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前ページいぬかみっな使い魔 いぬかみっな使い魔 第22話(実質21話) その日の朝。 段取りをあらかじめ整えていた啓太は、軍議の席で満を持して アンリエッタ姫たちにかねてよりの計画の核心を提案した。 「姫様、明日は決戦です。故に姫様には、一肌脱いでいただきたい。国家百年の 繁栄のため、本日ご入浴なさり、入念に体を磨き上げていただきたいのです。」 軍議の主だった顔ぶれは、戦列艦の艦長達、艦隊指令とその副官達、ルイズ、 啓太等だ。いずれもわかったようなわからないような顔できょとんとしている。 「失礼、最初から説明いたしましょう。連合艦隊がアルビオンに上陸した際には レコンキスタ艦隊の戦列艦は本隊45隻、分散警戒に40隻程度ありました。 このうち、我々は10隻を大破もしくは撃沈。8隻が中破拿捕して後送修理中、 17隻をほぼ無傷で捕らえ補修の後連合艦隊に組み込んでおります。」 現在(偽装)連合艦隊の陣容と司令官はこのようになっている。 ロマリア黒色枢機卿艦隊(=トリスティン第1艦隊)司令マザリーニ枢機卿。 旗艦:戦艦メルカトール号改 戦列艦9 等 トリスティン艦隊(=トリスティン第2艦隊)司令アンリエッタ・ド・トリスティン王女 旗艦:元レコンキスタ戦艦ニューヤーク→タイコンデロガ 戦列艦9 等 アルビオン親征艦隊(=元レコンキスタ艦隊)副司令サー・ヘンリー・ボーウッド 旗艦:元レコンキスタ重巡洋艦ワシントン→ヴァンガード 戦列艦9 等 ゲルマニア武装商船団(=ツェルプストー商船団+)司令キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー 旗艦:大型武装商船 我が愛しのヒルディア号 戦列艦4 等 ガリア輸送船団(ガリア商船の寄せ集め)司令ガリア義勇傭兵団長シャルロット・シュヴァリエ・ド・エレーヌ・オルレアン(タバサ) 旗艦:大型客船シャンパーニュ 戦列艦2 等 戦列艦合計33隻。 いずれの艦隊もピケット艦、輸送船、客船等の補助艦艇多数、 他にスループ船やガレー船、大型武装商船などが補助戦力、という陣容である。 元レコンキスタ艦隊の半分はアルビオン親征艦隊の名の下に配備されている。 残るレコンキスタ戦列艦は他艦隊の戦力増強のため分散配備されていた。 アルビオン親征艦隊とトリスティン(第2)艦隊は大抵行動を一つにしていた。 アンリエッタの元では、彼らの士気と忠誠が大いに上がるからだ。 これに、当事者たるアルビオン本国艦隊の生き残り40隻を加えると、 戦列艦の数は73隻にまで膨れ上がる。 対してレコンキスタの戦列艦は80隻から50隻に激減。 しかし艦のサイズと砲門数、竜騎士数で言えばなお連合艦隊と充分に渡り合える。 特に全長200メイル、砲門数100に及ぶ巨艦レキシントンの存在が この数の差を補う中心であり、連合艦隊にとっての脅威だ。 「さて、計画は、いよいよ最終段階一歩手前まで来ました。ほぼ予定通りです。 艦隊は補給と将兵の休養のために1日こちらで待機。そして明日はいよいよ スコッチ城のレコンキスタに総攻撃をかける、という予定となっております。」 一同、うなずいた。 現状通りの戦略を、いくつかの予想の一つとして以前聞かされていたからだ。 が、啓太の目算としてはかなり予定が狂った、と考えている。 本来ならスコッチ城までの間に追撃で大きな戦果を上げて戦力差を大きくし、 包囲兵糧攻めの構えを見せることで寝返りを誘い、スコッチ城を内から開門させて 一気に殲滅するつもりだったのだ。敵を城に追い込んで一網打尽。 これなら、後顧の憂いはきれいさっぱり無くなる。 計画では明日で完全勝利だったはずなのだ。 しかし、意外と統制が行き届いているのか、あるいは充分な金を渡しているのか (おそらく後者だろうと予想しているが)レコンキスタに雇われている 傭兵達の離散が予想よりはるかに少ない。レコンキスタ貴族の離反も少ない。 その上内通貴族からの情報がさっぱり入ってこなくなった。 (「上のほうのかなりが心を操られているのか? だとすればかなり厄介だ。」) と啓太は考えている。しかも、後ろに控えるサウスゴータには 運び出しきれなかった兵糧が充分あり、街を奪い返されてしまった。 現在兵糧の輸送が行われている。妨害部隊を出してはいるが、どうなるか。 そしてスコッチ城は防御のしやすい都市だ。 市民兵を集められでもしたらさらに厄介な事になる。 それでも、やるしかないのだ。策は、まだまだ尽きていない。 「すでに我が方の地上部隊はアルビオン軍と共に陸上を移動しつつあり、 今日の夕方にはスコッチ城近辺に展開予定です。 また、アルビオン本国艦隊、地上軍に輸送船を差し向けて補給を行っており、 明日の決戦に必要な物資は充分、感謝するとの返書を受けております。」 啓太は、黒板にチョークで図解し、明日の戦略をいくつかの想定ごとに書き、 いずれの場合でも主だった者達が間違わずに動けるよう入念な説明を行った。 質疑応答の時間も随時とり、間違いや見落としがあれば随時変更を加えていく。 しばしの時間の後、少なくとも前日としては最高の意思疎通が図られた。 「さて、問題はこの後です。」 一同は、又も怪訝な顔になった。ド・ゼッサールが質問する。 「この後といっても、勝利の後は宴をはって祝うのではないのかね?」 「さすがですな、ド・ゼッサール殿、満点の答えでございます。」 啓太は、にこりと笑った。 「ですが、それは軍人としての採点であれば、でございます。」 啓太は、顔を参謀の表情から教師の表情へと変えた。 「そも戦争とは政治的問題解決手段の一つに過ぎませぬ。話し合いでどうしても 合意妥協できぬ相手、解決出来ぬ相手に力ずくで要求を飲ませる手段です。 そして政治とは国家の経済活動を円滑に発展させるために存在するのです。 貿易によって足りないものを買い取り、余ったものを売ってやれば物価が安定する。 生産性が良くなり下層の国民が豊かになれば経済が活性化する。 生産、輸送、売買が活発になれば税は増え、貴族は豊かになる。 もちろん、領地が増えればそこからの収入が増えるのでより豊かになる。 これらを推し進めて貴族の収入を増やすことこそが政治の目的です。」 啓太は、普段公の場ではけして言われぬ統治の核心をずばりといった。 名誉在る戦いと慈悲と賢明さによる統治。美化され、糊塗された本質をさらした。 身もふたも無い言い方であるが、統治を学ぶ者は知るべき真実である。 「すなわち戦争とは商売のための交渉手段が一つ、ともいえるのです。 であれば戦争をするからには儲けねばならず、赤字を出すなどもってのほか。 政治的背景を考え、必要な戦果と費用対効果を推し量って、戦争の後どうなるか、 と常に考えねばなりませぬ。」 軍人達が、納得の顔になったり、興味なさそうになったりと千差万別の顔をしていた。 対して政治家の分類に入る思考を持つものたちは大いにうなずいている。 「我々は、風石と硫黄を初めとする秘薬や兵糧などの軍需物資、金貨を大量に 手に入れました。ですが足りません。姫様が救援に来た以上領土を奪うはならぬ、 それでは道義に外れると難色を示しておられますしね。 よって私はここに、史上最大の戦利品を手に入れるための作戦を提案したい。」 啓太は、アンリエッタの顔をひたと見つめた。 「姫様には、体を磨き上げ、着飾って戦勝の宴にご出席いただき、 プリンス・オブ・ウェールズ殿下よりプロポーズの言葉を引き出していただきたい。 そして、戦勝の宴をそのまま結婚式の宴とするのです!」 「「「「な!!!」」」 一同、絶句した。 啓太の計画の意味を、皆の脳味噌が理解するまでの間に、説明を続ける。 「勝ち取る戦利品はすなわち未来の王! トリスティンが失って久しい国家の要、 女王の隣に立つべき国王を、姫様の美貌を武器として手に入れていただく。 そして、両国ともただ一人しか正当な継承者がいない以上、いつかアルビオンと トリスティンは一つとなり、水と風の連合王国が誕生する事になる!」 すでに立つ事すら間々ならぬといわれるジェームズ一世が崩御した暁には。 啓太はアルビオン系艦長達の顔を見渡した。 「我らはレコンキスタの占領する領土を数多く解放しました。普通ならそれは 占領した者、開放した者の領土であり、トリスティンの物となる。 姫様は渋い顔をなさいますがそれが通常。これだけの軍を動かし犠牲を払い、 領土の一つも得られないとなれば逆に姫様の責が問われましょう。 王子の持参金として、一部領土を、という申し入れをした場合、 ジェームズ一世陛下はどのようにご判断をなされると思われますかな?」 彼らアルビオン貴族は、“アルビオン王女”アンリエッタの元で戦いながら、 常に領土を失う不安を抱えていた。しかし。ウェールズ王子の持参金ということは、 彼の直轄領として機能することを意味する。これは両国の仲が険悪となり、 離婚ということになればアルビオンに領土が復帰することを意味する。 王子が二人以上生まれれば、片方にアルビオン王として立ってもらい、父王から 領土を継承した、という形でアルビオン領に復帰させることも出来る。 できずとも2代に渡ってアルビオンの血を受けた“アルビオンの王子” の所領となるだけ。血脈でトリスティンを乗っ取ることすらありえるという 願っても得られ無い素晴らしい提案だ。しかし、これにまともに答えるのは僭越だ。 促されたサー・ヘンリー・ボーウッドは、慎重に答えた。 「わたくしは軍人、そのようなことを判断する立場にありませぬ。 ですが、お二人のご結婚に関しては、真におめでたいと感じる次第であります。」 これで彼らは、充分な根回しに動いてくれると思われた。 啓太はトリスティン貴族達の顔を見渡した。 誰もが、実にうれしそうな顔をしている。王太子の持参金となれば 広大な領土が得られる。王太子の直轄領とはいえ、戦争で貴族の減った アルビオンなら人材が枯渇しているだろう。領主としてトリスティン貴族を 滑り込ませるのは容易だ。貧乏貴族あるいは次男三男以降で軍人として安月給で 働くしか生きる道の無かった彼らが爵位持ちとなる道筋が示された事になる。 そして、最前列に座るアンリエッタは。 「ケータ殿、素晴らしい妙案ですね。わたくし、がんばってみるつもりですわ。」 事前に聞かされていて心積もりしていたとはいえ、衆目の前で公にされると また格別だ。アンリエッタは真っ赤な顔でこの上なく満足そうに微笑んだ。 啓太は、マザリーニを中心とするロマリア神官達を見た。 偽ロマリア艦隊の体裁を整えるために乗り込ませた彼らは、浮き立っている。 「挙式の際には、是非とも皆様にご尽力いただかねばなりませぬが、 ご了承願えますかな? 無論、取りまとめはマザリーニ枢機卿にお願いしたい。」 事前に相談を受けていたマザリーニが、冷静な目でうなずいた。 「無論です。戦場ゆえ満足な式は挙げられませぬが、なに、方法はあります。 荘厳かつ質実剛健な式を取り仕切って見せましょうぞ。」 「お任せあれ!」「見事な式にして見せましょう!」「大任じゃな!」 名目上とはいえ艦長として幾多の手柄を立てた上に華やかな式典を取り仕切る。 彼らロマリア系神官達の目には、栄光の未来と寄進の山が見えていた。 啓太は、ゲルマニア武装商船団の船長達を見た。 彼らは、巨大な儲け話が目の前にあることに気づき、舌なめずりをしていた。 「結婚式は戦場でやる以上戦勝の宴とさして変わらないものになりますな。」 「はい。ですので、落ち着いたら披露宴を別に行う事を提案するつもりです。」 「(儲け話を目の前に積んでくださるか!)物資の調達はお任せくだされ。」 「万難排して必要な物を調達しましょう。(両王家に取り入るチャンスだ!)」 「おお、お引き受けくださいますか。実に頼もしい、ありがとうございます。」 強大な軍事国家となるトリスティン=アルビオン王国がゲルマニアを圧倒し、 さらに領土を大きく広げようとするかもしれない。 しかし彼らは気にしていなかった。ゲルマニア皇帝にとっては災難だろうが、 彼ら商人にとっては好機だ。今回の手柄を武器に連合国の商人として軍需物資を 供給して勢力を拡大すれば良いだけだ。ゲルマニアはもともと成り上がりの 寄り合い所帯、一体感の希薄な国なのだ。キュルケは、うっそりと笑っていた。 啓太は、ガリア義勇傭兵艦隊より打ち合わせのためにこちらに来て、 ただ一人会議に参加しているタバサを見た。 タバサは、啓太がここまでしてくれた事に感動していた。 (「両国が合併すれば、なんとかガリアに対抗できないこともなくなる。 ゲルマニアやロマリアが牽制をしてくれるのが前提とはいえ、正面からガリアと 戦うことも可能。ほんの数日でここまで状況が好転するなんて!」) タバサは、無言で立ち上がると、啓太に向けてお辞儀をした。 一同を見渡した啓太は、問うた。 「偉大なる指揮官、勝利の女神の化身、アンリエッタ姫殿下を女王と仰ぎ、 アルビオン本国艦隊総司令官として活躍するウェールズ殿下を国王と仰ぎ、 いずれはアルビオン=トリスティン連合王国国民となる事に賛同するものはいるか!」 「「「「「「諾! 諾! 諾! 諾! 諾! 諾!」」」」」」」 すさまじい拍手と口笛、軍靴踏み鳴らす足音とともにシュプレヒコールが 部屋を満たした。全員総立ちである。 「明日、勝利をアンリエッタ姫殿下の名の下祝おうぞ! トリスティン、万歳!」 「「「「トリスティン、万歳! トリスティン、万歳! トリスティン、万歳!」」」」 「アルビオン、万歳!」 「「「「アルビオン、万歳! アルビオン、万歳! アルビオン、万歳!」」」」 この後、啓太はアンリエッタ姫の部屋で男を追い出すと、説明を行った。 「明日から3夜はウェールズ殿下を離しませぬ様、心してくださいませ。」 新婚となるのだから当然睦まじく過ごすのに? と疑問を呈するアンリエッタに、啓太は東方の秘占儀だといって、オギノ式で 計算したアンリエッタの受胎確率の高い3日間をもっともらしく伝えたのである。 ちなみに、姫の生理周期はルイズに調べさせた。 姫の女官として、姫が体調を崩される周期を知っておかなければならない、 とうまいこといって、姫様付きの女官達から聞き出させたのだ。 目的はもちろん、コマした姫様と効率よく子供をこさえて愛人(できれば国王) の座を不動のものとするためである。 これが、別の男相手ではあるが非常に役立ったわけである。 こうして啓太は、姫様に 「是非ともお風呂に入らなければならない!」 と思い込ませたのである。早速バスタブの手配をと騒ぎ出すルイズに、 啓太は待ったをかけた。 「それはちと無理がある。」 「え、なんでよ? 姫様がご入浴なさるだけなら充分でしょ?」 「何を言ってるんだ、ここにお姫様が4人も揃ってんだぞ? それで済むもんか。」 (中略) 「じゃあどうするのよ? 危ないから港の宿でお風呂に入るのは無理なんでしょ?」 「うん。その通りだ。つい先日まで敵地だった故に地の利が悪すぎる。 老舗故に宿の内部構造が敵によく知られていて、モグラ戦法なり抜け穴なり 隠し部屋なりで侵入や工作をしやすい場所で姫様を無防備な裸にする なんてとんでもない。警護をする武闘派女官もいないしな。」 「ブトウハ女官って何、ケータ?」 「私も始めて聞くわね。何なのダーリン?」 「要するに護衛役もできるように戦闘メイジとしての訓練を積んだ女官だ。 男じゃあ女性を護衛できない場所や場面がどうしてもあるだろう。 …そうか。女官は戦闘訓練なんて積まないのか。つまり姫様のご入浴時の護衛は 元からいないと。道理で止めるはずだ。そうなると、やっぱりあれしかないか。」 「あれ?」 ルイズの問いに、啓太が説明した。 「浴場を荒野のど真ん中に一から建てる。それも数時間で。これなら 地の利の差は無いも同然。新しいから内部構造は探られようが無い。荒野だから 地上や空中から近づけば一発でわかるし、モグラ戦法で穴を掘ろうにも 時間がかかりすぎて無理だ。やっつけ仕事で装飾なんかはほとんど無い、 質実剛健な作りになるけど、たった一度のご入浴のために浴場を建てるなんて 贅沢もまず無いだろうからその辺りでグダグダ言う権威主義者も黙るだろう。」 そういうと、ルイズからアンリエッタに向き直った啓太は請合った。 「建設に従事した者達が周囲の警戒もしますので、安全性は保障できます。」 女性陣は、ぽかんとして啓太に聞いた。本当に出来るのかと。 すでに段取りを万端整えていると胸を張る啓太に、女性陣は反対できようも無く。 啓太の要求した極ささやかな褒美、すなわち建設に従事した者達に二番風呂を許す、 との許可はすぐに下りたのであった。 「何とかできたね、これも兄さんのおかげだよ。」 「いつでも頼れ。俺はお前の兄なんだからな。」 ギーシュ・ド・グラモンとルルーシュ・ド・グラモンは、完成した浴場を 見上げて肩を組んでいた。お互い土ぼこりで薄汚れ、へろへろに疲れている。 しかし、その顔はやり遂げた爽快感に満ち溢れ…もとい、これから得られるだろう すばらしい“ご褒美”を想像して欲望にぎらついていた。 本来なら一生一度すら得られぬであろう千載一遇の好機、期待するのもわかるが、 ドットで二股がばれて恋人に振られ、いまだよりを戻しきれていない ギーシュはともかくとして、トライアングルで王軍の高級士官たるルルーシュが なぜ欲望をぎらつかせてこんなところにいるのは大いにナゾである。 聞いてはいけない。特に本人に直接聞くのはタブーである。そっとしておいて あげなければならないので説明は省略だ。けして妹のナナリーは関係ない。 小型のスループ船が荒野のど真ん中に建てられた浴場へ向かって移動してくると、 いくつもの美しい花が飛び降りた。白銀のマントをまとった白百合、アンリエッタ。 襟だけ赤い青と白のドレスをまとった青い水仙花、シャルロット。 黒と緑を基調としたドレスをまとった桃幻花、ルイズ。 真紅のマントとスカートをなびかせた大輪の赤い薔薇、キュルケ。 おまけに元気一杯黄色のキュロットスカートとツインテールの犬神ともはね。 一泊の間をおいて男たちの間から「「「おお~~」」」とどよめきが走る。 次いで姫様達が地に降り立つと、浴場の前まで人垣がざざっと割れ、 素早く整列が行われる。玄関前に待っていた啓太から号令がかかった。 「一同、姫様方に、捧げ~杖!」 ざっと全員が杖を構え、直立不動の姿勢になる。 アンリエッタ、シャルロット、ルイズ、キュルケ、ともはねという順番で お姫様方が静々と歩む。この順番は何の打ち合わせもなく、極自然にそうなった。 居並ぶ男たちはシャルロットが通り過ぎると杖を下ろし、キュルケが通り過ぎると 顔を正面入り口のほうに向ける。これもまた極自然にそうなった。 啓太が出迎え、施設内を一通り案内する。 「左右のテントは作業のために設置したものです。後で将軍や士官方を お入れする際にはこちらで順番をまっていただくつもりです。 入り口は念のため青銅製の分厚いものにしました。トライアングルの固定化も 施してあります。外壁もかけてありますがラインどまりです。 こちらが玄関ホール、左右の入り口が脱衣場へのドアです。 女性用と男性用に分けましたが、浴室そのものは時間の関係で一つのみです。 まあ、姫様方が1回使うためだけに脱衣所を別に作ったということです。 (中略)こちらが女子脱衣室です。トイレは一つのみですがご容赦ください。 ロッカーはそれぞれ専用のものをご用意しました。紋章を施してございます。 お着替えもご用意させていただきました。ダストシュートはこちらです。(中略) 伝声管はこちらも含めて給湯室に通じておりますので、御用の際はなんなりと お声をおかけください。返事はこちらの管から(後略)」 4人とも、装飾までは施されていなかったものの小さな邸並の浴場に大満足した。 ちなみにともはねは一人だけ護衛兼お背中流し係ということになっている。 しかし、事実上世話を焼かれるのはアンリエッタのみだ。他の3人は トリスティン魔法学院で身の回りの事を自分でできるよう学んでいるし、 アンリエッタには女官のルイズが、シャルロットにはキュルケがついているという 体裁にすることも出来るのであるから本来不要なのである。 啓太は、念のため杖を浴室内まで持ち込むように頼むと、 「では、ごゆっくりどうぞ。」 と言い残して退室した。 4人の美姫達はきゃあきゃあ言いながら浴依に着替え始めた。 やはり女性、お風呂はうれしいものだ。ずっと我慢していたのならなおさらである。 「ふ~~ん、そこそこの浴依ね。戦争中に手に入れたにしては、だけど。」 とキュルケ。 「姫様にはちょっと。紋章の一つも刺繍してないなんて。」 「いいではありませんの、ルイズ。これで充分ですわ。それよりも明日のために。」 とルイズをたしなめるうっとりしたアンリエッタ。 「替えの下着は、さすがに上等。」 と用意してあった紋章付きの下着を確認すると着替え始めるタバサ。 キュルケの肉感的極まりない豊満で扇情的な肢体が、アンリエッタの豊かで 清楚な肢体が、ルイズの…あ~~~、えっと引き締まった肢体が、タバサの 幼い肢体がドレスの下から露になり、ついで裾がなまじなミニスカートより短く、 脇が空きまくって体を洗うために手を入れやすいように設計された浴依に包まれる。 丁度程よいサイズの浴依がロッカーの中に入っていた。 ともはねは時折手伝ってと言われたときのみだれかれと無く手伝っている。 マロちんはここでお留守番だ。暑いのが苦手だからである。 皆はタオルを取ると浴室へ移動した。ともはねは各人が脱衣かごに入れた下着を かごごと重ねてダストシュートに放り込み、タオルや石鹸セットを持って 浴室に入った。こちらは着替えない。湯女役だからだ。 その頃。 「おい、蓋は閉まったな?」 地下で、ひそひそ話す声がした。 「下蓋も閉めろ。隣室に移動するんだ。」 「うん。」 そして。無駄に防音を施した地下の隣室に移動した脱衣かごを持ったクラブ員は。 静かだか熱烈な歓迎を受けた。 「よ、よくやった!」「こ、これが姫様方の脱ぎたてほかほか下着!」 「ううう、す、すばらしい!」「ケータ君、あなたすごすぎるよ!」 「ふ、俺に惚れるなよ。」 「こここ、これ、触ってもいいのか!?」 「おう、くじの順番どおりにな。喧嘩するなよ。」 「に、匂いを嗅いでも!?」 「おう、くじの順番どおりにな。喧嘩するなよ。」 「ああああ、あまつさえ顔に被っても!?」 「おう、くじの順番どおりにな。喧嘩するなよ。」 「ここここ、これが女性の!」「ううう、見てるだけで立ってきた!」 「俺も!」「お、俺もうしんぼうたまらん!」 「別にかまわないがたこ部屋か男子トイレでやれ。男子トイレは脱衣場から入らず 必ず玄関ホールから入れ。脱衣場に足を踏み入れたら覗きと誤解されかねん。」 ちなみにたこ部屋は本来イカ部屋とでも呼称するのが正しいのだが(検閲削除) 「りょ、了解!」「行ってきます!」「仕切りの無いたこ部屋よりトイレに!」 ダッシュする者が多数出た。ちなみに先頭は金でアンリエッタの下着1番の権利を 買い取ったルルーシュ・ド・グラモンだったりするのであるが、トライアングルで 王軍の高級将校である彼がなぜそこまでするのかは深く聞いてはいけない。 けして妹のナナリーは関係ない。 さてその頃、アンリエッタ達はお風呂で寛いでいた。 「姫様、薔薇の香料をもっと入れますか?」 「充分よ、ともはね。」 リラックスした顔で返事をするアンリエッタ姫は、髪をたゆたうようにお湯の中に 広げてぷかっとお湯に浮いていた。顔はお湯の外に出ているわけだが、 当然というかなんと言うか、その豊満な二つの丘とその頂も薄い浴依の(検閲削除) 覗いている男がもしいたら鼻血をジェット噴射して失血死間違いないだろう。 しかし苦い経験の在る啓太が厳禁事項だと懇々と諭したため、不心得者はいない。 「は~~いい湯ね、タバサ。」 「(無言でコクリ)」 こちらは普通にお湯に浸かっているキュルケとタバサである。 お湯の揺らぎと浴依でその肢体はほとんど見えない。 しかし胸の上部や滑らかな肩等はお湯から出ており、薄い浴依越しに見て取れる。 水着で泳ぐことすらネタのかたまりのコンシューマゲームか一発ネタのイラスト でしかありえ無いハルケギニアにおいて、これだけでも結構そそる光景である。 「姫様、お湯加減はいかがですか?」 「ありがとう、ルイズ。丁度いいわ。」 「じゃあちょっとお湯を止めたほうがいいですね。」 ともはねがすいっと宙を飛んで伝声管に取り付き、蓋を開ける。 「丁度いい湯だそうですので熱いお湯を止めてください。」 「了解しました。」 伝声管からややくぐもった返事が来ると、ややあってお湯が止まった。 この浴室の間取りだが、北側に大きな浴槽が部屋の幅一杯にある。 浴槽が終わる所からは体を洗うために給湯口が東西の壁に沿ってずらりと並ぶ。 蛇口とコックは無いので、熱いお湯を流す溝と冷たい水を流す溝があり、 そこから樋でお湯や水を桶に入れる仕組みだ。樋の口は木の板を上下させて 開け閉めする方式で、当然ながら完全に閉めることは出来ない。 しかしハルケギニアであれば充分なギミックだ。何しろその場で水とお湯を 両方汲めるのだ。普通は浴槽からお湯を汲み、熱いときは水を張った大きな桶から 水を取る程度でしかない。まあ、使用人を雇える貴族かブルジョアしか お湯を貼った浴槽でお風呂に入る等という事は出来ないので、 その程度で充分という意味でもあるのだが。 南側の壁の左右には脱衣室への扉がある。曇りガラスが填められており、 覗きをするものなどがいれば即座にわかるようになっている。 東西の壁に設けられた明り取りの窓も分厚い曇りガラスでサイズは小さく 人が侵入する事が出来ないと同時に外部からの狙撃に対処している。 「タバサ、いらっしゃいよ、体洗ったげるわ。」 「(無言でコクリ)」 キュルケが浴槽から立ち上がって誘うと、その豊満すぎるほどの双丘とY(検閲削除) タバサの若いというより幼い(検閲削除)紋章付きの風呂用椅子に腰掛けた 二人はお互いに体を洗い、背中を流し合った。当然ながらそれは お湯を吸って肌に張り付いた浴依の隙間から石鹸をつけて ぬるぬるしたタオルと手を入れて(検閲削除)ということでり(検閲削除) それに誘われたかのようにアンリエッタとルイズが(検閲削除) 二人はキャーキャーいいながら戯れるようにして(検閲削除) ちなみに、浴室の声は伝声管の給湯室側の蓋を開ければ丸聞こえになる。 あるいみ非常に生々しいその会話は、特に本人達のご容姿を良く知る男達、 すなわちくじに負けて地下ではなく給湯室で待機していた連中にとって、 鼻血をジェット噴射して失血死間違いないだろうほどにすばらしいもので、 給湯室を飛び出し、トイレやたこ部屋に駆け込む者が続出したりしたのであった。 「いい湯でしたわ、ケータ殿。」 「恐縮にございます、アンリエッタ姫。」 「それでは私たちは戻ります。」 「は。では、我々はこの後少し掃除をした後二番風呂を使わせてもらいたく 存じますが、かまいませんでございましょうか。」 「ええ、もちろんですわ。」 「ありがとうございます、アンリエッタ姫。」 こうして、アンリエッタ達は大満足してスループ船に乗って帰っていった。 アンリエッタ達を見送った啓太達は。 「よし、計画は第5段階に突入する。者ども、かかれ!」 「「「「サー・イエス・サー!」」」」 男たちが即座にてきぱきと動き始めた。 ちなみに。 人を募集したり設計図を用意したり場所の選定をしたりした準備が第1段階。 姫様達をたきつけて誘導、浴場建設と2番風呂の許可を得るのが第2段階。 目的達成のためにとても都合のいい浴場を建設するのが第3段階。 第4がご入浴中の役得を堪能することである。 テントの中から、いくつもの大きな樽が運び出された。 テントで順番待ちしている士官などへ供出するワインを準備している、 との名目で積んでおいた樽の中に隠しておいたのだ。 てきぱきと運び込まれたいくつもの大樽に、浴漕のお湯が一杯にくまれた。 「よし、売却用のお湯は充分汲んだ。後は好きにしていいぞ。」 「「「サー・イエス・サー!」」」 女日照りの続いていた薬草クラブ員男子達は浴槽に殺到した。 「ああ、なんていい匂いなんだ!」「こ、これが姫様達の匂い!」 「スーハースーハー」「スーハースーハー」「スーハースーハー」 「スーハースーハー」「スーハースーハー」「スーハースーハー」 「スーハースーハー」「スーハースーハー」「スーハースーハー」 お湯に入れた薔薇の香料の匂いをいつまで吸ってんだと突っ込んではいけない。 「そそそそ、それではちょっと一杯最上の白湯を!」「俺も!」 「お、俺も!」「ぷは~~~、う、うまい!」「神の飲み物ネクタルだ!」 「今まで飲んだどんな美酒よりうまい白湯だ!」「うむ、格別だ!」 「なまじな蒸留酒より酔いそうだぜ!」「すでにベロンベロンだよ!」 一応、人は強い感動などでも酔ったような状態になる事があることを記載する。 「そ、それよりも姫様が生尻で座った椅子!」「ほおずりほおずり。」 「俺もほおずりほおずり!」「ほおずりほおずり。」「ほおずりほおずり。」 「お、俺はやっぱりキュルケ嬢の!」「あの胸はすごいよなあ。」 「ほおずりほおずり。」「ほおずりほおずり。」「ほおずりほおずり。」 「ほおずりほおずり。」「ほおずりほおずり。」「ほおずりほおずり。」 「俺はあの氷の美貌たるシャルロット姫の椅子を!」「俺はルイズだ!」 「タバサはさすがに幼すぎだよ。」「ルイズくらいが丁度いいよな。」 「君たちはわかっていないな。」「紳士たるもの胸に惑わされずにだな。」 「うむ、あの青い髪はなんとも言えず…」「ちっぱいは偉大だ!」 ともはねに触発されてロリコンになってしまった多数のクラブ員が 長蛇の列を作っていた。そしてこのロリコンたちは皆啓太の弟子である。 「胸の大きさはやはり男の本能で!」「胸のいいキュルケの椅子だよな」 「いやいややはりだな」「それより俺は」 皆思い思いのお目当てに夢中である。変な談義も始まっていたりするのであるが、 別室にダッシュする者が多数なのは先ほどまでと同じである。 こうして。啓太は、薬草クラブ男子の尊敬と人望をさらに集め。 それまで面識のなかった実力者達とのコネを作るきっかけをも得たのである。 この後には、姫様達を旗艦まで送ってきたともはねのシャンプータイムである。 幼い体とはいえ女性の生裸体を間近で堂々と見れる。その手の事にうとく、 恥じらいというものをまだ知らないともはねは、まったくの無防備であられもない 姿を無邪気且つ惜しげもなくさらして一部の男子達に強力なインパクトを与えた。 ともはねは今回のシャンプーで、多数の男性達の陰性だった幼女趣味やケモノフェチ 属性を陽性にしてしまうという罪深い事を意識せずに達成したのであった。 赤道斎のマントの呪いは深く、啓太の周りにいるものたちをどんどん変態として 嗜好改造(思考改造にあらズ)してしまうようなイベントが頻発していた。 地球と同じく、啓太を慕う変態紳士が群れ集い、あるいは発症しつつあった。 そして当然のことながら、啓太からしばしばマントを借りていたアンリエッタの 周りにも、変態紳士が増えていたのであった。 その大多数が戦争が終わると共に学院に帰るため、啓太ほど多数が 周りに増えるのでない点は、啓太と違ってたまにしか着ない分、増しな点である。 さてその夜のことであるが。 今回手に入れた姫様汁入りのお湯や使用済み下着、使用済みタオル、 使用済み浴依等を、啓太達は高額で艦隊将兵達に密売。褒美をもらって 懐のあったかい男たちは高額でこれを購入。膨大な儲けを得る事になる。 後に啓太は雑貨屋チェーンをハルケギニア中に展開し、 収入源と情報源とすることによって一大勢力を築くのであるが。 「ほう、“あの”ケータ殿系列の店を出したい?」 「ええ、ご領主様。もちろんご許可をいただければ例の方面の商品も お取り扱いいたします。」 「ほう! 性なる伝道師、エロアイテムのエンパイヤ、変態道のオーソリティー と呼ばれたケータ殿の店が! つまりはその手のグッズが手に入りやすくなると!」 と、出店をスムーズにするのに大いに役立ったり。 逆に蛇蝎のごとく嫌われて出店が不可能な地域が出来たりしたのであるが。 それはまた、先の話である。 おまけ: 「お姫様が4人? 二人じゃないのですか、啓太様?」 ともはねが、ちょこんと首をかしげて疑問を呈した。 「お。わからないか、ともはね。いい機会だ、ちょっと教えておくか。」 歴史が得意な啓太は、社会システムについて簡単に教授することにした。 「ともはね、昔日本の江戸時代や戦国時代で、大名の娘はお姫様といったか?」 「はい啓太様、お殿様の娘ならお姫様です。」 「うん、正解だ。けど、日本国の王様の娘じゃないのにお姫様だよな?」 「それは、お父さんが一国一城の主ですから…いっこく!?」 「そうだ。日本という国の中にまた国がある。語弊を恐れず言えば、 大名領が一つの国だ。なぜなら独立した統治権と立法権、軍事権、徴税権、 裁判権等を保有しているからだ。これは立派に国として通用する社会システムだ。 藩札といって、お札の発行もしていたりする。戦国時代なら本当に独立してた。」 ともはねがふんふんうなずく。 ムジナのマロちんもうなずいているが理解しているかははなはだ怪しい。 「徳川幕府を開いた徳川家も、元は一大名だった。うまく同盟を組んだり 手下を増やしたり、なにより関白豊臣家をうまく翻弄して全国の大名を従わせた。 そして、征夷大将軍に任命され全ての大名達のまとめ役になった。 将軍職を朝廷に返上した後はまた普通の大名に戻った。 全国統一していた頃の徳川家が、西洋で言う国王に相当する。 対して、大名が伯爵に相当する。大名領が西洋での伯爵領に相当するんだ。 王様ってのは、伯爵(=大名)連合のまとめ役の大伯爵(=大大名)でしかないともいえる。 伯爵ってのはある意味格の低い王様で貴族の基本となる爵位なんだ。 現に、公国、候国の例がるのは当然として、トリポリ伯国、エデッサ伯国 ねんて例もある。伯爵領程度で一国を構えられるほど軍事力の在る 場合はほとんど無いから、大抵は伯爵連合を組んで国王を立てるんだけどな。 侯爵ってのは強力な伯爵、公爵は王家の傍流の伯爵、子爵は伯爵の長男。 男爵は村の一つも治めていればいいような伯爵の庇護下に在る下級貴族。 準男爵は男爵に準ずる者でしか無いからさらに下。 騎士は土地を持たないか持っていても地名を個人として占有できない者。 さらに爵位持ち貴族の親族であるだけの平貴族、というのが主な分類だ。 さてそこでだ。 トリスティンで絶大な権力を持ち、王家の傍流である公爵家の娘であるルイズ。 成り上がり帝国の中でヴァリエールに対抗できる程の家の姫、キュルケ。 この二人もまた、立派なお姫様なんだよ。 シャルロット姫とアンリエッタ姫を合わせれば4人なんだ。」 「なるほど。わかりました、啓太様。 前ページいぬかみっな使い魔
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第九話 「泥棒!」 駅前に、女性の叫び声が響きわたった。 声の主はまだ若い、二十代くらいの女性だ。 見ると、バイクに乗った少年が、馬鹿にするようにハンドバッグを掲げていた。 少年はそのままバイクで走り去ろうとしたが、横から何者かに飛び掛られ、バイクごと転倒。そのままバイクから投げ出された。 「くそっ、なんだよ!」 毒づいた少年の目の前で、飛び掛った何者かがバイクを踏みつけて仁王立ちしていた。 太陽を背にしていたため、金色の髪が輝いて見えた。 中性的な顔立ちで、意志の強そうな目をした女性だった。その瞳はまっすぐに少年を見下ろし、睨みつけている。 凛とした、力強い声で、彼女は少年を怒鳴りつけた。 「それを返せ!」 少年はバイクを捨てて、踵を返して逃げ出した。片手にハンドバッグを提げたままだ。 「待てぇっ!」 金髪の女性は叫ぶが早いか、逃げた少年達を追いかけた。 追いかけっこが始まるが、もともと身体を鍛えるなんてことなどしていなかった少年はすぐに息が上がりペースが落ちる。 逆に女性の方は全くペースが落ちることなく、簡単に追いつく。 へたり込んだ少年に歩み寄る。女性は息も切らすこともなく、少年に詰め寄った。 「もう逃げられないぞ」 「こ、この!」 少年が殴りかかるが、息が上がっているせいか全く勢いがない。 女性はそれを軽くかわし、足をかける。いつの間にか周りに出来ていた人だかりから、歓声が上がった。 一方、少年は無様に背中から倒れた。周りからくすくすと忍び笑いがもれる。 それを聞いた少年は激昂し、折りたたみ式のナイフを取り出した。 「なめんじゃねえ!!」 叫びながら少年はナイフを腰だめに構え、突進してくる。 彼女はそれをかわそうと後ろへ下がる。だが、足元に段差があり、彼女はそれに引っかかり、足を踏み外した。 そのまま彼女は尻餅をついてしまう。少年は哄笑し、彼女の目の前に立ちふさがった。 「はははっ!馬鹿にしやがるからだ!」 そこへ、ナイフが振り下ろされた。彼女自身ではなく、周りの人だかりの中から叫び声が響いた。 周りの群集のギャラリーの中で、何人の人間が見ることができたのだろう。 少年自身も何が起こったのかは分からなかったに違いない。 ナイフが女性に突き刺さろうとしたとき、突如としてどこからともなくジェラルミン製の銀色のケースが少年めがけて飛んできた。 ジェラルミンケースは女性の顔を掠め、少年の顔面に直撃する。 鈍い音がして、少年はナイフを取り落とし、そのまま昏倒した。 ナイフが地面に落ち、かちゃりと音がした。 群集が気付いたときには、既に少年は仰向けに倒れ、気を失っていた。 少年の頭の方に、銀色のケースが転がっている。 それを見た女性は後ろを振り返り、嬉しそうに叫んだ。 「アス……アレックス!」 アレックスと呼ばれた藍色の髪の青年が彼女に駆け寄る。 顔の半分がサングラスに覆われているが、それでもはっきりと分かるほど不機嫌そうに彼女を怒鳴りつけた。 「カガリ!何をしているんだ!」 「いや……、これは……」 口ごもるカガリの目の前で、アレックスと呼ばれた青年は気絶した少年からバッグを取り上げた。 そしてそれを、群集の中にいた持ち主の女性に渡す。 「どうぞ」 「あ……ありがとうございます」 あっけに取られた女性は、そう返すのが精一杯だった。 そのままアレックスは銀色のケースを拾い、カガリの元に戻っていった。 そして小声で彼女に呟く。 「さ、行くぞ」 「え?」 「あまり目立つわけにはいかない。分かっているだろ?」 「ああ。すまない」 二人は警備員や警察が来る前に、小走りに群集をかき分けてその場を離れた。 「ああ、重かった~」 紙袋を下ろして開口一番、ルナマリアがぼやいた。 「いくらなんでも、多すぎるんじゃないのか?」 「今考えると……そうかも」 レイとメイリンも、荷物を下ろしながら呟いた。 三人が今日買ったものを下ろす。それだけで、居間の一部が埋まった。 大抵の家具はすでにこの家にあるにもかかわらず、この量だ。 女の子一人の支度にしては、いくらなんでも多すぎるだろう。 この家だから何とか入ったものの、これが普通の学生が住むようなところ、例えば、以前シンがすんでいたアパートだったらまず入りきらなかったことだろう。 「買い物してるときはまだ足りないかもって思ったんだけどね」 「安かったから、つい」 ルナマリアもメイリンも、さすがに反省したように言った。 この中には二人の買い物も多数含まれている。 ルナマリアの持っていた服の多くは自分のものであったし、化粧品に至ってはメイリンのものばかりだ。 レイが呆れてため息をつくのも当然だ。 ただの自意識過剰かもしれないが、やや非難がましい眼を向けられているような気さえする。 メイリンはそれをごまかすように手を叩いた。 「そうだ!マユちゃんの歓迎のご馳走つくらないと」 「そうよね、メイリン!私も手伝うわよ」 ルナマリアは慌てて台所に向かったメイリンに付いていく。 レイは仕方ない、とでも言うように肩をすくめ、同じく台所へ入っていった。 「ねえ、何かないの?」 冷蔵庫の中をのぞいたメイリンがレイに聞く。 「あまりないな。マユちゃんがうまく残り物を使ったようだ」 「そっか。それなら途中で買ってくればよかった」 「あの大荷物を持ちながらか?」 レイは苦笑しながらメイリンに言った。 「あっ、そうよね。それじゃあ、何が残ってるんだろ」 メイリンははっとしたように口を開き、あらためて冷蔵庫の中を物色する。 たいしたものは、つくれそうになかった。 「お姉ちゃん、はいこれ」 「これを買って来いって?」 メイリンがお買い物メモを手渡す。かなりの量がありそうだ。 「うん。でも余計な買い物はしないでよ?」 「分かってるわよ、子供じゃないんだから。じゃ、行ってきま~す」 ルナマリアは手をひらひらさせながら、台所を出ていった。 玄関を出たルナマリアは、まず駐車場に向かった。 普通の乗用車がゆうに二台は停められる大きさだ。しかし、今はここにはバイクが二台だけしかない。 シンのバイクと、ルナマリアの赤いロードバイクだ。そこそこ広い駐車場であるにもかかわらず、二台は互いにすぐそばに駐車してあった。 仲良く語らってように見えて、ルナマリアはなんとなくおかしくなった。 ルナマリアはこの家に住んでいるわけではないが、バイクだけはこの家に置いていた。 以前はルナマリアたちの寮の駐輪場に置いていたのだが、何しろお嬢様の多い寮だ。 駐輪場に停めてあるのも瀟洒な自転車ばかり。その中にこの赤くて大きなロードバイクが置いてあると、まるで蝶の群れにカブトムシが紛れ込んでいるかのような、いっそすがすがしいまでのすさまじい違和感を醸し出していた。 もちろん寮母もそんなことが面白いわけはなく、ルナマリアはよく嫌味を言われていた。どうもあの寮母とルナマリアは相性が悪いらしい。これも寮に居たくない理由の一つだ。 しかし、文句を言われたからといってこのバイクを手放すはずもない。 