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(二日目)12時14分 第一二学区。 周囲には高層ビルが立ち並び、四車線の交通が可能な交差点の真ん中に彼女はいた。四ツ角にはそれぞれ歩道橋があり、中心くり抜いた四角形になっている。高層ビルと歩道の間には植林が立ち並んでいる。 七天七刀が舞う。 甲高い音を立てて、コンクリートの地面が抉れていく。六本の鉄線は、常人の目には映らない程の音速を超えた斬撃となり、『魔神』を襲った。 その斬撃を、『魔神』は音速を超えた速度で回避する。 神裂火織の眼前に、『魔神』は歪んだ笑みを浮かべて現れた。 彼女は反応する間もなく、豊満な胸囲がある胸元に、握りしめられた拳を叩きこまれた。 「――――ッ、ぶごっォオ!」 強烈な衝撃を受けた神裂火織は、五メートルほど吹き飛ばされ、息を整えながら距離を取った。 神裂は意識が薄れつつも、刀を構え、敵から視線を外さない。左手で口元に滴る血をに拭うと、両手で刀を握った。 「うおおおっ!!」 バスタードソードを握りしめた牛深が、大声を張り上げて、『魔神』の頭上にある歩道橋から飛び降りた。 腕力に思い切り力を入れて、一〇〇センチを超す刀剣を、迷いなく『魔神』の頭部に振り下ろす。 だが、 ガキィイン!という音がアスファルトとの衝突によって引き起こされた。長身の男性は、我が目を疑った。眼前に迫っていた『魔神』が視界から消えたのだ。 そして、足が地面に着く前に、彼は『魔神』との再会を果たす。 『魔神』の強烈なキックが、中年男の右頬を的確に捉えた。 剣を振り下ろした反動で猫背になった長身の体は、顔だけ左に仰け反るような格好でアスファルトに着地する。『魔神』の蹴りで意識が跳びかけた男は、体の条件反射ですぐさま立ち上がるが、バスタードソードは手から離れていた。 男は、『魔神』と正面を向き合いながらも、中枢線を晒すような無防備な状態になっていた。 ズンッ!と『魔神』を起点とした半径三メートルほどの円が、アスファルトに亀裂を刻んだ。常人を逸した『掌逓』をくらった長身の男は、約10ほどメートル吹き飛んだ。 枝々が折れる音と共に、植林に身を突っ込んだ男には、既に意識は無かった。 カラン、カラン…と、空しい金属音と共に、バスタードソードはひび割れたアスファルトに落ちた。 『魔神』は足でそれを蹴って、バスタードソードを手にする。 ヒュン!という音がなる亜音速の剣筋は、後ろに迫っていた老人の斧の根本を切断した。 斧の刃の部分だけが、宙を舞った。 一瞬の出来事で呆気にとられた諫早の顔面に、重い右ストレートが直撃する。 意識を失い、膝を着いて項垂れる老人の体躯に、『魔神』は容赦なく腹部に強烈なキックを突き刺した。 『魔神』は放射線を描いて、空を舞う老体を見上げた。 この間、僅か一〇秒足らず。 30メートル程の『魔神』の背後で、ダンッ!と地面を踏みしめる音が聞こえた。 一陣の風と共に、神裂火織は『魔神』との距離を一瞬にしてゼロにした。 『聖痕(スティグマ)』を発動し、斬撃が『魔神』を捉えた。 神裂の魔力が一気に跳ね上がる。 『魔神』はそれをバスタードソードで受け止めた。 ドバァン!と聖人の人間離れした攻撃力が『魔神』の生身を襲った。アスファルトの亀裂はさらに増し、生じた爆風が破片を巻き上げた。 二つの刃は火花を散らせ、ギィィイン!と大きな金属音ともに聖人と魔神は交差した。 一〇メートルほど距離に神裂火織は降り立った。 空中で数回転した刃が、聖人の傍に落ちた。 『魔神』は手元にある剣を見た。 バスタードソードは根本から折れていた。 「……ふむ」 何の感慨もない表情で、『魔神』は折れた剣を見つめていた。 そして、剣として役目を終えた物を『魔神』は捨て去った。無機質な音が鳴り響く。 だが、それは『魔神』だけでは無かった。カランッという音が同時になった。 七天七刀が地面に落ちる。 「ぐぅッ…!」 神裂は膝を折り、肩から血を流していた。 この間、僅か〇,一秒足らず。 右腕に深い切り傷を負った神裂は、腕にチカラが入らず、刀を落としてしまった。 それだけはない。神裂の発動した『聖痕(スティグマ)』は、『魔神』の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』によって強制的にキャンセルされてしまった。 水が噴き出している間欠泉に、いきなり蓋をされてしまったようなもので、神裂の魔力が暴走し、彼女の意識は朦朧としていた。 血が流れ落ちる右腕を無視して、左手で七天七刀を握り、立ち上がった。 こうして意識を保つだけで、彼女は精一杯だった。 その様子を見た『魔神』は呆れた口調を返した。 「『魔王』との余興で、右の肺を潰してしまってな。呼吸が少々苦しいのだ。その余を息一つ乱せないとは、貴様らに殺す価値も見出せぬぞ」 ゆっくりとした歩調で、『魔神』は彼女に近づいてくる。 (…私たちは、ただ…遊ばれている、だけなのですか…いくつもの戦場を駆け抜け、腕を上げてきたというのにっ…!) 天草式は、すでに戦闘不能に追い込まれていた。 『魔神』は右手に宿る『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と、体術しか我々に使っていない。だが、それでも翻弄され続けた。 仲間たちは死んでいないが、意識が奪われて倒れている者が半数以上、他も何らかの傷を受け、万全の状態ではない。のらりくらりと策略や攻撃を回避され、確実に的確な一撃を叩き込まれていく。 連携は一〇分も経たずにズタズタにされた。 『魔神』と単体でやりあえる魔術師は聖人である神裂火織しかいない。 しかし、すでに彼女も手傷を負っており、次の攻撃で確実に戦闘不能にされる。 (私たちは…こんなものだったのですか?……私たちは…彼の…足元にすら…及ばなかったのですか?…) 「――――ってください…」 誰かの声が、神裂の耳に届いた。 それは『魔神』の耳にも聞こえたらしく、彼女に近づく足を止めた。 声がした方角を二人は見た。 神裂の四〇メートル程の視線の先には、『海軍用船上槍(フリウリスピア)』に体を預け、必死に立ち上がる少女の姿があった。 着ていた白のジャケットは、所々が破け、黒い汚れが付いている。破れているハーフジーンズはさらに傷みが広がり、彼女の素足は、膝の擦り傷の血で濡れている。 中に着込んでいるネットの黒シャツは破け、ピンク色のブラジャーと、白い素肌の胸が晒されていた。 五和は左手で、顔に付いた汚れと汗を拭い、敵を目視する。 『魔神』を睨みつける五和の眼光は鋭さを増していた。 大きな声が木霊した。 「当麻さんの体から、さっさと出て行ってください!!」 その殺気を感じ取った『魔神』は、何の感情もなく、彼女を見た。 五和の周囲には、数人の天草式のメンバーが倒れていた。 『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を構え、五和は破れた靴を脱ぎ去った。素足でアスファルトに立つ彼女は、大きな深呼吸をした後、言葉を紡いだ。 “Cuando los brillos de fuego, exigiré el agua.…El agua me rodea y me protegerá―――” (我が光り輝く炎を求める刻、我は凍てつく水を求めるだろう――) 神裂はゾッとした。 五和が唱え始めた魔術は、天草式のものではない。 彼女が単体として使う魔術だった。 「――五和ッ!」 神裂の叫びも、彼女には届かなかった。彼女の頭にあるのは、『魔神』ただ一人。 魔術の魔力を感じとった天草式メンバーの一人が、負傷している体を起して、叫んだ。 「五和ちゃんっ!」 “Cuando el agua me exige, exijo el agua!!” (我が凍てつく水を求める刻、凍てつく水は我を求める!) 五和の素足に『水』が巻きつき、水面を滑るがごとく、滑らかな動きで『魔神』に突進していった。 彼女の魔術と同時に、ヒュン!という疾風の攻撃が『魔神』を襲う。 七教七刃。 鋼糸を張り巡らせ、七方向から同時に攻撃するという、彼女が編みだしたオリジナルの技。 速度はますます加速し、五和はさらに言葉を紡いだ。 “Cuando el fuego me exige, exijo el fuego―――” (清らかなる炎が我を求める刻、我は炎を求め――) 両手で『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を一回転させ、上半身を大きく捻った。「突き」の姿勢をなし、氷の上を滑るような動きで、『魔神』との距離を一気に縮めた。 七教七刃は『魔神』を攻撃したが、七つの線撃は『魔神』の足元で消滅した。七教七刃が生じた風が、『魔神』の黒髪を揺らす。 “La llama de la purga pasa por usted!” (清らかなる炎は、全てを浄化する!) ボワッ!と『海軍用船上槍(フリウリスピア)』の矛に炎を纏った槍は、ついに射程距離範囲に入った。 五和は、全身の回転モーメントを注ぎ込んだ一撃を『魔神』の左胸に放つ。 バギンッ! 『魔神』の右手に『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を捉えられ、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』に、練りこまれた魔術の細工ごと、炎は打ち消された。 『魔神』はグイッと槍を翻し、五和のバランスを崩そうとした。 だが、既に彼女は『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を手放していた。 それだけではなかった。五和は『魔神』の視界から消え失せていた。 「っ!?」 『魔神』の目が初めて見開かれる。 そして、 “La llama de la purga pasa por usted!” (清らかなる炎は、全てを浄化する!) 五和は大声で、魔術を唱える。 炎を纏ったナイフを手に、五和は『魔神』の背後に回っていた。素早い動きで身を一回転させ、背中に隠し持っていたナイフを左手で握り、押し込むことを前提とした突きで、右手を柄に添える。 七天七刃と『海軍用船上槍(フリウリスピア)』の二重のフェイク。 完全に『魔神』の後ろを取った五和は、咆哮した。 腹の底から、絶叫する。 「当麻さんから、出て行けぇぇえエエッ!!」 掠れた彼女の声が、『魔神』の耳に届く。 五和は、上条当麻を愛していた。 一目惚れだった。 その恋は、内気な彼女を突き動かしてきた。昔も、そして今も。彼の力になりたいと願い、彼の為に強くなりたいと願い、人に見えない努力を積み重ねてきた。 「浄化の炎」は、邪悪なものを断ち切る魔術。 『魔神』は一瞬で身を翻し、彼女に振りかえった。 襲いかかる五和を見て、『魔神』は心の底から笑った。 炎を纏ったナイフは直進した。 ドスッ! という音が鳴り、五和のナイフは『魔神』の左胸に突き刺さった。 鮮血が顔に飛び散り、五和は驚愕した。 「―――えっ?!」 決死の手段だったとはいえ、自分の攻撃が当たるとは思っていなかった。 水を使う魔術は、かつて対峙したアックアの魔術を見よう見まねで編みだしたものであり、火の魔術はその術式の色彩を「赤」に変えたものである。 短剣から流れ落ちる『魔神』の血を見て、五和の喉は冷えあがった。 それは人間と同じ、赤い血。 人格は違うとはいえ、自分が愛する男の身体を傷つけたのだ。『魔神』の白いYシャツに、赤い血が徐々に広がっていく。 身を焦がしていた敵意は一瞬で消え去り、五和は凍りついた。肉を突き破った生々しい感覚と罪悪感から、身を引こうとした瞬間、 『魔神』は左手で、ドガッ!と五和の頭部を鷲掴みにした。 「うぐっ?!」 彼女は、軽い脳震盪に襲われた。 ナイフは衝撃で引き抜かれ、地に落ちる。 五和の意識が徐々にはっきりしてくる。 そして、眼前には愛しい男の顔が迫っていた。 「…良い目だ。気に入った」 『魔神』が微笑みを浮かべて、五和の顔を覗き込んでいた。 顔は、意中の男性とはいえ、精神はドラゴンに乗っ取られている。 恐怖に心を掬われた五和は、 「ッ!離せ!」 と、蹴りを叩き込もうとしたが、『魔神』右腕が腰に手を回され、胸から下の身体が密着した状態となって、五和の動きが封じられた。 五和は、『魔神』に抱きしめられていた。 彼女と『魔神』の顔の間は数センチの距離で、彼女の吐息が『魔神』の顔に当たるほど、接近していた。 五和はさらに驚く。 意中の男性の顔が、目の前にあるのだ。 戦闘中だというのに、五和の冷静な殺気は失われ、『魔神』は、不敵な笑顔を浮かべたまま告げた。 上条当麻には似つかわしくない、邪悪な笑顔と甘い囁きで。 「余の『僕(しもべ)』になれ。五和」 「――んッ?!」 五和の唇は唐突に奪われた。 熱い感覚が、彼女の口内にねじ込まれた。 ネチュ、という卑猥な水音が五和の思考を奪う。 乾いた唇を潤す、温かいキス。 右腕で彼女の身体は抱きしめられ、左手は彼女の顎を持ちあげ、顔を固定されていた。 五和はパニックに陥る。 彼女はキスをされている。 愛しい男の姿をした『魔神』に。 彼女はファーストキスは、唐突に奪われた。それも恋焦がれた男性の唇に奪われて、予期せぬ形で成しえてしまった。 奪われたのは彼女の唇だけではなく、口内まで蹂躙された。 クチャァ…と、粘着ある唾液を引き、二人の唇は離れた。 茫然自失としている五和の耳に、『魔神』の声が囁いた。 「上条当麻はお前と違う女を心底愛している。そなたに振り向くことなど、一度たりとも無い。そなたの一途な恋心が実を結ぶことなど、決して無いのだ」 「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――え?」 五和は、凍りついた。 そして、目の前が真っ暗になった。 見たこともない風景が映っていた。 自分と上条当麻が仲睦まじく、過ごしていた。 天草式の皆と、笑い合っている。 自分の手と上条当麻の手は指をからめ合って、繋がれていた。 一緒に映画館に出かけたり、 一緒にレストランに出かけたり、 皆に隠れてキスしたり、 二人で夜をベッドの上で過ごしたり、 他の女の子に好かれる上条当麻に嫉妬したり、 天草式のメンバーから二人の熱愛ぶりを冷やかされたり、 恋人となった上条当麻との日々が、目の前にあった。 それは自分が望んだ現実であり、その光景に心が満たされる。 しかし、その幻は一瞬で崩れ去った。 気づけば、五和は暗闇に一人佇んでいた。 (ここは…どこ?) 一筋の光があった。愛しい男の背を照らしていた。 あのツンツンとした髪型は、一日たりとも忘れたことは無い。 「!当麻さ…」 彼女の声はそこで途切れた。 周囲が徐々に明るくなるにつれて、彼が一人ではないことがわかった。 当麻の傍に他の女がいた。 他の女が手をつないでいた。 手を取り合いながら、彼女は当麻に微笑みかける。 彼も彼女に微笑みかける。 彼の笑顔は、自分と一緒にいた時よりも輝いて見えた。 なぜ、隣にいるのは自分ではない? こんなにも好きなのに。 誰よりも好きなのに。 彼の為に、誰よりも努力してきたのに。 彼の為に、可愛くなったのに。 彼の為だけに、尽くしてきたのに。 なんで、自分に振り向いてくれないのか。 五和は、叫んだ。 「…い、……いやああああああああ!!」 「―――――――――――――――――――――っ…―――あっ……」 気づけば、『上条当麻(ドラゴン)』は眼前にいた。 自分の瞳は、涙に濡れていた。 「それはお主が望んだ幻想。だが、それは有り得なかった現実ではない。お主と上条当麻が結ばれる運命は、確かに『在』ったのだ」 五和にはそれが、分かった。 先ほどのビジョンが真実であることが理解できた。 この世に「並行世界」というIFがあれば、自分と上条当麻が結ばれ、愛を語り合えた未来があったことは確かだった。 あのキスの感覚、抱擁された時の感覚。 愛の温もり。 芯から蕩けるような幸福の感情。 在ったことなのだ。 自分が、もうちょっと手を伸ばしていたなら、 もっと積極的に接していれば、 上条当麻と少しでも長く傍にいれば、 彼は私を見てくれた。 愛してくれた。 「……あ、ああ…ああ…あ、あああーっ……」 涙が止まらない。 感情が制御できない。 上条当麻が、御坂美琴を選んだことを知った時、自分は諦めると思ったのに。 あの時、彼を慕う人たちと一緒に思いっきり泣いたのに。 この涙は、まだ枯れていなかった。 彼女の涙を、『魔神』はそっと拭った。 愛しい男の顔が眼前にある。そして、甘い声が彼女の耳に囁かれた。 「『余』はお前を愛してやる。この身に抱かれることを光栄に思え」 もう一度、『魔神』は五和に唇を重ねた。 舌を入れ、彼女の口を再び蹂躙する。熱い感情が五和に湧き上がり、脳内を揺らすほど刺激する。 涙はそれでも止まらなかった。 だが、徐々に冷え切ったに生ぬるい温度が満たされていく。 何度も、彼女に濃厚なキスが襲ってくる。それを成すがままに五和は受けいれていた。 熱い。 温かい。 …欲しい。 手に入らなった愛情が欲しい。 彼女は、『魔神』の甘美な囁きに耳を傾けてしまった。 五和は自らの意思で、『魔神』の舌に、自分の舌を絡めた。 神裂火織は眼前で起こっている現象に絶句していた。 五和は『魔神』と唇を貪り合っていた。 だが、彼女が注目しているのはそれではない。 『魔神』の右肩から生えている巨大な『何か』だ。翼のような、腕のような…このようのものとは思えない、不思議な物質だった。 四本の長い指先のような先端から、一本の毛糸のようなものが出ており、それが五和の頭に繋がっていた。 五和は『魔神』に抱きしめられて、その異様な物体が見えていないだろう。 神裂火織は『それ』を『識』っていた。 この世全ての万物を操り、変換し、願望通りに物体を作りかえる神の領域の力を持つ腕。 かつて『神の右席』の『右方のフィアンマ』が所有していた、『ドラゴン』の一部。 『竜王の鉤爪(ドラゴンクロー)』。 あの腕のせいで、『禁書目録(インデックス)』や自分たちがどのような被害をこうむったか、神裂の脳裏にまざまざと蘇った。 その事件は、「科学」と「魔術」との戦争の芽となり、「ドラゴン」が覚醒を始めることとなる事件だった。 彼女は力一杯に歯を食いしばり、唇を噛み切ってしまった。 「ドラゴンッ!!貴様、何をしているッ!!五和から離れろォォおおお!!!」 七天七刀を握り締め、神裂火織は何の考えもなしに突進した。 アスファルトは聖人の脚力で蹴り砕かれた。『聖痕(スティグマ)』を発動し、魔力を爆発させた。 石柱すら一刀両断する刃は、『魔神』を捉え、右腕の傷から血が飛び散ることも恐れず、両手で刀を握り、『竜王の鉤爪(ドラゴンクロー)』の一指を斬り落とした。 『魔神』は五和から体を離すと、常人離れした脚力で跳び上がり、歩道橋の手すりに足を止めた。 斬り落とされた指と五和の頭に繋がっていた糸は霧散し、『魔神』の右肩から生え出ていた『竜王の鉤爪(ドラゴンクロー)』はゴキゴキという音と共に、『魔神』の身体に潜り込み、その姿を消した。 神裂の腕に、五和は倒れこんだ。 傍には、術式が打ち消されたナイフと『海軍用船上槍(フリウリスピア)』が転がっている。 神裂は射殺しかねない視線で、『魔神』を睨みつける。 「ドラゴンッ!!五和に何をしたあああああああああ?!」 左手で七天七刀を振りかざし、太陽を背に立っている『魔神』に吼えた。 Yシャツの左胸あたりが血で赤く染まっており、『魔神』は唇をそっと舌で舐める。 不敵な笑顔を取りつくろい、神裂火織の神経を逆なでする口調で、 「何を言っている?貴様も見ていたであろう?余は、五和を余のモノにすると決めただけだ」 「ふざけるなっ!お前はただの下種だっ!神を名乗る資格も無い!」 「ふはははははっ!余は神を殺すための神だ。それ以外の義務は無い。人を殺そうが犯そうが蹂躙しようが所有しようが、余の気まぐれだ。余はその人間が気に入った。それだけだぞ?聖人よ」 神裂火織の頭は激怒で沸騰した。 『竜王(ドラゴン)』は神でも、例外中の例外であり、神を殺す権限と能力を与えられている『怪物(カイブツ)』である。 人には災いや破壊を齎す神でもあるが、それは邪悪なものにしか適応されない。偉人を導き、絶大な力を宿し、世に平定を齎す象徴ともなる神でもあるのだ。 だが、強すぎるがために人に畏怖され、そして、肉体をバラバラにされ、人間に封印された。 よって、人間という『穢れ』と『強欲』を知った『竜王(ドラゴン)』は、ただのカイブツに成り果てていた。 その原因が人間であり、人間はその罪を忘れて、ただ『竜王(ドラゴン)』を恐れていたのだ。真に罪深き者は人間である。 だが、神裂火織は『識』らない。 『魔神』は怒りに身を焦がす聖人を見据え、笑いながら、 「聖人よ。貴様は何か勘違いをしていないか?」 「ッ!!どういうことだ?!」 『魔神』の言葉に嫌悪感すら覚える彼女に、冷静な思考はとうに失われている。 心にあるのは、『魔神』に対する憎悪と、仲間を想う情のみだ。 (ちっくしょうッ!これ以上仲間を失ってたまるか!建宮も、対馬も、香焼も死なせて、私はッ!皆を守るためにここにいるのにっ!私の為に天草式があるんじゃない!天草式のために私がいるんです!) 神裂は自分の弱さと激情に駆られ、瞳には涙すら貯めていた。 『魔神』は顔を歪ませる神裂を笑いながら見つめ、 告げた。 「五和は、自ら余のモノになることを受け入れたのだぞ?」 ドスッ… 鈍い音が響いた。 赤い血の斑点が、アスファルトを濡らし始めた。 数秒、神裂は反応が遅れた。 「か――――はっ…」 彼女は、目の前の現実が受け入れらず、途切れ途切れに声を吐いた。 なぜなら、 彼女の腹に、 五和が『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を突き刺さしていたからだ。 喉から込み上げた血を手で抑えながら、神裂は呟く。 「……五、和?………何…をっ?…」 「なに、余に籠絡されただけのことだ」 『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を神裂の腹部から引き抜いた五和は、立ち上がって無機質な瞳で彼女を見つめた。 大量の血が流れ出る腹部を抑え、神裂火織はアスファルトの上をのたうった。 「きゃあああああああああああああああああああ!!」 「プ、『女教皇(プリエステス)』様ぁああ!」 「五和ぁあ!お、お前何をッ?!」 他の天草式十字凄教のメンバーはその光景に目を疑った。 ある者は悲鳴を上げ、またある者は言葉を失ったまま、茫然としているだけだった。 『魔神』は高らかに声を上げる。 「ふはははははははははははっ!良い!実に素晴らしい!五和!なかなかに愉快な景色ぞ!誇るがよい!」 ぺたぺた、と五和は素足でアスファルトの上を歩き、『魔神』が立っている歩道橋の下まで近寄った。彼女は『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を捨て、『魔神』を見上げた。 「ハイ…当麻、様」 無感情な五和の返答は、『魔神』をさらに悦ばせた。 「ふはっはっはっ!意識を嫉妬と欲望に流されながらもそれでもなお、上条当麻に恋焦がれるか!なんとも色欲に素直な人間か!だがそれで良い。それこそ人間のあるべき姿だ。気に入った! これは神の加護ぞ!心して身に受けるがよい!」 『魔神』の背中から白の翼が発現する。4メートルほどの大きな片翼が、五和の体を覆い尽くした。 翼の形をした『何か』は、外形を崩し、白い液体のような粘着性を持ったモノへと変貌した。グチャグチャと音を立てながら、五和を包み込んでいく。 フワリと、その『何か』地面から浮き上がり、『魔神』と同じ高さまでになると上昇を止めた。ボタボタと白い液体が垂れ落ちるが、みるみる硬化が始まり、楕円の繭のようなものが形成された。 全長は三メートルをで、幅は二メートルほどある。 歩道橋の手すりから『魔神』は離れ、ゆっくりと浮遊し、白い繭に近づいた。そして、『魔神』は右手を触れる。 パリンッ。 ガラスが割れたような音が鳴り、『魔神』の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が反応した。 白の繭に亀裂が走り、その隙間から強烈な光が漏れだした。 辺りは眩い光に包まれた。 太陽の光を浴びた羽が舞い降りる。 天草式十字凄教のメンバーは奇怪な現象に目を疑った。 「なんだ?…これ」 周囲が光に包まれ、五和や神裂火織の様子は分からない。ただ、無数の羽のような白い物体が空から降り注いでいることが分かった。傷ついた仲間に手を貸している者が多くいる中、一人がその羽のような物体を掴もうとして、 「熱っ?!これ、ただの羽じゃないぞ?!」 ジュウッ、と音を立てて掌に火傷を負った。 他の天草式のメンバーも被害を受けて、急ぎ早に物陰に避難した。 羽のような物体は、人間や植物には被害を及ぼすが、アスファルトや鉄で出来た信号や歩道橋には全く変化が見られなかった。まるで雪が解けるように霧散していく。その神秘的な光景に目を奪われつつ、天草式十字凄教のメンバーは『魔神』の方角に目をやった。彼は言葉を失った。 天使。 左胸のあたりを赤く血で濡らしたワイシャツを着て、両手を黒ズボンのポケットに入れている一人の『魔神』と、同じ高さに浮上している『天使』がいた。 白のローブを身に纏い、金色のラインが入った純白の甲冑を着ていた。銀色の金属ブーツが光沢を発していた。無機質な紫色の瞳を宿し、紫色の髪を靡かせている。 背中には大きい白の翼が生えていた。 天草式十字凄教のメンバーは息を飲んだ。 「………五、和?」 ガチャン!と白い繭は地面に落ちて、割れた。 空に浮かび、繭から生まれた『天使』は五和の容姿をした少女だった。 二重瞼が特徴的な瞳に、肩にかかる長さのショートヘアーをした容姿は、五和そのものだ。だが、彼女の表情に、感情は宿っていない。 『天使』は右腕を水平に突きだした。 彼女の周囲に散乱していた羽が急速に集まり、純白の槍を形成する。 少女の全身の二倍ほどある翼が動き出し、槍を天草式の人々に入る方角に向けた。 空気が戦慄する。 一帯を覆い尽くしている羽が、一斉に天草式のメンバーに襲いかかった。 「―――――――ッ!!?」 吹雪のように降り注ぐ白の無数の羽。 咄嗟に武器で身を防ごうとするが、間に合わない。 生物の肉体のみを焼き尽くす羽は容赦なく、彼らに向かっていった。 それは彼女も例外では無い。 交差点の中心で倒れていた神裂火織は、穴が開いた腹部を抑え、仰向けにその光景を見ていた。彼女は朝日に照らされる『天使』と『魔神』を見つめ、茫然としたまま死を悟った。
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名前とパンツ女史 678 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 23 13.61 ID oKs08fUz 手癖が悪い…かはわからないけど、ママに泥棒された話、 書きこんでいいでしょうか… 679 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 24 35.75 ID ZXccNlAy 子持ち泥なら何でもカモン。 680 :678:2011/07/14(木) 01 26 12.62 ID oKs08fUz はじめてなので読みづらかったらごめんなさい。長いです。 ところどころフェイク入れてます。 自分…20代♀ 彼氏…20代♂ 今回の主な被害者 私は彼氏と同棲していて、家事は分担してる。 室内で煙草を吸うので、洗濯物は全てベランダに干していた。 部屋は二階で、ベランダの低い位置(腰くらいの高さで外から見えないところ) に洗濯物をかけられるようになっているので、下着は私のも彼氏のも一緒に こに干してる。 ある時から、なぜか彼氏のボクサーパンツがなくなるようになった。 私のはそのまま。 681 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 27 32.72 ID Ybz/KEVG ヤローの使用済みパンツ狙い? キチママ案件じゃないの? 682 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 32 19.94 ID vh5kT21D 泥なんだからここでいいじゃん。 わざわざここじゃないんじゃないの?というのは何の為? 683 :678:2011/07/14(木) 01 32 42.16 ID oKs08fUz キチママさんなんでしょうか…わからないんです。 一応書きためてはあるんですがまとめると ・彼氏のパンツとか衣類盗まれる ・お隣りさんは妊娠中の一人暮らしの人 ・なぜか彼氏がそのママの出産に立ち会う(?)はめに ・その流れで泥発覚 →まだ病院から帰ってきてない泥ママ、どうすればいいか悩んでる状態 684 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 34 24.33 ID oC2n9bk5 えーと、泥されたのは彼氏本体ってオチ? 立ち会う羽目もなにも、子供は彼氏の子ってことはないの? 685 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 36 54.44 ID oj8qBsik いや、彼氏の子供で浮気相手だとしたら パンツ泥棒にはならないだろうw 686 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 37 26.53 ID gKARr7XC まとめ過ぎてわからん 687 :678:2011/07/14(木) 01 37 51.37 ID oKs08fUz 684 彼氏本体ってことはないですし、彼氏の子供ってことは100%ないです。 盗まれたのは下着とTシャツ、あと出してたゴミ。。。 でも泥ママさんはもしかしたらそのつもりでいるのかもしれないです。 なんかまだ謎に包まれています…スレ違いなら他に行きます!すみません。 688 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 37 51.28 ID dq5boV3t 681が変なことを書くから、はしょられちゃって話の内容が分からない。 690 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 38 59.71 ID Pr9YkJzV ・なぜか彼氏がそのママの出産に立ち会う(?)はめに ここが一番の謎 691 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 40 34.43 ID wnT0PuOa 683 とっとと通報しろ ほっといたら、出産に立ち会ってくれた仲でしょ>< って彼氏を父親ポジションに据えられるぞ 彼氏と円満破局したいならそのままでおkだけど 692 :678:2011/07/14(木) 01 41 40.12 ID oKs08fUz 690 泥ママはお隣りさんなのですが、休みの日(私は休日出勤)に ピンポン鳴らされ、 「破水したから救急車呼んで!誰もいなくて心細いからついてきて!」 と言われたそうです。 立ち会うっていうか分娩室の外?にいてた感じですが… 693 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 42 54.89 ID oj8qBsik 推測するに 病院に連れて行ってそのまま付き添い 入院グッズが必要でお隣りに入って盗まれた物発見ってところ? 694 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 43 31.93 ID 0plJhxpr 690 そこが一番kwsk!!なのにね。 つか立ち会っちゃったから、もう彼氏は私のもの!!になってないかい? 自分の旦那だって立ち会うの躊躇するのに、なんで立ち会ってんだよー??? シャツやパンツは、部屋の中で、 「彼の、借りちゃった(えへっ)」 みたいなシチュ用に使われていたかと。 695 :678:2011/07/14(木) 01 43 43.81 ID oKs08fUz 691 通報した方がよいのでしょうか。 まだ泥ママさん病院で、盗品が発覚した状況にもちょっと問題があるので 一度直接話したほうがいいかと思って待ってる状態です… 698 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 46 19.06 ID Mv54UVja 病室に泥妊婦の親族も来るだろうけど、 「この子はこの人の子なの!」と言い出して、 なし崩しにケコーンを狙ってたりして・・・そりゃ無いか。 「DNA検査!?酷い!貴方の子なのに!!」とマヤッて親族を騙して、 半ば脅迫の形で・・・。 699 :678:2011/07/14(木) 01 47 35.39 ID oKs08fUz 693 さんの感じが近いです。 戸締りするのを忘れたらしいと聞く→うちの前にキーケースを落としてた →戸締りしようとしたところベランダがあいてることに気付く →非常識だと思いながらも勝手にあがる →ベランダの戸締りしようとして盗品発見 って感じです。 許可なくあがって見てしまったので通報戸惑ってるところもあります。 全部ジップロックに入ってた… 700 :678:2011/07/14(木) 01 50 20.41 ID oKs08fUz 彼氏は子供つくることができない人なので、 「この子は私の子!!」っていうのは通用しませんし、そもそもそのママさん 妊娠した状態で私たちよりあとに入居したので… 一応そういうことになった時のための準備はしておきます。 701 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 53 02.70 ID RNum40dm 泥の相手は居るの?シングルがどっかで拾ってきた系子種なら高確率で 「彼氏くんの子(はぁと」になるから どっちにしろ警察呼べ ってジップロック? 触るなよ、そのまま触らず今すぐ警察呼べ 703 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 55 05.06 ID RNum40dm 699の流れを警察に説明すれば状況は理解してくれるはず 一応警察官の階級と名前はちゃんと控えておいて 704 :678:2011/07/14(木) 01 55 41.27 ID oKs08fUz 701 多分シングルで、たまに母親らしき中年女性が出入りしてた感じです。 男性は見たことありませんでした… 一応盗品の写メは撮ったんですが、警察行ったほうがいいですよね、 ありがとうございます。明日にでも行ってきます。 705 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 56 02.46 ID Ybz/KEVG いや、今から行けよ。 706 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 01 56 44.24 ID gKARr7XC ジップロックはストーカー。 今すぐ彼氏を帰宅させないと、とんでもない事になるよ。いや、マジで。 709 :678:2011/07/14(木) 01 59 10.89 ID oKs08fUz 703 警察官の階級と名前ですね、わかりました… 被害額は大したことないんですがやっぱりいい気持ちはしないので行きます。 