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前ページ次ページ無情の使い魔 早朝、朝食の給仕の準備に向かうシエスタは道中、辺りをちらちらと一瞥している一人の少年の姿を見かけた。 見慣れない姿であるが、その様子からして何かを探しているようだ。 「あの、何かお探しものですか?」 彼はシエスタの声に反応して振り向く。 (うわっ……すごい綺麗な人……) 思わず息を呑む。貴族の人間に負けずとも劣らない端整な顔立ちをしており、何とも言えない威圧感と張り詰めた雰囲気が感じられた。 そして、氷のように冷たい瞳……。ぞくりと身震いする。 しかし、彼はどうやら平民のようだった。自分と同じだ。 彼は言葉ではなく、行動で意思表示をした。 小脇に抱えていたものを差し出してくる。どうやら洗濯物のようだ。 そして、その事からどこか水場を探しているのを察する。 「あ……こ、こちらになります。どうぞ」 まるで本物の貴族のような威圧感に少し恐れながらも、シエスタは彼を案内する。 「あの、もしかして、ミス・ヴァリエールの召喚したという使い魔でいらっしゃいますか?」 黙々と洗い物をする彼の横に立ち、問いかける。すると、彼はくくっとゆっくり頷いていた。 (喋れないのかな) 何一つ語ろうとしない彼にシエスタは少し不安を感じつつもさらに話しかける。 「わたし、シエスタと言います。ええと、あなたは……」 「キリヤマ、カズオ」 (ほっ……良かった) 「わたし、ここで給仕をしているんですけど、あなたの事で話題が持ちきりですよ。人間を召喚するなんて初めてだって」 「お前も、魔法が使えるのか」 「いいえ。わたしはキリヤマさんと同じ平民ですから。……あ、せっかくですからわたしも手伝いますよ」 と、言ってシエスタも手伝いだす。桐山は特に何を言うでもなく黙々と作業を続けている。 そして、その仕事の上手さと速さはシエスタにも勝るものだった。まるで以前にもこんな事をしていたようにも見えてくる。 「あの、キリヤマさん。もしかして、前にこんな事をしていたんですか?」 「いや……このような洗濯をするのは初めてだ」 では、どうしてか。そう問うと、「お前を見て覚えた」と言ってきた。 それを聞いてシエスタは驚いた。今、自分もやっている作業を僅かな時間で見ただけで覚えてしまうなんて。 シエスタの手伝いもあって、洗濯はすぐに済んだ。 「他にも何かございましたら、何でもおっしゃって下さいね。同じ平民同士、がんばりましょう」 愛想よく笑ってみせるも、桐山は相変わらずの無表情と冷たい瞳のままこくりと頷くだけだった。 (ちょっと怖いなぁ……) しかし、外面だけで相手を判断してはいけないことだ。これから少しずつ、彼と話をして打ち解けていけばよい。 桐山はルイズの部屋に戻り、洗い終わった洗濯物を干す。 そして、ベッドの上でシーツを蹴散らしてだらしなく寝ているルイズの肩を揺らし、起こそうとする。 「う~ん……あと五分……」 と寝ぼけるだけで起きようとしない。 桐山はくくっと小首を傾げた。 それだけで普通にやったのでは起きない事を判断し、桐山は羽織っている学ランの制服の内ポケットの中からスタンガンを取り出す。 バチバチと一瞬、電撃を迸らせてみた後、再びベッドの横に立つ。 そして―― 「ぎゃん!」 ネグリジェの上から腿にスタンガンを押し付けた途端に悲鳴を上げて飛び起き、ベッドから転げ落ちるルイズ。 起きた事を確認し、桐山はスタンガンをしまうと前を開けたままの学生服に腕を通し、踵を返す。 「……あ、あああああんた、ねぇ……!」 立ち上がろうとしても足が痺れて動けない。ルイズはベッドに這い上がりつつ物凄い剣幕で桐山を睨みつけるが本人はそれに意を返さずデイパックの中を漁りだしている。 「ご、ご主人様に向かって何て起こし方をするのよ!! 使い魔のくせして!! そんな事して良いと思ってるの!?」 「一度、お前を起こそうとした。だが、起きなかった」 仕方がなかった。そう言いたそうだ。 「もっと他に起こし方はあるでしょうが!! この、馬鹿ぁ!!」 枕を掴み、投げつける。 しかし、桐山はすいと体を少し動かすだけでかわし、扉に乱雑な音を立てて当たるだけだった。 「バツとして今日は朝飯抜きよ!」 その後、バケツに水を汲むよう命じても、着替えをさせるように命じても桐山は黙々とまるで人形のように作業をこなしていた。 桐山の態度にイラつくルイズは作業をしっかりこなす彼を本来なら少しは褒めてやっても良いかとも考えた。 しかし、何故、彼が何も言ってこないのかが分からず逆に不愉快で、そんな事は言えない。 朝食を抜き、と言われても桐山は別に気にしてはいなかった。 ここで例のパンが役に立つ。と、言ってもあまり味気はないのだが。 アルヴィーズの食堂の隅でパンを齧っている桐山は自分の私物である本「人体解剖学」を読んでいた。ルイズから「あたしの食事が終わるまで待っていなさい!」と命じられてそうしているだけである。 「何をしてらっしゃるのですか?」 そこに声をかけてきたのはシエスタだった。 桐山はちらりと彼女を一瞥する。 「ルイズに待てと言われて待っている」 「……あの、もしかしてそれがキリヤマさんの食事ですか?」 ほとんど食べ尽くしているパンを見てシエスタは呆然とする。 桐山はこくりと頷いた。 「そんなパン一つだけなんて駄目ですよ。よろしかったらわたし達と一緒にどうですか? 賄い食しか出せませんけど」 桐山は本を閉じると、了解したのかシエスタの後を付いていこうとする。 「ちょっと待ちなさい」 そこで呼び止めたのは食事を終えたルイズだった。 「あんたは今日朝飯抜きだって言ったでしょう! 勝手にそんな物を貰ったりして何してるの!」 桐山の私物であるパンを指差し、ルイズは叫ぶ。 別に貰った訳ではないのだが、ルイズにはそう見えたらしい。 「あんたも、人の使い魔に勝手に餌付けしないでよ! 躾にならないじゃない!」 と、今度はシエスタを睨んで喚いた。そして、ふんと鼻を鳴らして食堂を後にしていく。 しゅんと気落ちするシエスタ。しかし、桐山の方は気にするでもなく相変わらず無表情だ。 「……お昼にはちゃんとを用意しておきますので、来てくださいね」 ぼそりと桐山に言い添え、シエスタは厨房へと戻っていった。 桐山は残ったパンを一気に飲み干し、ルイズの後を追う。 「あたしが戻るまで、あんたは部屋の掃除をしてなさい!」 追いつくと、相当苛立った様子で桐山に命じていた。 桐山が部屋の掃除をすぐに終え、読書をしていると突然ルイズがやってきて彼を無理矢理外へ連れて行った。 連れて来られたのは瓦礫の山と化していた教室で、錬金の実習でルイズが教師や生徒を巻き込む大爆発を引き起こしたものである。 そして、その片づけを桐山に命ずるルイズは机の上にふんぞり返ったまま彼を見ていた。 桐山は何一つ文句を言わず、黙々と作業を続ける。 従順な使い魔だ、とも思ったが彼が自分に対して文句はおろかほとんど何も言ってこないまま仕事を続けるので、決して使い魔と信頼関係を築けている訳ではない事も察している。 確かに、ムカつく態度ではあるがしっかり信頼関係を築かなければ何にもならない。 「ねぇ、あんた何で何も文句を言わないの? 普通平民のあんただったら、何か一つは言うはずよ」 しかし、桐山は全くの無反応。 まるで自分が拒絶されているような気がして余計にルイズの癪に障る。 「何とか言ったらどうなの!」 「何故、爆発が起きた」 ようやく答えたその一言にうっとルイズは息を呑む。 そして、搾り出すように言う。 「……錬金に失敗したのよ。あたしは昔から、何一つ魔法を成功させた事がない……。それで付いたあだ名は「ゼロ」のルイズ……。 ふんっ、笑ったらどう? 貴族なのに未だに空も飛べないし、魔法一つ使えないんだから。あんただって、あたしの事を馬鹿にしてるんでしょ?」 少し自暴自棄気味に自嘲するルイズ。 しかし、桐山は気にするでもなく手際よい片づけを続けている。もうほとんど終わりかけていた。 そして、ルイズは気付かなかったが桐山は小さなガラス片をいくつか回収し、別の小さな袋に詰めている。 「……何で、何も言わないのよ!」 「俺は、お前の使い魔。それだけだ」 一切の感情がこもっていない声で彼は返してくる。 興味など無い、そうも聞こえてくる。 それが余計に悔しくて、ルイズは喚くのを通り越して泣き出してしまった。 「終わった」 それすら桐山は意に返さず、淡々と告げてくる。 「……終わったなら、さっさと部屋に戻りなさい!!」 目に涙を浮かべつつ叫ぶと、桐山は用は済んだと言わんばかりに教室を後にしていった。 「人間って脆いものだな」 教室から去る寸前、桐山は一言そう口に出していた。 昼になり、桐山は朝にシエスタに言われた通り食堂の裏にある厨房へと赴く。 「あ! お待ちしてましたよ! キリヤマさん!」 入るなり、シエスタが満面の笑みで桐山を出迎えてくれた。そして、料理長を呼ぶ。 「お! お前さんが貴族の使い魔になっちまったっていう奴かい?」 マルトーの言葉に、無言のまま桐山は頷く。 「何でい、元気がねえな! よし、お前さんの元気が出る特製料理を作ってやるぜ! 待ってな!」 豪快に笑いながらマルトーは仕事場へと戻っていき、シエスタは桐山をテーブルに案内する。 そして数分後、賄い食とは思えない豪勢な料理が桐山の前に出てきた。 桐山は無言のまま食器を手にし、食していく。 「どうだい? 美味いか?」 マルトーが言うと、桐山はこくりと頷く。 元々、彼は香川県でも指折りの大企業の御曹司。これくらいの食事は常日頃から食してはいたので素直なものだった。 「おかわりもありますから、欲しい時は言ってくださいね」 と、桐山の横でシエスタが言う。 (ちょっと怖いけど……大丈夫、大丈夫よ) 上品に食事を続ける桐山を見ていて、相変わらず人形のように冷たい表情にまた思わず身震いしてしまった。 しかし、彼は平民だ。同じ平民同士、ここでちゃんと仲良くしておかないと。 「あ、もう良いんですか?」 「礼を言う」 無機質ながら感謝されて、シエスタは嬉しさを感じていた。 「またいつでも来てくださいね」 その後、シエスタは食堂で貴族達にデザートの配膳をしていた。 そこには桐山の姿もあった。 自分達の仕事だからやらなくても大丈夫、だと言ったが桐山は「いいんだ。少しくらいは手伝ってみてもいいと思った」 そう言って仕事を手伝ってくれた。 (優しい所もあるんだな。キリヤマさん) と、さらに嬉しく感じていたが桐山は別に好意で手伝っている訳ではない事をシエスタは知らない。 桐山が配膳の手伝いをしている所を多くの生徒達が見かけていた。 そして、彼がいつ自分の所へ来るのかと恐怖に震え上がる生徒が多数存在した。 特に、一年の生徒達は彼がデザートを配膳しに近くへ来た途端、びくりと反応し極端に怯えていた。 配膳の手伝いが終わり、桐山は壁に寄りかかったまま読書を開始していた。 桐山に怯えていた生徒達は彼が読書に夢中になってくれた事で安堵に溜め息を吐いている。 