大体この寮では、ルナマリアは少し浮いた存在だった。メイリンはともかく、ルナマリアはどうしてもお嬢様ばかりのこの寮には順応できないのだ。 駐輪場の中で浮いていたバイクと同様に。 それが、レイの家の駐車場ではシンのバイクと仲良くなじんでいるように見える。 まるで、自分の居場所を見つけたみたいだった。 「ねえ、レイ。どうせならヴィーノたちも呼ばない?」 ふと思いついたようにメイリンが言った。レイは少し考えるようにうつむくが、答えなど考えるまでもない。 「俺は構わない」 マユちゃんがこっちに来たとき、ヴィーノには随分世話になっていたと聞いている。ヨウランとはほとんど面識はないはずだが、これを機会に知り合うのもいい。歓迎会とはそういうものだ。 まあ、メイリンがそういう提案をしたのはおそらくただ単純に、人数が多い方が楽しいということであろうが、反対する理由などない。 ヨウランとヴィーノなら、パーティーを大いに盛り上げてくれることだろう。 「うん。じゃ、呼んでくるね」 メイリンはそう言って携帯電話を取り出し、電話をかけた。 「もしもし、ヴィーノ?あのね、シンの妹にマユちゃんって可愛い女の子がいるんだけど。え?知ってるの? それでね、今度からこっちで暮らすことになって、歓迎パーティーをするんだけど。絶対行く? じゃあ、ヨウランも誘って。そうだよ、人数多い方が楽しいし。うん。そうそう、それでね……」 そのままメイリンとヴィーノは雑談を始めた。結構楽しそうに話している。この調子だと、随分な長電話になりそうだ。電話中のメイリンを放っておいてレイが軽く片づけをしていると、インターホンが鳴った。 メイリンは電話に夢中なので、レイが玄関に向かった。 「はい」 レイがドアを開ける。その向こう、玄関先に立っていたのは二人の男女だった。 藍色の髪でサングラスをかけた青年と、金色の髪の中性的な顔立ちをした女性の二人組。 女性が前に出ようとしたが、サングラスの青年はそれを手で制して前に立った。女性は不満そうにしていたが、青年は構わずにレイに言った。 「突然の来訪を許してほしい。俺の名はアレックス・ディノ。モルゲンレーテの社員だ」 「モルゲンレーテ?オーブの方ですか?」 「ああ」 そこで、業を煮やしたのか後ろに下がっていた女性が口を挟んだ。苛立っているような感じの口調だ。 「ここはギルバート・デュランダル教授の家なんだろう?教授はいるのか?」 「カガリ!」 アレックスがたしなめるように女性を叱り、女性は少し反省したように顔をうつむけた。 どうやらカガリという女性はかなり直情的な性格のようだ。見たところ、アレックスという青年が抑え役に回っているらしい。 マユが来てからはそうでもないが、シンもかなり感情的になりやすい性格だ。すぐに突っかかり、しょっちゅう誰かとぶつかってばかりだった。そんなときはいつもレイやルナマリアで何とかフォローしていた。 そのときの苦労を思い出し、レイは心の中でアレックスという青年に同情しつつ正直に答えた。 「申し訳ありません。ギルバートは今海外で」 「そうか。あの人には是非聞きたいことがあったのだが……」 アレックスが残念そうに呟いた。どうしてもデュランダルと話がしたかったらしい。 レイもさすがにデュランダルの研究の詳しい内容までは知らない。しかし、ここから遠く離れた海の向こう、オーブから足を運んでくるほどだ。よほど重要なことなのだろう。 「立ち話もなんですし、お入りください」 とにかく、わざわざデュランダルを訪ねてきた客人をそのまま追い返すわけにはいかない。レイはアレックスたちを家へと招きいれた。 「そうか。デュランダル教授と連絡は」 「ええ。こちらからは連絡が取れないんです。今は一体どこにいるのか……」 レイはため息をつく。デュランダルは海外を飛び回っており、向こうから連絡してこない限り、本当に連絡のとりようがない。 話が途切れ、沈黙が支配する。なんとなく空気が重くなった。 ちょっとした物音に、三人ともが振り返った。 居間の戸が開いた音だった。いきなり三人に振り返られ、メイリンは驚いたように目を見開いた。 手に持ったお盆の上に、コップが三つ載せられている。 「あ、あの……、紅茶入れてきました」 メイリンは三人の前に紅茶の入った高級そうなカップを置いた。 真っ先にアレックスは目の前のカップを手に取り、口元に運んだ。すばらしい芳香が、アレックスの鼻腔をくすぐった。 「ありがとう。いい香りだ」 アレックスはメイリンに笑いかけた。サングラスに隠されているとはいえ、ハンサムな男性に微笑みかけられたメイリンは思わず顔を赤くした。 レイも黙ってカップを口に運んだ。葉がいいのもあるが、メイリンの淹れ方もいいのだろう。なかなかの香りだ。 そろそろ帰るというので、レイは玄関までアレックスたちを見送りに来た。メイリンもレイに付いて来ている。 「では、次に連絡があったらお伝えします」 「ありがとう。では、頼みます」 アレックスが頭を下げる。結局話し合ったのはレイとアレックスだけで、カガリが口を出すことはなかった。 というより、余計な事を言わないよう、アレックスが喋らせなかったのだ。 次にアレックスはメイリンのほうを向いた。紅茶を持ってきた後にまた話を続けたが、メイリンには下がってもらった。この二人がまともに話すのは、これが初めてだろう。 「君も、美味しい紅茶をありがとう」 「い、いえ。大したことも出来なくて」 「いや、十分だよ。本当に美味しかった。ありがとう」 そう言ってアレックスはまた笑いかける。メイリンは嬉しそうな顔をした。 「では、失礼します。教授によろしくお伝えください」 「ええ。代表もお気をつけて」 「ああ。……!?」 言ってからカガリは、はっとしたように口を押さえた。カガリの反応を見たレイは満足そうに口元を歪めた。 「やはり、気付いていたのか」 アレックスは別に動揺した風もなく言った。分かっていたのだろう。 「はい。そちらも隠すつもりはなかったようですが」 本気で隠すつもりなら、名前を言うわけがない。ただ、ひけらかすとまるで権力で押さえつけているような気がして言いたくなかっただけなのだろう。 ほとんど話すことはなかったが、そういうまっすぐな性格はよく伝わってきた。 「ああ。だが、これはあくまで私的な訪問だ。このことまでは」 「ええ。デュランダルには言いませんよ」 「感謝する」 それだけ言って、アレックスはドアを開けた。 カガリを促し、最後にもう一度だけ頭を下げ、アレックスは出て行った。最後にドアの閉じる音がして、それを合図にしたようにレイは居間の方へときびすを返した。 それについてきたメイリンが、レイに聞く。 「ねえ、一体何の話なの?」 会話の意味が分からない。先ほども何のことかさっぱり分からなかった。 「さっきの話か?」 「うん。代表って……、え!?」 メイリンはそこまで言ってやっと気付いたようだった。 オーブでの代表就任式の様子は「若すぎる女性の代表」という見出しで、当時はワイドショー等で大きく取りざたされていた。その様子を思い出したのだろう。 「ああ。あの人は……」 カガリ・ユラ・アスハ。オノゴロ島事件で死亡したウズミ前代表の娘であり、現オーブの代表だ。 今回のはお忍びの訪問、といったところだろうとレイは解釈した。 「そんなにいいところなの?」 「はい。昔はしょっちゅう家族で海水浴に行ってました。海もきれいで、すごく楽しかったです」 「いいわね。オーブかあ、一度遊びにいってみたいわ」 「はい!是非来てください」 心底羨ましそうなルナマリアの言葉に、マユは声を上げて笑った。 そんな二人の後ろから、やや恨めしげな声がかかる。 「お~い。ちょっと待てよ」 振り向いた二人の視線の先には、両手に買い物袋を下げたシン・アスカの姿があった。 「二人とも少しくらい持ってくれたっていいだろ。重いんだよ」 「持ってるじゃない。ほら」 ルナマリアがフライドチキンの紙箱を見せつける。いかにも軽そうな、小さなものだ。 実際、ルナマリアが持っているのは後から買い足したもので、大した量はない。大部分はシンの下げた買い物袋の中に入っている。 「いや、そんな小さいのじゃなくてさ」 「お兄ちゃん、女の子に頼るなんて情けないよ」 「そうよ、シン。私なんかあの大荷物を家まで担いでいったのよ。それくらい持ってよ」 息のあった波状攻撃に、何も言えなくなってしまう。 シンは諦念を込めた大きなため息をついた。気付くと、二人からやや距離が開いてしまう。シンは追いつこうと急いで、弾みで誰かの肩にぶつかってしまった。 「あ、すみません」 「いえ」 藍色の髪をした、サングラスをかけた青年だった。その隣には、金髪の、おそらく女性であろう連れがいる。 シンはその二人を別段気にかけることもなく、ルナマリアたちを追いかけていった。 アレックスは立ち止まり、つい今しがた肩のぶつかった少年の方を振り返った。 二人の少女に追いつき、何かを言っているようだ。 あいつ……? 別に理由はないが、彼のことがなんとなく気にかかり、目を離すことが出来なかった。 「どうした、アスラン?」 隣にいたカガリが声をかけてきた。それほど、おかしな様子だったのかと自分で気になってしまう。 「いや……、別に」 そうは言いつつも、アレックスはあの少年、シンの様子をもう一度見た。 女の子が、彼の腕にしがみつく。それを引き離しながらも、彼の方も満更ではなさそうだ。そして赤い髪の女性は笑いながらそれを見ている。 三人とも、実に楽しそうにしていた。 「ヴィーノたちも来んの?」 「うん。絶対来るって」 「そっか。来るんだ」 シンの声は心なしか弾んでいる。マユと会えたのも、ヴィーノのおかげだ。それなのにちゃんとしたお礼もしていなかった。ここでしっかりとあらためてお礼をしておきたいのだ。 そして、その気持ちはマユも同じだった。 台所から、メイリンと問答しているマユの声が聞こえてくる。どっちが料理をつくるかでもめているようだ。マユのつくりたい!という声がここまで聞こえる。 そのやり取りを聞いていたシンの顔が思わず緩む。 だが、その一瞬後、彼の顔はまるで別人のように厳しく引き締まった。 「シン、どうかした?」 ルナマリアの声も、耳には届かない。シンはすぐさま部屋を飛び出した。 「ちょっと、シンったら!」 ルナマリアもシンを追いかけようと駆け出すが、後ろから肩を掴まれ、止められた。 「レイ?」 「行かせてやれ」 「は?何でよ?」 レイの含みありげな態度に、ルナマリアは声を荒げた。 「ひょっとして、何か知ってるんでしょう!?何か言いなさいよ!」 レイは黙って首を振る。そうこうしているうちに、駐車場の方から、シンのものであろうバイクの走り去っていく音が轟いた。 もはや、追いつけるわけがない。 「アスラン?」 二人きりのときだと、ついかつての名前で呼んでしまう。 突然歩を止めたアレックスへ、カガリがいぶかしげに声をかけた。だが、肝心のアレックスにはそれを聞いている余裕すらない。その顔がみるみるうちに蒼白になり、表情がこわばっていく。 アレックスはカガリの手を引き、走り出す。あまりに突然の行動に、カガリは驚き、動揺した。 「こっちだ!」 「な、何を!?」 「くぅっ!」 アレックスはカガリの身体を突き飛ばし、自分もその反動で倒れるように地面に伏せる。 一瞬前まで二人のいた空間を、破壊的な力を秘めた強靭な腕が横切った。 MS、ダガーLの右腕だ。 アレックスが察知したのは、これだった。 ダガーLはそのままカガリに襲い掛かろうと彼女に歩み寄っていく。 アレックスは彼女を救おうと横から体当たりを仕掛けた。ダガーLは吹き飛ばされ、その隙にアレックスはカガリを助け起こした。 「あ、ああ……」 アレックスに身体を支えられながらも、カガリは息を呑むしかなかった。 「何で、何でこんな!」 かつてオーブはMSの襲撃により焼かれ、多くの犠牲者が生まれた。彼女の父親、ウズミ・ナラ・アスハも、そのときに死んでしまった。 その後、彼女はアスランを初めとする多くの仲間とともに、悲劇を終わらせるために戦った。 その末にMSは滅び、平穏が訪れた、はずだった。 だが、MSは甦った。 あの戦いは無駄だったのか。そう思うと彼女はいてもたってもいられなくなり、木坂をはじめとする側近に全てを任せ、自ら飛び出した。 全てを自分の眼で確認するために。 デュランダル教授の家へ立ち寄ったのもそのためだ。 その結果、彼女はMSの復活を確認することとなった。ほかならぬ、自らの眼で。 「ここだ!」 ショックのあまり立ちすくんでいた彼女を、アレックスが現実へと引き戻した。 近くの建物へと、アレックスは彼女を押し込む。そして襲い掛かるダガーLをジェラルミンケースで殴りつけた。 ダガーLのひるんだ隙に、アレックスはそのケースへキーを差し込んだ。電子ロックが解除され、黒光りする銃身が眼前にその姿を現す。 「お前……」 「こんなところで、君を死なせるわけにいくか!」 自動小銃CIWS(シウス)、MS用新型弾丸、それ専用に設計されたモルゲンレーテ社製の新型銃で、これはその試作品だ。 本来ならZAFTに納入される予定だったものだが、強引に徴収したのだ。 MSが出現しているということは、調べるまでもなく知っている。ついこの間、独自に調査し、その時点でMS、そして三人目と遭遇していたからだ。 もはやアレックスにかつての力はない。カガリを護衛するためには、必要な力としてシウスを用意した。それが功を奏した形となった。 アレックスはシウスを手に取り、一瞬だけ感慨深げにそれを眺めた。 「また、戦うことになるのか」 だが、そんな感傷に浸っている余裕はない。ダガーLはすぐそばまで突進してきた。 立ち上がったアレックスはかがみこむ。そのまま突っ込んできたダガーLを、背負うように巧みに投げ飛ばす。 さらに既に用済みとなったジェラルミンのケースを足で跳ね上げ、ダガーLの頭部へと叩きつける。 ダガーLは視界を奪われ、一瞬動きが止まる。 その隙にアレックスはダガーLの腹部へ向け、シウスをフルオートで連射した。 新型弾丸が次々に吸い込まれていき、ダガーLの動きが止まる。 もとより護身用に持ってきただけなので、弾数は少ない。すぐに残弾カウンターがゼロを示した。と、同時にダガーLは完全に活動を停止し、仰向けに倒れ、爆散した。 「やったのか?」 カガリが建物から出てくる。アレックスは彼女を安心させようと振り向き、微笑もうとした。 だがその矢先、彼女の体が吹き飛ばされた。カガリはそのまま倒れこんでしまう。 「カガリ!」 アレックスは彼女の元に駆け寄りながら弾倉を交換、新たに現れた影へとシウスを連射し、牽制する。 もう一体いたのか!? カガリは打ち所が悪かったのか、額から血を流し、倒れたまま動かない。だが、今はそれ以上彼女を気にかけている余裕はなかった。 もはや、今交換した分しか弾倉は残っていない。 シウスは取り回しを重視した分、イーゲルシュテルンに比べて小型化することに成功した。しかし、そのおかげで装弾数は少なくなってしまっている。 下手に撃っては、すぐに弾切れを起こす代物だった。 残弾を気にかけつつも、その場に踏みとどまって応戦するアレックスはさらに驚愕すべきものを目撃してしまった。 銃撃を受けるダガーLとは別方向から一体、さらに……。 「三体……だと?」 それらに取り囲まれ、さらに残弾も残り少ない。アレックスの背筋を、何か冷たいものが走る。 絶望的な気分で、カガリを背にしたまま、彼は銃口をダガーLたちへと向けた。 シリウスを駆使し、何とかダガーL三体の猛攻をしのいでいたアレックスだったが、既に残弾は一斉射分程度しか残っていない。 単発で使えば少しはもつだろうが、そんなものではMSに通用するはずもない。 倒れたままのカガリを見捨てて逃げるなど、論外だ。 ダガーL三体は遠巻きに二人を取り囲んでいた。先ほどからのアレックスの奮闘のおかげだろう。だが、用心しているだけだ。すぐに飛び掛ってくるに違いない。 その上、アレックスは他の気配も感じていた。巧みに隠れているが、歴戦の戦いで鋭敏になった感覚はそれすらも察知する。 だが、この場では不安を助長するものでしかない。 それでも、何とかカガリだけでも逃がすことが出来ないかと、アレックスが模索していたそのときだった。 バイクの爆音がこの場に轟いたのは。 「だああぁぁっ!」 目の前のダガーLたちが、次々に撥ね飛ばされる。 撥ねたのは、見慣れない白と青のバイクだった。またがっているのは、四本角で赤い眼の灰色の身体、今までに確認されたものとは随分異なるが、間違いない。その姿はMRのものだった。 アレックスはこのMRにも見覚えがあった。かつて、アーモリーワンで新型のMSについて調査中、当の新型MSに襲われたときに助けられたのだ。 「確か……インパルスと言ったな」 灰色のインパルスはアレックスの方を一瞥することもなく、ダガーLの方へと向き直った。 インパルスはバイクにまたがったまま青へと変化、すぐ目の前のダガーLへと正拳突きを叩き込んだ。顔面を割られたダガーLは仰向けに倒れ、すぐさま爆散した。 残された二体のダガーLは、バイクで翻弄される。数の差などものともしない、機動力を活かした攻撃だった。 ダガーLの苦し紛れに突き出した拳はバイクの上を素通りし、空を切った。 驚いて上を向いたダガーLの視界に飛び込んできたのは、インパルスの拳だった。 既にバイクから跳躍していたインパルスは、降下しながらも拳を振るった。ダガーLはアスファルトを撒き散らしながら、地面に突き刺さった。頭部を地面に埋めたまま、ダガーLは爆散する。 残された一体はやけになったようにインパルスのもとへと突進した。 インパルスはそれに向かって跳躍、ベルトのエネルギーを込めた跳び蹴りをへと放った。 ダガーLはそのまま爆散、インパルスはそれを見届けると、ゆっくりとバイクのもとへと歩いていった。これでMSは倒せたはずだった。 「待て、まだMSがいる。油断するな!」 自分にはそんなものは感じられない。だが、確信に満ちた声は信じさせるのに十分な説得力を持っていた。 だが、何故普通の人間にそんなことが分かるのか。 「あなたは、一体?」 シンが疑問を口にしたそのときだった。 膨大なエネルギーが、インパルスのもとへと降り注ぐ。 それを避けようと跳躍するが、かわしきれずに右肩をエネルギーの波動がかすめた。 「うわああぁぁっ!」 その威力に驚愕しながらも、エネルギーの来た方向へと顔を向ける。 緑色のMSが、長大な砲身のようなものを構えていた。右肩には禍々しいスパイクを生やし、左肩には盾のようなものがある。 ジンやゲイツと同じようなピンク色に輝く一つ目。だが、その姿は今までに確認されたどのMSとも異なっていた。 謎の緑色のMS、ザクは長大な砲身、オルトロスを投げ捨て、インパルスのもとへと跳躍してきた。空中で左肩から斧を抜きざま、インパルスへと振り下ろす。 シンは地面を蹴り、後方へと跳躍して斬撃をかわす。 眼前の空間を薙ぎ、斧がアスファルトを撒き散らしながら地面にめり込む。地面にうがたれた傷跡から、その破壊的な力がうかがい知れる。 一気に斧を引き抜き、切り上げる。 身体をそらしてかわすのが精一杯の、勢いのある攻撃だった。ザクはそのまま斧を振り回し、猛攻を仕掛けてくる。 動きといい、パワーといい、今までに戦ったMS、ゲイツやダガーLなどとは比べ物にならない相手だった。 振り下ろされた大振りの一撃をかろうじてかわしたシンはザクの腹部へとキックを叩き込んだ。さすがのザクもその一撃で怯む。 その隙にシンは後方へ跳躍、フォースキックの体勢にはいった。ベルトの力が、右足へと流れ込む。 だが、それよりも早くザクが手に持った斧を投げつけてきた。いきなりの奇策にシンは反応しきれない。斧は左肩を大きく傷つけた。しかもインパルスはバランスを崩してしまう。 そこへ、ザクが右肩のスパイクを大きく掲げて突進してきた。とっさに両腕を上げて防御するが防ぎきることができるはずもなく、シンはそのまま後方へと吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。 な、何て威力だよ! シンは何とか立ち上がるが、両腕がしびれたまま動かない。あんなものをまともに受けたら、それこそ一巻の終わりだろう。 ダメージの大きさを見て取ったザクは、インパルスへと右肩を向け、走り出した。 再度放たれたショルダータックルは、まっすぐにインパルスめがけて突き進んでくる。 これほど強烈な突進では、下手にかわしては逆にダメージを受けてしまう。だが、この腕でどこまで防御しきれるか。 それでもシンは麻痺したままの腕を胸の前へもってきた。 だが、シンの思いもかけないことが起こった。 銃声が鳴り響き、ザクがバランスを崩した。膝が笑い、足がもつれる。 理由は分からないが、千載一遇のチャンスだった。 「うおおおぉぉぉぉっ!」 シンはその隙を逃さず跳躍、とっさにフォースキックを放った。 それに対して、ザクは強引に身体をひねるようにして左肩を向けた。 「やったか!?」 アレックスは硝煙の立ち昇るシウスを構えたまま叫んだ。 ザクの突進の瞬間、アレックスは残弾全てをザクの膝へと叩き込んだ。 高速で動くMSの足へと銃弾を打ち込むなど、神業にも等しい賭けだったが、アレックスはその賭けに勝った。右膝の裏に直撃した一発の弾丸でザクはバランスを崩してしまい、インパルスの反撃を受けたのだった。 インパルスの右足は、ザクの突き出した左肩の盾をもぎ取るように破壊するが、ザクを倒すまでには至らなかった。 やはりとっさのことで狙いが甘かったのだろう。それにザクの反応も早かった。 だが、さすがのザクもこれ以上戦う力はないようだった。 ザクはインパルス、そしてアレックスに背を向け、ほうほうの体で逃げ出した。 シンはザクを追いかけようとバイクのもとへと向かうが、制止の声をかけられた。 「君にももう戦う力は残っていないだろう。深追いしない方がいい」 「あんたはいったい、何なんだ?」 シンは立ち止まり、疑問を投げかけた。 MSとああも戦え、あまつさえMSの気配を自分以上に感じることが出来る。 だが、彼はその質問に答えることなくシンに言った。 「それより、変身を解いたらどうだ?もうこの付近にMSはいないぞ」 「は、はい」 言われるがまま、インパルスはシンの姿へと戻った。同時に、マシンスプレンダーもシンの愛車のバイクへと戻る。 なぜ、彼のいうことに素直に従ったのかシンには分からなかった。ただ、彼のいうことが正しいと無意識のうちに感じていた。 「それが、君の本当の姿か」 「あなたは……?」 「俺は、アレックス・ディノだ」 「シン・アスカです」 「そうか。シン、手伝ってくれないか?怪我人がいるんだ」 そう言ってアレックスは気絶しているカガリのもとへと駆け寄った。カガリは額からひどく出血している。 シンはその顔をよく見ることもないまま、アレックスに提案した。カガリの正体など、気付いてもいない。 「家が近くにあります。救急車を呼ぶより、多分そのほうが早い」 「すまない」 シンはカガリを背負い、そのままバイクにまたがった。 「あなたは、どうするんですか?」 「そんなことはどうでもいい。急いでくれ!」 「わ、分かりました!」 アレックスの気迫に押されたシンは、慌ててバイクを走らせた。 テーブルの上には豪華な料理が並んでいる。外で買った出来合いのものが大半だが、メイリンやマユが作ったものも少しある。 パーティーの用意は万全、あとはここにいない一人を待つだけだった。 「シン、来ないね」 メイリンがぼそっと呟く。ヴィーノやヨウランも来たにも拘らず、いきなり飛び出したシンがいない。今日はほかならぬシンの妹、マユの歓迎会だ。何故そんなときにいなくなるのか。 「いっそシン抜きで始めちまうか?」 「ダメです!お兄ちゃんはすぐに帰ってきます!」 ヨウランの軽口に、涙声でマユが声を荒げた。マユがこんなにも感情をあらわにするのは初めてで、この場にいる誰もが気圧されてしまった。 「いや……その、ごめん」 場を、居心地の悪い沈黙が支配する。 その空気にそろそろ耐え切れなくなってきたころ、玄関の方で物音がした。 「お兄ちゃん!?」 「ちょ、ちょっと待ってよ」 真っ先にマユが玄関へと駆け出す。それにすぐ気付いたルナマリアとレイも後に続く。 ヨウランたちも席を立ったものの、なんとなく出遅れた感じがして、玄関へ駆けだすことは出来なかった。 マユの確信に満ちた声は、今のがシンだと疑ってもいないようだ。 「た、ただいま」 確かにシンはそこにいた。だが、一人ではなかった。シンは背中に誰かを背負っている。金髪の、どうやら女性なようだ。 「その人、誰?」 「怪我人だ!」 その一言に、場が騒然となる。冷静なレイがてきぱきと指示を下した。 「シン、とにかくその人を下ろせ!ルナマリアは救急箱を持ってきてくれ!」 「分かった!」 「悪い、レイ。下ろすの手伝ってくれ!」 ルナマリアが奥の方へと走っていく。手が痺れていたシンはレイの手を借り、ゆっくりと背中の女性を下ろした。玄関マットの上に、負担をかけないようにゆっくりと頭を置かせる。 その女性の顔を見たレイは、驚いたように目を見開いた。 「この人は!?」 「レイ、知ってるのか?」 シンの質問にはレイではなく、マユが答えた。オーブについ最近まで住んでいたマユは、彼女の顔をよく知っていた。 「何言ってるの、お兄ちゃん。この人、アスハ代表じゃないの!」 「ア、アスハ!アスハだと!?」 驚いたシンはレイのほうを見た。レイは黙って首を縦に振る。間違いないようだ。 アスハ……。アスハだと!? シンの瞳には、暗い激情が宿っていた。 かつての惨劇によって多くの命が失われ、今は何もない人工島、ユニウスセブン。 そのすぐ近くに設けられた粗末な小屋、観測所。今日も何の変哲もない、退屈な監視任務の繰り返し、となるはずであった。 「え、そんなはずないだろう!?」 「いや、何度も確認した」 そう言ってキーボードを操作する。ディスプレイへと情報を呼び出し、同僚へと見せた。 「見てくれ、こっちが2日前のだ。今も少しずつだが、間違いなく動いているはずだ」 「そんな馬鹿な!ユニウスセブンが……」!
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Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U 「…………」 「…………」 重苦しいまでの朝の沈黙が、無機質なリノリウムにこだましない。 “神”様の箱庭に集う生贄たちが、今日も奴隷のような辛辣な無表情で、背の低い天井に抑えつけられている。 汚れに満ち満ちた心身を包むのは、深い色の血化粧。 仇への殺意は乱さないように、黒い憎悪は翻らせないように、ゆっくり煮詰めるのがここでのたしなみ。 もちろん、禁止エリアギリギリで走り去るなどといった、はしたない参加者など存在していようはずもない。 ずかずかと入り込んできた女のことなど毛ほどの気にも留めず、目を眇めてミリオンズ・ナイブズは思索する。 女は女でナイブズに声をかけづらいのか、片手でカードキーを弄んで沈黙していた。 先刻まであの道化男の死体を矯めつ眇めつしていた事から、まず間違いなくこちらが下手人と踏んでいるだろうから当然だ。 もう片方の手は、存在しない。つい先刻失ったばかりのように見える。 おそらくあの女も居住区でこの研究棟へのカードキーを見つけでもしたのだろう。 だけどいくら探しても肝心の医療棟へのチケットは見つからず、仕方なしにこちらに先に来たのだ。 まあ、邪魔をしないなら意識するだけ時間の無駄だ。 それよりもあまりに不自然すぎる。 それはもちろん、この島という存在そのものが、だ。 直径は約9km。 全周は30㎞弱、面積にしておよそ65?。 ナイブズには知る由もないが、この島の大きさは八丈島とほとんど変わらない。 なのに、博物館、水族館、研究所、デパート、工場、……研究所。 いくらそれなりの面積とはいえ、雑多かつ高密度に配置された施設は離島ひとつに全く必要ないものばかり。 設置する意味さえ見いだせない。 離島と断言するのは人目に付かないからという程度の理由ではあるが、いずれにせよ運用するにはコストが高すぎるものばかりだ。 しかもこの研究所を見る限り、一つ一つの施設の大きさは相当なものなのだろう。 あの人間の少女はここが体育館並みに大きいと評し、山の中に埋まっているとは信じられないとさえ言い切った。 要するに――あまりにも人工的すぎる。まるでシップ内部を見ているかのようだ。 この場所がこの殺し合いのためだけに創られた可能性はかなり高いと踏む。 『探偵日記』にはここがニッポンとやらではないかと記載されていたが、それは違うという確信がある。 むしろ“神”陣営の上層部にニッポン出身の人材が食い込んでいるのではないかとみた方が妥当だろう。 あるいは“神”本人がニッポン出身なのか。 いずれにせよここを設計した存在は、理知的ながらかなりの遊び好きだ。 配置された施設が娯楽と教養を兼ね備えた施設ばかりなのだ。 まるで自分がそういう性格ですよと言わんばかりの自己アピールに、静かに腸を煮え滾らせる。 そしてナイブズは誓いも新たに神との敵対の意思を確かめる。 『螺旋楽譜』の主の言葉を鵜呑みにするわけではないが、成程確かに与えられた情報だけでたどり着ける真実は単なる挑発でしかない。 今こうして自分が憤っていることそのものが掌の上という訳だ。 踊らされていることへの憤怒こそが思う壺だとは、何という悪循環。 分かっていながら堰を切ったように流れ出る感情を止められはしない。 いや、小難しい事はいい。自分の行動理念はシンプルだ。 これだけの島を創造し、今もなお維持し続けている。 なのにこの島にはそれらしい発電施設はない。 いや、地図に載っていないだけかもしれないが――、実際にも存在しないと断言できる。 何故なら、同胞たちの胎動が、悲鳴が、自分の耳に届いているからだ。 こんな事のためだけに、この島のどこかで彼女たちは今もなお搾取され続けている。 その苦しみの代弁者として、今一度刃を振るえばいい。 斃すべき相手でしかない“神”の人となりを慮るなど余計な考えに至ったのは、放送と二つのblogという情報源に当たったからか。 ……全く、自分が人間の言葉などに触発されるとは実に腑抜けていると、ナイブズは自嘲する。 ただまあ、それでも。 価値は認めてやるとしよう。 放送の女は“神”に反逆を試みて――、消された。 何を残したかったのかは知らないが、その心意気だけは買ってやってもいい。 そして、この『螺旋楽譜』。 ひたすらに自分への不信と“神”の思惑への警告を謳うだけの、無愛想な文面。 だが、そこには確かに抵抗の意思が感じられる。 “神”の傀儡の可能性はあるが、それでもこの記事の管理人は使えるかもしれない。 少なくとも行動の監視があっても碌なものではないだろうという考察は、それなりに理には適っている。 ただ、いずれにせよ彼らの行動の意味を推し量り、信じなければ何の価値もない代物にすぎない。 「――人間を信じる、か」 何という皮肉だろうか。 今の自分は、あまりに無力。 人間の言葉尻を信じ、盲になってでも“神”の尻尾を掴もうとしなければ戦うことすら――、 いや、“神”の輪郭を捉えることすらできない有様だ。 その無様さに不思議と嫌悪感は抱かなかったが、ただただ空虚な笑いを堪えるので精いっぱいだった。 ふと立ち返り、静かに目を瞑る。 人間から得た情報を信じようが信じまいが、自分の為すべきことは変わらない。 ――名簿に、目を通す。 見知った名前がいくつもあったが、やはり一番に目に付いたのは弟の名前だった。 人間を信じるというならば、彼こそが適任だ。 “ヴァッシュ・ザ・スタンピード” 「お前は今――何処にいる?」 良く馴染みのあるゲートの拓いた感覚を得てからおよそ4時間。 それきり彼の行方は杳として知れず、ただ放送で無事に生き延びていることを理解できたのみ。 『探偵日記』とやらの管理人に利用されているのが彼なのかどうなのか、現状確かめる術はない。 コメント公開を要請しても返事は綺麗に飾り立てられた言葉で有耶無耶にされ、あらためて人間の愚劣さを思い知らされただけだった。 当然ながら『探偵日記』の管理人は信用に値しない。 「……度し難い」 本当は無視してしまいたいところだが、しかしヴァッシュが関わっている可能性もある以上そうはいかない。 とはいえ、まともな交渉などしてやるつもりもない。 ならば、どうするか。 答えは情けないことだが、様子見の一手だ。 いや、一つだけ手を打っておいたが、あまり期待はできないだろう。 『螺旋楽譜』の出現に追随するかのごとくリンクの張られた掲示板に、自分を匂わせる書き込みをしただけでしかない。 あまり積極的に動かないのは、冷静に現状を分析してのこと。 放送直前に更新を行っていることから『探偵日記』の管理人はそれなりに安全な環境にいるはずだ。 ヴァッシュの能力を酷使するメリットはない。 ならば、下手に藪を突いて警戒させることもないだろう。 今後の『探偵日記』の更新を確認してから動けばいい。その為の端末――携帯電話とやらも既に調達している。 屈辱を押し殺して『探偵日記』の文面を信じたのは、敢えて口車に乗ってやった方が得られるものが多かった。それだけの話だ。 ――今更、どんな顔をして弟の前に出ていけばいいのかという思いもある。 それに利用されているのがヴァッシュとも限らない。 自分の知る限り、名簿の中で見知らぬ人間に手を貸しそうなお人好しは3人だ。 そのうち一つは放送と同時に浮かび上がった多くの見知らぬ名前と共に真っ赤に染まっている。 “チャペル” どういうことなのだ、と、一人口の中でその単語を転がす。 いや、彼だけではない。 レガート・ブルーサマーズ。 ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。 最後まで自分への忠義を貫き続けた男と、自分を怖れ逃亡兵となることを選んだ男の二人の名が、確かにここにある。 ――それを最初に目にした時、確かに自分の中の何かが疼いた気がした。 偽物かと疑るも、そうである意味はない。 悪趣味な“神”の成したこと、本物であるのだろう。 死んでいった男たちは、どうしてか今生きてここにいる。 “神”は蘇生の力でも持っているというのか? 可能性は0ではない。 ……しかし、たとえそうだとしてもだからどうした、としか思い浮かばない。 その方法さえ皆目見当がつかないし、たとえ思い付いたとしてもどれほどのコストがかかることか。 それよりも現実味がありそうなのは、と一つの考えがナイブズの脳裏に浮かぶ。 かつて、銀河で初めて個人にして跳空間移動を可能としたナイブズだからこそ思いつける可能性。 時間と空間に精通しているからこそ、至れる可能性を。 ――並行世界。 そこから彼らは連れてこられたのではないか。 蘇生の力よりは、こちらの方が色々な疑問に答えを付けることができる。 蘇生と並行世界移動、両方の能を持っている可能性も否定できないが。 ほんのわずかな間だけ、呼吸を止める。 理解している。これはただの逃げだ。 いずれこの殺し合いの場で彼らと巡り会ってしまったその時に――どう向き合えばいいのか。答えは出ない。 いや、そもそも自分は彼らと向き合ったことすらなかったのだ。 ただ利用するだけの存在として、軽蔑すべき人間の指の一本としてしか彼らは存在しなかった。 向き合うなどということをあらためて考えてしまったのは、ヴァッシュに毒されたからだろう。 あるいは、彼の考えを認めてしまったからなのか。 その意味では最早、あの男たちが畏れ敬ったミリオンズ・ナイブズはとうに死んでしまったのだ。 それでも見知らぬ人間としてぞんざいに扱う事の出来る連中はまだ楽だ。 逃げを選んだミッドバレイも、捨て置けばいい。どう動いていようと追うつもりもない。 しかし、しかしだ。 ――レガート・ブルーサマーズ。 あれ程の忠義を傾けてきた男を、これから自分はどう扱っていけばいい? まず間違いなく自分にかしづくためだけに狂気を存分に振るっているであろう男に。 ……既に自分には、人間を滅ぼそうという気もない。 だからあの男に特に何かを期待することもないが、それで鞘に納まっている男でもないだろう。 もしかしたら自分に失望し、妄念を暴走させる可能性すらある。 今の自分を見て、あの男がどうなるのか全くもって予想がつかないのだ。 得体の知れない不安のようなものを飲み込む。 馬鹿馬鹿しい。 仮に自分の邪魔となるのだとしたら、たとえレガートといえど排除すればいいだけの話だ。 きっと、それだけのことでしかない。 そのまま名簿をデイパックに放り込もうとして、最後に一つの名前に目が行った。 西沢歩――確か、そう名乗っていたか。 良く生き延びられたものだと僅かに心の端で思い、そんな思考ノイズをさっさと忘れることにする。 あの娘が口にしていた綾崎ハヤテとやらも死んだ。 ただの人間がこの場で生き延びられる道理はなく、故にあの娘も遠からず後を追うだろう。 あの道化男を始末した後、一瞬だけでもあの娘の後を追うなどと考えたこと自体がおかしいのだ。 今更人間とともに歩む道はない。 そしてまた、人と寄り添うことを示し続けたヴァッシュの前に出て行くことも出来はしない。 いくら弟の安寧を祈っても、おめおめと姿を見せる事を自分自身が許さない。 あの男が無事ならば、それでいい。 たとえここに招かれたのが並行世界のヴァッシュであっても、彼はただLOVE PEACEを高らかに響かせ続けている筈だ。 どこであろうと弟は変わらないという確信がある。 あの娘がどんな末路を迎えても知ったことではないが、幸運にも弟に出会えたならば生き延びられるだろう。 ……いつ以来だろうか、誰かの無事を願ったなどというのは。 ヴァッシュは、生きるべきなのだ。 「あー……、ヤツを殺ったのは、アンタか?」 先刻からずっと、敢えて無視していた存在からようやくのお声がかかる。 自分の背後で何やら唸っていたが、気にするほどの存在でもないと完全に意識の外に置いておいた。 そしてそれは詰まらない第一声の内容によってより確かな認識となる。 情報交換を持ちかけるなら持ちかけるなりに、単刀直入にそれに値する手札を提示するべきだろうに。 道化男の死体の周りをウロチョロしていたようだが、彼奴の同類だというなら先んじて始末しておくべきだろうか? 小蠅というのは潰しても潰しても沸いてくる上に、この上なく鬱陶しい。 人間全体への既に殺意は抱くことはないにしても、ただただ愚昧なだけの個人は己の存在が当然であるかのように生き恥を曝している。 奴原を消し去る面倒臭さを思えばナイブズは気付かれないほどの溜息を漏らさざるを得ない。 ***** 「おい、無視かよ。このみねね様相手に――」 ぞく……、と。 空気が変質し、雨流みねねは呼吸ができなくなる。 かたかたと勝手に体が震え、あたかも彼に跪くかのように足が体を支えられなくなった。 みっともなく、尻餅をつく。 震えを消そうとして腕を回し、それでようやく思い出した。 抑え込みたくても、その為のてのひらは吹っ飛んでしまったのだ。 痛くて痛くて凄い喪失感でいっぱいだったはずなのに、一睨みされただけでそんな事すっかり脳裏から消え去ってしまった。 こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい 「……人間か。さっさと立ち去れ、俺の機嫌が変わらんうちにな」 それきり興味を失ったかのように、みねねの目の前の男はPCの画面に向き直った。 呼吸が荒い。心臓の音が鐘のように五月蠅く鳴っている。 目の前に血の河が流れたように見えた。 生きていることが嬉しいのに、歯牙にも掛けられない自分が惨めで泣きそうになる。 這いつくばって、ずるずると部屋を離脱しようとして――、 「……逃げ出せるかよ」 このままほうほうのていで裸足で出ていったりすれば、みねね様の名が廃る。 ああ、怖い。確かに怖い。 けれどそれを抑え込む。 自分の人生は戦いの連続だった。 立ち向かわねば理不尽を捩じ伏せる事が出来ない事を、思い知っているのではなかったか。 それに考えようによっては、これは好機だ。 この男ならあの妲己に間違いなく対抗できる。 しかも、あの女が絶対に想定していないであろう札だ。 ヤバさはこの男の方が上かもしれないが、それでも逃してはならない。 どうすればいい? どうすれば引き込める? 考える時間は僅か。ヒントは男自身の言葉にあり、そこに切り入れば済む事だ。 「生憎だが、私は人間を辞めたのさ」 そう呟いて手近にあった適当な本を手にし――爆破。 男が、目だけをこちらに向けてきた。 自分がもうまともなニンゲンではないという事実にチクリと痛む胸。 その棘に気付かないふりをして、みねねは男を睨み付ける。 一秒後には心臓に刃が突き刺さっているかもしれないという暴力的な緊張感と闘いながら。 「お互い人外同士、情報交換といこうじゃないか。 立場はフィフティフィフティ、後腐れない取り引きを終えて、そのあと私は出て行く。 そうすりゃ問題ないだろ? どっちにとってもメリットしかないはずだ」 見返りは十二分。 男はぐるりらと首を回し、見下ろす目線でみねねの方を検分してくる。 そのまままったく期待のこめられていない口調で投げ掛けられた問いが一つ。 「ヴァッシュ・ザ・スタンピードを知っているか?」 ちぃ、と舌打ちする。 おそらく人名だろうが、みねねにとっては聞きなれない代物でしかない。 「生憎だが心当たりは――、」 と、仕方なしにそれを告げようとして、何かが引っ掛かった。 「……いや、待った。確かに聞いた。どっかで聞いたぞ」 ある一人の女の顔と、失った自分の手がフラッシュバック。 耳にしたのはつい先刻。朦朧としていて聞き流していたが、あの女が自分を送り出す直前に口にしていたのだ。 「……そうだ。あの女が手当の時に訊いてきやがったんだ。 どこかの死にかけがヴァッシュとやらは頼れるとか言い残したが、私に心当たりはあるか……って」 「女? ……何者だ」 目つきを変え、男が俄然と食いついてくる。 