「お子さん生まれたばかりだし…」 と若干腰引けてましたがやっぱりちゃんとした方がいいですよね。 それにしても身重の身体でうちのベランダから盗るにはかなりのリスクが伴うだろうに… なにか進展あったらまた書かせてもらいます。ありがとうございます。 710 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 02 01 33.31 ID Ybz/KEVG 鳥付け忘れないでねー 711 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 02 02 59.17 ID 9seRkSDa >身重の身体でうちのベランダから盗るにはかなりのリスクが伴うだろうに… 他人ですらそう思うのに、全くそう思わない泥はかなりの基地だとわかる 子供が生まれようがどうしようが、あなたには無関係、とっとと24 じゃないと被害が拡大するばかりだよ 715 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 02 06 58.35 ID RNum40dm 709 キチ発想パターンとして「この子を私達の子供として育てましょう」ってのもある 彼氏くんに子供が作れないとわかればこれ幸いとなるだろう 多分大丈夫だと思うけど一応不法侵入になるから警官によっては 態度悪いかもしれない そういう時に役立つし次に相談に行く際に受け持った人を呼び出しやすいから 聞くといいよ それから今すぐは動けないってなら電話でも十分 相手は一応病院ですぐに逃げられることはないからその辺は大丈夫だろう 警察に行く際は被害者である彼氏本人が行くこと 兎に角被害届は後でも出せるけど警察には今すぐ電話だけでもしておいたほうがいい 719 :678 ◆AuQWdLJMk2:2011/07/14(木) 02 16 30.56 ID oKs08fUz 希少な物件だし気に入っていたので引越しはできるなら避けたいですが、 やむを得ないかもしれませんね… アドバイス参考にします。 トリ一応つけておきます。 とりあえず彼氏が朝方仕事終わるので終わったら一緒に警察行きます。 ありがとうございました。失礼します。 722 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 02 22 32.89 ID oC2n9bk5 もう子供もいる。 あとは男がゲットできればいいだけだもんね。 好みの男だったんじゃね?彼氏さんが。 それ以外にあるとは思えんのだが。 723 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 02 28 28.00 ID RNum40dm 夫でもない他人の男に分娩室まで来てほしい、が既に普通の思考じゃないからな 彼氏にほれたストーカー物件の可能性は高いよ 盗品をジップロックはまずい、どう考えてもやばい 730 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 02 48 06.79 ID iPfXgNhL 彼氏くんは私が本命、お前が浮気! その証拠に彼氏くんが私とえっちした時に忘れてったパンツがあるもの! だから彼氏くんは私のもの☆ このお腹の子も当然彼氏くんとアタシの愛の結晶♪ とかかな 765 :678 ◆AuQWdLJMk2:2011/07/14(木) 10 42 03.17 ID omT3GKny とりこれかな… 768 :678 ◆AuQWdLJMk2:2011/07/14(木) 10 51 24.60 ID omT3GKny 携帯からで読みづらかったらすみません。 警察行ってきた帰り、家の前で泥ママの親族らしき男性に襲撃を受け彼氏が 顔ひどい怪我、私が脳震盪とかすり傷とiPhoneを使い物にならなくされる という大打撃をおう事態に… 親族男性は現行犯でつれてかれましたが診断書貰ったのでこれから事情を 説明しに行きます。 まさかと思っていましたが皆さんが推測されていた通りのことが起きてるみたいで 非常に狼狽しています。 またPCからでも投下します。 769 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 10 52 17.00 ID oC2n9bk5 うわあ。大丈夫?! 頭やってるのなら、しばらくの間は本当に気を付けてね! 773 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 10 59 56.71 ID 56zrukJa 678 顔に大けがって…! 774 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 11 01 18.50 ID 6jMO7lXp 768 彼氏かわいそすぎる! 傷害事件だねー。怪我大丈夫? これからひとモメふたモメしそうな予感だね… 779 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 11 12 06.80 ID gwXFKOek これはもう弁護士さんに入ってもらった方がいい物件ですね。 782 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 11 15 58.18 ID 2sz9NqIT ところで 768のトリ割れてない? 検索すると他のが出てくるお 809 :678 ◆AuQWdLJMk2:2011/07/14(木) 15 07 07.26 ID omT3GKny あら…トリ割れてしまってたんですね。 盗まれたぱんつの名前とか安易なものにしなければよかった。。。 変えた方がいいでしょうか。 ネタとかならよかったですが… ちなみに殴ったのは泥ママ(Aとします)の兄でした。 彼氏は頬骨にひびで入院、私はとりあえず動き回れます。 ご心配ありがとうございました。 やっぱりAは子供は彼氏の子と主張しているようです。 警察にはそれが絶対ありえないことを説明して納得してもらい、 警察から説明されたA兄が反省しているようで 謝罪したいとのこと… これから警察の人交えてA兄と話しますがなんか必要なことあるでしょうか。 いろいろはしょってしまってすみません。 811 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 15 12 19.22 ID TfcKglUd 809 向こうは減刑狙いで慰謝料払うから被害届を取り下げてくれみたいに 言ってくるだろうから簡単には応じないこと。 親御さんか誰か信頼できる第三者に同席してもらえるといいんだけど 急には無理ならとにかく向こうの話を聞いてくるだけにして 向こうの要求には一切応じないで帰ってくるといいよ。 813 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 15 15 53.42 ID 0+AdHmEa 謝罪を受ける必要だって無いんだよ? 顔を見るのすら怖いと言って断ったっていいんだし。 819 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 15 22 55.53 ID lenZD23j 今夜一晩くらい考える時間があった方がいいんじゃないの? 傷が痛み出したので、後日にして下さい(して欲しいではない) で延ばしなよ 顔が痛きゃ、頭だって正常に働かないんだし とにかく時間と味方になる第3者が必要だよ 若い女1人で立ち会う内容じゃないよ、例えKが居てもね 824 :678 ◆AuQWdLJMk2:2011/07/14(木) 15 37 57.46 ID omT3GKny すみません、おひとりずつレスしたいのですが… まず話をすることはどちらかと言うとこちらが望んだことであったりします。 Aはまだ病院で体調がよくないため話ができないとのことで、Aが 何と言っていたのかちゃんと聞きたいっていうのもあります。 あと、諸事情により私たちは二人ともあんまり大事にしたくないという 気持ちでいます。 このスレでは叩かれてしまいそうですが、正直かかったお金と謝罪、引越し費用 くらいもってもらって できるだけ関わらないようにしたいと思ってます… A兄はそれを支払うつもりだと言っているので。 とりあえず録音機器は用意しました。いってきます。 アドバイスありがとうございます。 825 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 15 40 10.88 ID ZXccNlAy これ以上こじれませんように。 南無。 826 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 15 40 26.30 ID iPfXgNhL まぁ、就職とか結婚とか、そういうのが控えてたら大事にするのはかえって 面倒だしね… 気をつけてね、身内の言い分だけで他人の顔面を躊躇なく殴れる人間なんだから。 女のあなたも傷物にされるかもしれないよ。 827 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 15 41 43.68 ID 26vhphhl 824 大ごとにしたくないのなら尚更、弁護士を頼んだ方が良いです。 よく素人が穏便にと動いて却って悪化させて、自ら大事にするケースが多いです。 弁護士はプロですから、速やかに穏便に片付けてくれますよ。 829 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 15 47 18.54 ID TfcKglUd ん? もしかしてビアンさんカップルかな?? 834 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 15 59 00.55 ID RNum40dm 829 掘り下げるな それ以上は下衆のする行為だよ 824 治療費と引越し費用とそれに毛が生えた程度のお金がもらえれば十分だよ A本人から謝罪などは要求しないほうが良い、A兄の謝罪はしてもらうべきだけど 様子から認知してくれないとか浮気されたとかそういう言い方をしていたの かもしれないね 案の定彼氏の子だと言っている様だから、謝罪よりカウンセリングを受けさせるように してもらって 一応母親になるんだからまともなほうに矯正チャレンジしてもらわないと 子供がかわいそうだから それから彼氏くんの戸籍にロックと婚姻届の不受理 引越しする場合は引越し先が漏れないように、近所周辺で引越し先を知らせる 場合は注意すること 電話番号やメアドもできれば変更しておいたほうがいいかも 835 :678 ◆AuQWdLJMk2:2011/07/14(木) 15 59 54.88 ID omT3GKny 弁護士さんじゃないですけど、知り合いになんていうか法律屋さんがいるので 間に入ってもらうつもりです。 ちなみに彼氏は男性です。 見た目が黙ってると水商売っぽいので…実際は鉄ヲタ理系職ですが。 子供を作れないっていうのは、彼氏はここ一年以上、病気で服薬しています。 その薬の副作用で何というかEDで。 性行為は身体的に非常に苦痛が伴うのでできないんです。 ちなみにAが妊娠したであろう時期彼氏は今の住居から遠い前の職場で 缶詰になってたのでありえないんです。 その時まずAを知らなかったし… と打ってたら衝撃の事実。 A、子供に彼氏の名前と関連した名前つけてました…しにたい… 840 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 16 10 01.88 ID 0plJhxpr 837 出生届は本人は今の段階では無理だから、誰かに行ってもらうしかない。 昨日の今日で速攻で出生届を出す、なんて考えられない。 このゴタゴタもあったことだし。 まだA兄の手の中で止まっていることを願うわ… 841 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 16 13 11.99 ID 8WjNTvY0 子供と彼氏は無関係。 一方的にAが窃盗(下着)をはたらき妄想話でA兄をけしかけ 彼氏と678に子供の父であると名誉毀損、暴行傷害を加えたこと キッチリしといた方がいい。 それと、必要ならDNA鑑定して争う姿勢をみせといた方がいい。 Aは精神鑑定とその他の窃盗余罪調べもね。 843 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 16 15 17.42 ID RNum40dm 835 プライバシーに関わるから書かなくてもいいよ 男です生えてますで十分だってw A兄と話し合う際に名前から彼氏の名前を使用禁止にしてもらって 何もなくても名前とられてるのは気持ち悪いだろうからね 法的には難しいかもしれないけど、届出を出す前ならなんとか回避させることは できるはず 846 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 16 21 10.80 ID 0plJhxpr トリ、変えとこうか? 862 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 17 23 46.17 ID e8rDCoCz 835 ちょっと、話が多岐に渡ってきたから、やるべき事、 やった方がいい事をまとめてみる。 ・彼氏の婚姻届が出てないか確認 ・彼氏の 婚姻届不受理の届出 提出 ・法律に詳しい友人に弁護士を紹介してもらう →詳しくても「職業 弁護士」の方が、経験的にも社会的にも力がある。 ・早急に引越し ・郵便物などを局留めにする ・引越し先は大家さんも管理会社にも教えない。 ・実際の引越しは一気におこなう ・彼氏入院の病院に、刑事案件だから誰にも病室を教えるなと頼む ・出来れば、病室だけでも偽名使用してもらう ・加害者家族とは、基本的に会わない。会う時は、録音と第三者の同席必須。 こんな感じかな?不足あれば皆さん頼みます。 897 :678 ◆ryFULrT30c:2011/07/14(木) 19 50 05.49 ID omT3GKny 一時帰宅。678です。 書き溜めて避難先PCから投下します。このトリで大丈夫でしょうか。 名前なんかつけようかな… 898 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 19 54 26.39 ID oicnX4nR 897 トリおk コテはパンツ関連だと誰かわかりやすいかも 900 :名前とパンツ ◆0UCCuzzX3g:2011/07/14(木) 20 02 18.42 ID s3Wkg4Xt 678です。 すみません。まだ解決に至ってないのですが途中経過を あとこのIDでトリは変えておきます。若干フェイクありです。 アドバイス参考にして、戸籍ロックとか婚姻届不受理とか出来る限り の 根回しはしました。 警察の人も力になってくれてよかった… ここは友達の法律屋さんが何故か嬉々として動いてます。 名前の件は警察の人に聞き、まだ出生届までは出してないと確認したのち、 ちょっと待って!!とストップかけました。 出生届はA母が提出する直前だったそうで、彼氏が父親にってことは ありませんでした。 903 :名前とパンツ ◆0UCCuzzX3g:2011/07/14(木) 20 05 17.34 ID s3Wkg4Xt 名前は彼氏が一郎だとしたらA子は二郎みたいな、どこにでもあるけど どう考えてもそこ繋がりだよねって名前。 彼氏に言ったらストレスからか盛大にゲロったらしい…ゴメン。 彼氏の方は高熱出てて病気の方も症状が出てしまい、しばらく動けない様子。 何もできなくてごめんと謝られたけど仕方ない。頼れる友人ととりあえず行動します。 急だけど、日曜には撤去できそうです。管理人さんは思い切り同情してました。 まさかこんなことになるとは…と若干途方にくれてますが。 A兄は案外まともな人で私の姿を見て土下座。 とりあえずA兄がなんて聞かされてたかを聞き、リアルメダマドコー状態になりました。 905 :名前とパンツ ◆0UCCuzzX3g:2011/07/14(木) 20 07 22.28 ID s3Wkg4Xt ・彼氏はホストで、私は孕まされてしまった。 今彼氏は隣の部屋に、貢いでくれる客(私のこと)と住んでいるの くやしいけど生活のためにあの女が必要だったのよ ・堂々と会えないけど、彼はうちに泊まりに来てたりもしたの! 証拠に家に着替えがあるわ(ここはスレの予想通りでビビりました) ・彼と私は見えない絆で結ばれているの、この子も彼にソックリ。 名前は彼から一文字とって二郎(仮)と名付けようって決めたの…キラキラ みたいな感じで言ってたらしく。もう胃が痛いでよ。 勿論嘘です。でもさりげにパンツ泥棒吐きましたね。 908 :名前とパンツ ◆0UCCuzzX3g:2011/07/14(木) 20 10 00.42 ID s3Wkg4Xt Aはとにかく彼氏を好きなんだそうです。 ちなみに私が外で会っても完全無視。 彼氏は普通の人と帰る時間とか違うけど、よく遭遇してあいさつくらいは 交わしていたそうです。 それって待ち伏せされてたのでは? ちなみにAの子の父親はA兄もA母も知らないみたいです。 A兄は警察から説明されたのと、私からの再度の説明で今度は泣きながら謝りだした… 妹かわいさによく考えたらありえない話を信じて、理不尽な暴力を振るってしまった、 申し訳ない、と。 ちなみにAは、なんていうかとても見目麗しい。美人なんです。箱入り娘なのかも。 そもそもの方針だったわけではあるけど、被害届は出さないが、 治療費やら引越し費用やらと慰謝料を持ってもらいたいが構わないか? と友人がかわりに確認すると、A兄はもちろんそうするつもりだし慰謝料 も 払い続ける、被害届を出さないでいてくれるだけで有り難いとまた泣いてました。 念書もつくってます。 911 :名前とパンツ ◆0UCCuzzX3g:2011/07/14(木) 20 12 50.10 ID s3Wkg4Xt ちなみに警察の人がAに事実を確認すると、あっさり嘘だと認めました。 私はスレの忠告を読んでたのもあり、長期化を覚悟していたので若干拍子抜け。 ファビョリはしなかったようだけど、A兄が彼氏の顔を殴ったことを知るとA兄に対して 怒り狂っていたらしいです。もう理解できん… ちなみに謝罪はなく、肝心の泥については 「だって好きだったから」「拾ったものだから」 「ほんとは彼がくれた」「こっちのベランダに落ちていた」 と二転三転したらしいです。マジキチ… A本人には私も彼氏も会わないようにしてます。彼氏んとこの病院にも根回し済。 ちなみに明日、A兄、私の立会いのもとA宅で盗品の確認をすることになりました。 (本人も家に彼氏のものがあると認めてるので大丈夫みたい) ぶっちゃけ汚部屋だったのでなにか対策考えとこう…マスクとか。 913 :名前とパンツ ◆0UCCuzzX3g:2011/07/14(木) 20 14 37.82 ID s3Wkg4Xt 名前についてはA兄、A母が必死で止めているが、 「好きな人の名前から一字貰うのも許されないのかー!!」 「その名前をつけられないなら二郎(もう呼んでる)と一緒に死ぬー!!」 とAが暴れてるらしいです。精神的に問題がありそう… でも、やっぱりその名前をつけさせないようにするっていうのは難しいらしく、 今悩んでるところではあります。 正直かなり気持ち悪いけど私も彼氏もちょっと諦めかけています… A母、A兄の説得がうまくいくことを祈っているところです。 私は友人についてきてもらって一時避難と彼氏の入院準備しました。 915 :名前とパンツ ◆0UCCuzzX3g:2011/07/14(木) 20 16 39.03 ID s3Wkg4Xt 色々ありすぎて疲れました… とりあえず愛猫2匹にごはんあげて近所のお友達宅に預ける準備をしなければ。 職場がおおらかな感じでよかった。 お付き合い下さってありがとうございます。アドバイスすごく助かってます… ていうかトリまちごうてる!?ちょっと携帯からもう一度試します。 今日はこれ以上覗けないかもしれません。 明日、盗品確認後もしかしたらご報告させて貰うかもしれません。 スレ消費してしまってごめんなさい。 他の方でこの流れに書き込むのを躊躇している方がいらっしゃったらどうぞです。。。。 916 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 20 16 52.33 ID dGSrXSCX 靴をビニールで包んであがるといいよ>汚部屋対策 918 :名前とパンツ ◆0UCCuzzX3g:2011/07/14(木) 20 17 55.74 ID omT3GKny とりてす 919 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 20 20 38.57 ID 6QGf02Sd 918 乙、そのトリでもいいんじゃないかな ゆっくり休んでくだされ 彼氏もお大事に(´・ω・`) 933 :名無しの心子知らず:2011/07/14(木) 20 39 03.18 ID f2qKwY+J この後におよんでも妹甘やかしてる駄目A兄とA母なんだから今後も要注意。 Aの監視とカウンセリング、こどもの名前も示談の内容に入れたらどうだろ。 Aがただの箱入り娘なら基地は振り撒かない。 見た目に騙されたら駄目だよ。 続きはこちら→名前とパンツ女史2 次のお話→お弁当女史(987)
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BRAVE SAGA『螺旋終落』 ◆0zvBiGoI0k ◆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆ 手の上に乗せられてコクピットまで乗り込む阿良々木と抱かれる衣。 一人用の操縦席はやや、いやかなり手狭だが贅沢をいえる立場でもないのは重々承知している。 そのまま再び飛び立ち崩れる大地をあとにする。この世の終わりといえる光景とは縁のない静寂な空間へと。 「無事だったか、阿良々木少年」 「……なんとか、ギリギリには」 「浅上藤乃は―――」 無言で視線を下げる阿良々木。その姿勢が覆りようのない答えを如実に示している。 「……そうか。ならば私からは一つだけ言わせてもらおう。よくやった、阿良々木少年」 「え」 阿良々木暦は困惑する。 自分は何をやったというのか。何を為せたというのか。 「よくぞ生き延びてくれた。よくぞ……天江衣を守ってくれた」 声を僅かに潰しながら出されたのは感謝の言葉。 生きてくれてありがとうと、傍にいてくれてありがとうと。 たった一言に彼が抱いた思いが凝縮されていた。 「…………はい」 それを聞き、ただ俯くだけの阿良々木。 手放しに喜べるだけの気力もないが、その言葉に少しだけ救われた。そんな顔を隠して。 地盤沈下という表現すら生ぬるい破壊を見せている工業区。大地は今なお鳴動し罅割れその範囲を広げていく。 恐らく最低でもF-3エリア全域は完全に奈落に呑みこまれることになるだろう。 その予測範囲から外れているE-3の一画に大空を舞う巨人は腰を下ろす。 コックピットが開かれ、窮屈な部屋から解放される。 何気なく吸った息の冷たさが生きているという実感を阿良々木に味あわせる。 そして、もう片方の手に掴まれていた人形も手放された。 全長は5メートル、エピオンには及ばないまでも常人からすればまた巨大な姿だ。 白で統一された神聖さ、高潔さを示すデザインに兜のような頭部の造形は、まさしく物語に出てくる伝説の騎士を思わせる。 これがロボットだとして、それに似合う人間は――― 「枢木!」 そう、枢木スザクのような人物が相応しいだろう。 背部のボックスから展開して姿をみせたスザクは疲労の色こそ強いものの―――最初から無い腕を除けば―――外見的にはほぼ無傷だ。 「かなりの荒業だったが大事には至らなかったようだな。緊急時とはいえ手洗い真似をした、すまないスザク」 「……いえ、あの状況ではベストの判断でした。ありがとうございます」 コクピット越しに当時の状況を思い返す二人。 あの未曾有の事態で行った対応はあまりに「荒い」といえた。 大地の崩落で足場を失い真っ逆さまに落ちるのみだったスザクは間違いなく死を覚悟した。 底が見えない闇の狭間。そこが正真の地獄だと信じる他ない。 けれどもスザクは諦めない。生を放棄できない。 生きろと命じられた。生きてと願われた。 その命令を、約束を、誓いを、決して反故にするわけにはいかない。無意味にしたくない。 藁をも掴む思いで虚空に手を伸ばす。当然、そこに天へ引き上げてくれる蜘蛛の糸はない。 だが必死に打開法を巡らすスザクは落ちることなく―――巨人の腕に掴まれた。 今し方魔術師の繰り出した不可視の掌握とは違う。現実の感触を持つ、鉄の巨人であった。 スザクの常識に照らせばナイトメアの4倍はある機動兵器―――ひいてはそれに乗り込んでいるグラハム―――が何をするかと思えば、 あろうことか、そのままスザクを投げ飛ばしたのだ。 腕だけの力のこもってない投擲といえサイズが段違いだ。風圧は身を裂き呼吸は強制的に止められる。 どう見ても殺意を向けられたとしか思えないその凶行を、だがスザクはその意図を一瞬で理解した。 ギアスが依然継続していたのもあるだろうが、このままではそのまま叩きつけられて死ぬのだ。理解するほかなかったといえよう。 投球(スザク)の行き先には、もはや原型を留めぬ『元』コンテナから全身を覗かせる白い影。 スザクの物語に姿を変えつつ常に傍に置かれるナイトメアフレーム。 選任騎士。ナイトオブセブン。そして、ナイトオブゼロの名を冠したスザクを象徴する“湖の騎士”。 ランスロット・アルビオンが、主の到着を待ち望んでいた。 それに応えるべく、ほぼ水平に投げられた勢いで縦に回転、速度を落としつつ適切な体勢を整える。 タイミングは直観任せ。ただ己にある身体能力と呪い(ねがい)を信じるのみ。 頭でも体でもなく、2の脚が白い装甲を踏み叩く。 瞬間、駆け上がる衝撃。足起点に雷光の速さで脳まで揺さぶられる。 脳震盪で前後不覚となっている体と脳に鞭打つ新たな衝撃が脳に芽生える。 ギアスでどうにか意識を回収したスザクはすぐさまコクピットを開く。未だ危機を脱したわけではないのだ。 現在位置は地面が残ってるが崩壊は今も続いている。一分といわず今の場所もなくなるだろう。 シートに座り次第片腕のみでシステムを機動させる。自分の愛機だ。手が加えられた形跡もなく滞りなく機体に光が宿る。 緑光を宿したランスロットだが、搭乗者は片腕を喪った状態だ。両の腕で操縦桿を握るのが大前提のナイトメアにとって致命的、 まともな移動もおぼつかない。 だから必要なのは一動作。腕を伸ばし飛ばす。ただそれだけ。 照準を固定し発射されるスラッシュハーケン。ナイトメアの標準装備だがそれは攻撃以外の補助にも機能できる応用性があってのこと。 目標は、大地を発つ紅い騎士が伸ばす右腕。 飛爪は目論み通り腕にかかり、繋がれたワイヤーが巻き付かれていく。 それを確認したや否や、手綱を握る騎士が咆哮を上げる。 仰向けの体勢からスラスターを吹かし中空を制止、上空へ向け飛翔する。 繋がれたランスロットもただ引き摺られるだけでない。背中から展開された光の翼、エナジーウイングを姿勢制御のみに費やす。 奈落より抜け出たのもあり、阿良々木の感想通りそれは悪魔を思わせた。 そして地割れに侵されない空へ逃げ延び、互いの無事を確認し次第、巻きこまれたであろう者達を救助に向かって、今に至る。 「阿良々木少年、酷と知ってあえて言わせてもらおう。 白井黒子、両儀式の二名は―――」 ひとつ波乱を乗り越えても弛緩することのない空気でグラハムは状況確認を行う。 この場に姿のない2人の少女の安否を阿良々木に問う。 「……生きています。 さっきまで一緒に戦っていたんだ。まだ―――」 苦い顔で大穴を見つめる。目の前にいながらも取りこぼしてしまったという、強い後悔の念が窺える。 傲慢とわかっていても捨て切ることは出来ない。それは疑いなく阿良々木暦の美点といえよう。 「わかった。ならば私が両名の救助に向かおう」 即断するグラハム。驚く阿良々木を尻目に稼働の準備を始めていく。 「本気ですか」 「無論だ。私はしつこく、諦めの悪い男でね、可能性が残ってるというのならばそこに賽を投げ込まずにはいられないのだよ」 あくまで冷静にグラハムは答える。冗談じみた言葉だがその表情はいつになく引き締まっている。 それは紛れもなく、己が役割、己が使命を果たす戦士の顔。 戦う者として、守る者として、ユニオンのモビルスーツパイロットとしての顔がそこにあった。 「手筈通りだスザク。放送前までにE-2の学校、そこで落ち合おう」 スザクはいち早くこの場を後にするというのは互いに決めていた。 操縦が出来ないという点と、ここで死なすわけにはいかないという2点からの指針だ。 「阿良々木少年、スザクを補佐してやってくれ。やや窮屈だがなに、その方が操縦はしやすい」 「……操縦って、僕が、アレを?」 「主導する必要はないさ。彼の指示通りにレバーを動かす程度でいい。隻腕よりはよほど安定できるだろう」 気後れしながらも阿良々木はランスロットへと歩いていく。 中はグラハムの言った通りにかなり狭い。平均より下の男子と小柄な女子の二人とはえ小型の一人乗り、 表現するなら「ややこしい」ことになってる。 「万一放送までに私が表れなければ、構わずルルーシュ・ランペルージの元へ向かえ。 君が何より優先すべきことだ」 式と黒子が間に合わず、自分までもが死に、敵が壮健となればそれは最悪の事態だ。 そうさせまいと砕身の腹積もりだが絶対という言葉は戦場にはない。万が一とはそういうことだ。 その場合、複数の因縁が絡まるルルーシュ一団に阿良々木がひとり相対することになるが、そこは立ち向かってもらうほかない。 人には何があろうと背負うべき重荷がある。阿良々木暦にとってのそれが平沢憂だ。 背中を支え道を開きこそすれ、背負うべきは彼ひとりだ。 「わかりました……ご武運を」 背中のハッチが閉じられていく。だがその前に外へ手を伸ばす小さな影があった。 「グラハム……」 力なく手を上げながら衣は膝を折る騎士を見る。視覚として見えてはいないがその操者へと届く眼差しを。 「天江衣……私を笑ってくれ。幾度となく約束を反故にし、今もまた君を置いて戦地へ赴く私を」 憂いの表情を帯び謝罪をするグラハム。その顔は今まで戦気に溢れていた男と同一とは思えない。 悔恨、無力感、諸々の負の念が伝わってくるのがわかる。 「……なにを言っているのだ」 そんな気負いは無用と切り捨てる少女の喝が一蹴する。 「国益を守り民草を守る。それが軍人というものなのだろう。 己の口でグラハムは言ったではないか。魑魅魍魎する地獄変を産み出したものどもの思惑を潰すと。 衣ひとりのみを加護することなどない。常に誰かに守られ続けなければならないほど―――衣は弱くない!」 あらん限りの力を込めた叫び。その小さな体にどうしてここまでの大音を引き出せるのか。 駆動音が生み出す雑音の中で、そのつたない叫び声が世界を彼女色に染め上げる。 至近距離で抱えていた阿良々木達は鼓膜が破れそうになる。 だが、それ以上の衝撃を受けているのは紛れもなく数メートル離れたグラハムだ。 (ああ――――――そうか) 心に根付いた闇を根こそぎ切り払うかのような叱咤を受け、グラハムの中の何かが氷解する。 自身もまた、彼女を縁(よすが)としていたのだ。 それはオアシス、砂漠に浮かぶ一滴の光。 掬い、救われ、巣くう泥を洗い流してくれた浄化の水。 「答えよ!!お前は何者だ!何を為す者だ!」 響く問い。あまりにも分かり切った、単純な答え。 だがあえてだ、あえて言わせてもらおう。 「私の名はグラハム・エーカー、 ―――市民を守るユニオンの軍人だ!!」 地響きすら静まりかねないほどに響く男の声。 天変地異さえ止めかねないほどの、それは魂の宣言だった。 「―――ならば果たすのだ。己の義務を。使命を」 「了解した。グラハム・エーカー、出る!」 友の鼓舞に柔和な微笑みを返し、今度こそ機体に呑みこまれるグラハム。 操者の心に応えるかのようにバーニアが雄叫びを上げ大空を飛び発っていく。 空を切る音を残し、残されたのは3人と1機。 やべえ、カッコイイ。 素直に阿良々木はそう思った。 何と言うか、心に残ったやりとりだ。今まで続いてきた鬱展開なんかなかったんだと思える位の清々しさだった。 一瞬とはいえ、あの姿に憧れた。 ていうか、ホントに高校生なのかこの子は。年齢と体型と精神年齢がまったく釣り合わない――― 「って天江!大丈夫かおい!」 そこで自分の腕にいる衣が以前よりなお脱力してうなだれてるのを見て慌てふためく。 考えてもみれば今の今まであわや失血死するところだったのだ。それであんな全力発声などすればすぐさま力尽きるのも自然。 ガス欠寸前の車をトップスピードで飛ばしたようなものだ。 「す……まぬ、少し憤り過ぎたようだ。だが、これ以上グラハムのあのような顔を見たくはなかったか、ら……」 「ああもう、よくやったよお前はホント……だから休んでろ、な?」 必死の激励を遂げた衣を労う。何も言わず、安心したように衣は瞳を閉じる。 事実あれでグラハムの気力はマックスを突きぬけ限界突破しただろう。今なら冗談抜きに阿修羅だろうが羅刹だろうが凌駕しそうだ。 グラハム専用ファイト一発!衣ちゃん!!偉大である。 「彼女は僕が預かります。阿良々木君は操縦桿を握ってくれ」 スザクは片手で衣を抱えてスペースを空ける。元々腕がないぶん前に乗り出す隙間はあった。 今の阿良々木の体勢はスザクの横から無理やりに阿良々木が割り込んでいる状況だ。 腕や足が絡まりそうな息苦しいが背に腹はかえられないのもまた事実。 操縦といっても機体がブレないように抑えていればいい単純な作業だ。緊張しながらもゆっくりと移動を始めていく。 閉じられた箱で唯一空けられる正面の空を見る。 薄紫色に変色していく空を茫然と眺めながら、阿良々木達は逃走を開始した。 ◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◇ 眠りから醒めるように、自然と意識が戻った。 とはいえ最後の眠りの前の最後の挨拶の為かと思えるほどに浅い覚醒だったが。 「……まだ生きてる」 ぽつりと呟く声は誰にも聞こえることなくかき消えていく。 夢か現か、どちらか曖昧だったが全身から発する痛みからして後者だろう。 瓦礫の山の中腹で私は倒れている。 前触れもなく起きた天変地異。地面が割れてなくなるという大惨事。 等しく陥没した土地で更に沈んだ窪みに寝転がっている状況だ。 そこよりなお深い穴からは水の流れる音がする。 そういえばここが船着き場だったことを思い出す。そこが抉れたのなら、じきに水が押し寄せてくるかもしれない。 なら、急いで逃げなければ。そう思うが体はまったく言う事を聞かない。 疲労も痛みも、この間よりは幾分余裕のあるほうだ。ここから本格的にすり潰していくというところでこの様だ。 では問題は何かと思えば、埋もれた右腕を見て納得した。 潰れてはいない。だが奇跡的に岩と岩の隙間に挟みこまれたらしく微動だにしない。 なら切ればいいとしたが、刀は右手に握っていたのを思い出す。 何か都合のいい、尖った石の破片でも近くにないか探してていると、少し離れた場所に小さなナイフが見える。 