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二つ名:影戯の勇者 名前:??? 凄腕の魔法使い。お前ほんとに勇者なのかとよくほかの勇者に言われ、実は魔王なんじゃないかとさえ言われる始末。基本的に無口で自分のことを語らないため出身もわからない。 【概要】 魔術に関して知識、技術ともに凄腕の魔法使い その魔力は人の領域を超えている。 【ステータスと他者との関係】 身長160cm程度と小柄であるが帽子でそれを誤魔化している。 一人称:私 二人称:君 好きなもの:本、動物 嫌いなもの:馬鹿な人 判明している情報がほとんどなく、他の勇者や魔王から奇異の目で見られている。 その魔力量と強さ、技量から勇者なのか魔王なのか、 あまり話さないし身長も中途半端だから男なのか女なのか、 その素性については様々な噂があるが、真実は誰もわかっていない。 【能力】 自身が元から持っていた多種多様な一般的魔法に加え 彼独自の影を操り攻撃や防御に使用できる魔法を所持している。 この影は形の繊細さや量の多さ、硬度の硬さなどが自身の魔力に依存しており激しい疲労などで質が落ちるが、 彼自身に内蔵された魔力量からしてそうそう破られることはない。 ちなみに彼の服の黒い部分はこの影であるため、防御に優れているが魔法の使えない場所では大変なことになる。(主に見た目) 【戦闘】 基本は様々な場所にある影を動物や武器に変化させ攻撃し、 強力な一般的魔法でトドメを刺す戦闘方法である。 【弱点】 先述したが魔法の使えない場所や状況では影も操れなくなり強さが一般人を下回ってしまう。 魔術の強化の為、日夜研究や修行に没頭しているため体力はあれど筋力が全くない。 なので魔力が使えない場所や魔法の効かない敵にはめっぽう弱い。 勇者100選のとある1ページ 勇者たちのなかで注目すべき100名を選出し、魔界の者たちが調べた知識をまとめた魔界発行の書物があるらしい。 この本ははるか昔に発行された勇者100選のとあるページの記述である。 今もしこの本を手に入れたなら、より正確で推敲された文章となっているだろう。 __________________________________________ ___________________________ _________________________ 【勇者100選 第■刊 ■■■■年発行】 --No.12 影戯の勇者-- 危険度☆☆☆☆☆ 友好度☆ 魔王討伐数 5(後述の能力で召喚された個体の中で過去に存在した魔王と思われる姿の数で確認しているため性格な数は不明です。) 戦闘傾向 魔法型 ~~~この勇者についての情報提供は随時受け付けております。~~~ ______________________________________ 《出自》 影戯の勇者の故郷や年齢、性別についてはっきりとした情報は出ていませんが、 宝石の世代の直後に目撃例が報告されています。 《身体》 帽子込みで160cmほどの身長で黒いローブと魔術帽、V模様が2つ刻まれた襟巻マントを着用しています。 基礎身体能力は2mの崖を魔法抜きでは登れず、歩行速度等も他の勇者より遅いことから人間の中でも普通、またはそれ以下の実力と見られます。 《行動原理》 影戯の勇者は「女神の命による魔王討伐」、よりも「自身の影戯魔法の素材とするため」に興味を持った魔王を狩る。と言った行動原理であることが見逃された魔王からの証言で発覚しています。 (見逃された魔王の名については魔王本人の希望により掲載いたしません) 《交友関係》 魔界側から交友を持っている魔王は確認できていません。 ______________________________________ 《魔法》 人間が習得できる高レベルな魔法を一通り使用している姿が目撃されています。 中でも影魔法を得意としており影を物質化、操作し武器防具の代用としています。 また、オリジナルである後述の影戯魔法を使用します。 (影魔法について詳しく知りたい場合は影の魔王にコンタクトをとることをおすすめします) 《影戯魔法》 影戯の勇者の固有能力は影を媒体にした複製個体(クローン)召喚魔法です。 過去討伐した様々な種類の生物に影の肉体をもたせた複製個体を召喚しています。 複製個体であることから元よりも知能や実力は落ちていますが、一度に複数体の召喚を行うことが可能であり、数や連携で補う戦法を取ってきます。 これにより影戯の勇者は個でありながら軍隊並の戦力を持ち、魔王にタイマンを仕掛けてくることがあります。 触媒は元となる生物の心臓、魂、またはその肉体大部分と考えられています。 この多くの触媒は空間魔法を用い巨大な空室に変えた影戯の勇者の影に収納されていると思われます。 確認できる複製個体にはネズミから人、竜種に△の魔物まで数十種類を越えその中には元魔王と思われる姿も確認されています。 生前からの記憶の引き継ぎは確認れていませんので、かつて仲が良かった 魔王の姿が見えても近づかないことをおすすめします。 複製個体は触媒一つにつき一体までであり、その元の強さにより使用する時間や魔力も影響すると魔界の魔法学者により判明しています。そのため竜種や魔王など数を揃えにくいものは単体で召喚されます。 逆に数を揃えやすいネズミや小さい魔物は際限なく出現する可能性があるのでお気をつけください。 影戯の勇者に対し自軍の兵隊を仕向けることが逆効果であり影戯の勇者の戦力を高める結果となるのでご遠慮ください。 影戯魔法で召喚した中で確認できた元魔王(元魔王の2体以上の同時召喚は確認されていません) 目の魔王 量の魔王 移の魔王 鍵の魔王 図の魔王 ______________________________________ 《覚醒》 確認はされていませんが他の勇者同様ろくなことにならないため無意味な挑発等で 覚醒を促すのはおやめください。 _______________________________________ 関連のお話など 影戯の記憶、記録、記述
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生存に必要不可欠なものは何だろうか、水か食料か、衣服や住居、友情や勇気か。 否、断じて否ッ!! 生存に必要不可欠なものは…… 遭難1日目! 最初は四肢がだらんと垂れていて、皮膚が冷たくなっていることだけはわかった。 数十秒、あるいは数分してからだろうか徐々に周囲の状況に気付きはじめる。 砂浜に打ち上げられた自分の身体、少し離れたところにムギと 律が倒れているのがうっすらと見えた 声をかけようにも喉はかれ、舌が動かない、立ち上がろうにも身体がなかなか動きだそうとしない……。 動かない身体はますます倦怠感を増して、すっかり眠くなってきた。憂ならここで寝れば怒るんだろうな。 そんな考えが頭をよぎる。でも、 (でも、すごく眠いよ、憂……) (あれ、律っちゃん……?) 気付くと先ほどまでムギの横にいたはずの律の姿がない。どうにか頭を動かして視線をずらすと、 律が波に誘われ、砂浜から海へ引き戻されているのが見えた。 このままでは律の身体が海へと、沖へと流れ出すのがはっきりとわかった。 (律っちゃん……!律っちゃん……!) 唯の直感はこの潮が律を沖へ流せば二度とは戻れないことを察知した。 同時に紬が暫く起きそうにないこと、律が完全に意識を失い波にのまれようとしていることもわかった。 事実、唯の観察には一切の間違いはない。だが、その現実への理性的な対抗策まではみえなかった。 (どうしよう……律っちゃん……) だが平沢唯は猶予のなさに気づくとまさしく正しい選択を選んだのだ。 瞬間、頭に靄がかかったような倦怠感は晴れて、身体にエンジンがかかる。 友達のためになら、律っちゃんのためにならいける。 「律っちゃあああああああんっ!」 喉を枯らして叫びながら律のほうへかけより身体を砂浜に引きずりあげる。 水の中まで体が浸かっていた律を引き上げるのはなかなかの難作業だった。 もともとそこまで力の強くない唯には律の重さを引きずるだけでもかなりの重労働。 腰に力をこめ、半ばおぶるようなかたちで律を抱えて水中の砂を踏みしめる。 やっと律は引き上げたが、やはり身体のどうしようもない疲労は無視できず、 律を引き上げたところで唯は力なくその場に倒れた。のどの渇きを感じる。 「ううっ、体中痛いよお……」 すでに身体は限界だったが、頭の回転はさっきの運動で急回復したようだった。 まず自分たちが合宿先の海で津波に浚われたことを思いだし、次に周囲の状況を整理を試みる。 打ち上げられたのは砂浜、胸にふれる砂がチリチリと熱いのがわかる。 相当の海水を飲んでしまったのだろうか、喉の痛みと腹部の妙な熱が気にかかる。 どうやら律もムギも息はしているらしいが、意識があるのかは唯からは判断できなかった。 「お腹が熱いよお……」 芯から冷えているはずのなかで妙に熱さを帯びる腹に唯はある種の危機感を抱く。 しかし、動かない体では 手の打ちようもなく、対処方法も判らない。 彼女は自分の衰退した能力でできるかぎり周囲の状況をつかもうとあたりに視線をやる。 まだ視界はみょうにぼやけていて、なかなか思うように景色を把握できない。 とりあえず浜には外の人影はない。エンジン音や音楽のような人工音もないし、 駐車場だとか海の家、船もみあたらない。海辺にしてはやけに静かで人の存在感がないのが気になる。 (どこなんだろう、ここ……?) やや視線をあげて周りに目をむける。高い丘が浜の先に見えた ポリタンクなどの数々の漂着物と丘の上に見える朽ちかけた赤い家。 視界が開けるにつれて閑散とした浜の様子が明らかになっていく。 漂着したゴミは雑然としていてほんの少しも仕分けられた様子はない。 体中の意識を振り絞る。こういう言葉はないのかもしれないがとにかく唯はそれをした。 うっすらと看板が見える。そのあたりだけなぜだか生前としていてゴミも少ない。 まるでそこにだけ朽ちていく運命から逃れられるかのように。 生命感がない。この島のゴミと看板は生活から切り離されたところにある。 この島のモノには命がない そして極めつけは 数メートル先の白い看板にデカデカと青字で書かれた「この島国有地」の字。 人気のない島の無機質さをその看板がより一層際立たせる。 「そうか、ここは!!」 ここは人々に見捨てられて、国に押し付けられた島。 その国も管理を半ば手放した人のいない島。 「ここは無人島なんだね……!」 絶望からか失望からか、そこで頭の回転は急失速し、唯の限界の身体は気絶に近い睡眠を選んだ。 どうやったかは覚えていない。けれど律はどうやら気を失っている紬と唯の二人を砂浜の木陰に運べたらしい。 唯が砂浜に身体を持ち上げてくれたことで、ぼんやりと意識を取り戻ししばらくしてから肌が暑いと思ったのは覚えている。 ほんとうにそれだけの記憶の後で、気づいたら二人と一緒に日陰にいたわけだ。 直射日光の厳しさは予想外のもので、随分長い間海をさ迷っていた身体が熱を持つのに一時間かからなかった。 おそらく砂浜にあのままいれば、熱中症や日射病で身体が完全に動かなくなってしまっただろうという律の推測はおおむね正しい。 冷えた体で日陰に行けば低体温症のリスクもある。しかし、浜の熱さはそちらのリスクを完全に立つほどの高温。 結果としてだが律の判断と行動はグループの生命を救うことに成功したのだ。 サバイバルにおいては環境条件というのは実は生存における最重要ファクターでもある。 とりあえずだが唯の決心と律の判断は死者を出さないことに大きく貢献した。 律「とりあえず、日陰にきたのはいいが……」 凄まじい体力の消費と喉の乾き、突然の出来事への混乱と他二名の安否への焦燥。 どうにかしたい気持ちとどうにもならない身体が激しくぶつかりあう。 律の精神状態は物事を冷静に理解するにはあまりにも傷つきすぎていた。 グルグルグルグルグルグルと律のとりとめもない考えは自らの精神をかき乱す。 助けに行かなきゃいけないなどとつぶやいた後にライブの失敗を思い出したり、 中学の時のテストの赤点が急に恥ずかしくなったり、その後に紬の髪をなでてみたり、 とにかくその精神は深く疲弊していた 律(澪……、梓……) 一番の親友と後輩の不在は律の不安をいっそう掻き立て、気づけば律は涙が止まらなくなっている。 律「澪……、梓……、どうすりゃいいんだよお………」 焦燥に対し疲労した身体と混乱した精神はいつまでも何もできなかった。 涙はとめどなく溢れ、嗚咽は止まらない。 律「うっ……どうしよう……」 すると、そっと律の身体を後ろから何かが包んだ。 紬「泣かないで、律っちゃん……」 いつ目を覚ましたのか、ムギが 律を柔らかく抱き締めてくれる。 潮にあれだけ浸かったはずなのにムギの髪からは優しい匂いがした。 紬「大丈夫だから、律っちゃん」 優しく微笑むムギ。 律「ムギッ!ムギッ!怖いよおおお!」 律はムギに泣きつき、どうにもならない気持ちを少し軽くした。 紬「大丈夫、大丈夫だからね……」 なにが大丈夫かはわからなかったが、律は大丈夫な気がしてきた。 気付いたら律が泣いていた。だから慰めた。それだけのことをする余裕がムギにはあった。 律を抱き締めながら、ムギは自分たちが重大な局面におかれていることを瞬時に理解した。 律はなにがなんでも澪と梓を探したいと思っている。 だが、おそらく、この身体の疲労でそれがままならない状態に律は身を焦がしているはずだ。 それをなだめ、落ち着かせるのは友人としても生存の上でも大切なことだ。 精神的動揺、とくに嗚咽などは体力を過度に消費させてしまう。 ムギはこの木陰の三人の中で最も慈愛に満ちていて、同時に冷静だった。 紬は洞察力においては人を寄せ付けない何かがある。 彼女はまさしく母であり、他人の理性的な愛し方を知っていた。 律「澪と梓が!」 紬「大丈夫、二人とも無事に違いないわ」 律「でも、でも……!」 律の目に再び大量の涙がたまる。 紬「潮の流れを考えて、律っちゃん。私たちと一緒に流されたなら、近くの浜に流されてるはずよ」 律「でも、でも、浜には私たち三人しかいなかった!」 落ち着かないのか、律が大声を張り上げて反論する。 律「澪も梓もこの浜に流されて倒れてないじゃないか!」 律はついにヒステリックなかな切り声をあげて顔を真っ赤にしながら泣き始めた。 なんとか保たれていた心の平静はあっさりと崩れ、再び嗚咽が始まる。 紬「気を失った私たちがこの浜にたどり着いたのよ!」 律「だからなんなんだよ!!」 ますますヒステリックな狂気をおびる律の声は叫びと変わらない。 紬「もし澪ちゃんたちが死んだなら、この浜に遺体があがるはずってことよ!」 律「死んだなんて言うなああああああ!!」 いまにも殴りかかりそうな剣幕で律が泣きながら叫ぶ。 紬「絶対に二人は生きてる!!」 律「どうして!」 紬「この浜にいないからよ!」 律「!」 律は急に力が抜けたように地面にへたりと倒れた。何かに気付いたのか安堵で顔は穏やかな色を取り戻す。 紬「もし二人が死んだなら、気を失った私たちと同じように波に逆らわずにここに来てるはずよ!」 律はムギの説明に納得し、泣きつかれたのか。澪は生きてる梓は生きてるとポツポツ呟きながら眠りに入った。 ムギは優しく律の頭を撫でながら、先の見えない不安と律を騙した罪悪感に抗っていた。 でもねそれは嘘だ、全部嘘だ。嘘なの。律っちゃん。嘘、嘘、大嘘なんだ。 口ではああ言ったが澪と梓はほぼ間違いなく死んでいる。これは間違いないだろう。 本来、潮の流れを考えるなら五人は同じ浜に行き着くべきなのだ。 複雑な潮流の中で、都合よく陸地に向かって物を運べるような流れは数少ない。 三人はその都合のよい流れに乗り同じ浜に着いたのだ。それをとらえなければ浜に物はたどり着かない。 おそらく澪と梓は潮流に乗れずに大海に投げ出されたのだろう。 だが、非情な現実をいまの律に告げることはできない。 澪と梓のことを思うと胸が痛まないわけではない。いや、胸が痛まないはずがない。 しかし、ムギには今目の前で生きてる唯と律を生かすことのが重要だと割りきれるだけの冷たさもあった。 唯と律には澪たち二人が死んでいるだろうなどという現実はいらない。 生きるためには厳しい現実に打ち勝つ、甘い夢が必要なのだ。 紬「ごめんね、澪ちゃん梓ちゃん。私はあなたたちを……」 ムギは涙した。自分の情けなさに二人を探しにいけない情けなさに涙した。 本当は二人に生きていて欲しくて堪らない自分に暴力的に詰め寄る冷静な自分が怖かった。 しかし、泣いてばかりもいられない。水や食料、水着の自分たちが今後の衣料をどうすべきか、 木陰ではなく建物を探し屋内に入るべきか、火はどうするのか、ムギは冷静に尽きない課題へと目を向ける。 二人のことが大好きで大好きで仕方ない自分から、優しい自分から目を背けるのに他に方法はなかったから。 現実の冷たさに心を沈めなければ、すぐに死の灼熱に追いつかれる。 灼熱から隠れて生きるには、じっと心を沈めていくしかない。 寒さにまひしても、心をじっと沈下させる。それも生きるための手段だ。 唯が目を覚ましたころには太陽が傾きかけ、夕方近くになっていた。 浜に漂着したころには多分昼前であったから、およそ6時間以上はぐっすり眠っていた計算になる。 体力はそれなりに回復したが、のどの渇きと腹部の熱はおさまらない。 