少しすると、何やら食堂内が騒がしくなる。桐山は意に返さず、読書に集中する。 「すみません! すみません!」 「いや、許せないな!」 シエスタの必死そうな声と共にキザったらしい男の声も聞こえてくる。 「貴族である僕はあの時、知らないと言った! それを受けたら平民である君は気を利かせるべきではなかったのかな? まったく、これだから平民は……」 侮蔑の混じった声が響く。 それに対してシエスタは先程から頭を下げて「すみません」と言うばかりだ。 桐山は本を閉じ、声が聞こえてくる群集の元に行くと、 「静かにしてくれないか」 張り詰めたような声に、シエスタと彼女に八つ当たりをするギーシュを含めた聴衆が桐山の方を向く。 「な、何だね君は?」 「キ、キリヤマさん……! 駄目です!」 「静かにしてくれないか。……今、そう言った」 彼の言葉が今一理解できず、ギーシュは顔を顰める。 「こちらは今、取り込み中なのだよ! 引っ込んでいてくれたまえ!」 (な、何なんだ……こいつは……) ギーシュは目の前にいるのが平民であると理解していたが、その氷のように冷たい無情の瞳に思わずゾクリとした。 「聞こえなかったのかね? 早く、立ち去りたまえ!」 桐山の威圧感に負けじと叫び、腕を振るギーシュ。 しかし、桐山はじっと冷たい視線をギーシュに向けたまま立ち尽くしているだけで従わない。 「ああ……そういえば、君はミス・ヴァリエールが召喚した使い魔だったな。使い魔の躾がなっていないとは、さすがにゼロのルイズだ」 と、侮蔑を込めた言葉を吐く。しかし、桐山はそれに意を返さない。 「何とか言ったらどうなのだね!?」 桐山の前まで詰めより、間近で彼の顔を睨む。 すると、彼はすぅと目を閉じ―― 「ぶっ」 バン! という大きな音が響き、低いうめき声と共にギーシュの体は軽く錐揉みをし、床に叩きつけられた。 桐山の手には人体解剖学の本があり、それでギーシュを殴打したのだ。 その衝撃で歯が一本抜け落ち、コロコロと床に転がり落ちる。 「へ、平民が……、き……貴族に対して、手を出す、とは、良い度胸をしているな……」 先程、ケティに叩かれていた右の頬ごと側頭部を殴打されたので押さえつつ、立ち上がったギーシュはぺっと血を吐き捨てて桐山を睨みつける。 「決闘だ!」 杖を突きつけ、叫ぶ。しかし、桐山は無表情のまま小首をくくっと傾げるだけだった。 一部の生徒達は、桐山から発せられる異様な威圧感に恐怖を覚え、身震いしていた。 ただの平民のはず。それなのに、貴族とほとんど変わらない……いや、それ以上のオーラを彼は発していた。 「ヴェストリの広場で待つ、逃げることは許さない!!」 しかし、ギーシュはそれには全く気付いていない。 前ページ次ページ無情の使い魔
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 「マコトを捨てて」 「それはもう死んでる」 「埋葬してやった方が彼のためだ」 「正直言って気持ち悪い」 「というか怖い」 などと言えるはずがない。言ったら言葉はノコギリで襲い掛かってきそう。 そうしたら魔法の使えない自分に勝ち目なんて無い。 だからルイズは我慢するしかなかった。 我慢できた理由は、責任。 自分が言葉を召喚してしまったからとか、コルベールの腕切断とか。 そういうものの責任を、使い魔の主として背負っているから、我慢できている。 つまりルイズ以外の人にとっては到底我慢できる問題ではない、という事。 ――ファイヤーボール等で鞄ごと焼却処分すればよくね? ――オールド・オスマンが固定化かけたらしいから無傷じゃね? ――あのジジイ、余計な事しやがって。油かけて燃やせばいけるんじゃ? ――仮に燃やせても、黒コゲ生首か頭蓋骨を持ち歩くだけじゃね? ――相手は平民なんだからシンプルに命令すればよくね? ――じゃあお前が命令してこい。腕を落とされてもいいならね。 ――風の魔法で鞄を奪って、中身をどっかに埋めちゃおうよ。 ――あ、それいい。そうしようそうしよう。 マコトを捨てて、とは言えなかったけれど、床で寝なさい、は言えた。 言葉は文句ひとつ口にせず、毛布一枚で床に横たわる。 「床は硬いですね。でも大丈夫、誠君は私が抱いていて上げますから痛くありませんよ」 どうやら言葉は自分がどんな扱いを受けようと構わないようだ。 『誠と一緒』という条件さえ満たしていればの話だが。 床で寝なさい、がうまくいったから、誠を鞄に入れっぱなしに、と言ったら断られた。 「部屋にいる時は、誰の視線も気にする事なく、誠君と一緒にいられますから」 私の視線も気にしてよ、とルイズは嘆く。 とはいえ、これで寝起きにいきなり目覚まし生首を目撃しなくてすむ。 安心して眠ったルイズは、完璧に油断していた。 「ルイズさん、朝ですよ。起きてください」 起きた。 目の前に言葉がいた。 縦にふたつ、顔が並んでる。 上は言葉、下は誠。 「……そう来たか」 言葉は誠を抱いたままルイズを起こしたのだ。 ルイズは朝の洗顔のついでに、ほろりと涙をこぼすのだった。 朝食や部屋の掃除など、滞りなくすませた言葉は、 ルイズの授業に同席するため教室に向かっていた。 言葉は授業が楽しみだった。 異世界の魔法学院で、魔法の勉強をするというのもそうだが、 何より誠と同じ教室で勉強できるというのが嬉しかった。 以前はクラスが違ったせいで学校ではあまり一緒にいられず、 お互いのクラスには、言葉と誠を引き離そうとするクラスメイトがいた。 西園寺世界。清浦刹那。澤永泰介。加藤乙女。他にも、他にも、他にも。 でもここにはそんな邪魔者はいない。いないから、安心していられる。 「ウインド・ブレイク」 背後から突然の突風。 風は鞄を狙って吹き飛ばしたため、言葉はその場に転ぶ程度ですんだ。 だが。 「きゃっ……ま、誠君!」 言葉は教室に向かう廊下では他に人がいなかったため、 鞄を開けたまま持ち歩き、中にいる誠とお喋りしていたのだ。 だから、開いたままだった鞄から、誠の、首が。 「うわぁっ!?」 予想外の事態に、風の魔法を使った生徒が驚く。 言葉はその生徒には目もくれず、吹き飛んだ誠の首を拾いに走る。 だが廊下の前方の曲がり角に待機していた別の生徒が、再び風で誠を吹っ飛ばす。 教室とは反対方向に転がって行く誠。 言葉は、理解した。 ココニモ邪魔者ガ、イル。 濁った双眸が鋭さを増し、言葉は放置された鞄を掴みながら角を曲がって走る。 誠の首は宙に浮いて移動していた。 きっとレビテーションという魔法だと言葉は判断し、誠の首を奪おうとするメイジを探す。 敵は複数。背後からの一人、曲がり角の一人、今レビテーションを使っている一人。 計三人。 殺す。 背後からの一人と曲がり角の一人は顔を見ていない。 でも殺す。 レビテーションを使っている一人は進む先にいる。 まず殺す。 言葉は、鞄の中に右手を突っ込んだ。 そして鞄をその場に捨て去る。 右手には、誠の首と一緒に鞄に入っていた、ノコギリ。 左手には、ルイズによって刻まれた使い魔のルーンが、輝いて。 疾風の如く言葉は廊下を駆ける。 その速さに驚愕したレビテーションの使い手は、慌てて次の奴にバトンを渡す。 あらかじめ開けておいた窓から、誠の頭を放り出したのだ。 予定では、これでもう言葉は追いかけてこれないはずだった。 後は広場にある植木の下に掘ってある穴にこいつを放り込んで埋めるだけ。 「あ、来た」 金髪ロールの愛らしいモンモランシーは、窓から放られた鞄をキャッチしようとした。 そこで、あれ? と首を傾げる。 鞄にしては、ちょっと小さい、というか丸い。 クルクルと回転しながら飛んでくるそれに向けて、何となく手を伸ばすモンモランシー。 すると吸い込まれるように鞄(?)はモンモランシーの腕の中におさまった。 何だろうこれ? 見る。 灰色の顔。 「ひっ、ひぃ……ひゃぁあああぁぁぁっ!?」 悲鳴が学院に響いた。 今日の授業は何だか妙だった。 授業を休んでる生徒が四人もいる。 その中にモンモランシーも含まれている事もあって、 彼女と友達以上恋人未満な関係の男、青銅のギーシュはちょっと心配していた。 すると。 「ひゃぁあああぁぁぁっ!?」 悲鳴。この声は、モンモランシー? 真っ先に反応したのはルイズだった。 そろそろ来てもいいはずの言葉が来ていない。そして悲鳴。 また何かやらかしてしまったと直感的に悟ったルイズは教室から飛び出して行く。 それを見てギーシュも危機を察知し、窓からレビテーションを使って飛び降りた。 レビテーションも使わず二階の窓から飛び降りてきた言葉を見て、 モンモランシーの顔は蒼白に染まる。 言葉は、じっとモンモランシーを見つめて問いかけてきた。 「誠君はどこですか?」 「え?」 その時ようやく、モンモランシーは自分が何をしたかに気づく。 生首をキャッチしてしまった彼女は驚きのあまり、それを全力で放り投げてしまった。 結果、伊藤誠行方不明。 首を返してごめんなさい、という逃げ道は断たれた。 モンモランシーが首を隠したと完全に勘違いされている。 「誠君はどこですか?」 「あの、その」 「誠君はどこですか?」 「れ、れ、レビテーション!」 逃げよう。モンモランシーが杖を振ると同時に、その身体が宙に浮く。 相手は平民だから、宙に浮かれたらどうにもできないはず。 だが二メイルも浮かんだ頃だろうか、いきなり下腹に何かがぶつかってくる。 「え」 「誠君はどこですか?」 言葉が、腰にしがみついていた。二メイルの高さを己の脚力で跳んで。 そして、モンモランシーの背中を、ノコギリの冷たい感触が叩く。 「イヤァァァッ!!」 恐怖に精神を掻き乱されたモンモランシーはレビテーションを解いてしまい、 地面に向けて背中から落下する。言葉はというとモンモランシーを離して軽やかに着地。 そして、背中を打ち付けられて咳き込んでいるモンモランシーの隣に立ち、 首に、ノコギリを、当てる。 「誠君はどこですか?」 壊れた人形のように同じ事を繰り返す言葉。 眉は不機嫌そうに寄せられていて、虫けらを見下すような冷たい視線を向けられる。 「ひっ、ゆ、許して……」 貴族のプライドなど一瞬で切り捨てられた。 モンモランシーは瞳いっぱいに涙を浮かべる。 「駄目です」 死刑宣告。 直後。 「ワルキューレ!」 モンモランシーを挟んだ対面から青銅のゴーレムが植物のように生え、 右手に持った短槍で言葉のノコギリを弾き飛ばす。 言葉は不快な表情を浮かべて、声のした方を見た。 青銅のギーシュが、薔薇の杖を持って立っている。 「無事かい!? モンモランシー!」 「ギーシュ!? ああ! ギーシュ、来てくれたのね!」 「僕が来たからにはもう大丈夫! 誇り高き美の戦士ワルキューレがその平民を」 言葉はノコギリを腰の横に構えると、そこから水平に一閃した。 耳が痛む甲高い音がして、ワルキューレの胴体が両断される。 言葉の持つ居合いの技術とガンダールヴの力の前では、 例え得物がノコギリだろうと青銅のゴーレムでは話にならなかった。 ギーシュもモンモランシーの仲間と判断した言葉は、矛先をギーシュに変えた。 