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ヴァイサーガ(スパロボA) コスト:560 耐久力:650 盾:有 変形:無 抜刀:無 機動性が高く、一撃離脱を得意とする機体 与ダウン性能が高く、BD性能も良いので相手にとってかなり嫌な機体といえる メイン:烈火刃(単発):弾数6 リロード5秒/全弾 クナイを相手目掛けて投げる。当たれば時間差で爆発し、相手をダウンさせる 射程は短いがBD性能の高さで補うことができ、片追い対策としてかなりの効果を発揮する 勿論こちらが片追いするときも有効である 威力10+40 チャージ:地斬疾空刀 チャージ2.2秒 居合い抜きでダウン属性のある衝撃波を発生させる 衝撃波はビーム同様実弾と敵機を貫通するため、かなりのダウン性能を持つ 一応居合い抜きの刃にも当たり判定がある 威力100(刃140) サブ:烈火刃(3WAY) メインと共有 クナイを横3方向に投げる。近距離での回避は困難 かなり使えるが、弾切れしやすいのが難点 威力(10+40)×3 N格闘:水流爪牙 爪による三段技。モーションが早くカットされにくい 威力60・60・90 前格闘:風刃閃 一気に相手に近づいて居合い斬り 見てからの回避は困難だが居合いのモーションでバレやすい。闇討ち推奨 威力160 横格闘:水流爪牙 薙ぎ払い→突き上げの二段。発生が早い 威力65・90 BD格闘:風刃閃 前格と同じ技だがBDしながら構えるため発生が早い その代わり威力は前格より低くなっている 威力140 特殊格闘:奥技・光刃閃 居合いの構えで静止し、次の瞬間一気に近づいて斬り抜ける モーションでバレバレ、斬った後剣を鞘に戻すため隙だらけとネタ色の強い技だが威力は非常に高い 見てからの回避は不可能なので前格同様闇討ちで決めよう 威力240
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視界が――いや、世界が閃光に包まれた。 とっさにテニアを庇う。斬り合っていた白い機体の事なんて忘れて。 光が駆け抜けた後、次に来たのは衝撃波だ。 剣を大地に突き立て、楔とする。 ヴァイサーガの巨体が揺れ、軽いベルゲルミルなんて吹き飛ばされそうになるほどの風が叩きつけられた。 数秒、もしかしたら数十秒は横殴りの風に晒されていたかもしれない。 やがて風圧が止み、統夜は顔を上げた。 「なんだ……これ」 先程まで廃墟の街で戦っていた、はずだ。 なのに今、目の前にあるのは――ぽっかりと空いた何もない空間。 そこかしこに瓦礫の山が、建造物の名残りが見える。 街を、まるで消しゴムを掛けたように空白がその存在を主張している。 すり鉢状に広がっていく破壊の爪痕。その進行方向にはまさしく何もない。 ずっと向こう、地平線の果てまで続いているように見える。ヴァイサーガのカメラでもどこまでが吹き飛ばされたかわからない。 一体何が起こったのか。 急いで確認しようとして、それからはっと腕の中のテニアに気付く。 「テニア! 怪我してないか?」 「う、うん。アタシは大丈夫。でも、これ……一体何が起こったの?」 街の一切合切を吹き飛ばした何かは、ユーゼスが向かった方向から飛んできたようだ。 ユーゼスがやったのかと、空恐ろしい力に震える統夜にテニアが囁く。 「統夜、あれ!」 ベルゲルミルが指し示したのは、同じく退避していたらしい敵機だ。 おそらく向こうもこちらに気付いただろうが、事態を把握する方が先と判断したのか一瞬で変形し飛び去って行く。 統夜が隙を突く暇もない。瞬く間に鳥型の敵機は白煙に紛れ見えなくなった。 逃がしてしまった。だが時間は十分に稼いだと自分に言い聞かせ、統夜は機体を立ち上がらせる。 「とにかく、ユーゼスと合流しよう。ガウルンでもいい」 「そ、そうだね。じゃあ……」 「俺が何だって?」 通信に、割り込んできた声。 振り返る。そこに佇んでいたのは、全身に傷を負った、まさに『落ち武者』といった風情のダイゼンガーだった。 「ガウルン! あんた、その機体……やられたのか?」 「ああ、下手打っちまった。それに剣を落としちまってな。統夜、お前さんに貸してた剣を返しちゃくれねえか?」 「あ、ああ。俺もどうせ片腕が使えないし、ほら返すよ」 「ありがとよ……ちと軽いが、まあいいだろ」 投げ渡したガーディアンソードをダイゼンガーが二度三度と素振りする。 確かに斬艦刀と比べれば少々頼りなく見えるが、それでも中々使い勝手のいい武器である事に違いはない。 操縦者の動きを正確にトレースするというダイゼンガーが感触を確かめるように拳を握っては開き、宙にパンチを繰り出す。 やがて満足いったか、ダイゼンガーは一つ頷くと統夜達へと向き直る。 「で、お前ら。こりゃあ一体全体どうしたってんだ?」 「アタシらが聞きたいよ。あんた、ユーゼスと一緒に戦ってたんでしょ? これはあいつがやったの?」 「俺も途中で後退したんでな。詳しいことは分からんが……おそらくこれはユーゼスじゃない。 いや、あいつも絡んでるだろうがどちらかと言えばこれを撃たれた方だろう」 「じゃ、じゃあこんなすごい力を持った奴が敵にいるってのか?」 「だとしても、おそらくは敵さんの切り札ってとこだろう。今まで使わなかったのは使えないだけの理由があったんだろうさ。 でなきゃ、今頃これが連発されて俺達も消し炭になってるはずだからな」 「……とにかく、ユーゼスと合流しようよ。いくらなんでもあいつがやられたって事はないでしょ」 「そう……だな。状況次第では一度撤退して、体勢を立て直した方がいいかもしれない」 ヴァイサーガが先頭に立ち、ベルゲルミルがその後に続く。 ダイゼンガーのガウルンは二機の背中をぼんやりと見つめ、 「俺にはそんな時間はねえんだよな、これが……」 ぼそりと、呟いた。 微かに耳に届いたガウルンの囁きに統夜は振り返った。 「おい、どうかしたのか? まさか動けないとか言うんじゃないだろうな」 「だったらおぶってくれるかい?」 「誰が! 行こう統夜。早くユーゼスを見つけなきゃ」 見通しが良くなりすぎて狙い撃ちにされる危険を減らすため、射線の外にあったビル街へと進路を変えて進む三機。 ベルゲルミルならともかく、図体の大きいヴァイサーガとダイゼンガーではあまり隠ぺい効果がある訳でもなかったが。 「なあ、統夜。戦場で生き残るために一番大事なものは何だと思う?」 「何だよ急に」 「ちっと気になってな。お前も中々のパイロットになってきた事だし、興味が出て来たんだよ」 「ああ、そう。生き残るために大事なもの……そりゃやっぱり、腕なんじゃないか?」 「強くなきゃ負けちゃうもんね。アタシもそう思うよ」 前方の警戒は緩めず、意識の表層で答える。 何でそんな質問をするのかは分からないが、ガウルンとはそういう男だ。理解できるはずもない。 「腕ね、確かにそれも大事だ。だがな、俺の見解は違う」 「じゃあ、あんたはどう思うんだ?」 「そうさな……嗅覚ってところか。自分を絡め取ろうとする死から逃げ、相手は逆に突き落とす。 抽象的なもんだが、わかりやすく言うなら勘ってのでもいい。要するにヤバい臭いをかぎ分けろって事だ」 「勘……ね。随分曖昧なものなんだな」 「馬鹿にしたもんでもねえさ。勘っていうのは何も適当に選んだり運任せにする事だけじゃない。 場の流れを読み、洞察力や想像力をフルに働かせて有り得るかも知れない可能性を事前に探る――そういう事も指すんだ」 ゴシャッ、と。 音が聞こえた。 ダイゼンガーが瓦礫を踏み潰したのだろうか。 音を立てるな、と言おうとしたが考えてみれば大した意味もない。 音が聞こえる頃にはとっくにレーダーの範囲内だろう。 神経を尖らせて敵の気配を探る統夜は振り向かなかった。 「ふーん。で、それがどうしたって言うんだ。今話さなきゃいけない事なのか?」 「師匠としての最後の教えだよ。俺もお前もこの先生きのこれる保証はない。 言い残したまま死んで後悔しないように、今言っとこうと思ってよ。お前も俺に何か言いたい事はねえのか?」 「別に……俺を鍛えてくれた事には感謝してるけど、できればもう会いたくもなかった。あんたには散々痛い目に遭わされたしな」 「つれないねぇ。そういやお前、テニアの嬢ちゃんから聞いただろ? ユーゼスを殺る、ってプラン。 お前も覚悟を決めたもんだと思ってたが。今あいつを探すってんなら、その気はないって事か?」 「別にそういう訳じゃない……俺は安全策を取りたいだけだ。もしユーゼスが追い込まれていたとして、俺達が助ければ恩を売れるだろ」 「あいつが恩なんて感じるタマかねぇ」 視界の端に白い戦艦、Jアークが見えた。 その周りに飛ぶ機体もいくつか。どうやらユーゼスは本当に破れたらしい。 舌打ちし、ヴァイサーガを止めて手振りで後の二人に停止のサインを伝える。 「おやおや、あいつやられちまったか。アキトもどっかに落とされたようだしな……どうするよ?」 「どうするって……俺達だけで仕掛けるしかないだろ」 「正気か? あのユーゼスの機体すら撃退する奴らだぜ。加えて全戦力が終結、俺達の方の戦力はガタガタ。 俺の勘は撤退しろって叫んでるんだがねぇ。いや、いっそ降伏して奴らに協力するのもいいんじゃねえか?」 茶化すようなガウルンの声にカッとなる。それができれば苦労はしない。 さすがにここまで明確な敵対行動を取ればどんなお人好しだって握手してはくれないだろう。 戦力では勝っていたはずなのに、終わってみれば返り討ちにされた。 なのにこのガウルンの態度。 文句を言ってやろうと思い、ヴァイサーガを振り向かせた。 「あんた、いい加減にしろよ! そもそもあんたが勝手に後退しなきゃユーゼスだって――」 場合によっては剣を抜く事も辞さない――そんな覚悟で振り返った統夜の目の前に。 ベルゲルミルの胸を貫く、 統夜がダイゼンガーに渡した、 今もダイゼンガーが握る剣が、 あった。 その位置は――考えるまでもなくわかる。 コクピットだ。テニアがいるはずの。 「あ、え……? な、何をして……どういう、事だよ……?」 「やっと振り向いてくれたか、統夜~。寂しかったぜ? 無視されてるんじゃないかと泣いちまうところだったじゃねえか? 全くお前って奴は薄情なもんだな? 愛する彼女がダンマリだてのに気にも留めねえ。 言ったろ統夜。大事なのは嗅覚だ、ってよ。もっと早く振り向いてればなぁ?」 ダイゼンガーが剣を振り上げ、引っ張り上げられるベルゲルミル。 統夜は夢でも見ているかのようにぼんやりと、人形のように身動きしないベルゲルミルを見上げ、 「――はッ、テニアぁぁ――――――ッ!」 我に返り動き出す。 腕は勝手にパネルを叩き、コードを入力する。光刃閃。ヴァイサーガの最も速く、強力な攻撃オプション。 剣を掲げるダイゼンガーの腕目掛け、一足で加速し、疾風よりも速く、その名の通り光の刃となって、 斬り裂く。 ガウルンのダイゼンガー、 「たすけ……とう、や……」 が、盾にしたベルゲルミルを。 真っ二つに。 頭頂部から胴体、股間まで一直線に。 何の抵抗もなく、バターにナイフを入れるように。 びしゃっ、と。 ヴァイサーガのカメラに液体が飛び散る。 張り付いてきたそれは赤い色をしていて、よくわからない塊が混じっている。 地面に落ちていくそれを拡大した。 手だ。人の手が落ちている。肘から先がきれいに切断されて。 向こうには多分足だ。赤い水たまりの中に落ちている。 細かいのは……肉屋で見るような、肉の塊だ。そこらじゅうに飛び散っていた。 ヴァイサーガの剣を見てみると、ベルゲルミルのオイルがどろっと血のように流れ落ちていく。 その中に微かに、赤いものが――本物の血が、流れている。 斬り割られたベルゲルミルのパーツが散乱し、やがて爆発する。 血も腕も足も肉片も全て、諸共に吹き飛ばしていった。 わなわなと手が震え、吐き気が込み上げてきた。とっさに口元を押さえたが、我慢しきれずヴァイサーガのコクピットが吐瀉物にまみれた。 胃の中身を全て吐き出し、それでも収まらずに胃液が沁み出てきた。喉いっぱいに酸味が広がり、それがまた気持ち悪さを掻き立てる。 「あらら、ひでえなぁ統夜君。愛しのテニアちゃんをバラバラにしちまうなんてよォ~」 心底楽しいと言わんばかりの、ガウルンの声が聞こえる。 吐く物を全て吐き、げっそりとした顔を上げる統夜。しかし眼だけがギラギラと、まるでドラッグをキメたかのように爛々と輝いている。 「ガウ……ルン! お、お前が……ッ、お前がテニアをッ……!」 「あん? 馬鹿言うなよ統夜。確かに俺が先に手を出したが、止めを刺したのはお前さんだぜ? 聞こえたろ、『助けて、統夜』ってな。聞こえなかったか? 最後の言葉だったってのに、もったいねえなぁ」 「違う……違う! お前がテニアを殺したんだッ!」 「違うだろ統夜。百歩譲って『俺も』殺したと認めてもいい。だが物事は正確に伝えるべきだぜ? 『俺』と、『お前』が、『二人で』フェステニア・ミューズを殺したんだ。ん、こいつぁ初の共同作業って奴じゃねえか?」 「……ぁぁ、ううううぁぁあああああああああああああああああああああッ!」 ユーゼスやJアークの事なんて頭から吹き飛んだ。 頭の中が真っ白になり、ただ一つのことしか考えられなくなる。 ――こいつが、テニアを殺した! ガウルンが、テニアを殺したんだ! ――絶対に……絶対に許さない! 「ガウルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!」 「ククッ、ハハハハハハッ! そうだ、その顔だ! 俺が見たかったのはその顔なんだよ、統夜! さあ――これが最後だ! 俺を憎め! もっと、もっと、もっとだ! お前の本気を見せてみろ! 俺が許せないだろ? 憎いんだろう? だったらお前が持てる力全部でかかって来い! でなきゃテニアの嬢ちゃんも浮かばれないぜ……何たって、お前があんまり不甲斐ないから嬢ちゃんを殺そうと思ったんだからよ!」 「黙れぇぇっ!」 一直線に突っ込んできたヴァイサーガの剣を軽く受け止めるダイゼンガー。 もう片方の腕がヴァイサーガの腹を打ち据え、機体が一瞬宙に浮く。 力が緩んだ所にダイゼンガーの脚が飛び、ヴァイサーガを横薙ぎに蹴り付けた。 ビルを何棟か薙ぎ倒し、ヴァイサーガはよろよろと立ち上がる。 剣を大地に突き刺し、佇むダイゼンガーへ烈火刃をありったけ投げ放った。 ダイゼンガーは悠然と肩のゼネラルブラスターを放ち刃を迎撃、動きを止めずヴァイサーガに腕を突きつける。 ロケットパンチ――ダイナミック・ナックルがヴァイサーガの頭を掴んでビルへと叩きつけ、なお勢いは止まらず地面へ引き倒し引きずっていく。 大地との摩擦で背面の装甲が傷ついていく。拳の握れない左腕を叩きつけ、なんとか束縛から逃れる。 「おいおい、それじゃあダメだ。もっと落ち着け、クレバーになれ。怒るのはいい、しかし心は平静に。 威勢が良いのは結構だが、そんな隙だらけの動きじゃ欠伸が出ちまうぜ」 「うる……さい。今さら師匠面して、俺をからかってるのか!?」 「まさか。言ってなかったんだがな、俺の身体はボロボロなんだ。こうしてる今も闘病生活真っ最中なんだぜ? 俺に残ってる時間は少ないんだ。最後くらい悔いのない瞬間を過ごしたいのさ」 「あんたの命と、俺達と! 何の関係があったって言うんだ! 死にたいなら一人で死ねよ!」 「別に俺は死にたい訳じゃねえよ。むしろ生きたいと思ってる。が、それが叶わねえってんなら仕方ねえ。 潔く諦めて――、お前と最後に遊ぼうと思った訳さ」 「ふざけんなッ! だったら俺を狙えば良かっただろ! なんでテニアを殺したんだ!」 懲りずに打ち掛かって来るヴァイサーガをいなし、がら空きの背中を蹴り付ける。 無様に顔面から地面へと突っ込んだヴァイサーガを笑いながら、 「そりゃお前。あの嬢ちゃんがお前のお荷物だったからさ」 「お荷物……? どういう、意味だ!」 「言葉通りさ。お前、俺と組んだ頃は良い眼をしてたのにあの嬢ちゃんと合流してからはすっかり腑抜けちまった。 相棒の身を案じた俺は、こう考えた訳だ。統夜、お前は騙されている! ってな。 テニアが原因でお前が変わったのなら、その原因を取り除けばいい。簡単な話だ。 退治されるべき竜が騎士を惑わせた魔女を討つ。どっかのおとぎ話みてえじゃねえか」 「そんな……そんなお前の勝手な理屈で!」 「だが、どうだい? そのおかげでお前は身軽になっただろ? 背負う物も守る者もなく、本能が命じるままただひたすらに剣を振るう。