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ガンダムヘビーアームズ改 機体名 ガンダムヘビーアームズ改 全長 16.7m 主武装 マシンキャノン×2 ゴッドとかウイングについてるバルカンもどき。マシンキャノンは肩にちょこっと突いてる出っ張りの中にある。肩アーマーじゃなくてガンキャノンの240ミリ砲とかが載ってるとこ。 バルカン×2 ガンダム恒例の頭部バルカンだが、使われたためしは無い。 ダブルガトリングガン 両腕に装備されたガトリング。ガトリング一個に六門、計二十四門。が、一度に撃つのは一門だけなので(その代わりシャレにならんぐらい連射速度が速い)銃身が3つだろうが6つだろうが1丁は1丁。 ホーミングミサイル×36 脚部から発射される追跡効果のあるミサイル。映画本編では一人も殺さないように信管を抜いている。 ガトリング×4 胸に着けているガトリング砲。こっちも計二十四門。 マイクロミサイル×54 肩に付いているミサイル。設置場所が明らかに質量保存の法則を無視してる。こちらも信管を抜いている。 特殊装備 ピエロの仮面 頭部右半分にピエロの仮面。特に意味はない。盾すら存在しないステキ仕様なこの機体。 移動可能な地形 空中×、陸地○、水中△(?)、地中× 備考 ドクトルSがヘビーアームズを改造した姿。このタイプは本編の機体と区別するために~カスタムと呼ばれる。ヘビーアームズならびにヘビーアームズ改の射撃能力を向上させ、更にはアーミーナイフを取り外すことによって完全な砲戦使用になっている。計90発のミサイル、48門のガトリング砲とその射撃能力は他のガンダムとは比べ物にならない。このロワでまともに張り合えそうなガンダムはレオパルドデストロイぐらいだろう。また見かけによらず軽く、空中四回転半を軽々決めるほど身軽である。余談だが、全身火薬庫と言っても過言ではないこいつがどうやって大気圏から地上に来れたかが筆者は未だにわからない。ってか解る人いたら俺はそいつを崇めるぜ。あと、思うにヘビーアームズとレオパルドは同じ砲撃戦型でもコンセプトが微妙に違う気がする。ヘビーアームズは一撃離脱型。単機で敵陣に突っ込んで弾を一気にばら撒いてそのままトンズラ。だからヘビーアームズは身軽に作ってあるんだろう。
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視界が――いや、世界が閃光に包まれた。 とっさにテニアを庇う。斬り合っていた白い機体の事なんて忘れて。 光が駆け抜けた後、次に来たのは衝撃波だ。 剣を大地に突き立て、楔とする。 ヴァイサーガの巨体が揺れ、軽いベルゲルミルなんて吹き飛ばされそうになるほどの風が叩きつけられた。 数秒、もしかしたら数十秒は横殴りの風に晒されていたかもしれない。 やがて風圧が止み、統夜は顔を上げた。 「なんだ……これ」 先程まで廃墟の街で戦っていた、はずだ。 なのに今、目の前にあるのは――ぽっかりと空いた何もない空間。 そこかしこに瓦礫の山が、建造物の名残りが見える。 街を、まるで消しゴムを掛けたように空白がその存在を主張している。 すり鉢状に広がっていく破壊の爪痕。その進行方向にはまさしく何もない。 ずっと向こう、地平線の果てまで続いているように見える。ヴァイサーガのカメラでもどこまでが吹き飛ばされたかわからない。 一体何が起こったのか。 急いで確認しようとして、それからはっと腕の中のテニアに気付く。 「テニア! 怪我してないか?」 「う、うん。アタシは大丈夫。でも、これ……一体何が起こったの?」 街の一切合切を吹き飛ばした何かは、ユーゼスが向かった方向から飛んできたようだ。 ユーゼスがやったのかと、空恐ろしい力に震える統夜にテニアが囁く。 「統夜、あれ!」 ベルゲルミルが指し示したのは、同じく退避していたらしい敵機だ。 おそらく向こうもこちらに気付いただろうが、事態を把握する方が先と判断したのか一瞬で変形し飛び去って行く。 統夜が隙を突く暇もない。瞬く間に鳥型の敵機は白煙に紛れ見えなくなった。 逃がしてしまった。だが時間は十分に稼いだと自分に言い聞かせ、統夜は機体を立ち上がらせる。 「とにかく、ユーゼスと合流しよう。ガウルンでもいい」 「そ、そうだね。じゃあ……」 「俺が何だって?」 通信に、割り込んできた声。 振り返る。そこに佇んでいたのは、全身に傷を負った、まさに『落ち武者』といった風情のダイゼンガーだった。 「ガウルン! あんた、その機体……やられたのか?」 「ああ、下手打っちまった。それに剣を落としちまってな。統夜、お前さんに貸してた剣を返しちゃくれねえか?」 「あ、ああ。俺もどうせ片腕が使えないし、ほら返すよ」 「ありがとよ……ちと軽いが、まあいいだろ」 投げ渡したガーディアンソードをダイゼンガーが二度三度と素振りする。 確かに斬艦刀と比べれば少々頼りなく見えるが、それでも中々使い勝手のいい武器である事に違いはない。 操縦者の動きを正確にトレースするというダイゼンガーが感触を確かめるように拳を握っては開き、宙にパンチを繰り出す。 やがて満足いったか、ダイゼンガーは一つ頷くと統夜達へと向き直る。 「で、お前ら。こりゃあ一体全体どうしたってんだ?」 「アタシらが聞きたいよ。あんた、ユーゼスと一緒に戦ってたんでしょ? これはあいつがやったの?」 「俺も途中で後退したんでな。詳しいことは分からんが……おそらくこれはユーゼスじゃない。 いや、あいつも絡んでるだろうがどちらかと言えばこれを撃たれた方だろう」 「じゃ、じゃあこんなすごい力を持った奴が敵にいるってのか?」 「だとしても、おそらくは敵さんの切り札ってとこだろう。今まで使わなかったのは使えないだけの理由があったんだろうさ。 でなきゃ、今頃これが連発されて俺達も消し炭になってるはずだからな」 「……とにかく、ユーゼスと合流しようよ。いくらなんでもあいつがやられたって事はないでしょ」 「そう……だな。状況次第では一度撤退して、体勢を立て直した方がいいかもしれない」 ヴァイサーガが先頭に立ち、ベルゲルミルがその後に続く。 ダイゼンガーのガウルンは二機の背中をぼんやりと見つめ、 「俺にはそんな時間はねえんだよな、これが……」 ぼそりと、呟いた。 微かに耳に届いたガウルンの囁きに統夜は振り返った。 「おい、どうかしたのか? まさか動けないとか言うんじゃないだろうな」 「だったらおぶってくれるかい?」 「誰が! 行こう統夜。早くユーゼスを見つけなきゃ」 見通しが良くなりすぎて狙い撃ちにされる危険を減らすため、射線の外にあったビル街へと進路を変えて進む三機。 ベルゲルミルならともかく、図体の大きいヴァイサーガとダイゼンガーではあまり隠ぺい効果がある訳でもなかったが。 「なあ、統夜。戦場で生き残るために一番大事なものは何だと思う?」 「何だよ急に」 「ちっと気になってな。お前も中々のパイロットになってきた事だし、興味が出て来たんだよ」 「ああ、そう。生き残るために大事なもの……そりゃやっぱり、腕なんじゃないか?」 「強くなきゃ負けちゃうもんね。アタシもそう思うよ」 前方の警戒は緩めず、意識の表層で答える。 何でそんな質問をするのかは分からないが、ガウルンとはそういう男だ。理解できるはずもない。 「腕ね、確かにそれも大事だ。だがな、俺の見解は違う」 「じゃあ、あんたはどう思うんだ?」 「そうさな……嗅覚ってところか。自分を絡め取ろうとする死から逃げ、相手は逆に突き落とす。 抽象的なもんだが、わかりやすく言うなら勘ってのでもいい。要するにヤバい臭いをかぎ分けろって事だ」 「勘……ね。随分曖昧なものなんだな」 「馬鹿にしたもんでもねえさ。勘っていうのは何も適当に選んだり運任せにする事だけじゃない。 場の流れを読み、洞察力や想像力をフルに働かせて有り得るかも知れない可能性を事前に探る――そういう事も指すんだ」 ゴシャッ、と。 音が聞こえた。 ダイゼンガーが瓦礫を踏み潰したのだろうか。 音を立てるな、と言おうとしたが考えてみれば大した意味もない。 音が聞こえる頃にはとっくにレーダーの範囲内だろう。 神経を尖らせて敵の気配を探る統夜は振り向かなかった。 「ふーん。で、それがどうしたって言うんだ。今話さなきゃいけない事なのか?」 「師匠としての最後の教えだよ。俺もお前もこの先生きのこれる保証はない。 言い残したまま死んで後悔しないように、今言っとこうと思ってよ。お前も俺に何か言いたい事はねえのか?」 「別に……俺を鍛えてくれた事には感謝してるけど、できればもう会いたくもなかった。あんたには散々痛い目に遭わされたしな」 「つれないねぇ。そういやお前、テニアの嬢ちゃんから聞いただろ? ユーゼスを殺る、ってプラン。 お前も覚悟を決めたもんだと思ってたが。今あいつを探すってんなら、その気はないって事か?」 「別にそういう訳じゃない……俺は安全策を取りたいだけだ。もしユーゼスが追い込まれていたとして、俺達が助ければ恩を売れるだろ」 「あいつが恩なんて感じるタマかねぇ」 視界の端に白い戦艦、Jアークが見えた。 その周りに飛ぶ機体もいくつか。どうやらユーゼスは本当に破れたらしい。 舌打ちし、ヴァイサーガを止めて手振りで後の二人に停止のサインを伝える。 「おやおや、あいつやられちまったか。アキトもどっかに落とされたようだしな……どうするよ?」 「どうするって……俺達だけで仕掛けるしかないだろ」 「正気か? あのユーゼスの機体すら撃退する奴らだぜ。加えて全戦力が終結、俺達の方の戦力はガタガタ。 俺の勘は撤退しろって叫んでるんだがねぇ。いや、いっそ降伏して奴らに協力するのもいいんじゃねえか?」 茶化すようなガウルンの声にカッとなる。それができれば苦労はしない。 さすがにここまで明確な敵対行動を取ればどんなお人好しだって握手してはくれないだろう。 戦力では勝っていたはずなのに、終わってみれば返り討ちにされた。 なのにこのガウルンの態度。 文句を言ってやろうと思い、ヴァイサーガを振り向かせた。 「あんた、いい加減にしろよ! そもそもあんたが勝手に後退しなきゃユーゼスだって――」 場合によっては剣を抜く事も辞さない――そんな覚悟で振り返った統夜の目の前に。 ベルゲルミルの胸を貫く、 統夜がダイゼンガーに渡した、 今もダイゼンガーが握る剣が、 あった。 その位置は――考えるまでもなくわかる。 コクピットだ。テニアがいるはずの。 「あ、え……? な、何をして……どういう、事だよ……?」 「やっと振り向いてくれたか、統夜~。寂しかったぜ? 無視されてるんじゃないかと泣いちまうところだったじゃねえか? 全くお前って奴は薄情なもんだな? 愛する彼女がダンマリだてのに気にも留めねえ。 言ったろ統夜。大事なのは嗅覚だ、ってよ。もっと早く振り向いてればなぁ?」 ダイゼンガーが剣を振り上げ、引っ張り上げられるベルゲルミル。 統夜は夢でも見ているかのようにぼんやりと、人形のように身動きしないベルゲルミルを見上げ、 「――はッ、テニアぁぁ――――――ッ!」 我に返り動き出す。 腕は勝手にパネルを叩き、コードを入力する。光刃閃。ヴァイサーガの最も速く、強力な攻撃オプション。 剣を掲げるダイゼンガーの腕目掛け、一足で加速し、疾風よりも速く、その名の通り光の刃となって、 斬り裂く。 ガウルンのダイゼンガー、 「たすけ……とう、や……」 が、盾にしたベルゲルミルを。 真っ二つに。 頭頂部から胴体、股間まで一直線に。 何の抵抗もなく、バターにナイフを入れるように。 びしゃっ、と。 ヴァイサーガのカメラに液体が飛び散る。 張り付いてきたそれは赤い色をしていて、よくわからない塊が混じっている。 地面に落ちていくそれを拡大した。 手だ。人の手が落ちている。肘から先がきれいに切断されて。 向こうには多分足だ。赤い水たまりの中に落ちている。 細かいのは……肉屋で見るような、肉の塊だ。そこらじゅうに飛び散っていた。 ヴァイサーガの剣を見てみると、ベルゲルミルのオイルがどろっと血のように流れ落ちていく。 その中に微かに、赤いものが――本物の血が、流れている。 斬り割られたベルゲルミルのパーツが散乱し、やがて爆発する。 血も腕も足も肉片も全て、諸共に吹き飛ばしていった。 わなわなと手が震え、吐き気が込み上げてきた。とっさに口元を押さえたが、我慢しきれずヴァイサーガのコクピットが吐瀉物にまみれた。 胃の中身を全て吐き出し、それでも収まらずに胃液が沁み出てきた。喉いっぱいに酸味が広がり、それがまた気持ち悪さを掻き立てる。 「あらら、ひでえなぁ統夜君。愛しのテニアちゃんをバラバラにしちまうなんてよォ~」 心底楽しいと言わんばかりの、ガウルンの声が聞こえる。 吐く物を全て吐き、げっそりとした顔を上げる統夜。しかし眼だけがギラギラと、まるでドラッグをキメたかのように爛々と輝いている。 「ガウ……ルン! お、お前が……ッ、お前がテニアをッ……!」 「あん? 馬鹿言うなよ統夜。確かに俺が先に手を出したが、止めを刺したのはお前さんだぜ? 聞こえたろ、『助けて、統夜』ってな。聞こえなかったか? 最後の言葉だったってのに、もったいねえなぁ」 「違う……違う! お前がテニアを殺したんだッ!」 「違うだろ統夜。百歩譲って『俺も』殺したと認めてもいい。だが物事は正確に伝えるべきだぜ? 『俺』と、『お前』が、『二人で』フェステニア・ミューズを殺したんだ。ん、こいつぁ初の共同作業って奴じゃねえか?」 「……ぁぁ、ううううぁぁあああああああああああああああああああああッ!」 ユーゼスやJアークの事なんて頭から吹き飛んだ。 頭の中が真っ白になり、ただ一つのことしか考えられなくなる。 ――こいつが、テニアを殺した! ガウルンが、テニアを殺したんだ! ――絶対に……絶対に許さない! 「ガウルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!」 「ククッ、ハハハハハハッ! そうだ、その顔だ! 俺が見たかったのはその顔なんだよ、統夜! さあ――これが最後だ! 俺を憎め! もっと、もっと、もっとだ! お前の本気を見せてみろ! 俺が許せないだろ? 憎いんだろう? だったらお前が持てる力全部でかかって来い! でなきゃテニアの嬢ちゃんも浮かばれないぜ……何たって、お前があんまり不甲斐ないから嬢ちゃんを殺そうと思ったんだからよ!」 「黙れぇぇっ!」 一直線に突っ込んできたヴァイサーガの剣を軽く受け止めるダイゼンガー。 もう片方の腕がヴァイサーガの腹を打ち据え、機体が一瞬宙に浮く。 力が緩んだ所にダイゼンガーの脚が飛び、ヴァイサーガを横薙ぎに蹴り付けた。 ビルを何棟か薙ぎ倒し、ヴァイサーガはよろよろと立ち上がる。 剣を大地に突き刺し、佇むダイゼンガーへ烈火刃をありったけ投げ放った。 ダイゼンガーは悠然と肩のゼネラルブラスターを放ち刃を迎撃、動きを止めずヴァイサーガに腕を突きつける。 ロケットパンチ――ダイナミック・ナックルがヴァイサーガの頭を掴んでビルへと叩きつけ、なお勢いは止まらず地面へ引き倒し引きずっていく。 大地との摩擦で背面の装甲が傷ついていく。拳の握れない左腕を叩きつけ、なんとか束縛から逃れる。 「おいおい、それじゃあダメだ。もっと落ち着け、クレバーになれ。怒るのはいい、しかし心は平静に。 威勢が良いのは結構だが、そんな隙だらけの動きじゃ欠伸が出ちまうぜ」 「うる……さい。今さら師匠面して、俺をからかってるのか!?」 「まさか。言ってなかったんだがな、俺の身体はボロボロなんだ。こうしてる今も闘病生活真っ最中なんだぜ? 俺に残ってる時間は少ないんだ。最後くらい悔いのない瞬間を過ごしたいのさ」 「あんたの命と、俺達と! 何の関係があったって言うんだ! 死にたいなら一人で死ねよ!」 「別に俺は死にたい訳じゃねえよ。むしろ生きたいと思ってる。が、それが叶わねえってんなら仕方ねえ。 潔く諦めて――、お前と最後に遊ぼうと思った訳さ」 「ふざけんなッ! だったら俺を狙えば良かっただろ! なんでテニアを殺したんだ!」 懲りずに打ち掛かって来るヴァイサーガをいなし、がら空きの背中を蹴り付ける。 無様に顔面から地面へと突っ込んだヴァイサーガを笑いながら、 「そりゃお前。あの嬢ちゃんがお前のお荷物だったからさ」 「お荷物……? どういう、意味だ!」 「言葉通りさ。お前、俺と組んだ頃は良い眼をしてたのにあの嬢ちゃんと合流してからはすっかり腑抜けちまった。 相棒の身を案じた俺は、こう考えた訳だ。統夜、お前は騙されている! ってな。 テニアが原因でお前が変わったのなら、その原因を取り除けばいい。簡単な話だ。 退治されるべき竜が騎士を惑わせた魔女を討つ。どっかのおとぎ話みてえじゃねえか」 「そんな……そんなお前の勝手な理屈で!」 「だが、どうだい? そのおかげでお前は身軽になっただろ? 背負う物も守る者もなく、本能が命じるままただひたすらに剣を振るう。それこそがお前の本来あるべき姿、生き方なんだよ」 「違う! 勝手に俺を枠に嵌めるな!」 「違わねえ。お前は俺と同類なんだよ。戦いの中でしか生きられねえ、最低最悪の人種――自覚しろよ、その方が楽に生きられるぜ?」 「違う、違う……! 黙れって言ってるだろぉっ!」 駄々っ子のように剣を振り回すヴァイサーガ、ダイゼンガーはその場を動かず軽く剣を打ち合わせてあしらっている。 「この、この……っ! 死ね、死ね、死ね、死ね! 死んじまえよッ!」 「あのなあ、誰がそんな無様な戦い方をしろっつったよ。あんまりがっかりさせないでくれ」 ガウルンは嘆息し、痛む身体の悲鳴を無視してダイゼンガーを前進。 ヴァイサーガの剣をガーディアンソードで抑え、力が拮抗した一瞬に肩を押し身体を支える足を払う。 バランスを崩し、倒れ込むヴァイサーガの腹へ翻った足が乗る。 地面に激突する瞬間、タイミングを合わせ足裏を押し込んだ。 「っが、は……!」 受け身も取れず衝撃の逃げ場をなくし、ヴァイサーガの胴体に亀裂が走る。 その余波は統夜へとダイレクトに伝わり、少年もまた激しく咳き込む。 一方ダイゼンガーはヴァイサーガを踏み付けたまま、視線をJアークのいた方へ。 ユーゼスの機体――身体の半分が消し飛んでいる――と、対峙するJアークの機体達。 そして、ユーゼスの後方から今にも墜落しそうなスピードで飛ぶアキトの機体。 どうやら、向こうでももう一波乱ありそうだ。身体さえ万全なら乱入したいところではあるが。 「ま、いい。どうせ奴らもしばらくはこっちに来ねえだろ。俺は俺で楽しませてもらうとするか」 どちらが面白いかと言えば、ガウルンは足元でもがく少年で遊ぶ方を選ぶ。 どれだけ動けるか分からないが、願わくば統夜がガウルンを殺すほどに燃え上がってくれることを祈りつつ―― 「さあ、付き合ってくれよ統夜。朝まで踊り明かそうじゃねえか」 この時間が楽しくてたまらないと。 死を目前にしてなお、かつてない程に生きている実感を――充実した時間を味わうのだった。 □ 「みんな、無事か!?」 サイバードが甲板に降り立った。 周りにはF91、凰牙、ブレンと全機が健在である。 「なんとか……カミーユは?」 「俺も大丈夫だ。それより、ユーゼスは? 倒したのか? さっきの光は何なんだ?」 「落ち付け、まだ我らの勝利が確定した訳ではない。警戒を怠るな」 「その通りだ。みんな、機体のコンディションを確認するんだ。油断して隙を突かれるのも間抜けだろう」 ロジャーの一言で各々が自機の状態を確認していく。 ブレン、凰牙はさしたる消耗もない。あえて言うなら、凰牙がハンマーの代わりに斬艦刀を装備しているだけだ。 Jアークはバリアを展開しっぱなしだったり、エネルギーを絞り出したせいか消耗が最も激しい。 ポイントで補給できないJアークが力を取り戻すには時間が必要だ。 そしてサイバスター、F91。共に機体よりもパイロットの疲労が大きい。 新たにファミリアを創造しぶっつけ本番で戦闘に入ったカミーユ、サイコフレームの共振を全開にして戦ったシャギア。 キョウスケと戦った時よりは余裕があるものの、できるなら休息を取った方がいいと誰かが言う。 だが当人達は、 「いや、まだだ。奴らの撃破を確認するまで機体を降りる訳にはいかん」 「ええ、俺も同意見です。まだこの戦場からは、粘つくような悪意が消えていない……!」 サイバスターが振り向き、その視線を彼方へと投げる。 その先にいたのは、最前まで対峙していたゼストだ。 だが、100mを超えていた巨体は見る影もなかった。 胸から上が全て吹き飛び、中心にある球体――AI1が剥き出しとなっている。 六芒星、相転移エンジンと核パルスエンジンもその上半分がきれいさっぱり無くなっていた。 残るのは三角形となった一つの相転移エンジン、二つの核パルスエンジン。 頭を庇ったか右腕は根元から消し飛んでおり、左腕だけが力無くぶら下がっている。 コクピットがあったであろう場所もぼろぼろで、あの中で人が生きていられるはずはないと思わせた。 「ユーゼス……死んだのか?」 「待てカミーユ、迂闊に近づくな。万一君が取り込まれでもしたら取り返しがつかん」 「でも、せめてあいつが生きてるかは確認しなきゃ」 「その必要はない。動かないなら、このまま破壊してしまえばいいのだ」 シャギアがJカイザーへと向かう。もう一度撃てないかと試してみるもののさっぱり反応がない。 Jジュエルのエネルギーをサイコフレームで強引に流し込み撃ったのが決定打となったか、今度こそ巨砲はただの鉄塊だ。 シャギアは早々に諦め、F91に蹴り落とさせる。地上に叩きつけられたJカイザーは粉々になった。 「しかし、ではどうするかな。凰牙やサイバスターの全力攻撃を使うというのも過剰だと思うが」 「Jアークの砲撃……と言いたいがこれ以上回復を遅らせるのもまずい。時間はかかるが、我らで地道に削るしかあるまい」 「そう、ですね。