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家路の幻像 ◆7vhi1CrLM6 静まり返った何の飾り気も無い無機質な通路。病院のそれによく似た機能のみが優先されたその空間に、靴音が高く鳴り響く。 仰々しい衣装を身に纏い悠然と闊歩するその男――ユーゼス=ゴッツォが静寂を振り払い歩みを進めていた。 向かう先は格納庫の脇に設置されている事務室のような部屋。 最初にこの基地に腰を下ろして以来、すっかり集合場所として馴染んでしまったそこを目指していた。 時間だ。あと僅か数分で放送が始まる。 この首に繋がれた忌々しい首輪の解析と疲れを癒すための休息、特に休息の必要を感じてはいる。 一戦を交え、一つの重要な実験を終えた直後。疲れは重なっている。だが、集合を命じたのは自らであった。 例え相手がとりあえず協力者であろうともここは行かねばならない。 情報は必要だ。 誰が死に、何人が生き残り、何処が禁止エリアとされるのか。 カミーユ=ビダンが何を見、何が起こり、そして何故キョウスケ=ナンブがいないのか。 それらは重要だ。 それに、一先ずの解析はAI1に任せている。 解析結果のバックアップの為に管制塔に位置する司令室を探し当て、取り合えずの防壁を施した上でメインコンピューターと有線で繋いでもいる。 不測の事態が起こらなければ手を下す必要はなく、仮に起こってもそれは基地内のネットワークを通じてユーゼスに知らされる。開発室のほうも同様だ。 口元が笑う。 極めて順調。道は開けている。ならば一時的に目を離し、手を離しても問題は無い。 そう思い広大な基地内部を足早に歩いているときだった。 赤が目に留まった。 僅かな蛍光灯に照らし出されたまだ薄暗い通路。そこに赤い粒が点々と続いている。 ――血。 誰のだ、と思い立ちめぐらせた頭に一人の男の顔が思い起こされる。 ――バーナード=ワイズマン。 不運にも瓦礫の下敷きとなり死に絶えたはずの男。 あの男が生きていたのか――いつからだ? いつ奴は瓦礫の底から抜け出して動き始めた? 湧き上がる疑問に対する答えはユーゼスの中にはない。明るく開けているはずの道にほんの僅かな影が射す。 死んでいるものと決め付けていた。だから確認を怠った。 それは幾ら疲れていたとは言え失態だ。あの男がベガやカミーユに接触すれば事態がどう転ぶのか。 予測は難しい。だが、良いほうに転ぶ可能性は極めて稀。いや、それよりも奴がメディウスを見つければどうなる? 優先すべきはベガ達との合流か、ワイズマンの追跡か。 時間が経てば経つほど追跡は困難になる。あの男に渡した首輪のメモもある。野放しには出来ない。 膝を付き、溜まりを成している血に触れてみた。粘り気を帯びた血が手先に付着する。 まだ固まっていない。 そう遠くはないな。追跡は可能か……仕方がない。 僅かな逡巡を得て追跡を取ることを決める。 問題はこの血の道しるべ。どちらの端が奴へと続いているのかだった。 「手間を取らせてくれるものだな」 ◆ 『まずは長い夜を越え生き延びられたこと、お祝い申し上げますの』 幼い少女の声が響き渡る中、一人の青年――バーナード=ワイズマンは息を切らしつつ細い通路を進んでいた。 目指す場所はあるが、どこに向かっているのかが分からない。 前回の放送の前、ブラックゲッターの整備を行なったときに基地内の見取りは一通り頭に叩き込んではいる。 だが、気絶中に動かされたことが災いし現在位置を見失っていた。 今いる場所が分からなければ、地図など何の役にも立ちはしない。だから、指標となる場所を闇雲に探していた。 一人、また一人、死者の名が読み上げられていく。 聞きたくなかった。聞きたくはなかった。 死んだ人間の名を聞くごとに『自分は本当に生き残れるのか』という疑問が沸き立つ。 ついていただけだ。 既に三度も気を失い機体も失った。そのどこで死んでもおかしくはなかった。 ついていただけだ。それは誰よりも自分自身で身に染みて分かっていることだ。 失血からくるものか、頭がくらりと揺れた。歩みを止め、うつむき、壁に手をついて崩れ落ちようとする体を支える。 そのとき、一つの名を耳にして弾けるように天を仰いだ。 「嘘だろ……」 知らない名の中に混ざり込んでいたただ一つ耳に覚えのある名――シャア=アズナブル。 赤い彗星の異名を持ち、戦艦五隻をただ一人で沈めてみせたルウム戦役の英雄。 会った事はない。だが『通常の三倍の速度』の性能を引き出すとまで言われた彼は、生きながらの伝説となりつつある。 そんな男でも死んだ。 そのことがお前程度では生き残れない、と告げてくる。 歴戦の勇士に比べ撃墜数ゼロの新兵である自分はあまりにもちっぽけだった。 「なぁ、アル……こんな俺でも本当に生き残れるのかよ……」 弱音。滲んだ視界の向うにサイド6の光景が見える。 ホンの僅かな時間だけ滞在したその場所。里心が込み上げる。 中立コロニーでの戦闘。撃墜。アルとの出会い。再会。クリス。所属部隊の壊滅。核。 そして、ガンダム。 そこは余りにも濃密な時間を過ごした場所だった。 あの連邦の男は言った。サイド6にジオンの核攻撃はなかった、と。 だったらもう一度あそこに戻りたい。 約束したんだ。運よく生き延びて戦争が終わったら帰ってくると、会いに行くと。 それにアルやクリス、自分が守ったものを見てみたいんだ。見栄や虚栄心からじゃなく誇りたいんだ。 今度は嘘じゃなく、俺は本当に凄いんだぞってことをアルに言ってやるんだ。 生き残りたい。帰りたい。あの場所に帰りたい。……そうだ。 「俺は帰るんだ、あいつらが待っている……あの場所に」 言葉の最後は無理という思いに押しつぶされ涙声となって消えていった。 ◆ 「そんな……」 沈痛な面持ちで放送に聞き入っていたベガは、格納庫の一角に間借りしている事務所のような建物の中で、突然発せられた声に振り返った。 「知っている人?」と言葉を発しかけて異常に気づく。 顔に色が無い。口を開け、呆然とした状態のままでカミーユは立ちすくんでいた。 「カミーユ」 呼びかけるが返事がない。もう一度。 「カミーユ!」 やはり返事は無い。反応一つ返ってこない。 思わず歩み寄り、肩を掴んで揺さぶりつつ叫んだ。 「カミーユ、しっかりしなさい!! カミーユ!!!」 それでようやく顔がこちらを向く。しかし、焦点が定まっていない。 そのままどこを見ているのか分からない目、虚空を仰ぎ見る目でカミーユはぽつりと呟いた。 「戻らなきゃ……」 「えっ?」 急にもがき始めたカミーユを押さえ込もうと手に力を込める。 「カミーユ、落ち着きなさい」 「早く戻らなきゃ……」 「何を言って」 「だってそうでしょ!? あの人も、クワトロ大尉もいない。百式もない。そうだ、俺がここにいるってことはZだって無いかもしれない。 それでどうしてティターンズやアクシズの連中と戦えるって言うんだッ!! 離してくださいよ。早くエゥーゴに、アーガマに戻らないと」 何処を見ているのか分からない目。いや、カミーユの目はただ出口だけを見ていた。 そこだけを目指し、出て行こうと必死でもがいている。扉の先に何があるのかなんて考えていない。 ただ扉があるからそこに向かっている。その先はここよりも元いた場所に近いと思い、何とかそこに辿り着こうとしている。 押しとめようとして突き飛ばされ、応接用のソファーに仰向けにひっくり返った。 起き上がったときにはカミーユは既に扉を開け、事務室から格納庫の中へと進んでいる。慌てて後を追う。 「カミーユ、待ちなさい!」 その間にもカミーユは格納庫から通路へ、狭い通路を突き進みまた別の建物へ、と脇目も振らずに進んで行く。 何度も繰り返し名前を呼ぶ。聞こえていないのか、無視しているのか、返事は無い。 VF-22に向かうわけでもなく。その動きに一貫性はない。何となく目に付いた場所を横切り、ただ外を目指しているように見えた。 突き当たりの角を曲がったカミーユの背が消える。 追いかけて曲がったとき目の眩むような光が辺りを満たした。その眩しさに思わず手を翳す。 細めた視界に建物の出口と、その先で立ち止まり呆然としているカミーユの後姿が見えた。 清々しい朝の空気の中、太陽が昇っていた。 一歩基地の外へと歩み出し、格納庫や機体と遠ざかった場所に出ていることにホッとした。 もし外に出た目の前に機体があれば、そのまま何処かへ飛び去ってしまいかねなかった。 