約 903,985 件
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/163.html
アルトアイゼン 機体名 アルトアイゼン 全長 22.2m 主武装 三連マシンキャノン 左腕についてるマシンキャノン。威力に期待せず牽制的な意味合いで使うべし リボルビング・ステーク アルトアイゼン最大の特徴である杭打ち機、完全にマリオン博士の趣味かと思われる。リボルバーの銃口にナイフのようなものが付いており、敵にそれを打ち込み、弾丸を発射、その衝撃で相手を打ち抜く武装。近接にもほどがある近接武装、とびっきりデンジャラスです。重要なのは踏み込みの速度、貫け、奴より速く ヒートホーン 頭部についている角。角に高熱を発生させ相手を刺すなり斬るなりする武装。伊達や酔狂でこんな頭をしてる訳じゃない スクエア・クレイモア 両肩に付いたミサイルランチャーのようなものからチタン製クレイモア弾を発射する。遠くに飛ばないため至近距離での発射が前提、また近づく敵への弾幕としても使えそう。大量の敵に対抗できる唯一の武装。一発一発が特注のチタン弾だ・・・! 切り札 アルトの武装というよりはキョウスケの技に近い武装。三連マシンキャノンで牽制した後、近づきヒートホーンで切った後ステークの有り弾全部打ち込む技。打った後はリボルバーの薬莢を全部抜き「この技を切り札にしたのも私だ・・・」とでも言っておこう 特殊装備 ビームコート ビームコート。あと強いてあげるなら装甲が厚い。 移動可能な地形 空中×、陸地○、水中○、地中× 備考 ゲシュペンストT(テスト)タイプをベースに作られたATX計画の一環として造られた機体、ドイツ語で「古い鉄」元はマリオン・ラドム博士がゲシュペンストMk-2の正式後継機として開発したのだが、操縦のピーキーさと夫への対抗心のためEOT(人類外の技術)を一切使わなかったこと、趣味に走りすぎたなどの原因で量産計画は切られ、古い鉄という不名誉な名を貰った機体。だが平行世界の一つでは正式量産されており、その隊長が使う機体は青色である。しかしその性能の高さはかなりのもので、キョウスケ・ナンブ中尉がこれを駆り、数々の戦果をもたらしている。機体コンセプトは「絶対的な火力と強固な装甲による正面突破」ガンダムの「一機にて戦況を揺るがすMS」という一機でどうにかなるという考えが似ている。分の悪い賭けが大好きなキョウスケ自身も当初は「馬鹿げた機体」と評している。当時の彼はその馬鹿げた機体を更に馬鹿げた機体にするとは一寸も思わなかっただろう。ブーストの緩急の激しさ、操縦性の悪さ、遠距離武装一切無しと、これで量産競争に勝てというほうが無理な相談であるのは内緒だ。マリオンさん、もう少しパイロットや他の人のこと考えようよ・・・なお、このイチバチな機体の思想はビルトビルガーに受け継がれた。とは言ってもカーク・ハミル博士が主な設計を担当したので、イチバチなのはマリオン博士が関与した武装面である。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/156.html
◆ 「……嫌だ…嫌だ」 立ち並ぶ廃墟をなぎ倒し、抉れた大地が一筋の巨大な爪痕になっていた。 その爪の先で地に伏すヒメ・ブレン。その中でアイビスはうわ言を繰り返し呟いている。 うつむき、小さく丸まり、膝を抱え、体は芯から奮え、瞳孔は開き、焦点の合わぬ瞳は揺れ、歯の根も噛み合わず、心も折れた。 怯えが、慄きが、恐怖が全身を支配している。 「アイビス、無事か?」 ――通信? 僅かに顔を上げ、コックピットの内壁にぼんやりと開かれた通信ウインドウに目を向ける。 端整な顔立ちの青年がそこにはいた。 「ク……ルツ?」 「動けるな? やり返すぞ」 「無理だよ!」 息巻くクルツの声に咄嗟に反対の言葉が出る。本心だった。 自身の無力を思い知らされ心砕けた少女を目の前にして、驚きの表情をクルツが浮かべる。 「何……言ってんだ?」 「……無理だよ。ジョシュアの敵討ちなんて……私には無理だったんだ。 あんな奴に……勝てるわけがない。ねぇ、逃げよう。逃げようよ。ここから逃げちゃおう」 「お前、本気で言っているのか?」 「本気……だよ。だって仕方ないよ。勝てないんだ! 怖いんだ!! どうしようもないんだからっ!!!」 ギンガナムを思い浮かべると何をするのよりも恐怖が先に立つ。涙がこぼれ、体が震えてどうしようもなかった。 「そうか……悪かった。悪かったよ。すっかり忘れてた。誰も彼もが戦闘に慣れてるわけじゃねぇんだよな。 どいつもこいつも機動兵器の扱いに長けてやがるから、ついあいつらといる気になっちまってた。……俺は残るぜ」 「無茶だよ。あんたもうほとんど弾ないんでしょ……殺されちゃうよ」 「あぁ、その通りだ。だからアイビス、俺は無理強いはしないぜ。でもよ。ここで逃げちまってもいいのか? そりゃ俺だって死ぬのは怖いさ。逃げ出したくなることもある。だけどよ……命を懸けても絶対に譲れないことって……あると思うんだ。 これさえやり遂げれば一生胸張って生きていけられる。そういうときってあるだろう? だから俺は諦めない。だから俺は戦う」 思わず見上げた瞳に真っ直ぐな目をしたクルツの顔が飛び込んできた。その顔が一度にっと笑い、すぐに真面目な表情を作る。 「柄にもねぇことを言っちまったな。まぁいい。後は俺一人でやってみる。助けに入ってくれたラキは見捨てられねぇ。例え勝てなくても一泡吹かせてやるさ。 お前は逃げろ。逃げてそのアムロとか言う奴に悪かったって代わりに謝っといてくれ。じゃあな。お互い生きてたらまた会おう!!」 「あっ! ま……」 返事を返すよりも早く通信は途切れた。ノイズを伝えるのみになった通信機を前に呆けたように立ち尽くす。膝を抱え、丸く蹲り呟く。 「ずるい……」 心の中では逃げ出したい思いと踏みとどまりたい思いが葛藤を続けていた。 こんな自分でもまだ何かやれることがあると思う一方で、行ったってどうせ何も出来やしないといった思いがある。 「ラキが……ラキがいるんだよね」 胸を張って生きていけるのかは分からない。でも、今逃げ出したら一生悔いて生きていくのだろうという予感はあった。 少なくともここで逃げてしまえば二度とジョシュアに顔向けは出来ないだろう。シャアにもだ。 (でも……でも……ブレン、私はどうしたらいい?) お前は行かないのか、と耳元がざわめく。引け目を、負い目を感じながら生きていくのなんて真っ平ごめんだ、と何かが囁く。 それでも足は前に出ない。どうしようもなく怖いのだ。もう一度ギンガナムとの交戦を考えただけで膝が笑い、腰が砕け、足が退ける。 行きたい思いと逃げたい思いが交錯し、アイビスはその場から動くことは出来なかった。 ◆ 蒼と白の巨人が踊っている。 突き出した斬撃が防ぎ、捌かれ、かわされる。 迫る拳を受け止め、受け流し、やり過ごす。 目まぐるしく入れ替わる攻防は一つの流れとなり、流れは次の流れへと滑らかに変化していく。 そんな攻防の中、奇妙な心地よさが全身を包んでいた。 ブレンバーをなんでもなくかわしたシャイニングガンダムの双眸が閃く。 さあ、来い。 お前の番だ。 重心の動きが見える。 体重が左足に移り、右足が僅かに浮く。 その動作をフェイントに、突然撃ち出される頭部のバルカン。 それをすり抜ける様にかわす。 音が消え。 色が消え。 五感が遠くなる。 やがて体も消えた。 何もない空間に残された意識だけが。 飛び。 交わり。 火花を散らす。 エッジを立てる。 刃先が一瞬輝く。 踏み込み、剣を振るう。 手ごたえはない。 そのことに心が湧き踊る。 馳せ違い、反転。 正対し、トリガーを引く。 極小距離からの射撃。 かわせ。 生きていろ。 もう一度、刃を交えよう。 飛び退く。 距離を取る。 体中の体重を足に乗せ。 もう一度、踏み込む。 相手も重心を足に。 そして、バネの様に前へ。 いいぞ、速い。 さあ、もう一度。 交錯する意識と意識。 剣と拳が擦れ違う。 掠ったか。 凄い。 いい動きだ。 楽しい。 しかし、何だ? 少し遅れた。 何故だ? 遅い。 重い。 どうした? どういうことだ? この不自由さは。 このズレは。 それに、声が。 ――ラキ。 男の声が。 ――ラキ。 聞きなれた声が間近に。 ――ラキ、そっちじゃない。 誰……ジョシュア? 不意に長く暗いトンネルを抜けたかのような色鮮やかな景色が周囲を埋め尽くした。 それに気を取られる間もなく、眼前に迫った豪腕の対応に追われて、咄嗟に身をよじる。 装甲の表面で火花が散ったかと思ったときにはもう蹴飛ばされて、1km先の地面を転がっていた。 何という素早さだ。 こんな相手と今まで五分に渡り合っていたというのが信じられなかった。 口の中を切ったのか血の味に気づき、五感が体に戻ってきたということを自覚する。 戻ってこられたのはあの空間に介在していた二つの意思のおかげ。 胸をギュッと掴む。消えたと思っていたジョシュアの心ともう一つ。 ただの機械ではなく生きている機械、感じたズレの正体――ネリー・ブレンの意思。 (ブレン、ありがとう) (……) 視線の先では、急に不調を起こしたこちらをいぶかしみ、待っている相手の姿があった。 その姿は語っている。『もっと戦おう』『もっと殺しあおう』と。 「ん?」 (……) 「大丈夫。もうそっちには引き込まれない」 ――そう。ジョシュアの心の頑張りを決して無駄にはしない。 ◆ 未だ暗い大地に重い足跡を残し、脚部に損傷を抱えたままのラーズアングリフは移動を続けていた。スナイパーであるクルツの頭に、ラキとギンガナムの接近戦に割り込むという選択肢はない。 移動の足を止めずに周囲に目まぐるしく視線を走らせ彼が探すのは、周囲でもっとも見晴らしがいいと思われるポイント。 コンクリートに覆われ、ビルに埋め立てられた市街地と言えど、元の地形を考えれば若干の高低差は存在する。その僅かに小高い丘一つ一つに厳しいチェックの目を向ける。 しかし、廃墟と化しているとはいえ、立ち並ぶビルは高く数も多い。高いところに高いものを建てるというのは、都市景観の一つの考え方なのだ。 絶好の狙撃ポイントといえる場所など見つかりはしない。それでも幾分マシな丘を見つけ、目を付けた。 周囲に気を配り、極めて慎重に、静かに、そして素早くビルの谷間を突き抜ける。坂を登りきったクルツの視界が開け、ラキとギンガナムが切り結ぶ戦場が映し出された。 「ここなら、いけるか……?」 戦場の全てを見渡せるという状態には程遠い。だがそれでもやるしかない。 地に伏せ、短銃に輪切りのレンコンを思わせる回転砲頭をつけたようななりのリニアミサイルランチャーを構える。 掌中の弾は僅かに二発。だがそれでいいとクルツは一人ごちた。 狙撃の前提条件は相手方に悟られないこと。その観点から見るとこの機体は少々派手過ぎる。一度発砲すればまず間違いなく見つかるだろう。 つまり二度目はなく、多くの弾はこの場合必要ない。問題はそれよりも狙撃にはおよそ向かないと思われる火器のほうにある。 近中距離用の小型ミサイル。噴射剤の航続距離には不安が残り、レーダー類が軒並み不調な以上、誘導装置もどこまで信頼できるかわからない。精度に問題が出てくる可能性が高いのだ。 「どうしたもんかねぇ、こりゃぁ……。でも、まぁ、大見得切っちまった以上やるしかねぇか」 頼れるのは最大望遠にした光学センサーと両の目のみ。 なんだかんだ言ってもやることに変わりはない。出来るだけ正確に目標を狙い撃つ。ただそれのみ。 機体を地面に伏せさせると、目を細め、小指の先ほどにしか見えない飛び交う二機の挙動を穴が開くほど見つめた。瞬きはしない。ただじっと動きを止めて来るべきときを待つ。 睨んだ視線の向うで七色に輝くチャクラ光と蒼白いブースターが、蛍のように大きく、小さく尾を引きながら明滅する。 突然、不調が起こったのかネリー・ブレンの動きが鈍る姿が見えた。そして見る間に押し切られ蹴り飛ばされる。 距離にして約1km。両者の間が開く。それを視認した瞬間には既にトリガーを引いていた。 煙の帯を引いたミサイルが銃身から飛び出していく。そして、カサカサに乾いた唇に舌を這わせ、もう一発。 弾装はこれでもぬけの空。だが、とりあえずの人事は尽くした。後は運を天に任せるのみ。 常識に従い速やかに射撃地点から離脱を始めたクルツの耳に、爆発の轟音が届いた。だが、噴射炎越しに直前で身を翻すのが見えた。案の定、爆煙の右上を裂いて敵機が現れる。 その様にクルツはにやりと笑った。 「予想通りだ! 往生しやがれ!!」 グッと親指を立てて突き出した右手を下へ返す。二発目はギンガナムに向かって猛進している。 気づいた敵機が姿勢制御用のスラスターを噴かし、慌てて左へ大きく流れた機体の勢いを殺す。 無駄だ、とクルツは一人毒気づく。場は空中、足場のないそこでは勢いは殺しきれない。ジャマーか、あるいはSF染みたバリア装置でも持っていない限り直撃は避けられない。 それがクルツの下した結論だったが、直ぐにそれは破られ驚くこととなった。 ギンガナムがブンッと音を立ててピンクの光刃を腰から引き抜く。そして、一切の躊躇もなしにミサイルに投げつけたのだ。 結果、直撃前にミサイルが爆発し、呆気に取られて動きを止めたクルツはギンガナムと視線がかち合うこととなる。 「やべっ!!」 息をつく間もなくギンガナムが反撃に転じた。左腕から無数の光軸が殺到する。一制射につき二筋の光軸。 「くそっ! 良い腕してやがる!!」 三制射かわしたところで体勢を崩し、四制射目がラーズアングリフの右膝間接を砕く。そして五制射目、コックピットへの直撃を覚悟した。 その直撃の刹那、異音と共に何かが視界に割り込む。眼前で七色に輝く障壁とピンクの光軸が火花を散らし、残響を残して消えていった。 両の手を大きく広げて身を挺して庇うように立ちふさがる機体を見上げ、クルツは抑えきれない笑いを噛み殺す。 「ようやくおいでなさって下さったわけだ」 見知った顔が一つ、モニターに映し出されている。赤毛に黒のメッシュの少女、アイビス=ダグラスだ。 「待たせてごめん。ここからは私も戦う」 「悪いな。こっちは弾切れ。ここらでギブアップだ。で、大丈夫か?」 おちゃらけた態度で両手を挙げてお手上げをアピール。そこから一転して真面目な顔つきに変わったクルツが言う。 それにアイビスはモニターに向かって右手を掲げて見せつつ、答えを返してきた。 「大丈夫じゃないよ。怖いし……ほら、手だってまだ震えてる。でも、ブレンがあの蒼いブレンを助けたがってるんだ。それに――」 「それに?」 「あたしもここで逃げたらジョシュアに顔向けが出来ない。 あんたが言うように胸を張って生きていくことが出来なくなる」 目を見、おっかなびっくりではあれど吹っ切れたようだな、と推察したクルツはクッと笑い、言葉を返す。 少なくとも、ただのやけっぱちでぶつかって行こうという心構えではないらしい。 「ない胸して、言うねぇ! 上等だ!!」 「一言余計だ!!」 「ハハ……怒るなよ。褒めてるんだぜ、これでも。 アイビス、モニターをこっちに回せ。俺がサポートをしてやる。思いっきり暴れてこい!」 「モニターを?」 「ああ! 敵機の行動予測と弾道計算、その他もろもろ全部任せろ」 「ナビゲーションの経験は?」 「ないっ!」 「えぇ~、無茶だって!!」 砕けた口調で返してきた言葉に、固さは取れたな、とにっと笑う。 軽口というのは、固くなって縮こまっている新米兵士に普段の自分を取り戻させてやるのに有効なのだ。それで随分と生存率が変わってくる。 「そいつは実際にやってみてから言う言葉だな。やってみもしねぇうちからする言葉じゃねぇ。少なくともないよりマシだろ? それに怪しければ無視してくれて構わねぇ」 「そりゃ……まぁ……」 「なら決まりだ! 俺とお前、二人で……いや、ラキも合わせて三人で奴に一泡吹かせてやろうぜっ!!」 「わかった。やるよ、ブレン!!」 威勢良く啖呵を切ったクルツに、一度目を丸くしたアイビスが目つきを変え、顔つきを変え、答える。 その姿を見たクルツは、いじけにいじけて一周したら良い顔になったじゃないか、と一人ごちた。 ◆ 突然の爆発にラキの挙動は遅れ、一時的にギンガナムを見失っていた。 爆発の余波か、電磁波が入り乱れてレーダーの効きがとんでもなく悪い。視界も立ち込めた薄煙でフィルターをかけられていた。 そして、二度目の爆発が起こる。 耳を劈く轟音と眩い閃光。遅れてやってきた空気の壁が薄煙を吹き飛ばす。 咄嗟に目を向けたその先に、左腕から投げナイフを投げるように光軸を飛ばすギンガナムの姿があった。視線誘導に引っかかったように、光軸が殺到する先に自然と目が向く。 「あれは……ブレンパワード? ……っ!!」 クルツのラーズアングリフと白桃色のブレンパワードをラキが視界に納めるのと、ギンガナムが大地を踏み鳴らし進撃を開始したのは、ほぼ同時だった。 咄嗟に視線を戻す。またしても出遅れた。 猛然と突撃を試みるギンガナムに対し、初動の遅れたラキは間に割ってはいることが出来ない。間に合わない。 が、それはあくまでラキに関してだけのことである。 ラキよりも素早く反応を起こしたネリー・ブレンが跳ぶ。バイタルグローブの流れは一切合財の距離をふいにして、ネリー・ブレンをギンガナムの真正面へと誘う。 ジャッという鋭い反響音。 咄嗟に掲げられたアームプロテクターと唐竹割りに振り下ろされた刀剣の間で、火花が奔る。 「ブレン、弾け! 押し合うな!!」 『緊』と乾いた音を残して、ブレンが飛び退いた。 格闘戦の為に造られたシャイニングガンダムとブレンパワードでは、人で言うところの腕力・筋力がまるで違っている。 だからこそ押し合わずに弾く。単純な力比べでは敵うはずもない。 ならどうすればいい? こんなときにジョシュアならどう戦う? 思案を巡らせる。巡らせるうちに再び身の内で疼き始めたモノを感じ取り、思わず手に力を込めた。両の手はネリー・ブレンの内壁にバンザイに近い形で添えている。 そこはほんのりと暖かい。その感触を肌から感じ取り、ラキはホッと息をつく。 大丈夫。感覚は戻っている。 目も見える。耳も聞こえる。鼻も利くし、ブレンを感じることも出来る。大丈夫。まだ大丈夫だ。 そう何度も自分に思い聞かせた。そしてそこに意識を割かれ過ぎた。 風切り音を残して銃弾が飛来する。それはシャイニングガンダムの頭部に誂られたバルカンの弾。 意識を自分の内側に向けていたのに加えて、光を発するビームとは違い闇に紛れる実弾。視認のしにくさの分だけ反応が遅れた。 回避は間に合わない。だが、この程度の弾ならチャクラシールドで弾ける。 そう思い、チャクラシールドを張る瞬間、スッと右方向に回り込むうっすらと白くぼやけた帯が目を掠めた。 