「誠君はどこですか?」 「マコト? 何だそれは、僕は知らないぞ」 「誠君はどこですか?」 「知らないって言ってるだろ。平民の癖に、貴族に対して無礼じゃないか! 今すぐモンモランシーに謝罪しろ!」 「誠君はどこですか?」 「僕の話を聞いているのか!?」 「誠君はどこですか?」 「だから……」 「誠君はどこですか? 誠君はどこですか? 誠君はどこですか?」 「話を……」 「誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君……」 「わ、ワルキューレェェェッ!!」 言葉の狂気に耐え切れなくなったギーシュは、 薔薇の花弁を大地に舞わせ新たなワルキューレ六体を出現させる。 しかもそれぞれのワルキューレは異なる武装で言葉に対峙していた。 「アイスソード!」 「オートクレール!」 「カムシーン!」 「デルフリンガー!」 「ヴァレリアハート!」 「ガラティーン!」 六体のワルキューレ! 六本の剣! 「それ以上抵抗するなら容赦しないぞ!」 六体は列を成して言葉へと肉薄していった。 対する言葉は正面からワルキューレ達に向かって疾駆する。 一体目とすれ違い様に胴を両断する言葉。 二体目とすれ違い様に首を刎ねる言葉。 三体目とすれ違い様に肩から脇腹まで両断する言葉。 四体目とすれ違い様に剣もろとも腕を切り落とす言葉。 五体目とすれ違い様に下腹部を開腹する言葉。 六体目とすれ違い様に頭から股間まで一刀両断する言葉。 「そ、そんな馬鹿な……」 六体のワルキューレの残骸を背に、恐怖に腰を抜かすギーシュの眼前に、言葉。 「誠君はどこですか?」 「し、知らない」 「……」 青銅のワルキューレを次々に屠ったノコギリが、ギーシュの首へ。 モンモランシーが叫ぶ。 「や、やめて! ギーシュを殺さないで!」 言葉は振り返って、問う。 「誠君はどこ――」 「コトノハー!」 ぜいぜいと息を切らしながら、ルイズが広場に駆け込んできた。 誠の首を抱えて。 「ま……誠君!」 「はぁっ、はぁっ、間に、合った……」 ルイズに駆け寄り、誠を渡されると愛しそうに頬擦りする言葉。 それを見て、助かったと胸を撫で下ろすギーシュとモンモランシー。 だがその二人に、ルイズがうんざりとした表情で言う。 「ちょっと。あんた達コトノハに何したのよ? 私が偶然植木の陰に落ちてたマコトを見つけなかったら殺されてたわよ?」 「ぼ、僕はただモンモランシーの悲鳴が聞こえたから……」 ルイズとギーシュの視線がモンモランシーに向く。 殺されかけたギーシュとしても、なぜこうなったのか知りたいようだった。 まさかここで「あの首を奪って埋めちゃうつもりでした」なんて言えない。 そこでモンモランシーはこう答えた。 「わ、私はただ、授業に出る気になれなくて、散歩してただけよ。 そうしたらいきなり窓から、その、アレが落ちてきて、悲鳴を……」 「じゃああなたは、私から誠君を奪おうとした人達の仲間じゃないんですね?」 誠との頬擦りをやめた言葉が、疑わしげな視線をモンモランシーに向けた。 「ちょっとコトノハ、マコトを奪おうとした人達って何よ?」 「……ルイズさん。今日の授業、誰か欠席してませんでしたか?」 「え? えーと、そういえばモンモランシー以外にも三人くらい……」 「それは誰ですか?」 質問されて、ようやくルイズは事態を把握した。 モンモランシーも関わっているかどうかは解らないが、 欠席した三人は言葉から誠を奪って処分してしまおうと考えたに違いない。 だって自分も処分できるものなら処分したいから。 「……誰だったかしら。あまり気にしてなかったから」 ここで名前を教えたら、多分、その三人は殺される。 どう誤魔化そうかと悩んでいると、言葉は感情の無い声で言う。 「そうですか。解りました、もういいです」 「え? そ、そう?」 呆気なく言葉が引き下がり、安心するやら不気味やら、ルイズの心中穏やかではない。 そして言葉は、ノコギリと誠を持ったままモンモランシーに歩み寄った。 「な、何よ」 「あの人、あなたの彼氏ですか?」 「え……?」 意外な問いにモンモランシーは目を丸くする。 言葉は小声で話しかけているため、ルイズとギーシュには聞こえない。 どう答えたものかと一瞬迷って、助けに来てくれたギーシュを思い出して。 「そうよ。ギーシュは私の恋人。それが、どうかしたの?」 「……いえ。ただ、忠告して上げようと思って」 「忠告?」 言葉の唇が、笑う。 「恋人を、誰かに盗られたりしないよう、注意した方がいいですよ」 「それって、どういう……」 「誠君みたいに、なっちゃいますから」 何とか殺害をまぬがれたモンモランシーだったが、言葉の重く心に響く忠告は、 確かにモンモランシーの根深いところに植えつけられた。 それが発芽するのは、まだ先の話。 そして言葉は、今日の授業を欠席した人が誰かを教師に訊ねに行った。 でも。 すでにこの事件を知っていた、この時限の教師は、それが誰かを教えなかった。 だから言葉は思った。 この教師は生徒をかばっている。もしかしたらこの教師が黒幕かもしれない。 炎蛇のコルベール。やっぱりこの人は……。 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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「…あんた誰?」 ルイズが召喚した生物は、竜を模した杖を持った亜人のメイジだった。まがまがしい青色の体、赤い宝石のついた首飾り、よく分からない感じの髪形。 亜人というよりは、人型の悪魔といった感じだろうか。 「なんじゃ?相手の名を尋ねるときは、まず自分から名乗るべきだろうに。それに、この竜王にあんたとは、言ってくれるではないか」 「何よ!これから私の僕になる使い魔候補の癖に偉そうに!」 「無理をするな、娘よ。足元が震えておるぞ。」 「ご、ご主人様になんてこと言ってんのよ!」 傲慢かつ尊大な竜王に気圧されてしまうルイズだが、なんとか強気に答えた。 「…まあいいわ。早速私と契約してもらいましょうか」 「契約?一体何を言っておるのだ?」 「こ、こうすんのよ…」 少し赤面しながらルイズは手に持った杖を竜王の前で振り何らかの呪文を唱え始める 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」 ルイズは思い切り背伸びをし、自分の唇を竜王の唇に重ねた。キスの直後、赤面がかなりひどくなったルイズだが、竜王は顔色人使えない。大人である。 「契約とはキスのことか?そうか。わしと結婚したかったのか」 「違うわよ!あんたを使い魔にする契約よ!だれが結婚なんてするもんですか!」 その後竜王の左手の甲にルーンが書き込まれる。 「これは一体・・・わしの手にルーンが?」 「ねえ、左手、熱くないの?」 「熱い?わしには何のことかさっぱり分からんのだが・・・」 巨大な竜の化身である竜王は、熱にはめっぽう強いのだ。竜王のルーンを確かめるべくに魔法学院の教師、コルベールが駆け寄った。 「これは、何とも珍しいルーンだ」 「まあいいわ!これで契約完了ね!」 ルイズが召喚に成功し喜んでいた時に、竜王はまたも尊大に話し掛けてきた。 「おい、ここは一体どこなのだ?詳しく説明するのだ」 「使い魔の癖に偉そうに・・・私の部屋で説明してあげるわ。ついてきなさい!」 トリステイン魔法学院生徒寮のルイズの部屋。時は既に遅く、天には二つの月が浮かんでいた。 普通の者なら月が二つ浮かんでいることに驚くのだが、竜王の驚いた点はそこではない。 「空が暗くなっている。大魔王ゾーマが世界を支配していたときはこのような闇の世界だったと聞くが・・・」 「ねえ、あなたは一体何者なの?」 まじまじと空を見つめる竜王に、ルイズは話しかけてみた。 「わしはアレフガルド王国を我が手中にするべく、国王ラルス16世の一人娘、ローラを誘拐し、ドムドーラの街を滅ぼした。部下もたくさんおる」 「ふーん。凄いんだ、あんた」 ルイズは竜王を地球でいうヒットラーや金正日程度にしか思っていなかった。 「わしも質問させてもらおう。ここはどこだ?使い魔とはなんだ?」 「教えてあげるわ。ここはハルケギニア大陸のトリステイン王国。この建物はこの有名なトリステイン魔法学院。ここでは魔法を使えるものが貴族、使えないものは平民といった階級制度になっているのよ」 「魔道士が貴族か・・・それは興味深い」 「あなたもメイジのようだから、それなりの扱いはしてあげるわ。次は使い魔の説明ね。まず第一に!使い魔は主人の目となり耳となる能力が与えられるわ!」 「わしの見たものがそなたにも見えると言のか?」 「物分かりがいいわね」 「それで何が見えるか?」 「…怖いほどよく見える。普段見えないような変な物まで…」 「なんだ?その変な物とは」 「・・・お化け。帽子をかぶって舌を出してる」 「それならまったく気にすることはない」 「あとそれから使い魔は主人の望む物を見つけてくるの。例えば秘薬とか」 「き、貴様はわしに物探しをしろというのか・・・!」 「だってそれが使い魔・・・ひっ!ご、ごめんなさい・・・生意気なことを言ってすみませんでした・・・」 竜王の迫力に押され、思わず泣きながら謝ってしまったルイズであった。 「まあよい。そんなものを探すのはたやすいことだ。わしの気が向いたら探してやってもよいぞ」 「えっ・・・?」 契約をする際に、主人に対する親しみを使い魔に無意識のうちに刷り込むことができる。所詮使い魔は使い魔。 ご主人に逆らうことなど不可能。・・・というルイズの考え方はまったく的外れ。 竜王はハルケギニアのことをまだあまり知らない。見知らぬ地で事件を起こすのはあまりにも無謀と考えたのだった。 数カ月後には、この地を我がものにしようと企んでいる。 「そしてこれが一番なんだけど…」 ルイズはほっと一安心し竜王に説明をし続けた。 「なんだ。言ってみろ」 「使い魔は主人の守護を担う存在の。その能力で敵から主人を守ることが最も重要!」 「ほう、守護か」 「あんたはとても強そうなメイジだけど、さすがにドラゴンやグリフォンは・・・」 「グリフォンは知らぬが、ドラゴンはわしだ。安心しろ。わしに倒せぬものなどない」 「何を言っているのか全然分からないわよ!あんたはドラゴンの杖を持っているけど、ドラゴンそのものには見えるわけがない。 あんたはドットメイジの私が召喚したのだから、あんたもドットメイジでしょ?」 「わしは8のようなポリゴンよりも従来のドット絵の方が好きだ。」 「は?」 ルイズには竜王が何を言っているのかまったく分からない。ポリゴン?ドットエ? 「もしかしたらスクウェアメイジ・・・」 「ファイナルファンタジーを出す前は、倒産するかもしれなかった。任天堂にも嫌われ、エニックスとコンビをなぜ組めたか不思議でならんわい」 話がまったくかみ合わない。とにかくニンテンドーという言葉の意味が分からない。 おかしな会話をしている間にもうすっかり夜になった。そこが問題である。 もともとこの部屋はルイズ一人しか住んでいない。ベッドも一つだけ。 自分はベッドに寝ればいい。しかし竜王は・・・ 使い魔とはいえ彼はルイズと同じメイジ。さすがに床で寝かせるわけにもいかない。 もしかしたら自分より各が上かもしれない。一つのベッドに…2人で一緒に寝るしかないのだが・・・彼はどうみても男性。 一緒にベッドに入るのは恥ずかしい。となると、自分が床で寝るしかない。 「あの、リューオー」 「何だ。これからわしは外に出て散歩をしようと思うのだが」 「今から、散歩・・・?」 「そうだ。このように闇に閉ざされた世界をすばらしいと思わんか?」 「でも夜は寝ないと・・・」 「なぜだ?たいして疲労もしておらぬのに寝るのか?」 竜王のもといた世界、アレフガルドには、昼や夜といったものが存在しない。たとえ何十時間がすぎようとも、空は明るいままだ。 睡眠は、戦闘等で疲れた時のみにとればいい。最も、ゾーマが世界を支配していたころは、逆に何十時間がすぎようとも、空が暗いままだったのだが。 竜王は暗い夜道を一人で出かけてしまった。こうして、竜王に気を遣うことなくルイズは一人でベッドで眠ることができたのであった。
