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ガール・ミーツ・ジンチョ・ゲーザーズ・ネクロマンス◆EAUCq9p8Q. 「ウィー……アァー……」 ミズマル・ガジロは社会不適合NPCだった。 与えられた設定はこうだ。 もともとはカチグミ・サラリマンだった彼も、ファンド暴走によって起こったサラリマン・ショックの煽りでリストラを受け。 学生時代センタ試験の勉強しかしてこなかった彼にまともな再就職先など見つかるはずなく。 慣れない日雇いの仕事を都度こなし、稼いだ金の大半をつぎ込んで明け方まで深酒を煽る。 それが彼のこなすルーチンだった。 「ンダコラー……ザッケンナ、テメッコッノー……スッゾコラー……フィーヒ!!」 早朝の道と酒はいい。ガジロはなによりその2つが大好きだった。 早朝の道は人が少なく、自分のためにこの大きな道があるのだとガジロに錯覚させた。 酒は、元来肝の小さいガジロの気を大きくし、世界の支配者のような優越感を与えた。 今この一時だけは、ガジロは現実の、弱くちっぽけな自身を捨てることが出来た。 帰る途中にマッポに叩かれることもあった。 飲んでる最中イタマエに店から叩き出される事もあった。 それでも、世界の支配者たるガジロは、酩酊した早朝の道の上ではいつだって高らかに笑っていた。 その日もいつもどおり、常軌を逸した量の酒をたしなみ、早朝の道の上をダイミョ・パレードのように闊歩していた。 世界の支配者のお通りだ。人も、車も、道を開けろ。ここは俺の世界だ。 ダイミョめいた堂々たる素振りでガジロが朝の道をゆく。 そうして、いつもどおり商店街のゲートまで辿り着いた。 大きなフクスケの飾られたこの商店街のゲートに、立ち小便をひっかけるのも、ガジロの日課の一部だった。 当然、今日も日課をこなそうとする。 「ウィーーー……アァー……」 チュン、と上から音が聞こえたのは、まるでスズメのさえずりのような音。 鳥風情が支配者を見下ろすとは何事だ。 ガジロはぎろりと、仰々しい動きで空を見上げる。 その時ガジロは見た。 空から今まさに落ちてこようとしている何かを。 「アイエッ!?」 慌ててその場から、すっ転ぶように飛びのくガジロ。 数秒後、ガジロの居た場所の直ぐ側に、バケツをひっくり返したような音を立ててアルミとアクリルの巨大な瓦礫が落ちてきた。 目を凝らす。それは、商店街の入り口で愛され続けてきたオイナリ・フランチャイズ・レストラン「オイナリ・ベーカリー」の看板だった。 もう一度、空を見る。もともとその看板があった場所を見上げる。「バイオ・オアゲ製法」「イナリが入ってる」「実際ノークレーム」と書かれていた看板は、三枚まとめて見事に袈裟斬りに切り落とされていた。 瞬間、ガジロの頭が謎でうめつくされる。しかし、全ての答えは直ぐに分かった。 ガジロの耳には届いていた。朝の道の王にして世界の支配者たる彼の知らない音たちが。 チュン、チュン。チュン、チュチュン。亜音速のツバメのついばみのような音。音がするたびに周囲の建物に傷が増えていく。 音の主は、入り口から5m程の場所に立っているカソックコートの大男。手にはうねるにび色の鎖を携えている。 どぅるるるるるる。地獄から響くような駆動音。そちらの音の主は、商店街のゲートの上に居た。 真っ黒いロングコートを着た男が身の丈ほどもあるチェーンソーを、キサマの頭をスイカのようにかち割るぞとばかりに構えていた。 T字路の交差点、商店街の入り口、道と道の交差するこの場所で、異様な男たちが睨み合う。 「お前はここで殺す、バラバラにする! 俺が!」 鍔広のウエスタンハットを被った男が、一言叫び握った鎖をやおら引っ張る。 彼の手元に、二枚のバズソーが集まる。チュン、チュンというのは、あのバズソーの音。 チェーンソー男は何も言わず、ただチェーンソーの音で答える。どぅるるるるるというのは、あのチェーンソーの音。 最初に動いたのはバズソーの男だった。雨除けめがけて左のバズソーを全力で放り投げる。 ぢゅん!と鈍った音が響く。 ゲートに飾られた巨大フクスケのメタル・マゲが切断され宙を舞う。 しかしそこにもう当初の獲物は居ない。チェーンソー男はオイナリ・ベーカリーの方へと飛んでいる。 空中逃亡、実際悪手とばかりに今度は右のバズソーが放たれる。しかしチェーンソー男はその超人的な身体能力でその窮地を切り抜ける。 オイナリ・ベーカリーの壁を足場にチェーンソー男は三角飛びの要領でバズソーの上空を飛び越え、そのままチェーンソーを振りかぶってバズソーの男に肉薄したのだ。 しかし、バズソーの男もかなりの腕前。 既に引き戻して手に構えていた一投目の左のバズソーで、はるか上空からのチェーンソーの一撃を受け止め、切り結ぶ。 「イヤーッ!」。一合。チュンチュン、どぅるるる。右からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く! 「イヤーッ!」。二合。チュンチュン、どぅるるる。左からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く! 「イヤーッ!」。三合。チュンチュン、どぅるるる。右からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く! 「イヤーッ!」。四合。チュンチュン、どぅるるる。左からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く! 「イヤーッ!」。五合。チュンチュン、どぅるるる。右からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く! 「イヤーッ!」。六合。チュンチュン、どぅるるる。左からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く! 「イヤーッ!」。今度は続かない。カラテの込められた右のバズソーがぐるりと輪を描くようにチェーンソー男を背後から襲撃。 チェーンソー男は超人的直感から攻撃を察知して身をかがめ、背後のバズソーを避け、そのまま地面に敷かれたアスファルトをぎゃりぎゃり削りながら掬い上げるようにチェーンソーで斬りつける。 そこから更に一合、二合、三合。切り結ぶ、切り結ぶ、切り結ぶ。 四合目、上段からかち割るように振り下ろされるチェーンソーを、一対のバズソーが受け止める。 ぎゃんぎゅあんぎゃんぎゃんという不協和音を立てながら鋼と鋼がぶつかり合う。 二人の男の突然の戦闘を立ちすくみ見ていたガジロに、不意に子どもの頃の記憶が蘇った。 『それ』はどこからともなく現れ、超人的な身体能力で戦い、任務が終われば煙のように消えていく。 幼い日には、男ならば、誰もが憧れたヒーロー像。いつしか憧れられなくなる影のヒーロー。 これは、これは、もしかしなくても『あれ』なんじゃないか。 ごきゅりと生唾を飲む。生唾を飲んだというのに、ガジロの喉はまるでカンパン・スナックを袋ごと丸呑みした後のように乾いていた。 片方の男は、自分の手足のようにバズソーを振り回している。その上まるでスリケンめいた投擲をしている。 もう片方の男は、人間離れした身体能力で壁を蹴り、地を割り、狂乱したようにチェーンソーを振り回す。 その立ち回り。 その身体能力。 もしや、この二人は…… …… ……『ニンジャ』なのでは? その答えに到達した瞬間、ガジロの緩んでいた膀胱はその役割を即座に放棄!当然失禁! ニューロンが条件反射のようにその信号を脳から全身へと駆け巡らせる。 そして、その悲鳴が、遺伝子に刻まれた叫びが、当然のように口から飛び出した。 「アイエエエエエエエエエエエエ!!? ニンジャ、ニンジャナンデ!!?」 ガジロの叫び声が、穏やかな朝の空気を切り裂いた。 ◆ガール・ミーツ・ジンチョ・ゲーザーズ・ネクロマンス◆ ――― ブーン、ブンブン。 ブンブン、ブーン。 ブーン、ブーン、ブブブブブブブ…… クラシカルなエンジン音を静かな朝の街に轟かせ、郵便バイクが走り去る。 その音で、少女・雪崎絵理は目を覚ました。 時計を確認する。時刻は五時中頃を指している。 いつもより一時間以上もはやく目を覚ましてしまった。 夜に備えてもう少し寝ようと横になったが、意識は既に覚醒しきっている。いくら横になったまま目を瞑ろうとただ無為に時間が過ぎていくだけだった。 こうなってしまっては仕方がない。 絵理は少しだけ不機嫌そう眉をしかめると、身体を起こしてキッチンダイニングの方へ向かった。 いつも通り、誰もいない広い家の中。 四人でも少し広かった、一人ではとても広すぎる家。 コーヒーを淹れ、朝食を作りながら考える。 はやく起きてしまった理由に、絵理はぼんやりとだが心当たりがあった。 起きた時から、正確には寝ている間から胸に何かもやもやとした何かが居座っている。 あまり心地の良いものではない。 不安というべきか。虫の知らせというべきか。 それとも超科学的に予知とでもいうべきか。 そんな、よく分からない『予感』があった。 この『予感』が何を表すものかも分からない。 吉兆なのか、不吉なのか、それとも単なる気のせいか。 ただ、そんなもやもやが残り続けるのが不快だということだけは、十分すぎるほど理解できた。 絵理は、手早く朝食を済ませると、少しだけ身だしなみを整えて。 どうせ家にいてもやることなんてなにもないから(勉強をしなければならないが、それは今は別問題)。 少し散歩でもして胸のうちにとどまり続けているそのもやもやを晴らすきっかけにでもなれば、と思い。 胸のうちに宿った『なにか』に導かれるように、そのまま家を出た。 ―――― 朝の街は、特別だ。 薄暗さの残る道を歩きながら絵理はそう思った。 昼や夜の活気は嘘のように静まり返り、明かりもついておらず、人の気配を感じない。 薄いもやの立ち込める早朝の街は、不気味なものだ。 ふらふらとどこを目指すともなく、時間つぶしに歩いていると、気がつけば商店街の前まで来ていた。 (地図上ではC-2に位置する)商店街。 いつもは活気にあふれているが、やはり時間が時間だからか、その面影は一切ない。 どこもかしこもシャッターがしまっており、まるでゴーストタウンのようなおどろおどろしさがある。 特に、絵理の居る入り口側は、ゲートに飾られている巨大な福助人形のミスマッチさも相まって、 一歩踏み込む。 こつり、というローファーがタイルを踏み鳴らす音が、やけに大きく響いた。 そのままなんともなしに、こつり、こつりと進んでいく。 商店街も中程に差し迫った時、ちょうど向こう側から歩いてくる少女に気づいた。 金髪で片目を隠した、背の低い(140cmくらいだろうか)少女。 誰かと話しているように、時折誰もいない空間を見ながら微笑む。 見えないものが見えているのだろうか。 こんな時間に徘徊するくらいだし、あまり良い素性の人物ではないのかもしれない。 もしかしたら、実際に見えないものが見えるようになる何かを摂取しているのかも。 そこまで考え、小さく頭を振った。 この時間に徘徊するのが素性の悪い人間だというなら、絵理もその条件に当てはまってしまう。 それに、あまりじろじろ眺めすぎるのもよくない。 そう思うのだが、目が追ってしまう。少女の姿を……正確には、少女の見つめる先を。 少女に近づく度に、胸の中のもやもや強くなる。 (……本当に、何かが、居る?) すれ違うかどうかのその瞬間。 不意に絵理は、そんな確信めいた感覚に襲われた。 そうして、その感覚に気づいた瞬間。 絵理の背後から、どるん、と音が響いた。 どるん。 響く唸り声。 どるん、どるん。 地獄の底から『あいつ』が追ってくる靴音が聞こえる。 絵理は慌てて時計を確認する。 時間は朝六時を回ったところ。絵理の知る『あいつ』が来るわけない。 だが、この『予感』は。 そうだ、この『予感』は。 起きた時から胸中でひしめいているこのもやもやとした『予感』は。 気づいてみれば、『あいつ』が来る場所が唐突に分かる時の直感とよく似ている気がする。 「あ、え……わっ……」 すれ違おうとしていた金髪の少女が立ち止まる。 口元を押さえ、目を見開いている。 絵理は嫌な予感を打ち消すために、ゆっくり、ゆっくりと振り返る。 どるるん。 どるるん。 どぉるるるるるるるるるる――――― 道の向こう。 朝もやの奥。 非現実的なムードの立ち込める朝の商店街に。 まるで陳腐なパニック映画のワンシーンのように。 そいつは立っていた。 「オセンベ」「そでん本舗」「和三盆」「ナスビー重点」「那珂ちゃんヤッター!」。 数々の看板の向こうから、数々の看板を通り過ぎ、その男が駆けてくる。 見間違うはずがない。その姿、そのチェーンソー。間違いなく『チェーンソー男』だ。 だが、何故朝に。 襲撃時間は完全に把握しきっており、それ以外の時間に出てくる例外なんてなかった。 一瞬混乱した頭を深呼吸で落ち着かせ、走ってきているチェーンソー男と向き合う。なんでもいい。出てきたならば戦う。 そうしなければ、もし逃げたりすれば、すぐそこに居る見ず知らずの少女が犠牲になってしまう。 もう、『悪』なんかの身勝手で何かを奪われるのはこりごりだ。 考えるのは後でいい。今は戦う。戦って、奴を倒すだけ。 絵理はすぐさま臨戦態勢に入った。 チェーンソー男は人間離れした速さで絵理へと駆け寄りながらチェーンソーを振りかぶる。 絵理は振り下ろされるチェーンソーの軌道から半身を躱し、逆に一歩を踏み込んだ。 通常の女子高生ならば自ら死地に飛び込むようだが、絵理は違う。 彼とはじめて出会った時に、何故か常人離れした―――それこそ、目の前のチェーンソー男とも戦えるくらいの戦闘能力を手に入れていた。 『チェーンソー男と戦うためのもの』と彼女が呼ぶ、正体不明の力。 その力の全てを持って、チェーンソー男と戦う。それが絵理の青春の一ページ。 踏み込んできた絵理に対し、チェーンソー男はスイッチを切り替えたように機敏にチェーンソーで逆袈裟に斬り上げる。 しかし、その一撃も絵理を傷つけるには至らない。 そもそもチェーンソーの一撃は大振りだ。常人離れした動体視力と運動神経を得た絵理には避けることなど造作も無い。 絵理が身をかがめれば、彼女の頭上を悪魔の足音が通り過ぎる。 思い切り振りぬかれたチェーンソーの二撃目。 それを避ければ、絵理の眼前に男のがら空きの左わき腹が晒される。 その必勝のチャンスを見逃さず、絵理はいつもどおりにトドメを刺しにかかった。 いつものようにナイフを投げようとし……そこで、ようやく失態に気づいた。 ない。 あるべき場所にナイフが、一本もない。 それもそのはず、今は朝。 戦闘の可能性がある夜ならまだしも、全く想定していなかったこの遭遇、ナイフを携帯しているわけがない。 だって、敵も居ないのにナイフを肌身離さず持ち歩いていたら完全に変質者だ。 良識ある絵理が、そんな物騒なことをするわけがない。 気づいた時にはもう遅い。 男は振りぬいたチェーンソーをそのままに、今度はチェーンソーではなく、チェーンソーを振った勢いで助走のついた脚で絵理に攻撃を加える。 すかさず腕を顎の前でガードするが、失態とそれに伴う一瞬の混乱のせいでガードが甘い。 チェーンソー男の蹴りが絵理のガードの上から突き刺さる。 絵理は後方へ1mほど吹き飛び、さらに1mほど地面を転がり、閉店中の店のシャッターにしたたかに背中と頭を叩きつけられた。 天地が真逆になったような衝撃。脳をだいぶ揺さぶられたらしく、頭痛と吐き気が止まらない。 どるるるるるるる、どぅおるるるるる。 ぐわんぐわんと揺れている頭に、唸るようなエンジン音がどろどろに溶けて染みこんでくる。 はやく体勢をたてなおさなければという心とは裏腹に、腕はがくがくと震えているし足元はおぼつかない。 「だ、駄目っ……!」 誰かの声が響く。 その場に居たのはチェーンソー男と絵理と見知らぬ少女の三人だけ。 ならばその声は当然少女のもの。 焦点が定まらずいまだぼやけた視界でなんとか目を凝らせば、少女がチェーンソー男に抱きついている。 その光景を見た瞬間、絵理は叫んでいた。 「逃げて!」 叫んでから理解が追いついた。 そうだった。 いつだってチェーンソー男は、『邪魔する奴を殺しにかかった』。 絵理以外は殺さないような殊勝な精神の持ち主ではない。 絵理と山本と二人で戦っている時もそうだ。山本が横から一脚で応戦すれば、決まって奴は山本の方に矛先を向けた。 近くに居るやつを殺す。邪魔するやつを殺す。 ならば当然、あの見ず知らずの少女だって対象になる。 「逃げて! はやく!!」 絶叫虚しく、チェーンソー男が金髪の少女を突き飛ばす。 小さな少女は抗うこともできず、ころん、とこけてしまう。 どるるん、どるるん。 朝もやの中でひときわ強くチェーンソーが煌めく。 少女がひ、と小さく息を呑む。 動かなければと心は焦るが、痛みと眩みで身体が言うことを聞かない。 絵理の焦燥どこ吹く風と、ゆっくりとチェーンソーが振り上げられ、そして――― ―――チェーンソーは振り下ろされない。 空中で止まったまま、どぅるるるるるると刃を空回しし続ける。 「てめェはなンだ」 なぜなら、万力めいた力でチェーンソー男の振り上げた腕が押さえつけられているから。 「なんのつもりだ」 ぐるりとのっぺらぼうな顔が後ろを向く。 チェーンソー男と、『そいつ』が顔を合わせる。 「俺のマスターを襲うってことは、てめェがそうか。サーヴァントか」 チェーンソー男のがら空きの脇腹に乱入者の蹴りが突き刺さる。ネクロカラテの一撃だ。 チェーンソー男は、それまでの凶行が嘘のように、タンブルウィードめいてごろごろと商店街の舗装道路を転がっていく。 蹴りの衝撃で乱入者の肋骨の下あたりから、アルコールと内臓の破片らしき腐肉がぶちまけられる。すえたような酷い臭いが立ち込める。 「ヨタモノやヤクザじゃなくサーヴァントか? てめェの、魔力の、この感覚が! そうか、てめェが!!」 男の袖口からじゃらりと音を立ててにび色の丸鋸が飛び出す。 左右一対の鎖付きバズソー。それこそが男の獲物。敵へと向ける必殺の武器。 「俺は!!」 バズソーが放たれる。狙いは違わず、チェーンソー男の腹部と胸部。 放たれたバズソーにカラテが注ぎ込まれ、音を立てて高速回転を始める。これが直撃すれば大怪我では済まない。 しかしチェーンソー男は身を捩り、バズソーは男の脇腹を掠めるだけにとどまった。 チェーンソーが乱入者を威嚇するように低く駆動音をあげる。標的が、三度切り替わる。 「ドーモ、ジェノサイドです! 無視し続けるつもりか!! エエ!? ナメやがって、俺は、俺はジェノサイドだ!!!」 「バーサーカー、さん……?」 少女がその名を口にする。 その男。そのサーヴァント。 鍔広のウエスタンハット。彼ほどの巨体でなければ裾を擦るだろうサイズのカソックコート。 目には緑の光を称え、包帯でその皮膚のすべてを隠す。真名を隠すこともなく、狂乱に狂乱を持って斬りかかる。 バーサーカー、『ジェノサイド』。狂戦士のエントリーだ。 「イヤーッ!」 ジェノサイドが握った鎖をウワバミのように波打たせる。その波に合わせてバズソーが踊り、跳ね回る。 タンコ・ブシめいた複雑怪奇な動きでバズソーはチェーンソー男を襲撃。 しかしチェーンソー男は襲い来るバズソーを、あるいは弾き、あるいはくぐり、あるいは飛び、全て超人的な身体能力で回避。ワザマエ! ぢゅんぢゅんと嫌な音を立てながら商店街の建物に無数の傷が刻まれていく。 激しい鋸同士の応酬が続く。 優勢に立っているのはジェノサイドだ。 最初は商店街中程で出会った二人だったが、ジェノサイド側がじりじりと押し返し、今はもう絵理たちからはだいぶ遠くまで離れている。 