいいし、自分の周りのものしか見えていない。 だから、被災地そっちのけで、ガソリンスタンドの行列に並んだり、 スーパーで米、パン、ティッシュ、乾電池を買い占めたりしてしまうのも 人間のエゴイスティックな面としては理解できる。 でも、そこはぐっとこらえて、視野を広げて、自分本位にならない 選択をとるべきだと思うし、他人からそう誘導されたりしても、ヒステリックに 反発せずに、それに従うのも大事なことなんじゃないかな。 736. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 07 33 56.18 ID qsbB3tPL なんだろねー。 どっちもそれなりに一理あってどっちにもすべて納得させるほどの理は無いから 結局は人それぞれ、他人の選択に口出ししない方がとしか結論出ない気が。 元茄子産科務め10年の経験者から言わせてもらうとそもそも染色体異常児の出生って現場の混乱やものすごい負担になるほど多くないよ。 それ以外の病気、早産なんかの方がずっと多い。 うちはNICUあったけどダウン症児は多くて年に2,3人、いない時もあった。 その他のはっきりと染色体異常が判明したのを含めても長期でNICUにいたのは大した人数ではない。 ダウン症なんかは割と早く退院出来る子多いし。 現場のモチから言わせてもらえれば「産まれられる子はどんな子でも産んで治療する」が一番モチ上がる。 医療現場で最終的な生死を決めるのはあくまでも身内の方の望みを優先だよ。 医療従事者は「これ以上の治療方法はありません」って言う事は出来るけどそれ以上は職責を超える。 正直言えば当然のように産まれる前に諦めろと誘導するのを 医者や看護師に求めるのはやめて欲しい。 そうやって健常である事を望む親がいるから産科や小児科は心理的負担が大きくなるんだからさ。 737. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 10 14 54.25 ID sWasYKZw 金が無限に沸いてくるとでも思ってるのかね そういった子に多額のお金が回る分、しわ寄せはどこかに行くってことをちゃんと自覚してんの? 738. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 10 50 06.50 ID yuZyStSQ どこかにじゃなくて自分に これ以上税金あがったらかなわん 739. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 11 20 00.39 ID q42Ob4Xg かつての裕福な時代になら理想論もある程度現実化できたけど、 かねてよりの不景気にこの大震災直撃、かつここから訪れる停電による震災大不況で 手助けの必要がなかった人たちの多くが、これから福祉を必要とするようになって来る。 自分は貧乏な家に育ったので、もし自立不能な障害を持って産まれてきたら 堕胎されるか早くに「事故」で死ぬか、他の兄妹を水商売や中卒で働かせ 底辺の人生に突き落としながらも生き長らえる道しかなかったと思う。 幸いにも偶然、きょうだい全員が健常児に産まれて就職できたからそれは免れたけど そのことを思うから自分はID OTyH9yqmの方に同意する。 カネがなきゃ人間は生きて行けず、他人の情におすがりするにも限度がある。 740. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 15 17 25.80 ID G6saSQ5x 736 元茄子産科務め10年の経験者から言わせてもらうとそもそも染色体異常児の 出生って現場の混乱やものすごい負担になるほど多くないよ。 数が少ないというのは当たり前ですよね。 NICUって「新生児」集中治療室のことですよ。 本来は新生児のうちに、つまり数週間で回復していく子たちが入る設備です。 重度障害児の長期療養のための施設ではありません。 だから、数ヶ月以上入院する子を受け入れるのは システム的にもかなりイレギュラーな運用なのです。 早産児が多いのも当たり前でしょう。先天異常のない 早産児は予後が良く、多くはちゃんと退院していきます。 では、負担についてはどうでしょうか? 現場にいたというのに、2、3人くらいなら問題ない といっていますが、長期入院者が1人いるだけでも大変なことですよ。 大都市圏で、最も大きいとされるような総合周産期センターでもNICUは20床前後。 地方やそのほかの病院に併設されるのは5床前後というところがざら。 それが3か月入院する子が一人いるだけで、2週間で退院していく子が 6人受け入れ不能になります。そんな子が1年に4人いれば、26人も受け入れ不能。 5床しかないNICUのところは、20%機能低下の状態でNICUを運用して いかなければなりません。 NICUを急遽必要とする人にとっては死活問題ですよね。 だから、よくわかっている人は、NICUの長期入院を非常に懸念しています。 ま、 736 はすでに現場を離れたのは、幸いですね。 こんな認識でいられたら、NICUをとりまく現場でがんばっている人がかわいそうです。 741. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 22 02 06.14 ID qsbB3tPL 740 長期にNにいる染色体異常児が2,3人じゃなくて ダウン症児の出生児数そのものが多い年で年に2,3人だったって言ってるんだけど。 で、Nに2,3か月いる子は1000グラム以下の極低体重早産児や重度の心疾患児が多くて それは染色体異常の子に限った事では無い。 ダウン症でも重い合併症が無ければ普通に一週間か2週間で退院するんだよ。 Nに入らない子すらいる。 だから、特に染色体異常児だけをターゲットにあれこれ言う意味はそれ程無いと言ってるの。 単に染色体異常児を全員堕胎したとしてもNがガラガラになる訳じゃないって言ってるのに。 生まれる前にわかる障害児、病児全般を堕胎っていうのなら筋が通ってるし 経済的な問題、Nの定員を常に危急の為に空けておく為になるっていうのならわかる。 染色体異常児だけをなぜそこまで憎むのかがわからん。 742. 名無しの心子知らず 2011/03/22(火) 23 09 26.17 ID G6saSQ5x 741 だから、特に染色体異常児だけをターゲットにあれこれ言う意味はそれ程無いと言ってるの。 だから、染色体異常児だけをターゲットにしているとは一言も言ってない と何度言えばわかるのかなぁ。 「出 生 前 に 予 後 不 良」だとわかるケースだよ。 これを親が望んだからといって、そのまま産ませていいのか、ってこと。 あなたははぐらかして答えないけど。 予後不良の主な原因は、やはり染色体異常など奇形症候群、多因子の多発奇形、 神経管の重度障害が多いでしょうに。 そして、極低体重早産児は決して「予後不良確定」じゃないんだよ。 救命率は95%超えているし、特に染色体異常や心疾患を有さない子供 の救命率は100%近いんだよ。障害も残らないことが多い。 こういう子は回復するのだから、長期間(と言ってもせいぜい長くて3ヶ月だけど) 入院させる価値があるし、診療報酬体系も低体重児向けにちゃんと考えられている。 一方、染色体異常の予後不良例は、下手すると3か月以上入院しっぱなしも 珍しくないし、決して健常に回復することはない。そして、そのままま生きて 退院できないことも多い。 早産児と比較しても全く意味がない、というか、コストに対するリターンが まるで違うことが、何でわからないのかなぁ。 743. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 00 50 10.91 ID wYF2svjq 「出 生 前 に 予 後 不 良」だとわかるケースだよ。 これを親が望んだからといって、そのまま産ませていいのか、ってこと。 そのまま産ませていいのかって言われてもねぇ 命を選別する権限を持った人間がいないわけだから この手の話は堂々巡りになるだけだよね 744. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 08 42 23.02 ID TXkJCb+6 いちばんよくないのが、 命を選別する権限を持った人間がいないわけだから この手の話は堂々巡りになるだけだよね と言って思考停止してしまうことですね。 今の産科・新生児医療では、現場で働いている人は 緊急なNICU入院依頼を断ってまで、予後不良の子への 濃厚医療を続けることに疑問をもっていても、 「これは仕方ないこと」「何も考えないように」 と視野を狭めて、ただ目の前の治療をするだけです。 これでは正常なモチベーションを保てません。 回復することが期待できる子への濃厚治療なら 救命や障害が残らないように全力で治療することに対して モチベーションが上がるでしょうし、周りの理解も得られやすい でしょうけど。 事実、モチベーションが上がったからこそ、 低出生体重児の救命率が劇的に改善したわけですが。 これは医療側にすべて任せきりにしていい問題ではなく、 ちゃんと国民一人ひとりが、特に子を持とうとする親が 社会の将来像を考えながら、改善していくことが必要でしょうね。 実際「トリアージ」という考え方は、ちゃんと客観的に物事を 考えられる人にとっては浸透してきています。この災害時ならなおさら。 「トリアージ」ってそのまんま「選別」っていう意味なんですけどね。 745. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 08 58 47.33 ID FmMJIL7w 742 はぐらかすと言うかそのまま産ませていいのかって言われても私は神様じゃないからさ。 個人的な考えとしては産ませていいと思う、だけどね。 どっちが正しいとか間違ってるとかじゃなくて 単に何処に重点を置いて考えるかで結論は変わるものでしょうね。 ま、そりゃもう他人が決められる事じゃない、親や身内の判断に任せるべきとしか言えないねえ。 あなたはコストの関係で考えるならあなたの子や身内の時はそう判断すればいい。 でも、それを他人に強制する事は出来ないよ。 746. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 09 51 19.00 ID K7No7YZ6 現実としてそのコストは結局、社会がサポートとして支給しないとならいし その負担は全ての国民に圧し掛かってくるわけで、個人や身内だけの問題じゃない。 産ませてあげればいいと思う人のみが負担するという仕組みはないからね。 747. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 10 19 48.14 ID TXkJCb+6 725 この非常時なので 「買い占めはやめましょう」 「節電に協力しましょう」 ↑ 「実際買い占めするか、節電するかは個人が決めること」 「他人が強制することではない」 何が言いたいかというと、あなたの言っていることは幼稚です。 被災地にもかなりの妊婦がいるでしょうから、それを受け入れる ほかの地域の周産期施設はその運用に頭を悩ませているでしょうね。 実際に、医師は予後不良が堕胎可能時期にわかった場合は、 出産しない前提で説明し、最後に決めるのは夫婦であるというのが普通でしょう。 確かに決めるのは親ですし、医師が強制することはできません。 多くの方が、 745 みたいな考えの人ばかりでないことを せつに願っています。 748. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 10 23 11.56 ID TXkJCb+6 725 は 745 ですね。 749. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 10 31 16.94 ID PXe9vxgJ 「自分の子を諦めれば、低体重で危機的状況にある他の子が1人だけ助かる」 という状況なら、我が子を助けてと叫ぶことは全ての親に容易いかも知れないけど 「子を諦めれば、他の子が5人助かる」「10人助かる」という状況でも その5〜10人の子を見殺しにして我が子を助けてと叫べるかどうかだね。 重度病児を持つ多くの親がそこを見て見ぬ振りをしているし、 社会も医療関係者も親に気を遣ってそんな事口に出さない。 それでもその事実は厳然として存在するわけで、 その事実に見て見ぬ振り出来る恵まれた時代ももう終わりだと思う。 750. 名無しの心子知らず 2011/03/23(水) 11 16 52.22 ID FmMJIL7w 749 結論ありきの議論は無駄だよ。 あなたは何を言われても自分が絶対的に正しいのだから「あなた基準の予後不良の意味の無い命」を救う事を 受け入れるつもりも認めるつもりもこれっぽっちもないんだから。 あなたは生かしといても納税者になれる訳でもない命は見捨てるべきと考え続ければいい。 まあ、単にあなたの意見も私の意見も同じようにどちらかが絶対的に正しくて 誰もがへへ〜とひれ伏して納得して受け入れられる意見ではないってだけ。
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人と喰種と◆QkyDCV.pEw 千早は春香と並んで町を歩く。目的地はある。だが大まかな方角しかわかっていないので、途中の道選びは千早と春香がしなければならない。 二人は自然と人気の多そうな道を選んで進む。それは無意識の内に同じ立場の仲間を求めての事であろうか。とはいえ人気がありそうなだけであって、人っ子一人見つける事は出来ない。 住居は窓も扉も締め切ってあり、途中見かけた様々な雑貨食料品が並んでいそうな大きなドラッグストアも、シャッターを閉め駐車場入り口にはチェーンが張られている。 そんな中にあって街灯の光は頼りなくも、唯一残された道しるべのようにも見えて、二人は誘われるようにより多くの街灯へと向かっていく。 徐々に住宅は減り、代わりに商店や事務所といった建物が増えていく。繁華街に入ってきたのだろう。 もしかしたら近くに駅でもあるのでは、と思えるような建物の並びが見えて来る中、ずっと押し黙ったままだった春香が口を開いた。 「ねえ、千早ちゃん」 「……なあに、春香」 春香は少し考えた後で、言葉を選びながらゆっくりと話し始める。 「えっとね、私、ずっと考えてたんだ」 「うん」 「今、何が起こってるのか。私達は一体どうすればいいのか、どう、しなきゃいけないのか」 「……うん」 「でもね、ずっと考えたんだけど、全然どうしていいのかわからないの」 小さく肩を落とす千早。 「貴女だけじゃないわ春香、私もよ。私も、上手く考えられない。どうしても考えがまとまらないのよ」 春香は大きく頷く。 「だよね。だからさ、多分私達今、冷静になれてないんじゃないかなって。ステージ前の緊張とは全然違う感じだけど、そういう、物が考えられない状態なんじゃないかなって」 千早は驚きに目を見開く。春香がこんなにも自分を客観視できているなんて、という若干失礼な感想を持ったせいだ。 「そうね、きっとそうよ。春香の言う通りだわ。すごいわ春香、私なんかよりずっとしっかりしてる」 えへへ、と照れくさそうに笑う春香。 「でね、私考えたんだ。千早ちゃん聞いてくれる?」 部屋は広めの場所を使う。三十人は入れる大部屋で、簡素だがステージもありマイクスタンドも据え付けられている。 部屋に入ってすぐ電気を付けると、まず赤青黄の三色が部屋中を照らし回す。春香が、慌てて隣のスイッチに触れるとようやく部屋が白色の光に照らされる。 千早は、しみじみと言った。 「……もしかして、春香って物凄い大物なんじゃないかしら」 準備が整ったらしく、春香は嬉しそうな顔で千早を招く。 ここ、カラオケに入ろうと言い出したのは春香である。曰く、一度冷静になって何時も通りを取り戻す為に思いっきり歌を歌ってみよう、だそうである。 話を聞いた当初は、歌が好きな千早もそれは良いアイディアだと思えたのだが、それこそ冷静になって我が身を振り返って見ると、これは何か違うんじゃないだろうかという気になってくる。 こうして電気が来ているらしいカラオケ店に入って、店内の照明を付けて部屋を探して勝手に使おうとしだした所で千早の思考にじわじわと迫ってくる不安感の正体は、やはり他人様の敷地内に勝手に入り込んで好き放題するなんて行為に抵抗があるせいだろう。 何度か春香に思い直すよう言おうとしたのだが、妙に一生懸命になって電源探したり通信云々を確認したりしている春香を見て、つい言いそびれてしまったのだ。 春香に手渡されたマイクをおずおずと握った千早は、とりあえず、Aの音を出してみた。 音程良し、スピーカーは後ろと前に二つ、部屋が狭すぎて音が変に響く、この部屋で練習するならマイクはいらない。 次に、音階を順に。繋ぎが良く無い、もう一度。やっぱり緊張していたようだったが、もう大丈夫。そこまでした所で、ぽかんとした顔の春香に気付いた。 「どうしたの? 春香は声出さないの?」 見るからに不安げだった千早は歌を始めた途端、表情から弱気が抜け凛とした顔つきになっていた。春香は少し呆気に取られた顔で言った。 「……千早ちゃんて、もしかしたら凄い歌手になるんじゃないかな」 「?」 怪訝そうな顔の千早に、春香は誤魔化すように笑った後、自分も声出しを始めた。 不思議なもので、歌の練習を始めるとここがどんな場所で自分がどんな状況に居るのかも忘れてしまって、今の自分の声がどうなのかしか考えられなくなる。 後、隣の春香がどんな声なのかも。 「春香、また、そこ」 「うわっ、失敗しちゃった」 「意識しないで歌ったら絶対抜けるから、慣れるまでは絶対に忘れちゃダメよ」 「うん……その意識しなきゃいけない所がいっぱいありすぎる気がするけど、多分気のせいだよねっ」 千早はきょとんとした顔になる。 「ええ、いっぱいあるわね。気のせいって何?」 「……うぅ、頑張ります」 レッスンは続く。 「春香、高音」 千早はもう簡潔に単語しか口にしない。その真剣な表情から怒っているようにも見えるが、当人はただ一生懸命なだけである。 「ご、ごめんっ」 「大丈夫、何度でも付き合うから頑張ろう」 次の声はうまく言った、そう確信した春香であったが、不意に千早が歌を止める。すわ、何か失敗したかと身構える春香であったが、千早は眉根を寄せて言った。 「ごめん春香、今の私良くなかった。もう一度お願い」 一瞬だが、千早は自分の世界に入りすぎたかな、と春香も感じた所である。相変わらず、音楽への嗅覚といい妥協を拒む姿勢といい、頼もしい事この上無いなー、と遥かに及ばぬ我が身を振り返りつつ苦笑する春香。 その後二人は一曲全ての確認が終わるまでずっとレッスンを続けていた。以前に二人で仕上げた曲でもあったが、しばらくぶりにやってみると色々と直したくなる所も出てくるものなのだ。 カラオケの部屋を出て、通路に置いてある椅子に二人は並んで腰掛ける。 精算カウンターの内より取って来た飲料を、二人は同時に喉へと流し込む。アイドルらしからぬ豪快な飲み方で一息にこれを飲み干すと、大きく息を吐く。体中から余計な力が抜けていくのが自分でもわかる。 春香は壁によりかかりながら横目に千早を見る。 「ちょっと、やりすぎだったかな」 両手に空き缶を握りながら千早。 「かもね。でも、充分気は晴れたわ。我ながら単純だなぁとも思うけど」 「それはきっと、悪い事じゃ無いよ」 「……そうね」 じゃあ行こうか、と二人は並んで立ち上がり、カラオケを出ようと歩き出した所で、春香が何も無い所で盛大にすっ転んだ。 千早はうんうん、と二度頷いて言った。 「春香も完全に何時ものペース取り戻したみたいね」 「もー! 千早ちゃってばもー!」 誰しもがそうであろうが、彼もまた不本意な形でこの場に連れてこられた月山習は、少々深刻な表情で手にした資料に目を落とす。 彼はその生い立ちが特殊であり、人目をはばかるような生まれにありながらも、裕福で幸福な境遇を享受出来る立場にあった。 同じ種の者達が自らの立ち居地や厳しい食糧事情に悩んでいる中、彼が美食という贅沢の極みのような行為にふける事が出来たのも、こういった立場あっての事かもしれない。 もちろん、月山習という存在自体が持つ、絶大な武力もその助けとなってはいるのだろうが。 月山習がルールや名簿やらで理解したのは、これを企画した者達が現在、この地での無法暴虐を保障しているという事だ。 強者による弱者の一方的な蹂躙行為を、こうして場所を限定する事で社会的な圧力から保護し、参加者に対し後は楽しめ、とこういう訳だ。 ただ習にはそこで一つの事柄が引っかかってくる。 こんな事をして、誰が得をするものかと。 この手の暴虐を観戦するのは至極楽しい事だ。それは認めるし、その為に手間をかけるのも理解は出来る。だが、ここまで大規模にやらかして、採算を取るというのは難しいように思える。 何より、見るよりも参加する方が百倍楽しいのだから、この規模の催しを出資出来る程の観戦者達は、見てるだけで満足するのだろうか、と。 名簿にあったヤモリという名前。彼ほどの実力者ならば、或いは月山習をすらエサ場のエサと見なす事もわからないでもない。エサ扱いを甘受するつもりもないし、かの十三区のジェイソンだとて自身には決して滅ぼせぬとは考えぬ習ではあるが。 とはいえヤモリにこの規模の催しを起こす程の経済力があるかと言えば甚だ疑問である。 習の頭に幾つかの有力喰種グループが浮かぶも、その全てがコレの主催者には相応しくない。 残念そうに嘆息する習。