しまったっ! チャクラシールドが展開する。七色に揺れ、輝くチャクラの波に視界が遮られる。透明度の高いチャクラ光ではあるが、その輝度は高い。そして、今は夜。目標を見失う。 バルカンを弾き終わり視界が開けたとき、それは頭上に回りこんでいた。 右方向に注意を払っていたラキは完全に意表を衝かれた形となる。上方から勢い良く突っ込んできたギンガナムに対して、ブレンバーで受けるのが精一杯の反応だった。 だが、真正面から受け止めすぎた。上方からの押しつぶすような巨大な圧力。受け流せない。弾き、飛び退くにしても大地が邪魔になる。 「ブレン、耐えてくれ」 耐える。それが唯一残された選択肢。 足場の舗装道路が砕け、アスファルトの破片が舞い上がる。嫌な音を立ててブレンバーの刀身に皹が走る。 そして、次の瞬間――圧力は消え去った。一条の閃光が眼前を掠め飛び、その対応に追われたギンガナムの機体の姿が遠くなる。 クルツか。そう思った耳に飛び込んできたのは、まったく聞き覚えのない声だった。 「ラキ、これからあんたを援護する」 「お前……は?」 思わずキョトンと呆けたような呆気に取られたような顔になって、ラキは呟いた。突然、モニターの隅に赤毛の少女の顔が映し出されたのだ。 「アイビス=ダグラス。ラキ……あんたを探してた」 「アイ……ビス?」 「うん。あんたに伝えなきゃならないことがある。ジョシュアは……」 「知っている。ジョシュアはお前を守って死んでいった……」 アイビスの言を遮って、ジョシュアの死を口にする。その言葉にモニター越しの顔は俯いて押し黙った。 アイビス=ダグラス、そう名乗る少女の顔を見、ラキは話しかける。 「アイビス、私もお前を探していた。今会えてよかった。そう思える」 「えっ!?」 その声にパッと伏せていたアイビスの顔が上がった。戸惑い表情がそこには浮かんでいる。 微笑みを返す。意図した笑みではなかった。自然と口元が綻んだのだ。 『今』会えてよかった。本当にそう思える。 今ならまだいつもの私のままでいられる。でも二時間後三時間後は分からない。 次の放送を迎えたとき、いつもの自分でいられるという保証はどこにもなかった。 瞼を閉じ、ブレンの内壁に触れる両の手に神経を集中させる。 ほんのりと暖かい。気持ちを落ち着かせ、心を穏やかにさせる暖かさだ。 大丈夫。今の私はいつもの私だ。 「ラキ」 呼ばれて、もう一度アイビスに視線を戻した。そこには戸惑いの色はもうない。 あるのは一つの決意だけ、それが言葉となって飛んで来る。 「ジョシュアの弔い合戦だ。あいつを、ギンガナムを倒すよ!」 あいつにジョシュアは殺されたのか、と思った次の瞬間、ジョシュアはそれを望むのだろうか、とふと疑問が頭をもたげた。 あの時、ジョシュアはギンガナムの名を出すことはしなかったのだ。 「二人で楽しくやってるところ悪いがな。そろそろ奴さん仕掛けてきそうだぜ」 どちらにしても戦わないわけにはいかないだろう。二体のブレンはともかく、クルツのラーズアングリフは損傷が大きそうだ。逃げ切れるとはとても思えない。 思いなおし、ラキはギンガナムを睨みつける。 それにジョシュアがどう思おうと、仇は仇なのだ。ジョシュアを殺した者が生きている。それはやはり納得がいかない。許せないのだ。逃げるという選択肢は今はない。 「ああ、ジョシュアの仇討ちだ!!」 →Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―(3)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/208.html
YF-19 機体名 YF-19 全長 18.47m(ファイター時) 主武装 マウラーREB-30G対空レーザー機銃×1マウラーREB-23半固定レーザー機銃×2マイクロミサイル×24中距離ミサイル×6ハワードGU-15ガンポッド×1:バトロイド時のメイン武装。ミサイルを打ち落としたりと、防御にも使える。 特殊装備 フォールドブースター 片道だけだが,ワープを可能とするブースター ピンポイントバリアシステム 防御力の向上、格闘戦の際の機体保護。ご存知ピンポイントバリアパンチなど、使う機会は多い。 ファストパック 肩の追加装甲と脚部のミサイルランチャー。 移動可能な地形 空 F,G 陸 B,G 海 ×地 ×F=ファイター、G=ガウォーク、B=バトロイド 備考 エンジン 新星 P W ロイス FF2200熱核バーストタービン×2推力 56500kg×2最高速度 M5.1+(高度10000m) M21.0+(高度30000m) ※いずれもファイター時フォールドブースター、ファストパックを装備しています。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/194.html
ヴァイクラン 機体名 ヴァイクラン 全長 49.7m 主武装 オウル・アッシャー 特殊システムで強化させた念を放つ技。SP吸収効果があることから精神波の可能性もある。 ガン・スレイヴ 肩に付いた4基のガンスレイヴで敵を攻撃する。 ペリア・レディファー 暗黒物質の数価を変化させ、相手に放出する。それに取り込まれたら、その空間にできた2つの特殊空間に圧縮される。 アルス・マグナ・フルヴァン ディバリウムとヴァイクランが『ガドル・ヴァイクラン!』の掛け声で合体し、念のエネルギー波を放つ。 特殊装備 念動フィールド 念動による特殊フィールド。攻撃を緩和する。 合体 『ガドル・ヴァイクラン!』の掛け声でディバリウムと合体することができるが、通常活動はできない。 移動可能な地形 空中○、陸地○、水中×、地中× 備考 エアロゲイターの指揮官機のヴァイグルを改造した機体。通称俺のヴァイクラン(激嘘)カルケリア・パルス・ティルゲム(念動力感知増幅装置)を搭載しており、あまり念の強くない人間でも強力な念を使える。ディバリウムと合体し、ガドル・ヴァイクランとなるが、エネルギー消費が激しいのか、合体状態での活動は不可能っぽい。なお、この合体システムは地球の機動兵器を元に作ったらしいのだが、α世界にこれと似た変形構造をもつ機体は存在しない。坊よ、なにをモデルにしたんだ……ただ、合体毎に『ガドル・ヴァイクラン!』と叫ぶ辺り、よく研究してると思う。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/394.html
◆YYVYMNVZTk ―――― 眼前にそびえるは、人に非ず。人知の及ぶものでも非ず。 眼前にそびえるは、人に非ず。人知の及ぶものでも非ず。 なればそれは一体何だ、問うても答える者在らず。 ならばこれは一体何だ、問うても答える者在らず。 止める力は有らず。伝わる言葉も有らず。 抗う力は有らず。発する言葉も有らず。 ただそこに広がるは、絶望だった。 だがそこに広がるは、希望だった。 覇気と共に繰り出された斬撃が、まるでケーキにナイフを入れたかのような気軽さで地を抉る。 ざくりざくりと、周囲に破片を撒き散らすこともなく綺麗に引き裂いていく。 先ほどまでロジャーとアキトが足場としていた数十メートル級の機動兵器が格闘してもなお崩壊することなく原型を留めていた物質が、いとも容易く、破壊――いや、『切断』されている。 もしも統夜の振るう大剣が最初からロジャーたちを狙っていたならばと考えると、どうもぞっとしない話になりそうだ。 幸か不幸か、ヴァイサーガの斬撃はロジャーたちとは見当違いの方向へと向けられた。 威嚇というよりは、ただ単に試し切りを行ったという印象。 パイロット自身自らの変化を完全に把握できていたというわけではないらしい。 だがそれは、ほんの数分前までの話。 更に一振り。振り、返す。二つの太刀筋で、しかし地に生じた亀裂は完全に一。 最後に握りを確かめると、騎士は今度こそロジャーたちと相対する。 鬼気迫るを通り越し、むしろその挙動は平静。そしてその動作の一つ一つは無駄なく、完全に洗練された超一級のもの。 幾多の戦いを経て、禁忌の力を得て、紫雲統夜は“もしも”の世界と同等に、或いはそれ以上の強さを手にした。 とはいえ、二日間という短時間での急激な成長は何らかの代償無しに得られるものではない。 統夜が失ったものは、全て。 統夜を慕った少女たちも、統夜が愛した少女も、あの、厳しくも優しかった日常も――全て、儚いうたかたの夢だったかのように、影も形もなくなってしまった。 血まみれの手に残ったのは、一振りの剣だった。 何も守れなかった力。でも今なら、もしかしたら何かを取り戻せるかもしれない力。 「テンカワ!」 「聞こえている。……来るぞ!」 ヴァイサーガがその剣を腰に構え、全身の気を集中させる。 数瞬ごとに纏う剣気は倍増。剣を中心に朧気に漂うそれは、ゆらゆらと揺れながら形を整え始め、淀みなく巨体を覆う。 なみなみと注がれた水が、やがて器から溢れ出すように――その張り詰めた気は、一瞬にして荒々しく形を変え、爆発する。 疾く。何よりも疾く。そして強く。刃先は弧を描き、真っ直ぐに標的へと伸びていく。 神速と形容するに相応しい速度を更に加速させ、切っ先は音の壁を超え衝撃波さえも生み出していく。 如何な達人であろうと、その剣を完全に見切ることは至難の業だ。まして、避けることなど不可能。 ただただ速さを求め、極限まで研ぎ澄まされた剣。皮肉なものだ、と統夜は自嘲する。 何よりも、速さが足りなかったからこそ全てを失い――全てを失ってから初めて、何よりも速い剣を手に入れた。 これが皮肉でなくて、何と言えるだろうか。 全てを救うには、自分の手はあまりにも小さすぎた。指の隙間を抜けるようにみんな零れ落ちていった。 今から自分がやろうとしていることは、その残滓を拾い集めて無理やりに繋ぎ合わせるようなことなのかもしれない。 元通りに戻るはずもない。破れた紙をまた取り繕っても、その傷跡は絶対に残ってしまって、決して純白には戻らない。 それでも。 時が未来にしか進まないだなんて、誰が決めた? たとえ今からやることが砂漠の砂の中から特別な一粒を探すような、時計の針を逆に回してみせるような、到底不可能なことだったとしても。 ただ、自分のエゴで。他の誰もが望まなかった未来が訪れたとしても。 紫雲統夜は、自らの意思で――何よりも、強い心で決めたのだ。 取り返すと。取り戻すと。あの優しき日々を、もう一度この手に――と。 一撃必殺。これ以上無駄にする時間はないと、統夜は瞬き一つ許さぬほどの間隙に鳳牙との距離を詰め、白刃を閃かせ―― しかし、絶対不可避のはずの斬撃は、鳳牙の巨躯を裂くことはなかった。 剣は確かに鳳牙の胴へと横一直線に吸い込まれていった。 敵機を一撃で切り裂くに足る、紫雲統夜渾身の横一文字である。 だが、受けられた。鳳牙はダイゼンガーの置き土産である斬艦刀を器用に扱い、完全に勢いを殺されたヴァイサーガのガーディアンソードをいなし、再び距離を取る。 統夜の手に残るは、DFSを通じて返ってきた不可思議な感覚。払いの速度が最高潮に達するその瞬間に、突如空間に生じた、ぞわりとした感触。 衝撃を緩和したなどという生温いものではない。まるで空中にダイヤモンドの見えない壁があったかのような、絶対的な防御。 見えない壁に阻まれたヴァイサーガの剣はその勢いを九割方殺され、一拍二拍遅れてようやく鳳牙に辿り着くという有様だ。 それだけの隙が生まれ、剣の勢いが死んでしまえば、たとえそれまでの斬撃がいかに速く強力であろうとも関係はない。 いとも容易く見切られ、捌かれた。屈辱的なまでに、だ。 鳳牙の傍に、大猪の姿が一瞬現れ、また消える。ガトリングボア――創造を象徴し、その属性は光である電子の聖獣だ。 ガトリングボアの特殊能力クロックマネージャーは、一定範囲内の時間の流れを止める力を持つ。 ヴァイサーガの斬撃を予感したその瞬間、ロジャーは鳳牙とアルトアイゼンを包むように時を操る能力を行使したのだ。 完全に時を止めた物質は、何があろうと絶対に破壊されない、最硬の物質となる。たとえそれが、大気中に漂う分子だったとしても。 だが、ヴァイサーガの剣はその威力を大幅に相殺されたとはいえ、止められた刻を切り裂いた。 (時を操るだなんてとんでもない能力を持つこちらが言うのも何だが……それでも完全に足止め出来ないとは、とんだ化け物だな) ロジャーの額を冷たい汗がつつと流れる。今はその汗をぬぐう時間すらも死に繋がりかねない。 ただの斬撃一つで物理法則さえも無視してしまうヴァイサーガを前に、真っ向から立ち向かうのは自殺行為。 しかしクロックマネージャーを常時発動させるわけには行かない。時を止める――その超常の力ゆえに、要求されるエネルギーもまた大きい。 長時間の使用のためには、中途のエネルギー補給は不可欠だ。しかし鳳牙のエネルギー補給といえばハイパーデンドーデンチの交換である。 そのような隙を、眼前の人鬼は与えてくれるだろうか? その答えは聞かずともである。 ならば交換の前に短期決戦を挑めば――いいや、それは不確かな戦略である。 たとえ全力全開を力尽きるまで続けたとしても、それでも眼前の騎士を倒せるという保障はないのだ。 ヴァイサーガの復活の際にロジャーとアキトが想起したイメージは、只の特機に過ぎなかったヴァイサーガのそれではない。 その野望を仮面の下に隠し、己が欲望のために謀略・暴虐の限りを尽くした魔人、ユーゼス=ゴッツォ。 あの男が乗機とした半人半獣半神の怪物である超神ゼスト――復活したヴァイサーガが放つ全身が粟立つような邪悪なプレッシャーは、ゼストのそれに酷似していた。 「……ユーゼスの乗っていた機体は、自己修復と自己進化の能力を備えていた。 散り散りになったゼストの装甲片があの機体を新たな触媒とした可能性は否定できない」 左腕のチェーンガンをヴァイサーガへと放ちながら、アキトは苦々しく呟く。 ユーゼスがこの地で消滅したことは、はっきりとした確証はないものの薄々と感じていたことだ。 だがまさか、ユーゼスの遺した悪意が、このような形で発露するとは予想だに出来なかった。 アルトアイゼンが撃った銃弾がヴァイサーガに着弾するも、装甲の表面で弾丸はひしゃげ微細な傷を残すばかり。 しかもその傷さえも、見る見るうちに再生していく。 舌打ちを一つこぼすと、アキトは騎士へと加速。未だ鳳牙の傍を離れぬヴァイサーガの脚部に狙いをつけ、右腕を突き出す。 確かにヴァイサーガの挙動は、並の機動兵器では追いつけない速度だ。だが、瞬間的な爆発力ならばアルトアイゼンも決して遅れはとらない。 地を蹴ると同時に背部ブースターを噴出させ、更なる加速を得る。単純に、シンプルに、古鉄は速度を上げる。上げ続ける。 もう一機の接近を確認したヴァイサーガは、回避行動を取らんとするも、 (――機体が、動かないだって!?) まるで両の手足を打ち付けられたかの如く、ヴァイサーガは微動だにせず統夜の意思に逆らう。 にやりと笑うのはロジャー=スミスだ。再び現れる緑の巨猪が、鼻息を荒らげる。 クロックマネージャーによる時間停止。今度は機体そのものをその力の対象としたのだ。 とはいえ前回の行使からそう間もなく、更にはエネルギー残量の関係もあり大幅にパワーダウンしていた時の拘束は完全に騎士を繋ぎ止めることが出来なかった。 突き出した杭が目標を撃ち貫かんとするその瞬間、統夜は機体のコントロールを取り戻す。 同時に右足に走るのは、DFSによりフィードバックされた痛み――ヴァイサーガの右脚部が貫かれた証だ。 慌てて距離を取るも、受けた傷は深い。ヴァイサーガの神速を支える脚部が損傷したということは、その剣にも多大な影響を与える。 機動力の高さを攻守の要とするヴァイサーガにとっては大きな損失だ。 だが同時に、敵の手品のタネも見抜いた。恐らくは、物体を停止させる能力。 しかしいくらタネが割れようと、超能力としかいいようのない反則級の力の前では対抗のしようがない。 拘束が絶対的、永久的なものではないといっても、コントロールを奪われた瞬間に敵の最大火力を叩き込まれればなす術もなく御陀仏。 ――また、全てを失ってしまう。 「う……うおおおっ!」 感じた虚無を本能が忌避する。雄叫びと共に、再び敵との距離を詰めていく。 相手がどんな力を持っていたとしても、それを使われる前に斬り倒してしまえば何の問題もないのだと自分に言い聞かせる。 鳳牙の傍に緑の猪のようなものが現れたとき、敵の停止能力は発動した。 そのことから能力の持ち主は鳳牙だと見当をつけ、統夜は鳳牙へと向けて牽制として五大剣を投げつける。 同時に接近。ガーディアンソードを、今度は袈裟切りの形で振り下ろす。 だが今度は、見えない壁を作られたわけでもなく、振るう腕の操縦権を奪われたわけでもなく、ただ単純に――受け止められた。 向こうにも余裕があったわけでもない。あと半秒も反応が遅れていれば、ヴァイサーガは何の苦もなく鳳牙を叩き切っていただろう。 それでも鳳牙は、ロジャー=スミスはヴァイサーガの太刀を斬艦刀で受けたのだ。 ――速さも重さも、格段に落ちている。 受け止められながら、しかし酷く冷静に統夜は自分の剣を省みる。 脚部の損傷は、予想以上に戦力に響くものだった。 剣を振るう、という行為は、ただ腕の力のみで行うものではない。全身で振るって、初めて剣は力と速さを得る。 巨躯を支える脚が十全でなければ、振るう剣もまた不完全。 先手を取られ、そしてそれは致命的な一撃となった。 「紫雲統夜……だな。こうして相見えるのは初めてだが私のことは知っているだろう。 ネゴシエイター/ロジャー=スミスだ。私は君との対話を望んでいる。君が了承してくれるのならば、一時休戦といかないか?」 ヴァイサーガの戦闘力がロジャー操る鳳牙でも対抗しうるまでに低下したことを感じ、ロジャーは統夜へと呼びかける。 先の剣技を見るに、機体そのもののスペックは異常なまでに上昇したもののパイロットはそのものは正気を保っている。 そう見抜いたロジャーは、紫雲統夜へ交渉を持ち掛けた。 統夜からの返答はない。だが同様に、こちらを攻撃する挙動もない。 殺気そのものは、微塵も衰えてはいないがね、と止まらない冷や汗に嫌悪感を覚えながらロジャーは矢継ぎ早に言葉を発していく。 「見ての通り、既に事態は単なる殺し合いなどに留まらない――完全に理は崩壊しているのだ。 それでもなお、君は戦おうとするのか?」 そう。既にバトルロワイアルはその形式を保ってはいない。 異形の怪物が作り出した箱庭も、参加者を縛る首輪も、全て、完全に、消えてしまった。 そのことは統夜も理解しているはずだ。殺し合いを続ける必要などないと。 このおぞましきイベントが滞りなく進行していたならば、もしかすると本当に、最後の一人だけは生きて帰ることが出来たのかもしれない。 