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使い魔について 「空白の次元」で誕生した6体の使い魔。 彼らの目的は、主人公を名乗る三沢を打ち負かし諭すこと。 しかしながら主人公にはかなわなかったようだ。 空白の次元の消滅と同時に意識を失い石化した。 その後、治安維持局によって回収されたという。 依り代となった決闘者たちも元通りになったようだ。 気になるのは、回収された数が5体であるということ。 赤の使い魔だけは今もなお行方不明である。 左上から、青の使い魔、赤の使い魔、黄の使い魔、 左下から、緑の使い魔、白の使い魔、黒の使い魔、である。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (blue.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (red.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (yellow.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (green.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (white.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (black.jpg) 依り代について 使い魔たちが依り代としている決闘者は次のとおりである。 まだ判明していない決闘者もいることに注意されたし。 青の使い魔 依り代:ラメイル 赤の使い魔 依り代:ボルケーノ 黄の使い魔 依り代:アッパヤード 緑の使い魔 依り代:ブランソーズ 白の使い魔 依り代:ライトニング 黒の使い魔 依り代:ダスカロス
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食堂はすでに閑散としていた。生徒たちの大半は教室を目指し、先ほどまでの喧騒もそれに伴い移動している。 「ご精が出るのう、お嬢さん」 トンペティに声をかけられたメイドは、 「ありがとうございます」 微笑み返し、少し頬を赤らめミキタカへも微笑みを投げかけた。ミキタカは静かに笑い返し、メイドの頬が一層濃い朱に染まる。 掃除中のメイドが離れていくのを目の端で追い、ミキタカは口を開いた。 「どうでした、老師」 「ふむ……」 手を開き、握り、また開き、握る。掌には幾本もの深い皺が刻まれ、それに倍する古い傷跡が走っていた。 「これは主の求めている答えではないかもしれんがの。ルイズ嬢は……なかなか面白い」 「面白い、とは?」 「うむ。パイプ、いいかね?」 「どうぞ」 深く吸い、吐く。鼻から、口から。 「ルイズ嬢から感じ取った生命エネルギーは男のものと女のもの、合わせて二種類。といっても一種類」 「それは興味深いですね」 「その通り」 紫煙をくゆらせ、より深く腰掛けなおした。 「強い絆。絶ち難き縁。恋や愛もあるが、それだけでは無かろう。ルイズ嬢の深い部分に食い込み、二つの生命エネルギーはもはや一つと呼ぶに相応しい。うらやましい話じゃ」 「多重人格のようなものですか?」 「違う。もっと根本の部分でつながっておる。双方がお互いを喜んで受け入れている。そうじゃの……自分の中にもう一人の使い魔がいる、とでも言えばいいか」 「使い魔ですか」 「陳腐な例えを使うとすれば『運命に逆らってでも離れたくなかった恋人たち』じゃな」 「なるほど。ルイズさんの内面にも何かしらの影響がありそうですね……」 顎に指を当て考える。鼻のピアスと耳のピアスを繋ぐ紐が指をくすぐり、こそばゆい。 「判断材料は増えましたが、これは色々な意味で複雑な問題です」 言葉とは裏腹に、口調ははずんでいた。トンペティも楽しそうに煙を吐いている。 「この問題は夜にでも考えるとして、今は実際的に動くとしましょう」 「別の男女のためかな?」 「義理が多いというのも大変です。正月に付き合いで子供とババ抜きする大人の気持ちです」 やはり、言葉と口調は裏腹だ。パイプを離そうとしないトンペティをそのままに、軽い足取りで厨房の入り口に向かった。 生徒達が食事をとった後でも料理人の仕事は終わらない。次の仕込み、洗い物、皆が皆休む暇なく動き続けていた。 「ちょっといいですか」 その場にいた全ての人間が手を止め、声の主を確認し、一人の例外もなく笑い、作業に戻った。 嘲りではない。声の主に対する「こいつは次に何をやってくれるんだ」という期待を覗かせている。 「マルトーさん。下のゴミ置き場に置いてあった大鍋をもらってもいいですか」 「なんだミキタカ、また何か面白いことでもしようってのか」 コック、メイドといった学院内で働く平民達はミキタカに好感を抱いていた。 貴族であっても偉ぶらず、他の貴族達を彼一流の諧謔で煙に巻く様は見ていて痛快だ。 支持者筆頭が押し出しの強いことで知られるコック長のマルトーであり、ミキタカの頼みであれば多少の無理をも通してくれた。 「いいえ。もう少し切実なことですよ」
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前ページ次ページ斬魔の使い魔 ヴェストリ広場の決闘から一晩が過ぎた。 九郎とルイズは未だに目覚めない。 治療を担当したメイジの話では、二人は極度の疲労状態になっていたらしく、そのせいで目覚めないのではないかということだった。 とりあえず他に異常はないということで、授業は正常通りに行われた。 その間、シエスタが二人の世話をする。 タオルをきつく絞り、九郎の額にかけるシエスタ。 九郎の表情は穏やかなまま、ただ静かに胸が上下していた。 ――ろう……くろう…… 誰かが自分の名を呼んでいる。 ――くろう……九郎―― とても聞き覚えのある、この声は…… 「――おい、九郎!」 「どわあああああっっ!! ――って、アル!?」 声と共にいきなり目の前に現れた翡翠色の瞳の少女。 大十字九郎の最愛のパートナー、アル・アジフだ。 何でいきなり目の前に居るのか? そもそもここは何処なのか? ルイズ達はどうしたのか? 色々な思考が連続して出てきてパニック寸前になったが、とりあえず本能と言うべきか、身体が先に動いていた。 それは思いっきり抱きしめること。 「――にゃ、にゃにゃにゃにゃ!? にゃにをするー!?」 顔を真っ赤にして暴れまわるアル。 だが、離すつもりはない。 この柔らかい身体。芳しい香り。間違いなくアルだ。 アル、アルアルアルアル……アル―――― 「――~~、いい加減にせんか! この発情魔が!!」 巨大な魔力の爆発により、このまま押し倒そうとした九郎の企みは阻止された。 「夢の中? ここが?」 「そうだ」 あれからすぐ。黙って聞け、という殺る気マンマンの目を向けられながら聞いた話しは、九郎の想像を超えるものだった。 ここは九郎の夢の中。 九郎が気絶した後、ルイズと額がぶつかりあい、その瞬間、ホンの僅かな思念を送ることが出来たらしい。 「と、待てよ。やっぱりお前はルイズの中に?」 「ああ、この世界に召喚されたとき、この小娘と激突した。そのときに入ってしまったのだろう」 「……出られないのか?」 「分からん。そもそも人間の中に入るということ自体が初めて、というより本来ならありえないのだ。外道の知識を内に入れるなど、人の身で耐えられるものではない」 確かにそうだ。 魔導書は外道の知識の集大成。その力は、人の身体も魂も容易に犯し侵し冒しつくす。 かのウィルバー・ウェイトリイのように。 「そういえば、デモンベインはどうしたんだろうな? こっちの世界に来ているはずだけど」 「うーむ、何処かにいるという感じはするのだが、今の妾ではでは正確には分からん。だが、力を感じるということは無事なのだろう。心配するほどではない」 この世界にデモンベインをどうこうできる存在などいないだろう。 アルさえ無事なら召喚呪文で呼び出すという手もあるのだか、この状態ではそれは無理だ。 その時、アルの姿が薄く透けてきた。 「ぬ、どうやらあの一瞬での思念ではそろそろ限界のようだ。とりあえず九郎よ。妾は小娘の身体から脱出する方法を模索する。汝も何とかデモンベインと元の世界に戻る手立てを探してくれ」 「ああ、分かった。任せろ」 「――後、だ」 アルは声の質を変えた。何処となく不機嫌そうで顔も赤い。 「いいか、妾もそこまで独占欲が強いわけではない。仕方のないことだということも分かっておる」 「……あの、アル……さん?」 「この小娘に従うことも、ましてやその、く、く、く、くくく口付けなどをするのも、契約上仕方のないことであろう。妾もしておったしな」 「――お、おい!?」 「だがな! 勘違いするなよ! 赦すのはそれだけだ! それ以上の段階に進んだり、ましてや、他の女子とイチャイチャしようもなのなら……!!」 自身の顔の側で両手を握り締めながら、地の底から聞こえてくるような声で囁く。 「岩を抱かせた後、悪魔の暗礁に沈めて、イハ・ントレイの”深きものども”の餌にするからな」 後に九郎は語る。 『どんよりと黄色く光ったアルの目は本気でした』と。 そうこうしている内に、アルの姿は完全に向こう側が透けて見えるほどに消えかかった。 「あー、他にも色々と重要な話があったが、もう時間がないようだ」 誰のせいだ。 九郎は声には出さなかった。 「最後にこれだけは伝えなければならぬ」 「何だ? ひょっとして色っぽいことか?」 「たわけ! そんなことではない! 妾の断片だ!」 「ああ、断片ね…………って、ええ!? ま、まさか!」 「うむ、また喪失した。大変だな」 「他人事みたいに言うなー!」 