けれど私の目はそこから先、うつぶせで倒れ込む白井黒子の方に釘付けにされていた。 「……生きてるか?」 返事がない。ただの屍のようだ。 「勝手に殺さないで下さい」 顔をこちらに向きなおし返事が一拍遅れて返ってくる。 混濁して曖昧だったあの崩壊の時の記憶が甦る。 憶えてるのは、確か――― 開いた冥底に呑み込まれる鎧武者。 息を荒げながら自分の目の前に現れた少女。 そのまま自分の手を取り地割れの影響を受けない空へと跳ぶ。 だがそのまま自由落下すればひしゃげた肉塊になるしかない。転移を何度も微細に繰り返しどうにか着地できたところに第2震。 今度は手もなく奈落に落ちて、こうして今に至る。 まったく、運がいいのか悪いのか。 「そうか、よかった。また約束を破るとこだった」 赤髪の少年との刀剣と引き換えの契約。白井黒子を護れ。 責は自分にあり、彼女は悪くないという証明書。 「白々しい、言い草ですわ、ね」 途切れた声を絞り出しながら体を起こす白井。 その身が危ういことは、誰でもわかる。 「動かないほうがいい。それ以上使うと、死ぬぞ」 線が、駆け回っていた。 野太い蛇が何匹も絡みつくような死は線を越え孔と化している。 今から時間を休息に費やしても、はたして元に戻れるか。 今から時間を休息に費やしても、はたして元に戻れるか。 「そんな有様で言える立場、ですの?ほんとに、ばかなひと」 浮かべる微笑は何が起因か。嘲笑か、自嘲か。 ビデオのスロー再生みたいに、時間の流れが狂ってるかと思うほどゆっくりと腰を上げる。 すぐに力なく倒れるが、今度は四つん這いになりながらも向かってくる。 どうあっても、私を助ける気でいるらしい。 馬鹿呼ばわりされたことといい一言もの申したいのは山々だがお互い言い合う余力もないのは分かってる。 「……じゃあ、そこのナイフ持ってきてくれ。それならここから抜けられる」 視線を足元のペーパーナイフに移して拾うよう示唆する。 指示通り拾い上げ白井は近づく。程なくして、私と触れあう距離まで近づいた。 「なんで来たんだ」 白井からナイフを受け取りつつ私は言葉をかける。 ずっと疑問だったことだし、ここで聞かなければ二度と機会がないような気がした。 「あなたに守られっぱなしなんて、まっぴらごめん、ですわ」 動く力が尽きてしまったのかその場を動かぬまま白井は返答する。 「そもそもあの子はどうした。まさか放っていったのか?」 「まさか。阿良々木さんが戻ってきたので、交代しただけですわ」 単に切っては上に重なる岩が土砂崩れを起こす危険があるので慎重にやらなければいけない。 今の白井では逃げることはできない。私だけでこの穴倉を這い出るのは相当厳しいだろう。 「それに、言ったでしょう?絶対に許さない、あなたの望み通りの死に方なんてさせないと」 叫ぶ気力がないからか、白井の口調はとても静かだ。 虚ろな目でか細い声を出す姿は末期の病人に近い。 「じゃあどう生きろっていうんだ」 「それくらい自分で見つけなさい」 あっけからんと拒否される。 それだけ言っておいて答えは自分で見つけろときた。 ああ、こいつは本当に―――。 「勝手だな」 「お互い様ですわ」 簡潔に、お互いを批判をする。 なまじ静かな言葉で交わされる分滑稽だけど、笑う余裕すら惜しい。 「生憎わたくし、読心能力(サイコメトリー)なんて持ち合わせておりませんの。あなたの、他人の気持ちなんて真に理解し切ることはできませんわ」 ようやく影響のなさそうな綻びを見つけナイフを握る。意味は文脈から分からないこともないけど、急に専門用語を持ち出されても困る。 「あなたが思う以上に、あなたのことを考えてくれてる人間は多いですのよ?それを余計なお世話と捨てるのも自由ですけど―――」 元来私は人間嫌いなんだ。白井の言う通りそれは迷惑なおせっかいでしかない。 こうやって、黙ってるのをいいことに勝手に人の像を形作る。 どこか弛緩しきった空気。 それが急速に冷めていく。 「――――――」 魔法使いのように、有無を言わさず現れた黒い影を見た瞬間に。 「―――跳べっ!!」 「え―――」 私が言い切った後に、白井が言い切る前に、握られた拳が振るわれた。 「――――――!!!」 結果を知るより先に、新たな要因が式を釘づけにする。 全身に絡みつくように伸びる三重のサークル。 当然、動けない私は糸に囚われる。 「アラヤ――――――!」 敵を見る。黒衣に黒髪の女。姿が変わってるのはどうでもいい。だが、その風貌はより本来の姿を思い起こさせる。 魔術師、荒耶宋蓮。両儀式にとって最大の脅威。 在り方として許せない相手。 自分の肉体を狙って数々の手を打ち、幾つかは成果を上げ、それでも最終的にはこの手で殺した怪物。 「――――――遂に、叶う」 万感の思いが、声には籠っていた。聞く者の脳髄を鷲掴みにするような、沈んだ声。 歓喜に感じ入っているというのに、笑いを堪えきれないという声なのに、顔の表情は変わらない。 魔術師はもう目の前だ。確実に殺されるとわかっていながら、体は動かない。 全身は酷使で感覚が麻痺し、腕を繋ぎとめられ、念入りに静止の結界まで張っている。 ここまで鉄壁の壁に囲まれては、どうあろうと行動を許されない。 ゆるりと伸ばされた右腕が、首をへし折ろうと近づいていく。 「さらばだ両儀。おまえの死を以て、この螺旋(セカイ)は完結する」 冗長な言葉は無用ということか。一刻も早く自分の首を叩き落とそうとする。 指が、喉仏に触れる。 寒気が走る。絶望感は脊髄を伝って全身へと行き渡っていく。 駄目だ。 動け。私の体。何のために今まで足掻いてきた。何のために生きると決めた。 首全体に指が巻き付かれる。あとは力を込めるだけ。絞首刑に抗えるような筋力を持たない私の首は百合の花のように落ちるだろう。 答えだなんて言えるほど上等なものじゃないけど、それでも何かを見つけられたんだ。 無駄でもいい。無様で構わない。それを知るまで私は死ねない。 そんな理不尽(キセキ)が叶うわけもなく。 魔術師は、指に全ての力を送り込んだ。 ◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆ 「―――何故、まだ活動できる?」 心からの疑問と、その結果による焦燥を抱いた声を荒耶が上げる。 顔を動かさず、視線だけをそこに向ける。 式と荒耶の場所より少し離れた距離に倒れ込む少女。 死体にしか見えないほどに傷付いた姿でありながら、白井黒子は動いた。 疲労困憊の上で能力の過度の使用の結果、もはや黒子の中身はズタズタだ。 おそらくは意識すらも殆どない中で、この少女は荒耶を制したのだ。 不安定な筈の能力行使は正確に行われている。 「蒙昧―――まだ妨げるか抑止力……!」 嘆くその右腕には、小さなナイフが侵入している。 刺さった刃は筋に潜り込み握り締める機能を奪っていた。 腕は首に添えるだけで、そこから先の工程には決して進まなかった。 その隙を、式は決して見逃したくなかった。 荒耶の意識が緩んだ間隙に全霊を注ぎ左手を動かす。 伸ばした先は、魔術師の腕に張り付いた、銀色の玩具のようなペーパーナイフ。 逆手で掴み引き抜き、そのまま自分の右腕があるらしき所へ振り下ろした。 バターのように断ち切られた岩から右腕が解放される。手には、刀身の半分が折れた九字兼定。 破損すれば砕け散る投影の品は、最後の希望のように未だ存在を保っている。 荒耶が憎悪の目でこちらを睨む。その視線を受け止めず、式の眼は足元に下ろされる。 左のナイフを地に走る境界線に突き立てる。 いつぞやとは違い、一番内部深くに配置されてた円形が殺される。 これで体は自由に動く。問題はそもそも肉体の動力が壊れてないかだが例えそうだろうと最後まで動くなら問題なんてない。 女の胸の中心に渦巻く、落書きのような線の塊。荒耶宋蓮という“死”のカタチ。 そこに―――短剣程に短くなった刀を押し込む。 「―――たわけ!」 だが、敵も甘くない。回避は不可能と取り刀の射線上に右手を割り込ませる。 筋が断たれ武器としての用を成さないなら、盾として活用しにきた。 肉が抉れ、鉄と骨とか触れる感触が指先に伝わる。 勝機はある。冷静に荒耶は戦力比を分析していた。 式の状態は万全ではない。激戦続きで疲労はつのり、損傷を無視して行動できる刀もここにはない。 荒耶も万全でないとはいえ日本刀を持たない両儀式であれば戦闘力は荒耶が勝る。生け捕りでなく、殺す意思を以てすれば競り勝つのは己だ。 式の右手の刀は自らの右腕を犠牲にし封じている。 左の手に握られた小刀が、今度こそ胸の死を突かんと煌めく。 同時に荒耶も左腕を掲げる。転移した肉体とはいえ頭蓋を砕く程の筋力は残っている。 速度に勝るのは荒耶だ。胸にナイフが到達するより前に拳が先に届く。仮に相打ちになろうとも死を突かれてもすぐには死なない。 その間に、首が落ちた両儀の肉体を頂くのみだ。 時間が停滞する。 永遠と錯覚するほどに反射が研ぎ澄まされる。 一秒後の結末すら、もどかしい。 はやく結果を。根源を。世界の終焉を。人間の性を。私に見せてくれ。 ぶち、と繊維が切れる音がした。 ぶちぶち、と緩慢に右腕が裂かれていくのを実感する。 直視の魔眼を持たない荒耶は気づかない。気づきようのないことだ。 適合率の低い肉体に移る事で、多少なりとも己の死が濃くなっているのを。 真中の点から枝分かれするように引かれた、右腕に走る線を。 既にいちいち筋を切るにはとどまらず、滑らかに刀は荒耶の体を通っていく。 出した拳も、身を屈み回りこんだ式へは届かない。 「言ったよな、アラヤ。お前が『有る』のが我慢できないって」 横一閃に、死線が引かれる。 荒耶に背を向け、振り向かないまま魔術師の“死”を突き刺す。 最初の邂逅、二度目の死闘とも異なる確かな手ごたえ。 ぱあん、という硝子細工が砕ける音が鳴る。 幻想に編まれた刀は、その役目(ネガイ)を果たしたかのように、星の砂となって世界に溶けていった。 「―――――――――」 荒耶は何も言わない。末期の遺言もなく、それを紡ぐこともない。 口から粉のような血をとめどなく流し続ける。 永遠に解けない命題に挑む哲学者のような険しい顔を変えず、ただ立ち尽くす。 忘れていたように、地響きが再動を始めた。 窪みである式達の場所も所々がひび割れる。 そして一際大きな揺れが来た時、式の背後の地面が沈んだ。 咄嗟に飛び退き巻きこまれることはない。だが式の更に後ろに位置し、動力を壊された荒耶には成す術もない。 亡霊のような視線を式は正面から見返す。 その間に散らす感情は、なにがあったか。 ほどなくして荒耶の全身は宙に投げ出される。落ちる先は、海底よりさらに深い奈落。 世界の果てを目指した魔術師は、この世で最も深い奈落(はて)へ堕ちていく。 それが最上級の皮肉だということを誰も口にせず、荒耶宋蓮はこの世界から消失した。 【荒耶宋蓮@空の境界 死亡】 時系列順で読む Back BRAVE SAGA『未来』 Next BRAVE SAGA『希望』 投下順で読む Back BRAVE SAGA『未来』 Next BRAVE SAGA『希望』 291 BRAVE SAGA『未来』 荒耶宗蓮 291 BRAVE SAGA『希望』 291 BRAVE SAGA『未来』 白井黒子 291 BRAVE SAGA『希望』 291 BRAVE SAGA『未来』 阿良々木暦 291 BRAVE SAGA『希望』 291 BRAVE SAGA『未来』 グラハム・エーカー 291 BRAVE SAGA『希望』 291 BRAVE SAGA『未来』 枢木スザク 291 BRAVE SAGA『希望』 291 BRAVE SAGA『未来』 天江衣 291 BRAVE SAGA『希望』 291 BRAVE SAGA『未来』 両儀式 291 BRAVE SAGA『希望』
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「んっ……!」 時計の針が直に重なり、日付が替わったことを知らせる。 夜の帳の中……薄暗い部屋の、高さのないベッドの上で、俺は痺れるような熱い刻を過ごしている。 「あっ…あっ、ああ…ぁん…ぅんん…!」 軋むベッドと肉を打ち付けあう音が木霊する……互いの性器を擦り合わせる度に、女性の甘い喘ぎが脳の底に響く。 俺の名は小刀禰。彼女の名は板野ちひろ。俺達二人は今、貪るように互いの体を味わっている。 「ああっ……! 凄いぃ…大きいのが…私の膣で暴れてるぅ…!」 豊かな乳房を揺らしながら、ちひろさんは小指を噛んで情欲に対抗しようとする。 「……っ!」 互いの肉壁が痙攣を始め、限界が近いことを告げる。 このままいつまでも彼女を喘がせたいのに、感じさせたいのに、一緒の時を味わいたいのに……、 「ちひろさん……!」 「あああっ!! ちょっ…ん、は、激しい! 激しすぎる!!」 「うぅっ……!」 「んぅあああ!!」 ちひろさんの足がピーンと伸び、同時に膣が搾るように俺のペニスに絡みつく。 そのテクの前に俺は絶頂を迎え、精液を子宮目掛けて盛大にぶちまける。 「んっ……はぁ……はぁ…ふ…ぅ…」 小刻みな収縮と痙攣を繰り返し、ちひろさんの膣はいつまでも俺のモノを締め付けていた……。 「はい、ちひろさん。水持ってきたよ」 「お、すまないね。流石にあれだけ激しいと……喉が渇くね」 コップの水を一気飲みすると、ちひろさんは微笑みながらこちらに顔を近づけてくる。 「しかし…、だいぶえっちが上手になってきたね」 「そりゃね。ちひろさんがどう責めれば感じるのか分かるようになってきたから」 「……それは嬉しくもあり恥ずかしくもあり、だね。そんないい汗掻いたみたいなさわやか顔で言われると……、 負けるか!って気になるね」 言うなり、ちひろさんは俺を押さえ込み、固いままのペニスを胸で挟み込む。 「ち、ちひろさん…それは…!」 「ふふふ…わたしの性技で桃源郷の果てまで吹っ飛ばしてあげよう」 「ちょ、や、やめ……アッーーーー!」 かくして、第二ラウンドは一方的に搾られるというみじめな結果に終わった……。 ちひろさんとの出会いは寮を出て間もなくの事……、 先輩がホームヘルパーを薦めてくれたのがきっかけだった。紹介料としてだいぶふんだくられたけど…。 家に入り、周りを見渡すと、ちひろさんは「駄目だこいつ。早く何とかしないと…」みたいな顔で溜息をつき、 俺は言われるままに部屋を追い出された。 (ここからずっとちひろのターン!) まずはリビング。カーペットも部屋の隅も埃だらけで、匂いもきつい。掃除機を掛けながら、カーペットには消臭剤。 続いて風呂場。案の定カビ多め。混ぜるな危険!なスプレーを噴射してついでに水垢も取る。 台所。放置された皿を綺麗に洗い、手馴れた手つきで包丁も研ぐ。目が怖い…。あとバルサン。油汚れも残らず洗浄。 溜まっていた汚れ物はまとめて洗濯機に突っ込んでスイッチオン。 ……ここまで約1時間半。ちひろは熟練された腕と完成されたルーティンワークで、部屋を瞬く間に綺麗にしてみせた。 ただひとつ、小刀禰の寝室を除いては。 「さて、ここからが本番か……」 独身男性の寝室、それはもっともカオス度の高い空間である。読者の方々はこの機会に自分の部屋を省みてみよう。 「では、第2ラウンドといってみようか…」 イカ臭いティッシュの塊とその他もろもろをゴミ袋にぶち込み、万年床を構成している寝具その他は二度洗濯機へ。 無造作に投げられた雑誌は本棚へ。野球道具は一箇所に固め、ベッドの下に手を伸ばし……、 「……随分溜め込んでるじゃないか。先輩から貰ったものもあるのかな?」 出てくる出てくるスケベ本の、山、山、山。というか、エロ本って捨てるのに躊躇するからすぐ溜まるよね。 「ふむふむ……ほうほう……」 仕事そっちのけで、ちひろは積まれた本をぺらぺらとめくっていく。 「ベビーフェイスの見た目通りだね。年上好きで巨乳好き、髪はロング派か……いい趣味してるねまったく」 ちひろの唯一の悪癖、それは男性の部屋にヘルパーに行ったとき、男の性癖をあれこれと調べ上げることだった。 ロリだとか、ショタだとか、スカ好きとか、ゲイだとか、バイだとか、あれこれと妄想してるときが最高の息抜きだったりする。 「このえっち本のこのページだけ汚れがきついね。ふふ……この子がお気に入りか。若いねぇ…。 こう座って、側にティッシュを置いて、このページを開いて…………ふふふ」 続いて取り出したのは3次元エロDVD。こちらもエロ本と趣味思考はかぶっているようだが…、 「やっぱり静止画より動画だよね。どれどれ……」 DVDをデッキに入れて、電源を入れる。 学園モノでブルマ、となりに住んでる美人お姉さん、メイドのご奉仕、ナースの性感治療、 「ほう、このアングルは中々……ん~、このシーンはちょっとな、おお、うんうん…このフィニッシュシーンは…」 「ふう、堪能した……と、そろそろ彼が帰ってくるね。料理でも作ってもてなすとしようか」 この手は総じてマザコンが多い。故に、母性的な一面を見せるだけで夏厨並に入れ食いになることも多い。 「小刀禰くんか。……マークしておいた方がいいかな。ふふ…」 「ひどいってレベルじゃないね。君の部屋は、今まで掃除した部屋の中でも上位に位置する汚れっぷりだったよ」 ちひろはきつい目で小刀禰を睨み付けながら、携帯電話の番号を渡す。 「これからも定期的に呼んで欲しいから、これを…ね。何だったらプライベートなお誘いも受けるからね」 これがちひろさんの出会いの一部始終だ。綺麗だし、髪長いし、胸大きいし、格好いいしで、俺は不覚にも一目で恋に落ちた。 わざと部屋を汚くしてちひろさんに来てもらう…という、魂胆バレバレにも程がある作戦を練ってみたり。 「悪いけど、君の下心にまで付き合う気はないからね」と軽くあしらわれたけど…。 そんなある日、俺はちひろさんに格好いい所を見せたい!という本気なのか邪なのか微妙な動機で観戦に来てもらった。 「せっかく慣れないスポーツ観戦に来たんだ。君の力を見せてもらうよ」 「勿論! ちひろさんの応援があれば百人力さ」 「こらこら、調子に乗らない。わたしとしては別にボコボコに炎上してもいいんだけどね…」 そっけない態度はツンデレの証、と勝手に脳内解釈した俺だけど、気持ちは高ぶっていた。 ローテーションの谷間ということで先発した俺は、中盤まで特にピンチもなく順調に来ていた。 そして、ここを抑えれば勝ち投手の権利を得られる5回裏…意気揚々とマウンドに上がった俺に…、 ショッキングな惨劇が、襲い掛かってきたんだ……。 『さあ、バッターは俊足の伊波。ここまで2打席ヒットがありません』 『左右の揺さぶりにやられてる感じですね。もっと自分から揺さぶるような攻め方をすればいいんですよ。ええ』 (内角で詰まらせて打ち取るのが理想だな) (バント安打狙いも良いけど、まずは初球をセンターに返す!) 『さあ、第1球…』 小刀禰はスライダーでインコースを突く…! (コースが甘い! いただく!) 伊波はバットを出す。打球はピッチャー目掛けて一直線……! 「……!」 (……!?) ゴガアッン!! 『…!』 真芯で捕らえた打球は体勢を崩した小刀禰目掛けて飛んでいき、小刀禰の顔……正確には顎の辺りを直撃した。 内野にいた全員が、骨の砕ける音を聞いた。 崩れ落ちる小刀禰…、息が止まるちひろ…、球場の空気が凍りついた…。 (んっ……あ、あれ?) 「おお、気が付いたか!」 (駿河コーチ……!? い、痛ててててっ!) 「こらこら無茶するな。おまえは喋れる状態ですらないんだぞ!」 ベッド脇にいた1軍投手コーチは俺を寝かせたまま、あの時何が起きたのかをかいつまんで説明した。 俺はあの瞬間、脳震盪を起こして意識が飛び、倒れた際に頭から落ちたらしい。 幸い脳や頭蓋骨には異常はなかったが顎はそうはいかず、重度の亀裂骨折で口を動かすのもままならないそうだ。 (成る程ね。これはそのせいか) 俺は自分の顎に取り付けられた無骨な拘束具を見つめる。こりゃ重症だ。 ……時刻は深夜0時前。コーチは、とりあえず顎を直すことを第一に考えてくれ云々と説明を残し、その場を去った。 既に面会時間は過ぎているから特例ということだったらしい…。 (……………………はぁ) 俺はしぃんと静まり返った病室で、一人溜息をつく。呼吸をするたびに痛むので、正直溜息をつくのも辛いけど…。 (これから、って時になあ…) せっかく1軍定着のチャンスだったのに、いい調子できてたのに、勝利投手になれるチャンスだったのに、全部パアだ。 登録も抹消されるし、怪我が癒えても2軍で調整だ。またドミノ並べることから始まるのか…。 どうにもマイナス思考スパイラルから抜け出せない。正直、怖い。自分はこの先どうなるのか、と。 お先真っ暗だ。絶望した。自暴自棄になりそうな……まさにその時だった。窓のところでカタンと音がしたのは。 ガチャ。カラカラカラ……。 「やっほー」 (ち、ちひろさん!?) 「面会時間はとうに過ぎてるから、窓から侵入させてもらったよ。君に伝えたいことがあってね」 窓から不法侵入してきたのは、紛れもなくちひろさんだった。 そういえばちひろさんを観戦に呼んでいたのをうっかり忘れてた! 「小刀禰君の姉です、って嘘ついてついさっきまでそこにいたんだけどね。面会時間過ぎちゃったからさ…」 「担架で運ばれていく君を見たんだ。ぐったりして、意識がなくて、まるで死んじゃったように見えてね。 もういてもたってもいられなくて、その足で病院に駆けつけたんだ。 ……途中転んじゃってさ、ハイヒールの踵折っちゃって……スニーカー履いておけばと後悔したよ」 (……ちひろさん、俺の事…本気で心配してくれてたんだ。ちょっと…いや、凄い嬉しいな) 「重症だけど、命には別状はないって聞いたときは凄く安心したよ。寝ている君を無意識に抱きしめちゃってさ。 泣きながら良かった……本当に良かった……って。ずっとね。我ながら恥ずかしいことしたけど後悔はしてないよ」 (そんな……俺はそんな甘美なシチュエーションを逃したってのか!? /(^o^)\ナンテコッタイ!) 「その時にね、ふと思ったんだ。どうしてこんなに心配するんだろ? どうして涙が出てくるんだろ? ってね。 答えはすぐに出たよ。ああ、わたしは小刀禰君のことを好きになってしまったんだなって」 (…………。俺の耳がご都合主義に染まってなければ、今確かにちひろさんは俺の事を、す、好き……!?) 「……きょとんとしてるねえ。今のは冗談なんかじゃない。本気の告白だよ」 (ま、マジ? 冗談じゃないよな!? ドッキリじゃないよな!? 夢じゃないよね!? 俺は、俺は……災い転じてフラグと成したってことか! やった、やったぞ!) 「でもね、その為には、やるべき事があるんだ。わたしがどれだけ君の事が好きか知ってもらうためにね。だから…」 (……えっ?) ちひろは服のボタンに手を掛け、ゆっくりとした手つきで、自分の衣を剥いで行く…。 上着を脱ぎ捨て、ズボンを下ろし、下着を取る。 月明かりが差し込む夜の一室が、幻想的な空間……否、淫靡な空間に一転する。 「君をわたしの物に、わたしを君のものに……その為には、君の体にわたしの体を刻みこむ必要がある…」 ちひろは前を隠すことなく、小刀禰の元へ近づき、毛布を剥ぎ取った。 (わっ……わわっ…wawawa忘れ物~……って違う! 俺気が動転しすぎ!) 「じゃあ、始めようか……」 (え!? え!? ちょwwwwおまwwwwって、もうボケてる場合じゃない! ていうか俺、貞操の危機!?) ズボンを下ろし、パンツを脱がせ、股間のブツを取り出した。 「ふふ…可愛い顔して、股間の物は一人前じゃないか」 (ちょ……本気でするの!? されちゃうの!? 俺!?) 貞操 オワタ\(^o^)/ (またしてもずっとちひろのターン!) 「んっ…ちゅ…ぅん…」 ちひろは小刀禰のモノを持ち上げ、カリ首の部分に指を這わせ、竿の部分に舌を這わせ、丁寧に愛撫していく。 (うぁ…ああっ! 凄…気持ち……いぃっ…!) 「…わたしはね、触るだけで一番敏感な部分が分かるんだ。小刀禰君の弱点は……ここだね」 (えっ……そんなこと…うっ…うわあああ!?) ちひろが小刀禰の『弱点』を責めると、小刀禰のモノは狂ったように我慢汁を噴出し、ひとりでに暴れだした。 (我慢してても、こみ上げてくるっ…!?) 懸命に下半身に力を込めても、精道から湧き昇る白濁液は一向に止まらず、射精に向けて秒読みを始める…。 「小刀禰君、イクんだね。いいよイっちゃっても…。そのかわり、飲ませてもらうよ…」 ちひろは震えるモノを手に取り、先を唇で包むと、吸い上げるように (あっ…あっあああああっ!) 「んっ……!」 小刀禰は限界を向かえ、精液を盛大にちひろの口へと吐き出す。2回…3回…4回…、 (うわっ…あぁぁ…止まらない…射精が…止まらないっ…そんな…なんで…ぁ) (うふっ、こんないっぱい出したら飲みきれないよ…) そう思いながらも、ちひろは湧き出る精液を、ごくり、ごくり、と喉を鳴らしながら腹へ流し込んでいく…。 「……どうだったかな? 我慢出来ないほどの快楽の味わいは。だけど、こんなのは序の口だよ」 ちひろは口の横にへばり付いたザーメンの残り汁をぺロリと舐めあげ、その身を摺り寄せてくる。 「どうだい、わたしの胸は。大きくて柔らかくて、弾力もあって、きっと気に入ってくれると思うよ」 そう言うと、ちひろは小刀禰のモノを胸で包み込み、力を込めたり抜いたりしながら執拗にしごいてくる。 (うわっ…ち、ちひろさんのおっぱい…凄…凄い…ぁあ) 「たまらない、って感じだね。このまま胸でしながら先っちょを咥えたらどうなるかな…っん…ちゅっ…」 たわわな胸の間からはみ出た小刀禰のモノを再度口に含み、ずずっ…ちゅっ…と吸い上げる。 ちひろの唾液と小刀禰の性汁のせいで、胸の間はぐちょぐちょに濡れ、その動きはどんどん早くなっていく…。 「んっ…ちゅ…じゅ…ちゅぱ…ふっ……ん、んん…っ…ぷはっ……っ…ん…ちゅ…~っ…じゅゅ~…」 (だ…駄目だ…! い、イク…またイク……イクぅぅぅぅっ!!) 「んっ…んんっ!」 小刀禰はまた盛大にちひろの口の中へ精を放出する。ちひろはその一部を飲み込むと、残りは顔に出させる。 ちひろの恍惚とした顔が、白濁液でべとべとに汚される…。 「……ふふ…うふふ…どうだい? 顔にぶっかけた感想は。気持ち、良かったでしょ?」 (ああ……なんて快楽なんだ…全身から力は抜けていくのに、下半身だけは力が漲ってくる…。 コレは、あれだ。ちひろさんは人間じゃなくて、サキュバスかなんかなんだ…これは搾精活動なんだ…) 意識が朦朧としてるのに、自分のブツは滾るほど逞しく天に向かってそそり立っているのが分かる。 あれほど連続で射精したのに、自分のブツは足りないと言わんばかりにヒクヒクと勝手に蠢く。 その反応に、ちひろは満面の笑みを浮かべていた。この状況を心底楽しむかのように。 「……さて、いっぱい出した小刀禰君に、ご褒美をあげないとね」 ちひろは小刀禰の体に跨り、ブツに手を添えながら狙いを定め……一気に腰を下ろした。 「……ぅあん!」 (ああ…ぁ……あああ…) 膣の中にブツを埋めただけで、小刀禰はまた射精した。 「どうだい小刀禰君。わたしの中は挿れてるだけで凄いだろ。悪いけど…この膣の虜になってもらうよ…」 ちひろは小刀禰の事などお構いなしに、一心不乱に腰を降り始める。 髪をバサバサと揺らし、自分の胸を揉みしだきながら、小刀禰の一滴一滴を腹の底に送り込むように膣肉を動かす。 小刀禰はその魔の肉壷の前に抵抗も我慢もきかず、腰を上下される度にちひろの中へと精をぶちまけ続ける…。 (ら、らめえぇぇぇぇぇぇぇっ!! 出る! でちゃうでちゃうぅぅうっ! せーえき止まんない…また出るぅぅぅぅっ! 射精が止まらないよぉぉぉぉぉお) 「そうだ、小刀禰君、もっと存分に私の中で熱いものをぶちまけてっ……あはぁ!」 (死ぬ…死ぬぅうう! 死んじゃう死んじゃうぅぅぁぁぁああぁらめぇひあああうひゃあぁぁぁあ……) 「小刀禰君…! 壊れそうかい? でも、大丈夫だよ……君の命までは奪わないさ…!」 ちひろは小刀禰に抱きつき、豊満な胸を摺り寄せながら、膣で小刀禰のブツがちぎれるほどきつく締め上げる。 (う…うわあああぁぁあああぁぁっ!! ……あ……あぁあ……あ…) 小刀禰は死に際の一撃とでも評するかのように多量の精液を放出した。 あまりの量にちひろの体が一瞬浮かぶほどに。繋がった二人の間から決壊した川の水のように精液が流れ落ちる。 体中の血液が全て精液に変換されたとしか思えないほどの量が、ベッドの四方へしたたり落ち、床を白く汚した。 そして小刀禰の意識も、完全にそこで途切れた……。 (ん……) 日差しが眩しい……。朝になったのか? 俺は眠たい目を擦りながら体を起こす。 右を見て、左を向いて、床を見つめ、ベッドを調べてみる。 何も変わっていない。昨日の夜と、何にも……。 (あの異常な一夜は、夢だったのか? そ、そうだよな…。普通あんなに精液出せるわけないし、ちひろさんが…、 俺のこと好きなわけ、ない……し……嫌、でもおかしいぞ!) 俺の体はちひろさんの体の温もりを覚えている。手はちひろさんの大きな胸と綺麗な髪に触れた感触が残ってる。 (ん……?) 立ち上がって辺りをウロウロ……と、振り向いた時、俺の視界…ベッドの下に茶封筒が置かれているのを見つけた。 早速開けてみると、一枚の手紙が……って、これは……、 『小刀禰君へ。 おはよう。良く眠れたかな? 昨夜の事は今も私の肉体に焼き付いてるよ。 小刀禰君の童貞を奪って、身も心も自分のモノにしようと燃え上がったよね…。 室内はわたしの腕をもってきちんと後始末しておいたから、病院の人にはまず気付かれないだろうね。 ……色々と言いたいことはあるけど、今はちょっと時間がない。 ま、近いうちにまた部屋に忍びこむ予定だから体を磨いて待っててね。それじゃ、またね。 P.S.昨夜の夢見たいな出来事は全部現実だよ。種明かしは今度会ったときに、ね。チュ…』 手紙の端に付けられたキスマークを見つめながら、俺はあの晩が夢でないことを確信した。同時に、凄く怖くなった。 (あの夜の……あの異常なセックスは……全て現実だってのかあああああっ!!??) こうして、ちひろさんは俺に『女の体』を教えてくれた人になったわけだ。 思い起こせば初めての時の俺は完全にマグロ状態だったんだけど……そんな俺をちひろさんは、 優しく、温かく、包み込むようにしながらゆっくりと指南してくれた。……そう思いたい。思い込みたい。 その後、ちひろさんと再会した時、ちひろさんは俺の疑問に答えてくれた。 『北斗淫拳』という一子相伝の性技を使って、半永久的に射精させるようにした、とか答えになってない答えだけど。 しかしあんなこと常人ではとても無理なわけで、結局俺は信じるしかなかった……。 その後も怪我が癒えるまでの期間、俺は何度もちひろさんと肌を重ねた。 流石に始めての時みたいなのが続くようだと俺が死ぬので、労わるようなえっちにしてもらったけど。 思い出すだけで股間が熱く……ま、いい事ばかりじゃない。毎晩命懸けというか…。 言っておくがちひろさんのテクにかかれば俺は最初からクライマックスだぜ! ……早漏じゃない。断じて早漏じゃないぞ。ちひろさんが上手すぎるだけなんだ…。 バシィィィィッ!! 『ストライーク! バッターアウト!!』 怪我が完治しての初めてのマウンドで、俺は3者連続3球三振をやってのけた。 コーチも、監督も、チームメイトも、そりゃびっくりしてた。何で怪我する前より球威が増してるんだ!? って。 「房中術ってやつだよ」 「……それって、セックスしながら男に活力を与えるみたいな……あれ?」 「そう。といっても、男に射精を促すわけだから、正規の房中術ではないね。むしろ筋トレに近いかな」 おかしいな~と思ってちひろさんに相談してみたら、こんな答えが返ってきた。 あの時、肉体と精神の限界を超えて下半身を使った成果が今になって現れたらしい…。どんな特訓だよ。 「でもあれは応急処置みたいなものでね。君の下半身は未完成の状態なんだ。だから……」 「というわけで、夜のコーチに来たよ」 「ま、またするの!?」 「ふふ……そう言って、ズボンの下は、ほら…テント張りっぱなしじゃないか…若いねえ」 「あっ、っ…ん~……ちひろさん…や、やめ…」 「このままズボン越しにイく? 嫌だよね? じゃあ、言うとおりにしようね。気持ちよく…してあげる…」 「さあ小刀禰君、わたしの準備は万端だよ」 ちひろさんは俺のベッドに四つん這いになり、俺に向けて尻を突き出している。 体から発せられる淫欲のフェロモンのせいか、俺のブツは痛いほど硬質化していた。 俺は湧き上がる劣情を抑えきれず、ちひろさんの中へ侵入する。 「んん……入ってきたね」 (う……っ! 挿れてるだけでつらい…!) ちひろさんの膣は、侵入してきた異物を締め上げたり宥めたり絡み付いてきたりしながら、俺を責めたててくる。 これだけもうイッてしまいそうな程の名器だから困る。むしろ動かない方がやばい。 「小刀禰君、例え射精しても、気にせず腰を振り続けるんだ。いいね?」 「う、うん…」 言われた通り、俺はちひろさんを後ろから突き始める。 動かすこと10数秒、1回目の射精。5秒後、2回目。3秒後、3回目…。 既に結合部分からは、ごぼごぼと俺の精液が流れ落ちてるが、俺は考えたら負けだ!強く念じながらひたすら腰を振る。 「うん……いい…。でも、まだまだだよ…! もっとアナルに力を込めるように、…そうそう…良くなってきてるよ」 (びゃあ゛ぁ゛゛ぁとま゛らなひぃ゛ぃぃ゛ちんぽ汁とま゛らなひぃ゛ぃぃ゛ ) 「こらこら、もう壊れたのかい? 情けないなあ……仕方ない、これから毎晩特訓するからね!」 それ以来、ちひろさんは俺の家に住み着くようになった。 結婚を前提とした同棲生活だそうだ。同精性活の間違いじゃない? と言ったら、こってり搾られた。 正式に結婚して籍を入れるまではさん付けで呼ぶように。と上位を取りながらも、俺の事を優しく見守ってくれる。 ちひろさんの勧めで、苦手だった青汁も飲めるようになった。夜は別の汁を飲んでくれたりするし…。 活躍した日は褒美と称して熱い奉仕をしてもらったり、駄目な日は罰ゲームと称して搾られたり…。 ドライブ後にカーsexしたり、デート後公園で青姦したり、フリーの日は一日中愛し合ったり…。 ……なんだか思い返すとセックスしかしてないような気がするが、俺は幸せだ。 それなりに耐性もついたし、日々の修練の成果も出てきた。腎虚だけが心配だけど…。 というか、これってどう考えてもプロ野球選手の(夜の)生活じゃないよなぁ。性活onlyって…どうよ? ちなみに以前「ちひろさんって処女じゃないよね?」と地雷踏んでみたんだけど……、 「はは……何言ってるんだい? 私は君とするまで誰にも操を捧げた覚えはないよ」 「嘘だっっっっっっっっっっ!!!」 「嘘なもんか。逆に考えるんだ。手熟れの処女と考えるんだ」 「ウゾダドンドコドーン!!」 と、軽くあしらわれてしまった。勿論その後は無粋な質問をした罰と称してまた搾られたけど…。 だがそんな夜のお努め特訓の甲斐あって、俺の性技はちひろさんをイカせられるほど強化された。 でも一方的に搾られるのも悪い気はしない。俺のマゾっ気も含めて優しく包み込んでくれるのがちひろさんだからだ。 プロ野球選手としての道も順調だ。この調子ならオフの契約更改も期待できるだろう。 ただ、ちひろさんの方はというと……、 「言っておくけど、小刀禰君が真の男になるまで、わたしは子を孕む気はないからね」 (ふふ…。もし生まれてきたのが女の子だったら、ちゃんと教育して小刀禰君の子を孕むようにしつけて、 生まれてきたのが男の子だったら、赤ちゃんをを生んであげたりして……そんなインモラルな人生もいいかもね) 「ちひろさん、なんか、凄くいけないこと考えてない?」 「べつに~」 「さあ小刀禰君、今夜も特訓だよ。体もチンポもがっちり鍛えてあげるからね」 「ち、ちひろさん……その台詞どこかで聞いたような……ちょっ……アッーーーーー!」 勝った! 第一部 完!