二人の距離も既に5mは離れたが、それでもお互いの戦意は失せず、互いの動向を探り続けている。 どぅるるるるるるる、どるるるるるんるん! チェーンソーの音はやまない。まだ獲物を狙っている。戦意を見せながらもバズソーの射程距離外へと逃れている。 その様子を見て今度はジェノサイドが、重機関車めいた突撃を繰り出す。両手にバズソーを持ち突撃するさまは、まさに殺人列車。 そして、鎖の範囲に再びチェーンソー男をとらえた時、両者が動く。 「ゼツメツ!!!」 バズソーが、朝もやを切り裂き、チェーンソー男を追う。チェーンソー男は真正面から受けて立ち、その膂力でバズソーを弾き飛ばした。 弾かれたバズソーは商店街入り口付近の3つ連なった看板を全部まとめてぶった切る。 ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり、きゃりきゃりきゃり。 間髪入れずの二枚目のバズソーが、アスファルトを削りながら地を這うような超低空でチェーンソー男に迫る。狙いは脚部、大振りなチェーンソーでの防御が難しく、そして当たれば実際痛い場所。 チェーンソー男は、一投目を弾いた後でバランスもままならぬ身体を無理やり引き起こし、そのままムーンサルトの要領で高く、高く飛び上がり、商店街の入り口を飾るゲートの上に着地した。 足を狙われぬようにするならば、足場より下にさらなる空間を作るか、足を狙えぬほどに肉薄するかだ。それをチェーンソー男は誰に言われるでもなく知っていたのだ。 チェーンソー男がゲートの上に陣取ると同時に響くのは、小さな悲鳴とけたたましい破砕音。 「アイエッ!?」 こうして、物語は冒頭へとつながる。 ◆◆◆◆ ガジロは、濡れそぼった股間を抑えながら、勝負の行く末を見守っていた。 いや、見守っていたというのは正しくない。 『勝負が付く前に動けば自分が死ぬ』と半ば予知めいた直感に従い、その場でただ、救いの時が来るのを待っていた。 ガジロは心の中で叫んだ。 酒なんかこりごりだ!朝の道なんて歩きたくない! 酒もやめる!朝帰りもやめる!まじめに働く! 貯金して、老後の幸せのために使おう!生きてるだけで十分だ! 世界の支配者なんて馬鹿げた夢を見るのはもうやめだ! とにかく、こんな危険な場所になんていられない!そうだ、キョートに行こう! キョートは古めかしい都市!マイコが踊ってヤツハシが空を飛ぶ!刀は全部おみやげ!実際安全! キョートへ行ってインスタント・ブディストになろう!たるんだ精神を叩きなおし、社会に帰ろう! ジンリキシャーを引いてテンプル・ツアーのリキシャーガイドになるんだ! だからどうか!ああどうか!ブッダよ!私をお救いください!! 閑話休題。 哀れな男の刹那程の神への祈りが終われば、現実が再び流れだす。 ギャリギャリと回り続ける鋸とカラテを流した鋸でつばぜり合いをしていた二名が動く。 「イヤー!」 動いたのはジェノサイド、両手に携えたバズソーでチェーンソーをいなしながら放つのは、ネクロカラテによる蹴りの一撃。 ヤクザキックめいたその一撃を、今度はチェーンソー男の腹めがけてぶちかます。 単調な蹴りを何度も受けるほどチェーンソー男も甘くない。組み合っていた三枚の鋸を振り払い、大きく後ろに跳躍。 だが、ジェノサイドは既にその回避を読みきっている。 「イヤー!!」 右のバズソーを、右のバズソーの鎖を大きく振り上げる。 じゃりん。 鎖の揺れる音とともにチェーンソー男の跳躍が止まる。チェーンソー男の背にぶつかったのは、バズソーの鎖。 ジェノサイドはフクスケのマゲを切り捨てたバズソーを回収する際、大きく弧を描くように自身の元へ引き戻していた。 当然鎖はチェーンソー男の背後に残ったままである。弛んでいた鎖を引き上げれば、そのままそれが逃亡を阻害する障壁と化す。 チェーンソー男は哀れにも蜘蛛の巣に捕らえられた虫のように空中で一瞬磔に。これが勝敗を分けた! 「イヤー!!!」 左のバズソーが宙を舞う! ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ。 骨が削れる音が、朝もや立ち込める商店街に響き渡る。 バースデーケーキよろしく頭をバズソーで切断されたチェーンソー男は、そのまま魂が抜けたように自由落下。 狂戦士同士の勝負は、ジェノサイドに軍配が上がった。 糸が切れたジョルリ人形よろしく地に伏したチェーンソー男を見ながら、ジェノサイドは訝しんだ。 サーヴァントも、出血はするはず。 なのに、頭をかち割られたというのに血の一滴脳の一欠片もこぼさず、ただ倒れるだけというのはどういうことだ。 消滅する様子もない。ということは、何か裏があるはず。何かの罠か。誘っているのか。 どうでもいい、ならば死ぬまで殺すのみとジェノサイドがバズソーを構えた次の瞬間。 ゼツメツ必至の致命傷を負っていたチェーンソー男が起き上がり、大きく飛び上がった。 大怪我などとは見てくれのみ。実際ノーダメージめいた動き。 依然動きに鈍りはない。頭をかち割ったというのに。 ワイヤーアクションのように高く、高く、ジェノサイドとの戦いでも見せなかったほど高く飛び上がるチェーンソー男。 そして、オイナリ・ベーカリーの屋上に着地し、ジェノサイドを見下ろす。 ジェノサイドは屋上の方へ跳躍しながらバズソーを投擲。 するとチェーンソー男はまるで別人のように背を向け、朝もや晴れぬ街の中へと消えていった。 パッポウ。パッポウ。 商店街のどこかで鳩が鳴く。 ぽーぽぽーぽぽー。ぽーぽぽーぽぽー。 山の向こうでドバトが鳴く。 ちちち、ちちちち。 電信柱でスズメが鳴く。 それが合図。 勝負の幕引きを示す合図。 朝が来る。人々が起きだす。朝もやが晴れていく。 しばらくすれば戦闘で起こったあ様々な音を耳にして、人々が集まりだす。街が活気を取り返していく。 怪人同士の戦いは、朝が来るまでやってはならない。 陽の光を浴びるには醜すぎるズンビー。ジェノサイドは振り返り、自身のマスターの無事を確認。 周囲にサーヴァントの気配がないことを確認すると、しめやかに霊体化。 バーサーカーアーたるジェノサイドは実体化するだけでマスターへの負担が大きい。 その上ジェノサイドには重大な『時限爆弾』が仕掛けられている。マスターからの指示がない限り、戦闘以外での実体化は避けるべき案件だ。 そうして二体の怪人は、朝もやとともに雲散霧消。 その存在と戦いを、傷跡だけを刻み込み、過ぎ去ったはずの夜へとその身を隠すのであった。 「ア、ア、アバ」 へたりこんでいたガジロが声を上げる。 なんとマッポーめいた光景だろう。 ハットの男のバズソーが煌き、フードの男の頭をフードごと切り裂いた。 死んだ!と思ったもつかの間、フードの男はすぐに起き上がり、街の中へと消えていった。 それを見届けたあと、煙のように消えてしまった。 まるで嵐のように。 二人の怪人は突如現れ、商店街に消えぬ傷跡とボーズカットのパンク・フクスケだけを残し、忽然と消えた。 この事実を話して、誰が信じようか。 チェーンソーのニンジャ、バズソーのニンジャがイクサをしていたなんて荒唐無稽な話。 だが、そんな夢物語のようななか、歴然とした真実が一つ。 ガジロは生きている、怪我一つ無い。 ニンジャが跳梁跋扈し、マゲが飛び、看板が落ちるような戦闘に居合わせながら、無傷で生還。 それは、信心の浅いガジロにしても、ブッダの救済以外に言いようのない奇跡だった。 ガジロは慌てて神に向かってドゲザでオジギ。 「ナマダブ、ナマダブ!ホレンゲッキョ!」 両手をすりあわせ、顔をのぞかせた太陽に平服。そのままバンザイ・スタイルで三礼。 神の救いはここにあった!神は私を見ていた! 二人の怪人の両方を消し給うた!実際妙手!アブハチトラズ! その後、ガジロはその日のうちに誓い通りキョートへ向かい、キョートでインスタントではなく本格派の信仰逞しいブディストになったが、それはもう聖杯戦争とは関係のない物語である。 【JINCHOUGAZER S NEKROMANCE】 【JINCHOUGAZER S NEKROMANCE】 「そ、その……大丈夫……?」 心配そうに絵理の脇腹を撫でる少女。 金髪のアシンメトリーヘアーで、小さな貝のような可愛らしい耳に不釣り合いなピアスを付けた少女。 その少女が、自分を救おうとチェーンソー男に飛びかかった少女だと気づくのに、絵理は数十秒の時間を要した。 少女に手を引かれ、絵理はなんとか立ち上がる。 まだ蹴られたところは痛むが、それでも少し前のように前後不覚に陥るほどではない。 「私は大丈夫、あなたの方は平気?」 「う、うん……」 少女は少し恥ずかしそうに、口元をだるだるの袖で隠しながら照れ笑いを返した。 その動作は、小さな体躯も相まって小動物のようで可愛い。と、絵理も素直に思うほどだった。 改めてお礼を言うと、少女は小さく会釈をし、そして何事かに気づいたようにきょろきょろと周囲を見回し始めた。 そのうちに少女は道の端に転がっていた瓶を見つけ、駆け寄って拾い上げると、またまたきょろきょろと周囲を見回し始める。 どうやら先ほど突き飛ばされた時に何かを落としたらしいということが、遠目に見ても分かった。 助けてもらった恩がある。それに、ここで無言で立ち去れるような性格はしていない。絵理はわりとお人よしな少女なのだ。 絵理も周囲を見回し、ちょうど絵理の左にある立て看板の足元に同じような瓶が転がっているの見つけた。 「ねえ、これじゃない?」 少女に声をかけ、瓶を拾う。 そして何気なく瓶のラベルを確認して、どきっとした。 瓶にはでかでかと20歳未満の摂取を禁ずると書かれている。 少女が同じものを拾っていた、そしてまだ探している、ということはこれは彼女の持ち物で間違いないだろう。 ぱたぱたと寄ってきた少女に尋ねる。 「あなた、やっぱり不良?」 「……?」 「お酒の飲める歳じゃないよね」 「……あ……これは、私じゃなくて、バーサーカーさんが飲む物だから……」 バーサーカーさん。 この少女は先ほど、あのカソックコートの男(らしきなにか)をそう呼んでいた。 「あの人は知り合いなの?」 『あの人』がさすのは当然、ジェノサイドと名乗っていたカソックコートにウエスタンハットの大男。絵理と少女の命の恩人である彼だ。 少女は少し戸惑ったような素振りをみせ、おずおずと答えた。 「……う、うん……」 短い返事。 それ以外は何も語らない。 カップ酒を少女に手渡すと、少女はオーバーオールの腹部にあるポケットに酒をしまった。 そして、無言のままどちらともなく歩き出す。傷の刻まれた入口側ではなく、出口の方に向かって。 商店街の出口ゲートが見えてきたあたりで、今度は少女のほうが口を開いた。 「あ、あの人……チェーンソーの……あの人、知ってるの……?」 今度は少女の方から、絵理に話しかけてきた。 『チェーンソーの人』というのは間違いなく、チェーンソー男のことだろう。 でも、話すべきか。 できれば話したいことではない。 チェーンソー男の説明をするならば、どうしても絵理の心の傷を曝け出す事になってしまう。 なおかつ、あの男の存在全てがあまりにも荒唐無稽すぎる。そのまま話して信じてもらえる話だとは思わない。 だが、彼女も被害者だ。絵理の想い人である山本の言葉を借りるなら少女も『被害者』であり『知る権利はある』。 それに、彼女が(正確には彼女がバーサーカーさんと呼んでいる男が)居なければ絵理は死んでいた。 そして、突然変わってしまったチェーンソー男について、情報を整理するいい機会にもなるだろう。 そう結論づけて、折衷案として自身の生い立ちや彼が現れるに至った経緯をぼかして説明を始めようとしたが。 まだ自己紹介もしていなかったということを思い出し、定型句で問うた。 「あなた、名前は?」 少女は少し黙ると、消え入りそうな小さな声でこう答えた。 「わ、私……白坂小梅、です」 「白坂さん、ね。私は雪崎絵理」 その後、年齢などの簡単な自己紹介を済ませ、絵理はいつかのようにこう切り出した。 『白坂さん、笑わないでよ』と。 ◆◆◆◆ 雪崎絵理と共に歩きながら、白坂小梅は考えていた。 小梅が商店街を通りかかったのは完全に偶然だ。 ジェノサイド用の酒を買いに、時間を選んでこっそり外出したのが始まりだった。 ジェノサイド一人だと怪しまれる、ということで少し離れたコンビニまで二人で行き、お小遣いでワンカップ酒を買い、その帰り道で事件は起こった。 チェーンソーを持った大男が何故か突然襲いかかってきたのだ。 そのサーヴァント(小梅にはステータスが見えていたからそれは間違いない)は、彼と戦っていた少女――雪崎絵理によれば『チェーンソー男』というらしい。 まるでB級のパニック映画のタイトルのような名前のその男。その実態は『世界に悲しみをもたらす悪の怪人』。 手に持っているチェーンソーで他人を殺しに襲いかかって来る。毎夜毎夜、どこかで、絵理と戦っていたとのこと。 素敵な設定だ。 あの『いかにも』な格好に、『いかにも』な武器も素敵だ。 初対面で見惚れてしまったのも「わぁっ」と感嘆の声が自然と漏れだしたことも仕方ないことだろう。 でも、絵理が殺されそうになり、このままじゃまずいと慌てて飛びついたが振り払われ、逆にチェーンソーが小梅の方に向けられた時。 目の前でどるんどるんと音を立てて回転するチェーンソーをつきつけられた時。 とても恐ろしかった。 スプラッター映画は好きだけど。 ショッキングな雑貨は好きだけど。 『皆』は友達で、大好きだけど。 ジェノサイドもかけがえのない友人だけど。 それでも、自分が死ぬのは怖かった。 あのチェーンソーが振り下ろされたら、小梅が死んでしまったら。 もう二度と、お父さんにも、お母さんにも、『あの子』にも、ジェノサイドにも会えないのだと。 そしてもう、幸子にも輝子にも会えなくなるのだと考えると、怖くて、寂しくて、悲しかった。 わりと気丈な方の彼女が少しだけ涙ぐんでしまうほどに怖かった。 そういった経緯を踏まえ、白坂小梅は考える。 (バーサーカーさん) (*1) (バーサーカーさんは……サーヴァントを食べなきゃいけないんだよね……?) ジェノサイドは黙る。 そう、これこそが彼に組み込まれた時限爆弾。 ジェノサイドはズンビーであるがゆえに、他者を……それも他のサーヴァントを捕食しなければ顕現を続けることが不可能なのだ。 ジェノサイドが小梅を守り続けるためには、戦える状態を維持しなければならない。 戦える状態を維持するためにはサーヴァントを捕食する必要がある。 捕食するとなれば、その相手を見つけなければならない。 その相手を(できれば食べても誰も困らない相手を)見つけるのが彼女ら二人の聖杯戦争の第一の課題だったが、運良くというか運悪くというか、すぐに出会うことが出来た。 (あの人なら……あの、チェーンソーの危ない人だったら……食べても、大丈夫……?) (*2) (……あの人、かっこいいけど……いろんな人に迷惑かけるのは、駄目だから……) 今が早朝だったから良かったが、もしこれが人の多い昼や夕方だったらどうなっていたか。 おそらく、あのチェーンソー男はNPCをバッタバッタと切り倒しながらこちらに向かってきただろう。 そういうのは、映画の中だといいけど、とても素敵だけど、実際にやっちゃいけない。創作と現実は一緒にしてはいけない。 だって、誰かが悲しむのは、よくないことだから。 小梅はそう判断し、絵理同様あのチェーンソー男を『倒さなければならない存在である』と認識した。 そして、『倒さなければならない存在』であるならば『食べてもいいんじゃないか』と論理をつないだ。 「あの……絵理、さん……」 「なに?」 「もっと、お話……聞かせてほしいな。『チェーンソー男』のこと」 絵理が立ち止まり、小梅を見つめる。 興味を向けたことを不思議に思っているようだ。 経緯を説明しようと思い「えっと」と口に出し、そこで一旦口をつぐむ。さすがに直球で『食べるためです』とはいえない。 そうして、少しだけ黙って考えて、こう続けた。 「……バ、バーサーカーさんが、あの人のこと、気になってるみたい……だから……」 (*3) バーサーカーの溜息が聞こえた気がした。 【C-2/商店街/一日目 早朝】 【白坂小梅@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態]魔力消費(小) [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]R絵柄の私服、スマートフォン、おさいふ、ワンカップ酒×2 [所持金]裕福な家庭のお小遣い程度 [思考・状況] 基本行動方針:幸子たちと思い出を作りたい。 0.死ぬのは、意外と怖い……かも。 1.絵理からチェーンソー男のことを聞きたい。チェーンソー男が他人を襲うのは危険。 2.チェーンソー男を、ジェノサイドに食べさせる……? [備考] ※霊体化しているサーヴァントが見えるかどうかは不明です。 ※雪崎絵理を確認しました。彼女がバーサーカーのマスターとは気づいてません。 バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。彼に関する簡単なこと(悪の怪人ということ・絵理と戦っていること)も理解しました。 ※まだ通達を確認していません。 【ジェノサイド@ニンジャスレイヤー】 [状態]霊体化、カラテ消費(小)、腐敗進行(軽微) [装備]鎖付きバズソー [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:コウメを…… 0.俺はジェノサイド…… 1.チェーンソー男は、コウメを殺そうとしやがった。 2.女(雪崎絵理)はチェーンソー男のことを知ってるのか? 3.次倒したら、チェーンソー男を食うかどうか。 [備考] ※バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。 バーサーカーの不死性も理解しましたが、ニューロンが腐敗すれば忘れてしまうでしょう。 【雪崎絵理@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】 [状態]魔力消費(?)、身体に痛み、軽度のショック [令呪]残り三画 [装備]宝具『死にたがりの青春』 [道具]スマートフォン、私服 [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:チェーンソー男を倒す。 0.なんで、明け方からチェーンソー男が……? 1.ついでにナイフを取りに帰る必要がある。 2.小梅と話をする……? 3.チェーンソー男の変化について調べる。 [備考] ※聖杯戦争への理解がどの程度なのかは後続の書き手さんにお任せします。 ※チェーンソー男の出現に関する変化に気づきました。ただし、条件などについては気づいていません。 ※『死にたがりの青春』による運動能力向上には気づいていますが装備していることは知りません。また、この装備によって魔力探知能力が向上していることも知りません。 ※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)を確認しました。真名も聞いています。 ※まだ通達を確認していません。 ◆◆◆◆ 怪人たちの狂演が終わり。 少女たちの出会いの物語が終わり。 いつか。 どこか。 その男は居た。 自身の主の下ではなく、ただどこか、彼を受け入れる場所に居た。 霊体化中か実体化中かもわからない。 そこがどこなのかは誰も知らない。 おそらく、彼自身も知らない。 彼にはきっと、理性と呼ぶべきものがないから、知ることが出来ない。 