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こちらはAVAクラン「お前岩塩の匂いするな」のクランページです。 コンテンツ等至らない点はございますが、ごゆっくりどうぞ。 また、興味を持っていただければ幸いです。 ページメニューは右にございます 最近の出来事 とくにないよ~
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ネクロマンティック・フィードバック ◆EAUCq9p8Q. ◇◇◇ 数秒のうちに、すべての喧騒は消え去った。 ころころという虫の声が聞こえてくる。吹き抜ける風は冷たく、空は墨を落としたように真っ黒で。 すべてが小梅たちがようやくあの凄惨たる遊園地からの脱出に成功したことを教えてくれた。 「終わ……った?」 ほっと胸をなでおろし、そしてようやく、小梅の体が死の恐怖を思い出したように震えだした。 水に濡れた寒さもそうだが、ジェノサイドの超軌道戦闘にしがみつき続けていた疲れも酷い。 正直、限界もいいところだった。あと数分も戦闘が続いていれば、小梅は嵐に巻き上げられるように吹き飛ばされてオトモダチ同様微塵切りになっていたことだろう。 「良かった、バーサーカーさん……!」 だが、安息もつかの間のものとばかりに、実体化したままのジェノサイドが小梅に向き合い、切り出した。 「……コウメ、聞け」 ジェノサイドは、既に感覚的に理解していた。 『どうしようもないもの』が傷ついた。それは、きっとどうしようもないことだ。 たとえ令呪が残っていたとしても、こればかりは修復も効かない。 理解し、納得した。だからジェノサイドは受け入れ、こう告げた。 「もうじき消えるんだろうな、俺は」 アリスとの戦闘の傷は浅くない。特にあの、『死なばもろとも』による包囲爆撃は堪えた。 令呪三画の補助でほんの少し体を修復しエンジンを掛け直し、捕食で見た目は綺麗になったとは言え、付け焼き刃もいいところだ。 霊格の修復までは届かず、ジェノサイドのタイムリミットは少し伸びただけ。 本来ならばあの場でアリスを殺しきっておきたかったが、結果として逃してしまったのも『決定的な部分』の傷の深さ故だ。。 あとほんのすこし、余力が足りなかった。忌々しいことに。 「手を見せてみろ」 「う、うん……」 差し出された手に、隻眼のドクロとそれを取り巻く鎖めいたエンブレムはもう無い。 虎の子の令呪もすべて失い、一般人の小梅の魔力ではこの先いくらも現界は出来ないだろう。 物語の終わりは、既に手の届くところまで来ていた。 「終わりだな」 「……」 「分かるか? もうお前はマスターじゃねェ。だから……アァ……下らねえことやらずに、とっとと帰れ」 言葉はうまく紡げない。 少女を優しく諭すための言葉なんて、死んでも……いや、死んでからだって持ち合わせていない。 それでも、自身の名を呼び、自身の存在を思い出させてくれた少女のために、慣れない言葉を選んで告げる。 「分かったろ。サーヴァントなんて、碌な奴がいねえンだ。これ以上深入りすれば、死ぬのは嬢、お前の方だ」 「でも、それじゃあ、ジェノサイドさんは……」 「いいさ。俺は……せめて、俺がジェノサイドってことを覚えていけるなら。だから……」 本心だった。失って死んでいくのではなく、思い出し、忘れず、その名を呼びながら消えていける。 失うことしか出来ない死体にしては、十分すぎる結末だ。 だからもう、聖杯戦争やクソッタレなサーヴァントに関わるな。そう口にしようとして、小梅の言葉に遮られる。 「わ、私は」 ジェノサイドが別れを切り出すより速く、小梅が語りだす。 それは、『聖杯戦争』からは随分ズレた、それでも白坂小梅という少女にとっては重要な言葉。 「私は、聖杯戦争なんていいから……ジェノサイドさんと、もっと、一緒にいたい…… もっと、色んな所に出かけたり、お話したり……出来るなら、また二人で、映画を見たり…… サーヴァントじゃなくても、戦ったりはしなくても……それだけで、いいから……」 願いと呼ぶにはあまりにもささやかで。 それでも、白坂小梅という少女にとってはきっと世界で一番大きな夢。 『理解』と『共有』。 幼い日に、親から押し付けられた『異常』という枷。 白坂小梅はずっと自分が異常ではないと肯定してくれる誰かの存在を願っていた。 生者にも、死者にも出来ないその肯定をくれたのが他ならぬジェノサイドであった。 見えないものの存在を肯定してくれ。見えないものが見えていることを肯定してくれ。そしてそれを世界に対して共有してくれた。 白坂小梅という少女の存在を、友人たちとはまた別の形で肯定してくれた。 こんな限られた舞台の上ではあるが『異常ではない』と証明して見せてくれた。 ジェノサイドが居てくれる、ただそれだけで小梅はずっと救われた気持ちだった。 だから、もう少しだけ。 我儘かもしれないけれど、もう少しだけ。 終わるとしてももう少しだけ、息継ぎをすれば消えてしまいそうなこの瞬間を、二人で過ごしていたかった。 マスターとサーヴァントじゃなくたってかまわない。 一人の友人として、一人の友人の隣で、彼が消える時まで一緒にいたい。 小梅の願いは、もう、それだけだった。 「だから、終わりなんて言わないで……一緒に、帰ろう?」 「……」 少女とズンビーの間に、聖杯戦争は必要ない。 二人が出会った時点で既に二人の願いは叶っていたようなものだから。 それを確かめあうように、小梅はそっと、手を差し伸ばした。 日常を捨てざるを得なかったズンビーと、再び日常に帰るために。 「……コウメ、俺は―――」 ジェノサイドが思いを口にするのを遮るように、突然響いた足音。コンクリートに響くヒールの音。 小梅の言葉もジェノサイドの言葉も続かず。少女の夢は脆くも、夢として消え失せる。 「ああ、良かった」 小梅でも、ジェノサイドでも、当然アリスでもない声。しかし聞き覚えのある声。 この戦争は物語ではない。 この戦争は映画ではない。 悪を挫き、消滅の淵からの再起と再会に涙しようとエンドロールは流れない。 激戦を生き抜き、泣きながら生還しようとも、エンドマークは刻まれない。 激戦が終わったならば、始まるのだ。 「また取りこぼしてしまったのかと思いました」 激戦が。 更なる激戦が。 絶滅まで続く。 絶滅を告げる角笛が高らかに吹き上げられる。 満を持して現れた演者は一人、戦いの熱冷め遣らぬ舞台に上がり、拳を握り音を奏でる。 風に吹かれ翻る若草のマント、月に照らされ怪しく光る飴色のブローチ、ふわりと波打つ金の髪。そして血を吸ったように赤い薔薇。 「―――行け、コウメ」 演者の名は、森の音楽家クラムベリー。 小梅もジェノサイドもよく知る、『怪物』だ。 森の音楽家クラムベリー相手では、ジェノサイドは一方的に嬲られるだけだということを小梅も理解している。 これから先の結末を知り、襲い来るであろう理不尽な未来を知り。 それでも少女の背を押す力は、ニンジャという超越的存在の拳から放たれたにしてはあまりにも弱く、どこまでも優しかった。 「……でも、でも……」 「でもじゃねェ」 一言で切り捨てる。のっぴきならない状況、言葉を探している猶予もない。 なおも縋ろうとする小梅に手を突きつけ、ジェノサイドは振り向かぬままに言葉を捧げる。 「コウメ」 「……」 「これで終わりじゃない。いつかまた、俺はお前の名を呼びに帰ってくる。 だから、いつかまた会うために、振り向かずに走れ」 小梅の言わんとしたことを理解してか、無意識か。ジェノサイドはそう口にする。 色気のない言葉だ。だが、二人にとっては有り余るほどの思いが込められた言葉だ。 小梅は涙を拭き、突き出された手を握って「……約束、だよ」と小さく言う。ジェノサイドはただ、口元を歪めて笑うだけだった。 そして、別れは済んだとばかりに、クラムベリーに向かいなおす。 「随分準備がいいじゃねえか。俺達のケツを追っかけてやがったか」 「いえ、人と会って話をした帰りに偶然貴方の姿が目に入ったので」 「そうかよ」 息抜きがてら程度で殺しに来る目の前の存在に、つくづく呆れ、そして反吐が出る。 そうだ、こいつもだ。ジェノサイドのニューロンに鮮烈に刻まれている記憶が、アリスと同じ結論を下す。 戦闘狂いの快楽主義者。強いジツを持ちながらも暴力で相手を屈服させることと自身の優位を拳で示すことに固執する精神異常者。 チェーンソーの男もそう、アリスもそう、クラムベリーもそう。サーヴァントってのはどいつもこいつも、ニンジャめいた異常者ばかり。 迎え撃つのは本家本元正真正銘のニンジャ・ジェノサイド。 ニンジャがニンジャと出会った時、何が始まるのか。 「さあ、まだ戦えますよね。不死のゾンビと名乗っていたのですから」 「……勿論だ。てめェだけは見つけ出してサシミにすると決めていた。俺が消える、その前に」 「おや、随分嫌われたものですね」 「テメエは殺す! 俺の名を呼んだアイツを殺す!!! コウメをだ!! コウメを殺す!! 戦えねえ奴を戦いに巻き込んで、勝手に殺して、そうやって生きてきた!! 自分の欲望を満たすためだけにだ!!!」 手に持ったバズソーがギャリギャリ音を立てて回転を始める。 闘争の火蓋を切り落とす刃が小学校の舗装道路を、レンガの花壇を、校舎の壁を削りながら走り出す。 「ドーモ、クラムベリー=サン!! 俺はジェノサイド!!! てめェだけはブッ殺してやる、他の誰でもねェ、俺が!!!」 「どうも、ジェノサイドさん。私は森の音楽家クラムベリー。 さあ、共に奏でましょう、絶滅に至る狂想曲を」 わかりやすいじゃないか。ニンジャは戦うのだ。 善いニンジャも悪いニンジャも区別なく。偽りだらけのその生命が燃え尽きる、その瞬間まで。 「イヤァァァァ―――――――――ッ!!!!」 闇夜に響く絶叫は一人分。それ以外の音はもう必要ない。 その声を背に、小さな少女は走り出した。振り向かず、まっすぐ、ただまっすぐに。未来に向かって。 ◆◆◆◆◆◆◆ 蹴りを放てば飛び避けられ。 拳を放てば回って避けられ。 まるで踊るように、軽やかに立ち回るクラムベリーは、実際ジェノサイドの天敵といえた。 更に霊格への損傷もじわじわと傷口を広げていく。 バズソーをぶん回すカラテは、幾ばくかを残すばかりの寿命を無慈悲にすり減らし、物語は最悪の結末へとひた走っていた。 時間稼ぎにもならないこの状況に、怒りを通り越して笑いすら出る。 だが、まだ終わらない。まだ終われない。 まだ早すぎる。もっと、もっと、戦い続け。可能ならばこの場で殺す。木っ端微塵に切り刻む。 だが、思いだけではどうにもならない壁は、たしかに存在する。 「……やはり、貴方に期待する部分は、もう何もありません。 せめて最期は楽しく行きましょう」 無数に奏でられる音の中で、たしかに聞こえた声。 アリスから奪い取った魔力を絞り尽くす勢いで挑むジェノサイドも、クラムベリーにとっては鼻先を掠めるハエ程度の存在らしい。 「イヤァァァァ――――――ッ!!!!」得意のバズソーは空を切る。 「イヤァァァァ――――――ッ!!!!」波打つ鎖を足場に舞い上がり。 「イヤァァァァ――――――ッ!!!!」空振ったネクロカラテは地を砕く。 「イヤァァァァ――――――ッ!!!!」夕方のような遊びも見られず、指先ひとつも傷を付けられない。 「イヤァァァァ――――――ッ!!!!」それでも、攻めて、攻めて、攻め続ける。 「イヤァァァァ――――――ッ!!!!」ただ、逃げる少女を守るためだけに。ゼツメツしか出来ないニンジャが、生前から幾度か、守るためにまた刃を振るう。 音の鉄槌がジェノサイドの横腹を殴り、合わせるように繰り返される音、音、音の嵐。 まだ早い。まだ、まだ。 崩れ落ちそうな体を引きずり、クラムベリーに引き込まれるように、まるでステップを踏むように戦う。 月下で踊るように、二体の怪物が斬り合い、殴り合う。 ようやくポップス一曲分ほどの時間が経った頃、英霊の舞闘もついに終わりを迎えた。 「『内部破壊音(スフォルツァンド)』」 優しく触れる女の手。流し込まれる美しいメロディ。 絶滅を告げる喇叭の音。 世界が、揺れた。 まるで、皮膚の下をミキサーでかき混ぜられるかのような痛み。 腐乱した身体の奥、不死の核たるゼツメツ・ニンジャのニンジャソウルが直接傷つけられ、ずたずたに引き裂かれる。 不死の存在に、ついに決壊が訪れる。 消滅。 サーヴァントにとってあまりにも絶大にして絶対であるその二文字が脳裏を掠めた。 遅れて背中の腐肉が爆裂し、すぐに訪れるであろう終末の時を決定づけた。 少女と過ごしていたかもしれない余命は、ここに無残に散った。 だが、ニンジャソウルの決定的損壊を受けてもなおジェノサイドは倒れない。 食いしばった歯は既に全て砕け散った。足の先は既に敗北を認め魔力粒子へと変化を開始しているが、それでも、不死のズンビーはまだ戦うことを辞めない。 なぜなら、笑っていやがるからだ。 憎たらしい稀代の悪女が、俺を殺した愉悦とさらなる闘争への期待で笑っていやがるからだ。 まだだ、これでもまだ死ぬには早すぎる。自身に残された、ズンビーとして生きた時間の数百・数千分・数万分の一の時間に賭け、ジェノサイドはその手を伸ばす。 クラムベリーの顔色が変わる。 勝利の余韻に酔いしれる顔ではない。 不思議な顔だった。 何故、そのまま消滅するはずの木偶が、赤子のような力で自身の手を握りしめるのか、理解が出来ない、そういう顔だった。 (*1) 殺すこと叶わず。 だが、ただでは死なない。 奪っていく。森の音楽家の持つ優位を。一つの『戦争』の証を絶滅させる。 小梅の未来を苛むであろう脅威を、その手で殺す。この俺が。 「何を……」 ジェノサイドが残すのは敗北を知らせる言葉。 英霊という存在には程遠い、あまりにもありきたりな、ニンジャの辞世の句。 それでも、きっとその声が。 別れの言葉が、遠く、遠く、無事であることを願う彼女に届くように。 すべての魔力を込めて叫ぶ。 おのがうちのニンジャソウルすらガソリンとして燃やし、口の先から衝撃を放つ。 「サヨナラアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ――――――――――ッッッ!!!!!」 常人ならば肺が潰れ、臓腑を吐き散らしてもなお出せぬ程の咆哮。 内蔵を絞り尽くすようなズンビーのネクロシャウトに、『壊れた幻想』にも近い、宝具すら糧にした魔力爆発を乗せて放った大音声。 空気を震わせ建物を揺らし、ガラスや街灯を割り地を裂くほどの、最早兵器と呼ぶに近い別れの言葉。 哀れニンジャは爆発四散。 あとに残るは、霊格を失い宙に漂う魔力の粒子と、耳から血を流し蹲る勝者のみ。 【バーサーカー(ジェノサイド) 消滅】 ☆ 「……あー、キーンときた」 想像を絶するほどの咆哮に、直線距離で100mは離れていたにも関わらずその余波を受け、江ノ島盾子はそうつぶやいた。 イタチの最後っ屁と言うべきか。 少なくとも、普通の人間が間近で聞けば死ぬ程の声。放屁にしては臭すぎるか。 「いやあ、泣かせるねえ! 他人の自己犠牲ってどうしてこんなに見てて涙がでるんざんしょ!」 少女はハンカチを取り出し、わざとらしく泣いてみせ、鼻をかんでハンカチを丸めて捨てる。 関わったものたちの真剣さを考えれば、あまりにもふざけた振る舞いだったが、少女はそんなこと気にしては居ない。 バーサーカーの決死線は無駄ではなかった。 アリスという脅威を切り捨て、クラムベリーの凶手を退け、無事小梅を守りきった。 そして、アリスもクラムベリーも、おいそれと小梅を襲えぬように傷跡を残した。 ただ、彼が予見できなかったのは絶望的なまでの不条理。 彼が決死の思いで撃退したそのサーヴァントたち以外にも『無力な者』を狙う者たちがその場に居た、ということだ。 そして、いつの時代だって、死んでいる人間よりも生きている人間のほうが恐ろしい。そんな単純なことを見落としてしまったのだ。 森の音楽家クラムベリーとの会談を終えた化物は、監視カメラでその一部始終を見ていた。 自身の描いた未来予想図の、その全貌を。特等席で。 「そう。逃げられたなら、素敵な話。希望いっぱいの物語」 幕は下ろされない。 下ろすわけがない。 今回のグランギニョルの裏ですべての糸を引いた彼女が、それを望むはずがない。 少女は。 江ノ島盾子は。 超高校級の絶望は。 小梅に対して気まぐれに、アリスと、森の音楽家クラムベリーと、その他大勢の『敵』を差し向けた最大の巨悪は。 今なお愉悦で頬を歪めている。 「でも、本当にそれでよかったの?」 「お友達だなんて言いながら、自分の理想に合わない相手は切り捨てて。 自分は友達を利用して、捨て駒にして。のうのうと生き延びて。 小梅ちゃんの言う『友情』ってのは随分自分本意なんだねえ。 私様が思うに小梅ちゃん。自分のために友情を振りかざした人間は、友情に呪われるべきだよ」 きっかけなんてどうでもいい。絶望とはそういうものなのだから。 余韻も、空気も、友情も、愛も、残された意志も、繋いだ思いも、そんなものすべて関係ない。 「―――だから今回は」 だから江ノ島盾子は。 超高校級の絶望は。 「そんな白坂小梅さんのために」 甘く。 「スペシャルな!」 甘く。 「オシオキを!!」 甘く。 「用意しました!!!」 スイッチを押した。 『 G A M E O V E R 』 『 シラサカさんのだつらくがきまりました 』 『 おしおきをかいしします 』 『 超少女級のオカルトマニア・白坂小梅のおしおき 』 『 ◆ネクロマンティック・フィードバック◆ 』 ☆白坂小梅 ジェノサイドの声が聞こえた気がした。 その瞬間に、つながっていたはずの『なにか』が消えるのを確かに感じた。 それでも、振り向かずに走り続ける。ただ、ジェノサイドとの最後の約束を守るために。 友を見捨ててしまった罪悪感に心をへし折られそうになりながら、それでも駆けたのは、ジェノサイドの優しさを無駄にしないためだ。 小梅が居座っていたとして、そこに死体が横たわっていただけだ。 今から小梅が帰ったとして、何も出来ずに蹂躙されるだけだ。 だから小梅は、ジェノサイドに背を向けて、涙を流しながらもひたすらに走った。 『白坂小梅が逃げたぞ!!!!』 突如空気を揺らしたのは、機械で増幅された女性の声だった。 丁度小梅が逃げてきた小学校の方から突然名前が呼ばれ、ぎょっと見上げる。 声の主に覚えはない。だが、小学校に誰かが居たのは確実だった。 何故ならアリスが教えてくれたからだ。『エノシマジュンコ』という諸星きらりの所在をしっているらしい少女が居るのだと。 『回り込め、商店街の方に向かうはずだ!!!!』 自身の向かう先を言い当てられ、再び心臓が握りつぶされるような感覚に陥った。 ひとまず商店街近くの自身の住居に戻って朝を待とうと思っていたのだが、それは既に見透かされていたらしい。 追っ手が来る。アリスや、オトモダチや、クラムベリーのような『怪物』たちが追ってくる。 姿の見えぬ追跡者の足音が聞こえた気がして、跳ねるように走り出す。今までよりもずっと速く。少しでも声の主から離れられるように。 生まれてから今日まで、『見える』というのは白坂小梅にとって普通であった。 それが普通だったからこそ、白坂小梅は非凡であり、ほんとうの意味で打ち解けられる人物との出会いは希少であった。 いつだって『見えて』しまっていた。 