楽しそうな催しではあるが、裏も読めぬまま遊興にふける程習も間抜けではない。 基本的には、コレを東京周辺外のグループによる娯楽行為と考え、彼等が狩りを楽しむ為に習やヤモリをすら集められた。 なのでこの名簿にある、もしくは名前すら無い強力無比な喰種、ないし喰種の集団がこちらを狩りに来る、と習は予測する。 となればこの事を説明し、ヤモリや霧島に協力を求めるのが最善手であろう。 その為にも、非常に残念ではあるが、金木の捕食は今は諦める他無い。彼の保護者たる霧島董香は、補給さえ万全ならば習をすら倒す程の喰種であるのだから。あの時は本気で死ぬかと思った。 ヤモリもその同族をすら手にかける凶暴さが噂になっているが、彼もまた一個の集団の頭でもある。収支の計算が出来るぐらいは期待してもいいだろう。 概ね習の方針は整った。 最後の懸念はこの首輪だが、こんな小さな首輪に仕込める程度の爆薬で、どうやって喰種を確実に殺すのか習には全くわからない。ただ用心はすべきだろうとも思う。 とりあえずはこんな所か、と習はぶらぶらと人を探して歩く。 特に周囲に注意を払っているようにも見えないが、習はその優れた知覚能力に意識を集中し、自らの索敵範囲内への何者かの侵入を警戒する。 程なく二人見つけた。臭いは人間。周囲に人影無し。見るだけ見てみるのもアリだろうと、月山習はその二人組の元へ足を向けた。 芸能人を見慣れた千早の目から見ても、彼の容貌は整った美しいものであると思えた。 背も高く、そのすらっとしたスタイルといい、本当に芸能人なのでは、と思える程だったが、彼からは芸能人らしい何処かわざとらしさが漂う美しさは感じられなかった。 彼は驚いた顔で言った。 「凄いな、こんな美人を揃えて来るとは。やはりショービジネスであるのなら容貌は外せない大きなファクターだろう。人間だって食べ物を美しく整える事で食欲を促したりするものだしね」 ふふっ、と小さく笑う彼。千早は何と声をかけたものか迷ったのだが、彼は何か言いたい事があるようなのでまずはそれを聞いてからにしよう、と思った。 「美食家、グルメだそうだね、僕は。そんな僕に一体ここで何を期待されているのかはわからないが、こうしてすぐ近くに食材を用意されたというのなら、流石に試さずにはいられないかな」 何を言っているのか全くわからない。というか彼の視線はこちらを捉えてはいるが、見ているという訳ではないようだ。 千早にとって、あまり好ましい雰囲気ではない、と思えた。 「ただ、そのままむさぼるのみ、というのでは芸が無い。全くもって、美しくも楽しくもない。ではどうするか、工夫が必要なのさ。わかるかい?」 千早はこちらを無視し続けた男に対し、無視をし返し一方的に言葉を述べる。 「貴方は誰ですか? 話をしようというのなら、せめて名前ぐらい名乗ってはもらえないでしょうか」 彼は千早の反論に驚いたようだ。だが、千早は次の瞬間、一体何が起こったのか全くわからなかった。 「むごぉっ!?」 そんな篭った悲鳴が何故自分の口から漏れ出したのか。 わかっているのは、上を向いた形で頭部が完全に固定されてしまっている事と、口の中に鉄の棒が突きこまれ、大きく口を開かされてしまっている事。 無我夢中で手足をばたつかせる。両足は、完全に地面から離れてしまっている。顎がとても痛い。喉が苦しい。手も足も、前にある硬い壁にぶつかってしまって何も出来ない。 頭上の街灯の光が目に痛い。 不意に光が消える。真っ暗になったそこに、ぼんやりと人の顔らしきものが見えた。 「肉だけが人間じゃないんだな、これが。人間っていうのはね、素晴らしいんだ。たった一人だけでも、多彩な食感を味わえるよう、僕達喰種がより楽しめるよう作られているのさ」 更に大きく開かされる口。中に更に別の鉄の棒が。これはペンチのようなものらしく、千早の奥歯をがちりと掴んで左右に揺らす。 「ん~、良い反応だ。この堅さなら味も期待出来る。虫歯持ちや弱りかけの歯はどうにもねぇ。適度な歯ごたえが欲しいからこその奥歯なんだから、あまりに柔らかすぎるのはね」 遠くから春香の悲鳴が聞こえる。声量は春香の方が上なのに、この男の声の方が良く聞こえるのはどうしてなのか。 現実逃避はここまでだった。 「んぐぅあはぁ!!!!」 信じられない程の激痛。間違いなく生まれてこの方味わった事の無い程の痛さだ。 口を閉じて手で抑えたい。腕を顔付近に上げてもがくが、顎と口を固定している金具らしいものはビクともしない。 視界が滲んでいる。息の苦しさも限界に近い。それでも、あがいてももがいても、何をしても顔を固定する金具は外れてくれない。 そんな絶望の固定具が、いきなり外れた。頭上から聞こえる声にも千早は、ただ傷みよ収まれとばかりにうずくまって口を手で覆う事しか出来ない。 「うん、ブォーノ。これはいいね、匂いも悪くないし、味も、少し軽いか? ああ、いや、ううん、癖になる系だねコレ」 今の千早に出来るのは、ただただ口を抑えて痛みが過ぎるのを待つ事のみ。 小刻みに両足が動くのは、痛みを堪えるために必要な動作なのだ。それもまた、考えての行動ではなく無意識にそうなっているだけの話だが。 再び、男が言った。 「うーん、うん。やっぱり我慢は良くない。まいったね、さあどうぞと出された食材にまんまと食いついておかわりまでしようっていうんだから、グルメの名が泣くよ。ね、でもさ、もう一個ぐらいは、いいだろう?」 不意に千早の上から圧迫感が失われる。気付かなかったが、千早の上には春香が覆いかぶさっていたのだ。 「やめてよっ! もうやめてっ!」 春香の悲鳴が聞こえる。千早が思ったのは、そんな怒鳴るような声を出したら喉に悪いわよ、であった。 顎の下にさっき味わった拘束具の感触が。ここでようやく、千早はもう一度アレをやられるかもしれないと思い至った。 もう声を出すも何もない。手足を無茶苦茶に振り回し、全身をくねらせ跳ねらせありったけで拘束に抗う。 それでも無理矢理に開かれた口は閉じてくれなくて、体が宙に引っ張り上げられるのも止まらなかった。 「ひや……ひやら……」 言葉にならない。もしかしたら言葉にならないから、相手に聞こえないせいで止めてくれないのかも、と考え必死に声を出そうと繰り返すが、やはり言葉は意味を持つ音の羅列になってくれなかった。 そして再びその時が。 「いひやぁらわっ!!!!」 今度はすぐに開放してもらえたので、千早は急いで口を手で抑える。まるでそうすればこの激痛が治まってくれるとでも言わんばかりに。 地面に額をこすりつけ、押し付けるようにする。力を込めて何かをしていると微かにだが痛さが落ち着くような気がして、体の動く箇所全てでそうしようとうごめきもがく。 とにかくどういった形でもいいから動いていないと痛みに耐えられないので、結果として寝転がったまま右に左に転がり回る事になる。 意識は痛みを堪える事だけの集中しているせいで、上から聞こえて来た声の意味はわからなかった。 「僕はもういいや、残りは次の人に譲るよ。そうそう、間違ってもヤモリになんて捕まらないといいね。彼、ただでは食べてくれないらしいから、さ」 最後の最後で初めて、彼は千早に対して言葉をかけてくれた。それも、親切に近い内容だったのだが、いまだ地面をのたうち回る千早にも、その彼女を守るように前に立つ春香にも、全くもってその親切は伝わらないのであった。 春香は千早を抱えるようにしながら、先ほど見つけた、閉まっている薬局へと向かう。 シャッターは下りているが、何処かに入り口は無いかと春香は建物の周囲を走って回る。従業員用通用口を見つけ、祈るようにドアノブに手をかける。開いた。 神様にありったけの感謝を述べながら、シャッター前に待たせてある千早を呼びに行く。 両頬を手で抑えたまま、千早は壁にもたれかかっていた。最初の頃の痛さの余りうごめき回るような事は無くなったので、少しは楽になったのか、と春香は楽観的に思いたくもあったが、千早の表情があまりに険しく、それを口にして訊ねる事は出来なかった。 店内の電気を探すのに手間取ったが、これをつけると後は案外簡単に薬売り場は見つかった。歯、痛み止め。そんなキーワードを探す。千早は痛みのせいで春香に手を引かれるままにしか動けないので、春香が探すしかない。 歯のコーナーを順に探してそれっぽいのを三つ程掴み、探してる途中で見つけたミネラルウォーターを一緒に持っていく。焦りはあるが、今は自分がしっかりしなくては、と頭を駆使する春香は何時もの春香からは想像もつかぬ程的確に行動していく。 どれが一番良いのかわからなかったので、千早には春香でも知っているメーカーの薬を渡して飲ませた。千早はその場で床の上に寝転がってしまう。 ただ、少なくとも安定しているようにも見えたので、春香はこの機会にと店内を物色し何か必要なものは無いかとカゴを持って歩き回る事にした。 配られた鞄の中には食料品もあったが、ドラッグストア内に置いてあるものの方がおいしそうであったので、春香は幾つかをバッグの中に納めておく。お気に入りの飲料も。 しばらく店内を回って色々なものをバッグに詰めた後、千早の所に戻ると千早は自分のバッグを開いて中を色々といじっている所だった。 「春香っ」 もう頬を手で抑えてはいない。心なしか嬉しそうに千早は声をかけてきた。 「千早ちゃん、もう大丈夫なの?」 「ええ、ええ、聞いてよ。この薬凄いわ、本当にびっくりするぐらい痛みが引いてくれたの。春香これ知ってたの?」 「本当に!? 良かった~、CMでメーカーの名前に聞き覚えがあったから、有名なのかなってそれにしたんだ」 「そっか、ありがとう春香。もう、あんまりに痛すぎて私凄い不機嫌になってなかった?」 「そ、そんな事無い……ああ、うん、無かった、かな?」 少しおどけてそう言うと、千早は口元を手で抑えてころころと笑う。 「うふふ、春香って正直よね。ごめんね春香、色々と迷惑かけちゃって」 ぶんぶんと勢い良く首を横に振る春香は、そんな事無い、と言おうとして言葉が出てこなくなった。 目尻に涙が溢れて来て止まらなくなる。押さえ込んで来たものが、まとめて一気に飛び出して来た。 何度も何度も止めてと叫び止めようとした、力づくでと動く彼にしがみついて防ごうとした、せめて自分が壁にと前にも飛び出した。それら全てで、春香はありったけの勇気を振り絞る必要があったのだ。 怖い、恐ろしい、逃げたい、泣き喚いてしゃがみこみたい。それらを振り切って、春香が前へと踏み出すには並々ならぬ勇気と覚悟が必要であった。 あれらは全てヤケになったり、無我夢中で動いた訳ではない。春香は考えて、焦り怯えながらも必死になって考えた結果の行動であったのだ。バッグの中の刀に気付けない程動揺してもいたが。 その全ては全くの無意味であった。男が千早にあれ以上の危害を加えなかったのは彼の気まぐれによるものであろうし、春香が何もしなくてもきっと、結果は何一つ変わらなかっただろう。 春香は千早の友達なのに、その危機に際し何一つしてやる事が出来なかった。それが、悲しくて、悔しくて、申し訳なくて。そしてもう一つ。これを考えるとまた自分の心が軋む音が聞こえてくる。 千早の事以上に、自分がありったけで抵抗した行為全てが無駄であった事に、春香は絶望していたのだ。もう、何をやっても無意味なんじゃないかと、崩れ落ちそうになるのを千早を支える事で耐え忍んできたのだ。 そして、今こうして、千早は自らを取り戻した。 元の優しくて強い、如月千早が春香の目の前に居てくれるのだ。 たった今危地を乗り越えたばかりの千早に頼るような人でなしな真似は絶対にしたくない、したくないのだが、もう、春香には我慢出来なかった。 「ひ、ひっぐ、う、うぐぅ……」 小さく嗚咽を漏らす。これは千早へのサインだ。私を助けてと、甘えさせて欲しい、との。 千早はそこまで察したわけでもないだろうが、春香の甘えを快く受け入れる。千早には春香に対し感謝の心しか無いのだから、そうしてすぐに何かを春香に返せるのは嬉しい事ですらあった。 ゆっくりと、子供をあやすように春香の頭を抱いてやると、春香はその胸にもたれかかって泣き出した。 ほんのりと良い香りが漂う。 人に触れるという事は、こんなにも安心出来る事なのか、と千早もまた春香を抱く事で心の平穏を得る。 一瞬、ノイズのように走る硬質な感触。 薬も想像以上に効果的であり、千早の口の中には最早微かな鈍痛しかない。 何度か舌で触れたぬるりとした感触が思い出される。 ドラッグストアがあった事や中に薬が置いてあった幸運を千早は天上の何者かに感謝したいと思えた。 無理だ。忘れる事なんて出来はしない。 鉄の道具で押さえつけられてる、そう思っていたものは彼の体であり手であり指であった。それは千早が全身で力を込めたとしても彼の指先一本すら動かしえぬ程、力の差がある故そう感じられたのだ。 文字通り話にならない。アレに触れられたら最早絶対に逃れる事は出来ない。春香と二人がかりでも問題にすらならない。いや、多分それ以上だろう。 彼は千早を、春香を、全く対等の相手とみなしていなかった。それは傲慢故ではなくそういう存在であるからで、充分な理由あっての行動だったのだ。 千早は拳銃を持っていたが、これを手に取る事すら出来なかった。目の前に居た、じっと彼を見つめていたというのに、彼がどうやって千早を掴んだのか全くわからなかったのだ。 そんなザマでは拳銃だろうとマシンガンだろうと、持っていた所で無意味だろう。正直な所、拳銃を当てたとしてもアレをどうこう出来る気がまるでしない。 千早もまた、春香が襲われた無力感に苛まれる。 これは錯覚ではない。過剰な自意識が反転したのでもなく、安楽を求める逃避でもない。それは純然たる事実で、千早も春香も圧倒的なまでに無力であるのだ。 後はただ、蹂躙されるのみ。さっきそうされたように。 思い出すだけで、悔しくて、情けなくて、惨めで惨めで仕方が無くて。 何時しか千早も春香を抱いたまま、泣き出していた。 「春香、春香ぁ……」 二人は店内の照明に照らされながら、お互いに抱き合ったまま、ただただ泣き続けるのだった。 月山習は、バッグから取り出した地図を見ながら片眉をひねらせる。 「ん~。支給品云々の事考えたら、あの二人殺してもらっておいた方が有利だった、かな?」 口ではそんな事を言いながらも、習はそうするつもりは全く無い。 馬鹿真面目にこのルールとやらを踏襲する気も、殺し合いをして彼等を楽しませる気もない。 だからこそ、食事とみなしておきながらあの二人を二人共生かしておいてやったのだ。それも、生命活動に全く影響が無いような形でだ。 喰種としてはありえない程の厚遇だ。事情を他の喰種が聞いたなら、習はよほど人間が好きなのかと驚いたであろう。 もちろん習は人間が好きな訳でも善意でそうした訳でもない。そも、善意を見せるなら保護してやるべきだろう。あの二人を放っておいたらほぼ間違いなく食われて死ぬであろうし。 習はただただ単純に、今自分が食べたい部位以外を食べたくなかっただけだ。それが偶々、死なない場所だった。それだけの事。その上でわざわざ殺すのも面倒であるし、誰か他の喰種が見つけたのならソイツが残りを食べればお互いハッピーだろうとも思う。 先に自分が推理したように、月山習はここを喰種の為の狩場であると考えている。 であるのなら、無法を咎める者もおるまい。更に喰種同士の争いになるのなら、喰種対策局の事はそれほど考えなくてもいいだろうから、習は自分がかなり自由に動けるだろうとも考える。逆に、変に喰種対策局に気を遣ってはこれを仕掛けた奴等に遅れをとりかねない。 おかげで習は、少し上機嫌でもあった。 この首輪には心底から腹が立つが、それを抜きにすれば、こうして好き放題に人を食べて回ってもいい、というなかなかに無い環境は、少しわくわくしてくる所がある。 まだずっと子供だった頃、世界は未知の美味に溢れていると、自分はそれをどう手にしようと誰にも止める事は出来ないと、無邪気に信じられた頃を思い出す。 極自然な形で人間社会に溶け込んでいた月山習であったが、やはり彼もまた、人間社会に居る事でストレスを受ける部分があり、こうして開放される事を喜びと感じる、何処にでも居る普通の喰種な感性を持ち合わせてもいたのだった。 【D-8南部/黎明】 【如月千早@THE IDOLM@STER】 [状態]:奥歯を左右一本づつ抜かれた(痛みは薬でかなり緩和されている) [装備]:グロック35(17+1/17、予備34発)@現実 [道具]:支給品一式、あんこう@現実、ガンプラ@現実 歯の痛み止めの薬(かなり効きます、凄いね現代薬学) [思考・行動] 基本方針:絶対に三人揃って元の世界に帰る。 1:美希を探すため、人の集まりそうな場所(トロピカルランド)を目指す 【天海春香@THE IDOLM@STER】 [状態]:健康 [装備]:村正@現実 [道具]:支給品一式、ランダム支給品1~2(武器ではない) [思考・行動] 基本方針:絶対に三人揃って元の世界に帰る。 1:美希を探すため、人の集まりそうな場所(トロピカルランド)を目指す 【D-8南部/黎明】 【月山習@東京喰種トーキョーグール】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考・行動] 基本方針:喰種同士で力を合わせて脱出する。 1:ヤモリと霧島董香に協力を持ちかける。 2:甚だ不本意ではあるがカネキ君には手を出さない。 ※この殺し合いは他所の喰種達が娯楽の為仕掛けたものだと考えており、無理矢理さらわれた者の他に狩人が居てこちらを殺しにくると予想しています。 時系列順で読む Back 快楽殺人者との付き合い方あれこれ Next 歌う角笛の騎士と銀鴉の忍、そして吸血淑女 投下順で読む Back Resolusion Next 歌う角笛の騎士と銀鴉の忍、そして吸血淑女 002 真夜中の太陽 如月千早 043 蟷螂の斧 002 真夜中の太陽 天海春香 043 蟷螂の斧 GAMESTART 月山習 050 Darkninja Look before he leap
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Introduction 「ケンタロス戦闘不能! よって男選手の勝利!」 ジャッジが高らかに宣言すると共に、歓声がそこかしこから上がる。いつの間にか握っていた拳は少し 汗が滲んでいる。力を緩めトレーナーゾーンから出ると、俺はこのバトルの一番の功労者に近づいた。 「よくやったな。凄かったよ」 「何てことは無い。私は主の命に従っただけだ」 そう言うと彼女はスタスタと控え室のほうへと行ってしまう。ポケモンには珍しくモンスターボールに 収納されることを嫌う彼女は、バトルが終わっても人間のようにただ休むだけだ。もちろん、俺なんか が無理やりモンスターボールに収納できるはずもないし、バトルに支障も無いので特に咎めることもしな い。 俺がそんな背中を見つめていると、彼女は顔だけをこちらに向けてきた。 「どうした、主よ。早く控え室に戻ろう。ここは少し五月蝿い」 「ああ、そうだな」 彼女の名前はミュウツー。唯一無二にして伝説のポケモン。そして俺のポケモンだ。 ジムから出ると、途端に俺とミュウツーの傍に人の波が押し寄せてきた。 次は僕と闘ってくれないか? サインしてください等、そこかしこから湧き出る言葉に俺はただただ目 を丸くするしかない。ここ数ヶ月、ミュウツーをゲットしてからというもの、俺の喜び以上に周囲が色め きたっていた。 確かにポケモン図鑑に登録だけはされているものの、その存在は殆どと言っていいほど未知のものだっ た。最強、幻、最終進化形態。彼女を形容する言葉ならいくらでも出てくる。それをバッチもろくに集め 終わっていない中途半端なトレーナーがゲットしたというのだから、ある程度の報道規制はなされている ものの毎日がお祭のように騒がしい。寄ってくる人は大抵がその伝説のポケモン見たさに寄ってくる人た ちばかりだ。バトルして欲しい、データだけでも良いから欲しい、中には手持ちのポケモン全てを譲るか ら交換してくれなどという人も珍しくない。 とにかく、そこらのアイドルよりも有名になってしまった俺は人波に揉まれて辟易するだけなのだけれ ど、渦中の彼女はともかく冷静だった。 「消えろ。目障りだ」 よく澄んだ声が周囲を圧倒する。比較的、ポケモンは知能が高く人語を解するものは多いのだけれど、 このように人語を操るポケモンはミュウツー一匹だけだ。それだけに彼女から発せられる一言は何よりも 重く感じられる。 「去れ。主の邪魔だ」 次の瞬間にはモーセの十戒のごとく、一本の道が出来ている。俺はまたも先に行く彼女を追おうと、な ぜだか周囲にペコペコと頭を下げながら通った。 なぜ頭を下げるのだ、主よ。もっと胸を張り堂々とするべきだ。 孤高とも言うべき背中がそう語りかけてきている気がした。 「そう、それは大変だったわね」 そう言ってジョーイさんはコロコロと笑う。どうにもその笑顔に慣れない俺は、手渡されたジュースを ぐいっと傾けた。久しぶりの水分に生き返る気がした。 あの後、なんとかポケセンに着いた俺はいつものように手持ちのポケモンを預けると、ジョーイさんと 世間話に華を咲かせていた。本来なら直ぐに終わる作業なのだけれど、ボールに入りたがらないミュウツ ーの治療に少しばかり時間を取られる為だ。 「それにしても、ゴースに怖がっていた男君がまさかこんな有名人になるなんてねえ」 また言ってきたよこの人は。全員同じ顔のジョーイさんの中でも、ここヤマブキシティのジョーイさん とは仲が良い俺はいつもこんな風におちょくられる。まだシルフスコープを持っていない時にこの人に泣 きついたのが運の尽きだったのだろう。それでも親切に教えてくれたので頭が上がらないのも、原因の一 つと考えられる。 「そういえば、ナツメさんはどこにいるの?」 「ああ、リーダーなら少し私用があるからって。多分、そろそろ戻って」 こっちを見ていたジョーイさんの視線が俺の背後に移る。