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ヴェストリの広場は昨日とは打って変わり熱気に包まれていた。 「諸君!決闘だ!」 薔薇の造花を掲げ上げたギーシュに呼応し、歓声が沸き起こる。 「頼んだぞ平民!オレ達の分までぶちのめしてやれー!」 「平民っ!ギーシュをぶっ殺せー!オレが『許可』する!!」 「お前の背中はオレ達が守ってやる!思う存分戦えーー!!」 「あ~~ん…頼もしいわ~。私のサイトさん」 「そのキレイな顔を吹っ飛ばしてやれーー!!」 「年齢=童貞を舐めんなーー!!!」 モテるギーシュに対する嫉妬と好きな子に告白をして「私、ギーシュ様が好きなの…御免なさい」と断られた 恨みによって、決闘ではなく処刑を期待する男達の怒号で広場は溢れかえっていた。 ちなみにギーシュのファンと彼氏彼女持ちの連中は、広場入り口でモテない男達によって阻まれている。 「お前…随分嫌われてるんだな」 「う、うるさい!彼らは別だ!!」 キザな男ではあるが交友関係が広く、誰に対しても気軽に話しかける事ができるギーシュは周りから好かれる タイプの男であるが、浮いた話も多く(その多くは噂だが)女生徒からの人気も高い事から、一部の生徒からは 蛇蝎の如く嫌われていた。(かつてはマリコルヌもその一人だった) ギーシュにしてみれば言い掛かりも甚だしい事だが、それを口にしたら最後、広場から生きて出られない事は 嫌でも理解できた。 ホームグラウンドで試合に臨んだら観客席が全て相手側のサポーターで埋まってました。 そんな絶望的な状況下で顔を青褪めながらも闘志を燃やそうとサイトを挑発する。 「とりあえず、逃げずに来たことは誉めてやろうじゃないか。本当にありがとう」 「いえいえ、どういたしまして。逃げたら後が怖そうだし」 ギーシュが心の底から感謝を述べ、サイトがそれに答える。一瞬ほのぼのとした雰囲気が漂うが、それも束の間 薔薇の造花をあしらった杖を振り、ギーシュは青銅の騎士を錬金する。 「君の相手はこのワルキューレだ。さあ!掛かってきたまえ!」 余裕綽々でサイトに宣言するギーシュに対し周囲から非難の声が上がる。 「このタマナシヘニャチンがぁーー!!素手でやれ!素手で!!」 「平民相手に恥ずかしくないのか!!」 「サイトさ~ん。眼の中に親指つっこんでグリッ!とやっちゃえー」 「任せろ平民!お前ら魔法で援護するぞ!!」 流石にギーシュも非難の嵐に耐え切れず、もう一度杖を振りサイトの前に両刃の剣を作り出す。 「その剣を取りたまえ使い魔君。いや、マジでお願いするよ」 ギーシュが手を合わせて懇願して、サイトも素手では不安なので剣を手に取ると、何故か身体が軽くなった気がした。 「さあ勝負といこう。行け!ワルキューレ!!」 今まで剣など持った事がないサイトは見よう見まねで構え、青銅の騎士を迎え撃つ。 瞬閃、青銅の皮膚を軽々と斬り裂き、ワルキューレは宙を舞う。 自慢のゴーレムを一撃で葬り去られたギーシュと一撃で葬り去ったサイトの二人は、全く同じ表情を浮かべ呆然と 二つに裂かれて落下するワルキューレを見つめた。 「見ましたか学院長!やはり彼はガンダールヴに間違いありません!!」 「ふうむ……」 遠見の鏡に映された光景に興奮するコルベールと神妙な面持ちでそれを見つめるオスマン。 コルベールがサイトに記された見慣れぬルーンを調べた結果、かつて始祖ブリミルに仕え、盾となりて守り通した 伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンに類似している事を突き止め、それが本物かどうかを確認する為に 二人が考え出した結論はサイトと誰かを戦わせると言うものだった。 無論、生徒の使い魔であるので死なせたり重傷を負わない様に配慮し、その為ギーシュに白羽の矢が立った。 彼の作り出すゴーレムならば、頑丈で手加減もできるのでサイトを試すには丁度良い相手なのである。 渋るギーシュをオスマン秘蔵の金髪ロール娘の卑猥な画集で釣り、なんとかそれを承諾させたのであった。 「あの三文芝居が始まったときは、どうなるものやら冷や冷やしたもんじゃがの」 「まあ、結果的に決闘になったから良いでしょう」 遠見の鏡には二体、三体と作り出されその都度サイトに破壊されるワルキューレの姿が映る。 「確かに強いが…まだガンダールヴと決まった訳ではない。それに…」 「はい。仮に彼がガンダールヴだとしても王宮に知らせる訳には参りませんね」 国民から『鳥の骨』と揶揄されるマザリーニ枢機卿が、腐敗しきった貴族連中に睨みを効かせてはいるが、 彼自身、その忠義にも関わらず仕えている王族に嫌われ、砂糖に群がる蟻の様に甘言で用いて王族を惑わし、 利を貪ろうとする貴族達が住まう宮殿に知らせればどうなるか、それは火を見るより明らかである。 「この事はワシらだけのヒ・ミ・ツじゃぞ」 「判っております。」 五体目のワルキューレが真一文字に断ち割られ、広場に歓声が轟く。 「まだやるか?」 「当たり前だ!」 強がってはみても、ギーシュの残りの精神力を総動員しても武器を持ったワルキューレを二体錬金するのが 関の山、それでは到底サイトには勝てない。 オスマンからは手加減する様に申し付けられたが最早そんな状況ではなかった。 ギーシュは周りの自分を囃し立てる声も聞こえないほど集中し、如何にしてこの強大な敵に勝つかを考えた。 そして一つの案が浮かび、それを実行に移した。 「行くぞ!出てこいワルキューレ…ああっ!」 ギーシュの錬金したワルキューレは上半身は原型を留めないほど醜く膨らみ、バランスを崩して地面に倒れこみ、 身体を支えようと腕を伸ばすが自重を支えきれずに腕が潰れる。下半身は形こそ変わらないが上半身とは 反対の方向を向き歩くことさえままならない。誰が見ても明らかな失敗にギーシュの顔が情けなく歪む。 「ギーシュ!負けを認めちまえー!!」 「お前もコッチに来い。ここは居心地いいぞ」 「サイトさーん!相手が泣くまで殴るのをやめちゃダメですよ~」 「平民!チャンスだギーシュを斬り殺せー!!」 錬金に失敗したギーシュが泣きそうな顔で自分が戦うと手招きする。サイトにはもう戦う気はないが、決着を着けねば 場が収まりそうにないので、仕方なく失敗したワルキューレを飛び越えギーシュの前に立つ。 「もういいだろ?オレの勝ちだ」 「ああ、恐れ入ったよ。僕では相打ちがやっとだ」 ギーシュが両手を挙げて首を振る。不審に思ったサイトが問い詰めようとすると、背後の失敗したワルキューレが 動き出し、醜く膨らんだ上半身を内側から破って通常のワルキューレが姿を現してサイトに槍を突きつける。 「なんだ?!どうなってんだ!」 「…そうか。あれは失敗じゃない!錬金したワルキューレの上に失敗した様に見せかける為に 薄い膜の様な青銅を被せたんだ!オレ達はまんまとダマされたんだよ!!」 「クソッ!一杯食わされたぜ!!」 騒ぎ立てる観客に華麗に一礼し、ギーシュはサイトを見る。 「と、言う訳さ。使い魔君」 「……参ったな。勝ったと思ったんだけど」 困った様に頭を掻くサイトに、ギーシュは手を差し出した。 「僕の名は、ギーシュ・ド・グラモン。君は?」 サイトは差し出された手を見て逡巡した後、その手に自分の手を重ね合わせる。 「サイト。平賀才人だ」 お互いの健闘を称え握手する二人を見て、観客達も毒気を抜かれて拍手を持って祝福する。 ここに貴族と平民の垣根を越えた友情が生まれようとしたその時、突然爆発が起きて二人は吹き飛んだ。 「このバカ犬!御主人様に逆らってなにしてんのよー!!」 「ちょっとルイズ!ギーシュまで巻き込まないで!!」 ルイズとモンモランシーが言い争いながら乱入し、片方は襟を掴んで広場から退散して、もう片方はその場で 手当てを始めてハートが飛び交う空間を作り出す。 状況が掴めず呆然とする観客達が次第に引き上げ、締まらない形で決闘イベントはお開きとなった。
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前ページ次ページサイヤの使い魔 「タ、タバサ! 落ちついて! この人は怖くない!」 「オバケなんて無いさオバケなんて嘘さ寝惚けた人が見間違えたのさ」 「どきなさいルイズ! どうせあんたの話なんか聞いちゃいないわよ! ここはあたしが――」 「パーソナルネーム『キュルケ・ツェルプストー』を敵性と判定。当該対象の有機情報連結を解除する」 「あーんやっぱり駄目だー! お願いだから正気に戻って! 戻りなさい! 戻れー!」 格闘すること、約10分。 悟空と一緒に瞬間移動で図書館にやって来たルイズとキュルケの必死の説得により、ようやくタバサは(悟空に対し警戒しているものの)話を聞く気になった。 それにしても司書の視線が痛い。 「…説明して欲しい。主に、貴方の素性を」 「あたしもタバサに賛成。さっきの魔法も興味あるし」 キュルケの言葉でルイズは自分の中にあった違和感に気付いた。 この男、当たり前のように物理的弊害を無視して何処にでも現れるが、そんな事ができる魔法は自分の知る限り、無い。 先住魔法だろうか。とするとこの男、生前は何だったのだろうか。 …もしや、自分はとんでもない人物を喚び出してしまったのではないか? 「あれはよ、魔法じゃなくって瞬間移動ってんだ」 「瞬間…移動?」 悟空が説明する。 「ああ、昔ヤードラットって星の連中に教えてもらった技でよ、相手を思い浮かべてそいつの気を感じ取るんだ。 そうやって、そいつがいる場所に移動する。だから知ってる奴がいねえ場所とかは行けねえんだ」 「に…にわかには信じられない話ね……」 「えーと、全然言ってる意味がわかんない。キって何? 何系統?」 改めて聞く使い魔の能力。 キュルケは半信半疑ではあるものの一応額面どおりに解釈したが、ルイズは理解できていない。 実際、彼と一緒にその能力を体験しているものの、あまりにも自分の常識とかけ離れた現実にまだ頭がついてこない。 「説明はつく。二度も私の目の前に現れたのだから、私は彼を信用する」 口ではそういうものの、タバサは未だに悟空と目を合わせられないでいる。 こうして見ると生きている人間と同じ、いや、普通の人間以上に生き生きとしているが、やはり瞳孔が開ききった目を見るのは怖い。 いや、よく見ると虹彩が暗くて瞳孔の色と区別がつかないだけか。 それに気付き、タバサは若干警戒の色を弱めた。 タバサの言葉に、ルイズもようやく悟空の説明を(納得はできないものの)聞き入れることにしたが、すぐさま別の疑問が沸き起こった。 「あんた、今「星」って言ったけど、そういえば何処から来たの?」 メイジでも無いのにメイジ以上の能力をぽんぽん使いこなすこの男は今、「星」と言った。 ルイズは「宇宙の何処かにいる私の使い魔よ!」とサモン・サーヴァントの時に言ったが、まさか本当に宇宙の何処かに自分に似た生命体がいるなどとは、本気で考えていなかった。 「オラ地球って星から来たんだ」 「じゃあ「チキュウ人」って事? そこがあんたの生まれた星なのね」 「いや、生まれは惑星ベジータってとこなんだけどよ」 「どういう事?」 悟空は説明した。 自分が惑星ベジータで生まれたサイヤ人である事。 産まれてすぐ、侵略のため地球に送り込まれたが、幼少時の事故により穏やかな性格になったらしい事。 ドラゴンボールとそれにまつわる様々な冒険。(これにはタバサが多大なる関心を示した) 自分の出生の秘密を、敵である実の兄から聞かされた事。 一度目の死。 サイヤ人の地球侵略。 ナメック星での激闘。 人造人間との戦い。 そして、二度目の死。 満月と大猿の関係については、既に尻尾の無い悟空には関係ない話だったので省略した。 悟空が全てを語り終えると、場に重い沈黙が立ち込めた。ルイズに至っては、頭から煙が出ている。 途中から頭を抱えてうなだれていたキュルケがのろのろと口を開いた。 「…なんか、にわかには信じられない話ね。頭痛くなってきたわ」 顔を上げ、悟空を見る。 「それで、貴方はこれからどうするの?」 「どうするも何も、オラはルイズの使い魔になっちまったんだろ? だったらそれでいいさ」 「…ずいぶん楽天的なのね」 昼休みを告げるチャイムが鳴った。 「続きは食後」 タバサの一言で、ルイズを除く全員が席を立った。 未だヒューズが飛んだままのルイズに、キュルケが声をかける。 「ルイズ~、私たちお昼食べてくるから、復活したら食堂に来なさいね~。さ、ゴクウさん行きましょ」 「はれってほれってひれんら~……って、え!? ちょ、ちょっと待ちなさい!」 悟空に椅子を引いてもらって席に着いたルイズは、爪先に何か硬いものが当たったのを感じてテーブルの下を覗き見た。 今朝、使い魔に朝食を与えるつもりで用意した皿がまだ置かれている。 (そういえばこれでご飯食べさせようと思ったんだっけ) ルイズは今朝の怒りを思い出したが、さっきの説明を聞いて幾分混乱している今となっては、それも些細な事のように感じられた。 (あの話が本当だったとしたら、わたしはこれからこいつをどう扱えばいいんだろう…?) 正直、さっきの説明はルイズの頭では理解が追いつかなかった。 宇宙人だの人造人間だの何でも願いを叶える球だの、この使い魔の頭は一体どこに繋がってるんだ。 支離滅裂な事を言ったならまだしも、話の内容に筋が通っているから厄介この上ない。 こうなったらこいつの素性を信用するしかなさそうだ。 となると、こいつはメイジでもなければ天使でもない、自分からすれば単なる平民(宇宙人だが)の幽霊だ。 その代わり、こうして自分の隣に立っている今もなお、周囲の生徒から注目を浴びているこの異世界から来たらしい使い魔が、 果たしてこの世界の食べ物を口にしても大丈夫だろうか、と心配になった。 考えてみれば、朝食の時は居なかった。食事が終わってから、何処で道草食ってたのか、手ぶらで戻って来たのだ。 「そういえば、あんた朝食の時居なかったけど、ちゃんとご飯食べたの?」 「ああ、シエスタがメシ分けてくれたんだ」 確か、ゴクウが洗濯を頼んだ平民の名だ。 ルイズは再び足元の皿を見た。 厨房に昼の分の指示は出してなかったので、皿は空っぽのまま置かれている。 「じゃあ、お昼もその平民に貰ってきなさい」 「わかった。んじゃ行ってくる」 厨房へと消えていく使い魔を見送りながら、ルイズは、だから朝食の後すぐ見つけられたのか、と合点し、 自分の使い魔が惨めったらしく地べたに座り込んで粗食を食べる様子を他の生徒に見られずに済んでよかった、と密かに思った。 高貴な存在だと思われているのだ、下手にイメージを崩す事も無いだろう。 「確か本当の天使って霞食ってるんだっけ?」 つい疑問が口をついて出る。 隣席のマリコルヌがそれを耳ざとく聞きつけた。 「なんだって?」 「何でもないわよ、ただの独り言」 「ゴクウさん、お待ちしてました!」 シエスタが笑顔で悟空を出迎える。 厨房に足を踏み入れた悟空は、朝食の時とは比べ物にならないくらい大量の料理を目にした。 「すっげー! 美味そうなもんが一杯あっぞー!!」 「おうよ! お前さんが来てくれたおかげで食材が無駄にならずに済みそうだからな! これはその前祝いだ!!」 悟空の見事過ぎる食いっぷりに触発されたマルトーは、本当に余りものの食材を余すところ無く使い、 尋常ではない量と種類の料理を用意していた。 ざっと見ただけでも10~15人分、テーブルに乗りきらなかった分や鍋に残っている分を加味しても60~70人分はある。 とても賄いと呼べる分量と種類ではない。 中にはこのまま貴族に出してもいいんじゃないかと思えるくらい豪勢な盛り付けのものもある。 マルトーの密かな宣戦布告であった。 「これ全部オラが食っていいのか?」 「おう、食えるだけ食え! 無理なら残してもいいぜ。どうせ元は捨てなきゃならんものばかりだからな、がっはっはっは!!」 10数分後、全ての料理が悟空の胃袋に収まった。 コルベールは、トリステイン魔法学院の長を務めているオールド・オスマンに、自分の教え子の一人がガンダールヴの幽霊を使い魔にしたのではないか、という自説を披露していた。 