それこそがお前の本来あるべき姿、生き方なんだよ」 「違う! 勝手に俺を枠に嵌めるな!」 「違わねえ。お前は俺と同類なんだよ。戦いの中でしか生きられねえ、最低最悪の人種――自覚しろよ、その方が楽に生きられるぜ?」 「違う、違う……! 黙れって言ってるだろぉっ!」 駄々っ子のように剣を振り回すヴァイサーガ、ダイゼンガーはその場を動かず軽く剣を打ち合わせてあしらっている。 「この、この……っ! 死ね、死ね、死ね、死ね! 死んじまえよッ!」 「あのなあ、誰がそんな無様な戦い方をしろっつったよ。あんまりがっかりさせないでくれ」 ガウルンは嘆息し、痛む身体の悲鳴を無視してダイゼンガーを前進。 ヴァイサーガの剣をガーディアンソードで抑え、力が拮抗した一瞬に肩を押し身体を支える足を払う。 バランスを崩し、倒れ込むヴァイサーガの腹へ翻った足が乗る。 地面に激突する瞬間、タイミングを合わせ足裏を押し込んだ。 「っが、は……!」 受け身も取れず衝撃の逃げ場をなくし、ヴァイサーガの胴体に亀裂が走る。 その余波は統夜へとダイレクトに伝わり、少年もまた激しく咳き込む。 一方ダイゼンガーはヴァイサーガを踏み付けたまま、視線をJアークのいた方へ。 ユーゼスの機体――身体の半分が消し飛んでいる――と、対峙するJアークの機体達。 そして、ユーゼスの後方から今にも墜落しそうなスピードで飛ぶアキトの機体。 どうやら、向こうでももう一波乱ありそうだ。身体さえ万全なら乱入したいところではあるが。 「ま、いい。どうせ奴らもしばらくはこっちに来ねえだろ。俺は俺で楽しませてもらうとするか」 どちらが面白いかと言えば、ガウルンは足元でもがく少年で遊ぶ方を選ぶ。 どれだけ動けるか分からないが、願わくば統夜がガウルンを殺すほどに燃え上がってくれることを祈りつつ―― 「さあ、付き合ってくれよ統夜。朝まで踊り明かそうじゃねえか」 この時間が楽しくてたまらないと。 死を目前にしてなお、かつてない程に生きている実感を――充実した時間を味わうのだった。 □ 「みんな、無事か!?」 サイバードが甲板に降り立った。 周りにはF91、凰牙、ブレンと全機が健在である。 「なんとか……カミーユは?」 「俺も大丈夫だ。それより、ユーゼスは? 倒したのか? さっきの光は何なんだ?」 「落ち付け、まだ我らの勝利が確定した訳ではない。警戒を怠るな」 「その通りだ。みんな、機体のコンディションを確認するんだ。油断して隙を突かれるのも間抜けだろう」 ロジャーの一言で各々が自機の状態を確認していく。 ブレン、凰牙はさしたる消耗もない。あえて言うなら、凰牙がハンマーの代わりに斬艦刀を装備しているだけだ。 Jアークはバリアを展開しっぱなしだったり、エネルギーを絞り出したせいか消耗が最も激しい。 ポイントで補給できないJアークが力を取り戻すには時間が必要だ。 そしてサイバスター、F91。共に機体よりもパイロットの疲労が大きい。 新たにファミリアを創造しぶっつけ本番で戦闘に入ったカミーユ、サイコフレームの共振を全開にして戦ったシャギア。 キョウスケと戦った時よりは余裕があるものの、できるなら休息を取った方がいいと誰かが言う。 だが当人達は、 「いや、まだだ。奴らの撃破を確認するまで機体を降りる訳にはいかん」 「ええ、俺も同意見です。まだこの戦場からは、粘つくような悪意が消えていない……!」 サイバスターが振り向き、その視線を彼方へと投げる。 その先にいたのは、最前まで対峙していたゼストだ。 だが、100mを超えていた巨体は見る影もなかった。 胸から上が全て吹き飛び、中心にある球体――AI1が剥き出しとなっている。 六芒星、相転移エンジンと核パルスエンジンもその上半分がきれいさっぱり無くなっていた。 残るのは三角形となった一つの相転移エンジン、二つの核パルスエンジン。 頭を庇ったか右腕は根元から消し飛んでおり、左腕だけが力無くぶら下がっている。 コクピットがあったであろう場所もぼろぼろで、あの中で人が生きていられるはずはないと思わせた。 「ユーゼス……死んだのか?」 「待てカミーユ、迂闊に近づくな。万一君が取り込まれでもしたら取り返しがつかん」 「でも、せめてあいつが生きてるかは確認しなきゃ」 「その必要はない。動かないなら、このまま破壊してしまえばいいのだ」 シャギアがJカイザーへと向かう。もう一度撃てないかと試してみるもののさっぱり反応がない。 Jジュエルのエネルギーをサイコフレームで強引に流し込み撃ったのが決定打となったか、今度こそ巨砲はただの鉄塊だ。 シャギアは早々に諦め、F91に蹴り落とさせる。地上に叩きつけられたJカイザーは粉々になった。 「しかし、ではどうするかな。凰牙やサイバスターの全力攻撃を使うというのも過剰だと思うが」 「Jアークの砲撃……と言いたいがこれ以上回復を遅らせるのもまずい。時間はかかるが、我らで地道に削るしかあるまい」 「そう、ですね。俺達の武装なら補給もできますし。俺とアイビス、シャギアさんで破壊しましょう」 時間経過で回復するJアーク、電池でなければ補給できない凰牙を置いて三機が甲板から飛び立った。 動きのないゼストへ接近する三人。射程距離に入ったが、それでも迎撃が来ない。 「やっぱり……その、死んでるのかな?」 「これではっきりするさ。行くぞ!」 サイバスターがオクスタンライフルを構える。 念入りにチャージを行い、中破したゼストを貫けるだけの力がライフルの先端に灯る。 だがそこで、崩壊した街を眺めていたシャギアがいち早く異変に気付いた。 「っ……いかん、下がれ!」 サイバスターの前に躍り出て、ディフェンサーを前面に展開。 間を置かず何処からか緑色の光――ビームが飛来し、電磁フィールドに激しい揺さぶりをかけた。 傷ついたF91がその圧力に押され突破される前にブレンが割って入り、チャクラシールドを広げた。 「まだ敵がいるの!?」 「いや、これは……あいつだ! テンカワ・アキト!」 カミーユが見覚えのあるビームからその正体を看破すると同時、ゼストの向こうから黒い機体、ブラックゲッターがやって来た。 サイバスターのファミリアに叩き込まれた損傷は胴体に大穴を空けており、こちらへ飛んで来る今も光の粒子――ゲッター線を撒き散らしている。 その上頭部はひしゃげ、元の面影はどこにもない。 「あの状態でまだ動けるのか!」 「機体は無事でもパイロットが生きてるはずが……! コクピットに直撃したのに!」 だが、ブラックゲッターは今のビームを撃った事で逆に自らを追い詰めたようだった。 腹のビーム砲口がただれ、融解していく。供給するゲッター線を制御できていないのだ。 軌道も危なっかしく左右に揺れ、攻撃されたら一溜まりもないだろう。 そんな状態で何故現れたのか、シャギア達にはわからなかった。敗北は目に見えているというのに。 身構える三人の前で、ブラックゲッターは止まった。ちょうどゼストの真上だ。 ビームが来るかといつでも散開できるように集中する。だが、ブラックゲッターの次の動きは誰にも予測できないものだった。 頭上でトマホークを振り回し、十分な加速をつけて――ゼストへと叩き付けたからだ。 「何だとッ!?」 トマホークの一撃は、半壊しつつあったゼストのコクピットを完膚なきまでに叩き潰した。 そこにいたであろうユーゼスの事など考えるまでもない。 「どう言うつもりだ? お前達は組んでいたのではなかったのか」 「……っ、はあ、はっ……これで……がはっ! ……手に、入れた……ぞ!」 ブラックゲッターから聞こえてくる、切れ切れの声。 怪我をしている、どころではないだろう。咳き込んだ時に吐血したようだ。 しかしその声に込められた戦意は些かも衰えてはない。 まだ何か、戦況をひっくり返す一手がある。シャギア達にそう思わせるには十分だった。 「ここまで……やられていたのは、計算外……だった。だが……お前達も、かなりの、力を……失ったはず、だ」 「弱ったとはいえ、貴様ほどではない。その身体で私達に勝てると思っているのか?」 「……まさか。だが、このゼストならば……わからない」 そう言ってブラックゲッターは両手を腹の大穴に突っ込み、バキバキと装甲を割りながらも何かを取り出した。 右手には赤い輝き、左手には緑の輝き。 マジンガーZに積まれていた光子力エンジン、そして元来ブラックゲッターに搭載されていたゲッター炉心である。 ブラックゲッターは膝をつき、右手を下に、そして左手は天に掲げる。 ゼストの内部が露出していた部分に光子力エンジンを埋め込み、ゲッター炉心からは緑光が漏れ出し、辺りを染め上げる。 「ゲッター線は、進化を促すエネルギー……。このゼストの装甲は、自己再生機能とやらを有する……生きた装甲、だそうだ。 だからこうして……ゲッター炉心を暴走させ、身体を再生……させる、触媒となるエネルギーを、与えてやれば……」 「っ、いかん! 奴を止めろ!」 「もう……遅い……!」 ゲッター炉心の放つ輝きを吸い込み、ゼストの装甲が泡立つ。 光子力エンジンは完全にその身に沈み、ゼストの失われた動力炉を補う糧となる。 F91がヴェスバーを、サイバスターがライフルを放つが溢れ出るゲッター線が壁となりブラックゲッターには届かない。 三人の見ている前で、ゼストの割れた装甲がみるみる内に修復され、繋ぎ合わされていく。 四本の脚が伸び、しっかりと大地を踏み締める。 そして、失われた上半身に位置するブラックゲッターを触手が取り巻き、同化。 「ゼストが……再生する!?」 「そうだ、これが……これが俺の……!」 アキトの声に力が戻り、ゼストに敵を蹂躙せよと命令を下そうと息を吸い込んだ。 その瞬間、 ゼストの千切れかけた左腕がブラックゲッターを貫いた。 「……ッ!? 何だ、と……?」 「ゼストの腕が!」 何故せっかく支配した機体を自ら傷つけたのか。 事態を把握できず固まるシャギア達の耳に、更なる悪意が飛び込んで来た。 「フフフ……フハハハハハハハハハハハハッ! よくやったぞ、テンカワ……! よくぞゼストを甦らせてくれた!」 歓喜に堪えないと言わんばかりの笑声。 聞こえてきたのは撃破したはずのユーゼスの声だった。 「貴様、生きて……!? 一体何処に……!」 「ここだ、諸君!」 問うアキトの声に応えたのは、ブラックゲッターを貫いた腕の肘から伸びる、クロ―アーム。いわゆる触手だ。 その鋭い爪の根元に、しがみ付いている人影――仮面の男。 「本当に助かったよテンカワ! ゼストは一度死んだのだ、先程の砲撃と力の暴走のおかげでな! 私はあの瞬間、とっさにコクピットからこのアームへと飛び移ったのだ。 ラズムナニウムというのは便利な物だ、命令さえ下せば人が隠れるだけの穴すら瞬時に作り出す! いや、本当にどうしようかと思ったのだよ! 機体が動かねば私に打つ手はない。 破壊されるのを待つだけかと思いきや――君が自ら飛び込んで来て、ゼストの餌になってくれるとはな!」 上機嫌極まりないという声でユーゼスが語り出す。 内容はともかくその姿勢で喋っても全然締まらないとアイビスなどは思ったのだが、それでもその男の声は止まらない。 どうにかしてユーゼス本人を狙おうとするカミーユとシャギアだが、ゲッター線はいよいよ強まって弾丸やビームの干渉を許さない。 「君のブラックゲッターはラズムナニウムの塊――傷付いたゼストの装甲うを埋めるにはこれ以上ない程に適格だ! そして嬉しいことに君は破損した動力炉の代わりまで持ってきてくれた! ゲッター炉心、光子力エンジン――どちらもかなりの高出力! これなら十二分にゼストは回復する事が出来る。確信したよ! 天意はまさに私の頭上にある!」 ブラックゲッターへと繋がったクローアームが、ブラックゲッターに僅かに残ったエネルギーすらも絞り出す。 アキトがいくら操作しても、ブラックゲッターは反応しない。 次第にコクピットにまで触手の先端が侵入し、アキトはままならない身体に鞭打って脱出しようとした。 だが、その努力も虚しく爪の先端がアキトを貫き、シートへと磔にする。 アキトの胴を貫通した爪がゆっくりと開く。 そしてアキトは見た。分かれた爪から出てきた細い管のような器官が、アキトの身体へと同化していく瞬間を。 「がっ……は!」 「嬉しい……本当に嬉しいよテンカワ。機体だけでなく、君というナノマシンのキャリアまで手にする事ができた。 これで首輪の解除も目途が立つ。光栄に思うといい、君は私の輝かしい前途を飾る最初の人柱だ!」 光の壁の向こうで、ブラックゲッターの形が崩れる。 50mを超えるサイズの機体がその質量分の液体へと変わり、色と形を変えていく。 ゼストの機体色と同じ色。 ゼストの上半身と同じ形。 瞬きするほどの間に、ゼストは完全にその外観を取り戻した。 ユーゼスの乗る触手が上昇し、開いたコクピットへ。 そこにアキトの姿は――もう、ない。ユーゼスが悠然とコクピットへ乗り込んだ。 完全に再生したゼストが浮き上がり、シャギア達を睥睨する。 「さて、お前達にも礼をせねばならんな。再生したとはいえゼストはかなりの力を失った。 こうなれば是が非でもお前達の機体を取り込まねば収まらん。覚悟してもらおうか……!」 「くっ……やれるか、カミーユ!?」 「言われ……なくても!」 サイバスターが三度その全力を引き出す。傍らに飛ぶ三つのファミリア。 F91も遅れまいとバイオコンピューターを稼働させ、残った全ての力をかき集める。 後方からJアークが接近。異変を感じ取って来たのだろう。 F91、サイバスター、Jアーク、ブレン、凰牙。 戦力としては誰も欠けてはいないが、万全などと言える状態ではない。 ゼストの放つプレッシャーが、対峙する全ての者の心を蝕む。 「さあ、ここからが本番だ! 出来得る限りの力で抗ってみせろ、矮小なる者どもよ! 震えよ! 畏れと共に跪け! ゼストの圧倒的な力に、今こそその全身全霊を以って……!」 赤い空の下に巨獣が舞う。 絶大なる力をその身に宿し、愚かにも挑んで来た小鳥たちを喰い尽さんと天に吠える。 両腕を広げ、胸からせり上がる動力部の塊。エンジンを三つ失ったため多少力は落ちるが、それでも十分な威力。 見上げる全ての者に終わりを告げるべく、 「絶望せよォォォォ――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」 光の雨を、降り注がせた。 →The 4th Detonator