俺もそれを追って後ろを振り向いた。 始めに見えたのは誰かに抱えられたケーシィだった。相変わらず気持ちよさそうに寝ているソイツから、 徐々に目線を上に上げる。 「やあ、男。さっきのバトル、見事だったわ」 ミュウツーの治療にはまだ時間が掛かりそうだった。 「すいません。ジムまで借りてしまって」 「いいわ。私も一人のトレーナーとしてミュウツーが気になったし」 表情の変化に乏しいナツメさんだけれど、長年の付き合いからか、最近は彼女がどういう感情の元、 言葉を発しているのか何となく理解していると思う。今も胸元で眠るケーシィの頭を撫でているその姿 は、どこか優しげなお母さんのようにも見える。 ヤマブキシティのジムリーダーであるこの人とはバッチを巡ってバトルした時からの仲だ。まだミュ ウツーをゲットしておらず、散々彼女のフーディン以下、エスパー系のポケモンに苦しめられたのも今 となっては良い思い出だ。 「次が最後のジム戦らしいわね」 「ええ。先日、やっとトキワシティのリーダーが帰ってきたと連絡があったので」 ミュツウーをゲットしてからは順調過ぎると言っていいほど俺の旅は進んだ。ただトキワシティのリ ーダーが留守である為、今はそれを待つ傍ら、先ほどのようにジムを借りてのポケモンバトルをしてい る。 「オーキド博士はどうだった? 気さくな方でしょう?」 「ええ。ミュウツーを見せたら凄い興奮して」 トキワジムが肩透かしに終わったため、マサラタウンにも寄った俺はあのオーキド博士にも会った。 それはもう子供のようなはしゃぎ振りで、ミュウツーですら驚いていたのだからよっぽどなのだろう。 しばらくオーキド博士の変人ぶりを話し、ミュウツーの治療も終わりに近づいた頃、ナツメさんがあ る提案をしてきた。 「少しだけ、ミュウツーを貸してくれない?」 また目を丸くする俺。返事をしようとなんとか口を開いたとき、思いもがけない方向から反論が起こる。 ミュウツー本人だった。 「ちょっとっ、まだ治療は」 「黙れ」 「ひっ……!」 「借りるだと……? ふざけるな……! 私の主は主一人だけだ。それ以外、他の誰にも私は従わない。 人間風情が、この私を御せると思っているのか……!」 場にいる全員が凍りつく。それこそ彼女が本気を出せば、この場にいる全員を縊り殺すと言った具合 に怒気と殺気を露にする。 誰かの息を飲む音すら聞こえる静寂の中、なんとかナツメさんは続ける。 「い、言い方が悪かったのは謝るわ。別に交換したいとは言ってないの。ただエスパー系ポケモンの専 門家としては、その頂点ともいえるミュウツーを、貴方を扱ってみたいとも思うの。けして悪いよう にはしないわ。無理なバトルはしないし、それなりに腕もある」 「黙れ!!」 「いいえ。貴方は全トレーナーの夢だもの。少しでも貴方に近づきたい、扱ってみたいと思うのは当然の」 「それが人間の驕りだと言っているのが分からないのか……! ポケモンを物のように見て……! 貴様 もまたあの屑どもと同類かぁ……!」 ヤバイ。そう思った瞬間には、既に俺はミュウツーに飛び掛っていた。 ミュウツーと一緒に床を転がる。耳はとんでもない轟音と衝撃が鳴り響いている。頭も割れそうに痛い。 滅茶苦茶だ。滅茶苦茶だ。 衝撃が済むと直ぐに体勢を立て直し周囲を見渡したのだが、酷い有様だった。機器類が見事に弾けとび 所かしこにボールが転がっている。同時に出した精神攻撃をモロに喰らってか倒れている人やポケモンた ち、それでもジョーイさんとラッキーは直ぐに医療活動に入るところには、場違いだが感動すら覚えた。 そして、やはり俺と同じタイミングで置き上がった彼女はやはり俺に噛み付く。 「なぜだ主! なぜ邪魔を」 「当たり前だ! なにやってんだよ!」 ひっ、と小さく息を吸う音が聞こえる。まるで暴風のような力を振るうミュウツーも、なぜだか俺には 滅法弱い。こうして大声で怒鳴るだけで、年端もいかない子供のように身を縮こませる。 「だって……私は、主のため……」 「俺の為でこんなことをするのか! 俺の為にこんなに関係の無い人たちを滅茶苦茶にするのか!」 未だに頭は割れる様に痛い。それでも幼子の様に、縋るような目でこちらを見てくるミュウツーに気ま でおかしくなりそうだ。 周囲はまだざわついているものの、比較的軽傷で済んだ人たちで倒れている人間やポケモンの救助活動 をしている。それなのに、それなのに。 「主……私は」 「五月蝿い! お前なんかいるもんか!」 「あああ……主……私は、だって……主と離れたく……離れたくない……主の為に……私の全て、主だか ら……ああ……ごめ、ごめんなさ……あ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん なさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいご めんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ」 どうしようもない喧騒の中、彼女の謝る声だけがどこまでも続いた。 「本当に良いの? ミュウツーをナツメさんに預けて」 はい、とピジョットの背中に乗ったまま俺はジョーイさんに頷く。ポケモンタワーを見上げると、曇天 の空と一緒に悲しみに俯いているようにすら思える。いや、それはただ俺の気分なのかもしれない。 あの後、また暴れださないようにヤマブキジムのエスパーポケモンを総動員してさいみんじゅつをかけ た。ただその時にはナツメさんのポケモンは出てこなかった。ナツメさんはミュウツーの精神攻撃から周 囲の人々を守るため、自分の精神防護そっちのけで力を使ってしまったからだ。まだ、病院で治療は続い ている。 そしてミュウツーは眠りについた。今もジョーイさんが持っているボールの横でスリーパーがブツブツ とさいみんじゅつを平行してかけている。 「ジムリーダーに事情を話して、一番に相手してくれるよう配慮してくれましたから」 ミュウツーをゲットした当初、俺がトキワバッチを持っていないことは界隈では問題視された。ただで さえ高レベルのポケモンを完璧に扱えないことは法的にも一部制限がかかっているというのに、ミュウツ ーという究極のポケモンを扱えないということは国家的な危険すら配慮される。噂では四天王が動くとま で言われていたのだけれど、結局、ミュウツーがなぜか俺に従順ということで話は丸く収まってしまった。 これもまた噂で聞いたのだけれど、最後のバッチですら扱えないのでは、というのもこの話がうやむやに なった一因であるそうだ。 「とにかく、トキワバッチを手に入れてミュウツーを完璧に扱えるようにしてきます」 「そう……」 正直、俺はミュウツーをゲットしてからというもの、彼女に頼りっぱなしだったかもしれない。もちろ ん、他の手持ちのポケモンもなるべく育ているけれど、絶対に信用出来るポケモンがいるかといえば答え に窮する。ミュウツーはもしかしたら信用という言葉すら使えないのかもしれない。 全ては俺の怠惰。怠慢。 「行ってきます」 ピジョットが勢い良く翼をはためかせる。分かれる間際、ジョーイさんが「貴方はもう一人前のポケモ ントレーナーになったわ」という言葉に、少しだけ頬が熱くなった。 トキワシティに着くと、黒いスーツに身を包んだ人が既に待っておりジムへと連れて行くそうだ。 ジムに入り、この先にリーダーがいると通された部屋はどこまでも暗い。本当にこんな所にリーダーが いるのだろうか。妙な胸騒ぎだけが大きくなる。 不意に世界が白くなる。いや、急に強い明かりがつけられた為、目が追いつかなくなっているだけだ。 『ようこそ。トキワジムへ』 部屋一杯に響く。どうやらここのリーダーらしき声だと思われるが、姿はどこにも見あたらない。おま けに機械でいじっているのか、キンキンとした音が耳に痛かった。 『君の噂は聞いているよ。全てのバッチも持たずにミュウツーを操る男。世界の全てを握った男』 何かが引っかかった。いや、本当に感覚的なものなのだろうけれど、どうにもこの声から発せられる悪 意というものが俺の頭にひっきりなしに纏わりついてくる。いったい、なんだこれは。 『実は私も世界の全てに興味があってね。というよりも、全てが欲しいんだよ、私は』 ガシャン、とどこかで金属音が響く。腰のボールに手を持っていくと、目の前から何かが高速で襲って くる! 「う、うわあ!」 なんとか寸前で避ける。しかし、なんとか体勢を立て直したところで肩口から血が出ていることに気づ く。気づくことで追いかけてくる鈍痛に顔をしかめる。 『突然の挨拶失礼。そうだ、自己紹介がまだだったね。私はトキワジムリーダー、サカキ』 傷を見ていると前方からシャーっと、威嚇音が聞こえる。顔を向けるとそこにはペルシアンがいた。こ の傷はコイツだったのか。そして周囲を見ると、ゴローニャ、キングラー、サイドン、ニドキング、カイリキーが俺に襲い掛からんと爪を、牙を研いでいる。 その時、ようやく気づいた。この男は、嫉妬しているのだ。ミュウツーが欲しい。欲しくてたまらない。 そんなガキみたいな野郎だということを。 『そして、ロケット団のボスだ。憶えていてくれたまえ。まあ、ここで死んでもらうがな』 ロケット団!? 突然の名詞に体が固まる。なんでそんな世界的な犯罪組織がジムのリーダーなんて。しかし、そんなこ とを悠長にも思ってる暇は無い。今もまたペルシアンがその鋭利な爪と牙を持って襲い掛かってくる! 「バリヤード!」 すかさずボールを目の前に落とす。バリヤードも既にバリヤーを展開しており、寸でのところでペルシ アンの攻撃を防ぐ。 「カイリキィィィィィィ!!」 敵のカイリキーを咆哮をあげる。なんとゴローニャを持ち上げてそのまま上空まで投げ飛ばした。落下 地点はもちろん、俺とバリヤード。 「くぅ! サワムラー!」 今度はゴローニャに向かってボールを投げる。空中で展開されるボールからサワムラーが出てくると、 全力でゴローニャの脇に回し蹴りを叩き込む! 直後に轟音。軌道を外されたゴローニャはそのまま明後日の方向へ転がっていく。敵も続く。今度はサ イドンとニドキングのダブル突進。俺も負けじと二つのボールを投げる。 「力比べだ! リザードン! カビゴン!」 そのままがっぷり四つ。しばらく動く気配はない。手詰まりかと思うがまだ手は残っているようだ。サ イドンとニドキングの背後からキングラーが出ると、こちらにその巨大なハサミを構える。 「ダグトリオ!」 出すと同時に自分の真下に穴を掘る。落下しながら頭スレスレにバブル光線が通り過ぎるのを感じる。 「カブトプス!」 おそらく追撃してくるであろうポケモンに対してボールを投げてカブトプスを出す。案の定、バリヤー ドのバリアーを掻い潜ってきたペルシアンが噛み付こうと歯を立てるが、カブトプスの爪が迎撃。 お互いの初手は全て相殺。ミュウツー無しでやれたことに対する安堵と、ミュウツーがいなければこの 程度だという不安が押し寄せてくる。 『ほお。さすがはミュウツーが傅く男。楽しめそうだよ。本当に』 いつの間にか作っていた握り拳に力を込める。 見ていてくれ、ミュウツー。お前を必ず迎えに行くよ。 初手こそ合わせた戦いだったが、それでも地力の差とも言うべきか、徐々に雲行きは怪しくなって来る。 「リキィィィィィ!」 「カビゴンッ!」 カイリキーの地球投げが決まる。脳天から落とされたカビゴンが意識を失う。これでバリヤード、カブ トプス、サワムラーに続いて四匹目だ。 『やはりこの程度か。がっかりだ。ミュウツーもさぞ退屈だったろう。こんな男が主人でな』 機械的な声で述べられる、機械的な言葉。それが一段と悔しさを跳ね上げる。どれだけ口の中が血の味で 染み込むのだろう。 『どうだ? ここで取引をしよう。ミュウツーを渡すというのなら命だけでも保障してやる。お前もあの化 け物には手をこまねいてるのだろう? 丁度良いじゃないか? なあ?』 化け物。 その言葉が俺の胸に刺さる。アイツは確かに化け物だ。ありとあらゆるものを破壊する力がある。いとも たやすく色んなものを。大切な人を、モノを。目の前はいつも真っ赤な世界。すえた、汚らしい血の匂いし かない世界。 だけど。だけど。 だけど。 『さあ、今こそ主を変えようではないか。ミュウツーの! 世界の!』 主 俺は、ゆっくりと隠し持っていた三つのボールを落とした。 それは今までの戒めから解かれるように、各々が極上の翼をはためかせる。 ファイヤー。 サンダー。 フリーザー。 アイツが、初めて俺にくれたモノだった。 『なっ……。伝説の鳥ポケモンが三匹だと!? 貴様! 一体』 「なあ、俺さあ。アイツに会いたいんだ。一目で良い。そしてアイツにごめんって言いたいんだ。こんな馬 鹿で使えない主人でごめんって。お前たちが俺の言うことなんて聞かないなんて分かってる。分かってる けど、それでもアイツに会いたいんだ。今更、お前らに頼んだってダメだと思う。だけど、俺はアイツが 大事なんだ。大切なんだ。コレが終わったらどこへなりとも行ってくれ。だから、だから、アイツを自由 にしてくれないか?」 輝きを増す三つの伝説。そして、なぜだか頷くように羽ばたいた。 ロケット団壊滅のニュースを知ったのは、グレンシティのある病院のテレビでのことだった。 「まだ、気になるもんか?」 いつの間に入ってきたのか、グレンシティでジムリーダーをしているカツラさんがわざわざ食事を運んで きてくれていた。 あの後、逃げ惑う途中で意識を失った俺は伝説のポケモンに背負われながらグレンシティに運ばれたらし い。俺を運び終わった三体の鳥ポケモンは、ふたご島の方へと飛び立ったという。 「実に美しい姿だった。これだからポケモンというのは分からんなあ」 禿げ上がった頭をペチペチと叩きながら窓の外へと目を向ける。俺もまた同じように視線を追う。綺麗な 水平線が眼前に広がっていた。 「まだ、退院出来ないんですか?」 「君をむざむざアイツ等に渡しとうないからのう」 怪我はたいしたことなかったものの、ロケット団の残党が今でも俺のことを狙っているらしい。そういう 意味ではあの鳥ポケモンがこの島に運んでくれたのは僥倖と言えたろう。 「そういえば、ミュウツーはどうした? お前の手持ちには無かったんだが」 「それは……」 まだミュウツーのことは言えずにいた。話したところでこの人に迷惑しかかけないだろうし、何より、ミ ュウツーのことを考えることだけで辛くなる。 「男さん、いらっしゃいますか?」 ガラ、とジョーイさんがドアを開ける。「ノックぐらいせんか」と嗜めるカツラさんを他所に、ジョーイさ んは俺に続けた。 「ヤマブキシティのナツメさんから電話が来ているんですけど」 俺の鼓動が、再び強く鳴った。 慌てて俺が電話口に立つと、お互いがテレビ電話越しに目を丸くする。 「そんなに慌てなくていいわ」 「いや、その傷どうしたんですかっ?」 見るも悲惨な状態だった。まさかまたミュウツーが、グレンシティの陽気とは正反対の寒気が全身を駆け 巡る。ナツメさんは俺の顔を見て、僅かに口角を持ち上げる。 「……君の思った通りよ」 「あぁ……」 頭を抱える。考えていた最悪の事態が起こった。それだけが頭を、心を締め付ける。 「でも気にしないで。むしろ、こっちが……不味いことをしたわ」 淡々とした口調の中に苦渋が滲む。珍しく感情を露にするナツメさんは、その後のことを話してくれた。 「……そうですか」 「シルフスコープを改良して作ってみたんだけど、やはりまやかしが現実を超えることなんて無いのね」 何も言えなかった。ミュウツーはエスパーポケモンのさいみんじゅつで再び眠りについている。今回は実 に簡単にかかってくれたそうだ。それだけでどこか湿っぽくなってしまう。 沈黙が続いた。廊下の窓からはどこまでも青く清々しい空と海が続いているというのに。それなのに。 突然、背後からバタバタとした足音が近づいてくる。勿論、振り返った。 カツラさんだった。そして、またこの物語は急に加速しなければならなくなった。 「ロケット団がこっちに来ておる! ミュウツーの場所も気づかれたぞ!」 「すまんな! これしか今用意できるものがないんだ!」 グレンジム前、俺はカツラさんの用意してくれたオニドリルの背中に乗っていた。ピジョットを転送しよ うと思ったのだが、既に回線は切られていると言う。 「ここから真っ直ぐ飛べばヤマブキにつくはずだ。あと、サカキからこれが来ておる。くそっ、あんの馬鹿 野郎が、目の色変えおって」 カツラさんから手渡されたのは最後のバッチだった。 「あやつも昔はポケモンに正しい情熱を向ける奴だったんだがのう。すまんな、君みたいな若いもんにまで 迷惑をかけて」 「いいえ、ここまでしてもらえてお礼も言い切れません」 そのままバッチを胸元につける。バッチには短く何かが書かれているようだ。それをチラリと見る。 「ここはワシが食い止める。なあに、久々のガチンコだのう。燃えてくるわい」 カツラさんがドンと胸を叩くと後ろにいる炎ポケモンたちが一斉に唸り上げる。大丈夫だ、信じよう。 「本当にありがとうございます! それじゃあ、あの、行ってきます!」 「行ってこい! そんで全てを片付けて来い!」 バッチにはこう書かれていた。 『さあ、ラストダンスといこうか』 加速度はどんどん増していく。青い青い空を一直線に切るように飛んでいく。ヤマブキには確実に近づ いている。もう少しでミュウツーに、アイツに会える。 ただ近づくごとに暗雲が眼前に広がっている。いや、暗雲じゃない。ピジョット、オニドリル、カイリュ ー、リザードン、ギャラドス、あらゆる飛行可能のポケモンが待ち構えている。あまりに多いポケモンの群 れが一つの郡体のように、こちらを飲み込まんと待ち構えている。 飛んでいるオニドリルの速度が落ちる。怖がっているようだ。無理も無い。あれほどの数、殺気を前にし て怖気づくなという方が無理な話だ。 俺はオニドリルに話しかける。 「……ごめんな。俺のせいでこんなとこに。怖かったら戻っていいぞ? 俺を降ろして、そのままカツラさ んがいる島に戻ったって良い。お前にとってカツラさんは大切な人だもんな。きっとカツラさんもお前の こと大切に想ってるよ。だから、だからこそな。お前を俺を運ぶって言う危険な役目を任せたんだと想う。 お前だったらやってくれる。お前だったら信じることが出来る。カツラさんはそう信じたんだ。そしてこ こまで来てくれた。……だから、ありがとうな。ここで十ぶ」 高らかにオニドリルが鳴く。怖いものなど無い。信じてくれる人がいれば怖くない。信じる人がいるから こそ強くなれるのだ。誇り高きポケモンは更にその速度を速めた。 「……ごめんな、ありがとう」 破壊光線、だいもんじ、たつまきおこし、ありとあらゆる刃が、凶刃がこちらを刺し貫かんと襲い掛かっ てくる。それをギリギリで、本当にギリギリにオニドリルは避ける。頑張ってる。凄い頑張っている。かす るだけでも激痛が走る攻撃の嵐を、それでも頑張ってる。頑張れ、頑張れ。 「止めろぉ! なんとしてでもだあ!」 方々から怒鳴り声が聞こえてくる。もう既にヤマブキの街が遠いながらも見え始めていた。それでもやま ない攻撃に果たして進んでいるのかどうかすら分からなくなってくる。 もう限界だった。小さい傷が何度も何度も重なって、避けるのだけで精一杯だ。悔しい、何も出来ない自 分が悔しい。ギャラドスの口が大きく開き、こちらを捉える。思わず目をつぶった。 ……攻撃はこなかった。恐る恐る目を開ける。そこにはギャラドスに飛び膝蹴りを浴びせているサワムラ ーが見えた。 「え?」 気づけば腰のボールが全て無くなっていた。代わりに、眼前には俺のポケモン達が闘っていた。 数匹の飛行ポケモンにしがみつき、動きを取れなくしているカビゴン。同種を同時に数匹相手にしている リザードン。それぞれ飛び移りながら必死に戦うバリヤード、カブトプス。 「ダグ、トリオ?」 いつの間にか俺の隣にいたダグトリオは、オニドリルと何か話し合っている。何か合点したオニドリルは、 そのまま地面に向かって急降下し始める。 「おい! おい!」 必死に引きとめようとするが聞こうとしない。ダグトリオも地面が近づくと我先に飛び降りて地面の中に 消えていく。 そこで、やっと彼等の思惑が理解できた。 理解出来た瞬間、地面と激突する瞬間、巨大な穴が空き地中の世界が広がった。 必死にダグトリオは地中の世界を掘り進めている。オニドリルと人間一人が通れる穴を掘るだけでも相当 なのにそれを必死に、ヤマブキシティまで必死に続けてる。 情けないトレーナーだと思う。情けない人間だと思う。 俺が、俺だけがポケモンを信じてあげられなかった。ポケモンはこんなに俺を、人間を信じてくれている のに、一生懸命信じてくれるのにそれを俺は怖くて、臆病だからそっぽを向いてたんだ。俺じゃ力不足だか らと言い訳して、耳と目を塞いでたんだ。 「ごめんな……ありがとう……ありがとう……」 涙が止まらなかった。きっとこんな姿を見たら、アイツどころか俺のポケモン全員が笑うだろうな。 でも、それで良い。一緒に笑いあいたいよ、お前等と。 「ダグダグ!」 「ドリィィ!」 共に俺に呼びかける。もうその声すら涸れて、今すぐにでもセンターに連れて行かないといけないのに。 「ダグダグ!」 「ドリドリィィィ!」 ……そうだ、そうだよな。俺がしっかりしなきゃな。俺は、お前らの主なのだから。 だから、俺は突然開けた世界で、サカキの前で倒れていくアイツの前で叫んだんだ。 「ミュウツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」 「ある……じ……?」 「ミュウツー!」 「あるじ……フフ……にせも……どうせ、このあるじもにせもの……にせものは……にせものはいらな」 そのままミュウツーを抱きしめた。 「あ……あ……」 「ミュウツー……今まで悪かった。俺はお前の存在に、お前の強さに甘えていたんだ。お前がどこまでも俺 を信じてくれていたから、俺が信じるって言うことを忘れていたんだ。ごめんな、ミュウツー。お前は俺の 大事な、大事なポケモンだ。俺はお前をこれからずっと信じる。お前がお前らしくいられるために、お前が 自分を見失っても俺はお前の傍にずっといる。お前を信じて、俺もお前を信じて、そうして最高のポケモン マスターになりたい。その為にお前が必要なんだ。俺が信じるお前がいてくれなくちゃいけないんだ。お前 が信じてくれる俺でなきゃダメなんだ」 「くっ! おい、こいつらを引き離せ! 男の方は殺して構わん!」 サカキがそう叫ぶと、ユンゲラーが身構える。しかし、次の瞬間には吹き飛ばされていた。 「なっ……」 「無駄だ……主には触れさせん」 「くぅっ」 俺を庇いながら、眼光鋭くミュウツーが言い放つ。今度はサカキ自らボールを取り出すが、サカキはそれ以 上動けなくなった。周囲が騒ぎ始める中、センターからケーシィを膝に乗せた車椅子の女性が顔を出す。 ナツメだった。面食らった一同が先ほど滅茶苦茶になった車椅子へと顔を向ける。そこにはいそいそと逃げ るメタモンが一匹いた。 「貴様……!」 「ジムリーダーは色々と危険がつきまとうからね。影武者ぐらいはどこでも用意してるわ」 「じゃあこのかなしばりはなんだ……!」 「ああごめんなさい、この子ね、レベル50なの」 「ケェー」 ハハっと思わず笑みが漏れる。ミュウツーへと視線を移すと、もう安心しきってるのか俺の胸に顔を埋めて いる。 「ミュウツー、ただいま」 「お帰りなさい、主よ」 いつの間にかあれほど曇っていた空が晴れていた。ヤマブキには久しぶりの太陽だった。 数ヵ月後 「おーっと! ギャラドスの破壊光線決まったー! ミュウツー苦しそうだー!」 「もういい! ミュウツーもどれ!」 「くっ……! ああ」 流石のミュウツーも破壊光線は正直、堪えるようだ。なにせ四天王よりも更に描く上のシゲルが相手だ。 以前までは意地でも退こうとしなかった彼女も、最近は素直に他のポケモンにバトルを譲ることになった。 「行け! リザードン!」 「グォォォォォォォ!!」 リザードンが咆哮をあげる。気分も乗って絶好調だ。この分ならいける。そう信じてる。 「……なあ主よ」 「行け! ってなんだよ、ミュウツー」 「……あのトカゲも雌だ」 「へ?」 「……一応私は忠告したからな」 リザードンに指示をする背後、妙におどろおどろしい視線を感じながら俺はポケモンマスターになった。 「おめでとう、主。いや、これからはマスターと呼ぶべきか?」 「いや、主で良いよ」 「フフッ、まあどちらでも構わん。これからもずっと一緒だ、主よ」 おわり