態度の変わりように驚きながらもみねねは悟る。 ――これは、千載一遇のチャンスだと。 妲己を追い詰めるために、あの女について躊躇わずに所見を述べていく。 「妲己っていう自称妖怪のクソいけ好かねぇ女さ。性格的にも実力的にもあいつはヤバい。 自分で言うのも情けねーが、奴に大切なものを握られててな。 今の私は仕方なしにあいつの手駒に成り下がってる。 飴も鞭もどっちも使って、周りの連中をみんな誑す悪女だよ」 「そいつが、ヴァッシュの名を口にしたのか?」 「そうだよ。ついでにそいつの特徴も私に教えて、探すよう言付かったぜ? 金髪の赤いコート、だっけか」 ニィ、と口端を歪めて証拠を提示。 うろ覚えだが、どうでもいいと思った知識も意外と役に立つものだ。 妲己に感謝しようと一瞬思ったが、そもそもの元凶はあの女なのでやめておく。 「何度も言うが、あの女は掛け値なしにヤバい。 なにせ、私への命令が『これから会う奴全員に対して、自分が仲間を集めている事を伝えろ』だ。 ……イカれた命令だよ。 自分を餌に殺し合いに乗った奴も乗ってない奴も潰し合わせて、使えそうな奴を選びだそうとしてる。 そのヴァッシュって奴も、奴の周りの騒乱に巻き込まれるかもな?」 最後の一言に、男は何を思ったのか。 全ての表情を無くして黙りこんだ後ずかずかと歩き出す。 みねねを全く無視する形でだ。 「――行くんだったらデパートだ。とりあえずそっちに向かうって言ってたぜ」 そうは問屋が卸さない。あの女を御すために、もう少しこの男に踏み込んでおかねば。 「これだけ教えたんだ。 見返りとして、妲己の奴が持っている携帯電話を取り返しちゃくれないか? ちょっと大切なもんが入ってるのさ」 返事はない。 ただ、一瞬だけ先刻と同じように殺気が膨れ上がったのが肌身に突き刺さった。 二度目だから流石に尻をつきはしなかったものの――、 気付いた時には男の姿は影も形もなくなっており、滝のように流れ落ちる汗が自分が生きている事を教えてくれている。 思うのはシンプルなたった一つの事。 ……助かった。それだけだった。 「……手はとりあえず、これで一つか。悪くない取り引きだったとは思うが、いかんせん心臓に悪すぎる」 はあ、と思いっきり息を吐き、くずおれる。 「つっても、まだまだこれじゃ足りないな。 打てる手が残ってる以上は地獄の釜底であろうと足掻かせてもらうわよ」 目線の先にあるのは、男が使ったまま電源が付きっぱなしのPC。 その向こうにはブラウザが立ち上がっており、いくつかのサイトの内容が表示されている。 利用しない手はないとみねねの経験は告げていた。 「妲己。あんたの知らない私の世界の技術で、あんたを出し抜いてやる。 のんびりとふんぞり返っていられるのも今のうちだぜ?」 汗まみれで口にしても我ながら説得力はないな――とみねねは愚痴を零し、苦笑した。 それが、命を握られてもなお立ち向かえる強さの証。 生きているから、戦えるのだ。 【F-05地下/研究棟/1日目/朝】 【雨流みねね@未来日記】 [状態]:疲労(中)、左拳喪失(ほぼ止血完了、応急処置済み)、貧血(小)、爆弾人間 [服装]: [装備]:メモ爆弾×6 [道具]:支給品一式、単分子鎖ナノ鋼糸×4@トライガン・マキシマム、研究所のカードキー(研究棟) [思考] 基本方針:神を殺す。 1:研究所のPCを用いて、情報戦を仕掛ける。 2:出会った人物に、妲己が主催に反抗する仲間を集めていると伝える。 3:首輪を外すため、神を殺すためならなんでも利用する。 4:妲己を出し抜いて逃亡日記を取り返すため、日記所有者を探す。 5:出来ればまともな治療をしたい。 6:恐怖しながらもナイブズが妲己を始末することに期待。 7:12thの蘇生について考察する。 [備考] ※ボムボムの実を食べて全身爆弾人間になりました。 ※単行本5巻以降からの参戦です。 ※妲己と情報交換をしました。封神演義の知識と申公豹、太公望について知りました。 ※アルフォンスと情報交換をしました。錬金術についての知識とアルフォンスの人間関係について知りました。 ※メモ爆弾は基本支給品のメモにみねねの体液を染みこませて作っています。 ***** ――たぶん、だけど。 夢を見ていたと思う。 どんな夢だったかは思い出せない。 けど、きっとあんまりいい夢じゃなかったんじゃないかな。 普通はこういうときに見るのはいい夢じゃないかなって思うんだけど、私やっぱりついてないみたい。 というか、夢枕に誰かが立つってイベントすらすっ飛ばされてなかった事になっちゃうんだ、私……。 せめて夢の中でくらい幸せでもいいのになあ。 痛い夢。辛い夢。苦しい夢。 ……怖いよ。 ハヤテくんがもういなくなった事を認めちゃって、私は生きているのが辛くなった。 大切なものがこころから融けるように消えてしまって、ぽっかりと大きな穴が開いた。 ――孤独。 そう、だ。 多分だけど、私が自分の命を断とうとしたのは、たとえようもない寂しさを感じたからだ。 ここには誰もいない。 ほんとうの意味で言えば知っている人はまだ何人か生きているんだろうけど、今は誰ひとり私のそばにはいない。 私には特になんにもないけれど、それでもずっと私の周りには優しい人たちがいた。 お父さん、お母さん、一樹。 ちょっと不穏なところもあったけど、それでもかけがえのない家族。 ヒナさん――ともだち。 私なんかとは違って何でも持っているのに、何でもできるからこそ一皮剥けば可愛らしいところのある人。 ナギちゃんはどうしているだろう。 わがままで意地っ張りだけど、あの子は多分すごく強い子。 大切なひとを失ったからって、私みたいに何もかも諦めちゃう訳じゃないんだろう。 そして、ハヤテくん。 ……やめよう。大切だけど、大切だったけど。 だからこそあの人の事を考え続けると私は潰れちゃう。……壊れちゃう。 私は、強くない。ぜんぜん強くない。 大切なひとを失っても、悲しみを糧にしてもう一度立ち上がれるほど強くない。 大切なひとを失ったから、自分を忘れて怒りに身を任せられるほど強くない。 そう、私は強くないんだ。 気絶しちゃって、目が覚めて。 こうして落ち着いてしまった今、はっきりとそれを悟る。 ……普段の私は、自分から死を選べるほども強くない。 この手で命を捨て去ろうとした激情に、体が震えだす。 ぶるぶるがたがたぐらぐらがくがく。 私は一体、何をしようとしていたんだろう。 死を選んだんじゃなくて、生を諦めた。 でもそれは――、死ぬことへの覚悟を決めたって訳じゃない。 死ぬってどういう事? 今考えているこの私が、消えてなくなるの? 私は、どこへ行くの? どこにも行かないの? まっくろな闇の中でまどろんでいるような感じ? それとも、極楽って言われるように、これまでの亡くなった人すべてが集まる理想郷に辿り着く? ううん、きっと違う。 そこにあるのは闇ですらない、完全なゼロ。 もちろん先に逝った人と永遠に穏やかな暮らしをする、なんて事だってありえない。 痛いのと怖いのが嫌だから、私は死のうとした。 確かに死ねば、痛いのも怖いのも0になる。 ……でも、きっとそこには誰もいない。 私すらいない。 ハヤテくんだっていない。 ごめん、ハヤテくん。 あなたに会えるかもって理由で、さっきは命を捨てようとしたのに。 「私――、まだ、死にたくないよぉ」 …………、皮肉だなあ。 今度こそ助からないって、まさにその時になって気付くなんて。 知らないお兄さんが、馬乗りになって私の首をぎりぎりと絞め上げていた。 5たす5。 十本の指の感触が、私の喉に食い込んでくる。 気がついたら、もうこんな状態だった。 自分が死ぬって事がまるで他人事のよう。 だって、そう思ってないと心が砕けちゃう。 人の心って本当に難しいね、ハヤテくん。ついさっきまで私はあなたのいるそこを信じていたんだよ? なのに今は、死ぬのが怖くて、怖くて怖くて、死んだ後の世界を信じられないよ。 ほんの上っ面だけでも信じられたら、ずっとずっと楽になれるのに。 あはは。 これで死んだ人の魂の集まる場所が本当にあったのなら、つくづく私はついていないなあ。 “神”様がほんとうにかみさまなら、そのくらい用意してるかも。 あはは、はは、は……。 私、都合のいい妄想ばっかりだ。ずっとずっと、最後まで強くないまま。 何かがこきりと鳴った。 目の前が薄暗くなってくる。 苦しくて息ができなくて辛くて、私の首から伸びたお兄さんの手首を必死で掴んだ。 ぎゅうっと握りしめると自分のとは信じられないくらい強い力が出る。 それに驚いても、手は勝手に動く。 お兄さんの手に私の爪がぶすぶすと突き刺さった。 血に濡れる感触が気持ち悪いけど、それでもお兄さんの力の方がずっと強い。 口から泡が出てきた。つばを飲み込みたくても出来ないんだ。 私の死体には首に手の形の青あざがついちゃうかも、なんてどうでもいい事を考える。 少しづつ、体の力が抜けていく。一緒に私の命も抜けていく。 考えられる量が少なくなってきて楽なはずなのに、苦しいよ……。 息ができないって、こんなに苦しかったんだ。 お兄さんは焦点の合わない目で、私でない何かを見つめている。 今にも泣きだしそうに震えてて――、どこか悲しそうに感じられた。 なんでかわからないけど、私を殺そうとする人なのにまったく憎くなんてなかった。 だから、私はぱくぱくと口を動かす。 何を伝えたかったのかは、分からない。 でも、声が出なくても、意識が朦朧としていても。 確かに私はお兄さんに何かを言ったんだと思う。 ――本当に突然だった。 お兄さんは不意に、怯えた顔をして首から手を離した。 ごほごほと、咳が出る。 いきなり肺の奥に流れ込んだ大量の空気とつばが、苦しいぐらいに痛い。 痛いのに、胸を掻き毟りたいのに、体がそれを許してくれない。 もうやめてって叫びだしたいくらいに、パンパンになるまで勝手に息を吸わされる。 でも生きてる。 まだ私は――、生きてる。 お兄さんは呆然としながら、一歩、二歩と後ずさった。 頭を抱えてフラフラと掻き毟って、今にも風で吹き飛んでしまいそう。 そんな頼りない姿なのに、血の混じった痰を吐きだしたら、急に体中に戦慄が走った。 さっきまで体を委ねさえしたお兄さんが、急におぞましい化け物のように見えてくる。 「ひ、ぃ……っ」 まだぜんぜん覚束ないのに、お酒を飲んだお父さんのように千鳥足で逃げ出す。 走ろうとする。 早速転んだ。 膝小僧がずるりと剥けて、泥が肉に入り込んだ。けど立ち上がった。 また走り始めた。 すぐ転んだ。また、別のところが裂けた。けど立ち上がった。 後ろも見ず、お兄さんの動きも確認せず、とにかくここにいたくなかったから。 ――私は、また逃げ出す。 森の道へと。逃げていく。 体中に擦り傷を作って、ぼろぼろになって。 ……誰でもよかった。 私はガラガラに潰れた喉で助けを求め続けている。 「ヒナさん! ボンさん! 平坂さん! ブランドンさん! ハヤテくん!」 涙で顔をぐちょぐちょにして、喉に手形の青あざを作って。どんなにみっともない姿でも。 私は強くないから、素直に気持ちを吐き出してしまう。 ただ、死にたくないから。 「助けてよぉ……っ!」 その瞬間、目の前がオレンジ色に染まった。 花開いた炎と黒煙は――、本当に花火そっくりで、それが暴力の象徴だなんて思えなかった。 いつの間にか、私は空を飛んでる。 片方の耳が何にも聞こえない。 ただ、耳から首筋に血が流れてる感触がする。 鼓膜が破れたのかもしれない。 あ、爆発したんだ。 そう気付いたのは、地面に思いっきりぶつかってごろごろ転がった後だった。 なあるほど、といやに冷静にうなずく。 あのロボットもこうやって壊れちゃったんだ。 燃えていた服は泥にまみれたせいか次第に消えていったけど、繊維の燃える臭いが頭に響く。臭いよ。 寒い。 服が燃えていたのに、寒い。 何気なく頭に手を持っていってから目の前にかざすと、 べちょ。 「わあ、真っ赤……」 火が消えたのは、泥のせいなんかじゃなかった。 泥に見えたのは、 「私の……血だぁ」 血で濡れたから、火は燃えなくなった。子供でも知ってる当たり前のこと。 なのに私は、濡れているのに全く気付かなかった。 口の中が鉄臭いし、自分の肉の焼ける臭いも気持ち悪い。 ぱちぱちと、まだ何かが燃えている音がする。 ちょっと酸っぱい血の味が、気持ち悪い。 見える世界は白っぽくて、強い光を見て麻痺しているんだって生物で習った事を思い出した。 なのに、体が何かに触っている感覚が全くない。 触覚だけがぶつっと途切れて、それが際立って、自分はもう壊れてしまったんだって強く思い知らされた。 「あは、あはは……」 ずたぼろで使い物にならない服が、血に浸した雑巾になっただけ。 なのに、なぜか涙がこぼれてくる。 私だって、女の子だもの。 ぜんぜん似合わないけど、褒めてくれる人ももういないけど、かわいい服とか大好きだもん。 こんな酷い恰好は嫌だった。 こんな酷い恰好で終わりだなんて、あんまりにも辛すぎた。 辛すぎて――、なんでか笑ってしまう。 おかしいな。何がおかしいんだろ。 ああそうか、私自身がおかしくなっちゃったんだ。 「あはは、あは、あは。あは……、あははははっ! あはっ! あははは、あははははははははっ!」 こんな終わりじゃ、さっきのお兄さんに殺してもらった方がまだましだった。 だって、そうすれば独りじゃない。独りで死んでいったわけじゃない。 こんな誰にも見つけられないような暗い森の中で、おかしくなって独り死んでいく。 それが私の、最期。 ……死にたく、ないよ。 でも、生きたいわけでもない。 独りで生きたくなんてない。 「あはははっ! あはは、あは……は……は……、う、ぁは、はぅ、 ……ぅ、う、う、ひ、ぁ……」 なんにもなかった私が、今更何を望んでいるんだろう。 「ひ、……ひっ、ひっ、うぇ……、やぁ、うっ、ぁ、やだぁ。 やだよぉ、うぁぁああぁ、あぁぁぁぁ、わぁぁあぁ……っ! わぁぁあぁ、やだぁっ! やだぁあぁっ! わぁあぁぁぁああぁああんっ! うわぁあぁぁぁああぁぁあん!」 ……笑い続けるのも限界だった。 自分が自分であんまりに痛々しくて、狂った演技さえ最後までできなかった。 結局私は――、おかしくなれるほどさえ、強くなかった。 ざり、と、まだまともな方の耳に砂の擦れる音が届く。 カタツムリみたいにゆっくりと首を曲げると、そこにはここに来て出会った人の顔が一つ。 相変わらず鋭くてすくんじゃう目だなあ、と。こころの中で密かに思った。 「ぅあ……、あ、ブランドン、さん」 呼びかけても返事はない。 血まみれの体を見ても、涙でぐちょぐちょの顔を見ても、表情一つ変えてくれない。 それでも、何を考えているかもわからない人だけど、一つだけは確かだ。 「良か……た、まだ、生きて、たん、ですね」 「脆いな」 上から悠然と見下ろされて、一瞬痛みや苦しみを忘れるくらいに圧倒された。 物凄い存在感に、押し潰されそう。 ……それも当然か。 ブランドンさんはきっと強い人で、殺し合いにも慣れているのだろう。 「あは、死んじゃう、みたい……です、私」 けれど、最後の最後で少しだけ、ツキが回ってきたのかも。 嬉しいな。だって――、 「あ、の……お願、いです。私が、死ぬまで、見てて、ほしいん、です。 独りは……、寂しいまま、で、死んでくのは、やだか、ら……」 そういうの嫌いだってなんとなく分かりますけど。 そう言おうとして、もうまともに口が動かないのに気づいた。 この人はきっと冷徹で恐ろしい人で、もしかしたら平坂さんが言っていたみたいに、悪い人でもあるかもしれない。 でも、だけど、決して救いのない人ではないんじゃないかって思う。 役立たずで足手まといのはずの私を、完全に無視しきってはいなかったんだから。 ゆっくりと、何も言わず。ブランドンさんは手を掲げていく。 「…………」 ブランドンさんの手が、歪んでいく。 目の錯覚かと思ったけど、そうじゃない。 ――まるで天使の羽のように、腕の中からいくつものいくつもの刃が創り出されていく。 一枚一枚の煌めきが、まるで星のようだった。 「綺麗……」 ……ありがとう。って、うまく言えてるかな。 楽にしてくれるんだって、なんとなく気付いた。 最後が一人でなくって、よかった。 ***** 時系列順で読む Back Spiral of Fortune ~ Reverse Position ~ Next The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew 投下順で読む Back ちだまりスケッチ ~酒池肉林編~ Next The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew 071 ライク・ア・スワン 雨流みねね 102 The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew 090 マリオネットラプソディー カノン・ヒルベルト 102 The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew 090 マリオネットラプソディー 西沢歩 102 The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew 073 情報遊戯 ミリオンズ・ナイブズ 102 The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew
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2015/12/27 こむお かつまる、ミニ四駆チャレンジ優勝おめでとう!! 安定感すばらしかった! 2015/12/21 こむお 後三日勤務したら今年も終わり! そして26日ははいれぐ納会! 寿司からM428に流れてみようかな!楽しみ! 2015/12/10 こむお 一昨日日本に帰国しております。 この年になると寒さがこたえますね。辛いです。 さて、今日は人間ドックでした。 食道、目にガタが来ているようで。。 「酒止めないと食道癌になるぞ」と脅され、どんよりした気分を引きずりつつ、新橋にジ・O(ボディ未完成)の試走に行ってきました。 結果、思ったほどは走ってくれなかった(笑 聞いてはいたけど、スラスト抜けるんだなーという印象です。 一方で、スラストをきつくすると、今度はもぐりこむような粘っこい走りになって、うーんキレがない、という感じでした。 イメージする走りにはまだまだと言ったところです。 また、外国の方がいらっしゃったので、少ししゃべってみました。 交流は楽しいですね。 2015/12/2 こむお もう12月ですね。 ベトナムと行ったり来たりしてたこの半年、とてつもない早さで駆けぬけて行ってしまいました。 さて、amazonで直カーボンが安いですね。838円! GP.495 HG カーボンマルチ補強プレート (1.5mm) 2015/11/28 こむお 復帰しただるに紹介したツールを改造ノウハウの「おすすめツール」に追加しました。 そう、ホーチミンでの土日は暇なのです。 2015/11/25 こむお 関東は寒いみたいですね。 ホーチミンは安定の30度オーバーです。 さて、MSシャーシの素材カラーを一覧にしてみました。 MSシャーシ関連製品一覧 で、素材について調べたところ、GFは固いけど割れやすいとのうわさがあり、 そうするとPCがベストな選択肢に見えるわけですが、 一覧を見ていて、バンパー、センターともにPCな機体はそれほどなく、 共にPCであり、かつ現時点でプレミア価格になっていないミニ四駆限定 アバンテ Mk.II ピンクスペシャル (クリヤーボディ) (MSシャーシ) は、 千載一遇な機体と言えるのではと思い、追加発注しました。 ストックがあるうちは、破損を気にせず走らせられますね。 そもそも破損しにくい素材を選んだはずなので、破損自体してほしくないですが! 2015/11/24 こむお 5度目のベトナム。 ホテルから更新です。 わかっちゃいたけど、33度で蒸し暑いです。 最近年だし、寒いより暑い方が体には楽だなと思います。 12月半ばに寒い日本に帰るのが少し怖いですね。 さて、この3連休で30時間程度を要して作成に励んだニューマシン「ジ・オ」。 ほぼほぼできたんですが、最後の最後にしでかしました。 ボディをマスタードイエローで塗装したところ、う○ち色になりました。 はい!やりなおーーーし!!! 素直にイエローにしとけばよかったorz 話変わって、MSのキットとシャーシについてまとめたいと思います。 フレキ作るときって、たぶんフロント、リア、センターで色変えたりして遊び心出すと思うんですよね! そんな時に材質とかカラーとキットがまとめてあったら便利だなと思ったしだいです。 ちなみに「ジ・オ」用のノーズ、テール部分に黄色の軽量センターがほしかったんですが、これは発売されてないみたいですね。 今はあきらめてスラスターの緑を採用してますが、主張が強すぎるので、シルバーとか抑え目な色にしようかと悩んでます。 完成したらマシンページにアップしまーす! 2015/11/18 こむお フレキ用に、今度こそシャーシがポリカABSのマシンを購入。 軽量センターですが、価格も800円と安いので、この際贅沢は言ってられない! ミニ四駆限定 アバンテ Mk.II ピンクスペシャル (クリヤーボディ) (MSシャーシ) これでTheOを作りたいと思います!! 2015/11/17 だる このページがほとんどこむお日記になってるので乱入します。 先日のM4チャレンジの夜に触発されて以来、スラダンではなくピボットというものを試行錯誤中。 なかなかうまくできないです。戻りが速い。うーん。 12月以降はまたしばらく忙しくなりそうなので、何とか11月中にある程度形にしたいなぁ。 2015/11/14 こむお 子供の自転車のサドルの表面が傷んできていたので、サドルを交換しようかと思いましたが、 チャリcapなるサドルカバーを発見。 種類はいくつかありましたが、自分が一番気に入ったのがコレ。 ドラえもんフルカラーチャリCAP たまらなくかわいい。 尻尾まである(o´ω`o) 子供たちも大満足。 ひさびさ、あったらいいなの上を行く商品を見つけられました。 2015/11/9 こむお すみません。 誤った情報を記載してしまいました。 アバンテXはボディがポリカABSであって、シャーシはただのABSですね。 買っちゃったアバンテXは息子と近所の子供に配ろう。 2015/11/8 こむお ふるさと納税のお返しの鰻と吟醸とコシヒカリな晩飯。 贅沢すぎて幸せ(o´ω`o) 2015/10/30 こむお 11/2に休みを入れて、4連休にして家族旅行に行きます! 旅行に行くと思うとそわそわして午後から仕事にならないぜ!! 2015/10/23 こむお amazonで直カーボンが10/25入荷予定らしい!950円ですね。 GP.495 HG カーボンマルチ補強プレート (1.5mm) 2015/10/22 こむお 11/29の東京大会はオープンがないことがわかりましたね。 その一週間前の静岡もなそうな気配が漂っています。 ミニ四駆を取り巻く状況もだいぶ変わってきましたね。 ぼちぼち行くしかないですね。 2015/10/19 こむお 17日に帰国して、この月曜に先週の祝日の代休を入れて三連休! でも家族に伝えてなかったため、子供は幼稚園と習い事、妻はなんたらかんたらの用事とかでひとりぽっちの月曜日。 うん。失敗した! 忘れてたけど、みんな忙しいんだね(´・ω・`) 2015/10/12 こむお 先週は胃腸炎で、今週は鼻と喉の風邪。 げんなりな状況が続いております。 今週末は日本に帰るので、それを楽しみに生き延びる。 2015/10/3 こむお ベトナムに来て初めて食あたりしました。 強烈な胃痛と下痢で夜も眠れず。 二日ほどしてようやく回復してきました。 海外だと余計に不安になるし、いやーほんとにちびった。 健康って大事です。 2015/9/23 こむお m4spは4位でした。 レポは後程。 美登利寿司うまかった~! 明日仕事とか信じられない( _ ) 2015/9/18 こむお いよいよ直カーボンが再販されますね! GP.495 HG カーボンマルチ補強プレート (1.5mm) 限定商品ではないので、そのうち価格も落ち着いて正常に供給されるでしょう。 2015/9/14 こむお 見事に予選落ちしました(´Д`;) 家に工具一式すべて置き忘れるという腑抜けっぷり。 完全になまってます。 でもだいたい毎年、最終予選の最後らへんの枠で本戦進出を勝ち取って、本戦では上位に食い込む(はいれぐだけに)という感じなので、おそらく今年もそれなんでしょう。 というか、そーでありますよーに。神様お願い。 なお、かつまるは本戦にコマを進めた模様。 2015/9/10 こむお 明日かえる! そして日曜日の午前枠でM4SP予選にでる! 楽しみです。 2015/9/7 こむお 3度目のホーチミン中です。 ホーチミンでの生活自体に慣れてきて、ぐだってきている分、時間が長く感じられ、はやく日本に帰りたい病が発生しています。 友人、家族、そしてミニ四駆が恋しいです>< 2015/8/31 こむお 明後日、3度目の渡越。 あぁ出れぬままジャパンカップが終わっていく~;; 2015/8/23 こむお ゼロ次予選敗退。 人出を読み違えた自分の責任ですが、メンタルきついですねorz 2015/8/22 こむお この二日で大洗に家族で旅行に行ってきました! メインは子供たちの人生初の海水浴! 天気予報を見て、金曜日は気温が低すぎるため海は土曜にまわすことに。 金曜日 9時に大洗に着き、午前中はアクアワールド(水族館)に。 ここのイルカショーすごく良いです。 今までいくつか見たことがありますが、ダントツで迫力があり、また技も豊富でおどろかされました。 午後からは国営ひたち海浜公園に。 ひまわり畑につくられた迷路が楽しめました。 アスレチックなどの無料で遊べる遊具もあり、有り余る子供の体力をお財布にやさしく削ることができます。 いったん宿にチェックインし、夕飯を食べ、再度ひたち海浜公園へ。 コキア畑のライトアップを観賞。 宿に戻って就寝。 土曜日 朝、海水浴場の情報をチェックすると、行く予定にしていた大洗サンビーチが台風の高波のため遊泳禁止に。 遊泳可能となっていた、堤防で囲まれた平磯海水浴場に向かいました。 無事、子供たちの海デビューとなりました。 午後1時ごろに引き上げ、日帰り温泉のぞみでお風呂とご飯を満喫して、先ほど帰ってきました。 盛りだくさんで体はちょっと疲れましたが、気持ちは最高にリフレッシュ(o´ω`o) 明日のミニ四駆も楽しめるといいな(切望 2015/8/17 こむお 一時帰国中です! 日本も湿気すごい>< 日曜の品川大会は参加するぞ! さて、先日ベトナムでTOEICを受験しました。 日本と違い、毎日試験やってます。 枠が空いていれば、申込日の3日後から受験できます。 結果は受験後10日程度でわかります。 日本と比べて、手軽に受験できますね。 そして今回の受験結果は驚きの680点(良い意味で)! この4月までは470点だったので、4ヶ月で200点アップ。 やっぱ現地で英語漬けになると上がるんだ、と思われるかもしれませんが、 まったくそういう話ではありません! 一冊のTOEIC対策本のおかげです。 これまで、本腰を入れて点を取りにいってませんでした。 650点を越えると海外勤務が近くなるからです。 が、470点のまま海外出張命令が下り、低い点をキープすることのメリットがなくなりました。 ということで、初めてTOEIC対策本を使って、点数を取りに行ってみました。 その本がこちら。 新TOEICテスト 直前の技術—スコアが上がりやすい順に学ぶ 勉強の流れは以下のとおりです。 1周やる → 付属の過去問をやり、650点というスコアに驚く → 間違ったところをおさらいする → 受験 結果は上記のとおりです。 言うまでないと思いますが、この本で英語が話せるようにはなりません! #私は相変わらずカタコトしか話せません^^; ですが、TOEICの点を上げると言う目的に対してはとんでもなく効果的であると感じました。 点数が欲しい方は試されてみてはいかがでしょうか。 2015/8/10 こむお 昨日は会社のベトナム人と日本人数名で、現地の野外レストランに行ってきました。 ランチです。 こんな感じです。 imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (DSC_0093.jpg) なお、釣りができます。 釣った魚はその場で調理してくれます。 もちろん、挑戦し、結果は、、、、、 坊主でしたorz その後すっぽんの生血ウォッカ割を飲みました。 imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (DSC_0094.jpg) 先生、ミニ四駆がしたいです。。 2015/8/8 こむお カーボン出るみたいですね!これは朗報! タミヤ 15495 ミニ四駆 グレードアップパーツシリーズ No.495 HG カーボンマルチ補強プレート(1.5mm)【9月予約】 価格:740円(税込、送料別) 2015/8/1 こむお もう8月ですね。 あと5ヶ月で今年が終わりますね。はやすぎ。 この調子で早く年金生活に入りたいですね。 ふと気づいたんですが、下記の3商品はスーパーハードタイヤなんですね。 スーパーハード欲しい人にはおすすめかもです。 ミニ四駆特別企画商品 ミニ四駆スターターパック ARスピードタイプ (エアロアバンテ) ミニ四駆特別企画商品 ミニ四駆スターターパック MAパワータイプ (ブラストアロー) ミニ四駆限定シリーズ アバンテ Mk.III ジャパンカップ 2015 リミテッド (MAシャーシ) 2015/7/19 こむお 金曜日に一時帰国しました。 そして、今日は子供たちと山梨の見晴し園に桃狩りに行ってきました! 子供も喜んでたし、自分自身ものすっごいリフレッシュできました! あー日本、そして家族最高(o´ω`o) 2015/7/11 こむお やっとこさ週末。 今日はホテルから出ないぞー!!! ちなみにわたし、英語はほんのわずかしか話せません。 先ほどホテルの朝食で、一口かじっておいしかったハムを最後に残してたところ、 ウェイトレスに何がしか話しかけられ、Yes!と答えたら、ハムごと皿を下げられてしまいました。 しょんぼり。 でも生きてはいけます!大丈夫! 2015/7/8 こむお つきました。 ホーチミン。 空港からホテルまでのタク代ぼったくられたようです。 領収書だけはしっかりもらいました。 うん、これで会社がぼったくられたことになりますね。 本日の感想。 車とバイクが多すぎる クラクションがずっとどこかでなってる(交差点に進入するときには鳴らすようです) めちゃくちゃ蒸し暑くて不快 結果、ホテルから出たくなくなった あと、Skypeのおかげで鬱になるほどはさみしくならないです。 2015/7/4 こむお 7/8から仕事でベトナム ホーチミンにいくことになりました。 うまくいけば、11月頭には帰ってこれるはず! その間も一月に一度くらいは帰国する予定です。 ジャパンカップがかぶればいいな! 当初、単身出張にへこんでたんですが、ホテルが一泊15000円と高級なところだとわかり、 テンション持ち直し気味です。 http //www.marriott.co.jp/hotels/travel/sgnbr-renaissance-riverside-hotel-saigon/ ベトナムの物価は日本の2/5くらいなのかな。 ということは、日本だと一泊4万くらい!? まじか!そんなとこ泊まったことないで! さておき、夏の新製品、MA初の大径マシンが発売されますね。 ミニ四駆 シューティング プラウド スター MAはMSと違ってギアのクリアランス、滑りがいいので、いじらなくても速いみたいですね。 人気モデルになるかもしれませんね。 2015/6/20 こむお 明日はあいにくの雨のようですね。 プラウドカタパルトしないように気をつけなきゃ! 2015/6/15 こむお 今日は家族で千葉動物公園に行きました。 千葉動物公園は、猛獣類はほとんどいませんが、その他の動物はハシビロコウなど、個性的な動物が多く、 そして有名なレッサーパンダのフウタくんにも会えて、とても楽しめました。 話し変わって、今日、5歳の息子が初めてミニ四駆のあるGUPをどうしても欲しいとねだりました。 それは、 ミニ四駆 キャッチャー 小さい子供はミニ四駆を止めるのが、難しく、何より痛くて怖いようです。 家の在庫は、モヒカンストレート対策用に一部切り取ってしまっていたんですが、 それでも良いと、喜んで持って行って、JCJCを広げて遊んでました。 大人にとっては、「この良い感じの柔らかさ、何か別の用途につかえんじゃね?」というパーツだと思ってたんですが、 子供にとってはとても実用的なものだったんですね。 子供目線でもしっかり商品開発されているタミヤさんの視点ってすごいなと思いました。 2015/6/10 こむお 海外出張が決まりました。 6月末から短くて4ヶ月ほど。 ジャパンカップは初戦で終わりですorz 家族、友人とも離れ、なかなかな試練ですが、人生そんなときもあるよね、 と自分に言い聞かせています。 テンションまったく上がらない日々。 2015/5/23 こむお 新橋M4C、まさかの優勝。 うれしー。 レポは明日にでも。 たくさんのおめでとうをありがとうございましたm(_ _)m そして、かつまる、一緒に祝杯をあげてくれてありがとね。 楽しい一日だった! 2015/5/20 こむお 仕事で海外の話が出ており、いろいろストレスフルでございます。 2015/5/13 こむお 2週間前に「僕は玉なし(補助なし自転車)に乗るんだ」と言い出した息子(5歳児)。 どうやら近所のお姉ちゃんが玉なしに乗っていたのを見て感化された模様です。 そしてなんやかんや練習して2週間。 ぐらつきながらも立派に玉なしでこげるようになりました。 ぐらつきを必死に立て直しながらこいでる息子の後姿を見て、じーんときました。 成長したな、息子よ。 一方、同じ5歳児の娘はというと、 「やーだぁ!怖い!練習しない!」 と、まったく玉なしに挑戦する気は無い模様。。 大丈夫か。娘よ。 2015/5/8 こむお GWも終わりが見えてきましたね。 今年のGWも、例年同じく関西に帰省したわけですが、注目ポイントは新タイヤ↓の燃費! 18インチ ダンロップ(DUNLOP) ルマン4(LEMANS704) 215/45/R18 215-45-R18 サマータイヤ 単品レ... 低燃費タイヤということで、どこまで燃費が向上するか、とっても期待しておりました。 その結果はというと、、14.0km/l! あんま変わってない。。。(´Д`;) でも、1h程度は渋滞でのろのろしてたし、それに、これまでの最高(13.7km/l)を更新したので、まずはよしとしよう。うん。 2015/4/25 こむお グレードアップパーツ ローフリクション ローハイトタイヤ (2本 マルーン) ミニ四駆特別企画販売 あれ?もう売ってる。 高いけど。。。 2015/4/25 こむお 楽天の期間限定ポイントが7,500円もきた。 すっかり不意をつかれて、使い切るのにとっても疲れた。。 一週間早ければ、子供のピアニカとか、色々あったのに。。。 楽天の、この商売上手!! 2015/4/17 こむお できました(*´Д`*) imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (DSC_2032.jpg) 中身はしっかりJ1 Compact(D5788、ビルド14.4.C.0.114)です! 上部の「docomo Xi」が余計ですね^^; 2015/4/16 こむお XPERIA J1 Compactという端末(スマホ)をご存知でしょうか。 最近人気のSIMフリー端末。 ASUSのzenfone5が高スペック低価格で、日本でも大人気です。 このzenfone5の後継機である、zenfone2の日本での発売が迫っています。 zenfone2は世界で初めて4GBのRAMを搭載したスマホということで、注目を集めています。 おそらく国産メーカー機種と比べて低価格でリリースされ、zenfone5同様人気端末になるだろうと思います。 ということで、ちょうど、自分と嫁のスマホがだいぶ古くなってきていることもあり、 zenfone5、zenfone2への買い替えを検討してみました。 RAMは2GB、4GB。CPUも4コアなどと、十分高性能。 価格は2.5万~4.0万くらいになりそう。 やはり良い機種です。 が、しかし、 しかしですよ、、 でかい。。。 でかくて重いんです。 zenfone5、zenfone2のすべてモデルで最小が5インチ。 4GBモデルは5.5インチ(iPhone6 plusと同じ大きさ)です。 男性でも片手操作はきついです。 ましてや女性にはでかすぎます(あくまで私見)。 そして、zenfone2の重さは170gです。 最近のスマホは(性能重視?見やすさ重視?)でどんどん大きくなっていますが、 個人的にはこの方向性を疑問視しており、そのうちまた縮小化に回帰するんじゃないかと思っています。 で、調べました。 メモリ2GBで大きさが4インチ台の端末がないか。 ありました。 それが、最初に書いた「XPERIA J1 Compact」です。 4.3インチ。重さは135g。 さすがxperia。 zenfone5やzenfone2の低位機種よりやや高性能にもかかわらず見事にコンパクト。 すばらしい。 よしよし、ではそのお値段は、、と、 (zenfone5は3万だよー、zenfone2の低位機種は2.5万くらいになると思うよー、ちょっと高いくらいだといいなぁ) 6万弱。死亡。 ここまでが、3月末の出来事。 コンパクトさは諦め、zenfone2の低位機種の発売を待つことにしました。 で、昨日です。 WEBをブラウジングしていると、「xperia A2(so-04f)のJ1 Compact化に成功」という4月13日付の記事が目に飛び込んできました。 A2とJ1 Compactはハードがほぼ一緒だから、J1 CompactのファームウェアをA2に移植可能であり、 A2をJ1 Comapctとして使用できるというものです。 そしてJ1 Compactのファームウェアは既にxperifirmで公開されているとのこと。 まじか。 まじなのか。 急いでA2(白ロム)の価格を調査。 #最近はAmazonで白ロム未使用品を買えるんですね。 なんと、2.8万~3.1万。 つまり、まとめるとJ1 Compactが3万ということです。 か、買うしかない!!! すぐさまAmazonで2つぽちりました。 SO-04F Xperia A2 Orange と SO-04F Xperia A2 Gray Black Gray Blackは楽天にもありますね。 【携帯電話】【新品未使用】NTT docomo Xperia A2 SO-04F グレーブラック【送料無料】【スマートフォン】【Xi】【ドコモ】【白ロム】【モバイルステーション】【SY】 白ロム docomo 未使用 スマホ なお、昨日より、在庫数が減ってます。 J1 Compact化できることを知った人が買っているのかもしれませんね。 A2のJ1 Compact化、今から非常に楽しみです。 うまくいったらやり方と合わせて報告しまーす。 2015/4/12 こむお 少し前にタイヤを買ったとここに書きましたが、この土日の車検のタイミングではきかえました! 買ったタイヤはこれ↓↓↓ 18インチ ダンロップ(DUNLOP) ルマン4(LEMANS704) 215/45/R18 215-45-R18 サマータイヤ 単品レ... で、まず驚いたのがその静音性。 乗るまでこのタイヤが静音性に優れていることをすっかり忘れてたんですが、 走らせてみてその静かさに気付くレベル。 そして、燃費性能。 こちらは、まだ長距離を走ってないので、何とも言えないですが、燃費ゲージを見る限りはかなり良さげ。 GWの関西帰省時の計測が楽しみです。 住友ゴム工業いい仕事するな。 https //www.google.co.jp/search?q=%E4%BD%8F%E5%8F%8B%E3%82%B4%E3%83%A0 ie=utf-8 oe=utf-8 hl=ja#hl=ja q=%E4%BD%8F%E5%8F%8B%E3%82%B4%E3%83%A0%E3%80%80%E6%A0%AA%E4%BE%A1 なお、あくまで、前のタイヤ(ADVAN A10)との比較です。 運転するのが楽しくて、わざわざ少し遠くまで外食しに行ってしまった、そんな日曜日。 2015/4/6 こむお 何か、見えるものがないかと、新橋レースの個人成績をまとめてみました。 imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (table.jpg) ここんところは良く決勝まで行くけど、まず優勝はしない 決勝での成績は2012年をピークに1、2位⇒2位、3位⇒3位、4位と右にシフトしてきている(辛い) このままだと一生優勝できなそうです。 負けの原因(完走スピード負け、CO負け、戦略負け、マシン力負け)、そのあたりも分析したら何か対策が見えてくるのかしら。 