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前ページ次ページサイヤの使い魔 悟空とギーシュの決闘が始まる数分前、空きっ腹を抱えて食堂へやってきたコルベールは、食堂に残っている生徒がごく僅かで、その中にミス・ヴァリエールの使い魔は含まれない事に気付いた。 そして、遅めの昼食(材料が足りないのか、何故か賄いで出るようなスープとパンが少しだった)を採っている最中耳にした生徒の会話から、件の使い魔がヴェストリの広場でミスタ・グラモンを決闘を交えようとしていることを知った。 昼食を喉に詰まらせて激しく咳き込んだコルベールは、皿に残ったスープの残滓を急いで飲み干し、再び学院長の元へと駆け戻った。 学院長室の入り口の前で、ミス・ロングビルにばったり出くわす。 「ごきげんよう、ミスタ・コルベール。凄い汗ですが、急いでどちらへ?」 「実は、生徒たちが決闘を行おうとしているので、その件で報告をと」 ミス・ロングビルの顔色が変わる。 「ミスタ・グラモンとミス・ヴァリエールの使い魔ですね?」 「ご存知でしたか?」 「私もその件で報告をしようとしていたところです。宜しければ一緒にどうですか」 「是非に!」 ミス・ロングビルが扉をノックし、一言二言会話を交わして学院長室に入る。コルベールも後に続いた。 「なんじゃ? 二人揃って」 「ヴェストリの広場で、決闘をしようとしている生徒がいるようです。大騒ぎになっており、止めに入ろうとしている教師がいますが、生徒たちに邪魔されて、止められないようです」 「まったく、暇をもてあました貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れおるんだね?」 「1人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「あの、グラモンとこのバカ息子か。オヤジに輪をかけて女好きじゃからの、おおかた女の子の取り合いじゃろう。まったく、あの親子は。相手は誰じゃ?」 「ミス・ヴァリエールの使い魔です」コルベールが口を挟む。 「…それは本当か、ミスタ・スポック」 「コルベールです。って、いきなりそんな突拍子も無い名前が出るのは非論理的です」 「そういうお前さんだってちゃっかり返してきとるじゃないか」 「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」 「アホか。たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」 「判りました」 ミス・ロングビルの退室を見届けると、オスマンはコルベールに目配せした。 「さてと、ミスタ・コルベット」 「コルベールです。さっきよりマシですが、微妙に間違ってます」 「件の人物が本当にガンダールヴの幽霊かどうか、確認する機会が訪れたようじゃな」 オスマンが杖を振るうと、壁にかかった大きな鏡に広場の様子が映し出された。 ヴェストリの広場は、重苦しい沈黙に包まれていた。 ギーシュのワルキューレから繰り出される攻撃は、当たり所によっては一発で人間の骨くらい簡単にへし折るほどの威力がある。 それを何発も、しかも数分に渡ってその身に受け続けた男は、骨折どころか擦過傷すら負った様子が無い。 ミス・ヴァリエールの使い魔は化け物か。 物言わぬ彫像と化したギャラリーは、あれが「天使」という言葉だけでは説明できない「何か」である事を薄々感じ始めていた。 そしてギーシュは、この化け物に対し最も適切な自分の行動を、女性に浮気がバレた時の言い訳を考える時よりも遥かに速い速度で考えては没にしていた。 ワルキューレを再構築して戦う――精神力が保たない。それに、さっきの攻撃の結果から、徒労に終わるのは目に見えている。 自分が戦う――ワルキューレより遥かに劣る自分の攻撃が、この男に通用するはずが無い。 逃げる――有り得ない。貴族が決闘の最中敵に背を向けるのは、敵に倒されるよりも屈辱的な事だ。 降参する――尚更有り得ない。他に選択肢が無いとしても、グラモンの家名を汚したこの男にだけは。そう自分のプライドが言っている。 その他――考えろ、考えるんだギーシュ・ド・グラモン。この状況を打つ手を、1秒でも早く、考えろ……! 聞こえてきた足音に、ギーシュは我に返った。 ミス・ヴァリエールの使い魔が、こちらに向かって歩いてくる。 ギーシュは立ち上がろうとした。だが、腰が完全に抜けてしまって足に力が入らない。 やがて、悟空がギーシュの眼前に立ちふさがった。 こちらに手を伸ばしてくる。 止めを刺されることを悟ったギーシュは、生まれて初めて心の底から震え上がった。真の恐怖と決定的な挫折に……。 恐ろしさと絶望に涙すら流した。 これも初めてのことだった……。 ギーシュは既に戦意を失っていた…しかし、それは悟空にとっても同じだった。 既にギーシュからは闘志が失われているのを悟空は感じていた。 戦いとは、双方の実力が拮抗してこそ面白いものだ。 今のように、自分より遥かに力量の劣る相手と戦ったところで、悟空には面白くも何とも無い。 彼は常に、互いに全力を出し切って戦うことを望む男であった。 「立てっか? 手貸してやるから、つかまれ」 「は、はえ?」 涙と鼻水にまみれた顔のギーシュが、情けない声をあげる。 「今のおめえじゃオラには勝てねえ。多分さっきのがおめえの目一杯だったんだろ?」 見透かされていた。 その上、敵に情けをかけられた。 ギーシュは夢遊病者のように、無意識に悟空の手を取った。 悟空に手を引かれ、震える足腰に活を入れて立ち上がりながら、自分のプライドがズタズタにされているのを感じた。 ついさっきまで殺されることをあれほど怖がっていたのに、今はむしろ死んでしまいたい。 「悪かったな、おめえの家名に泥塗っちまって」 「え…?」 「ルイズに聞いたんだけどよ、名前間違えるってのはこっちじゃ誇りを傷つけることなんだってな。本当に悪ぃ事したな」 「あ…ああ」 誇りを傷つけられるのが我慢できないのはどうやらルイズだけではなく、この学院の生徒、いや、貴族というものは総じてそうらしい。 悟空は、貴族とは要するにベジータみたいなヤツなのだと結論付けた。 そして、自分にサイヤ人であることの誇りを教えてくれた男に、密かに感謝した。 「だからよ、今度からギーシュって呼んでいいか?」 「な、何だって?」 「オラあんまり長い名前だと覚えてても言い間違えちまいそうだからさ、単純に最初の名前でなら呼べると思うんだ」 「あ、ああ、それは構わない」 「じゃ、宜しくな」 使い魔が手を握手の形にして差し出す。 ギーシュは考えた。 この男は何なんだ? あれ程攻撃を加えた自分に対し、反撃してくるどころか手をとって立ち上がらせ、挙句自分の非を詫びてきた? 食堂での一件を差し引いても、自分の非を詫びるのは普通、敗者の行いだ。 それをこの男は…。 少しの間迷った後、ギーシュはそれに応えた。 「まったく…君は色々と凄い奴だな、参ったよ。よければ名前を教えてくれ」 「オラ悟空。孫悟空だ」 「珍しい名前だな。ゴクウと呼んでいいかい?」 「ああ」 「改めて自己紹介させてもらう。ギーシュ・ド・グラモンだ。呼び方はさっき君が言ったとおり、ギーシュでいい」 「わかった」 「それと、僕からも宜しく」 握った腕を軽く上下に振る。 ギーシュは悟空の手を離し、ハンカチで涙と鼻水を拭き取り、晴れ晴れとした顔でギャラリーに向き直った。 「この決闘、ギーシュ・ド・グラモンの敗北をもって終了とする!」 ギャラリーのそこかしこからぽつぽつと不満の声が聞こえてくるが、ギーシュにはこの上ない完敗であった。 だが、不思議と悔しさは無かった。 「なあ、ギーシュ」 「何だい?」 「おめえが修行してもっと強くなったらさ、もう一度戦おうぜ。今度は決闘じゃなくて試合がしてえんだ」 ギーシュは苦笑した。そして清々しい気持ちで一杯になった。 「はは、僕が君と対等に戦えるようになるまではずいぶん時間がかかりそうな気がするね。…でも悪くない提案だ。僕が今以上に強くなったら、その時はまた手合わせ願うよ」 「ああ! …あ、そうだ」 悟空は腰に巻いた帯の隙間から小瓶を取り出した。 食堂でギーシュが落としたものだ。 「よかったー、割れてねえや。これ、おめえのだろ?」 「…これは……。ありがとう。さっきは無視して済まなかった」 「何だ、やっぱり無視してたんか」 悟空からギーシュに手渡された小瓶を見た生徒――ギーシュの取り巻きの一人だ――から声が上がる。 「おい、あれはモンモランシーの香水じゃないか?」 その一言は、池に投げ入れられた小石が立てる波紋のように周囲に影響した。 「そうだ、あの鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 「ギーシュ、お前モンモランシーと付き合ってたのか!」 沸き起こるギーシュに対する追求の中から、栗色の髪をした少女が歩いてきた。 目には涙を浮かべ、わき目も振らずギーシュの元へと歩いてくる。 「ギーシュさま…やはり、ミス・モンモランシーと……」 「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ…」 ケティと呼ばれた少女がギーシュの頬に張り手を食らわす。 「その香水を貴方が持っていたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」 少女は涙も拭かずにその場を去った。 ギーシュが赤くなった頬を擦っていると、更にもう一人、金色の髪を巻き毛にした少女が歩いてくる。悟空はそれが件のモンモランシーだと理解した。 ギーシュが必死に弁解する。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」 首を振りながら言いつつ、冷静な態度を装っているが、冷や汗が額を伝っているのが目に取れた。 氷のような目つきでモンモランシーがギーシュを見つめる。 「やっぱりあの一年生に、手を出していたのね?」 「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」 「ふん!」 電光石火の速さで振り上げられたモンモランシーの右足が、寸分違わぬ正確さでギーシュの股間に深くめり込んだ。 『オウ!!!』 悟空を除く、その場の♂がギーシュを含め一斉に苦悶の表情を浮かべて股間を押さえる。 ギニュー特戦隊も驚きのチームワークがそこにあった。 「うそつき!」 怒鳴るように吐き捨て、その場を立ち去るモンモランシー。 白目をむき、冷や汗を脂汗へと変えながら前のめりにうずくまるギーシュ。 辺りにはギーシュの鳥を絞め殺したような呻き声と、呆れ顔の悟空がギーシュの腰を叩くトントンという音だけが聞こえる。 やがて、顔面蒼白になりながらフラフラと立ち上がったギーシュが、首を振りながら芝居がかった仕草で肩をすくめる。 「あ、あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解してないようだ…」 「ははっ、おめえ、ヤムチャみてえなヤツだな」 「うぐ、何だかよくわからないがひどく馬鹿にされてる気がする……」 「まあ、後で謝りに行ったほうがいいんじゃねえか?」 オスマンとコルベールは顔を見合わせた。 「あれのどこが決闘なんじゃ」 「座っているミスタ・グラモンをあの使い魔が立たせて、二人が握手したと思ったら…今度は痴話喧嘩ですか?」 「まったく人騒がせなヤツらじゃわい」 ミス・ロングビルとの会話のせいで、二人は肝心の戦闘を見過ごしていた。 「しかし、やはりあの使い魔のことは王室に報告すべきではないかと…」 「いや、仮にあれがガンダールヴの幽霊だったとしてもまだ時期尚早じゃ」 「何故です?」 「頭の眩し…ゲフンゲフン、頭の固い王室のクソッタレどもが幽霊の存在なんか信じると思うか?」 「言われてみれば……」 「お前さん、その反応じゃとまだあの使い魔にその辺訊いておらぬな?」 「ごもっともな事で。申し訳ありません」 オスマンは杖を握ると窓際へと向かった。遠い歴史の彼方へ、思いを馳せる。 「ふう~。…伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……。一体どのような姿をしておったのだろうかのう…」 「『ガンダールヴ』あらゆる『武器』を使いこなし、敵と対峙したとありますから」 「…そういえば、あの男武器を持っとらんかったな」 「あ」 昼休みがそろそろ終わる。 決闘が終わったヴェストリの広場には、まばらに生徒が残っていた。 大多数の生徒は次の授業のため、教室へと移動している。 「本当に勝っちゃったわね…。…ていうかあれ、勝ったの?」 「負けてはいない。それに、実力では彼の方が上」 「そうね。本当、タバサの言うことは正しいわね」 賭けの配当金で懐が暖かくなったキュルケは、うっとりした顔で悟空を見やった。 「それにしても、改めて見るといい男よねえ…。あたし強い男って大好き」 タバサは一瞬読んでいる本から目を離してチラリとキュルケを見たが、何も言わず再び視線を本に落とした。 「正直言って、あんたがあんなに強いとは思わなかったわ」 「見直したろ?」 「…まあね。使い魔としては結構いいセン行ってるかしら。ところで教えて欲しいんだけど」 「何だ?」 「あんたがそんなに頑丈なのって、死んでるから? それとも、元々?」 「元々からだ」 「…マヂですか」 ルイズが悟空のことを彼女なりに褒めていると、顔を輝かせたシエスタが走ってきた。 「ゴ、ゴクウさん凄いです! 貴族相手に決闘して、勝っちゃうなんて! 私あんなに強い人見たの初めてです!!」 「死ななかったろ?」 「はい! 」 悟空の冗談はシエスタに気付かれなかった。どうやら、未だに悟空の事を「もの凄く強い天使」だと思っているらしい。 「シエスタ、っていったっけ」 「はい、ミス・ヴァリエール」 「わたしたち、授業があるから」 「あ、そうですね。私も料理長にこの事を報告しに行きたいので、これで失礼します」 ぺこりと頭を下げて、立ち去ろうとするシエスタに悟空が声をかける。 「シエスタ!」 「何でしょう?」 「今朝の洗濯物、いつ取りに行きゃいいんだ?」 「あ、私がミス・ヴァリエールの部屋に届けますから大丈夫ですよー」 「わかった。サンキュー」 午後の授業の後、ルイズはコルベールに呼び出された。 「君の使い魔の件だが…。彼に何でもいい、武器を与えてやってくれないか?」 「構いませんが…どうしてですか?」 「ちょっと思うところがあってね。とりあえず資金の幾分かは私が出すよ」 そう言って、ルイズにエキュー金貨20枚を手渡す。 「何分安月給なもので、これだけしか渡せないのが申し訳ないが」 「お気持ちだけで十分です。これは取っといて下さい。それに、わたしもあいつに武器を持たせたらどうなるか、ちょっと興味が出てきました」 「ありがとう。武器を与えたら教えてくれ」 「わかりました。明後日の虚無の日に街へ行ってみます」 「宜しく頼むよ」 「よう、待ってたぜ、『我らの拳』!」 夕食時、厨房に入ってきた悟空を、マルトーが抱きつきながら出迎えた。 「うわっ、何すんだ、気持ち悪ぃ! 我らの拳って何のことだ!?」 「あんたは俺たちと同じ平民なのにあの偉ぶった貴族の小僧に拳骨ひとつで勝ったんだ。我ら平民の誇り、我らの拳だ」 どうやら、マルトーは悟空を平民だと思っているらしい。 ふとシエスタの方を見ると、「忘れてた」といわんばかりの表情を浮かべて悟空とマルトーを交互に見つめている。 スキンシップを終えて満足したマルトーが厨房の奥へ引っ込むと、シエスタが謝ってきた。 「ご、ごめんなさいゴクウさん、私料理長にゴクウさんが天使だって事言うのすっかり忘れてました」 「オラも言うの忘れてたんだけどよ、本当はオラ、天使じゃねえんだ」 「へ?」 「話せば長くなるんだけど、とりあえずはその『平民』って事にしてくれてもいいぞ」 「は、はい!」 自分たちと同じ平民だと聞かされ、シエスタの笑顔がいっそう明るくなった。 やがて、悟空に食べさせるためのスペシャルメニューが運ばれてくる。 食器の数は減ったが、量は昼に勝るとも劣らない。 「見た目は少ないかも知れねえが、量は昼とあまり変わらねえはずだ。思う存分食ってくれ!」 「サンキュー! じゃ、いただきまーす!!」 惚れ惚れする勢いで料理を胃袋に収める悟空。 そしてそれを惚れ惚れと見つめながら悟空におかわりを注ぐシエスタ。 そんな二人を惚れ惚れと見つめるマルトー。 満腹の者が見てもまだ空腹を覚えそうな、見事な食べっぷりであった。 「なあ、お前どこで修行した? 一体どんな事をしたらあんなに強くなれるのか、俺にも教えてくれよ」 「別に特別な事はねえぞ。毎日ひたすら修行するだけだ」 悟空の言葉は嘘ではない。 今日見せた強さは、あくまで氷山の一角であり、日頃の鍛錬で十分に出せる実力の範疇であった。 「お前たち! 聞いたか!」 マルトーは厨房に響くような大声で怒鳴った。若いコックや見習いたちが、返事を寄越す。 「聞いていますよ! 親方!」 「本当の達人と言うものはこういうものだ! 大事なのは日々の積み重ねだ。見習えよ! 達人は怠けない!!」 コックたちが嬉しげに唱和する。 『達人は怠けない!』 「やい、『我らの拳』。そんなお前がますます好きになったぞ。どうしてくれる」 「あひふふおああんへんひへうえお」 「何だって?」 ずぞぞぞぞ、と口に含んだヌードル状のものを啜り込み、そのまま飲み込む。 コックから、「おい、今の量一食分はあったぞ…」とか、「ちゃんと噛めよ…」などと呟きが漏れた。 「抱きつくのは勘弁してくれよ」 「そうか、そりゃ残念だ。じゃあお前の額に接吻させてくれ」 「もっと嫌だ! オラそういう趣味はねえぞ!」 「がはは、冗談だ。おい、シエスタ! 我らの勇者に、アルビオンの古いのを注いでやれ」 「はい!」 先に食事を終えたルイズは、そっと厨房の中を覗き見、自分の使い魔が厨房の皆と打ち解けているのを見て少し嬉しくなった。 強い、素直、人望がある。宇宙人の使い魔も結構悪くない。 翌朝、昨日の宣言通りに自分で洗濯をこなしてきた悟空をルイズはとても褒める気になれなかった。 靴下やブラウスなど、それなりに強度があるものは一応綺麗に洗ってある。 だが、肝心の――ルイズのお気に入りである――シルクの下着がひどい有様だった。 恐らく他の衣類と同様にジャブジャブと水洗いしてしまったのだろう、よれたりところどころ破れたりしていて、もう二度と履けない。 「……あんた、これ見なさい」 「わ…わりい。慎重に洗ったつもりなんだけど、どうしても布地が戻んなかったんだ」 「あんた、シルクの下着洗ったことある?」 「ねえな」 「…はあ、やっぱりね……。いい? シルクは水洗い厳禁なの。ぬるま湯で2、3回押し洗いするの。揉み洗いだとすぐに繊維が駄目になってしまうわ」 「へえ」 「そして、洗った後は軽く絞って陰干し。軽くよ。いいわね」 「難しいな…。自分から言っといてなんだけどよ、やっぱシエスタに頼んだ方がいいんじゃねえか?」 「なんで? 他のはちゃんとできてるじゃない」 「いや、力加減が難しくてよ、実を言うとあっちだっておっかなびっくりだったんだ」 そう言って、手際よく洗えている靴下を指差す。 悟飯が小さい頃は悟空も洗濯を手伝っていたが、人造人間と戦うための修行の頃から、だんだん洗濯中に服を破いてしまう事が多くなって、チチに洗濯はもういいと止められていたのだった。 「…まあ、あんたがシルクの洗濯をマスターするまでに何枚もわたしの下着が駄目になる可能性を考えたら、確かにそっちの方がいいかもね」 ルイズは妥協すると、悟空を連れて朝食へと向かった。 前ページ次ページサイヤの使い魔