ミス・ロングビルにぱふぱふをせがんで左の頬に真っ赤な紅葉をこさえたこの学院の長は、彼の説明を聞き終わると、それまで閉じていた口を開いた。 「ルーンが一致したというだけで、そいつがあの使い魔の幽霊であるというのは、いささか結論を急ぎ過ぎじゃないかのう」 「で、ですが…」 「第一、その者がそう言ったというだけで、そ奴が幽霊だという明白な証拠はあるのか?」 コルベールは返答に窮した。 確かにオールド・オスマンの言うとおりである。 ミス・ヴァリエールが幽霊だと紹介したからといって、本当に彼がそうなのか確認をしていなかった。 そもそも、幽霊とはあのように頭の上に輪がついているものなのだろうか。 自分が死んでしまったら余計に頭頂部の眩さがアップしてしまいそうで、できることなら御免こうむりたい。 「まあ、暫くは様子見じゃの。その使い魔から色々聞いてみるとよい」 「わかりました。では失礼します」 一礼して退室したコルベールは、ふと空腹を思い出し、食堂へと向かった。 今なら生徒たちが昼食を採っている。ひょっとしたら、使い魔に会えるかもしれない。 ルイズが満腹感に浸っていると、食堂がどよめきに包まれた。 何事だろうと周囲を仰ぎ見たルイズは、騒ぎの原因を発見して胃が痛くなった。 自分の使い魔が、メイドに付き従ってデザートの配膳を手伝っている。 「本当にありがとうございます、ゴクウさん。わざわざ手伝って頂いちゃって」 「構わねえって。オラのせいで忙しくなっちまったみたいなもんだしよ」 マルトーが腕によりをかけて悟空に大量の料理を振舞った結果、その料理を載せるために、食堂に残っていた食器の殆ど全てを使ってしまい、 大量に発生した洗い物のために貴族へデザートを運ぶ人手が足りなくなってしまった。 そこで食器洗いを手伝うかデザート運びを手伝うかの二者択一の結果、悟空が選んだのがデザート運びであった。 悟空もチチを手伝って食器を洗った経験はあるが、陶器製の食器しか取り扱った事がない悟空には、繊細なガラス細工が施されたものもある学院の食器は、何となく触らない方がいいような気がしたのも一因だ。 「あ、あんた、何やってんのよ」 配膳がルイズの席まで到達した時に、小声でルイズが訊いた。 「メシ食わせてもらった礼に仕事手伝ってんだ」 「あ、ああそう…。あまり目立つような真似はしないでよね」 「何で?」 「あんた、一応他の生徒には天使って事で通ってるんだから」 「ケーキ運ぶくらいどってことねえだろ」 ルイズは改めて周囲を見回した。 居心地の悪そうな顔で配られたデザートを見つめている者もいるが、恐る恐るケーキに口をつけて、普段通りの味だと判った者は、安心したのかいつも通りの調子を取り戻し、級友と歓談したり、既に食べ終えた者は席を立ったりしている。 「…それもそうね。いいわ。終わったら私のところに戻ってきなさい」 「ああ」 やがて、全てのケーキを配り終えた悟空がルイズの元に戻ってくる頃、ケーキを食べ終えたらしき生徒が立ち上がった拍子に、懐から小瓶を落とした。 コロコロと悟空の方へ転がってくる。 悟空はそれを拾い上げ、落とし主である金髪の生徒に声をかけた。 「おーい、おめぇ、これ落っことしたぞ」 「なあギーシュ、お前今誰とつき合ってるんだ?」 「つき合う? 僕にはそのような特定の女性はいない。 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 聞こえていないのか、あるいは聞こえていて無視しているのか、青年は応えず、他の生徒と話しながら食堂を出ようとしている。 悟空は後ろで紅茶のカップを手に取ったルイズに訊いた。 「なあ、あいつの名前、何つうんだっけ」 「ギーシュ・ド・グラモン」 「サンキュー。おーい、ティッシュのバケモン」 すました顔で食後の一杯を飲んでいたルイズが、鼻から紅茶を吹いた。 『ギーシュ・ド・グラモン(だ/よ)!!』 前門のギーシュと後門のルイズから、同時にユニゾンで悟空にツッコミが入る。 決して悟空に悪気があったわけでは無いのだが、言う相手が悪かった。 貴族の名を家名つき、その上名前を間違えて呼んだ。 意図的であれ偶然であれ、それは、その貴族だけでなく、家柄に対する重大な侮辱行為である。 血相を変えてルイズが駆けつけた。 「あんた謝りなさい。今すぐ」 「わ、わりぃ。オラ長ったらしい名前覚えんの苦手なんだ」 「君は確か「ゼロのルイズ」の…。駄目だな、許すわけにはいかない」 手袋を取り出し、悟空に投げつける。 「決闘だ!」 「ギーシュ!」 「これは僕だけの問題じゃない。そいつは我がグラモン家を、グラモンの家名を汚した。この罪は償ってもらわなければならない」 ギーシュの目が敵意をはらんだものに変わっていく。 「貴族同士の決闘はご法度よ!」 「オラ貴族じゃねえぞ」 「その通りだ。だから問題は無い。ではヴェストリの広場で待つ。10分後に開始だ。遅れるなよ」 そう言い放ち、ギーシュは身を翻して食堂を後にした。 成り行きを見守っていたシエスタが悟空に駆け寄る。 「あ…あなた殺されちゃう。貴族を本気で怒らせたら…」 「ああ、こいつなら大丈夫よ、たぶん」 青ざめた顔でブルブルと震えるシエスタに、ルイズがフォローを入れる。 一応使い魔が世話になっているのだ、多少は仲良くしてもいいだろう。 幽霊だから死なない、と付け加えようと思ったが、話がややこしくなりそうなので伏せた。 「なあルイズ」 「何?」 「あいつ、強えのか?」 「そうね…どっちかといえば強いほうかしらね。仮にもグラモン家の貴族だし」 「そりゃあ楽しみだ」 「嬉しそうね…まったく。いい? あんたはあいつの名前を間違えた事によって、あいつの家名も同時に汚したの。それはとっても不名誉な事。 だから…まあ仮にあんたが勝ったとしても、その点はきっちり謝っときなさいよ」 「ああ、わかった」 「よろしい」 平民がメイジに勝つことなどありえないが、ルイズは不思議と、この使い魔ならもしかしたらギーシュに勝つかもしれない、と思い始めていた。 「フン、まあ逃げずに来たことは褒めてやろう」 「オラ逃げたりなんてしねえぞ」 普段人気のあまり無いヴェストリの広場は、ギャラリーで埋め尽くされていた。 ゼロのルイズの使い魔 対 青銅のギーシュ。 オッズ比は16。 意外にも、悟空の勝ちを予想する生徒は皆無ではなかった。 その中には、タバサとキュルケも混じっている。 「本当にあの使い魔が勝つと思うの?」 「負けはしないと思う。彼の話が本当なら」 街一つ吹っ飛ばすだのこの星ごと消えて無くなれだの、よくもまあそんなホラが吹けるもんだとキュルケが内心呆れていた話を、タバサは話半分だが信じているようだ。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 「へへっ、ワクワクすっぞ」 超能力を使う敵と戦った事はあったが、魔法を主体に戦う相手は悟空にとって初めての経験であった。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。 従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手をするよ」 ギーシュが手に持った薔薇の造花を振るうと、零れ落ちた花弁から甲冑を纏った優美な女性型のゴーレムが生成された。 「へぇー、面白ぇなあ」 「お褒めに預かり光栄、とでも言っておこう。では、始めるか!」 「ああ、どっからでも来い!」 ワルキューレが悟空に向かって突進する。 が、それよりも遥かに速く、悟空はワルキューレとの間合いを詰めた。 「ずえぁりゃあっ!」 正拳一発。 凄まじい衝突音の後、腹から背中まで達する凹みを作ったワルキューレがギーシュの傍を猛スピードで掠め、背後の壁に激突して砕け散った。 場が、静まり返った。 振り返り、かつてワルキューレだった残骸を確認した後、目をまん丸に見開き、口を顎が胸に付きそうなくらい開け、鼻水まで垂らしたギーシュは、恐る恐る悟空に向き直った。 壁が「固定化」で補強されていなかったら、飛距離は更に伸びていただろう。 ワルキューレ殴り飛ばし世界新記録を作った男は、全く本気を出した様子が無い。 それどころか「とりあえず挨拶代わりに一発ぶん殴ってみました」といった感じだ。 「あれ? 何だ、てんで弱っちいぞ」 「な、何だと!?」 焦ったギーシュは一気に6体のゴーレムを生成した。 それぞれが手に武器を備えている。 「取り囲んで叩きのめせ!」 ギーシュの命令に従い、わらわらと悟空の周囲に散開したワルキューレは、一斉に悟空めがけて手にした武器を振り下ろした。 衝撃で悟空が地面に膝を付く。 静止命令を受けていないワルキューレは、這いつくばる悟空めがけて何度も何度も、武器がひしゃげて変形するまで攻撃を繰り返した。 「も、もういい! 下がれ!!」 数分後、ギーシュがワルキューレを下がらせると、地面に倒れ付した悟空が姿を見せた。 ピクリとも動かない。死んでしまったのか。いや、既に死んでいる。 そろりそろりと、ギーシュが悟空に近づく。 先ほどからギャラリーは静まり返っている。ギーシュが地面を踏みしめる音だけが聞こえる。 「よっこいしょっと」 「はうあ――――!?」 何の前触れも無く悟空が起き上がり、ギーシュは腰を抜かしてへたり込んだ。 ギャラリーのそこかしこから悲鳴が上がる。 固唾を飲んで見入っていたタバサも、あまりに予想外な出来事に少々チビッた。 怪我一つ負っていない悟空の問いかけに、ギーシュの顔が真っ青になった。 「なあ、もうちっと本気でやってくんねえか? これじゃちっとも面白くねえぞ」 前ページ次ページサイヤの使い魔
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編集 ゼロの使い魔 on the radio ~トリステイン魔法学院へようこそ~ ゼロの使い魔のインターネットラジオ 釘宮理恵(ルイズ)×日野聡(サイト)が贈る、もう一つの『ゼロの使い魔』。 二人の "ボケ・ツッコミ"、"S M"トークが炸裂しまくる(?!)あっという間の30分間プログラム! パーソナリティ:釘宮理恵(ルイズ役)×日野聡(サイト役) メディファクラジオにて配信 ゼロラジへの投稿フォームはこちら 各コーナーについて ゼロラジ内容 インターネットラジオ更新間隔 各話タイトル ゲスト出演回 その他のゼロの使い魔 on the radioキャララジオ出張版 雑誌付録 DVD特典 ゼロの使い魔 on the radio CD モバイル [部分編集] 更新間隔 期間 回 更新間隔 2006年06月09日 - 2006年09月29日 第1回 - 第17回 毎週金曜日配信 第一期放送 2006年12月27日 第18回 第2シーズン記念版・2006年冬スペシャル 2007年01月27日 - 2007年06月27日 第19回 - 第24回 毎月27日配信(月1回) 2007年07月06日 - 2007年9月28日 第25回 - 第37回 毎週金曜日配信 第二期放送 2007年10月25日 - 2008年06月27日 第38回 - 第47回 毎月1回配信 2008年07月04日 - 2008年09月26日 第48回 - 第60回 毎週金曜日配信 第三期放送 2008年10月31日 - 2009年03月27日 第61回 - 第66回 毎月1回配信 2009年10月30日 第67回 2009年 秋の特番 復活スペシャル 2010年1月29日 第68回 2010年 冬のスペシャル 各話タイトル 回 更新日時 タイトル ゲスト 第1回 2006年6月9日 いよいよ番組スタート! 第2回 2006年6月16日 新コーナー「ルイズのお部屋」大奮発! 第3回 2006年6月23日 「日野ちゃまについて知ろ~う」のコーナー特別開催 第4回 2006年6月30日 「ルイズ」が「エンディングテーマ曲」について解説 第5回 2006年7月7日 「ヴェストリの広場」(お便りコーナー)新スタート 第6回 2006年7月14日 2人とも「言ったこと忘れてた」? 第7回 2006年7月21日 日野ちゃま、とうとう部屋にエアコンを「つける」?? 第8回 2006年7月28日 続「エアコンつける発言」で追い詰められる日野ちゃま 第9回 2006年8月4日 日野ちゃまの誕生日! ICHIKO(オープニングテーマの歌手) 第10回 2006年8月11日 「番組挨拶」はどうなるのか? 第11回 2006年8月18日 ゲスト「キュルケ役」井上奈々子さん登場! 井上奈々子(キュルケ役) 第12回 2006年8月25日 日野ちゃまを”かませたい”対決メール 第13回 2006年9月1日 またまた日野ちゃまを「かませる」メールでいっぱい! 第14回 2006年9月8日 かみかみ現象「小芝居コーナー」にも波及・・・ 第15回 2006年9月15日 もうこれしか書かないヨ「がんばれ!日野ちゃま!」 第16回 2006年9月22日 消え物コーナー日野ちゃま「バ○ナ+マ○ネーズ」 第17回 2006年9月29日 とうとう最終回!「オープニング小芝居」は凄いぞ 第18回 2006年12月27日 ゼロラジオが”冬”スペシャルで帰ってきた!! 第19回 2007年1月27日 復活2回目!息のあった(?)トークをお聴き逃し無く! 第20回 2007年2月27日 早口言葉。今回の日野ちゃまは冴えているゾ! 第21回 2007年3月27日 ゲストは原作者ヤマグチ先生。オープニングは必聴! ヤマグチノボル(原作者) 第22回 2007年4月27日 ゼロラジオにとって「スペシャル」な発表があります 第23回 2007年5月27日 理恵ちゃんへの「サプライズ」。さてさて、その訳は? 第24回 2007年6月20日 人気コーナー復活!魔法学院宝物庫 ”リターンズ” 第25回 2007年7月6日 魔法学院広報室で7/25発「ラジオCD」の詳細を紹介! 第26回 2007年7月13日 7/7(土)に行われた”初”公開録音の模様を放送! 第27回 2007年7月20日 今回からオープニングを衣替え。心機一転だ~!! 第28回 2007年7月27日 ゲストはICHIKOさん。公開録音を振り返ります! ICHIKO(オープニングテーマの歌手) 第29回 2007年8月3日 日野ちゃま誕生日リターンズ!山Pからの贈り物は? 第30回 2007年8月10日 ルイズと理恵ちゃんで、スキ?キライ?スキ!!!のCD解説! 第31回 2007年8月17日 ネタバレ注意!!ゼロラジオCDを聞いた方のメールを紹介 第32回 2007年8月24日 ゲストが来たよ!ヤマグチ先生 お忙しい中、再登場! ヤマグチノボル(原作者) 第33回 2007年8月31日 釘「ティーパック」→日野「Tバック」=暑さのせい? 第34回 2007年9月7日 いつも以上に笑う2人。番組はマターリとマターリと・・・ 第35回 2007年9月14日 うう~っ、番組から重大発表...ホタ~ルの...ン? 第36回 2007年9月21日 今回は発売予定のゲームの情報を詳しくお伝えします 第37回 2007年9月28日 次回より月一更新。でも10月はキャララジマンスリーだ! 第38回 2007年10月25日 お久しぶり!明日のキャララジもあるから連日更新だ~! 第39回 2007年11月22日 「ゼロ使」ゲームのテスト版を体験プレイしちゃいました! 第40回 2007年12月21日 年末を締めくくる「懺悔室」にて、ルイズ様にバッサリと。 第41回 2008年1月25日 新年を迎えた最初の更新。さて、2人の今年の目標は? 第42回 2008年2月22日 あれ?サイトから消えた??発表、盛りだくさん!来た~! 第43回 2008年3月27日 新コーナー発表!え、でも一度だけの募集って?何故? 第44回 2008年4月11日 3/30(日)TAFで行われた公開録音(2回目)の模様を放送! 川澄綾子(アンリエッタ役)能登麻美子(ティファニア役) 第45回 2008年4月26日 今回は「魔法学院校舎裏スペシャル!」ニヤニヤ度MAX! 第46回 2008年5月27日 webラジオCD第2弾のタイトルが決定!!詳細はいかに! 