白坂小梅はアリスの『オトモダチ』が最初から見えていた。 白坂小梅は突然現れたジェノサイドに対してなんら疑問を抱かなかった。 白坂小梅は『あの子』とともに、アイドルになるまでも楽しく過ごしていた。 そう、日常的に見えてしまっていた。だから、分からない。見えてしまうから分からないのだ。 「お嬢ちゃん、どうしたの? ずぶ濡れじゃないか」 声を掛けられて跳ね上がり、呼びかける声を背に受けながら別の進路に切り替える。 他のマスターが一目見れば「警官のNPC」だと理解できるそのNPCから少しでも距離を取ろうとして、あがった息と早鐘を打つ心臓に更に鞭を打って走り出す。 すれ違うすべてのNPCから距離を取りながら、少しでも人気のない道を通り、希望を目指して逃げ続ける。 白坂小梅には分からない。 眼の前に居る人物が生きている人間か、NPCか、それとも放送の主が送り込んだ『怪物』なのかが分からない。 今までの彼女ならばそれでもいいとマイペースに歩いていただろうが、スイッチは押されてしまった。 狙われているという事実。アリスとの交戦。ジェノサイドの消滅。すべてが彼女の思考から余裕を根こそぎ奪い去った。 すべての死者との思い出の反動が、白坂小梅を逆に縛り上げ、その自由を奪っていく。 見回せば、生き物全てが敵に見える。周囲にはもう絶望しか無い。 信じられるもののない絶対的な孤立だけが、白坂小梅の現在だった。 白坂小梅は存在するかも分からない敵に怯えながら、ただひたすらに、まだ見えない希望に向けて走り続けた。 人気のない道を走りながら電話を鳴らす。防水加工の携帯端末はちゃんと動作してくれていたが、それでも相手は出てくれない。 高町なのはも。雪崎絵理も。聖杯戦争のマスターである二人には結局繋がらなかった。 それでも足を止めず、ただひたすら、走って、走って、走り続けた。 信じられる場所を探し、信じられる人に会うために。 いつかまた、ジェノサイドと再会し、名を呼んでもらうために。 小梅にとっての希望。 ジェノサイドの消えた今、頼れるものは少ない。 そんな小梅にも、この怪物ばかりの舞台の上で、絶対に敵ではないと言える心当たりが……いや、心の支えがあった。 彼女たちが味方であるということは、きっと事実だとわかっているから。 聖杯戦争が始まるずっと前、NPCとしてのんびり過ごしていた頃から一緒に居た記憶がある。 毎日学校で会っていたし、毎日他愛もないおしゃべりをした。 二人との生活を思い返せば、濡れ鼠な体にも熱が湧いてきた。 吹けば消えてしまいそうな小さな火は、それでもまだ、小梅を照らし返してくれている。 小梅はただひたすらに、その小さな火に向かって走り続けた。 人目につかぬよう小道を走り、見覚えのある道をどんどん進む。 息はとっくにあがっていたけど、それでもなんとか、立ち止まらず、振り返らずに走り続ける。 彼女たちに会えれば、きっとまだ走り続けられる。 ずっと一緒に培ってきた信頼が、小梅にまた走る力をくれる。 そうして、商店街に向かっているだろう敵の手をすり抜けて。 二人に少しの間だけのお別れを言って。 そして小梅はまた走る。走っていく。ジェノサイドと出会ういつかに向かって。 階段を登り、部屋番号を確認して、ドアを開け――― ◆◆◆ 「これは悪い夢だ」 小さな声で誰かが呟いた。誰だったかは分からない。 でも、その一言で世界は崩れてしまった。 ◆◆◆ 「間違っていたんだ!」 叫び声で目を覚ます。 いつかの日、いつかの朝。歯車の狂い始めた時。 見覚えのある男性が、見覚えのある女性につばを飛ばしながら叫んでいる。 「最初から狂っていたんだ!世界が歪んでしまっていた!僕達の価値観が底の底からおかしかった! 見てみろ!この世界は僕らを笑っている!ずっと、ずっとだ!出口のない迷路で迷う様子を見ながら笑っていたんだ! やり直すんだ!もう僕達には未来を選ぶ道は残っていない!」 酒に溺れた男はわけの分からないことをまくし立てながら酒の入ったコップを投げつけた。 身をすくめた少女の随分向こうの壁にコップがぶつかり、音を立てて割れてしまった。 少女の体にこびりついたアルコールの匂いが、鼻の奥で思い出された。 その間も、男は意味の通っていない言葉を口にし続けている。あの頃のように。 単純な罵り合いもあの頃の少女にとっては難しい言葉の羅列で、言葉の意味はわからないけどその奥に潜んでいた感情は理解できた。ぼんやりとそう記憶していた。 「やり直せるのかなんて分からない。それでもやり直すしかない。それがどれだけ私を傷つけるのだとしても! さようなら、さようなら、さようなら。体を縛り付ける重力から切り離されて、一人ぼっちの旅に出る。皆前に進むから振り返った先には誰もいない! いつか出会える過去をやり直すために、後ろ向きにエンジンを吹きながら私の人生は深く深く沈んでいく!」 女が頭をおさえてうずくまり、ヒステリックに叫ぶ。耳に刺さるような叫び声だった。 酔っ払った男が更にまくし立てながら女に近づき、女も掴みかかるような勢いで男に迫って叫ぶ。 「やり直すんだ!」「やり直すんだ!」「やり直すんだ!」「やり直すんだ!」 「やり直すんだ!」「やり直すんだ!」「やり直すんだ!」「やり直すんだ!」 堂々巡りの言い合い。何度も、何度も、繰り返された光景。その一つ。 「やり直すんだ!世界を!」 「やり直すんだ!現在を!」 酔った男は、小梅の父で。 叫ぶ女は、小梅の母で。 うずくまる少女は、白坂小梅で。 いつからだっただろうか。 白坂小梅は、現実を否定されていた。 その光景は、そんな否定の始まりの一ページ。 古い記憶が、まるで暗い色を伴ってせり上がってくるように、小梅の内側から不快感を伴って湧き上がってくる。 否定され続けていたころの自分を無理やり引きずり出されたような感覚だ。 未熟だった頃には目を背けられていたその感覚は、幸せになってしまった小梅の精神には、とても強く、とても重い 帰りたい。真っ先に思い浮かんだ感情が、それだった。 帰りたい。ここは白坂小梅の居る場所ではない。ここは既に通り過ぎた場所だ。 立ち止まらずに駆け抜ける。救われるはずの未来に向けて。 「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」 「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」 だが、白坂小梅を否定する過去が、まるでスプラッタ映画の怪物のように白坂小梅を追いかける。 刃物よりも鋭い凶器を振りかざしながら、白坂小梅の背中を追ってくる。 父母が否定した。医者が否定した。友人が否定した。親族が否定した。 否定されたすべての過去が、形を持って小梅を飲み込もうとする。 小梅はただ、願いながら走り続けるしかなかった。 帰りたい。帰りたい。 願いが通じたのか、白坂小梅の目の前が突然一気に開けた。 そこは、小梅の務めるアイドル事務所の、仕事の前に皆が集まってのんびり過ごす一室だ。 ずっと走っていたはずなのに、実際の小梅はお気に入りのソファーの上で横になっていた。 見回しても、あの怪物は居ない。 あるのは色々なアイドルの笑顔で埋め尽くされた写真とか、これからの未来を書き記したスケジュールボードとか、そういうものだけ。 涙が流れていた。体はびしょ濡れのままだった。 白坂小梅はきっと、ここに居ていいのだと、ほんわかとした空気が教えてくれているようだった。 扉を開けて、二人の少女が入ってくる。 見間違えるはずがない。輿水幸子と星輝子だった。 悪い夢だったんだろうか。 わからないけれど、それでも、二人を見るだけで心は温まった。 二人と一緒ならどこまでだって走っていける。 「幸子ちゃん、輝子ちゃん!」 でも。 「やり直しましょう。結局最初から何一つ上手くいったことなんてない。 こんなことなら最初からなにもなかったことにしたほうが良かった。 世界はきっと生まれることを望んでいなかった。だからもう一度帰るんです。あの日見た黄昏の向こうに。ボクたちの居るべき場所に」 それでも。 「やり直そう。こんな世界はやり直そう。私達の世界に光り輝くものなんてなかった。 それはきっと私達が生まれるずっと昔に誰かが奪いあげて隠してしまった。蠍の火はもう輝いていない。 歩き続けるのに疲れてしまうなら、いっそこんなもの、すべてやり直してしまうしかない」 世界は牙を剥いてきた。 一瞬で、優しい空気に包まれていた世界が塗り替えられていく。 壁中に広がるのは無数の目と口。恨むように小梅を見つめ、呪うように否定の言葉を口にする。 世界で一番大事な二人も、合わせるように口にする。 「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」 「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」 涙が溢れた。二人の顔でそんなことを言わないでと叫びたかった。 でも、心の叫びを形にする余裕なんかなくて、小梅は必死に二人を振り払って走り出した。いつかあると夢見た、幸せな未来へ。 帰りたい。帰りたい。帰りたい。 どこへ? 分からない。昨日までそこにあったはずの、いつかそこにあるはずの場所へ。 受け入れてくれた人たちのもとへ。でも、それがどこにある? ひょっとしてそれは。 小梅がただそこにあると思っていただけで。 最初から存在していなかったのでは。 考えた瞬間、最後の力が抜け、小梅はもうその場にへたり込むことしかできなかった。 「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」 「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」「やり直すんだ」 否定。否定。否定。 取り囲むすべてが、今まで小梅を肯定してくれていたものたちが、これから小梅を肯定してくれるはずのものたちが、白坂小梅を否定する。 カツンと音が一つ。否定を打ち破るような赤い閃光。 舞い散る火花を思い出し、ぎゃんぎゃん回る鉄の刃と小梅の背を押してくれた力強い肯定が蘇る。 そう、きっと彼なら、こんな状況でもぶち壊してくれる。 止まらないと決めた歩みを止め、振り向かないと決めた心を曲げて振り返ってしまう。 きっとそこに居てくれるはずの、彼の名を呼んで。 「ジェノサイドさん!」 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ 「あなたの悪い夢も、きっと覚めるよ」 はっきり聞こえた彼とは別の声。ちょっとだけ現実に戻れそうになる心。 「『死者行軍八房』」 でも、小梅の心が現実に戻ることはなかった。気がつけば、小梅の胸からは赤く染まった何かが突き出ていた。 それが日本刀のようだと気づいたときには、白坂小梅の現実はもうすべて終わっていたからだ。 【白坂小梅 躯人形化(実質的敗退)】 ◆◆◆ ☆アサシン NPCの少年の首にぶら下がっていた伝言は、参加者の情報だった。 諸星きらり、双葉杏、白坂小梅、蜂屋あい、木之本桜。短期間によく集めたものだと思う。 一部の参加者についてはサーヴァントの情報、拠点、今後の行動方針の予想についても書いてあった。 何を意図したものかは分かる。暇なら殺せと言っているのだろう。 どれほど信じたものかは分からないが、少なくとも「蜂屋あい」「木之本桜」についてはアサシンの知っているとおりだったし、双葉杏なる少女も索敵の際に見かけたとおりの見た目だった。 山田なぎさよりも随分そりの合いそうな奴が居たものだと思いながら、貰えるものは貰っておけと情報に目を通す。 一人だけ、随分わかりやすい標的が居た。 サーヴァント・バーサーカー、脱落済み。今後の方針、拠点へ帰還。拠点の場所、判明済み。 特殊技能、心霊関係への知識のみ。身体的に優れた特性なし。 顔写真付きで誤殺の心配もない。そして、アサシンの知っている情報との食い違いもない。 「白坂小梅」 その名を口にする。随分可愛らしい名前だな、と思いながら思考を巡らせる。 どうやら彼女の友人二人も聖杯戦争の参加者の可能性があるらしい。 襲いやすさと同じくらいその点も魅力的だった。 白坂小梅を利用すれば、生存中のマスターを躯人形にできる可能性がある。 そうすればサーヴァントを芋づる式に引っ張れるかもしれない。悪くない相手だと思えた。 時間を確認する。山田なぎさと別れてから随分と経つが、もう少しくらい遅れたところでなんら問題ないだろう。 ◇◇◇ 教えられた拠点に来てみたが、どうにも様子がおかしい。 アサシンの鈍い感覚でも分かるくらい、その拠点には魔力が溢れていた。 部屋全体を包み込むような感じから察するに、キャスターのクラスの陣地が張られていると見てまず間違いないだろう。 白坂小梅の情報とは随分食い違う。ひょっとして担がれたか。表札に世帯主の名前は入っていない。 考えられるのは、情報提供元の人物のサーヴァントの陣地である可能性。餌をぶら下げてアサシンをおびき寄せ、自分の陣地に引き込もうという魂胆か。 どうしたものかとしばし考え、八房を抜き払う。まるでランプの魔人のように、傍に躯人形が現れた。夕方手に入れた壮年の男性、アーチャーだ。 あまり危険を犯すつもりはないが、来たついでなので躯アーチャーを利用して陣地の効果を探っておく。 読み通りサーヴァントを囚えるたぐいの陣地ならば、ただの人間と変わらないスペックしか出せないアーチャーでも反応するはず、という見込みだ。 躯アーチャーが奪われてしまうのは痛手と言えば痛手だが、貰った情報でトントン程度の痛手だ。 アサシン自身はいつでも離脱できるように、八房の射程内でできるだけ遠く、それも扉の見えない位置に陣取る。 戦闘に備えてお菓子をひとつまみ。薬が巡って感覚が冴える。 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。 「アーチャー、お願い」 声に従い、躯アーチャーが扉を開いた。一秒、二秒、三秒。躯アーチャーの姿に変化はない。 陣地の効果どころか風すら吹いていないという風の立ち姿だ。 八房で指示を出し、一度陣地に入らせる。離脱防止の魔術はかけられていないようで、出入りは自由だった。 調度品を持って出ることも可能。家の主は不在で間違いないらしい。 逆に不気味に感じながらも、屋根を伝って少しずつ陣地の入り口を視界に入れていく。 瞬間。躯アーチャーの持ち出した調度品に手が置かれた。 動きを止めて身を隠し、様子を見守る。気配遮断が働いている限り、一方的に見つかることはまずないはずだ。 手を置いたのは女性だ。それも随分若い。次に見えたのは、肉を持った逆の手。そして流れるような黒髪。その後でようやく顔。 「……え」 困るから持っていくな、と言っているんだろう。 なんと伝えるべきか迷うように、難しい顔をして何も言わないアーチャーと見つめ合う女性。 服装は随分今風だが見間違えるはずがない。彼女はアサシンの姉、アカメだった。 一瞬だった。 薬物によってもたらされた超人的な身体能力でまさに瞬き一つの間に距離を詰め、アカメが身構えるよりも速く彼女の利き腕を切り捨てる。 それから、様々な考察が頭を巡った。アカメが居る理由、陣地と彼女の関係、アカメの立ち位置、他にも幾つか。 だが、『殺せる瞬間を見逃さない』という暗殺者として培われた技術と、『アカメの隙』という天から降って湧いた好機でそれらは思考の端に追いやられていた。 アサシンの胸で早鐘を打つ鼓動の理由は、歓喜と興奮、今はもうそれ以外にない。 完全に虚を突かれたらしいアカメは、目を丸く見開き、大好きな食事も手放して切り落とされた利き腕の肩を抱いていた。 「クロメ……? なんで、ここに……」 「当然居るよ。妹だもん」 アカメが飛び退り、部屋の奥に置いてあった『一撃必殺村雨』を取ろうとする。 だが、遅い。 「良かった」 アカメが刀身を見せるより速く、抜きっぱなしの八房がアカメの白い喉に突き刺さる。 耳障りな音がアカメの口から漏れ、同時に突き破った喉の裏側と口から血が溢れだす。 空いている手で村雨に伸ばそうとされている手を捕らえ、勢いに任せてアカメを押し倒す。 抵抗する力は強いが、薬物で向上したアサシンを押し返すほどではない。 「ずっとこうして、あげたかった!」 刺した八房を抜き、念入りにアカメの首を刎ね飛ばす。たかだかと舞い上がる血しぶきが空間を汚していく。 二度、三度と地面を跳ねて転がったアカメの首は、壁にぶつかってすぐに止まった。 体の方はそれでも抗うかのようにしばらく暴れていたが、十秒もしないうちにおとなしくなった。 「おかえり、お姉ちゃん」 死体の修復は得意だ。首が落ちたくらい、なんてことない。きっと綺麗に縫合できる。 そうすれば、姉妹ずっと一緒に居られる。いつまでも、いつまでも。もう離れることはない。 「おいアカメ、今の音―――」 やけにだだっ広くなった空間の向こう側、扉が開かれて数人の影が現れる。 その光景は、もう、奇跡と呼ぶしか無かった。 扉を開けたのはウェイブで、その奥に居るのもどれも見知った顔ばかり。 口からは自然と笑い声が溢れ、体は放たれた矢よりも速く動いた。 まずウェイブの心臓に深々と八房を突き立てる。奥に居たエスデスの腹を裂く。 流れるようにセリューを、ボルスを、Dr.スタイリッシュを、ランを殺し、ついでにタツミを殺しておく。 「よかった、丁度足りるね」 アサシンにとって大切な人と、大切な人にとって大切な人。ちょうど八人。 八房はきっと、そのために、八つのストックを有していた。血塗れの刀身を抱きしめ、夢のような世界に浸る。 周囲に転がる死体の数々、もう二度と離れることのない大切な人たち。 転がっていたアカメの首を抱きかかえる。血を吸った長い髪がべちゃりとスカートに張り付く。 アカメの長くて綺麗な髪は好きだった。だから血で傷んでしまう前に、髪をちゃんと洗ってあげなければ。 他の皆も、八房に収納するのは当然として、傷口が目立たないようにちゃんと整えてあげたい。そうだ、生前そのままのボルスを家に返してあげれば彼の妻子も喜ぶだろう。 素敵な世界が幕を開ける。アサシン―――いや、少女・クロメの人生は、ここからようやく始まる。 「これで皆、ずっと一緒だよ」 冷たい刃の突き刺さるような感触。体の内側から広がる痛み。 薬物の中毒症状。この夢をかなえるために払った代償。その痛みすらも誇らしい。 壁に背を預け、大きく息を吐く。生前から背負い続けた夢という名の重石が、ようやく外れた。 抱きしめたアカメの頭の感触が、とても心地良い。このまま、ずっと眠っていられるくらいに。 …… 一つ。もう一つ。また一つ。 聞き慣れた足音が幸福の扉を叩くように一定間隔で近づいてくる。 眠ってしまいそうな中で目を開けば、傍に立っていたのはクロメの大事な人の中の誰でもない。躯アーチャーだった。 躯アーチャーの目が赤く光る。 クロメの頭の中を支配していた多幸感が消え、痛みだけが残った。 周囲には誰もいない。大事に抱きかかえたはずのアカメの首もない。 走り回って刀を振り回して、死体をいくつも積み上げたにしては綺麗過ぎる部屋の真ん中にアサシンは居た。 どこかの少女が暮らしていたのだろうか。可愛らしい小物が幾つか置いてある。 飾られた写真立てには三人の少女が笑顔の花を咲かせていた。 突然の状況の変化に困惑しながらも、状況を推察する。 躯アーチャーの今の動き。