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前ページ次ページネコミミの使い魔 マミお姉ちゃんに聞いたことがある。 国境のトンネルを抜けると、で始まる有名な小説があるって。 魔女との戦闘中に、結界内で鏡が現れて、次の階層へと向かうドアと思って飛び込むと、そこには抜けるような青空と、草原が待っていました。 周りには中世ヨーロッパのような建物が並んで、様々な生き物たちが、そこには非生物や何から何までわたしを注目しているのでした。 「あんた誰?」 その中でも一番注目をしていたのでしょう、ブロンドの桃色がかった、ふわふわの長い髪を持つ綺麗な女の人。私をまじまじと見つめながら口を開いていました。 織莉子お姉ちゃんとの戦闘で共闘したあと、唐突にいなくなってしまった色白のほむらお姉ちゃんと同じような肌を持つ女の人。 でも、おそらく日本人じゃない。 沢山の人から注目されてわたしは泣きたくなってしまいました。もともと心が強くない私はこういうふうに注目されることに慣れてはいないのです。 「うう……」 涙が出そうになるのを一生懸命我慢をします。 口を一生懸命に閉じて涙を出ないように。 すると桃色の髪の人が近づいてきて、頭をゆっくりと撫でるようにします。 やさしくやさしく。 「ああ、もう、あんた泣かないの……お名前は?」 「ゆまは……千歳ゆま」 キョロキョロと周りを見渡す。 桃色の髪のお姉ちゃんと同じ制服を着た女の子や、男の人たち。 そんな人達をきゅっとした厳しい瞳で、睨みつけている青色の短髪の眼鏡の人がいた。 とりあえず今はありがたい。 そういえばソウルジェムが曇っている。 使い魔との戦闘中に多少曇ってしまっていたらしい。 「お姉ちゃんの、名前は?」 「ルイズよ、あなた、平民?」 平民と言われちゃった。 平民といえばどんな人? と聞かれれば、キョーコやマミお姉ちゃんはなんと答えるのだろう。 キョーコはゆまの一番最初に出会った魔法少女。ママが魔女に殺された時に、その魔女を倒してくれたのがキョーコ。 それ以来ずっと一緒にいろんなことをした。 キョーコならきっと、「アタシは平民かもしれないけど、あんたにそんな事言われる筋合いはない」っていうだろう。 ゆまをキョーコと同じ魔法少女へ導いたのが織莉子お姉ちゃん。わたしにはその人の何をしようとしたのか、そういうのはよく分からないけれど。戦っている最中にほむらお姉ちゃんの大事な人を殺されてしまったし、織莉子お姉ちゃんも死んでしまった。 その織莉子お姉ちゃんとの戦闘の時に(本当はもうちょっと前に会っているんだけど)マミお姉ちゃんと仲良くなって、それ以来、マミお姉ちゃん、キョーコ、わたしっていうパーティを組んで魔女退治をしていたんだけど。 「これじゃあ、拉致があかないわね……ミスタ・コルベール!」 ルイズお姉ちゃんが怒鳴った。 たくさんの生徒たちの間から、中年のおじさんが現れた。 頭がちょっと寂しい感じ。 大きな杖を持って、真っ黒なローブに身を包んでいる。 「なんだね、ミス・ヴァリエール」 「あの、もう一度召喚をしなおさせてください!」 召喚? なんだろう。 ゆまは召喚されたんだろうか。 あ、そういえば戦ってたはずなのに今は普通の格好をしている。 ソウルジェムも胸元にあるし。 「それは駄目だ、ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか!」 「決まりだよ、二年生に進級する際、君たちは使い魔を召喚する、今やっているとおりだ」 使い魔? ゆまは使い魔として召喚されたの? 「それによって現れた使い魔で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。一度呼び出した使い魔は変更することはできない、なぜなら春の使い魔召喚は神聖な儀式なんだ。好む好まざる……このような幼子を使い魔にするのは心が痛むかもしれないが、彼女を使い魔にするしか無い」 「でも、平民を使い魔にするなんて聞いた事無いですよ!」 ルイズお姉ちゃんがそう言うと、周りがどっと笑う。 その際雪風が吹いてクラスメートが凍った……なんでだろ? 魔法かな? 「コレは伝統なんだミス・ヴァリエール、例外は認められない、彼女は」 コルベールと呼ばれた先生らしき人は一息ついて、 「ただの平民の子どもであるかもしれないが、呼び出された以上君の使い魔になるしか無い。古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する、彼女には君の使い魔になってもらわなくては」 「そんな……」 ルイズお姉ちゃんは失望したように肩を落とした。 ゆまのせいでこうなっちゃったの? お姉ちゃんを見上げる。 ルイズお姉ちゃんは首を振って、きっと前を向いた。 「さて、では儀式を続けなさい」 「はい」 その返事は力強かった。 「ゆま、あなたは平民でありわたしは貴族、本来ならばこんなことはありえないの」 お姉ちゃんはわたしに語りかけるようにつぶやいた。 そうして体を屈め、 「我が名はルイズ・フランソワーズル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。{{英数字}}5つの力を司るペンタゴンこの者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 朗々とゲームで見たような呪文を唱え始める。 そして、杖をゆまの額へとおいた。 ゆっくりと、唇を近づけて……重ねられた。 「わたし、女の子とキスをしたの初めて!」 「そう、私も小さい子でよかったわ」 そういって二人で笑う。 ひとしきり笑ったあと、ルイズお姉ちゃんは先生の方へ向きなおして。 「終わりました」 彼はまじまじと眺めて、わたしの方を向き直り。 「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」 と、嬉しそうに言った。 「相手方だの平民だか!?」 「そいつが行為の幻獣だ!?」 野次を飛ばそうとした生徒たちの口に雪が詰められる。 いったいさっきから誰がやっているんだろう? 「いたたたたたた!」 わたしの全身が熱くなり、特に左手が熱い! 熱い痛い熱い痛い! 「あらあらあら。可哀想に、ゆま、大丈夫よすぐに終わるわ」 そういって頭を撫でてくれる。 こうされていると我慢が出来そうな気がする。 「うん……左手に宝石と、ルーンか……珍しい形だね」 「本当……ゆま、綺麗な宝石ね」 ソウルジェムのことを褒めてくれてる。 痛かったけど、こうして左手にはめ……はまっちゃったよ!? しかもなんだかソウルジェムの汚れまで払われちゃってる!? 「平民がもつようなものじゃないけれど、ハマっているんじゃしょうがないわ」 「そうなの?」 「ええ、貴族のわたしから見ても、素晴らしい出来の宝石ね」 「さてと、皆教室に戻るぞ」 といって、先生が空を飛んだ。 他の皆も飛んで何処かへといってしまう。 空を飛べるの? あの人達も魔法少女なの? でも、男の人もいたし? 何かマジックでも使ってるのかな? 「ルイズ、お前はあるへぶぅ!」 「あいつフライはおろか、レビィゲボォ!?」 またしても野次を飛ばそうとした人に雪が飛ばされる。 「……ルイズ、その子、きっとあなたにお似合いよ」 最後に飛んでいった胸の大きな褐色のお姉ちゃんが冷や汗をかきながら言った。 残されたのはわたしとルイズお姉ちゃんだけだった。 「ゆま、行きましょうか」 「ルイズお姉ちゃんは飛んで行かないの?」 「飛べないのよ……悔しいけどね」 その横顔は本当に悔しそうで、これ以上何もいえなかった。 「ねえ、お姉ちゃん、ここはどこ?」 「分からないの?」 「うん、ミタキハラってところから来たんだけど……」 「聞いたこともないわ……そのような田舎から来たなら、トリステイン魔法学院のことも知らないでしょうね」 トリステイン魔法学院とは、魔法を学ぶ場所。 今行われたのは春の使い魔召喚試験、二年生になると行われるみたい。 だからルイズお姉ちゃんは二年生ということになる。 そして私はその使い魔。 で、ルイズお姉ちゃんはご主人様ということになる。 「あ、そうだ、あの人達飛んでたよね、魔法少女なの?」 「魔法少女?」 「変身したほうが分かりやすいね」 そういってソウルジェムを前に差し出して変身する。 「姿が……変わった……? あなた、メイジなの?」 「ゆまは魔法少女だよ」 「……(ちょっと変わった平民といったところか)そう、わかったわ」 わたしは元に戻る。 「とにかく、平民とメイジ、貴族との間には絶対的な差があるの」 「差?」 「そう、私以外の貴族には気を許してはいけないわ、いいわね?」 注意される。 コレは気を付けなければいけない。 「うん、ゆまわかったよ!」 「ええ、いい子ね」 ただその表情は不安そうだった。 わたしたちは歩いて次の授業の場所へと向かい、一日中魔法のことについて学んだ、当然だけど平民のわたしにはよく分からない授業だった。 魔女との結界の中に突然に現れた鏡。 次の魔女へと続く道だと思ってくぐったらトリステイン魔法学院というところへやって来てしまった。 キョーコやマミお姉ちゃんとは別れて。 「それ、本当?」 「うん」 「……魔女に使い魔……あなたも戦って……ふうむ」 そういって腕組み。 何かを考えている様子だ。 わたしたちはテーブルを挟んだ椅子に座っていた。 ここは、ルイズお姉ちゃんの部屋。キョーコと入ったことのあるホテルよりも広い部屋だ。南向きの窓に、西側に大きめのベッド、ちょうど二人で眠れそうなくらいだ。 「ああ、一つ注意をしなければいけないことがあるわ」 「他の人と仲良くしちゃいけないっていう?」 「それもあるけれど、あなたの田舎へ返す呪文はないわ」 「ゆま……帰れないの?」 涙目になる。 そうするとルイズお姉ちゃんがよってきて頭を撫でてくれた。 「本当はね、サモン・サーヴァントはこのハルケギニアの生物を呼び出すの、決してチキューだのミタキハラだのから呼び出す魔法じゃないわ」 ここで、一息ついて。 「それに、本当は幻獣や動物なんかを呼び出すの。人間を呼び出すなんて初めてよ、しかも変身する小さな子供なんてね」 ため息混じりにそういうのだった。 「サモンサーヴァントをもう一度使うには、あなたが死なないといけない、でも、私はあなたを殺したくなんて無い……そして、使い魔として扱うのも難しい」 「ゆま、できることをするよ!」 「使い魔は主人の目となり耳となる、けれど無理ね」 わたしもルイズお姉ちゃんが見えている景色は分からなかった。 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくることができる」 「望むもの?」 「ふふ、いいのよ気にしないで」 そういう横顔は悲しそうだった。 ゆまができること、治癒魔法。 そして変身した時に使うハンマー。 戦闘くらいしか無いかな。 「そろそろ眠くなってきたかな、一緒に寝ましょう、ゆま」 「いいの?」 「あなたをわらで寝かせる訳にはいかないじゃない」 そういって布団に入る。 すぐにルイズお姉ちゃんの寝息が聞こえ始めた。 魔法というのは思ったより体力を使うみたいだ。 「ゆまが治してあげる」 治癒魔法を使う。 普段は治癒魔法を使うと、ソウルジェムが曇るけど、そんなことはない。 ルーンと一緒に入ってしまったソウルジェム、どうしてこうなったかはよく分からないし、私の能力もよく分からない。 「頑張るよ、キョーコ、マミお姉ちゃん」 そういってわたしも目を閉じた。 前ページ次ページネコミミの使い魔
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前ページ次ページ攻撃力0の使い魔 未知の土地を訪れた者が最優先で行わなければならないこと、それは情報収集だ。 異国ならぬ異世界を訪れた場合でも変わらない。 何よりも まず、自分の訪れた世界のルールを知らなければならない。 ルールと言っても、その土地の住人たちの価値観・常識のことだけではない。 むしろ 異世界を訪れた場合に重要なのは、その世界の成り立ち・在り方の根底にかかわる法則や仕組みだ。 十二次元宇宙には、カードゲームの勝敗が そのまま対戦者の生死に直結するような世界も存在していた。 そして、おそらくは 自分の知る十二次元宇宙の さらに外の次元に存在するであろう、このハルケギニアとかいう世界…… できるだけ早く この世界のことを把握しておかないと、思わぬところで足元をすくわれる危険がある。 幸いなことに、自分の目的は 自分がいちばんよくわかっている。 どんな世界に在ろうと、自分が為すべきことは ただ一つだ。 なぜ、自分がこの世界に特殊召喚されたのか……いや。 なぜ、自分が開いた次元の扉が この世界に通じたのか…… その答えは明白だ。焦ることはない。 「彼」は この世界に いる……! ■■■■■■ 桃色の髪の少女が トリステイン魔法学院の廊下を闊歩している。 (……そう。まずは、この世界のことを よく知っておかないとね……) この世界のルールについて、最優先で確認しておかなければならないのは「自分の持つ『力』が、この世界において どの程度 通用するか」だ。 この世界でもデュエルモンスターズのカードと精霊の「力」が使えるのなら、これまで見てきた世界と同じように事を運べばいい。 だが、もし そうでないとしたら……? そんなことを考えながら、1階から順に1フロアずつ校内を散策して、4階に辿り着いた頃…… (……!?) 突然、何かの気配を感じた。何か…自分の知ったモノの気配を。 (これは……まさか……!) 桃色の前髪の下に出来た深い影の中で 目を妖しく輝かせながら、少女は自分の感じた気配の方を目指す。 気配を追って辿り着いた場所は、魔法学院本塔5階。宝物庫の扉の前だった。 (……間違い無い。この中には、デュエルモンスターズのカードがある。40枚、プラス15枚……さらに15枚。デッキか……) なぜ、こんな所にデュエルモンスターズのデッキがあるのはわからない。 だが、そんなことはどうでもよかった。 (この世界にもデュエルモンスターズは存在する……!) そのとき、少女の頭の中に声が響いた。 (わたしは…もう『ゼロ』じゃない……!) 「……ッ! もう目が覚めたのか……!」 宝物庫の扉を眺めていた桃色の髪の少女の雰囲気が変わった。 先程まで妖しく金色に輝いていた目は 普段どおりの色に戻り、前髪の下に差していた深い影も いつのまにか消えている。 そして、本塔5階 宝物庫の正面…… 桃色の髪の少女:ルイズが、扉の方を向いて ぼうっとしたまま直立している。 その背後では、彼女の使い魔として召喚された亜人:ユベルが、腕組みをして少女を見下ろしていた。 ■■■■■■ ルイズは たった独り、闇の中に沈んでいた。 貴族でありながら魔法が使えないという劣等感…… どれだけ一生懸命に勉強しても、いざ実際に魔法を試してみると、いつも発生するのは失敗の爆発ばかり。 そして いつものように彼女の失敗を囃し立てる罵声と嘲笑。 唇を噛み 拳を握り締めて、屈辱に耐える。 いつものことだ。今さら取り立てて気にすることは無い。 いつか見返してやればいい。 ……ふと気づくと、嘲笑が それまでとは違う喚声に変わっている。 ルイズの召喚した使い魔の姿に、生徒たちが騒ぎだしたのだ。 そうだ、自分は『サモン・サーヴァント』に成功したじゃないか。 自分は魔法に成功した。少なくとも「ゼロ」ではない。 (わたしは…もう『ゼロ』じゃない……!) 気がつくと、ルイズは薄暗い場所…校舎の中…金属製の扉の前にいた。 ■■■■■■ 「……やあ」 ルイズの召喚した使い魔…ユベルが、腕組みをして こちらを見下ろしている。 あぁ、私の召喚した珍しい使い魔だ。その事実に やや満足感を覚える。 ……が、すぐに何か違和感があることに気づく。 「……!? ちょっ……ここ、どこなの!? なんで こんなとこに!? 午後の授業は!?」 ルイズの感覚では、いつのまにか屋外から屋内へワープしていたのだ。無理は無い。 さらに軽度の疲労感と空腹感まで覚える。 「……ふふふっ、驚いたよ。キミの意識は しばらく心の闇の中に閉じ込めておくつもりだったんだけど……まさか自力で這い出てくるとはねぇ」 使い魔は、質問に答えず腕組みをしたまま主人を見下ろし、ワケのわからないことを言っている。 「心の闇……? って、それより質問に答えなさい! あっ! 質問と言えば、あんたのことも まだ教えてもらってないわ! あんた、どういう種族なの? 悪魔族とかなんとか言ってたけど……」 「あぁ……ボクもキミに訊きたいことは山ほどあるんだ。どこか落ち着ける場所で、ゆっくり話すとしようか」 優しく語りかけるような低いトーンの女性の声で、ユベルが言った。 