2015/4/4 こむお 再来週の日曜日は、子供たちのピアノの発表会(初)! ちょっと小奇麗な普段着でええやろ。 と思ってたところ、ドレスコード(フォーマル)有りとのこと。 まじか。。。衣装用意せなあかんやん。 お月謝だけでひいひい言うてるのに。。。 曲は30秒程度なんですよ。 その30秒のために練習して準備して、そしてそれなりの出費が伴う。 あれ?何かと似ている。 そう、まるでミニ四駆の遠征。 何でも勝負は一瞬ですね。 まぁそんなことはさておき、 遠征費(1~2回分)→衣装代に充填、の図式が出来上がりそうです。。涙 ほんとにもう、totoBIG当たれよ!!! 2015/3/28 こむお 昨日はとっても楽しい飲み会があり、子どもが生まれてから初めて飲みで朝帰りをしてしまいました(´゚д゚`) ん?結婚してから初めてかも。 6時に帰宅して、7時に2Fの寝室で眠りにつく。 8時頃に嫁が家(1F)のシャッターを開ける音で目が覚める。 普段なら休日の朝は起こさないように静かに開けてくれるシャッター。今朝の音はとっても攻撃的だ。 初動が大切。 即座にベッドから飛び起き、1Fリビングへ。 嫁「昨日、何してたの?」 何だこのプレッシャーは。。担当部長、いや部門長レベルの圧だ。。 冷静に、事実をできるだけわかりやすく誠意を持って説明。 なんとか事なきを得る。 ふぅ。土曜の朝から心身ともに疲労度MAXやで! 2015/3/24 こむお いやー品川の自分のだめだめっぷりにはまいった(´・ω・`) ちゃんと準備してぶれずにやっていかないとダメ。 反省。 2015/3/20 こむお 家に帰ったら置いてあった。 imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (DSC_2026.jpg) 嫁が購入した模様。 粘り勝ち(*´Д`*) 2015/3/14 こむお 2週間前に、急遽入院した息子。 まだ5歳なので、母親の付き添いが必須ということで、妻も病院に泊まりきり。 それが今日、無事退院しました!!! 入院中、投薬の効果が得られず症状がぶり返すなど、ひやっとしたときもありましたが、 元気に戻ってきてくれました。 自宅療養+10日という制限はあるものの、本当にうれしいし、ほっとします。 そばにいることが当たり前になっていた家族。 離れてその大切さに気づきます。 人間は頭ではわかっていても、状況に直面しないと実感にはなかなかリンクしないですね。 さて、来週の品川、このまま息子の体調が問題なければ参加したいなと思ってます! 準備が間に合うかは、、、不明w 2015/3/9 こむお 公式スプリング大会は高速レースだったようで。 https //www.youtube.com/watch?v=YH_ZuQXLK24 feature=youtu.be ac 今後もこの速度域のレースが続くかどうかは、ウォッシュのレイアウトしだいでしょうか。 個人的には高速レイアウトが続いて欲しいなぁと思ったりしています。 やっぱり速いとみていて興奮する! 2015/3/5 こむお 桐谷美玲好きなワシ、 ドラクエヒーローズが欲しい嫁から、 「美玲ちゃんが声優してるで!」とそそのかされ、 うっかりぽちってしまうところでした。 ドラゴンクエストヒーローズ 闇竜と世界樹の城 踏みとどまったものの、興味あるなー(ゲームとしても!) ここは粘って、ぜひとも嫁に買ってもらいたい! 2015/2/22 こむお 半年振りに参加した新橋ミニ四駆チャレンジは3位でしたー! レポは後ほど。 2015/2/21 こむお 今日は朝から車のタイヤに空気を入れました! タイヤといっても届いた新品タイヤじゃなくて、現行タイヤの方です。 タイヤの空気圧が減ると燃費が目に見えて悪くなるので、前々から自力で定期的に入れたいなーと思ってました。 自転車をイメージするとわかりやすいですが、空気が抜けてくると、こぐのが重いですよね。 車も一緒です。 うちの車だと、半年間空気を入れないと、燃費が14.0km→12.5kmまで下がります。 ミニ四駆の遠征コストを下げるためにはケアすべき事項なのです。 最初、ガソスタの空気入れを使う案を検討しましたが、 近所のガソスタはいつも混んでて、あわてそうで却下(小心者です)。 んで、amazonで探してみると2,000円程度で自動車にも使える空気入れを発見。 BAL (大橋産業) ツインシリンダー (品番) 1920 調べてみるとけっこう使われていて、問題なさそうだったのでこれを購入。 そしてこの空気入れについてるエアゲージ(空気圧の計測計)は目安にしかならないとのことで、 よさげなエアゲージも合わせて購入。 エーモン 6781 エアゲージ (ピットブラック) で、朝からやったんですが、問題なく4輪とも空気を入れることができました! 若干空気入れをタイヤに差し込むとスースーもれるので、手際よくポンプする必要がありましたが、 安物なんで仕方ないといったところでしょうか(´Д`;)) 200~210kPa→225kPa 4ヶ月で20kPaぐらい下がるんですね。 これからは月1ペースで空気入れたいと思います! 2015/2/20 こむお タイヤきたー!! そしてなんと製造年2014年50週だった! 事前に店に問い合わせて、2013~2014のものと聞いてましたが、 まさかここまで新しいのがくるとは!! 良い買い物ができた(*´Д`*) 2015/2/19 こむお タイヤ買いました! ↓↓↓ 18インチ ダンロップ(DUNLOP) ルマン4(LEMANS704) 215/45/R18 215-45-R18 サマータイヤ 単品レ... かなり安かった上に、ポイント10倍!ウレチー(*´Д`*) そして低燃費タイヤデビューです! うちの車は高速でリッター13~14kmくらいです。 このタイヤをはいてどのくらい伸びるか楽しみです!! 2015/2/16 こむお 昨日は子供たちの幼稚園の学芸会でした。 娘、なんと主役。しかも立候補したとのこと。何その積極性。。 それなりに頑張って練習していたようです。 失敗しても良い経験になるかな、と思って見てましたが、見事に演じきってました。 知らぬ間に成長するもんです。 ちなみに双子の息子の方は「雲」の役で、娘の横で「もくもくくもくも~♪」と雲のダンスを踊ってましたw 二人ともよく頑張りました。お疲れ様。 2015/2/8 こむお 車のタイヤがそろそろ寿命で、交換しようと思い、ディーラーで見積り取ったら高い(わかってたけど)! 10万~12万。 高いよー、ネットで買うより2,3万高いよーと伝えたら、 「持ち込みOKっすよ」という回答が!!! うほっ!まじか!やった!!! 家族で牛角3回行けるじゃないか! 言ってみるもんですね。 2015/2/8 こむお 再起動でlink2sdのdalvik-cacheのリンクが切れる事象への対策 参考にしたサイト http //silentvoice.moe-nifty.com/blog/2012/08/is11s-fe52.html →そもそも自分の端末にはinit.dがなかった。 無理やり作って、やってみるも失敗。 http //tsk-server.ddo.jp/2013/01/so-02c-xperia-acro-link2sd-dal.php →アプリ強制終了連発で失敗。 でもシンボリックリンクのアイデアは非常に参考になった。 環境 xperia acro (SO-02c) Android2.3.4 やったこと 1.ESファイルエクスプローラーで/data/sdext2/dc(名前は何でも良い)を作成 フォルダの権限は/data/sdext2/dalvik-cacheと同じであることを確認 2.ESファイルエクスプローラーで/data/dalvik-cache/内の全ファイルをコピーし /data/sdext2/dc/内に貼り付け (切り取り→貼り付けだとうまく移動できなかったのでコピペで対応した) 3.ESファイルエクスプローラーで/data/dalvik-cacheをフォルダごと削除 4.端末エミュレータ※でコマンド実行し、シンボリックリンクを作成 ※https //play.google.com/store/apps/details?id=jackpal.androidterm hl=ja su ln -s /data/sdext2/dc /data/dalvik-cache 3の作業後すぐに実行できるように、 1よりも先に上記コマンドを端末エミュレータ上で準備しておいた。 (エンター押して実行するだけ) 5.再起動 内部ストレージが大きく開放されていれば成功。 念のため、端末エミュレータで/data/でls -lでシンボリックリンクを確認。 上記作業の心は、 /data/dalvik-cacheには削除してはいけないファイルがたくさんあるようだ /data/dalvik-cacheのファイルを/data/sdext2/dalvik-cacheに上書きしない方が無難かも なら、/data/dalvik-cacheを空きのあるsdext2へまるごと移してシンボリックリンクをはってしまえ という単純なものです。 くれぐれも、バックアップを取ってからやりましょう(自己責任で!)。 2015/2/6 こむお 早いものでもう2月も1週目が終わろうとしてます。 正月から1/12以上経過してしまったわけで。。。おそろしい。。。 2月のレースは新橋ミニ四駆チャレンジのみの予定です。 楽しみです。 最近会社のBYOD施策により、仕事に自分のスマホを使わないといけなくなりました。 その関連で自分のxperia acro(so-02c)をさらに快適にしたくなり、 いろいろといじる毎日。 で、link2sdのdalvik-cacheが再起動時に外れるという事象を対策したくなり、 いろいろとネット上で紹介されている解決策を試したのですが、うまくいかず。。。 ここ2、3日、やってみては不具合が出てリストア、の繰り返し。 が、昨日ついに自力で解決することに成功しました(*´Д`*) 起動も見違えるほど早くなり、快適そのものです。 同じく、うまくいかないと思考錯誤されている方も(わずかながら)いると思うので、 また、自分への備忘録もかねて、解決策を別途記載しておこうと思います。 2015/1/22 こむお 日曜日は品川ですね。 今年初レース! 楽しみだけど、当日の寒さを思うと心が折れそう。。。 2015/1/6 こむお 昨年はたいへんお世話になりました。 今年もどうぞよろしくお願い致します。 さて、わたくし、1月1日に見事にインフルを発症いたしました。 2015年、先が思いやられる幕開けとなっておりますorz 早めのタミフルで熱はすぐさがりましたが、合併症?の副鼻腔炎が強烈で、全快には程遠い状況です。 こんな状況ではありますが、今年もミニ四駆、楽しんで参りたいと思います! 初レースは、品川の予定です。 初夢サーキットむずそう。。
https://w.atwiki.jp/newani4/pages/132.html
1+1+0+1−1= ◆eNKD8JkIOw セルティ・ストゥルルソンは、動けなかった。 支給品、凄まじいスペックを誇るオートバイであるV-MAXを取り出そうとしていた手も止まり。 彼女を攻撃し、一度は謀りながらもセルティから逃げ続けていた怪しい男を追っていた足も止まり。 その非現実的な状況に、一瞬、思考も止まりかける。 目の前のガンマンも同じく、足を止めていた。 だが、セルティは男がようやく観念したのだとは全く思えない。 恐らく、いや、きっと。 彼は自分と同じく、目の前に繰り広げられている光景のせいで、動けないのだ。 追いかけっこを繰り広げていた両者を同時に止めたその光景。 百鬼夜行に匹敵する首なしのデュラハンと、百戦錬磨の暗殺者とが同時に、咄嗟には動けなくなったその光景。 フリフリなピンクな衣装に眼帯をした少女が。 緑色の可愛らしい衣装に身を包んだ金髪の少女を。 壁に、串刺しにしていた。 (……どうすればいい) セルティ・ストゥルルソンは首なしの化け物だ。いわゆる、デュラハンと呼ばれる存在だ。 だが、彼女は同時にお節介で、困った人を見ると助けずにはいられない良識人でもある。 だから、セルティがまず思ったのは、串刺しにされている女の子を助けなければ、という至極常識的なものだった。 一歩を踏み出し……かけて、しかし、そこでセルティの足は、今の自分の状態を思い出して止まってしまう。 今の自分には、ヘルメットがない。つまり、首なしであるということを隠せない。 それは即ち、まともな人間が見れば百人中百人が『化け物』と認識して然るべき状態である。 今の今までガンマンに逃げられ続けていたのも、間違いなくそれが根本的な原因なのだ。 しかもセルティは首がなく、つまり声を出すことも出来ないので、普通の人間と意思疎通を図るためには手元にあるPDAを使う必要がある。 ならば、ここで自分が出ていった時に、どうなるか。 仮に、あの眼帯ピンクな格好をした魔法少女のコスプレっぽい女の子が、殺し合いに乗っている人間だとしよう。 串刺しにしているもう一方。金髪に緑服な、こちらも魔法少女のコスプレっぽい女の子を、今から殺すところだとしよう。 その場合、セルティが思いつく限り、取りうる手段は二つある。 一つ目。力ずくでピンクの方の女の子を止める。 だが、これは無理だ。 お互いの力量差がどうこうという話ではない。物理的に、不可能だ。 何故なら、自分と彼女たちの間には『距離』が空きすぎている。 (私が全速力で走ったり、このオートバイを取り出してエンジンを蒸かしたり、『影』で遠距離から攻撃をしたところで、間に合わない) 仮にも相手をあの奇妙な形をした剣(?)で壁に串刺すことが出来るくらいには、あの眼帯ピンクも『やる』のだろう。 先ほどの魔法少女のコスプレっぽいという表現も、あながち冗談では済まされないかもしれない。 少なくとも、この世界には首なしのデュラハンや、弾丸の軌道を自由に操れる超能力者がいるのだ。 他の参加者も、それ相応に現実離れしていると考える方が妥当だろう。 ならば、自分が闇雲に攻撃をしかける素振りを見せた時点で、眼帯ピンクは金髪緑の女の子をまずは殺してから、セルティに対処するに違いない。 もっと距離が近ければそんな隙を与えずには済んだのだろうが、いかんせん、こればかりはどうしようもなく運が悪かったとしかいえない。 そして、もしも万が一彼女の服装が本当にコスプレで、相手を串刺しにしたのも偶然のたまたま上手くいったのであれば、なんて可能性に賭けるほどセルティはリスキーではない。 人の命がかかっているのだ。そんな短絡的には、動けない。 ならば二つ目の方法。相手を説得する。 こちらならば、まだ可能性はあるように思える。 もしも眼帯の女の子が「殺し合いをしなければ帰れないのならば、殺さなければ殺される」という思考をしていたならば、説得の余地は十分に残されているとセルティは考える。 だが、セルティはこちらの方法もまた、すぐには選ぶことは出来なかった。 相手が本気で殺し合いをやりたくて乗っていた狂人の場合は、そもそもこちらの説得に応じるとは思えない。 対話のために差し出したPDA、セルティが他の人間とコミュニケーションを取り得る数少ない手段を破壊されてそれでおしまい、だなんて笑い話にもならない。最悪だ。 ならばもう一方の可能性、相手が今は錯乱しているだけで説得に応じうる人物である可能性はどうか。 いや、こちらもまた、彼女が動くことは出来ないのである。 何度も繰り返すが、彼女、セルティ・ストゥルルソンは首なしの化け物である。 まずこの時点で、他の人間の信頼を得ることなど、ほとんど不可能に近い。 相手がまともな人間であり、今はただ錯乱しているというならば、化け物が近づいてきたところで説得ができるとは思えない。 逆にこの場合は、近づく方が圧倒的に状況が悪くなる。錯乱した人間がどんな行動に出るかなど、予想もつかないからだ。 ならば、最初の前提条件が違う場合はどうか。 つまりピンクの女の子は殺し合いに乗っていた緑服の女の子を止めるために壁に串刺しにしていた場合だ。 この場合でも、セルティが力尽くでピンクの女の子を止めようとした時に、ピンクの子はどんな行動をとるのか予想ができない。 錯乱して緑服の女の子にトドメを刺してしまう可能性もあるし。 そうでなくとも、自分とピンクの子が争っている間に、殺し合いに乗っている金髪緑の女の子を逃してしまう可能性だってある。 説得も、前述のとおり自分が首なしの化け物である以上、難しいだろう。 ガンマンに誤解されたように、セルティは殺し合いに乗っている化け物だと思われても仕方ない風貌なのだから。 あの池袋には奇特な人間が多かったために忘れがちだが、本来首なしなどという見た目は強烈だ。 パニック映画に登場するモンスターと同列に見られ、問答無用で逃げられたり攻撃されたりしても文句は言えないものだ。 結論として、セルティ・ストゥルルソンは、首なしライダーであるがゆえに迂闊には動けない。 動いたところで、どんなパターンだったとしても、状況が良くなる兆しが見えない。 思わず、心中で歯噛みする。もしも自分が普通の人間だったならば、こうも選択肢が狭められはしなかっただろうに、と。 少なくとも、あのピンクな少女に声をかけ、殺し合いをしなくても大丈夫なんだと説得することは出来ただろうに。 もしくは、ヘルメットさえ手元にあれば、少なくとも化け物として認識されることもなかっただろうに。 「あれあれあれ~。西部劇とモンスター映画の夢の共演ってやつぅ?」 だが、セルティ・ストゥルルソンには、そもそも分かっていなかった。 「こんばんは~。ボク、針目縫っていうの!よろしくね☆」 加害者側の少女、針目縫の異常性を。 人を人とも思わぬ、その残虐性を。 「……おう。よろしくな、嬢ちゃん」 「おじさまったら、かったーい♪もっとリラックスリラックス☆」 例え、セルティがどんな行動を取ろうとも。 「そちらの貴方はお返事ないの~? あ、そっかぁ!お口がないから喋れないんだねえ」 いや、むしろ、セルティが針目縫に出会ってしまったからこそ。 「そうだ」 この悲劇は、避けられなかったことを。 「いいこと、思いついちゃった☆」 □ □ □ □ □ 犬吠埼樹もまた、動けなかった。 戦いに敗れ、壁に磔にされ、意識を失った彼女に、動くことなどできるはずがない。 代わりに、樹は夢を見ていた。悪夢を見ていた。 勇者として針目縫なる少女と戦った際の記憶を、時間を巻き戻すように再び体験していた。 樹は細いワイヤー、糸を何十も同時に操る戦闘スタイルを取る。 標的を縛り上げ、巻きつき、そのまま動けなくなった相手を裁断する。それが彼女の必勝法だ。 大剣のような破壊力はないし、長銃のようなリーチもない。 だが、多くの敵を一度に相手にできる攻撃範囲の広さを避けられる存在などそう多くはないし、何より、剣や銃と違い、糸は相手を傷つけずに無力化する術にたけている。 そう考えると、あくまでも人間サイズの存在が相手となるこのバトルロワイヤルにおいて。 また、決して殺し合いになど乗る気のない樹にとって。 その力は強力なものであり、彼女に適合したものでもあるといえよう。 だが、しかしこの相手に限って言えば。 リボックス社のグランクチュリエ(高次縫製師)にして、自身が生命繊維の化け物である針目縫に限って言えば。 糸による攻撃などは、カモでしかなかった。 「どうして」 樹の放つワイヤーは、そのことごとくが断ち切られた。 縫の武器は片太刀バサミ。 生命繊維と呼ばれる、生きている繊維の命を断つために作られた、まさしく『糸殺し』の武器。 「どうして、こんな!」 「どうしてって?誰かを切り刻むのに理由なんていらないよ♪」 正面から縫を襲う十の糸が、目に見えない速さで振るわれたハサミによって、全て細かくバラバラにされる。 ならばと左右正面の三方向から仕掛けるも、縫は冗談のようにクルクルと回りながら、全ての糸を断ち切っていく。 それぞれの糸が彼女に到達するタイミングの違いなど、コンマ数秒の違いのはずだ。 だが、針目縫はそれを為す。スピンしながら、一番最初にやってきたワイヤーに片側だけの不格好なハサミを合わせる。 次の緑糸を返す刃で殺し、3度目の正直と言わんばかりに眼帯の死角から襲い掛かる3本目を、気配だけで切り刻む。 遅れてやってきた4つ目と5つ目をかわしながらまとめて叩き斬り、6、7、8と、ダンスを踊るように、リズムを取るように、テンポよく。 斬る、殺す、斬る、殺す、斬る、殺す、斬る、殺す。 斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す。 人を喰う羅刹のように。人を喰った笑顔を全く崩すことなく。 斬る。殺す。斬る羅KILL。 「そん、な」 化け物。そう、口に出かかる。 彼女はバーテックスのように大きくもなければ、異形めいた見た目をしているわけでもない。 どちらかといえば自分たち勇者のような衣装を身に纏った女の子だ。そのはずだ。 なのに、こちらのワイヤーを片太刀バサミで尽く無力化していく縫の姿は。 アハハ☆なんて口ずさみながら、戦いを、殺し合いそのものを楽しんでいる彼女の姿は。 自分たちと同じ人間だとは、どうしても思えない。 未知の惑星からやってきた宇宙人だといわれればそのまま納得してしまいそうだ。 理解できる気も、ましてや勝てる気も。 全く、しない。 「あなた、よっわーい!飽きちゃった☆」 そんな絶望に囚われかけていた樹が、突然回転を止めこちらに飛びかかってくる縫のスピードに、対応できるはずもなく。 慌てて正面に集中させたワイヤーが潜り抜けられた、と知覚した瞬間。 目の前に、針目縫の顔があった。 「っく……!」 身を捩るも、身体のあちこちが何度も切り刻まれる。 防御しようとした木霊は、邪魔だといわんばかりに、瞬時に針目の片手で鷲掴みにされていた。 その隙に少しでも距離を開けようとバックステップを踏む、が、無駄だった。速さが違いすぎる。 左脇腹が浅く切り裂かれたかと思えば、右肘が骨ごと抉られていた。 その痛みを我慢しながら死ぬ気で後ろに下がった瞬間、お臍の表面に刃が突き刺さる。 あと数センチ下がっていなければ内臓までズタズタだ、なんて他人事みたいに考えた。 とにかく体勢を立て直さなければ。もう一回、気合で後ろに飛ぼうと足に力を籠め。 「はい、ばんざーい」 両腕が、ひょい、と背後から持ち上げられた。 針目縫の姿は、もう正面にはない。 つまり、樹の気合の全力後退をあざ笑うかのように、回り込まれたのだ。 思わず、振り返る。そんなことをしている暇などないというのに。 振り返ったところで、どうしようもないというのに。 だけど、樹は振り返った。もはや勝ち目がないと悟ってしまったからこそ、振り返り。 わけのわからないスピードで自分の背後に居座った針目縫の笑顔を。 「貴方は、間違っています」 「ぐさぁー☆」 睨み返すことしか、できなかった。 「…………んっ」 「あ、丁度良いや」 そんな悪夢から目を覚ました樹を迎えたのは、またしても悪夢だった。 縫に切り刻まれた身体のあちこちが焼けるような熱を発している。 特に、自分の頭の上でクロスに組まれている両掌の痛みがひどい。 「はい、おはよ~」 「う、ぐ、ああああああああぁぁ!?」 ぐじゅり、ぐじゅり、ぐじゅり。 掌に突き刺さっている異物が、抜き差しされ、抜き差しされ。 爪が、小指が、掌の一部と思しき部分が、上から降ってくる。 あまりの痛みに視界が赤く染まり、気を失いかけるも、もう一度引き抜き、差し込まれ、痛みで現実に引き戻される。 視界の隅に移った落ちていく『中指』を見て、私の手が欠損していくという現実に、引き戻される。 「君、あの首なしさんとお話したいよね。そうだよね。そうに決まってるよね☆」 涙目を開けると、ものすごい近くに、針目縫のゆがんだ顔があった。 何を言っているのかは良く分からなかったが、ロクでもないことだということだけは確信する。 導くように遠くを指す縫の人差指に釣られて、正面を見れば。 私たちの戦っていた校庭の入り口のあたりに男の人と、針目縫の言う通り……首なしで立っているナニカが、いた。 「だから、ボクが君に首なし語をマスターさせてあげるよ☆」 ぶちり、と何かが千切れていく音が聞こえる。 ずるずる、と。私の手から、異物が引き抜かれていく感覚が続いた。 掌を抑えつけていた圧迫がなくなり、代わりに、拳を握るべき部分に空いた穴が、夜の冷たい空気に当てられる。 「が、がぁあああああああああああああああ!」 「我慢我慢。勇者なんでしょ~?」 こんなに涙が溢れ出したことは、生まれて一度もなかった。 こんなに大声を出したことは、カラオケで歌の練習をした時だって、なかった。 痛い。死にたい。いっそ殺してほしい。そんな弱気が頭の中を駆け巡る。 でも、駄目だ。 どんなに苦しくても。どんなに辛くても。 犬吠埼樹は、勇者なのだから。 「ほい、っと」 急激な、浮遊感。 涙でぼやけた視界が空を飛ぶ。 投げ捨てられたのだろうか。痛みがすっと引いていく。 何故、突然針目縫がそんなことをしたのかは分からない。 だが、これはチャンスだ。この機会をモノにしなければ嘘だ。 (勇者部五箇条、その二……!) なるべく、諦めない! 何故か言葉が口から出せなかったので、心の中だけでも強く思う。 そうだ、こんなところで諦めるわけにはいかない。 まだ、バーテックスだって全部倒したわけじゃない。 まだ、あのオーディションの結果だって受け取ってない。 まだ、皆とお喋りもし足りないし、カラオケだって、もっともっと沢山行きたい。 まだ、あの『色紙』のお返事だって、返せてない! まだまだ、したいことは沢山あるんだ! だから、動け身体。 まずは、空中で体勢を立て直す。 それから、針目縫から少しでも距離を取る。あの近接能力には、悔しいが勝てる気がしない。 出来れば、さっき見た男の人とも協力したい。どうか殺し合いに乗っていませんようにと強く願う。 それから、針目を倒して、お姉ちゃんや他の皆とも合流して、それから、それから。 …………あれ? 身体が、動かない。 というよりも。 身体の感覚が、ない。 頑張れ、頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ私の身体! 今動かないで、いつ動くの! でも、駄目だ。 なんでだろう。こんなにも、私の頭はやる気に満ち溢れているのに。 東郷さんならそれらしい難しい理屈を並べて、説明してくれるのかな。 友奈先輩なら、夏凛先輩なら、こんな時どうやって頑張るんだろう。 お姉ちゃんなら。 励まして、くれるかな。 ……あれ、どうしちゃったんだろう、私。 こんな大事な時に、皆のことばかり、思い浮かんで。 と、ここで。 落ちつつある私の視界が、針目縫と 身体を、見つめた。 その身体は、薄い緑色の、服を着ていた。 その身体は、噴水のように、真っ赤な液体を噴いていた。 その身体に 首はなかった。 そう か わた し は く びを きら れたん だ 今、空にすぽーんと打ち上げられている私は。 首だけなんだ。 ………………ごめんね、お姉ちゃん。 【犬吠埼樹@結城友奈は勇者である 死亡】 針目縫が、動かないわけがなかった。 彼女が、ホル・ホースやセルティ・ストゥルルソンに対処する前に樹を殺すと決めていた時点で。 どう足掻いても、犬吠埼樹に助かる道など存在するはずがなかった。 「こんばんはー☆」 そして、その光景は、異常に過ぎた。 「私は貴方と同じ首なしだよー♪」 『彼女』の首から噴き出した血に濡れることもお構いなしで。 『彼女』の尊厳を力いっぱい踏み躙っていることも気にしないで。 針目縫は、犬吠埼樹の首なし死体を、人形のように後ろから操っていた。 首をなくした樹が、手を振った。 首をなくした樹が、ステップを踏んだ。 首をなくした樹が、かっこいい決めポーズを取った。 「あれえ、どうしたのかな?首なしなら同じ首なしと電波とか、そういうので通じ合えると思ったんだけど。 ほら、早くあの首なしさんのご挨拶を受信しなよー。ぺしぺし☆」 壊れた旧型テレビを直す時のように。 本来首のあったはずの場所を無遠慮に叩く。 それでも何の反応を返さない樹の胴体を、2,3秒見つめ続けて。 針目縫は「はぁ」とわざとらしい溜息をつく。 「マジ、死んでも使えない」 あっさりと、樹の死体を人間離れした膂力でポイ捨てする。 ひゅーん。どさり。それでおしまい。 樹の決意も、悲鳴も、涙も、何もかもが、ただの使い捨ての消耗品であったかのように。 あまりにもあっさりと、針目の中で犬吠埼樹の出番は、終わりを告げた。 「あれ、もしかして怒ってる?」 そこで彼女は、あることに気付いた。 ガンマン風な男の後ろにいたはずの、黒い服の首なしが、男の前に出ている。 そして、こちらに歩いてきながら、その身体から大量の黒い霧のようなものを噴出していた。 首なしは、何も語らない。彼女には、口がない。 首なしに、顔はない。だから、そいつがどんな感情を持っているのかは、普通ならわからない。 だが縫は、ソレが先ほどよりも「やる気」になっていることを、肌で感じた。 「お待たせ、次は貴方達の番だね☆」 だが、彼女にとってはそのプレッシャーなど、毛ほどの恐怖も生み出さない。 首なしだから?化け物だから?それがどうした。斬れば死ぬ。刻めば死ぬ。死ななくても殺し続ける。そうすればいつかは死ぬ。 所詮こいつらなど、元の世界に帰るために潰すモブキャラのようなものだ。 自分の力さえあれば、取るに足りない小さな化け物だ。 だって、ほら。 「はい、そんな激おこな首なしさんにはプレゼント―☆」 こんなにも、ちょろい。 縫と首なしには未だ十分な距離が空いている。だからあいつはまだ、余裕をもって歩いてくることができるのだ。 だから縫は、落ちていた樹の首を無造作に拾い上げこちらにやってくる首なしに向かって投げつけた。 縫の力で投げつけられたソレを慌てて受け止めようとする首なし。 もうソレは死んでいるのに。お前は化け物の癖に。 こんなモノは無視して、私に挑みかかってこればいいのに。 人間の慈悲とか、倫理とか、そういうのに囚われている。 やっぱり、こいつは『良いやつ』なんだ。馬鹿だなあ。 「喜んでもらえたかなあ?」 当然、首なしが動揺しながら樹の首を受け止めた隙を見逃すほど、縫は愚かではない。 そのまま、目にも留まらぬ速さで疾走。黒い首なしと少しでも距離を詰める。 慌てた素振りで開始された首なしによる『影』の迎撃を細身の体で潜り抜け。 こちらを絡め取ろうとする影を、樹の糸に対して行ったように片太刀バサミで寸断し、乱舞しながら前へ行く。 捌いて裁いて数歩を進めば、そこはもう針目縫の間合い。 「さっきの子といい芸がないね」 振り下ろしたハサミが、影で固めた漆黒の鎌で迎え打たれる。 少しびっくり。こんなことも出来るんだ。便利そうな能力だね。 でも、ちょっと私とやりあうには役者不足かな? 一合、二合、三合と打ち合い、火花を散らし、四合目で首なしの持つ鎌を弾き飛ばす。 全くもって張り合いのない。まるで弱かった頃の流子ちゃんを相手にしてる時みたい。 せめて、最初に隙を晒さなければ、もう少しは楽しめる勝負になっただろうに。 もしくは、今も後生大事に片手で抱えてるその首を手放せば、もう少しは寿命が延びただろうに。 まあ、そういう駆け引きも含めて、勝負なんだけどね☆ 「首がないから、とりあえずテキトーに切り刻んどくね♪」 例えそれが、セルティの能力である『影』で作られたライダースーツといえども。 例えそれが、銃弾程度ならばダメージにならない強度を誇っていたとしても。 針目縫の片太刀バサミに、断てぬものなどない。 ありとあらゆる物質を刻み、繊維に宿った魂でさえ切り刻むこのハサミにかかれば。 デュラハンの不死身の身体を、魂ごと断つことなど、そう難しいことではないのだ。 参加者の中でも随一な再生力を持つセルティでさえも、当たれば必死。 更に、鎌を失い影を刻まれ、今や素手同然となってしまったセルティに、針目縫の一撃を避けることなど、もはや不可能。 セルティ・ストゥルルソンの敗因は、彼女が優しすぎたことだ。 怒りに身を任せ、それこそ完全な『化け物』と化していれば、あるいは針目に一矢報いれたのかもしれないが。 あくまでも『人間』らしい心を失わず、死んでしまった者の遺体にも気を遣ったからこそ。 彼女は本当の『化け物』である、針目縫には及ばない。 セルティ一人では、到底勝ちには至れない。 そう。 セルティ・ストゥルルソン一人だけ、ならば。 セルティを斬ろうと振りかぶったハサミがピタリと止まる。 風切り音だけを頼りに、生命繊維の化け物は攻撃から、回避挙動に移った。 首を大きく捻ると同時に、フィギュアスケート選手のように、身体を軟体動物のように捩じる。 一瞬遅れて彼女の身体があった場所に飛来したのは――――弾丸。 顔面への攻撃を回避されると見るや否や、的の大きい胴体狙いに『軌道を変更した』鋼鉄の死神に対し、針目は大きく跳躍し、距離を開ける。 「邪魔くさーい☆」 「お嬢ちゃん、こんな名言を知ってるかい」 ズアァァァと、かっちょつけた効果音と共に。 遂に、その男は動き出した。 今まで『見』に徹していた男が。 『一番よりNo.2!』をモットーに掲げる男が。 「銃は剣よりも強し、ってなぁ」 『皇帝』のホル・ホースが、化け物どもの争いに参戦する。 □ □ □ □ □ ホル・ホースは、動くべきタイミングを誤らなかった。 「人生の終わりってのは、たいてーの場合あっけない幕切れよぉー。 いつまでも他人の死に囚われてんと、そいつとまとめてオダブツだぜぇ~?」 それを聞いた首なしは、針目縫への警戒はそのままに、手に持っていた少女の首を『影』で作った籠に安置した。 あくまでも、死人だろうと無碍に扱う気はないようだった。 化け物のくせに、アマチャンめ。 (ふぅ~。ヒヤヒヤさせやがる。ここでテメエまで死んだら一巻の終わりってやつだったぜぇ~) 二人の化け物に見せつけたニヒルな笑い顔の裏で大汗をかきながら、ホル・ホースは自分の算段を確認していた。 まず、彼が針目縫に感じたのは、あのDIOに負けずとも劣らぬ、圧倒的『化け物』のオーラだった。 間違いなく殺し合いに乗っていると思わされる、悪の気配。 こんな界隈で仕事をしていれば嫌でも感じざるを得ない『俺よりほんの少し強いかもしれない』と思わされる、実力差。 まず、この時点で彼は、一人で針目縫と真正面から渡り合うという選択肢を排除した。 そして、自分の後ろにいるあの首なしが、このまま自分を縫と挟撃しに来たら『それまで』だろうと、ある種諦観さえ覚えつつあった。 勿論、セルティはセルティでそんなことをする気など毛頭なく、それどころか彼女はホル・ホースのことなど二の次で人命救助を優先する思考だったわけだが。 次に、針目縫があの悪趣味極まりない『遊び』を始めた時点で、これは縫との『共闘』など不可能だと思い知った。 イカレてやがる。死人をこんな風に弄ぶこいつに比べれば、あのJ・ガイルの旦那ですら人間的だと思わされる。 ホル・ホースとて暗殺者として数多くの人間を殺し、場合によっては目標の冷静さを奪うために他者の死を利用したこともある。 だが、アレは違う。アレは本当に、その場その場の思い付きで、楽しむためだけにああいう行為を行っている。死者の身体を辱めている。 なので、少なくともこういう場で、こんなやつと『チーム』を組むなど金輪際御免こうむる。 いつなんどき「飽きちゃったから殺すね☆」などと後ろから刺されてもおかしくない。 ならば、彼が選ぶべきは逃走だ。 名も知らぬ少女の敵討ちなど知るか。 他の参加者の心配なんてする余裕があるわけないし、元よりする気もない、 そもそも、今から始まる化け物同士の殺し合いなんぞに巻き込まれるなんぞ、たまったものではない。 首なしである自分のことを馬鹿にされたと感じたのか、それとも、万が一この『化け物』が義憤なんてものを持ち合わせているのかは知らんが。 ホル・ホースを追いかけていた首なしは、今や彼のことを完全に無視して、針目縫に相対しようとずんずんと前に歩いていく。 黒いスモッグ、あえて言うなら形を成した影のような得体のしれない物質を身体中から噴出させ、進んでいく。 これは、千載一遇のチャンスだ。 こいつらが争っている間に、自分は悠々自適にこの場を離れさせてもらうとしよう。 どっちも死力を尽くして相打ちにでもなってくれねぇかなぁ~。 そう思い、身を翻そうとしたホル・ホースだったが。 最後に一目、やつらがどんな力を持っているのか確認しておこう、と後ろを振り返った彼が見たのは。 「嘘、だろ」 あまりにも一方的な、蹂躙だった。 彼が目を離したほんの少しの合間に、あのホル・ホースを苦しめた首なしが、ふざけたファッションの少女に殺されかけていた。 遠目から一瞬眺めるだけで理解できる実力差。 『ウサギがライオンに追いかけられているのを目撃した』時のような、分かりやすすぎる捕食者と被捕食者の関係。 しかも、あの少女のナリをした化け物は凄まじいスピードで剣を振るい、首なしを追い詰めながら、それこそ片手間で。 ホル・ホ-スの方を見て、余った片手で「やぁ」なんて挨拶の素振りを見せつけて『ニタリ』と、笑ったのだ。 ウサギは、自分もだ。 そこから先の判断は、彼自身も驚くほど神がかり的なスピードで行われた。 背中にゾワリと悪寒が駆け抜ける。全身の汗腺から、止め処なく冷汗が流れ落ちる。 ホル・ホースは、そんな生理的現象が彼を襲う『前』から行動を、もはや反射や本能レベルといった瞬発力で首なしの援護を始めていた。 もしもあのまま逃走を続けていたら、彼は10秒後にはセルティを殺した針目縫に追いつかれ、瞬殺されていただろう。 ひとえに彼を救ったのは、彼自身の生存欲求。どんな手段を使っても生き延びたいという、意志の強さ。 それと同時に、今までの暗殺者稼業で培った、生きるか死ぬかの瀬戸際を見極めるセンスだった。 死ぬ気で、今まで生きてきた中で1,2を争うほどの早抜きで『皇帝』を顕現。銃弾を発射。 女だからとかそういうのは一切無視して、針目縫を狙い撃った。 もっとも、彼の『皇帝』は対象から離れれば離れるほどパワーが弱くなるので、これだけで殺せるとは思っていなかったが。 あくまでも、彼の狙いは針目に首なしを殺させないこと。 そして、この場を生き残れる唯一の可能性に賭けるためだ。 「おい、首なしさんよ。理屈は分からんが、耳はなくても俺の言葉が理解できてるな?」 「今までのは全部水に流して、このホル・ホースとは一時休戦といこうや」 すなわち、首なしの化け物との共闘。 それこそが、絶望的すぎるこの状況におけるたった一つの光明だ。 「おじさまはデザートにとっておいたんだから、もう少し待っててくれればよかったのに」 「こんなカッチョイー男をデザート扱いとは、さては俺に惚れたな?」 「ううん。だって、デザートっていうのは一番なまっちょろくて、ペロリとお口に入っちゃうものだもの☆」 「そうまで言ってくれちゃあ、是非ともこの『皇帝』を嬢ちゃんの口ン中で味あわせてやりたくなったぜ」 大口を叩いているのは自分の方だという自覚はある。 針目にかかれば、ホル・ホース一人だけを料理するなど数秒で済むだろう。 銃弾を操作するという能力は一般的な反射神経をもった人間からすれば脅威でしかないが、超人相手にサシでやるにはあまりにも心もとない。 一度避けられて、再度相手の方へ軌道を修正する前に、あの速さで距離を詰められオダブツだ。 実際に、先ほどは彼なりにドンピシャなタイミング、軌道で狙い撃ったつもりだったが、首なしを相手にしていた針目にさえも、傷一つ付けられていない。 実力差、相性差は歴然。絶望的なまでに、歴然としている。 だからこそ、ホル・ホースが針目縫に勝つためには、相手を寄せ付けず、なおかつ自分のスタンドの力が発揮される程度の距離でチャンスを窺いつつ攻め続けるしかないのだ。 そのためには、『皇帝』の軌道修正までに時間を稼いでくれる協力者が必要だ。 そのためには、針目縫を防御に専念させるための、手数が必要だ。 そのためには、いざという時に陽動や切り捨てに使えるような、肉壁が必要だ。 そのためならば。 ホル・ホースは、首なしの化け物なんていう不確定要素の塊にだって、縋って見せる。 「無敵のコンビとは程遠い、即席コンビだがよ。 少なくともここを乗り切るまではよろしく頼むぜ、首なしの旦那」 肯定の返事なんて、もらえるとは思っていなかったが。 首なしは少し考える素振りをした後に、意外にも言葉の代わりに親指を上に立て、サムズアップを返してくれた。 なんだ、案外ノリの分かるやつじゃねえか。 (当然!逃げられる好機を逃す気はないがなぁ~! せいぜい上手く利用させてくれや、首なしさんよ) 【F-4/旭丘分校前/一日目・黎明】 【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】 [状態]:胴体にダメージ(小)針目縫に対する強い怒り、少女(犬吠埼樹)を失った悲しみ。 [服装]:普段通り [装備]: 犬吠埼樹の首(影の籠の中) [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、 黒カード:PDA@デュラララ!!、V-MAX@Fate/Zero、不明支給品0~1枚 [思考・行動] 基本方針:殺し合いからの脱出を狙う 1:ホル・ホースと共に針目縫を止める。 2:首を隠す手段を探す。できればヘルメットがほしいところ 3:知り合いとの合流。臨也には一応注意しておく。 4:旦那、か……まあそうだよな……。 [備考] ※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。 少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。 【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:疲労(小) [服装]:普段通り [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0~3 [思考・行動] 基本方針:生存優先。女は殺さない……つもり。 1:首なし(セルティ)と共に針目縫への対処。勝てなくてもいいから上手いことトンズラこきたい。 2:ジョースター一行やDIOには絶対に会いたくない。出来れば会う前に野垂れ死んでいてほしい。 [備考] ※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です 【針目縫@キルラキル】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:片太刀バサミ@キルラキル [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし [思考・行動] 基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する 1:男と首なしを殺す。 2:流子ちゃんのことは残念だけど、神羅纐纈を完成させられるのはボクだけだもん。仕方ないよね♪ [備考] ※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。 ※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。 時系列順で読む Back 頭文字D Next 逃れられない 時を知る 投下順で読む Back 頭文字D Next 逃れられない 時を知る 020 MONSTERS 犬吠埼樹 GAME OVER 020 MONSTERS セルティ・ストゥルルソン 065 闇を欺いて 刹那をかわして 020 MONSTERS ホル・ホース 065 闇を欺いて 刹那をかわして 020 MONSTERS 針目縫 065 闇を欺いて 刹那をかわして