そんな勢いだった。 それも今はなりを潜め、ただ呆然と朝陽の昇る空を眺めている。 若干弾む息を整えてからゆっくりと側に寄って行く。 寄って行ってなんて声をかけていいか分からずに焦った挙句「綺麗な朝陽ね」と的外れな言葉を投げかけてしまう。 反応はない。しまったと思ったが、もう遅い。無言のまま五分十分と時間が流れる。何度か声をかけようとしたが、かける言葉はやはり見つからない。 そしてベガが途方に暮れ始めた頃、もう諦めていた返事がきた。 「……そうですね」 息をするように零れた言葉。何の考えも込められていないようなその言葉に優しい響きを何となく感じた。 放送直後とはうって変わった平静の光をその瞳に認めて安堵の息を吐く。 朝陽を眺めたまま無言の時間がまた流れていく。しかし、その空気が幾分か軽くなっている気がした。 しかし、そうではなかった。 「勝手なんですよ、あの人はいつも」 平静? とんでもない。触れれば崩れ去ってしまうような表情がそこにはあった。 処理しきれない感情を押し隠そうとしてどうにもならず、どうしていいのか分からなくなっている。 訥々と静かに語られる言葉の裏でどれほどの激情が渦を巻いているのか……。 「自分勝手で、臆病者で。大人の責任ばかりを押し付けてくるくせして、一人前の大人として扱おうともしない。 人に夢みたいなことばかりを説きながら、その気になれば戦争を終わらせられるだけの立場にありながら、大人の責任を果たそうともしない。 あなたにはまだやることがあったはずだ! あなたにはまだやるべきことがあったはずだ!! あなたはまだ果たすべき責任を全うしてない!!! なのにッ!! なのに……こんなところで死んでどうするんですか……」 次第に激を増していった語調は、しかし急速に閉じられて擦れた様な声で幕をおろした。 不安定だ。そして、子供だ。置いて逝かれてしまった感情を愚痴に変換することで処理しようとしている。 そうする他無いその身が不憫に思え、引き寄せて慰めようとして――突っぱねられた。 「カミーユ?」 「同じだ、あなたもあの人と。俺にやるべきことや責任ばかり求めるくせに、そうしてすぐ子ども扱いしようとする。 なのに、そのくせして自分では何もしようとしない」 「そんなことは……」 やり場の無い感情が次なる捌け口を見つけた。 とめどなく湧き出てくる感情が自己の不満へと姿を変え、ベガに襲い掛かってくる。 「だったら何ですか? あの男の、ユーゼスのいいようにさせている。汚いやり口から目を塞いで自分は見ない振り、気づかない振りをしている」 「違……」 「違うと言うのなら何故、好きにさせているんです?」 カミーユのユーゼスに対する不満や反発は知っていた。ユーゼスの行動や発言も知っている。 しかし、その殆んどは一応の筋が通っているものばかりである。合理性を突き詰めればそうなるというものが多い。 ただ彼に抜けているのは、人を思いやるという行為。 それを説くことは出来た。でもしなかった。今理屈を説いてもおそらく逆効果。 感情に流された頭を余計熱くさせるだけのように思えて、ベガは言葉が見つからなかった。 「答えることも出来やしないじゃないか。そうやって反発の一つもしないで、物分りがいい大人を演じて。 それが汚い大人のやり方だって言うんですよ」 カミーユは捨て台詞を残し踵を返すと、基地の内部へと戻り始める。 何もしてない大人。そのように思われ、見られていたということが痛かった。自分は自分なりにやってきたという思いはある。 集団を集団として機能させるため、ユーゼスの力を十二分に発揮させるために、陰日向無く頑張ってきた。 それがまさかあのように見られ、不満を募らせているとは思いもよらなかった。 カミーユが絶対的な味方として自分を自分の側に置きたがっているような気はしてた。 しかし、それを子供の甘えと判断し、努めて中間に位置しようとしてきたのは自分だ。 それが間違いだったのだろうか? それとも知らず知らずのうちに少しユーゼスの側に寄りすぎていたのだろうか? 答えは出ない。出せばカミーユか、ユーゼス、どちらかを切り捨ててしまうように思えた。 それにこの後、二人が顔を会わせるとき、私はどうすればいいのだろうか? どうしたいのだろうか? そう、私は―― 意を決した顔が前を向く。カミーユの消えた基地内部へと続く入り口、そこを見据える。 自分がどうすべきなのか。自分がどうしたいのか。答えは単純だった。 私は――守りたい。 今のこの絆を、手の届く仲間を。 そして、導きたい。 例え自分は嫌われても、間違った大人にならないように人として正しい方向へと。 足を踏み出し入り口から基地の中へ、一歩一歩前へ。 そうやって消えていくその背中には母親の強さが滲み出していた。 「カミーユ、待ちなさい」 ◆ 「見つけた」 薄暗い司令室の中、無機質なモニターの明りが燦然と並び立ち無数の文字の羅列を浮かび上がらせている。 襲撃や占拠に備えた迷路の如く入り組んだ造りに迷いに迷い、どうにかこの司令部を見つけ出したのが十数分前。 そこから僅かな時間で目的のシステムを探り当てた。それは性質的に咄嗟に発動できないような造りにはなってはいないとはいえ、まずは上出来と言える。 瓦礫の底から抜け出した後、バーナード=ワイズマンは何よりも優先したことがある。それは機体の確保でもなく、傷の手当てでもない。 その優先するものの為に基地のシステムにアクセスできるポイントを探し、ここを見つけた。 その目的の目途は立った。しかし―― 上げた視界がメインモニターを捉えた。 そこでは無数の数式や文字の羅列が表れては消え、消えては表れている。 目で追う暇もないほど目まぐるしく書き換えられていく文字列。 「これは……なんだ」と首を傾げた瞬間、耳が靴音を捉えた。同時に響く聞き覚えのある声。 「解析結果だよ。開発室で行っている首輪の解析とはまた違う役目、バックアップと万が一に備えた解析結果の保存、それが私がここに与えた役割だ。 まさか生きていたとはな。不運な男と思っていたが、存外に悪運が強いものだ」 硬質な音を響かせゆっくりと規則正しく誰かが迫って来る。背筋が凍りつくのを感じた。 迷いに迷い歩いても誰にも出くわさなかった。だからここに、少なくともこの棟に人がいる可能性は低いと思っていた。 それは単なる幸運な思い違いだった、と知る。その思い違いが一番会いたくなかった人間をここに運んだ。 怖気の走るような雰囲気を纏った男。奴とは顔を会わせたくは無かった。苦みばしった声が漏れる。 「ユーゼス=ゴッツォ!!」 「その通り。この私だ」 「どう……」 「どうやって生きていると知った? どうしてここが分かった? 簡単だ。放送に名前が無いようではすぐに分かる。 もっとも放送以前に気づいていたがね。 それに、その出血。何と言ったかな? 獣が狩人に追われているときに足跡を重ねて戻り、大きく跳ねて離れ、逃げるあの性質。狼などイヌ科の仲間によく見られるあれだよ。 二股に道を分ける。突然跡を消す。血の跡を自覚し、それと似たようなことはしていたようだが無駄な足掻きだ。その程度のことで私を撒けるはずがない」 質問に先んじて与えられた答えに臍を噛む。急く足を抑えて施した術が撹乱にもなっていない。 悔しかった。貴様の浅知恵など何の役にも立たないと言われている様で、それは悔しい。だが、まだ手はある。 「動くな! これ以上俺に近づくな」 警告。 しかし、それに頓着することなく、一切の気を払うことなくユーゼスが歩を進める。ゆっくりゆっくり、しかし確実に間合いが詰まってくる。 「そういえば、まだ答えを聞いていなかったな。三度目だ。返答を聞こう。この私に協力するか否かをな」 くぐもった声でユーゼスは愉しげに笑う。 こちらが敵愾心を抱き始めているのを承知の上で、それを意にも介していない。こちらの答えなどどちらでもいい。 最初からこいつはそうだ。自分以外の人間など認めていない。自分さえいれば何でも出来ると思っている。 ゆえに人を駒と断じて臆すことも、恥じることもない。人に手駒となれというのにいささかの躊躇も持たない。 そんな人間について行けるはずが無い。だから答えは―― 「答えはノー! 絶対にノーだッ!!」 答えると同時に手元のキーボードを叩く。手順は簡潔。既に確認済み。後はエンターキーを押すだけだ。 「俺は警告したぞ、ユーゼス。