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恐怖のサンタ 悪魔の囁き&コークロア編 06 山田は震えていた。 しかしそれは別段、恐怖に怯えていたわけではない。 「やっべ寒い! 風は凌げたけど滅茶苦茶寒い!」 「廃屋ナンダ。暖房ガ利イイテルハズナンカネェシ、当タリ前ダロ」 廃屋のエントランスに積もった埃の上に、山田はがくがくと震えながら立っていた。 先程気温10度にも満たない外で冷水を浴びてきたばかりである。 ほとんど外と変わらない気温の中、山田の体温は刻一刻と削られていた。 「け、けど、何とか侵入には成功したな、うん。前向きに考えていこう」 「侵入ッツーカ、モロニすぺあきーデ玄関カラ入ッテキタダケジャネェカ」 「言うな。何か『窓とか破って侵入しましたよ』な雰囲気ださないと悲しくなるだろ」 身も蓋もない事を言うデビ田に、山田は呆れたように言い返した。 「ほら、子どもの頃スパイごっことかやったろ? あの時だって玩具の銃に針金とか持ってきゃっきゃしてただろ? 夢を壊すなよ、夢を」 「オレサマニ子ドモノ頃ナンテネェカラ分カンネェヨ。大体、ンナ夢子ドモノ頃ニ捨テルモンジャネェノカ」 「何だ、あれか、『俺は大人なんだぜ』アピールか。くそ……童心をずっと持ち続けるのって大事だろ……」 意気消沈して、山田が肩を落とす。 正直、デビ田には山田が何を言っているのかさっぱり理解できない。 むしろ理解できたらそれはそれで駄目なんじゃないかとすら、最近は思い始めていた。 「――――デ、ココニ住ミ着イテル『幽霊』ヲ倒スンダッケカ」 山田の内側から、デビ田が周囲へと視線を巡らせる。 埃まみれの室内に、夕刻となり赤い光が差し込んでいる。 割れた窓が光を曲げ、隠し、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。 この状況だけ見れば「幽霊屋敷」とは到底思えなかっただろう。 「らしいな。俺にもよく分からないけど」 「頼リネェナァ。ソレデモ町デ『ソコソコ』噂サレテル都市伝説退治専門ノ業者カヨ」 「そこそこを強調している所にそこはかとなく悪意を感じるのは俺の気のせいかな、デビ田」 「気ノセイナンジャネェノ?」 軽い笑いを含んで、デビ田がとぼける。 山田はさらに追求しようとして、止めた。 元より、デビ田はそういった悪知恵に関しては山田よりも頭が回る。 さすがデビル山田というか何と言うか、とにかく山田が深追いしてデビ田が白状した事は一度たりともなかった。 「ケドヨォ、ワザワザ高イ金払ッテマデ幽霊退治ナンテスルモンナノカ? モウ誰モ住ンデネェンダロ? ホットキャイイジャネェカ」 「そう言う訳にもいかないんだよ」 先方は何も、この家の住人や管理人に頼まれて山田に依頼したわけではない。 当たり前だ。 この家はもうすぐ叩きつぶされ、ここには新しくマンションが建つのだから。 「家を解体したいのに、ポルターガイストやら女の霊やらが出てきて作業にならないんだってよ」 「ハッ、ンナノ無視シテブッ壊シチマエバイイジャネェカ。何ビビッテンダカ、ダラシネェ」 「日本人はそう言う霊的な物を大事にするの! ほら、家建てる前にちゃんとお払いするだろ? それと同じだよ」 「ソレダッテ結局『祟リガ怖イカラ』ダロ? タダノ迷信ジャネェカ」 「日本人はそういうもんなんだって。普段科学で頭固めてる奴だって葬式はするし、クリスマスだって祝う。それでいいんだよ、日本人は」 デビ田と脳内で話しながら、山田は歩みを進めていく。 元は豪奢だったろう絨毯を踏むと、それだけで埃が舞いあがってきた。 マスクを持ってくるべきだったと後悔しながら、山田は建物の内部を観察する。 希少価値があるのかどうかもよく分からない絵画に騎士の鎧、はては巨大なピアノまでもが、奇妙な調和を持って配置されていた。 それら全て、本来なら既に運び出されているはずのものである。 「ポルターガイスト、ねぇ……」 本来の用途すらまっとうされなくなった工芸品を眺め、山田は呟いた。 聞く所によれば、これら工芸品は運び出されそうになった途端、勝手に浮き、元の位置へと戻ってしまうのだという。 屈強な男4人がかりで持ち上げていたグランドピアノまでも、だ。 かわいそうな事に、それを目撃してしまったバイト君は今でも寝込んでいるそうだ。 「幽霊っていうと未練の塊みたいなイメージがあるけど、運び出さないのはそれと何か関係があるのかな」 「知ルカ。ソレヨリサッサト片ヅケテ帰ロウゼ。空気ガワリィンダヨ、ココ」 基本的に面倒くさがりなのか、デビ田は山田の仕事に対していつも早々に切り上げる事を提案してくる。 その本意は山田を堕落させる事にあるのだが、山田がそれに気づく様子はない。 「金を貰ったからにはそれ相応の仕事をする。これ社会の常識な」 「イイジャネェカ。コンナ霊商売、詐欺ミテェナモンダロ。一々退治スル必要モネェ」 「馬鹿、それだとうちの信頼に関わるだろうが。あの占い師に仕事を回して貰えなくなったらそれこそ野垂れ死にだっての」 「ソウナッタラ都市伝説ノ力使ッテ銀行デモ襲エバイインジャネェノ? テメェてれぽーと系の力モ使エルミテェダシ、簡単ダロ?」 「あのなぁ…………」 この社会常識の欠如している幻聴どうしてくれようか、と山田が考えていた、その時だった。 何かを感じ取ったかのように、デビ田が山田の中で蠢く。 「――――来ルゾッ!」 「ん? 何が」 訝しげな顔で、山田がその場に立ち止まる。 一体何が来るというのか。 デビ田と違って全く都市伝説の気配を感じ取れない山田には、デビ田が何を言っているのかさっぱり理解できなかった。 「バカッ、立チ止マッテンジャネェ、伏セロッ!」 「だから、何で――――」 山田が聞き返そうとした、次の瞬間。 何かが山田のすぐ隣の壁を突き破って、山田へ向かって突進してきた。 「何だっ!?」 ぎょっとして山田が壊れた壁を見るが、襲撃者は既に眼前にまで迫って来ていた。 一瞬で間合いを詰められ、山田の身体に衝撃が走る。 何か固い鈍器で全身を殴られたような感覚。 それを意識する間もなく、山田の身体は後ろへ数メートル吹き飛ばされた。 「――――ガァッ!」 そこに痛みはない。 しかしそれでも、肺の中に溜まっていた酸素が口を突いて出てきた。 胃を圧迫されたせいか、酸っぱい何かが喉元にまでせり上がって来ている。 「……くそ、何が起きた」 普通の人間なら一撃で気絶しそうな一撃を受けて、それでも山田は難なく立ち上がった。 その身体には傷どころか、汚れ一つない。 顔に付着した埃を手で払いながら、山田は襲撃者の方向へと目を向けた。 先程の一撃で壁は半壊し、その瓦礫が絨毯に積もった埃を砂のように舞い上げ、視界を覆っている。 粉塵の中、立ち上がる一つの影が見えた。 ポストのように寸胴な体型が、なぜか少し宙に浮いている。 ここからでは影しか見えないので何とも言えないのだが、とにかくそのシルエットから相手が人ではない事だけは分かった。 「……おい、デビ田。アレ、何だと思う?」 目で襲撃者の動きを追いながら、山田は声を出さずにデビ田へと問いかけた。 デビ田は襲撃者が来る事をあらかじめ予知できていた。 なら、もしかしたら相手が誰かを知っているのかもしれない。 そう、思っていたのだが 「………………」 なぜか、返ってきたのは沈黙だけだった。 何となく不安になって、山田はもう一度問いかける。 「おい、デビ――――」 「話カケンナ。今、身体ガ痛ミデヤベェ」 「なんだ、喋れるじゃん。いや、お前が死んだかと思ってちょっと不安になっちゃったとかそういうわけじゃないんだけどさ、出来ればちゃんと質問には何らかの返事が欲しいかなぁ、って」 「話カケンナッツッテンダロウガッ! テメェト違ッテオレサマハ痛ミヲモロニ感ジテンダヨッ!!」 「あ……あー、そういやそうだっけ。残念な体質だなぁ、お前」 呑気にデビ田と会話をしている間にも、謎の襲撃者は再び動き始めていた。 3メートルはあるだろう巨体が、その重量を全く感じさせずに宙を滑ってくる。 もう一度体当たりを喰らわせるつもりだろうか。 「つか、ここに住み着いてる都市伝説って幽霊なんじゃなかったっけ?」 「知ルカ。少ナクトモアリャ人間ジャネェヨ」 「だろうなぁ、でかいし」 部屋に粉塵が充満しているにもかかわらず、巨大な影は一直線に山田の元へと向かって来ている。 速度はそれ程でもない。 ちゃんと相手の姿さえ確認できていれば、十分に引きつけてからでも避けられるだろう。 「よし、ここはかっこよく避けてみようじゃないか」 「……下ラネェ事スンノガ好キダヨナ、テメェ」 「下らなくなんかない。遊び心は大事だぞ」 そうこう言っている内に、影は粉塵を突破しようとしていた。 巨躯が動く事で風でも発生しているのか、宙に舞う誇りに規則的な流れが出来上がっている。 その流れの中心。 ちょうど周囲の壁を押しやるかのように、「ソレ」は現れた。 「…………ん?」 襲撃者の姿を確認にして、山田の目が点になる。 山田の目に入ったのは、黒く、顔のみで構成されている石像。 何をどう削ればそんな形になるのかも山田にはよく分からないが、少なくともソレが何であるかは知っていた。 「……何で、モアイ像が動いてんの?」 モアイ像。 世界的に有名な石像の一つである。 なぜ作られたのか、その意図すら判明していない石像。 それが今、山田の前で宙に浮いていた。 「え、何、俺たちの仕事ってモアイ像倒す事だっけ? あれ? 何か違うような」 「ぽるたーがいすとダロ。何焦ッテンダ」 混乱する山田とは対照的に、デビ田は冷静だった。 宙に浮いているモアイ像自体からは、何も都市伝説的な気配を感じられない。 何者かがこの石像を動かし、山田たちを襲わせているのだろうと、デビ田は判断した。 「マジか。レプリカとは言えモアイ像まで集めて何がしたいんだ、この家」 「成金趣味ジャネェノ? 金持チノ考エル事ナンテ理解デキネェヨ」 宙に浮いたモアイ像は、動かない。 何か観察するように、山田を凝視していた。 先程の一撃を受けても立ち上がった山田を警戒しているのか、はたまた攻撃のタイミングを図っているのか。 どちらにせよ、あまり友好的な雰囲気とは言えなかった。 その様子を見て、山田はよし、と拳を握る。 「――――話合おうじゃないか」 「……コノ期ニ及ンデへたれ全面ニ押シ出シテンジャネェヨ」 「ヘタレ言うな。ポルターガイストにしろ幽霊にしろ、ここに留まるには何か理由があるはずだろ。わざわざ力で捻じ伏せなくてももっと平和的に解決できるかもしれないじゃないか」 「ンナ事言ッテモ、アッチハヤル気ミテェダゼェ?」 「…………ん?」 デビ田の言葉に従って、山田が意識を内から外へと移行させ、石像のいた方へと視線を向けた。 しかし、視界には何も映らない。 正確には、視界一杯に黒い何かが写っていた。 さらに正確に言うなら、モアイ像が目の前にまで急接近していた。 「…………ありゃ」 二度目の体当たり。 脳震盪でも起こしそうな強い衝撃と共に、山田の身体が再び宙を舞った。 痛みはないが、それでも二転三転と山田の身体が埃まみれの絨毯の上を転がる。 先程は手加減でもしていたのだろう。 今ので山田の内臓が幾つか持っていかれていた。 人間なら既に死んでいそうな状況下で、しかしやっと停止した山田はすぐに跳ね起きた。 「……ふふん、この俺に普通の攻撃が効くと思うなよ!」 ふはははーと悪役のような声をあげて石像を指差す。 一見すると格好よさそうな状況の中 「イッテェェェエエエエエエエッ!? テメェニ効イテナクテモ、オレサマニハ効イテンダヨ馬鹿野郎ッ! チッタァ避ケヤガレ!!」 しかし山田の脳内では、デビ田が痛みに吠えていた。 モアイ像は無表情で、それでもどこか困惑した空気を漂わせている。 デビ田の声が外へ漏れる事は、基本的にない。 だからモアイ像から見れば、今の山田はまさに超人だった。 「(……まぁ、こっちもあんな石像に効く有効打なんて持ってないんだけどな)」 「(……ハッタイモイイ加減ニシロヨ。テメェノ虚勢ノタメニ痛メツケラレンノハごめんダ)」 「(分かってる。とにかくあのモアイ像を止めて、ちゃんと話を聞いてもらわないとな)」 内側でデビ田と算段をしながら、山田は警戒を続けるモアイ像を、そしてその周囲を注意深く観察する。 あの石像が本体ではないのは確かである。 つまりそれを動かしている都市伝説が必ずどこかに存在しているはずなのだ。 「(……って言っても、気配も何にも感じないな)」 「(『感ジナイ』ンジャナクテ『感ジラレナイ』ンダロ、テメェハ。ヨクソンナンデ都市伝説退治ナンテデキルモンダ)」 「(いや、大抵は何回か攻撃された後に起き上がると、相手も驚いて話し合いにも乗ってくれるんだけどさ、今回はそもそもどこに本体がいるかが分からないからなぁ)」 「(アン? 本体ナラテメェノスグ目ノ前ニイルジャネェカ)」 「(…………え?)」 慌てて山田が周囲を見渡すが、どこにもそれらしき人影はない。 ただモアイ像が一体、宙に浮いているだけである。 それを見て、山田の頬に一筋の汗が伝った。 「(……まさか、このモアイ像が本体だとか言うんじゃ)」 「(ンナ訳アルカ馬鹿野郎。もあいノ後ロヲ良ク見テミロ。幾ラテメェデモ『見エ』ハスルンダヨナァ?)」 「(モアイ像の後ろ、ねぇ…………)」 じっと宙に制止し、動かないモアイ像。 今山田の立っている位置からでは、その裏側までは見る事が出来ない。 「…………ふむ」 試しに、モアイ像を一周するように、その裏側へ回り込んでみる。 「………………」 それに合わせて、モアイ像が山田を追うように回転した。 モアイ像の顔が、無表情に山田を見つめている。 「…………ふむ」 もう一度、モアイ像の周囲を回りこんでみる。 「………………」 しかし、再度モアイ像はその動きに合わせるように回転してきた。 相変わらず、無表情でモアイ像が山田を見つめている。 「(…………おい、見れないぞ)」 「(ダーッ!? マドロッコシイナ、オイ! テメェてれぽーと使エンダロ。ソレデサッサトもあいヲ消シチマエバイイダロウガ)」 「(あ、なに、そんな強引な方法でもいいの?)」 「(手段ヲ選ンデンジャネェヨ。イツマデモ馬鹿ミテェニ回ッテルツモリカ、テメェ)」 「(……いいじゃん、その内目を廻すかもしれないじゃん……)」 もごもごと口の中で何かを呟いて、山田は右手を頭上に掲げた。 警戒するように、モアイ像が一歩分、宙を後方に下がる。 しかしたかがた一歩如き、山田の前では大した距離でもない。 「つか、これってテレポートじゃないんだけどな」 再度ぼやいて、山田はパチンと指を鳴らした。 その瞬間、モアイ像の下の絨毯から一本の煙突がせり上がって来る。 慌ててモアイ像が移動を再開したが、それは少しだけ遅かった。 四角い煙突は大きな口を開けて、モアイ像を飲み込んでいく。 一度飲み始めてからは速かった。 あっという間に煙突はモアイ像を飲み込み、その全てを覆い隠してしまう。 「(……どこに移動させればいいんだ、これ)」 「(ドコデモ構ワネェヨ。トニカクもあいガドカセリャイイ)」 「(大ざっぱだな……)」 さっきの騎士の鎧の前でいいか、と呟いて、山田は再び指を鳴らした。 その音が鳴った途端、煙突は煙となって消失した。 中にいたはずのモアイ像は当然、そこにはない。 山田が遠くへ飛ばしたのだから、当たり前だ。 「…………ん?」 しかし代わりに、そこに誰かが立っていた。 その誰かは何かを持ちあげるように腰を落とし、その両腕を広げている。 「(……おい、何だあれ)」 「(アレガ本体ナンダロ。チッチェエがきダナ)」 呆気にとられたような表情で、ソレは立ちつくしていた。 茶の入ったセミロングの髪に、まだあどけない瞳。 山田を驚きの目で、ソレは見つめていた。 「(……つか、女の子じゃん)」 山田の前に立っていたのは、まだ年端もいかない少女だった。 外見的には10か11歳といった所か。 ちょっと上狙いのロリコンなら十分に射程圏内に収めそうな年齢である。 「(ナンダ、テメェ貞子ミタイナノデモ想像シテタノカ? 先入観バリバリジャネェカ」 「(うるさい。いいだろ、『女の霊』なんて聞いてたからもっと年食ってると思ったんだよ)」 目の前の少女を、山田は一瞥する。 最初は怯えたように竦んでいた少女も、今では敵意一杯で山田を睨んでいた。 「……やりにくいよなぁ、これ」 元より、山田はあまり殺人が好きではない。 山田は別に殺人鬼という訳でもないのだ。 だから出来るだけ、山田は退治の際に、話し合いで都市伝説との間に折り合いをつける方法を取っていた。 大抵は、幾ら攻撃しても死なない山田を恐れるか、説得に応じて承諾する。 しかし今、山田の前で敵意むき出しで睨んでいる少女は、山田を恐れても、また説得に応じそうでもなかった。 だからこそ、山田はそんな事を呟いたのだが 「……なめないでよ」 何を勘違いしたのか、少女の霊は敵意をさらに1割増しで山田を睨んできた。 興奮からか、顔が少し赤くなっている。 「あんたもこの家を壊しに来た悪い奴の仲間なんでしょ? 嫌よ、私は出ていかない」 「いや、そこを何とかして欲しいなぁ、なんて……」 「(……何頼ミ込ンデンダ。サッサトブッ殺シャイイダロ)」 「(出来るだけ無駄な戦闘は避けたいの! 話し合いで解決できるならこれが一番なの! これも社会の常識な) 黙ってしまった山田を、少女は相変わらず親の敵のように睨んでいる。 山田にとっては、やりにくい事この上ない状況である。 「(どうするよ、お前が強引な方法取ったせいでなんか相手怒ってるぽいぞ)」 「(オレサマジャネェダロッ!? 人ニ罪擦リ付ケテンジャネェゾ、コノへたれ)」 「(なっ、ヘタっ……ふふん、ようし、じゃあ見せちゃうもんね。俺が3年ちょいだけど社会で培った交渉術を見せちゃうもんね)」 「(ハッ、出来ルモンナラヤッテミヤガレ。ツイデニ言ットクト、モウサッキ約束シタ10分ハ経ッチマッテルゼェ?)」 「(うわいやらしい! お前何そんな昔の約束引っ張り出してんの。時効だろ、時効)」 「(言ッテ10分チョイデ時効ニナル約束ナンテネェダロウガッ!)」 もはや少女など存在しないかのような体である。 しかも少女からはデビ田が見えないため、山田が一人でぼけっと立っているようにしか見えなかった。 舐められてる。 そう少女は、目の前の山田を見て判断した。 「子供だからって馬鹿にしないでよっ!」 少女の叫びに、ようやく山田の注意が少女へと向いた。 「まだパパもママも帰ってきてないの。絶対に私がこの家を守るんだからっ!」 少女がそう叫んだ途端、地震のように家が揺れ始めた。 ピアノや鎧が揺れ、家が鈍い軋みを上げている。 「(……なんだか意味深な事言ってるけどどうするよ、これ)」 「(テメェデ解決シヤガレ、交渉術見センダロ?)」 「(いや、何か交渉とかそれ所じゃないっぽいし、それももう時効な)」 「(時効ハエェヨッ!? 汚ェゾ、テメェ)」 「(つか、何だ、地震? 何が起こってんの?)」 もはや立つ事も覚束なくなり、山田は地に膝をついていた。 目の前の少女は幽霊だからか、先程から一ミリたりとも動いていない。 「(ぽるたーがいすとナンジャネェノ? 大規模ニナルト地震ミテェニナルラシィゼェ?)」 「(え、何それ。やばいんじゃないの)」 揺れは段々と大きくなっている。 このままではこの家自体が崩壊を始めそうである。 それは山田としては万々歳な事態のはずなのだが、何だか心にもやもやとした物が残っていた。 それは家の下敷きになる事への危惧でもあるし、目の前の少女がどこか苦しそうな表情をしているからでもある。 「……どうしようか」 少女を止めるにしても、今からでは手遅れだろう。 もはや簡単に止まらないだろう事は、揺れの大きさを見るだけで分かる。 かといって、このまま放置しているのも山田としてはあまり良い気分ではない。 どうしたものか、と山田が考えあぐねていると 「(……大丈夫ナンジャネェ? スグニ止マルダロ、コンナ地震)」 「(何で)」 「(ドォ考エテモアノがきノきゃぱしてぃヲ超エテンダロ、コンナノ。普通ナラソロソロ意識ガ飛ブ頃ダロウヨ)」 そうデビ田が言った、その時だった。 とさり、と何かが倒れるような音が、軋みを上げる室内に響き渡った。 ほぼ同時に、家の振動が止まる。 何が起こったのか、なんて考えるまでもない。 「…………マジかよ」 見ると、デビ田の言った通り、少女が絨毯の上に倒れ込んでいた。 指だけが微かに動いている所を見ると、まだ意識だけはあるのか。 しかしその僅かな動きすら、徐々に弱々しくなっている。 「(……マ、死ンダ後都市伝説ニ飲マレタノカ何ナノカハ知ラネェガ、ドウ考エテモ、力ニ対スル器ガチッチェェナ、コリャ)」 「(大丈夫なのか、あの子)」 「(ドォセ気絶シテルダケダロ。スグニ起キ上ガンジャネェノ? 暫クハ動ケネェダロウガヨ)」 「(……そうか)」 「(ンジャ、動ケネェ内ニ殺シテ、チャッチャト帰ロウゼェ? 早ク風呂ニ入ッテクレネェト、オレサマノ身体ガヤベェ)」 「(ん、そうだな)」 脳内で返事をして、山田は立ち上がった。 振動で移動したのか、埃のない絨毯の上を歩いていく。 その間に、山田はズボンのポケットから小さな小瓶を取り出した。 「幽霊に触れる」ための薬。 今回の仕事のために、仙人に特別に調合してもらったものだ。 それを一口で飲んで、山田は足を速める。 少女の元へは、すぐに到着した。 「さて、と……」 膝をついて、山田は少女の額に手を触れさせた。 「(…………アン?)」 そこで、デビ田は気付いた。 山田は本来、触れるだけで相手を殺せるような、そんな便利な能力を持たない。 口裂け女と契約した今、山田のメインウェポンは打撃による殺傷のはずだ。 それがなぜ、少女の額に触れているのか。 「(何ヤッテンダ、テメェ)」 「(いいんだよ、これで)」 訝しむデビ田に脳内で答えて、山田は目を瞑った。 「(仕事のアフターケアみたいなもんだ)」 触れた所から、少女の記憶が流れ込んでくる。 山田の契約した「恐怖のサンタ」は、相手の最も嫌いな物、あるいはトラウマを記憶から選びとって袋から出現させる能力を持っている。 その能力を応用すれば、記憶の閲覧も可能になるのだ。 といっても、その能力は山田がその手で触れる必要があるし、触れた上でさらに極限にまで精神を削らなければならないわけなのだが。 山田が記憶を読み取り、その上で何をしようとしているのか、デビ田には何となく分かっていた。 つい十分ほど前、山田が「成仏」という単語を使った事を思い出す。 「(……未練無クシテ成仏サセテアゲマショウ、ッテカ? ワザワザ一番面倒クセェ方法選ンデ、何ガシテェンダカ)」 その言葉を、デビ田は胸の内で呟いた。 山田にそれを言った所で、今更止めるような人間でもないだろう。 むしろ、さらに頑なになる可能性すらある。 デビ田はただ、山田の行動を見ていた。 この悪魔にはまだ、自分の囁きを退けたこの男の全容が掴めていない。 ********************************************* まだ日の明ける気配すら見えない午前3時。 山田はもはや死にかけの体で、帰路についていた。 屋敷でポルターガイストに遭った時よりも覚束ない足取りで、街灯に照らされた道を歩いていく。 「結局、成仏サセルマデ付キッキリダッタナァ、へたれ」 「ヘタレ言うな。むしろ俺、今回滅茶苦茶頑張っただろ?」 「サァ、ドォダロォナ」 実際、よくあそこまでやったものだとデビ田は思う。 あれから数時間、山田はひたすら奔走していた。 少女の両親の墓を見つけたり、霊を降ろす事の出来る都市伝説を見つけたり。 それこそ、結果的に貰った報収が霞んで見えるほどに。 「アホダヨナァ、へたれ」 「おま、あんなに頑張った俺に対する慰めの一言もないのか。ほら、『よくやった』とか、『頑張った』とか」 「テメェノセイデ帰リガコンナニ遅クナッタンジャネェカ。慰メルワケネェダロ」 「酷い! 宿主に対する態度とは思えないくらいに酷い!」 ぶつぶつとデビ田に対する呪詛を呟いている内に、山田たちは自宅のアパートへと到着していた。 外と内を繋ぐ玄関のドアの前で、山田はしばらく逡巡を重ねる。 なんだか、山田は気が重かった。 事前に恋人に遅くなる旨は伝えてはいる。 しかし、それでも遅くなった理由を問い詰められるのは必至だろう。 別に、山田としては良い事をしたつもりなのだから、恥じたり責められたりする言われはない。 それでも、山田が救ったのが少女だと知ったら、恋人はちょっとだけ不機嫌になる事間違いなしだ。 これを幸せと取るか、不幸と取るか。 「……まぁ、なるようになるか」 取りあえず前向きになろう。 そう思って、山田は鍵を開け、玄関へと足を踏み入れたのだが 「はろーっ!」 中からかけられた声と、そしてその声を主を見て、パタンと扉を閉じた。 「――――オイ、ドォシタ。入ラネェノカ?」 中を見るまでには至らなかったのか、デビ田が山田の内側で首を傾げている。 せっかく帰宅したのにまた外へと出てきたのだから、それは当然の疑問だろう。 それに対して、山田はぎこちない笑みを浮かべて答えた。 「い、いや、どうやら部屋を間違えたみたいだ。うん、そうだ、そうに違いない」 「アァ? テメェノ家ハココダロウガ。何言ッテンダ、テメェ」 「いや違う! 断じて違う! というか違うと信じたい!」 もはや支離滅裂な言葉を発する山田に、デビ田は眉をひそめた。 しかし数秒後、なぜ山田がそんなにも帰宅を拒絶したのか、デビ田はその目で目撃する事になる。 「――――何やってるの? さっさと入りなよ、風邪引いちゃうよ」 山田家の玄関のドアを開け、一人の少女が顔をのぞかせていた。 山田もデビ田も、その少女の事を知っている。 「……何やってんの、お前」 「居候の身として、家の主人のためにドア開けてるの」 真顔でそう答えたのは、茶の混じったセミロングの少女。 つい先ほど成仏したはずの少女が、そこに立っていた。 山田もデビ田も、嫌な予感しかしない。 分かっている事は、二つ。 なぜかこの少女が、山田家に居つこうとしているかもしれない事。 そして山田の恋人である良子が、少女の向こう側でぴくぴくと頬を引きつかせている事。 「(……逃げてもいい?)」 「(捕マッテ倍ノ制裁ガ待ッテル。止メトケ)」 会話は数秒。 しかしそれで自身に逃げ道がないと悟った山田は、肩を落として小さくため息をついた。 山田はまだ、気付かない。 契約したマゾの中にある「主人公補正」は、契約によって、少しだけ変化を遂げていた。 その小さな変化によって、山田が手に入れたのは、「フラグメーカー」とでも呼ぶべき出会いの力。 「は、はは…………」 無意識の内に使用されるその力は、その効果とは裏腹に、山田をさらなる窮地へと追いやっていた。 【終】 前ページ次ページ連載 - 恐怖のサンタ
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登録日:2011/10/15 Sat 22 20 00 更新日:2024/02/10 Sat 15 21 23NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 20年前と変わらない エイリアン ギンガマン ゴルリン シュバリエ艦長と愉快な仲間たち スーパー戦隊シリーズ スーパー戦隊悪の組織項目 人生いろいろでございます 個性派揃い 合身銀河闘士 回りくどい 地球戦隊ファイブマン 壊滅組織項目 奇人の巣窟 強い敵組織、ラスボススレ常連 怪人軍団 悪の組織 悲しき末路 戦隊悪役 敵勢力 父の仇!母の仇 逆さまデー 銀帝軍ゾーン 銀河闘士 地球を滅ぼせ! 銀帝軍ゾーン、出撃!! 銀帝軍ゾーンとは、スーパー戦隊シリーズ第14作『地球戦隊ファイブマン』に登場した敵組織である。 【概要】 【主な構成員】艦長◇ガロア艦長 ◇初代艦長シュバリエ その他幹部◇銀河剣士ビリオン ◇銀河博士ドルドラ ◇銀河の牙ザザ ◇銀河商人ドンゴロス その他戦力◇バツラー兵 ◇銀河戦隊ギンガマン ◇ゴルリン ◇黒ゴルリン ◇放浪剣士クイーンキラー ◇銀河獣アンモナイドン ◇ミリア星人ソーラ 保有兵器◇バルゴール ◇ビッグガロアン ◇銀河闘士、合身銀河闘士 首領◇銀河皇帝メドー 【概要】 銀河皇帝メドーを長として、銀河戦艦バルガイヤーに乗り999の惑星を滅ぼした混成エイリアン集団。 1000番目の星に地球を選び、来襲した。 残虐非道な悪の組織だが、作戦がいちいちまどろっこしかったり、逆さまデーなる20年に一度、組織内の上下関係がメドー以外逆転する制度があったりする等、どこかお茶目な仕来りもある。 「ドルエン」という独自の通貨を備えており、単なる一組織に留まらず小さい独立国家の趣もある。 実際に999の星を滅ぼしているという実績や首領の強さ等から、戦隊の中でも最上位クラスの敵組織とよく評される。 20年前、星川家が住んでいたシドン星を襲い壊滅させた上に星の住人であるイーヤ&トーヤの幼い兄妹を殺害し、挙句の果てに両親と子供達が離れ離れになる原因となっている。 故に、星川学たち五兄弟戦士・ファイブマンとは単なる侵略者と地球を守る戦士以上に「父の仇、母の仇、友の仇」という強い因縁がある。 【主な構成員】 艦長 ◇ガロア艦長 演:石川武 バルガイヤー艦長。 剣の腕が立ち、シリアス回とギャグ回で自動車を切り裂いた。右腕からは八角形型のビームを発射する。 なお、ファイブレッドこと学とはシドン星を襲った際、光線銃で顔に傷を付けられるという因縁を持つ。 そして剛剣とも云うべき剣技は一時はファイブレッドを屈しかけさせた程。最終決戦では剣を回転させて突風を起こす大風車剣を披露した。 このような因縁の敵であるライバルキャラ……なのだが、逆さまデーで幹部や銀河闘士にこき使われたり、股間から金の玉を落としたりと視聴率対策のためにギャグキャラ化した。 シュバリエの復帰等もあり雑用係まで転落するが、第44話で偶然発見した艦内に隠されていたエネルギーを突き止めて利用して造り上げた専用ロボ・ビッグガロアンでスーパーファイブロボを撃破した事により、シュバリエと並ぶ地位に返り咲く。 しかし、ギャグキャラ扱いは最後まで変わらず、非常に情けない彼の死に際はある意味伝説。 なんでもOK免許なる意味不明な免許を持っており、どんな乗り物でも乗りこなせる。 ◇初代艦長シュバリエ 演:植村喜八郎 第28話から登場したバルガイヤーの初代艦長にして銀河の英雄である本作一の人気者。 初代艦長として多くの手柄を立て、巨万の富を築き美女を侍らせ隠居していた所、ゾーンが地球攻略に手間取っている事を知って再び前線に加わる。 なお、劇中では一度も「前艦長」と言われないので、ガロアが三代目以後の艦長でシュバリエとガロアの間に1人以上「艦長」就任者がいた可能性あり。 甲斐バンドの『HERO〜ヒーローになるときそれは今〜』をBGMにインパクトのある初登場をし、ドルドラ、ザザに、数美とレミ(一時)まで虜にしただけではなく、視聴者のハートをも掴んだ。 歌声が武器で合体システムを破壊したり、ゴルリン無しで銀河闘士を巨大化させたりと、某ふうせんポケモンの様に歌声を武器にしている。 ファイブレッドと壮絶なチェーンデスマッチを繰り広げ敗北、死亡するが…… ちなみに、演じた植村氏は過去に『超新星フラッシュマン』にて、グリーンフラッシュ/ダイを演じたお方。実際、38話で偽兄弟先生に扮した際にはシュバリエの姿に戻る際にフラッシュマンの変身ポーズの一部(*1)をやる中の人ネタがあった。 彼の登場で低迷していた視聴率が持ち直した事から、ある意味ではシリーズそのものの救世主とも云われているが、真相は定かではない。 しかし、次作『鳥人戦隊ジェットマン』のブラックコンドル/結城凱役の若松俊秀氏がオーディションで彼の台詞を言った程当時のスタッフからは浸透していたのだろう。 その他幹部 ◇銀河剣士ビリオン 演:山下伸二(現・工藤俊作) 剣と酒をこよなく愛するクールな剣士だが、キャラをシュバリエに食われる。 必殺剣・銀河真空斬りを使い、バイクの運転も出来る。また右手から青いビームを発射する。 戦いを好むが、好きなのはあくまで「自分より弱い相手との自分が絶対に勝てる戦い」であり、勝つ為には卑怯な手段も躊躇無く使う。 具体例を挙げれば、ファイブレッドごと下積みだった頃からの相棒を斬ろうとしたり、ミリア星人ソーラを盲目的に惚れさせ利用したりさせた等。 第40話では配下の剣型の銀河闘士サーベルギンとオーバーレイし、サーベルビリオンとなるが、ファイブロボとの一騎打ちで敗北し、元に戻ってしまう。要するに前年のヨロイキリカと同じく1話限りのパワーアップ。 そして最終決戦前半で学を助けた銀河の暴れウルフ・グンサーを殺害し、ファイブレッドとの一騎打ちで様々な卑怯な手段を用いて一時圧倒するものの、 卑怯な手には卑怯な手をファイブテクターを纏った事で返り討ちに遭って敗死。哀れな最期を遂げたメンバーの中で唯一、綺麗な退場を果たした。 ◇銀河博士ドルドラ 演:西初恵 残酷な女科学者。ちなみに独身である。 作戦参謀にして銀河闘士の改造係。指揮棒から黄色い光線を発射する。 前線で作戦の中心を担う事もあり、自分の美貌を利用した作戦で文矢を騙した事もある。 後にシュバリエ艦長にホの字となる。 メドーに深い忠誠を誓っていたが、第46話で真実を知って錯乱し、精神が崩壊した末にザザもろとも合身銀河闘士バラドルギンにされ、スターファイブに倒される。 ◇銀河の牙ザザ 演:渡辺元子 ドルドラによって造られた卵の殻型の装甲を身につけた人造人間。 