第47回 2008年6月27日 お・ま・た・せしました!来週から待望の「毎週更新」だ~! 第48回 2008年7月4日 第3期もよろしく!!今週は色々な情報をお届けします。 第49回 2008年7月11日 ゲスト登場!OP曲を歌っているichikoさん! ICHIKO(オープニングテーマの歌手) 第50回 2008年7月18日 お陰様で、放送50回!感謝を込めて、プレゼント大放出! 第51回 2008年7月25日 メール沢山送ってくれてありがとう!ほんとスッゴイ数です 第52回 2008年8月1日 日野ちゃま、30歳の誕生日おめでとう!やっぱ贈り物は? 第53回 2008年8月8日 鯖缶30個のおかげ?で今日の日野ちゃまは、お・と・な? 第54回 2008年8月15日 髭○爵ギャグで動揺した理恵ちゃん。その理由は? 第55回 2008年8月22日 ゼロラジCD第2弾がまもなく発売!今日は内容詳細紹介! 第56回 2008年8月29日 今日の声って調子いい?何故?耳がいいから。耳って何? 第57回 2008年9月5日 夏と言えばゼロ!9月に入りましたが、夏はどうでしたか? 第58回 2008年9月12日 「楽しそうね!」「楽しくないの?」の後を聞き逃すな! 第59回 2008年9月19日 「魔法学院実験室」は聞き逃すな!理恵ちゃん約束果たす!? 第60回 2008年9月26日 とうとう60回を迎えました!でも、今後の更新間隔が... 第61回 2008年10月31日 重大?発表あり! 惜しまれつつ今回で全コーナー打止め 第62回 2008年11月28日 新コーナー開始!驚くほど沢山のメールありがとう! 第63回 2008年12月26日 ヤマグチ先生 久々の登場 一日遅れのメリークリスマス! ヤマグチノボル(原作者) 第64回 2009年1月30日 Hop→Step1→Step2→Jump!やる時はやるゼ!by 山森P 第65回 2009年2月27日 Hop→Step1→Step2→Jump!次のMissionは・・・by 山森P 第66回 2009年3月27日 次のMission。それはラジオよりの卒業。3年間ありがとう! ヤマグチノボル(原作者) 第67回 2009年10月30日 2009年 秋の特番 復活スペシャル!!! 第68回 2010年1月29日 簡単にゼロラジは終わらない!またまた復活スペシャル! ゲスト出演回 登場回(更新日時) ゲスト 第9回(2006年8月4日) ICHIKO(オープニングテーマの歌手) 第11回(2006年8月18日) 井上奈々子(キュルケ役) 第21回(2007年3月27日) ヤマグチノボル(原作者) 第28回(2007年7月27日) ICHIKO(オープニングテーマの歌手) 第32回(2007年8月24日) ヤマグチノボル(原作者) 第44回(2008年4月11日) 川澄綾子(アンリエッタ役)、能登麻美子(ティファニア役) 第49回(2008年7月11日) ICHIKO(オープニングテーマの歌手) 第63回(2008年12月26日) ヤマグチノボル(原作者) 第66回(2009年3月27日) ヤマグチノボル(原作者) キャララジオ出張版 キャララジオ出張版についてはこちらへ 雑誌付録 「ゼロの使い魔 on the radio」スペシャルCDメガミマガジン特別版『メガミにルイズが降臨しちゃったぞCD』 メガミマガジン2007年8月号(Vol.87)読者プレゼント 抽選で1000名にプレゼントされた。 +詳細内容 詳細内容 1.オープニングアクト 2 15 2.オープニング 2 57 3.魔法学院・懺悔室 8 49 4.メガミマガジンセレクション 名ゼリフベストセレクション 10 00 5.告知 0 51 6.エンディング 2 05 ゼロの使い魔 on the radio ~アニメージュ特別版~ 2008年6月10日 アニメージュ2008年7月号の付録(アニメージュ30周年特別付録 スペシャルラジオCD) +詳細内容 詳細内容 1.オープニング 2.オープニングアクト 3.オープニングトーク 4.魔法学院相談室 5.言葉の魔法 6.ホントノキモチ 7.エンディング DVD特典 ゼロの使い魔 on the radio~ア、アンタのためだけにラジオをやる訳じゃないんだから!~ 2009年3月6日 録り下ろしラジオCD(約30分) ゼロの使い魔 第1シリーズ DVD-BOXの特典 ゼロの使い魔~双月の騎士~DVD-BOX 2009年12月4日 第2シリーズのDVDBOXの特典に「ゼロの使い魔 on the radio」録り下ろしラジオCD (約30分) ゼロの使い魔~三美姫の輪舞~DVD-BOX 2010年3月5日 第3シリーズのDVDBOXの特典に「ゼロの使い魔 on the radio」録り下ろしラジオCD (約30分) ゼロの使い魔 on the radio CD ゼロラジCDはエンハンスドCDです。 新録音分のオーディオパートとバックナンバーがmp3形式で収録されています。 ゼロの使い魔 on the radio スペシャルCD~聞かないと、許さないんだから!~ 2007年7月25日 ゼロラジCD第1弾 【オーディオCDパート】ゼロの使い魔 on the radio スペシャルCD~聴かないと、許さないんだから! 【データCDパート】第1~17回までの17回分をmp3化させたデータを放送時よりさらにハイクオリティな状態にして約510分収録! クイズ!正解は釘宮理恵!超高級料理対決(赤坂璃宮) ゼロの使い魔 on the radio ~南国に行けないって どっ、どういうことなのよーっ!~ 2007年8月27日 ゼロラジCD第2弾 【オーディオCDパート】 ゼロの使い魔 on the radio スペシャルCD ~南国に行けないって どっ、どういうことなのよーっ!~ 【データCDパート】 第18~29回までの12回分を配信版より高品質にしてmp3で収録(約360分) クックベリーパイを二人で作る ゼロの使い魔 on the radio ~南国は一切無視!?アンタ達全員、バカ犬よぉー!~ 2008年12月25日 ゼロラジCD第3弾 【オーディオCDパート】ゼロの使い魔 on the radio ~南国は一切無視!?アンタ達全員、バカ犬よぉー!~(新録音30分) 【データCDパート】第30回~41回までの12回分(約360分)を配信より高品質にして収録 ゼロの使い魔on the radio デラックス~ラジオなのに沖縄ロケ?南国に行ってきました!~ 2009年3月25日 ゼロラジCD第4弾 【オーディオCDパート】ゼロの使い魔 on the radio ~ラジオなのに沖縄ロケ?南国に行ってきました!~(新録音30分) 【データCDパート】第42回~53回までの12回分のmp3化させたデータを配信より高品質にして約360分収録! ラジオCD初!沖縄ロケ敢行!!沖縄での2人の2ショットを多数収録した、36Pに及ぶ豪華ブックレット付き!! ゼロの使い魔 on the radio スペシャルCD 今までありがとう!そして、また逢う日まで! 2010年3月25日 ゼロラジCD第5弾 【オーディオCDパート】ゼロの使い魔 on the radio ~今までありがとう!そして、また逢う日まで!~(新録音30分) 【データCDパート】第54回~66回(最終回)+秋と冬のスペシャルの15回分のmp3化させたデータを配信より高品質にして約560分収録! ゼロの使い魔 on the radio モバイル限定版 2010年2月12日 2010年2月12日 ~ 2010年3月12日までの期間限定配信 ゼロの使い魔 on the radio モバイルでもやっちゃうんだからスペシャル
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前ページ次ページ鋼の使い魔 その日、学院の校門前でやり取りをする男女が一組。 「なぁ、本当にこれに乗って行かなくちゃいけないのか?」 「当たり前でしょ。ぶつくさ言ってないでさっさと乗るの!」 話はその昨晩に戻る。部屋でルイズはギュスターヴに話した。 「明日は虚無の曜日よ。外出するわ」 「外出?」 「王都まで行って買い物するの。あんたも着いて来なさい」 つまり、ギュスターヴに荷物持ちをしろということだ。女性の買い物とはそういうものだと分かっているギュスターヴは、また一方で、 この世界の街というものを見たことが無いから興味を刺激された。 「それに……ホラ、決闘で勝ったご褒美、まだ、してないし……」 視線を泳がせて段々先細りの声でルイズが言う。ルイズはギュスターヴに何かを与えるつもりらしい。 ルイズの心遣いに素直に感謝するギュスターヴ。 「すまないな」 「……いいの!ちゅ、忠誠には酬いるところがあって当然よ!」 気恥ずかしかったのか、もう寝る!と言ってベッドにもぐりこむルイズだった。 翌日、早朝。学院校門前に立つギュスターヴ。 ルイズは学院付の厩番から二頭の馬を受け取り、校門で待つギュスターヴの前につれてきた。 ギュスターヴはルイズがつれてきた黒毛の馬をみて目を白黒させて驚いた。 「な、なんだ?!このでかくて黒い四本足の生き物は?」 「何って、馬じゃない。これに乗って行くのよ」 さも当然のように行って馬を宥めるルイズ。ギュスターヴは恐る恐る手を伸ばし、馬の腹を撫でてみた。ブルルル、と馬が鼻息を荒く吐く。 改めてここが異世界なのだと感心するギュスターヴなのだった。 「こんな動物がいるなんてな……やっぱりここはサンダイルとは違うんだな」 「馬に乗って3時間も行けば王都トリスタニアよ。早く出発しないと、夕方までに帰ってこれないわ」 同時刻、女子寮の自室でキュルケは目覚めた。魅惑的な肉体に心もとないほどの布を纏っている。 昨晩は激しかったわ。一度に4人も呼んじゃったけど、いつもと違った経験が出来て悪くなかったわ……。 眠りに着く前の時間を思い出して、口元が艶っぽく綻ぶ。 こういう気分がいいときは、隣部屋のルイズをたたき起こして遊んでやるのが一番楽しいと、キュルケは思っている。 早速着替えて隣の部屋に向かうのを、使い魔のフレイムが部屋の隅で見守っていた。 一応ノックしてみる。返事が無いのを確認すると、杖を握って『アンロック』をかける。 部屋の鍵が落ちる音がする。キュルケは当然のようにドアを開け、ルイズの部屋に入り込んだ。 しかし休日でのんびりと寝ているものと思われた部屋の主人とその使い魔は影も形もなく、ルイズの鞄もまた消えていた。 「どこに行ったのかしら……」 当ての外れたキュルケは、窓辺に近寄って外を見てみる。すると校門から先に二頭の馬がいて、学院から離れていくのが見えた。 馬の一方に乗っているらしき人物の姿は窺いきれないが、辛うじて分かるのは、特徴的なチェリーブロンドであること。 「あら、出かけるみたいね……」 キュルケに一つの考えが浮かんだ。そして階段を登って行く。 タバサの部屋の前に着くと、先ほどと同じようにノックする。返事が返ってこないと、再びノックする。ルイズの部屋とは扱い方が違う。 「タバサいる~?」 声をかけても返事が無い。仕方ないわ、と再び『アンロック』をかけてドアを開けた。 タバサはいた。机の上に積んだ本に埋もれるように本を読んでいた。不意の来訪者を見て、それから視線を本に戻した。 「タバサ。今日はいい天気だし、一緒にお出かけしない?」 「虚無の曜日」 手馴れた風情のタバサ。友人はタバサをよく気に掛けてくれるが、今日は少し面倒だと、タバサ自身の黙する空気が語っている。 「わかってるわ。あなたが休みの日は陽が落ちるまで本を読んでいたいって事くらい。でも、たまには外の空気を吸いに行かないと体に悪くてよ?」 ね、ね?とタバサの背中に張り付いてご機嫌を取ろうと肩をもみ始める。 タバサは引っ付かれるままに振り回されている。後頭部になにか柔らかいものが当たっている気がするが全力で無視した。 「別に今日でなくてもいい」 「またそんな事言って……。いいわ。あのね、ルイズと使い魔の彼が休みの朝早くから出かけているのよ。からかい甲斐もないし。 使い魔の彼のこともちょっと気になるかしら?悪くないわよね、こう大人の色気があって。そう思わない?」 「知らない」 つまり二人を追いかけるのに協力してくれということ。 タバサの脳裏に昨日のギュスターヴが浮かぶ。異界からやってきたという男。私の知らない知識の持ち主。 「あなたの使い魔じゃないと今からじゃ追いつけないのよ~。お願い、タバサ。協力してくれたら書店で本を贈ってあげるから」 ぴくり。タバサの気がキュルケの言葉に引かれる。 タバサは立ち上がると本を棚に戻し、窓を開けて口笛を吹いてから、窓から飛び降りる。 続くキュルケが飛び降りた時、窓の下には薄青い鱗の竜が翼を広げて、空中を静止していた。 「いつ見ても貴方の使い魔は素敵ね。愛してるわ、タバサ」 困った友人だな、とタバサが小さなため息をついてから、使い魔―――シルフィード―――の首を叩く。 「ここから出て行った馬二頭を追いかけて。食べちゃ駄目」 シルフィードはきゅいーっと一声鳴いて、二人を乗せて遠く空に向かって飛んでいく。 『剣と盗賊』 王都トリスタニアの城下町は、休みとあって人でごった返している。そんな通りをルイズとギュスターヴは歩いていた。 歩きながらギュスターヴは何度か腰を摩っている。 「慣れないものに乗って腰が……」 「これだから中年はいやねぇ」 ほーほほ、と優秀な使い魔から一本取れたと優越にルイズが笑った。 通りは5メイル程で、幅一杯に人が行きかう。通り沿いの店は幌を張って影を作り、軒下を露天商に貸し付けて場所代を取っている。 「思ったより狭いな…」 「狭いって、ここが一番大きな通りなんだけど」 「そうなのか…」 ギュスの目がいつもと少し違うのがルイズには分かった。それは王の目なのだが、ルイズには分からなかった。 (露天商の方が店を持つ商人より遥かに多い……経済市場はそれほど大きくないのかな。それにこの道幅だと出征などの変事の対応力はあんまりないのか。 ……それほど大事のない平穏な国なのか……) きょろきょろしながら歩くギュスターヴをルイズが窘めた。 「そんなに周りを見るものじゃないわよ。おのぼりさんに見えるじゃない。田舎者と思われるとスリとかが目をつけるわよ」 ルイズ曰く、食い詰めもののメイジが犯罪者になって、裕福なものから金を掏り取ったりするらしい。 どうやらメイジというメイジが貴族として生活しているわけではないらしいとギュスターヴは知った。 「……で、買い物をするんだろう。どうするんだ?」 「こっちよ。あんまり行きたい所じゃないんだけど」 ルイズにつられて路地に入る。そこは表の清潔さとは対照的にゴミが積まれて悪臭を放っている。その匂いに顔をしかめた二人。 匂いを我慢して歩くルイズについていくギュスターヴ。やがてある建物の前でルイズの足が止まった。 「……ピエモンの秘薬屋の近くなら、ここね」 そこは看板に盾と剣の掘り込まれた店だ。 「剣を買ってあげる。あんたの荷物に空の鞘があったし、本当はもっと大きな剣を使うんじゃないかな、と思って」 武器屋と思われる建物の中に入ったルイズとギュスターヴ。昼間だというのに店内は暗く、あちこちに蝋燭やランプが置かれていて灯りになっていたが、出来がよいもので はないらしく、部屋のあちこちが陰になって薄暗い。 入ってきた二人が見えたらしい武器屋の主人は、カウンターの前で恭しげに頭を下げた。 「貴族の旦那。ここは全うな商売しかしておりませんぜ。お上の御用になるようなことは何も……」 「客よ。剣を見せて頂戴」 「おおこれはこれは。貴族様が下々の武器などご利用になるとは、驚きでさ」 「私じゃないわ。こいつに用立てるのよ」 ルイズは後のギュスを指す。立派な体格のギュスターヴに目を見張る主人。 「なんと!これは貴族様の護衛か何かで?」 「そんなところよ。良さそうなのを選んでやって頂戴」 へい、と主人が返事をし、ギュスターヴに駆け寄り腕の長さを巻尺で計り始めた。 一般に剣を扱う時は腕の延長として捉える。