横に目をやると律とムギは既に起きていたらしく、なにやら話し合いをしていた。 二人が無事に話していることで唯も一安心し、会話の輪に加わっていく。 唯「おはよう」 紬「おはよう、唯ちゃん」 ムギがいつもと変わらない笑顔で優しく返す。 律「お前、寝言でギー太が云々いってたぞ」 唯「いってないよぉ!」 良かった。無人島でも二人ともいつもの調子だ。唯はそんな幻想を信じ込み心の安らぎをえた。 唯「二人とも何の話をしてたの?」 紬「ええ、唯ちゃん、ここでこのままいるのは危険だって話をしてたの」 律「ああ、砂浜は朝晩の寒暖差が激しいし、津波がまたあるかもしれないからな」 唯は寒暖差など全く考えてもいなかった。いくら8月とはいえ海辺はやや冷える。 半乾きの水着しか来てない唯たちには厳しい環境であることは簡単に推察できた。 体温が変化しすぎる環境は生存には適さない。恒温動物にだって限界はある。 唯「どうするの?」 律「民家がみえるだろ?」 砂浜からは林の陰に隠れてはいるが、確かに民家の頭が遠くに見えた。 唯「あそこにいって、一晩明かすんだね」 律「ああ、それに家にいけばなにかしらあるだろうからな……」 なにかしら、おそらくは生存へのアイテムをさしているのだろう。 サバイバル体験のない唯には何が大切かなど皆目見当もつかなかったが、 律と紬はそれぞれ必要なものを頭の中で描いているようだ。 唯「じゃあ行こうか」 善は急げ、 太陽が傾いていくのが普段よりも敏感に感じられた。 おそらく、夜まで唯たちにはそれほどの時間は残されていないのだろう。 紬「ええ、そのつもりだけど……」 紬が言葉を途中で濁す。 唯「だけど?」 律「私たちは今水着で靴も履いてない。そんな状況で砂浜からはなれて足元が安全かわからない場所にいくのはな……」 紬「そう、誰か怪我しても治療の手立てがないの……」 怪我のリスク。病院は愚か包帯も消毒液もない状態での怪我は命にもかかわりかねない。 唯の頭の中にはけがのリスクがしっかりと刻み込まれた。 少しではあるが自分や周囲の行動をきにすべきだという自覚も芽生えたのだ。 唯「じゃあ、どうするの?」 律「あそこにあるのを使わせてもらおうぜ!」 律が示す砂浜の先には、赤ペンキで海のいえと書かれた看板がだらしなーくぶらさがったボロ屋が一件かたむいていた。 日光と潮風のなせる業だろうか、うみのいえの内部は思いのほかきれいだった。 いくらかほこりは積っていたし、天井もなかったが、それほど荒れていない。 奥には倉庫のような部屋があったので、三人で中に入り物色する。 海のいえの奥からビーチサンダルと比較的綺麗な布地と男物の短パンをいただき店をでる。 律「日の当たる店で風通しもよさそうだったから布や服に虫の心配はないな」 唯「どうだろう、いまいちわかんないけど、使うほかないよね……」 律「おーい、ムギ!捜索は終わったかあ?」 紬「うん、とりあえず店の中の鞄にいくつかの道具もいれて持ってきたから」 パンパンと手持ち鞄を叩いて、紬が奥から出てきた。 三人とも水着の上から短パンをはき、マントのように布地を羽織ってビーチサンダルをはく。 最初は布と短パンを潮水で洗おうかとも考えたが、体温の低下を避けるために三人はそれを避けて、 ビーチサンダルのみを軽く洗って、民家へ急ぐこととした。 紬「なんだかワクワクするわね!」 律「だな!」 唯「うん!」 唯は二人のテンションに後押しされるかのように先頭を歩いて民家の見えた先へと向かう。 砂浜にはSOSと石を並べて描き救助に無視されないようにと注意して三人は砂浜を離れた。 唯はともかく、律と紬の二人はSOSの石が慰みにもならないものだと気づいていた。 あれだけの大津波が起きたのだ。おそらくは全国的に津波災害が発生したに違いない。 そのなかで得体のしれない無人島に漂流した女子高生をさがすことなど誰も思いつかないだろう。 浜からの道はずっと砂利続きで、アスファルトと違いサンダルでの歩きにくさが目立つ。 看板の年数からでは推測しがたいが、この島は一体何年前から人が踏み入ってないのだろうか。 そこらに伸び放題の雑草はなぜか砂利道を邪魔することなく生えていたが、 相当な年数この島が人から見向きされていないであろうことを如実に物語る。 砂利道をてくてく歩きながらも唯の頭にはずっとひとつのことが気になっていた。 唯の下腹部の熱はますます強くなる。これは腎臓や肝臓のあたりだろうか。 唯には理由もよくわからないが熱はますます上がっていくばかりだ。 唯「なんか、お腹が熱い……」 律「お前もか……!」 紬「実は私も……」 三人は全員が同じ症状を持ったことに奇妙な不安を覚えた。 紬「そしてのどがすごく渇くんでしょう?」 唯「う、うん!」 律「海水の飲みすぎか……!!」 紬「ええ、多分……」 本能だろうか、医学的知識を持ち合わせない三人には根拠をもちだせなかったが、 潮水の飲みすぎをすぐに察知することができた。 律「急ごう……」 危機感が三人の足取りを速めていく。 2
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再び活動を始めた新生鷹の爪。 最終兵器、神(略)を早くも起動したり、一部の参加者を改造したりと今回はかなり攻めの構え。 さらに一体はアビシオンに倒されたが、未だに99のソダイ軍が東京を闊歩しているのだ。 そんなソダイの小隊が、やつらと出くわした。 「ママ~、ママ~、ママ~」 「だから離れろと……」 「「人は見かけで判断してはいけません!」」 「そうだぞダニども!」 「マッスルマッスルマッスル~」 (こえぇ……) そう、恐怖同盟である。こんななりだが、純対主催である。 ソダイ小隊の目的は、レオナルドが算出した対主催達の上位を捕獲するための素材集めだった。 レオナルド風に言えば、ランクCの捕獲といえる。 「そこの君たち、我々は新生鷹の爪団の者だ。君たちのその熱意、是非協力してもらいたい」 名目はあくまで協力。その気にさせて、本部で改造を施すつもりである。 「新生鷹の爪団ですよ園長先生!」 「彼らも見かけで判断しないんですね!素晴らしい」 (やばい顔で)喜ぶキル夫と園長先生。 「……待つのじゃ」 しかし、母なる竜がそれを止め、ソダイ小隊を睨む。 「生憎であったな。ワラワは朋友ニアラの様子を眺めておった。そしてその相手もの。 そなたらの以前の放送でその者らが呼ばれていたが、ワラワには主催に抗う存在にしかみえなかったが? 操られているのは……いや、この星の支配を企んでいるのはそなたらではないのかえ?」 「くっ!この女……!かまわん!力ずくでこいつらを捕獲するんだ!」 (数が多い……このままでは少しきついのぉ……) 母なる竜に正体を見破られ、ソダイ小隊が一斉に機関銃を構えた。 ただの機関銃ではない。レオナルド特製の80㎜弾速射タイプである。 ものの一秒で、相手は蜂の巣どころか木っ端微塵だ。 「撃てぇ!」 「ちと痛いが、しかたないの。因「危ないママ!」!?」 ソダイ機関掃射と同時にゴアが飛び出した。 その次の瞬間、ここにいる者全員が目を疑った。 「フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフン!!!」 なんと、機関銃の弾全てをゴアがそのまま反射させたのだ。 タキシードがぼろ布と化しても、その筋肉が弾を一切寄せ付けない。 「ば、馬鹿な!なんだこのキモい男は!スーパースキャン! 【超人ゴア@真女神転生SJ】【状態】超人、物理、銃攻撃完全反射……はぁ!?」 ソダイ乗組員はスキャンしたゴアのデータに絶句した。こいつ人間じゃねえ! 「くそ、ならば液体窒素弾を食らえ化け物が!」 機関銃が効かないため、攻撃方法を切り替えようとするソダイ小隊。 しかし、再び恐ろしいものを目の当たりにする羽目となった。 「あぶない、ゴア殿!」 覆面マントの変態…否、勇者が果敢に前へと飛び出した。 次の瞬間にはその全身が凍り付いた……かにみえた。 「そーれ、マッスル!マッスル!」 だがどうしたことか、パンツは砕けちっても肉体と覆面が砕け散らない。 それもそのはず。彼はこれでも勇者。 全裸に鉄の斧装備でも、雷氷風とあらゆる補助呪文をその肉体だけで弾くのだ。 炎熱にさえ強ければ、その耐性はメタルキングに匹敵する。流石伝説の勇者だ。 「うわああああああ!くるな、くるなあああああ!」 「「そーれ、マッスル!マッスル!」」 ほぼ全裸になった筋肉親父二人が銃弾や冷気弾を弾きつつ妙な踊りで急接近してくる…… そんな半端ない恐怖を体験したソダイ小隊は全員髪の毛が全て抜け落ち、ショック死した。 【ソダイ小隊@カオスロワ】全滅確認 「……そなたら、本当に人間か?」 「私はただの踊り子です」 「しかしキル夫くん……これは一大事です。はやく皆さんに新生鷹の爪団の本性を知ってもらわねば?」 「そうですね。逆に呼ばれていた方の保護も必要ですよ!」 「「「「何故だ、何故誰も話を聞こうとさえしてくれない!?」」」」 (……誰か鏡みてくれんかの) 新生鷹の爪団の正体を知った恐怖同盟。 しかし彼らの話を聞く者は誰も現れないのだった。 【四日目0時/新惑星・東京都】 【勇者オルテガ@ドラクエ3(FC版)】 【状態】健康、名前以外記憶喪失、ハッスルダンスとマッスルダンスを習得 【装備】灰色の覆面マント、肌色の斧、勇者の肉体 【道具】基本支給品一式、不明支給品 【思考】1 母なる竜についていく 2 新生鷹の爪団の正体を知らない者に教える 【超人ゴア@真女神転生SJ】 【状態】超人、物理、銃攻撃完全反射、風攻撃弱点、ほぼ全裸 【装備】天帝の剣、ピースメーカー、デモニカスーツ@真女神転生SJ 【道具】支給品一式 【思考】基本:人類とこの世界の未来を守る? 0:新生鷹の爪団の正体を知らない者に教える。 1:新しいママについていく 2:主催者を倒すために仲間を集める 【園長先生@クレヨンしんちゃん】 【状態】健康 【装備】リボルバー銃 【道具】支給品一式 【思考】基本 主催者を倒すために仲間を集める。困っている人がいたら助ける。 0:新生鷹の爪団の正体を知らない者に教える 1 園児達を守る 2 人間は外見じゃないんだってば…… 【キル夫@2ch】 【状態】健康、トエエエエエエエエエエエエイ 【装備】鉈 【道具】支給品一式 【思考】基本 主催者を倒すために仲間を集める。困っている人がいたら助ける。 0:新生鷹の爪団の正体を知らない者に教える 1 やる夫とやらない夫の仇を討つ 2 外見で人を判断するのはよくありませんよね 【母なる竜『ND』@セブンスドラゴン】 【状態】健康、頭痛、人型 【装備】首輪 【道具】支給品一式 【思考】 基本:ロワが終わるまでは人間を守る側につく 1 この子どもたち(ゴア、園長、キル夫、オルテガ)を放っておけない 2 首輪を外す 3 新生鷹の爪団に身の程をしらせる 【DR@魔人探偵脳噛ネウロ】ゴアとオルテガのマッスルダンスにたえきれずひっそり死亡
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登録日:2018/08/26 (Sun) 22 33 24 更新日:2024/03/19 Tue 08 56 56NEW! 所要時間:約 7 分で読めます ▽タグ一覧 ×死なない ○死ねない ネタバレ項目 ハイリスク バージョンアップ 人身御供 勇者であるシリーズ 勇者システム 呪的回路 大赦 戦闘システム 散華 樹海化警報 満開 積み重ね 結城友奈は勇者である 自己犠牲(強制) 樹 海 化 警 報 Forestize Warning バーテックスが壁を通過しました。人類保護のため出動してください。 勇者システムとは、『結城友奈は勇者である』を含む『勇者であるシリーズ』における戦闘システムのことである。 概要 神世紀の四国を守護する神樹を祀っている組織である大赦が開発した対バーテックス用呪術的 科学的戦闘システム。 適応する少女にのみ使用可能。 神樹の力を利用しており、その絶大な力で少女をバーテックスに対抗する唯一無二の「兵器」とする。 基本的にはスマートフォンに専用のアプリをインストールしておき、有事の際は神樹に選ばれた少女が画面をタップすることで勇者システムが起動。 本人に適した形態の特殊戦闘服で身を包み、バーテックスと正面きっての戦闘をする事が可能になる。 しかし精神が不安定だと霊的回路が形成できず変身できない。 適応者は選ぶものの、勇者になれる資質を持つものならば他の勇者のために作られたシステムの流用も可能。 ただし相性があるほか、他人のシステムを流用したものだと満開の継続時間の短縮など悪影響が出るとされる。 スマートフォン 初期の友奈達は自身が持っていたスマホに専用アプリNARUKOをインストールし使用していた。 勇者の章では大赦が用意した特別製の物を使用。 普段から使えるSNSとしてのNARUKOや、樹海内のナビゲーションシステム、バーテックス出現情報アラームなど、様々な機能を秘めた専用アプリ「NARUKO」がインストールされている。 勇者システム起動もスマホにインストールされたアプリを介して行うなど、勇者としての活動に必要不可欠なものである。 結城友奈の章5話ですべてのバーテックスを倒した時は回収され通常のスマホと交換。NARUKOも使用不能になっていた。 精霊 勇者のしもべ。武器の制御やバーテックスからの攻撃の防御を担当している。 神世紀298年、『鷲尾須美の章』後半から実装された。 一匹一匹が異なる能力を秘めており、追加により武器が増えたり、また攻撃に火を纏わせるなどの特殊能力が身に付くこともある。 実体化して現実世界に現れることができるが、極力そうしないようにされている(*1)。 また彼等の力を利用することで致命傷となり得る攻撃を自動で防ぐ「精霊バリア」が実装。 これにより防御性能が大幅に上昇、バーテックスの猛攻を受けても通常であれば大した影響も残さず、また日常生活の中であっても勇者に危険が迫った時にはオートで実体化し、自殺も防ぐ。 後述する満開を行うと、使役できる精霊が増え戦闘力がプラスされる。 封印の儀 『鷲尾須美の章』における最終決戦の記録から、バーテックスの内部に存在する急所にして核「御魂」が発見されたことで追加された機能。 勇者システムによりようやく戦えるバーテックスだが、ただ殴るだけでは基本的には倒せない。 この封印の儀を行い、バーテックス内にある御魂を引きずり出し、それを叩く必要がある。 本来であれば長い詠唱が必要となるが、勇者は気合で詠唱破棄が出来るらしい。 しかし、バーテックスも動きこそ止まるが御魂だけになったあとも無数のダミーで幻惑するなど抵抗してくる上、ミタマを分離しておける時間には限りがある。 更に封印可能なのは一回きりで、ここでミスると世界滅亡というシビアなものである。 満開 勇者の切り札。 攻撃を受ける・敵を撃破するなど、勇者としての経験値を積むことで満開ゲージが点灯。 5つの花びらの数全てが溜まることで発動が可能になる(*2)。 勇者装束の意匠が変化、圧倒的な力と超強力な兵装を得る。 以下はその例。 結城友奈 パンチ力を強化する身の丈を超えるサイズの腕型の強化外骨格が追加。小惑星サイズのミタマをも砕くほどの力を発揮する。 東郷美森 多数の砲塔を備えた艦のような移動砲台を呼び出し、火力だけでなく搭乗によって機動力が向上。ある程度の空中戦や大気圏外まで飛び出しての活動が可能に。また単独で突撃・自爆させることで安全に特攻できる。 犬吠埼風 身体能力(*3)が大きく底上げされる。大剣も強化され更なるサイズアップが可能に。 犬吠埼樹 ワイヤー射出装置が巨大化し背中に装着。ワイヤーの最大射出本数・強度が上昇し、大気圏外から落ちてくる勇者を編み上げたネットで受け止めるほどに。結果的に攻撃バリエーションや汎用性も強化されている。 三好夏凜 阿修羅を思わせる四本腕の大型アームにサイズアップした刀を装備。攻撃速度や機動力が大幅に強化され、また雨のように刀を降り注がせることも可能に。 乃木園子 大型の船が出現し(*4)、増加した槍のパーツがその船のオールとして機能。一本一本が独立可動し近寄って来るバーテックスを寄せ付けず、さらにその刃でのオールレンジ攻撃も可能。最大火力としてバリアを発生させての突撃という切り札を備えている。 いずれも封印の儀なしでミタマや大型バーテックスを撃破可能なほどの火力を発揮可能。 ただし満開や精霊バリアなどの機能には神樹の力を大きく消費するため、同時に戦える勇者の数は5、6人が限界とされている。 とはいえその力はまさに神威の顕現とまで言われる。しかし… 散華 そんな…。それじゃ、あの子たちはまるで… 『生け贄』じゃないですか!! 満開になった花がいずれ散るように、満開を使うたびに身体機能の一部を失うという強烈なバックファイアが存在する。 厳密には神樹が力を与える代わりに本人にとって大切なもの、感覚や手足、記憶などを奪うという形になる(*5)。つまり勇者は神に捧ぐ供物でもある。 勇者システムとの適合性などで継続時間が変動するらしく、他者のシステムを受け継いでいた夏凛は満開継続時間が短いため、通常より満開を繰り返さねばならず、短い間に重篤な反動を負う事になってしまった。 園子が悲惨な事になっていたのは、20回もの満開を繰り返した影響である。 