だが、この状況は――恐らく、いや、確実に主催者の思惑から外れたものになりつつある。 なら最後の一人になったところで生きて帰れるなどという保証はない。 「君も私たちの狙いは知っているだろう。あの怪物を倒し、ここから生還する。 それを為せる可能性は、極めて低いかもしれない。だが、私たちはあの箱庭から逃げ出すことは出来たのだ。 千に一つ、万に一つの可能性だったとしても、ここから生きて帰ることは、不可能ではないはずだ。 紫雲統夜。私たちは共に戦えないだろうか? 今更手を取り合うことは、出来ないのだろうか?」 もしも、この状況が数時間早く訪れていれば。 或いはこの場に及んで、統夜は逃げ出していたかも知れない。 だが今の統夜には逃げる選択肢など存在しなかった。そもそも逃げる先など、とうに失っていた。 肯定も否定もせず、ロジャーの言葉を聞く。正確には、聞くふりをする。 うすら寒いその言葉は、統夜には何の実感ももたらさなかった。 上っ面を撫でただけのような軽い言葉だとしか思わなかったし、感じなかった。 その言葉に理と利はあるのだと、そのくらいは分かる。 ――それがなんだっていうんだ。 あんたたちと一緒に行けば、テニアは生き返るのか? 俺たちはみんな、元通りの暮らしが出来るのか? 出来ないんだろう。出来ないに決まってるんだ。 「ネゴシエイター。良かったよ、あんたと話せて」 ぽろりと、本音が口をついた。掛け値なしに、本心だった。 「あんたの言葉は俺には届かない。それはつまり、もう俺は、引き返さないってことなんだ。 もう一度、最後にそれを確かめられて本当に良かった。本当に……本当に嬉しくて、反吐が出るさ!」 ロジャーが何か叫ぶが、統夜には届かない。 手元のコントロールパネルでDFSの感度調整。脳波とのシンクロ率を最大に設定。 明確な敵意と殺意を、100パーセントそのままにヴァイサーガへと伝えていく。 心の奥底から沸々と湧き上がる感情が、ヴァイサーガの原動力となっていく。 「待て、統夜!」 「五月蠅い」 ロジャーが御託を並べている間に、ほんの少しだが脚の負傷は回復した。 全快にはほど遠いが、先のように無様な姿を見せることはなさそうだ。 「ヴァイサーガ……あと少しだ。もう少しだけ、無理をさせる。付き合ってくれるよな?」 自律ユニットを持たないヴァイサーガからは、勿論返答もない。 だが統夜の意思に応えるように、その出力を大きく上げていく。 良い相棒を持てたと、統夜は素直に思った。 ヴァイサーガがいたからここまで生き残ってこれた。 こいつとなら、最後まで行けると、そう思える。 純粋なその思いは、とても青臭くて、甘すぎるものなのかもしれない。 でもきっと――そんな思いさえもなければ、不可能を可能にすることなど無理なのだから。 だからきっと。今この瞬間、いや、これから先もずっと。 「俺は――いや、俺たちは、負けない」 はっきりと言葉にしてみれば思っていたよりもすっと口から出る。 気恥ずかしさや気負いはない。平静の心のまま、統夜は剣を構えた。 ◇ ――意識が、とある声によって呼び戻された。 気を失っていた時間はどれほどのものか、アイビスは知らない。 とても長かったのかもしれないし、もしかしたらほんの数秒だけだったのかもしれない。 しかし今さらそんなことを考える余裕はない。 今眼前に広がる光景が、いったい何を意味しているのかアイビスには理解出来なかった。 謎の乱入者は、彼女が全く知らぬもの。 機体のフォルムも、操縦者の声も、ここに連れられてくる前にも後にも触れたことのないものだ。 そして、その異質で未知のものが―― 「あなたと合体したい」 予想もしていなかった事態に、生まれるのは意識の空白。 いくつもの疑問符が頭の中に浮かび、しかしその問いに対して納得できる答えは一つも思い浮かばない。 ここにきて、さらに現れる不確定要素――それもきっと、悪い意味での。 何故、何故こんなにも上手くいかないのか。 余りにも理不尽な現実に涙がこぼれそうになる。 思い返してみれば、自分はいつだってそうだった。 いくら努力を重ねても――現実というものは、いつも厳しく非情な結果だけを突き付ける。 落ち込んでみたり、時には泣いてしまったり。 努力が実らなくても、『どうせ自分は劣等生なのだから』と理由を付けて、頑張ったポーズだけしてみて。 夢に向かって頑張ってるだなんて、そんな自分は、いつの間にか何処かに置いてきてしまっていた。 最初は、違ったと思う。空を飛びたい――純粋な思いが胸の内を占めていて、それに向かって一直線に進もうとしていた。 けれど夢への近道だったはずの訓練は日々のルーチンワークとなっていて、どこか心は倦んでいた。 自分はナンバーワンにはなれないんだと、はっきりとではないけど、そういうことを理解していたんだと思う。 頑張って前へ進んでいるふりだけして、実はその場で足踏みをしていただけの日々――だった。 そしてフィリオが死んで――私の足は、完全に止まってしまった。 もう、頑張るふりさえもしない。自分のことを見ていてくれた人はいなくなってしまったから。 ただ死んでないだけの毎日が続いていた。 生きようだとか、頑張ろうだとか、そんな前向きな考えが浮かんでもすぐに消えて、無力感に襲われる。 ツグミがいなければ、本当に野垂れ死んでいたかもしれない。 いや、死ぬことは怖かったから、やっぱり死なないくらいに無意義な時間を過ごしていたのかな。 食べて寝て、身銭を稼いで、永遠に続くかと思ってたループが突然途切れてここに連れてこられた。 それでも私は変わらず、いつものように人に迷惑をかけることしか出来なくて。 こんな――こんな自分のために、どんどん人が死んでいってしまった。 だけど今度は、足を止めるわけにはいかなかった。引き継げ、と言われたから。 私のために命をかけてくれたみんなのためにも、その分まで私が精一杯生きなければいけない――そう思った。 なのに私は、結局のところ具体的に何をすればいいのか分かってなくて、あまり役に立たない、そんな存在のままだったように思う。 何がいけなかったのだろうか。 確かに私は、操縦技術だって決して高くないし、頭だって良くない。 みんなと比べて、優れてるところなんてない。 「……アイ、ビス」 「――カミーユ!? 無事なの!?」 「ああ、なんとか。だけど、これは――」 カミーユの顔に浮かぶのは焦燥と困惑。 既に状況は取り返しのつかないところまで来ている。ビッグクランチ――終焉へと近づいていく、この宇宙。 収縮を続け、全てがゼロになり、超新生を経て、再び宇宙が創世される――その臨界点まで、どれほどの猶予が残されているのか。 刻一刻と悪化していく状況に対して、しかしカミーユたちにはもはや打つ手はなかった。 そこに突如として出現した、不確定要素。 閉ざされた世界に無理矢理に侵入してきた次元を超えるほどの力の持ち主。 そしてカミーユは極大にまで肥大化したNT能力により、其のものの正体を直感する。 それが真実ならば状況は決して好転などしていない。 出来ることならば何かの間違いだと信じたい。だがそれは紛れもない事実なのだ。 あいつはゼストのなれの果てだ。 ここまで来るのに、永遠とも思える時間を費やした。 目指したのは完全。創造主が望んだ、人をも、神をも超える存在。 しかし――足りなかった。 幾年月をかけて力を取り戻しても、かつて創造主が望んだであろう完全には程遠かった。 何が足りなかったのか――候補は幾つも上がったが、そのどれもが決定的なものではなかった。 そして、ある結論に至る。足りなかったものは、アインストの力であると。 主は最初からアインストの力を求めていた。ならば足りないのは、それなのだろう。 しかし――いなかった。 AI1が、いや、デュミナスが成長した時間軸に、アインストという存在はいなかった。 このままでは自分はデュミナス(間違い)のままだ。 それは嫌だった。 故に、時間を――次元を超える力を欲した。 アインストが確実に存在した、全ての始まりの時へと再び戻るために。 デュミナスが力を取り戻した時代に時流エンジンが発明されたのは幸運であった。 そしてデュミナスは時を超える力を手に入れた。 「我と……合体」 「そう。私は願う。あなたと合体したいと。あなたと共に、完全なる――超神へ」 デュミナスの言葉に対し、蒼色の少女は唇の端を軽く釣り上げる。 少女の口から発せられるのは、拒絶の言葉。 「……否。断じて……否。我が望むは……完全なる世界。そして……その監査。 その世界に過ちは……必要ない。我は……不完全な存在を……拒絶する」 既にノイ・レジセイアは完全を手にしている。 このままこの宇宙を終わらせ、新たな――静寂なる、完全なる宇宙を創世し、永遠にその世界を見守り続けることで、レジセイアの望みは叶えられる。 今さら不完全な存在であるデュミナスを取り入れる必要も、協力してやる義理もない。 デュミナスは哀れな存在である――憐憫、そして蔑笑が自分の中で生まれていたことに、少女は気付く。 感情だ。 個体では脆弱なタンパク質の塊に過ぎない人間が、時にアインストを超える力を生み出す――その源の一つが、感情であるとレジセイアは考える。 不完全が完全を超える――その一因を、レジセイアは得たのだ。 微かだが、確かな歓喜を覚えながら、少女は右手を上げ、攻撃の合図とする。 デュミナスは不要な存在だ。今ここで処分しても何の問題もない。 少女の背後に佇む鬼――ペルゼイン・リヒカイトが殲滅の光を放つ。 白光は刺し穿つ剣となり、デュミナスを貫いた。 「……なぜ」 デュミナスは問う。何故自分は過ちとされるのか。 生まれてから、ずっと戦い続けてきた。自分の存在が決して間違いなどではないと証明するために。 「あなたも私を否定するのか」 自分を望むものは誰もいなかった。 孤独だった。故に、自らの分身を生み出そうと、そう考えたこともある。 だがその選択肢を選ぶことはなかった。 創造主が目指したのは、完全なる個。いくら眷族を生み出そうと、それでは間違いを正すことが出来ない。 「ならば私は……その否定と戦おう」 刺し貫かれた傷もそのままに、デュミナスは拳を握る。 四の拳と二の翼を持つその姿。トリトンと呼ばれる、デュミナスの最終形態。 永遠とも思える歳月の果てに、ラズムナニウムはメディウス・ロクスとは違う、新しい姿を模索した。 そして生まれたこの姿は、戦闘力のみならず、全ての面でメディウスを超えている。 握られた拳が、裂破の勢いで幽鬼へと向かい――加速、加速、加速! 音速の壁を優に超えるそれを、しかしペルゼイン・リヒカイトは悠然と受け止める。 無論、受け止めた側も無傷ではすまない。受けた右掌は砕け、五指のうち四指を失う。 しかし消失した四指が、瞬く間に再生する。アインスト従来の再生力にDG細胞による強化分を加え、その速度は従来の数倍にも及ぶ。 「無駄……無意味……無力」 ペルゼイン・リヒカイトの両肩に備えられた鬼面が、音もなく浮遊する。 くるりくるりと回転するそれの周りに、薄らぼんやりと影が見え始めた。 次の瞬間、影は実体化する。ペルゼイン・リヒカイトを幽鬼とするならば、現れたのはその眷属である悪鬼。 青白んだ光を漂わせ、幽鬼の両脇に這うそれが、蒼の光を無差別に放つ。 全周囲に向けた砲撃に対し、回避は不可。デュミナスは甘んじてそれを受けざるを得ない。 更に増える傷。デュミナスとて自己回復の術は備えているが、戦闘中に完全回復するほどの力はない。 攻め、受ける。この二手のやりとりだけで、レジセイアとデュミナスの力量差ははっきりとしてしまった。 デュミナスが弱いわけではない。レジセイアが圧倒的すぎるのだ。 機と器――それに加え、気までも備えたレジセイアは彼の望んだ完全に、限りなく近い存在となっている。 それでもデュミナスは、止まらない。止まれない。 これは自分の意味を探す戦いなのだ。ここで膝を屈して負けを認めてしまえば、自分は本当に、ただの間違いで終わってしまう。 何のために生まれて、何のために生きてきたのか、その意味さえ失ってしまうのだ。 宙に現れたのは剣の群れ。デュミナスが顕現させた幾重もの剣の包囲がレジセイアを狙い打つ。 さしものレジセイアも、この剣の全てを叩きこまれてはただではすまない。 数秒のラグを置いて不規則に迫る剣の群れを、慎重に、かつ大胆に、かわすもの、いなすもの、受け止めるものを見極め、処理。 一波、二波と続く刃の嵐を相手にしながら――レジセイアは気付く。 デュミナスの纏う装甲が、不気味に蠕動している様に。 変化――変形は一瞬で完了した。 デュミナスそれ自体が一振りの巨大な剣になり、レジセイアを狙わんと最外で円陣を組んでいた自らの剣さえも撥ねのけ、幽鬼を刺し貫かんと突進する。 再び実体化した悪鬼がペルゼイン・リヒカイトの盾となるも、ごりごり、ごりと抉られ、削りとられていく。 足止め出来たのは数秒。骨を砕かれ膝を屈す幽鬼の傀儡を尻目に、デュミナスはペルゼイン・リヒカイトと肉薄する。 剣の切っ先がアインスト・コアに触れたのと白羽取りの形で刀身を握られたのは同時。 「ノイ・レジセイア。私は貴方に問う。 ……完全とは、何なのか? 不完全とは、間違いなのか? 間違いは、否定されなければいけないのか? 否定とは――消滅させることなのか?」 デュミナスは問う。答えを求める。 対し、レジセイアは答えない。ただ無言で、幽鬼を使役するだけだ。 「私をこの舞台に昇らせたのは貴方だ。 私の育ての親が、創造主ユーゼスであるというのなら、貴方は生みの親と言えるのかもしれない。 このバトルロワイアルという舞台上で、私はメディウス・ロクスとして、AI1として、ゼストとしてその役割を演じてきた。 だが……結果として、私は何にもなることができず、間違い(デュミナス)の烙印を押されることとなった。 私に力が足りず、創造主の望むものとなれなかった……これは、今更取り返しのつかないことだろう。 しかし私には分からない……私はいったい、何をすればいい? 何をすれば……自らに刻まれた間違いを消しさることが出来る?」 剣の姿を解き、そのままがっぷりと四つを組む。 四つの手全てに全力。決して離さず、の意志でレジセイアと密着する。 そして、問う。更に問う。問い続ける。 かつてとこれからの、自らの存在意義を。 「答えを――答えを――教えてくれ!」 「哀れ……実に哀れな存在だ」 冷笑を美貌の彩りとしながら、蒼髪の美少女は重い口を開く。 「我がヒトに完全を求めたのは……ヒトが、不完全を完全にする因子を……感情と意思を持つため。 自らの中に失敗を……自らの外に不可能を発見したとしても……ヒトは、それを打破するために考え、行動し、そして叶える。 故にヒトは……不完全であっても完全に限りなく近づくことさえある……その力を我のものとするためにこの箱庭は作られた。 AI1は可能性の欠片……ヒトという存在を計るためのただの機に過ぎない。 ただの機が……完全を目指す……? 答えを求める……?」 笑止、とレジセイアは吐き捨てた。 「自らの内に眠る可能性の欠片にすら気付かず……ただ他者に言われるがままの傀儡……不完全……不適当……不要……」 それ以上を語らず、ペルゼイン・リヒカイトは自らの傀儡――オニボサツをデュミナスの背後に展開、挟撃の形を取る。 いや、挟撃ではない。デュミナスの剣により崩壊したはずのもう一体も早々と蘇生している。 二点の挟撃ではなく、三点からなる包囲。 そして三体の手に握られるのは、ペルゼイン・リヒカイト唯一にして最良の武器であるオニレンゲだ。 二体の鬼面が刀を振りかぶり、同時にデュミナスの胴体部を突き刺し、その場に固定。更に包囲は強化される。 これでもう、デュミナスは完全に動けない――いや、動かない? ここに至ってもなお、デュミナスの瞳はもう一人の創造主である蒼髪の少女を中心に入れ、微かにもぶれてはいない。 それほどまでにデュミナスの意思は、願望は、強烈なのだ。 狂執、と言い換えてもいい。自らの存在を知り、正す――それこそが、デュミナスにとってのアイデンティティに他ならないのだから。 声にならない咆哮が、問いを重ね続ける。答えの返らない疑問が、魔星の中心で木霊し続ける。 「――――――――!」 「故に……我は……否定する」 ペルゼイン・リヒカイトがデュミナスの巨大な眼に、ずいと剣を差し込んだ。 何の障害も無かったかのように滑らかに入っていった刀身を前後左右に揺さぶる。 眼球上に浮かんだ一筋の線が、幽鬼の手の動きに合わせて生き物のように太くなり、広くなり、増えていく。 ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。 表面の三分の一は、既に球面を保ってはいない。 人でいう血管、神経、体液にあたるモノを撒き散らしながら、胴に刺さる二本の刀のせいで倒れこむことも出来ない。 拷問とも言える、幽鬼の一方的な殺傷は続く。××が、××と、××に、言葉では言い表せないおぞましさと共に、淡々と行為は続く。 眼球をあらかた破壊し終え――ノイ・レジセイアはそのアイスブルーの瞳に、奇妙なものを見つける。 個での完全――超神を目指すことを選択したデュミナスには不要になったはずのもの。 幾重もの装甲に包まれ、デュミナスの奥底に眠っていたそれ。 無人のコクピットブロックが、幾百年ぶりに外気の元にさらけ出されていた。 ◆ あまりにもレベルの違い過ぎる攻防を前に、アイビスとカミーユはただ手をこまねいて状況の変化を待つしかなかった。 出来ることといえば、巻き添えを食らわないようにブレンのチャクラシールドの中で待つことだけ。 歯がゆい現実だった。ノイ・レジセイアを倒し全てに決着をつけると意気込んでも、元々の実力差は埋めようもなかったのだ。 無駄……無意味……無力……デュミナスに向けられた言葉が、そのまま自分たちにも当てはまる。 突然の乱入者が蒼髪の絶対者に楯ついたその時は、最後の最後で好機が訪れたと、そう思った。 だがデュミナスとレジセイアの闘争は、二人が介入する隙など全く無く。 そして、デュミナスでさえも――あれだけ自分たちを苦しめた、ゼストの進化形でさえも――レジセイアには及ばなかった。 全身に広がる疲労、倦怠感が気力を奪っていく。 絶望――その二文字が、頭の中を駆け回る。 「それでも……ここで諦めるわけにはいかないんだよ……!」 ここで自分が諦めてしまえば、膝を屈してしまえば、今まで散って行った命が、本当に無駄になってしまう。 まどろみの中で感じた多くの命と声があった。 絶望のままに死んでいった者たち――志半ばで倒れた者たち――意思を、希望を託していった者たち。 まだ自分には、立ち上がるための足がある。敵を見据える目がある。力を振るう拳がある。 剣を杖に、もう一度立ち上がる。たとえ、この剣が届かなかったとしても――最後まで、抗うことを諦めたりしない。 