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天使の羽音(はね) 羽ばたく 天外孤独の身体(み) 決して触れないで 誰もよ swear territory domain,somebody no intrusion 流れるは髪 濡れ解けよ 頬の雫を 拭き取るその手は あの頃の記憶と 何も違わない── (鐘音) 瞳(め)から零れる 血の涙 見つめる者は ただ1人 視線で 殺めてあげる attachment accordingly hatred 殺戮の舞踊(ロンド)を 奏でましょう? 誰も入れない 少女の街 暴君起こすの ただ困った顔が見たいから── 愛おしいほどに 憎らしい 終わりのない 円舞曲 (鐘音)
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元スレURL 璃奈「歩夢さんの匂い、好き」 概要 大胆なアプローチに困惑歩夢 タグ ^天王寺璃奈 ^上原歩夢 ^短編 ^微エロ ^あゆりな 名前 コメント
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Q -Question- ◆EAUCq9p8Q. ☆ 輿水幸子 悪夢を見ていたんだと思う。目が覚めてしまえば思い出すことも出来ない、影のような悪夢を。 どろりとしたものから意識が抜け出す。 ぐわりぐわりと頭の中が伸び縮みする感覚は、あまり良くない睡眠を取った時特有のものだ。 頭のてっぺん寄りの部分がじくじく痛む。 痛みに従い、鼻の奥と喉の奥に違和感が広がる。 口の奥が水分を求めあい、お互いにべったりとひっつく感覚で、喉が乾燥してしまっているんだと分かった。 そこから、意識がだんだん明らかになる。 水が飲みたい。喉が乾いたままだとアイドル活動に支障が出そうだ。 体を動かそうとしても、思うように筋肉が動かない。凍えてしまったみたいにカチコチだ。 うんうん唸りながらようやく身を起こすと、傍に何かがガバッと動いた。 「お、起きた!?」 少しだけ、聞き覚えのある声だった。 声の主はどたばたと動き回り、なにをひっくり返したのかガッシャンという轟音を響かせ、そして静寂が戻ってきた。 一秒、二秒、三秒。 「おいおい、すごい音だけどなにがあった」 「たすけて」 「うーむ、芸術的な生花だ。オブジェとして飾っておこう!」 「たすけて、たすけて」 「おっと、この大根喋るぞ!」 「ひょっとしてだけど、これ、玲の姉ちゃんなんじゃ……」 「はっはっは、まさかだよ。あの玲ちゃんがこんなドッグゴッドハウスなポーズでイェイイェイしてるものかね」 「じゃあ試してみるよ。えい」 香ばしいソースの匂いが漂う。 ぐー、と大きなお腹の音が鳴る。 「なんと、玲ちゃん! 何故生花の真似なんかを!」 「たすけて」 「よーし、うら若き乙女の両足をしっかり握って自分の方へ引き寄せるプレイだ!」 喉の乾きより気になる会話に、自然と目が開いてしまう。 開けた視界の先では、どうやったのか棚に上半身が突き刺さった少女と、彼女の下半身を引っ張る人だかりがあった。 ヤイサホーヤイサホーという叫び声。びくともしない少女の下半身。 悪夢がどうとか喉の乾きがどうとかそういう言葉を飲み込んでしまうよくわからない状況に、流石の幸子もただ見つめ続けることしか出来なかった。 ☆ 「先ほどは、お肉欲しいところを見せまして」 「……お見苦しい、なのでは?」 「うーん、惜しかった!」 「言うほどだと思いますよ」 無事にはちみつ色の髪の毛の少女(玲、と呼ばれていた)の救出に成功し数分。 アレク輔と呼ばれたリーダー格の青年率いるマルサというらしいグループの少年少女は、玲を引っこ抜いたあとで棚からお菓子をいくつか取って遊びに行ってしまった。 秘密基地に残ったのは、幸子と玲だけだった。 幸子はぼんやりと、玲を見つめる。 泣いていた幸子を見つけてくれて、幸子の手を引いてくれた少女。聖杯戦争の参加者の少女。 聖杯戦争について考えると、頭の中でいろいろな情景がよぎっていく。 他の参加者とのやり取りのこと。戦闘のこと。戦闘とは全く関係のない日常のこと。 どんな情景を浮かべても、最後に思い出すのは輝子のことだった。 この先どれだけ後悔を重ねても埋めることの出来ない不完全な別離と、望まぬ結末のことばかりだ。 「……なにか、あったんだよね」 「……」 答えられない。 口に出せば、その言葉が幸子の胸を刺し、その場に縫い止めてしまうと思ったから。 黙る幸子を見て、玲はうーんと考え込んで、ゆっくりゆっくり話し出す。 「私もさ、なにかがあったんだと思うんだ」 『なにか』というぼかした単語がもう一度口にされる。 だが、幸子が抱きしめて泣いていた『なにか』に対して、玲が抱いている『なにか』は随分おぼろげなものだった。 「目が覚めて、ここに居て。それが普通だった。 ここは、暖かくて、楽しくて、安心できて、とっても素敵な町で。ずーっと、ここで暮らしていければ、それが一番の幸せかもって思うんだ。 ……でもね、私の心のどこかがね、時々ふっと、『なにか』を探すの」 人々の行き交う大通りに。 逆さまの町並みに。 力の集う坂のどこかに。 渦巻く海の奥深くに。 葉桜並ぶ道のその先に。 紅葉舞う神社の流れ星に。 夕暮れの商店街の向こう側に。 どこかにあるかも知れない『なにか』を、玲の心が探し、玲自身がぼんやりと目で追ってしまうのだと言う。 あまりに鮮烈でどこまでも痛切な幸子の喪失とは真逆の、穏やかで、緩やかで、なだらかな、夢の中に置いてきてしまったような喪失。 玲もまた、『なにか』を失い、迷っている。 「そして、私の心が『なにか』を探すそのたびに、頭によぎる言葉があるんだ」 ゆっくりと、静かに、しかし確かに紡がれるのは、楔。 「『これでいいのか』」 安寧の町で暮らす玲に、彼女の心は問いかける。 「優しい男の人の声が、そう、聞いてくるの。 玲、君はこれでいいのか、って」 薄く笑みを浮かべるみたいなのんびりとした表情と、のんびりとした語り口。 でも、そこには、幸子よりも随分大人な横顔があった。途方に暮れる幸子の一歩先で、佇む少女の顔だった。 ☆ 振り返ってみれば。輝子を失い、幸子もまた、ひたすらに、『なにか』を探していた。 歌を聞かせてくれた歌姫にも手を引き守ってくれた玲に問い、自身の心に渦巻く後悔や憤怒や憐憫や絶望の奥に隠れている『なにか』を探していた。 目の前の少女の笑みが、陽光のように輝いて見えるのは、きっと、幸子が探す『なにか』に一歩だけ近いから。 その『なにか』は、きっと、答えだ。 自分の向かう先、たどり着く場所の、答え。 ひっくるめた過去の、広がる未来への、どうしようもない現在での、答え。 幸子が得た答えは希望もなにもない喪失だった。輝子を失ったという結果だけが墓標のように突き刺さる、無骨な答えだった。 「これでいいかどうかなんて、誰が教えてくれるんですか」 思わず口を突いて出た問いは、幸子の胸の内で暴れる傷跡が放つもの。 「結局、答えなんてないんですよ! 誰かの出した答えが正解だとは限らない! 誰かの答えが、誰かを傷つけるだけかも知れない! だったら、本当にこれでいいかどうかなんて、誰にも―――!」 輝子は、きっとあの時、迷わず答えに向かっていたんだろう。 幸子を守るというその一点に向けて、迷わず飛んでいけたのだろう。 でも、その答えは正解だったのか。輝子にとっての答えは、幸子にとっての正解だったのか。 誰かを守るために散らす命は尊いのか。 そんなわけがない! 誰かを守れなくたって、泥まみれだって、生きて、笑って、横に居てくれる方が絶対にいい。 失われた命では、この胸に空いた穴が埋まることはない。少なくとも、輝子の答えは幸子にとっての正解からは遠い。 納得も、理解も、追いつかない。 「私も、なにが正解かなんて分かんないなぁ」 「じゃあ……ッ!」 「でも、分かんなくてもいい……んじゃないかな?」 玲の言葉に、次いで吐こうとしていた幸子の言葉が止まる。 てっきり、玲は答えを見つけ、その答えに従って進んでいるのだと思った。なのに。 「これから先、いつかどこかで『なにか』に出会って。『玲、君の答えは間違ってたんだよ』って言われても。 ここで食べたご飯が美味しいこととか、桃本やマルサの皆と一緒に居たのが楽しいことまでは変わんないから。 昔のことはわかりませんが、今は幸せなので! きっと明日の私から見ても、昨日の私は幸せです!」 それは、先に出た言葉で言うならば、答えではなく納得だった。 玲は納得している。答えのない世界で、自分の今に納得している。 幸子が輝子のことを後悔し続けるのは、納得していないからだ。 あの場面で手に入れたかった正解は、二人で生き延びることだった。 でも、もしも幸子が戦うことを選んでいて、たどり着いていた結末がそれでも輝子を守れなかったり、逆に幸子が倒れたり、二人共倒れだったり、そんな正解から外れた結末だったとしても、きっと幸子は今ほど自分に問うては居なかった。 幸子がひたすらに責めているのは、結局、『あの時自分に従い行動できなかった自分』だ。 『これでいいのか』。 胸の内の問い。この場の答えがその場で正解かどうかなんて分からない。でも、そこに納得がアレば。 「正解じゃなくても、間違いじゃない」 「うん、たぶんそれ!」 玲は幸子の呟きににっこり笑って答えた。 玲が自分にぽっかり空いた穴のことまで晒して幸子に伝えたかったことと、幸子が受け取った答えが合っているかは分からない。 ひょっとすると玲はくよくよすんなよと言いたかっただけかもしれない。 深い意味などなく、自身の傷と同調させることで幸子の傷を一緒に背負おうとしてくれていただけかもしれない。 この答えは、幸子が勝手に組み上げた理論で、玲の本心とはちぐはぐかも知れない。 