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「分かってるけど……一応聞いとく……生きてるよな?」 「生きてるよ……まだ……死んじゃいない……」 「あたしも、なんとか……」 大空洞の地面にうずくまる三機のマシン。 その前には、傷一つ付いていない巨体でノイ・レジセイアが見下ろしている。 ノイ・レジセイアの放った一撃を、カミーユたちはどうにかバリアを全開にすることでやり過ごせはした。 しかし、それの結果受けた三機のダメージは深刻なレベルに達している。 「ごめん、やっと治ったのにまたぼろぼろになっちゃったね、ブレン」 「再生も、追いつきそうにない、かな……」 それでも、三機ともなお健在。 立ち上がることはできるし、武器を持つこともできる。 ノイ・レジセイアは、何をするわけでもなく三機を無言で見下ろしている。 「くそっ……余裕のつもりなのかよ」 「いや、たぶん違う。待ってるんだ。俺たちが、自分の望んだ力を見せるのを」 「なんだよそれ、倒されたがってるのか?」 「そう……とも言えるのか……?」 カミーユは、感情を移すことのないノイ・レジセイアの瞳の奥を初めて見た。 ノイ・レジセイアに会ってから、激情に駆られ続けていたカミーユは、今の今まで見えなかった。 ――ノイ・レジセイアは純粋だ。目的意識を持って、ただ愚直にそれを守ろうとしている。 そのためなら、自分の身など二の次三の次なのだろう。 悪意や打算を滴るほど織り交ぜて近付いてくる人間は、山ほどいる。 だが、そんな人間とはまるでノイ・レジセイアは違う。純然たる、善意から全ての行動が来ている。 だからこそ、余計にカミーユには最悪の気分だった。 顔色一つ変えず人を殺せるのは、己の正義に酔った人間か狂人だという。 それは、正義感で罪悪感を塗りつぶしごまかしているか、純粋に人間としての軸が狂っているかのどちらか。 ノイ・レジセイアは後者なのだ。命の価値など、最初からノイ・レジセイアの中に勘定されていない。 故に罪悪感など最初からなく、正しいと信じることを妄信している。 立ち上がったサイバスターの横に、イェッツト・ヴァイサーガが吹き飛ばされて戻ってきた。 どうやら、カミーユがノイ・レジセイアのことを考えている間に仕掛けて、返り討ちにされたのだろう。 「きっついな……けど、諦めるわけにはいかないんだから、大変だ……」 それでも、なおイェッツト・ヴァイサーガが立ち上がり、剣を構える。 『やはり……闘争を望むか……』 「違うさ。ただ………」 『…………?』 「最後はやっぱり主人公が勝ってハッピーエンドじゃないといけないだろ!?」 まっすぐに。一直線に。愚直に。 ノイ・レジセイアへイェッツト・ヴァイサーガが向かっていく。 しかし、それも四方八方から押し寄せる触手に行く手を塞がれ、追撃に放たれる声に押し返される。 全身から煙を上げ、倒れ伏すイェッツト・ヴァイサーガ。 「主人公だって……?」 「ああ、そうだよ。主人公だ」 膝を抑え、イェッツト・ヴァイサーガは何度でも立ち上がる。 自分に酔っているのかともカミーユは思ったが、統夜から伝わってくる気配は全く違う。 むしろ、不安を必死に抑えようとしているように感じた。 「人の命を、勝手な都合で奪って……なにが主人公だ」 「お前だって人を殺したんだろ。お互い様だよ」 「俺は、自分が物語の主人公なんて思いあがっちゃいない」 そう吐き捨てるカミーユに、統夜は、小さく笑いを返してきた。 「ハハハ、別に、物語の主人公じゃなくていいさ。ただ、俺は……俺を主人公と信じてくれる人の、主人公を演じたいんだ」 カミーユにイェッツト・ヴァイサーガの背を向けたまま、統夜は静かにとつとつと話し始める。 「皆、言うんだよな……俺は、ガウルンと同じだって。人を殺して喜ぶような奴だって。 俺だってそんなの嫌だよ。認めたくなんてない。けど、結局俺のやってきたことってそういうことなんだろうな。 でもさ……そんな俺を、主人公だって。ヒーローだって言ってくれたんだ」 心の奥に秘めたものを、静かに組み上げるような調子で、統夜の声は続く。 「だから、俺は……テニアが望んでる主人公になりたい。別に、誰からも尊敬されるような主人公じゃなくていい。 俺が、俺の望んだ俺でありたいから、俺はテニアが望んでる主人公になりたいんだ」 テニア。カミーユはその名を知っている。 自身が殺されかけたのだ。忘れるはずがない。どろどろとした悪意がうねっていた少女、それがカミーユのテニアの印象だった。 目の前の統夜は、テニアが死してなお騙されているのではないかと思った。 しかし、統夜の声からは、そんな推測を挟むことが無粋に感じるほど真摯なものを感じた。 「だから、俺はテニアにもう一度会う。生き返らせる」 「……死人が生き返るかよ」 「だろうな。そんな当然のことを自力でひっくり返そうとしてるんだから自分でも自分が馬鹿だと思うよ」 「……ごめん、さっきはそんなことも知らないであんなこと言って」 アイビスの、小さな謝罪の声。 それがなにを意味するのかカミーユには分からなかったが、統夜はアイビスの声に頷いて了承していた。 「それより、大切なのは目の前のあれを倒すことだろ」 イェッツト・ヴァイサーガが、斬艦刀を自分の脇に立てる。 サイバスターも、アイビスのブレンパワードも、まだ戦える。 自分は、どうか。一度冷めた思考が、冷静に自分の現状を教えてくれる。 震えっぱなしの腕。霞み始めた視界。身体が冷たくて、冷水の中にいるようだ。 どこまで、戦えるのか全く分からない。 それでも、やらなければいけない。 ノイ・レジセイアを見上げ、カミーユは思考する。 目の前にいるノイ・レジセイアを倒す方法はおそらく一つ。 相手が再生する暇など与えず、一撃で本体を丸ごと抹消する。 幸いと言うべきか、今のノイ・レジセイアは明らかに本気ではない。 うまく最大級の一撃を叩き込むことさえできれば、けして無理ではないはずだ。 だが、カミーユの思考に影を落とす要素があった。 サイバスターの最大攻撃は、コスモノヴァ。炸裂すれば、世界の新生すら推し進める究極兵器だ。 これを、ノイ・レジセイアには一度防がれている。しかも、空間転移という手段で。 下手に撃てば、前回の二の舞。 しかも、 (俺も……きっと……) 痛む心臓をパイロットスーツの上からカミーユは抑えた。 小さなデータウェポンたちが、カミーユを心配そうに見上げている。 次にコスモノヴァのような技を使えば、その時が最期であろうことはなんとなくわかった。 先程のアカシックバスターも、データウェポンたちの支援があってこそ撃てたし、当てることが出来た。 実は、あの一瞬カミーユは操縦すら困難な状況だった。それをデータウェポンたちが支えてくれたのだ。 どこまでも、俺一人じゃ何もできないんだなと自嘲気味にカミーユは笑う。 エマさんに自分の都合で大人と子供を使い分けるなと言われたが、自分がどれだけ子供だったのかいまさらながらに思う。 サイバスターの、何処か猛禽類を思わせる尖った細い指を見る。間違いなく、それはサイバスターのものだ。 けれど、カミーユにはあの時見えたのだ。 何故ジオン兵を殺したと問われた時、それがいつか見た血のついたガンダムMkⅡ三号機の指に。 「殺すことは……なかったんだ。殺すことはなかったんだ」 誰もが、手を取り合うことを望んでいる。 なのに、人を信じないから疑い、疑うから他人を悪いと思いはじめる。人間を間違わせる。 そしてちょっとしたすれ違いや運命に翻弄されて人は、遠く離れてしまう。 そんな離れた手と手の間を埋め合わせるのは、時として武器なのかもしれない。 ニュータイプだってスーパーマンじゃないと言っていたのはジェリドだったか。 それは本当だ。アムロ大尉も、クワトロ大尉も、そのことに悩み、足を止めてしまっていた。 けど、最初から人は拒絶しているのではない。人を否定するために出会うんじゃない。 「そうだろ……フォウ」 サイバスターの内燃機関が、燃え上がる。 パイロットの思念を受け止め、精霊と電子の聖獣は応えてくれる。 サイバスターの白い羽が、再び身体を空に舞い上げる。 「なあ……ノイ・レジセイアの動きを止めることはできるのか?」 「ブレンじゃ……難しいかも」 「……できないことはないさ」 「なら……」 「ちょっと待て。できないことはないってだけだ。 やれば最後、あいつの力を全部奪ったって質はともかく量が足らなくなる。そうなったら、結局意味がない」 言葉面だけ聞けば、拒絶の言葉。 だが、統夜の言葉の微妙なニュアンスをくみ取り、カミーユは聞いた。 「でも、やるつもりなんだろ?」 「ああ。単なる障害物のつもりだったけど、今は違う。あいつは、俺をガウルンと同じだって呼んだんだ。 感情って意味でもあいつを倒せって、俺が、俺自身に言ってる。違うってことを見せてやるさ」 最後に、「もしもの時のあてもあるしな」と付け足すと、統夜は、地面に突きたてた斬艦刀を握る。 イェッツト・ヴァイサーガがなにをするのか分からない。だが、確かにやってくれるという温かみを感じた。 それを信じるしかない。 「ただ、準備に時間がかかるんだ。それまで、時間稼ぎはそっちでやってくれ」 「分かった」 ノイ・レジセイアが全力でこちらを叩きつぶす前に決める。 そのため、一瞬に全てを賭ける。狙いは、空間転移で回避できない超至近距離からの、コスモノヴァの直撃。 正直、分の悪い賭けとしか言いようがない。だが、カミーユはその賭けに全てを賭けることにした。 「勝手に話進めて、悪い」 「気にすることなんてないよ。統夜に攻撃がいかないようにすればいいんだね」 「……頼む」 二機が構える同時に、ノイ・レジセイアが口を開く。 『人間同士の接触によって生まれる可能性……我に見せてみるがいい……!』 それが第二回戦の始まり。 ノイ・レジセイアが再び触手を伸ばす。同時に身体の周りに生えた砲身による援護射撃も。 隙間なく放たれる悪意を、サイバスターはくぐりぬけ、ノイ・レジセイアへ接近を試みる。 目の前に現れる妨害物を、ドラゴンフレアの炎やカロリックミサイル、ディスカッターで散らし、 ノイ・レジセイアの巨大な頭へ果敢に攻撃を仕掛けた。 ダメージを与えるわけではない。ただ、ノイ・レジセイアの意識をこちらに回すための攻撃だ。 カメラで少しだけ後ろを見る。そこでは、アイビスのブレンがイェッツト・ヴァイサーガの前で壁のようなフォトンシールドを作っている。 これなら、多少の流れ弾が向こうに行っても問題ないはずだ。 サイバスターの炉心の温度がさらに上がる。 カミーユの体温が比例して下がる。 攻撃をしかけながらも、いつでもコスモノヴァを撃てる体勢を作らなければいけない。 それは、巨大な爆弾に細心の注意を払いつつ、それを抱えて激しく踊るようなものだ。 下手な衝撃であっさり力は爆発し、直結されたカミーユの身体にも影響を与えるだろう。 震える腕に、カミーユは、爪を立てる。 流れる血と、痛みがどうにか自分をまだこちら側に縛り付けてくれる。 ノイ・レジセイアが腕を直接振り回してきた。 しかし、大きさ故にサイバスターから見ればその動きは鈍重だ。 下から回り込むと、一気にノイ・レジセイアの角をディスカッターで横一文字に叩き切る。 剣の軌跡が走ったかと思うと、塔の崩壊のようにゆっくりと角が横に滑って落ちる。 だが、それを眺めている暇はない。 カミーユは先に何があるのかすら目を向けず、上方にミサイルを放つ。 そこには、空から生まれ落ちようとしていた下位アインストの群れ。 完全に作られる前の段階でミサイルを撃ち込まれため、なにもできず下位アインストは砕け散る。 一斉砲撃が、サイバスターに向けられる。 だが、砲撃が着弾するより早く、サイバスターは一瞬でノイ・レジセイアの顔の側面へ。 それも、ノイ・レジセイアには読まれていた。砲台の隙間から触手があふれ、さらにサイバスターへ追撃してくる。 サイバスターには当たらない。いや、正確には――無数にいるサイバスターの影を貫いたに過ぎない。 『この力……聖獣の……』 ノイ・レジセイアの呟きが、最期まで言い切られることはない。 首を掻っ切るかたちで、巨大な水晶の刃物が生えたのだ。 動きを止めることなく、胸のあたりから声を放つノイ・レジセイア。 しかし、破壊の声は、空中で停止。そのまま、一ミリも動くことはない。 ――パイパーウィップの高速移動、分身。 ――ブルホーンの構成物質の結晶化。 ――ガトリングボアの時間停止。 不死鳥に姿を変えたサイバスターの突撃。 ドラゴンフレアの存在情報すら破壊する光を纏った突撃は、ノイ・レジセイアの腕を粉々に粉砕した。 「ごめんな……頼りっぱなしで……」 カミーユは、データウェポンに声をかける。 サイバスター自身の力は、ぎりぎりいっぱいまで温存しなければならない。 そのため、今のサイバスターはデータウェポンの力を借りてほぼ戦っている。 だが、データウェポンを装着し武器として使う本来の契約機である凰牙と違い、 サイバスターは、巨大なデータウェポンの存在をそのまま力に変換して戦っている。 つまり、データウェポンの存在を、命を削って戦っているのだ。 データウェポンたちは何一つ不満を漏らさない。 「え……仲間を……そうか、お前たちも……」 音はない。それでも、カミーユにはデータウェポンの声が聞こえる。 データウェポンたちも、仲間をノイ・レジセイアに殺されたのだ。 最後の、七体目のデータウェポンを。その仇を、データウェポンたちも取ろうとしているのだ。 「ありがとうな」 気を抜けば、時間稼ぎすらできない。 何度となくサイバスターが分身し、 何度となくサイバスターはノイ・レジセイアを結晶化させて、 何度となくサイバスターは時間を止め、 何度となくサイバスターはノイ・レジセイアの存在を削る。 それでも、ノイ・レジセイアは再生してしまう。 失われた存在の力すら復元してしまう。 データウェポン四機の力を結集しても、ノイ・レジセイアを揺るがすことすらできない。 命を賭けても、それでも意味がない。 「まだなのか……」 必死にカミーユはノイ・レジセイアの攻撃を避け、ノイ・レジセイアに攻撃を当て、データウェポンの命を削り生き延びる。 「まだなのか……!」 結着を付けるための時間を、ただ待ち続ける。 力が身体から抜ける。 力が手の先に集まっている。 力の全てが、斬艦刀に集まっていく。 統夜が貯め込んだ力の全てを、斬艦刀に注ぎ込む。 今は変化を命じていないため、大きさは目に見えて変わっていないが、重さは先ほどとは段違いの重量だ。 イェッツト・ヴァイサーガの力が下がっていることを加味しても、無茶苦茶な質量が剣に圧縮されている。 せっかく、剣から身体に流し込んだ力を、逆に剣に戻して使う。 もったいない、と思う気持ちはないわけじゃない。 けれど、ノイ・レジセイアを倒せるだけの威力を持った攻撃は、イェッツト・ヴァイサーガにはこれしかない。 倒せなければ、全ておじゃんだ。やれることを残して死んでは死んでも死にきれない。 結局、統夜にはカミーユにもったいぶらずとも、この手段しか残ってなかった。 動きを止める、すなわち、一撃で息の根を完全に止める。 統夜の考えはそれだ。 「ねえ……最初、なんで殺し合いに乗ったのさ」 自分の前で角突きの馬と一緒に、バリアを張って自分を守っている少女が聞いてきた。 集中をあまり乱したくないが、ひたすら同じ場所に立って力を込め続ける以上、話そうと黙っていようと対して変わらない。 「別に……最初はただ死にたくなかった。帰りたかった。だから、乗ったんだ」 少女はただ「そっか」と呟くと、またバリアのほうを向いてしまった。 流れ弾が何発もバリアに当たるが、揺らぐことはない。恐ろしく強固な防壁だと感心した。 「あたしとさ……おんなじだね」 「同じ?」 「うん。あたしもさ、最初死にたくない、帰りたいって一心で人を襲ったんだ」 意外な事実に統夜は驚く。目の前の、どんな現実にもへこたれそうにない少女がそうだとはとても思えなかった。 だからか、その続きが少しだけ気になってしまった。 「……それで? それからどうしたんだ?」 「返り討ち、かな。あたしは弱かったから。それで、いまいち踏ん切りつかなくて。 ただ、ぼんやり色んな人と一緒にいるうちに色々分かったんだよ。やっぱり、殺し合うのは間違ってるって」 「そこらへんも俺と同じだな。俺も弱かったよ。何度も負けたし、決心もつかなくて…… ただ、俺はやっぱり殺すしかないって思ったけどな」 いまさらながら自分が情けないと統夜は息を吐く。 何かにつけてすぐに悩んで、ふっ切ったと思えばまた悩み、ガウルンといつの間にか一緒にいて。 今、統夜はここにいる。 「もしかしたら……あたしたち、逆だったかもしれないんだね」 「逆?」 「あたしは、会う人に恵まれたからさ。こうやっていられたけど、もし違う人と会っていれば、 私が殺すしかないって結局決めて、統夜が人殺しはよくないってキラたちと一緒にいたかもしれない」 会う人に恵まれていたとはうらやましい話だと思う。 こっちはよく考えてみろ。戦う相手はこっちの説得なんてろくに考えず、叩きつぶしにくるような連中がほとんどだった。 挙句の果てに、会って一緒にいたのがガウルンだ。そのあとも、ユーゼスやらなんやらかんやら。最低最悪としか言いようがない。 唯一、よい出会いと言えたのは、テニアと再会できたのと、あのグラキエースって娘くらいだ。 『あはは……そんな慌てなくてもいいのにさ。それで? それで統夜は今までどうしてたの? 統夜のことだから、またどこかで女の子でも助けてたりしたんじゃない?』 ふと、思い出すテニアの声。 あの時、テニアは、アイビスが今言ったような、逆の道を進んだ統夜の姿を想像していたのだろうか。 自分の横に、大勢の仲間がいる。一緒に、ノイ・レジセイアに立ち向かう仲間がいる。 そして、その中には、テニアがいる。それだけじゃない、カティアやメルアもいる。 皆で、笑い、同じものを目指す。そんなヒーローの中の一人に自分がいる。 アルフィミィとかいう少女が見せた妙な夢のような、自分。 そんな、自分。 だが、そんなifは意味がない。統夜の周りには、誰もいない。 統夜は、皆のヒーローではなく、たった一人の少女のためのヒーローとなることを選んだのだから。 そのことに、後悔なんかしちゃいない。けど。 もしも、そんな道を進んで、テニアの望む形で出会えたなら、もっと良い可能性があったのだろうか。 「結局、ここまで来てこんなこと考えるんだから……筋金入りだな、俺」 悩んで、悩んで、悩んで、なお悩む。それが、統夜にとってのバトルロワイアルだった。 自分は、強くなった。色々と常識外れの力を得た。 後悔するつもりはないが、これが正しい進化なのかは分からない。 