俺達の武装なら補給もできますし。俺とアイビス、シャギアさんで破壊しましょう」 時間経過で回復するJアーク、電池でなければ補給できない凰牙を置いて三機が甲板から飛び立った。 動きのないゼストへ接近する三人。射程距離に入ったが、それでも迎撃が来ない。 「やっぱり……その、死んでるのかな?」 「これではっきりするさ。行くぞ!」 サイバスターがオクスタンライフルを構える。 念入りにチャージを行い、中破したゼストを貫けるだけの力がライフルの先端に灯る。 だがそこで、崩壊した街を眺めていたシャギアがいち早く異変に気付いた。 「っ……いかん、下がれ!」 サイバスターの前に躍り出て、ディフェンサーを前面に展開。 間を置かず何処からか緑色の光――ビームが飛来し、電磁フィールドに激しい揺さぶりをかけた。 傷ついたF91がその圧力に押され突破される前にブレンが割って入り、チャクラシールドを広げた。 「まだ敵がいるの!?」 「いや、これは……あいつだ! テンカワ・アキト!」 カミーユが見覚えのあるビームからその正体を看破すると同時、ゼストの向こうから黒い機体、ブラックゲッターがやって来た。 サイバスターのファミリアに叩き込まれた損傷は胴体に大穴を空けており、こちらへ飛んで来る今も光の粒子――ゲッター線を撒き散らしている。 その上頭部はひしゃげ、元の面影はどこにもない。 「あの状態でまだ動けるのか!」 「機体は無事でもパイロットが生きてるはずが……! コクピットに直撃したのに!」 だが、ブラックゲッターは今のビームを撃った事で逆に自らを追い詰めたようだった。 腹のビーム砲口がただれ、融解していく。供給するゲッター線を制御できていないのだ。 軌道も危なっかしく左右に揺れ、攻撃されたら一溜まりもないだろう。 そんな状態で何故現れたのか、シャギア達にはわからなかった。敗北は目に見えているというのに。 身構える三人の前で、ブラックゲッターは止まった。ちょうどゼストの真上だ。 ビームが来るかといつでも散開できるように集中する。だが、ブラックゲッターの次の動きは誰にも予測できないものだった。 頭上でトマホークを振り回し、十分な加速をつけて――ゼストへと叩き付けたからだ。 「何だとッ!?」 トマホークの一撃は、半壊しつつあったゼストのコクピットを完膚なきまでに叩き潰した。 そこにいたであろうユーゼスの事など考えるまでもない。 「どう言うつもりだ? お前達は組んでいたのではなかったのか」 「……っ、はあ、はっ……これで……がはっ! ……手に、入れた……ぞ!」 ブラックゲッターから聞こえてくる、切れ切れの声。 怪我をしている、どころではないだろう。咳き込んだ時に吐血したようだ。 しかしその声に込められた戦意は些かも衰えてはない。 まだ何か、戦況をひっくり返す一手がある。シャギア達にそう思わせるには十分だった。 「ここまで……やられていたのは、計算外……だった。だが……お前達も、かなりの、力を……失ったはず、だ」 「弱ったとはいえ、貴様ほどではない。その身体で私達に勝てると思っているのか?」 「……まさか。だが、このゼストならば……わからない」 そう言ってブラックゲッターは両手を腹の大穴に突っ込み、バキバキと装甲を割りながらも何かを取り出した。 右手には赤い輝き、左手には緑の輝き。 マジンガーZに積まれていた光子力エンジン、そして元来ブラックゲッターに搭載されていたゲッター炉心である。 ブラックゲッターは膝をつき、右手を下に、そして左手は天に掲げる。 ゼストの内部が露出していた部分に光子力エンジンを埋め込み、ゲッター炉心からは緑光が漏れ出し、辺りを染め上げる。 「ゲッター線は、進化を促すエネルギー……。このゼストの装甲は、自己再生機能とやらを有する……生きた装甲、だそうだ。 だからこうして……ゲッター炉心を暴走させ、身体を再生……させる、触媒となるエネルギーを、与えてやれば……」 「っ、いかん! 奴を止めろ!」 「もう……遅い……!」 ゲッター炉心の放つ輝きを吸い込み、ゼストの装甲が泡立つ。 光子力エンジンは完全にその身に沈み、ゼストの失われた動力炉を補う糧となる。 F91がヴェスバーを、サイバスターがライフルを放つが溢れ出るゲッター線が壁となりブラックゲッターには届かない。 三人の見ている前で、ゼストの割れた装甲がみるみる内に修復され、繋ぎ合わされていく。 四本の脚が伸び、しっかりと大地を踏み締める。 そして、失われた上半身に位置するブラックゲッターを触手が取り巻き、同化。 「ゼストが……再生する!?」 「そうだ、これが……これが俺の……!」 アキトの声に力が戻り、ゼストに敵を蹂躙せよと命令を下そうと息を吸い込んだ。 その瞬間、 ゼストの千切れかけた左腕がブラックゲッターを貫いた。 「……ッ!? 何だ、と……?」 「ゼストの腕が!」 何故せっかく支配した機体を自ら傷つけたのか。 事態を把握できず固まるシャギア達の耳に、更なる悪意が飛び込んで来た。 「フフフ……フハハハハハハハハハハハハッ! よくやったぞ、テンカワ……! よくぞゼストを甦らせてくれた!」 歓喜に堪えないと言わんばかりの笑声。 聞こえてきたのは撃破したはずのユーゼスの声だった。 「貴様、生きて……!? 一体何処に……!」 「ここだ、諸君!」 問うアキトの声に応えたのは、ブラックゲッターを貫いた腕の肘から伸びる、クロ―アーム。いわゆる触手だ。 その鋭い爪の根元に、しがみ付いている人影――仮面の男。 「本当に助かったよテンカワ! ゼストは一度死んだのだ、先程の砲撃と力の暴走のおかげでな! 私はあの瞬間、とっさにコクピットからこのアームへと飛び移ったのだ。 ラズムナニウムというのは便利な物だ、命令さえ下せば人が隠れるだけの穴すら瞬時に作り出す! いや、本当にどうしようかと思ったのだよ! 機体が動かねば私に打つ手はない。 破壊されるのを待つだけかと思いきや――君が自ら飛び込んで来て、ゼストの餌になってくれるとはな!」 上機嫌極まりないという声でユーゼスが語り出す。 内容はともかくその姿勢で喋っても全然締まらないとアイビスなどは思ったのだが、それでもその男の声は止まらない。 どうにかしてユーゼス本人を狙おうとするカミーユとシャギアだが、ゲッター線はいよいよ強まって弾丸やビームの干渉を許さない。 「君のブラックゲッターはラズムナニウムの塊――傷付いたゼストの装甲うを埋めるにはこれ以上ない程に適格だ! そして嬉しいことに君は破損した動力炉の代わりまで持ってきてくれた! ゲッター炉心、光子力エンジン――どちらもかなりの高出力! これなら十二分にゼストは回復する事が出来る。確信したよ! 天意はまさに私の頭上にある!」 ブラックゲッターへと繋がったクローアームが、ブラックゲッターに僅かに残ったエネルギーすらも絞り出す。 アキトがいくら操作しても、ブラックゲッターは反応しない。 次第にコクピットにまで触手の先端が侵入し、アキトはままならない身体に鞭打って脱出しようとした。 だが、その努力も虚しく爪の先端がアキトを貫き、シートへと磔にする。 アキトの胴を貫通した爪がゆっくりと開く。 そしてアキトは見た。分かれた爪から出てきた細い管のような器官が、アキトの身体へと同化していく瞬間を。 「がっ……は!」 「嬉しい……本当に嬉しいよテンカワ。機体だけでなく、君というナノマシンのキャリアまで手にする事ができた。 これで首輪の解除も目途が立つ。光栄に思うといい、君は私の輝かしい前途を飾る最初の人柱だ!」 光の壁の向こうで、ブラックゲッターの形が崩れる。 50mを超えるサイズの機体がその質量分の液体へと変わり、色と形を変えていく。 ゼストの機体色と同じ色。 ゼストの上半身と同じ形。 瞬きするほどの間に、ゼストは完全にその外観を取り戻した。 ユーゼスの乗る触手が上昇し、開いたコクピットへ。 そこにアキトの姿は――もう、ない。ユーゼスが悠然とコクピットへ乗り込んだ。 完全に再生したゼストが浮き上がり、シャギア達を睥睨する。 「さて、お前達にも礼をせねばならんな。再生したとはいえゼストはかなりの力を失った。 こうなれば是が非でもお前達の機体を取り込まねば収まらん。覚悟してもらおうか……!」 「くっ……やれるか、カミーユ!?」 「言われ……なくても!」 サイバスターが三度その全力を引き出す。傍らに飛ぶ三つのファミリア。 F91も遅れまいとバイオコンピューターを稼働させ、残った全ての力をかき集める。 後方からJアークが接近。異変を感じ取って来たのだろう。 F91、サイバスター、Jアーク、ブレン、凰牙。 戦力としては誰も欠けてはいないが、万全などと言える状態ではない。 ゼストの放つプレッシャーが、対峙する全ての者の心を蝕む。 「さあ、ここからが本番だ! 出来得る限りの力で抗ってみせろ、矮小なる者どもよ! 震えよ! 畏れと共に跪け! ゼストの圧倒的な力に、今こそその全身全霊を以って……!」 赤い空の下に巨獣が舞う。 絶大なる力をその身に宿し、愚かにも挑んで来た小鳥たちを喰い尽さんと天に吠える。 両腕を広げ、胸からせり上がる動力部の塊。エンジンを三つ失ったため多少力は落ちるが、それでも十分な威力。 見上げる全ての者に終わりを告げるべく、 「絶望せよォォォォ――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」 光の雨を、降り注がせた。 →The 4th Detonator
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天下一 ストームブリンガー(ダンバイン) ミクズ+F90カスタム 三鬼才蔵 YF-19(ファイター) YF-19(バトロイド) フェンリス=S=ウォード VF-18改サウンドバルキリー ハウスルール キャンペーン開始前の状況 NPCリスト 特務部隊を取り巻く人たち ゲイル=ラーディッツ EOT研究機関であり対異星人組織「DC(ディバインクルセイダーズ)」の職員の一人 軍事階級は准将(ただし本人は少佐と言い張っている) もともとは廃棄された旧DCの研究所など破壊し、残ってる危険を取り除く第13遺跡調査隊の隊長だったが、アルカナ騎士団の襲来に伴い部隊の実力を見込まれ「特務部隊」へと名前を変え、同時にそこの隊長へと就任することになった。 過去に敵の罠にはめられ大量のAI部隊によって部隊を壊滅させられそうになったが、ひとり生き残りそこにいたAI部隊をすべて撃退したことから一部からは「悪鬼修羅のゲイル」と恐れられていることも。 しかし、その戦闘の際に負傷した右腕と左足の影響で、今でも操縦の時は少々不自由らしい その後実力を買われたものの、戦場での死をも恐れない行動がめ立ち、指揮官や戦技教官などの役目を転々とさせられていた経験がある。 基本的には、あまりものを考えてないように思えるが、戦闘になれば現場での指揮をしっかりこなすやるときはやるタイプ。 本人は、基本的に戦えるのだが、周りが戦いを拒否している様子。 大神有雄 DCの職員で特務部隊の副隊長を勤める。ジツハコーディネーター もともと、工作畑にいたり、ゲイルの元でオペレータをやってたりと妙にいろんなことをこなしてきている 階級は少佐 基本的にはあまり起こらず、ニコニコしている。〆るところはそこそこ〆るが、それ以外はあまり気にもしない様子。ゲイルの行動をとめることが出来る貴重な人材ではあるが、本人はあまりとめようともしない。 いつも笑顔でイルのは先に話した部隊壊滅の時に、自分が何も出来なかったことを悔やみ、それならばせめて笑顔でいることが弔いではないかと考えるところ。 戦闘ではPCを援護するためにデュエルガンダムに乗って戦うことも。 シャナ=ファインフィード DCの職員で、元EOT研究班員。 ゲイルが13調査隊を立ち上げた際、研究所のデータ解析のためにスカウトしてきて、以後そのままなし崩しに現特務部隊旗艦「怒龍」オペレータとしてそのまま在籍している。 デスクワークに関してはかなりの腕前を持っており、本来ハッキングなんかもできるはずなのだが、仕事以外ではその腕をみせることはない。 さいきんは、「イル=ヴァウ」博士がやってきた入りして、影が薄い印象があるが、薄くなったぶん自分の好きなことをして、そこそこ気楽にやっていってるもよう。 ちなみに特務部隊面子の中では、ほぼ唯一の常識人。 パイロット訓練は受けているものの、操縦は不得手の様子。 イル=ヴァウ ロボット設計者であり、元特殊エネルギー研究班の責任者の一人。 ロボット設計者ということで、リオン系列の設計や、それに伴う武装の開発なんかに携わってきた女性。 ゲイルとは、以前から飲み友達だったことから、怒龍の設計開発責任を昼ごはん一色でOKを出し、そのときにサウンドバルキリーの話を聞き、面白そうだからと、特務部隊への編入をきめたらしい。 基本的な性格はとても軽いが、必要なことになればとたんに顔つきが変わることもある。 編入を果たしたいまはゲイルたちと共に行動をして、アルカナの機体解析を行ったり、時には、データをハッキングして情報収集することもある。 一見聞くと無害っぽくみえるが、実は… 怒龍内ではオペレーターをつとめリアルタイムで、期待の解析などを行うけっこうな凄腕。 趣味はノートパソコン作り。本人曰く「このよに一つしかないパソコンのほうが面白い」
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作品名:ナ行の巨大ロボットアニメ作品のうち、2010年5月以降で完走した(またはリアルタイム鑑賞中の)作品の全リスト。 ※「巨大ロボットアニメ」:通常の巨大ロボットアニメの他、①巨大ロボットが多数登場する、等身大ロボットが主人公の作品 ②SRW参戦済作品全般 を含む ※「参考作品(その他アニメ)」何らかの巨大メカ成分を含むアニメを抜粋 ※キャスト記載は原則的に8名以内に厳選。 ※キャストの注記 <主>:主人公 <パ>:主人公の異性のパートナー <仲>:その他の仲間 <敵>:敵 <ラ>:非戦闘系作品における対抗者(ライバル) <他>:その他 ※主要メカ・主要兵器の表記 [機体の一般分類](メカの種別)/メカの名前(作品中での位置づけ概要) ※キャスト、主要メカの色 青色:男性 ピンク:女性 緑色:性別なし(純粋なメカ) ※SRW初出のうち、実質的な初参戦作品(参戦作品として正式にラインナップされていないもの)は緑字で記載 <SF映像作品リスト> SF映像作品リスト01( - 1999年) SF映像作品リスト02(2000年 - )巨大ロボットアニメとその関連作品、SFファンタジーアニメと一般アニメ(参考掲載)、特撮作品 <巨大ロボットアニメリスト> 巨大ロボットアニメリスト(ア行) 巨大ロボットアニメリスト(カ行) 巨大ロボットアニメリスト(サ行) 巨大ロボットアニメリスト(タ行) 巨大ロボットアニメリスト(ナ行)<※参考掲載>忍者戦士飛影(1985-) 熱血最強ゴウザウラー(1993-) 巨大ロボットアニメリスト(ハ行) 巨大ロボットアニメリスト(マ行) 巨大ロボットアニメリスト(ヤ行) 巨大ロボットアニメリスト(ラ・ワ行)主要参考作品リスト(特撮・ウルトラマンシリーズ) 主要参考作品リスト(特撮・仮面ライダーシリーズ) 主要参考作品リスト(特撮・スーパー戦隊シリーズ) 主要参考作品リスト(特撮・メタルヒーローシリーズ) <SF・ファンタジーアニメリスト> SF・ファンタジーアニメリスト(ア行) SF・ファンタジーアニメリスト(カ行) SF・ファンタジーアニメリスト(サ行) SF・ファンタジーアニメリスト(タ行) SF・ファンタジーアニメリスト(ナ行) SF・ファンタジーアニメリスト(ハ行) SF・ファンタジーアニメリスト(マ行) SF・ファンタジーアニメリスト(ヤ行) SF・ファンタジーアニメリスト(ラ・ワ行) <◆ナ> <◆ニ> ◆忍者戦士飛影(にんじゃせんしとびかげ)★スパロボ初参戦:COM2(2000年) ※2010/5以降で未チェックの作品。スパロボ参戦済のため参考掲載 <◆ヌ> <◆ネ> ◆熱血最強ゴウザウラー【エルドランシリーズ】(ねっけつさいきょうゴウザウラー)★スパロボ初参戦:NEO(2009年) 媒体 TV・アニメ 時期 1993 3/3- 作品の長さ 51話 / 計20.4時間 キャスト <主>峯崎拳一(CV 高乃麗)<パ>朝岡しのぶ(CV 天野由梨)<仲>立花浩美(CV 林原めぐみ)<仲>白金太郎(CV 島田敏)<仲>火山洋二(CV 篠原あけみ)<仲>石田五郎(CV 上村典子)<敵>エンジン王(CV 菅原正志)<敵>機械神(CV 青森伸) 主要メカ主要兵器 [ - ](巨大ロボ)ゴウザウラー(主人公チーム搭乗機)[機械化獣](巨大ロボ)マッドシャープ(初登場機・第1話) <◆ノ> <◆参考作品(漫画・ゲーム/ナ~ノ)> <◆参考作品(その他アニメ/ナ~ノ)> <◆参考作品(特撮/ナ~ノ)>
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「分かってるけど……一応聞いとく……生きてるよな?」 「生きてるよ……まだ……死んじゃいない……」 「あたしも、なんとか……」 大空洞の地面にうずくまる三機のマシン。 その前には、傷一つ付いていない巨体でノイ・レジセイアが見下ろしている。 ノイ・レジセイアの放った一撃を、カミーユたちはどうにかバリアを全開にすることでやり過ごせはした。 しかし、それの結果受けた三機のダメージは深刻なレベルに達している。 「ごめん、やっと治ったのにまたぼろぼろになっちゃったね、ブレン」 「再生も、追いつきそうにない、かな……」 それでも、三機ともなお健在。 立ち上がることはできるし、武器を持つこともできる。 ノイ・レジセイアは、何をするわけでもなく三機を無言で見下ろしている。 「くそっ……余裕のつもりなのかよ」 「いや、たぶん違う。待ってるんだ。俺たちが、自分の望んだ力を見せるのを」 「なんだよそれ、倒されたがってるのか?」 「そう……とも言えるのか……?」 カミーユは、感情を移すことのないノイ・レジセイアの瞳の奥を初めて見た。 ノイ・レジセイアに会ってから、激情に駆られ続けていたカミーユは、今の今まで見えなかった。 ――ノイ・レジセイアは純粋だ。目的意識を持って、ただ愚直にそれを守ろうとしている。 そのためなら、自分の身など二の次三の次なのだろう。 悪意や打算を滴るほど織り交ぜて近付いてくる人間は、山ほどいる。 だが、そんな人間とはまるでノイ・レジセイアは違う。純然たる、善意から全ての行動が来ている。 だからこそ、余計にカミーユには最悪の気分だった。 顔色一つ変えず人を殺せるのは、己の正義に酔った人間か狂人だという。 それは、正義感で罪悪感を塗りつぶしごまかしているか、純粋に人間としての軸が狂っているかのどちらか。 ノイ・レジセイアは後者なのだ。命の価値など、最初からノイ・レジセイアの中に勘定されていない。 故に罪悪感など最初からなく、正しいと信じることを妄信している。 立ち上がったサイバスターの横に、イェッツト・ヴァイサーガが吹き飛ばされて戻ってきた。 どうやら、カミーユがノイ・レジセイアのことを考えている間に仕掛けて、返り討ちにされたのだろう。 「きっついな……けど、諦めるわけにはいかないんだから、大変だ……」 それでも、なおイェッツト・ヴァイサーガが立ち上がり、剣を構える。 『やはり……闘争を望むか……』 「違うさ。ただ………」 『…………?』 「最後はやっぱり主人公が勝ってハッピーエンドじゃないといけないだろ!?」 まっすぐに。一直線に。愚直に。 ノイ・レジセイアへイェッツト・ヴァイサーガが向かっていく。 しかし、それも四方八方から押し寄せる触手に行く手を塞がれ、追撃に放たれる声に押し返される。 全身から煙を上げ、倒れ伏すイェッツト・ヴァイサーガ。 「主人公だって……?」 「ああ、そうだよ。主人公だ」 膝を抑え、イェッツト・ヴァイサーガは何度でも立ち上がる。 自分に酔っているのかともカミーユは思ったが、統夜から伝わってくる気配は全く違う。 むしろ、不安を必死に抑えようとしているように感じた。 「人の命を、勝手な都合で奪って……なにが主人公だ」 「お前だって人を殺したんだろ。お互い様だよ」 「俺は、自分が物語の主人公なんて思いあがっちゃいない」 そう吐き捨てるカミーユに、統夜は、小さく笑いを返してきた。 「ハハハ、別に、物語の主人公じゃなくていいさ。ただ、俺は……俺を主人公と信じてくれる人の、主人公を演じたいんだ」 カミーユにイェッツト・ヴァイサーガの背を向けたまま、統夜は静かにとつとつと話し始める。 「皆、言うんだよな……俺は、ガウルンと同じだって。人を殺して喜ぶような奴だって。 俺だってそんなの嫌だよ。認めたくなんてない。けど、結局俺のやってきたことってそういうことなんだろうな。 でもさ……そんな俺を、主人公だって。ヒーローだって言ってくれたんだ」 心の奥に秘めたものを、静かに組み上げるような調子で、統夜の声は続く。 「だから、俺は……テニアが望んでる主人公になりたい。別に、誰からも尊敬されるような主人公じゃなくていい。 俺が、俺の望んだ俺でありたいから、俺はテニアが望んでる主人公になりたいんだ」 テニア。カミーユはその名を知っている。 自身が殺されかけたのだ。忘れるはずがない。どろどろとした悪意がうねっていた少女、それがカミーユのテニアの印象だった。 目の前の統夜は、テニアが死してなお騙されているのではないかと思った。 しかし、統夜の声からは、そんな推測を挟むことが無粋に感じるほど真摯なものを感じた。 「だから、俺はテニアにもう一度会う。生き返らせる」 「……死人が生き返るかよ」 「だろうな。