でも、玲を問いただし実際の答えを求めようとは思わない。今の幸子には答えなんてどうでもいいと思えたから。そこに納得があったから。 そして、どうすれば失ってしまった輝子に報いることが出来るのか、その尻尾が掴めたように思えたから。 だから、幸子は涙を拭き、玲を見つめる。 「ね、一緒に見つけに行こうよ!」 玲は屈託なく笑いながら、片手に焼きそばを持ち、もう片方の手を幸子に差し出す。 「正解じゃなくても間違いじゃないものを、ですか?」 「そうだよ。どこにもないものでも、この町ならどこかにあるかもしれないから!」 まるで禅問答みたいな誘い文句。 幸子が立ち上がったのは、握られた手が優しかったから。 輝子のこと。聖杯戦争のこと。クリエーターのこと。今だけは、そんな全てを横に置き。 この場の答えは、それだけで良かった。 「どこに行くんですか?」 「そう言えば、おなかが減ったよね! まずは購買部に行こう!」 「焼きそば食べながら言うんですか、それ?」 「焼きそば食べながら言うんですよ、これ!」 きっとこの選択を、明日の幸子も納得すると信じていたから。 【???/さいはて町 ヒノモト学園裏秘密基地/2日目 早朝】 【玲@ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス】 [状態]健康、魔力消費(小)、『開拓者』 [令呪]残り三画 [装備]『戻す力』 [道具] [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:街で日常生活を楽しむ。聖杯戦争を終わらせたくない。 1.幸子とさいはてを歩く [備考] ※聖杯戦争についてはある程度認識していますが、戦うつもりが殆どありません。というか、永遠に聖杯戦争が続いたまま生活が終わらなければいいとすら思っています。 ※原作で玲の使えるスキルを使用できますが、開拓者としての『戻す力』を似た形で行使しているだけです。 ※『これでいいのか?』という声が聞こえています。 【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態]魔力消費(大) [令呪]残り一画 [装備]なし [道具] [所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー [思考・状況] 基本行動方針:『納得』を得る 1.玲に連れられ、さいはてを歩く 2.輝子に報いるために――― [備考] ※一気に極大の魔力を消費したことによって一時的に気絶しています。 魔力がある程度回復すれば自然に目覚めます。 ※ランサー(姫河小雪)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、 キャスター(木原マサキ)、バーサーカー(チェーンソー男)、玲&エンブリオ(ある少女)を確認しました。ステータスは確認していません。 ※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。 ※固有結界内のため通達の配達が遅れています。 BACK NEXT 055 新しい朝が来た、絶望の朝だ 投下順 057 演者は集う 時系列順 BACK 登場キャラ NEXT 037 思い出が窮屈になりだしたこの頃の僕らは 玲 057 演者は集う 輿水幸子
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顔なし少女のユートピア 顔なし少女のユートピア (1)← →顔なし少女のユートピア (3) 第二章 出立の朝が来た。 少女は寝台の中で、ふっと目を開けた。目を覚ましたことを知らせるため、枕元の壁に埋め込まれた盤にある、ボタンの一つを押す。 起き上がって、東向きの窓のカーテンを開けた途端、部屋が朱に染まった。二階にある少女の寝室からは、宮殿を埋(うず)める緑を見下ろすことはできない。葉に囲まれた、雲一つない金の空を見上げた。 用意されていた服装に着替える。上はシンプルなシャツに、厚手の暗緑色の布地で作られた、大振りのポケットの付いたジャケットを重ねる。下は黒いタイツを穿いてから、共布で仕立てられた長ズボンを革のベルトで締めた。少女が、これほどまでに実用本位の服を着るのは初めてだった。 顔を洗って髪を梳かしてから、寝室を出て、朝食を摂るために別室へ向かう。 「おはようございます、雪の君」 部屋に入ると、侍女たちが声を揃えた。 その部屋は南向きで、食堂と居間が一つになっている。南側一面に張られた玻璃の向こうは、テラスになっていた。若草色のカーテンは既に開けられ、レース越しに色の濃い日射しが降り注いでいる。 二階まで他人が上がることはないため、食卓は一人分の大きさで、椅子も一つだけだ。少女はその椅子に腰を下ろした。 「良いお天気となりましたね、雪の君」 朝食を並べて、金茶色の髪の侍女が微笑んだ。彼女の名はユリカ。少女に仕える侍女の中で、一番年季が入っている。物心ついた頃には、既に彼女が側仕えを務めていた。 ユリカのような例は稀で、少女に仕える侍女には、すぐ辞めてしまう者が多い。『氷の君』の異名を得ているのと同じ理由からだと、少女にもわかっていた。 「そうだな」 少女は相槌とも言えぬ相槌を打って、グラスの水を喉に流し込んだ。いつもと同じ、少し苦いような味がした。 朝食を食べ終えて、歯を磨く。 「もう出発できるか」 思いつく支度を全て整えてから、少女はユリカに問いかけた。ユリカは、しばしお待ちくださいませ、と姿を消すと、櫛と髪留めを持ってやって来た。 「御髪(おぐし)を結わせてくださいますか?」 「髪なら自分で結べるが」 言いながらも、少女はユリカに背を向けて腰を下ろした。ユリカはさっそく髪を梳きにかかる。 「まことの気持ちを申し上げますと、我々もお供させていただきたいのですが……」 ユリカは小さく息をついた。 「春の君の仰せにより、それも叶いません。かくなる上は、決して怪我などなさいませんよう」 髪を結ばれている最中に頷くわけにもいかず、少女は声に出して答えた。 「わかった」 「一日も早いお帰りをお待ち申し上げております」 がさり。少女は荷物を背負い直すと、何とかもう一歩踏み出した。すっきりと一つに括った銀の髪が、風に舞い上がる。 背後には街を囲む高い壁。眼前には圧倒的な緑。 宮殿の森が、どれほど人の手が入り、管理されていたのかを思い知らされる。己の手足が、ひどく頼りなく思われた。足下の獣道の先は、曲がりくねってすぐに見えなくなる。 恐る恐る息を吸い込んだ。壁の中の空気と、確実に何かが違っていた。 常とは別種の無言に満たされていた少女に、突然声が降ってきた。 「おはようございますー。もしかして、旅の同行者の人ですか?」 少女はぎょっとしてふりむいた。完全に無防備になっていた隙を衝かれて、一瞬、何も考えられなくなる。 声を発したのは、黒塗りの鉄格子の門の前に立つ、同じ年頃の少年だった。榛色の瞳に、屈託のない笑みが湛えられている。少し毛先のはねた髪に、朝日が踊っていた。 少女に、返事をする様子がないのを見ると、少年の顔に焦りが浮かんだ。 「あっと、ひょっとして勘違いでしたか?」 その言葉で少女はようやく、少年が自分と同じような恰好であることに気づいた。そして、先程の少年の言葉を思い出す。 「……あなたが、ディーの助手なのか」 少女の平坦な物言いを、少年は不審感の表れと取ったらしかった。胸を張って答える。 「よく疑われますけど、本当に本物の、トルディ=イーラ先生の助手ですよ。ノアルと言います」 ちょうどそこに、門から出てきたトルディが追いついた。 「あら、対面を果たしたところね。聞いたとおり、このノアルがあたしの助手。ノアル、この子が、話していた旅の同行者よ」 ノアルは、よかった、と安堵の笑みを浮かべた。 「早とちりしてしまったのかと」 「いえ、彼女が無口なだけ。あなたと同じ十五歳だけど、世間知らずの人見知りだから、面倒を見てやってちょうだい」 「わかりました、先生」 ノアルは少女に向き直った。 「それで、きみの名前は?」 同い年と判ったためか口調は砕けたものになっていたが、ぞんざいさは感じられない。 その問いに、トルディも少女を見つめた。 〈水の姫君〉の継承権を持つ者の名が知られることは、まずない。名を知ることは大層畏れ多く無礼なこととされ、定められた呼び名でしか呼ばれないのだ。 だが、名前を付けられないわけではない。本人と名付け親しか知ることもない名ではあるが、真名がなければ呼び名は成立しない。 「わたしの、なまえは……」 だから少女は、一度も名乗ったことがなかった。彼女の周りの人間は全て、彼女が誰であるのか承知していたから。名付け親だった母はもう亡く、名を呼ばれた記憶はなかった。 「……エフェリリア、だ」 綴りでしか見たことのなかった自分の名を、少女――エフェリリアは初めて口にした。その響きには、違和感しか覚えなかった。 「エフェリリアかあ。リアと呼んでも良いかな?」 何も知らないノアルは、平然と提案した。 その短い綽名の方が、まだ馴染めそうだ。エフェリリアは頷いた。 トルディが、ぱんと手を叩いた。 「さ、ノアル、リア。そろそろ歩きださないと、日暮れまでにテルスコアへ辿りつけないわよ。ノアル、道を覚えているなら先頭をお願い」 テルスコアは、たしか、南の方角で一番都に近い町の名だ。 「わかりました、先生。じゃあ僕が先頭で」 ノアルは慣れた様子で、すたすたと歩き出した。リアは、頭の中に火が灯っているような不慣れな感覚を持て余しながら、機械的にその後を追う。その耳にトルディが囁いた。 「エフェリリア、ね。良い名前よ」 いつもちゃんと沈めているはずの心が、ふっと浮き上がりそうになった。 三度目の休憩のとき、エフェリリアは既に疲れを感じていた。 