ドルドラのボディガード的存在で、二振りのナイフを武器に使い、刃からピンク色の光線を発射する事も可能。また、全身をピンク色の液体状に変化させて移動する。 幼い頃に瀕死の重傷を負った際、ドルドラに助けられ、忠誠を誓い過ぎて百合となる。 錯乱したドルドラに最期まで付き従い、共に合身銀河闘士にされたが、彼女だけ名前が省かれたのは不幸っちゃ不幸。バラドルザギンとでも呼べばよかったのに、語呂が悪かったからか……。 レミをライバル視している。 ちなみに彼女は卵から生まれたが(第5話での宇宙卵との会話より)、ドルドラ同様独身らしい。 ◇銀河商人ドンゴロス CV:神山卓三(第4話まで)、加藤治(第5話以降) 自分の損得勘定と金儲けの為だけに生きる強欲な宇宙商人にして、序盤からのギャグ要員。 胡散臭い関西弁を話し、音痴な歌を披露し、手持ちの算盤は算盤爆弾を発射する武器にもなり、第29話ではこれを持ってマグマベースで暴れ回った。 ちなみに鼻水のように見えるものはヒゲである。 ファイブマンの姉妹では妹のレミより、姉の数美の方がお気に入りで、第34話では缶詰にされた彼女を食べようと思った程。 前作でいうかっとび暴魔ズルテン的存在で、最終回まで生き残ったが、崩壊していくバルガイヤー内で金庫からゾーンの財産をくすねようとした事が仇となって逃げ遅れ、ガロアの茶番劇に巻き込まれて死亡。 前半では何故か次回予告のナレーションも担当している。 その他戦力 ◇バツラー兵 「ニワトリ コケコッコー!」 エビやカニの甲羅に質感が似た装甲を纏う戦闘員。 彼らがメインとなった第24話「のろ亀忍者」にて、バツラーとは一つの種族である事が判明した。 その際、彼らの族長バツラギンがファイブマン討伐の為に招かれ、変身能力を叩き込んだが、バツラー一族の中での落ちこぼれであり、仲間達に迫害された際に助けてくれたレミと心を通わせた339(サンサンキュー)号の反乱と犠牲によって、全ておじゃんとなった。 ◇銀河戦隊ギンガマン 8年後の銀河を貫く伝説の刃ではなく、シュバリエにいつの間にか仕えている5人組のエイリアン。 第9話「登場!ギンガマン」で初登場というイメージが強いが、20年前のシドン星襲撃にも参加している。 ファイブマンと同じ配色ではあるが、こちらはピンクもイエローも男である。 作戦の一環として自作自演でゾーンから地球人を救う事で地球人のハートを掴み、ファイブマンから人気を奪ったが、最終話手前でのファイブマンとの最後の決戦で、各カラーと同じファイブマンに全員敗れて戦死。 なんだかんだでシュバリエにくっ付いて終盤まで生き残った辺り、世渡り上手なのかもしれない。 事実シュバリエは気に入っていたようで、ファイブマンにギンガマンが倒され、その際に「シュバリエ様~さよ~なら~!」と別れを告げて各ギンガマンが散った後、ファイブマンに怒りを燃やして黒ゴルリンと共に襲いかかった。 ◇ゴルリン ゴルリーン、〇〇号!! ゴルリンは細胞活性エネルギーを放射吸収する事によって、自らの体を核にして銀河闘士を巨大銀河闘士に再生復活させる事が出来るのだ! 第2話「父の仇!母の仇!」から登場する銀河闘士巨大化の為の、巨大改造エイリアン。 一見デカいスノーマンのように見えるが、これは敢えて狙ったものである。 ①銀河闘士が敗れたのを見届けたゾーン幹部が、「ゴルリン○△(製造番号名で)号!」と呼ぶ。 ②ゴルリンが現れて主に瀕死の銀河闘士を取り込む。 ③ゴルリンが取り込んだ銀河闘士と同じ姿になって巨大化完了。 このシステムの関係上、取り込む銀河闘士が死亡してしまった場合は巨大化させられない。 早い話がコピーロボットを大きくしたものであり、後のコピージャイアントの先輩と言えるかもしれない。 また、登場回に倣って製造番号名で呼ばれる戦隊でも珍しい巨大化要員とも云える。 第14話「可愛いウソツキ」で一度だけ銀河闘士が死亡寸前だった為、焦り過ぎて岩に転んで巨大化に失敗した事がある。 ゴルリンも、走れば岩に躓くか。 おのれ! 人生色々でございます。 ちなみに、転んでしまったゴルリンは脳震盪で死亡したとも云われる(次回ではナンバーが次のになっていたし)。 ゴルリン自体の戦闘力は低いが(*2)、シュバリエは銀河闘士の吸収能力を廃した代わりにファイブロボに匹敵する程の強化改造を施した、黒ゴルリンという専用のゴルリンを持っている。 なお、そのシュバリエはゴルリンを呼ぶ(黒ゴルリンも)際に「カモン!」と付け加えており、それもシュバリエのインパクトを高めたともいえる。 ◇黒ゴルリン 第30話「黒ゴルリン」まんまやんけ……から登場した、文字通り真っ白なゴルリンを真っ黒にして、両肩にミサイルを発射するキャノン砲を装備したシュバリエ専用の戦闘用ゴルリン。 戦闘用に改造された関係で銀河闘士を吸収・同化する能力が失われたものの、その戦闘能力は巨大銀河闘士を大きく凌ぎ、ファイブロボ、スターファイブにも引けを取らない。 キャノン砲の他、2大ロボを凌駕するスピードと(金ちゃん走りでそう見えないが)機敏さ、巨大な鎖付きトゲ鉄球などを用いて戦うが、最終決戦ではスーパーファイブロボのダブルスーパーベクトルパンチに敗れて倒される。 なお、黒ゴルリンが倒されるのと同時にシュバリエもレッドによって倒されるが、これによって真の意味での恐怖と最終決戦が幕を開ける。 ◇放浪剣士クイーンキラー CV:弥永和子 第22話「光る美青年」に登場したエイリアン。 ハチのような姿をしており、右手のフルーレ一本で宇宙を渡り歩く女剣士。 目からは黄色いビームを発射し、口からは鋭い針を放つだけでなく植物のエネルギーを吸うことも可能で、この植物のエキスを食い荒らさないと生きていけない害虫でもある。 ファイブマンたちに手間取るゾーンに見かね、地球を手に入れようと戦いを挑み、一時はファイブピンクを窮地に追い詰める。 しかし、ピンクが助けたゲストのレッドマスク/タケル科学者・結城光司(演:海津亮介)が生みだしたオーラパワーソーラーパワーの水晶のエネルギーによって復活したピンクの猛攻に敗北。 最終的にビリオンの手で強制的にゴルリン18号に吸収され、フルーレ片手に戦うも、ファイブロボの超次元ソードの斬撃で倒された。 ◇銀河獣アンモナイドン 第38話「偽兄弟先生」に登場した銀河の毒貝。 海水を浴びると強力な銀河ペスト菌を吐く性質があり、それに目をつけたシュバリエに操られ、動く細菌兵器として多くの星を滅ぼしてきたが、ある日乗っていたUFOが地球に墜落してしまう。 たまたまそれが神之山分校の地下だったためドンゴロスを除くゾーンの面々は兄弟先生に化けて密かに発掘作業をしていたが、 ファイブブラックとの戦闘で目覚め、バルゴールに乗って海へと向かうも、ファイブテクターを装着したファイブレッドの体当たりで倒された。 ◇ミリア星人ソーラ 演:水野美紀 第39話「愛を下さい」に登場したミリア星人。 かつてビリオンに命を救われた事があり、その後彼を助けるために棒術を習得。棒を振り回して突風を起こす「銀河乱舞」という技を使い、更にカプセルを飲んで怪人ダークソーラに変身する。 ダークソーラになると左手から青い光線を発射可能になるなど戦闘能力が向上するが、本人は「醜い姿」と嫌っている。 ビリオンはファイブマンを倒すための道具としか思っていなかったが……。 演じた女優はかの『踊る大捜査線』シリーズの柏木雪乃でお馴染みの水野美紀氏で、本作がテレビ初出演作である。 保有兵器 ◇バルゴール バルガイヤーの艦載機でもあるゾーンの戦闘機。バツラー兵が操縦する。 円盤状の胴体の上に連装式のビーム砲を備え、地上着陸時には折り畳んでいた6本の脚を伸ばして変形し、回転させて戦車のようになって破壊活動を行う。 単に戦闘するだけではなく、サイラギンの算数の勉強に使われたり銀河闘士を作戦場所へ輸送したりといった事も出来る。 第1話でのファイブマシンとの戦いのSFXは、それまで特撮主流を務めた矢島信男氏から、佛田洋氏へと代わる橋渡しシーンともいえた。 しかし、『ジェットマン』以降はこの場面が見られなくなり、20世紀枠内でのロボのバラメカと敵戦闘機との戦闘シーンは『超力戦隊オーレンジャー』第7話「完成!!超力ロボ」の超力モビルVSタコンパス編隊や、 亜流であり、地上ビークル同士の戦いとなった翌年『激走戦隊カーレンジャー』第5話の「この先激走合体!」でのRVマシンとバリッカーの激突シーンで最後となる。 それまでの戦隊では定番だったこの光景が再び見られるのは、(CG表現だけど)21世紀の『炎神戦隊ゴーオンジャー』まで待たなければならなかった。 ◇ビッグガロアン 第44話「死闘ロボ戦」でシュバリエによって一時は便所掃除にまで格下げされたガロアが、バルガイヤー内のエネルギーエキスを発見。 それをゴルリン36号に注入しパワーアップさせた後に、ブルドーザー、クレーン車、ダンプトラック、パワーショベルといった建設重機を吸収させて生みだしたパソコン通信機能も持つ巨大ロボット。 ガロアを模した頭部で両胸のキャノン砲2門と、左腕のショベルアームなどが武器。 このショベルアームでスーパーファイブロボの必殺技のスーパーベクトルパンチを軽々と受け止め、逆に超強力電流を流してスーパーファイブロボをショートさせたところを、キャノン砲の一撃で破壊し、沈黙させる。 その撃破までの時間は僅か2分59秒99(ドンゴロス計算)しかかからなかった。 だが、乗っていたファイブマンはすんでの所で脱出して難を逃れ、そのファイブマンの基地であるマグマベースをも破壊しようとするが宇宙へと逃亡されて逃げられ、 それに変わって偶然入手したパソコン通信の情報を元に今度はファイブマンの職場だった再建されたニュータウン小学校を標的にしようとする。 しかしファイブマンの挑発を受け、踏みつぶそうと迫った際に、アースカノンの一撃をピンポイントでコクピットにぶち込まれて内部メカにダメージを与えられて弱体化し、最終的にマグマベースの集中砲撃によってどうにか破壊された。 しかし、スーパーファイブロボの頭部と左腕を切断して倒した圧倒的な強さは、当時の子供達のトラウマでもある。 ◇銀河闘士、合身銀河闘士 今作における今週の怪人枠。 中にはゾーンと無関係の小学生もいたり、惑星を滅ぼした猛者もいたりとチラホラ。 首領 ◇銀河皇帝メドー 演:松井千佳 / CV:金野恵子 天に浮かぶ巨大な美女の顔をしているゾーンの支配者。 シュバリエが久しぶりに現れた際に涙した。 終盤には部下の不甲斐無さに対する怒りから、怒髪冠を衝き夜叉の顔へと姿を変えた。 ▷ 彼女が永遠の命を得るためにゾーンは999個の惑星を滅ぼして来たが、その正体は…… 銀河戦艦バルガイヤー CV:加藤精三 銀河皇帝メドーの正体にしてゾーンの真の支配者。 戦艦内部が生物の内臓のようになっているのは単純に戦艦に擬態した超巨大生物であったからである。 第45話「敵基地潜入!」でファイブレッドが戦艦の床にVソードを突き立てて悲鳴を上げた事から正体が発覚した。 第47話「超獣大脱皮!」でシュバリエの死後、数々の生命の血を浴びてきた彼の死のエキスを吸収して脱皮、マックスマグマをも超える巨大な怪物「銀河超獣バルガイヤー」と変貌を遂げる。 バルガイヤー曰く、1000の星を滅ぼした時、神にも等しき力を得るらしい。 最終話「星への旅立ち」で、メドーは嘗てバルガイヤーが愛した末に追いかけ続けた結果不注意で殺してしまったある星の少女であり、その姿を立体映像で見せて巨大な怪物という自身の姿を誤魔化し、幹部達を欺いていた事が明らかとなった。 偶像そのものは第46話「生きていた両親」で消滅したが、幻であるが自分の意思は存在するようで、消滅する際は自分が偶像である事に嘆いていた。 今でも未練タラタラであり、彼女の遺体は体内の隠し部屋に保存し愛でている。 「メドー様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!!」 このメドーの棺が、ガロアの茶番劇にも等しい断末魔に繋がる…… ネタ的に見れば面白いが、ゾーンとは巨大な化け物に欺き続けられた悲しき集団である。 この銀河超獣バルガイヤーは売り上げの悪かったマックスマグマを大破させるが、唯一の弱点はかつて学達5人の両親である星川夫妻が咲かせた辺境惑星シドンの花だった。 このシドンの花は奇跡的にタツヤ少年の家に一株だけ残っていた為、それを持ったスーパーファイブロボ決死の突撃で体内に突入されると大幅に弱体化、そしてガロア、ドンゴロスも巻き込んで、脱出したスーパーファイブロボの最後の決死の体当たりによって倒される。 圧倒的な力を持っている上に倒す手段が非常に限られる事から、歴代戦隊最強ボスの話題になる際には、ほぼ必ずと言っても良い程名前の挙がる常連になっている。 次回も追記・修正しないと損やでぇ♪ △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 斬新な設定で面白い -- 名無しさん (2013-08-11 06 24 38) バルガイヤーの強さはシリーズでも一、二を争うと思う -- 名無しさん (2013-08-11 07 40 46) まさかの敵基地が黒幕 -- 名無しさん (2013-10-28 16 36 23) シリーズ屈指のラスボスも恋した女の子を忘れられないガラスのハートの持ち主 -- (2013-10-30 00 04 28) その後ドルドラは一児の母として生まれ変わってました -- 名無しさん (2013-10-30 00 27 29) 正式名称が「銀帝軍」。銀河帝国軍の略じゃなくてそもそも「銀帝軍」なのね。 -- 名無しさん (2014-04-02 19 12 30) ドルドラとザザの最期は気の毒としか言いようがない。 -- 名無しさん (2014-04-02 19 22 23) ↑4 一応黒十字軍もそうだな -- 名無しさん (2014-05-10 10 28 26) バルガイヤーは今で言うストーカーだろうな、それに巻き込まれた幹部の人々が気の毒。 -- 名無しさん (2014-05-10 11 05 04) バババ バババ バルガイヤー♪ バババ ババババ バルガイヤー♪ -- 名無しさん (2014-05-10 19 11 06) 僕らの銀河超獣 バ・バ・バ・バ・バ・ル・ガ・イ・ヤー♪ ナレーション「これは、1000個の星を滅ぼす為に戦う熱き元カレの」 -- 名無しさん (2014-05-11 01 36 24) 僕らの銀河超獣 バ・バ・バ・バ・バ・ル・ガ・イ・ヤー♪ ナレーション「これは、1000個の星を滅ぼす為に戦う熱き元カレの物語である!!」 -- 名無しさん (2014-05-11 01 37 34) ↑×4 ブラックコンドル「力づくで愛を奪おうなんざ、モテねえ野郎のする事だぜ!」 -- 名無しさん (2014-11-26 23 50 21) 超獣退治ならTACにお任せ!! -- 名無しさん (2014-11-27 11 44 19) 敵の戦艦が黒幕だったんです。本当です!信じて下さい! -- 名無しさん (2014-12-07 22 25 57) ↑ドラえもん「ボクは信じるよwww」 -- 名無しさん (2014-12-08 01 10 31) どうにも こうにも どうにもならない そんな時 ウルトラマンがほしい ウルトラバルガイヤー!!♪ -- 名無しさん (2014-12-08 12 52 25) 聖帝軍「こやつらを見ろ!!バルガイヤーもガロアもメドーへの愛ゆえに侵略者などになったのだ!!愛が奴らを狂わせた!!やはり愛などいらぬ!!」 -- 名無しさん (2014-12-08 20 00 53) ハート・ロイミュード「デッドゾーン!!」 -- 名無しさん (2015-03-12 16 09 22) ゴズマやザンギャックは『既に全宇宙の大部分は征服している』って紹介されてるけど、ゾーンの999個もその大部分に含まれるんですか?そもそも何個侵略したら大部分って言われるんですか? -- 名無しさん (2015-03-16 22 52 31) ゾーン!マキシマムドライブ!! -- 名無しさん (2015-03-17 19 36 11) 後に生きていたドルドラはオーレンジャーで一児の母になったwww -- 名無しさん (2015-06-18 12 47 10) デスガリアンが99個、バラスカンクが100固、ゾーンが999固 何だこの歴然の差は!?www -- 名無しさん (2016-01-26 11 50 04) ↑ゾーンがあまりにも強大すぎたんだよ・・・・兄弟戦隊の敵だけに -- 名無しさん (2016-02-11 20 54 23) ↑10 逃げてブルーザー・ブロディ超逃げて -- 名無しさん (2016-02-11 20 57 06) デスガリアンの99の惑星滅亡とゾーンの999の惑星滅亡がよく言われてるけど、この差はゾーンは「滅ぼす事」が目的で最初から全力で潰しに来るのに対して、デスガリアンは「楽しむ事」が目的でじわじわ殺人ゲームに興じるから出てるのかな? -- 名無しさん (2016-02-22 16 41 14) そもそもの規模というのもあるけど、デスガリアンは一つの星に時間掛けて住民を嬲るから侵略数が少ないんだと思う。どっちがマシか、なんて言えないけど -- 名無しさん (2016-02-22 17 23 48) デスガリアンは単なるチンピラの道楽、ゾーンは喰らい尽くし己の力にする(ゴセイのウォースターもそうだけど)。この差は大きい。 -- 名無しさん (2016-02-26 16 31 17) ↑最終的な目的は1000個の惑星の命を食らったバルガイヤーが宇宙最強の存在になるんだっけ? -- 名無しさん (2016-03-04 23 34 22) ↑そう、で確かそうすると死人を甦らせる能力も使えるようになる。それでメドーを・・・ -- 愛なんかねぇよ (2016-03-22 00 22 23) ビッグガロアン、一度スーパーファイブロボを倒したのにあのやられっぷりは(知名度が低いのもまさかその為?) -- 名無しさん (2016-04-08 13 55 34) メドーの遺体が劣化消滅するシーンは何気に怖かった。 今見れば怖さより寂しさが前に出るな -- 名無しさん (2016-04-27 14 37 17) 心臓だよね?アレ・・・ -- 名無しさん (2020-04-12 21 46 46) 本性は超絶に小物なバルガイヤーだけど、スーパー戦隊最強のラスボス候補にエグゾスと並んで真っ先に挙がる絶望的な強さはインパクト大。弱点も限定的すぎる -- 名無しさん (2020-06-22 09 51 42) ↑ そういやどっちも「星を用いた魔法的なパワーによる絶大なバックアップを得ている」(1000の星の儀式・悪の星座etc)つう共通点があるな あんがい近縁なんじゃねぇか -- 名無しさん (2020-06-22 11 12 08) ↑設定だけなら『チェンジマン』のバズーが究極体になるのかもしれません。バルガイヤーやエグゾスがさらに進化したら惑星型生命体になるのでは。 -- 名無しさん (2020-06-22 11 35 00) 水野美紀が演じたソーラはある意味ジェットマンの先駆けだよね -- 名無しさん (2021-09-14 15 42 33) バルガイヤーにエグゾスにン・マあたりが戦隊最強ラスボストップ3? -- 名無しさん (2021-09-14 15 50 47) ↑ラディガンも入ると思う -- 名無しさん (2021-09-19 14 26 31) ↑ラゲムだったわ -- 名無しさん (2021-10-02 07 09 11) バルガイヤーの弱点はシドンの花と表記されている。それは間違いじゃないがシドンの花に希望を見出した本物のメドーの魂が攻略法を教えてくれなかったら撃破不可能だったので弱点といい攻略法といい限定的すぎる 。 -- 名無しさん (2021-10-11 11 19 54) 世界を恐怖で支配してきたゾーン=バルガイヤーもたった一人の女の愛までは手にすることができなかったというのは何とも皮肉なものか…… -- 名無しさん (2021-10-14 19 48 36) メドー役が曽我町子だったら高視聴率になれたのに! -- 名無しさん (2022-09-19 23 21 30) ↑7 実際脚本が井上さんだったんで試金石的な面はあったろうな -- 名無しさん (2023-05-15 20 10 56) 名前 コメント
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127 :魔法少女マジカルしずか [sage] :2012/06/05(火) 03 43 01.40 ID 2HPc1QEF (2/10) ……マジで気が狂いそうだった。 とにかく痛い。 痛すぎる。 激痛なんて日本語は、まさしくこの瞬間のために生み出されたんじゃないかと思えるほどだ。 具体的には、血が滴る傷口に固形物を無理やり突っ込まれて、さらに上下前後左右にえぐられる感じと言えば少しは想像できるだろうか? あまりに酷すぎる痛みの前には人間は無力になると、どこかの小説で読んだが、どうやらそれは正しかったらしい。 この拷問が始まって最初の数分は、痛さのあまり陸揚げされた魚みたく体をのたうたせることもできたが、今ではもう、腕も足も麻痺したかのように力が入らない。 出来ることと言えば、せいぜい歯を食いしばって、眉間が引きつるほどに目を閉じるくらいだ。 もっとも、見方を変えればこの激痛に助けられてるとも言える。 この非現実的な痛さのおかげで、俺はいま、自分の情況を冷静に認知するという、人間として当然の理性の働きから解放されているとさえ言えるのだから……。 「兄さん、誰が目をつぶっていいと言ったんですか? ちゃんと上目遣いに、あたしを見なさいと“命令”してあったでしょう?」 その声と同時に、傷口をえぐっていた固形物の動きが止まり、俺の髪は強引に引っ張り上げられる。 “あたし”という女言葉がまったく似合わない、変声期を経た男の低音ボイス。 それも当然と言うべきか、俺が瞼を開いて最初に視界に飛び込んできたのは、醜く歪んだ嗤いを浮かべる男の顔だった。 もっとも、この男の名誉のために言っておくと、彼はオカマでもゲイでも同性愛者でもない。 何故それが分かるかと言えば、俺はこいつをこれ以上ないほどよく知っているからだ。 いや……もう取り繕っても仕方が無いので、この際ハッキリ言ってしまおう。 眼前にいる男は「俺」――すなわち世間から俺自身と認識されているはずの存在だった。 俺はいまセックスをしている。 もっともそれは、いわゆる恋のときめきとか愛の営みなどといった情感とは完全に無縁な一方的な性行為――つまり、いわゆる強姦というやつだ。 俺はこの男に押さえつけられ、無理やりにチンコを挿入されている。 ……とだけ言えば、完全にホモによるホモレイプにしか聞こえない情況だが、そうではない。 なぜなら、俺の意識はいま女の――妹の肉体に封じ込められているからだ。 そして、妹の体になった俺の処女膜をレイプしているこの男の名は佐藤明――つまり、早い話が「俺」であり、さらに正確に言えばこいつも「俺」そのものではなく、俺と意識を交換した一歳下の妹――佐藤静香なのだ。 「自分の甘酸っぱい“初体験”の相手をちゃんと見なさいよ兄さん。せっかく女の子にしてあげたんだから、こんな一生に一度のイベントでそんなひどい顔されちゃ、殿方に失礼ってもんでしょ?」 そう言いながら妹――の憑依した「俺」――は、そのまま俺――の憑依した「妹」――の唇に、貪るようなディープキスをした。 それが自分自身のものである事を理解しながらも、初めて飲まされる「男」の唾液の気持ち悪さは、吐き気を催させるに充分なものだったが、これ以上こいつを挑発したくない一心で、俺は懸命に我慢し、その汚液を嚥下した。 128 :魔法少女マジカルしずか [sage] :2012/06/05(火) 03 50 01.15 ID 2HPc1QEF (3/10) 「「「「「「「「「「「「「「「「 俺の妹――静香は確かに“普通”の枠内に収まる女ではなかった。 静香はいわゆる“魔法少女”という存在であったらしく、俺とこいつがいま互いに肉体交換を成立させているのは、もちろん常識的な物理ではなく、静香の非常識な“魔力”とやらのおかげであるらしい。 らしい……というのは、そこら辺の詳細な事情は、こいつの兄である俺も知るところではないからだ。 もちろん俺は、自分の妹が生まれたときからこんな化物じみた超能力を発揮する存在ではなかった事を知っている。 だから、静香がこんなパワーを獲得した過程に関しては、俺は何も知らない。おおかた、どこぞの神か悪魔かフェレットかに貰ったとか、そんなところだろう。 しかし、妹のやつが小学生の頃から玩具めいたステッキを振り回して、近所の爺さん婆さんにお節介を焼いていた事や、クラスメートのトラブルを解決していた事は俺も知ってる。 まあ、こいつがここまでガチの魔法少女だったとは俺も今朝初めて知ったんだが。 もっとも妹が「リリカル~~」さんや「~~マギカ」さんみたく、変身してどっかの誰かとバトルするために魔法少女をやってたんだとしたら、さすがに兄として少しは心配しただろうけど、どうやらそうじゃないらしいという話なので、俺も安心してたんだが。 でも、その、なんだ……そこら辺はどうでもいい。 俺が静香に関して普通じゃないといいたい部分は、そんな“些細”なことではないからだ。 妹が明らかに常軌を逸している最大の点は、俺に向ける異様な情愛だった。 あいつが生まれながらの魔女ではないとさっき言ったが、とはいえ、このブラコン(という言葉で括るには妹の感情はあまりにも攻撃的だったが)に関しても実は、俺はまったく気付いていなかった。 というより、そこまで妹の存在に関心など無かったと言ってもいい。 だから数ヶ月前、こいつから、 「あたし、兄さんが好きなんです」 という、愛の告白めいたカミングアウトを聞かされても、俺としてはどういう顔をしていいかわからず、目をぱちくりさせながら、 「いやいや、何言ってるんだよオマエ、そりゃ人としてダメでしょ?」 と、半笑いで漫才のツッコミめいた拒絶をしてしまい、わんわん号泣されてしまったのだが、しかし当時普通にカノジョさえいた俺からすれば、他にどう答えればよかったのか、今でもわからない。 だからこいつが、その翌日から明らかに俺から距離をとるようになったのも、その方がまあ面倒臭くなくていいかな、とさえ考えていた程なのだ。 そりゃそうだろう。俺にだって気まずさはある。なにしろ俺は、妹をフッてしまった兄なのだから。 事態がおかしくなったのは、その一週間後からだった。 食事の時間にさえリビングに下りてこず、俺を避けていたはずの静香が、その日から全く何事も無かったかのような顔をして俺の前に顔を出すようになった。 それだけではない。 ことさら俺にべたべたとスキンシップを図るようになり、まるで幼児のような無邪気さで俺に甘えるようになった。 俺の登校下校に可能な限り自分も同伴しようとしたり、昼休みに弁当を持って俺の教室に現れたり、夕食時にわざわざ俺のテーブルの隣に座ろうとしたり……等々といった風にだ。 まあ、俺も一度は妹を拒絶してしまった身だ。これ以上こいつの泣き顔を見るのも本意ではなかったし、これでも一応兄貴である以上、人並みに家族愛も兄妹愛も持ち合わせてるつもりだった。 なにより、そんな程度のスキンシップなら、まだ俺としても全然許容範囲だったからだ。 だが……困った事に静香の言動は日増しにエスカレートしていった。 家族として同じ家に住んでいるにもかかわらず、俺の携帯に一日に何十件もメールをよこし、眠れないと言っては夜中に枕を持って俺の部屋に押しかけ、背中を流すといっては俺が入浴中の風呂に乗り込んできたりした。 挙句の果てに、俺のカノジョに嫉妬して暴言やら罵倒やらを吐くようになったとくれば、さすがにもう笑って済ませるわけにもいかない。 129 :魔法少女マジカルしずか [sage] :2012/06/05(火) 03 51 29.23 ID 2HPc1QEF (4/10) で、言っちまったんだよ。 「もういい加減にしようや」 ってさ。 「これ以上はもうシャレにならんぜ静香。どっちにしろ俺とオマエが結ばれるなんて結末は普通に在り得ないんだから、そろそろ前の俺たちに戻ろうや」 で、挙句がとどめの一言だ。 「ぼちぼち気も済んだろ?」 我ながら酷いことを言ったもんだと思う。 さすがに静香はショックを受けた顔をしてたが、それでも俺は発言を撤回する気にはならなかった。 なぜなら俺は何一つ間違った事は言ってないのだから。 あいつが俺の言葉を聞いて何を思ったかはわからない。 でも、多分泣いたんじゃないかとは思う。 多分……というのは、それから静香は自室に閉じこもったきり出てこなかったからだ。 晩飯も食わず、風呂にも入らず、部屋のドアに鍵をかけて、いくら呼びかけてもアイツは返事一つ寄越さなかったのさ。 それが昨日の夜の出来事だ。 で、今朝目が覚めたら、俺は女に――「妹」になってたってわけだ。 」」」」」」」」」」」」」」 驚いたかと訊かれれば、そらそうだと言うしかないが、それでも実は、前後不覚になるほど動揺を覚えていたというわけでもないんだ。 無論それは俺が鋼鉄の精神力を所有していた――などというわけではない。 たまげた――というより、あきらかに在り得なさ過ぎるシチュエーションに現実感が全く沸かず、なにか悪い夢を見てるような感覚しかなかったからだ。 この身を貫く破瓜の激痛も、むしろ現実感の喪失に一役買ってたと言ってもいいだろう。 だから何が言いたいかといえば、つまり、そんな野郎にパジャマのボタンを引きちぎられてベッドに突き飛ばされたとしても、ここにいたのが普段の俺だったなら当然のように反撃したはずだったってことなのさ。 実際DQNやヤンキーを気取るわけじゃないが、そこまで喧嘩と無縁な学生生活を送っているわけじゃない。十代後半の青少年として当たり前の血の気くらいは持ち合わせているつもりだ。 だがまあ……この体が思ったとおり動かないんだわ全く。 今から考えれば、朝イチの起きぬけってのも原因の一つなのかも知れないが、この妹の体ってのが、さっぱり動かねえ。まるで背骨に鉛でも詰まってるみたいだ。ギニュー隊長のボディチェンジよろしく慣れない体じゃ自由に動けないとか、そういう設定なのかも知れん。 まあ、もともと妹は体育会系の部活もやってないし、スポーツが得意だとも聞いてねえ。 むしろ家でポエムでも書いてるのが似合うようなキャラだと思ってたんだが……よくよく考えれば、俺は静香の事を本当に何も知らなかったんだなと心底思い知らされたよ。 (まあ、普段大人しいやつほどキレれば何するかわからんって言うけどさ) そう思いながら目を開ければ、そこには「俺」に覆いかぶさって懸命に腰を振る男がいる。 まあ、てめえの顔と言ったところで、一日数回鏡越しで見る程度の顔だ。付き合いこそ長いが、クラスメートや部活のチームメイトたちと比べても、さほど馴染みがあるツラというわけじゃない。 そんな見慣れぬ男が、必死にエクスタシーをこらえながら腰を使っているザマは、ある種の滑稽ささえ含んでおり、破瓜の激痛に身を晒しているさなかとはいえ、思わず笑えてくる。 (そういや、アイツとはじめてヤった時も、実際に突っ込んで五分と持たなかったっけな) 一応、カノジョ持ちの俺は、年頃の青少年のサガというか……早い話が童貞じゃない。 まあ、海千山千のおっさんというわけでもないので、何百回も経験があるわけじゃないが、それでも性行為に対する自分の肉体の感度も当然わかってる。つまり早い話が……俺は結構早いし、受けに回ると割と弱い。 だから、この眼前の男が(というか、その「中」にいる静香が)かなりの努力を費やしながら、射精をこらえているという想像が、たまらなく俺の笑いのツボを刺激する。 が、俺のその反応は、静香を必要以上に挑発しちまったらしい。 130 :魔法少女マジカルしずか [sage] :2012/06/05(火) 03 53 22.74 ID 2HPc1QEF (5/10) 「なによ、その顔……ッッ!!」 その声と同時に頬が張られた。 「何がおかしいのよ!! そんな人を小馬鹿にしたような顔して……兄さん、自分の立場がまだわからないの!?」 いや、わかんねえって。 こんな意味不明なシチュエーションで、冷静に状況判断なんて出来るわけねえだろ。 俺はどこにでもいる当たり前の高校生なんだぜ? 「つーかよ……俺のツラでその口調で喋るなよ……キモさが一周してもう笑うしかないんだよ……」 その瞬間、俺をレイプし続ける「妹」の顔色が変わった。 どうやら俺はこいつをからかい過ぎたらしい。眼の光が怒りから殺意と呼ぶべきものへと変化を遂げる。 「いい加減にしなさいよ……ッッ!!」 その言葉と同時に、正常位で俺に覆いかぶさっていた「妹」の左手が「俺」の首をガッキとつかみ、頚骨も砕けよとばかりに枕に押さえつけて、「俺」の呼吸とおしゃべりを封じてしまう。 いや、こいつの攻撃はそこで終わらない。 さらに残った右手を握り締めると、その拳を俺の鼻っ柱に叩き込んできやがったのだ。 「ふざけないでよッッ!! ふざけるんじゃないわよッッ!! なんで兄さんはいつもいつもそうやってッッ!! あたしの言うことを真剣にッッ!! 真剣に聞いてくれないのッッ!!」 三発目。 四発目。 五発目。 