そんな当然のことを自力でひっくり返そうとしてるんだから自分でも自分が馬鹿だと思うよ」 「……ごめん、さっきはそんなことも知らないであんなこと言って」 アイビスの、小さな謝罪の声。 それがなにを意味するのかカミーユには分からなかったが、統夜はアイビスの声に頷いて了承していた。 「それより、大切なのは目の前のあれを倒すことだろ」 イェッツト・ヴァイサーガが、斬艦刀を自分の脇に立てる。 サイバスターも、アイビスのブレンパワードも、まだ戦える。 自分は、どうか。一度冷めた思考が、冷静に自分の現状を教えてくれる。 震えっぱなしの腕。霞み始めた視界。身体が冷たくて、冷水の中にいるようだ。 どこまで、戦えるのか全く分からない。 それでも、やらなければいけない。 ノイ・レジセイアを見上げ、カミーユは思考する。 目の前にいるノイ・レジセイアを倒す方法はおそらく一つ。 相手が再生する暇など与えず、一撃で本体を丸ごと抹消する。 幸いと言うべきか、今のノイ・レジセイアは明らかに本気ではない。 うまく最大級の一撃を叩き込むことさえできれば、けして無理ではないはずだ。 だが、カミーユの思考に影を落とす要素があった。 サイバスターの最大攻撃は、コスモノヴァ。炸裂すれば、世界の新生すら推し進める究極兵器だ。 これを、ノイ・レジセイアには一度防がれている。しかも、空間転移という手段で。 下手に撃てば、前回の二の舞。 しかも、 (俺も……きっと……) 痛む心臓をパイロットスーツの上からカミーユは抑えた。 小さなデータウェポンたちが、カミーユを心配そうに見上げている。 次にコスモノヴァのような技を使えば、その時が最期であろうことはなんとなくわかった。 先程のアカシックバスターも、データウェポンたちの支援があってこそ撃てたし、当てることが出来た。 実は、あの一瞬カミーユは操縦すら困難な状況だった。それをデータウェポンたちが支えてくれたのだ。 どこまでも、俺一人じゃ何もできないんだなと自嘲気味にカミーユは笑う。 エマさんに自分の都合で大人と子供を使い分けるなと言われたが、自分がどれだけ子供だったのかいまさらながらに思う。 サイバスターの、何処か猛禽類を思わせる尖った細い指を見る。間違いなく、それはサイバスターのものだ。 けれど、カミーユにはあの時見えたのだ。 何故ジオン兵を殺したと問われた時、それがいつか見た血のついたガンダムMkⅡ三号機の指に。 「殺すことは……なかったんだ。殺すことはなかったんだ」 誰もが、手を取り合うことを望んでいる。 なのに、人を信じないから疑い、疑うから他人を悪いと思いはじめる。人間を間違わせる。 そしてちょっとしたすれ違いや運命に翻弄されて人は、遠く離れてしまう。 そんな離れた手と手の間を埋め合わせるのは、時として武器なのかもしれない。 ニュータイプだってスーパーマンじゃないと言っていたのはジェリドだったか。 それは本当だ。アムロ大尉も、クワトロ大尉も、そのことに悩み、足を止めてしまっていた。 けど、最初から人は拒絶しているのではない。人を否定するために出会うんじゃない。 「そうだろ……フォウ」 サイバスターの内燃機関が、燃え上がる。 パイロットの思念を受け止め、精霊と電子の聖獣は応えてくれる。 サイバスターの白い羽が、再び身体を空に舞い上げる。 「なあ……ノイ・レジセイアの動きを止めることはできるのか?」 「ブレンじゃ……難しいかも」 「……できないことはないさ」 「なら……」 「ちょっと待て。できないことはないってだけだ。 やれば最後、あいつの力を全部奪ったって質はともかく量が足らなくなる。そうなったら、結局意味がない」 言葉面だけ聞けば、拒絶の言葉。 だが、統夜の言葉の微妙なニュアンスをくみ取り、カミーユは聞いた。 「でも、やるつもりなんだろ?」 「ああ。単なる障害物のつもりだったけど、今は違う。あいつは、俺をガウルンと同じだって呼んだんだ。 感情って意味でもあいつを倒せって、俺が、俺自身に言ってる。違うってことを見せてやるさ」 最後に、「もしもの時のあてもあるしな」と付け足すと、統夜は、地面に突きたてた斬艦刀を握る。 イェッツト・ヴァイサーガがなにをするのか分からない。だが、確かにやってくれるという温かみを感じた。 それを信じるしかない。 「ただ、準備に時間がかかるんだ。それまで、時間稼ぎはそっちでやってくれ」 「分かった」 ノイ・レジセイアが全力でこちらを叩きつぶす前に決める。 そのため、一瞬に全てを賭ける。狙いは、空間転移で回避できない超至近距離からの、コスモノヴァの直撃。 正直、分の悪い賭けとしか言いようがない。だが、カミーユはその賭けに全てを賭けることにした。 「勝手に話進めて、悪い」 「気にすることなんてないよ。統夜に攻撃がいかないようにすればいいんだね」 「……頼む」 二機が構える同時に、ノイ・レジセイアが口を開く。 『人間同士の接触によって生まれる可能性……我に見せてみるがいい……!』 それが第二回戦の始まり。 ノイ・レジセイアが再び触手を伸ばす。同時に身体の周りに生えた砲身による援護射撃も。 隙間なく放たれる悪意を、サイバスターはくぐりぬけ、ノイ・レジセイアへ接近を試みる。 目の前に現れる妨害物を、ドラゴンフレアの炎やカロリックミサイル、ディスカッターで散らし、 ノイ・レジセイアの巨大な頭へ果敢に攻撃を仕掛けた。 ダメージを与えるわけではない。ただ、ノイ・レジセイアの意識をこちらに回すための攻撃だ。 カメラで少しだけ後ろを見る。そこでは、アイビスのブレンがイェッツト・ヴァイサーガの前で壁のようなフォトンシールドを作っている。 これなら、多少の流れ弾が向こうに行っても問題ないはずだ。 サイバスターの炉心の温度がさらに上がる。 カミーユの体温が比例して下がる。 攻撃をしかけながらも、いつでもコスモノヴァを撃てる体勢を作らなければいけない。 それは、巨大な爆弾に細心の注意を払いつつ、それを抱えて激しく踊るようなものだ。 下手な衝撃であっさり力は爆発し、直結されたカミーユの身体にも影響を与えるだろう。 震える腕に、カミーユは、爪を立てる。 流れる血と、痛みがどうにか自分をまだこちら側に縛り付けてくれる。 ノイ・レジセイアが腕を直接振り回してきた。 しかし、大きさ故にサイバスターから見ればその動きは鈍重だ。 下から回り込むと、一気にノイ・レジセイアの角をディスカッターで横一文字に叩き切る。 剣の軌跡が走ったかと思うと、塔の崩壊のようにゆっくりと角が横に滑って落ちる。 だが、それを眺めている暇はない。 カミーユは先に何があるのかすら目を向けず、上方にミサイルを放つ。 そこには、空から生まれ落ちようとしていた下位アインストの群れ。 完全に作られる前の段階でミサイルを撃ち込まれため、なにもできず下位アインストは砕け散る。 一斉砲撃が、サイバスターに向けられる。 だが、砲撃が着弾するより早く、サイバスターは一瞬でノイ・レジセイアの顔の側面へ。 それも、ノイ・レジセイアには読まれていた。砲台の隙間から触手があふれ、さらにサイバスターへ追撃してくる。 サイバスターには当たらない。いや、正確には――無数にいるサイバスターの影を貫いたに過ぎない。 『この力……聖獣の……』 ノイ・レジセイアの呟きが、最期まで言い切られることはない。 首を掻っ切るかたちで、巨大な水晶の刃物が生えたのだ。 動きを止めることなく、胸のあたりから声を放つノイ・レジセイア。 しかし、破壊の声は、空中で停止。そのまま、一ミリも動くことはない。 ――パイパーウィップの高速移動、分身。 ――ブルホーンの構成物質の結晶化。 ――ガトリングボアの時間停止。 不死鳥に姿を変えたサイバスターの突撃。 ドラゴンフレアの存在情報すら破壊する光を纏った突撃は、ノイ・レジセイアの腕を粉々に粉砕した。 「ごめんな……頼りっぱなしで……」 カミーユは、データウェポンに声をかける。 サイバスター自身の力は、ぎりぎりいっぱいまで温存しなければならない。 そのため、今のサイバスターはデータウェポンの力を借りてほぼ戦っている。 だが、データウェポンを装着し武器として使う本来の契約機である凰牙と違い、 サイバスターは、巨大なデータウェポンの存在をそのまま力に変換して戦っている。 つまり、データウェポンの存在を、命を削って戦っているのだ。 データウェポンたちは何一つ不満を漏らさない。 「え……仲間を……そうか、お前たちも……」 音はない。それでも、カミーユにはデータウェポンの声が聞こえる。 データウェポンたちも、仲間をノイ・レジセイアに殺されたのだ。 最後の、七体目のデータウェポンを。その仇を、データウェポンたちも取ろうとしているのだ。 「ありがとうな」 気を抜けば、時間稼ぎすらできない。 何度となくサイバスターが分身し、 何度となくサイバスターはノイ・レジセイアを結晶化させて、 何度となくサイバスターは時間を止め、 何度となくサイバスターはノイ・レジセイアの存在を削る。 それでも、ノイ・レジセイアは再生してしまう。 失われた存在の力すら復元してしまう。 データウェポン四機の力を結集しても、ノイ・レジセイアを揺るがすことすらできない。 命を賭けても、それでも意味がない。 「まだなのか……」 必死にカミーユはノイ・レジセイアの攻撃を避け、ノイ・レジセイアに攻撃を当て、データウェポンの命を削り生き延びる。 「まだなのか……!」 結着を付けるための時間を、ただ待ち続ける。 力が身体から抜ける。 力が手の先に集まっている。 力の全てが、斬艦刀に集まっていく。 統夜が貯め込んだ力の全てを、斬艦刀に注ぎ込む。 今は変化を命じていないため、大きさは目に見えて変わっていないが、重さは先ほどとは段違いの重量だ。 イェッツト・ヴァイサーガの力が下がっていることを加味しても、無茶苦茶な質量が剣に圧縮されている。 せっかく、剣から身体に流し込んだ力を、逆に剣に戻して使う。 もったいない、と思う気持ちはないわけじゃない。 けれど、ノイ・レジセイアを倒せるだけの威力を持った攻撃は、イェッツト・ヴァイサーガにはこれしかない。 倒せなければ、全ておじゃんだ。やれることを残して死んでは死んでも死にきれない。 結局、統夜にはカミーユにもったいぶらずとも、この手段しか残ってなかった。 動きを止める、すなわち、一撃で息の根を完全に止める。 統夜の考えはそれだ。 「ねえ……最初、なんで殺し合いに乗ったのさ」 自分の前で角突きの馬と一緒に、バリアを張って自分を守っている少女が聞いてきた。 集中をあまり乱したくないが、ひたすら同じ場所に立って力を込め続ける以上、話そうと黙っていようと対して変わらない。 「別に……最初はただ死にたくなかった。帰りたかった。だから、乗ったんだ」 少女はただ「そっか」と呟くと、またバリアのほうを向いてしまった。 流れ弾が何発もバリアに当たるが、揺らぐことはない。恐ろしく強固な防壁だと感心した。 「あたしとさ……おんなじだね」 「同じ?」 「うん。あたしもさ、最初死にたくない、帰りたいって一心で人を襲ったんだ」 意外な事実に統夜は驚く。目の前の、どんな現実にもへこたれそうにない少女がそうだとはとても思えなかった。 だからか、その続きが少しだけ気になってしまった。 「……それで? それからどうしたんだ?」 「返り討ち、かな。あたしは弱かったから。それで、いまいち踏ん切りつかなくて。 ただ、ぼんやり色んな人と一緒にいるうちに色々分かったんだよ。やっぱり、殺し合うのは間違ってるって」 「そこらへんも俺と同じだな。俺も弱かったよ。何度も負けたし、決心もつかなくて…… ただ、俺はやっぱり殺すしかないって思ったけどな」 いまさらながら自分が情けないと統夜は息を吐く。 何かにつけてすぐに悩んで、ふっ切ったと思えばまた悩み、ガウルンといつの間にか一緒にいて。 今、統夜はここにいる。 「もしかしたら……あたしたち、逆だったかもしれないんだね」 「逆?」 「あたしは、会う人に恵まれたからさ。こうやっていられたけど、もし違う人と会っていれば、 私が殺すしかないって結局決めて、統夜が人殺しはよくないってキラたちと一緒にいたかもしれない」 会う人に恵まれていたとはうらやましい話だと思う。 こっちはよく考えてみろ。戦う相手はこっちの説得なんてろくに考えず、叩きつぶしにくるような連中がほとんどだった。 挙句の果てに、会って一緒にいたのがガウルンだ。そのあとも、ユーゼスやらなんやらかんやら。最低最悪としか言いようがない。 唯一、よい出会いと言えたのは、テニアと再会できたのと、あのグラキエースって娘くらいだ。 『あはは……そんな慌てなくてもいいのにさ。それで? それで統夜は今までどうしてたの? 統夜のことだから、またどこかで女の子でも助けてたりしたんじゃない?』 ふと、思い出すテニアの声。 あの時、テニアは、アイビスが今言ったような、逆の道を進んだ統夜の姿を想像していたのだろうか。 自分の横に、大勢の仲間がいる。一緒に、ノイ・レジセイアに立ち向かう仲間がいる。 そして、その中には、テニアがいる。それだけじゃない、カティアやメルアもいる。 皆で、笑い、同じものを目指す。そんなヒーローの中の一人に自分がいる。 アルフィミィとかいう少女が見せた妙な夢のような、自分。 そんな、自分。 だが、そんなifは意味がない。統夜の周りには、誰もいない。 統夜は、皆のヒーローではなく、たった一人の少女のためのヒーローとなることを選んだのだから。 そのことに、後悔なんかしちゃいない。けど。 もしも、そんな道を進んで、テニアの望む形で出会えたなら、もっと良い可能性があったのだろうか。 「結局、ここまで来てこんなこと考えるんだから……筋金入りだな、俺」 悩んで、悩んで、悩んで、なお悩む。それが、統夜にとってのバトルロワイアルだった。 自分は、強くなった。色々と常識外れの力を得た。 後悔するつもりはないが、これが正しい進化なのかは分からない。 流れ弾の数が増え始める。 当然、バリアが被弾する数も増える。 空に目をやれば、サイバスターの動きが悪くなり始めていた。 もう、向こうも限界が近いのだろう。 だが、こちらの準備も完了している。 統夜は、斬艦刀の柄の部分を最大まで伸ばし、肉の地面にしっかりと突き立てた。 「アイビス、どけ! 準備が出来た!」 「わかった!」 その声に、弾かれるようにブレンが後ろに飛び退る。 それと同時に、斬艦刀に統夜が望んだとおりの変化が現れる。 『まさか……我の力を………ぉ―――――!!??』 「そうだ! あんたの力を、そのままあんたにぶち当てる!」 地面に立てられた柄が、植物の根のごとく、ノイ・レジセイアの力を吸い上げる。 ノイ・レジセイアの本体も、すべてのこの肉の地面や壁と繋がっている。 だからこそ、ひとたび突きたてればそこからノイ・レジセイアの力を奪うこともできる――! 斬艦刀の切っ先を、ノイ・レジセイアへまっすぐに向ける。 奪った力は、そのまま斬艦刀に貯められる。 もっとも、純粋にただの力の塊では液体金属と言うれっきとした物質である斬艦刀を伸ばすことは不可能。 しかし、事前に統夜の、イェッツト・ヴァイサーガの力を斬艦刀内部に移動させ物質に変換してある。 斬艦刀の封印が解かれた。 内部に圧縮してあった超重量の圧縮金属が、ノイ・レジセイアから奪った力で膨張する。 しかし、 「ぐ、あああああああああああああああ!!!?」 斬艦刀が剣の形すら維持できない。 あまりも膨大すぎる力が、統夜の精製した物質に収まらないのだ。 風船に、過剰な空気を送り込むに等しい。その先に待つのは、破裂のみ。 ―――愚かな……我の力を人として完全に超越することなく受け止めるのは……不可能…… 統夜の脳に直接響くノイ・レジセイアの声。 力とともに、意思が流れ込んでいる。接続された統夜とノイ・レジセイア。 しかし、意思が、存在が強固なのはどちらか言うまでもない。統夜は力こそ常人離れしているが、所詮基準点は人間。 生まれたての進化したアインストである統夜と、何億何兆何京年と悠久の時を生き続けたノイ・レジセイアの差は、埋められるものではなかった。 「大丈夫!? あたしのこと分かる!?」 かすれた意識に、アイビスの声が入り込む。だが、その声にこたえる余裕が統夜にはない。 どんどん、自分が削られていく。自分の存在が暗くなる。自分の存在がなくなる。 イェッツト・ヴァイサーガの足元の肉が蠢き、イェッツト・ヴァイサーガの全身を飲み込んだ。 このまま、丸ごと自分を取り込むつもりなのはすぐ分かった。 ちくしょう、こんなところで終わるのか。よりにもよって、こんな奴に食われて。 今までだってだましだましやってきたのに。こんな終わりなのか。 冗談じゃない。まだ、俺はテニアを生き返らせてないんだ。 その後なら、百歩譲ってやって死んでもいいさ。 けど、まだ死ねないんだ。 機体と肉の境界が薄くなる。 俺の中に、いやなものが流れ込んでくる。 ひどく冷たい。 こんな苦しいところが終点か。 自業自得かもしれない。 でも、こんな終わりはないだろう。 神様なんているのか知らない。 けど、いるなら頼む。 あと一発。 この一発さえ成功すれば。 きっとあいつを倒せるんだ。 それでほとんどのことはすむんだ。 あと一回だけを剣を振らしてほしい。 ああけど。 俺が殺してきた連中もやっぱり。 同じように祈ったんだろうなあ。 でもどうしようもなくて。 死ぬしかなかったんだよな。 いや、ガウルンだけは別か。 あいつはむかつくくらい満足して死んだ。 なんで思い出すのがガウルンなんだ。 もっと思い出したい顔があるのに。 もうそれも出てこない。 俺が、俺でいられなくなる。 誰かの声が聞こえる。 うるさいな。 でもこうやって考える俺も消えるのか。 嫌だなあ。本当に嫌だ。 もう、指も動かせない。 目が見えなくなってきた。 これが、最後の光景か。 せめて、それを目に焼き付けよう。 俺が最期に見るのは赤髪の少女。 細部は霞んでわからない。 彼女は誰だっけ。 大好きだった少女。 俺が俺である理由をくれた人。 生き返らせなくちゃ。 だから動かなくちゃ。 俺は。 俺が。 「――統夜! 起きて! お願いだから起きて!」 赤髪の少女の声が聞こえる。 この声に、応えるんだ。 動け。 動け。 動け。 動け。 「動けえええええええええええええええええええええええええええええええッッッッッ!!!!」 ■ ――イェッツト・ヴァイサーガが、動いた。 イェッツト・ヴァイサーガが手に握ったものを振り上げる。 物質と言う形を維持できず、霧散した金属片がエネルギーを伝達する。 紫電を纏い、どこまでも伸びる虹色の荒々しいエネルギーの塊が、まっすぐ伸びてノイ・レジセイアに突き刺さった。 その一撃は、ひたすら伸び続け、星を貫通してもなお止まらない。 伸びるに従って、刀身も厚みも増していく。 巨大な杭を叩き込まれたノイ・レジセイアの身体に、蜘蛛の巣状にヒビが入っていく。 ヒビから光が漏れる。 それは、知る人がいればこう呼んだだろう。 斬艦刀・星薙ぎの太刀と。 統夜の放った一撃は、星を薙ぐことはなかったが、確かに星を貫いた。 ■ モニターの向こうの赤髪の少女に、統夜は拳を突き出す。 「やったよ、テニア……」 イェッツト・ヴァイサーガが、肉の中に埋もれて消えた。 それが、統夜が見た最後の光景だった。 統夜は知らずに済んだ。 最期に自分が最愛の人と信じた少女が、別人だったことに。 【紫雲統夜 吸収】 『これが……可能性……!』 ノイ・レジセイアの身体をアインストとなった人間の力が縛り付ける。 自分の力を削がれ、撃ちこまれたとはいえまだノイ・レジセイアの死は遠い。 最後にあの人間から感じられたのは、間違いなく他者との交わりを求める感情だった。 やはり、ノイ・レジセイアの予測は正しい。人間が他者と交わる時に生まれる可能性、その力。 それは、時に我すら揺るがす。しかし、その力ももはや今は自分へ取り込まれた。 さらなる進化の躍動を感じ、ノイ・レジセイアは高揚する。 だが、そんな至高の瞬間に水を差す存在が一つ。 「ノイ・レジセイア!!!」 電子の聖獣の力を借り、我と戦おうとする愚かなる人間。 聖獣たちの力は、どうしようと我を超えることはない。なぜなら、成長の可能性、完全へ至る要素を持っていないのだから。 だというのに、そんな力を使って戦おうとする愚者。もはや、このサンプルを生かす理由もない。 「こんなことをやるから、みんな死んでしまうんだよ! お前がいなければ、こんなことにはならなかったんだ!」 ノイ・レジセイアは体内からエレガントアルムを無数に精製。体外に放つ。 音の壁すら超える触手の群れ。しかし、これで倒せるとはノイ・レジセイアも思っていない。 だからこそ、ノイ・レジセイアは別の攻撃も加えることにした。 先程まとめて吹き飛ばしたオメガ・ショックウェーブとも、一斉砲撃のミッドライトともまた別の力。 放つ力の名はエルプスユンデ。全力で放てば、銀河すら粉砕する力。 もっとも、それだけ過剰な破壊力は必要ない。ノイ・レジセイアの全身から光弾が、数m置きに正確に設置される。 その隙間を抜けることは、風の魔装機神でもできない。 そして、その一つ一つが風の魔装機神を百度砕いて余りある力を封入している。 それでも、人間は感情のまま突撃してくる。 エルプスユンデの力を過小評価している。一二度当たってでも、いや何度当たってでも突破する心づもりと予想。 それがいかに無駄な行いか知るノイ・レジセイアは、それ以上なにをすることもなくただ傍観。 一瞬後には、風の魔装機神は砕け散る。 はずだった。 エルプスユンデに風の魔装機神が被弾。起こる爆発。すなわち、粉砕。そのはずだった。 しかし、風の魔装機神はエルプスユンデで起こった極光の爆発を超えて、なおこちらに向かってくる。 『何故……?』 ノイ・レジセイアは何が起こったのか見極めようとする。 思念をノイ・レジセイアが向ければ、エルプスユンデの群れが風の魔装機神に殺到。 やはり、爆発。