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第十二話/ /第十三話*② 第十三話 執筆者:柊南天 五年前.南極大陸── 氷点下数十度に及ぶ極寒の冷気の中を乾いた銃撃音が伝播し、頭上数百メートル先の上層施設区画から届く。散発的に木霊するその銃声が何を意味しているのか即座に察知し、周囲で狭域警戒態勢を展開していた先遣分隊にハンドサインで指示を送る。的確に反応した隊員達が狭域警戒態勢から第一種戦闘態勢へ陣形を移行し、それぞれの小銃の銃口が上空に向けられる。 次第に接近してくる銃撃音を耳に捉え僅かな焦燥感を胸中に抑え込みながら、すぐ後背下方部の剥き出しになった地層断面の前に膝をついている二人の人物の背中を注視する。 「おい、嗅ぎ付けられたぞ」 「分かっている。焦るな……」 対放射線用の重厚な防護服を纏う、右手の大柄な女がこちらを振り仰ぐ訳でもなく、加えて此方に対してひどく抑揚のない口調で言う。その不気味さすら覚える落ち着いた姿勢が、彼女が元レイヴンであるという噂か、或いは気の違った考古学者の思考のそれからくるものなのか、一瞬思案した。 恐らくは、その両方なのだろう。少なくとも、前者の可能性については自分が断言できる類のものである。 そして同じく、地層の断面に張り付くようにして腰を下ろしている隣の華奢な体つきの男に対し、彼女が言葉を投げかけた。 「照会記録と適合したが、間違いないか──?」 「ああ──テラ・ブーストだ」 一拍置いてからその聞き慣れない言葉を紡いだ男の口調は、わずかではあるが歓喜にも似た震えを孕んでいた。二人の男女が貼り付く地層断面から俄かに染み出している“ソレ”を背中越しに見やり、氷点下数十度の冷気の中にいるにも関わらず、じっとりとした厭な汗が背中を流れていくのを自覚した。 施設自体の気温調整にもよる、過度の低温状態にある地層の断面から半分剥き出しになりその姿を覘かせている、やや黒みがかった濃緑色の鉱石がそこにはあった。そして、それらからは僅かながらも気温の変化に反応して白緑色の靄のような物体が発生している。 出動時の入念なブリーフィングで、その鉱石と粒子体が何であるとされているのかについては、部隊指揮官としてよくよく知り得ているつもりだった。だが、人類史が途絶えてそのさらに数世紀以上も前の断片的な記録としてしか残されていない事実関係では、それがどれほどの存在性を内包しているのものなのか、ブリーフィングでは全く理解できなかったのだ。 だが、こうして直接相対している今だからこそ分かるものがあった。 畏れにも似た原始的な感情、それが自分の意思とは関係なく心の底からじっとりと噴出してくるのだ。そしてそれは同時に、ある種の危うい妖艶さすら放っていた。 その粒子は、見る者の正気を揺さぶる程に濃い瘴気を放つ。実際実例として自分の他に、眼前の二人がそうであった。口を震わせていた左手の男は、同様に震える手で採掘作業を始めながら、誰に言う訳でもなく言葉を紡ぐ。 「ようやく見つけたぞ……。本当に長かった……」 短い、ただそれだけの言葉。だが、それに彼が苦心してきたそれまでの半生が集約されていた。女の方と同様、彼という人物についてはそれほど深くは知らない。 ミラージュ社帰属のレイヴンとして数ヶ月前の作戦失敗の責を負い、左遷された南極基地で偶然出会っただけに過ぎない極めて淡泊で、しかも薄い繋がりだ。 しかし、その数ヶ月だけで、彼という人物が何に生涯をかけて生きてきたのかを計り知るには充分過ぎた。彼はそこまでに、狂気染みた純粋さに従って地球の果てとも言えるこの地で、その身を摩耗してきていた。 彼は自己を顧みない男だったが、南極基地の全ての人間から愛されていた。 作戦失敗の責の上の左遷という不名誉によって、矜持を圧し折られていた自分も、少なからず彼の情熱に救われていたのは、恐らく間違いない。 彼──エイジロウ・コジマという人物はそういう人物である。 二人の学者が精密作業を進行させる様子から視線をずらした瞬間、頭上からひときわ大きな轟音が響き、視線を跳ね上げた。黒々とした爆炎が上層区画から立ち上り、爆風に吹き飛ばされたのだろう瓦礫片と部下の兵士達の残骸が頭上を落下してくる。そしてその背後、噴煙を突き破って"そいつら"は現れた。 「敵性動体侵入、降下してきます。間違いありません、パルヴァライザーです──!」 奇怪な動作音をまるで野獣の咆哮の様に上げながら、対人戦用に調整された旧世代の亡霊達が急降下してくる。第一種戦闘態勢に従って部下達が自己判断により迎撃応射を展開、無数の火線が採掘トンネルを駆け上がり、いくつかの亡霊達を撃ち貫いていく。 しかし、的確な迎撃射撃を持ってすら亡霊達の侵略は止められそうになかった。後方から無尽蔵にそいつらは湧きだし、次々と最下層の採掘区画目がけて降下してくる。 「第五、第六分隊反応途絶、第四分隊も駄目です──! 軌道施設への退避を、隊長っ」 通信要員の兵士が大声で報告し、自らも迎撃応射を展開しながら地層断面に変わらず張り付いている二人の方へ走り寄る。 「もうこれ以上は抑えられん。まだか──!」 「焦るな、アンヘル……」 コジマ地質学者は現状には相応しくない酷く緩慢とした口調で言う。隣に陣取っている女──ゼノビア特別文化顧問も同様の姿勢を崩さず、コジマの採掘作業を粛々と手伝っていた。 頭上、遠くない高度から爆音が立て続けに響く。 氷片と瓦礫片が降り注ぐ空洞を見上げると、至近高度まで降下してきていた敵性部隊が制圧射撃をばらまき始めていた。氷片と瓦礫片の落下衝突によって迎撃態勢を崩されつつある分隊が、その隙を突かれて敵性部隊からの反転攻撃を直撃していく。短い悲鳴がそこかしこから上がり、銃声に次ぐ銃声によって瞬く間にそれらがかき消されていく。銃声と轟音だけが空間を満たす、応戦から一方的な殺戮へと現場は移行しつつあった。 ついに敵性部隊の先行兵力が採掘施設へ着陸し、四脚形態を携えた対人型パルヴァライザーが複雑に交差する連絡通路を甲虫のようなおぞましい機動で迫りくる。そして一層、悲鳴と断末が周囲一帯を埋め尽くす。 周囲より一際落ちくぼんだ剥き出しの試掘地層で作業に励む二人を見下ろすと、やっと試掘作業が終了したらしく立ち上がったコジマが抱えていた重装型シリンダーを、脇に立っていたノウラが背嚢に押し込んでいる。 すぐ背後で起こった爆発の突風が背中を叩いたがそれに構わず、古びた急斜角の階段を上って来る二人を急かす。 「これでお前の労苦も報われたという訳だな、──エイジ?」 「それは早計じゃないか? これからだよ、ゼノビア女史──」 階段を二段飛ばしで駆け上がって来たゼノビア女史が豹を思わせるしなやかな挙動で踊り場に飛び出し、肩にかけていたスリングを器用に振りまわして、ブルバップ式小銃を構えた。そして間髪入れず防御陣形に加わる。 「どうやら元レイヴンという噂は本当らしいな、ノウラ女史」 「現、だよ。尤も副業という点においては正しいかもしれんがな」 窮地といって差し支えのない状況であるにも関わらず、ゼノビア女史は扱い慣れた得物の引き金を、余裕すら感じさせる笑みを口許に浮かべながら絞り続ける。 その彼女の佇まいは、先ほどまで【テラ・ブースト】に魅せられていた一人の学者ではなく、完結した一人の兵士としてのそれであった。 「軌道施設に離脱用の装甲列車が待機中だ。長くは持たん、急ぐぞ」 「──だ、そうだ。エイジ、急げ──!」 何やら奇妙な独り言をぶつくさ言いながら階段を上ってきていたコジマだったが、彼が踊り場に達しようとした直前、どこからか放たれた砲弾が背後の断面地層を直撃した。濃緑色の鉱石の破片が混じった粉塵が爆風と共に吹き荒び、それに愕然としたコジマが背後を振り返る。 「テラ・ブーストが──」 「急げ、エイジ!」 ゼノビア女史が応対射撃を取りつつ、背後の階段でコジマ氏が愕然としている様子を既に察しているのだろう、彼に発破をかけた。 「奴ら、此処を丸ごと破壊するつもりなのか……?」 「私達の排除が最優先目標だろう。施設機能さえ維持できれば、奴らにとってそこの地層なんぞ塵ほどの価値もないという事だ。さあ、早く上って──」 ゼノビアがそう言い切るのを待たずに、再び砲弾の弾幕が吹き荒び、再度起こった爆風が踊り場に達しようとしていたコジマ氏の華奢な体を階段からもぎ取っていった。 それと同時、前方至近距離の連絡通路に頭上から一機の対人型パルヴァライザーが強着陸してきた。踊り場を挟んだ隣にいたゼノビア女史が即座に反応し、アンダーバレルの銃口をパルヴァライザーの頭部に向けて引き金を絞った。至近距離から放たれた40ミリ通常榴弾が過たず頭部に直撃し、赤々しい爆炎がパルヴァライザーを中心に巻き起こる。それで仕留め切れたとは思っていないのだろう、ゼノビア女史はアンダーバレルから空薬莢を排出し、次の榴弾を押し込む。その傍ら、 「今のうちにエイジを、アンヘル!」 その鋭い言葉に態勢を立て直し、いまだ黒煙が立ち上る眼下の試掘地層を覗き込む。粉塵が蔓延するその場所にいたコジマを見咎め──私は一瞬出すべき言葉を失った。 ──彼は、エイジロウ・コジマは生きていた。 しかし、彼は自分以外の誰がどう見たとしても、致命的な損傷を身体に負っていた── 爆風によって身体を弾き飛ばされた所に、頭上から降り注いだテラ・ブーストの鉱石が直撃したらしく、彼の右脚は膝から下が無残と言いようがない程に粉砕されていた。 保護服の外部装甲は無残にひしゃげ、頭部前面をカバーしていたバイザーも既に飛び散っている。 意識は失われていないようだが、既にコジマの視線はあらぬ方向を向いているようであった。 「博士──! 立てるか、手を伸ばせ──!」 予測できていながら受け入れる用意のできていなかったその突然の事態に、私は構えていた小銃のスリングを肩に回し、破壊された階段の踊り場から身を乗り出していた。 私のその声が届いたらしく、後頭部を地につけてぐったりしていたコジマが頭を起こした。ゆらゆらしていた視線が焦点を結び、こちらを見上げる。ゼノビア女史が発射したらしい榴弾の炸裂音が響き、彼女が何事かを叫んでいるのが耳に入って来る。 「立て、博士! 此処で死ぬつもりなのかっ」 そこでようやく、彼は口許に歪み切った笑みを浮かべ、蒼白だった顔に感情を取り戻した。そして同時に彼の表情が苦悶に歪み、口からどす黒い血が吹き出す。 「粒子汚染──、博士……!」 叩き割られたバイザーから流入した高濃度の有害粒子が、博士の体内に入り込み瞬く間に各種器官機能を破壊したのだ。致命的な粒子汚染が身体にどういう影響を及ぼすか、知らない訳ではなかった。ただ、その有様を目の当たりにして私は、その事実を畏れた。 しかし、伸ばした手を戻すことが、それ以上に恐ろしかった。 激しく痙攣する身体を抑え込み、博士は首元に提げていた紡錘形のロケットの鎖を千切ると、同じく痙攣する腕を辛うじて振るい、投げてよこした。緩やかな放物線を描いて飛んできたそれを受け取る。 それは、肉親と呼べる家族を一切持っていなかった彼が肌身離さず付けていたものだった。透明の保護機構に守られ、中心で小さいが強い意志のようなものを孕んだそれは白緑色の淡い光を放っている。 彼が探し求め続けてきた遺産──テラ・ブーストの原石片だった。 投げ渡されたそれに思わず注視していた私に、眼下で横たわっていた彼が喀血に構わず口を開いた。 「私の生きた生涯にも……、これで意義が遺った。最早、高望みはすまいよ……」 逃れ得ぬ未来を受け入れたが故に彼が吐いたその言葉を聞き、何を言い出すかも考えずに応答しようとした瞬間、連絡通路を渡って来る敵性勢力を一人で足止めしていたゼノビア女史が、鋭い口調で言葉を発した。 「エイジ、貴様──。此処で諦め、一人朽ち逝くつもりか?」 「……無茶を、言うなよ。相応の心残りはあるさ。──だがな、誰にでも潮時はあるものだろう。消えぬ意義が残せただけでも、私達はそれを誇るべきじゃあ、ないのか……?」 異様に慣れた手つきで弾倉を換装しつつ、ほぼ間断なくゼノビア女史はまるでひとつの精密機械であるかのように淡々と防御戦闘を繰り返し続ける。時間にして数秒足らずだったが、その空白の後、 「──ならば、好きにするがいい。私は、お前の遺した功績を讃えよう。お前の生涯は、ひとつの礎となる。それを、私が代わりに見届けてやる」 「気が、利くなあ。意外だったよ……」 最早博士の言葉に意気はなく、それが彼の終息が間もなくである事を雄弁に物語っていた。 「アンヘル……。君には色々と世話になった、礼を言うよ。道連れになる必要はない。早く行ってくれ……」 「しかし──!」 「君の生涯は、此れからだ。君が抱く夢想の極点はまだ、此れからじゃあ、ないか……。彼女と共に本社へ戻り、役目を果たすんだ……」 それぞれの末路は、やはり各々が最もよくわかっている。ただ、どれだけ容易く容認できるかどうかが、各々の生きる道の選択肢の数に直結するのだ。私には、まだ、諦める事ができないでいる。 私は伸ばしていた手を戻し、踊り場にすっと立ち上がった。 「──私も、貴方の礎を見届けます」 「幸運を、アンヘル……。君の夢想は、君の為だけに在る」 彼が地球の果ての地の底で朽ち果てる瞬間を、私は見届ける事はしなかった。踵を返し、爆炎に包まれつつある最下層施設を一瞥する。既に部隊の大半は命を落とし、僅かに生き残った数人の部下が軌道施設への後退路を辛うじて確保している様子だった。 足元に無数の空薬莢を散乱させ、一切の呼吸も乱れさせていなかったゼノビアが突破口を見つけ出し、私を呼ぶ。 「帰還するぞ、付いてこい」 洗練された彼女の後に続き、火線が飛び交う戦場の中を確保された後退路を使って走っていった。 軌道施設までの後退路に在った隔壁設備が起動し、装甲列車に向かって後退する部隊を追うように連絡通路を塞いでいく。くぐもった爆音が隔壁の向こう側に取り残され、次第にその音も何枚もの分厚い隔壁に阻まれて聞こえなくなった。 軌道施設に発車準備を完結して待機していた装甲列車に部下達が全員乗り込んだところで、ようやく来た道を振り返る。タラップに足をかけていたゼノビアが、 「──どれ程掛かるかは、分からん。だが、財団は必ず此の施設を奪還するだろう。──その時にでも、拾ってやれ」 自らの私的な感情を押し殺した口調で彼女は言い、タラップを渡り切って装甲列車の中へと姿を消した。 唇を引き結び、私は何も言おうとすまいと務めた。ゆるい冷風が足元の冷気をかきまぜていく。 氷床に埋もれたこの地の果てを目に焼きつけ、私は其処を去った。 第24次南極大陸資源調査隊は、地下数千メートルの試掘地層において旧世代の記録文献に記載されていた新資源である【テラ・ブースト】の原石を発見。しかし、直後の旧世代兵器群の侵行によって致命的な人的損耗を被る。僅かな生存者達によって【テラ・ブースト】は統一政府主導の下発足した帰属組織・ジシス財団に持ち帰られ、以降同資源は財団が推進していた次世代兵器開発要綱に組み込まれた。 致命的内紛によってジシス財団が組織的解体を迎えるまでの数年の中で、旧世代において便宜的に【テラ・ブースト】と呼称されていた粒子体は、その名称を発見者に準えて【コジマ粒子】と変えられた。 存在提唱者と同時に第一発見者となった故人【エイジロウ・コジマ】は、後に支配企業群が実現する軍事革命の第一人者として、その偉大な名を残すこととなった…… そして、五年後── * 五年後── AM07 42── 束の間の追憶に埋没していた意識を引き戻し、軽く閉じていた瞼を上げた。 投射型ディスプレイに映る有視界の薄暗い暗緑色の景色は留まる事なく後方へ飛び去り、車道両脇と天井付近を伸びる警戒灯が地下トンネル内をうっすらと照らし出している。速度計を注視すると、搭乗中の機体速度は第三種広域巡航態勢において出力可能な時速450キロを固定維持していた。 緩めていた操縦把を握る両手に力を込め直し、有視界前方を肉眼で捉える。機体制御機構の根幹である統合制御体に意識を傾けた時、複座後部座席で配置についていた"彼女"が言葉を投げかけてきた。 「どう致しました、アンヘル様──」 「──構うな」 偽りはないだろうその心配りの言葉に対して、突き放す意図を孕めた鋭利な返答をよこす。しかし、彼女は委縮する素振りすらなく、ただ淡々と予定されたプログラムを実行するかのように、平淡な口調を維持して言葉を紡いだ。 「申し訳ありません。しかし、私の義務ですので」 後部座席の彼女を介して統合制御体に語りかけ、視覚野に直接情報画像を出力するインナー・ディスプレイ・システムに現巡航領域の主要情報群を出力し、最後に彼女自身の姿をディスプレイの隅に表記した。 ヘルメットの隙間から垂れる白銀の長髪が新雪よりもはるかに透明感のある白皙の肌を包み込み、大よそ人の持つものとは思えぬそれを携えている彼女自身は、後部座席にその小さな身体を座らせている。バイザー部分の下で引き結ばれた唇は、彼女自身が口を開く時以外に一切動くこと無く、その佇まいのみを見るのであれば、彼女は芸術品として精緻を極めた造形人形のようであった。 同乗者である彼女もまた、自身や統合制御体と同様に機体制御機構の根幹を成す要素であり、端的に言えば彼女がいなければ、自身等は搭乗機であるこの機体すらまともに起動する事もできない。 その事実を脳裏に走らせ、意識の中に発生した気にせねば何でもない程度の淀みをすぐに搔き消す。自身の意識状態の遷移は全て同調状態にあるはずだが、彼女は何ら意に介してすらいないようであった。 有機生命体を基礎にしたとはいえ、所詮は備品に過ぎないという事か── そう胸中で揶揄した時、 「大切な御方だったのですね……」 その静かな言葉は変わらず抑揚に欠けていたが、それは発せられた言葉以上に彼女自身が何らかの意図を湛えたもののように聞こえた。インナー・ディスプレイの両サイドに羅列表記されたデータから主要情報群をピックアップする傍ら、 「過分だな……」 何をとは明言しなかったが、その返答に対して彼女は口を閉じた。先ほどと変わらず狼狽する様子などはない。しかし、此方の意識状態の遷移を常にトレースし、そして同調状態に在るのならば、自分がどういった意図を持ってその言葉を吐いたのかなどは、此方が口に出す前からわかっていた話だろう。 「──私にも、その様な方がおりましたので。申し訳ありませんでした」 そう言った彼女の様子は以前と何らか変わるところはなかったように思えたが、それでも僅かな空気の変化を敏感に感じ取ることができた。 かつて彼女にもそんな人間がいた──それは彼女の言う所の十年や二十年の話ではないだろう。一週間前にミラージュ社領アンディオン地域の地下核部で発掘されるよりも、遥か彼方の旧世代──断片的な記録文献でしか伝えられていない戦乱の世の時の事ではないだろうか。 彼女が発掘されてから今夜までの一週間、互いの立ち位置はプロジェクト参画体としての以上の変化はなかった。しかし、彼女の出自を改めて思い出した今、自分は俄かに湧き出していたその感情を押し殺すことができないでいた。彼女もそれを既に察知しているだろう。 ひとつため息をつき、 「何を憶えている? 過去はどんな世だった……」 その純粋以外の何物でもない問いかけに後部座席に座る少女の姿を模した彼女は、わずかに小首を傾げてみせた。 「何ら変わりはありません。