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■アリス3 703 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 14 16 24 [ .IDGnam. ] だれかアリスといっしょの後日談書いてくれないかな… 704 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 14 27 03 [ 889dF94o ] いいだしっぺの法則ってのを知っているかい? 710 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 22 55 02 [ bqIsA/Uk ] 703 後日談。 「なぁ」 「なに?」 結局、俺は幻想郷に住んでいる。 アリスと一つ屋根の下、という暮らしにはもう慣れた。 が、彼女達の「弾幕ごっこ」はどうも俺の範疇を超えている。 輝石で盾を形作ることは出来るようになったけどまだまだ。だから…。 「空が飛びたい」 「…空を飛びたい?」 アリスは椅子に深く座りなおして珈琲を一口。 カップを傾ける時に目を瞑る癖が本当に可愛らしい。 「駄目か?」 「う~ん…」 「無理か?」 「…無理ね」 そう。俺は魔法が使えない。 輝石はそれ自体が優れたマジックアイテムだから俺にも使えるそうだ。 「ほら、箒とか、どうよ?」 「…アレは日々の修練の賜物。 それに魔理沙の箒自体は何の魔力も持ってないわ。 形から入るとイメージしやすいから使っているだけよ」 「…むむ」 「貴方の輝石と同じ。想えば想うだけ強くなる」 「…箒に力は無いんじゃなかったか?」 「解ってるじゃない。箒は『イメージすること』を助ける為のシンボルね」 「…むむ」 「解ってないのが解りやすい」 「さっき『解ってるじゃない』って…」 「解ってるかどうかが解らないってことは、結局解ってないのよ」 「…むむ」 アリスは口元に指を添えて楽しそうに笑った。可愛いぜコンチクショウ。 こっちに来てからはずっと彼女にからかわれっぱなしだ。嫌じゃないが。 「ふふ、えっと…そう。空を飛ぶのよね」 「やっぱ無理かな?」 「無理な訳ないわ。ヤル気も十分だし、先生は優秀だし」 「お、お願いします先生」 わざとらしくテーブルに両手をついて頭を下げる。 見えないが、アリスが笑ったのが解る。そう…俺にはちゃんと解る。 ふとアリスの手が俺の頬に触れた。頭を上げると目の前に彼女の顔…。 「先生とキスできる?」 「……は?」 アリス先生、ちょっとお顔がマジですよ。 そういうお顔はかなりグッと来ますよ先生。 『してやったり』って表情が隠しきれてないですよ先生。 まぁ何が言いたいかって言うと急展開についていけないけどキスは出来るよせん 「んっ…」 「ぅをふ」 空を飛ぶってそういう意味ではなくてですね先生ちょっと姿勢が姿勢なんでなんか卑猥ですよ先生少しだけ珈琲の味と香りがしましたよ先生いつもより大人っぽく見えてどきどきですよ先生…。 ――――――― (Y) ,,..-ー7" `ヽー- ..,, /,,.-ー "´ ̄ ̄`゙ー- 、ヽ、 / "i´ |l⌒ヽ、__,ノ´⌒l| ヽ ., l ,.ゝ 、r-、__!r-、__,r-i_ノ_,.イ l , `γ´ ハ λ ハ ゝ r "i ヽ; i レイ._,.レハノ.,_レヽノ i ン ノレ´ .i.-─ ─-i. | 7 从" ¬. ".从 i ちょっと危うくなってきたから 〈./ ri.>r---,.イレ ヽ 〉 続きはスキマの向こうでやってね? __ハ/⌒iイヽニンYー 、 ハイ { 全く、女の子に手玉に取られてどうするの…。 -=ニ ̄ ヽゝ、ノY rー -、ノ  ̄ニ=-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー " ̄ ̄ ̄ ――――――― 711 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 23 15 39 [ bqIsA/Uk ] ――――――― (Y) ,,..-ー7" `ヽー- ..,, /,,.-ー "´ ̄ ̄`゙ー- 、ヽ、 / "i´ |l⌒ヽ、__,ノ´⌒l| ヽ ., l ,.ゝ 、r-、__!r-、__,r-i_ノ_,.イ l , `γ´ ハ λ ハ ゝ r "i ヽ; i レイ._,.レハノ.,_レヽノ i ン ノレ´ .i.-─ ─-i. | 7 从" ¬. ".从 i あらごめんなさい。早とちりだったみたい。 〈./ ri.>r---,.イレ ヽ 〉 お姉さんったら少しだけ勘違いしちゃったわ。 __ハ/⌒iイヽニンYー 、 ハイ { 健全な続きをどうぞ~。 -=ニ ̄ ヽゝ、ノY rー -、ノ  ̄ニ=-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー " ̄ ̄ ̄ ――――――― 「んふ…んっ…、…ぷは」 「ふは…えっと…アリス?」 「…これで飛べるかしら?」 「えと、…まぁ」 いやそれはもう今すぐにでも桜花結界を突き抜けて春満開の冥界へと舞い上がれそうな気分です先生!! 「『悪魔の口づけ』よ」 「…え?」 「ほら」 「ううををを!!?」 アリスが促すように軽くあごを動かすと、俺の身体は急に少しだけ宙に浮かんだ。 驚いた俺は思わず頬に添えてあるままの彼女の手を握ってしまう。 「自分で動けそう?」 「いやっ、あの、そのっ、アリスっ?」 「ちょっとだけ私の魔力を貸したの。まっすぐまっすぐ」 「待て待て待て手を離さないでってばばばばば!!」 「大丈夫。決して落ちると思わないことよ。私を信じて、ね?」 「いやそれは勿論大丈夫ですけどこれはそのなんというか」 「理屈は後。貴方なら出来る。信じてるわ。それ、いち、にの、さんっ」 「おをーっ!?」 落ちる!と思っちゃいけない!浮け!浮く!浮いたッ!! 手をバタつかせれば落ちずに空中でバランスが取れる。 気が付けば椅子の背の上数十センチ離れたところに立ってるぜ…。 これは感動する。 「…どう?」 「とってもおどろいてびっくりです」 「上々ね。ゆっくり降りてこれる?」 「うぅ~むむむ」 少しずつ高度が下がる。アリスは立ち上がって俺に手を差し伸べてくれた。 背伸びしたアリスの手を握れるまであと十五センチ!十センチ!七センチ! 「よしっ!」 「うおっ!」 アリス は ジャンプ して おれ の て を つかんだ 。 しかし おれ は その て を つよく にぎり かえして ひっぱり あげる ! 「ひゃぁ!」 久しぶりに聞いたアリスの可愛い悲鳴。 アリスは驚いて俺に抱きつこうとしたがギリギリのところで堪えた。 「っと」 もう片方の手も取ってアリスを俺と同じ高さまで優しくエスコートする。 ふはは!決まったぜ、完璧に決まった!今の俺はカッコいいぞ! 「すごいじゃない!…まぁ出来ると思ってたけど、さ」 「うわははは!俺とアリスの愛のパワーがあればこのくらい」 「浮いただけよ?」 「…ハッ!」 少しくらいノってきてくれてもいいじゃないかアリス。 それが悔しいから抱き寄せる。そして嬉しいから強く抱き締める。 「ひゃ…」 「俺、飛べるようになれるかな?」 立っている高さが同じでも、アリスのほうが頭ひとつ分低い。 目を合わせようとするとどうしても見上げられる形になる。 「キスだけじゃ無理ね…」 「へ?」 「形式だけだけど、これは一種の取引だから」 「…むむ?」 「魂と魂の契約。与え、捧げ、尽くし、尽くす」 「…解りやすく」 「そうね…そう。愛のパワー。本当に、そうよ」 「…そうなのか?」 「そう。だから…もっと」 「もっと、って…」 「大丈夫。信じて…」 アリスはそう言って、静かに目を瞑った。 4スレ目 703-704 710-711 ─────────────────────────────────────────────────────────── 後日談が止まらない…。続きを投下だぜ。 「無理のし過ぎね」 「悪い…」 身体が重たい。けど頭はどこかふわふわしていてとっても変な感じだ。 俺は半日以上ぶっ続けで飛び回った挙句、倒れてアリスの介抱を受けている。 「…ううん。無理をさせたのは私よ」 「いや、そんなことは…」 「いいの。私の所為にしてゆっくり休んで頂戴」 「心配させてごめん…」 「ふふふ。何だか色っぽい」 「…色っぽい?」 ひんやりとした手が俺の額に触れる。指先がそのまま頬を伝い、手の甲が首筋に触れる。 アリスは曖昧に笑うと、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。どうしてか、少し嬉しそうだ。 「目病み女と風邪引き男、ってやつよ」 「…?」 「まだボーっとする?」 「少し…かなり」 「もう一晩ね…。ゆっくり休むこと」 「うん…」 頬にまたひやり、とアリスの手が触れる。アリスは屈み込んで俺の額に軽くキスをした。 落ち着く。彼女の優しさがゆっくりと身体に浸透するようだ。静かに意識が遠退いて…。 そして静かに目が覚めた。どのくらい寝ていただろう…。 身体は依然重たいまま。けど指先や腕は動くようになっているみたいだ。 「アリス?」 「…ん」 何の気なしに呼んだつもりが、俺の胸の上から返事が返ってきた。 …寝てる。可愛い。…身体は起こせないか。勿体無い。抱きしめられないじゃないか。 「…アリス?」 「…うん」 アリスはふっと満足そうに笑った。綺麗でしなやかな手は布団を軽く握っている。 俺の夢を見ているなら…、いや、そうでなくても、この幸せそうな眠り姫は起こすまい。 「ありがとうな…」 髪を撫でると、アリスは小さく悶えて喉を鳴らした。 蜂蜜に黄金を溶かしたような金色の髪。細く引かれた形のいい眉。 整った目鼻のライン、桜色に染まった頬、小さな薄い唇…。 もういつから彼女のことが好きだったのかは思い出せない。 あの森で出会う前は他人だったなんて、もう絶対信じられないな…。 …俺がアリスを守れるようになってやる。アリスがいつまでも俺を信じられるように。 そう思うと腹の底に暖かいものが湧いてくる。彼女のためになら、何でも出来る力が…。 「あぁっ!」 「おわっ」 と、不意にアリスが跳ね起きた。それはもう凄い勢いで。 勢いあまって椅子の背もたれに背中をぶつけ、そのまま身を固めて動かない。 「あ、…あれ?」 「…おはよう」 「あ…うん。おはよ…」 俺の顔を見てパチクリと瞬きをするアリス。急に手を伸ばしてぺたぺたと俺に触れた。 アリスはいろんな感情が入り混じった複雑な顔をしている。…夢の中で何があったんだ。 「…どうした」 「えっと、えと…」 「深呼吸深呼吸」 手を握ってやると、かなり強く握り返してきた。 アリスは俺の手を胸元に当てて、ゆっくりと息を吸って、大きく溜息をついた。 「何の夢を見たんだろ…」 「それは俺が聞きたい」 「凄い変な感じ…」 アリスは両手で、俺の手を何度も握ったり擦ったりしながらキョロキョロしている。 「大丈夫か?」 「……うん」 やっと目が合った。じー、っと、何かを探すように俺の目を覗き込んでくる。 握られた手の指でゆっくり手の甲を撫でてあげると、アリスが徐々に脱力するのがわかった。 「何があった?」 「…契約の副作用かな」 「それって?」 「○○が弱ってるからだよ…」 「俺のせい?」 「私のせい…」 どうも要領を得ない。俺の理解力が乏しいだけかもしれないが。 「大丈夫か?」 もう一度尋ねると、アリスはゆるゆると首を振った。 「待って…」 「待つさ」 また、アリスの手に力がこもる。きゅう、という音が聞こえてきそうだ。 「体、もう動く?」 「まだあんまり…」 と、思ったが、俺の身体は全く抵抗なく普通に起き上がった。 さっきまで腕がようやく動かせる程度だったのが嘘のようだ。 アリスは小さく溜息をついて、握っていた手の力を緩めた。 まだ理解が出来ていない俺の姿を見てやっと安心したらしい。…失礼だな。 「なるほどね」 「どういうことだ…?」 「さっき、私のこと強く意識した?」 「さっきって?」 「私が…起きた時、私のこと考えてた?」 「えっと…まぁ、はい」 「そう。…不思議なこともあるのね」 「…説明よろしく」 「私の魔力が貴方に流れ込んだのよ、きっと」 「…どうして?」 「早く元気になって、って私が願ったからかな」 「そこで俺が、アリスのことを強く想ったから?」 「きっと…私の力になりたい、とか、願ったんでしょう?」 「いや、…いや、そのまんまだな。当たってます」 「やっぱりね。よかったぁ…」 そう言うと、アリスは大きく背伸びをした。 手を握ったままだったせいで、俺は引っぱられて体が傾く。 危うくベッドから落ちそうになったところで、横っ腹にアリスが抱きついてきた。 「おぉぅ?」 「素敵…」 アリスは俺の胸に頭をぐりぐりと摺り寄せてくる。…よく解らないが幸せ。 「アリス?」 「何だか疲れちゃったわ」 「あ、そうか。魔力が…」 「いいのよ。そんな瑣末なこと」 「でもなぁ、結局アリスが…」 そうだ。アリスは俺のために自分の魔力を削った。 俺の方が遠慮してたはずなのに…。これじゃあ意味がないじゃないか。 「それじゃあ、ここで眠ってもいい?」 顔を上げたアリスの瞳は潤んでいた。そんなことでいいのか…。 何故かアリスはすこぶる嬉しそうなんだ。俺、何かしたかな? 「あぁ…それは勿論」 「手、握っててね」 「…おういえ」 こんなことでいいんだろうか。 毎度毎度迷惑をかけてばかり…。人間ってのは無力だな。 「はぁ…大好き…」 …まぁいいか。そんな瑣末なことは。 今は彼女の側にいてあげるだけだ。 この埋め合わせはいつか必ずするよ。 おやすみ、アリス。 4スレ目 738-739 ─────────────────────────────────────────────────────────── 740 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/29(土) 15 32 43 [ Cb3GsBLE ] 問題:『文中でアリスが非常に喜んだ理由を簡潔に述べなさい』 すまぬ、アリスの頭の回転が速すぎてよく解らない可能性大。 というか解らないと思うので気になったら訊いてね…。ちゃんと答えます。 寝ぼけたり慌てたり弱ったりするアリスかぁいいよぅ!…ごめんなさい精進します。 741 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/29(土) 17 37 40 [ VATAaZm. ] なに?それはつまり、 アリスが何がそんなに嬉しいのか判るように、 顔を真っ赤にして、わたわたしながらも語ってくれるのか!? そ れ は す ご い ! (ひゅ~ん…)←人形 750 名前: 後日談2 - 3/2 投稿日: 2006/07/29(土) 23 32 26 [ Cb3GsBLE ] 741 「そのっ、ほら、『魂と魂の契約』って言ったでしょ? それのことよ。 両者の魂同士の了解のうちに契約内で魔力の給与が行われたってこと。 はぁ…、これくらい解って欲しいわ。二人とも、口に出して魔力の取引を宣言した訳じゃないでしょう? つまり、私たちの両方が心の底から同じことを同じように強く望んだ、って意味で…。 何が嬉しかったかっていうとその…、貴方が私のことを想ってくれてるのは勿論だし、何より私が…、 …あー! もう! 怒るわ! 解ってるくせに! これ以上言わせると本当に怒るわよ! 全く。…大バカ」 4スレ目 740-741 750 ─────────────────────────────────────────────────────────── 戦利品を抱え、鬱蒼とした森の中を歩く。 別に世の中を悲観して森の奥で…というワケではない。ある所に届けものをする為に、である。 やがて、森の中に静かに佇む小さな一軒家が見えてきた。見慣れた扉を開け中に入る。 「こんちわっす。今日は面白い物を仕入れてきたぞ」 「…あらいらっしゃい。見せて貰えるかしら」 声の主はアリス・マーガトロイド。この家に住む人形遣いで魔女である。 しかし今日はどうも表情が渋い。はてどうしたのやら、と思っていると奥から別の声。 「おぅお前さんか、お久し振り」 「やぁ魔理沙。お邪魔してたのか」 声の主は霧雨魔理沙、同じ森に住む白黒魔砲使い。おそらくまたアリス宅に強引に押し掛けてお茶でもせがみに来たんだろう。 とにかくこの二名が顔を合わせると大概何かが起きる。以前似たような状況になった時は弾幕ごっこが勃発し、とばっちりを受けて危うくMy魂魄が吹き飛ぶところだったことがある。 その時は幸いにも竹林に住む某医師が色々とヤバい治療(通称「ドクターえーりんの密室個人授業(はぁと」)をしてくれたお陰で、たった一つしかない魂魄を繋ぎ止めることができた。 生きてるって素晴らしい。ありがとう先生!ボク、頑張って生きてくよ! …とまぁそんな凄惨な過去は二百由旬の彼方に放り投げ、持ち込んだ荷物を開き反物を取り上げる。 「なんでも、クモの糸を魔力を込めて織り上げたって話だ。クモの糸は頑強だから、人形の素地とかにはいいんじゃないかな、と思ってな」 …魔力の込められた布はそれ自体が優れた魔力媒体として機能する。 例えばグリモワール等といった魔導書の表紙が紙でなく布なのも、本を媒体に魔法を行使する時に色々便利だかららしい、という話を人づてに聞いた覚えがある。 「へぇ、それはまた珍しい物を持ってきたのね…そう、折角だからお茶でも飲んでいかないかしら? さっき茶菓子にクッキーも焼いたし。取り引きはそれが終わってからにしましょ」 「…何だお前、私の時と違って随分気前が良いじゃないか…アレか?愛しのダーリンにはとことん優しく、ってか?」 「無断で手土産一つ持たず人ん家に上がり込むどこぞの野魔砲使いと違って、きっちり等価交換をしてくれる相手なら、物腰が柔らかくなるのは当然じゃなくって?」 「こりゃまた手厳しいことで…」 しれっと受け流すアリスに、これまたしれっと返す魔理沙。いやまぁ彼女のダンナになった、ってつもりはまだないんですが… それでもちゃんとお茶を出している辺り、何だかんだ言って結構気前が良いのかも知れない。多分。 「それはともかくアリス、悪いがクッキーもうちっと焼いてくれないか?」 「…は?私3枚くらいしか口にしてないんだけど?」 「いや…な、美味しかったんで私が全部食べちまった」 ハハ…と笑う魔理沙。机の上には恐らくクッキーが入っていただろうと思われる丸皿が、まっさらな皿地を晒して置いてあった。 所々に残るクッキーの欠片が、かつてそれが入っていたということを証明している。 「・・・・・・・・・!」 一刻の後、素晴らしい高さからの踵落としが、白黒の脳天に炸裂した。 お茶と茶菓子を楽しんだ後、魔理沙は手にした魔導書を読み、自分は上海&蓬莱と遊び、アリスは台所でティーセットの片付けに取り掛かった。 魔理沙はまだ時々頭を押さえてはうんうん唸っている。先ほどの一撃が相当効いているらしい。そりゃあ「めきょっ」とか「ぐしゃっ」とか、そんな感じの音がしたからなぁ。 因みに今日は彼女お気に入りの淡い水色の柄だったのだが、それを口にすると自分も魔理沙と同じ目に遭いかねないので黙っておく。 一方自分はシャンホラと「忠吉さんごっこ」で遊んでいた。言葉は拙いものの、その挙動は人間のそれと殆んど変わりない。 以前あまりにも可愛かったのでちょっとイタズラをしようとしたら、そのことがアリスに漏れて手酷く吊し上げられたことがある。迂濶に手は出さないようにしよう。 アリスはエプロンを身に付け、カップを拭いている。棚に並んでいるカップの数から察するに、どうも片付けは粗方終わっているらしい。 …と、その後姿を眺めていると、自分の脳裏にある「悪戯」が浮かんできた。 自分がとても小さい頃友達同士でよくやっていたものだ。それが、今になって何故か頭の中にむくむくと現れてきたのだ。 腰掛けていたソファーを立ち、台所に入る。 「なぁ、アリスー」 「ん?何かしら」 呼び掛けに無防備に振り返ったアリス。今こそ好機!千載一遇のチャンス!! ぺろん 「ぅひゃう!?」 振り返った彼女の頬を、ぺろっ、と舐めてやった。可愛らしい悲鳴を上げて目を丸くするアリス。あまりにも予想した通りの反応に、笑みが止まらない。 しかし「ぅひゃう」ですってなんて可愛らしい声だこと。それにあのびっくりした表情。それだけでもう自分結界越えて冥界まですっ飛んでしまいそうですようはうはうは… …と、既に気持ちだけは既に彼方へ飛んでっていると… れろっ 「ぅをっ!?」 自分の頬をなぞる異様な感触に、思わず間抜けな声が出る。 視線を正面にやると、そこには「してやったり」というアリスの表情が。 …その瞬間、自分の中の大切な「何か」が音を立てて崩れていった。 …それから後はもう目も当てられない状況になった。 元々自分もアリスも負けず嫌いなところがあったのかも知れない。こちらが舐めれば、アリスも舐め返す、子どもレベルの低次元な争いが果てしなく続いた。 童心に還る、と表せば聞こえは良いかも知れないが、これはその域を超えた、もはや「幼児退行」と言っても差し支えない程度である。 しかし… 「ふぁッ!」 「ひうッ!」 「んひッ!」 「みゃん!」 …頬を舌でなぞる度に上がるアリスの可愛らしい悲鳴に、自分の悪心が徐々に頭をもたげていく。 そして遂に我慢できなくなった俺は、頬を舐める…と見せかけて 「ひぁッ…!?」 彼女の唇をなぞった。さて反撃がくる、そう思ってすぐに身構える…が 「…あぁれ?」 …反撃がこない。不思議に思い目を向けると、驚いた表情のまま凍り付いているアリスの顔があった。 不意打ちを受けて思考が止まっている、そんな感じがした。…これはひょっとして… もう一度、唇をなぞる 「んぁ…ッ」 先程とは違う、艶を帯びた声が漏れる。…と、彼女の顔が一気に朱に染まっていく。 「バ…ババババカバカバカバカバカバカァッッ!!なななんであんなことするのよおッ!びっくりしちゃったじゃない!」 「スマンスマンスマン!!俺の出来心だったんだ!許してくれ!本当にスマンかったッッ!!」 真っ赤になってまくし立てる彼女にこれまた凄い勢いで謝る自分。と、アリスはすっかり赤くなった顔を伏せて 「…恥ずかしかったんだから…」 と呟いた。その可愛らしさ、いじらしさ。 ぷちん 張詰めていた自分の中の何かが、音を立てて切れてゆく。アリスの肩を掴み、顔を近付ける。 「ちょ…や…やめてよ…恥ずかしいって言ってるでしょ…」 「やだ、やめない」 弱気な抵抗を無視し、再び唇をなぞる…と見せかけ、舌を口の中に差し込んだ。そのまま肩を引き寄せる。 「や…そんな顔近付けないんんっ!んむぅっ!」 驚いた表情のアリス。身体が硬直したその隙に舌を更に奥まで差し込む。驚いたのか、放心したのか、彼女は全く動かない。 それを良いことに、自由に口内を動き回り、隅々まで舐め上げてゆく。 「んむっ、んっ、んーっ…ぷはぁッ!」 「んはッ!はぁ…はぁっ…」 やがて息が切れ、二人の顔が離れた。たっぷりと空気を吸い込み、呼吸を整える。 「はぁっ、はぁっ、んはぁ… …バカァ…」 まだ落ち着かないらしく息を切らせながら、そうなじるアリス。 「悪い…ちょっと、辛抱できなかった…」 「…駄目、許さない…」 「本当に済まない…」 「…いきなりで驚いちゃったから…何もできなかったでしょ…」 「…は?」 何もできない?一体何を…言葉の真意が解らない。そのまま時間だけが流れていく。 やがて、 「…もう、落ち着いたわ。…だから…」 そこまで言い、彼女は顔を上げた。 目が、合う。 「もう一度、やりなおして…」 細い腕が背中にまわる。 「…なんだ、結局最初からしたかったんじゃないか」 それに応えて腰を抱き寄せる。 「…我侭かしら?」 「いえいえ、我侭お嬢様の言うことは何でも聞き届けますよ」 「…何か、嫌な言い方ね」 二人してクスリと笑う。 「だから、もう一回さっきのを、ね…んっ」 再び合わさる、唇。 落ち着いた、と言っていた通り、今度はアリスも用意が出来ていたのか、積極的に舌を絡めてくる。 もっと触れ合いたい、その想いが腰に回した腕に更に力を入れさせる。 「ん…んむ…ちゅ…あむ…ぴちゃ…くちゅ…」 「あむ…ん…ちゅ…ふ…んぁ…ちゅく…」 …耳朶を打つ煽情的な音、同調していく互いの鼓動、理性を蕩けさせる甘い香り。 その全てが自分の感情を昂ぶらせ、衝動となって沸き上がっていく。 もう止まらない、止められない… …どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。 「ん…ぷはぁ!」 「んはっ!はぁ…」 唇が、離れた。つ…と銀の糸がかかり、細くなって消えてゆく。 「はぁ…これで満足か、お嬢様?」 返事の代わりに、アリスはぽふ、と顔を胸に埋めてきた。そのまま顔をぐりぐりと押し付ける。照れ隠しだろうか、その行動がなんとも可愛らしい。 「そっか…さて、悪いけど…」 「ん…?」 顔を上げるアリス。 「…悪いが、もう止められそうにないかも知れない…」 正直、今背中を押されたら転がり落ちていく、そうなるという確信があった。だから尋ねた。最後の堤になるかもという可能性を考えて。 彼女はまた顔を伏せた。沈黙が流れる。一刻の間を置き、再びアリスは顔を上げた。 「いい…わよ…」 受諾の意思。 最後の堤防が崩れた。全ての枷を外され、感情だけが奔り始める。 こちらを見つめる目に、感じる既視感。あの夜、初めて彼女を求めた時と同じ視線。その瞳が、昂ぶりを更に加速させる。 欲しい アリスが欲しいアリスの身体が欲しいアリスの心が欲しいアリスの全てが欲しい 欲しい欲しい欲しい欲しいほしいほしいほしいホシイホシイ すっ…と目が細められる、抱き締める腕に更に力が入る。 もはや、この目にはアリス以外映らない、そんな気がした。 「…楽しそうだな?」 その声が聞こえるまでは。 視界が、開けた。 「!?」「わひっ!?」 思わず悲鳴が上がる。因みにこの可愛らしい悲鳴は、残念ながら自分のものなので悪しからず。 世界が急速に広がっていった。 整然と並べられた食器、同じく綺麗に揃えられた調理器具、焼き物に使うのであろう小さな窯、見覚えのあるテーブル、椅子、そしてアリス… 彼女を抱いたまま、寝起きのような焦点の定まらない思考で、しばらく呆然としていた。 急速に思考が覚醒する。確かに声がかけられた。しかもそれは間違いなく第三者から。 しかしここには俺とアリス以外は居ない。しかも人形はあんなにはっきりと喋らない。じゃあ誰が? ゆっくりと視線を向ける。その先には、 見覚えのある、 帽子を被った、 白黒の人物が立っていた。 「ちょ…な…ままま魔理沙!?どどどうしてアンタがここに居るのよ!?」 凄い勢いでどもるアリス。完全に混乱している。多分自分がどんな体勢になってるのかも分かってない。 「どうしてって…私は端っからここに居たつもりなんだが?」 …あぁそうだね、確かに自分がアリス宅に来た時、魔理沙は自分に挨拶してきたんだよね。 しかも一緒にお茶も飲んでたんだよね。そうだったよね。そうなのかー。わはー。 「しかしまぁ面白いもんを見せて貰ったぜ。人前であれだけのスキンシップができるたぁ、お前ら双方無茶苦茶入れ込んでるんだな」 カカカ、と笑う魔理沙。完全に凍り付く俺とアリス。因みにどこぞの⑨の悪戯ではない、念の為。 「その上それだけじゃ飽き足らずにアレか。これじゃあ、人が居ない時は毎日昼間っからエキサイトしてるんだろうな」 もう全く動けない俺とアリス。なお、某鬼の冥土長の仕業ではない、念の為。 と、魔理沙がニヤリと笑った。さながら新しい悪戯を考え付いた子どもか、或いは悪魔のように。 「これはもう…」 箒を片手に、入り口に向かう。 「…特派員として、逃すワケにゃいかんだろう?」 しゅたっ、と挨拶をして出ていく魔理沙。少しして、箒が飛び立っていく姿が窓から見えた。 「………」 「………」 未だに硬直しきりの二名(なお、体勢はあの時のまま)。と、突然胸の中にあった感覚が消える。 直後、何者かが叫びながら凄いスピードで外に飛び出していく。 「MaaaaaaaaaRiiiiiiiiiSaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」 …何かどす黒いオーラが見えたような気がしたが、気の所為ということにしておこう。 そのまま一人ぽつねんと残されていると、不意に何者かに裾を引っ張られた。 「…ん?どうしたんだ?…」 その後、魔理沙からこの事実を聞いたどこぞの烏天狗により「実録!新婚バカップル(注・結婚してません)の蕩けるような昼下がり!」という記事が大々的にスッパ抜かれ、 (版権的にも)色々ヤバいオーラらしきものを纏ったアリスが夜叉の形相で烏天狗を追い回したとか、 事の一部始終を見ていたシャンホラに同じことをして欲しい(キスだけど)とせがまれたとか、 森の外れに黒一色になった(元)白黒魔法使いが、ボロ雑巾になって倒れていたとかあるのだが、 それはまた別の話。 実録!新婚バカップルの蕩けるような昼下がり(取材・霧雨特派員) …現在幻想郷でも一、二を争うネタの宝庫として当誌が独自に取材を続けている、アリス・マーガトロイドさんとAさん。 この二名の呆れるほどに甘い新婚生活(注・結婚してません)が、霧雨魔理沙特派員の突撃取材によって明らかになった。 霧雨特派員によると、二人は特派員が目の前に居るにも関わらず(検閲)というスキンシップをとり、 更に特派員の目の前で(スキマ維持法抵触)という極めて大胆な行為に及んだという。 霧雨特派員は「人前でアレだから、もし人が居なければもっと凄いことをしてるんじゃねえの?」と話しており、 この場に特派員が居合わせなかった場合は更に(スキマ送り)と思われる。 いずれにしろ、(良質な記事確保の為にも)この二人の仲が続くことを願い、今後の動向に注目したい。 なお、当誌では「実録・バカップルの全て」と称し、この二名について随時特集を組んで紹介する予定である。 霧雨魔理沙特派員の話 いやぁ驚いたぜ、まさか目の前であれだけ大胆なことをするとは。 ありゃあ大体2~3分ぐらい…いや、もっと続けてたんじゃねぇの。 しかも普段はクールで私につっけんどんな態度しか取らないあいつが、だぞ。まぁアレだ、「ゾッコン」ってヤツか(笑) 他人が居てあのザマだ、これで誰も居ないときはそれはもう毎日のように(黒塗り) 今は夜だから間違い無いな…いや、今の二人には朝も昼も夜も関係無いか、ハハハ。 そうそう、この前もな、二人で茶を飲んでるときにな、冗談で首筋にキスマークが残ってるぞ、って言うと、 アイツ真っ赤になって鏡を覗き込むんだぜ。そこから思うに、私はあの二人はもう相当凄い関係になってると見てるがね 4スレ目 829(うpろだ0043) 837 ─────────────────────────────────────────────────────────── 多少の無理は承知の上。やっぱ俺って、不可能を可能に…! くいくいっ。 ソファーに座って外界から落ちてきたという小説を読んでいると、何者かが服を引っ張ってきた。 「アノネー、『チュー』シテホシイー」 「はいはい」 …「あの一件」以来、事の一部始終を見ていた人形がキスをせがんでくる、という嬉しいような困ったようなことが起きていた。 多分この二体は、この行為が何を意味するのか、ということは解っていない。ちょっとした遊び程度に思っているのであろう。 とはいえ、飛び切り可愛らしい人形だ、別に悪い気がするわけでもない。 「で、どこにして欲しいのかな」 「ントネー、ココー」 そう言って右の頬を向ける上海。そかそか、それじゃあ… ちゅっ 「…はい、これでよろしいでしょうか?」 「ウン!」 飛び切りの笑顔で答える上海。こちらもつられてほにゃっと表情を崩す。 と、左腕に何かがぶら下がる感触。 「ホライモ、ホライモー!」 「はいはい、ちょっと待って頂戴ね…」 それを見ていた蓬莱もせがんできた。傍から見ると大の大人が人形と戯れている光景にしか見えない。 もしこれが元居た世界で他人に見られたなら、即日「変態」のレッテルを貼られるだろう。 しかしそんなことは気にならない。実際目の前に居るこの人形は小動物的に可愛いのであるし、第一ここは元居た世界とは違う。 恥も外聞も気にする必要はないのだ。っていうのは大げさか?まぁとにかく… 「で、蓬莱はどうして欲しいのかな?」 「ントネー、ンー」 「うおっ…と」 返答は何かが唇に触れる感触。 「…っと、こりゃ一本取られたな…」 「ズルイー!ホライダケズゥルイー!!」 駄々っ子のようにパタパタ転がる上海。このままじゃケンカになってしまいそうだな… 子どものケンカ、程度のものならまだ御の字なんだろうが、何せ曰くつきの人形である、 下手をすれば流れ弾でこちらの命も危ない。となると手段は一つ。子供だまし、と言われればそれまでかも知れないが。 「はいはい、じゃあ上海にも同じことをしてあげる。これで一緒でしょ?」 「シャンハーイ!」 とたんに駄々っ子を止める上海。現金なものである。 さっきの蓬莱と同じように上海の小さな口にキスをした後、おあいこになるように今度は蓬莱の頬にも軽く口を付ける。 これで双方二回ずつ回数も箇所もイーブン、文句は言えまい。 「よし、これで二人とも一緒、だろ?」 「ウン!」「エヘー」 胸元に飛び込んできたシャンホラ。その頭を優しく撫でてやる。 あーもう可愛いったらありゃあしない。子どもができた親ってこんな感じなのかしら。 と、そんな感慨に浸っているとまたも袖を引っ張られる。振り返ると 「ンー」 ワタシニモシテーとせがんでいる、そんな表情の人形が居た。やれやれ仕方ないなぁ… …って、あれ? 「………」 …見なかったことにしよう。今胸元で甘えている人形、この子らより2~3回りは大きい人形だった。 というか俺とそう変わらないスケールじゃね?つかそもそもアリス宅にそんなでっかい人形なんてなかった筈だし。 そうだ、アレは俺の幻覚だ、そうなんだよ、そういうことにしとこうぜロスター… そう強引に納得し、視線を元に戻す。あー可愛いなぁ~お人形さん… ガッ!!ギリギリギリギリ… 「あぁぁだだだだだだだだだ!!!!ちょ、痛い!ムッチャ痛いんですけどちょっとッ!!」 万力でも使われているのかと思えるくらい、有り得ない力で引き伸ばされる頬。 「…この子らにはすこぶる優しくて、私に対する仕打ちは『アレ』なのかしら…?」 ちょっとアリスさんすんごい笑顔ですよてゆかあまりにも作りものっぽくてむしろ怖いですよその笑み。 「いやいや妖夢!そんな暴力的だとするものもしたくなくなあぁぁだだだだだだだだ割れる割れる割れる!!!!」 「何かしらぁ~?よく聞こえませんでしたわぁ~??」 「ヒギィィィィィィィィィィィッッッ!!!!」 追加注文でアイアンクローも頂戴し、意識が落ちるか否かの境界で徹底的に嬲られる俺。 そんな(さっきまでは)まったりと過ぎてゆく休日の午後。…あ、スズラン畑が見えら… ついに意識を手放した俺が最後に挙げた断末魔は… 「コ、コンパロ~…」 4スレ目 847
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戦う理由/其々の道(前編) ◆sXlrbA8FIo 森の中を疾走する影が一つ。 拳銃を片手に鬼のような形相で走るその影は坂上智代と呼ばれた少女だった。 だが怒りに支配されたその表情は昔の面影など最早残ってはおらず、知人でも一瞬では彼女とわからないほどであった。 ハクオロを殺す為、その仲間を殺す為、彼女はひた走る。 目的はそれだけ、他に考えることは何もない。 だが気持ちとは裏腹に全身を痛みが襲う。 自分が思っている以上に走るだけで体力が消費されていくのがわかった。 (もうじき夜が明けるな) 先急いでこの疲労が溜まっているところに、夜に休息を取った人間が現れたら自分の不利は否めない。 少しでも休息を取るか――と考え足を止めようとしたその時、智代の視界に一つの建物の姿が見えた。 すぐさまバックを広げる、おそらく位置と外見から察するにホテルであろう事がわかった。 (――休めという神の啓示だろうか?) 考えながら智代は自嘲しながら首を振る。 馬鹿馬鹿しい、神なんかいない。 いたとしても自分をこんな所に送り込んだ神なんて崇めやしない。 しかし事実休息を取ろうかと思った矢先に利便な場所に辿り着けたのは幸運なことだ。 同じように考えている人間がいるかもしれないが、見つけたら殺せばいいだけだ。 周囲を確認しながらホテルへとゆっくりと近づいていく。 あたりに人の気配はしない。少なくとも外には誰もいないようだ。 そのまま警戒しながら玄関を潜ろうとして破損が激しいことに気付く。 (これは戦闘跡か……?) とりあえずは注意深く玄関を潜る。 柱に隠れながらホール全体を見渡すが、人の気配は感じられないほど静まり返っていた。 そしてフロントのすぐ横に『STAFF ONLY』と書かれた扉があることに気付く。 その扉の前に立つと銃口は扉に向けたままドアノブを軽く捻り――扉は静かに開かれた。 中には誰もいない。 どうやら事務所として使われている部屋のようだったが、横たわれそうなソファーも置かれていた。 扉は内側から施錠出来るようになっており、小さいが窓もある。 これなら突然襲われる可能性も低い上何かがあっても窓から逃げることも可能であろう。 何から何まで至れり尽くせりな環境に智代は微笑を浮かべると、ソファーへと身体を横たえる。 ハクオロへの怒りをその身に宿したまま、幼き殺人者は一時の休息に身を委ね静かに目を閉じた―― ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 森に入ってからもうかなりの時間が経過していた。 地図に間違いがなければとうの昔に目的地であるホテルに着いてもおかしくないほどの距離を歩いたはずだ。 目の前はランタンの光がか細く照らすのみの暗闇。 山中と言う悪条件が延々と続いている足場。 背中に背負った伊吹風子の亡骸。 そして今までの出来事による精神的疲労。 これら全ての条件が重なり、蓄積した疲労が全身に押しかかり北川の動きを鈍らせていた。 北川自身はまったく気付いていないのだろうが、その歩みの速度は這っているのと遜色ないほど落ちていた。 「――潤、大丈夫? 少し休憩しない?」 隣を歩く梨花が心配そうに眉をひそめながら尋ねる。 梨花の目から見た北川の顔は汗が噴出し、今にも倒れそうなほどに蒼白だった。 「……なんてことねえさ」 体勢を整える様に風子の身体を担ぎなおしながら北川は答えると、平静を装うように歩む速度を速める。 だがその直後、思いついたかのように足をピタリと止めると後ろを振り向きながらはにかみながら言った。 「俺のことは良いから、梨花ちゃんがきつくなったらすぐに言ってくれ。 急ぎたいのは山々だけどそれで倒れでもしたらしょうがないしな」 なんて事を言うのだろう、と北川の表情に梨花は一瞬ドキリとさせられてしまっていた。 「……わかったわ。先を急ぎましょう」 なんとかそう答えながら北川に並ぶように歩幅を合わせ駆け出していた。 幾ら男性で幾ら年上とは言え、今までの事で疲れが出ていないわけがない。 風子を背負っているのだから尚更だ。 自分がこれだけきついのだから北川の疲労はその遙か上を行ってるに違いないはず。 そう思ったからこその発言だったのだが……まさか自分が逆に言われるとは思いもしなかった。 (強がっちゃって……) 梨花の思いも当然のことで。 歩く速度が上がったのはほんの一瞬で、北川自身は気付いていないだろうが速度はまた先程と同じまでに落ちていた。 だが、これ以上は梨花は何も言えなかった。 北川はあくまで梨花を守る立場だと考えている。 自分が弱みを見せてはいけない、安心させてやらなければいけない。 そんな事を考えていると言うことが一瞬でわかる微笑みだった。 彼は似ているのだ。 時折見せる行動がかけがえのない仲間である前原圭一の姿とかぶって見える。 思い返してみれば北川の発言はいつもそうだった。 自分に対しても風子に対しても、自分で全てを背負うと言った傾向が多く取れる。 それはやはり子供として見られているせいだからかもしれない。 だが、もう少し自分を頼ってくれても良いじゃないか。 守られる立場……それはこの島ではどんなに有利なことだろう。 だがわけもわからずこの島に来たときとはもう状況が二点も三点も変わってしまってきている。 守られるんじゃない。肩を並べたい、助けたい。 喜びも、苦しみも、目の前の彼と共有したい。 そんな事を考えながら……それでも北川に対して反論することが出来なかった自分が情けなかった。 ジレンマを抱えながら手に持ったレーダーに視線を移す……と、レーダーの範囲ギリギリに表示された五つの光点の姿が目に映った。 「潤! 止まって!!」 叫びながら反対側の手に持ったランタンの光を消す。 かろうじて見えていた景色が一瞬で闇に染まる。 「反応か?」 「……五つあるわ」 両手のふさがった北川に見えるようにレーダーを彼の顔へと近づけ、そして続けるように言った。 「多分距離的にホテルだと思う。そのうち二つは純一達。残り三つは増えた仲間……って考えるのは楽観的かしらね」 「それだったらどんなに良い事だろうけど……ホテルでもなければ純一たちでもない。まったく知らない奴らが戦闘中って可能性もあるな」 「……よね」 「とは言え俺らには進むしか道はないよな」 北川の言葉に梨花は肯定を示すようにこくりと頷く。 不鮮明な足場を手探りで進みながら一歩一歩進んで行くと、木々の隙間から何か建物らしきものがかすかに見えた。 「梨花ちゃん、あれ!」 「ええ、ホテルで間違いないようね」 言いながら再び光点を見やるが、誰も動いたりしている様子はなさそうで最初の場所から動いてはいない。 ホテルのほうからも戦闘らしき音が聞こえてくることもなく、耳には風の音のみが届いていた。 おそらくは戦闘は起こってないだろう……だがこの光が生命反応でない可能性もあることが、自分らの位置に四つの光があることで示されている。 「パソコン使うか?」 「ダメよ。仮にあの中に純一がいても安全かどうかの百パーセントの保証なんて出来ない。 だったら制限回数があるものを私達だけの判断で使うのはもったいないわ」 自分達にとって最良の賽の目。 それは勿論あそこにいるのが純一たちで残りの三つはその仲間であること。 逆に最悪なのは、四人が殺され殺人者が一人ホテルにいると言う可能性。 パソコンで一人の名前がわかったところでどちらとも言えないのだ。 ここで考えているだけではどうしようもないのもわかっていたから……梨花は小さく声を出した。 「潤。私が中の様子を見てくるわ。安全だとわかるまでここで休んでいて」 「……え?」 梨花の突然の言葉に北川が目を丸くしながら間の抜けた声を上げる。 「何を言ってるんだ、一人じゃ危ないだろ?」 「……そんな身体で、もし誰かに襲われたらなんとかなる? 風子を背負いながら?」 「俺が行くよ。梨花ちゃんはここで風子と一緒に待っててくれ」 きっぱりと告げた北川の提案を否定するように梨花は首を振った。 「私より――」 その先を言うのは思わず躊躇われた。 続けるのは北川の心意気を無駄にしてしまう行為。 だがいつまで私は守られなければいけないのか。 そう思ったら自然と口が開いていた。 「――私より、危ないのはあなたよ……潤」 「……俺?」 「どう見たってふらふらじゃない。そんなんじゃもし襲われたらひとたまりもないに決まってる」 「そんなことないって言ってるだろ?」 「そんなことあるのよ!」 「ないよ!」 「ふらふらな潤が行くより、まだ走れる私が行くほうがいいに決まってる。 もしもの時は武器だってある!」 スプレーと指にはめたヒムイカミの指輪を差し出しながら、怒気を隠そうともせず梨花は言い放っていた。 「私を仲間だと思ってくれるなら……少しは力にならせて」 泣き出しそうな悲しげな表情で訴える梨花に、北川は思わず口ごもってしまう。 「……わかった。甘えるよ」 そう言うと北川は風子の身体を地面に横たえると、自身も地面へと座り込んだ。 「ただし、だ――レーダーは梨花ちゃんが持って行くこと。十分たっても戻ってこなければ俺はすぐ後を追って中に入る。 これは絶対に譲れない条件だ」 「……わかったわ。ありがとう、潤」 ◆ 梨花はそう言い残すと、すぐ戻るし身軽のほうが良いからと自身のバックは潤の元へと置いたまま駆け出していった。 残された北川は風子の顔を撫でながらボンヤリと考えていた。 「仲間だと思ってくれるなら――か」 梨花ちゃんの事を仲間じゃないなんて思ったことは無い。 仲間だからこそ守りたいと考えていた。 でも結果的にそれは梨花との誓いを一方的に履行しているのとなんら変わりないのだと言うことに気付いた。 「あの誓いは俺だけじゃなく梨花ちゃんが俺に対してってのも含まれていたんだよな。 自分だけの力で何とかしようなんて仲間を信用してない証拠じゃないか。 何度同じ間違いを繰り返せばいいんだろうな俺は……」 すれ違い続ける梨花との仲間意識の違いに北川は項垂れていた。 梨花ちゃんを信じよう、仲間の好意に甘えよう。 十分だけ、十分だけ休んだらすぐ行動開始だ。 あの世で見てろよ風子。 俺が本気を出したらどうなるか、驚きのあまり声も出ないこと間違い無しだぜ。 そう考えながら風子の頬を撫でる手がだんだんとゆっくりとなり、気だるさに身を任せるように北川の意識は闇のまた闇へと落ちて行くのだった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 梨花が北川と別れホテルへと向かった頃、ホテルの裏口では小さな音が断続的に響いていた。 音の震源地にはスコップを持つ純一ときぬの姿。 疲れた身体をも厭わずに、二人は無言のまま地面を掘り返していた。 すでに人一人分ぐらいは余裕で入りそうな穴が一つ。 その傍らには先程の戦闘で純一を庇い死んだことり。 一見すればただ眠っているような安らかな表情をしている。 それでも彼女は二度と目覚めることはない。 その眠りを邪魔されることがないように静かに埋葬させたい。 そう考えた純一はホテルに置いてあったスコップを探し出し、きぬにそう提案して今に至っていた。 「なあ純一……」 終始無言だったきぬがぽつりと口を開く。 「ん?」 土を掘り返す手を止め、何事かときぬへと純一は振り返る。 だが呼びかけた当の本人は二の句を告げるのを躊躇していた。 「どうした?」 純一は不思議そうにきぬの顔を見つめるが、きぬは目を合わそうとせず視線は泳がせたままだ。 「呼んでみただけとかだったら続けるぞ?」 そう言って純一は再びスコップを握り締め―― 「あーあーあー、待った待った」 きぬが両手をばたつかせながら純一に駆け寄り、その手を慌てて押さえる。 「えーと……だ。なんだ……その……」 言葉は続けようとしているのだろうが俯き口ごもったままきぬは要領を得ない。 「うん?」 「んと……言いたくなかったり言うのがきつかったら答えなくていいからな」 「わかった」 「その……ことりって純一の事好きだったよな?」 「そう……なのか?」 思いもよらないきぬの質問に純一はポリポリと頭をかきながらお茶を濁すように答える。 「ぜってーそうだって。じゃなきゃ最後にあんな嬉しそうに笑ったり出来ねえって」 「そうか……」 純一は思わずことりのほうに顔を向けていた。 今でも鮮明に思い出されることりの姿。最後の言葉。最後の笑顔。 流しつくしたと思っていた涙が再び押し寄せてきたのがわかった。 だがそこで純一は握られた手がギリギリと締め付けられるのに気付き、意識は目の前の少女へと戻される。 身体を震わせながら……きぬが言葉を続けた。 「純一は……純一は……ことりの事好きだったか?」 「なんだよ急に」 「いいから!」 その強い口調に適当にお茶を濁すような返事は出来ない義務感に駆られる。 何故いきなりこんな質問を投げかけられているのかはわからないが真面目に答えなければいけないように感じた。。 「ああ、好きだったよ」 「――!」 「大事な……大好きな友達だった」 「そ、そか、Likeか。そっかそっか」 「それがどうかしたか?」 「いやなんでもねー、なんでもねーよ!」 いいながら反射的に純一の顔を見やり、当たり前のように二人の視線が交差した。 瞬間、きぬは顔を真っ赤にしながら後ろを振り返ってしまう。 「蟹沢……?」 「ほらあれだ。ボクってば純一の昔の生活の事なんて聞いたことなかったじゃないか。 だからどんなんだろうってちょっと気になっただけ! そんだけだよ! 純一が誰を好きだって関係ないし、それになんも深い意味なんかないんだかんね!! ほら、さっさと続き続き! 早く埋めてやろうぜ!」 きぬは息継ぎもせずにまくしたてたかと思うと、再びスコップを手に取り土を掘り返しだした。 それ以上純一に何かを聞かれるのを拒むようにきぬは一心不乱に土を掬う。 「蟹沢、一つ良いか?」 