したがって使用する人間の腕の長さが一種の指針として使われるのだ。 店の奥に入って暫く時間が過ぎた。持ち無沙汰なルイズは飾られた武器を珍しそうに眺めていた。 主人が戻ってくると、布に包まれた一本の大剣をカウンターに置いて見せる。 「最近は貴族の方が下僕に剣を持たせるのが流りでございましてね。大抵は細いレイピアなんて御所望されるのですが、そちらの方では物足らぬでしょう」 「剣を持たせるのが流行って?」 「城下を荒らす盗賊が貴族様方を狙って出没するそうですよ。既に某の貴族様が家宝なりを盗まれて面目をなくされたらしく、他の貴族の方々が恐れてるあまり、奉公の下 僕らにも武器を持たせて歩く始末で、へぇ」 世話話に精を出しながら主人は出した剣を油布で丁寧に拭いている。 「こちらは高名なゲルマニアの錬金の大家とされるシュぺー卿の作。特殊な魔法が施されて鉄だろうがなんだろうが一刀両断でございます。もっとも安くはありませんが。如 何でございましょうか」 大剣は見事な装飾が鞘や柄や鍔に施されている。柄尻には玉のようなものまでついている。 「ふむ。いいわね。おいくら?」 「エキューで二千、新金貨で三千でございます」 「庭付きの屋敷が買えるじゃないの!」 ちなみに一般的な平民が一年暮らすのに120エキューほど掛かる。都会で部屋を借りて生活するとしても、大体四、五百エキューは住まいを借りるのに用立てなければな らない。 ルイズは主人の提示した金額をうんうん唸りながらつぶやき、主人と剣を交互に見て、またうんうんと唸るのを繰り返している。 ギュスターヴはそんなやり取りをするルイズを見てため息をついた。 「ルイズ、ちょっといいか」 「何よ?」 耳を貸すように手招きしてルイズに耳打ちする。 「手持ちはいくらなんだ?」 「……エキューで100よ。これ以上は手持ちがないわ」 本当は財布の中身を知られるのは嬉しくないが、買い物が買い物だけにそうは言っていられない。そうか、と言って、ギュスターヴは主人に話しかけた。 「試しに握らせてくれないか」 「どうぞ」 シュぺーの剣を受け取りそれらしく構えてみせるギュスターヴ。ルイズはそれが様になっていて満足したが、ギュスターヴにとってそれは剣の出来を見るものだった。 (…鍛造が甘い。管理もあまり上手とはいえない。拵えは豪華だが、肝心の刀身も研がれているようでもないな。 魔法がかかってるとはいえ、値段に相応するようには見えない……) 「主人、本当にこれが二千かね?」 「……ええ。こちらの儲けと仕入れ値、あわせて二千。これほどの名剣はそうはありませんぜ。何であればこちらの証文にサインしていただければ 割賦にさせていただけますぜ」 証文は役所が発行している特殊な紙に書かれた一種の契約書である。これに書いたものを反故にすると貴族でも処罰される。 ギュスターヴは主人をじっと値踏む。こちらが貴族だと知って高い品を売りつけようとしているのは間違いないが、問題は値段に合ったものを買うことだ。 (……吹っかけてるな。これは) ギュスターヴは見抜いた。シュぺーの剣を主人に返し、一拍置いて聞く。 「主人。一番安い剣はどれかね?」 その言葉に真っ先に反応したのは、お金を払うルイズであったのは当然の事だろう。 「ちょっと!私に安物買わせる気?!」 主人が貧乏だと思われたのではないか、とルイズはギュスターヴを見た。ギュスターヴの目は暖かいが、自分を見下げているわけではないらしい事はわかった。 まぁまぁ、と一応ルイズを宥めて武器屋主人の回答を待つ。主人は渋々とシュぺーの剣をしまい、何やらぶつぶつとつぶやきながら カウンターから出て店の隅に積まれたものを指差した。そこには大きな樽が置かれていて、樽の中に雑多な武器が差し込んである。 「そこにあるのがうちで扱ってる一番安い剣だよ。一律値段じゃあないが、大体50から80エキューくらいのが入ってる。剣の流通相場が200エキューちょいだから、 ガラクタもいいところさ」 「ギュスターヴ~!わ、私にガラクタを買わせるつもり?!」 不安になって地団駄を踏み始めるルイズを再び落ち着かせて、ギュスターヴは樽の中を覗いた。 樽の中の剣はどれも使い古しのボロ剣ばかりだ。中には鞘もなく、折れ曲がっているものもあった。 ギュスターヴはめぼしい剣を一本一本引き抜いては丁寧に見て、樽に戻してを繰り返す。 その内、剣の中にきっちりと鞘に納められた片刃の長剣が一本、押し込まれているのを見つけ、それを樽から抜き出し主人に見せた。 「こいつも50?」 「あ、や、それは……」 なにやら答えに窮した主人。ギュスターヴは答えを待たずに鞘から抜いてみた。 「……やい!親父!よくもこの俺様をあんなぼろっちい剣の中につっこみやがったな!今日という今日は俺様もあったまきたぜ!」 とたんにギュスターヴの手元から何者かの怒鳴り声が発せられ、ルイズがびっくりしてたたらを踏む。ギュスターヴも驚いて剣を落としそうになるのをどうにかこらえた。 武器屋の主人はというと、頭を抱えてうつむいてしまった。 「インテリジェンス・ソード?」 ルイズが主人を起こして聞いてみる。 「へ、へぇ。誰が作ったか知りませんが、魔法で剣に意思を込めた魔剣、インテリジェンス・ソードでございまさ。あいつは特に口が悪くて客と口げんかばかりして 参ってるんですよ。鞘にきっちり入れておけばしゃべれなくなるんで、ああやってガラクタに紛れ置いてたんですが…」 ついに主人がルイズに対してなにやら愚痴を言い始めた。ルイズは聞く気がなかったがまくし立てられて二の句が告げられず困り始めている。 ギュスターヴはそんな二人のやり取りには参加せずこのしゃべり出す剣をじっくりと眺めた。 (拵えは最低限、鍔もある。片刃だと少し慣らしがいるな。砥ぎが大分落ちているが、よく鍛えられている……) ぎゃあぎゃあと喚いていた剣が何かに気付いたように静かになり、ギュスターヴに話しかけた。。 「ぁん?なんだおめぇ。『使い手』じゃねえか。それにしては妙な雰囲気だけどよ」 「『使い手』?なんのことだ」 「お前さん、自分が何なのかもしらねえのかい。まぁいいや。おい、俺を買え」 愚痴が収まってギュスターヴと剣そのやり取りを見ていたルイズがちょっと引いている。 「剣が自分で売り込みやってる……」 ふむ、と一言言って、武器屋の主人の顔色を見たギュスターヴに、一つの面白い作戦が浮かんだ。 「主人、よっぽどこいつに迷惑をかけられたらしいな」 「そりゃあもう!口ばかり達者でとんでもねぇ剣でさ」 「け!あんな節穴親父に上手な商売ができるかっての!」 「あんだとこのボロ剣が!鋳潰して金床にされてぇのか!」 「まぁまぁ主人。……そこでだ。この剣、俺達が引き取ろうと思う」 えぇ!とルイズは露骨に嫌な顔をしている。 「達、って…、もっと綺麗な奴選びなさいよ~。何なら割賦で払ってあげるから」 「いや、これでいい。飾りものの剣は俺の趣味じゃないし」 そりゃ、そうでしょうけど、とルイズはどうしても納得がいかず、シュぺーの剣に後ろ髪引かれる思いをした。 「こいつはいくらだ?」 「70でさ」 ギュスターヴの口元がすこし歪むように笑う。 「高いな。50にしろ」 「ちょっと待ってくだせぇ」 「迷惑してるところを引き取ってやるんだ。それくらいはしてもらいたいな」 当然のように言い放つギュスターヴ。しゃべる剣を持ってカウンターをトントンと指で叩く。 「……68」 「55」 「65だ。これ以上は駄目だぜ」 「ふむ…。じゃ、一つ賭けをしよう」 ギュスターヴは腰の短剣を抜き、武器屋主人の前、カウンターに突き刺した。 「こいつに刃こぼれ一つでもつけることが出来たら、100であれを買う」 「ギュスターヴ!」 こんなボロ剣で全財産が飛んでしまうのではないかと気が気でないルイズに、あくまで余裕のギュスターヴ。 「大丈夫だ。……どうだ、主人。悪い話じゃないだろう?その代わり、出来なかったら」 「出来なかったら?」 「40であれを買う。それといくらかおまけしてもらうぞ」 正午を向かえ、お昼時とあって一層の繁盛を迎えようとするトリスタニア、ブリトンネ街。 その中で、中・上流向けの小綺麗なレストランで、ギュスターヴとルイズは昼食を取っていた。 「それにしても呆れたわ。本当に40エキューで買い物できちゃった」 瓶詰めの水をグラスに注ぎながら関心するルイズ。 あの後、結局武器屋はギュスターヴの短剣に刃こぼれどころかかすり傷ひとつつけられず降参し、しゃべる妙な剣とナイフ、あと手入れにつかう研ぎ石と油布などを 纏めて40エキューで売ってくれた。その後は、ルイズの欲しがっていた細々としたものを買いに回り、出費は予算内に見事に収まった。 「まぁ、年の功ってやつだな。あのままだと鈍らを買って借金しそうだったし」 「う……」 ギュスターヴは何故自分があんな事をしたのか丁寧に説明した。ルイズは一等、騙されていたことを激しく怒ったが、ギュスターヴ曰く『見抜ける眼力がないと思われたからそうされたに過ぎない』と言い含めた。 手前のスープに白パンを千切って浸し、口に放り込むギュスターヴ。学院の賄いとは違い、ハイソな趣の店内は、出す料理もそれに見合った上品なもので、 賄いに慣れたギュスターヴには少し物足りない気がした。 「でも本当によかったの?こんなボロ剣で」 「ボロ剣とはひでぇ扱いだな嬢ちゃん。俺様にはデルフリンガーっていう立派な名前があるんだぜ」 布に包まれたデルフリンガーと名乗る剣は、鍔口をカタカタ鳴らしてしゃべる。 「デルブリンガー?」 「デルフリンガーだよ!デルフって呼んでくれ」 そんなやりとりを食後の紅茶まじりにしていると、店内に新たな客が入ってきた。壺惑的な色気を振りまいている赤毛の女性と、その後ろをついてくる 背の低い青髪の少女、ともに杖と何かしらの荷物を持っている。 「ハァイ、ご機嫌いかがかしらお二人さん」 「キュルケ!なんでここに居るのよ」 「あら、どこにいようと私の勝手でしょ」 キュルケとタバサは二人を追いかけて王都に入った後、武器屋から出てくる二人を見てから、自分達も武器屋に入って買い物をした。 主人から二人が剣を買ったと聞くとキュルケも剣を所望し、主人から一振りの剣を買うことに成功した。その後タバサに約束の本を買ってあげたキュルケは、 昼食のためにこのレストランに入ったのだ。 キュルケの後にいるタバサに手を振るギュス。 キュルケはギュスターヴのそばに立てかけてあるデルフを見て鼻で笑った。 「ところで、剣を買ったみたいだけど、そんなボロ剣で済ますなんてヴァリエールもケチね」 「うっさいわね」 「そんなボロ剣より、こっちの方が素敵よ」 腕に抱えた包みを開くキュルケ。中から出てきたのは煌びやかな装飾の施されたレイピアだった。 「高名な錬金魔術師の名剣よ。割賦だけど新金貨で4000もするのよ。どう?この剣が欲しかったら、私のところに来ない?」 自信たっぷりにキュルケはウィンクして、ギュスターヴを誘う。剣を使うならより良い剣を贈った方が好印象のはず。 ギュスターヴの秘かに漂う高貴なオーラがレイピアに映えてすばらしい光景になるだろう、とキュルケは考えていた。願わくば褥に誘えれば、とも思っている。 しかしギュスターヴの反応はキュルケの予想したものとは大いに異なったものだ。喜んでいるというより、むしろ、呆れていた。 向かいに座るルイズは、キュルケの自信満々の素振りがおかしくてなにやらニヤニヤし始めている。 予想外の反応で困るキュルケ 「……あら?どうかした?」 キュルケは場の空気に困惑し始めた。こんな反応なんて考えていなかったから。 本当なら目を輝かせてくれるギュスターヴと、悔しげに歯噛みするルイズが見られると思ったのに。 しかし現実の二人はどこまでもキュルケの予想から遠い。ルイズに至っては紅茶に興味が移ってしまっているし、ギュスターヴも明後日の方向を向き始めている。 くいくい、とキュルケの袖をタバサが引いた。 「クーリングオフ不可」 その腕の中にはキュルケに買ってもらった本を抱えている。 タイトルは『落ち着かぬ赤毛』。書店での価格は96スゥであったという。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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しかし意外だな。ルイズの家は王女と交流があったのか。 ということは王族と交流があるってことだな。貴族の中でも地位は高いんじゃないか? そんな家柄で魔法が使えないのは結構やばくないか?家族でも厄介者扱いされてたりしてな。貴族ってプライドは無駄に高いからありえるな。 だから貴族に拘ってるのかもしれないな。私には関係ないがな。 「結婚するのよ。わたくし」 色々考えているとそんな言葉が聞こえ現実に戻ってくる。へぇ、王女は結婚するのか。 「……おめでとうございます」 先程までの楽しそうな雰囲気は霧散しルイズは沈んだ口調で言った。何故だ?王女が結婚するんだったら普通喜ぶものだろう? つまり何か事情があるってことか。なるほどね。 突然王女が今気づいたという風にこちらを見る。気づいてなかったのか? 「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら」 「お邪魔?どうして?」 「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?いやだわ。わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね」 「はい?恋人?あの生き物が?」 酷い言い草だな。しかし王女がそう思うのも無理はないかもしれない。普通人間を使い魔にするなんて思うわけないだろうしな。 「姫さま!あれはただの使い魔です!恋人だなんて冗談じゃないわ!」 ルイズが首を激しく振りながら否定する。 「使い魔?」 王女が疑問に満ちた面持ちで私を見つめてくる。 「人にしか見えませんが……」 人は人でもガンダールヴとかいう伝説の使い魔だけどな。 「そうよね。はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」 「好きであれを使い魔にしたわけじゃありません」 ルイズは憮然として言い返す。私も好きでされたわけじゃないぞ。 王女が突然ため息ををついた。何だか胡散臭いため息だな。 「姫さま、どうなさったんですか?」 「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……」 嘘だな。これ見よがしに私困ってますって感じを見せ付けてるじゃないか。 「いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに……、わたくしってば……」 「おしゃってください。あんなに明るかった姫様が、そんな風にため息をつくってことは、なにかとんでもないお悩みがおありなのでしょう?」 「……いえ、話せません。悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい。ルイズ」 じゃあお前何しに来たんだよ。 「いけません!昔はなんでも話し合ったじゃございませんか!わたしをおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。そのおともだちに、悩みを話せないのですか?」 ルイズの言葉を聞き王女はなんとも嬉しそうに微笑む。 「わたくしをおともだちと呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」 王女が頷く。 「今から話すことは、誰にも話してはいけません」 付き合いきれないな。部屋から出るとしよう。これ以上は私を巻き込まずにやってくれ。 そう思いドアに向かって歩き出す。 「何処行くのよ、ヨシカゲ」 ルイズが私を呼び止める。 「なにやら重大な話のようだから席でも外そうと思ってな」 「いや、メイジにとって使い魔は一心同体。席を外す理由がありません」 王女が首を振りながら言う。じゃあ今の私の心はルイズが思っているのと同じなんだな。 今私はこう思っている。巻き込むな!