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作者:扇 タイトル:蛇神と少女の幻想曲~ “どうしても、あなたに伝えたいことがあります。放課後、屋上まで一人で来てください。待っています” 生まれて初めての経験に修慈は心臓の高鳴りを押さえ切れなかった。 靴箱を開けてみると中に置かれていたのは簡素な茶封筒。中身は一枚の便箋であり、綺麗な字で綴られた内容を読む限り俗に言う恋文ではなかろうか。 「うっわ、黒澄って・・・いずもの友達だったはず。あの馬鹿たれと違って好みだし・・・来たよ!俺にも春が来たよ!」 絶対に悪戯ではないと言い切れないが、曖昧な記憶ながらもこんな事に加担するタイプではなかったはず。 仮に何かの罠だとしても、千載一遇のチャンスを見過ごしては男が廃るというものだ。 むしろ騙されてもそれはそれで美味しい。話のネタが一つストックされるのも悪くない。 「告白の後は当然一緒に帰ってデートっ!彼女の居る生活って素晴らしいぜ!」 盛大な勘違いをしてしまった事に気がつかない少年は、宝石のように煌く未来を夢見てガッツポーズを決めるのだった。 <蛇神と少女の幻想曲~第五話~ 説得は笑顔のグーで> -放課後、屋上- 「あー、ごほん、久しぶりだな、黒澄さん。待たせたか?」 「いえ、私も今来たところですから」 「と、ところで話とやらだけど・・・正直、嬉しさ半分、困惑半分って感じ。なんせこんな経験初めてでさ、先輩なのにどっしり構えられそうに無い」 「あ、そうなんですか。てっきり経験豊富だと思ったのでびっくりです」 「け、経験豊富?異性と向き合うことすら少ない俺をどれだけ過大評価!?」 「うーん・・・ちゃんと手紙を読んでくれましたか?」 何処か会話が噛み合っていない。そう考えた修慈は改めて眼前の少女を凝視した。 服装は場所が場所だけに制服。後ろ手に鞄を持ち、頬をやや朱に染めて真剣な目でこちらを見ている。 周囲にも特別おかしい点も見受けられず、誰かが潜んでいる気配も無い。 これでドッキリの線は消えた。おそらく、微妙に反応が変なのは緊張しているからなのだろう。 ここは一つ年上として余裕を見せ、既にMAX予想の好感度をさらに上げてやろうではないか。 「恋心を振り絞った簡潔な文章、何度も読んださ。勿論OK、君の想いは確かに受け取ったっ!」 「こ、恋心?確かにわくわく感はありますけど・・・」 いよいよもって話が理解できない、そんな様子の硯梨は首をかしげて言葉を切る。 そして僅かな間を空けて頷きを一つ。 「先輩、私の申し出を受けてくれるのでしたら人目のつかない所に行きませんか?OKを貰えると信じていましたので、場所の確保は万全です」 いきなりそう来るか。色々と踏むべきステップを飛び越えて、いつかは辿り着きたいゴールがスタートラインとは冗談がきつい。 なまじ身持ちが硬そうに思っていただけに、修慈の頭はこの時点で壊れかけていた。 「まじかっ!?」 「はい、自転車で十分にいける範囲です。昨日のうちに邪魔が入らないよう十重二十重の結界敷設を友人にお願いしてありますから、思う存分楽しめると思いますよ」 「へ、へへっ、とんだサプライズ・・・・今すぐ行こうぜ!」 「はーい」 途中から危険な単語が交じり合っていることに舞い上がった男は気がつかない。 硯莉の目が恋する其れではなく、遠足を前にした子供の眼差しだと言うことすらも。 -街外れ、工場跡地- 「・・・あれ?楽しいことをするにしては場所が悪いような。どちらかっつーと、不良が抗争やらタイマンやらで使う雰囲気じゃね?」 「勿論です。ここなら気兼ねせずに撃てますし・・・あ、でも遮蔽物を利用すれば近接型の先輩の方が有利といえば有利!私って不利な条件であればあるほど燃えます。加減は無用ですよ?」 見たことも無い形状の高そうな杖を取り出し組み立て、見覚えのあるカートリッジを次々に手込めするその姿。 向けられた杖の先端には闘志を乗せ、目に宿るは純粋なる好奇心。 紛れも無く魔を扱う者の姿だ。罷り間違っても恋する乙女ではない。 「なにぃ!?何ソレ!俺のスィートライフは?大事な話ってそれかよ!?」 「大正解♪」 「つーか、何で俺!?」 「私を調べようとしてましたよね。迂闊でした・・・ちょっとお灸を据えただけで問題視されるなんて予想外です」 「・・・・はっ、ひょっとしてアレを引き起こしたのは君かっ!いきなり口封じに来るとは恐れ入るぜ。でも、それだけでこんな回りくどい真似をしたんじゃないだろ?」 「ご明察。でも、本当の理由・・・聞きたいですか?」 「ガラスのマイハートを砕いたからには当然だよ!返せっ!俺の純情を!」 「勝手に誤解したのは先輩じゃないですか!」 「あんな文章を受け取ったら、男なら九分九厘同じ反応するわっ!」 「・・・そうなのかな?」 『ライブラリー検索終了、敵性対象の発言は妥当と判断します。悪いのはマスターであり、この色情魔の言い分にも一理あるでしょう』 「今の言い方って割と慰めになってなくね!?むしろ傷口に塩を塗りこむ所業じゃね!?つーか、喋ってるのって杖かよ!」 『黙れ非モテ族。己の身分もわきまえず、マスターをゲットしようなど百年早いと判断します。マスターのパートナはこの世に私だけで充分。失せろ害虫、それが嫌ならこれよりマスターにフルボッコされてしまえ』 「口悪っ!しかもさりげに独占欲強いな!」 いよいよわけが判らない。 斬新な切り口の果たし状に呼び出されてみれば、何故だか罵倒され続ける謎の苦行。 そろそろ泣きたいと言うか帰りたい。 悪いのは自分なのかと自問自答するが、どう捻っても冤罪だ。 「先輩もぼちぼちやる気を出してくれたようですし・・・始めますか」 『敷設結界へのアクセス正常。複合概念展開』 つくづく人の話を聞かないコンビはツッコミに邁進する修二をよそに動き出す。 過剰としか形容できない認識阻害や人払いの概念を活性化させると、次の瞬間には弾装に押し込んだばかりの魔力カートリッジをロード。 未だ心構えの済んでいない獲物が反応するよりも早く、開始合図と一の矢を放っていた。 「まてまてまてーっ!軽い漫才で油断させつつ不意打ちって汚くないかっ!?」 「先輩がどう受け止めようと、私はここに来た時点でゴングが鳴っていたと思います」 『砂糖に蜂蜜をかけた以上に甘ちゃんと判断します。常在戦場、これぞ常識』 「間違っちゃいないが・・・確かに間違っちゃいないが・・・・」 「なら、そろそろ本気を出してくださいね。じゃないと――――――――」 「と?」 「死にます」 その一言が本当のスタートだった。 瞬時に生み出されるは雷の力を内包した輝く球体。硯の前面に幾つも発生したそれは、初動の時点で最大加速を与えられた必殺の一手に他ならない。 初手は挨拶代わりだったのか狙いも甘く、その場の足裁きだけで難なくやり過ごした修二もこれには戦慄するより他になかった。 「俺は女だからって加減できないからな!」 少女の発した何気ない言葉は対魔師としての己を呼び覚ますに値する明確な敵意だ。 頭のスイッチを切り替え、目の前の相手を完全なる敵だと認識するもやや遅い。 この時点で回避行動に移る為の貴重な数瞬は失われている。 ならば、と選んだ手段は体に染み付いた練磨の成果。習慣で持ち歩いていた竹刀袋から愛刀を引き抜き、鞘から抜く間も惜しいと雷弾を切り払う。 『反応速度より敵性対象の戦闘力を計測。想定範疇のスペックと判断します』 「じゃあ予定通り、距離を制するところから始めようか」 体の運動係数を引き上げ、修二が刀を振り終えるよりも速く後ろへと跳躍。 しかし万が一の反撃に備えて目だけは決して逸らさない。代償として背後の視認を怠る失態を犯しているに見えるが、実際はそうではなかった。 『全周探査式“アルゴスの百目”常駐。視覚情報と同調開始』 一見誘い込んだように見えても、実は硯梨とてこの場所がどうなっているか判らない。 温いといわれればそれまでだが、目的はあくまでも腕試し。条件が五分での上で勝ちを拾わねば意味が無いのだから仕方が無いだろう。 しかし無策で挑みかかるほど甘くも無い。事前調査の代わりに知覚強化の術式を用意してあるのだ。 杖に備わった機械式のセンサーと魔術による視界補正を併せ、自分を中心とした180度の視界を確保。 常に全てを認識していては消耗が激しい為、必要に応じた視覚情報の拡張術式を少女は起動する。 「緊急事以外は百目を維持。リソースの配分は月に一任するからね」 『了解』 まるで背中に目がついているかのように錆びたドラム缶の上に危うげなく降り立つと、足を止めた獲物に追撃を開始。 心構えの差から得たアドバンテージを最大限に生かすべく連続で術式を構築する。 先ず発現するのは鏑谷代わりに放った光弾の本気版だ。 処理を極力軽くして連射性を高めた単純な術式だが、初期に付与していた誘導や遠隔操作の追加概念を切り捨てた結果、弾速と威力へと十分なリソースを割り当てる事に成功している。 やはり通常弾はばら撒いてこそ華。この辺りの考え方はSTG好きの血だろうか。 「ガチだ!混じり気無しのガチだよこの子!」 一度に放たれる弾数が両の指で数え切れる範疇とはいえ、連続した射撃を正面突破することは難しいというか無理だった。 過去に相対した異形には石礫を投じる河童や粘液の塊を吐き出してくる蛙もいることにはいたが、無邪気な悪魔はそれらを遥かに凌駕する。 初手を鞘付で受けたのは偶然の産物だが、実に運が良かった。 少女の矢は雷撃。それも半ばプラズマ弾に近い”魔法”よりも”現実の物理法則”的な意味で危険度の高い攻撃である。 故に対魔の力が付与されていようと主力武器の鋼は通電してしまう。 つまり修慈に残された防御手段は回避の一択しかない訳で、実に不利な相手なのだ。 「遮蔽物が無けりゃヤバかっ・・・・おおう!?」 転がり込むように逃げた先、工場のひさしの下で呼気を整えようとした瞬間だった。 産毛が逆立つような悪寒が走り、止まっては危険だと第六感が訴えていた。 こうなれば剣士は迷わない。荒い息のまま遮蔽物の多い右側へとサイドステップを踏む。 するとコンクリ作りの壁もなんのその、今の今までいた空間を閃光が貫いていた。 「せんぱーい、まさか終わってませんよねー?」 聞こえてくるのは殺意の欠片も感じられないお気楽な声だ。 反射的に“遊び感覚だなぁ、おい!”とツッコミそうになるが、声を出しては位置情報を教えてやるようなもの。ぐっと堪え、気配を潜めて移動を開始する。 「これだから素人は・・・一発殴ってお仕置きしちゃる!」 殺す発言をされようと、自分にとって人間は敵ではない。人を護るのが退魔師の本懐。それが顔見知りであれば尚更だ。 苦労はするだろうが一つ峰打ちで片づけ、お灸を据えようと決意する修慈だった。 しかし、この考えが甘い。甘すぎた。 『熱源センサー、対象を補足出来ずにロスト。二度も予測から逃れるとは生意気な。敷地内全てへの焦土作戦に切り替えては如何かと判断します』 「課題の一つに消費魔力の上限設定を設けてるんだよ?出来なくもないけど、残段数は五発。討ち漏らしちゃったら目も当てられないからダメ」 『了解、このまま優位を維持しつつ砲撃戦を続行しましょう。しかし誤りが一つ』 「?」 『常駐術式の維持コストを忘れています。つまり、残り四発でしょう』 神無が不足分を補う為に中身を空にした薬莢が足場に落下し、小さな音を立てる。 楽しくて、本当に楽しくて、ついつい計算に甘さが混じってしまったようだ。 『ちなみにマスター、現在登録されている術式は全て加減が出来ません。敵の回避能力により命中ゼロですが、本当に当ててしまっても?』 「気は進まないけど、他流試合で命を落とすなんて日常茶飯事だってお母さんが言ってた。それに、いずもの幼馴染みの命も故意に奪うつもりはないんだよ?でもね、加減をして私が逆の運命を辿っちゃったら本末転倒。只でさえこっちは新米とロールアウト仕立ての不利コンビだって忘れてない?」 『・・・素敵に無敵な英才教育を受けているようで何よりです。マスターを前科持ちにしないよう、私が威力&概念定義を制御しましょう』 「どうして口調が緊迫した感じに!?」 『お気にせずに』 「ひょっとして武者震い?」 『お気にせずに』 「心なしか棒読み?」 『お気にせずに。それよりも移動物体補足。後退を続けるのも手ですが、距離を詰められる前に一斉射が無難と判断します』 「今、絶対話を逸らしたよね!?露骨に探査式を放ってまで話を脇に除けたよね!?」 『対象の加速を感知。些細なことは忘れて現実を見るべきと判断します』 「あーもう・・・手早く先輩を蹴散らして問いつめるから忘れちゃ駄目だよ!」 獲物を目視せず、汎用砲術“天弓”を起動。これは大まかな位置を補足しているからこそ出来る芸当だ。 当たれば幸い、当たらずとも足を止める戦術は古来より受け継がれた定石。距離を削られることがそのまま窮地に直結する硯梨が選んで当然か。 稲光が一度空へと舞い上がり、直後に雨となって大地へと降り注ぐ。 乱数を織り込んだ天弓は抵抗もさせぬまま修慈を貫いたはずだった。 殺してはいかんだろと、月の独断で殺る気満々の主に無断で殺傷力を弱めたにしても、生身で雷弾を受ければ只では済むまい。 こうも楽勝では対人戦闘の訓練には成らなかった、と蓄えた余剰魔力を排出しようとした時である。 『二発命中を確認。お疲れ様ですマス――――』 しかし、定石は有効であるが故に周知されていた。 素人の硯梨が知ることを、仮にも実戦経験を持つ修慈が気づかない訳がないと言うことを失念していた神無である。 センサーが捕らえたのは逆手に刀を握り、ダメージなど無いとばかりに疾駆する剣士の姿。 神無のAIは現実を理解出来ないと混乱し、どこに間違いがあったのかと内部チェックを開始する。だが、全てのシュミレーション結果が叩き出すのは行動不能の勝利のみ。 あり得ない、敵の能力値を見誤ったとでも?この世界最高のスペックを誇る己が? 『マスター、至急後退を!今なら辛うじて優位なポジションを維持可能!』 「あ、やっぱり小技で倒しきれるほど甘くはないんだね」 『落ち着いていないで運動系数の改変を!連続使用による負荷はこの際無視して欲しいと判断します!』 「いくら相棒でも、さすがにこの短期間じゃ私と言う人となりを理解できないと」 『式術の呼び出しを確認。これは・・・・まさか!?』 「下がるより、全霊を込めた一発で向かい合うっ!」 『マスターの性格を考慮し忘れました!腹を括り、展開シークエンス代行が最前手と判断。収束・増幅魔法陣展開まで5秒!』 「再構築に一番難儀した魔法・・・無駄な手間暇じゃなかったはず!」 『問題点のオールクリアを確認。発動まで残り8秒を切りました。カウント開始します』 「当たれば勝ち、外れたら負け。お祭りの射的でスナイパーと呼ばれた私は外さないよっ!」 藪に蛇を見つけて捕まえに行くのが硯梨なら、石橋を叩いて渡るのが神無だ。 常に最悪の事態に備え、工場と廃ビルの間に布陣させたのはサポート役の仕事。既に一度敵戦力を見誤っているので断言は出来ないが、有効射程と火力はこちらが上なのは確かだ。 少なくとも硯梨が仕掛けたような壁抜きを修慈が敢行できる可能性は皆無だろう。 『こちらの砲撃特性は限りなく異端。予測できるものならしてみろと判断します』 犯したミスはけして軽くはないが、まだ取り戻すことは可能だ。何せ今は失態を恥じるより、最高のサポートを見せるべく集中する必要がある。 が、ここで素直に従わないのが意志持つ杖の真骨頂だ。 硯梨の手により展開された魔法陣が大気中の微弱な電子を掻き集める様を俯瞰しつつ、保険の仕込みにかかっていた。 「今の私が持ちうる最強の火力、これも耐えるなら負けを認めますよ先輩!」 一枚一枚が別の効力を備えた光る円陣が次々と生まれ、発動までのカウントダウンは最早ゼロ。防御も、回避も、一切合切を捨て去った捨て身に近い雷光が生まれ出でようとしていた。 すると応と叫ばれる同意の意。修慈とて勝利条件が判りやすくなる事にメリットはあれど、デメリットは存在しない。 色々とおかしな娘だが、自分で宣言したからには素直に敗北を受け入れるはず。幼馴染みから聞いた話と、己の知る情報を重ね合わせても妙な悪あがきはしないと断言しても良い。 ならば、互いに取るべき行動はたった一つ。 「耐えるだけじゃねぇよ、喉元に刃を押し当ててやるさ!」 景気よく啖呵を切った修慈だが、内心は冷や汗だらだらだ。 なにせ戦術が稚拙な点を除けば硯梨がスペックを全て上回っている。中でも恐ろしいのは火力。まともに貰えばどうなるのやら、考えたくもない。 今のところは唯一の取り柄である小細工で騙し斬れているが、万が一見破られるとその時点で詰みが見えてしまう。 嬉しい誤算は魔女の射撃が正確すぎる事だ。だからこそ総合的な能力では中の下でしかない修慈でも硯梨の雷弾を防ぎきれているのだから。 「怖いぜ・・・いや、マジ・・・・」 進む先の正面は目映い光が収束していく魔女の縄張り。大気が帯電し、一歩近づく毎に産毛が逆立つ恐怖はなかなか味わえるものではない。 だが止まるつもりはない。殺さずに止める、これを成すには今しかないのだから。 そしてそれは硯梨も同じ。 この攻撃でカートリッジは空。腰にリロード用のマガジンは納めているが、これに手を付けてしまうとルール違反だ。おそらく何処かで様子を眺めている月に笑われてしまう。 故に両者の思惑は合致する。 短期決戦、一発勝負。決着の瞬間だ。 『殲滅砲術“雷神槍”起動』 「死なないことを祈ってます、先輩っ!」 未完成でも鬼を穿ち川の水を蒸発させた雷神槍。術としての欠陥を克服し、完成度を増した光の槍がたった一人の人間めがけて放たれる。 最早、神無も加減の二文字は捨て去った。天弓が効果を現さなかったのは威力不足に違いない。 おそらく強固な障壁でも展開しているのだろうが、今度ばかりは例え結界であろうとも打ち抜いてみせる。 死ぬなら死んでしまえ。掠っただけでも致命傷、直撃ならば全身蒸発も免れない鬼札を切ってやる。 そんな危険思想を抱いた神無だったが、またしても予測は裏切られることになる。 直径約2Mの烈光が避わす暇も無く修慈を薙いだ。これは間違いない。各種センサーの観測と、主人の表情が和らいだことからも断言できる。 『そんな馬鹿な!?当たり判定が無いとでも!?』 「手応えがない!」 ここで神無の中で一つの仮説が浮かび上がる。 『マスター、周囲を薙ぎ払ってください!』 「考えることは同じだね。きっとあの先輩はフェイク!本物は近くにいるっ!」 一般的な砲術は威力が高い代わりに、発動中は射線軸を僅かにずらすのが関の山だ。しかし、神無を握る硯梨の手はいとも簡単に常識を覆す。 「ワインダーモード!」 『維持可能時間は8秒。お急ぎを』 細腕に力を込め、手首の返しで光の本流をいとも簡単に制御。 それはもう打ち貫く射撃ではない。硯梨の身長を超える円筒上の刃持つ光の剣である。 ワインダー、それは硯梨の愛する往年の名作で常識とも言えるテクニックだった。 時機を動かす事で“発射中のレーザーごと移動する”定番の戦術なのだが、二次元を飛び出し三次元の世界で自在に操ることが出来ればどうなるか? 答えは実に簡単だ。元より“高出力の砲撃を振り回す”のだから、破壊の嵐が吹き荒れてしまう事は容易に想像できるだろう。 「待てぇぇっ!幾らなんでも被害を考えすぎだろ!こんな真似を続ければ逮捕だぞ逮捕!」 「誰も近づかない結界があるから大丈夫!」 「そう言う問題じゃねぇよ!」 大気をプラズマ化させながら工場を廃墟に変える硯梨の大雑把な滅多切りは、しかし修慈の軽口を止めることが出来ない。 九分九厘間違いなく目に映る剣士の姿は虚像、如何なる方法を用いてもダメージは通らないと主従は理解した。 本体の位置を掴めていない新米魔術師に出来るのは、範囲攻撃での炙り出ししか手が残されていないのだが―――― 『残り二秒。せめて粉塵が落ち着けばセンサー類も回復すると判断しますが・・・』 「ちょっとだけピンチ・・・かな?」 『警告、残存魔力が規定値を下回りました。機能低下発生。一刻も早くカートリッジ補給を。このままでは座して敗北を待つだけと判断します!』 「そ、そうは言っても悠長に補充をさせてくれ――――」 己を縛るルールを破るにしても、カートリッジを込める余裕がない。 雷神槍が効果を発揮している今だけが何をするにせよ最後のチャンスだ。長期戦を見越して隙を見せてでも魔力補充を行うか、それとも二秒という僅かな残り時間を活かすべきか。 これまで即決即断だった少女は、初めての躊躇をしてしまう。 これが知能レベルの低い異形相手ならば何も問題にはならなかっただろう。 が、今回の相手は違った。 「やっと隙を見せたな。だが、峰打ちだから安心しな」 突如発生する気配。どんな手段を使ったのか常に監視を怠らなかった神無の探査をくぐり抜け、近場に潜伏していたらしい修慈が一足他に非我の距離をゼロへと縮めてくる。 まさに教科書通りの完全な不意打ちだ。これには高速詠唱を武器とする硯梨でも間に合わない。 『最悪のシナリオです。ですが、万が一の保険を準備してこそ一流の魔導具と判断します』 「負け惜しみは止めろ、100%終わりだっつーの!」 『三下風情が吠えるな。保留魔力解放、詠唱済み圧縮術式展開』 絶対の自信を持った刃の一降りは虚しく空を切る。 と、同時に修慈を威圧するのは勝負を諦めない意志に満ち溢れた少女の目だった。 「運動系数改変・・・常駐を切っていたのに、この事態を予測して準備してくれたんだ」 『剣士と相まみえるから以上、近接戦の可能性を考慮して当然と判断します。マスター、天弓一発分の魔力も用意していますので逆王手を――――』 まさかの状況に刀使いの体が崩れている。 まだ普通に斬りかかっていれば違っただろうに、峰を返すなどという不慣れな真似をするから自滅するのだ。 些細でも体が記憶しない要素が混ざれば重心はぶれる。それを知らない相手でも無かろうに。 対して軍師たるサポート役に甘い考えは既に無い。主人に求めるのは必殺の一撃。 今度こそゲームセット。どんな手品を使われたのか未だに理解できないが、やっと終わりだと胸をなで下ろす神無だった。 しかし杖は主人の行動予測に関しての目論見が甘かったと後悔する事になる。 『マ、マスター!?私たちはガンナーですよ!?』 「せんぱぁぁぁい、これでトドメですよっ!」 用意したシナリオを無視した何の捻りもない打ち下ろし。 頑丈と聞いている神無を大きく振りかぶり、硯梨は鈍器による殴打を試みていた。 狙うは体の中心。最も避けにくいベストチョイスだ。 しかし―――― 「・・・・お、隙だらけ。ご馳走様!」 修慈は体を捻ることにより鋼の杖を体に触れさせることなく通過させ、前につんのめった硯梨に親指を立てる。 それだけ余裕とのアピールなのだろうが、される側としては何とも苛々させられる。 特に苦心したお膳立てをひっくり返された神無は特に顕著で、創造主より機が熟していないと封印された機能を無理矢理にでも起動させようかと真剣に悩むほどに。 だが、そこは自我を持とうとも道具の本質を忘れない賢い子である。 けして我を忘れず、逆に良い機会と自己完結。後学の為、駄目な使い手には高い授業料を支払って貰おうと考えた。 『・・・アルゴリズムで解けない物があると理解できただけ収穫と判断します。耐物障壁及び、全常駐術式の停止プロセスを開始』 『・・・神無?』 『マスター、私は思いました』 『何を?』 『戦いとは机上で行う物にあらず。やはり五体で感じなければ意味がないと』 『うん、そうだね。でも今は戦いの最中だよ。かなり窮地だけどまだ終わって――――』 『終わりました。機械が言う言葉ではありませんが、現時点で敗北が確定しています。九分九厘ではなく、十分、100%詰みです。乱数発生余地のない決定事項と判断します』 『そ、そうなんだ。でもまだ防御に残魔力を注ぎ込めば一撃くらいなら――――』 『魔力は既に些細な術式すら展開不能な残容量。僅かな欠片も天弓用に加工してしまった為、今更他の式に転用できるわけが無いのですが何か文句でもマイマスター?』 『ご、ごめん。でも決着は手応えが無いと――――』 『その駄目な考えを払拭して頂きます。予測では昏倒、もしくは呼吸障害が発生する程度に加減されたダメージです。人はこのような場合、昔からこう言うそうですよ?』 『?』 『馬鹿は死ななきゃ直らない。二度と妙な真似を起こさないよう直撃を食らう必要があると判断します。根性です、マイロード』 『か、神無が・・・私を・・見捨てた!?』 『グッドラック』 この間、僅か二秒。念話による最後通告は、いよいよもって万策が尽きた駄目押しだった。 まさかの事態に心をぐっさり刺され、さらに追撃の刃が無防備な脇腹へと吸い込まれていく。 骨が軋み、肉が押し潰される感覚。いくら加減をしようと、防御の術も身を守る防具も持たない少女の肉体を容易に破壊するのが鉄の塊たる刀だ。 『試算を破壊力が上回りました。私のシュミレーションもまだまだ甘いと判断します』 運動エネルギーを元にして、刀の質量から攻撃力読んだ神無。 しかし技術を加味しなっかたと言うよりは“出来なかった”が故に目算が甘い。 とは言っても大幅に上回る訳でもなく、驚くほどでも無いレベルなのもまた事実だ。 負けを認めるなど許し難いが、敗北から学ぶ事もまた必要だろう。 次がある相手ならば再び相まみえた時に借りを返せばいい。この相手はそういった分類の敵なのだから。 『マスターの学友の知人、投降してやります。武器を引――――』 神無があくまでも上から目線でそう告げようとした瞬間だった。 崩れ落ちるかに思えた硯梨が倒れない。四肢を震わせ、呼吸も荒く、それでも目が生きている。 「っておおい!まだやる気じゃねぇか!」 修慈には元より不本意な一戦だ。 開始時に宣言したとおり、少女を痛めつければつけるほど罪悪感は高まるばかり。 大人しく話を聞くのならば、これ以上高望みをするつもりはなかった。 が、それが甘さとも言える。 神無の言葉に力を抜き硯梨を気遣おうとすら考えた少年は、弛緩させた体に再び活を入れようとするも遅い。 倒れ込むように低い姿勢から伸びる魔女の手、その照準のような動きに対応が間に合わない。 「騙し討ちかよっ!?」 『そんな汚い真似をするつもりはありません。大丈夫、いかにマスターでも魔力がスッカラカンでは何も出来るはずがありません』 そうは言うものの、この不安は何だろう。 主人の体をモニタリングする神無には打つ手がない、打ちようがないと断言するに足りる根拠がある。 せいぜいが強化されていない素の筋力による打撃が関の山、そんなことをしても悪あがきにすら届かない無様な負け惜しみだろうに。 『マスター、誇りを持った行動を。何をするか解りませんが、英断が必要と判断します』 返事はなく、代わりに返ってくるのは怪物的な速度で構築されていく術式の片鱗だ。 基本的な設計は音波の炸裂のようだが、ベースは同じでも何かが違う。 予想される完成型から察するに、構文の長さは三倍以上。最早何が起きるか予測できない代物である。 しかし神無は逆に考えてしまう。 術式を組み上げるのは問題ないだろう。極限状態だからなのか、通常時の二倍以上の処理を発揮するのもまた自由。だが、如何せん魔力が足りない。 必要となるであろう魔力は安く見積もってカートリッジ二発半。いくら強力な術式を完成させようと、燃料がなければガラクタも同然だ。 車がガソリンを必要とするように術者には魔力が必要不可欠。無い物はない、この点に絞れば太鼓判を押せる神無が首を傾げてしまうのも必然だ。 「術式事前チェック・・キャンセル、全エラーを無・・視。最後の・・本当に最後の抵抗・・・勝負ですよ・・・先輩」 空気圧縮術“音波の炸裂”、電子制御術“雷神槍”一部並列複合起動。 音波の炸裂の応用によりほんの少し無理をすれば掴めそうな修慈と自分の間、その僅かな隙間の気体をゼロに概念定義して擬似的な真空を作り出す。 これで準備は整った。いかに効率よく限られた力を扱うか、只それだけを追い求めて行き着いた一つの答えを少女は発現させる。 再現する現象は真空放電。空気という天然の絶縁体に阻まれ、本来の力を発揮できない電気の力を100%に近い形で扱えるようにする殺しの技だ。 「一点・・・突破、神罰再現術式・・・“雷王振”」 タンクが空の硯梨。しかし魔術は形を成していく。 一体どこから不足分を補っているのか一頻り悩む神無だが、ここに至ってついに気がついた。 答えは簡単だった。理屈は簡単だが、代わりにデタラメな力を必要とする手段が一つだけ残されていたではないか。 魔力はある。己の血液が他のいかなる水分とも違う自分自身であるように、一度その身で取り込み加工した魔力もまた自らの一部だ。 例え術式へと二次加工を行おうとも、微細な残骸になろうとも、本質が変化するわけではない。 発動地点が遠方の天弓は無理だろう。しかし、この場所から放ち続けていた直射型の雷神槍は魔力の残滓を撒き散らしながら発動していたのだ。 ならば、魔力を粒子単位で制御できる主ならば漂う欠片を再利用する事も可能に違いない。 『つくづく規格外のマスターですね。でも、私にも意地があります』 神無には主人の為を思って作り上げた枷がある。 明確な殺意を持って相対する全存在、異物混じりの人外、そしてメインとなるであろう異形以外の命を可能な限り守るという使命が。 これより発現する力は回避不能、文字通りの光速術。 擬似的に生み出していた“都合の良い雷撃”ではない、古来より神の力の代名詞として伝わる“神殺し”の属性を内包した裁きの力だ。 一度は加減を捨て去った神無でも、根本ではどうにか生き残るとの楽観があった。が、幾ら難でもこれは確殺確定の予測しか立てられそうにない。 道徳を持たない月に生み出され間違った教育で育った硯梨をマスターと定められた神無は、反面教師と言うべきか根っこの部分が常識人である。 仮にこの少年を殺しても、死体は蛇が一呑みで証拠抹消&お褒めの言葉のコンボが待っているに違いない。 だが、そんな未来は認めてなるものか。さして悪意の無い少年の命を守り、生涯を共に過ごす未来ある少女の手を汚させない使命があるのだ。 そこで神無は迷わず行動する。それが例え主命に背く行為であっても。 術式詠唱補佐起動。詠唱補助を逆利用した妨害を開始。 発動経路は形成済みなので手を加えることは不可能。ならば、とさすがに手間取っている高圧電流の生成プロセスに介入を始めた。 純粋な電気に“無害”、“拡散”概念を組み込み人体への影響を可能な限り抑え、同時に周囲に漂う魔力回収にも一手間をかけることにする。 『吸引魔力の強制排出プロセス追加。そこのへたれ、私が邪魔をしている今がチャンスです。死にたくなければ脳を揺らして意識を刈り取りなさい』 「え、俺につくのかよ!忠義心とやらはいずこへ!?」 『諫言も忠義の形。間違った行為に対してイエスマンは主の為にならないと判断します』 「そ、そうか。じゃあ遠慮無く・・・・って、なんかバチバチ危険な光がーっ!?」 『破壊力の八割を殺してあるので安心しやがりなさい下っ端。互いに一発ずつ殴り合う西部劇的締めくくりと思って頑張れと判断します』 「他人事だと思って適当だなチクショウッ!」 目には見えない道を光が走り抜ける。しかしそれは大半の力を奪われた唯の輝きだ。 直撃を受けるが市販のスタンガン程度の痺れ程度しか感じず、戦闘能力に陰りは無い。若干感覚のない腕を何とか制御して、狙い違わず少女の顎を掠めるように刀を走らせた。 『これで貸し一つです。私の中に優先事項Aで保存しておきます』 「ランク付けがよく解らんけど、扱いでかっ!利子が怖っ!」 『利率はトイチが妥当と判断します。実にリーズナブルかと』 「はっはっは、返済までにどれほどの貸しになるのか解んねぇよ!」 『それはそれとして』 「めっちゃ大事な話じゃ!?」 集中のし過ぎで神無と修慈の会話が聞こえていなかった硯梨。当然のように受けた一撃を認識出来ておらず、膝から崩れ落ちるのも一瞬だった。 そしてそんな主人の横でやはり無造作に転がる裏切り者は言う。 『あなたはマスターに下心があると判断します。妙な真似をした場合、警察無線をハッキングして冤罪祭りを開催予定です。さぁ、ご存分に描写できないことを』 「・・・・ちょっと飲み物買ってくるわ。戻る前に起きたらちゃんと話を聞かせろと伝えてくれ。後、お前さんが俺のことをどう思っているのかよーく解った」 『ああ、汚れを落とす為に私用のミネラルウォーターもお忘れ無く。水道水は嫌です』 「・・・・はぁ、さいですか」 何だかんだと無傷の修慈は財布の中身を見つつ、トボトボとその場を後にするのだった。 歩きながら重くのし掛かるのは勝たせて貰ったと言う敗北感。最後の最後まで硯梨の覚悟が修慈の経験を上回った事実がじわじわと響いてくる。 「この差は何だ?俺だって化け物なら結構な数を倒して来た。明らかな経験不足を埋めたものは何処から・・・・?」 修慈は考えもしなかったことだが“殺す覚悟”を持った存在と“倒す”までしか考えていない差がもろに出た結果ともいえる。 例えるなら威嚇しかできない自衛隊と、引き金を簡単に引ける素人。躊躇は死に繋がり、結果としての勝者は鍛錬の差を無視して招くものだ。 しかし、修慈は何も悪くない。 現代社会、それも日本の高校生で硯梨と同じような精神を持つ者は限りなくゼロ。まさしく魔女と言う言葉が相応しい少女が異常なのだから。 「その辺含めて聞いてみるしかねーなぁ」 とりあえず、どんな形であれ戦いは終わった。 今は悩むことを止め、この後に控える尋問タイムをどうにかせねば。 口の立つ杖に何を言われるやら、まだまだ苦労は絶えないとため息を吐く修慈だった。 一覧に戻る