あれは、アサシンがNPCの少年相手に試した躯アーチャーのスキルだろう。 催眠状態の相手に何も効果のない催眠術を重ねがけして上書きし、そして何も効果のない催眠術を解除して元の催眠術ごと解く。 死体が口をきけたならば催眠術も有効利用できたのだろうが、結局できるのはこんな何の役にも立たないと思っていた技だけだとがっかりしたものだ。 「そっか」 推測が結論を導く。クロメの現実。それは躯アーチャーだ。 せこせこ走り回って、情報を嗅ぎ回って、ようやく一人を殺せて。でも、得られた死体はほとんどただの人間で。 今もまた、別の参加者に顎で使われて、一人を殺すために走り回って。 デコイ程度の扱いで出していた躯アーチャーが居なければここで死ぬまで幸せな夢を見続けることしか出来ない、弱い、弱い、サーヴァント。 「ごめん、ありがとう。このまま催眠をかけておいて」 躯アーチャーは何も答えない。死人特有の淀んだ瞳で星空の向こう側になにかを探すように虚空を見つめている。 呆然と立ち尽くし、力を奪われ、夢見るようなその姿。先程までのクロメをそのまま見せられているような、そんな姿。 ようやく、頭が回りはじめて、冷静さを取り戻した。携帯している袋からお菓子を一掴み取り出し、口にぶち込んで噛み砕き飲み込む。 幸せの証と思い込もうとした鬱陶しい痛みは消えた。 残ったのは、苦い、苦い、死よりも苦い、精神を陵辱された不快感。 「そんなに都合よくいかないって……十分分かってたつもりだけどなあ」 アカメが偶然NPCとして存在していて。 イェーガーズが奇跡的に全員NPCとして存在していて。 全員が同じマンションの一室に詰まっていて。 そしてクロメが彼女たちを殺せて。八房に彼ら彼女らをストックして大団円。いつまでも、いつまでも幸せに暮らせる。 そんな素敵な物語が、アサシンの人生に一度でもあったか。 そんな夢物語が、この世界にあると信じていたのか。 なぜそんな奇跡を信じた。殺すことで生きてきた、世界の過酷さを理解している、アサシンが。 「これは悪い夢だ」 噛みしめるように、一言呟く。こんな甘美な夢に騙されないように。 もう二度と、奇跡の幻想に支配されないように。醜悪な姿を晒して死ぬことなど無いように。 抜き払ったままだった八房を構え直し、躯アーチャーの持ち出した調度品――鏡に映ったクロメ自身を斬る。 幸せに酔った少女・クロメの幻影は消えた。ここに居るのは影から影へと消えていく暗殺者・アサシンただ一人。 聞きなれない足音が聞こえてきた。誰かがまた、この世界に惑わされているらしい。 抜き払ったままの八房を携え歩を進める。 振り向いた少女は見知った顔。白坂小梅に違いない。 ◇◇◇ 『誰かの家に構築された陣地』を後にし、夜の街を駆ける。 やるべきことは幾つか増えた。 小学校でアサシンに情報を与えてきた人物の殺害は急務。 アサシンの姿を見られているのだ。言いふらされる前に始末しておきたい。 一日でマスター五人の素性を洗い出した情報収集能力を買い手を組むにしても、いつでも殺せるように正体を特定しておく必要はある。 マンションに陣地を構築している主従の殺害。 拠点がわかっているならば、ある程度の絞込はできるはずだ。 陣地が広がるようならばさっさと殺しておきたいものだ。 幸いにして、拠点の主の特定に使えそうな物も入手できた。置いてあった三人の少女の写真だ。 白坂小梅を除く二人のうちのどちらかが主なのだとすれば、白坂小梅の躯人形を利用して二人とも殺害すれば話は早い。 逆に、マンションの陣地を利用するという手もある。 躯アーチャーにはあの陣地は効果を発揮しない。ならば、あの陣地内で待ちに徹していれば無防備な参加者を強襲しやすくなるだろう。 とはいえ、マンションの一室のみという狭さとマンションの主と鉢合わせてしまう危険性を考えるとおいそれと使える手ではないが。 音を操るアーチャーへの対処。 殺すと見栄を切ったのだ。殺せる準備は必要だろう。 白坂小梅殺害の罪をアーチャーにかぶせ、マンションの主従をぶつけるというのも手の一つか。 そしてアサシンのもう一人の目撃者……権田原ジェノサイド太郎の家族の抹殺。 本人は斬り殺したが、本人の縁者が彼の死を警察に届け出て、アサシンが指名手配を受けるような事態は避けたい。 ならば一族郎党皆殺しに限る。口封じは得意だし、気配遮断で見つかりにくい。権田原という名字と家族構成を聞いているので目星も付けやすい。 と言っても、これはもうついでのついでくらいでいいだろう。 保留にしてきた大道寺知世のこともある。 放っておいた甘ちゃんマスターのことも気にかかる。 やるべきことはどんどん増えていく。だが、その分自分の手で掴む勝利も近づいてくる。 今度はあんな誰かの夢ではなく、自身の手で、自身の夢を掴み取る。 「帰ろっか」 返事はない。でも、たしかにそこに二人居る。 夜を駆けるには少々の大所帯。月光を受けて八房が煌めけば、そこにはまた、孤独な少女が一人きり。 辛くも幻影を斬った少女は、戦果を手に主のもとに帰還する。 【C-3/輿水幸子のマンション付近/一日目 夜】 【アサシン(クロメ)@アカメが斬る!】 [状態]実体化(気配遮断)中、精神不安定、強い不快感 [装備]『死者行軍八房』 [道具]142 sの写真 [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を取る。 0.幸せな夢に自己嫌悪。 1.戦闘の発生に注意しながら撤退。 2.マスターのもとに帰る。その時のマスターの様子次第で知世を躯人形に。 3.アサシンらしく暗殺といった搦手で攻める。その為にも、骸人形が欲しい。 4.とりあえずおとなしく索敵。使えそうな主従を探す。白坂小梅を利用して……? 5.アーチャー(クラムベリー)は殺したいけど、なにか方法は…… 6.小学校の情報提供者の正体を探り、利用するか、始末するか。 [備考] ※木之本桜&セイバー(沖田総司)、アーチャー(クラムベリー)、江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)、双葉杏&ランサー(ジバニャン)、高町なのは、蜂屋あい&キャスター(アリス)、大道寺知世、諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)、輿水幸子を確認しました。 小学校に居た何者か彼女に姿を見られたことを知りました。142 sの写真で白坂小梅の友人二人の姿を知りました。 ※八房の骸人形のストックは弐(我望光明、白坂小梅)です。 我望光明の『赤い目の男』スキルの応用により精神支配や幻覚を一時的に無効化できます。 ※B-3(廃工場地帯)でアーチャー(森の音楽家クラムベリー)の襲撃を受けたという情報を流すと宣言しました。 どの程度流すかはその時のアサシンのテンションです。もしかしたらその場しのぎのはったりかもしれません。 ※アーチャー(クラムベリー)と情報交換しました。どの程度聞いたのかは後続の書き手の方にお任せします。 ※アーチャー(クラムベリー)と敵対しました。彼女が『油断や慢心から一撃を受ける可能性』と『一撃必殺の宝具ならば簡単に殺せる可能性』を推測しました。 ※C-3マンションの一室(幸子の部屋)に特殊な陣地(?)が展開されていることを知りました。 【地域備考】 輿水幸子の部屋はクリエーター(クリシュナ)の手によってほとんどが幻想世界に作り変えられました。 系統としては『認知の浅瀬』に最も近く、侵入者の『認知』によってその性質が確定します。 わかりやすく言えば、ニュートラルな状態から陣地を認識した人物の認識を反映し相手の過去の「一番弱い部分」を陣地に投影し、精神を折りにかかってきます。 それはとても幸せな夢かもしれませんし、とても辛い現実かもしれません。無意識の恐怖かもしれませんし、なんてことのない日常かもしれません。 対魔力あるいは精神耐性で精神ダメージ緩和可能です。サーヴァントでも長時間影響を受ければ再起不能になる反面、人間でも突破可能です。 精神にひとかけらも弱い部分がない人物が踏み込んだ場合、クリシュナの用意した『よくわからない世界』に叩き落されてなんか認識をジャックされます。 精神が存在しないものが踏み込んだ場合、そこはただのカワイイ幸子のマンションの部屋でしかありません。これが先述の『ニュートラルな状態』です。 幸子の部屋の改造完了に伴い陣地は徐々に拡大し、いずれマンションを飲み込み、エリアを飲み込み、舞台すべてを精神世界に塗り替えます。 なお、不用意に踏み込めば当然幸子もこの精神攻撃の対象となります。 ☆森の音楽家クラムベリー 真名を晒すということは、逸話を晒すということだ。 逸話を晒すということは、すべての過去を曝け出すということだ。 ジェノサイドは『森の音楽家クラムベリー』という名を聞き、その逸話をおぼろげながらに思い出していた。 小梅の三つの魔力とアリスのMAGはサーヴァント・ニューロンの奥底から、真っ先にその逸話を掘り起こし、備えさせた。大切な者の身に差し迫る危険を切り抜けるために。 そして、最期の瞬間に、その逸話に目掛けて『絶滅』を挑んだ。 アーチャー・森の音楽家クラムベリーの逸話、『森の影に隠れている人物の鼓動すら聞き分ける超聴覚』。 その超聴覚によって相手の機微を読み取り、相手の居場所を察知。アーチャーの立ち回りの基本とも呼べる武器の一つだった。 今までもその長所を逆手に取られそうになったことはあっただろう。 魔王塾主催の催事となれば、森の音楽家クラムベリーの名を聞いて対策を打つ魔法少女も少なくなかったはずだ。 そんな相手ならばアーチャーも油断はしなかった。 超聴覚で接近を察知、何か不穏な動きがあると察すれば衝撃音波を壁のように展開して耳を襲う音撃を緩和。 また、相手がまるで知らぬ相手ならば彼女だって警戒はしただろう。 決して油断せず、完全勝利を目指して音楽を奏で続けただろう。 だが、今回は勝手が違った。 アーチャーは『ジェノサイド』という真名を聞いた。彼の立ち姿を見、拳を交えた。 そして彼女もまたジェノサイドと同じように、英霊として、相手の真名から逸話のあらましについて当たりをつけていた。 不用意に近づけば食われるという危険は理解していたし、武器が回って切り裂くだけの単純なバズソーだということも知っていた。 そして、危険がただそれだけのサーヴァントだと認識していた。ニンジャの見せるカジバヂカラを甘く見た。 相手のことをよく知っていたからこそ油断し、慢心し、最後の一撃を許した。 死んだ、殺したと思った敵が、サーヴァントとしての核を打ち砕いたはずの相手が。 まるで蘇ったように――いや、彼の宣言通り死すら乗り越えた『不死のズンビー』であるように立ちはだかり。 勝利の余韻に酔う彼女に向けて、当たり前のようにオタッシャシャウトした。 アーチャーの両耳は、人間の数十倍数百倍の聴覚を持って、地をえぐりガラスを割るほどの魔力の篭った爆音を聞き届けた。 超聴覚は蹂躙され、脳は魔法少女の顔面パンチの比ではないほどに揺さぶられた。 あまりの声の大きさに聴覚器官がほどなくして破壊されてしまったのはせめてもの救いだったのか、それとも地獄の幕開けか。 彼女は、生まれて初めて無音の世界に蹲る。 吐けるものなどないはずなのに吐瀉を続け、両目からは涙、両耳からは血がとめどなく流れ続ける。 身体は小刻みに痙攣し、脳は未だに揺れ、意識は混濁したままだ。 勝者は彼女だ。それは依然変わりない。 だがその姿は紛れもなく敗者のそれであり、そして同時に、少女のために戦ったズンビーの残した勝利と、『絶滅』の意思を表していた。 【D-2/小学校/1日目 夜】 【アーチャー(森の音楽家クラムベリー)@魔法少女育成計画】 [状態] 魔力消費(小)、意識混濁、両聴覚器官破壊(極大・魔力で治癒中)、聴覚異常(極大) [装備] なし [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針: 強者との闘争を求める 0.――― [備考] ※木之本桜&セイバー(沖田総司)、江ノ島盾子、蜂屋あい&キャスター(アリス)、高町なのは、アサシン(クロメ)を確認しました。 ※フェイト・テスタロッサを見つけてもなのはに連絡するつもりはありません。 ※小学校屋上の光の槍(フェイト)を確認しました。 ※江ノ島盾子・アサシン(クロメ)とそれぞれ情報交換しました。どの程度聞いたのかは後続の書き手の方にお任せします。 ※アサシン(クロメ)から暗殺を宣言されました。ちょっとワクワクしています。 ※バーサーカー(ジェノサイド)のオタッシャシャウトによって両聴覚器官を破壊されました。 魔法少女の特性上魔力によって復元可能ですが、ある程度復元するまでほとんどの音を聞き取ることが出来ません。 また、復元後も昔と同じように音が聞こえるとは限りません。 ☆アリス 頭がずっとぐるぐる回っているみたいだし、胸がずきずきと痛む。 顔はずっとひきつってるみたいだし、涙まで流れている。 それはたぶん、生まれて初めてのこと。そんな気がする。 ほうほうの体で逃げ帰る。 オトモダチはほぼ全員居なくなり、遊園地は大部分が壊されてしまい、アリス自身も左肩から先が無くなってしまった。 痛いし、辛いし、悲しいなあ、と思う。 「エノシマジュンコチャン?」 沈んだ気持ちのまま江ノ島盾子と別れた警備室に帰ってみたが、彼女の姿はなかった。 代わりに、彼女の身辺警護として置いていった屍鬼が手紙を預かっていた。。 広げて読んでみる。短く「新しいお友達を連れてきてあげる」と書いてあった。 なんと江ノ島盾子は少なくなったアリスのオトモダチを増やしてくれるらしい。 その優しさがとっても嬉しくて、江ノ島盾子のことがまた少しだけ好きになった。 そう言えば、あの二人と戦う前もそうだった。遊びに行く前に江ノ島盾子が教えてくれたのだ。 全員連れていかずに、何人かはオトモダチが増えたときのために隠しておくといいよ、と。 そうした方が、何かあった時に都合がいいから、だって。 何かあった時というのがわからなかったけど、ひょっとしたらこういう風にアリスのオトモダチの数が減ってしまった時のことだったのかもしれない。 ずいぶん少なくなってしまったアリスのオトモダチ。でも、ゼロになったわけじゃない。 江ノ島盾子はアリスの知らないことを知っていたし、彼女が言うことにはなんだか信憑性がある気がしたので、ちょっとだけ、オトモダチを隠しておいた。 おかげで今、随分と救われている。隠していたオトモダチをMAGとして吸収することで、急場は凌げたし、アリスを増やして遊園地の再構築にも取り掛かれた。 そして江ノ島盾子は、約束の前払いというみたいに、死体を一つ置いていってくれていた。 魅了魔法(マリンカリン)をかけていたオトモダチの一人を貸していたが、それを殺してくれたのだろう。 刀で斬り殺された死体をゾンビとして蘇らせて、夜の学校を歩き回る。 アリスにとっていつもどおりの日常が帰ってくる。 音が沢山近づいてくる。江ノ島盾子が呼んだ新しいオトモダチに違いない。 アリスの心にはもう激戦の名残もなく、目の前に広がる楽しいことしか映っていなかった。 ◇◇◇ ふしぎの国の女王様は、傷ついたけどまだまだ健在。 だが、しっかりと傷跡は残されている。目を背けているだけで、狂った精神のその奥に、宝物のように仕舞われている。 絶滅の恐怖。緑色の眼光。恐ろしい顔。殺害予告。 それは時折顔を出し、吹きすさぶように彼女の精神を支配するだろう。 そして彼を思い出すようなものに出会ったならば、確実に想起し、その行動に支障をきたすだろう。 平常時には行動に支障はない、遺伝子に組み込まれたトラウマ。対ニンジャ時に暴発する爆弾。 そういった『ニンジャに起因する突発的な精神錯乱』を、とある世界ではこう呼んだ。 『ニンジャリアリティ・ショック』と。 【キャスター(アリス)@デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(及び、アバドン王の一部)】 [状態] 霊体化中、魔力消費(大)、憔悴、陣地によるMAG回復(小)、左肩から先欠損(治癒中)、腹部にダメージ(大)(治癒中)、疑似ニンジャ・リアリティ・ショック(大・軽減中) [装備] なし [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針: オトモダチを探す 0.MAGが足りない、遊園地も寂しくなった。辛い。 1.あいが来るまで少しお休み。エノシマジュンコチャンの連れてくるオトモダチでもう一度遊園地を建て直す。 [備考] ※陣地『不思議の国のアリス』の大部分が破壊されました。MAG回収の効率や道具作成の補助効果はかなり低下しています。 ※オトモダチのストックが激減しました。 ※エノシマジュンコチャンとは魔力パスがつながっていないため念話は使用できません。 ※欠損した左肩から先は魔力によって再生が可能です。ただし補佐がない場合相応の魔力と時間が必要です。 ※ニンジャに対して強いトラウマを抱えました。精神汚染スキルによって時間経過で軽減されていきますが、時折ニンジャへの本能的恐怖に苛まれます。 ニンジャを想起させるものと出会った場合、この本能的恐怖の発生率が上がります。 また、ニューロンにニンジャへの恐怖が染み付いたため、精神汚染のランクがE→E+に変化しました。 [地域備考] ※D-2一帯に「白坂小梅は商店街の方へ逃げるぞ!」の放送が流れました。 この放送を聞き、商店街や小学校に人が集まる可能性があります。 また、声の主を探りに小学校に来た場合、はらぺこアリスによってあい以外は問答無用でオトモダチにされます。 ☆高町なのは 『俺の方で掴めた情報はその程度だ』 (うん、ありがとう。キャスター) 結局、フェイトの情報は見つからず仕舞い。 でも夕方までは元気(と言っていいものか)だとわかったのが、せめてもの救い。 NPCとは言え両親を困らせるのは忍びないと家に帰ってみればキャスターが居ない。 不思議に思って念話を飛ばしてみると、キャスターもまた、独自にこの街の調査を行っていたのだという。 あちらもフェイトには会えなかったらしいが、それでも、不思議なものを幾つか目撃したらしい。 空飛ぶ円盤だとか。恐ろしい化物だとか。チェーンソーの殺人鬼だとか。 その中でもひときわ異彩を放っていたのが、『街の裏側にある街』だった。 街のどこかにある入口から入ることが出来るその街は、おそらく何者かの固有結界なのだという。 『俺は、そこに何か脱出の手がかりがあるかもしれないと睨んでいる』 (どうしてですか?) 『無理やり参加者を呼んでまで聖杯戦争をさせるような奴が居るんだ。この街にもなにか、脱出を阻害する魔術がかけられている物と見ていいだろう。 だが、固有結界は基本的に英霊の持つ心象風景の投影。その中まで現実世界の理が及ぶとは思えん。 もし、あの広大な固有結界が結界の外まで続いていて、結界の外部分で固有結界から脱出できれば、それがそのままこの聖杯戦争からの離脱になる、そう推測しただけだ』 自信家なキャスターにしては珍しく推論だった。科学者なので魔術に対する知識がない、と言っていたのが関係しているのだと思う。 にしても、受動的とはいえ魔術師になったなのはよりは余程魔術に対して考えを巡らせていてすごいなと思う。 