ただあの頃、あなた方はその存続をすら脅かされていました。自らが生み出した惨禍によって……」 彼女はそれのみを言葉にし、あえて意図したかのようにそれ以上の多くを語ろうとはしなかった。その奇妙な、といっては矛盾が発生してしまうが、極めて人間らしい振る舞いにどうしても違和感を憶えてしまう。 兵器開発部の技術者共が提供してきた報告資料と、随分話が違うじゃないか── "彼女達"──有機体戦略支援機構に関する記述が施された報告資料によれば、“彼女達”は我々人間という生命体をベースにしただけの被造物であり、その側面に関してそれ以上の事実はないはずだった。 彼女達が言葉を円滑に扱い、人間の精緻な感情の揺れ動きを理解するのは、その残滓が残り続けているからに過ぎないのだと。 後部座席で自分の支援任務に就く彼女は、残滓に過ぎないといって切り捨ててしまうにはあまりに人間じみているのである。動揺はない。しかし、自身の感情の揺れを敏感に感じ取った彼女はバイザー越しに此方の様子を窺うような視線を投げかけてきた。 今は其れについて思案すべきではない。自分が生み出した類の種とはいえ、これ以上の思考は現状において無意味以外の何物でもないのだから。 ただ、その出自とは裏腹な側面を垣間見せた彼女へのささやかな報酬として、自身は一つの答えを返すことにした。私は不器用だ。その程度しか、他者との関わりを持つことができないのだ。 「──彼は、私の"友"だった。地の果てで望みをすら失いかけていた我々皆のな……」 「友、ですか──」 「ああ。お前は違ったか?」 その切り返しに彼女は一時顎を引き、それから面を上げて口許に薄い笑みを浮かべた。 「いいえ。──ありがとうございました」 彼女のその感謝の言葉が何を意味していたのかについて口を閉ざし、私は一つの役割を終えた事に安堵した。そして即座に意識を切り替え、有視界の光景を出力し続けるメインディスプレイとインナー・ディスプレイを注視する。それに感応した"彼女"もまた変わらぬ表情を切り替えた。 インナー・ディスプレイに環境観測システムからの詳細情報が流入し、それらの幾つかを彼女が転送してきた他情報と併せてピックアップしていく。 「閉鎖型防衛都市【エデンⅣ】への領土境界線進入を確認」 彼女のその言葉通り、メインディスプレイのサイドスペースに表記されたルートマップ上の自機反応は既に境界線を越境していた。それとほぼ同時に第一種広域警戒態勢で展開していたレーダーが未確認反応を捕捉し、カメラアイの望遠倍率を跳ね上げて地下トンネル前方に展開する機影を捕捉した。 「前方約4500メートルに未確認勢力の展開を確認。前後推移から、同都市の防衛兵力ではあり得ません」 彼女のその的確なオペレートを耳に入れつつ、有視界に拡大捕捉したその機影群を見咎め、口許に軽い笑みを浮かべた。 「哨戒部隊か……。統一政府も、この廃棄軍事ラインを使用したらしいな」 有視界に捕捉した複数の機影を記録照会し、間もなくしてインナー・ディスプレイにその情報群が転送されてきた。機影は一般に広く普及しているAC兵器群に見られるものだが、その機体構成自体は見慣れないものである。所属等を示す隊章などはないが、インナー・ディスプレイに出力済みの情報群が示してもいる通り、既に身元は割れていた。 現存の主権国家及び企業を便宜上統治する上位組織──統一連邦正規軍保有のAC部隊。 支配企業群が市場に流通させているアーマードコアの規格とは異なり、独立したコア構想を採用して運用されているAC兵器である。支配企業群程に兵器規格自体の柔軟性はないものの、それらが持つ兵器としての性能が優秀であるという事は、方々でよく知られている。 既に此方の接近機動に気づいているのだろう、有視界で目視できる二機とレーダー上で捕捉できる六機の計八機から成る未確認部隊が進路上で迎撃態勢を取った。 「──軌道衛星【リテレス】より規定報告。旧世代兵器群が【エデンⅣ】外郭防衛線を突破、都市内部へ侵入を開始しました」 「了解。ネクストコード:カルディナの機体制御態勢を第三種広域警戒態勢から第一種戦闘態勢へ移行。強襲機動を開始する。統合司令部とのデータリンクは、これを作戦終了まで遮断。──初の実戦としては申し分あるまい、アンヘラ?」 「貴方との出撃が叶い、光栄です──」 世辞かどうか判別のつかない言葉を彼女──アンヘラと名付けられた有機体戦略支援機構は口許に淡い笑みを浮かべながら言う。 機体搭乗者の判断意志を直接フィードバックし、それを機体各部へ解析伝達する支援機構であるAMS機構──アレゴリー・マニピュレイト・システム──の情報伝達速度も併行して第三種準備待機態勢から第一種戦闘態勢へ移行し、それと同時に膨大な情報量のデータ群が、頸部接続ジャックに繋がれた処理コードから大脳新皮質部を介して脳部へ流れ込んできた。 その脳負荷により発生した鈍痛を伴う不快感に眉を潜めた。が、それもわずかな時間の事で、数秒後にはその負荷もほとんどが、どこかへと溶け込むように消えていった。インナーディスプレイのサイドスペースに出力しているアンヘラを、視界の隅に映す。 「AMS適性値安定化を確認。過剰負荷数値の24,65%を移転処理。情報伝達速度は第一種戦闘態勢を作戦終了まで継続維持可能です。──大丈夫ですか、アンヘル様」 「ああ、良好だ」 わずかに脳部で燻っている負荷弊害は、気にせねば何でもない程度の頭痛程度である。 これが、彼女が──アンヘラが自身と共に機体に搭乗している主因であった。 有機体戦略支援機構、技術者共の言う所の生体CPUのみが成し得る、我々人智を超えた所業──。 接敵距離が2,000メートルにまで縮まり、操縦把を改めて握り直す。 「此れより強襲移動を開始。前方敵性勢力を排除の後、都市地下核部への進入を実行する」 「了解しました──」 その著しく抑揚の欠けた言葉に返って何故か安堵する。 接続負荷の大部分が軽減されたAMS機構を介して統合制御体に軽く語りかけ、搭乗機体・カルディナの機体姿勢を強襲体勢へ移行させた。新規搭載機能である瞬間加速機構、通称【クイック・ブースト】の動発を意思判断し、機体後背部内蔵のメインノズルから噴出した噴射炎が、強襲体勢に入っていたカルディナの機体を一気に押し出した。 速度計は瞬間的に時速1,000キロ以上を叩き出し、周囲の景色が文字通り吹き飛ぶ。 実戦は既に帰属企業のミラージュ社が保有する紛争地帯で幾度となくこなして来たが、今回は実戦として初の単機戦闘である。否応なく高揚する精神をひたすらに抑え込み、操縦把付随のトリガーに指をかけた。機体両腕部に其々携えている試作型突撃銃を前方に構え、更にメインブースタを強く吹かす。 ──自身がレイヴンとして長く戦場に在り、乗りこなしてきたアーマードコアとはその制御機構が大きく異なる事から、当初はその機体制御に大きく戸惑った頃のことが脳裏をよぎり、軽く口許を歪めた。 数年間に渡る長い搭乗訓練の中でようやく悟り得たのは、結局アーマードコア兵器の次世代モデルである【ネクスト兵器】も、搭乗者の意思判断を直接反映して起動するという点を含め、自身が操縦しているという事実は変わらないという事であった。 意思判断のみによって機体にそれが反映されはするものの、今しがた動発させたクイックブースト等は意思判断の仕方としては、従来のACに長らく乗り込んできた身体に染みついている【フットペダルを踏み込む】ようなイメージである。 →Next… ② コメントフォーム 名前 コメント
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「ゼロのルイズと大いなる子」 (ダイジェスト版) ブレンパワード より プレート を召喚 契約に失敗して自分にガンダールヴを刻印 サイトは東京でリバイバルしたブレンパワードに搭乗した際、ティファニアに召喚 第21話 「絶望の空を超えて」 やぁ、マリコルヌ・ド・グランプレだよ。 使い魔品評会の後からルイズの様子がおかしいと思ってずっと気にかけていたんだけど。 なんと我等が麗しのアンリエッタ姫を使い魔のグランに乗せて、何処かへと連れ去って行ってしまったと言うじゃないか。 全くいつか思い余って何かするかと思ってたけど、やりにもよってなんてことするんだよ! 僕はミスロングビルを迎えに来たサイトって平民に掛け合って、ルイズの使い魔と似たゴーレムでアルビオンに向かった。 ブレンパワード、サイトが乗る心を持ったゴーレムはそんな名前をしているらしい。 ルイズのグランと大喧嘩したブレンがもう一度ルイズたちと会ったらどうなるかわかったもんじゃない。 だけれどこの時の僕には、悔しいけどサイトとブレンに全てを賭けるしかなかったんだ。 「ウェールズ様」 「ア、アンリエッタ? 本当に、本当にアンリエッタ、君なのかい!?」 グランのコクピットからウェールズに向かった姫様は、あわや地面に激突するかと言う寸前にレビテーションでふわりと浮かび上がられ、そして殿下の腕の中に抱きしめられた。 ウェールズ殿下はこれは夢かと何度か瞳を瞬かせ、二度と離さないとばかりに姫殿下を抱きしめた後、唇を噛み締め震える手で姫殿下を突き放した。 「ここは君がいるべき場所ではないよ、アンリエッタ」 感情が篭っていないかのような平坦な口調。 けれどウェールズ殿下は嘘が下手だった、その言葉の一つ一つには血を吐くような想いが必死の努力で隠されていた。 ウェールズ殿下は隠し切れない想いをなんとか心の奥底に封じ込め、アンリエッタ姫殿下に帰れと告げたのだ。 「嫌でございますウェールズ様!」 だが姫殿下もまた必死だ。 涙を流し、その髪を振り乱しながら、懸命にウェールズ殿下の胸にしがみ付く。 「ラグドリアンで、誓約の精霊の前で誓ったではありませんか、死ぬと仰るのならばわたくしも共に参ります」 「なっ、正気かアンリエッタ!? トリステインは、君の祖国はどうするんだ!?」 「知りませぬ、そんなことは知りませぬ。ウェールズ様どうかお傍に」 私はグランのコクピットで熱烈な様子で悲劇演じる二人の様子を見ていた。 いや悲劇と言うよりも喜劇か、これは。 ウェールズ殿下はアンリエッタ姫殿下の居るトリステインを守るために命を賭した最後の戦いに向かおうと言うのに、アンリエッタはそんなもの全部放り出してウェールズ殿下共に死のうと言うのだから。 おそらくは酔っているのだろう、王女と言う重責を忘れたいと言うただ一念が、淡い初恋でしかなかったアンリエッタの心を、命を捨ててでも相手を愛すると言う行動へと駆り立てているのだ。 そんなことをしてもウェールズ殿下が哀しむだけと言うのが何故分からないのか。 私はぎりと歯を食いしばり----そしてその不快な音で正気に帰る。 「やだ、私なんてことを考えているのよ」 私は自分の体を掻き抱きながら己の思考回路に恐怖する、少し前の私はけしてこんな風な考え方をするような人間ではなかったはずだ。 幼馴染で親友でもある、姫殿下のことを心の中でとはいえ悪し様に罵り、望みどおり死ねばいいなどと考えるような人間では…・… そう呟いた途端に猛烈な頭痛と左手の痛みに襲われ、意識を失ったルイズはコクピットに突っ伏した。 コントラクトの失敗で自分自身に刻んでしまった使い魔のルーン、かつてはグランを怯えさせるだけの邪魔者にしか思えなかったガンダールヴと言う名の伝説の力が朦朧とした意識のなかで語りかけてくる。 『グランチャー(Grand child)----恒星間航行艦オルファンが生成する内外の脅威を排除する自立型生体兵器 オルファンにとって人間の抗体反応に働きをすることからイサミケンサクにより抗体(アンチボティ)と呼称される 個体ごとに独自の意志を持ち、操縦者と同調することによりさらに高い性能を発揮する』 「しかし同調の進行は機体との同一化を促す結果となる、すなわち母体であるオルファンへの依存、人間を仲間とは思えなくなることによる他者への関心の喪失。また初期の段階では拒否反応により精神の不安定化、事故防衛本能の暴走により攻撃性の激化などが起こりうる」 私は何を言っているんだろう? そんなことを思いながら指先一つすら動かせない状態でルイズは呟き続ける。 ----それはオルファンに対する抗体化と使い魔のルーンの主に対する洗脳効果が拮抗した結果だった。 その二つはもともとそれほどまで精神と言う部分で劇的な効果を及ぼすものではなかった。 せいぜいがオルファンに対する依存心を刷り込むと言う程度の。 或いは主に対して好意を刷り込むと言う程度の。 ソノ程度のものでしかないのだ。 だがグランチャーへの同調とルーンの効果が互いに互いを主人であるルイズに対して害を及ぼす存在であると判断し、その影響を排除しようと互いにルイズの体のなかで荒れ狂っているのだ。 『ダいジョウBU?ルイず』 グランチャーのコクピットに、たどたどしいハルケギニア語でルイズを心配する言葉が浮かぶ。 だがそれを読むことができる者は、もはや誰も居なかった。 第22話「幸せの意味」 ルイズのグランチャーは恐ろしい存在だってサイトって平民は言うけれど、あたしには邪気なんていうものは感じ取れなかったわ けれどどうしても胸騒ぎがするから、親友のタバサと一緒にルイズたちの後を追いかけることにしたの。 けど全速力で飛ぶと風竜ですら追いつけないって、ルイズは一体どんな化け物を呼び出したよ!? しょうがないからせいぜいのんびりと空の旅って思ってたら、背後から悲鳴を上げる豚をぶらさげながら飛んでいくどこまでも濃い海みたいな蒼い機体。 話を聞くとサイトと名乗った平民は、グランチャー目の仇にしているみたい。 火を囲んで皆で眠りに付くとき、悪夢に魘されながら目に涙を浮かべて「母さん」と呟いた姿が、あたしの脳裏から離れなかったのよ。 目を覚ますとウェールズ殿下からこれからアンリエッタ姫殿下との結婚式を行うと告げられた。 その為に私に巫女の役目をやって欲しいと言うことだ。 この非常時に何をやっているんだろうかと思ったが、この非常時だからこそなのだろう。 俯いてしまった私に何を思ったのか、ウェールズ殿下は小さな銀の鐘と小さな瓶に入った紫色の薬を手渡した。 「これは王家の秘宝、眠りの鐘と禁制の忘却の秘薬だよ。使うことなんてないと思っていたんだけれどね、ミスヴァリエール頼まれてくれるかい?」 ウェールズ殿下は私に姫殿下を裏切れと、そう言っているのだ。 確かにそれは姫殿下の為にはなるだろう、だが裏切ったと言う事実だけは私が一生背負っていくことになる。 私は一瞬悩んだ後、ウェールズ殿下に向かって深く深く頭を下げた。 「謹んで、お受けいたします」 「ありがとう、ミスヴァリエール。本当に感謝するよ」 そう言ってウェールズ殿下が頭を下げた時、殿下の私室の扉が開いて花嫁衣裳に着飾ったアンリエッタ姫殿下が飛び込んできた。 「ウェールズ様!」 さすがトリステインの至宝、長いウィッグで腰まで伸ばした髪のは無数の金銀で出来た髪飾りが結び付けられ、その体に身に帯びた少し大きめの純白に輝くウェディングドレスは思わず嫉妬すら抱いてしまうほど。 だがなによりも心の底から湧き上がる愛によって、姫殿下ご自身がこの世界にあるどんな宝石よりも煌めかしく光輝いているように私には思えた。 「綺麗だ、ああ綺麗だよアンリエッタ」 「愛しておりますウェールズ様」 二人はきつくきうく抱きしめあう、まるでお互いを二度と離さないとでも言うように。 だから悲しい、これほど幸せそうなのに殿下が姫様を裏切っていると言うことが。 そしてそれに姫様の親友である私が加担していると言う事が。 この場において、ただ一人姫様だけが道化。 悲しくなって私は窓の外で膝を付いた私の使い魔を見上げる。 彼の名はグラン。 桃色の装甲に身を包んだ、臆病で優しい、物言わぬ私の騎士。 グランはその小さな窓から私のことを心配そうに覗き込んでいた。 「大丈夫、グラン。私は大丈夫だから……」 そう言って部屋を出る殿下と姫様の後について、私は歩き出した。 たとえその道の先に悲しみしか待っていないとしても、殿下と姫様が最期の絆を紡ぐ為には必要なことだと思えたから。 けれど同時に思ってしまった。 それが姫様の願いだとしても、姫様を殿下へお連れしたことそのものが、間違いだったのではなかったか? 本来なら出会うことが出来なかった二人を出会わせてしまったことが…… 振り返れば窓の外にはグランの顔。 暗い思考に沈みこむ私を見送るように、その表情の刻めない装甲の下から心配そうに私のことを見守ってくれていた。 大丈夫、そう返答しようとして――唐突に閉じられた扉が私とグランを遮った。 自分で決めたことだから、懺悔も謝罪も許されないと、私は思った。 「これより始祖の名の下に、新郎ウェールズ・テューダーと新婦アンリエッタ・ド・トリステインの婚礼の儀を執り行います」 互いの手を握り締め、殿下と姫様は幸せそうに礼拝堂の床をしずしずこちらへと歩いてくる。 体一杯に幸せを詰め込んだみたいな姫様の隣で、ウェールズ殿下は幸せそうな表情の中にアルビオンの空よりもなお空虚な瞳で私を見た。 すべての感情が飽和してしまった故の混沌とした空虚をその瞳に宿し、殿下は私に目配せする。 “願わくば、彼女に幸福な一時の夢を” 私はこくりと頷き、手の中にある銀のベルを握る。 「新郎ウェールズ・ド・テューダー。あなたは新婦アンリエッタ・ド・トリステインを永遠に愛することを誓いますか?」 「ああ、あの日から僕の心はずっとアンリエッタと共にある」 その言葉に姫様の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。 「ウェールズ様、ウェールズ様!」 「新婦、アンリエッタ・ド・トリステイン。新郎ウェールズ・ド・トリステインを永遠に愛することを誓いますか?」 「はい、誓いますっ……誓います」 正直結婚式なんてまともに参加したことなんてない、それでもこんなおままごとみたいな略式の結婚式でも十分姫様は幸せそうで…… だから次の瞬間に起こったことを、私は決して許すことが出来なかった。 「それでは、誓いの口付けを……」 ゆっくりと二人の顔が近づいていき――その誓約が果たされることはなかった。 突然礼拝堂が大きな揺れに襲われ、私は思わずその場に手を着いた。 「レコンキスタかっ!? くそっ、まさかこのような時に攻めてくるなど!!!」 先ほどまで束の間の安寧に浸っていたウェールズ殿下は一瞬で死を覚悟した戦士のものに戻る。 「ミスヴァリエール、アンリエッタを頼……」 轟音が響いたかと思うとウェールズ殿下の体がブレた。 高速で飛来した物体がウェールズ様を貫いたのだ。 だがこの時私は何が起こったのか分からなかった、側で見ていた姫様もそして指されたウェールズ様もきっと何が起こったか分からなかったと思う。 だが一瞬の、永遠とも思えた長い混乱が終わる。 その次に響き渡ったのは、悲痛な姫様の叫び声だった 「イヤァァァァアアアア!?」 ウェールズ様はまるで磔刑にされたように、その上半身を巨大な刃で刺し貫かれ、礼拝堂の壁に縫いとめられていた。 どうみても即死の傷、だが悪い冗談のように血を流しながらそれでも瀕死のままでウェールズ殿下は生きていた。 「殿下、ウェールズ殿下、ウェールズ、返事をしてウェールズ!?」 姫様がウェールズ殿下にしがみ付き、その体を抱きしめ、無き縋る。 だが私は姫様の姿を少しも見ていなかった。 何故ならウェールズ殿下を刺し貫いた敵に意識のすべてを持っていかれていた。 だって礼拝堂の壁を真っ二つにして現れたのは…… 「グラン……チャー?」 漆黒の装甲を持った、私の使い魔と同じ存在だったのだから。 第27話 「憎悪と愛と」 お前は誰だと尋ねられたなら。 僕の名はジャン・ジャック・フランシス・ワルド、故郷を裏切った最低の男さ。 そう答えることに決めていた。 だが僕にはそれ以外己の望みを叶える方法がなかった以上、後悔はしているが迷ってはいない。 僕の母は“虚無”の担い手だった。 息子である僕を愛し、故郷であるトリステインを愛し、呼び出した使い魔を愛した僕の母は。 愛するが故に死なねばならなかった。 僕だけが知っている。 聖地にはオルファンと呼ばれる巨大な存在が転がっていて、もしそれが一度目を覚ませばハルケギニアすべての命を吸い尽くして月へ至るのだと言うことを。 母はそれを防ぐためにオルファンと一つになった。 ――僕は、かあさんを助けたい。 たとえすべてを裏切り、母が守ったものをすべてを壊したとしても。 母さんを、解き放ってあげなければならない。 それが僕が己に課した使命だったんだ。 「つき合わせてすまんな、グラン」 ワルドの声の漆黒のグランチャーはただ身体の軋む音だけで応じた。 子供の頃から続く長い長い付き合い故に、一人と一体の間には言葉は不要。 それでもワルドが声をかけたのは、これが己のわがままだと言うことを噛み締めるためなのかもしれない。 「しかし何故ルイズとアンリエッタ姫が此処にいるのだ……」 ワルドは不快そうに呟く。 一度は忠誠を誓った相手と、薄汚れた姿をけして見せたくない相手、その二人が一緒にいることが、まるで始祖が自分自身に与えた罰であるように思えた。 「いや理由など重要ではないな、大事なのは“俺”の役に立つかどうかだ」 そう言うとワルドはグランチャーのコクピットのなかから惚けたようにこちらを見上げるルイズと、ウェールズに縋って泣き続けるアンリエッタを見下ろす。 黒いグランチャーはゆっくりとウェールズの身体から突き立った刃を引き抜くと、剣状の物体をルイズたちに向ける。 その武器はソードエクステンションと言う名で呼ばれる武器だった。 グランチャーのリバイバルの際本体と一緒に出現する、グランチャーの用の装備である。 グランチャーの装甲と同じ物質で出来たこの武器はただでさえハルケギニアの治金技術では再現できない硬度と弾性を持っているが、それに加えてアンチボディの動力源であるオーガニックエナジーを圧縮し、放出する媒介ともなる。 つまりは剣でありながら、まるで銃のように凝縮させたエネルギーを弾丸として放つことができるのだ。 