誰が呼んだかチェーンソー男。 その正体は、世界に悲しみをもたらす悪の怪人。 彼はサーヴァントとして顕現する際に2つの枷を負った。 それは、他のサーヴァント同様、聖杯戦争をとり行うための基本ルール。 一つ、サーヴァントとして聖杯戦争に参加できるよう、彼が全快の状態でマスターがサーヴァントに近づいた際、彼は実体化して戦闘を開始するというもの。 チェーンソー男は、聖杯戦争中でも本来のペースでの襲撃を行う。 夜9時~深夜の間、街のどこかに絵理を誘い出し、彼はいつもの様に戦闘を行うだろう。 ただし、絵理がサーヴァントの存在を察知した場合、彼女が望む・望まないにかかわらずチェーンソー男は現れ、絵理を襲う。 これが、彼がサーヴァントとしての職務を全うするために、聖杯によって与えられた枷の一つ。 もう一つ、致死に至れば再戦までに相応の時間を要するというもの。 サーヴァントという枠に押し込められたため、その不死性が少々変化した。 逸話に違わず、彼は一度敗れれば姿をくらます。 その後、絵理の魔力もしくは自身の魔力を用いて肉体を戦闘可能な状態まで修復しなければならなくなった。 これが、彼がサーヴァントという枠から逸脱しないように、聖杯によって与えられた枷のもう一つ。 突如与えられた2つの枷。 どちらも彼の存在に大きく干渉する枷。 ただし、2つを合わせてみれば、それが必ずしも彼にとって悪い方へと働くわけではない。 もし、魔力や傷の深さや遭遇の機会に恵まれたのならば、チェーンソー男は日に5度でも6度でも現れうる、ということだ。 この枷があったからこそチェーンソー男はサーヴァントとしての顕現を受け入れた。 そうすればそれだけ、彼は願いを叶えやすくなるから。 彼の願い。 それは雪崎絵理の殺害。 それが彼の存在理由。 彼は雪崎絵理を殺すためだけに生まれ、そのためだけに動き続ける。 聖杯戦争参加前も、聖杯戦争中も、ずっと、ずっと。 そんな彼の願いや存在理由と彼の持つ宝具『死にたがりの青春』が、雪崎絵理に一つの力を授けた。 それは身体能力の強化に伴った魔力探知能力の向上。 そもそも絵理は完全な一般人であるため魔力への干渉や察知は不可能。 だが、『死にたがりの青春』によって、ことサーヴァントの索敵という一点に関してのみ鋭敏な知覚能力を手に入れた。 絵理は、今後も『チェーンソー男出現の予感』という形でサーヴァントの存在を察知し、彼らに近づくだろう。 そして、その度にチェーンソー男は願いを叶える機会を得ることになる。 何度でも蘇り、絵理を殺しに行く。 何度でも、何度でも、何度でも、死ぬまで殺しに行く。 あの不気味なエンジン音と共に、彼女を殺しに行く。 どんな時でも殺しに行く。 地の果てまで追いかけて殺しに行く。 チェーンソー男は、聖杯戦争の舞台で、2つの枷を背負ったことで更なる怪物として生まれ変わった。 いつか。 どこか。 霊体化中なのか。 実体化しているのか。 分からない。 それでも、彼は、どこかで待ち続ける。 雪崎絵理に『悲しみ』を刻み込むその時を待ち続けている。 【???/???/一日目 早朝】 【チェーンソー男@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】 [状態]復活までまだ時間が必要 [装備]チェーンソー [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:雪崎絵理の殺害 [備考] ※雪崎絵理がマスターだとかそういうことは関係ありません。 ※聖杯戦争中、チェーンソー男は夜以外にも絵理がサーヴァントの気配を感じた場合出現し、当然のように絵理を襲います。 このことには絵理も気づいていません。 ※致命傷を受けての撤退後、復活にはある程度の時間を要します。時間はニュアンスです。 ※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)組を確認しました。 [地域備考] ※C-2商店街に小~中規模戦闘の跡が残っています。 戦闘の直接の目撃者は小梅・絵理・ガジロの三名のみですが、音を聞いた人は居るでしょうし、破壊痕から噂にもなるでしょう。 BACK NEXT 008 砂糖菓子の朝はほろ苦い 投下順 010 開幕/きらりん☆レボリューション 時系列順 BACK 登場キャラ NEXT 000 前夜祭 白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド) 019 情報交換 -005 白坂小梅&バーサーカー 000 前夜祭 雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男) 019 情報交換 -004 雪崎絵理&バーサーカー
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遊園地で私と握手 ◆EAUCq9p8Q. 「見事に見慣れない物ばっかり」 「遊園地は初めてですか?」 「故郷にはなかったからなあ。こういう面白いの」 「辺境の出身なのですね」 森を抜けたというのに馴れ合うような縁は続いている。続いているというより、再び目的が一致したのでどちらとも言わずに再び延長となったと言った方が正しいかもしれない。 薬物で強化された超視力、魔法少女の超視力が森を出るより早く共に捉えたのは、異様な空間の揺らぎだった。 遠目でも魔力による認識阻害、あるいは別種の魔力干渉が一目で見て取れた。 どちらが言い出すでもなく。いや、どちらも相手とは関係なく。 アサシンは自身の隠密能力に任せ、聖杯戦争を更に上手く立ち回れるよう情報を収集するために。 アーチャーはその魔力の発生源のサーヴァントを見定め、自身の飽くなき欲求を満たすために。 別れを切り出すことを後回しにして、ただ暗殺者として、戦闘狂として、小学校の空間の揺らぎに乗り込んだのだ。 飲み込まれるような感覚、身体にまとわりつくような異様な空気。 一歩でそこが現実世界とは異なる世界――キャスターのクラスの陣地であると理解できた。 揃って様子を見回す。賑やかな外装は、聖杯戦争エリア内にある遊園地にやや似ている。 だが、こちらの陣地は遊園地というよりは廃墟に近く、人の気配をまるで感じない。 アトラクションと思わしき巨大な施設も、朽ちていたり、壊れていたり、止まっていたり、活気がないというよりは死んだ遊園地でも呼ぶべきか。 アサシンのそんな感想が、正鵠を射ていたことはすぐにわかった。 「……ですが、所有者が不在というわけではなさそうですね」 アーチャーが一方を見つめながら呟く。 少し離れた場所をぞろぞろ歩く人の群れが目に入った。彼らは一様にアサシンにもアーチャーにも目をくれず、よろりよろりとよろけるようなスピードで何処かに向かって歩いている。 「……」 『そういう者』を見てきたアサシンには一目で分かった。あの人々は死者と傀儡だ。 うっ血したような赤黒い肌に傷ついた身体を引きずる死者の群れ。目から光の抜け落ちた生きた屍・傀儡の群れ。 意思なき者たちが揃ってどこかへ向かおうとしている。それは、統率者の存在の何よりの証明と言えた。 『死んだ遊園地』とはよく言ったものだとお菓子を摘みながら、アサシンは続けてその統率者について考える。 『誰か』――推定この陣地の持ち主は、アサシンと違いとても積極的に……いや、自滅覚悟かつ手当たり次第に配下を増やしているらしい。 小学校という人の出入りの多い場所を陣地との接点に選ぶ点や、こんな大規模な陣地を野ざらしにしておく点も加味すれば、生き急いでいるのか、それとも自信過剰なただの馬鹿か。 どちらにせよ、この陣地の持ち主と一戦交える際はそういう『向こう見ず』『無茶苦茶やる』『加減を知らない』部分があることをきちんと頭に入れておくべきだろう。 きんこんかんこん。 アサシンとアーチャーに向けて、どこかから響いてくる鉄琴の音。チャイムのように四回。 その後、何かが擦れるような、鼠が鼻を鳴らすような、小さすぎて音としか認識できない何かが数十秒続き。 きんこんかんこん、もう一度チャイム。 それが、ようやくの茶番閉幕の合図だった。 「……それでは、私はこのあたりで失礼しましょうか」 アサシンはチャイムの鳴った瞬間のアーチャーの反応を見逃さなかった。 エルフのように尖った耳が少し持ち上がり、その後に少しだけ表情が変わった。 アーチャーの特性についてはよく理解している。 気配遮断をしていたアサシンの咀嚼音すら聞き逃さない聴覚を持ってすれば、あの放送の つまり、アーチャーはあの放送の衣擦れ程度の音に何かを聞き出した。 そして放送の主はアーチャーを引きつける何かを口にした。 気になる部分は多い。 アーチャーの超聴覚を見抜いた人物が誰なのか。 念話ではなく校内放送を使うというあたり、アーチャー自身のマスターではないのだろう。 アーチャーの超聴覚を見抜いた原理は。 彼女も英霊である以上、『その道では有名』なのかもしれないが、外見のみで見抜けるとすれば余程の知識を持った人物と言える。 その人物と接触を出来れば、アーチャー暗殺のいい足がかりになるかもしれない。 そして、その人物はアーチャーの姿とともにアサシンの姿を見たのか。 八房を隠している今、この服装だけならば、アサシンの正体を見抜かれることはないだろうが、情報が出回らないに越したことはない。 もし見られたならば、いずれは殺しておきたいものだ。 興味は尽きないが、アーチャーが『切り上げる』と言った以上、このだらけきった関係は終了だ。 ここからは、暗殺者と暗殺対象。 そして、絶対強者と追われる獲物。 明確な敵対関係が、ここからようやく幕を開ける。 「じゃ、またいつか」 「ええ、生きていればそのうちに」 にこやかに挨拶を交わし、駆けていくアーチャーの背を見送り、アサシンはその場にとどまったまま再び考える。 アーチャーや放送の主のことも気になるが、同時にやはり、『統率者』のことも気になる。 この死体・傀儡たちを斬るのは容易い。だが、ここで斬り殺して得られるものはほとんど無い。 それよりも、この尖兵たちが向かう先の方に価値はあるだろう。 これだけの大所帯を動かすとなれば、それだけの意味が向かう先にあると考えるのが普通だろう。 昼間ほどの乱戦はなくとも、交戦は必至。 となると暗殺者が暗躍するにはもってこいの舞台が整うというわけだ。 (そのためには……まず、安全の確保が重要かな) まさかまだ律儀にアサシンの帰りを待っているとは思わないが、あの変なところで意地を張るマスターが残っている可能性もないわけではない。 まずは彼女の不在を確認しておいたほうが良いだろう。 なにせ中学校はすぐ傍だ。もしマスターをあの歩く屍に変えられてしまえば、アサシンとしてもやりづらくなるのだから。 (……ん……あれ、マスターが傀儡になったら、どうなるんだろ) ふと、『山田なぎさを八房にストックする』というイメージが浮かぶ。 マスターをストックした場合、契約中のサーヴァントはどうなるのか。他のマスターならば、きっと契約を維持したまま八房に収めることが出来るだろう。 ならば、アサシンが自身のマスターをストックしたら? (……後回し、でいっか) 実際に試してみるまで、答えが出ないことは分かりきっている。 ならば、その時が来た時にしっかり考えればいいだろう。 無理に試すにはリスクの高い行動だ。まだしばらくは、なぎさには生きていてもらわなければ困る。 今はまず、目の前のことから片付ける。アサシンにはそれだけでも一杯一杯だ。 【D-2/小学校傍/1日目 夜】 【アサシン(クロメ)@アカメが斬る!】 [状態]実体化(気配遮断)中 [装備]『死者行軍八房』 [道具] [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を取る。 0.中学校を確認後、再びこの陣地の『傀儡』たちの向かった方へ。 1.戦闘の発生に注意しながら索敵。 2.機会を見てマスターのもとに帰る。その時のマスターの様子次第で知世を躯人形に。 3.アサシンらしく暗殺といった搦手で攻める。その為にも、骸人形が欲しい。 4.とりあえずおとなしく索敵。使えそうな主従を探す。 5.アーチャー(クラムベリー)は殺したいけど、なにか方法は…… 6.もし山田なぎさを八房にストックすれば、どうなる? [備考] ※双葉杏をマスター(仮)として記憶しました。 アーチャー(クラムベリー)、江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)、高町なのは、大道寺知世、白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)を確認しました。 ※八房の骸人形のストックは一(我望光明)です。 ※B-3(廃工場地帯)でアーチャー(森の音楽家クラムベリー)の襲撃を受けたという情報を流すと宣言しました。 どの程度流すかはその時のアサシンのテンションです。もしかしたらその場しのぎのはったりかもしれません。 ※アーチャー(クラムベリー)と情報交換しました。どの程度聞いたのかは後続の書き手の方にお任せします。 ※アーチャー(クラムベリー)と敵対しました。彼女が『油断や慢心から一撃を受ける可能性』と『一撃必殺の宝具ならば簡単に殺せる可能性』を推測しました。 ※キャスター(アリス)の陣地とオトモダチを確認しました。魔力素養のあるもの・サーヴァントならば遠距離からでも視認が可能です。 また、キャスターの性格にアタリをつけています。 ◇◇◇ チャイムの間に聞こえた声は、アーチャーの興味を引いてやまない言葉を口にした。 『えー、森の音楽家クラムベリーさん、森の音楽家クラムベリーさん。 聞こえてましたら、至急警備員室まで来てください。 繰り返しまーす。森の音楽家クラムベリーさーん。殺し合い殴り合い大好きのクラムベリーさーん。 聞こえてるんでしょ? 会いに来てよ、警備員室で待ってるからさ』 最小音量に設定されたマイク越しに、空気を揺らすか揺らさないかほどの声で告げられたメッセージ。 姿を見ただけでアーチャーを『森の音楽家クラムベリー』であると断じることが出来る人物がいるということ。 そしてその人物はアーチャーとの邂逅を望んでいるということ。 それに心を動かされないわけがない。当然罠の可能性もあるが、それならそれで面白い催しだ。 アーチャーに迷いはなかった。 ◇◇◇ 踏み込む前から、その小学校が異常事態の最中にあることは十分に理解できた。 かつりかつり。長く続く廊下に響くのはアーチャーの足音だけ。 時刻はもう八時に迫っているから、児童の姿が見えないのはそこまでおかしなことではないだろう。 だが、それでも、話し声どころか呼吸音すら聞こえないというのはやはり引っかかる。 消音系のスキル・魔術が働いていないことは自身の足音の反響の仕方で理解できた。 ということは、この小学校にはもう人っ子一人居ないのだろう。 仕事をしているはずの教師や、泊まり込みの警備員がどうなったのか。 その答えも、既にアーチャーは目撃している。 手駒の増やし方に一切の躊躇がないのは好感が持てる。 きっと、心置きなく戦うことが出来るだろう。 雑魚を蹴散らしながらの戦闘、というのは特撮ヒーローのようでアーチャーにはあまり似合わないかもしれないが、それでも物量戦というのは心が躍る。 そんなことを考えながら歩いていれば、すぐに目的の場所にたどり着いた。 ノックを二回。返事はない。ノブを回してドアを開ける。 警備員室は、夜の闇に大半を明け渡していたが、ドア向かいの壁一面だけは朝ぼらけのように光と闇が溶け合い紫色に輝いていた。 明るく輝くモニターの群れと、輝くようなピンクの髪。ぼんやりとした明かりの作る輪郭から、その髪の持ち主は女性だと分かる。 この場に居るのが彼女だけならば、彼女が呼び出した人物で間違いはないのだろう。 「貴女が、私の名を?」 アーチャーの声に、待っていましたとばかりに、少女はゆっくりと振り返った。 暗闇でも明るく光るピンク色の髪が宙で踊り、続いてその人物の姿が柔らかな光に照らしあげられる。 黒く太いセルフレームの眼鏡。寝ぼけたようにとろんとした瞳。 白い肌とぼさぼさの髪、身にまとった白衣も合わせれば、上から下までパソコンに齧りつきのギークのような印象で統一してある。 アーチャーと向き合った少女の、眼鏡の奥の瞳が優しく歪む。 「ようこそ、私の世界へ。はじめまして、森の音楽家クラムベリー」 背負った無数のモニターから放たれるブルーライトが、少女の笑顔を照らす。 無数のモニターが、ギーク風の少女を照らす。その光景は、少女の類稀な美貌も相まって、アーチャーが生前に見てきた魔法少女たちを思い出させた。 だが、魔力的なあれこれは感じない。どう見ても普通の人間だ。 姿を見て逸話に至り真名を当てたという可能性は限りなく低そうだが、一応尋ねてみる。 「あなたは……どうして私の名を?」 「そっから聞いちゃう? もっと聞きたいことないの? 例えばマスターなのかNPCなのかとか、この陣地の主なのか違うのかとか、もしかしてあなたが噂のキークちゃんなのですかとか、他に聞きたいことはないの?」 少女はつまらなさそうに眼鏡をゴミ箱目掛けて投げ、片手に持っていたリモコンを操作して画面を切り替えていく。 先程までアーチャーが居た、遊園地と小学校の狭間。 少女――つい先程アーチャーが襲撃したマスター・白坂小梅が歩いている校門前。 無人の場所。壊れた屋上。スキップをしながら駆け回る一人の少女。 そして、それらのすべてが瞬間で消滅した。 カメラの機能が死んだわけではない。カメラとモニター、その他『小学校だったもの』のすべてが消滅したのだ。 アーチャーたちの周囲の環境も、瞬き一つのうちに変貌を遂げていた。 鬱蒼と生い茂る薔薇の園。その真ん中に置かれた木製のテーブルと様々な種類の椅子。 テーブルの上には山のように積まれたティーカップと口から湯気を噴いているティーポット。慎ましやかながらお茶菓子も並んでいる。 この場がまるでいつか読んだ『ふしぎの国のアリス』に出てくるお茶会の会場のようだ、なんて思うのは、やはり周囲が変わらず安全だと耳が教えてくれているからだろう。 「んー、まあいいや。じゃあヒントを出すから当ててみてよ。そんくらいはいいでしょ」 少女はさして驚いた様子もなく、傍においてあったティーセットを手に取りお茶を注ぎながら続ける。 その姿は既にギーク風のものではない。そして瞬きすれば今の容姿も過去になる。 次々に、目まぐるしくモチーフを変えながら、少女は無意味な問いを口にした。 「ではここでクエスチョン! 小学校の警備員室に居た少女はどうして森の音楽家クラムベリーの名前を知っていたのでしょうか!」 「一番、僕が古今東西の魔法少女史にすこぶる詳しいから」 「二番、俺様が今日の歴史の授業でちょうどクラムベリーの試験についてを勉強をしたから」 わざとらしく一拍置いて、少女は顔を上げる。 そして紅茶の注がれたティーカップをアーチャーに差し出しながら、キメ顔でこう言った。 「そして三番、私様のサーヴァントが、森の音楽家クラムベリーについてとーっても詳しい、因縁浅からぬサーヴァントで。 私様はそのサーヴァントの記憶を夢経由で知ることが出来ていたから」 少女の瞳は真っ直ぐアーチャーを見つめている。考えるまでもなく、答えは三番で間違いなさそうだ。 いくつもの英霊像が頭に浮かび、そのどれもが通り過ぎるように消えていき。 最後に残ったのは、目の前の少女の笑顔だった。今はどんな過去よりも、今は少女が気にかかる。 アーチャーを呼び出した理由。