阻害する魔術の確認は行っておいたほうがいいだろう。フェイトを探す片手間でもできるし、なにか特別なことがわかればキャスターの脱出計画の手助けになるかもしれない。 (あの、キャスターさん。それなら明日も固有結界の方をお願いできますか?) 『お前はフェイト・テスタロッサ探しか』 (それもあるけど、私みたいに戦いたくない人が居るなら、その人達にも教えたいな、って) 森の音楽家クラムベリー。白坂小梅。どちらも戦いは望んでいなかった。 もし、聖杯戦争から脱出できると分かれば力を貸してくれるだろう。 クラムベリーは念話が通じるし、小梅は丁度電話番号も分かっているので電話で情報共有ができる。 暗いばかりだった世界に一筋の光明が見えた、そんな気がした。 きっと大丈夫。 レイジングハートと、キャスターと、皆でならきっと大丈夫。 魔法の呪文のように唱えながら、部屋に戻ると、携帯端末が着信を知らせていた。 相手は誰あろう、白坂小梅。 あちらにも何かあったのかと不思議に思って掛け直してみるが、留守電に繋がった。 胸騒ぎがして、クラムベリーに念話で呼びかけてみるも返事はない。意識があれば声は届くはずなのに。 どうしてか、光明が見えたはずなのに、嫌な予感が頭をかすめた。 間が悪かっただけと信じたいが、この広い街のどこにいるかも分からない相手の無事を確かめる術は、今のなのはにはない。 【C-3/高町家/一日目 夜】 【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】 [状態]決意、不安 [令呪]残り三画 [装備]“天”のレイジングハート [道具]通学セット、小梅の連絡先 [所持金]不明 [思考・状況] 基本行動方針:元の世界に戻る。 1.一休み。 2.フェイトを探し、話をする。 3.フェイトを見つけたらアーチャー(森の音楽家クラムベリー)に連絡する……? 4.もし、フェイトが聖杯を望んでいたら……? 5.キャスターの聖杯戦争解明の手助け。あるかもしれない『結界』の調査。『さいはて町』についてはキャスターに任せる? 6.『死神様』事件の解決。小学校へ向かう。 [備考] ※アーチャー(森の音楽家クラムベリー)を確認しました。 ※天のレイジングハートの人工知能は大半が抹消されており、自発的になのはに働きかけることはほぼ不可能な状態です。 ただし、簡素な返答やモードの読み上げのような『最低限必要な会話機能』、不意打ちに対する魔力障壁を用いた自衛機能などは残されています。 ※天のレイジングハートに対するなのはの現在の違和感は(無 #65374;;微)です。これが中 #65374;大になれば『冥王計画』以外のエンチャントに気づきます。 強い違和感を持たずに天のレイジングハートを使った場合、周囲一帯を壊滅させる危険があります。 ※木原マサキの思考をこれっぽっちも理解してません。アーチャーに対しては少々不安を覚えている程度です。 ※通達を確認しました。フェイトが巻き込まれていることも知りました。フェイト発見を急務と捉えています。 ※キャスターから『さいはて町』のざっくりとした説明を受けました。そこから脱出できるかもしれないという説明も受けました。 ※『脱出を阻害する魔術』についてキャスターから推論を聞きました。時間があれば調べます。 ☆キャスター 固有結界を用いた脱出計画。なのはの未熟と無知を突いた詭弁だ。 そもそも固有結界は『距離』という概念すら捻じ曲げる『心象風景の投影』なのだから、どれだけ広大だろうと実寸通りな訳がない。 なまじ魔術に対する知識と先入観があるので騙される。 偉大で万能と思われる魔術も実際は見てくれだけのハリボテだ。それはプレシア・テスタロッサがよく知っている。無理なものは無理なのだ。 なのはにとって魔術は未だ超越的存在であるため、サーヴァントなんていう劣化存在が使う小手先遊び程度で生者が命を削って張った『絶対』を覆せると信じている。これがなのはの未熟。 聖杯戦争に呼び出されて以来脱出だなんだといい他のサーヴァントへの見識を広めようとしなかった。これがなのはの無知。 扱いやすいマスターを嗤う。そのままわけも分からず踊っていればいい。 念話を切り上げ、歩を進める。 ひとまずなのはは何の疑いもなくマサキを放っておいてくれる。ならば他にも考えるべきことはいくつもある。 プレシアから依頼のあった『神様』へと至る道。自身の至るべき『冥王計画』のさらなる詳細な概要。 先程聞こえた『白坂小梅を捕まえろ』というアナウンスも気になる。 あれほど騒ぎ立てれば小学校に誰かが居ると教えているようなものだ。 余程の馬鹿か、それとも馬鹿を装った道化か。あるいは…… 「へーい、お兄さん」 あるいは、馬鹿でも、道化でもなく、戦争の何かに酔った狂人か。 今の段階でキャスターに、その放送主がどれだったと言い切ることはできない。 だが、目の前に突然現れた少女が件の放送主である、ということは間違いなかった。 単純な話だ。声が同じだ。それにご丁寧に、自分がマスターであることを証明するように、令呪の刻まれた手の甲をぷらぷらと振って見せてくれていた。 その手に握られているのは、一枚の紙切れ。 「暇な時に電話ちょうだいよ。お互いのためになる話がしたいからさ」 女は特に警戒もせず近寄り、紙切れを渡してくる。 そしてそのまままたぷらぷらと手を振って、来た道を帰り始めた。 「待て」 キャスターの声に少女が振り向く。 ふわりと揺れた桃色の髪は、月の明かりだけでも輝くようだった。 整った顔立ち、モデル並の容姿、一度見れば忘れないだろうその姿。だが、不審人物。 受け取った紙には本当に電話番号が書かれている。ますます意味が分からない。 「電話だと? 俺がお前と何を話すと言うんだ」 「何を……うーん……そうだね」 少女は少しだけ考えた後、花が咲くみたいにぱっと笑顔を浮かべてこう堪えた。 「この戦争を終わらせるための話、とか?」 少女の笑みに屈託はない。心からの言葉、といった雰囲気だ。 「……『戦争を終わらせる』? どうやって?」 「それを話し合おうってんじゃない。電話でさ」 「ふん」 『戦争を終わらせる』、よく言葉を選んだものだ。 聖杯戦争を望まぬマスター・サーヴァントは『聖杯戦争からの脱出』だと取る。 聖杯戦争に希望を賭けるマスター・サーヴァントは『聖杯戦争の加速』だと取る。 そして、他ならぬ木原マサキは、そのどちらとも違い、そしてきっと、彼女の本質に一番近いニュアンスを汲み取った。 言葉通り『この戦争』を『終わらせる』。聖杯戦争をぶち壊し、好き勝手に暴れる。 世界を冥府に変える。この少女のドブ川を覗くような瞳は、きっとその未来を望んでいる。 玉虫色の返答に鼻を鳴らして答えれば、少女はまたからからと笑った。 「気に入らないならそれ破っちゃっていいよ。今回はご縁が無かったってことでさ」 「何が目的だ」 「目的? 目的ねぇ……私の願いを叶えるには仲間が居ると思った。それじゃ駄目?」 考え込むふりにまた続けられるおべんちゃら。どこまでもこちらの出方を見ている。 この場で行動を起こすつもりはないと察し、最後に一つだけ尋ねる。 「お前、名前は?」 「江ノ島盾子。後出しジャンケンの女王江ノ島盾子ちゃんとは私のことよ。 今日はもう遅いから、明日にでもラブコールよろしくお願いしますね。待ってまーす!」 手を振りながら去っていく江ノ島盾子と名乗った少女。 キャスターと同じく、誰かを手の平の上で踊らさんとする者。 さてこいつは。 自身が価値のあるものだと思い上がった石ころか。 それとも冥王の指を彩るにふさわしい宝石か。 【D-2/図書館付近/一日目 夜】 【キャスター(木原マサキ)@冥王計画ゼオライマー(OVA版)】 [状態]健康 [装備]なし [道具]諸星きらりの電話番号の書かれたメモ [思考・状況] 基本行動方針:冥王計画の遂行。その過程で聖杯の奪取。 1.可能な限りさいはて町を偵察。 2.予備の『木原マサキ』を制作。そのためにも特殊な参加者の選別が必要。アリシア・テスタロッサを奪うのも一興。 3.特殊な参加者が居なかった・見つからないまま状況が動いた場合、天のレイジングハートを再エンチャント。『木原マサキ』の触媒とする。 4.ゼオライマー降臨のための準備を整える。 5.フェイトから要請があればバルディッシュをエンチャント。 6.江ノ島盾子に電話……? 7..なのはの前では最低限取り繕う。 [備考] ※フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、江ノ島盾子、輿水幸子を確認しました。 ※なのはからアーチャー(森の音楽家クラムベリー)について聞きました。 ※プレシアの願いが『アリシアの蘇生』であり、方法を聖杯に似た力を用いた『魂の復元』であると考察しています。 同じく、その聖杯に似た力に干渉すれば復活するアリシアを『木原マサキ』に変えることが可能であると仮定しています。 ※フェイトとの念話が可能になりました。これにより、好きなタイミングでなのはとフェイトをぶつけることが可能です。 また、情報交換を約束しました。ただし、キャスターが事実を話すとは一切約束していません。 ※プレシアから個人的な依頼を受けました。 内容:さいはて町の破壊およびさいはてのサーヴァント『エンブリオ』の抹殺。 達成条件:エンブリオの魔力が座に戻ったことをルーラーが確認する。 期限:依頼達成は二日目16時まで。報酬受け取りは図書館司書室にて二日目20時まで。 報酬:マサキの望む条件のマスター、あるいはサーヴァントの情報。 二日目終了時点でエンブリオが生存していた場合、キャスターとプレシアの司書室での一切はなかったこととなる。 また、どのタイミングにおいても、キャスターがアリシア復活を妨げる可能性があると判断した場合、プレシアは令呪をもって彼を自害させる。 ☆ 江ノ島盾子の立てたオシオキの筋書きは、即興ながらによく出来たものだった。 生きている人間にも死んでいる人間にも優しかった白坂小梅。 霊能力者だと嘯き、ゾンビを従え聖杯戦争に挑んだ白坂小梅。 そんな彼女にお似合いの末路は、やはり自身の常識に押しつぶされながらもがき、ついには自身が生きても死んでも居ない人間になることだろう。 だから彼女はチョチョイと筋書きを立てた。 『不死の軍勢』を操るアリスとぶつけ、不死の軍勢に蹂躙され死ぬならそれでよし。 サーヴァントを無残に倒され、生き残った所をアリスに弄び殺されるならそれもよし。 サーヴァントとともに生き残ったのなら…… そこで立てておいた第三の策が、『アーチャー』と『アサシン』だ。 アーチャー曰く、アサシンは死体を操る術を持っているのではないかという。 だからもしも運良く白坂小梅とジェノサイドが生き残ったのであれば、こうしよう。 生き残ったジェノサイドをアーチャーが無残に殺し。 死んだ人間に追い立てられる幻影に翻弄され、生きている人間に怯えて逃げ惑い。 最後はアサシンの手で自身がゾンビになる。 だから江ノ島盾子は、アリスが小梅と遊んでいる間にアーチャーから聞いたアサシンに接触した。 一方的に情報を渡すことで、彼女が動きやすくなるように手助けをしてあげた。小梅を狙いやすいように若干の色もつけて。 もしもアサシンが乗らなければ、その時はその時だ。 杏の携帯を使ってきらりを誘導してきらりのバーサーカーにぶち殺させればいい。 すべての結末を白坂小梅の死に収束させる。 彼女が死のハードルを飛び越えるたびに、何度でも、何度でも、理不尽をやり直して甘ったれな幻想をぶち殺す。 さて、行き当たりばったりながら幾重にも組み上げられた『超高校級の絶望』による脱落の花道を飾るパレード。 そこに、面白い偶然が混じった。江ノ島盾子も知る由のない、絶対的で絶望的で超絶悪趣味な偶然が。 その結末を江ノ島盾子が知ったならば、彼女はきっと腹を抱えて大笑いすることだろう。 江ノ島盾子の天運か、それともこの聖杯に満たされつつある穢れた奇跡の前触れか。 その偶然は、即興のオシオキに絶望的なオマケを叩きつけた。輿水幸子の家に展開されたサーヴァント・クリエーターの幻想世界。 白坂小梅の培ってきたすべてを否定し、絶望の渦中で生きる屍になった。 江ノ島盾子は言った。友情に呪われるべきだ、と。それ自体は江ノ島盾子の勝手な言い分に過ぎない。 だが、結果を見れば。 星輝子の愛と勇気に導かれ戦火に誘われ、輿水幸子の希望によってその命を落とした白坂小梅の顛末は。 絶望的なまでに友情に呪われていた。そう言えるのかもしれない。 奇跡とは、なにも善き人にのみ訪れるものではない。 善悪区別なく、等しく平等に訪れるからこそ、奇跡には価値があるのだ。 江ノ島盾子は無意識ながら、奇跡に愛され、奇跡すらその手で弄ぶ。 ☆ 声が聞こえた。 小学校の放送室から行われた放送だとわかったのは、少年が小学校に通っているからだ。 もうとっぷり夜も更けた。 なのになんで少年が学校に向かったかと言えば、夜に出歩いてでもなさねばならない使命があるからだ。 「へーい、坊っちゃん。こんな夜更けにどうしたの?」 突然声をかけられて跳ね上がる。 振り返れば、とても綺麗な女の人の顔が目の前にあった。 あまりに近くて、そして綺麗で、胸が高鳴ってしまう。きっと夜の暗闇の中で見ても、少年の顔は真っ赤だったはずだ。 「あ、ぼ、僕、兄ちゃんを探してて」 「お兄ちゃん? 坊っちゃん兄弟居んの?」 「えっ、は、はい……」 「兄弟、ふーむ、兄弟ねえ」 女の人は両手の人差し指を両のこめかみにあててふむふむ唸ったあと、驚くべきことを口にした。 「あー、もしかして、ジェノ太郎の弟さん?」 「えっ、に、兄ちゃん……ジェノサイド太郎兄ちゃんを知ってるんですか! 僕、弟のパトリオット次郎って言って……」 「知ってるも何も、なんか忘れ物したってんで泣きつかれてさ、今の今まで学校で探しものしてたのよ」 なんだよ、と一気に肩の力が抜ける。 いつもはいの一番に帰ってきてゲームをしてるジェノサイド太郎が居なくて、夜になっても居ないから心配になって探しに出てきたというのに。 ジェノサイド太郎ときたら、こんなお姉さんとずっと一緒に居たらしい。 兄の性格からして、探しものが見つかってたのに見つからないふりをしてる可能性もあるな、なんて思えてきて、急に怖がってるのが馬鹿らしくなった。 それでなくとも父母が裏山の突然の異変で帰りが遅くなるって言ってるんだから、もう少し長男としてしっかりしてほしい。 「ジェノ太郎なら小学校で待ってるし、一緒に行こっか」 「はい!」 いつもと同じはずの通学路も、夜の暗闇の中輝くみたいな美人のお姉さんと一緒だと全く違って見えた。 兄に会ったらなんて言おう。とりあえず父がするように叱って、さっさと帰るのが一番か。 家族に心配されるような真似、今後はしないでほしい。 はじめてのデート(デート、ということにする)も百メートルくらいで終わり、もう小学校は目と鼻の先。 曲がり角の向こう、見慣れているはずの小学校の校門がまるで人間を飲み込む怪物のように見えて、それだけは怖かった。 ◇◇◇ 江ノ島盾子の恐ろしい部分は分析力とその分析を利用できるポテンシャルの高さ。 更に恐ろしい部分があるとすれば、絶望的な平等性だ。 彼女にとっては姉である戦刃むくろすらも戯れに殺す相手の一人でしかない。 実際、戦刃むくろが超高校級の軍人でなければじゃれあい程度の勢いで殺してしまっていたことだろう。 全人類、親兄弟の境無く、全てを絶望に叩き落とすのが彼女のささやかな夢だ。 そんな全人類への無償の絶望が、どうして他人相手にとどまる所を知るだろうか。 蜂屋あいに興味があるし、手を組む準備もある。 アリスはあいの大切なサーヴァントだし、あいと手を組めばアリスの陣地は江ノ島盾子にとってもいい方向に働くだろう。 森の音楽家クラムベリーは自身のサーヴァント・ランサーのウィークポイント。上手く使えば彼女を絶望に引きずり込めるさ。 だが、それはそれ、これはこれ。彼女たちにだって存分に絶望してほしい。 未来にくるはずの絶望が今目の前に現れるか、今くるはずが未来に延びるか。その程度の違いだ。 「精一杯、輝く」 「輝く、星になれ」 NPCの頃に聞いた歌を口ずさむ。遠くから聞こえるサイレンの音に消されてしまうほど小さな声で。 まるで蟻地獄だ。白坂小梅を引き金として、無辜のNPCたちが次々に死んでいく。 地獄が地獄を引き起こし、さらなる地獄が展開される。 小学校という誘蛾灯。どれだけの死体がここで再び積み上がるか。 (……んー、でも、普通の精神してたら罠だって分かるだろうし、マスターは寄ってこないよね。 可愛い可愛いアリスちゃんとあいちゃんのためにNPCの死体を積めればよしかな) 江ノ島盾子は、この聖杯戦争で一人だけ、自身が最も輝く方法を知っている。 夜空に輝く一等星は、すべて江ノ島盾子を照らしていた。 【D-2/小学校付近/一日目 夜】 【江ノ島盾子@ダンガンロンパシリーズ】 [状態]健康、耳鳴り、絶望的にハイテンション [令呪]残り三画 [装備]諸星きらりの携帯端末 [道具]なし [所持金]大金+5000円分の電子マネー(電子マネーは自分の携帯を取り戻すまで使用できません) [思考・状況] 基本行動方針:絶望を振りまく 0.ちーっす。 1.小学校に帰る。そろそろきらりんについても考えるかなぁ……あいちゃんが来たら別だけど! 2.んでもさ、小梅ちゃんの最期の絶望フェイス見れなかったのは心残りだよね。 3.次はもう少し見やすい場所で絶望を与えてあげたいなあ。近くにいい相手は居ないかな? やっぱきらりん? それともあいちゃん? 4.ん? 思考欄で情報整理をするなって? えっ、ここって作中で人物が思考したことを書く場なんです? 5.やれやれ、そんな常識が私様に通用するとでも思っているのか。ミス・混沌、ミス・予定不調和と呼ばれたこの私様に! 6.まあ実際いらないから次回以降2. #65374;6.は消していいよ。私の胸のうちに秘めときましょう。 7.キャスター(木原マサキ)からの電話を待つ。 [備考] ※木之本桜&セイバー(沖田総司)、アーチャー(森の音楽家クラムベリー)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、双葉杏、蜂屋あい&キャスター(アリス)、 キャスター(木原マサキ)、アサシン(クロメ)、諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)、輿水幸子を確認しました。 アーチャーと情報交換を行いました。アサシンについて、宝具の一つが『死体を操る能力を持つ』ということをアーチャーから聞いています。 ※バーサーカー(悠久山安慈)の敵対のきっかけが『諸星きらりの精神・身体に一定以上の負荷をかけた相手(≒諸星きらりを絶望させた相手)』と見抜きました。 そのラインを超高校級の絶望故に正確に把握しています。彼女自身が地雷を踏むことは(踏もうと思わない限り)ありません。 BACK NEXT 043 帰宅 投下順 045 第一回定時通達 043 帰宅 時系列順 046 願い・想い BACK 登場キャラ NEXT 042遊園地で私と握手 アーチャー(森の音楽家クラムベリー) 050 にんぎょ注意報! 江ノ島盾子 051 暗いところで待ち合わせ キャスター(アリス) アサシン(クロメ) 048 ―――を斬る 白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド) GAME OVER 040 外へ 高町なのは 057 演者は集う 038 楽園の裏では少女が眠っている キャスター(木原マサキ) 055 新しい朝が来た、絶望の朝だ