ルイズは血で染まったその切っ先を睨みつけながら、こくりと唾を飲んだ。 黒いグランチャーの乗り手がどういうつもりなのかは分からないが、もし攻撃してきたらただではすまないだろう。 その場合、なんとしても姫様だけは逃がさなければ…… 「やぁ、僕の小さなルイズ。元気にしてたかい?」 油断なく「敵」を見据えながら思考にふけるルイズに向かって唐突に声が掛けれたのは、次の瞬間のことだった。 見れば黒いグランチャーの、ちょうど女性の子宮にあたる部分のコクピットが開き、中の人物が顔を覗かせていた。 「ワルド……様?」 信じられない、そう言った様子でルイズは呟く。 これは悪い夢か何かではないか、と。 だがそこにあったのはルイズが望んだ悪い夢などではなく、ただ悲しい現実が横たわっているだけだった。 「簡潔にいこう!ルイズ、俺の望むものは三つだ」 ワルドは一本人差し指を立てる。 「まずはウェールズ皇太子の命」 その言葉を聞いて真っ先に反応したのは、ウェールズの死に呆然を膝を付いていた一人の老いたメイジだった。 「きさまぁぁぁぁあぁああ! 薄汚い貴族派かぁぁぁあああ!」 杖を構え、真っ向からワルドへ向かって突撃するバリー。 だがまるでワルドは羽虫でも追い払うように、グランチャーの手を振るわせる。 結果としてバリーは全速力で目の前に発生したチャクラの力場に突っ込むことになった。 嫌な音を立てて骨が砕け、黒いグランチャーが手を振る動作に従ってその小さな身体が舞う。 「二つ、アンリエッタ王女の手紙」 床に叩きつけられ昏倒したバリーなどもはや見向きもせず、ワルドは食い入るようにルイズを見つめる。 ――その熱の籠もった瞳のなかにまるで救いを求めるような色があったことに気づいていれば、この場にいる者たちの未来はきっと違うものになったであろう。 だがルイズにはそんな時間は残されていなかったし、混乱しきった彼女にそんなことを求めるのはあまりにも酷すぎる話だ。 「そしてルイズ、キミッ!?」 「グラン!」 ワルドはその言葉を最後まで言い切ることなく、グランチャーのコクピットから転げ落ちた。 慌てて〈浮遊〉レビテーションを唱え、見上げたその先に居たのは。 「なるほど、これが君の使い魔と言う訳だね。ルイズ」 薄桃色の装甲を持った、ワルドの使い魔の相似の存在。 ルイズのグランチャーが、窮地にあるルイズを救う為にワルドのグランチャーの腰に頭から組み付いていた。 「だが甘い、今の好機にグランごと真後ろから僕を串刺しにするべきだったね」 そう言って顔を上げたワルドの目の前には。 「姫様、ウェールズ皇太子を連れてお逃げください! 私の使い魔で」 その瞳の決意を秘めた、一人の戦士が立っていた。 震える右手で杖を構え、それでもただその誇りと覚悟で己を鼓舞して。 まるで英雄譚のなかから出てきた強大な敵に挑む勇者のように、〈無能〉ゼロの少女はワルドの前に立ち塞がる。 「ははは、ルイズ、そうか僕に挑むと言うんだね! 素敵だ、素敵だよルイズ。ますます君を手に入れたくなった」 ワルドはしゃらんと音を立てて鈍色に輝く剣杖を引き抜く、その剣先に映ったワルドの顔は狂ったような凶笑が浮かんでいた。 「よろしいならば決闘だ! ルイズ、僕がこの決闘に勝ったらどんな手段を使ってでも君を僕のものにさせてもらう!」 「あなたなんて死んだってお断りよ! さぁ姫様、お早く! グラン、姫様をなにがあっても守りきりなさい!」 ルイズに急かされ、アンリエッタは冷たくなっていくウェールズを抱えながらルイズグランの差し出した掌の上に乗り込んだ。 絶望に追い立てられながら、閉じていくコクピットのなかからルイズを見る。 アンリエッタの目には、これほどの地獄のなかにあってさえ、ルイズは宝石の如く輝いているように思えた。 なんとか無事に帰って来て欲しい、心のどこかでアンリエッタはそう思いながら、始祖に祈ろうとしてやはりやめる。 彼女の愛するウェールズにこんな悲惨な運命を与えた始祖が、ルイズを守ってくれるはずなどない。 そう思えたのだ。 「ルイズ……」 王女の呟きは虚空に溶け、その下ではスクウェアとゼロのはなから戦いすらなりもしない決闘が始まろうとしていた。 王子の血で染まった礼拝堂で、戦いがはじまろうとしていた…… 第23話 「Resurreccion」 私はずっとワルド様に憧れていた。 幼かった私が秘密の隠れ場所で泣いていると、いつも迎えに来てくれた私の王子様。 ずっと会っていなかったその人が、どんな理由でこんなことをしているのかなんて私には分からない。 けれど姫様を傷つけると言うのならどんなことをしてでも私が止める。 ありがとう、そしてごめんなさいグラン。 きっと私は帰れないから…… 「げふっ」 もはや何度目になるか分からない突風がルイズの小さな身体を吹き飛ばし、ルイズは礼拝堂の石畳へと這い蹲った。 元より勝負になるはずなどなかったが、下手に抵抗したせいでルイズの今様子は酸鼻極まりない有様となっている。 体中大小問わず傷だらけで、ぼろぼろになった制服にはその血が滲み乾いて斑模様の毛皮のよう。 転がった際に痛めたのか右足は真っ赤に腫れあがり、熱を持って鈍痛を主に訴え続ける。 そして何よりその桃色ブロンド髪が一房、半ば頃から切り落とされている。 それでもルイズは立ち上がった。 震える足を自分の手で叩きながら起き上がり、ワルドに向けて再び杖を構える。 「驚いたな、まだ立てるとは。そしてその身のこなし……ふむ」 ワルドの視線はルイズの左手で強烈な光を放つルーンに向けられていた。 ガンダールヴ。 始祖の左手であり、あらゆる武器を使いこなしたとされる使い魔の証。 その効果が発動しているのだとすれば、ルイズがまるで武術の達人のような動きでこちらの攻撃を見事に受け流し続けているのも頷ける。 「ならばその翼をもぐとしよう」 ワルドが唱えるのは己が最も得意な呪文。 即ち…… 「ユビキタス・デル・ウインデ!」 風の遍在、その魔法を使った瞬間ワルドの姿が霞みのように一瞬ブレたかと思うと、次の瞬間には四人のワルドがルイズの目の前に立っていた。 「あ……」 「チェックメイトかな?」 ワルドたちはルイズの手を押さえ、後ろ手に捻りあげた。 それでも三人がかりで可能限り痛くしないように取り押さえるところが、ワルドなりの優しさなのかもしれない。 ワルドはルイズの顎を掴むと、その顔が触れるか触れないかと言う至近距離まで己の顔を近づける。 「ルイズもう一度言う、俺のものになれ」 「い、いやよ! そんなことするくらいなら舌を噛んで死んでやるわ!」 ルイズの言葉にワルドはくつくつと笑う。 「それでこそ僕の伴侶に相応しい、いいだろう手に入らないのなら力ずくで奪うのみさ」 ワルドは一度顔を離すと、その唇を舌で湿らせる。 「此処が礼拝堂でよかったな、愛を誓うにはこれ以上の場所はない」 ワルドの顔がゆっくりと近づいてくる。 背後に回った遍在の一人がルイズの頬を抑えているため、舌を噛むことすら出来ない。 「あ……いやっ、いやぁ……」 これから何をされるのか? そのことに思い至ったルイズの顔が蒼白になる。 じたばたと暴れるが、どだい少女の細腕で大の男、それも鍛え上げた軍人の腕力に抗えるはずもない。 「さぁ、ルイズ、誓いの、口付けを……」 ルイズは諦めたようにきつくきつく目を閉じた、助けを求める相手すらないこの異国の地で、自分はかつて憧れていた相手におぞましく蹂躙されるしかないのだと。 ルイズの瞳に涙が浮かぶ、それでも最後の心の底で輝き続ける矜持が彼女に命乞いをさせることなく。 だからその奇襲は、ワルドが油断した最大のチャンスに狙いたがうことなくワルドの胸を貫いた。 「ガッ!?」 何が起こったのか分からないままワルドは背後を振り返る。 そこには信じられない人物がいた。 「アンリエッタ、守る」 ブレイドを纏わせた杖を引き抜き、無表情な顔でワルドのことを蹴り飛ばしたのは、どう見ても先ほど殺した筈のウェールズ・テューダーそのものだ。 「ウェールズだとぉぉぉおおおおおおおおお!?」 あまりの驚愕に集中が途切れ、遍在の動きが止まる。 その隙を見逃さす、ウェールズは返す刀で遍在の一体を切り裂くとそのままルイズの手を取り礼拝堂の床を蹴った。 「アンリエッタ、守る」 再び同じ言葉を繰り返し、ウェールズはルイズとワルドたちの間に壁となるように立ち塞がった。 「なんだこれは、これは悪夢か? 亡霊が俺の前に立つんじゃない!」 ワルドの感情を含んだエア・カッターが飛ぶが、それをウェールズは身を挺して防いだ。 だがその一撃でウェールズの左手が切り落とされ、ごとんと音を立てて地面に落ちる。 「ひっ」 ルイズは引き攣った声をあげるが、当のウェールズはなんの痛痒も感じていないように同じエア・カッターでワルドに逆襲する。 そのあまりの異常さに、ワルドは理解できない怪物を見る瞳でウェールズを見た。 「なんだお前は、ウェールズではないのか? お前はなんだ、なんなんだ!?」 混乱するワルドと同じように、ルイズもまた混乱していた。 目の前のウェールズには先ほどの傷が跡形もない、此処を出た後、強力な先住魔法なり奇跡のようなマジックアイテムなりのいんちきな手で完治したのだろうか? いやそれにしたって仮に衣服に乱れ一つないのは明らかにおかしい。 それにこのウェールズには感情と言うものが感じられなかった、あのような目にあわされたワルドに対する憎悪や怒りが欠片も感じられないのだ。 そして先ほどから呟き続けるこの言葉。 「アンリエッタ、守る」 「ウェールズ――様?」 ウェールズは硝子球のような瞳でルイズを見た後。 「アンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守る 守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る」 壊れた玩具のようにその言葉を繰り返す。 その時ルイズの頭に宝物庫が盗賊に荒らされた際、学院長が言っていた言葉を思い出す。 ――土くれのフーケめ、宝物庫から金目のものをごっそり持っていきおった。特にスキルニルは惜しかったのぅ、血を与えた人物の能力をそっくりにコピーし、血を与えた人物の命を遂行する魔法人形だったんじゃが。 「まさか、スキルニルなの?」 「アンリエッタ、守る」 そう言って、ウェールズの姿をした何者かは無表情に頷いた。 そしてワルドグランとルイズグランがあけた壁の大穴を杖を持っていない方の手で指し示す。 「アンリエッタ守る」 彼が何を言いたいか、ルイズには痛いほど理解できた。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、その使命謹んでお受けいたします」 ウェールズに頭を下げるとルイズは走り出した、だが目指すのは外ではなく…… 「ふざけるな!人形ごときが俺の前に立つんじゃない! ルイズを止めろグラン!」 ワルドの命令を遂行しようとグランチャーが腰をあげるよりも、ルイズがグランチャーのコックピットに滑り込むほうが僅かに早かった。 ルイズは手を大きく広げ、コクピットの縁をなぞるようにすると、グランチャーに向かって語りかける。 「お願い、私の話を聞いて……」 ルイズの言葉のワルドグランの瞳が赤く明滅する。 迷っているのだろう、かつての主人と似た気配〈オーガニックエナジー〉を持つ少女と、長い間連れ添った相棒と、どちらの言うことを訊くべきか? 「大切な人を守らなければいけないの……だからおねがい、力を貸して」 ルイズの言葉と共にその左手が強い光を発する。 ワルドグランの瞳が狂ったように明滅する。 ワルドグランは何度も躊躇うように己の主人を見た後…… 「馬鹿なっ!? 何故だ、何故だグランーーーー!?」 ルイズをコクピット乗せたまま、ゆっくりとその場を離陸する。 オーガニックエナジーを放出する際出るチャクラ光を身に纏いながら、ゆっくりとニューカッスルを離れていく。 「ありがとう、本当にありがとう」 涙を流ししゃくりあげるルイズを乗せて、グランチャーは離れていく。 「待て、待って、僕を、僕を置いていかないで……グラン、グラン、グランチャー――――母さん!」 フライの魔法を使って飛び上がるワルド、その足をがっしと掴んだのは。 「アンリエッタ、守る」 ウェールズの血によって死の間際のウェールズの遺志を継いだただの一体のスキルニル。 ルイズに王家の秘宝を手渡した際、もしものことがあってもいいようにウェールズが用意しておいた策は、己の役目を果たしきった。 最後にその無表情な顔に、人形とは思えない幸せそうな表情を浮かべると。 「離せ!離せぇぇぇぇええええ、母さんが、母さんがいってしま――」 「カッタートルネード」 スキルニルは、唱えておいた魔法を解き放った。 次回予告 最終話『絆』 ワルドグランを奪って姫様を追いかけたのは良かったんだけど、ウェールズ様の死で心を乱された姫様に攻撃されちゃった。 なんとか説得しようとしたんだけれど、私の言葉じゃ姫様の心には届かない。 手をこまねいているうちに私のグランチャーが巨大化していく。 姫様と戦場に溢れる貴族派の傭兵たちの命を吸っているんだと、何故か私には理解できてしまった。 けど駄目です姫様、そんなんじゃ誰も救われないじゃないですか!
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約束への帰路は遠からじ あの人は、罪は償えないと言った。確かにそうだと思う。 あの人が母さんを殺したという事実は、これからもずっと変わらない。 父さんを殺したのはクレス。ロニやジューダスを殺したのがリオン。 リアラを殺したのがミトスやアトワイトさん、止め切れなかったオレ。 そして母さんを殺したのが……あの人。 もしオレがあの人のことを許さず、復讐すると言ったら、甘んじて首を差し出すのだろうか。 いや、違う。あの人は罪を受け止めて生きることを選んだんだから、オレの言葉を拒否するだろう。 なら、あの人にとっての罰は、いつまでも罪を背負い、呵責を続けながら人生を歩むことなのだろうか? あの人は、罪を償えないと言った。そうだ、あるのは償いではなく罰だ。 死という形ではなく、生きて、本当なら普通に過ごすはずだった時間を奪い去られる罰。 ――例え罪は消えなくとも、オレが許したとしたら、それは変わるのだろうか? 許し許されることは、本当に自己満足なんだろうか。 ――それでも、やっぱり母親を殺した人を許すことなんてできない? 罪を背負い続けることが罰だとするなら、一思いに許さない方がいいのか。 こんなことを考えるのは、オレもリオンとリアラの命を奪ったからなんだろうか。 たった15歳の自分が断定できるものなんて、見渡してもどこにもない。 ならせめて、一体自分の気持ちはどこにあるのだろう。 身体の中のものを全部吐き出したとしても、そこに自分の名を冠するものはあるのだろうか。 何が、あの人のためになるのか。 「自分の気持ちに嘘を吐くな」 あの人の言葉が頭に蘇る。中でがんがんと響いて、跳ね返って、オレの心を強く揺さぶる。 はっと視界が白くなっていき開けていく。 心の淀みがさっと押し出され、まっさらな地平線が広がる感覚。 足りなかったのは1歩踏み出す勇気だ。あの人がオレにすべてを告げるのが怖かったのと同じように。 自分の気持ちに素直になるのなら、答えなんて―――― 夜空に輝く一番星。落ち始めた夜に煌く、1つの希望。 互いに素直になって元の親友同士に戻った2人は、肩を組んで――というよりは1人はいやいや組まされている状態で―― 残された少年の下に戻ろうとしていた。 肩にかかる重さは鬱陶しくも心地よく、懐かしさすら覚える。 それほどこの重みは今まで遠くにあって、自分にとって大事なものだったのだ。 振り返ったヴェイグは、1つの違和感に気付いた。 弾き飛ばしてしまったディムロスは地に転がっているはずなのに、地面に肝心の影はない。 どこに行ったのかと目を配らせると割とあっけなく見つかった。 炎の大剣は後方で待機し、箒に乗ったカイルの手に握られていたのだ。 そのカイルは、じっとディムロスを見つめている。 ヴェイグがティトレイの腕をほどきカイルに近付いても、顔を上げずただ鈍く光る刀身と、そこに映り込んだ自分の顔を見つめていた。 光源が沈みかけていることによって少しだけ影に隠されたカイルの表情は、 口元をきつく縛り、眉間を寄せるシリアスなものだった。 15歳とはいえまだ幼さの残る顔立ちに、その表情は相応の重みを伴って浮かび上がっていた。 カイル、とたまらずヴェイグは一声かける。 「……ヴェイグさん。罪は、償えないんですよね」 返答が来るのにもやや時間がかかった。 静かな、搾り出すような声音と、その発言自体にヴェイグは驚いて身を震わせる。 「……ああ」 しかし彼はそれが真実だとでも言うように、カイルの言葉を肯定した。 夕方の空気は冷え込み始め、肺を満たす酸素は爽やかだ。 ティトレイに向けて叫んだ言葉たちは決して自分にとって偽物ではない。 罪は償えば消えるものではなく、いつまでも付いてくるものなのだと。 カイルは未だ顔を上げていない。 今更ヴェイグは当然だと思い、何も知らないカイルの表情が罪の証だと感じた。 肉親の命を奪ったのである。自らの行いは許されていいものではない。 少なくとも誰かを殺したとは知っているのだから、もしかしたらカイルは、償えないと断定したことを 「罪なんて忘れてしまえばいい」と捉えたのかもしれない。 償わないのに生きるなんて、聞き方によってはそれこそ傲慢だ。 ヴェイグは沈黙を続けるカイルに、自然と頭をうなだらせていた。 「罪を受け止めて、生きることが大切なんですよね」 ディムロスを見たまま、カイルは再び口を開いた。 「ああ」 「自分の気持ちに嘘をつくのは、間違いなんですよね」 「……ああ」 ただ頷くしかなく、ヴェイグはそれ以上を何も言えなかった。 カイルが顔を上げ、揺れた髪の隙間に残っている明かりが差し込んだ。 照らされた真摯な顔が、目の前の青年を見つめた。 「なら、オレはこれから北に向かいます」 少年の口から発せられた言葉はあまりにも予想からかけ離れたものだった。 見当違いも甚だしいと、少々間抜けた顔をしてしまったほどである。 意識が定まり両目の焦点も適合したところで、カイルの真剣な面持ちにやっと気付く。 即座に彼は首を大きく振った。 「正気か!? 北は禁止エリアに」 「だからです。北には、アトワイトさんがいます」 けれども、カイルは動じずにすぐさま答えた。一寸のぶれさえない。 むしろ、ヴェイグの反応があらかじめ分かっていたかのような淀みのない回答だった。 「アトワイトはミトスが持っているんだぞ。それにお前の怪我ではろくに戦えないだろう? さっきの戦いを忘れたのか!?」 事実や経験に裏打ちされた、確定事項による論理。まさに正論だった。 カイルもそれを承知しているからこそ、ここだけは反撃できないようだった。 一層表情が険しくなり、視線の方向がヴェイグからずれる。正視できないのを隠すように目を伏せる。 両肩が持ち上がっている姿は、感情が溢れ出てしまいそうになるのを抑えているようだった。 「……それでも行かなきゃいけないんです。例え命を投げ出すのに等しいことでも、これだけは譲れません」 カイルの手の内に握られたディムロスが一驚したような息をこぼす。 少年の顔付きはまるで諦めの兆しが見えなかった。 どれだけ力を加えようが、反射する鏡を置こうが曲がりようのない意志。止められないのか、と彼は思った。 「なら、俺も北へ行く。お前1人をみすみす行かせる訳にはいかない」 「……ヴェイグさんなら、そう言うと思ってました」 目を閉じたままのカイルの表情がふっと柔らかくなり、彼に笑いかける。 期待がヴェイグの顔に表れ、彼にしては珍しく明るくなる。 だが、カイルが瞼を上げることでそれもあっけなく裏切られた。 「でもダメです。オレ1人で行きます」 目の色はまるで先程と変わっていなかったのだ。 何者も寄せ付けない、あまりに強く眩すぎる眼光。そこに踏み込んでしまえば、逆に呑まれて足場を見失ってしまう。 決意は誰にもへし折りなどできなかった。 「何故だ? 無茶というのが分からないのか!?」 カイルはうーん、と唸り、少し考え込んでから答えた。 「あなたまで危険に巻き込む訳にはいきませんから。それに十分あなたも傷がひどいです」 先程のヴェイグの理論とほぼ同じ内容だった。すなわち、彼もまた反駁することはできない。 それでも、と彼も言えばよかったのだろうが、E3にいたときのカイルの言葉が脳裏に再生され、口は開かなかった。 自分は1度でもカイルの意思をちゃんと尊重したことがあっただろうか? 自分の求めるものは償いによる自己満足ではないと知った今、 カイルに一方的に同伴することは、結局は自己満足の域を出ていないのではないか? シャーリィの術を防いだあのときのように、カイルを「死なせたくない」のではなく、「死なせてはいけない」だけだと。 「大丈夫です。オレには生きて戻る理由があります。 生きて、あなたに言わなきゃいけないことがあります」 え、とヴェイグは呟いた。カイルの顔を見れば、何かを取り払ったような晴々とした表情だった。 反して彼の顔には明らかな困惑がにじみ出ている。そして彼はまさか、と思った。 否定の言葉にすらならない文字の羅列が、意味もなく紡がれていた。 心の奥で誰かが囁く。 ほら、全て喋って吐き出して楽になってしまいなよ。すぐに頭と身体は離れてもう何も考えずに済むから。 「いいじゃねえか、行かせてやれば。それがカイルの気持ちなんだろ?」 唐突に響いた埒外の声に、2人はほぼ同時にそっちの方を向いた。 頭に腕を組んでいるティトレイはごくごく普通の面持ち、すなわち当然だとでも言いたげな表情だった。 ヴェイグの口から言葉が出る前にティトレイはカイルへと近付き、何かを差し出す。 「お前がそうしたけりゃ、そうすりゃいい。きっとお前は1人で行くことの意味もリスクも分かってるんだろ?」 