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亡くなった茶道家の父は、礼儀作法に非常に厳しい人だった。 今でもよく覚えている。 ある日俺は寺子屋から帰ると、茶箪笥の中に見たこともない高級な和菓子があるのを見つけた。 きっと、両親は奮発して高いものを買ってきてくれたのだろう。 俺は勝手にそう判断し、それを一人で無断で平らげた。 仕事から帰ってきた父は烈火の如く怒った。 あの菓子は、俺のために買ったのではない。 里長を招いて茶会をする際に、皆に振る舞うために購入した大事な菓子だったのだ。 泣いて謝る俺の尻を父はばしばし叩き、真っ暗な蔵の中に閉じ込めた。 あの時ほど、父が恐いと思ったことはない。 結局、父は大事な茶の席で大恥をかく羽目になり、俺は怒られても仕方のないことをしたのだ。 そんな父もあっけなく亡くなり、俺は父の跡を継いで茶道を教える仕事に就いた。 今では何とか、妻と一緒に食べていけるだけの稼ぎもある。 夜。ガラス戸を叩く音がしたので俺は立ち上がった。 こんな夜更けに誰だろう。 戸を開けると、そこには丸っこい物体がある。 金髪にカチューシャ。ゆっくりありすと呼ばれる饅頭生物だ。 「こんばんは、とかいはなおじさん」 「ああ、こんばんは。どうしたんだい、こんな夜に」 このありすとは初対面ではない。 今日の午後、縁側で一緒に簡素なティータイムを楽しんだゆっくりだ。 俺が縁側で湯飲みを片手に羊羹を食べていると、このありすが森の方から庭にやって来た。 垣根から顔を覗かせ、ありすは遠慮がちに俺に挨拶した。 「ゆっくりしていってね、おじさん」 「ああ。ゆっくりしていくといい」 「ありがとう。おじさんはしんせつなひとね。ありすも、おじさんのおにわにいてもいいかしら」 「庭を荒らさなければ、別に構わないよ」 「あら。ありすはとかいはよ。にんげんさんのおにわをよごすようなことはしないわ」 ありすの言ったことは嘘ではなかった。 ありすは俺の近くまで出てくると、口にくわえていた野苺を静かに食べ始めた。 よくいるゆっくりのような「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」といったような大声を上げることもない。 都会派、と自称するだけあって、ありすの食べ方はゆっくりにしては品がよかった。 俺は少し気をよくして、抹茶に砂糖を入れて冷ましてからありすに差し出した。 「ゆっ! とってもおいしいおちゃね! おじさんはすてきなひとだわ」 ありすとはしばらくの間、なかなか楽しい茶会の時間を過ごすことができた。 時には、作法にこだわらず自然体で茶を楽しむのも素晴らしい。 茶を飲み終わるとありすは野苺の茎を片づけ、森へと帰っていったはずだ。 なのに、いったいどういう風の吹き回しだろう。 「おじさん、ひるまのおれいよ。ありすのつくったいんてりあなの。うけとってほしいわ」 ありすが口にくわえて差し出したのは、きれいに形の整っている押し花だった。 木の葉っぱの上に一輪の花がくっついている。 恐らく、ゆっくりの涙か唾液によって固めたものだろう。 あの不器用なゆっくりが作るものとは信じがたいほど、それは手が込んでいる。 「ありがとう。遠慮なく受け取らせてもらうよ」 たとえそれがゆっくりが作ったものであっても、誠意がこもっていることに代わりはない。 俺はお礼を言ってありすから押し花を受け取った。 「ゆっくり! おじさん、ありすとおともだちになってほしいわ」 俺が受け取ったことで、自分が受け入れられたと思ったのか、ありすはそんなことを言ってきた。 「君と友達にかい?」 「おじさんはとってもいいひとだから、ありすはおともだちになりたいの。また、いっしょにてぃーぱーてぃーをたのしみましょう?」 ありすはニコニコと笑っている。 あまりにも、ありすの笑顔は無防備だった。 だからこそ、俺は首を横に振った。 「残念だけど、それは無理だよ。今日のことはもう忘れて、お家に帰りなさい」 「…………ど、どうして。もしかして、ありすはいなかものだったの? おじさんのめいわくだったの?」 ありすのうろたえ方はかわいそうなくらいだった。 まさか、否定されるとは思っていなかったのだろう。 それもそうだろう。俺とありすとは、本当に仲良くやっていたのだから。 「いいや、そうじゃない。ありすはゆっくりとは思えないくらい都会派だったよ。でも、駄目だ」 「……おじさん。…………どうして?」 「君がゆっくりで、俺が人間だからさ。俺と君とでは、種族として違いすぎるんだ。人間には、近寄らない方がいい」 まだすがるような目をしてくるありすを、俺は優しく突き放す。 「今は仲良くできても、きっといずれどちらも不幸になる。俺たちは、絶対に相容れないんだよ」 俺はかつて、下らない過ちを犯した。 ゆっくりのしたことに本気で怒り、ゆっくりが分からないことを無理に分からせようとした。 人間の常識でも、ゆっくりにとっては常識ではない。 なまじ彼らは喋ることができるから、意思の疎通ができると思ってしまう。 実際はそうではない。人間とゆっくりとは違いすぎる。 あの不毛な体験は、俺の記憶の中に嫌な過去として位置づけられている。 あれは、この家に引っ越してきてすぐのことだった。 俺は今日のように、庭を眺めようと縁側に出ていた。 やや古くはあるが、実に趣のある家と庭だ。 何気なく見ていても、あちこちに風情があって飽きることがない。 しばし休息を取ろうと、俺は茶を点て茶箪笥からおはぎを一つ取り出した。 行きつけの和菓子店が作る、徹底的に痛めつけて味をよくしたゆっくりを材料にした名菓だ。 俺は茶碗と皿をお盆に載せ、縁側に戻ると座り直した。 ほっとする一息だ。 誰のためでもなく、自分のために点てる茶も悪くない。 茶の香りは奥ゆかしく、午後の静かな時間と相まって幻想郷を桃源郷に変えようと誘う。 柔らかなその誘いに、しばし身を委ねていた時のことだった。 「ゆっゆっゆ~♪ ゆっゆっゆ~♪ おさんぽおさんぽ~♪ まりさのおさんぽたのしいな~っ♪」 せっかくの気分が、たちまち台無しになった。 垣根をがさがさとうるさく揺らし、小動物らしからぬ不用心さで飛び出してきたものがいる。 金髪に黒い帽子。小生意気そうな表情。ゆっくりまりさだ。 サイズは大きめのリンゴくらいだろうか。どうやらまだ幼いゆっくりのようだ。 まりさはへたくそな歌を歌いながら、ぴょんぴょんと跳ねて庭を横切ろうとしている。 人間の耳には、ちょっとゆっくりの歌のセンスは理解しがたい。はっきり言って不快だ。 ……それにしても、散歩なのだろうか。 だとしたら、何という無警戒だろう。 俺の住む里では、あまりゆっくりにいい顔はしない。 畑を荒らす害虫として駆除されることもしょっちゅうだ。 付き合いで俺も幾度かかり出されたことがある。 里のあちこちに作られた巣を壊し、泣き叫ぶゆっくりを袋に詰めて加工場に引き取ってもらう。 「にんげんさんやめてよ! やめて! まりさたちはゆっくりくらしてただけだよ! なんでこんなことするの! ゆっくりしてよ!」 「おちびちゃんをもっていかないで! れいむのだいじなおちびちゃんなんだよ! やめて! ひどいことするなられいむにして!」 「ゆあああああん! きょわいよおおおお! おかあしゃああん!おとうしゃああああん! たすけちぇよおおお!」 俺はあまり彼らのお喋りが人間のようで好きになれないが、農家の人が言うにはあれはただの鳴き声だそうだ。 意味などない。ただの饅頭の発する音。人間のような思考はない。 そう思っているからこそ、簡単に駆除できるのだろう。 里は決して、ゆっくりにとって安全な場所ではないのだ。 それなのに、この警戒心皆無の動きは何だろうか。 「ゆっ! にんげんさんがいるよ。おにいさん、ゆっくりしていってね!」 俺の足元にまで近づいて、ようやくまりさは俺の存在に気づいたらしい。 まりさはぐいっと体と頭が一緒の部分をもたげ、俺の方を一心に見つめてそう言った。 きらきらと輝くような瞳だ。 実に無邪気な、人間の子どもでさえもここまであどけない目つきをしてはいない。 俺と仲良くできる、と無条件で信じ込んでいるのがよく分かる。 「……あ、ああ。ゆっくり、しているよ」 「ゆっ! ゆっ! ゆっくり! ゆっくり! おにいさん、ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね!」 俺はまりさの迫ってくる気迫にあっさり負け、返事をしてしまった。 途端にパアァ……とまりさの顔がさらに明るくなる。 ぽよんぽよんとまりさは反復横跳びをして、返事が来た喜びを全身で表現した。 きっと、これで俺とまりさとは仲良くなった、と思い込んでいるのだろう。 ゆっくり、という言葉を連発することから、余程その響きが気に入っているらしい。 「ここはまりさのみつけたゆっくりぷれいすだよ! おにいさんもゆっくりしていいからね!」 「え? いや、ここは俺の家で、君のいるところは俺の庭なんだが」 「ちがうよ! まりさのゆっくりぷれいすだよ! まりさがおさんぽしててみつけたんだよ! まりさのすてきなゆっくりぷれいすだよ!」 「……まあ、そうだよな。君たちに人間の家とか庭とか分かるわけないだろうし」 「ゆっ! ゆっ! おにいさん、へんなこといわないでよね。まりさちょっとこまっちゃったよ。ゆっくりしようね!」 「はいはい。ゆっくりゆっくり」 ああ、これがお家宣言という奴何だな、と俺は一人納得していた。 まりさにとっては、ここは自分が見つけた場所なんだろう。 俺という人間は、ついさっき気づいた。つまり、庭が先で俺が後だ。 だから、まりさにとってここは先に自分が見つけた場所ということになっているのだろう。 どうでもいいことだ。 どうせ、飽きたらすぐにどこかに行ってしまうだろう。 俺はまりさのかん高い声と、妙に人の神経を逆なでする口調に少しいらついたが、怒るほどではなかった。 そもそもここは借家だ。まりさが何と言おうが、あまり執着心はない。 まりさは楽しそうに俺の周りを転がってみたり、あちこちに顔を突っ込んで匂いを嗅いだりしていたが、不意にさっきよりもさらに目を輝かせた。 「ゆゆっ! おいしそうなおかしがあるよ! とってもおいしそうだね! まりさたべたい!」 ゆっくりは感情がすぐ表に出る。 まりさの目は、俺の隣にある皿に置かれたおはぎに釘付けだった。 おはぎに焦点を合わせたまま動かない目と、よだれの垂れている口元、そして舌なめずりをする舌。 露骨に「食べたいよお!」という欲望がむき出しになった顔だ。 「駄目だ。これは俺のお菓子だよ。まりさにあげる食べ物じゃないんだ」 「えぇぇ……。うらやましいなぁ…………おいしそうだなぁ……まりさもたべたいよぉ……」 餌付けして居座られても困る。 俺はちょっと大人げなかったが、皿を持ち上げてまりさから遠ざけた。 まりさはすぐさま縁側に這い上がって、おはぎに噛み付きかねない勢いだったからだ。 まりさの視線は、器用におはぎを追って動いた。 もう、関心はおはぎに固定されたらしい。 仕方のないことだ。 ゆっくりは極度の甘党だが、野生のゆっくりが甘いお菓子を食べることなどできない。 常に甘いものに飢えているゆっくりの目の前に、大好きなお菓子が置かれたのだ。 飛びつこうとするのも無理もない。 「いいなぁ………おにいさんだけいいなぁ………まりさもほしいなぁ……たべたいなぁ……むーしゃむーしゃしたいなぁ………」 さっさとあきらめて出て行けばいいものを。 そうすれば、それ以上おはぎを見続けて焦がれることもないのに。 俺はそう思ったが、まりさの取った行動は正反対だった。 俺のそばにべたべた付きまとって、懸命に自分をアピールし始めたのだ。 俺の機嫌を伺うように顔をのぞき込んでみたり、チラッと流し目を送ってみたり、実にうっとうしい。 口からは、俺が羨ましい、自分も食べたい、と馬鹿の一つ覚えのような言葉が連発される。 俺がそっぽを向くと、そちらに回り込んでぴょんぴょん跳ねたりぷりんぷりんと尻を振ってみせる。 少しでも俺の気を引こうと、まりさは手を尽くしているらしい。 だがそれは、俺にしてみれば不愉快な行為ばかりだ。 人のものを欲しがるという態度が気に入らない。 ましてや、あきらめが悪くしつこいならばなおさらだ。 茶の席でこんなことをしようものなら、即座に追い出されても仕方がない不作法だ。 「いいなあ! まりさもほしいよ! ほしい! おかしほしい! おかしたべたい! たべたい! たべたいよお!」 ついに、まりさは我慢できなくなったらしく、大声で俺に頼み始めた。 いや、もはや図々しく要求している。 それにしても、ゆっくりは体は小さいのに声がやたらとでかい。 小さな子どもが耳元でどなっているようで、耳がおかしくなりそうだ。 「ちょうだい! まりさにもちょうだい! おにいさん! ねえ! ねえねえねえ! きいてるの!? おにいさん! おにいさんってば!!」 「駄目ったら駄目だ。いいか、これは俺のものなんだ。君にあげるものじゃない。いい加減あきらめろ」 「おにいさんのいじわる! けち! まりさおこったよ! ぷんぷん! もういいよ! おにいさんなんかしらない!」 とうとうまりさの堪忍袋の緒が切れた。 俺のことを一方的に非難すると、ぷりぷり怒りながら垣根の中に潜り込んでいった。 まりさにしてみれば、仲良くなった人間が自分だけお菓子を楽しんでいるように思えたのだろう。 俺は少しまりさがかわいそうになったが、すぐに自分の考えを改めた。 「じぃぃぃぃっ…………………………じぃぃぃぃ…………………………」 わざわざ声に出して、自分がいることをアピールしているのはなぜだろうか。 まりさは森に帰ろうとはしなかった。 生け垣の下から、まりさの食欲でらんらんと輝く二つの目が俺を見ていた。 まりさ本人は隠れているつもりだろう。 だがこちらからは、じーっとおはぎを見つめるまりさの姿が丸わかりだ。 ああ言ったものの、菓子への未練はそう簡単に断ち切れないのだろう。 ふと、俺の心に子どものようないたずらが思いついた。 この状態で、俺が席を外したらどうするだろうか。 十中八九、まりさはおはぎを食べてしまうだろう。 その現場を俺が押さえたらどんな顔をするだろう。 さぞかしうろたえるだろう。どんな言い訳をすることだろう。 泣いて謝るだろうか。それともちょっとすねてから謝るだろうか。 「わあ! そうだった。用事を思い出したぞ。すぐ部屋に戻らなくちゃ! 急ぎの用だから、おはぎはここに置いていこう!」 俺がわざとらしく大声を出すと、まりさが生け垣の中で身じろぎしたのが分かった。 「どこにいるか分からないけど、もしまりさがいたら困るからちゃんと言っておかなくちゃな!」 まりさが俺のおはぎだと言うことを忘れては困るので、ここでもう一度繰り返す。 「まりさ! これは俺のおはぎだからな! 絶対に食べちゃ駄目だぞ! まりさのおはぎじゃない。俺のものだぞ! 食べたら怒るからな!」 俺の声はまりさに聞こえただろう。 しかし、まりさの目はもうおはぎの方しか見ていない。 本当に聞こえたのだろうかと怪しく思うが、さっきから食べるなと連呼してあるから、あれが自分のものではないことぐらい分かるだろう。 では、実験の開始だ。 俺は縁側から立ち上がり、家の中に入って柱の陰に隠れた。 俺が身を隠してすぐ、まりさは生け垣の中から飛び出してきた。 駄目だこれは。 ゆっくりには、人間のものとそうでないものとの区別が付かないようだ。 あっさりとまりさがおはぎを平らげて実験終了かと思ったが、そうではなかった。 まりさは縁側に飛び乗ると、おはぎの載っている皿に顔を近づけた。 しかし、ぱくりと噛み付くことはなかったのだ。 「ゆうぅ……おにいさん……たべちゃだめだって……どうして……こんなにおいしそうなのに……」 俺は耳を疑った。 なんだ。ちゃんとまりさは理解していたんだ。 俺がいなくなっても、おはぎが自分のものではなく人間のものだと覚えていたのだ。 ゆっくりの記憶力を俺は侮っていたが、どうやら考えを改めなくてはいけないようだ。 「いいなあ……たべたいなあ……おいしそうだなあ……おにいさんうらやましいなあ……まりさもたべたいなあ……」 まりさはよだれをたらたら、未練もたらたら流しながらおはぎに心を奪われている。 食べられないと分かっているなら見なければいいのに、と思うのだが、まりさはじっとおはぎを見つめてうっとりしている。 それが欲望を加速させるニトロであることに、まりさは気づいていない。 「たべたいよぉ…むーしゃむーしゃしたいよぉ……くんくん……くんくん……ゆぁぁぁ……いいにおいだよぉ……くんくん………」 どこにあるのか分からない鼻をひくつかせ、まりさは餡子の甘い匂いをいっぱいに吸い込んでいる。 もはや舐めるようにまりさはおはぎをあちこちから眺め、ほとんどくっつきそうなくらいに顔を近づけている。 これは駄目だ。 絶対にまりさは我慢できない。 俺の予想は的中した。 「ちょっとくらいならいいよね! おにいさんにわからないくらいなら、たべてもだいじょうぶだよね!」 分かる分からないの問題じゃなくて、そういうことを口にしちゃいけないだろ。 俺は柱の陰でまりさの行動に突っ込む。 「なめるだけだよ! ぺーろぺーろするだけだよ! それくらいならおにいさんもわからないよ!」 まりさはきっと、自分で自分を騙しているのだろう。 いけないことだと分かっている。 でも、どうしても食べたい。 ならば、これくらいなら分からないと自分に嘘をつき、信じ込もうとしているのだ。 「ぺーろぺーろ…………し、し、し、しあわちぇええええええ!!」 ついに、まりさは俺の警告を無視した。 ゆっくりの体の割に大きくて分厚い舌が口から伸びると、ぺろりとおはぎの餡子を舐めてしまった。 次の瞬間、まりさは幸福そのものの顔で叫んだ。 まりさは冗談抜きで輝くような表情で、甘いものを味わう幸せを表現していた。 「しゅごくおいちい! しゅごくおいちぃよおおおお! あみゃいよおおお! もういっかいぺーろぺーろ! ぺーりょぺーりょおおお!!」 まりさは歓喜のあまり涙を流している。 よく見ると、下半身からちょろちょろと何か流れ出している。 失禁しているのか? 不快になる俺を置いてきぼりにして、まりさはもう一度おはぎをべろりと舐める。 前回は罪悪感からか恐る恐るだったが、今回は舌で餡子を削り取るような舐め方だ。 あれでは、おはぎの表面に舐めた跡が残るだろう。 まりさの罪はこれで確定したわけだ。 「ち! ち! ちあわしぇぇええええええ!! おいちぃいいいいいい!!」 再びまりさは嬉しさのあまり大声を出す。 こっそりと盗み食いをするつもりだったが、あまりのおいしさに声が出てしまうのか。 もう、こうなってしまっては一直線だ。 止まるわけがない。止められるわけがない。 「むーしゃむーしゃ! むーしゃむーしゃ! あまいよおおおお! おいちいよおおおお! むーしゃむーしゃ! むーしゃむーしゃぁあああ!」 まりさは、おはぎにかぶりついた。 一口で三分の一をかじり、もぐもぐと噛む。 途端に、まりさは口から餡子をこぼしながら叫んだ。 「すごいおいしいっ! おいしいいいい! あまいよお! まりさむーしゃむーしゃするよ! むーしゃむーしゃ! おいしいよおおおお!」 もう夢中だった。 まりさはおはぎにぱくつき、もぐもぐと噛み、ごくりと飲み込む。 ずっと我慢していた甘さへの渇望を満たせる喜びで、まりさの顔は緩みきっていた。 「まあ、そうだよなあ……」 俺は、茶箪笥に向かいながら苦笑していた。 怒りの感情はわいてこなかった。 きっと、父が里長のために用意した茶菓子を勝手に食べた俺も、あんな感じだったのだろう。 俺は、まりさに子どもの頃の俺を重ねていた。 大事な茶の席で使うはずの茶菓子を、無断で食べてしまった俺。 食べるなと厳命されながら、甘味の誘惑に勝てなかったまりさ。 どちらも、似たようなものだ。 悪いと分かっていても、ついついやってしまう。 それを責めるのは、いささか大人げないと言えるだろう。 ……この時の俺は、まだ正常だった。 俺は代わりの茶菓子のきんつばを取り出し、皿に載せた。 さて、まりさはどんな顔をするだろう。 俺が怒ると、何て弁解するだろう。 俺はいたずらが成功した子どもの顔で、縁側へと向かったのだった。 縁側に置かれた皿には、おはぎの代わりにまりさが載っていた。 半分幸せ、半分物足りない顔で、まりさは皿をぺろぺろと長い舌で舐め回している。 「おや、おはぎがないぞ。しかもそこにいるのはまりさじゃないか。さては盗み食いしたんだな。悪い奴め!」 芝居気たっぷりに、俺は恐い顔をして縁側に姿を現した。 皿の上に乗っかり、しかも皿を舐めていたまりさに逃げ場はなかった。 「ゆううううううっっっ!?」 まりさはびっくりして跳び上がった。 こちらを向くまりさの口の周りは、おはぎの餡子ですっかり汚れている。 「ゆあっ! あっ! ゆああっ! おにいさんっ! ゆっくりしようねっ! ゆっくりっ! ゆっくりっ!」 「まりさ、口の周りが餡子で汚れているぞ! 言い訳しても無駄だ。あれだけ食べるなと言っておきながら、よくも俺のおはぎを食べたな!」 まりさのうろたえた様子は、本当に面白かった。 何度も空になった上に自分の唾液でべとべとになった皿と、怒った顔をした俺とを見比べている。 まりさが混乱しているのがよく分かり、俺は内心笑いを噛み殺していた。 「まりさ! この悪いゆっくりめ! 人のものを勝手に食べちゃったら、何て言うのかな!?」 おろおろとしているまりさに、俺は親のような顔で言ってみた。 もちろん、この状況は俺が作ったものだから、まりさが拗ねたり泣いたりしても怒る気はなかった。 一回でもいいから「ごめんなさい」と言えば、それで俺はすっきりしただろう。 「まりさも食べたかったのか。じゃあ、これも半分あげるよ」 面白いものを見せてもらったお礼に、きんつばを半分食べさせてやるつもりだった。 ……そもそも、ゆっくりに本気で怒るなんて大人げないだろう。 こんなことを考えるほど、かつての俺は甘かった。 ゆっくりという饅頭がどれだけ人間とは異なる存在なのか、理解していなかった。 そして、ゆっくりという饅頭がどれだけ人間を苛立たせる存在なのか、体験していなかった。 まりさはしばらくおたおたしていたが、いきなりにっこりと笑った。 それまでの困惑した様子が嘘のような、あっけらかんとした笑顔をこちらに向けた。 「おかしとってもおいしかったよ! もっとちょうだいね!」 俺は絶句した。 何だって? 今、こいつは何て言ったんだ? おいしかった? もっとちょうだい? 「何を言ってるんだ? あれは俺のお菓子だぞ」 「うん! でもおいしそうだったから、まりさがまんできなくてたべちゃった! すごくおいしかったよ!」 まりさは初対面の時とまったく同じ、無邪気な顔でニコニコと笑っている。 自分が悪いことをしたという自覚がないのか? 野生動物だから、目の前にある餌をただ貪るだけだったのか? そうじゃない。 まりさは一度ためらっている。 おはぎが俺のものであるということは、知っていたはずだ。 「食べちゃ駄目だって言っただろ。聞こえなかったのか。それとも、忘れちゃったのか?」 わすれちゃったよ、とまりさが言ってくれれば。 そうすれば、俺は納得していたはずだ。 単なるおはぎ一つのことだ。 