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春の麗らかな風景に爆発音が響いていた。 爆発音の発信源はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 彼女は他のクラスメート達や教師が見守る中、サモン・サーヴァントの儀式を行っていたが、爆発ばかり繰り返していた。 その数も既に20を裕に越えており、始めは冷やかしていたクラスメート達も、流石に飽き飽きしていた。 いつまでたっても成功しないのを見て、U字禿の教師コルベールは「次で成功しなかったら良くて留年、最悪の場合退学になりますぞ」とルイズに脅すように言った。 「五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ。」 ルイズはありったけの魔力をこめ、いつになく真剣な面持ちで唱えた。 しかし、ルイズの思いも虚しくまた杖を向けた先で爆発が起こった。 それを見た全員がまた失敗かと思った。が、もくもくと土煙が立ち込める中に爆発する前には無かったはずの『何か』があった。 ルイズはそれに気が付くとゆっくりと警戒しながらその何かに近づいていき、それを手にとってみた。 「これは…『矢』?」 爆発の跡にあったのは一本の古びた矢だった。鏃は金属でなく石で作られ刃の部分は鋭く出来ていたが、その装飾からして実戦で使うものではないようだ。 だが、彼女にとって生物でない物に用はない。サモン・サーヴァントは使い魔となる生物を呼び出す儀式。明らかに無機質な矢などお呼びでないのだ。 ルイズは溜め息をついた。爆発ばかり繰り返し、簡単なコモンマジックどころかまともに使い魔すら召喚出来ない『ゼロ』…自分の将来を憂え今すぐ泣き出したくなったその時、 サクサクと草原を誰かが歩く音がした。 クラスメートの誰かが自分を慰めに来たのか、それともコルベールが退学を宣告しに来たのか。ルイズはいずれにせよ振り向く気になれなかった。 だが、その音の正体がどちらとも違う事がクラスメートが次々にしゃべった事で明らかになった。 「おい、何か黒いのがいるぞ!」 「遂に成功したの!?やったじゃないルイズ!」 えっ!?と驚きルイズが振り向くと黒い人らしき「物」がこちらに背を向け歩いていた。 カウボーイハットの様な帽子を被り、肩にはドーナッツ形の飾りを幾つも付けている。 腰にはゆるゆるとしたベルト、更に乗馬用のブーツみたいな靴を履いている。 だがその姿はどこまでも漆黒であり、生物と非生物の間のような存在感を出していた。 ルイズは成功してこれを呼び出したのにこれに対し何とも言えない不気味さを感じた。 こいつは何かヤバイ気がする…契約をすべきなんだろうか… そう思った時、既に異変は始まっていた。 いきなり周りにいたクラスメート達が何の前触れも無くその場で倒れると眠りだしたのだ。彼らの使い魔達も、である。 その異常な光景にルイズは呆然としたが、ふと気付いた。自分の手からいつの間にか矢が地面に落ちていたのだ。 そして矢は斜面でもないのにその漆黒の『何か』の元まで転がって行った。漆黒の『何か』は立ち止まり矢を拾いあげると再び歩き出した。 「ちょ、ちょっと!これはあんたの…」 そこまで言うといきなり足に力が入らなくなり、ストンと地面に腰を落としてしまった。 「な…た…立てな……」 そして意識が朦朧とし、他のクラスメートやコルベール同様地面に横たわり、眠ってしまった。 それでも漆黒の『何か』…前の世界で『鎮魂歌』と呼ばれたそれは城の方へとゆっくり歩いて行った… シトシト… 気付いたら夕方になり小雨が降り出していた。 ルイズはいつの間にか自分が寝てしまった事を思い出し、起き上がろうとした。 しかし、地面に手を付けた瞬間グラリとした。なにかおかしい…身体が『重い』…いやサイズに『合わない』感じがする。 「何が起きたの」 自分の周りを取り囲んでいた中にいたはずのキュルケがいつの間にか近くにいた。 「分からない…いつの間にか寝ちゃって…」 ルイズが答える。視覚がまだぼんやりしていた。 「ルイズの使い魔のせい?」 キュルケが淡々とした感情の起伏の無いしゃべり方をしているのにルイズは違和感を覚えた。キュルケの普段のしゃべり方はこんなのじゃない… 「し、しし知らないわよ!私だって何がなんだか…」 「私?」 キュルケが首を傾げた。ルイズはますます違和感を覚え、尋ねてみた。 「あんた…本当にキュルケ?」 その問いにキュルケは首を横に振ることで答えた。 「冗談はよしてよ!あなた、どう見たって…」 そこではっとした。自分の背が明らかに延びていたのだ。手もよく見てみたら成人男性のような… もしかして!と思い、頭に手をやるとそこには無かった。自分のトレードマークとも言えるものが! 「無い!あたしの髪が無い!」 「元々」 キュルケが突っ込んだ時、「うぅ…」 また近くでうめき声が上がった。キュルケの隣で寝ていたタバサだった。 「何なのよ…いきなり眠くなって…」 タバサが起き上がってキュルケを見た。キュルケも起きたタバサを見た。 「「………」」 二人は五秒ほど沈黙した後、 「きゃああああああああ!」 タバサ、いやタバサの中のキュルケが絶叫した。キュルケの中のタバサも驚いて目を丸くしている。 だが、彼女達よりショックを受けた人達がいた。 ルイズは頭に髪が無いので気付いた。辺りを見渡すとすぐに見つけた。今にも起き上がろうとしている自分の身体を! その自分の身体も自分を見た。 「いやぁぁぁぁぁぁ!」 「うぉぉぉぉ何事ぉぉぉ!?」 両者共にキュルケより遥かに大きな声で絶叫した。 しばらくして心と状況の整理が出来た。 まず、どういう訳か分からないが、魂が入れ代わったということ。 しかもほとんどが使い魔と入れ代わったらしく、話しかけても全然通じなかった。例外は四人の他、ギーシュとマリコルヌだけであった。 次に、これは仮説だが、この現象はルイズが呼び出した使い魔が引き起こした物だということ。 そして最後に、得意魔法等は魂と一緒についてきた。 ということである。 「困りましたぞぉぉ」 ルイズの中のコルベールが頭を抱える。頭の上が豊かなことや若返ったのは嬉しいらしいが、そんなことを言っている場合では無い。 これがもしハルキゲニア中に広まったら大変な事になる。 しかしその元凶がどこに行ったのかも、どうやれば元に戻るかも分からなかった。 焦ってばかりで役に立たない教師を尻目にキュルケとタバサはいち早く動き出した。 「黒い人のようなのよ。捜して来て!」 キュルケはシルフィードと入れ代わったフレイムに命令した。 「きゅるきゅる」 フレイムは慣れない様子で飛び上がり、辺りを旋回しだした。 「森の中。」 タバサもシルフィードに探索するよう命じた。 「きゅい!」 シルフィードは森の中に入って行った。 10分ぐらいしてフレイムが本塔の近くでレクイエムを発見した。 キュルケはフレイムに足止めを頼みつつ、六人はレクイエムの元へと急いだ。(当然だが、マリコルヌと入れ代わったギーシュはおいてけぼりだった。) To Be Continued...
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結論から言うと私は外で食事をさせられた。周りには他の生徒の使い魔がいる。 外に出された理由は私が食事中に吐いたからだ。初めての食事を胃が受け付けなかったらしい。 ルイズはすぐさま私を外に追い出した。その後。何とか我慢して食事を食べる。パンも流動食だと言えるほど噛んで食べれば吐くほどではない。が、やはり体の中に違和感があるのは禁じえない。これからは人間が何をしなければいけないか考えなくてはいけないな。 いつまでも幽霊の常識じゃいけないってことだ。 食事が終わる頃生徒たちが食堂から出てくる。私の方をみて笑う生徒もいる。さっきのことだろう。 そう思っているとルイズが出てきた。 「あんた何してんのよ!恥かいちゃったじゃない!」 会った瞬間怒鳴ってくる。 「調子が悪かったんだ」 当たり障りのないことを言う。食事をしたことがないと言ったら二度と食事させてもらえなくなるだろうな。 「あんたの体調なんて聞いてないわ!罰として昼食抜きね!」 まぁ昼食だけならさして問題はないだろう。 そして教室へ向かう。ルイズと私が教室へ入ると既にいた生徒が一斉にこちらを見る。 そしてクスクス笑い始めるた。特に気にするようなことではない。 教室を見回す。石で出来た大学の講義室みたいだな。 生徒を見るとやはり使い魔を連れている。 フクロウ、ヘビ、カラス、猫、目玉、六本足のトカゲ、蛸人魚etc、、、 ルイズが席に座る。私も席に座り帽子を取る。ルイズが睨んでくるが無視する。どうせ私は床に座れとか言うのだろう。 ルイズが何か言おうとする前に扉が開き中年の女性が入ってきた。ローブは紫色で帽子を被っている。きっと彼女が先生なのだろう。 彼女が春の使い魔召還の祝辞を述べる。先生はシュヴルーズというらしい。 「おやおや。変わった使い魔を召還したものですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズは私を見てとぼけた声で言う。教室が笑いに包まれる。 ルイズは俯いている。シュヴルーズは笑いを取るために言った冗談なのだろうがルイズが傷つくのは考慮に入れてないようだ。 「ゼロのルイズ!召還できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」 誰かがそう言う。するとルイズが立ち上がり怒鳴り返す。 そこから言い争いが始まる。また『ゼロのルイズ』だ。どうやら誹謗中傷の類らしいな。 シュヴルーズが杖を振ると、言い争っていた二人は席に座り静かになった。魔法は便利だな。 シュヴルーズが二人を叱る。 「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 マリコルヌと呼ばれていた彼ががそう言うと笑いが漏れる。 シュヴルーズがまた杖を振ると笑っていた生徒の口に赤土の粘土が張り付いた。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 シュヴルーズは厳しい顔でそういった。 しかし発端を作ったのはお前だろう。 「では授業を始めます」 話しを聴く限りだとこの世界では魔法が科学技術らしい。ゆえにそれを使える貴族が権力を持つということか。 いや、魔法が使えるから貴族か…… こいつらが魔法が使えなくなったらどうするんだろうかね? シュヴルーズが杖を振ると石が光る。光が治まると石は金属に変わっていた。 つくづく魔法は何でもありらしい。 6へ
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夜になるのは早かった。 お互いの話がすれ違ったままの会話って、こんなに無意味に時間が過ぎる物なんだ・・・ 結局、僕にわかったのはこれが夢じゃなくて、その上で月が二つもある異世界にこのルイズって女の子に呼び出された事。 元の世界に帰る手段を僕を呼び出したルイズ自身も知らない事。 そして、この頭の固い女の子が僕のご主人様になった事、かな。 平民とか貴族とか魔法使いとかの話は、まぁどうでもいいし気にしない。 ましてや貴族様の家の確執とか何処かの家が痴女の一族とかも、ほんとどうでもよかった。 魔法の世界の人だから科学とかの話が全く通じないのもある意味予想通りだったし。 「いい?アンタは平民で何の力も無いんだから、せめて召使みたいに働きなさい!」 その『ご主人様』は、最後に僕に下着の洗濯を押し付けるとさっさとベッドに入ってしまった。 ・・・いいのかな?これ、僕が洗濯して・・・ 別に変な趣味は無いから、『これ』をどうこうする気はないけど。 僕、全自動洗濯機以外の洗濯の方法知らないんだよね。 そもそも、僕は何が出来るんだろう? 使い魔の能力として教えられた事は殆ど出来ない。 感覚の共有はできないし、魔法の材料の調達もこの世界の事がまだ良くわかってないのに出来るわけが無い。 ましてや主人を守る事なんて、魔法が支配するこの世界ではたぶん無理だ。 剣道や陸上、泳ぎにはそれなりに自信はあるけど、それが通用するとは思えないし。 使い魔としては、失格だよね。 元の世界に帰るって気は余りなかった。 あの日、ムーンライトブリッジで家族を全員失ってから、僕には帰る家って物が無くなったから。 親戚筋をたらい回しにされるのにはもう飽きたし、引越しが続いた所為で親しい友達も殆ど出来なかったし。 月光館学園にいこうと思ったのも、学費の援助と寮生活が出来るからだったから。 なら、この世界で使い魔として生きるのも別にいいんじゃないか・・・そうも思える。 (何より、決定的な破滅を迎えずに済むしね) ・・・何だろう?空耳かな?誰かの声が聞こえた気がしたけど・・・ まぁ、どうでもいい。今は寝よう。 召使のように働かないといけないなら、明日は早くに起きないといけないだろうから。 『主人の情け』とやらで下着と一緒に押し付けられた毛布に包まって、僕は目を閉じた。 「ちょっと聞いていいかな?洗濯の道具ってどこにあるのか教えて欲しいんだけど」 次の日、まだ日も昇っていない時間に、僕は洗濯場を探して歩いていた。 多分あのルイズの事だから、目が覚める目に洗濯を終えてないと何をされるか。 一応魔法使いらしいし、お仕置きとかされたくないな。 あと、誰かにこっちの世界の洗濯方法を教えてもらわないといけない。 そう思ってふらふら歩いていて・・・見つけたのが、今声をかけたメイドさんだった。 「洗濯道具ですか? 構いませんが、貴方はどなたですか?」 僕と同じくらいの年頃だろうか?黒髪のショートが可愛い。 流石に急に声をかけられて訝しげで、僕の顔をじっと見つめてくる。 「僕はキタロー。今度、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールって女の子の使い魔ってのになったみたいなんだ」 「ああ、貴方が噂の平民の使い魔さんですか?ミス・ヴァリエールの?」 「うん。でも、使い魔ってよりも召使のほうが近いかも・・・」 だって、他の使い魔はファンタジー物でよく出てくるモンスター達が勢ぞろい。 ただの学生だった僕じゃ、そんなすごいモノと同じとは到底言えないよね。 「じゃぁ、私と同じですね。私はシエスタ。この学園でメイドをしているのよ」 「シエスタさん・・・うん、よろしく」 僕の正体がわかったのか、このメイドさん・・・シエスタさんの態度が柔らかくなる。 召使に近い、というのが親近感に繋がったのかな?妙にうちとけた、というか先輩っぽく振舞ってる。 「よろしくね、キタロー君。それで、どうして洗濯道具を探してるの?」 「えっと、僕のご主人が・・・これを洗っておけって・・・」 そういって見せたのは、ルイズが昨日着ていた服。当然下着も入ってる。 「あら、まぁ・・・」 「正直、僕が洗っていいのかも判らなくて・・・それで、洗濯とかに詳しい人に色々聞きたかったんです」 「分かったわ。それじゃ、案内してあげる。他にも何か困った事があったら私に何でも聞いてね?」 僕の困っている理由を理解したのか、シエスタさんは服の塊を手にすると歩き出す。 その後洗濯が終わるまでの間、僕はシエスタさんに色々な話を聞けたのだった。