そして、宝物庫の金属製の扉のほうを一瞥する。 (……まあいい。この世界にも デュエルモンスターズのカードが存在することはわかった。あとは、この世界においてデュエルがどう作用するか……だな) ■■■■■■ 使い魔の召喚に成功した その日の夜…… ルイズは自室で、使い魔の亜人:ユベルと質問のやり取りをしていた。 お互いに 一通り質問し終わったあと、ルイズが口を開く。 「つまり……あんたは そのジュウダイっていう生き別れた友達を探すために、わたしの召喚に応じてハルケギニアに来たってこと?」 闇属性だの悪魔族だの精霊だのといった部分については「そのうち わかるよ」などと適当に はぐらかされてしまったが、 とりあえず聞き出すことができた使い魔の素性について確認する。 「あぁ。ボクはいつだって十代のために生きていた。そして、これからも……」 そう言って、ユベルは額以外の2つの目を閉じ 押し黙った。おそらく、生き別れた友のことを想っているのだろう。 しかし、せっかく呼びだした使い魔が、主人である自分をそっちのけで、 自分の知らない誰かに対して強い好意を寄せているというのは、ルイズにとって面白くなかった。 「……ちょっと待ちなさいよ。『コントラクト・サーヴァント』が成功した以上、あんたは わたしの使い魔。で、わたしがご主人様。 さっきも言ったでしょ。メイジにとっての使い魔は……」 「『一生の僕であり、友であり、目で耳である』だっけ? それがどうかしたかい?」 「いや! 『どうかしたかい?』じゃなくて! なんで使い魔が ご主人様を差し置いて 自分の友達のために生きようとしてるのよ!」 自分の攻撃力は0だというユベルの自己申告を聞いたことで、ルイズは少し強気になっていた。 この使い魔は いかにも強そうで禍々しい外見をしてはいるが、本人の談によると 攻撃力も防御力も無い…らしい。 なら、仮に この使い魔を怒らせたとしても、見た目がちょっと怖いだけで、少なくとも危害を加えられはしないということだ。 それに この使い魔が本当に危険な存在なら、召喚した時点で ミスタ・コルベールが何らかのリアクションを示したハズだ。 「……いい? あんたは わたしの使い魔になったの! その友達のことは ひとまず忘れて、使い魔としての役目を……」 【なに……】 「っ!?」 いきなり男性の野太い声が聞こえた。 ユベルの額の目がルイズを真正面から見つめている。眼球の中に浮かび上がるルーンが痛々しい。 「……ねぇ、ルイズ」 ユベルが声を発する。トーンの低い女性の声だ。 「な…なによ……」 呼び捨てにされたが、この空気で「ご主人様と呼べ」とは 突っ込めない。 「ボクは別にキミの使い魔になることが嫌なわけじゃないんだ。 キミがそう望むなら、キミがその短い一生を終えるまで 使い魔とやらの仕事をしてあげてもかまわない。 ボクをここに呼んでくれたのは、ほかでもないキミなんだからねぇ」 「……そ、そう……? なら…いいんだけど……」 意外なことに、この使い魔は自分に恩義を感じているらしい。それとも『コントラクト・サーヴァント』の効果だろうか。 【でも……これだけは覚えておくんだ】 野太い男性の声でユベルが付け足す。 驚く…というか むしろビビる ルイズを無視して、ユベルが続ける。 『キミが、ボクと十代の仲を否定しようとするのなら……』 トーンの低い女性の声と野太い男性の声が重なって同時にセリフを紡ぐ。 『ボクはキミを……許しはしない』 世界を12個ほど滅ぼさんばかりの迫力に気圧される。こいつのどこが攻撃力0なのか。 「……わ……わかったわ……」 ルイズはなんとなく理解した。 一見 優しげで静かな口調と穏やかな物腰の奥から滲み出す、粘つくような どす黒い感情…… これが「悪魔」の「闇」なのだろうか。 細かい事情は聞いていないが、おそらくジュウダイというのも ただの友達ではないのだろう。 もっとも、これ以上 この問題に踏み込む度胸は 今のルイズには無かったが。 「それで……」 穏やかな女性の声でユベルが喋りだす。 「さっき聞いた使い魔とやらの仕事について、もう1度確認させてもらってもいいかな?」 「え? あ、うん……いいわよ」 一応、真面目に働くつもりはあるらしい。 「えっと、まずは『主人の目になり耳になる能力』だけど……」 試しに目をつむってみる。 ……真っ暗。何も見えない。 ルイズは、内心 ホッとした。 『コントラクト・サーヴァント』のルーン刻みの際に感じた痛みも、きっと何かの偶然だったのだろう。 昔…というか昨日までの自分なら、自分の使い魔と感覚を共有することについて 大いに喜んだに違い無い。 だが、今は違った。 さっきの気持ち悪い感情が自分の中に流れ込んでくるとしたら…… 想像もしたくなかった。 「ま、まあ…これは別にできなくてもいいわ。それより……」 「できるよ」 「……え?」 何か不穏な発言が聞こえた気がする。 「い…今、なんて……」 「ボクと感覚を共有したいんだろう?」 「……できるの? いや、別にしたいわけじゃないからね!」 「そうだね。キミには教えておいてもいいかもしれない」 そう言うと、ユベルが近づいてくる。 「え? ちょ……」 「ふふふっ……今にわかる」 ユベルがどんどん近づいてきて、その紫色の肌が視界を覆い尽くしたかと思うと……消えた。 (え……?) さっきまでユベルがいた場所には、誰もいない。床・壁・天井が見える。 (どこ……?) とりあえずベッドから立ち上がって、周囲を見回……せない!? 金縛りにでもあったかのように、体が言うことを聞かない……! (やだ、なにこれ……!? っていうか、どこ行ったのよ……! ちょっと! 使い魔! ユベルーっ!) (……ふふっ、ボクならここにいるよ) 頭の中にユベルの声が響いた。 (え? どこ!?) (どこって……ここだよ) ユベルの声がそう言うと、ルイズの視界に右手が映りこんだ。右手は、ルイズ自身を指し示している。 (……! まさか……!) (そう……今のボクは、ユベルであり…ルイズでもある。キミは今、ボクと体…いや、存在そのものを共有しているんだ) (そんなことが……!) たしかに、使い魔が……主人の目となり耳となるばかりか 手にも足にもなっている。 ……だが、これは明らかに間違っている。 (って! 私の体が乗っ取られてるだけじゃない!) (……不服かい?) (当たり前でしょ! 私が言っていたのはこういうことじゃないの! いや、ある意味 合ってるけど違う!) (なんだ、違うのかい) (そう! 違う! とにかく まず 出て! 出なさい!) (やれやれ、面倒だねぇ……) 体から、何かが抜けるような感覚がしたかと思うと、ルイズの全身に感覚…体の主導権が戻る。 ユベルはというと、さっきの位置でルイズを見つめている。 「……あっ!」 そしてルイズは、あることに気づく。 「まさか、今日の午後の記憶が無いのは……!」 「あぁ。ボクがキミの体を使って、この学校の中を調べていたんだ」 「やっぱり……! って、あれ? でも、なんで そのときの分の記憶が無いの? 今のは、ちゃんと わたしの意識も残ってたのに」 「簡単なことさ。ボクは探索のあいだ、キミの意識を封印していた。 だから、ボクを召喚してから しばらくの記憶が無いんだ」 どんな先住魔法か見当もつかないが、トンデモなく危険な能力だ。ヘタをすれば、自分という存在を乗っ取られてしまう。 「えっと……それは、やっぱり わたしがユベルの主人だからできることなの?」 「いや。断言はしないけど、たぶん誰に対しても使えるだろうねぇ」 さらに危険度アップ。それとも、ある程度のメイジなら抵抗できるのだろうか? 「……まあ…だいたいわかったわ。たしかに すごい力だけど、できるだけ使わないようにして。いい?」 「……いいだろう。少なくとも キミに対しては、できるだけ使わないと約束してあげる」 「って、ほかの人には使う気!?」 「情報収集にも使えるからね。いつ どこで、十代の情報を持った者に出会うかわからないだろう?」 「あー…まあ…じゃあ、いいわ……」 とりあえず「ジュウダイ」なる人物の話題については、ユベルに逆らわないことにした。 というか、かかわってはいけない気がする。 「それと、残念だが『秘薬探し』もできないよ。ボクには、薬の材料なんかよりも よっぽど大事な探しものがあるからねぇ」 「あー…それも…じゃあ、それで……」 この話題では、とにかくユベルを最大限に尊重する。 そして、さりげなく話題をかえる。 「……で、最後に いちばん大事な『主人の護衛』なんだけど……あんたには無理よね。だって、攻撃力も守備力もゼロなんでしょ?」 すると、ユベルは不敵に笑った。 「ふふふっ……まだ勘違いしているみたいだね」 「な、何がよ……!? 戦う力が無いやつに護衛なんて無理に決まってるでしょ……!」 「いいや。誰かを守る盾として、ボク以上に相応しい者はいないよ」 「え? でも、守備力もゼロだって……」 主人を喜ばせようと、ユベルなりに虚勢を張っているのだろうか。 いや、本当に虚勢を張るつもりなら、最初から「攻撃力も守備力も0」などとは言わないハズだ。 しかし、守備力が無いくせに 誰かの盾になるとは、どういうことなのだろう? 「……! まさか、自分を犠牲するつもり!?」 「犠牲? 何を言っているんだ。十代に会う前に、ボクが倒れるわけにはいかないだろう?」 「いや、それはそうかもしれないけど……じゃあ どういうことよ?」 「……たしかに、ボクの守備力の数値は0だ。でも、ボクを傷つけることは 誰にもできない。だって、攻撃はボクへの愛だからね……」 「は? え? いや、ちょっ…攻撃が愛って……えぇ!?」 ただの変態か……? いや、ユベルはいたって真面目な顔をしている。ますますワケがわからない。 「それに……」 ここで急にユベルの声の色が変わった。 ルイズは思わずユベルのほうを見る。 ユベルは少し寂しそうに遠い目をしている…… 「ボクは、十代を守らなければならないんだ……」 ルイズは、また少し なんとなく理解した。 ユベルがジュウダイという人物へ向ける妄執のような感情。 その正体が何なのか、今の彼女には わからなかった。 だが 少なくとも、ただの色恋沙汰などではないことは間違い無い。 「……見つかるといいわね。その…ジュウダイが」 思わず、声をかけてしまった。 「……あっ! で、でも! 今のあんたは わたしの使い魔なんだから、守るなら まず、わたしのことを守りなさいよね! そ、それより ホラ! 今日は あんたのせいでいろいろあって疲れたし、もう寝るから!」 ルイズは、そう一気に まくしたてると、なんやかんやを脱ぎ捨てて ベッドに潜り込む。 その光景を見ていたユベルが ルイズに声をかける。 「この、みっともなく脱ぎ散らかした下着はどうするつもりだい?」 「うるさいわね……主人の服の洗濯も使い魔の立派な仕事よ。明日の朝にでも 洗っておいて」 「……やれやれ、面倒だねぇ」 ……ルイズは、いつのまにか寝息を立てている。 どうやら本当に疲れていたらしい。 異世界の存在に憑かれて学校中を動き回っていたのだから、無理は無い。 ほとんどイビキに近い寝息を立てるルイズをよそに、ユベルは今後のことについて考える。 次元移動の際に消耗したエネルギーの回復…… これは手元の ご主人様の心の闇だけで十分ではある。 だが、この子をここで使い捨てるわけにはいかない。 自分が 数ある異世界の中から この世界に辿り着けたのは、一応 この娘のおかげなのだ。 それに、この娘には何か特別な「力」を感じる。 ……やはり、今 必要なのは、情報と手駒だ。 前ページ次ページ攻撃力0の使い魔
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前ページ次ページ暗の使い魔 翌朝。朝もやの中、ルイズと官兵衛そしてギーシュは、馬の背に荷物と鞍をくくりつけていた。 その片手間に、これからの旅路について話し合う。 ちなみに官兵衛の乗る馬は、二人の馬に比べて一回りほど大きく立派なものが用意されていた。 官兵衛の引き摺る鉄球は、並みの男では持ち上げる事すら敵わない。 そんな鉄球をくくりつけられた官兵衛が騎乗するとなると、馬も通常のものでは満足に長距離を走る事は出来なかった。 「お願いがあるんだが……」 準備の途中、ギーシュが困ったように二人に言葉を投げかけた。どうした、と官兵衛が振り返る。 「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」 「お前さんの使い魔?」 官兵衛が怪訝な顔で答えた。 「連れて行きたいなら行きゃあいい。どこにいるんだ?」 官兵衛があたりを見回す。しかしそれらしい影はどこにも見当たらない。 ギーシュはにやっと笑うと、地面を叩いた。すると地面の土が盛り上がり、その山の中から茶色い巨大な生物が顔を出した。 「こいつは……」 官兵衛はこの生物に見覚えがあった。たしかヴィリエに決闘を挑んだ時、ギーシュが抱えてた生き物だ。 ギーシュがすさっと屈み、それを抱きしめる。 「ヴェルダンデ!ああ!僕のかわいいヴェルダンデ!」 ヴェルダンテは嬉しそうにギーシュにすり寄る。 「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」 ルイズが小熊ほどもあるヴェルダンデを見て言った。 「そうだ。ああヴェルダンデ、きみはいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」 ギーシュがにへら顔で頬ずりするのを見て、ルイズはドン引きした。官兵衛もなにやら可哀想なものを見る目になる。 いくら可愛いとはいえ、ギーシュの使い魔に寄せるその愛情は異常であった。 「ギーシュ。使い魔とのスキンシップの所悪いけど、そのモグラは連れて行けないわ」 「ど、どうしてだね!」 ルイズの言葉にギーシュがいきりたって言う。 「だって私達、これからアルビオンに行くのよ?地中を進む生き物なんて連れて行けないわ」 ギーシュの顔が瞬く間に絶望に染まった。 「そ、そんな……。お別れなんて寂しすぎるよ……。ヴェルダンデ……」 へなへなと地面に崩れ落ちるギーシュ。そんな彼をよそに、官兵衛は巨大モグラを眺めた。 「(モグラ、モグラか……)」 官兵衛はヴェルダンデを見つめていると、いつしか穴倉に置いてきた人懐っこいモグラの事を思い出した。 サイズは大分違うが、あいつもこんなつぶらな瞳をしていて可愛かったなぁ。 発掘作業中いつでも傍に居て、ちょこちょこ付いて来て。 天下を取ると、いつしか約束してきたが元気にしているだろうか。 そんな事を思い浮かべながら、官兵衛はしんみりとヴェルダンデの頭を撫でた。 「ああ、可愛いな……。確かにこいつは可愛い……」 「な、なによカンベエ。まさかあんたまで……」 ルイズは顔を引きつらせながら、そんな男二人の様子を眺めていた。 と、突如ヴェルダンデが鼻をヒクつかせ、ルイズに覆いかぶさった。 「ちょ、ちょっと!」 ルイズの体中を鼻でまさぐるヴェルダンデ。 ルイズは振りほどこうと地面をのた打ち回るも、小熊程もあるジャイアントモールに拘束されてはたまらない。 「ああ、美少女と戯れるヴェルダンデもまた可愛らしいなぁ。絵になるじゃあないか。はっはっは……」 「お前さん。戦ったあの夜、鉄球でもくらったか?」 どこか的外れな感想を述べるギーシュ。そんな彼を真剣に官兵衛は心配した。 「ちょっと!少しは助けなさいよ!きゃあっ!」 ちなみに官兵衛が助けないのは、鬱憤が溜まっている所為である。 そうこうしている内に、ヴェルダンデはルイズの右手の薬指に光る水のルビーに鼻を摺り寄せる。 「この!無礼なモグラね!姫様に頂いた指輪に鼻をくっつけないで!」 「成程指輪か。ヴェルダンデは宝石が好きだからね」 「ほう、随分賢いじゃないか」 官兵衛が感心したように言う。 「そうさ、彼はすごいんだよ。貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ」 「マジか!それじゃあ一攫千金も夢じゃあないな……!よければ今度小生にも貸してくれ!」 そんな間の抜けた会話をしている、その時だった。 突如一陣の風が吹きぬけ、ルイズに覆いかぶさるヴェルダンデが吹き飛ばされた。 「ヴェ、ヴェルダンデェーーーーッ!」 ギーシュが、風が飛んできた方向を見て絶叫する。朝もやのなかから長身の羽帽子の貴族が現れた。 暗の使い魔 第十五話 『ワルド』 「貴様アァァァァァァァァッ!」 どこぞの凶王の如く、目から血涙を流しながらギーシュは激高した。 薔薇の造花を振るおうとしたが、先に杖を抜いた羽帽子の貴族が即座にそれを吹き飛ばす。模造の花びらが宙を舞った。 「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行することを命じられてね。君達だけではやはり心もとないらしい。 しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ」 長身の羽帽子の貴族が、帽子を取ると一礼した。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」 しかしそんな相手を気にした素振りもなく、ギーシュは尚のこと吼える。 「ザンメツしてやるッ!末に広がる十六裂きにッ!」 「落ち着けお前さんっ!味方だ、味方!というか、どこで覚えたその言葉!」 拳を構え、ずんずん突き進むギーシュを官兵衛が全身を使って抑える。 その勢いに、若干引き気味に答えるワルド。 「す、すまない。婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬ振りは出来なくてね」 「婚約者?」 官兵衛は首を捻った。とりあえずギーシュをバックドロップで沈め、官兵衛はワルドに向き合う。 「ワルドさま……」 ルイズが立ち上がり、震える声で言った。 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 「お久しぶりでございます」 ワルドはルイズに駆け寄り、その身体を抱え上げた。ルイズも思わず頬を染める。 「相変わらず軽いな君は!まるで羽のようだね!」 「お恥ずかしいですわ……」 出やがったよ貴族特有の芝居がかったやり取りが、と官兵衛は思った。 