俺が食べられなかったからといって、子どものように怒ることはないはずだった。 しかし、まりさの返答は違った。 「ずるいよおにいさん! おいしいおかしをひとりじめして! おかしはみんなでたべるからおいしいんだよ!」 「まりさ、君が全部おはぎを食べちゃったせいで、俺の食べる分はなくなったよ。全然みんなで食べてないじゃないか」 「おにいさんおかしをもうひとつもってるでしょ! まりさはおなかがすいてたんだよ! そっちもはんぶんちょうだいね!」 たかがゆっくり如きの馬鹿な言い草。 そう片づけてしまうには、俺は若すぎた。 いや、片づけてしまえないほど、俺はこのことについてトラウマがあったのだ。 呆れ果ててものも言えない俺を差し置いて、まりさは俺の手のきんつばに向かってジャンプする。 「まりさおかしだいすき! もっとちょうだい! ねえ! ねえ! ねえ! きいてるの!? まりさはおかしだいすきなんだよ!」 俺はまりさを見た。 まりさは俺を見ていない。 俺の手にあるきんつばしか眼中にない。 俺の存在など、まりさには邪魔なだけなのだろう。 「おにいさん! おにいさんってば! きいてるの! ねえきいてよ! まりさにそれちょうだい! まりさもっとたべたい! おかしたべたいよお!」 俺の心情の変化は、大人げないと批判されても仕方がない。 しかし、俺の心の奥から、自分でも信じられないほどの怒りがこみ上げてきた。 ただの理性のない獣ではなく、こいつはゆっくりだ。 どんな形でも、まりさが一度でもごめんと謝れば当然許すつもりだった。 これは俺の仕組んだいたずらだ。それくらいの余裕はあったはずだ。 それなのに、俺の手にあるきんつばに向かって、羞恥心の欠片もなく飛びつくまりさをみていると、怒りしか感じない。 かつて俺は、何度謝っても父に許されなかった。 心底反省しても、許してもらえなかった。 やがて雷親父の怒りはおさまったのだが、その間俺は家の中で針のむしろにいた。 かばってくれる祖母がいなければ、俺は父を憎みさえしただろう。 あの嫌な経験は、俺の中でしこりとなって残っている。 人のものを勝手にかすめ取ることが、どれだけ悪いことなのか身に染みていた。 それなのに、こいつは。 こいつは人のものを食っておきながら謝りもせず、もっとよこせと催促するのか? 自分が何をしたのか分かっていながら、恥知らずにもこちらに要求するのか? たかが饅頭風情が、人間の食べ物をよこせとうるさく詰め寄るのか? 俺はゆっくりの生態に詳しくなかった。 もし詳しい人がこれを読めば、当然失笑することだろう。 何を馬鹿なことをしているんだ、ゆっくりにいったい何を期待しているんだ、と笑われて当然だ。 俺の間違い。 それは、ゆっくりを人間のように扱ったことだった。 俺はきんつばを地面に落とした。 こんなものが血相を変えるほど欲しいのか。 勝手にしろ、と俺はまりさにきんつばをあげた。 「ゆっゆ~♪ おいしそうなおかしさん、ゆっくりまりさにたべられてね! むーしゃむーしゃ! しあわせーっっっ!」 地面に落ちたきんつばに、まりさは飛びついた。 落とした俺に目もくれず、がつがつと貪っていく。 遠目から見ればまだ耐えられるが、近くで見ると本当にこいつは汚らしい食べ方をする。 足で蹴り飛ばしたくなる誘惑を抑え、俺はまりさが食べ終わるまで待った。 「ゆっくりおいしかったよ! まりさこんなにおいしいおかしはじめてたべたよ! もっとたべさせてね!」 舌で口の周りをべろべろ舐め回しながら、まりさはさらにお菓子を欲しがる。 こいつは、お菓子をくれた俺にお礼さえ言わなかった。 無神経な物言いに、俺の心はもう動かない。 腹立ちはピークに達しているため、火に油を注いでもこれ以上燃えないのだ。 「もうないよ。これで終わりだ」 「ゆぅぅ……そうなんだ。まりさ、もっとむーしゃむーしゃしたかったよ……おかしおいしかったのになあ……」 たちまちまりさの顔は悲しそうになる。 体の大きさからして結構な量を食べたのに、こいつは満足しないのだ。 ますます俺はゆっくりが嫌いになった。 「じゃあもうまりさはかえるね! おにいさん、またおいしいおかしをちょうだい! まりさまたくるからね!」 「ああ、ちょっと待つんだ、まりさ」 「ゆゆ? おにいさん、どうしたの? まりさはおうちにかえるんだよ」 食うだけ食ってさっさと帰ろうとするまりさを、俺は呼び止める。 振り返って首を傾げるまりさ。 俺は両手を伸ばして、その丸っこい顔と体をつかんだ。 「ゆっ! おそらをとんでるみたい! まりさとんでるよ! とりさんみたいにおそらをとんでるよ!」 いちいち実況中継するのがうるさい。 それに、この状態は飛んでるのではなく浮いてるだ。 食べたせいか、まりさの体はそれなりに重量がある。 手に持つとちゃんと重みが伝わってくる。 饅頭皮はもちもちとしていて、手触りがなかなかいい。 まだ若いからだろう。手首を回して横と後ろを見てみたが、傷らしいものもない。 「ゆゆっ? なんなの? そんなにみつめられると、まりさちょっとはずかしいよ~」 俺が見とれているとでも思ったのか、まりさは顔をちょっと赤らめてもじもじし始めた。 恥じらいとかそういった感覚はあるのか。 ならばなおさら、好都合だ。 「まりさの両目はきれいだね」 俺はいきなりまりさを誉めた。 まりさはきょとんとしていたが、すぐにとても嬉しそうな顔になる。 「とってもきれいだよ。きっと、ゆっくりの中では一番きれいな目をしているんだろうね」 「ゆゆ~ぅ。それほどでもないよ~。でも、まりさすごくうれしいよ! うれしい!」 両手で持ち上げられた状態で、まりさは嬉し恥ずかしといった感じで体をぐねぐね左右に振っている。 表面上は恥ずかしそうだが、明らかにまりさはこちらの言葉に期待している。 俺がじっと見つめていると、伏し目がちになりながらも時折チラッとこちらを見てくる。 もっと誉めて、と思っているのが丸わかりだ。 お望み通り、俺はまりさを誉めちぎった。 「まりさの髪の毛もきれいだよ。とてもきれいでまるで黄金の小川みたいだ」 「ゆゆん! まりさのかみのけさんはまりさのじまんだよ! みんないっぱいほめてくれるんだよ!」 「まりさの歯は白くて整ってるね。虫歯もなくていい歯をしているよ」 「はさんはだいじだよ! むーしゃむーしゃするときにはさんがなかったらたいへんだよ!」 「まりさの帽子は素敵だね。よく手入れがされていて、ほかのゆっくりたちも羨ましがるだろうね」 「だって、まりさのたからものだもん! ゆっへん! まりさはおぼうしさんがいちばんだいじなんだよ! まいにちまりさはおぼうしをごーしごーしあらうんだ! きれいきれいにしてからおぼうしをかぶると、とってもゆっくりできるよ!」 すっかりまりさは誉められて有頂天になっている。 見る見るうちに、まりさの顔は幸福を絵に描いた笑顔になっていく。 まだだ。 もっともっと、まりさを舞い上がらせてやろう。 俺はさらにまりさの誉めるべき点を、大事にしているであろう点を探す。 「まりさのお家はどんなところだい? きっと、とても住みやすい場所だろうね」 「ひろくてゆっくりできるすてきなおうちだよ! まりさのたからものがいっぱいあるんだ!」 「まりさの家族はどうかな? まりさはどう思ってる?」 「みんなだいすき! おとうさんだいすき! おかあさんだいすき! いもうとのれいむもまりさも、みんなみんなだ~いすき!」 「まりさには友達がいるだろう? 友達のことはどう思ってる?」 「みんなゆっくりしてるよ! ありすもいるし、れいむもまりさもいるよ。いっしょにあそぶとすごくたのしいよ!」 「じゃあ、最後にまりさのゆん生はどうかな。まりさは今まで生きてきてどうだった?」 「とってもしあわせだよ! まりさゆっくりできてしあわせ! まりさはしあわせなゆっくりだよ!」 「そうだろうね。まりさは幸せなゆっくりだよ。俺にもよく分かる」 「ゆ~ん♪ おにいさん、まりさてれちゃうよ~♪ ゆんゆん♪ ゆっくり♪」 最後にまりさはとびきりの笑顔を見せて締めくくった。 本当に、まりさは幸せそうだった。 まりさの言葉を聞いて、俺もよく分かった。 こいつは生まれてからずっと、ゆっくりにしては恵まれた環境にいたのだ。 さぞかし、幸福なゆん生を送ってきたのだろう。 これからも、それが続くと信じて疑わないのだろう。 「じゃあそれ、全部俺がもらうよ」 手始めに、君の片目をもらうことにしよう。 いきなり両目を奪ったら、これから始まる喜劇が見られなくなるからね。 俺はまりさを片手で持つと、右手の人差し指をまりさの左の眼窩に突っ込んだ。 まりさは指を突っ込まれても、2秒ほどは笑顔のままだった。 きっと、俺の言葉の意味が分からなくて頭の中を素通りしたのだろう。 別に構わない。こちらも、まりさが理解してからこうするつもりなどなかったのだから。 柔らかい感触が指に伝わってきた。 つるんとして湿った眼球を避けて、その裏側の餡子に指先が届いた。 やや温かい。 「ゆっ……ゆぅ……ゆ゙! ゆ゙ぎぃ゙い゙い゙い゙あ゙あ゙あ゙!! あ゙あ゙あ゙ぎ゙い゙い゙い゙い゙い゙!」 まりさはどぎついまでの絶叫を張り上げた。 この声は聞いたことがある。 ゆっくりを里の皆で駆除していた時、えらく気合いの入った男が一人いた。 人の二倍も三倍もゆっくりを狩る彼の回収したゆっくりは、どれもずたずただった。 彼の持ち場からは、今のまりさと同じ悲鳴が止むことがなかった。 ゆっくりの鳴き声ということで誰も気にしなかったが、あの男はゆっくりを生きたまま解体していたのか。 俺は慎重に指先で眼球をつまみ、引っ張る。 視神経やら筋肉やらの抵抗はなく、思った以上にあっさりとまりさの目玉は顔から抉られた。 俺は激痛で歪んだ顔をしているまりさに、それを見せてやった。 「や゙あ゙あ゙っ! や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! まりざの! まびぢゃのおびぇびぇえええええええ!!」 自分の目と見つめ合うという状況は、なかなか希有なものじゃないだろうか。 俺の手の中と眼球と目があって、まりさはさらに大声で叫ぶ。 「い゙ぢゃい゙ぃい゙い゙い゙い゙い゙!! がえぢでっ! まりぢゃのおべべがえぢでよおおおおお!!」 隻眼から大量の涙を流しながら、まりさは俺に目玉を返すよう訴える。 ぽっかりと開いた眼窩からは、どろりと餡子混じりの涙が流れる。 果たして、これをまりさの眼窩に突っ込んだらまた機能するのだろうか。 俺は改めて、こいつの眼球をしげしげと眺めてみた。 材質は寒天か白玉だろう。 ゆっくりの顔についている時はあんなにも表情豊かなのに、こうして抉り出すととたんにただの無機物になる。 「おにいざんがえじでえ! おめめがえじでよおお! どうじで! どうじでごんなごどずるのお!? まりざいだいよおおお!」 「君だって、勝手に俺のお菓子を食べたじゃないか。だから俺も、君から勝手に目をもらうよ」 俺は痛みに苦しみもがくまりさにそう言った。 まりさは一瞬、信じられないものを見る目で俺を見た。 不愉快だ。 自分がそうしたというのに、自分が同じようにされるのは嫌なのか。 「がえじでっ! がえじでっ! それはやぐまりざのおかおにもどじでよおおおおおお!!」 「お菓子を返してくれたら戻してあげるよ。ほら、早く返して。そうしたら戻してあげる」 「でぎないよお! できないよおおお! もうおがじざんだべじゃっだがらがえぜないよおおおお!!」 「じゃあ、これも返してあげない」 泣き叫ぶまりさを尻目に、俺は指先に力を込めた。 ブヂュッ、とあまりにもあっけなく、まりさの二つとない左目は潰れて四散した。 目の前で自分の体の一部を潰されたショックで、まりさは泣きわめく。 「や゙ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! お゙め゙め゙ぇ! お゙め゙め゙ぇ! まりざのずでぎなおべべぇえええええええ!!」 ねっとりとした液体が、潰れた眼球から流れ出した。 恐らくシロップだろう。 これでもう、まりさの顔から左目は永遠に失われた。 どんなことがあっても、まりさはこれからずっと片目で生きていかなければならないのだ。 俺は眼球の残骸を庭に放り投げた。 「次はまりさの髪の毛だね。それももらうよ」 「だめぇ! だめだめだめえええええ! やだあ! まりさのおさげさんむしっちゃやだあああああ!」 必死に体を捻って、俺の手から逃れようとするまりさ。 だが、その力はあまりにも弱く、抵抗と呼ぶにも値しない。 俺はまりさの帽子から出ているお下げを掴み、ぐいっと力任せに引っ張った。 「い゙ぎゃ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! あ゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙! いだいっ! いだいいだいいいい!」 お下げは根本から千切れて手に残った。 なぜ根本からだと分かるかというと、皮と餡子がわずかながらくっついてきたからだ。 俺はまりさの帽子を取り上げた。 「おぼうしさんっ! それまりさのおぼうしさんっ! かえして! まりさのおぼうしさんかえしてね!」 邪魔になるから、俺は帽子を自分の頭に乗せた。 傍目から見ればかっこわるいが、この際気にはしない。 「これだけじゃ足りないな。もっとまりさの髪の毛をもらうよ」 「やだああ! やめてね! まりさのかみのけむしらないで! いたいのやだああ! むしるのだめえええええ!」 まりさの声は、昨日の俺が聞いたら痛々しくて手を止めたくなるものだったに違いない。 いくら何でも、菓子を勝手に食べられたくらいで目を抉って髪を抜くなんて、と不快感をあらわにしたことだろう。 だが、今の俺はまったく嫌悪感がなかった。 まりさのきらきら光る金髪を指で掴み、お下げと同じようにして引っこ抜く。 雑草を抜くようなブヂッという手応えを残して、一つまみの金髪が手に残った。 「いぢゃあああああいいい! あちゃま! あちゃま! まりぢゃのあぢゃまああああああああ!!」 まりさは涙を流して激痛を訴える。 髪の毛は地肌ごと引き抜かれ、まりさの頭には小さな穴が空いていた。 気にせず、俺は次々とまりさの頭から髪の毛をむしり取る。 「いびゃい! いびゃいよっ! おにいざんやめでっ! まりざのがみのけっ! だいじな! だいじながみのけなのっ! いぢゃいいぃっ! どうじでぇ? どうじでごんないだいごどずるの!? まりざなにもわるいごどじでないのにいいいいいい!」 自称「悪いことをしていないまりさ」は、俺が手を止める時には「まばらに頭に髪の毛が残っている禿まりさ」になっていた。 完全な禿にするよりも、所々に残っている方が無様さに拍車がかかる。 俺と最初に出会った時の若くはつらつとしたまりさは、もうどこにもいない。 ここにいるのは、片目に穴が空き、髪の毛のほとんどをむしられた不細工なゆっくりだ。 「ゆっ……ゆぐっ……ゆぐぅ……いだいよぉ……まりさのかみのけさん……みんなにほめてもらったかみのけさん…… ゆっくりかえってきてね……いだいぃ……まりさのあたまにゆっくりかえってきてねえ! はやくかえってきてねええええ!!」 まりさは俺の足元に散らばる自分の髪の毛を見て、涙をぽたぽた落としている。 その悲しそうな顔は、ゆっくりを駆除していてもなかなかお目にかかったことがない。 どうやら、本当にこいつの髪の毛は仲間の間でちやほやされていたようだ。 それを苦痛と共に失った気分はどんなものだろう。 「もらったけど、やっぱりいらないね。こんな汚い髪の毛」 俺は下駄の足でその金髪を踏みにじり、土の中にねじ込んだ。 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」 まりさの悲鳴がかん高くなる。 俺は自分の頭にかぶっていた帽子を、まりさに返してあげた。 「おぼうしさん! まりさのだいじなおぼうしさん! ゆっくりおかえり! おかえりいいい!」 大あわてでまりさは帽子をかぶる。 大事なものだということもあるが、同時に禿を隠したいのだろう。 まりさは俺をにらみつけた。 「ひどいよ! おにいさんひどい! やめてっていったのに! まりさがやめてっておねがいしたのに! どうしてこんなことするの! おにいさんはゆっくりできないよ! きらい! だいっきらい!! まりさのおめめもどして! かみのけももどしてよお!」 「ああ、まりさはやめてって言ったね。聞こえたよ」 「だったらどうしてこんなことするの! まりさいたかったよ! すごくいたかったよ! どうしてえええ!」 「だから? まりさが止めてって言ったから何なの?」 まりさは口を閉じた。 涙がいっぱいにたまった右目で、こちらをじっとにらんでくる。 まるで、自分はかわいそうな被害者であるかのような顔だ。 「君だって、俺が食べちゃ駄目だと言ったお菓子を食べたじゃないか。同じことだよ。俺も、君が止めてって言っても髪の毛をもらうよ」 「そ……そんなこと……。そんなの……。そんなのやだよおおおお! やだあ! やだやだやだあああああ!!」 「次はまりさの白い歯だね。それももらうよ」 「やだあ! やだあああ! やじゃびゃびぎぃぃぃ!!」 俺は大声を張り上げるまりさの口に、親指と人差し指を突っ込んだ。 手にまりさの口内の濡れた感触が伝わった。 上顎の奥歯を一本掴み、力任せに引っ張る。 予想よりも遙かに力を必要とせず、まりさの歯は引っこ抜けた。 「あびっ! ばびびっ! あびっ! あびや゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙っ゙!!」 歯の抜けた歯茎から粘性の低い餡子をびゅっびゅっと拭きつつ、まりさは絶叫した。 俺は指先でつまんだこいつの歯をじっくりと眺めてみた。 色は真っ白だ。形は人間のものとよく似ている。 少し力を入れただけで、あっけなく歯は砕けた。恐らく砂糖でできているのだろう。 「びゃびぇでっ! いびゃいびょ! しゅびょびゅいびゃいっ! いびゃびいいいい!! 」 たった一本歯を抜かれただけで、まりさは顔をぐしゃぐしゃにして激痛を訴える。 ろれつの回らない様子から、これがまりさにとって初めての激痛なのがよく分かる。 だが、俺は一本では満足しなかった。 怯えきったまりさの視線を無視して、俺はさらに口に指を突っ込んだ。 「びゃべびぇえええええええ!!」 上顎の歯を四本ほどつまむと、一気に引っこ抜く。 一度目で力加減が分かったから、二度目の抜歯は簡単だった。 ブチブチッという歯茎の千切れる音と共に、俺の手はまりさの口から抜かれた。 まりさの大事にしていた、きれいな白い歯と一緒に。 「い゙ぎゃびい゙い゙い゙い゙い゙い゙!! ゆ゙びあ゙あ゙あ゙あ゙! あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! あ゙あ゙あ゙あ゙っ! びぎゃい゙い゙い゙い゙い゙!」 目を抉ってやった時よりも、数段上の悲鳴が聞こえた。 さすがに、これを近距離で聞くとこちらも鼓膜がおかしくなる。 麻酔なしで歯を何本も一度に抜かれたのだ。 こいつがこれだけ叫んでもおかしくない。 「ぼうやだああああああ!! やだああああああ!! まりざいだいのやだああああああああ!!」 まりさは俺の手の中でめちゃくちゃに暴れる。 どうやら、歯を失っても喋れるようだ。 そうでなくては。 こちらも、これでこいつのすべてを奪い尽くしたとは思っていない。 俺はまりさを地面に降ろした。 まりさは、まさか助かると思っていなかったのだろう。 一瞬きょとんとして地面を見ていたが、次の瞬間ものすごい勢いで泣き出した。 「ゆわああああああん! ゆえええええええん! もうやだああ! おうちかえるうううう! まりさおうちかえるううううう!!」 泣きながら、まりさはぴょんぴょんと跳ねて庭を突っ切る。 生け垣に頭から体当たりし、中に無理矢理潜り込んだ。 火事場の馬鹿力という奴だ。 まりさはゆっくりらしからぬ速さで俺の家から逃げ出した。 「おうちかえる! まりさはおうちにかえるよおおおお! おとうさあああん! おかあさああん! まりさもうやだよおおおお!」 泣きじゃくるまりさの声が遠ざかっていくのが分かった。 さて、後を追うことにしよう。 まだまだ、こいつから頂戴しなければならないものはあるのだから。 逃げるまりさの後を追うのはあまりにも簡単だった。 「ゆええええん! ゆええええん! ゆっくり! ゆっくりいいい! ゆっくりしないでにげるよおおおお! いたいよおおお!」 何しろ、まりさは大声で泣きながら逃げているのだ。 あれだけ小さな生き物が、よく全力疾走しながら大声を出せるものだ。 幻想郷の人間である俺は、それなりに妖怪との付き合いもある。 だが、あんな奇怪な存在などゆっくり以外にいない。 「おうちかえる! まりさはおうちかえるよ! かえって! おうちかえって! ゆっくりする! ゆっくりしたいよおおお! おとうさんとすーりすーりする! おかあさんとすーりすーりする! いもうととごはんさんむーしゃむーしゃする! ゆっくりするうう!」 一度も振り返らず、いっさんに巣に向かったまりさは実に愚かだった。 姿を隠しもせずに大声を出して、あれでは後を追ってきて下さいと言わんばかりだ。 森に入ってしばらくしてから、まりさは大きな木の根元で立ち止まると叫んだ。 「おかあさあああああん! おとうさああああん! まりさだよおおおお! かわいいまりさがかえってきたよおおおお!」 わざわざ出迎えを要求するとは、ずいぶんと甘ったれた子どもだ。 だが、こいつの尋常でない声の調子に驚いたのだろう。 「おちびちゃん? どうしたの? ゆっくりしてないね!」 「ゆっくりしていってね! おちびちゃんだよね! どうしたの?」 「おねえしゃんどうちたの? ゆっくちちてないにぇ!」 「ゆっ! おえねしゃんだ! おねえしゃんおかえりなちゃい!」 「どうちたんだじぇ? こわいいぬしゃんかとりしゃんにおいかけられたにょ?」 巣穴にかぶせてあった木の枝が取りのけられ、中からゆっくりの家族が姿を現した。 両親のまりさとれいむ。 それにこいつよりも体の小さな、れいむが二匹とまりさが一匹。 舌足らずな口調と体の大きさで、妹だとすぐ分かる。 「ゆええええええん! ゆえええええん! おかあさああああん! おとうさあああん! まりさっ! まりさあああああ!!」 まりさは家族の顔を見て安心したのか、一目散に両親の所に跳ねていった。 その側にくっつくや否や、まりさは大声でわんわんと泣き出す。 「おちびちゃんそのおかおどうしたのおおおお!? きずだらけだよおおおお!」 「おめめがかたっぽないよおおおお! それに……おちびちゃんのはがおれてるよおおおお!」 「ゆああああ! おねえしゃんいちゃいいちゃいだよおおお!」 「おねえしゃんいちゃいの? れいみゅがぺーろぺーろちてあげりゅにぇ!」 「まりしゃもぺーろぺーろしゅるんだじぇ! ぺーろぺーろ! ゆっくちなおっちぇにぇ!」 俺が隠れていることに、家族一同誰も気づいていない。 泣き沈むまりさを慰めようと、両親はまりさに優しくすりすりしている。 妹たちも同様だ。懸命に舌でぺろぺろとまりさを舐めて、何とかして落ち着けようとしている。 確かに、こいつが自慢するだけのことはある、仲のよい家族だ。 