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朝起きて、まず一番にすべきことがある。 顔を洗う? 伸びをする? あくびをかみ殺す? 水差しの水を飲む? 用足し? 違う違う。 髪を梳く? 頬をはたく? ランニング? 意地汚くまどろむ? そうじゃないんだよね。 着替える? それはちょっと近いかも。でも正確には違うかな。 正解はまっさらなパンツを穿くこと。 睡眠という束の間の快楽を髄の髄までむさぼるために、わたしは就寝時パンツ穿かない派を通している。標榜はしていない。こっそりと続けている。 本来ならば、パンツを穿かないという行為は、メイジが杖を持たず戦場へ出るに等しい。 手荷物が一つ減るわずかなメリットに対し、自分の命を実質捨てているという高すぎるリスクを伴うんだけど、寝る時ばっかりは別。 どんな格好で寝てたって文句言われる筋合いは無いし、同衾するような相手がいたとしても、パンツが無くて恥ずかしいなんてことにはならない。 すでに臥所を共にしている時点で見るべきものは全部見られてるだろうしねえへへへへへ。 パンツという最強の防具かつ人間が持つ業の結晶ともいえる拘束具から解放されることにより、わたしはどこまでも深く深く潜っていく。 現実では本来の自分を見せることができないわたしに唯一許された箱庭――夢――の中、わたしは楽しむ。 時に○○○○○を×××××し、ほほほ、また時には□□□□□が△△△△で、むふっ、わたしとしては☆★☆★☆★☆★☆★……うっひっひっひ。 そう、夢は楽しい。寝る前につらつらと妄想に浸ることはもっと楽しい。だからといって現実を疎かにしていい理由にはならないけどね。 朝、目が覚めればパンツを穿く。その行為こそが現実への帰還、戻ってくる意思をあらわす。 パンツ一枚隔てた先にはファンタジーがある。それでもわたしは現実へ帰る。強く雄雄しく生きるために。 夢の世界を後にし、わたしは現実で戦う。走っても、風が吹いても、脚を上げても、見苦しいものが見える心配は無い。 あ、パンツ自体が見苦しいとかそういうことはないからね。わたしに似合う可愛らしさと金糸一本一本に丁寧な仕上げがなされた装飾性、家常茶飯邪魔にならない機能性、これらパンツに要求される全てを備えたクィーンオブパンツ。 キュルケ辺りに言わせればお子様パンツと言われるかもしれないけど、わたしに似合うという点で考えればやはりこれに落ち着くと思う。ちょっと悔しいけど、パンツの名誉のためにもわたしはそう思うんだったら。 しっかりと洗濯され染みの一つもないそのパンツを……別に洗濯しなくたって染みはないけど、穿く。 見事にジャストフィット。わたしのためだけに作られた芸術品ともいえるオーダー品を見て、パンツなんてただの布と言える人間がいるかしら。いるわけがないわよね。美しい物は美しい者にこそ相応しいってこと。 自分の容姿を鏡で確認し、自信をつける。明晰な頭脳を抜きにすれば、数少ないわたしの自慢できるものだもんね。これなら現実とだって戦える。 ちょっとポーズをつける。親指を噛んでみたり。四つんばいになって後ろを振り向く。両の腕で挟むようにして無い胸を強調。 「……何やってんのルイチュ」 鏡の向こうにわたしを見つめる一組二つの眼があった。振り向けばそこには一人の女。 「……誰?」 「誰ってねェ。昨日の今日でもう忘れたっての。あんたの使い魔だってば」 「あ、グェスか。……あんた今の見てたの?」 「大丈夫大丈夫、ご主人様の恥になるようなことは誰にも言わないって」 恥になるってことは理解してるのね。へえ。ふーん。ほお。くそっ。 昨日寝た時はサイズが合わないにもほどがある寝巻きを着ていたはずだ。そりゃグェスは細身だし、ネグリジェはゆったりした作りになってるけど、いくらなんでもわたしのは無理がある。 それでも本人は満足だったようで、サイズはギッチギチで膝小僧が隠れなくてもぐっすり寝ていた。 でも今は昨日もらった古着を着ている。ってことは……わたしはいつから見られてたんだろう。 問題ないよね? わたしの頭の中まで読まれたわけじゃないもんね? ね? 「ねえ、なんかアクセサリー的なモンない? できたらヘアバンド。この服じゃちょっとアレでさー」 昨日と同様に、グェスは許可も無く引き出しやクローゼットを漁っている。 この女は本当にもう余計なことばっかりで。こいつのせいで寝る前のおっぱい体操もできなかったし。背中と同じ胸になったらどう責任とってくれるのよ。 「あのねグェス。他人の部屋を勝手に探し回るってどういうことかしら?」 「気にしないでいいよ。昨日言ってたじゃん、使い魔とご主人様は一心同体って」 ああ言えばこう言う。たしかに言ったけど。何か釈然としない。ま、別に見つかって困るようなものはないからいいけどね。 男子達が楽しそうに語る失敗談でもっとも多く見られるものが「隠していた破廉恥な本を親ないしそれに近い誰かに見つかってしまった」というもの。 だけどそれは自業自得。何のために、首の上にご大層な頭が乗っかっていると思っているんだか。 わたしは違う。性的なものに興味を持ちながら、人に倍する、三倍、四倍、十倍もの煩悩を持ちながら、そのようなものを隠したりはしない。 絵を見れば、脳裏に焼き付けた後で燃やす。本を読めば、一語残らず暗記してから燃やす。一流の犯罪者は証拠を残す愚を犯さない。頭脳という書庫があれば、いつでも引き出すことができるもの。 バタフライ伯爵夫人の優雅な一日八十五頁では何が行われていたかと問われれば、主人公が夫の股間に顔を埋めながら昼間見た騎士のことを思っている場面だと即答できる。 メイドの午後二百二十七頁では何が行われていたかと問われれば、主人のお仕置きと称する陵辱が最高潮に達し、ついにメイドの……。 「ねえルイチュ、これ何?」 チェストの奥から取り出されたそれは、 「首輪よ。見て分からない?」 朝の支度をしながらわたしは答えた。グェスは親指と人差し指でつまみ上げ、胡乱なものを見る目で首輪を眺めている。失礼な。 「何で首輪なんてあるのさ。ひょっとして」 「勘違いしないでよね。使い魔を召喚したらつけてみようかなって思ってただけ」 これは本当。何か惹かれるものがあったのよね、使い魔に首輪って。 「ねえグェス。あんたアクセサリー探してたんでしょ。それ、どう?」 「それ……って首輪ァ?」 「ペット扱いするとかそういうのじゃないの。単なる装飾品としてどうかってこと」 けっこう値段のはる品物だったのよね。革は綺麗になめされてるし、艶を殺した金属部分も格好いい。箪笥の肥しじゃもったいない。 「首輪ねえ」 鏡の前で色々と試しているみたい。付属のチェーンをじゃらつかせたり、首輪をゆるゆるにしてつけてみたり。 けっこう似合うように思えるけど、グェスはご不満なようだ。 全身から立ち昇る、隠しきれないアウトローっぽさが強調されていいと思うんだけどな。 「これってさ。あたしよりもルイチュに似合うんじゃないかな」 「はあ?」 何を言ってるのこいつは。 「わたしに似合うわけがないでしょ。そんなものをつけてる貴族なんて一人もいないわ」 「違う違う、そのギャップがいいんじゃない。清楚で可憐な貴族の美少女にゴツイ首輪って組み合わせがさ」 うっ。そ、それは……イイ……かも。 「でもでも、お品が無いわよ」 「首輪なんてかわいいもんじゃない。あたしの頃は顔面にタトゥ入れたりインプラント埋めたりなんてのが当たり前。学生なんだからそれくらいやらなきゃ」 「そんな話聞いたことない」 グェスはわたしの肩に手を回し、耳元で囁いた。 「ちょっとでいいからさ。試しにつけてみようよ。似合わなかったらやめればいいじゃん。ね」 「でも」 「ルイチュが首輪してるとこ見たいなー。かわいいだろうなー。キレイだろうなー」 「……ちょっとね。ちょっとだけだからね」 強引に押し切られたふうを装いながら、わたしはちょっとだけ期待していた。 期待と言い表せるほどはっきりしたものではなくて、露天で買った安っぽい宝石を指につける時みたいな、そんな感じ。 えっと、ここをこうして、こう、かな。 きっちり締めると鉄の感触が気持ち悪いし、圧迫感がある。かといって、緩く留めたらだらしなく見えそう。 でも首輪にだらしないも何も無いか。鎖骨にかかるかかからないかくらいに垂らしてみた。ふむ。 鏡の前でくるっと一周。ちょっと不敵な表情で決め。ふむふむ。 「か……カッワイイイイイイイイイ! とってもとっても! 予想以上にいいじゃないルイチュ!」 「そ、そう?」 「すごいわこの倒錯感! 小宇宙的な背徳性! 食べちゃいたいくらい! まさに一枚絵って感じ! ドジスン先生が涙流すわ! ネズミの着ぐるみ必要なし! アニメ化決定! お人形にして遊びたいィィィッ!」 鳴り止まない拍手とよく分からない褒め言葉で讃えられて、正直ちょっといい気分。 わたしの目から見ても似合っているように見えた。 ブラウスの襟やマントで隠れるんじゃないかと思ってたけど、そんなものじゃ隠せない暴力的な存在感がある。 でもそれがきちんと全体に溶け込んでいるのよね。わたしという素材のおかげってとこかしら。ふふん。 「さて、それじゃ朝ごはんね。お腹ぺこちゃん。行きましょルイチュ」 「えっ、こ、このまま行くの」 「ごはんの前に何かすることでもあるの?」 「そりゃ……その……あの」 左見右見、戸惑うわたしに脱ぎ散らかされた衣類が目に入る。 「そうだ、洗濯はあんたがやってね」 「……ねえルイチュ」 グェスの声が優しさを帯びた。この声、昨晩も聞いたような……。 「今まではあなたが洗濯物をしていたのよね」 「ええ」 「他の連中は使い魔にやらせているの?」 「してないけど……でも、でも、わたしは人間召喚したんだからそれくらいいいじゃない。下僕がいればそれくらいさせたっていいの。着替えの手伝いさせなかっただけ感謝してほしいくらいよ」 グェスは微笑んだ。この微笑、昨晩も見たような……。 「あなたは貴族だけどまだ学生。洗濯一つにだって先生が込めた意味があるの」 「いや、でも」 「たしかに貴族はそんなことしないでしょう。平民がするべきことで、召使にやらせること。でも、だからこそ今やっておく意味があると思わない?」 グェスはわたしを抱きしめた。この胸の感触、昨晩も味わったような……。 「この世の全てに敬意を持つこと。平民や貴族だけじゃない。豚肉の一切れ、小麦の一粒にも感謝を捧げること。自分のために失われた命があったことを忘れないこと。豚や小麦を育てた人を思うこと。これって大切だけどとても難しいことなのね」 「……」 「貴族だって平民がいなくては生きていけない。平民の苦労を知れば、自然と感謝の気持ちも湧いてくるわ。それでこそ筋を通すことができる。先生達もそれを学んでほしいの」 ……そうよね。わたし達が面倒くさいと思ってやってることにも意味はあるのよね。 筋を通す、か。なんか懐かしいな。昔誰かが言ってたような……まさか使い魔に教えられるとは思わなかったわ。 「ふん。何よ偉そうに。わたしだってそのくらい分かってるわよ。ちょっと言ってみただけじゃない」 「ありがとう、ルイチュ」 「御礼言われる筋合いなんかないって言ってんの! ほら、いつまでも抱き締めてないでさっさと行くわよ。あんた暑苦しいのよ」 グェスを従えて部屋を出る。廊下に続く窓の一つ一つから、同じ形に朝日がこぼれていて、光の中では小さな埃がふわふわと踊っていた。 いつもと同じく安っぽいだけの風景なんだけど、なんとなく神々しく見えるのはなんでだろ。これが感謝の心ってやつ? わたしは静謐な気持ちで廊下を歩いていたんだけれども、おかまいなしに首の飾りは揺れていて、その重量がわたしの心を現実に呼び戻した。 「そうだ。これ、外さなきゃ」 「大丈夫だって、似合ってるもん。おどおどしてるとかえっておかしく見えるよ。堂々としてれば大丈夫」 そういうもんかな。いいのかな、これで。 「ほら、あの子こっち見てるよ。かわいいから驚いてるのね、きっと」 そう言われるとそんな気もしてくるなあ。洗濯の負い目も無いわけじゃないし、グェスの顔を立ててやりますかね。 背中で鎖をじゃらつかせ、わたしは歩く。 「ねえルイチュ。この鎖の端、持っててもいい?」 「は? なんで?」 「もしはぐれたりしたら困るじゃない。昨日来たばかりのとこで一人なんて考えたくもない」 「仕方の無い使い魔ね。本当頼りにならないんだから」 後ろの鎖をグェスに持たせ、わたし達は食堂へと入る。 みんな注目してるみたいね。平民の使い魔が珍しいってわけでもないみたい。わたし見てるし。 アクセサリー一つでここまでわたしを見る目が変わるとはねぇ。しょせんは見た目なのかしら。 マリコルヌうつむいてる。こっち見なさいよこっち。 キュルケもびっくりしてる。眼鏡の顔は変わってないけど、内心ではきっと驚いてるに違いない。 くふふふふふ、皆わたしにあてられちゃったみたいね。今年のルイズちゃんは一味違うのよ。 「なあ」 「なんだよ」 「ゼロのルイズがあの女を召喚したんだよな? あの女がゼロのルイズ召喚したわけじゃないんだよな?」 「たぶん」 「じゃあ、あれ何だ。あの犬の散歩みたいなのは」 「さあ。そういう趣味なんじゃないの」
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反省する使い魔! 第十話「インテリジェンス◆ビート」 キュルケの誘惑を振り切った次の日。 音石は今、学院の広場にいた。 つい10分程前に彼は目を覚まし、 昨日と同じようにルイズを起こそうと(もちろんギターで)したが 「今日は『虚無の曜日』だからゆっくり寝かせて・・・」 そう言われ、ルイズは再び眠りに落ちてしまった。 『虚無の曜日』………、つまり日本でいう日曜日のような 休みの日のことを言っているらしい…………。 そういうことならと、音石ももうひと眠りしようとしたが 窓から差し込む快晴の光や鳥の鳴き声。 とても二度寝できるような状況じゃなかった。 以前も述べたかもしれないが、音石は刑務所にいた為 その規則正しい生活習慣が完璧に体に染み付いたおかげで いやでも朝早くに目を覚ましてしまう。なんとも難儀な話である。 仕方なく音石は藁の上から立ち上がり、昨日と同じように 服にこびりついた藁を払い落とすと、ルイズの部屋を後にした。 ルイズの部屋を出ると、音石がまず最初に向かったのは シエスタとはじめて出会った水汲み場だった。 音石はそこで顔を洗うと、清々しい風を肌で感じていた。 肌でモノを感じる。音石はギタリストとして 常に音やリズムなどを肌で感じている。 そのため音石にとって、肌でモノを感じるというのは とても重要で素晴らしいことなのである。 そして現在に至る。 音石はその後、水汲み場からそのまま広場へと移動した。 そしてさらにそのまま、学院の男子寮、女子寮から 出来るだけ離れた広場の隅のところへと移動した。 「………さてと、ここら辺でいいか」 なぜ音石が男子寮、女子寮からできるだけ離れたかというと 彼なりの気遣いの配慮である。 なぜなら音石が寮から離れていったのにはわけがあったのだ。 「学院なんかでゆっくりと『コイツ』を堪能できる場所なんざァ 限られてるからなぁ。ここらへんなら寮にいる連中に 聞こえることもなけりゃあ文句言われることもねぇだろ………」 そして音石はそのまま『コイツ』こと、愛用のギターを手に持った。 ドギュウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!! 「YEAH!」 弦を指で弾き、発する音に合わせて体を激しく動かし、髪がなびく。 音石にとって、ギターを奏でている時間こそが何よりも幸せであった。 たとえ嫌なことがあってもギターさえ弾いてしまえば その嫌なことを忘れさせてくれる。 既に音石の頭の中には派手なステージでスポットライトを浴び、 歓声が降り注いでいる自分の姿が出来上がっていた。 彼は今、最高に満足している。 今振り返ってみれば、彼はこの世界でゆっくりと 心ゆくままにギターを演奏するのは今が始めてである。 召喚された最初の日にはライトハンド奏法、一回だけ。 その次の日にはルイズのお目覚めリサイタルや ギーシュの決闘の時に軽く弾いた程度である。 次第に音石の顔に大量の汗が溢れ出した。 しかし彼のギターのボディの材料、 中南米ホンジュラス産の1973年のマホガニー材が 彼の汗を呼吸するかのように吸い取り、 音石が汗をかけばかくほど、ギターの音が良くなっていった。 ネック部の弦には狂いがなく、100年間暖炉に使われてきた 超乾燥のくるみ材(盗品)を使用しているため、 音がビビることなく、音響的な渋い味わいを出している。 そしてなによりその渋い味わいの音を正確に 鳴り響かし引き出してるのは、ギターの材質関係なく 彼のギタリストとしての実力だろう。 ギュウウウーーーーーーーーーーンッ………… 「万雷の拍手をおくれ、世の中のボケども」【うっとり?】 