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竹田千愛&アサシン ◆U93zqK5Y1U 私たちみんなの苦しみを、ほんとに誰も知らないのだもの。 いまに大人になってしまえば、私たちの苦しさ侘びしさは、可笑しなものだった、となんでもなく追憶できるようになるかも知れないのだけれど、けれども、その大人になりきるまでの、この長い厭な期間を、どうして暮していったらいいのだろう。 誰も教えて呉れないのだ。 太宰治『女生徒』 本。本。本。 本の香りで満ちていた学校図書室の地下に。 もっと古い本の香りで満ちている学校図書室の書庫があった。 左右にはホコリをかぶった本棚があって、天井には蜘蛛の巣があって、床にはゴソゴソとしたゴキブリがいて。 中央の少し開けた空間には、二人くらいなら座れそうな古い学習机と椅子がある。 そんな空間に好んで寄り着く者がいるとしたら、それはよっぽどの“文学少女”だろう。 あるいは、どうしても一人きりになりたかった、孤独な生徒か。 もしくは、こっそりと作戦会議をしたがる二人組とか。 「フーンフフ、フーンフフ、フフフンフーン♪」 椅子に座っているのは二人。 少女の方が、鼻歌をうたう。 歌いながら、テーブルに置かれていた水筒の蓋をくるくると開け、二つあるマグカップへとお茶を注ぎ始めた。 歌のリズムは日本人ならよく知っている童謡で、「こうこは、どうこの、細道じゃ~♪」という歌詞にあたる。 よく知っていても、普通の女子高生なら鼻歌にチョイスしたりはしないが。 「アサシンさんも、どうですか? ほうじ茶ですよ」 「ありがとうお嬢さん。でも、まずは私に喋らせてほしい。 とても重要なことに気が付いてしまったのだよ」 郷土資料の本棚から持ってこられた地図を広げていたのは、どこにでもいそうな二十代の青年。 否、二十一世紀へと突入した現代のこの町で、くたびれた砂色の外套に洋風の開襟シャツという正装はだいぶ懐古趣味が過ぎるかもしれないが。 それでも、町中をすたすたと歩けるぐらいにはどこにでもいる。 むしろ目立つのは、首と手首にぐるぐる巻かれた白い包帯と、そして首から上だけは浮浪者を名乗っても通用しそうな黒い蓬髪にどんより濁った瞳だろう。 地図のあちこちに鉛筆で色々とメモがあるのは、さきほど少女が手ずから町を案内した時に書き込んだものだ。 「何か発見したんですかぁ? アサシンさんっ」 少女はキラキラとした声で、小柄な体を傾けて身を乗り出した。 『散歩につれていってあげるよ』と言い出すのを期待する子犬のように、無邪気な顔。 だって、彼は自らを『アサシン』だと名乗ったのだから。 プロの暗殺者が、戦いの舞台を俯瞰しているのだから、きっと頼もしい。 そして、男は言った。 真顔で、真面目な顔だった。 「この町には、自殺に適した場所(スポット)が無い」 「…………」 「町を流れている川はダメだ。水の透度が少ないから川面から見ただけでは浅いところと深いところが判断できやしない。 浅瀬でも入水自殺はできなくはないが、他人に見られて妨害される可能性が相当にある。 ああ、それに投身自殺もダメだね。この町で簡単に侵入できて高さのある建物となると限られる。 マスターは知らないかもしれないが、学校や病院の屋上というのは意外と投身自殺に向かないのだよ。人間は四階や五階から飛び降りたぐらいでは、意外と死ねないからね。 足から地面に落ちて両脚の複雑骨折でのたうち回るなんて私はごめんだ。そう言えばマスターの好みを聞いていなかったね? マスターは自殺するなら身投げがいいかい? それとも薬物? 心中するなら定番は練炭かな。あれってすごく頭痛がするとも言うけど、実際はフワフワして気持ちいいらし」それ以上は喋らせなかった。 少女はキラキラと無邪気な笑顔をばっちりと保持したまま、言った。 「わぁ、そんなことまで分かっちゃうなんてすっごぉーい。 さっさと自害してくださいダメサーヴァント」 「どうしてマスターは令呪を見ているのかな? しかもすごく使いたそうに」 男はにっこりとしていた。 直後、少女はどんよりと顔をくもらせて、ばったりと学習机に突っ伏す。 みるみるうちに、子犬のような目には涙がたまっていく。 感情を爆発させる幼な子のように、足をバタバタと揺らす。 「きっ、聞いてませんよぉ~。殺し合いをやるなんて、怖いことを思い出して。 ぐすっ、でも、サーヴァントさんが来てくれたから『守ってもらえるんだ』って安心したらっ。 サーヴァントから最初に『お嬢さん、死にたいから首絞めて』って言われるなんて……あんまりですよぉ~」 「そう言われてもねぇ……私の叶えたい願いといったら、『清く正しく明るい自殺』くらいしか無いんだけど。心中ならもっと良い」 少女はさらにくるりと表情を変えた。 むっとして顔をあげ、ぷんすかと反論。 「『英霊』の時点で、とぉーっくに、死んでるじゃないですかぁ~! だいいち、この『戦争』が終わったら、アサシンさんだってお空に帰っちゃうんですよ!? 自然消滅ですよ? 自殺する意味ありませんよぅ!」 少女を知る者がその光景を見れば、 ――少なくとも、彼女の『本性』を知る者ではなく『うわべ』を知る者が見れば、 「あの竹田がツッコミに回っている……だと?」と驚いたことだろう。 「やや、これは然り! たとえ死にきれなかったとしても、戦争が終わればひと思いにやすらかに、しかも死体が残らないから迷惑をかけることなくクリーンな強制送還! なんて理想的な死に様だろう。つまり『英霊の座』は自殺嗜癖(マニア)の聖地だったのか! いや、だが待てよ。帰るということは、次の聖杯戦争があればまた呼び出されるということではないか? だとすればサーヴァントとは生きる苦しみと死ぬ苦しみの無限連鎖(ループ)地獄!? なんということだ、かつては『名探偵』として民草の崇敬を一身に良くしたこの『太宰治』が、戦争だかなんかのためにボロ雑巾のごとく擦り減らされてしまうなんて……」 『太宰治』という名前が出るや、少女――竹田千愛はいぶかしげな顔をする。 「千愛の知ってる『太宰治』は探偵でもアサシンでもなくて作家さんです。 しかも、薬物中毒になったり、実家の脛をかじってるのに大学に行かずに遊びほうけて怒られたり、 奥さんに『誰より愛していました』とか遺書を書いたのに別の美人な愛人さんと心中しちゃうようなダメダメ人間です」 「美人さんと心中か。その同姓同名作家とやらはずいぶんと羨ましいなぁ。 うん、代わって欲しい。そこ代われ」 「うわぁ。うっとりとした目で、女の敵なこと言ってますよ。こわーい」 「何を言うんだい。私は女性にはみんな優しいよ。あらゆる女性は生命の母であり神秘の源だもの」 「女性に優しい人は、女性に『死んでくれ』とか言いませんよぅ!」 千愛は確信する。 この人はやっぱり、太宰治なんだ。 出自も、職業も、能力とかも違うけれど、きっと似たような魂の下に生まれてきたんだ。 『色々なこと』があって、すっかり太宰治に詳しくなってしまった千愛が確信するのだから間違いない。 ウソつきで、調子のいいことばっかり言って、悪い大人の見本みたいにダメダメなところとか、間違いなく太宰治だ。 「どうやら、我が主は勘違いをしているようだね」 「どこがですか?」 あの『人間失格』の、太宰治だ。 「君を心中に誘ったのは、てっきり君も『同じ趣味の仲間』だと思ったからなのだ」 にっこりとした笑みで、何気無さそうに放たれた言葉。 視線の先にあるのは、竹田千愛の左手首にある、『令呪ではない傷跡』だった。 「……やっぱり、分かるものなんですね」 竹田千愛の顔から、ありとあらゆる、表情と呼べるものが消える。 右の手のひらで逆の手にあるリストカットの痕を隠し、空っぽの瞳でサーヴァントを見つめる。 ここからの竹田千愛は、『本当の竹田千愛』だ。 「あたしは、自殺が好きじゃないですよ。ただ、死にたくなる時があるだけです」 こんな風に、私は異常者なのですと自白する真似なんて、いつもならできないけれど。 「マスターは、聖杯戦争をするまでもなく、死にたいのかな?」 相手が、『太宰治』なら。 騙したって傷つけたってお互い様の人間失格が相手だから、こんなことだって言える。 「あたしのような……人が死んだってなんとも思わない人でなしが殺し合いをしたら、 どうなると思いますか?」 竹田千愛。 幾『千』もの『愛』。 それに恵まれることを願って命名された名前だとしたら、なんて皮肉。 そう名付けられて生まれた女の子は、愛だとか、思いやりだとか、恋心だとか、人間らしさといったものが欠落していた。 だけど、欠落していることが恥ずかしかったから、ずっと演技をして隠してきた。 『フツウのかわいい女の子』の振りをしてきた。 「適材適所だとでも、言いたいのかな?」 尋ね返すアサシンの目にも、感情の揺らぎはない。 まるで、竹田千愛は本当はこういう顔をする子なのだと、最初から見抜いていたかのように。 「色々、考えました。今でも考えてます。 何でも願いが叶えられるなら、『フツウの女の子』にもなれるのかな、とか。 それはとっても、なってみたいな、とか。 でも、『また』人を殺したりしたら、今度こそ『人間失格』になるかもしれない、とか。 『フツウの女の子』なら、こんな風に悩んだりしないで、『生きて帰りたい』とか怖がったりするのかな、とか。 それはなんだか、ちょっとずるいな、とか。 それとも、とっても立派でゆずれない願いがあって、戦おうとしてるのかな、とか。 だとしたら――」 もしかすると、独りよがりな子どもの馬鹿げた発想かもしれないけれど。 「――この町では、ただ生きているだけで、他の人達を損なうんですよね」 少女はそれを、悲しいことだとは分からないけれど、 そうなりたくないとは、思っているから。 「そうまでして生きてるより、誰かのために殺されて死んだ方がいいのかな。とか」 そう言った瞬間に、太宰治がその黒くて暗かった瞳で、まじまじと竹田千愛を見た。 まるで、初めて心動かされるものを見たかのように。 千愛はその沈黙に戸惑ってしまって、マグカップのほうじ茶を一口のむと、「てへっ」とおどけてみせた。 「……なーんて。ちょっと、思ってみただけですよぉ。死にませんって」 道化の仮面は再着されて、いつもの竹田千愛になる。 このお話は、ひとまずお仕舞い。そのつもりだった。 「だから、アサシンさんの趣味には付き合えないと思います。 お願いを叶えてあげられなくて、残念でした」 「竹田千愛君」 男が、初めて少女の名前を呼んだ。 「確かに私と君とでは、似ていても違うようだね。 最初は似た者同士だから呼ばれたのかと思ったけれど、それでも違う」 千愛は、顔をぎくりとこわばらせた。 なぜなら、『太宰治』は似ていたから。 かつて、『この人なら私の気持ちを分かってくれる』と惹かれて焦がれた人に、似ていたから。 だから、否定されるのは怖い。 「さっきの君は、むしろ私の部下に似ていたよ」 「部下、ですか?」 「そう、『武装探偵社』の部下」 「ああ、そう言えば自称探偵さんでしたっけ」 「『自称』を強調されると傷つくんだけど」 しかし、否定はされなかった。 言われてみれば、作家の太宰ではなく自称『探偵』だった。 死んだ魚のように濁った眼をしてる自殺嗜癖の探偵なんて、未だに信じきれないけれど。 「確かに私には『自殺』くらいしか願いが無い。けれど、これでも私は探偵をしている。 そして、依頼人を助けるのが探偵だよ」 詐欺師のように、何を考えているのか分からない飄々とした笑みだった。 にも関わらず、千愛には男が嘘をついてはいないと思ってしまった。 それは、千愛が男のことを理解できるからなのか。 それとも、男のことを理解できないから騙されているのか。 「つまり、君が助けを求めるならば、私は君を助けよう」 似ていないとしたら、千愛は『人間失格』なんかじゃない、別のところに辿り着くのだろうか。 ――君は、■■先輩と別のところへ、辿り着かなきゃいけないんだ! そう言ってくれた、かつての救い主の言葉を思い出す。 「アサシンさんは、あたしが好きだった人に似てますね」 「へぇ。マスターは私みたいな男に恋をしていたのか」 どこが同じなのか。 どこが反対なのか。 『女』の対義語(アント)が『男』であり。 『子ども』の対義語(アント)が『大人』であり。 『逸脱』の対義語(アント)が『普通』であるなら。 「恋じゃありませんよ、きっと」 『人間(Man)失格』の対(アント)は、『普通の女の子(girl)』なのか。 「でも、好きでした」 ただひとつ、言えることは。 『人間失格』から見た竹田千愛という少女は、理解できない異常者ではないということ。 ――少女もまた、迷える子犬(ストレイドッグ)の、一匹だということ。 【クラス】 アサシン 【真名】 太宰治@文豪ストレイドッグス 【属性】 混沌・善 【パラメーター】 筋力:E 耐久:D 敏捷:C 魔力:E 幸運:D 宝具:EX 【クラススキル】 気配遮断 C 自身の存在を他者に察知されないスキル。 職業柄(前職でも今の仕事でも)、潜入捜査の心得があるので、まあそこそこ。 【保有スキル】 対魔力 A+ 事実上、あらゆる魔術(令呪の命令を除く)ではアサシンに傷をつけられない。 後述の宝具のせいなので、クラススキルではなく保有スキルにあたる。 死にたがり:A+ 趣味:自殺。モットーは『清く正しく明るい自殺』。 ただし、『趣味』が自殺だと言っているように、誰かに助けられるか、太宰自身のドジによって失敗するかのパターンがお約束となっているために、『死にたくても死ねない死にスキル』となっている。 そのためにアサシンは(前述の対魔力もあって)令呪によって自害を命じられても、二画までは抵抗できてしまう体になっている。 策謀看破:B 直接的な戦闘ではなく、戦術・戦略レベルにおける作戦行動を見抜く洞察力。 後述の職業柄、また生まれつき『その仕事』の才能があったために身に着いたもの。 情報末梢 C 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、一部の情報が消失する。 消失する情報は、クラス名、宝具、スキル。 後述する宝具(二つ目)のせい。 【宝具】 『人間失格(ニンゲンシッカク)』 ランク:EX 種別:対人 レンジ:- 最大捕捉:- 触れた能力(魔術、異能)を無効化する宝具。 常時発動型宝具であり、『能力で造り出した拳銃』を使って太宰を射殺しようとしても銃弾の方が消滅してしまう。 この宝具があるために、魔力が無いにも関わらず対魔力EX。 太宰自身の奇矯かつ人畜有害かつ駄目人間の見本のような性格まで「生前に築き上げた伝説がカタチになったもの」補正としてしっかり反映されているので、『魔力を打ち消す』というよりも『敵の思惑をぶち壊しにする』という概念武装みたいなもの。 つまりメタに説明するなら『上条さんが右手で鯖に触ったら鯖は消えるのか問題』については考えなくていいですよ、ということ。 『黒の時代(ポートマフィア)』 ランク:C 種別:対人 レンジ:- 最大捕捉:- 常時発動型宝具。 そして、太宰治が『アサシン』として召喚された理由。 太宰の経歴は政府の特務機関が2年を費やして念入りかつ念入りな情報の末梢を行っており、探偵になる前は何をしていたのか遡ることは不可能となっている。 太宰自身は『前職を当ててみなよ』と日ごろから賭けのネタにしているものの一度も正解者が現れたことはなく、懸賞金は膨れ上がる一方。 本来は宝具扱いされるほどでもない逸話なのだが、『太宰治という人物』が一般からは『文豪』として認知され、『人間失格』も能力などではなく『文学作品』として知られていることによる知名度補正からの逆補正を受け、宝具の域にまで昇華されてしまった。 常にCランク程度の情報末梢スキルが働いている状態となる。 「太宰治が『元マフィア』だということは知られていない」 【weapon】 完全自殺読本。 古今東西のありとあらゆる自害の方法を網羅した愛読書。 ただの稀覯本。 【人物背景】 文豪、太宰治……ではない。 異能力集団『武装探偵社』の調査員にして荒事担当の一人。22歳。 前職は横浜で最も巨大なマフィア組織の幹部。マフィア時代は笑顔で人を拷問する(精鋭の拷問班が取り組んでも自白しなかった鉄腸漢でも、太宰が訊ねれば口を開いたらしい)ような冷血漢であり、太宰にとっては『正義も悪も同じ』で、『孤独を埋めるものがあらわれない』世界に失望しての自殺未遂を繰り返していた。 マフィアになった理由は『血と暴力と人間の本質が見える世界にいれば、何かあると期待したから』。 しかし、唯一の理解者となった人物が組織の首領に切り捨てられて、目の前で死亡。 最期にその人物から『人を救う側になれ』と道を示されたことで、『人助けができる仕事』――探偵社の社員へと転身した。 【サーヴァントとしての願い】 趣味の自殺も難しそうだし、マスターを助ける。 【マスター】 竹田千愛@“文学少女”シリーズ 【マスターとしての願い】 『フツウの女の子』になりたい。 【能力】 強いて言えば、周囲を完璧に欺きとおせる演技力と、いざとなれば犯罪に分類される行為をも躊躇なくやってのける行動力。 周囲からは『純粋無垢で健気でやさしく明るい子犬のようなドジっ子。かわいい』だと思われている。 【weapon】 カッターナイフ。 リストカットの常習犯。 【人物背景】 聖条高校一年生。外見年齢は制服を着ていなければ中学生と間違われる程度。 生まれつき共感する能力や他人の痛みを感じ取る能力が欠落していたため、『親しい人物が死んでも悲しいと思えない』『他人を傷つけても痛いと感じない』『赤ちゃんや可愛い動物を見ても可愛いと思えない』『みんなが可笑しくて笑っていることや、悲しくて泣いていることの、何が可笑しくて何が悲しいのか分からない』といったことに多大なコンプレックスを抱いていた。 (決して感情がないわけではなく、特に『みんなが当たり前にできることができない』とについては深く思い悩んでいる) “文学少女”1巻での一連の事件がきっかけで太宰治の作品を読むようになり、特に『人間失格』は五回も読み返して泣いてしまうほどに傾倒している。 【方針】 生きていく理由、生きていてもいい理由を見つけたい。