これ以上俺に近づくなって」 基地内に赤色ランプが灯り、警報が鳴り響き始める。一拍遅れて機械の駆動音が響き、ユーゼスの真上に位置する天井が動いた。 「何だと!?」 隔壁が直上から落下する。ユーゼスと自分の間に降ろされる隔壁の数は二枚。 ユーゼスはその二枚目の真下だ。手前の一枚目が重音を鳴らして降り切り、視界を塞いだ。 これでいい。例え、直撃を免れても一枚目と二枚目に挟まれ、ユーゼスは行き場を失う。 終わりだ、ユーゼス。もうお前はどうすることも出来ない。 同質の重低音が続いて鳴り響く。連鎖的に巻き起こり基地全体が震えたかのような”ズン”と腹に響く重い音は司令室にいても十分に感じ取れた。 開閉機能にロックをかけてほっと息を付く。 基地内のそこここに設置され有事の際には使用される隔壁を全て降ろした。これで基地内部にいるはずの人間の行動は著しく制限される。 ユーゼスと言わず全ての人間は閉じ込められたはずだ。後は現状を維持したまま機体を手に入れれば、全てにかたがつく。 不安なのは外部に人がいて内部の異変に気づくことだが、ここから確認できる動きは今の所は無い。 気づいていないだけなのかもしれないが、それは上手く閉じ込めたことを祈る他なかった。 気を取り直して上げた顔、その耳に耳障りな機械音が聞こえた。 先ほどと全く同じ機械音。降り切っていなかった隔壁がまだ残っていた? 馬鹿な。音はすぐ背後から聞こえてくる。 隔壁が巻き上がっていく。 「嘘だろッ!! ロックはかけたはずだ……向こう側にも端末があるにしてもこんなに素早く隔壁の解除なんて出来るはずが……ない」 「全く度し難い愚かさだな。基地の全ては掌握している」 分厚く重厚な弾丸すら通さないその壁体の向うに冷え冷えとした鋭い眼光を感じた。 「君程度の浅知恵で私を閉じ込められると思っていたのか、この空間からの脱出を謀る私を」 通れるようになるまでにはまだ間があったが、そのどす黒い声に全身の肌が音を立てて粟立つのを感じた。 逃げなければと半ばパニックになった頭が働き、隠れ場所を求めて司令室内部をグルリと見渡す。 青白く浮かび上がるディスプレーと端末が整然と並び立ち、その後ろはぽっかりと穴が空いたように空間の開けている指揮所。 隠れる場所などない。あって精々デスクの下、という程度である。 それでも視線は世話しなく動き逃げ場所を探す。 司令室の出入り口は一つ。そこは隔壁で塞いでしまった。なによりもその間にユーゼスがいる。 何か、何かあるはずだ。それでもその思いが視線を巡らせ、メインコンピューターから束になって外へと向かっている有線ケーブルに気づかせた。 ――外に何かある。 振り返る。丁度その時、潜り抜けられる高さまで上がった隔壁の闇に青白い仮面が浮かび上がった。 ――ユーゼス=ゴッツォ。 迷っている暇は無かった。 度重なる戦闘で割れた窓枠に手をかけ外を覗く。伸びるケーブルの先、巨大な機体がそこに佇んでいる。 ついていると思う余裕も無く腕に飛び移り、つんのめる様にコクピットに身を滑り込ませる。 途端に首輪から脳内へと湧き上がってくる情報の束。疑いも不審がる暇も無くその情報そのままに起動シーケンスを踏んでいく。 スタンバイ状態から復旧したメディウス・ロクスの瞳に光が灯ったその瞬間に、間髪入れず上昇。 とにかくその場から離れたかった。 上空を目指しながら、ディスプレイに次々と表示される機体のコンディションに目を通す。 損傷多数。ENの残量も50%未満。余り状態は芳しくない。 しかし、何だ? 損傷修復中? EN回復中? メンテナンスフリーを実現した機体だとでも言うのか? だとすれば永久機関が搭載されている? そんなこと可能なのか? いや、今はそれより……。 湧き上がる疑問を一先ず隅に置き、すっかり全景が視界に収まりきるようになった眼下の基地を見下ろす。 目視で確認できる機体は数機。ユーゼスは仲間が三人いると言っていたが、その数よりも遥かに多い。 破損の激しいものから無傷なものまで様々。だが、あの機体が見当たらない。 あいつはこうも言っていた『内二人は此処にはいないがな』と。 「なら、いないのは……あいつか」 そこに一抹の不安を覚えたが、今現在起動している機体はこのメディウス・ロクスだけ。 つまり残りの機体は未稼働。恐らくここにいるパイロットは隔壁内に閉じ込められている。ならば―― 顔が苦渋に歪む。 抗う術はなく、何が起こったかさえ分からないまま人が死ぬ。 人の、生き物の尊厳を無視したその考えを憎悪し、嫌悪し、嫌忌し、そしてそれを行なうことを受け入れた。 初めての機体。万全とは言い難いコンディション。 エネルギーゲインを一目見れば、メディウス・ロクスがMSやMA、ブラックゲッターと比較してさえも規格外な程の性能を秘めているのは分かる。 分かるが、それでも今はまともに一戦を交えたくは無かった。 なによりもあのコロニーに、あいつらの元に帰るためになるべく確実な手段を……だから。 「……すまない」 搾り出すように漏れた言葉が空気を揺らし、メディウスの胸に明かりが灯る。 その明りは大きく赤黒い残照を一瞬吐き出すと、一際鋭く中央に集約されていく。 一撃だ。一撃で中にいる人ごと基地を薙ぎ払う。その準備が整った。 後はトリガーを引き絞るだけ。 出来ることなら誰か止めてくれ、と願った。本当はこんなことしたくないんだ、と思った。 そう念じつつ指をかけた。 震える指でゆっくりとゆっくりと躊躇いがちにトリガーが引き絞られ、願う邪魔者は現れず閃光は解き放たれた。 ターミナス・ブレイザーと呼ばれるそれが、地獄の業火と呼ぶに相応しい赤黒い奔流を伴って降り注ぐ。 予想外の威力に僅か機体が揺らぎ目標にズレが生じたが、それはもたらされる結果からすれば無視して構わない程度の誤差に過ぎない。 大地と言う遮蔽物に遮られたそれは一瞬地表でマグマの吹き溜まりのような光球となり、爆ぜ、広域に広がっていく。 建ち並ぶ倉庫群。基地らしく質素にして剛健に誂られた建物達。あらゆるものが薙ぎ払らわれ焦土と変わる。 膨大な熱量に晒されたモノは粟立ち、瞬く間に熔けて消えて行く。蒸発という言葉がピタリと当てはまる破壊。 直撃を免れた建物も高圧空気の衝撃波に押し潰され、粉微塵となって吹き飛んでいく。 砕かれた破片は渦を巻く爆風に遥か高くまで舞い上がり、上空1000mの高さで佇むメディウス・ロクスの装甲を叩いた。 その破壊が過ぎ去った後、眼下に残されていたのもまた破壊だった。 瓦礫の山が散乱している。そこここで火災が発生し、飛び火した火の粉が被害を免れた火薬に燃え移り、爆ぜ、連鎖的に爆発が続いている。 遺棄された機動兵器達に残されていた弾薬が爆ぜているだけでこの惨状なのだった。 通常、二重三重の防護が施されている弾薬庫とはいえ、そこが空であったことは不幸中の幸いと言えるだろう。 それでも巻き上がる膨大な量の黒煙は周囲を満たし、燃え上がる炎の熱量が機体を焦がす。観測されている外部温度は場所によっては鉄すら溶かす。 僅か数秒前から様変わりした景色。焦土と言うに相応しい情景。 辛うじて原型を留めているのは、司令室の存在する管制塔とあと幾つかだけ。それも無傷とはとても言い難い。 それを改めて丁寧に壊しなおす気力はなかった。 剥き出しの鉄骨、鉄筋、砕かれひび割れたコンクリートの塊、それらが何処といわず混ざり合い散乱し、千に砕けた硝子がそこに混じって煌いている。 呆然と全てを眺めた後、顔が苦悩に歪む。自責の念に駆られて――愕然とした。 生き残りたいと願った。あの場所へ帰りたいと願った。 その為に人を殺すしかないのなら殺す覚悟を決めたのも自分だ。 だがしかし、その代償がこれなのか? 人を殺すのにこんな馬鹿げたモノが必要なのか? MSが誇る火力とは比にならない。大量破壊兵器。その言葉で収まりきらないほどの強大な火力。 人一人の手には有り余る。人と言わず目に映る景色そのものをこの力は壊してしまう。 そんなものが、こんなものが人を殺すのに本当に必要なのか? 手が震え、未だトリガーにかけられたままの指に気づき、慌てて引き剥がした。 おぞましいモノを握っているような気がした。 何かが間違っている。 生き残る代償とはわかってはいても、目の前には人の生き死にとはまた別次元の破壊が横たわっている。 こんなもの徒手空拳の人間相手にふるっていいはずがない。それをやってしまった。 核が何故禁忌とされているのか、分かった気がした。 あまりに破壊が大きすぎる。