しばらくまりさは泣いてばかりだったが、ようやく安心したのかぐずるだけになってきた。 「ゆっ……ゆぐっ……こわかったよお……まりさすごくこわかったよおおお!」 「よしよし、もうだいじょうぶだよ。なにがあってもおとうさんがまもってあげるからね。こわいことなんてなにもないよ」 「そうだよ。れいむたちがついているから、おちびちゃんはあんしんしてね。ゆっくりあんしんしていいからね!」 「ゆぅ……ゆっくりありがとう、おとうさん、おかあさん……。まりさ、うれしいよお…………」 「さあ、おとうさんにおしえてね。どうしてそんなけがをしたの?」 「……ゆうぅぅ…………こわいにんげんさんが……にんげんさんが……おにいさんがまりさにひどいことしたんだよおおお! やめてっていったのに! やめてっておねがいしたのに! おにいさんがまりさのおめめをとっちゃったんだよおおお!!」 再びトラウマを想起したらしく、まりさは泣き始めた。 意外なことに、親のれいむとまりさはこんな事を言った。 「おちびちゃん! どうしておかあさんのいいつけをまもらなかったの! にんげんさんにちかづいちゃだめだっていったでしょ!」 「そうだよ! おとうさんもおしえたでしょ! にんげんさんはこわいよ! ゆっくりできなくされちゃうよっていったでしょ!」 「だって……だってえええええ! おいしそうなおかしがあったから! すごくおいしそうだったから! まりさだってえええ!!」 「ま……まさか…おちびちゃん? もしかして、それを…………」 「ゆええん! ゆわああああん! たべちゃったよおおお! たべたかったんだもん! おいしそうだったもん! まりさだってたべたかったんだもん! すごくおいしそうなおかしだったんだよ! まりさちょっとたべただけなのにいいい!!」 「どうしてそんなことするの! にんげんさんのたべものはたべちゃだめだってあれほどいったのにどうして! どうしてええ!」 「そんなことしたらにんげんさんおこってあたりまえだよおおおおお! おちびちゃん! なんでそんなことしたのおお!?」 俺は感心さえしていた。 この家族は本当にまともだ。 きちんと、人間にちかづいてはいけないと、人間の食べ物を食べてはいけないと両親は教えているのだ。 これなら、人間に駆除されることもなく、森でひっそりと生きていけるだろう。 それなのに、こいつはわざわざ人間の里まで下りてきて散歩なんてしていた。 長女だから甘やかされたのか。 あるいは、もともとこいつだけ特に馬鹿なのか。 どちらでもいい。 俺のプランは既に決まっていた。 「ゆわああああん! まりさゆっくりできなかった! ゆっくりしたかったのにゆっくりできなかったよおお!」 「よしよし、おちびちゃん。もうだいじょうぶだよ、だいじょうぶだからね。ここまでくれば、にんげんさんもおいかけてこないよ」 「いたかっただろうね。ゆっくりできなかっただろうね。さあ、きょうはもうゆっくりおやすみ。ぐっすりねむればゆっくりできるよ」 「れいみゅおねえしゃんにおくちゅりとってくるにぇ! ぱちゅりーおばしゃんのところまでいってくりゅよ!」 「まりしゃもついていくんだじぇ! まりしゃのおぼうちにおくちゅりをいれればだいじょうぶだじぇ!」 「れいみゅはおねえしゃんといっしょにおやしゅみーしてあげりゅよ! いっしょにおやしゅみしゅるとあっちゃかいよ!」 「ゆぅぅ……ありがとう、おとうさん、おかあさん、まりさ、れいむ。こわかったけどもうゆっくりできたよお…………」 一致団結して、傷ついた長女を慰めようとする家族。 実に、理想的な家族の形じゃないか。 両親に抱きしめられ、妹たちにすり寄られ、あれだけ泣いていたまりさに笑顔がようやく戻った。 「ゆっくり! まりさもうだいじょうぶだよ! いたいのもうへいきになってきたよ!」 片目と口内の痛みをこらえて、まりさが家族に笑いかけた時を見計らい、俺は一歩を踏み出した。 たった一歩で、俺はまりさと家族たちの前に立ちふさがる形になる。 「やあ、まりさ。確かに、素敵な両親と妹だね。君の言った通りだ」 俺の出現に、まりさはあんぐりと口を開けた。 その顔が、見る見るうちに恐怖で引きつる。 「ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」 この声も駆除の時によく聞いた。 隠れ家を壊して中のゆっくりと対面した時、よくゆっくりは目と歯茎をむき出してこういう声を出す。 よほど驚き、しかも怖がっている時の声らしい。 顔といい声といい、はっきり言ってグロテスクだ。 「やだあああ! おにいさんやだああああ! こわいよおお! ゆっくりできないよおおお! ゆんやああ! ゆんやああああああ!!」 まりさは家族のど真ん中で、パニックに陥って泣き出した。 下半身から勢いよくしーしーが噴き出して、地面に水たまりを作る。 恐怖のあまり失禁したらしい。 「おとうさああん! こわいよおおお! おかあさあああん! このひとだよお! このひとがまりさのおめめを! おめめをおおおお!」 まりさは泣き叫びながら両親に助けを求める。 おおかた、恐い人間を両親によって追い払ってもらおうという魂胆だろう。 まりさに水を向けられた親のれいむとまりさは、俺の方を怯えた目で見た。 「にっ! にんげんさん! おこるのやめてね! ゆっくりしようね! ゆっくりしていってね!」 「そっ! そうだよ! いっしょにゆっくりしようね! おねがいだからおこらないで! おこらないでね!」 びくびくしながらも、親れいむと親まりさはまりさをかばう形で俺の足元に近づく。 しかし、俺が聞いたのは二匹の身の程知らずな主張ではなく、卑屈なお願いだった。 俺が二匹をにらむと、たちまち両親は体を縮める。 人間とゆっくりとの実力差がはっきり分かっているようだ。 「ゆえええん! ゆええええん! どうしてええ! このひとはまりさにいたいことしたよ! ひどいこといっぱいしたよお! いっぱいいたいことしたゆっくりできないわるいひとだよおお! わるいおにいさんだよおお! ゆえええええん!」 分かっていないのがここに一匹いる。 当てが外れてがっくりしたのだろう。まりさは泣きながら両親をけしかける。 きっと、この聡明でしっかりしたゆっくりたちは、子どもたちの脅威を何度も退けたに違いない。 さぞかし、まりさは両親の力に信頼を置いていたことだろう。 俺など、両親があっさりやっつけてくれるものと思っていたのか。 だが、現実は両親が俺に頭を下げ、機嫌をうかがう言葉を発するだけだ。 「まってね! ゆっくりまってね! おちびちゃんはびっくりしているだけなの! ほんとだよ! ゆっくりしんじてね!」 「おちびちゃんはほんとはとってもいいこなんだよ! ね!? ね!? にんげんさん! おこってないよね! ね!?」 親れいむと親まりさは、ひたすら俺にゴマをする。 何としてでも人間さんを怒らせてはいけない。 怒ったら、きっと自分たちは皆殺しになる。 その恐怖がありありと伝わってくる。 俺はしばらく、この後どうしようとかと考えていた。 足に何か柔らかいものがぶつかった。 顔を下に向けると、妹のチビまりさと目が合う。 「ゆっくちまつんだじぇ!」 「おぢびぢゃんどうじでえええ!?」 「おぢびぢゃんやべでええええ!?」 俺の足に体当たりしてふんぞり返るチビまりさの目は、まるで勇者様気取りだ。 どうやら、このチビまりさは両親の脇をすり抜けて俺に特攻したようだ。 一方、親れいむと親まりさは鎮静化しつつあるはずだった事態がぶち壊れたことで、顔をこわばらせて悲鳴を上げている。 さらに足に当たる二つの感触。 チビまりさに続いて、チビれいむが二匹俺の足に体当たりした。 「おにいしゃんだにぇ! おねえしゃんにいちゃいことをしたわりゅいにんげんしゃんは!」 「どうちてこんにゃことしゅりゅの!? おねえしゃんいちゃいいちゃいだよ! りかいできりゅ!?」 「にんげんしゃん! じぶんがわりゅいことちたってわかったのじぇ!? だったらはやくおねえしゃんにあやまるんだじぇ!」 横一列に並んだ、哀れなまでに勇ましい妹たちの戦列。 どのゆっくりの目も闘志に満ち、俺を敵として判断したのがよく分かる。 憎き姉の敵。 絶対に許すものか、という気構えさえ伝わってきた。 「どうちてもあやまらにゃいなら、れいみゅもおこりゅよ! ぷくーしゅるよ! ぷくーっっ!」 「れいみゅもぷくーしゅりゅよ! にんげんしゃん! れいみゅのぷくーではんせいしちぇにぇ! ぷくーっっ!」 「はやくあやまるんだじぇ! あやまらないともっときょわいめにあうんだじぇ! ……ゆゆぅ! もうまりしゃもおこったんだじぇ! まりしゃもぷくーするんだじぇ! おねえしゃんのいちゃいいちゃいをにんげんしゃんにもわからせりゅんだじぇ! ぷくーっっ!」 いっせいに三匹は、頬と体を風船のように膨らませる。 これも何度か見たことがある。 「おちびちゃんはおかあさんがまもるからね! ぷくーっ!」 とか言って、駆除しようとする人間に体を大きく見せるのだ。 ゆっくりの威嚇で間違いないだろう。 そう言えば、あのれいむはどうしただろうか。 確か、面倒だから回り込んで、先に子ゆっくりの方を袋に入れた気がする。 親ゆっくりは「やべでぐだざあい! おぢびぢゃんなんでず! まりざがのごじでぐれださいごのおぢびぢゃんなんでず!」と泣いていた。 つまり、まったくの無意味なのだ。 「………あ…………ああ………やめ……て……やめて……おちび……ちゃん…………」 「に……にんげん…さん………おちびちゃんを……おねがいだから……ゆるして……ね…………」 それが分かっているのは両親だけだ。 親れいむと親まりさは、もはや絶望さえ漂いだした目で俺に許しを請う。 後ろでは、ようやく泣き止んだまりさが潤んだ目で妹たちを見つめていた。 「まりさぁ……れいむぅ…………。まりさ……すごくうれしいよお…………」 姉のために健気に立ち向かう妹たちに、まりさは感動しているらしい。 ついさっき、自分が俺に半殺しにされたことなどもう忘れたのか。 「なあ、まりさ」 俺は足元で膨れた三匹を無視して、まりさに話しかける。 「この妹たち、俺がもらうよ」 「はやくあやまっちぇ! れいみゅがぷくーしちぇるのになじぇあやまらにゃいの! がまんちてにゃいではやぶぎゅびゅぶぶぅぅ!!」 俺がしたのは簡単なことだ。 ただ、一歩を踏み出しただけだ。 それだけで、一番端で膨れていたチビれいむが下駄の裏で潰れた。 「れ…れいみゅがあああああああ!!」 「ど…どうぢでええええええええ!!」 「いもうと……まりさの……れいむ……れいむがああああああああ!!」 隣のチビまりさとチビれいむ、そしてまりさは一撃で妹が潰れたショックで大声を上げる。 特にチビたちは、発狂したのかと思うくらい口を開けて泣き叫んでいる。 「あ……あ……おちびちゃん……が……」 「そん……な……おち……び…ちゃん…………」 親れいむと親まりさのショックは、子どもたちに比べて少ないようだ。 こうなることを、ある程度予期していたからだろう。 俺は足を上げた。 そこには、かろうじて無事な顔で呻き、ぐしゃぐしゃに潰れた下半身を動かす不気味な塊があった。 即死は免れたらしい。 チビれいむは生まれて初めて味わう苦痛が、同時にゆん生最後の体験であることが分かり、餡子混じりの涙を流していた。 「いぢゃいよぉ……おにゃかがいぢゃいよぉ………あんよしゃん……どうちでうごがにゃいの………… やじゃあ……れいみゅじにだくにゃいよぉ…………れいみゅ……れ……い…みゅ…………」 口から吐いた大量の餡子に埋もれるような形で、チビれいむは死んだ。 チビれいむは即死できなかったことを恨んだに違いない。 ごく短い間だったが、途方もない苦痛を味わってから死んだのだから。 まずは一匹だ。 俺はすぐに両手を伸ばし、動けないでいるチビまりさとチビれいむをつかんだ。 「やめちぇ! やめちぇにぇ! はなちちぇ! れいみゅをはなちてにぇ!」 「やめりゅんだじぇ! まりしゃをはやくはなしゅんだじぇ! はなちぇえええええ!」 手の中でじたばたともがくチビたち。 先程の勇ましさはどこへ行ったことやら。 俺が顔を近づけると、「「ゆっぴいっ!」」とそろって悲鳴を上げて失禁した。 手の中に生温かい液体の感触が伝う。 「やめちぇえ! おにいしゃん! れいみゅをはなちてくだしゃい! もうぷくーちまちぇん! ちまちぇんかりゃあああ!」 「まりしゃをたしゅけてくだしゃい! まりしゃはばきゃなゆっくちでしゅ! もうちましぇん! たしゅけちぇえええええ!」 俺は、徐々に握力を強めていった。 指に力を入れ、二匹を握り潰していく。 「ゆぶっ! ゆぶぶっ! ゆぶううううううう!」 「ゆぐっ! ゆぐうう! ゆぐううううううう!」 少しずつ、力を加えていく。 だんだんとチビまりさとチビれいむの体の形は、ボールから瓢箪に変わりつつあった。 懸命に力を入れて握力に抗おうとしているが、無駄な努力だ。 閉じた口からわずかながら餡子が垂れ始める頃になると、二匹は露骨に苦しみだした。 顔を左右にぶんぶんと振り回し、苦痛から逃れようと無駄な努力をする。 「ちゅっ! ちゅっ! ちゅぶれりゅうううううううううう!!」 「ちゅぶれりゅ! ちゅぶれりゅよおおおおおおおおおおお!!」 こんなところでも、ゆっくり特有の「自分の行動を声に出して表現する」習性は変わらない。 二匹は白目をむいて絶叫した。 ぱんぱんに膨れ上がった顔は真っ赤になり、ゆっくりとは思えない不気味な形に変形している。 「やべでぐだざい! やべでぐだざい! ぐるじんでまず! おぢびぢゃんぐるじがっでまず! もうやべでぐだざあい!」 「おねがいでず! おぢびぢゃんをごろざないでぐだざい! がわりにれいぶがじにまず! れいぶががわりにじにまずがら!」 「やめて! やめてよお! まりさのいもうとだよ! かわいいいもうとだよおお! はなして! はやくはなしてえええ!」 親れいむと親まりさは、顔を涙でべちゃべちゃに汚しながら、俺の足にすがりついている。 濁りきった声で、俺を止めようと必死だ。 それなのにまりさは、キンキンとかん高い声で離れた場所からわめくだけだ。 俺はさらに力を入れた。 「ぶぼぉっ!」 「ぶびゅっ!」 あっけなく、二匹の口とあにゃるから餡子がほとばしり出た。 グロテスクなお多福のような顔になったチビまりさとチビれいむの顔が、さらなる苦しみで歪む。 ここが限界だったようだ。 たちまち餡子が流れ出て小さくなっていく体を、俺は地面に落とした。 「おちびぢゃん! おちびぢゃあああん! へんじじでっ! へんじじでよおおおお!」 「おかあさんだよ! れいむおかあさんだよおおお! ゆっぐりじでえ! ゆっぐりじでえええ!」 「ゆ゙っ……びゅ……ぼっ………ぶっ……ぶぶっ…………」 「ごっ……びぇ………べっ……ゆ゙っ……ゆ゙ゆ゙っ…………」 すぐさま顔を近づける両親。 瓢箪の形になったまま戻らないチビたちは、もはや命が尽きる寸前だった。 何度も呼びかける親の声も聞こえないらしく、わずかに体を痙攣させて呻くだけだ。 それなのに、ぎょろりと飛び出しかけた目だけは血走って、今も終わらない苦痛を訴えている。 やがて呻き声は止まり、虚空をにらむ目がゆっくりと濁っていく。 チビまりさとチビれいむは、最後まで苦しみながら死んだのだ。 「まりさのかわいいいもうとおおおおお!! どうして! どうしてころしちゃうのお! まりさのいもうとなんだよ! かわいいいもうとなんだよ! ゆっくりしてたよ! どうして! どうしてこんなひどいことするのおおおお!!」 すすり泣く両親に何の遠慮も示さず、まりさは跳びはねながら俺を非難する。 よく見ると、まりさも目から涙を流していた。 これで、まりさのかわいい妹たちは全滅したことになる。 二度と仲良く家族で団らんはできないだろう。 もう、頬をすりつけることも、顔を舐めることもできない。 惨めに潰れたチビれいむと、変形しきったチビまりさとチビれいむの死体が、現実を突きつける。 「何を言ってるんだ、まりさ。あのチビたちは俺のものだよ。だから、俺がどう使おうと勝手じゃないか」 「ちがうよ! まりさのいもうとだよ! おとうさんとおかあさんがうんだまりさのかわいいいもうとなの! おにいさんのじゃないよ!」 「さっきまではね。でも、俺のものだって主張すればそうなるんだよ。生かそうが殺そうが、俺のものに文句を付けないでくれないか」 「やめてよ! やめてええ! まりさにいじわるしないで! おにいさんきらい! だいきらいだよ! どっかにいって! かえって!」 「君がお菓子を返してくれたらね。さあ、早く返して。返してくれたら全部元に戻してあげるから。ほら、早く返すんだ」 挿絵:キモあき
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亡くなった茶道家の父は、礼儀作法に非常に厳しい人だった。 今でもよく覚えている。 ある日俺は寺子屋から帰ると、茶箪笥の中に見たこともない高級な和菓子があるのを見つけた。 きっと、両親は奮発して高いものを買ってきてくれたのだろう。 俺は勝手にそう判断し、それを一人で無断で平らげた。 仕事から帰ってきた父は烈火の如く怒った。 あの菓子は、俺のために買ったのではない。 里長を招いて茶会をする際に、皆に振る舞うために購入した大事な菓子だったのだ。 泣いて謝る俺の尻を父はばしばし叩き、真っ暗な蔵の中に閉じ込めた。 あの時ほど、父が恐いと思ったことはない。 結局、父は大事な茶の席で大恥をかく羽目になり、俺は怒られても仕方のないことをしたのだ。 そんな父もあっけなく亡くなり、俺は父の跡を継いで茶道を教える仕事に就いた。 今では何とか、妻と一緒に食べていけるだけの稼ぎもある。 夜。ガラス戸を叩く音がしたので俺は立ち上がった。 こんな夜更けに誰だろう。 戸を開けると、そこには丸っこい物体がある。 金髪にカチューシャ。ゆっくりありすと呼ばれる饅頭生物だ。 「こんばんは、とかいはなおじさん」 「ああ、こんばんは。どうしたんだい、こんな夜に」 このありすとは初対面ではない。 今日の午後、縁側で一緒に簡素なティータイムを楽しんだゆっくりだ。 俺が縁側で湯飲みを片手に羊羹を食べていると、このありすが森の方から庭にやって来た。 垣根から顔を覗かせ、ありすは遠慮がちに俺に挨拶した。 「ゆっくりしていってね、おじさん」 「ああ。ゆっくりしていくといい」 「ありがとう。おじさんはしんせつなひとね。ありすも、おじさんのおにわにいてもいいかしら」 「庭を荒らさなければ、別に構わないよ」 「あら。ありすはとかいはよ。にんげんさんのおにわをよごすようなことはしないわ」 ありすの言ったことは嘘ではなかった。 ありすは俺の近くまで出てくると、口にくわえていた野苺を静かに食べ始めた。 よくいるゆっくりのような「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」といったような大声を上げることもない。 都会派、と自称するだけあって、ありすの食べ方はゆっくりにしては品がよかった。 俺は少し気をよくして、抹茶に砂糖を入れて冷ましてからありすに差し出した。 「ゆっ! とってもおいしいおちゃね! おじさんはすてきなひとだわ」 ありすとはしばらくの間、なかなか楽しい茶会の時間を過ごすことができた。 時には、作法にこだわらず自然体で茶を楽しむのも素晴らしい。 茶を飲み終わるとありすは野苺の茎を片づけ、森へと帰っていったはずだ。 なのに、いったいどういう風の吹き回しだろう。 「おじさん、ひるまのおれいよ。ありすのつくったいんてりあなの。うけとってほしいわ」 ありすが口にくわえて差し出したのは、きれいに形の整っている押し花だった。 木の葉っぱの上に一輪の花がくっついている。 恐らく、ゆっくりの涙か唾液によって固めたものだろう。 あの不器用なゆっくりが作るものとは信じがたいほど、それは手が込んでいる。 「ありがとう。遠慮なく受け取らせてもらうよ」 たとえそれがゆっくりが作ったものであっても、誠意がこもっていることに代わりはない。 俺はお礼を言ってありすから押し花を受け取った。 「ゆっくり! おじさん、ありすとおともだちになってほしいわ」 俺が受け取ったことで、自分が受け入れられたと思ったのか、ありすはそんなことを言ってきた。 「君と友達にかい?」 「おじさんはとってもいいひとだから、ありすはおともだちになりたいの。また、いっしょにてぃーぱーてぃーをたのしみましょう?」 ありすはニコニコと笑っている。 あまりにも、ありすの笑顔は無防備だった。 だからこそ、俺は首を横に振った。 「残念だけど、それは無理だよ。今日のことはもう忘れて、お家に帰りなさい」 「…………ど、どうして。もしかして、ありすはいなかものだったの? おじさんのめいわくだったの?」 ありすのうろたえ方はかわいそうなくらいだった。 まさか、否定されるとは思っていなかったのだろう。 それもそうだろう。俺とありすとは、本当に仲良くやっていたのだから。 「いいや、そうじゃない。ありすはゆっくりとは思えないくらい都会派だったよ。でも、駄目だ」 「……おじさん。…………どうして?」 「君がゆっくりで、俺が人間だからさ。俺と君とでは、種族として違いすぎるんだ。人間には、近寄らない方がいい」 まだすがるような目をしてくるありすを、俺は優しく突き放す。 「今は仲良くできても、きっといずれどちらも不幸になる。俺たちは、絶対に相容れないんだよ」 俺はかつて、下らない過ちを犯した。 ゆっくりのしたことに本気で怒り、ゆっくりが分からないことを無理に分からせようとした。 人間の常識でも、ゆっくりにとっては常識ではない。 なまじ彼らは喋ることができるから、意思の疎通ができると思ってしまう。 実際はそうではない。人間とゆっくりとは違いすぎる。 あの不毛な体験は、俺の記憶の中に嫌な過去として位置づけられている。 あれは、この家に引っ越してきてすぐのことだった。 俺は今日のように、庭を眺めようと縁側に出ていた。 やや古くはあるが、実に趣のある家と庭だ。 何気なく見ていても、あちこちに風情があって飽きることがない。 しばし休息を取ろうと、俺は茶を点て茶箪笥からおはぎを一つ取り出した。 行きつけの和菓子店が作る、徹底的に痛めつけて味をよくしたゆっくりを材料にした名菓だ。 俺は茶碗と皿をお盆に載せ、縁側に戻ると座り直した。 ほっとする一息だ。 誰のためでもなく、自分のために点てる茶も悪くない。 茶の香りは奥ゆかしく、午後の静かな時間と相まって幻想郷を桃源郷に変えようと誘う。 柔らかなその誘いに、しばし身を委ねていた時のことだった。 「ゆっゆっゆ~♪ ゆっゆっゆ~♪ おさんぽおさんぽ~♪ まりさのおさんぽたのしいな~っ♪」 せっかくの気分が、たちまち台無しになった。 垣根をがさがさとうるさく揺らし、小動物らしからぬ不用心さで飛び出してきたものがいる。 金髪に黒い帽子。小生意気そうな表情。ゆっくりまりさだ。 サイズは大きめのリンゴくらいだろうか。どうやらまだ幼いゆっくりのようだ。 まりさはへたくそな歌を歌いながら、ぴょんぴょんと跳ねて庭を横切ろうとしている。 人間の耳には、ちょっとゆっくりの歌のセンスは理解しがたい。はっきり言って不快だ。 ……それにしても、散歩なのだろうか。 