きぬの勢いに思わず放心状態に陥りながらも、すぐさま我に返りゆっくりその背中へと歩み寄る。 「俺の友達はみんな死んじまった。もう誰もいない。 でも俺は一人じゃない。仲間が出来た。この場にはいないけれど道を同じくしてくれるつぐみや悠人、北川や梨花ちゃんがいる。 そして隣には蟹沢、お前がいる。だから俺は戦える。理想を理想で終わらせるつもりなんかねえ」 そしてきぬの頭に軽く手を乗せて…… 「だから……ありがとうな」 優しい口調で微笑みながらそう告げていた――が 「……くせえ、くせえんだよっ! なんだその歯が浮くような寒い台詞は!? やばい薬でもやってんじゃねーのか!?」 「な……俺はなんとなく元気がないように見えたから励まそうと――」 「あー、うるさいうるさい。聞こえない。ヘタレの声なんて何にも聞こえないもんねー。しっしっ、寄るなヘタレ菌がうつるわっ!」 と顔を真っ赤にしながら暴れていた。 ◆ 「――あの様子だと敵ではないようね……そして死体が一つにこの場にいないつぐみで四つ……か」 純一ときぬの会話の一部始終を見ていた梨花は、レーダーを見ながら隠れるように状況を整理する。 勿論隠れているのにも正当な理由があった。 と言うより最初純一の姿を見かけた瞬間すぐ声をかけるつもりではあったのだ。 だがいざ声をかけようとした瞬間、なにやら二人の間に重い空気が漂い始めたのを感じつい出そびれてしまったのだ。 そして途中から出て行くことも叶わず覗きのような真似をしながら今に至る……と言うわけである。 「あの二人間違いなく状況わかってないわよね……はあ」 あたりを警戒する様子も無く、傍目からはただじゃれあってるようにしか見えないバカップル……。 本当に純一を信じて大丈夫なのかと疑ってしまいそうになりながら、梨花は愚痴をこぼしつつも二人へと声をかけるのだった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 暗闇の中で我輩は考え続ける。 我輩を捕まえてこんなところに押し込んだ二人組はどうやら別行動を取ったらしい。 それを聞いた時は好機かとも思ったがなにやら十分で合流するとか言っておる。 一人になったとしてもたった十分しかない。 ならば無理をして今動いて怪しまれるよりまたしばらく機を伺うか。 そう考えた直後だ。 なにやら外から重苦しい音が聞こえてくる。 グガー……と耳に届くそれは教室でよく聞いたあれと同じだ。 そう、我輩の予想が正しければ外にいる人間は豪快にいびきまで掻いて眠っておる。 何が十分たったら後を追う――か。 まあよほど疲れていたのであろう。それについては是非を問うまい。 それよりもこれは間違いなく千載一遇の好機である。 外には一人、しかも快適に眠っておると見て間違いない。 我輩を邪魔するものは今はいないということだ。 だがあと十分で先程別れた者が帰ってくるであろう、いやホテルが安全だとすぐにわかればそれより早いやもしれん。 なればこそいち早くの行動を。 そうだ、支給品リストを奪いこの場から去るのだ。 そう思った我輩は逸る気持ちを抑えながらバックの入り口と思わしき部分に嘴を寄せる。 待っていてくれ祈よ。 今こそ我輩はこの島から飛び立てる望みを得ることが出来たのだ―― 「む?」 ここではないのか。それでは―― 「……ちょっと待つのだ」 考えたくは無い現実から目を逸らそうと我輩は嘴で内側から突きまくった。 「………………」 数十回それを繰り返し、我輩の中で結論が出た。 認めたくはない。 だがこれが現実なのだから敢えて受け入れよう。 「中からは開かんのか……」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「梨花ちゃん……無事で良かった」 「純一、あなたもね……でも、つぐみは?」 「ああ、つぐみは今もう一人増えた仲間と別行動を取ってるけどあいつも無事だ」 「そう、本当に良かったわ」 他にも仲間が増えた。 これで五つの光点の正体がはっきりとわかり、梨花はようやく緊張を解く。 「それより――」 そこで梨花が一人でいるという事実に純一は焦りの表情を浮かべながら尋ねる。 「まさか、風子だけじゃなく北川もなのか?」 「潤は大丈夫、無茶しすぎだったからすぐそこで無理やり休ませて私がホテルの様子を見に来たの。でも風子は……」 「……い」 「ああ、放送は聞いた。一体あれから何があった?」 よく見れば別れるまで綺麗だった梨花の服は真っ赤な血で染まっている。 「それは……」 「……おーい」 本人にそのつもりは毛頭無いのだろうが、言いづらそうに口ごもる梨花を助けるようにきぬが不機嫌そうな顔で声を上げていた。 「シカトすんなよなー、純一」 「ん、ああ、なんだよ」 「これが前話してた古手梨花か?」 そう尋ねるきぬの言葉に、梨花も思わず尋ね返す。 「そう言えば……彼女は?」 「ああこいつは蟹沢きぬ。梨花ちゃん達と別れてすぐ出会ったんだ。色々合って一緒に行動してる」 「そう。本当に信じても大丈夫? ってあの様子じゃ大丈夫そうだけどね」 「ああ、俺が保障する」 「…ら」 「……こっちも色々合ったわ。この場で一言じゃ語れないことが……」 「……話すのが辛いのはわかってる。でも俺達はお互いに話さなきゃいけないんだ。前に進むために」 「勿論、話さないつもりは無いわ。とりあえずここが安全なら潤を連れて来たいんだけど大丈夫かしら?」 「ああ、と言うか俺も一緒に行くよ。ことり御免、ちょっとだけ待っててくれ」 と、純一が横たわることりに顔を向けた瞬間臀部に衝撃が走る。 「……だーかーらー、ボクをシカトするなってーの!!」 痛みに腰が砕けそうになりながら視線を戻すと、きぬが片足を上げながら憤慨していた。 ◆ 「ボク知らなかったねー。純一が真性のロリコンだったなんてさー」 「だからちげーって」 「ボクの相手するより梨花ちゃんみたいな幼女相手してるほうが楽しいんだろー。もう隠さなくてもいいんじゃね? だいじょぶ、ボクそう言うの偏見無いからさ。あ、でも半径三メートル以内には近づくなよ?」 「蟹沢っ!」 「おーこわっ、梨花ちゃーん。純一が怖いんだよ。なんとか言ってやってくれよ」 「純一。ボクにもちょっと近づかれると困るのですよ。にぱー☆」 「梨花ちゃんまで……」 彼らの能天気さは一体どこから来るのか。 梨花は頭を抱えたくなるのを必死に抑えながら二人を北川の場所へと案内していた。 思わず現実逃避に『古手梨花』を使ってしまうぐらいに。 (でも百貨店での私達もこんな感じだったけどね……) 風子の事が思い出される。 あの頃は本当に平和だった、楽しかった。 殺し合いなんか偽りだと感じるほどのように。 ならばこれはこれでいいのかもしれない。 また何かしらの要因ですぐにでも壊れてしまう儚いものだけど。 それを今度こそ壊さないように皆で守っていこう。 梨花はそう心に誓う。 「――なのに」 目の前の光景にたった今立てた誓いがガラガラと崩されていきそうになる。 「なにが十分で絶対後を追う、よ!!!」 いびきまで掻きながら気持ちよさそうに眠り続ける北川の姿を見て、梨花はその場にへたり込むしか出来なかった……。 ◆ 一向はホテルに戻り、梨花は今まで自分たちの身に起こったことを全て話した。 純一ときぬは聞きながら、やるせない感情に襲われる。 「もう彼にはあの事で立ち止まって欲しくないから。 潤自身の口から話す事で再び後悔の念に駆られる姿なんて見たくなかったから。 お願い二人とも……潤を責めないで欲しいの」 風子の遺体はもうここにはない。 北川に黙って埋めることに抵抗も覚えたが、いつまた危険になるともわからない事を考え ことりの遺体と一緒に純一たちが掘った穴へと埋めてきたのだった。 三人の傍らで未だ夢の世界に旅立っている北川を梨花は悲しげに見つめながら言った。 「責めれねえよ……くそっ!」 夢で見た少女の姿。 少し幼い印象を受けたが梨花の話と照らし合わせると確かにあれは風子に思える。 そして風子の独白と確かに一致していた――だから純一はそれを信じられる。 それはすなわち鷹野の卑劣さへと繋がるのだ。 風子は確かに優勝していた。 仲間が一人、また一人と自分の為に死んでいく望まぬ結果。 あの絶望の絶叫を忘れることなんか出来やしない。 純一の心に沸くのは鷹野に対する激しい憎悪。 (この会話もどうせ聞いてるんだろう、鷹野?) 山頂での件といい、どこまで自分達を弄べば気が済むのか。 思わず後ろにあった壁を殴りつけていた。 「――――なんだ!?」 その音に驚きの声を上げながら北川がようやく永い眠りから目を覚ましていた。 ◆ (塔?) (ああ) 北川も交え純一達の行動を聞く中、出てきたキーワードに北川と梨花の顔がクエスチョンマークに変わる。 (それを見つけた瞬間俺の首輪が点滅を始めた。正直もうダメだとは思ったよ) 鉛筆を走らせる純一の姿を続けて目で追う。 あの山頂での警告を真に取るのであれば口頭で説明していることがバレれば今度こそ爆破されるだろう。 四人は他愛の無い雑談をしてる振りを装いながら現状整理の筆談を進めていた。 (俺らが来るときはそんなもの無かったぞ) (ああ、仕組みはわからないが"見えない"ようになっているらしい。俺らが見つけれたのも鷹野にしてみれば想定外だったんだろうな) (怪しいな……) (ええ警告だったにしろ、それだけで首輪を爆発させようとするなんて何かあるわね、やっぱり) 地図に表示されてない何か、それがやはり存在することが純一たちの話ではっきりとした。 となれば廃坑の入り口もどこかに隠されているのは最早間違いないだろう。 机に広げられている純一の地図をそっと指差し、なぞりながら梨花は言っていた。 「首輪で思い出したけど……風子の死体を埋めたんなら首輪を調べるのはどうするつもりだ?」 唐突に北川が梨花へと尋ねる。 「ああ、あれね……嘘よ。」 「う、うそぉ?」 「潤の覚悟を知りたかっただけ、だってほら首輪ならあるじゃない。鳥の首についてたのが」 いきなりすっとんきょうな声を上げる北川に驚きながら二人に耳を向け、 「鳥!?」 その後に出てきた単語にきぬは驚きを隠せず叫んだ。 「鳥ってまさか……」 同じように純一もその単語へと反応を示している。 「ちょ、ちょっとそれ見せてくれ。ボクの知り合いかもしんねー。」 「知り合いって……鳥が?」 「あー、うん、鳥なんだけど。なんちゅーか、ある意味人間に近いって言うか。 まあ見りゃわかるって!」 「いや見ても鳥だったんだけど……」 意味も良くわからずながらも梨花は自身のバックをきぬへと渡す。 きぬはそのバックを勢いよく開け放ち中へ手を伸ばした―― ◆ 我輩は焦っていた。 蟹沢がいるのは非常に拙い。 自分が無害な畜生であると装う事が、我輩に取っての最大の"あどばんてーじ"である事なのに。 これではばれてしまうではないか。 この状況で引っ張り出されたらもはや喋れると言う事を隠し通すのも不可能であろう。 どうすれば良いのだ、祈よ。 動けない状況では流れに身を任せるしかない。 土永さんはただ不安に怯えながら外の会話を聞き漏らさぬように意識を集中させていた。 だが、聞こえてきた恐るべき発言に土永さんの身は凍りついてしまう。 『――首輪ならあるじゃない。鳥の首についてたのが』 我輩の首輪を取るだと……? それだけはだめだ、なんとか逃げなければ。 でもどうやって。 鞄が開かれた瞬間に飛び立てば……この痛む翼で飛べるのであろうか? 否、無理でも羽ばたかせなければいけない。 外では何かが騒がしいが最早それを聞いていられるほどの余裕は我輩には無かった。 そうしているうちに目の前に眩しい光が押し寄せる。 鞄が開いた――とそう認識したと同時に何者かの手が我輩の身体をがっしりと掴んでしまっている。 そして我輩は間髪いれずにバックの中へと引きずり出されてしまっていた。 急激な光に目の前が真っ白になり、前が良く見えない。 「やっぱり土永さんかよ」 かろうじて耳に届いた蟹沢の声。 つまりこれは蟹沢の手と言うことか……。 我輩は前が見えないのも構わず嘴を勢いよく振り落とした。 「――いてっ!」 我輩の嘴は上手く蟹沢の手に刺さったようだ。 我輩を掴む手から力が抜けたのを確認すると身体を暴れさせ、その手から脱出しようと試みる。 「いてーじゃねーか、なにすんだよっ!」 ボンッと頭を軽い強い衝撃を襲う。 まったく……この娘は加減と言うものを知らんのか。 思わずもう一撃お見舞いしてやろうと嘴を振り上げようとしたところで、我輩の頭に冷たいものが落ちるのを覚えた。 毛並みをたどって嘴まで零れ落ちてきた液体――涙? 曇る視界の中おぼろげに見えた蟹沢の顔からは涙の線が一滴たれ流れていた。 傍らにいるほかの三名は何がなんだかとわからないような表情でそれを眺めていた。 「なんでかなー。わかんないけど涙が出てくんだよね。 鳥相手になにボクってばこんなに喜んじゃってんだろうね、あはは」 「蟹沢……」 もう蟹沢の仲間であったものが佐藤良美を除いて全員死んでいることは知っていた。 しかしまさかそんな事を言われるとは思っても見なかった。 感涙までもされるとも思っていなかった。 土永さんは呆然と目の前の旧友(?)の顔を見つめながら呟いていた。 ◆ 「喋れる鳥とはなあ……わかっちゃいたけどますます俺らの世界とは違うってのが実感できるぜ」 北川が土永さんをまじまじと眺めながら口火を切る。 「ボクたちのとこだって喋れるのなんか土永さんぐらいのもんだよ」 「鳥鳥と、お前ら我輩を馬鹿にしすぎではないのか?」 怒りを示すようにばたつかせる羽根には、北川達が百貨店から持ち出したハンカチが巻かれている。 目の前の鳥が人間の言葉を理解し、話せると言うこと。 そしてきぬとは旧知の仲であると言う事を聞かされた北川と梨花は 撃ってしまったこと、そして首輪を外そうと画策していた事に関して謝罪を入れる。 尤も、鳥相手と言うこともあって訝しげな表情を浮かべたままではあったのだが……。 今までどうしていたと言うきぬの質問に対して土永さんは「どうして良いかわからずただ飛び回って逃げていた」とだけ嘘をついた。 その発言を「まあ鳥だからしょうがないよな」とあっさりと信じられた時は納得がいかない憤りを感じたが (ちと不安ではあるがしばしの盾兼目晦ましな存在にはなってくれるであろう) 無害を装えるのであればそれでいい、と土永さんはそこは触れずに流すことにした。 (話はそれたけど……) と純一が再び鉛筆を握り紙を手に取る。 (ともあれこれからどうするか……だ) (まずパソコンで探したい人物の場所が検索出来るのは大きい。 仲間を集めるのに大いに有利だ。だったらまだ見つかってない知り合いを探すのに良いんじゃないかと思う) (確かに俺も梨花ちゃんも探したい知り合いはいるさ。 でもこれをこんな所で使ってしまっていいのかって疑問が出た。 見つけたいのは山々だ。今この瞬間にも危険な目にあっているかもしれないんだからな。 それでも長い目で見たらまずお前らと合流してから、と言う結論に達した) (……俺も蟹沢も探したい知り合いはすでにこの世にはいない。 こんな辛い思いを経験したから言えるのかもしれないが、使える物は先に使っておくべきだと考えるぜ。 後悔はしてからじゃ遅いんだからな……) (だな、それに俺の方は別に後で構わない) (グダグダ言ってねーでその前原圭一ってのを探しちゃっていいんじゃねーの?) (でもつぐみさんは? 彼女だって武さんを探し出したいはずじゃ――) 「――大事な話の中申し訳ないのだが……我輩とても暇なのである」 土永さんのその発言で四人は思わず目を丸くした。 筆談に集中するあまりカモフラージュの雑談すらするのを忘れていたからだ。 これでは無言の中で土永さんの台詞が不自然に鷹野に聞こえた可能性もある。 「あーあー、そうだな、よしボクとなんかダベってようぜ」 「いや、蟹沢はみなと……」 その先を喋れぬようにきぬは土永さんの口を押さえ込むと乱雑に鉛筆を走らせる。 (だから盗聴されてんだってば! ばれるようなこと言うなっての!) きぬの剣幕に慌てて首を縦に振ると、ようやく手がそこで離された。 「ダベると言っても何を話すと言うのだ?」 「んなことなんでもいいぜ。ってかいつも五月蝿いぐらい喋り捲ってるのに今日の土永さんおとなしすぎるんじゃね?」 「五月蝿いとは失礼な。我輩はお前らの小さな脳みそでも理解できるように、ありがたい説法を聞かせてやっているだけだと言うのに」 「なんだとー!」 「――そんなに怒んなよ、カニ」 「がー、レオの声でそんなこと言うんじゃねえ! ぶち殺すぞこの鳥公!」 人間と鳥の漫才。 呆れた表情を浮かべながら三人はその様子を見つめていたが (あっちは蟹沢に任せてよう。いいカモフラージュだ。俺らも適当に相槌を打っておけばいいさ) 北川の言葉に頷きながら純一も続ける。 (それよりも前原圭一の場所を確認だ。つぐみだってそこまで目くじら立てて怒ることはしないさ) (そうかしら……せめて戻ってからでも……) 悩む梨花の背を押すように北川がパソコンを立ち上げ『現在地検索機能』を起動する。 羅列された名前の一覧の中にあった前原圭一の文字。 それを一回クリックするとカタカタとパソコンが稼動音を上げ、画面には検索中の文字が表示された。 中央のバーが五%、十%と進行情報を示してくれている。 これが百になれば圭一の場所が表示されるんだと直感した梨花の顔に僅かな笑みが浮かんでいた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「人の声――!」 智代は唐突に目を覚ました。 どれくらい眠っていたのかはわからないが、疲れはあまり抜けている様子は無い。 さもすればほんの僅かな時間だったのだろうと考える。 本調子とは到底言えないが、燻る意識の中で自分自身に活を入れながら立ち上がる。 「何者であろうと……この場に居合わせたからには殺す!」 耳障りな笑い声が智代の耳に響く。 何を話しているか内容まではさっぱりわからなかったがその楽しそうな声に苛立ちは隠すことも出来なかった。 誰が何人いるかもわからない状況の中、声のする方角へと慎重に歩を進める。 薄暗いロビーの中、一つの扉の隙間から光が漏れているのがわかった。 そろりと扉に近づくと中の様子を探ろうと耳を当てる。 何人かの声がする。 内容を聞き取ろうと耳に意識を集中させた直後、智代の脳に届いた言葉に持っていた銃を取り落としそうになっていた。 『レオの声でそんなこと言うんじゃねえ』 (今なんと言った? レオ? いや対馬レオはもう死んでいるはずだ。 そうじゃない、その先を思い出せ。中の人間はレオの声だと言った。 土永と呼ばれたと人間がレオの声を使ったと。どう言うことだ? そうだ、それは――) 喜びに身が打ち震え、笑い声が漏れそうになるのを智代は必死に抑える。 自分をこのように変えてしまった原因の一端を担ったもの。 口真似を操る殺人者。 中の会話が本当ならそれが土永と言う者でほぼ間違いは無いだろう。 だが智代にはその名前には聞き覚えがあった。 そう、それはまだ自分がここに来た当初の話。 同じ志を持った一人の少女から知り合いの者の名前を聞いた――その中にいたはずだ。 (それでは何か? 彼女は自身の知る者によってその命を散らされたということなのか?) ――憎い。 (土永ぁぁぁぁぁぁぁっ!) ――憎い憎い憎い。 間髪いれずに湧き上がる不の感情。 ハクオロと比でるほども出来ないほどの憎しみ。 (ただ殺しはしない、今まで生きていたことを後悔するように苦しめてから殺してやる!) その感情に流されるように智代は扉を蹴りつけ、轟音とともに扉が開けはなれた。 178 信じる者、信じない者(Ⅲ) 投下順に読む 179 戦う理由/其々の道(後編) 178 信じる者、信じない者(Ⅲ) 時系列順に読む 179 戦う理由/其々の道(後編) 175 クレイジートレイン/約束(後編) 朝倉純一 179 戦う理由/其々の道(後編) 175 クレイジートレイン/約束(後編) 蟹沢きぬ 179 戦う理由/其々の道(後編) 172 悲しみの傷はまだ、癒える事もなく 北川潤 179 戦う理由/其々の道(後編) 172 悲しみの傷はまだ、癒える事もなく 古手梨花 179 戦う理由/其々の道(後編) 172 悲しみの傷はまだ、癒える事もなく 土永さん 179 戦う理由/其々の道(後編) 174 おとといは兎を見たの きのうは鹿、今日はあなた 坂上智代 179 戦う理由/其々の道(後編)
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登録日:2018/04/05 Thu 20 00 00 更新日:2024/06/14 Fri 00 17 59NEW! 所要時間:約 47 分で読めます ▽タグ一覧 Fateサーヴァントネタ元項目 ⑨ カリスマ リアル三国無双 一騎当千 世界史 中国 中国史 中国史上最強の男 人類最強 伝説の超中国人 傑物 勝てる気がしない 単純一途 史記 呂布の上位互換 四面楚歌 圧倒的な強さ 圧倒的存在感 垓下の戦い 壮絶な最期 大量破壊兵器 天上天下唯我独尊 天命 婦人の仁 常勝の英雄 戦の天才 所要時間30分以上の項目 旧時代を壊すことよりも新時代を築くことの方が遥かに難しい 暴君 暴走 最凶 最強 楚 楚漢戦争 武力100 沐猴にして冠す 無双ゲー 猛将 猪武者 破壊 秦 秦末 英雄 虐殺者 虞姫 虞美人 覇気 覇王 覇者 豪傑 項梁 項籍 項羽 項羽と劉邦 騅 鬼神 項羽とは、中国史の人物である。 なお、「羽」というのは字(あざな)であり、本来の名前は「籍」。 そのため「項籍」と呼ぶのが正しいのだが、本稿では一般に知られている「項羽」の名で統一する。 【生涯】出生 戦乱到来 項梁の躍進 項梁の死 懐王と宋義の夢 項羽、立つ 項羽VS章邯 鴻門の会 西楚覇王 崩滅の兆しなぜ駄目だったのか 項羽奮戦 衰退 破滅 覇王死す 【人物像】 【史記と項羽】 【関係者】 【創作における項羽】 【余談】 【生涯】 出生 項氏は春秋戦国時代に南方に栄えた楚国の名門であった。 始皇帝(当時の称号は秦王政)が統一に乗り出した時には、最後の名将であった項燕を輩出し、一時は圧倒的に優勢だった秦国軍を撃退したことがある。 しかし始皇帝が老将・王翦の「六十万の軍団を出してください。そうでなければ決して勝てませんし、私も戦いません!」という言葉を受けて、ついにその通り六十万の軍勢を出し総攻撃を掛けたことで、衆寡敵せず項燕は戦死。楚国も滅亡した。二十万を退けたら六十万が来るとかいうクソゲー ちなみに、のちに秦帝国に対して反乱を起こした陳勝と呉広は、始皇帝の太子・扶蘇と、この項燕の名を騙って挙兵している(*1)。 さて、名門と言うだけあって項燕にも大勢の子供がいた。 その一人に項梁という人物があり、項梁が養っていた甥が項羽であった(*2)。 項梁は、楚国滅亡後は犯罪を犯して官憲に追われたり、人を殺してしまって逃げたりと、かなりアウトローなことをしながら呉中へ逃亡。 そこでやっと落ち着き、人々のまとめ役(*3)などをこなしつつ、秦への反抗をにらみ人材の見極めもしていた。 項梁のもとで項羽は学問や武芸などを仕込まれていた。 しかし当の項羽は剣術にも学問にも励まず、すぐサボる。怒った項梁が咎めると、 「文字は名前さえ書ければいいものです。剣術のように1人を相手にするのもつまらない。それなら俺は万人を相手取る術を学びたい。」 といった。(*4) この問答に項梁はむしろ大満足。覇気がある証だと思って、今度は兵法を教えることになった。 しかし項羽はやっぱり天才肌だったのか、ある程度大略を掴むとやめてしまった。(*5)(*6)(*7) だが発育はやたら良かったようで、気づくと身長は二メートルを越し、しかも筋骨隆々。おまけに天才的な閃きと一種の愛嬌を併せ持つカリスマの塊と化していた。 「項羽こそ伝説の超中国人そのものだった。生まれついての桁外れの力と覇気は、成長するにしたがって、叔父の私が恐怖を感じるほど増大し狂暴化していった……」 一つのエピソードとして、始皇帝の巡業を目撃したときのことがある。 始皇帝が会稽山に現れたときのことだから、始皇帝三十七年。彼が最後の巡業に出て、その帰路に頓死を遂げたときのことである。 この始皇帝の巡業を、項羽と項梁は観客として見ていたのだが、 「おおおっ……やめろ籍!!やめるんだぁ!!」 「あいつに取って代わってやる!!」 「落ち着けえっ!! それ以上声を高めるなあっ!!」 ……項梁としては気が気でなかっただろうが、のちの項羽の数少ない政治資産の一つとなる覇気はこの時から芽生えていたのである。 一方、劉邦は同じように始皇帝を見て「あいつだあ、おれ達が目指すべき男は!」と語っている 戦乱到来 さて、秦伝統の官吏にも民衆にも厳しすぎる法治システムを適用した始皇帝だったが、巡幸の途中で頓死。その後、玉座についたのはその末子である胡亥(とそれを擁する趙高)だった。 彼らは政敵である他の兄弟たちを粛清すると、先帝の始めた巨大事業、驪山(始皇帝の墓)、阿房宮、直道の建設などをさっさと終わらせるべく、元の労役に加えてさらなる動員をかけたのだった。 まだ始皇帝のころは、労役者は「囚人や犯罪者や不正役人、働かない遊民」に限られていたのが、 胡亥即位後の労役は一般の人々まで強制労働が課せられ、しかも役人の不正を抑止することもしなくなった。 それでなくても、庶民は始皇帝の法治システムを理解より先に拒絶していた。それが悪化したことで、ついに暴発が始まった。 そして始皇帝に滅ぼされた旧六国(斉・燕・韓・魏・趙・楚)の遺民たちにとってこの状況はまさに千載一遇の好機。 当然、旧六国に属していなかった若手の野心家たちにとっても名を上げるチャンスである。 さらに秦帝国の役人の中にさえ自立しようと言うものまで現れた。 項梁がいた呉中の太守殷通は、まさにそのような野心を露わにした秦帝国の官僚だった。 しかし殷通自身は呉中の勢力に詳しくなかったようで、顔役だった項梁を仲介役として取り立て、秦帝国に追われ潜伏中の有力者・桓楚を項梁に探し出させ、2人に組織を編成させようとした。 項梁は「桓楚を探し出せるのは、私の甥、項羽しかいません!」と答えて項羽を連れ、殷通に目通りさせる。 「甥っ子です。なんなりとお使いください」 「項羽です……」 殷通「……貴様も楚国人のようだな」 「はい……」 「さっそく桓楚を引見する。案内しろ項羽!」 こうして殷通は項梁・項羽を引き連れ、中華の王としての第一歩を踏み出した。(*8) 「中華の国の王だなどと、その気になっていたおまえの姿はお笑いだったぜ」 「ダニィ!?」 「やっと戦う気になったようだが、その程度の決断力(パワー)で俺を従えると思っていたのか?」 ちょっと考えてみよう。2人の有力者に軍を編成させる。殷通にはそれは必要な手立てだろう。 しかし項梁は既に自前の戦力があり、何より楚の末裔としての大義名分がある。自分の兵隊すら整えられない小役人なんてわざわざ担ぐ必要はないのである。 「まずお前から血祭りに挙げてやる……」 「ニャメロン!! 勝てるわけがない! おれは一般の文官中国人なんだどー!!」 「よく見ろwww この先を読んでもこぉんな一方的な殺戮ショーは見られんぞwww」 引見したその瞬間、項羽は殷通をぶち転がした。 もちろん、殷通配下の兵士たちは驚きながらも剣を抜いたのだが、 「ぬぅぅぉおおおおおおおおお!!!」 殷通を瞬殺した項羽は、そのまま大暴れして殷通の配下を数十人ばかり斬り倒す。 そのあまりの戦闘力に、兵士や役人たちは項羽の前にすっかり怯え、それを指揮する項梁に忠誠を誓った。 「剣術は一人を相手にするものです」って言ってたのは誰だったっけ? ともかくも項羽は、項梁の謀略と下準備もあったとは言え、その武威で文字通り一郡をぶんどったのだった。 項梁の躍進 かくして旗揚げした項梁と項羽は江東一帯を制圧。 そこに、先駆けて決起していた陳勝の使者として召平という人物が訪れて項梁に派兵を要請した。 これを受けて、項梁は八千の兵士を連れて出撃。道中で桓楚、陳嬰、黥布、范増、といった豪族・豪傑たちを吸収していって一つの勢力を為した。 実は、項梁が出兵した時点で反乱軍本隊は秦国の章邯が率いる軍によって壊滅しており、陳勝もまた敗北した挙げ句、逃亡先で裏切った部下に殺されていた。 陳勝が名乗っていた「楚王」の座も、もと臣下たちに奪われている。 そこで、項梁はその裏切っていた軍団を「討伐」。 降伏した連中も、項羽に預けたのち全員生き埋めにして殺している。 かくして項梁は「陳勝の仇を討った」と表明すると共に「楚王」の座もぶん取り、陳勝に代わって反秦連合の盟主として名乗りを挙げることに成功した。 ただし、范増が「楚王の座は、自分で就くものではありません。旧楚王室の生き残りを即位させたほうが筋が通ります」と進言したため、楚王家の生き残りの「心」という人物を探し当て、楚の「懐王」として擁立した。 しかし言うまでもなく懐王は項梁の傀儡である。実質の政権の指揮は項梁が担っていた。(*9) 項梁の死 名実ともに反秦連合のリーダーとなった項梁軍。各地で蜂起した旧六国の復興勢力や、新規の勃興勢力と組みつつ、秦国の各地の拠点を落としていった。 三川郡の太守、李由は秦帝国の重臣・李斯の長男であり、陳勝と呉広が猛攻を掛けてきたときにも阻み続けていたが、 項梁は項羽や新しく参戦してきた劉邦の勢力を投入し、これを撃破。李由を殺している。(*10) さらに、項梁は項羽と劉邦を西の陳留に前進させる一方、自らは章邯に圧倒されていた斉国を支援するべく東に向かっていた。 章邯はもちろん秦国における唯一の実働部隊であり、これを撃滅できれば項梁の地位はいよいよ確立する。 しかし章邯は陳勝残党とは相手が違った。また李由を討ち取ったことで慢心もしていたようだ。 項梁は斉国を助けるべく攻め込んだが、章邯はあえて破れることで項梁を油断させた上で、主力軍を一気に殺到させて定陶にいた項梁軍を殲滅、ついに項梁を討ち取った。 「戦場で敵に殺されるとは……これも武将たるものの定めか……」 旭日の勢いにあった陳勝に続き、昇竜のごとく躍り出た項梁をも討ち取られたことで、反秦連合は多いに動揺した。 そして、項梁を親とも慕っていた項羽は悲しみと怒りにくれて暴走した。 「叔父貴ィ……どこへ逝くんだあ……?」 「うおお、うおおおああああ~~~~~~!!!!(号泣)」 そして彼は怒りのままに、章邯がいなくなった定陶の住民を「章邯がそこにいた」というだけの理由で皆殺しにしたという。 懐王と宋義の夢 さて、項梁が戦死して最も喜んだのは、秦国の関係者以外では実は楚の懐王、そして、復興した楚国に集まってきた旧楚国の残党たちだった。 そりゃぁ、この時の懐王は項梁のただの傀儡。傀儡になりたくて王になる人はいない。誰だって実権を握りたいのだ。 そのうち宋義という男がさっそく飛び出した。楚の宰相(令尹)の家系である。 彼は項梁の部下として共に斉国救援に出ていたが、途中で斉国の使者として派遣され戦陣を離れていた(*11)。 しかし、この途上で斉国から項梁軍に派遣されていた高陵君(名は顕。姓は田か?)と落ち合い、項梁への不満をぶち上げた上で、 「ああ、ゆっくり行かれたほうがよろしいですじゃ。わしの脳内コンピューターがはじき出した予測によりますと、どうせ項梁のバカは調子のって全滅するですじゃ」 と今後の予測……というよりもそうなって欲しいことを口にしていた。 ところが、その「予測」が的中したことと、おかげで命拾いした斉国の高陵君が吹聴したおかげで、宋義はにわかに予言者・天才軍師として脚光を浴びた。 しかも懐王にとっては「項梁の未来を読んだ」つまり「項梁よりもスゲー軍師!」と映ったらしい。ええ… さっそく宋義を卿子冠軍・上将軍、項羽を魯公・次将として、項梁の後継者・項羽を抑圧。 また、項梁の配下だった范増を末将に引き上げて、項羽の組織を攪乱しようとした。 しかし、辞令だけで乱世の権力闘争を制することができれば苦労はない。 その後、懐王と宋義のもとに趙国から救援要請が来た。 項梁を倒した章邯軍は、陳勝死後の張楚が自壊したことから、楚国も再起不能と判断。北上して趙国討伐に向かっていたのだ。 懐王と宋義にとってこれは、趙国を救って恩を売り、章邯を破って秦国を撃破し、ついでに項梁の跡を継ぐ項羽から主導権を奪う、絶好のチャンスだった。(勝てれば) かくして懐王は宋義を大将、項羽を副将として遠征軍を編成。北上して趙を救援し、章邯を破ることになった。 また、別に沛公劉邦に一軍を与えて、秦の本拠・関中に別働隊向かわせた。 この時懐王はなにを思ったのか「はい、一番乗りした方が関中王に……」と発令している。 まぁ、こん時兵士の士気を高めるもっと目お手軽な方法は手柄をちらつかせることだし、そもそも関中は四方が山岳と関所で固められた険阻な土地で、その東の玄関口と言うべき函谷関は春秋戦国時代一度も破られなかったという鉄壁である。普通ならまず突破できない。 ……そう、劉邦とその部下が普通だったら… 項羽、立つ 章邯の後を追って北上した宋義率いる楚軍だったが、宋義は途中の安陽で進軍を停止。そのあいだ趙国は章邯の猛攻を受けて悲鳴を上げ、兵卒は野宿が続き疲弊した。 とうとう四十六日目に項羽が抗議したが、宋義は 「秦が趙を破ってから、疲れ果てたところを追撃かけりゃあいいじゃない」 「趙国を助けるんじゃないのか!!」 「アーアーキコエナイ。おまえ戦いじゃ強いかもしれんが謀略にかかっちゃあわしの相手じゃないのう。この天才軍師さまに反論するには十年早いじゃないかのう?」 と散々バカにした上で追い出した。 さらに項羽が兵たちの間を歩いて相談に乗り、将軍とも話し合って懐柔し始めたので、宋義は嫌がらせに 「虎の如く猛々しく、羊の如く背き、狼の如くに貪欲な、強情で使えない者は、皆これを斬る!」 と布告した。言うまでもなく、項羽を念頭に置いた警告である。 実はこの時、宋義は、高陵君との縁で息子を斉国の宰相にするよう派遣していた。派手に宴会を開き、斉に向かう息子には大量の護衛を付ける念の入れようである。 その一方で将兵は野宿・飢餓・大雨・冷気の四重苦に見舞われた。 兵たちの間で宋義に対する不満が広がり、爆発寸前になっていた。 それはつまり、宋義に対するクーデターの機が熟したということである。 「う、うわ……へへ、こここ項籍どの、きき気をお静めくだささささ」 「できぬうっ!!!」 ある朝項羽は幕舎に入ると、宋義を\デデーン/する。 しかも息子を斉国に送ったことを「斉国と密通しての謀反の証拠」として告発し、クーデターを正当化。ついでに兵を派遣して宋義の息子を殺し、禍根を絶った。 同時に、傀儡から脱しようとした懐王の計画は本の木阿弥と化した。 いや、傀儡の分際で実質の権力者を怒らせたという意味で、より悪化したのである。 項羽VS章邯 かくして楚軍の統帥となった項羽はさっそく黄河を渡り、鉅鹿を包囲する秦軍に追いついた。 このとき鉅鹿を包囲していた秦軍の将軍は、始皇帝の統一期に活躍した王翦の孫(王賁の息子)の王離だった。 秦軍は圧倒的な強さで鉅鹿を追いつめ、楚のほかに斉や燕から派遣されていた援軍も、あまつさえ趙の別働隊さえ、恐れて遠巻きに見つめるだけだった。(*12) しかし項羽はためらいもなく軍を前進させた。 相手の王離はさすがに三代の名将で、黥布と蒲将軍の指揮する先鋒部隊を撃退したのだが、項羽はここで自ら全軍を率いて渡河。 秦軍の補給線を破壊し、大勢で遠征していた秦軍の兵站を遮断した。これで王離の軍は食料が行き渡らずに混乱し、戦意が低下。 ここで項羽は驚くべき行動に出る。 なんと退却のための船を自ら沈め、炊飯道具をすべて破壊。三日ぶんの食料だけを兵に与えて他は全て焼いた。 文字通り兵たちの退路を絶って死兵と為し、その勢いで全軍突撃したのである。 項羽「さぁ行けッ!! ここが我々の死に場所だあッ!!!」 「背水の陣」という言葉が出たのはこれより後のことだが、自ら兵を死地に追い込んで兵たちに死力を発揮させるという意味ではこっちのほうが諺にいう「背水の陣」に近い(*13)。 かくして奮起した楚軍は、項羽の猛烈な指揮によって、秦軍に猛攻を掛けた。 その楚軍の強さは「楚の兵士一人で秦の兵士十人を倒す」「項羽が兵を呼べば天地鳴動」と史書に讃えられるほどのトンデモ戦闘力で、ついに秦軍を大破。 副将の蘇角と渉間を戦死させ、大将の王離を捕虜にするという、まさに完勝を挙げた。 しかし、王離の軍を大破しても、もう一つの章邯軍は残っている(*14)。 項羽は当然章邯にも猛攻を掛けた。章邯は項羽にとっては叔父の仇であり、さらに秦国の唯一の戦力であるため倒すことは戦略目標でもある。 だが、章邯は敗退を重ねながらも、巧みに攻勢をそらして壊滅を避け続けた。度重なる敗退も、項羽の戦意を鈍らせ、一気に逆転する作戦だったかも知れない。 実際以前に項梁をその手で討ち取っており、しかもこの対陣により項羽軍の食料は少なくなっていた。 とはいえ、正面から打ち破れるなら誰だって最初からそうする。既に章邯の勝機はそうした奇策頼みになっており、そうした奇策頼みは少し情勢が変われば一発で瓦解してしまうことがしばしばだ。 「フフフッ、そう来なくっちゃぁおもしろくない……」 その間に章邯は副将の司馬欣を本国に派遣して、援軍を要請していたのだが…… 趙高「やっべー、なんか群盗騒ぎが全然おさまんないぞコレ。 つーか最近デク人gy...じゃない二世皇帝もなんか俺のこと疑ってるっぽいし。 どうしよう。まだクーデターするには地盤が固まってないしな…… 李斯のバカを殺ったときみたいに別のイケニエ出そうか。 うんそうだ、それがいいな。ちょうど章邯のヤツも負けてきてるし。全部あいつのせいにしちゃえ☆」 章邯「ゑゑ!!??」 と、悪宦官趙高は全ての責任を章邯に押しつけて、その家族も皆殺しにした。 司馬欣が咸陽に帰ってきたのはこの時のことである。事態を察知した彼は間一髪脱出し、なんとか章邯のもとに帰還して事態を報告。 すでに趙高に切り捨てられ、家族も惨殺されたと知って絶望したところに、項羽は総攻撃を掛けて章邯軍を撃破。 八方ふさがった章邯は、部下たちとともに項羽に降伏した。 項羽にとって章邯は叔父の仇だったが、なぜかこの時の彼は穏やかに降伏を受け入れ、章邯・司馬欣・董翳を迎え入れた。 実は司馬欣はその昔、逃亡生活をしていた項梁・項羽を助けた過去がある。案外彼が口を利いたのかも知れない。 だが、項羽が優しかったのは、あくまで将軍として戦った章邯・司馬欣・董翳の三人だけだった。 彼らとともに降伏してきた秦兵二十万には…… 「驪山陵から連れてこられた奴隷どもか…… いつかは自分たちの故郷に帰りたいと、秦軍に参加していたな…… いつかは帰れるといいなあ……」 夜襲を掛けてその二十万人を坑殺した。 つい先日まで敵軍だった秦兵は二十万、対して自軍はその10分の1程度しかない。反乱を起こされたらひとたまりもないため先に手を打ったのだ(*15)。 秦軍最強の軍団を打ち破り、追い討ちを掛けて消滅させ、さらに秦の強さの象徴だった章邯を迎えた項羽は、もはや敵は一人もおらん!とばかりに意気揚々と秦国の首都、咸陽へと進路を向けた。 だが、ここで項羽と章邯が激突していた間に、すでに秦国は劉邦の別働隊が落としていたのである。 鴻門の会 事の発端は、楚の懐王が宋義と項羽を派遣したときに、ぽろっと「関中に最初に入った者をその王とする」と発言したことにある。 で、このとき別働隊として劉邦も別途関中に向かっていたのだが、彼の進路は函谷関ではなく、その南の武関だった。 また、劉邦は項梁や陳勝の残党兵の吸収も許可されていたが、彼はその命令を拡大解釈して魏や韓や秦の残兵をも吸収し、軍団を大増幅させつつ西進。 いつしか質量ともに強大な軍団となった劉邦軍は武関を突破。 項羽が章邯を投降させたのはこの頃である。同時に、咸陽では趙高が「馬鹿」騒ぎを起こしていた。 そのまま劉邦は咸陽に迫り、趙高を処刑した子嬰が降伏。 西周以来の歴史を持つ秦国はここに滅んだ。 しかし項羽は当然激怒。 そもそも劉邦が関中に入れたのは、秦国最高の将軍である章邯軍を項羽が相手取っていたからである。 それでなくても項羽は反秦連合の指導者として、さらには天下の覇者としての野心と面子がある。 しかし劉邦が秦国を滅ぼした上で関中の王となれば、それこそ「革命の果実を横取りされた」事になる。 「劉邦ットオオオォォォォォッッ!!!」 項羽は劉邦が動く前に函谷関を突破して関中に突入。劉邦を討ち取るべく進撃した(*16)。 この時、項羽軍のなかに項伯(名は纏、字は伯)という叔父(*17)がいた。 ところがこの項伯は若いころ、流浪先の徐州は下邳で張良と出会い、その庇護を受けていた。その張良はもちろん今は劉邦の軍師となっている。 「張良だけでも救わねば!」と考えた項伯は、深夜に野営した楚軍から抜けてひそかに張良に接触、逃げさせようとした。 しかし張良は逆に項伯を説得し、弁明と命乞いの機会を作らせる。 項伯としては張良を逃がすならたやすい(*18)が、劉邦の命乞いを斡旋するとなると難易度が一気に増す。 しかし、張良とさらに呼び出された劉邦にも懇願され、やむなく項伯は引き受けることになった(*19)。 かくして「鴻門の会」が開かれた。 この時、項羽の参謀で、項羽から「亜父」と言われた范増は劉邦の将来を危惧して殺そうとしていたが、劉邦の歴史に残る言い訳と命乞い攻撃(*20)によって項羽は戦意を喪失。 さらに張良の妨害、項伯や樊噲の乱入もあって、劉邦は虎口を脱することに成功した。 項羽は意気揚々と秦の首都・咸陽に入城した。 西楚覇王 「子嬰……まずおまえから血祭りに挙げてやる……」 咸陽に入った項羽は、さっそく秦王子嬰を殺し、秦帝国の皇族をも皆殺しにした。 さらには自分も部下たちにもおおっぴらに暴行と略奪、破壊と放火を繰り広げさせた。(*21) 咸陽に放った炎は三カ月間も燃え続けたという。 「誰が何と言おうと、俺はこの都を破壊し尽くすだけだあっ!」 楚の憎悪が形になったようなこの蹂躙をもって、秦という国家は完全に消し飛び、あとは群衆の悲鳴のみが残った。 先に入城していた劉邦が約束した「法三章」などの温情措置は消し飛んだ。そして二度と復活することは無かった。 当然城民には項羽への憎悪が芽生え、劉邦を慕う気持ちはさらに大きくなった。 思う存分破壊衝動を満たした項羽は、今度は目の上の瘤だった懐王を排除。 いったんは「義帝」に祭り上げたが、それを遷都の途上で一人用のポッド黥布に命じて暗殺させた。 「どこへ行くんだあ?」 「はい、新都に移住しましても一生懸命に……」 「送り狼と一緒にかあ?」 「ま、まさか……う、フ、フワアアアァァァ!!!」 →ドナドナry 「この俺がいつまでもおまえの下についていると思っていたのか」 憎き宿敵を滅ぼし、傀儡の主君をも消し去って文字通り頂点に立った項羽は、ご満悦で今度は武将たちへの領土分封、すなわち封建に乗り出した。 封建とは、周や殷、夏王朝などのように「手柄を立てた人物に領土を与え、主君は王としてそれら諸侯の上に立つ」、言わば盟主となるシステムである。 つまり彼は五百年前の周の武王の方式を継ぐ形で、中国の支配者となることを選んだのだ。 かくして項羽は自分を含めて十八人の英雄に「王」としての地位を与え、十八の国に封じた。 項羽自身は徐州の彭城に都を置く「西楚」を領し、さらに王たちの頂点に立つ「覇王」を名乗った。 「西楚の覇王」項羽が誕生したのである。 春秋時代以前は、周王や殷王、夏王が、自らの本国を頂点として、その下に多数の諸侯が朝貢するシステムを作った。 それは始皇帝が数々の反対者の意見を却下して、中央から役人を派遣する郡県制を敷いたことで消滅したが、 項羽は偉大な武王も採用した流儀を復活させて、中国に数十年ぶりの緩やかで穏やかな統治を復活させたのである。だが…… 武王「おめぇちょっと頭悪ぃぞ」 周公旦「やみくもに封建するのは危険です! もっと政治力学を考えないと!」 太公望「そこまで頭が悪かったとは……滅び去れ! それで王なぞ名乗るな!」 周の武王を気取った項羽の封建制は、その直後から一気に乱れることとなった。 崩滅の兆し まず項羽は旧斉国領を三分割して「膠東」「斉」「済北」の三国を立て、それぞれに王を封じていたが、 これら三王はどの王にも封じられていなかった実力者、田栄によって殺害もしくは追放され、瞬く間に奪われた。 ついでに田栄は彭越を派遣し、「西魏」「殷」「河南」に分割されていた旧魏領を荒らさせている。 また、もともと趙王だった趙歇を北の「代」に移し、空いた趙にその臣下だった張耳を常山王として入れたが、 今や対立する間柄となった陳余が田栄の支援を受けて張耳を駆逐し、趙歇を再び趙王として迎え、自らは入れ替わる形で代王に収まった。 そして、旧秦国領も旧斉と同様に三分して「塞」「雍」「翟」を作り、それぞれに旧秦国の将軍・章邯、司馬欣、董翳を王に封じたが、 彼らは進撃した「漢中王」劉邦によってあっさりと撃破され、その領土を奪われた。 旧韓国領だけはもとが小さすぎて分割できなかったが、韓王成を殺して項羽の武将・鄭昌を韓王にしていた。 しかしその鄭昌もほどなくして劉邦・韓信(*22)に呑み込まれてしまう。 おまけに旧燕国領は「燕」と「遼東」の東西に分けたが、陳勝時代からの燕王だった韓広を遼東王に移し、燕王は項羽の武将・臧荼を据えた。 しかしその臧荼までもが、独立して韓広を殲滅。燕全域を治めた。 さすがに項羽の足元である旧楚国領(これも「西楚」「九江」「衡山」「臨江」に四分されていた)は謀反まではしなかったが、九江王・黥布や衡山王・呉芮は項羽に従わなくなり、のちに劉邦に寝返ることになる。 つまり、旧七雄レベルでいうなら、その全域が項羽に背いてしまったのだ。 項羽が立てた十八諸侯のうち、項羽が滅びるまで項羽サイドに着いていたのは臨江国(共敖、のちに死んで息子の共尉が跡を継ぐ)のみだった。 項羽の封建は、彼最大の危機を招くことになった。 なぜ駄目だったのか 失敗した原因を考えるため、成功例と比較する。 封建制に成功した周王朝だが、その封建体制を主導した武王とその弟・周公旦は、殷との戦争で最も活躍した太公望を、農業にも向かない僻地で、東には敵対勢力も強い山東半島・斉国に封じた。 その上、斉の西には周公旦の魯国が、北には召公奭の燕国が配置され、東西北の三方向から太公望を牽制していた。 しかしながら、一方では太公望に「黄河から海までは切り取りしだい、あなたの領土になります」と、半ば独立王国として勢力を拡張することを許している。 中原への進出を阻むとともに、その野心を別方向に発散するよう手配していたのだ。 つまり封建制とは、ある程度の謀反が起きることを前提としたうえで、反逆を起こせないよう巧みに領土を配分し、綿密に政治力学や名文論を組み立て、さらに反乱が起きても鎮圧できるだけの政治力、軍事力、支配力が中央政府に求められるシステムなのだ。 しかも、それだけ苦労して太公望を組み込みながらも、周王朝は武王の急死という混乱もあって、武王・周公旦の弟、管叔鮮・蔡叔度が殷の紂王の息子・武庚を担いで反乱を起こすなど、さまざまな苦労に見舞われている。 それでなくても、封建領主たちは「おれたちの活躍からすると、取り分はもっと多くていいはずだ」という野心や不平不満を抱いてしまう。 たとえ本人が無欲だったとしても、周囲の人間が唆し続ければいつまでも堪えられない。最悪の場合野心のない領主が野心のある領主に殺害などでとってかわられる可能性もある。 しかも封建によって自前の領土と兵力、税収が手に入るのだから、それをステップとして「諸侯よりも上」、すなわち「王位」まで狙えるのだ。 権力と金は容易に人を変える。たとえ人格者であっても、権力の座に就いた途端、人はそれに固執するようになるのだ。 「功績を立てたから」「信用できるから」「人望があるから」などという単純な理由で、迂闊に領土を与えてはいけなかったのだ。 夏殷周がそれでも封建制を選択したのは、当時は文明的にも政治的にも広大な中国を一つの組織で治めるのが不可能だったからだが、 西周から春秋戦国時代を経て漢字・漢文が発展して情報量が増加し、行政機構や法律体系が洗練され、統治効率が飛躍的に向上したことで、もはや封建システムは過去の遺物となっていた。だから、秦の法治は当初は失敗したが、結果的には正しい統治システムだった。 しかし項羽の封建は、そうした複雑な政治力学や権力模様、謀反の兆候などをまったく考えていなかった。 しかも、よりによって後に最強の敵となる劉邦に「天険による堅い守りと、その割に肥沃な土地があり作物が豊か」な 「力を蓄えるには絶好の土地」漢中を与えてしまったのである(*23)。 例えば、以下に軽く列挙しただけでも、 どうせ劉邦を封じるなら遠い漢中などではなく、謀反を起こしてもすぐに始末できる西楚の近郊にでもするべきだったかも知れない。 斉国に強大な影響力を持つ田栄を、野放しにするべきではなかった。 旧七雄を細かく分割したことで、それぞれの王に「どうせなら三分の一じゃなく全部よこせよ」という不満を抱かせている。 もともと君主と臣下だった趙歇と張耳を隣り合わせで、しかも同格の王としてもうまく収まるはずがない。 