正直こういった演劇は、嫌な思い出が蘇る。主に、元居た世界の南蛮宗教の演劇を思い出すのだ。 ここが異世界じゃなかったら、ステージを提供してやるのになぁ、と官兵衛はぼやいた。 「彼らを紹介してくれたまえ」 ワルドはルイズを下ろすと、再び帽子を目深にかぶりながら言った。 「あ、あの……、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のカンベエです」 ルイズは地面でのびてるギーシュと、官兵衛を指しながら言った。 「はじめまして、だ」 官兵衛は気だるげに挨拶した。 正直官兵衛は、この羽帽子の貴族が気に入らなかった。 実力、地位、人気、全てを持っている。握手など求めてきたら、その隙に左手でグサリとしてやりたいくらいだ。 「君がルイズの使い魔か。まさか本当に人とは思わなかったよ」 気さくな感じで話しかけてくるワルドであった。しかし官兵衛はぶっきらぼうに接する。 「僕の婚約者がお世話になっているよ」 「そうかい、小生も随分世話になってるよ。あの娘っ子にはな」 何やら嫌味ったらしくルイズに向けて官兵衛が言う。それを聞いてルイズはフンとそっぽを向いた。 そんなやりとりを見て、ワルドは目を瞬きさせると、豪快に笑った。 「あっはっは!仲がいいようで何よりだよ!」 ワルドが口笛を吹く。すると、もやの中からグリフォンが現れた。 ワルドはひらりと華麗にグリフォンに跨ると、ルイズに手招きした。 「おいで、ルイズ」 ルイズはそれを見て、ためらう様に俯いたが、やがて顔を上げると静かにワルドの手を取った。 いつの間にか目覚めていたギーシュも、う~んと唸ると周囲を見渡して首をかしげた。 「あれ?僕はいったい何をしてたんだっけ?」 「ほれ、さっさとしないと置いてかれるぞ」 官兵衛の言葉にギーシュは慌てて馬に跨る。そして最後に官兵衛が馬に跨ると、一向は出発した。 「では諸君!出撃だ!」 官兵衛はいつの間にか仕切っているワルドを忌々しく思いながら、馬を走らせた。 学院長室の窓から出発する一行を、アンリエッタは見つめていた。手を組み、目を閉じて祈る。 「彼女達にご加護をお与え下さい。始祖ブリミルよ……」 そんな厳かな雰囲気をぶち壊すかのように、隣ではオスマンが鼻毛を抜いていた。 「見送らないのですか?オールド・オスマン」 「ほほ、姫、見ての通り、この老いぼれは鼻毛を抜いておりますのでな」 アンリエッタが額に手をやった。そこへ、激しいノックとともに、慌てた様子のコルベールが現れた。 「いいい、一大事ですぞ!オールド・オスマン!」 「君はいつでも一大事ではないか。どうしたのかね?」 「チェルノボーグの牢獄から、フーケが脱獄したそうです!門番の話では、さる貴族を名乗る妖しい人物に眠らされたと! また、どうやら他の囚人を伴って脱獄した様子で!」 コルベールが一気にまくしたてるのを、まあまあとオスマンが宥める。アンリエッタが蒼白になった。 「わかったわかった。その件については後で聞こうではないか」 オスマンがコルベールに退室を促すと、コルベールは渋々いなくなった。アンリエッタは机に手をつき、ため息をついた。 「さる貴族……。間違いありません!アルビオン貴族の暗躍ですわ!」 しかし、アンリエッタの勢いを意に介さず、オスマンは鼻毛を抜きつづける始末。 「どうしてそのような余裕の態度を。トリステインの未来がかかっているのですよ」 「すでに杖は振られたのですぞ。我々にできる事は待つことだけ。違いますかな?」 「そうですが……」 アンリエッタは居ても立ってもいられないといった様子である。 「なあに彼ならば、道中どんな困難があろうとも、やってくれますでな」 「彼とは?あのギーシュが?それともワルド子爵が?」 オスマンが首を振った。 「まさか、あのルイズの使い魔の青年が?彼はただの平民ではありませんか!」 「姫は始祖ブリミルが用いた、最強の使い魔、ガンダールヴをご存知かな?」 「ええ、それが何か?」 アンリエッタは突如ふられた話題に首を捻った。そして、やや黙考の末、オスマンを見つめて言った。 「まさか、彼が?」 オスマンは喋りすぎたとばかりに目を瞑った。 「いやなに、彼はそのガンダールヴ並みに使える、と。そういう事ですじゃ」 はあ、とアンリエッタが口を開ける。 「加えて彼は異世界からやってきたのです。我々の想像も及ばない世界からのう」 「異世界?そんなものが……」 「無いとは言い切れますまい。現に彼は、あのような枷を負いながらも、顔色一つ変えずに様々な事をやってのけました。 我々とは、思考も行動も違う。そんな彼ならば、やってくれると信じておりますでな。余裕の態度もその所為なのですじゃ」 アンリエッタは遠くを見るような目になると、目を瞑り微笑んだ。 「ならば祈りましょう。異世界から吹く風に」 トリステインより馬で二日の距離にある港町ラ・ロシェール。 この港町こそ、現在ルイズ達が目指している、アルビオンへの玄関口であった。 固い岩肌に囲まれたこの町は、常に人口の十倍以上の人間がひしめく。商人、軍人、旅人、そして少なからずのならずもの達。 そんな町の裏通りを、人知れず歩き回る人影が二人いた。 脱獄した盗賊・土くれのフーケと、戦国の武将・長曾我部元親である。 「やれやれ、脱獄に成功したはいいけど、動きづらいったらありゃしないよ」 フーケが物陰に隠れながら愚痴を言う。逃げ出したフーケを捕らえるために、表通りには厳戒な封鎖がなされているのだ。 「どうやってアルビオンに渡ったものかねぇ」 それに対して元親は答えず、隣に座り、涼しい顔で武器の手入れをしている。 元親の手には、身の丈を遥かに超える巨大な槍。槍の穂先には、舟艇を固定する碇のようなものが、存在を誇示する。 長曾我部元親の自慢の得物、碇槍であった。 長曾我部元親は四国の地を治める武将である。 彼が突然にこの世界に放り出されたのは、約一週間前のことであった。 彼は、豊臣と毛利の間に怪しい動きがあるという情報を、雑賀衆頭領・雑賀孫市から手に入れた。 四国の長曾我部は、故あって豊臣の石田と親交がある。 しかしながら、長年西の海の覇権を争って睨みあって来た宿敵・毛利元就とは未だに敵対している。 彼は毛利と問いただそうと思い、船を出した。 いや、『それ』は船と呼ぶには語弊があるだろう。その山をおもわせる巨大なモノは。 それは、国の財政が傾くどころか火の海に沈むほどの資金、それをつぎ込んだ元親の最高傑作。 最高の技術、そして最高の漢の浪漫を凝縮させた、この世に二つとない代物。 元親は、百の鬼を束ねて海を制覇する、そんな想いを込めてその最高傑作をこう名づけた。 海賊要塞・百鬼富嶽、と。 百鬼富嶽には最新鋭のカラクリ兵器も積んであった。戦の準備は万端、と意気込んでいた長曾我部軍。その時だった。 なんと、彼の操る移動要塞・百鬼富嶽の上空に、暗黒の空間が姿を現したのだ。 星が煌き、宇宙空間を思わせるそれは、要塞全てを飲み込まんと迫ってきた。 混乱する長曾我部軍。得体の知れない現象におののいた彼らは、元親の指示のもと脱出を決意。 乗組員が逃げ切り、脱出は元親を残すのみとなった時、彼はその空間に飲み込まれてしまったのだ。 「で、気がついたら一人ハルケギニアにいたって?ハハハッ!冗談はやめておくれよ!」 「ウソじゃねえっ!海の男はウソなんかつかねえっ!」 「嘘じゃなかったら変だよアンタ!だいたい、移動する城?そんな馬鹿げたもん、作る発想も技術も、このハルケギニアには無いよ!」 フーケに話しても笑うだけで、信じて貰えなかった。 その後、右も左もわからず、町や村をさ迷っていた彼は、ふとした事である騒ぎを起こす事になる。 彼が首都トリスタニアを歩いていると、そこには配下をぞろぞろと引き連れた貴族。 いかにも偉そうなその貴族は、道の真ん中を堂々と闊歩する元親を見るなり、因縁をつけてきたのだ。 この世界のルールを知らない元親は、そんな貴族に即座に喧嘩をふっかけた。 配下のメイジを殴り倒し、その貴族に碇槍を突きつけた。その結果、魔法衛士隊がやってきた。 流石の戦国武将も、魔法の手ごわさと汎用性を知らなければ不覚を取る。 元親は、『くもの糸』という魔法で幾重にも縛り上げられた上、スリープクラウドをくらいお縄となった。 そしてフーケとともに脱獄し、今に至るわけである。 その様に、この世界で行くアテのない彼は、フーケに付き合い、警備の厳重なトリステインから一時撤退する計画を立てた。そのためアルビオンという大陸に渡ろうとしていたのだ。 「全く、貴族に喧嘩売るなんて何考えてるんだい」 「テメェが言うな。だいたい何だ、貴族だの何だか知らねえが、田舎モンがよ」 フーケは、元親から詳しく話を聞くなり、呆れ果てた。よもや貴族に喧嘩をふっかけて牢に入れられる奴が居ようとは。 最もそれを言えば自分も、散々貴族相手に盗みを働いた挙句捕まったクチだが。フーケは苦笑しながら元親の話を聞いていた。 「それよりも、だ」 槍を手にしながら、元親はつまらなそうにフーケに尋ねる。 「アルビオンって大陸に渡るにしちゃあ海が見当たらねぇぜ?潮の香りも漂ってこねぇ。ここが港町か?」 元親は心底がっくし来たように肩を落とした。 元親は、武将であると同時に、海賊団を率いる海の男でもあった。彼は当初、大陸に渡ると聞いて内心ウキウキしていたのだ。 こちら側に来て初めての海。一週間そこらとはいえ、潮風が恋しい。 そんな彼だったが、進めど進めど一向に海になど辿り着かない。むしろ険しい山道を登る一方である。 いい加減痺れを切らして、元親はフーケに尋ねた。するとフーケは。 「何言ってるんだい?海なんか越えないよ?」 彼にとって衝撃的な一言を言い放った。 「んだと!?」 元親は目を見開き、フーケにくってかかる。 「バカ言うんじゃねぇ。じゃあどうやってアルビオンとやらに渡るんだ」 「あんたアルビオンを知らないのかい?」 フーケが呆れたように元親に言った。元親が知るか、と声を上げようとしたその時である。元親の右目が鋭く煌いた。 同時にフーケも、異様な気配を感じてあたりを見回す。 裏通りにちゃきり、ちゃきりと刀の唾鳴り音のようなものが響き渡った。 音の方角に目を向ける二人。聞けば、唾鳴り音とともに、ガシャガシャと甲冑の擦れる音まで聞こえてくる。 その音は、闇の中から真っ直ぐ此方に向かってきていた。 「もうお出ましかい。早いね連中は」 フーケが舌打ちしながらそう言った。この状況で、二人が警戒するべき相手は二種類いた。 一つは、脱獄したフーケらを捕らえようとするトリステインの衛士達。 そしてもう一つ、それは秘密を知ったフーケ達を始末しようと目論む貴族の連盟。 「レコン・キスタ……!」 「その通りだ」 驚くほど淡々とした声が、暗闇の奥から響いてきた。 「察しがいいな」 と、今度はフーケの背後から同じような声が聞こえてくる。 「だが、もう遅い」 元親の頭上から三つ目の声が響くと同時に、元親は後ろに飛びすさった。 元親がいた箇所に、黒い影とともにズドン!と刀の先端が振り下ろされた。 地面の岩盤が砕け、僅かな岩片が飛び散る。まともにくらったら一刀両断にされかねない、強烈な一撃であった。 「モトチカ!」 フーケが、突如屋根から降ってきた黒い影に土の弾丸を放った。 影が、土の弾丸を顔面に喰らい吹っ飛ぶ。するとフーケの背後から、ひゅっと風切り音が響いた。 振り返ると、背後の影から白刃の刃が打ち下ろされようとしていた。しかしフーケは動かない。 ガキンと鈍い音がして刃が受け止められる。見ると、いつの間にか練成されていた鉄の壁が、フーケの背後を守っていた。 即座にその場から退避するフーケ。すると、鉄の壁を裂いて、白刃の薙刀がフーケのいた地面を貫いた。 「んなっ!?」 フーケは目を見開いて驚愕した。仮にもこの自分が練成した鋼鉄を、いともたやすく剣で切り裂くとは。 そのまま地面に刺さった刃目掛けて、錬金を唱えるフーケ。しかし、相手の薙刀は土くれに変化しない。 どうやら、強力な固定化が施されているらしい。自分の錬金を跳ね除けるとは、どれ程強力な使い手の固定化だろう。 さすが、革命を起こすだけあって、レコン・キスタはメイジが揃っている。フーケは悔し紛れに唇を噛んだ。 「チィッ!」 と、突如元親が苦しそうな声を上げた。見ると、先程土弾をくらわせたはずの影が起き上がり、元親と鍔迫り合いをしていろ。 元親が気合を込めて相手の薙刀を弾き返す。と、相手の顎に強烈な蹴りを喰らわせた。 そのまま槍を振り回し、相手を薙刀ごと彼方に突き飛ばす。 「おいフ-ケ!逃げるぞ!」 「ああ!」 フーケがルーンを唱え、杖を振り下ろす。すると、地鳴りとともに地面が盛り上がり始める。 見る見るうちに屋根の高さまでのゴーレムが出来上がった。ゴーレムの肩に乗る二人。それを見上げる三人の刺客。 フーケと元親は、岩で出来た足場に飛び乗ると、屋根づたいに駆け出した。 「奇襲は失敗だな」 「追わないのか?」 「いや、時間だ」 三人の男は、獲物を追おうともせず、ただ静かに立ち尽くしていた。 三人はもとより長々交戦するつもりは無い。速やかに奇襲をかけ、一撃で仕留める手はずであった。 しかしそれが、予想以上の人物に出会い手間取ったため、深追いをやめたのだ。 「絶望に、押しつぶされていなかったな」 「しぶといな」 「全くだ」 取り逃がした眼帯の男を思い浮かべながら、三人は淡々と呟く。そこへ、闇の中から一人の仮面の貴族が現れた。 三人が貴族に向き合う。 「逃したか、まあいい。流石は土くれだな。それより――」 仮面の貴族は三人を一瞥すると、静かに言った。 「連中が、じきにこのラ・ロシェールに辿り着く。手はずはいいな?」 「心得た」 「承知した」 「行くぞ」 それぞれが言葉を呟くと、三人は即座に跳躍。三メイルはある岩の屋根に飛び乗り、駆け出した。夜空に月が浮かび上がる。 もうすでに、連中は入り口に差し掛かっている頃だろう。第一段階は傭兵集団にまかせてある。 あとは、あの三人をどう動かすかだ。仮面の貴族は、そんな事を考えると、人知れず呟いた。 「どんな手を使ってでも、求めてみせる。必ずな……」 短く、静かに笑う男の影が、風に吹かれると同時に霞のように消え去った。 「や、やっと着いた。どうなってるんだ、君も、あのワルド子爵も……。化け物か……」 官兵衛達は、途中何度も馬を使い潰して、二日掛かるラ・ロシェールまでの距離を一日で走破した。 すでに日は落ち、二つの月が夜道を照らす。 ちなみにルイズとワルドはグリフォンに騎乗しているため疲れ知らずであり、遥か先にまで行ってしまっている。 慣れない長時間の乗馬のためか、ギーシュが馬の上でへばりながら先程のような言葉を愚痴る。 しかし、肩に鉄球を担いだ官兵衛は、平然とした顔で先を見やっていた。 「まあ、もうじき着く。馬での長旅とは一先ずおさらばだ」 官兵衛は、疲れ果てたギーシュを落ち着けようとそう言った。 最もこの程度の事でへばっていては密使など務まらないのだが。 ましてや、目的地は今にも滅びそうな王朝の陣中である。おまけに、いつ貴族派の妨害にあうかも知れない。 拙速を尊ぶのは当然であった。そう考える官兵衛であったが、ギーシュも秘密を握っている以上、捨て置くわけにはいかない。 やれやれと、馬を止めると、官兵衛は懐から水の入ったポーチを取り出し、ギーシュに投げてやった。 ゴクゴクと喉をならして水を飲むギーシュを尻目に、官兵衛は目の前の道を険しい顔で眺めていた。 目前には、険しい崖に挟まれた、ラ・ロシェールへと続く山道が続いていた。 官兵衛は用心した。高所、そして遮る物のない夜道。奇襲を行うには最適の地形と言えた。 武将としての勘が警鐘を鳴らす。 (迂回するか?しかし一本道だ……) 迂回すれば町に入るまでどれほど時間がかかるか知れない。ここは慎重に馬を進める事を選んだほうがいい。 官兵衛は即座にそう判断すると、水を飲んでいるギーシュに告げた。 「お前さん、杖を構えておけ」 「ぷはぁっ!一体どうしたね?」 ボトルから口を離し、ギーシュが言われるままに杖を取り出す。 官兵衛達が合図し、二人は慎重に馬を進めた。官兵衛の唯ならない様子に、手綱を握る手に力が篭るギーシュ。 やがて渓谷に挟まれるようにして町明かりが見えた。と、その時である。 崖の上から、二人目掛けて何本もの松明が投げ入れられた。 「うわあっ!」 驚いた馬が前足を高々と上げる。ギーシュが馬から放り出され、悲鳴をあげた。 官兵衛は、松明が投げ入れられると同時に馬の背を蹴って飛び上がった。 すると、スココンと、何本かの矢が馬の足元の地面に突き刺さる。 「奇襲だ!」 ギーシュが叫びながら立ち上がろうとした。しかし官兵衛が大声でそれを制す。 「あのゴーレムを出せ!」 官兵衛の声にハッとすると、ギーシュは薔薇の造花を振るった。 瞬く間に青銅のワルキューレが練成され、ギーシュの盾となる。 それと同時に、無数の矢が唸りをあげてズガガガッ!とワルキューレに突き刺さった。 「うわっ!」 ギーシュは青ざめた顔でその光景を見ていた。 官兵衛は、空中で身を捻ると、力任せに鉄球を蹴り飛ばす。鉄球が崖の岩肌に激突し、地震の如き揺れを引き起こした。 すると、崖上で男達の悲鳴が聞こえ、大勢が情けなく転がり落ちてきた。 官兵衛はずしんと地面に着地すると、岩肌に埋まった鉄球をぐいと引き寄せた。 がらがらと岩壁が崩れ落ち、鉄球が手元に戻ってくる。 「これで全部……じゃあなさそうだな」 官兵衛が気だるげに呟いた。 するとその言葉の通り、今度は反対側の崖から矢が飛んでくる。 官兵衛が咄嗟に手枷を構えた。だが、次の瞬間であった。 突如、官兵衛の目前の空気がゆらぎ、小型の竜巻が発生したのだ。 竜巻が飛来する矢を巻き込み、あさっての方角に弾き飛ばす。 「大丈夫か!」 官兵衛は声の方角を見やる。見ると、グリフォンに跨ったワルドが杖を掲げていた。 ワルドは次々に飛んでくる矢を風の魔法で逸らしながら、こちらに駆けてくる。 「た、助かった……」 ギーシュが安堵のため息をついてよれよれと立ち上がった。 官兵衛が、第二波の矢が飛んできた方向を睨む。 何故かもう矢は飛んでこない。そんな不自然な奇襲を、官兵衛は怪しんだ。 「夜盗か山賊の類か?」 ワルドの呟きに、ルイズがはっとした声で言った。 「もしかしたら、アルビオン貴族の仕業かも……」 「貴族なら、弓は使わんだろう」 ワルドがそう否定する。その時、夜風の音に紛れて、バッサバッサと羽音が聞こえた。 