だとしたら、何という無警戒だろう。 俺の住む里では、あまりゆっくりにいい顔はしない。 畑を荒らす害虫として駆除されることもしょっちゅうだ。 付き合いで俺も幾度かかり出されたことがある。 里のあちこちに作られた巣を壊し、泣き叫ぶゆっくりを袋に詰めて加工場に引き取ってもらう。 「にんげんさんやめてよ! やめて! まりさたちはゆっくりくらしてただけだよ! なんでこんなことするの! ゆっくりしてよ!」 「おちびちゃんをもっていかないで! れいむのだいじなおちびちゃんなんだよ! やめて! ひどいことするなられいむにして!」 「ゆあああああん! きょわいよおおおお! おかあしゃああん!おとうしゃああああん! たすけちぇよおおお!」 俺はあまり彼らのお喋りが人間のようで好きになれないが、農家の人が言うにはあれはただの鳴き声だそうだ。 意味などない。ただの饅頭の発する音。人間のような思考はない。 そう思っているからこそ、簡単に駆除できるのだろう。 里は決して、ゆっくりにとって安全な場所ではないのだ。 それなのに、この警戒心皆無の動きは何だろうか。 「ゆっ! にんげんさんがいるよ。おにいさん、ゆっくりしていってね!」 俺の足元にまで近づいて、ようやくまりさは俺の存在に気づいたらしい。 まりさはぐいっと体と頭が一緒の部分をもたげ、俺の方を一心に見つめてそう言った。 きらきらと輝くような瞳だ。 実に無邪気な、人間の子どもでさえもここまであどけない目つきをしてはいない。 俺と仲良くできる、と無条件で信じ込んでいるのがよく分かる。 「……あ、ああ。ゆっくり、しているよ」 「ゆっ! ゆっ! ゆっくり! ゆっくり! おにいさん、ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね!」 俺はまりさの迫ってくる気迫にあっさり負け、返事をしてしまった。 途端にパアァ……とまりさの顔がさらに明るくなる。 ぽよんぽよんとまりさは反復横跳びをして、返事が来た喜びを全身で表現した。 きっと、これで俺とまりさとは仲良くなった、と思い込んでいるのだろう。 ゆっくり、という言葉を連発することから、余程その響きが気に入っているらしい。 「ここはまりさのみつけたゆっくりぷれいすだよ! おにいさんもゆっくりしていいからね!」 「え? いや、ここは俺の家で、君のいるところは俺の庭なんだが」 「ちがうよ! まりさのゆっくりぷれいすだよ! まりさがおさんぽしててみつけたんだよ! まりさのすてきなゆっくりぷれいすだよ!」 「……まあ、そうだよな。君たちに人間の家とか庭とか分かるわけないだろうし」 「ゆっ! ゆっ! おにいさん、へんなこといわないでよね。まりさちょっとこまっちゃったよ。ゆっくりしようね!」 「はいはい。ゆっくりゆっくり」 ああ、これがお家宣言という奴何だな、と俺は一人納得していた。 まりさにとっては、ここは自分が見つけた場所なんだろう。 俺という人間は、ついさっき気づいた。つまり、庭が先で俺が後だ。 だから、まりさにとってここは先に自分が見つけた場所ということになっているのだろう。 どうでもいいことだ。 どうせ、飽きたらすぐにどこかに行ってしまうだろう。 俺はまりさのかん高い声と、妙に人の神経を逆なでする口調に少しいらついたが、怒るほどではなかった。 そもそもここは借家だ。まりさが何と言おうが、あまり執着心はない。 まりさは楽しそうに俺の周りを転がってみたり、あちこちに顔を突っ込んで匂いを嗅いだりしていたが、不意にさっきよりもさらに目を輝かせた。 「ゆゆっ! おいしそうなおかしがあるよ! とってもおいしそうだね! まりさたべたい!」 ゆっくりは感情がすぐ表に出る。 まりさの目は、俺の隣にある皿に置かれたおはぎに釘付けだった。 おはぎに焦点を合わせたまま動かない目と、よだれの垂れている口元、そして舌なめずりをする舌。 露骨に「食べたいよお!」という欲望がむき出しになった顔だ。 「駄目だ。これは俺のお菓子だよ。まりさにあげる食べ物じゃないんだ」 「えぇぇ……。うらやましいなぁ…………おいしそうだなぁ……まりさもたべたいよぉ……」 餌付けして居座られても困る。 俺はちょっと大人げなかったが、皿を持ち上げてまりさから遠ざけた。 まりさはすぐさま縁側に這い上がって、おはぎに噛み付きかねない勢いだったからだ。 まりさの視線は、器用におはぎを追って動いた。 もう、関心はおはぎに固定されたらしい。 仕方のないことだ。 ゆっくりは極度の甘党だが、野生のゆっくりが甘いお菓子を食べることなどできない。 常に甘いものに飢えているゆっくりの目の前に、大好きなお菓子が置かれたのだ。 飛びつこうとするのも無理もない。 「いいなぁ………おにいさんだけいいなぁ………まりさもほしいなぁ……たべたいなぁ……むーしゃむーしゃしたいなぁ………」 さっさとあきらめて出て行けばいいものを。 そうすれば、それ以上おはぎを見続けて焦がれることもないのに。 俺はそう思ったが、まりさの取った行動は正反対だった。 俺のそばにべたべた付きまとって、懸命に自分をアピールし始めたのだ。 俺の機嫌を伺うように顔をのぞき込んでみたり、チラッと流し目を送ってみたり、実にうっとうしい。 口からは、俺が羨ましい、自分も食べたい、と馬鹿の一つ覚えのような言葉が連発される。 俺がそっぽを向くと、そちらに回り込んでぴょんぴょん跳ねたりぷりんぷりんと尻を振ってみせる。 少しでも俺の気を引こうと、まりさは手を尽くしているらしい。 だがそれは、俺にしてみれば不愉快な行為ばかりだ。 人のものを欲しがるという態度が気に入らない。 ましてや、あきらめが悪くしつこいならばなおさらだ。 茶の席でこんなことをしようものなら、即座に追い出されても仕方がない不作法だ。 「いいなあ! まりさもほしいよ! ほしい! おかしほしい! おかしたべたい! たべたい! たべたいよお!」 ついに、まりさは我慢できなくなったらしく、大声で俺に頼み始めた。 いや、もはや図々しく要求している。 それにしても、ゆっくりは体は小さいのに声がやたらとでかい。 小さな子どもが耳元でどなっているようで、耳がおかしくなりそうだ。 「ちょうだい! まりさにもちょうだい! おにいさん! ねえ! ねえねえねえ! きいてるの!? おにいさん! おにいさんってば!!」 「駄目ったら駄目だ。いいか、これは俺のものなんだ。君にあげるものじゃない。いい加減あきらめろ」 「おにいさんのいじわる! けち! まりさおこったよ! ぷんぷん! もういいよ! おにいさんなんかしらない!」 とうとうまりさの堪忍袋の緒が切れた。 俺のことを一方的に非難すると、ぷりぷり怒りながら垣根の中に潜り込んでいった。 まりさにしてみれば、仲良くなった人間が自分だけお菓子を楽しんでいるように思えたのだろう。 俺は少しまりさがかわいそうになったが、すぐに自分の考えを改めた。 「じぃぃぃぃっ…………………………じぃぃぃぃ…………………………」 わざわざ声に出して、自分がいることをアピールしているのはなぜだろうか。 まりさは森に帰ろうとはしなかった。 生け垣の下から、まりさの食欲でらんらんと輝く二つの目が俺を見ていた。 まりさ本人は隠れているつもりだろう。 だがこちらからは、じーっとおはぎを見つめるまりさの姿が丸わかりだ。 ああ言ったものの、菓子への未練はそう簡単に断ち切れないのだろう。 ふと、俺の心に子どものようないたずらが思いついた。 この状態で、俺が席を外したらどうするだろうか。 十中八九、まりさはおはぎを食べてしまうだろう。 その現場を俺が押さえたらどんな顔をするだろう。 さぞかしうろたえるだろう。どんな言い訳をすることだろう。 泣いて謝るだろうか。それともちょっとすねてから謝るだろうか。 「わあ! そうだった。用事を思い出したぞ。すぐ部屋に戻らなくちゃ! 急ぎの用だから、おはぎはここに置いていこう!」 俺がわざとらしく大声を出すと、まりさが生け垣の中で身じろぎしたのが分かった。 「どこにいるか分からないけど、もしまりさがいたら困るからちゃんと言っておかなくちゃな!」 まりさが俺のおはぎだと言うことを忘れては困るので、ここでもう一度繰り返す。 「まりさ! これは俺のおはぎだからな! 絶対に食べちゃ駄目だぞ! まりさのおはぎじゃない。俺のものだぞ! 食べたら怒るからな!」 俺の声はまりさに聞こえただろう。 しかし、まりさの目はもうおはぎの方しか見ていない。 本当に聞こえたのだろうかと怪しく思うが、さっきから食べるなと連呼してあるから、あれが自分のものではないことぐらい分かるだろう。 では、実験の開始だ。 俺は縁側から立ち上がり、家の中に入って柱の陰に隠れた。 俺が身を隠してすぐ、まりさは生け垣の中から飛び出してきた。 駄目だこれは。 ゆっくりには、人間のものとそうでないものとの区別が付かないようだ。 あっさりとまりさがおはぎを平らげて実験終了かと思ったが、そうではなかった。 まりさは縁側に飛び乗ると、おはぎの載っている皿に顔を近づけた。 しかし、ぱくりと噛み付くことはなかったのだ。 「ゆうぅ……おにいさん……たべちゃだめだって……どうして……こんなにおいしそうなのに……」 俺は耳を疑った。 なんだ。ちゃんとまりさは理解していたんだ。 俺がいなくなっても、おはぎが自分のものではなく人間のものだと覚えていたのだ。 ゆっくりの記憶力を俺は侮っていたが、どうやら考えを改めなくてはいけないようだ。 「いいなあ……たべたいなあ……おいしそうだなあ……おにいさんうらやましいなあ……まりさもたべたいなあ……」 まりさはよだれをたらたら、未練もたらたら流しながらおはぎに心を奪われている。 食べられないと分かっているなら見なければいいのに、と思うのだが、まりさはじっとおはぎを見つめてうっとりしている。 それが欲望を加速させるニトロであることに、まりさは気づいていない。 「たべたいよぉ…むーしゃむーしゃしたいよぉ……くんくん……くんくん……ゆぁぁぁ……いいにおいだよぉ……くんくん………」 どこにあるのか分からない鼻をひくつかせ、まりさは餡子の甘い匂いをいっぱいに吸い込んでいる。 もはや舐めるようにまりさはおはぎをあちこちから眺め、ほとんどくっつきそうなくらいに顔を近づけている。 これは駄目だ。 絶対にまりさは我慢できない。 俺の予想は的中した。 「ちょっとくらいならいいよね! おにいさんにわからないくらいなら、たべてもだいじょうぶだよね!」 分かる分からないの問題じゃなくて、そういうことを口にしちゃいけないだろ。 俺は柱の陰でまりさの行動に突っ込む。 「なめるだけだよ! ぺーろぺーろするだけだよ! それくらいならおにいさんもわからないよ!」 まりさはきっと、自分で自分を騙しているのだろう。 いけないことだと分かっている。 でも、どうしても食べたい。 ならば、これくらいなら分からないと自分に嘘をつき、信じ込もうとしているのだ。 「ぺーろぺーろ…………し、し、し、しあわちぇええええええ!!」 ついに、まりさは俺の警告を無視した。 ゆっくりの体の割に大きくて分厚い舌が口から伸びると、ぺろりとおはぎの餡子を舐めてしまった。 次の瞬間、まりさは幸福そのものの顔で叫んだ。 まりさは冗談抜きで輝くような表情で、甘いものを味わう幸せを表現していた。 「しゅごくおいちい! しゅごくおいちぃよおおおお! あみゃいよおおお! もういっかいぺーろぺーろ! ぺーりょぺーりょおおお!!」 まりさは歓喜のあまり涙を流している。 よく見ると、下半身からちょろちょろと何か流れ出している。 失禁しているのか? 不快になる俺を置いてきぼりにして、まりさはもう一度おはぎをべろりと舐める。 前回は罪悪感からか恐る恐るだったが、今回は舌で餡子を削り取るような舐め方だ。 あれでは、おはぎの表面に舐めた跡が残るだろう。 まりさの罪はこれで確定したわけだ。 「ち! ち! ちあわしぇぇええええええ!! おいちぃいいいいいい!!」 再びまりさは嬉しさのあまり大声を出す。 こっそりと盗み食いをするつもりだったが、あまりのおいしさに声が出てしまうのか。 もう、こうなってしまっては一直線だ。 止まるわけがない。止められるわけがない。 「むーしゃむーしゃ! むーしゃむーしゃ! あまいよおおおお! おいちいよおおおお! むーしゃむーしゃ! むーしゃむーしゃぁあああ!」 まりさは、おはぎにかぶりついた。 一口で三分の一をかじり、もぐもぐと噛む。 途端に、まりさは口から餡子をこぼしながら叫んだ。 「すごいおいしいっ! おいしいいいい! あまいよお! まりさむーしゃむーしゃするよ! むーしゃむーしゃ! おいしいよおおおお!」 もう夢中だった。 まりさはおはぎにぱくつき、もぐもぐと噛み、ごくりと飲み込む。 ずっと我慢していた甘さへの渇望を満たせる喜びで、まりさの顔は緩みきっていた。 「まあ、そうだよなあ……」 俺は、茶箪笥に向かいながら苦笑していた。 怒りの感情はわいてこなかった。 きっと、父が里長のために用意した茶菓子を勝手に食べた俺も、あんな感じだったのだろう。 俺は、まりさに子どもの頃の俺を重ねていた。 大事な茶の席で使うはずの茶菓子を、無断で食べてしまった俺。 食べるなと厳命されながら、甘味の誘惑に勝てなかったまりさ。 どちらも、似たようなものだ。 悪いと分かっていても、ついついやってしまう。 それを責めるのは、いささか大人げないと言えるだろう。 ……この時の俺は、まだ正常だった。 俺は代わりの茶菓子のきんつばを取り出し、皿に載せた。 さて、まりさはどんな顔をするだろう。 俺が怒ると、何て弁解するだろう。 俺はいたずらが成功した子どもの顔で、縁側へと向かったのだった。 縁側に置かれた皿には、おはぎの代わりにまりさが載っていた。 半分幸せ、半分物足りない顔で、まりさは皿をぺろぺろと長い舌で舐め回している。 「おや、おはぎがないぞ。しかもそこにいるのはまりさじゃないか。さては盗み食いしたんだな。悪い奴め!」 芝居気たっぷりに、俺は恐い顔をして縁側に姿を現した。 皿の上に乗っかり、しかも皿を舐めていたまりさに逃げ場はなかった。 「ゆううううううっっっ!?」 まりさはびっくりして跳び上がった。 こちらを向くまりさの口の周りは、おはぎの餡子ですっかり汚れている。 「ゆあっ! あっ! ゆああっ! おにいさんっ! ゆっくりしようねっ! ゆっくりっ! ゆっくりっ!」 「まりさ、口の周りが餡子で汚れているぞ! 言い訳しても無駄だ。あれだけ食べるなと言っておきながら、よくも俺のおはぎを食べたな!」 まりさのうろたえた様子は、本当に面白かった。 何度も空になった上に自分の唾液でべとべとになった皿と、怒った顔をした俺とを見比べている。 まりさが混乱しているのがよく分かり、俺は内心笑いを噛み殺していた。 「まりさ! この悪いゆっくりめ! 人のものを勝手に食べちゃったら、何て言うのかな!?」 おろおろとしているまりさに、俺は親のような顔で言ってみた。 もちろん、この状況は俺が作ったものだから、まりさが拗ねたり泣いたりしても怒る気はなかった。 一回でもいいから「ごめんなさい」と言えば、それで俺はすっきりしただろう。 「まりさも食べたかったのか。じゃあ、これも半分あげるよ」 面白いものを見せてもらったお礼に、きんつばを半分食べさせてやるつもりだった。 ……そもそも、ゆっくりに本気で怒るなんて大人げないだろう。 こんなことを考えるほど、かつての俺は甘かった。 ゆっくりという饅頭がどれだけ人間とは異なる存在なのか、理解していなかった。 そして、ゆっくりという饅頭がどれだけ人間を苛立たせる存在なのか、体験していなかった。 まりさはしばらくおたおたしていたが、いきなりにっこりと笑った。 それまでの困惑した様子が嘘のような、あっけらかんとした笑顔をこちらに向けた。 「おかしとってもおいしかったよ! もっとちょうだいね!」 俺は絶句した。 何だって? 今、こいつは何て言ったんだ? おいしかった? もっとちょうだい? 「何を言ってるんだ? あれは俺のお菓子だぞ」 「うん! でもおいしそうだったから、まりさがまんできなくてたべちゃった! すごくおいしかったよ!」 まりさは初対面の時とまったく同じ、無邪気な顔でニコニコと笑っている。 自分が悪いことをしたという自覚がないのか? 野生動物だから、目の前にある餌をただ貪るだけだったのか? そうじゃない。 まりさは一度ためらっている。 おはぎが俺のものであるということは、知っていたはずだ。 「食べちゃ駄目だって言っただろ。聞こえなかったのか。それとも、忘れちゃったのか?」 わすれちゃったよ、とまりさが言ってくれれば。 そうすれば、俺は納得していたはずだ。 単なるおはぎ一つのことだ。 俺が食べられなかったからといって、子どものように怒ることはないはずだった。 しかし、まりさの返答は違った。 「ずるいよおにいさん! おいしいおかしをひとりじめして! おかしはみんなでたべるからおいしいんだよ!」 「まりさ、君が全部おはぎを食べちゃったせいで、俺の食べる分はなくなったよ。全然みんなで食べてないじゃないか」 「おにいさんおかしをもうひとつもってるでしょ! まりさはおなかがすいてたんだよ! そっちもはんぶんちょうだいね!」 たかがゆっくり如きの馬鹿な言い草。 そう片づけてしまうには、俺は若すぎた。 いや、片づけてしまえないほど、俺はこのことについてトラウマがあったのだ。 呆れ果ててものも言えない俺を差し置いて、まりさは俺の手のきんつばに向かってジャンプする。 「まりさおかしだいすき! もっとちょうだい! ねえ! ねえ! ねえ! きいてるの!? まりさはおかしだいすきなんだよ!」 俺はまりさを見た。 まりさは俺を見ていない。 俺の手にあるきんつばしか眼中にない。 俺の存在など、まりさには邪魔なだけなのだろう。 「おにいさん! おにいさんってば! きいてるの! ねえきいてよ! まりさにそれちょうだい! まりさもっとたべたい! おかしたべたいよお!」 俺の心情の変化は、大人げないと批判されても仕方がない。 しかし、俺の心の奥から、自分でも信じられないほどの怒りがこみ上げてきた。 ただの理性のない獣ではなく、こいつはゆっくりだ。 どんな形でも、まりさが一度でもごめんと謝れば当然許すつもりだった。 これは俺の仕組んだいたずらだ。それくらいの余裕はあったはずだ。 それなのに、俺の手にあるきんつばに向かって、羞恥心の欠片もなく飛びつくまりさをみていると、怒りしか感じない。 かつて俺は、何度謝っても父に許されなかった。 心底反省しても、許してもらえなかった。 やがて雷親父の怒りはおさまったのだが、その間俺は家の中で針のむしろにいた。 かばってくれる祖母がいなければ、俺は父を憎みさえしただろう。 あの嫌な経験は、俺の中でしこりとなって残っている。 人のものを勝手にかすめ取ることが、どれだけ悪いことなのか身に染みていた。 それなのに、こいつは。 こいつは人のものを食っておきながら謝りもせず、もっとよこせと催促するのか? 自分が何をしたのか分かっていながら、恥知らずにもこちらに要求するのか? たかが饅頭風情が、人間の食べ物をよこせとうるさく詰め寄るのか? 俺はゆっくりの生態に詳しくなかった。 もし詳しい人がこれを読めば、当然失笑することだろう。 何を馬鹿なことをしているんだ、ゆっくりにいったい何を期待しているんだ、と笑われて当然だ。 俺の間違い。 それは、ゆっくりを人間のように扱ったことだった。 俺はきんつばを地面に落とした。 こんなものが血相を変えるほど欲しいのか。 勝手にしろ、と俺はまりさにきんつばをあげた。 「ゆっゆ~♪ おいしそうなおかしさん、ゆっくりまりさにたべられてね! むーしゃむーしゃ! しあわせーっっっ!」 地面に落ちたきんつばに、まりさは飛びついた。 落とした俺に目もくれず、がつがつと貪っていく。 遠目から見ればまだ耐えられるが、近くで見ると本当にこいつは汚らしい食べ方をする。 足で蹴り飛ばしたくなる誘惑を抑え、俺はまりさが食べ終わるまで待った。 「ゆっくりおいしかったよ! まりさこんなにおいしいおかしはじめてたべたよ! もっとたべさせてね!」 舌で口の周りをべろべろ舐め回しながら、まりさはさらにお菓子を欲しがる。 こいつは、お菓子をくれた俺にお礼さえ言わなかった。 無神経な物言いに、俺の心はもう動かない。 腹立ちはピークに達しているため、火に油を注いでもこれ以上燃えないのだ。 「もうないよ。これで終わりだ」 「ゆぅぅ……そうなんだ。まりさ、もっとむーしゃむーしゃしたかったよ……おかしおいしかったのになあ……」 たちまちまりさの顔は悲しそうになる。 体の大きさからして結構な量を食べたのに、こいつは満足しないのだ。 ますます俺はゆっくりが嫌いになった。 「じゃあもうまりさはかえるね! おにいさん、またおいしいおかしをちょうだい! まりさまたくるからね!」 「ああ、ちょっと待つんだ、まりさ」 「ゆゆ? おにいさん、どうしたの? まりさはおうちにかえるんだよ」 食うだけ食ってさっさと帰ろうとするまりさを、俺は呼び止める。 振り返って首を傾げるまりさ。 俺は両手を伸ばして、その丸っこい顔と体をつかんだ。 「ゆっ! おそらをとんでるみたい! まりさとんでるよ! とりさんみたいにおそらをとんでるよ!」 いちいち実況中継するのがうるさい。 それに、この状態は飛んでるのではなく浮いてるだ。 食べたせいか、まりさの体はそれなりに重量がある。 手に持つとちゃんと重みが伝わってくる。 饅頭皮はもちもちとしていて、手触りがなかなかいい。 まだ若いからだろう。手首を回して横と後ろを見てみたが、傷らしいものもない。 「ゆゆっ? なんなの? そんなにみつめられると、まりさちょっとはずかしいよ~」 俺が見とれているとでも思ったのか、まりさは顔をちょっと赤らめてもじもじし始めた。 恥じらいとかそういった感覚はあるのか。 ならばなおさら、好都合だ。 「まりさの両目はきれいだね」 俺はいきなりまりさを誉めた。 まりさはきょとんとしていたが、すぐにとても嬉しそうな顔になる。 「とってもきれいだよ。きっと、ゆっくりの中では一番きれいな目をしているんだろうね」 「ゆゆ~ぅ。それほどでもないよ~。でも、まりさすごくうれしいよ! うれしい!」 両手で持ち上げられた状態で、まりさは嬉し恥ずかしといった感じで体をぐねぐね左右に振っている。 表面上は恥ずかしそうだが、明らかにまりさはこちらの言葉に期待している。 俺がじっと見つめていると、伏し目がちになりながらも時折チラッとこちらを見てくる。 もっと誉めて、と思っているのが丸わかりだ。 お望み通り、俺はまりさを誉めちぎった。 「まりさの髪の毛もきれいだよ。とてもきれいでまるで黄金の小川みたいだ」 「ゆゆん! まりさのかみのけさんはまりさのじまんだよ! みんないっぱいほめてくれるんだよ!」 「まりさの歯は白くて整ってるね。虫歯もなくていい歯をしているよ」 「はさんはだいじだよ! むーしゃむーしゃするときにはさんがなかったらたいへんだよ!」 「まりさの帽子は素敵だね。よく手入れがされていて、ほかのゆっくりたちも羨ましがるだろうね」 「だって、まりさのたからものだもん! ゆっへん! まりさはおぼうしさんがいちばんだいじなんだよ! まいにちまりさはおぼうしをごーしごーしあらうんだ! きれいきれいにしてからおぼうしをかぶると、とってもゆっくりできるよ!」 