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ガチャ 唯「ふ~お風呂気持ち良かった~」 唯「…ん?」スンスン 唯「憂の匂い…?」 唯「…」 パタパタ 唯「憂~?」 憂「(!)な、なに?」 唯「私の部屋入った?」 憂「入ってないよ?(ばれた…)」 唯「うーん…」 憂「お姉ちゃん?」 ―スッ(顔を近付ける唯) 唯「くんくん」 憂「わっ//な、何?」カァァ 唯「やっぱり入ったでしょ」 憂「は、はいって…ない…よ」カァァ 唯「…」 唯「…そっか。ごめんね、変な事聞いて」 憂「ううん…あ、私お風呂入ってくるね」 唯「うん。私はもう寝るね、おやすみ、憂~」 憂「おやすみなさい、お姉ちゃん」 ―唯の部屋 唯「…(なんで嘘付くのかなぁ…)」 ―お風呂 憂(どうしよう…)チャポン 憂(やっぱり気付いてたよね…) 憂(でも、さっき顔近かったなぁ…//) 憂(お姉ちゃん…) 憂「…んっ…んんっ…」 ―唯の部屋 唯「はー」ボフッ 唯(憂…私になにか隠してるのかな…) 唯(さっきはちょっと顔近付けすぎちゃったなぁ//) 唯(…) 唯(妹が好きな私って変なのかな…) ―琴吹家 紬「変じゃないわ、唯ちゃん」ジー ―翌日 唯「zzz…」スースー 憂「お姉ちゃん、朝だよ」ユサユサ 唯「んぁ~…後5時間~」ゴロン 憂「もう~、早く起きないと…」 唯「…起きないと~?」 憂「ち、ちゅーしちゃうよ//」 唯「(!)い、いいよ~別に//」 憂「え!?」 唯「…なぁに?」 憂「じゃ、じゃあするよ。…ん~」 唯「///」ドキドキ ―ジリリリリリリリリ!「私だよん☆唯~起きろ~!」 憂「!?」ビクッ 唯「あっ、律ちゃんから貰った目覚ましが…」 カチッ 唯「あれ!?もうこんな時間!?ごめんね憂、すぐ支度するから!」 憂「う、うん」 唯「顔洗わなきゃ~」 ―タタタタ…トントントントン… 憂「…」プルプル 憂「田井中ァァァァ!!!」バキッ 目覚まし「私だ…よ…わた…私…wa…wawawawawawa…」 憂「あっ!壊しちゃった…」 ―食卓 唯「ふ~…早く食べないと!」 唯「憂のご飯は美味しいなぁ」モグモグ ―トントントントン… 憂「お姉ちゃん、髪ぼさぼさだよ~」 唯「あひがほぉ~うい~」ムシャムシャ 憂「ふふっ(食べながら喋るお姉ちゃんかわいい)」 唯「ごちそうさま~!鞄っと~」 憂「あっ私鞄持って来たよ。はい、お姉ちゃん」スッ 唯「おぉ~気が利く~さすが私の妹!」 憂「えへへ…」 唯「じゃあいこっ!憂~」 憂「あっ私ちょっとだけやる事があるから、お姉ちゃん先に行ってて」 唯「そう?じゃあ早く来てね!」 憂「うん!」 唯「行ってきま~す」 憂「いってらっしゃ~い」 ―バタン 憂「よしっ…」 憂「工具箱…工具箱…」ガチャガチャ 憂「急いで直さなきゃ!」 目覚まし「wawawa…wa…wa…」 憂「…」カチャカチャ 憂(単純な構造だな…安物だな)カチャカチャ 憂「出来た!後は…」 ―カチッ ―ジリリリリリリリリ!「うゎぁたしだゆぉん★ゆぅい~ぅおきろぉ~」 憂「きもっ!」 憂「しょうがない…私の声を変わりに入れよう…」 憂「あ、あ~」コホン ―ポチッ 憂「お姉ちゃ~ん。朝だよ~起きて~。遅刻しちゃうよ♪」 憂「ふぅ//」 憂「行ってきま~す」 ―バタン ―通学路 唯「~♪」テクテク 律「おーい、唯~!」タタタ 唯「あっ!律ちゃんおはよ~」 律「今日はちゃんと起きれたみたいだな!」 唯「うん!」 律「私の目覚まし役に立っただろ~」 唯「う~ん、役に立ったけど…」 律「けど?」 唯「KYだったよ~(もう少しでキス出来たのに~)」 律「なっ!私の美声がKYだというのか~?」グリグリ 唯「うわ~お助け~」 澪「おい律!」バキッ 律「ぐぇっ」 唯「おお…救世主(メシア)だ…」 澪「おはよう、唯」 唯「澪ちゃんおはよう~」 律「いててて…飯屋?」 澪「救世主だよ」 律「救世主…。喰らえ唯!北斗残悔拳!」ピタッ 唯「な、なにぃ!?」 ―スポッ 律「ふふふ…お前は3秒後に死ぬ!」 唯「…ふっ」ニヤリ 唯「いーち!」 唯「にーい!」 唯「さーん!」 律「な、なぜだ!」 唯「私に北斗神拳は効かぬ!」フンス 澪「遅刻するぞー」 憂「お姉ちゃ~ん」ハァハァ 唯「あ、憂~」 律「おっ、憂ちゃんおはよう」 澪「おはよう憂ちゃん。憂ちゃんが遅いって珍しいな」 憂「あっ、澪さんおはようございます。ちょっと野暮用で遅くなって…」 律(今「皆さん」じゃなくて「澪さん」て言ったよな…?) 律「野暮用って?」 唯「憂~待ってたよ~」ダキッ 憂「ごめんね~お姉ちゃん//(…黙ってろ凸)」 澪「相変わらずなかいいなぁ」 律(何故無視!?) ―学校、二年教室 唯「ムギちゃんおはよう~」 律「おーっすムギー」 紬「二人ともおはよう♪」 唯「ムギちゃんご機嫌だね!何かあったの?」 紬「うふふ♪ちょっとね」 律「なぁ唯~私何か憂ちゃんに嫌われる用な事したかなぁ?」 唯「え~?なんで?」 律「いや、朝なんか私に冷たかったからさ」 紬「目覚ましが原因だと思うわ」キリッ 律「えっ、そなの?てかなんで目覚まし上げたの知ってんだ?」 唯「ムギちゃん凄~い!当たってるよ~」 律「当たってんのかい!」 ―授業中 ―1限目 唯「zzz…」 ―2限目 唯「あいす~…」スースー ―3限目 唯「う~い~」スースー ―4限目 唯「うん…たん…」スースー ―昼休み 唯「あぁ疲れた~!ご飯だ!」ガバッ 律「いやいや、寝てただけじゃん!」 紬「律ちゃんも3、4時限目寝てたわよね」 律「ぐっ…」 唯「今日は憂とお昼食べるんだ~」 律「へぇ~そなの?」 紬「頑張ってね、唯ちゃん!」 唯「え?うん。じゃ行ってくるね~」タタタ 律「なにを頑張るんだ?」 紬「もう、律ちゃんたら…//」 律「なんだよ~教えろよ~」 紬「空気読みましょう?私の口からはとても…//」 律「うっ…」 律(私ってKYなのか…?)ガクッ ―1年教室 梓「憂、お昼食べよ」 憂「ごめんね梓ちゃん。今日はお姉ちゃんと食べる約束してるんだぁ」 梓「唯先輩と?」 憂「うん♪」ニコニコ 梓「そっかー」 憂「ごめんね。じゃあまた後でね」タタタ 梓「うん」 純「そして梓は一人寂しくお昼を食べるのであった」 梓「いやいや、純がいるでしょ」 純「一緒に食べて欲しい?」 梓「…あー、軽音部楽しいなぁ、早く放課後にならないかなぁ」 純「それは反則!」 ―屋上 唯「憂まだかなぁー」 唯「いい天気だなぁ」 憂「お待たせ。お姉ちゃん!」 唯「わーい!早く食べよー」 憂「うん!」カチャカチャ 唯&憂「いただきまーす」 唯「おいひ~」モグモグ 憂「よかったぁ」ホッ 唯「憂の料理は世界一だね!」 憂「そ、それほどでもないよー//」 唯「毎日憂のご飯を食べられる私は幸せ者だなぁ」 憂「これからも毎日作ってあげるからね!お姉ちゃん♪」 唯「でも憂が結婚しちゃったら食べられないよ~」モグモグ 憂「そんなことないよ!」 唯「え?どうするの?結婚して私のご飯まで…憂大変だよ」モグモグ 憂「お、お姉ちゃんと結婚すればいいんだよ//」 唯「え!///」ドキッ 憂「あ…(つい…引かれたかな…)」ドキドキ 唯「そ、そっかぁ~。さすが憂、頭いいなぁ~(う、嬉しい…)」 憂「で、でしょ~?(受け入れた!?)」 唯(憂と結婚…//)モグモグ 憂「お姉ちゃん、ご飯粒ついてるよ」 唯「え?どこどこ?」 憂「左の頬っぺただよ」 唯「ほんとだ~。はい」スッ 憂「ど、どうしたの?顔近付けて…」 唯「早く取ってよぉ~」 憂「う、うん(お姉ちゃんかわいいお姉ちゃんかわいい)」ぺろり 唯「ありがとう憂~(もう今日は顔洗わない//)」 憂「いつでも食べるよ~(お姉ちゃんの味お姉ちゃんの味)」 ―2年教室 紬「いい感じね」 律「ん?なにが?」モグモグ 紬「いい感じだわぁ」ツヤツヤ 律「いや、だから何が?」 紬「律ちゃんのKY!」プンプン 律「なんで!?」 … 澪「和のお弁当綺麗だなぁ」 和「そう?澪のお弁当の方が綺麗だと思うけど…」 澪「そ、そうか?ありがとう和」 和「ふふっ、どういたしまして」 和「唯うまくやってるかしら…」 澪「ん?唯がどうかしたのか?」 和「ああ、唯は今日憂ちゃんとご飯食べるのよ」 澪「へぇ~…え?それで?」 和「澪知らないの?唯は憂ちゃんが好きなのよ」 澪「へ、へぇ~」 和「恋愛対象として、よ?」 澪「へ!?」 澪「そうなの!?」 和「うん。私の見た限り憂ちゃんも唯の事好きみたいだから、うまく行くと思うわ」 澪「それは知らなかった…」 和「大丈夫よ。律は唯の親友だから」 澪「な、何の話しだ?」ドキッ 和「さぁ?何の話しかしらね」ニヤニヤ 澪「うぅ…」カァァァ 2
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水銀燈&アーチャー ◆epXa6dsSto 少女は成長する。 少女はいつか少女であることをやめてしまう。 いつの日かお人形遊びをやめて、扉の向こうに駆けていってしまう。 では、少女人形は――――? * * * 少女が突然大人になるように、 その人形も突然に目醒めた。 精巧な長い睫毛にふちどられた紫の瞳が、 彼女を抱き上げている人間の瞳をまっすぐに射抜く。 彼女が只のお人形ではなく、“生きている”証左。 生きるべく、戦う意志を持つ存在である証左。 イヤダ、コノオニンギョウ、メダマガグラグラシテル。 ケッカンヒンダワ。ステナキャ、ダメネ。 偽りの主の耳障りな言葉が、覚醒をさらに促した。 伸ばされた手を払いのけ、ちいさな唇が傲岸な命令をつむぐ。 「アーチャー! 来なさい!」 ――――。 白いフリルと黒いシルクが視界を覆う。 「護鬼剣゛妖(ごきげんよう)、ご主人様ァ!?」 NPCを引き離し、間に割って入ったのは黒い影。 鍛え抜かれた軍用ドーベルマンのような黒ずくめの少女だった。 170センチ前後の身長(タッパ)に、鴉の濡れ羽色のロングストレート。 顔の左半分は髪で隠れているが、目元は切れ長で凛々しい。 そして、まるでマスターと揃いで誂えたような―― 繊細なレースに、ふんわり裾の膨らんだ黒のゴシックロリータドレス。 「アンタが妾(アタシ)のご主人様(マスター)か? 人ん家荒らすのも佳くねェし――とりあえず場所移そうぜ」 目を白黒させているNPCの女にちらりと目をくれ、 ゴスロリのアーチャーは窓をからりと開け放った。 夜風がさあっと吹き込み、頬を撫でる。 サーヴァントが差しのべた手を、彼女は蹴った。 誇り高き薔薇乙女は、自分の力で飛べるのだ。 街の外れにある廃教会に、大小二つの影が舞い降りた。 聖杯戦争の参加者として目覚めた彼女―― 人工精霊を従え、宙に浮かぶ薔薇乙女の第一ドール・水銀燈。 その傍らには、水銀燈自身をモデル等身に引き伸ばして、 翼をもぎ取り髪を黒くしたようなゴスロリサーヴァントが侍っている。 水銀燈は数時間前とは打って変わって、いまや本来の、 生き人形のごとくに豊かな表情を――糺し不機嫌極まりない面を――浮かべていた。 クリスマスに欲しくない玩具を貰ってしまった少女のような。 先程の人間を見つめたのと同じ瞳、即ち汚いものを見るような目で 自分にあてがわれたサーヴァントを眇める。 「E・E・E・E・C・D。……なにこれぇ? ゴミじゃない」 三騎士の一角を為すサーヴァントには有り得べからざる低ステータス。 何らかの嫌がらせが働いているとしか思えない。 陰湿な“根回し”。狡い“裏工作”。少女同士ではよくある事だ。 「徒花(ゴミ)とは言ってくれるじゃねェか……あァ?」 少女のサーヴァントが、不意に自分の頬に手をやる。 そこには淡く血がにじんでいた。 「怒っちゃダメよぉ。ちょっと挨拶しただけ。……サーヴァントのくせに、脆いのね」 「そっちから因縁(アヤ)つけてくるたァ佳い度胸じゃねェか。ルール解ってんのか?」 「勿論よ。貴女を殺したら、私の探している相手がノコノコ来るって事くらい…… とっくに解ってるもの」 背に流れる麗しい銀の髪をかき分けて、禍々しい黒い翼が広がる。 同時に、アーチャーも主の意図を汲んで宝具開帳の詞を吐く。 「侵蝕(こ)いよォッ! エクスターミネーター(Bellis perennis L .)!!」 「ア゛アアアアアアあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁァァァァアアアア!! 痛ってエエエエエエエエエエェェェぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」 少女の苦痛の雄叫びと共に、アーチャーの肉体が“変身”する。 「まずは、腕ぇッ! 肉と皮膚! 骨格も!」 血管は高圧線に、筋繊維はモーターやシリンダーに、骨は合金フレームに。 乙女の心音は、エンジンの轟駆動音に。 その姿はまるで人造人間(サイボーグ)のよう。 ――レースを引き裂き、鋼鉄の銃身が姿を現した。 六本もの砲身を持つガトリング機関銃に変形した腕が、水銀燈に向けられる。 全長1メートル、重量であれば100キロに迫るであろう銃砲から、 「発射しなァ!」 ガガガガガガばりばりガガガばりばりばりガガガガガばりガガガガガガガガッ!!! 無数の金属塊が高速で群れを成して迫りくる。 風にさからわぬ羽毛のように、ふわりと高く浮いて躱しながら水銀燈は耳を塞ぐ仕草をした。 声に、駆動音に、銃声。このサーヴァントは、三重に煩い。 「エクスターミネーター、手を銃(チャカ)にッ!」 自らの宝具たる≪花≫の神秘で左手を拳銃に変異させたアーチャーが、鋼鉄の指で差す。 先端から、鋭く撃ち出される鋼鉄の弾。 魔力の光を曳く礫を水銀燈は飛翔して躱し、黒い羽根の返礼を見舞う。 アーチャーのドレスが破け、黒白の布切れが羽のように舞い散った。 裂け目からは傷ひとつ付いていない肌と、可愛いブラジャーが覗いている。 「よくも服破りやがったなァ!」 「欠陥サーヴァントの癖に色気づいてるのねぇ」 「るせェよ」 もう一発のおかわり弾も、水銀燈は飛んで躱した。 軽々とあしらっているように見えるが、 水銀燈の心の内には苛立ちの荊棘が蔓延っていた。 (めぐ……) 雪華綺晶に拐れた自分のマスターのことを思うと、平静では居られない。 めぐと雪華綺晶を追ってnのフィールドへ入りこんだ筈が、 なぜかアリスゲーム紛いにつきあわされる羽目になっている。 聖杯戦争のルールを理解した瞬間に、 まず浮かんだのはサーヴァントを殺めて雪華綺晶を釣り出す事だった。 しかし、思った以上に手間がかかる事にも気付いた。 稀代の人形師ローゼンにより造られたドール、薔薇乙女(ローゼンメイデン)。 錬金術で生成されたローザミスティカを魂の核にしている彼女たちは、 いわば存在自体が神秘の結晶。ゆえに、その攻撃にも神秘が宿る。 普通のサーヴァント相手なら通用しないだろうが―― 魔力も対魔力スキルも貧弱な目の前のサーヴァントなら、ほんの僅か通るという事だ。 ちなみに、先程因縁を付けるのに使った羽根は 普通の相手なら顔に口が一つ増えている程度の力を込めて放った一撃だ。 それでも、かすり傷。 めぐへの負担を気にしながら力を小出しにしている事もあり、 己の力のみでサーヴァントを殺すのはやや苦しい。 ならば、ここは巧く騙して他のサーヴァントと戦わせて潰すか――。 もしくは、他のサーヴァントを失った参加者を庇護すると見せかけ手元に置いて ルーラーの到来を待ち構えるのも手だろう。そこまで都合よく事態が転がることは中々無いだろうが。 再び、教会の伽藍にアーチャーの大音声が響く。 「侵(ヤ)れよォ再改造! 腕、刀剣(ヤッパ)に! 両脚、脚力上げェ!」 アーチャーは顔を苦痛に歪ませながら床を蹴った。 そして餌の小鳥を捕る肉食獣のように、黒翼の天使へ猛然と肉薄する。 改造の済んだ片目が、無慈悲な殺戮機械のように赤く瞬く。 比喩ではなく、今その眼球と視神経はまさに本物の機械と化していた。宝具の神秘に依って。 その不吉な色を水銀燈は見下し―――― 「やぁめた」 「あァ?」 嫌みなほど怠惰な口調で、勝負を投げた。 肩を竦め、ゆっくりと高度を下げて、朽ちた祭壇の上にブーツの踵を乗せる。 祭壇に額ずくような位置に着地し、眉を上げるアーチャーだが 彼女も先刻の刃は水銀燈の腹部に突き立てる寸前で確りと止めていた。 「貴女を虐めたところで、力を持っていかれて疲れるのは結局私。バカバカしいわぁ」 クスクス笑いながら、媚びるように――馬鹿にするように小首を傾げる。 「怒らないでね、貴女の力を見ておきたかったのよ。マスターとして……ね」 「……本気(マジ)で言ってンのか、それ?」 アーチャーは宝具を解除し、元の色に戻った目で水銀燈を睨んだ。 力で勝るサーヴァントだろうと、怖くはない。 ファーストコンタクトでNPCや水銀燈を気づかうような素振りを見せたり、 先程の馴れ合いのような戦闘の最中でさえも 水銀燈を撃ち落とし痛めつけようとすれば余裕でできた筈なのに全くしなかった所を見ると、 おそらく根は可哀そうな程の善人なのだろう。 単純な性格も含め、利用し易そうな人となりで 弱点も顕かなサーヴァントを引き当てられた事はまずまずの僥倖か。 (せいぜい役に立ちなさい。 私が魔力(ネジ)を流し(まい)てあげないと動けないお人形さぁん) 【クラス】 アーチャー 【真名】 瀬戸・多実華(せと・たみか) 【パラメーター】 筋力:E~B 耐久:E~B 敏捷:E~B 魔力:E 幸運:C 宝具:D 【属性】 混沌・善 【クラススキル】 対魔力:D 一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。 単独行動:D マスターを喪っても半日程度の現界が可能。 【保有スキル】 カリスマ:E 最大で10人前後の小集団に統率力・指揮能力を発揮する。 戦闘続行:A 腕が斬られようと首チョンパされようと 自己改造によって生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。 五体パージ・爆破により、トカゲの尻尾切り戦法も可能。 ただし宝具に完全に依存するスキルのため、 ≪花≫に指示するための声を封じられるなど 宝具が使えない状態に陥った場合このスキルは無効となる。 料理:D 家庭的でおいしいご飯が効率よく作れる。 【宝具】 『野菊の君』(エクスターミネーター) ランク:D 種別:対軍 レンジ:1~10 最大捕捉:10 声により≪花≫(リリ/宝具)に指示を出し、自らの肉体に強化・改造を施す力。 宝具使用(自己の肉体改造)時には 「麻酔下手の歯医者さんに全身の肉と骨を削る手術をしてもらってるような激痛」が伴う。 この激痛に耐えられる無尽蔵の気力と根性によって、 無限に自己の肉体の「再生」「改造」「強化」が可能。 展開時はエンジンの駆動音がバリバリ響いてすごくうるさい。 具体的には筋力・耐久・敏捷をB相当まで押し上げることができる。 腕を重火器や鋼鉄の刃に変異させる・手の拳銃化・ 血液と生体ホルモンをニトロ化して繰り出す「尼斗露拳(ニトロパンチ)」など多芸。 ボディを硬化させて防御、ダメージを再生修復する等、継戦能力にも優れる。 爆発ボルトを生成して四肢や頭部を自らパージし、致命的な攻撃を力技で回避する事も可能。 【weapon】 宝具エクスターミネーターにより、彼女の五体総てが武器と成り得る。 全身改造も可能だが、あまり好きではない。 【人物背景】 少女能力者≪花使い≫(リリス)を集めたバートネット女学院に所属する女生徒。 不良グループ「デイジーチェイン」のナンバー2。 仇名は「血塗れロリータ」「不死身のタミー様」「女鋼(じょこう)」「少女戦艦」等。 「いくら攻撃しても平気でこっちに向かってくる」(被害者談)。 スケ番のような喋りが特徴のゴスロリ不良女学生。齢十七。 義理堅く筋の通った、硬派で清(おんな)らしい性格。 強力な能力を持つ実妹を護る為に≪花使い≫になった「元・普通の人」。 素は大人しめのお姉さんで、妹の春歌を守る為に無理して怖いキャラと見た目を作っている。 実家は惣菜屋「デリカ・デイジー」。 両親は多額の借金を残して共に他界。彼女が惣菜を作って店と生活を支えていた。 【出典】 『百合×薔薇』2巻だけ読めばほぼ把握できる。 【マスター】 水銀燈@ローゼンメイデン 【マスターとしての願い】 ルーラー(雪華綺晶)から、めぐを取り戻す。 【weapon】 背中の黒い翼 【能力・技能】 他のドール達と違い、 契約をしていない人間からも魔力を奪うことが可能。 【人物背景】 原作第一期と二期の間。 めぐを雪華綺晶に奪われた後の時期から参戦。 【方針】 聖杯狙いを装いつつ、ルーラーとの接触が主目的。手段は問わない。 (※尚、ここのルーラーが水銀燈の探す雪華綺晶と同一である保証はない) マスターの魔力は中々で、サーヴァントの燃費も良い。 反面、神秘のランクと対魔力が低いためキャスターとぶつかると危険。 決して強い主従ではないため、立ち回りに気を使う必要があるだろう。