すると、崖の上から悲鳴が聞こえ、またもや大勢の男達が落下してくる。 何かしらの魔法を受けたのか、所々焼け焦げた跡や擦り傷で、満身創痍であった。 官兵衛は男達の受けた魔法の痕跡と、羽音から、即座にアタリをつけた。 そして、その答えを示すように、月をバックに見慣れたシルエットが空に現れた。 ルイズが驚き声を上げる。 「シルフィード!」 そう、それは確かにタバサの操る風竜、シルフィードであった。 シルフィードが砂埃を舞い上げながら、その巨体を着地させる。 すると、その背中からキュルケが飛び降り、髪をかきあげながら言った。 「お待たせ」 「何であんたがここにいるのよ!」 ルイズは声を張り上げながら、得意げに佇むキュルケに食ってかかった。 「だって。今朝方、起きてみれば貴方達、馬で旅支度してるじゃない。 気になったからタバサに頼んで後をつけてもらったのよ」 見ればシルフィードの上で、タバサはパジャマ姿で本を読んでいる。恐らくは、寝起きを叩き起こされたのだろう。 「お前さんも、随分と難儀するな」 同情の言葉をタバサに掛ける官兵衛。タバサは官兵衛をチラリとみやると、気にした風も無く再び本に目を戻した。 「あのねツェルプストー。これはお忍びなのよ?」 「お忍び?だったらそう言いなさいな。わからないじゃない!」 キュルケが手を広げて言った。 「とにかく、感謝しなさいよね。あんた達を襲った連中を捕まえたんだから」 キュルケは、崖の上から落ちてきた男達を指差した。男達は皆一様に鎧を着込み、弓矢や剣を携えている。 顔や腕についた生々しい傷跡が、歴戦の傭兵である事を窺わせた。成程、確かにこいつら自身はメイジではない。 だが、だからといってこの襲撃に貴族派が絡んでいないとは限らない。かく乱のために兵を雇う事は十分にあり得た。 ギーシュが近寄り尋問する。 「君達、一体何者かね?どうして僕らの命を狙ったんだい?」 ギーシュはさっと髪をかき上げ、左手を胸に仰々しく当てたポーズをとりながら、右手で杖を突きつけた。 先程まで矢に怯えていたにも関わらず、自分の安全が確保された途端、キザに振舞うギーシュ。 そんなギーシュを見て、傭兵一団は目をぱちくりさせる。キュルケは呆れて手をすくめた。 「答えたまえ。さもなくば僕の青銅のゴーレム、ワルキューレが黙っていないよ」 ギーシュが優雅に杖を振るう。模造の花びらがこぼれ、地面に舞い落ちる。しかしゴーレムはいつまで経っても現れない。 先程、矢を防ぐ為に精神力を全て使い切ってしまったのであった。 ギーシュは滝の様に汗を流しながら、傭兵一団から目を逸らした。 男達は、微かに笑みを浮かべると、こりゃ丁度いいとばかりに嘘八百を並べ立て出した。 曰く、自分達はただの物取りである。襲うなら誰でも良かった。貴族とは思わなかった、等々。 そんな、いかにもな回答を聞くと、ギーシュは満足したのか杖をおさめ、ワルドに告げた。 「子爵、あいつらはただの物取りだ、と言っています」 「ふむ……、なら捨て置こう」 ワルドがそう言うと、男達はほっとしたように顔を見合わせた。これであのおっかない雇い主にどやされないで済む、と。 だが、その時であった。 ズドン!と地震のような地鳴りがして大地が揺れた。傭兵一団が、どわあっと慌てふためいた。 見ると、官兵衛が鉄球を地面に打ち下ろし、ギロリと男共を見据えている。 官兵衛は無表情で、ゆっくり一歩一歩と傭兵達に近づいた。 「な、なんでぇ」 傭兵の筆頭格と思われる男が、そんな官兵衛に対して恐る恐る口を開いた。 だが官兵衛は答えず、淡々とした口調でただ一つの質問を投げかけた。 「お前さん、右と左どっちだ?」 「は?」 男が首を傾げた。 「残すほうの足だよ」 官兵衛が、変わらず無表情で言った。しかし、その眼光は鋭い。その言葉に、傭兵の頭は青ざめた。 官兵衛が手枷ごと鉄球を構えると、地面に一直線に振り下ろす。轟音がラ・ロシェールの荒野に響き渡った。 「ひぃぃぃっ!」 男達は恐怖した。 官兵衛が鉄球を振り下ろした箇所には、直径3メイル、深さは1メイルはあろうクレーターが出来上がったのだ。 こんな凄まじいものを喰らったら、足どころの騒ぎではない。 「右か左か。選ぶんだな」 「ひ!言います!洗いざらい白状します!」 歴戦の傭兵はいとも容易く、雇い主の情報を漏らした。 傭兵一味を雇ったのは、仮面の男。崖下に馬が通りかかったら襲えといわれていた事。他にも雇われた連中が居る事。 頭とその連中は、情報の洗いざらいを吐いた。それを聞くと、官兵衛は静かに頷き、ワルドを見据えて言った。 「だ、そうだ子爵」 「ふむ、アルビオン貴族派の仕業かもしれない、ということか」 ワルドは顎に手をやり、しばしの黙考の後に全員に告げた。 「ひとまずその白い仮面の男とやらが気になるが、先を急ごう。今日はラ・ロシェールに一泊して明日の朝にアルビオンへ渡る。」 ワルドは颯爽とグリフォンに跨ると、ルイズを抱きかかえて駆け出した。 ワルド以外の全員はしばし官兵衛の行動に呆気にとらわれていたようだが、すぐに気を取り直した。 「すごい!すごいわダーリン!頼もしい!やっぱりあんなヒゲよりダーリンね!」 キュルケが官兵衛に抱きつこうとしてきた。ワルドに対して嫌悪感を露にするキュルケ。 先程キュルケがワルドに言い寄っていたのが見えた。大方あしらわれたか何かしたのだろう。 それほどでもない、と鼻を鳴らしながらも、官兵衛はしてやったりという表情をした。 「すまない、僕がもっとちゃんと尋問しておけば……」 ギーシュが申し訳無さそうに官兵衛に言った。しかし官兵衛は首を振り静かに、気にするな、と呟いた。 官兵衛達は、馬と風竜に乗り込むと、即座にワルドのグリフォンを追った。 前ページ次ページ暗の使い魔
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前ページ次ページネコミミの使い魔 わたしが目覚めて一番最初に目についたのは、桃色が混じったブロンドの髪を持った綺麗な女の人だった。 そういえば昨日召喚されて、一緒に眠ったんだっけ。それと回復の魔法を使ったけどソウルジェムが全く曇ってないのを確認する。 やっぱり変だ、グリーフシードの気配も感じられないし、ココはやっぱり異世界なんだろう。 キョーコやマミお姉ちゃんとはもう出会えないのかな。 そう思うと涙が出そうに鳴る。 わたしが動いたのを感じて、ルイズのお姉ちゃんが身動ぎした。 「目を、覚ましたのね……わたしも起きないと」 そう言って身体を起こす。 清々しい朝の日差しに包まれて、髪の毛がキラキラと輝く。 やっぱり綺麗な人だな、と思った。 「ねえ、ゆま、わたしの使い魔」 「うん!」 「……あなたに仕事を言い渡すわ、できるかしら?」 「がんばるよ!」 どんなことを言われるんだろう、ドキドキする。 ルイズのお姉ちゃんはひとしきり考えるような仕草をした後、タンスの方を指さした。 「あそこに私の下着があるわ、上下、取ってきなさい」 「わかった!」 簡単なお仕事でよかった! コレで食事を用意しなさいとか言われたら、マミお姉ちゃんと一緒に習った、ティロ・ケーキ*お菓子作り*を使わないといけないところだった。 タンスの指さされたところには下着がたくさん入っていた、キョーコと同じくらいの大きさかな、マミお姉ちゃんに比べたらかなり小さい。 「下着、持ってきたよ!」 「ありがとう、そうしたら、そこに制服があるでしょう、取って頂戴」 「わかった!」 目に見える範囲にあった、昨日ルイズのお姉ちゃんが着ていた制服。 その途中に服と下着が用意してあった。 {{行頭下げ}}【ゆまたんへ あしながおねーちゃんより】 「ルイズのお姉ちゃん、これ、お姉ちゃんが用意したの?」 「何その服、ゆまたんへ? さあ、知らないわ」 「ととと、とりあえず制服を持って行かないとね」 とりあえず置かれた服を放っておいて、制服をルイズのお姉ちゃんに届けに行った。 「ゆま、その服をとりあえず来てみなさい、昨日と同じ格好では嫌でしょう?」 「うん! 着てみる!」 緑色を基調としたふりふりの憑いたワンピースの吹くと、リボンの付いたパンツだった。それを身につけると、ルイズのお姉ちゃんが可愛いわと褒めてくれて嬉しい。 「洗濯は……まあ、平民が入ってきて勝手にするでしょう、このカゴに二人分入れておきましょう」 二人で一緒に部屋を出ると、チョコレート色の木の扉が3つ並んでいた。 その扉の一つが開いて、キョーコと同じような髪と、マミお姉ちゃんと同じような胸を持ったお姉ちゃんが姿を表した。 わたしと比べるとすごく背が高くて、ルイズのお姉ちゃんよりも大きい、それにスタイルもよくてそれに自信を持っている様子だった、 その人はルイズのお姉ちゃんを見ると、ニヤリと笑った、 「おはようルイズ」 ルイズのお姉ちゃんは期限が悪そうに眉をひそめると、唇を尖らせながら挨拶を返す。 「おはようキュルケ」 そしてわたしのほうに優しげな表情を向けて、 「おはよう、ゆま、ステキな名前ね」 「おはようございます、キュルケお姉ちゃん?」 「ええ、あたしの名前はキュルケ、覚えておいてね」 そう言って優雅に微笑んだ。 ルイズのお姉ちゃんはわたしを守るように前に立つ。 「サモン・サーヴァントでそんなに可愛い子を呼ぶなんてすごいじゃないのルイズ」 「褒めてるのそれ?」 「褒めてるわよ、ま、あたしの使い魔は更に凄いけれど、フレイムー」 キュルケのお姉ちゃんは勝ち誇ったような声で使い魔を呼んだ。確か昨日教室で見た使い魔たちよりもすごいのかな、なんて思った。 部屋からのっそりと四つ足で登場をしたのは、巨大な爬虫類だった。魔女の使い魔とはちょっと違って、こちらは動物っぽい。 ただ尻尾は熱そうに燃えていて、こういうのは動物園にはいないなと思った。 「すごいね、でっかい、トカゲ?」 「んー、ちょっと違うわね、火トカゲよ」 「うーん、変身したら勝てるかな……ちょっと自信ない」 「あなた変身できるの? 不思議ね、まあ、使い魔っていうのは普通こういうのなのよ」 さすがに虎くらいの大きさのトカゲだから、火トカゲなんだろうか。 「それって、サラマンダー?」 「そうよ、見て、この尻尾。ココまで鮮やかで大きな炎の尻尾じゃ間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ、ブランド物よー? 好事家なんか見せたら値段なんかつかないわよ? ……まあ、人間の変身する使い魔も値段がつかないでしょうけど」 ちらちらと、別の扉を気にしながらキュルケのお姉ちゃんは言った。 「まあ、わたしの使い魔もステキだけど、よかったわね」 「ええ、私の属性にぴったり」 「あなた、火属性ですもんね」 「ええ、微熱のキュルケですものささやかに燃える炎は微熱、でも男の子はそれでイチコロなのですわ、あなたと違ってね」 確かにマミお姉ちゃんみたいな胸を大胆に露出させていたら、男の子の視線はその胸に向かうだろう。でも、マミお姉ちゃんと違って紅茶を入れるのが得意だったり、ケーキを買って食べさせてくれたり、料理が得意だったりとは違いそうだ。 「ゆま、火属性というのは、こんなんなのよ、あんまり近づかないようにね」 「失礼ねゼロのルイズ、まあいいわ、お先にー」 「悔しー! ……まあ、ゆまもいい使い魔だからいいか」 「ルイズのお姉ちゃんもフレイムみたいのがよかったの?」 「メイジの実力を見るには、使い魔を見よという言葉があるの、ゆまが変身できたりしても、見た目の差で、ちょっとこちらの負けかもね」 「うー、ゆま、頑張るよ!」 決意するわたしを、ルイズのお姉ちゃんは可愛い物を見るかのように目を細めて見つめていた。 そういえば最後に、キュルケのお姉ちゃんはゼロのルイズといった、ゼロってことはないってことだよね、きっと悪い意味に違いない、だから聞かなかったことにしようっと。 トリステイン魔法学院の食堂は、真ん中の本塔の中にあった。食堂の中にはすごく長いテーブルが三つ並んでいる、学年別に分かれているのかなと思った。百人は座れそうなテーブルの真中にルイズのお姉ちゃんの隣りに座った。 左のほうにあるルイズのお姉ちゃんより*キュルケのお姉ちゃんよりもお色気な人もいた*大人びた顔をした人たちは紫色のマントを付けて、左側の席に座っていた。 右側のテーブルに座った、ちょっと幼い顔の人たちは、茶色のマントをつけている、ルイズのお姉ちゃんとは違うものだから、きっと一年生だ。 一階のちょっと上になっている所に先生らしき人たちが見えた、どうやらココでみんな食事をとるみたいだ。 いくつものローソクが並べられて、花が飾られて、フルーツが盛られたかごが乗っている。キョーコがいたら、あれもきっと食べてしまうに違いない、食い物を粗末にすんじゃねえと言いながら、そしたらルイズのお姉ちゃんはどんな顔をするだろうか。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 「ふえ」 「メイジはほぼ全員が貴族なの……まあ、ゆまみたいな例外もいるけれど、貴族は魔法を持ってその精神をなすのモットーのもと、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ、だから食堂も貴族の食卓にふさわしいものでなければならないの、ちょっと難しかったかしら?」 「とりあえず、貴族らしーんだね?」 「ええ、本当は貴族ではないゆまはここには座れないんだけれども、わたしの特別な計らいでココに座れるの、感謝してよね」 と、いたずらっぽく言った。 「でも、ゆまどうしよう、こんなお料理、貴族らしく食べられるかな?」 「ふふ、取り分けてあげるわよ」 「いいの? 使い魔なのに?」 「使い魔だけど、妹分みたいなものよ」 私はルイズのお姉ちゃんの手の動きを眺めながら、いつかルイズのお姉ちゃんの手を借りずに食事ができるようにがんばろうと思った。 昨日も行った魔法学院の教室は、マミお姉ちゃんの学校とはまた違った感じだった。椅子がいっぱい並べられて、椅子もいっぱい並んでいる。 昨日も一緒に授業を受けたけれど、あんまり内容はわからず、ルイズのお姉ちゃんがところどころ分かりやすく説明してくれてやった少しだけ分かるくらいだった。 きっと、ルイズのお姉ちゃんは勉強がよく出来るに違いない。だからこそ初心者のゆまにしっかりと教えられるんだろう。 教室の中にはキュルケのお姉ちゃんがいた、男の人に取り囲まれている、本当だ男の人はイチコロなんだと思った。 不意に、誰かと目があった気がした、そっちの方向を見ると、赤いメガネのお姉ちゃんが無表情でこちらを見ているような? そんなことないか。 そして窓の外には巨大な蛇がいた、教室の中に入れない使い魔もいるんだね、猫とか、カラスとかフクロウとかもいるけれど。 あと、魔女の使い魔みたいな使い魔もいる、見た目がちょっと変な使い魔だ。ああいうのも優秀な使い魔なんだろうか、不思議な世界だ。 「ゆま、わたしの隣に座りなさい」 「うん!」 「それと、この紙、できるだけ先生の話をメモしてなさい、分からないところは昨日と同じように教えてあげるから」 ようし、がんばるぞ! 私は気合を入れて先生を待つ。 扉が開いて先生を待った。 おばさんだった、紫色のローブに身を包んで帽子をかぶっている。バザーでキョーコと喧嘩したおばさんとよく似ている。 きっと、あの人もメイジなんだろう、なんてたって先生だもんね、あんまり失礼な態度は取らないようにしないと。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね、このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」 その時、ルイズのお姉ちゃんがちょっとだけ俯いた。 「おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね、ミス・ヴァリエール」 ミス・ヴァリエール……たしか、ルイズお姉ちゃんの名前だ。 ということは、変わった使い魔というのはわたしのことだ。 うー、わたしのことはいいけど、ルイズのお姉ちゃんを言うのは許せないなあ。 教室中が笑いに包まれて、ルイズのお姉ちゃんの顔が赤く染まる。 「ルイズ! しょうか!? ぐへぇ!」 なんだろうか、からかおうとした声が聞こえたような気がしたけど。 「げほっ、召喚出来なかったからって平民を連れてきたんだろ!」 「そんなことないわ! わたしはちゃんと成功したわよ!」 「そうだよ! ルイズのお姉ちゃんを悪く言うのはゆまが許さないよ!」 そう言ってソウルジェムを掲げて変身する。 すっかり姿が変わったわたしに、教室中が騒然とした。 「ゆま……あなた本当に変身できたのね……」 「ルイズのおねえちゃんを笑う人はゆまが懲らしめちゃうんだから」 そういって、からかっていた太っちょの人に向けてハンマーを向ける。 その時、何かの気配を感じて、杏子から習った結界を張った、ばちばちばち! とすごい音がする、目の前に赤土が落ちていた。 「……では、授業を始めましょう、使い魔さんも席について」 わたしはおとなしく席に座った。 これ以上喧嘩してたらルイズのお姉ちゃんに迷惑がかかっちゃうし。 「私の二つ名は赤土、赤土のシュヴルーズです、土の系統の魔法をこれから一年皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね、ミスタマリコルヌ」 えーっと、先生は赤土。土の先生。っと。 「はい! ミセス・シュヴルーズ。火水土風の4つです!」 ということは、火の先生、水の先生、土の先生、風の先生がいると。 「今は失われた系統の魔法である虚無を含めて、全部で五つの系統があることはみなさんも知っての通りです。その五つの系統の中で土が最も重要なポジションであることを占めていると私は考えます。それは決して私は土系統だからというわけではありませんし、単純な身びいきでもありません」 あんまり説得力がないような気がした。 「土の系統の魔法は万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。このような魔法がなければ重要な金属を作り出すことはできないし、大きな石を切り出して建物を建てることも出来なければ、農作物の収穫も今よりも手間取ることでしょう、このように土の系統はみなさんの生活に密接に関係しているのです」 ってことは、魔法がゆまたちの世界のノコギリとか、チェーンソーとか、釘とか、そういう道具に該当しているってことなんだ。 