勇者達が散華によって喪失した体機能 友奈:味覚(6話)、両足(12話)、ほぼ全ての体機能(12話エピローグ) 東郷(須美):両足、勇者として過ごした数年間の記憶(わすゆ6話)、左耳の聴力(6話) 風:左目の視力(6話) 樹:発声機能(6話) 夏凛:右足、右腕、両目の視力、両耳の聴力(11話) 園子:心臓の機能、右目の視力、左腕(わすゆ6話)、左目の視力、聴力、発声機能、記憶以外の機能(8話) 当然、日常生活に多大な支障をきたす事になり、散華を繰り返すと最終的にはある勇者のように植物人間状態(*6)になる。 また、精霊達が増加するのも、戦闘時に欠損した身体機能を補う意味合いが大きく、自殺すら防ぐ強固なセーフティも相まって勇者は死ねない。故に一生『戦い続けることを強いられる』過酷な呪いになっている(*7)。 「力を手に入れてから徐々に理性を制御できなくなる」 「力の源と一体化することで超人に なってしまう 」 「元来制御するのが難しい力を無理矢理制御しようとした結果、暴走する」 など、強大な力にはそれに則するリスクが伴うのは以前から様々な媒体が描いてきた。 だがこの場合、開発者サイドが危険性を知悉していながら一切通知しないというのが大きな問題とされている。 もっとも、通知したらしたで志願者が間違いなくいなくなるし、誰もやらないなら世界滅亡は確定事項になるのでおそらくは苦渋の決断なのであろう。 事実として本編でも満開抜きでは一部のバーテックスへの勝利は厳しく(*8)、躊躇っていた場合間違いなく神樹に接触=世界崩壊になっていただろう事態もちらほら見受けられる。 また、大赦側も勇者に選ばれるような貴重で尊い人材を戦いで犠牲にしていく事に心を痛めた結果であるという向きもある。 ただ、その隠蔽体質のせいで結城友奈の章後半では風の大赦襲撃未遂と東郷の壁破壊という「勇者の暴走」を招き、 最強の抑止力として当て込んでいた園子にも「ふざけないでよ」と反抗された事で、大赦は徐々にその隠蔽体質を改善していくこととなる。 『勇者の章』においての勇者システム 『結城友奈の章』最終話での決戦の後、勇者システムは全て回収され、更なるアップデートが施された。 前のバージョンと比べ大きく異なるのは満開ゲージが最初から最大まで貯まっている事と、散華が無くなっている事。 かつての物と同じく満開が可能だが、満開ゲージを全て消費することが条件となっており、変身解除後も消費したゲージは回復しない。 また精霊バリアによる防御には満開ゲージを消費するため、一度でも防御システムを使用すると満開は不可能になる。 満開ゲージを全て使うという事は精霊バリアも無くなるという事なので、1期に比べ弱体化…というよりは扱いが難しくなっている(*9)。 ただ、満開ゲージを全て使い切っても精霊は消えず、日常の小間使い程度ならこなしてくれる。 またこの新満開ゲージは精霊バリアだけでなく攻撃にも転用する事が可能になっており、風はこれを利用して得物を超が付く巨大な大剣へと強化していた。 ビジュアルファンブック内にて書き下ろされたエピソード「その後の園子」ではこのバージョンアップに関しての補完が入っており、 園子曰く「勇者は弱くなるけど、このアップデートで勇者は量産化される」予定だった模様。 後の「防人システム」の伏線になっている。 『乃木若葉は勇者である』における勇者システム 友奈達の時代より300年前、西暦時代に大社(*10)が神樹の力を元に開発した対バーテックス用の戦闘装束。 スマートフォンで変身、常人を遥かに上回る力を持った姿になる、樹海化を知らせるといった基本的なシステムはこの頃には既に存在していたが、武器は別個に存在しているため常に常備しておく必要がある。 しかも初期型故に戦闘力は低く、星屑なら散らせるが、進化体には苦戦するレベル。 そのため、最後の切り札として身に精霊を宿らせて爆発的な戦闘力を発揮する機能が搭載されているが、精霊との融合は心身共に疲弊が激しく、精神的にも不安定となってしまい、この事が後にある少女の悲劇に繋がった。 加え極一部の超強力な精霊を除けば十二星座型一歩手前の進化体には精霊を宿してなお攻撃が通らないこともあり、当時の勇者の戦いは非常に厳しいものだった。 なお、この切り札に関しては当初から大社によって「非常に危険だから不用意に使うな」と釘を刺されていた。 また、当時は万が一勇者がその力を間違えた方向に使おうとした際には神樹の意思で強制的に変身解除させることも可能だったが、ある事情により後に廃止された。 『白鳥歌野は勇者である』における勇者システム 上記の「のわゆ」とは同じ時系列だが別の地域…諏訪で孤軍奮闘していた勇者のシステムは一言で言えばアナログなものであった。 勇者アプリはそもそも存在せず、有事の際は諏訪大社に祀られている勇者装束に直接着替えて変身する。 土地神の加護が宿っているとはいえ、西暦組の勇者システムに比べると攻・防ともに貧弱と言わざるを得ず、精霊の加護もない。 『鷲尾須美は勇者である』における勇者システム 鷲尾須美(東郷美森)、乃木園子、三ノ輪銀が使っていた2年前のシステム。 戦闘力は西暦に比べ大幅に強化されており、回復能力を向上させる能力もあるものの、十二星座型相手ではまだまだ分が悪く、生傷の絶えない戦いを強いられていた(*11)。また西暦時代のシステムから一部機能がオミットされており、満開システムも未実装。 封印の儀もできず、御魂の破壊が出来ない為完成体の十二星座型に対しては撤退させるのが精一杯。 物語終盤に起きた一人の少女の悲劇を鑑みてシステムを大幅に改良。樹海化警報とバーテックスレーダーの再実装に武器の高性能化、そして精霊バリアと切り札である満開を搭載した、「結城友奈の章」時代のシステムへとアップデートされた。 しかし2年後と比べるとまだ未調整な部分が見受けられ、「封印の儀ができない」為完全に殲滅するには満開前提、にもかかわらず「満開時間が非常に短い(*12)」為、短時間での乱発を余儀なくされる(*13)。 当然散華も実装されており、この事を知らされず満開を使ってしまった須美と園子は… これが、2年後の結城友奈の章へと繋がっていくこととなる。 『楠芽吹は勇者である』における防人システム 「勇者の章」の前日談に当たる時系列…ゴールドタワーに集められた32人の元勇者候補生たちが変身する「量産型勇者」とも呼べる存在、それが防人である。 「戦衣」と呼ばれる耐熱性に優れた装束と遠近両用の銃剣、あるいは十字型の大楯を基本装備とする。 「壁の外」を調査するために作られたシステムで勇者以上の耐熱性を誇るが、戦闘力は西暦の勇者システムレベルで、安全に戦えるのはせいぜい星屑止まり。当然精霊の加護もない。 よって、綿密な連携を前提とした集団戦が防人の基本戦術となる。 余談 『花結いのきらめき』の日常パートでは、勇者たちが嫉妬や怒りをあらわにした時や恐怖心に駆られた時に瞳のハイライトが消えるシーンが多々あるが、 それを上記のデメリットに引っ掛けて「目が散華した」とファンから言われる。 追記・修正は何回も満開を行った後でお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] これといい、どこぞの白いセールスマンといい、最近の戦う少女達は意図して隠されたハイリスクを背負って戦わないといけないっていう過酷なパターンが多いってイメージが強い。それとも自分が知らないだけで昔から? -- 名無しさん (2018-08-26 23 22 00) ちょっと他作品と絡めた例えが多すぎない?しつこすぎる気がするんだけど… -- 名無しさん (2018-08-26 23 25 31) のわゆの切り札も厄介だったな。切り札使うと疲れる、使い過ぎると体がボロボロになる(身体の欠損はない)精神汚染もある。満開とどっちがマシだろう? -- 名無しさん (2018-08-26 23 38 24) 一番上↑。ただ園子が言ってるように黙ってたのは大赦なりの優しさであったようなので、白いセールスマンよりマシっちゃマシ。試行錯誤重ねて勇者を犠牲にしないようにした結果だからね。それでも勇者側にとっちゃ許せるかどうかは別だが。 -- 名無しさん (2018-08-27 00 36 58) 一番↑&↑たださやかちゃんみたいに自業自得(≒自己責任)の結末になる白い奴の契約に対して、ゆゆゆのは本人に何の落ち度もないのに自己犠牲を強制されるから。冷静になって二つを見返すと、大赦の方が性質が悪いと思うんだよね。 -- 名無しさん (2018-08-27 01 04 38) なんだかんだで例えとして挙げられてるやつはそれなりに克服してたりするから救いがあるけどこれは…? -- 名無しさん (2018-08-27 08 48 47) ↑3 乃木若林時代の大社は切り札はあまり使うなと警告してくれたな。 それ以外はアレだけど。 -- 名無しさん (2018-08-27 09 06 13) 間違った乃木若葉だった。 -- 名無しさん (2018-08-27 09 08 20) 若葉時代の大社はまだ良心的だったからね…余所の地域に支所があったからかもしれないけど -- 名無しさん (2018-08-27 12 48 44) 大社から大赦になるまでの間、隠蔽体質みたいなものが根付いてしまったんだろうね。 -- 名無しさん (2018-08-27 12 58 11) ↑2 その分のわゆ時代は一般人のモラルが最低だったから…極限状態だったからと言ってタマっち先輩や杏への仕打ちは許されない。 -- 名無しさん (2018-08-27 14 00 49) ↑300年後と違って勇者とバーテックスの存在が知られていて、かつ世界が四国と長野と沖縄と北海道の一部除いて完全に死滅していたのもありそう… -- 名無しさん (2018-08-27 14 05 54) 例の白い悪徳業者に勝るとも劣らない残酷さを感じる -- 名無しさん (2018-08-27 15 48 53) 一応時間が経てば返してくれるとはいえそれまでにバーテックス全滅しないといけないという罠 -- 名無しさん (2018-08-27 15 56 11) のわゆの精霊憑依は最後の手段とはいえかなりの危険も伴うんだよね…高嶋の友奈ちゃんが瀕死になったのもそのせいだし… -- 名無しさん (2018-08-27 18 30 01) 乃木若葉、鷲尾須美の時のも併記してくれ -- 名無しさん (2018-08-28 17 25 00) ↑覚えてる範囲だけで待機しましたが大丈夫でしたか? -- 名無しさん (2018-08-29 15 43 25) リスクに比べてメリットが低いような気がする。 -- 名無しさん (2018-08-29 19 55 52) 爆発力はいいんだけど継戦時間が短スギィ!! -- 名無しさん (2018-08-30 22 34 43) 細かいバリアフリー描写が散華の伏線だったなんてなぁ -- 名無しさん (2018-11-20 12 29 21) そういや歌野はゆゆゆいで戦闘シーンの前に服脱ぎだそうとしてたな。ここではそんなことしなくていいよって言われてたけど、本当この時代にあの装備があれば… -- 名無しさん (2019-06-07 13 20 44) 勇者である系の記事も増えてきたし、記事名は「勇者システム(勇者であるシリーズ)」に変えたほうが良くないかな? -- 名無しさん (2020-06-05 13 49 21) 覚悟完了した大人ならまだしも、代償を知らせずに小中学生の女の子を一生飼いならす形で戦わせるシステムってえげつないこと極まりないなオイ。 -- 名無しさん (2020-06-05 16 19 57) と言っても代替え手段はついに見つからなかった訳で。バーテックスて要する天使だから人間がノーリスクで戦えるハズがないし。神樹はそもそも善意で人間に協力してくれてるだけで、神樹に責任を求めるのは筋違い。文句有るなら人間だけで戦えと。 -- 名無しさん (2022-04-06 21 32 57) 名前 コメント
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発売日 2014年11月28日 ブランド ALcotハニカム タグ 2014年11月ゲーム 2014年ゲーム ALcotハニカム キャスト 歩サラ(星野なぎさ),秋野花(小松莉奈),香山いちご(知花涼香),あじ秋刀魚(関谷恵),古河徹人(瀬古勝彦),草村ケイ(関谷千代) 橘まお,春海ほのか,井出五郎,黒衣虹男,沖田かずひろ,遠野そよぎ スタッフ 企画/シナリオ:おぅんごぅる 原画/キャラクターデザイン:もとみやみつき SD原画:あおなまさお チーフグラフィック:真崎ケイ グラフィック:あいにぃ一号,aomi,くない瓜,春ノ瀬史,びゅーね,やまな彩 背景:cre-p DTP:佐藤継忠 WEBデザイン:ま~まれぇど ロゴデザイン:井村屋あゆか(FAVORITE) システムグラフィック:めんち☆かつ BGM:project lights ムービー:株式会社KIZAWA studio 音声制作・録音演出:豊島光太郎(TK Sound Planning Office) 録音:藤代英和 収録スタジオ:STUDIO 696 プログラム:WAMSOFT スクリプト:かつらぎ,時乃 営業:株式会社エクスキャディ スペシャルサンクス:船亀由真人 ディレクション:かつらぎ プロデュース:宮蔵 制作:ALcot Honey Comb,合同会社クローバーソフトウエア 主題歌 「キミのとなりで恋がしたい!」 歌:茶太 作詞:yozuca* 作曲:戸田章世 編曲:戸田章世 All instruments:Nekusam Recording Engineer:内藤岳彦(Sound City) Mixing Engineer:橘優紀 Recorded at Sound City Mixed at MB-ONE studio Director:土井潤一 エンディングテーマ 「キミと見る世界」 歌:茶太 作詞:yozuca* 作曲:戸田章世 編曲:戸田章世 All instruments:戸田章世 Recording Engineer:蓬莱つむぎ Mixing Engineer:橘優紀 Recorded at Sound City Mixed at MB-ONE studio Director:土井潤一
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第2部終章-第一幕- マキナ戦役事後処理(前編) 第二十章-第五幕- 第2部終章-第二幕- デウス=エクス=マキナとの死闘を終えた勇者軍主力部隊は、 虚しくも散っていった宿敵、ネイチャー・ファンダメンタルの幹部達を 強敵と認め、手厚く埋葬し、そして各々の生活へと戻っていった。 失われた平和を少しでも享受しようとでもするかのように―― ゼクウは、故郷であるバイオレット・ヴィレッジの崖に佇む。 そこでジッと滝を見つめ、物思いに耽っているようにも見えた。 「……」 びしゅっ!! すると、ゼクウの居場所へ棒手裏剣が叩き込まれる。 勿論、そんな粗雑な攻撃に当たるゼクウではない。 「……!」 手裏剣の飛んできた方向へ、逆に手裏剣を叩き込む。 「……む!」 その刺客と思しき人物も、また巧みに、しかしゼクウよりは いくらか余裕をもって、全部回避してみせる。 「……ゼクウ……腕を上げたな……?」 戸籍上は彼の祖父、しかし実質彼の親も同然である ラング=ユウキ元補佐官である。帰って早々腕試しなのだ。 「愚」 愚問であり、論ずるに及ばず、というところだろう。 「……そのまま……育て……次代は……貴様が担う。 そして……あの少年は……お前の事を当てにする……」 「了」 ゼクウはそれだけ言うと、あっという間にかき消えた。 ラングも、用事は済んだとばかりにかき消えた。 そしてその場には滝の音だけが遠くから静かに響く。 リュミエルもまた、バイオレット・ヴィレッジで 再度修行に入っていた。テディと同じ修行場で 修行していた彼女だったが、 本格的なスレインメイデンの修行はここでしか出来ない上に、 そもそも修行場は昨年のスプレッダー戦役で破壊されていて、 未だに修理が出来ていないのだから仕方が無い。 実はゼクウ達が上でやり合っている間にも、 滝行で水に打たれっぱなしなのだが、 リュミエルは極度の集中状態にあったのか、 ゼクウとラングの出来事は気にも留めなかった。 「…………ぷはっ!」 そして十数分後、彼女は精神集中を止めた。 人間がいくら進化したところで、集中力など十五分程度しか もたないのが世の常である。所詮どこまでも人間なのだから。 「………………ん?」 リュミエルがふと横を見やると、何故か同じ姿勢で 座禅を組んでいる奇怪極まる生物を見つけた。 人間の子供のようにも見えるが、人間としては 異常にデフォルメの効きすぎた体型が特徴的だ。 「あなた、誰?」 (あ、おかまいなくー。知ってる香りと似た香りを感じただけなので) リュミエルの問いに、そう言いたげな態度で返す変な生物。 「……これって、あの有名な稀少生物、座敷わらし?」 すると座敷わらしはぴょこん、と飛び跳ねて消えていく。 「あっ、待って!」 しかし既に姿は見えない。 軽く追ってはみたものの、もう追跡は不可能だろう。 