【パチパチパチパチパチパチッ】 「おっ?」 ギターで一通り演奏し、ラストは自分の気に入っている 決め台詞で締めくくると、万雷とまではいかないが 小さな拍手の音が音石の耳に入った。 音石がその拍手のするほうへ振り向く。 そこに居たのは、ルイズと同じくらい小柄で水色の髪、 片手にはその小柄な体よりもはるかに長い杖、 もう片手には三冊の分厚い本をもっている少女だった。 音石はその少女に見覚えがあった。 確か召喚された日にギーシュに魔法で浮かされたとき キュルケと一緒にいた記憶がある。 その次の日には、シエスタが落としそうになった食器を 拾い戻す前に空を見上げていたとき、ドラゴンの上に 跨っていた記憶もあった。だが名前は知らない。 「お前は………確かキュルケと一緒にいた………」 「………タバサ、あなたは?」 「音石明だ……、いつからそこにいたんだ?」 「だいぶまえから」 「そうなのか?コイツ(ギター)に夢中だったから気付かなかったぜ。 なあ、……さっきのオレの演奏どんな感じだった?」 音石としては、ギターが存在しないこの世界の人間に、 どんな印象を持たれるか興味深かった。 「初めて聴く音……、変わってたけどなかなかユニーク」 「ふむ、まぁそんなモンだろうな。 それでタバサ、こんなとこでなにしてたんだ? 寮からだいぶ離れてんのに………」 「……どちらかといえばそれは私のセリフ」 「ははっ、ちがいねぇな」 「わたしは図書室に借りていた本を返しにいって あたらしい本を借りて、部屋に戻る途中に 奇妙な音が聞こえたから、気になって来てみたら貴方がいた」 「オレは随分と早く目が覚めちまってよぉ~~~………、 気晴らしついでに、腕が鈍ってないか確かめていたんだよ」 「腕が鈍っていないか?」 タバサが知る限りでは、音石はルイズに召喚されたときから ずっとギターを決闘中だろうと肌身離さず抱えていた。 そんな彼がまるで久しぶりに演奏するかのような 物言いに疑問を感じたのだ。 「………ん、ああ。ワケあって牢屋の中にぶち込まれててな。 ちょうど出所したところをルイズに召喚されたんだよ」 「………そう」 なぜ牢屋の中に入っていたのか………。 気にならないと言えば嘘になる。 しかし無理に相手の詮索するようなことはタバサはしたくなかった。 人はそれぞれにいろんな『過去』を背負っている。 楽しかった思い出、悲しかった思い出、悔しかった思い出、 そしてそんな思い出には必ず理由が存在する。 だからこそタバサは、目の前の男が牢屋の中に 入っていた人間であろうと、少なからず何か理由があるのだろう。 そう解釈したのだ。 他の生徒や教師がこの事実を知れば音石に対して 強い警戒心を抱くだろう。 しかしタバサは違った。ワケがあって『過去』を 知っている彼女だからこそ 音石に対して、警戒することもなかった。 「………ひとつ、質問がある」 「ん?」 だがタバサにはまだ気になることがあった。 それは…………。 「ギーシュとの決闘のときに見せた あれは…………………………何?」 「マジックアイテムを使った魔法だ」 当然嘘である。 音石は食堂でのマルトー達とのやりとりをもとに 自分のスタンドのことを誰に尋ねられたら マジックアイテムと言って誤魔化そうと 昨日の夜から考えていたのだ。 実は言うと音石はタバサが自分を尋ねたときから 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のことを 聞いてくるんじゃないだろうかと予想はしていたのだ。 なぜならここの生徒たちは決闘のこともあり ほとんどが確実に音石にビビッている。 それは昨日すでに音石も確信している。 (まあ、もともとそのつもりでの決闘なのだが) そのため、そんな生徒が自分に話しかけるなんて よほどの物好きか、プライドの高い馬鹿、 チリ・ペッパーの謎を探ろうとしている命知らず。 音石はそう考えていたのだ。 当然、スタンドのことを話しても音石に得はない。 ルイズやオスマンに話したのは彼らを自分なりに 信頼しているからだ。 仮にキュルケにスタンドのことを聞かれても 音石は絶対に岸辺露伴の名言『だが断る』と言い切るだろう。 「嘘」 「なにィ?」 音石の答えをタバサがバッサリと否定した。 「あんな亜人を呼び出す魔法は私は知らない」 「おいおい、世界は広いんだぜ? それに比べ、人間一人が脳みそにぶち込む記憶なんざ たかが知れてるんだ。世の中お前が知らないことなんて 腐るほどあるんだよ……………」 「…………………」 音石は知らないがタバサは俗に言う『本の虫』である。 授業中はおろか、出歩くときも本を凝視している。 今日のような休みの日は一日中部屋に篭って本を 読むのが彼女の楽しみである。 それ故に彼女は成績も優秀、あらゆる魔法の知識を読破している。 マジックアイテムも例外ではない。 だから音石に知らないこともあると言われて プライドが少し……だいぶ……ちょっと傷ついた。 「ならこれだけは教えてほしい」 「………なんだ?」 「あなたは…………どこの出身?」 (痛いトコつくなァーおい) 「ここからずっと遠い所だよ」 「遠いところ?」 「正直言ってオレにもわかんねーんだわ だいぶ離れているせいでな………… だからオレもここら辺の地理をよく知らねぇんだよ」 「そう…………」 音石が今答えられるのはこのくらいが精一杯である。 音石としてはいちいち答えてやる道理はないが、 もしもというときがある。 音石はあとでルイズにこの世界の地理や国のことについて 色々と教えてもらおうと考えていた。 ついでになぜ道理もないのにタバサの質問に答えたかというと 単なる気まぐれである。 「あ、オトイシさん!」 すると突然だれかに名前を呼ばれ、音石は振り返った。 やって来たのはシエスタである。 どうやら昨日と同じように洗濯をしていたようだ。 しかしなぜ水汲み場から広場の隅にきたのだろうか? 音石はそれが気がかりだった。 「おお、おはようシエスタ」 「あ、おはようございます!………あ、そうじゃなくて。 オトイシさん、ミス・ヴァリエールが探していましたよ」 「ルイズが?チッ、仕方ねーな。 んじゃあタバサ、そういうことだから…………いねェ」 音石が振り向きなおってみると いつの間にかタバサはその場を去っていた。 まるで雪みてーな奴だな、現れたと思ったら いつの間にか消えてやがる。 音石はタバサにそんな印象を感じながら、 シエスタと別れ、女子寮のルイズの部屋に帰っていった。 音石は知らない。タバサの二つ名がその印象どおり 『雪風』であることを…………。 そんなこんなで現在音石はルイズの部屋へと辿り着き ルイズの部屋のドアノブに手を掛けた。 【ガチャ】 「あ、オトイシ!ちょっとアンタどこ行ってたのよ!?」 「ギターの練習だ。つーかよ~~… どこに行こうがおれの勝手じゃねーか」 「もうっ!あんた、わたしの使い魔って自覚ある!?」 「はっ、オレにも人権ぐらいあってもいいと思うが?」 「ふん、まあいいわ。それはそうとオトイシ! ゆっくり寝て気分もいいことだし、 今日は街に買い物に行くわよ!」 「お!街か~、いいねぇどんなのか楽しみじゃね~か~ なにか買いたいモンでもあんのかルイズゥ~?」 音石からしてみれば召喚されて以来 この学院を一歩も外に出ていなったので この世界の街というのがどのようなものなのか かの有名なルーブル美術館を観光するかのようで 非常に楽しみで心が躍った。 しかしそれはそうとして、なぜ急に街に行くなどと 言い出したのか。そこに小さな疑問を感じていた。 「わたしじゃないわ、オトイシ。アンタのよ」 「オレの?」 「そっ、さすがに自分の使い魔をずっと藁で 寝かしておくのもなんだし。 今日はアンタ用の枕やモーフを買ってあげるのよ!」 そのルイズの言葉に音石は目を見開かせ、 やがてその顔に笑みが浮かび上がった。 「おいおいおい!なんだなんだァ~ルイズ! 随分とメチャ嬉しい事してくれんじゃね~か~~! こりゃ明日は空から槍が降ってくるぜェ、はっはっは」 「一言多いのよアンタは! そ、それと勘違いしないでよね! 使い魔の面倒を見るのは貴族として 当たり前のことなんだから!」 はいはい、笑みを浮かべながら音石は言葉を返し、 街に行くための支度を手伝い、 部屋を出る際に小さな袋を手渡された。 袋の中を見てみると、音石は「おおっ!」と声を上げた。 小さな袋の中には輝かしい金貨がギッシリと詰まっていた。 「財布を持って守るのも使い魔の役目よ」 「なるほどな」 「あ、それから。街に行くんだからスリとかに気をつけなさいよ?」 「わかった、任しとけ」 音石の頼りがいがあるような態度に ルイズはどこか安心したが、この時彼女は気付かなかった。 自分の使い魔が主人である自分の目を盗んで、 いつの間にか袋の中の金貨を四枚ほど抜き取り、 ポケットにいれていたことを。 音石明。この男、やはり悪党である。 ルイズはそのまま忘れ物がないか確認した後、 音石とともに自室を後にした。 学院の庭をルイズの後に続いて歩いていると 音石はあることに気付いた。 「おいルイズ、学院の門はあっちだろ? どこにいくんだ?」 「街までは結構距離があるから 乗り物を取りにいくのよ」 「乗り物?」 音石の頭に?マークが浮かび上がると 奇妙な小屋に辿り着き、中からシエスタが出てきた。 「シエスタ?」 「ミス・ヴァリエール。頼まれていたモノは 用意しておきました」 「そう、ありがとう。それじゃあここまで連れてきて頂戴」 「かしこまいりました」 貴族であるルイズの前では シエスタも給仕としての顔を覗かせており、 いつものシエスタからは想像も出来ない真剣な顔で ルイズに対処していた。 音石はそんなシエスタにどこか感心していたが、 次に彼女が連れてきた『モノ』を見て、体がぴたりと止まった。 「………馬?」 そう、馬である。二頭のでかい馬。 その小屋は貴族用の馬を置いておく厩舎小屋なのである。 「なあ、まさか……こいつに乗って?」 「そうよ、当たり前でしょ?」 あっさりと返答するルイズに音石の頭と肩はガクッ下がった。 (マジかよ~、なんかもっとこう…… 魔法を使った乗り物を想像してたぜ、 『アラジンの魔法のランプ』に出てくる 空飛ぶ魔法の絨毯(じゅうたん)的なモノをよ~~ うわァ~、一分前のおれ殴りてェ………) 「ちょっとオトイシ。どうしたのよ?」 「なぁルイズゥ~、オレ馬なんて乗ったことねぇんだけど」 「そうなの?あんたがいたトコって馬がいないの?」 「別にいねぇーわけじゃねぇんだが………」 そこで音石は、シエスタに聞かれると面倒だと判断し ルイズの耳元で小声で話しかけた。 「オレの世界じゃ自動車や自転車やらの 移動手段があるから、馬なんて普通つかわねぇんだよ」 「そうなの?」 「別に馬がいないってわけでもねぇんだが………、 趣味とかスポーツぐらいでしか生の馬自体みかけねぇんだよ」 「え、じゃあオトイシ。 あんた馬を直接見たのコレが初めてなの?」 「当たり前だ。こんなのテレビぐらいでしか見たことねぇーよ!」 はあっ、とルイズに口から大きな溜め息が出た。 「もう、仕方ないわね。ええっと…確かシエスタだったかしら? 悪いけどその馬たちを門の外まで連れてきて頂戴。 オトイシ、さすがに学院内じゃなにかとあれだし 学院の外で私が馬の乗り方を教えてあげるわ」 (ご親切ありがてぇんだが、すっげー乗りこなす自信がねぇ……) その後、音石はルイズのご教授の下、 乗馬についてとりあえず基礎から教えてもらい 貴族用の馬だけあってか、馬自身も利口でおとなしく 一時間半かけて音石は少しずつ順応していった。 しかしまあそれでもぎこちないのはお約束。 だがそれでも、わずか一時間半で 馬を走らせる程にまで扱えるようになれるのは、 成長性の高いレッド・ホット・チリ・ペッパーの本体である 音石本人の驚異的な順応性や学習性の高さあってのものだろう。 そんなこんなでやっとの思いで何とか馬に乗って 走らすなどのある程の技術を使えるようになった音石は ルイズの後に続いて壮大な草原を馬で走らせていた。 「はっはー!乗れるようになっちまうと 意外と楽しいじゃねーか!YES!GO!GO!」 「ちょっとオトイシ!あんまり調子乗ってると おっこちちゃうわよ!落馬ってとっても危ないんだから! あ、音石。そこを右に曲がって!」 ルイズよりも先行し、音石は馬を走らせ はじめての乗馬経験でテンションが上がっており 落馬の危険も顧みず、お構いなしに馬のスピードを上げていた。 しかし音石は知らない。 目的地であるトリスティン城下町は 馬で走らせても三時間かかるほどの距離にあることを……。 790 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12 41 40 ID d/YP6Vt0 [12/27] そして一方こちらは、所戻ってトリスティン魔法学院。 そこはタバサの部屋である。 彼女は虚無の曜日を読書で費やすことを日課としており、 音石と出会う少し前に借りていた本を物静かに読みふけっていた。 【コンッ……コンッ……】 その静寂を小さく突き破ったのは 部屋のノック音だった。しかし誰かは見当がつく。 学院の教師に呼び出されるような心当たりはないし、 自分の部屋に尋ねてくる人物など『彼女』以外考えられない。 本来ならせっかくの読書の時間を無駄にしたくないので このまま無視するにかぎるのだが、タバサを違和感を感じていた。 扉のノック音に『彼女』らしい、活発で元気な感じがなかったのだ。 「………どうぞ」 タバサがそう言うと、部屋の扉はゆっくりと開かれ 入ってきたのはキュルケであった。 キュルケを見たとき、表情には出さなかったものの タバサは内心驚いていた。 キュルケの顔が見ているだけでわかるほど とても暗い表情をしていたからだ。 いや、表情だけじゃない。目の下にクマが出来ており よく見ると目元に乾いた後がある。泣いていたのだろうか? 791 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12 42 25 ID d/YP6Vt0 [13/27] 「タバサ……、お願いがあるの…」 「……………何?」 とても暗い声、普段元気活発溢れる彼女からは 想像も出来ない声の低さにタバサは只ならぬものを感じた。 キュルケはタバサのかけがえのない親友だ。 その親友がこんな姿になっているなんて 余程のことがあったのだろうとタバサは察した。 「ルイズと……その使い魔のオトイシが 城下町に買い物に行ったの(シエスタから聞いた) 急いであの二人を追いかけないといけないのよ だからお願い。貴方の風竜、シルフィードの 力を貸してほしいの、わけは………聞かないで」 「…………………」 タバサは無言のまま部屋の窓を開き、口笛を鳴らした。 するとどこからか青い肌をした竜、タバサの使い魔 シルフィードが現れた。 「ありがとうタバサ」 タバサがシルフィードに跨ると、キュルケもタバサの後ろに跨り 学院から飛び上がった。向かう先はトリステイン城下町……。 一方その二人、ルイズと音石は トリステイン城下町の大通り、ブルドンネ街に辿り着いていた。 「…………………………………」 そして音石は、その一角の壁に手でもたれかかり 背中の腰辺りをさすっていた。 「もう!言わんこっちゃないわね! 乗馬初心者のあんたがあんな長い距離を 馬でとばしまくったら、そりゃ腰も痛めるわよ!」 「…………面目ない」 さすがに音石も言い返す言葉も見つからなかった。 調子に乗って墓穴を掘ってしまうのは彼の悪い癖である。 実質、三年前の杜王町の一件でも この癖が原因で散々な目にあっている。 音石自身もこの癖には反省しようと努力してはいるのだが 元々彼の性格上の問題もあってか、なかなか直せるものでもない。 しかし言い換えれば、そこが彼の魅力のひとつなのかもしれない。 「………もしまだ痛むんだったらここで待ってる? 私ひとりで買い物済ませるから………」 「……いや、大丈夫。だいぶマシになった」 「無理してないでしょうね?」 