「喪失したのは、アトラック・ナチャ、ニトクリスの鏡、あと、クトゥグア、イタクァだ。それらも探し出してくれ」 それだけ言うと、本格的にその身体は見えなくなった。 もはや僅かに輪郭が見えるのみだが、それすらも消えていく。 「いや、おい! マギウス・スタイルにもなれないのに無茶言うな!」 慌てて手を出すが、もはやその手は空を切るのみ。 それからすぐに、アルの姿は完全に消え去った。 最後に何かを言おうと口を動かしていた気がするが、もはや聞くことは出来ない。 九郎は大きく息をついた。そして、力が抜けたように腰を下ろす。 「……はあぁぁぁ……ふう…………また会おうぜ、アル」 その瞬間、視界が暗転。 一瞬で闇に包まれた次の瞬間、光が射し込んできた。 まず視界に飛び込んできたのは石造りの天井。 「知らない天井だ……」 何処がで聞いた台詞を呟く。 そのときになってようやく自分がベッドの上に寝かされていることに気付いた。 白い布団と白いシーツが目に映る。 そのまま、何となく顔を横に傾けると、そこには少し離れたベッドで自分と同じように横になっているルイズがいた。 一瞬、その姿がアルの姿とダブって見えたが、すぐに元に戻った。 「……そうだな、アルはアル。ルイズはルイズだ」 誰に聞かせるまでもなく呟くと、そのまま上体を起こした。 どれぐらい寝ていたのか、バキバキとなる背中を伸ばす。 トントンとドアがノックされた。 入ってきたのはシエスタだ。水の入ったコップとタオルが乗ったトレイを持っている。 こちらの姿に気付くとにっこりと微笑んだ。 「お目覚めですか? 使い魔さん」 「ああ、ええとシエスタ……だっけ?」 「はい、そうです。あの後、なかなか目覚めないから皆で心配していました」 「皆?」 「はい、厨房の皆さんに、後、使い魔さんと決闘をしたグラモン家の方も」 「グラモン家……ああ、あのギーシュとかいう奴か。へー、あいつがねえ」 変なところで感心していたとき、突然、シエスタが俯いた。 「あの、すいません、決闘のとき勝手に逃げ出してしまって」 「いやいや、別に気にしなくてもいいさ」 「でも――」 「本当に気にしなくていいから」 シエスタの眼を見つめ、微笑みながら続ける。 「誰だって怖いことはあるさ。本当に怖くて怖くて仕方がない、そんな時に逃げ出すのは、別に悪いことじゃない」 「使い魔さん……」 「九郎」 「――え?」 「俺の名前。大十字九郎。九郎って呼んでくれ」 「……あ、はい、九郎さん」 にっこりと微笑む。 先ほどの微笑とは違う。本当の笑みだ。 釣られるように九郎も笑う。 朝日が射し込む空間に、九郎とシエスタの笑い声が響いた。 「随分と楽しそうねえ」 『――!?』 怖気を振るうような声がすぐ側で響いた。 どうしてここに来るまで気付かなかったのか。 二人のすぐ傍に、ピンクの悪魔が仁王立ちしていた。 「人が寝ている最中にラブコメなんて、随分と出世したものねえ犬」 「あ、あのぉ……ご主人様?」 「み、ミス・ヴァリエール、お気を確かに!」 「問答……無用―っ!!」 朝日が射し込む空間に、九郎とシエスタの悲鳴が響いた。 九郎の夢。 消えゆく中、アルの残留思念が最後に呟いた言葉は、 「再び出会うまで、さらばだ」 前ページ次ページ斬魔の使い魔
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契約! クールでタフな使い魔! その② 承太郎が左手を押さえてうめいていると、コルベールがやって来て刻まれたルーンを見た。 「ふむ……珍しい使い魔のルーンだな。さてと、じゃあみんな教室に戻るぞ」 そう言って彼は宙に浮く。その光景に承太郎は息を呑んだ。 いつぞやのポルナレフのようにスタンドで身体を持ち上げている訳ではない。 本当に宙に浮いているのだ、恐らく魔法か何かで。 そして他の面々も宙に浮いて城のような建物に飛んでいった。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 フライ。どうやらそれが空を飛ぶ魔法のようだった。 そしてその魔法が使えないらしいルイズと二人きりで承太郎は残される。 「……あんた、何なのよ!」 「てめーこそ何だ? ここはどこだ? お前達は何者だ? 質問に答えな」 「ったく。どこの田舎から来たのか知らないけど、説明して上げる。 ここはかの有名なトリステイン魔法学院よ!」 「…………」 魔法学院。本当にこいつ等は魔法使いらしい。ファンタジーの世界らしい。 それでも念のため、ここが地球であるという願いを込めて承太郎は問う。 「アメリカか日本って国は知らないか?」 「聞いた事ないわねそんな国」 仮にも人を平民呼ばわりする文化圏の連中が、世界一有名なアメリカを知らぬはずがない。 つまりここは地球ではない可能性が極めて高い。 「じゃあここは?」 「トリステインよ」 魔法学院と同じ名前……すなわち……。 承太郎の推理が正しければ! ここ! トリステイン魔法学院はッ! ほぼ間違いなくッ! 国立だッ!! ド―――――z______ン もっともこの学院が私立だろうと国立だろうと知ったこっちゃない話だ。 重要なのは。 「つまりこういう訳か? お前達は魔法使いだ……と」 「メイジよ」 「…………」 どうやら呼び方にこだわりがあるらしい。 とりあえず当面はこのルイズからこの世界の基礎知識を学ぶ必要がありそうだ。 他に今のうちに訊いておく事はあるだろうか? 承太郎はしばし考え――。 「てめー、何で俺にキスしやがった」 ルイズが真っ赤になる。そりゃもう赤い。マジシャンズレッドより赤い。 「あああ、あれは使い魔と契約するためのもので……」 「この左手の文字。使い魔のルーンとか言ってたな」 「そうよ。それこそあんたがこの私、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になった証よ。 つまり今日から私はあんたのご主人様よ、覚えておきなさい!」 「…………やれやれだぜ」 こうして校舎まで戻ったルイズは、承太郎を入口に残して教室へと入っていった。 そして授業が終わってルイズが出てくるまで、承太郎は考え事をしていた。 空条承太郎。十七歳。 母ホリィの命を救うため、百年の時を経て復活した邪悪の化身DIOを倒し、 仲間を喪いながらも日本へ帰ってきて数ヶ月……。 DIOとの戦いで受けた傷もすっかり癒え、 祖父母のジョセフとスージーQはアメリカに帰り、 少し真面目に高校生活を送るようになっていた。 そんなある日、彼の前に突然光る鏡のようなものが現れた。 スタンド攻撃かと思った。 戦闘経験の豊富な承太郎がその光に警戒しない訳がない。 だが……その時の承太郎は電車に乗っていたのだ。 座席は埋まり、車両内には何人かの乗客が吊革を手に立っていた。 承太郎もその中の一人だ。 そして、突然目の前に光が現れて、避けようと思ったが、みっつの要因により失敗した。 ひとつ、車両内に逃げ場がほとんど無かった。横には乗客が座っているし、上は天井だ。 ふたつ、承太郎は物思いにふけっていたため反応が遅れた。 みっつ、光の鏡は電車ごと移動するような事はなく、承太郎は電車の速度で鏡に突っ込んだ。 そして気がついたら、ここ、トリステイン魔法学院にいた。 「……やれやれだぜ」 日が暮れる。腕時計を見る。 本来なら今頃、適当な花屋で花を買って、花京院の墓に添え、帰りの電車に乗っている時間だ。 結局墓参りどころか、花さえ買えずこんな所に来てしまうとは。 (こういう訳の解らないトラブルはポルナレフの役目だぜ) 何気に酷い事を考える承太郎だったが正しい見解でもあった。 そして授業を終えたルイズに連れられ、承太郎は学生寮のルイズの部屋に通される。 十二畳ほどの広さの部屋には、高級そうなアンティークが並んでいた。 そこで承太郎はルイズが夜食にと持ってきたパンを食べながら、 開けた窓に腰かけて静かに夜空を眺めている。 「ねえジョー……えっと、名前なんだっけ?」 「承太郎だ」 「ジョータロー。あんたの話、本当なの?」 「…………」 無言。肯定なのか否定なのかも解らない。ルイズはちょっと苛立った。 「だって、信じられない。別の世界って何よ? そんなもの本当にあるの?」 「さあな……。少なくともここは、俺の知る世界じゃねぇ。あの月が証拠だ」 「月がひとつしかない世界なんて、聞いた事がないわ。 ねえ、やっぱり嘘ついてるんでしょう? 平民が意地張ってどうすんのよ」 「俺を平民呼ばわりするんじゃねえ!」 一喝すると、ルイズはすぐ驚いて黙る。それだけ承太郎の迫力がすごい。 だがプライドが非常に高いルイズは負けっぱなしではいない。 すぐに何か言い返そうとして――承太郎が懐から何かを取り出すのを見た。 「何よ、さっきパン上げたでしょ? 食べ物を持ってるなら最初からそれ食べなさいよ」 承太郎が取り出したそれを口に運ぶのを見てルイズは意地の悪い口調で言った。 承太郎は細長い棒状の食べ物を咥えたまま、ルイズを睨む。 実は普通にルイズに視線を向けただけだが、睨まれたとルイズは思った。 「てめー……タバコを知らねーのか?」 「は? タバコ? あんたの世界の食べ物?」 「……やれやれだぜ」 そう呟くと、承太郎はタバコを箱に戻し、懐にしまった。 「食べないの?」 「食べ物じゃねえ」 この世界にタバコが無いとすると、今持ってる一箱を吸い終わったら補充不能。 それは喫煙家の承太郎にとってかなりの苦痛だった。 「ルイズ、てめーの説明でこの世界の事はだいたい解った。 ハルケギニアという世界だという事も、貴族……メイジと平民の違いも。 だが一番重要な事をまだ説明してもらってねーぜ……それは……」 「何よ?」 「俺が元の世界に帰る方法はあるのか?」 「無理よ」 曰く、異なる世界をつなぐ魔法などない。 サモン・サーヴァントは元々この世界の生き物を使い魔として召喚する魔法。 何で別の世界の平民を召喚してしまったのかなんて全然ちっとも完璧に解らない。 だいたい別の世界なんて本当にあるのかルイズは信じきっていないようだ。 何か証拠を見せろ、と言われたが承太郎の持ち物は財布とタバコ程度。 後は電車の切符くらいだ。 ルイズ相手にいくら話をしても無駄に思えてきた承太郎は、口を閉ざしてしまう。 ルイズはというと、そんな承太郎の態度に怒りをつのらせる。 だって、平民ですよ? 使い魔が平民ですよ? 使い魔は主人の目となり耳となったりするが、そういった様子は無い。 一番の役目である『主人を守る』というのも無理。 平民がメイジやモンスターと戦える訳がない。 嫌味たっぷりにそう言ってやった時、承太郎はなぜか視線をそらした。 ルイズはそれを『図星を突かれた』と判断した。 という訳で承太郎ができる事など何もないと思い込んだルイズは命令する。 「仕方ないからあんたができそうな事をやらせて上げるわ。 洗濯。掃除。その他雑用」 「…………」 無言。肯定とも否定とも取れない。 でも文句なんて言えないだろうしルイズは勝手に肯定の意として受け取った。 「さてと、喋ってたら眠くなってきちゃったわ。