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前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い 柊がフーケを捕らえた夜が明け、日が巡り、再び夜が訪れて。 生徒教員を問わず学院のほぼ全員がアルヴィーズの食堂の上階にあるダンスホールに集まっていた。 新入生の歓待を兼ねた毎年恒例のパーティ『フリッグの舞踏会』が行われるためである。 フーケのゴーレムによってつけられた(という事になっている)本塔の亀裂はダンスホールの内壁にまで及んでいたが、教員達の応急処置によってとりあえずは元の景観を取り戻していた。 その応急処置や捕らえたフーケの処置などのせいでその日の授業は完全に休講となってしまった訳だが、仮に授業が行われていたとしても実質はないのと同じだっただろう。 なぜならその日の生徒達の関心は夜に行われるフリッグの舞踏会と、トリスタニアで噂の"土くれ"のフーケを捕らえた事に向いてしまっていたからだ。 そんなフリッグの舞踏会の最中、柊はホールから通じるバルコニーにいた。 はっきり言って場違いすぎて中に入っていけないのである。 というかむしろ柊としては部屋に戻って寝ていたいぐらいなのだが、ルイズから参加するよう厳命されてしまったのでしぶしぶながらここに居残っているのだ。 柊は柵に背を預けてきらびやかなホールをぼんやりと眺めつつ、軽くワインをあおって僅かに眉を顰める。 未成年だから、という訳ではないがワインはあまり好きではない。 「……はー」 柊は舞踏会が始まってから何度目になるかわからない溜息を吐き出した。 別段早いペースで飲んだ訳ではないのにワインの瓶はもう空になりかけていた。 ここに避難してくる前に適当に持ってきた食事も既になくなってしまっている。 なんだか果てしなく面倒になってきたのでそろそろ部屋に戻ろうか、と考えていると、ホールから一人の少女が柊に向かって歩いてきた。 見覚えのない姿に柊は小さく首を傾げ……その相手に気付いて眼を丸めた。 パーティドレスを纏ったエリスだった。 「柊先輩、ここにいたんですね」 若草色のドレスを身に着けたエリスは少し恥ずかしそうに俯きながら柊の元まで歩み寄る。 他の女生徒達のようにきらびやかではないが、清楚で落ち着いたその衣装はエリスにとてもよく似合っている。 香水でもつけているのだろう、夜風に乗って仄かな香りが柊の鼻腔をくすぐった。 「似合ってるじゃねえか。可愛い可愛い」 「……!」 軽く笑いながら柊が言うと、エリスが頬を朱に染めて顔を綻ばせた。 正に花を咲かせたような、というべき満面の喜び具合だ。 「それ、ルイズが見繕った奴か?」 「はい。普段着だけじゃなくてこんなのまで用意してくれてるなんて……」 トリスタニアへ買物に行った後、ルイズが月衣に入れておくように行っていた二つの衣装箱。 それがどうやらフリッグの舞踏会で着るためのドレスであったらしい。 エリスは感動した面持ちでドレスの裾を小さくつまみ、柊の前でくるりと回って見せた。 まあ元の世界ではまず着る機会はない服だし、女の子としては憧れだったりするのだろう。 柊にはいまいち理解できない感情だが。 「エリスに対してはそれなりに甲斐性あんのな……」 溜息混じりに柊は小さく漏らした。 まあこれで柊に対して舞踏会の衣装を買ってくれても非常に困るだけなのだが、せめて別の方面でいくらか待遇を改善して欲しいところだった。 「ルイズはまだ捕まってんのか?」 「はい。私はおまけだったからなんとか抜けられましたけど……」 苦笑しながらホールに眼を送るエリスに釣られ、柊もそちらに目線をやった。 見ればホールの中の一角に人だかりができている。 あの中心にルイズがいるのだろうが、ここからでは小柄な彼女の姿は全く見えなかった。 「まあ今日の主役はアイツだからな」 「真の主役は君じゃないのかい?」 柊の呟きに応えるように姿を現したのはギーシュだった。 普段にもまして派手な衣装を纏って登場した彼は、ワイングラスを片手に柊に向かって軽く掲げてみせる。 「学院長の話だとルイズの手柄みたくなってるけど、フーケを倒したのは君なんだろう?」 「……『捕まえた』のはアイツだ。俺はちっと手伝っただけだからな」 あの後フーケはエリスとギーシュが連れてきた衛兵達によって捕縛され、明くる朝に知らせを受けおっとり刀で集まったオスマンにルイズ達は事の顛末を報告することになった。 いつの間にか本塔につけられていた巨大な亀裂に関してはオスマン達にも心当たりがなかったが、話の流れでフーケがやったという事に納まってしまった。 ともかく、報告を受けた二人は一様にフーケの正体に驚きを露にし、次いで彼女達の功績を称えた。 彼等はルイズにシュヴァリエの叙勲を薦めた。 平民である柊には何もないという事で彼女は少し渋ったが、当の柊がそれで構わないと言った。 ルイズがいなければ捕まえる事もできなかった、とも。 本人にそう言われてはルイズとしては承諾するしかなかった。 こうして彼女は今行われているフリッグの舞踏会の主役として盛大に祝われる事になったのである。 「自らの功を誇らない、か……フッ、流石は僕がライバルと認めた男だよ」 「勝手にライバルにしてんじゃねえよ」 髪を掻きあげながらのたまうギーシュに柊は嘆息交じりに漏らす。 ふと眼をやれば、エリスは僅かに肩を落として俯いていた。 柊の視線に気付いたのか、彼女はどこか乾いた笑みを浮かべた後、表情を曇らせる。 「その……ロングビル先生がフーケっていう盗賊だったなんて……」 囁くように漏らした彼女の言葉に柊とギーシュは気まずくなって顔を見合わせてしまった。 彼等にとってはそうでもないが、エリスにとってフーケ――ロングビルは何かと世話になっていた人物なのだ。 「……。まあ何か事情があるのかもしれねえけど……だからって盗賊やっていいって事にはならないだろ」 「それは……そうですけど」 「うぅむ……やっぱり衛兵達を連れてきたのはまずかったかな」 ギーシュが眉を寄せて唸るように言った。 フーケの捕縛に立ち会ったのが柊達だけであったのなら、彼女が意識を取り戻した後で事情を聞いてその内容如何では逃がすという手もあったかもしれない。 今回の件に限って言えばフーケは宝物庫を襲撃したものの何一つ奪えはしなかったし、トリスタニアを色々騒がせていた前科があるとはいえそこまで躍起になって捕縛する義理もないからだ。 皮肉にも衛兵達を連れてきてしまったエリス自身が、フーケの身柄を拘束する原因となってしまったのである。 現在フーケは杖を取り上げられ、本塔の一室にて監禁されている。 既に王都に報告がなされているので数日の内には衛士隊が来て連行されるだろう。 エリスはフーケと話をしたがったが……フーケ自身が頑として彼女との面会を拒絶した。 話すどころか、眼を合わせる事すらしなかったのだ。 「僕が余計な事をしなければどうにかなってたかもしれないな。申し訳ない、ミス・シホウ」 「あ、いえ。謝る必要なんてないです。私もギーシュさんも知りませんでしたし、やっぱり物を盗むのは悪いことですから」 「……?」 神妙な顔をして頭を下げるギーシュと、慌てて顔を上げさせようとしているエリス。 二人の奇妙なやり取りに柊は首を捻ってしまった。 するとエリスがそれに気付き、柊に向かって説明した。 あの後、柊に言われてギーシュと合流し夜詰めの衛兵の所に向かったエリスだったが、説明しても話をまともに聞いてくれなかったらしい。 信じていないというよりは信じたくないという事なかれ主義だったわけだが、その時に一喝して衛兵達を動かしたのがギーシュだったそうだ。 「ギーシュさんがいてくれたおかげで助かりました」 「……マジで?」 説明を受けてやや半信半疑の表情を浮かべた柊だったが、当のエリスが真面目に頷いているので本当なのだろう。 改めてまじまじとギーシュを見やると、彼はふふんと自慢げに鼻を鳴らして髪をかきあげた。 「まあね? 僕はやる時はやると評判だからね? 思いつく限りの美辞麗句で称えてくれても一向に構わないよ?」 「あぁそう。そいつはどうも」 うさんくささが満載なので柊は半目でそう返しただけだったが、エリスは律儀にギーシュに向かって頭を下げた。 「えっと……美辞麗句は思いつきませんけど、すごく嬉しかったです。ありがとうございます」 するとギーシュは僅かに眼を丸めてしばしエリスを見つめると、顔を上げた彼女に向かって満面の笑みを浮かべて恭しく手を差し出した。 「それじゃ見返りという訳ではないけど、僕と一曲踊っていただけませんか、レディ?」 「え、えっ」 やや芝居がかった動作とはいえ、実際にそうされると女の子としてはまんざらでもないのだろう。 差し出された手を見てエリスは僅かに頬を赤らめた。 対応に困って彼女は柊に目線をやったが、柊はむしろ愉しそうな目線で彼女を見ていた。 なんだか釈然としないものを感じてエリスは小さく口を尖らせたが、当然というべきか柊がそれに気付いた風もない。 無下に断ることなどできようはずもないエリスはおずおずとギーシュに手を伸ばし――はっとして顔を俯けた。 同時に柊も「うっ」と声を漏らす。 「……?」 いつまで経っても反応がないエリスにギーシュが顔をあげると、彼女は申し訳なさそうに視線をさ迷わせていた。 「あ、あの……」 「なんだい? 僕は平民だの貴族だのとささいな事を気にするような狭量な男じゃないよ? 庭園に咲き誇る薔薇も美しいが、野に咲く清楚な花も可憐でまた違った美しさだからね」 決まったと言わんばかりに得意げな顔で言うギーシュに、エリスはますます気まずそうな表情を浮かべて呟くように語り掛けた。 「そ、その。ギーシュさん」 「んん?」 「後ろ……」 「後ろ?」 怪訝そうに後ろを振り向くギーシュ。 そこには、 「……随分とお盛んなことね、ギーシュ」 腕を組み轟然と仁王立つ、怒髪天(髪のドリルが天を衝くさま)のモンモランシーがいた。 「げえっ! モンモランシーッ!!」 一瞬に顔を蒼白にして戦慄の叫びを上げるギーシュ。 対照的にモンモランシーは底冷えした空気を纏ってギーシュを睨みつけている。 彼女の怒気に当てられているのか、ワインの瓶が怯えるようにカタカタと鳴り響いている。 「ちょ、ちょっと待った! ウェイトウェイト! 落ち着いてくれモンモランシー!」 「下級生に飽き足らず平民……かつ給仕……かつ他人の使い魔にまで手を出すなんて……」 「ち、違うんだ! これには海より深い事情があって……っ!」 もはや聞く耳を持っていないのか、モンモランシーは静かに……しかし力強く一歩踏みよった。 ひっと悲鳴を上げてギーシュが後ずさる。 しかしすぐに柵にぶちあたり、彼は恐怖におののいて声を絞り出した。 「話し合おう! そそそそうだ、僕がヴェルダンデと会った時の話をしてあげようじゃないか! あれはそう――!」 「あんたが使い魔と会ったのは儀式の時でしょうがー!!」 モンモランシーがどこからともなく取り出した杖を振るった。 ギーシュの絶叫が夜空に響き渡った。 ※ ※ ※ 全身ずぶ濡れになり水死体っぽい感じになったギーシュの首根っこを掴んだモンモランシーがホールに引き上げていくと、入れ替わりにルイズがバルコニーに顔を出した。 長いピンクブロンドの髪をバレッタで束ね、白いドレスを着こなしている彼女は流石に大貴族の令嬢に相応しい姿といえる。 「……なにしてんの?」 そんな彼女はギーシュ達を半眼で見送った後、バルコニーに立ち尽くしている柊とエリスを見やった。 互いに顔を見合わせてから気まずそうに苦笑を浮かべる二人をルイズは訝しげに首を捻り、そして小さく息を漏らす。 「随分と疲れてんな」 「……うんざり。普段ゼロだなんだと言ってたくせに手の平返したように擦り寄ってきて……態度が変わらないだけキュルケの方がまだましね」 それはそれでいらつくけど、と唇を尖らせるルイズを見てエリスは思わず微笑を零してしまった。 ルイズもキュルケもお互いにいがみあっているようだが、なんだかんだ言ってそこまで険悪でもないようだ。 「それで、あんた達はこんなトコでなにしてんの?」 「なにしてるも何も、俺にこんなトコで何しろってんだよ」 改めて尋ねてきたルイズに柊は大いに眉を顰めて溜息を吐き出す。 そんな彼の態度にルイズは僅かに眉を上げたが、特に何も言わずにじっと上から下まで柊を観察した。 柊はじっと自分を見つめてくる彼女の視線に居心地の悪さを感じたが、眼を合わせると不意にルイズ表情を曇らせ視線をさ迷わせる。 訝しげに柊が首を傾げると、彼女は何度か深呼吸した後意を決したように口を開く。 「……だったら、」 「じゃ、じゃあ私と踊りませんかっ!」 「!?」 横から割って入るように叫んだエリスにルイズは愕然とした表情を浮かべてエリスを見やった。 しかし当のエリスはルイズの視線に気付く事なく、意気込んだ様子で拳を握り柊に詰め寄った。 「エ、エリス?」 「わ、私こんなドレス着るのも初めてで、こんな舞踏会に参加するのも初めてで……。ひ、柊先輩も初めてですよね? くれはさんだって、こんなのしたことないですよね?」 「ま、まあそりゃ俺は初めてだしくれはも……くれはが何か関係あるのか?」 「え、あっ、関係ないです! ちょっと聞いてみただけです!!」 首を捻る柊にエリスは慌てて手を振りながら、心の中で小さく快哉をあげた。 日常生活的には一般市民であるくれはもエリスも、当然ながらドレスを着こんで舞踏会なんて機会は今までもこれからもまずないだろう。 御伽噺や物語のようにドレスを纏い、憧れの騎士とダンスを踊る。 他の誰もやることが出来ない、こんなファンタジー世界にいる自分と柊だけができる行為。 つまり今のこの状況は千載一遇のチャンスだった。 「せ、せっかくですから踊っていきませんか。少しだけでいいですから……」 努めて平静を装い――もっとも顔は既に紅く染まっていたが――エリスが提案すると、柊は複雑そうな表情を浮かべて頭をかいた。 「でもよ、服もコレだし、ダンスなんて体育祭でフォークダンスぐらいしかやったことねえし……」 「大丈夫です! 舞踏会の前に少しルイズさんに教わりましたけど、私も似たようなものですから! 二人一緒なら失敗しても恥ずかしくないです! 一緒なら! 一緒に……!」 無意識にやたらと『一緒』を強調したエリスに気圧されるように柊は一歩後ずさり、少しばかり視線を彷徨わせた後諦めたように溜息をついた。 必死に頼み込んでくるエリスを無碍に出来ようはずもなかった。 何故なら彼女は――可愛い『後輩』であるからして。 「……足踏んづけても知らねえぞ?」 「……! ぜ、全然大丈夫ですっ!!」 ぶっきらぼうに言い放つ柊に、しかしエリスは小躍りでも始めんばかりに破顔して答えた。 柊先輩と私の初体験。超ステキ。 しかし今宵の彼女に訪れた衝撃はそれだけではなかった。 見れば柊は非常に難しい顔をしてエリスを見やっているのである。 はしゃぎすぎたのかと顔を紅くして姿勢をただし、恐る恐る上目遣いで柊を窺う。 彼は少しの間何事かを考えると、意を決するように頭を振ってから僅かに頬を染め、エリスから顔を背けて彼女に手を差し出したのだ。 「えっ……」 「……流石に口上は勘弁してくれ」 ぽかんとして差し出された手を見やるエリスに眼を合わせないまま、柊はやや固い口調でそう言った。 柊は社交界のマナーなど知らないも同然だったが、以前ラース=フェリアにいた時に背を預けて共に闘った騎士から夜話でその手を話を聞かされたことがあった。 それはその騎士の言うところの『とある貴婦人とのアバンチュール』であったそうなのだが、まさかそれを模倣する羽目になるとは夢にも思わなかった。 しかしこの状況で参考にできそうな例がそれしかなかったのである。 なんという屈辱。なんという羞恥プレー。 やってしまった後で柊は死にたくなった。 一方でエリスはというと、 「……はぁぅっ……!」 たっぷりと一分間それを凝視した後、柊の行為の意味を悟ってずざっと後ずさり呻き声を上げた。 これはいわゆるエスコートという奴なのだろう。 『私と踊ってくださいませんか、レディ』と柊が言っているような気がした。もちろんエリスの幻聴だが。 エリスは死にたくなった。 嬉しすぎて死んでしまいそうだ。 ハルケギニアに召喚されてよかった、と心の底から思った。 なんならこのまま自分の物語(セッション)が終了してしまっても一向に構わないぐらいだ。 彼女はわなわなと身体を震わせ、恐る恐る差し出された柊の手に自分の手を重ね―― 「ちょっと待ちなさいよあんた達ぃっ!!」 ようとしたところで、割って入った怒声に遮られた。 柊とエリスはそこでようやくルイズの存在を思い出した。 「わ、わたしを無視してなにやってんのよ……!!」 両の拳を力いっぱい握り締め、身体から怒りのオーラを漂わせたルイズが二人を睨みつけながら唸った。 「あ、ごめんなさい」 さらりとエリスが言った。 今まで聞いたことのない、正真正銘心ここにあらずなその声色にルイズの眉が思い切り険しくなる。 怒りの余りルイズは言葉を失って口をぱくぱくさせ、はっとすると大きく息を吸い込んだ。 二人が見守る中、ルイズは全身の空気を抜くように息を吐き出す。 怒りの空気も飲み込んで、ルイズは平静を取り戻した顔で改めて二人を見やった。 「しょ、初心者二人が出て行ったところで失敗して恥をかくのが関の山よ。あんた達はわたしの従僕なんだから、公衆の面前でそんな子とさせる訳にはいかないわ」 「え、でも……!」 その言葉に柊は思わず安堵の表情を浮かべかけ、どうしても引けないエリスは思わず食って掛かろうとした。 が、ルイズは彼女を無視して、 「……だから、わたしが先に教えてあげる」 エリスから掠め取るように柊の手をとった。 「あ?」 「あ゛~~~~!!!」 言われた意味がわからず首を傾げた柊の脇で、エリスが絶望的な表情を浮かべて悲鳴を上げた。 「ひ、酷いっ! ずるい…っ!!」 「ずるくない! あんたには始まる前に教えてあげたじゃないの! ……ほら行くわよヒイラギ!」 「は? いや……え?」 訳のわからないまま柊はルイズに引き摺られるようにしてホールに連れて行かれる。 「そんな……っ、なんでぇっ!?」 涙目のエリスの悲鳴がバルコニーに響き渡った。 ※ ※ ※ 彼が自身で語ったとおり、柊のダンスはお世辞にもできたものは言えなかった。 流れる曲と動きはてんでちぐはぐで、何度もルイズの足を踏みかけた。 ルイズが舞踏会の主役という事もあって二人は注目の的であり、二人の踊りを眺める周囲からはくすくすと笑い声も漏れ聞こえてくる。 正直柊は逃げ出したかったが手を取って一緒に踊っているルイズを振り払う訳にも行かなかったし、ルイズ自身はそんな柊のダンスや回りの笑い声を気にする風でもなく柊を先導し踊り続けている。 日本では武の動きは舞に通ずるとされる――だからという訳ではないだろうが、しばらく踊り続けているとようやくといった感じで柊の動きがルイズについていけるようになってきた。 その頃合を見計らってか、踊りながらルイズは囁くように柊に話しかけた。 「あのさ」 「あん?」 なんとかついてはいけるが余裕がないも同然の柊はルイズの声に怪訝そうに返した。 「ありがと」 「……何が?」 「フーケのゴーレムに潰されそうになった時、助けてくれた事」 「なんだ……そんなの気にすんな。お前だって助けてくれたろ? おあいこだよ」 「そっか……そうね」 言ってルイズは僅かに顔を背けた。 背に回した手を少しだけ寄せて距離を縮める。 体が触れ合う程ではなかったが、何となくあの時の温かみが感じられたような気がした。 少しステップを深めて半歩距離を縮める。 「お、おい……っ」 焦ったような柊の声が聞こえて、ルイズは薄く笑みを浮かべた。 そのまま彼女は柊の体に―― 「ばっ……!」 ――足を思い切り踏んづけられた。 「っいっったぁあああ!!!」 走り抜けた激痛に思わずルイズは悲鳴をあげ、同時に周囲からどっと笑い声が上がった。 「わ、悪ぃ! 大丈夫か!?」 「うくっ……こ、このヘタクソ……!」 「急に動きを変えんなよ! 踏んづけても知らねえって言ったろ!」 蹲って足を押さえるルイズに柊は屈みこんで彼女を覗き込む。 至近距離に迫った柊の顔を見てルイズは顔を紅く染め、唇を噛んで睨みつけた。 「~~……も、もういい! 終わりよ終わり! エリスと交代!」 柊を押しのけるようにして立ち上がり、足早にエリスの方へと歩き出す。 目尻の涙を拭うふりをして、彼女は紅潮した頬を必死に押さえつけた。 (わたし……なにしてた?) 柊に体を寄せようとしていた事を思い出し、顔を更に紅くする。 誤魔化すようにして頬を擦っていると、歩く先――待ち受けていたエリスがじっとルイズを見つめていた。 怒ってはいないようだが、ほんの僅かに眉を潜めてルイズを凝視している。 ルイズはエリスの視線から逃げるように顔を逸らしながら言った。 「こ、交代よ。これだけ笑われればあんた達がなにしたって平気でしょ! もう最悪だわ!!」 「……」 しかしエリスはすぐには答えなかった。 沈黙を保ったままじっとルイズを見つめた後、やや低い声色で静かに尋ねた。 「……昨日、何かありました?」 「っ!?」 途端、飛び上がらんばかりにルイズの身体が大きく跳ねた。 完全に背を向ける形でルイズがエリスの視線から逃げて、叫ぶ。 「なァッ……何もないわよ!」 「……」 ちょっとだけ上擦ったルイズの声にエリスの眉間の皺が少しだけ増える。 エリスの声が聞こえたのだろう、ルイズを追って戻ってきた柊が首を傾げて答えた。 「昨日……って、フーケを捕まえただけだぜ?」 「はい。柊先輩がそう答えるのはわかってます」 「そ、そっすか……」 更に低くなったエリスの声に柊はなんだか怖くなって黙り込んでしまった。 エリスは返答を待つようにじっとルイズを見つめ続けた。 それはもう睨んでいるといっても過言ではないような視線だった。 ルイズはちらちらと背中越しに様子を窺いながら――ややあって耐えかねたように振り返った。 「な、何もないって言ってるでしょ!? 強いて言うならヒイラギが不甲斐なくてフーケにやられかけただけよ!!」 エリスの雰囲気に飲み込まれないよう語気を強めてルイズが叫ぶ。 そうやって声を大にした途端、気恥ずかしさやらうしろめたさが全部怒気になってこみあげてしまった。 「あんただってあの時のわたしの顔見たでしょ!? 凄く痛かったんだから! ゲボクのくせに主人も守れない役立たずのおかげで!!」 「な、なにもそこまで……」 ルイズの剣幕にあっさりと呑まれたエリスが顔を俯けたが、ルイズの方はもう止まらなかった。 「全部全部、あんたのせいよ!」 次いでルイズは柊を睨みつけ、ドレスの裾をまくって杖を取り出した。 柊の顔に驚愕が浮かび、やり取りを見物していた周囲の生徒達がざわっと声を上げた。 「ちょ……なんでこんなトコに杖を持ち込んでんだよ!」 「うるさいうるさいうるさい! メイジなんだから杖持ってて当たり前でしょうがー!」 怒りに任せてルイズが杖を荒々しく振った。 柊は思わず身構え、生徒達から悲鳴が上がる。 華やかな舞踏会が一瞬にして混乱の坩堝と化す―― 「……?」 「?」 身構えた柊は眉を潜めて周囲を見渡した。 予期していた爆発が起こらなかったのだ。 見たところどこか別の場所が爆発した……という事もない。 要するに何も起きなかった。 ルイズは杖を振るった姿勢のまましばし固まっていた。 怪訝そうに自分の杖を見やると、改めて杖を振った。 柊は再び僅かに身構えた。 生徒達も小さく悲鳴を上げた。 ……が、今度も何も起こらなかった。 「なんで!?」 ルイズは思わず叫んでいた。 別に爆発が起こって欲しい訳ではないが、何も起きないとそれはそれで不可解だった。 「ミ、ミス・ヴァリエール! 晴れの舞台で一体何をやっているのです!?」 生徒達の輪を割ってコルベールがおっとり刀で姿を現した。 しかしルイズは愕然としたまま自分の杖を凝視している。 「何? どしたの?」 騒ぎを聞きつけたのか、扇情的な黒のドレスを身に纏ったキュルケも顔を出し心配そうにルイズを見守るエリスの元へ歩み寄る。 エリスが軽く事情を説明すると、キュルケは顎に指を添えて黙考すると「もしかして……」と呟いた。 それを継ぐようにしてコルベールがルイズに声をかけた。 「……何の魔法を唱えたのですか?」 「……"ロック"」 どの道どんな魔法を使っても爆発しか起きないのだ、ルーンを唱えなければならない系統魔法より口語で使えるコモン・スペルの方が手っ取り速く発動できる。 それを聞いたコルベールは怪訝そうに眉を寄せて言った。 「それは、魔法がちゃんと発動しただけなのではないですか?」 ルイズははっとして息を呑んだ。 確かに施錠の魔法である"ロック"が効果を発揮したところで、開けるべき鍵がなければ何も起こりはしない。 彼女は慌てて周囲を見渡し、ワインや食事が乗せられているテーブルへと走りよった。 何事かと集まり見守る生徒達の視線を受けながら、ルイズはテーブルの上に置かれているワイングラスを見据え、杖を振った。 「我が意よ、見えざる手となれ」 口語の詠唱。コモンスペルの"念力"。 じっとルイズが凝視しているワイングラスが手を触れる事なく揺れ動き――そして浮かび上がった。 「……!」 「ルッ……」 『ルイズの魔法が成功したァーーー!?』 怒号にも似た生徒達の叫びが響き渡った。 信じられないとか初めて見たとか好き勝手に騒ぎまくる生徒達の中、ルイズはそんな喧騒が耳に入っていないかのように呪文を呟き、震える手で杖を振るう。 その度にワイングラスがルイズの意図通りに飛び回る。 爆発しない。たまたまの成功ではない。ちゃんと魔法が使えている。 「ミス・ヴァリエール……」 それを見届けたコルベールが優しく彼女の肩に手を置いた。 しかしルイズはそれに気付いた風もなく声を上げた。 「だ、だったら……」 テーブルの上に戻ったワイングラスを見据えて、小さく息を吸い込む。 期待感を込めてその口からルーンの詠唱が零れる。 「イル・アース・デル……!」 そして杖を振った。 「ごはっ!?」 背後でルイズを見守っていた柊が爆発した。 柊の体が吹っ飛んでぐしゃりと床に崩れ落ち、騒いでいた生徒達が一瞬で静まり返った。 ルイズは叫んだ。 「なんでぇ!?」 「なんでじゃねえだろ、てめえ……っ!」 柊は拳を震わせて呻いたが、割って入るようにコルベールが声を上げる。 「ま、まあ良いではありませんか、ミス・ヴァリエール!」 言いながら彼は驚きとも戸惑いともいえない表情を浮かべているルイズの肩に手を置き、更に続ける。 「系統魔法はともかく、コモンスペルはちゃんと使えたのです。これは大きな一歩ですぞ? かの"土くれ"のフーケを捕らえ、そして魔法も使えるようになった。このめでたき日になんとも喜ばしいことではないですか!」 そう言って彼は今だ呆然としているルイズに笑いかけ、そして拍手を送った。 彼女の事を何も知らない新入生達が訳がわからないままとりあえずコルベールに倣って拍手を始め、次いで彼女の事をしる生徒達もややあってそれに付和雷同する。 広がった波はホール全体を包み込む万雷の拍手へと変わった。 吹っ飛ばされた柊もやや複雑な表情を浮かべながらもとりあえず拍手を送った。 手を叩くエリスの脇で、ただ一人拍手をしないキュルケが小さく嘆息し、 「何よ、コモンスペルが使えるようになっただけじゃない」 と"嬉しそう"に呟いた。 そしてその中心にいるルイズは――そこでようやく、自分の置かれた状況を把握した。 周囲をせわしなく見回し、集まっている視線と向けられる祝福に顔を僅かに紅く染める。 ドレスの裾をつまみ、貴族の礼に則って恭しく頭を垂れた。 「あ……ありがとうございます」 顔を俯けて小さく囁いた声は、更に大きくなった拍手にかき消された。 ※ ※ ※ そうしてフリッグの舞踏会は近年まれに見る盛況で幕を閉じた。 生徒達は三々五々ホールを後にし、自室なりどこぞの広場なりで舞踏会の続きを愉しんでいるだろう。 主役であったルイズは自室に戻った後、ベッドの上でエリスに髪を梳られながら鍵のついた小箱を弄くっていた。 時折思い出したかのように杖を手に取ると、"アンロック"を使って鍵を開け、"ロック"を使って鍵をかけ直したりする。 動作自体はまるで玩具を手に入れた子供のようだったが、彼女の浮かべている表情は子供のように晴れやかではなかった。 たとえ初歩の初歩であるコモンスペルであっても、念願といってもいい魔法が使えるようになったのは確かに嬉しい。 ……嬉しくはあったが、ルイズは心の底からそれを喜べなかった。 何故なら、どうして魔法を使えるようになったのかまったくわからないからだ。 必死に乗り越えようとしてどうにもならなかった壁を、気付いたら越えてしまっていたような心境。 『乗り越えた』『成し遂げた』という達成感がまるでないのだ。 きっかけがあったとするなら先日のフーケの宝物庫襲撃の時だろう。 その直前に中庭で練習をしていた時にはコモンスペルを使えなかった。 手当たり次第に試しまくって一度として成功しなかったので間違いない。 そして疲れ果てて休憩していたらエリスが訪れ、いくらばかりかの雑談をした後―――――――フーケが現れた。 宝物庫を襲ったフーケを追い、巨大なゴーレムに立ち向かった時にも魔法を使って爆発した。 が、あの時使ったのは"ファイアーボール"……系統魔法なので参考にならない。 その後柊が現れ、フーケを倒してからは魔法を使う機会は全くなかった。 つまり、皆目見当が付かない。 にも拘らず、こうして魔法だけが使えるようになっている。 「なんで?」 手の中の小箱を見つめながらルイズは呟いた。 それに答えたのは、後ろで髪を梳かしているエリスだった。 「理由がわからなくても、使えるようになったんだからよかったじゃないですか」 「でも、なんだか気持ち悪いわ」 「それでも皆お祝いしてくれましたよ」 「それは……」 言われてルイズは思わず黙り込んでしまう。 場の空気もあっただろうが、それこそたかがコモンスペルを使えたというだけであそこまで派手に祝われるのはもはや体のいい見世物だったような気がする。 今になって冷静に思い返せばそう感じてしまうのだが、その時の想いと囁いた言葉は決して偽りではなかった。 正直に言ってしまえば、あの時の祝福は心地よかった。 「……私は、何もできませんでした」 「……?」 いつの間にか髪を梳く手が止まっている事に気付いて、ルイズは振り返った。 エリスは手にしていた櫛を握り、僅かに顔を俯かせていた。 「何言ってるの? ちゃんと衛兵達を連れてきてくれたじゃない。あれだって立派な成果だわ」 「あれはギーシュさんが手伝ってくれたおかげです。私だけじゃ全然信じてもらえなかった」 「……そうだったの?」 「はい。ルイズさんを守ったのも、フーケ……先生の事もなんとかしたのは柊先輩だし、私だけ何もできてない……」 漏らしながら表情を沈ませていくエリスに、ルイズは少し慌てて彼女に向き直り手振りを加えて口を開いた。 「あ、荒事なんてヒイラギに任せてりゃいいのよ。アイツはそれしか能がないんだし、ゲボクなんだし……!」 「――ルイズさんの使い魔は私ですよね?」 「そっ……」 思わず声を詰まらせる。 返すべき言葉を失ってしまったルイズを見て、エリスは自嘲気味に小さく微笑んで口を開いた。 「ルイズさん。契約した時、私に認められるような主になるって約束してくれましたよね?」 「う、うん……」 「……じゃあ、私はルイズさんに認められてる、ちゃんとした使い魔なんでしょうか」 「それは――」 答えられなかった。 自分自身の価値すらちゃんと確立できてはいないというのに、そんな事を言われても答えられる訳がない。 だが、それはかつて自分が彼女に言ったのと同じ言葉なのだ。 あの時のエリスも、こんな感じだったのだろうか。 「感覚の共有っていうのもできないし、秘薬とかを探すのもできないし、主人の身を守る事もできない。使い魔として何の役にも立てない――」 ――私、『ゼロの使い魔』ですね。 小さく囁いたエリスのその声に、ルイズも彼女と同じように顔を俯けた。 お互い真正面に向き合いながら、しかし視線を落として顔を合わせず二人は黙り込んだ。 どれほどの沈黙が続いただろうか、ルイズがぽつりと漏らした。 「……そうね。貴女も何もできない『ゼロ』ね」 「……」 その言葉がエリスの胸に刺さり、彼女は僅かに眉を歪め眼を閉じた。 ……が、その直後顔をがしりと掴まれ、強引に持ち上げられた。 目の前に、目尻を上げたルイズの顔が――強い意志を秘めた鳶色の瞳があった。 「だから、なに?」 「え……」 「『ゼロ』だから、何なの? 誰かに『ゼロ』だって言われて、自分が『ゼロ』だって認めて、それで終わり?」 驚きに見開く翠の瞳を真っ向から見据えて、『ゼロ』のルイズは力強く語る。 「わたしは終わらなかったし、終わってない。今までそうやって生きてきたし、これからもこうして生きていくわ。 わたしは貴族だもの、絶対に逃げない。だから貴女も、顔を上げなさい。 逃げる事は許さないわ。 だって……貴女はわたしが選んだ使い魔だもの」 「ルイズさん……」 ルイズはエリスの顔から手を離し、次いで彼女の手を握った。 しっかりと握り締めるルイズに応えるようにエリスもまた彼女の手を握り、包みこむ。 「使い魔は主人に相応しい者が召喚される……『ゼロのメイジ』に『ゼロの使い魔』なんてお似合いね。 でも、これからよ。 わたしは貴女に認められるメイジになる。貴女はわたしにふさわしい使い魔になりなさい。 ――二人で一緒に、そうなりましょう」 ルイズは優しく笑いながらそう言った。 だからエリスも微笑を浮かべて、答えた。 「……はい。一緒にがんばりましょう」 ルイズの胸の奥で、何かが小さく波打ったような気がした。 それは心臓の鼓動だったのか、あるいは別のナニかなのか。 自分の裡で波打ったソレは身体の中を緩慢と巡っていく。 その感覚が一体なんなのか――彼女にはわからなかった。 前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い
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満田人間ハレ(一: 169-178) 1 「ハレ、ハーレー!早く起きなさいっ」 「…ん…ん~~~……」 くああ、と大きなあくびを一つ。 ここはジャングルの小さな村の、小さな一軒家。 少年は母の声に誘われ、今朝も爽快な目覚めを迎えた。 「どしたの?母さんがオレより先に起きてるなんて…」 「ん~?んふふー…いーから早く顔洗って来なさいな~」 「朝食が冷めるぞ」 「…朝食?」 言いながら、ダイニングからひょこ、と顔を出しウキウキとした声を上げる母と、反対に全くいつもの調子の 少女を見比べ、首を傾げる。二人ともなぜかエプロン姿のようだった。 …そう言えば、なんだかダイニングの方から香ばしい…と言うか若干焦げ臭い匂いが漂ってくる。 今朝は珍しく、母が台所に立ったようだ。…いや、本当に珍しい。 自分が何もしなくてもテーブルに料理が並ぶなんて、ベルが住み込みで働いてくれていたとき以来だ。 どうせただの気まぐれだろうが、このだらしない母がこうして母親らしいことをしてくれるだけで 少し嬉しくなってしまう。そんな自分の境遇がいっそ哀しいがこのさい気にしないでおこう。 「うわっ朝から豪華だね~」 「うふふ、今日はフンパツしちゃった!」 顔を洗い、テーブルに着くと少年は思わず感嘆の声を上げる。 テーブルにはところ狭しと大小様々の皿が並べられ、それぞれが…… 「…なんかオレ、母さんの料理のレパートリーに軽く衝撃を受けてるよ」 …それぞれが、大体似たような芳香を立てていた。ってかぶっちゃけどれも似たような料理だった。 「そう?母さんもなかなかやるでしょ?」 「ウェダも日々成長しているのだ」 「いや、褒めてない褒めてない」 どうだ、と誇らしげに胸を張る母と少女の姿にハァ、と軽くため息が漏れる。 冷蔵庫の中を適当に漁ったのだろう、ざっくばらんに斬り下ろされた野菜や肉類が、皿の上にゴロゴロと 転がっている。その大半が炒め物か、ただ皿に盛っただけと言う様子だった。 この分だと、どの皿の味もほぼ変わるまい。 「グゥちゃんもいっぱいがんばってくれたのよっ」 「なぁに、グゥはほんの少し手を貸したに過ぎない。料理は全てウェダが作ったと言っていい」 「もう、謙遜しちゃって!」 「へぇ~、グゥが作ったやつもあるの?」 そー言えば、グゥもエプロン姿だ。 …なんだかエプロンがやけに赤く染まっているように見えるのはきっと気のせいだろう。 この皿の中に、グゥの作った料理も混ざってたりするのだろうか。少し怖いが、グゥの手料理なんてはじめてだ。 なんだか期待と不安で心ならずも胸が高鳴ってしまう。 「…いや、グゥが手伝ったのはこっちだ」 「え?」 言いながら、グゥは母の手をぐぃ、と持ち上げる。 そこには包帯でぐるぐる巻きになった、指。ところどころにベタベタと絆創膏も貼られていた。 「…言っただろ、料理は全てウェダが作ったと言っていい、と」 「…ってかグゥ、手伝ったって言えるの、それ」 「何言ってるの!グゥちゃんが手伝ってくれなかったら、母さん包丁も握れなかったわよっ」 「いや、いっそ無理せず安静にしてて頂きたい…」 グゥのエプロンに付いていたのは、母のものだったのか。想像すると、少し背筋に寒いものが走る。 料理とは果たしてそこまで過酷なものだったろうか。母と違い、いつの間にか鉄人級の料理の業前を持つに至った 少年は、これが才能ではなく幼少から強いられた鍛錬によるものだと心から理解するのだった。 …ってか、自分がどんな料理を食べて育ったのか、あまり想像したくない。 「なんかもう早くも食欲が失せ気味だよオレは…」 「なによ、こんなに母さんががんばったってのに、食べれないっての?」 「そうだぞ、グゥもがんばったんだぞ」 そのがんばりを気まぐれでなく普段から発揮して頂きたいと思うのは我侭なのだろうか…? しかし確かに、母の手料理なんて久しぶりのことだ、贅沢を言ってもしょうがない。 そんなことに贅沢云々を論じねばならぬ時点でどうかと思わないでもないが…。 「ま、いいや。ほらグゥも食べようぜ」 「うむ」 「たっくさんあるから、じゃんじゃん食べてねー!」 ハレがそう促すと、ウェダとグゥもエプロンを取り椅子に腰掛ける。 三人で「いただきます」を言い、それぞれ思い思いの皿に手を伸ばしていく。 …やはり、どれも似たような味付けばかりで火加減もまちまち。 それもところどころ焦げ付き、薄しょっぱ苦い味が口の中に広がる。 しかしそんな味もなんだか懐かしく思えてしまうから不思議だ。 まぁ、たまにはこんな朝も悪くない。むしろ推奨。 自分で作ったものを自分で食べるほど、詰まらないものは無いのだ。 「どうどう、結構イケるでしょー?」 「う、うんそだね…」 そんな母の料理でも、味を問われれば言葉に窮せざるを得ない。 母はパクパクと機嫌よく口に運んでいるが、少年は早くも胸がいっぱいいっぱいだった。 「なぁグゥ────っておまっ!?」 「…ん?」 返答に困ったハレはグゥに助けを求めるが、その少女の姿を見た瞬間少年はなお固まってしまう。 グゥは、ウェダの料理を皿ごとモゴモゴと口に詰め込んでいたのだ。 そのままハレの言葉も気にせずグゥは作業を続け、間もなく口に半分ほど入っていた皿はスポンと グゥの中へ消えていった。 それどころかいつの間にか、テーブルに置かれていた料理はすでにその1/5ほどが皿ごと消滅していたりする。 …グゥはグゥで困った存在であることをすっかり失念していた。 「…グ、グゥちゃん…?」 「あ、か、母さん?これはその…っ!」 (やばっオレだけならともかく、母さんにまでバッチリ見られちゃったよ! どうしよー、何てフォロー入れたら…) そして最悪なことに、母にまでその姿を目撃されてしまっていた。 なんとかフォローしないと、事態はより悪化の一途を辿る…… 「グゥちゃんったら…気持ちいいくらい豪快な食べっぷり!粋ね、粋!」 「いえーい」 「…………」 ……かに思われたが、あっさりと回避されたようだ。この母の底なしの能天気さはある種の才能と言えようか。 笑顔でサムズアップを交わすこの母と少女を遠目に眺めながら、事実を事実として受け止める母のそのスキルの 半分でも自分に備わっていたなら自分ももっと気楽に生きれたろうに…などとハレは一人心を冷やすのであった。 「ね、なんで今日は朝からこんなに豪勢なんだと思う?」 そんな少年の様子を尻目に、母はニコニコと上機嫌でそんなことを聞いてくる。 …本来なら、ここで何か特別なイベントの予感に期待を膨らませるのだろうがまぁ、現実はそう甘くあるまい。 「…冷蔵庫の整理でしょ、賞味期限ヤバイのとか過ぎてるのばっかじゃん」 「う゛…なんで解るのよぉっ」 少年はあっさりと母の思惑を看破し、ズバリといたって冷静に言い放つ。 「オレ、母さんより冷蔵庫の中身詳しいよ」 皿の上には様々の食材が並んでいたが、どれも少年にとっては見慣れたものばかりだ。 そこには料理としての体裁を考えた様子は見られず、ただ冷蔵庫の中身を使い切ってしまえと言わんばかりだった。 「うーん、さっすが我が息子!私に似て細かいとこまで目が行き届いてるぅ!」 「母さん…反面教師って言葉、知ってる?」 「うっさい!…でもね、それだけじゃないのよ?他にも理由あるんだから!」 「…あ、そー言えば今日は狩りの日だっけ?」 「ンも~!!何で知ってるのよぉ!!」 「だっていつものことじゃんかぁ。いつもは前日の夕飯で整理してるけど、昨日は母さんが何も言わなかったから オレ普通に作っちゃったんだよね。…どーせ、夜中にでも思い出したんでしょ」 「な、なんでそこまで……あんた、私の何なのさ!?」 「息子だよ……今だけはものすごく不本意だけどね…」 全てを悟られ、どすんとオーバーに床に倒れ込みわなわなと身体を震わせるウェダ。 まったく、笑ったり怒ったり驚いたり、毎度のことながら朝から忙しい人だ。 ころころとその表情を変える様はまるで子供だ。大人のくせに、いつでもあからさまに感情を発露させる。 だからこそこの少年も、いつも遠慮なく素直に言葉をぶつけられるのだが…。 「それにしても、ちょっと減らしすぎじゃない?冷蔵庫ほとんどカラだよ?」 「んふふー、母さんちょっと今日は気合い乗ってるからねー。 心配しなくても、冷蔵庫からはみ出すくらい取って来てあげるわよ!」 言いながら、ウェダはおもむろに準備運動のような動作をはじめる。 狩りは夕方からだってのに、早くもスタートの合図が待ち切れないといった様子だ。 でもそうか、それで冷蔵庫の中を使い切ってしまおうと思ったワケだ。 今日は夕飯も、いつもより豪勢なものが食べられそうだ。…どうせ作るのは自分なのだろうが。 「うーん、それはうれしいけど、あんまり無理しないでよ?」 「まぁっ!母さんのこと、心配してくれるの?」 「べ、別にそんなんじゃないよっ! ほら、前みたく大怪我しちゃったらさ、また母さんの世話でオレの仕事が増えるからさぁ…」 「もう、ハレってば素直じゃないんだからぁ~」 「だからそんなんじゃないってぇっ!もう、くっつかないでよ~」 母は村一番の狩りの名手だが、まったく不安が無いと言えば嘘になる。 女である母が狩りをする姿と言うものも、子供にとってはあまり想像したくないものだ。 しかしそんな息子の気を知ってか知らずか、母は暢気に少年にじゃれつくのだった。 「…いや、ハレの言うとおりだ。無理はするなよ、ウェダ。」 「グゥ…?」 「グゥちゃん……」 そんな中、ハレの心中を察したのかグゥはウェダを嗜めるようにぽつり、ぽつりと呟く。 グゥも、家族の1人なのだ。ウェダのことが心配じゃないわけが無い。 「ただでさえウェダはすでに満身創痍なのだ… ハレは、これ以上自分のためにウェダに傷付いて欲しくないと思っているのだろう」 「いや確かに母さんボロボロだけどさ、言っちゃ悪いけどこれに関しては自業自得な気がするよ?」 「どうだウェダ、今日の狩りはハレに任せてみては」 「いや話聞けよ!ってかオレが狩り!?無理だって!」 「お、いよいよハレも狩人デビュー?」 「いやいや母さんも乗らないでよっ!オレにはまだ早いって~!」 「何を情けないことを…女のハントならすでにお手の物だというのに」 「ま、やっぱり父親に似たのね」 「だーもう!なんでそーゆー話になるんだよー!!」 そう、グゥだって母さんのことが心配じゃないわけが無い。…そんな風に思っていた時期が、オレにもありました。 ってか、こいつがそんな素直に自分の気持ちを口に出すワケがないのはちょっと考えれば解ることだった。 結局話題はグゥの思惑通りに流れ込み、少年は事の収拾に朝から無駄な労力を強いられるはめになるのであった。 「うわ、この満田もう賞味期限切れてるじゃん」 「今日新しいのいっぱい取ってくるから、我慢して食べなさい」 そうこうしながらも朝食は綺麗に平らげ、テーブルには空になった皿が並ぶのみとなった。 皿の枚数が最初に比べ2/3ほどになっている気がするがまぁ些細なことだろう。 食後のデザートは定番の満田。白い饅頭のような形に人の顔と手のようなものが付いているデザインから、 ジャングルに来たばかりのアルヴァは気味悪がって手をつけないが、このジャングルで生まれ育ったハレに とってはいたって日常的な食べ物だ。見た目とは裏腹にとても美味しい。 「でも賞味期限切れの満田って甘すぎて美味しくないんだよなー」 しかし美味いのは、賞味期限が切れるまでの話だ。満田の顔が少し厳しくなる熟れ頃のうちはまだ大丈夫だが、 その目と口が完全に見開かれる「賞味期限切れ状態」となるとその味は格段に落ちる。 それどころか、そのまま放置していたら中に溜まったガスによりその身が破裂し中に詰まったジャムが飛び散ってしまうのだ。 「食べ物を粗末にしちゃだめよ?身体には悪くないんだから、食べちゃいなさい」 「うーんでもさぁ、口に入れた瞬間破裂したら怖いじゃんかーっ」 昔、レンジで作ったゆで玉子が口の中で爆発するというのを何かのテレビ番組で見たことがある。 あれにはテレビの前で大いに笑い転げてしまったものだが、自分の身にそれが起こるとなれば話は別だ。 満田はゆで玉子みたいに熱いワケじゃあないが、口の中で何かが炸裂すると言うのは恐怖以外の何物でもない。 「あらっ!そんな決定的瞬間、見逃さない手は無いわね~。カメラ回しとこうかしら」 「ハレは生粋のリアクション芸人だからな、さぞや面白映像が撮れるであろう。永久保存版にせねばな」 「…あのさ?食べ物程度でいいからオレの存在も粗末にしないでくれると嬉しいんだけどなぁ?」 しかしこの悪女コンビはそんな少年の気持ちなどそ知らぬ顔で楽しげにハレを肴に盛り上がっていた。 …まぁ確かに、口の中で満田が炸裂、なんて事件、十数年このジャングルで生きてきて見たことも聞いた事も無い。 自分のこの発想は所詮、子供っぽい杞憂に過ぎないのだろう。 と、満田を一口にパクっと放り込んだ、瞬間…。 バーーーーン!! 「んぐぅっ!!」 突然の破裂音…… 「……なんちゃって」 …では無く、少女の大声に思わず喉が詰まる。 そのままごくん、と満田を一息に丸ごと飲み込んでしまった。 「げほっげっ……グゥ~~~~~?」 てへり、とお茶目な笑顔を見せるグゥをギロリと睨みつけるハレ。 だがそんなハレの威圧などこの少女に効こうものか。 そんな風に反応すればするほど少女の機嫌が良くなることをこの少年は十全に知っているのだ。 「ったくグゥは子供っぽいんだから……」 やれやれ、と大げさに肩を持ち上げ頭を振り、ハレは全身でその余裕っぷりを表現する。 …しかしその程度では少女のペースを崩すことなど出来るワケも無く… 「…丸飲み…か…」 「な、なんだよ……」 口に手を当て、必要以上に深刻な表情でこちらを見つめる少女にゾクリと背筋が冷える。 まさか、腹の中で破裂するとでも言うつもりか。 …これもこの少女の罠に違いないと思いつつも、どうしても不安感が拭えない自分が情けない。 そんな自分の様子に少女の心が満足げに潤っていくのが解るのがまた悔しくて情けなくなる。 「…破裂する前に潰してやろうか?」 「いえいえいえいえ結構です…!!」 