人を殺すため、戦争を終わらせるため、その目的に対して相応な域を逸脱している。 何よりもその巨大な爪跡を背負える人間がいないのだ。 自らが押したボタン一つで眼下の光景が様変わりする。それを喜々として行なえる人間はもはや常人とは呼べない。 大なり小なり心が壊れてしまうのが人というものだ。だからその重荷を人は分けて背負う。 核を作った者、決断を下した者、命令を伝達した者、最後にボタンを押した者。 皆が皆、その重荷を感じ、少しずつ他の者に押し付けて軽くする。それでも耐え切れず潰れてしまう者はいるのだろう。 大き過ぎる力は人を狂わせてしまう。 無論、ターミナス・ブレイザーの一撃がもたらした被害は核に及ぶべくも無い。 それでも人と言わずあらゆる物が瓦礫と化したこの光景は、あまりに重い。気が進まない。 何よりも重荷を共に背負うべき存在がここにはいない。全ての重圧に自分一人で耐えねばならない。 だけどその一方で、生き残るためにはこの力が必要だという事実を自覚している。 もう自分では止められない。この力を行使せざる得ない自分が分かる。 生き残りたいんだ。帰りたいんだ。こんな光景を撒き散らしてでも……。 それほどに望郷の念は強い。荷が重い。自分で自分を呪い殺したくなってくる。それでも自分はきっとこの力を振るい続ける。 「嘘を言い通す根性もないクセに……か。どこで耳にした言葉だったかな。 ハハ……その通りだ。アルやクリスにだけじゃない。自分についた嘘ですら俺は……」 卑怯者だと思う。根性無しだとも思う。こんなことをしたって俺がしたことが許されるわけじゃない。 『いつ』じゃなく。『どこ』でもなく。『今』俺はきっと道を間違えたんだと思う。自分に誇れるモノがこの道の先にはきっとない。 でも、もう戻れない。進むしかないんだ、この道を……なのに自分ひとりでは背負いきれない。だから―― ひどく震える指先でゆっくりと通信のスイッチを入れる。 ランプに通信可能を示すグリーンの光がゆっくりと灯るのを確認して、バーニィは渇き切ったその口を開いた。 「こちらジオン軍サイクロプス隊所属バーナード=ワイズマン。もし――」 →家路の幻像(2)
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殺意は昏き火が如く ◆ZbL7QonnV. 「ち……さっきの奴は逃しちまったか……」 流竜馬は苛立っていた。自分が現在置かれている今の状況に、激しく怒りを憶えていた。 何もかもが気に喰わなかった。 このクソッタレなゲームの事も、こんな馬鹿げたゲームを企てたあの化け物も、そしてそれに巻き込まれてしまった事も、全てが苛立ちの対象だった。 生きる為に他人を蹴落とす。これは、まだいい。これまでに繰り広げた戦いの中でも、そういった局面には何度も出くわしてきた。 他人の為に自分を犠牲にしてやるなど、甘ったれたガキの考えだ。名前も知らない他人の為に、自分の命を譲ってやる道理は無い。 だが……それでも、この状況は気に喰わなかった。 あんな得体の知れない化け物に従わされている事が、無性に腹立たしかった。 そして、なにより――永らく待ち望み続けていた復讐の機会が奪われた事が、なによりも我慢ならなかった。 「さっきのジジイみてえに、俺以外の全員が殺る気になってるって言うんなら、面倒臭え事は考えずに済むんだがな……」 獰猛な殺気を隠そうともせずに、竜馬は冷たい声で言う。言葉の内容とは裏腹に、男の声に情容赦など微塵も無かった。 ……以前の自分ならば、こんなゲームに乗ろうとは思わなかったのかもしれない。 ここから抜け出す方法を、必死に探し出そうとしたのかもしれない。 だが……長い獄中の生活は、彼を変えてしまっていた。 自分を裏切ったあの男……神隼人。 かつては戦友でありながら、自分を裏切り獄中に貶めた神隼人!! 奴に対する激しい憎悪が胸の奥に積み重なり、このドス黒い復讐心以外には何も残らなくなってしまった。 そしてその復讐心は、今この瞬間も自分を燃やし続けている……。 「待ってろよ、早乙女のジジイ……それに、隼人……! このゲームから抜け出して、てめえらを必ず血祭りに上げてやる……!」 ……思い出す。 復活の早乙女、空を覆い尽くさんばかりのゲッタードラゴン、それに単身立ち向かう自分。 そして……ゲッターG軍団との戦闘中、のうのうと自分の前に姿を現した裏切り者の神隼人。 もう少しだ……もう少しで、あの裏切り者をブチ殺してやれたものを……!! 「俺が戻るまで……絶対に死んだりするんじゃねぇぞ……!」 憎悪に目をギラつかせながら、流竜馬は拳を握る。 迷いは無かった。この手で隼人を地獄に叩き落してやれるのならば、他など知った事ではない。 このふざけたゲームで勝ち上がらなければならないのなら、そうしてやるまでの事だった。 かつての愛機――ゲッター1のマントさながらに、大雷鳳のマフラーは吹き抜ける風に棚引いていた。 【流 竜馬 搭乗機体:大雷鳳(バンプレストオリジナル) パイロット状態:良好 機体状態:良好 現在位置:C-8 第一行動方針:サーチアンドデストロイ 最終行動方針:ゲームで勝つ】 【初日 13 30】 BACK NEXT 迷いの行く先 投下順 カフェタイム ―あんたらつくづく…― インターミッション 時系列順 月の戦神と黄金の指 BACK 登場キャラ NEXT 憎悪 竜馬 それぞれの立場 それぞれの道
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RX-78-2ガンダム 機体名 RX-78-2ガンダム 全長 18.0m 主武装 ビームライフル MSの武装では宇宙世紀において最も古いビーム兵器。エネルギーCAPとやらを内臓し、撃ち尽くしたらチャージが必要なため、かなり燃費が悪い。だが威力は高い。 ビームサーベル×2 ガンダムの接近戦武装といえばこれだろう。刃渡りは10m前後。またパイロットの技量次第だがビームも切り払うことが可能。 60mmバルカン砲×2 ガンダムおなじみの普通の頭部バルカン。なんでも宇宙世紀の頭部バルカンは60mmと決まってるらしい。毎回書いてるがミサイル迎撃や目くらましにどうぞ。 ハイパーハンマー 当ロワ救済措置。ガンダムハンマーの発展系でバーニアが搭載されている。ちなみに原作ではゴッグに受け止められた。さすがゴッグだ、(ry 特殊装備 シールド 銃眼付きのシールド。強度はソコソコ。 コア・ブロック・システム 当機体は上半身のAパーツ、下半身のBパーツ、そして繋ぎ目のコアファイターの三つによって形成されている。よって必要に応じてパーツをパージさせたり、パーツを放棄して脱出などできる。間違っても飛ばしてぶつけるなんて考えないように。 マグネット・コーティング アムロのニュータイプとして成長していくうちに、ガンダムが反応できなくなったため施された処置。センサーの感度や間接部、駆動部分の駆動力、機動力の上昇を図っている。別に装備というほどのものではない。つーかこのガンダムにはMコーティングされてるのか? 移動可能な地形 空中×、陸地○、水中△、地中× 備考 一年戦争末期に連邦がジオンのモビルスーツに対抗するために作られた試作型モビルスーツ。当初は成り行き上アムロ・レイ軍曹(劇場版などでは少尉)が乗り込みそのまま実戦投入。赤い彗星シャア・アズナブル少佐と戦うも生き残り、青い巨星ランバ・ラル大尉のグフ、黒い三連星のマッシュ、オルテガ、ガイアのドム等と戦い、勝利。そして、最後のア・バオア・クーの戦いにおいて多大な戦果をあげる。試作型なだけあり、当時(宇宙世紀0079)の最高技術がつぎ込まれている。ビームライフルやビームサーベルがいい例。またこのガンダムは二号機で、一号機のプロトタイプガンダムや三号機のG-3ガンダムなど、発展型のNT-1アレックスや陸戦型ならびにEz-8、ブルーデスティニーにガンダム開発計画も込みでなんと17機も作られてる。正 直 作 り す ぎ だ ろ