おやすみ平民」 「待ちな」 ようやく、承太郎が口を開く。窓を閉めてルイズを睨みつける。 「な、何よ……もう眠いんだから、話はまた明日って事にして」 「俺の寝床が見当たらねえぜ」 ルイズは床を指差した。 「……何が言いたいのか解らねえ。ふざけているのか? この状況で」 「はい、毛布」 一枚の毛布を投げ渡され、承太郎はそれを受け取る。 直後、ルイズはブラウスのボタンを外し始めた。 「……何やってんだてめー」 「? 寝るから着替えてるのよ」 「…………」 承太郎は無言で背中を向けた。その背中に、何かが投げつけられる。 「…………」 承太郎は投げつけられた物を手に取り、無言で立ち尽くしている。 「それ、明日になったら洗濯しといて」 それはレースのついたキャミソールに白いパンティであった。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 承太郎は無言で振り向き、 ネグリジェに着替えたルイズにキャミソールとパンティを投げ返した。 「……これは何の真似?」 「やかましい! それくらいてめーでやりやがれ!」 「な、何よ! あんた平民でしょ! 私の使い魔でしょ!?」 「俺はてめーの使い魔になるつもりはねえ」 「フーン? でも私の言う事聞かないと、衣食住誰が面倒見るの?」 「……やれやれだぜ」 承太郎はそう言うと、毛布に包まって床に寝転がった。 それを見たルイズは満足気に微笑み、やわらかなベッドで眠った。 承太郎が「うっとおしいから今日はもう寝よう、洗濯はしねえ」と考えていて、 使い魔になる気ゼロな事に微塵も気づかずに。 戻る 目次 続く
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前ページ次ページ日本一の使い魔 ここはトリステイン魔法学院内女子寮にあるルイズの部屋。 他の生徒達は授業中なのだが、ルイズの場合は平民とは言え人間を召喚し、 使い魔にしてしまったと言う事で特別に授業を免除された。 「あんた、どこから来たの?それに…ずばっかーだっけ何なのあれ?マジックアイテム?」 自分の疑問を解決しようと質問で捲くし立てる。 「そう慌てなさんな。ズカッカーは元は宇宙探検用に開発された車でね。 マジックアイテムってのは良く判らんが、恐らくルイズの言っている物とは違うだろう。」 「それと、どこから来たかって?俺はさすらいの私立探偵だから・・・日本って国から来と でも言えばいいのかな。」 知らない単語にどんどんルイズの機嫌が悪くなる。 「さすらいって難民みたいなもんなの?さっきも言ってたけど、私立探偵って何よ? それに宇宙ってどこの国?トリステインでは聞いたことないから、ガリア?ゲルマニア?」 「おいおい宇宙も知らないのかい。それに・・・」 かつて宇宙犯罪組織とも戦い、宇宙一の男とも言われた早川ですら聞いた事も無いような 国名に、先程自分で口にした異世界という単語が冗談では無かったのかと考えてしまう。 「(魔法…)」 「なあルイズ?さっきトリステイン魔法学院って言ってたが、まさかここは 魔法使いの学校なのか?」 「メイジよ!メ・イ・ジ!あんたもしかしてメイジも知らないの?」 ルイズは自分の呼び出した使い魔が、メイジすら知らぬ田舎物だと思いハルケギニアに おいて一般常識とも言える事を教える。 早川の順応性・理解力も日本一である事を知らないルイズは、意外に 自分の使い魔の健は素直なのかと思い得意げに説明を続ける。 後に判る自分の魔法とツッコミの才能はこの早川がきっかけで知らされる事とは知らずに。 そうこうしている間に時間は過ぎ、メイドが持ってきた夕食を食べながら早川は自分の 冗談が本当の事だと知らされる。 「月が二つ…飛鳥・・・本当に異世界に来ちまったみたいだ。」 赤い夕日に~ 燃え上がる 君と誓った 地平線~♪ 「うるさい!夜中になに大声で歌ってるの?早く寝なさい!あんたはそこ!」 着替えながら怒鳴るルイズが指差した先はただの床。 「ヒュー。男の前で恥じらいも無く着替えるなんて、レディのする事じゃないね。 チッチッチ。おいらはこっちで寝させてもらいますぜ。ご・主・人・様。」 早川は椅子に座るとテーブルに足を置き、テンガロンハットを顔に乗せ、 子供の戯言に付き合いきれないとばかりにそのまま寝ようとする。 「何よ!使い魔に見られて何か思うわけ無いでしょ!」 自分の優位性を示そうとしたが当てが外れ、自分の立場の方が上と言わんばかりに 「それ洗っておきなさいよ!」 早川は手をヒラヒラさせ見向きもしない。 翌朝、早川は昨日言いつけられた洗濯物を済せるためギター片手に校舎内を歩いていた。 「(困ったな。でも妹と暮らしていればこんな感じなのだろな。)」 早川は夜桜組との一件で出会った妹と母の事を思い出していた。 自分を捨てた母との別れ、そして再会。新しい生活を壊したくない母は… そして妹との出会い。そして別れ…さらば瞼の母よ。 「(ガラにも無いや。さてと手の掛かるご主人様の言いつけこなしますか。)」 早川が洗濯場を探して曲がり角に差し掛かった時、 「キャッ!?」 「おっと!危ない!お嬢さん怪我はないかい?」 とっさにぶつかった女性を抱き止める。 「あ、私は・・・申し訳ございません。大丈夫ですか?」 「こっちこそ考え事をしていて悪かったね。」 メイド服を着た女性を起こし荷物を拾っている早川にメイドは 「あの?もしかしてミス・ヴァリエールが召喚したって噂の平民ってあなたですか? あっ拾ってもらってありがとうございます。」 「そうみたいだね。俺は早川健、こっちじゃケン・ハヤカワって言う私立探偵さ。よろしく。ところでお嬢さんは?」 「よろしくお願いしますね。私はこの学院でメイドをしているシエスタといいます。」 自己紹介をし合うと、共に同じ目的と判り洗濯場へと二人で向かう。 是非にというシエスタに洗濯物を頼み、朝食の時間と言う事でルイズを起こしに部屋へと 帰る事にする。 行きは戸惑ったが早川である。帰りは迷うはずも無く部屋と向かう。 そこで、 「あら?あなたは昨日ヴァリエールに。昨日は大変みたいだったわね?」 そこには赤毛で褐色の肌にスケスケのネグリジェを着た女性がこっちを向いていた。 「(ルイズとは…)」 「ああ、ケン・ハヤカワ。よろしく。子供のお守りってのは大変なもんさ。 それより、朝から素敵な女性に会えるなんて今日はツイいてるね。」 「あらお上手ね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。 呼ぶ時はキュルケって呼んでね。それにしても子守って、ハハハ。」 バタンと音がするとそこには地獄竜が、いやルイズがいた。 「ちょっと!子守ってどういう事?それよりも素敵な女性ってなによ!? 私にはお嬢さんって!しかもツェルプストーと仲良く話しているなんて!」 「あらケンは正直者じゃない?正直者の使い魔でよかったじゃない。目もいいみたいね。」 地獄竜が首領Lになった。 「キィィィィィィ!!行くわよケン!早く来なさい!」 やれやれと早川はテンガロンハットのつばを下げる。 部屋に帰る様子をキュルケは、 「ケン後愁傷様。それよりも、また退屈しないで済みそうね。」 と見ていた。 前ページ次ページ日本一の使い魔
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バスタード!よりダイ・アモン伯爵を召喚 美的センスゼロの使い魔-1 美的センスゼロの使い魔-2
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前ページ次ページゼロの使い魔BW 身体を揺さぶられて、目が覚めた。 目を開いたら、見慣れぬ格好の少年がこちらを見下ろしていて、思わず叫んだ。 「だ、誰よあんた!」 「……ツカイマだよ、ゴシュジンサマ」 「ああ、使い魔ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」 窓から朝の日差しがさんさんと降り注いでいる。ルイズは寝台の上でうーんと伸びをすると、椅子にかけてあった服を指して命じた。 「取ってくれる?」 使い魔の少年は無言で頷くと、服を取ってルイズに手渡した。 寝起きのけだるさのままネグリジェに手をかける。途端にくるりと背を向ける辺り、この使い魔にも一応年頃の少年らしい部分もあるらしい。 「後、下着も――そこのクローゼットの一番下に入ってるから、取って」 彼はクローゼットを開けると、ぎくしゃくとした動きで下着を取り出す。と、そこで完全に停止した。 なにを考えて止まったのかが分かって、ルイズは呆れた。別に、使い魔に見られたところでどうということもないのだが、彼は動きそうにもない。 「……投げてくれていいわよ」 飛んできた下着は、過たずルイズの手元に納まった。見えてるんじゃないかと思うようなコントロールである。むしろ見てるんじゃないかと思って使い魔に目をやるが、完璧に背を向けていた。 服を着させるところまでやらせようと思っていたが、やめた。無駄に時間がかかるのは分かりきっている。下手をすれば、朝食を食べそこなうことにすらなりかねない。 壁を向いて硬直している使い魔を横目に、ルイズはこれまでのように着替え始めた。 身支度を済ませたルイズたちが廊下へ出ると、ちょうど近くの扉が開くところだった。 中から出てきたのは、燃え上る炎のような赤い髪の女の子だ。 ルイズよりも背が高く、スタイルも良い。彫りの深い美貌に、突き出た胸元、健康的な褐色の肌、と街を歩けば十人が十人振り返るような容姿だった。 だが、その顔を見た途端、ルイズは不機嫌そうな顔になる。赤い髪の少女がにやりと笑った。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 むっつりとした表情のまま、ルイズは挨拶を返す。 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 寡黙に控えている少年を指さしての問いに、ルイズは短く答えた。 「あっはっは! 本当に人間なのね! さっすが、ゼロのルイズ」 「うっさいわね」 無愛想に返答するルイズを横目に、キュルケは少年を観察する。 「中々可愛らしい顔してるじゃない。あなた、お名前は?」 「なに色惚けたこと言ってんのよ。あと、名前を聞いても無駄よ。そいつ、記憶喪失だから」 「それは残念。……だけど、記憶喪失、ねぇ。それは元から? それとも、ルイズのせいかしら?」 その指摘に、目の前の勝気な少女が言葉に詰まったのを見て、キュルケは頷いた。 「なるほどねえ。――それじゃ、あたしも使い魔を紹介しようかしら。フレイムー」 キュルケが呼ぶと、背後の扉の中から赤い巨大なトカゲが現れた。大型の獣並みの体躯に、真紅の鱗。尻尾の先は燃え盛る炎となっていて、口からもチロチロと赤い火が洩れている。 「……リザード?」 熱気を物ともせずにそれに見入っていたルイズの使い魔が、ここで初めて声を上げた。 