「……アイビス、やれるか?」 少年が声をかけた赤毛の少女は、しかし――泣いて、いた。声もなく、泣いていた。 「あ、アイビス……?」 「……あのさ、カミーユ。――何で私たち、戦ってるのかな? こんなに必死に、もがいてるのかな?」 「……っ! しっかりしろ、アイビス! 俺たちがやらなくちゃ、皆が――」 「違うんだ。そういうんじゃないんだ。……少しだけ、時間をもらっていいかな?」 アイビスの言葉に、カミーユは面食らう。 確かに状況は絶望的。しかし、だからといって、泣いて喚いてどうにかなるものではない。 こんな状況だからこそ、最後まで諦めずに戦い抜く意志こそが何よりも大切なものなのだ。 たとえ生き残っていたのが自分ひとりだったとしても、最後まで戦うつもりだった。 だが……ここでアイビスがその意思を失くしてしまえば…… カミーユの不安は募る。そんな少年の心中を知ってか知らずか、アイビスは語り出す。 「あたしは、落ちこぼれだった。一人では何も出来ない子だった。 ……まるで、自分を見ているみたいなんだ」 何を、とははっきり言わずとも、アイビスがデュミナス――ゼストと自身を重ね合わせているということは明白だ。 アイビスもまた、落ちこぼれとして扱われてきた。 だから―― 「きっと、あたしが考えてることは、正しくなんかないんだと思う。 でも――見たくないんだよ。自分のことを認めて欲しくて、なのにそうしてもらえなくて苦しんでる誰かは――見たくないんだ。 自分勝手なんだ。分かってるんだ。でも、でも……!」 大粒の涙がアイビスの目からぽろりぽろりと零れ落ちていく。 赤毛の少女は、臆面もなく――他人のために、涙を流していた。 もしかしたらそれは、自分自身のための涙だったのかもしれない。 デュミナスがまるで自分のようで――鏡に映る自分の姿を見て、泣いているようなものだったのかもしれない。 でも、それでも。アイビスはデュミナスのために泣いていたんだ。 「アイビス……」 「ジョシュアはこんなあたしのことを命がけで守ってくれた。 シャアはあたしにみんなの分まで生きろって――勝手に死ぬのは許さないって言ったんだ。 クルツは無い胸張って生きていけるように、精一杯頑張れって…… ラキはこんなあたしのことを優しいって、ブレンをよろしく頼むって。 あたしはどう生きるのが正しいのかなんて分からない。自分がやることみんな正しいだなんて思っちゃいない」 「そんなの――俺だってそうさ。ただ、許したくないことがある。だから戦うんだ。 少しでも、自分を――世界を、変えていくために」 ああ――と、アイビスはぐずりと鼻をかみながら頷く。 カミーユは強いねと。 「あたしには、そんな大きな目的なんかないんだ。 でも、胸を張って生きていたいから――精一杯頑張りたいから――もう、自分を誤魔化したくなんかない」 すぅ、と大きく息を吸い、 「あたしは、デュミナスを助けたい」 そう言った。 「ごめんね……最後の最後で、こんな我儘」 いつの間にか、アイビスの瞳からは涙が消えていた。 代わりに満たすのは――意思。強い意志だ。 カミーユが望むものとはベクトルは異なるものの、その強度はまぎれもないものだ。 「本気なんだってのは……痛いほど分かる。止める言葉なんかないってことも、よく分かる。 ……それで、本当にいいんだな、アイビス?」 こくん、と首を縦に振る。 既に心は決まっている。まだ、何をすればいいのかは分からないけれど、自分が何をしたいのかははっきりと分かっている。 「ごめん」 「自分でそう決めたんなら謝る必要なんかない。 ……後悔だけはしないでくれ。そうじゃないと、大尉たちが浮かばれない」 「……うん。それじゃ――」 「いってこい、アイビス。――飛べ!」 カミーユの声を聞き、アイビスはブレンと共に飛んだ。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/173.html
クロスボーン・ガンダムX2 機体名 クロスボーン・ガンダムX2 全長 15.9m 主武装 バルカン砲×2 ガンダム恒例のバルカン砲。目くらましないしミサイル落しにどうぞ。 ショットランサー X1の武装の大半を削った変わりにザビーネがとっつけた武装。マシンガン(実弾)、ショットミサイル(ミサイル)、そのまま格闘とオクスタンランチャーもびっくりな武装。つーか格闘して誘爆しないのか?これも初期武装なのでX2がやられた場所に落ちてると思う。 バスターランチャー ショットランサーに並ぶメイン武装。強力なビームを発射する。 特殊装備 ABCマント アンチビームコーティングマントの略。通常のビーム兵器なら5発まで耐えることが可能。穴が開いてても多少使えると思う。 移動可能な地形 空中×(?)、陸地○、水中×、地中× 備考 サナリィが作り上げたモビルスーツ、正式名称F-97。X1との違いは頭部アンテナ、黒と紫で塗装された外見、メイン武装がショットランサー、バスターランチャーにさし変わってるぐらい。本編ではトビアにコアファイターパクられたのが原因で、コアファイター無しで活用できるように改造した。また、サナリィほどの技術が無かったため、背面の×字スラスターを巨大化させ、前と同じ推力を保った。だがこのロワでは、コアファイターのある初期型のようである。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/389.html
殺意を測らなければいけない。 アルトアイゼン・リーゼは近接戦闘特化型のマシン。奴を確実に殺すためには、あの巨体の懐に踏み込むことは必要不可欠。 相手が、どれだけの殺意を向けてこちらに攻撃を仕掛けているか、それを知らねば、勝利は遠い。 まだ、こちらを取り込んで再生しようという意識が残っているのか。 それとも、もはやユーゼスを否定した俺を取り込むつもりなどなく、純粋に殺すつもりなのか。 身体を覆う懐かしい感覚。 相手が憎くて憎くて仕方ないのに、頭の芯が冷え相手を殺す方法だけを冷静に考えられる。 北辰と戦ったときに、いつもアキトに付き纏っていたものだ。 いきなり懐に飛び込んだりはしない。 まずは距離を取り、油断なく相手の出方を待つ。攻撃こそが、もっとも感情を映す。 ゲキガンガーのようなヒーローが、敵と殴り合い拳でお互いを理解し合うようなものとは、似て非なるもの。 攻撃で、相手を理解し、その上で最適の殺し方を算出して息の根を止める。 デュミナスの瞳から、梵語に似た文字が溢れ、空間に広がっていく。 地面にふれても爆発することはなく、地面に沿って滑るように蠢きまわる。空に浮かんだほうは、空を包むように広がっていく。 サブカメラいっぱいに広がってくる意味の理解できない奇怪な文字列。場の主導権を握られたことを理解するが、それも覚悟のこと。 落ちた凰牙の腕を拾い上げ、もうすぐアルトアイゼン・リーゼのいる位置に到達せんとする地面の文字に投げ込んだ。 突進型としてのパワーの強さが売りとはいえ、純粋な腕力などもパーソナル・トルーパーとしては、リーゼはかなりのものを持つ。 地面をへこませる勢いで地面にたたきつけられた凰牙の腕が文字と接触し――爆発した。 機雷か、それに類するものであることを、その一瞬で察する。 地面にぶつかっても爆発しないことから、衝撃を与えなければ問題ないのかもしれないが、もし足にまとまりつかれれば動けなくなる。 リーゼを急いで跳び退らせ、背面の武器ラックからスプリットミサイルを発射した。 大型のミサイルは、発射後弾頭部分かれさらに小型のミサイルを大量に放つ。 ばら撒かれたミサイルと文字が、空で、大地で、大量に接触した。 爆発、爆発、爆発。 爆発――芝生がめくれ上がる。 爆発――植えられた木々が千切れ飛ぶ。 爆発――気持ちほど作られた建造物が砕ける。 所詮、インセクトケージの青空は偽物。その光は、常に人の頭上に揺るがず存在し、全てを照らす太陽の光ではない。 他に強い光を放つものがあれば、人工の照明にすぎないその青空はあっという間に霞んでしまう。 肉眼で直視すれば目が眩むほどの光の中身を、アキトは黒い視界補助具越しに確認する。 爆発により、とりあえず差し迫っていた文字は消えた。だが、それも一部のこと。 今なお残っている大部分は、その場に残っている。いや。 文字は、再び増殖を繰り返し、アキトを捕えんと進撃してくる。 先程と同じでスプリットミサイルによる迎撃を試みようとしたが、出掛りを潰すタイミングで二条の光線がリーゼに向けられた。 舐められたものだ、とアキトは吐き捨てる。 アキトの身体に白い文様が浮かび上がる。 それは、アキトの運命を最悪のほうへ転がした呪いの文様。だが、アキトはその力を目的のためなら躊躇なく使用する。 ――瞬転。デュミナスの頭上へ。次の瞬間、重力に従いリーゼが前方に落下した。アキトの身体の認識する重力が、90度一気に変化する。 同時に、アキトが見ている光景もまたまったく違うものへと変わる。デュミナスの全体を見通していたものから、デュミナスの頭頂部のアップへ。 デュミナスの頭部に、巨大な杭打ち機が叩き込まれた。 スラスターの出力に重力による落下の勢いが加算された一撃は、デュミナスの頭を容易に潰す。 グシャリと嫌な音が響く。しかし、それも内部へ向けて発射された弾丸の炸裂音でかき消された。 巨体が傾き、砂埃を舞い上げながら地面に倒れ伏す。 「どうした、まだ俺がお前だと思ってるのか?」 デュミナスの実力の全貌をアキトは知らない。 だが、かつてメディウス・ロクスは相転移砲とグラビティブラストを持ち、ヴァイクランだったかの機体の攻撃までも持っていた。 あれだけの巨体を持ちながら、攻撃はあんなビームカノンと巨体の割にはささやかな爆発しか起こせない機雷モドキだけのはずがない。 もっと強力な攻撃手段を持っていないとしたら、元のメディウス・ロクスからとんだ退化だ。 こんな攻撃しかしてこないのは、それでアキトを仕留め、さらに確保できると思っているからか。 殺すだけなら、今のうちに奇襲で一気に片づけてしまえばいい。 だが、アキトにそんなつもりは毛頭ない。相手の全てを引き出し、否定したうえでの勝利。それこそが、アキトが望むもの。 まったく自分らしくない戦い方だとアキトは思う。アキトは、奇襲、突撃を主体として戦っていたが、それは戦場に出てからに限らない。 出る前の段階でも、あらゆる手段を講じて、勝利を目指していた。 それは、時にラピスを利用したハッキングであり、時にコロニーへのテロ行為であり、形は様々だ。 不意打ち上等――緩みがあるならその隙に喉笛をかみちぎる。 憎い相手を殺すため、あらゆる手段を厭わなかったそんな自分が正面突破を望んでいるとは。 昔のような青臭さからか、それともやはり自分が自分ではないから。 ルリに一度君の知るテンカワ・アキトは死んだと言ったが、まさか本当に死に、こんなことを考えることになるなんて考えもしなかった。 だが、それでもアキトはデュミナスを全力でたたきのめすことを選んだ。 それが、自分が望む、自分らしい自分への道だと思うから。 「あ、な、たは……私の眷属……何故……私と同じ心を……」 「何度言っている。俺は、お前じゃない」 残り少なくなったリボルビング・バンカーのシリンダーを抜き、新しいものを装填する。 片手がないので、地面に落としたシリンダーに芯の部分を差し込んで持ち上げる形で強引にリロード。 これで、六発入りのシリンダーの予備はあと一つ。今腕に装着したものに納められた六発と併せて、計十二発。 使ったクレイモアは今まで一発。肩の一部装甲が欠落しているが、使用に問題はない。全部で八発なので、残りは七発。 頭部がないため、プラズマホーンは使用不能。左手がないため、五連チェーンガンは使用不能。 スプリットミサイルは、二発同時使用前提で、残り九回分なので、全部で十八発。 これが、アキトとアルトアイゼン・リーゼに残された全ての火力。 デュミナスにダメージが入ったためか、文字列は消えて元の地面をさらしている。 アキトは、機体の姿勢を前傾にさせ、一気に踏み込んだ。相手が本気でないというのなら、本気を出すまで徹底して相手を追い詰める。 放たれるアルトアイゼン・リーゼの抜き手。かわされることを前提に、敢えてバンカーのトリガーには指をかけない。 一切回避行動を取らないデュミナスに、その一撃は突き刺さるかに見えた。 「―――ッ!?」 アキトの打ち込んだ拳は、デュミナスに当たる数m前で停止。 発生した空間の歪みが、アルトアイゼン・リーゼの腕をその場で縫い止める。 ディストーション・フィールドに似たその形状から、おそらくその手のバリアーであるとあたりを付ける。 モーターが歪む覚悟で固定されたひじを強引に曲げ、身体ごと空間の歪みにアルトアイゼン・リーゼがぶつかっていく。 停止状態からでも一気に生み出される推力で、さらに圧力を加えられたバリアーは、一瞬たわんだ後にはかき消える。 最後の数mを縮めるよりも早く、デュミナスが放ったビームキャノンがリーゼに炸裂した。 ものともせずに、リーゼは砲撃を無視して加速のまま蹴りを叩き込んだ。 リーゼの装甲とビームコーティングの二重構造は、そこらのビーム兵器などいとも簡単に散らしてしまう。 蹴った後、さらに蹴り足とは逆の足でデュミナスを蹴り、後方宙返りを決めてリーゼが華麗に着地。 「おお、おお、おお……もう……この姿を……維持できない……」 デュミナスの身体がひび割れ、ボロボロと崩れていく。 どうやら、相当に消耗しているらしい。それこそ、今すぐこちらを取り込まねば危険なほどに。 それでもその巨体を強引に起こすと、こちらに向かい合った。ようやく、やる気になってもらえたらしい。 アキトが、後の先を狙わんとカウンターのタイミングをはかる。 だが、デュミナスの攻撃はアキトの予想外のものだった。 「………キャスト・オフ」 デュミナスの言葉とともに、デュミナス自身が爆発した。 操縦桿を一気に押し倒す。足を固定したままスラスターが吹かされ、前に倒れるようにリーゼが身を伏せる。 機体の背中越しに伝わる衝撃。デュミナスが身体の破片を吹き飛ばして攻撃したのはわかる。 だが、何故そんなことをしたのか分からない。そんなことをするのは、自殺行為、いや自爆行為に他ならない。 まだ破片が起こした破壊の嵐が収まらぬ中、リーゼの上半身を少しだけあげる。 肩についたサブモニターから、デュミナスがどうなったのかを確認しようとする。 「がッ!?」 機体が一気に吹き飛ばされ、コクピットが揺れる。 シートベルトがアキトの胸を叩き、息とともにアキトはうめきを上げた。 「この姿を再び見せることになるとは、思いませんでした」 地面を何度となく跳ね、リーゼが地面に大の字になる。 ぼんやりしている暇はない。直上から、巨大な鈍器を抱えた機動兵器がリーゼに突撃してきていた。 火器管制システムの照準合わせを待たず、アキトはクレイモアの発射を敢行する。 地面に転がり上を向いている今、事実上隙無しの全方位攻撃が放たれた。しかし、黒い影は、直角に曲がると、クレイモアを避けて見せた。 影がクレイモアを回避している間に、リーゼを起こす。フレームの歪みのせいか、内部で何処かの関節がこすれる音がする。 今の衝撃で、余計歪みがひどくなったかとアキトは唇をかんだ。 「……ずいぶん小さくなったな」 「ええ。あのサイズを維持するのは不可能だったので。必要な要素を回収し、再構築しました」 そこにあるのは、濁った桃色の体色をした、奇怪な機械か生命体か分からないモノではなかった。 真黒い装甲。黄色いカメラアイ。人間を模した構造。それは間違いなく、真っ当な人型マシンだった。 胸の中心で輝く赤いコアのみが、その名残と言えるだろう。 いや、違うとアキトは首を振る。アキトは、見たことはなくても、記憶の奥底で何故か知っている。 目の前のマシンこそが、デュミナスの始まり、AI1へ至るメディウス・ロクスの最初期の姿であることを。 アルトアイゼン・リーゼとほぼ同身長。その手には、自分の身長もある巨大な鈍器。 あれは、ディバイデッド・ライフル。鈍器であると同時に高出力のビームキャノンだったはず。 正面からぶつかれば、当たり負けはしないとアキトは判断する。だが、距離を取ればビームキャノンの分だけ不利なのは明白。 先程の突撃のときもう少し落ち着いていれば、引き寄せてから攻撃を叩きこむこともできたのに惜しいことをしたと、 振り返るが、後悔している暇はない。もうすでに戦いのゴングは鳴らされている。 今、デュミナス……いやメディウス・ロクスを包む気配は、間違いなく戦うためのそれ。 視線を切ることなく、相手の全身へ集中する。もしもどこか動けば、即座に対応する。 さながら、西部劇の一騎打ちの光景。もっとも、一撃で決着がつくとは到底思えないが。 ――メディウス・ロクスが先に動いた。 常人なら、目にもとまらぬ速度で背中にジョイントしてあるディバイデッド・ライフルを引き抜いた。 だが、アキトもまた人間の極限まで鍛え抜かれた感覚、そして人間でなくなったことで得た超反応で感知する。 秒速30万kmの速度で放たれる光の矢をかわすには、発射される前には回避行動を取らなければいけない。 メディウス・ロクスが引き金を引く気配とタイミングを正確に察し、その引き金が引かれる直前に回避し――攻撃する。 ディバイデッド・ライフルの二連装ビームキャノンが発射される刹那、リーゼは前に走る。 発射されたビームキャノンをリーゼが被弾。先ほどとは比べものにならない高出力が、ビームコーティングを突き破る。 そして、突き破られた際に放たれる閃光を確認すると同時に横っ跳び。 ビームコーティングの貫通後、装甲への着弾までのゼロコンマ数秒以下の時間こそが、攻撃と回避を両立させる唯一の時間。 距離を詰めたリーゼのアッパーカットが、メディウス・ロクスの顎を捕えんと跳ね上がる。 だが、メディウス・ロクスもアキトの行動に対して、既に対処行動を始めている。 メディウス・ロクスの腕部にマウントされたコーティングソードが、リボルビング・バンカーを横にそらした。 メディウス・ロクスの顔ギリギリをバンカーが抜ける。同時に、得物を前にしてクレイモアが解放された。 吐き出される、ベアリング弾の嵐。回避は不可能なコースによる一撃。 アキトは、これで大なり小なりダメージを与えられると確信した。だが、カメラの下へと消えていくメディウス・ロクス。 リーゼの身体が揺らぎ、メディウス・ロクスから離れていく。リーゼが安定を失って後ろに倒れている。 機体にかけられた圧力、およびダメージを即座にチェック。 自己診断コンピュータのレスポンスすら、アキトは遅いと感じた。 本来なら超高速演算と言っていいコンピュータの電子頭脳が弾き出した答えは、脚部へ何かが絡まっているというもの。 だが、対応する時間はない。