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サイコガンダム 機体名 サイコガンダム 全長 40.0m 主武装 拡散メガ粒子砲×3 腹部に付いたメガ粒子砲。これがサイコのメイン武装である。 ビーム砲×10 指先のビーム砲。片手5発ずつ搭載している。 小型メガビーム砲 体中に付けられたビーム砲。弾幕にどうぞ。 特殊装備 Iフィールド ビームを遮断するバリア。サイコガンダムが巨大化した原因の一つでもある。 シールド 一応機能はするが、変形のオマケでしかない。 移動可能な地形 空中×(○)、陸地○(×)、水中○(×)、地中×(×)()内はMA時のもの 備考 日本のムラサメ研究所にて作られた大型試作モビルスーツ。火器、操縦など全てをサイコミュで操作するように作られている。当時(宇宙世紀0093)はサイコミュの小型か進んでなかったため、それに伴い機体も巨大になった。一応、普通の人間でも使えるが、システムが安定していないと発狂、死へいたる恐れがある。そのため実質強化人間専用機となった。またパイロットが戦闘を感知すると機体が向こうからやってきてくれるステキ仕様。ガンダムタイプである理由はΖガンダムの仮デザインの一つをこの機体に再利用したためである。
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メディウス・ロクス 機体名 YЦP-05 メディウス・ロクス 全長 19.6m 重量 47.8t 主武装 コーティング・ソード 見た目はビームサーベル。それ以上でも以下でもないだろう。 ディバイデッド・ライフル あらゆるレンジに対応するエネルギー系の大型ライフル。かなり頑丈な作りのようで零距離射撃をしても大丈夫、恐らくこれもラズムナニウムで出来てるのだろう。 スティング・アクセレレイション ディバイデッド・ライフルをソードモードにして相手に突き刺し、刺した上で射撃する。 特殊装備 ラズムナニウム装甲 自己修復機能を持つ装甲。 AI1 自己学習、自己進化機能を持つAI。最終的には宇宙全てを飲み込むくらいに進化するらしい。 移動可能な地形 空中○、陸地○、水中△、地中× 備考 ツェントル・プロジェクトの5号機になる。サーベラスとガルムレイドの中間的な機体特徴を持つ。自己学習能力を備えた人工知能・AI1、自己修復が可能なラズナニウムを搭載している。その特性と作中の展開から劣化デビルガンダムとも言われる。
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アルフィミィちゃんの観察日誌その1 76話「血に飢えた獣達の晩餐」 エクセレン先生のドキドキ放課後補習 100話「マイペース二人」 アルフィミィちゃんの観察日誌その2 101話「青い翼、白い羽根」 アルフィミィちゃんの観察日誌その3 107話「暗い水の底で」 アルフィミィちゃんの観察日誌その4 120話「Unlucky Color」 アルフィミィちゃんの観察日誌その5 136話「張り詰めすぎた少年」 アルフィミィちゃんの観察日誌その6 152話「家路の幻像」 アルフィミィちゃんの観察日誌その7 167話「獲物の旅」
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後からここに編集のあれこれを載せるつもりです。 水平線より下は自由に弄っていいスペースです。 このページなら変なことしても問題ないし、気楽に練習してみてください。 編集するときは上の「編集」>「このページを編集」からどうぞ。 編集ページでは下のほうにwikiの編集ガイドがあるのでそこを参考にしてください。 オススメ更新手順(あくまで筆者の主観に拠ります) まず、本編目次投下順と本編目次時系列順を編集します。以下テンプレ。 |No.|タイトル|登場キャラ|登場機体|場所|時刻|作者|map(地図編集ができない方は空白でお願いします)| するとタイトルの部分が、「タイトル?」と表示されますので、ここをクリックし新しいページを作成します。 ページの形式はアットウィキモードで作成するようにしてください。 次に本編の編集をします。 本スレで文章の修正がされている場合は、忘れずに修正しておいてください。 以下テンプレ。 * color(red){タイトル 作者トリップ} 本文一行目 ~~本文省略~~ 状態表最終行 ---- |BACK||NEXT| |[[]]|[[投下順 http //www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|| |[[]]|[[時系列順 http //www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|| |BACK|登場キャラ|NEXT| |[[]]|キャラ名|| ---- これで収録作品のページが完成します。次の作業は、既に収録された作品とのリンクです。 先ほど作ったページから投下順前話、時系列順前話、キャラ別前話に飛ぶことで編集のし忘れを防げます、多分。 ここが一番大変な作業ですが、根性で頑張ってください。つ応援 次にキャラ別追跡表の編集をします。登場キャラの登場話数を+1し、 [[話数 作品タイトル]] を追加していってください。 次に作者一覧の編集です。既存の書き手さんが投下した時は、作品数に+1し、 [[話数 作品タイトル]] を追加していってください。キャラ別追跡表の段階でコピーしておくとちょっと手間が省けていい感じです。 新規の書き手さんの場合は、トリップ順で該当する場所に |作者名|1|[[話数 作品タイトル]]| を挿入しちゃってください。 次はタイムテーブルの編集です。以下テンプレ。 |~|最新話の時間|現在地|[[キャラ名 作品タイトル]]| 基本はここまでで終了です。 タイトルの元ネタが分かっちゃったりした場合はSSタイトル元ネタ一覧の編集をしてみると書き手さんが喜ぶかもしれません。 さんざん書いておいてアレですが、編集画面を見て、今までどのように編集されてたのか真似すればどうにかなります。 さぁ、これで君も今日からwiki編集人にクラスチェンジ! このスペースは自由に弄っちゃってください 広告消したいときとかね
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Scenario IF ――Opening―― どの世界でもない、どの時空でもない空間の果て…… あらゆる可能性を秘めた世界。あらゆるIFを持つ世界。 「新たな世界……失敗」「やり直しを……完全なる生命体……」「人間は……混沌」 「混沌ゆえに……完全なる命の源」「可能性」「やはり、人間は……」 「彼」の生み出した、限りなく地球に近い宇宙のフラスコで…… 「彼」しか存在しえなかった世界に亀裂が音もなく走る。 純粋な世界に傾れ込む混沌の種。裂け目より現れるのは、50人のサンプル……いや生贄達。 彼らは、あるものは驚き、あるものは脅え、あるものはを押し黙っていた。 「ここはどこなんだ!?」 「なんだよ!?これ!」 「これは……アクシズ周辺ではないのか?」 「人の意思がまるで感じられない……」 「空気がある?宇宙には空気がないと聞いていたが……それにあの赤い結晶は?」 まるで統一性のない生贄達の動きを眺めていた「彼」は、それ以上監視の意味がないことを確認し、 存在を世界に顕現させた。 「混沌故に、純粋なる存在の可能性を……全能なる可能性を持つ……人間」 荘厳な、そして圧倒的な威圧感を持ち、声が響き渡る。 何もなかったはずの空間が白く圧縮され、円環より人知を嘲笑う、存在しえないような生物が顕現する。 顕現した「彼」……「アインスト・レジセイア」を見て、少なからず驚愕する生贄達。 植物のような触腕をもち、無機物のような光沢を持ち、骨格のような外皮を纏い、動物のような爪を携え ……人のように話す。 あらゆる生物の可能性を寄り合わせたような究極の生命体であり、 同時に、その進化の不均衡さにより膨張する体はどこまでも不完全で、「出来そこない」であった。 数百mの、あらゆる生物の進化を内包した巨躯が空間を震わせる。 「故に……」 ――人間は、完全なる生命のアーキタイプ。 「故に……」 ――でも、力は不安定で、脆くて……でも、時に「彼」をもしのぐ。 「故に!」 ――そんな人間により、混沌の中生み出される力を知るために。 「混沌こそ法の世界……閉鎖世界で……ただ一人になるまで……」 水を打ったように沈黙する生贄達。 「次からは、こちらが説明しますの」 不意に、その場にそぐわない幼い声がした。 