「りざーど? これは火トカゲよ」 「ヒトカゲ?」 首を傾げて言ったルイズの使い魔に、キュルケは微笑みかける。 「なんか発音がおかしい気がするけど、そうよー。火トカゲよー? しかも見て、この大きくて鮮やかな炎の尻尾。間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? 好事家に見せたら値段なんてつかないわ」 「そりゃよかったわね」 ルイズが無愛想に答えた。 「素敵でしょ? もう、あたしにぴったりよね」 「あんた、『火』属性だしね」 「そう。あたしは微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。あなたと違ってね?」 キュルケは得意げに、その男であれば視線を釘付けにされそうな胸を張った。 ルイズも負けじと胸を張るが、残念ながらボリュームの違いは明白だった。それでもキュルケを睨みつける辺り、かなりの負けず嫌いらしい。 「あんたみたいにむやみやたらと色気を振りまくほど、暇じゃないだけよ」 キュルケは余裕の笑みを浮かべて、その言葉を受け流す。そして颯爽とこの場を後にしようとして、使い魔のサラマンダーが居ないことに気づいた。 「あら? フレイムー?」 「わたしの使い魔も居ないわ。……まさか、あんたのサラマンダーに食べられちゃったんじゃ」 「失礼ね。あたしが命令しなきゃ、そんなことしないわ。……あ、居た」 ルイズとキュルケが言い争っていた場所から少し離れたところに、二人の使い魔は揃っていた。二人が喧嘩している間に、使い魔は使い魔で親睦を深めていたらしい。 少年は、慣れた手つきでサラマンダーを撫でてやっている。撫でられているほうも、妙に落ち着いた様子で彼の手のひらを受け入れていた。 キュルケが目を丸くする。 「あらま。確かに、誰彼構わず襲うような子じゃないけど、誰彼構わず懐く子でもないのに」 「あんたのことを見習ったんじゃないの?」 「どういう意味よそれ。……まあ良いわ。それじゃ、お先に失礼。行くわよフレイムー」 呼ばれて、サラマンダーが動き出す。図体に似合わないちょこちょことした足取りでキュルケの後を追うが、少し行った先で少年のほうを向くと、ぴこぴこと尻尾を振った。 少年も微笑んで、手を振って返す。 一連の流れを見ていたルイズが、少年の頬をつねりあげた。 「……いふぁい」 「いーい? あの女はフォン・ツェルプストー。わたしたちヴァリエール家にとっての、不倶戴天の敵なの。だから、ツェルプストーの使い魔なんかと仲良くしちゃダ、メ、よ?」 「ふぁい」 一音ごとに頬をねじり上げるようにして確認され、少年は涙目で答えた。 トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内で一番背の高い、真ん中の本塔の中にあった。食堂の中にはやたらと長いテーブルが三つ並んでいて、それぞれに少年少女が座っている。 ルイズは、黒いマントをつけた生徒が並ぶ真ん中のテーブルへと向かった。 ここに使い魔を連れてくるのには非常に苦労した。なんせ他の使い魔を見るたびに、吸い寄せられるようにそっちに行こうとするのである。首輪と縄が必要かしら、とルイズは思った。 その使い魔は、豪華な食事が並べられたテーブルや、絢爛な食堂をきょろきょろと見回している。その顔に少なからぬ驚きを見て取って、ルイズは得意げに指を立てて言った。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ。昨日も説明した通り、メイジのほとんどは貴族。だから、『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を受けるの。この食堂も、その一環ね」 「すごいね」 素直に驚きを示す使い魔に、椅子を引くように促す。本来なら「気が利かないわね」ぐらいは言ってやりたいところだが、記憶喪失では致し方ない。 椅子についてから、ルイズは考えた。この使い魔がもう少し反抗的であれば、床ででも食べさせるつもりであったが、今のところは特にそういった気配はない。 現在も自分が座るべき席ではないと理解しているためか、脇にじっと佇んだままである。 しばらく逡巡した後、ルイズは近くに居た使用人の一人を呼びとめた。 「ちょっと、そこのあなた」 「はい、なんでしょうか。ミス・ヴァリエール」 呼びとめられた黒髪のメイドに、脇の使い魔を指して見せる。 「こいつに、なにか食べさせてやって頂戴」 「分かりました。では、こちらにいらしてください」 「食べ終わったら戻ってくるように」 ルイズの言葉にやはり頷くと、使い魔は促されるままにメイドについて行った。 「もしかしてあなた、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」 行きがてらにそう問われて、少年は頷いた。目下のところは、彼の唯一の身分である。 「知ってるの?」 「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって噂になっていますわ」 にっこりと笑って、黒髪のメイドは答えた。屈託のない、野の花のような笑顔だ。 「君もメイジ?」 「いいえ。私はあなたと同じ平民ですわ。貴族の方々をお世話するために、ここで御奉公させていただいているんです」 どうやら自分と同じような立場らしい。納得すると、彼は黙り込んでしまった。 記憶がないというのは、話題がないというのに等しい。訊きたいことは山ほどあったが、彼女は仕事中だったようだし、あまり時間を取らせるわけにもいかないだろう。 そんな考えからなる沈黙だったが、どうやらそれは少年を気難しく見せていたらしい。しばらくは静かだった黒髪のメイドが、いかにも恐る恐るといった様子で口を開いた。 「……えっと、私はシエスタです。あなたのお名前を訊いても良いですか?」 少年はそれに黙ったまま首を振る。しかし、不味いことでも訊いてしまったのだろうかと狼狽するシエスタを見て、言葉を続けた。 「名前は分からないんだ。記憶喪失だから」 「キオクソウシツ……って、あの、記憶がなくなっちゃうあれですか?」 頷くと、シエスタの視線が途端に同情的になった。少年を上から下まで眺めまわして、はう、とせつなげな溜息を洩らす。 「大変だったんですね……」 そうだったんだろうか。そうだった気もするが、今のところは大したことがない気もする。だが少年がなにか答える前に、彼女はいきなり彼の手をギュッと掴むと、引っ張り始めた。 「なるほど、そいつは大変だ」 コック長のマルトー親父は、シエスタの話(学園内で出回っている噂を少し盛った上で、記憶喪失であるという事実を付け加えたもの)を聞くとうんうんと頷いた。 「やっぱりそうですよね、マルトーさん!」 「記憶を失くした上に、あの高慢ちきな貴族どもの下働きだろ? しかも、こういう仕事を選んでやってる俺たちと違って、強制的にだって話じゃねえか。いやあ、災難だな、お前さん」 二人で完全に盛り上がってしまっている。展開について行けず途方に暮れそうになったところで、少年のお腹がぐう、と鳴った。 「おっと、悪かったな。シエスタ、賄いのシチューを持ってきてやれ。俺は戻らにゃならん」 「はい、わかりました!」 少年を厨房の片隅に置かれた椅子に座らせると、シエスタは小走りで厨房の奥へと消えた。 マルトーもまた、背を向けて調理場へと向かう。が、ふと振り向くとニッと笑った。 「同じ平民のよしみだ、なにか困ったことがあったらいつでも相談してくれ」 「ありがとう。いざって時には頼りにさせてもらいます」 少年が礼を言うと、マルトーは「良いってことよ」と大笑いして去って行く。 入れ違うように、シエスタがシチューの入った皿を持って戻ってきた。目の前に置かれたそれをスプーンで掬って、口に運ぶ。思わず顔がほころんだ。 「おいしい」 「よかった。おかわりもありますから、ごゆっくり」 思った以上に空腹だったことに気づく。丸一日ばかり食べていないような、そんな感じだ。 夢中になって食べる少年を、シエスタはニコニコしながら見ている。 仕事中だったのに大丈夫なんだろうか、なんて思うが、食堂には彼女のようなメイドが沢山いたし、一人ぐらい抜けても問題ないのかもしれない。 「ごちそうさま。おいしかったよ」 「ふふ。ぜひ、マルトーさんにも言ってあげてください。喜びますから」 食べ終わって皿を返すと、シエスタは微笑んでそう言った。そして皿を片づけるために立ち上がりざま、そういえば、と彼の顔を見る。 「えっと、なにか分からなくて困ってることとかあります?」 「……それなら、洗濯物のことなんだけど」 なるほど、とシエスタが頷く。 「ああ、そうですよね。水汲み場とか分かりませんよね」 「それもあるんだけど、ここでのやり方もイマイチ分からないから、教えてもらえると助かる」 彼の常識は、洗濯物には洗濯機を使え、と言っている。使い方も分かる。しかし同時に、それがここにはないだろうということもなんとなく分かっている。 昨晩のルイズとの会話と、今日見て回った学内の様子から、自分の常識の欠落は記憶喪失から来るものではないことに、少年はうすうす感づいていた。 「洗濯のやり方なんて何処でも同じ気がしますけど、わかりました。今からご案内しても良いんですが、ミス・ヴァリエールに『戻ってくるように』って言われてましたよね」 確かに、「食べ終わったら戻ってくるように」と言っていた。 「それじゃ、お昼もまたこちらで取られるでしょうし、その際にでも」 「よろしくお願いします」 心からの感謝をこめてお辞儀をすると、シエスタはウインクして答える。 「マルトーさんも言ってましたけど、同じ平民のよしみ、です。いつでも頼ってくださいね」 魔法学院の教室は、石造りのやはり巨大な部屋だった。生徒が座る席は階段状に配置されており、その中央最下段に教師が立つ教壇がある。 二人が入ると、先に教室に来ていた生徒たちが一斉に振り向いた。そしてくすくすと笑い始める。 だが、ルイズにそれを気にしている余裕はなかった。今日は学年最初の授業ということで、大抵の生徒が使い魔を連れている。そんな場所に少年を放りこんだらどうなるか。 早くもふらふらと引き寄せられそうになった彼の襟元を、がっしと掴んで引きずりつつ、ルイズは席の一つへ向かった。本格的に、首輪と縄が必要かもしれない。 席の近くの床に少年を座らせる。机があって窮屈なのは気にならないらしいが、周囲の使い魔を見てそわそわしている。 ふと、少年が使い魔のうちの一体――浮かんだ巨大な目の玉を指さして言った。 「アンノーン?」 「違うわ。バグベアーよ」 「チョロネコ?」 「あれは単なる猫じゃない。チョロってなによ」 「アーボ?」 「あれは大ヘビ……一体、その名前は何処から出てきてるのよ」 ルイズが呆れたように言ったところで、教室の扉が開いて一人の魔法使いが入ってきた。 ふくよかな頬が優しげな雰囲気を漂わせている、中年の女性だ。紫色のローブに、帽子を被っている。