腕時計を確認すると、まだ昼食の時間にもなっていない。非力な自分にため息をつく。今まで、それなりに体を動かす訓練も積んではいたが、やはり座学の方が向いていたらしい。水筒を取り出して、喉を潤した。ただの水がおいしく感じられる。 木々の間を縫って燦々と日が射しこみ、少し汗ばむくらいの陽気だ。ずっと獣道を辿っているものと思っていたが、所々で空き地のように道が太くなっているのを見ると、歴とした道のようだ。踏みならされているところから、頻繁に使われているのだと想像がつく。トルディが足を止めて休憩を宣言するのも、常にそういった空き地の一つに着いた時だった。 「調子は大丈夫? 疲れてない?」 出発前と全く変わらない様子で、ノアルがエフェリリアに問いかけた。トルディの助手として野外調査に出掛けることも多いのだろう、旅慣れているようだ。 トルディはノアルに、彼女のことを、ただの箱入り娘としか説明していないらしかった。だから彼は、何の屈託もなしに話しかけてくる。 「ええ、平気」 エフェリリアは素っ気なく頷いた。トルディ以外、彼女と同じ場所に立って話しかけてくる者は久しくおらず、どう接すればいいのかわからない。そもそも同年代の人間と話す機会が、めったにあるものではなかった。 「嘘おっしゃい。ずうーっと都暮らしのくせして、疲れていないはずないでしょ」 わきで聞いていたトルディが口を挟んだ。彼女自身は、宮殿にいたときより生き生きしている。 「旅をしているときに、体調のことで見栄を張らないこと。都と違って、最善の治療が施せるとは限らないのよ。――で、本当のところはどうなの?」 「……少しは、疲れた」 呟くように小さく答えた。水筒を握る手に力がこもる。己の弱みを曝け出すことにも、不慣れだった。 「もう一息がんばれー、次の休憩はお昼ごはんだから。……ですよね?」 ノアルはトルディの方をふりむいて確認した。 「そうね。まあ、エフェリリアは食べたことがない物だと思うから、口に合うかは保証しないけど」 「もう、水を差さないでくださいよ。リア、きみ、好き嫌いはある?」 「え、と、ないわけではない」 目の前で軽快に進むやり取りに呑まれていたエフェリリアは、慌てて返事をした。それでも彼が視線を合わせたままでいるので、その先を促されていることに気づく。 「あ、甘いものは、あまり」 「そうなの?」 ノアルは目を丸くした。 「僕は甘いもの好きだけどなあ! で、辛いのが嫌い」 後は何を言えばいいのだろう。会話とは、どうやって続けるものなのだろう。仕方なく、曖昧に頷くにとどめたが、ノアルは気にしていないようだった。 さ、とトルディが二人に声を掛けた。 「そろそろ行くわよ」 十二時過ぎに到着した空き地で、昼食となった。 それぞれ、隅に転がっている適当な岩に腰を下ろす。背負い袋を下ろすと、ふっと背中が浮き上がるような錯覚を抱いた。 食事として荷物に入れるよう指示されていた包みは、エフェリリアには見慣れない代物だ。ちょうど手の平くらいの大きさで、平べったく四角い。他の二人も同じ物を取り出したので、見様見真似で袋を破った。 入っていたのは、二本の厚く細長いクッキーのようなものだった。形は同じだが、色合いが微妙に異なっている。他の二人が持っているのも同じ、色違いのクッキー状の物だ。 「これが、都で用意したときの一般的な糧食、ハークル。利点は、長持ちすることと栄養があることね」 「それと、味が数種類あること! 甘いやつもあるから、リアが食べなかったら僕がもらうよ」 ノアルが嬉しそうにつけ加えた。もう焦げ茶色のハークルを頬張っている。トルディはやれやれと苦笑を浮かべた。 「あたしはゆっくり食べることを勧めるわ。ハークルって、あんまり食べた気がしないんだもの」 エフェリリアは、橙色がかっている方のハークルを摘み上げた。とりあえず一口齧ってみる。それこそクッキーのような、堅くて崩れやすい食感を予想していたのだが、しっとりとした歯応えがあった。ほのかに甘みはあったが塩味が利いていて、なかなか好みに合っている。 「あ、その味にしたんだ。どう? おいしいでしょ?」 ノアルは首を傾げた。エフェリリアは頷いてから、口の中の物を飲み下して答えた。 「食べやすい」 「甘さ控えめだもんね」 ノアルはにっこりして、一本目の最後の一かけを口に放り込んだ。食べるのが早い。 エフェリリアは黙々と昼食を片づけた。ノアルとトルディは、雨がなくて良かったなどと話している。なぜか視線を上げたくないような気がして、エフェリリアは自分の手元ばかり見つめていた。 トルディは食べた気がしないと言っていたが、充分満腹感がある。ハークルの欠点は喉が渇くことではないだろうかと思いながら、水筒の水で最後の一口を流し込んだ。ノアルとトルディは少し前に食べ終えていて、後は荷物を背負うばかりだ。 「待たせてすまない」 水筒と空になったハークルの袋を片づけながら、エフェリリアは謝った。歩きだけでなく食事でも、二人の足手まといになっている。急いで袋の口を閉じ、背負い上げた。 「そんな、謝ることじゃないよ。僕たちの方が慣れているだけなんだから」 ノアルはむしろ、エフェリリアの謝罪に驚いた様子で答えた。トルディも頷く。 「ここ二、三年、青病みに罹っている人もいないことだしね」 それでも顔を上げられないでいると、ノアルが、行く手へ向かってくっと彼女の背中を押した。 「そんなこと言ってるより、歩いた方が早いよー。ね、先生」 「その通り。行きましょ、そのうちリアも慣れるわよ」 「……はい」 二人には責めるつもりなど全くないことくらい分かるのに、一層情けなさが募った。 さっきよりも周囲が見づらくなっているのに気づいて、エフェリリアは顔を上げた。木々に囲まれた空の青が、暗くなっている。右手前方の空が赤みがかっている。そろそろ日が暮れるのだ。 すらりとした針葉樹に囲まれて見通しの利かない小道は、緩やかに西に向かって曲がっているようだ。その前に空を見上げた時は、右端が金色になっていたから。 頭の中に地図を浮かべる。隣町のテルスコアは、都の南南西にあったはずだ。西に向かっているのだから、もうすぐテルスコアに着くのだろうか。そろそろ足の痛みは限界で、呼吸も乱れはじめていた。 前を軽快に歩いていたノアルが、ふりかえって笑んだ。 「ほら、あれがテルスコアの門だよ」 エフェリリアはほっとして、彼の示した行く手に目をやった。都のものにも似た黒い格子の門の一部が、道の先に姿を見せていた。 ようやく門の前に辿りついた時、空には藍色が混じりだしていた。テルスコアの門は都より一回り小さいが、それでものけぞって見上げるだけの高さがある。 門を挟んで左右には、門番詰め所がある。右側が町を出るとき、そして左側が入るときに審査を受ける建物だ。小ぢんまりした二階建ての家ほどの大きさである。都の詰め所は飾り気のない厳めしい造りだったので、詰め所とはそういうものだと思っていたが、テルスコアのものは白い塗り壁に黒ずんだ木の装飾的な枠組みがあり、黒い瓦の切妻屋根を備えていた。 門と詰め所以外はもちろん、高い石の壁が町を囲っている。 トルディが、『入町』と識の下がっている方の詰所へ二人を誘(いざな)った。建物の大きさの割に小さな窓には、既に明かりが灯っている。よく見ると、『入町』の識や門柱の上にも明かりがあった。 「二人とも、町に入るから旅券を出して」 彼女はそう告げて、ベルトに下げた袋から自分の旅券を取り出した。ノアルとエフェリリアも同じようにそれを出す。手の平くらいの大きさの薄い札で、柔らかくつるりとした青い袋にしまってある。 がっしりとした扉の前で、トルディは呼び鈴を押した。 「こんばんは。どちらさまですか」 聞こえてきたのは、眠たげな男の声だった。 「旅行者です。町に入りたいのですが」 「では入町審査を行います。お入りください」 かしゃん。鍵の外れる音がした。トルディが開けた扉は、引き戸だった。三人はぞろぞろと、一列になって建物に入った。 入ってすぐの所と、反対側の、町へ続く扉のわきに、一人ずつ番兵が立っている。左右の壁際には、それぞれ壁に背を向ける形で四つ受付が配置されていたが、人がいるのは手前左側の机だけだった。 先頭のトルディが、こんばんは、と受付係の女に旅券をさし出した。挨拶を返して、彼女は旅券を受け取った。 受付の机は、外側は立っている人に丁度良い高さだが、内側は一段下がって、座っている係の者に合わせてある。その、外側からは見えない部分に、旅券を読み取る機械が置いてあるようだった。小さな電子音が響く。 「お名前と、最後に出た町の名前をお願いします」 「トルディ=イーラ。都から来ました」 「はい、ありがとうございます」 女はトルディに旅券を返し、トルディは会釈して受付の前から退(しりぞ)いた。 エフェリリアがおずおずと進み出て、無言のまま旅券をさし出した。さして気にした風もなく、彼女はこんばんは、と受け取った。 「お名前と、最後に出た町の名前をお願いします」 エフェリリアにも聞こえていたのは承知だろうに、律儀に同じ言葉で質問をくりかえす。 〈水〉一族は苗字を持たない。旅券には何と登録してあっただろうか。エフェリリアは慌てて、都での侍女ユリカの言葉を思い返した。 ――お名前は、君ご自身のみご存じである真名が、そして苗字は、便宜上『ドルク』という名が登録されています。 「エフェリリア=ドルクだ。都から来た」 「ありがとうございます」 彼女は、エフェリリアの無愛想な言葉に顔をしかめることもなく、平然と旅券を返した。エフェリリアはなるべく急いで、トルディの隣に移動した。ノアルが受付の前に立つ。 「こんばんはー」 「こんばんは」 旅券を渡し、同じやりとりをくりかえす。 「お名前と、最後に出た町の名前をお願いします」 「ノアル=ナーサンです。都から来ました」 「はい、ありがとうございます」 ノアルがにこやかに旅券を受け取って、無事に入町審査は終了した。