「わあ……」 だが、そこに見えたのは座敷わらしではなく、 原っぱ一面に広がる、つつじの花畑であった。 完全に自生しているものらしい。 その花の蜜を吸い、蜜蜂か何かになったような気分で呟く。 「しあわせぇ……」 ちょっとした幸せが、リュミエルに与えられた ご褒美のようでもあり、 何か因果めいたものを感じなくもない日向ぼっこ日和であった。 「ただいまっ!」 元気良く家に帰ったフローベールであった。 「おかえりなさい、フローベール……バスクは?」 そう訊いたのは、彼女の母親、 ユーフェミア=エルデナントだった。 「ん、ヴィッセルと一緒に寄り道みたい。 なんかアーム城のお姫様に気に入られてるっぽくて」 「ふうん、まあ年も近いし、 いいんじゃないかな? 友達とか」 と、ひょっこり出てきたのは 父親のエルウィン=ランドルフである。 「……私も同じ年なんですけど?」 「おっと、こりゃ失礼」 と、エルウィンはおどけてみせる。 「ベアトリスも疲れたでしょう? 一緒に外でお食事にしましょう? ……と、忘れちゃいけない、ネオ・インタープレット!」 ユーフェミアは得意とする翻訳魔法をかける。 これで結構長時間の間、ベアトリスと意思の疎通が出来るはずだ。 「ふう……言葉が通じるのは楽よね。お久しぶり、二人とも。 後で聞いてあげてね。フローベール、すごく強くなってる。 あるいは、ユーフェミアに負けてないかもしれないわ」 「へえ、そりゃ楽しみだ」 「へへー」 身内に囲まれ、ようやく余裕が出てきたのか、 フローベールは年相応の子供っぽい笑顔を浮かべた。 次の戦いの英気は、ここで養う事になるのだ。 フローベールは自分自身でそれを感じているのであった。 ギースは、後処理に大忙しになっていた。 一度は自宅へ帰ったものの、 ネイチャー・ファンダメンタルの残党から 尋問で聞き出した情報から、組織の残された拠点の存在が いくらか発覚したのだ。そのセキュリティをこじ開けるために 召集され、ロクに休む暇も与えてはもらえなかった。 シーフとしての面目躍如というところであろうか。 「まあ自分も本来こういう裏方仕事が主任務だし、 のんびり休むってガラでもないからいいのだがな。 けど、あとニ、三日だけ待ってもらえれば良かったのに。 まだ筋肉痛やら何やらで身体が軋むったらないぞ」 と、ボヤきながらもまた一つセキュリティをこじ開けるギース。 「すみません、曹長殿。情報部から緊急に、という事らしくて」 情報部及び人事部所属の予備役部隊の兵士達が 申し訳無さそうに言う。 「悪いけど、この任務が終わったら本格休暇をもらうし、 特別給与も出してもらうって伝えておいて欲しい」 「はい、そりゃもう!」 そんなやり取りの間にもまた一つセキュリティを突破。 あらかたの鍵の類は全て開錠し終わったと言っていい。 「おし、証拠品になりそうなものを持っていけ、野郎共! 研究部に持ち込めば何か解析出来るものがあるかもしれん!」 「おーっ!」 つい盗賊全開のノリで号令を出すギースに、 兵士達が一斉に機材へと殺到する。 「俺には感傷も似合いやしない、ならばこれでいいのだろう。 少なくとも誰かが感傷に浸る暇を 作る程度の成果があればいいがな」 と、またもシニカルに皮肉めいた笑みを漏らすギースであった。 ルシアはとりあえず今回の任務で発生したストレスを発散すべく、 ちょっとした小旅行へと出かけていた。 たっぷりと買い物を済ませ、優雅な気分に浸っていた。 とはいえ、大事な任務の報告も忘れない。 というのも、極端に忙しいか、あるいはその気さえ無いかの 極端な人間ばかりなので、大体こういう作戦報告書作成などの 貧乏くじのような仕事は、ルシアに回ってくるのである。 「ネイチャー・ファンダメンタルとデウス=エクス=マキナとの 直接対決は極力死者を出さないように配慮したものであるが、 敵部隊内の仲間割れによって敵幹部四名が死亡。 その後の鎮圧作戦によってやむなくマキナを殺害。 残り二名の敵幹部に関しては、戦意を失っていること、 また隊長ジルベルト等が極端に接触を拒否していること、 以上の二点を理由として拘束はせず、放逐処分とする、と……」 ふう、とため息をついてからジュースをひとすすり。 入力キーを押して情報本部へと報告書の清書を送信する。 もう面倒になったので残ったジュースを一気飲み―― 「ぼふぅッ!!」 しようとして、ルシアは盛大にジュースを吹き出した。 何故か本作戦に参加していなかったはずの ジルベルトの妹、シエル=ラネージュが現れたのだ。 無論それ自体は偶然とはいえ起こりうる出来事だが、 異常なのはその相方であるジーク=ルーンヴィッツァーが 両足にギプスをはめ、松葉杖で歩いている事だった。 しかしそれでも何故か移動はスムーズであり、 腕力馬鹿っぷりを遺憾なく本領発揮しているジークであった。 そしてそのまま通り過ぎようとする二人―― 「って、ちょっと待ちなさい二人共! どうしたの!?」 慌てて追いかける、落ち着けないルシアであった―― ちなみにジークの怪我の理由は、不運な事に 雪原移動中に雪崩に飲み込まれたからなのだが、 これはまあ余談である。 コンラッドは旗艦であるレッド・ワイズマンMk-Ⅱへと戻った。 そこには一人の男児がいる。勿論コンラッドの子なのだが、 何の因果か拾い子だ。前の戦役の終わり頃に偶然拾ったのだが、 なんとも面倒見のいい事に、船の全員で可愛がっていた。 「エルリック、元気してたか!?」 「だぁ~」 にっこにこと近寄ってくる拾い子改め、エルリック=ワイズマン。 恐らく、この子が次代のワイズマン家当主となるのだろう。 まだ物心どころか、歩く事も出来ない赤子であるが、 懐いてもらうと存外可愛いのはまあ親となってみれば同じである。 「おうよしよし、長い間いなくてすまなかったな。 またしばらくは落ち着いて一緒にいようなー」 「あーぶぶ」 揺さぶられてちょっと苦しそうなエルリック。 まだ勇者軍に公表してはいないのだが、そろそろ頃合か。 次代のワイズマン家当主が決まったとなれば、皆喜ぶだろう。 そう思ってコンラッドもにこにこしていたのだが…… 「コンラッド……君……?」 遊びに来たメイベルが現れたりした。 「メイ……ベル……? よお、五日ぶり……」 コンラッドの中で凄い速度で頭脳が回転する。 若い自分。女友達。自分の胸には赤子。自分は未婚。即ち―― 不潔、どうして、相手は誰―― そんな責めるような言葉と嫌な予感ばかりが脳裏を満たす。 「結婚もしていないのに……不潔ですっ! どうしてですか……相手は誰なんですか……!?」 涙目で詰め寄るメイベル。 「って予想通りのリアクションするなよお前よ!?」 「もういいです……人事部に報告して 然る後、厳罰処分を下してもらいますから……!」 するとメイベルは素早く出て行く。 スカーレット・アーマーを脱いだ彼女は思いの外俊足だった。 「って違うから! 拾い子だから! メイベルって!! 聞いてるか!? 聞こえてるか!? おーい待てー!! 誤解だ、頼む、俺の話を聞けぇ! 五分だけでもいいー!」 非常に蛇足ながら、勇者軍での未婚出産は降格処分である。 本気で降格される危機に、 コンラッドはエルリックを抱いて走り出す。 何とか降格だけは勘弁してもらうために―― ヴァジェスはというと、あらかたマキナの供養を終えて、 ようやく帰途につこうとしていた、 すると、その眼前に人間の女性が姿を現す。 いや、人間ではない。ドラグーン形態によって 人型と竜の翼を併せ持つ女性である、という方が正確だ。 「乙姫様……」 竜王ナーガ=バハムートの妻である女性だった。 名をセレーネ=ランドグリーズといい、 普段は竜王の居城『竜宮城』に住む。 竜王の妻は慣例的に『乙姫』という尊称で呼ぶのが礼儀であった。 「セレーネとかランドグリーズって呼んでくれていいわ。 あなたは先代のご子息だし、昔からの顔見知りですもの」 「竜王の奥方に対してそのように無礼な真似は……」 そのヴァジェスの言いようにくすりと乙姫は笑う。 「今更礼儀のどうこうを言うの? 散々人の旦那と喧嘩しておいて。 しかも私の旦那、私よりずっと偉い立場なのよ? 遠慮なんてしなくていいわ。その方が私も助かるもの」 「……マキナの事を聞いて来たのか?」 「ええ、全長700メートル、 重量8000トンクラスと聞いてね。 竜族の常識から言えば……失礼、生命の常識から言っても まず考えられない生物ね。とんでもないわ。でもヴァジェス、 貴方はこれを倒したのでしょう? あなたもとんでもないわね。 やっぱりウチの旦那より、竜王が似合うんじゃない?」 「倒したのは俺じゃない。ジルベルト=ストレンジャーだ。 それに彼だけでも勝てはしなかっただろう。 これは俺達勇者軍全員の勝利だ。間違い無い」 「勇者軍ね……確かに貴方がここまで誘いを袖にして 居座る理由も分かるけど、あなたのお父様は少し違ったわよ。 勇者軍への助力も、竜王としての仕事も兼務してみせていたわ」 「その親父と同化したから知っているんだ。 人の上に立つという事はとんでもない責任を背負うものだ。 少なくとも今の俺ではそれに値する者になったとは言えん。 ……というか結局俺を擁立する腹積もりか。だったら帰れ」 「はいはい。強情なのだけは父親と変わらないのよね。 ま、気が変わったら私かナーガに 連絡ちょうだいね。バイバイ」 と、セレーネ=ランドグリーズは去っていった。 <第2部終章-第二幕-へと続く>
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二つ名:白衣の勇者 名前:ブラン 詳細: とある大きな学園の保険医をしている教師。白衣と白い髪と優しいほほえみは人気がある反面「なんか黒幕っぽい」と変な噂も立ったりするのが悩みの種。 本名 ブラン 一人称 私 二人称 貴方 身長 180ぐらい 体重 少し軽そう その他 美人、女顔、下まつげ。 【能力】 治癒魔法 簡単な怪我だったらすぐに治すことができる程度の治癒魔法。頑張ればある程度までの怪我なら治せるらしい。 白衣の勇者が使う治癒魔法は、人体の理解→傷の度合いの理解→修復のプロセスを追うので大怪我になればなるほど自身の知識と理解、集中力が必要になる。 基本的には治せるものは怪我のみ。病気などは治せないらしい。 ただし、病気の原因を『傷』とみなして魔法を使うプロセスを無理やり書き換えればなんとかならないこともないらしいがリスクが大きいためやろうとしない。 薬品調合 魔法などは関係なくただ薬品を調合する知識。 風邪薬から毒薬まで材料さえあればなんでも調合する。 元々は薬を作るために身につけた知識。調合を失敗して劇物を作るのを繰り返した結果毒の方の知識も豊富になった。 こういうことやってるから黒幕扱いされるんだと思うんですよ。弁明はあるでしょうか? 【戦闘】 基本的に自分が戦闘するのは好まないので支援に徹することが多い。 どうしても自身が戦わなければならないときは決してその白衣を血で汚さない「白衣の勇者」。 (非力なので)接近戦は好まず、遠距離からの投擲攻撃、または相手を毒殺させるなどの手段を好む。 投擲には手術用のメスを用いることが多く、その表面には自身が調合した毒が塗ってある。 使用する毒の度合いは状況によってまちまち。ただ逃げるだけなら死には至らないが体を痺れさせる神経毒、倒すつもりならもっと強い毒…など。 また、投擲の腕があるとは言っていないので当たらなければ……… 【人物】 常に微笑みを絶やさない長身の男性。 優しくて丁寧な言葉遣いで、誰に接するときも相手を尊重している。 保健室にはほぼ住み込み状態。しっかりしていそうでたまに雑なので、保健室のカーテンで区切られた白衣の勇者の居住区域(学園側には無断)は整理されているものの、物、物、物で混沌としている。朝に保健室に顔を出すと寝癖がついていると一部の生徒たちの間で話題に。 普通に体調が悪かったり怪我などをしたときはもちろん、仮病などで保健室に来ても少し休ませてから優しく授業に戻るよう諭す上になんならお茶や菓子も出してくれる。ティーセットはもちろん私物。 そんな人柄で人気は高い一方、学校に住み込んでいる、私物を沢山持ち込んでいる、怪しい薬を調合している、いつもニコニコしているなどの理由から何が学内で事件が起こるたびに犯人や黒幕に名前が上がる。本人はだいたい関係ないことが多いので苦笑い。しかし全く関係ないとは言わない。 自身が勇者に選ばれたのは間違いだと思っているので、勇者云々について聞かれると謙遜したような物言いをする。 基本的に学園から離れたがらず、あまり積極的に勇者として魔王を倒しに行くぞ!とは意気込んだりはしない。しかし頼まれたら重い腰をあげる。一人は心細いので誰か一緒に来てください。 使う魔法と調合の関係上、人体と薬物についてとても詳しい。
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第二十六章-第三幕- 勝利と敗北は紙一重 第二十六章-第二幕- 第二十七章-第一幕- マリー=ジーニアスと合流し、呪鞘カオスリキッドの封印を解かれた ストレンジャーソードは今、その進化の形を顕現させる。 その反逆暴牙剣エネミーイーターは隙あらば、持ち主のロバートさえ 食らいつくそうとする呪いの剣であったが、 ロバートはそれを力でねじ伏せ、 それを改めて同族であるはずの リビングメイル・イグジスターに向けた。 「……!? なんだ!?」 すぐに敵に向かおうとしていたウォルフ王子だったが、 何故か民間人がシェルターから 恐慌をきたして脱出している光景を見かけた。 騒音がキツ過ぎて、かえって地下では パニックのもとになっていたらしい。 音の割に人の声が少ないのも、かえって混乱を助長した。 「あの、どちらに行かれるつもりで!?」 「やっぱりあの化け物相手に地下じゃ駄目なのかも分からねぇ! だから俺達はありったけの船を使って、ここから逃げる! あんた達も命が惜しかったら、すぐ逃げるんだよ!」 民間人が一旦停止して説明してくれた。 「ご心配無く。先に逃げていて下さい。 私達が誰だかご存知ではない、とは言わせませんよ。 我々誇り高き、勇者軍メンバーと、その筆頭の名を!」 「おおッ!」 その一言だけでいくらか冷静さを取り戻す民間人達。 「ようし、みんな! 今のうちに船で脱出だ!」 どうやら、その程度には信頼されているようであった。 「ロブ、民間人の脱出を援護するためにも、ここはあの リビングメイル・イグジスターだけでも討って、 敵の指揮系統の乱れを誘ってから、私達も離脱しましょう!」 「よし行け、ウォルフ、マリー! 数は俺等が引き受ける!」 ロバートはエネミーイーターを持ち、イグジスターへ突撃。 その他のメンバーも他のイグジスターの移動阻止に専念する。 たまたま現状のメンバーが、ヴァジェスとロバートを除いて 大規模攻撃を不得手とするメンバーばかりなのが痛いところだ。 「では、行きましょう。メインメンバーが二人がかりです。 あのような中途半端な存在に負けるわけにはいきませんよ? 疲労もしていらっしゃるようですが、大丈夫ですか?」 「無用な心配だ、王子。ジーニアス家の誇りにかけて、 これ以上の醜態など、晒すわけにもいくまい…… 惜しむらくは満足な武器が揃っていない事か」 ボロボロになった槍のみが、彼女の手元に残っていた。 他の武器は、酷使しすぎて片っ端から壊れている。 「おらよ!」 ロバートから、マリーに愛剣タングステンソードが渡った。 「む?」 「特注品だ! ちっとやそっとじゃ壊れやしねぇぞ!」 「かたじけない! では、行くぞ!」 マリーが先陣を切る。ウォルフは後に続く形だ。 ロバートのエネミーイーターが渋々ではあるが、彼に従い、 斬りつけると同時に、攻撃範囲外の敵を丸呑みにして、同化する。 「ぎぎぎぎぃぃぃぃぃぃ!」 慟哭と哀しみの声をあげるエネミーイーターを、随時殴りつけて 反抗する意思を奪いながら、ロバートは高らかに笑う。 「ふふふふふ……ははははは……はぁーっはっはっはっはぁ!!」 「ああ、ロバートさん、楽しそう……」 何やら物騒な見守り方をするエナだったりする。 マリーがリビングメイル・イグジスターと鍔迫り合いを行う。 「ぬううん! 貴様等……それら人にあるまじき所業、許さぬ! 下位種族の分際で、我等絶対上位種を顎でこき使うとは!」 「貴様等の蛮行に比べれば、これでも温い! 精々、煮え湯でも呑むのだな、イグジスター!」 「勝手に上位種ぶって、本当に支配者のつもりですか! 戯言も程々にしていただきましょう!!」 マリーに続き、ウォルフ王子も続き、二人で押し込む。 「調子に乗るな、人間!」 リビングメイル・イグジスターがパワーだけで二人を押し返す。 『離れて!』 いきなり外部スピーカーから、隠れたはずのカイトの声がする。 マリーが上を見ると、かなり近く、後方に 超高速低空飛行弾道弾が叩き込まれていた。 ウォルフ王子と、マリーをそれぞれの愛馬が強引に咥えて運ぶ。 「すみません、ターミネーター!」 「助かる、ステファン!」 それぞれ愛馬に跨り直し、様子を見守る。 「ぬうう!?」 流石のリビングメイル・イグジスターもミサイルまでは回避しきれず、 最後の一発をスピアで突き刺す。残ったミサイルは 遠くへ飛び去り、多くのイグジスターを撃破した。 「修羅抉り!」 ミサイルに刺さった槍を捻り、抉り、こねくり回す敵。 強引にパワーだけで引き千切られたミサイルは、 起爆する事も無く落下した。 