真名を餌に自身の場所まで釣り出す、なんて危険を犯してまで、彼女がアーチャーとの交流を望んだ理由とは何か。 自身のサーヴァントの正体を半ば明かした理由。聖杯戦争についての価値観が大きく異なるとしか言いようのない、この会話の切り出し方はなんなのか。 理由があるか。いや、理由なんてないのかもしれない。 少女の瞳は無邪気な子供のように澄んでいて、それでいてどこまでもどす黒い。 「ねえ、よければお話でもしませんこと?」 「アンタがマスターを襲って殺そうとするようなやつじゃないのは百も承知さね」 「だからこそ、友好的にお話がしたいんでありんす」 「孤独な森の音楽家も事此処に至れば去るなどという選択をするはずもなく!」 「面白い話、面白くない話、どんなことでも構いません」 「すわっ!」「すわっ!」「すわわっ!+^o^+」 「すわぁーて、はじめませう! 二人っきりのお茶会を!」 アーチャーは少し考えてみせた後で、ティーカップを受取り、傍の椅子を引き寄せて腰掛けた。 不明だらけの少女像の中で、一つだけ、理解できることがあった。 彼女は、きっといい火種になる。状況さえ整えれば、会場のすべてと参加者の全員を燃やし尽くせるほどの大きな火種にだってなってくれる。 何度も何度も殺し合いの試験を開いた『森の音楽家クラムベリー』の嗅覚は、確かにそれを嗅ぎ分けた。 【D-2/陣地『不思議の国のアリス』/夕方】 【アーチャー(森の音楽家クラムベリー)@魔法少女育成計画】 [状態] 健康、手の傷(治癒中) [装備] 黒いフード付きコート [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針: 強者との闘争を求める 1.江ノ島盾子に興味。 2.戦闘を行う主従にも興味。 [備考] ※木之本桜&セイバー(沖田総司)、江ノ島盾子、蜂屋あい&キャスター(アリス)、高町なのは、アサシン(クロメ)、白坂小梅&ジェノサイドを確認しました。 ※フェイト・テスタロッサを見つけてもなのはに連絡するつもりはありません。 ※小学校屋上の光の槍(フェイト)を確認しました。 ※アサシン(クロメ)と情報交換しました。どの程度聞いたのかは後続の書き手の方にお任せします。 ※アサシン(クロメ)から暗殺を宣言されました。ちょっとワクワクしています。 ※アーチャーに詳しい魔法少女のサーヴァント(クラムベリーの子供達、魔王塾生など)が居ることを察しました。 【江ノ島盾子@ダンガンロンパシリーズ】 [状態]健康、絶望的にハイテンション [令呪]残り三画 [装備]諸星きらりの携帯端末 [道具]なし [所持金]大金+5000円分の電子マネー(電子マネーは自分の携帯を取り戻すまで使用できません) [思考・状況] 基本行動方針:絶望を振りまく 0.アーチャー(森の音楽家クラムベリー)と情報交換。絶望的に行こうね。 1.次なる絶望の仕込み。ここらで一発スペシャルなオシオキとかどっすか? 2.諸星きらりをプロデュース……は、一旦後回しとかどうにょわかねえ。 [備考] ※木之本桜&セイバー(沖田総司)、森の音楽家クラムベリー、双葉杏、蜂屋あい&アリス、白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)を確認しました。 ※諸星きらりの自宅の位置・電話番号・性格なども事前確認済みです。 ※数十分、もしくは数時間、あるいは数日、ひょっとしたら数年は同じキャラを演じ続けられるかもしれませんし、続けられないかもしれません。 ※ランサーのスキル『困った人の心の声が聞こえるよ』に対して順応しています。順応に気付いているかいないかは不明です。動揺しない限り尻尾を掴まれることはないかもしれません。あるかもしれません。 ※バーサーカー(悠久山安慈)の敵対のきっかけが『諸星きらりの精神・身体に一定以上の負荷をかけた相手(≒諸星きらりを絶望させた相手)』と見抜きました。 そのラインを超高校級の絶望故に正確に把握しています。彼女自身が地雷を踏むことは(踏もうと思わない限り)ありません。 ※小学校校門前での闘争を確認しました。 その過程で輿水幸子、星輝子がマスターであると確認済みです。現在白坂小梅が小学校前をうろついているのも確認済みです。 ◇◇◇ 小梅が小学校に付いた頃にはもう諸星きらりや彼女を引き連れているだろう誰かは影も形もなかった。 戦闘があったようにも見えない。きっと、何事もなかったのだろう。 きらりを探す人物ときらりを連れた人物は無事に出会えたのか。 それとも、きらりがここに来るという情報自体が嘘だったのか。 今となってはそれを確認する方法はない。 少しの寂しさを胸に校門をくぐって外に出ようとした瞬間に、小梅を飲み込むように周囲の風景が変わった。 通学路だったはずの場所には広大な平野が広がっている。 学校だった場所は小さなお城に、世界は観覧車やメリーゴーラウンドで彩られた遊園地に。 空は、まるで古ぼけたレンズで濁った水面を覗き込んだような、薄汚れた色に。 崩れた橋、空に浮く島、地を走るレール。どこか不気味な世界が、果てしなく続いている。 「シラサカコウメちゃん?」 突然名を呼ばれ、驚きながらも振り返る。そこには一人の少女が立っていた。 整った顔貌、透き通るような白い肌、ルビーのように赤い瞳。しゃらりと流れる金髪も愛らしい、お人形のような少女。 重なって見えるのは『キャスター』というクラス名。 それだけで、彼女がサーヴァントであることだけは小梅にも理解できた。 身構え、心構え、当たり前のように念話を送る。 (……バーサーカーさん、この子……) ( (……) ) (……バーサーカーさん?) ( (……) ) 返事がない。そばにいるのはきっと確かだが、なぜだか遠くに居る気がした。 キャスターの少女は「大丈夫?」と首を傾げて小梅の出方を見守っている。 「……私に、何か……用?」 「ワタシね、お話を聞いてきたの。 シラサカコウメちゃんは、死んだ人ともオトモダチになれるって!」 にこにこと笑いながら歩いていくる少女に敵意は見られない。 悪い人ではないのかもしれない、という思いがふっと浮かぶが、あの薔薇のアーチャーの前例もある。 念のために距離を保ったまま、そして逃げ出せるように身構えたままで、キャスターに尋ねてみた。 「あの、ここって……」 「ここ? ここはワタシの世界だよ」 キャスターは特別なことはないという風に答えて、そのまま続ける。 「ワタシが、オトモダチと遊ぶために作った世界なの。シラサカコウメちゃんは特別に招待してあげたのよ!」 嬉しいか、と問われても返事は思い浮かばない。事態が急過ぎて追いつけてないというのが本音だ。 そんな小梅の困惑を置き去りに、キャスターはとても楽しそうに話を続けた。 「ねえ、シラサカコウメちゃん。ふたりで遊びましょう! ここではワタシが女王様だから、ワタシが望んだなら、なんだってできるの! 好きなものが出せるし、好きなことができる、ステキでしょう?」 そう言いながら少女はふいふいと指を揺らして大きなソファーを作り出す。 少女はそこにちょこんと腰掛けて、うきうきと肩を揺らしたが、すぐに飽きたらしく、また小梅の方に歩み寄ってきた。 小梅が一歩下がれば、キャスターは小さな歩幅で二歩迫る。 もう一歩下がれば、もう二歩迫る。一歩、二歩。一歩、二歩。続ける分だけ続いていく。 どうもキャスターは遊んでいると思ったらしく、小梅の歩数の分だけ、スキップしたり、くるりと回ったりと、飛び石を飛ぶように追いかけてきた。 小梅が立ち止まると、キャスターも立ち止まり、楽しそうに頬をほころばせて身体を揺らした。 キャスターが何もしてこないのを理解し、小梅は一つだけ、気になることを尋ねてみた。 「えっと……なんで……なんで私のことを、知ってるの……?」 「エノシマジュンコチャンが教えてくれたの! シラサカコウメちゃんは死んだ人とオトモダチとなれるんでしょう?」 ややも間をおかず二度飛び出した『死んだ人』という単語に眉を顰める。 確かに、サーヴァントは過去、あるいは未来に死んだ英雄がなるものだと認識しているが、彼女の口にする『死んだ人』は別のニュアンスを含んでいるように思える。 「だからね、シラサカコウメちゃんなら、ワタシのオトモダチにもなってくれるんだって!」 小梅が疑念を抱いている間に、キャスターは小梅に抱きついたり、覆いかぶさったり、袖を引いたり、人懐っこく甘えてくる。 今度はあまりの速さに逃げることなどまったくできなかった。 だが、衝撃も、不快感も、まったく襲ってこない。高めに感じられたのは驚くくらいに冷たい肌の感触だけ。 「ねえ、シラサカコウメちゃん。二人で遊びましょう?」 再びキャスターと目が合う。その視線は、まっすぐに小梅を求めていた。 他意は感じない。その少女は本当にただ寂しいだけで、本当にただ遊びたいだけ。少なくとも小梅にはそう思えた。 「遊ぶって……なにするの?」 「うーん、何しよっかな。おいかけっこやかくれんぼもいいけど、みんなでお茶会も面白そう。トランプもあるけど、シラサカコウメちゃんは何が得意?」 遊びの内容も、敵意や害意はまったく感じないものばかり。 なんだか、同じアイドル事務所の年下の子にせがまれている気分になる。 ひどく懐かしいようなその感覚に、小梅の心は久方ぶりに穏やかな風に包まれるようだった。 だが、その懐かしさの中で、驚きと戸惑いの連続で薄れていた直前の記憶が鮮やかに蘇る。 小梅がここに来るまでの理由。小梅がここに来た理由。小梅がここに居る理由。 そのすべてが、懐かしい昔から続く今と関係している。 「その……遊ぶの、今度じゃ駄目かな?」 しゅんとした少女の顔は、小梅の良心を締め付けた。 だが、きらりのことが気にかかる。小学校から離れているにしても、小学校に来ていないにしても、きらりと聖杯戦争との関係が消えたわけではないはずだ。 そして、連絡が行き違ったままの幸子のこと。連絡の通じない輝子のこと。 すべてが聖杯戦争に関係しているわけではないだろうが、解決すべき問題であることに間違いない。 小梅にとって、今、この瞬間に大切なのはその三つだ。 アイドル時代からの友人であり、聖杯戦争の場に居るその三人だ。 キャスターには悪いが、その優先順位を覆すことはできない。 「なんで遊んでくれないの? 遊園地がキライだから?」 「ごめんね……私……今、人を探してるんだ。だから……」 「人?」 「うん……私の……えっと、お友達。諸星きらりさん、って言うんだけど……」 「きらりちゃん? あの背の高いきらりちゃん?」 予想外の人物から、予想外の答えを聞き、心臓が高鳴った。 慌てて尋ね返す。声は少し上ずっていた。 「きらりさんを、知ってるの?」 「うん。さっきね、いっしょにお茶してたのよ! エノシマジュンコチャンのオトモダチの子でしょ!」 「エノシマジュンコちゃんって?」 「エノシマジュンコチャンは……うーん、不思議な人? まだオトモダチではないけど。あ、でも、ワタシのマスターのオトモダチなのかな? でも、でも、とっても面白いヒトから、オトモダチになってほしいなぁ。あとで一緒に誘いに行こうよ!」 確証が持てず、きらりについて幾つかの事を尋ねるが、そのすべてが小梅の知っているきらりの特徴に違いなかった。 ひょっとして、エノシマジュンコという人物があの掲示板の書き込みの主だったのだろうか。 思わぬところから顔を覗かせた解決の糸口に、その少女が本来敵であることも忘れ、身を乗り出してしまう。 「あの……エノシマジュンコちゃんって人……私も会えるかな……?」 「うん! エノシマジュンコチャンもここにいるから、あとで会いに行こうね!」 「今じゃ、駄目……?」 「うーん……いいけど……じゃあ、ひとつだけ、ワタシのお願いも聞いてほしいな!」 「お願い?」 「うん! ワタシと遊ぶの。ワタシはね、ずっと一人ぼっちだったから、とっても寂しくて。ここでずっとオトモダチを待ってたの。 だからワタシと遊んでくれれば、エノシマジュンコチャンのところに連れてってあげる! どうかしら?」 穏便に済ませられるなら、それに越したことはない。 それに、これは暗中模索を続ける小梅にとって最も信頼度の高い手がかりと言えた。 その為ならば、少しくらい遊ぶのも吝かではない。 だから、小梅は当然その答えを口にした。キャスターに対してその答えを口にしてしまった。 「……うん、いいよ……じゃあ、遊ぼう」 「ほんと! よかった! じゃあね、じゃあね!」 キャスターの人懐っこい振る舞いに自然と警戒が解けていたのかもしれない。 成り行き上二度死闘の脇に居ることになったが、それでも命のやり取りに慣れていなかったというのもやはりあるだろう。 それでもやはり大きいのは、白坂小梅という少女が正真正銘、争いとは無縁の世界からやってきた、優しい少女だったということだろう。 だから小梅はやはり、彼女が今まで見てきた『人ならざるもの』と同じように、少女の異常性に気づくことができなかった。 キャスターが細めていた瞳を薄く開いた。その瞳の赤さは、血の色によく似ていた。 「 死 ん で く れ る ? 」 小梅がその言葉の意味を理解する頃には、怪しく光るブリキのギロチンが八方からもうそこまで迫ってきていた。 だが、ブリキのギロチンは、小梅の命を脅かすよりも早く白銀の煌きの前に散った。 ばらばらと音を立て、力なくその場に落ちて瓦礫の山と化す。 白銀の煌きはじゃらじゃらという鎖の揺れる音を引き連れながら空を旋回し、二人の間に現れた男の両手に収まった。 「……どいつもこいつも」 地獄から届くような男の声。鼻を刺すような腐臭が周囲に広がる。 ボロボロのカソックに穴だらけの帽子。体中に巻かれた汚らしい包帯。緑色に光る双眸。 遊園地には似合わない、墓場からそのまま出てきたような男のエントリーだった。 「サーヴァントってのは俺より余程頭のおかしい奴の集まりじゃねェのか」 顔の前で腕を交差させバズソーをキャッチした姿勢のまま、睨み返す。その男こそ、小梅のサーヴァント・バーサーカー。 先の音信不通もなかったことのように、当然のように現れて、当然のように小梅を守り、そして当然のようにキャスターに向けて啖呵を切った。 だが、キャスターは不意打ちの失敗を嘆くでも、取り繕うでもなく、ただ楽しそうな笑顔を浮かべるだけ。 「素敵! あなたも一緒に遊んでくれるんだね!」 「遊びだァ……?」 「うん、皆でいっぱい遊ぼうね! ワタシはアリス!」 バーサーカアーは考える。 目の前の少女・キャスターは、ニンジャなのか。それとも違うのか。分からないが、丁度ニンジャが行うように、自身の名を名乗った。 ちょこんとスカートの裾を持ち上げて行うお辞儀は、愛らしい少女の見た目に相応しい。 纏っている雰囲気だって先ほどとまるで一緒だ。変わらず、ウキウキとしているように見える。 だからこそ、バーサーカーには言葉で説明される以上に理解できた。彼女が話の通じない……理外の敵なのだと。 「それと、こっちは……」 劇場支配人めいて両手を広げたキャスター――アリスの後ろに現れるのはトランプの兵隊たち。 そして、人、人、人。遊園地という舞台の上の演者めいて現れる人の群れ。 だが、ただの人ではないのはひと目で分かる。目の色が違う。 バーサーカーの緑色の眼光と同じだ。この世ならざるモノを見つめる者たちの瞳だ。 そうしてようやく、繋がった。 『死んだ人間と友達になれる』ことに固執した意味とは。 『オトモダチ』とは。『遊ぶ』とは。 キャスターの偽りのない友愛の行為と、襲撃の理由とは。 「ワタシのオトモダチ。そしてあなた達のオトモダチ! 皆死んでる子、静かな子。でもでも、皆いい子だから、仲良くしてあげて!」 酒臭い息が漂う紫霞めいて見えたのは、決して溜息の主の身体が腐乱していたからだけではないだろう。 不気味な色の空の下、アリスの一言によっておどろおどろしいオトモダチの姿がライトアップされる。 バーサーカーと小梅、二人分の指の数よりも多い人の山。 赤黒い皮膚にただならぬ眼光でこちらを見つめる人と、 小梅にはまだ人別のつかぬその人の山に、先に反応したのはバーサーカーだった。 彼のニューロンの、腐敗しても忘れ得ぬ部分が……ニンジャとして、ズンビーとしての根幹の部分が、その存在に共鳴していた。 その赤黒い人の群れは! おお、そうだ、その死体を操る術は! リー先生によって生命の尊厳を蹂躙された、バーサーカーの成れの果てとまるで同じではないか! そこに違いがあるとするならば、彼らは物言えぬ弱き者で、バーサーカーにはニンジャソウルが宿っている強き者、その程度しかないだろう。 「胸糞悪い奴だ。俺は、特に、てめェみてェのが気に入らねえンだ。 なあオイ、てめェみてェな他人の命を好き勝手する奴を、何て言うか知ってるか」 「知ってるわ。とってもさみしがり屋さんって言うんでしょ」 「勝手抜かしやがる」 じゃらりと落ちた鎖は既に、相当の長さが見えている。 既にアリスまでの距離を射程の内に捉えている。 「てめェはな、殺されても文句の言えねェ……死んで当然の糞野郎って言うんだよ。 ドーモ、アリス=サン。ジェノサイドです!」 「きゃはは! さあ、遊びましょう! まずは追いかけっこからよ!」 一歩踏み出したトランプ兵二人が見事細切れに裁断される。 紙吹雪を挟んで、ルビー色の熱い視線とエメラルド色の鋭い眼光が交差する。 それが開戦の合図となった。 紙吹雪が風に吹かれれば、その向こうに控えていた屍人・傀儡・兵隊は散り散りに散らばり。 それぞれがバズソーに当たり、掻い潜り、包囲網を狭めていく。 「ナメやがって……つくづくムカつく奴だ!」 ゾンビーのバズソーが空を裂き、オトモダチと呼ばれた意思なき手札たちが女王を庇いながら指示に従い歩を進める。 陣地に化けた小学校で、再び戦乱の嵐が吹き荒ぶ。 【D-2/陣地『不思議の国のアリス』/1日目 夜】 【白坂小梅@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態]魔力消費(中)、恐怖(微)、不安 [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]スマートフォン、おさいふ、ワンカップ酒、携帯充電器、なのはの連絡先 [所持金]裕福な家庭のお小遣い程度 [思考・状況] 基本行動方針:幸子たちと思い出を作りたい。 0.キャスター(アリス)への対応。 1.幸子を探す。 2.きらりさんが殺人犯? 真意を知るために学校周辺へ。 3.チェーンソー男を、ジェノサイドに食べさせる……? [備考] ※霊体化しているサーヴァントが見えるかどうかは不明です。 ※アーチャー(クラムベリー)、キャスター(アリス)、高町なのはを確認しました。 【ジェノサイド@ニンジャスレイヤー】 [状態]霊体化、ダメージ(中)、カラテ消費(中)、腐敗進行(中) [装備]鎖付きバズソー [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:コウメを…… 0.俺はジェノサイド…… 1.アリスたちを倒す。 2.【ニューロン腐敗】 [備考] ※ニューロン腐敗症状が見え始めました。継戦や不死能力によって魔力を消費すればその分腐敗が進行し、一時的な心神喪失状態に陥ります。 これは霊体化によっても食い止めることは出来ず、また、霊体化中にも発動します。 【キャスター(アリス)@デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(及び、アバドン王の一部)】 [状態] 魔力消費(中)、陣地とオトモダチのMAGにより魔力回復中 [装備] なし [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針: オトモダチを探す 0.白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)をオトモダチにする。 1.面白そうなのでしばらくエノシマジュンコチャンに同行する。 2.知世をオトモダチにしたい。 3.さくらに興味。 4.サーヴァントのオトモダチが欲しい。 5.親友って素敵なこと? [備考] ※学校には何人か、彼女と視界を共有できる屍鬼が存在します ※学校の至る所に『不思議の国のアリス』への入口が存在しています ※不思議の国のアリス内部では、二人のアリスが遊園地の完成を目指して働いています ※エノシマジュンコチャンとは魔力パスがつながっていないため念話は使用できません。 ※学校に残っていたNPCをオトモダチにしました。 [地域備考] ※一日目夜、小学校の至る部分がキャスターの陣地『不思議の国のアリス』と接続し、入り口が開きました。 小学校に入ろうとした場合、問答無用でこの『不思議の国のアリス』に入ることになります。 入り口から出入りが可能ですが、アリスが望めば入り口を別の場所に移動させることも可能です。 BACK NEXT 041 崩壊ウォッチ 投下順 043 帰宅 040 外へ 時系列順 043 帰宅 BACK 登場キャラ NEXT 036 ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー アーチャー(森の音楽家クラムベリー) 044 アリス・イン・ザ・アビインフェルノ・ジゴク -不死戯の国のアリス アサシン(クロメ) 白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド) 040 崩壊ウォッチ 江ノ島盾子 キャスター(アリス)