「兄さんがそんなだからッッ!! 兄さんがいつもいつもそんなだからッッ!! あたしはッッ!! あたしはこうするしかッッ!! こうするしかなかったんじゃないのッッ!!」 六発目。 七発目。 八発目。 「こうなったのは兄さんのせいなんだからねッッ!! 兄さんの自業自得なんだからねッッ!! あたしは悪くないんだからねッッ!! 兄さんが!! あたしの告白を笑った兄さんが全部悪いんだからねッッ!!」 ……まあ「中」にいるのが妹であるとはいえ、客観的な絵で言えば、平均的な体力を持つ男子高校生が、一歳年下の女の細首を押さえつけながら、ガチの下段突きを顔面に入れているのだ。 おそらくあと一分その状態のままだったら、俺は多分死んでいただろう。 状況描写が「死んでいただろう」という推測文なのは、俺は結果的に死ななかったからだ。 九発目のパンチを入れたその瞬間、射精をこらえていた「妹」の集中力が途切れたためだろうか……「俺」の膣内にねじ込まれていたペニスが一気に暴発しやがったのだ。 ――どくん!! どくんっ!! どくんっっ!! 「~~~~~~ッッッッ!!!」 眉間に皺を寄せ、歯を食いしばって懸命にエクスタシーをこらえた「妹」は、その後しばし瞑目していたかと思うと、そのまま「俺」の首を絞め続ける左手もろとも脱力し、荒い呼吸に身を震わせながら「俺」の体に覆いかぶさってきた。 重ね合わせるバスト越しに「妹」の心臓の鼓動が、まるで早鐘のように鳴りまくっているのがわかる。 131 :魔法少女マジカルしずか [sage] :2012/06/05(火) 03 56 01.87 ID 2HPc1QEF (6/10) (よっぽど良かったらしいな) などと冷静に考える余裕が、何故その時の「俺」にあったのか――それはもう、自分でもわからない。 処女膜破れたてのバージンまんこにチンコを突っ込まれて、ピストンされ続ける痛みなどとは全く異質な、直接的な“暴力”によるダメージにさらされ、俺はもう身動き一つ出来ない。 熱いザーメンを中出しされて気持ちよかったかって? それどころじゃねえよ、まったく。 切れた唇や鼻血は当然のこと、歯も何本か折れているだろうし、窒息しかけていた喉や気管も焼け付くように痛む。ぶん殴られた衝撃で脳震盪も起こってたのかもしれない。 が、そのとき俺の頭にあったのは暴力や強姦の痛みではなく(いや、それらの傷も充分痛かったが)たった一つの疑問だった。 ――静香のやつは、俺と肉体を交換した謎パワーを使って、なぜ俺の心を支配しないのか。 ――なぜ静香は、その“魔法”で、俺を自分に惚れさせないのか。 「……そんなことして、何の意味があるのよッッ!!」 その叫びと同時に「俺」の顔面がポッと温かくなり、鼻や唇や口内から痛みがみるみる消えていく。 重い瞼をむりやり開くと、「俺」に手をかざしてピンク色の魔力光を浴びせている「妹」が見える。 これはアレか、ホイミかべホイミか。 「魔法で好きになってもらっても!! 魔法でむりやり好きになってもらっても!! そんなの意味ないじゃないッッ!!」 おいおい、待て待て。 「だからあたしは……だからあたしは、兄さんの心にまでは手を出さないッッ!! 魔法で愛してもらっても、それはあたしにとっても兄さんにとっても――いや、あたしの魔力自体に対しても侮辱でしかないからッッ!! だから断じてそんな事はしないッッ!!」 いや、だからちょっと待てって静香……心には手を出さないとか何かいい台詞っぽく言ってるけど、それでお前が今やってるこの肉体交換の上のレイプって行為が、少しでも正当化できるとでも……。 「でもね……!!」 「妹」の口元がニヤリと歪んだ。 10発近くぶん殴られた顔の傷は、もうほとんど痛みを主張しない。口の中でカラカラ言ってた折れた奥歯もいつのまにか治っていたようだ。どうやら奴のホイミの威力は本物のようだ。 まあ、元をただせばこの顔は「妹」にとっては自分の顔なのだ。明日以降の日常生活に支障が出るような痕をそのままにしておくはずも無いだろう。 だが、こいつがホイミで回復させたのは、あくまで殴打の傷だけだ。 処女をぶち抜かれた内臓を引き裂かれたような激痛に関しては、まったく放置のままだ。 「兄さんにはあくまで、もっともとっと苦しんでもらいます。これからの日常は、今日の処女喪失なんて比較にならないくらい辛くて痛くて恥ずかしい目に遭ってもらいます。その上で兄さんを、あたしに惚れさせてみせます!」 「へ……?」 「兄さんを犯して犯して犯しぬいて、あたしなしでは生きていけない体にしてあげます!!」 妹が兄に告げるにはあまりにも異様な宣言ではあるが、しかし現に俺は、今やこいつに手も足も出ない。おそらく静香がその気になれば、ただの人間に過ぎない兄など、死体さえ残さず消し去る事も造作も無いのだろう。 「…………そっか」 132 :魔法少女マジカルしずか [sage] :2012/06/05(火) 03 59 11.20 ID 2HPc1QEF (7/10) かすれた声で俺も答える。 ならば、俺にできる事なぞ知れている。 せめて兄としての余裕を気取って苦笑を浮かべながら、気の利いた言葉の一つでも返してやるくらいか。 というより、この状況においてもなお、俺はこの「妹」に一分の恐怖も抱いていなかったのだ。 理由を訊かれれば、やはり静香に対する兄としての信頼があるとしか言いようが無い。 どれほど怒り狂っていようが、やはりこいつが俺に対して、取り返しのつかない真似をするはずが無いという、「家族の絆」とでも呼ぶべき無言の確信があるからだ。現にさっきの撲殺未遂のときも、最後の一線を越える寸前でこいつは俺を解放したじゃないか。 それに何より……俺には、こいつにどんな目に遭わされても仕方の無い理由がある。 俺はこいつを泣かせてしまったのだ。 静香に女性としての魅力を感じていたかと訊かれれば、真顔で俺は首を横に振るしかないだろう。だが、それでも兄として、妹を傷つけた男を許すわけには行かない。たとえそれが「俺自身」だとしてもだ。 だからこそ、安易に許されたいなどと思えるわけが無かったのだ。 「いいぜ……存分にやれよ……それでお前の気が済むならな……」 「妹」の目が、一瞬何かに射抜かれたように動揺する。 だが、さっきの会話で理解したが、こいつは魔法で俺の思考を読める。 俺の本音が静香への贖罪だと瞬時に知った妹は、さらに怒りに口元を歪ませると、 「上等よ……じゃあ思う存分好きにさせてもらうわ……!!」 と呟き、いまだ血まみれまんこに挿入しっぱなしになっているチンコをさらに激しく動かし始める。 (ぐうッッ!!) 再開された激痛に俺は思わず目を閉じ、歯を食いしばる。 いや、それだけではない。 「妹」は、ふたたび掌にピンク色の魔力光を溜め、「俺」の下腹部にそれを押し当てる。 その瞬間だった――。 「ひゃあああああああッッッ!!! なっ、なにこれ……ひぎいいいいいいいいッッ!!!」 下半身から俺の全身に向けて発信されていた激痛が、突如その姿を変えたのだ。 そう、男として知るセックス――射精感の数倍、いや数十倍のエクスタシーが、俺の全身をまるで嵐のように蹂躙し、翻弄したのだ。 生傷を木刀で直接えぐりまわされるような痛覚が、その瞬間に俺自身も未経験の膨大な快感に変換されたのだ。それこそ俺の理性などひとたまりも無かったと言うべきだろう。 「はひっっ!! はあああああああっっっ!!!」 あえぎ声など叫ぶ余裕も無い。「俺」の口から出るのはまさしく悲鳴だった。 もしも今この瞬間、この家の前を通りすがった通行人がいたなら、最悪の場合警察に通報されていたかも知れなかった。俺の声はまさしく理性をなくした者にしか出せない叫びのはずだったからだ。 『どう兄さん? いま兄さんが味わっているのが、いわゆる“女の悦び”というやつよ』 駄々をこねる幼児のように首を振り、息の続く限りわめき散らしてエクスタシーの海で溺れ続ける俺の脳髄に、静香の囁き声がダイレクトに届いてくる。 これもおそらく妹の魔法のなせる業なのだろうが、むろん俺に返事をする余裕などあろうはずがない。 『兄さんが泣いて許しを請うまで痛い目にあわせてやろうと思ってたけど……気が変わったわ。そんな単純な痛みなんかで許してあげない』 そうテレパシー(?)で俺に宣告しながら、「妹」はさらに深くチンコを突き立て、二度目の射精を容赦なく子宮にぶち込む。 133 :魔法少女マジカルしずか [sage] :2012/06/05(火) 04 01 01.16 ID 2HPc1QEF (8/10) その一撃――というより、まんこ深くに直接ぶち込まれた熱い生ザーメンの感触によって、これまでに倍する快感が俺の意識を襲い、とどめを刺す。 (これがいわゆる“絶頂”ってやつか) (中出しが気持ちいいってのは結構マジなんだな) ……などと考える余裕は、今度こそ無かった。 「~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!」 もはや声すら出せず、口や瞼を閉じる事さえできずに涙やよだれを撒き散らしながら「俺」はエビのようにのけぞり返る。 『発狂寸前になるまで追い込んであげる。痛みの何十倍もの気持ちよさでね!!』 その声とともに、俺は意識を失った……。 「「「「「「「「「「「「「「「「「 口から泡を吹き、マラリヤ患者のように痙攣しながら失神した「兄」……いや、自分の肉体を見下ろしながら、あたしはそこで始めて血まみれのペニスを引き抜いた。 その途端、どろり――という形容詞が意図せず浮かぶほどの様々な液体が、あそこからこぼれ落ちる。その光景……というより、その大量の体液が発する臭気に、さすがの私も顔をしかめざるを得ない。 赤いのは初体験での出血として、白いのは二度の射精で排出された精液や、おそらく本気汁というやつであろうか。そして黄色いのはやはり尿なのだろう。気持ちよすぎると失神と同時に失禁してしまうことは珍しくないとレディースコミックに描いてあった通りだ。 魔法で多少は快感を増幅したとはいえ、ここまで自分の肉体が敏感だったとは、さすがに自分のことながら驚かずにはいられない。 でも……、 (あたしと兄さんの体が、こんなに相性がよかったなんて) そう思うと、あたしの心が何か暖かいもので満たされていく。 「$%&’>?”#」 脱ぎ捨てた服からステッキを取り出し、呪文を唱える。 立ちくらみのように目の前が真っ暗になり、次の瞬間、あたしは尻餅をついていた。 (肉体交換って初めて試してみたけど……結構くらくらするんだ) 目を開けてみてみると、元の姿に戻った兄さんは相変わらずベッドの上で失神したままだし、あたしの股間は、それはもうスゴイ事になってる。 なにより、さっき兄さんを失神させたアクメの余韻が、まだ体の芯に残ってる。意識の入れ替わりでそれも大分リセットされたはずだけど、それでもまだ足元がおぼつかないくらいだ。 (はやくシャワーを浴びよう……) そう思って引き出しから新しいショーツを取り出し、お風呂場に向かう。すでに全裸になってしまっていることだし、むしろ早く熱いお湯を浴びないとこのままじゃ風邪を引いちゃうかも知れない。 134 :魔法少女マジカルしずか [sage] :2012/06/05(火) 04 03 22.38 ID 2HPc1QEF (9/10) 股間から溢れるジュースはまだまだ止まらない。 振り返って見てみると、廊下に点々とこぼれた水滴みたいに光ってるのがわかる。 途端に恥ずかしさが溢れて、あたしはステッキを振って雑巾を出し、急いでそれらを拭き取る。 『!”#$%&’(?』 ステッキに搭載された人格AIのレイジューノ君が、魔法で蒸発させればいいじゃないかと念話で言ってくるけど、あたしは無言で首を振る。 この魔法というパワーはあまりにも便利すぎて、使い慣れすぎると日常にちょっと思わぬ支障が出そうなので、あたしはなるべく使わないようにしてるのだ。 もっとも、兄さん相手にこんな使い方ができるなんて、昨日までは思いつきもしなかったのだけど。 (兄さん……) いかんいかん、兄さんのことなんか思い出したら、とてもじゃないけど終わらない。雑巾がけをしながら水をこぼして回ってるみたいな状況になっちゃう。 あたしは構わず浴室に飛び込んでシャワーの蛇口をひねり、熱いお湯を頭から浴びた。 わかってる。 なんで興奮が収まらないのか。 これからのことを思わずにはいられないからだ。 魔法を使うなら、出来るプレイの選択肢はそれこそ無限だ。 二人とも透明人間になって授業中の教室でだって本番ができるし、審議中の国会や公演中のコンサートホールとか、リビングで夕食中の両親の前でだってできる。 あたしのクリをペニスサイズに巨大化させて兄さんのアナルに挿入することだってできるし……いやいや、兄さんの体を人形サイズに縮めて、一日中あそこにバイブレーター代わりに入れっぱなしにすることだってできる。 それこそ、どんな不可能なプレイだって無茶苦茶なプレイだって思いのままだ。なんといっても、あたしは“魔法少女”なのだから。 でも、魔法を使ってあたしを愛させるっていうのだけはNGだ。 そんなことで簡単に終わらせてなんてあげない。 兄さんが心からあたしを愛するようになるまでは、徹底的にやってやる。 その結果、兄さんがどうなったとしても許してなんかあげない。ストレスで心が壊れたら治せばいいし、自殺したとしてもすぐに生き返らせるだけの話だ。 (そうだ……どうせなら、兄さんをもっともっと追い込んでみよう) (兄さんの友達を全員洗脳しよう、みんなが兄さんに嫌うように) (いや、どうせなら兄さんを女にして、その友達全員にマワさせるっていうのもアリかな) (どっちにしろ兄さんのカノジョには、一番ひどいやり方で兄さんを裏切ってもらわないとね) べとべとだった体はとっくの昔にシャワーで洗い流されていたけど、考え始めたら、もう止まらない。 あたしの興奮は、どうやら当分収まる事は無さそうだ……。
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「また会ったな。科学で無知な少年。」 その一声と共に、不倶戴天の敵である尼乃昂焚は姿を現した。 あまりにも予想以上に斜め上の出来事に神谷稜は口に含んでいたジュースを彼に吹きかけた。 「昨日のリベンジをするのは別に構わないが、人にジュースを拭きかけてしまったら、まず言うことがあるだろ?」 「バラの香りがする豆乳しゃぶしゃぶコーラよりはマシじゃねえか。」 稜は片手に1本の閃光真剣を出す。今、昂焚はハンカチで顔を拭っている。完全に無防備であり、絶好のチャンスだった。すぐ目の前であることもあって、彼が気付いて回避する前に閃光真剣で斬ることが出来る距離だ。 しかし、稜は閃光真剣を振らない。 「そのプラズマブレードを振らないのは・・・都牟刈大刀の自動防御の方が早いと判断したのか。だとしたら、良い判断だ。あの戦いだけでそこまで見極められるなら、それなりに場数を踏んでいるとみた。」 昂焚が言っていることは全て当たっていた。閃光真剣がプラズマであることも、稜が閃光真剣を振らない理由も、何もかもお見通しだった。 「それに―――――」 昂焚が稜の腹部を軽く小突く。稜はグフッ!と声を出し、痛そうに腹を抱えてその場に蹲る。 「昨日の戦闘の傷はまだ完治していないみたいだな。これではろくに戦えまい。」 (それでもこうして出歩ける程度まで回復させるから、学園都市の医療技術は恐ろしいな。ニコライが欲しがるのもよく分かる。) 蹲る稜を昂焚は再び見下す。哀れみもある、だがそれ以上に静かな怒りが感じられる。 突如、稜の閃光真剣が屈折しながら伸長し、昂焚の頬を掠める。プラズマ、電荷、電磁波、電場などを精密に計算しなければ自分を殺しかねない非常に高度な攻撃だ。 (ちっ・・・外したか・・・。) 正確には外したわけではない。都牟刈大刀の枝の一つが布を突き破って現れ、剣から発生した電撃によって計算を狂わせ、閃光真剣をずらしたのだ。 「これは驚いたな。随分と面白い隠し玉があたのものだ。」 昂焚は一切回避しようとせず、絶対的な余裕を以って稜を圧倒する。戦闘力もそうだが、精神的な余裕の差も2人には大きかった。昨日の戦いの身体的ダメージと都牟刈大刀が与える恐怖が稜を鈍らせた。 「まぁ、攻撃するからにはその対策を講じさせてもらうがな。」 都牟刈大刀の枝がもう1本現れ、稜の掌に刃を突き刺した。貫通するほどではないが、深々と突き刺さった刃に肉を抉られ、血が流れる。稜はその痛みに悲鳴を上げたかったが、あまりの痛さに声にすらならなかった。 「諦めろ。少年。お前にだって家族や愛する人がいるだろ?次は手加減するつもりは無い。」 「ふざ・・・けんな。諦められるかよ・・・。」 両の掌と腹部の痛みに耐えながらも稜が立ち上がる。満身創痍というほどではないが、身体的ダメージはあるはずだ。稜に警戒し、都牟刈大刀の刃が稜の首元に刃先を向ける。しかし、それに一切動じることはない。その姿は溢れ出る力と勇気を感じさせる。 「お前の信じる正義は・・・そうまでする価値があるものなのか?」 「“己の信念に従い正しいと感じた行動をすべし”」 「・・・・」 「俺は風紀委員だ。俺の信念に従い、俺が正しいと信じたもののために行動する。お前は学園都市のルールを破った。俺の仲間を傷つけた。“俺たち”が信じる正義を否定した!俺がお前を追う理由なんて、それで十分だ!」 「なるほど・・・やはり、君に対する認識は間違っていなかった。」 昂焚は稜の腹部を膝蹴りし、怯んだ隙に彼の髪を掴み、彼の後頭部を背後の壁に打ちつける。 「つまらなくて――――― 頭から血を流し、倒れた稜に追い討ちをかけるように昂焚は彼を足蹴りし続ける。 「無知蒙昧で――――― 憎悪に満ちた表情を浮かべながら、彼の傷ついた手を踏み付け、頭を踏み付け、徹底的に稜に屈辱を与えた。 「見ていると吐き気がする。嫌悪感の塊のような存在だ。」 昂焚は、辛辣で憎悪に満ちた言葉を浴びせかけながら、このまま殺す勢いで稜に無慈悲な暴力を振るい続けた。普段の飄々とした姿など跡形も無い。今、尼乃昂焚という男を善か悪かで判断するのであれば、彼は確実に“悪”だった。 「て・・・・め・・・え・・・」 脳震盪を起こし、朦朧としたまま稜は立ちはだかる昂焚の足に手を伸ばす。しかし、決して届く事は無く、稜は意識を失った。 「随分と彼には辛く当たるのだな。」 稜の元から立ち去ろうとする昂焚の前に双鴉道化が姿を現した。ワイヤーに吊るされているかのように上空からゆっくりと地上に降り立つ。 「覗き見とは趣味が悪いな。いつから見ていたんだ?」 「最初からだ。」 ふふんと双鴉道化は鼻で笑うと、昂焚を通り抜けて稜の前に立つ。 「あれほどまでに感情を露にする君を見たのは初めてだよ。この少年はそんなに君の気に障ることを言ったのか?私には分からなったが・・・」 双鴉道化の問いかけに昂焚は黙秘し、彼から眼を逸らす。答えたくないという意思が表情と態度から読み取れる。その様は反抗期の子どものようだ。黙秘し、相手を困らせることで自分の我が儘を押し通そうとしている。 「黙秘か・・・。まぁ、良いだろう。人間、例え親友でも話したくないことの一つや二つある。だが、君に対する認識は少し変えなければならないようだ。」 双鴉道化は仮面の奥にある眼で気絶している稜の顔を凝視する。 「それにしても、この少年に興味が湧いて来た。」 「は?」 「ポーカーフェイス・・・とまでは言わないが、あまり本心を表に出さない君がここまで憎悪を露にした相手だ。彼の何が君をそうさせたのか、実に興味深い。しばらく、彼を私の管轄下に置いても構わないかい?」 「俺に許可を取ってどうする?それに強欲なる者の頭領なんだろ?許可なんて気にせず、好きなようにすればいい。」 「ふふっ・・・それもそうだな。」 そう言うと、双鴉道化のマントが変形し、巨大な3本指の巨大な腕、いや、鴉の脚のような形状になる。変形したマントが意識を失った稜を鷲掴みした。 「親友として、スポンサーとして、天地開闢計画の成功を祈る。」 そう言い放ち、双鴉道化と神谷稜は大量の黒い羽根に包まれながら消えて行った。 * * * 新作アニメ試写会&姫野七色ライブ 開始まであと2時間 完全屋内のライブ設備を持つオービタルホール。円形のドームの様な構造の建物だ。 日が暮れ始め、太陽が完全に沈みかける黄昏。メインゲートは既に開き、そこにあった長蛇の列はゾロゾロと中に入った。イベントの開始まではまだまだ時間があり、席も指定されているので座席争奪戦をする必要は無い。 オービタルホールの周囲には既に警備スタッフが立ち並び、駐車場のゲートにも既にスタッフが警備に当たっていた。 1台のワゴンと後続のバイク集団が駐車場のゲートに訪れる。 「すみません。ここは関係者専用の駐車場です。パスの提示をお願いします。」 警備服を着た警備スタッフの一人がワゴンの運転席の近くへと向かう。ワゴンの窓が開き、中から大学生ぐらいの男が現れる。 「クラヴマガ警備の学生スタッフです。」 男はそう言って、パスを出した。警備スタッフはそれを受け取ると、スキャナーのレーザーをパスに当ててパスをスキャンする。スキャナーの画面にはどこの所属でどこを担当するのかが表示される。 「あ・・・。申し訳ありませんが、警備の方に急遽変更がありまして、このパスはお通しすることが出来ません。」 運転手の男はふっと笑うと、後部座席の方を振り向いた。 「そうだとよ。お嬢さん。どうする?」 後部座席にいたのは軍隊蟻のメンバー樫閑恋嬢と他数名のメンバー達だった。 「おかしいわね・・・。」 すると、樫閑のスマホに連絡が入る。相手はクラヴマガ警備の部長、軍隊蟻を警備に無理矢理ねじ込んだ張本人だ。 「私よ。」 『突然のことで悪いですねぇ。パス使えないでしょう?』 「ええ。これはどういうことかしら?」 樫閑は少し怒り気味の口調で応対する。 『まぁまぁ、怒らずに聞いてください。あなたからの例の電話があった後、警備員がウチにやって来てね。客の中に指名手配中の逃亡犯がいるって、イベントと警備の全てを睨まれている状態なんだよぉ。そこに前科持ちで武装疑惑のあるスキルアウトを組み込んだら・・・』 「獅子の檻に頭を突っ込む羊ってわけね。」 『はい。そういうことなので・・・・』 「ありがとう。お金はそのまま受け取っていいわよ。今後とも御贔屓に。」 そう言って、樫閑は通話を切った。 「で?どうなったんスか?お嬢。」 樫閑の隣に座る迫華が訊いて来た。 「逃走中の犯人が客に紛れ込んで、会場は警備員の巣窟になっているそうよ。」 「マジすか!?私らヤバいんじゃないすか?」 「まぁ、今回は武装を会場内に持ち込むわけじゃないから、『即☆逮☆捕☆』なんてことは無いでしょうけど、問題は私たちが飛び入り参加ってこと。中に入り込んだ逃走犯を外部へ逃がす手助けをすると疑われる可能性があるわ。」 「で、どうするんだ?」 助手席に座っていた狼棺が樫閑の方に振り向く。 「仕方ないけど、会場入りはナシ。会場の外側、第六学区と他の学区を繋ぐ交通機関とこの学区の宿泊施設を押さえるわ。見張るだけなら許可なんて要らないでしょ?」 「でもこの人数じゃ足りねぇんじゃねえか?」 「一応、来れるメンバーを集めてみるわ。―――――ってことで、色々と尼乃さんを見つけ辛くなったわ。」 樫閑は後方を振り返り、三列目のシートに座るユマと智暁の方を見る。 ユマは黙り込んだまま、顎に手を当てて何かを考えていた。その仕草は高等な教育を受けた者のように感じられ、彼女がかつての恩人から受けた教育・教養の高さがうかがえる。 「昂焚は絶対に中に居る。」 「でしょうね。とにかくここで張り込むしか無いわ。寒いけど、みんな我慢してちょうだい。」 ワゴンとバイク集団は関係者駐車場を離れると、一般駐車場に車を停めた。そして、ホールを囲むように最初に選定された12人のメンバーが配置に付いた。 * * * オービタルホール 警備スタッフ室 そこそこの広さを持つ警備スタッフ室、壁の一面には大量の監視カメラの画面が配置され、監視スタッフがまじまじと画面を見つめている。数人の警備スタッフが椅子に座って休憩を取り、その部屋の端の方でスーツ姿の中年男性が携帯電話で小声で通話していた。周囲の目を気にしながらこそこそとして怪しかった。 「そこに前科持ちで武装疑惑のあるスキルアウトを組み込んだら・・・はい。そういうことなので・・・」 中年男性は通話を切った。 「どなたとお電話ですかな?」 背後から突然声をかけられ、男は「ヒッ!」と似合わない悲鳴を上げる。男が振り向くと、そこにはオールバックの金髪にサングラス、黒い堅実なスーツを着た男が立っていた。その容姿は持蒲鋭盛と瓜二つ・・・と言うより、持蒲鋭盛本人が変装した姿だ。 「か、蒲田さんですか。驚かせないで下さいよ。」 「で、どなたと電話ですか?」 「アルバイトの学生です。指示通り、学生の警備スタッフは退却させました。」 「分かりました。では、今からの警備は我々、警備員対テロ部隊“ATT(Anti Terrorism Tactics)”に一任、クラヴマガ社は我々のサポートに廻って下さい。」 「わ、分かりました。」 蒲田こと持蒲が連れてきたATT。存在するが誰も見たことの無い幽霊部署であり、これは死人部隊が警備員として活動する際に用いる部署の名前である。 持蒲がATTに扮する死人部隊とクラヴマガ社の警備スタッフに指示を出し、警備状況とセキリュティの確認、テロが発生した場合の誘導などの手順を確認する。綿密に何度もそれを繰り返し、1時間以上続いた。 すると持蒲のスーツの胸ポケットが小刻みに震える。 「少し失礼する。」 持蒲が警備室から出て行き、通路に誰もいないことを確認して電話に出る。 「俺だ。」 『持蒲さん。今良かと?』 電話の相手は星嶋だった。 「ああ。構わない。」 『とりあえず、メルトダウナーは出せる状態にしたばい。他の駆動鎧は今も整備中。』 「ああ。メルトダウナーだけでも出せると助かる。他の駆動鎧の整備は死人部隊に任せて、お前は待機。出撃直前まで身体を休めておけ。」 『分かった。あと、岬原は会話できる程度までには回復したばい。』 「そうか・・・。後は、上条当麻の生存が確認できる情報でもあれば良いんだがな。」 すると、壁の向こう側、ホールのメインステージの方から観客たちの拍手と歓声が漏れて聞こえ出す。 「そろそろ時間だ。」 『分かったばい。』 持蒲は通話を切ると、再び警備スタッフ室に戻ってきた。 「ついに・・・始まったな。」 * * * メインステージの方では壇上に主演を務める姫野と他2人の声優、監督とプロデューサーがパイプ椅子に座り、アニメに関するエピソードや収録秘話などを語る。 「そういえば、静香さん収録中に突然、姫ちゃんのおっぱい揉みしだいたらしいですね。俺、その現場にはいませんでしたけど。」 「だって、そこにおっぱいがあるなら揉むしかないじゃない!」 「いやいや、女の子同士でもそれはいけないでしょ。」 「揉まれた時、『これって拒否するべきなのかな・・・でも相手はベテランの方ですし・・・』ってちょっと迷っちゃったんですよね。」 「いやいや、そこは拒否するべきだよ君ぃ。静香くんは常習犯だからね。」 「この前、酔った勢いで僕にドロップキックをかましてましたよね。」 「監督とプロデューサーまで酷い!1日1揉みはちゃんと守ってますよ!」 「毎日やってるんかい!」 「出たー!ツッコミ役に定評のある浩志くんの生ツッコミー!」 「まさか、今日もこのステージで揉むつもりじゃないでしょうねぇ?」 「そこは大丈夫!もう楽屋で思う存分揉んだから!」 男女のベテラン声優と姫野、監督とプロデューサーの軽快なトークにHAHAHA!と笑いが溢れる。ほぼ満席の観客から出て来る笑いと拍手は壮大なものだ。 一般人の中に上手く紛れ込み、尼乃昂焚もトークショーを楽しんでいた。すると、ショーの途中に入場し、彼の隣の空席に一人の男性が座りこんだ。 金髪金目でシャツとスラックスを優雅に着こなしており、イギリス紳士のテンプレートを絵に描いたような優男だ。 「やっと来たか。ショーはもう始まっているぞ。ディアス=マクスター。」 「ついさっきまで計画の準備をしていたのだ。言い出しっぺのお前が呑気に学園都市観光をしている間、我々は通常、1ヶ月かかるであろう工程を2日で済ませたのだ。労いの言葉ぐらいは欲しいものだ。」 「ご苦労様。」 そう言うと、昂焚はディアスに1枚のメモ紙を差し出した。ディアスはそれが何かすぐに理解し、それを受け取ると握ったままポケットに手を突っ込んだ。 『言っておくが、その1ヶ月かかる工程を2日で済ませるための下準備を数年にわたって俺は続けていたがな。学園都市とその周囲の土地の地脈・龍脈、世界の力の流れの向きを観測し、尚且つ土地の建設・開発計画によって生じる流れの“狂い”を計算に入れなければならない。その上、これらの流れの予測方法には――――』 ディアスの頭の中に昂焚の声が直接流れ込んでくる。超能力者で言うテレパシーのようなものだ。これも初歩的な魔術の一種であり、昂焚が渡した紙をディアスが触れ続けることで互いの意思を声に出さずに伝達することが出来る。声を出さなくていい為、会話内容を誰かに聞かれることも読唇術で読まれることも無い。また、騒がしい場所でも滞りなく意思伝達できるメリットがある。 『開口一番(?)で超高度な魔術理論を展開させるな。頭がどうにかなりそうだ。』 『そんなに難しかったか?』 『並の魔術師なら発狂している。私でも理解するのがやっとだ。そもそも、貴様と双鴉道化の魔術の知識量が異常なのだ。貴様はあらゆる宗教の魔術に手を広げる日系魔術師、片や双鴉道化は強欲鴉魔《マモン》によるコピーだ。』 コピーをして、それを扱うということはコピーした対象を“どのようにして扱うか”を理解する必要がある。魔術ならばなおさらの話である。 『まぁ、俺も今の双鴉道化も同じ人から魔術を教えてもらったからな。』 昂焚の口からさらりと日常会話の様に驚愕の事実が放たれる。双鴉道化の素性はイルミナティの中では最上級の極秘事項であり、年齢も性別も誰も知らず、尼乃昂焚のみがその素性を知ると言われている。 そして、ディアスは尼乃がうっかり(それとも意図的に?)言ってしまった極秘情報を聞き逃さなかった。 (尼乃昂焚と双鴉道化の共通点・・・こいつの過去を探れば、もしかしたら・・・) 『ちなみに俺の過去を探っても無意味であることを付記しておく。』 (だろうな・・・。) 『ところで、天地開闢計画の準備はどこまで出来た?』 『ほとんど完成している。後は最終工程だけだ。リーリヤに至っては昨日の内に済ませたらしい。流石は元殲滅白書と言ったところか。』 『なるほど・・・。ご苦労。最終工程は俺がやる。後はこの学園都市で好きにすればいい。』 『言われずともそうさせて貰う。』 そう言って、ディアスは昂焚から渡された紙をポケットから出し、差し出された昂焚の手に置こうとする。 『―――と言いたいところだが、』と言ったと同時に昂焚の手の直前で紙を止め、再び自分のポケットに戻した。 『丸々2日も作業させられたのだ。我々にも天地開闢計画の全容を知る権利がある。』 『じゃあ、ここは魔術師らしく、作業工程から想像してみてはどうかな?』 不敵に笑みを浮かべる昂焚、ここ最近、彼の感情が顔に出ることが多くなったように思える。 ディアスは今までの作業工程、場所、わざわざ学園都市で行う理由、学園都市の外壁に書かされた隠匿魔法陣の宗派などを思い出し、自分なりの答えを導き出す。 (まず作業工程と魔法陣、あれらは錬金術の流れを汲んでいるのは間違いない。彼がひたすらローズと会っていたのもそのためだろう。彼女は優秀な錬金術師だからな。そして、“全ての強欲に終止符を打つ計画”これが重要なワードだ。強欲に終止符を打つということは、強欲が満たされる・・・何もかもが自分の思い通りになるということ。) そして、ディアスは気付いた。わざわざ学園都市を術式の場に選んだ理由はまだ分からなかったが、この都市と所縁のある錬金術が存在する。 『お前・・・まさか黄金錬成《アルス=マグナ》を再現するつもりか?』 黄金錬成《アルス=マグナ》 世界の全てを呪文と化し、それを詠唱完了することで行使可能となる錬金術の到達点。それを実現すれば、神や悪魔を含む『世界の全て』を己の手足として使役する事ができる。世界の完全なるシミュレーションを頭の中に構築することで、逆に頭の中で思い描いたものを現実に引っ張り出す魔術。端的に言えば、自分の思ったことは何でもかんでも現実にする魔術だ。 元ローマ正教の隠秘記録官《カンセラリウス》のアウレオルス=イザードが完成させ、この学園都市で行使したとされている。しかし、現在、アウレオルス=イザードは行方不明になっており、死亡したとも噂されている。そのため、黄金錬成の実現は再び膨大な時間をかける必要がある。 『全然。はずれだな。黄金錬成なんて無理無理。発動に何百年かかると思ってるんだ?その“途中過程”を利用する術式であることに間違いは無いんだけどな。』 『途中過程だと?』 『ああ。錬金術の―――――おっと、そろそろアニメ1話の試写会が始まるから、続きはライブが終わってからな。』 『おい。ふざけたことを言って―――――ブチン 回線の切れる様な音と共にディアスのポケットに入っていた紙はバラバラに千切れて自壊した。ディアスは昂焚を睨みつけるが、そんなことを気にせずに昂焚は新作アニメに釘づけだった。 * * * オービタルホールから少し離れたホテルの一室。豪華絢爛をそのまま体現したルームで双鴉道化はソファーに踏ん反り返り、目の前の戦利品を眺めていた。