「所詮は人間、姑息な真似しか出来ぬ惰弱よ!」 まるで笑うように身体を揺らすリビングメイル・イグジスター。 だがそれは、見積もりが甘い。あまりにも甘すぎた。 彼等イグジスターの敵は、 単騎で千名を軽く屠る人外魔境の化け物だ。 そしてその中でも、マリーの機動力は卓越して、素早い。 「なっ!?」 そして気付いた瞬間、既にマリーはゼロ距離にまで接近している。 一旦下馬して、馬蹴りの反動と 自らの脚力をもって、一気に近付いたのだ。 そのスピードは、もはや神速を超越し、絶影と化す。 「トルネードジャンパーッ!」 「ううおおおッ!!」 マリーが剣を掲げ、彼女を中心として竜巻が発生する。 リビングメイル・イグジスターは飛ばされ、彼女は自ら跳ぶ。 がぎゃっ! そして彼女の『烈風』と呼ばれる秘技が叩き込まれる。 ごがん! 無様に落下するリビングメイル・イグジスター。 その頃にはウォルフ王子も既に接敵完了済みだ。 「斬滅!」 まずは縦に斧を叩き込む。 馬ごとの重心移動であり、威力が桁違いだ。 「十文字斬り!!」 続いてやはり馬ごとの重心移動で、横へ攻撃を叩き込む。 見事に十文字に叩き割られ、 リビングメイル・イグジスターは動きを止め、 他のイグジスター同様に、黒いゲル状の物体となって 飛び散り、消える。 「流石ですよ、マリー」 「ジーニアス家なれば当然の事。 それはアーム王家の誇りとて、同様に」 ハイタッチしながら、無愛想に返すマリーに、 ウォルフ王子は苦笑する。 「よし、このままフライトデッキを開放する、乗ってくれ!」 カイトが潜水艦のフライトデッキを開き、招き入れる。 「うむ、これ以上の無理は禁物だ、逃げるぞ!」 先程同様、囮をやっていたエリックが真っ先に退避する。 それに続き、他のメンバーも一斉にデッキに飛び乗ろうとする。 だが、イグジスターもそれに追従しようとしてくる。 この艦を乗っ取り、他の逃げた民間人を追う腹積もりらしい。 「この蒼き艦体は、君達を乗せては無粋過ぎる代物でね。 父の威光を汚させない、などというつもりはないが、消えてくれ」 カイトは通信で、ブリッジクルーに呼びかける。 「対地ミサイル、水平発射! イグジスターを寄せつけないでくれ! 味方が全員乗艦するまでの間だけで構わない!」 「了解、ミサイル、一番から十二番まで一斉射!」 ずどどどどどどどど! 多くの建物を巻き込みつつも、ミサイルは確実に イグジスターの足を止める。 ゆっくりとしか接近できないまま、 イグジスターはまごついているしかない。 何より指揮官を失った一時的な混乱が、彼等を救っていた。 正攻法であれば、勝負にもならなかっただろう。 それほどまでに、イグジスターの数は絶対多数だったが、 ロバート達は寡兵ながらも、誰一人欠く事無く、乗艦に成功した。 民間人も援護の甲斐あって、なんとか被害は無かったようだが、 紙一重の戦略的勝利と、紙一重の戦術的敗走だったと言える。 「マリー、封印だ!」 「ああ……カオスリキッド!」 エネミーイーターの暴走を抑制するため、 マリーはカオスリキッドで再びエネミーイーターの刀身を、 呪鞘カオスリキッドで包み込んだ。 これで、ひとまず憂いは絶たれたわけである。 だが、結果としてこれも敗走である事に変わりは無い。 殲滅させられないもどかしさと、マリーが無事合流出来た ささやかな喜びだけをもって、ブルー・ワイズマンは海上を行く。 無事に逃げる事が出来た、数少ない民間人と共に…… <第二十七章-第一幕- へ続く>
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【検索用 きみのとなりて 登録タグ CD CDふ プーチンPCD】 + 目次 目次 CD紹介 曲目 リンク コメント imageプラグインエラー 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。 前作 本作 次作 プーチンP第2部 「みえないよるに、きえないひとみ。」 プーチンP第3部 「きみのとなりで。」 - プーチンP 発売:2021年04月03日 価格:¥2,139(税込) 流通:配信 サークル:Numtack05 CD紹介 CD名:『きみのとなりで。』 全11曲 投票で選ばれた3,4部のうち10曲+ボーナストラック 既存曲は全曲リマスター 配信開始→BOOTH,その他サイト 曲目 ゆめにさよなら☆ きみに、わたしに。 うそつきはだれ? こわれたかがみ。 じゃましないでね☆ きみにさよなら★ みえないきみと。 きみのひとみに。 幻覚カタストロフィー さよなら。/プーチンP きみのとなりで。 リンク プーチンPホームページ YouTube コメント 名前 コメント
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俺はまりさに無理難題を突きつけた。 しかも、まりさがお菓子を返すならすべてを元に戻すとまで言った。 当然不可能だ。俺は神ではないから、死んだゆっくりを生き返らしたり、まりさの顔を元に戻すこともできない。 あんなのは口約束だ。 そもそも、まりさがおはぎを返すことなど絶対にできない。 だが、まりさは「元に戻す」という言葉に希望を持ったようだ。 「ゆげぇっ! ゆげっ! ゆげぼっ! ゆぼぶぶぶぶぶっ!」 まりさはいきなり奇妙な顔をすると、何と吐き始めた。 「ゆげええええっ! おかしさん! おかしさん! きいておかしさん! はやくでてきて! でてきてよおお! ゆぼおおっ! どうじでででごないのおおお! ででぎでよおお! まりざのおぐぢがらおがじざんででぎでよおおお!」 めちゃくちゃなことをしている。 とっくの昔に消化されたおはぎが、今更奇跡のように口から出てくるわけがない。 しかし、まりさとしてはもうこれしか俺を追い払う方法が思いつかないのだろう。 必死に体をぐにゃぐにゃ動かし、腹部に圧力をかけている。 まりさは世にも気色悪い顔をして、口からなおも餡子を吐く。 「おげええええっ! えおげええええっ! おがしさん! おがじざああああん! いじわるじないでででぎでええええ! はやぐ! はやぐ! はやぐうううううう!! まりざのおくちにはいったでしょ! だからはやくでてぎでよおおお!」 吐く度にものすごい苦しみがまりさを襲うらしく、まりさの顔は見る見るうちにひどいものになる。 それでも、口から吐き戻されるのは汚い餡子だけであり、おはぎではない。 「ないよおお! おかしなんてないよおおお! やだあ! もうやだああ! ゆわああああああん! もうやだよおおお!!」 とうとうまりさはわんわん泣き始めた。 餡子を吐くことで少しは体力を消費したかと思ったが、まだまだ元気いっぱいではないか。 俺がこうまで執拗なのは、こいつが一度も謝らないからだ。 ここまでやったからには、謝るまでやってみたくなる。 ……もう、俺の感覚は正常ではなかった。 「楽しかったよ! もっとやらせてね!」 まりさの口調を意地悪く真似ると、まりさは恨めしそうな目でこちらを見てからまた泣き出す。 俺はまりさの横をすり抜け、用意していたスコップをこいつの家に突っ込んだ。 巣穴はなかなか大きく、スコップが十分入る。 奥行きもそれなりにあり、俺はひざを屈めなければならなかった。 先端が壁に当たり、俺はスコップを使って巣の中にあるものを掻き出した。 「な、なにしてるのおおおおお! にんげんさん! やめてええええええ!」 「やめてください! そこはれいむたちのおうちなんです! だいじなおうちなんですうううう!」 親れいむと親まりさが血相を変えて跳ねてきた。 俺は構わず、もう一度スコップを中に突っ込む。 まだまだ中にはいろいろあるようだ。一度で掻き出すことはできない。 俺は二匹を無視し、その後も数回スコップを巣に入れて中身を地上に引きずり出した。 「あああ……ひどいよお………まりさたちのおふとんが……おさらが……ひどいよお……にんげんさんひどいよお……」 「どうして……どうしてこんなことするのお………れいむたち……にんげんさんにめいわくかけないようにしてきたのに…………」 ようやく巣穴を空っぽにし、俺は一息ついて戦利品を眺めた。 布団、皿、と親まりさが呟いていたが、確かにそれらしきものが巣から出てきた。 鳥の羽毛と藁を丁寧に組み合わせた籠のようなものが、恐らくベッドだろう。 ゆっくりが作ったものにしては、信じがたいほど精巧な品だ。 皿は葉を折って作ってある。これも丁寧に作ってある。 それ以外のものもたくさんある。 平たく磨かれた石は、多分テーブルだ。ここに皿や食事を並べるのだろう。 乾燥した虫やドライフルーツ、野草の類は保存食で間違いない。 それ以外にはセミの抜け殻、ビールの王冠、ビー玉や壊れた懐中時計まで出てきた。 「やめてええ! それまりさの! みんなの! みんなのごはんだよ! みんなでむーしゃむーしゃしたくてあつめたんだよ!」 俺のしたことにようやく気づいて、まりさがまたうるさくわめき始めた。 つくづく、このまりさのスタミナには驚かされる。 「まりさのたからもの! だいじなだいじなたからものなの! さわらないで! いっしょうけんめいあつめたの! まりさのだよ! まりさのだからね! とらないでね! かってにまりさのたからものをおにいさんのものにしないで!!」 騒ぐまりさの声を俺は聞いたが、だからといって譲歩する理由はない。 「何を言ってるんだ。まりさだって、勝手に俺のものを自分のものにしたじゃないか。忘れたわけじゃないだろ。 だから、俺だって勝手に君のものを自分のものにするよ。勝手に、全部燃やしてあげるよ」 俺は懐からマッチ箱を取り出し、マッチを擦るとまりさたちの食事と家財と宝物の山に投げた。 マッチは弧を描いて飛び、丁度あの素晴らしい出来のベッドに落ちた。 乾燥した草と羽毛だ。これ以上はない可燃性の素材である。 「やめてえええええええええええ!! まりさのだいじなたからものおおおおおおおおお!!」 「やめてえええ! やめてくださいいい! おねがいですからあああ!」 「あああああああ! もやさないで! もやさないでええええ!」 一瞬で火に包まれたベッド。 さらに火勢が強まるのを見た三匹は、いっせいに飛びかかった。 点火した俺ではなく、今まさに火によって失われようとしている大事なもの目がけてだ。 「危ないよ。火傷したらどうするんだい」 俺はスコップで両親を軽くはじき飛ばした。 「ぶぶべっ!」 「ゆぎゅお!」 そこそこ重量があるはずの二匹は、あっさりと吹っ飛んで木に頭をぶつける。 親まりさと親れいむは殺す必要はない。 むしろ、ここで死んでもらったら困る。 「ああ……ゆああ………いっしょうけんめいあつめたごはんが……ごはんがあ………もえちゃうよお…………」 「ゆうう……どうして……ありすにつくってもらったおふとんが……すごくゆっくりしてたのに……ひどいよお……」 荒事が苦手なゆっくりだが、この両親は輪をかけて争いが苦手と見える。 人間と自分たちの力の差をはっきり理解できているからか。 両親は一度殴られただけで闘争心がゼロになったらしく、遠巻きに悲しそうに燃える火を見ている。 「ゆーしょ! ゆーしょ! きれいないしさん! きれいないしさん! どこなの! ゆっくりしてないででてきてねえ!」 分からないのはまりさだけだ。 まりさは火の恐怖に半泣きになりながらも、まだ燃えていないところに顔を突っ込んだ。 ご飯やベッドには目をもくれず、自分の宝物だけを持ち出すつもりだ。 「あぢゅいいいい! あぢゅいよお! いしさんはやくでてきて! どこなの! どこなのおおお!」 舌で掻き分けるものだから、火が触れてまりさは火傷した。 熱さで涙を流しながら、まりさはなおも自分の宝物だけを探す。 「あったよ! あったよおおおお! きれいないしさん! ゆっくりでてきてくれてありがとうね!」 まりさは火の中でそれを見つけて、慌てて口の中に放り込んだ。 きれいな石とは、ビー玉のことだ。 落ちていたのを拾って、大事に取っておいたのだろう。 確かに、あの輝きは自然界の中にはない。 きっと、まりさにとって素敵な宝石だったのだろう。 口の中で転がしてつるんとした感触を楽しんだのだろうか。 それとも、光が当たって輝く様子を飽きずに眺めていたのだろうか。 「きれいないしさん! よかったね! まりさのだいじなたからものだよ! ぜったいになくさないからね!」 燃える家財と食事に背を向け、まりさは口からプッッとビー玉を吐き出した。 炎できらきら輝くそれを、まりさはうっとりとした顔で見つめている。 舌でつんつんとつついてみたり、ニコニコ笑って頬をくっつけてみたり、こいつの愛着は並々ならぬものだ。 「ずるいよ、まりさ。半分ちょうだいね」 俺は、スコップを振り上げるとまりさの目の前に全力で振り下ろした。 狙いはビー玉だ。 「ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙っ゙っ゙!!」 「ごめんごめん。半分にするつもりだったけど、壊しちゃったよ。別にいいよね」 スコップは見事ビー玉に命中し、まりさの目の前でまりさの宝物はこっぱみじんに砕けた。 ガラスの破片が周囲に散弾のように飛び散る。 まりさは最初呆然としていたが、後に残った残骸を見て少しずつ理解したようだ。 大事な宝物は、なくなってしまった。 もう二度と、見ることも触ることもできない。 取り返すこともできない。 ばらばらに砕けてしまったのだから。 「ゆっ!! ゆうっ!! ゆぅえええええええええええん! ばびざのおおおおお! ばびぢゃのだびじなだがらぼのおおおおおお!! ひどいよおおおおおおお! ひどいよおおおおおおお! がえじでええ! ばりざのだがらものがえじでええええええ!!」 顔中を口にして、涙を滝のように流しまりさは号泣した。 その泣き方は、もしかすると自分の片目を失った時よりひどいかもしれない。 あの時は、肉体的な苦痛と恐怖の方が大きかった。 今回は、純粋に精神的な苦痛だ。 大事な宝物を、目の前で粉砕されたのだ。 「こんな家に住んでいてまりさはずるいね。だから、これももらうよ」 俺はそろそろ灰になりつつある、かつての家財と食事と宝物をスコップですくい上げた。 勢いを付けて、それらを家の中に放り込んでいく。 「やめてえええ! そんなことしたら! おうちが! まりさのおうちがなくなっちゃうよおお!」 「やめてください! やめてください! どうしてこんなことするの! どうしてええええ!」 再び両親が騒ぎ出す。 「ゆええええええええん! ゆあああああん! まりさのいしさん! いしさああああん! かえってきてよおおお! もとにもどってよおおおおお! おねがいだよおおお! まりさのいしさん! いしさあああん! だいじないしさあああん!」 対するまりさは、のんきにビー玉の破片を集めては泣いているだけだ。 あれでは、好きこのんでビー玉がなくなった悲しみを深めているだけだが。 破片を集めれば集めるほど、もう宝物が修復不可能であるという現実を突きつけられる。 そんなことも、まりさは分からないらしい。 燃えかすを全部放り込んでも、まだ巣穴は塞がらない。 少し肉体労働になるが、ここまで来たら乗りかかった船だ。 とことんまでやってやろうじゃないか。 俺は悪ノリに近い勢いで、スコップを地面に突き立てた。 土をすくっては、どんどん巣穴にぶち込んでいく。 しばらく、すすり泣く両親と泣きわめくまりさの声を聞きながら黙々と作業を進めた。 結果がこれだ。 「おうちが! まりさのおうち! おうちいいいいい! ないよ! なくなっちゃったよおおお!」 「ないよおお! なにもない! おうちも! ごはんも! れいむたちなにもなくなっちゃったあああ!」 「ゆえええん! ゆええん! まりさのおうちいいい! ゆっくりしてたのに! いっぱいむーしゃむーしゃしたのに! ないよおお! おうちがないよおお! おにいさんひどいよおお! まりさのおうちかえして! かえしてよおお!」 大木の根元には、穴などもはや空いていない。 俺はまりさたちの家を完全に住めないようにしてやった。 かつてのお家には、家財と食事と宝物の燃えかす、それにチビれいむとチビまりさの死体が埋まっている。 もう一度同じ場所に巣を作ろうとするならば、変わり果てたチビたちの死体を掘り起こすことになるだろう。 俺はそのことを丁寧に説明してやると、三匹はそろって涙を流した。 さて、これからが少々厄介だ。 とことんまでやってやる、とは思っているが、面倒なことになるだろう。 俺がまりさに、友達がどこに住んでいるのか聞こうとした。 「な、なんなのこれえええええ! まりさ! どうしたのおおお!?」 「まりさ! なんでないてるんだぜ! それにまりさのおとうさんとおかあさんも!」 「まりさのおうちがなくなってるわ! どういうことなの?」 「み…みんな……みんなああああああ! ゆわあああああん! まりさこわかったよおおおお!!」 俺が振り向くと、そこにはまりさとほぼ同じサイズのゆっくりが三匹そろっていた。 れいむ、まりさ、ありすという顔ぶれだ。明らかに、まりさの言っていた友達だろう。 遊びに誘ってきたのか、それともうるさくて不審に思って出てきたのか。 鴨が葱を背負ってきた。 まりさにとっては不幸だが、俺にとっては棚からぼた餅だ。 