魔法を使えるってだけで偉いっていうのがなんとなく分かった気がする。でも、魔法を使わなくても生活している人もいるのにな、とも考えた。 苦労をすれば魔法も使わず、いろいろな技術が進歩するだろうに、魔法のせいできっとそれが遅れちゃってるんだろう。 「今から皆さんには、土系統の魔法の基本である錬金の魔法を覚えてもらいます、一年の時にできるようになった人もいるでしょうが基本は大事です、もう一度おさらいすることに致します」 錬金錬金っと、基本。っと。 先生は石ころに向かって魔法を使った。 光が収まると、ただの石ころがキラキラ光る真鍮に変わっていた。 「ゴゴゴ、ゴールドですか! ミセス・シュヴルーズ!」 キュルケお姉ちゃんが盛り上がっていたけど、真鍮と金だとだいぶその価値が違うと思う。 「いいえ、コレはただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのはスクウェアクラスのメイジだけです、私はただの、トライアングルですから」 スクウェア? トライアングル? 「ゆま、スクウェアやトライアングルというのは、メイジのレベルのことよ」 わたしが質問する前に、ルイズのお姉ちゃんが説明をしてくれる。 きっと予測をしていたのだろう。 「先ほどの4つの属性を、足す火水土風ね、それぞれ同じ属性を足したりすることによって、強力な魔法が使えるように鳴るわ」 「トライアングルってことは、{{英数字}}3つってこと?」 「そのとおり、一つだと、ドット、二つだとライン、{{英数字}}4つでスクウェアね」 なるほど……。 「ミス・ヴァリエール、授業中に私語をするなら、錬金をやってご覧なさい」 しまった、ゆまとのおしゃべりのせいでルイズのお姉ちゃんが指名されちゃった。 どうしよう、私はキョーコにもマミお姉ちゃんにも錬金なんて習ってない、習ったのは分身魔法と結界と、銃の出し方と、大砲の出し方だけだ。 ティロ・フィナーレなんてしたら授業がめちゃくちゃになっちゃうし……。 「わかりました」 ルイズのお姉ちゃんが答える。 わたしは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 そうして、教室の前に歩いていったお姉ちゃんは不思議と緊張をしている様子だった。 そして、他のクラスメートの人達も、なんでだろ? 「ミス・ヴァリエール、錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 目を閉じて呪文を唱え始めたルイズのお姉ちゃんはとても綺麗だった。 わたしを魔法少女にした、織莉子お姉ちゃんよりも、ある時突然消えてしまったほむらおねえちゃんと同じくらいに綺麗だった。 このクラスでは赤いメガネのお姉ちゃんと、キュルケお姉ちゃんくらいしか、ルイズのおねえちゃんと同じくらいに綺麗な人はいない。 そして、ルイズのお姉ちゃんは杖を振り下ろした。 その瞬間机ごと石ころが爆発した。私はキョーコに習った結界魔法を全開で使い自分自身を守ったけど、ルイズのおねえちゃんと先生は黒板に吹っ飛ばされた。 教室の中にいた使い魔たちが暴れだし、教室の中はすごい騒ぎになる。 ――これなら、ティロ・フィナーレをしてたほうが良かったかも。 「怪我をした人はゆまに言ってね? 治してあげるよ!」 近くで傷を抱えていた使い魔や、メイジの人たちに回復魔法をかける、それでもソウルジェムは曇らない、大丈夫、どんどん使える。 そうだ、先生とルイズのお姉ちゃんは! すすで真っ黒になったルイズのおねえちゃんがムクリと立ち上がり、ポケットから取り出したハンカチですすを吹きながら淡々とした声で言った。 「ちょっと失敗しちゃったみたいね」 「おねえちゃん大丈夫!」 「だいじょうぶよゆま、それよりも先生を回復させてあげて」 「うん!」 そうしている間にも教室中からゼロのルイズだの、 「いつだって魔法の成功率ゼロじゃねえかよ!」 といった声が聞こえてくる。 そっか、だからあの時ゼロのルイズってキュルケのお姉ちゃんは……って、大変、気絶した先生を回復させないと! 前ページ次ページネコミミの使い魔
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「プロペラ、回します!」 その一言と同時に、シエスタが真空殲風衝を放ち、ゼロ戦のプロペラを回す。 その事実に、江田島は少しだけ驚いた。まだ年端もいかない少女が、真空殲風衝を使うとは思わなかったのだ。 しかし、その目を見て納得する。外見は全く違うとは言え、確かに彼女の目は「大豪院」に連なるものの目であったのだ。 だから、江田島は 「大義である!ルイズとやら、準備は良いか?」 そう言ってルイズを見つめた。その目には、深い海のような優しさがあった。そして威厳があった。 その様子に、ルイズは一瞬言葉に詰まる。しかし、彼女はやはり誇り高いトリステインの貴族であった。 「誰に向かっていっているのよ!それよりとっとと追い払って、帰ってくるわよ!」 初対面にも関わらず、ルイズは江田島の目を見つめ返してそう言った。 その様子に江田島は大きくうなずく。おそらく彼女にとっては初めての戦場であるのだろう。その瞳にはほんの少しの恐れがあった。 しかし、それを遥かに上回る大きさの、純粋な何かがあった。 ルイズはずっと考え続けてきたのだ。自分は魔法を使えない、シエスタや使い魔達のように強くはない。 考えて考えて考え抜いた結果、今のルイズがある。 (私は貴族よ。ならば決して後ろを見せない!取り乱さない!それに……) ルイズは親友のアンリエッタのことを考える。 今の彼女ならば、自分から先頭に立つに違いない。そして敗北が決まるまで決して退くまい。 そう、ウェールズの死を告げた時、アンリエッタがそう心で誓ったのをルイズは見ていたのだ。 ならば、今のルイズは、自分がアンリエッタのためにできることをするだけである。 そんな気持ちが江田島にも伝わったのか、江田島はにやりと笑って大きく叫んだ。 「道を開けーい。ゼロ戦、発進するぞ!」 その瞬間、ゼロ戦に命が舞い戻る。 ふわりと浮き上がったとき、ルイズは興奮を隠せなかった。 そう、これほど巨体が魔法によらずして空を飛び始めたのだ。 数十年ぶりに命を取り戻したゼロ戦は、一瞬で遥か彼方へと消えていった。 その瞬間塾生達は、確かに塾長の声を聞いた気がした。 「わしが男塾第三の助っ人である!」 「むう。少し遅れたようだな。」 「王大人!」 桃が驚いて振り向くと、そこには王大人がいた。 富樫の治療はいいのかと詰め寄る桃に、王大人はにやりと笑って振り返る。 そこには、助っ人二号の肩を借りて地面に降りる富樫の姿があった。 そのことに安堵の表情を浮かべる桃達に、王大人は真剣な顔をして言った。 「それよりも、早く江田島殿を追いかけるぞ。少々気になることがあってな。」 王大人と、ルイズの使い魔達は、戦風吹き荒れるタルブの村を目指すことになった。 時は数分前に遡る。 江田島平八が意識を取り戻したとき、そこには最近行方不明になっていた一号生達の姿があった。 そのことに江田島は安堵する。そう、彼らは無事生きていたのだ。 彼らは、一様に呆けたように江田島を見つめていた。そう、まるでこれが白昼夢であるかのように。 だから、江田島は応えることにした。 「わしが男塾塾長江田島平八である!」 その言葉に、周りにいたシエスタとルイズは思わず耳を押さえてうずくまる。 頑丈に作られたはずの新男根寮すら、大きく震えていたのだ。 だが、効果は抜群であった。 見る見る内に一号生達の顔色に生気が戻る。それと同時に虎丸などは感極まって泣き出しそうな顔をしていた。 それを見届けた江田島は、桃の方を見ると声をかけた。 「状況を報告せい!」 「押忍!一号生筆頭剣桃太郎、状況を報告します。」 そして桃は手短に状況を報告した。 ここが異世界のハルケギニアであることを。自分達がこのルイズなる少女の使い魔をしていることを。 そして今は戦争中であり、この少女の手助けをしようとしていることを。 それらの言葉一つ一つを江田島はかみ締める。 桃は、意味もなく嘘を言うような男ではない。おそらく言っていることは全て真実であろう。 そう判断した江田島は、まずはルイズの方へと向き直った。 「こいつ等が世話になった。この江田島、礼を言おう。」 「え、いえこちらこそ。」 思わぬ江田島の言葉にルイズは困惑していた。 この男からは、ルイズ自身の母である「烈風カリン」から感じるものと同じものをルイズは感じていたのだ。 そんな怖い時の母と似た雰囲気を持つ江田島に頭を下げられたルイズが思わず困惑してしまうのも無理はなかろう。 そうして礼を言い終わった江田島は、ゼロ戦と幻の大塾旗を見上げる。 かつての友、佐々木武雄が己の命をかけて守ったものだ。決して粗略に扱えるものではない。 (お主の故郷を守るため、今しばらく借りるぞ。) そうして心の中の佐々木に語りかけた江田島は、先ほど話を聞いていた通りにルイズを乗せると空高く舞っていった。 「「「塾長!ルイズ!御武運を!!」」」 一号生達が敬礼をしてその様子を見送っていた。 江田島は怒りを隠そうとはしていなかった。 ギリギリと歯をかみ締める。怒りの炎の宿った目で眼下のタルブの村を見つめる。 そこにはかつて美しかったであろう平原が移っていた。 アルビオン軍は、官民の区別なくこの平原を焼き払おうとしているようであった。 (塾長。後は頼みます。) そんな時、江田島の耳に、ふと大豪院邪鬼の声が聞こえたような気がした。 そう、ここは大豪院邪鬼が、その生涯の果てに命をかけて守り抜いた地でもあるのだ。 そんな大切な場所を汚すようなやつ等を、江田島平八は許しはしない。 その時、江田島の視界の端に、敵竜騎兵の姿が映った。 「ルイズよ。あのでかぶつの前には必ず送り届けるゆえ、今しばらく辛抱せい!」 「へっ?」 まだ竜騎兵を捉えることのできていないルイズが一瞬間抜けな声を上げる。 しかし、江田島はそれを無視して急上昇を開始した。後ろから、苦しそうな呻き声が響いていた。 「三匹目だ」 そうしてブレスを放とうとした竜騎兵は己が目を疑った。 信じられない速度で敵竜は急上昇をすると、次の瞬間には自分の後ろにいたのだ。 江田島が、かつての友人坂井某から教わった必殺技『ひねり込み』である。 (ば、ばかな!) そう思った瞬間、その竜騎兵は爆散した。 ゴホゴホと咳き込んだルイズは、荒っぽい運転に文句を言おうとして思いとどまる。 そう、ここはすでに戦場であるのだ。 「右下から三騎来ているわよ。いい?絶対にわたしを『レキシントン』まで送り届けなさい!」 その言葉に江田島は不敵な笑みで応えると、続いて襲いかかってきた三騎へと逆に襲い掛かった。 天下無双江田島平八、それを止めるに足る技量が、知力が、そして何より度胸がレコンキスタ軍には足りていなかった。 そう、この男を除いては。 次々と味方が落とされていくのをワルドはじっと眺めていた。 そうして分析する。今の竜では、真正面からでは勝てない。 たとえ不意を突いても、一対一では手傷を負わせるのが精一杯に違いない。 だからこそワルドはじっと勝機を待っていた。 見渡す範囲の敵騎を打ち落とした江田島は、再度『レキシントン』へと侵攻を開始した。 しかしその時、予期せぬトラブルが襲う。 ガクン、とゼロ戦がぶれる。 「きゃあ!」「ぬう!」 かつての大戦の後、ほとんどメンテナンスされることのなかったこのゼロ戦である。 また、韻竜とすら戦った歴戦の機体でもあるのだ。 いかに魔法によって劣化をとどめてあるとはいえ、修理には限界がある。 このハルケギニアにおいて、これ程壊れかけたゼロ戦を修理しきることはできなかったのだ。 韻竜との戦いで負った損傷部からパーツが一部剥がれ落ちる。 機体が不安定そうに空で揺れていた。 その瞬間を見逃すワルドではなかった。 「勝機!」 ワルドは思わず叫んでいた。 完全無欠に思えた敵が、思わぬトラブルか何かで手間取っているようであった。 これを見逃しては、おそらく自分に勝機はあるまい、そうワルドは考えていた。 (それに) その竜の中には、ピンク色の髪をした人物が乗っていたのだ。 ならば、一緒に乗っているのはルイズの使い魔に違いない。 ワルドの左腕がうずいていた。その顔には残忍な笑みが浮かんでいた。 今、エア・スピアーがゼロ戦を襲う。 ドン! 硬い何かが機体をたたく音がする。計器が次々と警報を告げる。 ついに、ルイズは死を覚悟した。この高度から落ちて助かるはずはない。 ただ、アンリエッタの力になれそうにないことだけが残念であった。 最後にルイズは、憎き敵を見つめた。 そこには、残忍な笑みを浮かべるワルドの姿があった。 何とか機体を立て直そうとする江田島であったが、もはや機体は制御を受け付けなかった。 コクピットが爆発する瞬間江田島は、今は亡き友、佐々木武雄の声を聞いた気がした。 「やった!」 人が乗っている部分が爆発するのを確認したワルドは、思わず右手を握り締める。 あれでは乗っていた人物は生きてはいまい。 しかし、それでもまだゼロ戦は飛んでいた。 パイロットを失って、致命的な損傷を受けて、それでもまだ『レキシントン』へと飛んでいた。 往生際が悪い、そう思ったワルドは地面へと叩き落すべく、己の竜をゼロ戦へと進めた。 ドスン ワルドの耳に、何か重いものが着地する音が響いたのはその時であった。 (江田島よ。後は任せろ。) 確かに江田島にはそう聞こえた。その瞬間江田島はルイズを抱えて空へと飛び出していた。 男の、友の言葉である。二言はない。 ならば自分は眼前の露払いをするだけである。 そう考えた江田島の下に、敵竜の姿があった。 振り向いたワルドは、一瞬己の目を信じることができなかった。 確かに殺したはずの敵が、自分の竜へと乗り移っているのだ。無理もあるまい。 しかし、その一瞬が致命傷となった。 慌てて呪文を唱えようとする。 「ライトニング……」 「遅い!」 素早く懐にもぐりこんだ江田島の拳が一閃する。 次の瞬間ワルドは、自分が凄まじい速度で水平に飛んでいくのを感じた。 そしてワルドの意識は闇へと落ちていった。 「わしが男塾第三の助っ人である!」 ワルドを遥か彼方へと吹き飛ばした本人は、そう名乗っていた。 ようやくルイズは我に帰ったとき、江田島は竜を手なずけていた。 『何故か』『拳状に』頭部を変形させていた竜は大変従順であった。 「佐々木武雄少尉に敬礼!」 江田島の声が走る。思わずルイズは手を頭のところに上げていた。 見ると、江田島も見事な色気のある敬礼をしていた。 その視線の先には、黒煙をあげながらも『レキシントン』へと突撃をしていくゼロ戦の姿があった。 『レキシントン』から次々と魔法の火が飛ぶ。 一撃一撃とゼロ戦はその姿を削られていくが、勢いは止まらない。 (馬鹿な!何故落ちない!) 『レキシントン』にて砲撃を担当していた士官は、そう思ったところで意識を失った。 ルイズはその様子をじっと眺めていた。 ただの機械仕掛けのゼロ戦に、何故かシエスタや自分の使い魔達のことを重ねてしまったのだ。 ボロボロになりながらもゼロ戦は進軍していく。その勢いは微塵たりとも衰えない。 ついにゼロ戦が『レキシントン』へと突撃して爆散する。 その時、ルイズに耳には、見知らぬ男の雄叫びが聞こえていた。 気づくと、ルイズの口からは呪文が漏れていた。 「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……」 『レキシントン』では消火活動が続いていた。 敵竜の突撃によるダメージは決して少なくはない。しかし、それでもまだトリステインと戦える。 ボーウッドはそう判断していた。 そしてそれは正しかった。その瞬間までは。 相変わらずルイズの視線の先では、『レキシントン』が黒煙をあげ続けている。 しかし、徐々にその煙は治まりを見せていた。 そのことを確認したルイズは、最後の呪文を唱えることにした。 あのゼロ戦が作った隙を逃すわけにはいかないのだ。 「エクスプロージョン!」 その瞬間膨大な魔力がルイズの体を駆け巡る。 そうして発動したエクスプロージョンは、空間にすら歪みを与え、敵艦隊を炎上させた。 アンリエッタと、ようやく到着したルイズの使い魔達は、その瞬間を見ていた。 凄まじいまでの閃光が走り抜けた次の瞬間、全敵艦隊が炎上していたのだ。 全員事態の変化についていけない中、アンリエッタだけが祈りを捧げていた。 「ありがとう、ルイズ。わたしのお友達……」 そう言って、彼女は進軍を宣言した。 トリステインの勝利は目前へと迫っていた。 そんな中ルイズは、息を荒くしながら江田島にもたれかかっていた。 エクスプロージョンはルイズの全精神力と引き換えに莫大な成果を挙げていた。 見れば、まだ空間が歪んでいるのが分かる。 その時、 「ぬう!」「きゃあ!」 白い光が彼らを包んでいた。 「お、おいアレを見ろ!」 虎丸が思わず空を見上げて叫ぶ。 そこでは、ルイズと塾長を載せた竜が白い光に包まれているのが見て取れた。 次の瞬間、そこには何も残ってはいなかった。 ただ、その光の先には、懐かしい男塾の校舎があったのを、彼らは見ていた。 状況が全くつかめないまま、飛燕が皆の気持ちを代弁するかのように呟いたのが印象的であった。 「……我々は恐ろしい人を塾長に持ったようです。」 しかし、王大人だけはその様子を真剣な様子でじっと見つめていた。 (さすがは江田島殿。これで手がかりがつかめた!) 男達の使い魔 第一部 完 NGシーン 雷電「むう、あの技は!」 虎丸「知っているのか雷電!?」 雷電「あれぞまさしく周の時代に失伝したとされる飛念離個魅(ひ・ねんりこみ)!」 周の時代、最強と謡われた拳豪に風魯経羅(ふう・ろへら)なる人物がいる。 彼が最強と謡われた理由の一つにその技があった。 風魯経羅は、己の手に持った二つの棒をまわして自由自在に空を飛びまわったという。 時には遥か上空へ、時は急旋回を。 念を駆使して飛び回るその姿はとても一個人の保有する念の量では不可能と言われるほど人間離れしていたという。 しかし、その姿は優美を極めて人々を魅了した。 そんな人々が尊敬の意を込めて、彼の技を飛念離個魅と呼ぶようになるまでそれほど時間はかからなかった。 なお、このような故事に明るい坂井氏が、己のゼロ戦での技をひねり込みと呼ぶようになったのは、極めて納得のいく理由である。 また余談ではあるが、この話がシルクロードを伝わって欧州とハルケギニアに伝わり、 回転するもの一般をプロペラと呼ぶようになった、というのは今やもう常識である。 民明書房刊 「古代中国に学ぶ一般常識百撰」(平賀才人撰)