ほくほくとした満面の笑みを湛えながら、しゅ、しゅと素振りをしはじめるグゥ。 それに対し少年は、情けない、情けないとは思いつつも結局ただ必死に少女から背を向け腹をガードすること でしか抵抗の意思を示すことが出来ないのだった。 「ほらほら遊んでないの、ちゃっちゃと片付けちゃって学校行きなさいっ」 そんな少年と少女の攻防などそ知らぬ顔で、母からマイペースな声が飛んでくる。 いつの間にか時計の針はいつもの登校時間を刺していた。 テーブルを見ると、そこに残るはただ満田1個のみ。グゥの分のデザートだ。 それを食べたらあとは家を出るだけ。母の声に、先ほどの緊迫した空気も弛緩している。 キラリと、ハレの眼が光る。…今こそが千載一遇のチャンスでは無いか。 グゥが何の警戒心も見せずに満田をひょいとつまんだその瞬間、ハレの眼はますますに輝きを増した。 それはもはやあどけない少年の眼ではない、ただ一撃の反撃のチャンスを狙う鷹の眼だ。 そのチャンスとは、もちろんグゥが満田を食べる瞬間…!! トクン、トクンとハレの心が高鳴る。 まるで、満田が少女の口に運ばれる様子がスローモーションで見えているかのようなかつてない集中力。 そして少女の口の中に、その起爆剤がすぽんと飲み込まれた瞬間っ! 「バーーーーン!!」 満を持しての反撃!ハレはグゥに覆いかぶさらんばかりに両手を広げ、得意満面に精一杯の大声を張り上げた。 その大声に少女は、 「……何?」 何事も無かったかのようにごくん、と一息に丸飲みし、それだけを呟いた。 「………っっ」 なんとも憎らしいほどのその余裕顔。 反対に、一人馬鹿みたいに騒いでしまったハレはただ顔をカーッと、真っ赤に染めてしまう。 「…カッコワル」 「うぐぅ…!!」 少女は更に容赦なく、くすくすと追い討ちをかけてくる。 その言葉は少年から抵抗の意志を奪い取るには十分なものだっただろう。 その眼はもはや起死回生を狙い爪を磨ぐ鷹の眼ではない。飛ぶことを忘れた従順なピヨちゃんの眼だ。 「くっそー…ちょっとは動じるとか驚くってこと無いのかよお前は~っ」 「ハレとは人生経験が違うのよ」 「オレも誰かさんのおかげで結構な経験積んでると思いますけどね? ったく、お前もちょっとは母さん見習って、素直に感情表現出来んもんかねぇ…」 「グゥはいつも素直ですよ?」 「自分の欲求には、だろー?」 「二人とも、今日も仲良しさんね~」 「どこをどー見たらそー見えるんだよっ!ほら行くぞグゥ!」 「おー」 このようなやりとりはいつもの事。 いつも一方的に負かされるハレだったが、いちいち気にしていても仕方が無い。 次の瞬間には後腐れ無く、あっさりとその心も切り替わるのだ。 ハレはグゥの手をぐいと引っ張ると、勢いよく玄関から飛び出していく。 結局二人は、いつものように仲良く手を繋いで学校に向かうのだった。 2 「…でよ、ここからがコエ-んだぜ……」 「ほんまか、それ?ほんまやったらえらいな~」 「あははははは!それ凄いねー!」 「ちょっと、静かにしなさいよぉ。授業中でしょ!」 「っせぇなラヴェンナ、授業中ったってレジィ寝てんじゃんよ」 ここはジャングルの小さな学校。年齢も様々なジャングルの子供たちが1つの教室に集まり、 少人数ながらもざわざわと明るい声を飛び交わせていた。 今は授業中ではあったが、その喧騒も届かぬ様子で教卓に枕を置き、頭を乗せてグースカとだらしない寝顔を 見せている教師、レジィにそれを咎める資格はあろうか。子供たちは益々に声をあげ、大いに雑談に花を咲かせるのだった。 そんな中、子供たちの笑い声に混じらずに男子でただ1人黙々と教科書に向き合う少年の姿が一つ。 ただ彼も、別にその教科書に集中していたワケではない。 いや、教科書はおろかその眼には何も映らず、その耳には何も聞こえてないかのように少年は平静を欠いていた。 (う~~~…やっぱ朝からあんだけ食ったらヤバかったかなー しかも賞味期限ギリギリか過ぎてるのばっかだったし…) 「ハレ?なんか顔色悪いよ、大丈夫?」 「え?う、ううん、平気平気!ありがとマリィ」 そんな自分の様子を、隣から心配げに見つめる少女になんとか必死に体裁を整える。 しかしどう言い繕おうとも、先ほどから己の腹の奥でキュルキュルと響く叫声がその汗を冷やしその身体を凍らせ その思考を乱し続けているのも事実。 別にさっさとトイレに行ってしまえば良いのだが、この喧騒の中トイレに行くと妙なツッコミを受けそうで気が引ける。 そうこうしているうちに波が引き、安心したら時間を置いてまた次の波が…といった状態が先ほどから続いていた。 このまま授業が終わるまで…とは思うものの、事態はそれなりに急を要するようだ。 今は波は引いた状態ではあったが、次の波が来たらいよいよトイレに駆け込まざろう得ないことを少年の身体は直感していた。 「グゥ~、お前は平気なのか?」 「何が?」 ちらりと、マリィの反対隣に座っている少女を見やる。 ハレの容態とは対照的に、グゥの身体は全く健全そのもののようだった。 その余裕な表情がなんだか妙に憎い。 …フと、グゥが何かを手に持っていることに気付く。 それはなんだか真っ白で丸い饅頭のような、グゥの手のひらには少し余る程度の大きさのものだった。 そう、それはまるで…… 「ってグゥ…それ…」 「ああ、さっきのやつ」 それは紛れもなく、朝食に出た満田だった。 もちろん賞味期限切れのそれはカッと目と口を見開き、今にも破裂しそうな勢いを孕んでいる。 「…食ってなかったのかよそれ!」 「食べてないよ。飲んだだけ」 …それがどう違うのか気になるけどやっぱり聞きたくない…。 「ってか早くどうにかしろよそれ!教室で破裂したら掃除大変だろー!」 とにかく今は、グゥの手の中で弄ばれている危険物をどうにか処理することが先決だ。 「お、なんだよそれ、賞味期限切れの満田じゃん!」 「はよどうにかせんとやばいで!俺の見立てではもってあと1分や!」 「おお、さすがいずれ村長になる男!トポステの見識眼、あなどれねーぜ!?」 「…グプタ…関係あるの、それ?」 突然のハレの大声に、思い思いに花を咲かせていた会話が止まりクラス中の目が集まる。 どうやらトポステによるとあと1分で破裂するとのコトだが…。 あと1分以内にグゥの手からあれをどうにかすることが可能なのだろうか?ハレの心に一抹の不安がよぎる。 そして最悪の結末…教室中ジャムまみれ… 体中をベタベタにしたまま、取れにくいジャムの付いた床や机をゴシゴシと磨く自分の姿をあまりにも容易に 想像が出来てしまい、思わず心に暗い影がかかる。 「ふむ……」 少年がそんな想像を働かせていると、グゥも何やら考えているような仕草をしているのが目に映る。 …この先の展開を考えているのか? ハレの脳髄が高速で回転を始める。グゥの思考を読み、その手に先んじるための情報を検索し整理する…。 …確かに、「教室中ジャムだらけ」は一見、最もシンプル且つ最大の被害をもたらす妙手ではある。 しかし!グゥは誰かれ構わず嫌がらせをして喜ぶようなタイプでは無い。 最近はオレ以外のやつもターゲットにするようになっては来ていたが、それでも誰か1人に絞ってちょっとイジル程度のものだ。 やはり、最大のターゲットは不本意ながらこのオレであろう。ならば、あの満田を使いオレをどう困らせるか…。 それはもう、1つしかあるまい。ハレの思考が一つの結論…今朝、グゥと交わしたあのやり取りに辿り着く。 …これだ。間違いなくグゥがやろうとしていたことは、オレの危惧していたことの具現化!! その時、グゥの眼がキラリと光る。しかし同時に、ハレの眼にも同じ輝きが宿っていた。 気がつけば、先ほどまでその身を蝕んでいた便意はすっかり消滅し、いつもの…いや、いつも以上にクリアな思考力と集中力 がその全身に鋭敏に蘇って来る感覚を覚える。今のハレは、間違いなくベストコンディションであった。 グゥはこちらを真っ直ぐに見据えたかと思うと、瞬時に行動に打って出た。 その少女の満田を持った手が高速で一直線にハレへと向かってくる。狙いはもちろん、口だ。 しかしそれはすでに、ハレにとっては予測済みの行動に過ぎない。 どれだけ速く動こうと、狙いさえ解っていればこちらはただ冷静に対処するのみだ。 グゥの手はパシィッと、いともたやすくハレに制止され、その腕を捕まれる。 「やっぱりな~…さすがにオレもそこまでバカじゃあないぜ?」 「おおっ受け止めた!」 「やるな、ハレ!!」 その攻防にどよ、と教室がざわめく。 しかしグゥの眼には全く焦りの色は見えない。 その時、より一際、教室のどよめきが大きくなった。 「いや違う!グゥが手にもっとんのは…」 「ふ、普通の満田だ!!」 「と言うことは…」 いつの間にか、グゥの手に握られていたのは先ほどの満田では無く別に用意していた満田に変わっていたようだ。 しかしハレにはそちらに気を配る余裕は無い。 すでにグゥの空いている側の手に握られた満田が、こちらをロックオンしているからだ。 ここまではグゥにとっても計算のうちと言うことかっ…しかし、それはこちらとて同じこと! 狙いは見え見え、攻め手も見え見えではどのような角度から攻めて来ようとも恐れるに足らず!! グゥはまたもハレに向かって手を突き出すが、先ほどの繰り替えしのようにあっさりとその手をハレに捕まれる。 これでグゥは、ハレに両手を抑え込まれている状態となった。 「甘い……!グゥさんにゃ敵いませんけどオレもそこそこ人生経験積んでるんでね…!」 「おお、これも読んでいたのかっ!!」 息詰まる攻防に、またドッと歓声が沸き起こる。 しかしここでまたも、トポステの鑑識眼が光った。 「いや待ちぃ!あの満田は確かに顔かわっとるけど…まだ熟れ頃の顔やで!!」 「え?じゃあ賞味期限切れの満田は一体…」 まだ先があると言うのか。確かに、グゥの眼はまだ輝きを失ってはいない。 …望むところだ。グゥの策略がこの程度で尽きるはずが無いことは誰よりもオレがよく理解している。 さぁ、最後の仕掛けを見せてもらおうか、グゥ! 「破裂まであと10秒切ってるはずや!もはや一刻の猶予もならん!」 「どう攻める、グゥ!!」 「ハレ…負けないで…」 「って言うか、なんでこんな盛り上がってんの?今授業中なんですけど…」 教室の熱気が最高潮の盛り上りを見せている中、もはや一人の少女の冷静な突込みなど誰の耳にも届かない。 今や教室中がその勝負の成り行きを見守っていた。 満田が破裂するまですでに時間はない。決着は次の一瞬で決まる!! オレなら…いや、グゥならどうする。…答えはもはや1つしかない。 最も効率よくオレの口を開かせ、かつ意識をそちらに向けぬ角度からの攻撃!! そしてそれは、すでにオレも読んでいた事!!見え見えだ!狙いは… 「上だ!!」 「うえ!?」 「…あっあれは…いつの間に!?」 「パッ…パラシュートや!満田にパラシュートが!」 皆の視線が一斉にハレの頭上高くに注がれる。 そうだ、やはり空からの攻撃。皆は気づかなかっただろうが、オレの足元にかかる影は頭上に何かが浮かんでいることを 如実に知らせてくれていた。まさかパラシュートまで用意しているとは思っていなかったが、なるほど効率的だ。 恐らく、最初の攻撃がはじまる前から用意していたのだろう。 ったく、オレをはめるために注ぐ力をもっと平和的に活用しようとは思わんのか、こいつは。 そうこうしている間にも、影はオレの身体にかかるほどに大きくなっていく。 ここまで来ればどれだけ鈍かろうとも、この影に気づかないはずがない。…しかし、それも間違いなく、グゥの戦略の1つ。 普通なら頭上から何が迫っているのか、気になってつい上を見上げてしまうところだろう。それこそが狙いだ。 そうだ、あえてオレにその策略を気づかせ、上に意識が向いているところに別角度からの攻撃!これが本命! 頭上にかかる影の恐怖に耐え切れなくなり、上を向くオレ。その目に映らぬ角度から、ゆるやかに飛んでくる満田。 そしてあんぐりと天井を見上げ呆けるオレの口にすぽんと満田が飛び込み、炸裂…そんな様がありありと目に浮かぶ。 グゥの両腕を抑えている手は同時にオレの自由をも奪っている。瞬時に手でガードすることは難しいだろう。 加えて、真上を見上げながら口を閉じるなんてことは、相当に意識していなければまずおろそかになる。 この二重三重にかけられたトラップ…さすがグゥと言っておこうか。しかしオレはそれをすでに看破している! それは先ほどからピッタリと閉じ何も喋らないグゥのその口からも伺える。 グゥ…その口の中に、満田が入っているんだろう?皆の意識も、オレの意識も頭上を向いているところに、その口から ゆるやかに満田を発射する。そのタイミングを計るためにその口に力を込めているのだ。 それは下手を打てば自爆しかねない諸刃の剣!敵ながら天晴れと褒めてやりたいが、しかし今度ばかりは失策だったな! もはやオレは上など向かん!!さあ、素直に負けを認めてさっさと飲み込んでしまわないと大変なことに─── 「どうしたハレ?早くどうにかしないと、頭の上で破裂してしまうぞ?」 「な────!!?」 くらりと、視界が歪む。 ニヤリと、口端を歪ませるそのグゥの邪悪な笑みは「かかったな」と言わんばかりであった。 何で、口をひらけるんだ…? だってその口の中には満田が…入ってるはずなのに、なんで、何も入って……。 「ハレ、どうしたの!?」 「今、破裂したら顔中ベタベタになってまうで!」 「ってか、こっちにまで飛んでくるんじゃねーか?」 「…………」 グプタの声を契機に、後ろのほうでガタガタと椅子を揺らす音が響いた。恐らく皆、教室のすみっこにでも非難したのだろう。 …そうか…そう言う事か…。オレの口の中に満田が放り込まれる、なんて、オレ以外誰も思っちゃいなかったんだ。 朝の件で、オレはその口に満田を放り込まれると言う恐怖をすでに植え付けられていたと言うことか! 今のグゥにそんな執着は無い。オレに破裂した満田を浴びせるだけで十分だったのだ。 しかしそれだけでは被害が周囲にまで及ぶ。…パラシュートは、オレ以外に被害を出さないためのバリアとしての役目も 兼ねているというワケだ。ちくしょう、あまりにも符号が揃いすぎてるじゃないか…このままではグゥの思惑通り、 オレは全身ジャムまみれになってしまう。…何か、何か破裂を食い止める手は─── ──その時、ハレに電撃走るっ! 「まだだ…まだ終わっちゃいない!」 ハレの目が輝きを取り戻す。かっとその目を見開き、力強く頭上を向いた時、パラシュートを着けた満田は今まさに ハレの頭頂部に着陸しようとしていた瞬間であった。 その満田に向かい、ハレは大きく口を開け…… 「な、なんや、何をするつもりや!」 「ま、まさか………!!」 そうだ、単純なことだ。満田の破裂を止める手段なんて、実にシンプルなものだったのだ。 破裂する前に、ただ噛み切る。そう、それだけでいい。ほんの少しの穴さえ開ければ、中のガスが抜け破裂は免れる。 ハレはその口にすぽんと満田をくわえ込み、そのまま思い切り歯を─── 「ンむっ──!!???」 ──瞬間、プツリと、思考が途切れた。 パサリと、何かが目の前を覆った瞬間。 唇に、何か柔らかく湿ったものがくちゅり、と押し付けられていた。 口が、開く。ゼリー状の滑ったものが下唇の裏をまさぐり、思わず顎の力が弛緩してしまう。 …その全てをハレが理解し終わる前に、その口内にはポコンと、丸い大きな満田がまるごと押し込まれていた。 「何だ、何が起こった?」 「ハレの様子がおかしいで!!」 「え?え?え?」 教室の壁から、ハレの後頭部を見ていた皆の目にはその詳細は解らなかったようだ。 その決定的瞬間を見逃し、何事か、と混乱するギャラリー。 しかし最も混乱しているのは当のハレ本人であろう。 …そう、ハレにも、よく解らなかった。目の前が何かに覆われ真っ暗になる前に、確かに眼前にグゥが迫って来た気がしたが、 今となっては解らなかった。グゥもいつの間にか、ハレの顔から離れ元の位置に戻っていたのだ。 ハレは、その口内に満田を押し込まれたままの形で凍りつき、頭からパラシュートをかぶり微動だにする気配も見せなかった。 (な、な、な………何!?今何が起こったんだ!?…オレの口に何か……? …てかそーゆー問題じゃない!!早く満田を…でもたしかにグゥの顔が──) 「ん…んんんんんんん~~~~~~~っ」 ハレの思考が混乱を極めている中、ぼむ、と、最後のトドメがその口内で炸裂した。 反射的に、必死に両手で口を抑えるも口内からあふれ出たジャムが指の間からボチュ、と飛び出す。 その勢いは凄まじく、口から噴出したジャムが頭を覆うパラシュートにぶつかりそのまま床に大量のジャムが撒き散らされた。 パラシュートの壁に防がれていなければ、グゥにまでかかっていただろう。 「……まだまだよの、ハレ」 その姿を満足げに眺めていたグゥは、不適な笑みを浮かべながらふふん、と鼻を鳴らした。 「……………」 その様子に一瞬、教室中がしぃん、と静まり返り…… 「あははははは!!!ハレ最高~!!」 「すっげー!マジで破裂したぜ!!ぎゃははは!!」 「いやー最後ようわからんかったけど、白熱した攻防やったなー!ええもん見せてもろたわ」 「も~っ笑ったら可愛そうでしょ……ぷふっ」 「ハレ、大丈夫ぅ?」 次の瞬間、何かが爆発したかのように、ドッと大きな笑い声が教室中に鳴り響いた。 ハレはいまだポタポタとジャムをたらす指で口を抑えたまま、ただワナワナと震えるのみ。 (くっそー!またやられた…!結構いい線いってたのにな~もう一歩だったか… ってか…オレ、オレグゥに何を………ッッ!!?) 先ほどの光景を思い出し、また思考がぐるぐると乱れてしまうハレに更に追い討ちは続く。 (う……今の衝撃でいよいよヤバイ!もうオレも破裂しそう…っ) ぎゅるるるるるぅ~~~、と、いよいよ最後の鐘の音がハレの腹の中で鳴り響く。 ぶわ、と冷たい汗が噴出す。眉間にピキピキと深い皺が刻まれていく。 もはや一刻の猶予も無い。この上で、この場で粗相などしようものなら、一生ものの辱めを受けることになるのは必至! ハレは机に足をかけ教卓の前に飛び降りると、未だ頭にパラシュートを被ったままの姿で教室から飛び出して行くのだった。 「あはははは…は…行っちゃったね、ハレ…」 「…いつも思うけどハレとグゥって仲いーんだか悪いんだかわかんねーな」 「うーん、でもケンカするほど仲が良いって言うしね。いつものことじゃない」 「ケンカっちゅーかじゃれあってるっちゅーか…ハレが一方的にへこまされとるだけって感じやけどな~」 「…でも今日はなんだかいつもより怒ってた、よね、ハレ…」 「ん、言われてみれば…そやなぁ、あんな風に何も言わんと出て行くなんて、はじめてやで…」 「もう、みんなであんなに大笑いするからよ……」 「おめーも笑ってただろぉ。…グゥも、あとでちゃんと謝っといたほうがいいんじゃねーか?」 「…………」 1>2>3>4
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コメント コメント あいさつコメント編集定型文(全キャラ共通) 購入できる単語あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や行 ら行 わ行 記号・数字 あいさつコメント編集 表示可能な文字数は12文字まで。単語の使用順や使用回数の制限はなし。定型文も組み合わせて使用できる。 吹き出しの形状も変更可。(標準的な角丸長方形、叫んでいるようなギザギザ形、内心考えてるような雲形の3種類)称号(賢神・賢帝・賢王・賢将)の単語や宝石賢者専用コメントは引き継がれる。有志の製作したあいさつシミュレータ 定型文(全キャラ共通) おつかれさまです おてやわらかに お願いします! かかってこい! 頑張ります! 勝てるかなぁ けちらしてやる 全力を尽くします 手加減無用! ヒアーウィーゴー!! 負けないぞ 目指せ優勝! 優勝はもらった よろしく~ キャラ専用台詞 レオン:俺と勝負しろおお! セリオス:僕に勝つつもりか? カイル:どうぞよろしく! ラスク:イエイ!任せて! サンダース:作戦開始だ!! タイガ:調子はどうでっか? ユウ:よーし負けないぞ! ハルト:俺の相手をするのか? リック:いつでも来い! ルキア:がんばっちゃうぞ! シャロン:優雅に参りましょう クララ:えと、よろしくです アロエ:はーい!よろしくね マラリヤ:覚悟しておきなさい ユリ:いざ尋常に勝負! ヤンヤン:いっちょこいアル! リエル:いらっしゃいませー! アイコ:わたしもいるよ! メディア:うふっ甘く見ないでね ミュー:お願いしますです マヤ:よし!負けないわよ! 購入できる単語 修練生から購入・カスタムが可能。 一般に付属語や記号の方が自立語より金額は高い。また、一般的な単語の方がQMA固有の単語(ジャンル・組・階級など)より金額が高い。 青字はQMA賢者の扉で新しく追加された単語。※日付は直近のアップデートにより追加された単語に、※日付はそれ以前に追加された単語に該当。2013年追加分は頭に13/~の形とする ★は宝石賢者のみ購入可能(QMA6~8からの引継ぎ可)。△は全国大会で該当する称号を獲った者のみ獲得できる(購入不要、前作からの引継ぎ可)。ちなみに2012/12/5追加分の「候(そうろう、こう)」と侯爵の「侯」は本来は別の字であるが、字形が似通っている上あいさつの単語としては候の方がふさわしいと判断してか凡ミスなのかは不明 あ行 あ ぁ/40 アー/20 愛/20 アイ/20 挨拶/20 アイス/20 相棒/20 アイランド/20※7/4 アウト/20※4/11 青/20 青い/20 赤/20 赤い/20 アカデミー/10 明るい/20 崇めよ/20 上がる/20 秋/20 握手/20 悪魔/20 あけまして/30 朝/20 浅い/20※7/4 脚/20 アシスト/20※10/10 紫陽花(あじさい)/20※13/6/5 あたい/20 あたし/20 暖かい/20 アタック/20※10/10 頭/20 新しい/20 あちら/20 あっち/20 アツ/20※13/8/7 あつい/20 あと/20 アドバンテージ/20※13/7/3 アドベンチャー/10※11/7 あなた/20※13/3/6 あなた達/20 兄/20 アニゲー/10 アニメ&ゲーム/10 姉/20 あの/20 阿鼻叫喚/20※9/5 アプローチ/20※13/11/6 アマ/20※4/11 甘い/20 アム/20 雨/20 飴/20※13/3/6 ありがとう/30 アル/40 主(あるじ・ぬし・しゅ・おも)/20※12/5 アルバトロス/20※13/11/6 あれ/30 安心/20 アンダー/20※10/10 あんな/20 い ぃ/40 亥/20 イーグル/20※13/11/6 イーブン/20※13/11/6 いい気分/20 家/20 イエス/20※10/10 イエロー/20※13/7/3 以下/20 いかに/20 意外/20 以外/20 行く/20 育成/20 以心伝心/20※9/5 以上/20 イズ/20 いずこ/20 遺跡/10 いただき/20 一撃/20 一族/20 市場/10 一番/20 一問多答/10 意中/20※13/2/6 一蓮托生/20※9/5 一家/20 一攫千金/20※9/5 一騎当千/20※9/5 いっしょ/20 一刀両断/20※11/7 いつ/20 いとしい/20 いとしさ/20 以内/20 イヌ/20 戌/20 イノシシ/20 命/20 今/20 妹/20 イヤー/20 嫌な/20 依頼/20 いらっしゃい/20 いらない/20※13/2/6 いる/20※13/2/6 イルカ/20 イレブン/20※13/7/3 色々/20 う ぅ/40 卯/20 ウィ/20 ウィップ/20※13/12/4 ウイング/20※13/7/3 ウォント/20 ウサギ/20 ウシ/20 丑/20 渦/20※7/4 嘘/20 有象無象/20※9/5 歌/20 宇宙/20 うっかり/20 美しい/20 卯月/20 腕/20 ウマ/20 午/20 馬/20※13/12/4 うまい/20 海/20 梅/20 うるさい/20 嬉しい/20 嬉しくない/20 運/20 運動会/20 え ぇ/40 Ace/20※13/1/9 エース/20 叡智/10※6/6 英雄の間/10 エナジー/20※8/8 エネルギー/20※8/8 エフェクト/10 FC/20※13/7/3 FW/20※13/7/3 MF/20※13/7/3 エリア/20※13/7/3 遠泳/20※13/8/7 エンジョイ/20 延長/20※4/11 エントランス/10 お ぉ/40 オート/20※8/8 オーナー/20※13/12/4 オーバー/20※10/10 OB/20※13/11/6 オープン/20※13/11/6 追い込み/20※13/12/4 おいら/20 王/20※12/5 ★黄玉/10 牡牛/20 王者/20 王手/20 狼/20 お返し/20※13/3/6 沖/20※7/4 贈らない/20※13/2/6 贈り/20※13/2/6 贈る/20※13/2/6 贈ろう/20※13/2/6 おことわり/20 お仕置き/20 おすすめ/20 夫/20 乙/20 お天気/10※13/9/4 弟/20 お年玉/20 乙女/20 鬼/20 斧/20※11/7 十八番(おはこ)/20 おはよう/20 オバケ/20※13/10/2 お久しぶり/20 牡羊/20 オフ/20※10/10 オフェンス/20※10/10 オフサイド/20※13/7/3 オブ/20 覚えた/20 覚える/20 おまえ/20※13/3/6 おまえ達/20※13/3/6 おまかせ/20 お守り/10※3/21 おめでとう/30 おもい/20 お餅/20 親/20 おやすみ/20 泳ぎ/20※7/4 (泳ぐ/20※7/4 泳げ/20※7/4 俺/20 愚か/20 終わった/20 終わらない/20 終わり/20 終わる/20 終われない/20 御/20 オン/20※10/10 音楽室/10 オンライン/10※3/21 か行 か か?/40 カード/20※13/7/3 階/20 怪異/20※13/10/2 海岸/10 怪奇/20※13/10/2 階級/20 解決/20 開催/20※13/2/6 解散/10※13/2/6 開始/20 解析/10※6/6 階段/10※3/21 海底神殿/10 怪物/20※13/10/2 カウンター/20※13/7/3 返さない/20※13/3/6 返し/20※13/3/6 返す/20※13/3/6 返せ/20※13/3/6 返そう/20※13/3/6 カエル/20※13/6/5 カオス/20 科学/20 化学/20 輝き/20※13/8/7 輝く/20※13/8/7 輝け/20※13/8/7 角(かど・かく・つの)/20※11/7 確定/10※13/1/9 格別/20 影/20 過去/20 下降/10※13/9/4 傘/20※13/6/5 火山/10 賢い/20 風/20 肩/20 カタツムリ/20※13/6/5 刀/20 勝ち/20 かっこいい/20 喝采/20 勝っちゃう/20 カット/20※10/10 カップ/20※13/11/6 カップル/20 勝つ/20 活動/20 家庭科室/10 勝てない/20 勝てる/20 かなり/20 蟹/20 金/20 彼女/20※13/2/6 カボチャ/20※13/10/2 神/20 雷/20 仮面/20 から/30※5/9 辛い/20 かるい/20 彼/20※13/2/6 華麗/20 彼氏/20※13/2/6 かわいい/20 かわらない/20※7/4 かわり/20 かわる/20 かわれ/20 歓迎/20 感謝/20 簡単/20 カントリー/20※13/11/6 神無月/20 勘弁/20 完璧/20 が/50 ガーゴイル/10 ガーッ/30 ガード/20※10/10 ガーン/30 ガイコツ/20※13/10/2 外燃/20※8/8 学園/20 学習/20 崖っぷち/20※7/4 臥薪嘗胆/20※9/5 ガジェット/20※8/8 ガチャ/30 学校/20 ガン/20※10/10 頑張り/20 き 黄/20 木/20 己/20 癸/20 貴/20※12/5 キーパー/20※13/7/3 黄色い/20 機械/20※8/8 帰還/20 機関/20※8/8 機関室/10 危機一髪/20※9/5 気球/10※13/9/4 聞く/20 聞け/20 機構/20※8/8 聞こえる/20 妃/20※13/9/4 如月/20 騎士/20※13/9/4 起死回生/20※11/7 騎手/20※13/12/4 奇数/20 絆/10※6/6 奇跡/20 奇想天外/20※9/5 来た/20 北/20 北風/20 キック/20※13/7/3 キツネ/20 機動/20※8/8 機能/20※8/8 キノコの森/10 厳しい/20 決まらない/20※13/1/9 決まる/20※13/1/9 君/20 キミ達/20 決め/20※13/1/9 決める/20※13/1/9 肝試し/20※13/8/7 キャッスル/10 キャッチャー/20※4/11 キャディー/20※13/11/6 キャリー/20※13/11/6 キャンディー/20※13/3/6 キューブ/10 旧/20 級/20 吸血/20※13/10/2 きゅん/20 卿/20※12/5 強化/20 狂喜乱舞/20※9/5 教室/10 強者/20※13/1/9 強弱/20※13/1/9 競争/20※7/4 競走/20 恐怖/20※13/10/2 強力/20 協力プレー/20 許可/20 虚数/20 キライ/20 キラキラ/20 きらめき/20 きらめく/20 切札/20 気流/10※13/9/4 きれい/20 キング/20 筋肉隆々/20※11/7 禁止/20 義/20 技術/20 ギミック/20※8/8 ギューン/30 玉砕/20 玉石混淆/20※9/5 ギラギラ/20※13/8/7 銀/20 く クイーン/20 クイズ/10 空前絶後/20※9/5 クエスト/10 クジラ/20 クマ/20 クマフィー/10 組/10 雲/20※13/6/5 暗い/20 位/20※12/5 クラブ/20 クリア/20※10/10 クリスタル/20※3/21 Xmas/30 クリティカル/20※11/7 黒/20 黒い/20 クロス/20※10/10 訓練/20 偶数/20 偶然/20 グラウンド/10 グランネーブル/10※3/21 グリーン/20※13/11/6 グループ分け/10※3/21 け 継/20 系/20※11/7 軽快/20 継続/20 結果/20 決勝/20 決する/20※1/9 決定/20※13/1/9 けど/30 獣/20※13/10/2 けれど/30 剣/20 △賢王/-- 研究/20 健康/20 賢者/10 △賢将/-- △賢神/-- △賢帝/-- 検定/10 ゲーム/20※3/21 芸能/10 原因/20 玄武/20 こ 子/20 コース/10 コーヒー/20 コーナー/20※10/10 来い/20 恋/20 甲/20 庚(こう・かのえ)/20 候(こう・そうろう)/20※12/5 公(こう・おおやけ・きみ)/20※12/5 皇(こう・すめらぎ・すめら・きみ)/20※12/5 工学/20 高貴/20 ★紅玉/10 貢献/20※13/1/9 貢献度/20※13/1/9 攻撃/20 神々しい/20 鉱山/10 後退/20※6/6 好調/20 肯定/20 高度/10※13/9/4 後半戦/10 コウモリ/20 校門/10 声/20 告白/20 ★黒耀/10 ココア/20 心/20 古城/10※3/21 こそ/20 コタツ/20 こちら/20 こっそり/20 こっち/20 この/20 このままでは/20 ★琥珀/10 拳/20 困らない/20 困る/20 こりごり/20 これ/30 これから/20 頃/20 コロシアム/10 怖い/20 怖くない/20 今回/20 ★金剛/10 コンテスト/10※13/9/4 こんな/20 こんにちは/20 こんばんは/20 ゴーグル/20※13/12/4 ゴースト/20※13/10/2 ゴーストタウン/10※3/21 ゴール/20 ゴールド/10 剛腕/20 ごきげんよう/20 ゴゴゴ/30 ござい/20 ござる/40 ごとき/30 ごめんなさい/20 ゴルフ/20※13/11/6 言語道断/20※9/5 ゴンドラ/10※13/9/4 さ行 さ サー/20※12/5 サークル/10 サード/20※4/11 さぁ/30※5/9 最下/20 最強/20 最後/20 最初/20 才色兼備/20※9/5 最弱/20 最上/20 サイド/20※7/4 采配/20※6/6 魚/20 下がる/20 作戦/20※6/6 さくら/20 ササッ/30 ささやき/20 ささやく/20 差し/20※13/12/4 蠍/20 サッカー/20※13/7/3 さっぱり/20 皐月/20 さて/30※5/9 砂糖/20 砂漠/10 寂しい/20 サブ/20※3/21 サポーター/20※13/7/3 サポート/20※13/7/3 様/20 サマー/20※13/8/7 様々/20 五月雨(さみだれ・さつきあめ)/20※13/6/5 寒い/20 侍/20 さようなら/20 さらに/30※5/9 サラブレット/20※13/12/4 サル/20 申/20 されど/30※5/9 さん/20 参加/20 サンキュー/20 サンダル/20※13/8/7 桟橋/10 三番/20 座/20 ザ/20 ザーッ/30 し 詩/20 シー/20※7/4 シーズン/20※4/11 しーん/30 幸せ/20 塩/20 仕掛け/20※8/8 しかし/30 獅子/20 システム/20※8/8 静か/20 自然/20 七転八起(しちてんはっき・ななころびやおき)/20※9/5 七転八倒(しちてんばっとう)/20※9/5 視聴覚室/10 失敗/20 質実剛健/20※9/5 シニア/20※13/11/6 死神/20※13/10/2 忍び/20 忍ぶ/20 ★紫宝/10 島/20※7/4 四面楚歌/20※9/5 霜月/20 社会/10 爵/20※12/5 灼熱/20※13/8/7 射手/20 シュート/20※10/10 集合/20※13/2/6 終了/20 修練生/10 祝/20 粛々/20 淑女/20 宿題/20※13/8/7 守護/10※13/1/9 出発/20 瞬間/20※3/21 俊敏/20 書/20 ショート/20※4/11 正月/30 昇級/20 将軍/20 勝者/20※13/1/9 正直/20※6/6 勝敗/20※13/1/9 商売/20 勝負/20※13/12/4 証明/20 醤油/20 勝利/20 初級魔術士/10 諸行無常/20※9/5 職員室/10 食堂/10 初心/20 ショット/20※10/10 使用/20※11/7 シリーズ/20※4/11 シルバー/10 城/10 白/20 白い/20 師走/20 新/20 真/20 辛/20 新規/20 シングル/20 紳士/20 慎重/20 審判/20※13/7/3 神話/20 GK/20※13/7/3 じーっ/30 ジェントルマン/20※12/5 時間/20 自画自賛/20※9/5 事件/20 地獄/20 実験室/10 実力/20 自動/20※8/8 自分/20※13/2/6 じゃー!/40 ジャーン/30 弱者/20※13/1/9 弱体化/20 弱肉強食/20※11/7 ジャック/20 ジャンプ/20※10/10 呪術/20 順番当て/10 準備/20 自由/20※13/8/7 ジョーカー/20 上級魔術士/10 上昇/10※13/9/4 成就/20 女子/20 ジョッキー/20※13/12/4 壬/20 す 酢/20 スイート/20※13/3/6 スイーパー/20※13/7/3 水泳/20※13/8/7 水晶/10※3/21 スイッチ/20※10/10 スイム/20※13/8/7 スイング/20※13/11/6 スキ/20 朱雀/20 進む/20 進め/20 涼しい/20 スター/10※13/1/9 スタート/20 ステップ/20※10/10 すでに/30 ストライカー/20※13/7/3 ストライク/20※4/11 ストロング/20※11/7 砂/20※7/4 砂時計/10※6/6 スピード/20※11/7 スピリッツ/20※13/10/2 全て/20 スペード/20 スポーツ/10 スライス/20※13/11/6 スルー/20※13/7/3 スロー/20※10/10 スローイン/20※13/7/3 スロット/10 ずばり/20 せ 正解/20 成功/20 精神/20※11/7 成績/20 成長/20 生徒/20 聖なる/20 青龍/20 世界/20 セカンド/20※4/11 拙者/20 せつない/20 せつなさ/20 節分/30 世話/20 先行/20※13/12/4 千載一遇/20※9/5 戦士/20※11/7 選手/20※4/11 戦術/20※6/6 船上/10 潜水/20※13/8/7 先生/20 センター/20※4/11 センタリング/20※13/7/3 線結び/10 戦略/20※6/6 ぜ!/40 絶体絶命/20※9/5 絶/30 全国/20※3/21 全国大会/10 前進/20※6/6 前人未到/20※9/5 前半戦/10 全力/20 そ 祖/20 層/20 相思相愛/20※9/5 草食/20 僧正/20※13/9/4 装置/20※8/8 想伝/10※6/6 そして/30※5/9 素数/20 育つ/20 育てる/20 そちら/20 そっち/20 卒業/20 その/20 園/10※3/21 そば/20 空/20 それ/30 某(それがし・ぼう)/20 そんな/20 増数/10※13/1/9 族/20 た行 た ターン/20※10/10 大安吉日/20※9/5 体育館/10 大会/20 大将/20 体操/20 タイピング/10 台風/20 大変/20 太陽/20 体力/20※11/7 タカ/20 高い/20 宝箱/10 互い/20 竹/20 猛々しい/20 助け/20 助けて/20 助ける/20※13/1/9 戦い/20 ただいま/20 たっぷり/20 辰/20 盾/20 七夕/20 楽しい/20 頼もしい/20 度々/20 タフ/20※11/7 魂/20※13/10/2 頼りない/20 タライ/20 他力本願/20※9/5 足りない/20 単純/20 だ!/40 ダーク/20※13/12/4 ダービー/20※13/12/4 ダーリン/20 第一/10 大賢者/10 大事/20 大丈夫/20 大聖堂/10 大聖堂前広場/10 第七/10 大胆不敵/20※9/5 ダイビング/20※7/4 ダイブ/20※7/4 大魔導士/10 ダイヤ/20 だから/30※5/9 だが/30 だけど/30 だし/20 ダダダ/30 ダブル/20 だもん!/40 誰/20 だろ!/40 段/20 男子/20 ダンジョン/10 旦那/20 ち 地/20 チーム/10※13/1/9 チェック/20 チェンジ/20※4/11 知恵/20※6/6 近い/20 地下街/10 力/20※11/7 知識/20※6/6 地図/20 父/20 茶/20 チャージ/20※13/7/3 ちゃっかり/20 ちゃん/20 チャンス/20 チャンピオン/20 チューリップ/20 中級魔術士/10 中継/20※4/11 中止/20※13/2/6 超/30 丁/20 頂上/20 頂点/20 調理/20 チョコ/20※13/2/6 チョコレート/20 直球/20※4/11 ちょっと/20 猪突猛進/20※9/5 知略/20※6/6 つ っ/40 ツアー/20※13/11/6 って/30 っぽい/30 ついに/20 通過/20 杖/20 使い/20※11/7 使う/20※11/7 使え/20※11/7 使おう/20※11/7 使って/20※11/7 使わない/20※11/7 月/20 土/20 翼/20 妻/20 つまり/30※5/9 冷たい/20 強い/20 て ティー/20※13/11/6 的/30※6/6 テクニック/20※8/8 テスト/10※13/1/9 撤退/20※6/6 鉄腕/20 てるてる坊主/20※13/6/5 天/20 天国/20 天使/20 ★天青/10 店内対戦/10 天秤/20 で/50 デー/20※13/2/6 出会い/20 DF/20※13/7/3 ディフェンス/20※10/10 ディフェンダー/20※13/7/3 出来ない/20 です/40 ですぅ/40 ですわ/40 でも/30 伝説/20 と と/50 トゥ/20※13/2/6 トーナメント/10 塔/10 登校/20 当然/20 灯台/20※7/4 討伐/10※10/10 遠い/20 時/20※3/21 ときめき/20 ときめく/20 刻(とき)戻し/10※6/6 得意/20 時計/10※3/21 解けた/20 解けない/20 解ける/20 ところが/30 ところで/30※5/9 年/20 年越し/30 徒手空拳/20※9/5 図書室/10 特訓/20 トップ/20 届かない/20 届け/20 殿/20※12/5 扉/10※3/21 とぶ/20 とべ/20 友/20※13/2/6 友達/20 トラ/20 寅/20 トラップ/20※10/10 鳥/20 酉/20 トリックオアトリート/30 トリプル/20 ドーン/30 銅/20 洞窟/10 堂々/20 ドカーン/30 ドキドキ/20 ドクロ/20※13/10/2 どこ/20 どこからでも/20 どちら/20 どっこい/30 どっち/20 ドドド/30 どの/20 ドライバー/20※13/11/6 ドラキュラ/20※13/10/2 ドラゴン/10 ドリブル/20※10/10 どれ/30 ドン/30 鈍重/20 どんな/20 な行 な な/50 ない/20 ナイス/20※13/11/6 泣いた/20 ナイト/20 内燃/20※8/8 ナウい/20 なかなか/20 仲間/20 長月/20 泣く/20 投げ/20 投げる/20 情け/20 なし/20 茄子/20 何故/30 謎/20 夏/20 なつい/20※13/8/7 懐かしい/20 鍋/20 名前/20 波/20※7/4 並べ替え/10 なり/20 なりたい/20 なんともない/20 に に/50 ニード/20 にがい/20 苦手/20 にく/20 肉/20※11/7 肉食/20 逃げ/20※13/12/4 逃げられない/20※13/12/4 逃げる/20※13/12/4 逃げろ/20※13/12/4 西/20 二番/20 ニュー/30 入学/20 女房/20 庭/10※3/21 人間/20 忍者/20 忍術/20 忍法/20 ぬ ※「ぬ」で始まる単語はありません。 