カイルは差し出されたものを受け取る。 「なら、俺に止める理由はねえ」 へへ、とティトレイは笑う。ヴェイグは黙ってその様子を横で見ているしかなかった。 「……さっき聞いてたなら分かってっと思うけど、昨日の夜、お前を地下に突き飛ばしたのは俺だ。 悪かった、っつっても簡単に許してもらえるとは思ってねえ。 けどな、お前を行かせるのは引け目があるとか、そんなんじゃない。それがお前の決めたことなら、止めるべきじゃねえから」 頭を掻きながらとつとつと語る青年に、カイルは頷くことも否定することもなく笑っていた。 ティトレイの言葉に、先刻のある言葉を思い出していた。 沈み込んでいたかと思えばいきなり高々と演説を始めた、痛みを伴った青年の繰る言葉。 血を吐いてまで伝えたかった、何かを失った自分たちへの真っすぐな言葉。 自分の意思を尊重しろ。その言葉通りなら、ヴェイグの阻止も自分の意思ゆえなのだからあながち間違いではない。 だが、それ以上に彼は自分の行いを疑問視し、カイルの「自分」の意思が気にかかっていた。 これまでが何らかの形で誤っていたのなら、違う一手を出すべきではないのか? 首輪、禁止エリア、命を奪い合うゲーム、効率化、守るということ、罪と償いと罰、それらはある前提の上に成り立った概念である。 すなわち、バトル・ロワイアルという枠組みの。 そこまで考えて、自分はこの殺し合いの一部として取り込まれているのだと理解した。 「本当に、それでいいんだな?」 ヴェイグは一息分の沈黙ののち、カイルへ向かって言う。 ひどく抑圧された低声だったが、それは我を押し殺しているというよりは、真剣に相手の意思を確かめる意味合いが強かった。 カイルはただ黙って頷いた。 そうしてヴェイグもまたティトレイと同じように、何かを差し出す。 「なら、俺も止めはしない。ただ」 彼は目を細め、少しだけ俯く。 「必ず、生きて戻れ」 迂遠な約束だった。今は聞かないから、代わりに生きて会えたら聞くから、すべてを話すからと。 横でティトレイが罪を明かすのを聞きながら、語らぬのは卑怯だ、ともヴェイグは思った。 しかしこれが約束の形だ。後ろ向きの感情も消え去ってしまう。 ティトレイの差し出したものが餞だとするならば、ヴェイグが差し出したものは無事への願いである。 別にカイルにルーティのことを告げられるのを恐れている訳ではない。 むしろ、すべてを明かす勇気を持てたからこそ、ここで告げてはならないのだ。 今、限りある時間をカイルから奪う訳にはいかない。 何よりも、ここで吐露して満足してしまってはいけない。彼にとって重要なのは明かした先にある行程だ。 帰還を信じるために、それを残しておかねばならないのだ。 ヴェイグの重々しくもはっきりとした言葉に、カイルはアイテムを受け取り別の手へと移し、そしてもう1度手を差し出して応えた。 グローブのはめられた手の1番下、小指がちょこんと飛び出ている。 「約束といったら、指切りでしょう?」 何事か、と小指をしげしげと見つめていたヴェイグは、その言葉でようやく意図を理解した。 指切りなんて子供の時分からどれくらいしていないか、覚えてすらいないほどだが、 彼は気恥ずかしさを抑え小指を出して相手の指に交わした。 この小指ほどに細く心もとないが、せめてこの繋がりが絶たれぬように。 指を離したヴェイグは、どこかすうっとしたカイルの表情を見ながら一言、「行け」とだけ言った。 口に自らの感情の支配権を委ねてしまえば、時間を食うどころか 一体どんな言葉が出てくるか分からない。やはり止めてしまうかもしれない。 カイルの思いを優先するとしても、それほどカイルは危険な状況に乗り込もうとしているのだ。 少年は彼にただ笑って応えた。何の余韻も残さぬよう、そのまま箒を反転させ、フルスロットルで発進させる。 夕闇に七色の軌跡を残し、カイルの姿はあっという間に溶けて消えてしまった。 今になって、どこか後悔めいたものが胸を過ぎる。 「やっぱ止めときゃよかった、とか思ってるか?」 横に立っていたティトレイが、完全にカイルの姿が消えたのを見計らって声をかける。 「半々、だな」 ヴェイグは顔を背け答えた。 「カイルはああ言うが、帰ってこれる保障などどこにもない。 このまま何も告げることなく、約束は約束のまま終わるかもしれない」 「けど、な」 「止めてもあいつは……振り切ってでも行っただろう」 分かっているからこそカイルを止めるべきでもあり、しかしどうしようもなかった。 こうしてカイルは2人の目の前から消えてしまった。 約束を交わした手を見つめ、握った拳をゆっくりと開く。5本の指は伸び、小指は特別な存在ではなくなってしまった。 彼の頭を過ぎるのはいつも最悪の結末だった。 それを思い描くということは、カイルの死とは一体どれだけ自分に比重があるものなのか。 自分の背中にかかる重み以上に、少年の存在は大きいのかもしれない。 違う、と思った。 少年はこの背中にかかる重さが現世に形を持って表れた、罪の象徴なのだ。 目に見えるうちはまだ自分の過ちを自覚でき、取るべき道の標榜として先へと歩むことができる。 だが象徴自体を失ってしまえば、彼の罪は浄化されることなく姿を消し、行き場を失ってしまう。 残るのはその場で跪くことだけだ。 「でも、お前は確かに言ったよな。行け、って」 「そうだ」 「少なくとも、お前はカイルを行かせることを選んだんだ。それは大事な一歩だ。 中途半端に行かれてそのまま死なれるよりは、よっぽどマシだろ?」 彼は罪の証をあえて突き放した。道を見失うことを恐れるよりも、これから新たな道を歩む一歩にしようとするために。 カイルを自由にすることは、同時に自らを自由にすることに他ならないのだ。 親友の方を向くと、にかと笑っている。 「行かせるって決めたんなら、胸張ってしっかり前を見てろ。それで信じてればいいじゃねえか。 この今は、間違いじゃねえ」 ヴェイグは顔を北へと向き直させ、見えない影を視界に捉え、ただまっすぐに見つめていた。 両目をしっかりと開け、どんな結末になろうと、その結果をしかとこの目に焼き付けるように。 それでも、「死なないでほしい」と祈りながら。 カイルに全てを告げ罪を少年から乖離させたとき、そのときが真に2人の道を分かつのだろう。 「ちょっと休んでようぜ、俺らは。くたくただしな」 一番星の下、ティトレイはその場にどっかと座り込み、ヴェイグはなお北を見つめていた。 『本当に、これでよかったのか?』 宙を疾走し耳が空気を切る音しか聞き取らない中、その声は頭の内側で響いた。 ばさばさと髪がはためき、ときおり隠される顔の上に笑みは広がっていた。 「その割にずっと黙ってたくせに。じゃあどうして止めなかったんだよ?」 芯を貫くほどに的確に打たれ、見事にソーディアン・ディムロスは沈黙した。 その指摘の鋭さといったら、不用意に打ったパンチをすいと避けられ理想的なカウンターフックが頬を打ち抜いたようなものだ。 関節の骨1つ1つが突き出され、えぐるように肉を削いでいく。そしてダウン。 『……期待、という甘い棘なのだろうな』 ディムロスは観念したように言葉を吐き出した。 『最後かもしれないが、まだチャンスはある。 もし、彼女を取り戻すことができるなら……そうでなくとも、せめて何か一言でも伝えられるなら』 「大丈夫だよ。必ず一緒に帰れる」 風が裂かれる音で少年の声は聞き取りにくいものだったが、炎の剣は確かにその一言を聞いた。 重みは確かに剣の内に響いた。 「過去……過ちは、去るんだから」 コアクリスタルがもう一方の反応を感じ取り、彼らは発生源である森の奥へと入る。 『カイル、お前がここへ来たのは、本当に私のためだけか?』 生じた風で葉が揺れ、がさがさと盛大な音を立てる。 ディムロスの言葉にカイルは黙ったまま、前方を向いて箒を走らせていた。 涼しい気の流れに草木の匂いが混じる。疾走の最中にそれを感じ取ったほど、カイルの意識はどこか茫然としていた。 「……分かんない」 ぽつり、とカイルは小さく呟く。 『お前は怖くないのか?』 「……分かんない」 連続した問いにも首を横に振って同じことを返す。 かといって箒の速度を落とす訳でもない。引き返すような素振りも見せない。 非凡なる力の軌跡はただ真っすぐに。前へ前へ、それしかできないかのように進んでいく。 「でも、これだけは分かってるよ。このままじゃ納得はしないって」 木と木との間をくぐり抜け、深い森の中を進んでいく。 置かれた2つの碧眼は暗闇の中に確かな光を宿している。 「助けて、って言うのはそんなに悪いこと? 辛い気持ちを隠し続けて、それで何が手に入るんだ? 1人でいることの方がよっぽど寂しくて悲しいよ」 欝蒼とした森は、光が乏しくなったことで本来の薄闇を更に増して暗がりを作っていた。 風でがざがざと木の葉が揺れ、鋸でこすり合わせたようながさつな音を立てる。 誰1人として招かぬように、と森自体が不快な要素を作り出し弾こうとしているようだった。 しかし、招かれざる客は箒を駆り、気味の悪い緑の中を進む。 目当ての剣は、ある1本の木の下に腰かけていた。 小ぶりの刀は金髪と緑の目を持った少年の傍らに突き刺され、ただ無意味に時間を過ごしていた。 互いに、特に少年の方はこの闇と同化してしまうのではないか、そう思えるほど存在は弱々しい。 長い前髪の間から少年は来訪者を確認すると、億劫そうに口を開いた。 「何しに来た、帰れ」 訪れた少年とさほど外見の年は変わらないのに――むしろ幼いのに――その声は恐ろしく低かった。 声だけで相手をねめつけるような、希薄な存在のはずなのに覇気すらある。 しかし、来訪者ことカイルは退きはしない。 「用はある。だけど、オレじゃない……アトワイトさんにだ」 少年は無言で地から抜き取り、カイルにソーディアン・アトワイトをかざした。 同じく、カイルも腰に納められたディムロスを抜き払う。 暗闇の中、赤と青のコアクリスタルの輝きが森を照らす。片や憂い気に、片や複雑そうに。 『アトワイト……』 『……今更、何の用? ディムロス』 名を呼ぶ声にもそっけなく、抑えられた声で返したアトワイトに、ディムロスは苦しそうに息を呑んだ。 変わってしまった彼女と対面することがディムロスにとっては1番辛く、そして1番に乗り越えなければならなかった。 『……確かにあの夜、私はお前の声を受け取った。それでも向かわなかったのは私の落ち度と言える』 『今頃になって詫びを入れようとでもいうの?』 『そうだ。結果としてリアラという少女を死なせ、お前を傷付けた。それは、拭い切れない罪の1つだ』 アトワイトは静かに笑った。 乾いた響きが森の中で幻の反響を作り出し、暗い森の色合いを更に黒く塗り替えていき、緩やかにディムロスの心をえぐりこんでいく。 『……何も変わらないわ。何も戻ってこない』 暗がりに紫色の髪が流れ、冷たい微笑を浮かべた彼女の姿が浮かび上がる。 対峙する2人。今、互いは敵である。向かい合ったまま剣を交えるのが正しき光景である。 歯をむき出し、目をぎらつかせ血肉を滴らせ食らい奪い合う、実に醜い光景。 『ああ。だが、これからを変えることはできる』 けれども、ディムロスは肯定を手に、理性の輝きを灯して剣を構える。 無意味に奪うのではなく、失ったものをもう1度この手で抱き止めるために。 『そのために……私はお前を取り戻す。 覚悟は決めてきた。例えなんと謗られようと、今度は2度と手放さないッ!』 一瞬の剣閃が闇を切り裂き、彼女の幻と共に霧消させる。 アトワイトは瞳孔が瞠るのを必死に抑えていた。 意気を吐くディムロスを尻目に、少年はくつくつと笑っていた。 その熱さすらどこか郷愁めいた、むしろもうどうでもいいとでも言うかのような笑い方だった。 「だってさ。いいよ、アトワイト。お前の好きにすれば?」 アトワイトの方へと首を動かし、光の輝きを確かめる。 『……私は、もう戻ることなどできません。私の居場所は、あなたと共に』 彼女は淡々と答え、反発の意を示した。 少年は納得したように小刻みに首肯し、改めてカイルたちの方へと向き直る。 「……ってことだから、帰ったら?」 小馬鹿にしたように彼は言うが、カイルたちが退く様子はない。 逆に、どう言おうが必ず連れて戻るつもりなのか、戦意の高まりすら感じる。 そのとき、彼は自分の中に何かが湧き出たのを感じた。 何もかも分かっているような、同情でも寄せているのかと思えるカイルの目付き。 それをくり抜いて落してやらなければ静まらない。お前に一体何が分かる。 やがて生まれたものは内発的に生じた心地よいリズムとなり、胸を踊らせるような愉しい感情へと変遷する。 叩き落としねじ伏せねば気が済まない、そんな嗜虐的なもの。 彼は口元が弧を描いていることに気がついた。 「……姉さまにも棄てられて、正直もう何もすることがなくなったんだけど。2つ忘れてたことがあった」 ゆっくりと立ち上がり、彼はアトワイトを握り締める。 「1つは僕がこいつの飼い主で、ソーディアンマスターであるということ。 一応は、ソーディアンの顔くらい立てておかないと示しがつかない」 緩慢に胸元の輝石に触れると、周囲にこの闇を照らす純白の光の羽根が散り始める。 「2つ目は、ああ、もの凄く個人的な、どうでもいいことなんだがな……そう、昨日の夕方を思い出したんだ。 堕ちたかと思ってたのに、顔付きがまるで変わっていない。むしろ強くなったくらいだ。 つまり……何が言いたいか分かる?」 ミトス・ユグドラシルは自身の湛えられた幼い双眸と、射抜くような冷徹かつ鋭い眼光を以ってカイルを睨みつけた。 カイルは無言のまま相手を睨み返す。 あの殺意に満ちた目はどこへ行ってしまったのか。ミトスはなんだか笑ってしまった。 「直にここも禁止エリアになる。アトワイトさえ見捨てれば、僕は追わないよ。 まさか僕を倒してからアトワイトも拾って悠々と戻れるとは……思ってないよな?」 ミトスの威圧的な問いに、カイルは臆することなく、 「思ってたら?」 いつものように楽天的かつ自信ありげに笑って答えた。 ミトスの顔が一気に歪む。 「……上等。どこまでもムカついて素晴らしい」 純白は彩となり、一閃の光ののちミトスの背に、他のどの天使も持たぬ七色の羽が広がった。 その光だけで森の暗黒を全て払ってしまいそうな、そんな厳かなものすら感じさせる。 カイルは静止させていた箒に再び晶力を込め、いつでも発進できるようにブーストをかける。 手にディムロスを握り、その刃を以って成し遂げてみせると力を込めた。 「アトワイト、射撃は任せる。残った魔力も半分は使っていい」 『……了解しました。フルショットで行きます』 七色の光の中に青い輝きが混ざり合い、冷気が周囲を満たす。 「ディムロス、箒をお願い。オレを届く位置まで運んでくれ」 『……承知。セミオートで行くぞ』 七色の光の中に赤い輝きが交わり合い、熱気が辺りを包み込む。 決戦と呼ぶに相応しい、僅かに残された時間の中で、強大な力と力はぶつかり合う。 「行くぞ、英雄!」 「来いよ、英雄!」 【ティトレイ=クロウ 生存確認】 状態:HP10% TP30% リバウンド克服 放送をまともに聞いていない 背部裂傷 所持品:フィートシンボル メンタルバングル バトルブック(半分燃焼) チンクエディア オーガアクス エメラルドリング 短弓(腕に装着) クローナシンボル 基本行動方針:罪を受け止め生きる 第一行動方針:カイルの帰還を待つ 第二行動方針:ミントの邪魔をさせない 現在位置:C3村北地区 【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】 状態:HP20% TP20% 他人の死への拒絶 リオンのサック所持 刺傷 両腕内出血 背中3箇所裂傷 胸に裂傷 打撲 軽微疲労 左眼失明(眼球破裂、眼窩を布で覆ってます) 胸甲無し 所持品:忍刀桔梗 ミトスの手紙 ガーネット 漆黒の翼のバッジ 45ACP弾7発マガジン×3 ナイトメアブーツ ホーリィリング 基本行動方針:罪を受け止め生きる 第一行動方針:カイルの帰還を待つ 第二行動方針:ロイド達の安否が気になる 第三行動方針:カイルに全てを告げる 現在位置:C3村北地区 ※2人のアイテム欄はそのままの表記になっていますが、この内の「何か」がカイルの手に渡されています。 何が渡されたかは次の人にお任せします。 【カイル=デュナミス 生存確認】 状態:HP35% TP25% 両足粉砕骨折(処置済み) 両睾丸破裂(男性機能喪失) 右腕裂傷 左足甲刺傷(術により処置済み) 背部鈍痛 所持品:S・D フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 ミスティブルーム 首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ 魔玩ビシャスコア アビシオン人形 漆黒の翼のバッジ ペルシャブーツ 基本行動方針:生きる 第一行動方針:ミトスを倒し、アトワイトを連れ戻す 第二行動方針:守られる側から守る側に成長する 第三行動方針:ヴェイグにルーティのことを話す SD基本行動方針:アトワイトを取り戻す 現在位置:B3森林地帯 【ミトス=ユグドラシル@ミトス 生存確認】 状態:HP70% TP30% 拡声器に関する推測への恐怖 ミントの存在による思考のエラー グリッドが気に入らない 左頬に軽度火傷 右頬に小裂傷 所持品(サック未所持):S・A ミスティシンボル ダオスのマント 地図(鏡の位置が記述済み) 基本行動方針:無し。ほぼすべての事象に無関心 第一行動方針:カイルを撃破する 現在位置:B3森林地帯 前 次
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← ――その花の根には、毒がある 私はまだ、この世界に"裏"を見せてない。 奴等は表の葉の醜さだけを見ている。けれど私はまだ、本当の毒を見せていない。あろうことか奴等は、その毒を自らの生活に使おうとしている。 だけど毒は、いつだって毒のままだ。奴らは毒を超越した気になっているかもしれないが、実際は毒の恐ろしさを忘れただけなのだ。 その花の花言葉通り、わたしは薬ではなく死の贈り物になろう。 ☆ (くそ……アクシデントは想定してないわけじゃなかったが、こんな奴じゃなくても良いじゃないかよ!!) 朝比奈覚は心の中で悪態をつく。 折角デマオンと面を迎える状況に持ち込めたというのに、まさか第三者が襲ってくるとは。 「ぴーち、かえせええええええええええ!!!」 ぶんぶんと振り回す鎖鉄球に巻き込まれれば、のび太や早人は簡単にミンチにされてしまうし、大人の覚や吉良、そして魔族のデマオンとてどうなるか分からない。 どうにかして呪力で、クッパの鉄球を止めようとするが、勢いがつきすぎていて止められない。 「うわ!」 のび太が地面に躓いて、転んでしまった。 二度目の放送の後は、大魔王の城で僅かな休憩をはさんだ以外ずっと歩き通しだったのもある。 それ自体は精々が膝を擦りむくと言うぐらいだが、この状況でそのミスは致命的である。 鉄球の回転に巻き込まれ、のび太があわや肉塊と化そうとする瞬間。 「つまらん。」 彼を救ったのは、よりにもよって宿敵だった。 デマオンの放った念動波が、クッパごと鉄球を吹き飛ばす。 「え?」 「早く立て。戦えない者はこの戦場に必要ない。」 デマオンは冷たく、のび太に命令する。 のび太は認められなかった。 そもそもドラえもんや満月博士、美夜子のような大切な人たちが死んで、デマオンのような悪がのうのうと生きていること自体度し難かった。 だが、その悪に助けられたことは、もっと認めたくなかった。 だが、先程のように覚がのび太を銃後に追いやる。 あの場所にいれば、面倒なことになるのは明白なので、彼の判断は正しい。 「じゃまをするなああああああ!!!!」 吹き飛ばされたクッパは立ち上がり、またも鉄球を振り回してくる。 既にダメージは重なっているはず。 だが、心の壊れた彼は、自身を止める手段など持ち合わせていない。 彼の動きが止まるとするなら、それは彼自身の命の灯が消えた時だろう。 「キラークイーン!」 吉良は自分のスタンドの拳を、クッパにぶつけようとする。 デマオンや早人も始末しておかねばならない相手だが、クッパのような傍若無人な輩こそ、最も彼の嫌う相手であった。 本来ならシアーハートアタックを使いたいところだが、多人数が固まっている場所で自動操縦型スタンドは使いにくい。 加えてデマオンの魔法は、辺りに炎をばらまくものが多いため、高温に反応するスタンドとは相性が悪い。 手あたり次第に爆殺するのも悪くは無いが、最低限のび太と覚からは信頼を勝ち取っておかねば、脱出方法が模索できない。 従って、吉良は本来なら好まない近接戦を選ぶことになった。 鉄球とスタンドの殴打がぶつかり合い、鈍い音を生んだ。 スタンドダメージのフィードバックが、吉良の拳に鈍痛を与える。 「デマオン、どうするんだ?」 魔王の黒マントの後ろに隠れているのか、デマオンの背後から早人の声がする。 「まずはこのツノガメが先だ。岩よ。雷となれ!!」 デマオンもまた、魔法を使い、クッパを倒そうとする。 敵対していた吉良と協力することになるとは、なんたる因果か。 「ぴーちはどこだああああああああああ!!!!!」 しかし鉄球を振り回すクッパは、魔力を帯びた岩の塊も、近距離パワー型スタンドも弾き飛ばす。 今の彼は、さしずめ暴走した機関車。 まっすぐにしか進めはしないが、その代わりに下手に理性のあるものを凌ぐことが出来る。 ☆ 場所は戦場より少し離れた場所。 朝比奈覚は、いち早くのび太を安全地帯に移そうと考えた。 勿論そのまま逃げる訳ではない。機を見はからい、クッパを倒すのに協力するつもりだ。 しかし、一度戦場から離れると、それまでは見えなかったものも見えるようになる。 (ウソだろ?アレって……) 混沌を描いたような状況になった今、他の人間に比べて卓越した視力を持っている覚は気づいてしまった。 