「みんなああ! おにいさんが! にんげんさんが! まりさをいじめるんだよおおおおお! ひどいよおおお! いもうとをころしちゃったよおおお! おうちも! ごはんも! まりさのたからものも! ぜんぶおにいさんがああああ! ひどいよおおお! まりさなにもわるいことしてないのに! おにいさんのおかしたべたかっただけなのにいいいい!」 こいつは妹たちが俺に惨殺されたことに、まったく懲りていないらしい。 今度は何と、自分の友達に泣きついた。 状況が分かっているのは、こいつの両親だけだ。 「おちびちゃんたち! ここはあぶないよ! かえりなさい! はやくおうちにかえって!」 「れいむたちはだいじょうぶだからね! ね? はやくかえって! あぶないからあああ!」 「やだよお! かえっちゃやだああ! まりさをひとりにしないで! しないでよおおお!」 真っ青な顔で、しきりに三匹を追い払おうとする親れいむと親まりさ。 しかし、親の必死の説得も分からず、まりさはめそめそ泣きながら友達にすがりつく。 友達を盾にするつもりなのか。 人間とゆっくりの力の差が、妹たちが死んでも分からないのか。 「わかったぜ! あんしんするんだぜ! まりさがまりさをいじめるにんげんさんをこらしめてやるんだぜ!」 「まりさだけじゃないわ! ありすもいっしょよ! いっしょにいなかもののにんげんさんをおいはらいましょう!」 「おいはらうだけじゃだめだよ! まりさをいじめたわるいにんげんさんだよ! ちゃんとあやまってもらうからね!」 「だめだよおおおお! やめて! にんげんさんにかなうわけないよおおおお!」 「かえって! かえってよおおおお! みんなしんじゃうよおおおおおお!」 「みんなあああああ! まりさうれしいよおおおお! たすけてくれてありがとう! ほんとうにありがとうね!」 俺を懲らしめてやると息巻くまりさの友達。 この上さらに死人を増やされてはたまらないと叫ぶ親れいむと親まりさ。 そして、さらなる捨て駒を手に入れて大喜びのまりさ。 たぶん、こいつは次々と襲いかかる不幸に頭が付いていかないのだろう。 どうすれば事態が好転するか考えるのではなく、ただ我が身の不幸を嘆くだけ。 だから、自分が事態をさらに悪化させていることに気づかない。 「ゆっ! ゆっ! にんげんさん! どうだぜ! まりさのたいあたりは! いたいのぜ? くるしいのぜ?」 一番槍はまりさだった。 気合いを入れて、まりさは俺の足に体当たりを始める。 先程のチビたちの体当たりに比べれば、かろうじて威力がある。 「まりさにつづくわ! ゆっ! ゆっ! ゆーっ! どう? にんげんさん! ありすのたいあたりはいたいでしょ!」 「れいむもやるよ! ゆっくりーっ! がんばろうね! にんげんさんはくるしんでるよ! いたがってるよ!」 「そうだぜ! ゆっ! まりさたちの! ゆっ! さいきょうのこうげきに! ゆっ! にんげんさんはいちころだぜ!」 ぽむぽむとコミカルな効果音と共に、三匹は体当たりを繰り返す。 しかし、こいつらはいったい何を言っているんだ? 俺が苦しんでる? 痛がってる? いちころ? どう見ても、俺は棒立ちに突っ立って、ダメージらしいダメージなど受けてないのに。 こいつらは、自分の空想を本当だと思い込んでいるのだろうか。 「がんばって! みんながんばって! おにいさんをやっつけて! まりさおうえんするよ! ゆっゆっゆ~♪ ゆゆゆ~♪ みんながんばって~♪ ゆっくりがんばって~♪ ゆっくりゆっくり~♪ にんげんさんなんかにまけないぞ~♪」 肝心のまりさは、友のために健気に奮闘する三匹の後ろで、即席の応援歌を歌っているだけだ。 自分も攻撃に加わろうともしない。 ぴょんぴょんと跳ねているこいつの顔には、悲壮感など何もなかった。 もうこれで勝負は決まった、と信じて疑わない。 「おにいさん! もうわかったよね! まりさたちはつよいんだよ! わかったらはやくぜんぶもとにもどしてね!」 「まりさ、そんなことどうでもいいからさ。この友達、全員俺がもらうからね」 俺はスコップを振り上げた。 両親の方を横目で見ると、二匹ともぎゅっと目をつぶっていた。 いい選択だ。 「しぶといわね! いなかもののくせに! ありすのほんきがみたぶびびぶっ!!」 振り下ろしたスコップは、ありすの正中線に突き刺さっていた。 ざっくりと刺さったそれは、きれいにありすを真っ二つにしている。 「ゆ?……ゆ?……ゆっ?……ゆ゙! ゆ゙! ゆ゙ゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔ!!」 ありすは目を白黒していたが、すぐに自分の体にスコップが突き刺さっていることが分かった。 体を切り裂く激痛に、ありすは跳ね回りたいのを必死で我慢している。 「とって! これとって! おねがい!」と目で訴えている。 俺はすぐに望み通りにしてやった。 スコップを引き抜く。 同時に、ありすの体は左右に分かれ、汚らしくカスタードクリームを垂れ流して地面に転がった。 ありすは初めて見る自分の断面を、見ているこちらもぞっとするような顔で見ていた。 口を何度かぱくぱくと動かし、最後にカスタードが混じった涙を流してから、ありすは息絶えた。 「あ! あでぃずうううううううう!!」 「ありぢゅがあああああああ!!」 「ゆっくり~♪ あ? え? ゆ? あ、ありすううううううう!?」 まずは脇にいたまりさとれいむが、そして最後にへたくそな歌を歌っていたまりさが友の死に絶叫した。 こいつらにとってまさかの出来事に、どいつも動きが停止する。 れいむの立ち直りが一番早かった。 この中で、もしかすると一番賢かったのかもしれない。 「ゆっくりしないでにげるよおおおおお! おうちにかえるううううう!」 まだ恐怖でわめいているまりさ二匹をあっさり見捨て、れいむは背を向けて跳ねようとした。 敵前逃亡か。 しかし、ゆっくりとしては賢明な行動になるだろう。 結果は変わらないのは仕方ないが。 「ばびゅゔぇ゙っ゙っ゙!」 体を折り曲げ、跳ねるための力を溜めている無防備な背中に、俺はスコップの平たい部分を振り下ろした。 上から叩きつける鈍器の一撃に、れいむはドラ焼きと見間違えるほどに平たく潰れる。 「ばぶっ! ぶぶばぅ! ばぎひっ!」 口と尻から餡子を吹き出してのたうつれいむに、俺は二度、三度、四度とスコップを叩きつける。 その度に、れいむは口から餡子を吹き、それは硬直するまりさの顔にかかった。 顔はこちらから見えないが、きっとれいむの顔は苦痛でぐちゃぐちゃだろう。 「ゆばっ……ばゆっ………だず……げ……で……びぶっ……ばり……ざ……だずげ……で…よ……」 もう呻くだけになったれいむに、俺はとどめのスコップを食らわした。 「ばっぼぉいいっ!」 れいむの体から餡子が出尽くし、小さく震えてから動かなくなった。 最後は、勇ましくも俺に一番最初に体当たりしたまりさだ。 まりさはすっかり怯えてしまい、足元にしーしーの水たまりを作って動けないでいる。 俺が微笑んでやると、まりさは露骨にこびへつらった顔をした。 「にんげんさん! まりさはたすけるんだぜ! まりさはわるくないんだぜ! まりさはこんなことほんとはしたくなかったんだぜ!」 何とかして殺さないでもらおうと、まりさはべらべらと喋り始めた。 命乞いは悪くないが、どうせするなら言葉をもっと選んで欲しいものだ。 「まりさをころすなら、あっちのまりさにするんだぜ! あっちのまりさが、ぜんぶわるいんだぜ!」 「まりさ? まりさああ? どうして? どうしてそんなこというの? ひどいよおおお!?」 まりさは俺の方に寝返るつもりだ。 にやにや笑いながら、俺にまりさを殺すよう言ってくる。 当然、友にそんなことを言われるとは思っていなかったまりさは目を剥いて驚いている。 「ともだちでしょ! ともだちだよねえ! なんで? なんでそんなこというの? まりさととおともだちでしょおおお!?」 「うるさいんだぜ! さっさとそのきたないくちをとじるんだぜ! このげす! くずゆっくり!」 「ゆ……ゆええええええん! ひどいよおおお! まりさのこと、おともだちだとおもってたのにいいいい!!」 「まりさはともだちだとおもったことなんかいちどもないんだぜ! おまえなんかはやくころされるといいぜ!」 こうすれば、俺に殺されないと思っているのだろう。 まりさは口汚く向こうのまりさを罵る。 向こうのまりさはまだ状況が分からず、突然の友の裏切りに涙を流してわめくだけだ。 俺はスコップを振り上げた。 「やっ! やだあっ! やめるんだぜ! やめるんだぜ! やだあ! やああああ! やぎゃげっ!」 首をぶんぶんと左右に振るまりさの顔に、スコップの先端を浅く刺す。 片方の目が潰れ、顔が半分陥没する。 「びぎゃ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙! い゙ぢゃい゙! い゙ぢゃい゙い゙い゙い゙! あっ! やべでぇ! ぼうやべでえ! ぎゃげびゅっ!」 もう一度だ。 反対側の目が潰れ、顔が完全に歪む。 俺は黙々と同じことを繰り返した。 饅頭が潰れないように慎重に、少しずつまりさの顔と体を潰していく。 「ぎゅげぇっ! ぐぞおっ! おばえのっ! おばえのぜいだああ! おばえのぜいでばりざがじぬっ! ぐぞおおお! ぎゃぎゅっ! ぎいでるのがあああ! おばえぼじねえ! ありずもれいぶもっ! おばべのぜいでじんだんだあ! ばりざもっ! あぎゅうっ! あんごがっ! ばりざのあんごがでぢゃうっ! いやだあっ! じにだぐないっ! じにだぐないいいい!」 次第にまりさの叫び声は、突っ立って一部始終を見ているだけのまりさに向けられていった。 今では、俺など無視してまりさをひたすら呪っている。 気にせず俺はひたすらまりさを切り刻む。 「おばえのぜいだ……おばえの……ぜいだ……おばえが……わるいんだ……ゆ゙ゆ゙っ!……ゆ゙……ゆ゙……」 餡子と皮のミンチになった状態で、まりさはなおもまりさを恨んでいた。 餡子の中からそこだけぐにゃぐにゃと動く舌が、まりさを呪う言葉を吐く。 俺は最後にその舌を真っ二つに切り、まりさを殺した。 これで、こいつの友達も全部もらったことになる。 こいつの友達の「命」をもらったのだが。 「やめて……やめてよお………もう……とらないで……まりさのだいじなもの……とらないでよお……」 ようやく、まりさは察したのだろう。 俺によって、まりさの大事なものが一切合切奪い取られたことが。 もうかわいい妹たちには会えない。 ゆっくりできたお家は土の下だ。 お気に入りの宝物は、目の前で粉々になった。 友達はみんな死んでしまった。 まりさに至っては、死ぬ前に自分を恨んでいた。 そして自分は、片目と髪の毛、それに歯を失った。 全部、俺のものにされて奪われていく。 「親がいるなんてまりさはずるいね。まりさのお父さんとお母さんも俺がもらうよ」 俺は涙をぽろぽろこぼしているまりさから、こいつの両親に顔を向けた。 「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! まりさたちがわるかったです! だからころさないでください!」 「れいむたちがわるいです! あやまります! あやまりますから! ころさないで! ころさないでえええ!」 「………ならば殺さないであげるけど、一つ聞くよ。君たちは誰のもの?」 「おにいざんのでず! ばりざはおにいざんのものでず! ばりざをおにいざんにあげまず!」 「れいぶもおにいざんのものでず! れいむのぜんぶ、おにいざんがもらっでぐだざい!」 「うん。その通りだ。君たちのものは全部、俺のものなんだよ。分かったかい?」 「はい! はいいいいい! ゆっぐりりがいじまじだああああ!」 「わかりまじだ! わがりまじだがら! おねがいだがらごろざないでえええええ!!」 跳びはねながら土下座する両親。 この二匹を殺す必要はない。 なぜなら、こいつらははっきりまりさの前で言ったのだ。 自分たちは、俺のものだと。 自分たちのものはすべて、俺のものだと。 それはつまり、こういうことだ。 「まりさ、お父さんとお母さんは、もうまりさのお父さんとお母さんじゃないんだよ。分かったか?」 「ゆっ? えっ? どうして? ねえどうして?」 まりさは目を丸くした。 嘘、とすぐ断じるつもりだっただろう。 だが、悲しそうに目を逸らす両親を見て、まりさは震え始めた。 最後の支えが、崩れようとしている。 「そんなことないよね? まりさはおとうさんのまりさだよ。おかあさんのまりさだよ。そうだよね! そうだよね! ねえ? なんでそうだっていってくれないの? ねえなんで? なんでなんでなんでええ? そうだっていってよおおおおお!!」 「ごめんね……ごめんね……ごめんねおちびちゃん…………」 「ごめんね……ほんとうにごめんね……もうだめなんだよ……おちびちゃん」 「やだああああ! そんなこといわないで! まりさだよ! かわいいまりさだよ! まりさはここにいるのにいい! まりさこれからどうすればいいの? まりさひとりぼっちだよ! そんなのやだよ! やだおおおおおおおお!!」 俺は、まりさから親まで奪った。 たとえ家がなくても、妹たちが死んでしまっても、親さえいればまだ救いはある。 悲しい時には慰めてもらえる。すりすりしてもらえる。ぺろぺろしてもらえる。 幼いまりさには、親さえいれば助けになるだろう。 だが、もはやまりさにはそれさえない。 「やだよおお! すてないで! すてないでよおおお! まりさいきてるよ! ゆっくりしてるよ! もっとゆっくりしたいよお! ゆっくりさせて! ゆっくりさせてよお! おとうさんとおかあさんといっしょにゆっくりさせてよおおおお!!」 「悲しむことはないよ、まりさ。だって、君は丸ごと両親のものから俺のものになったんだからね」 俺は、現実を受け入れられずに涙をぼろぼろこぼして泣くまりさを片手で持ち上げた。 もう片手で、その辺にあった尖った木の枝をつまむと、まりさの顔に突き刺す。 「いぢゃいいいいいい! いぢゃい! いぢゃいよおおおお! まりさいだいっ! いだいいい!」 「そうだね。痛いだろうね。もう一本刺すよ」 「やめてええええ! いたいよ! すごくいたいよおお! いぢゃいっ! いぢゃいいぢゃいいぢゃいいいい!」 弾力のある皮を貫いて、鋭い枝がまりさの体を貫く。 経験したことのない痛みに、まりさは必死になって体をよじる。 俺はさらに枝を刺す。 「いぢゃよおおお! まりさのおかおがいたいよおお! たすけてよお! おとうさああん! おかあさあああん! まりさいたいよ! すごくいたいよおおおお! たすけて! たすけてえええ! どうしてたすけてくれないの! たすけてよお!」 「見てごらん、まりさ。君がどんなに助けを求めても、お父さんもお母さんも助けに来ないよ。君はもう、両親の子どもじゃないからね」 意地悪く俺が言うと、まりさはもはや泣きすぎてふやけた顔で両親の方を向いた。 最後の救いを、一生懸命探しているのだろう。 まりさは、すすり泣きながら親まりさと親れいむにすがりつく。 「おとう……さん……おかあ……さん……。たすけてよ……まりさを……たすけて…………おねがい……たすけてよお……」 「ごめんね…ごめんねおちびちゃあん…………できないの。……おかあさんにはできないよお…………」 「にんげんさんに……まりさたちはかてないよ………。できないよ……ごめんね…ごめんね……」 親まりさと親れいむは、まりさの呼びかけに目をそらした。 まりさの助けを求める声を、切って捨てたのだ。 まりさの顔はその瞬間、生きる意欲さえ失った死んだゆっくりの顔のようだった。 「うそだ……うそだ……うそだああああああああ!! そんなの! そんなのひどいよ! ひどいよおおお! かえして! おにいさんかえして! まりさにかえして! いもうとも! おともだちも! おうちも! たからものも! ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶううううううううううう!! かえしてよおおお! まりさにかえして! かえしてえええ!!」 何かも奪われたまりさは絶叫する。 信じたくなくて、しかし現実は変化せず、まりさはもう絶望しかない。 絶望で死にたくないから、まりさは俺にすべてを元通りにするよう迫る。 聞くわけがない。 「返すわけないだろ。まりさのものは全部俺のものなんだから。君と同じように、欲しいって言えばすぐに手に入れられるんだ。 もちろん、君のお帽子もだ。まりさにはもったいないね。こんな帽子をかぶってまりさはずるいよ。俺がもらおう」 俺は絶望で顔を歪めたまりさから、最後の大事なものを取り上げた。 こいつの帽子だ。 手に取ると、屋外で生活しているゆっくりにしては汚れていない。 ほつれや染みもない。まりさがとても大事にしていたのが、人間の俺でも分かる。 さぞかし、これを自慢にしていたことだろう。 ぴんと尖った帽子を頭に乗せ、得意そうに庭を跳ねていたまりさの姿を思い出す。 「まりさのおぼうしいいい! かえして! かえして! すぐかえして!……おとうさん? おかあさん? どうしたの?」 帽子を取られたまりさは案の定わめき始めたが、不意に驚いた顔で向こうを向いた。 まりさと同じ表情をした両親がいる。 「おちび……ちゃん……どうしたの……そのあたま…………」 「ひどいよ……おちびちゃんのかみのけが……ないよ…………」 そこでようやくまりさは気づいたようだ。 自分の頭には、家族や友達に誉めてもらったきれいな金髪がもうないことに。 