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ある少女 【出典】 さいはてHOSPITAL 【クラス】 エンブリオ 【パラメーター】 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具EX (通常時) 筋力D 耐久D 敏捷D 魔力B 幸運B 宝具- (魔法少女ネガティブはるるーと) 筋力C 耐久B 敏捷C 魔力A+ 幸運C 宝具EX (ある少女) 【属性】 秩序・中庸 【クラススキル】 創造(偽):EX 殻の中での特権。エンブリオのサーヴァントは、自らが創造/想像した殻の中で開拓者としての特権を発動できる。 この場合のEXランクは『そもそも規格が存在しない』という意味であり、超越性を意味するものではない。 悪く言ってしまえばひきこもり。 星の開拓者(偽):EX あらゆる難航、難行が“不可能なまま”“実現可能な出来事”になる。 エンブリオのサーヴァントはこのスキルによって殻の中で起きた『不可能な事象』を解決する事ができるが、同時に『自らに敵対する存在』にも『星の開拓者』のスキルを与えてしまう。 エンブリオが殻の中では不可能はない事の証明であり、同時にその殻を破壊する者が現れるという運命を暗示するスキル。 【保有スキル】 マホウ:EX(B) 魔術でも、魔法でもなく、マホウ。 エンブリオの殻の中でのみ作用する、独自の超越能力の体系。 エンブリオは自らの殻の中でこれを自在に操るが、殻の外ではまったく効果を発揮しない。 ただし、『変身』スキル使用時は殻の外でも使用できる。 変身:B 魔法少女ネガティブはるるーとに変身する。 大して意味はない(むしろ固有結界内だとステータスが低下する)が、この姿が他の世界(物語)に登場した逸話により、魔法少女としての姿ならば、本来自らの固有結界の外では無力なエンブリオでも、自らの固有結界の外でマホウが使用できる。 ただし、変身中は『創造(偽)』スキルも『星の開拓者(偽)』スキルも自らの宝具の効果も使えない。 【宝具】 『最果ての殻、最果ての町、最果ての病院(さいはてHOSPITAL)』 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:- エンブリオの『殻』。一種の固有結界。この聖杯戦争の舞台である『街』と、重なって存在している。 固有結界の中の出来事、あるいは外の出来事が相互に干渉する事はないが、出入りできる点は複数存在し、その辺の裏路地がこの固有結界に繋がっている事もあるし、どこかの家の玄関が出入り口となっている事もある。 この固有結界の中では、エンブリオは『ある少女』形態に変身できる。 この固有結界の主として、エンブリオは固有結界内の環境を操作できる。ただし、本来三人いる開拓者がエンブリオ一人しかいないため、その権限は1/3にまで落ちている。 『桃源祈祷』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大補足:4人 エンブリオ最大最強のマホウ。 マホウを全力で収束し、全ての魔力を敵対者へとぶつける。 与えるダメージは『最大耐久力-1』で固定。故にどれだけ耐久力が低かろうと万全の状態ならば必ず耐えるし、逆にどれだけ耐久力が高くても傷を受けているなら必ず致命傷となる。 エンブリオの必殺(にはなりきらないが)宝具だが、発動には3ターンの祈祷(マホウの収束)を必要とするため、サーヴァント同士の戦いでは非常に大きな隙を晒す事となる。 【weapon】 なし。 【人物背景】 「目と耳を塞いで朝日から逃れよう 西日が射したならカーテンを閉めよう 親しい誰かを失わないように 虹の空には唾を吐き 夜の月にはワラ人形を 美しい世界に勘違いしないように 今となっては 全て幼い日の幻 されど私は望む あの日への回帰を 千年の喪に服すために 世界中が喪に服すために!」 「……何言ってんの?」 「魔王の名乗り向上 のってよ恥ずかしいじゃない」 【サーヴァントとしての願い】 ??? 『エンブリオ』 【殻】のサーヴァント。自らの領域を創造(あるいは想像)し、その中で絶対者として存在する。 その性質上、固有結界、あるいはそれに類するモノを所持している事がこのサーヴァントとして召喚される事の条件となる。 スキル特性は創造(偽)と星の開拓者(偽)。 このスキル群はその名の通り偽りの創造であり、想像である。故に、ランクはどのサーヴァントでもEX(そもそも規格が存在しないため)となる。 そして、同時に『殻は打ち壊される』という運命の暗示でもある。
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第442話:忘れられた少女の物語 作:◆eUaeu3dols あなたは彼女を覚えてる? 忘れているなら、思いだしてあげて。 忘れられるのはとてもとても哀しい事だから。 だから、みんなに思いだしてもらうの。 私が殺した少女の事を。 落ちる先は湖。 湖には水面。 水面は鏡。 鏡は扉。 扉の向こうに誰が居る? 扉の向こうに何が在る? 彼女は闇夜で殺された。 彼女は海辺で殺された。 彼女はメスで殺された。 夜は異界が近づく時間。 闇夜に異界が隠れてる。 海は神様が住まう場所。 海に呑まれたお供え物。 メスの用途はなおす事。 裂かれた人の病を癒す。 そして誰か、覚えているか。 殺された少女の名前を覚えているか。 魔女は言う。 「あの子の魂のカタチは『陸往く船のお姫さま』。 王子様に誘われて陸を進むようになっても、船を降りたわけじゃない。 だって、“彼女こそが船だから”」 ――そして船は、海と陸とを橋渡す。 「あなたが魔女になれなかったのは残念だよ」 其処は異界。 水面の鏡面から飛び込んだ、鏡の異界の何時かの何処か。 澱んだ水の臭いと、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた世界。 「カタチを与えてあげる事さえ遅くなって、本当にごめんね」 ピチャピチャと湿った音がする。 魔女の手首から滴る一筋の紅い血を、白い少女が舐めている。 「ふふ……しばらくはそれで保つかなぁ」 魔女は血を水面に滴り落とした。 水面は鏡。鏡は門戸。血は鏡の世界に滴り落ちた。 門戸は鏡。鏡は水面。血は水面から海へと流れ…… 海に呑まれた『陸往く船のお姫さま』へと贈られた。 魔女の生き血はヨモツヘグリ。 なりそこなった哀れな子に、仮の体を与えてあげる。 そうして魔女の使徒が一人生まれた。 ――いや、生まれようとしていた。 「…………」 ピチャピチャと音が響き続ける。 白い少女は魔女の手首から血を舐め続け……突然、びくんと痙攣した。 「…………あれ?」 魔女が僅かに怪訝な表情を浮かべ……次に目をまん丸にして驚き、それを理解した。 そして、悲しげに目を細めた。 深い慈悲と哀れみをその瞳に湛え、白い少女を悲しげに、ほんとうに悲しげに見つめる。 「この島では、可哀想なあなた達に仮初めのカタチを与えてあげる事もできないんだね」 魔女の血を飲む事で仮初めのカタチを得られたはずの白い少女の輪郭が、儚いまでに揺らぎだす。 今さっきまでの様に、その姿が白い塊に還りゆく。 魔女の使徒は水子だった。 生まれることさえ出来ないままに、その姿が崩れゆく。 「あなたのカタチは崩れちゃうね」 「…………」 白い少女は揺らぎながら、微かに笑みを浮かべていた。 それは魔女の使徒の笑み。 必死に与えられたカタチに縋り、生き延びようとするように。 その笑みは少女が本来浮かべられる物ではないけれど、 在り続けようとするこの足掻く意志は、きっと少女の物だろう。 与えられた居場所を離すまいとするこの想いは、きっと少女の物だろう。 「無理だよ。ここでは、無理」 少女の体の揺らぎはどんどん激しくなって…… 気づけば彼女の背丈は小柄な詠子の胸ほどになっていた。 足は、膝は、既にカタチを失って、白い肉塊へと成り果てていた。 「髪をもらうよ」 魔女は魔女の短剣を手に握り、少女の短い髪を、一房だけ切り取った。 「ごめんね。今のわたしに、あなたが帰る場所は作れない」 「…………」 できそこないは喋らない。魔女の使徒に意志は無い。 けれど。 「……イヤ」 白い少女の唇から言葉が漏れだした。 「イヤ! おいていかないで!」 魔女の使徒にもなりそこなった、だから残った、少女の想い。 人になろうにも死んでいて、死者になろうにも在り続けて、 できそこないとしても不完全で心が残り、魔女の使徒になる事も世界がそれを赦さない。 何処にも居場所が無い少女。忘れ去られた白い少女。 どこにも居場所が無いのが悲しくて、自らを殺めた魔女にすがりつく。 「忘れないで! おいていかないで!」 「大丈夫だよ」 魔女の言葉は甘く、安らぎに満ちていた。 「あなたはまた死者に戻るけど。覚えている人は居ないけど」 魔女は囁く。 「きっとあなたの居場所を作ってあげる。 あなたのカタチを作って上げる。 あなたを呼び戻してあげる。 だから心配はいらないよ」 そして、白い少女は今度こそ白い肉塊に成り果てた。 できそこないは異界に消えて、それは最早死者と等しい。 この世界にいる限り、死者の法は超えられない。 「それにしても、残念だねぇ」 魔女は誰にともなく呟いた。 ――“船”を失った魔女の体は、湖の岸に流れつく。 「あなたが力を貸してくれたなら、この世界でもあの子を魔女の使徒に出来たのに」 異界はいつしか闇に呑まれ、魔女の心は闇の中で呟いた。 ――船を失った魔女の体は、傷付き凍え、弱っていた。 「でもそれがあなたのルールなら、仕方ないことだけど」 返事は何処からも返らない。魔女は一人呟いた。 ――魔女の体は吸血鬼達の助力によって、幸運にも救われる。 「ねえ、神野さん」 そこは闇の中。そこは闇の底。そこは闇の奥。そこは闇の淵。そこは―― 【D-8/民宿/1日目 16 00】 【十叶詠子】 [状態]:夢の中、体温の低下、体調不良、感染症の疑いあり [装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片 (びしょぬれ) [道具]:デイパック(泥と汚水にまみれた支給品一式、食料は飲食不能、魔女の短剣(アセイミ)、白い髪一房) [思考]:夢の中 [備考]:ティファナの白い髪は、基本的にロワ内で特殊な効果を発揮する事は有りません。 ←BACK 目次へ(詳細版) NEXT→ 第441話 第442話 第443話 第431話 時系列順 第443話 第388話 十叶詠子 第461話 第039話 ティファナ -
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少女の霊 主人公に執拗に絡もうとする幽霊。 正体は主人公が幼い頃に出会った幼女の姿をした霊。それを悟られないように同年代の姿に化けている。 他界したのはそれほど昔ではなく、時代背景に違和感はない。 主人公と同じ程度の霊感を持って育ち、幽霊を助けてあげていた。苛めにあっており、その末に自殺。 霊体になりながらも霊を助けたいと思ったがそれが叶わず、同じように力を持つ幼い頃の主人公に近づいた。 そのせいで主人公への苛めが酷くなってしまった。誤解されたまま主人公が引越してしまったため、それを追ってきた。 名前がないため呼ぶのに不便だと主人公に付けられた名前が「霊美(れいみ)」。 気に入っている。 容姿について 化けている姿は真琴たちと同い年くらい 幼女姿(本来の姿)は小4くらいの浴衣姿 化け姿と本来の姿は似てるけどまあ別人かなくらいの容姿 立ち絵1 立ち絵2 少女霊の死んだ理由についての詳細設定 生前は主人公と同じく霊感を持っていて、霊を助けることのできる人物だった ↓ その能力が原因でいじめに遭う ↓ 夏のある日、いじめっ子から仲直りがしたいと夏祭りに誘われる ↓ 心を躍らせて夏祭りに向かうも、結局祭りが終わってもいじめっ子達は現れなかった ↓ 悲しみに包まれた少女は、自ら命を断つ ↓ やがて主人公に、影から手を貸すことになる 幽霊について 思いを残して命を失った者が現世に残っている状態。 生者と話すことは出来ないため、内に秘めた感情を吐き出す術なく漂っている。 人に化けたり、憑依したり、後輩や先輩を巻き込んで襲ってくるが、 実際には霊感を持ち、霊を癒すことの出来る主人公を頼ってきている。 ただ悪意を持って襲う霊もいる。 化け⇒姿を変えることが出来るが、霊感のある者にしか見えないのは変わらない 憑依⇒霊感のない者にも見えるが、その状態で自分の思いを話しても楽にならない これらに関して、主人公はすぐに感知できる。 また、霊には名前という概念が存在しない。
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【作品名】マジカノ 【ジャンル】漫画 【名前】少女の幽霊withプールの水 【属性】水の中に潜む幽霊 【大きさ】幽霊+25mプールの水 【攻撃力】プールの水を自在に操って攻撃。直径2mくらいの水流を出し放題。 あゆみでも避けられない速度で水流を放ち、襲った人間の 中身(霊体のようなもの)を抜き取った。 中身を吸い取られた人間は皮だけのペラペラ状態となる。 あゆみ:一瞬で20M位飛行しながら戦闘可能 【防御力】水は魔法でバラバラに上空へ吹き飛ばされても またすぐに集まって元に戻る。(空中でも何処でも好きな場所) 少女の幽霊は人間の中身を得るまでは実体化できず、 物に触れることも不可能なので不可視・物理無効。 25mプールの水を全部上空に吹っ飛ばす威力の魔法も霊体にはすり抜けて効果無し。 【素早さ】実体化時に一瞬で8mほど進む魔力ビームを素手で弾く。 プールの水ごと飛行可能。 速度は大きさ相応の水が勢いよく滝を流れる感じで地下から上昇してきた。 【特殊能力】上記の不可視・物理無効・人間の中身吸い取り。 【長所】不可視・物理無効・魔法も透過 【短所】対人以外は溺れさせるしかない。 【戦法】プールの水全体で突撃して襲う。 【備考】主人公を襲い中身を吸い取った。 495 名前:格無しさん[sage] 投稿日:2008/11/02(日) 10 58 47 少女の幽霊 ○>ザ・キュアー>EGOD>ザエルアポロ 恐怖ロボ>USBM第一世代=フェアリー :相手の攻撃すり抜けるので水を被せて肉体から霊体を引き抜いて勝ち 恐怖ロボは密閉性が高ければ分けかな。アポロは不可視なので分け ×>壊刃サブラグ:広範囲炎負け ×>サキエル:目からビーム負け これ以上になると水自体が消されて分けとか速過ぎて分けとか広範囲不思議ビーム負けとか。 透過できるのは魔法だけみたいだし。 壊刃サブラグ>少女の幽霊>ザ・キュアー
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734 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 01 59 20 ID NHfY/dVV きょうわなおくんといっしょにおままごとおしました なおくんがおとおさんでわたしがおかあさんでした おだんごおたべたなおくんわおいしいおいしいといってくれました でもとちゅうでなおくんわほかのおんなのこたちとすべりだいえいってしまいました わたしわひとりでおうちにかえりました なんだかとてもさみしいとおもいました 二年生になったら、なおくんは、そんなにわたしと、あそんでくれなくなりました。 なおくんは、いつもグランドで、みんなとサッカーをしています。 わたしは、はしるのがおそいから、一しょにすると、めいわくだから、とおくでみんなを見ています。 ちかくで、なおくんを、見れないのが、すこしさみしいけど、とてもたのしそうななおくんを見て、わたしも楽しくなりました。 なおくんは、たくさんゴールをいれたので、わたしはうれしくなりました。 今日はなおくんと一緒に夏休みの宿題をしました。わたしの宿題はもう終わっていたので、なおくんにみせてあげました。 なおくんにありがとうと言われると、わたしはとてもとてもうれしくなります。おなかの奥があったかくなります。 ドリルをやった後、一緒にアイスを食べました。あたりが出たのでなおくんにあげたら、またありがとうといってくれました。 明日はなおくんと一緒に宿題の自由研究をします。明日のことを考えるとわたしのおなかがぽかぽかして、なかなか眠れなくなってしまいました。 最近のなおくんは、女子のわたしとはあまり遊んでくれなくなりました。 なおくんはいつも男子たちと一緒にいて、わたしがいくとはずかしいといって仲間はずれにしてしまいます。 でも、ときどきなおくんはわたしを家に呼んでくれるのでさみしくありません。 わたしたちは一緒にゲームをしたり、まんがを読んだりします。なおくんが一人用のゲームをしている姿を見るだけでも、とても楽しいです。 だけど、この前、ベッドの下にあったぼろぼろのまんがを見てたら真っ赤な顔をしたなおくんに怒られてしまいました。 あのまんがはいったいなんだったのでしょうか。 裸の人たちが絡み合ってて、よくわからないせりふがいっぱいあるから、多分なおくんの本棚にあった『バキ』というまんがと同じやつなんだと思います。 735 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 01 00 ID NHfY/dVV 最近、なおくんたちの間ではカードゲームがはやっています。男子たちと公園に集まって、勝負や交換をしているみたいです。 勉強もスポーツも得意ななおくんですが、このゲームはあまり強くないようです。 なおくんが言うには、『レアカード』というのを持っていないからだそうです。 