「今から、皆さんには、殺し合いをしてもらいますの」 どこからかわからないが、突然青い髪をした少女が「レジセイア」の前にいた。 「ルールは……これを……」 少女が指揮者のように腕を上げる。すると、空間の片隅にあった真紅の色をしたストーンサークルが砕け散った。 ぼんやりと蛍のように赤く光る細かい石が、少女の腕に合わせて、上下のない世界で踊る。 そして…… 『!!』 一度、また一箇所に集まったかと思うと、生贄達全員の首に向かって拡散、ぶつかった。 しかし、彼らに怪我はない。代わりに、首には真紅の首輪がはめられていた。 同時に、生贄達に膨大な知識が流れ込んでいく。 「マシンの操縦方法から、殺し合いのルールまで、全て圧縮しておきました……ですから、分かると思いますの。マシンは……」 「ちょっと待ってお嬢ちゃん!いったいどうしたって言うの!?」 金髪の女性が、少女に話し掛けた。他の者は静寂を保っている。 「エクセレン……それにキョウスケ。お久しぶりですの」 「答えになってないぞ、アルフィミィ。女王蜂は、俺たちが倒したはずだ。それに、お前は何ををしている?」 続いて、おそらく察するに「キョウスケ」と呼ばれた男が呼びかけた。 「私たちは……思念体の一部。思念体のそのものはこちら側にありますので……」 「『私たち』、か。お前はもう操り人形じゃなくなったはずだ。違ったのか……!?」 語気を強くして、「キョウスケ」は「アルフィミィ」に言う。 「私は……不完全で、ペルゼインの一部。でも今は違う。独立して存在できるようになりましたですの」 「答えろ!アルフィミィ!」 「お嬢ちゃん!」 2人が呼びかけるが、もうアルフィミィは何も言わない。 彼女が空に円を書くと、今度は大小違う赤い球が生贄の前に現れる。 「その球に触れてくださいですの。中には渡すものが全て入っています」 しかし、誰も入ろうとしない。疑って用心するもの、まだ戸惑っているもの、様々だ。 「だから答えて!お嬢ちゃん!」 相変わらず「エクセレン」が呼ぶ。すると、少し目を伏せてポツリと、 「もう、レジセイアは貴方達を必要としていない。ですから、終わりです。もう赤い球に入ってください」 「そんな!そんな理由わかるわけないじゃない!だってあなたは……」 「お願いです……」 小声で「エクセレン」の声を遮るようにこぼすが、彼女は話しつづけた。 「『もう一人の私』なんだから!そっちにいないでこっちにきて……」 「レジセイア」の手が急に輝くいた。すると ポン 軽い音と共に、首輪がはじけた。煙も上げず、音だけのような爆発を残し……彼女は首を永遠に失った。 もう、何も喋ることはない。 「エクセ……レン?」 うわごとのようにキョウスケが言った。 「これ以上、手間はかけたく……ありませんので……レジセイアが……手を下しました……急いで球に入ってください……」 震えるような声でアルフィミィが言うと、彼女は指を動かした。すると、キョウスケの体は赤い球にぶつかり、 吸い込まれていく。 「他の人も……早く……」 その声に促され、次々と触れては中に入り、どこかへと転移していく。 残されるのは……誰かの泣きじゃくる声だけだった。 本編0話 Opening
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Opening~100 101~200
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穴が空く ◆7vhi1CrLM6 ベガと未確認機の接触から約十分。ユーゼスは基地の施設の中一人、探査機器に注ぐ目をそらした。 二つの光点はその動きを止めている。 それは悪くないことだ。 まだ確定とは言えないが、新しい手駒を現在の戦力を削ることなく得ることが出来た。そう思えば上々の出来と言える。 だが―― 『黙』と黙り込み、わずかな逡巡を経たユーゼスの口元が笑う。 「だがしかし、何事かが起こって欲しかったのだろうな、私は……」 そこにもっともらしい理由を探すとすればAI1の教育、更なるの進化の可能性、といったものを付ける事は出来るのだろう。 最終的には、単機でアインストと渡り合える状態までメディウス・ロクスを持っていきたい、という欲も存在する。 しかし、違う。もっと根源的で、純粋で、単純なものだ。 それは少年達がカブト虫を闘わせたがるようなものだ。 百獣の王と密林の王者が出会えば、人はそこに何かを期待する。そういった類のものだ。 まぁ、いい。と踵を返そうとしてもう一度探査機器に視線を注ぎこんだ。 場はまだ張り詰めている。グラス一杯に注いだ水が表面張力だけで持っているようなものだ。 ここに一石を投じればどうなるのか。はたして均衡を保ちえるのか。 一石は何でもいい。例えばあの青年でも……。 密やかに笑い、メディウスを見上げる。AI1に行なわせている作業は二つ。 一つはベガの動向に対する観察。これは、探査機器が軒並み不調な状態を基地のデータとリンクさせることによってカバーし、行なっている。 そして、二つ目がアインスト細胞と未知のナノマシン、そしてゲッター線の解析だ。解析率はまちまちだが概ね良好。 最も進んでいるアインスト細胞は現状で約五割の結果を弾き出している。既に半分近くは解き明かされたのだ。 だが裏を返せば、まだ半分も未解明な部分が存在するとも言える。 そして、自らの手で分解を行なった半壊した首輪。こちらは損失された部分を含めても七割から八割程度の解析は終えている。 つまり玉を壊せばアインスト細胞は消失するという前提が正しければ、解析はほぼ終了しているといっていい。 そう結論付けたユーゼス=ゴッツォはその場を後に動き出す。 手駒の一つとしてここで賭けてみるのも面白い。一石として投じるのも悪くは無い。 どちらに転ぶにしても事は、愉快に進む。 ◆ 夜明けを待つ空はまだ暗く、夜気は未だそこここに満ちている。 その静寂を裂き、流竜馬が一人歩く。 迸る生気は余りにも猛々しく、際立っている。身を晒すことにいささかの躊躇もそこにはない。 悠然と草原の中、歩を進めてきた竜馬はそのど真中に陣取ると仁王立ち、敵機を見上げた。 目測で二、三十メートル上空。開け放たれたコックピットカバーの向うで、黄金の髪が棚引く。 仮面の女が見下ろしていた。 二つの視線が交わる。五秒十秒時が止まる。 「どうした? こっちは機体から降りてきてやったんだ。そっちは降りてこねぇのか?」 「今、降ります」 そう言うと女は実に流麗且つ軽やかに飛び降りた。 ――馬鹿な、正気か? 思わず自分の目を疑ったその前で、全身のバネを柔らかく使い女が着地の衝撃を吸収する。ふわりと埃が舞い上がる だがそれだけだ。派手な落下音など何処にもない。 ちょっとした段差。ほんの一メートル程の段差から飛び降りた程度の動きも無かった。 ――なんてぇ足腰してやがる。 「どうかしましたか?」 「いや、何でもねぇ」 二、三十メートルの落差から飛び降りたことを、気にも止めていない。 何食わない顔で、ごく普通のことのように思っている。 そのことが相手が普通ではないことを、突きつけていた。 ――チッ、そう上手くはいかねぇってことか。 女一人を縊り殺す程度ならば、多少の疲労など問題にもならない。そう思っていた。 だが出て来たのは、それが通る相手ではなさそうだ。 チラリと赤い敵機を盗み見る。大した損傷の無い機体。欲しいのはこいつだ。 だが、聳え立つ大型機相手に素早く乗り込む手立ては、流竜馬にはない。ならば―― 「ベガです。よければ情報の交換などしたいのだけれど、いいかしら?」 「流竜馬だ。あぁ、いいぜ」 差し出される右腕。 それを握り返すと女は微笑んだ。柔らかい、人を包み込むような優しい笑顔だ。 竜馬も笑い返す。獰猛な、身震いするような笑みだ。 竜馬が腕に力を込めてベガを引き寄せた。ベガの体勢が崩れる。竜馬の両腕が首筋を通り過ぎ、うなじの位置で巻きつく。 さらにベガが引き寄せられ、竜馬の胸板が眼前に迫る。 「えっ?」 虚を衝かれたベガはただ困惑するばかりで、事態を未だ正確に把握していない。 その隙をついて腹部に強烈な膝蹴りがめり込んだ。一瞬息が止まり、絶息したベガが咳き込む。 首相撲から見事な膝蹴り。ムエタイで言うところのティーカウである。 「悪いな。手前の機体、貰っていくぜ」 さらに二、三発。そして、最後に勢いをつけた膝蹴りが顔面にめり込む。 