椅子に固定され、手錠を掛けられた神谷稜の姿だ。彼の椅子を中心として何かしらの術式が張られていた。 「さて、そろそろ起きたらどうかね?」 双鴉道化が指をパチンと鳴らすと、催眠術が解けたかのように稜が眼を覚ます。 「ん・・・あっ!クソ!待ちやが――――って、ここはどこだ?俺になにをするつもりだ?そんで、あんたは誰だ?」 意外と冷静に周囲の状況を把握し、稜は双鴉道化に問いかける。 「熱血漢だと思っていたが、意外と冷静なんだね。あと、手錠を壊そうとしたら君の身体が爆発するから気を付けるように。」 (身体が・・・爆発?) 別に身体にダイナマイトが括り付けられているわけではない。だが、目の前にいる不気味な人物の言葉は異様にそれを信じさせる。同時に稜は昨日、狐月に言われた「君は早急に爆発すべきだ。」というセリフを思い出した。 (狐月・・・。お前の言う通り、俺、爆発寸前だ。) 「とりあえず、君の質問に答えておこう。まず、ここはオービタルホテル。君が倒れていた場所のすぐそばだ。窓の外を見れば分かるだろう?」 双鴉道化が指さす先には巨大な窓があり、そこから第六学区を一望できる。オービタルホールもすぐ目の前だ。 「私の目的は君に興味が湧いたから、少しばかり話し合いがしたかった。そして、私の名は双鴉道化。まぁ、本名でないことは君の頭でも理解できるね?魔術結社イルミナティのリーダーを務めている。」 「魔術・・・結社?じゃあ、あんたも魔術師って奴か?」 稜の反応に双鴉道化は面を喰らった様なリアクションを取る。素顔は仮面で隠れているので本当に面食らった顔をしているのかどうかは分からない。 「驚いたね。学園都市の住人でありながら魔術を知っているのか。」 「昨日戦ったからな。あと、夏休み前にも。」 「ああ。そうか。昂焚なら君に魔術師だって自己紹介してそうだ。さて、今度は私からの質問だ。君の名前と所属を語ってもらおうか。」 「拒否権は?」 「あると思うかい?」 稜は深く息を吐いた。 「神谷稜。15歳。映倫中学3年。風紀委員一七六支部所属。」 「ほぅ、ここの治安維持組織に所属しているのか。だとすれば、君が彼を追う理由は“使命”というやつかね?」 「黙秘する。」 「ここで黙秘か。まぁ、良いだろう。使命とはっきり答えられない時点で察しはついた。君が昂焚を追うのは個人的な理由だろう?おそらく、昨日の戦いで昂焚は危険だと判断され、上位機関である警備員に捜査権が移った。だが、君は命令を無視して昂焚を追った。違うかい?」 稜は絶句した。何もかもをこの人物は言い当てたからだ。図星にも程がある。彼の仮面には人の心理を読み解く能力でも備わっているのかと考える。 「・・・・・・」 稜は再び、答えを拒絶した。これ以上、学園都市側の捜査情報を漏らすわけにはいかない。目の前にいるのは明確な敵であり、そして彼がこのまま自分に何もしない保証は無かった。 「また黙秘か。強情だな。まぁ、良いだろう。やはり刃を交えてこそ語り合えるものがあるということか。」 双鴉道化が再びパチンと指を鳴らすと、稜を拘束していた縄と手錠が解錠され、自由が取り戻される。稜は双鴉道化の対応に戸惑いながらも椅子を囲む術式の陣から出る。 「何故、俺を解放する。お前は、尼乃の仲間じゃないのか?」 「ああ。仲間だ。同時に旧友でもある。」 「俺は諦めるつもりは無いぞ?」 「むしろその方が助かる。ジャンジャンドシドシ彼と戦ってくれたまえ。また新しい昂焚の一面が見れそうだからね。」 稜は静かに舌打ちすると、双鴉道化の動きに警戒しながら恐る恐る部屋から出て行った。そして、部屋から出た途端、どっと大量の汗が噴き出して来た。 (何だ・・・あのプレッシャーは・・・。今まで戦ってきた奴らとは桁違いだ。尼乃って奴よりもヤバい。) 眼の前に敵軍の大将が居たのにもかかわらず、解放された後も彼に刃を向けなかった。風紀委員としての勘が戦うなと告げる。しかし、それ以上に生命としての本能が危険信号を爆発的に出していたのだ。 (駄目だ・・・あいつには手も足も出ない。俺でも・・・ウェイン・メディスンでも・・・界刺得世でも・・・。) * * * オービタルホール メインステージ 大画面に映されたアニメ1話の試写会が終わった。観客の反応はかなり好評だったようで、「今期の神アニメ決定だろ。」「これ切る奴とかアホの極み。」「うぉぉぉぉ!マジでバーニングな展開だぜ!」「おいおい。これから放送までお預けとか拷問じゃねえか。」等の声が上がっている。 客席にいた昂焚もアホみたいに口をあんぐりと開けたまま唖然とし、ただただ拍手していた。 隣席のディアスは凄いことは分かったが、何がどう凄いのかは分からなかった。 するとステージ全体の証明が消え、目の前が真っ暗になる。 『それでは!本日のトリを飾るのは人気急上昇中のアイドル声優、姫野七色!アニメ主題歌の『Next G』をどうぞ!』 ステージに響き渡るアナウンスと同時に観客がウォォォォォォォォ!と歓声を上げ、虹色のサイリウムを持ち出す。昂焚も例に漏れず、隣のディアスにもサイリウムを持たせようとするが、ディアスはそれを拒否する。 ステージのスポットライトが1つだけ点灯し、ステージ上に立つ姫野七色だけを輝かせる。 ぱっちりした目に長い睫毛、透き通るように白い肌の美少女。黒髪のボブスタイルで顔のサイドに垂らしてある房だけ少し長く、毛先が巻かれている。いかにもアイドルらしい衣装を着こなし、手にはマイクを握っていた。 彼女が歌うNext Gのイントロが流れ出す。それと同時に観客たちの高揚感も増していく。 ―――――が、突如、イントロが途切れ、全ての音響がストップする。 観客も、そして姫野本人も戸惑う。 そして、もう一つのスポットライトが点灯し、姫野の隣にいる少女を映し出した。 若干水色がかった銀髪にサイドポニー、柔和な顔つきをした高校生ぐらい少女の姿が映し出される。しかし、その表情は暗く、非常に思いつめていた。 「すげー美人。」 「女神?いや、妖精だ。」 「え?何?ユニットの発表?」 突如現れた美少女を前に観客は戸惑いを隠せず、同様に姫野七色×謎の美少女のユニットを密かに期待する。だが、これがユニット発表で無いことを一番理解していたのはディアスだった。 (あいつ・・・まさか、アリサ=アルガナン!なぜ、学園都市に!?) この状況が全く飲めず、姫野もステージ上で戸惑っていた。 「えっと・・・あなた、誰?」 姫野が声をかけるが、妖精のような少女はそれを無視し、自分が持っていたマイクを握った。 そして、復讐の惨歌は始まった。
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銃弾と人外が飛び交うこのバトル・ロワイアルも2時間が経ち、既にいたるところで殺し合いが行われている。 その殺伐さとこれまで無縁でいられたうちはサスケは、数百メートル離れた警察署を眺めながら思案していた。 (何も起きないと思ってたが、今度はいきなり起きすぎてるぜ。) 冷や汗が頬をつたうのをそのままにして、サスケは気を張る。 また一つ銃声がした。 サスケのこれまでの経過は全て吉永双葉の尾行で言い表せるものだった。 突然に拉致され、謎の生物に殺し合えと言われて、どことも知れぬ森の中に放り出される。まずは幻術を疑い、次に彼が所属する木の葉隠れのなんらかの抜き打ちテストを疑い、最終的に自分が謎の勢力に拉致されたと結論づけた。彼がいた木の葉隠れの里の警戒網を突破してそんな幻術をかけられるのならば、自分を拉致するのもさほど不可能ではない。あるいは考えにくいものの、自分が忍界でも名門中の名門であるうちは一族の末裔ためにどこかの里の陰謀を、そして復讐すると誓っている兄のイタチの関与を疑う。 そこまで考察したところで見かけたのが双葉だった。右も左もわからぬ森では他にあてもなく、ただその場にとどまり続けるよりはマシだと彼女をつけ始めた。その途中で寺の鐘のような音や街を見かけても彼女を追いかけ続けてたのは、惰性によるところが大きいだろう。他に目当てになりそうなものがあっても乗り換えることに恐怖と忌避感があった。これが中忍試験を経たあとのサスケならば、もっと積極的に動いたであろう。しかし今のサスケは波の国での再不斬たちとの戦いから帰ってきて日の浅い頃、まだ命のやり取りをする経験値がかけていた。 しかし、そのサスケが今は双葉の追跡をやめてビルの屋上の物陰から周囲を伺っている。原因は明白である。双葉が入っていた警察署から爆音が聞こえるのだ。 銃というものが皆無と言っていい忍界では、爆発音とは起爆札の存在と同義である。チャクラが無くても使えるそれはどこの里であっても使われるありふれたものだ。当然サスケもその存在は知っているが、そんな彼の下へと聞こえてくるのは『奇妙』な音。銃によって違う銃声というのはサスケからすると不審な起爆札の音として聞こえる。そして必然考えるのは、爆音を立てて戦う忍の存在。わざわざ大きい音を立ててまでの死闘をしているのではと考える。単に銃を持った参加者がいるという以上の脅威をサスケは感じていた。 (写輪眼!) しばらく眺めていたサスケの目の色が文字通りに変わる。赤い瞳には黒い紋様が浮かぶ。うちは一族に伝わる血継限界、写輪眼は類稀な視力と洞察力でサスケは戦場を見渡した。 続く爆音。即座に発生源と思わしき一画を見定める。するとそこから侍風の男が飛び出してきた。別のところではチャクラのような力を2ヶ所で感じる。そこでサスケの目の色が変わった。素早くビルの壁面を駆け下り、一気に走り出す。 目指すのは双葉が入っていった一画や侍らしき男が飛び出してきたのとはまた別の方向。警察署から少し離れた位置の路上へとひた走る。 息せき切って辿り着いたサスケの目の前には、2人の同年代の子供がいた。 「サスケェ!」 「チッ……お前も巻き込まれてたか。」 「だ、誰なん? 知り合い?」 「ああ、コイツがさっき言ってたサスケだってばよ!」 「忍が仲間の情報をペラペラ話すな。」 呼びかけられた声にクールに返しながらも、内心では安堵していた。 その金髪にオレンジのジャージは、まさしくサスケと同じく第七班の忍者、うずまきナルトであった。 (狙われたのは、木の葉の忍か?) 「……面倒な話になったな。お前がここにいるってことは、サクラやカカシもいるかもしれない。」 「? どういうことだってばよ?」 「このデスゲームの主催者は、適当に参加者を選んだんじゃなく、オレたち第七班を狙っているかもしれないってことだ。」 「マジかよ。それムチャクチャヤベえじゃねえか。」 担当上忍であるはたけカカシはともかく、春野サクラは単独で戦うには不安がある。いくら一般人よりは強いと言っても、天才である自分や波の国での意外な活躍を見せたナルトと比べると、直接的な戦闘力では劣るというのがサスケの見立てだ。もっとも世渡りという意味では一番得意そうであるし、なにより意外性がありすぎて何をしでかすかわからないナルトよりも遥かに安心できはするのだが、自分の目の届かない所となるとやはり心配になる。 「それで、ソイツは?」 一旦サクラから離れて棒立ちで戸惑っている少女に水を向ける。「実は……」と話しだしたナルトの話を聞いて、サクラの時とは比にならない頭の痛さをサスケは覚えた。 一般人の子供同士で撃ち合ってしまい幼児が死に、保護してくれそうな侍と出会ったが警察署で戦闘になったので彼女を連れて逃げてきた。話をまとめると、先程警察署から飛び出してきたのは、その侍が敗走してきたからだろう。 明らかにメンタルが通常ではないニ鳥に、危険人物と足止めで戦い逃げることになった五エ門なる侍、もとい五エ門をそこまで追い込んだ銀髪の男。サスケが森をさまよっている間に他の参加者は後戻りが難しくなるほどに殺し合っているらしい。ハッキリと主催者打倒を目指しているわけではないがこれには閉口した。 「……そういえば、その銃っていうのはそれか?」 とりあえずナルト話の中で気になったものについて聞いてみてお茶を濁す。そんなことしてる場合ではないだろうとサスケ自身思うが、子供でも人を殺せる武器というのは知っておく必要があると納得して聞く。 「ああ、ここを引くと。」 そして銃弾がサスケの脇を通り過ぎていった。 「危ねえなドアホ!!」 「ごめんってばよぉ!?」 サスケは思った、やっぱりサクラよりコイツと先に合流できて良かったと。 それはともかく、サスケは改めて銃を見る。なるほど先からやたら聞こえてくる爆音はこれかと理解した。小さな爆発を起こして礫を打ち出す武器だと、写輪眼で見切った。その上で思う。手裏剣で良くないか?と。 手裏剣術を得意とするサスケから見ると、銃というものの不便さが見て取れた。かさばり、音が大きく、臭いもする上に、弾道は単純。速さはスゴいが、これで使い物になるのかと。 それは比較的オーソドックスな忍者の視点だ。特に木の葉隠れのある火の国は森が多く、交戦距離も近い。そういえば波の国でガトーが似たような物を持っていた気もして、サスケから見るとますます忍向きではない武器に思えた。手裏剣を使う筋力が無くても打てそうだが、忍ならば近接戦闘ができる間合いでなければ当たりそうもなく思える。 (さっきコイツが打ち合いになったって言ってたが、コイツもその仲間も当たってないんじゃな。) 真っ青になっているニ鳥を見ながらそう結論付ける。どうやら今のでトラウマをフラッシュバックさせたらしい。パニックを起こされても困るのでどう落ち着かせるかということに思考を切り替えたところで、「なあこれってよ」とナルトの声がした。 このあとすぐにサスケはナルトの意外性に驚かされることになる。そしてそれは、警察署周辺の全ての参加者も同様だった。 一番早く気づいたのは、石川五エ門だった。 ナルトが二鳥を連れて警察署から離脱したことと雪代縁を園崎魅音から引き離すために、戦闘を切り上げた警察署の外に出た彼は、縁の様子を伺うために未だ警察署の近くにいた。魅音からは敵視されてはいるが縁の毒牙にかけさせていいとは思わない。というわけで囮半分怪我半分で飛び出た窓からわざと見える位置で縁の追撃を待った。 想定外だったのは、縁が魅音とも別方向の内部にいた誰かに襲いかかり戦闘になったことだ。それはサスケが見送った双葉と後からやってきた神楽だったのだが、そこまでは五エ門も見ることができず。もう一度内部に突入して助太刀をと考えたところで、視界の端にオレンジ色のものが複数見えた。 「なにっ。」 思わず二度見しかけて目を見開く。そこにいたのは『ナルト達』だった。手に手にライフルを抱えたナルトが計16人駆け寄ってきていた。 ──これさ、これさ、こんだけあるんなら打ちまくれば当たるんじゃね? ──打ってる間に手裏剣でもクナイでも投げられるだろ。 ──だったら一度に何人も打てばいいだろ。 ──オレたち2人しかいねえの忘れてんのかこのウスラトンカチ。 ──だから、人数増やせばいいんだろ! ──影分身の術! それはナルトの四人一組だった。影分身16人で1個中隊を作り、警察署周辺、警察署1階正面、警察署1階裏口、警察署屋上に合わせて4隊を展開、64人からなる1個大隊が警察署へと殺到した。 当のナルトは元の喫茶店までニ鳥を連れて戻り、1個中隊で卍の陣を組み、もう1個中隊を伝令兼増援に、自分を含む1個小隊でニ鳥を護衛する。総数100体のナルトが一度に警察署近辺へと現れたのだ。 「あ、いたぞ! 五エ門のオッチャン!」「大丈夫かー!?」「よし、伝令よろしく!」「オレじゃねえってばよ! コイツ、いやアイツか?」 「お主、いやお主たちは、ナルトか?」 「おうっ! 迎えに来たぜ。」「へへっ、チャクラすんげー使っちまったけど、これなら直ぐ見つかるからな。」「忍術使うチャクラはねーけど、銃なら撃てるからな。」「しょうがねえからオレが戻るってばよ。」 五エ門に元の調子でナルト達は返事をする。その様子に毒気を抜かれるどころか神妙な面持ちを崩さない。 五エ門はすぐに察した。銃を持った人間が突然多数現れる意味を。ナルトの分身術と銃がいくらでもある環境の組み合わせの脅威を。 (もし、ナルトのような忍でなくとも、次元のようなガンマンが分身したら……背筋が寒くなるな……) 次元ほどのガンマンもそういなければ分身できる人間もそういないだろうが、つい想像してしまう。ろくに銃を撃ったことのないナルトでもどこに飛ばすかわからない銃弾と高い身体能力という厄介さがあるのだ。これが確かな技量と戦闘経験のある同じ数のガンマンなら、いかに五エ門といえど無傷で切り抜けられるかは難しい。斬鉄剣を持ってしてもその制空権はせいぜい自分の周囲3mほど。銃撃に手榴弾などの搦手を混ぜられれば十分に危うい。とはいえ、これだけの技に何ら代償がないとも思えない。 「いや、警察署に戻らねばならん。さっきの男が別の参加者を襲っている。」 「大丈夫だって、そっちにも分身送ってるからよ。」 「すさまじい……随分と多いな。」 「まあそのかしあんま長く出してらんないんだけどな。」「チャクラほとんど使っちまったから術使えねえし。」「でもコレがありゃ戦えるだろ。」「だからオレらも着いて行くってばよ。」 時間制限に能力制限と、本来ならデメリットも多いのだろう。しかしそれを打ち消すほどに火力と手数がある。それを産んでいるのは、会場にばら撒かれた銃。主催者はここまで考えてナルトを参加者にしたのかと考えつつ警察署に向かってすぐに、激しい銃声と爆音が聞こえてきた。と同時にナルトの叫ぶ声。警戒を強めた五エ門の目が窓越しにナルトの姿を見つけ、直後にそれが煙に変わった。 「なんだ?」「おい今やられなかったか?」 「来るぞ、気をつけろっ。」 五エ門の言葉通りに、窓から人が飛び出してくる。銀髪に片手に持った番傘。 雪代縁はナルト16人を瞬殺し五エ門の前へと現れた。 警察署周辺のナルトたちが五エ門と合流した頃、警察署1階裏口から突入したナルトたちは、ほぼ同時に2グループの参加者と遭遇していた。 1つは山田奈緒子、天地神明の部屋に隠れていたグループ。もう1つは吉永双葉と神楽、そして彼女たちを殺さんとする雪代縁のグループである。 神楽が足止めする縁から這うように逃げる双葉、彼女がドタバタとした気配に気づき顔を上げ、「なにっ」と同じ顔が4人いることに驚いた次の瞬間、「なんだぁっ」と更に驚愕の声を上げざるを得なかった。 「おい! 大丈夫──」そうセリフを言い終わるより早く、縁の銃弾がナルト×4を射殺した。ナルトの登場で縁も神楽も一瞬意識をそちらに向けたが、敵か味方か判断する神楽に対して縁は自分以外全て敵である。狭い廊下という戦場もあり、適当に掃射するだけで瞬く間に駆逐する。 「な、なんだったんだアイツ……」 「……なんなのねアイツ?」 (何なのだあれは。) 各員が困惑しながらも戦闘は継続する。縁は二度三度の打ち合いで神楽の筋力を察したため倭刀術から銃撃を主体に変え、一方の神楽は後ろの双葉に弾が行かないようにいつでも傘を広げられるようにして戦う。戦況としてはほぼ互角。連戦でわずかに息の上がる縁と、そこそこの距離を徒歩で移動した直後の神楽、自分以外全て敵の縁と、守るべきものを背後に抱えての神楽。一進一退の攻防が続く。その均衡を破ったのは、またもナルトだった。 「行くってばよ!」「ギャフンと言わせてやるってばよ!」「おっしゃぁっ!」 気合いの雄叫びを上げながらまたナルトが現れる。しかし前の二度と違って、縁の背後からだ。 「ホントにナルトじゃねぇカ!?」 今度は神楽の判断が早かった。神楽はジャンプを読んでいるのでナルトを知っているが、縁にとっては妙なトリックを使う西洋人にしか見えない。その差で神楽の突然のグラップリングに対応できなかった。それまで振るってきた傘を手放し両手で掴みに行く。意表を突くその動きにこちらも武器を捨てなんとか捌く縁だが、それは背後に大きな隙を生む。 「サンキュー!」 「ぐあっ……!」 ギリギリでクナイは躱すが、蹴りがパンチが、縁に突き刺さる。一撃入れたら消えていったが、今度は体が振るわれる。手を掴んでのジャイアントスイングの体勢に入られた。 「ふんぬらばあっ!」 グルグルと回していた縁の身体が、それまでの横から縦へと振られ地面に叩きつけられる。これで決める。そう思って振るった神楽だったが。 ドン! 人間が床に叩きつけられて出た音とは思えない音が響く、が、神楽の顔に焦りが生まれた。 叩きつける瞬間に離した手を、縁は即座に受け身へと使った。同時に体勢を入れ替えて脚から落ちる。そして震脚の要領で衝撃を受け止め、流し、拳へと勢いを乗せる。無手での虎伏絶刀勢! 「オオォォォッ!」 「おおおおっ!?」 裂帛の気合いと共に放たれるそれが顎へと突き刺さる寸前で、神楽は両手を重ねて滑り込ませた。ギリギリで間に合ったガードごと殴られ頭が揺れる。しかし、脳震盪をなんとか免れる。かすむ視界で、ナルトが双葉をおぶっているのが見えた。 「やっべ! しっかりつかまれ!」 「逃さ、ムッ?」 「とっとと行くネ!」 先程殺し損ねた少女がまたも現れたナルトにおぶわれ逃される。さっきの3人はこのための陽動かと判断するも武器は無く、駆け出そうとしたところに神楽がまとわりつく。舌打ちをすると、手近にあった消火器を投擲した。それが何なのかも重いということもわからなかったのでこれを神楽に使っても殺しきれないと思ったが、ナルトが脆いことは既に把握済みだ。 「おい後ろ後ろ!」 「え、なにぃっ!?」 まるで砲丸でも投げたような勢いで消火器が飛ぶ。双葉の声で気づいたナルトは、目を白黒させながらも咄嗟に自分の体を盾にした。ボフンという気の抜けた音と一緒にナルトは消え、悲鳴を上げた双葉が投げ出される。これで奴は逃げられない。先に神楽を殺してから次はと算段を立てる縁の耳に、またナルトの声が聞こえてきた。 「悪ぃ、コイツ頼んだ!」 (何人いるんだ?) 痛みにうずくまる双葉が2人のナルトによって廊下の角へと引きずられていき、その横を2人のナルトが駆けてくる。これで警察署1階裏口の16人のナルトは全てだが、縁からすると無限湧きしてくるようにも思える。 (まずはコイツだ。) となると優先順位は完全に神楽が上に来た。羽交い締めされかけたのを倒れ込むことで振りほどき、ナルトへと駆け出す。双葉を引きずっていた2人も加わり4人になったナルトを狙う、というわけではない。欲しいのは、床に転がる神楽の傘。そしてこの位置取り。 手に取り引鉄を神楽に引いた。その威力を知る神楽は咄嗟に飛び退きながら両手を顔の前でクロスさせる。ガードした腕に、そして肩にと弾丸が突き刺さった。 「テメェ!」 後ろからナルトがアサルトライフルを乱射する。予想通りの行動に、縁は顔色を変えることなく体を反転させつつ横へとズレた。そして傘を広げる。これに防弾性があるのは既に把握している。ナルトの乱射した弾丸はその大多数が当たらず、残りも傘で防がれ、そして大多数の弾丸は。 「バッカ野郎ォォォォォォォォォ!!!」 「わっ、悪ぃ!」「撃つな撃つな撃つな!」 大多数の弾丸の何割かは後方の神楽へと向かった。バックステップを続けてギリギリのところで横っ飛び、廊下の角へと飛び込む。その短い間に縁は傘から銃撃を加える、1人また1人と倒されついに16人が全滅した。 だがナルトたちを倒しても縁の動きは止まらない。すぐさまに後ろに向き直り、神楽へと追撃を行おうとする。その視界が赤く塗り潰される寸前、縁は傘を振るった。反射的行動、傘が何かにぶつかる、その正体は、消火器。直後、雄叫びを上げながら迫る神楽が傘ごと窓の外へと縁を蹴り飛ばした。 意趣返し言わんばかりの一撃は、偶然にも五エ門が突き破った窓から縁を放り出す。それでも猫のように空中で体勢を立て直すが、目にした光景にそれまでの無表情が崩れた。 先程辛勝した五エ門、そしてさっきさんざん殺したはずのナルトが待ち構えていた。 「こいつさっきの奴だってばよ!」「みんなやられたのか?」 「チィッ……!」 混乱する声を上げるナルトをよそに突っ込んでくる五エ門に銃撃で足止めしながら警察署内へと退避しようとする。このままでは五エ門に勝ててもハチの巣にされてしまう。狭い廊下と違って屋外では傘のガードなど信用できない。しかし、ああ逃れられない、後ろから叩きつけられた気配に慌てて身を投げ出す。真上を赤いチャイナ服が通り過ぎていった。 「傘パクってんじゃねえぞ銀髪ブタ野郎。今謝るなら半殺しで済ませてやるネ。」 「助太刀しよう。拙者も奴には借りがある。」 「……邪魔ダ。」 五エ門と神楽、2人の猛者を前に縁の頬を汗が伝う。しかしそれでも微塵も闘争心が陰ることなく、戦いは新たな局面を迎えた。 同時刻、警察署1階正面側。 裏手での戦闘に1個小隊が向けられてもなお10人を超すナルト達はライフルを持って探索している。 同じ姿同じ顔の人間が銃を持って練り歩くという光景は、見る者によっては大きな恐怖を感じるだろう。 ましてそれが、つい先程撃ち殺したのと同じ相手ならば。 (なんで? なんで何人もいるの?) (わ、訳がわからねえ……幻覚でも見てるのか?) たまたまほとんど空のロッカーを見つけて、園崎魅音と前原圭一はそこに隠れ潜んでいた。 五エ門の一件で縁の存在に気づいた2人はすぐさま後退し、その後双葉たちと戦いだしたことで山田の回収に向かったのだが、その間にナルト達の突入を受けてしまった。最初は迎撃も考えたが自分たちが殺したはずの顔が何人も現れたことで一転逃げることになり、しかしそれもできずにロッカーに滑り込むのがやっとであった。 狭い空間にぎゅうぎゅう詰めになりながら、魅音と圭一は隙間から外を伺う。何度見直しても死んだはずの人間が10人以上に増えて銃まで持っているのだ。募るのは恐怖と困惑である。 互いの吐息が首筋にかかり、痒みを引き起こしても身動ぎできずに息を潜め続ける。2人とも何らかのトリックなのだろうとは思っている。思わなければやっていられない。これまでの殺し合いであれだけの人数と出会うことすら今までなかったのに、突然二桁の参加者が死人の顔をして現れたのだ。魅音は圭一の、圭一は魅音の心臓の早さで負の感情が煽られていく。 汗でじっとりと濡れた互いの肌が張り付く。無意識の内に互いを抱きしめるように回した腕には、冷たい銃が握られている。またこれを使うべきだろうか? そう考えだした魅音の前でナルト達に動きがあった。1か所に集まって何か話し出す。よく聞き取れないがいくつかの単語はなんとなくわかった。「撃たれた」、「銀髪」、「山田」と。 「山田さん、もしかして……」 小声で呟く圭一に咄嗟に注意しようとして、しかし魅音は無言で圭一と目を合わせた。魅音も同じことを考えてしまう。さっきからの銃撃戦と動けない山田、そして今のナルト達の言葉。「山田奈緒子は殺されたのではないか」と。 荒唐無稽な考え、とは思えない。既に2人の目の前でつい先程銃や爆弾を使った殺し合いがあったばかり。山田も巻き込まれたかもしれない、2人が名を知らぬ侍の五エ門に見つかって斬られたかもしれない、名前どころか姿すらろくに見えなかった縁が投げた手榴弾が当たったかもしれない、なによりナルト達に撃ち殺されたかもしれない、次々に嫌な想像が頭を巡る。 「落ち着いて、今出て行ったらヤられる。」 「わかってるぜ、でもよ。」 小さく言葉を交わす2人の耳にどかどかと足音が聞こえてきた。何があったのかはわからないが、10人ほどのナルト達が揃って駆け出す。実はこの時、縁との戦いの情報が入ったことでのナルト間での話し合いの末に、3個小隊が裏手への増援として向かった。残された4人は1人が本体へと伝令に向かい、残る3人で捜索を再開する。しかしナルト達が部屋から出て行っても魅音達は動けなかった。裏手へ向かったということは山田のいる方へ向かったということ。魅音達としては助かったがむしろ迎えに行くのは難しくなったとも言える。そして直ぐに銃声が聞こえ始めた。 「ダメだ、助けにはいけない。逃げよう圭ちゃん。」 「でも、それじゃあ山田さんが……」 「無理だよ。アイツら、みんな同じ顔に見えるんだ。何か毒を食らったみたい。」 「でも逃げるったって、どこに。」 「大丈夫、着いてきて。」 魅音はしっかりと圭一の目を見ながら言った。暗いロッカーの中でも圭一の顔がナルトでないことを確かめるように。 (忍者にヤクザ、何でもありだな……) 苦笑いするしかない。双葉をナルトから預けられた天地神明はとりあえずお姫様だっこしながら山田の車椅子を押していた。 縁の戦闘音は同じ階にいた2人にも当然聞こえていて。身動きがまともにできない山田がいる以上、その後のナルト達との遭遇も不可避のものだった。 事情が変わったのは、遭遇した裏口から突入したナルト達が神楽の援護に回ったことだ。1人のナルトと自己紹介しているうちにどんどんやられていき、最後には負傷した双葉を押し付けられることになった。 一体誰がこんな展開を予想できただろう。分身する金髪少年忍者にチャイナ服の片言少女、おまけに銀髪のヤクザときた。どう考えても少年漫画にでてきそうなメンツであって少女漫画にはでてこないタイプだ。自分が少女漫画のイケメンのようなキャラだと自覚のある天地からすると、ノリが違いすぎてお近づきにはなりたくない。彼らの中では強みが生かせないのだ。 (ただ、アイツらでも銃で殺せそうなのは幸いだな。不死身の化け物でないならやり方はある。話し合いにさえ持ち込めるのなら丸め込める。) しかしながら、状況の悪さは否めない。迂闊に逃げても流れ弾で死にかねないし、怪我人2人を置いていくのは悪評のリスクもある。それを避けるために口封じしようとすれば更にリスクを負うことになるし、現状としてはあの銀髪ヤクザに死んでもらうしかない。できれば共倒れしてもらいたいが流石にそれは望み薄だろう。 結局のところ、天地は少年漫画と上手く付き合うしかないという結論に達した。あのレベルのチートがありなら、他の参加者にも同レベルの化け物が入る可能性を無視できない。現に警察署に入る前には翼の生えたイケメンが空から降りてくるのも目撃している。だったらまだ話が通じそうな化け物を丸め込む方向で動こう。 (車椅子の美女に気絶した少女、カードとしては悪くない。これを足手まといだと言うような合理的な人間なら、自然と他の参加者から孤立していく。組むなら頭の少し悪いお人好しだな。) 「天地さん、あれ。」 「あれは、またナルトくんたちですね。」 「やばっ、同じ顔が3人に見える。」 「大丈夫です、僕も同じですから。」 【0217 『南部』 繁華街・警察署】 【うちはサスケ@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】 【目標】 ●大目標 殺し合いから脱出する。 ●小目標 ナルトと共に春野サクラを捜索する。 【うずまきナルト@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】 【目標】 ●大目標 殺し合いとかよくわかんねーけどとにかくあのウサギぶっ飛ばせばいいんだろ? ●中目標 サクラを探す。 ●小目標 ニ鳥を守る。 【宮美二鳥@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】 【目標】 ●大目標 生き残る。 ●中目標 あの男子(圭一)を殺す。 ●小目標 忍者? 分身? なんやこの……なんや? 【石川五エ門@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】 【目標】 ●大目標 殺し合いからの脱出。 ●中目標 二鳥やナルトなどの巻き込まれた子供は守る。 ●小目標 縁を斬る。 【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】 ●大目標 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。 ●中目標 緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。 ●小目標 侍(五エ門)と襲ってきた子供(神楽)を殺す。 【吉永双葉@吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】 【目標】 ●大目標 こんなことしでかした奴をぶっ飛ばす! ●小目標 ??? 【神楽@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】 【目標】 ●大目標 バトルロワイヤルとその主催者を潰す。 ●中目標 病院と首輪を外せる人間を探す。 ●小目標 変態(縁)をぶちのめす。 【園崎魅音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】 【目標】 ●大目標 生き残る。 ●中目標 家族や部活メンバーが巻き込まれていたら合流する。 ●小目標 警察署から脱出する。 【前原圭一@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】 【目標】 ●大目標 生き残る。 ●中目標 山田さんを助けたい。 ●小目標 魅音に着いていく。 【天地神明@トモダチデスゲーム(トモダチデスゲームシリーズ)@講談社青い鳥文庫】 【目標】 ●大目標 生き残る。 ●中目標 信頼されるように努めて、超人的な参加者から身を守れる立ち回りをする。 ●小目標 チート参加者を丸め込んでグループを立ち上げる。まずはナルトだ。 【山田奈緒子@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】 【目標】 ●大目標 生き残る。 ●小目標 このトリックは…?