今やまりさの頭にはまばらに金髪が残っているだけで、帽子がなければただの禿饅頭だ。 中途半端に残っているのが、また無様だ。 「あ……ああ……やだやだやだああああああ! みないで! みないでえええ! まりさをみないで! みないでよおおお! みないでえええ! まりさのかみのけ! まりさのかみのけないの! ないのみちゃやだああああ! やだああああ!」 まりさは最も恥ずかしい自分の姿を見られたことで、声が嗄れるほど泣いた。 今日一日で、まりさはこれまで生きていた中で流した涙を上回る量の涙を流したに違いない。 顔をぐしゃぐしゃにして、まりさは無様な自分を見られたことで恥ずかしがる。 きっと、こいつとしてはもう死にたいくらいだろう。 「そうか、禿になったからまりさには帽子が必要か」 「そうだよ! おにいさんのせいだよ! ひどいよ! はやくかえして! まりさのすてきなゆっくりしたおぼうしさんかえしてよお!」 「いいよ。返してあげる。ほらっ……」 俺は、帽子をまりさの頭に返してやった。 「あ゙あ゙あ゙っ!!」 頭に帽子を乗っけたまりさの目は、限界まで大きく見開かれていた。 信じられない。信じたくない。 これだけは、どんなことがあっても信じたくなかった。 しかし、現実はまりさの願いとは裏腹に残酷なままだ。 「あ……あ……あ……まりさの……おぼうしさん……すてきなおぼうしさん……おぼうしさんが……おぼうしさんがあぁぁぁぁ……」 まりさの体がガタガタと震え始めた。 涙がぴたりと止まり、代わって全身から冷や汗らしきものが流れ出す。 よく分かるだろう。生まれた時から頭の上にあるものだから、ちょっとした違いでも分かるだろう。 ましてや、帽子の重さが半分になってしまったことぐらい、こいつはすぐに理解できるだろう。 そもそも、俺の手には引き裂いた帽子の半分が握られている。 「まりさが独り占めしてずるいから、半分もらったけどね」 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! ばびぢゃ゙の゙じゅでぎな゙お゙びょゔぢぢゃんがあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」 無惨にもただの布きれになった帽子を頭に載せ、まりさは今までで一番の絶叫を張り上げた。 その声は極限まで高められた負の感情によって、耳を塞ぎたくなるほど濁っていた。 もう、まりさの精神は限界だった。 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! ゆ゙ぎゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙!! ゆ゙がぎゃ゙ぐぎゃ゙げぎょ゙ぎょ゙げえ゙え゙え゙え゙え゙え゙!!」 俺の手の中で、まりさはでたらめな声を発しながら、よだれをまき散らし体を捻る。 その目には理性もなければ感情もない。 次々と襲いかかるストレスに、まりさの心は潰れてしまったのだろう。 何も分からず、ただひたすら積もりに積もった苦しみから逃れようと、まりさはわめき散らす。 「それじゃあ、もらっていくよ。まりさの素敵なゆん生は、全部俺のものだ」 「びゃびゃあああ! びゃっびゃあああああ! ゆっびぇえええええ!! ゆっゔぁあああああ!!」 何を言っても反応しないまりさを俺は手で持ち、森を後にした。 親れいむと親まりさは悲しそうな顔で俺を見ていたが、その場から一歩も動かなかった。 俺は庭に出て、透明な箱に向かった。 庭の隅っこの、一番日当たりが悪い場所にまりさを入れた透明な箱がある。 あれから、俺はこいつを飼っていた。 いや、飼うと言っても飼い主らしいことは何一つしていない。 単に、まりさを閉じ込めていた。 俺が近づいても、頭に半分になった帽子を乗せたまりさはまだ気づかない。 まりさはうつろな表情で、ずりずりと這っては透明な壁にぽよんとぶつかっている。 ぶつかった衝撃で後ろに転がると、再びずりずりと這って近づいてはぽよんとぶつかる。 いつもの行動だ。最初それを見た時、頭がかゆいのかと思ったがそうではない。 「だして…かべさん……まりさをだして………。おうちにかえりたいよ……まりさのおうち……おうちぃ……… だしてよぉ……かべさんいじわるしないでぇ……まりさをだしてよぉ……。おうちにかえって……いっぱいいっぱいゆっくりしたいよぉ……」 呆れたことに、まりさは壁を壊そうとしていたのだ。 あれは加工場で購入した透明な箱だ。ゆっくりの力で壊れるわけがない。 それでも、まりさはあきらめきれないらしく、一日の大部分を無意味な行動に費やしている。 「どうしてでられないのぉ……。ゆええん……ゆええん……。でたいよお……。おとうさんとおかあさんにあいたいよお……」 やがてスタミナが切れたらしく、まりさは箱の中でめそめそ泣き始めた。 その泣き声には、かつてのようなかん高く耳障りな音量はない。 今にも消え入りそうで、我が身の不幸をただ嘆くだけといった感じだ。 箱の中は俺が定期的に掃除するため、そんなに汚れていない。 隅に小さな皿を置き、トイレとして使わせている。 だが、ほかには何もない。 俺は餌を一日二回入れるだけで、後は何もしていない。 まりさの一日は涙と共に始まり、涙と共に終わる。 朝、目を覚まして楽しい夢が終わってしまったことを知り、まりさは泣く。 野菜の切れ端や生ゴミを食べながら、家族が誰もいないことでまりさは泣く。 暗い日陰から庭の草花や昆虫を見ながら、自分がそこに行けないゆえにまりさは泣く。 何度も壁に体当たりし、自由になれないことと腫れ上がった顔の痛さでまりさは泣く。 友達と遊んだ記憶を思い返しては、自分がひとりぼっちだという事実でまりさは泣く。 陽が傾き、今日も一日全然ゆっくりできなかったことでまりさは泣く。 温かいベッドも一緒に眠るゆっくりもいないで、冷たい床に一人で寝る寂しさに泣く。 眠れば、恐らく妹と友達が死に、親に捨てられる悪夢を見るのかやはりまりさは泣く。 四六時中観察しているわけではないが、つくづくまりさはよく泣いている。 泣く理由に事欠かないのは事実だが、この囚人のような生活にちっとも慣れないようだ。 それも無理はない。 目の前には庭が広がっている。 まりさが散歩した、自然の豊かなゆっくりプレイスがすぐ近くにある。 そこに行きたい。花のいい匂いを嗅いで、イモムシなどをお腹いっぱい食べたい。 それが終わったら、群のゆっくりたちの所に行きたい。 お父さんとお母さんともう一度一緒に暮らしたい。 新しい友達を作って、いつか誰かと祝福されながら結婚したい。 まりさの願いは、ゆっくりでなくても分かる。 だが、まりさの願いは叶わない。 今日もこうして、透明な箱の中で手の届かないユートピアを見ているだけだ。 まりさの顔は、かつてのような無邪気で輝いた表情を見せはしない。 いつも、半分死んでいるような、どんよりと暗い空虚な顔しか作らない。 俺は透明な箱に近づき、蓋を開けた。 生きる意欲のない目をしたまりさが、俺の方を見る。 「おにいさん……。だして。まりさを…ここから……だして。……おねがいだから、だしてよお…………」 語尾は震え、まりさは半分泣いていた。 俺は箱の中に野菜の切れ端を入れ、うんうんが入った皿を新しいものと取り替えて蓋を閉めた。 会話もせず、まるでまりさがいないかのように俺は振る舞う。 俺が背を向けると、まりさの泣き声が聞こえた。 「ぐすっ…ゆぐっ……ゆええん………むーしゃむーしゃ…するよ……ふしあわせぇ……ふしあわせぇぇぇ……」 森にいた時では味わえないおいしい野菜を食べていても、まりさは押し寄せる悲しみに疲れ切っていた。 これを、妹たちと一緒に食べられたら。 両親と一緒にむーしゃむーしゃできたら。 友達と一緒に分け合えたら。 今は、まりさはたった一人で食事をしなくてはならない。 寂しがりなゆっくりにとって、それはゆっくりと死んでいくのに等しい状況だろう。 毎日のように、親れいむと親まりさがこいつの様子を見に来た。 俺に何度も頭を下げて「おちびぢゃんをゆるじでぐだざい!」「おぢびぢゃんをがえじでぐだざい!」と頼んでいた。 俺が応じないでいると、その内あきらめたようだ。 俺が餌をやり終えて家に入ると、まりさのいる透明な箱に近づいては壁越しにすりすりしていた。 壁越しにお互いにぺろぺろしていることもあった。 だが、感触は最悪だろう。饅頭皮の柔らかさはなく、あるのは冷たく固い壁だけだ。 まりさはそれでも、両親との面会を心から楽しみにしていた。 たとえ壁越しでも両親に会える。 会話ができる。一緒にいることができる。 両親とまりさは、午前中から夕方になるまで一緒にいることさえあった。 しかし、徐々に親れいむと親まりさがこいつの元を訪ねることは少なくなっていった。 それに反比例して、二匹の体に傷が増えていった。 俺はその理由が分からなかったが、ついにある日両親は悲愴な顔付きでまりさに言った。 「ごめんね……。おちびちゃん、ほんとうにごめんね……。まりさたちは、ひっこすことにしたよ」 「もう……おちびちゃんにはあえないよ。おにいさんをおこらせないで、ゆっくりしていってね」 突然の引っ越しだった。 二匹は巣を俺によって潰されてもしばらく森で暮らしていたが、ついに別の森を目指して出ていくことにしたらしい。 まりさの騒ぎ方は尋常ではなかった。 「どうじでええええ! まりざごごにいるよ! どうじでばりざをおいでぐのおおおお!!」 「まりさのおともだちが……しんじゃったでしょ。だから、おともだちのおとうさんとおかあさんがすごくおこってるんだよ」 「こどもがしんだのは、おちびちゃんのせいだっていっておかあさんたちをいじめるんだよ。……もう、れいむはたえられないよ」 「そんな……そんなの……そんなのひどいよおおおおお!! まりさも! まりさもつれてって! おいてかないでえええ!」 「むりだよ。おとうさんたちは、おちびちゃんをたすけられないんだよ。ゆっくりりかいしてね」 どうやら、あの時俺が殺したまりさの友達の両親が、まりさを目の仇にしていたようだ。 この所急に増えた二匹の体の傷は、死んだ子どもの両親によるもので間違いないだろう。 まりさは今度こそ両親と会えなくなることが分かり、箱の中でめちゃくちゃに暴れた。 壁に体当たりしながら、まりさは泣き叫ぶ。 「やだああああ! やだああああ! おとうさん! おかあさん! まりさここにいるよ! ここにいるのにいいいいい!! いなくなっちゃやだあああ! まりさといっしょにいてよ! すーりすーりしてよ! ぺーろぺーろしてよおおおおお!!」 ついに、両親に我慢の限界が訪れた。 俺は、温厚そうな親れいむが怒るのを初めて見た。 「うるさいよ! そうやってじぶんでなにもしないでたよってばかり! れいむのおなかにはあかちゃんがいるんだよ!」 「そうだよ! あかちゃんのためにまりさたちはひっこすってきめたんだよ! そこでずっとひとりでゆっくりしていってね!」 「あああああああ! すてないでええ! すてないで! すてないで! まりさをわすれないでえええ! わすれちゃやだあああ! まりさかわいそうだよ! ひとりぼっちだよ! どうして! ねえどうして! どうしてまりさをすてるの! ひどいよおおおおお!」 新しい子どもたちのために、安全な場所に引っ越すのか。 そして、新しく子どもができたことで、今いるまりさを優先することがなくなったのか。 二匹は寄り添いながら、振り向きもせずに庭から出て行った。 後に残されたまりさは、その日一日声が嗄れるまでまで泣き続けていた。 次の日から、俺の庭は急に騒がしくなった。 やって来たのは、六匹のゆっくりだ。 明らかに、まりさの友達の両親だと分かる言動をしている。 それはこんなものだ。 「じねええ! このぐぞまりざああああ! おぢびじゃんがじんだのに、どうじでおまえだげいぎでるんだ! そくざにじねえええ!」 「ゆええええん! ゆえええええん! やめてよおお! こわいよおお! まりさをおこらないでよおおお!」 「おばえだげは! おばえだげはぜっだいゆるざない! ごろじでやる! ごろじでやるうう! このゆっぐりごろじいい!!」 「ちがうよ! ちがうよおおお! みんなをころしたのはおにいさんだよ! まりさじゃないよおおおお!」 「にんげんざんをおごらぜだのはおばえだろうがあああああああ!! おばえのぜいで! おばえのぜいでみんなじんだんだあああ!」 「ごろず! おばえがぞごがらでだらぜっだいごろじでやる! ごろじで! ごろじで! ゆっぐりゆっぐりごろじでやるがらなああああ!!」 六匹のゆっくりは箱を取り囲み、般若の形相で罵声を浴びせ、箱に体当たりを繰り返す。 その怒り方は正気とは思えない。 案外、両親たちは子どもが死んだことで気が触れたのかもしれない。 人間の俺でさえ引くような憎悪を見せつけられ、まりさは箱の中で縮こまる。 「やだよおおお! そんなのやだああああ! ゆああああん! れいむうう! まりさああああ! ありすうううう!」 「おちびぢゃんだぢのなまえをぎやずぐよぶなああああああ! おばえなんがが! おばえなんががあああああ!」 「おばえなんが! うばれでごなげればよがっだ! じねばよがっだ! じねええ! ざっざのじねえええええええ!!」 「じなないならごろじでやる! おぢびぢゃんのがだぎだ! ごろじでやる! ごろじでやるがらででごいいい!」 「いわないでええええ! れいむおばさん! ありすおばさん! まりさおばさん! まりさをいじめないでえええ!!」 この上なく醜い寸劇はしばらくの間続いた。 ほぼ日をおかずに六匹はやって来ては、まりさを罵り箱を壊そうとする。 しかし、どれだけやってもまりさを殺せないと分かったのか、しばらく経つと来なくなった。 けれども、まりさの心に刻まれた傷は相当なものだったようだ。 「ゆっくり………ゆっくり。………ゆっくり? ………ゆっくりって……なんだっけ? ……わからないよ……ゆっくり…ゆっくり………」 まりさはだんだん食欲を失い、毎日白痴のような顔で外を眺めているだけになった。 排泄さえもどうでもよくなったらしく、トイレではなくその辺でしーしーやうんうんを垂れ流している。 「まりさが……まりさがわるいんだ……わるいのはまりさ……わるいまりさ………まりさはわるいこ……どうしてわるいこなんだろ?」 俺は、たとえようもなくうんざりしていた。 俺は駆除でゆっくりは殺すことはしても、痛めつけたところで別段面白くもない人間だ。 一時の怒りにまかせて、ずいぶんと面倒なことをしてしまった。 不思議なことに、まりさの目を潰し、歯を抜き、帽子を破った時、俺は嫌悪感を感じなかった。 まりさの大切なものを壊していくことに、まったく躊躇はなかった。 むしろ、破壊に快感さえ感じていた。 あの時の俺は、異常だったとしか言いようがない。 ゆっくりとは、そういう存在なのかもしれない。 俺は常々、なぜこんな危険でもない饅頭がこれほど人間から憎まれ、虐待されているのか分からなかった。 今なら分かる。 些細なことから難癖を付けて、まりさを虐待した今ならよく分かる。 ゆっくりとは、とにかく人間を苛立たせる饅頭なのだ。 俺のものと分かっていながら、菓子を勝手に食べるだけではない。 謝りもせず、もっとよこせと臆面もなく要求する。 しかも、要求が通るまで口うるさくぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。 これほど人間の感情を逆なでする存在には、まりさ以外に出会ったことがない。 だが、熱はすぐに冷める。 腹立ち紛れにまりさを虐めている時は感じなかったが、俺はゆっくりに関心がないのだ。 そもそも、俺が失ったものはおはぎが一つだけだ。 もしまりさが我が家の家宝を壊したら話は別だが、もう俺の怒りはとっくに収まっている。 こうやってまりさを手元に置いておくだけで、俺はほとほとうんざりしていた。 飼い続ける気などさらさらない。 いっそ潰してしまうかとさえ思ったが、熱が冷めた今殺すのは気が引けた。 まさに惰性で、俺はまりさを飼っていた。 ようやくこの下らない日々が終わったのは、ある休日の午後のことだった。 餌をやろうと箱の蓋を開けた時、久しぶりにまりさが俺の方を見た。 「おにいさん……きいてね…………」 まりさの意味のある言葉を聞いたのはどれほどぶりだろうか。 無視できず、俺はまりさの次の言葉を待った。 頭に半分だけになった帽子を乗せた、まだ禿が残っている無様なまりさは、俺に向かって頭を下げた。 体を折り曲げて、謝罪の意を示したのだ。 「あのね…………。かってに、おにいさんのおかしをたべてごめんなさい。まりさがわるかったよ」 俺は、何も言えなかった。 ようやくだ。 ようやく、俺は待ち望んでいた言葉を聞いたのだ。 だが、遅すぎた。 もはや俺は、まりさの謝罪を聞いても感動はしなかった。 「たべちゃだめだっておにいさんがいったけど、まりさはがまんできなくてたべちゃったよ。まりさはわるいゆっくりだね」 今まで狂ったゆっくりのようだったのが嘘のように、まりさははっきりした言葉を発する。 まりさの片方の目には、今はちゃんと理性の光がある。 「おにいさん、おかしをかえしたいけど、まりさはかえせないよ。ほんとうにごめんなさい」 まりさはもう一度、俺に向かって謝った。 いったいどういう心境の変化だろうか。 最初から、自分が悪いことをしたことが分かっていたのだろうか。 