仮面が砕け散る。呻きを挙げたベガが倒れこむ。手ごたえは十分。骨を折った感触は膝に残っている。 これで暫くはまともな動きは取れないはずだ。身のこなしさえ封じてしまえば、警戒するものはなにもない。 後は確実に止めを刺し、物言わぬ肉塊に変えればいい。 右腕を伸ばす。無造作に、無遠慮に、荒々しく髪を掴み引き起こそうとした、そのときだった。 倒れまともに動くことは出来ないはずの人影が大きく跳ねた。 よける暇も無い。腹部を強烈な衝撃が襲い、蹴り飛ばされた。意識が歪む。 しかし、さすがにそのまま倒れこむような失態は犯さない。瞬時に体勢を立て直した。 距離が開く。 むくりと起き上がる人影。それが揺れて消える。 一瞬、動けなかった。馬鹿な、と思う。 いくら暗がりの中とはいえ、人間などそうそう見失うものではない。 が、驚愕に立ちすくんだのもほんの一瞬。頭よりも体が先に反応を起こす。反射的に右腕が頭を庇った。 ガードした右腕ごと頭蓋を持っていかれそうな重い衝撃。その蹴りの鋭さは尋常ではない。骨が軋み、肉が悲鳴をあげる。 そのままの体勢。空中でもう一撃喰らわそうと女の逆足が動く。 その一瞬、女の顔が苦痛に歪み動きが鈍った。蹴り足を掴み取る。振りかぶり大地に叩きつける。 そして、間髪入れずに頭蓋目掛けて踏み下ろした。 が、同時に足を駆られて転倒。飛び起きたのは同時だった。 上段回し蹴り。それを女は仰け反るようにかわし、そのまま後へくるくると回転して距離を取る。 鉄錆びのような味が口内に広がり、唾と同時に吐き捨てる。視線は相手から片時もそらさない。 遠目に見ても呼吸がおかしい。やはり骨は折れているのだろう。 だが、およそ人間からは懸け離れた身のこなし。それはまだ残っている。 「聞きたい事があります」 「……なんだ?」 「金色の機体の名前は百式というのではないですか? パイロットはどうしました?」 「さぁな。しらねぇなぁ、そんなことは……だがあれを真っ二つにしたのは、この俺だ」 ベガが揺れている。本当に揺れているのは自分なのかもしれない。あるいは両方か。 頭部を狙ってきた鋭い蹴りは受けたものの、確実に脳を揺らしていた。 この相手を素手で倒そうと思えば骨の一本や二本ではすまない。そう思わざる得ない。 最悪、殴り合いの末に相打ちもありえる。そう覚悟させるほどの相手だった。 そして、それはよくない。だからといって今更殺り合わずに済むという状況でもない。 ちらりと背後の大雷凰を盗み見る。機体はまだ替えが利く。しかし、体は痛んだから取り替えるというわけにはいかない。 半歩機体ににじり寄る。 やりあうなら生身よりも機体でだ。そして乗り込むなら大雷凰だった。 聳え立つ赤い大型機にあの女よりも素早く乗り込む手立ては、自分にはないのだ。 次の瞬間、竜馬が全速力で駆け出した。 同時にベガも動き始める。どちらが相手よりもどれだけ早く機体に乗り込むか、それが勝敗を左右していた。 ◆ 闇に靴音が響く。それでハッとした。 時間が分からない。 後ろ手に縛られたまま流れた時間。与えられた思考の時間。 それが短いようで長かったのか。それとも長いようで実は短かったのか。 孤独な夜は時間間隔を奪い去っていた。 「ではバーナード=ワイズマン……いや、親しみを込めてこう呼んだほうがいいかな? バーニィ、時間は十分に与えた。君の返答を聞かせてもらおうか」 親しみを込めて? 腹の底で唾棄する。 抑揚のない、感情の一切が篭らない声。人間扱いされていないことは嫌でも感じ取れる。 『あんたが興味あるのは自分のこと。ただそれだけだ』そう、罵ってやりたかった。 だが、それが出来る状況でないことは分かっている。 今は立場が弱い、何も言うことが出来ない。強い者には従うだけ、そんな自分が惨めに思えてきて、情けなくなる。 だが、今はどうすることも出来ない。 それでも素直に従うことには抵抗があった。だから口を開く。 「答える前に根拠が欲しい」 「根拠……何のかね?」 「あんたに協力すれば生きて帰れる。そう思えるだけの根拠だ」 不機嫌を買うことを怖れながらも、どうとでもなれという気持ちがあった。だから言葉を重ねる。 「あんたの言っていることが丸っきりの嘘だとは思っていない。 だけど、あんたに従っていれば簡単に生きて帰れる、そう言われて簡単に納得できるほど俺は子供じゃない。 だから根拠が欲しい。このままだと俺は、あんたの言葉にYESと口だけで答えて、あんたを裏切るぞ」 「この状況で私を脅すか……見かけに似合わず勇敢な男だ。 だがそんなことを言ってもいいのか? 君の命は私の手に握られているのだぞ」 その通りだった。現時点で命を握られているのは疑いようのない事実なのだ。 それを引き合いに出されれば、従わざる得ない。所詮、自分はその程度の小さな人間だ。 突きつけたのは、ユーゼスの側からすれば無視をしても一向に構わない条件なのである。 だが、このまま唯々諾々と言われるがままに従うのは受け入れ難かった。 思考を止めればきっと恐ろしいことが待っている。そういう気がしていた。 だからこれは賭けであり、抵抗だ。小心者の自分に今出来る精一杯の抵抗だ。 それこのまま終わらせたくはなかった。 無言を答えにして返す。視線を逸らすなと自分に言い聞かせる。体が震えだそうとするのを必死に堪えていた。 そのまま五分十分と睨み合いが続く。ふっと仮面の奥底に潜む目が笑った気がした。 その気配の禍々しさに思わず背筋がゾッとする。取り返しのつかない提案をしたんじゃないのか、そんな気さえした。 「まぁ、いいだろう。ここに二つ、君とって有益な情報の入った封筒がある。 見せてやろう。ただし一つだけだ。好きなほうを選ぶがいい」 そう言って掲げられた二つの封筒には表題が振ってあった。 一つには『首輪』と。もう一つには『脱出』と。 選択肢の存在に驚き、どちらを取るか迷い、そして手の平で踊らされていることに気づいた。 どちらを選んでもいいという事は、両方に本物の情報が記されていること。 それを一つは見せ、もう一つは見せないことによって手綱を掴む。 見た情報が有益ならば従わざる得なくなるのは、自明の理だ。何も知らないままよりも身動きは取り辛くなる。 ユーゼスが「どうした? 必要ないのであれば……」そう言って、封筒を持つ手に力が込もる。 音を立てて破り割かれようとしたその瞬間―― 「脱出だッ!!」 叫んでいた。ピタリと手が止まり、男が満足気に目を細めた気がした。 「ならば受け取るがいい」 そう言って差し出された封筒には『首輪』と書かれている。 「は?」 「何を驚いている? 誰がわざわざ欲しがるほうなどくれてなどやるものか」 「…………」 ひでぇ……なんて嫌な奴なんだ。心底そう思う。 目の前に首輪の封筒が投げ出され、それに手を伸ばそうとして……伸ばそうとして……。 「解析率は七割から八割。その図面を記しておいた。ただし、それが役に立つのはまだ……どうした?」 「な、縄は」 「それを私が許すと思うのか?」 視界に映るのは、見下ろすユーゼスの顔。その向うにある天井に折り重なる鉄骨。 それのそのまた向うに、巨大な何かが高速で突っ込んでくるのが見えた。 耳を劈くような轟音、そして激震。咄嗟に丸めた身に、剥がれ落ちたモルタルや金色の金属片が降り注ぐ。 数秒かけて轟音は小さな反響音に変わり、揺れはおさまった。天井を見上げる。 ぐにゃりと拉げた鉄骨、ひび割れ欠けて崩れたコンクリート、その奥に一目で異物と分かる塊があった。 目測で直径四メートル程のそれは、鉄骨に引掛かり、辛うじて落下を免れている。 何か小さな光を見事な金色が反射させている。断線したケーブルでも爆ぜているのだろうか、そう思った。 そして、頭の中で歯車が一つ噛合う。 ――ここは何処だ? 視線を目の前で駆動音を立てている機械に走らせる。 ――そう。ここは発電施設だ。 「ベガめ。しくじったか……いや、それにしては……」 目の前でユーゼスが何か呟いていたが、そんなものは耳に入らなかった。 基地のエネルギーを一手に引き受ける発電施設。当然、その為の供給ラインはここからスタートする。 発電機かエネルギー供給ラインのメイン。そのどちらかに火の粉が飛べば―― 背筋がゾッとして、天井を凝視する。 大きく、小さく瞬く光。それが一際大きく爆ぜるのが見えた。 「伏せろッ!!!」 短く、鋭く叫んだ声は、爆音に掻き消される。 降り注いでくる大量の瓦礫。