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少女の嗜み No.2380 星 最大HP 最大ATK 最大DEF コスト アニメ 3 130 281 96 5 AXZ PS 技属性の物理ATKを12%上昇 +限界突破時のステータス 凸数 最大HP 最大ATK 最大DEF PS 0凸 65 86 39 技属性の物理ATKを5%上昇 1凸 72 103 43 技属性の物理ATKを5%上昇 2凸 79 123 51 技属性の物理ATKを5%上昇 3凸 87 160 62 技属性の物理ATKを7%上昇 4凸 104 208 74 技属性の物理ATKを7%上昇 5凸 130 281 96 技属性の物理ATKを12%上昇 星 物理ATK上昇 最大HP 最大ATK 最大DEF PS 3 少女の嗜み 130 281 96 技属性の物理ATKを12%上昇 5 初めてのカラオケ 636 299 150 物理ATKを12%上昇 EV99 唄いつなぐ小さな魔法のコラボイベントガチャで実装された、星3メモリアカード。 臨戦態勢と同じく、星3ながらに恒常星5と同等の攻撃性能を持つ。 ただし物理技属性でも追加ダメージスキルを持つカードはGXDマリアやメック創世など一部に限られ、PSで味方全体にバフを撒けるカードも存在しないため、むやみに耐久を削ってしまうことにならないように気を付けたい。 全攻撃無効を持つ魔導師翼は耐久が減ることを気にしなくていいが、睡眠ダメージのことを考えると統制局長のバスタイムの方がいいだろう。 相性のいいカード シンフォギアカード 星 属性 カード名 最大HP 最大ATK 最大DEF 最大SPD 最大CTR 最大CTD スキル [[]] [[]] メモリアカード 星 カード名 最大HP 最大ATK 最大DEF スキル [[]] [[]] AXZ ティキ メモリアカード 唄いつなぐ小さな魔法 星3
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少女たちとその観察対象は、高校を卒業した。 同時に、平凡な毎日はつまらないと嘆いていた神は力を失う。 彼女は彼の隣で笑い、時には怒り、時には泣き、退屈というものを忘れていった。 少女と彼女を監視していた未来人は本来自分が居るべき場所へと帰る。 彼女は泣きながら怒り、未来人を引き留まらせようと考えたが、もうその能力は消え去っていた。 彼女と同じく、超能力者であった男は力をなくす。 男は彼に礼を言い、それを最後に消息不明となった。 少女は彼と彼女が結ばれるために尽くしたが、ある日始めて気がつく。 わたし、も、彼、が、す・き? 少女は宇宙人である。 そのような感情など、持つはずが無い。 それでも少女は、納得がいかなかった。 わたしは彼のことがすきなのかもしれない それを聞いた少女の創り主は酷く驚き、処分しようと考えた。 しかし彼は、少女が一度時空改変を起こしたあの日の約束通り、自らの力で少女を守る。 好きにしろ、と創り主は言った。その代わり私は何の責任も持たない、と。 彼はそれを了承し、少女は自覚した。 やっぱり、わたしは――― 気がついたときには、もう彼と彼女は所帯を持ち、少女は一人になっていた。 人間の感情を持つことが出来るようになった少女は、彼女からその話を聞かされ涙した。 どうして泣くのよとうろたえる彼女に、少女はなんでもないと嗚咽を堪える。 震える声でおめでとうと言うと、彼女は少女の涙がうれし泣きであると誤解し、幸せそうに笑って礼を言った。 薬指にはめられた指輪が、憎くて仕方なかった。 その夜のこと。 買い物の帰り、特に意味もなく公園に立ち寄った少女は、特に意味もなくベンチに座った。 ――冷たい。 吐く息は白く、心までも冷えてしまいそうだった。 好き。わたしは、彼のことが好き。 忘れようと思っていた。でも忘れられなかった。 少女は彼の名を呼びながら、声の限り泣き続けた。 つい前まで何の感情も持たない宇宙人であった少女は、自分が何故泣いているのか分からなかった。 とにかく、胸が熱い。 強く閉じられた瞳の奥に、彼と彼女が笑う姿が見えた。 暗い、暗い公園の隅。 滅多に人も寄り付かないであろう寂しいそこに、少女の泣き叫ぶ声が響く。 一日が、終わろうとしていた。 終
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4373.html
少女たちとその観察対象は、高校を卒業した。 同時に、平凡な毎日はつまらないと嘆いていた神は力を失う。 彼女は彼の隣で笑い、時には怒り、時には泣き、退屈というものを忘れていった。 少女と彼女を監視していた未来人は本来自分が居るべき場所へと帰る。 彼女は泣きながら怒り、未来人を引き留まらせようと考えたが、もうその能力は消え去っていた。 彼女と同じく、超能力者であった男は力をなくす。 男は彼に礼を言い、それを最後に消息不明となった。 少女は彼と彼女が結ばれるために尽くしたが、ある日始めて気がつく。 わたし、も、彼、が、す・き? 少女は宇宙人である。 そのような感情など、持つはずが無い。 それでも少女は、納得がいかなかった。 わたしは彼のことがすきなのかもしれない それを聞いた少女の創り主は酷く驚き、処分しようと考えた。 しかし彼は、少女が一度時空改変を起こしたあの日の約束通り、自らの力で少女を守る。 好きにしろ、と創り主は言った。その代わり私は何の責任も持たない、と。 彼はそれを了承し、少女は自覚した。 やっぱり、わたしは――― 気がついたときには、もう彼と彼女は所帯を持ち、少女は一人になっていた。 人間の感情を持つことが出来るようになった少女は、彼女からその話を聞かされ涙した。 どうして泣くのよとうろたえる彼女に、少女はなんでもないと嗚咽を堪える。 震える声でおめでとうと言うと、彼女は少女の涙がうれし泣きであると誤解し、幸せそうに笑って礼を言った。 薬指にはめられた指輪が、憎くて仕方なかった。 その夜のこと。 買い物の帰り、特に意味もなく公園に立ち寄った少女は、特に意味もなくベンチに座った。 ――冷たい。 吐く息は白く、心までも冷えてしまいそうだった。 好き。わたしは、彼のことが好き。 忘れようと思っていた。でも忘れられなかった。 少女は彼の名を呼びながら、声の限り泣き続けた。 つい前まで何の感情も持たない宇宙人であった少女は、自分が何故泣いているのか分からなかった。 とにかく、胸が熱い。 強く閉じられた瞳の奥に、彼と彼女が笑う姿が見えた。 暗い、暗い公園の隅。 滅多に人も寄り付かないであろう寂しいそこに、少女の泣き叫ぶ声が響く。 一日が、終わろうとしていた。 終
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ばねあしジャックと人形の家 ◆faoWBgi.Rg ◆◆◆◆ Jack be nimble, (さあさあ ジャック) Jack be quick, (いそいで ジャック) Jack jump over (ろうそくたてを) The candle stick. (とびこえろ) ◆◆◆◆ 小さな机と破れたソファが一つずつ。 曇りかけた、古い鏡台が一つ。 貧相な棚が一つ。 棚の中に放り込まれた、前の住人が置いて行ったらしい、くたびれた聖書が一冊。 さして広いとは言えない部屋にあるのは、せいぜいそれきりであった。 あとは――片隅にあつらえられた、畳敷きのスペースの上に、行儀よく膝を揃えて座る人形が一体。 或いは、少女が一人、と言い換えてもいい。 零れるようなブロンドの髪も、濡れた宝石のような瞳も、真っ白い肌も、彼女が腰を下ろした一角には、まるで見合っていない。浮いている。 ――本当に、置物みたいに座っていやがる。 己がマスター、ララの横顔を眺めて、サーヴァント・アサシンことウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドは、そんなふうに考えた。 怪人「バネ足ジャック」としての仮装を解いた姿で、アサシンは、机のそばの古びたソファに窮屈な長い両脚を広げてもたれかかり、片手には空っぽのワイングラスを弄んでいる。 市民劇場の裏手にある、くたびれた通りの色に同化したような、安アパートの一室。 ララに住居としてあてがわれたのは、舞台へ上がる歌姫のイメージにおよそ似つかわしくない、そのような場所であった。 ララはそれへ不満を唱えるでもなく――生身の人間と同じ衣食住を必要としない、ということもあるのだろうが――、むしろ、どこか愛おしんでいるような風ですらあり、アサシンはと言えば、下手に人目につきそうな場所よりはこちらの方がマシだろうと、彼なりの実践的な観点から、この狭苦しい居城(生前の彼の屋敷からすれば、掌の上の小箱のような!)を肯定していた。 ソファのスプリングの鳴らすギシ、という音が、低く響く。 顔を歪め、足を投げ出し、乱暴に背を沈めたアサシンは、一晩の間変わらないララのポオズを見つめる。 ――眠る前に、歌はいかが。 昨晩、聖杯戦争の裁定者たるルーラーからの通達があった後、二人きりの部屋でそう言って来たマスターに対し、彼は半ば呆れながら、サーヴァントに睡眠は必要ないことを告げた。 そして気がついた、マスターにも、ララにも、それは必要がないということに。 「グゾルが眠るときには、いつも歌を歌ってあげたのよ」 どこか寂しそうな顔のまま、ララは、この朝まで、同じ姿勢でそこへ座っていた。それはまるで、子供の寝床にあつらえられた御守りのようにも見える。 アサシンは、遠い、彼にとっては、生きていた時すらあまりに遠かった、幼い日の記憶をふとよぎらせる。 顔だけがぽっかりと抜け落ちている、ドレスを着た女性の――死んだ母の肖像。 一人きりの夜に、もぐりこんだベッド。 眠りが恐ろしく、寂しく、得体の知れぬ悪夢を幾つも見たこと。 子守唄を歌うことができても、人形は、眠ることはない。夢を見ることもないのだろう。どれほど長い夜を、どれだけの数、過ごしてきたのか。 見た目こそ少女であっても、彼女は、アサシンが生前に人として生きた時間より、はるかに多くの時間をその矛盾した身に降り積もらせてきたのだ。「変わってゆく」人間に寄り添い、歌いながら。 窓の外で、小さく鳥の啼く声が響いた。 見つめるアサシンの前で、ララが、すうと顔を上げる。アサシンを見る。 「……もう、始まってるのね」 ――朝は、同じように来るのに。 その瞳にあるのは、迷いと、当惑と、そればかりでない何かが入り混じった、不思議な光であった。 「私、何も決められなくて。付き合わせちゃって、ごめんなさい」 主従としてまともに向き合ってから、幾度となく呟いた謝罪の言葉を、ララはまた、アサシンへ向かって呟く。 アサシンは、ふん、と鼻を鳴らす。 「言ったはずだろう。オレは暇潰しをしてるだけだ。 たいがいの遊びはやってきたが、人形との付き合いってのは、さすがに経験がないからな」 なかなか愉快なものだ、と顔に張り付いた悪辣な笑みに乗せて言う彼に、ララは怒るでもなく、ありがとう、と返した。 調子が狂う。舌打ち混じりに顔を背けながら、今後の方針に水を向ける。 「目下のところ、どうするか…だな。 前にも言った通り、癪な話だが、オレは大して強くない。“三騎士”の連中は言わずもがな、他の奴らと小細工なしに正面からやり合って勝てる――今のオレたちの方針からすると、生き残れる、と言った方がいいか――可能性は、低い」 ララは、静かにうなずく。聖杯戦争の知識は、当然ララも得ていた。アサシンのクラスは、そもそも強大な戦闘能力を誇るクラスではないのだ。 「だが、やりようはある」 アサシンはテーブルにグラスを置き、虚ろな双眸を宿した仮面をトランクから取り出して、目の前に掲げた。 怪人たるバネ足ジャックにとって、通常は悪手と言える「早期から姿を晒すこと」は、必ずしもマイナスにならない。 目覚めたララに呼ばれずにいた間、彼はこの街の夜を怪人として跳び回っていた。 それは当初は、隷属者として呼び出されたことへの反発であり、好きにやってやるという意思表示だったのだが――結果として、「バネ足ジャック」ならぬ「火吹き男」の噂の流布のみならず、この街の大まかな地理を頭に入れ、ロンドンと異なる建物や地形に対する、バネ足の具合も確かめることができた。 加えて、アサシンは、「バネ足ジャック」としての気配を消して民衆(NPC)に同化できる。 それを利用して、表向きララの「伯父」であり「マネージャー」のような立場の人物として、劇場の関係者へも顔を見せておいた。 マスター周辺を動き回るのに不審がられない、それなりの役柄というものはあった方がいい。 幸い、この造られた街には、人種も装いも種々雑多なNPCが多く配置されていると見えて、金髪に碧眼、痩身大躯なアサシンの姿も、さほど目立たずに済んでいるようだった。 アサシンは、その間に得た情報を、ララに伝える。 「昨晩、劇場に来る客から、おかしな噂をいくつか聞いた。 ひとつは、『チェーンソー男』とかいう化物」 機械式の回転鋸を振り回し、人を襲う異形の巨漢。唐突に現れ、唐突に空を飛んで消える怪物。そして、不思議と顔の印象が記憶に残らないという。噂では、それは「少女」と戦っているのだとも。 「もう一つ。街で目撃された、これも大男だ。『包帯男』とか言われていたがな」 ボロボロのコートと帽子、腐臭を纏った巨漢が、平然と、「当たり前のもののように」街のただ中に存在していた。そしてこれも、「少女」と共にいたという。 「『チェーンソー男』に、『包帯男』……」 ララが反復する。 バネ足と異なる、二つの怪人の噂。或いはそれら二つは同じものなのかもしれない。いずれにせよ。 「断言はできないが、参加者とサーヴァントに関わる何かだろうよ。 すでに動き出してる連中がいた、と見るべきか。 そして少なくとも、今日以降は否応なしに動き出す奴らが増える。……あんな通達があった後だしな」 アサシンは、ララが握りしめている手紙と写真とに目をやる。 それは、昨日の夜、ララの元へ直々の通達に現れたルーラーが、残して行ったものだった。 どこかおどけたような予選通過の告知や、ささやかな資金の同封、諸連絡……それらの中でも、参加者の一人「フェイト・テスタロッサ」の捕獲を示唆する文言は、特に目を引いた。 写真の中、幼さを多分に残した少女の面立ちを見ながら、開始以前、或いは早々に「やらかした」のだろうと二人は話し合った。少なくとも、ルーラーに目をつけられる何かが、その少女にあったことは間違いない。 捕獲の礼は、「令呪一画の贈与」によってなされるという。この街で何を成すにせよ、それは魅力的な褒賞であったが、今は釣られて動くべきではない、アサシンはララへとそう告げた。 ララは、この聖杯戦争において最初の贄と定められてしまった、見知らぬ少女のことを気にしているようだ。アサシンとて、内心では、自分の姪ほどに見える、写真の少女が気にならないわけではない。 しかし、アサシンはララに下手を踏ませるつもりはなかった。 己の意思で、この不思議な矛盾をはらんだ人形の少女が、新たな願いを見つけるまで付き合うと、決めた以上は。 未だ、ララは何をなすべきかに迷っている。決めかねている。 ただ、少なくともあの劇場で「歌う」ことは、彼女にとって大きな意味を持っているらしい。 彼女を生みだした人間から厭われ、傷つけられ、「怪物」と恐れられ、自身もまた「怪物」として振舞い――――その中でたった一人見つけた愛する者のために、すがるように歌い続けて生を燃やした彼女にとって、不特定多数の人間たちに向けて歌を歌うことが、たとい用意されたNPCといえ、いやむしろそれだからこそ、自分の中の新たな「何か」を手探るきっかけになっているのは確かだった。 だから、今はまだ、渦中へと飛び込ませるわけにはいかない。 ララは夜の舞台の時以外、この目立たぬ住居から出ないことをアサシンと約束した。あくまで、他の陣営が動き出すのを待ち、アサシンが情報を収集し、備える。 ――そうだ。跳び回るのは自分だけでいい。 ――日中は街に紛れ、必要ならば、夜は「怪人」となって。 ――かつて一度忘れ去られた、滑稽で悪辣なバネ足の道化として。 ソファの背へ差し始めた、窓から昇る日の光に目をやると、アサシンは大きなトランクを片手に、ゆっくりと立ち上がった。 見上げるララ。その、不思議な光をたたえた瞳を、アサシンは今一度、見つめ返した。 「何かあったら、すぐに令呪を使え。 ……街の端にいようが、月の向こうにいようが、すっ跳んで来てやる」 そう言って背を向け、戸口へ向かったアサシンへ、言葉が投げかけられる。 「貴方にも」 アサシンは、足を止めた。 「今晩は……貴方にも、ちゃんと歌を聴いてほしい。 だから、帰ってきて」 背を向けたまま、アサシンは――ウォルターは、バネ足ジャックは、少し黙った後、ぞんざいに後ろ手を振ってこたえながら、部屋を出て行く。 バタリ、と戸の締まる音。 そうして、さして広いと言えない部屋には、再び顔を落とした人形が一体。 或いは少女が一人きり、残された。 【D-3/市民劇場裏、アパートメント/1日目 早朝】 【ララ@D.Gray-man】 [状態] 健康 [令呪]残り三画(イノセンスの埋め込まれた胸元に、十字架とその中心に飾られた花の形で) [装備] なし [道具] なし [所持金] 劇場での給金(ある程度のまとまった額。ほとんど手つかず)、QUOカード5,000円分 [思考・状況] 基本行動方針:やりたいことを見つける。グゾルにまた会いたい…? 1. 今は歌いたい。 2. アサシン(ウォルター)に歌を聴かせたい。 3. フェイト・テスタロッサが気になる。 [備考] ※「フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。 ※「バーサーカー(チェーンソー男)」及び「バーサーカー(ジェノサイド)」の噂をアサシン経由で聴取しました。 【D-3/市民劇場裏手の通り/1日目 早朝】 【アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)@黒博物館スプリンガルド】 [状態] 健康、スキル「阻まれた顔貌」発現中 [装備] バネ足ジャック(バラした状態でトランクに入っていますが、あくまで生前のイメージの具現であって、装着を念ずれば即座にバネ足ジャックに「戻れ」ます) [道具] なし [所持金]一般人として動き回るに不自由のない程度の金額 [思考・状況] 基本行動方針:マスター(ララ)のやりたいことに付き合う。 1. 街で情報収集をしながら、他の組の出方を見る。 2. 夜までには帰ってきて、ララの歌を聴く。 3. 『チェーンソー男』『包帯男』に興味。 [備考] ※「フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。 ※「バーサーカー(チェーンソー男)」及び「バーサーカー(ジェノサイド)」の噂を聴取しました。サーヴァントに関連する何かであろうと見当をつけています。 ※街の地理を、おおむね把握しました。 ※劇場の関係者には、ララの「伯父」であると言ってあります。 BACK NEXT 001 惑いのダッチアイリス 投下順 003 目覚め/wake up girls! 時系列順 BACK 登場キャラ NEXT 000 前夜祭 ララ 027 尊いもの 000 前夜祭 アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド) 017 機械式呪言遊戯 -006 ララ&アサシン