と、これだけの問題点がすぐに出て来てしまうほどなのだ。「何も考えてなかったんじゃないか?」と言われても仕方のないレベルである。 項羽は、共存しようとしてもできない体制を作ってしまったのである。 その結果項羽は、あっという間に「火消し」に走り回るハメになった。 項羽奮戦 故郷に「錦を飾る」暇もあらばこそ、瞬く間に大乱戦となった中国を治めるべく、項羽は機動部隊を率いて駆け回ることになった。 東ニ田栄ノ謀反ガアレバ 行ッテ住民ゴト\デデーン/シ 西ニ出テクル劉邦アレバ 行ッテ五十六万ヲ蹴散ラシテヤリ 南ニ寝返ル黥布ガアレバ 龍且ヲ出シテ家族ヲ殺シ 北ニ韓信ガ趙斉ヲ滅セバ サラニ龍且ヲ使ワシテヤリ といった具合で、中国全土を所狭しと往復し、東は斉の田栄、中央は魏の彭越、北は趙の陳余、そして西は漢中と漢中を制圧した劉邦、と四方向の相手と戦うことになった。 しかし項羽が率いる軍団はとにかく強く、「戦場では」無敗を誇った。 例えば、斉を統一し趙魏も抑えた田栄は、項羽の猛攻に散々に破られ、逃亡するも殺された。 しかも、その後の項羽が斉の平定にてこずっている間に、劉邦が魏や趙を初めとする反楚諸侯を糾合し、その数五十六万と言われる大軍団でがら空きの西楚首都・彭城を強襲、占領されるという事件が起きたが、項羽は遠征軍からたった三万だけを抜くと彭城に急行。 連合側が油断し切っていたとは言え、三万の兵力で五十六万の軍団を粉々に打ち破るという大勝利をしている。 「ザコのパワーがいくら集中したとて、この俺を超えることはできぬぅ!!」 この時劉邦は妻子も捨てて身一つで逃げ出したが、項羽はなおも猛追。 かろうじて滎陽に逃げ込んだ劉邦に対して、その城を包囲した。 こういった感じで、項羽は確かに「攻めれば無敵」だった。 しかし、項羽の強さは「項羽がいる場所だけ」だった。そして、彼の動きは行き当たりばったりそのものである。 例えば、せっかく田栄を仕留めながら、彭城に反転したために斉国は田栄の残党が盛り返し、斉国をまた併合してしまった。元の木阿弥である。 しかも、項羽は行く先々で攻め落とした城郭都市や住民を片っ端から\デデーン/していくので、住民たちの憎悪を駆り立て続けた。 もともと項羽は章邯配下の投降した秦兵二十万を皆殺しにし、しかもその「二十万人を死なせながら、自分たちだけ助かった」章邯たち三人を、よりによって秦の三王にするなど、目に見えない多勢の感情に鈍感だった。(*24) 結果、章邯は住民たちのサボタージュと劉邦への協力を止められず、名将としての手腕をなんら発揮できないままに漢軍に敗退している。(*25)(*26) うかつな封建による失敗という政治面での無能さに加えて、破壊の限りを尽くし結果を予測できない政略面での視野の狭さ、そして目の前の戦場しか見えていないという戦略面の才能の無さが、「向かう所敵なしだけど負けている」という有りそうで無い状況を作っていった。 唯一、龍且のみが項羽の別働隊として活躍しているが、逆に言うと龍且一人しか組織を支える人物がいなかったということである。 また、項羽には足りない知恵を補佐する謀臣もいなかった。范増が軍師として名高かったが、実際には范増が重用されていたころから項羽は全力全開で迷走している。 范増もまた、項羽を御しきれなかったのだろう。 もっとも、逆にいうと項羽は、その空前絶後の強さと、主に戦場で発揮される覇気によって、国家としての西楚を束ねることができたのだ。 政治力と知力が無く、統率力と魅力もごく狭いものでしかないのに、覇気と武力というたった二つの政治財産だけで国家を維持できたのは、項羽であってこそできたことだったろう。 事実、いったんは劉邦サイドに寝返った斉・魏・趙は、項羽の圧倒的な強さと覇気に当てられて、再び項羽サイドに降伏していた。 項羽の強さと覇気は、どこまでも戦術レベルでありながら、不利な政局や外交をもある程度は挽回できるものだったのだ。 戦略/戦術の項目も参考にして欲しいが、ここまで戦略面でボロカスながら戦術戦闘でなんとかしているというのは並々ではない。 衰退 しかし劉邦が逃げ込んだ滎陽の攻略に項羽はてこずり、一年間もの持久戦にもつれ込むことになった。 この間に、劉邦の謀臣・陳平が離間の計を用い、一時龍且らの将軍が疎んじられ、軍師格だった范増が失脚、その後死亡している。 結局、劉邦は紀信という側近ら将軍複数人を身代わりに立ててまたも逃亡。 項羽も劉邦と漢の主力メンバーを取り逃がし、結局二人とも同じことを繰り返したという冴えない結果になった。 つまり、項羽を取り巻く苦境はなんら変わらなかったのだ。 むしろ劉邦相手に一年も釘付けにされた挙げ句に何も得られずに撤収したことから、ついに唯一の政治力である覇気までもが影をさし始めた。 さらにこの時に劉邦を追撃すれば良いものを、なぜか別方面へ行ってしまう。范増を失った影響だろうか。 その後、劉邦は軍を再編して今度は成皐に進出。項羽は再び覇気を蘇らせて成皐を攻めたが、 そうしている間に黥布と呉芮が劉邦に寝返り(*27)、魏地方を荒らす彭越も劉邦と協力し項羽の兵站を攪乱。 項羽は成皐を放棄して彭越を攻撃に向かうが、そうすると今度は劉邦軍が復活し成皐と広武山を固める、という消耗戦と鼬ごっこを繰り返すことになる。 龍且「申し上げます! 劉邦陣営に彭越と黥布と呉芮が加わりましたあっ!」 「なにいっ!? なんて奴らだ……!」 しかも、項羽が西の劉邦と東の彭越の間を行ったり来たりしている間に、項羽サイドに回ったはずの北の趙と東の斉が、劉邦の別働隊である韓信と張耳によって滅ぼされて劉邦サイドに組み込まれてしまった。 項羽は、唯一まともに戦線を任せられる龍且を北に派遣したが、この龍且がまさかの韓信に敗れて戦死。 項羽は北と東の戦線のみならず、組織の柱をも失うこととなった。 迷走し疲れ果てて追い詰められた項羽は、ついに広武山の戦線で、捕えていた劉邦の父親を引きずり出して釜茹での準備をした上で、劉邦に降伏か一騎討ちかの二択を迫った。 「劉邦! お前が戦う意志を見せなければ、俺はお前の親父ィを破壊し尽くすだけだあっ!」 劉邦父「もう駄目だ……おしまいだあ……」 しかし劉邦が乗るはずが無く、むしろ 劉邦「そんなこと知るか。俺は親父に嫌われてここまで生きて来たんだ」 劉邦父「ダニィ!?」 「食べるものもろくにくれなかったんだぜ。一度義兄弟になった俺たちの親父をスープにするなら、俺にも一杯奢ってくれよ」 劉邦父(なぜだ……なぜ無視するんだ……わしが殺されるのに! なぜだ……!!) 劉邦「つかさ、義兄弟の父親殺すんだからさ、お前めっちゃ不忠者じゃんwwwウケるwww」 「ンンンンンン、ンンンンンンン!!!」 ……とまああんまりなセリフで見事かえした劉邦は、代わりに楼煩という異民族上がりの戦士を出した(*28)。 この楼煩も戦いには自信があったらしく、相手に出てきた楚軍の武将を矢の一本で討ち取っているが、 直後に自ら飛び出した激昂状態の西楚覇王・項羽のすさまじいオーラに震え上がり、矢どころか大喝一発で逃げ帰り、二度と出てこなかったという。 楼煩「伝説の、超中国人……!」「逃げるんだ……勝てるわけが無いyo……!」 その飛び出した項羽に対して劉邦も飛び出す……訳はなく、遠くから義帝暗殺・住民虐殺などを持ち出して痛罵。 しかし、射程距離に入ったと見て項羽は隠し持っていた弩を取り出し劉邦を狙撃、胸に直撃し、劉邦は血を吐いて倒れた。 劉邦「ふおおっ!?」 Σ(ノ;゚Д゚)ノ ←-- キィィ----ン ドガァーン... 「終わったな……所詮、クズはクズなのだ……」 かたや西楚の覇王、かたや後の漢帝国の皇帝が、直接やり合うという極めて稀有な事件だった。 だが致命傷を食らったにも拘らず、劉邦は着込んでいた鎧と距離のおかげでかろうじて生存。 軍隊の中で元気な姿を見せ、そのまま指揮を執り続けた(実際は無理やり張良に立たされただけだったが)。 「死に損ないめえ……!」 軍をぶつけて打ち破ることもできず、直接討ち取る千載一遇の好機も逃してしまったことで、ついに項羽は立ち往生。 いよいよ食料もなくなり、戦意も士気も覇気さえもが落ちぶれて、ついに相互に使者を出し、国境線を引いて和睦することになった。(*29) 破滅 疲弊し切った項羽と楚軍は、飢えに苦しみながらも退却した。 しかし、漢軍は自分から申し込んだ和戦条約を破って追撃を掛けた。 項羽と楚軍の疲弊を見切った劉邦の謀臣・張良と陳平が、約束を破ってでも今しか項羽を討てないと進言したためである。 だが、疲弊しても項羽は野戦では強い。 しかも劉邦と挟撃するはずだった韓信と彭越が兵を押さえて動かなかったため、劉邦はまたも大敗する。 が、待ちに待った決戦に勝ったというのに、項羽は追撃をせずに東へと後退。いよいよ覇気が落ちていたのか、追撃も出来ないほど楚軍が疲弊していたのか。 そして、一度は動かなかった韓信と彭越はそれぞれ劉邦との交渉を終えて参戦。ついに項羽は垓下の地に包囲されることになった。 兵も武将もほとんどが逃げ散り、残った者たちも飢えと疲労に疲れ果てた状態であり、項羽は自ら指揮をとって奮闘したが、ついに身動きが取れなくなる。 その夜、漢軍の包囲網から楚国の歌声が鳴り響いてきた。 高名な「四面楚歌」である。(*30) これによって、ついに本拠の楚地さえも劉邦サイドに落とされたと思った項羽は、己の武運が尽きたことを悟り、傍らに置いていた虞美人(虞姫)と別れの歌を詠んだ。 力抜山兮気蓋世 ――俺の力は山をも抜き、覇気は世界をも覆う。 時不利兮騅不逝 ――しかし時の利を得ず、我が名馬の騅も進まない。 騅不逝兮可奈何 ――騅が進まぬのを如何せん。 虞兮虞兮奈若何 ――虞よ、虞よ! 俺はお前をどうすればいいんだ! 史記には載っていないが、虞美人はこの時、歌を返したという。 漢兵已略地 ――漢軍がすでに楚地をも攻略し、 四方楚歌声 ――四方より楚の歌声が聞こえてきます。 大王意気尽 ――大王の意気が尽きたのに、 賎妾何聊生 ――わたしがどうして生きていられましょう! 虞美人の「見送り」を受けて、項羽は最後の決意を固める。 その夜、八百騎を選抜するとそれを率いて突撃、包囲網を蹴散らし淮水に向かった。 覇王死す 一方、漢軍は項羽に抜けられたことを知ると、翌朝騎兵五千を発して項羽を追撃。 項羽の八百はその間にも大勢が逃亡・討ち死にし、淮水を超えたときには百騎に、 しかも逃げた先で沼地に迷い込み、そこを抜けたときにはわずか二十八騎にまで減っていた。 しかし追手の漢軍も沼地に引っかかり動きが遅れる。 そして、その間に項羽は二十八騎を小高い丘に休ませた。 「俺が決起してから八年間、七十あまりの戦をしてきたが、敗れたことは無かった。 この度の苦戦は天が味方しなかっただけの事である。戦い方を知らないわけではない。 その証拠を見せよう。今に五千騎に包囲されるはずだが、俺はあえて包囲された上で、将を斬り旗を倒して包囲を突破してみせる」 と豪語した上で、作戦を指示。 二十八人を七人ごとに四つの小隊に分け、馬の力を活かして突破せよ、敵兵は案山子と思って蹴散らせ! 囲みを破ればまっすぐ東に進め!――と命じ、緊張する兵たちの前で横になり、体力を回復するとともに動揺を鎮めた。 そして、包囲されたのを見計らって出陣すると、その宣言通りに兵たちと項羽は見事包囲を突破。 その途上で追撃隊の武将二人を討ち取り旗を切り倒して兵数十人を切り捨て、落伍したのは二人だけという、まさに完璧な勝利を収めた。 そのまま項羽たちは長江の渡し場の一つ、烏江という長江の渡し場に着いた。そこの亭長は項羽の顔見知りだった。 亭長は項羽たちを船に乗せて対岸へと案内しようとする。対岸は、項羽の故郷だった下相である。 しかし、項羽は穏やかに首を振った。 「俺が決起したとき、故郷の子弟が八千人も従ってくれた。しかし帰ってきたものは一人もいない。それを父老たちは許してくれまいし、もし再び王にしてくれると言っても俺が合わせる顔が無い」 と語り、形見分けとして己の愛馬・騅を亭長に渡して、「俺の詫を、父老たちに伝えてくれ」と言い残して送り出した。 しかし騅は項羽の危機を感じ取り、長江の途中で船から飛び降り項羽の下に戻ろうとして溺死してしまった。 直後に、ついに漢軍の追撃隊が殺到。 項羽は残る二十六人とともに鬼神の如く暴れ回る。項羽は数百人を討ち殺し、数多の将を切り殺した。剣術は一人二人を相手取るものじゃないんですかね... しかし衆寡敵せず、一人また一人と討たれていき、ついに彼一人となった。なおも彼一人でリアル三國無双していると、知人の馬童を見つけた。 「馬童か! よし、旧知のお前に、特別に大手柄をやろう!」 といい、自らの首を刎ねた。 項羽、享年三十一歳。余りにも早い、激動の死であった。 その死体は功を争った漢軍によって奪い合いになり、百人以上の死傷者が出たという。 全てが終わった後に残ったのは、胴体だけの無残な骸であった。 これには命じた当の本人である劉邦ですら惨さを感じたようで、かつて項羽が懐王から与えられた「魯公」の格で称号を贈り、丁寧に墓を建てて祀っている。 【人物像】 二十四歳で決起し、一度は間違いなく天下を取り、破滅して戦死するときはたった三十一歳という、常人の数倍のスピードで時間を流したとしか思えないような生き方をした「英雄」である。 また、武将としてはほとんどの戦いで機先を制し続け、時には文字通りに桁違いの兵力差を誇る相手を文字通りに粉砕するなど、圧倒的な力を誇った。 「力は山を抜く」というのはさすがに誇張だが、武将としてはまさにそれぐらいの賛辞が似合う男である(*31)。 それでいて個人レベルでは、年長者に対しては礼儀正しく、下の相手には優しく情け深いと言ったエピソードが多い。 例えば叔父の一人の項伯はしばしば内通じみた行動を取っていたにも拘らず、叔父と言うことで丁重に扱っていた。 鴻門の会でも范増から「我が君は残忍なことができない(劉邦の目的が秦の略奪ではないということは、真の目的は天下取りだと范増が言ってるのに、命乞いをする劉邦を殺せない)」と言われている。 死の間際に烏江亭長に残した言葉は、責任感や思いやりの深さなどが読み取れるものである。 垓下で虞美人に詠んだ優しくも物哀しい詩は、学校の教科書などで読んだ人も多いのではないだろうか。 何より端倪するべきはその覇気である。 「気は世を蓋う」と豪語した通り、武将としての「強さ」と、吐き出す「覇気」だけで文字通りに一国を束ね、さらには一瞬とは言え封建国家の盟主として天下に臨んだと言うのは、まさに驚くべきことと言えた。 しかし、逆に言うと彼の長所は「強さ」と「覇気」しかない。 政治面や戦略面などはすがすがしいほどに終わっており、行く先々で破壊と虐殺を繰り返し、そのせいで戦闘が終わった先から反乱や盗賊が跋扈し、それをまた虐殺し...という悪循環を引き起こした。 特に虐殺においては、投降した二十万人を穴埋めにしたり、抜いた城の住民を片っ端から皆殺しにしたりと、キリングマシーンと言われた白起と並ぶかそれ以上の殺しっぷりを見せている。 そのせいで敵が「投降しても殺される」と思って死力を尽くして抵抗するから、攻略に時間がかかる…と良いことがない。 また当時の行政システムの中枢だった咸陽を焼き払い、豊穣な天険だった関中に拠点を置かなかったことも、彼の政治見識の無さを象徴している。 実際、関中に本拠を持つべきだと諫められたのだが、この時項羽は 「富貴になっても故郷に帰らない。これは錦を着て夜に歩くようなものだ、誰がこの栄達を知る」 と答えた。「錦を飾る」の由来だが、人間としては素朴でも、天下を担う政治家としてはなんの理由にもなっていない行動である。 この時、諫めた論客は項羽について「沐猴而冠耳」、冠をつけただけのサイヤ人大猿だ、と酷評して処刑される(*32)。 周の武王に倣った封建王国を目指したが、春秋戦国時代を通して国家の行政システム、法律システムは高度化し、中国全体を効率的に統治できるようになっていた。春秋戦国時代には、既にゆっくりと封建制から郡県制に進化していたという論もある。 つまり封建制によって分割統治する時代ではすでになかったのだ。むしろ他の勢力(劉邦)が天下統一を目指したときに、たやすく瓦解するシステムとなっていた。 もっともこの当時、そうした事実に気付いていた人物のほうが少数派であった。 例えば劉邦は途中張良に諫められるまで漠然と戦国七雄時代に戻すことを考えていたし、始皇帝時代の秦朝でさえ宰相の王綰、馮劫、淳于越といった高官たちが封建制に戻すよう訴えていた。 李斯、張良たちこそが少数派で、項羽は単なる多数派だったと言うことだが、それこそが項羽の限界を示している。(*33) 天下を争った相手である事から劉邦と比較され 人の上に立つ者の資質が全て負けていると後世まで言い切られる程にフルボッコ であるが、一概にそうとは言い切れない面もある。 そもそも担ぎ上げとは言え初めからトップであった劉邦と、叔父と共に旗揚げし引き継ぐ形でトップになった項羽では組織の構造面で違いがあり、同じ運営方法が通用するとは言い難い。 「鴻門の会」時は劉邦も項羽もあくまで懐王の配下であり、非があったのは関中に引きこもり項羽を締め出そうとした劉邦側なので攻める姿勢は間違っていない。また、殺さなかったのも「(暗殺の)前科がある状態で、再び殺せばさらに人望が落ちる」と考えたからとも思われる。 劉邦側は調略による配下との引き離し、騙し討ちによる襲撃、留守の時を狙っての攻撃等知略を駆使…悪く言えば卑怯なやり方で項羽を滅ぼしており、人格面で劉邦が優れているとは言えない(*34)。 「擁歯封孔」のエピソードや漢王朝成立後も反乱が度々起きていた事、項羽配下の中にも優れた人材が最後まで残っていた事を踏まえると、人望・君主としての魅力で項羽が完全に劣っていたとも言い切れない。 また故郷に錦を飾るというのも当時の視点で見れば個人的な思考と単純に決められない面もあった。項羽は楚国の名将項燕の末裔であったので、故郷へ帰って自らの功績を示すと同時に楚国の栄光を再び取り戻す意味合いもあったと言える。加えて、彭城があった江東地域は「気候が穏やかで米も取れる」という当時としては実に過ごしやすい地域であり、ここを拠点にするという判断自体が間違っていたとは言い切れない。 とはいえ、問題なのはこうした決して少なくない美点や長所、思考が、結果として政治面・外交面にほとんど利とならなかったということだろう。 そもそも一度天下を取りながら一瞬で失い、わずか五年で破滅した(しかも彼の政治システムも後世継がれなかった)のは、彼の政治能力に問題があったからである。 逆に劉邦は、さまざまな欠点・問題はありながらも、人格や魅力、統率力や信頼など項羽とは逆に「部下の能力を存分に活かす一方、巧みに拮抗させて反乱できないように仕向ける」ことにかけて、無類の巧みさがあった。 例えば、項羽と劉邦は同じく黥布を王にしたが、項羽は黥布に背かれ劉邦と組ませ、逆に劉邦は黥布が韓信・彭越と組めないように仕組んだ(*35)。 つまるところ、項羽の長所は個人レベル、戦術レベルのものでしかなく、戦略や政略にはまるで役に立たなかったということだ。 韓信が彼の数々の長所を認めたうえで評した「匹夫の勇と婦人の仁」という言葉が、彼の評価そのものといえる。 総評すると、覇気と力だけは天下一品、それ以外は素寒貧、という極端すぎる歴史の「英雄」といえる。(*36) しかし、世界の英雄の人生を数倍に濃縮したようなその一生は、実質わずか八年の活躍期間にも拘らず、すさまじい印象を人々に刻みつけて消えない。 【史記と項羽】 「史記」は「項羽本紀」として、項羽を「本紀」に据えている。 本紀とは「その史書が定めた、正当なる王朝の支配者」というものだが、そこに項羽がいる。 司馬遷は項羽について「滅んだのは馬鹿だったからだ。自分で破滅したんだ。そのくせ、死ぬ前になってもその原因を天のせいだと言っている。何もわかってないんだ」と手厳しく批評しながらも、あえて本紀を立てているのだ。一応名目上の君主として懐王がいたのにもかかわらず。 ちなみに、のちの「漢書」では項羽は本紀を立てられず、陳勝と一緒に「陳勝項籍伝」にまとめられてしまっている(*37)。 ある意味で項羽は、司馬遷によって詳細に描かれ、正当に評価を受けることができたといえるだろう。 【関係者】 范増 「亜父」、父に次ぐ者として尊称した軍師。 孫氏呉氏にも劣らぬという評判の智謀で、項梁によって起用された時点で70歳前後になっていたという。 しかし実は史書でもほとんど名前が出てこない。つまりあまり献策した様子が見られないのである。 その献策も「楚の王族を担ぎ上げ大義名分を得るべし」位で他には「劉邦と韓王成を暗殺する」といった対処療法、もしくはズレたものばかりで、はっきり言って評判倒れである。 大義名分の確保として旧王族を担ぎ上げる策も、項梁の死という予想外の事態があったとはいえ、懐王の策謀を許すなど粗も多い(*38)。(これに関しては兵法三十六計の借屍還魂が詳しい) まともな軍師だったのなら、項羽の無謀で粗雑な封建や根拠地選びを諫め、人材発掘を進めるべきであったが、 それをしなかった点で少なくとも政治面では大した軍師ではなく、何よりそんな彼が「随一の知恵者」と評された時点で、項羽側がいかに謀臣がいなかった・育ちにくかったかが証明されている。 とは言え、記録に残った献策が少なすぎて想像で埋めるしかないのが実情ではあるが、 劉邦陣営をしっかりと強敵として認識し警戒していた事、頭脳派の多い劉邦陣営側が計略を用いてまで引き離しを図っている事からその知恵は相当のものだったのだろう。 実際に彼が離間の計によって除かれて憤死した後、項羽は完全に劉邦と彭越に翻弄されるようになっていくので、軍略の方に関しては評判どおりであった可能性は大きい。 劉邦も後に「自分は張良・蕭何・韓信を使いこなせたが、項羽は范増ひとりすら上手く使いこなせなかった。これが項羽の滅亡した原因である」って言ってるし。 また違う見方として、「項羽は范増を亜父として敬愛したが、肝心なところでの進言を聞かなかった」というものがある。 人間、言うことを聞いてもらえなければやる気が無くなってしまうものである。范増は老齢だったためそれでも仕えたが、周囲の人間は離れてしまってもおかしくない。 まさに韓信の言う「婦人の仁」が原因である。 虞美人 項羽が寵愛した美人。「傾国の美女」として名高い。 ……ということなんだが、出番が垓下の一戦だけなので実は傾国らしいことは何もしていない。 王たるもの世継ぎを産まねばならず、妻や愛人はいないとマズいぐらい(*39)なので、彼女が項羽に愛されたと言っても騒ぎ立てることではないのだが、なぜか「虞美人ばかりの言うことを聞くので武将たちが逃げた」などといわれる。 実際には滅びゆく項羽から逃げ出す口実に使われたと言うことだろう。 あと女好きで手を出しまくる劉邦との比較 項羽の滅亡後どうなったのかも不明だが、垓下での返詩を読む限り、項羽を見送って殉死したようだ。 龍且 数少ない、項羽と離れて行動できた大幹部。項梁が挙兵して間もない時期から活躍していた。 劉邦側に寝返った黥布を討伐し、身一つで落ち延びさせるなどかなりの強さがあったが、韓信を討伐するべく北上したときに返り討ちにあい、戦死。 まあ良将ではあったようだが、策略の類には秀でてなかったのであろう。 項梁 項羽の叔父貴ィでございます。 項羽よりは頭が切れて、人の使い方もある程度は心得ていた。 しかしそれも項羽と比べればという程度の話。懐王を擁立すれば宋義の台頭を招き、斉国の救援を兼ねて章邯討伐に行ったら斉国との外交に失敗して孤立無援となり見殺しに遭って殲滅される(*40)という結末を迎えており、時代を牽引する覇者としての手腕には明らかに乏しい。 項羽の弱点である組織を支える部下が少ないという欠陥も項梁のころからあった。 結局、叔甥含めてなるべくして辿った末路だったといえる。 しかし殺人を犯して逃亡している最中に人を集めて反乱軍の首領にまでなっているので、あのまま生きていたらどうなっていたか…という人物でもある。 また部下が少ないというのも立ち上げ直後なので仕方ない面はあり、また人材を集めていたとも書かれているので(*41)、やはりあのまま生きていれば叔甥ともに違った結果があっただろう。(例えば、項伯の推薦とかで張良とかが入る可能性がある) そもそも脳筋で政治的な能力が皆無の項羽が首領にならざるを得なかったことが問題でもあるので… また、項羽が陳勝残党を生き埋めにしたりした後、秦兵20万を生き埋めにするまでそうしたことをしたという記述が存在しないため、項梁に何かしらの注意を受けた可能性もある。 まあ項梁敗死後しばらくしたら忘れちゃったようだが… ちなみに項羽は甥なのだが、項梁の息子はいっさい記録が無く、本人も項羽を跡継ぎと考えていた節がある。子供を作れなかったのだろうか。 項伯 項羽のもう一人の叔父。資料によって項燕の長男だったり末弟だったりでハッキリしない。 楚が滅亡してからは秦に追われる身となり、この時張良と知己となり殺人を犯した際には匿われ、恩義を受けた事から張良とは友誼を結んだという。 項梁の挙兵に参じ、項梁の死後には宰相格に取り上げられた。…のだが、どうもこの叔父、その倫理は「侠」の人間だったらしく、項羽軍での活躍より上記の張良との個人的な縁を重視していたらしく、劉邦を殺せる機会には張良の説得に応じ項羽を説き伏せ弁明の機会を与え、項羽が封建の地を考えている時またも張良に入れ知恵され漢中の地を劉邦に与えるよう進言するなど、ことごとく項羽の足を引っ張ってしまう。 身内贔屓で年長者を重んじる項羽にとっては余程この叔父の言葉は逆らえない物だったようだが、最終的には項羽を見限り劉邦に帰順。 君臣や一族の倫理に立てば都合のいい裏切り者でしかないため、後世の評判は悪いが、劉邦=善・項羽=悪の構図になっている場合はあまり悪く描かれなかったりする。 【創作における項羽】 中国史モノで三国志以外だと一番人気と言っていい人物なので、作品も多い。 もっとも有名なのは、やはり司馬遼太郎の「項羽と劉邦」だろう。 表題通り、項羽と劉邦二人を主人公としながら、当時の時代背景、思想への考察などがふんだんに盛り込まれている。 なお司馬遼太郎は司馬遷を大変尊敬しており、そのペンネームも「司馬遷に遼(はる)かに及ばない日本人(=太郎)」という意味がある。 そのため筆も心なしかノリノリで、項羽の強さはまさしく超人的として描かれており、「項王来」の一報だけで56万の反楚連合軍が崩壊するシーンなどは圧巻。 一方、奇妙な徳がある人物として描かれる劉邦に呑み込まれる姿は哀愁を誘う。 虞美人とのロマンスも、それを象徴する漢詩が教科書に載るレベルで有名なので人気が高い。 もっとも、虞美人は史書では垓下で別れる場面しか出番が無いのだが、特に京劇・演劇科目では項羽と虞美人の悲恋は非常に人気が高い。 また、ヒナゲシの漢名の一つに「虞美人草」というものがある。由来はもちろん彼女であり、彼女の墓所にこの花が咲いたという伝説から。 項羽と劉邦(横山光輝) 超猪武者。とにかく武勇に関しては作中最大最強の存在として描かれており、范増にどれだけ諫められても我意を貫き通す。 しかしどこか子供っぽい純真さも多少描かれており、項梁の死には号泣し、子供に諫められたときは素直に聞いたり、その並外れた武勇に范増は自分の人生をかけて盛り立てていこうとする。 范増死後は気落ちし、自分の器の小ささを多少自覚したことにより成長を見せていくが、時すでに遅く、国力の充実した漢に徐々に戦力を削られながらも、最後に史実通りに突撃を敢行、その死をもって完結している。 作中前中盤の主役が范増と劉邦ならば項羽は後半の主役と言える。 Fateシリーズ(TYPE-MOON) FGOにてサーヴァントの一騎として登場。しかし、その姿は「多腕の半人半馬(ケンタウロス)」とでも言うべき異形。 狂戦士クラスに据えられているが、普段は木石のように物静かで言葉も理知的(そして低めのエエ声)。一方で、常人には理解しがたいタイミングで行動を開始し、中国史上最強も納得の暴威を揮うため、主人公の仲間たちからも恐れられている。 詳しくは当該項目を参照。 BB戦士三国伝 外伝『武勇激闘録』に「項羽ターンX」として登場。 ……そう、三国志モチーフなのに項羽が登場するのである。 設定上は「伝説の英雄と同じ名前を持つ謎の豪傑」なのだが、辿った経緯からしてあからさまに蘇ったか転生したであろう同一人物であり、異名も「楚の覇王」とまさに項羽そのまま。 誰にもつかぬ流浪の豪傑であり、楚の歌と思しき口笛を吹く癖がある。また、赤壁の戦いが行われた荊州の出身らしい。 性格的にはちょっとクールな呂布といった具合。 虞美人や騅は登場しないが、武器のネーミングなどにその要素が見られる。 劇中ではまさかの馬謖ガンダムを参謀に「楚(*42)」の建国を宣言するも、赤壁後でにらみ合いの続いていた三国は一時的に同盟を組んでこれに抗戦。 最終的に山頂に敷いた陣で四方から楚の歌が聞こえてくるという構成員的に全部載せの死亡フラグを打ち立てた後、かつての宿敵と同じ読みの名を持つ劉封ガンダムに討ち取られた。 ゲーム『真三璃紗大戦』では「項羽の乱モード」の主人公として操作可能。 キットも同作の特典として劉邦劉備ガンダム(*43)とのコンパチで制作された。 【余談】 天敵となった劉邦とは義兄弟の関係であったらしい。上記の劉邦の親父を人質にとった時の会話が元。 が、史記の中でもそこにしか出てこないので本当に影が薄い設定。 「俺とお前は懐王の前で義兄弟の契りを結んだ仲」とあるので、秦への本格的な侵攻を開始する前に行われたことと思われるが、なにぶんその頃を書いた記述に出てこないので詳細不明。 時期的に項羽25歳、劉邦49歳くらいの頃と思われる。もしかしたら死んでしまった叔父の姿を重ねていたのかもしれない。 南方圏の出身者で、圧倒的な強さがあり、急速に勢力を拡張したといういくつもの共通点から、のちの孫策が「項羽の如し」と評された。これから派生して、三国演義では「小覇王」の二つ名が付いている。 しかし当時は仮初にも後漢王朝の時代であり、孫策に対して「項羽の如し」というのは「漢王朝に仇なす強力な危険分子」というに等しい、讒訴の言葉だった。 しかも孫策はこの時点で皇族で揚州刺使だった劉繇を駆逐している。 当然孫策は激怒し、それを奏上した許貢を惨殺している。 「三国志の最強武将」として有名な呂布と「どちらが強かったか」という夢のような話が持ち出されることがある。 しかし、呂布はどうしたって天下を流浪するのにとどまり、大局ではほとんど影響力を及ぼせていないのに対して、項羽は仮にも天下の情勢を牽引し続けた。 呂布は漢代の将軍・李広になぞらえて「飛将」と呼ばれたが、結局は「将軍」止まりであり、「覇王」になった項羽とは比べものにならない。 結局比較できるのは「単純に戦場で一騎打ちをしたらどっちが勝つ?」程度の話になる。 もっとも呂布に至っては脚色された演義ならともかく、正史での話となると一目瞭然だが。 コーエー「三国志」シリーズで他の時代の武将・帝王を隠しキャラとして出演させる「いにしえ武将」システムが実装されるようになると、項羽も常連として登場するように。 当たり前のように武力100。統率力や魅力もスゲー高い。 史書では「匹夫の勇と婦人の仁」と呼ばれて「統率力や魅力はあるけど狭いモノです」とか言われていたのだが。 数値だけを見たユーザの中には武力100と聞いて「青龍偃月刀持った関羽や蛇矛持った張飛以下じゃん。」とか「呂布は武力120に上乗せされてること多いから覇王って言っても最強じゃないよね。」等と心無い言われ方をされてはいるものの、攻撃時の補正や戦法使用時のクリティカル率が高いといった部隊としての補正で呂布とは違った強みを持つ事が多い。 まあ、あくまでゲスト出演のおまけキャラであって、これで武力補正に得物や名馬まで実装されたら完全に呂布の立場が無くなるので丁度いい塩梅なのかもしれないが。 なお三国志11の決戦制覇モードではラスボスとして登場。武力100に加えて方天画戟に名馬、さらに暗器まで完備といった、まさしく中国史上最強の肩書に相応しい呂布以上の強敵として立ち塞がった。 また、楚漢戦争を題材にしたコーエーゲーム「項劉記」では補正こそないものの、劉邦陣営の最強武将(樊カイ)との武力差が2ケタ近くある等やはり圧倒的な強さを見せつけている。 紹介文で「中国史最強の武将」と断言されただけのことはある。 また、知力はなぜかそこらの脳筋武将よりはあったりする。これは作詞もできる教養ゆえか。 しかし政治力は呂布にも匹敵するレベルでワーストクラス。かしこさ26 ちなみに、コナミより発売されたRPG「幻想水滸伝2」の登場人物であるルカ・ブライトとジョウイは、制作者インタビューによると彼をモデルにしたとの事。項羽の苛烈で残虐な部分をルカに、慈悲深く情に脆い面をジョウイに分けたらしい。 追記は山を抜き修正は世を蓋う 時利あらずアニヲタ逝かず アニヲタの逝かざるを奈何にせん 項目や項目や若を奈何にせん △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] ドラゴンボールのセリフが一切違和感ないのが草 -- 名無しさん (2018-12-06 02 48 27) 反対もなかったのでコメントをリセットしました -- 名無しさん (2018-12-09 17 21 01) 呂布も案外この時代だったら代王に封じられるくらいには暴れられたんじゃないかとは思う 三国志の時代は軍制も変わったし、何より武勇だけのバカは戦術面でも優越しきれないレベルに落ち込んでいった時代だからこそ呂布の武力でも大したことは出来なかったって話で -- 名無しさん (2018-12-10 14 57 55) んまあ600年の春秋戦国時代の制度が色濃く残ってた時期と、400年間漢の制度下にあった後じゃ変わるだろうからなんともなあ -- 名無しさん (2018-12-10 17 09 54) あとまあなんだかんだ戦争してた戦国時代→秦の時期と、漢帝国下で収まってた時期では生きてる人間の戦争の強さも変わるんじゃないかな -- 名無しさん (2018-12-11 13 31 07) 軍事技術ってのは凡人でも戦力になるように(個人の武力の強弱に左右されないように)進歩するもんだしね -- 名無しさん (2019-01-11 00 14 13) 封建制って絶対の上下関係ってイメージがあるけどむしろフリーダムなものなんだな -- 名無しさん (2019-02-11 16 48 06) そりゃなんで封建=土地を他の人間に治めさせるかっていえば、中央政府が単独で全土を統治できないからだもん。 -- 名無しさん (2019-02-12 12 02 53) 范増、項梁を中心に追記しました -- 名無しさん (2019-02-12 14 20 53) 家康の封建体制の組み立てはこういう考え方に基づいていたのかと思うと面白い -- 名無しさん (2019-10-25 19 01 36) 最期まで付き添った二十八騎はもっとクローズアップされて良い。いい創作ネタになりそうなのに主君の個性が強烈すぎて霞んでしまってる -- 名無しさん (2020-01-22 19 34 08) 脱落した一騎の名前すらわかってないからな・・・ -- 名無しさん (2020-02-13 20 11 31) 項羽本人もそうだけど、率いていた兵がすごく強かったんだろうなって思う。項羽が戦バカなので兵士も戦場経験が多くて1人あたりの平均戦闘力が高いイメージ。だから単純なぶつかり合いには強いが統率が取れてるわけじゃなくて、肝心な時にいうこと聞いてくれなかったりしたのでは -- 名無しさん (2020-06-15 15 14 58) 内山まもる版ザ・ウルトラマンのウルトラ28人衆もこの最後の家臣が元ネタだろうか。また昔新日の前座レスラーに力抜山というのがいて、力道山のパチモノかと思ったが辞世の詩の方が(ry -- 名無しさん (2020-08-05 14 45 21) 恐ろしいまでの猛将っぷりと清々しいまでに為政者の素質がない様を見ると、「実はめっちゃ性能のいいロボットでした」っていうトンデモ設定に納得出来てしまう不思議 -- 名無しさん (2020-11-17 20 43 52) 劉邦が寵童に「籍」と名付けて臥所を共にしていたの闇が深すぎる。 -- 名無しさん (2022-03-28 22 51 19) アレなとこは散々言われてるし、擁護できないが、実力により20代で天下とったのは世界史上唯一レベルの偉業ではある -- 名無しさん (2022-06-17 01 13 45) 何でブロリーなんだよw と思ったけど異常に似合うから困る -- 名無しさん (2022-09-18 01 38 52) 意味の重複してるタグ多すぎない?「覇気 覇王 覇者」「暴君 暴走」「最強 最凶」て類義語辞典みたいな付け方されとるが -- 名無しさん (2022-11-13 19 50 00) 呂布は演義仕様だと三国志最強だろうが項羽は中華屈指だからなあ、それはともかく川原先生のも終わったけど最後にオリキャラのカマセにされたのがちょっと…いや川原先生なりの敬意なんだろうけど -- 名無しさん (2023-04-16 14 20 47) 報告にあった違反コメントを削除 -- 名無しさん (2023-06-26 11 22 24) 近年は范増が大したことない的な考証の空気があるけど、それだったら項羽の武力以外の能力が評価されないのが不思議。普通に考えても短期間の秦打倒に加えて、伝説級人材を多数抱える劉邦に対して、せいぜい范増くらいの配下で垓下以外ほとんど勝利してたのは事実だし、武力だけの人に出来るほど甘くはないはず。人間性はともかく能力面は史記貶しには疑問があるなあ。万能的だった可能性は十分あるんじゃないかと -- 名無しさん (2024-02-20 12 46 56) 2024/02/04 (日) 02 05 17の時点で相談なしで何故かタグが大量に削除されていたので自分から見て問題ないと思われるタグを復活させました -- 名無しさん (2024-03-20 05 27 19) 英傑大戦にも追加決定、スペックは呂布のバージョン違いで最高峰の武を表現 -- 名無しさん (2024-04-16 23 46 02) 流石に話を盛ってるだろうが史記の記述を鵜呑みにするなら、部下も一人一人が演義の呂布並みに -- 名無しさん (2024-04-23 00 58 09) 名前 コメント
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DEAD END(後編) ◆ew5bR2RQj. 「がはっ……あぁ……」 身体から日本刀が引き抜かれると、右京の口から夥しい量の血液が溢れる。 続いて傷口から鮮血が吹き出し、糸の切れた人形のように崩れ落ちる身体。 誰もが呆然とする中、右京の身体は壊れた玩具のように痙攣し始めた。 「ハハハハハハハ! クハハハハハハハハハハハハハハ!」 数秒の静寂が続く中、最初にそれを打ち破ったのは浅倉の笑い声。 目の前で起こった出来事が心底面白いというように、狂ったように笑い続ける。 「こいつは傑作だな! ベノスネーカー、食っていいぞ」 浅倉は機嫌を良くしたのか、指示を出す声は微かに弾んでいる。 ベノスネーカーも新たな餌を確保し、意気揚々と地面を移動し始めた。 翠星石やみなみは数分前のこなたの最期を思い出すが、ミラーモンスターの猛進を止めることなどできるわけがない。 多くの者が諦観する中、ベノスネーカーはあっという間に右京の元まで辿り着く。 短い鳴き声を発し、鎌首をもたげる。 そして、いざ眼の前の餌に食い付こうとした瞬間。 「ウオオオオオォォォォォォッ!」 その長い胴体に、烈火のごとき深紅色の巨大な龍が噛み付いた。 「龍……ということは、あいつか」 またしても行動を妨害されたにも関わらず、浅倉が機嫌を悪化させることはない。 むしろ失くした玩具を数年振りに発見した時のような、感慨深そうな様子で新たな訪問者を見据えていた。 「城戸……」 「浅倉ッ!」 仮面ライダー龍騎――――城戸真司。 北岡秀一ほどではないが、浅倉が本気で殺したいと思っていた相手の一人。 そんな相手が、ライダーに変身した姿で目の前にいた。 「ハァ……ハァ……」 「か、かなみちゃん、どうしてここに!?」 一方で上田とみなみは、真司と一緒に現れたかなみの存在に驚きを隠せずにいた。 彼女は戦力にならないため、警察署に残っているはずだったのである。 「やっぱり……私にも……なにかできないかと思って……」 肩で息をしながら、かなみは今までのことを回想する。 会議室を抜けた彼女は、あの後に真司が眠る仮眠室へと走った。 彼はシャドームーンとの戦闘でずっと眠り続けていたが、心に直接呼び掛ける自身の能力なら覚醒させることができるかもしれないと気付いた。 カードデッキを持つ彼ならば、きっと大きな戦力になるだろう。 制限をかけられたアルター能力の使用は著しく精神力を消耗させたが、それでも彼女は呼び掛けることを続けた。 そのまま数分間が経過すると、真司の瞼がゆっくりと開かれる。 混乱する彼に今までの経緯を説明し、最後に協力を申し込んだ。 怪我人に鞭打つようで忍びなかったが、今の彼女が出来ることはこれしかなかったのだ。 断られるかもしれないと不安を抱いていたが、真司は微笑みながら二つ返事で承諾。 彼女のアルターでこの場を探し当て、彼らはここまで来たのである。 「ッ! 右京さん!?」 血みどろに沈む右京を見下ろし、拳を強く握り締める真司。 そして、血の滴る刀を持ったまま立ち尽くすライダーの方を向く。 「アンタがやったんだな!?」 「ああ」 淡々と何でもないことのように応える彼を見て、真司の怒りは最高潮に達する。 「俺はアンタを絶対に許さない!!」 デッキから一枚のカードを取り出し、左腕のドラグバイザーに素早く装填する。 すると傍に設置されたカーブミラーから、ドラグレッダーの尾を模した剣・ドラグセイバーが降り注いだ。 「翠星石! 右京さんを連れて下がって!」 「は、はいですッ!」 翠星石はここは下がるのが最善と判断したのか、重症を負った右京の身体を刺激しないように花弁で持ち上げながら下がる。 「城……戸くん……」 そんな中、右京は血に塗れた唇をゆっくりと開いた。 「絶対に……殺しては……いけません……」 それは彼らが最初に出会った時も右京が語った言葉。 傍にいた翠星石は僅かに顔を顰めたのに、真司も右京も気づかない。 「……分かってます!」 ゆっくりと噛み締めるように間を置き、真司は右京の言葉を何度も反芻させる。 そしてドラグセイバーを構え、二人のライダーが闊歩する戦場へと足を踏み入れた。 ☆ ☆ ☆ 「…………あぁん?」 カズマが目覚めた時、最初に目に飛び込んできたのは青空と太陽だった。 続いて感じたのは、右腕に走る鋭痛。 思わず逆の腕で抑えるが、その手触りから右腕に布が巻かれていることに気付く。 少々無骨ではあったが、しっかりと患部は包み込まれていた。 「カズマくん、目が醒めたんだね」 頭上から声に驚き、飛び上がるカズマ。 そこには、彼よりも少しばかり年長と思われる精悍な顔をした青年がいた。 「……誰だアンタ」 「え? さっきからずっと一緒に……ってまだ自己紹介はしてなかったか 俺は南光太郎、かなみちゃんやLさんから君のことは聞いてるよ、カズマくん」 爽やかに笑いながら自己紹介をする光太郎。 その言葉を聞いている内に、意識を失う前の記憶が少しずつ蘇り始める。 (ソウジロウと戦った後、カメレオンみたいな奴と戦って……) 「かなみッ!」 彼は、自らの本来の目的を思い出した。 「おい、こんなとこでなにやってんだ!? 」 眉間に皺を寄せ、光太郎の胸ぐらを掴むカズマ。 彼の目的は一刻も早くかなみと合流することであり、こんなところで油を売っている時間はない。 呑気に休憩するなど以ての外である。 「は、離してくれ……ッ!」 光太郎は苦しげに顔を歪めながら、自らの胸倉を掴む腕を引き離そうとする。 カズマは相当力を込めたつもりだったが、不思議なほどあっさりと腕は解かれてしまった。 「いいかい、君は倒れたんだよ? 腕からあんな血を流して下手したら死んでいたかもしれない いくら急いでいたとしても、そんな大怪我を放っておくことはできないよ」 光太郎の言い分は最もだ。 カズマの右腕から流れ出る血液の量は夥しく、このまま放置すれば失血死しかねない程だった。 それに光太郎も休憩なしで十二時間以上活動し続けており、疲労や空腹もピークに達してきていた。 急がなければいけないのは事実だが、無理をして倒れては元も子もない。 何処かで休憩を摂る必要があったのだ。 「クソッ!」 カズマの右腕が淡い光に包まれ、周辺にある地面の一部が粒子へと変換される。 その粒子はカズマの右腕へと集まり、やがて黄金色の手甲・シェルブリットへと変化した。 「な、なにをする気だカズマくん、君の腕はまだ――――」 「うっせぇ! 俺は一秒でも早くかなみのところに行かなきゃならないんだよ!」 右拳で地面を叩き上げ、地響きと共にカズマは宙へと舞い上がる。 しばらく飛距離を稼いで落下した後、再び地面を殴って空中を駆ける。 これを繰り返すことが、カズマが持つ最速の移動法だ。 「待ってくれ!」 あっという間に離れていくカズマを見て、光太郎も全速力で走り出した。 ☆ ☆ ☆ 「右京さん……早く止血を!」 「その必要は……あり……ません……」 新一の残した最後の傷薬を使おうとするみなみを止めたのは、右京自身だった。 「自分の身体のことは……自分が一番よく分かります……僕は……もう……」 「そんなこと言わないでください!」 「そうだ! 諦めるな! ベストを尽くさないでどうする!」 上田やかなみが応援の言葉を投げてくるが、右京は血を吐き出しながら首を横に振る。 桐山に刻まれた傷は、右胸を深々と貫通していた。 喋るだけで全身を激痛が苛み、赤黒い靄のような物が意識を侵食し始めるのを感じる。 これが死なのかと、右京は朧気に感じていた。 「一つだけ……伺ってもよろしいでしょうか……?」 右腕を震わせながら上げ、握りしめた拳から人差し指だけを突き立てる。 「僕は……間違っていたのでしょうか……」 右京の問いに、三人は閉口してしまった。 例えどのような人間であろうと、全ての参加者を生きたまま保護する。 現代日本での命の価値はみな等しく、どのような状況であろうとそれは変わらないと思っていた。 だが、その考えは多くの者に否定された。 ここにいる参加者の多くは、別々の世界から収集されている。 同じ日本ですら、まるで別の世界なことも珍しくない。 世界が違えば、常識が違うのは当たり前である。 それでも命の価値と尊厳は不変であり、決して軽んじられていいものではないはずだ。 だから彼は自らの信条に従い、全ての参加者の命を守ろうとした。 ――――だが、お前はこの殺し合いを掻き回す事は出来ても止める事は出来ない ――――君の正義はいつか暴走する、そして周りの人間たちを滅ぼすだろう だが、結果はこれだった。 もし翠星石が桐山を殺すのを見過ごしたり、デストワイルダーに引き摺られる桐山を助けなければ。 おそらく自分が致命傷を負うことはなかっただろう。 全ての参加者の命を守ろうとして、結果的に自らが命を落とす。 これを以上の皮肉が果たしてあるのだろうか。 「右京」 他の三人が答えあぐねている中、翠星石が溜め息を漏らすように右京の名を呟く。 「翠星石は……お前の考えは正しいと思いますよ」 右京と目線を合わせずに翠星石は答える。 彼女が自らの意見を肯定したのは、彼にとって意外でもあり喜ばしくもあった。 蒼星石の仇を取る千載一遇のチャンスを、右京はこの手で握り潰してしまったのだ。 彼女の立場からすれば、決して許すことはない相手だろう。 「命が大切なのは当たり前のことです!」 「そうだ、そんなことは誰だって知っている、今更言うまでもない!」 「そうです……だから死なないでください!」 翠星石の言葉を皮切りに、他の三人も口々に肯定の意を示す。 そう言う彼らの顔を覗き込むが、視界が赤黒い靄に覆われて見えなかった。 「そう……ですか……」 多くの参加者に否定され、最後は自らの命すら奪った信条。 だが、最後の最後で四人の参加者が賛同してくれた。 自分の命がここで尽きても、この心情だけは彼らの心に生き残る。 それだけでも、右京は自分が間違っていなかったと実感することができた。 「ありがとう……ござい……ます……」 掠れる声で謝礼の言葉を述べる。 それを最後に右京は力尽き、二度と目覚めることはなかった。 【杉下右京@相棒 死亡】 「右京さん! 右京さん!」 「死ぬな! 君はこんなところで死んでいい人間ではない!」 事切れた右京の傍で叫び続ける上田、かなみ、みなみの三人。 その少し後方で、翠星石は右京の遺体を憐れむように眺めていた。 