それが視界一杯に広がっていた。 ◇ 天井の底が抜け、瓦礫と化した様々なものが降り注ぐ。黒煙を上げて基地の一角が崩壊を続けていた。 しかし、元来が機動兵器での戦闘を前提とした基地。その最重要施設の一つである発電施設である。 そう簡単に全てが崩れ去るような設計は施されていない。 崩れるべきものが崩れ去ると、建物の崩壊は意外と短時間で終わりを告げた。 うずたかく積み重なる瓦礫の山。その前に立ち、ユーゼスは染み出してくる赤い血液を確認する。 「下敷きになったか……不運な男だ」 それ以上の感慨は湧いて来なかった。 確かに玉を砕く実験台に使いたいという気持ちはあった。便利な駒にも為りえたのかもしれない。 しかし、玉を砕くのは生きているときでなくとも構わず、駒は所詮駒でしかない。 だから、彼にとっては持ち駒が一枚減った、ただそれだけの出来事に過ぎないのである。 『脱出』の封筒を投げ捨てる。 中は空だ。何も入ってはいない。どちらを答えようとも『首輪』を渡すつもりだったのだ。 脱出の方策も考えている、そう思わせておいたほうが扱い易い。だが、それももう必要なくなった。 視線を上げ、天井を見上げる。 大きな穴が一つ、そしてまだ暗い空が見える。上階も被害を受けたのだろう。 視界の隅で目聡く機動兵器の欠片を見つける。 仮面の下の口元が人知れず笑った。 目の前の瓦礫を一瞥し、踵を返す。既に埋もれた人間などに興味はなく、その対象は乱入者へと映っている。 ユーゼスはベガに「極力施設には近づけさせないでもらいたい」と言った。にも関わらずこのような鉄塊が飛んでくる。 倒されたのか、逃げられたのか。だがどうやらこの鉄塊を打ち込んだ相手は、ベガの手に余る程の者らしい。 中々だ。中々の戦力だ。 力は強ければ強いほど、従えるのにも取り込むのにも都合がいい。 ならば自身が出向くことに何の迷いもない。 石を投げずともグラスの水は自然と零れ落ちた。後はどう動こうと自由である。 足が止まる。目の前には巨大な機動兵器。それをユーゼスは愛しげに見上げ乗り込む。 計器に埋め尽くされたコックピットに、ほの暗い明かりが灯る。 ラズムナニウムあるいはTEエンジンの制御の困難さから、本来ならば二人三脚での運用が行なわれるツェントル・プロジェクトの機体。 その立ち上げ作業をユーゼス・ゴッツォはただ一人でこなしていた。 「AI1、現状報告と状況分析を」 手を休めることなく呟く。同時に文字式の羅列が暗緑色のモニター一杯に表示された。 それを僅か一瞥しただけで頭の中に納める。 取り込んだゲッター線が異常なほどの活性化を見せていた。そしてそれが各所に影響を及ぼしている。 出力は上昇し、ラズムナニウムも活性化。解析状況ですら予想外の速度を見せている。 その解析データを万が一に備えて基地のメインコンピューターにバックアップ。そしてリンクを切り離すと、手を止めたユーゼスが笑った。 必要な作業は終了した。そして、解析からAI1が興味深い推測を出して来ている。後は―― 「さぁ行こうか、AI1よ。更なる進化の為に」 ◆ 大雷凰に乗り込む竜馬。ローズセラヴィーに飛び乗るベガ。 二人が紡ぎ出す喧騒の狭間、一瞬の静寂が場を満たし駆動音が即座に打ち消した。 動き出す。ローズセラヴィーの稼動が一呼吸早い。 構え打ち出される閃光。 地に膝をついていた大雷凰が、横っ飛びに跳ねた。爆音が響き、その場が抉り飛ぶ。 一転、二転、三転。転がり続ける竜馬を全身から撃ち出される火線が追う。 一向にやむ気配のない銃声、集中豪雨のように降り注ぐ光の雨。圧倒的な火力は体勢を立て直す暇すら与えない。 「おい!」 そんな中、竜馬の声が叫ぶ。 「パイロットはまだ生きてるぜッ!!!」 「ッ!!」 真っ二つに切り裂かれた金色の機体。それが火線を潰すような形で、突然投げ出された。 咄嗟に射線が逸らされる。閃光が上方に飛び、一筋の閃光が夜空に立ち上った。 一息つく間もなくベガを戦慄が襲う。眼前に迫った黄金の機体、視界を塗り潰すそれに亀裂が奔る。 巨大なトマホーク。さらに二つに切り裂かれる黄金の機体。 「うをおおおぉぉぉぉぉおおおおおおりゃッ!!!!」 咄嗟に身を捻ったローズセラヴィーの右腕が、肩口から跳ね上がった。 「くっ!!」 間髪入れずに至近距離から撃ち出す火線。トマホークを盾に跳び退く大雷凰。 火花が散る。弾幕が竜馬を捉えた。 金属音が響き渡り、欠ける。ゲッタートマホークの刃が欠けていく。 「チッ!!」 舌打ち一つ。自身の不利さを悟った竜馬が、トマホークを盾に強引に突撃を試みた。 距離が詰まる。500……300…200…100、突然トマホークが投げ飛ばされる。 半身に避けるローズセラヴィー。その顔面に蹴りがめり込む。 舞い散る破片。上体が仰け反りぐらりと揺れるローズセラヴィー。しかし、頭部は完全には破壊されない。蹴り砕くには少しばかり固すぎたのだ。 勢いが止まる。大雷凰の体重が蹴り足に乗る。刹那の一瞬に生じる硬直。 その瞬間、意識が明滅する中でベガは大雷凰の蹴り足を掴んだ。 そしてただ無造作に、ただ力任せに、渾身の力を込めて大地に叩きつける。轟音。舞い上がる大地の破片が柱を為す。 一呼吸。跳びかけた意識を呼び戻す。その間隙を衝いて新たな衝撃がベガを襲った。 金色の破片が宙に舞う。 たたらを踏むローズセラヴィー。 いつの間に拾ったのか、それを考える余裕は無い。 逃れた大雷凰が飛び退く。 着地。 同時に何かを豪快に投げ飛ばす。 視界の中で何かが煌めいた。 指先にビームを集約。 刃を形成。 同時にベガの優れた動体視力は、飛んでくる物体を捉えた。 コックピットブロック。 切り払うのは容易い。 しかし、そこにはまだ生きた人間が乗っている可能性がある。 どうすればいい? コンマ数秒以下の思考がそこに囚われた。 避けるしかない! 結論が下る。 回避行動。 跳び迫る破片。 その向うから、跳ぶ様に間合いを詰めて来る。 掻い潜るようにして避ける。 同時に刃を下から上へ。 二つの機体が交錯。 馳せ違う。 互いに紙一重。 刃と蹴りが間際を駆け抜けた。 視界の隅に捉えた敵機を追って、ローズセラヴィーが振り返る。 視界の中、着地した大雷凰がもう一直線に駆け出している。肝が冷えるのを感じた。 流竜馬は駆けている。こちらにではない。こちらに背を向けたまま突っ走っているのだ。 それは明らかに基地付近に突き刺さったトマホークを目指している。 慌てて追う。追いながら唇を噛み締めた。 基地が黒煙を上げている。 コックピットだ。かわすしかなかったコックピットが直線上にあった基地を襲った。黒煙の正体はそれとしか考えられない。 しかし、速い。追いつけない。距離が徐々に開いていく。焦りが体を支配していく。 Jカイザー。一瞬、それが頭に浮かび振り払った。 相手は基地へ向かっているのだ。背後から撃てば、護るべき基地をも巻き込んでしまうことになる。 それはJカイザーに限らず、射撃全般言える事でもある。 基地から立ち上る黒煙が、何よりもそれを象徴的に教えていた。 今はただ愚直に追い続ける。それしか出来ない。目の前で開き続けていく距離、それがまた焦燥感を募らせていっていた。 不意に一つの通信が入り、仮面の男が映し出される。 「私だ。その男の相手は私がする。君には被害が基地に及ばぬようにしてもらいたい」 「しかし、ゼストは……」 「そうも言ってられる状況ではないだろう。それにその傷だ」 「何故……」 「この私が分からないと思ったのか? 声がおかしい。骨を何本か痛めているのだろう、違うか?」 押し隠していたはずの怪我を言い当てられて、言葉に詰まる。 事実だった。入れられた膝蹴りであばら骨が何本か折れているのだ。 激しく動き回れば臓器を痛める結果にもなりかねない。それは分かっていた。 「君にはまだ仕事が残っている。ここで倒れられては私も困るのだよ」 しかし、本当に死んで困る存在は自分ではなくユーゼスのほうではないか。そう思った。 思ったが、ユーゼスに取り合う気はなさそうだった。 「確認します。ユーゼス、あなたはあの機体に勝てるのですね?」 「無論だ。この私が勝算の無い戦いをするとでも?」 「……了解。基地の守りに入ります。ですが、あなたの生存が最優先です」 「いいだろう。重点的に護るべき箇所は送っておく」 そこで通信は途切れた。 ユーゼスの旗色が悪くなれば基地を見捨ててでも割り込む、このときはそのつもりだった。 →穴が空く(2)