すっかりまりさは誉められて有頂天になっている。 見る見るうちに、まりさの顔は幸福を絵に描いた笑顔になっていく。 まだだ。 もっともっと、まりさを舞い上がらせてやろう。 俺はさらにまりさの誉めるべき点を、大事にしているであろう点を探す。 「まりさのお家はどんなところだい? きっと、とても住みやすい場所だろうね」 「ひろくてゆっくりできるすてきなおうちだよ! まりさのたからものがいっぱいあるんだ!」 「まりさの家族はどうかな? まりさはどう思ってる?」 「みんなだいすき! おとうさんだいすき! おかあさんだいすき! いもうとのれいむもまりさも、みんなみんなだ~いすき!」 「まりさには友達がいるだろう? 友達のことはどう思ってる?」 「みんなゆっくりしてるよ! ありすもいるし、れいむもまりさもいるよ。いっしょにあそぶとすごくたのしいよ!」 「じゃあ、最後にまりさのゆん生はどうかな。まりさは今まで生きてきてどうだった?」 「とってもしあわせだよ! まりさゆっくりできてしあわせ! まりさはしあわせなゆっくりだよ!」 「そうだろうね。まりさは幸せなゆっくりだよ。俺にもよく分かる」 「ゆ~ん♪ おにいさん、まりさてれちゃうよ~♪ ゆんゆん♪ ゆっくり♪」 最後にまりさはとびきりの笑顔を見せて締めくくった。 本当に、まりさは幸せそうだった。 まりさの言葉を聞いて、俺もよく分かった。 こいつは生まれてからずっと、ゆっくりにしては恵まれた環境にいたのだ。 さぞかし、幸福なゆん生を送ってきたのだろう。 これからも、それが続くと信じて疑わないのだろう。 「じゃあそれ、全部俺がもらうよ」 手始めに、君の片目をもらうことにしよう。 いきなり両目を奪ったら、これから始まる喜劇が見られなくなるからね。 俺はまりさを片手で持つと、右手の人差し指をまりさの左の眼窩に突っ込んだ。 まりさは指を突っ込まれても、2秒ほどは笑顔のままだった。 きっと、俺の言葉の意味が分からなくて頭の中を素通りしたのだろう。 別に構わない。こちらも、まりさが理解してからこうするつもりなどなかったのだから。 柔らかい感触が指に伝わってきた。 つるんとして湿った眼球を避けて、その裏側の餡子に指先が届いた。 やや温かい。 「ゆっ……ゆぅ……ゆ゙! ゆ゙ぎぃ゙い゙い゙い゙あ゙あ゙あ゙!! あ゙あ゙あ゙ぎ゙い゙い゙い゙い゙い゙!」 まりさはどぎついまでの絶叫を張り上げた。 この声は聞いたことがある。 ゆっくりを里の皆で駆除していた時、えらく気合いの入った男が一人いた。 人の二倍も三倍もゆっくりを狩る彼の回収したゆっくりは、どれもずたずただった。 彼の持ち場からは、今のまりさと同じ悲鳴が止むことがなかった。 ゆっくりの鳴き声ということで誰も気にしなかったが、あの男はゆっくりを生きたまま解体していたのか。 俺は慎重に指先で眼球をつまみ、引っ張る。 視神経やら筋肉やらの抵抗はなく、思った以上にあっさりとまりさの目玉は顔から抉られた。 俺は激痛で歪んだ顔をしているまりさに、それを見せてやった。 「や゙あ゙あ゙っ! や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! まりざの! まびぢゃのおびぇびぇえええええええ!!」 自分の目と見つめ合うという状況は、なかなか希有なものじゃないだろうか。 俺の手の中と眼球と目があって、まりさはさらに大声で叫ぶ。 「い゙ぢゃい゙ぃい゙い゙い゙い゙い゙!! がえぢでっ! まりぢゃのおべべがえぢでよおおおおお!!」 隻眼から大量の涙を流しながら、まりさは俺に目玉を返すよう訴える。 ぽっかりと開いた眼窩からは、どろりと餡子混じりの涙が流れる。 果たして、これをまりさの眼窩に突っ込んだらまた機能するのだろうか。 俺は改めて、こいつの眼球をしげしげと眺めてみた。 材質は寒天か白玉だろう。 ゆっくりの顔についている時はあんなにも表情豊かなのに、こうして抉り出すととたんにただの無機物になる。 「おにいざんがえじでえ! おめめがえじでよおお! どうじで! どうじでごんなごどずるのお!? まりざいだいよおおお!」 「君だって、勝手に俺のお菓子を食べたじゃないか。だから俺も、君から勝手に目をもらうよ」 俺は痛みに苦しみもがくまりさにそう言った。 まりさは一瞬、信じられないものを見る目で俺を見た。 不愉快だ。 自分がそうしたというのに、自分が同じようにされるのは嫌なのか。 「がえじでっ! がえじでっ! それはやぐまりざのおかおにもどじでよおおおおおお!!」 「お菓子を返してくれたら戻してあげるよ。ほら、早く返して。そうしたら戻してあげる」 「でぎないよお! できないよおおお! もうおがじざんだべじゃっだがらがえぜないよおおおお!!」 「じゃあ、これも返してあげない」 泣き叫ぶまりさを尻目に、俺は指先に力を込めた。 ブヂュッ、とあまりにもあっけなく、まりさの二つとない左目は潰れて四散した。 目の前で自分の体の一部を潰されたショックで、まりさは泣きわめく。 「や゙ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! お゙め゙め゙ぇ! お゙め゙め゙ぇ! まりざのずでぎなおべべぇえええええええ!!」 ねっとりとした液体が、潰れた眼球から流れ出した。 恐らくシロップだろう。 これでもう、まりさの顔から左目は永遠に失われた。 どんなことがあっても、まりさはこれからずっと片目で生きていかなければならないのだ。 俺は眼球の残骸を庭に放り投げた。 「次はまりさの髪の毛だね。それももらうよ」 「だめぇ! だめだめだめえええええ! やだあ! まりさのおさげさんむしっちゃやだあああああ!」 必死に体を捻って、俺の手から逃れようとするまりさ。 だが、その力はあまりにも弱く、抵抗と呼ぶにも値しない。 俺はまりさの帽子から出ているお下げを掴み、ぐいっと力任せに引っ張った。 「い゙ぎゃ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! あ゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙! いだいっ! いだいいだいいいい!」 お下げは根本から千切れて手に残った。 なぜ根本からだと分かるかというと、皮と餡子がわずかながらくっついてきたからだ。 俺はまりさの帽子を取り上げた。 「おぼうしさんっ! それまりさのおぼうしさんっ! かえして! まりさのおぼうしさんかえしてね!」 邪魔になるから、俺は帽子を自分の頭に乗せた。 傍目から見ればかっこわるいが、この際気にはしない。 「これだけじゃ足りないな。もっとまりさの髪の毛をもらうよ」 「やだああ! やめてね! まりさのかみのけむしらないで! いたいのやだああ! むしるのだめえええええ!」 まりさの声は、昨日の俺が聞いたら痛々しくて手を止めたくなるものだったに違いない。 いくら何でも、菓子を勝手に食べられたくらいで目を抉って髪を抜くなんて、と不快感をあらわにしたことだろう。 だが、今の俺はまったく嫌悪感がなかった。 まりさのきらきら光る金髪を指で掴み、お下げと同じようにして引っこ抜く。 雑草を抜くようなブヂッという手応えを残して、一つまみの金髪が手に残った。 「いぢゃあああああいいい! あちゃま! あちゃま! まりぢゃのあぢゃまああああああああ!!」 まりさは涙を流して激痛を訴える。 髪の毛は地肌ごと引き抜かれ、まりさの頭には小さな穴が空いていた。 気にせず、俺は次々とまりさの頭から髪の毛をむしり取る。 「いびゃい! いびゃいよっ! おにいざんやめでっ! まりざのがみのけっ! だいじな! だいじながみのけなのっ! いぢゃいいぃっ! どうじでぇ? どうじでごんないだいごどずるの!? まりざなにもわるいごどじでないのにいいいいいい!」 自称「悪いことをしていないまりさ」は、俺が手を止める時には「まばらに頭に髪の毛が残っている禿まりさ」になっていた。 完全な禿にするよりも、所々に残っている方が無様さに拍車がかかる。 俺と最初に出会った時の若くはつらつとしたまりさは、もうどこにもいない。 ここにいるのは、片目に穴が空き、髪の毛のほとんどをむしられた不細工なゆっくりだ。 「ゆっ……ゆぐっ……ゆぐぅ……いだいよぉ……まりさのかみのけさん……みんなにほめてもらったかみのけさん…… ゆっくりかえってきてね……いだいぃ……まりさのあたまにゆっくりかえってきてねえ! はやくかえってきてねええええ!!」 まりさは俺の足元に散らばる自分の髪の毛を見て、涙をぽたぽた落としている。 その悲しそうな顔は、ゆっくりを駆除していてもなかなかお目にかかったことがない。 どうやら、本当にこいつの髪の毛は仲間の間でちやほやされていたようだ。 それを苦痛と共に失った気分はどんなものだろう。 「もらったけど、やっぱりいらないね。こんな汚い髪の毛」 俺は下駄の足でその金髪を踏みにじり、土の中にねじ込んだ。 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」 まりさの悲鳴がかん高くなる。 俺は自分の頭にかぶっていた帽子を、まりさに返してあげた。 「おぼうしさん! まりさのだいじなおぼうしさん! ゆっくりおかえり! おかえりいいい!」 大あわてでまりさは帽子をかぶる。 大事なものだということもあるが、同時に禿を隠したいのだろう。 まりさは俺をにらみつけた。 「ひどいよ! おにいさんひどい! やめてっていったのに! まりさがやめてっておねがいしたのに! どうしてこんなことするの! おにいさんはゆっくりできないよ! きらい! だいっきらい!! まりさのおめめもどして! かみのけももどしてよお!」 「ああ、まりさはやめてって言ったね。聞こえたよ」 「だったらどうしてこんなことするの! まりさいたかったよ! すごくいたかったよ! どうしてえええ!」 「だから? まりさが止めてって言ったから何なの?」 まりさは口を閉じた。 涙がいっぱいにたまった右目で、こちらをじっとにらんでくる。 まるで、自分はかわいそうな被害者であるかのような顔だ。 「君だって、俺が食べちゃ駄目だと言ったお菓子を食べたじゃないか。同じことだよ。俺も、君が止めてって言っても髪の毛をもらうよ」 「そ……そんなこと……。そんなの……。そんなのやだよおおおお! やだあ! やだやだやだあああああ!!」 「次はまりさの白い歯だね。それももらうよ」 「やだあ! やだあああ! やじゃびゃびぎぃぃぃ!!」 俺は大声を張り上げるまりさの口に、親指と人差し指を突っ込んだ。 手にまりさの口内の濡れた感触が伝わった。 上顎の奥歯を一本掴み、力任せに引っ張る。 予想よりも遙かに力を必要とせず、まりさの歯は引っこ抜けた。 「あびっ! ばびびっ! あびっ! あびや゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙っ゙!!」 歯の抜けた歯茎から粘性の低い餡子をびゅっびゅっと拭きつつ、まりさは絶叫した。 俺は指先でつまんだこいつの歯をじっくりと眺めてみた。 色は真っ白だ。形は人間のものとよく似ている。 少し力を入れただけで、あっけなく歯は砕けた。恐らく砂糖でできているのだろう。 「びゃびぇでっ! いびゃいびょ! しゅびょびゅいびゃいっ! いびゃびいいいい!! 」 たった一本歯を抜かれただけで、まりさは顔をぐしゃぐしゃにして激痛を訴える。 ろれつの回らない様子から、これがまりさにとって初めての激痛なのがよく分かる。 だが、俺は一本では満足しなかった。 怯えきったまりさの視線を無視して、俺はさらに口に指を突っ込んだ。 「びゃべびぇえええええええ!!」 上顎の歯を四本ほどつまむと、一気に引っこ抜く。 一度目で力加減が分かったから、二度目の抜歯は簡単だった。 ブチブチッという歯茎の千切れる音と共に、俺の手はまりさの口から抜かれた。 まりさの大事にしていた、きれいな白い歯と一緒に。 「い゙ぎゃびい゙い゙い゙い゙い゙い゙!! ゆ゙びあ゙あ゙あ゙あ゙! あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! あ゙あ゙あ゙あ゙っ! びぎゃい゙い゙い゙い゙い゙!」 目を抉ってやった時よりも、数段上の悲鳴が聞こえた。 さすがに、これを近距離で聞くとこちらも鼓膜がおかしくなる。 麻酔なしで歯を何本も一度に抜かれたのだ。 こいつがこれだけ叫んでもおかしくない。 「ぼうやだああああああ!! やだああああああ!! まりざいだいのやだああああああああ!!」 まりさは俺の手の中でめちゃくちゃに暴れる。 どうやら、歯を失っても喋れるようだ。 そうでなくては。 こちらも、これでこいつのすべてを奪い尽くしたとは思っていない。 俺はまりさを地面に降ろした。 まりさは、まさか助かると思っていなかったのだろう。 一瞬きょとんとして地面を見ていたが、次の瞬間ものすごい勢いで泣き出した。 「ゆわああああああん! ゆえええええええん! もうやだああ! おうちかえるうううう! まりさおうちかえるううううう!!」 泣きながら、まりさはぴょんぴょんと跳ねて庭を突っ切る。 生け垣に頭から体当たりし、中に無理矢理潜り込んだ。 火事場の馬鹿力という奴だ。 まりさはゆっくりらしからぬ速さで俺の家から逃げ出した。 「おうちかえる! まりさはおうちにかえるよおおおお! おとうさあああん! おかあさああん! まりさもうやだよおおおお!」 泣きじゃくるまりさの声が遠ざかっていくのが分かった。 さて、後を追うことにしよう。 まだまだ、こいつから頂戴しなければならないものはあるのだから。 逃げるまりさの後を追うのはあまりにも簡単だった。 「ゆええええん! ゆええええん! ゆっくり! ゆっくりいいい! ゆっくりしないでにげるよおおおお! いたいよおおお!」 何しろ、まりさは大声で泣きながら逃げているのだ。 あれだけ小さな生き物が、よく全力疾走しながら大声を出せるものだ。 幻想郷の人間である俺は、それなりに妖怪との付き合いもある。 だが、あんな奇怪な存在などゆっくり以外にいない。 「おうちかえる! まりさはおうちかえるよ! かえって! おうちかえって! ゆっくりする! ゆっくりしたいよおおお! おとうさんとすーりすーりする! おかあさんとすーりすーりする! いもうととごはんさんむーしゃむーしゃする! ゆっくりするうう!」 一度も振り返らず、いっさんに巣に向かったまりさは実に愚かだった。 姿を隠しもせずに大声を出して、あれでは後を追ってきて下さいと言わんばかりだ。 森に入ってしばらくしてから、まりさは大きな木の根元で立ち止まると叫んだ。 「おかあさあああああん! おとうさああああん! まりさだよおおおお! かわいいまりさがかえってきたよおおおお!」 わざわざ出迎えを要求するとは、ずいぶんと甘ったれた子どもだ。 だが、こいつの尋常でない声の調子に驚いたのだろう。 「おちびちゃん? どうしたの? ゆっくりしてないね!」 「ゆっくりしていってね! おちびちゃんだよね! どうしたの?」 「おねえしゃんどうちたの? ゆっくちちてないにぇ!」 「ゆっ! おえねしゃんだ! おねえしゃんおかえりなちゃい!」 「どうちたんだじぇ? こわいいぬしゃんかとりしゃんにおいかけられたにょ?」 巣穴にかぶせてあった木の枝が取りのけられ、中からゆっくりの家族が姿を現した。 両親のまりさとれいむ。 それにこいつよりも体の小さな、れいむが二匹とまりさが一匹。 舌足らずな口調と体の大きさで、妹だとすぐ分かる。 「ゆええええええん! ゆえええええん! おかあさああああん! おとうさあああん! まりさっ! まりさあああああ!!」 まりさは家族の顔を見て安心したのか、一目散に両親の所に跳ねていった。 その側にくっつくや否や、まりさは大声でわんわんと泣き出す。 「おちびちゃんそのおかおどうしたのおおおお!? きずだらけだよおおおお!」 「おめめがかたっぽないよおおおお! それに……おちびちゃんのはがおれてるよおおおお!」 「ゆああああ! おねえしゃんいちゃいいちゃいだよおおお!」 「おねえしゃんいちゃいの? れいみゅがぺーろぺーろちてあげりゅにぇ!」 「まりしゃもぺーろぺーろしゅるんだじぇ! ぺーろぺーろ! ゆっくちなおっちぇにぇ!」 俺が隠れていることに、家族一同誰も気づいていない。 泣き沈むまりさを慰めようと、両親はまりさに優しくすりすりしている。 妹たちも同様だ。懸命に舌でぺろぺろとまりさを舐めて、何とかして落ち着けようとしている。 確かに、こいつが自慢するだけのことはある、仲のよい家族だ。 しばらくまりさは泣いてばかりだったが、ようやく安心したのかぐずるだけになってきた。 「ゆっ……ゆぐっ……こわかったよお……まりさすごくこわかったよおおお!」 「よしよし、もうだいじょうぶだよ。なにがあってもおとうさんがまもってあげるからね。こわいことなんてなにもないよ」 「そうだよ。れいむたちがついているから、おちびちゃんはあんしんしてね。ゆっくりあんしんしていいからね!」 「ゆぅ……ゆっくりありがとう、おとうさん、おかあさん……。まりさ、うれしいよお…………」 「さあ、おとうさんにおしえてね。どうしてそんなけがをしたの?」 「……ゆうぅぅ…………こわいにんげんさんが……にんげんさんが……おにいさんがまりさにひどいことしたんだよおおお! やめてっていったのに! やめてっておねがいしたのに! おにいさんがまりさのおめめをとっちゃったんだよおおお!!」 再びトラウマを想起したらしく、まりさは泣き始めた。 意外なことに、親のれいむとまりさはこんな事を言った。 「おちびちゃん! どうしておかあさんのいいつけをまもらなかったの! にんげんさんにちかづいちゃだめだっていったでしょ!」 「そうだよ! おとうさんもおしえたでしょ! にんげんさんはこわいよ! ゆっくりできなくされちゃうよっていったでしょ!」 「だって……だってえええええ! おいしそうなおかしがあったから! すごくおいしそうだったから! まりさだってえええ!!」 「ま……まさか…おちびちゃん? もしかして、それを…………」 「ゆええん! ゆわああああん! たべちゃったよおおお! たべたかったんだもん! おいしそうだったもん! まりさだってたべたかったんだもん! すごくおいしそうなおかしだったんだよ! まりさちょっとたべただけなのにいいい!!」 「どうしてそんなことするの! にんげんさんのたべものはたべちゃだめだってあれほどいったのにどうして! どうしてええ!」 「そんなことしたらにんげんさんおこってあたりまえだよおおおおお! おちびちゃん! なんでそんなことしたのおお!?」 俺は感心さえしていた。 この家族は本当にまともだ。 きちんと、人間にちかづいてはいけないと、人間の食べ物を食べてはいけないと両親は教えているのだ。 これなら、人間に駆除されることもなく、森でひっそりと生きていけるだろう。 それなのに、こいつはわざわざ人間の里まで下りてきて散歩なんてしていた。 長女だから甘やかされたのか。 あるいは、もともとこいつだけ特に馬鹿なのか。 どちらでもいい。 俺のプランは既に決まっていた。 「ゆわああああん! まりさゆっくりできなかった! ゆっくりしたかったのにゆっくりできなかったよおお!」 「よしよし、おちびちゃん。もうだいじょうぶだよ、だいじょうぶだからね。ここまでくれば、にんげんさんもおいかけてこないよ」 「いたかっただろうね。ゆっくりできなかっただろうね。さあ、きょうはもうゆっくりおやすみ。ぐっすりねむればゆっくりできるよ」 「れいみゅおねえしゃんにおくちゅりとってくるにぇ! ぱちゅりーおばしゃんのところまでいってくりゅよ!」 「まりしゃもついていくんだじぇ! まりしゃのおぼうちにおくちゅりをいれればだいじょうぶだじぇ!」 「れいみゅはおねえしゃんといっしょにおやしゅみーしてあげりゅよ! いっしょにおやしゅみしゅるとあっちゃかいよ!」 「ゆぅぅ……ありがとう、おとうさん、おかあさん、まりさ、れいむ。こわかったけどもうゆっくりできたよお…………」 一致団結して、傷ついた長女を慰めようとする家族。 実に、理想的な家族の形じゃないか。 両親に抱きしめられ、妹たちにすり寄られ、あれだけ泣いていたまりさに笑顔がようやく戻った。 「ゆっくり! まりさもうだいじょうぶだよ! いたいのもうへいきになってきたよ!」 片目と口内の痛みをこらえて、まりさが家族に笑いかけた時を見計らい、俺は一歩を踏み出した。 たった一歩で、俺はまりさと家族たちの前に立ちふさがる形になる。 「やあ、まりさ。確かに、素敵な両親と妹だね。君の言った通りだ」 俺の出現に、まりさはあんぐりと口を開けた。 その顔が、見る見るうちに恐怖で引きつる。 「ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」 この声も駆除の時によく聞いた。 隠れ家を壊して中のゆっくりと対面した時、よくゆっくりは目と歯茎をむき出してこういう声を出す。 よほど驚き、しかも怖がっている時の声らしい。 顔といい声といい、はっきり言ってグロテスクだ。 「やだあああ! おにいさんやだああああ! こわいよおお! ゆっくりできないよおおお! ゆんやああ! ゆんやああああああ!!」 まりさは家族のど真ん中で、パニックに陥って泣き出した。 下半身から勢いよくしーしーが噴き出して、地面に水たまりを作る。 恐怖のあまり失禁したらしい。 「おとうさああん! こわいよおおお! おかあさあああん! このひとだよお! このひとがまりさのおめめを! おめめをおおおお!」 まりさは泣き叫びながら両親に助けを求める。 おおかた、恐い人間を両親によって追い払ってもらおうという魂胆だろう。 まりさに水を向けられた親のれいむとまりさは、俺の方を怯えた目で見た。 「にっ! にんげんさん! おこるのやめてね! ゆっくりしようね! ゆっくりしていってね!」 「そっ! そうだよ! いっしょにゆっくりしようね! おねがいだからおこらないで! おこらないでね!」 びくびくしながらも、親れいむと親まりさはまりさをかばう形で俺の足元に近づく。 しかし、俺が聞いたのは二匹の身の程知らずな主張ではなく、卑屈なお願いだった。 俺が二匹をにらむと、たちまち両親は体を縮める。 人間とゆっくりとの実力差がはっきり分かっているようだ。 「ゆえええん! ゆええええん! どうしてええ! このひとはまりさにいたいことしたよ! ひどいこといっぱいしたよお! いっぱいいたいことしたゆっくりできないわるいひとだよおお! わるいおにいさんだよおお! ゆえええええん!」 分かっていないのがここに一匹いる。 当てが外れてがっくりしたのだろう。まりさは泣きながら両親をけしかける。 きっと、この聡明でしっかりしたゆっくりたちは、子どもたちの脅威を何度も退けたに違いない。 さぞかし、まりさは両親の力に信頼を置いていたことだろう。 俺など、両親があっさりやっつけてくれるものと思っていたのか。 だが、現実は両親が俺に頭を下げ、機嫌をうかがう言葉を発するだけだ。 「まってね! ゆっくりまってね! おちびちゃんはびっくりしているだけなの! ほんとだよ! ゆっくりしんじてね!」 