「でも……正しいことばかりがいいとは限らないのですよ……」 誰にも聞こえないように、小さな声で彼女は呟く。 そうして右京の遺体から、三人のライダーが殺し合う戦場へと視線を移す。 やはりと言うべきか、佳境に立たされているのは真司であった。 シャドームーンとの戦闘の傷や疲労が残っているのか、それとも右京が最後に残した言葉が枷になっているのか。 本気で殺そうとしている桐山と浅倉に対し、彼の動きはあまりにも鈍すぎる。 「ッ!」 ドラグレッダーとベノスネーカーの衝突で地響きがなり、翠星石は堪らず尻もちを着いてしまう。 ミラーモンスターの中でも屈指の巨躯を誇る二匹の戦いは、その余波の大きさも尋常ではなかった。 「いたた……ん?」 打った臀部を庇うように立ち上がる翠星石。 そうして立ち上がった直後、彼女の足元に見覚えのある道具が転がってきた。 「これは……」 何故これがここに存在するのか分からないが、あっても決して不思議ではない。 一つだけ確かなのは、これが今の戦況を覆す可能性を持つということだ。 ごくり、と生唾を呑み込む。 ――――絶対に……殺しては……いけません…… 右京が死ぬ間際に真司に残した言葉。 自分が致命傷を負ったにも関わらず、未だにこんな事を言う彼に憤怒と憐憫が入り混じった感情を抱いた。 生命が大切など、そんなことは百も承知だ。 だが、それなら蒼星石の命を奪った桐山はどうなる。 右京は法が裁きを下すと言ったが、違う世界にいる相手にどうやって法の裁きを下すのか。 人間でない蒼星石を殺したとして罪に問えるか分からないし、別の参加者に殺されてしまう可能性も十二分にある。 人間が定めた法など穴だらけだ。 なら、翠星石が裁きを下してもいいのではないか。 ――――ありがとう……ござい……ます…… 足元に転がっている物を拾い上げる翠星石。 その胸の内に抱く真意は―――― ☆ ☆ ☆ 「……ッ!」 それは突然訪れた。 オルタナティブ・ゼロの鎧に包まれた桐山の身体から、細かな粒子が上り始める。 変身が解除される時間を示す合図が、他の二人よりも早く訪れたのだ。 オルタナティブ・ゼロのデッキは、神崎士郎の研究を元に香川英之が作り上げた物である。 龍騎や王蛇を正規品と称すなら、オルタナティブ・ゼロは模造品。 スペックなどは正規の物と遜色なかったが、変身していられる時間だけは僅かに短くなってしまった。 正規品が9分55秒なのに大して、オルタナティブ・ゼロは8分25秒。 長期戦にもつれ込んでしまったため、九十秒の差が戦況に現れてしまったのである。 ――――FINAL VENT―――― 功を焦ったのか、桐山はファイナルベントのカードを使用。 正規の物とは違う、女性の声での認証音が響く。 傍に設置されたカーブミラーから勢いよくサイコローグが現れ、その身体を次々とバイクに変形させながら桐山の元に駆けつける。 桐山は縮地を用いて包囲網を掻い潜り、迫ってくるサイコローグの座席に飛び乗る。 ――――FREEZE VENT―――― そしていざ攻撃に移ろうとした瞬間、サイコローグは不意に動きを止めた。 「ほう、こいつはなかなか面白いな」 ベノバイザーの先端を地面に刺し、声を弾ませながら浅倉は言う。 先程彼が使用したのは、絶対零度の冷気でミラーモンスターを凍結させるフリーズベント。 デストワイルダーとの契約で新たに入手したカードだ。 「行け! ベノスネーカー!」 同時にドラグレッダーも凍結したため、ベノスネーカーの相手をする者がいなくなる。 指示通りにベノスネーカーが突進する姿を見ながら、浅倉はデッキから更なるカードを取り出した。 ――――UNITE VENT―――― ベノスネーカー、エビルダイバー、デストワイルダー。 王蛇と契約した三体のモンスターが集合し、ベノスネーカーを基点に交じり合う。 デストワイルダーのはもがくように腕を振り上げ、その背にベノスネーカーの身体が重なり、さらにその上にエビルダイバーが乗る。 三体の咆哮が三重奏のように轟く中、それぞれのモンスターの融着点は曖昧になっていく。 デストワイルダーの首から上が消滅し、そこから飛び出すように現れるベノスネーカーの首。 同時に臀部に穴が空き、毒々しい模様が刻まれた紫色の尾が生える。 そして融着したエビルダイバーの鰭が四枚に分裂し、さながら鋼鉄の翼のように広がる。 最後にベノスネーカーの頭頂部にデストワイルダーの耳が生え、三体の融合は終わりを告げた。 首と尾がベノスネーカー、背中がエビルダイバー、胴体と頭がデストワイルダー。 それぞれの特徴を残しつつも、何処か歪に交じり合った醜悪な怪物。 虐殺者の異名を司る合成獣・獣帝ジェノサイダー。 デストワイルダーではなくメタルゲラスが本来の素材であるが、これもジェノサイダーの一体である。 ――――FINAL VENT―――― 間髪入れず、浅倉はファイナルベントを発動。 ジェノサイダーの腹部に巨大な穴が空き、全てを虚無へと還すブラックホールが発生する。 「うおぉ……吸い込まれるぞ!」 ブラックホールの吸引力は凄まじく、遠くに離れている上田たちも人事では済まされない。 傍にある外壁にしがみつくことで凌いだが、上田の声が無ければいつかは吸い込まれていただろう。 浅倉のデイパックから散乱した支給品が、次々とジェノサイダーの腹部に吸い込まれていく。 この中に放り込まれたら、例えライダーといえど二度と戻ってくることはできない。 仮面ライダー王蛇が有する正真正銘の最終奥義だ。 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」 勢いよく助走をつけ、錐揉み回転の飛び蹴りを繰り出す浅倉。 その双眼が見据えているのは、ジェノサイダーと自身の対角線上にいる真司。 今までのダメージが重なり、真司は蹲ることしかできない。 「死ねェッ!」 飛び蹴りは命中し、真司は空中に放り投げられる。 必死に空中でもがき続ける真司だが、ブラックホールはすぐ傍に迫ってきていた。 浅倉の狂った笑いが場を支配する中、真司の最期を想像し傍観者たちは目を背ける。 そして、ついに真司の身体が吸い込まれようとする瞬間だった。 「なにッ!?」 地面から幾本もの巨大な植物が生え、ジェノサイダーの身体の覆い尽くしたのは。 「なんとか……間に合ったです……」 肩で息をしながら現れたのは翠星石。 その右手には、美しい色をした金色の如雨露が握られている。 「はぁ……はぁ……助かったよ」 「全く……カッコよく駆けつけたなら、最後までしゃんとするです!」 辛うじて浅倉の蹴りから逃れた真司は、はにかみながら謝礼を述べる。 植物に受け止められていたため、彼はすぐに復帰できる程度の体力は残していた。 彼女が所持している如雨露は、元々は浅倉のデイパックに収納されていた一品。 デストワイルダーに引き裂かれたことで、中にある品が散らばったため彼女の手元に戻ってきた。 庭師である彼女のみが扱うことができ、植物を操る力を持つ庭師の如雨露だ。 「何度も何度も邪魔しやがって……イライラさせやがる、どうして俺に気持ちよく戦わせねぇんだ!」 鬱憤が溜まり過ぎたのか、浅倉は地団駄を踏み始める。 だが、その身体からは既に粒子が上がりつつあった。 既に桐山の変身は解除され、戦況は確実に翠星石や真司の方に傾いている。 「これは……!」 地面が震える音が響く。 真司や翠星石に聞き覚えはなかったが、上田やかなみはどうやら違うようだ。 顔をぱっと明るくさせ、音源である北に顔を向けている。 「カズく――――――――――――――――ん!!」 「かなみいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」 互いの名前を叫び合う二人。 現れた男――――カズマは右腕のシェルブリットを乱暴に叩きつけ、終焉を迎えようとしている戦場に駆けつけた。 「光太郎さん!」 「光太郎くん!」 みなみと上田の声が重なる。 カズマと共に現れたのは、主催者に立ち向かう者の中でもトップクラスの力を持つ光太郎。 傍にいればこれほど頼り甲斐のある者はいないだろう。 「カズくん! カズくん!」 カズマに到着に涙を流し、彼のもとに駆け寄ろうとするかなみ。 上田やみなみは援軍の到着に歓喜し、状況を不利と判断した浅倉は逃げ出そうとする。 真司や翠星石は顔見知りではなかったが、かなみの反応から味方と判断した。 多くの犠牲を出してしまったが、これで二人の悪人を取り押さえることができるだろう。 翠星石はそんな事を考えるが、桐山の顔を見た瞬間に悪寒が走った。 これだけ圧倒的不利であるにも関わらず、彼の顔には一切の動揺が見られない。 最初に出会った時と同様、氷のような無表情を貼り付けているのだ。 「そこにいる――――」 桐山の口が開かれる。 無表情だったはずの顔が、ほんの少しだけ笑ったような気がした。 「そこにいる赤と紫のライダーが敵だ」 ぽかんと口を開ける翠星石。 桐山の放った言葉が、彼女の理解を越えていたのだ。 赤と紫のライダーが、龍騎と王蛇のことを指しているのは分かる。 王蛇はともかく、龍騎はこちらの味方だ。 こんな見え透いた嘘を吐いて、一体何になるというのだろうか。 誰も信じるわけが―――― ――――カズマくんは嘘は吐くようには見えないかな…… ――――違う、カズマはあいつにとどめを刺さなかった 悪寒が、全身に広がる。 蒼星石と桐山の話が正しければ、彼らは僅かな時間だがカズマと行動を共にしている。 そして桐山が本性を表したのはほんの十分前の話。 つまりだ。 、 、 、 、 、 、 、 、 、、、 、 カズマは桐山和雄を仲間だと思っている。 「そいつの言ってることは嘘ですうううッ!!!!」 悲鳴のように大声で翠星石は叫ぶ。 真司や浅倉に襲いかかろうとしていた二人は、一斉に足を止める。 「え……?」 だが、全てが遅かった。 腰を落として左手を刀の柄に添え、右脚と右手を前に出す桐山。 その体勢のまま一瞬で加速し、前に出ていたかなみの傍へと接近。 そして、鞘から日本刀を引き抜き。 首を、切り裂いた。 「なんだ、これ」 首から鮮血を吹き出しながら、かなみの身体はぐしゃっと崩れ落ちる。 桐山は最後までそれを見ることなく、瞬く間に逃げ去っていく。 浅倉もいつの間にか居なくなっていて、ジェノサイダーの姿もそこにはない。 「かなみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!!」 全ての敵が居なくなった戦場で、カズマの絶叫が空しく響いた。 【由詑かなみ@スクライド 死亡】 ☆ ☆ ☆ 「何があったのか……教えていただけますか」 戻ってきた六人を見て、Lは神妙な表情を浮かべた。 まず真っ先に目が向いたのは、カズマと光太郎に抱かれた二つの遺体。 カズマがかなみを、光太郎が右京を持っている。 帰ってきたメンバーが、最初に出ていったメンバーと大分違っていることにもすぐ気付いた。 「何があったのか、じゃねぇだろ」 刃物のように目を尖らせるカズマ。 普段の彼だったら殴っていただろうが、かなみの遺体で塞がっているため手を出すことができない。 だが思わず目を逸らしたくなるほどに歪んだ表情が、彼の怒りの強さを物語っていた。 「どうしてかなみを行かせた!? 怪我してただろうが! なんで止めなかったんだよ!」 「…………」 「黙ってないで何か言えよッ!」 今にも食って掛かりそうな状態だが、それでもかなみの遺体が彼の腕から離れることはない。 遺体の目の下には一筋の血の痕があり、まるで彼女が血の涙を流しているように見えた。 「……ッ!」 パシン、と乾いた音が響く。 目の前で起きた出来事を見て、真司と上田は驚愕する。 ただ、光太郎だけがとても悔しそうに握り拳を震わせていた。 「なんで……なんで貴方はそんな顔ができるんですか……」 みなみの手の平が、Lの頬を打ち抜いていた。 「人が死んだんですよ……蒼星石さんも……右京さんも……かなみちゃんも……泉先輩も! なのに、なんで貴方はそんな平気そうな顔ができるんですか?」 それは数時間前――――第一回目の放送直後の出来事を再生しているようだった。 嗚咽を漏らしながら、Lを言葉の限りに罵倒するみなみ。 それでも収まらず拳を出そうとするが、光太郎の代わりに真司がそれを抑える。 叫び声を上げながら抵抗する彼女の姿は、どうしようもない程に痛々しい。 あの時の右京のように、彼女を諭す者はいなかった。 「少しは人の気持ちを考えやがれです、お前には付いてけないですよ」 やがて叫び疲れたみなみが、項垂れるように抵抗するのを止めた頃。 心底呆れたといった様子で翠星石は呟き、Lの横を通って警察署の奥へと進んでいく。 「同感だね」 彼女を追うように、カズマも後に続く。 「何処に行くつもりだ?」 「こういうところには霊安室ってのがあるんだろ、そこにかなみを置いていく」 光太郎の質問に背を向けたまま答えるカズマ。 そのまま光太郎が二の句を告げる前に、彼は足早に奥へと立ち去ってしまう。 それを皮切りに、みなみ、上田、真司もLの横を通り過ぎていった。 「……Lさん!」 最後に残った光太郎は、下唇を噛み締めながらLを見る。 喉まで出掛かった言葉を必死に呑み込もうとしているような、そんな表情だった。 「憎まれ役は馴れてます、光太郎くんも皆さんの元に行ってあげてください」 「でも、それじゃあ!」 「少し……一人にさせてください」 懇願するようなLの言葉に、思わず光太郎は黙り込んでしまった。 「……すいません」 最後にそう言い残し、光太郎は身体を翻す。 そうしてLの横を通って、ゆっくりと去っていく。 大きかったはずのその背中は丸まっていて、まるで子供の背中のように小さく見えた。 「……」 その背中が遠くなっていく様を、Lは無言のまま見続ける。 時折はみ出るように見える右京の顔は、まるで眠っているように穏やかなものだ。 しかし、彼は眠っているのではない。 そこにあるのはただの抜け殻で、右京の魂はもう何処にも無い。 この地で最初に出会った相棒は、もう死んでしまったのだ。 (何故……) 背中が見えなくなり、Lは握り拳を壁に叩きつけた。 (何故……私は行かせてしまったんだ……) 一般人である右京やかなみを戦場に送り込んでしまった責任。 本気で止めようと思えば止められたのに、自分はその義務を放棄した。 頭脳労働を担当しておきながらこの醜態。 招かれてしまった最悪の結果に、彼は深い自責の念に囚われていた。 (私は……私は……) ここに、誰も把握していない一つの事実があった。 かなみのアルター能力・ハート・トゥ・ハートは、他人の深層心理にアクセスする能力である。 非常に幅広い活用方法が存在し、その一つに使用者の感情や思考を他者に伝達する力があった。 あの時、彼女がLの制止を振り切って会議室の扉を開けた時。 無意識下でアルター能力が発動し、かなみはLの深層心理に訴えかけていたのだ。 ”私にも何か出来ることをさせてください”と。 (何故……私は……) だが、そんな事を知らないLは自身を苛み続ける。 未来永劫、永遠に。 【一日目 午後/H-9 警察署ロビー】 【L@デスノート(漫画)】 [装備]無し [支給品]支給品一式、ニンテンドーDS型詳細名簿、アズュール@灼眼のシャナ、ゼロの仮面@コードギアス おはぎ×3@ひぐらしのなく頃に、角砂糖@デスノート、確認済み支給品0~2 [状態]健康 [思考・行動] 1:協力者を集めてこの殺し合いをとめ、V.V.を逮捕する。 2:大量の死者を出してしまったことに対する深い罪悪感。 ※本編死亡後からの参戦です。 ☆ ☆ ☆ 霊安室のベッドには、三体の遺体が並べられていた。 蒼星石、杉下右京、由詑かなみ。 数十分前まで動いていた彼らが再び動き出すことは、もう二度とない。 日常の世界で最も尊かった物が、今はこうもあっさり失われていく。 みなみには、それが堪らなく恐ろしいことに感じられた。 「これはこうやるのだ」 「悪ぃな、オッサン」 「いや、なに……その……私がもう少ししっかりしていればかなみ君は……」 「……アンタのせいじゃねーよ」 上田に手順を教わりながら、かなみの遺体に線香を添えるカズマ。 Lに食って掛かった時とは違い、地を震わす程の怒りはすっかり鳴りを潜めている。 その姿は、親に叱られて拗ねている子供のようだ。 本当は彼も分かっているのだろう、 かなみが死んだのは上田のせいでも、Lのせいでも、ここにいる誰が悪いというわけではない。 直接手を下した桐山か、あるいは彼女を殺し合いに巻き込んだV.V.か。 真に憎むべきは彼らであって、先程のLに対する言動や行為はただの八つ当たり。 振り上げた拳の下ろし場所が分からず、あんな暴挙に出てしまったのだ。 そんなことはカズマも、翠星石も、そしてみなみ自身も分かっていた。 「……」 線香の特徴的な匂いがみなみの鼻をくすぐる。 ふと前を見ると、既に三人の遺体の傍の鉢に線香が設置され終えていた。 「黙祷を……しよう」 上田の言葉を合図に、霊安室にいた六人は手を合わせる。 そして、目を瞑った。 「……」 視界が黒に染まる。 そのせいか、線香の匂いがより深く感じられた。 死を連想させる嫌な匂いだと、見えないように眉を顰めるみなみ。 死亡した三人を弔う気持ちはあったが、彼らに対する嫉妬心が心の片隅に存在するのも否定できなかった。 彼らはきちんと弔われたのにも関わらず、こなたは遺体すら残らない。 黙祷をしているが、彼女の事を思っている者は果たして居るのだろうか。 語った言葉が事実なら、彼女はかがみを殺しているのだろう。 さらにデイパックの中からは、何者かの背骨と眼球も発見された。 彼女は誤魔化していたが、殺人に手を染めていたのは否定できない事実だろう。 それでも泉こなたという人間は岩崎みなみにとって大切な人であることに変わりなかった。 ――――ゆーちゃんがこのまま死んじゃったままでいいの!? ねぇ!? ゆたかも死んで、かがみも死んで、みゆきも死んで、こなたも死んだ。 もしここから脱出できたとしても、元通りの日常が戻ってくるわけではない。 全てを取り戻すには、それこそこなたが言っていたようなリセットボタンが必要になるだろう。 ――――んーそうだね、何か願いも叶えてあげるよ。 死者への鎮魂を祈りながら、彼女が選ぶ道は―――― ☆ ☆ ☆ こうして、一つの言葉から始まった惨劇は幕を下ろす。 四人もの命を奪い、多くの者の心に癒えない傷を刻んだ。 探偵や改造人間は自らの無力を苛み、人形やアルター使いは復讐心に身を染める。 しかし、これは終わりではない。 今回は生き残った彼らも、次に命があるかは分からない。 最後の一人が残るまで、全ての物語は通過点に過ぎないのだ。 彼らの物語は、まだまだ続く。 【一日目 午後/H-9 警察署霊安室】 【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】 [装備]庭師の如雨露@ローゼンメイデン、真紅と蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン [支給品]支給品一式(朝食分を消費)、真紅のステッキ@ローゼンメイデン、情報が記されたメモ、確認済支給品(0~1) [状態]疲労(中) [思考・行動] 1:殺し合いから脱出。 2:真紅が最後に護り抜いた人間に会い、彼女の遺志を聞く。 3:水銀燈を含む危険人物を警戒。 4:桐山に対する強い復讐心。 [備考] ※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。 ※真紅のローザミスティカを取り込んだことで、薔薇の花弁を繰り出す能力を会得しました。 【城戸真司@仮面ライダー龍騎(実写)】 [装備]無し [所持品]支給品一式×3(朝食分を消費)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎(一時間変身不可)、確認済み支給品(0~3) 、劉鳳の不明支給品(1~3) [状態]ダメージ(中)、疲労(大) [思考・行動] 1:右京の言葉に強い共感。 2:やっぱり戦いを止めたい。 3:劉鳳を殺してしまったことに対する深い罪悪感。 4:翠星石のことは守り抜きたい。 5:シャナを倒し、彼女の罪をわからせる。 ※絶影を会得しました、使用条件などは後の書き手の方にお任せします。 【岩崎みなみ@らき☆すた(漫画)】 [装備]無し [支給品]支給品一式、君島の車@スクライド、情報が記されたメモ [状態]健康、疲労(小)深い悲しみ [思考・行動] 1:…… 2:友人たちの仇を取りたい、その為の力が欲しい。 3:Lに対する強い嫉妬。 4:V.V.とこなたの言葉が気になる。 5:つかさに会いたい。 【上田次郎@TRICK(実写)】 [装備]無し [支給品]支給品一式×3(水を一本紛失)、富竹のポラロイド@ひぐらしのなく頃に、デスノート(偽物)@DEATH NOTE ベレッタM92F(10/15)@バトルロワイアル(小説)予備マガジン3本(45発)、雛見沢症候群治療薬C120@ひぐらしのなく頃に、 情報が記されたメモ、発信機の受信機@DEATH NOTE、不明支給品0~1 [状態]額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲 、疲労(中) [思考・行動] 1:これからどうするか…… ※龍騎のライダーバトルについてだいたい知りました。 カードデッキが殺し合いの道具であったことについても知りましたが、構造などに興味はあるかもしれません。 ※東條が一度死んだことを信用していません。 【カズマ@スクライド(アニメ)】 [装備]暗視ゴーグル [支給品]支給品一式、タバサの杖@ゼロの使い魔、おはぎ@ひぐらしのなく頃に、Lのメモ [状態]疲労(大)、ダメージ(大)、右腕、背中に裂傷(処置済み) [思考・行動] 1:桐山に対する強い復讐心。 [備考] ※Lのメモには右京、みなみの知り合いの名前と簡単な特徴が書いてあります。夜神月について記述された部分は破られました。 ※蒼星石とはほとんど情報を交換していません。 【南光太郎@仮面ライダーBLACK(実写)】 [装備]無し [支給品]支給品一式、炎の杖@ヴィオラートのアトリエ、包帯×5@現実、高荷恵の傷薬@るろうに剣心 [状態]疲労(小) [思考・行動] 1:この殺し合いを潰し、主催の野望を阻止する。 2:主催とゴルゴムがつながっていないか確かめる。 3:信彦(シャドームーン)とは出来れば闘いたくない……。 4:自らの無力さへの強い怒り。 ※みなみを秋月杏子と重ねています。 ※本編五十話、採石場に移動直前からの参戦となります。 ※以下のアイテムが回収されました。 浅倉のデイパックから散乱した確認済み支給品1~3 瑞穂のデイパック(支給品一式、シアン化カリウム@バトルロワイアル、不明支給品0~1) かなみのデイパック(支給品一式、不明支給品0~1) 右京のデイパック(支給品一式×2(水と食事を一つずつ消費)、S&W M10(0/6)、S&W M10の弾薬(24/24)@バトル・ロワイアル、首輪(魅音) ゼロの剣@コードギアス、女神の剣@ヴィオラートのアトリエ、拡声器@現実、イングラムM10(0/32)@バトルロワイアル、傷薬×1@真・女神転生if... ※警察署で六人(L、上田、かなみ、翠星石、みなみ、桐山)で情報交換を行い、以下の事柄に関する情報を入手しました。 また、情報を記したメモにはこれらの情報が全て記されています。 1:浅倉威、水銀燈、後藤、田村玲子、シャナ、シャドームーン、夜神月、竜宮レナ、騎士服の男(スザク)、メイド服の女(咲世子)が危険人物であること。 2:それぞれのロワ内での大まかな動向、及び元からの知り合いに関する情報 3:寄生生物、ローゼンメイデン、カードデッキ、アルター能力についての情報。 4:Dー7で起こった爆発の主犯が北岡秀一であること。 ※浅倉のデイパックから散乱した物に関しては、ジェノサイダーの腹部に吸い込まれて消滅した可能性があります。 【一日目 午後/G-9】 【桐山和雄@バトルロワイアル】 [装備]防弾チョッキ@バトルロワイアル、コルトパイソン(5/6)@バトルロワイアル、夢想正宗@真・女神転生if... [所持品]支給品一式×2、コルトパイソンの弾薬(22/24)、情報を記したメモ、オルタナティブゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不可) [状態]疲労(中)、ダメージ(中)、右上腕に刺し傷 [思考・行動] 1:遭遇した参加者から情報を聞き出した後、利用出来るなら利用、出来ないなら殺害する。 2:水銀燈、浅倉、カズマ、光太郎、騎士服の男(スザク)、警察署で出会った面子は次に出会えば殺す。 [備考] ※ゾルダの正体を北岡という人物だと思っています。 ※縮地、天剣を会得しました。(縮地が全力のものかどうかは次の書き手さんにお任せします) 【浅倉威@仮面ライダー龍騎】 [装備]FNブローニング・ハイパワー@現実(12/13) [所持品]支給品一式×2(水とランタンを一つずつ消費)、王蛇のデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不可) 贄殿遮那@灼眼のシャナ、発信機@DEATH NOTE、ルイズの眼球、背骨(一個ずつ)、CONTRACTのカード@仮面ライダー龍騎×1、未確認支給品0~2 [状態]疲労(中)、イライラ(大)、全身打撲 [思考・行動] 0:北岡を探す。 1:北岡秀一を殺す。 2:五ェ門、茶髪の男(カズマ)、学生服の男(桐山)、金髪の男(レイ)を後で殺す。 3:全員を殺す。 [備考] ※ライダーデッキに何らかの制限が掛けられているのに気付きました。 ※デイパックに発信機が仕掛けられていることに気付いていません。 ※ジェノサイダーに本来の素材からなる個体との差異はほとんどありません。 ※桐山、浅倉の二人が何処に向かったのかは次の方にお任せします。 ※支給品一式×4、水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、レイピア@現実、前原圭一のメモのコピー@ひぐらしのなく頃に 知り合い順名簿のコピー、バージニア・メンソール@バトルロワイアル、北条悟史の金属バット@ひぐらしのなく頃にはジェノサイダーの腹部に吸い込まれて消滅しました。 【CONTRACTのカード×2@仮面ライダー龍騎】 斎藤一に支給。 ミラーモンスターと契約することができるカード。 契約とは銘打っているが、ミラーモンスターに拒否権はない。 【発信機@DEATH NOTE】 城戸真司に支給。 原作にて火口の車に仕掛けられたもの、小型の受信機も一緒に支給されている。 【包帯×5@現実】 由詑かなみに支給。 何処にでも置いてあるような包帯。 【高荷恵の傷薬@るろうに剣心】 稲田瑞穂に支給。 有名な医療一族である高荷家に伝わる傷薬。 桜柄の容器に入っており、剣心がよく効くと褒めた代物。 おそらくだが切り傷に効くと思われる。 時系列順で読む Back DEAD END(中編) Next 茶会 投下順で読む Back DEAD END(中編) Next 茶会 131 DEAD END(中編) 杉下右京 GAME OVER 由詑かなみ 桐山和雄 146 はぐれ者 浅倉威 135 飢える魂 上田次郎 134 それぞれの行く先 城戸真司 翠星石 岩崎みなみ 131 DEAD END(前編) L 125 How many miles to the police station? 南光太郎 カズマ
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. ───ああ。 ───視界の端で道化師が踊っている。 いつもは見ないようにしている。道化師は、いつも悲しみだけを運んでくるから。 悲しみ───悲鳴と絶望の呻き。 悲しみ───諦める声さえあちこちで響いて。 差し伸べた手からこぼれていく、暖かな命。 小さな命。生まれてこなかった、子供たちの。41の命。 そして、あたしの。 キーアという名を持っていたあたしの。 血。包帯。塞がれた視界。 何も見えなくて、痛みだけがそこにあって。 だけど─── 「死なせない」 あたしに呼びかけてくれた声。 それはあなたの声。 「きみは絶対に」 ───聞こえていた。 ───手を差し伸べるあなたの声が。 「僕が助ける」 ───そう、あなたが言ったから。 ───こんなに多くの誰もが諦める中で。 ───こんなに多くの絶望が満ちる中で。 ───あなただけが。 ───だから、あたしは。 ───あなたに、問いかけようと。 「……ううん」 ようやく分かったと、キーアは立ち上がる。 血も包帯もなくなって、全身を襲う痛みさえ引いて。キーアは、目の前に蹲る男を見る。 決して諦めなかった彼。ずっと、ずっと探していた。 ───ギー。 ───あたしを助けようとしてくれた、お医者さん。 「あたしね。ずっと、あなたに聞いてみたかったの。尋ねてみたいことがあったの。 でもいいわ。だってここは夢の中で、あなたは本物ではないから」 薄っすらと微笑んで、キーアは告げる。 「あたしの願いはあの都市で。 ええ、本物のギーと一緒に」 そう告げられた、蹲る男は。 何か眩しいものを見たように目を細めて。 「───ああ。それでこそ、キーアだ」 ………。 ……。 …。 ────────────────────────。 「なんですばるさんがここにいるんですかー!」 目を覚ましたキーアの耳に最初に届いたのは、そんな困惑と驚愕とあと色々が混じり合った悲鳴だった。 「本物ですか!? 本物ですよね!? 今度こそ夢じゃないんですね!? ここまで来てまた振出し最初からなんてあんまりですよ!」 「え、えっと、アイちゃん何言ってるの?」 「こっちの話です。ですがすばるさんこそ何をやってるんですか! お留守番しててって私言いましたよね!?」 「お、お留守番って、わたしそんな子供じゃないもん! そもそもアイちゃんこそセイバーさんはどうしたの、やっぱり危ない目に遭ってるんじゃない!」 「私は別にいいんですよ!」 「アイちゃんが良くてもわたしは良くないの!」 「え、えと……」 おずおずと上げられた声に、アイとすばるはピタリと口論を止め、キーアのほうを振り向いた。 ぐりんと首だけを動かして凝視する二人。 ……正直、ちょっと怖い。 「ご安心を。私達は敵ではありません」 「あ、あのね! わたし、セイバーさんに……あなたのサーヴァントの人に頼まれて!」 「セイバーに?」 わたわたとジェスチャーで慌ただしいピンク髪の少女を後目に、キーアは内心で首を傾げる。ハチマングウというところに入ってからの記憶がないが、この状況を見るに自分はずっと気を失っていたのだろうか。手がかりが少なくて判断に困る。 「そこのところは私も聞いておきたいところなのですが……ともあれ、このまま放っておくわけにはいきませんし……」 「あ、アイちゃん?」 「すばるさん、ちょっと頼みたいことがあるんですが」 ………。 ……。 …。 ────────────────────────。 ▼ ▼ ▼ そこはかつて、八幡宮の本宮があるはずの場所であった。 けれど今は無残にも倒壊して、夥しい数の"何か"が縦横無尽に突き出していた。 それは、"樹"だった。 巨大な樹木が、まるで霊峰であるかのように真っ直ぐ空へと向かって聳え立っていた。 全長は何十メートルになるだろうか。周囲に群生する草々の茎の太さは三十センチほど、枇杷にも酷似した葉は一枚一枚が四、五十センチほどあり、その葉の所々から、様々に発光する風船のような球体を静かに揺らめかせていた。 それらは空気を孕んでいて、その浮力でこの巨大な草が折れることなく大地に真っ直ぐ屹立できていられるのだと、容易に推察することができた。 そのような葉が、細長い茎へと無数に群生していた。その総数は数十か数百か。それぞれがゆらゆらと揺らめきながら発光し、辺りを仄かな七色に照らしている。 幻想的な光景ではあった。 しかし、それに見惚れるだけの余裕を、セイバーは持てなかった。 「そうか」 波間に漂うジャイアントケルプめいた草々に囲まれ、その仄かな七色の明滅の中に、これもまた七色に美しく輝く巨大な花のようなものがあった。大きさは五メートルほどはあるか、根のようなものを辺り一面に張り巡らせている。 それは花びらのようであって、ヴェールのようで、あるいは羽根のようでもあった。それが幾重にも重なり、幻想的な透けた色合いを見せている。その羽のようなものの表面を、七色の輝きが次々と滑り落ちていた。後から後から零れ落ちる小さな泡のような、粉のような粒子。それがヴェールの上で生まれては滑り落ち、七色に煌めいては消えていった。 セイバーは射抜くかのような視線を、中空のただ一点へと向けた。 「そこが、本体か」 視線の先、幾重もの花びらに覆われて、人がいた。人と言っていいのだろうか。その肌の色を何と言おう。薄葉の淡い緑のようで、滑らかな真珠色のようで、紅潮にも似た紅水晶のようで、そんな様々な色がオパールのように輝き、夕陽に燃えているようだった。その中で、濃淡の瞳が夢見るように瞬いた。ほんの少し身じろぎするだけで、光の粒子が煙の如く揺らめき、いくつもの虹が周囲にかかったようにも見えた。深みを増した月の銀光を受けて淡く輝く姿は、今ここに存在しているのかすら疑いたくなるほど幻想的で、非現実的で、夢のように危うかった。 あまりに形容しがたい存在感。 手を伸ばせば消えてしまいそうな儚さ。 それは、ただ光の屈折で出来上がった幻のようだった。例えば、そう。虹のように。 『……さあ……行きましょう……』 その声は絢爛に奏でられる幻想曲のような響きだった。言葉ではなく、意味がそのまま音となって発せられたような心地がする。 『争いもなく……悲しみもなく……痛みもない…… 私は……そこへ至る道を知っている……連れていってあげられる……』 心に降り注ぐように、染み入るように聞こえた。今すぐ踏み込んで斬り捨てねばならない相手だというのに、その音と意味は思わず耳を傾けてしまう魔性の魅力があった。 『冬が終わって……春が来る……暖かい雨が大地に降って……花が咲くわ……その周りを……天使の羽根が舞っている……春の香りが、匂っているわ……』 『幸福』が一言発する度に、その体中を覆う光が瞬いた。明滅する美しさが言葉と相まって、いっそう余人の胸を打つ音となって響いた。 (人を堕落させる化生の類か……しかしこれでは、誰もが魅入られる……) ぼんやりと思考して、しかしセイバーはハッと気付く。 今、自分は何を考えていた? 一瞬前まで、自分の思考は磨滅していた。かの美しさは地上の一切に在り得ざる特異なもの、故に感嘆の息を漏らすのは"当然である"などと、いつの間にかそう"思わされていた"。 大脳と精神をも麻痺させる、天上の美。 視覚的、聴覚的なものを越えた、最早意味概念の域にある美しさ。 それを前にすれば人はどうなる? セイバーのように一瞬見惚れるだけで終わる者などむしろ希少種だ。多くの者はその時点であらゆる闘争心と悪徳を失い、永遠の忘我に包まれるだろう。 そして仮に、"それ自体が罠であった"とするならば? (まさか!) 気付いた時には、もう遅かった。"身体が言うことを聞かない"。 呆然と立ち尽くしたまま、セイバーの体はまるで『幸福』の詩に聞き惚れるように、一切微動だにしない状態にあった。 「不動縛、いや、これは……!」 その時点で、もう言葉も出なくなった。霊的なことでもなく、精神的なことでもなく、肉体的に身体が反応しなくなっているようだった。 『鐘の音が溢れている……光が溢れている……草原を風が吹きぬけていく……空は青くて、陽射しは暖かいわ……歌が聞こえる……とても素敵な歌が……』 足元の地面が、『幸福』を中心に捲れ上がるように次々と消失していく。その美しさは、その美がもたらす夢の波動は、今や心を持たぬ無機物にさえ影響を及ぼしつつあった。 そう、波だ。波のような何かが『幸福』から放たれている。 それは、果たして─── 『人は誰でも、そこへ還っていく……人は誰でも、それを願っている……それは、過ちでも、罪でもないの……それは一つの……たった一つの……祈りなのよ……』 (そうか。これは、『快楽』か!) そう分かっていても、セイバーの体中がそれを求め、頭の中は今にも真っ白になりそうであった。 「悦楽」「快感」「快楽」。人が気持ちいいと認識する感覚は、暗い欲求から健全な喜びまで様々で、それを得る方法はいくつもある。しかし、真に純粋な快感というものは、普通の人間にとっては一生涯得ることのない感覚だ。得る機会がない、というよりは、感じることが不可能なのだ。何故ならそれは、特別な精神修行をしている時にしか起こらない感覚であり、そしてあまりにも純粋すぎる感覚は、普通の人間にとって下手な傷害などよりもよほど危険なものとして機能する。いわば強烈すぎる薬効のようなもので、精神や肉体がその負荷に耐えられないのだ。 『幸福』の発する「純粋な幸福感」は、劇的な快感となって肉体を麻痺させていた。傾城の反魂香どころの話ではない、これは最早国すら越えて星そのものを傾ける対星の快楽である。 最高レベルの対魔力を有するセイバーですら、その波濤に抗う余地などない。サーヴァントは愚か通常人がこれを受けた日には、快楽物質の過剰分泌により即座に脳の活動が停止し、死んでしまうかもしれない。 荒れ狂う快楽の波が、ついには物理的な破壊力さえ伴って周囲を薙ぎ払った。木々は倒れ建物は崩れ、その破片が竜巻となって巻き上げられる。荒唐無稽な光景だが、その光景は『幸福』の放つ幸せというものがどのような意味を持つのか如実に表しているかのようだった。 セイバーは、アーサー・ペンドラゴンは幾多の戦場を駆けぬけ、幾多の強者を目にしてきた。星光を放つ聖剣や世界を繋ぎとめる錨の聖槍、音撃で首を狩る魔業に太陽の如き燃え盛る聖剣、巨人の力に決戦術式と様々な暴威が彼の人生にはあった。 そのいずれもが、敬意と畏怖を捧げるに足る強大なものだった。 しかし目の前のこれは、そのいずれとも在り方を異なものとしていた。 これには何の力もない。本来的には何を壊すこともない。何故ならこれには敵意も害意もなく、ただ相手を思いやり幸せにしてやりたいという願いしか含まれないからだ。 にも関わらず、これはアーサーが目にしてきた数多の危機の中にあって、特級の危険度を示していた。人はこれに耐えられない。こんなものが支配する世界で生きられるはずもない。 この存在は美しい。恐怖と絶望さえ感じさせぬ幸福の中にあって、その肌は尚も輝きを増し、地獄美と言っていい美しさは文字通り世界を狂わせている。 そして、彼女に触れた物は必ずこう感じる。殺されてもいい、もう消えてしまって構わないと。思うのではなく存在としての在り方そのものを蕩かされ、自ら自死を選んでしまう。本来破壊をもたらさない快楽の波が周囲の物質を崩壊させているのは、つまりそういうことだ。 故に、最早アーサーに為す術はない。この存在が支配する領域に足を踏み入れたというその時点で、この聖杯戦争に属する全ては敗北を確約されているのだ。例えそれが黄金に侍る大隊長であろうとも、全てを解する英雄たちの王であろうとも、遍く奇跡を手繰る稀代の魔女であろうとも。 だから順当に、真っ当に、彼は迫りくる滅びに抗うことさえできずに─── 【今です、セイバー殿!】 頭に響いた声と同時に、彼は全霊の力を解き放った。その声が何を示唆しているのか、どのような絡繰りで引き起こされたものかなど、考えていられる余裕はなかった。 「───風よ、吹き荒べ!」 右手に握る不可視の刃から、旋回する烈風として魔力が吹き荒れた。足元の地面が砕け、アーサーの身を押し潰す魔力を周囲の白霧ごと吹き飛ばす。 姿を現すは輝きの聖剣、その周囲に渦を巻くは万象切り裂く風の結界。 ───風王結界。聖剣エクスカリバーを拘束する鞘の一つ。 轟々と鳴り響く風の音が耳に届く。今やアーサーはその身を荒れ狂う風の化身とし、その手に光剣を構えるに至っていた。 【どうやら間に合ったようですね。仔細はまた後ほど、今は楔の討滅を!】 【諒解した! 助力に感謝する!】 言うが早いか、アーサーは下段に構えた剣を横一文字に薙ぎ払った。破壊力を伴った暴風が『幸福』の快楽波と衝突・拮抗し、あろうことか不可視の波を諸共に打ち砕く。 ───『幸福』のもたらす快楽とは、極論してしまえば波としての指向性を得た魔力の奔流である。 『幸福』本体の快楽波は、端末のもたらすそれと比較すれば確かに強制力の強い代物ではある。現に端末の見せる夢を難なく打ち破ったアーサーですら、本体を前にしては陥落一歩手前まで追い込まれた。 しかしこの性質変化は効能が強化される代わりに、新たな欠点とも言うべきものを抱え込んでしまっていた。 端末のもたらす幸福とは、視覚や精神に訴えかけるいわば精神的なものである。しかし本体のもたらす幸福は、肉体に影響を及ぼす物理的な代物なのだ。 つまり如何に不可視で形がないとはいえ、確かな"魔力"として実体を持つに至っている以上、同等の魔力を用いれば弾き打ち払うこともまた可能ということだ。 アーサーは襲い来る快楽の波を、吹き荒ぶ風の波で以て押し返したのだ。 「決着を付けよう、幸福の妖精よ───!」 力強く一歩を踏み込み、逆袈裟に剣を振り下ろす。風の刃が幸福満ちる空間を引き裂き、アーサーが歩を進められる隙間を生み出す。 剣を一つ揮う度、衝撃音と共に更なる一歩を成し遂げる。ゆっくりと、だが着実に、アーサーは『幸福』の下へと突き進む。 快楽の影響は完全に無くなったわけではない。流動する気体のように纏わりつく強刺激の感覚は、風の刃を以てしても完全に打ち払うこと叶わない。アーサーの肉体は今も常人が狂死するほどの強感覚をもたらして、けれどその精神は屈服することなくひたすらに前進を続ける。 狂楽のあまり、ついに神経が焼き切れる。 歯を食いしばり、それでも歩き続ける。 彼らの相対距離は今や半分ほどが踏破され、到達は最早時間の問題であった。 何という精神力、何という不屈の意思であろうか。 現状の構図を生み出したというそれだけで、普通ならば考えられない偉業だ。例え尋常ならざる英霊であろうとも『幸福』本体に抗える者はそういない。ましてその呪縛を打ち破り討滅のために肉迫するなど、並みの英霊では絶対的に不可能な所業である。 だが此処に在るは稀代の大英雄、セイバーというカテゴリにおいて最上に位置する聖剣携えし騎士の王なれば。 光明が存在した。あるいはこの男ならば、『幸福』にさえ手が届くのではないかという、そんな微かな光明が。 しかし。 『幸せになって』 突如、空間が震動した。 七色の粒子がその輝きを劇的に増して、溢れんばかりの光が周囲一帯を満たした。 アーサーは押し潰されるように、片膝をつく。押し返す幸福の圧力が、飛躍的にその力を増したのだ。 『暖かな陽光の中で、私が歌を歌ってあげるわ……繰り返し、繰り返し、歌ってあげるわ……』 「ぐ、おぉ……!」 今にも押し潰されんばかりの総身に、アーサーは更なる力を込めた。拮抗する魔力嵐がバリバリと音を立て、体中が過負荷に軋みを上げた。 限界点は越えている。余人であるなら立ち上がれる道理などない。英雄譚はここに潰えるのだと、仮に傍観者がいたならば誰もがそう思ったであろう。 けれど。 「───まだだ」 けれど、之に立ち向かいしは誉れ高き英雄である! 爪は罅割れ血飛沫が飛び、内部負荷に耐えきれず両眼から血の涙を流そうとも。 騎士王は倒れない。その歩みは止まらない。英雄とはそれすなわち、決して諦めない者の称号であるのだから。 「オオオオオォォォッ!!」 騎士が吠える。その叫びを力とし、その歩みを偉業として彼は更なる剣撃を揮う。切り裂かれる快楽の波濤、しかしその奥から、次々と襲い来る無限の連鎖。 手が足りない。絶えず押し寄せる大波が如き流れを押し留めるには、一つの刃だけでは到底足りない。 風の刃、幸福なりし徒花の化身打ち破るに足りず。 聖剣の騎士王、極大域の流れ堰き止めること能わず。 一人では勝てない。 共に戦う新たな勇者が必要である。 ───故に、その閃光はやってきた。 「形成───戦雷の聖剣よ、奔れッ!」 構えるアーサーの背後より、一筋の流星が飛来した。それは魔力満ちる空間を引き裂き、地面へと突き立つと莫大量の雷電を放出する。放たれる輝きは悦楽の波さえ焼き、アーサーの眼前に進むべき道を指示した。 風王の鉄槌ですら表層しか払えぬ魔霧、大海を割るが如く一斉に両断されて。 「行け! そして倒せ! 露払いは俺が全部引き受ける!」 「───感謝する!」 叫ぶ誰かに振り返ることもなく、アーサーは地を蹴り跳躍する。今や彼を阻む壁はなく、空を切り舞い上がった彼の目の前には、『幸福』本体の姿。 すぐ目の前で視線がかち合う。一瞬の交錯が生じ、加速する体感時間の中、呆れるほどゆっくりと流れる視界の先で、『幸福』はにっこりとほほ笑んでいた。 視界いっぱいに、彼女の笑顔が溢れる。この状況に至って尚、『幸福』は敵意も害意も欠片すら抱いていなかった。 『さあ、おいで……』 そうして、まるでアーサーの到来を歓迎するかのように、彼女は抱擁する腕を差し伸べて。 「……真名解放、疑似宝具展開」 それに叩き返すは、ただ撃滅するのみという意思一つ。 ───アーサー・ペンドラゴンの持つ約束された勝利の剣には、二重の拘束がかけられている。風の鞘たる風王結界の他にもう一つ、その強大すぎる力を封じ込める機構が存在するのだ。 彼が生前に束ねた円卓の騎士たちによる議決。合計で13存在する条件の内過半数を満たすことで、星の聖剣はその真価を発揮するに至る。 しかしこの『幸福』に対して、円卓の制約は条件を解除するに至らなかった。 「心の善い者に振るってはならない」「是は邪悪との戦いである」「是は精霊との戦いではない」 それら条件は『幸福』に対して満たされない。彼の者は真に善良であり、それを討ち果たす戦いは「誉れ高きもの」であるはずもなく、また自身が「生きるため」のものでもない。 故に過半数の可決は満たされず、聖剣は究極の斬撃を放つこと叶わない。 しかし。 「最果てに至れ、限界を越えろ。彼方の稀人よ、この光を刻みこむがいい!」 しかし! それでも為せる業がある。それでも押し通すべき誓いがある。 今この時、この瞬間を以て、騎士王アーサー・ペンドラゴンは新たな伝説を成し遂げる! その手、振るわれるは星の聖剣。今やその輝きは、偽りの救済を断絶する光なれば! 《是は、己より強大な者との戦いである》───ベディヴィエール承認 《是は、勇者なる者と共する戦いである》───ガレス承認 《是は、人道に背かぬ戦いである》───ガヘリス承認 《是は、真実のための戦いである》───アグラヴェイン承認 《是は、私欲なき戦いである》───ギャラハッド承認 十三拘束解放───円卓議決開始。 その承認は、やはり半数にすら遠く及ばぬ数であり、真価を発揮するには至らない。 星の理、地に顕現させること叶わない。 しかし、しかし。 光は既に、彼の手の中にある! 星の聖剣、その輝きを露わにして! 「───縛鎖全断・過重星光(エクスカリバー・オーバーロード)!!」 ───切り裂き、融かして消し飛ばす。 ───極光纏う断罪の一閃。 ───それは、触れる全てを切り拓く王の一撃。 光の斬撃となる魔力を放出することなく、対象を斬りつけた際に解放する剣技に寄った一撃。 それ即ち人が修練の果てに至る極み。世界の外より来たる敵を討滅する極光たる《星の理》ではない、ただ当たり前の技を突き詰めた《人の理》である。 『私が、みんなを抱きしめるから……』 慈愛の笑みを浮かべる『幸福』を前に次々と迫る快楽の波を、多重展開された魔力の結界を、その悉くを聖剣は切り拓く。薄絹のヴェールのように周囲に広がる魔力の多重層が、砂鉄の絨毯に磁石を走らせたように断割された。最早その剣に敵はなく、阻める物など存在するはずもない。 人が振るう刃の煌めきを、現実に在らぬ幻想が阻めるはずもなし。『幸福』はただ為す術もなく、一刀の下に斬り伏せられようとしていた。 そのはずだった。少なくとも、直前までは。 「ぐッ!」 けれど、敵手は条理を逸脱する特異存在である。 振り下ろされた剣閃は、しかし『幸福』の頭頂を薄皮一枚隔てた地点で堰き止められた。ビデオの再生を一時停止したように、あるいは緩やかに受け止められるように、全ての動きが止まる。鈴のように澄んだ金属音が辺りに木霊する。 それは『幸福』の最後の抵抗か、それとも秘めたる最大の力であるのか。次瞬、静止していた空間から多量の魔力が激発し、大気が激しく振動した。 両者の衝突によって、七色の粒子が炎のように舞い上がる。その粒子一つ一つの間に黄金の放電が発生し、『幸福』とアーサーは光の渦の中にいるようだった。 奇しくも最後の鍔迫り合いとなる交錯に、アーサーは息を呑む。黄金の光の塊となった『幸福』はいっそう美しくて、彼すらも震えが来るほどだった。 剣閃が軋む。金属の悲鳴が辺りに轟く。激震する空間が激動する粒子群の流れを伴って大気を激しく震わせる。 『幸福』の抵抗はこれまでに倍する力を以て、アーサーの一撃を押し返そうと溢れ出る。刃を押し込むことが、トドメを刺すことが、できない。 