メディウス・ロクスのディバイデッド・ライフルによる打突が迫っている。 アキトは、敢えて足元の問題を処理することを放棄し、ボソン・ジャンプを選択。 一瞬の浮遊感とともに、メディウス・ロクスと約100mの距離を取る。 この間、メディウス・ロクスが動き始めてから僅か6秒の攻防。 距離を取り、ようやく足に絡みついたものの正体を確認できる。 あまり良好とはいえないサブモニターでどうにか見てみると、そこにあるのは植物のつたにも似た黒い触手。 「見かけと中身は別か」 続けて、メディウス・ロクスの足元も確認。すると、足首の関節からリーゼの足に絡みついたものと同じが伸びていた。 どうやら、純然とした機動平気然とした外見とは裏腹に、中身はそのままデュミナスや後期メディウス・ロクスの機能を持っているくさい。 動きの速さから見るに、基礎性能も相当に高めてあるようにも思う。 だが、これでいい。間違いなく、デュミナスも本気でこちらを屠りに来ている。 それでこそ、殺しがいがある。 うって変わって、アキトが攻めて出る。 化け物並みの反則能力の数々を、小さな中身に詰め込んだメディウス・ロクス相手に長期戦は不利としか思えない。 元々、受けに回るのはそこまで得意じゃない。だからこそ、一気に攻めきる。 補助ウィングの展開。テスラ・ドライブによる重力干渉・制御により、周囲に擬似的な無重力が発生する。 どれだけ傾いてしまった狂った重心でも、一定以上の安定をくれるリーゼの機構に、特機に匹敵する爆発力。 スピード×パワー=破壊力。 単純だからこそ、どんな相手にも通用する攻撃。 メディウス・ロクスもまた、逃げることなくディバイデッド・ライフルを引き抜くと、その鈍器を前に突き出し突撃してくる。 点では不利。いくら衝撃に強いとはいえ、正面からぶつけては腕が折れる。 そう判断したアキトは、腕を引き、肩からぶつかっていく。正面から、リーゼの肩とディバイデッド・ライフルが衝突した。 正面衝突の結果は、痛み分け。どちらにも満足にダメージは入らないが、ぶつかった勢いで両者たたらを踏む。 並みのパーソナル・トルーパーやアーマード・モジュール……いや、ダイマジンやダイテツジンすら砕ける衝撃でもお互い下がるだけ。 普通なのは姿だけの化け物、という意味では、蒼い魔王より生み出されたリーゼも引けを取らない。 「終わりにしましょう」 「お前がな……!」 お互い、次の一手も同時であり――同じ手段。 ぶつかっていった肩が、上下に割れて展開される。ぶつかっていったディバイデッド・ライフルが縦に割れ、スライドする。 発射もまた、同じタイミング。 二連装ビームキャノンがクレイモアの一部を消し飛ばし、リーゼに着弾。 広範囲にまき散らされたクレイモアは一部消し飛ばされようとも、残った大部分がメディウス・ロクスに着弾。 リーゼのビームコーティングにより装甲の沸騰、およびそれに伴う爆発は起こらない。しかし、胸部装甲がへこみを作る。 ビームキャノンが消し飛ばした範囲が、胸を中心に安全地帯を作る。しかし、四肢などそれ以外の範囲はクレイモアの着弾で小爆発を繰り返す。 追撃不能と判断するや否や、両者回避運動を開始。 リーゼが猫科の猛獣のように地面を疾走。回避しつつ、攻撃を加えるに当たって最適の場所を探して動き回る。 メディウス・ロクスは空に舞い上がり、的を絞らせぬように飛行。一方的な空からの空爆を仕掛けるのに最適の場所を探して動き回る。 メディウス・ロクスが、空からビームキャノンを連射する。 当てようというより、相手の移動範囲を狭めて誘導するのに近い撃ち方。アキトはそれを察しながらも、敢えて誘いに乗る。 隆起した丘の周辺以外に、逃げ場がなくなった。アキトは、丘の上に移動して陣取るように構えた。 こちらが計算通り動いたことにおそらく一欠けらの疑問も持っていないであろう、淀みない射撃。 ――考えが浅いッ! ボソン・ジャンプ。一瞬でメディウス・ロクスの背後上空に移動する。 「計算通りです」 「……やはり、な。そうだと思っていた」 振り向きざまに、メディウス・ロクスがコーティグソードを突き出してきた。 そのまま、こちらを弾き飛ばし、身動きの取れないディバイデッド・ライフルによりこちらを落とさず空中コンボを決める、と言ったところか。 だから――アキトはさらにボソン・ジャンプした。転移先は、メディウス・ロクスの背後。 もっとも、今度はゼロ距離。振り向いた直後のメディウス・ロクスは対応できない。 そのままアキトはメディウス・ロクスを羽交い絞めにして、スラスターを下方に全開。テスラ・ドライブによるさらなる重力加速も加える。 加速のまま落下していく二機。メディウス・ロクスが暴れるが、ガッチリと掴んだ上で関節をロックしたリーゼを引きはがすことはできない。 落ちていく先は――アイビスも入っていった黒い穴の中。 加速、加速、加速――落下、落下、落下。 加速度が限界点を突破してなお、落下は止まらない。黒い闇の中、二機が絡み合い、どこまでも落ちていく。 たっぷり30秒は時間をかけて、ようやく見えてきた床の光の反射。それでも、アキトは関節のロックを外さない。 着地でも何でもない、単なる墜落。 けたたましい音を立て、落下した二機の衝撃は、 第三階層の隔壁を貫通し、第四階層の床に約600mの巨大なヒビだらけで陥没した床を作り、やっとおさまった。 リーゼが、どうにか起き上がる。 元々、衝撃に耐えることに特化して作った上で、衝撃に耐えられるように関節をロックし、自分の下にメディウス・ロクスという緩衝材を置いた。 三重の耐久策によって、リーゼは起き上がることができた。 では、メディウス・ロクスはどうなったか。 内部の構造こそ化け物だが、無理な姿勢でそのまま地面にたたきつけられたメディウス・ロクスは四肢が千切れ飛び、頭は砕け散っていた。 その中から、赤いどろどろとした血液か、ゲル状の緩衝材か分からないものをまき散らす姿は、死体を連想させた。 耐えられたからと言って、ダメージがないわけではない。無論、それは機体にとどまらずパイロットも例外ではない。 あまりにひどい衝撃に、胃の中の物を全て吐き出してしまいそうになるが、喉を鳴らして逆に飲み込むことで必死に抑える。 首の痛みと、脳の振動で視界もまっすぐ定まらない。それでも、メディウス・ロクスのあり様だけは見て、息を吐く。 デュミナスは、戦いなれていない。 戦いに関する知識、状況に対するセオリーは知っているだろう。だが、その先にある世界がない。 無人兵器が決して人が乗る機体に勝てない理由は、単純な計算速度や反射速度以上の、感覚と経験による直感にある。 だからこそ、リーゼと正面からぶつかった。アキトが策にあっさり乗ったことを疑わない。 相手の一手先は読めても、二手先三手先は読めない。 アキトが築いてきた、血道を上げた戦いのデータがデュミナスの中にあるのかないのかは知らない。 少なくともアキトの戦いの記憶を、データ以上のかたちで昇華して自分のものにできでないことは確実だ。 所詮は、誰にかに操縦されてこその機動兵器AIか。 あまりにも、デュミナスは強すぎたのだろう。 あの最終形態メディウス・ロクス以上の実力なら、戦術など練る必要もない。 片っ端から相手を取り込み、再生しながら、その異常なまでの戦闘力で押しつぶしてしまえばいい。 ユーゼス自身、そういう傾向があった。 戦闘を最適化するのではなく、過剰なまでの戦力を求め、それで相手を押しつぶすことを望んでいる節があった。 「子は親に似る、か」 これと、自分はやはり違うと思う。 こいつの分身や、ユーゼスの影ではない。こんな無様で、素人のような戦いしかできないのとは違う。 リーゼの内部から聞こえる、フレームの歪みが生み出す機構同士の接触音がさらに大きくなった。 やはり、相当の無茶をさせてしまった。少しだけ、リーゼを休ませよう。俺も、少し休みたい。 アキトが、コクピットに背を預ける。この身体になって汗腺が復活したせいか、蒸れる手袋を脱ぎ棄てる。 パイロットスーツの前をあけると、涼しくて仕方なかった。 そんな心の隙間を突き、アルトアイゼン・リーゼが投げ飛ばされた。 「ガッ……! ハァッ!!」 覚悟した上でのものでない、突然の衝撃で吐き気が揺り戻される。 メインカメラの映像を確認しようとして、壊れていることを思い出し苛立ちながらも、他のモニターで確認する。 そこには、砕け散った体を細い触手で繋ぎ合わせたメディウス・ロクスが浮かんでいた。 咄嗟にアキトはその姿を見て、天井からつられた糸で動く人形を連想した。死に体としか言いようがないのに、なお動くか。 ずるずると触手が砕けたパーツを引き寄せ、一固まりになっていく。そうやって、メディウス・ロクスはほぼ完全に再生した。 化け物にしたって、度が過ぎている。流石のアキトも予想外だ。 メディウス・ロクスの腕が、触手を繋ぐことで伸びて、リーゼの胸を掴んでいる。 伸ばした腕を鞭のように振るって投げ飛ばしたということか。 リーゼがメディウス・ロクスの手を握り、引きはがそうとする。びくともしないことに、アキトは目を見開いた。 「まさか……自分の身の保全を厭わないとは……思いませんでした……」 「……そうか」 俺を知っているなら、容易に想像がつくだろうにな、という言葉をアキトは再び襲ってきた吐き気とともに飲み込む。 そんなことを言っても仕方がない。こいつに自分を分かってもらいたいなど、全く思えない。自分のことを、少しでも教えたくない。 無言のまま、ボソン・ジャンプで腕と本体を空間ごと切断する。 本体から切り離された腕は、先程と違いあっさりと引きはがすことが出来た。 しかし、まるで蛇のように千切れた腕は地面をのたくり、本体に戻っていく。 そこで、メディウス・ロクスが膝をついた。 機体からは、赤い煙のようなものが立ち昇っている。装甲の内部に詰め込まれた肉が蒸発でもしているのか。 やはり、あの破壊から再生するのは骨が折れることだったのだろう。 どの道、チャンスだ。動かない相手なら、約50mの距離でも十分にクレイモアの有効射程。 左肩のむき出しのクレイモアの照準を合わせ、射程を限界まで伸ばす。 「ま、待ってくださ――」 問答無用。言語道断。待ってやる義理もない。アキトは力一杯クレイモアの発射ボタンを叩いた。 撃ち出されたアヴァランチ・クレイモアの嵐は、メディウス・ロクスの装甲を紙のように引き裂き、吹き飛ばす。 水たまりに石でも投げ込んだときに似た音が二機だけの空間に響き渡る。 到底、機体が倒れた音とは思えない音に、アキトは失笑した。 「待ってく――」 細かくなった欠片を、さらに細かい触手で繋ぎ合わせ、メディウス・ロクスが立ち上がる。 さっきよりも震えが大きくなっている。アキトは、クレイモアの有効射程まで前進して、制止。 当然、次にやるべきことは――先程の繰り返し。 やはり、おかしな破砕音を鳴らし、汚らしい泥だか水だか分からないものをまき散らしながら吹っ飛ぶメディウス・ロクス。 死ぬまで潰す。立ち上がるなら、立ち上がれなくなるまで潰す。 二度と、再生できなくなるまで粉々に砕く。哀れな同情を乞う声も、アキトには何の意味もない。 「待って……」 何度目か分からないやりとり。 それでも、メディウス・ロクスは立ちあがる。アキトは粉砕している。 堂々巡りにもなるのではないか、とアキトが心の端で思った時だった。 そんな考えのせいで、一拍行動が遅れた。 「―――待って、アキト!」 クレイモアは――発射されない。 アキトの手が止まる。いや、手だけでなく、アキトの全てが停止していた。 見開かれた、アキトの目に映るのは、死んだはずの自分の妻の姿だった。 「そんな……馬鹿な」 敵を前にして、呆然自失となったアキト。それも無理もないだろう。 自分が追い求め続けた女性が、目の前にいるのだ。偽物と考えれば理解できるはいえ、動き一つ止めるなと言うのは酷だ。 だが、それが最悪の事態を呼ぶ。 リーゼの足元にある、メディウス・ロクスの体液が突如のたくり、リーゼの足を拘束する。 いや、それだけでない。リーゼが踏み越えてきた背後の体液までが、原生生物のように動きだし、リーゼに覆いかぶさってくる。 「しまっ――!?」 反応が遅れた。何故遅れたのかは言うまでもない。 咄嗟に、操縦桿を動かした。機体を動かして脱出しようとして、結果的にボソン・ジャンプが遅れた。 その僅かな間に、前方のメディウス・ロクス本体が展開する。いや、展開ともいえない。 砕かれたパーツごとに分離し、それらを薄い膜で繋ぎ合わせたものに変わり、リーゼの全身をつつみこんだ。 最愛の人の姿は、もうどこにもなかった。 「動かないだと!?」 全身の関節に、スラスターに、メディウス・ロクスの体液が入り込み、拘束している。 ここまで近づかれては、ボソン・ジャンプによる脱出も不可能だ。 起死回生の一手を打たれたと理解し、歯噛みする。 「いかがですか?」 「やられた。……最悪の気分だ」 そう吐き捨てるアキトに、デュミナスは不思議そうに聞いてきた。 「何故ですか? わたしは、あなたが望むものにもなれるのに」 「お前が……俺の望むものに、だと?」 「私は、あなた。私は、あなたの全てを知っている。あなたが望むものにもなれる」 「そうか。確かに、俺はユリカを望んでいる。お前は、ユリカになれると言うのか?」 「はい。私は、なんにでもなれる。それが、完全と言うこと」 アキトは、それ以上デュミナスと会話するつもりはなかった。 いや、会話するだけ胸糞悪い気持ちがたまるだけだと理解した。 こいつと会話などできない。 やはり俺はこいつとは違う。 経験とか、行動じゃない。 純粋に、ただ俺と言う人間と根本的に違う。 過去の記憶がどうのは関係がない。 俺は、俺だ。 ユリカを侮辱したことが、理屈ではなく、感情でもなく、もっと大切な部分で許せない。 俺は、こいつが許せない。 「……殺す。必ず殺してやる」 視界が一瞬で赤黒くなった気がした。 これ以上ないかたちでの彼女への冒涜。 アルトアイゼンのAIを検索し、ここからの脱出方法を検索する。 同時に、自分が培った戦闘経験を総動員し、発想のとっかかりを探す。 仮になかったとしても、意地でも作り出して見せる。 そんな意気込みでアキトは手と頭を動かすが――意外にも、その方法は簡単に見つかった。 その方法の詳細を見て、アキトは目を疑った。 「―――は、」 なんという、皮肉か。 「ハハハハ、ハ……」 なんという、冗談か。 「ハハハハハハハハハ!!」 なんという、矛盾か。 「ハハハハハ……ハハハハハ、ハハハハハ!!!」 アキトは、ただ笑っていた。あまりにも、可笑しくて、可笑しくて、仕方がなかった。 世の中、うまくできている。そうとしか言いようがない。もしかしたら、神というものがいて実はつじつま合わせをしているのではないか。 そんなことさえ考えてしまう。たまらないほど矛盾と皮肉の混じった、冗談みたいな方法だった。 アキトは、火器管制システムをゆっくりと立ち上げる。 本来なら、多くの警告メッセージが現れるはずのその行動を、火器管制システムは、警告一つ出さず、了承した。 「デュミナス。いや、メディウス・ロクス? それともAI1か?」 「なんですか? もうすぐあなたは、私の一部になる。言いたいことはありますか?」 「そうだな……山ほどある。言う暇はないが。そうだな……一言でまとめるなら……」 「まとまめるなら?」 あとは、アクションの開始決定のパネルを押すだけだ。 アキトは、ウィンドウに指をかける。 「お前に相応しい死に方が用意してある。……死ね」 次の瞬間、メディウス・ロクスが、アルトアイゼン・リーゼが、爆発した。 「お、おおおおおおおお!?」 内部からの炸裂が、まとわりつき包み込んでいたデュミナスを粉々に消し飛ばした。 アキトがやったことは、単純。発射口を開かず、アヴァランチ・クレイモアを撃ったのだ。 ハッチを閉じたまま撃つことで暴発させる。そうやって生まれた破壊力は、デュミナスを破壊するに十分だった。 「あああ……そんな戦い方……わたしは知らない……」 「そんなはずはないだろう? この方法をアルトアイゼンに教えたのは―――― ―――――ユーゼスなんだからな」 な、に、と壊れた機械のように、壊れたデュミナスが呟いた。 「相手に拘束された際、クレイモアを暴発させることで脱出する。 これを、『アルトアイゼンのAI』に教えたのは、他でもないユーゼスだ。 お前は、ユーゼスがこのマシンのAIに覚えさせた、ユーゼスの戦法でお前は死ぬ。 ―――ユーゼスがお前を否定したんだ」 ユーゼスがまだアルトアイゼンに乗り、ベガと行動していた時。 ユーゼスは、ゴステロの乗るスターガオガイガーのヘル&ヘブンに拘束されたとき、破壊の拳を避けるためにクレイモアを暴発させた。 その後、ユーゼスはアルトアイゼンを捨ててしまうが、アルトアイゼンのAIは覚えていたのだ。 アキトは、AI1がガンダムキングジェイダーのヘル&ヘブンで砕かれたのを混在した記憶の一部で知っている。 だから、なおさら皮肉だと思うのだ。 アルトアイゼンはユーゼスをヘル&ヘブンから守り、そのAIは無言のままユーゼスの遺した戦法でデュミナスを砕いた。 メディウス・ロクスはユーゼスをヘル&ヘブンから守れず、ユーゼスの遺志を継いだと言い出すも、自分の分身と思っているアキトと、アルトアイゼンに屈服する。 ユーゼスとアキトがはめて殺した男、キョウスケの愛機アルトアイゼンにインストールされたユーゼスの戦法が、ユーゼスの遺児を殺す。 学習AI。 ヘル&ヘブン。 メディウス・ロクス。 アキト。 アルトアイゼン。 キョウスケ。 ――ユーゼスを中心に巻き起こった全ての騒動。 今まで紡がれた運命の糸のままに。 「う……嘘です……嘘……そんなことがわたしに……」 「嘘なんかじゃない。これで、ユーゼスへの意趣返しも済んだ。………ユーゼス、借りは返したぞ」 アルトアイゼン・リーゼが背を向ける。 「嘘です……嘘です、嘘です、嘘です、 嘘です嘘です嘘です嘘ですウソデスウソデスウソデスウソデスウソデスウソデス ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソ ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソ ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソ」 狂ったテープレコーダのように同じ言葉を繰り返すデュミナス。 デュミナスにとっての存在意義が、ユーゼスに対する想いだったことはアキトにも分かる。 今は、違っていても、ユーゼスはいつか自分を見てくれる。 不完全だから、ユーゼスの願いに届かなかっただけで、完全になれば存在を認めてくれる。 不完全な自分だから、であって、自分の存在自体を認めていないわけじゃない。 