「おちびちゃんはほんとはとってもいいこなんだよ! ね!? ね!? にんげんさん! おこってないよね! ね!?」 親れいむと親まりさは、ひたすら俺にゴマをする。 何としてでも人間さんを怒らせてはいけない。 怒ったら、きっと自分たちは皆殺しになる。 その恐怖がありありと伝わってくる。 俺はしばらく、この後どうしようとかと考えていた。 足に何か柔らかいものがぶつかった。 顔を下に向けると、妹のチビまりさと目が合う。 「ゆっくちまつんだじぇ!」 「おぢびぢゃんどうじでえええ!?」 「おぢびぢゃんやべでええええ!?」 俺の足に体当たりしてふんぞり返るチビまりさの目は、まるで勇者様気取りだ。 どうやら、このチビまりさは両親の脇をすり抜けて俺に特攻したようだ。 一方、親れいむと親まりさは鎮静化しつつあるはずだった事態がぶち壊れたことで、顔をこわばらせて悲鳴を上げている。 さらに足に当たる二つの感触。 チビまりさに続いて、チビれいむが二匹俺の足に体当たりした。 「おにいしゃんだにぇ! おねえしゃんにいちゃいことをしたわりゅいにんげんしゃんは!」 「どうちてこんにゃことしゅりゅの!? おねえしゃんいちゃいいちゃいだよ! りかいできりゅ!?」 「にんげんしゃん! じぶんがわりゅいことちたってわかったのじぇ!? だったらはやくおねえしゃんにあやまるんだじぇ!」 横一列に並んだ、哀れなまでに勇ましい妹たちの戦列。 どのゆっくりの目も闘志に満ち、俺を敵として判断したのがよく分かる。 憎き姉の敵。 絶対に許すものか、という気構えさえ伝わってきた。 「どうちてもあやまらにゃいなら、れいみゅもおこりゅよ! ぷくーしゅるよ! ぷくーっっ!」 「れいみゅもぷくーしゅりゅよ! にんげんしゃん! れいみゅのぷくーではんせいしちぇにぇ! ぷくーっっ!」 「はやくあやまるんだじぇ! あやまらないともっときょわいめにあうんだじぇ! ……ゆゆぅ! もうまりしゃもおこったんだじぇ! まりしゃもぷくーするんだじぇ! おねえしゃんのいちゃいいちゃいをにんげんしゃんにもわからせりゅんだじぇ! ぷくーっっ!」 いっせいに三匹は、頬と体を風船のように膨らませる。 これも何度か見たことがある。 「おちびちゃんはおかあさんがまもるからね! ぷくーっ!」 とか言って、駆除しようとする人間に体を大きく見せるのだ。 ゆっくりの威嚇で間違いないだろう。 そう言えば、あのれいむはどうしただろうか。 確か、面倒だから回り込んで、先に子ゆっくりの方を袋に入れた気がする。 親ゆっくりは「やべでぐだざあい! おぢびぢゃんなんでず! まりざがのごじでぐれださいごのおぢびぢゃんなんでず!」と泣いていた。 つまり、まったくの無意味なのだ。 「………あ…………ああ………やめ……て……やめて……おちび……ちゃん…………」 「に……にんげん…さん………おちびちゃんを……おねがいだから……ゆるして……ね…………」 それが分かっているのは両親だけだ。 親れいむと親まりさは、もはや絶望さえ漂いだした目で俺に許しを請う。 後ろでは、ようやく泣き止んだまりさが潤んだ目で妹たちを見つめていた。 「まりさぁ……れいむぅ…………。まりさ……すごくうれしいよお…………」 姉のために健気に立ち向かう妹たちに、まりさは感動しているらしい。 ついさっき、自分が俺に半殺しにされたことなどもう忘れたのか。 「なあ、まりさ」 俺は足元で膨れた三匹を無視して、まりさに話しかける。 「この妹たち、俺がもらうよ」 「はやくあやまっちぇ! れいみゅがぷくーしちぇるのになじぇあやまらにゃいの! がまんちてにゃいではやぶぎゅびゅぶぶぅぅ!!」 俺がしたのは簡単なことだ。 ただ、一歩を踏み出しただけだ。 それだけで、一番端で膨れていたチビれいむが下駄の裏で潰れた。 「れ…れいみゅがあああああああ!!」 「ど…どうぢでええええええええ!!」 「いもうと……まりさの……れいむ……れいむがああああああああ!!」 隣のチビまりさとチビれいむ、そしてまりさは一撃で妹が潰れたショックで大声を上げる。 特にチビたちは、発狂したのかと思うくらい口を開けて泣き叫んでいる。 「あ……あ……おちびちゃん……が……」 「そん……な……おち……び…ちゃん…………」 親れいむと親まりさのショックは、子どもたちに比べて少ないようだ。 こうなることを、ある程度予期していたからだろう。 俺は足を上げた。 そこには、かろうじて無事な顔で呻き、ぐしゃぐしゃに潰れた下半身を動かす不気味な塊があった。 即死は免れたらしい。 チビれいむは生まれて初めて味わう苦痛が、同時にゆん生最後の体験であることが分かり、餡子混じりの涙を流していた。 「いぢゃいよぉ……おにゃかがいぢゃいよぉ………あんよしゃん……どうちでうごがにゃいの………… やじゃあ……れいみゅじにだくにゃいよぉ…………れいみゅ……れ……い…みゅ…………」 口から吐いた大量の餡子に埋もれるような形で、チビれいむは死んだ。 チビれいむは即死できなかったことを恨んだに違いない。 ごく短い間だったが、途方もない苦痛を味わってから死んだのだから。 まずは一匹だ。 俺はすぐに両手を伸ばし、動けないでいるチビまりさとチビれいむをつかんだ。 「やめちぇ! やめちぇにぇ! はなちちぇ! れいみゅをはなちてにぇ!」 「やめりゅんだじぇ! まりしゃをはやくはなしゅんだじぇ! はなちぇえええええ!」 手の中でじたばたともがくチビたち。 先程の勇ましさはどこへ行ったことやら。 俺が顔を近づけると、「「ゆっぴいっ!」」とそろって悲鳴を上げて失禁した。 手の中に生温かい液体の感触が伝う。 「やめちぇえ! おにいしゃん! れいみゅをはなちてくだしゃい! もうぷくーちまちぇん! ちまちぇんかりゃあああ!」 「まりしゃをたしゅけてくだしゃい! まりしゃはばきゃなゆっくちでしゅ! もうちましぇん! たしゅけちぇえええええ!」 俺は、徐々に握力を強めていった。 指に力を入れ、二匹を握り潰していく。 「ゆぶっ! ゆぶぶっ! ゆぶううううううう!」 「ゆぐっ! ゆぐうう! ゆぐううううううう!」 少しずつ、力を加えていく。 だんだんとチビまりさとチビれいむの体の形は、ボールから瓢箪に変わりつつあった。 懸命に力を入れて握力に抗おうとしているが、無駄な努力だ。 閉じた口からわずかながら餡子が垂れ始める頃になると、二匹は露骨に苦しみだした。 顔を左右にぶんぶんと振り回し、苦痛から逃れようと無駄な努力をする。 「ちゅっ! ちゅっ! ちゅぶれりゅうううううううううう!!」 「ちゅぶれりゅ! ちゅぶれりゅよおおおおおおおおおおお!!」 こんなところでも、ゆっくり特有の「自分の行動を声に出して表現する」習性は変わらない。 二匹は白目をむいて絶叫した。 ぱんぱんに膨れ上がった顔は真っ赤になり、ゆっくりとは思えない不気味な形に変形している。 「やべでぐだざい! やべでぐだざい! ぐるじんでまず! おぢびぢゃんぐるじがっでまず! もうやべでぐだざあい!」 「おねがいでず! おぢびぢゃんをごろざないでぐだざい! がわりにれいぶがじにまず! れいぶががわりにじにまずがら!」 「やめて! やめてよお! まりさのいもうとだよ! かわいいいもうとだよおお! はなして! はやくはなしてえええ!」 親れいむと親まりさは、顔を涙でべちゃべちゃに汚しながら、俺の足にすがりついている。 濁りきった声で、俺を止めようと必死だ。 それなのにまりさは、キンキンとかん高い声で離れた場所からわめくだけだ。 俺はさらに力を入れた。 「ぶぼぉっ!」 「ぶびゅっ!」 あっけなく、二匹の口とあにゃるから餡子がほとばしり出た。 グロテスクなお多福のような顔になったチビまりさとチビれいむの顔が、さらなる苦しみで歪む。 ここが限界だったようだ。 たちまち餡子が流れ出て小さくなっていく体を、俺は地面に落とした。 「おちびぢゃん! おちびぢゃあああん! へんじじでっ! へんじじでよおおおお!」 「おかあさんだよ! れいむおかあさんだよおおお! ゆっぐりじでえ! ゆっぐりじでえええ!」 「ゆ゙っ……びゅ……ぼっ………ぶっ……ぶぶっ…………」 「ごっ……びぇ………べっ……ゆ゙っ……ゆ゙ゆ゙っ…………」 すぐさま顔を近づける両親。 瓢箪の形になったまま戻らないチビたちは、もはや命が尽きる寸前だった。 何度も呼びかける親の声も聞こえないらしく、わずかに体を痙攣させて呻くだけだ。 それなのに、ぎょろりと飛び出しかけた目だけは血走って、今も終わらない苦痛を訴えている。 やがて呻き声は止まり、虚空をにらむ目がゆっくりと濁っていく。 チビまりさとチビれいむは、最後まで苦しみながら死んだのだ。 「まりさのかわいいいもうとおおおおお!! どうして! どうしてころしちゃうのお! まりさのいもうとなんだよ! かわいいいもうとなんだよ! ゆっくりしてたよ! どうして! どうしてこんなひどいことするのおおおお!!」 すすり泣く両親に何の遠慮も示さず、まりさは跳びはねながら俺を非難する。 よく見ると、まりさも目から涙を流していた。 これで、まりさのかわいい妹たちは全滅したことになる。 二度と仲良く家族で団らんはできないだろう。 もう、頬をすりつけることも、顔を舐めることもできない。 惨めに潰れたチビれいむと、変形しきったチビまりさとチビれいむの死体が、現実を突きつける。 「何を言ってるんだ、まりさ。あのチビたちは俺のものだよ。だから、俺がどう使おうと勝手じゃないか」 「ちがうよ! まりさのいもうとだよ! おとうさんとおかあさんがうんだまりさのかわいいいもうとなの! おにいさんのじゃないよ!」 「さっきまではね。でも、俺のものだって主張すればそうなるんだよ。生かそうが殺そうが、俺のものに文句を付けないでくれないか」 「やめてよ! やめてええ! まりさにいじわるしないで! おにいさんきらい! だいきらいだよ! どっかにいって! かえって!」 「君がお菓子を返してくれたらね。さあ、早く返して。返してくれたら全部元に戻してあげるから。ほら、早く返すんだ」
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二つ名:透輝の勇者 名前:不明/そのまま透輝(とうき)と呼んどいてください。 詳細: 長い間各地を旅してまわっている勇者。出身はおろか現在の拠点も定かではない。もはや人々から忘れられた古い魔法を使用し、その魔法は勇者というよりは魔王に近い物らしい 「さて、今日は何について話そうか。そうだなぁ……うん、 ──或る忘れられた勇者の話はどうだろうか」 性別:男 年齢:34(見た目) 身長:181cm 本名・出身:ともに不明 外見:体格として細身。肌もいくらか白め。威圧感は何処かへ忘れた。 瞳はくすみのある淡い黄色よりのグリーン。 頭髪は細く柔くくせ毛。黄緑を帯びたプラチナブロンド。「陽の当たる麦畑のような髪」(…さんへ感謝) 衣服で見えないが全身に幾何学的なタトゥーが入っている。 勇者の証:左手の小手に付けられた丸い宝石 ◆詳細設定 透輝(とうき)の勇者。萌木のような緑に輝く宝石の杖が目印の魔法使い。 面倒を避けて闇雲に勇者と名乗ろうとせず、「まじない師」やら「すごい魔法使い」など適当に誤魔化しながら各地を旅している。 一見ちょっと胡散臭い普通の男だが、実のところ数百年以上の年月を生きている。 ゲーム最初期の勇者の一人。いわゆる『宝石組』。 出生まで遡れば神代…世界の創世期に至る。 それ故あらゆる伝承の生き字引のようなもの。勇者として、または魔法使いとして少しでも関わった歴史は多数存在する。 仙人じみているが「おじさん」と言われると複雑な心境らしい。 「おにーさん」を自称しつつも、実際問題立ち上がるときに「どっこいしょ」と言ってしまうようになった。 このゲームの真相については把握しており、その上での彼の目的はこの盤上の結末を見届けることである。 人間にとって未来ある結果が生まれるようにしたいとは望んでいるが、果たして。 魔王にも知り合いは居る。現在魔王討伐などは行っておらず、一応は分け隔てない。 しかしほんの少し人間側を贔屓してしまうのは彼自身が人間を自負しており、詰まるところ人間が好きなのである。 基本は聖界をぶらぶら放浪している。 腕を見込まれて受けた依頼の報酬が大きな収入源である。 魔法使いとして魔除けや豊作祈願などの祈祷や、解呪が主な内容。 受けるかは場合によりけりで選り好みする。身体を動かすようなことは疲れるのでまずNG。 倫理に反するような行為はあんま好きではないので、そういった依頼を受けたいとは思わない。そーいうのってあとあと面倒そうじゃない? 他には手に入れた素材や手製のおまもり(魔具)を売ったりなどで小銭を稼ぐこともあるかも。 活動拠点が無いので、約束が無い限り偶然出会うことになるだろう。 積荷の中に紛れていたり、唐突に木から落ちてきたり、湖に顔を突っ込んで倒れてるかもしれない。 ちなみに故郷を持たないので、もし魔王を倒しエネルギーを得た場合、どこかしら任意の場所へ転送するようになっている。 ◆性格 一人称:基本は「私」、柔らかく「僕」や、茶化すときは「おにーさん」など。素のときは「俺」 二人称:「君」、「あんた」とか「お前さん」 三人称:「◯◯君」が基本。勇者、魔王ともに肩書で呼ぶ。 いつもは一人称は「私」であり、魔法使いのソレらしく気取ったような仰々しい喋り方をする。そう振る舞うのも仕事のようなもの。 穏やかだが、のらりくらり相手を煙に巻いて面倒を避けようとする面倒くさがり。 だが彼の素は素朴で大雑把でいて神経質な気質であり、一人称は「俺」でほんの少しぶっきらぼうな口調になる。 どちらかと言えば新しもの好き。人類の発展を見るのが楽しい御老体。 お酒も嗜むし料理は味が濃いものが好み。(ただし胃もたれ不可避) 嫌いな食べ物はたまいも。理由は口の中がもさもさするから。おなじ理由が適用される食べ物は大抵きらい。 ◆能力など 『魔法言語』 詠唱による魔法の発動。詳細は後述。 『魔術』 古めかしいものから最新の術まで。魔力の扱いに長け、魔力回路の質は魔王と遜色ないためおおよそのことはできるだろう。 ただしそんな器用ではない。魔力純度が平均の魔術師より群を抜いて高いため、いつもは古代魔術言語の詠唱などを挟んでワンクッションを置いて使用する。 普段持ち歩く杖はその精度を上げる効果を持ち合わせている。 『天眼』 常時、視認したもの輪郭の中に魂・本質の色形が見える。 勇者魔王であること、人間なのか魔族なのか、生命力の熱量など。 また、瞼を閉じて念じれば現在の任意の座標の景色を視ることができる。現在視というやつ。 とある座標から観測されたビジョンを受け取ることができる、といった感覚。 『不老不死』 勇者に任命された時に女神から与えられた奇跡。 しかしある時からその加護が剥がれて効果が弱まってしまい、徐々に体は加齢している。 『呪い』 女神により付与されたもの。安寧を求めて住居を得た場合、彼が追い出される若しくはその国が滅びるなどの”運命への流れ”が生まれる。 透輝が定住せず旅を続けている大きな要因。 『令呪(仮)』 自覚できない催眠に対して警鐘を鳴らすための防衛魔術。 ある王家の眼に宿る魔法・エスタブリッシュアイの効果から逃れるために編成してみた。催眠を無効化するものではないので注意。エスタブリッシュアイの詳細/制作:東さん ◆魔法 《概要》 透輝の使う魔法は『世界を改変させる言葉』そのものである。 術者は透輝本人ではあるが、『世界』そのものに望む結果を申請し、許諾を得ることで事象として発現する。 『言霊』と言ったほうがわかりやすく馴染みがあるかもしれない。本来であれば望む結果への流れを生み出すものを、この魔法は命令さながらの強制力と即効性を持つ。 これによって得た結果は『世界』の意志であるため、慥かな実体のある像を結び、あるべくしてあった事象となる。この世界に存在するものならば、この魔法の効果を拒否することが出来ない。 それらの効果が薄れていくのは世界の弾性のため。 規模が小さければ”奇跡”のようなものだが、あまりにも大きいと”IFの時間軸”のような結界を創ることになる。 《発動条件》 発現させる結果が『世界の法則』に則ったものであるほど簡単で、あり得ない現象ほどコストは嵩む。 主なエネルギーは術者のいる土地のものを使用する。もしその場所が疲弊していれば望むような結果は得られない。 『世界』からの許諾が下りず魔法が発動しないこともある。その場合、自らの魔力で代用し行使することも可能。 魔法の効果範囲に制限はないが、素直に広いほどエネルギーと魔力が必要である。 詠唱の長さは魔法の効果や難解さにより変動する。強力であるほど長い。言っちゃうと呪文はくどくどお願いを述べている事に他ならない。 詠唱が途切れればリセットされ、一からやりなおしである。心折。 この魔法の術式は透輝の勇者か、同条件の者の詠唱によってしか発動しない。 なお、多少効力に差はあれど聖界・魔界は問わない。 《具体例》 なんでもアリなので、おおよそ得意とすることや考えつく例を挙げる。 ◯改変 現状ある空間を任意の状態へ変化を促すもの。 雨雲を呼び込む・晴らすなど天候への干渉 願い事の成就への強力すぎるおまじない 「私の姿は見えない」と言えば、誰にも透輝を視認することは不可能なフィールドを構成できる ◯組換 対象の生物・物体へ現状での”役割”や”状態”を付与する演出家になれるアレソレ。キングメーカーできる。 汝は竜! 対象と世界の繋がりを強固にして機能を向上させるバフ、剥離する呪い効果のデバフ 壊れたものをあるべき形へ戻すなどの修復。野良ゲートを閉じたりとか ◎魂送り 地上で迷える魂を天界へ導くための呪文。 遥か昔、当時天使だった災の魔王様と行動を共にした際に授かったもの。 さんてんりーださん作「そして、祈りが燃える」にて使用。 ◆戦闘 《基本スタイル》 疲れるからできる限り避けたいし、もっぱらサポート型。 攻撃手段としてはエネルギーを圧縮して放出するビームとか、魔弾を撃つなど。 また『魔法』を使うことはあまりない。詠唱が必要な以上隙が多く簡単に弱点を知られてしまうからだ。 《身体的能力》 長年の経験による戦闘慣れと、勇者としての強化のため一般人より秀でているが、魔法特化のためずば抜けてはいない。おまけに運動不足。 肉弾戦はきらいなものの、モブなら勝てる程度の剣術は習得している。(相手が兵士でもなんでもモブなら勝てる。たぶん) 剣術の指南は翡翠の勇者にお願いした。相手から武器を取り落とすか、いなして距離を取る術に重きを置いている。 《装備品・杖》 前述した『魔法言語』は汎用性や効果範囲については圧倒的だが、お察しの通り非常に回りくどいし小回りが利かない。 そんなんで戦えるか!!となった透輝が編み上げたのが持ち歩いている杖である。 杖の先端に飾られた宝石をレンズに、あらゆるエネルギーを吸収、貯蓄、放出する。 物理的な衝撃、あるいはエネルギー体などの攻撃を効果範囲ならば無効化する事ができる。 魔術防壁と似ているが、違いとしては弾かずに吸収する事。 これの発動にも短いながら詠唱の代わりとなる魔法の合図が必要で、透輝本人でないと扱えない。 効果範囲は宝石の真正面、内蔵された魔法陣が映し出された部分。 また、蓄えられるエネルギー量は膨大だが、限界はある。 ◆覚醒 既に覚醒をし、常時発動している状態。 発露した能力は、端的に言って『時間遡行』である。 本当の能力としては”世界との意識の融合”なのだが、『世界の記憶』へのアクセスし過去の情景を垣間見たり、加えて現在へ完全再現する事が出来る。 瞬間でも『世界』が書き換わるので、その範囲に居る者はその事に気づく事ができない。意志の強い者であれば違和感として気づくことが出来るかもしれない。 遡る時間が短ければ効果範囲の時空がぶれる程度で次第に収束していくが、遠のけば当然ぶれも大きくなり異界として現実から剥離させられる。しばらくは見た感じは蜃気楼のように、異界の面が現実にくっついている状態。 過去再現が可能なのは覚醒者の魔力が行き渡る範囲まで。小さな街ひとつぐらいすっぽりイケんじゃないかな! 時間の流れを遡ってある点へ漂着し歴史を改変させる事もできるが、ただし急流へ投石するようなもので出来事を先延ばしにするなど確定した結果を完全に覆すことはできない。ただの一人の勇者のキャパでは広大な世界を大きく書き換えるなど不可能である。 この覚醒により女神からの加護が大幅に剥離している(不老の加護が薄れている原因である)他、 リスポーンができないようになっているが、この『時間遡行』により死ぬことができない。 彼の死が決定した瞬間それを回避させる働きかけがある。つまるところ「致命傷で済んだぜ」という結果に強制帰結する。 この復活については透輝の意思とは関係なしに発動してしまうものなので、もし自害をしたとしても生命活動が可能な時点まで遡って生きながらえることになる。 これら覚醒能力を行使するほど透輝の勇者の存在はかろうじて留まっている人間の枠からかけ離れていく。 そうして行き着いた先に成るモノはもう勇者では無い。魔王か、神か。或いは、ただのバケモノか。 ◆背景 ──彼の故郷だというその場所はあるおとぎ話の中にのみ登場する都市で、『女神による人類の理想郷』として描かれ、聖界のどこにも存在が確認されていないため架空の存在とされている。 おとぎ話はいつ書かれたものなのか、誰が書いたのかすら不明なほど古く、いくつものパターンが確認されている。 いくつかモデルとなった土地、遺跡などを学者が挙げているが、確信には至っていない。 《経歴》 ①神代 : 聖界ができてから、女神との離別まで 女神が最初に聖界へ降ろした原初の人類、その中に透輝の勇者となる少年は生まれ、『理想郷』で育った。 16歳になった彼は神々から”魔法”に関する神秘をひとかけら盗み出し、それにより魔法を手に入れると、怒った女神により都市を追放される。 同時に、人間不信になった女神は都市を破壊。人類は聖界の各地へ散り散りになっていった、という。 ②古代 : 神と離れた人類の時代 ひとり聖界を彷徨った彼は、人類へ魔術をもたらす要因のひとつになる。 天使時代の災の魔王と出逢ったのもこの頃。 数百年の後、彼の体は限界を迎え、長い眠りにつく。 ③陣取りゲームの開始 陣取りゲームが始まると、『勇者』となるべく女神に叩き起こされる。 各宝石組と出会えたらいいねって思います。 ④魔界大侵攻 ゲームの激化。覚醒したのはこの時であり、以降緩やかに身体が成長していっている。 実はこの血を血で洗う時代、ひっそり大切な女性と出逢っている。 ⑤宮廷魔術師時代 砂漠の大帝国にて宮廷魔術師として王に仕える。およそ10年ほど帝国で暮らし、王の死を見届けた後、再び目的のない旅に出る。 →王様の詳細/制作 chuchuhakokainaさん ⑥現在 それから数百年は経っているだろう。緩やかに旅を続けている現在である。 To Be Continued! 《魔法の根源・透輝の勇者の存在について》 透輝が使う『魔法言語』は神代において、神とその眷属が使っていた祈りの言語である。 ”環境設定を整えるための、世界機構へのアクセスコード”のような効果を持つ。 この言語そのものは神代の終わりと共に女神により秘匿されている。 