両者の出力は全くの互角。拮抗する押し合いの形は、しかし徐々にアーサー側の不利となって表れ始めた。 剣筋がブレる。聖剣の光が明滅する。敵手を両断するはずの力が、少しずつ弱くなっていく。 それも当然の話であろう。何故なら両者の持つ"魔力"という厳然たる貯蔵量には明確な差があるのだから。 『幸福』は規格外の魔力をその身に宿す。単独顕現による魔力の消費は既に癒え、地脈から汲み出した魔力は潤沢を越え無尽蔵。およそエネルギーという事象に陥ることはない。 しかしアーサーは真っ当なサーヴァントだ。彼を使役するマスターは魔術の薫陶なき少女であり、矮化したアーサーの魔力適性は並み居るサーヴァントたちの中にあって尚低い。長時間の戦闘はほぼ不可能であるのが現状である。 故に、互角の拮抗に陥った場合、軍配が上がるのは『幸福』の側であることは明白であった。 『怖がらないで、怖がらないで。幸せを、光から目を背けないで…… 私があなたを救うから……私がみんなを包むから……』 「……ッ!?」 拮抗し停滞するアーサーを捕まえるように、二本の腕と無数の繊手が彼を包む。いや、捕まえようとか動きを止めようという意思は彼女にはないのだろう。彼女はただ、抱きしめたいだけだ。抱きしめ、慈しみ、心からの幸福を感じてほしいという、それは抱擁の腕だ。 しかしそれは、この場この瞬間において最悪の事態を招いていた。直接取り込まれてはさしもの騎士王とて一たまりもなく、そして彼は千載一遇にして二度と現れないであろう撃滅の機会を前に撤退は許されていない。 腕が、繊手が、アーサーを中心に繭を作るように閉じていく。星光の輝きごと、その身を己の内に取り込もうとしている。 仮に、アーサーのマスターが優れた魔術師であったならば。 仮に円卓議決の承認があと一つ外れていたならば。救援に来た雷剣のサーヴァントがその身に多大な消耗を抱えていなかったならば。百合香による楔の抑え込みがあと少し強力であったならば。この場にもう一騎戦えるサーヴァントがいたならば。 きっと話は違っていただろう。その内のどれか一つさえあったならば、既にアーサーはその手に勝利を掴み取っていたはずだ。それほどまでに、両者の拮抗は危ういバランスで成立している。 しかし現実はそうではない。ここにそれら要素が成立し得る道理はない。 故にアーサーは、彼らは、極めて順当に敗北へと突き進むのだ。 騎士王は勝てない。傾星の魔性を前に、ただ敗残を晒すのみであると─── 『───あ……』 あるいはその通りだったのかもしれない。 "その二撃が無ければ"の話ではあったが。 瞬間、飛来する二つの力が、『幸福』に直撃した。嫋やかに揺れていた『幸福』の体は弾かれたように体勢が崩れ、押し返していた不可視の波が霧散する。『幸福』の外縁部に突き立つ、漆黒の巨矢と煌めく宝剣。 飛来した二つの力は、聖剣の一撃や交差する雷電に比すれば微々たるものではあった。しかし際どいところで成立していた拮抗を崩すには、余りにも十分すぎる代物だった。 故に。 「叩き斬る───ッ!」 そして、宣するアーサーの叫びと共に、遂に決着の時が訪れて。 ───真っ直ぐに振り下ろされた光輝の一閃が、『幸福』の本体を二つに両断した。 *** 『幸福』の体、ヴェールとも花びらともつかない重なり合いの間から、血飛沫のように大量の光が溢れ出ていた。 美しい光だった。様々に変色する光の中で、夥しい量の粒子が星のように煌めいた。 「終わった、のか?」 アーサーの後ろから、足を引きずる音と共に声がした。アーサーは無言で首肯するように、隣に立つその男を横目で見やった。今に至るまでの間、アーサーに襲い来る快楽波の全てを雷電で焼き払い続けた男だ。この者がいなければ、アーサーはもっと早くに敗北を喫していただろう。 それ以上は言葉もなく、美しい光の中で、二人は薔薇の花が咲いたかのような『幸福』の姿を見つめた。 『どうして拒むの……幸せになれるのよ……?』 『幸福』の声は、今やただの声だった。心を震わせるような響きは、もうなかった。 『幸せになることは罪じゃないわ……幸せになってもいいのよ……?』 無言。ただ黙ってその声を聴く。 『幸せになるのに……理由なんていらないわ……躊躇いなどいらないわ……あなたの中に、どんな迷いや、戸惑いや、疑問があっても……すぐに全てが消えてなくなるの……そこは、そういう世界なの……』 とてもいい話に聞こえた。事実、彼女にはそういう力があるから尚更だ。人の世は、苦しみと悲しみに満ちている。誰だって、苦しんだり悲しんだりなどしたくはない。誰だって、幸せになりたいと願っている。 『私が全てを取り除いてあげる……私が全てを与えてあげる……あなたの望むもの……あなたの夢……過去も、未来も……永遠も……』 「お前から与えてもらうようなものなんざ、俺にはない」 右半身を庇うように立つ、その男───藤井蓮は吐き捨てるように言った。心底から侮蔑して、見下げ果てたような瞳をしていた。 「お前の言う永遠は幻想だ。結局は逃げ込むだけだろう? 目の前に現実に耐えられなくなってな。だからお前は、そんな風にいつまでも一人きりなんだ」 それは彼なりの哲学から放たれる言葉であるのだろうか。アーサーには分からなかったが、言えるとすれば一つだけ。 「人間は、結果だけでは報われない」 それが手向けであるように、アーサーは告げる。 「君のそれは幸福という結果だけを人にもたらす。逆に言えば、結果以外の何も、君は誰かに与えることはない。 過程と結果はワンセットじゃない。結果を出せない過程に意味はないと君は言うが、愚かしい詭弁だよ。 努力や困難という過程と、得られる幸福という結果はそれぞれ独立したものだ。"結果"そのものである君に、それを説く意味があるかは分からないが」 『幸福』から漏れだす光は空気へと溶けて消え、赤く燐光する様はまるで巨大な炎に包まれているかのようだった。事実、彼女は燃やされているのだろう。生の鼓動が段々と弱まり、火刑に処されているかのように徐々に光が細々としたものになっていく。 『分からないわ……』 ラピスラズリの瞳が、ゆっくりと閉じていった。薔薇色の光の中で、炎のように瞬く光が段々と数を減らしていく。 「……ならば、もう君に言うことはない。君は、恐らく永劫分かることがないのだろう。何故なら君は、怒りも悲しみも憎しみも、そして喜びや愛さえ持たないから。 君にあるのは幸福だけだ。それしか、君にはないのだから」 『……わたしは……』 『幸福』は何重もの羽をたたむかのようにして、小さく小さくなっていった。 恒星の死であるように、皆を照らす太陽とは成り得なかった偽物の恒星が、小さく小さくなっていって。 そして、弾けた。 光が、粒子が、小さな玉となった『幸福』から解き放たれて。まるで何処かへ手を伸ばすかのように、弾けて消えた。 古都の天蓋に命の欠片が舞い上がる。仄かに紅く光る粒子は、その刹那まで幻想的で─── その光景は、散りゆく薔薇の花弁を連想させた。 麗しくも、儚い。現実には根を張れない……幻想の華を。 ▼ ▼ ▼ 「終わったか」 「ああ。抜錨は無事に済んだらしい」 対峙する二人の王は、しかし今は共に右手を伸ばし、並び立つように彼方へと目を向けていた。 ストラウスの右手からは漆黒の瘴気が如き魔力が、ギルガメッシュの右手からは黄金光が如き空間断裂が。 銃口から立ち上る硝煙であるかのようにして揺蕩い、まさにたった今攻撃を放ったのだと如実に伝えていた。 その場にいた二人以外の全員は、何が起こったのか分かっていない表情をして。けれどただ一人アストルフォだけは、何を言うこともなくじっと二人のことを見つめているのだった。 「世界の箍が外された。夢を構築し根本を為す土台、そうなるために呼び出された第八等だ。 故に事態はもう止まるまい。あとはただ、崩れ落ちるのみ」 「そんなことは当の昔に諒解している。全て分かった上でやったはずだ。私も、そしてお前も」 「違いない」 鷹揚に笑う英雄王に対して、赤薔薇王はどこまでも石のような無表情を崩さない。それは彼らの覚悟の現れであるのか、あるいは運命やその類に対する思いの違いであるのか。 ともあれ、黄金の男はやるべきことは終えたとばかりに踵を返し、場から立ち去る意思を見せた。黒衣の男はそれを止めることもなく、ただ無言で返すのみ。 一歩を踏み出して、止まる。「ああそうだ」と、何気ない世間話でもするかのように。 「アレは倒されるべくして倒された。人の内より生まれ、故に人が滅ぼさねばならない悪逆の一。他ならぬ人間自らが乗り越えるべき試練に過ぎん。 分かっているだろう。何故なら我も貴様も、本来"人間"によって倒されねばならない存在である故に」 「同じことを二度言われる趣味はない。言っただろう、分かっていると」 威圧的を通り越し、最早凶眼と言って差し支えない視線で以て、ストラウスは応える。 その両眼は恒星が如き意思の燃焼に満ちて。己の命運も末路も応報も全て承知であると、その上で選んだのだと豪語して止まらない。 彼は─── 「私はいずれ殺されよう。月がある限り、夜がある限り。他ならぬ人の手によってだ。 しかしそれは我が罪に起因するものではない。そしてお前も世界蛇の逸話とは異なり、その傲岸の報いに起因はしまい。 それだけのことだ。どこまでも単純に、ただそれだけのことなのだ」 聞き届けたギルガメッシュは愉快気に笑い、あとは言葉なくその場を後にした。金色の男と白銀の少女の姿が、夜の帳から姿を消した。 ……………………。 さあ────────────っ、と木の葉のこすれ合う音が、夜の広場に広がった。 木の葉の音と闇が、そのがらん、とした空間いっぱいに広がった。 「はぁー……」と気の抜けた声を出すのはアストルフォだ。彼は殊更に肩の力を抜いて、次いで聞こえるのはどさり、という尻餅をつく音。ヤヤが、完全に腰を抜かしていた。 「い、今のって……」 「英雄王ギルガメッシュ。遥か紀元前のメソポタミア時代、人界の王として世界に君臨した男だ。原初の英雄にして、神代の終わりをその目で見届けた人類の裁定者。 その精神性は常人に理解の範疇を超えている。圧倒されるのも無理はない」 呆然と呟くヤヤの手を引いて、ストラウスが答える。その言葉にヤヤは二度驚いた。ギルガメッシュと言えば、神話にさほど詳しくないヤヤでも名前くらいは聞いたことのある人物だ。アストルフォとかいうよく分からないサーヴァントを引いたヤヤにとって、サーヴァントとは過去の偉人であるという事実を実感として認識した初めての瞬間だった。 「つまり、君らはゆっくり休むべきってことさ!」 ストラウスの後を引き継ぐように、割って入ったアストルフォが明るく声を出す。 わっ、とヤヤ。虚を突かれたようにぽかんとした表情をして、同じく手を繋いで引っ張られてきたアティと一緒に呆けた声を上げる。 「僕らはみんな頑張った。そしてもう夜だ。ぐっすり寝て英気を養って、あとのことはそれから考えればいい! 急いては事を仕損じる、昔の人は良いこと言うよね!」 「その諺が成立したのは君が生きた時代よりもずっと後の話だけどね」 あれ、そうだった? とアストルフォ。あははと能天気に笑う彼だが、場に満ちた陰惨な空気はいつの間にかすっかり晴れているのだった。 さあ早く早くと二人の少女の背を押して、彼は振り返ることなく。 「でも君も悪い奴だよね。僕らに相談の一つもしないでさ……って、まあ今回のは偶々出会っちゃっただけっぽいけど」 「その点はすまないと思っている。別に私が君達を信用していないというわけじゃないんだ」 「ホントーかなー? ホントに悪いと思ってる?」 「随分と信用がないな、私は」 「べっつにー?」 そこでアストルフォは、何でもないと言った風に。 「ただ、昔から変わらないなと思ってさ」 「……」 二人の歩みが、止まる。 ヤヤとアティとは、既に結構な距離が空いていた。声を届けようと思えば届けられる距離だが、大声を上げねばまず聞こえまい。 アストルフォが振り返り、何の邪気もない笑顔で言う。 「いつも一人で抱え込んで、誰にも言えませんって顔してる。それはとても強くて気高いとボクは思うけど、残される方としては結構悲しいんだよね」 「……」 シャルルマーニュ十二勇士が一人アストルフォには、幾多の逸話が残されている。 翼持つ幻想種を駆り諸国を巡り、時には樹木に姿を変え、時には有翼種の群れを討伐し。そんな彼の逸話でも、特に有名なものの一つに以下のようなものがある。 叙事詩「狂えるオルランド」。それは、月への旅行。 「ねえ、赤バラさん」 「何かな」 「国を滅ぼし……かつての仲間をみんな敵に回し、千年以上もたった一人で世界を彷徨って───…… 時々こう、叫びたくならない?」 「それは───」 俯きつつあった彼の顔が起こされた。 その目は真っ直ぐアストルフォを貫いて、困ったように頬を掻いて。 「───恥ずかしいから秘密だ」 NEXT咎人は夜に哭く
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とっくの昔に、諦めていた。 僕には無理だ、僕にはなれない。 父さんのような、母さんのような、強い人間になんてなれるわけがない。 でも── ARTIFACT LEGACIAM 第五話 夏の扉 「状況は?」 大和の格好は随分と不恰好なものだった。 仕立ての良い漆黒のスーツに琥珀色のカッター、臙脂色のネクタイ──そして、ミスマッチな黄色の安全ヘルメット。 その安全ヘルメットだけは辺りの風景に馴染んでいる。ここは整備場を兼ねた巨大で広大な格納庫であるからだ。 「あれから5日の間突貫作業でこなしたからよ問題はねぇ。マッチングも完璧よ。出撃とあらばすぐにでも出られるぜ」 答える男は薄いブルーの作業衣に安全ヘルメット、初老の……けんの深い顔立ち。“おやっさん”として技術部・整備部の職員に慕われる“職人”笠置清四郎だ。 だがよ、と笠置は低い声で大和を振り返る。 「補機の熱核反応炉……最新型のGEA-3000Dは二基ともおじゃんだしよ、電装系も端から端まで全交換よ。ユニット01のは特別製だからな、あいつの電装部品1パッケージで中古の89式が5機は買えるぜ」 報告書には目を通していた大和だ。笠置から直に聞くまでもなく損害状況は把握している。 想定されていた最大稼動時のエネルギー量、そのほぼ二倍以上という記録的な数字を叩き出したため、機体の補助動力である熱核反応炉はオーバーロードで完全に破損した。それゆえに全交換。 その過負荷をもろに受けた電装系は、これもまた完全破損。当然ながら全交換だ。機体の特殊性から現用兵器との互換性のないその部品はありえない程コストがかかる。 もちろんそれだけではないが、目を引く程に金のかかる修理箇所はこの二箇所だった。逆に言えばここまで金のかかる破損は他になかったと言っていい。 「修理にかかった金額は……考えるのも怖いくらいですよ」 「まぁ、俺の仕事は金の心配をすることじゃあねぇ。そこはあんたにまかせとくけどな、それにしたってこいつァひでェや」 ふむ……と大和は頷いたきり黙りこくる。笠置はその様子を複雑そうに見ていた。 「今後もあのマイクロブラックホールがなんとかっていう武装を使うつもりだってんならとんでもねェ金がかかる。そいつは覚えといてくれや」 もっとも見ているだけにとどまらず、口や手が出るのが笠置という男なのだが。 「注意を喚起するこたァできんだろ、こいつのパイロットってのが見つかったンならよ──」 「見つかってはいないのです」 自分の言葉を遮った大和に笠置は「何だって?!」と聞き返す。 「見つかったわけではないのです、先の戦闘でユニット01を駆ったパイロットは」 「おいおい、聞いてねぇぞ。じゃあどうするんだよアメリカさんとの話はよ」 目を見張る笠置の前の大和の顔は苦渋に満ちたものだった。 「“彼”は先の戦闘の後に一度は帰ってきたものの、何の情報を我々に落とすでなく、気がついた時にはその姿を消していました」 その消息はようとして知れない。 「“継承者”──つまりパイロットに関する情報は何一つないわけです」 絶句だ。言葉も出ないとはこのことだ。 しかし、大和には絶句したりする余裕も何も許されることはない。責任者、SARF長官である限り。 「太平洋の件は我々だけで取り掛かるしかないでしょう……」 大きく見上げる大和の視線の先にあるもの── レガシアムは物言わず、ただそこに立ち尽くしているだけだった。 いよいよ夏休みを間近に控えて、太陽は早朝から大いにはりきって働いているようだ。 夏の扉が早くこっちに来いよって、知らない世界へ誘ってるような気分になるよなって山彦あたりなら言いそうなくらいに。 「そういえばさ」 「うん?」 僕はバックパックに入り込んで、首だけチョコンと出している黒猫に語りかけていた。 「お前の名前ってなんていうんだっけ?」 なんだそんなことかぁと黒猫は間延びした調子の返事をする。 あぁ、こいつまだ眠いんだな。昨日なんか随分遅くまで人のデータ端末をいじっていたし。 「ないよ、名前」 その返事は想定の範囲外だった。思わず「ないって何が」などと間の抜けた言葉を返してしまう。 「だから名前だよ。僕、持ってないんだ」 「じゃあ普段は何て呼ばれていたのさ?」 うーんと考え込む。 「ヒィかな。確かそんな風に呼ばれた覚えがある。後は“ちょっと”とか“ねぇ”とかさ」 ヒィ? それは呼び名であるとか、名前の範疇には入らないのだろうか。ふと思い浮かんだ思考はすぐに読み取られてしまう。 「うぅん。そんなんじゃないんだ。あれだよ、共通言語で“彼”って“ヒィ”って言うだろ? 男性を示す三人称のさ」 「お前、それって腹が立ったりしなかったのか?」 「何で?」 「何でって……名前も付けないで、呼ぶにしたって“彼”だなんてさ、失礼にも程があるんじゃないか?」 そういうものなのかなーと黒猫は相変わらず眠たそうにしている。ふぁーと欠伸まで出た。つられて僕も欠伸が出る。 「お前って何かズレてるな。それってまるでイジメみたいなもんじゃないか」 「そうかな?」 「だってさ、お前って要するにレガシアムと並んで、謎の敵に対抗する地球連邦評議会のなんたらフォースの切り札なわけじゃないか」 「SARFだよ。Special Armed Response Force 特殊装備運用迎撃応答軍事機関サーフ」 「そのサーフだかセーフだかがさ、頼りにしてるレガシアムの、そのお前がそんな扱いされるってのはヘンな話じゃないのかってことなんだよ」 「そういうものなのかなー」 また言った。なんだかそんな黒猫にも腹が立ってきて、僕は唐突に思いついたことを口にする。 「わかった。僕がお前の名前を考える」 「僕の名前?」 後ろ手でバックパックから黒猫のヤツを引っ張り出す。両手を脇の下に入れて、正面向いて抱き上げた。 「こうして見ると、ただの黒猫なんだよなぁ」 「ほっといてよ」 ビロードの深い黒。その毛並みは艶があって、混じり気なしの掛け値なしの真っ黒。そしてエメラルドグリーンの瞳。 「よし、決めた。お前の名前は今日からカイアな」 「カイア?」 「お前の瞳って綺麗な緑じゃないか。藍晶石──カイアライトっていう天然石があってさ、その石って綺麗な緑色をしているんだ」 ついでに言うと、衝撃によって割れやすいので取り扱いに注意が必要ってとこも似合っていそうだ。 「後の方の説明には何かひっかかるものがあるけど……、いいねそれ」 「気に入った?」 「気に入った」 そう言うと黒猫は僕の腕をよじ登り、肩を伝ってまたバックパックの中へと帰っていった。 「黒猫じゃなくて、カイアだろ!」 へぇへぇすんません。 「そっか、僕の名前かぁ」 いつの間にか眠たそうな間延びした口調でなくなっている。僕はカイアの嬉しそうな声を耳の側で聞きながら、僕はまた歩き出した。 早朝だってのに日差しはもう痛いくらいに強くなっている。 「なぁカイア」 「にゃあ」 「とりあえず、学校についたらどっかで時間潰しといてくれよな。授業中もバックの中でじっとしてるなんてイヤだろ?」 「にゃあ」 交差点を右に曲がると校門まで続く最後の坂が目の前に広がる。一年の頃には見上げるたびにげんなりしたものだけど、さすがに二年にもなれば慣れた。 とはいえ出来ることなら、この坂くらいは自分で登っていってくれないかな。重たいとは言わないけど、お前を背負わずに登っていけるならそれに越したことはないだろうし。 「にゃあにゃあにゃあ」 「なんだよカイア、喋れよ」 急にネコみたいににゃあにゃあ言い出したカイアに僕は首をまわして振り返り── 「そうよカイア、喋りなさいよ」 緊張しきったカイアの顔と、その向こうに委員長を──伊吹志摩子の顔を見たのだった! 「い、伊吹……さん?!」 「おはよう、不破君」 にっこりと笑って、伊吹はカイアの方に視線を移す。 「ねぇ、喋らないの?」 「や、やだなぁ。ネコが喋るわけないじゃないか」 よし、どもらずに言えた。ナイス自分。 ふうん、と伊吹は僕の顔に視線を戻し、そしていきなり大笑いを始めたのだ! 「おっかしー! 不破君ってばその顔!!」 「え?」 伊吹は子供の可愛いイタズラを見つけたお母さんのように笑っている。 「だって不破君ってば本気で焦ってるんだもん」 ということは? 「それとも、このネコちゃんって本当に人間語を喋ってくれるの?」 聞かれてしまったわけじゃあないってことか! 背中に噴出した汗が一気に流れていく。あぁ、冷たい。 こんな早朝に登校してる奴なんていないだろうと思ったから普通にカイアと話しながら歩いていたのに。 そのことを聞くと、伊吹は誰もいない早い時間に新鮮な空気を吸いながら登校するのが好きなんだと教えてくれた。 「それにしても意外だなぁ」 並んで歩き出すや否や伊吹がそんなことを言いだす。 「不破君ってネコ大好きなんだ、普通に喋りかけるくらいに。まるでホントに会話してるみたいに自然に語りかけてたもんね」 アハハ、と笑ってみせて、僕も反撃を試みる。 「僕も意外だったよ」 何が? と伊吹が首をかしげる。 「伊吹さんってもっとお堅い感じだと思ってたからさ、あんな風に声をあげて大笑いするんだなぁって」 「ヘンかな?」 「いや、いいと思うよ。もっと笑えばいいのにって思った」 「そう?」 それから僕たちが話をしたのは期末考査がどうだったとか、夏休みはどうするとか、そんな他愛もない話ばかりだった。 一年の時からずっと同じクラスだったのにこんなに話をするのは初めてだねとか、そんな話もしながら僕たちは校舎に入る。 その時だった。 ──!! それはまるで暗闇の中で放たれた火花のように僕の頭の内に弾けて消えた。 「どうしたの?」 急に立ち止まった僕を訝しげに伊吹が問いかける。 彼女には分からないし、伝えることもできない。 僕と、おそらくはバックパックでごそごそし始めたカイアだけに伝わったその感覚。 それが教えたのは、簡潔なただひとつの事実。 今、敵が、現れた。 NOA太平洋第七艦隊旗艦は揚陸指揮艦バイクスピークという。 その指揮所に大和と信濃、いつもの白衣に身を包んだ鞍馬がいた。 「哨戒機αより目標は発見できずとの報告」 「よろしい、引き続き捜索任務を続行せよ」 「アイアイサー、捜索任務の続行を指示します」 オペレーターに指示を出した初老の軍人が大和たちに振り返る。 「哨戒機と電子戦機はほぼフル稼働です。サテライトネットワークも利用して完璧な監視網を構築していますが」 「けっこうです」 とはいえ、不満があったとしても「けっこうです」としか言えないのが現在の大和たちの状況だ。 正直なところ、わき上がる不安を拭えないでいる大和である。 太平洋上に表れたE&E出現の痕跡を調査する為にNOAを引き込めたのは僥倖だったが、肝心のユニット01──レガシアムを持ってくることはできなかったのだから。 E&E迎撃の要であるSARFの切り札。 それがないというのはどういうことか? お前たちは此処に何をしに来たのか? そういう無言の圧迫感を大和は感じている。 基本的に他国との相互不干渉政策をとっているNOAをこういった舞台に引きずり出せたのは確かに成果かもしれない。 だが、この成果を今後にいかせる形で結末を見れないではなんの意味もないではないか。 その思いが大和を萎縮させ、口数を少なくさせていたのだった。 「東北東方面の海面上に不自然な断続点が見られないでしょうか」 もっともそういうものに全くもって無頓着な者もいる。 「ここと、ここと、ここです。一見潮流による海面温度の温度差と錯覚しかねない微弱な違いですが」 ほう、と声があがる。と、同時に余所者が何を言い出しやがるという反発の雰囲気も持ち上がり始めた。 が、そういう物に無頓着であるからこそ鞍馬のような人間は好きに物を言えるのだ。 「敵はこちらの常識では測りきれない非常識な存在です。こちらの観測能力では手に負えない欺瞞能力の存在を想定するべきでは?」 ふむと部下たちに指示を与えていた初老の軍人が鞍馬に向き直る。 「では、我々はどうするべきかな? ミスター・クラマ」 「戦闘隊形を構築して西南西方面からの急襲に備えること、ですかね」 鞍馬は戦術コンソールの大型モニター上を指し示す。ここと、ここと、ここ。そうやって示していくポイントは東北東の地点から艦隊現在位置を中心に大きく回りこみ── 「今、E&Eはこの周辺にいると思われます。失礼、五分前には……に訂正しましょう」 「敵はこちらの動きに対応して回り込んでいると?」 「こちらが見つけるまで待ってくれているなんて義理は、彼らにはないでしょうから」 考え込む逡巡はほとんどなかったと言っていい。 「全艦に戦闘態勢をとるよう通達せよ。空母バラク・オバマにセンチネル部隊スクランブル召集の伝達急げ。砲撃艦エドワード・H・オヘア、ユージン・A・バレンシアに砲戦準備を指示。急いでくれたまえ」 「ついでに申し上げるなら、試験艦ヴァンデクリフトⅢを前面に押し出すこともお勧めいたしますが」 鞍馬の言葉にギョっとしなかったNOA軍人は、その視線を真っ向から受け止めた初老の軍人を除いて他にはいなかった。 「NOA全軍を通じて初めて完成したという、実用型重力子兵器運用特務艦ヴァンデクリフトⅢ。ここで使わずにいつ使う……とは思いませんか、提督」 「その通りだ」 率直にその言葉を受け止め、ニコラス・A・アンダーセン──NOA太平洋第七艦隊司令官はこの日初めて笑い顔を見せた。 「これより我々は戦闘ブリッジに移る。君たちもぜひこちらで我らをサポートしていただきたい」 アンダーセンの言葉を受け入れて、大和はつくづく何がきっかけで良い方向に転ぶものかはわからないなと一人ごちるのだ。 できれば“彼”が“継承者”をSARFに連れてこなかったことも良い方向に転ぶきっかけになってくれればいいな……。 そんなことを考えながら戦闘ブリッジに入っていき、大和は通信士の甲高い声を耳にすることになった。 「方位170、距離30000にエネルギー反応、感アリ! 未確認敵性体ナンバー4と思われます!」 ソレは巨大なクラゲのような形をしていた。 巨大──そんな形容が冗談のような直径十数kmの円盤状の物体。それが太平洋上に現れた新たなるE&Eだった。 「方位コード25に、複数の熱源確認。敵機動兵器群捕捉!」 「VFA27ロイヤルメイセス、VFA102ダイヤモンドバックス迎撃行動に入ります。アンノウンにエンカウント、戦闘開始」 クラゲはその内部に小型の子機を保有しているようだった。小型といえども、それらは全長15mクラスのセンチネルと同等の大きさではあるが。 それら子機の進路を塞ぐ形で機動空母バラク・オバマの艦載機であるセンチネル、セクレタリアトが迎撃戦闘を開始する。 「今度のE&Eは空母タイプとでも言うのか……」 大和はため息をつくことすらできない。先から感じている不安感がさらに増しているのだ。 「そうか、了解した」 インターホンを置き、指揮卓のアンダーセンは大和たちに振り返る。 「ヴァンデクリフトⅢと砲撃艦2隻の戦闘準備が完了したようです。あなた方の意見を聞きましょう」 「提督、E&Eは強力な防御フィールドを展開しています。それゆえに重力子兵器でフィールドをこじ開け、砲撃艦の電磁レールガンで中枢を狙い撃つしか勝機はありません」 「チャンスは一度、と言うわけですな」 「こう言ってはなんですが、当てにさせていただきます。提督」 フフっと笑ってみせるアンダーセン提督だが、その目は笑っていないように思う大和だ。 実際大和も笑えない状況だと思っている。 コンソールのモニターに次々と増える光点は圧倒的に敵戦力である赤い光が占めている。太平洋における最大級の戦力であるNOAの太平洋第七艦隊のソレに倍する量に思えるのだ。 「センチネル部隊の戦闘空域に突入する。敵戦力の右翼に対してミサイル第一波発射」 「アイアイサー、各艦ミサイル第一波攻撃開始」 ミサイル攻撃の開始を支持しつつ、アンダーセンは機動空母バラク・オバマに対してセンチネル部隊の第二派、第三派の出撃も命じていた。 NOA海軍の主力艦載センチネル、セクレタリアトはNOAとしては艦載機タイプの範疇に収まらない全領域汎用タイプのセンチネルだ。 同じ汎用型である日本の96式撫子と比較して、高速機動戦闘での機体制御において劣っているが、反面中・低速域での機動性や稼動時間などの面で優勢な性能を示しているという。 だが、この日、この時では相手が悪かったと言っていい。 援護にかける艦砲やミサイル攻撃も正確にE&Eの子機たちを狙い撃っていくが、数が多すぎる。落とす分より新たに出てくる分の方が多いのだ。 戦力比はセンチネル一機に対して、E&Eの子機は五機……以上。 センチネル部隊は目に見えて押されていた。 「進路このまま、速度維持しつつ前進。ミサイル第二波用意。本命を使う」 それでもアンダーセン提督は前進を命じるのだ。 クラゲの様なE&Eは先程の位置から動いているようには見えない。ならばこちらから近付くしかない。 「ミサイル第二波発射準備よろし」 「第二波発射」 ミサイルの第二波は先程の第一波よりもさらに右翼側へ、センチネル部隊の戦闘空域から大きく離れて放たれたように見える。 理由はすぐに大和たちにもわかった。 ──!!! その爆発光はモニターを挟んでいても、幾重ものフィルター越しであっても人の根源的な恐怖を呼び起こす。 圧倒的な熱と光の暴力が空間を満たしていくのだ。 「核、ですか」 『NB-87』 それは西暦2104年の現在においても最強の、そして最悪の兵器。第七艦隊に数発だけ配備されている小型の限定戦術核弾頭だ。 「軍人としてはともかく、人としては愚行の極みかもしれないが……必要とあれば私はそれを躊躇わない」 人類に躊躇っていられる余裕はない。わかっていても自分に『核』という選択肢は選べただろうか? 大和にとって答えはNOだ。 「提督、敵機動兵器群右翼は完全に消滅! 間隙ができました!」 よおし……そのアンダーセンの言葉は酷く陰鬱な響きを含んでいたように大和は感じる。 「ヴァンデクリフトⅢは敵を射程に捉えているな? 重力子砲による空間断裂攻撃を慣行する。砲撃艦2隻はヴァンデクリフトⅢの攻撃の後、最大火力をもって集中攻撃をかけよ!」 「重力子砲準備完了、いけます!」 「砲撃のタイミングはこちらへ。艦隊全艦に停止命令発令。対衝撃、対閃光防御の指示を」 命令は一つ一つ確実に命じられ、達せられていく。 左翼の敵はセンチネル隊とそれを援護する巡洋艦、駆逐艦によって完全に拘束されている。正に千載一遇のチャンスだ。 それなのに不安は消えない。むしろ大きくなってくるのはなぜだと大和は自問自答していた。 「重力子砲カウント開始。30、29、28……」 遮蔽された戦闘ブリッジの中で、スタッフたちがそれぞれのシートに座り、対衝撃姿勢をとる。 「22、21、20、19……」 その時だ。 「目標円周部に重力震発生! 質量値、エネルギー値、双方極めて大!」 「変更はない。カウントは続行せよ」 確かにいくら重力波障壁を形成したところで、空間そのものの断裂を作り出して直接本体に砲撃を加える為の“道”を作り出す重力子砲は防げないだろう。 「12、11、10……」 「そういうことなのかッ?!」 カウントだけが続く静寂を切り裂いたのは鞍馬の悲鳴にも似た叫びだった。 「撃ってはいけない!」 その言葉はカウント0と重なった。 ズンという鈍く短い衝撃とともに、不可視の波動がヴァンデクリフトⅢからクラゲE&Eに向け放たれたはずだ。 だが、その強烈な力場の働きをその身に受けたのは、 「全艦艇が強力な重力場変動に捕えられました! う、動けません!!」 次々にモニターが死んでいく。最後の戦術コンソールに映し出されたのは海面上に落ちていくセンチネルたちの姿だった。 「な、何が起こった?!」 「わかりません! 重力場変動が我が艦隊の展開する広範囲に突然発現したとしか!!」 オペレーターたちの声はもはや泣き声にも等しい。混乱が冷静さに取って代わっている。怒声と悲鳴が立ち始めた時、アンダーセンが「各員、現状把握急げ」とただ一言を発する。 ただそれだけでスタッフたちが、少なくとも表面上は平静を取り戻すのを大和たちは目撃した。それはやはり年季の差なのだろうか。 闇がブリッジを覆ったのは本の一瞬。すぐに非常用電源に切り替わり、薄暗い照明とモニターの明かりが回復した。 「SARFの諸君、意見を聞こう。ミスター・クラマには気がついたことがあるように見えるが」 はい、と鞍馬は即答した。 「恐らくあのE&Eは子機を搭載する空母であると同時に、その巨体自体が巨大な加速器なのです。荷電した重力子を加速させることにより、瞬時にマイクロブラックホールを発生させたのでしょう」 そうか、と信濃がそれをつなぐ。 「発生させたブラックホールを用いてヤツはこちらの重力子砲を空間の断裂を引き起こす以前の時点で偏向させた?」 「その余勢をかって、敵は逆にこちらに重力攻撃を行ったというわけか……」 アンダーセンがつぶやき、鞍馬が続ける。 「あれだけの巨体ならば加速器内部で生み出されるエネルギーはとんでもない数値となるでしょう。あの巨体、円形のボディ、もっと早く気が付くべきでした」 オペレーターがアンダーセンの下に駆けつけるが、その身のこなしは目に見えて鈍い。 いや、と大和は思った。おかしいのは自分もだ、身体が不自然に重い! 「現在我が艦隊には重力変動と思われる攻撃がかけられている模様です。広範囲──およそ10000m四方に渡ってであります。実測値ではまだ2G弱に過ぎませんが、時間とともにその強さは増していっております!」 「おそらく指向性のある重力攻撃だと思われます。2G……簡単に二倍の重力とは言え、人間でならば60kg余分に背負ってるだけでも、艦艇で言えば──」 行動不能になるだけでは済まない。 「どうすることもできないのか……ッ」 士官の一人が吐き捨てるように言う。 「まだだ、まだ何か方法が」 いま一人が打開策を探る。 そして、 「待ってください」 端末を操作していたオペレーターが、 「この空域に高熱源体が接近しています! 識別信号は……信号はSARF-01、アーティファクト・レガシアム!」 その名を高らかに読み上げた。 眼下に広がる光景は、どう控えめに見たところで地獄だった。 それは僕が、戦争を知らない世代だからなんだろうか。本当の地獄は、まだまだもっと酷いものなんだろうか? また一隻、軍艦が中ほどから折れて火を噴いて沈み始めた。飛んでいるセンチネルはいない。飛行機もだ。 「あの敵が広範囲に重力場変動を起こしている! このままじゃ……」 全滅の二文字。 怖い──だけど! 「いいのかい、ユウ?」 「何をいまさら」 カイアはもう一度「いいのかい?」と繰り返す。 「君には、自分から戦場に飛び込んでいく義理はないんだよ」 でも、 「僕にはこの敵のことがわかった」 そして、 「レガシアムと一緒に戦えるのは僕らだけなんだろ?」 「そうだけど……」 カイアは口篭ってハッキリとものを言わない。 心配をしてくれているのだと僕にはわかった。危険に飛び込む僕の身を案じてくれているのだとわかった。 「何で僕にこんなことが出来るのかとかさ、とりあえずそれは後回しだ」 「でもさ、危ないことは怖いことなんだよ!」 それもわかっている。だけど── 「言っただろ。怖いからってじっとしているのはもっと怖いんだよ」 「でもさ!」 「自分なら出来るかもしれないことを、出来ないかもしれないって震えているのは、もっともっと怖いんだ!」 わかってしまったから、見えない振りをすることはできない。 心で念じる。さぁ、戦おうレガシアム。お前の力で、僕たちの力で! 「助けられる命を、助けるんだ!」 ゴウッ。 それはレガシアムの巨体をも揺らすとてつもない強さの突風だった。 「ヤツが動き出したんだ」 目の前のクラゲの様な敵がじりじりとこちらに向けて動き出している。その速度は驚くほど遅い。 「ちょっと動き出しただけでこれか?!」 「それだけの巨体、それだけの質量を持っているってことなんだよ!」 グラヴィティ・フォース・フィールドを展開する代わりに重力制御システムで広範囲重力変動の影響を遮断しているそうだ。 高重力の影響を受けないその反面、こちらの突風の──物理的影響は遮断できていない。 「バリアーの防御は期待しないでね。相手の攻撃は全部回避して」 無茶を言ってくれる! それを言葉にして口に出す間もなくビームの光条がレガシアムを襲った。だけど、僕はその光の軌跡を見ることなく感じ取っていた。 ビシャーン! そんな音が聞こえたんだ。説明しようがない感覚を頼りにレガシアムの機体を右に左に振って、飛来する飛翔体に対して正対する。それは幾つもの正四面体を歪に組み合わせたかのような物体だった。 『こないだの花瓶みたいなモノなのか?』 左手を置いたスロットルを調節し、フットペダルを踏み込む。後は念じた動きをレガシアムが拾って実行してくれる。 ズズンッ! 突進の勢いはそのままに、膝蹴りをキューブにかましてピンポイントでバリアーを張った拳を振り下ろしてその真芯を貫く! そのレガシアムの拳はあまりにも簡単にキューブを粉砕して、僕は拍子抜けした。 「こいつ……弱いぞ?」 違う! とカイアが警告を発する。 「こいつらは本体が生み出す子機──外部端末に過ぎないんだ。いくら潰したって本体には何のダメージにもならない!」 なるほど、確かにワラワラとまるで砂糖に群がる蟻のようにゾクゾク、ゾクゾクとクラゲの中から這い出してくるじゃないか。 雑魚を相手にしてもしょうがないってわけだ。本体を叩かないといけない。 だけど、ちょっと動き始めただけで大型台風並の猛烈な突風を起こす相手にどう近付けばいい? 考えてる暇なんてない。 「ユウ、重力場変動の数値が2Gを突破する! これ以上の負荷がかかると下の艦隊は!」 切迫したカイアの声に、2Gってそんなにヤバイのかと思いつつ僕はレガシアムの機首をクラゲに向けた。 わらわらとキューブの大群が迫ってくる、その向こうからクラゲも近付いてきている。 「なんでキューブ共は突風の影響を受けないんだ」 「受けていないわけじゃないみたいだ。風の流れに抵抗しないで、利用して飛んでいるんだよ」 手近に迫った一機にアンカーを撃って固定。ワイヤーを手繰って振り回す。 こいつら自身はフィールドを持ってないようだ。アンカーは簡単に撃ちこめたし、振り回して他のヤツにぶち当てればその衝撃で爆発もする。 だけど数が多い。ロケットアンカーで一つ一つ撃ち落していくんじゃとうてい捌ききれない。 やはり直接突っ込んでいくしかないのか? しかしそういう訳にもいかなさそうだ。 一部のキューブたちがレガシアムから眼下の艦隊に向けて動き始めている。 どうする? どうすればいい? ハっとしたのはその時だった。 「カイア、レガシアムには重力を操る能力があるんだよな」 「そうだよ。振り分けるエネルギーの量次第で僕たちはブラックホールだって作り出せる」 ならば、だ。 「重力の力は波の形で伝播する。荷電した重力子を作り出して、一気に放出したら──どうなる?」 洋上はまるで嵐のようになっている。 風が凄いからじゃない。風に乗って飛び交うキューブたちがまるで巻き上げられる枯れ葉のようだからだ。 渦を巻いているようで、見ていると酔いそうになる。 「エネルギーチャージはできてるよ。一時的に対重力制御を切らなきゃいけないけど、出来なくはない!」 「よし。連中が艦隊に取り付く前にまとめてやっつけるぞ」 モニター上に重力制御系の切り替え表示が出た。 「カイア、頼む」 「了解! 発信のタイミングはトリガーで!」 再びフットペダルを踏んでキューブの真っ只中に飛び込んでいく。 「……!!!」 それは怖いなんてものじゃなかった。冷や汗が溺れるほど噴き出してくる。なにせ15mからはあるように思えるキューブたちとそれが放つビームの隙間を縫うように飛ぶのだから。 だけどそれでも、このレガシアムの中こそが一番安全な場所だという確信が疑うまでもなくある。 そして、なぜか敵の動きがまるでスローモーションの様に見え始めていた。 なんで僕にこんなことが出来るんだ? それは後で考えればいい──自分の言った言葉だ。けれど不審とかそういうことじゃなくて、“なんで?”という気持ちが心の隅にはある。 正面にキューブ! 減速はしないで蹴り飛ばす。そいつは飛んでいって別のキューブに当たり、爆発して飛び散った。 「カイア!」 艦隊を巻き込まないように調節は頼むぞ。背中でカイアが頷く気配を感じる。 そして僕はトリガーを引いた。 後で聞いた話によると、その様子はまるで静かな水面に大きな石を投げ込んだような感じだったってことだ。 石はレガシアム。そして広がっていくキラキラとして波紋は荷電した重力子の凶暴な波! 「メガ・グラビテイショナル・ウェーブとでも呼んでもらおうか!」 カイアの得意気な声が耳を打つ。その厨二めいた呼び名をつけられた本来不可視であるはずの波動は所狭しと飛び交っていたキューブたちを波に飲み込んでいく! 「凄いもんだな……」 正に一掃という言葉そのものだ。 「子機は完全に殲滅完了だ。ユウが一気に飛び込んだから全部射程範囲に収められたし」 じゃあ後は! その時、ズンという衝撃が僕を襲った。 「な、ん、だ、こ、れ……?!」 まるで押さえつけられるような感触。見えない手で下へ下へと押さえつけられてる! 「E&Eの、重力攻撃だ。一気に、強力な、重力場変動を、かけて、きた、み、た、い……」 そんな! それじゃ下の艦隊は?! 確認するよりも早く、考えるより早く僕はカイアに向かって叫んでいた。 「カイア! レガシアムのパワー全開でヤツからの重力場攻撃を遮断しろ!!」 「重力場変動が……消失した?!」 さっきまでの身体の重たさが嘘のように消えている。大和たちは立ち上がり自分たちの異常を確認しあった。 艦隊に重力場攻撃が仕掛けられてすぐにユニット01が現れ、そして急激な加重に意識を失いかけて──唐突にそれが消えたのだ。 「全艦ダメージチェック、報告を急げ。戦闘可能な艦はどれだけ残っているか?」 アンダーセンはさすがにいち早く我を取り戻したようだった。すぐさま指示を飛ばし始める。 「状況確認……ヴァンデクリフトⅢは大破、空母バラク・オバマ損害軽微。特殊砲撃艦エドワード・H・オヘア、ユージン・A・バレンシア健在です──」 「強襲揚陸艦ヴァリィ・フォージ大破轟沈。ミサイル巡洋艦ロジャー・ヤング中破、ただし戦闘継続は可能と報告アリ──」 「提督!」 指揮下艦艇の損害確認を妨げてオペレーターの声が上がった。 「今確認できました。重力場変動の影響が途絶えたのはSARF-01の行動によるものであります!」 蘇ったモニターにレガシアムの姿が写し出される。 その姿は巨大なE&Eに向かって両の手を突き出し、立ち向かうかのように空にその身を晒していた。 「目標の重力場攻撃に対してSARF-01が同量同質のカウンターアタックをかけている模様です。彼がこちらへの攻撃を総て受け止めているんです!」 どよめきがブリッジに満ちる。 「一人で戦っているのか」 アンダーセンが掠れた声でつぶやく。 「たった一人で我々を守っていると、いうのか……」 激震の中で操縦桿を握ることさえできないでいた。握る? そもそも、その腕がまだ身体にちゃんとくっついているのかさえ怪しいもんだ。 あんな急上昇や超々スピードで飛んでも殆ど慣性を感じないレガシアムのコックピットだったのに、今、僕は目を開けることさえ困難な程の衝撃に翻弄されている。 身体が引き裂かれそうな、バラバラに引き千切られそうな、信じられないくらい重たいものに押し潰されつつあるような。 痛い、苦しい、辛い、怖い、怖い、怖い──! 恐怖、死んでしまうという恐怖が少しばかりの義務感や正義感なんて一気に吹き飛ばしてしまった。 じっとしてる方が怖い? 震えてる方が怖い? 見ない振りなんてできない? それで死にそうな目にあってれば世話ないじゃないか! ──やっぱりムリだったんだ。 ロボットと猫と、不意に感じた不思議な感覚。 それで自分は特別なんだと思ったのか? スペシャルなロボットとスペシャルな相棒は手に入れたのかもしれない。だけど、それで自分もスペシャルな存在になれたなんて思うのは間違いだったんだ! そうだ、とっくの昔に、諦めていたじゃないか。 僕は、何にも、なれない。 強い人間になんてなれるわけないんだって。 強くなんてなれない。 「優作、強くなれよ」 僕には無理だ。 「優作、強い子になるのよ」 僕になれるわけがなかったんだ!。 父さんのような、母さんのような、強い人間になんてなれるわけがない! どうして、どうして強くならなきゃいけないんだ!! ──なぁ優作。夏休みには海行くからな、う・み! 今年こそひと夏のバケーションって洒落込もうぜ! ──ねぇねぇユウちん。これ見てよ! この96式の滑らかで艶やかなボデーがたまらないって思わない~? ──不破くん、私も家でネコ飼ってるの。よかったら、その、今度うちのネコ、見に来ない? それは山彦のニヤケ顔だったり、高雄のぽややん顔だったり、伊吹志摩子の落ち着いた笑顔だった。 「優作、強い男に、なれよ」 また声が聞こえた。 どうして強くならなきゃいけないのさ。 誰かに必要とされるために? 誰かに無碍にされないため? 誰かに頼ることなく、生きていくため? ──お兄ちゃん! 千歳? そうだ、千歳。僕の妹。父さん母さんの代わりに、僕が──! 何かがわかった気がした。 そうだ、強くなる理由、それは── 「大事なものを、守るために」 「守るんだ、守るんだ……」 再び操縦桿を握る手に力が戻る。そうだ、まだ何も終っちゃいない。 「まだ、諦めるには早すぎる。僕はまだ、何もやりきっちゃいない!」 力を込めて、心に念じる。もっと力を、もっと強く、もっともっともっと!! 再びレガシアムに力が蘇った気がした。 心なしか圧力が弱まった気もする。 そして、 レガシアムの右側面1000mを灼熱のプラズマが飛ぶ。 特殊砲撃艦エドワード・H・オヘア、ユージン・A・バレンシアの両艦に搭載されている陽電子重砲が火を噴いたのだ。 「構うことはねェ、砲身が焼き付くまでぶっ放せ!」 「SARF-01を援護せよ。後の事は考えなくていい、砲撃を休むな!」 そう檄を飛ばすのはエドワード・H・オヘア艦長のジェラド・イングラム大佐。ユージン・A・バレンシア艦長のユージーン・マクドナルド大佐だった。 ともにアンダーセン提督の秘蔵っ子で、動のジェラドと静のユージーンと知られた将校だ。 その二人がレガシアムを援護すべく、指示を待つことなくその艦載重砲の威力を発揮していた。 E&Eは重力攻撃の最中であり、その巨体を守るバリアフィールドが発生していなかったことは彼らにとって僥倖だったと言っていい。 特殊砲撃艦艦載型陽電子重砲──それは核を除けば地上で運用される最大級の威力を持つ兵器だ。 そしてこれまた僥倖であることに、彼らの得物がまず撃ち抜いたのは、E&Eの重力制御器官だったのである。 「いけるぞ!」 眼下の艦艇から放たれた灼熱の光の砲弾はクラゲE&Eの致命的な何かを撃ち抜いたようだ。 「カイア!」 ユウが叫ぶ。 「おうさ!」 僕が答える。 高重力の中で一度は折れかけたユウは再び真っ直ぐに目を見開いて天に向かってそびえ立った。 ユウには彼の前進を妨げるトラウマがあるようだ。それは事ある毎に現れてユウの気持ちを折ろうとする。 だけど、ユウはきっと負けない。きっと乗り越えていく。 『それは僕たちには生まれない──心』 雄叫びを上げて、ユウは巨大なE&Eに立ち向かっていく。 『ユウ、君のその心が僕たちに力をくれる。君が僕たちを連れていってくれる。扉を開けて、ここではない何処かへ』 フィールドを円錐状に展開して、フルブースト。こんな戦い方なんて僕には思い浮かばない。 『そうさ』 ショックアブソーバーの効力を最大設定へ。円錐状に展開したグラヴィティ・フォース・フィールドにさらに高エネルギーフィールドを被さるように展開する! 「貫けえぇぇぇ!!」 その一撃はE&Eの中枢を文字通り串刺しに貫いた。 ──信じてる。君となら、僕たちはどこまでだって強くなれるって。 ■次回予告■ 再びE&Eを殲滅し、優作はレガシアムと共に空へと消えた だが、その行く手はSARFのサテライトネットワークによって完全に追跡されていたのだった レガシアムのパイロットとしてSARF情報部のエージェントに追われる優作 市街地であるにも関わらず、センチネルさえ繰り出して優作を取り押さえようとする大人たちに、 カイアはレガシアムを呼び出すのだった 次回 アーティファクト・レガシアム SARFとの接触 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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ダ・ヴィンチが言うことには、この戦艦〝土佐〟自体が一騎のサーヴァントであり、強大な霊基の正体だったらしい。 物体が英霊となるなどと、そんなことがあり得てしまうのだろうか? 立香はついついそう考えてしまったが、冷静に考えると決して無理のある話ではないと気付く。 何しろ前例が存在するのだ。そう、魔力を持った絵本が英霊と化した果てに、人の形をとったという前例が! 『人間によって製造された物に意志が宿ることで〝概念英霊〟となった……それこそが〝土佐〟の正体だ! 損傷箇所が修復されていくのも、所持スキルの力か、または宝具によるものだろう! そうなれば全ての辻褄が合う!』 「早い話がナーサリーに似た理屈で生まれたサーヴァントってことか! ってか今まで無言で航行してたなんてな! 俺はお喋りだから絶対耐えられないだろうな! 絶対途中でゲロっちまうわ! うん、確かな自信を持ってそう言える!」 まさか必死こいて探していた〝黒幕〟の上で必死に右往左往していたとは。 ダ・ヴィンチからの説明をようやく噛み砕き終えた立香は、己の発想力の貧困さに呆れるあまりに笑いながら返事をした。 『故に君達は、その海上にて地獄を作らねばならない!』 「さっき言ってたように、宝具の大盤振る舞いでか!」 『そうだ!』 そして軽く音割れしているダ・ヴィンチの声に応えながら、立香は周囲を見渡す。 「でも……ダ・ヴィンチちゃん。本当はそっちだって分かってるんだろ?」 既に彼の表情からは、自嘲の笑みは消えている。 「もう、やってるんだよ」 立香の視界に入るのは、サーヴァント達の全力だ。 「皆、頑張ってるんだ」 『……ああ』 「そっちからも、見えてるんだろ?」 『そう、だね』 船体の一部が大破したせいで攻撃に支障が出ながらも、それでも今出せる全力をぶつけるドレイクとティーチ。 〝土佐〟の損傷部分へと追撃をかけるよう一領具足に命じ、たった一人で出来うる限り砲弾を打ち落とす元親。 そんな彼を援護するように、何度も何度も宝具を発動し、放たれた直後の砲弾を必死に〝盗み取る〟茂平。 時に不意を突くように立香へと放たれる砲撃から彼を護るため、愛刀を振るってその身を盾にする龍馬。 一方で砲弾が直撃し、当たり所が悪かったのか……まさに逆鱗に触れられたかのように我を忘れて――まるでバーサーカーの如く――暴れるお竜。 部下のファントムと共に黙々と急降下爆撃でダメージを与えながらも、先刻よりも圧倒的に分厚くなった弾幕に苦しめられる江草。 召喚したシュールなロボットが遂に撃沈されたのを見て、再びペンを走らせるキャスター。 立香の言う通り、そしてダ・ヴィンチが言うまでもなく……ここにいる全員が己に出来る精一杯のことを成していた。 『先輩っ! 右手が……!』 「はは……っ! ま、これだけ一気に宝具を展開させてりゃな。こうもなるか」 『呑気に呟かないでください! このままでは、いつかのウルクのときのように……!』 「いや、ぶっちゃけもっと酷くなりそうな気がする。でもな、マシュ……これが俺に出来る精一杯だから」 マシュから指摘された通り、令呪が刻まれた自身の右手も悲鳴を上げている。 このままサーヴァント達の思うようにさせていれば、このまま壊死することもあり得るだろう。 かつてウルクを護るために身を粉にしていたときよりも、恐ろしいことになるかもしれない。 そうなれば間違いなく、ナイチンゲールも大激怒だ。 『……すまない、立香君。我々が真実に気付くのが遅すぎたばかりに……!』 「何言ってんだよ。こんな誰もが焦りまくる中で真実を見つけ出すなんて、マジで天才じゃんか。やっぱ凄いよ、ダ・ヴィンチちゃんは。 それよりもさ……教えてくんないかな? 後、何分だ? 俺達に残されてる時間はどれくらいなんだ? 正直に教えてく……ぐぅっ!?」 『先輩っ!?』 などと考えていれば、さっそくこれだ。 立香は嘔吐するかのように吐血し、膝から崩れ落ちる。だがどうにか力が残っていた左腕で踏ん張り、倒れ伏すことだけは避けた。 身体が熱い。右手が熱い。頭が痛い。なんなら身体の節々が全部痛い。身体の中で大火災が発生しているかのようだ。 「まだだ、まだ……お前らぁっ! 攻撃を、宝具の展開を絶やすなぁっ!」 しかし、それでも。血を吐きながら立香は命ずる。 見かねたらしい龍馬が「もうえいやろう! このままやと脳がやられる!」と止めようとするが、立香は止まらない。 「龍馬さん! 龍馬さんも、宝具を開帳するんだ……! 俺が、こうしていられる内に……!」 「出来るわけないやろうが! おまんの自滅に喜んで巻き込まれるほど、わしらぁもマゾやない!」 「やるんだ! 特異点を潰しに来たマスターなんだよ、俺は! だから命じる義務がある……あるんだよっ!」 彼はもはや、意地だけで動いていた。 「おい、ダ・ヴィンチちゃんとか言うたにゃあ!? おまんは、どういてこんな無茶な注文をしたがじゃ!」 「龍馬さん……こうなると分かってたから、ダ・ヴィンチちゃんは〝一気にやれ〟って言ったんですよ……。 宝具展開を延々と続けていたら俺は絶対枯れて死ぬ。だからその前に一気に決めろって、そう言ってくれたんです……」 「くっ! いや……すまん。ちっと熱くなりすぎた。すまんかったにゃあ、ダ・ヴィンチちゃん」 『いいや……誤解させるようなオーダーを発令したことは事実だ。そしてそれが遅すぎたことも、また事実。もはや反論出来る立場ではない』 しかし意地を通そうとすればするほど、負担の二文字が容赦なく襲いかかることは当然の道理。 再び立香が吐血したのが引き金となってか、徐々にサーヴァント達の宝具が形を保てなくなっていった。 「跳びなティーチ! こっちももうダメだ!」 「ああ畜生! 後少しだったんだけどなぁ!」 遂に沈没を始めた自慢の船から、ドレイクとティーチが甲板へと飛び移る。 「元親殿! 申し訳ございませぬ!」 「我々はここまでのようです! どうか、ご武運を……!」 「皆! そんな……っ!」 損害箇所の修復などさせるものかと奮戦していた一領具足の武士達が、光の粒子となって消えていく。 「あーもう! ついてないったらありゃしない……ッスねぇ!」 魔力不足による技術の劣化によって砲弾を盗み損ねたのか、茂平は〝よろしくない方向〟へと曲がっている左腕を押さえて苦悶の表情を浮かべる。 「……いかん」 両翼がへし折れ墜落する爆撃機を光の粒子へと変換した江草は、無傷で甲板へと着地するという奇跡を起こしながらも、悔しさからか歯噛みする。 「いかん! 一旦撤退じゃ、お竜さん! 態勢を立て直す!」 「■■■■■■■■■■!!」 「お竜さん! くそっ! 聞けお竜さん! このままやとマスターが危ないがじゃ! お竜さんっ!」 未だに自身をコントロール出来ずに傷を負ったまま暴れるお竜を正気に戻すためか、龍馬は彼女のもとへと急ぐ。 「…………」 もはや絶望的な状況であると悟ったのか、キャスターは無言を貫く。 「どうした、皆……もうへばっちまったのか……?」 だがそんな英霊達の姿を見ながらも、立香はなおも意地を通す。 痙攣にも似た激しい震えを起こす両脚で立ち上がり、未だマスターはここに健在だと皆に示す。 もしも様々な特異点での経験が無ければ、このまま倒れ伏しているところだったろう……と、そう思いながら。 「マスターっ!」 そんな立香の耳に、元親の叫びが届く。 一体どうしたのかと思って彼へと振り向こうと顔を動かしたが、その途中で立香は全てを察した。 無慈悲にも、甲板に鎮座する巨大な砲門が立香へと向けられていたのだ。 意地を通すことばかりに夢中になっていたために、全く気付けなかった。 それに今は盾となってくれていた龍馬もいない。大失敗だ。 「ああ、くそ……」 どうする? このまま倒れ込めば射線からは外れられるか? だが倒れた後はどうする? 再び立ち上がれるとは思えない。 ならばこのまま避けなければなるまい。しかし両脚が動かない。立っているだけでやっとなのだから、当然至極の話である。 馬鹿な。こんなところで終わるのか? こんなところで死を迎えるのか? 否! それだけは避けなければならない! だがそんなことはとっくに分かっているというのに、身体は言うことを聞いてくれない。我ながらなんとも哀れな……立香は心中で、そう呟いた。 すると、その瞬間、 「うおっ!?」 突如、立香の身体が乱暴に突き飛ばされた。 一体何が? と、彼は一瞬だけ混乱してしまう。 「ああ、よかった……間に合った」 犯人は他でもない、長宗我部元親であった。 背に羽を生やしたままであることから考えるに、砲弾を打ち落とす必要が無くなったと見てすぐにこちらへと突っ込んできたのだろう。 他でもない藤丸立香の命を守る、ただその為だけに。 「これで借りは返せたかな、マスター……」 元親の縁起でも無い言葉を聞いた立香は、無意識に「馬鹿野郎!」と叫んでいた。 だがその声は、躊躇のない砲撃によって轟いた爆音によってかき消されてしまう。 「馬鹿野郎……元親……っ!」 煙が晴れて視界がクリアになると、再び立香は倒れ込んだまま叫んだ。 視線の先には、右半身の一部を失った元親の姿がある。 一体全体何がどうなったのか。そんなこと、考えるまでもない。 ランサーのサーヴァント長宗我部元親は、マスター藤丸立香の身代わりとなったのだ。 「ま、すたー……助かった、かい?」 「ああ……おかげさまで、な」 激しい呼吸の合間を縫って必死に言葉を紡ぐ元親のもとへと、立香は必死に這いずっていく。 「ます、たー……どこに、いるんだい?」 「ここだ……今……やっと、すぐそこまで、来た……!」 「そうか……ごめん。もう、何も、見えなくて……」 「おい、馬鹿言うなよ……おい」 「でも……声は、聞こえる、よ……近くに、いるんだね……」 元親の左手を握り締めた立香は、己の弱さを呪った。 もしももっと自分が優秀ならばと……かつてオルガマリー所長が厳選したAチームの魔術師達の様なエリートであったならよかったのにと。 握る手から力が抜けていく。かつてマシュの手を握っていたときには、もっともっと力を込められていたというのに。 『……到着時刻まで残り十分を切った。立香君……今まで本当にすまなかった』 ダ・ヴィンチが力無い声で謝罪する奥から、すすり泣く声が聞こえてくる。 声の主はきっとマシュだろう。彼女はとても心優しいから、この惨状に耐えられなくなったと見た。 「元親! アンタ……早死にするなってあんだけ忠告しただろうに!」 「マスター! 元親殿! 拙者に出来る……こと、は……」 「ちょっと二人とも、何諦めてんスか! 駄目ッス! まだ時間は残ってるんスからぁ! う、うう……っ」 「藤丸くん……元親さん……くそっ! ほんまにすまん! わしのミスじゃ! どういてあんな判断を……!」 「リョーマのせいじゃない……我を忘れてた私が悪い。二人とも、ごめん」 「……無念だな」 やがてサーヴァント達も、立香と元親のもとへと集う。 だがきっと全てが遅いと理解しているのだろう。皆一様に、その表情に影を落としていた。 「……よし。決めた。覚悟を決めたぞ、オレは」 サングラスを捨て、こう宣言したキャスターを除いては。 「お兄ちゃん。いや、藤丸立香君。頼みがある」 「アンタ、今更何を……!」 「悪いな。お姉ちゃんは黙っててくれ」 「ドレイク、怒ってくれてありがとな……で、どうしたんです……?」 眉間に皺を寄せ、力強い口調で話しかけてきたキャスター。 そんな彼に対し立香は「こんな状態で、出来ることなら……何でも……」と、荒い呼吸混じりに答える。 するとキャスターは「ありがとうよ。こんな弱々しい爺さんの言うことを聞いてくれて」と礼を言うと、 「今すぐに契約をして……その令呪三画、全部オレにつぎ込んでくれ」 立香達を囲むサーヴァント全員に「はぁ!?」と叫ばせる程の、思い切りのいい願いを頼み込んできた。 誰もが〝正気の沙汰ではない〟と感じたのだろう。まずはドレイクが「この期に及んで何言ってんだい!」と、キャスターの襟首を掴む。 ティーチはそんな彼女を「どうどう」と抑えながらも、やはり「だが皆が〝今更?〟と思うのは確かだ」と本気モードで不満を零した。 だが一方で、虚ろな瞳で空を見上げる元親にすがって泣いていた茂平は「何か、何かあるんスか!?」と藁にもすがるように呟く。 龍馬は「策には柔軟さと、結末を予測出来る目が大事じゃ。おまんにはそれがあるがか?」と問い、お竜も「リョーマに同じく」と続ける。 江草は己が散華したときを思い出したのだろう。静かに「……この状態で起きる奇跡など、そうそうない」と忠告するように言った。 しかし、それでもキャスターは「大丈夫だ。オレの話に乗ってくれれば、決着はつく。オレがつける。オレが成し遂げる」と譲らない。 「キャスター……分かり、ました」 恐らくこれは大きな賭けだ。だがこの賭けに勝たなければ、滅びは必至。 故に立香は、キャスターの言葉を信じることにした。 「マスター! アンタ、いいのかい!? こんな胡散臭い奴に……!」 「いいんだ。今出せる俺の全部を……くれてやる。ベットしてやる。だから、契約しよう……!」 「そうか。ありがとうなァ」 「ただし……絶対に、ハッピーエンドを、迎えさせてくださいよ……! それが、マスターとしての……命令だ……っ!」 「ハッピーエンドか。安心してくれ、マスター……そいつはオレの十八番だ」 激しく咳き込みながら、立香はすぐさま契約を交わす。 すると自分を信じてくれたことが余程嬉しかったのか、キャスターは不敵な笑みを浮かべると、 「おい! 答えろ〝土佐〟! お前さんは、この特異点で何のために生まれた!? 何を成すために生きている!? オレは答えられるぞ! 何故かって!? 答えは簡単だ! それが分からず答えられないなんて、そんなのは嫌だからだ!」 手のひらを太陽にすかせ、その細身の身体のどこから出ているのかと疑問が沸き上がるほどの大声で叫んだ。 「我が真名は〝やなせたかし〟! 決して朽ちぬ正義を描き、人々に笑顔をもたらすために生きた者である!」 その名乗りを耳にした瞬間、立香は全身の鳥肌が立つ感触に襲われた。 それが不思議に映ったのだろう。ティーチを――そしてそれどころではない元親も――除く英霊達が口々に〝有名人なのか?〟と立香に問う。 だがあまりの衝撃に立香は「ああ……」としか答えられなかった。詳しい説明が出来るほど、落ち着いてはいられなかったのだ。 『マシュに代わって話そう。彼、やなせたかし氏は日本を代表する漫画家、絵本作家、詩人、作詞家だ。正確には更に肩書きも存在するがね。 彼は残酷な第二次大戦を生き抜いた後、当時は弱小企業であった〝サンリオ〟と交流を深めながら、絵本作家・詩人として大成していった。 そして自身が執筆した〝アンパンマン〟が運命を動かす。渾身の想いで描いたその絵本が、全国の子供達の心を鷲掴みにしたんだ。 やがてそのアンパンマンが1988年に〝それいけ!アンパンマン〟としてアニメ作品として世に出るやいなや、彼は一躍売れっ子となった! その勢いは飛ぶ鳥を落とすが如し! 恐らく日本人なら誰もが……それこそ、現代の若者である立香君にすら名が知れ渡っている程にね! たとえ日本が何度も災害に見舞われようとも、いつだって子供達に笑顔を取り戻させる……それがキャスター、やなせたかし氏の持つ力だ!』 「あの爺さんが……? それが本当なら、とんでもない大英雄じゃないか。アタランテのやつが聞いたら卒倒するんじゃないかい……?」 「ダ・ヴィンチちゃんの、解説は、本当だよ……あー、なるほどな……あのでっかいロボットに見覚えがあったわけだ……! なぁ、ティーチ?」 「おう……この黒髭が正体に気付けなかったとはなぁ……大ピンチを前にして、この審美眼もすっかり曇っちまってたってことか!」 現代の文化にすっかり染まりきっているティーチも、まさか自分が助けた相手がやなせであったとは夢にも思わなかったのだろう。 彼は乾いた笑みを浮かべながら、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。その様子たるや、さながら神に畏敬の念を抱く者のそれである。 などと考えていると、やなせが「さァ、マスター! 令呪三画、全部まとめてこの老いぼれにくれてやってくれェ!」と叫ぶ声が届く。 立香が精一杯の力で右手を挙げて約束を守ると、やなせは「ありがとうよ……これなら、オレだけの力で全てをまかなえる!」と喜び、 「さぁ、遠慮はいらねェ! その思い、欲、全部オレにぶつけてこい! 宝具発動……『我はすべての飢えを満たす者也(トゥルー・ジャスティス)』!」 太陽に向けていた掌を、甲板へと思い切り叩きつけた! 「……何だ、この輝きは」 その瞬間、戦艦〝土佐〟が虹色の輝きを放ち始めた。 否、それだけではない。思わず驚きを口にした江草をはじめとする乗員全ての身体までもが輝きだしたのだ。 「なぁ〝土佐〟よ。こんなもんじゃねェだろう? 恥ずかしがるなよ。相手は死人なんだ。もっとさらけ出しちまえよ。 いいや……〝土佐〟だけじゃねェな。マスターやお前さん達もだ。心配するな。何ぶつけられても受け止めるのが、この宝具だ」 「ダ・ヴィンチちゃん、マシュ……この宝具、何なんだ? 一体何が、起きてるんだ?」 『先輩……ごめんなさい。全く分かりません。一体何の光なのか、数値だけではとても説明出来ません……』 『それだけじゃない。神秘も何もないはずの現代の英霊がこれほどの規模の宝具を放てる理由もとてもじゃないが説明がつかない……! いや、もしや……未来を担う子供達を笑顔にし続ける……それこそが〝人理を護る〟行為として成立している、ということなのか!?』 そして輝きに包まれた立香達に異変が起きる。 なんと彼らが負った怪我や溜まりに溜まっていた疲労が、凄まじい速度で回復していくのである。 まるでナイチンゲールの宝具『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』の如しだ。 だが同じ回復であっても、やなせの放つ宝具は彼女の宝具とはまた違った印象があることに、立香は気付く。 問題があるとすれば、その印象の違いを上手く説明出来ないことなのだが。 「茂平……? どうしたんだい? 何故、キミは、泣いている?」 「……元親さん? え? 元親さん!? あたしが分かるんスか!? マスター! 元親さんが! 元親さんが!」 「元親!? 気がついたのか!?」 先程まですっかり疲弊していたのが嘘だったかのように、立香は軽々と自身の身体を起こす。 一方で元親の意識も、瀕死であったのが信じられないほどにしっかりとしている。 それどころか、砲弾によって失われた箇所に光の粒子が集まり、やがて再生するという喜ばしいおまけ付きだ。 加えて〝そういえば〟と思ってボロボロであった自身の右手を見てみれば、元の血色を取り戻している。 令呪こそ刻まれていないが、レイシフトを開始する前の状態そのものである。 「元親……よかった。俺が不甲斐ないせいで、あんな……」 「謝らないでくれ、マスター。それよりも大事なことがあるだろう? この戦艦はどうなったんだい?」 「ああ、そう言えば……!」 とはいえ、何もかもが元通りになっただけでは話にならない。それはやなせとて分かっているはずだ。 残り時間も心許ないどころの騒ぎではない。やなせは自分が決着をつけると言っていたが、どうするつもりなのだろうか。 元親の右手を取って彼を起き上がらせた立香は、依然〝土佐〟に掌を当てるやなせを見守る。 『……馬鹿な』 すると、 『〝土佐〟の速度が……急激に落ちている。何故だ? あの宝具は、全てを癒やすものではないのか?』 ダ・ヴィンチが言うように、何故か〝土佐〟の速度が突如として低下していった。 いや、それだけは終わらない。遅くなるどころか……完全に停止してしまったのである。 通常、タンカーや軍艦のような巨大な船舶は停止するまでかなりの時間を要するのだが、それは〝土佐〟自身がサーヴァントであるからいいとして。 とにかく突如として停止したとはどういうことなのか。立香はやなせにカラクリを説明してもらおうと駆け寄った。 すると、 「や、やなせさん!?」 「あァ、まァ代償としちゃこれくらいは当然ってもんか」 立ち上がったやなせの身体が、徐々に光の粒子となって消滅しだしていることに気付いた。 宝具発動からの消滅。嫌でもアーラシュの〝流星一条(ステラ)〟を思い起こさせる。 「あァ、勘違いしないでくれよマスター。別にあれだ、一度発動したらはいお終いよ……ってわけじゃねェんだ。 ただ今回の場合は、あまりにも〝土佐〟の飢えが強すぎた。お腹いっぱいにさせるには、令呪に加えてオレの身も捧げる必要があったってことだ。 それと、お前さん達の飢えも解消してやろうって欲張っちまったからなァ……あっはっはっは! そりゃこうもなるよなァ! 悔いは無いけども!」 「飢え……?」 やなせが語る言葉の意味が分からず、反射的にオウム返しをしてしまう立香。 だがやなせは嫌な顔一つせずに「そうだ。飢えだ」と答えると「消えちまう前に言っとこうか」と笑い、話を続けた。 「マスター。マスターの考える正義の味方の条件って、どんな奴だい? 何でもいいぞ。オレは否定しない」 「正義の味方の条件、ですか……やっぱり、悪を倒して正しい人を助けるって感じですかね?」 「あァ、まァそうだな。悪くない。というか、一般的にはそうだろう。でも、オレとしてはもう一つ条件が欲しくてね。 それは……〝食べさせること〟だ。オレにとっての究極の正義の味方は、飢えた人に食べ物を差し出す……そういう奴なんだよ」 「それって……アンパンマンじゃないですか」 「そうだ。アンパンマンだ。オレにとっちゃ、あの子が究極の正義の味方なんだなァ」 粒子として徐々に消滅していくどころか、遂には身体が透けてきたやなせは、それでも動じずに口を開く。 「この飽食の時代に生まれた人達にはいまいちピンと来ないかもだが、人生で一番つらいのは、モノが食えないことなんだ。 だからオレはアンパンマンを生んだ。そりゃ悪者とも戦うが、あの子は……飢えに苦しむ人に〝ぼくの顔をお食べ〟と食べ物を差し出す。 たとえそのせいで自身の力が弱まってしまうと分かっていてもだ。あの子はそれを承知で……飢えを、心を満たすことを続けてる。 正義を貫くために、貫く度に、必ず自分は深く傷つき、独り孤独に胸の傷の痛みに耐える。本当の正義ってのは、そんな格好悪いものなんだ。 けれどアンパンマンはそれを続けてる。だからオレも、自分が〝こうなる〟と分かっていながら、自分の思う正義を貫いた。貫き通したわけだ」 この言葉を聞いた瞬間、立香はやなせの宝具の本質に気付いた。 ナイチンゲールが〝癒やす者〟であるならば、やなせたかしは〝満たす者〟というべきか。 即ち彼の宝具は読んで字の如く〝飢えを満たす〟ものであり、更に言えば生きとし生けるものが持つ〝欲望という名の飢え〟にすら働きかけるのだ。 立香達の身体が急速に回復していった理由も、つまりは〝この特異点を止めたい〟という思いという名の〝飢え〟が満たされたから。 同じ回復でも、ナイチンゲールのものが医療技術による徹底的な治療ならば、やなせのそれは飢えを満たす際に起こる副次効果に過ぎないのだ。 「そうか、そういうことだったのか……でも、それにしたって……!」 で、あるならば……〝土佐〟が停止した理由も理解出来る。 やなせは〝土佐〟が抱いているであろう〝破壊衝動という名の飢え〟を完全に満たしたのだ。 「〝それにしたって〟? ああ……なるほど、そういう意味か。お前さん〝一体何故そこまでしたんだ〟って思ったんだな? といっても別に特別な答えなんかない。オレがこうしたのはな……この〝土佐〟自身がサーヴァントだ、と言われた瞬間に気付いたからさ。 この〝土佐〟を襲っていた激しい飢えの正体にな。マスターにはそれが分かるか? サーヴァント達の皆はどうだい? 分かったら挙手をどうぞ」 既に全てを察していた立香は、迷わず挙手をした。 するとやなせは司会者のように「はいどうぞ」と解答を促す。 そして促されるままに、立香は答えを言おうとした。 だが、そのときである。 「お待ちください、カルデアのマスター藤丸様とサーヴァントの皆様。話の続きは、このわたくしが……」 どこから聞こえてきたのか一切不明の謎の声――声色は穏やかな女性のそれである――が、立香の耳に入ってきた。 どうやら声を認識しているのは、英霊達も同じであるらしい。各々が、声の出所を探すために視線を巡らせている。 するとやなせが何でもないように「よォ〝土佐〟ちゃん。そんな声だったんだな」と言って豪快に笑った。 「そうか、サーヴァントだもんな。ナーサリーみたいに話せるのも当然か」 「そのナーサリーという方は存じ上げませんが……やなせ様が仰るとおり、わたくしは加賀型高速戦艦二番艦〝土佐〟と申します。 此度は皆様に多大なご迷惑をおかけし、お恥ずかしいばかりです。まずはそのことに関して深く陳謝を。申し訳ございませんでした」 「あ、ああ……」 「では早速、わたくしなどの為に消えゆかんとするやなせ様が放った問いの答えを述べさせていただきます」 「あんまりだぜ〝土佐〟ちゃん。せっかくいい歳こいて推理モノの探偵ごっこを楽しんでたってのによォ」 「申し訳ございません。ですが、わたくし自身がお話しすることが、このような禍殃を生み出したことへのけじめであると思いましたので」 「あっはっは! 冗談だよ。ぶっちゃけこっちもあまり時間がねェ。だからそうしてくれるなら助かるよ」 そして答え合わせを〝土佐〟に引き継がせると、やなせは「ああ、疲れた。歳は取りたくないもんだ」と呟いて座り込んだ。 既に左半身は光と消え、近くで注視しなくては姿を確認出来ない程にまで透けてしまっている。時間がないのは事実なのだろう。 「わたくしは……自身の運命を呪っていました。条約などという理不尽なもののせいで、標的艦として沈むことになった運命を。 生まれたときから国に身命を捧げたいと思っていたというのに、何故こんな仕打ちを受けねばならないのかと、怒りすら覚えておりました。 何故かこんなわたくしの精神が英霊の座へと至ってからも、ずっとずっと呪っていました。ずっとずっと、飽きることもなく、ずっと……。 すると何の因果か……深海で眠っていたわたくしの身体へと、黄金色の杯……聖杯が舞い降りてきました。これは、と思いました。 この千載一遇の好機を逃してはならない。わたくしは今度こそ国に身命を捧げる戦いに赴くのだと、その一身で米国へと向かっていったのです」 「だがその〝土佐〟ちゃんの願いってのは、気付いたときには歪んでたってわけなんだなァ」 「やなせ様の仰る通りです。今になって分かりましたが、わたくしは〝身命を捧げる〟という願いを忘れてしまっていた。 いつしか飢えは〝敵を倒したい〟というものにすり替わっており、故に性根を腐らせてしまっていた。端的に言えば暴走していたのです」 〝土佐〟は今にもすすり泣くのではないかと思う程に儚い声で、自身の生い立ちを語る。 それを聞きながらも、立香は徐々に消えゆく究極の正義の味方……やなせの姿を目に焼き付けようと注視し続けていた。 「ですがその歪んだ飢えがやなせ様の宝具によって満たされたことで、わたくしの狂気は消失致しました。 ドレイク様、ティーチ様、長宗我部様、日下様、坂本様、お竜様、江草様、やなせ様……そして藤丸様とカルデアの皆様。 どうかお許しを、などと虫の良いことは申しません。今はただ、ここに集いし善き人々に深く深く感謝を述べたい一心です」 「だとよォ、マスター。頑張ったかいがあったなァ。あっはっは!」 輪郭がおぼろげになりながらも笑うやなせに、立香は「笑ってる場合ですか……」とぼやく。 だがそのぼやきを聞いたやなせは、それを無視するように再び豪快に笑うと、満足げに口を開いた。 「死ぬ一年前だったなァ。人生これからまだまだ面白くなるところだったってのに、オレはふいに死期を悟っちまったんだよ。 だからずっと一部のスタッフ相手にだが……死にたくねェなァ、って言ってた。だが死んだ。呆気ないもんだよな、人間ってのは。 でも、死んだ途端にまさかまさかの〝これ〟だ。笑わずにいられるかよ。いやァ、二度目の生を頂けるなんて、本当にラッキーだ。 それと、オレはこれから消えるが、もし縁があったら是非ともそのカルデアってとこに召喚されてみてェなァと思ってる。本気でだ。 きっとそれは〝土佐〟ちゃんも同じだ。なァ〝土佐〟ちゃん。お前さんも、このお兄ちゃんのとこに行ってみたいって思ってるんだろ?」 「え、ええ……ですがそんな願いを抱くのもおこがましい程に、わたくしは罪深いことを……」 『いやいや〝土佐〟ちゃん。それが実はだね、カルデアは存外懐が広いのだよ』 『はい! そのままのお姿ではお部屋をご用意するのは厳しいでしょうが……先輩さえよければ、カルデアは全てを受け入れるんです。 そしてそれは勿論、やなせさんにも当てはまります。カルデアにいらしてくれれば、きっとずっと面白いものが見られますよ。ね、先輩?』 「……だな。ダ・ヴィンチちゃんとマシュの言う通り。ここで出会った英霊達全員を、カルデアは絶賛募集中だ! 今なら、一時は魔力が枯れ果てて死にかけた不甲斐ないマスターが無料でついてくるおまけ付き! ま、これは余計かもだけど」 「まぁ……ならばわたくしも、皆様と同じ人の形へと変化出来るよう修行をせねばなりませんね、やなせ様……やなせ様?」 そしてこの洋上で出会った全員を勧誘している間に、やなせの姿は完全に消失してしまった。 あまりにも不意打ちじみたタイミングだったためか〝土佐〟をはじめとするサーヴァント達は全く気付かなかったようだ。 だが立香はその光景をしっかりと両の瞳で捉え続けていた。彼の提唱する〝究極の正義の味方の条件〟を何度も思い出しながら。 「……いよいよか」 そうしていると、お約束となる別れの時間がやってきたらしい。 気付けば江草は、先程のやなせの様に金色の粒子へと分解されだしていた。 だがいつも冷静沈着な江草は、この現象に対しても一切驚愕してなかった。 さすがの胆力。急降下爆撃の神という異名は伊達ではないということか。 「……〝土佐〟よ。しつこいまでに爆弾を投下して悪かった」 「いいえ、わたくしの自業自得です。気に病むことなどありません」 「……ならいい。ではマスター、そして英霊達よ。縁があればまた」 そんな彼は、やはりマイペースなまま、しかし後腐れなく消える。 とても短い挨拶だったが、その短い言葉の内に秘める熱さは強く伝わってきた。 「なるほど、ほんで次はわしらぁなわけやな?」 「リョーマと一緒に話しながら消えられるのは、正直嬉しい」 「ああ、帝都ではこうはいかんかったきにゃあ……くっそ、あのアーチャー……」 続いては龍馬とその宝具お竜が光の粒と化していく。 お竜の言葉によって何やら苦々しい思い出が蘇ってきたのか、龍馬は眉間に皺を寄せる。 だがそんな別れ方はさすがにどうなのか、と思ったのだろう。彼はすぐに明るい表情を浮かべると、 「ほんじゃあ、わしでよかったらいつでも呼んでや。お竜と一緒にカルデアの隅から隅まで探検しちゃるき」 「好奇心旺盛すぎてウケる。じゃあそういうことで……あ、操舵室で大喧嘩したの、ちゃんと謝る。ごめん」 「ボクはもう気にしてないよ。終わりよければ全てよしさ」 「アタシも元親と同意見だね。昨日の敵は今日の友……アンタ達、頼りがいがあったよ!」 「そうそう! そういうことッス!」 「ほんなら藤丸くん! 特異点潰し、頑張りよ! 応援しゆうきね!」 「ファイト」 「はい。ありがとうございました、龍馬さん、お竜さん」 最後には満面の笑みで手を振りながら消えていった。 出会いこそ最悪だったが、こうして和解出来て本当によかったな……と、立香は心からそう思った。 「って、あー。次はあたしッスかぁー。名残惜しすぎるッス……」 そんな立香の隣で、茂平が不満げな声色でぼやく。 見てみれば、今度は彼女がおさらばする番であるらしい。 「茂平もありがとうな」 「キミの盗みの腕に舌を巻いたのが、ついさっきのことの様に思えるよ」 「うっ! わ、悪かったッスよぉー! 元親さんの意地悪ぅー!」 「いやー、ティーチ。カルデアに帰ったらすぐに部屋の戸締まりを徹底しないとねぇ!」 「BBAの言う通りでござるなー。もし拙者のコレクションが盗られちゃったりしたら、ブチ切れポイント高高ピーピーピー事案ですからなー」 「海賊さんお二人も勘弁してくださいよぉー! こんなマイナー義賊を虐めて何が楽しいんスかーっ!」 「あっはっは! 冗談さね!」 「カルデアに来たら、小太郎氏との出会いを見てみたいものですなぁ!」 「こたろー……? 誰ッスか?」 「来てくれたら分かるよ、茂平」 だが別れの寸前であるというのに、茂平は何かといじられていた。 それが不満なのか、茂平はぷうっと頬を膨らます。 そういうことをするからいじられるのだ……と思ったものの、口にはしなかった。 「うぐぐ……ふ、ふーんだ! 見てるがいいッスよ! 義賊の勘をフル活用して、絶対にカルデアに召喚されてもらうッスから!」 「いや、そこは普通に俺達との縁を辿ってくれていいんじゃ……」 「あーあー聞こえないッスー! っと……ではでは、皆さん……どうかご武運を! でもピンチになったら、遠慮無く頼ってくださいね!」 「おう。期待してるから、そこまで言うからには絶対に来いよ?」 「承知ッス! また会いましょう! 絶対に……ええ、絶対にッス!」 そして彼女もまた、龍馬達の様に満面の笑みを浮かべて消える。 これほどイジリ倒したのだ。きっと彼女は、その執念でカルデアへとやってきてくれるに違いない。 ならば早速、彼女が大騒ぎしたときの止め方を考えておかねば……立香はそんなことを考えて笑みを零した。 「そして、いよいよボクの番というわけか。茂平も言っていたけれど、本当に名残惜しいな」 そんな立香の姿が面白く映ったのかくすくすと微笑んでいた元親にも、遂に順番が回ってきた。 彼は甲板に転がっていた自身の得物を拾い上げると、立香達に「今なら、息子達や民に堂々と胸を張れるよ」と微笑んだ。 「そう思えるようになったのも、マスターやドレイク達のおかげだ。不謹慎だけれど……この特異点に呼ばれて、本当によかった」 「俺は何もしてないよ。元親は元々、とっても強かったんだ。それを再確認出来た、それだけの話なんだよ」 「そうさね! それに、あんなに沢山の部下に慕われてたと知っちゃ、アタシも太鼓判を押すしかなくなっちまったよ! あっはっは!」 「むむっ! 貴重なBBAのデレが元親殿にっ!? えーい元親殿! 絶対カルデアに来てくだちい! どちらが真の男か、勝負ですぞぉ!」 「いいだろう。男子三日会わざれば刮目して見よ、だ。本気を出したキミの勇猛さも、また見てみたいしね。 ドレイクも……卑屈だったボクの目を覚まさせてくれてありがとう。ボクを本気で叱ってくれて、本当にありがとう」 元親は穏やかな表情のまま、元親は自身の胸に手を当てる。 そして大きな瞳で真っ直ぐに立香を見つめると、 「マスター、藤丸立香。キミに出会えたこの素晴らしい奇跡を、ボクは絶対に忘れない」 「……ああ。俺もだ!」 「だから次に会うときは……この奇跡を大きな糧とし、聡明なキミに相応しい英霊となることをここに誓おう!」 「おう、分かった! それじゃ……またな、元親!」 「ああ! またね、皆!」 澄んだ声で宣言し、英霊の座へと還っていった。 覇気を失い亡くなったという生前の話とは全く違う、素敵な笑みを浮かべた爽やかな別れ。 それをしっかりと見届けた立香は、しばし甲板にて静かに佇むと「俺達もそろそろ帰らないとだな」と呟いた。 「さてと、だ。さっきも言ったように、カルデアの懐の広さは尋常じゃないレベルだ。 だからさ……〝土佐〟。お前も気に病まずにさ、いつでも名誉挽回しにきてくれよ。待ってるから」 「はい……きっと。いえ、必ずや……!」 〝土佐〟の船体が黄金の光に包まれていく様子を見た立香は、彼女にも声をかける。 そして前向きな答えを聞いた彼は、満足げに「よっしゃ! じゃあダ・ヴィンチちゃん、マシュ、頼む!」と叫んだ。 まるで、名残惜しさを強引に吹き飛ばすかのように。 『ああ、ではこれより撤退作業を開始する!』 『お疲れ様でした、先輩! ドレイクさん、黒髭氏も!』 通信越しに二人の声を聞いた立香は、静かに目を閉じる。 「さようなら……善き皆様方」 そうして最後に〝土佐〟の言葉を耳にした直後、立香達は特異点から姿を消すのであった。 BACK TOP NEXT 第8節:疾走する魂 新生禍殃戦艦 土佐 第10節:めでたしめでたしのその先で
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軍団・評定 外交 人事 物資 調略 軍団・評定 評定 指示 条件 1行目 2行目 3行目 完全委任 自身=1 特別な方針は持たず 臨機応変に対処する 所存じゃ 自口=0 …全てお任せを… 自相血縁 なにも心配いりません この(自称2)に (自齢 相齢)全てお任せあれ(他)万事託されよ (他) (自称3)に思うところ ありますゆえ 全てお任せくだされ 必ず御期待に添います ぜひ(自称3)に 全てお任せくだされ (自称3)の力量信じて ここは万事(自称3)に お任せくだされ 内政開発城指定 自身=1 我が軍は財政好転を 目指し(城名)下の 内政開発に専念する 自口=0 …(城名)城下の 開発…ですな… 自相血縁 (城名)城下の内政 開発がよいと思います どうです、(二人称1) (他) (城名)を中心に 国造りに励みたいと 考えております 軍団収入の安定の ためにも、(城名)で 内政開発をしましょう (城名)城下は たいそう豊かな地です ぜひ内政開発の許可を 内政開発城不定 自身=1 我が軍は勢力下の 内政開発を推し進める 自口=0 開発… ですな… 自相血縁 勢力下の城の内政 開発がよいと思います どうです、(二人称1) (他) 軍団支配下のどこかで 国造りに励みたいと 考えております 軍団収入の安定の ためにも 内政開発をしましょう 拠点については 心当たりがあります ぜひ内政開発の許可を 軍事強兵城指定 自身=1 (城名)で 軍事強兵に務める 所存である 自口=0 …(城名)での 軍備増強…ですな… (他) 今の兵力では不足です (城名)を拠点に 軍事強兵をしましょう 力を蓄えるべく (城名)を中心に ぜひ軍事強兵の許可を (城名)を拠点に 軍事強兵でいきたいと 考えてせりふ/6F 軍事強兵城不定 自身=1 周囲の敵に備え 軍事強兵を我が軍の 方針といたす 自口=0 軍備増強… ですな… (他) 今の兵力では不足です 我が軍全体的に 軍事強兵をする所存 力を蓄えるべく ぜひ軍事強兵の許可を くだされ 拠点にとらわれず 軍事強兵でいきたいと 考えております 防衛守備城指定 自身=1 我が軍団は強大な (城名)方面の敵に 備え防衛守備に徹する 自口=0 …(城名)に対する 徹底守備…ですな… (他) (城名)方面からの 攻撃に備え、守りを 固めたいと思います (城名)方面の敵が 強大ゆえ、守りに 徹せざるを得ません (城名)に対する 備えを万全にすべく 守りを固めましょう 防衛守備城不定 自身=1 周囲の状況を考慮し 我が軍は全ての城で 防衛守備に徹する 自口=0 徹底守備… ですな… (他) どこから攻められても 守りきれるように 防衛守備に徹したいと 全方面の敵に備え 軍全体を防衛守備に 徹したいと思います どのような事態でも 現勢力を維持すべく 防衛守備でいきたいと 人材育成 自身=1 領土拡大にともない 必要となる領国経営の 人材の育成に専念する 自口=0 …人材育成…ですな… 自相血縁 我ら一族を支える 家臣団を組織すべく 人材育成をしましょう (他) 優秀な家臣団を組織 したいので、人材育成に 専念させてくだされ 国造りは人造りから 人材育成をしたいと 思っています より奉公できるよう 家臣を教育したいと 考えています 敵城攻略城指定 自身=1 我が軍は全力を上げ (城名)攻めを 行う所存じゃ 自口=0 …(城名)攻略… ですな… 自相血縁 (二人称1)、(城名) 攻略の時来ましたぞ いざ下知を! (他) 機会到来です (城名)攻めの ※下知を! (城名)攻めの準備 万全です 出陣の許可をくだされ ためらう事ありません 今こそ(城名)を 攻略する機会ですぞ 敵城攻略城不定 自身=1 攻め取れる城から 次々と攻略する 所存じゃ 自口=0 攻勢… ですな… 自相血縁 (二人称1)、我が軍団の 態勢は万全ですぞ 討ってでる許可を! (他) 周囲にさえぎるものは ありません 攻勢に転じたいと どの敵城に対しても 攻撃準備は万全です 出陣の許可をくだされ ためらう事ありません 今こそ攻勢に転じる 攻略する機会ですぞ 第二軍団以下の戦争 状況 1行目 2行目 3行目 攻撃 第一軍団を巻き込む 殿、(城名)攻めの 下知を下しました ともに参りますかな 第一軍団を巻き込まない (城名)攻めの 時が来たようじゃな いざ、出陣! 守備 第一軍団を巻き込む (城名)が 攻め込まれました 援軍の派遣を! 第一軍団を巻き込まない (三姓)家の兵が (城名)にじゃと! 小癪な…出陣じゃ! 巻き込まれた 第一軍団も巻き込む 殿、(城名)が 攻め込まれました 我が軍はいかがすれば 守勢に加担 (三姓)に(城名)が 攻め取られては一大事 (四姓)家に味方する 攻勢に加担 (三姓)家に味方して (城名)攻めに 加担するか…出陣じゃ 中立 (三姓)と(四姓)の 争いか… 高みの見物といくか… 不戦 この戦には 関わる必要はないな 敵対大名指定 状況 1行目 2行目 3行目 現在 指定 我が(自姓)家では 目下のところ(相姓)家を 敵対大名としておる 不定 我が(自姓)家では 目下のところ特に 敵対大名は定めておらぬ 今後 指定 今後は(相姓)家を 敵対大名といたす 不定 今後は敵対大名を 特に定めぬことにいたす 外交 挨拶 状況 条件 1行目 2行目 3行目 訪問側 自相血縁 (二人称4)、こたびは (三姓)家の使者として 参りました (二人称4)、何の 先触れもなく参上した 非礼を許してくだされ 自身=1 (二人称4)… こたびの突然の訪問 ひらに御容赦… (二人称4)…重大な 話ゆえ、この(自名)自ら 参った (他) お目通りをお許し頂き 誠にありがとう ございます 主君(三姓名)より (二人称4)への伝言を 預かって参りました 訪問側家宝あり 自身=1 この(家宝名)は (二人称4)にふさわしい 受け取ってくだされ (三人称4)が この(家宝名)を 是非、(二人称4)にと… この(家宝名)は (三姓)家よりの ほんの心尽くし… 応接側 自相血縁 (二人称4)、堅苦しい 挨拶は抜きじゃ… くつろいでくだされ (二人称4)…他人行儀は よしてくだされ… 用件を聞きましょう おお、(二人称4)… 久しぶりじゃなあ… 元気そうで何よりじゃ 相身=1 (二人称4)が自ら おいでとは珍しい… して、用件は… 当主自らおいでとは ただならぬこと… 話をお聞かせ願おう おお、(二人称4)… 本日は一体、何ゆえに おいでになられた (他) ほう、(三人称5)が… いかなる用向きか 申してみよ (三人称5)の使者とは 珍しいことよ… して、用件は… (三人称5)の使いか… 大方、察しはつくが 要件を申してみよ 応接側家宝あり 相身=1 (二人称4)、世辞は 抜きじゃ…本題に 入るといたそう ははは、(二人称4)は (自称3)の欲しい物を よくご存じじゃ… (他) その品、無論ただでは あるまい…用件を 聞くといたそう ははは…返答次第では それが(自称1)の ものになるわけか… 引き抜き 状況 条件 1行目 2行目 3行目 引き抜く 相身=1 色よい返事はできぬな ところで(二人称4) (自姓)家に仕えぬか 自相血縁 (二人称4)…ここに残り この(自称2)に力を 貸してくれませんか (他) (三名)め、笑わせおる …それよりも(相名) (自称1)に仕えぬか 承知はできぬな… ところで(相名) (自姓)家に仕えぬか (相名)とか申したな… お主が気に入ったぞ (自姓)家に仕えぬか 引き抜かれる 自相血縁 この(自称2)をまだ 信じてくれるのか… (二人称4)に従おう (二人称4)の頼みと あっては断れぬ… 世話になりますぞ (他) どうせ(三人称4)には 疎まれておる身… お仕えさせて頂きます おお!(相名)様… 心中密かにその一言を 待ち望んでおりました 実の所、(三人称5)には 失望しておりました 渡りに舟とはこのこと 引き抜かれない 自身=1 (自称1)はこれでも 大名じゃぞ… それを引き抜こうとは 自相血縁 …今となっては それはできぬ 相談じゃ… (二人称4)…あきらめよ この(自称2)はもう 昔の(自称2)ではない (他) (二人称4)… あまりにお戯れが 過ぎませぬか (自名)は(三姓)家に 大恩を受けた身 他家への仕官なぞ… 交渉の席に、かような 話を持ち出すとは 非礼ではありませぬか 引き抜いた 自相血縁 おお、(二人称4)… 今宵は久しぶりに 酒でも酌み交わそうぞ (二人称4)、水臭いぞ 二人の間に 遠慮はないはず… (他) よくぞ申した、(二人称4) お主なら必ずや (自姓)家の柱となろう おお、(二人称4)! (自姓)家のために 尽くしてくれるのか 引き抜けなかった 自相血縁 (二人称4)… そんなに…そんなに (自称2)が憎いか! 相身=1 ははは、失礼いたした だが配下にならざる事 いつか公開するぞ ははは… (相名)は忠義者よ (三人称5)が羨ましいわ この(自名)の下では 働けぬと申すか… 残念なことよのう この(自名)に仕えれば 出世栄達は思うがまま それを断るとは… 家宝 状況 条件 1行目 2行目 3行目 成立 血縁 さすがは(二人称4)… ささ、(家宝名)を 納められよ (他) ありがたい…では この(家宝名)を お受け取り下され 決裂 (全) 残念なことよ… では(家宝名)は 持って帰るとしよう ? 1行目 2行目 3行目 どうか つまらない物ですが お納め下さい 御機嫌伺いに 参りました 同盟 話者 状況 条件 1行目 2行目 3行目 軍師 賛成 (全) 後顧の憂いを断つ ためにもこの同盟は 実現すべきですな (三姓)家とは大いに よしみを通じておく べきですな 反対 (全) (三姓)殿の腹の底 うかがいしれません おやめ下され (三姓)とよしみを結ぶ 必要などありません ※ おやめ下され 訪問側 同盟 (全) (相姓)と(三姓)… 両家繁栄のために 盟約を結んでくだされ (二人称4) (三姓)家の 盟友となってくだされ 共敵 (全) われらと心を一にして 憎き(三名)に 向かいましょうぞ われらと共に (三名)に当たる 密約を結んでくだされ 友好 (全) (相姓)家との よりよい関係が われらの望みです 両家の関係を より親密なものに してくだされ 応接側 承諾 相身=1 (二人称4)じきじきの 頼みとあっては断れぬ 承知いたす 自相血縁 承知いたす (二人称4)の頼みでは 断れぬわ (他) 願ってもない 申し出じゃ… 承知させてもらおう 異存がないではない… が、両家のため ここは承知いたそう 拒否 相身=1 重大事ゆえ、すぐには 返答いたしかねる 今はお引き取りを… 自相血縁 (二人称4)の頼みでも こればかりは はいとは言えぬ… (他) ううむ… 色よい返事は できぬなあ すぐには返答できぬわ 今日のところは 引き取られよ… 同盟代案 (全) かようなことより 両家が盟約を 結ぶことが先では 共敵代案 (全) かようなことより (五姓名)に対する 策を講ずるべきでは 友好代案 (全) かような話をする前に 両家がよく語り合い 絆を深めるべきでは 訪問側 代案承諾 自身=1 言われてみれば その通りじゃ 承知いたす (他) 承知しましょう (三人称4)も喜んで くれるに相違ない… 承知しましょう 手ぶらでは(三人称4)に 申し訳がたたぬ… 代案拒否 自身=1 それは できぬ 相談じゃな… (他) (自称3)の一存では 返答はできません 改めて次の機会に… 話をすりかえられては 困ります…かような 取り決めはできません 承諾された 自身=1 ははは…(自称3)と (二人称4)が組めば 向かうところ敵なしよ (二人称4)、くれぐれも 約束を違えぬこと お願いいたすぞ 自相血縁 おお、ありがたい… わざわざ出向いた 甲斐があったわ おお、(二人称4) 感謝いたすぞ (他) (相姓)と(三姓)が 力を一つにすれば 天下に敵なしですぞ! さすがは(二人称4)です お願いにうかがった 甲斐がありました 祝着至極に 存じます 拒否された 自身=1 燕雀いづくんぞ 鴻鵠の志を 知らんや… この(自姓名)を 愚弄するとは よい度胸じゃ… 自相血縁 頑固者とは 話はできぬ… 帰るといたそう (二人称4)…まさか またよからぬことを 企んでおるのでは… (他) 承知できぬと 申されますか… 残念なことですな (二人称4)、後で 悔やむことが なければよいですな… 脅迫 話者 状況 条件 1行目 2行目 3行目 軍師 賛成 (全) 使者を送りましょう 他家に切りとられる前に とりこむべきです 賛成ですな (自女)(三姓)家の方々も(自口=2)(三姓)家の者どもも(他)(三姓)家の者たちも 納得するでしょう 反対 (全) 無駄ですな (三姓)家の戦意は まだ旺盛ですぞ (自女)(三姓)家の方々とて(自口=2)(三姓)家の者どもとて(他)(三姓)家の者たちとて 武士のはしくれ 降るとは思えません 訪問側 申し込み 自身=1 (二人称4)… わが傘下にて、余生を 全うしてはいかがかな (他) (二人称4)、いさぎよく (三姓)家の 傘下に入られよ (二人称4)、(三姓)家の 家臣団に加わられよ 厚遇はお約束します 応接側 承諾 相身=1 かくなる上は (二人称3)に お仕えいたす 自相血縁 (二人称4)と共に (三人称5)の家臣に なるといたそう… (他) もはや趨勢は決したか その話、謹んで お受いたそう この上は何をしても 詮なきこと…(三姓)の 傘下に入ろう 拒否 相身=1 かようなことを申しに わざわざ参ったか… 即刻お引き取り願おう 自相血縁 (二人称4)…(自称1)が たやすく屈するとでも 思ったか! (他) (三名)に伝えよ… 貴様のような阿呆めに 屈服できぬ…とな! (相名)…今回は その命、くれてやるわ さっさと失せよ! ふざけたことを… 誰かこの者を 城外へつまみ出せ! 