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イヴ&ライダー ◆XQx6RJ6YqE 土曜日の夕暮れ時のこと。 だんだんと暗い色に変わっていく空の下で、住宅地の道路を一人の女の子が歩いている。 胸元に結ばれた真紅のスカーフや膝上までのスカート、真っ白なシルクのブラウスという服装は薄暗いなかでもよく目立っていた。 このような格好で人気のない道を子どもが歩くのは一見して無防備にも見える。 しかし、当の本人は少しも気にせずに進んでいく。 まるで、この程度の闇ではもう恐怖など感じられないかのように。 ポケットのなかには、ビスケットがひとつ♪ 唐突にこのようなフレーズが聞こえてきた。 誰もが一度は耳にしたことがあるだろう童謡の一節だ。 思わず立ち止まった少女はキョロキョロと辺りの家々を見回すが、音の発生源は分からない。 そうしている間にも歌は流れ続ける。 たたいて みるたび ビスケットは ふえる♪ やがて最後まで歌い終わると、ピタリと音は止んだ。 結局、どこから流れてきたのかは分からなかった。 そのことに少しばかりの不満を覚えながらも、先ほどの歌詞がまだ耳を離れない。 だからか、彼女は気付けばスカートのポケットに左手を入れていた。 すると、底にあった固い物に手が触れる。 引き抜いた手が握っていたのは ビスケットだ。 →キャンディだ。 マカロンだ。 手の平にあったのは、黄色い包み紙に巻かれたキャンディだった。 こんなものをいつポケットに入れたんだろうと首をかしげていると ――イヴ、そのコートの左側のポケット、探ってごらん? ポロリと、手の平からキャンディがこぼれ落ちた。 まるで寝惚けているかのような顔で、彼女――イヴは自分の左手を眺める。 絵空事の世界、聖杯戦争、サーヴァント。 様々な記憶が一気に流れ込んでくるなかでも、イヴの心を捕らえたのは脳裏を過ぎった一人の青年の姿だった。 毛布代わりに自分に掛けられたボロボロのコート、ウェーブがかった紫色の髪。 自分を安心させようと浮かべていた柔和な笑み。男性なのに女性のような言葉遣い。 イヴと一緒に不可思議な世界を歩き、助け合い、そして共に脱出した青年――ギャリー。 聖杯はどうして彼を忘れさせたのか。なぜ、また忘れさせたのか。 全てを思い出したイヴはその事実にうつむいてしまう。 その際に今しがた落としたキャンディが目に入る。 落ち込んでいたイヴにギャリーがくれたレモン味のキャンディだ。 ここに彼は居ない。なぜか彼女のサーヴァントもまだ現れていない。 だが、だからといって立ち止まってもいられないだろう。 ゆっくりとキャンディを拾い上げたイヴはそれを丁寧にポケットに入れ直すと、顔を上げて走り出す。 その際に日が沈みかけた空が見えたので、心の中で帰りが遅くなることを両親に謝った。 例え作り物であろうと、大切な存在であることに変わりはないからだ。 ■ ■ ■ 走って、走って、息が切れ、茶色がかった髪を揺らし、服に染みる汗が気持ち悪いと感じながらも走って。 小学校の体育の授業でもこんなに走ったことはなかったなと思いながら、イヴはひたすら足を動かす。 自宅や両親は完全に再現されていても、それ以外はここが自分が住んでいた街とは別物だと彼女は既に理解している。 先ほどまで何の違和感もなく歩いていた道も、本来なら見たこともない場所だった。 今も走っているこの場所に限れば、少なくともこの数日の間で来たことはない。 だというのに、イヴの足は一切の迷いもなく目の前に見えてきた建物を目指していた。 そのまま走り続け、入り口まで辿り着いたところで彼女の足は止まる。 途端にのしかかってきた疲れにハアハアと荒く息を整えながら、目だけを正面に向ける。 建物自体の名前をイヴは覚えていない。 しかし、入り口であるガラス戸に貼り付けてあるポスターには見覚えがあった。 暗色の巨大な魚が描かれたポスターの下部には、制作者であり現在開催されている展覧会の名が記されている。 『ワイズ・ゲルテナ展 開催中』 忘れようのない名前だった。 彼の制作物である美術品を通して、イヴとギャリーは絵空事の世界に迷い込んだのだから。 よく見ると、ポスターには開演時間も書かれている。 時計はもっていないが、恐らくはあと一時間ほどだ。 早く入ろうと思ったイヴは一歩を踏み出そうとして、あることに気付いた。 今のイヴの持ち物はキャンディしかない。つまり一文無しである。 当たり前だが入場料が払えなければ館内には入れない。 今から家に戻ったとしてもその間に閉館してしまうだろう。 「見つけた」 どうしようと頭を悩ませていると、唐突に掛けられた声に振り向く。 ポツポツとつき始めていた街路灯の下に、イヴと同じぐらいの年頃の少女が立っていた。 少なくともイヴに見覚えはない。だが、嫌な予感はした。 「その左手の痣……あんた、マスターよね?」 どこか虚ろな印象を受ける視線を向けながら、少女は淡々と近づいてくる。 対するイヴは指摘された左手を掲げてみると、確かに真っ赤な痣があった。 三つのハートのような模様が三角の形で配置されている。 いつの間にとか、どこかで見たような模様だとも思ったが今はそちらに気を取られている場合ではない。 「あんたみたいなのをみんな殺しちゃえば、私は家に帰れるのよね……? バーサーカー」 ぶつぶつと呟きながら歩く少女の隣りに、何かが出現する。 「■■■……! ■■■……!」 獣のような唸り声を、いや、実際に獣そのものだ。 大きな、乗用車ほどの大きさの狼。それが少女のサーヴァントだった。 でっかい。そして怖い。 そのような感想しか出てこない存在がイヴの眼前にあった。 バーサーカー。力を得た代償に理性を失った狂戦士。 聖杯に与えられた知識のとおりに理性の欠片も感じられない瞳が向けられただけで、イヴの体が射竦められる。 逃げようにも、疲れ切った体では逃げ切れないだろう。 ならば、あきらめるか―― →あきらめない あきらめる 幼心にも、目の前の相手が規格外の存在だとは分かる。 間違いなく、絵空事の世界で目にしてきた美術品たちよりもずっと手強い相手だ。 あの世界でも襲われれば逃げるかやり過ごすしかなかったイヴに、端から勝ち目などないだろう。 それでも、あきらめたくなかった。 ――だから……また、会いましょうね! 約束があった。 ここではない本物の美術館で、彼と、ギャリーと交わした約束が。 だから、あきらめたくない。 「食べちゃって、バーサーカー」 だが、思いだけでは現実は変えられない。 このままでは次の瞬間にでもイヴはあの狂戦士に食い千切られているだろう。 このままだったらの話だが。 「バーサーカー!?」 少女の悲鳴が響く。 バーサーカーがイヴに飛びかかる寸前、彼女の頭上を突如として炎が走り、巨狼に直撃していた。 完全な不意打ちで全身を焼かれているバーサーカーは、熱さに身もだえしながら地面を跳ねている。 予想外の展開に少女は取り乱すしかなく、イヴも呆然とするしかない。 「間一髪ね」 イヴは真後ろからの声に振り返る。 最初に目に入ったのは赤だ。 顔の半分を隠したマスクや細い筋肉質な体を覆っているスーツ、そして風にたなびく様がまるで炎が揺らめいているように見えるマント。 ところどころに青や黄色のラインが入っているものの、その全てが赤を基調とした色合いをしている。 だからこそ、マスクの下部から露出している浅黒い肌や薄いピンク色のリップを付けた口元が際立っていた。 何よりも目を惹くのは正面に向けた右手に揺らめいている手のひら大の炎だ。 そんな男がイヴの後ろに立っていた。 「ハロー、マスター。遅れてごめんなさいね。貴方のサーヴァント・ライダーがただいま参上したわ」 にこやかな笑みを浮かべながら、ライダーはイヴにマスク越しのウインクをしてきた。 どう見ても男性なのに女性のような声色だ。 普通なら不気味に思うかもしれないが、イヴはよく似た口調のギャリーという男を知っていた。 色合いこそ正反対だが、恩人とそっくりな口調は彼女にライダーへの親しみを覚えさせる。 対する彼は視線を再び正面に向けるとその口元を引き締めた。 「……ねえ、一応聞くけれど、今ので手打ちにしない? こっちとしても子ども相手に戦いたくはないのよ」 相対する少女に言い聞かせるような言葉だったが、帰ってきたのは敵意のこもった視線だけだ。 ようやく火が収まってきたバーサーカーに至っては、今すぐにでも焼かれた恨みを晴らそうと牙を剥き出しにしている。 「問答無用ってわけ。じゃあ、しょうがないわね」 一つ嘆息して、ライダーはパチンと左の指を鳴らす。 すると彼の真横の空間に波紋が浮かび、中から一台のマシンが飛び出てくる。 彼と同じカラーリングを施されたド派手な車だ。 タイヤこそ外装で覆われているもののまるでフォーミュラカーのような形状をしていた。 「こっちが勝手に逃げさしてもらうわ!」 言うが早いかライダーはまず車に気を取られていた少女たちに煙幕代わりの火炎弾を放つ。 次にそれが着弾するとほぼ同時にイヴを抱え上げると、右側の助手席に放り込みながら、自身も運転席に飛び乗る。 そして、素早くエンジンをかけるとこちらの動きに気付いた少女が何か喚いているのにも構わず、車を発進させ道路に躍り出た。 一方で状況に流されるしかなかったイヴは、正面から吹き付ける風の感触や唸りを上げるエンジン音を耳にしながら、意識を薄れさせていった。 走り通しだったことでの肉体的な疲労と急展開に次ぐ急展開による精神的な疲労。 二種類の疲労に耐えるのは九歳の女の子の身には少々酷だったようだ。 ■ ■ ■ 「マスター? 寝ちゃったの?」 車を走らせながら、いつの間にか目を閉じていたマスターに声を掛けるが返事はない。 決して安眠できる環境ではないはずだが、それほど疲れが溜っていたのだとライダー――ファイヤーエンブレムことネイサン・シーモアは判断した。 (安心しきった顔しちゃって……しかし、失敗だったわ) 先ほどまでの出来事をネイサンは思い出す。 彼が呼び出されたのはあの美術館の二階だった。 奥まった場所だったので人影こそなかったが、マスターすら見当たらない事実はさすがの彼をもうろたえさせた。 幸いにも令呪を通じてマスターの現在地はすぐに感知できた。 どうやら向こうも令呪から自分の存在を認識しているようで、もう少しでこの場所に到着するようだ。 なので急がずに霊体化して入り口まで向かったのだが、それが間違いだった。 直後に別のサーヴァントの気配を感じ取り、大慌てでマスターのもとに駆け付け、あの顛末となったわけだ。 (まったく、こういうドジはアタシじゃなくてタイガーとかの役割でしょうに) 生前の同僚のドジッぷりを思い浮かべながら、油断していた自分に溜息がこぼれる。 あと一歩遅かったらこの子は死んでいた。この安らかな寝顔も見るも無惨な肉塊に変わっていただろう。 そうなっていたら自分を許せなかったに違いない。 (いえ、何よりも許せないのはこんな子どもたちに殺し合いをさせていることだわ) マスターにしろ、先ほどの少女にしろ、まだ十歳にも満たないかのような子どもでしかない。 聖杯戦争に参加しているぐらいなので願いはあるのかもしれない。 だとしても、それを餌にして殺し合わせるなど間違っている。 これを見過ごすなどヒーローとして、何よりも一人のオカマとして出来はしない。 何としても止めねばならない。 自分と競い合い、共に戦ったヒーローたちも同様の立場なら同じ行動をしたはずだと彼は確信していた。 (でも、考えたくはないけれどもしマスターが聖杯を欲しいというのなら……) 横目でちらりとマスターの様子をうかがう。 彼女の左手にはマスターの証である令呪が刻まれている。 (あれは……バラの花びらかしら? 随分と洒落てるわね) 令呪のデザインに関心を払いつつも、ネイサンは考える。 令呪を使われれば自分たちサーヴァントは本意でない命令でも従うしかない。 もしも、この少女が自分を悪事に使おうとするならば、どうにかして説得しなければならないだろう。 この点についてはマスターが目覚めたならば最優先で話さなければと、ネイサンは心に決めた。 (まあ、先のことを考えすぎても仕方ないわね。それよりももう起きている方を解決しないと) 実は彼を悩ませている問題は既に発生していた。 それは、 (マスターの家はどこなのかしら?) そう、会話を交わす間もなかったせいでネイサンはマスターである少女のことを何も知らない。 なのでどこに向かえばいいのか見当も付かなかった。 時刻は夜。NPCとはいえ両親も心配しているはずだ。 起きるまでどこかで待つという選択肢もある。 しかし、ネイサンは自分の外見がド派手であると自覚していた。 何よりも彼はオカマだ。そのことを恥じ入る気持ちはないが世間はそうではない。 想像してみてほしい。 ほぼ全身をぴっちりと覆うスーツを着たオカマが意識のない女の子と一緒にいる姿を。 間違いなく通報される。 仮にスーツを脱ぎ普段着に着替えたとしても、そこに居るのはピンク色の頭髪をして顔に化粧を施した外国人のオカマである。 もしかしたらこちらのほうがより危ないと判断されるかもしれない。 (困ったわねぇ。早く起きてほしいけど気持ちよさそうに寝ているのを起こしたくはないし、とはいえこのままにもしておけないし) ジレンマに苛まれるオカマとすやすやと眠る少女。 対照的な二人の聖杯戦争がこうして開幕した。 【マスター】 イヴ@ib 【マスターとしての願い】 元の世界に帰る。 【weapon】 なし。所持品はレモン味のキャンディが一個。 【能力・技能】 これといった特殊能力はない。 【人物背景】 フリーゲーム『ib』の主人公。今年九才になるお嬢様育ちの女の子。 ある土曜日の昼下がり、イヴは両親と共に美術館にて開かれていたワイズ・ゲルテナ展を訪れる。 両親と分かれて一人で館内を廻っていた彼女は、ある絵画の前に立ったことで不可思議な美術館に迷い込んでしまう。 そこで待っていたのは壁から伸びる手、喋るアリ、襲いかかってくる首なし人形に絵から飛び出す女などの怪奇現象の数々。 普通なら発狂してもおかしくない現象の数々を彼女は何とかやり過ごしながら進んでいく。 しばらくすると、自分と同じくこの世界に迷い込んだ青年ギャリーと出会う。 ボロボロのコートにオネエ口調という怪しげな風体ではあったが、イヴは彼と共に進んでいく。 その後も二人は様々な美術品に襲われたり、メアリーという美少女と遭遇したりするのだが、詳細は割愛する。 今回は原作のGood EDに当たる『再会の約束』後からの参戦。 いわゆる喋らない系の主人公であり一人称すら不明。他のキャラと会話はしているようだが選択肢以外でのセリフはない。 プロフィールによると好きなものはウサギとオムライス、苦手な物はピーマンと運動らしい。 【クラス】 ライダー 【真名】 ネイサン・シーモア@TIGER BUNNY 【パラメーター】 筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:B 幸運:B 宝具:C 【属性】 中立・善 【保有スキル】 騎乗:C 乗り物を乗りこなす能力。 Cランクでは野獣ランク以外を乗りこなすことが出来る。 NEXT能力:B 一種の超能力。 ネイサンが持つのは「炎を操る」能力。 オカマ:EX 彼の生き様がスキルに昇華したもの。ランクがEXなのはオカマとして生きた彼の信念がそれだけ強いからである。 トラウマを克服した際の逸話からDランクの「対魔力」と「勇猛」が付加されている。 本人いわく「男は度胸、女は愛嬌、そしてオカマは最強」だそうだ。 カリスマ:E 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。 生前において大企業のトップを務め、ヒーローとしても同僚や市民から慕われていたことで付加された。 【宝具】 『ブルジョワ直火焼き』 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 #65374;20 ネイサンが持つ「炎を操る」能力が宝具となったもの。名前は彼のキャッチコピーから。 手の平から放出する炎は単純ではあるが攻守両面においての汎用性が高く、確認されているNEXTの中では最も炎の扱いに長けていると評されている。 最大火力は不明だが、その気になれば鉄筋コンクリート製の建物を融解させる程の威力は出せる。 【weapon】 『ヒーロースーツ』 ネイサンが見に纏うファイヤーエンブレムの衣装。マスクと併せて口元以外を覆っている。 見た目は赤を基本色とし、目の周りや肩などに青や黄色のラインが入り、腹部には炎をイメージしたオレンジ色が加わる。 装着しているマントは常に炎が揺らめいているように見える。 これといって特殊な機能はないようだが、本人が炎を操ることから耐火加工ぐらいはしてあるかもしれない。 『カスタムカー』 ネイサンがファイヤーエンブレムとして乗る二人乗りの車。 フォーミュラーカーのような見た目をしており、本人同様に赤を基本色にした塗装がなされている。 本人が手を放しても 【人物】 大企業ヘリオスエナジーのオーナーを務めるオカマ。 その正体はシュテルンビルドを護るスーパーヒーローの一人ファイヤーエンブレムであり、自分自身のスポンサーでもある。 外見は186センチの長身に浅黒い肌とピンク色に染めた頭髪というド派手な外見と、細身ではあるがヒーローらしく十分に鍛えられた肉体を持つ。 他のヒーローたちからはベテランとして慕われており、特に女性のヒーローたちとは年上として相談に乗ったり一緒にお茶を飲んだりして過ごしている。 表向きは悩みなどなさそうに振る舞っていたが、劇場版にて過去のトラウマを敵の能力に突かれて昏睡状態に陥ってしまう。 悪夢に苛まれ絶望しかけるが自分を侮辱されたことに怒り、更に男のように強く女のように優しい人とまで言ってくれた仲間たちの姿を見て立ち直る。 完全にトラウマを克服した彼は病み上がりの身で仲間たちのもとに駆け付け、苦戦しながらも敵を撃破した。 いつもはオネエ言葉を使うが激昂すると荒っぽい男言葉を出す。そしてハンサムな男といいお尻には目がない。 【サーヴァントとしての願い】 聖杯にかける願いはない。 備考 市内にある美術館においてワイズ・ゲルテナ展が開催されています。