三人は旅券をしまいながら、町への扉へ向かった。 「リアは、都以外の町を見るのは初めてなんだよね? テルスコアは綺麗だよ」 エフェリリアの気分を明るくしようとしたのか、それとも彼女の緊張をほぐそうとしたのか、ノアルが言った。言われたエフェリリアにも、どちらの意味で掛けられた言葉なのか判らなかった。 トルディが、扉を開いた。 日が沈んで、だがまだ光の残っている貴重な時間帯だった。町の姿は、エフェリリアの唯一知っている、玻璃を多く使った都の様子とは大違いだった。 残光がほのかな藍に染めた家々の白壁に、くっきりと黒い木枠が浮かび上がっている。まだ底の明るい空を、切妻屋根が縁取っていた。そういった家並みの、様式は門番詰め所と同じだったが、窓はもっと大きく、そこに植物の鉢を置いている家が多い。そしてそれらの窓全てに、柔らかな明かりが灯っていた。 道にはすり減った石が敷きつめられていて、幅はゆったりとしている。この道をまっすぐ行けば、おそらくテルスコアで一番大きな広場に着くのだろう。町自体の構造に、都とさして差がないのならば。 「他の町に行くことなんてめったにあることじゃないから、どうせならリアもあちこち見て回りたいだろうけど、まずは宿を取るわよ」 トルディは二人に声を掛けて、すたすたと歩き出した。エフェリリアは我に返ると、その後を追う。ノアルはトルディの旅の仕方に慣れているし、テルスコアに来たことも一度や二度ではないから、当然の顔をしてトルディの後ろを歩いていた。 道を進むにつれて、家以外の建物が増えてきた。店屋は、そろそろ今日の商いは終わりと言った風情だが、食堂や酒場から、おいしそうな匂いや喧騒が流れてくる。 道を行くトルディの足取りには、迷いがなかった。ノアルがエフェリリアに説明した。 「先生は、テルスコアに来ると必ず、おんなじ宿を取るんだ。馴染みがあるからかな」 「そうなのか」 都にいたときの、ふらりと訪れては空想的な議論をふっかけたり、先輩の学者たちを皮肉混じりに揶揄したりするトルディを思い出す。彼女の世界は、エフェリリアが知っているより、ずっとずっと広いのだろう。 「ほら、あそこだよ」 ノアルが、少し先の、三階建ての建物を指した。少しくたびれているような感はあるが、周囲の景色としっくり溶け合っている。果たしてトルディは、二人をその中へ導いた。 急に明るい所へ入ったので、一瞬目が眩む。宿の一階は食堂になっていた。すぐ手前に帳場があるから、食事だけここで取ることもできるのだろう。かなりの盛況で、食器の触れあう澄んだ音や人々の話し声が、大きな波になっていた。 トルディはその中を壁沿いに進み、二人も後に続いた。奥のまあまあ静かな方に、宿の帳場があった。 「三人分の……あー、一人部屋と二人部屋を一つずつ取りたいんだけど、空きがある?」 受付にいた若い男が、かちかちと機械を操作した。 「お一人さまとお二人さまですね? ……はい、どちらもご用意できます」 「じゃあ、お願い。明後日の昼前には出るから」 「かしこまりました」 また機械を操作する。それから背後をふりむいて小さな戸棚を開けると、鍵を二つ取り出した。どちらも丸い札が付いていて、そこに数字が書いてあった。 「二〇二号室がお一人さま、三〇五号室がお二人さまの部屋になります。二〇二号室は階段を一つ上がって手前の方、三〇五号室は二つ上がってやや奥の方になります」 彼は淀みなく説明しながら、トルディに二つの鍵をさし出した。トルディは、『二〇二』の札が下がっている方の鍵をノアルに渡す。 「ごゆっくりお寛ぎください」 最後に彼は頭を下げ、三人もそれぞれ会釈を返して、階段に向かった。 軋む木の階段を上がりながら、ノアルは眉を下げた。 「ご飯の匂いがここまで来てるー……。僕もうお腹ぺこぺこ」 トルディが笑いながら答える。 「荷物を置いたら、すぐに下で食事にしましょ。ノアルは二階の階段のところに来て」 そこで二階に着いたので、ノアルは廊下に向かい、トルディとエフェリリアは二人だけで三階へ上がっていった。 廊下も同じ、軋む木で作られていた。 「三〇五……ここね」 前で立ち止まった木の扉には、流れるような金文字で『三〇五』とあり、金色のノブが付いていた。トルディはそのノブの上の鍵穴に、鍵を挿して回した。がちゃり、とありがちな音がして鍵が開く。彼女が扉を開けると、やはり少しだけ軋んだ。 中は最初真っ暗で、廊下から射しこむ光に照らされて入り口のすぐわきに洗面所と戸棚があることが分かった。トルディが照明を点ける。仄かな橙色の明かりに照らされた部屋は、二つの寝台だけでほとんどいっぱいだった。先に部屋へ入ったトルディが奥に進んだので、エフェリリアは手前の寝台の傍に荷物を下ろした。 真っ白で柔らかそうな寝台を前に、急に、自分がすっかり疲れきっていることを思い知る。足だけではなくて、目の奥までずきずきする。抗いきれずに、腰を下ろした。 トルディも荷物を下ろすと、大きく伸びをした。貴重品はもう腰に下げた袋の中だし、手だけ洗えばいいわね。 「リアは、支度……」 できた? と言いかけて、トルディは後が続かなかった。エフェリリアは、靴を履きっぱなしの足を床の上で揃えたまま、ぱったり横になって寝入っていた。一つに括った銀の髪が、白い布団の上に広がって光を弾く。 トルディは堪えられずに、ふふ、と忍び笑いを漏らした。なるべく静かに洗面所で手を洗う。それから、すぐ隣の戸棚から、毛布を一枚取り出した。そっとエフェリリアに掛けるが、目を覚ます気配はない。トルディは明かりを点けっぱなしにして、抜き足差し足部屋を出た。 「ごゆっくりお寛ぎください」 あどけない背中にそっと呟き、彼女は部屋に鍵を掛けた。 「あれ? 先生、リアはどうしたんですか?」 二階の踊り場で二人を待っていたノアルはきょとんとして、一人で階段を下りてきたトルディに問いかけた。 「部屋よ。寝ちゃった」 トルディはふふ、と笑みを含んで答える。 ノアルがトルディの後に続く形で、二人は階下へ向かった。 「あの子は都を出たのも今日が初めてだし、一日中あたしたちと一緒にいたからね、疲れたんでしょう」 「その言い方、僕たちといると疲れるって言ってるみたいですよ」 「んー、そういう意味じゃないんだけどね。あの子は人といることに慣れていないから」 ノアルは首を傾げた。 「今朝も、リアのことを人見知りだって仰ってましたね。先生は、リアとは古い付き合いなんですか?」 「そうね。あれが九年前だから……」 『九年前』という言葉を聞いて、ノアルの表情が翳った。だがすぐに、何気なく会話を続ける。 「じゃあ、僕が先生とお会いしてからと、同じくらいなんですね」 そこで一階に着いた二人は、橙色の灯りに照らされた食堂へ向かった。なんとか空いたテーブルを見つけて座る。周囲で食事を楽しむ人々の中に、彼らのような、いかにも旅人といった姿はほとんどない。 「あの子に初めて会ったのは、ノアルに会ったすぐ後よ。知り合った理由が同じだからね」 トルディはさらりと言った。ノアルは、眺めていたメニューを取り落としそうになる。 「へ?」 「何よ。食べる物は決めた?」 トルディはわざとらしくとぼけてみせる。この食堂の料理を食べ慣れている彼女は、既に何を頼むか決めてあった。 ノアルが、彼にしては珍しく、少し厳しい顔になる。 「先生、あの事故に関しては、あんまりふざけてほしくないです」 「ふざけたつもりはないんだけどね。お腹がすいちゃったのよ」 トルディは肩をすくめる。ノアルはため息をつくと、給仕に向かって大きく手を上げた。 「すみません!」 幸い、一人の給仕がすぐに気づいてくれた。 「はいはい、ご注文ですか?」 めいめい料理を頼み、給仕が去ってから、ノアルは話を戻した。 「リアも、九年前のあの事故に関係が?」 「そこらへん、いずれ説明しなくちゃとは思ってるんだけどね……。ねえノアル、今日一日あの子を見てて、どう思った?」 「どうって……」 ノアルは少し困った顔になる。 「先生の仰ったとおり、人と接することに慣れてないんだな、とは思いました」 朝からひたすら三人で歩き続けていたのに、交わした会話はごく僅かで、それも素っ気ないほどに短かった。 話すことを疎んじていたようには見えない。ただ少し困ったような、難しい顔をしていただけで。 「何を考えているのか分からない、とは少し違うんですが……話している時も、あんまり表情を動かさないですよね。たぶん、意図的に」 ふんふんと頷きながら、トルディはノアルの顔に鋭い視線を向けた。ノアルはぴりりとした緊張を微かに感じる。何事も見逃さないこの鋭い視線を目にするたびに、この人が天才と呼ばれる科学者であることを思い知る。 「そのくらいです、僕が言えるのは。まだ今日知り合ったばかりですし」 「そうね、ありがと」 トルディのまなざしが、常のものに戻る。ノアルはそっと、身体から力を抜いた。途端に空腹が切なく訴えてくる。思わず厨房の方に目を遣るが、こちらに料理を運ぼうとする人影は見えない。 あ、と呟いて、 「リアの夕ご飯はどうするんですか?」 ノアルはトルディの方をふりむいた。 「うーん。あの子、ひょっとして朝まで起きないんじゃないかしらね。いや、靴も脱いでなかったから、さすがにそれはまずいか。しょうがない、一度起こそう。せめてちゃんとした姿勢で横にならないと、疲れが残るわ。やっぱりもう一泊取っておくべきだったかしらね」 ひとり言がどんどん別の方向へ逸れていく。ノアルは仕方なく声を掛けた。 「先生、結局夕ご飯は?」 「ん? 夕ご飯って……あ、そうだったそうだった」 「今そのこと考えてたんじゃないですか!」 ノアルががくりと肩を落としたところで、二人の食事が運ばれてきた。彼は勢いよく再び顔を上げる。皿がテーブルに置かれるやいなや、手を合わせた。 「いただきます!」 「いただきます」 「それで先生、リアの分は?」 