献金代案 (全) 金(数値)を献上する ゆえ、そればかりは 容赦願いたい… 婚姻代案 (全) (四姓名)を(三姓)家に 輿入れさせることで 手をうってくれ… 訪問側 代案承諾 自身=1 よかろう… この(自名)とて 鬼ではない (他) 承知しましょう (三人称4)も喜んで くれるに相違ない… 承知しましょう 殊勝なお心がけ 痛み入りますな 代案拒否 自身=1 かような話をしに 来たのではない! もうよい…帰るわ! (他) かような代案は 承知できませんな なぜ話をごまかされる …かようなことでは (相姓)家に先はないな 承諾された 自身=1 おお、(二人称4) よくぞ決心された… 自相血縁 これからは共に (三姓)家を盛り立てて 参りましょう (他) 同じ(三姓)家の 家臣として 御礼申し上げます 勇気あるご決断 必ずや後世まで 讃えられましょう おお、さっそく この朗報を (三人称4)に知らせねば 拒否された 自身=1 情から出た言葉も 偏屈者には 通じぬようじゃ… 自相血縁 (二人称4)… 何ゆえ 死を急ぐ… (他) やれやれ…かような 務めは命がいくつ あっても足りぬ※… やれやれ…これでは (三人称4)のお怒りを 買うのは必定か… (二人称4)…次に お目通りするは おそらく戦場ですな… 婚姻 話者 状況 条件 1行目 2行目 3行目 軍師 賛成 (全) (三姓)家との絆さらに 深まるでしゅう この縁談、吉とでます (三姓)殿も喜びますな (相姓)・(三姓)両家の 間は安泰となりましょうな 反対 (全) この縁組、(三姓)殿が 喜ぶかどうか… とりやめにした方が… 姫様の婿には(三姓)殿 では役不足かと…… とりやめにした方が… 訪問側 申し込み 自身=1 (二人称4)当家の (四名)をもらって くれませんか (他) 両家友好の証として 当家の(四名)姫を (二人称4)の伴侶に… 応接側 承諾 (全) おお…(四名)姫を! 願ってもない申し出 無論承知いたす (四名)姫は 器量よしとの噂 (自姓)家にふさわしい 拒否 自女 これでも(自称1)は 女…かような 話はお断りじゃ! どうもこの話は 乗り気がせんな …何となくじゃが… (四名)姫にはもっと ふさわしい相手が おろう…お断りする 訪問側 承諾された (全) それを聞いて 安心しました 早速、輿入れの準備を ありがたき御言葉 これで(相姓)・(三姓) 両家は安泰ですな 拒否された 自身=1 左様ですか… (相姓)殿は(三姓)家に 含む所があるのでは… (他) 姫が気に入りませんか 我が殿との絆深めたく ないということか… 手切 話者 状況 条件 1行目 2行目 3行目 軍師 賛成 (全) (三姓)家との盟約 役目を終えております 手を切るよい潮時です 我が(相姓)家にとって (三姓)家との盟約 今や無用の長物かと… 反対 (全) まだ(三姓名)の力 当家には必要です 考え直しては… 信義こそ国を支える柱 その柱を(二人称3)自ら 折るは避けるべきかと 訪問側 挨拶 自身=1 (相姓)殿も御健勝で なにより 祝着至極じゃな (他) 不意の推参 ご容赦 願います 応接側 挨拶 相身=1 (相姓)殿直々の推参 恐縮じゃ して、本日は何用で (他) お楽にお楽に… して、本日の推参の 用向きは何でしょう 訪問側 告知 自身=1 申し訳ないが (相姓)家との盟約 本日限りにいたす (他) 御当家との盟約 白紙に戻す旨伝える為 参りました次第 応接側 覚悟 自女 左様ですか…… 当家を滅ぼすおつもり なのですね…… 自口=2 そうか、それでは 明日から敵同士じゃ 次にまみえるは戦場ぞ 自口=3 何故でおじゃる 当家と刃を交えたい というわけかの (他) 何と…(三姓)殿は 信義という言葉を 知らぬようだな 訪問側 言い訳 自身=1 有為転変は戦国の世の 理なれば… 失礼いたす (他) 心苦しくはありますが 主命なれば 仕方ありません 朝廷 話者 状況 条件 1行目 2行目 3行目 軍師 反対 (全) かような手土産では (三姓)家は洛中の 笑い者ですぞ 賛成 (全) 朝廷における 当家の評判が 高まることでしょう 訪問側 挨拶 自身=1 帝におかれましては 御健勝でなにより 祝着至極にございます こたびは拝謁を賜り 恐悦至極に 存じあげまする (他) こたびは拝謁を賜り 恐悦至極に 存じあげまする (三姓名)の 使者として参内させて いただきました 献金 自身=1 些少ではございますが ほんの気持ちなれば お納めくだされ… 不浄の物なれば お気に召すかどうか… お納めくだされ… (他) これは我が殿からの 気持ちです お納めくだされ… これなるは我が殿の 尊王の証でございます お納めくだされ… 気持ち 自身=1 (自称1)の尊王の志 示すべく参内 つかまつった次第… 帝のこと忘るるは 片時もなかりしこと 覚えおきくだされ (他) 我が殿、常に帝の こと案じております故 遣わせた次第… 我が殿の命により 帝の御様子うかがいに 参内した次第… 応接側 挨拶 (全) うむ、大儀である これからも朝廷の為に 励んでもらいたい 官位授与 相身=1 そちを(官位名)に 任じよう 尊王の志、忘るるなよ (他) (官位名)を授ける (三姓)殿によろしゅう お伝えくだされ 家宝授与 相身=1 そちに(家宝名)を 授けよう 尊王の志、忘るるなよ (他) (家宝名)を授けよう (三姓)殿によろしゅう お伝えくだされ 献金要求 (全) 最近何かと入り用でな 金を(数値)程都合して 欲しいのでおじゃる 加増要求 (全) たったのこれだけ… あと(数値)程ないと 誠意は伝わらぬぞえ… 献金に満足 相身=1 おお、かたじけない そちの尊皇の志 しかと心に刻みおこう (他) おお、かたじけない (三姓)殿の尊皇の志 しかと見届けたぞよ 気持ちに一応満足 (全) 気持ちはよう分かった 次からは気持ちを 「形」にするようにの 訪問側 一応感謝 (全) もったいないお言葉 感謝の言葉も ございません 授受に感謝 自身=1 ありがたき幸せ 今後も尊皇に 励みまする (他) ありがたき幸せ 我が殿の喜ぶ様 目に浮かびまする 要求拒否 (全) 残念ながら当家も 財政が… 要求承諾 (全) 帝のためなれば 喜んで金を御用意 いたしましょう 人事 登用 状況 条件 1行目 2行目 3行目 軍師助言賛成 (自三同) お任せ下さい この(自名)、必ずや かの者連れて参ります 三身=1 (自三血縁 自齢 三齢)(相名)自ら参れば(他)殿自らおいでになれば (四姓名)も心を 開くでしょう 自女 (三人称5)ならば 必ずや 成功いたします 自口=0 …成功は 疑いありませぬ… 自口=1 (三人称5)ならば 必ずや(四姓名) 連れて参りましょう 自口=2 (三人称5)なら (四姓名)ごとき 楽に引っ張ってくるわ 自口=3 (相姓)の家名出さば (四姓名)必ずや 参りましょうぞ 自口=4 (三人称5)の成功 この(自姓名)が 保証いたします 自口=5 (三人称5)の 器量ならば 必ずや成功いたす 自口=6 殿御自ら選んだ方が 失敗するなど あるわけございません (他) (三人称5)ならば必ずや (四姓名) 連れて参りましょう 軍師助言反対 (自三同) (自称3)には 荷が重すぎます 辞退させて頂きます 三身=1 (自三血縁 自齢 三齢)(相名)自ら行っても(他)殿がおいでになっても (四姓名)の心は 動かせないでしょう 自女 いくら(三人称5)と いえども この支度金では… 自口=0 …無理です… …おやめくだされ… 自口=1 (四姓名)なる者 一筋縄ではいきませぬ 次の機会にされては… 自口=2 無理だろうな… (三人称5)が使いで 支度金がこれじゃあ… 自口=3 おそらくはその (四姓名)なる者 仕官せぬでおじゃろう 自口=4 (三人称5)には (四姓名)は 荷が重すぎますな 自口=5 人を迎えるにも 天の時というものが ござれば、今回は… 自口=6 (四名)なる者 (自称1)くらい口達者 でないと口説けぬかと (他) おやめくだされ (四姓名)は当家に 仕官する気ありませぬ 弁舌無し丁寧 依頼 当家のために 手を貸して くだされ 拒否1 申し訳ないが (三姓)家の家臣に なる気はない 承諾1 (自称1)ごときに かくも丁寧なお誘い 喜んで仕官いたそう 拒否2 (自称1)がここまで 頭を下げても だめですか 承諾2 さすがは(二人称4) これで(三姓)家も 安泰じゃ 拒否3 お気持ちだけ 受け取らせて頂きます お引き取り下さい 承諾3 (三姓)家に(自名)ありと 言われるような 働きしてみせましょう 弁舌無し普通 依頼 当家に仕えぬか 恩賞は好きなだけ 与えましょう 拒否1 人の心を金品で 買えると思って いるとはあさましい 承諾1 承知しました (三姓)家一の恩賞とり になってみせましょう 拒否2 金品に込められし 思いが見えぬと 申されるのか 承諾2 乱世を渡るに必要は その意気じゃ たのもしい限り 拒否3 よく見えておりますぞ 民百姓のすすり泣く 姿がな 承諾3 この世に生を受け 功名上げずして 何の人生か 弁舌無し強引 依頼 直々に出向いたのじゃ 当然当家に仕えて くれるのであろうな 拒否1 何故に(三姓)家に 仕官せねば ならんのです 承諾1 是非もありません こちらから出向こうと 思っておりました 拒否2 なんと 当家に仕官する気は ないと申されるのか 承諾2 これからは(三姓)家 家臣として存分に 働いてもらおう 拒否3 礼をわきまえぬ者の 言葉など 恐れるに足りません 承諾3 (自称1)が加わった からには大船にのった つもりでいてくだされ 弁舌あり丁寧 依頼 (二人称4)のお噂 聞きおよんでおります ぜひとも当家へ… 拒否1 見え透いた追従は かえって気分を 害するものですぞ 承諾1 (自称1)のこと (三姓)殿も 御存知とは… 拒否2 追従ではありません (自称1)は本心から 申しておる 承諾2 (二人称4)ほどの 器量なれば 耳に入るも当然 拒否3 嘘・偽りは心の 害毒じゃ 早々にお帰りくだされ 承諾3 感激いたしました 喜んでお仕えさせて いただきましょう 弁舌あり普通 依頼 (二人称4)の名、天下に 広める足がかりを お持ちしましたぞ 拒否1 まさかこの(自称1)に 仕官しろというのでは ありますまいな 承諾1 我が力、(三姓)家で 試してみよと いうのですか 拒否2 己の力量活かす 千載一遇の機会ですぞ 御決意を 承諾2 いかにも…(二人称4)の 力量活かしきれるは 我が(三姓)家のみ 拒否3 (三姓)家に(自称1) では宝の持ち腐れ… あきらめられよ 承諾3 わかりました… その足がかり、謹んで お受けいたす 弁舌あり強引 依頼 (自女)そなたのような人物を(他)貴殿のような人物を 当家に招きたいと 思っておった 拒否1 望む方は気楽なもの… しかし… 望まれる方は迷惑千万 承諾1 そこまで言われては 断るわけにも まいりますまい 拒否2 それもこれも (二人称4)の力量、他に 抜きんでていればこそ 承諾2 安心いたした (二人称4)は人の心の (自女)分かるお人ですこと(他)分かるお人じゃ 拒否3 下手な追従されても 迷惑なこと変わりない お引き取りを… 承諾3 非才なる身なれど おのが全霊を込めて 仕えまする 隠居 状況 条件 1行目 2行目 3行目 軍師助言 自女 殿…まだ隠居なさる お歳では ありませぬわ 自口=0 …まだそのときでは ありませぬ… …御再考を… 自口=6 とんでもない 殿はまだまだ お若いですぞ (他) まだまだ現役で やっていけるのでは… 御再考を… 懲罰 コマンド 1行目 2行目 3行目 追放 後できってと後悔させて (自女)みせまする…(自口=2)くれるわ…(自口=3)やるでおじゃる…(他)やる… 覚えておれ… 没収 (自相血縁)(二人称1)にとって(他)(二人称4)にとって 家臣とは宝物を入れる (自女)器にすぎぬのですね…(自口=2)器にすぎぬってことか(自口=3)器にすぎぬのじゃな…(他)器にすぎぬようですな 昇進 条件 1行目 2行目 3行目 自口=0 光栄です… ありがたき幸せ… (他) これで本当に (二人称3)の※役に 立てそうです※ これからも(二人称3)に 忠誠を尽くす (自女)所存でございますわ(自相血縁 自齢≧相齢 自口=3)所存でおじゃる(自相血縁 自齢≧相齢 他)所存である(他)所存でございます 今後も粉骨砕身 (二人称3)のために 働きましょう 素晴らしい主君を持ち (自称3)は日本一の 幸せ者でござる …この日のために (自称2)は毎日毎日 励んで参ったのです… ※ 我が軍団はより精強と なるでしょう 褒美 状況 条件 1行目 2行目 3行目 満足 自口=0 光栄です… ありがたき幸せ… (他) (二人称3)の※顔を 拝見できただけでも 嬉しく思います※ 本日(二人称3)より 頂いた物は末代まで 伝える所存です※ この(自称2)の 働きには過分の (自女)沙汰でございますわ…(自相血縁 自齢≧相齢 自口=3)沙汰でおじゃる…(自相血縁 自齢≧相齢 他)沙汰である…(他)沙汰でございます… ははは、(二人称3)には (自称3)の欲しい物が お見通しだったようで (二人称3)は日の本一の 名君でござる (自称3)は幸せ者です 不満 自口=0 残念です… これだけですか… (他) (自称3)の働きは この程度のもの だったのですか… (二人称3)がそのような ※考えなら 是非もありません… (自称2)の奉公が まだまだ不充分だと 言うのですか… …ここでとやかく 言うよりも行動で 示すとしましょう… (二人称3)の采配に異を 唱えるは分不相応とは 思いますが… 物資 商人 状況 1行目 2行目 3行目 挨拶 これは(相姓名)様 本日はなに用で 価格提示 それでしたら 金(数値)で いかがですかな 値切り・ふっかけ 承諾 (三姓)殿とは 浅からぬ仲…その値で 手を打ちましょう 拒否 さすがにそれでは… 金(数値)で いかがでしょう 怒る …申し訳ありませぬ 私も忙しい身… お引き取りください 購入 状況 条件 1行目 2行目 3行目 数量指定 (全) 他でもない (物資名)を(数値)ほど (自口=2or自身=1)売って欲しい(他)売って欲しいのじゃ 単品もの 自女 他でもありません (物資名)が 欲しいのです 自口=2or自身=1 他でもない (物資名)を 売ってくれ 自口=3 他でもおじゃらぬ (物資名)が 所望じゃ (他) 他でもない (物資名)を 売って頂きたい 承諾 自女 かしこまりました その値で買わせて 頂きます 自口=2 あいわかった 代金はここだ 早う品をよこせ 自口=3 異存はあらぬ その値で買わせて もらうぞよ 自身=1 あいわかった 品のほうはすぐに 手配してくれ (他) 承知しました 品のほう、すぐに 手配してくだされ 拒否※ 自女 自身=1 申し訳ありません これでは(自称1)の 面目がたたぬ 自女 自身≠1 申し訳ありません これでは(自称1)が 殿にしかられまする 自口=2 (自称1)を愚弄する気かかような値で 買えるわけがないわ 自口=3 …あさましい値じゃ これでは次からは そなたには頼まぬ (他) 申し訳ないが そのような値段では 承服できません… 値切る 自女 金(数値)で お願いしたいのですが いかがでしょうか 自口=2or自身=1 金(数値)しか 持っておらんのだが なんとかならぬか 自口=3 金(数値)でも そちの損には ならぬはずぞえ (他) 金(数値)で 頼みたいのですが いかがでしょう 怒らせた 自女 そうですか… 仕方ありませんね… 失礼いたします 自口=2or自身=1 話のわからぬ奴じゃ そうと決まれば 長居は無用、御免 自口=3 浅ましいことじゃ これ以上何を話しても 詮無きことじゃの… (他) だめでござりますか 致し方ありません これにて御免 売却 状況 条件 1行目 2行目 3行目 数量指定 (全) 他でもない (物資名)を(数値)ほど (自口=2or自身=1)買ってくれ(他)売りたいのじゃ 単品もの 自女 他でもありません (物資名)を 売りたいのです 自口=2or自身=1 他でもない (物資名)を 買ってくれ 自口=3 他でもおじゃらぬ (物資名)を 買ってほしいのじゃ (他) 他でもない (物資名)を 売りたいのだが 承諾 自女 かしこまりました よい値をつけて頂き 有り難うございまする 自口=2 おお、そうか 品はすぐ用意する まず金をよこせ 自口=3 良きこと良きこと その値であれば 満足でおじゃる (他) 承知いたした 品のほうはすぐに 手配いたす 拒否※ 自女 申し訳ありません この話なかったことに して下さいまし 自口=2 (自称1)を愚弄する気かかような値では 大損じゃ 自口=3 …あさましい値じゃ そなたには頼まぬ 帰るぞよ (他) …承服しかねる… この話なかったことに 御免 ふっかける 自女 金(数値)で お願いしたいのですが いかがでしょうか 自口=2 金(数値)でなければ 納得できんわ なんとかならぬか 自口=3 金(数値)でも そちの損には ならぬはずぞえ (他) 金(数値)で 頼みたいのだが いかがでしょう 怒らせた 自女 そうですか… 仕方ありませんね… 失礼いたします 自口=2or自身=1 話のわからぬ奴じゃ そうと決まれば 長居は無用、御免 自口=3 浅ましいことじゃ これ以上何を話しても 詮無きことじゃの… (他) だめでござりますか 致し方ありません これにて御免 徴発 状況 条件 1行目 2行目 軍師助言賛成 自女 背に腹はかえられ ませぬ… 自口=2 背に腹はかえられねえ よな 自口=3 背に腹はかえられぬで おじゃる (他) 背に腹はかえられ ませんな… 軍師助言反対 自女 民は悲しむ ことでしょう… 自口=2 民は悲しむ ことであろうな… 自口=3 下々の者は 涙にくれるじゃろう (他) 民は悲しむ ことでしょうな… 調略 内応 状況 条件 1行目 2行目 3行目 訪問側 持ちかけ 自身=1 どうせ仕えるなら (四名)より(自称1)が よいと思わぬか (他) (四姓)家に仕えて (自女 自口=4)いてはその方の(自女 自身 相身)いては(相姓)様の(自女 他)いてはそなたの(自口=2 自身 相身)いては(相姓)殿の(自口=2 他)いては貴殿の(自口=3 自身 相身)いては(相姓)殿の(自口=3 他)いてはそちの(自口=4)いては貴殿の(自身 相身)いては(相姓)殿の(他)いては御身の ためになりません 応接側 承諾 自身=1 たしかに(自称1)は 我が殿に重用されては いません… (他) (自女)(二人称4)のおっしゃる(自口=3)(二人称4)の申す(自身 相身)(二人称4)の申される(他)(二人称4)の言う (自女)とおりやもしれませぬ(自口=2)とおりやもしれん(自口=3)とおりやもしれぬ(自身 相身)とおりやもしれません(他)とおりやもしれん ……… 拒否1 自身=1 どうひいき目にみても (相名)殿が我が殿より 勝っているとは思えぬ (他) この(自称1)に (自女)寝返れとおっしゃるのか(自口=3)寝返れと申すのか(自身 相身)寝返れと申されるのか(他)寝返れと言うのか ははは、笑止な 逆引き抜き (全) ははは、それよりも (二人称4)こそ(三姓)に 不満はないか 訪問側 成功 相身=1 あらためて(?)に 仕える気に なりましたか (他) (自女)それでは(三姓)家に(自口=2)なら(三姓)家に(自口=3)されば(三姓)家に(自身 相身)されば(三姓)家に(他)では(三姓)家に (自女)寝返って下さるの(自口=2)寝返ってくれるのか(自口=3)寝返ってくれるので(自身 相身)寝返っていただけるの(他)寝返ってくれるのだな (自女)ですね(自口=3)おじゃるな(自身 相身)ですな 失敗 自身=1 それは(二人称2)の目が 曇っているだけのこと 真実をしかと見てみよ (他) どうしても(三姓)家に 力を貸しては (自女)いただけないのですね(自口=2)くれんのだな(自口=3)もらえぬのじゃな(自身 相身)いただけないのですな(他)もらえぬのだな 逆引き抜き承諾 (全) …確かに今の処遇には 満足していません… (自女)(四姓)に身を預けます(自口=2)(四姓)家にかけるか(自口=3)(四姓)に身を預けるわ(自身 相身)(四姓)に協力いたそう(他)(四姓)家に力を貸そう 逆引き抜き拒否 自女 少なくとも(四姓)より はるかに居心地が よいですわ 自口=2 (四姓名)は この(自称1)と 釣り合う器ではないわ 自口=3 我が君と(四姓)殿の ような下賎の者とでは 比べようもおじゃらぬ 自身 相身 留まるもなにも (三姓)家あっての (自称1)であれば (他) あいにく(自称1)は (三姓)家一の 忠義者でな 応接側 約束 (全) 今より(三姓)殿が 我が主、期日到来まで (自女)お待ち下さいませ(自口=2)首長くして待ってくれ(自口=3)お待ち下しゃれ(自身 相身)しばしお待ち下さい(他)しばし待たれよ 即出奔 (全) 今すぐ(四姓)家を 出奔しますので 手引きを願います 拒否2 相身=1 (相姓)殿の今までの やり様で分かります… お引き取りを… (他) (二人称4)が (自女)主を変えないのと(自口=3)主を変えないのと(他)主君を変えないのと 同じですな 逆引き抜き成功 (全) おお、当家に仕えて (自女)くださりますか(自口=2)くれるか(自口=3)くれるのでおじゃるか(自身 相身)くれまするか(他)くださるか ありがたきことじゃ 逆引き抜き失敗 (全) お互い主家に対する 忠義、堅いものが あるようですな
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301 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 22 54 ID 6t/3E4Wt0 292 それは違うと思う。 残留争いと優勝争いを同列で論じるのは暴論だと思うぞ。 現に優勝争いをしている大分以外のチームで露骨なメンツを行って、尚且つジャイアントキリングを許したチームはないわけだから。 第一、大分のスケジュールって他と比べてそんなにハードだったか?? 302 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 24 39 ID rSAj2Q83O 若手の成長、選手のコンディション維持より、 疲弊した選手を使えと犬飼は言うわけだけど、 日本では昔から「二兎追う者は一兎も獲ず」と 言われているのに、ホントに馬鹿な奴だな。 304 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 27 14 ID 6U/P7AGq0 278 似てるw ほんと似てるw 305 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 27 27 ID nds9iFTiO 294 一個人の意見が、あるチームのサポーターの総意、なんてことはないだろうからね。 ただ、ターンオーバーについて言えば、そういう手法が生み出された背景に、故障回避やコンディション維持の目的もあると思うから、『温存』の側面も否定できないと思うよ。 306 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 28 15 ID u63CI2lN0 なんでこんなマジキチが会長になっちゃったんだろ? 307 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 28 59 ID 8o8e+FTS0 現状は犬飼の改革についていけないクラブも多いだろうね だけどはじめっから否定するのもどうかと思うよ 308 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 29 02 ID DUgxF73U0 306 川淵の最後っ屁 309 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 29 15 ID brdyooRw0 296 まあ、もう少し書けば「欧州のサッカーチームがリーグとカップで選手を入れ替えた事」ってのが サッカー界で「ターンオーバー」という言葉が使われた起源なんだけどね。 まさに今回は「ターンオーバー」の是非を問われたケース。 310 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 30 38 ID izJOCuZZ0 301 8日間で3試合だよ大分。 311 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 30 44 ID u63CI2lN0 307 だったら理念に賛同するクラブだけで新リーグでも作ってそっちで勝手にやってくれ どれくらい集まるかは知らんがな 312 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 32 01 ID o1/CFrd/O 戦術は同じじゃないよ実力的にはほぼ均等だが ラツィオ時代のエリクソンが守備の固い相手の国内戦用と 攻撃力のあるチャンピオンリーグ戦用で最終ライン以外の選手を入れ換えてたのを 指して言ってたのが最初 つまりトップチームが二つあるということ 313 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 32 44 ID NX4j9gHxO 浦和なしではJは生きていけないからなぁ 浦和のアウェイ動員は美味しいよなぁ 314 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 34 27 ID brdyooRw0 313 それなんて一昔前の巨人? 315 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 34 46 ID 6t/3E4Wt0 310 それってACL出たチームとかはこなしてるよね。 海外移動も含めて。 なんにせよルール化してないわけで、大分の社長が謝罪してるわけだから今回はこれ以上責めるのはおかしい罠。 316 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 35 12 ID 9HTI5jih0 今季のバルサ好調の理由 ttp //sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/0809/spain/text/200811100015-spnavi_2.html 317 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 35 29 ID rSAj2Q83O そもそもクラブはサッカー選手として選手に給料を払ってるのだから どういう起用をしようが、リーグからクレームがつくのはおかしい。 しかも、サッカーは連携が重要なんだし、ある程度コンビネーションが 取れている組み合わせにするのは普通だろ? 318 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 37 44 ID nds9iFTiO 301 大分には失礼な言い方になるけど、大分の選手層はさほど厚い訳ではないし、浦和、鹿島、ガンバのように、常に優勝を視野に入れて戦えるほど、資金がある訳でもない。 そう考えれば『千載一遇の好機』を、何としてもモノにしたい、と監督が考えても、不思議ではないと思うよ。 一時はチームの存続さえ危ぶまれたのだから、本当に必死なんだろう、という風に自分は考えてる。 319 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 38 57 ID NSZyO/4z0 301 鹿島、浦和、名古屋、川崎、大分の現時点での上位組の中で、大分のチーム規模は… 320 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 39 58 ID NX4j9gHxO もう勝ち目のない戦いをするだけ無駄やで・・・ 千葉さんも早く土下座しとこうや・・・ 所詮犬飼さんの掌の上や・・・ 321 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 41 50 ID cYxH/fje0 305 まったくその通りだと思う、温存から生まれた策だと思う。 言っちゃあ何だ協会がいくら権威を大会に押し付けようとサポが求める栄冠は別にあるって所だな。 俺らには俺らなりに目指したいタイトルがある訳だし、それと天皇杯を同等に見ろと 言われても今更この流れは変えられないだろう。 322 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 41 57 ID 1hErnKUO0 ムカついたら根拠無く処分できるなんてありえないんだよ 犬害が浦和にムカつくわけないし 浦和に勝ったら処分されかねん やらせるわけにはいかないよ 323 名前:酉[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 43 32 ID hzoD7jB+0 正直これで今季のカップ戦は全て辞退とするといわれて ナビスコ奪われたしないかと戦々恐々です。 メンバーについては彼らだって登録選手、十分戦ったと俺は思っている。 空回りしてるのが多い印象だったけどね。 324 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 44 09 ID fE3S6rafO mixiの追放コミュもじわじわ人が増えてきたな 支援よろ 325 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 45 54 ID rSAj2Q83O ターンオーバーしても勝ち抜けるようなクラブが最高なのになぁ。 欧米かぶれのくせにひょっとしたら、知らないんじゃねーか? ドイツ人あたりに言われたらさっさと考えを変えたりして。 326 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 46 26 ID txWFsZMX0 おいおい磐田なんか総とっかえじゃん。 [J30節(10月25日)スタメン] GK 1 川口 能活 DF 15 加賀 健一 DF 5 田中 誠 DF 3 茶野 隆行 MF 25 駒野 友一 MF 38 ロドリゴ MF 17 犬塚 友輔 MF 14 村井 慎二 MF 24 松浦 拓弥 FW 18 前田 遼一 FW 8 ジウシーニョ 327 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 47 59 ID 3gpLErvpO あれ?チップさん涙目で逃亡?w 328 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 48 19 ID 9ipI+pG6O 一般サッカーファンと犬飼教信者の対決を 焼き豚がニヤニヤしながら見ていますw 329 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 48 48 ID +awMNVw90 チップスターよ 何故磐田はメンバー入替えOKなのかにも答えてよ 330 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 51 58 ID tCwRi6CgO 323 ナビ剥奪まで言い出したら、元官僚の社長に頑張って貰うしかない。 省が違うからいろいろあるだろうけど、高級官僚のツテをつたっていけば、 監督官庁の文科省まで繋がるだろ。 331 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 54 59 ID Fw7jgnIg0 329 入れ替えても、勝てるメンバーだったからだろ。 鳥栖には悪いが、その前の2試合で9失点もしている、しかも下位リーグのチームだよ。 そこにメンバーを落として、惨敗している大分の姿勢を問われているんだよ。 332 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 55 11 ID 6U/P7AGq0 330 そんなことしたら他サポだって黙ってないから 安心しるw 333 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 57 28 ID brdyooRw0 ゲームの中で、選手は選手なりにマネージメントするのが当たり前なわけで、例えばキックオフ直後から 全力で走り続ければ途中でスタミナが尽きて総体的に見ればその選手はマネージメントを間違えたと言えるし チームのゲームの中でのネガティヴポイントと評価される。 まあ、それは極端な例だとしても、選手は自分のスタミナが許す範囲で、ゲームの中で「ここだ!」というところでスプリントをする。 それが最もチームの勝利に近づく為の最善の策だから。 視点を変えて、チームのマネージメントについても似た事が言える。 全てのゲームでよっぽどの故障が無い限り能力の高い選手を出し続ける事が、リーグ戦カップ戦通して チームの勝利に近づく為の最善の策なのか、そうじゃないのか。 プロなのだから常に全力で走り続けるべきっていうのは正に愚策としか言いようが無い。 「キモチガハイッテナイヨ!」って言われても、気持ちだけではどうにもならない部分もある。 リーグの終盤になってスプリントができないチームは、マネージメントを失敗したと言うべきだし それはプロとして恥ずかしい行為だとも言えるかもしれない。 何が言いたいかというと、犬飼のバーカ。 334 名前:酉[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 57 45 ID hzoD7jB+0 330 荒唐無稽だとは思うけど、今の犬飼だとそれも言い出しそうで本当怖い。 ウチの社長は正直図に乗りやすいし脇も時々甘いお調子者の馬鹿だけど、 トリニータへの気持ちはホンモンだし、西川や上本の件で選手を守ったり して今年は見直した…というより男を上げてる部分が多いんだよね。 今回謝ったのは本当に「大人の対応」をしようよってことだったんだと思う。 でも犬飼側がそれを受けなかったから、処分がそういう最終段階まできたら 多分ウチの社長は戦うと思うよ。 他サポさん、この件ではご迷惑をおかけしていますがどうか力をお貸しください。 335 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 00 18 ID vnkJsJBu0 ちんこ巻き社長は世の渡り方をわかってるからのう 336 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 00 22 ID JDB6SfuWO まあ犬害のキチガイぶりも、劣頭脳だから仕方ない。 337 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 01 49 ID tCwRi6CgO 332 今でも黙ってないからこんな伸びてるんだけどなw 実際こんなん許したらその後犬飼の気分次第で何でもありになっちゃう 338 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 03 44 ID DIMvdydP0 サッカー協会への抗議はコチラ 財団法人 日本サッカー協会 〒113-8311 東京都文京区サッカー通り(本郷3丁目10番15号)JFAハウス 電話 03-3830-2004(代表) FAX 03-3830-2005 339 名前:牛[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 04 37 ID 9kJ/VV4Q0 334 選手を守りたいっていう社長の心意気は ウチも五輪の時味わったからすげーわかる。 ナビスコ剥奪なんてマジでやりやがったら 協会に抗議メール毎日送るわ。 340 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 04 58 ID 7M3K8hEY0 331 磐は勝って大分は負けた、だから大分だけが問題ってのは結果論に過ぎないだろ(犬なんか負けただけなのにとばっちりw) 基準がぶれてるというかブレる以前に定まってないんだよ犬飼は・・・ 334 去年の赤の件とか磐の件とか犬の件とか、無知っぷりというかダブルスタンダードっぷりが酷いから もしそんな事を言い出したらサポもマスコミなど各所に凸しまくれ。当然うちも応援したる 341 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 05 09 ID BJnuHFxSO むしろ問題は狂人の暴走を止める気配がない協会にある カワブチの時と変わらず独裁政治、どーしよーもねーなー 342 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 05 33 ID M2RHmuum0 いいから擁護してる浦和サポは去年ポンテワシントンなど数人 温存して愛媛に負けたことにも触れろよ。 人数が違う?ポンテワシントンがいなきゃ何も出来ないんだから負けるのわかってたろ。 部分的にせよ犬飼擁護する奴って何で決まって浦和サポなんだろうな・・・ 343 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 07 39 ID M2RHmuum0 331 直前とほぼ同じベストメンバー(笑)で負けてもやはり叩かれるということですね。 あれ、じゃあ緑はw? 344 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 09 47 ID 1Pq4rXuOO 犬飼は「遡及処罰を合法化しろ」と法務相を訴えるかねんな 345 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 10 55 ID JXtO+hAB0 記事によると、鬼武チェアマンは「ルールを改正しなければ」っていう 発言になってるね。今の時点での処分には言及してない ルール破ってないのに責めてるのは同じだけど、何かしら行動を起こすなら なんとか来年以降の変更として、というふうに持っていって欲しい 事後法で2チームを裁くなんてことだけは許しちゃいけない 346 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 11 29 ID VrVb5DBqP まあ普通にこれはどこのチームも抗議してしかるべきだと思うけどな 何のルールなくても会長のさじ加減で自由に処分可能、 なんてことが当たり前になったらこれから先そんな奴ばっかり出てくるぞ 347 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 18 56 ID INLMGpEkO 去年の川崎とかに文句言うのはおかしいけど、さすがに大分はやり過ぎただろ… でも、謝ったんだから許してやれとw 348 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 19 57 ID K5fg6OGh0 磐田はリーグ組と天皇杯組に分かれて練習してるって散々報道されてたのに、 それに関して事前に全く発言しなかったのは何故だ。 349 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 20 57 ID kOcEO3bW0 川崎サポだけどさ 去年のウチが柏戦の時にメンツ落としてそれを犬飼がイチャモンって、チャーター機云々の 件も含めて少しはわからんでもないよ(ルール守ってる以上納得はいかないけど) ただ、ならなんでそれを柏に負けた直後に言わないんだよ 犬飼が言い出したのはウチがセパハンに敗退した試合の直後に等々力のスタ内でだぜ? 今回の事もそうだけど、結局感情的でダブルスタンダードなんだよな 高見の見物してる他チームも、今は大丈夫・・・と思ってても後でとんでもないイチャモンつけられるかもしれんよ 350 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 33 05 ID n6gewp+d0 明文化されていないルールで処罰はおかしいのは火を見るより明らかだし 大体選手温存の何が悪いのかわからん あるクラブにとって天皇杯より大事なものがあって何かおかしいのか totoがどうのつったってターンオーバー当たり前の欧州でも賭けは成立してるし 351 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 33 14 ID fE3S6rafO 解任までage 352 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 35 13 ID qquqqrrw0 348 勝てば官軍なんだろうね。 犬飼さんに広島VS東京Vの感想でも聞いてみたいところだw 353 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 36 33 ID Z/Thksc/O ベストメンバー規定なんて廃止したらどう?失笑もんだよ 354 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[age] 投稿日:2008/11/11(火) 20 44 06 ID W3w/k6BL0 最強メンバーww どこの小学生って話だよな (-人-)1日でも早く犬っころが解任されますように 355 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 45 49 ID o1/CFrd/O 345 鬼武は部下が上司になっちゃった という悲惨な境遇 しかも天皇杯は協会の主催なので処分に直接関われない 356 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 47 46 ID kOcEO3bW0 そもそも今回の件、同じ様な事したけど勝った磐田が処罰無しで、 負けた大分と千葉は処罰有りなんて、そんな馬鹿な話があるかい 357 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 47 48 ID nds9iFTiO 334 万一、今回の件で大分が処分を受けるようなことがあれば、多くのサッカーファン(及びスポーツファン)がトリニータを応援すると思うよ。 きちんと定められたルールの下、厳正に運営されるのがスポーツの大原則。 (あくまで建前だとしても) 事後法やら事後裁定の横行は、スポーツマンシップを破壊するようなもの。 それに、大分のナビスコ制覇は、地方クラブに希望を与えた快挙でもあるのだから。 358 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 48 42 ID E/fjsq0MO 物事を一方向からしか観れない こうだと1度考えたら、他の声に一切聞く耳を持たない 自分の考えが通らないと発狂 ま さ に 劣 頭 脳 359 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 51 31 ID kZTBTJda0 125 スルガ銀行の本店は沼津にある 360 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 54 36 ID V+zd6j4r0 今なら、ドッキリと書かれた看板持って、 「ウッソぴょ~ん!」 って言ったら丸く収まるぞ!<犬飼 361 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 55 48 ID b3yBr4CQO 本当にバカだよな犬飼 こんなの上から強引に押さえつけたら反発が出るだけなのに。バカだからそういうの理解できないんだろうな。 たぶんこれから、天皇杯直前に、天皇杯に向けての全力練習中に怪我して全治1~2週間って人が増えるだろうね 362 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 58 07 ID izJOCuZZ0 大分が8日で3試合で大変、けが人も多い、千葉は適用したとしてもベストメンバー規定に違反して いないとちゃんと報道してるマスコミってあったっけ? 363 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 59 41 ID rW9Ld/7H0 これが「プロ野球を反面教師」にした結果のリーグ運営ですか。 遡及処罰なんてナベツネでもやらんわ。 364 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 01 12 ID kOcEO3bW0 後、スポンサーっていうけどさ 大会の方のならそんな重要な大会に代表の強化試合かぶせるなよと思うし、 千葉からすればJ2落ちのこの危機に天皇杯なんて・・・って思うだろうな>スポンサー 365 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 01 52 ID 4+zhQoFv0 ,. -‐'""¨¨¨ヽ (.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! |i i| }! }} //| |l、{ j} /,,ィ//| i| !ヾ、_ノ/ u { }//ヘ 『川淵のほうがましだった』 |リ u } ,ノ _,!V,ハ | /´fト、_{ル{,ィ eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが / ヾ|宀| {´,)⌒`/ | ヽトiゝ おれも何をされたのかわからなかった… ,゙ / )ヽ iLレ u | | ヾlトハ〉 |/_/ ハ !