しかし透輝が魔法言語を扱えるのは、女神から神秘を盗み取り込んだ時、邪神の加護により魂・身体の構成を作り変えられ、その魔法と癒着した存在となったため。 普通の人間より上位だが神ではなく、邪神からの加護を受けてのちの魔王に近しいが成りきれない。(人間としても魔王としても居場所を失ったため『呪い』が発動している) 透輝の体内にある魔力回路は人間のそれではない。回路へ留めておける魔力の限界量、保有量もまた魔王と遜色ないもの。 魔法の発動については体内の魔力を操る技術というよりは『体質』による魔法といったニュアンス。 魔法の根底に『世界のバランスの執行』という概念があり、これは邪神の持つ天災を司る権能に由来する。 そのため世界に存在するエネルギーに対し、非常に強い感性を持っている。陣取りゲームが開始してからは一層強くエネルギーの移動を水面下で感じ取っている。 随時加筆予定。あしからず。不明点などあればお問い合わせください。 《散文》 0.:おとぎ話。 1.:おとぎ話その2。 序章の独白:上記の③あたりの雑文。 青い夢に迷える仔へ:イベント『蒼黒の悪夢』寄稿。 ※以下は不確定要素も多数含みます。 『偽神 ジズ=オプシス』 人の身に押し留めていた彼の意識が世界と完全に融合し、歪な神格へと昇華した状態。 人格は世界の内部へ取り込まれ、ただ魂の根本にある願望を叶えるためだけに機能する。 それは”望郷”。神の身許への帰還である。 広範囲に及ぶ結界を生成し、内部にある全ての物質の記憶を再編。神代の世界まで時間を巻き戻す。 その先は現実を剥離させたものとはいえ異世界なので、広大で果ての無い世界が広がっている。 巻き込まれた者はトリップ中に”過去をやり直すこと”への問いかけがされる。深い後悔の念が編み出すパラレルワールドに行ける。乗ったらどうなるかはお任せする。これは攻撃ではなく慈悲である。 …正直、神代まで行ったところでやることないので、陣取りゲーム開始ぐらいの時間軸を舞台にVSジズができたら楽しいかなって思います。(私が) これで宝石組が小さい頃とかまでタイムスリップできるね!!だがそんなイベントが在るとは言ってない。 ◆裏話 ◯『透輝』の元であるダイオプサイト(透輝石)の意味について 「叡智・知性・直感力・癒し・コミュニケーション」または 「知恵と叡智・柔らかな癒しの性質を持つ・穏やかな心を保つ・ストレスを流すように働く・精神の混乱状態を解消し、安定した状態に保つ・前向きな心を育てる」 などなど。非常に癒し系であり、均整って単語が一番当てはまるように思える。 叡智やコミュニケーションから”言葉(呪文)”を使うことにした。 またダイオプサイト-Diopsideの語源について、 『ダイオプサイトの名前の由来は、ギリシア語で透き通るや透明を意味する「diopsis」から付けられた名前といわれます。 また、ダブルを意味する「di」と見た目を意味する「optis」を合わせたものともいわれます。』 だそうです。 ここから”2つのバランスを保つ”ポジショニングを考えてたんですが、その2つが何なのか、深くは考えれていません。 ◯透輝の魂は非常にひび割れていていびつなもの。これもクロムダイオプサイトの見た目由来。人間である側面と魔族の力を得たことで軋んでいたり、ほかの理由もあったりする。 ダイオプサイトってけっこう色んな色があるので、それも色んな要素で取り入れて行きたい所。 ◯ちょっとおもしろいことを読んだ。この石は心臓の奥深くのトラウマなんかに干渉するものらしい。 また、手に入れた当時の”意志”を固定する。『執念をつくる石』などと呼んでる人がいた。ネットのスピリチュアル記事なので真偽は定かではないが、メモがてら書き留めておく。 参考 ◯驚くほどに「空の境界」の玄霧せんせいの能力と似ていて、私は感動を隠せない。 彼の能力、起源にわかりてぃを禁じ得ない。
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他の国や領地が魔王に侵略されるくらいなら自分が侵略して自分の国にしちゃおう!という夢を掲げたお姫様。太陽の元であれば魔力が上がる能力を授けられたが、その反動で夜は眠くて仕方ない 日)`╹◡╹) [体のこと] 身長160ちょい、体重不明。胸は普通よりはあるくらい? 髪の色はクリーム色。目は緋色 服の色は薄ピンク(本人は薄紫だと主張している) 髪ゴム(リボン?)は濃い紫 武器として持っている法環はこう、ドレスの右側?スカートの上らへん?に何か引っ掛けられるやつが付いてるらしい(適当) [国のこと] 元は小さい国だったが、神託を受け日輪の勇者となった姫が次々と国や領地の統合を行い今ではそれなりの大きさの国になっている。 やっていることも農業やらなんやらかんやら様々。 姫は弱冠16歳で、国の現当主。 元王と王妃は行方不明とされている。 が、本当はもうこの世に居るかどうかすらわからない。 姫は、恐らくはいないだろうと思っている。 何故なら、自分の力で消してしまったから(後述)。 [力のこと] 日輪の勇者の能力は、『悪を浄化する』こと。 それは自分に対する悪意だったり、悪行を行った者自体だったり様々。 日輪の勇者は、その力によって(不本意ながら)王と王妃を消滅(?)させてしまった。 浄化した悪がどこに行くか、または消えてしまうのかは判明していないが、彼女は消えないと考えている。 消えずに、どこかに溜まっていき、いつかは自分に襲いかかってくるのだと。 それが勇者とはいえ肉親を消してしまい、悪人に私的制裁を加えた自分自身への罰であるのだと。 もしかしたら、その悪意は日輪の勇者の罪悪感へと形を変え、彼女を苛んでいるのかもしれない。 [今までのこと] 日輪の勇者は、小さな国の独裁者の娘として生まれた。 王は既に勇者になれる見込みがなかった為、娘を勇者にさせようと必死に教育を行った。 立派な人間に育て上げれば、女神様もきっと勇者にしてくれる…と信じ込んでいたのだ。 だから、母も父も物心もつかない頃から彼女に厳しかった。 暴力などは日常茶飯事で、彼女の要望が通ることは一切なかった。 唯一許してくれたのは、使用人をつけること。 どこからか母が連れてきたその使用人は、左目しか存在せず、自分と同じくらいの歳で、自分にそっくりだった。 自分と正反対の氷のような色をした瞳は、吸い込まれそうなほどに美しく、それなのにどこか影があり、優しく彼女を見つめ返した。 名付けは彼女に一任されたため、彼女は、自分のこの狭い世界で唯一優しくて良い人…という意味を込め、善き→ヨキと名付けた。 彼女にとってはヨキだけが話し相手で、遊び相手で、自分の権力が届く人間だった。 ヨキにとっても姫だけが話し相手で、遊び相手で、自分に優しくしてくれる相手だった。 そんな姫が十五歳になったとき、姫は神託を受け、日輪の勇者となった。 王と王妃は打って変わったように娘を褒め称え、もう不必要だとヨキを消そうとした。 しかも、彼女に、勇者として手に入れた力でやらせようとしたのだ。 「ほら、勇者の力を私達に見せてご覧。その力で、そこに居る底辺の人間を完膚無きまでに叩き潰しておくれ」 勇者は激昂した。 ヨキは、私のたった一人の友達なのに。 今まで私をずっと支えてくれていた、 ただひとりの親友なのに。 どうして? そのとき確かに勇者の力は働いた。 ヨキに対してではなく、父と母に。 光と、耳にこびりつくような絶叫と共に、二人は消失した。 後には、呆然と立ち尽くすヨキ及びその場にいた使用人達と、ボロボロと涙をこぼしながら自嘲気味に笑う日輪の勇者の姿があった。 それからは話が早かった。 日輪の勇者が再び明るい彼女に戻るのに数週間を要したが、それまでの間に参謀大臣であるアキという男が全てを片付け、整えてくれたのだ。 日輪の勇者は王位を継承し、一国の主となった。 その時に国民の前で話した内容はこうである。 「父上も母上もどこに消えてしまったかわかりません。ですが、今の当主は私です。私が、この国を守り、豊かにし、笑って暮らせる国を作ってみせます。そして、周りの国々は全てこの国の領地にします。それは支配ではなく、勇者の力で魔王の悪手から保護する為です。父上と母上がいつか戻ってきたとき、国民全員で胸を張れるように生きてください。厳しいことがたくさん待っているとは思いますが、正義を信じて戦いましょう」 その言葉に、大多数の国民が賛同した。 彼女は裏でヨキにこう話した。 「正義なんて私が言える言葉じゃないわ。でも、やれるだけやらなければいけない。話は簡単よね、全部私のものにすればいいのよ!それに、外の世界も見てみたいし…何より、私とヨキにも友達が必要よね?」 外の世界にはがとうしょこらという食べ物があるらしいわ、美味しいのかしら? そう話す彼女の表情は、開放感と喜びに溢れていた。 まるで、今までのことは全てなかったことになっているかのような__。 彼女に名前はない。二つ名として授かった日輪の勇者という言葉だけが、彼女のことを表している。 最近はヨキに、「日輪だから、ヒナワでいいような気もするわ」と話しているらしい。 [性格のこと] 能天気さ(天然?)と力に対する強い思いを併せ持っている。 心が幼少期からほとんど成長していないので行動とか反応が子供っぽい。 ずっと勉強を強いられてきたので、頭も良く最低限のマナーと常識は持っているが、十五歳まで関わってきた人間がヨキとアキ(家庭教師兼任)と父母だけだったので多少空気が読めない世間知らずのお姫様。 昔ヨキと入れ替わってこっそり城を抜け出した時に食べ損ねたガトーショコラについて並々ならぬ執着心を持っている。 かなりの自信家でプライドが高い。割に折れやすく、泣き虫でもある。ヨキに共依存の疑惑有り。恋愛感情はない? 勇者仲間に思ったより年上が多かったので人見知りになった。とりあえず二つ名にさんつけて呼んでいる状態。 友達を増やそう作戦を敢行しつつも、その不器用さからかあまり上手くはいっていない模様。 不憫な人や困った人を見つけてしまうと自分に背負いきれない重荷でも背負いたくなってしまうタイプ。 結局失敗して迷惑がられることもある。普段は傍若無人だが根は優しい。 たまに十五歳の時のことがフラッシュバックしてパニックに陥ることがある。 [魔王との戦いなど] 基本的には行き当たりばったり、力の乱用。 ヨキにプレゼントしてもらった二つの法環を用いて戦う。 法環は太陽をモチーフにしており、金色に輝き、外周部分には刺が生えている。たまに本人に刺さる。痛い。 一度敗北すると徹底的に相手を分析し、弱点を探し、攻略法を見出した状態で再挑戦しに行く。 この時の彼女の様子をヨキは「声をかけた瞬間に数百数千の暴言が飛んでくる」と言った。 [周りの人のこと] ヨキ ヨ) ◡╹`) 左目しかない『片目族』と呼ばれる少数民族の一人であり、日輪の勇者の使用人。アイスブルーの瞳をしている。身の回りの世話は殆ど彼が行っているので、日輪の勇者の右腕とも呼ばれている。三歳頃からずっと一緒で、かけがえのない親友のような存在。いつも優しくどんな人間に対しても分け隔てなく接するが、日輪の勇者の悪口をヨキが聞くと、その人間は数日中には何故か行方不明になる。大臣であるアキとなんらかの関係があるという噂も? アキ ア)ー◡∟) 右目しかない『片目族』と呼ばれる少数民族の一人であり、王に仕えていた大臣であり日輪の勇者の教育係。目が細くよくわからないが恐らく青系統の瞳を持っている。王の消滅後は、手早く手続きを済ませ日輪の勇者に王位を継承させることで乗り換えた。今では侵略において参謀担当として的確なアドバイスを行い、日輪の勇者の左腕とも呼ばれている。 その正体は、女神より信託を受けた『暗絶の勇者』である。アキは元々二重人格で、信託を受けた際に力の使い方について良心と悪意がせめぎあい、体ごと二つに分かたれた。その際、アキが姫様をイメージしたのか、姫様にそっくりでアイスブルーの瞳を持った、五歳ぐらいの容姿をした少年、ヨキが生まれた。現在は、アキ(暗絶の勇者・悪)、ヨキ(暗絶の勇者・善)と彼の中で区別している。勇者の証は二つあるのか半分ずつなのかは不明(実はひとつしかなくてアキが隠しているのかも?)。力は等分されている。 [ほかの勇者や魔王との交流] 特にない。ここを追記できたらいいのに!! たまに(よく)調和の勇者の前で醜態を晒して赤面している。 彼も運がいいのか悪いのか、彼女がこそこそと何かやってる時に出くわす。 ハロウィンの時には眠りこけている時に調和さんにかぼちゃのプリン、先導さんにクッキーをもらったが眠りこけているため誰にもらったか本人は分からずじまいだった。あーあ。 [ほかの勇者に抱いているなんやかんやな想い] 調和さん→よくお腹痛いって言ってる人よね?勇者をまとめるって言ってるけれど、大丈夫なのかしら?優しいお兄さんっていうイメージね。お兄さんだけど私よりちょっぴり小さいわ。最近少しずつ話をするようになってきたわね。 読心さん→私と同じお姫様らしいわね!私より大人しくて頭が良さそうよね。同盟でも結んで統治に協力してもらおうかとは思っているのだけれど…如何せん交流が少な、あ、べ、別に私が他人に話しかけにくいって訳ではないのよ!!機会がないだけなんだからね?ね?? 月光さん→話をしたことはないけれど、月の光の勇者なんですって。太陽と月でなんだか運命的よね!いつかお話してみたいわ…なんて、他の人の前では絶対に言えないけれど…。ヨキ、秘密よ?何よその意味深な笑みは。 [戦争・侵略のこと] 基本的には和解を求めようとする。 ずっと城にいたためか、とりあえず珍しいものを見たいという想いが最優先。 敵情視察と称して魔界やほかの国に単独で遊びに行くことも。 勇者、魔王に対しては基本的に人見知りを発動するが、何かを悟っているような者に対しては何故か平然と接する。 侵略侵略と表向きは言いまくっているが、それを言うことで敵意を向けてくる国ばかりを侵略するという一種の作戦でもある。 割と策略家(なのか?) 解放されてまだ一年。遊び足りない!はしゃぎたりない!!勇者の使命は後回し!っていう感じです。
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【背景:城内】 【BGM:城内っぽい雰囲気・使いまわしできそうなの】 【立ち絵:絵師に余裕があれば、メイドさん・表情固定、1枚でその他メイドに使いまわしできそうな感じで】 [舞人] 「そういえばこの世界にも勇者がいたんだったな……ちょっとそいつについて調べてみるか」 [その他] 舞人は城内をぶらつきながら、暇そうなメイドを見つけては片っ端から声をかけてみた。 [メイド] 「きゃあ、勇者様よ……」 「ホントに!?」 [その他] すでに城内には舞人が勇者であるという噂が広まっているようだ。 メイドたちの舞人を見る目の色が明らかに違っていた。 [舞人] 「うはwwwなんか天国みたいなんですけどwwwww」 [その他] 舞人がニヨニヨしながら話を聞いて回った結果、勇者についていろいろとわかってきた。 【立ち絵:可能ならば、ルーシィの立ち絵をシルエットに】 [その他] まず第一に、勇者はうら若い少女だということ。 なんでも、前時代の勇者であるアシュレイの血筋のもので、世界に危機が迫ったとき勇者としての力を持った女子が生まれてくるという設定、もとい伝説があるようだ。 その伝承に従い生まれてきた少女こそ、フォスタリアの現勇者ルーシィなのだそうだ。 もっとも、魔王に敗れて以来戦いの世界からドロップアウトしているらしく、元勇者といったほうがよさそうだ。 [その他] 次に、勇者の一人称はボクだということ。 【立ち絵:なし】 [舞人] 「ボクっ子ktkr!!」 [その他] なぜか一人盛り上がる舞人。 [舞人] 「こんなのファンタジー世界ならではだよwww現実のボクっ子なんて幻想だからなwwwwww」 [その他] 不気味な笑顔をともに見えない炎をめらめらと燃やす舞人だったが、それを誰一人不気味がるものはないかった。 【立ち絵:メイド】 [メイド] 「勇者様が燃えているわ!」 「きっと魔王を打ち滅ぼさんと燃えているのね……素敵」 [その他] 勇者フィルターがかかってしまうと、こういうヘンタイも素敵に見えてしまうものらしい。 【立ち絵:メイド→るーシルエット】 [その他] そして、勇者は巨乳だということ。 [舞人] 「盛り上がってきましたwwwwwwwwボクっ子で巨乳ですかwwwwwww裏技ですなwwwwwwwww」 [その他] 舞人はあってもなくてもどっちでもいける派ではあったが、あればあるに越したことはないという柔軟すぎる発想を持っていた。 言い換えれば、おっぱいだったら別になんでもいいとも言うのだが。 [舞人] 「これはもう決まったなwwwwww」 【立ち絵:なし】 【演出+効果音:バァーン! みたいな音と、画面を軽くフラッシュ】 [舞人] 「フォスタリアの勇者と異世界の勇者の混血最強勇者王伝説を作ればいいんじゃね?wwwwwww」 [その他] 舞人の背後に荒木タッチで「ガガガガガガガガ」と書き文字が浮かぶ。 [舞人] 「そうときまったら、勇者ルーシィに会いに行くぜ!」 【暗転】 次へ
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第二十三章-第一幕- 成長の兆し 第二十二章-第三幕- 第二十三章-第二幕- 勇者軍主力部隊は、海戦での危機を乗り越えて、 ようやく陸地まで到達する事が出来た。 あとはアーム城への訪問である。 戦力もだいぶ整う事になるだろう。それほどまでに 王女ユイナの存在はこの勇者軍では重要である。 それはさておき、勇者軍一同はアーム城に入る事が出来た。 とはいえ、流石にエルリックは連れて行けないので、 先代艦長であるカーティス=ワイズマンが船もろとも預かった状態だ。 ここからのコンラッドは、一般兵と変わりが無い存在となる。 「ユイナ姫ー! どこですかー!?」 フローベールが上がりこむなり、いきなりユイナ姫を探し回る。 「ど、どうしたんですか!? フローベールさん!? 皆さんも……」 ユイナ姫が姿を見せ、そして驚く。 「どうしたもこうしたもありません! バスクは!? 安否は確認出来ているんですか!? ユイナ姫!」 姉なので当然だが、バスクが心配でたまらないフローベール。 ユイナ姫も心配そうな顔で応じる。 「たまたまシエルとジークさんが遭遇したところで 行方不明になった、と連絡が入っています。 シルヴィアさん達が出立した直後ぐらいのタイミングですね。 ただし、生命反応は追えていて、生きているようですよ。 もっとも現地の水害がひどく、 まだ出てこられないようですけど……」 「そうですか……」 まず生きていると知ってホッとするフローベール。 「ああ、でもあの子すぐおなかとか空くから…… 最低限の非常食は持ってたと思うけど……心配です…… せめてこの非常食袋を届けてあげられたら……」 と、凄まじいパンク具合を見せている非常食袋を取り出す。 むしろ内容量よりそれを詰めた技量を賞賛すべきか。 「それも大事ですが、すみません、ユイナ姫。 アンノウン・ベビーに脱走されてしまいました……」 と、申し訳なさそうにリゼルが言う。 「脱走? シルヴィアさんに懐いていたのにですか?」 「ええ。それは間違いないんですが、いかんせん時期が悪過ぎました。 敵の襲撃でダメージを受けて、逃亡してしまったんです。 出来れば全世界規模での 捜索網を立てておいて欲しいのですが……」 「分かりました。出来れば管理下に置いておきたいですからね。 というより、敵とは、やはり例の『FSノア49』ですか?」 「えふえすのあふぉーてぃー?」 何のこっちゃ分からん、という顔をする一同の前で、リゼル一人が 「あ、敵がなんかそんな名前を言っていたような気がします。 それって、例の円盤都市の名前か何かですか?」 「ですねー。ザン共和王国民政部が突如こう呼び出したので、 仕方なく私達も準拠して呼ばせてもらってますけど。 なんでそんなコードネームにしたのか、教えてくれなくて。 正直、お母様の再交渉も難儀しているみたいです」 ユイナ姫もやれやれ、という顔をする。 とはいえ、いつまでも名称不明では締まりがないのも事実。 とりあえずその呼び名に総員が従う事にした。 ともあれ、敵はそのFSノア49だけではない。 「いや、もうなんか早速民政部からの嫌がらせっつーか 妨害っての? そういうのが立て続けに来るのよね。 とりあえず、ここに来るまでに二回は襲われたわね」 「二回もですか!? まずいですね…… お母様の再交渉、上手くいっていないんですね……」 ソニアの文句に、更にユイナ姫は怪訝な顔をする。 (毎回撃退すればいいのー) 「あのね、ジル君。事はそう簡単でもないの」 と、子供をあやすようにユイナ姫が言う。 「レオンハルトおじ様もそうだけど、民政部には 少なくとも六名の戦闘エキスパートが揃っているの。 勇者軍よりも遥かに特異な戦闘能力の持ち主だから、 甘く見ていると酷い目に遭わされるかもしれない。 というよりまともな戦士はおじ様だけかも……」 「ネイチャー・ファンダメンタルみたいに 変な奴等がうじゃうじゃ出てくるっていうの?」 ルシアも気になるのか、訊いてくる。 「性格的にはまともな人達ですよ、政治家ですから。 ただ純粋に能力が特殊な人達が多いらしいんです。 私も知人が多いわけでもないから詳しくは無いですが…… 今までに類を見ない苦戦の仕方をするでしょうね。 勇者軍としては当然、抵抗せざるを得ない立場ですけど、 そうなると、彼等がもうすぐ出てくると推測されます」 「つまり、時は金なり、ですね?」 シルヴィアがなんとなく噛み合っていないまとめをするが、 大体伝わるので、気を利かせて黙っていてあげる一同であった。 「となれば、ユイナも行かねばならないでしょう」 と、後ろからイスティーム王が姿を見せる。 「ほら、既に荷物の支度はさせてあります。 幻杖レプリアーツは持っていますね?」 「はい、お父様。きちんと持ってます」 と、家宝である幻杖レプリアーツを取り出す。 ストレンジャーソードに匹敵するスペシャル装備だ。 ほぼ全ての魔法や技をストックのキャパシティ分だけ吸収し、 任意に即時放出出来るという反則極まりない武装である。 「では、行って来て下さい。バスクの事も心配でしょう。 今回は私が自ら、この城を守らせてもらいます。 軍機で守られた部分も責任を持たないといけませんしね」 「はい、行って来ます。じゃあ行きましょう、皆さん」 ユイナ姫はむしろ乗り気で参戦してきた。 やはり、自らの手でバスクを探したいのだろう。 その想いは、むしろフローベールと並ぶところだった。 「必ずバスク君を探し出しましょう、フローベールさん」 「はい、必ず見つけ出してみます。待ってて、バスク!」 固い握手を交わす両者。 (ユイナ姫が加わってとっても頼もしいのー) 「……あれ? 隊長、思考送信ってそんなに明確に出来てたっけ? なんか以前よりずっと明確に隊長の声が聞こえる気がすんだけど。 てかなんか隊長、目が変じゃねぇ?」 と、ここまで黙っていたコンラッドが疑問を示す。 確かに、ここしばらくの訓練のおかげで、 ジルベルトのテレパス能力は先鋭化し、思考を送る力も より明確化してきた。それはサイキッカーとしての領域である。 しかし、そこまでくれば副作用も生じてくる。 副作用には個人差がある。ほとんど他人には区別の付かないものから 容姿があからさまに変わるものまで千差万別である。 参考までに、初代勇者軍メインメンバー、セレナ=カレンの場合は 髪型が無作為に変わる、というワケの分からないものであった。 ジルベルトには……オッド・アイ化の兆候が見られる。 特に実害は無い模様であるが、見慣れないと違和感がある。 現実的には超能力使用中の合図である、と見なされているようだ。 「じゃあジル君、ひょっとしたらサイコキネシスが使えるかも。 練習してみたら実戦でもいけるかもしれないわ」 と、ユイナ姫がボールを渡してくる。 (ん~~~~~) ジルベルトが強くボールを意識すると、 ふいよふいよと、実にゆっくりだがボールが動き出す。 やはりジルベルトの能力には成長の兆しが見られた。 この不安材料だらけの戦局においては、数少ない希望であった。 「じゃあジル君は練習しながらでいいけど、行きましょう。 とりあえず、レイリアさんとエイリアさんに出撃願わないと」 「メインメンバーが多い方が嬉しいからなぁ」 と、コンラッドも同意した。 こうして大方の方針は決まり、次の目標地点は妖精の森。 目的はルスト家メンバーと合流の流れとなった―― <第二十三章-第二幕-へ続く>