流れ弾の数が増え始める。 当然、バリアが被弾する数も増える。 空に目をやれば、サイバスターの動きが悪くなり始めていた。 もう、向こうも限界が近いのだろう。 だが、こちらの準備も完了している。 統夜は、斬艦刀の柄の部分を最大まで伸ばし、肉の地面にしっかりと突き立てた。 「アイビス、どけ! 準備が出来た!」 「わかった!」 その声に、弾かれるようにブレンが後ろに飛び退る。 それと同時に、斬艦刀に統夜が望んだとおりの変化が現れる。 『まさか……我の力を………ぉ―――――!!??』 「そうだ! あんたの力を、そのままあんたにぶち当てる!」 地面に立てられた柄が、植物の根のごとく、ノイ・レジセイアの力を吸い上げる。 ノイ・レジセイアの本体も、すべてのこの肉の地面や壁と繋がっている。 だからこそ、ひとたび突きたてればそこからノイ・レジセイアの力を奪うこともできる――! 斬艦刀の切っ先を、ノイ・レジセイアへまっすぐに向ける。 奪った力は、そのまま斬艦刀に貯められる。 もっとも、純粋にただの力の塊では液体金属と言うれっきとした物質である斬艦刀を伸ばすことは不可能。 しかし、事前に統夜の、イェッツト・ヴァイサーガの力を斬艦刀内部に移動させ物質に変換してある。 斬艦刀の封印が解かれた。 内部に圧縮してあった超重量の圧縮金属が、ノイ・レジセイアから奪った力で膨張する。 しかし、 「ぐ、あああああああああああああああ!!!?」 斬艦刀が剣の形すら維持できない。 あまりも膨大すぎる力が、統夜の精製した物質に収まらないのだ。 風船に、過剰な空気を送り込むに等しい。その先に待つのは、破裂のみ。 ―――愚かな……我の力を人として完全に超越することなく受け止めるのは……不可能…… 統夜の脳に直接響くノイ・レジセイアの声。 力とともに、意思が流れ込んでいる。接続された統夜とノイ・レジセイア。 しかし、意思が、存在が強固なのはどちらか言うまでもない。統夜は力こそ常人離れしているが、所詮基準点は人間。 生まれたての進化したアインストである統夜と、何億何兆何京年と悠久の時を生き続けたノイ・レジセイアの差は、埋められるものではなかった。 「大丈夫!? あたしのこと分かる!?」 かすれた意識に、アイビスの声が入り込む。だが、その声にこたえる余裕が統夜にはない。 どんどん、自分が削られていく。自分の存在が暗くなる。自分の存在がなくなる。 イェッツト・ヴァイサーガの足元の肉が蠢き、イェッツト・ヴァイサーガの全身を飲み込んだ。 このまま、丸ごと自分を取り込むつもりなのはすぐ分かった。 ちくしょう、こんなところで終わるのか。よりにもよって、こんな奴に食われて。 今までだってだましだましやってきたのに。こんな終わりなのか。 冗談じゃない。まだ、俺はテニアを生き返らせてないんだ。 その後なら、百歩譲ってやって死んでもいいさ。 けど、まだ死ねないんだ。 機体と肉の境界が薄くなる。 俺の中に、いやなものが流れ込んでくる。 ひどく冷たい。 こんな苦しいところが終点か。 自業自得かもしれない。 でも、こんな終わりはないだろう。 神様なんているのか知らない。 けど、いるなら頼む。 あと一発。 この一発さえ成功すれば。 きっとあいつを倒せるんだ。 それでほとんどのことはすむんだ。 あと一回だけを剣を振らしてほしい。 ああけど。 俺が殺してきた連中もやっぱり。 同じように祈ったんだろうなあ。 でもどうしようもなくて。 死ぬしかなかったんだよな。 いや、ガウルンだけは別か。 あいつはむかつくくらい満足して死んだ。 なんで思い出すのがガウルンなんだ。 もっと思い出したい顔があるのに。 もうそれも出てこない。 俺が、俺でいられなくなる。 誰かの声が聞こえる。 うるさいな。 でもこうやって考える俺も消えるのか。 嫌だなあ。本当に嫌だ。 もう、指も動かせない。 目が見えなくなってきた。 これが、最後の光景か。 せめて、それを目に焼き付けよう。 俺が最期に見るのは赤髪の少女。 細部は霞んでわからない。 彼女は誰だっけ。 大好きだった少女。 俺が俺である理由をくれた人。 生き返らせなくちゃ。 だから動かなくちゃ。 俺は。 俺が。 「――統夜! 起きて! お願いだから起きて!」 赤髪の少女の声が聞こえる。 この声に、応えるんだ。 動け。 動け。 動け。 動け。 「動けえええええええええええええええええええええええええええええええッッッッッ!!!!」 ■ ――イェッツト・ヴァイサーガが、動いた。 イェッツト・ヴァイサーガが手に握ったものを振り上げる。 物質と言う形を維持できず、霧散した金属片がエネルギーを伝達する。 紫電を纏い、どこまでも伸びる虹色の荒々しいエネルギーの塊が、まっすぐ伸びてノイ・レジセイアに突き刺さった。 その一撃は、ひたすら伸び続け、星を貫通してもなお止まらない。 伸びるに従って、刀身も厚みも増していく。 巨大な杭を叩き込まれたノイ・レジセイアの身体に、蜘蛛の巣状にヒビが入っていく。 ヒビから光が漏れる。 それは、知る人がいればこう呼んだだろう。 斬艦刀・星薙ぎの太刀と。 統夜の放った一撃は、星を薙ぐことはなかったが、確かに星を貫いた。 ■ モニターの向こうの赤髪の少女に、統夜は拳を突き出す。 「やったよ、テニア……」 イェッツト・ヴァイサーガが、肉の中に埋もれて消えた。 それが、統夜が見た最後の光景だった。 統夜は知らずに済んだ。 最期に自分が最愛の人と信じた少女が、別人だったことに。 【紫雲統夜 吸収】 『これが……可能性……!』 ノイ・レジセイアの身体をアインストとなった人間の力が縛り付ける。 自分の力を削がれ、撃ちこまれたとはいえまだノイ・レジセイアの死は遠い。 最後にあの人間から感じられたのは、間違いなく他者との交わりを求める感情だった。 やはり、ノイ・レジセイアの予測は正しい。人間が他者と交わる時に生まれる可能性、その力。 それは、時に我すら揺るがす。しかし、その力ももはや今は自分へ取り込まれた。 さらなる進化の躍動を感じ、ノイ・レジセイアは高揚する。 だが、そんな至高の瞬間に水を差す存在が一つ。 「ノイ・レジセイア!!!」 電子の聖獣の力を借り、我と戦おうとする愚かなる人間。 聖獣たちの力は、どうしようと我を超えることはない。なぜなら、成長の可能性、完全へ至る要素を持っていないのだから。 だというのに、そんな力を使って戦おうとする愚者。もはや、このサンプルを生かす理由もない。 「こんなことをやるから、みんな死んでしまうんだよ! お前がいなければ、こんなことにはならなかったんだ!」 ノイ・レジセイアは体内からエレガントアルムを無数に精製。体外に放つ。 音の壁すら超える触手の群れ。しかし、これで倒せるとはノイ・レジセイアも思っていない。 だからこそ、ノイ・レジセイアは別の攻撃も加えることにした。 先程まとめて吹き飛ばしたオメガ・ショックウェーブとも、一斉砲撃のミッドライトともまた別の力。 放つ力の名はエルプスユンデ。全力で放てば、銀河すら粉砕する力。 もっとも、それだけ過剰な破壊力は必要ない。ノイ・レジセイアの全身から光弾が、数m置きに正確に設置される。 その隙間を抜けることは、風の魔装機神でもできない。 そして、その一つ一つが風の魔装機神を百度砕いて余りある力を封入している。 それでも、人間は感情のまま突撃してくる。 エルプスユンデの力を過小評価している。一二度当たってでも、いや何度当たってでも突破する心づもりと予想。 それがいかに無駄な行いか知るノイ・レジセイアは、それ以上なにをすることもなくただ傍観。 一瞬後には、風の魔装機神は砕け散る。 はずだった。 エルプスユンデに風の魔装機神が被弾。起こる爆発。すなわち、粉砕。そのはずだった。 しかし、風の魔装機神はエルプスユンデで起こった極光の爆発を超えて、なおこちらに向かってくる。 『何故……?』 ノイ・レジセイアは何が起こったのか見極めようとする。 思念をノイ・レジセイアが向ければ、エルプスユンデの群れが風の魔装機神に殺到。 やはり、爆発。ノイ・レジセイアはそれで倒せたと判断せず、光の向こうに意識を集中する。 『理解した……』 ノイ・レジセイアは、光の向こうで起こったことを知る。 風の魔装機神から、電子の聖獣の気配が一つ消えた。風の魔装機神が宿している聖獣の気配の数を探れば、残りは二つ。 先程の爆発で一つ消費し、今の爆発で二つ目を消費した。 ノイ・レジセイアのエルプスユンデは相手の存在すら抹消する力。いくら情報存在と言えど、死は免れない。 風の魔装機神は、聖獣を防壁として利用し、エルプスユンデを防いでいる。 ならば、対処は簡単。まだ風の魔装機神がノイ・レジセイアへ到達するには距離がある。 エルプスユンデを操作。風の魔装機神が被弾。光の中で、蛇の形をした聖獣が塵に還る。あと一つ。 エルプスユンデをよけようともせず、最短距離を飛び続ける風の魔装機神。 さらに、エルプスユンデを操作。風の魔装機神が被弾。光の中で、牛の形をした聖獣がさらに塵に還る。これで守りはない。 最後に、数個のエルプスユンデを、風の魔装機神の真路上に設置。 これで終わり。 「人のつながりが力になるって言ったな………!」 しかし、それでもノイ・レジセイアの力が風の魔装機神を砕くことはなかった。 今度こそ、理解できない出来事に、ノイ・レジセイアは戸惑った。 今や風の魔装機神を守る力はないはず。それなのに、何故。 「それは、誰かだけが持ってるものじゃない、誰でも持ってる力なんだよ! それがあるから人も生きていける! 命っていうのはそういうものなんだ!」 まさか、何かの防御手段を隠していたのかと思い、先程と同じように見極めるためエルプスユンデを操作。 「生きること自体が、人を繋ぐなら! 繋がりあえる人の心が奇跡なら誰も踏みにじっちゃいけないんだ!」 弾かれるエルプスユンデ。 進化した人間特有の精神感応能力の応用だと推測するが、風の魔装機神にはそういった能力に対応し防壁を張る力はない。 だとすれば、原因は何か。ノイ・レジセイアは、風の魔装機神の力をあらゆる方向から検討する。 「黒歴史がなんだろうと、俺は……俺は―――!!」 サイバスターの身体から、透き通るような空色の波動がにじみ出ている。 波紋のように広がる空色の力。光の粒子。それは、風の魔装機神の持つ力の一つ、サイフラッシュ。 あり得ない。サイフラッシュは、周囲に力を撹拌させ、敵意のみを破壊する力。 一瞬でも消耗が莫大なそれをこのような防壁として、長時間維持することなどできはしない。 「ここから……」 ひとまず、攻撃を防ぐことにノイ・レジセイアは専心する。 力場そのものであるエルプスユンデで阻止できないというのなら、物理的に質量をもつエレガントアルムで作った盾で防ぐ。 詳細が何であれ、サイフラッシュやそれに類するものならば、大量の質量を破壊することは不可能だ。 ナノマシンのせいで再生を阻害されていたが、除去も完了しつつある。もうすぐ、あの刀による攻撃の傷も再生できるようになる。 どんな種類の力であれ、長時間は維持できない。一度防ぎ、体勢を立て直せば終わる。 「ここから―――」 それでも、なおノイ・レジセイアの予測は裏切られる。 一息で、厚さ何百mとあるエレガントアルムの防壁を食い破られた。 ノイ・レジセイアは即座に歪曲フィールドを自身の前に張る。空間をねじり固めたこの防壁は、あらゆる攻撃を半減する最硬の盾。 風の魔装機神の動きが、そこで止まる。 「ここからぁぁっ!!」 やっとノイ・レジセイアは知った。 風の魔装機神の周りにいる存在を。全ての存在は、新しい世界に統合されたと思っていた。 しかし、違っていたのだ。この世界で死したものたちは、いまだこの古い世界に残留していたのだ。 ノイ・レジセイアは初めて人間一つの一つの個体の名前を思い出そうとする。 風の魔装機神の側にいる存在の名は―― シャギア=フロスト。 キラ=ヤマト。 「ガンダム」の歴史を紡いできた者たち。 ノイ・レジセイアはエルプスユンデを一点に集めることで、空間の門を開き、サイバスターを外世界に放逐しようとした。 空中で一つになり、黒い空間転移の力場に変化するエルプスユンデ。 だが、ノイ・レジセイアの行動が終了するよりも早く、サイバスターは世界の新生に匹敵するその力を解放しようとしている。 これもまた――人の繋がりが生む力か。 精霊光の輝きがサイバスターの周りを飛ぶ。 サイバスターが眩い光に包まれていく。 ノイ・レジセイアがこれを見るのは、三度目。 一度目は、あの依り代の中で。二度目は、宇宙の新生の時に。そしてこれが三度目。 地獄のような肉にあふれた赤い大空洞が澄んだ青に染まる。 青と緑の中間に近い色合いのそれが、輝きを増す。 その光はやがて黄金を越え、色を超越し、ただひたすらに、どこまでも眩く輝き始める。 やがて輝きは四つの光の玉に収束される。 サイバスターの組んだ腕が、集積した力の大きさに震えた。 世界の理を塗り替える、局地的な宇宙の新生――コスモノヴァ。 だが、ただのコスモノヴァではない。 サイバスターが変形し、サイバードへ変わる。 自分の作り出した力をその身に纏う。 「ここからいなくなれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 ノイ・レジセイアを、サイバードごとコスモノヴァが包み込んだ。 ■ サイバードから変形し、サイバスターが落下する。 あたしは、慌ててそれをブレンにキャッチさせた。 そのまま、ふらふら地面にブレンは着地する。 カミーユから、声はない。焦点定まっていない瞳を何処かに向けたまま震えている。 けど、生きてる。あたしは、ノイ・レジセイアがあった場所を見た。 そこには、ノイ・レジセイアの本体は少しもなく、えぐり取られている。 間違いなく終わったんだ。 今度は統夜が消えてしまった肉の地面を見る。 あたしは悲しくなった。 統夜は、最後にあたしのことをテニアと呼んだ。 コクピットにも、ノイ・レジセイアの気持ちの悪い肉が入ってて、統夜の身体に張り付いていたのに、 それでも笑って自分へ拳を突き出してそうつぶやいたのだ。 そして、統夜は、肉に包まれて見えなくなった。 なんでこんなことになったんだろう。 自分と真逆の道を進んだ統夜だけじゃない。 結局、あれだけいた人たちも、残ったのは私とカミーユだけ。 殺し合いを心から望んでた人なんて、ほとんどいなかったのに。 「なんで殺し合わなきゃいけなかったんだろう……」 ただ、悲しいばかりだった。 ショシュアも、シャアも、アムロも、クルツも、キラも、ロジャーも、コウジも…… 殺し合いが始まってから、出会った人を一人ずつ思い出す。 けれど、みんなもういない。 「う……あ……」 「カミーユ!?」 サイバスターから、うめき声が漏れた。 通信を繋げるが、カミーユは意味のある言葉を漏らそうとはしない。 ただただ、かすれたうめき声を上げるだけだ。 カミーユの手が、操縦桿を引く。サイバスターが、ミサイルラックの影から何を掴みブレンに差し出した。 差し出された手の中にあるのは、Jジュエル。最初の時に、自分がサイバスターに渡したものだ。 「これで……どうすればいいの?」 カミーユのやることが無意味とは思えない。 これを使って何をしろとカミーユは言っているのだろうか。 アイビスはそう考えながらも、ひとまずブレンから降りて、カミーユをコクピットから出し看病しようとした。 けれど、アイビスがブレンを降りるより早く、サイバスターにブレンが突き飛ばされた。 かなりの力が込められたひと押しは、体格差もあって ブレンを大きく後ろに転ばせた。 「いったい、なんのつもり―――」 そこまで言って、アイビスは言葉を失った。 地面から巨大な柱が浮き上がり、サイバスターのコクピットを突き刺さして左右に広げる。 左右に肉の地面が開く。真っ二つに割れたサイバスターを、肉の地面が飲み込んだ。 カミーユがどうなったのか、一瞬考えられなかった。 「え、あ……!?」 ブレンがアイビスの意思をくみ、サイバスターがいたはずの場所に飛ぶ。 しかし、そこにソードエクステンションを放つが、えぐれた地面の中にはいない。 『ここまで……我を追い詰めるとは予想できなかった……故に……取り込む価値も……ある』 ノイ・レジセイアの本体があった場所から、声が聞こえる。 アイビスが振り仰げば、そこにはあの骨の騎士姿のノイ・レジセイアが肉の隙間からのぞいていた。 その胸には蒼い宝玉が輝いている。 【カミーユ・ビダン 吸収】 →ネクスト・バトルロワイアル(8)