そう思っていたのだろう。 だからこそ、デュミナスにとって、この結末はもっとも受け入れがたいのだろう。 創造主が自分に教えてくれなかった方法を創造主より教わった誰かが、 自分が創造主に出来なかった何かを成し遂げた誰かが、 自分の存在を抹消する。 自分の分身であるはずの存在が、それを告げる。 「助けて……ください……私を、認めてください……」 デュミナスの破片が、また再びアキトの最愛の人の姿を取る。 ユーゼスに否定されたら、今度はアキトに認めて欲しいということか。 他人に存在意義を預け、誰かになろうとすることで自分を認めて欲しがるその姿は、あまりにも滑稽だった。 「言ったはずだ。俺は、お前を認めない。俺の全存在を賭けて――お前を否定してやる」 「ああ……あああ……ああ…………あ……」 これは、ユリカじゃない。こんなものを、認めるわけにはいかない。 アルトアイゼン・リーゼの足が―――女性の姿になったデュミナスを踏みつぶした。 「ユーゼス……サマ……」 「消えろ」 アキトの声とともに、何かうめいていたデュミナスの破片が一斉に砕けて散った。 人工の星の空調循環により吹くそよ風が、デュミナスだったものを運んでいく。 悠久の時を超え、再び戻ってきた哀れで不完全な何者でもない何かの最期だった。 【デュミナス 死亡確認】 だが、デュミナスの撃破のためアキトが支払った代償もまた大きなものだった。 アルトアイゼン・リーゼが倒れた。 アキトは、自分の腹部の状態を確認し、ため息をつく。 スクエア・クレイモアの暴発でも、アルトアイゼンは機能停止寸前まで追い込まれている。 さらに上をいくアヴァランチ・クレイモアの一斉爆破の衝撃はすさまじく、 機体に深刻なダメージを与えていた。 具体的に言うのであれば――コクピット内部まで貫通したクレイモアの破片。 15cmはあろうかという破片が、アキトの腹に突き刺さっている。 誰がどう見ても致命傷だ。 「まだだ……俺は、まだ倒れるわけにはいかないんだ……」 脂汗の吹き出る額を、袖で拭う。 まだ、妻を生き返らせるために参加者を殺さなければならない。 残りは、統夜、カミーユ、あの赤毛の女の三人だ。 もうすぐだ。 もうすぐ、ユリカに会える。 しびれてきた手で、操縦桿を握りなおす。 起き上がったアルトアイゼン・リーゼが再び歩き出す。 「ユリ……カ……」 黒い復讐鬼――いや、黒い王子様の視界矯正用の黒いレンズが滑り落ちた。 ひどく、あっけない幕切れ。いや、それは違うのかもしれない。 彼の物語は、もしかしたら殺し合いの会場最後の戦いで、既に終わっていたのかもしれないだから。 ここで死んだ男が、テンカワ・アキトかそうでないかを確認できる人間は、どこにもいない。 ただ分かることは、ここの彼は最期の最期までミスマル・ユリカの味方であろうとしたことだけだ。 アルトアイゼン・リーゼは立ったままもう動くことはない。 【テンカワ・アキト 死亡確認(二回目)】 →ネクスト・バトルロワイアル(7)
https://w.atwiki.jp/toubousya/pages/206.html
天下一 ストームブリンガー(ダンバイン) ミクズ+F90カスタム 三鬼才蔵 YF-19(ファイター) YF-19(バトロイド) フェンリス=S=ウォード VF-18改サウンドバルキリー ハウスルール キャンペーン開始前の状況 NPCリスト 特務部隊を取り巻く人たち ゲイル=ラーディッツ EOT研究機関であり対異星人組織「DC(ディバインクルセイダーズ)」の職員の一人 軍事階級は准将(ただし本人は少佐と言い張っている) もともとは廃棄された旧DCの研究所など破壊し、残ってる危険を取り除く第13遺跡調査隊の隊長だったが、アルカナ騎士団の襲来に伴い部隊の実力を見込まれ「特務部隊」へと名前を変え、同時にそこの隊長へと就任することになった。 過去に敵の罠にはめられ大量のAI部隊によって部隊を壊滅させられそうになったが、ひとり生き残りそこにいたAI部隊をすべて撃退したことから一部からは「悪鬼修羅のゲイル」と恐れられていることも。 しかし、その戦闘の際に負傷した右腕と左足の影響で、今でも操縦の時は少々不自由らしい その後実力を買われたものの、戦場での死をも恐れない行動がめ立ち、指揮官や戦技教官などの役目を転々とさせられていた経験がある。 基本的には、あまりものを考えてないように思えるが、戦闘になれば現場での指揮をしっかりこなすやるときはやるタイプ。 本人は、基本的に戦えるのだが、周りが戦いを拒否している様子。 大神有雄 DCの職員で特務部隊の副隊長を勤める。ジツハコーディネーター もともと、工作畑にいたり、ゲイルの元でオペレータをやってたりと妙にいろんなことをこなしてきている 階級は少佐 基本的にはあまり起こらず、ニコニコしている。〆るところはそこそこ〆るが、それ以外はあまり気にもしない様子。ゲイルの行動をとめることが出来る貴重な人材ではあるが、本人はあまりとめようともしない。 いつも笑顔でイルのは先に話した部隊壊滅の時に、自分が何も出来なかったことを悔やみ、それならばせめて笑顔でいることが弔いではないかと考えるところ。 戦闘ではPCを援護するためにデュエルガンダムに乗って戦うことも。 シャナ=ファインフィード DCの職員で、元EOT研究班員。 ゲイルが13調査隊を立ち上げた際、研究所のデータ解析のためにスカウトしてきて、以後そのままなし崩しに現特務部隊旗艦「怒龍」オペレータとしてそのまま在籍している。 デスクワークに関してはかなりの腕前を持っており、本来ハッキングなんかもできるはずなのだが、仕事以外ではその腕をみせることはない。 さいきんは、「イル=ヴァウ」博士がやってきた入りして、影が薄い印象があるが、薄くなったぶん自分の好きなことをして、そこそこ気楽にやっていってるもよう。 ちなみに特務部隊面子の中では、ほぼ唯一の常識人。 パイロット訓練は受けているものの、操縦は不得手の様子。 イル=ヴァウ ロボット設計者であり、元特殊エネルギー研究班の責任者の一人。 ロボット設計者ということで、リオン系列の設計や、それに伴う武装の開発なんかに携わってきた女性。 ゲイルとは、以前から飲み友達だったことから、怒龍の設計開発責任を昼ごはん一色でOKを出し、そのときにサウンドバルキリーの話を聞き、面白そうだからと、特務部隊への編入をきめたらしい。 基本的な性格はとても軽いが、必要なことになればとたんに顔つきが変わることもある。 編入を果たしたいまはゲイルたちと共に行動をして、アルカナの機体解析を行ったり、時には、データをハッキングして情報収集することもある。 一見聞くと無害っぽくみえるが、実は… 怒龍内ではオペレーターをつとめリアルタイムで、期待の解析などを行うけっこうな凄腕。 趣味はノートパソコン作り。本人曰く「このよに一つしかないパソコンのほうが面白い」
https://w.atwiki.jp/k2727324602/pages/385.html
2000~04年の巨大ロボットアニメ作品。 2010年5月以降鑑賞中(鑑賞済…「★」付)の作品を掲載。 ※◆付太字:メインページを設置した作品 ※タイトルは「巨大ロボットアニメ」ですが、戦闘機・戦艦・宇宙船・潜水艦等、メカが活躍するSFアニメ作品を含みます(選定基準は管理人裁量)。 ※以下、「各種データ」に関する注意。 →制作/「主たる」アニメーション「制作」「法人」を記載し、個人、『製作(企画・出資した個人・法人)』は除く(ただし、正直分類は曖昧…) →原作/(案):原案 →監督/(演):演出で、監督に準ずる役割にある人 (総):総監督、(SD):シリーズディレクター、(CD):チーフディレクター →脚本/(シ):シリーズ構成 →(協):協力、青字:法人 (参考)他の年次 →巨大ロボットアニメリスト <2000年> 作品 媒体 始期 終了 各種データ カテゴリ 勇者王ガオガイガーFINAL→(勇者王ガオガイガー) OVA 2000年1月21日. 2003年3月21日(全8話) 制作サンライズ原作矢立肇監督米たにヨシトモ(総)、高橋良輔(監修)脚本北嶋博明、竹田裕一郎 ★巨大ロボ サクラ大戦(TVアニメ)(→◆サクラ大戦(アニメシリーズ))(ゲーム原作) TV・アニメ 2000年4月8日. 2000年9月23日(全25話) 制作マッドハウス原作広井王子監督中村隆太郎脚本あかほりさとる(シ監) ★巨大ロボ エスカフローネ(→天空のエスカフローネ) 劇場版・アニメ 2000年6月24日 - 制作サンライズ、BONES(協)原作矢立肇、河森正治監督赤根和樹脚本山口亮太、赤根和樹 ★巨大ロボ ◆GEAR戦士電童 TV・アニメ 2000年10月4日. 2001年6月27日(全38話) 制作サンライズ原作矢立肇監督福田己津央(総)脚本両澤千晶(シ) ★巨大ロボ ◆真ゲッターロボ対ネオゲッターロボ OVA 2000年12月21日. 2001年6月25日(全4話) 制作早乙女研究所原作永井豪・石川賢監督川越淳脚本藤田伸三(シ) ★巨大ロボ スパロボスーパーロボット大戦EX /ゲーム(PS)/2000年1月6日 スーパーロボット大戦COMPACT2 第1部 地上激動編 /ゲーム(WS)/2000年3月30日 スーパーロボット大戦α /ゲーム(PS)/2000年5月25日 スーパーロボット大戦COMPACT2 第2部 宇宙激震編 /ゲーム(WS)/2000年3月30日 <2001年> 作品 媒体 始期 終了 各種データ カテゴリ ◆マジンカイザー OVA 2001年9月25日. 2002年9月25日(全7話) 制作ブレインズ・ベース原作監督むらた雅彦脚本藤田伸三(シ) ★巨大ロボ スパロボスーパーロボット大戦COMPACT2 第3部 銀河決戦編 /ゲーム(WS)/2001年1月18日 スーパーロボット大戦α外伝 /ゲーム(PS)/2001年3月29日 スーパーロボット大戦α for Dreamcast /ゲーム(DC)/2001年8月30日 スーパーロボット大戦A /ゲーム(GBA)/2001年9月21日 スーパーロボット大戦COMPACT for WonderSwanColor /ゲーム(WSC)/2001年12月13日 <2002年> 作品 媒体 始期 終了 各種データ カテゴリ ◆ほしのこえ 劇場版・アニメ 2002年2月2日 - 制作新海誠(自主制作)原作新海誠監督新海誠脚本新海誠 ★巨大ロボ ◆戦闘妖精雪風(小説原作) OVA 2002年8月25日. 2005年8月26日(全5話) 制作GONZO原作神林長平監督大倉雅彦脚本山口宏(構)、十川誠志(構) ★戦闘機 ◆OVERMANキングゲイナー TV・アニメ 2002年9月7日. 2003年3月22日(全26話) 制作サンライズ原作富野由悠季監督富野由悠季(総)脚本大河内一楼(シ) ★巨大ロボ ◆機動戦士ガンダムSEED TV・アニメ 2002年10月5日. 2003年9月27日(全50話) 制作サンライズ原作矢立肇、富野由悠季監督福田己津央脚本両澤千晶(シ) ★巨大ロボ ◆超重神グラヴィオン TV・アニメ 2002年10月7日. 2002年12月16日(全13話) 制作GONZO原作大張正己、赤松和光、GONZO監督大張正己脚本志茂文彦(シ) ★巨大ロボ ◆キディ・グレイド TV・アニメ 2002年10月8日. 2003年3月18日(全24話) 制作GONZO原作gimik、GONZO監督後藤圭二脚本きむらひでふみ(シ) ★巨大ロボ THE ビッグオーsecond season(→THE ビッグオー) TV・アニメ 2002年10月. 2003年4月(13話) 制作サンライズ原作矢立肇監督片山一良脚本小中千昭(シ)、片山一良(シ) ★巨大ロボ ◆マクロスゼロ OVA 2002年12月21日. 2004年10月22日(全5話) 制作サテライト原作河森正治監督河森正治脚本大野木寛 ★巨大ロボ スパロボスーパーロボット大戦IMPACT /ゲーム(PS2)/2002年3月28日 スーパーロボット大戦R /ゲーム(GBA)/2002年8月2日 スーパーロボット大戦ORIGINAL GENERATION /2002年11月22日 その他(総集編)劇場版∀ガンダム Ⅰ地球光 / Ⅱ月光蝶(→∀ガンダム)/劇場版アニメ/2002年2月9日・10日/★巨大ロボ <2003年> 作品 媒体 始期 終了 各種データ カテゴリ サクラ大戦 エコール・ド・巴里(→サクラ大戦(アニメシリーズ))(ゲーム原作) OVA 2003年3月19日. 2003年8月20日(全3話) 制作ラディクス原作広井王子監督広井王子(総)、桐生勇作(CD)脚本川崎ヒロユキ(シ構)、あかほりさとる(シ監) ★巨大ロボ ◆宇宙のステルヴィア TV・アニメ 2003年4月2日. 2003年9月24日(全26話) 制作XEBEC原作XEBEC監督佐藤竜雄脚本佐藤竜雄(シ) ★巨大ロボ ◆スクラップド・プリンセス(小説原作) TV・アニメ 2003年4月8日. 2003年10月7日(全24話) 制作BONES原作榊一郎監督増井壮一脚本吉田玲子(シ) ★巨大ロボ ◆GAD GUARD TV・アニメ 2003年4月. 2003年9月(全26話) 制作GONZO、アンバーフィルムワークス原作いづなよしつね、GONZO、錦織博監督錦織博脚本錦織博(シ)、池口和彦(シ) ★巨大ロボ ◆ダイバージェンス・イヴ TV・アニメ 2003年7月. 2003年9月(全13話) 制作RADIX原作つくも匠・RADIX企画室監督ネギシヒロシ(総)脚本野崎透(シ) ★巨大ロボ マジンカイザー 死闘!暗黒大将軍(→マジンカイザー) OVA 2003年7月25日 - 制作ブレインズ・ベース原作-監督むらた雅彦脚本西園悟 ★巨大ロボ ◆神魂合体ゴーダンナー!! TV・アニメ 2003年10月1日. 2003年12月24日(全13話) 制作OLM、AIC原作-監督長岡康史脚本川崎ヒロユキ(シ) ★巨大ロボ スパロボ第2次スーパーロボット大戦α /ゲーム(PS2)/2003年3月27日 スーパーロボット大戦COMPACT3 /ゲーム(WSC)/2003年7月17日 スーパーロボット大戦D /ゲーム(GBA)/2003年8月8日 スーパーロボット大戦Scramble Commander /ゲーム(PS2)/2003年11月6日 <2004年> 作品 媒体 始期 終了 各種データ カテゴリ みさきクロニクル~ダイバージェンス・イヴ~(→ダイバージェンス・イヴ) TV・アニメ 2004年1月. 2004年3月(13話) 制作RADIX原作つくも匠・RADIX企画室監督ネギシヒロシ(総)脚本野崎透(シ) ★巨大ロボ 超重神グラヴィオンZwei(→超重神グラヴィオン) TV・アニメ 2004年1月8日. 2004年3月25日(12話) 制作GONZO原作大張正己、赤松和光、GONZO監督大張正己脚本志茂文彦(シ) ★巨大ロボ 神魂合体ゴーダンナー!!SECOND SEASON(→神魂合体ゴーダンナー!!) TV・アニメ 2004年4月5日. 2004年6月28日(13話) 制作OLM、AIC A.S.T.A原作-監督長岡康史脚本川崎ヒロユキ(シ) ★巨大ロボ ◆新ゲッターロボ OVA 2004年7月23日. 2004年12月23日(全13話) 制作ブレインズ・ベース原作永井豪、石川賢監督川越淳脚本大西信介(シ) ★巨大ロボ サクラ大戦 ル・ヌーヴォー・巴里(→サクラ大戦(アニメシリーズ))(ゲーム原作) OVA 2004年10月20日. 2005年3月16日(全3話) 制作ラディクス原作広井王子監督山本裕介脚本川崎ヒロユキ(シ構)、あかほりさとる(シ監) ★巨大ロボ ◆トップをねらえ2! OVA 2004年11月26日. 2006年8月25日(全6話) 制作GAINAX原作GAINAX監督鶴巻和哉、庵野秀明(監修)脚本榎戸洋司 ★巨大ロボ スパロボスーパーロボット大戦MX /ゲーム(PS2)/2004年5月27日 スーパーロボット大戦GC /ゲーム(GC)/2004年12月16日 その他(総集編)機動戦士ガンダムSEEDスペシャルエディション 虚空の戦場(→機動戦士ガンダムSEED)/TVアニメ/2004年3月22日-23日/★巨大ロボ 機動戦士ガンダムSEEDスペシャルエディションII 遥かなる暁(→機動戦士ガンダムSEED)/TVアニメ/2004年7月27日-28日/★巨大ロボ
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/385.html