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先頭を歩いていた律が止まる。紬もそれに合わせて静止。 足元ばかり見ていたが初めて周囲と頭上に目を凝らす。 唯「鳥居?」 そこには巨大な鳥居があった。 10mはくだらないであろう。 この小さな島に似つかわしくない巨大な鳥居。 こんな山奥になぜ鳥居があるのだろう。 森の緑のなかで夕暮れとシンクロするように朱色の鳥居。 どう考えても不気味であるが、鳥居があるなら、 律「この先に神社があるかもしれないな……」 紬と唯も同じ見解に達し、小走りで先を目指す。 山道は相変わらずだが、空のほうはすっかり夕闇だ。 いそがなくてはならない。 三人がお互いの顔をやっと認識できるぐらい日は沈んでいた。 もうほとんど足元も見えていない。 マッチで火をつける余裕もなかったので、 構わず走る。 一気に周りの木々が晴れて、 海に日が完全に落ちたのが見えた。 そこにはどでかい鳥居とは対照的に ポツンと薄汚れた神社と社務所が並んでいた。 律がなにもいわずに小型の鉈を取り出す。 暗闇の中で刃の先がきらりとあやしく光った。 唯「りっちゃん……?」 律が社務所のドアノブを鉈の背でたたき、 二人に向かって二コリと笑う。 律「やっと、休めるな……」 律は荷物を投げ出して倒れるように寝込む。 緊張の糸がほぐれたのか、唯と紬も倒れこんだ。 三人ともかなりの肉体的疲労がたまっている。 おたがいろくに話すこともできず精神も疲弊した。 極限状態の中で三人はまさしく倒れるように寝た。 これは実はのちにかなりのダメージとなる。 最初に気付いたのは唯だった。 次いですぐに紬が気付き、 律も二人の話声で目が覚める。 律「どうしたんだ?お前ら?」 窓の外に目をやると、まだ日は昇っていない。 ともすると、倒れるように寝込んだ数時間後だろう。 こんな時間に二人は一体何を話しているのか。 唯「まずいよ、りっちゃん」 唯「ここは寒すぎる」 言われて律も始めて気がつく。 ペットリと肌にまとわりつく衣服は冷たく、 ドアから入る風もかなりひんやりしている。 律「やばいな、これは……」 体温の低下は免疫、体力、食欲の低下でもある。 低体温症や凍死でなくとも、冷たさは人を殺す。 紬「とにかく、着替えて乾パンを食べて!」 三人は疲れた体をどうにか動かして、 濡れきった服を脱ぎ体を布でふいて着替えた。 乾パンと水をほおりこんでから大量のぼろ布にくるまる。 火をつけたり薪をさがせる余裕もないので、 とにかく食べ物による体温上昇と ぼろ布による低下の阻止ぐらいしかできることはない。 三人は身を寄せ合って互いの体を温め、 少し落ち着いたころになって再び寝付いた。 寝付いたとは言っても鋭利な冷たさが肌に沁みる。 気温は決して低くはないが、疲労が熱を奪っていく。 これだけの疲労はめったなことでは回復しない。 登山は甘くない。小さな山でも甘くはないのだ。 その体力消費と天気の厳しさは顕著である。 その点、三人は見通しが甘かったとしか言いようがない。 山の中の危機は一つではないのだから。 遭難六日目!Aパート! 唯「寒……」 起きたころにはすっかり体が冷えていた。 皮下脂肪の多い女性でなければヤバかっただろう。 澪と梓が小屋の中でビニールシートで体を覆い、 かまどを近くに作ったのに対して、 唯たちは今まで睡眠に無防備だった。 いままで、比較的快適な集落で行動していたため、 断熱性などを考えずに心地よさだけを考えてきたからである。 すぐさま枯れ木を集めて火をつけたが、 思ったよりも風で火が消えてしまいそうになり焦る。 これもかまどを作ったことのない唯たちの弱点だった。 大量の薪の供給で火が消えるのは防いだが、効率は悪い。 お腹の具合が悪くなるなんて事態を防ぐために、野菜は食べず。 少しばかりの水と乾パンを朝に食べた。 日が昇ってすぐだったが三人はひどくむくんだ足と全身の痛み、 そして体温の低さのせいかあがりきらない体調のせいで、 すでに今日の探索はあきらめていた。 体が重く感じられた三人は昼ごろまで寝ることにした。 眼はすっかり濁り、自然の前での無力感に暮れる。 いままでは仕組まれたように順調だった無人島生活。 無人島での挫折から立ち直るのに、時間が必要だった。 澪「うめー」モグモグ この澪、ノリノリである。 遭難六日目!Bパート! 二人は早起きして魚を釣り、 ドングリと一緒に魚の塩焼を食べた。 タンポポは飽きるといけないので今朝はやめて、 タンポポ茶と蛇苺をとる。 梓「澪先輩、お魚好きなんですね」 澪「ああ、山椒とかスダチとかあればもっとうまいよな、これ」 梓「ちょっと臭いですよね、やっぱり」 食後少ししてグミの実を食べ始め、 タンポポの葉とグミの実を片手に洗濯や塩作りをする。 梓は釣りとバッタとり、魚の解体に精いっぱいで、 起きてからほとんどまったく家事はしていないが、 食事の中でのタンパク質の充実はひとえに彼女の尽力である。 梓「やってやるです!」 今朝からすでに10匹以上の魚が彼女にやられている。 梓がとっているのは、昨日のも含めすべてウグイという魚だ。 煮ても焼いても美味くないので雑魚として釣り人に嫌われている。 きれいな川という条件が大きく味方したのか、 しっかり塩でやいたここのウグイは美味かったらしい。 澪梓「いただきまーす!」 今日の昼飯はドングリとタンポポ汁の塩焼ウグイ入りである。 このタンポポ汁が存外美味い。 タンポポの苦みが臭さを美味く消していて飲みやすいのだ。 かつウグイの出汁は苦みを和らげる。 無人島ではなかなかの御馳走である。 澪「この魚うまいなあ」 梓「ですね、これってひものとかにできますかねえ?」 澪「できるんじゃないか?そしたら最高だ」 梓「保存食ができたら、行動範囲が広がりますもんね」 澪「あいつらを探す余裕も出てくるかもしれない!」 彼らもまた、いくら順調であっても生きるだけで精いっぱい。 仲間たちを探しに行くような余裕は残念ながらなかった。 澪「ひものか、あいつらにも食わせてやりたいなあ……」 梓「燻製とかにもできますかね?」 澪「燻製はどうだろうなあ、作り方もわからないし」 二人は水だしタンポポ茶と蛇苺を飲んで再び各々の作業に戻った。 二時間ほど続けてから、魚を火の近くにおいて二人は探索をしてみることにした。 探索といっても食べ物を探す程度で、 持っているのは鉈とナイフぐらいのものだ。 海のほうには食べれるものがあまり見つかりそうにないので、 水たまりから比較的山中の歩ける道を選んで歩いていくことにした。 梓「なんかあるといいですね」 澪「だなー」 遭難六日目!Aパート! 唯たちはドクダミ汁を体のあちこちにぬり、 特に体の痛いところには生の葉を貼った。 乾いた葉で出した煎じ茶を苦い顔して飲む。 律「にがいなあ……」 昼飯には同じく乾パンを食べて水を少し飲んだ。 体力の消費をおさえるために、 誰もが半分寝たような状態で倒れている。 誰も次の日の計画の話を始めなかった。 ミイラ取りはミイラになってしまうのだろうか。 遭難六日目!Bパート! 澪「なんか、ここらへんの地面は開けてるな」 梓「はい、なんだか畑だったみたいですね」 澪「トマトとかはえてないかなあ」 梓「この荒れようじゃ流石に無理じゃないですか?」 澪「うーん、なんか野菜生えてないかなあ……」 梓「あれ、向こうに見えるのって……」 梓が指で指し示す先にはどこかで見たような赤い実がなっていた。 澪「あ、あれは!」 唐辛子である。 澪「唐辛子か……」 近くまで近づいて赤くかわいらしい実をなでる。 雑草の中で赤い色は際立っていた。 この前見つけたみつばは摘んだ分で終わってしまったが、 こちらの唐辛子はこんもりと実っている。 梓「料理のレパートリーが増えますね」 澪「こちらとしては野菜のほうが嬉しいんだけどなあ」 塩味に変化が付けられる簿は結構だが、 これではあまり腹の足しにはならない。 辛いものは辛すぎるとお腹にも悪いとう。 澪「あれ、よく見りゃ近くにピーマンも生えてるな」 緑のごっつい実がかげにこそこそとなっている。 ピーマンと唐辛子は仲間であるという。 同郷のよしみで唐辛子が庇っていたのだろうかなどと澪は考えた。 梓「メルヘンですね」 澪「人の考えを読むなー!」 よーく見てみると畑にはピーマンがそれなりにあるらしい。 唐辛子も大量にあって、新しい食材は簡単に獲得できた。 澪「タンポポ以外の野菜が久々に食えそうだ!」 梓「あれ、なんか向こうに赤いものが見えません?」 澪「赤いものってなんだよ、はっきり言ってくれなきゃまた期待しちゃ…… 鳥居のようなものが目に飛び込んできた。 木々のグリーンの中で朱色が強烈なコントラストとなる。 澪の脳内で幾千もの鳥居のイメージが飛んでいる。 澪「行かなきゃ……」 梓「へ?」 梓「ちょっとまってくださいよ!いきなりなんです!」 澪「あそこに行かなきゃならない……」 梓「いきなりわけのわからないこと言わないでくださいよ!」 澪「あそこに鍵があるんだ!」 梓「鍵?なんですかそれ?ちゃんと落ち着いて日本語で説明して下さい!」 澪「行くぞ!」 梓「ちょっ、待って!」 澪は手に持っていた唐辛子を投げ捨てて鳥居に向かって駆けていく。 梓もわけのわからぬまま澪を追いかけて行った。 澪にもなにがなにがなんだかわからない。 しかし、あそこにいかなければならないという危機感ばかりが募る。 鳥居まで来ると、なんでここに来たのかは分からない。 しかし経験がここを目指す必要を告げている気がした。 暫くすると梓も追いつく。 梓「あれ、ここって……」 澪「お前もか……」 デジャヴュ。二人はここに来たことがあるような気がして仕方ない。 この鳥居の朱色が頭から離れようとしないのだ。 気づくと二人は無言で道を駆け昇っている。 木々が開けて日の光が照る。 まぶしい輝きのずっと手前。 そこには三つの人影が……。 素っ裸でドクダミを貼りあっていた。 澪梓「……」 唯「あれ、澪ちゃんあずにゃん!!!」 律「お、おまえら!生きてたんだなあ!」 紬「そんな、二人とも……!!!」 なぜだろうか、先ほどまでの高揚感に似た胸騒ぎはどこにもない。 澪「お前ら……」 梓「みなさん……」 澪梓「こんのおおおお、ド変態があああああああああああああああ!!!!!!!!!」 何回も八月が来れば、人間時折はじけてしまう。 初めてのサバイバルの手際の良さもつまりはそういうことである。 終わらない夏休みが救った命もあるのだ。 感動の再会については多くは語るまい。 全員が全員涙し、ともに笑いあった。 繰り返されるコントのような会話は、読者の想像にお任せしたい。 澪と梓の介抱で三人の体力も回復した。 このあとも島で五人は探検を繰り広げる。 だがとりあえずは筆者が語る物語はいったん幕である。 サバイバルに大切なのは友情や勇気ではない。 そんなくさいセリフを吐くためにサバイバルは存在するのではない。 サバイバルに必要なのはサバイバルである。 この言葉を理解できたとき、真のサバイバラーへの道は開ける。 若人よ。恐れるなかれ、サバイバルせよ。 第二部 完 戻る 第2.5部
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第二十六章-第一幕- 真なる恐怖、迫る 第二十五章-第三幕- 第二十六章-第二幕- グラード・シティから強引な撤退を決行した勇者軍は、 魔神軍メインメンバーである、ノーラとも共闘したものの、 結局は別れ別れになり、現在兵器工場をまともに稼動させている 数少ない拠点である、港町ヴェール・シティへ移動した。 兵器工場にお邪魔して、通信施設も借りて アーム城と通信を取っている。 こういう時のウォルフ王子は本当に忙しそうである。 「アーム城と通信、繋がりましたね…… こちらウォルフ。通信兵、いますね?」 「はっ、こちらアーム城通信施設。現在浮遊中、 高度千五百メートル付近に滞空中。回線、良好です」 「例のマスターハード搭載型人工衛星の稼働状況を報告して下さい」 「はい。予定通り本日、正午から稼動開始します。 ……っと、そろそろじゃないですかね。 端末にリアルタイム送信可能にしてありますので、 アップデートのインストールをしておいて下さい」 「了解。避難させた民間人達の様子はどうです?」 「至極落ち着いている素振りを見せてはいますが、 やはり地上の様子が気になっているようです。 イグジスター情報はリアルタイムで伝わりますので……」 「……了解。では、そのまま警戒を密に」 「はっ」 通信が切られる。 「…………よし、アップデート完了。来ますよ、データ」 全員が端末を握り、世界地図をじっと見つめる。 すると、異様な数のイグジスター反応が世界中に表示される。 まったくいないのは、海中とか、よほど小さな離島ぐらいだろうか。 「なっ!?」 エリックがまず驚愕する。ご丁寧に推定されるイグジスターの 数量をカウントする機能を見て驚いたのだ。 「一億二千五百八十万……!?」 なんと、せいぜい数千万程度だと思っていたイグジスターが、 既に一億を突破して世界中をじわじわと侵食しているのだ。 「ぐっ……まさか、奴等の勢力伸張がこれ程とは……!」 エリックが歯噛みするが、ウォルフ王子はあくまで冷静だ。 「それでも、宇宙の各コロニーでは膠着状態を保っていますし、 機械に対して極端に弱いなど、弱点も露呈しています。 擬態さえ抑制し続ければ、いつかは殲滅も……可能です。 そのためには兵器工場を出来るだけ守り抜きたいですが……!」 「いや、もう一つ対策があるぜ」 ロバートが対策を打ち出した。 「!?」 突然の発言に驚愕する一同。 「グラード・シティで俺達が敗走した時、 海岸沿いの都市であるにも関わらず、 水中から現れたのはセイレーン・イグジスター一匹だけだっただろ? それに世界地図を見ろ。水中に反応が一切無いのも逆に不自然だ。 仮に擬態して知性を得て、船を操り出す、と仮定したところで、 擬態そのものを阻止し続ければ、 一方的に攻撃するのも可能かもしれん」 「なるほど……!」 ローザとエナが一際びっくりした。まったくの盲点だったからだ。 「となると、退避先としての最適解はどうなる、ウォルフ?」 「船舶、艦艇、ないし潜水艦による水中、水上での行動、ですね?」 「だったら、今取るべき行動は何だ?」 「カイトさんをここに呼びましょう。あの潜水艦、 ブルー・ワイズマンMk-Ⅰであれば、兵器を組み立てたりする 設備にも事欠きませんし、簡易工場代わりにも出来ます。 また潜水艦からの一方的ミサイル攻撃も可能でしょうね」 「だったらやれよ」 「はい」 ウォルフ王子は通信施設を用いて、アドレスコードを検索し、 カイト=ワイズマンを呼び出した。 「ああ、こちらカイト。現在海中から策敵中。 暗号通信とはいえ、若干穏やかではないね」 「それどころじゃありませんよ、カイトさん。 あなたの艦が、対イグジスター戦においての 決定的戦力の一つになるかもしれないんですから?」 「そうとは思えないんだけどね。以前、この艦は イグジスターの侵入を許しているしね」 「ですがそれは係留時の話のはず。 それとも、海中や海上にいる時に奇襲でも受けましたか? つまり、そういう事だ、とロブは言っていますよ」 しばらく熟考してから、カイトは答えを出す。 「なるほど、言われれば隊長の言う通りだね。 つまりイグジスターは、擬態でもしない限り、 水中への攻撃、及び進行手段を持ち得ない、と?」 「そうなります。となると世界中の船舶、艦艇、潜水艦を結集し、 民間人の退避所として利用するのが最適解でしょう。 その上で離島などに避難し、 敵が手出し出来ない状況に持ち込んで、 離島に兵器工場を建造するのが無難かと思います」 「今までの君達の理屈でいうと、制空権と制海権は、 未だ人類のものだと断言して構わないわけだね。 ならば急ぎ、あらゆるネットワークを駆使して 各国家、各自治体に通達。兵器工場を離島に建造して 一気に反攻の準備を行わないといけないみたいだ」 「お願いできますか?」 「やってみる。ちょっとヴェール・シティからは 遠い位置にいるので合流までの時間をフルに使わせてもらう。 なので合流に最適なポイントをこちらで指定するので、 すぐに移動を始めてもらいたいところだ」 「はい、指定をどうぞ」 「ヴェール・シティから南西方向に向かう道を進めば到着出来るね。 リプトール・タウンという小さな港町だ。この潜水艦も かろうじて係留可能、という程度の町だが、 この際、目立たない方向で話を進めたいからね。 イグジスターに察知されると本当に厄介だし」 「はい、じゃあそのつもりでこちらも移動します!」 カイトはすぐに通信を切った。不必要な通信の継続は 魔神軍に察知される可能性も高く、妨害を受ける危険があった。 彼等と交渉の余地はあっても、現状は対立関係なのでしょうがない。 「リプトール・タウン付近にイグジスターの反応はあるか?」 ローザがぶつぶつ言いながら、端末をいじると、 リプトール・タウンの周辺に少数ながらも反応がある。 といっても前の戦いの三十万という数に比べて、というだけの話で、 実際その周辺には数万単位のイグジスターが辺りを策敵していた。 情報履歴を見てみれば、リプトール・タウンは人口も少数で ほとんど無視されている状況にあるようだったが、 何か起こればいつでも襲える、という態勢と見るべきだろう。 すなわち勇者軍が来る、という重大事態が発生した場合、 イグジスターが集団で到来する可能性がかなり高い。 それを覚悟の上で、リプトール・タウンでの合流を目指すのである。 局地戦での犠牲は覚悟してでも大局の上で勝たねばならない。 いざと言う時は、民間人をシェルターに封じる必要があるだろう。 それらの覚悟を決めて、勇者軍はリプトール・タウンに向かう。 かすかな希望を求めての流転と敗戦の繰り返しが、 またもリプトール・タウンで勇者軍を待ち受けているのであった…… <第二十六章-第二幕- へ続く>
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DQⅢ 【縛りプレイ】の一種で、分類するなら「少人数攻略」にあたる。 最初に主人公である【勇者】を殺して蘇生させず、残りのメンバーのみでゲームを進めるプレイ方法。 Ⅲでは、クリアするまでは勇者をルイーダの酒場に預けることができず、道中はずっと棺桶を引きずって歩くことになるため、この名前がついたのだろう。 強力な勇者を使わず、先述のとおりクリア前に勇者を外せないため必然的に3人以下での冒険となり、難易度は跳ね上がる。 なおFC版では、バラモス撃破後はゾーマ出現までラーミアがいなくなってしまう。 バラモスを倒すと暖かい光があたりを包み、パーティ全員のHPとMPが回復して死者も生き返るものの、この冒険を行っているのであれば、このときの勇者のレベルは1であるはずだ。 勇者はレベル7にならないとルーラを覚えないため、バラモスを倒したときにルーラを使えるメンバーがいないとアリアハンに帰れず、【ハマり】状態となってしまう。 そのため、この冒険中にルーラを使えないメンバーのみでバラモスに挑むときは、キメラの翼を忘れずに。 リメイク版では、暖かい光があたりを包んだあと、どこからともなく声が聞こえ、パーティ全員をアリアハンまで自動的に送り届けてくれるようになったため、ここでのハマりはなくなった。 まれに、勇者の生前の装備(【どうのつるぎ】と【たびびとのふく】)を再利用もしくは売却するか、そのまま使わずに棺桶に入れておくかで議論になることがある。
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勇者王 誕生日: 1967/08/25(本人誕生日) 2007/05/29(勇者王 HOTEI駄コラ祭り初日) 主な活動場所: img 概要: HOTEIと共にコラ素材として使用されることの多いフリーSOZAIの先駆け。 2013年7月現在でも時々カタログ等にその姿を見ることができる。 解説: 【元ネタ】 本名:檜山 修之(ひやま のぶゆき)。 声優。「勇者王」の由来はアニメ「勇者王ガオガイガー」の主人公、獅子王凱を演じたことから。 【二次裏での動向】 2007年の5月29日深夜から早朝にかけて、何故かひたすら勇者王とHOTEIの駄コラが多量に生産される祭りが発生し、この時に勇者王(当時はHIYAMAと呼ばれることが多かった)とHOTEIのフリーSOZAI化が一つの流れになった。ある程度の祭りを経て一度沈静化したものの、その後、NHKで放送された(2009年3月1日)「にっぽん心の仏像~知られざる仏50選」(※)において紹介された矜羯羅童子(こんがらどうじ)がHIYAMAにあまりに似ていたため「」の駄コラ精神に再度火を放つ結果となり、結果、息の長いSOZAIとして使われる事となった。 勇者王と「敗訴」の関係は、その類似性を指摘したコラ画像で立てられたスレの1レス目が「敗訴」で、これがスレ内に広まり、当該スレが落ちた後、他のスレでも使われるようになったためである。 仏像になったり、頭から直接手足が生えたり、アザラシになったりと、およそカタログにあるものと、特に深い意味もなくひたすら合成される。 このようにフリーSOZAIの先駆けとして広く活躍した勇者王は、矜羯羅童子といえば敗訴というイメージを完成させた。特にimg鯖における虹裏駄コラ文化のエポックメーカーである。 (※) 番組自体は2008年11月に三時間番組として放送された「にっぽん心の仏像~知られざる仏100選」の再構成である。 「光にぃいいいいいいいいいいい!!!なれぇえええええええええ!!!!!!!」 カテゴリ: 惨事ネタ 関連項目: HOTEI 関連リンク: ふたば倉庫 (芸能・スポーツネタ→hotei&勇者王) 上に戻る memo: 訂正、追加情報等。 名前 コメント 最終更新日:2013年07月30日 (火) 01時21分03秒