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ギム=ギンガナム 氏名 ギム=ギンガナム 性別 男 出典 ∀ガンダム 人称 一人称:小生 二人称:貴殿、貴様、お前、おぬし 三人称:奴 特殊技能 2500年もの時を渡り演習を重ねてきたため戦術には長ける……筈だが、作中の描写では実戦経験の不足故にヘマの方が多かった気がする。あと、常に帯刀してる割には剣を使った戦いでもロランを圧倒した訳でもなく。『かっこつけるだけで戦いの下手なギム=ギンガナム』とは、メリーベルもよく言ったものである。発掘以来研究していたとはいえ、ターンXを初搭乗で乗りこなしたあたり機体適応能力は高いように思える。 性格 あらゆる時も闘争を求める武人で、物言いは基本的に尊大。 備考 月面都市ゲンガナムを守る軌道艦隊総司令を勤めるムーンレィス(月の民)。武力を司る名門ギンガナム家の名の下、月のマウンテンサイクルで発掘されたターンXを駆り、自身の艦隊を率いて地球・ムーンレィス連合軍へと戦いを挑んだ。原作では後半からの出番ではあったが、富野節と子安ボイスの絶妙な組み合わせが幾多の名言(迷言)を生み出し、結果数多くの視聴者から『御大将』と呼ばれ愛されるキャラクターとなった。
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全体マップ MAPの一ブロックは50km四方です。 MAPの東西南北の端は光の壁で覆われていますが、通過すると反対側の端に通じています。 マップ画像 現在地一覧(181話)
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――こんなんで死ぬもんかっ! 私は! ■■と幸せになるんだぁぁああああああっっっ!!―― 虫のいい話だったのはわかってる。 俺もテニアも、ここでたくさんの人を傷付けてきた。 Jアークの奴らが俺やテニアを人殺しだって憎むのは当然だよな。それだけの事をしてきた。 俺があいつらの立場でもそうする。 ――良かった……会えて、本当に良かった……!―― でも、俺とテニアは出会ってしまった。 ここで、カティアもメルアもいない殺し合いの世界で、俺達だけが。 ――アタシ信じてたからさ。■■が助けに来てくれるって―― テニアは俺を信じるって言ってくれたよな。 俺も、テニアを信じようって……お前が何をしてきたか知っても、それでもお前を守ろうと思ったんだ。 ――……■■、何だか印象、変わったんじゃない?―― 既に一人、殺してるからな。そりゃ色んなものが変わったと思う。 きっと俺はあの女の人を忘れる事は出来ないだろう。この先何十年生きれるとしても、絶対に。 でも後悔はなかった。あの時ああしなきゃ俺は死んでたかもしれない。 そしたらテニア、お前に再会する事も出来なかったはずだから。 ――またこうして■■と話せるなんて夢なんじゃないかっておもっちゃうくらい―― ああ、俺もそう思った。 一人で生きていく決意なんて脆いもんだよな。お前が隣にいる、それだけですごく幸せだったんだ。 ――ねぇ、■■……アタシもさ、■■と一緒に生きたい。生き延びたい。もっと二人で色んなことしたい―― 俺もだよ、テニア。 俺もずっと、お前と一緒に生きていきたい……それだけでいいんだ。他には何も望まない。 ――ねぇ■■、もっと強く抱きしめてよ。何もかも忘れちゃうくらいに、強く……―― ああ……わかってる。 もう離さない……俺は絶対に、お前を一人にはしないよ。 ――……、■■……ッ―― え? 何て言ったんだよ、聞こえないぞ。 テニア。おい、テニア? 「……」 え? 「……や」 何だって……聞こえないよ。 「……うや」 もうちょっと、大きな声で言ってくれ。 「統夜」 統夜……ああ、そうか。 俺の名前だ。誰かが俺を呼んでるのか。 「夢は、見れたか?」 「……ああ」 なんだ、俺を呼んでたのはこいつかよ。最悪の気分だ。 俺はゆっくりと身を起こした。 頭がガンガンする。脳が痛いってこういう事なのか? いや……血も出てるじゃないか。 「呑気なもんだな、お前はよ。せっかく火が点いたかと思えばコテンと寝ちまいやがって。ダンスの相手を待たせるなんざ、男の風上にも置けねえぜ」 「そりゃ、悪かったな。別に俺を待たなくても、あんたのお相手は他にいくらでもいたんじゃないのか?」 「俺はお前を指名したんだぜ? 今さら他の奴に鞍替えするほど俺は尻軽じゃねえよ」 ああそうかよ、と込み上げてきた血を唾と一緒に吐き出した。 ヴァイサーガの身を起こす。ダイゼンガーは悠然と腕を廃ビルに座り込んで待っていた。 「どうだ? 少しは頭が冷えたか?」 「お陰様でね。頭に昇ってた血が程よく抜けて、スッキリした。でも、起きてすぐあんたの声を聞いて、気分悪くなったかも」 「そりゃ済まねえな。あいにく俺はテニアの嬢ちゃんじゃねえんだ、我慢しな」 テニア――そうか、テニアの夢を見たんだ。 そのおかげかもしれない。 先程まで見えていなかった周りの地形や俺とガウルンの機体の状態、すごくよくわかる。 さっきまで頭の中いっぱいに広がっていた怒りも、今は鳴りを潜めている。 でも消えてなくなった訳じゃない。 多分だけど、火は赤い部分よりも青い部分の方が実は温度が高いように、俺の一番奥の部分で今も燻っているのだろう。 高温の炭のように、パチパチと。触れたもの全てを焼き尽くす、灼熱のマグマになって。 「俺はどれくらい寝てたんだ?」 「そうだな……30分ってなところだ」 「そんなに? やっぱり、疲れてたんだな」 呑気に言ってはみたものの、俺の身体中あらゆるところが悲鳴を上げてる。 ヴァイサーガもほぼ全身にダメージを受けて機能停止寸前だ。くそっ、少しは手加減しろよ。 それに、何か向こうで大変な事が起こったらしい。空に大穴が空いている。 宇宙。そう、紅い宇宙が見える。あれはもしかしてこの世界の外側なんだろうか。 星のない宇宙なんて初めて見たな。オーロラ、のような光が代わりに波打ってる。 きれいだな――ヴァイサーガの足を半歩だけ弾いた。自然、ヴァイサーガの身体も半歩分だけ後ろに引っ張られる。 轟、とダイゼンガーの剣がヴァイサーガの頭があった位置を通り過ぎて行った。 一瞬遅ければ首から上は無くなっていたかもしれない。 「お? よく避けたな」 「ガウルン、あんたどこか悪いのか? 踏み込みが足りないぞ」 落ち着いてよく見ればすぐにわかる事だった。 ダイレクト・モーション・リンク――とか言ったっけ。ダイゼンガーの操縦システムは操縦者の動きをトレースする物らしい。 生身でも一流の傭兵であるガウルンにはまさにぴったりのシステムだ。 でもそれは、逆に言えば操縦者の不調をも完璧に表現してしまうシステムでもある。 足を踏み込んだり、剣を振り回したり。 ダイゼンガーが大きな動きをする時、必ずそこに一瞬の停滞が生まれている。 さっきまでの俺は攻めることしか考えてなかったからわからなかった。 ガウルンは、自分から動かずに俺のカウンターを取る事しかしてこなかったって事に。 「何だぁ、やっと気付いたのかよ。言ったろうが、俺は棺桶に片足突っ込んでるようなもんだってよ。 なのにお前と来たらアホみたいに突っ込んで来るばかりでちっとも隙を突こうとしねえ。舐められてるのかと思ったぜ」 「病人は労わるものだろ」 「抜かせ。で……統夜よ、わかってるだろ?」 「ああ」 そう、わかってる。 俺もガウルンももう限界だ。 ダイゼンガーがあの態勢だったってのはつまり、ガウルンも同じく座り込んでたって事だ。 もう立ってるのも辛いんだろう。現にその剣を握る腕は小刻みに震えている。 俺は身体は大丈夫でもヴァイサーガがいつ止まるか分からない。 ガウルンは機体は大丈夫だが、本人がアウト。 そう――どうなるにせよ、次が最後だ。 「あーあ、お前が眠ったりしなきゃもっと楽しめたのによ。」 「悪かったよ。お詫びに――最後くらい、弟子の成長を師匠に教えてやるさ」 「ハハッ、言うじゃねえか。よし、やるか」 ダイゼンガーが調子を確かめるように二、三度剣を振るう。 俺もヴァイサーガを後方へと下がらせ、助走の距離を取った。 対峙するのはもう何度目かもわからない。 戦場の師、背中を預けた戦友、愛する女の仇。いくつもの顔を持つ男。 俺の前に現れた、高くて遠い壁。 越えて行かなきゃ――叩き壊さなければ進めない。 朱に染まる世界の中で騎士と武者が剣を構えて向き合っているこの光景は、中々様になってるんじゃないだろうか。 俺の頭の中から全ての音が消えていく。 体中の痛みも、ガウルンへの憎しみも、テニアへの想いも、今この瞬間だけはゼロになる。 視界は狭まり、ダイゼンガーだけを捉えそれ以外は意識的に消していく。 ダイゼンガーが剣を大上段に構える。身長差、リーチ差から考えてもそれが最善の一撃だろうと思う。 俺は、あえてその誘いに乗る。 だらんと腕を下ろした自然体。構えも何もない。 「統夜。言っとくが、今のままじゃ俺には勝てねえぞ? 速く当てるだけじゃダイゼンガーの装甲は貫けねえ」 「わかってるよ。俺が今から見せるのは、ただの光刃閃じゃない。 あんたから教わった事、戦いの中で俺が見出したもの、そして俺自身――全部、あんたにぶつけてやる」 「……そうかい。なら俺も手加減なしだ」 「そう言えば、一つ聞きたい事があったんだ」 「あん? いいぜ、大サービスだ。何でも答えてやるよ」 「ガウルン、ってどういう意味なんだ?」 「ん……そんな事か。ただの偽名だよ。漢字で書くと九つの龍だ」 「九つの龍……怖い名前だ。あんたにはぴったりだな」 「そりゃどうも。さて――もう、いいか?」 「ああ。終わりにしよう……ガウルン」 その言葉を境に俺とガウルンの間の空気が張り詰める。 ここから先に必要な物は言葉ではなく、剣だ。 ガウルンの言ったとおり、正面からでは光刃閃といえどもダイゼンガーを両断する事は出来ないだろう。 装甲の強度もあるが、あのガウルンが身体に欠陥を抱えているからと言ってみすみす直撃を許すはずもない。 勘だが、ガウルンは剣で勝負してくるだろう。 正々堂々なんて言うやつじゃないが、武装に頼って勝つなんてやり方じゃ面白くない。あいつはそう思ってる、と俺は思う。 自分から攻め込めないガウルンの打つ手は、飛び込んできた俺が刃を振り切る前に斬る――あるいは同時でもいいか。 先がないガウルンにとって引き分けも勝利の内だ。でも、俺はそうはいかない。 ガウルンを倒し、かつ生き残らなければいけない。そのために必要なのは。 今までの戦いを思い起こす。 ギンガナムに追われた時。誰に狙われるかわからないこの場で大はしゃぎで名乗りを上げ、凄まじい存在感を見せつけられた。 湖でアキトって奴と戦った時。俺は機体を過信して突っ込み、手痛い反撃を喰らった。 市街地で白いガロードと戦った時。向こうはヴァイサーガの半分くらいのサイズでしかも素手だったのに、手数で圧倒されたっけ。 そして白いドリル付きと、さっきまで戦ってた鳥型に変形する機体。 両方ともすごい速さだった。しかもあのスピードを完全に制御していて、振り回されてもいない。 その戦いの全てが、今の俺に必要な動き。 ダイゼンガーに力で劣るヴァイサーガの唯一の武器、スピードを最大限に活かす動き。 理想の動き。その辿る道筋が、今の俺にははっきりと見える。 頭の中に浮かんだモーションを、ダイレクト・フィードバック・システムが忠実に拾い上げ実行へと移す。 最初にして最後の一歩を、踏み出した。 「ヴァイサーガ、フルドライブ……ッ!」 「来な、統夜! テニアの仇を取って見せろ!」 烈風の如く叩き付けられるガウルンの闘気。 対抗するんじゃない――受け流す、風に揺れる木の葉のように。気配の出所を読まれないために。 そのまま無造作にダイゼンガーへと歩みを進める。 一歩。 二歩。 三歩。 四歩――そして十歩目。もうここはダイゼンガーの間合い。 俺が何かを企んでるとガウルンはわかっていただろう。それでも、師は真っ向から剣を振り下ろしてきた――俺に付き合ってくれた。 今にも俺を容易く肉の塊に変える鉄塊が降って来るとわかっていても、怖くはない。 散々ガウルンに教えられたから。恐怖を飼い慣らし、制御する事は。 白銀の輝きがヴァイサーガを頭から断ち割る。 ヴァイサーガの……瞬間的に後方へステップを踏み、そして同じく一瞬で元の位置に戻ったヴァイサーガの残像を。 剣を振り切ったダイゼンガー。隙だらけだ。 ダイゼンガーとヴァイサーガが顔を突き合わせた。 ガウルンは――多分だけど、笑ってるだろう。 剣が振り上げられる前に。 ヴァイサーガが再び一歩下がり、瞬時にその一歩をもう一度踏み込む。 一瞬の加速。ゼロからトップスピードへ。 イメージするのは白いドリル付きと変形する機体。あのスピードを超える――! その瞬間、世界が止まった気がした。 腕を上げようとするダイゼンガーのその動きが止まって見える。 風の音が止み、周りの全てを知覚するような感覚。 永遠に感じられるような一瞬の中で俺は走った。 ――――――――斬。 ダイゼンガーが剣を振り下ろしてから時間にして二秒くらい。 俺は…… 「……ク、ククッ。よくやっ……たな、統夜。それで……いい、んだ」 振り向く。 そこにいるダイゼンガーは先程と何ら変わりなく健在。 「今のが……お前の、奥の手……か?」 「ああ。合格かい?」 「文句ねえな……ばっちり、だ」 「それは……良かった」 ダイゼンガーの右腕が落ちた。 同時に左腕、頭部。 左足が崩れ、右足も同様に。 ダイゼンガーの巨体が地に倒れ伏す。 「何回……、斬った?」 「九回だよ」 「ハハッ……狙ったのか? 『ガウルン』……九つの、龍だからっ……てよ」 「偶然だよ。あれが俺の精一杯だ」 「そう、かい。九体の分身が……瞬間、同時に斬り付ける。見事なもんだ……一歩も動け……なかったぜ。 名前を……っは、付けるとしちゃあ……さしずめ九頭龍――九頭龍光刃閃、って、ところ……か」 「九頭龍光刃閃……いい名前だ。覚えておくよ、ガウルン」 「悪くねえ……死に様だ。ああ、最期に……いい、もんが……見れた」 満足がいったというような、ガウルンの声。 バラバラになったダイゼンガーのパーツが、今頃になって爆発しだした。 腕、足、頭部、そしてついにコクピットのある胴体が―― 「楽し……かった……ぜ。じゃあな……と……や」 砕け散った。 俺を鍛え、踏み付け、弄び、大事な人を奪い嘲笑った男の命が消え去ったのだ。 でも――見届けた俺の胸には感慨も何もない。 おかしいな。テニアの仇を討ったのに。 俺はそれだけ、それだけあの男を心のどこかで認めていたのだろうか? わからない。もう、答えを教えてくれる奴はいない。 テニアも、ガウルンも、もういない――。 「でも、やらなきゃいけない事だけは……わかる」 ガウルンの残したダイゼンガーの剣を拾う。 一人になった今、俺にできる事は。 決まっている。 戦うんだ。 テニアを生き返らせるために。 生き残ってる奴、みんな殺すんだ。 ガウルンの言ったとおり、何も考えずこの心がそうと感じるままに剣を振るう。 誰が相手だって構わない。赦されないってわかってる、でもそれがどうしたって言うんだ。 テニアが生き返る――その結果さえあればいい。 だから、だから俺は―― 「待ってろ、テニア。すぐに会える……すぐに、起こしてやるからな」 暗い決意だけを胸に、空の大穴、その真下へと駆けだそうとして――唐突に起こった地震に足を取られ転倒するヴァイサーガ。 同時に空を染め上げる白銀の閃光。それを直視する事無く、、俺の意識は闇に落ちていった。 →The 5th Vanguard