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「いざ進めやギーシュ!めざすはヴァルダンテ♪」 トリステインの南方目指し、馬を駆る 「ねえ、なんでこいつがいるのよ、キュルケ」 ルイズがため息をつく。 「説明しよう!ギーシュは宝探しなどという面白そうなことに関しては 鋭い嗅覚を持っているのである!」 「要するにあんたが勝手についてきたわけね、このアカポンタン」 「まあそうともいうね」 「じゃあ帰りなさいよ、一応私のためなんだから」 「なにも成果を得ずに帰ったらおしおきされちゃうじゃないか!」 「誰によ誰に」 「まあまあ、ミス・ヴァリエール、いいじゃないですか」 シエスタが宥める。 「さすが、美しい女性は僕のことをわかってくれるな!ハハハ!」 「シエスタ、こんな奴かばうことないわよ、 まあシエスタがそう言うなら許してあげるわよ、感謝しなさい」 キュルケが地図を開いて先導する。 「えーと、まずはここから東に1キロね…」 トリステインを数日かけて各所を周り、六日目には大量にあった宝の地図ももう残り数枚になっていた。 「なによキュルケ、宝なんて全然ないじゃない。なによこのガラクタの山は!」 「ヒンタボアイランドへの地図、星がいくつか入った黄色いボール、 変な円盤、DISCって書いてあるわね…しん・よげんのしょってなによこの汚い紙は… あとは…波動エンジン設計図?なによこれ」 キュルケがひとつ黒いノートを拾う。 「この黒いノートなんか使えるんじゃない?なにか書いてあるけど読めないわね… とりあえずギーシュの名前でも書いておくわ」 「あれ、ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミスタ・グラモンが心臓を 抑えてもがいていますけど…あ、動かなくなりました」 「いいのよ、ほっときなさい、ギーシュだから」 「ギーシュだもんね」 「そうですか…」 ルイズが振り向いてキュルケに尋ねる。 「あとどこが残ってるのよ」 「あとはタルブ周辺だけね、シエスタ案内してくれるー?」 「ええ、もちろんですよ」 「じゃあ、ギーシュいくわよ、って動かないんだったわね…フレイムー、 ギーシュひきずってきなさーい、重かったら焼いてもいいから」 「ぎゅるぎゅる!?(そ、そんなご主人さま、それはひどすぎるんじゃあないですか!?)」 といいながらギーシュを引きずり、馬に乗せる。 「さあ、目指すは南よー」 キュルケが行く先を指さした。 「なんか薄気味悪い森ね…」 ルイズが呟く。 「いかにも今回の山場って感じだね、諸君」 「あら、ギーシュ生きてたの?」 「ギャグキャラは死なぬ!何度でも蘇るさ!」 「なにか出るかもしれないわね、警戒して進みましょう」 その言葉を聞いてギーシュがバラをあしらった杖をくわえる。 「ふふ、こんなこともあろうかと、今週のびっくりドッキリワルキューレ! 名付けて、ワルキューレ旅団!全国の女子高生の皆さんどうぞご覧下さい!」 説明しよう!ワルキューレ旅団とは、大型のワルキューレを手のひらサイズまでに小型化し、 数を増やした物である!数は増やしたが体積は減っていないため、戦力を集中させることによって 従来の敵にも対処でき、かつ一体一体の体積は小さいため、全滅させることは困難、という代物である! 偵察、威力偵察、囮、遅延作戦、多方面攻撃など幅広い任務に使えるぞ! 「そして、最終的には合体して超電磁やゲッター線、ミノフスキー粒子などを使えるようにする予定だ! どうだ、すごいぞ! かっこいいぞー!戦いは数だー!ワハハハハハ!」 「…まあいいわ、やってみなさい」 大量のワルキューレをばら蒔き、森の中へ進ませる。 「第一青銅大隊はそのまま前進、第二黒金大隊は停止し、第四…じゃなかった第三偵察小隊を十時の方向に、 えーと第二青銅大隊は停止じゃなかった第五白銀大隊が、えーとそんなにないよなあ…第三黒金大隊でいいのかなあ」 「指揮が混乱を究めてるわね」 「う、うるさいルイズ、大量のゴーレムを動かすってのはすごい集中力がいるんだぞ!」 「じゃあなんでむやみやたらに増やすのよ…」 「大きくするなら大きく、小さいなら全力をかけて大量生産が僕のポリシーだからね」 「まるで使えないわね…どっかのヒゲ伍長の兵器みたいだわ」 「う、うるさいな、……ん?あれ、おかしいな第十六偵察小隊が動かないなあ、どうしたんだろう」 「あんたのゴーレムでしょ、私に聞かないでよ。そもそもなによその小隊の数は、何体いるのよあんたのゴーレム」 「あ、あれ?どんどん動かせるゴーレムが減っていく、も、もしかして敵襲かなあ…」 キュルケがため息をつく。 「偵察の意味ないじゃない…」 「で、でも敵がいることがわかっただけでも大きな進歩じゃないかね?」 「普通にゴーレム出せばよかったじゃないの、とにかくなんとかしなさいよ」 「わかった、とりあえず集合させよう、これでなにが起きてるかわかるはずだ」 ギーシュが目をつぶって杖を振る。 「お、オーク鬼の集団だ!」 ギーシュが悲鳴をあげる。 「総員退避ィいいいい!こっちまで撤退いいいッ!」 ルイズが慌ててギーシュの肩を揺する。 「ちょ、ちょっと、そんなことやったら私たちのところにオーク鬼が来ちゃうじゃない!」 「あああああ!忘れてたあああ、でももう遅いや、あはははは」 ボロボロの小さなワルキューレが次々と集まってくる。 「なんだこりゃ、オーク鬼にやられたにしては…穴だらけなんて不思議な傷だな…?」 ガサガサよ周りの藪が動く。全員杖(シエスタはフライパン)を構え、場が静まる。 そして、藪からオーク鬼が顔を出した。 「来たわよッ!」 ルイズが叫ぶ。 しかし、いたのはオーク鬼だけではなかった。 キュルケがあとずさりしながら言う。 「ね、ねえ、これはなに?ギーシュのゴーレムなの?なんか小さい兵隊で、銃みたいなのを持ってるけれど…」 「え?僕のゴーレムはもうここに全て集まって……」 小さな兵隊が銃をこちらに向ける。 「伏せなさいッ!」 ルイズが叫んだ次の瞬間、小さな銃からでた弾丸が伏せたルイズ達の上を突き抜けていく。 「ど、どうなってるんだ!?」 ギーシュがうろたえる。 「もしかして…スタンドじゃない?人間以外が持ってるってこともありえるはずよ!」 キュルケが杖を構えて距離をとりながら言う。 シエスタはフライパンを構えて震えている。 「じゃあ、この兵隊はどれかのオーク鬼のスタンドなのね……なら、こうするしかないわね、それは…逃げる!」 ルイズが振り向いて逃げようとする。 「……こともできないみたいね、見事な包囲だわ、ギーシュも少しは見習いなさい」 後ろにも獲物を狙う目をしたオーク鬼が何体も並んでいた。 「さて、観念する?無駄な抵抗してみる?」 ルイズが尋ねる。 「そんなの決まってるじゃない!」 「命を惜しむな、名を惜しめ、この家訓の通りに死ぬまでさ!ミス・シエスタだけでも逃がすぞ!」 二人は杖を構える。 「少年少女ども、相変わらずいい啖呵だな!こんな優れた人間どもをオーク鬼の夕食にするにはあまりに惜しすぎるゥウウウウッ! そのとき、茂みの後ろから声が聞こえた。 「この世にナチスがあるかぎりィイイイイイイッ!共産主義は栄えないィイイイイイイッ! この村に俺がいる限りィイイイイイイイッ!オーク鬼どもは栄えないィイイイイイイッ!」 男の後ろから彼女たちがよく見知る男がでてきた。 「やあ、ミスタ・グラモン、ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・シエスタ、でしたかな?今週の山場ですぞ」 「食らえオーク鬼どもォオオオオオウッ!重機関砲発射ァアアアアアッ!」 機関砲をぶっ放しながら前進していく。 「どうだオーク鬼どもォオオオオオオッ!我が愛機Bf.109最新型搭載ィイイイイイ機関砲の味はァアアアア!」 小さな兵隊が銃を放つが、もちろん効果はなく、そのうち本体が倒れたのか兵士は消え去った。 オーク鬼が全てやられるか逃げていき、一息をつく。 「それにしても、なぜこんなところにコルベール先生とシュトロハイムさんがご一緒にいらっしゃるんですか?」 ルイズが二人に尋ねる。 「若者がァアアアア!天才コルベールの技術を起点にィ……このシュトロハイムの体の部品は作られておるのだアアア!」 「うむ、彼は柔軟な発想を持っていてね、私の研究を認めてくれた上に色々とアドバイスしてくれるのだよ! 非常にためになっている、研究がはかどってはかどってしようがない!」 コルベールは嬉しそうに顔をほころばせる。 「それで、どうしてここにいるんですか?」 シュトロハイムがうなずく。 「オスマンの計らいでな、この前のゴーレム騒ぎで家が壊されたからな、ここに土地を紹介してもらったのだ。 それにしてもここはいいところだ、風土もいい、人もいい、飯もいい!イギリス人も見習うべきだな! ということでここに住まわせて貰っておるのだ、こういったところは不慣れだが、近所の人たちも色々と 世話をしてくれる。俺にとってここは第二の故郷とも思えてきたな!」 一行はコルベールに目を向けると、コルベールは口を開いた。 「うむ、シュトロハイムくんにあの空飛ぶヘビくんの話をしましたらね、感心されまして、彼はそれを応用した 『ひこうき』というものについて教えてくれたのですよ!そしてある日、友人の話を聞いていると、ここに『空の羽衣』 という道具があると聞きまして、話を聞く内に、シュトロハイムくんの言っていた『ひこうき』というものと特徴が 似ていることに気付いたのですよ!それを考えるといてもたってもいられなくなって、こちら向かったところ、 なんと彼に出会ったのですよ!」 「『空の羽衣』ですって!?」 シエスタが驚きの声をあげる。 「おや、ミス・シエスタ、ご存じなのですか?」 「ええ……私のひいおじいちゃんの、形見です。ひいおじいちゃんはそれを纏えば飛べるとも言ってたそうですけど、 誰も動かせなくて…きっとインチキなんでしょうね」 そう笑うと、シュトロハイムが口を挟んできた。 「インチキなどではないィイイイイイッ!コルベールの知力と努力の結果ァアアアアアア! 『空の羽衣』を飛ばすことは可能となったのだァアアアアア!」 「ほ、ほんとうですか!」 シエスタが目を輝かせる。 「百聞は一見にしかずゥウウウウウ、ついてこい少年少女どもォオオオオ!」 そういって背を向け歩きだすが、ふと気付いたように振り返る。 「そういえば、ミス・ヴァリエールだったか、君がナチスについてなにか悪いことを言っていたような気がするのだが」 「なに、ナチスって?私そんなもの知らないわよ?」 「そ、そうだな、そうに決まっているな、すまなかったな、では行くぞ、諸君ゥウウウウ!」 To Be Continued...
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前ページ次ページ暗の使い魔 「あんた、誰?」 暗く閉ざされた意識の中、ふと聞きなれない声が耳に届いた。 「あん?」 唐突に聞こえた問いかけに、間の抜けた声で返しながら、男は目を覚ました。 目蓋に眩しさを感じる、そして微かなそよ風が頬をくすぐる。 その時点で、男は違和感に急激に意識を覚醒させた。 「(外、外か?)」 上体を起こし、目覚めたばかりの為か、ふらつく頭を抑え辺りを見回す。 ここは一体何処であろう。青く澄んだ空から差す日差しが眩しい。 爽やかな、すこし肌寒い空気。そして耳を澄ませば、鳥のさえずりさえ聞こえてくる。 普通なら、ごく有り触れた平和な光景である。しかし彼は困惑していた。 この状況が、彼が目覚める直前にいた場とはあまりにかけ離れていたから。 幸いな事に、先の戦いで負った傷はそれ程深くなく、ほぼ塞がりかけていた。 地面についた手に、草の感触を感じながら、あたりを見やろうとした。すると。 「あんた、何なの?」 地べたに座ったままの男の眼前に、唐突に棒の様なものが突きつけられた。 ゆっくりと棒切れから視線を上げる。するとそこには、一人の少女。しかし。 「(な、南蛮人?)」 そう、桃色ブロンドの長い髪に鳶色の瞳。黒いマントに白いブラウス、膝丈ほどのスカートといった出で立ち。 その男にとって、目前の少女は南蛮の人間であった。 見慣れない、南蛮渡来の服装の少女がそこにいた。 暗の使い魔 第一話 『異世界』 年の程は15から16くらいであろうか。整った顔立ちだが、現在のその険しい表情からは、不機嫌さがありありと伝わってきた。 「な、何だいきなり」 とりあえずわけのわからないまま、男がようやく言葉を発した。彼には、今のこの状況がさっぱり理解できない。 目覚めると、晴れ渡った草原に寝そべる自分。そして初対面で少女が無礼にも、お前は何だ、ときたものだ。 分けもわからずにいると、今度は大勢の笑い声がその場に響いた。 みるとやや離れた場所で、少女と同じく妙な格好の少年少女らが、こちらを指差し笑っていた。 「ルイズ!サモンサーヴァントで人間を呼び出してどうするの?」 そんな言葉に、嘲笑をふんだんに含んだ笑い声がより一層強まる。 見ればその少年少女らも全員南蛮の人間であるようであり、その全員が目の前の、ルイズと呼ばれた少女と同じような格好をしていた。 「しかもあの格好、奴隷かなにかじゃないか?」 「奴隷か!そりゃいい!」 ルイズと呼ばれた少女の顔に、サッと赤みが走る 「ミスタ・コルベール!」 顔を真っ赤にしたまま、ルイズが呼びかける。 すると、嘲笑する少年少女らの集団を割るようにして、彼らの中から一際年配の男性が現れた。 年の程は40代半ばであろうか。見事に禿げ上がった頭と、知的な眼鏡が印象的な男性である。 そして彼もルイズらと同じように、南蛮渡来の服装に身を包んだ、南蛮の人間であった。 コルベールと呼ばれたその男性は、落ち着いた様子でルイズに向き合う。 慌てて駆け寄るルイズ。彼女の方はなにやら焦りと不安の入り混じった表情である。 「何だねミス・ヴァリエール」 コルベールは、やれやれといった様子で答える。 「あの、もう一度召喚させて下さい!」 「それは無理だ」 彼女の必死な懇願は、その一言できっぱりと跳ね除けられた。 理由はと問えば、やれ神聖な儀式だの、例外は認められないだの、何とも形式めいた言葉が聞こえてくる。 未だ蚊帳の外にて放置されている男は、それらの僅かな会話から、自分の置かれた状況を少しでも把握しようとしていた。 どうしたものか、と頭を掻こうとして、その時彼は自分の腕につけられた『それ』の存在を思い出した。 先程から少女も中年の男性も、こちらをチラチラ見ながら会話をしている。 ルイズはまるで不審者を見るような目で、コルベールは何やら困り果てたかのように眉を寄せながら。 彼の腕にあるそれは、頑丈そうに金具で固定された木製の枷。 そしてさらに枷には、長く丈夫な鎖に続く、黒々とした巨大な鉄球が繋がれていた。 その大きさはたるや人の膝丈程も高く、椅子としても活用できそうである。 先程、遠くの集団から投げかけられた、『奴隷』という言葉を思い出す。 確かにそうだ。初対面の人間が彼の出で立ちを見れば、まず囚人のように思うだろう。 彼の服装にしてみてもそうだ。 土で薄汚れた、陣羽織に袴、中には重い甲冑を着込んでいる。 伸びに伸びた髪はボサボサで、申し訳程度に後ろで束ねられている。 そして前髪は目元を隠し、非常に怪しい出で立ちである。 だがそれにしても。 「奴隷とはなんだ奴隷とはぁ!」 枷のついたままの両腕を空に掲げ、そんな叫びとともに男は立ち上がった。そして未だ嘲笑の止まない集団にむかって吠えた。 「小生だってなぁ!好きでこんなもんつけてんじゃなあい!」 ジャラリと鉄球の繋がれた鎖を持ち上げながら、中腰でなんとも情けない格好で叫んだ。 なんだなんだと男に注目を集める少年少女ら。しかしその注目もすぐに笑いのネタにされた。 「あっはっは!ルイズの使い魔が何か叫んでる!」 「なんていうんだっけこういうの?笑止?」 ぐぬぬといった様子で少年少女らの格好の笑いネタにされてることに歯軋りしながら、男はとうとう言い争っているルイズとコルベールに詰め寄った。 「やい!いったいどうなってやがる!?小生にも説明してくれっ!」 ずるずると鉄球を引きずりながら間に割って入ってきた男に、二人は一瞬たじろいだ。 男が思っていたよりも大柄であったからである。 みればこの場で最も年長者であろうコルベールよりも、頭一つ分ほど高い。 体格も筋骨隆々であり、二の腕など通常成人の倍はありそうな太さである。 「ちょ、ちょっとなによあんた」 「ミ、ミスタ、とりあえず落ち着いてください」 「落ち着いてられるか!」 とりあえず食って掛かる男をなんとかすべし、と踏んだコルベールが、なだめようと声を掛ける。しかし男は止まらない。 どうしたものか、と次の言葉を選んでいたコルベール。 だが次の瞬間、唐突に横から飛んできた言葉に彼はぎょっとすることになる。 「あんたは私が使い魔として召喚したのよ」 ピタリ、とその場の時が一瞬だけ止まった。 「あーミス・ヴァリエール説明には――」 説明には順序がある、と続けようとしたコルベール。しかし、今度は彼女の言葉が止まらない。 「これからコントラクトサーヴァントの儀式を行わなきゃならないの。 あんたみたいなのが貴族にこんなことされる機会なんて、普通は一生あり得ないんだから感謝なさい。」 「あぁ!?何言ってやがる?」 いよいよわけのわからない男。 ここまで来たら仕方無い、と首を振るコルベール。 そしてルイズは―― 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」 静かに、しかし力強い口調でなにかを唱え始めた。 「(なんだ?)」 何だかんだと騒いでいた男も、少女の急な変化と、作り出された場の空気にだじろぐ。 そしてルイズが男の目の前で杖を振るった。 「なんの真似だ」 「うるさいじっとしてて」 そう言うとなんと、彼女は息の掛かりそうな程に男との距離を詰めてきた。