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは俯いた。 「おや? ミス・ヴァリエール、使い魔はどうしました?」 床に座った少年は、教壇からはちょうど死角になっていて、彼女からは見えないらしい。 シュヴルーズが問いかけると、ルイズの近くに座っていた少年が声を上げた。 「ゼロのルイズ! 召喚出来ずにその辺の平民連れてきたからって、恥ずかしがって隠すなよ!」 その言葉に、教室中がどっと笑いに包まれた。 ルイズは椅子を蹴って立ち上がった。長い髪を揺らし、可愛らしく澄んだ声で怒鳴る。 「違うわ。ちゃんと召喚したもの! こいつが来ちゃっただけよ!」 「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』に失敗したんだろう?」 ゲラゲラと教室中が笑う。 「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! 『かぜっぴき』のマリコルヌが私を侮辱したわ!」 「かぜっぴきだと? 俺は『風上』のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」 同じく椅子を蹴って立ち上がったマリコルヌに向けて、ルイズが追撃を放つ。 「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」 次の瞬間、立ち上がった二人は揃って糸の切れた人形のようにすとんと席へ落ちた。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」 席に座ったルイズは、先ほどの剣幕が嘘のようにしゅんとしてうなだれている。 「お友達をゼロだのかぜっぴきだのと呼んではいけません。わかりましたか?」 「ミセス・シュヴルーズ。僕の『かぜっぴき』は中傷ですが、ルイズの『ゼロ』は事実です」 教室にくすくす笑いが広がった。 シュヴルーズは厳しい顔をすると、ぐるりと教室を見回し一つ杖を振った。するとどこから現れたものか、笑っていた生徒の口元に赤土の粘度が貼り付いた。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 くすくす笑いがおさまった。 「それでは、授業を始めますよ」 少年は授業にはあまり興味がなかった。彼の注意はもっぱら他の使い魔に向けられていたが、属性の話が出た時は少しだけ耳をすませた。 現在は失われた『虚無』の魔法を含めて、魔法の属性は五種類あるらしい。彼の感覚からすると、五つの属性――タイプというのは、酷く少なく思えた。 もっとこう『はがね』だとか『エスパー』だとか『あく』だとかがあって良い気がする。もっとも、単に彼の感覚の方が細分化されている、というだけのことかもしれないが。 そんなことを考えたり、周囲の使い魔を観察していたりすると――。 「それでは、この『錬金』を誰かにやってもらいましょう。そうですね……ミス・ヴァリエール」 不意に指名されたルイズは、びくっと肩を跳ねさせると、シュヴルーズに問い返した。 「えっと、私……ですか?」 「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 そうやって教壇を指し示されても、ルイズは動かない。痺れを切らしたシュヴルーズが更に促そうとしたところで、キュルケが困った声で言った。 「先生」 「なんです?」 「やめといた方が良いと思いますけど……」 「どうしてですか?」 「危険です」 キュルケが言い切った。ほとんどの生徒もそれに頷く。 「危険? 一体、なにがですか」 「先生は、ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。ですが、彼女が努力家であるという事は聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、なにもできませんよ?」 「ルイズ。やめて」 キュルケが蒼白な顔で言う。しかし、ルイズは立ち上がった。 「やります」 言って、若干硬い動きで教壇へと向かう。通路に乗り出すようにして、少年はその背中を見送った。 教壇に上ったルイズに、シュヴルーズが隣に立って微笑みかけた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 ルイズはこくりと可愛らしく頷く。そして緊張した面持ちで小石を睨みつけると、神経を集中した。 同時に、少年は周囲の生徒たちが、彼と同じように机の影に隠れるのに気付いた。なんでだろうと思う間もなく、短いルーンと共に、ルイズが杖を振り下ろす。 瞬間、小石は机もろとも爆発した。 爆風をもろに受けて、ルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられた。悲鳴が上がる。 驚いた使い魔たちが暴れ始めた。 眠りを妨げられたキュルケのサラマンダーが火を吹き、尻尾をあぶられたマンティコアが窓を突き破って外へ逃げ、その穴から巨大な蛇が顔を出して誰かのカラスを飲みこんだ。 教室が阿鼻叫喚の大騒ぎになる。髪を乱したキュルケが、ルイズを指して叫んだ。 「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」 「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」 「ラッキーが! 俺のラッキーがヘビに食われた!」 黒板の前にシュヴルーズが倒れている。時々痙攣しているので、死んではいないようだ。 煤で真っ黒になったルイズが起き上がった。服装は悲惨極まりない。上も下もところどころ破れていて、隙間から下着が覗いている。 だが、ルイズは自身の惨状も教室の阿鼻叫喚も気にしない様子で、淡々とした声で言った。 「ちょっと失敗したみたいね」 当然、他の生徒から猛然と反撃を喰らう。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!」 爆風で吹き飛ばされた帽子を拾いつつ、少年は一人、すごい『だいばくはつ』だったなと頷いていた。 「おふっ……ミス・ロ……ング、ビル……やめて、やめ……お、おち、る……」 ルイズが教壇を吹き飛ばし、それの罰として掃除を命じられている頃。 この魔法学院の学園長であるオールド・オスマンは、秘書にいつもよりも酷いセクハラ行為――尻を両手でじっくり三十秒ほど捏ねまわすように揉んだ――に及び、いつもよりも苛烈な報復を受けていた。 首を絞められ、今にも気を失いそうなオールド・オスマンに対し、ミス・ロングビルは無表情でチョークスリーパーをかけ続けている。 そんなちょっとした命の危険は、突然の闖入者によって破られた。 「オールド・オスマン!」 荒っぽいノックに続いて、髪の薄い中年教師――コルベールが部屋に入ってくる。 その時には既に、オールド・オスマンもロングビルも自分の席へと戻っていた。早業である。もっとも、オスマン氏は酸欠気味で、頭をふらふらと揺らしていたが。 「なん、じゃね?」 「たた、大変です! ここ、これを見てください!」 ようやく脳に酸素が戻ってきたらしきオスマン氏は、コルベールの焦りに鼻を鳴らした。 「大変なことなどあるものか。全ては些事じゃ。……ふむ、これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。こんな古臭い文献など漁りおって。そんなものを持ちだしている暇があったら、たるんだ貴族たちから学費を上手く徴収する術でも考えたまえ。ミスタ……なんじゃっけ?」 「コルベールです! お忘れですか!」 「おうおう、そんな名前じゃったな。君はどうも早口でいかん。……で、この書物がどうしたのかね?」 「これも見てください!」 コルベールが取りだしたのは、少年の右手にあったルーンのスケッチであった。 それを見た瞬間、オールド・オスマンの表情が一気に引き締まり、目が鋭い光を放つ。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 ロングビルが席を立ち、部屋を出ていく。それを見届けると、オスマン氏は口を開いた。 「詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」 ルイズが滅茶苦茶にした教室の掃除が終わったのは、昼休みの前だった。 罰として魔法を使うことが禁じられていたため、時間がかかったのである。といってもルイズはほとんど魔法が使えないから、余り変わらなかったが。 ミセス・シュヴルーズは二時間後に目を覚ましたが、その日一日錬金の授業を行わなかった。どうやらトラウマになってしまったらしい。 片づけを終えたルイズと少年は、食堂に向かった。昼食を取るためである。 道すがら、少年は先ほどの光景を思い返していた。何故か、『わるあがき』という言葉が浮かんで消える。 次にちょっと間抜けな顔をした大きな魚が出てきて、最後に巨大な龍が脳裏をよぎった。 その余りの脈絡のなさに、自然と苦笑が漏れる。それを見とがめたルイズが、少年を睨みつけた。 「……あんたも」 「?」 「あんたもわたしを馬鹿にしてるんでしょ!? 貴族だなんだと散々言っておいて、その実はなにも出来ない、『ゼロ』であるわたしを!」 そんな叫びは、少年のきょとんとした表情によって迎えられた。作ったものではない。心の底から、なにを言われているか分からない、と思っている顔だ。 それを見た瞬間、毒気も怒りも、全て雲散霧消してしまった。 沈黙したルイズを見て、少年はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。 「……使い手と『わざ』には相性がある」 「ふえ?」 「どれだけ強い力を持っていても、相性の悪い『わざ』は使えない。今のゴシュジンサマは、相性の良い『わざ』がない状態なんじゃないかと思う。だから、『わるあがき』しかできない。……けど、それでもあれだけの力があるんだから、適正のある『わざ』ならすごい威力になるんじゃないかな」 突然饒舌になった使い魔に、ルイズはしばらくぽかんとしていたが、それが彼の不器用な慰めだと気づくと、くすりと笑った。 それに、こいつの考え方は面白い。これまで失敗してきた『わざ』――魔法を使えるように努力するのではなく、相性の良い魔法を探す。 今までも色々な魔法を試してはきたが、もっと色々と、それこそ普通は思いもしないようなものまでやってみるのも悪くないかもしれない。 ただ、今は――。 「……『わるあがき』ってなによ」 「えっ? ええと、うんと……なんなんだろう」 「ご主人様にそういうこと言う使い魔は、お昼ご飯抜きにしちゃうわよ?」 慌てる少年にルイズはくすくすと笑うと、先ほどより明らかに軽い足取りで、食堂へと向かった。 前ページ次ページゼロの使い魔BW