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人とコンピューター ◆IcNDxBraWs 「おい、コンピューター!この機体についての説明は今ので終わりだな?」 「ああ、そうだ。そして私の名前はコンピューターではない。トモロ0117だ。」 「は!そんなことはどうでもいいんだよ。」 B-3の上空を飛行する機体、いや戦艦と呼ぶべきか。 白き箱舟Jアークの艦内で金髪の青年、ジョナサン=グレーンは喋っていた。 彼と会話しているのはJアークの制御コンピューター・トモロ0117。 「ク、クフハハ!どうやら俺は当たりを引いたようだな!バロンズゥをも上回る力!!フハハハハハ!!」 ジョナサンはトモロからこの機体の武装、出力そしてキングジェイダーへの変形の説明を聞き、その内容に歓喜した。 「おい、コンピューター!そのキングジェイダーとやらにはどうやってなるんだ?え?」 今だこの機体を引いた幸運に酔いながらジョナサンは尋ねる。 だが・・・ 「だから、トモロ0117だといっている。それと・・・お前がキングジェイダーへの変形を行うことは出来ない。」 「・・・あ?なんでだよ?」 トモロの言葉を聞きジョナサンはその理由を尋ねる 「お前のような心の持ち主ではキングジェイダーへの変形など出来ない。それが理由だ。」 「はぁ!?何ふざけたこと言ってやがる!!俺の何が悪いんだよ!!」 さっきまでの幸福感など吹き飛び、ジョナサンは激昂した。 「この殺し合いで!これだけの力!俺に使えないはずなどないっ!!さぁ教えろ!コンピューター!!」 叫ぶジョナサンにトモロはあきれたように言う。 「言うだけは言おう。今お前の立っている所でフュージョンと言ってみろ。」 「ハハっ!初めから言ってればいいんだよ!!」 変形の方法を聞き出し機嫌がよくなったジョナサンは早速試してみる。 「フュージョンッ!!」 しかしジョナサンの声が空しく響いた以外に変化はない。 「フュージョンッッ!!!!」 もう一度言ってみる しかし相変わらず艦内にはJアークの稼動音しか聞こえない。 「・・・キサマァッ!!この俺になんて事をさせやがる!!何も起きないじゃねぇか!!!」 再び激昂しトモロに向かって叫ぶ。 「お前には出来ないといっただろう。勇気を持つものならジェイダーへとフュージョン出きるはずだ。」 「勇気だと!?この俺が臆病者だと言うのか!!」 冷静に答えを返すトモロにますます頭に血が上り激しく言い放つ。 しばらくジョナサンがトモロに向かって自分がキングジェイダーへの変形を行うことが出来ないことの苛立ちをぶつけていた。 「だいだいこんな物を使うのにに勇気なんて必要なものかよ!!バロンズゥは・・・」 「まて、前方に他の参加者の機影がある。」 突然の報告にジョナサンが黙る。 「どこにいるんだよ?」 「前方だと言っただろう。人型機動兵機のようだ。」 それを聞きジョナサンがしばらく黙る。 モニターに映された白い機体を少しばかり見て。 そして言う。 「戦えそうかよ?」 「戦えないとは言わない。だが戦いずらいだろう。」 「・・・ほんとに俺ではキングジェイダーへの変形はできないんだな?」 「くどいぞ。」 「・・・っち!!役立たずが!!」 「私がいないとこの艦は機能を十分に発揮できないぞ。」 「あ!?なんだと!?」 またもや口論になりかけたその時 「あ、あの・・・すみません。あなたはこのゲームに乗った人ですか? 乗っていないのなら・・・よければなんですけどこのゲームから逃げるために協力しませんか?」 通信から聞こえた声は少年のようだった。 【ジョナサン・グレーン(ブレンパワード) 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー) 現在位置:Bー4上空 パイロット状態:健康 (少し怒り気味) 機体状態:良好 (キングジェイダーへの変形は不可) 第一行動方針:とりあえず生き残る 最終行動方針:???】 【キラ・ヤマト(機動戦士ガンダムSEED) 搭乗機体:ガンダムF-91( 機動戦士ガンダムF-91) 現在位置:B-4陸地 パイロット状態:健康 機体状態:良好 第一行動方針:ゲームに乗ってない参加者を見つける 最終行動方針:ゲームから抜け出す】 【初日:12 15】 BACK NEXT 護るために 投下順 若い、黒い、脅威 人間様をなめるなよ 時系列順 悪の美学 BACK 登場キャラ NEXT Opening キラ 東北東に進路を取れ ジョナサン 東北東に進路を取れ
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百式 機体名 百式 全長 18.5m 主武装 ビームサーベル×2 普通のビームサーベル。 ビームライフル 普通のビームライフルだが、ΖΖにおいてジュドーがサーベル(俗に言うロングビームサーベルか?)として使った。 60mmバルカン砲×2 頭部バルカン。こいつも一応ガンダムだし。使い道は他のガンダム系の機体のバルカン参照。 クレイ・バズーカ バズーカ砲。弾数はおおよそ六発。 メガ・バズーカ・ランチャー 百式といえばこれ、と思う人も多いだろう。母艦から射出され、セットした後に発射する。大きさはMS並み。連射はほぼ不可だが劇場版かなんかでメタスのエネルギーを使って連射した。なお、母艦から射出される武装なので、当ロワでは使えないかも…… 特殊装備 ビームコーティング 対ビーム緩和装甲。百式の金色はこのコーティングのためである。 移動可能な地形 空中×、陸地○、水中△、地中× 備考 Ζ計画の中で作られたモビルスーツ、別名称δ(デルタ)ガンダム。γ(ガンマ)ガンダムことリック・ディアスの後に開発された、リック・ディアスよりガンダムっぽい。 当機体の名前の元は100番目に作られたからというとても簡単なもの。金色、肩に百の文字などで戦場では狙われ的になったが、クワトロ・バジーナ大尉の実力も相まってことごとく返り討ちにしてきた。元来可変式MSとして開発されたが、変形するとフレームが歪むという問題が発生したためオミット、代わりに基礎能力を底上げした。またリックディアスの後に作られたがこの機体は元々Mk-Ⅱのデザイン案の一つとして出されたが落選。そのためデザインにおいてはリックディアスより先に作られた。目が二つあるがデュアルアイカメラではないという変わった機体でもある。
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■ 【優勝者、および生存者 紫雲 統夜】 ■ 崩れていく灰色の肉から浮上する騎士。 その手に握られた、半ば折れた剣が振り下ろされる。 死したブレンパワードにかわす術はなく。 どうなったかを語る必要はないだろう。 それが、結末。 ハッピーエンドの条件は―――『愛』が全てを乗り越えること。 【アイビス・ダグラス 死亡確認】 ■ うっすらと目を開けて真っ先に考えたのは、どうして自分はこの冷たい床の上で横になっているのかという事だった。 まだはっきりとしない意識のまま、青年――シン・アスカはゆっくりと体を起こした。 そのまま周囲を見回す。そして目に入ってきた光景に、シンはまだ夢の続きを見ているのかと思った。 見知ったミネルバの艦内、ではない。そこは見覚えの無い、広いドーム状の空間だった。 照明器具の類は何一つ無いにも関わらず、ドームの天蓋全体がうっすらと発光しているおかげで 場内はかろうじて人の顔を判別できる程度には明るい。 どうやらこの部屋には他にも大勢人がいるらしく、ざわめきが部屋全体に反響している。 頭にも徐々に血が巡ってきた。しかし、依然として状況が飲み込めない。 記憶を辿ろうにも、ここに来る直前だけが何故かはっきりしない。 「なんなんだ……ここは」 「シン……? ちょっと、ここどこ?」 何気なく発した独り言に返事が返ってきたことに驚いて、シンは振り返った。 そこにいたのはシンも良く知る少女――同僚の、ルナマリア・ホーク。 「知らないって……ルナまでなんでここ?」 「こっちが聞きたいわよ。さっきまで寝てたと思ったら、急にこんなところに……回りも似たような感じだし……」 ルナマリアの視線を思わず目で追う。 いつの間にか薄明かりに目が慣れて、さっきよりもはっきりと場の状態が把握できた。 不安げな表情で寄り添う小さな娘と青年の姿が見える。兄妹だろうか。 オレンジの髪の青年が地球人がどうのとイライラした調子で叫んでいるのが見える。 テンガロンハットのような帽子をかぶった男が、きょろきょろしながら気だるげに座っているのが見える。 たった一人だけ、シンの割と側にいる黒ずくめのスーツ姿の男だけは、まったく動じることなく屹然と立っているが、 確かにおおむね望んでこの場所にいる人間はいないようだった。 黒い男が、小さく口を動かした。なんと言っているのか、シンには分からなかったが、 少なくとも回りの人間と同じような現状の把握のための言葉ではない気がする。 シンの背中を冷や汗が流れ落ちる。 嫌な予感がする。何か、とてつもなく良くない事が起こるような。 ――その予感は、それから程無くして最悪の形で的中することとなる。 『みんな……起きてくれ』 その声が『自分の頭の中から』聞こえてきた時、シンはこの異様な状況に自分の精神が異常をきたしたのかと思った。 しかしどうやらそうではないらしく、ルナマリアも、場内の他の人間達も一様に同じ声を聞いたようだった。 ざわめきが場の空気を介して伝播する。 状況を確認しようとシンが口を開きかけた矢先、声が再び脳内に響いた。 『俺の名前は、紫雲統夜』 混乱する頭を無理に急き立て、シンは何とか今の状況を把握しようと必死になった。 今、声は確かに自分の名を名乗った。という事は、この声の主はどこからか自分達の脳内に語りかけているというのか。 まだ家族が生きていたころに読んだ空想小説に出てきた単語が思い出された――テレパシー? いや、そんな非科学的な…… しかし次の一言で、シンの思考は今度こそ完全に停止することとなる。 ■ 統夜は自分の前に集められた人間へ、複雑な視線を送っていた。 あの殺し合いの後、吸収されきる前にノイ・レジセイアが死したことで統夜は意識を取り戻した。 カミーユと違い、粉砕されず原形を保ったまま吸収されたが故に、統夜のみが助かってしまったのだ。 統夜の当てとは、ノイ・レジセイアだけでなくカミーユとアイビスも殺し、その力を奪うことだった。 しかし――残留したノイ・レジセイアの力と、アイビスとブレンに残っていた力を全て吸い上げても、 統夜には重要な部分が足りていなかった。 それは、単純な力の量でなく、人を生き返らせるには複雑な過程が必要だということ。 肉体があれば、統夜の力だけでも蘇生は可能だったかもしれない。 けれど、テニアの命は、今自分がいるネビーイームのそばに浮かぶ新しい世界の一部となっている。 金属を加工するには溶かすための熱が必要だが、それだけではダメだ。 核兵器並みの過剰な熱があっても、それを操作し、他のものと組み合わせなくては、正しく加工できない。 何の因果か、ノイ・レジセイアの知識まで吸収した際手に入れてしまった統夜は、そのための方法を理解する。 ノイ・レジセイアの知識から発見した、世界から命を抽出する方法。 それは、同じように作り出した世界と、テニアの命を内包する世界をぶつけ合わせ、世界を解体して取り出すというものだった。 統夜は、デュミナスがノイ・レジセイアの世界に突入する際に保有していたMUの力と、 ノイ・レジセイアが世界を作り出すために行ったやり方を、裏表まで知識として手に入れた。 ………ノイ・レジセイアが行った方法を完全に反復することができたのだ。 突然の出来事にかたまるしかない参加者たちに、統夜は説明していく。 おそらく、自分の言うことを理解している人間は半数もいないだろう。なぜなら、自分たちもおそらくそうだったのだから。 「……少し、よろしいか」 説明を中断する声の主に、統夜だけでなく会場全体の視線が集まった。 全身黒尽くめのスーツを身に纏った男だった。毅然とした態度で数歩前に歩み出る。 ―――統夜は、気付かなかった。会場に、一人だけ招かれざる客がいたことを。統夜は、その姿を確かに知っている。 『あんたは……なんでここに!?』 統夜は、自分がノイ・レジセイアの殺し合いに集められた時を思い出した。 なんという――デジャヴ。 「私の名はロジャー・スミス。 自身と同じ境遇の世界を生み出さないように交渉してほしいと、依頼を受けてここにいる。 私が私である限り、私は確かにここにいる」 『俺を止めようって言うのか?』 「その通りだ」 『やれるんなら、やってみろよ』 短い会話ながら、お互いの意思を伝えるには十二分。 統夜は、ロジャー・スミス含む五十二名の参加者の前で宣言する。 『……これから集まってくれたみんなには……最後の一人になるまで、殺し合いをしてもらう!!』 ノイ・レジセイアが自分の勝手な都合で世界を求めたのと同じように、統夜もまた勝手な都合で世界を求める。 いや、ノイ・レジセイアや統夜だけではない。求めるものも世界とは限らない。 人が戦いを、戦乱を、そしてそれらの縮図であるバトルロワイアルを通して何かを求める限り。 そして殺し合いを通してシャギアや統夜、アイビスのように進化していくものがいる限り。 善悪を超えて、変わっていく物がある限り。 この広い多元の宇宙のどこかでバトルロワイアルが始まり、終わっていく。 ノイ・レジセイアが案じた通り広い宇宙で、戦いは続いていく。 だが、同時にそれを阻み、話し合いという手段を持って戦いを終わらせようとする者も確かにいる。 人の可能性と、人の希望と、人の輝きを閉じ込めたバトルロワイアルは終わらない。 【ネクスト・バトルロワイアル 開幕】 【主催者 紫雲 統夜】 【再参加者 ロジャー・スミス】 【参加者 シン・アスカ含み他五十一人】
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Shape of my heart ―人が命懸けるモノ― ◆7vhi1CrLM6 目が二つあった。 パープルアイとでも言うのだろうか? 深く暗く沈んだ紫紺の両眼が、言い逃れは許さない、と詰問の視線を突きつけている。 どこか追い込まれているような、自分で自分自身を追い詰めているような、そんな目だった。 似てるなと思う。初めて戦場に狩り出された新兵が、自分のミスで仲間を死なせてしまった。そう思いつめているときの目が、ちょうどこんな感じなのだ。 「お前、ラキの何なんだ?」 「質問してるのはこっちだ」 「知ってることを全部話せって言われてもな……何処の誰とも知れない奴に話す義理はねぇ。 もっとも、俺のことなら別だがな。今夜のご予定から泊まっている部屋の番号まで何でもお答えいたしますよ」 「ふざけるなっ!!」 「悪い悪い。そう怒るなって。だが、そっちが答えなきゃこっちも答える気はないぜ」 努めて冷静に、出来るだけ刺激を与えないように(?)気をつけながら話す。両手は頭の上だ。別に銃を突きつけられているわけじゃなかったが、これが一番意思が伝わりやすい。 強引に切り抜けられるか、と問われれば、多分出来るだろう。 目の前のお嬢さんは筋肉に無駄が少なく(ついでに削ぎ落としたのか、胸の脂肪まで死亡してるのが残念でもあるが)細身なりに鍛えられているようだが、動きはどちらかと言うと素人くさい。 ただ、柄じゃない。 となると、受け答えの中で情報を引き出せれば御の字といったところか。だが、無言を衝立にして返されたんじゃ埒があかない。軽口にも乗ってこない相手に溜息まじりに言葉を投げかける。 「おいおい。黙ってちゃ何にも分からないぜ。もう一度聞く。お前とラキの関係は?」 あまり友好的な関係ではないのだろう。置かれた状況を鑑みれば、ラキが何か不祥事をやらかしたとしか思えない。 現に目の前の少女は歯を食いしばって思い悩み、苦悶の表情を浮かべていた。強気の表情の裏で弱気が揺れ、顔は俯いている。その口元が微かに動いた。 「ある人の最後を伝えなくちゃいけない……。伝えなきゃいけないんだ……私は……ラキに……」 自身の見当違いに気づくのと同時に、そろそろと視線を伏せた少女の顔に落とす。前髪越しに見える真一文字にきつく閉じた唇が、小刻みに震えていた。 泣いているのか? そう思った瞬間、少女の顔ががばっと持ち上がり、涙が滲んだ視線が突き刺さる。 「さぁ、私は言ったぞ! 今度はお前が答える番だ!! 教えろ、ラキについて知っていることを!!!」 ラキを探している理由は分かった。危惧していたようなことではなさそうで、人知れず胸を撫で下ろす。目の前の少女は、どう見ても他人を謀ることに長けているようには見えないのも安堵感を大きくしていた。 しかし、まだ分からないことがある。ラキが原因でないのならば棘の出所が分からない。 それにこの娘の気の張り詰め方は危うい。的の位置が分からぬまま弓を目一杯引き絞っている。そんな矛先の定まらぬ危うさだ。 それらに引っ掛かりを覚えながらもクルツは、ラキのことについて話すことに決めた。 「分かった。何から聞きたい?」 背格好からという要望が返ってき、クルツはそれに答えて話し始めながら、それとなく様子を覗い続けた。 目の奥が暗い。肌にチリチリと焼け付くような感情がそこで燻っている。目の前の少女は笑う気配すら見せない。 