クッパが恐ろしいことになっていることに。 そんなこと誰でも分かっているって?違う。そうじゃない。 彼が首にかけられている物は、覚が良く知っている道具だった。 「やめろ!!みんな!!迂闊に奴を攻撃するな!!」 覚は、ペンダントの様に付けられているバイオハザードマークを見て思い出した。 クッパの首に付けられているのは、猛毒の細菌兵器、サイコ・バスターだ。 つまりは敵に強力な攻撃を当てた瞬間、ガラスが割れて、致死性のウイルスが辺りにばら撒かれるということだ。 また、クッパが激しい動きをした弾みに、カプセルが割れてしまうことも考えなくてはならない。 従って、自分たちがクッパに勝っても負けても、このままでは手痛い損害を被ることになる。 対処法は2つ。カプセルを破壊しないようにする、あるいは細菌が漏れ出た瞬間、かつて早季がしたように呪力の炎で燃やし尽くすことだ。 それに気づいた覚は大声を上げる。 だが、ほとんど全員がクッパにかかりきりで、覚のことなど気づいてはいない。 「ねえ、朝比奈さん、どういうこと?」 比較的安全な場所にいたのび太だけが、覚の異変に気付いた。 今まででさえ十分危機的な状況だというのに、まだ何か問題のある要素があるというのか。 顔を引きつらせながら、彼に状況を尋ねる。 「覚えていないか、最初に俺達が会った時に、細菌兵器を写真の男に奪われたことを。」 「え?それじゃあ……まさか……。」 「ああ、そのまさかだ。」 そして、同時に覚は気づいた。 あの写真の男なら、こんな戦いを考えようとしたりせずに、後生大事に持っているはず。 写真の枠線に閉じ込められていない、この騒動の裏で、幕を引いている人物を。 実際には人ではなく、ネズミなのだが。 いや、今の彼が知らぬことだが、本当は人物で合っているか。 なんにせよ、クッパの背後にいる存在は、サイコ・バスターを知っている人物。 (あいつがいるのか……) 敵の目的は分かった。 大方自分たちが争っている最中に、刺客を放ち、騒がしくなっている最中に漁夫の利を得るつもりなのだろう。 非力なバケネズミである彼がやりそうなことだ。 だが、彼の戦法が分かっても、攻略法を見出さなければ意味が無い。 そもそも、舞台監督である彼がどこに潜んでいるかさえ分からないのだ。 悪鬼を放った時のように、遠くから蛇のように見物をしているかもしれないし、その逆かもしれない。 おまけに、のび太をどうすればいいか気になった。 彼は呪力こそないが、それでも自分たち呪力を持った人間を何度も出し抜いてきた。 間違っても、小学生である彼と対面させていい相手では無いし、だからといってこんな戦場に置いてきぼりにするなんて論外だ。 その時、覚の視界に靄が走り、膝が震える。 立つことが出来ず、どっと尻を地面に付けた。 これもまたスクィーラの策略かと考えてしまったが、それは違う。 単純に彼の疲労がたまっただけだ。 この状態で戦えと言われれば無理があるが、呪力は簡単な物なら使えるし、少し休めば戦線復帰できるはず。 「朝比奈さん!!」 だが、彼の不調を慮ったのび太が、彼を治そうとする。 とは言っても、四次元ポケットを探る亡き友のように、闇雲にザックを探るだけだが。 とりあえずザックから水を出し、彼に渡す。 「心配するな。ちょっと疲れただけだ。それより……。」 「待ってて!僕が今から吉良さんを助けに行くことにする!それから3人で逃げよう!!」 覚が不調、吉良が前線で拘束されている中、戦場を自由に動けるのは彼だけだ。 まずは、自分たちの陣営の中で一人孤立した吉良を、のび太が助けようと考える。 しかし覚としては、吉良はシロではないと考えていた。 どうすべきか決めた覚は、のび太に問い始める。 「君の気持ちは分かる。でもちょっと聞いてくれ。」 「どうしたの?」 「君が言ってたデマオンって奴のことだけど、あいつは殺し合いに乗って無いんじゃないか?」 ☆ 「落ちよ!水柱!!」 「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」 場所は戦場の中心。 デマオンの水魔術と、クッパのファイヤーブレスがぶつかり合う。 魔王が狙ったのはクッパだけではない。広範囲の魔法を撃つことで、吉良も巻き添えにしようとした。 勿論、そんなもので彼を倒せるほど甘い期待をしているわけでもないが。 案の定、吉良は濁流の流れからいち早く逃れる。 そしてクッパも、自分を飲み込もうとする箇所の流れだけ、炎で蒸発させる。 そして炎を吐き終わると、すぐに水蒸気で遮られた中を鎖鉄球が飛んでくる。 「温いわ!!ただの猛獣の分際で、わしを倒せると思ったか!!」 ひょい、と巨体を逸らす。それだけで、チェーンハンマーは明後日の方向に飛んで行く。 チェーンハンマーは当たれば鉄の鎧だって難なく砕く破壊力を持つ、強力な武器だ。 魔獣と化した大魔王にさえ通用するので、威力に関しては申し分ない。 だが、投げるまでの振り回す前動作のせいで、極めて躱されやすいという欠点を持つ。 たとえ視界が水蒸気で遮断されている中でも、ジャラジャラと鎖の音が五月蠅いせいで、音で攻撃範囲を気付かれやすい。 「よけるなあ!!!」 クッパが叫び、チェーンハンマーを横薙ぎに振り回す。 「危ない!!」 デマオンの背後に隠れていた川尻早人が、その際に叫んだ。 場所が場所なので戦況が掴みにくいが、鎖の音が彼の背筋を冷やした。 「ぐぬうううううう!!!」 「デマオンさん!!」 クッパが雑に鉄球を振り回したことで、デマオンが鎖で縛られた。 先端の鉄塊のみならず、鎖までも武器として使ってくることは、予想だにしていなかった。 最も、クッパが狙ってやったことではない。 玩具を与えられた幼児のように闇雲に振り回していたら、結果としてできたことだった。 とはいえ、そう言った偶然は時として優れた思考や理性をも凌駕する。 「貴様ああああ!!!!」 身体を捩り、拘束から逃れようとする。 だが、チェーンハンマーの鎖は、長い間雪山の廃墟に保管されていても錆びること無かった特急品だ。 クッパの力が悪魔族をも凌駕していることもあり、身動きが出来ない。 まだ辛うじて自由な手だけを動かし、魔法を唱えようとする。 その間にも、デマオンはグイグイと前面に引かれていく。 そして、魔王に牙をむけようとする者はクッパのみではない。 背後から、吉良吉影が空気砲を魔王に向ける。 確かにこの状況で、真っ先に始末しておかねばならないのはクッパだ。 それはそうとして、他の者を倒せる千載一遇のチャンスがあるなら、活用しない理由は無い。 「ダメだ!!」 早人が地面に落ちてある小石を拾い、吉良目掛けて投げる。 空気砲は弾道が逸れ、デマオンに命中することは無かった。 「おや?お父さんに暴力を振るうつもりかい?」 「待っててくれ!デマオンさん!!今助ける!!」 早人はザックから支給品を出そうとする。 だが、敵だと分かっている者には、子供であろうと容赦をしないのが吉良吉影だ。 「がっ……。」 早人は口から胃液を零し、地面に転がった。 立ち上がろうとするも、もう一発サッカーボールキックを、スーツに包まれた足から入れられる。 「今のはお父さんに暴力を振るった罰だ。」 立ち上がろうとすると、さらにもう一発。 その一撃で骨が折れたり、内臓が潰されたりすることは無い。 だが、デマオンをサポートすることも出来ないまま、どんどん彼らから距離を離されていく。 「あああああ!!!」 「今のは悪い友達と付き合った仕置きだ。」 そう呟きながら吉良は彼を見下ろしている。 彼は長い間待っていた。早人を殺しておける瞬間を。 のび太たちは戦線から離れているので、機を見て殺害しよう。 魔王の方は、子供の方を始末してからクッパを利用して殺せばいい。 デマオンならまだしも、子供である早人を殺してしまえば、彼らからは咎められるかもしれない。 だがこの騒動の最中なら、クッパがやった、あるいはクッパとデマオンの戦いに巻き込まれて死んだことにすればいい。 たとえバレたとしても、敵側の陣営の人間だから殺したと言い張れば良いだけだ。 「むぐっ!」 首を上げようとした早人は、顔面に蹴りを叩きこまれた。 鼻の骨が折れたりはしなかったが、鼻血が強かに出て、吉良のズボンも彼の服も汚す。 彼が少年の顔面を蹴りつぶした感想は、ボールより蹴り心地が良い、だった。 最も、さして夢中になる遊戯でも無いなとも思ったが。 「く……くそ……。」 なおも早人は藻掻き、革靴による拘束から逃れようとする。 だが悲しきかな。大人と子供の体格の差は覆せない。 デマオンは相変わらずクッパとの鎖の綱引きを続けている。 今の状況に気が付くかどうかは分からないが、そうだとしても助けに行くのは難しそうだ。 「そうはいかないよ。君は私の正体を知っているようだからね。 君は死ななくてはならないんだ。」 「!!」 吉良はスタンドを出す。 彼が早人に暴力を振るったのは、サディズムからではない。 キラークイーンの性質上、隙を見せがちなのが相手にトドメを刺す際だからだ。 だからかつて広瀬康一にやったように、暴行を加えて抵抗力を削ぎ、そこから相手を爆弾にする。 デマオンは自由に動けず、早人は殺されかけている。 最初に崩壊する陣営は、大魔王のものとなりかけていた。 その瞬間、ぱん、と破裂音が鳴った。 とは言っても、辺りはデマオンとクッパの、慟哭の二重奏が響いていたためあまり聞こえなかったが。 その一撃は、吉良の心臓ではなく、その横を通り過ぎて行った。 勿論、外したわけではない。彼に聞きたいことがあったのと、のび太の人を殺したくない優しい心からだ。 「何やってるんだ、吉良さん……。」 「く、くそ……」 のび太は冷たい目で、吉良を見つめていた。 攻撃したのがデマオンならばまだいい。 しかし、この最中に自分と同じ年齢の子供を痛めつけ、挙句の果てに殺そうとするのはどういうことだ。 「で、ですが奴の側にいた少年です。見た目で判断してはいけません!」 「敵でも、そんなことをする必要があったの!!?」 吉良の言い訳が、逆にのび太の逆鱗に触れた。 彼が吉良の暴行を見たのは一瞬だけだったが、それでも見るに堪えなかった。 冒険していない間のジャイアンが自分や、他の友達に暴力を振るう時と違う、もっと残忍なものだった。 しかもその少年は、自分達に何の攻撃も加えていない。 そんな相手に暴行を加えるなど、のび太は見ていられなかった。 吉良は誤解していた。野比のび太という杜王町にはいない者の黄金の精神を。 デマオンという明確に敵と断定していた相手のせいで、吉良に対する目が曇っていた。 だが今の吉良の行為、そして覚の忠告を経て、彼が吐き気を催す邪悪だと気付いたのだ。 「いまさら学生向けの漫画雑誌みたいなことを言うんじゃあないッ!!平穏な人生のために危険な相手を排除するのは鉄則だッ!! 自分の身勝手な持論に人を巻き込むな!!ならばデマオンを今から倒しに行くぞ!!」 デマオンやクッパにも勝るかのような、凄味のある声でのび太を恫喝する。 のび太という少年に、ここまで力と胆力が会ったのは彼としても予想外だった。 だが、まだ敵になっているのは最高でも3人。 敵陣営の大将はクッパに任せればいいし、疲弊しきった大人と子供2人。 キラークイーンの力でも殺しきることが出来る。 だが、そのようにも行かなくなった。 先程の銃弾のように、一本の矢が吉良の横を通って行った。 「動かないで!!」 「あなたが吉良吉影ね…カインからあなたが人を殺したってことは聞いているわ。」 残念ながら、そのような強硬策を取る訳にも行かなかった。 北からやって来たのは、ローザ・ファレルとクリスチーヌ。 どちらもカインから、吉良がクロだという情報は聞いていた。 「怪我してるわ。今手当てする。」 ローザは早人の顔の傷を、ケアルで回復した。 「僕は大丈夫。あの男が出すスタンドに気を付けて。触れたら爆弾にされる。」 のび太は改めて拳銃を吉良に構え、ローザも弓矢を彼に向ける。 クリスチーヌは武器を持っていないが、彼女も吉良を睨んでいた。 ☆ 「鎖を振り回すな!」 「ぴーち、わがはいのもの!おまえ!ぴーち、さらった!!」 城の前では、なおも魔王と怪物の戦いが広げられていた。 クッパが両手を振るたびに、鎖が強く締まり、デマオンを痛めつける。 「うがあああああ!!!」 続いて、クッパの口から火球が吐き出される。 「落ちよ!水柱!!」 クッパの炎とデマオンの魔法。 先ほどと似たような状況だが、クッパの炎が優勢だった。 それでも炎は小さくなっていたので、辛くも全身を焼かれることは免れた。 魔法を打って抵抗しようとするが、状況は芳しくない。彼の世界では、手の動きが魔法に影響する。 そもそも、なぜ彼の世界で魔法を使えたのが人と魔族だけなのかというと、理由は簡単だ。 魔法を使える条件というのは、手を足とは別の用途で使える、即ち二足歩行にあるということだ。 そして、大きな魔法ほど使うのには大きな手の動作を要する。 これは大魔王であれ、人間であれ同じだ。 今身体を縛られ、腕の動きを制限されているデマオンには、大きな魔法を撃つことは能わなかった。 そして、じゃんけんのように手を動かす程度で出来る魔法では、無尽蔵に近しい体力を持つクッパを倒すことは出来ない。 「ならば!!」 魔法に頼らず、正面から突進し、クッパの首筋を噛み砕いてやろうとした。 地球人の骨ぐらいなら簡単に噛み砕ける悪魔族の牙だ。 だが、接近戦でもクッパは力を発揮する。 リーチの長い炎と鉄球のせいで勘違いしてしまうが、むしろ彼はインファイターの方だ。 「跳んだ!?」 初めてクッパが跳躍したことに、デマオンも驚く。 彼には知らぬことだが、彼が踏みつけ攻撃を食らってしまうのは極めてまずいことだ。 なにしろ、クッパの蹴りや踏みつぶし、ヒップアタックを食らえば、一種類戦法が奪われる。 それがアイテムだったり、特技だったりするが、戦術の大半を魔法に絞ったデマオンならば致命的だ。 「おわ!」 しかしクッパは、不意にバランスを崩して、あおむけに不時着という結果に終わった。 「良かった…カプセルは割れていないみたいだ。」 「きさまか……。」 そこに立っていたのは、朝比奈覚だった。 彼が呪力で空中にいるクッパに力を加え、身体の軸を崩したのだ。 疲弊した覚の呪力では、クッパの巨体を持ち上げることは出来ないが、バランスを崩させることは出来る。 わずかな間の休憩とはいえ、立って戦えるぐらいには回復した。 本当ならばのび太の方に加勢するべきだが、あちらの方には援軍が来た用なので、彼女らに任せることにする。 「俺のメッセージを受け取ってもらったようで何よりです。」 覚はデマオンが魔王の城に来た時から、おかしいと考えていた。 のび太から星を飛ばしたりするような、強力な魔法を使うと聞いたのに、自分達を煙でいぶしたぐらい。 これならばバケネズミの軍隊の方がまだましだ。 ようやく強力な魔法を使って来たと思いきや、てんで見当はずれの方向にばかり撃つ始末だ。 のび太が言っていたほど、恐ろしい相手ではないのではないか。 朝に出会った、あの悪鬼と見紛うほどの赤帽子の男のほうが、遥かに恐ろしい相手だった。 実はデマオンは、本気を出してない、即ち自分たちを殺すつもりではないのかと考えていた。 だからあの時、覚は窓の外に向かってメッセージを投げたのだ。 呪力の爆発という形で。 別にそれはおかしい話ではない。携帯電話やポケベルといった道具が無い覚の世界では、呪力を用いて一斉に連絡を行うことはあったから。 最も、それが出来るのは神栖66町の中でもかなり呪力に長けた者だったので、それを行うには聊か疲れたが。 「地球人にしては味なことをやりおる。褒めて遣わそう。」 邪魔をされて、さらに怒るクッパが、覚目掛けて火球を吐き出す。 だが、彼の呪力と、鎖の拘束から解放されたデマオンの魔力により、炎は簡単に弾けた、 「いえいえ、態々ありがとうございます。」 「礼などいらぬ。どうしてもしたければ、あの地球人の少年にするがよい。 きさまが考えた作戦は、彼奴がいなければ成立しなかった。」 対して、デマオンもまた魔法の爆発という形でメッセージを送っていた。 捕らえた地球人を奪い返された時に一杯食わされた、花火で見張りを引き寄せるという作戦を思い出し、聊か腹が立ったが妥協した。 そして彼と秘密裏に協力し、この戦いの裏で高みの見物を決め込んでいる相手を引きずりおろそうとしていた。 その作戦の要になったのは、川尻早人の提案だった。 彼が地球人に対し、信頼を勝ち取ることが重要だと言ったことが発端だ。 事実、デマオンの魔法により城ごと破壊するという作戦は、早人の案により全く違うものになった。 早人の情報、そしてのび太たちを城から出して話し合いまで持ち込むという考え。 その二つが無ければ、デマオンが魔法を、こけおどしと連絡だけに使うことは無かった。 しかも、早人は最悪の場合、自分が吉良を引き寄せる餌になるとまで提案した。 結果、話し合いまであと一歩という所でクッパという闖入者がいたが、それでも互いのメッセージは伝わった。 かつての戦いも、奇狼丸という予期せぬ戦友が出来たが、今回の件はさらに予想外だった。 大魔王と協力するなど、誰か予想しようか。 それよりも、まだ課題はある。 まずは目の前のクッパだ。 覚はちらりとのび太の方を見る。 どうやら吉良が本性を現したようで何よりだ。 ――君が言ってたデマオンって奴のことだけど、殺し合いに乗って無いんじゃないか? ――そんな訳ないだろ?吉良さんも言ってたじゃん!!あいつは人を殺したって!! ――悪いのは実は奴かもしれない。考えてみろ、奴にあれだけ強力な魔法があるのに、俺達を殺してない。 ――………。吉良さんが嘘をついてるってこと? ――とにかく、デマオンは俺が見張っておく。のび太は吉良を頼む。 彼はのび太を信じ、同時にデマオンも信じた。きっと早季ならそうしただろうと思って。 唯一の懸念は、吉良がここ一番で自分らの思惑に気付き、他の誰かを殺すことだった。 だが、そのようなことも無いようだと考えた。 のび太の方に、新たな援軍が加わっていたのが見えたからだ。 2人の内1人いたのは、草原でバイクに乗っていた女性だった。 彼女らにのび太のことは任せるしかないと考え、クッパの無力化を優先する。 それよりも厄介なのは、目の前の亀の怪物。 そして、彼が付けている猛毒の爆弾だ。 目の前の問題を解決し、早く吉良とスクィーラを倒さねばならない。 「デマオンさん、奴の首のペンダントは、猛毒です。」 「なぬ?何故それを早く言わん!?」 「ですが、毒が拡散する前に炎で焼き払うことが出来ます。タイミングを合わせてください。」 クッパが突進してくる。 だが、1人が2人に増えたのはありがたいことだ。 チェーンハンマーの一撃が、デマオンの巨体を粉砕しようとする。 「何処を狙っておる?」 それは大魔王の数多くある魔法の一つ。 幻影魔法による賜物で、クッパが砕いたのはただの残像だ。 「今だ!!」 「立てよ!火柱!!」 すかさず覚が呪力で細菌カプセルを割る。 黒い粉のような、強毒性炭疽菌が辺りに散らばる。 だがそれを、デマオンが炎の魔法で焼却する。 「ガアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 マリオのファイヤーボールよりはるかに熱い炎を受け、クッパは悶える。 ウイルスは瞬く間に燃やすことが出来た。 「やった 成功だ!」 その瞬間、覚はまたしてもおぼつかない足取りになる。 回復した体力はほんの僅か。クッパと戦ったことで、また同じことになっただけだ。 おまけに一歩間違えば、全員猛毒に侵されて全滅してもおかしくない状況だった。 そんな中での緊張もあった。 「戦えぬ者に用は無い。さっさとあの地球人共の場所へ行け。」 デマオンは魔法で覚を持ち上げる。 丁度覚がのび太にやったことと似ていた。 「少し待って下さい……話したいことがあるんです。」 「早くしろ。」 「スクィーラ……クッパを後ろで操っている者のことなんですが、まだ作戦はあると思います。」 サイコ・バスターと吉良吉影の問題を解決し、ほっとした覚だったが、その「ほっとした」状況に嫌な物を思い出した。 何しろ、スクィーラがかつて神栖66町に来た時は、一通り攻撃が終わったと思った瞬間こそ、奴の狙いだったからだ。 スミフキによる爆撃、そして、忌まわしき悪鬼による殲滅戦。 敵が攻撃を凌ぎ切ったと思い、安心した瞬間こそが、奴の独壇場ではないか。 「それが何か早く言え!!」 「そのことですが…」 その時、クッパの身体についていた炎が消えていた。 暫く身体についた炎を消そうと、地面を転がっていたが、それが無くなったらすぐに立ち上がった。 「うがあああああああ!!じゃまだ!!!」 (まずい……!!) 覚もデマオンもどうにかしてクッパを吹き飛ばそうとするが、間に合わない。 強烈なタックルが覚を襲った。 どうにか躱そうとするも、重量級の怪物のタックルを受ければ、ただでは済まない。 エデンの戦士として、前面に立って魔王と戦った者でさえ食らえば気絶したほどだ。 何とか呪力と魔法によって突進のスピードは抑えられたが、それでも彼のダメージは少なくなかった。 デマオンは慌てて覚に念力魔法を使おうとする。 彼のことを心配したわけではないが、彼は吉良を倒すうえで有用な人物だとは認めている。 だが、彼が即死するのを防げただけで精いっぱいだった。 大きく吹き飛ばされた先で地面をゴロゴロと転がり、ようやく止まる。 ドスドスと地面を踏み鳴らし、走るゴールは覚がいる場所ではない。 「ローザ!!!くたばれええええええええ!!!」 自分をこのような目に陥れた挙句、利用するだけして捨てた元凶。 それが本物であろうと偽物であろうと関係ない。 遠くにいるが、ようやく目に入った獲物目掛けて、突っ走って行った。 吉良の正体は暴かれ、覚陣営とデマオン陣営の結託が確定した。 だがこれでこの表裏の戦いが終わったと思ったか?違うに決まっているだろう。 →