ノイ・レジセイアはそれで倒せたと判断せず、光の向こうに意識を集中する。 『理解した……』 ノイ・レジセイアは、光の向こうで起こったことを知る。 風の魔装機神から、電子の聖獣の気配が一つ消えた。風の魔装機神が宿している聖獣の気配の数を探れば、残りは二つ。 先程の爆発で一つ消費し、今の爆発で二つ目を消費した。 ノイ・レジセイアのエルプスユンデは相手の存在すら抹消する力。いくら情報存在と言えど、死は免れない。 風の魔装機神は、聖獣を防壁として利用し、エルプスユンデを防いでいる。 ならば、対処は簡単。まだ風の魔装機神がノイ・レジセイアへ到達するには距離がある。 エルプスユンデを操作。風の魔装機神が被弾。光の中で、蛇の形をした聖獣が塵に還る。あと一つ。 エルプスユンデをよけようともせず、最短距離を飛び続ける風の魔装機神。 さらに、エルプスユンデを操作。風の魔装機神が被弾。光の中で、牛の形をした聖獣がさらに塵に還る。これで守りはない。 最後に、数個のエルプスユンデを、風の魔装機神の真路上に設置。 これで終わり。 「人のつながりが力になるって言ったな………!」 しかし、それでもノイ・レジセイアの力が風の魔装機神を砕くことはなかった。 今度こそ、理解できない出来事に、ノイ・レジセイアは戸惑った。 今や風の魔装機神を守る力はないはず。それなのに、何故。 「それは、誰かだけが持ってるものじゃない、誰でも持ってる力なんだよ! それがあるから人も生きていける! 命っていうのはそういうものなんだ!」 まさか、何かの防御手段を隠していたのかと思い、先程と同じように見極めるためエルプスユンデを操作。 「生きること自体が、人を繋ぐなら! 繋がりあえる人の心が奇跡なら誰も踏みにじっちゃいけないんだ!」 弾かれるエルプスユンデ。 進化した人間特有の精神感応能力の応用だと推測するが、風の魔装機神にはそういった能力に対応し防壁を張る力はない。 だとすれば、原因は何か。ノイ・レジセイアは、風の魔装機神の力をあらゆる方向から検討する。 「黒歴史がなんだろうと、俺は……俺は―――!!」 サイバスターの身体から、透き通るような空色の波動がにじみ出ている。 波紋のように広がる空色の力。光の粒子。それは、風の魔装機神の持つ力の一つ、サイフラッシュ。 あり得ない。サイフラッシュは、周囲に力を撹拌させ、敵意のみを破壊する力。 一瞬でも消耗が莫大なそれをこのような防壁として、長時間維持することなどできはしない。 「ここから……」 ひとまず、攻撃を防ぐことにノイ・レジセイアは専心する。 力場そのものであるエルプスユンデで阻止できないというのなら、物理的に質量をもつエレガントアルムで作った盾で防ぐ。 詳細が何であれ、サイフラッシュやそれに類するものならば、大量の質量を破壊することは不可能だ。 ナノマシンのせいで再生を阻害されていたが、除去も完了しつつある。もうすぐ、あの刀による攻撃の傷も再生できるようになる。 どんな種類の力であれ、長時間は維持できない。一度防ぎ、体勢を立て直せば終わる。 「ここから―――」 それでも、なおノイ・レジセイアの予測は裏切られる。 一息で、厚さ何百mとあるエレガントアルムの防壁を食い破られた。 ノイ・レジセイアは即座に歪曲フィールドを自身の前に張る。空間をねじり固めたこの防壁は、あらゆる攻撃を半減する最硬の盾。 風の魔装機神の動きが、そこで止まる。 「ここからぁぁっ!!」 やっとノイ・レジセイアは知った。 風の魔装機神の周りにいる存在を。全ての存在は、新しい世界に統合されたと思っていた。 しかし、違っていたのだ。この世界で死したものたちは、いまだこの古い世界に残留していたのだ。 ノイ・レジセイアは初めて人間一つの一つの個体の名前を思い出そうとする。 風の魔装機神の側にいる存在の名は―― シャギア=フロスト。 キラ=ヤマト。 「ガンダム」の歴史を紡いできた者たち。 ノイ・レジセイアはエルプスユンデを一点に集めることで、空間の門を開き、サイバスターを外世界に放逐しようとした。 空中で一つになり、黒い空間転移の力場に変化するエルプスユンデ。 だが、ノイ・レジセイアの行動が終了するよりも早く、サイバスターは世界の新生に匹敵するその力を解放しようとしている。 これもまた――人の繋がりが生む力か。 精霊光の輝きがサイバスターの周りを飛ぶ。 サイバスターが眩い光に包まれていく。 ノイ・レジセイアがこれを見るのは、三度目。 一度目は、あの依り代の中で。二度目は、宇宙の新生の時に。そしてこれが三度目。 地獄のような肉にあふれた赤い大空洞が澄んだ青に染まる。 青と緑の中間に近い色合いのそれが、輝きを増す。 その光はやがて黄金を越え、色を超越し、ただひたすらに、どこまでも眩く輝き始める。 やがて輝きは四つの光の玉に収束される。 サイバスターの組んだ腕が、集積した力の大きさに震えた。 世界の理を塗り替える、局地的な宇宙の新生――コスモノヴァ。 だが、ただのコスモノヴァではない。 サイバスターが変形し、サイバードへ変わる。 自分の作り出した力をその身に纏う。 「ここからいなくなれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 ノイ・レジセイアを、サイバードごとコスモノヴァが包み込んだ。 ■ サイバードから変形し、サイバスターが落下する。 あたしは、慌ててそれをブレンにキャッチさせた。 そのまま、ふらふら地面にブレンは着地する。 カミーユから、声はない。焦点定まっていない瞳を何処かに向けたまま震えている。 けど、生きてる。あたしは、ノイ・レジセイアがあった場所を見た。 そこには、ノイ・レジセイアの本体は少しもなく、えぐり取られている。 間違いなく終わったんだ。 今度は統夜が消えてしまった肉の地面を見る。 あたしは悲しくなった。 統夜は、最後にあたしのことをテニアと呼んだ。 コクピットにも、ノイ・レジセイアの気持ちの悪い肉が入ってて、統夜の身体に張り付いていたのに、 それでも笑って自分へ拳を突き出してそうつぶやいたのだ。 そして、統夜は、肉に包まれて見えなくなった。 なんでこんなことになったんだろう。 自分と真逆の道を進んだ統夜だけじゃない。 結局、あれだけいた人たちも、残ったのは私とカミーユだけ。 殺し合いを心から望んでた人なんて、ほとんどいなかったのに。 「なんで殺し合わなきゃいけなかったんだろう……」 ただ、悲しいばかりだった。 ショシュアも、シャアも、アムロも、クルツも、キラも、ロジャーも、コウジも…… 殺し合いが始まってから、出会った人を一人ずつ思い出す。 けれど、みんなもういない。 「う……あ……」 「カミーユ!?」 サイバスターから、うめき声が漏れた。 通信を繋げるが、カミーユは意味のある言葉を漏らそうとはしない。 ただただ、かすれたうめき声を上げるだけだ。 カミーユの手が、操縦桿を引く。サイバスターが、ミサイルラックの影から何を掴みブレンに差し出した。 差し出された手の中にあるのは、Jジュエル。最初の時に、自分がサイバスターに渡したものだ。 「これで……どうすればいいの?」 カミーユのやることが無意味とは思えない。 これを使って何をしろとカミーユは言っているのだろうか。 アイビスはそう考えながらも、ひとまずブレンから降りて、カミーユをコクピットから出し看病しようとした。 けれど、アイビスがブレンを降りるより早く、サイバスターにブレンが突き飛ばされた。 かなりの力が込められたひと押しは、体格差もあって ブレンを大きく後ろに転ばせた。 「いったい、なんのつもり―――」 そこまで言って、アイビスは言葉を失った。 地面から巨大な柱が浮き上がり、サイバスターのコクピットを突き刺さして左右に広げる。 左右に肉の地面が開く。真っ二つに割れたサイバスターを、肉の地面が飲み込んだ。 カミーユがどうなったのか、一瞬考えられなかった。 「え、あ……!?」 ブレンがアイビスの意思をくみ、サイバスターがいたはずの場所に飛ぶ。 しかし、そこにソードエクステンションを放つが、えぐれた地面の中にはいない。 『ここまで……我を追い詰めるとは予想できなかった……故に……取り込む価値も……ある』 ノイ・レジセイアの本体があった場所から、声が聞こえる。 アイビスが振り仰げば、そこにはあの骨の騎士姿のノイ・レジセイアが肉の隙間からのぞいていた。 その胸には蒼い宝玉が輝いている。 【カミーユ・ビダン 吸収】 →ネクスト・バトルロワイアル(8)
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殺意を測らなければいけない。 アルトアイゼン・リーゼは近接戦闘特化型のマシン。奴を確実に殺すためには、あの巨体の懐に踏み込むことは必要不可欠。 相手が、どれだけの殺意を向けてこちらに攻撃を仕掛けているか、それを知らねば、勝利は遠い。 まだ、こちらを取り込んで再生しようという意識が残っているのか。 それとも、もはやユーゼスを否定した俺を取り込むつもりなどなく、純粋に殺すつもりなのか。 身体を覆う懐かしい感覚。 相手が憎くて憎くて仕方ないのに、頭の芯が冷え相手を殺す方法だけを冷静に考えられる。 北辰と戦ったときに、いつもアキトに付き纏っていたものだ。 いきなり懐に飛び込んだりはしない。 まずは距離を取り、油断なく相手の出方を待つ。攻撃こそが、もっとも感情を映す。 ゲキガンガーのようなヒーローが、敵と殴り合い拳でお互いを理解し合うようなものとは、似て非なるもの。 攻撃で、相手を理解し、その上で最適の殺し方を算出して息の根を止める。 デュミナスの瞳から、梵語に似た文字が溢れ、空間に広がっていく。 地面にふれても爆発することはなく、地面に沿って滑るように蠢きまわる。空に浮かんだほうは、空を包むように広がっていく。 サブカメラいっぱいに広がってくる意味の理解できない奇怪な文字列。場の主導権を握られたことを理解するが、それも覚悟のこと。 落ちた凰牙の腕を拾い上げ、もうすぐアルトアイゼン・リーゼのいる位置に到達せんとする地面の文字に投げ込んだ。 突進型としてのパワーの強さが売りとはいえ、純粋な腕力などもパーソナル・トルーパーとしては、リーゼはかなりのものを持つ。 地面をへこませる勢いで地面にたたきつけられた凰牙の腕が文字と接触し――爆発した。 機雷か、それに類するものであることを、その一瞬で察する。 地面にぶつかっても爆発しないことから、衝撃を与えなければ問題ないのかもしれないが、もし足にまとまりつかれれば動けなくなる。 リーゼを急いで跳び退らせ、背面の武器ラックからスプリットミサイルを発射した。 大型のミサイルは、発射後弾頭部分かれさらに小型のミサイルを大量に放つ。 ばら撒かれたミサイルと文字が、空で、大地で、大量に接触した。 爆発、爆発、爆発。 爆発――芝生がめくれ上がる。 爆発――植えられた木々が千切れ飛ぶ。 爆発――気持ちほど作られた建造物が砕ける。 所詮、インセクトケージの青空は偽物。その光は、常に人の頭上に揺るがず存在し、全てを照らす太陽の光ではない。 他に強い光を放つものがあれば、人工の照明にすぎないその青空はあっという間に霞んでしまう。 肉眼で直視すれば目が眩むほどの光の中身を、アキトは黒い視界補助具越しに確認する。 爆発により、とりあえず差し迫っていた文字は消えた。だが、それも一部のこと。 今なお残っている大部分は、その場に残っている。いや。 文字は、再び増殖を繰り返し、アキトを捕えんと進撃してくる。 先程と同じでスプリットミサイルによる迎撃を試みようとしたが、出掛りを潰すタイミングで二条の光線がリーゼに向けられた。 舐められたものだ、とアキトは吐き捨てる。 アキトの身体に白い文様が浮かび上がる。 それは、アキトの運命を最悪のほうへ転がした呪いの文様。だが、アキトはその力を目的のためなら躊躇なく使用する。 ――瞬転。デュミナスの頭上へ。次の瞬間、重力に従いリーゼが前方に落下した。アキトの身体の認識する重力が、90度一気に変化する。 同時に、アキトが見ている光景もまたまったく違うものへと変わる。デュミナスの全体を見通していたものから、デュミナスの頭頂部のアップへ。 デュミナスの頭部に、巨大な杭打ち機が叩き込まれた。 スラスターの出力に重力による落下の勢いが加算された一撃は、デュミナスの頭を容易に潰す。 グシャリと嫌な音が響く。しかし、それも内部へ向けて発射された弾丸の炸裂音でかき消された。 巨体が傾き、砂埃を舞い上げながら地面に倒れ伏す。 「どうした、まだ俺がお前だと思ってるのか?」 デュミナスの実力の全貌をアキトは知らない。 だが、かつてメディウス・ロクスは相転移砲とグラビティブラストを持ち、ヴァイクランだったかの機体の攻撃までも持っていた。 あれだけの巨体を持ちながら、攻撃はあんなビームカノンと巨体の割にはささやかな爆発しか起こせない機雷モドキだけのはずがない。 もっと強力な攻撃手段を持っていないとしたら、元のメディウス・ロクスからとんだ退化だ。 こんな攻撃しかしてこないのは、それでアキトを仕留め、さらに確保できると思っているからか。 殺すだけなら、今のうちに奇襲で一気に片づけてしまえばいい。 だが、アキトにそんなつもりは毛頭ない。相手の全てを引き出し、否定したうえでの勝利。それこそが、アキトが望むもの。 まったく自分らしくない戦い方だとアキトは思う。アキトは、奇襲、突撃を主体として戦っていたが、それは戦場に出てからに限らない。 出る前の段階でも、あらゆる手段を講じて、勝利を目指していた。 それは、時にラピスを利用したハッキングであり、時にコロニーへのテロ行為であり、形は様々だ。 不意打ち上等――緩みがあるならその隙に喉笛をかみちぎる。 憎い相手を殺すため、あらゆる手段を厭わなかったそんな自分が正面突破を望んでいるとは。 昔のような青臭さからか、それともやはり自分が自分ではないから。 ルリに一度君の知るテンカワ・アキトは死んだと言ったが、まさか本当に死に、こんなことを考えることになるなんて考えもしなかった。 だが、それでもアキトはデュミナスを全力でたたきのめすことを選んだ。 それが、自分が望む、自分らしい自分への道だと思うから。 「あ、な、たは……私の眷属……何故……私と同じ心を……」 「何度言っている。俺は、お前じゃない」 残り少なくなったリボルビング・バンカーのシリンダーを抜き、新しいものを装填する。 片手がないので、地面に落としたシリンダーに芯の部分を差し込んで持ち上げる形で強引にリロード。 これで、六発入りのシリンダーの予備はあと一つ。今腕に装着したものに納められた六発と併せて、計十二発。 使ったクレイモアは今まで一発。肩の一部装甲が欠落しているが、使用に問題はない。全部で八発なので、残りは七発。 頭部がないため、プラズマホーンは使用不能。左手がないため、五連チェーンガンは使用不能。 スプリットミサイルは、二発同時使用前提で、残り九回分なので、全部で十八発。 これが、アキトとアルトアイゼン・リーゼに残された全ての火力。 デュミナスにダメージが入ったためか、文字列は消えて元の地面をさらしている。 アキトは、機体の姿勢を前傾にさせ、一気に踏み込んだ。相手が本気でないというのなら、本気を出すまで徹底して相手を追い詰める。 放たれるアルトアイゼン・リーゼの抜き手。かわされることを前提に、敢えてバンカーのトリガーには指をかけない。 一切回避行動を取らないデュミナスに、その一撃は突き刺さるかに見えた。 「―――ッ!?」 アキトの打ち込んだ拳は、デュミナスに当たる数m前で停止。 発生した空間の歪みが、アルトアイゼン・リーゼの腕をその場で縫い止める。 ディストーション・フィールドに似たその形状から、おそらくその手のバリアーであるとあたりを付ける。 モーターが歪む覚悟で固定されたひじを強引に曲げ、身体ごと空間の歪みにアルトアイゼン・リーゼがぶつかっていく。 停止状態からでも一気に生み出される推力で、さらに圧力を加えられたバリアーは、一瞬たわんだ後にはかき消える。 最後の数mを縮めるよりも早く、デュミナスが放ったビームキャノンがリーゼに炸裂した。 ものともせずに、リーゼは砲撃を無視して加速のまま蹴りを叩き込んだ。 リーゼの装甲とビームコーティングの二重構造は、そこらのビーム兵器などいとも簡単に散らしてしまう。 蹴った後、さらに蹴り足とは逆の足でデュミナスを蹴り、後方宙返りを決めてリーゼが華麗に着地。 「おお、おお、おお……もう……この姿を……維持できない……」 デュミナスの身体がひび割れ、ボロボロと崩れていく。 どうやら、相当に消耗しているらしい。それこそ、今すぐこちらを取り込まねば危険なほどに。 それでもその巨体を強引に起こすと、こちらに向かい合った。ようやく、やる気になってもらえたらしい。 アキトが、後の先を狙わんとカウンターのタイミングをはかる。 だが、デュミナスの攻撃はアキトの予想外のものだった。 「………キャスト・オフ」 デュミナスの言葉とともに、デュミナス自身が爆発した。 操縦桿を一気に押し倒す。足を固定したままスラスターが吹かされ、前に倒れるようにリーゼが身を伏せる。 機体の背中越しに伝わる衝撃。デュミナスが身体の破片を吹き飛ばして攻撃したのはわかる。 だが、何故そんなことをしたのか分からない。そんなことをするのは、自殺行為、いや自爆行為に他ならない。 まだ破片が起こした破壊の嵐が収まらぬ中、リーゼの上半身を少しだけあげる。 肩についたサブモニターから、デュミナスがどうなったのかを確認しようとする。 「がッ!?」 機体が一気に吹き飛ばされ、コクピットが揺れる。 シートベルトがアキトの胸を叩き、息とともにアキトはうめきを上げた。 「この姿を再び見せることになるとは、思いませんでした」 地面を何度となく跳ね、リーゼが地面に大の字になる。 ぼんやりしている暇はない。直上から、巨大な鈍器を抱えた機動兵器がリーゼに突撃してきていた。 火器管制システムの照準合わせを待たず、アキトはクレイモアの発射を敢行する。 地面に転がり上を向いている今、事実上隙無しの全方位攻撃が放たれた。しかし、黒い影は、直角に曲がると、クレイモアを避けて見せた。 影がクレイモアを回避している間に、リーゼを起こす。フレームの歪みのせいか、内部で何処かの関節がこすれる音がする。 今の衝撃で、余計歪みがひどくなったかとアキトは唇をかんだ。 「……ずいぶん小さくなったな」 「ええ。あのサイズを維持するのは不可能だったので。必要な要素を回収し、再構築しました」 そこにあるのは、濁った桃色の体色をした、奇怪な機械か生命体か分からないモノではなかった。 真黒い装甲。黄色いカメラアイ。人間を模した構造。それは間違いなく、真っ当な人型マシンだった。 胸の中心で輝く赤いコアのみが、その名残と言えるだろう。 いや、違うとアキトは首を振る。アキトは、見たことはなくても、記憶の奥底で何故か知っている。 目の前のマシンこそが、デュミナスの始まり、AI1へ至るメディウス・ロクスの最初期の姿であることを。 アルトアイゼン・リーゼとほぼ同身長。その手には、自分の身長もある巨大な鈍器。 あれは、ディバイデッド・ライフル。鈍器であると同時に高出力のビームキャノンだったはず。 正面からぶつかれば、当たり負けはしないとアキトは判断する。だが、距離を取ればビームキャノンの分だけ不利なのは明白。 先程の突撃のときもう少し落ち着いていれば、引き寄せてから攻撃を叩きこむこともできたのに惜しいことをしたと、 振り返るが、後悔している暇はない。もうすでに戦いのゴングは鳴らされている。 今、デュミナス……いやメディウス・ロクスを包む気配は、間違いなく戦うためのそれ。 視線を切ることなく、相手の全身へ集中する。もしもどこか動けば、即座に対応する。 さながら、西部劇の一騎打ちの光景。もっとも、一撃で決着がつくとは到底思えないが。 ――メディウス・ロクスが先に動いた。 常人なら、目にもとまらぬ速度で背中にジョイントしてあるディバイデッド・ライフルを引き抜いた。 だが、アキトもまた人間の極限まで鍛え抜かれた感覚、そして人間でなくなったことで得た超反応で感知する。 秒速30万kmの速度で放たれる光の矢をかわすには、発射される前には回避行動を取らなければいけない。 メディウス・ロクスが引き金を引く気配とタイミングを正確に察し、その引き金が引かれる直前に回避し――攻撃する。 ディバイデッド・ライフルの二連装ビームキャノンが発射される刹那、リーゼは前に走る。 発射されたビームキャノンをリーゼが被弾。先ほどとは比べものにならない高出力が、ビームコーティングを突き破る。 そして、突き破られた際に放たれる閃光を確認すると同時に横っ跳び。 ビームコーティングの貫通後、装甲への着弾までのゼロコンマ数秒以下の時間こそが、攻撃と回避を両立させる唯一の時間。 距離を詰めたリーゼのアッパーカットが、メディウス・ロクスの顎を捕えんと跳ね上がる。 だが、メディウス・ロクスもアキトの行動に対して、既に対処行動を始めている。 メディウス・ロクスの腕部にマウントされたコーティングソードが、リボルビング・バンカーを横にそらした。 メディウス・ロクスの顔ギリギリをバンカーが抜ける。同時に、得物を前にしてクレイモアが解放された。 吐き出される、ベアリング弾の嵐。回避は不可能なコースによる一撃。 アキトは、これで大なり小なりダメージを与えられると確信した。だが、カメラの下へと消えていくメディウス・ロクス。 リーゼの身体が揺らぎ、メディウス・ロクスから離れていく。リーゼが安定を失って後ろに倒れている。 機体にかけられた圧力、およびダメージを即座にチェック。 自己診断コンピュータのレスポンスすら、アキトは遅いと感じた。 本来なら超高速演算と言っていいコンピュータの電子頭脳が弾き出した答えは、脚部へ何かが絡まっているというもの。 