ニ⊇ / } V ヽ 頭がどうにかなりそうだった… // 二二二7 T /u __ / /`ヽ / ´r -―一ァ‐゙T´ "´ / /-‐ \ 院政だとか川淵企画だとか / // 广¨´ / / /´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ ノ / ノ `ー-、___/ // ヽ } _/`丶 /  ̄`ー-{ ... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… 366 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 02 08 ID LozfP+Jj0 マガ巻頭の西部コラムでばっさり 367 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 02 08 ID SAL5+m/P0 【サッカー】犬飼会長が提唱するJリーグ秋春制、将来構想委員会が「7月開幕・5月終了」をシミュレーション 1 名前: すてきな夜空φ ★ [sage] 投稿日: 2008/11/11(火) 06 43 34 ID ???0 日本サッカー協会・犬飼基昭会長(66)が提唱するJリーグのシーズン移行問題に 関連して、日本協会・Jリーグ将来構想委員会が「7月下旬開幕・5月下旬シーズン 終了」をシミュレーションしていることが10日、分かった。 「秋―春制」は実質「夏―春制」として、各クラブの社長クラスが出席する 実行委員会(J1・11日、J2・12日)で議論が本格化される。 7月下旬―5月下旬シーズンとなると、現在の「3月上旬開幕・12月上旬閉幕」より 期間は約1か月長くなる。関係者によると、その大きな理由は2つ。 観客動員が期待できる夏休みの開催と、日本代表の活動期間確保のためという。 日本協会では10―11年シーズンからの移行を目標に各クラブに理解を求めていく。 ソースはhttp //hochi.yomiuri.co.jp/soccer/jleague/news/20081111-OHT1T00080.htm 368 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 03 10 ID PP/1qsyR0 今更予選から参加と言われても、参加できない件について・・・ サッカー協会の会長なのに、天皇杯予選の実態を把握しとけと。 682 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 45 05 ID rYg02J7D0 天皇杯スレより 248 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch 投稿日:2008/11/11(火) 19 33 08 ID WRscfERy0 247 あのー千葉県はもう2010年元旦決勝の大会の1回戦始まってるんですけど? ttp //www.chiba-fa.gr.jp/06category1/category1champ_block.html プログラムに載ってる本大会だけが一回戦じゃねえんだよ 本当の底辺の底辺の試合はもう始まってるんだ、犬飼めバカにしやがって ということだそうだ。 369 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 05 18 ID od0S6JMYO カワブチ→犬飼 政府→田母神 要はそんな人間をトップに任命する奴らは責任感じて、辞めさせるべき… 370 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 06 58 ID n6gewp+d0 367 結局酷暑の中でも試合をやるし 寒気にさらされても試合をやるわけだ こりゃ選手もサポも大変だなあ 371 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 07 05 ID W9PfYziF0 犬養ナベツネ以下wwww 372 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 08 09 ID 7AGOFS1V0 15日の試合に行く人はぜひ「犬飼ヤメロ」の横断幕を揚げてクダサイ! 373 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 08 33 ID kOcEO3bW0 つか、真夏の試合開催は勘弁してほしいわ 選手が危険だってーの 374 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 10 02 ID BG7RYmSGO 犬飼やめろあげ。 375 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 10 36 ID CrvFF1+E0 349 ただ、ならなんでそれを柏に負けた直後に言わないんだよ 犬飼が言い出したのはウチがセパハンに敗退した試合の直後に等々力のスタ内でだぜ 犬飼が川崎の社長を罵倒したのは、たしかセパハン戦の直前。 大一番の直前にチームの社長が公衆の面前で罵倒された。 ACL担当が聞いてあきれる。足引っ張っているだけ。 ちなみに、07年は浦和はホームで川崎に敗退している。 376 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 10 57 ID H0K4AnAK0 雷の危険性、とかはどうでもよくなってるなw 377 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 14 11 ID JFKrg0h5O 去年の柏vs浦和での闘莉王の肘うちを処分しなかったのってビデオによる処分は規定にないからとかだったような・・・ 378 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 14 24 ID wriUvDjh0 ベスメンでまず川崎に因縁 →川崎サポから総スカン ものすごいアバウトにメリットを強調して秋春制主張 →東北、甲信越クラブと対立 大分、千葉にケンカ売る →新たに2チームが嫌犬飼に 秋春じゃなくて実質夏春 →秋春賛成派も首を傾げる 犬飼ってマゾなの? 自分の体に火をつけて崖に向ってダッシュしてるようにしか見えん 379 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 14 57 ID CrvFF1+E0 367 犬飼の挙げた秋春制のメリット ゲリラ豪雨の回避 炎天下の入場行列回避 選手と家族の夏休み 猛暑試合による選手消耗の回避 「7月下旬開幕・5月下旬シーズン 終了」をシミュレーションしている はぁ??? 380 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 15 12 ID De5+WdNOO 375 この件といい、千葉の件といい、結局ただの逆恨みじゃないか。 ひょっとしたら、大分の件だって、浦和が有利になるように仕組んだナビスコで優勝した事への逆恨みじゃないか? 381 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 15 23 ID uTbyY92Q0 368 下を見れば天皇杯県大会予選の参加権を争うトーナメントまであったはず。 もちろん犬飼は把握して無いだろうが 382 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 20 18 ID CrvFF1+E0 380 恨みというより、浦和に不利な相手を蹴落としただけに感じる。 何しろ、ガンバが日本を代表して決勝進出したのに 「浦和が負けてがっかりした」って言う奴だからな。 本来ならお得意の 「Jクラブはガンバ大阪を応援しています」って キャンペーンの先頭に立つべきだろ。 383 名前:U-名無しさん [sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 21 39 ID ofwL6T6s0 357 犬飼にスポーツマンシップ求めるの無理でしょ。そもそも犬なんだからw 384 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 21 50 ID kOcEO3bW0 377 IDが城福だなw 385 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 22 06 ID tCwRi6CgO 375 大一番の直前にチームの社長が公衆の面前で罵倒された。 しかも犬飼自ら記者を引き連れてな。 さすがに記者達も異常だと思ったんだろうな、記事は川崎寄りだった。 386 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 22 55 ID izJOCuZZ0 選手と家族の夏休み、キャンプにはいかないの? 387 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 23 33 ID iQ+HRGoJ0 382 ヒント:脚は天皇杯(ベスメン汁)のあと赤戦 388 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 23 33 ID aZYJk8V50 38 僕も抗議電話送った。 本当に届くんだろうか… 389 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 24 21 ID PP/1qsyR0 379 ゲリラ豪雨が多いのは、7月末~9月中旬までだと思うんだが。 回避になってないじゃん。 390 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 25 25 ID kOcEO3bW0 天皇杯の決勝ってシーズン終了した後だからこそなんていうか神聖なイメージもあったけど シーズン中じゃ単なるカップ戦で権威落ちそうだな 391 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 28 46 ID aZYJk8V50 176 メール送るところが無い 392 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 30 24 ID JFKrg0h5O 7月下旬開幕の5月下旬閉幕だとした場合 来期契約をしない選手にはいつまでに伝えるのだろうか? 現行は3月開幕で11月末までに伝える。 現行に準拠するなら4月末までになる。 393 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 30 27 ID 2Oo5L9UqO 俺も夕方に電話したよ。 なかなか繋がらなかったから、受話器外されてるのかと思った。 受付の女性に「会長の発言ですけど」と言ったら「答えられないですがご意見伺います」と。 矛盾してる点を伝えたが、上にいくのかな。いくといいな。 394 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 31 24 ID bj3ja+/T0 「あれがベストメンバーというならとリーグ最終戦は 全チーム天皇杯4回戦と同じメンバーで戦うこと!」 と言われてもそんなに困らないのが千葉。 395 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 31 27 ID nds9iFTiO 379 もはや『移行すること』それ自体が目的化していて、客観的にメリットとデメリットを検証できなくなっているんだろうね。 犬飼氏が『バックパス禁止』やら『大分、千葉を処分』等の少々不可解な発言を繰り返すのも、鳴り物入りでぶち上げた『秋春制移行』が、なかなか上手く行かないせいかも知れない、とも思う。 まあ、過去に何度か俎上に上がりながら、その都度見送られたプランを実行するには、もっと綿密な計算が必要なコトくらい、わからなかったのかなぁ。 396 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[age] 投稿日:2008/11/11(火) 21 31 50 ID ZKR3Pz3A0 387 ここまで考えてそうで怖いなw 犬は。。 まじで解任してほしい 397 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 32 33 ID wriUvDjh0 いかねーだろそりゃw ただ行動することは大事 398 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 32 54 ID 8P6a1Qc40 こいつは・・・ 天皇杯の件で大分と千葉をスケープゴードにしてまで、秋春制に移行したいんだろうね。 どこの国の独裁者でつか? 来年から天皇杯はJ1チームボイコットでいいんじゃね? 選手死ぬよ マジで。 どこもJ2落ちるのは嫌でしょ? J2は寂しくて苦しいよ~。 もう一回言うけど、本当に選手死ぬかもよ。 こんなチンケな奴が会長か。。 独立リーグ作ろうぜw 399 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 33 20 ID DUgxF73U0 393 こういう抗議の電話なんて内容より数だよ 400 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 35 41 ID 8wbYcsE30 こういうダンマクを次の天皇杯で出したい。 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃.代表招集でベストメンバーが組めません.┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
https://w.atwiki.jp/nanadorakari/pages/2.html
投下いきます。固有名詞は特にありません。 カップリングはルシェローグ♂×黒髪サムライ♀ 触手属性あり。中盤の帝竜の名前などのネタバレあり。 今回、黒咲練導『放課後プレイ』と、いうネタの着想元があり、 ネタ元となった原作の雰囲気を損ねている可能性があります。 事前に示し合わせた通りのノックがあったんで、 ドアを開けると黒髪ぱっつんの女サムライが居て いきなりキスされた。 ったく、このキス魔が。 玄関先でいきなり口付けされたら爪先立ちキッスになるからヤなんだよ この体勢でいっぺん足つって大変なことになったのをもう忘れやがったのか? ……オレの方が、な。 そう、屈辱的なことに背伸びさせられてるのはオレなのである。 理想的なモデル体系のこの女と、発育不良のこのオレとでは頭一個分くらいの身長差があって、 並んで歩いたりすると釣り合わないのなんのって。 ――もっとも、そういう機会はこれまでに無く、これからも無いのだろうが。 しばらく唇と唇を合わせていると、物足りなくなったのか舌を捻じ込んできやがったので、 軽く身体を押し返してやんわりと拒否する。人に見られちゃ困るからこんなトコで逢引きしてんのに、 ドア開けっ放しでディープキスとかなに考えてんだ。 「もー! こーんな可愛い子が遊びに来てやったってのに、何よそのリアクション!」 コイツは柳眉を逆立てて、げしげし蹴りを入れてくる。痛ぇな、馬鹿。 「自分で可愛いとかいってんじゃねえ。だいたいお前、挨拶より先にキスとか馬鹿じゃねえの?」 まー、実際かわいい……っつーか、かなりレベル高い部類には入ると思うがそれでも自分で言うな。 「馬鹿とは何よ馬鹿。アイゼンじゃ普通の挨拶よ、こんなの」 「ねーよ。初めてのキスのとき恥ずかしさが限界突破して半泣きになってたのはどこの小娘だ?」 「アンタの方こそあの時は固まって何も出来なかったくせに、このガキ」 くっ、墓穴を掘ったか。俺だってキスはあん時が初めてだったんだよ、悪かったな! 「うっせーよ! つーか、とっとと部屋入れ!」 照れ隠しに軽く怒鳴ると、コイツは後ろ手にドアを閉めながら、 「そっちこそうるさいっての。だいたいアンタ生意気なのよ奴隷種族のくせに」 平気でそんなことを言う。もう言われ慣れたから、いちいちどうとも思わんし それこそ挨拶みたいなもんだ。だがこの女、初めて会った頃は本気で心の底から ルシェを奴隷だと蔑んでいるような、バリバリのアイゼン中華主義者だったのだ。 (今でもその傾向は多分に残っちゃ居るが、マシといえばマシになってる) 「お前だって男に対する口のきき方がなってねーっての。アイゼン皇族の躾ってのはその程度のもんか?」 とは言え、アイゼン中華主義者なのはそれもそのはず、 コイツは(低位ではあるが)皇位継承権を持つマジモンのお姫さんなのだから。 「ルシェに礼儀を払えって? 馬鹿言わないで。奴隷に対する頭の下げ方なんて教わっちゃ居ないわ」 「……ふん、頭だったらさっきは下げてた癖によ」 自虐かつ自爆だが一矢むくいてやった。 身長差があるから、立ってキスするときはコイツの方も頭を下げ腰をかがめる必要がある。 「うっさい、チビ」 「チビ言うな、貧乳」 「貧乳っていうなぁぁっ! この童貞野郎っ!」 「女が童貞野郎とか言ってんじゃねーよ……つーか、こないだお前とヤったからもう違うし……」 何を言わすんだ、何を。 「それはっ……そのっ…うぅ、うぁ、うぅぅぅ……思い出しちゃったじゃんよ、ばかぁ……」 顔赤らめんな、頭を手で抱えてイヤイヤをするな、こっちまで思い出しちまうじゃねーか。 あーもー、処女と童貞はじめて同士とか、痛いわ恥ずいわで大変なだけだったっつーの。 んで、まあ、ともかく。 色々あってオレとコイツは付き合ってたりする。 所属は別ギルド。 オレの所はネパン軍からカザンへ出向してきたルシェのチームで(実はいまも軍属)、一応オレがリーダー。 この女のチームはアイゼン皇家から『新興国の教育と視察』の名目で派遣された皇女と不愉快な家来たち。 当然のように互いのギルドの中は悪い……と、いうか最初の頃は敵対に近かった。 そんなオレとコイツが何故こんな間柄かって、戦いを通じて敵愾心がライバル意識となり、 そのライバル心が友情に変化した頃、一つ二つ厄介な出来事を共同で解消しなきゃならん事情があって、 それが終わった後にゃお互い友情が愛情へと昇華されていた。ベタと言いたきゃ言うがいい。 ……とは言え、そんな関係を築くことが出来たのは、オレとコイツの二人だけで、 ウチの面子はこの女とその家来達にさんざん侮辱されたことを忘れてないし、 向こうの面子はアイゼン中華思想に凝り固まったお貴族様ばかりだ。仲良くやれるわけが無い。 そんなこんなでおおっぴらに会ったりする訳にもいかず、こーやってこそこそ逢引きしてるというわけだ。 ここはオレの仲間にも秘密のセーフハウス。知ってるのはそれこそコイツとオレだけ。 「ったく……女の子呼びつけといて、殺風景な部屋よね」 うるさい。隠れ家なんだから最低限のモノ意外置いてないだけだっつの。 「呼んでねーよ。お前が勝手に来てんだろ……だいたい今日は何の用だよ?」 「面白い物買ったから見せびらかしに来たの」 「お前なぁ……」 急に来るから何かと思えば、コレだ。 根っからのお嬢様気質というか、スゲーしょーもない事情で 他人の時間を浪費させることをなんとも思ってない。 そしてコイツが取り出したのが、 「じゃじゃーん! ろぉぱぁうどんでーす! 一緒に使お?」 思ってたよりはマトモだ。ろぉぱぁうどんは見た目は悪いが味はまぁまぁイケる。 ゲテモノほど美味いという言葉を残した食通が居たがあながち嘘でもないらしい。 「嫌いじゃないけどよ……夏場のクソ暑いときならともかく、春先にそんな冷たいもん食うって辛くねえ?」 ただ、基本的にキンキンに冷やして涼を取る為の食いもんなんで季節的にはどうなんだって話である。 「はぁ? ルシェの分際で耳腐ってんの? あたしは食べるなんて言ってないわ『使う』って言ったの」 「『使う』って……お前まさか……」 イヤな予感しかしねえ。 「アンタさ、触手プレイとか好きでしょ?」 ……ほら来た、やっぱりな。 「アホか。オレはそんな属性ねーよ」 「えー? 強がんなくてもいいのよ?」 「意外そうな顔をすんな!」ったく、つくづく失礼な女だ。 「だけど、ほら……アンタ今はそんなだけど、プレロマの学士あがりだって言ってたじゃない」 「お前なァ……プレロマの学士が皆そんなん好きだと思うなよ……」 「ホントに?!」 タチ悪りぃ。嫌味じゃなくてマジでそう思っていたらしい。 ただ……実際、プレロマの野郎どもの間でその手のポルノが流行ってるのは事実といえば事実だし、 ついでに言うならプレロマ女子はたいてい腐ったベーコンレタスが大好きだ(あのエメル学士長でさえも!) ところで、この女のいう通りオレはプレロマ留学組だったりする。 留学組でメイジや研究職以外を目指すってのも珍しい話なんだが、各種のハントマンのスキルを 研究するうちにローグというクラスに興味を持ち、実践の場を求めてネバンプレス本国軍に志願したわけだ。 ただ、親の方針で物心ついたときには既にプレロマ学府に居たおかげで、 オレには良くも悪くもネバンっつーかルシェへの帰属意識があんまし無い。 「もー! 好きって事にしときなさいよ、せっかく買ってきてやったんだからっ!」 「イヤなもんはイヤに決まってんだろっ!」 「あるじの言うことは黙って聞くものよ、この奴隷種族っ!」 「お前がいつからオレのご主人様になったんだよっ! 大体ここはアイゼンじゃねえ!」 幸か不幸か、この根性腐った女と会話が成立するのはそのためだろう。 『ルシェの誇り』なんてものをオレが持ってたら即行で殺し合いになること間違い無しだ。 「つーかさ、お前の方こそ触手に興味あったりすんのかよ?」 「え、そ、そのっ……そのぉ…ちょっとだけ……」 あんのかよ。頬染めんな。目ぇそらすな。うつむくな。 「……エロ女」 まー、皇女様なんて商売は色々溜まるモンもあるんだろうけどさぁ……。 「うっさい! ルシェの癖に生意気よ……こーなったらねえっ!」 「ちょ……お前っ…なに考えてっ……」 逃げる間もなく、がっちり首根っこをホールドされた。 無手を極めつつあるコイツには流石に素手じゃぁ太刀打ちできん。 「アンタを触手に目覚めさせてやるわ!」 椀からうどん玉のごとく触手がこぼれ落ち、開かれた襟からオレの服内へと注ぎ込まれた。 「ぐぉおぉぉおぉっ?! つっ冷た……っぁぁあ…動いてるっ!? なんかぬるぬるしてるっ!」 そして始まるろぉぱぁうどんによる陵辱。もぞもぞぐねりとオレの肌を撫で回し、這い蠢く。 エロ本だったら『くやしいっ……でも感じちゃうっ』ってシチュだが、コレは無いわ。 実際やられるとただひたすらにキモいだけ、悪い意味でたまらねえ。オマケに冷えるのなんのって。 「くっそ……コレ洒落になんねー……ひゃぁんっ!!」 不覚。乳首の辺りを撫で動かれて思わず変な声がでる。 「あははははは、おっかしーの! 男のクセにそーんな可愛い声出しちゃってさぁ!」 「テメェっ……後で覚え……っ…ひゃっ…あぁぁぁっ!!」 「あははははは」 ムカつく女だ。涙まで流して大爆笑してやがる。マジ後で覚えてろ。 とにかくオレは二昔前の芸人みたいなリアクションを晒しつつ、 あばれ、もがきながら、服を脱ぎ捨て触手を身体から振り払っていく。 食べ物を粗末にしやがって。視聴者の皆さんから抗議の電話が来るレベルだぞ、これ。 パンツの中にまでもぐりこんでいた最後の触手をつかんで床にたたきつけたあと、 オレは下着姿でベッドに突っ伏した。シーツも当然うどんの出汁で濡れるが、とにかく今は横になりたい。 ……ううっ、汚されてしまった。 汁まみれになった床では未だにびったんびったん触手が暴れ、エロ女はひぃひぃ言いながら笑い続けてる。 「あはははは、サイコーだったわよ。触手のお味はどうだった?」 知るか、このエロ女。 「どーしたのよ、ほら、感想は?」 うるせぇバカ。 「……なに黙ってんのよ」 今は口もききたくねえよ。 「ねー、なんか言いなさいよ……」 ほっといてくれ。 「……怒っちゃった?」 ムカついてるに決まってんだろ。 「スネないでよ……ほんとガキなんだから……」 ガキで悪かったな。 そのまましばらくベッドに伏せたまま、シカトを決め込んでいたのだが、 「……ぐすっ」 なにやらすすり泣く声が聞こえてきた……って、おいおいおい……。 「ううっ……ひぐっ……」 枕から軽く顔をあげて様子を盗み見れば、あいつがガン泣きしていた。 あーもー、女ってめんどくせー。お前が悪いのに何でお前が泣くんだよ……。 「なぁ……どしたんだよ?」 流石にオレも空気に耐えかねてシカト中断、一言声をかけたのだが、 「どうしたって……うぅ……なんで無視するのよぉ……」 「なんでって……」 「ひくっ……アンタいっつもムスっとしてるからさぁ…… ぐすっ…ちょっと笑顔が見たかっただけなのにっ…… 喜んでもらえると思ったのにっ……」 確かに仮にもコイツは恋人なんだから、もうちょっと愛想を売ってやっても良かったかもしれない。 「き、嫌われたかと思って……こわかったんだからぁ……」 「……あ、その……ごめんな」 だからって、なんでオレが謝る流れになってんだよ……。 「こっちこそ…………ゴメン……あんな、いきなり、変なことして…… うっ、ひっく…ごめんね、キライになっちゃったよね、こんな馬鹿な女はキライだよね……」 「落ち着けって、嫌いじゃねーよ」 なんというかその……コイツはメンタル弱いところあるんだよなあ。 結局オレはそこを支えてやりたくなっちゃったというか。 「……ホントに?」 「……まぁな」 「じゃあ、私のこと好き?」 言えというのか。答えろというのか。応じろというのか。 「……まぁな」 「そんなんじゃ駄目。好きって言って」 ったく、コイツはホント……。 言いよどむとかえって恥ずかしくなるから 「好きだよ」 がっつり短く言い切ったが、ぐあー、それでもこっぱずかしー。 「えへへへへ」 さっきまで泣いてたカラスがもう笑いやがったよ。女ってのはコレだから。 「そーゆーお前はどうなんだよ。その、オレのこと……」 「……はぁ? ルシェごときにこのあたしが告白しろって? あつかましいにも程があるわ」 調子が戻ったといえばそーなんだろうが、ホンっとムカつく女だよな、コイツは! ……と、憤りかけていたのだが、 「――でもね、今日は特別。一個だけ言うこと聞いてくれたら答えたげる」 しおらしい顔をしてそんな風に続けてきた。……くそ、こーゆー顔はかわいいんだよな、コイツ。 お前が条件出せる立場かよとは思ったが、断ってもめんどい事になりそうだし一応うなずいたら、 「たまにはアンタからキスして。そしたら……ね?」 「ぐっ……」 なかなか恥ずかしい条件を突きつけてきた。 しかし確かに、オレらの場合キスは大抵コイツからだ。そーゆー意味ではコイツの方が色々と積極的だし、 オレも好意に甘えてまかせっきりにしてるところがある。……ま、たまには男をみせとけって事ですかね。 「じゃ、その……目ぇつぶれよ」 「……うん」 言うままにコイツは目を閉じ、軽く唇を突き出す。長いまつげが浮いた目じりが実に艶っぽい。 いつも気ィ張ってる一流のサムライとしちゃ信じられないぐらい無防備な姿がそこにあった。 ――くっくっく、マヌケめ。キスはしてやる。ただしその前にオレが体験した地獄をお前も味わえ! 「きゃぁっ!! な、なにっ、なによっ…コレっ……、ひ、あぁっ!!」 オレは♀サムライ特有のユニフォームであるコイツの黒い全身タイツの首元を引っ張り伸ばし、 空いた隙間へ床で蠢いていた触手を3,4本拾って一気にねじ込んでいた。 「なにって、ろぉぱぁうどんだよ。ろぉぱぁうどん」 やり返すならさっきコイツが目ぇ閉じたときが千載一遇のチャンスだったわけで。 この女がここまでスキだらけになることってまず無いからな。 「うそつきっ、うそつきぃぃ! キスしてくれるんじゃぁっ……あ、あ、あぁぁあっ!?」 「嘘なんてついてねー。キスだったら触手でお前がへばった後たっぷりしてやるからよ」 身体にぴったり密着した黒タイツと地肌の隙間を、数匹のウナギのように触手が這いまわっている様子が タイツを押し上げてくっきりはっきり浮き上がって見える。 見ようによっては皮膚の一枚下を蠢くタイプの寄生虫みたいでちょっとキモいが。 「や、やぁぁっ! とって、とってぇ……コレとってよぉぉっ!」 ほうほう、今は右胸のあたりをうねうねぐねぐねしてますね? うはははは、確かに鑑賞する立場になればコリャおもしれぇ。 「オレみたいに脱げばぁ?」 「いじわるぅ……コレすぐに脱げないの知ってる…くせ、にぃっ!!」 そうなのだ。この黒タイツ、あまりにタイトに全身を包んでいるので脱ぐのも着るのも一苦労。 こないだいろいろ手伝ったからよーく知ってる。 そして放置すること五分。 「……なー、お前、ガチで感じてきてねぇ?」 顔は赤らみ、乳首が勃ってきている。 「んぅ……感じてなんか……やぁああ……いないもん」 だったら何でそんな艶っぽい声出してんだ。 コイツと身体を重ねたことは数えるほどしかないが、 それでもただの悲鳴と、蕩けたオンナの嬌声の区別くらいはつく。 「つーかさ……お前、濡れてきてんじゃん」 元々密着度の高い衣装だが、その下腹部は内側からあふれる蜜によってさらにぴったりと張り付いて、 いやらしく割れ目を浮き上がらせていた。 「……ふぇっ?! やぁだぁ…ばかぁ……見るなぁ……」 明らかな官能の証拠を突きつければ、流石に言い逃れることも出来ないらしく、 股間を手で覆い隠してしまったの、だが―― 「――ひぁっ?!」 ――あまりに急に隠した為、指が敏感な部分に触れてしまったのだろう、 腰がびくんと跳ねて激しく反応していた。 「めちゃくちゃ感じてんじゃん……」 「……う、ううっ……うー」 ……やべ、オレまで勃ってきた。 ちょっとした悪戯で済ませるつもりだったのに、どーすんだよ、こんなの。 「そうか、皇女様は触手で気持ちよくなっちゃう変態だったか」 流石に『ちょっとだけ興味が』と言うだけの事はある。オレには無理。 「こんなときだけ何が皇女……ふえぇっ?! や、やだっ、こっちきちゃダメっ!」 メスの匂いに反応したのだろうか。それまで体の各所で勝手に蠢いていた触手たちが、 一斉に股座を目指して黒布の一枚下を這い進み始めたのだ。 「おいおいおい……」 「黙って見てないでどうにか……やぁぁっ! 入っちゃダメっ! 入っちゃだめぇっ!」 ついに蜜の源泉にたどり着いた一本の触手が入り口をこじ開けて胎内に侵入しようとしているらしい。 触手の分際で生意気な! そこはオレもまだ片手で数えるほどしか挿れたことが無いってのに! 「こ、ここはあなたの以外は入れたくないの……お願い……お願いだからぁ……抜いてぇ……」 涙目になり、顔を上気させながら、そんなことをお願いされてしまった。 うわ、コイツから『あなた』とか初めて言われちまったよ。 ちゅーか、理性が飛びかけてるんだろう、かなりすごいことを口走っている。 「わかったよ……けど、どうやって……」 こうなってくると、こんな着脱に時間のかかるものイチイチ脱がしてられん。 「切っていいっ! 破って良いからっ、はっ、早くぅぅ……」 なんとも素晴らしい許可が出た。 オレは愛用のダガーを取り出し、こいつの地肌を傷つけないように注意しながら 黒タイツの局部部分を一気に切り裂く。今まさに秘所を犯そうとしている触手の一本を 引っこ抜き、そのまま雌の花弁へと集結しつつあった他の触手もタイツから引きずり出して 戻ってこないように遠くへ投げ捨てた。やれやれ……。 「は……はぁ……はぁー」 さっきのオレと同じく、性も根も尽き果てたのだろう。 コイツは息を荒げたまま、タイツが破れて露出した秘所を隠そうともせず床に転がっている。 しかし、いやらしくも最高な光景だった。 この女は今、雌として隠すべき一番大事な部分『だけ』が剥き出しになっているのだ。 なんて無防備。なんて官能的。なんて愛らしい。 タイツの破損箇所からは、きめの細かい白い地肌が露出して、布地の黒と対照して実に良く映える。 さらにその白い皮膚の中心には、紅い粘膜が息づいてる。恥毛は申し訳程度にしか生えてない。 普段はぴっちり閉じている粘膜の花弁は、触手の官能にさらされたせいか左右に軽く花開き、 そこから見えるメスの肉はしっとりと愛液に濡れていて、 包皮の下では小粒なクリトリスが膨らんでお外に顔を出したがってる。 発情状態の雌器官がそこにあった。 舐めたい。 気付けばオレは本能の命ずるままに秘裂に口付け舌を這わせていた。 「んっ、んぅう…な、何してんのょぉ……あ、ぁやぁあっ!」 一度は開放されたはずの性的刺激を再開されて放心していたこいつの意識がかえってくる。 「何って……キスしてんだよ。だから言え、俺のことを好きか嫌いか」 「そ、そんなトコのは、違っ……あ、あ、うぅうんっ!」 「違う? じゃあ止めるか」 「え……?」 口唇愛撫を中断し、こいつの顔をじっと見つめ返す。だめだめ、そんな物欲しそうな顔して強がったって。 「いじわる……」 「何がいじわるだよ。して欲しいんならちゃんと言え」 「こ、このあたしがルシェに懇願しろってのっ……?」 すげーよ、コイツの貴族根性。ここまで来るとむしろ尊敬に値する。 「別にお貴族様らしく命令でも良いんだぜ」 命令だろうと懇願だろうと、どの道いやらしい欲求を口にしないといけないのは同じだがな。 「……キスを…つづけなさい」 まあお前の性格だったらそういうよな。じゃあオレのターン。トラップカードオープン。 「じゃあ認めるんだな、コレがキスだって」 「うー、み、認めてあげる…わ」 「じゃあ言え、好きか嫌いか」 「……そ、そのぉ……………だいすき」 だいすき、ってそりゃ反則だ。俺のハートにクリティカルヒットしちまったじゃねーか。 「ちくしょうオレだって大好きだ」 こっちも大好きといった途端に、コイツの顔がますます紅潮する。 ああもう可愛いな! いくらだって感じさせてやるよ! 肉の花弁を指で大きく割り開く。 酒とチーズそしてどこか植物に似た青臭さが入り混じったメスの匂いが香りたち、 針でつついたような尿道口とモノを求めてひくつく膣口があらわになった。 色といい形といい匂いといい何かに似てると思ったらフロワロだ。 紅く妖しく咲き誇って人の魂を吸い尽くす。まるでコイツそのものみてーだ。 「そ、そんな……開いちゃやだよぉ……」 肉色の杯にはたっぷりと愛液がたたえられ、羞恥で腰が動くと、蜜もまた揺れ、そして零れ落ちた。 そのまま犬が皿のミルクを飲むようにあさましく舐めしゃぶる。 今のオレならルシェの家畜野郎といわれても文句は言えない。 「ダメっ……そんな激しくしちゃダメぇっ……!」 ダメとか言いながら俺の顔を押し付けてきてんじゃねーよ、このエロ女。 肉孔からは舐めとっても舐めとっても、いやらしい蜜がいくらでもあふれ出てくる。 なんと言うか実にメスの味だ。旨いモノじゃないが実に旨い。 舐めるだけじゃ我慢できなくなって、舌先を尖らせ膣内へとゆっくり、ゆっくり挿入して こいつの一番大事な部分を文字通り舌全体で『味わう』。 「ひゃぁん…な、なにしてる……のよぉ……」 この状態で答えられるわけが無い。 まあでも旨いもん飲ませてもらってるお礼はしてやろう。 クリの包皮を指先で剥き、一番敏感な部分を外気にさらして一気にこね回せば、 「――ひっ!」 一声甲高く鳴いた後に、膣肉がきゅうんとオレの舌を締め付けてきた。 イッたな、コレは。 舌を肉孔から引っこ抜くと、唾液と愛液の混合液がエロい糸を引く。 「イッた?」 「……うっさい、ばか」 見られるのが恥ずかしいのだろう。顔を両手で覆い隠してるが、 隠した指の隙間からオレの勃ったイチモツをちらちら盗み見てるのはバレてるぞ。 「顔見せろよ」 「や……だめ……」 たいした抵抗もなく隠した掌を引き剥がせば、いつもの傲慢でツンケンした尖りが すっかり抜け落ちた、蕩けたメスの顔がそこにあった。いつもこうなら可愛いのにな。 間近で眺めたくなってオレも顔を近づけると、もうたまらなくなってたんだろう、 コイツの方からキスしてきた。 不意をつかれて割とされるがままになってしまい、さっきのお返しだといわんばかりに コイツの舌がオレの口内を犯し尽くしていく。ちくしょうやっぱこの女キス上手ぇな。 こちらも多少の反撃は試みた物のたいした戦果も得られない。 あー、やべぇ、脳みそ溶けそう、くらくらする。 しばらくいじめられてようやく開放されたがこりゃ絶対に顔赤いな。 赤面を見られたくなくて、視線をそらし顔をそらす。くそ、さっきと逆じゃねーか。 「ふふん、あなたって普通のキスはまだまだお子様よね」 「キスとか……良かったのかよ…その、舐めたばっかだったってのに……」 「……こうなってもいい様にお風呂入ってきたから綺麗だもん」 用意周到じゃねーか。まあ触手プレイとか言い出す時点でそのつもりだったんだろうが。 「じゃあ、最後までするつもりもあるんだよな?」 「……あなたがしたいんだったらしても良いけど?」 「……お前がヤりたいんだったらヤってやるけど?」 そのまましばらく見つめ合っていたのだが、 残念ながらお互いそれ以上意地が張れるほど余裕は無かったらしく 「……するか?」「……しよっか?」 ほとんど同時に誘いを交わした。 なんだかおかしくなってくすくす笑いあった後、キスをして、ベッドへ連れ立った。 オレは既に下着姿だし、パンツさえ脱いじまえば準備は整う。 痛いほどに勃起した一物の先端には先走りの汁がにじみ出てあふれんばかりになっている。 「……ねー、はやく」 こいつはと言えば羽織りは外していたものの、例の全身タイツは身に付けたままだった。 「はやく……ってお前、それ脱がなくて良いのかよ」 「……その、破いちゃったし、このままできるでしょ。どうせもうこれ着れないし」 「そりゃそうなんだろうけどよ……」 裸よりエロ過ぎるだろ、そのカッコ。 「局部露出の黒タイツプレイなんてコレを逃せば機会はないわよ……興味ない?」 ある。 触手プレイに比べりゃよっぽど。 黒い布地が破れて露出した陰部だけが強調されて、まるでセックス専用衣装って感じだ。 口答で返事する代わりにベッドへと押し倒し、こいつのタイツに包まれたままの脚を割り開いてのしかかった。 長くて黒くてきれいな髪が乱れてベッドに広がる。 「お前って……ほんとエロに貪欲だよな」 まあ、あの三バカが側近では溜まる物も多かろう。せっかくだからスッキリさせてやりたい。 「あなたこそ、もう我慢できないって顔してる……」 んで、オレの方だってもちろんスッキリしたい。 「まあな……もう準備とか要らないよな……?」 「うん……今すぐ、して……」 性器と性器の距離が近づき、そして触れ合う。 愛液で濡れそぼった秘裂と先走りのあふれた陰茎をなであわせて、 いやらしい液体同士をじっくりと混ぜ合わせる。 「焦らさないでよぉ……」 「……そう急くなって」 焦らしてるわけじゃなく、まだまだセックスそのものに不慣れで 勝手がつかめてないだけなのだが、そこは伏せとく。 しばし四苦八苦してようやく亀頭が膣口をとらえ、体重をかけてゆっくり突き入れていく。 すげー気持ちいい。 あったかくてぬるりとした膣肉が四方八方から陰茎をきゅうんと締め上げてくる。 この、挿れた瞬間はいつも、男の子に生まれてよかった……とか思う。 「あは、おちんちん入ってきたよぉ……」 「おち……って、お前なぁ……」 そーゆー直接的な単語は勘弁してくれ。言われたオレが恥ずいので。 そりゃオレもヤりたい盛りの青少年だけどさ、まだまだ純情なお年頃でもあるんだよ。 「なによ、おちんちんって言ったぐらいで照れちゃって……かわいいんだから」 「……うっせ」 「それより、どう、私のおま…………ナカは?」 そっちの単語は言えねーのかよ。まあ、気持ちはわかる。要するに、 「ああ、すげー気持ち良いよ……お前のおまんこ」 自分についてない方なら、口に出すのもそんな抵抗はないのだ。 「……ばか、仕返しのつもり?」 「いや、そんなんじゃなくて、なんつーか……いつもとぜんぜん違う。 マジすげー良いおまんこになってる、今日は」 「もー、ばか……」 単純に若く、そして経験が少ないせいだろうが、普段のこいつの膣は生硬なところがあって 挿れるとどこかゴリゴリした感触がある。それが今日は、 触手やらなんやらでじっくりたっぷり熟させたせいだろう、 ねっとりしっとりと熱い媚肉がからみついてくる。 この肉を、もっと味わいたい。 「……動いていいか?」 「……うん」 情けない話だが、経験不足なもんで最初のうちは結合部を目視しながらじゃないと動けない。 エンジンかかってきたら本能のままに腰振ってもわりとどうにかなるのだが。 「つながってるトコじろじろ見ちゃやだ……」 「……そういうお前がガン見のくせに」 膣口は一杯に口を広げていじらしく俺のモノをくわえ込んでいる。 繋がっている粘膜感触もさることながら、こうして結合部を目にすると セックスしてるんだ、と否応無しに実感する。心臓が跳ね回り、鼓動がオレを鼓舞する。 「いくぞ」 「うん」 陰茎を半ばまで引き抜けば、それはもちろん愛液にまみれていた。 亀頭が見えるほどにまで抜いて、また突き入れる。 痺れるような快感がペニスを核にして腰の方まで広がってくる。 出し入れを、繰り返す。単純な動き。それしか出来ない。 多分、オレはまだまだ下手の部類に入るんだろう。 「あ、あぁあ……ナカ、かきまぜられてるよぉ……」 でも、そんな未熟な抽送でもコイツは感じてくれていて、 ねっとりぬめった膣壁でオレのペニスをマッサージしてお返ししてくれる。 「んぅ……きもち良いよぉ、つながってる…所っ、 ぐちゃぐちゃって、えっちな、音してる…よぉぉっ!」 だから、聞いてる方が恥ずいのでイチイチそーゆー実況はしなくてよろしい。 ……あーもー、こういうのって男女逆だろ普通は。キスで唇をふさいで黙らせようとも思ったが 身長差のせいでどうにも上手くいかない。くそ、マジ格好悪りぃ。 だが、キスしたいという意思は伝わったらしく、 「つながった、まま……キス、だね……しよ」 下から抱すくめられる様にして、それはそれは情熱的に口付けされた。 身長差と動きが激しすぎるせいで唇を合わせ続けることが難しいが、 それでもお互い舌を伸ばし、唇を突き出して精一杯に求め合った。 たまらない。かわいいなこいつ。かわいくて、そしていとおしい。 「好きだ」 口付けが途切れた一瞬、好意の言葉が自然に口からあふれ出た。 「あたしもぉ……すきぃ……」 そして互いに好きだ、好きだ、と言い合いながら身体を求め合う。 愛し合う、ってたぶんこういう事なんだろうな。 こんなに気持ちよくて、こんなに興奮して、こんなに幸せなセックス。 ……だからこそ、身体は一気に高められてしまって 残念ながら未熟なオレたち二人では長く味わうにはまだまだ経験不足。 「あ、あぁっ、やぁぁっ……いっ、いぃっ、イッちゃぁ……っ!!」 っていうかお前もうイッてるだろ。 逃がさない、搾り取ってやる、とばかりに膣肉がオレの剛直をめちゃくちゃに締め付けてきている。 そしてオレだってもう限界。 ナカで果てたいという気持ちはもちろんあったが、そこは本能を全力でねじ伏せて 寸前でペニスを膣から引き抜いた。たちまちのうちに鈴口からは快感と精液がほとばしって こいつの黒いタイツに覆われたままの腹を、胸を、白く汚していく。 黒い物を白く汚すのは異様なまでに背徳的な悦びがあって、射精前より出した後の方がむしろ興奮している。 その実に官能的な風体をしばし眺めていると、不機嫌ながらも蕩けた声で苦情を言われた。 「うぅん……もー、あなたってばそーろー野郎なんだからぁ…もっとがんばりなさいよぉ……」 「……まあ、早いっちゃ早かったけどよ、お前もちゃんとイッてたじゃん」 「イッてたけどぉ……イキながら奥をぐりぐりされるのが好きなのにぃ……」 「お前の欲求はいちいちエグいんだよ……」 こいつ、二ヶ月前までは確かに処女だったのになあ……などとため息をつく暇も無く、 「……って、お前何してんだよっ!」 吐精を終えてもまだ硬いままだったオレの陰茎がしゃぶりつかれていた。 「何って……きれいに、してあげてるの……せーえき付いたままだと、だめ、だから……」 剛直にこびり付いたままだった精液が舌で舐めとられ、尿道に残っていたのも吸い取られる。 こんな丁寧にお掃除してくれるってことは、だ。 「……ね、もっかい、しよ?」 やはり二回戦のお誘いか。 オレも再び出さないことにはおさまる物もおさまりそうに無かったんで、エキストラターンの開始である。 出した後だし多少は射精のコントロールも利くから今度はお望みどおり こいつがイッてる最中にガンガンに奥をつついてやったのだが、 「感じすぎちゃうからいやぁ……!」 などと泣き出した挙句、事後にはものすごい怒られた。 あんまりきーきーうるさかったんで、キスして唇をふさぐとようやく静かになって、疲れ果てたのか眠り始めた。 まったく、この皇女様はわがままにも程があるぞ。オレにどーしろと言うのだ。 ――いつの間にかオレの方もうとうとしてたようだ。 気付けばあいつは先に目を覚ましていたらしく、真新しいサムライ衣装に着替えてた。 「……そんな新品、どこにあったんだよ」 「んー? いつかこーゆーこともあるかなーって、こないだ来た時ここのクローゼットにぶち込んどいたの」 「どういう事態を想定してたんだよ……」 ぬう、こっちだけ裸だと妙に気恥ずかしい。オレも適当に服を取り出しいそいそと着込んでいく。 「ところでさ、アンタん所にメナスのアホから呼び出しあった?」 「あー、来た来た来た。お前んトコも呼び出し?」 明日の11時に大統領府に顔出せと、そういう話だった。 「そーそー。あの馬鹿、またあたし達に競合させる気よ」 「だろーな」 現在の対竜ギルドの最先鋒はオレのところとコイツのところが双璧なのだが、 メナスの野郎はあえて仲の悪いオレたちをカチ合わせることで より良い戦果を拾おうとすることがたびたびあり、時にはオレ等があい争ってる間に カザン子飼いのギルドである『王者の剣』が漁夫の利でおいしい所を持っていくことすらあった。 そこで対抗策として時々こうやって、談合じみた真似もしていると言うわけだ。 メナスの野郎だってアイゼン貴族とルシェのリーダーがデキているとは想像すらしていまい。 「たぶん、こないだ逃がしちまったフレイムイーターの後始末をしろっつー話だと思うんだが……」 「あ、アレは結果オーライだから。っていうか、絶対討伐しちゃダメよ」 「……なんでだよ?」 「帝竜が逃げ込んだドーマ火山周辺ってのはさ、ジェン爺って地方豪族の支配地域なんだけどね、 アイツ中央の言うこと聞かないし守銭奴だしあたし大っ嫌いなのよ。放置してせいぜい苦しめてやればいいわ」 「おいおい……帝竜を放置する理由が私怨かよ」 「まあ、政治の話をするとさ、あのへんの領土をソウゲン叔父様が欲しがってんのよね。 ほっときゃそのうち中央に泣きついてくるだろうから、帝竜退治を名目に金色の騎士団を 派兵して何もかもぶん捕ってやろうってワケ」 「お前ホンっと、悪巧みしてるときは輝いてるよなぁ……」 「ふふん、それほどでもないわ。密約、談合、権謀術数、アイゼン貴族のたしなみだもの」 褒めてねえよ。 まあオレ達も、本来はカザン領であるノザン=ペスタの遺跡から『旧世界』の技術を たっぷりいただいてネバン本国へと送りつけてるんだから人のことは言えない。 「んじゃ、明日の呼び出しはのらくらかわして先延ばしにする方向で良いんだな?」 「うん、それでお願い」 「代わりと言っちゃなんだけどよ、ドレッドノートはオレ等にやらしてくれねえ? ネバンとしてもマレアイアには恩を売っときたいから」 「……えー? あそこに恩売りたいのはあたしも同じなんだけどなー」 ――などと、いかにも軽いノリで話しちゃいるが、世界の命運は今まさに決まりつつあった。 人類がドラゴンと言う共通の敵を得て一時的とはいえ結束してるのと似たようなもんで、 オレとコイツがくっつくきっかけとなったのも、メナスという共通の敵がいたからである。 「こら。人が話してんのになーにボサっとしてんのよ」 「してねえよ……」 「ところでさ、ろぉぱぁうどん以外にも買って来たのがあるんだけどね……」 「ハァ?! まだやる気かよ?! お前馬鹿じゃねえの?!」 「馬鹿って何よ! アンタほんとルシェの分際で生意気なんだから!!」 ――ま、こんな面白い女と引き合わせてくれたって所だけは、あのメガネ野郎に感謝してやっても良い。 <了>