『レアカード』を手に入れるには沢山のカードを買わなきゃいけなくて、なおくんのお小遣いでは足りないらしいです。 だからわたしはなおくんのために今月のお小遣いをはたいてカードを沢山買って、全部なおくんにプレゼントしました。 どうやら、わたしが買ったカードの中になおくんの欲しがっていた『レアカード』があったみたいです。 なおくんはとても嬉しそうな顔をして、わたしにお礼だと言って『ハイパーヨーヨー』というのをくれました。 遊び方がよくわからないけど、なおくんからのプレゼントだと思うとしあわせな気持ちになります。 この『ハイパーヨーヨー』は、わたしの宝物になりました。 わたしとなおくんは中学生になり、一緒に遊ぶとことがほとんど無くなってしまいました。だけれど、初詣での願い事が叶ったのかわたしたちは同じクラスで、さらに席も隣同士になれたので寂しくありません。 授業中なおくんに問題を教えてあげたり、筆談したりして充実した毎日を過ごしています。 でも一つだけ心配事が出来ました。 勉強が出来てスポーツも上手くて歌って踊れるクラスの人気者のなおくんを、恋に憧れる思春期の女の子たちが放っておくはずありません。 先週、三組の和田さんがなおくんに告白したらしいのです。なおくんは断ったと聞きましたが、それでも不安になります。 もしなおくんに彼女ができたら、わたしはいったいどうなるのかと考えると胸がむかむかします。 最近はわたしのまわりの女子どもでさえ、なおくんの趣味は何だとか、好きな食べ物は何だとか探りを入れてくるのです。 もちろんわたしはなおくんに迷惑がかからないよう、プライバシー保護のためデタラメなことを教えますが。 736 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 02 47 ID NHfY/dVV ある日、茶髪の三年生がわたしをトイレに呼び出しました。 大きな音を立てて教室の机を蹴り上げ、ちょっと顔を貸しなさいと怒鳴りつけてきたのです。 わたしはもともと明るい性格では無く、クラスでも目立たない存在です。 なので、まさか上級生に目をつけられるとは思っていませんでした。 この類の呼び出しは明るくて目立つ人間を『チョーシ乗ってるヤツ』だと言いがかりを付けて行うものだと考えていました。 どうしてわたしなんかがと思いましたが、その疑問は彼女の言葉で氷解します。 どうやらこの茶髪の三年生は無謀にもなおくんに告白して玉砕した有象無象の一人らしいです。 そして、自分が断られたのはわたしがなおくんと付き合っているからだと思い込んでこの凶行に走ったみたいです。 もちろんというか残念なことに彼女の言いがかりは全くの事実無根で、わたしはなおくんと付き合っていません。 でも、わたしとなおくんの関係はそう誤解されてもおかしくないのだと考えたら場違いにも頬が緩んでしまいました。 恐ろしいやら嬉しいやらで混乱しているわたしにしびれを切らしたのか、三年生はモップを振りかぶり、二度と見られない面にしてやると叫びます。 わたしはぎゅっと身を縮め、衝撃に備えました。 ですが、襲ってくるであろう痛みは感じません。なんと、なおくんがわたしを庇って立っていたのです。 『間違えて女子便入ったら殴られちまった』と、頬の腫れの理由を笑いながらクラスの皆に話すなおくんをみて、胸がいっぱいになり、わたしのおへその下のあたりがあったかくなりました。 737 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 04 31 ID NHfY/dVV 今日からわたしも高校生です。 もちろんなおくんと一緒の高校ですが、中学生のときとは異なり、違うクラスになってしまいました。 これからは、自然となおくんとの関係が疎遠になっていくでしょう。 わたしの中学校でのなおくんの接点は、たまたま同じクラスにいる幼な馴染みで、他の人間よりか気安いため話す機会が多いといった程度なのですから。 結局のところ、わたしはなおくんの幼馴染でしかないのです。中学校生活を通して友達以上恋人未満という、あやふやな関係のままで何ら進展もなく過ごしてしまったのです。 けれど、わたしはなおくんが好きです。大好きです。愛してます。 同年代の連中の『好き』だというメディアで乱造され叩き売られている薄っぺらな感情ではなく、文字通り『愛して』いるのです。 わたしのこの気持ちは決して憧れや惰性などではありません。 シェイクスピアのジュリエットのように一目惚れなんていう運命論者的な結晶作用でもありません。 わたしはなおくんのためならなんだって出来ます。 なおくんに身体を求められるなら喜んで差し出しますし、死ねと言うのならすぐにでも首を吊って差し上げます。 なおくんの幸福のためなら、なんだってしてあげたいのです。 たとえなおくんが他の女性を愛そうと、それがなおくんにとっての幸せならば、自らの浅ましい恋心をねじ伏せてでも彼に尽くさねばなりません。 それこそがわたしのしあわせなのです。 なおくんにカノジョが出来ました。わたしは祝福してあげなければいけません。それがなおくんを愛するわたしの義務なのです。 なおくんが告白し、了承の返事を返しやがった女は彼と同じクラスの浅井順子さん。 わたし以上の成績、わたし以上の美しさ、わたし以上の社交性をもっている彼女は、なおくんと結ばれるべくして結ばれた女性と言っても過言ではないでしょう。 そうです。なおくんはわたしなんかより、浅井さんと一緒になったほうが幸せなのです。 だから、わたしは彼女に嫉妬してはいけないのです。 どんなに苦しくてもどんなに悲しくても、なおくんの幸福だけを願っていなくてはいけないのです。 なおくんを祝福しなくちゃいけないんです。 おめでとう、なおくん。 738 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 05 54 ID NHfY/dVV くるしいです。かなしいです。だけどわたしは耐えなきゃいけません。 なおくんがしあわせになるためには、わたしはなんでも我慢すると誓ったのですから。 嫉妬なんかしちゃ、なおくんが不快になってしまいます。 わたしは、なおくんが笑っていてくれれば、しあわせなのです。 もう嫌です。もう無理です。 なおくんが嬉しそうにあの女のことを話すたびに、怒りと妬みは胸の内から氾濫してしまいそうになります。 なおくんは残酷です。なおくんはいけない人です。なおくんは優しいです。なおくんが大好きです。 どうしてわたしと一緒にいるときに、浅井の話なんかするんですか。 どうしてわたしの気持ちに気付いてくれないんですか。 あなたの恋人という席には既にあの女が居座っているのに、どうしてわたしに希望を持たせる言葉を言うのですか。 あなたの『好き』という言葉と、わたしの『好き』という言葉の意味は違うのですよ。 なおくん、あなたはそれほどわたしを苦しめたいのですか。 なおくんは、ひどい人です。 なおくんが、結婚することになりました。 お相手、その羨ましく妬ましい女の名は浅井順子。 一週間後には佐伯順子という名になるでしょう。 わたしにもなおくんから式の招待状が届きました。それ以前に直接なおくんから話は聞いていたので、さして驚くことでもありません。 式の際に笑顔でいられるように、今から練習しておきましょう。 涙が止まりません。悲しみを抑えられません。声は上ずったままです。 なおくんがわたしに微笑みます。わたしがうれし泣きしていると誤解して感動しています。 この時だけ、わたしはなおくんを憎んでしまいました。 順子が投げたブーケが、わたしの手の平に落ちます。幸福そうに微笑む順子の口元は、『いい加減あきらめろ』と嘲笑っているように見えました。 なおくんがしあわせなら、わたしはしあわせなんです。 なおくんの相手がわたしじゃなくても、なおくんがしあわせでいてくれれば、わたしは世界一しあわせな女でいられる。 なおくんがほほえんでくれるなら、わたしはなにもいりません。 739 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 07 14 ID NHfY/dVV なおくんの子供が生まれました。とってもかわいい女の子です。 忌々しいことに、目元は順子に似てしまいました。でも、口元はわたしそっくりなので、すこしだけ嬉しくなりました。 おっぱいをあげる順子はとてもしあわせそうだから、わたしもおっぱいが出せるようになりたいなとおもいました。 もちろん、お相手はなおくんですけれどね。 なおくんの娘さんに、妹が出来ました。順子にはあまり似ていない、わたし似の女の子です。 残念ながらわたしはおっぱいが出ないので、順子がおっぱいをあげてます。 かわいいかわいい赤ちゃん。なおくんもとても嬉しそうで、退院したばかりの順子と子供達をつれて、実家に帰ってしましました。 なおくんは家政婦のわたしを置いてきぼりにしちゃいましたが、わたしの愛は揺らぎません。 今日は、今まで生きてきた中で一番しあわせな日でした。 なんと、なおくんがわたしを抱いてくれたのです。 三十四年間護り続けた純潔をなおくんにささげ、とうとうわたしは女になったのです。 下腹部の痛みと異物感は、今まで思い描いていたような夢想では決してありえません。 紛れも無い実体を伴って乱れたシーツに横たわるわたしにその名残を実感させてくれました。 その経緯とは、お酒で酔いつぶれたなおくんわたしにのしかかり、そのまま事に至ったという次第です。 まあ、なおくんが最中に順子の名を叫んでいたのが少々ムカつきましたが。 この既成事実は、ヨーヨーと中学の時の事件に続く、三番目のなおくんからの贈り物です。 このしあわせは、わたしの思い出の中だけに留めておきましょう。 なおくんに純潔を奪われたという事実のおかげで、あと百年は戦えるくらいのエネルギーを補給できましたからね。 なおくんのお情けをいただけたわたしは、とてもしあわせものです。 740 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 09 30 ID NHfY/dVV 愛してます、なおくん。 なおくんの娘さんで、長女の理沙子さまがご結婚されることになりました。 お相手は彼女の幼馴染の男性です。 わたしの望みだったことを娘さんが達成した事実を嬉しいと思う反面、妬ましくも思えます。 本来なら、わたしは彼女と同じように幼馴染のなおくんと結ばれていたはずなのですから。 おっと、いけませんね。わたしと理沙子さまの境遇を重ね合わせるなんて。 今だけは、素直に彼女を祝福してあげましょう。 ただ、妹の恵美子さまのことが気がかりです。 恵美子さまは、理沙子さまの結婚について随分思いつめていらっしゃいます。 もしかしたら、わたしとおなじで……いけません、このような世迷いごとは、愛する人に想いを告げる勇気も無かった女に言う資格は無いでしょうから。 子供の頃、なおくんに頂いたヨーヨーを握り締めます。 なんだかんだいっても、わたしになおくんとの絆はこれしか残らなかったのだと実感します。 とてもやるせない気持ちになりました。 なおくんも、順子さんももうこの世界にはいません。 結局、二人にとって邪魔者であるわたしだけが無駄に長生きしてしまったのは運命の皮肉としか言い様がありませんね。 病室のわたしのベッドの周りには、ついこの間お婆さんになったばかりの恵美子さまと、先日に息子さんが結婚した理沙子さまがおられます。 わたしは彼女たちの乳母のようなものなのでしょうが、身内の居ないわたしに良くしてくれたことは感謝してもし切れません。 二人は涙を流し、わたしの死を嘆き悲しんでくれています。 死を目前にした老嬢のわがままとして、わたしは二人に理不尽とも言える要求をしました。 わたしの遺骨を、なおくんと同じお墓にいれてください、と。 二人は何も言わずに頷きました。どうやら、以前からわたしの想いに気が付いておられたようです。 もしかして、本当はなおくんもこの想いを知っていたのかしらん想像します。 だったら、なおくんはとても残酷な人です。 わたしの想いを知っていながら無視するなんて、よっぽどのサディストじゃなきゃできませんから。 というか、昔からなおくんはいじわるでしたね。 わたしに虫をけしかけていぢめたり、宿題の手伝いをさせたり、えっちしたときなんか、無理矢理だったじゃないですか。 741 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 10 45 ID NHfY/dVV ――ほんと、なおくんはひどい人です。 せっかく嫌いになろうとがんばってるのに、こうやって、いっつも直前にわたしのまえに現れるんですから。 さ、なおくん。ちゃんと手を握ってくださいよ。今度こそ、離さないでくださいね。 わたしたちは幼馴染なんですから、しっかりと結ばれなきゃいけないんですよ。 どこへ行ったって、ずぅっと一緒に居なきゃ駄目なんですからね。 だいすきです、なおくん――
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玲 エンブリオ ◆ACfa2i33Dc 聖杯によって作り上げられた架空の街とはいえ、この街は広い。 特に未だに成人にも満たない少女にとっては、【街】という大きな枠は、そのまま彼女にとっての小さな世界だ。 たとえ地図を読んで知識として知ってはいても、実際に路地裏を入ればそこに広がっているのは未知の場所。街の全貌を知る事なんて、少女たちにとっては難しすぎるし、多感な彼女たちにはそんな事を気にしてはいられない。 他の住人たちはよくできた偽物。街の事を知っているふりをしているだけで、実際のところは空っぽだ。 だから、本当の意味でこの街を知っている人間なんて、この街には存在しなかった。 聖杯の贄として呼び集められた少女達にとって、ここは迷宮だ。小路一つを曲がって、その先に知らない世界が広がっていない保証はない。 そして、確かにそうだった。 この街には、町という名の迷宮が存在する。 § 駆け足で抜けていく街並みを、横目に眺めながら、玲は『商店街』を目指していた。 時刻はお昼過ぎ。だがまだ玲は、昼食を食べていなかった。だから早足に急ぐ。 「今日のーっ、ご飯はーっ、なににしようかなーっ……コロッケ? カツサンド? それともー……んー、やっぱり選べない!」 はしゃぐように。いや、実際にはしゃぎながら、玲は人通りの多い街中を駆け抜けていく。 走って、走って、走って。次第に人通りは少なくなって、それでも走って。 たどり着いたのは、人もまばらに通るか通らないかという程度の、寂れた住宅地。 人の気配はない。外を歩く人影はない。家の中に籠もっているのか、それとも、誰もが家を出てしまっているのか。 そんな事は気にもかけず、玲は進む。足取りは少し緩やかに、けれど急ぎ足に。 四つ角を曲がって、路地の裏手に入り込む。 『その他の注意』の標識の脇を抜けて、その先に、それはあった。 『商店街』。 個人経営の商店から、大衆向けの銭湯、そして昭和の香りがする住宅が立ち並ぶ。 商店街は、夕焼けの茜に染まっていた。外はまだ、昼過ぎだというのに。 けれど玲は気にしない。ここでは『いつもそう』なのだ。 「おっ、嬢ちゃん! いつものお使いかい!」 店頭に出ていた惣菜屋の店主が、玲を呼び止める。 これもいつものこと。 「もう店じまいだけどコロッケならあるぜ。残しといてもしょうがねえ。 定価70円だが60円にまけとくよ」 「くださいなっ!」 元気よく答えて。玲は店主に代金を渡してコロッケをほおばる。 そしてすぐにぺろり、と平らげて、にこりと笑った。 「おいしいっ!」 「そうかいそうかい。もう一個どうだい? えーい特別大特価50円だ!」 「くださいなっ!」 「まいど! もう一個どうだい? えーい特別大特価50円だ!」 「くださいなっ!」 「まいど! もう一個どうだい? えーい特別大特価50円だ!」 「くださいなっ!」 かれこれ10回くらい同じやりとりを繰り返して。 コロッケを11個お腹に収めた玲は、満足気な顔をしながら蒸し鳥にかぶりついていた。 「これも美味しい~……♪」 もぐもぐ、と。行儀が悪いぞ、と指摘されるのも構わず――実際には、『商店街』には彼女に注意をするような者はいないのだけど――歩きながら食べている。 『商店街』の中は、彼女にとって目新しいモノでいっぱいだ。 ――いや。それを言うならば。『商店街』の外、街の風景だって、玲にとっては、とても楽しい。 記憶喪失。玲は、そういうものらしい。気がついたらこの街にいて、気がついたら『商店街』と『町』に迷い込んでいて、そして、気がついたら。 『彼女』が、傍にいた。 だから玲は、なぜ自分がここにいるのかも。ここに来る前に、自分が何をしていたのかも知らない。 ただ、自分がどこかに閉じ込められていて、外を見たことなんてほとんどなかった。という、それだけは、なんとなくわかっていた。 だから玲は、街が好きだ。『商店街』も、『町』も好きだ。 自分のことを保護してくれて、一緒にいてくれる『彼女』も好きだ。 外を自分の力で歩けて、散策できて、いっぱい食べられる。それだけでたまらなく嬉しい。 『町』と『商店街』の人たちは優しいし、街の人たちはそうではないけれど、それでも外を歩くのは玲は好きなのだ。 だから今日も玲は、街を歩く。本当は『彼女』にはずっと『町』か『商店街』にいた方がいいと言われているけれど、そんな勿体ないことはできない。 街の中で少女は願う。 迷宮の中で少女は願う。 「この毎日が、ずっと続きますように」 ――けれど。ふと玲は、また違うことを思い出した。 自分は、もっと前、違う誰かと一緒にいた気がする。……誰だっただろう? 思い出せない。何度も何度も考えて、頭を捻って。思い出せなかったから、また、玲は忘れてしまった。 ……路地裏と『町』の狭間で、犬が一匹、死んでいた。 § 薄暗い、部屋の中。 少女が一人。 一人の、ある少女が。部屋の中で、佇んでいた。 ある少女は願う。少女の幸福を。 ある少女は願う。少女が永く生きる事を。 だから、ある少女はできるだけ永く続けようと思う。この聖杯戦争を。 さいはての『病院』で。繰り広げられる、偽りの日々を。 だから。 ここは、少女のためのさいはてだ。 【クラス】エンブリオ 【真名】ある少女@さいはてHOSPITAL 【パラメーター】 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具EX (通常時) 筋力D 耐久D 敏捷D 魔力B 幸運B 宝具- (魔法少女ネガティブはるるーと) 筋力C 耐久B 敏捷C 魔力A+ 幸運C 宝具EX (ある少女) 【属性】 秩序・中庸 【クラススキル】 創造(偽):EX 殻の中での特権。エンブリオのサーヴァントは、自らが創造/想像した殻の中で開拓者としての特権を発動できる。 この場合のEXランクは『そもそも規格が存在しない』という意味であり、超越性を意味するものではない。 悪く言ってしまえばひきこもり。 星の開拓者(偽):EX あらゆる難航、難行が“不可能なまま”“実現可能な出来事”になる。 エンブリオのサーヴァントはこのスキルによって殻の中で起きた『不可能な事象』を解決する事ができるが、同時に『自らに敵対する存在』にも『星の開拓者』のスキルを与えてしまう。 エンブリオが殻の中では不可能はない事の証明であり、同時にその殻を破壊する者が現れるという運命を暗示するスキル。 【保有スキル】 マホウ:EX(B) 魔術でも、魔法でもなく、マホウ。 