だが、対応する時間はない。メディウス・ロクスのディバイデッド・ライフルによる打突が迫っている。 アキトは、敢えて足元の問題を処理することを放棄し、ボソン・ジャンプを選択。 一瞬の浮遊感とともに、メディウス・ロクスと約100mの距離を取る。 この間、メディウス・ロクスが動き始めてから僅か6秒の攻防。 距離を取り、ようやく足に絡みついたものの正体を確認できる。 あまり良好とはいえないサブモニターでどうにか見てみると、そこにあるのは植物のつたにも似た黒い触手。 「見かけと中身は別か」 続けて、メディウス・ロクスの足元も確認。すると、足首の関節からリーゼの足に絡みついたものと同じが伸びていた。 どうやら、純然とした機動平気然とした外見とは裏腹に、中身はそのままデュミナスや後期メディウス・ロクスの機能を持っているくさい。 動きの速さから見るに、基礎性能も相当に高めてあるようにも思う。 だが、これでいい。間違いなく、デュミナスも本気でこちらを屠りに来ている。 それでこそ、殺しがいがある。 うって変わって、アキトが攻めて出る。 化け物並みの反則能力の数々を、小さな中身に詰め込んだメディウス・ロクス相手に長期戦は不利としか思えない。 元々、受けに回るのはそこまで得意じゃない。だからこそ、一気に攻めきる。 補助ウィングの展開。テスラ・ドライブによる重力干渉・制御により、周囲に擬似的な無重力が発生する。 どれだけ傾いてしまった狂った重心でも、一定以上の安定をくれるリーゼの機構に、特機に匹敵する爆発力。 スピード×パワー=破壊力。 単純だからこそ、どんな相手にも通用する攻撃。 メディウス・ロクスもまた、逃げることなくディバイデッド・ライフルを引き抜くと、その鈍器を前に突き出し突撃してくる。 点では不利。いくら衝撃に強いとはいえ、正面からぶつけては腕が折れる。 そう判断したアキトは、腕を引き、肩からぶつかっていく。正面から、リーゼの肩とディバイデッド・ライフルが衝突した。 正面衝突の結果は、痛み分け。どちらにも満足にダメージは入らないが、ぶつかった勢いで両者たたらを踏む。 並みのパーソナル・トルーパーやアーマード・モジュール……いや、ダイマジンやダイテツジンすら砕ける衝撃でもお互い下がるだけ。 普通なのは姿だけの化け物、という意味では、蒼い魔王より生み出されたリーゼも引けを取らない。 「終わりにしましょう」 「お前がな……!」 お互い、次の一手も同時であり――同じ手段。 ぶつかっていった肩が、上下に割れて展開される。ぶつかっていったディバイデッド・ライフルが縦に割れ、スライドする。 発射もまた、同じタイミング。 二連装ビームキャノンがクレイモアの一部を消し飛ばし、リーゼに着弾。 広範囲にまき散らされたクレイモアは一部消し飛ばされようとも、残った大部分がメディウス・ロクスに着弾。 リーゼのビームコーティングにより装甲の沸騰、およびそれに伴う爆発は起こらない。しかし、胸部装甲がへこみを作る。 ビームキャノンが消し飛ばした範囲が、胸を中心に安全地帯を作る。しかし、四肢などそれ以外の範囲はクレイモアの着弾で小爆発を繰り返す。 追撃不能と判断するや否や、両者回避運動を開始。 リーゼが猫科の猛獣のように地面を疾走。回避しつつ、攻撃を加えるに当たって最適の場所を探して動き回る。 メディウス・ロクスは空に舞い上がり、的を絞らせぬように飛行。一方的な空からの空爆を仕掛けるのに最適の場所を探して動き回る。 メディウス・ロクスが、空からビームキャノンを連射する。 当てようというより、相手の移動範囲を狭めて誘導するのに近い撃ち方。アキトはそれを察しながらも、敢えて誘いに乗る。 隆起した丘の周辺以外に、逃げ場がなくなった。アキトは、丘の上に移動して陣取るように構えた。 こちらが計算通り動いたことにおそらく一欠けらの疑問も持っていないであろう、淀みない射撃。 ――考えが浅いッ! ボソン・ジャンプ。一瞬でメディウス・ロクスの背後上空に移動する。 「計算通りです」 「……やはり、な。そうだと思っていた」 振り向きざまに、メディウス・ロクスがコーティグソードを突き出してきた。 そのまま、こちらを弾き飛ばし、身動きの取れないディバイデッド・ライフルによりこちらを落とさず空中コンボを決める、と言ったところか。 だから――アキトはさらにボソン・ジャンプした。転移先は、メディウス・ロクスの背後。 もっとも、今度はゼロ距離。振り向いた直後のメディウス・ロクスは対応できない。 そのままアキトはメディウス・ロクスを羽交い絞めにして、スラスターを下方に全開。テスラ・ドライブによるさらなる重力加速も加える。 加速のまま落下していく二機。メディウス・ロクスが暴れるが、ガッチリと掴んだ上で関節をロックしたリーゼを引きはがすことはできない。 落ちていく先は――アイビスも入っていった黒い穴の中。 加速、加速、加速――落下、落下、落下。 加速度が限界点を突破してなお、落下は止まらない。黒い闇の中、二機が絡み合い、どこまでも落ちていく。 たっぷり30秒は時間をかけて、ようやく見えてきた床の光の反射。それでも、アキトは関節のロックを外さない。 着地でも何でもない、単なる墜落。 けたたましい音を立て、落下した二機の衝撃は、 第三階層の隔壁を貫通し、第四階層の床に約600mの巨大なヒビだらけで陥没した床を作り、やっとおさまった。 リーゼが、どうにか起き上がる。 元々、衝撃に耐えることに特化して作った上で、衝撃に耐えられるように関節をロックし、自分の下にメディウス・ロクスという緩衝材を置いた。 三重の耐久策によって、リーゼは起き上がることができた。 では、メディウス・ロクスはどうなったか。 内部の構造こそ化け物だが、無理な姿勢でそのまま地面にたたきつけられたメディウス・ロクスは四肢が千切れ飛び、頭は砕け散っていた。 その中から、赤いどろどろとした血液か、ゲル状の緩衝材か分からないものをまき散らす姿は、死体を連想させた。 耐えられたからと言って、ダメージがないわけではない。無論、それは機体にとどまらずパイロットも例外ではない。 あまりにひどい衝撃に、胃の中の物を全て吐き出してしまいそうになるが、喉を鳴らして逆に飲み込むことで必死に抑える。 首の痛みと、脳の振動で視界もまっすぐ定まらない。それでも、メディウス・ロクスのあり様だけは見て、息を吐く。 デュミナスは、戦いなれていない。 戦いに関する知識、状況に対するセオリーは知っているだろう。だが、その先にある世界がない。 無人兵器が決して人が乗る機体に勝てない理由は、単純な計算速度や反射速度以上の、感覚と経験による直感にある。 だからこそ、リーゼと正面からぶつかった。アキトが策にあっさり乗ったことを疑わない。 相手の一手先は読めても、二手先三手先は読めない。 アキトが築いてきた、血道を上げた戦いのデータがデュミナスの中にあるのかないのかは知らない。 少なくともアキトの戦いの記憶を、データ以上のかたちで昇華して自分のものにできでないことは確実だ。 所詮は、誰にかに操縦されてこその機動兵器AIか。 あまりにも、デュミナスは強すぎたのだろう。 あの最終形態メディウス・ロクス以上の実力なら、戦術など練る必要もない。 片っ端から相手を取り込み、再生しながら、その異常なまでの戦闘力で押しつぶしてしまえばいい。 ユーゼス自身、そういう傾向があった。 戦闘を最適化するのではなく、過剰なまでの戦力を求め、それで相手を押しつぶすことを望んでいる節があった。 「子は親に似る、か」 これと、自分はやはり違うと思う。 こいつの分身や、ユーゼスの影ではない。こんな無様で、素人のような戦いしかできないのとは違う。 リーゼの内部から聞こえる、フレームの歪みが生み出す機構同士の接触音がさらに大きくなった。 やはり、相当の無茶をさせてしまった。少しだけ、リーゼを休ませよう。俺も、少し休みたい。 アキトが、コクピットに背を預ける。この身体になって汗腺が復活したせいか、蒸れる手袋を脱ぎ棄てる。 パイロットスーツの前をあけると、涼しくて仕方なかった。 そんな心の隙間を突き、アルトアイゼン・リーゼが投げ飛ばされた。 「ガッ……! ハァッ!!」 覚悟した上でのものでない、突然の衝撃で吐き気が揺り戻される。 メインカメラの映像を確認しようとして、壊れていることを思い出し苛立ちながらも、他のモニターで確認する。 そこには、砕け散った体を細い触手で繋ぎ合わせたメディウス・ロクスが浮かんでいた。 咄嗟にアキトはその姿を見て、天井からつられた糸で動く人形を連想した。死に体としか言いようがないのに、なお動くか。 ずるずると触手が砕けたパーツを引き寄せ、一固まりになっていく。そうやって、メディウス・ロクスはほぼ完全に再生した。 化け物にしたって、度が過ぎている。流石のアキトも予想外だ。 メディウス・ロクスの腕が、触手を繋ぐことで伸びて、リーゼの胸を掴んでいる。 伸ばした腕を鞭のように振るって投げ飛ばしたということか。 リーゼがメディウス・ロクスの手を握り、引きはがそうとする。びくともしないことに、アキトは目を見開いた。 「まさか……自分の身の保全を厭わないとは……思いませんでした……」 「……そうか」 俺を知っているなら、容易に想像がつくだろうにな、という言葉をアキトは再び襲ってきた吐き気とともに飲み込む。 そんなことを言っても仕方がない。こいつに自分を分かってもらいたいなど、全く思えない。自分のことを、少しでも教えたくない。 無言のまま、ボソン・ジャンプで腕と本体を空間ごと切断する。 本体から切り離された腕は、先程と違いあっさりと引きはがすことが出来た。 しかし、まるで蛇のように千切れた腕は地面をのたくり、本体に戻っていく。 そこで、メディウス・ロクスが膝をついた。 機体からは、赤い煙のようなものが立ち昇っている。装甲の内部に詰め込まれた肉が蒸発でもしているのか。 やはり、あの破壊から再生するのは骨が折れることだったのだろう。 どの道、チャンスだ。動かない相手なら、約50mの距離でも十分にクレイモアの有効射程。 左肩のむき出しのクレイモアの照準を合わせ、射程を限界まで伸ばす。 「ま、待ってくださ――」 問答無用。言語道断。待ってやる義理もない。アキトは力一杯クレイモアの発射ボタンを叩いた。 撃ち出されたアヴァランチ・クレイモアの嵐は、メディウス・ロクスの装甲を紙のように引き裂き、吹き飛ばす。 水たまりに石でも投げ込んだときに似た音が二機だけの空間に響き渡る。 到底、機体が倒れた音とは思えない音に、アキトは失笑した。 「待ってく――」 細かくなった欠片を、さらに細かい触手で繋ぎ合わせ、メディウス・ロクスが立ち上がる。 さっきよりも震えが大きくなっている。アキトは、クレイモアの有効射程まで前進して、制止。 当然、次にやるべきことは――先程の繰り返し。 やはり、おかしな破砕音を鳴らし、汚らしい泥だか水だか分からないものをまき散らしながら吹っ飛ぶメディウス・ロクス。 死ぬまで潰す。立ち上がるなら、立ち上がれなくなるまで潰す。 二度と、再生できなくなるまで粉々に砕く。哀れな同情を乞う声も、アキトには何の意味もない。 「待って……」 何度目か分からないやりとり。 それでも、メディウス・ロクスは立ちあがる。アキトは粉砕している。 堂々巡りにもなるのではないか、とアキトが心の端で思った時だった。 そんな考えのせいで、一拍行動が遅れた。 「―――待って、アキト!」 クレイモアは――発射されない。 アキトの手が止まる。いや、手だけでなく、アキトの全てが停止していた。 見開かれた、アキトの目に映るのは、死んだはずの自分の妻の姿だった。 「そんな……馬鹿な」 敵を前にして、呆然自失となったアキト。それも無理もないだろう。 自分が追い求め続けた女性が、目の前にいるのだ。偽物と考えれば理解できるはいえ、動き一つ止めるなと言うのは酷だ。 だが、それが最悪の事態を呼ぶ。 リーゼの足元にある、メディウス・ロクスの体液が突如のたくり、リーゼの足を拘束する。 いや、それだけでない。リーゼが踏み越えてきた背後の体液までが、原生生物のように動きだし、リーゼに覆いかぶさってくる。 「しまっ――!?」 反応が遅れた。何故遅れたのかは言うまでもない。 咄嗟に、操縦桿を動かした。機体を動かして脱出しようとして、結果的にボソン・ジャンプが遅れた。 その僅かな間に、前方のメディウス・ロクス本体が展開する。いや、展開ともいえない。 砕かれたパーツごとに分離し、それらを薄い膜で繋ぎ合わせたものに変わり、リーゼの全身をつつみこんだ。 最愛の人の姿は、もうどこにもなかった。 「動かないだと!?」 全身の関節に、スラスターに、メディウス・ロクスの体液が入り込み、拘束している。 ここまで近づかれては、ボソン・ジャンプによる脱出も不可能だ。 起死回生の一手を打たれたと理解し、歯噛みする。 「いかがですか?」 「やられた。……最悪の気分だ」 そう吐き捨てるアキトに、デュミナスは不思議そうに聞いてきた。 「何故ですか? わたしは、あなたが望むものにもなれるのに」 「お前が……俺の望むものに、だと?」 「私は、あなた。私は、あなたの全てを知っている。あなたが望むものにもなれる」 「そうか。確かに、俺はユリカを望んでいる。お前は、ユリカになれると言うのか?」 「はい。私は、なんにでもなれる。それが、完全と言うこと」 アキトは、それ以上デュミナスと会話するつもりはなかった。 いや、会話するだけ胸糞悪い気持ちがたまるだけだと理解した。 こいつと会話などできない。 やはり俺はこいつとは違う。 経験とか、行動じゃない。 純粋に、ただ俺と言う人間と根本的に違う。 過去の記憶がどうのは関係がない。 俺は、俺だ。 ユリカを侮辱したことが、理屈ではなく、感情でもなく、もっと大切な部分で許せない。 俺は、こいつが許せない。 「……殺す。必ず殺してやる」 視界が一瞬で赤黒くなった気がした。 これ以上ないかたちでの彼女への冒涜。 アルトアイゼンのAIを検索し、ここからの脱出方法を検索する。 同時に、自分が培った戦闘経験を総動員し、発想のとっかかりを探す。 仮になかったとしても、意地でも作り出して見せる。 そんな意気込みでアキトは手と頭を動かすが――意外にも、その方法は簡単に見つかった。 その方法の詳細を見て、アキトは目を疑った。 「―――は、」 なんという、皮肉か。 「ハハハハ、ハ……」 なんという、冗談か。 「ハハハハハハハハハ!!」 なんという、矛盾か。 「ハハハハハ……ハハハハハ、ハハハハハ!!!」 アキトは、ただ笑っていた。あまりにも、可笑しくて、可笑しくて、仕方がなかった。 世の中、うまくできている。そうとしか言いようがない。もしかしたら、神というものがいて実はつじつま合わせをしているのではないか。 そんなことさえ考えてしまう。たまらないほど矛盾と皮肉の混じった、冗談みたいな方法だった。 アキトは、火器管制システムをゆっくりと立ち上げる。 本来なら、多くの警告メッセージが現れるはずのその行動を、火器管制システムは、警告一つ出さず、了承した。 「デュミナス。いや、メディウス・ロクス? それともAI1か?」 「なんですか? もうすぐあなたは、私の一部になる。言いたいことはありますか?」 「そうだな……山ほどある。言う暇はないが。そうだな……一言でまとめるなら……」 「まとまめるなら?」 あとは、アクションの開始決定のパネルを押すだけだ。 アキトは、ウィンドウに指をかける。 「お前に相応しい死に方が用意してある。……死ね」 次の瞬間、メディウス・ロクスが、アルトアイゼン・リーゼが、爆発した。 「お、おおおおおおおお!?」 内部からの炸裂が、まとわりつき包み込んでいたデュミナスを粉々に消し飛ばした。 アキトがやったことは、単純。発射口を開かず、アヴァランチ・クレイモアを撃ったのだ。 ハッチを閉じたまま撃つことで暴発させる。そうやって生まれた破壊力は、デュミナスを破壊するに十分だった。 「あああ……そんな戦い方……わたしは知らない……」 「そんなはずはないだろう? この方法をアルトアイゼンに教えたのは―――― ―――――ユーゼスなんだからな」 な、に、と壊れた機械のように、壊れたデュミナスが呟いた。 「相手に拘束された際、クレイモアを暴発させることで脱出する。 これを、『アルトアイゼンのAI』に教えたのは、他でもないユーゼスだ。 お前は、ユーゼスがこのマシンのAIに覚えさせた、ユーゼスの戦法でお前は死ぬ。 ―――ユーゼスがお前を否定したんだ」 ユーゼスがまだアルトアイゼンに乗り、ベガと行動していた時。 ユーゼスは、ゴステロの乗るスターガオガイガーのヘル&ヘブンに拘束されたとき、破壊の拳を避けるためにクレイモアを暴発させた。 その後、ユーゼスはアルトアイゼンを捨ててしまうが、アルトアイゼンのAIは覚えていたのだ。 アキトは、AI1がガンダムキングジェイダーのヘル&ヘブンで砕かれたのを混在した記憶の一部で知っている。 だから、なおさら皮肉だと思うのだ。 アルトアイゼンはユーゼスをヘル&ヘブンから守り、そのAIは無言のままユーゼスの遺した戦法でデュミナスを砕いた。 メディウス・ロクスはユーゼスをヘル&ヘブンから守れず、ユーゼスの遺志を継いだと言い出すも、自分の分身と思っているアキトと、アルトアイゼンに屈服する。 ユーゼスとアキトがはめて殺した男、キョウスケの愛機アルトアイゼンにインストールされたユーゼスの戦法が、ユーゼスの遺児を殺す。 学習AI。 ヘル&ヘブン。 メディウス・ロクス。 アキト。 アルトアイゼン。 キョウスケ。 ――ユーゼスを中心に巻き起こった全ての騒動。 今まで紡がれた運命の糸のままに。 「う……嘘です……嘘……そんなことがわたしに……」 「嘘なんかじゃない。これで、ユーゼスへの意趣返しも済んだ。………ユーゼス、借りは返したぞ」 アルトアイゼン・リーゼが背を向ける。 「嘘です……嘘です、嘘です、嘘です、 嘘です嘘です嘘です嘘ですウソデスウソデスウソデスウソデスウソデスウソデス ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソ ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソ ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソ」 狂ったテープレコーダのように同じ言葉を繰り返すデュミナス。 デュミナスにとっての存在意義が、ユーゼスに対する想いだったことはアキトにも分かる。 今は、違っていても、ユーゼスはいつか自分を見てくれる。 不完全だから、ユーゼスの願いに届かなかっただけで、完全になれば存在を認めてくれる。 不完全な自分だから、であって、自分の存在自体を認めていないわけじゃない。 そう思っていたのだろう。 だからこそ、デュミナスにとって、この結末はもっとも受け入れがたいのだろう。 創造主が自分に教えてくれなかった方法を創造主より教わった誰かが、 自分が創造主に出来なかった何かを成し遂げた誰かが、 自分の存在を抹消する。 自分の分身であるはずの存在が、それを告げる。 「助けて……ください……私を、認めてください……」 デュミナスの破片が、また再びアキトの最愛の人の姿を取る。 ユーゼスに否定されたら、今度はアキトに認めて欲しいということか。 他人に存在意義を預け、誰かになろうとすることで自分を認めて欲しがるその姿は、あまりにも滑稽だった。 「言ったはずだ。俺は、お前を認めない。俺の全存在を賭けて――お前を否定してやる」 「ああ……あああ……ああ…………あ……」 これは、ユリカじゃない。こんなものを、認めるわけにはいかない。 アルトアイゼン・リーゼの足が―――女性の姿になったデュミナスを踏みつぶした。 「ユーゼス……サマ……」 「消えろ」 アキトの声とともに、何かうめいていたデュミナスの破片が一斉に砕けて散った。 人工の星の空調循環により吹くそよ風が、デュミナスだったものを運んでいく。 悠久の時を超え、再び戻ってきた哀れで不完全な何者でもない何かの最期だった。 【デュミナス 死亡確認】 だが、デュミナスの撃破のためアキトが支払った代償もまた大きなものだった。 アルトアイゼン・リーゼが倒れた。 アキトは、自分の腹部の状態を確認し、ため息をつく。 スクエア・クレイモアの暴発でも、アルトアイゼンは機能停止寸前まで追い込まれている。 さらに上をいくアヴァランチ・クレイモアの一斉爆破の衝撃はすさまじく、 機体に深刻なダメージを与えていた。 具体的に言うのであれば――コクピット内部まで貫通したクレイモアの破片。 15cmはあろうかという破片が、アキトの腹に突き刺さっている。 誰がどう見ても致命傷だ。 「まだだ……俺は、まだ倒れるわけにはいかないんだ……」 脂汗の吹き出る額を、袖で拭う。 まだ、妻を生き返らせるために参加者を殺さなければならない。 残りは、統夜、カミーユ、あの赤毛の女の三人だ。 もうすぐだ。 もうすぐ、ユリカに会える。 しびれてきた手で、操縦桿を握りなおす。 起き上がったアルトアイゼン・リーゼが再び歩き出す。 「ユリ……カ……」 黒い復讐鬼――いや、黒い王子様の視界矯正用の黒いレンズが滑り落ちた。 ひどく、あっけない幕切れ。いや、それは違うのかもしれない。 彼の物語は、もしかしたら殺し合いの会場最後の戦いで、既に終わっていたのかもしれないだから。 ここで死んだ男が、テンカワ・アキトかそうでないかを確認できる人間は、どこにもいない。 ただ分かることは、ここの彼は最期の最期までミスマル・ユリカの味方であろうとしたことだけだ。 アルトアイゼン・リーゼは立ったままもう動くことはない。 【テンカワ・アキト 死亡確認(二回目)】 →ネクスト・バトルロワイアル(7)