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トゥルビネ。 日本語で、つむじ風。 祖国を発ってから一日と半分くらいが経過した頃、ようやっと私は目的地の田舎町へ辿り着くことができた。 いくら外国だからってまさか路面バスのシステムがまったく日本と違うなんてことはないだろう――そう高を括ったのが見事に仇となり、日本のものとは微妙に違うシステム、マナーなどに翻弄されすっかり疲れきってしまった。 整理券とお金を支払って這々の体でバスから降りる。思わず深い溜息が溢れだした。 「あはは……ほんっっっとーに疲れた…………」 笑う門には福来ると言うから精一杯笑顔を取り繕うも、案の定渇いた笑いにしかならない。どだい生まれ育った県外にもまともに出たことのないような世間知らずが、ガイドも付けずに海外渡航する時点で相当に無茶苦茶なプランだったのだ。 思い出すとあまりの己の馬鹿さ加減に真剣に死にたくなってくるので、自虐はこの辺りにしよう。……くすっ。気付けば今度は本当に自然に笑っていた。遂に辿り着いたんだ。事の発端は、戯れにぺらぺらと捲っていた旅行誌の中にあった小さな町の紹介記事。 ――、一目で。ここしかない、と感じた。 少女漫画じゃないけれど、一目惚れという心理現象にひどく近しい惹かれ方だったと思う。細かしい説明なんてどうでもよくって、ページの隅っこに慎ましく貼り付けられた町並みの写真や自然の絵図の、その全てが魅惑的で蠱惑的で仕方なかった。 思い立ったが吉日、それ以外は全て凶日――どこかで聞いた文句を思い出して、私はすぐに準備を整えた。いつも鈍臭くて失敗ばかりの私なのに、あの時はすごく手際よく準備できたなあ。恋する乙女は、やっぱり盲目だ。 恋とはちょっと違うし、同じにするなんて失礼だと思うけれど。 すうううっ――鼻孔いっぱいにイタリアの空気を吸い込んで、意気揚々と歩き出す。使い古したスニーカーのボロボロ加減も今はどうしてか絵になると感じてしまう。この時の私は、兎に角冷静ではなかったから。 私の名前は、相沢彩月(あいざわ・さつき)。 歳は19歳で、今年大学に進学したばっかりだ。 一応日本人なら誰もが聞き覚えのあるだろう名門校なんだけど、あいにく私の脳味噌では高度な授業にはあまりついていけてないのが実情だったりする。でも自由度は学生の頃とやっぱり段違いに高いと、私は日々痛感させられ続けた。 こうやって一人旅に出るなんてことも、高校生じゃあいろんなルールが邪魔をして出来なかったろう。 そんなだから、なんだか複雑でもある。大人になるって悲しいことだね。あはは―― とまあ、自己紹介はこの辺にして。 歩き始めて程なくすると、向こう側に建物がいっぱい見えてきた。 どうやら住宅街に差し掛かったらしい。外で世間話をしている主婦らしき人達や散歩中の老人、犬の散歩をする子供……こういうところは万国共通なんだなあと、少し感心させられる。 感心ついでに勇気を出して話しかけてみよう。 幸いにも、イタリア語は高校の選択科目で履修していた。言っても学校で習うのなんて初歩の初歩レベルで、各地の微妙な訛りやスラングまでカバーできているとはとても言い難いんだけど……大丈夫。このくらいなら、きっと通じるはずだ。 「すみません、少しお時間よろしいでしょうか」 「――ン? 何だい嬢ちゃん。日本人か?」 「え……はい、そうですが……」 試しに話しかけた金髪の男の人に、予期せず聞き返されて少しだけ狼狽える。ライダースーツを着た、なんだか今時って感じの人だ。言っても私よりは歳上だろう。背丈はともかく、雰囲気がどこか大人っぽい。 でも何より驚いたのは、こっちはイタリア語で話しかけたのにあっちは日本語で返してきたことだった。しかも結構流暢だ。いや勿論そっちの方が有難いといえば有難いのだけれど。 「へえ、やっぱりそうか! いやああんたの国には日頃からお世話になってるよ、このバイクだってそっちの車会社から友達のコネで安く買ったもんなんだけどもう最高でさあ……!! やっぱスピンが違うぜ、スピンが!!」 「は、はあ……」 困った。 外人はノリがいい生き物だなんて分かってるけども、いざ実際目の当たりにするとこうも対応に困らされるものなのか。 メイド・イン・ジャパンのブランドが海外でものすごい意味を持っているとはよく聞く。所詮某巨大掲示板の都市伝説みたいものだと思ってたのに、全く予想だにしないところで伝説が本物であることを知ってしまった。 そんなこっちの心境など露知らない様子でマシンガントークを続ける男の人。その勢いに気圧されつつも、おずおずと口を開く。私は免許持ってないしバイクの薀蓄を語られても半分だって理解できないから、本人だってなんか可愛そうだ。 いや一番かわいそうなのはどう考えたって私だけども。百人に聞いたら百人がスタンディングオペレーションしながら答えるくらい私だけど。そんなことを訴えても仕方ないので、兎にも角にも当初の要件を伝えてしまうことにする。 「あ、あの。実は私、このトゥルビネに旅行に来たんです」 「それでこの前なんかライバルのケビンと――って、んん? 旅行……そりゃ物好きだなあ嬢ちゃん。あんたみたいな若い娘が楽しめる洒落たものなんて此処にはないぜ。俺もダチの手伝いでアメリカから飛んで来たんだけどまあつまんねーの。 イカしたディスコもなけりゃゲーセンもウン十年前の絶滅危惧種みてえなシューティングしかねえ。真新しいもんったら、最近新調された図書館くらいだろ。まあスマホでパパっと調べた方が早いけどなあ」 「そうではなくて。……景色を」 景色? 鸚鵡返しに疑問符を浮かべる彼に、私はこくり頷く。 「この町で一番綺麗な景色が見られる場所。知りませんか」 ■ ……星を見るのが好きな子供だった。 いつからそうだったかはよく覚えていない。 でも、お父さんは昔お母さんとプラネタリウムを見に行ったからだって聞いている。 私のお母さんはとっくの昔に亡くなった。私が小学校にあがるよりも前に身体を壊して、病院で精密検査を受けた時にはもう手遅 れだったらしい。“らしい”というのも、私はお母さんについて殆ど覚えていることがなかったりするのだ。 嫌いだったわけじゃない。むしろ、多分私はお母さんっ子だったんだろうなと思ってさえいる。きっと甘えん坊で、いつも困らせてばっかりだったに違いない。 私がお母さんについて覚えている記憶は一つだけ。 ……とっても寂しいことだけど。たったひとつだ。 “ 彩月。あなたが大きくなったら、きっといつか。自分の命よりも大切な人と出会う日が来るわ。だから、その時――後悔しない行動を取るのよ。お母さんみたいに、ならないようにね…… ” ――そう、無味乾燥とした病室の中で一言伝えられた思い出。ただそれだけが私にとってのお母さんの姿であって、後は話で聞くことしか出来ない、なんだかとっても遠い存在になってしまっている。 お父さんからプラネタリウムの話を聞いたその日から、私はますます天体観測に勤しむようになっていった。夜に出かけることはできなかったから、お父さんが寝静まったのを確認して自分の部屋の窓から空を見上げる。 天体望遠鏡はお小遣いを貯めて自分で買った。目玉が飛び出そうな値段だったから、リサイクルショップに頼ったのは秘密だ。 毎日、毎日毎日――星が見える日は、どんなに忙しくても空を見た。 いつしか星座には誰よりも詳しくなっていた。理科の授業でも、天体の分野になると人が変わったように高い成績を取ることが出来た。みんなから褒められて、勉強熱心な子だと言われて。けど、そんなのちっとも嬉しくなんてなかった。 嬉しいとか、嬉しくないとかじゃない。そんなの眼中になかった。私は、自分が好きだから空を見ていただけなんだから。 ――――本当に? ううん、それだけじゃないはずだ。 人は死んだら、お星様になるんだよ。 そんなお伽話を耳にして、私は胸を踊らせた。 あの星の中に、お母さんがいる。話したことすら碌に覚えていないお母さんが、今も見守ってくれている。一目でいいから見てみたい。微笑んでほしい。……今思えば、なんともバカバカしい話だけど。当時の私は、夢しか見ていなかった。 海外旅行なんて出来るほどうちは裕福じゃなくて。でも、ずっと小さな頃から、海の向こうの国から見上げる星空はどんなものなんだろうと思っていて。何年越しか分からないけど、とにかく此処に、ようやく私の夢のひとつが叶うというわけだった。 もちろん星を見るためだけじゃなく、もっと大事な理由もあるのだけれど。 とりあえず今は、夢を叶えたい。後のことはそれから考えていけばいいだろう。 「そっか! それなら、裏山の展望台に登ればいいと思うぜ?」 私の質問に、彼はにかっと笑ってそう答えた。 トゥルビネは山に隣接した地域で、そこは裏山と呼ばれているようだ。指差された方向を目を凝らして見ると、確かに一部整備された空間が存在するのが確認できる。……あそこなら、町も一望できるし星も綺麗に見えそうだ。 ぱあっと表情が明るくなるのを感じる。「喜んでくれたみたいで何よりだぜ」と屈託のない笑顔で笑われて、とたんに気恥ずかしくなって顔を背けた。顔が真っ赤になっているのが自分でもわかったから、ぺこりと頭を下げてたたたた、と小走りになる。 ちょっとどころじゃなく失礼なことは承知の上。だが羞恥心には勝てなかったよ……。 「あっ、最後に一つだけ聞いてもいいかな!」 背後から、彼の呼び止める声がかけられて私は振り返らないまま足を止める。 なんですか――返すと、彼はこう聞いた。 「その腕……怪我でもしてるのか? 俺はこう見えても医者でな、なんなら薬を処方してもいいんだが……」 腕。 怪我。 私は反射的に自分の右手に視線を落とす。そこには包帯が巻きつけられている。自分で巻いたものだ。特に怪我をしたわけではなかったが、少し気味の悪いモノが出てしまったから……こうして隠すことにしていた。 事のあらましは一週間ほど前になる。旅行の計画を立てながら、いつも通り惰性で講義を聞き流している時。突然、右手に鋭い熱を感じた。焼けるような熱さに只事ならぬものを感じた私は席を立ち、洗面所で手を冷やすことにしたのだが――。 すると、どうだ。十分が経過した頃には、プロが入れた刺青のように見事な形をした“痣”が浮かび上がってきたではないか。洗っても、薬を塗っても治る気配はない。それどころか、痛みや痒みさえ訴えることがなくなった。 皮膚癌の類かとも思ったけど、癌でこんな模様が浮き出るだなんて聞いたことがない。言い知れぬ奇妙なものを感じた私は半ば逃げるような勢いで包帯を巻き、取り急ぎ痣が消えるまで手を隠すことで緊急の処置としたわけである。 しかし――どうしたものだろう。 診てくれるというなら甘えてもいいかもしれないが、如何せんこの包帯の下を人に見せるのは抵抗があった。気持ち悪いと罵られたらどうしよう。そんな想像が湧いてくる。……臆病な私は、それ以上考える前に声をあげていた。 「大丈夫です。ちょっと火傷をしただけですから、心配しないでください」 そうか。 彼はそれで納得したのか、私に何か言ってくることはなかった。ただの親切心にも素直になれず疑ってしまう自分の浅ましさに鬱屈とした自己嫌悪の情を催しつつ、私は逃げるようにその場を後にした。 取り急ぎ、簡単な食事と飲み物でも確保しておこう。今晩泊まる宿もだ。 いくらなんでも手持ち無沙汰で海を渡るほど馬鹿ではない。贅沢をすればいざ知らず、普通に一日二日お腹を膨れさせるくらいなら使ったところで全然痛くないくらいの額を準備してきている。小さい頃からこつこつお年玉を貯金していたのが幸いした。 野菜を見ても日本ではまず見かけないものばかりで、なんだか新鮮だった。とはいえ流石に片っ端から買って行く真似はしなかったが。せっかくの旅行なのに自炊するというのもなんだか味気ないし、折角だから出来上がっているものを食べ歩きしようか。 消沈気味だった気分を立て直すためにも努めて明るく振る舞い、手始めに砂糖漬けにしたフルーツを買ってみる。……甘い! 和菓子ともまた違った砂糖と果汁の甘みが絶え間なく押し寄せてくる。でもくどくなく、後味はあっさりとしていた。 満喫とまではいかずとも束の間の非日常的体験を楽しみながら、私は日が暮れるまでの時間を潰していく。その片手間にお世話になる宿を探すつもりだったが、そちらについてはフルーツを買った直後に手頃な場所を見繕うことができた。 少しばかり予算オーバーとなってしまうのはこの際致し方なしだ。 背中のリュックサックはもうすっかりぱんぱんになっていた。折りたたみ式の天体望遠鏡が持ち物を圧迫するのは勿論、使いもしないのに記念記念と買い込んだアクセサリーや雑貨が所狭しと犇めいている。 「……ふう」 そうこうしている内に、いつしか空はオレンジを通り越し薄紫色へ趣を変えていた。トゥルビネの商店街に夜も活動する屋台などはないらしく、続々と店のシャッターが降りて行き、あれほど活気付いていたのが嘘のように町は閑散としていった。 聞き慣れない鳥の声が哀愁を誘う。子供の頃、友達と遊んでいてこのくらいの時間になるとお別れしなくちゃならないから、得も言われぬ寂しさを感じていたのを思い出す。あの頃は、毎日が楽しかったなあ。 学校に行って、友達と遊んで、帰ってきたら宿題もせずに遊びに飛び出す。寂しさを胸にお父さんの待つ家へ戻るとほかほかのご飯が用意されてて……それを食べていっぱいお話して、星を見てからぐっすり眠って、また明日―― 「…………、……」 いつからだろうか。 いつから――そんな当たり前が、当たり前でなくなってしまったんだろうか。 徐ろに足を止める。底抜けにノスタルジックな心境が、心臓の脈動と同時に身体中へ流出していく。全身が石化していくようだった。寂しい。寂しい寂しい寂しい寂しい――ぎゅっ、と。弱気を押し殺すように拳を握り締めて私は石化を解いた。 もう私は子供じゃない。19にもなって未だにこんな弱さを露呈している方がおかしいのだ。 「こんなことなら、なりたくなんてなかったなあ…………」 大人になんか、なりたくなかった。 昔はあれほど強く、早く大人になりたいと願っていたのに、今ではこんなにも子供へ戻りたいと願っている。でもそれは決して叶わない望みだ。時の流れはいつだって一方通行で、逆流することだけは絶対に出来ない非情なもの。 誰もいない街路に立ち尽くす。ふと気が付くと、視線は包帯へ向いていた。この下には、あの朱い文様がまだ残っているんだろうか。――、ふと。なんだか無性に、あれほど不気味だと見ないようにしていた“それ”が見たくなった。 ゆっくりと手が包帯の結び目をほどいていく。はらはらと帯が解け、同時に顕になっていく肌。どくどくと胸が高鳴る。何故かは分からない。でも今、自分は言い知れない興奮状態にあるのだと辛うじて脳が理解していた。 朱が、見える。 薄れてなんかいない、それどころかいっそう濃くなっているようですらある。その全貌を見ようと、更に包帯を解き放たんと生唾を呑み込んだ――その時。私は息の根が止まるほどの衝撃と共に手を止めることを余儀なくされた。 「……なんだろう。カツアゲ……かな」 近くの路地裏から、何やら言い争っているような声が聞こえる。さっきまで聞こえなかったところから察するに、最初は彼らなりに紳士的な物言いと態度で金品を巻き上げようとしていたんだろう。 ……でもなかなか出さないから業を煮やして恫喝に出た、というところか。あの手の人種はどこにでもいるなあ、と呆れに似た感情を抱きながら、我に返ったように包帯を腕へ巻き直していく。 ああいう輩のことは好きではない。むしろ嫌悪すらしているのが正直なところだ。関わり合いになって折角の一人旅を台無しにされたら敵わないと、自分に言い聞かせながら私は宿へ戻ろうと一歩を踏み出し―― 「――――、……?」 足が止まった。 その理由は聞こえる喧騒に交じる声の種類に、一つ明らかに浮いたものが混じっていたからに他ならない。子供の声だ。年端もいかない女の子――悲鳴ではなかったと思うけど、まさかそんな齢の女の子が破落戸と一緒に行動しているとも思えない。 間違いない。女の子相手に良からぬ連中がちょっかいを出し、思い通りに運ばなかったか反抗されたことで逆上し今まさに口論へ発展しているのだ。……流石に、いけない。私は脳に火花が散るような感覚を覚えるや否や、喧騒の方角へ歩き出した。 女の子を傷つける男なんて、最低だ。女の身分からそう言うとなんだか傲慢に聞こえるけれど、私は昔からどうしてもそういうことが許せない、許容できない質らしい。それで泣きを見たことも確かにある。でも、後悔したことは一度だってなかった。 だから、いつも自信を持つことの出来ない私はこの時、珍しく抜群の自信を胸に動いていた。路地へ入っていき、そのまま薄暗く狭い建物の隙間を縫うように歩む、歩む。やがて、私は騒ぎの中心点へと遂に辿り着き――瞠目させられた。 「えっ――」 三人の男が、倒れていた。 昏倒しているだけのようだが、見事なまでにのされてしまっている。そんな彼らの中央で、一人立っているのは女の子だった。お人形さんみたいな肌と髪の……アルビノっていうんだろうか。とにかく真っ白で、綺麗な娘だ。 手には何も持っていない。護身用のスタンガンか何かで制圧したというならまだ分かるけど、彼女はどうやら己の肉体一つで大の男三人を鎮圧してのけたらしかった。予想だにしない光景に目をぱちくりさせていると、……女の子が、こっちへ気付く。 しまった。彼女の表情が、そんな色合いに染まる。その反応はなんだか落ち着いた雰囲気とアンバランスでかわいい。けれどほっこりしている暇はないようで、暫く固まっていた女の子が私に向かって努めて落ち着いた様子で話しかけてくる。 「あの……もしかして、ご心配をお掛けしてしまいましたか」 「え!? あ、それは、うん……危ない目に遭ってないかなって思って駆けつけたんだけど、要らなかったみたいだね」 「……ごめんなさい。完全に私の不手際です」 「う、ううん。私が好きでやったことなんだから……ほら、頭上げて」 申し訳無さそうに頭を下げる女の子に、私は慌てて頭を上げてと訴える。……その雰囲気通り、かなり“できた子”みたいだった。ちょっと礼儀正しすぎる気もしたけど、この子はきっと貴族か何かなんだろう。 それなら護身術として素人程度簡単にいなせる武術を会得していたっておかしくはないし。そうして私が無理矢理自分を納得させていると、女の子は――黙って、私の右手を見つめていた。 「……えと」 「少し、よろしいですか。大丈夫、時間は取らせません」 きゅっと、私の右手を小さな両手でやさしく掴んで。彼女は、私の目を見つめて言う。 不思議な眼だった。色素欠乏が齎した真っ赤な瞳をじっと見つめていると、何故か心が空っぽになっていくような錯覚を覚える。陳腐な表現だが、吸い込まれるような深さとはこういうものを言うのだろう。 目を反らせず、身体もびくともしない中。包帯が、剥がされていく。素肌が外気に触れる奇妙な感覚。そして程なく、あの血のように紅い文様が曝け出された。彼女は静かにそれを指でなぞり、じっと見つめて観察する。 いつの間にか身体は動くようになっていた。この子が私の目から視線を外した瞬間、身体を覆っていた奇妙な感覚が一瞬で消えてなくなったのだ。……ひょっとすると、暗示――催眠術のようなものを、施されていたのかもしれない。 「やっぱり――貴女」 「もしかして……だけど。“これ”、なんだか分かるの?」 恐る恐る問うと、彼女は「はい」と強く一度頷いて。 そして、その懐から黒光りする金属の何かを抜き放った。 すごく手慣れた手付きでくるりと一度弄ばれ、がちゃりと奇怪な音を立て私の頭へと向けられる。―――見覚えは勿論あった。いや、真っ当な人生を送っている者ならば、こういう形の武具が存在することを知らないワケがない。 拳銃だ。 彼女は、それをすごく自然な動作で私へ向ける。 そのまま、細くてしなやかな、絹みたい色の指が引き金へかけられて。 ――――銃声。 ■ 鼓膜を引き裂く、ひどく暴力的な音響が黄昏時の影路地を擘いた。 何処か他人事のような心境でそれを聞きながら、相沢彩月はぼんやり思う。 ――ああ、これは死んだ。人並みに平穏な人生を送ってきたと自覚している彼女にとってこういう想いを懐くのは初めての経験だったが、いざ実際回避不可能な“死”に曝されてみると存外心は騒がない。 無気味なまでの静けさが、彩月の心を満たしていた。。朝方の微風さながらに落ち着いていて淀みなく、何者にも妨げられずひたすらゆっくりと。でも決して止まることもなく迫ってくる。 銃弾という凶器を身体に通された者が綺麗に死ねるのは映画の中だけだ。実際に鉛の塊を頭蓋に受けた日には頭部が醜く歪んで砕けて、まず間違いなくまともな死に様なんて晒せない。 そういえば、インターネットのウイルスか何かでショットガン自殺に失敗した男性の画像を見たことがあったっけ。綺麗な死に方が出来ないのも嫌だけど、あんな風になるのも嫌だなあ――状況を鑑みると能天気にも程がある不満を胸に抱えたまま。 彩月は、赤い飛沫が舞うのを見た。 「――――えっ?」 ……しかし、吹き飛んだのは彩月の頭ではない。 弾は彼女の視界のすぐ真横を通り過ぎ、少し後ろで炸裂して飛沫を散らした。 ぴしゃりと後頭部に血潮がかかる。気持ちの悪い感覚を、しかし彩月は気にしている暇がなかった。少女が大きく踏み込むと、彩月の手を強引に引っ張って自分の背後へ隠すように移動させたからだ。 状況を理解する前に再度の銃声が鳴り、また心地悪い水音と空になった薬莢が地へ転がる音が引き続く。でも今度はそれにくわえてもうひとつ、追うように続く音響が存在した。 ぐしゃり――なにか濡れた物が地面に落ちる音。 音の正体がいったい何であるかまで、彩月はしかとその二つの眼で視認していた。 それとほぼ同時に彼女は薄ぼんやりとしたままの、けれど奇妙に覚醒した思考で悟る。自分はきっと、もう逃げられないのだと。あの時、路地に入ってはならなかった。この黄昏は即ち、私の人生(ジャンル)を決定付ける分岐点であったのだ―――― 「ひ……!」 「悲惨な光景ですが、目を瞑らないで下さい。しっかり見ていて。……私も、貴女のような素人を庇いながら戦った経験はありません。善処はしますが、いざとなれば貴女だけでも走って逃げて貰うことになります」 それに、こんなもので終わりじゃあありません。 少女がそう言うと、つい先程銃殺された筈の“そいつ”が数を成して現れる。 ――“そいつ”を一言で言い表すなら、狗だった。 ドーベルマン、という犬種がある。大型の体躯と強い力で番犬としても重宝されるそれと、今自分達へ確かな悪意をもって襲い来る存在は同一の形を有していた。黒い体毛に四足歩行、頭もどう見たって狗のものである。 ただ一ヶ所、眼だけが異質だ。腐乱死体を連想させる黄色い瞳がぶくぶくと粟立ち、腐敗した膿を血涙の如く垂れ流している。 そんなモノが、都合六匹。先のを合わせれば七匹だ。どう見たって普通の沙汰ではない。 慣れた手付きでグロック拳銃を使いこなす年下の少女もまた然り。 映画の中でしか見なかったようなセンセーショナルが、今目の前で現実に繰り広げられている。それは、彩月の心へ激しい恐怖をもたらした。 「ティンダロスの猟犬か――惨い真似をする。英霊の召喚に先んじ厄介者を処分しようという魂胆らしいが、浅ましいな」 唾棄するようにそう吐いて、少女は顎を外れんばかりに開き向かってくる捕食者の咽頭へ極めて冷静に鉛弾を叩き込んだ。しかしそれだけでは襲撃者は絶命しない。舌打ちをすると、もう一度。 今度は上顎から頭蓋にかけてを貫通させるように銃撃する――そこまでこなして漸く、一匹を絶命させることが出来た。 あれらは痛覚を持っていない。並々ならない耐久力もそうだが、痛みの感覚を放棄した気狂いもまた厄介なものだ。 生物とは学ぶ生き物。痛みを味わい、学習し、それを避けるように動くもの。にも関わらずこの狗にはそういう概念自体からして欠落している。従って肉体の崩壊は免れないが、それを度外視した突撃を行う分にはこれ以上の逸材はないだろう。 「ね、ねえ君っ!」 「説明は後です。逃げるのももう少し待ってください。大丈夫、直に片付きます」 二匹が同時に飛び掛かってくるが、下顎にカウンターのアッパーカットを打ち込み脳震盪を引き起こさせ、そのまま盾にして死亡させる。 死体は目眩ましに擲ち、動きをほんの一瞬なれど阻害された狗の眉間をグロックが穿った。 膿んだ眼の猟犬達は実に現実離れした存在であるが、それらを単騎で拮抗どころか完全に圧倒してのける彼女の技はそれ以上に逸脱している。 相手は人外の法理で肉体改造された獣のなれの果て、謂わば魔獣。 対する少女は魔術的効果に自身の補助を求めることもなく、人間の編み出した科学の産物である拳銃一丁でそんな化物どもを制圧している。歯牙にもかけずに、ただ鏖殺していくのだ。 武道家の舞いにも似た美しい流れ作業で狗達は次々肉片へと変わり、あれだけ絶望的に見えた六匹の猟犬達で最早原型を留めている個体は一つたりともありはしなかった。 ふっ、と銃口から昇る硝煙を吹く少女。弾を補充し、再びグロックを懐へと仕舞い込む。 それから彩月の手を強く握って、先導するように走りだした。 「ちょ、ちょっと……さっきから、何が起きてるの……ッ!?」 「……貴女、本当に何も知らないんですね。慌て方が演技のそれじゃない」 「当たり前でしょ! 私はただ、この町に旅行に来てるだけで――!」 「…………旅行」 彩月が語った言葉を、少女はかぶりを振って否定した。 「いえ、それは有り得ません。貴女は自分の手に顕れたその刻印がどんなに大きな意味合いを持つか、理解していないんです」 「確かに、ちょっと偶然じゃ考えられないような形だとは思うけど……じゃあこれって何なの!? 私――私、これからどうなっちゃうの!?」 「落ち着いて! ……これから、貴女を教会へ連れて行きます。あそこには薄汚い連中も手出しできない筈ですから。まさかあの神父とこうも早く再会しなければならなくなるとは予想外でしたが、致し方ありません」 少女が脳裏に思い描くのは、あのいけすかない神父の笑顔だった。 心底鬱屈としたものを感じつつ、追手の代わりに派遣されたらしき蝙蝠の使い魔を射殺する。 ここでふと、彩月は違和感を覚える。確かに人込みは消えたし、皆家に引っ込んでしまったようだが……それでもまだ黄昏時だ。誰もが寝静まる深夜ならばまだしも、こんな時間からあれほど銃声を鳴らしているのにどうして誰も異変と思わないのか? 疑問を察知したのか、問いを彩月が投げかけるより先に少女が説明した。 「心配は要りません――というのも、なんだか皮肉な話ですが。どれだけ暴れても、直接的に危害でも加えない限りはここら一帯を覆っている魔術が解けることはないと思われます。 ティンダロスの猟犬……第三帝国の鬼畜の末裔までもが、この地へ降り立つ聖杯を欲しているらしい」 「第三帝国……聖杯……? それに、魔術って」 「監督役がそこまで講義してくれれば良いんですけど、あれはどうにも信用ならない男です。教会へ着いた後にでもざっとお教えしましょう。今は、ただ一つだけ覚えていれば十分ですよ。――そう、ただ一つ。貴女はもう、逃げられない」 どくん。 その言葉には――まるでこちらの心臓を鷲掴みにするような重みがあった。 それっきり、何か喋ろうとしても言葉が浮かんでこなくなる。走り続ける疲れはいつの間にか感じなくなっていた。でも自分よりずっと小さいのに、この子は凄いなあ……そんなことを考えていると、彩月は「あ」と漏らす。 「ねえ」 「はい?」 「私、相沢彩月っていうんだけど……君は?」 「杏紅花(シン・ホンファ)」 少女は、顔だけでちらっとこちらを振り返って、締めるように言った。 「それが、私の名前です」 前の話 白魔嬢 次の話 [[]]