エンブリオの殻の中でのみ作用する、独自の超越能力の体系。 エンブリオは自らの殻の中でこれを自在に操るが、殻の外ではまったく効果を発揮しない。 ただし、『変身』スキル使用時は殻の外でも使用できる。 変身:B 魔法少女ネガティブはるるーとに変身する。 大して意味はない(むしろ固有結界内だとステータスが低下する)が、この姿が他の世界(物語)に登場した逸話により、魔法少女としての姿ならば、本来自らの固有結界の外では無力なエンブリオでも、自らの固有結界の外でマホウが使用できる。 ただし、変身中は『創造(偽)』スキルも『星の開拓者(偽)』スキルも自らの宝具の効果も使えない。 【宝具】 『最果ての殻、最果ての町、最果ての病院(さいはてHOSPITAL)』 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:- エンブリオの『殻』。一種の固有結界。この聖杯戦争の舞台である『街』と、重なって存在している。 固有結界の中の出来事、あるいは外の出来事が相互に干渉する事はないが、出入りできる点は複数存在し、その辺の裏路地がこの固有結界に繋がっている事もあるし、どこかの家の玄関が出入り口となっている事もある。 この固有結界の中では、エンブリオは『ある少女』形態に変身できる。 この固有結界の主として、エンブリオは固有結界内の環境を操作できる。ただし、本来三人いる開拓者がエンブリオ一人しかいないため、その権限は1/3にまで落ちている。 『桃源祈祷』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大補足:4人 エンブリオ最大最強のマホウ。 マホウを全力で収束し、全ての魔力を敵対者へとぶつける。 与えるダメージは『最大耐久力-1』で固定。故にどれだけ耐久力が低かろうと万全の状態ならば必ず耐えるし、逆にどれだけ耐久力が高くても傷を受けているなら必ず致命傷となる。 エンブリオの必殺(にはなりきらないが)宝具だが、発動には3ターンの祈祷(マホウの収束)を必要とするため、サーヴァント同士の戦いでは非常に大きな隙を晒す事となる。 【weapon】 なし。 【人物背景】 「目と耳を塞いで朝日から逃れよう 西日が射したならカーテンを閉めよう 親しい誰かを失わないように 虹の空には唾を吐き 夜の月にはワラ人形を 美しい世界に勘違いしないように 今となっては 全て幼い日の幻 されど私は望む あの日への回帰を 千年の喪に服すために 世界中が喪に服すために!」 「……何言ってんの?」 「魔王の名乗り向上 のってよ恥ずかしいじゃない」 【サーヴァントとしての願い】 ??? 『エンブリオ』 【殻】のサーヴァント。自らの領域を創造(あるいは想像)し、その中で絶対者として存在する。 その性質上、固有結界、あるいはそれに類するモノを所持している事がこのサーヴァントとして召喚される事の条件となる。 スキル特性は創造(偽)と星の開拓者(偽)。 このスキル群はその名の通り偽りの創造であり、想像である。故に、ランクはどのサーヴァントでもEX(そもそも規格が存在しないため)となる。 そして、同時に『殻は打ち壊される』という運命の暗示でもある。 【マスター】玲@ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス 【マスターとしての願い】 このまま偽りの街の中で日常生活を続けたい。 【weapon】 なし。 【能力・技能】 回復の力が使える。 【人物背景】 八十神高校の1年生。何者かに記憶を奪われてしまったらしい。 どこからともなくアメリカンドッグやドーナツなどを採りだして、つねに食べている。不思議な雰囲気を持った少女だ。(公式サイトより) 【方針】 日常生活を続ける。 BACK NEXT -002 幸せな子ども 投下順 -000 前夜祭 -002 幸せな子ども 時系列順 -000 前夜祭 BACK 登場キャラ NEXT Happy Birthday! 玲&エンブリオ(ある少女) 000 前夜祭 017 機械式呪言遊戯
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コール・マイ・ネーム.コール・ユア・ネーム -なまえをよんで- ◆EAUCq9p8Q. ☆??? 投げられた祝砲は二度目よりも更に多い。 とはいえ心を持たぬ者の投げたもの。しかも考えなしな号令でほとんど隊列を整えることもなく投げられたものだ。 いくつかは祝砲同士でぶつかり、いくつかは見当違いの方向に飛んでいき。 だが、そのうちのいくつかは確かに白坂小梅ぶつかる軌道で飛んでいった。 そしてそんな『白坂小梅にぶつかるもの』を叩き落とした者が居た。 「……アナタ、なんのつもり?」 女王の口元が歪む。狂った笑いの中で命のやり取りをくりかえし、ここにきてようやく笑顔が崩れる。 アリスと、彼女のオトモダチに真っ向から立ち向かう影が一つ。 それは紛れもなく、アリスが死霊術によって作り出したゾンビ……ゾンビーケンペイの一体であった。 「もう、勝手なことしないで!」 勝利の愉悦の中に居たはずのアリスの胸にあったのは、意外にも苛立ちだった。 思い通りにならないゾンビ相手に苛立ち、ほんの少しだけ小梅とジェノサイドから注意をそらす。 命令してもゾンビーケンペイは動かない。ただ、抜き払った軍刀を引きずるように構え、アリスに睨みを利かせるように立ったままだ。 アリスの頭ではそのイレギュラーを処理できない。アリスにとってオトモダチとは、呼び方はどうあれただの手駒だからだ。 その内側に何が詰まっているかなんて、まったく興味がない。 だからアリスは気づかない。 そのゾンビが、しきりに白坂小梅の閉じ込められた水槽に体当たりをしていた―――否、白坂小梅を救うために水槽を壊そうとしていた個体であるとは。 ジェノサイドへの祝砲の際に他のゾンビたちが『死なばもろとも』を繰り出す瞬間に命令に反するように踏みとどまっていたとは。 アリスが手を上げれば、その他大勢のオトモダチがゾンビーケンペイに向けて距離を詰め始める。 しかしゾンビーケンペイは一歩も引かない。ただ、小梅とジェノサイドを守るように、立ちはだかり続けた。 アリスが大きく手を振る。それを合図に、ゾンビーケンペイめがけてオトモダチが殺到した。 何本もの槍と、斧と、剣をその身に突き立てられ、それでもゾンビーケンペイは踏みとどまっていた。 女王様の愉快なパレードがまた止まり、空白の時間が数秒生まれる。 空白の中で、ゾンビーケンペイはゆっくりと、小梅たちの方に振り返った。 「■■■■」 識別不明の声。 腐った脳みそにちぎれかけの喉、崩れた顔ではうまく発音出来るわけがない。 それでも、その死体は、ねじ切れそうなほどに頭をまわして、遠くでサーヴァントの元で横たわる白坂小梅を見つめたまま、呻くように言葉を綴った。 死者にも分け隔てなく接してくれる優しい子。自分を傍においてくれていた優しい子。自分を友達と呼んでくれた唯一の子。 できれば、ずっとそばにいて、その幸せな姿をいつまでも見ていたかった。 それが叶わないことを理解し、最期にその姿を目に焼き付けておく。 「■りが■う」 初めて声に出して告げることの出来た言葉。聞こえてなくても、それでいい。 群がる兵たちを巻き込んで、肉体を爆薬代わりに大爆発を起こす。 『死なばもろとも』。ダメージが許容量を超えた瞬間に発動する、ゾンビーケンペイの持つ唯一のスキル。アリスも利用したスキルだ。 爆発が爆発を誘い、群がっていたゾンビたちが誘爆しつづけ、爆発に巻き込まれたオトモダチたちが消滅していく。 立ち上がった土煙が、アリスの視界を遮り、再びオトモダチの指揮を止めた。 ――― NPCに魂はあるのか。 そんなことは分からない。 だが、魂あるものがマスターたちの記憶や情報を元にNPCとして再構築され、配置されるというのはもはや説明するまでもないだろう。 そこに肉体は必要か。 答えは否である。でなければ、マスターの一人・玲がこの世界に存在することを許されるはずがない。 ならば、例えば。 肉体を持たない魂のみの存在―――俗に言う『幽霊』がNPCとして再現されていたとして。 白坂小梅の傍で、アイドルになる前から彼女を見つめてきた、彼女の親友とも呼ぶべき存在がNPCとして再現されていたとして。 それが魂の抜け落ちたNPC―――アリスの死霊術で魂を失ったゾンビと出会ったとするならば。 ここは天国に一番近い地獄。誰かの目指した楽園の欠片。 そんな世界は、ささやかな奇跡を肯定する。 世界は、無力だった小梅の友達に、小梅を守る力を与えた。 ――― これもまた、ありふれた奇跡の物語。 ジェノサイドにつきっきりの白坂小梅はその名も無きゾンビの奮闘など、気づきもしないだろう。 魂を失ったNPCの体に乗り移った魂だけのNPC。本当の姿も、本当の名も、誰も知らない。 ただ、そのNPCは、ようやく白坂小梅の友人として、少しの間だけ彼女を守ることが出来た。 そして、白坂小梅の友情は、巡り巡って『何か』をなし得る因果を得た。 生まれた時間はごくわずか。 だがその時間で確かに、白坂小梅の『声』は届いた。 一画、二画、三画、ゾンビたちの爆発音を背に、三つ分の願いが小梅とジェノサイドの間で交わされる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 六枚の■■■■を■■ニンジャ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 雨の■。 見慣れぬ■■。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ■■■コギ■■■■。 オ■■ン。 スモウ■■。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 謎の■■■。 見上げる■■の■。 引きつるような笑い声。 ■■■■■で書かれた文字。 その文字は…… その文字は…… その、文字、は――― ―――思い出せない。 大切だったのだろうか。 重要だったのだろうか。 今となっては詮無きことだ。 すべてが、抜け落ちてしまった。 焼け落ちたアルバム。 朽ち果てたフィルム。 そんな切れっ端の何もない世界に、その死体は横たわっていた。 「アバー」 ため息のように呻く。呻くようにため息をこぼす。 すっからかんの心の中に、乾いた風が吹き抜ける。 もう、何も残っていなかった。 「……なあ」 それでも、何故か、言葉にできない乾きが、心に去来した。 潤いのない体が、腐臭に塗れた肉が、満たされることを望んでいた。 その渇望は、冷え切った体の芯で、ぢりぢりと燻るように横たわり続けていた。 「アンタ……サケを、持っちゃいねえか」 ただ、乾きを満たしたくて、目の前の少女に尋ねる。 随分近い位置に居る少女は、やや驚いたような顔で死体を見つめ返している。 「何でも良いんだ。アルコールなら」 少女はあわてて前ポケットを探り、小さな酒を取り出した。 ずぶ濡れのワンカップ瓶が二つ。微々たる量だ。渇きを満たすには到底足りない。 少女を抱きかかえたまま体を起こし、ワンカップをひとつ開け、飲み干す。 何故目覚めたのか、その理由を探りながら。 確か……声だ。そうだ、声が聞こえた。 声が、千切れ飛んだはずの耳朶を打った。破れ放題のはずの鼓膜を震わせた。 二つ、三つと消えていった魔力。ちっぽけな命の力。それに合わせてかけられた願い。 「おもいだして」 「わすれないで」 「そして、いつかまた、なまえをよんで」と。 そしてその願いは、たしかに、死体の奥底の何かに触れた。そのはずだ。 その声の主は、きっとこの少女。 不思議と、自分のことすら分からないのに、彼女の願いの意味が理解できる。 名前。 知っている。 こいつの名は。 俺の名は。 思い出せない。 知っていたはず。 名前。 名前は。 彼女の望む答えらしきものが、遺伝子の内側から雄叫びを上げるように、崩れたはずの脳に信号を送る。 だが、その咆哮もまだ殻を突き破るには至らない。 もう一つのサケの蓋を開ける。涙ほどの量のアルコールを飲み下し、あばらの下から垂れ流す。 少女は再び死体の身体を抱きしめた。 腐った体液が少女の服を汚していくのが、死んでいるはずの触覚でもしっかり理解できた。 「……離れろ。臭えだろ」 死体にはもう臭いを嗅げる鼻がない。それでも、腐り落ちた肉とガスが放つ腐臭は容易に想像ができた。 少女は首を振り、呟いた。 「臭くないよ」 そんなはずがないのに、嘘の下手な奴だ。 「汚れる」 「気にしない、から……」 喉をすり抜けた酒があばらを伝って体の外にこぼれ、地面にヘドロめいた水たまりを作り、太陽に照らされて小さな鏡を生み出した。 映っていたのは、世にも恐ろしい化物の姿だ。変色した骨にまばらに腐肉が照らされた、墓場の地下で寝かせすぎた死体そっくりの醜悪な姿。陳腐なゾンビ、その成れの果て。 包帯でも、カソックコートでも、帽子でも、もう隠せない。目をそらせない現実。 「俺は……俺は、酷い姿だな」 「……そんなことないよ」 それでも、少女は否定する。 いや、否定せずに受け入れてくれる。 こんな化物を。世にも醜い化け物であるはずの死体を。まるで友人のように抱きとめてくれる。 「バーサーカーさんは……ううん、ジェノサイドさんは、ジェノサイドさんだから。 だから、大丈夫……わ、私、ジェノサイドさんのこと、ちゃんと知ってるから……」 波紋が広がるように、少女の言葉が全身に渡った。 波紋が漣に変わり、漣は勢いをつけ津波に変わり、男の中で渦巻いて、感情に波乱を巻き起こす。 「……俺は」 「うん」 「そうか、俺は」 思い出した。いや、取り戻した。 どうして忘れていた。どうして手放して横たわっていた。 ここにいる意味を、やるべきことを。その名を。自身の名を。 その魂に刻まれたその衝動を。ミンチョ体の掛け軸に書かれたその四文字を。 『ゼツメツ』 一瞬にしてすべてを取り戻す。 なくしたはずの何かが満ちていき、体に歓喜にも似た感覚が迸った。 ニューロンが火花を散らす程のパルスを伝達し、体の中心に存在している『魂』を五臓六腑の奥底まで、まばらに残った髪の先から割れっぱなしの爪の先まで浸透させた。 その魂の名は、『ゼツメツ・ニンジャ』。 「俺は……そうだ、俺は!!」 乾ききったニューロンに落とされた一滴の雫は、どんなサケよりも、彼の乾きを潤した。 戻る。戻る。いや、戻れ。戻ってこい。俺のもとへ。この俺の、ゼツメツの名を持つ者のもとへ! 渇望が胸の内で吠え、失ったピースを無理矢理に手繰り寄せる。 たった三画の魔力が、ちっぽけな少女の願いが、ニューロンとともに腐り落ちていくはずの何かをもう一度震わせる。 そしてたどり着いた。 彼の名は。 いや。 俺の名は―――! ◆◆◆◆◆◆◆ 「……なあ、おい。サケはまだあるか」 「……あの、ごめんね。もう……ないの」 「そうか。ああ、そうだったな……まあ、いい」 切れたはずの糸は繋がった。男はゆっくりと、比較的損傷の少ない右腕で少女を抱きとめたまま立ち上がった。 「帰りに買いに行けばいいだけだ。あの餓鬼を蹴り飛ばして、この世界をぶち壊したその後で……そうだろ、コウメ」 死体が……否、『ジェノサイド』が呼ぶ。 まるで何事もなかったかのように、当然のように、その名を口にする。 腐り落ち、飛び散った脳からは、きっとその記憶は零れ落ちていた。 傷つき、ぼろぼろになった霊格からも、きっとその情報は抹消されていた。 だが再びその名は呼ばれた。いや、その名は取り戻された。 それは本来ならばありえるはずのない反射的反応。 ならば令呪の見せた呪いめいた強制力のせいであろうか。ジェノサイドに対し、「名前を呼べ」という命令が無理矢理に名前を口にさせたのか。 否、そんなわけがない。彼の執念と彼女の願いが、そんな陳腐な結末にたどり着く訳がない。 ニンジャのニューロンは時折、不可思議な反応を示す。 遺伝子レベルで刻まれた『自我』や『存在』すら超越する何かが、時折、条件反射めいて飛び出させるのだ。 六枚の羽を持つニンジャ。名も知らぬはずの神父の姿。トビッコ・ギムレットの香り。 忘れても、忘れても、忘れても。忘れられぬもの。脳が散り散りになったとしても、他ならぬ魂が忘れることを拒むもの。 人はそれを、きっと『絆』と呼んだのだろう。 令呪の魔力はジェノサイドの肉体をほんの少しだけ修復し、魔力の海に消えていくはずの『絆』にそっと語りかけた。ただそれだけにすぎない。 忘れていくことしか出来ない男が居た。 忘れられていくことしか出来ない者たちを覚えていられる少女が居た。 男はずっと、自分の生きている意味を探し。 少女はずっと、彼らの生きていた証を残す。 男は名を名乗り、少女はその名を呼んだ。 少女は男に願い、男はその名を呼んだ。 これは、そこから再び始まる物語。 ◆コール・マイ・ネーム.コール・ユア・ネーム◆ ◆◆◆◆◆◆◆ 小梅とジェノサイド、二人の時間に乱入者が現れる。 それは足並みをそろえて壁のようにそびえ立つ人垣。この遊園地の主の意思に従うものたち。 その壁の向こうに、少女がいる。血煙に燻されてなお真昼のような輝きを放っていたはずの笑顔は影が差している。 ここまで散々に弄ばれ、ようやく『思い通りにならない事が起こった』らしい。 少女は不機嫌そうに手を振るい、ガチャガチャと歯を鳴らすトラバサミをジェノサイドと小梅めがけていくつも走らせた。 だが、ジェノサイドも小梅もそのトラバサミを避けることはなかった。ジェノサイドが真正面から拳ですべて掴み、そのまま握りつぶしたからだ。 「散々騒いでおいて、まだ黙って聞いてられねえか」 「つまんなーい! せっかく、オトモダチになれたと思ったのに! ズルはなしでしょ!」 「……つまらなくなんてねえさ」 帽子の鍔が目元を隠す。包帯もほとんど吹き飛んだ顔に影を落とす。 腐肉がはじけ飛び骨がまろびだし、肉の残る場所も大部分がこけおちた、世にも醜い死者の顔。 それでも、足りない肉を補うように、異界の太陽に照らされた半円のつばの影が笑みを作っていた。 「てめェのごっこ遊びのほうが、俺には、退屈すぎて反吐が出る。つくづくムカつくぜ、てめェは」 破れ放題の帽子の奥で人ならざる緑色の瞳が輝く。 生きる意味を、生きてきた理由を取り戻し、死体に再びソウルが篭る。小さいながら強い火が。 それは、ゼツメツ・ニンジャだけではない。ゼツメツ・ニンジャと、ゼツメツ・ニンジャに宿られた◆◆◆と、その混合物であるジェノサイドの魂。その輝き。 三者がそれぞれ掴み取った、白坂小梅との『絆』の輝き。 「湿っぽいのは似合わねェ。結局俺にはこれしかない」 人垣がざっと音を立てて一歩進み出る。 手に取ったバズソーの鎖は、まるで体の一部のように馴染んでいた。 「よくも好き勝手やりやがったな。死にたい奴から前に出ろ」 今のジェノサイドは傍から見てもわかるほどに活力に溢れている。この遊園地に踏み込む前よりも強く、輝くほどに力強く。 それになにを感じたのか、なにも感じていないのか、アリスは動き出す。やや不機嫌そうな顔のままそのジェノサイドを睨めつけていた。 「仕切り直しだ、死に損ない――いや、死神にまで嫌われたバケモノめ。ドーモ、アリス=サン」 アイサツを聞き届けることなくアリスが飛び上がり、トランプを空中に放つ。 その一枚一枚が魔力のこもったアリスの分身となるはずの種。 しかし、分身が生まれるよりも早く動くものがあった。 「俺は―――」 構え。 「ゾンビーで」 担ぎ。 「ニンジャで」 振り。 「そして、サーヴァントの」 放つ。 「ジェノサイドだ!!!」 吠えた名が遊園地に轟く。