ノアルは匙で芋のミルク煮を掬いながら、もう一度訊いた。 ミルク豆という白い豆を煮溶かして漉したものを、ミルクと呼ぶ。獣の乳ではない。街の中に家畜を飼育できる場所はなく、森は人の領域ではないから、家畜は存在しないのだ。 「ノアルって意外としつこいのね。初めて知ったわ」 ノアルは口の中の物を咀嚼しながら、じとっとした視線を送った。トルディは反省する気のない悪戯っ子のように首を竦める。 「はいはい。ま、あの子はたぶん起きないわ。起きたとしても、精神的には丈夫じゃないから、食欲を覚えるかは分からないわね。体力は案外あるのに。あんな生活とは思えないくらいよ」 「先生」 ノアルは、今度は咎める調子ではなく、不思議そうに呼ばわった。 「何?」 トルディは、丸い堅焼きパンをちぎる手を止め、ノアルを見つめかえす。 「先生は、どうしてリアを『あの子』って呼ぶんですか?」 トルディが無言で先を促したので、ノアルは説明した。 「先生がいつからリアをご存じなのかを訊いた理由は、これが気になったからなんです。先生は九年も前からリアをご存じなのに、なかなか名前で呼ばないですよね。今みたいにリア本人がいなければ余計に、です」 トルディは息をついて、くるりと自分のスープをかき混ぜた。小さく呟く。 「話、逸らせたと思ってたんだけど」 ノアルは怪訝な顔をする。トルディはノアルに視線を戻した。 「あたしが、あの……リアをあんまり名前で呼ばないのは、習慣みたいなものなの。色々……ってほど色々ではないんだけど、まあ、ちょっとあってね。でも、名前を呼ぶのを避けているのではないわ」 こくりと頷くノアに、トルディは軽く頭を下げた。 「リアについては隠し事ばかりね。ごめん」 「先生に謝られても、僕の方が困りますよ。訳があるんですよね」 ノアルは自分のパンを細かくちぎって、全てミルク煮の中に入れた。ぐるぐると匙で混ぜる。それを一口含んで、明るく笑んだ。 「いつか教えてくださいね、先生」 →顔なし少女のユートピア (3) 顔なし少女のユートピア (1)←
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顔なし少女のユートピア →顔なし少女のユートピア (2) 第一章 こんもりと茂った緑の木々に隠れるように、その建物は建っていた。丸屋根が特徴的で、一角が温室のように玻璃作りになっている。随所にさりげなく紅(くれない)の装飾があしらわれ、それが外壁の白によく映えていた。 この地を統べる〈水の姫君〉の寝所、紅(こう)宮である。 その入り口に、木々の間を縫う石畳を辿って、三人の侍従を連れた少女が現れた。流れるような長い銀の髪を垂らし、控えめな桃色の礼装を纏っている。 彼女はそれを窓の中から見て取ると、ペンを置いた。彼女が処理する書類の多くは、直筆の印を必要とする重要なものなのだ。 ほどなく、りんと鈴に似た音が響く。机の端に取り付けられた小さな機械に明かりが灯り、取り次ぎの侍従の顔が画面に映し出された。 「春の君、雪の君がいらっしゃいました」 「通せ」 春の君と呼ばれた彼女は、短く指示すると、椅子に背を預けて目を閉じた。歳は七十を越して顔に皺を刻んでいるが、厳しい面持ちは老いの衰えを感じさせない。 机は『く』の字形に配置されている。壁に向いた方にはディスプレイが設置してあるが、もう一方は書き物用で、正面に部屋の扉が見えた。 彼女が〈水の姫君〉の地位に就いてから、果たして何年が経っただろうか。かつて春の陽光に喩えられた淡い金の髪は、すっかり白髪と化している。だが桜色の瞳がもつ鋭さは、今も昔も変わらなかった。 ノックの音で、春の君は目を開いた。 「失礼いたします、春の君」 十五の少女のものとは思えぬ静かな声とともに、銀の髪の少女が入室してきた。完璧な仕草で礼をしたのち、じっと春の君の言葉を待つ。 春の君はため息を押し殺して、雪の君と呼ばれている目の前の少女を見やった。慎み深く伏せられた目は、まるで桃色の宝石のように生気を宿さない。 春の君は低い声で切り出した。 「先日、青病みを治せるかもしれぬという物質が発見された」 少女の銀の髪が微かに揺れた。 「それは都よりも遥か南方で採取せねばならぬものであり、また効果のほども定かではない。だが、薬を作ることができる可能性は、ある。 よって、そなたに命ずる。我らが〈水〉一族に巣食う病を治すべく、薬となるというそれを、都に持ち帰れ」 少女は初めて顔を上げた。 「なぜわたくしに」 疑問を発しながら、人形のように整った顔には何の表情も浮かべられていない。 「我が娘でありそなたの母である、冬の君をも死に至らしめた病じゃ。そなたが絶つのが筋というもの」 春の君はひらりと手を振った。 「安心せよ、そなた一人では行かせぬ。そなたも、いずれは〈水の姫君〉となる大切な身じゃ。旅にはイーラと、その助手が同行する」 天才と称される若き科学者、トルディ=イーラの名は、少女にも馴染みのあるものだ。 とはいえ、と春の君は、少女をちらりと見た。 「己を〈水〉一族の者と、吹聴してまわるのは考えものだの。旅の間は、雪の君の呼び名は捨て、ただの娘となるように」 「畏まりまして」 春の君の意図を測ることを放棄しているように、少女はあっさり受け入れた。 「下がれ」 疲れの滲んだ声で命ずると、少女はすぐに退室する。春の君は、今度は堪えずに息をついた。誰にも聞こえない声で呟く。 「……幸運を祈るぞ、我が孫」 ここ二、三十年ほどの間、〈水〉一族、それも、〈水の姫君〉継承権を持つ者のみが罹っている病がある。 〈水〉一族直系の者は、紅が混じった色の瞳を持つ。その瞳が、段々と青味がかって視力を失い、衰弱死するという病である。よって青病みと名づけられた。 めったに発病することはないものの、一度罹れば治す術はない。遅くとも半年で死に至る。 だが母は、厳密には、青病みで亡くなったのではない。 少女は、頭の奥に痛みが走る記憶を、吐息と共に空(くう)に散らした。薄青の布地を張った肘掛け椅子に身を沈める。何も感じないように、心も同時にどこかへ沈めた。 このあたりがきっと、陰で『氷の君』と囁かれている所以なのだろう。冷たく、硬く、色もない。 「雪の君」 侍女が呼ばわった。 「エスト執政官さまがお会いしたいと」 その名を聞いて、沈めていた心が少しだけ顔を覗かせた。 「通せ」 すぐに、五十過ぎくらいの小柄な女性が現れた。執政官を務めるロクサンドラ=エストだ。地位に見合う高価な青い服に身を包んで微笑を湛えている様は、少女よりもよほど、薄青を基調にしたこの部屋の主にふさわしかった。艶やかな黒い髷(まげ)を、大きな窓から射し込む日が照らしている。 少女は向かいの椅子に座るよう、ロクサンドラに手で示した。 「春の君に召されなさったそうですね、雪の君」 「ロクサンドラは耳が早い。当のわたしが、つい先ほど緋宮に戻ったばかりだというのに」 少女が暮らすのは次期〈水の姫君〉のための建物で、緋宮という。ロクサンドラは一層笑んだ。 「お誉めいただき光栄ですわ」 侍女が、二人の間の小卓に茶器を並べる。ロクサンドラは優雅にカップを口元に運んでから、小首を傾げた。 「して、どのようなご用向きでしたの?」 わざわざ私的な場である紅宮に呼び出されて告げられたのだ。おいそれと他言できるものではない。だが少女は口を開いた。 ロクサンドラはかつて、よく冬の君を訪ねており、冬の君が亡くなったのちも何くれとなくその娘の様子を気に掛けていた。今の少女にとって、もっとも母という概念に近いのがロクサンドラの存在だった。 「青病みを治せるという物質を、採取してこいと仰せだ」 まあ、とロクサンドラは黒い瞳を丸くした。 「そんなものが見つかったんですか?」 少女はこくりと頷く。ロクサンドラは眉を顰めた。 「しかし、なぜ雪の君に……」 「わたしにもわからない」 少女もカップを手に取る。紅茶の芳(かぐわ)しい香りが鼻をくすぐった。 「すぐ近くで手に入るのですか?」 「いや。随分南方にあるという話だ」 口に出しても実感は湧かない。少女は、高い塀に囲まれた都から出たことさえなかった。少女にとっての都の外とは、本の中にあるものだった。 「春の君には春の君のお考えがあるのでしょうけれど……やはり少々心配ですね」 ロクサンドラは、少女に温かく微笑みかけた。 「ご無理はなさいませんよう。お帰りを待っておりますわ」 春の君は同行者としてトルディの名を挙げていたが、実際には彼女が主導権を握ることになるのだろう。ならば出立の日を訊かなければならない。 そう考え、トルディに連絡を取ろうとしたところで、折よく当人が訪ねてきた。 「春の君から聞いたって?」 勧められる前に椅子に腰を下ろしながら、トルディは繕うことのない調子で言った。 「もう知っていたのか。ディーにしては珍しい」 最初に会った時からトルディは少女に、自分のことはディーと呼ぶように、と伝えていた。 トルディはかぶりを振った。短く切りそろえた黒髪が、頭の動きに合わせて揺れる。 普段の彼女は研究三昧で、俗世の話にとんと疎い。そしてたまに思い出して、少女を訪ねてくる。理由はわからない。 友やきょうだいというものがいたら、こんな感じなのだろうか。 「エスト執政官が、研究所に来たのよ。あんなに着飾った人間を所内で見たのは初めてだわ。『くれぐれも雪の君を頼みます』だってよ」 「そうか」 「あの人、所に来る前にここに来ていたんでしょ?」 「なぜそうと?」 「発案と出発の間の、こんな微妙な時期にそんなことを言ってきたのよ? ついさっき知って、飛んで来たんだろうと想像がつくわよ。それに、朝からお茶が出ている」 トルディは小卓の上を指した。ロクサンドラの分の茶器は既に下げてあったが、少女はまだ飲みかけだった。そこに侍女が、トルディのための茶器を新たに運んできた。 少女はカップと取り上げた。茶は温くなっている。 さて、と、トルディは背筋を伸ばした。 「出発は一週間後。旅に必要な装備なんてあなたにはわからないだろうから、あとで一覧にして届けるわ。荷作りは端から端まで見届けること。どこに何が入っているのか、自分でわかるようにね」 トルディが一息入れたところで、少女は口を開いた。 「ディーが青病みの研究をしているとは思わなかった」 「あら。なぜ?」 トルディは緑の瞳に悪戯っぽい光を浮かべて少女を見つめる。 「青病みは今のところ、〈水〉一族の者しか発病していない。だから青病みの研究は、〈水〉一族のためのものと言える。ディーはそういうものを好まない」 少女は淀みなく答えた。トルディはその通り、とため息をついた。 「実は、若いうちはこつこつ実績を積め! って、じいさん学者たちに押しつけられちゃったのよ。雑用は若僧の仕事、ってわけ。あーあ、あたしはあんな頑固老人にはなりませんように。ま、あなたにとっては、旅仲間が知り合いで幸運かな?」 トルディは少女のことを、雪の君と呼ばない。だが〈水の姫君〉を継承する少女の名を知るはずもなく、適当な二人称で通していた。 「旅仲間といえば、ディーには助手がいたのか」 「あら、あたしが助手を取ったのって結構前よ? ま、それは会ってみてのお楽しみってことで」 くいっと茶を飲み干すと、じゃあ、あたし帰るわ、とトルディは席を立った。少女は頷いて、トルディの後姿を見送った。 →顔なし少女のユートピア (2)