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名前: マキシム 通称: よく使われるタグ: マキシム 作品の特徴・傾向 ハイヒールにガイド服で踊る女性。 ナオシゲとのコラボやダンスオフへの参加作品などがある。 人物・その他の特徴 ハイヒールで凄い勢いで踊るドアラが可能なヒト。 足場の悪い河川敷でもハイヒールで踊れるヒト。 タグ マキシム 公開マイリスト なし 動画 Love Joyのドアラをやってみたマキシム。 男女を男女で踊ってみたマキシム。 原西ギャグ大全でウッウッーウマウマをやってみた@マキシム 関連動画(合わせてみた等) 合計: - 今日: - 昨日: - 編集業務連絡 名前 コメント
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頭部消失。五連チェーンガンを装備した左腕も切断されもはやなく、左肩のクレイモアも誘爆の可能性あり。 むき出しになったクレイモアをサブモニターで確認し、よくもさっきの衝撃で誘爆しなかったものだとアキトは息を吐いた。 機体のチェックを終えてまだ動くことを確認したアキトは、自分の現在地を確認する。 もっとも、確認とは言いつつもカメラから分かることは、自分は白い人口惑星の表面に飛ばされたということだけだが。 それ以外で目に入るのは、始めて見る大型機の残骸のみ。 アルトアイゼン・リーゼの調子を再度確認し、損傷が少なすぎることに違和感を覚えた。 アキトの世界では、人が搭乗するタイプのロボットは例外なくディストーション・フィールドが装備されていた。 だから、ボソン・ジャンプをしてもなんともない。しかし、アルトアイゼン・リーゼは違う。 特別空間を仕切るようなバリアを持っていないのに、その損傷がないのだ。 元々あのアルフィミィの場所に飛ばされたときにもこの機体はそこまでボソン・ジャンプでダメージを受けなかった。 元々頑丈で、壊れにくいのだろう。だが、それは機体の話だ。生身の自分まで平気な理由にはならない。 「もしかしたら……何かが宿っているのか」 姿や機体特性を見れば、これはあの蒼い孤狼が乗っていたマシンの発展系であることは理解できる。 そして内部のAIなどから、自分や、キョウスケが乗ったアルトアイゼンと同一のものであることも。 ということは、あの蒼い孤狼の化け物マシンが再びこれに戻ったということか。 不思議な力が宿ったとして、変な話じゃない。 もしも、自分が殺したキョウスケの機体が自分を何かしらの力で守っているとしたら、とんだ皮肉だ。 「あのネゴシエイターは……」 周囲を確認するが、凰牙の姿は見えない。そのことに、アキトは眉を寄せた。 アキトはボソン・ジャンプを敢行した。その結果、ここに飛ばされて来た。 アキトは、アルトアイゼン・リーゼの手を開く。そこには、蒼い宝石が握られている。 C.C(チューリップ・クリスタル)は、殴り合いの中どこかは知らないが凰牙の体から落ちたものを拾い上げ使わせてもらった。 ここまではいい。だが、そこから問題が一つある。 いるはずの、凰牙がいないのだ。空間転移の歪みに押しつぶされようと、残骸程度は転移しているはず。 A級ジャンパーである自分が結果として共に転移している。凰牙はあの様子ではまだC.Cを残していたと思う。 五体満足でここに現れても不思議ではない。一体どこに消えたのか。 「まさか……過去か、未来か?」 ボソン・ジャンプは厳密には空間移動ではない。時間移動なのだ。 空間を粒子化した状態で移動し、その後時間移動で移動にかかった時間だけ巻き戻す。 だが、もしこの時間の巻き戻しに何かあれば当然、今とは違う時間に飛んでしまう。 アキトは、赤い古鉄の右手に握り込んでいたC.Cをコクピットへ移す。あまり、量はない。 何度も使っていればすぐになくなってしまう量だろう。 かつて、家族がこれを――C.Cを遺してくれたおかげで、アキトは生き残ることができた。 アキトは、モニターを回し、白い星への突入口を探す。その時、とくに意識せず上方も確認していた。 別に上から何か来るとは思えないが、できる限り全方位確認しようとすることは不思議でもなんでもない。 そして、気付く。 「あれは――!?」 アキトが赤い古鉄に乗り込んだときは、木星に似た渦模様と赤銅色をしていた星は、まったく別の姿をしていた。 白く、輝く光を放ち、明滅し、光のためかその輪郭が大きくなったり小さくなったりしているように見える。 いや、違う。見える、のではない。実際に大きさが変化している。茫然とそれを見上げていたアキトは、さらに気付いた。 それが、少しずつ拡大していることに。あの輝く星のようなものは、この世界を飲み込もうとしている。 大収縮ののち、拡大に世界は転じたのだ。 アキトの、自分でない誰かの部分がささやいた。アキトは、それを振り払うため小さく頭を振る。 だが、世界の拡大そのものを防げるわけではない。もうすぐ、あれは全てを飲み込む。 そして、全てを終わらせる。 世界に対して、テンカワ・アキトという一人の個人はあまりに無力だった。 全てを終わらせる力への絶望が、アキトの足を止めた。 ■ C.C(チューリップ・クリスタル)は、時間移動への切符。時の旅人への通行証。 だが、もしも時間が正しくない世界でそれを使えばどうなるだろうか。 例えば――時間軸をゆがめて作った世界のそばでそれを使えば。平行世界、別の世界の時間軸を含むそんな場所で使えば。 もしかしたら、どんな世界でもない、どんな時間でもない、そんな場所にたどりつくのかもしれない。 ■ ロジャー・スミスが目を覚まして最初に見たものは、金色の穂先と青い空だった。 自分が地面に大の字に倒れていると気付いたのは、意識が覚醒して一瞬後のこと。 身を起こそうと地面に手をつけば、そこにあるのは倒れた穂先。ロジャーは麦畑のど真ん中に倒れていたのだ。 「ここは……」 身を起こしたロジャーは、襟元を正しながら、来ている黒いスーツについたモミや草を落とす。 そこで、ふと違和感を覚える。少し考えて、ロジャーも違和感の原因を見つけた。 先程まであった、体の痛みが消えているのだ。 肋骨が折れ、体をひねるたびに起こっていた痛みが、体を起こすときになかった。 いや、それだけではない。 リリーナ嬢を抱きかかえた際や、ガウルンに奇襲を受け地面を転がった時についた、スーツの土や血といった汚れがまるきり消えてしまっているのだ。 未だ理解しがたい現状に混乱しながらも、ゆっくりと首を左右に動かし、周囲を眺めてみる。 そこにあったのは、農夫と、トラクターと――空の向こうに広がる、黒い鉄枠。 他でもない、見慣れたパラダイムシティを覆う半円状のドームの天蓋がそこにあった。 パラダイムシティであるとするならば、ロジャーにも自分がいる場所に心当たりがある。 大規模農作用ドーム、『アイルズベリー』。何度かロジャーも依頼がらみで足を運んだことがあるので覚えている。 麦畑をかき分け、土でできた道路にロジャーは立ち、自分の体を眺めた。 あの殺し合いに招かれる前の、依然と変わらぬ世界で、いつもと変わらぬ姿でここにいる自分。 先程までいたはずの、あの狂った世界は何だったのか。 自分が見ていたのは冗談のようにタチの悪い悪夢でしかなかったということか。 いやそれもあり得ない。確かに、今のロジャーにあの殺し合いの世界にいたという痕跡はない。 しかし、ロジャーの記憶(メモリー)は覚えている。 あの狂った世界の、狂った法則に立ち向かう人間たちのことを。 だがそれが正しいとするならば、ロジャー・スミスはまだあの狂った世界にいるはずなのだ。 ここにいるロジャー・スミスは何なのか。 ほんのわずか前と認識している事柄と、繋がらない現状の記憶(メモリー)に悩む男は誰なのか。 ロジャーはひとまず屋敷に連絡するため、腕をまくった。 そこには、さまざまな機能が付いた時計がはめられており、機能の一つとして屋敷にいるノーマンとの連絡機能もついている。 慣れたしぐさで口元に手首を運ぶ。 「ノーマン、聞こえているか?」 しかし、返答はない。時計からは、小さくジジジ、と不協和音が流れるのみ。 ロジャーは腕時計に視線を落とし、絶句した。腕時計のカバーガラスが壊れ、時計が止まっているのだ。 壊れた時計。 それ自体はおかしくない。ものである以上壊れることはある。問題は、いつ壊れたかということだ。 今ここにいるロジャー・スミスの記憶(メモリー)を参考にする限り、腕時計が壊れた覚えはない。 ユーゼスとの会談に向かうに当たって、ロジャーはこの腕時計で時間を確認している。 それ以後、時計が破損するほどの衝撃が手首にかかったことはない。 「どうなっているんだ……」 壊れていないはずの時計は壊れ、汚れているはずの服は汚れておらず、傷ついたはずの体にはその痕跡がない。 本当に白昼夢だったというのか。もしくは、自分の中の失われた記憶(メモリー)のフラッシュバック。 あれほど、鮮明なものが、40年以上前に過ぎ去ったものだと? 暖かな日差しとは裏腹に、歪む顔を手で押さえるロジャーの背筋には冷たいものが流れ続けていた。 「おや、君は……どうしてここにいるのかね?」 突然自分に掛けられた声に、はっとなりロジャーは顔を上げる。 いつの間にか、ロジャーのすぐ前には一台のトラクターが止まっていた。 先程はなかったはずのそれは、そこにあって当然である、在らねばならないと主張するほどの存在感を何故か持っていた。 ロジャーに声をかけた、トラクターに乗る人物もまた、ロジャーが知る人物。 農夫姿で、樹齢何百とたった樹のようなしわを顔に刻んでいる、 どこを見ているか分からない、いつも虚空を見ているような眼でロジャーを見ている人物の名前は、 「あなたは……ゴードン・ローズウォーター……」 パラダイムシティをかつて納めていた人物であり、数少ない40年以上前の記憶(メモリー)を持つといわれる老人だった。 確かに、彼は隠居しアイルズベリーでトマトの栽培をしながら過ごしている。 ここがアイルズベリーとすれば、いてもまったくおかしくない人物だ。 しかし、ロジャー・スミスが保有している記憶(メモリー)が正しいという前提があってのことにすぎない。 もしかしたら、彼は全くロジャーの知らない何者かなのかもしれない。 「乗りなさい」 ゴードン・ローズウォーターがトラクターへ乗るようにロジャーに促した。 どこか夢遊病者のような足取りで、ロジャーはゴードン・ローズウォーターの隣に座る。 トラクターは、再びどこかに向けて動き出した。ゴトゴトと整備されていないでこぼこ道をトラクターが走る。 ロジャーは、未だ自分がどこに立っているのか理解できていなかった。そして、自分が今からどこに向かうのかすらも。 「どうしたのかね?」 前を見つめたまま、ロジャーを見ずにゴードン・ローズウォーターはそう呟いた。 ロジャーは、自分とゴードン・ローズウォーターしかここにはいないにも関わらず、 その呟きが自分に向けてのものであることを、咄嗟に理解できなかった。 ■ 星に広がる毛細血管のような通路の中、ブレンが飛ぶ。下からの轟音が少しずつ遠くなる。 地獄からの生還、そんな言葉がふと頭をよぎるが、まだ終わってないのだ。 上に登って、ロジャー達と合流し、再度突入する。 例え、どれだけ勝ち目が薄くても、それ以外に最終的に生き残るすべはない。 力が足りない。アイビスに、その事実が重くのしかかっていた。 ブレンを悪い子だとは思わない。しかし、非力さだけはどうしようもなかった。 凰牙。サイバスター。F91。キングジェイダー。ユーゼスのメディウス・ロクス。 そういった相手に比べて、あまりにも弱い。撹乱して、手傷を少しつけるのがやっと。 その結果が、これだ。誰の窮地も満足に救えない。倒れていく仲間を見ている側で、ただ生きている。 もし、自分ではなくこの場にもっと大きな力を持つ誰かがいたら、カミーユを助けられたのではないか。 アイビスはそんなネガティブになりそうな思考を頭から振って追い出そうとする。 しかし、なかなかその考えは頭から消えてくれなかった。 そんなとき、鼓膜を叩く大きなスラスターの音。 まだまだ続く黒い穴の向こう、確かに何がこちらに接近している。 「ロジャー!?」 そうであってほしい。いや、そうに違いない。ブレンは上昇を続けている。 だが、アイビスが何か指示するよりも早く、急にブレンの動きが変わり、進路を横に向けた。 その次の瞬間には、上空の機体は急加速し、ブレンの横をすり抜けていた。 明らかにそのままのコースだったら衝突している。 「いったい、誰!?」 アイビスが、急停止し今度は下からこちらを見上げている機体をモニターに写す。 そこにいたのは、ユーゼスとの戦いで途中ユーゼス側の増援として現れた蒼い騎士だった。 しかも剣を抜き、戦闘態勢を取っている。 「ちょっと待って! もうユーゼスもいないんだから話を聞いて! ユーゼスと一緒にいたってことは脱出しようと思ってるんだよね!? 少しでも力がいるんだ、協力してみんなで……」 「他人なんていらない。……俺は、俺一人で全員殺す」 青い騎士が答えた。声が意外と若い。カミーユや自分とそこまで年は変わらないように思える。 だがその声色は、同い年とは思えないほどの冷たさと、暗さを秘めていた。そして、その内容も。 「……ッ! そんな! あのノイ・レジセイアを倒せば終わりなのに、なんでまだ殺しあわなきゃいけないのさ!? もう殺しあう必要なんてない! ロジャーや、カミーユ、キラやシャギア、それに……あのテンカワって人も! みんなで協力すれば、ノイ・レジセイアだって倒せる!」 だが、そんなアイビスの声を無視し、青い騎士は剣を振り上げた。 「ロジャー? テンカワ、キラ、シャギア? ……みんな死んだよ。次は、お前だ。その次は、下の連中。全員、殺すんだ」 虚無を湛えて、蒼い騎士は言う。 蒼い騎士は、ゆっくりとその手に握る剣――ロジャーがガウルンから奪った大剣――をこちらに掲げる。 「そんな……ロジャーが、そんなはずがない!」 アイビスの叫びも、蒼い騎士が動きを止めることはできない。 蒼い騎士から言葉はなく、あるのはこちらを殺そうとする意志のみだった。 アイビスのブレンが震えている。ノイ・レジセイアやキョウスケと出会ったときに似た挙動に、アイビスも驚きを隠せない。 ユーゼスとの戦いのときは、そんなことはなかったはずだ。この短時間に、いったいどんな変化があったのか想像もつかなかった。 だが、分かることが一つだけある。それは、こんなところで死ぬわけにはいかないということだ。 ブレンがソードエクステンションを構える。 この場でどうにかしたからどうなる、という言葉をアイビスは飲み込んだ。どんなことも諦めない。 ロジャーが死んだという言葉も、戻って確かめるまでは信じないとアイビスは決める。 どれだけ非力だろうが、ここを突破して見せる。 幸い、位置関係は悪くない。上昇したいアイビスが、蒼い騎士より高い位置にいる。 このまま、距離を取っていけば、逃げることも可能かもしれない。 じりじりと上昇を続けるブレン。 対して、蒼い騎士の取る行動はアイビスから見ればいささかおかしなものだった。 マントの影から取り出した鞘に剣を納めると、その場で構えたのだ。 (一気に踏み込んでくる……?) それにしても、いささか距離が遠い。この距離なら、一気に加速して切り抜けるつもりとしても回避できる。 アイビスは、相手の背中と足に意識を集中させた。ユーゼスとの戦いで、相手のスラスターの位置は把握している。 どんな加速であろうとも、まずスラスターに着火される。何の推力もなしに急加速はできないのだ。 そこに動きが見えたと同時に、上方に向かってバイタルジャンプ。そして、相手が体勢を立て直すより早く全力でここから離れる。 アイビスは、対処の方法を頭の中で組み立てる。 上昇するブレン。動かない青い騎士。 蒼い騎士には、動く気配がない。確かにやや前傾の姿勢ではあるが、一気に加速しようという姿勢ではない。 このままいけるのであればアイビスとしてもありがたい。 距離が開いていき、完全に相手の射程から逃れたとアイビスは視線を切らずにそう考えた。 次の瞬間、ブレンの右手が飛んだ。 「え……?」 アイビスは、一瞬たりとも相手から目を切っていない。相手は動いていない。スラスターを使ってない。 なのに、斬撃は確かにブレンへ届いていた。アイビスは、映し出された外の光景に、目をしばたたかせる。 一歩も動かないまま鞘から引き抜かれた剣が、細く長くブレンに伸びていた。 アイビスは、姿を変える剣という程度の認識しかなかった。たしかに斬艦刀は姿を変える。 しかし、それは液体金属による形状の変化によるもの。プログラミング次第でその姿は千差万別に変化する。 今の統夜の超射程による居合い抜きは、居合い抜きによる加速をつけつつ、抜ききった刀身を変化させることによって生み出された技。 アイビスは相手が居合い抜きをあびせるための移動を警戒していたが、それはピントがずれていたのだ。 向こうは、動く必要すらなかった。 予想もしなかった痛みに、ブレンの動きが僅かに乱れる。 落ち着かせるため、アイビスがコクピットの中へ少し視線を上げた。 ブレンが、壁に叩きつけられた。 意識を乱した一瞬をつき、蒼い騎士は加速して手をブレンに押し付けたのだ、と揺れる頭で理解する。 金属壁に、ブレンがめり込む。ブレンと相手の体格差はざっと6倍。体の中心に手をあてられると、身動きを取ることができない。 うめくアイビスとブレンに、蒼い騎士は改めて剣をかざす。 バイタルジャンプをしようにも、まだブレンがそうできる状態まで回復していない。 これでは、どこに吹き飛ばされるか分からない状況だ。それに、これだけ密着されると、相手ごと転移してしまう。 八方塞がり、打つ手なし。そんな言葉をそのまま表したような状況だった。 蒼い騎士が何も言わずに剣を絞る。 「ちょっと待って……! なんでこんなこと! そんなに殺し合いがしたいの!? あのガウルンとか、ギンガナムみたいに!」 アイビスの言葉に、初めて蒼い騎士が動いた。 蒼い騎士がまるで人間のように小さく震え、剣が動きを止める。 「俺が……誰みたいだって?」 先程と同じ冷たい声。しかし、僅かに上ずっている。 抑えようとして、抑えきれない感情が漏れ出している。そんな印象をアイビスは感じた。 アイビスは、一瞬迷った。同じことを言えば、逆鱗に触れて今度こそなます切りにされるかもしない。 「俺が、誰みたいだって!?」 もう一度蒼い騎士が繰り返した。 押さえつける蒼い騎士の手に力が増し、ブレンが、さらにうめき声をあげた。 やはり、一人では何もできない。そんな悔しさが胸を突く。 こうやって押さえつけられ、満足にものをいうことすら悩み、ままならない。 こんな、理不尽な理屈を前に。こんな、理不尽な相手を前に。あまりにも無力だ。 アイビスは、聖人君子ではない。このままいけば終わりなのだ。死ぬのは怖い。 けれど、やけくそというわけではないが、このままただ黙って受けてやるのも癪だという思いが膨れ上がる。 こんな言われっぱなしで、黙っているのも違う気がする。アイビスは、息を吸うと、思い切り叫ぶように言った。 「ガウルンやギンガナムみたいって言ったんだよ! そんなに戦ったり、人が殺したりするのが好きなら、一人でそんな世界に行って殺しあえばいい! みんなが力を合わせるのがそんなに嫌い!?」 今度こそ、蒼い騎士が動きを止める。 アイビスはその間に手を抜けだそうと少しでも動くようにブレンに指示を出す。 僅かに緩んだ指の隙間から、腕を差し入れると、そのまま体を強引に引っ張りだそうとした。 しかし、それよりも早くブレンの拘束はなくなっていた。 蒼い騎士は手を引き、刀を鞘に納めている。 「……行けよ」 ぶっきらぼうだが、蒼い騎士は上を親指で指した。もしかしたら、自分の行ったことが通じたのか。 信じられない出来事にぽかんとするアイビスに背を向け、蒼い騎士は降下を始めた。 「俺は、好きで殺してるわけじゃない。殺さないといけないから殺してるんだ。……ガウルンとは、違うんだ」 「じゃ、じゃあもしかして協力して――」 ブレンのすぐ横に、投具が突き刺さる。 ブレンを見ることなく背を向けたまま蒼い騎士が投げ放ったものだ。 「勘違いするな。最後はみんな結局殺すさ。けど、今殺す必要もない。言ったよな。全員死んだって」 その言葉に、アイビスは顔がこわばるのを感じた。 それでも、アイビスははっきりと蒼い騎士に言う。 「そんなの信じないよ。自分の目で見るまで、あたしは絶対にあきらめない」 「みんな死んだんだ。行ったところで何もない。何も起こらない。受け入れたくないことに足掻くことまで否定はしないさ。 けどな……それでもどうしようもないことだってあるんだ。 ……諦めろよ、奇跡は起こらないから奇跡っていうんだ」 蒼い騎士から、ため息のような音が漏れた。 けれど、アイビスの答えは変わらない。 「どんな理不尽なことでも、あたしは諦めない。奇跡なんて起こらなくてもいい。それでも、やってみたい」 自分で言っておきながら、その言葉を心から信じ切れていないのをアイビスは理解していた。 どちらかと言えばそうであってほしいという願望を口に出すことによって、信じる自分を支えるようとする部分が大きい。 「そうかよ」 蒼い騎士はアイビスの言葉にそっけない返事を返すと星の中心へ下りていく。 アイビスはただ、その姿を見ていることしかできなかった。 蒼い騎士が姿を消すのを確認し、アイビスは再び飛び始める。カミーユから教えられた地点へ、まっすぐに。 体がずっしりと重い。進めと指示を出す、自分の思考が濁り、淀んでいる。 この先に、進んでいいのか。 進まなければ何にもならないとは分かっていながらも、考える自分を止められなかった。 光が見えてくる。 人工的に作られた作り物の箱庭の放つ、眩い光はもう目の前だ。 