やはり棘がある。ラキでないなら向けられているのは自分か? 「あんたとラキの関係は?」 「仲間ということになるかな。放送前まで同行していた」 何でもない言葉。それが彼女の心の弓弦に触れた。刹那、紫紺の瞳が揺れ動き、動揺。そして、驚愕へと少女の表情が変わり、焦点のぼやけた少女はぽつりと呟く。 「……嘘だ」 「嘘じゃねぇ」 手が震えた少女の眉間に皺が寄り、険しい表情を形作る。その目に灯った感情を読み取り肝を冷やした。 気圧されて一歩退がり、ラーズアングリフの装甲が背中にぶつかる。思わず振り返り、慌てて視線を戻したクルツに飛んで来たのは、怒声だった。 「嘘を吐くな! あんたがラキの仲間な訳がない!! そんなわけないじゃないかっ!!!」 取り乱し、感情的に声を荒げて詰め寄る様子に息を呑む。感情の堰が切れ掛かっている。怒りの、殺気の矛先は間違いなく自分に向けられていた。 訳が分からない。初対面のはずだ。こうまで嘘つき呼ばわりされる心当たりは全くない。そんな疑問符で頭が埋め尽くされる。 「嘘じゃねぇって。間違いなくあいつとエイジと俺の三人で行動してた。これは保証する」 「だったらなんでアムロを殺した!! あんたがラキの仲間ならアムロを殺すもんかっ!! 殺すもんかっっ!!!」 身の潔白を証明するしか他なく喚いたクルツの言葉に、アイビスの叫びが重なった。 怒りに目を滾らせながら目肩で息をする少女を見つめて、再び疑問符が頭に浮かぶ。今度の疑問符は一個だけ。ただしでかい。即ち、アムロって誰よ? そうして頭の中で一通り検索にかけて、なお心当たりのないクルツの口を吐いて出た言葉は―― 「ぬ、濡れ衣だァーーーーーーーーー!!!!」 「惚けるな!!!」 思わず手が出たという感じで頬を叩かれた。クリーンヒット。直撃。反動で後頭部を固い装甲板でしたたかに打ちつける。正直、そっちのほうが痛かった。 「惚けてねぇ! 俺はそんな奴知りやしねぇ。まして恨みを買われる筋合いもねぇ」 「見たんだ!!! あんたがアムロを……赤い小型機を落とすところを!!! そんなあんたがラキの仲間だなんて認めるものかっ!!! 認めてやるものかっ!!!!」 必死の目と一緒に、これまで押さえ込んでも押さえ切れずに、瞳の奥で燻っていたものが露になる。その感情の堰が切れる様を目の当たりにしながら、クルツは事情を理解した。 事情は単純。赤い小型機、おそらくは戦闘に介入してきたタイミングから考えて戦闘機にも変形するほうのことだろう。それが彼女の仲間で、自分はその仇というわけだ。 だが一つこの少女は思い違いをしている。そこを正せば少しは立場が楽に……なるのか? 「ちょっと待て! 殺してねぇ!!」 「……えっ!?」 「殺しちゃいねぇって! そいつは生きてる」 「嘘だっ!!」 何度目かも分からない否定。全く信用されてない立場というのは辛い。 「まぁまずは落ち着けって。確かに小型機は落とした。けど、あの時そいつは既に青い機体に乗り換えていた。 見たろ? 俺がその青い機体に追い詰められるところを。あんたが介入してなかったら死んでたのは俺のほうだった。だから嘘じゃねぇ」 「生……きてる?」 「そう。そいつは生きてる」 「本当?」 「本当だ。もう五六時間もすれば放送が流れる。嘘を吐いても意味がねぇよ」 胸を撫で下ろし大きな安堵の溜息を漏らすのが見えた。少しはこれで険が取れるかな、と思って油断した隙に再び詰問の視線が向けられ、思わず表情が強張って気持ち身構える。 ぐぅ~ 薄く開いた唇が言葉を発するより早く少女の腹の虫が鳴いた。険が取れるどころか緊張が霧散し、空気が弛緩する。 思わず笑ったクルツの大声が夜空に響く。開けた口を訳もなくパクパクさせている目の前の少女の顔は真っ赤だ。 「わ、笑うな」 「ハハハ……腹減ったとよ。どっかで飯にするか?」 「減って ま せ ん 」 躍起になって否定する少女を尻目に中央廃墟で一息吐くことを勝手に決める。北の市街地には行きたくなかったのだ。 全くの偶然の腹の虫ではあったが、お陰で今話の主導権はクルツに移行している。気持ちにも余裕が出来た。 機体に乗り込もうと背を向け、背後の気配の動き出す様子のなさに振り返る。 そこに強い光を見止めた。真摯さ。熱心さ。そんな光だ。そしてその奥にはまた別の暗い光が併在している。 「一つ聞かせて。何でアムロと争ってた?」 思わず頭をガシガシと掻いてあらぬ方向を見上げてしまった。一番答えにくい質問だったのだ。何しろ最初に手を出したのはこちらなのだから。 ちらりと視線を戻す。そこに最初と同じ『言い逃れは許さない』という詰問の視線を確認して、慌ててまた逸らした。どうにも答えずにすむという訳にはいかないようだ。 「あいつとやり合ったのは二回目だ。一回目は俺から仕掛けた。それを覚えてたんだろうな。二度目は奴から仕掛けてきた。後は通信を交わすこともなく戦闘さ」 「一度目はなんで?」 「さぁ、何でだろうな。いきなり殺し合いを強要されて、情けねぇことにパニクってたのかもな」 「そう……」 目線を合わせる勇気はなかった。僅かに混ぜ込んだ自分を守るための嘘。それに言いようもない引け目を感じたのかもしれない。 逃げるようにして機体に乗り込むとホッと胸を撫で下ろす。下手な嘘がバレやしないか冷や汗ものだったが、どうやら信じては貰えたようだった。もっとも疑いが完全に晴れた風には見えないが。 通信を繋げる。 「んじゃ、行くとしますか。行き先は中央廃墟。そこで朝まで一休みだ」 とそこまで言って肝心なことを聞いてないことを思い出す。 「お嬢さん、そろそろお名前を教えてもらっても良いんじゃないでしょうかね?」 「へっ?」 目を丸くするのが見え、ちょっと間の抜けた声が響く。どうやら向うも名乗ったつもりになっていたようだった。 「アイビス……アイビス=ダグラス。あんたは?」 「クルツ=ウェーバー……俺名乗んなかったっけ?」 「名乗ってないよ」 呆気羅漢と返ってきた声に「おっかしいな」と応じながら頭を掻き、「まぁいいさ」と繋いだクルツは、とりあえずラキとアイビスを会わせてみようという気になっていた。 そうして二機は中央廃墟へと向かう第一歩を踏み出す。そこに待ち受けている結果も知らずに……。 ◆ アイビス・クルツから遅れること約四時間。C-3地区にも中央廃墟を目指す機体の姿があった。 その低空を僚機となったシャイニングガンダムと共に飛びながら、ブンドルの思考は一つのことに囚われていた。 サイフラッシュ・ハイファミリア・アカシックバスター・コスモノヴァ、そして精霊憑依。 ブンドルが扱いきれないサイバスターの武装や機能は多い。 ゆえにブンドルはこれまで機体の基本性能と剣戟、そして僅かな火力での戦いを強いられてきた。それらはひとえに操者の資格を持たぬがゆえのことであったが、一つ事情の異なるものが存在する。 ラプラスコンピューター――それは一種のブラックボックスと言っても過言ではないサイバスターの中枢を司るメインコンピューター。 これだけは操者の資格を持たないが為か、それともただ単純にそっち方面の専門家でないことによる技術力不足によるものか、判別に難しい。だが、どういうものかの憶測はついていた。 ラプラスの名を耳にしたとき、ブンドルが真っ先に思い浮かべたのは18世紀から19世紀にかけて活躍したフランスの数学者ピエール=シモン・ラプラス。ラプラス変換の発見者として、彼の名は高い。 その彼によって提唱されたものの中に『ラプラスの悪魔』というものが存在し、彼は自著の中でこう語っている。 『もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、 この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も全て見えているであろう。 (確率の解析的理論)』 この仮想された超越的存在の概念であり、ラプラスがただ単に知性と呼んでいたものに、後世の者が付け広まった名称が『ラプラスの悪魔』である。 それは量子論登場以前の古典物理学における因果律の終着地点と言ってもいい。 そのラプラスの名を冠する以上、おそらくこのコンピューターが目指したものは未来予測。 「ラプラス自身の理論は後に量子力学によって破られることになったが、果たしてこのコンピューターは『全てを知り、未来をも予見できる知性』足り得るのか……」 目指しはしても、そこに至れるかどうかは別問題。『ラプラスの悪魔』にまで至れているという保証はどこにもない。 だが、最低でも物質と現象を解析し予測する為の機能が備わっているはずである。例え完全ではなくとも、それらの機能がなくてはラプラスの名に対して失礼と言うべきであろう。 そして、その処理速度も並々ならぬもののはずだ。1秒後の未来を算出するのに1秒以上の時を要しては意味がない。 ならばだ。然るべき者の手に渡りさえすれば、首輪の解析など容易くやってのける代物なのではないか――それがブンドルの抱いたものであった。 「ブンドル」 突然の通信に思考の波から意識を拾い上げる。無骨な男の顔がモニターに映し出されていた。 「ギンガナム隊のことについてだがな」 「……なんだ? そのギンガナム隊とかいうのは」 薄々感づきながらも言葉を返す。妙に嫌な予感がしていた。そして、こういう勘は当たるものだ。 「ギンガナムとはムーンレイスの武を司る一族の名。そして、我が部隊の名だ。 ロンドベル隊の名も惜しかったのだがなぁ。アムロ=レイが存在する以上、あちらにその名を譲るのに小生も吝かではない。 貴様もギンガナム隊の一員となったのだ。覚えておけ」 「少し待て。それは君の名ではなかったか? というかいつ私が君の下に付いた?」 こめかみを押さえ、俯きがちに頭を左右に振る。色々と頭が痛い。だがそんな様子に構うことなくギンガナムは返答を寄越してくる。 「いかにも。我が名はギム=ギンガナム。ギンガナム家の現党首よ。 どこの馬の骨とも知れぬ者をギンガナム隊に加えるのには小生も少々の抵抗があったのだが……ブンドル、貴様はなかなか見込みがあるので特別に許可した。誇りに思うが良い」 「話が食い違っている……それにその美しさの欠片も見当たらないネーミングには反対させていただこう」 「異論があるのならば代案を出すべきであろう。 だが、あの化け物を討つのに、ギンガナムの名以上に相応しい名はない。そう、ロンドベル隊とギンガナム隊の共同戦線によってあの化け物は討ち倒される。 フフフ……ハーハッハッハッ……素晴らしい! これぞまさしく小生が夢にまで見た黒歴史との競演!! だがそれにはぁ、我が隊の戦力を充実させねばなぁっ!!!」 勝手にテンションを鰻上りに上昇させるギンガナムを脇目に、ブンドルは僅かに考え込んだ。代案を出せというギンガナムの言には一理ある。 そして、頭に思い浮かんだ部隊名は―― 「……ドクーガ情報局」 「フンッ! 大 却 下 だ!!」 「ならば……」 そこで言葉を飲み込む。言おうか言わまいか、束の間悩んだ。目の前の男に自分の美的センスが理解できるとは到底思えない。 芸術の何たるかを全く理解しない無知蒙昧な輩に、自分の美的センスが扱き下ろされるのはどうにも我慢がならない。 「ならば何だ?」 「……なんでもない」 「どうせ大したことのない部隊名を思いつき慌てて引っ込めたのであろう。やはりここは武を納めるギンガナムの名こそ相応しい!!」 「それには反対だと言った」 「ギンガナム隊に反対ならばシャッフル同盟で決まりだな。異論があればもっとマシな対案を出してみよ。 どうした? 何か言いたそうだな? その貧弱なお頭でぇ何を思いついたか言うがいい。ほれ! ほォ~れ! ハーッハッハッ……!!」 あからさまな挑発。見え透いた手。だが、悔しいが効果的だ。小馬鹿にされているようで地味に腹が立ってくる。というかうざい。 「そうまで言うのなら聞かせてやろう。この部隊の名は―― ――『美しきブンドルと愉快な仲間達』だ」 満足気に言い放ったブンドルを残して時が凍りついた。 「……」 「なんだ、その痛いものを見るような目は? そんな悲しそうな憐れみの目で私を見るな」 「その今にも『全ては我らのビッグ・ファイアの為に!』とか言いだしそうなネーミングは……それに後半……」 「それはだな」 「いや別に説明しなくともよい。すまん。小生が悪かった。だから悪いことは言わぬ。ここは大人しくギンガナム隊にしておけ」 「それには反対だと言っている!」 「ええい。人が下手に出ておればいい気になりおって。何が不満なのだ?」 議論は白熱(?)していき、多くの名が挙がっては切って落とされていくこととなった。 そして、目的地D-3廃墟の上空に差し掛かる頃、両者は半ば折れる形で部隊名はなんの捻りもなく『ドクーガ情報局ギンガナム隊』に決定される。 「まぁいい。とにかくブンドル、貴様にはギンガナム隊の参謀を務めてもらう」 「お断りさせてもらおう。私はドクーガ情報局の『局長』だ。降格は勘弁願いたい。それではよろしく頼むよ、『隊長』殿」 「くっ……貴様、またしても謀ったな」 「部隊名はそちらも納得して決めたはずだ。それとも君は一度口にした言葉をひっくり返す程度の男かね」 「ぐっ! おのれ……」 悔しげに睨み付けてくる眼光を飄々と受け流す。戦闘行為ならともかくとして、口と謀でこの男に負ける要素は皆無といって良い。 未だブツブツと文句を呟くギンガナムを尻目に、視線を眼下の廃墟へと落とした。 現在、ブンドルの頭の中には幾つかの集団が刻まれている。 北西の市街地にはアムロとガロード。南部市街地にはトカゲ型の戦艦とガロードの仲間。そして、ゼクスを中心とした集団は中央廃墟の方角を目指していた。 もっともトカゲ型の戦艦とゼクスの集団はそれなりの時間が経過している為、移動している可能性が高い。そう考えるとこの中央廃墟と北の廃墟は大きな空白地帯と化す。 つまり参加者の保護・小集団の形成という観点から考えて、ここは見過ごせない地域なのだ。 そして、出来ればもう一度サイバスターの操者と接触を取りたいという欲が、ブンドルに中央廃墟を選ばせていた。 だが見下ろした廃墟に人影は見当たらない。深夜という時間帯と廃墟という死角の多さが目視を遮っているのだ。加えてレーダーの不調もある。 「ギンガナム、そちらのレーダーに反応は?」 文句を止めて取り合えずはレーダーを確認したらしいギンガナムが、「なにも」と返してくるのを聞いて、これは骨が折れるかもしれない、といった思いが頭を過ぎり―― 「ところでな、ブンドル」 思考を中断させられた。 「……まだ何かあるのか?」 「うむ。毎回戦闘前に名乗りを上げていたのだが、どうもパターンが尽きてな。そこで二人で是非とも試して」 「断る!!」 「つれないな」 当然だ。嫌な予感しかしない。 「だが、これを聞けば貴様の気もきっと変わるであろう」 「言わなくていい。言わなくていいから、少しあっちに行っててくれないか?」 「まずは小生が問いかける。それに貴様は答えていけばよいのだ」 思いっきりスルーされた。あまりのマイペースさに殺意を覚えないでもない。少しくらい聞けよ、人の話……いかん。キャラが崩れてきている。自戒せねば。 「『流派東方不敗は』と問われれば貴様は『王者の風よ』と返すのだ。あらん限りの声を振り絞り叫ぶのだぞ。分かるな? 気迫がここではモノを言う。そして、続きは――」 得意気に説明を続けるギンガナムを完全に無視して、思案を再開することに決めた。とてもじゃないが付き合いきれない。 改めて廃墟へと目を向ける。ざっと見渡した限り目視にかかるほど大きな機体は見当たらない。また死角が非常に多い。空を飛ぶ来訪者は見つけやすく、自身は隠れやすい地形ということだ。 好戦的な者を除いたほとんど全ての者は、一度隠れてこちらの様子を覗うと思ったほうがいい。かと言って、地上を歩き路地の一つ一つを覗いて回っても埒があかない。 つまりは目立つ空に機体を曝け出して、いるかどうかも分からない相手のコンタクトを待つしか方法がないのである。 ならば時間で区切るべきだ。交代制で半分を休息に当てるとして、一時間か? それとも放送までか? そうやって先のことに思考の手を伸ばしていたとき、視界の隅で何かが煌めいた。モニターに警告のメッセージが灯るのよりも素早く身を翻す。 虹色をまとめて撃ち出したかのような光軸が間際を駆け抜け、装甲を焦がした。それを脇目に射撃地点を睨んだブンドルは、しかし突然後方で鳴った衝撃音に思わず振り返ることとなる。 火花を散らしながら銃と剣の中間のような武器を叩きつける流線型の機体と、それをアームプロテクターで受け止めるギンガナムの姿が目に飛び込む。 