頭部消失。五連チェーンガンを装備した左腕も切断されもはやなく、左肩のクレイモアも誘爆の可能性あり。 むき出しになったクレイモアをサブモニターで確認し、よくもさっきの衝撃で誘爆しなかったものだとアキトは息を吐いた。 機体のチェックを終えてまだ動くことを確認したアキトは、自分の現在地を確認する。 もっとも、確認とは言いつつもカメラから分かることは、自分は白い人口惑星の表面に飛ばされたということだけだが。 それ以外で目に入るのは、始めて見る大型機の残骸のみ。 アルトアイゼン・リーゼの調子を再度確認し、損傷が少なすぎることに違和感を覚えた。 アキトの世界では、人が搭乗するタイプのロボットは例外なくディストーション・フィールドが装備されていた。 だから、ボソン・ジャンプをしてもなんともない。しかし、アルトアイゼン・リーゼは違う。 特別空間を仕切るようなバリアを持っていないのに、その損傷がないのだ。 元々あのアルフィミィの場所に飛ばされたときにもこの機体はそこまでボソン・ジャンプでダメージを受けなかった。 元々頑丈で、壊れにくいのだろう。だが、それは機体の話だ。生身の自分まで平気な理由にはならない。 「もしかしたら……何かが宿っているのか」 姿や機体特性を見れば、これはあの蒼い孤狼が乗っていたマシンの発展系であることは理解できる。 そして内部のAIなどから、自分や、キョウスケが乗ったアルトアイゼンと同一のものであることも。 ということは、あの蒼い孤狼の化け物マシンが再びこれに戻ったということか。 不思議な力が宿ったとして、変な話じゃない。 もしも、自分が殺したキョウスケの機体が自分を何かしらの力で守っているとしたら、とんだ皮肉だ。 「あのネゴシエイターは……」 周囲を確認するが、凰牙の姿は見えない。そのことに、アキトは眉を寄せた。 アキトはボソン・ジャンプを敢行した。その結果、ここに飛ばされて来た。 アキトは、アルトアイゼン・リーゼの手を開く。そこには、蒼い宝石が握られている。 C.C(チューリップ・クリスタル)は、殴り合いの中どこかは知らないが凰牙の体から落ちたものを拾い上げ使わせてもらった。 ここまではいい。だが、そこから問題が一つある。 いるはずの、凰牙がいないのだ。空間転移の歪みに押しつぶされようと、残骸程度は転移しているはず。 A級ジャンパーである自分が結果として共に転移している。凰牙はあの様子ではまだC.Cを残していたと思う。 五体満足でここに現れても不思議ではない。一体どこに消えたのか。 「まさか……過去か、未来か?」 ボソン・ジャンプは厳密には空間移動ではない。時間移動なのだ。 空間を粒子化した状態で移動し、その後時間移動で移動にかかった時間だけ巻き戻す。 だが、もしこの時間の巻き戻しに何かあれば当然、今とは違う時間に飛んでしまう。 アキトは、赤い古鉄の右手に握り込んでいたC.Cをコクピットへ移す。あまり、量はない。 何度も使っていればすぐになくなってしまう量だろう。 かつて、家族がこれを――C.Cを遺してくれたおかげで、アキトは生き残ることができた。 アキトは、モニターを回し、白い星への突入口を探す。その時、とくに意識せず上方も確認していた。 別に上から何か来るとは思えないが、できる限り全方位確認しようとすることは不思議でもなんでもない。 そして、気付く。 「あれは――!?」 アキトが赤い古鉄に乗り込んだときは、木星に似た渦模様と赤銅色をしていた星は、まったく別の姿をしていた。 白く、輝く光を放ち、明滅し、光のためかその輪郭が大きくなったり小さくなったりしているように見える。 いや、違う。見える、のではない。実際に大きさが変化している。茫然とそれを見上げていたアキトは、さらに気付いた。 それが、少しずつ拡大していることに。あの輝く星のようなものは、この世界を飲み込もうとしている。 大収縮ののち、拡大に世界は転じたのだ。 アキトの、自分でない誰かの部分がささやいた。アキトは、それを振り払うため小さく頭を振る。 だが、世界の拡大そのものを防げるわけではない。もうすぐ、あれは全てを飲み込む。 そして、全てを終わらせる。 世界に対して、テンカワ・アキトという一人の個人はあまりに無力だった。 全てを終わらせる力への絶望が、アキトの足を止めた。 ■ C.C(チューリップ・クリスタル)は、時間移動への切符。時の旅人への通行証。 だが、もしも時間が正しくない世界でそれを使えばどうなるだろうか。 例えば――時間軸をゆがめて作った世界のそばでそれを使えば。平行世界、別の世界の時間軸を含むそんな場所で使えば。 もしかしたら、どんな世界でもない、どんな時間でもない、そんな場所にたどりつくのかもしれない。 ■ ロジャー・スミスが目を覚まして最初に見たものは、金色の穂先と青い空だった。 自分が地面に大の字に倒れていると気付いたのは、意識が覚醒して一瞬後のこと。 身を起こそうと地面に手をつけば、そこにあるのは倒れた穂先。ロジャーは麦畑のど真ん中に倒れていたのだ。 「ここは……」 身を起こしたロジャーは、襟元を正しながら、来ている黒いスーツについたモミや草を落とす。 そこで、ふと違和感を覚える。少し考えて、ロジャーも違和感の原因を見つけた。 先程まであった、体の痛みが消えているのだ。 肋骨が折れ、体をひねるたびに起こっていた痛みが、体を起こすときになかった。 いや、それだけではない。 リリーナ嬢を抱きかかえた際や、ガウルンに奇襲を受け地面を転がった時についた、スーツの土や血といった汚れがまるきり消えてしまっているのだ。 未だ理解しがたい現状に混乱しながらも、ゆっくりと首を左右に動かし、周囲を眺めてみる。 そこにあったのは、農夫と、トラクターと――空の向こうに広がる、黒い鉄枠。 他でもない、見慣れたパラダイムシティを覆う半円状のドームの天蓋がそこにあった。 パラダイムシティであるとするならば、ロジャーにも自分がいる場所に心当たりがある。 大規模農作用ドーム、『アイルズベリー』。何度かロジャーも依頼がらみで足を運んだことがあるので覚えている。 麦畑をかき分け、土でできた道路にロジャーは立ち、自分の体を眺めた。 あの殺し合いに招かれる前の、依然と変わらぬ世界で、いつもと変わらぬ姿でここにいる自分。 先程までいたはずの、あの狂った世界は何だったのか。 自分が見ていたのは冗談のようにタチの悪い悪夢でしかなかったということか。 いやそれもあり得ない。確かに、今のロジャーにあの殺し合いの世界にいたという痕跡はない。 しかし、ロジャーの記憶(メモリー)は覚えている。 あの狂った世界の、狂った法則に立ち向かう人間たちのことを。 だがそれが正しいとするならば、ロジャー・スミスはまだあの狂った世界にいるはずなのだ。 ここにいるロジャー・スミスは何なのか。 ほんのわずか前と認識している事柄と、繋がらない現状の記憶(メモリー)に悩む男は誰なのか。 ロジャーはひとまず屋敷に連絡するため、腕をまくった。 そこには、さまざまな機能が付いた時計がはめられており、機能の一つとして屋敷にいるノーマンとの連絡機能もついている。 慣れたしぐさで口元に手首を運ぶ。 「ノーマン、聞こえているか?」 しかし、返答はない。時計からは、小さくジジジ、と不協和音が流れるのみ。 ロジャーは腕時計に視線を落とし、絶句した。腕時計のカバーガラスが壊れ、時計が止まっているのだ。 壊れた時計。 それ自体はおかしくない。ものである以上壊れることはある。問題は、いつ壊れたかということだ。 今ここにいるロジャー・スミスの記憶(メモリー)を参考にする限り、腕時計が壊れた覚えはない。 ユーゼスとの会談に向かうに当たって、ロジャーはこの腕時計で時間を確認している。 それ以後、時計が破損するほどの衝撃が手首にかかったことはない。 「どうなっているんだ……」 壊れていないはずの時計は壊れ、汚れているはずの服は汚れておらず、傷ついたはずの体にはその痕跡がない。 本当に白昼夢だったというのか。もしくは、自分の中の失われた記憶(メモリー)のフラッシュバック。 あれほど、鮮明なものが、40年以上前に過ぎ去ったものだと? 暖かな日差しとは裏腹に、歪む顔を手で押さえるロジャーの背筋には冷たいものが流れ続けていた。 「おや、君は……どうしてここにいるのかね?」 突然自分に掛けられた声に、はっとなりロジャーは顔を上げる。 いつの間にか、ロジャーのすぐ前には一台のトラクターが止まっていた。 先程はなかったはずのそれは、そこにあって当然である、在らねばならないと主張するほどの存在感を何故か持っていた。 ロジャーに声をかけた、トラクターに乗る人物もまた、ロジャーが知る人物。 農夫姿で、樹齢何百とたった樹のようなしわを顔に刻んでいる、 どこを見ているか分からない、いつも虚空を見ているような眼でロジャーを見ている人物の名前は、 「あなたは……ゴードン・ローズウォーター……」 パラダイムシティをかつて納めていた人物であり、数少ない40年以上前の記憶(メモリー)を持つといわれる老人だった。 確かに、彼は隠居しアイルズベリーでトマトの栽培をしながら過ごしている。 ここがアイルズベリーとすれば、いてもまったくおかしくない人物だ。 しかし、ロジャー・スミスが保有している記憶(メモリー)が正しいという前提があってのことにすぎない。 もしかしたら、彼は全くロジャーの知らない何者かなのかもしれない。 「乗りなさい」 ゴードン・ローズウォーターがトラクターへ乗るようにロジャーに促した。 どこか夢遊病者のような足取りで、ロジャーはゴードン・ローズウォーターの隣に座る。 トラクターは、再びどこかに向けて動き出した。ゴトゴトと整備されていないでこぼこ道をトラクターが走る。 ロジャーは、未だ自分がどこに立っているのか理解できていなかった。そして、自分が今からどこに向かうのかすらも。 「どうしたのかね?」 前を見つめたまま、ロジャーを見ずにゴードン・ローズウォーターはそう呟いた。 ロジャーは、自分とゴードン・ローズウォーターしかここにはいないにも関わらず、 その呟きが自分に向けてのものであることを、咄嗟に理解できなかった。 ■ 星に広がる毛細血管のような通路の中、ブレンが飛ぶ。下からの轟音が少しずつ遠くなる。 地獄からの生還、そんな言葉がふと頭をよぎるが、まだ終わってないのだ。 上に登って、ロジャー達と合流し、再度突入する。 例え、どれだけ勝ち目が薄くても、それ以外に最終的に生き残るすべはない。 力が足りない。アイビスに、その事実が重くのしかかっていた。 ブレンを悪い子だとは思わない。しかし、非力さだけはどうしようもなかった。 凰牙。サイバスター。F91。キングジェイダー。ユーゼスのメディウス・ロクス。 そういった相手に比べて、あまりにも弱い。撹乱して、手傷を少しつけるのがやっと。 その結果が、これだ。誰の窮地も満足に救えない。倒れていく仲間を見ている側で、ただ生きている。 もし、自分ではなくこの場にもっと大きな力を持つ誰かがいたら、カミーユを助けられたのではないか。 アイビスはそんなネガティブになりそうな思考を頭から振って追い出そうとする。 しかし、なかなかその考えは頭から消えてくれなかった。 そんなとき、鼓膜を叩く大きなスラスターの音。 まだまだ続く黒い穴の向こう、確かに何がこちらに接近している。 「ロジャー!?」 そうであってほしい。いや、そうに違いない。ブレンは上昇を続けている。 だが、アイビスが何か指示するよりも早く、急にブレンの動きが変わり、進路を横に向けた。 その次の瞬間には、上空の機体は急加速し、ブレンの横をすり抜けていた。 明らかにそのままのコースだったら衝突している。 「いったい、誰!?」 アイビスが、急停止し今度は下からこちらを見上げている機体をモニターに写す。 そこにいたのは、ユーゼスとの戦いで途中ユーゼス側の増援として現れた蒼い騎士だった。 しかも剣を抜き、戦闘態勢を取っている。 「ちょっと待って! もうユーゼスもいないんだから話を聞いて! ユーゼスと一緒にいたってことは脱出しようと思ってるんだよね!? 少しでも力がいるんだ、協力してみんなで……」 「他人なんていらない。……俺は、俺一人で全員殺す」 青い騎士が答えた。声が意外と若い。カミーユや自分とそこまで年は変わらないように思える。 だがその声色は、同い年とは思えないほどの冷たさと、暗さを秘めていた。そして、その内容も。 「……ッ! そんな! あのノイ・レジセイアを倒せば終わりなのに、なんでまだ殺しあわなきゃいけないのさ!? もう殺しあう必要なんてない! ロジャーや、カミーユ、キラやシャギア、それに……あのテンカワって人も! みんなで協力すれば、ノイ・レジセイアだって倒せる!」 だが、そんなアイビスの声を無視し、青い騎士は剣を振り上げた。 「ロジャー? テンカワ、キラ、シャギア? ……みんな死んだよ。次は、お前だ。その次は、下の連中。全員、殺すんだ」 虚無を湛えて、蒼い騎士は言う。 蒼い騎士は、ゆっくりとその手に握る剣――ロジャーがガウルンから奪った大剣――をこちらに掲げる。 「そんな……ロジャーが、そんなはずがない!」 アイビスの叫びも、蒼い騎士が動きを止めることはできない。 蒼い騎士から言葉はなく、あるのはこちらを殺そうとする意志のみだった。 アイビスのブレンが震えている。ノイ・レジセイアやキョウスケと出会ったときに似た挙動に、アイビスも驚きを隠せない。 ユーゼスとの戦いのときは、そんなことはなかったはずだ。この短時間に、いったいどんな変化があったのか想像もつかなかった。 だが、分かることが一つだけある。それは、こんなところで死ぬわけにはいかないということだ。 ブレンがソードエクステンションを構える。 この場でどうにかしたからどうなる、という言葉をアイビスは飲み込んだ。どんなことも諦めない。 ロジャーが死んだという言葉も、戻って確かめるまでは信じないとアイビスは決める。 どれだけ非力だろうが、ここを突破して見せる。 幸い、位置関係は悪くない。上昇したいアイビスが、蒼い騎士より高い位置にいる。 このまま、距離を取っていけば、逃げることも可能かもしれない。 じりじりと上昇を続けるブレン。 対して、蒼い騎士の取る行動はアイビスから見ればいささかおかしなものだった。 マントの影から取り出した鞘に剣を納めると、その場で構えたのだ。 (一気に踏み込んでくる……?) それにしても、いささか距離が遠い。この距離なら、一気に加速して切り抜けるつもりとしても回避できる。 アイビスは、相手の背中と足に意識を集中させた。ユーゼスとの戦いで、相手のスラスターの位置は把握している。 どんな加速であろうとも、まずスラスターに着火される。何の推力もなしに急加速はできないのだ。 そこに動きが見えたと同時に、上方に向かってバイタルジャンプ。そして、相手が体勢を立て直すより早く全力でここから離れる。 アイビスは、対処の方法を頭の中で組み立てる。 上昇するブレン。動かない青い騎士。 蒼い騎士には、動く気配がない。確かにやや前傾の姿勢ではあるが、一気に加速しようという姿勢ではない。 このままいけるのであればアイビスとしてもありがたい。 距離が開いていき、完全に相手の射程から逃れたとアイビスは視線を切らずにそう考えた。 次の瞬間、ブレンの右手が飛んだ。 「え……?」 アイビスは、一瞬たりとも相手から目を切っていない。相手は動いていない。スラスターを使ってない。 なのに、斬撃は確かにブレンへ届いていた。アイビスは、映し出された外の光景に、目をしばたたかせる。 一歩も動かないまま鞘から引き抜かれた剣が、細く長くブレンに伸びていた。 アイビスは、姿を変える剣という程度の認識しかなかった。たしかに斬艦刀は姿を変える。 しかし、それは液体金属による形状の変化によるもの。プログラミング次第でその姿は千差万別に変化する。 今の統夜の超射程による居合い抜きは、居合い抜きによる加速をつけつつ、抜ききった刀身を変化させることによって生み出された技。 アイビスは相手が居合い抜きをあびせるための移動を警戒していたが、それはピントがずれていたのだ。 向こうは、動く必要すらなかった。 予想もしなかった痛みに、ブレンの動きが僅かに乱れる。 落ち着かせるため、アイビスがコクピットの中へ少し視線を上げた。 ブレンが、壁に叩きつけられた。 意識を乱した一瞬をつき、蒼い騎士は加速して手をブレンに押し付けたのだ、と揺れる頭で理解する。 金属壁に、ブレンがめり込む。ブレンと相手の体格差はざっと6倍。体の中心に手をあてられると、身動きを取ることができない。 うめくアイビスとブレンに、蒼い騎士は改めて剣をかざす。 バイタルジャンプをしようにも、まだブレンがそうできる状態まで回復していない。 これでは、どこに吹き飛ばされるか分からない状況だ。それに、これだけ密着されると、相手ごと転移してしまう。 八方塞がり、打つ手なし。そんな言葉をそのまま表したような状況だった。 蒼い騎士が何も言わずに剣を絞る。 「ちょっと待って……! なんでこんなこと! そんなに殺し合いがしたいの!? あのガウルンとか、ギンガナムみたいに!」 アイビスの言葉に、初めて蒼い騎士が動いた。 蒼い騎士がまるで人間のように小さく震え、剣が動きを止める。 「俺が……誰みたいだって?」 先程と同じ冷たい声。しかし、僅かに上ずっている。 抑えようとして、抑えきれない感情が漏れ出している。そんな印象をアイビスは感じた。 アイビスは、一瞬迷った。同じことを言えば、逆鱗に触れて今度こそなます切りにされるかもしない。 「俺が、誰みたいだって!?」 もう一度蒼い騎士が繰り返した。 押さえつける蒼い騎士の手に力が増し、ブレンが、さらにうめき声をあげた。 やはり、一人では何もできない。そんな悔しさが胸を突く。 こうやって押さえつけられ、満足にものをいうことすら悩み、ままならない。 こんな、理不尽な理屈を前に。こんな、理不尽な相手を前に。あまりにも無力だ。 アイビスは、聖人君子ではない。このままいけば終わりなのだ。死ぬのは怖い。 けれど、やけくそというわけではないが、このままただ黙って受けてやるのも癪だという思いが膨れ上がる。 こんな言われっぱなしで、黙っているのも違う気がする。アイビスは、息を吸うと、思い切り叫ぶように言った。 「ガウルンやギンガナムみたいって言ったんだよ! そんなに戦ったり、人が殺したりするのが好きなら、一人でそんな世界に行って殺しあえばいい! みんなが力を合わせるのがそんなに嫌い!?」 今度こそ、蒼い騎士が動きを止める。 アイビスはその間に手を抜けだそうと少しでも動くようにブレンに指示を出す。 僅かに緩んだ指の隙間から、腕を差し入れると、そのまま体を強引に引っ張りだそうとした。 しかし、それよりも早くブレンの拘束はなくなっていた。 蒼い騎士は手を引き、刀を鞘に納めている。 「……行けよ」 ぶっきらぼうだが、蒼い騎士は上を親指で指した。もしかしたら、自分の行ったことが通じたのか。 信じられない出来事にぽかんとするアイビスに背を向け、蒼い騎士は降下を始めた。 「俺は、好きで殺してるわけじゃない。殺さないといけないから殺してるんだ。……ガウルンとは、違うんだ」 「じゃ、じゃあもしかして協力して――」 ブレンのすぐ横に、投具が突き刺さる。 ブレンを見ることなく背を向けたまま蒼い騎士が投げ放ったものだ。 「勘違いするな。最後はみんな結局殺すさ。けど、今殺す必要もない。言ったよな。全員死んだって」 その言葉に、アイビスは顔がこわばるのを感じた。 それでも、アイビスははっきりと蒼い騎士に言う。 「そんなの信じないよ。自分の目で見るまで、あたしは絶対にあきらめない」 「みんな死んだんだ。行ったところで何もない。何も起こらない。受け入れたくないことに足掻くことまで否定はしないさ。 けどな……それでもどうしようもないことだってあるんだ。 ……諦めろよ、奇跡は起こらないから奇跡っていうんだ」 蒼い騎士から、ため息のような音が漏れた。 けれど、アイビスの答えは変わらない。 「どんな理不尽なことでも、あたしは諦めない。奇跡なんて起こらなくてもいい。それでも、やってみたい」 自分で言っておきながら、その言葉を心から信じ切れていないのをアイビスは理解していた。 どちらかと言えばそうであってほしいという願望を口に出すことによって、信じる自分を支えるようとする部分が大きい。 「そうかよ」 蒼い騎士はアイビスの言葉にそっけない返事を返すと星の中心へ下りていく。 アイビスはただ、その姿を見ていることしかできなかった。 蒼い騎士が姿を消すのを確認し、アイビスは再び飛び始める。カミーユから教えられた地点へ、まっすぐに。 体がずっしりと重い。進めと指示を出す、自分の思考が濁り、淀んでいる。 この先に、進んでいいのか。 