細く狭い通路を抜け、広い空間にブレンが飛び出す。そこは、間違いなくカミーユの指示した地点。 だが、そこにあるのは、戦いによってえぐれ、荒らされた地面と、よく見た機動の腕が二つ。 血だまりのように液体がまき散らされた地面に沈む一本の腕を、壊れ物を扱うようにそっと拾い上げる。 しかし、アイビスの震える意思が伝わったのか、ブレンの腕からそれはこぼれ落ちた。 アイビスは、知っている。これが、間違いなく騎士凰牙のものであることを。 そして、少し離れたところに転がるほうの腕は、キングジェイダーが搭載していた、アルトアイゼン・リーゼの腕であることを。 「ロジャー……?」 もう右から声は聞こえない。 「キラ……?」 もう左から声は聞こえない。 「シャギア……?」 もうどこからも声は聞こえない。 アイビスの声は、どこにも届かない。 ――希望はすでに砕け散っていた。 ■ そこは、星の中心から一層だけ上のエリア。 どこまでも広大でがらんどうな空間に、二機の機体が動き回る。 「……ぐ、ぅう……」 カミーユは荒い息をどうにか抑えようとするが、動悸は全く治まらない。 どうにか地面に設置された緑色のエネルギープールに陣取ることによって、サイバスターのエネルギーは回復している。 しかし、それはあくまで機体の燃料を補充するだけであって、カミーユ自身の魂の燃料を補充するものではない。 迷路のように設置された隔壁の影から、ブーメランのように弧を書く軌跡でデュミナスの爪が姿を現した。 それを、サイバスターはディスカッターで切り払う。 「そこですか?」 殺気を感じ、慌ててエネルギープールからサイバスターを飛行させる。 一拍置いて、エネルギープールが瞬時に沸騰し、緑色の水竜巻を空高くまで起こした。 空から緑の雨が降り注ぐ中、隔壁の向こうからメディウス・ロクスが姿を現す。 「逃げようとしても無駄です。今のあなたが私を振り切ることはできない」 「……いけっ!」 カミーユはメディウス・ロクスの言葉を無視し、カロリックミサイルを撃ち放った。 二発のミサイルは、正確にメディウス・ロクスに飛来し、確かに接触、爆発する。 いや、接触したのはメディウス・ロクスの発生されたスフィア・バリアだった。 カロリックミサイルは、バリアの表面で爆発するが、爆風はすべてバリアでそらされていた。 「何度でも言います。無駄です。機体をこちらに譲渡してください」 カミーユは拳を震わせた。 さきほどから、メディウス・ロクスはあまり積極的に攻撃を仕掛けてはこない。 つかず離れず、時々攻撃を仕掛けてくるだけだ。 理由は単純だ。奴の狙いはサイバスターにあるラプラス・コンピュータ。 サイバスターの撃破ではなく鹵獲を目的としている。サイバスターを破壊しては入手できないのだ。 だが、もしも相手が鹵獲という手段を放棄していたのなら、サイバスターが今どうなっていたかは想像に難くない。 「もしあなたが機体を譲渡するというのなら、あなたの命は保証します。ですから……」 「断るっ!」 サイバスターが再び逃走する。しかし、メディウス・ロクスも正確に距離を取りつつ追いすがる。 「仕方ありません。私が完全になるためには、サイバスターが必要です」 メディウス・ロクスの胸の部分から、一条の光線が放たれた。 サイバスターとはまるで見当違いの場所へ。サイバスターを光線は追い抜き、サイバスターの進路上の天上へ着弾した。 行方を阻むように崩れた大量の瓦礫が落下してくる。カミーユは、汗でぬめる操縦球を握り、意識を送る。 紙一重で瓦礫の隙間を抜けるサイバスター。 それに対してメディウス・ロクスはスフィア・バリアにより瓦礫を弾き飛ばしながらまっすぐに向かってくる。 たちまちのうちに両者の距離は詰まり、振り上げたメディウス・ロクスの爪が、サイバスターを狙う。 カミーユはやはりディスカッターでそれを受け止めるが、それにより動きを止めてしまった。 サイバスターを数mはあろうかという飛礫が叩く。 「ぐ、が、ああ!?」 機体の表面を致命傷にならない程度に質量物で叩く。 なるほど、相手の機動力を奪いつつ、内部に大きなダメージを与えないために適した方法だ。 Ζガンダムの設計なども行ったカミーユだからそう理解できる。 だからこそ、次に続く思考も。結局のところ、相手はこちらを敵とすら認識していない。 捕まえるところまでは確実。負けることなど、傲慢や思い上がりではなく、冷静な判断で思考に入れていない。 地面にたたき落とされたサイバスターのすぐそばに、メディウス・ロクスが音もなく着地した。 いまや、大いなる風の魔装機神も、羽をもがれ地面を這うだけだ。 メディウス・ロクスがサイバスターを踏みつけた。コクピットを中心に、銀色の装甲に亀裂が入っていく。 「何度も言ったはずです。機体を明け渡せば、命は奪わないと。何故あなたは私を拒絶するのですか?」 「お前らに……やれるものなんて……何一つないっ!」 踏まれた状態で、強引にサイバスターが体を起こす。 足が逆に装甲に食い込み、亀裂だけにとどまらず装甲が脱落した。だが、動きは止まらない。 そこから起き上がるとはメディウス・ロクスも思っていなかったのだろう、バランスを崩したメディウス・ロクスは派手に転倒する。 そこに、ディスカッターで本来コクピットがある場所を正確に貫いた。 「無駄です。今の私に、あのお方はいない。私は私の意思で活動している。あのお方を殺すことはできない」 メディウス・ロクスがサイバスターの腕をつかみ、力を込める。 サイバスターが手をディスカッターから離すと、強引にメディウス・ロクスはサイバスターを地面に叩きつけた。 銀色の破片が、暗い基地に設置されたわずかな照明の光を反射し、きらきらと瞬いた。 「あのお方……ユーゼスなのか!?」 「その通りです。偉大な私の創造主。ただの機動兵器でしかなかった私を導いてくださったお方。 あのお方は、私に完全であれと望んだ。そして、私は不完全であるとも。故に、私は完全にならなければいけない」 突然、メディウス・ロクスが饒舌になった。 最低限の言葉しか発していないメディウス・ロクス――いやAI1が、ユーゼスに関してだけは違ったのだ。 「それで……そのために戻ってきたのかよ! 人の命を踏みつけにしてそうなっておいて!」 「あのお方は言った。世界は選ばれたもののためにあると。あのお方は選ばれたものだった。 あのお方の願いは成就されなくてはならない。命に価値があるとするなら、上位者への献上物としてのみ存在する」 「そんな勝手な理屈を!」 全身から装甲を脱落させながら、サイバスターカロリックミサイルを放つが、 やはりいとも簡単にメディウス・ロクスは受け止めた。しかし、カミーユが攻撃を止めることはない。 「あなたのサイバスターを手に入れろとあのお方は言っていた。あのお方の願い、聞き入れてもらえないのですか? 私ならあなたよりもラプラス・コンピュータの力を活用できる。その力は、より正しく使えるもののためにあります」 「言ったはずだ! お前らにやれるものなんて何一つないっ! このマシンは、そんなコンピュータのおまけじゃないんだよ!」 カミーユは、まだラプラス・コンピュータの全貌など知らない。 もしかしたら、それさえ発動させればこの状況をひっくりかえせるかもしれない。 けれど、使う方法がわからない。それでも、この機体ならどうにかできると信じてくれたのだ。 この機体を使い、自分ならあのノイ・レジセイアを撃ち貫けると信じてくれたのだ。 「うあああああああああぁぁぁぁぁあああッッ!!」 目にもとまらぬ速度で腰部にジョイントされた武器をサイバスターが引き抜いた。 ブンドルが託したサイバスターが、中尉が託したオクスタンライフルを構える。 長い砲身が、ほぼ接触状態でメディウス・ロクスに向けられる。 撃ち貫く、というカミーユの意思を受け、サイバスターが引き金を引く。 不意を突かれる形となったメディウス・ロクス。さしものスフィア・バリアもゼロ距離では意味を持たない。 「胸部に損傷……指数34。再生の範囲内です」 それだけで、これほどの力を持つ特機を沈めるには至らない。確かにダメージは入ったが、撃墜までは程遠い。 撃った反動で、サイバスターの手からオクスタンライフルが飛び出し、後方に投げ出された。 カミーユは振り返らない。そのまま、サイバスターで直接メディウス・ロクスにぶつかっていく。 これだけの質量差がある状態で体当たりという攻撃を選択するのは、一見下策に見えるかもしれない。 メディウス・ロクスは反射的に爪を振り上げようとしたが、その動作を中断した。 何故動きを止めたのかカミーユは分かっている。あのまま払うように攻撃をしてしまえば、今のサイバスターでは砕け散ってしまうかもしれない。 メディウス・ロクスはサイバスターを撃破できない。本体であるAI1が、至上の存在と崇めるユーゼスがかけた呪いだ。 カミーユはその間にメディウス・ロクスの胸に飛び込むと、刺さっていたディスカッターを再び掴んだ。 サイバスターの全重量を一気に剣にかける。かける、と言っても何をしているわけではない。 くずおれるサイバスターに剣を握らせているだけだ。だが、それによってディスカッターは縦にメディウス・ロクスの装甲を切り裂いた。 「指数79に増大。ですが戦闘続行は可能ですね」 先程のようにサイバスターを上から抑え込もうと放たれるメディウス・ロクスの剛腕。しかしカミーユは着地と同時に後方に飛んでいる。 大空を飛ぶはずのサイバスターが、地面で跳ねるしかない。それでもカミーユは止まるわけにはいかない。 跳びすさった場所にあるのは、後ろに飛ばされたオクスタンライフル。地面を転がりながらもしゃにむにそれを掴むと、再び敵へと照準を合わせた。 選択するのは、Bモード。体全体でライフルを抑え、撃鉄を引く。一発。二発。三発と繰り出される実体弾。 その反動が、サイバスターを揺らす。 撃ち出された砲弾は、メディウス・ロクスが発生させたスフィア・バリアにあっさりと阻まれる。 その時、オクスタンライフルが地に落ちた。 サイバスターのマニピュレータが限界を迎え、片手が物を掴むという機能をついに失う。だらりと腕が垂れ下がった。 サイバスターが、弱弱しくスラスターを吹かし、5mばかり距離を取った。 メディウス・ロクスはバリア表面で起こった爆煙を裂き、サイバスターに肉迫する。 再び振り落される大振りな爪をサイバスターは回避する。しかし、かわしたはずの爪が、サイバスターを叩いた。 それが、腕を振り落すと同時に放たれた肘の爪であることを、カミーユは受けてから理解した。 「今のあなたがこれほど戦えるとは予想外でした。それを予測できない私はやはり不完全であるということでしょう」 かけられる言葉。しかし、カミーユは沈黙という答えを返す。 「ラプラス・コンピュータは私に組み込まれ、あのお方が使ってこそ意味があります。 あなたがサイバスターを操縦する必要性はないのです。使うのは、あのお方と私でなければならない」 相変わらず、ユーゼスを称賛する時だけ饒舌になるメディウス・ロクス。 こちらに機体を渡すように勧告しているのか、ユーゼスの偉大さを他者に知らしめようとしているのかまるで分からない。 煩わしいメディウス・ロクスの声を無視し、カミーユは歯を食いしばり、無言で集中する。 「気絶しましたか? それなら都合がいい。あなたの命を今からもらいます。 全ての命も、全ての力も、全ての知識も、全能の調停者たるあのお方のためにあるのですから」 そう言うと、メディウス・ロクスはサイバスターに歩み寄る。 正確にこちらのコクピットだけを潰すつもりだろうとカミーユは当たりをつけた。 動き回る相手ならともかく、停止したこちらをそうやってしとめるのは難しくない。 メディウス・ロクスの爪が、ゆっくりと振り上げられた。一部のずれもないように、正確に叩きつぶすための速度だ。 その爪が、サイバスターに振り落され――― ――――――ない。 メディウス・ロクスの背面スラスターが巨大な火を噴いた。それによって盛大にメディウス・ロクスは前方へ吹き飛ぶ。 押しつぶされぬようカミーユは、ちぎれそうな意識をかき集め、サイバスターを迫る影から抜け出させる。 心の中、小さくカミーユはアムロに謝罪した。こんな謝罪は意味がないと分かっていても、心からカミーユはそうしたいと思った。 「う、あああアああ………いっタい、なニガ……」 メディウス・ロクスの電子音声が乱れる。それほど内部に対しても深刻なダメージということだろう。 何が起こったのかも把握してないことは見て取れる。 メディウス・ロクスは、爆風のため見落としていたのだ。脱落したサイバスターの銀色の装甲の中に、白いものが混じっていたことを。 それは――カミーユが創造した三機のハイ・ファミリア、その残った一体。 今のカミーユの精神状態では、自在にハイ・ファミリアを操ることは不可能だ。 ただ漫然と射出して使おうものなら、動きの鈍ったそれはすぐに落とされるだろう。 だから、カミーユは待ったのだ。ハイ・ファミリアをメディウス・ロクスに気付かれず、致命的な一撃を与えるチャンスを。 ハイ・ファミリアの混じった残骸を踏み越え、攻撃に気を回した隙をつき、カミーユは自身を投影した分身をメディウス・ロクスのスラスターに飛び込ませた。 そして、最奥で力を放ったのである。60mもの巨体が故に、スラスターの噴出孔も大きい。それによって生まれた死角。 直結した己のエネルギーに火がつけば、どれだけの機体であろうとも致命傷は避けられない。 サイバスターにメディウス・ロクスを破壊する力はない。ならば、メディウス・ロクス自体の力を使えばいいのだ。 A・R(アムロ・レイ)の名を冠したハイ・ファミリアは、最期に敵を打ち倒した。 自分の意識を分化させたハイ・ファミリアが撃墜されたことによる精神的な痛みを必死に抑え、カミーユはサイバスターを操作する。 動くほうの手でオクスタンライフルを拾い、サイバスターは振り上げた。 「何ゼ……ラプラス・コンぴュータハ……ソの力は……あのお方のタメにあルのに……ナぜ、あなたは……」 メディウス・ロクスが意識を持って稼働しているなら、撃墜されることはすなわち死を意味している。 だと言うのに、いまだメディウス・ロクスが口にするのはユーゼスのことだった。 サイバスターの力は、ユーゼスこそふさわしい。カミーユには、要らないものだと信じて疑わぬ声。 その言葉が、カミーユには我慢できなかった。沈黙の反動からか、カミーユの口からは叫びがあふれた。 「ふざけるなッッ!! そんなにこのマシンが、サイバスターが大切か!? 人の命を平気で踏みにじってまで、そんなに欲しいのかよ!? ユーゼスが言った理想? 完全になる!? いつもいつも脇から見ているだけで、人を弄べる奴がそう言うんだ! 何も分かっちゃいない癖に知ったようなことばかり! 俺たちは考えなしの案山子なんかじゃない!」 処理しきれない感情が、白濁とした頭の中を駆け巡り、どうしていいのか分からなくなってくる。 「お前だって同じだ! ユーゼスの、ユーゼスのってユーゼスのことを鵜呑みにして、他人の代弁者のつもりか!? 人のこと一つ考えられない奴が、人の命を平気で摘みとれる奴に何がわかるって言うんだよ!?」 「ワタしは……あのお方の……」 「黙れよ! 目の前の現実一つ見えてない奴が! 過去に縛り付けられて、それだけしか考えられなくなった癖に!」 カミーユは、メディウス・ロクスの言葉を遮る。一息に言い終えて息が切れる。先程から荒い息が、さらにひどくなる サイバスターはまっすぐにオクスタンライフの銃身を、メディウス・ロクスの本来核がおさめられているはずの空洞に差し込んだ。 オクスタンライフルにもついに限界が訪れる。何度となく刺突にも使われたことによって、耐久力はすでになくなっていた。 空洞に飲み込まれるように、オクスタンライフルが押し込まれて消えてく。 オクスタンライフルの全てが空洞に飲み込まれたと同時――エネルギーシリンダーに火がつき、それが実体弾を巻き込み炸裂した。 体の中から火を噴き出し、紅蓮にメディウス・ロクスが包まれる。手が、足が、胴がばらばらに裂け、四散する。 「ゲンじつを見えてないノは……アナたのほう……もはや、あなたに、タタカうチカラは……」 ――グシャリ。 最期まで人の気を逆なでする言葉を吐くメディウス・ロクスの頭をサイバスターは踏みつぶした。 「分かってるさ……けど、許せるかよ……こんなことを平気で出来るような……」 この身体に代えてでも、ノイ・レジセイアだけは。 カミーユは、絶対に許せない。許せるわけがない。 クワトロ大尉を、アムロ大尉を、多くの人々を理不尽な殺し合いで奪ったことが。 皆、帰る場所があった。帰りを待ちわびている人がいた。まだしなきゃならないことがあった。―-死んでいい人じゃなかった。 それを実験なんてものの使い捨ての道具のように、安全な場所から一方的に殺した。 挙句、世界を作ると。人の心も大事にできないような存在が作る世界のために、殺された。 歯を食いしばり、唇も噛む。口から流れ出る血が、どうにかカミーユの意識を繋ぎとめる。 一瞬でも気を抜けば、どこまでも落ちていける。カミーユはその事実を感じていた。でも、それをするのは、まだ先だ。 今は、足をとめちゃいけない。アイビスが登って行った空をカミーユは一瞬見上げた。 そこには、無機質な天井があるだけだ。その先をカミーユは見通し、サイバスターを歩かせる。 結局、ノイ・レジセイアと戦えるのは自分だけだ。キラも、シャギアも逝ったことを、カミーユは自分の力で漠然と理解していた。 ロジャーの気配も消えたことも。残りは、ノイ・レジセイア。デュミナス。自分。そして、よくわからない大きな気配と、アイビス。 星の中に感じる力はそれだけだ。 サイバスターが、体を引きずり進む。もはや、体のどこにも無傷な場所はない。 いつ機能停止してもおかしくない状態だった。 ――もし、この世界に奇跡を起こせる存在がいるならば。 ――希望の力から生み出される電子の聖獣がいるならば。 カミーユは、十分にそれに適合するだけの条件を持っていたと言えるだろう。しかし、そんな奇跡はあり得ないのだ。 この実験を起こすに際し、ノイ・レジセイアが破壊したものが二つある。 一つ、希望より無限の力を引き出す不死鳥を象った七体目の電子の聖獣。 二つ、舞台の上を動かし、納めるための機械仕掛けの神〈メガデウス〉。 この二つは、もはやこの世界のどこにも存在しない。カミーユたちを助け、導くものはもうどこにもない。 舞台に全ての人はあげられ、全ての札は開かれた。勝つも負けるも、ここにあるものだけが決することができる。 →ネクスト・バトルロワイアル(3)
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必殺技 ショルダーチャージングクラッシュ ↓↘︎→+K ヘッドクラッシュ ↓↑ P ライトニングタックル →↓↘︎ ジョニースペシャル 接←↙︎↓↘︎→ エクストラアタック•究極奥義 キャッチング•上段(飛び道具キャッチ) ABC キャッチング•下段(飛び道具キャッチ) ↙︎•↓•↘︎ ハイパージョニースペシャル (↓↘︎→)×2+AC 投げ技 ダディ スルー 接← AB タッチダウン 接→ ブレストオンタックル 接←•→+CD 特殊技 スライディングキック ↘︎+K キャラ別索引 ワールドヒーローズPERFECT