やばい――そう思った瞬間、女の憎悪に塗れた声とギンガナムの剛毅な声が木霊した。 「ギンガナム! お前を!! お前だけはああぁぁぁぁあああああ!!!」 「小生をギム=ギンガナムと心得て向かってくるその心意気や良し! だがしかあぁぁしっ!!」 ギンガナムが相手の武器を跳ね上げ、腕を掴み、豪快に投げ飛ばした。空中をくるくると舞った敵機は、数百m離れたところでようやく体勢を整える。その鼻頭にギンガナムの声が飛ぶ。 「貴様では足りん! 小生を、このギム=ギンガナムを倒したくば、このシャイニングガンダムの右腕を見事斬りおとしてみせたあの男を出すがいい!! 勝利の二文字を持って屈服させええぇぇぇ!! 我がギンガナム隊の一員としてくれるっ!!!」 「黙れっ! お前が、あいつを殺したお前が気軽にあいつのことを口にするなっ!!」 突然、流線型の機体がぶれたかと思うとその場から消失する。次の瞬間、それはギンガナムの死角に姿を現した。 銃剣の切っ先が下から上へと振り上げられる。それらの動きに瞬時に反応して見せたギンガナムはワンステップでかわすと同時に振り向き、掌を胸部に添える。 「遅い。温い。伸びも芸もない。その程度でぇこのギム=ギンガナムの首が取れるものかよぉ!!」 中空にも関わらず踏み込む。流線型の機体が体をくの字に折り曲げて、すっ飛んだ。刹那、ブースターが青白い燐光を瞬かせ、ギンガナムが追撃に移る。 それらの光景を前にブンドルは再度思う。これはやばい、と。この闘争本能の塊のような男は、既に燃え盛る炎と化している。襲い掛かる者に対して容赦はないだろう。 そして、漏れ聞く限り突如襲撃してきた女は復讐者。この組み合わせはまさに火に油を注ぐようなもの。勢いのままに暴走を許せば、後の結果は火を見るより明らかだ。 そこまで分かっていながらブンドルは動けなかった。 理由は二つ。 一つはテレポーテーションとでも言うべき移動に度肝を抜かれ、介入のチャンスを見出せなかったこと。 そして、まだ何かがある気がする。あるいはいるのかもしれない。ともかくギンガナムと女と自身の他にまだ何かがここに介在している。 理屈というよりかは勘のようなものだ。未だ表に出てこない潜んでいる何かがあると告げていた。 さらにもう一つ加えるのならば、サイバスターのラプラスコンピューターに対しての憶測もブンドルを慎重にさせることに一役買っていたのかもしれない。 ここで悪戯に失うわけにはいかない。そういった思いがあったことは確かなのだから。 雲越しに火線が煌めき、幾度目かの火花が散る。 ギンガナムもあの男一流の嗅覚で違和感を感じ取っているのか、女とギンガナムの戦いはどこかぎこちなかった。が、そのぎこちなさは程なく融解することとなる。 ギンガナムの狂喜に彩られた声が大地に響き渡ったのだ。 「見つけたぞ!! アイビス=ブレエエェェェェェェェンッッッ!!!」 何処か女性的な丸みを帯びた流線型の敵機。それを弾き上げたシャイニングガンダムのスラスターが噴射音を唸らせたと思った瞬間、敵機を無視し、地表の一点目掛けて突撃を開始した。 夜空に流星のような一筋の光が灯る。 その流れ落ちる先に赤い無骨な機体を発見したブンドルは、サイバスターのブースターを焚き、フルスロットルでそこに突撃した。 上空にギンガナム。地表面付近に自身。どちらが早いとも考える余裕はなく、二機は急速に赤い機体との距離を詰める。 朽ち果てたビル、鉄骨を露にした廃墟、腐食し赤く錆び付いた鉄筋、それらの景色が後ろへと飛んで行く。その先で、赤い機体がギンガナムに銃を向けるのが見えた。 横合いから懐に飛び込む。銃を潰れた左腕で制し、間髪入れずにギンガナムの拳を右手の剣で受け流す。そして、返す刀でギンガナムの脳天に降って来た女の剣閃を受け止めた。 「チッ!!」 「ブンドル、貴様ッ!!」 「なっ!!」 「三人とも剣を引け。この場は私が預か……ッ!!」 全てを流れるような動作で隙なくこなしてみせたブンドルであったが、そこが一呼吸における挙動の限界でもあった。 黒い弾丸のようなものが飛び出してくるのを視認する間もなく、轟音がコックピットを揺らす。 動から静に転じる瞬間を狙い済ましたように突かれたサイバスターは、なすすべもなく押し流され、瞬く間に瓦礫の街並みへとなだれ込んで消えていった。 ◆ 二つの機体が縺れ合っている。白銀の機体が大人と子供以上も体格差のある黒い機体に押し負け、瓦礫を巻き込みこんで後退を続けていた。 「聞こえるか? 黒い機体のパイロット、私は君との争いを望まない。剣を納めてくれ。そうすれば私はギンガナムを諌め、あの場を丸く治めてみせる」 「ククク……ハーッハッハッ……!!」 通信。流れてくるのは休戦の提案。黒い機体のパイロットガウルンは、堪えきれずに思わず噴出した。 その様子にモニターの端に開いた通信ウィンドウの中の顔が、眉を顰める。 「何か可笑しいか?」 「冗談言っちゃいけねぇな。せっかく面白くなりそうなところだ。それを潰されちゃたまんねぇ」 一番動きが良かった奴を狙いすまし、隙を衝いて仕掛けたが、正解だったってわけだ。赤い奴はどうだか知らねぇが、白い機体も丸っこい機体も剣を引く気は毛頭なさそうに見えた。 ということはだ。ここでこいつを喰っていけば争いが治まることはないと言える。その後は、選り取り見取りだ。 それに面白味はねぇがこいつ自身も一級品。暇つぶしの玩具としては、何の不足もない。 「悪いがここで死んでもらうぜ」 「なるほど……そういう輩か。ならば君などに付き合っている暇はないッ!!」 白銀の機体が刀剣を抜き放つ。密着した状態で掲げた剣を振り下ろす。上から下。頭部と背面を狙った刺殺。鋭いッ!! 咄嗟にヒートアックスで受け止めた。その隙を衝いて押さえ込んだ状態から抜け出される。一塊だった二機がパッと左右に分かれた。 「やるじゃないか。大したものだ」 「そちらこそ……な。野放しにしておくには少々危険だ」 数百mの距離を置いて二機は対峙する。互いにまだ瀬踏みの段階。つまりは小手調べの前哨戦。それでもある程度の力量は伝わってくる。 その力量だけで言えば、信じられない程の上物だ。自分自身に対する絶対の自信も持っている。そんな奴の鼻を明かしてやるってのは、たまらねぇな。そうガウルンは一人ごちた。 ◆ 「クックックッ……ハハハ……フハハハハハ……!!!!」 「何が可笑しいッ!!」 愉快さを隠し切れないといった無邪気な笑い声に反発を覚え、思わず叫んでいた。 「何が可笑しいだと? ククク……、黒歴史において最強の武道家と誉れ高い東方不敗がマスターアジア。その愛機マスターガンダムが姿を現したのだ。 そして、小生は今その弟子の機体に乗っておるのだぞ! 何たる僥倖! 宿命!! 数奇!!! これが笑わずにいられるものかっ! もはや貴様の偽善になど付き合っていられぬ。今すぐにでも奴を追いかけぇッ!! ガンダムファイトの挑戦状、叩き付けてくれるわッッ!!!」 言うが早いか、シャイニングガンダムのブースターに明かりが灯る。銃声一つ。その鼻先を七色の燐光を発するチャクラの波が駆け抜けた。 「行かせない。ギンガナム、あんたの相手は私だ」 「ほぉ。貴様ごときが小生と渡り合えると本当に思っているのか? それにそこの赤い機体。奴ではないな。接近戦における動きの冴えがまるで違う。 もう一度言う。そんな貴様らごときに勝ち目がぁあると本当に思っているのかあぁぁあああ?」 白銀の中型機が介入してくるまで、ギンガナムに押されっぱなしだった。それも片手間でだ。 勝てるという道理はない。五分に渡り合える理屈もない。でもそんなことは―― 「やってみないとわからないだろ。あいつを追うんなら私を倒してからにしろッ!」 「舐められたものだな。まぁいい。せっかくのガンダムファイト。横槍を入れられても面白くない。 ならば、貴様らを殺した後、ゆっくりと専念させてもらおうではないかッッ!!」 言葉と同時にギンガナムの姿が掻き消える――否、そう思えるほどの速度で横っ飛びに跳ねた。 咄嗟に追随。同時に『轟』と重い金属音が響き、ラーズアングリフがよろけ―― 「固いな」 「なろっ!!」 シザースナイフを振るったときには既に背後に抜けていた。結果、ラーズアングリフに視界を遮られギンガナムの姿を見失う。 赤い胸部装甲板が拳大に窪んでいるのを確認しつつ、その脇をすり抜けようとした瞬間、体を悪寒が覆った。 咄嗟にバイタルジャンプ。ほぼ同時にラーズアングリフの脇で肘鉄が空を切った。そこに二制射撃ち込んだときには、クルツ一人残して影も形もない。 ――廃墟に紛れ込まれた。 足元に着弾した銃撃に文句を散らすクルツを無視して、視界を八方に目まぐるしく動かす。 ――見つけた。右後方。 振り向き様にソードエクステンション。が、それよりもギンガナムが懐に潜り込む方が遥かに素早い。 斬撃は肘の位置を掌で捌かれ、そのまま背中を合わせるように動いたギンガナムの右足が大きく踏み込む。 重い音が大地を揺らし、肩で弾き飛ばされたブレンがすっ飛んだ。瓦礫を巻き上げ、ビルの残骸に埋没する。 追撃を予想して跳ね起きた視界に、距離を置き銃口をちらつかせて牽制を仕掛けているクルツの姿が目に入った。同時に通信。 「無事か?」 「何とか……そのまま奴の気を引ける?」 「無理だ。弾が殆んどきれかけてる。弾幕も敷けねぇ」 「五分でいい。お願いっ!」 「だから無理だって。牽制に回す弾すらないんだぞ!」 「クルツ!!」 思わず出た大声にギンガナムに注がれていた視線がこちらを向いた。その視線はホンの一瞬だけ交錯し、直ぐにまた元に戻る。 「やれるのか?」 「やれる! いや、やってみせる!」 「……分かったよ。五分だな?」 「ごめん」 「任せろ」 クルツの声を耳にバイタルジャンプ。戦場からいくらか離れた空に転移した。そこから戦場を見守り、具にギンガナムの動きを観察する。 シャアに褒められたことが一つだけあった。相手の軌道を読み切り、旋回半径に飛び込むGRaM系とRaM系に共通する基本動作だ。 それしか自分にはない。だから持てる力を全てつぎ込む。ギンガナムの動きを読みきり、全力を一撃に、急加速度突撃に全てを賭ける。 時間は? 三分。 焦るな。 落ち着け。 二分。 小型ミサイル。 回避。 避け。 一分。 ビルをブラインドに。 回り込む。 そう見せかけて跳躍。 音もなく上空へ。 ここだっ!! 青白い噴射光と七色の燐光が夜空に浮かび上がる。ギンガナムのシャイニングガンダムとアイビスのヒメ・ブレンが同時に突撃を開始したのだ。 フルスロットル。 眼前の廃墟をブラインドに。 一度、互いの死角へ。 廃墟を抜ける。 そして――見つけた。 微調整。 ソードエクステンションを前に。 あとは―― ――ただ突っ込むだけだッ!! 「行っけええぇぇぇぇぇえええええ!!!」 叫んだとき、距離はもう幾許もなかった。直前でギンガナムが反応するのが見えた。構わず突っ込む。リーチはこちらのほうが長いのだ。 突きつけたソードエクステンションの切っ先。それが胸部装甲に突き立つのが鮮やかに見えた。 「アイビスッッ!!」 次の瞬間、眼前に迫った大地に気づく。 気を失った? 何故? いつの間に? そんなことよりもブレンを――。 この速度で大地に叩き付けられると危ない。そう思い、減速しようとして、身動きが取れないことに気づく。 どうして? 何で? 何で、動いてくれないんだっ! 「つまらんな。ただ突っ込むだけの戦い方など赤子でも出来る」 耳元で誰かが囁いた。瞬間、ぞっと肌が粟立つ。 積み上げてきたものを崩され、心に隙間が生じる。そして、その隙間に過去の恐怖が入り込み、鮮明に蘇る。大地迫るこの状況が過去の墜落経験と頭の中で噛み合った。 堕ちる……嫌だ。嫌だ。嫌だ! 嫌だッ!! 「うわああぁぁぁああああああ!!!!!!」 ◆ 北西から南東に向けて一直線に粉塵が立ち上った。それは間に乱立し散在する廃墟の山を一切問題にしていない。 粉塵の中に双眸が輝くのが確認できた。次はお前の番だとそれが何よりも雄弁に物語っている。思わず唾を飲み込み、薄ら笑いを浮かべた。 強い。半端な敵ではない。それが素直な感想だった。 あの瞬間、アイビスの仕掛けた攻撃は受け流され、その場で半回転したギンガナムは背に一撃を加えた。その上で間接をロックし、加速して地面への衝突直前に叩きつけるという荒業をやってのけていた。 結果、敵機は装甲表面に引掻き傷程度の怪我を残して健在。アイビスは恐らく沈黙だろう。 アイビスの加えた攻撃は、タイミング・速度共に申し分ない一撃だったはずだ。少なくともクルツにはそう見えた。それを物ともしない強さがある。接近戦ではまず話にならないと言っていい。 射撃戦を展開するにしても弾薬は尽きかけている。一戦はとても持たない。だがそれでもやりようはある。それにはまず距離を取ることだ。 そう思い浮かべた瞬間、巨大な圧力がクルツを包み込んだ。距離を詰められた。読まれている。既に後退は間に合わない。 前。咄嗟に思い浮かべたのはそれだった。活路はそこにしかない。雄叫びをあげ、馳せ違う。右脚部で鈍い音が鳴った。構うことなくフルスロットルで前進を続け距離を取る。 だが速度が上がらない。ラーズアングリフは空を飛べない。だから、脚部の損傷は致命的だ。追ってくる。振り切れない。駆けながら、全身の毛が怖気立つような恐怖に襲われた。 南下させられているのだ。いずれ禁止エリアに突き当たる。方向を変えようとしても、出来なかった。 刺し違える。咄嗟にそう決めていた。このままでは振り切れない。追いつかれるなり、禁止エリアに追いやられるなりして、殺される。ならば強引に反転し立ち向かう。 刺し違える覚悟で相打つ。それしか手がなかった。そして、それが一番生存率が高い。一つの廃墟が眼前に迫った。決死の覚悟で機首を巡らせる。 装甲の厚いラーズアングリフだ。一撃で落とされることはない。まずは相打つ。その上で何か見えてくるものがあるはずだ。何も見えなければ死ぬ。それだけだ。そう思った。 しかし、反転してクルツは唖然とした。距離がない。構える時間すらない。眼前には既にギンガナムが迫っていた。想像以上に動きが早かったのだ。 重い音。衝撃。重厚なラーズアングリフが背にした廃墟に埋没する。肩から腕にかけて熱いものが走った。やけに鮮明な視界の中、ゆっくりと拳が近づいてくる。 甘かった。敵の狙いはラーズアングリフのキャノピー。重厚な装甲など関係ない。足を止めたその後は、あからさまに弱点なそこを狙うのは当然といえた。 死とはいつもすれすれの所で生きてきた。戦と死は古い友人のような気もする。それがついにやってきた。お前が俺の死か。そう思い、ギンガナムの機体を睨みつけた。 その機体が不意にぶれ、横っ飛びに跳んだ。 「なっ!」 咄嗟のことに頭がついて行かない。その眼前を七色の光が突き抜ける。そして、通信が一つ。 「クルツ、無事か?」 ほんの半日前まで耳にしていた声がやけに懐かしく感じる。思わず笑みがこぼれた。 「へっ! 何処に行ってやがった。しかもこのタイミングでご帰還たぁ、美味しすぎじゃねぇのかぁ? おいっ!」 ◇ 右腕が通信を繋げようと動き、モニターに一人の男の顔が映し出される。 肩までかかる青い長髪がワカメのようだと一瞬思い、一度会った男だということが記憶の引き出しから出てくる。 その男とモニター越しに目が合い。男の顔がにぃっと笑うのが見えた。瞬間、全身の血が身の内を駆け巡る感覚に襲われる。視線を交わしただけの通信が途切れる。 ラキはそれ以上を必要としなかった。目が合った瞬間に理解し、訳もなく確信したのだ。 待ちきれずに逸った気持ちからか、宙に浮いている錯覚を覚える。 今、私はどんな顔をしているだろうか? きっと笑っている。 何をしている? 早く来い。 お前も気づいたのだろう? 私がお前の敵であると。 理由も理屈もなくただそう思い、確信している。 告げているのは負の感情を集めるために作られたメリオルエッセとしての性か。それともベースとなった人間の持つ原初の本能か。 白い隻腕の機体が各部を展開させ、一歩を踏み出す。まるで鏡映しのようにネリー・ブレンも一歩を踏み出す。そのまま二歩三歩と間合いが縮まり、走り、駆け、疾走する。 不意に全身が熱くなり、熱いものが込み上げて来るのを感じた。その熱いものが胸にぶち当たった瞬間、二つの機体は地を蹴り、激突した。 →Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―(ver.IF)(2)