だとしたら、なぜ今まで謝らなかった? 俺が人間だから馬鹿にしていたのか? それとも、言い出すきっかけがなかったのか? いや、やはりまりさにとってあれは悪いことではなかったのか。 ここ数日ずっと考えていて、ようやく分かったのだろうか? そうではないだろう。こいつの両親はこいつが悪いことをしたのだと分かっていた。 まりさの心境の変化は、俺には分からなかった。 だが、もう俺はどうでもよかった。 仮にこいつが俺を騙すつもりで謝っていても、興味はない。 まりさの謝罪は、俺にとってまりさを解放する格好の口実にしかならなかった。 「外に出たいのか」 「……ゆ?」 「外に出たいのかと聞いたんだ」 俺の問いかけに、まりさはぽかんとしていた。 外に出る。 その響きは、まりさにとってもう絶対に聞けないものだと思っていたに違いない。 「……でたいよ。おうちはなくなっちゃったけど、まりさはもりにかえりたいよ」 まりさとの関係にうんざりしていた俺にとっても、その言葉は朗報だった。 俺は箱をひっくり返し、まりさを地面に転がした。 「出て行け。もう二度とここに来るんじゃないぞ」 まりさは、しばらくその場で固まっていた。 現実が信じられず、まりさはぼーっとその場で突っ立っている。 だが、徐々に理解できたらしい。 きっと、足の感触の違いで分かったのだ。 もう、自分が踏んでいるのは固い人工の床ではない。 柔らかい土の感触が、足から伝わってくる。 外だ。 外に出られたのだ。 まりさは待ち焦がれた自由に、隻眼からぽろりと涙をこぼした。 「……ごめんなさい、おにいさん。……ほんとうに、ごめんなさい…………」 「分かったから行くんだ。森で、人間にかかわらず生きていけ」 「わかったよ……。まりさは、もりにかえるんだ……。ゆっくりかえるよ……。まりさは……おうちをみつけて…ゆっくりするんだよ。 ごはんさん……むしさん……おはなさん……まっててね。まりさは……いっぱいみつけて……おうちでいっぱい……むーしゃむーしゃするよ。 それで……ゆっくりおやすみして……いっぱい……いっぱいおともだちみつけて……いっぱいあそんで……いっしょにゆっくりして………」 尽きない望みを次々と口にしながら、まりさは嬉し涙を流していた。 俺の目の前で、まりさはずりずりと這って生け垣に向かう。 以前、俺から逃げようと必死で跳び込んだ元気さは、もう今のまりさにはない。 それでも、まりさは生きている。 生きて、森に帰ることができるのだ。 失ったものは多いが、まだ希望はある。 まりさは生け垣に潜り込み、俺の前から姿を消した。 「……やれやれ。長かった」 俺はまりさの這う音が聞こえなくなってから、大きくため息をついた。 つくづく、我ながら馬鹿らしいことをした。 たかが菓子一つのことで、ずいぶんむきになったと自分でも思う。 それだけ、俺にとっては父に怒られた経験がトラウマになっているのか。 だが、茶番もこれで終わりだ。 まりさとはもう、二度と会うこともあるまい。 これでよく分かった。 ゆっくりと人間は、言葉こそ通じるがまったく別の思考を持つ生物なのだ。 俺の価値観をまりさに押しつけようとして、こんな馬鹿らしい事態を招いた。 ゆっくりを人間扱いした結果がこれだ。 まりさを謝らせようなどと考えなければよかったのだ。 まりさのように菓子をせがむゆっくりがいれば、蹴り飛ばすか菓子を隠してしまえばいい。 どうせ、その程度の存在なのだ。まりさが謝ったのも、せいぜい偶然だ。 そういうふうに思えば、遙かに楽だ。 俺は肩の荷が下りた気分だった。 一週間ほど経った。 透明な箱を片づけたことで、俺は早くもまりさのことを忘れかけていた。 もう、ゆっくりには駆除以外で関わることはないと思っていた。 それは、山芋を見つけに森に入った時のことだった。 「いたい? いたいいいいい!? そうだよねえ! いたいよねえ!」 「おちびちゃんはもっといたかったのよおおおお! もっとくるしかったわああああ!」 「くるしいよねえ! しにたいよねえ! まだころさないよ!」 「もっともっと! もっともっともっともっと! まだたりないぜえええええ!」 「あはははははは!! いたそう! すごくいたそうだよ! いいきみだよおおおお!」 「もっとくるしめようね! おちびちゃんのかたきだよおおお! こいつはああああ!」 聞くに堪えない耳障りな声が聞こえてきた。 あまりに騒がしく異様な雰囲気だったので、俺は声がする方を見た。 少し離れたところに、背の高い木がない小さな空き地がある。 そこで、六匹のゆっくりが何かを取り囲み、やたらと興奮した様子で叫んでいる。 俺が近寄っても、こちらを見るゆっくりは一匹もいない。 顔付きからして不気味だ。 ゆっくりらしいのんびりした顔をしているゆっくりなどいない。 どのゆっくりも、歯をむき出しにして憎悪の表情を浮かべている。 「ぶっ………ぶっ………ぎゅっ………ゆ゙っ………ゆ゙っ………ぢぢっ……」 六匹のゆっくりが取り囲んでいたもの。 俺は最初、ゆっくりが木の枝で作った人形ではないかと思った。 あのベッドのような複雑なものを作るゆっくりだ。自分たちそっくりの人形くらい作るだろう。 まじまじと観察してようやく、何なのか分かった。 それは、生きたゆっくりだった。 おびただしい数の木の枝を全身に突き刺され、なおも生き続けているゆっくりだった。 髪の色からかろうじてまりさだと判別が付くが、地肌がそもそも見えない。 隙間が見あたらないほどびっしりと、まりさの表面に木の枝が刺さっている。 両目と無理矢理開かされた口には、特に大量の枝が突っ込まれている。 両方の目は枝で完全に埋まり、口は枝によって閉じられない。 さらには引きずり出された舌まで、不気味な剣山となっていた。 「ぼぉ………ぼぼぉ………ごっ………びっ…………」 どう見ても生きているはずがないのに、まだまりさは生きている。 かすかに痙攣していることと、口から呻き声が聞こえることが、こいつが生きてることの証だ。 いったいどれだけの苦痛を感じているのか、想像することさえできない。 「……何だ、これは」 あまりに凄惨なまりさの姿を見て、俺は思わずそう言っていた。 ようやく興奮していたゆっくりたちも、すぐ側まで人間が近づいていることに気づいたらしい。 口々に俺にまくし立ててくる。 「にんげんさん! じゃましないでね! れいむたちはおちびちゃんのかたきをとってるだけだよ!」 「にんげんさんにはかんけいないよ! さっさときえてね!」 「そうだぜ! まりさたちはおちびちゃんのかなしみとくるしみをこいつにあじわわせているだけだぜ!」 「これくらいじゃぜんぜんだめだよ! しんじゃったおちびちゃんはこれくらいじゃよろこばないよね!」 「たりないわあああ! こんなんじゃぜんぜんたりない! もっといためつけないと! まだころすなんてできないわああ!!」 「そうよ! もっとさしましょう! まださすところはたくさんあるわ!」 ゆっくりたちは怒りと憎しみに歪みきった顔で、俺に訴えてくる。 俺は、もう一度死んだ方が遙かにましな目に遭っているまりさを見てみた。 気づいた。 帽子をかぶっていないと思ったら、そうではない。 まりさの頭には、よく見ると帽子の残骸らしきものが乗っている。 きれいに、半分に破かれたそれ。 ……合点が行った。 「こいつは、お前たちの子どもを殺したのか」 「そうだぜ! まりさたちのおちびちゃんは、こいつがばかなことをしてにんげんさんをおこらせたせいでころされたんだぜ!」 「ゆるせないよね! ぜったいにゆるせないよね! にんげんさんをおこらせたこいつはしんでとうぜんだよ!」 「そうよ! おちびちゃんは……おちびちゃんはああああ! ころされたの! にんげんに! にんげんにいいいい!」 「こいつがにんげんさんをおこらせなければ! おこらせなければあああああ! おちびちゃんはしななかったのにいいいいい!」 「いきなりこいつがおうちにやってきていったのよ! 「まりさがわるかったよ。ありすがしんじゃってごめんなさい」って!」 「ゆるすわけないでしょおおおお! ゆるせるわけないでしょおおおお! おちびちゃんがしんでどうしてこいつだけいきてるのおおおお!」 唾を飛ばしてゆっくりたちはまりさを責めると、また落ちている枝を口にくわえた。 六匹がいっせいにまりさにそれを突き刺す。 「……びゅっ!!」 まりさの体がびくんと大きく震えた。 痛覚は決して鈍っていない。 まりさは今この瞬間も、発狂しそうな量の激痛に苦しんでいる。 「ぜったいにゆるさないよ! こいつはえいえんにゆっくりするまでいっぱいいっぱいいためつけてやるんだよ!」 「もうこいつにぷすぷすしてからおひさまがいっぱいのぼったね! まだたりないよ! もっともっとぷすぷすしてやるよ!」 「このくそゆっくり! しね! しね! おちびちゃんのいたみをおもいしれ! どう? いたい! いたいでしょ!?」 俺はまりさを眺めた。 かすかに痙攣しながら、まりさは何かを言おうとしている。 「ぶぶっ……ぼっ………ごぉ…………ゆ゙っ……」 だが、口の中いっぱいに詰め込まれた木の枝のせいで、その声はただの呻き声にしかならない。 それでも、まりさはひたすら同じ言葉を繰り返している。 「まだころしてあげないよ! ころすなんてできるわけないでしょおおおおお!!」 「にんげんさん! はやくかえるんだぜ! まりさたちはいまいそがしいんだぜ!」 「はやくあっちにいって! にんげんさんにはかんけいないでしょ!」 「ああ、それは無理だ」 俺は、山芋掘りに使っていたスコップを振り上げた。 奇しくもそれは、こいつらの子どもを殺したスコップと同じものだった。 三分とかからなかった。 俺は餡子とカスタードにまみれたスコップを、地面に突き刺す。 周囲には、体の中身を飛び散らせたゆっくりが六匹転がっている。 あの時俺が殺した、まりさの友達だった三匹の両親たちだ。 「どっ……ど…ぼ…じ……で…………」 「おぢ……び……ぢゃ……がだ……ぎ……」 「じに……だ……ぐ……ない……よ…………」 しばらくの間、即死しなかった数匹が呻いていたが、やがて静かになった。 こいつらは最後まで、俺が自分の子どもを殺した張本人だと気づかなかったらしい。 思えば、こいつらが庭でまりさを罵っている時、俺は側にいなかった。 結果としてまりさを拷問から救うことになったが、俺はまりさを助けたかったわけではない。 ただひたすら、おぞましかったのだ。 憎悪をむき出しにするゆっくりたちが、見るに堪えなかっただけだ。 あれは、あまりにもおぞましすぎた。 我が子が殺された恨みをまりさにぶつける姿は、寒気がする程不気味なものだった。 俺は、あんなものがいることに我慢できなかった。 きっと、俺以外の誰かがあの場面を見ても、俺と同じようにするだろう。 そして同時に、俺はゆっくりたちに自分の姿を重ねていた。 子どもを殺されたことを絶対に許さず、おぞましい拷問を行うゆっくり。 菓子を食べたことを謝らなかったから、まりさからあらゆるものを奪った俺。 自分のしたことがあまりにも低レベルなことに思え、俺はぞっとした。 俺は死んだゆっくりたちを踏み越え、今もまだ弱々しく痙攣しているまりさに近づいた。 生きているのが不思議な状態だ。 俺はしばらく考えてから、舌に突き刺さっている枝と、口を塞いでいる枝を抜いた。 「ゆ゙っっ!!」 傷口を引っかき回される苦痛に、まりさがびくんと痙攣した。 一瞬だけ動いたその体は、次の瞬間ぐったりとして地面に潰れる。 「まりさ。まりさ。聞こえるか」 「だ……れ……? だれ……な……の? おと……さ……ん? おとう……さん……だよ……ね……」 まりさはもはや瀕死なのがよく分かった。 俺が手を下さなくても、今日一日保つか保たないかだっただろう。 まりさは弱々しく頭を動かし、声の主を捜す。 聴覚も鈍り、俺の声と親まりさの声と区別が付かないらしい。 「い…た…い……よ……。くる…しい……よ……。こわ…い……よ……。しにたく……な……いよ……」 まりさは全身の苦痛と、死の恐怖からぶるぶると震えていた。 あまりにも、その姿は哀れだった。 一番最初にまりさを見た時に感じた、あの天真爛漫なはつらつとした様子はない。 ここにいるのは、死にかけた惨めで汚らしいごみのような饅頭だ。 「おと……さ……ん。まり……さ……ここ…に…いる……よ。ゆっく…し……て……ね…………」 「ゆっくりしているよ。まりさももう、ゆっくりするといい」 「うれ……しい……な……。おとう……さん……ありが……と……う………」 ずたずたになった顔で、まりさはかすかに微笑んだ。 最後の最後で、まりさはわずかばかりのゆっくりを手に入れることができた。 それが、ほんの数秒であっても、ゆっくりであることに変わりはない。 まりさの体が、弱々しく痙攣しだした。 最後が近い。 「……いや…だ…よ……。やっと……おと…うさんに……あえた……のに…しにたく………ない……よお……。 まりさ…しにたく…ない……しにたく………ないよぉぉ……どうし…て……まりさ……しんじゃう……の……? ど……う……し……て……? ごめ…な……さい……ごめん……な……さい……ごめ……な……さ…………」 まりさは一度だけ「ゆ゙っ……」と鳴いてから、動かなくなった。 木の枝がいっぱいに刺さった目から、じわりと餡子混じりの涙が滲み出る。 まりさは死んだ。 最後に少しだけ安らぎがあったとしても、あまりにも無惨な最後だった。 むしろ、小さな希望が与えられたことで、かえって絶望しつつまりさは死んだのかもしれない。 俺は、変わり果てたまりさを手で掴んで持ち上げた。 「なぜ、もっと早くに謝らなかったんだ、まりさ」 死んで動かないまりさに俺は問いかける。 こいつは、即座に謝るという選択肢が思いつかなかったわけでもあるまい。 もし、何でもいいから、どんな形でもいいから一度でも「ごめんなさい」と言っておけば。 まりさは何一つ失うことなく、今も家族と友達と仲良く暮らしていただろう。 まりさからすべてを奪った張本人が言うのもおかしいが、俺はそう感じていた。 せめて、「もっとちょうだいね!」などと言わなければ良かったのに。 俺の過去のトラウマを、引きずり出すようなことをしなければ良かったのに。 俺は誰からも悲しまれずに死んだまりさを持ち帰り、庭の片隅に埋葬した。 それが、俺なりの終わらせ方だった。 ……ということがあったのだが、俺はそれを余すことなくありすに伝えることはなかった。 単にかいつまんで、昔人間に関わってゆっくりできなかったゆっくりがいたことを教えただけだ。 名前も場所も伏せて、俺は自分の過去をまるで伝え聞いたかのようにありすに教えた。 「……わかったわ。きっとそうなのね。おじさんとありすたちとは、ぜんぜんちがういきものなのね」 「俺もそう思う。俺たちはたまたま同じ言葉を話せるだけで、考えていることはまったく違うんだよ。 それを忘れると、お互いひどい目に遭う。もし忘れなくても、きっと些細なことから行き違いが生じて、やっぱり不幸になるだろう」 「ありすにはよくわからないけど、おじさんのいうとおりよ。できないことをできるようにいうのは、とかいはじゃないわ」 ありすは明らかに残念そうだったが、それでも泣き言を言うことなく笑って見せた。 俺は前言を撤回したい気持ちに囚われたが、それでも首を左右に振る。 「さよなら。森で人間にかかわらず静かに暮らしなさい。ここは君たちにとって危険な場所だからね」 「わかったわ。おじさんもゆっくりげんきでね。てぃーぱーてぃーはたのしかったわ。さよなら」 くるりと背を向けて、ありすは夜の闇の中に消えていった。 きっと、森のどこかにある巣穴に帰るのだろう。 もしかしたら家族がいるのかもしれない。 両親に、それとも番に、今日会った人間についてどんなことを話すのだろうか。 森の奥にいる限り、余程のことがなければ人間によって駆除されることはない。 ゆっくりが名前の通りゆっくり暮らしていくには、人間と接触するべきではないのだ。 俺は、あのまりさからそれを学ばされた。 ゆっくりと人間とは、言葉こそ通じるがその思考はあまりにも違いすぎる。 俺は人間の思考をまりさに押しつけようとして、結果あまりにも馬鹿げたことをした。 あの時、まりさが何を考えて謝らなかったのか分からないし、何を考えて謝ったのかも分からない。 唯一つ言えるのは、お互いに関わらなければ何もなかったということだけだ。 「人間とゆっくりとは、関わるべきじゃないんだよ」 俺がそう呟いたのを、奥にいた妻が小耳に挟んだらしい。 向こうから妻の返事が返ってきた。 「あなたがそうおっしゃっても、説得力に欠けますけどね。おお矛盾矛盾」 編み物の手を休め、妻は首を左右にシェイクする。 お分かりだろう。俺の妻は、きめぇ丸なのだ。 彼女は、かつては俺の茶道教室に通う生徒の一人だった。 「突然の訪問恐れ入ります。私、実は茶道を勉強したいのですがよろしいでしょうか。おお勉強勉強」 最初はあっけにとられたが、普通のゆっくりとは違い手足があるため、俺も入門を拒まなかった。 教え始めてから俺は驚いた。 彼女は人間や妖怪の先輩たちを見る見る追い抜き、俺の教える茶道をたちまち自分のものにしてしまったのだ。 誰よりも勉強熱心で、誰よりもひたむきに茶道を学ぼうとするきめぇ丸。 俺は、生まれて初めて恋に落ちた。 今では結婚し、子どもこそいないものの夫婦で仕事をがんばっている。 ……これがいわゆる、ダブルスタンダードという奴だろうか?