あまりに急な出来事に、彼は思わず後ずさった。 「ちょっと!なんで逃げるのよ」 「逃げるわ!何考えていやがる!」 これには流石の男も動揺した。いくら南蛮人とはいえ、見目麗しい年端の行かぬ少女にここまで寄られるのは初めてである。 先程の勢いはどこへやら、少女と距離を開けるべく男が足を上げたその時であった。 「あらあっ!!?」 男の足が、彼の枷に繋がれた鉄球にとられ、彼の身体は盛大に後方へと傾いた。 少女に注意を向ける余り、足元の自分の鉄球に気がついていなかったのだ。 男は、体制を立て直すべく、地に着いたもう片方の足で踏ん張る。しかし 「なっなぜじゃ!?」 もう片方の足には、鉄球と枷をつなぐ鎖が絡みついていた。 先程鉄球につまずいた際絡まったのか、もしくは後ずさる際に絡みとったのを気がつかなかったのか。 いずれにせよ、両の足と両腕を封じられた男には成すすべなく、そして倒れこんだ先には。 「えっ?」 桃色の髪の少女が居た。 ずしゃぁっという音と共に二人の人物が草むらに倒れこむ。 しばしの沈黙 「ミ、ミスヴァリエール!」 やや離れた距離からその様子を見ていたコルベールが、あわてて駆け寄ってきた。 彼には詳しい状況は良く見えなかったが、男が自分の生徒に倒れこむ瞬間だけは見ていた。 少女が、あれだけ大柄な、しかも重そうな甲冑らしきものを着込んだ人間の下敷きになって無事であろうか。 いやある筈無い。そう思ったのであった。 「無事ですか!?ミスヴァリエール」 「う~ん」 「ぐぅ」 その場所から二種類のうめき声が聞こえてくるのを聞いて、彼はほっと胸を撫で下ろした。 ともかく彼らを引き剥がそうと近寄った、その時。 「……むぅ?」 「ぐっ?」 彼は気がついた、二人が水平に向かい合うようにして倒れているのを。 ルイズが草むらを背に、男はそれに覆いかぶさるように。 幸いな事に男のほうは両肘で身体を支え、ルイズを下敷きにするような事態は免れたようだった。しかし。 「こ、これは」 そう、男は真正面からルイズを押し倒す形で、不本意ながら――いやむしろ役得かもしれない――ルイズと接吻を交わしてしまっていた。 ルイズはといえば、倒れた衝撃の為か衣服が乱れ、グレーのスカートは太ももの上までめくれ上がり、白い下着がもろに見えてしまっている。 そんな二人の様を見て咄嗟に目を逸らすコルベール。 今はお互い追突の衝撃で前が見えていない。 だが、そのまま見えていないほうが良かったかもしれない。 「ッ!!?」 「うおっ!」 男は目の前の光景に驚き跳ね上がった。そして今の今まで唇に感じていた柔らかい感触の正体を目の当たりにし―― 「きゃああああっ!」 目の前で響いた悲鳴と 「うぐおおおおおおおおおおおっ!!!!」 ズゴッっという鈍い音と共に己の下腹部に走る激痛、とともに地面を転がった。 地面に尻餅をついたまま後ずさりつつ立ち上がるルイズ。 「こっこここ、ここの変態!よくもこのド変態!!」 衣服の乱れを直しながら、ルイズは烈火のごとく男を罵った。 先程の鈍い音は、ルイズの靴のつま先が男の股間に鋭くメリ込んだ音である。 「しょ小生にっ……なんの、恨みが、あって……!ぐっ……」 未だ引かない痛みに呼吸もままならない男が、ひねり出した言葉はそれが精一杯であった。 「な、何故じゃあ……!」 急所中の急所に一撃必殺を叩き込まれた男は、そのまますうっと意識を失った。 そのとき、左腕に生じた違和感には気付くこともなく。 「よくもっ!ファーストキスだったのにっ!こんな形で!この破廉恥男!聞いてるの!?」 意識の無い男を未だ罵り続ける彼女を尻目に、コルベールは仕方なさげに肩をすくめると、ゆっくりと男に歩み寄っていった。 「やれやれ、どうしたものか……」 男の左腕にはいつの間にか、見た事も無い奇妙なルーンが刻まれていた。 「消えた……とな?」 「はっ、あの方によれば、突如姿見のような物が現れ飲み込んだと……」 「左様か」 周囲に人の気配はなく、辺りを闇が支配する。 襖に囲まれた狭い個室に、二人の人影を灯篭が照らしていた。 一人は忍びと思われる装束に身を包んだ男。低く身を屈め、目前の人物にむきあう。 そしてもう一人。忍びに背を向け、報告に耳を傾ける人物。 全身を包帯に身を包み、朱を基調とした異様な甲冑を身にまとう男。 顔前面も包帯と朱色の面に包まれ、そこからは一切の表情も読み取れない。 更に異様なのは、その男は床に脚をつけていない。宙に浮く奇妙な輿に座りながら、手にした書物に向き合っていた。 「何者かが、あやつの逃亡を手助けしたということか。おそらくは、術に長けた者の仕業であろ」 輿の上の男は、ぱらぱらと、書物をめくる手を休める様子もなく淡々と呟いた。 「大谷様、いかがいたしましょう」 忍びの男が短く問いかける。 大谷と呼ばれた男は、一瞬の思考の後ゆっくりとした口調で、忍びの男に伝えた。 「何としても見つけよ。アレがどう足掻くか見ものではあるが、ちょこまか動かれるのもまた癪よ」 「はっ」 その言葉に頷くと、するりと闇に吸い込まれるように忍びはその場から消えた。夜の闇の中残ったのは大谷ただ一人であった。 「はてさて照魔鏡の戯れは吉と出るか凶と出るか」 だれに問うわけでもなく、大谷は呟く。 「だがいかなるものの助けを得たところで、ぬしの星は動くまいぞ」 あの男は全てが裏目に出る不運の持ち主である。その厄の深さは留まるところを知らない。 そう考えると大谷は、口元の包帯をくしゃりと歪め、ヒヒヒと短くほくそ笑んだ。 「黒田官兵衛め……」 「クロダカンベエ?変な名前」 「失敬だな、お前さん」 男はまず、名乗って早々に自分の名を貶されたことに腹を立てた。男の名は黒田官兵衛。 かつて、覇王・豊臣秀吉に軍師として仕えていた男である。 豊臣の軍師といえば、ある二人が挙げられる。 一人は、明晰な頭脳と、鞭のような剣を華麗に操る技を持つ男。天才軍師・竹中半兵衛。 そしてもう一人。 あらゆる事象を見通す慧眼と智謀を兼ね備えた、豊臣軍に無くてはならない存在。超天才軍師・黒田官兵衛。 世に言う二兵衛と名高き、秀吉を天下へと導いた軍師達である。 「そう!小生こそが二兵衛の賢い方、黒田――って聞かんかい!」 「あんたの妄想話はどうでもいいのよ」 まるで興味なし、といったばかりにルイズは自室のベットに腰掛け、ぼんやりとしていた。 今二人は、事情を説明する為、トリステイン魔法学院にあるルイズの自室に来ていた。 官兵衛がこの場所に召喚されて、どれほどの時間がたったであろうか。 辺りはすっかり夜も更け、窓の外には奇妙な事に、二つの月が上がっているのが見えた。 「妄想だと!小生からしたらお前さんらの方がよっぽど胡散臭い!大体なんだ魔法って。ここはどこなんじゃ!」 「だから言ったでしょ!ここはハルケギニア大陸にあるトリステイン魔法学院よ!」 「だから知らんと言ってるだろうが!聞いたことも無い!」 ぎゃいぎゃいと、お互い喧しく騒ぎ立てる内に、このように夜が更けてしまったという訳である。 因みに官兵衛が召喚されて気絶から目覚めた直後から、会話の内容はほぼ変わっていない。 「ハァ……まったくどこの田舎者?トリステインはおろかハルケギニアを知らないなんて」 拉致があかない、とばかりにルイズは上を見上げる。 「大体ニホンなんて国、聞いたことも無いわよ。言葉も通じるし。あんたハルケギニアの人間でしょ?なに意地はってるのよ?」 「ぐっ……もういい。それよりだ、聞きたいことがある」 ここが一体どこなのか、魔法が何なのか。官兵衛にとってそれらは、ぶっちゃけどうでもよかった。 ただ彼が、あの夜空に浮かぶ不気味な月を見て思った事はただひとつ。 「元の場所に帰るすべはあるのか?」 それが全てだった。ここが全くの異界であろうと、帰る手段さえ確立されていればどうという事は無いのだ。 彼には日の本でやり残したことが山ほどある。その為には何としてでも元の地に帰してもらわなければならないのだ。だがしかし。 「無いわ」 帰ってきた答えは非情なものであった。あまりにあっさりした回答にずるり、と思わず体制を崩す官兵衛。 「いやいやいや!それは無いだろう、なあ!」 額に一筋の汗を浮かべながら、流石にそれはない、否定する。 「無理よ、だって元の場所に帰す呪文なんて聞いたことないもの」 「聞いたこと無いで済むかっ」 これには流石の官兵衛も我慢ならなかった。 「あのな!小生はこれでも忙しいんだよ!さっきも話したろう?天下がかかってるんだよ!テンカ!」 立ち上がり、ズカズカとルイズに詰め寄りながら、官兵衛はいかに自分が大変であるかを、オーバーなリアクションで表現した。 「何よテンカって。さっきの妄想の続き?」 「違ぁぁぁう!」 何でまたこうなるのか、と官兵衛は頭を抱えざるを得なかった。 「よしわかった、小生をここに呼んだ術があるだろう?」 「あるわね」 「それを試してくれ」 これなら文句は無いはずだ、と思った。自分がここに来た手段なら、帰る手がかりになると。 「それも無理」 「な、何故じゃ!?」 だがこれも帰ってきた答えは無慈悲なものであった。 「一度召喚してしまったら二度と使えないのよ」 なんだそりゃ、とばかりに肩を落としながら、それでも官兵衛は食い下がらなかった。 「駄目元でもいいから試してくれ。お前さんなら出来るデキル!」 とりあえず褒めておけ、とばかりに棒読みの賞賛を重ねてみる。すると、ルイズは静かに。 「だから無理だってば。サモンサーヴァントの呪文を再び唱えるにはね。」 「フムフム」 「使い魔が死なないといけないのよ」 さらりと絶望的なセリフを吐いた。 「えっ」 官兵衛は、顔から一気に血の気が引くのを感じた。 「じょ、冗談じゃないぞ……」 とどのつまり、自分は死ぬまでこのまま、このよく分からない世界で過ごす、と言う事ではないのか。 真に冗談ではなかった。 「まあいいわ、ともかくあんたは私の使い魔なのよ。貴族に仕えるんだから光栄に思いなさい……って」 上を仰ぎながらそんな事を喋っていたルイズが、視線を戻した時、すでにそこに官兵衛の姿はなかった。 「冗―談じゃないぞおおおおおおお!!」 先程から同じように言葉を繰り返しながら、官兵衛は寮のある塔の階段を猛スピードで駆け下りていた。 自分は帰れない、帰る手段が無い。そのような耐え難い事実を認めるわけにはいかなかった。 こうなれば自力で戻る手段を見つけてやる。そんな考えが彼を突き動かした。その結果がトンズラである。 元豊臣軍の軍師・黒田官兵衛。何より優れた慧眼を持つ彼だが、今回のこの状況はシャレにならなかった。 訳のわからない異世界に一人。右も左も分からず放り出され、帰れないとくれば、この混乱は当然かもしれない。 ズリズリと重い鉄球を引き摺り、わき目も振らず走り去る。そんな状況で彼がアクシデントに遭遇しないわけが無かった。 階段を下りきり、ようやっと塔の出口に差し掛かったその時。 「きゃあっ!」 短い悲鳴とともに、何かにぶつかる感触を感じた。 「うおっ」 突然の事態に官兵衛も立ちすくむ。どうやら混乱のあまり周囲をよく見ていなかった為、人にぶつかっってしまったようだ。 見ると、官兵衛から1メイルは離れた距離に一人の少女が尻餅をついて倒れている。 「いたた……」 少女の傍には桶らしきものが転がっており、その周りには衣類らしき布切れが無数に散らばっている。 恐らくは、この施設の侍女にあたるのだろう。洗濯物を運んでる途中に官兵衛と激突してしまったのだと思われた。 「あー!すまん、大丈夫か?」 「いえいえ、こちらこそ申し訳ありません。前を見ていなくて」 日本人を思わせる黒髪の少女は、ぶつけた箇所を擦りながら答える。 「悪かった、小生も急いでいたもんで。立てるか?」 混乱していたとはいえ、一方的にぶつかったのはこちらである。とりあえず謝りながら、官兵衛は少女に両手を差し伸べる。 少女の方も、はにかみながら、差し出された手に掴まろうとして。 「ありがとうございます、おきになさら……ず……」 その時、少女は違和感に気付いた。 「あ、あなたは……?」 「え?」 見れば少女の視線は、官兵衛の両腕の枷、そしてそれに繋がれた鉄球に映っていた。 そしてゆっくりと顔を上げ、こちらを見上げる。 その顔には、明らかに不審なものを見る表情が見て取れた。 まずい。 思えば自分はこの世界に来て、ほぼルイズ以外の人間と接触していない。 知らぬ人間が、この学園内で今の姿の自分を見れば、誰だって不審者に思うに違いない。 何とか弁明しなければ、官兵衛はそう思った。 「ま、待て小生は怪しいもんじゃあ……」 しかし彼の口からひねり出せたセリフは、それが精一杯。これで自分の立場を説明できよう筈もない。そして。 「きゃあああっ!」 塔内に、少女の悲鳴が響き渡った。彼の短い努力は無駄に終わった。 「なっ!何故じゃあ!」 と、その時。 「待ちなさい!そこの!」 「何の騒ぎだね!?」 寮へと続く階段からどやどやと生徒達が降りてくるのが見えた。ルイズ達だ。 また傍には悲鳴を聞きつけたのか、金髪の見慣れない少年の姿もあった。 「ち、チクショー!」 この状況はマズすぎる。まるでこれでは、自分がこの場で少女に何かしたみたいではないか。 ともかく官兵衛は捕まらぬべく、すぐ傍の塔の出口から学園の外へと駆け出す。 「何で次から次へと!」 官兵衛は、今日のこの日ほど己の不運を呪った事は無かった。 塔から学園の周りを囲む平原に出て、官兵衛はどこかに身を隠せそうな場所はないか、辺りを見回した。 しかし、すぐ近くには身を隠せそうな場所は見当たらない。 こうなれば、平原の向こう遠くに見える森の中へと逃げ込むしかない。 そう考え、再び駆け出そうとした、その時。 「うぉっ!?」 「やれやれ、捕まえた」 何と、官兵衛の両の脚が宙に浮かび上がった。 「何だこりゃあ!」 見れば自分の7~8メイルほど後方で、先程の少年がこちらに向けて、薔薇の華のようなものを振るっているではないか。 「畜生ッお前の仕業か!下せ!下しやがれ!」 ジタバタと両手両足を動かす。しかし、高く浮かび上がった官兵衛の身体は虚しく空を切るのみだった。 「ルイズ、捕まえたよ。全く自分の使い魔の管理くらいしっかりしてほしいものだね」 塔の方から遅れて駆けつけてきたルイズに、少年は杖を振るったまま答える。 ギーシュと呼ばれた少年は、フリルのついたシャツに金髪の巻き毛の、なんとも気障な出で立ちの少年だった。 官兵衛には目もくれず、やれやれといった様子でルイズに向き合っている。 「まあいい、彼を部屋まで運べばいいんだね?」 ギーシュの言葉にルイズが頷くと、彼は仕方なさげに宙に浮いた官兵衛に向き合おうとした。その時だった。 「うわあっ!?」 何とギーシュの足元に直径1メイルはあろう、鉄の塊が飛んできた。 巨大な剛速球は地面の土ごとギーシュを吹き飛ばし、辺りに土埃を巻き上げる。 それは紛れも無く、官兵衛の両の腕にくくりつけられていた鉄球であった。 予想だにしない攻撃に、ギーシュのレビテーションのコントロールが乱れた。そして。 「どわぁっ!」 糸が切れたように、官兵衛が背中から地面へと落下した。 そのまま即座に体制を立て直し、鎖で繋がれた鉄球を手繰り寄せ、ギーシュに向き合う官兵衛。 「い、一体何だ!?」 ギーシュ本人も一体何が起きたのか分からなかった。幸いにも鉄球は直撃しなかった為、吹き飛ばされただけで彼自身は無傷だ。 しかし、吹き飛ばされたギーシュも、我に返ると跳ねるように立ち上がり。 即座に官兵衛へと、薔薇の造花を向けた。 二人の男が静かに対峙する。 「いったい何をした!?」 「なに、お前さんが余りにしつこいんでコイツをお見舞いしてやっただけさ!」 そう言うと官兵衛は、自分の足元に転がる鉄球を脚でかるく小突いた。 さらに官兵衛は続ける。 「どうやら、お前さんを何とかしないと自由になれんらしい!こうなりゃやってやる!小生は、自由だぁ!」 官兵衛の左腕のルーンが、僅かに輝きを放っていた。 機略重鈍 黒田官兵衛 召 喚 前ページ次ページ暗の使い魔
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戦う司書シリーズからモッカニアの本を召喚 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-01 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-02 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-03 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-04 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-05 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-06 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-07-1/2/3 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-08 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-09-1/2 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-10 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-11-1/2 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-12-1/2 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-13 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-14 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-15 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-16