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交錯線 ◆7vhi1CrLM6 一瞬、刃先が常闇の中に浮かび上がった。 咄嗟に腕が動き、鞘を盾に受け止める。高く澄んだ金属音が狭い通路に反響した。 続けて一閃二閃。 鞘を払う暇も余裕もなく、視神経を総動員して刃の動きを追う。 補給を行なった影響か。あるいは損傷の修復が進んだ影響か。動きが前よりも早く巧緻に長けている。 必死になって動きを追った。 四エリアに跨る広大な南部市街地。その下に網の目のように張り巡らされた地下道には、日の光も届かない。 刀身が鞘に触れたその瞬間だけ、カッと火花が飛び、互いの姿を浮かび上がらせていた。 圧し掛かり押し潰してくるかのような圧力。刃を防ぎつつ圧されてジリジリと後退していく。 場所が悪い。幾ら幅員60m高さ70mを超える広さとはいえ、所詮は通路。 40mを超えるヴァイサーガに換算してみれば、それは僅か人二人分のスペースでしかない。刀の取り回し一つにも苦労する。 対し自機の三分の一程度の大きさしかないマスターガンダムは、このスペースを遥かに有効に活用できる。 地の利がどちらにあるのかなど、明白。 気を抜けば見失いそうな刃を受け止める。それはクナイの型をした烈火刃の白刃。 人間換算すればヴァイサーガにとって15cm程度刃渡りしか持たないそれも、マスターガンダムにしてみれば刃渡り45cmの立派な脇差となる。 元々が投擲用で斬撃に向かない形状とはいえ、補給後に一本よこせと言ってきたこいつに渡すんじゃなかった、と後悔が頭を掠めた。 一つ。二つ。三つ。連続して火花が瞬き、両者が間合いを取る。 見失わなければ受けられる。ヴァイサーガはそういう機体だった。 ダイレクト・フィードバック・システムが思考を拾い、周囲の地形を考慮した上で最適なモーションを選び出す。 だから、見失わなければ受けられる。 そして見失わないだけの間合いの取り方は、ここまでの同行中『暇だから』と称してさんざっぱら襲い掛かられたお陰で身につき始めていた。 刃が閃く。外から内に侵入してくる横薙ぎの一閃。 鞘を縦に通路に突き立て、受け止める。そのまま膠着し、力勝負の押し合いの状態に縺れ込んだ。 「いいねぇ。やるようになったじゃねぇか。最初とは大違いだ」 「五月蝿い! 黙れッ!!」 二者の満身の力を引き受けることになった鞘と烈火刃がカタカタと小刻みに震え、音を立てていた。 ヴァイサーガの腕力なら押し切れる。そう思った瞬間に、圧が消えた。 マスターガンダムの手の甲で一回転した烈火刃が鞘の内側へするりと滑り込む。 「ならこれはどうする? クク……防いで見せろよ、統夜」 そして、圧の方向が変わった。外から内に向かっていた圧が、気づけば内から外へと向かっている。 鞘が外に弾かれ、ガードが抉じ開けられる。同時に懐に滑り込んでくる黒い影。 しまった、と自らの失態に気づいたときにはもう遅い。とんっと軽く腹部装甲に足裏が触れたと思った瞬間、押されて仰向けに倒された。 蹴られたわけではない。損傷を与えぬように優しく足の裏で押されたのだ。 咄嗟に起き上がろうとして、直に耳に響く濁音を聞く。 コックピットカバー越しに響いたその音は、ハッチを隔てた向こう側に足場を確保された音だ。 モニター見れば、ガウルンが烈火刃をコックピットに突きつけているのも分かる。 荒い呼吸を整えて一つ大きな息を吐き、コックピットを開け放った。 「……参った。降参だ」 汗だくの体で倒れたヴァイサーガの上に立ち、そう言うしかなかった。 どう考えてもヴァイサーガが体勢を立て直すのより相手の一撃がコックピットを貫く方が、早い。 ガウルンが機体から降り、歩み寄ってくる。 「やれやれ、軽はずみに褒めるもんじゃねぇな。もう少し相手の動きをよく見て先を読め。素直に受け止めすぎだ」 「……あんたが言えることかよ。暇って理由だけで隙も覗わずに襲い掛かってくるあんたに」 「俺か? おいおい、よく俺のことを見もしないで心外なことを。お前が気づいてないだけで俺はよぉく見てるぜ、統夜。 クク……頭のてっぺんから爪先まで全身余すことなく、それこそお前の尻の穴の中までなぁ」 舌なめずりするその姿に生理的な嫌悪と身の危険を察知し、怖気が走る。 危険。危険。危険。 さんざ分かっていたことだが、この男は危険。 そして同時に、そうやって圧されることのやばさも肌は敏感に感じ取っている。 気を呑まれるな。臆するな。弱気を見せれば瞬く間に喰われるぞ。 何故押し黙る? 口を開け。震えるな。睨み返せ。お前は何に腹を立てていた? この男の理不尽さにではないのか? だったら、それを怒りに変えろ。意地でもいい。それを糧に反発し、反抗してみせろ。 ごくりと生唾を飲み下し、自分に言い聞かせる。ガウルンの顔を見据え、睨みつけた。 「おやおや、ご機嫌斜めなご様子で。だがそうやって俺のオモチャになっている内は、何をしても説得力に欠けるねぇ。 分かるか? 手を組むときにああは言ったがなぁ。今のお前は殺す価値もない腑抜けたただの餓鬼だ。 あのフェステニアとか言う嬢ちゃんの方がよっぽど、クク……殺しがいがある。お前、今あの嬢ちゃんと殺り合ったら殺されるぞ」 「そんなことッ!!」 抗議したその瞬間、襟首を掴まれて装甲板に引き摺り倒される。 ヴァイサーガの硬い装甲板に顔面から突っ込んで、蛙が潰れたような声が口から漏れた。 咄嗟に顔を持ち上げようとして、厚く硬い靴底の感触を後頭部に感じる。踏み潰され、再度顔面が装甲板にぶつかる。 「分からないって? 分かるさ。勘だがな。当るんだよ、こういう勘はな。だがなぁ、俺の獲物を横取りしようってんだ。 それじゃあ困る。最低でも観客を沸かせるぐらいはしてもらわねぇとな」 頭の中で『殺される』という直感と『大丈夫だ。残り一桁までは殺されない』という理性が、喧嘩していた。 鼻頭が痛い。どろりした赤い液体が装甲板をぬらしている。 「いいか。お前はあの嬢ちゃんにいいように使われて、カモられてたんだよ」 俺が? テニアに? そうだ。そうだった。 ホンの一時間ほど前に芽生えた感情を思い出す。 「お優しい仲間だの信頼だのをちらつかせて、お前の力を骨の髄までしゃぶり尽くそうとしてたのさ」 そうだ。俺は偽者の主人公だった。彼女達が都合のいいように誂た、偽者の。 「言ってみろ。誰のせいでお前はこんな目にあっている?」 何故? どうして? 俺はこんな理不尽な扱いを受けている? 決まってる。あいつらだ。あいつらと―― 「答えろよ、ほら。お前が今こうして苦しんでんのは、あの化け物に目をつけられる羽目になったのは、誰のせいだって聞いてんだ」 ――こいつのせいだ。 明確な殺意を持ってそれを思った。踏みつけられたままの頭を渾身の力で持ち上げる。 「そうやって俺を見下して満足か? 満足なんだろうな、あんたは。でもそれは俺にとっちゃ屈辱なんだ。 殺してやる……殺してやる! テニアも、お前も、俺が必ず殺してやるッ!!」 そうして四つん這いの姿勢のまま目を剥き、下から睨み上げて言った。ガウルンの口元が獰猛に笑う。 その瞬間、再び力の込められた足に踏み潰されて、三度装甲板に頭が打ちつけられる。 きな臭い臭いが鼻から脳天に突きぬける。じっとりと粘っこい視線を背中に感じていた。 そのとき、上空を何かが通過していく音を聞く。飛行場付近でよく耳にするジェット機が低空を飛行していくような、そんな音だ。 地下と空中。大地という遮蔽物の影響が、常よりも利きの悪いレーダーの性能を更に低下させているのだろう。 ヴァイサーガ、マスターガンダム共に接近を知らせる警告音はない。 踏みつけていた足がどいたので、そろりと立ち上がりながら視線だけでガウルンの表情を盗み見た。 ◆ 陽が昇って改めて目にするそこの光景は、悲惨な有様だった。 初めてロジャーが訪れたときこの場所は、人がいないという一点を除けばまだ普通の街だった。 パラダイムシティのドーム内にも劣らないほど大きく発展した市街地だった。 それが今はどうだ? 見る影もない。 高層ビルは倒れたドミノのように転がり、中には地割れに呑み込まれているものもある。 建物の多くは倒壊して崩れ去り、普段はコンクリートに包まれて見ることのない骨組みが無残にもその姿を晒していた。 通りはまだ火事の煙が抜けきらずに靄がかかったようになっており、焼け爛れた家屋がその左右に連なっている。 同じ廃墟でも長い年月をかけて風化したといった風情の中央廃墟とは大きく異なる。 ここには大地震を被災した直後の様な、まだ壊れて間もない生々しい傷跡が広がっていた。 中でも一際被害が激しいのが、息絶え無残にも死骸を晒している二首の竜の周辺だ。 そこは遠目でも分かるほど地形が窪んでいた。無敵戦艦ダイを中心にして大きな円状に広がる窪地。 高低差は100m弱と言ったところだろうか。まるで蟻地獄のように全てを地の底へ引きずり込んでいる。 最早何のものかも分からない破片が渇いた砂のように窪地を埋め尽くし、僅かに残った高層ビルがそこに突き刺さっている。 所々に見える穴は地下通路の穴だろう。それも大半は瓦礫の砂にふさがれていた。 「これ……私達がやったんだよね……」 その廃墟の街並みの上空に凰牙を走らせながら、周囲の惨状に目を向けていたロジャーは、その呟きにチラリと通信モニターを見やる。 何かを考えているのか、普段活発で勝気なこの少女には見られないどこか沈んだ顔がそこにはあった。 「気にすることはない。君の責任ではないさ」 「でもね、ロジャー。この街は元はちゃんとした綺麗な姿をしていて、私達が来て壊しちゃったのよ。 私達が来たときには、もう人はいなかったけど。いろんな人が一生懸命になって建てて、笑ったり泣いたりしながら過ごしてたはずの場所。 長い時間をかけてちょっとずつ手を入れてもらって、大事に大事にしてもらって、そうやって何代もの間、家族を守ってくはずだった場所。 家ってそういう場所でしょ。それを私達は突然やってきて勝手に壊しちゃったのよ」 「だがここには最初から人はいなかった。人が暮らしていた痕跡が……」 「そうだとしても。本当は人がやってきて使ってもらえるのを待っていたんじゃないかしら」 不機嫌に割り込んできたソシエの様子に、眉を顰める。 「君は何が言いたい?」 「……別に」 その言葉を境に通信モニターのソシエがそっぽを向いた。 ソシエらしからぬこの様子は、市街地の惨状を突然戦火に見舞われた故郷に重ねたがゆえの感傷だった。 今のソシエの目には、眼下に広がる風景があの成人の日に焼かれた故郷のビシニティに、お父様を亡くしてしまったハイムのお屋敷に重なって見えてしまう。 だが、そんなことが説明もなしに分かるはずもない。まして相手はロジャーである。 ビッグ・オーを呼ぶたびにビルやら、道路やら、街のインフラを破壊して登場させるこの男に理解を求めるというのが、土台無理な話なのである。 説明したとて理解を示すかどうかすら怪しい。 よって『何かよくわからないが、機嫌を損ねたことは確からしい』という程度が、ロジャーの見解だった。 やれやれとモニター越しに臍を曲げた少女の姿を一瞥して、そういえばと思い出す。 そういえばあれは、最初にここに向かっていたときのことだっただろうか。リリーナ嬢にも臍を曲げられた。 あのときも確かそっぽを向いてだんまりを決め込んだ彼女が、一切返事を寄越してくれなくなったのだ。 妙な可笑しさを感じて、悪いと思いつつも口元が緩むのを感じた。そこへ声が飛ぶ。 「ロジャー! 何にやけてるのよ。だらしがないわね」 その台詞を聞いて、いや違うな、と思った。もういつもの調子に戻っている。 こういう切り替えの早さと歯に衣着せぬ言葉使いにお転婆な態度は、リリーナ嬢にはなかった。 それぞれにそれぞれの良さがある。二人を混同して捉えるなど、両者に対して失礼というべきだろう。 「そうかな? すまない。以後気をつけるとしよう。それでどうした?」 「見つけたわよ」 「さて、ソシエお嬢様は何を見つけたのかな?」 少しからかってみたくなり、笑いながらまぜっかえす。 「飛行機よ。飛行機。あれでしょ? あなたのお知り合いが乗っていたって飛行機は」 そう言って示されたものに目を向けて真顔になる。 無敵戦艦ダイよりもやや西に、瓦礫にその頭を埋めるようにして遺棄されている戦闘機があった。 機首が折れ、右翼が引き裂かれ、尾翼も失われており機体表面を覆う装甲板も少なくない数が剥がれ落ちて、その内部を晒している。 二度と飛び立つことは適わない堕ちた戦闘機。以前目にしたときよりもさらに損傷の進んだ無残な姿。 だが、濃紺の機体色に黄色のアクセントを取り入れたそれは間違いなく目的の機体だった。 「YF-21に間違いない。ガイの機体だよ」 「無事だといいわね……わっ!!」 直接的ではないにせよYF-21を落した責任の一端を感じて神妙になりかけたソシエを見て、急に舵を切った。 未だどこにいるのか分からないが、通信モニターの映像からゴロンゴロンと転がる羽目になったのは分かる。 「ちょっと、何やってるのよ! 真面目に運転なさい!!」 頭をさすりながら飛んできた予想通りの怒鳴り声に、軽く笑う。 「そう、その調子だ。あれこれ考えて沈んでいるのよりもそうやって怒鳴っているほうが君らしい、と私は思う」 「どういう意味よ!」 「いいぞ。その調子だ」 「あ~、馬鹿にして」 「では元気が出たところで一仕事頼むとしようか。私がYF-21を調べる間、コックピットに座っていて貰おうか」 凰牙を着地体勢に移しながら言った言葉に「座ってるって、それだけ?」と言葉が返る。 「いや、周囲の索敵をお願いしよう。ここは視界が悪いのでね。何が潜んでいるのか分かったものではない」 「分かった。敵を見つけたら教えたらいいのね。他には?」 「とりあえずは以上だ。そうそう、なるべくなら凰牙は動かさないで貰いたいな。 下手に触られて壊されたのでは目も当てられない」 「失礼ね。私はこれでもミリシャで――」 そんなやり取りを続けながら凰牙をYF-21の近場へ。 半分埋没しながらも窪地に刺さり、高く伸びている高層ビルの瓦礫に足を降ろした。 総重量400tを超える重みを受けて瓦礫が軋みを上げ一瞬冷やりとしたが、それだけだった。 胸部に収まるコックピットのハッチを開け放ち、ソシエと入れ替わる。そのまま一人で地上へ。 「ロジャー!」 大声で呼ばれて振り返る。何かを投げる姿が見えて、何か黒い物が飛んでくる。 慌てて受け止めて確認してみれば、それはロジャーが外部から持ち込んだ時計型の通信機だった。 待ちかねていたかのように通信が繋がる。 「もう少し丁寧に扱ってもらいたいものだ。だが返していただけたのだ。この際文句はしまっておこう」 「私の物をどう扱おうと私の勝手じゃない。それに貸すだけよ。通信に必要だから一時的に返しただけなんですからね」 どうやらもう既にソシエの中ではすっかり彼女の物となっているらしい時計を腕につける。 いつ、どうやって、差し押さえられた物品を奪い返そうかと溜息を漏らしながらロジャーは、YF-21に向かって瓦礫の中を歩き始めた。 約15分後、YF-21のキャノピーから飛び降りるロジャーの姿があった。 一通り調べ終わって収穫はゼロ。ガイの行方に繋がる手がかりは何もない。 ただ遺体が無いという事は少なくともあの時ここでは死ななかったのだろう。 生きている。とりあえずはそれ満足したつもりになって、凰牙に戻ろうとしたその時通信が入った。 「ロジャー、そっちに向かって人が歩いてる」 「歩いて? 機体には乗っていないのか?」 僅かに眉を顰めて言う。その物言いに過敏に反応したソシエの声が返る。 「そうよ。どこにも機械人形の姿は見えませんもの」 おおよその位置を聞いた上で、これから交渉に入ること、待機していることを手短に伝えると通信を切った。 機体にも乗らず生身を晒して歩いている。そのことの意味を探る。 しかし、その答えが出るのよりも早く―― 「よぉ、ネゴシエイター。クク……誰かと思ったらあんたかい」 その男はやって来た、慣れた足取りで瓦礫の海を乗り越えて。 オルバとテニアに会ったときとは違う。目が合ったときからこの男が放っている只ならぬ威圧感を感じた。 「前にどこかでお会いしたかな?」 「おいおい。あれだけ最初の場で目立っておきながらよく言うぜ。あんたを知らない奴のほうがここでは珍しい」 不安定な足場にも関わらず全く危なげのない所作で男は近づいてくる。 余りにも動きが慣れすぎている。そして、この廃墟の光景が余りにも似合いすぎていた。 それは味方にすれば頼もしいが、敵にすれば怖ろしい。念を入れるつもりで心中に身構える。 「なるほど。ここでは私は有名人というわけだ。それでどうやら私に会いにきたようだが、ご用件をお伺いしよう」 「何、大した用事じゃないんだがね」 男の視線が背後のYF-21へと注がれ、顎でしゃくる様にして指した。 「そいつに乗ってたパイロット――アキトの行方をあんたなら知ってるかと思ってね。それとまぁ情報交換と言ったところかな」 「アキト? ガイではないのか?」 「ガイ? そいつは知らねぇな。まっ、そいつでもいいか。そのガイって奴の居所を教えてくれ」 「ガイを探してどうするつもりだ?」 「別に。あんたにゃあ関係のない話さ」 あんたが気にかけることじゃない、という風に肩を竦めて見せた相手。 ガイの行方はこちらも気になることだったが、話にならない、と同じように肩を竦めて返す。 「ならば私も教える義理はないな」 「そりゃそうだ、と。まぁ、いい。で、ネゴシエイター、あんたは何だってこんなところに来たんだ?」 「それも答える義理はないな」 「おいおい、あんたが俺にしたのと同じ質問だぜ。俺が答えたんだ。あんたも答える義理があると思うがな」 懐からサングラス取り出しつつ「そうだったかな」と恍けた様子で返す。 さて、問題はこの男にJアークとナデシコの交渉について話すべきか否か、だ。 オルバとテニアには話した。だがそれは、二人がナデシコに関連する人物であるところが大きい。 その他に当るこの男に話すべきなのだろうか。 サングラス越しに男の様子を覗う。 どこか恍けた様子で薄い笑いを絶やさないこの男。身のこなしと漂わせている雰囲気から只者でないのは分かるが、どうにも評価を付け難い。 今、目にしている姿が虚なのか、実なのか、判別が付かない。かなりの曲者ということだろう。 交渉というのは、どの程度相手に信頼がおけるどうか、というのが大きく関わってくる。 その点においてえたいが知れないというのは、それだけで途方もないアドバンテージとなり得るのだ。 オルバよりもさらに場慣れしていると言える。 ではどうするか? このまま何食わぬ顔で情報を交換し交渉を終えるのか。あるいはこの男もあの場へと招くのか。 答えは決まっている。 受けた依頼の内容は『Jアークとナデシコの交渉の場を整えること』そして、『なるべく多くの者をその場へ集めること』だ。 ロジャー=スミス個人の判断が及ぶところではない。ゆえにこの男を例外にするわけにはいかなかった。 「実は今、場を整える依頼を引き受けている。ある場所へなるべく多くの者を集めるのが私の仕事だ」 「なるほど。それで人を探してここへ来たってわけか。残念だが、ここには俺しかいないぜ」 「なに、君も例外ではない。例え今あの化け物の言いなりになって人を殺めている者だろうと考える時間は必要だ。 どのような諍いや因縁であれ、話し合いで解決できるのならばそれに越したことはない。その為の場だよ。だが――」 一度言葉を区切る。 「だが、その場に争いを持ち込もうとする者は、この私ロジャー=スミスの名にかけて許しはしない」 凄みを乗せた声で言い切る。覚悟と信念の入り混じった声。脅しではなく警告だった。 だがそれを風と受け流し、目の前の男は答える。微塵も気圧された感は覗えない。 「そいつぁ、怖いな。いいぜ。参加してやる。で、どこなんだ? その酔狂な集まりはよぉ」 「次の放送前にE-3地区にあるクレーター、そこへ来てもらいたい。ラクス=クラインという少女が眠る墓の前だ。行けば分かるだろう」 僅かな後悔を感じながら答える。 この男が本当に交渉するに値する人物だったのかどうか、スッキリしないものを感じていた。 だが一度口にした言葉をなかったことにするというのは、不可能だった。 何かの分野において一流の人物が一癖も二癖もある者である、ということは多い。 そしてそういう人物ほど自分という人間を隠すのに長けている。この男は果たして大当たりか。大外れか。 今はまだ判断が付かない。どちらともなく情報交換に移る。 交渉の時間は割り切れない気持ちを残しながら、一見穏やかに過ぎ去っていこうとしていた。 ◇ あらかたの情報を交換し終えてガウルンは考える。 ロジャー=スミスが把握している人間の位置。行動目的。危険人物。目ぼしい情報は既に手に入れた。 代わりに与えた情報はというとギャリソンとか言う祖父さんを始めとする死人のものばかり。それと出鱈目だ。 とは言え全くの出鱈目ばかりでもない。 例えばカシムとミスリルの連中の情報だ。無論カシムはここにはいないが、奴がいればどういうスタンスで行動したのかは想像に難しくない。 他の連中にしたって同様だ。 現実の人物像を元に創り上げた偽の情報。それを最もらしく流してやった。 下手な情報よりも現実に矛盾が発生しない分だけ問題が起こりにくい。何しろ真偽の程が分からないのだ。 それを調べ、偽物だということを立証しようと思えば、生存者のほぼ全ての情報が必要となる。 残り人数が分からない以上、誰も知らないところで誰かが生き延びている可能性を、完全に否定することなど不可能。 それにしても面白いことになってきた、と思いつつ気づかれないようにそれとなく周囲の様子を覗う。 機体の姿以外、声も、姿もばれていない事に付け込んで情報を得ることに関しては、予想以上の成果を得た。 ならば後の関心は統夜がどう出てくるのか、だ。 念を入れてマスターガンダムこそ隠して来たものの、統夜の自由を奪うようなことはしていない。 何も言っておらず、制限もつけていない。 ついでに言えば、自分がどう動くつもりなのか、それすら告げていない。 その状況下でどう動いてくるのか、それなりに興味があった。 これ幸いと逃げ出すようなら興醒めもいいところだが、そんな腑抜けならば最初から興味を持つ自分ではない。 何らかの行動を起こすはずだ、と妙に確信づいていた。 それに自分が統夜の立場なら、これを機会と見て自分を襲うだろう。そうすればマスターガンダムを出さざる得なくなる。 そのマスターガンダムは、過去の交戦でネゴシエイターに見られている。上手く行けば交渉人を味方に付けられるという寸法だ。 二対一の多勢を生かして厄介な俺を葬り去り、同時にネゴシエイターに取り入る。後は機会を見て面白おかしく暴れてやればいい。 信用させて裏切り、ネゴシエイターの間抜け面を拝む。中々に魅力的だ。想像しただけで愉快になってくる。 自分ならばまず間違いなくそれを選択するだろう。そして今の自分もそれを望んでいる。 一対二となれば、今はまだ発展途上で役不足の統夜と言えど楽しめる。知らず笑みが漏れた。 「どうした? 何か可笑しいのかね」 「何にって……そりゃぁ――」 どうした、統夜。お前はこの機会を逃すほど間抜けではないのだろう? 何をぐずぐずしている? 見ているだけでは機は失われていく。時間も余裕もない。ならどうすればいい? 簡単だ。 この好機を生かしてみせろ。今すぐ。今すぐにだ。さあ。さあ! さあっ!! さあッッ!!! さあッッッ!!!! 「そりゃぁ、あんたにさ。他人の本性も見抜けないでよく交渉人が務まるものだ。なぁ、ネゴシエイター」 交渉人が眉を顰め気色ばむのとほぼ同時に、瓦礫の山が跳ね上がった。 舞い上がる瓦礫を身に纏い、中空で身を翻す濃紺の機体はヴァイサーガ。それが鞘を払う。 その光景を背にガウルンは、呆気に取られたロジャー=スミスを無視して、高々と右腕を天に掲げる。 「クク……ずいぶんと遅かったじゃないか、統夜。首を長ぁーくして待ってたぜぇ。 どうした、ネゴシエイター。もっと楽しそうな顔をしろよ。楽しい楽しいパーティーの――始まりだ」 そして、指を弾く渇いた音が、辺りに妙に大きく木霊した。 「ククク……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!!」 →交錯線(2)