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洋吟 を奏でる手を止めて 少女は軽やかに裾を翻した 音の消えた部屋に靴音が響く 少女の差し出した指の先には紳士が一人 『私と一曲いかがでしょう?』 言葉で踊る 一対一の真剣勝負 仮面舞踏会 はもう終わり 皆の前で 優劣 を競いましょう 上辺だけの会釈を交わして 次の瞬間に二人は床を鳴らした 袖に隠した剣を抜き放ち 息を呑む紳士の腕をすり抜け仮面を弾く (できればここは間奏長め/何の注文/ぇ) 踏み込む一歩 少女は顔色を変えず 切っ先を彼の喉元に突きつけた... 刹那に凍る 場を流れる刻が止まる それを溶かすのは観客の拍手だけ... 動かない少女 動かない紳士 静寂を裂くのは誰の決意? 震える腕(かいな) 本当は剣など持たず 洋吟 と歌っていたかった... されど不条理 何故剣は授けられた? 誰かに守られ咲く花になりたい... 動かない少女 彫像のように 吐息も忘れて審判を待つ... 早く終わらせて 張り詰めた鼓動 泣きそうに永い悪夢と踊る... Shall we dance? 優しいその言葉を待ち侘びながら... 洋吟=クラヴィーア=ピアノ 一対一の真剣勝負=ゾツィアルタンツ=社交ダンス 仮面舞踏会=マスカレード 優劣=白黒 Shall we dance?=ゾレン・ヴィア・タンツェン=Sollen wir tantzen ...back to Project?
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少女は震えていた。 いきなり、見た事のない場所に連れてこられて、殺し合いを命じられて、それに反抗した女の人の首輪が爆発して…… 怖かった。 今まで生きてきた十数年の中でも、一番怖かった。 夢であってほしかった。 だがそれは幻想にすぎなかった。 目から溢れる涙が頬を伝う感触、恐怖心で震える指の先が腕に食い込む痛み、流れる風の冷たさ。 その全てが今起きている事が現実であると、容赦なく少女につきつける。 「こなちゃん……ゆきちゃん………お姉ちゃん………」 拭っても拭っても、目から溢れる涙は止まらない。 ただ、怖い。 それしか考えられない。 いつの間にか手元にあったデイパックを抱きしめ、少女――柊つかさは震えていた。 と、その時大きな音を立てて扉が開かれた。 びくん、とつかさの体が硬直する。 「誰かいるんですか?」 若い男の声だった。 自分と同い年ぐらいだろうか? だが恐怖に硬直するつかさにはその姿を確認することはできない。 コツ、コツと段々足音が近づいてくる。 それがつかさの恐怖心を煽り、震えを加速させる。 私――ここで死んじゃうの? そんなのは、いや。 でも…身体が動いてくれない。 目からさらに涙があふれていく。 「誰かいたら返事をしてください。僕はこの殺し合いに乗る気はありません。」 え――? 意外な言葉に、つかさの涙が一旦止まる。 震えも少しおさまり、そっと隠れていた祭壇からちょっと顔を出そうとした。 だがずっと座っていたためしびれていた足では急に動くことはできず…… どんがらがっちゃん!! 盛大な音を立てて、つかさはすっ転んだ。 「…あの、大丈夫ですか?」 転んだ痛みにまた泣きそうになる顔で声のした方を向くと、そこには青い学ランを着た若い男が心配そうな顔で手を差し伸べていた。 【C-5教会/1日目朝】 【柊つかさ@らき☆すた】 [状態]やや泣き疲れ、転んだ傷が痛む [装備]なし [道具]基本支給品一式(アイテム未確認) [思考]1:…痛い。 2:この人は……? [備考]高校三年生時からの参戦 【竹科辰美@ブシドーブレード弐】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式(アイテム未確認) [思考]1:目の前の少女を保護 2:空蝉と合流したい 002 静寂を斬り裂く悲鳴 投下順 004 Scar Faces 002 静寂を斬り裂く悲鳴 時系列順 004 Scar Faces GAME START 柊つかさ 022 アフロヘアーに悪い奴はいない GAME START 竹科辰美 022 アフロヘアーに悪い奴はいない
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ALLHAZARD PARANOIA/アルハザード・パラノイア ◆EAUCq9p8Q. ☆ 昔々、仲の良い親子が居た。 というのが、この物語の始まりだ。 母の名前はプレシア・テスタロッサ。 娘の名前はアリシア・テスタロッサ。 二人はとても仲の良い親子だった。 永遠の別れが来るその日までは。 アリシアは事故に巻き込まれて死んでしまった。 プレシアはその事故の全責任を負わされて、世界からはじき出されてしまった。 全てを失い、それでもアリシア取り戻したかったプレシアは、神にもすがる思いで奇跡にすがった。 時を遡る魔術を調べた。 死者を蘇らせる魔術を調べた。 因果を従わせる魔術を調べた。 病に冒され日に日に弱っていく身体に鞭打ち、ただひたすらに、そんな馬鹿げた魔術について調べ続けた。 心の何処かでそんな都合のいい魔術なんて存在しないと理解しながら、来る日も来る日も、学術書から神話伝承まで紐解き続けた。 当然どんな文献にも残っていない。 ただ、お伽話の中にだけ、そんな夢みたいな世界のことが書いてあった。 楽園の名は、『アルハザード』と言った。 すがる思いでお伽話を読み込む。 しかし、当然のようになんの成果も得られない。 読み返した回数が二桁を超えた頃、プレシアはその童話に記された世界について既視感を覚えた。 その世界と似た世界を描いた絵本があったはずだ。 確か、アリシアの寝物語として読んだのだ。 アリシアが、「夢に絵本のキャラが出てきたんだよ」とはしゃいでいたから、暫くの間はその本を読み続けていたはずだ。 それは確か、異世界の童話だった。 魔術師ではなくもっと可愛らしい存在を描いた話だった。 その二つだけを手がかりに、図書館にこもり、アリシアに読み聞かせた本を1つずつ読み返し。 そして、見つけた。 それは遥か遠くの次元に伝わる、夢のなかに入り込む魔法少女『ねむりん』の物語。 彼女の作り上げた理想郷は、遠く離れたプレシアの世界に伝わる楽園『アルハザード』と性質が酷似していた。 それから、プレシアは手をつくして似た世界がないのかを徹底的に調べあげ、そして一つの事実にたどり着いた。 数多の時空に存在している数々の世界において、ほぼ同一の声質を持つ概念世界が確認されているという事実に。 あるいは、妖魔蠢く世界の裏側、『異界』。 あるいは、莫大な魔力の眠る海、『半物質世界』。 あるいは、夢と現の狭間に住む鬼の懐、『鬼時間』。 あるいは、禁忌を犯した者の至る場所、『真理の扉』。 あるいは、誰かの記した物語の最果て、『曖昧な都』。 あるいは、一人の少女が開いた理想郷、『ねむりんの世界』。 あるいは、オヒガンにそびえる伏魔殿、『キンカク・テンプル』。 『どこにでもあり』、『誰かには入ることができ』。 『あらゆる異質が肯定され』『常識を超える奇跡が起こり』。 そして、『どこにもない』、『誰にでもは到達できない』という矛盾した世界。 きっと、プレシアの世界に伝わる伝承では、その世界のことをアルハザードと呼んでいたのだ。 それは、世界を覆しかねない真理との邂逅。 誰もが夢のうちに置いてきた理想郷の全貌。 埃をかぶっていた童話の奥底に眠る真実に、光があたった瞬間だった。 ◇ 『アルハザード』への到達。童話にしか残らない世界への侵入。 場所も、条件も分からない、 だからプレシアは用意した。彼女なりの答えを。 アルハザードに近づくために用意されたのは、『楽園のかけら』とでも呼ぶべき参加者たち。 彼らの持つ楽園の記憶がこの舞台の上で失われ、魂として・英霊の魔力として、交わることのなかった異世界と混ざり合う。 複数の楽園が一つに交じり合うことで、聖杯とともに、様々な異世界の繋がった仮想楽園『アルハザード』が、聖杯とはまた別の『少女聖杯』とでも言うべき願望器が、この聖杯戦争の地に現れる。 扉を開けるための鍵は、彼女の知識に従うならば『ロストロギア』と呼ぶべき魔力たち。 この地に呼びだされ予選を勝ち抜いた二十一の(宝具ながらに英霊と同格というイレギュラーである偽アサシンを除けば二十の)英霊たち。 