進まなければ何にもならないとは分かっていながらも、考える自分を止められなかった。 光が見えてくる。 人工的に作られた作り物の箱庭の放つ、眩い光はもう目の前だ。 細く狭い通路を抜け、広い空間にブレンが飛び出す。そこは、間違いなくカミーユの指示した地点。 だが、そこにあるのは、戦いによってえぐれ、荒らされた地面と、よく見た機動の腕が二つ。 血だまりのように液体がまき散らされた地面に沈む一本の腕を、壊れ物を扱うようにそっと拾い上げる。 しかし、アイビスの震える意思が伝わったのか、ブレンの腕からそれはこぼれ落ちた。 アイビスは、知っている。これが、間違いなく騎士凰牙のものであることを。 そして、少し離れたところに転がるほうの腕は、キングジェイダーが搭載していた、アルトアイゼン・リーゼの腕であることを。 「ロジャー……?」 もう右から声は聞こえない。 「キラ……?」 もう左から声は聞こえない。 「シャギア……?」 もうどこからも声は聞こえない。 アイビスの声は、どこにも届かない。 ――希望はすでに砕け散っていた。 ■ そこは、星の中心から一層だけ上のエリア。 どこまでも広大でがらんどうな空間に、二機の機体が動き回る。 「……ぐ、ぅう……」 カミーユは荒い息をどうにか抑えようとするが、動悸は全く治まらない。 どうにか地面に設置された緑色のエネルギープールに陣取ることによって、サイバスターのエネルギーは回復している。 しかし、それはあくまで機体の燃料を補充するだけであって、カミーユ自身の魂の燃料を補充するものではない。 迷路のように設置された隔壁の影から、ブーメランのように弧を書く軌跡でデュミナスの爪が姿を現した。 それを、サイバスターはディスカッターで切り払う。 「そこですか?」 殺気を感じ、慌ててエネルギープールからサイバスターを飛行させる。 一拍置いて、エネルギープールが瞬時に沸騰し、緑色の水竜巻を空高くまで起こした。 空から緑の雨が降り注ぐ中、隔壁の向こうからメディウス・ロクスが姿を現す。 「逃げようとしても無駄です。今のあなたが私を振り切ることはできない」 「……いけっ!」 カミーユはメディウス・ロクスの言葉を無視し、カロリックミサイルを撃ち放った。 二発のミサイルは、正確にメディウス・ロクスに飛来し、確かに接触、爆発する。 いや、接触したのはメディウス・ロクスの発生されたスフィア・バリアだった。 カロリックミサイルは、バリアの表面で爆発するが、爆風はすべてバリアでそらされていた。 「何度でも言います。無駄です。機体をこちらに譲渡してください」 カミーユは拳を震わせた。 さきほどから、メディウス・ロクスはあまり積極的に攻撃を仕掛けてはこない。 つかず離れず、時々攻撃を仕掛けてくるだけだ。 理由は単純だ。奴の狙いはサイバスターにあるラプラス・コンピュータ。 サイバスターの撃破ではなく鹵獲を目的としている。サイバスターを破壊しては入手できないのだ。 だが、もしも相手が鹵獲という手段を放棄していたのなら、サイバスターが今どうなっていたかは想像に難くない。 「もしあなたが機体を譲渡するというのなら、あなたの命は保証します。ですから……」 「断るっ!」 サイバスターが再び逃走する。しかし、メディウス・ロクスも正確に距離を取りつつ追いすがる。 「仕方ありません。私が完全になるためには、サイバスターが必要です」 メディウス・ロクスの胸の部分から、一条の光線が放たれた。 サイバスターとはまるで見当違いの場所へ。サイバスターを光線は追い抜き、サイバスターの進路上の天上へ着弾した。 行方を阻むように崩れた大量の瓦礫が落下してくる。カミーユは、汗でぬめる操縦球を握り、意識を送る。 紙一重で瓦礫の隙間を抜けるサイバスター。 それに対してメディウス・ロクスはスフィア・バリアにより瓦礫を弾き飛ばしながらまっすぐに向かってくる。 たちまちのうちに両者の距離は詰まり、振り上げたメディウス・ロクスの爪が、サイバスターを狙う。 カミーユはやはりディスカッターでそれを受け止めるが、それにより動きを止めてしまった。 サイバスターを数mはあろうかという飛礫が叩く。 「ぐ、が、ああ!?」 機体の表面を致命傷にならない程度に質量物で叩く。 なるほど、相手の機動力を奪いつつ、内部に大きなダメージを与えないために適した方法だ。 Ζガンダムの設計なども行ったカミーユだからそう理解できる。 だからこそ、次に続く思考も。結局のところ、相手はこちらを敵とすら認識していない。 捕まえるところまでは確実。負けることなど、傲慢や思い上がりではなく、冷静な判断で思考に入れていない。 地面にたたき落とされたサイバスターのすぐそばに、メディウス・ロクスが音もなく着地した。 いまや、大いなる風の魔装機神も、羽をもがれ地面を這うだけだ。 メディウス・ロクスがサイバスターを踏みつけた。コクピットを中心に、銀色の装甲に亀裂が入っていく。 「何度も言ったはずです。機体を明け渡せば、命は奪わないと。何故あなたは私を拒絶するのですか?」 「お前らに……やれるものなんて……何一つないっ!」 踏まれた状態で、強引にサイバスターが体を起こす。 足が逆に装甲に食い込み、亀裂だけにとどまらず装甲が脱落した。だが、動きは止まらない。 そこから起き上がるとはメディウス・ロクスも思っていなかったのだろう、バランスを崩したメディウス・ロクスは派手に転倒する。 そこに、ディスカッターで本来コクピットがある場所を正確に貫いた。 「無駄です。今の私に、あのお方はいない。私は私の意思で活動している。あのお方を殺すことはできない」 メディウス・ロクスがサイバスターの腕をつかみ、力を込める。 サイバスターが手をディスカッターから離すと、強引にメディウス・ロクスはサイバスターを地面に叩きつけた。 銀色の破片が、暗い基地に設置されたわずかな照明の光を反射し、きらきらと瞬いた。 「あのお方……ユーゼスなのか!?」 「その通りです。偉大な私の創造主。ただの機動兵器でしかなかった私を導いてくださったお方。 あのお方は、私に完全であれと望んだ。そして、私は不完全であるとも。故に、私は完全にならなければいけない」 突然、メディウス・ロクスが饒舌になった。 最低限の言葉しか発していないメディウス・ロクス――いやAI1が、ユーゼスに関してだけは違ったのだ。 「それで……そのために戻ってきたのかよ! 人の命を踏みつけにしてそうなっておいて!」 「あのお方は言った。世界は選ばれたもののためにあると。あのお方は選ばれたものだった。 あのお方の願いは成就されなくてはならない。命に価値があるとするなら、上位者への献上物としてのみ存在する」 「そんな勝手な理屈を!」 全身から装甲を脱落させながら、サイバスターカロリックミサイルを放つが、 やはりいとも簡単にメディウス・ロクスは受け止めた。しかし、カミーユが攻撃を止めることはない。 「あなたのサイバスターを手に入れろとあのお方は言っていた。あのお方の願い、聞き入れてもらえないのですか? 私ならあなたよりもラプラス・コンピュータの力を活用できる。その力は、より正しく使えるもののためにあります」 「言ったはずだ! お前らにやれるものなんて何一つないっ! このマシンは、そんなコンピュータのおまけじゃないんだよ!」 カミーユは、まだラプラス・コンピュータの全貌など知らない。 もしかしたら、それさえ発動させればこの状況をひっくりかえせるかもしれない。 けれど、使う方法がわからない。それでも、この機体ならどうにかできると信じてくれたのだ。 この機体を使い、自分ならあのノイ・レジセイアを撃ち貫けると信じてくれたのだ。 「うあああああああああぁぁぁぁぁあああッッ!!」 目にもとまらぬ速度で腰部にジョイントされた武器をサイバスターが引き抜いた。 ブンドルが託したサイバスターが、中尉が託したオクスタンライフルを構える。 長い砲身が、ほぼ接触状態でメディウス・ロクスに向けられる。 撃ち貫く、というカミーユの意思を受け、サイバスターが引き金を引く。 不意を突かれる形となったメディウス・ロクス。さしものスフィア・バリアもゼロ距離では意味を持たない。 「胸部に損傷……指数34。再生の範囲内です」 それだけで、これほどの力を持つ特機を沈めるには至らない。確かにダメージは入ったが、撃墜までは程遠い。 撃った反動で、サイバスターの手からオクスタンライフルが飛び出し、後方に投げ出された。 カミーユは振り返らない。そのまま、サイバスターで直接メディウス・ロクスにぶつかっていく。 これだけの質量差がある状態で体当たりという攻撃を選択するのは、一見下策に見えるかもしれない。 メディウス・ロクスは反射的に爪を振り上げようとしたが、その動作を中断した。 何故動きを止めたのかカミーユは分かっている。あのまま払うように攻撃をしてしまえば、今のサイバスターでは砕け散ってしまうかもしれない。 メディウス・ロクスはサイバスターを撃破できない。本体であるAI1が、至上の存在と崇めるユーゼスがかけた呪いだ。 カミーユはその間にメディウス・ロクスの胸に飛び込むと、刺さっていたディスカッターを再び掴んだ。 サイバスターの全重量を一気に剣にかける。かける、と言っても何をしているわけではない。 くずおれるサイバスターに剣を握らせているだけだ。だが、それによってディスカッターは縦にメディウス・ロクスの装甲を切り裂いた。 「指数79に増大。ですが戦闘続行は可能ですね」 先程のようにサイバスターを上から抑え込もうと放たれるメディウス・ロクスの剛腕。しかしカミーユは着地と同時に後方に飛んでいる。 大空を飛ぶはずのサイバスターが、地面で跳ねるしかない。それでもカミーユは止まるわけにはいかない。 跳びすさった場所にあるのは、後ろに飛ばされたオクスタンライフル。地面を転がりながらもしゃにむにそれを掴むと、再び敵へと照準を合わせた。 選択するのは、Bモード。体全体でライフルを抑え、撃鉄を引く。一発。二発。三発と繰り出される実体弾。 その反動が、サイバスターを揺らす。 撃ち出された砲弾は、メディウス・ロクスが発生させたスフィア・バリアにあっさりと阻まれる。 その時、オクスタンライフルが地に落ちた。 サイバスターのマニピュレータが限界を迎え、片手が物を掴むという機能をついに失う。だらりと腕が垂れ下がった。 サイバスターが、弱弱しくスラスターを吹かし、5mばかり距離を取った。 メディウス・ロクスはバリア表面で起こった爆煙を裂き、サイバスターに肉迫する。 再び振り落される大振りな爪をサイバスターは回避する。しかし、かわしたはずの爪が、サイバスターを叩いた。 それが、腕を振り落すと同時に放たれた肘の爪であることを、カミーユは受けてから理解した。 「今のあなたがこれほど戦えるとは予想外でした。それを予測できない私はやはり不完全であるということでしょう」 かけられる言葉。しかし、カミーユは沈黙という答えを返す。 「ラプラス・コンピュータは私に組み込まれ、あのお方が使ってこそ意味があります。 あなたがサイバスターを操縦する必要性はないのです。使うのは、あのお方と私でなければならない」 相変わらず、ユーゼスを称賛する時だけ饒舌になるメディウス・ロクス。 こちらに機体を渡すように勧告しているのか、ユーゼスの偉大さを他者に知らしめようとしているのかまるで分からない。 煩わしいメディウス・ロクスの声を無視し、カミーユは歯を食いしばり、無言で集中する。 「気絶しましたか? それなら都合がいい。あなたの命を今からもらいます。 全ての命も、全ての力も、全ての知識も、全能の調停者たるあのお方のためにあるのですから」 そう言うと、メディウス・ロクスはサイバスターに歩み寄る。 正確にこちらのコクピットだけを潰すつもりだろうとカミーユは当たりをつけた。 動き回る相手ならともかく、停止したこちらをそうやってしとめるのは難しくない。 メディウス・ロクスの爪が、ゆっくりと振り上げられた。一部のずれもないように、正確に叩きつぶすための速度だ。 その爪が、サイバスターに振り落され――― ――――――ない。 メディウス・ロクスの背面スラスターが巨大な火を噴いた。それによって盛大にメディウス・ロクスは前方へ吹き飛ぶ。 押しつぶされぬようカミーユは、ちぎれそうな意識をかき集め、サイバスターを迫る影から抜け出させる。 心の中、小さくカミーユはアムロに謝罪した。こんな謝罪は意味がないと分かっていても、心からカミーユはそうしたいと思った。 「う、あああアああ………いっタい、なニガ……」 メディウス・ロクスの電子音声が乱れる。それほど内部に対しても深刻なダメージということだろう。 何が起こったのかも把握してないことは見て取れる。 メディウス・ロクスは、爆風のため見落としていたのだ。脱落したサイバスターの銀色の装甲の中に、白いものが混じっていたことを。 それは――カミーユが創造した三機のハイ・ファミリア、その残った一体。 今のカミーユの精神状態では、自在にハイ・ファミリアを操ることは不可能だ。 ただ漫然と射出して使おうものなら、動きの鈍ったそれはすぐに落とされるだろう。 だから、カミーユは待ったのだ。ハイ・ファミリアをメディウス・ロクスに気付かれず、致命的な一撃を与えるチャンスを。 ハイ・ファミリアの混じった残骸を踏み越え、攻撃に気を回した隙をつき、カミーユは自身を投影した分身をメディウス・ロクスのスラスターに飛び込ませた。 そして、最奥で力を放ったのである。60mもの巨体が故に、スラスターの噴出孔も大きい。それによって生まれた死角。 直結した己のエネルギーに火がつけば、どれだけの機体であろうとも致命傷は避けられない。 サイバスターにメディウス・ロクスを破壊する力はない。ならば、メディウス・ロクス自体の力を使えばいいのだ。 A・R(アムロ・レイ)の名を冠したハイ・ファミリアは、最期に敵を打ち倒した。 自分の意識を分化させたハイ・ファミリアが撃墜されたことによる精神的な痛みを必死に抑え、カミーユはサイバスターを操作する。 動くほうの手でオクスタンライフルを拾い、サイバスターは振り上げた。 「何ゼ……ラプラス・コンぴュータハ……ソの力は……あのお方のタメにあルのに……ナぜ、あなたは……」 メディウス・ロクスが意識を持って稼働しているなら、撃墜されることはすなわち死を意味している。 だと言うのに、いまだメディウス・ロクスが口にするのはユーゼスのことだった。 サイバスターの力は、ユーゼスこそふさわしい。カミーユには、要らないものだと信じて疑わぬ声。 その言葉が、カミーユには我慢できなかった。沈黙の反動からか、カミーユの口からは叫びがあふれた。 「ふざけるなッッ!! そんなにこのマシンが、サイバスターが大切か!? 人の命を平気で踏みにじってまで、そんなに欲しいのかよ!? ユーゼスが言った理想? 完全になる!? いつもいつも脇から見ているだけで、人を弄べる奴がそう言うんだ! 何も分かっちゃいない癖に知ったようなことばかり! 俺たちは考えなしの案山子なんかじゃない!」 処理しきれない感情が、白濁とした頭の中を駆け巡り、どうしていいのか分からなくなってくる。 「お前だって同じだ! ユーゼスの、ユーゼスのってユーゼスのことを鵜呑みにして、他人の代弁者のつもりか!? 人のこと一つ考えられない奴が、人の命を平気で摘みとれる奴に何がわかるって言うんだよ!?」 「ワタしは……あのお方の……」 「黙れよ! 目の前の現実一つ見えてない奴が! 過去に縛り付けられて、それだけしか考えられなくなった癖に!」 カミーユは、メディウス・ロクスの言葉を遮る。一息に言い終えて息が切れる。先程から荒い息が、さらにひどくなる サイバスターはまっすぐにオクスタンライフの銃身を、メディウス・ロクスの本来核がおさめられているはずの空洞に差し込んだ。 オクスタンライフルにもついに限界が訪れる。何度となく刺突にも使われたことによって、耐久力はすでになくなっていた。 空洞に飲み込まれるように、オクスタンライフルが押し込まれて消えてく。 オクスタンライフルの全てが空洞に飲み込まれたと同時――エネルギーシリンダーに火がつき、それが実体弾を巻き込み炸裂した。 体の中から火を噴き出し、紅蓮にメディウス・ロクスが包まれる。手が、足が、胴がばらばらに裂け、四散する。 「ゲンじつを見えてないノは……アナたのほう……もはや、あなたに、タタカうチカラは……」 ――グシャリ。 最期まで人の気を逆なでする言葉を吐くメディウス・ロクスの頭をサイバスターは踏みつぶした。 「分かってるさ……けど、許せるかよ……こんなことを平気で出来るような……」 この身体に代えてでも、ノイ・レジセイアだけは。 カミーユは、絶対に許せない。許せるわけがない。 クワトロ大尉を、アムロ大尉を、多くの人々を理不尽な殺し合いで奪ったことが。 皆、帰る場所があった。帰りを待ちわびている人がいた。まだしなきゃならないことがあった。―-死んでいい人じゃなかった。 それを実験なんてものの使い捨ての道具のように、安全な場所から一方的に殺した。 挙句、世界を作ると。人の心も大事にできないような存在が作る世界のために、殺された。 歯を食いしばり、唇も噛む。口から流れ出る血が、どうにかカミーユの意識を繋ぎとめる。 一瞬でも気を抜けば、どこまでも落ちていける。カミーユはその事実を感じていた。でも、それをするのは、まだ先だ。 今は、足をとめちゃいけない。アイビスが登って行った空をカミーユは一瞬見上げた。 そこには、無機質な天井があるだけだ。その先をカミーユは見通し、サイバスターを歩かせる。 結局、ノイ・レジセイアと戦えるのは自分だけだ。キラも、シャギアも逝ったことを、カミーユは自分の力で漠然と理解していた。 ロジャーの気配も消えたことも。残りは、ノイ・レジセイア。デュミナス。自分。そして、よくわからない大きな気配と、アイビス。 星の中に感じる力はそれだけだ。 サイバスターが、体を引きずり進む。もはや、体のどこにも無傷な場所はない。 いつ機能停止してもおかしくない状態だった。 ――もし、この世界に奇跡を起こせる存在がいるならば。 ――希望の力から生み出される電子の聖獣がいるならば。 カミーユは、十分にそれに適合するだけの条件を持っていたと言えるだろう。しかし、そんな奇跡はあり得ないのだ。 この実験を起こすに際し、ノイ・レジセイアが破壊したものが二つある。 一つ、希望より無限の力を引き出す不死鳥を象った七体目の電子の聖獣。 二つ、舞台の上を動かし、納めるための機械仕掛けの神〈メガデウス〉。 この二つは、もはやこの世界のどこにも存在しない。カミーユたちを助け、導くものはもうどこにもない。 舞台に全ての人はあげられ、全ての札は開かれた。勝つも負けるも、ここにあるものだけが決することができる。 →ネクスト・バトルロワイアル(3)