ニンジャ・ジェノサイドここにありと遊園地内のすべてに告げる。 一対のバズソーが鈍色の閃光となって空を駆け、そのけたたましい羽音がセンチメントなアトモスフィアを切り裂く。 そして、絶滅へと誘うニンジャの鬨の声は、トランプを全て切り払い、決死の中に活路を生み出す。 不死者たちの殺し合いの、最期の幕が切って落とされた。 ◇◇◇ アリスの群れへと変貌するはずのトランプは全て空中で真っ二つに切り裂かれた。 ついでとばかりに切り裂かれたアリスの体が爆発し、体の内側に入っていたたくさんのトランプを空中にばらまいた。 トランプのうちのいくつかがアリスに変わり、空から降りそそぐアリスがオトモダチの軍隊と合流し、取り囲む人垣を更に強固にする。 「さあ、皆! 最期のゲームをしましょう!」 「最期のゲームは、早い者勝ちよ!」 「シラサカコウメちゃんとお兄ちゃんを殺した人の勝ち! よーいドン!」 女王の大合唱に、一斉に兵隊たちが動き出す。 小梅たちを殺そうと距離を詰めるもの。迎え撃とうと陣形を組むもの。錯乱を狙いてんでばらばらに動くもの。 その中の一団は先程の焼き直しのようにゾンビーを切り捨て、次々『死なばもろとも』爆弾として放り投げていた。 「先に断っとくが」 つい先程は死亡寸前まで追い詰められたゾンビ爆弾戦法だが、ジェノサイドは既にその戦法に対応していた。 アリスの種を切り裂くために放たれたバズソーの波打つ鎖が、ゾンビ爆弾の山を見事にかき分け跳ね飛ばす。 見当違いの方向に軌道を変えたゾンビ爆弾は、明後日の方向に飛んでいき、そのうちいくつかはあろうことかオトモダチのど真ん中に落ちて周囲を巻き込んで大爆発した。 何人ものアリスの悲鳴を聞きながら、ジェノサイドは続ける。 「俺は念仏も唱えられねェし、あいつらの目を覚ます方法なんて知りもしねェ。 俺に出来るのは、せいぜいぶったぎって、さっさとあのクソッタレから解放してやることくらいだ」 「……うん。お願い」 短い間を置いて、小梅が答える。 周りにはもう、小梅が可哀想だと思い救いたいと願った『あの』ゾンビは居なかった。きっと、アリスの指示で『あの』ゾンビも自爆をしてしまったのだろう。 その事実が、小梅の中での分岐点となった。 小梅も、覚悟を決めた。ようやくながら、アリスと友達になれるという淡い期待を捨て、アリスという怪物と戦う覚悟を決めた。 アリスは絶対に自身の『オトモダチ』を手放すことはない。彼らは望む望まないにかかわらず、『怪物』として生き、『怪物』として死んでいくしかない運命だと理解した。 遅すぎる決断に、遅すぎる理解だ。だが、きっとまだ手遅れではない。 目の前に広がる壁と見まごうほどの大きな背中。数分前とは打って変わって、活力に満ちた頼もしい背中。 その背中が小梅を導いてくれる限り、手遅れなんてないのだと思えた。 「……ごめんね」 小さな謝罪があてもなく飛んでいく。それはきっと、この場にいる全員に向けた言葉。 助けたいものを助けられない悲痛、無念、少女が背負うにはあまりにも重い思いの込められた謝罪だった。 聞き届けるものはジェノサイド以外にもう誰もいない。当然だ。初めからずっと、ここに居たのは、ほぼ全員が『怪物』だったのだから。 白坂小梅は、ジェノサイドとともに『怪物』に立ち向かう。 ◆◆◆◆◆◆◆ 掻き分けたゾンビ爆弾が散り散りばらばらの位置で爆発し、オトモダチたちが少し減る。 それでも人の波は絶えない。足音を合わせながら漣めいて押し寄せてくる。 ならばどうするか。 知れたことだ。 敵の生み出せる許容量、その限界まで殺し尽くす。 ジェノサイドの前に立ち塞がる物の未来はゼツメツ以外にありはしない。 「コウメ、しっかり掴まってろよ」 「う、うん……!」 小梅がジェノサイドのズタボロのカソックに抱きつく。それが、大虐殺開始の合図だ。 「イヤ―――――――ッ!」 ぐるんと巨体が一回転した。合わせて回るバズソーで、数十体の『オトモダチ』がその身を斬られ倒れ伏す。 敵もさるもの、反応の追いついたものは跳び、しゃがみ、それぞれ避けるがそれでも遅い。 まるで紫電か、竜巻か、縦横無尽駆け回るバズソーが回避に先回りしてすべてのオトモダチを切り刻んでいく。 バズソーと鎖をかいくぐり、踏み込んで来たものが居た。トランプ兵の槍を持ったアリスだった。 ジェノサイドと小梅をあわせて貫こうとする槍を、ニンジャの超反応で察し、拳で弾き、ついでにアリスの頭を握りつぶす。 ぽふんと音を立てて消えたアリスの槍を手に、次々殺到してくるオトモダチをひとまとめに首を刎ね、様々なパーツごとに分割する。 「やっちゃえ!」「そこだー!」「いけいけー!」 「イヤ―――――――ッ!!」 「アバーッ!」「アバーッ!」「オボーッ!」 遠くで声援を送っているアリスたちめがけて持っていた槍と、先程殺した何者かの武器たちをいくつもぶん投げる。 武器がオトモダチとアリスを複数体貫き、まるで串焼きのようなオブジェとして並ぶ。その間近づく相手もネクロカラテで叩き潰す。 飛んでくる武器、拷問器具、遊具、その他すべてを叩き伏せ。群がるオトモダチどもを鎖で体を引きちぎり、バズソーで細切れにし、敵の武器を奪っては殺し、ネクロカラテで殴り殺し蹴り殺す。 有言実行だ。再起不能になったオトモダチの山が積み上がり、ばらまかれたトランプは濁った赤い池に沈んでいく。 強大で膨大なオトモダチの軍勢は、見る間に数を減らしていっていた。 途中アリスたちが放り込んでくる茶々のような拷問器具も腕で、足で、頭で叩き壊し、振り回されて吹き飛ばされそうになる小梅を抱きかかえてはまた迎え撃つ。 この凄惨なる光景なんと形容するべきか。スプラッターか、ハードゴアか、それともやはりジェノサイドか。 邪神の手足めいた動きで鎖付きバズソーが振り抜かれるたびに、次々と物言わぬ屍が積み上がり、あちらこちらで爆発が巻き起こる。 反撃に出ようと武器を手に手に偽アリスとオトモダチが攻めようと、ほとんど触れることすら叶わずにさらなる暴力でねじ伏せられる。 堅牢かと思われた人垣は、守ればその分切り崩され、攻めればその分打ち砕かれ、徐々に、徐々に、ほころびを見せ始めた。 無限と思われた軍勢は、その絶滅の権化の前に、ついに目算でも数えられるほどに数を減らした。 そんな大虐殺の坩堝の中心のニンジャ・ジェノサイドは、小梅を守り、オトモダチをぶちのめしながらも、常にある一点に注意を払っていた。 『本物はどこだ』。 今まで数々のアリスを殺したがどれも偽物。それに、今生き残っているわずかばかりのアリスもきっと偽物であるとジェノサイドの直感が語っていた。 見回す中には居ない。どこに姿を隠したのか。それを見つけてぶん殴るまではこの戦いは終わらない。 ジェノサイドの虐殺の刃を切り抜けたアリスたちがギロチンの刃を放つ。その刃の上に切り刻まれたゾンビたちを乗せて。 ギロチンを止めればゾンビ爆弾を喰らい、ゾンビ爆弾を止めればギロチンを喰らうという寸法か。 「芸がねえことを、何度も、何度も!!! ナメてんじゃねえぞ!!!」 だが、それがどうした。両手に構えたバズソーを放り投げ、射線上のオトモダチを切り捨てながら進んできた二枚のギロチンの刃を掴む。 当然、手の平はただではすまないが、それを力でねじ伏せる。傷を恐れないゾンビーの体とネクロカラテの握力が可能にする武器強奪だった。 勢いに任せてギロチンをぶん回し、爆発しようとするゾンビを吹っ飛ばす。ゾンビは空中で爆発して消えた。 更に迫ってくるギロチンをギロチンで迎撃し、上のゾンビごと弾き飛ばす。 「イヤ―――――ッ!!!」 叫びとともにギロチンがぶん投げる。またオトモダチが物言わぬ体に変わった。 随分数を減らしたオトモダチは、さすがに数で押せなくなって攻めあぐねているのか、格段に動きが鈍っている。 それこそ狙い目とばかりにバズソーを投げ、アリスやオトモダチどもを切り裂き、ゾンビどもは念入りに微塵切りにする。 ニンジャ的シックスセンスが攻撃の予兆を察知し、抱きかかえていた小梅の身体を突き放した瞬間、地面から生えてきた拷問器具がジェノサイドを拘束した。 棘だらけの人形の檻、アイアン・メイデンだ。だがそんなもの、今のジェノサイドの敵ではない。 閉じようとする拷問器具の蓋を無理やりこじ開け、蝶番ごと蓋をもぎ取る。小梅に迫る幾つかの影に向けて蓋を投げ飛ばせば、血しぶきを残してまたオトモダチが減った。 少しばかり生き残っていたオトモダチめがけてバズソーを放れば、ついにすべてのオトモダチが倒れ伏した。もう二度と動くことはない。 放ったバズソーの鎖が伸び切り、今から巻き戻ろうという瞬間。 一陣の風が吹き、ジェノサイドの目の前をいくつかのトランプが通り過ぎていった。 小梅がはっと顔を上げ、体をこわばらせる。 彼女の視線の先には、トランプから今まさに飛び出そうとしている最後のアリスの姿があった。 振り上げた拳は少女のそれだが、サーヴァントの膂力ならば小梅の頭を潰すくらいはわけないだろう。 ジェノサイドが今から走り出したのでも間に合わない。恐怖からか、小梅は崩れるようにその場にしゃがみこんだ。 「はい、私の勝―――」 しかし、勝利宣言に待ったがかかる。 しゃがんだ小梅の向こう側から飛んできた鎖が、現れたばかりのアリスの体を縛り上げたのだ。 「ようやく首を出しやがったな、アリス=サン」 小梅の令呪で取り戻した破片のような記憶の中に、散りばめられた記憶の中。 ジェノサイドの人生の大部分を占めていた知識として『ニンジャ』の知識があった。 ニンジャとは、卑劣で、傲慢で、残忍。そして時折、幼稚なほどに欲求に素直。 ジツに頼って他人を嬲ることに快楽を覚え、命を命とも思わぬクソッタレの集まり。 そんなニンジャたちの戦闘の波長と、アリスの戦闘の波長が、ジェノサイドの中で合致した。 もし、ジェノサイドと小梅が二人で居るところにニンジャが現れたなら、ニンジャはどう動く。 ニンジャならばどうするか。ジェノサイドを足止めしながらジツを使って小梅を狙い、そして小梅を殺したあとで魔力の尽きたジェノサイドを殺す。 アリスの使えるジツを考えたならば、不意打ちが最も効果的。そしてアリスの性格を考えるならば、奴は最後の最後、ジェノサイドたちが勝利を確信した瞬間にサディスティックな笑みを浮かべながら小梅に手をかけることだろう。 そう、つまり、アリスはニンジャだったのだ。ジェノサイドの『偽物のアリス』を見抜いた直感は、ニンジャとの戦闘で培われた経験則にほかならない。 このタイミングで空を舞うトランプを見て、ジェノサイドは直感的にそれこそが相手の本命だと理解した。だからこそ、先手を打つことが出来た。 『アリスが出て来る』ものとして小梅と念話で息を合わせ、小梅の体でバズソーの鎖を隠し、ぎりぎりまでひきつけて縛り上げた。 小梅は恐怖から崩れ落ちたのではなく、アリスという『怪物』と向かい合い、ジェノサイドを信頼し、『怪物』を倒すために勇気を振り絞り立ち向かい、そしてようやくアリスに打ち勝ったのだ。 「きゃあ、捕まっちゃった!」 巻きつけた鎖ごとアリスを一気に引き寄せる。命のやり取りの最中だと言うのに、脳天気な声を上げている。 その脳天気な声は、ジェノサイドの剥き出しの神経を逆なでするようだった。 オトモダチのやつらをゼツメツに追い込んだこの期に及んで、この少女は、まだ遊んでいるつもりなのだ。 「ナメやがって! ブッダのケツで念仏唱えてろ!」 怒りが、まばらにしか残っていない髪の先まで浸透する。 だが、足りない。この程度の怒りでは、アリスはゼツメツさせられない。 力が必要だ。この狂おしいほどの怒りをぶつけるための力が。 考えるよりも速く体が動いた。 アリスの体をがんじがらめにしていた鎖が解ける。逃がすためではない、鎖が巻き付いたままだと邪魔だからだ。 代わりに、ジェノサイド自身の手でアリスの体を地面に押さえ込む。がっちりと組み伏せたまま、噛みつきやすそうな左肩に照準をあわせる。 仮にもズンビー。爆発の余波で荒れ放題の口でも、少女の柔肌を食いちぎる牙は失っていない。 ◇◇◇ 「ヤメテー! ヤメテー! ……アバッ!?」 肩に食いつかれ、アリスの楽しげな悲鳴が止まり、驚愕の声が上がる。 緑色の蛍めいた命の輝きが噛まれた場所から漏れ出し、アリスの余裕の表情が一気に崩れる。 その緑色の光の正体は、アリスにも感覚で理解できた。それは間違いなく、アリスの身体を構成するMAGだ。 単なる打撃ならば問題ない、噛みつかれた程度で既に死者である『アリス』は傷つかない。そう過信していたのだろう。 だが、アリスの想像を遥かに超えて、アリスに食らいついたジェノサイドという災厄は貪欲であった。 ジェノサイドはニンジャを喰らうニンジャであり、この聖杯戦争ではサーヴァントを喰らうサーヴァントであった。 相手が不死の令嬢アリスだったとしても例外ではない。ジェノサイドはアリスの彼女の身体を構成する物質――MAGを喰らい、自身の血肉に変えることが出来るのだ。 ぶちぶちと音を立ててアリスの左肩が無残に食いちぎられ、ジェノサイドとおそろいの骨がまろび出した格好になる。吹き出す血は、意外にも赤かった。アリスの瞳の色にそっくりだった。 そして、食いちぎられた瞬間に、アリスの中から大きく『何か』が持って行かれた。MAGか、それとも別の何かか。 アリスとてサーヴァントである以上魔力が消滅すれば存在を保てず消え去るのみ。 遊びと思って侮った。このウカツは何を意味するか。 不快な脱力と、焦燥と、六腑の底から喉元までせり上がるような怖気が、アリスの体を駆け巡った。 分からない。今までに感じたことのない感触だ。だけどそれは、いつでも身近にあったもののはずだ。 遠巻きにおろおろと困惑していたアリスの分身のうちの一人が消滅する。世界から消えてなくなる。 一人が消えれば次の一人。それが終わればまた一人。また次、次、次と立て続けにアリスたちが消えていく。 居なくなる。世界から。 そこでようやく分かった。アリスに襲いかかっているこの感触が、死だということが。 『死』。 脳を埋め尽くしたのは、アリス自身には絶対に関係がないと思っていたその一文字。 アリスが今まで弄び、そしてゼツメツ・ニンジャに相対したものが等しく抱く、逃れられぬ破綻と破滅のシンボル。 むき出しの左肩から首よりに、更に歯が突き立てられ噛みちぎられる。またも大きな『何か』が持って行かれる。 声にならない悲鳴が遊園地内にこだまし、悲鳴で揺さぶられた傷口が突き刺すように痛んだ。血が地面を汚していく。 そしてまた、ありえるはずのない恐怖がアリスの心を支配した。 『死』だ。 死ぬ。 死ぬのだ。 これが、死。死なのだ。 アリスは殺される。このサーヴァントに。 全てを喰らいつくされ、一片の欠片も世界に残すことなく、消滅するのだ。 このサーヴァントは、アリスの全てを吸収し、世界にアリスであったものは無くなる。 無数に存在し、消えることのないはずの『アリス』が、この地で一つ完全に絶滅する。 認識した瞬間、アリスはおそらく生まれて初めて本気で『死』を恐れ、本気で逃れる術を探った。 だが、どれだけ考えても答えが出ない。それもそのはず相手が悪い。 精神汚染を持つバーサーカー相手に魅了(マリンカリン)は通用しない。 既に死んでいるズンビー相手に即死魔法(マハムドオン)は通用しない。 石化魔法(ペトラ)も組み伏せられたまま使えば一緒に石化してしまう。 分身アリス、トランプ兵、屍鬼、洗脳人間、あたりを見回せど影もない。 痛みで頭が冷めようやく気づいた。全てゼツメツしていた、いや、ゼツメツさせられていたのだ、このズンビーただ一人に。 バズソー、鎖、ネクロカラテ、彼の持ちうるすべてが『絶対にぶち殺してやる』という執念に従いこの場に居たアリスの軍勢をねじ伏せた。 魔力を吸い上げられた状況、しかもこの距離では再生産も不可能、既に進退は極まった。 蓋を開けてみれば、なんたることか、詰将棋のように盤面は硬直している。 「いや……」 ならば、ならば、ならば何がある! 必死に頭を働かせても、思考は分かりきった結論に向けてから回るばかりで何も妙案は浮かばない。 ジェノサイドが再び口を開く。涙目になりながらまだ動かせる右腕でジェノサイドの頭を押しのけようとしたが、抵抗むなしくまた歯が突き立てられた。 左肩を骨まで噛み砕かれる。『死』の一文字が身体の中で大きく膨らんでいく。 ゼツメツはアリスのすぐ背後まで来ていた。 「いや、いや!! 放して!! やだぁ!!!」 蹄の音が聞こえる。蒼ざめた馬の蹄の幻聴だ。 首元にヒヤリとした感覚。死神の鎌の幻覚だ。 もがいても、暴れても、狂戦士の万力めいた腕力に枝のような少女の肢体では叶わない。 締め付ける力は、吸われていくアリスの魔力に比例してどんどん強くなっていく。 まるで細胞同士が引き合うようにジェノサイドの傷ついた腐肉が逆再生めいて修復を始め、吹き飛んだ髪、砕けた歯、穴ぼこの目、ぼろぼろだった悪魔めいた男の顔貌を復元する。 髪を振り乱し抜けようともがくうちに、押さえつけている男の顔が目に入った。 完璧に蘇ったその顔貌。それは、世にも恐ろしい――― ◆◆◆◆◆◆◆ 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 余裕を失い初めてさらけ出された命懸けの絶叫。 アリスが最後に取ったのは、彼女の大好きな遊びとは程遠い、単なる物量攻撃だった。 構築した陣地を、読みかけの絵本を閉じるように無理やり『閉じ』たのだ。詰んでいた将棋の盤面をひっくり返し、無理やり勝負をなかったことにするために。 原理的には遊具操作と変わりない、ただ、遊園地全体を操作し、一気にアリスめがけて圧縮を行った。 空間が一気に収縮し、それに合わせて遊園地のすべてのアトラクションが一気にアリスとジェノサイド目掛けて飛んでくる。 そして当然、ジェノサイドによって守られていた小梅にも迫る。 「死ぬのが怖ェか、アリス=サン」 突如、さらなる痛みを伴い拘束が解けた。 アリスが見たものは、無残にも食いちぎられたか細い左腕と、それをまるでフライドチキンでも食うように頬張った世にも恐ろしい死者(オトモダチ)の顔。 煌々光る緑色の瞳が湛えるは、魂の滾りか、約束の強い意志か。それともアリスから奪い取ったMAGの血涙か。 「そのクソの詰まった脳味噌に叩き込め。 てめェが調子に乗れば、ニンジャが出て殺す! 叫ぼうが、喚こうが、泣いて許しを請おうが、必ずお前を殺す!!! 俺はジェノサイド!! ニンジャで、サーヴァントの、ジェノサイドだ!!」 言い切ったジェノサイドは、もう用はないとばかりに、食い残したアリスの土手っ腹を蹴り飛ばす。 アリスももう、冗談めかして言い返すようなことは出来ない。命からがら霊体化して逃げ出すのが精一杯だった。 碧緑の双眸はその行方を追わない。既に自身の守るべきものの方を向いている。 「コウメ!」 「ジェノサイドさん……!」 ジェノサイドの声に、小梅は駆け出し手を伸ばす。その手の甲には既に令呪は存在しない。 それでも。 いや、令呪なんてないからこそ。繋いだ手と手には一片の疑念もない。 見よ。少女を懐に抱き寄せたゾンビの立ち姿の、なんと美しいことか。 少女も、ゾンビも、確信していた。今更この陣地圧縮程度の障害で、自身達が死ぬことなどないと。 「ゼツ!!」 じゃらりと波打つ一対の鎖。火花をちらして回り出すバズソー。 命を燃やして、速く、速く。少女を取り囲む万難を切り裂くために回転する。 「メツ!!!!」 走る銀色の閃光は、遊具を、橋を、岩を、山を、雲を、大地を、太陽を、襲い来る全てを切り刻み。 そして最後に、緞帳めいた作り物の青い地平を切り裂く。 ここに、ひとつの遊園地が……女王の作り出した不思議の国が絶滅した。 そして、世界に夜が帰ってくる。 ネクロマンティック・フィードバックへ