そのうちの十四の魔力を用いることで、現れたアルハザードの扉を無理やり開く。 選ばれたものでしか通れぬ門を、魔力と奇跡によってこじ開ける。 残りの七つは対面を取り繕うために用意した『報酬』だ。従来の聖杯戦争通り、優勝者が好きに使えばいい。 娘のために用意した器、『ローゼンメイデン』。 この地に呼び出された少女たちの魂が極限まで輝いた時、その『少女の魂』は薔薇乙女の欠けている完璧な乙女の器を満たす生け贄となる。 その魂を集め、完璧な乙女とし、異世界に眠るアリシアの魂をその乙女の中に蘇らせる。 そして、眠り続けるアリシアの身体に魂を込める。 生存競争を生き残った『完璧な少女』はいらない。 生き残ろうとして途中で夢やぶれた『不完全な少女』が必要なのだ。 優勝者は、願いを持って、どこへなりとも行けばいい。 そしてプレシアと選ばれた少女が天国へとたどり着くための地獄、『聖杯戦争』。 少女たちの輝く素敵なものをより輝かせるための舞台。 殺し合い、奪い合い、生き残りをかけて戦い合うことで、この地に集った魂はその輝きを増す。 殺し合いが進むことで残された少女たちの魂は、磨き上げられ、歪な形のまま『完璧な少女』へと近づいていく。 少女たちの夢は、アルハザードを引き寄せ。 少女たちの絶望が、不完全な少女の器を完全へと押し上げる。 邪魔させない準備も整えた。 異世界の技術である、街ひとつ分を覆い尽くし中の者を逃がさない球体結界。 そこにプレシアの持つ全ての知識と技術を注ぎ込んで改良を施した。 負担は大きいが、それでも誰かに気づかれることや、破られることはない。 二十四時間という時間制限もプレシアが内部から魔力供給を続けることで克服した。 この地、この聖杯戦争は、誰にも気づかれず、誰にも邪魔されない。 サーヴァントとの魔力パスを持っている以上、マスターたちはぬけ出すことができない。 結界の原理に気づいた参加者がサーヴァントとの契約を切って逃げ出そうとすれば、ルーラーが直ちに彼女たちをnのフィールドに引きずり込み、魂を奪い、白い薔薇の苗床に変える。 これでようやく、アリシアを呼び戻すための『舞台』は整った。 ◇ 集められた異世界の資料の中に、こんな歌があった。 ―――女の子って何で出来ているの? 女の子って何で出来ているの? 砂糖とスパイス。 それと素敵な何か。 そういうものでできてるよ。 少女を構成する砂糖は『魂』。 少女を輝かせるスパイスは『戦争』で。 少女に命を吹き込む素敵な何かは『楽園』だ。 三つを揃え、少女を生み出す。 もう一度、アリシアをこの世界に呼び戻す。 「もう少しよ」 「もう少しで、『約束の地』へたどり着く」 「だから」 二度、咳をする。 口に添えた手のひらは、赤く濡れていた。 「もう少しだけ……待っていてね、アリシア」 ★ 無数の少女たちは、楽園を夢見た。 一人ぼっちの大人は、楽園を目指した。 この舞台に上げられた少女、英霊、有象無象の危険な妄執の根源は。 少女たちが生まれるはるか昔、物語に空白を穿てなかった悲しい大人の、楽園への妄執。 ALLHAZARD PARANOIA/アルハザード・パラノイア ★ [備考] ※プレシアは『プロジェクトF.A.T.E』に参加していない平行世界からの参戦です。 ※『楽園』の逸話を持つ参加者が死ぬたびに、舞台の楽園濃度が上がっていきます。 ※舞台を区切る壁として球体結界(@魔法少女育成計画)を改良したものが貼られています。 魔力を持つものは出入りができず、触れれば魔力の量に応じて魔力を奪われ、無理に抜けようとすれば最悪死にます。 ※何事もなければ優勝者は約束通り聖杯に願いを届けることができます。 【???】
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405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/05/28(土) 19 19 55.93 ID iCrXxG7kO [11/22] せっけんの香りのするボクっ娘 男「……ん?」スンスン 女「なんだよタカシ。クンクンするなよ、気持ち悪いな」 男「いや、なんかお前いい匂いするなと思って」 女「当然でしょ? ボクは毎朝、牛乳せっけんで洗顔して来てるんだから!」 男「そこで洗顔料を使わないところが非常にお前らしいよ」 女「それは野暮ったいって意味なのかな、うん?」 男「素朴だって言いたいんですよ。だからそんな怖い顔しないで」 女「ふん、誰がなんと言おうと、ボクは牛乳せっけんが好きなんだもん!」プィッ 男「うん。俺も牛乳せっけんの匂い……いや、梓の匂いが好きだな」 女「えー? なんかやだなぁ、それ。タカシって匂いフェチ?」 男「違うわ! 俺は梓の乳臭い匂いが童心に帰れて好きなの!」 女「ボクが乳臭いだってぇ!? それならタカシは爺臭いじゃん!」 男「俺はピッチピチの若者じゃい。どこが爺臭いか言ってみやがれ」 女「ボク知ってるんだぞ。タカシは冬場の寒い時期になると、五本指ソックス愛用してるって!」 男「な、なんでお前がそれを!?」 女「タカシんちのおばさんに教えてもらったんだよ。あーやだやだ、タカシの方から加齢臭がしてきそう」 男「うるさい、お前だってバックプリントにくまさんのパンツを未だに愛用してるクセに」 女「な、なんでタカシがそんなこと知ってるんだよ!?」 男「さーて、なんでですかねー」 女「タカシが人のぱんつを盗み見るような変態だとは思わなかったよ!」 男「おい、人聞きの悪いこと言ってんじゃねーぞ」 ……以下、小一時間ほど無意味な口論。 407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/05/28(土) 19 34 52.09 ID iCrXxG7kO [12/22] 椿油の香りのする纏さん 男「……」スンスン、スンスン 纏「なんじゃ、鬱陶しい。そんなに顔を近づけるでない」 男「ごめんごめん。なんか纏の方からいい匂いがしてきたからさ」 纏「匂い……あぁ、今日は髪に椿油をつけてきたからかの」 男「また珍しいことを。どうしたんだ?」 纏「父方の祖母から昨日送られてきての。母上が儂にも使えと譲ってくれた故、つけてみたのじゃ」 男「へぇ……いいな、椿油って。初めて嗅ぐけど、下手な香水より好きかもしれん」 纏「儂も、椿油の匂いは好きじゃ。日本人に生まれて良かったと思うわい」 男「こうしてると、なんか纏が椿の花の精霊にでもなったみたいだな」 纏「ずいぶん気障な言い方をしよる。ならば主は、花についた悪い虫じゃな」 男「虫かよ。なんかもっとマシなのはなかったのか?」 纏「そう言うでない。儂もたまには、悪い虫にたぶらかされてみようかと思うておるところなのじゃから」 男「そりゃあまた、酔狂なこって」 纏「初夏に咲く椿が、酔狂でないはずがあるものかえ?」 男「格好いい言い回しだな。さすが纏だぜ」 纏「ふふん。虫に誉められたところで、嬉しくなぞないわい」 男「俺はあくまでも虫ですか、そうですか」 422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/05/28(土) 20 13 37.42 ID iCrXxG7kO [15/22] お菓子の香りのする尊さん 男「おいーす」ガチャッ 尊「!!」ババッ 男「あれ? 尊、お前一人か?」 尊「あ、あぁ。他の生徒会の連中は、所用で出かけていったぞ」 男「ふーん。てことは今から尊と二人きりか。なんか面白いハプニングでも起きないかな」 尊「私が冷静でいる限り何も起こらないから、そう思え」 男「なんだ、つまんね……ん?」スンスン 尊「どうした?」 男「なんか甘い匂いしないか?」 尊「(ギクッ)そ、そうか? 貴様の気のせいだろう」 男「いや、するぞ。特に尊の方から強く匂うような……」 尊「よ、よせ。来るな馬鹿!」 男「あっ。お前、机の下に何隠してるんだよ」 尊「……キャラメルだ。文句あるか?」 男「学校に菓子類の持ち込みはしちゃいけないんだぞ?」 尊「それくらい分かってる!」 男「普段素行のいい尊が、こんな地味な校則違反をしでかすなんて……」 尊「地味って言うな! 私だって、お菓子の一つや二つ持ち歩くんだぞ!?」 男「そんなキレなくても……じゃあ、黙っててやるからキャラメル一個くれよ」 尊「……ふん」ポィッ 男「ん、サンキュ」パクッ 尊「……」 男「なんかこうしてると、隠れて悪さしてたガキの頃みたいだな」 尊「私は昔から悪さなんかしなかったから共感できん」 男「でも、今なら出来るだろ? お菓子大好きな尊ちゃん?」 尊「ちゃん付けで呼ぶな!」 男「ははは……あー、キャラメルうめー」 尊「……」ブスッ 429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/05/28(土) 20 50 43.46 ID iCrXxG7kO [17/22] 汗の匂いのするいいんちょ 男「うあー、あぢー……」 女「うるさいですよ、別府くん。作業に集中して下さい」 男「だってー、こうじめじめじめじめしてると、やる気なくなるよ……」 女「別府くんのやる気が無いのは、いつものことでしょうに」 男「こうまで暑いと本当にダレるよなぁ。服も汗ばんで気持ち悪いし」 女「確かに私も、梅雨はあまり好きではないですが」 男「ま、女の子の服が汗ばむのは大歓迎ですがね。ふひひ」 女「そういうことを、女の子自身の前で言うから別府くんはモテないんです」 男「いいもん。いいんちょ以外に好かれなくても平気だもん」 女「言いながら隣に座らないで下さい。暑苦しい」 男「でも、女の子からほんのり漂う体臭が好きなのって、俺だけじゃないと思うんだ」 女「そんなニッチなフェチズムを力説しないで。