「無理なんてする必要があるかっての」 音石は大きく背中を仰け反ると、背中からポキポキッと 気持ちのいい音がなり、それと同時に腰の痛みを引いていった。 「そう、ならいいわ。それじゃいくわよ! はぐれて迷子とかにならないでよね」 ルイズが街中を歩き出し、音石もその後に続く。 しかし人ごみを進んでいるうちに音石はあることに気が付いた。 「それにしても随分と道が狭いな。ここって大通りなんだろ?」 音石が向こう側の壁とこちら側の壁を 目で測ってみると、だいたい5mぐらいしかない。 「そうよ、あんたの世界に比べたら狭いかもしれないけど こっちの世界のわたしたちからしてみれば コレぐらいが普通なのよ」 「まっ、そんなもんなんだろーな。認識の違いなんて」 「そんなもんなんでしょーね。あ、それはそうとオトイシ! ちゃんと財布持ってるわよね?まさか取られて無いでしょうね? いくらアンタでも魔法を使われたら一発なんだから 気をつけなさいよ」 「魔法?おいおい、魔法を使うって事は 貴族なんだろ?なのに盗みなんてするのかよ?」 「貴族にもいろいろいるのよ。 いろんな事情でその地位を追いやられて 傭兵や犯罪者に成り下がる奴もいるのよ」 「つまり没落貴族ってやつか? やれやれ、この世界の世も末だな」 何気ない会話を繰り返していると 一軒の建物に辿り着いた。服などが飾られてる ところから予想するとどうやら衣服店のようだ。 なぜ服屋に?とルイズに聞いてみると どうやら音石のための変えの服も注文してくれるそうだ。 「いらっしゃいませ貴族様」 店に入ると、早速店員がルイズに 貴族相手の丁寧な接客を行いはじめた。 「今日はどのような御用で?」 「使い魔のための服をいくつか注文したいの」 「こちらの御方ですか、かしこまいりました どのような衣装をご希望で?」 「そこは彼に任せるわ。オトイシ、どんな服がほしいの?」 「そうだな………」 音石は顎に手を置き、店にある衣装を眺め考えるが この世界の時代が時代なだけあってか はっきりいって、これだ!とくるようなモノはなかった。 「オレが今着てる服と同じやつは作れるか?」 音石がそう言うと、その店員は音石に 「失礼」と呟き、音石が着ている服を 手触りで調べ始めた。 「………なかなか変わった作りと材質ですね」 「ワケあって遠い地方から来てんだよ で、作れんのか?」 「ええ、少し手間取るかもしれませんが これならなんとか作れるでしょう。 ですが材質が材質のため少々値が張るかもしれませんが……」 「いいかルイズ?」 「ええ、お金はある程度多く持ってきてるから大丈夫よ でもいいのオトイシ? せっかくなんだしなんか別の服を買っても……」 「いらねぇよ、それにコイツ(今着てる服)には けっこう愛着があんだよ。これからなにが起こるかわかんねーし 予備に何着か持ってたって損はねーだろ」 「まっ、あんたがそれでいいなら もう何も言うことはないわ。 ………それじゃ、服が出来次第ここに送って頂戴。」 「かしこまいりました」 ルイズがなにかを書き記したメモと一緒に代金を支払い、 音石と共にその店を後にし、 今度は別の店で枕やモーフを購入し、 服と同じように学院に送るようにと注文した。 やることも一通り終え、二人は現在街を出ようと移動していた。 すると音石はあることに気が付く。 「なあルイズ、この裏路地抜けていけば 近道になるんじゃねぇのか?」 音石の言葉に、ルイズは脳裏にいままで記憶している この街の構図を展開し、道を辿らせる。 「確かに………、行けるかもしれないわね 事が早く済ませるのには越したことないわ 行きましょオトイシ」 ルイズ自体はその裏路地に入った経験はないが 記憶している街の間取り的に考えると なかなかの時間短縮になると予想したからだ。 しかしこのような薄汚い路地裏に足を入れるのは なにがおこるかわからないと抵抗はあったが、 自分にはオトイシという優秀な使い魔がいる。 そう考えると些細なことだと自然に思ったのだ。 そして路地裏を進んでいくと、四辻の道に入った。 「えっと、この道があーであの道があーだから……」 ルイズがその四辻でどの道に進めば 一番の近道になるか考えている一方、 音石はあくびをしながら路地裏の周りを 興味深そうに見回していた。 薄汚い野良猫、道端に散乱しているゴミ屑 そして殺風景な風景。 こうも絵に描いたような路地裏も逆に珍しい。 するとだ、音石の目にとある看板が目に入った。 その看板はファンタジーの剣の様な形になっており なにか文字が書いてあったが、 生憎音石はこの世界の文字が読めないためルイズに質問した。 「なァなァルイズ」 「ん、なによ?」 「あそこの看板、剣みてぇーな形してっけど ……もしかして武器屋か?」 「あら、よくわかったわね? 確かに武器屋だけどそれがどうかしたの?」 「行ってみよーぜ!」 「はぁッ!?なんでよ!? あんたなんなに強い能力もってるくせに 剣なんて持ってどうするつもりよ!?」 「別にほしいなんて一言も言ってねぇーだろー? 俺の世界っつーか国にはあんな武器屋なんて どこにもねぇからよ。興味あんだよ なあルイズいいだろぉ?ちょっと見るだけでいいからさ~」 「……はァ、仕方ないわね。 まっ、まだ時間には少し余裕あるし今回は特別よ?」 よっしゃ!と音石は歓喜の声を上げ、 早歩きでその武器屋に向かった。 店の中に入ると、壁に剣や槍が飾ってあり つぼの様な容れ物にもあらゆる武器が収納されている。 おお!すげェ!っと日本ではまず見れない光景に 音石は興奮を隠せず、店の見渡した。 すると店の奥からどこか胡散臭そうな主人が現われた。 797 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12 47 10 ID d/YP6Vt0 [19/27] 「これはこれは貴族様! いらっしゃいませ、当店に一体どのようなご用件で?」 「別に用って程じゃないわ、ウチの使い魔が どうしても見たいっていうから連れてきただけよ」 「は、はァ。さようでございますか………」 店主は内心舌打ちをした。 (ウチの店は見世物じゃなく、商売をやってんだ! せっかくの貴族の客だってのにこのまま帰してたまるか! この世間知らずの貴族からたっぷりと金を搾り取ってやる!) 悪巧みを考えている店主の視線がルイズから 店に飾ってある武器を眺め回っている音石に変わる。 (このにいちゃんがこの貴族の使い魔だってんなら この貴族よりもこっちをうまく口車に乗せたほうが 効率がいいかもしれねぇな…………… 見たところ武器に興味があるようだし うまくいきゃあこの使い魔を通してあの貴族から ありったけの金を搾り取れるぜ!!) 「お客様、武器に興味がおありで?」 「ん?ああ、俺がいたところじゃあ 剣みてぇな武器なんて売ってねぇからな」 「ほっほー左様で……、どうです? せっかくですしなにかご購入なさってはいかがです?」 「必要ないわよ」 店主のあくどい接客にルイズが横槍を入れた。 さすがにその言葉に店主も戸惑ったが、 逆にそれを止めたのは音石だった。 「まぁまてよルイズ、このおっさんが 言ってることも一理あるぜ? せっかく来たんだし、なにか記念に買って帰るのも 悪くはねぇだろ」 「あんたに武器が必要だとはとても思えないんだけど…」 「世の中『もしも』って時がいくらでもあるんだ その『もしも』に備えとくのもありだと思うぜ?」 音石が言う『もしも』とは スタンドの射程距離のことである。 レッド・ホット・チリ・ペッパーは 電線などによる発電物がない限り、 その射程距離は一般の近距離パワー型と ほとんどかわらない。 ついでに近距離の場合の レッド・ホット・チリ・ペッパーの パワーの源である電力は音石の 精神力(スタンドパワー)によって補われている。 それ故にこの先この世界でどんなことが 起こるかわからない以上、ソレに備える必要がある。 例えば何らかの原因でまた貴族と対峙したとしよう、 彼らは基本、距離を置いての魔法を行使する。 コレが致命的であり、こちらのスタンドの射程距離に 相手が入らない限り、こちらは打つ手がない。 つまり音石は遠距離に対応できる武器がほしいのだ。 これはSPW財団から聞いた話なんだが かつて自分が『弓と矢』を使って生み出した二匹の鼠、 その二匹はどうも遠距離のスタンドを使っていたそうだが 仗助はどうもベアリングとライフルの弾を使って スタンド射程を補い、コレを撃退したそうだ。 その例もなる。用心に越したところで 別に損もないだろうと判断したのだ。 問題はどんな武器にするかだ。 「弓……いや、ナイフとかないか? こう……投げる用に有効なやつ」 「かしこまいりましたお客様、少々お待ちを」 店の奥に移動した店主は影で音石たちを嘲笑った。 (やりぃー!うまくいったぞ! この勢いでどんどんせしめ取ってやるぜ!!) 「これぐらいしか置いてありませんが如何でしょう?」 店奥から戻ってきた店主は、 木箱のケースに収納されているナイフを持ってきた。 音石はへぇ…っと呟き、ナイフを手に取り ダーツを投げるような仕草でナイフを動かした。 「お気に召しましたかな?」 「ああ、なかなかいいじゃねぇか。気に入ったぜ」 「そいつぁよかった。どうですお客様? そのナイフのついでにこちらの剣も如何です?」 すると店主はカウンターの下から、大剣を取り出してきた。 「我が店一番の業物で、かの高名なゲルマニアの 錬金魔術師シュペー卿の傑作で。 魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさあ どうです、美しい刀身でしょう? 今ならお安くしておきますよ?」 確かに見事な大剣である。宝石などもちりばめられ その美しさを引き出している。 しかし少々度が過ぎる感じがある。 その大剣を見た瞬間、特に興味もなく 退屈そうにしていたルイズがはじめて その大剣に興味を示した。 「あら、ほんとに綺麗な剣ね。一体いくらなの?」 「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千ってところでさ」 「高すぎるわ。立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの もっと安く出来ないの?」 「貴族様ぁ~、勘弁してくだせぇ ウチも生活がかかっているんですよ」 (別に剣はいらねぇんだがなぁ) いつの間にか店主の交渉対象がルイズに変わってしまい 音石は何気なく陳列している武器を1つ1つ見ていると とある一振りの剣に目が止まった。 鞘の形状からすると日本刀のように反りの入った剣だった。 音石はなにか引き寄せられるかのように その剣に手を伸ばし……その剣を掴み取った。 「こいつはおどれぇーた、声もかけてねぇのに 俺をこの大量の武器の山から選び取るとは……」 すると突然、どこからか低い男の声が聞こえた。 音石は周りを見渡すが、自分とルイズと店主以外 この武器屋にはだれもいない。 「どこ見てんだよ……、あ~なるほどな 選び取れる筈だぜ。お前使い手か」 音石は耳を澄まし、声の発信源を探ってみたが その声はどうやら自分が持っている剣から放たれているようだ。 「剣が………しゃべってんのかッ!?」 「おうよ!オレはデルフリンガー様だ!!」 「それってインテリジェンスソード?」 「なんだそりゃ?」 「簡単に言えば魔法で人格が宿ったマジックアイテムよ」 「ふ~ん。インテリジェンスソードね~」 「こらデル公!!お客様に変なこと吹き込むんじゃねぇ!!」 「うっせえクソおやじ!!おいお前! 出会ってばっかでなんだが、お前オレを買え!!」 「はっはっは!こいつはおもしれぇー。 剣が売れ込みをしてるぞ!!」 「ちょっとオトイシ、あんたまさかその剣 買うつもりじゃないでしょーね!? インテリジェンスソードなんてやめなさいよ!! うるさくてかなわないわ! それにこの剣、よく見たら錆だらけじゃない そんなのよりこっちの大剣のほうがよっぽどマシよ!」 「世間知らずの貴族の娘っ子には 俺様のすばらしさなんてわかんねーだろーよ!! あんな見かけだけのデカイ剣なんかより オレを買ったほうが絶対得だぞ!!」 剣と人間との口論のなか、音石は少し考え あるいい方法を思いついた。 「なぁおやじ、この大剣は鉄も一刀両断できるんなら 当然それなりに頑丈なんだよな?」 「え?……あ、ええああそりゃあもちろん! なんたってこの剣は【パキィンッ!】かの有名な……え?」 店主は一瞬何が起きたのか理解できなかった。 しかし次第に何が起きたのか理解していった。 そう、高値で売りつけようとしていた大剣が 突然真っ二つに折れてしまったのだ。 「どうやらなまくらだったようだな」 「な、な、なァァーーーーーーーーッ!!? な、な、なんで!?け、剣が勝手に!?」 店主はせっかくの品物が使い物になれなくなった現実に 理解できないまま悲痛の声をあげていたが ルイズは音石がなにをしたのかしっかりと理解していた。 レッド・ホット・チリ・ペッパーを発現させ 中指で大剣をでこピンするかのように打ちつけたのだ。 その結果、大剣は真っ二つに折れたのである。 「ちょ、ちょっとオトイシ。あんたなんで」 「おいおいルイズゥ~。剣を買う買わない以前に オレにはコイツ(スタンド)があるんだぜ~~? 仮に剣を使うんなら、コイツの攻撃に 耐えられるような剣じゃねぇと意味がねぇだろ~?」 「お、おめー、今のは一体?」 手に持つデルフリンガーからも驚きの声が上がった。 「さすがに魔法で作られた剣だけあって 見えるようだな?さ~て…果たしてお前はどうかな?」 音石のレッド・ホット・チリ・ペッパーは デルフリンガーの傍に近寄り、 中指を親指で押さえ、でこピンの体勢にはいる。 「え!?お、おい!ちょっとまて…」 【ガァアアアンッ!!】 「いってえええええええっ!!!」 レッド・ホット・チリ・ペッパーの強烈なでこピンで デルフリンガーの刀身は大きな悲鳴を上げたが なんと剣は折れることなく、それどころかヒビも入っていなかった。 「………なるほど、上出来だ」 「あ、あんた。時々怖いぐらい無茶するわね……」 「褒め言葉として受け取っておくよ」 「で、でもやっぱりわたしの使い魔として もっと見栄がいいモノがいいわよ~、例えばそうね~…」 するとルイズが許可もなく店の奥に ずかずかと入っていった。 「え?ちょ、ちょっと貴族様!?」 ショックで落ち込んでいた店主も ルイズの勝手な行動に我に返り ルイズに制止の声をかける。 それでもルイズは足を止めず更に店の奥へと入っていった。 自分が貴族であることを鼻にかけているのだろう。 「しっかし汚い店ねぇ~~、掃除くらいしなさいよねぇ」 ルイズは自分のことを棚に上げながら 店に罵倒を浴びせ、店の奥の貯蔵庫を見回りはじめた。 するとだ……、散乱してる武器の中から 一本の剣がルイズの目に止まった。 ルイズはその剣を見た瞬間、一直線にその剣に歩み寄った。 「こういった薄汚いところに上等な掘り出し物があるって 以前だれかに聞いたことあるけど、 案外その通りなのね…。この剣、とても美しいじゃない こう言った剣こそ私の使い魔の持つものとして 相応しいわ…………。でも本当に美しいわね…… いっぺん抜いてみようかしら………」 ルイズはそのままゆっくりと その剣に歩み寄り、手に取ろうと手を伸ばした。 「ちょっと貴族様!さすがに困りますぜ!! ………ッ!?あァーーやばい!!! その剣を手に持っちゃだめだァーーーーーッ!!!」 ルイズを止めようと追いかけて姿を現した店主が ルイズがその剣を手に取ろうとした瞬間、 大声で静止の声をあげた。 しかし…………時既に遅し!! 店主が声を上げたときには ルイズはその剣を『引き抜いていた』! 店主に続き音石もデルフリンガーを手に ルイズを追いかけたが音石はルイズの顔を見た瞬間息を呑んだ その顔はまるで別人で、目には殺気が充満していた。 ルイズはその剣を手に振り返り 音石に向かってある言葉をささやいた。 「お前の命………、貰い受ける」 その剣にはデルフリンガーのように名前があった。 その名はアヌビス それ以上でもそれ以下でもなく それがその剣の名前だった。