正直軽く引きますよ?」 男「例えば、いいんちょの体から仄かに立ち上る汗の香りとか、素晴らしいと思う」 女「私は臭くありません。失礼ですよ、別府くん!」 男「汗臭いのとは違うんだよ。なんつーか、美味しそうな匂いというか」 女「知りません! 早く席に戻って、作業して下さい!」 男「あーい。全くいいんちょはお堅いんだから……」 女「……」クンクン、クンクン 男「いいんちょ。今さら匂い気にしなくても」 女「し、してませんっ!!」 436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/05/28(土) 21 19 07.59 ID iCrXxG7kO [19/22] 赤ちゃんの匂いのするかつみさん 女「赤ん坊ってさ、可愛いよな」 男「……どうしたんだ、かつみ。熱でもあるのか?」 女「ちげーよ……最近、兄貴夫婦がこっちに遊びに来てさ。俺も赤ん坊あやしたりしたんだよ」 男「なるほど。それで母性本能に目覚めたと」 女「なんつーか、手荒に扱ったらすぐに壊れちまいそうなクセに、ほにゃほにゃ笑ったりして可愛いんだよ」 男「かつみのそんな顔、初めて見るな」 女「お前も一度抱っこしてみろって。人生変わるから」 男「体育会系で乱暴者のかつみにそこまで言わすかね。すごいなぁ」 女「うるせぇ、乱暴は余計だ」 男「だからなのかね。なんかかつみから、赤ちゃんみたいな匂いするんだけど」 女「えっ?……そうか?」クンクン 男「何なんだろうなこれ。甘ったるいというか、なんか一種独特な」 女「あー、天花粉の匂いかねぇ?」 男「天花粉?」 女「ベビーパウダーのことだよ。そんくらい知っとけ無知無芸」 男「お前……そんな口悪いと母親になんかなれないぞ」 女「うるせぇよ。自分のガキより、まずはパパを躾てやらんと駄目だろーが」 男「その理論で行くと、俺がお前のパパになるな」 女「あっ……い、今のは単なる言葉の綾だからな!?」 男「まぁ俺も、良いパパになれるよう頑張りますわー」ハハハ 女「高笑いすんな! ムカつく!」 440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/05/28(土) 21 40 34.62 ID iCrXxG7kO [20/22] 機械油の匂いのするちなみさん 女「……」カチャカチャ 男「おーす。何してんだちなみ」 女「……あ……タカシ……」 男「遊びに来たらガレージの方にいるって聞いたんでな。でも、マジで何してんだ?」 女「……見ての通り……バイクの点検……」 男「お前、そんなでかいバイクどうするつもりだ」 女「……お父さんが……高校卒業したら……くれるっていうから……」 男「乗るのか、そいつに。まず引き起こしとか絶対出来ないだろ、お前」 女「……それはおいおい……覚えればいいの……」 男「ふーん。顔真っ黒にしちゃって、そんなに楽しいか?」 女「……機械いじりは……女の浪漫……」 男「それは男の浪漫だろ。まぁ確かに俺も、機械油の匂いとか嫌いじゃないけど」 女「……中免取ったら……タカシも後ろに……乗せてあげる……」 男「そりゃありがたい。けど女の子の後ろってこっ恥ずかしいな」 女「……私がタカシを……どこにでも連れてってあげるの……」 男「そいつぁ楽しみだ」 女「……ふふ」 男「けどまずは、そのでかいバイクに乗って足がつくようにならなきゃな」 女「……そこに気づくな……馬鹿たれ……」 ここから599スレ 139 名前:【代行スレ549】 1/2[sage] 投稿日:2011/05/30(月) 02 14 14.62 ID Z478F38F0 [2/9] 昨日の匂いシリーズの続き 焼き魚の匂いのするかなみさん 男「あ」 女「ん?」 男「お前、朝飯魚だったろ」 女「なんでそんなこと分かるのよ?」 男「服から焼き魚の匂いがすんだよ」 女「あんた、鼻が良すぎでしょ。そんなの普通の人には分からないわよ」 男「いやいや、焼き魚の匂いって落ちにくいからな」スンスン 女「嗅ぐな、変態」パコッ 140 名前:【代行スレ549】 2/2[sage] 投稿日:2011/05/30(月) 02 16 32.82 ID Z478F38F0 [3/9] 男「あいてっ…」 女「あーあ、ファブリーズでもしてくれば良かった」 男「体操服に着替えたらどうだ? そしたら匂いは回避できるぞ」 女「嫌よ。なんであんたしか分からないような匂いを気にして、一日ジャージで過ごさなきゃいけないのよ?」 男「いいじゃんかよ。持ってきてないなら俺の貸そうか?」 女「え? た、タカシのジャージ?」 男「おう。サイズはちょっと大きいだろうけど」 女「……。い、要りません! なんで私があんたのジャージなんか借りなきゃいけないの?」 男「なんか一瞬間が空いたような」 女「空いてないっ!」 158 名前:匂いシリーズの続き [] 投稿日:2011/05/30(月) 08 50 51.63 ID MrJ5o5MbO [4/14] 大人の匂いのするリナさん 女「こんばんは、タカシ」 男「あれ、リナ。どうした?」 女「別に、どうもしませんわよ。ただ無性にあなたの間抜け面が見たくてしょうがなくなりましたの」 男「会いたかったならそう素直に言えばいいのに」 女「せっかくこんな時間に会いに来てあげたというのに、その言い方はなんですの?」 男「はいはい。まぁ上がれよ」 女「お邪魔して差し上げます」 男「無躾な挨拶だな」 女「……」 男「……」 男「……で?お前何しにきたんだよ」 女「……何か気付きませんこと?」 男「は?」 女「私の違いに、何か気付かないのかと聞いているんです」 男「違い…? いつもと何か違ってるとこあるか?」 女「にぶちんですわね……匂いが違いますでしょう、匂いが」 男「ん……(スンスン)あ、本当だ。仄かに香水の匂いがする」 女「シャネルの五番ですわよ。庶民のタカシには一生涯縁のないものですわね」 男「はぁ。で、それを自慢したいがためにわざわざ家まで来たのか?」 女「自慢じゃありません!……ほら、何か私に言いたいことがあるでしょう?」 男「え? えーと……いい匂いだね?」 女「違います!」 男「似合ってるよ、もなんか違うしなぁ」 女「もう宜しいですわ。タカシなんかに期待した私が間違っていました」ハァ 男「そんな落胆するなよ……」 女(……マリリン・モンローみたいだねって、言って欲しかったんですのに) 206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/05/30(月) 19 37 12.60 ID MrJ5o5MbO [11/14] ソースの匂いのするいずみさん 女「~♪ 出来たでー、タカシー」 男「お、今日の夕飯はお好み焼きか」 女「そやで。おかわりもいっぱい用意したからな?」 男「いい匂いだ。ソースの匂いって男の子だよな」 女「出た、井之頭五郎! ってうちにしか分からんボケかますな」 男「ノリツッコミとは流石だな、いずみ」 女「馬鹿やってんと、はよ食べ」 男「はーい。でもさ、個人的にソースの匂いって、男の子の匂いと言うよりいずみの匂いなんだよな」 女「なんなん、それ? うちが関西もんだからって馬鹿にしてるん?」 男「違う違う。おたふくソースって関東じゃあんまり見ないから、いずみのイメージで固まっちゃったんだよ」 女「まぁね。東のソースじゃうちの味は出せませんし?」 男「粉もの作らせたら日本一だな、いずみは」 女「粉もんだけかい!」 男「違うのか?」 女「気ぃきかんなぁ。『いずみの作る料理はなんでも美味しいよ』くらい言えへんの?」 男「あ、ご飯冷める。早く食っちまわないと」 女「って、なんでやねん!」ビシッ 男「……夫婦間でボケ殺しが通じるのって、俺んちぐらいだろうな」 女「そやな」パクパク 209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/05/30(月) 20 08 10.92 ID MrJ5o5MbO [12/14] 日だまりの匂いのする友ちゃん 山田「……あ」 友「……」スゥ 山「友ちゃん、中庭で寝てたら先生に怒られるよ」 友「クゥ…クゥ…」 山「起きないや……まいっか、昼休みくらい」 友「……」 山「……友ちゃん。隣座るね」ペタン 友「……」 山「学校でこんなことしたら怒るけど、寝てるからいいよね」ナデナデ 友「……」ピクッ 山「友ちゃんの頭、いい匂いだなぁ。日だまりの匂いがする」 友「……」 山「ずっとこのままでいられればいいのに。ね、友ちゃん?」 友「……///」ポッ 山「あれ? もしかして友ちゃん、起きてる?」 友「……寝てます」 山「起きてるね? 絶対起きてるよね?」 友「……山田が恥ずかしい台詞を言っていたので目が覚めた」 山「やっぱり聞かれてたんだ」ポリポリ 友「……ナンパヤロー。キザなんだから、本当に」 山「そのナンパヤローの袖をつかんで離さないのは、どこのどなただろうか」 友「……うるさい」ギュッ
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果てしない夜空がどこまでも続く。 星灯りが足元の水面に夜空を映す。 遮るものは何もなく、空と水面は、水平線の彼方まで伸びていた。 いつからそこにいたのだろうか。 そんな暗く静かな世界に少女が立っていた。 暗闇に包まれた世界とは対照的に、少女の姿は白く、まるで空から落ちてきた星の様だった。 少女はただそこに立ち空を眺めていた。 少女は何も言わない。 その表情は無機質で、ともすれば人形と見紛う美しさと不気味さが混ざり合う。 「……。」 少女が何かを小さく呟く。 けれどその言葉は風にかき消され、少女のマフラーが静かに靡くだけだった。