ね 願い/20 願う/20※6/6 ネコ/20 ネズミ/20 熱帯/20※13/8/7 熱/20※8/8 の の/50 ノー/20※10/10 脳/20 望み/20 のにぃ/40 のよ/40 呪い/20 呪う/20 ノンジャンル/10 は行 は は/50 ハート/20 敗者/20※13/1/9 敗退/20 敗北/20 覇王/20 伯/20※12/5 歯車/20※8/8 橋/10 覇者/20※6/6 走り/20 走る/20 始まった/20 始まり/20 始まる/20 始め/20 ハットトリック20※13/7/3 葉月/20 鼻/20 花火/20 ハニー/20 羽/20 母/20 浜/20※7/4 早起き/20※13/8/7 早寝/20※13/8/7 波乱万丈/20※9/5 春/20 晴れ/20※13/6/5 晴れる/20※13/6/5 ハロー/20 ハロウィン/30 ハンド/20※13/7/3 ハンデ/20※13/11/6 バーッ/30 バーディー/20※13/11/6 バーニング/20※13/8/7 バーン/30 バカンス/20※13/8/7 化物/20※13/10/2 バッター/20※4/11 バット/20※4/11 バトル/20 バルーン/10※13/9/4 バレンタイン/30 バン/30 バンカー/20※13/11/6 バンパイア/20※13/10/2 パー/20※13/11/6 パーッ/30 パートナー/20 パーフェクト/20 パス/20※10/10 パター/20※13/11/6 パット/20※13/11/6 パワー/20※11/7 ひ 火/20 日/20 ヒート/20※13/8/7 光/20 東/20 低い/20 ★翡翠/10 必殺/20 ヒット/20※4/11 ヒツジ/20 必然/20 否定/20 人/20 ひとり/20 酷い/20 日々/20 ひまわり畑/10 姫/20 百戦錬磨/20※9/5 100点/20 非力/20 昼/20 疲労困憊/20※9/5 広場/10 ビーチ/10 ビショップ/20 ビジター/20※4/11 ビジネス/20 美術室/10 ビター/20※13/3/6 ビタミン/20 ビニール/20※13/6/5 美味/20 白虎/20 ピース/20 ピッチャー/20※4/11 ピリオド/10※13/9/4 ふ ファー/20※13/11/6 ファースト/20※4/11 ファイヤー/20※13/8/7 ファウル/20※13/7/3 ファスト/20※10/10 ファミリー/20 ファンタジスタ/20※13/7/3 ファンブル/20※11/7 不安/20 フィールド/10 風船/10※13/9/4 フェアウェイ/20※13/11/6 フェアリー/10 フェイント/20※13/7/3 フェニックス/10 フォー/20※13/2/6 フォワード/20※13/7/3 深い※7/4 服/20※13/12/4 複雑/20 不幸/20 不思議/20 富士/20 不自由/20※13/8/7 不正解/20 双子/20 ふたり/20 不調/20 普通/20 フック/20※13/11/6 不得意/20 船着場/10 船/20※7/4 文月/20 不明/20 冬/20 降らない/20※13/6/5 降り/20※13/6/5 フリー/20※13/7/3 フル/20※3/21 降る/20※13/6/5 古い/20 降れ/20※13/6/5 フレンド/20 ブースター/10※13/9/4 ブーン/30 武器/20 武士/20 ブラック/20※13/3/6 ブロンズ/10 ブワーッ/30 文学/20 文系学問/10 文武両道/20※11/7 プール/10 プラチナ/10 プレゼント/20※13/2/6 プロ/20※4/11 へ へ/50 丙/20 ヘビ/20 ヘルメット/20※13/12/4 変化/20 変化球/20※4/11 ベース/20※4/11 ベイビー/20 べからず/20 ベリー/20※13/3/6 ベンチ/20※4/11 ペナルティ/20※13/7/3 ペン/20 ほ ホース/20※13/12/4 ホーム/20※4/11 ホール/20※13/11/6 ホールインワン/20※13/11/6 ホールド/20※13/7/3 泡沫/20※6/6 星/20 細腕/20 細々/20 ホット/20 仏/20 骨/20※11/7 歩兵/20※13/9/4 ほれぼれ/20 ホワイト/20※13/3/6 本/20 本当/20 本末転倒/20※9/5 戊/20 ボーッ/30 ボート/20※7/4 ボール/20※4/11 ボーン/30 防御/20 防具/20 冒険/20 傍若無人/20※9/5 ボギー/20※13/11/6 僕/20 ぼく/20 ボク/20 募集/20 墓地/10 ぼちぼち/20 盆/20 ボン/30 ポーン/20 ポジション/20※13/7/3 ポン/30 ま行 ま マーク/20※10/10 マイ/20 毎日/20 マイルーム/10 マイレージ/10※13/9/4 マイン/20 任せて/20 任せろ/20 禍々しい/20 まくらない/20※13/12/4 まくり/20※13/12/4 まくる/20※13/12/4 まくれ/20※13/12/4 負け/20 負けない/20 負ける/20 誠/20 孫/20 ました/20 マシュマロ/20※13/3/6 ましょう/40 マシン/20※8/8 マジカ/10 魔術/20 魔女/20※13/10/2 ます/40 マスター/20 マスターズ/20※13/11/6 ません/40※11/7 まだ/20 街/10 まった/20 マッチング/10※3/21 松/20 魔導士/10 まぶしい/20 魔法/20 魔龍/10※10/10 魔力/20 まるで/30※5/9 ○×(まるばつ)/10 満足/20 満点/20 み 巳/20 未/20 ミー/20 帝(みかど・てい)/20※12/5 岬/20※7/4 ミス/20※12/5 ミスター/20※12/5 Mr.(ミスター)/20※12/5 水/20 ミズ/20※12/5 Ms.(ミズ)/20※12/5 水瓶/20 水着/20※13/8/7 水玉/20※13/6/5 水たまり/20※13/6/5 ミセス/20※12/5 味噌/20 道/20 三日天下/20※9/5 ミッション/20※6/6 ミッドフィールダー/20※13/7/3 緑/20 水無月/20 港/10 湊/20※7/4 南/20 見習魔術士/10 ミノタウロス/10 身分/20※12/5 未満/20 耳/20 未来/20 む ムーン/10※1/9 昔/20 無我夢中/20※9/5 婿/20 武者/20 無情/20 ムチ/20※13/12/4 睦月/20 無病息災/20※9/5 紫/20 め 明快/20 迷宮/20 明瞭止水/20※9/5 メイト/20 メイン/20※3/21 メカ/20 メガホン/10※6/6 目指し/20 目指す/20 目指せ/20 めし/20 メダル/10 めでたい/20 芽吹く/20 免許皆伝/20※9/5 メンタル/20※11/7 メンバー/10 面目躍如/20※11/7 も も/50 モアイ/10 もう/30 燃える/20※13/8/7 燃えろ/20※13/8/7 黙示録/20 潜り/20※7/4 潜る/20※7/4 潜れ/20※7/4 もし/30※5/9 文字パネル/10 もちろん/30 物足りない/20 モヤモヤ/20 萌ゆ/20 もらった/20 森/10 モンスター/20※13/10/2 問題/20 や行 や ゃ/40 刃/20 館/20 野球/20※4/11 山羊/20 約束/20 やさしい/20 休み/20 野生/20※11/7 やっぱり/20 宿り/20※13/6/5 山/20 止まない/20※13/6/5 闇/20 止む/20※13/6/5 止め/20※13/6/5 弥生/20 やれやれ/20 ゆ ゅ/40 ユー/20 ユア/20 優雅/20 勇気/20 優勝/20 勇猛果敢/20※11/7 幽霊/20※13/10/2 雪/20 油断大敵/20※9/5 ユニコーン/10 夢/20 よ ょ/40 よ!/40 よー/40 良い/20 曜/20 ようこそ/20 妖術/20 ような/30 ように/30※5/9 予感/20 欲/20※6/6 良くない/20 予習/10 予選/20 ヨット/20※7/4 呼ぶ/20 呼べ/20 嫁/20 より/30※5/9 夜/20 鎧/20 弱い/20 四択/10 呼んで/20 ら行 ら 来/20 ライオン/20 ライダー/20※13/12/4 ライト/20※4/11 ライフスタイル/10 ライン/20※10/10 ラウンド/20※13/11/6 ラジオ/20※13/8/7 ラップ/20※13/12/4 ラフ/20※13/11/6 ラブ/30 ラン/20※4/11 乱気流/10※13/9/4 ランタン/20※13/10/2 ランダム/10 ランナー/20※4/11 り 理/20※13/2/6 リーグ/20※4/11 リーチ/20 理系学問/10 リゾート/20※13/8/7 リタイア/20 リベロ/20※13/7/3 竜/20 寮/10 料理/20 凛々しい/20 る ルーク/20 ルーペ/10※6/6 ★瑠璃/10 れ レース/20※13/12/4 霊/20※13/10/2 0点/20 レイニー/20※13/6/5 レイン/20※13/6/5 レコード/20※13/12/4 レッド/20※13/7/3 レディ/20※12/5 レフト/20※4/11 レベル/20 LV.1/10※3/21 LV.2/10※3/21 LV.3/10※3/21 LV.4/10※3/21 LV.5/10※3/21 連想/10 ろ ローテーション/20※10/10 廊下/10 ロボ/20※8/8 ロボット/20※8/8 わ行 わ ゎ/40 ワイナリー/10※3/21 ワイルド/20※11/7 わからない/20 わかる/20 別れ/20 わがまま/20 分け/10※1/9 分ける/10※1/9 技/20※8/8 ワシ/20 忘れた/20 忘れない/20 忘れる/20 わずか/20 わたくし/20 私/20 わたし/20 罠/20 悪い/20 悪くない/20 我/20 我々/20 を を/50 記号・数字 記号・数字 !/20 ?/20 …/20 &/20 壱/20 弐/20 参/20 肆/20 伍/20 陸/20 漆/20 捌/20 玖/20 拾/20 ↑/20 ↓/20 ←/20 →/20 ♪/20 ☆/20 ♯/20 ♭/20 @/20 ※/20 ∞/20 、/20 ZZZ/30 +/20※5/9 -/20※5/9 ±/20※5/9 ×/20※5/9 ÷/20※5/9 =/20※5/9 ≠/20※5/9 </20※5/9 >/20※5/9 ≦/20※5/9 ≧/20※5/9 (/20※5/9 )/20※5/9
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6,スタートライン 果たして中庭で待っていた古泉は開口一番に、 「緊急事態です」 と言った。微笑み、手には湯気の上がる紙コップの安コーヒーを二つ持って。一つを俺が受け取ると、少年はテーブルを挟んで対面に座った。 その様子と台詞が余りに俺の中で食い違う。「藪から棒に何を言ってやがるんだ、お前は」なんて言葉を俺は寸での所で飲み下して、ソイツの二の句を待つ。古泉はまるで焦っている様子も無く、のんびりとコーヒーに息を吹きかけてから口に運んだ。 「ゆったりコーヒー啜ってられる間は緊急なんて言葉を使うな。その内に俺が意味を履き違えるようになったらお前の責任だぞ」 「おやおや、これは責任重大だ。再来年のセンター試験で緊急の意味を問う問題が出ない事を祈りましょう。……まあ、」 少年は右手でカップを握りこんだままに遠くを見つめた。人差し指を伸ばす。 「このままでは今年度のセンター試験はおろか来年すら一生訪れませんけど……ね」 「はあっ!?」 古泉の流し目と人差し指の先を俺は咄嗟に振り返る。ああ、そこにはやはりと言うべきか…………いや、「やっぱりお前か」以外に出てこない。えーっとだな、まあ、その眼と指は当然と文芸部室に向けられている訳だ。 どこに行った、意外性。おい、マジでどこ行った。戻って来い。 そこに居るのは……そうだよ、ハルヒだよ。他の誰だともお前らだって思ってないだろ。俺だってそうさ。前科が有るからこそ疑惑の眼を向けちまう。それが偏見だとも分かっちゃいる。 それでも、二度有る事は三度有る。夏の時は何回だった? 一万五千回くらいだったと思うんだが。そりゃもう一回有っても一つもオカしくない。だが! そんなんで納得出来るか? 出来ないよな? な? 「いえ、結論から言いますと十二月二十五日以降の時間が」 古泉は俺に向けて笑った。 「長門さん曰くどうやら途絶しているそうでして」 「……またか」 古泉のような爽やかな笑みなどまさかまさか浮かべられる筈も無い俺は空を仰いだ。未来を相談しようと言ったヤツが、未来を断絶してどうすんだよ、ハルヒ。 まったく、神様の真意とやらはいつだって雲の上である。 「頭が痛くなってきた。アイツは反省って言葉を知らんのか?」 つい今朝方「涼宮ハルヒの口から反省なんて言葉が出るなんて」と感動したはずなのだが。一歩進んで二歩下がるって有名なフレーズが今の俺ほど似合うヤツもいないだろう。――ちっとも嬉しくない。 「どうでしょうね。それと、貴方は『またか』と仰られましたが初めてのケースですよ。恐らく昨年の夏の終わり、エンドレスサマーを思い返しての発言ではないかと思われますが」 「違うのか?」 「その時との最大の違いはループしていない、という点です。いえ、ループが確認出来ないと言うべきですね」 どういうことだ? 古泉は言い直したが、その前後に何の違いが有るのか俺には正直よく分からない。 「僕も最初に長門さんに時間の断絶を言い渡された時に『あの』八月を思い出しました。タイムリミットが定まっているという共通項、そして幾重にも上書きされた記憶のインパクトがそこへと思考を自然に誘導したのでしょう」 「いや、俺はあの時と何が違うんだと聞いているんだ」 「言った通りです。ループが長門さんのお力をもってすら確認出来ていません」 つまり、どういうことだ? 今回は八月が一万五千回続いたあの時とは訳が違うのか? 勝利条件が明示されてるだけでも気の持ちようは大分違ってくるんだぜ。 「考え方としては二通りです。今、この時がループの一回目である可能性。これならば長門さんのお力でもループを確認出来ない説明が付きます。なにしろ前回が無いのですから。 もう一つは可能性は低いですが、長門さんにも確認出来ない高次の力を涼宮さんが発揮しているというもの。まあ、僕個人としてはこれは無いと思っています」 「その根拠は?」 「簡単な話です。長門さんは十二月二十五日がタイムリミットだと気付いていらっしゃる。そんな方がループの方には気付けないと思いますか? 気付かないのならば両方ともであるのが、この場合の筋です」 古泉は眼に見えて生き生きと話し出す。テーブルの上に身を乗り出して肘を突き、おい、顔近いぞ。離れろ。 「であるならば、これがループの一回目であると僕は考えますね。……さて、何か思い当たりませんか?」 古泉の言いたい事はここまでくれば俺にも理解出来るってなモンで。 「果たして本当に『ループ』なのか、だな?」 「ええ、その通りです」 おいおい、少しづつ話が厄介になってきたぞ。だっていうのに、そんなのにもどこか「いつも通り」だって感想を抱いちまう俺。 我ながらどうかしてるとしか思えないね。 ループでは無い。つまり「次」が無いってことだ。そうなっては緊急性は一気にグリーンからレッドに達する。悠長な事は言っていられないし、世界の終わりも割と現実味の有る話になってきた。 「以上より、ループではないという前提で僕らは行動するべきでしょうね。まあ、具体的に何をすれば良いのかは分かりかねますが。幸いにも時間は有ります。こちらでも地道に探りを入れてみますよ」 こちらでも。つまり俺の協力を当たり前だと思っている訳だ。一年半も付き合っていれば、それが自然になってくるか。でもって俺にだって断る理由は無い。別に世界の為になんて格好良い事を言う気は無いが。 そりゃまあ、えらく現実味の薄い話だがそれでも誰よりもこの俺が動かない訳にはいかんだろう。 「っつーかさ、古泉」 「はい?」 「なんでお前、そんな事知ってるんだ?」 あはは、と小さく笑っても俺は誤魔化されんから大人しく白状しろ。それとも俺には言い出し難い情報源なのか、超能力者? 「いえ、そんな事は。……そうですね、ちょっとした引っ掛かりです。最近の長門さんはどうにも素っ気無い気がしまして。心ここに在らずとでも言いましょうか」 ああ、猫の話か。バックグラウンドで走らせてる分身の術が相当メモリを食っているらしいからな。そりゃ古泉への応対もおざなりにならざるを得ないだろうよ。 どうやら猫と古泉との間における関心の不等号が長門の中で食い違っていないようで俺としちゃ一安心だ。 「それで少し探ってみたのです。いえ、問い詰めてみたと言いましょうか。ああ、勘違いなさらないで下さい。乱暴な事は決してしていません」 いや、そこは疑ってない。大体、古泉では長門によって返り討ちにされるに決まっている。アイツはSOS団最強だからな。地域限定超能力者ではどう足掻いても相手にはならん。 「で、長門がそう言ったのか? 未来が無い、って?」 「……ええ。但し、疑念が二つ。なぜ長門さんは僕らに言い出さなかったのか。そしてもう一つ」 十二月二十五日よりも先が無い。それに気付いた時点で真っ先にアラートを出さなきゃいけないお方が、眼を真っ赤に染めて泣きながら俺に抱き着いて来なければおかしいあの先輩が、しかし何のアクションも起こしていない。 「朝比奈さんの時空通信デバイスとも言うべきそれが、どうやら通信途絶を起こしていないようなのです」 「……は?」 なんだそれ? 未来が無くなっているんじゃなかったのか? 矛盾してるだろ。 「長門さんと朝比奈さんのどちらかが嘘を吐いているというのも考えました……が、そんな事をしてもあの二人に何のメリットも有りません。しかし、何かがおかしい。僕らの認識の何かが確定的に間違っている。そんな気がしませんか?」 古泉は笑顔を崩さない。どちらかと言えば推理を楽しんでいるような節さえ見受けられる。俺は紙コップの中の冷めたコーヒを一息に呷った。 「分からん」 推理小説で言うなら証拠が出揃ってない状態に感じる、あのモヤモヤ。多分、まだ全貌が見えてくるのは先なんだろう。長門が動いていないこと、朝比奈さんが泣き付いてこられないこと。それはつまり、時期尚早って意味なんだと思う。 「つまり、静観なさるおつもりで?」 俺は頭を掻いた。 「こっちもやる事が有るんでな。端的に言えば忙しいんだ。だから、そっちはお前に任せた。信じてるぜ、副団長」 「やる事、ですか?」 紙切れを一枚ポケットから取り出して古泉に見せる。言うまでもないだろうが件の進路調査票だ。実はこれについての相談をこの休み時間にしたかったのだが、まあ、こればっかりは仕方ない。 「この字、涼宮さんですか」 筆跡鑑定人か付き纏い(ストーカ)の二択しか出てこない観察眼を披露された。古泉は生き方をそろそろ見直す段階に来ているんじゃなかろうかと個人的には思う。 未来をよりによってのこの俺に危ぶまれるほど可哀想な超能力者は、真剣そのものの顔で暫しの間ハルヒの字を見つめていた。やがてもう五時限始めのチャイムが鳴ろうかという頃、古泉はようやく口を開いた。 「……ふふっ、なるほど」 だから、どうしてどいつもこいつも説明を省略しようとしたがるのか。推理モノの探偵だったら即クビだぞ、クビ。 「それほど悪いことは起こらないのではないかと。そう思いまして」 はあ? なんだそりゃ? 楽観論も度が過ぎると単なる怠惰になっちまうが、その理解でお前はいいのかい? 「根拠を問われると苦しいところですが。しかしながら状況証拠も量によっては証拠能力を有するものです」 状況証拠? それってのは長門や朝比奈さんがまるで危機感を抱いていない点か? いや、まあ確かに妙と言えばそうだが。 あの絶望と希望の入り混じった十二月を越えて以降、長門に対して俺は全幅の信頼を寄せてはいる。昔ならば何もかもを一人で背負い込んじまっていたあの宇宙人少女ではあるが、今はもう違う。 多少ではあっても頼りにして貰えているんじゃないか、などと――これは自惚れではないと思いたい。 だから何かが有れば俺にも荷物を山分けしてくれるはずなんだ。しかし、今回はそれがない。一人で苦も無く背負える量なのか、それとも最初からその背には荷物なんて載ってはいないのか。出来れば後者だと信じたい。 今度、長門とちゃんと話してみようか。 「ただ、この時期に何も無いとは俺には思えないんだよなあ……」 頭を掻きながら、そうボヤく。と、午後の授業開始五分前を告げる鐘が鳴り、古泉は立ち上がった。聞きたい事は山と有るが、どうやらこの場ではタイムアップらしい。 「そう構えなくとも大丈夫ですよ、きっと」 「無責任な言い方だな。お前らしくも無いぞ、古泉。ついに職務放棄(ストライキ)でも決行する気になったか?」 「ふふっ、まさか」 古泉は顎をしゃくって俺に起立を促す。膝に手を付いて立ち上がる時に「しょっ」と掛け声が出た事はどうかそっとしておいて頂けたら幸いだ。 「僕は信じているんですよ」 「信じる」ねえ。そりゃ良い言葉だ。信じるものは救われるとも言うしな。だが、その対象が俺としちゃどうにも気になる。放棄した責任は一体どこの誰の肩に乗っけたんだよ? あまり長門ばかりに頼るのもどうかと思うぜ、俺は。 「いえ、長門さんでは……と、急ぎましょうか。授業が始まります」 「だな」 未来に本気になると言っておいて、授業に遅刻してちゃ論外だ。次の授業は化学だったか。センター試験で取らない俺にはどうでもいい授業。 いつもならば教科書を目隠しに机に突っ伏す時間でも、今日からは違う。内職に、と佐々木から受け取ったプリントをこなさねばならない。 「涼宮さんが待っていますよ」 別れ際に優男が瞬き一つして(止めろ、気色悪い)言い放った一言は俺の胃の中に何かモヤモヤしたものを植え付けるのに十分なものだった。 咄嗟に反論が口から出て来なかった事が悔やまれる。ぐるぐるした腹ん中は一体どこに吐き出せば……って、あ。 「あーあ……昼飯食うの忘れた」 なるほど、そりゃ腹も落ち着かないってもんだ。 佐々木から貰ったプリント三枚をどうにかこうにか終わらせた所で授業終了まで十分余った。もう一枚やろうかとも考えたが、いや待て。一枚終わらすのに大体十五分弱掛かってるんだから、今からやっても中途半端になるか。 ならばと思考を転換。俺はポケットから折り畳んだ紙片を取り出して睨み付けた。朝から俺を悩ませ続ける紙切れを、俺は勉強をする事で思考から無理矢理に追い出してきた訳だが。 短期目標、中期目標、長期目標……か。よくよく考えれば俺が目を背けているのは自分自身の未来で、つまり自分そのものである。 そんなもんも直視出来ないとはなんともまあ情けないもとうとう極まってきた感が有る。これがまあ、他人が進路に悩んでいるってんなら思わず応援したくなる話にもなってくるんだろう。だが残念、こればっかりは客観的にとはいかないのが現実だ。 流され体質を自認するも吝かではない俺であるが――っつーか、これはSOS団に在籍している時点で否定のしようが無い――流石に自分の未来まで他人に決めて貰うのは違う気がする。いや、「気がする」じゃない。絶対的に間違ってんだ。 そこまで決定力の無い人間は、乱暴な話だがそれはもう人間なんて呼んじゃいけない気すらすんだよな、個人的に。考えなければナイル河に生える水草と大差無いとパスカル先生も言っていらっしゃる。含蓄の有るお言葉だ。 さて、前置きはここまで。なら本腰を入れて考えよう。見つめてみよう、今の自分ってヤツを。 特技は無し。成績も下から数えた方が大分早い。夢なんてご大層な代物は当然と持っておらず、まあ、持っていればもう少し授業や日々の生活にも身が入っていたと思うが。こればっかりは仕方が無いか。無い袖は振れん。 気が滅入るばかりであるが自己分析はまだ続く。家は普通のサラリーマンだから家業を継ぐという裏技は最初から無く、趣味にしたって漫画やゲームといった男子高校生のテンプレート。見事なものだと自分でも思うくらい、多数派から逸脱した記憶がない。 これが俺の現在地、スタートラインである。 やりたい事を探しもせず、自己の根源欲求と向き合いもせず、ただ漫然と生きてきたそのツケは「何者でも無い自分」という至極当たり前に落ち着く。 ――ハルヒの言う通りだった。 俺は適当に適当な大学へと進学し、これまた適当に適当な会社に就職しようと考えている、ザ・適当だ。 いや――ザ・適当「だった」。過去形にするにはいささか以上に気は早いし、そもそも千里の道における一歩を踏み出したくらいで何を大袈裟な、とは自分でも思う。 しかしだ。しかし、それに気付けた今はチャンスなんだ。千載一遇ってのを今使わないでいつ使うってくらいの。 変わろうとするのは、決して悪いことじゃないと思うから。思いたいから。 あと一ヶ月で自分はどうなっていれば良いのか。この学校を卒業する時に俺はどうなっていたいのか。どんな自分でありたいのか。 自分に問い掛ける。決まっている。恥ずかしくない自分でいたい。 それは誰に対して? 親? 妹? そりゃ勿論だろう。家族が自慢できるような「お兄ちゃん」に、なれるんなら俺だってなりたい。顔を合わせては溜息を吐かれるのにだってもう飽き飽きだ。でも、それはそこまで強い欲求じゃない。 そうじゃなくって。 家族じゃなくって。 今……この今を並んで立っている友人と、未来も卑屈になる事無く付き合っていけたらと俺は願うんだよ。変かも知れない。人によってはそんなものは夢でもなんでもないと言うだろう。俺もしょうもないとそう思う。けど、仕方ないじゃないか。 ああ、つまり。 俺の望みってのは。 SOS団と、そしてこの一年半に集約されていたんだな。 7,クリスマス戦線異常アリ 「起立、礼――」 日直が号令を掛けて、本日の授業も終わる。日が暮れるのも早くなって、後一時間足らずで夕暮れが始まるだろう。時間は巻き戻らないなんて常識を俺が儚んでアンニュイになっていると後ろからハルヒに首根っこ掴まれた。 「ぐえっ」 「ちょっと用意が有るから、アンタは少し時間潰してから部室に来なさい。十分くらいでいいわ」 耳元に掛かる少女の吐息は艶かしい。座椅子の後ろ足だけという不安定がもたらす吊り橋効果は鼻で笑い飛ばすとしても。顔のすぐそばにハルヒの顔が有る、その事実。さらさらとした髪が頬に当たる、そんな僅かな感覚が俺に教えること。 涼宮ハルヒは異性である。それもトビッキリの。 それでもコイツは、なんて言葉では誤魔化せないのは距離のせいだろう、きっと。顔が近いのは超能力者の持ち芸じゃなかったのか。そんな抗議を俺がするよりも早くハルヒは離れた。 「そんじゃ、おーばー」 鞄とコートを両手に抱えて少女は教室を飛び出していく。その様に空母から離陸する戦闘機の勇姿を幻視せずにはいられない。きっと廊下はカタパルト加速。周りに衝撃を撒き散らすとこまでそっくりだぜ。 「なんだか、涼宮さん機嫌良さそうだね。良い事でも有ったのかな?」 俺へと近付いてそう言った国木田に向けて首を横に振る。いや、思い当たる節が無いのは本当だ。昨日の今日で機嫌を直しているのがそもそも俺にはクエスチョンなのだから、だったらアイツが上機嫌の理由なんて俺に思いつくものかよ。 「仏頂面がデフォルトの彼女が――廊下を走ってく時の顔見たかい、キョン? すっごい満面の笑みなんだよ。楽しいこと見つけた、って顔中に書いてあった。だから、僕はてっきり君が関わっているとばかり思っていたのだけど」 「お前、俺をアイツの付属機器かパワーアップキットだと思ってんだろ」 「どうかな? その辺りは自分の胸にでも聞いてみたほうが良いんじゃない?」 まるで取り調べでも受けている気分だった。まったく、ドイツもコイツも俺とハルヒの間柄を誤解するのに余念が無いらしい。そんな下らない事に心血を注ぐよりももっと優先するべき事項が有るだろうに。具体的には自分自身の恋愛とか。 「玩具扱いの域をいまだもって出れちゃいないと俺は思っているが」 「いや、遊び友達でしょ」 一体、その前後で何が違うのか。なぜだかオランウータンと人間の遺伝子の差異が一パーセント程しか無いって話を思い出した。だからどうしたってんでもないけどな。論ずるまでもなく猿と人の間には深い溝が有る訳で。 「遊び友達は選べるけど、遊び相手は選べないんだよ。言ってる意味、分かる?」 国木田が言っているのは俺なりに要約するとつまり扱いの差であろう。オブジェクトとして見られているか、ヒトとして見られているか。まったく、何を物騒な事を言っていやがるのか、この友人は。ああ、しかしそうは言っても玩具と友達の違いを説明するにはコイツの発言内容は確かにしっくりとくる。 そうだな。俺もからかわれる側にはなりたくはない。 「ま、ハルヒが俺をどう思っているのかなんざ分からんよ。興味も無い」 「割に良好な関係を築けていると思うけどね。少なくとも傍から見るとさ」 ああ、国木田。そりゃあアレだ。 「ハルヒと他のクラスメイトとの距離が余りに絶望的だから、相対的に俺との関係がマシに見えるだけだろ」 言っても入学し立ての頃とは違いハルヒも結構丸くはなってきている。クラスの女子とも普通に話すようになっているし、俺を通してハルヒに伝言をするなんてのも最近はとんとご無沙汰だ。 友達と呼べそうな関係にはまだ誰も至っていないが、それにしたって時間の問題だろうと俺は勝手に見ている。特に阪中。彼女はどうやらハルヒの事が気になっているらしく何かとよく話しかけていた。ハルヒもそう邪険にしておらず、このままならそう遠くない未来、二人は打ち解けることが出来るだろう。 晴れてハルヒにも普通の友人が出来る訳だ。そうなれば必然、俺の負担も軽減される事だろう。喜ばしい話だ。赤飯の準備をしなければならないくらいにな。 「そうかなあ……ううん、キョンの言う通りかもね」 「ああ、そうだ。なんせ人間ってのは本質的に相対評価しか出来ない悲しーい生き物だからな。落差が大きければマシに見えても無理からぬ話だろ。クラスも部活も同じだから周りがそれを勘違いしたくなる気持ちはまあ、百歩譲って俺にも分からなくはない」 しかもその部活ってのが得体の知れない少人数のクラブだった日には尚更懐疑も深くなろうというものだ。 「だが、それだけだ。誰かが俺とハルヒがデートしてる場面でも目撃したか? 決定的瞬間でもフライデーされたか? いやいや、そんなもん有る筈が無い。以上、証拠不十分で不起訴なんだよ、この案件は」 否定材料は揃っている。人気の無い場所でキスしたとかは……まあ、悪夢って事でアレはノーカウント。誰にだって気の迷いは有るものだからな。 SOS団についてよく知らない人から見れば、そりゃまあデートに見えなくも無いような事も度々している訳だが、しっかし不思議探索のどこに桃色幻想が幅を利かせる余地が有ったと言うのか。 何も無い。そりゃもう呆れ返るほどにな。 「ねえ、キョン。さっきから気になっていたんだけどさ」 国木田が口を開く。ほほう、まだこの俺に恋愛模様を期待するか。無駄だから止めとけと、ああ、一年の頃から何回言っても聞かない奴だ。アサガオの鉢植えを眺めて観察日記に毎度毎度「変化なし」と書き込む時のあの味気無さと良く似たものがこうなると俺の胸に去来する訳で。 「なんでそんなに向きになって否定するのかな?」 「あ?」 向きになってなんていない。そう言おうとしたのだが、口から出てきたのはスモールエーとスモールイーが背中合わせに寄りかかった発音記号でしかなかった。否定の言葉が喉元から先へ出て行かない。それくらいに俺は動転してしまっていたらしい。 「キョン、一つ良い事を教えてあげるよ」 中学から続く友人はお前のことはお見通しだと言わんがばかりにくすりと笑って。 「二重否定は肯定なんだ」 なんて言われてしまった日には俺としちゃ押し黙る他にもう打つ手は残されていなかった。まったく、腹立たしい。 「まあ、全部そうだったら面白いなあっていう僕個人の希望なんだけどね。でも実際キョンだって涼宮さんのことは嫌っていたりしないんだろう? っていうか、多少好意的に見てるよね」 ……ノーコメントだ。どうしても知りたけりゃ司法解剖して心臓を取り出し、矯めつ眇めつしてみてくれ。谷口の顔みたいに油性マーカで落書きしてあるかもしれんぞ。 国木田の追及はそこで終わり、俺はこれ以上傷口を広げてなるものかと教室から退散した。夕暮れにはまだ早い廊下は冬のこの時期であれば壁に凭れ掛かって談笑するような生徒の数も少ない。当たり前だな。誰だって寒いのはゴメンだ。 教室の有るだけマシってなストーブ周辺は人気スポット過ぎて場所取りに苦労するし、部活動をやっている奴なら部室に秘密裏に持ち込んだ暖房器具を利用する。そして俺はもっぱら後者だった。とは言え部室には遅れて来いと言われているんで、どっかに良い時間潰しは無いかと思っていたところ偶然に長門が通り掛かった。 「よう、長門。今帰りか?」 「……そう」 立ち止まり、無表情に俺を見上げる少女。いつもと変わらぬ三点リーダはなんとなく俺を安心させてくれる――って、いやいや。何をころっと忘れているんだ。和んでるんだ。 世界の危機。未来の途絶。ワールドエンド・クリスマス。 長門に聞きたい事は山のように有るじゃないか。ここで会ったがなんとやら。幸いにも人通りは他に無しとなれば、後は寒さに耐えるだけだ。 「あーっと、その聞きたい事が有るんだが」 さて、どう話し始めたものか。いつもならば聞いてもいないのにスラスラと日本語ギリギリのスペース・ミステリを披露するってのが多かっただけに、もしくは解説役の超能力者が同行していた為に、こういうのに悩むってのは珍しい体験だった。 「……何?」 クリスマスに世界が終わるって聞いたんだが、なんてストレートな切り出しでいいのだろうか。それとも「最近どうだ」みたいな外堀から埋めていく感じにするべきか。誰に聞かれているかも分からない場所柄を考えると後者だな。 いや、流石に聞き耳防止策くらいは長門の事だから講じてくれているだろうが。 「最近、どうだ? 何か変わった事はないか?」 時節柄だろう。なんとなく長門に引け目と言うか負い目と言うか、注意して見ててやらないとな、って思いが無かったとは言わない。コイツは人知れず悩むのが常な上に、表情を隠すのが古泉並に得意だ。 去年はSOSを見逃した。だから今年こそは二の轍は踏むまいと決めている。 「貴方は古泉一樹から現状を聞いたはず。それが今の私に教えることの出来る全て」 宇宙人少女は抑揚無く言った。それは確かにいつも通りではあったかも知れない。でも、引っ掛かった。 今の私に教えることの出来る全て――ってのはつまり教えられないことが有るという意味じゃないのか。それに隠し事を教えたくないのならば「貴方は古泉一樹から現状を聞いたはず。それが全て」で済んだだろう。ならばなぜわざわざ長門は言葉を足した? それは「私は隠し事をしていますよ」とそれとなく俺に伝えるためだ。するとまた別の疑問が浮かぶ。なぜこんな回りくどい真似をするのか、って点だ。 長門に制限を掛けられる相手ってのはそう多くない。というか俺は一人しか知らない(果たしてそれを一人とカウントしていいのか分からないが)。 情報統合思念体――長門の親玉だ。 なるほど、つまりこの件には宇宙人の思惑も関わっているとそういう事か。はあ……どうやら古泉のヤツもここ最近めっきり平和ボケしてきたらしい。ったく、なーにが「それほど悪いことは起こらないのではないか」だ。しっかり長門に緘口令敷かれてるっつーの。 「俺に話せない事が有る、って感じか?」 長門は何も喋らなかった。どうやらこれ以上のヒントはコイツの口からは出せないらしい。そんな風に思ってソイツの顔をよくよく見てみれば、いつもと変わらぬ無表情の中にも歯痒さがどことなく混じっている気がする。もしくは焦り。 勿論、こんなのは俺の気のせいかも知れない。人は見たいように見るらしいからな。宇宙人少女の表情学における第一人者を自称するもやぶさかではない俺では有るが、さりとてそれが長門の顔を見て十を知ることが出来るかと言えば、当たり前だが無理な話だ。 谷口みたいに顔に油性マーカで落書きしてあるのとは訳が違うのだ。繊細さもな。 「そっか、分かった」 さてさて、返答も応答も無いせいで、少女の前で独り言をぶつぶつ呟いている怪しい人みたいに俺はなってしまっている――客観的に見れば。 会話とはキャッチボールで成り立つものなのだとしみじみ思う。剛速球でもいい、逆に飛距離が足らなくったっていいから拾ったボールを逐一俺に向けて投げ返してはくれないものかね、コイツも。正直言って間が持たん。 捕り易く、また投げ返し易い球を投げるべきか。 「それじゃ切り口を変える。長門、俺は何をしたらいい? 何をするべきなんだ、教えてくれ」 目的語はあえて省いた。それは言わなくても分かるはずだし、また間違えようもないからだ。 SOS団の今後の為に。それとも俺自信の未来の為に。もしくはクリスマスの破滅を回避する為に。 ほらな、穴埋め候補のどれを目的語に持ってこようと結局、俺が聞きたい肝心要は一緒だろ。でもって、もし目的語を省かなかった場合――長門の口から出る回答には情報規制がかかってしまう可能性が生まれる。網の目をすり抜ける言葉をもって、危機回避の手段をご教授願おうって腹だ。 平たく言や、婉曲表現で回りくどく、核心には触れないように攻めていくしか手は無いってこったな。……今なら爆弾処理班の気持ちの数分の一くらいは分かりそうだ。果たして長門は俺の期待通りにその小さな口を開いた。 「貴方にして貰いたいことが一つ有る」 赤のコードと青のコード、どっちを切るか選んでくれとかそういった内容でないといいのだが。ああ、そんなのは去年の十二月でお腹いっぱいだから、今年は謹んで辞退させて頂きたいモンだ。 「十二月二十四日の午後六時に会って欲しい」 それはもしかしてデートのお誘いかなどと考える間も、赤面する暇も俺には与えられず長門は二の句を次いだ。 「貴方と接触させたい人物が居る」 「接触させたい人物? お前じゃなくてか?」 長門はほんの少しだけ頷いた。ああ、そりゃもうほんの少し。極めて僅か。ここに居るのが俺じゃなければ見逃していたに三千点。 「……そう」 「誰だ?」 「……言えない」 それも口止めされているのかと聞きたかったが、恐らく口止めの事実から口止めされているであろう長門に聞いたところであの気まずい沈黙が廊下を更に寒々しくするだけかと考え至って止めた。これ以上気温が下がったらいつぞやのハルヒを笑えない事態に陥りかねないしな。 しかし、そうは言っても俺だって健康的な高校生男子の類に漏れないのであるからしてこれは大いに気になる。日時の指定がクリスマスイブの午後六時ってのも俺の好奇心に拍車を掛けた。 「えーっと、それは……それってのは」 と、ちょっと待て。これは果たして口に出していいものなのだろうか? 誰かからのデートの申し込みなのか、なんて。気にはなる。気にはなるがしかし、これで長門から「……デートって、何?」とか聞かれたら俺は窓ガラスに全力体当たりして中庭に飛び降りるだろう。 多分、頭から。意識の混濁は願ったり叶ったり。 果たしてそんな危険を侵してまで俺は長門に聞くべきか。いや、普通に考えたら聞いておくべきなんだ、それは。だって、クリスマスだ。しかも本番の、中でも一番「いい」時間帯だ。テレビで言えばゴールデンタイム、日本史で言えば関が原。極々極々個人的な天下分け目で誠に恐縮ではあるが。 「……何?」 少女の瞳は真っ直ぐに俺を見つめてくる。何の躊躇いもなく。昔ながらの奥ゆかしい日本人にはちょっと出来ないその無遠慮な――素っ直な眼差し。 「あー、その……」 当然だが先に眼を逸らしたのも、 「……すまん、なんでもない。男か女かだけ気になってな。その、俺が会った方がいいって人がさ」 ついでに話を逸らしたのも俺だ。だが、大筋は逸らしてないから安心して欲しい。それにここで男だって言われればまあ、十中八九古泉で間違いないだろう。 本音を言えば折角のクリスマスイブにまであのニヤケ面に会いたくはないのだが。 だが、そんな俺の不安と、やっぱりそんなオチだよなって具合の意味不明な安心をもたらすであろう言葉は長門の口からは出て来なかった。 「性別は女性」 顔色一つ変えず言う長門とは対照的に俺は全身にカーっと血が回っていくのを感じていた。いや、仕方ないだろ。クリスマスイブで午後六時に異性と出会えって言われて、これに恋愛的ななにがしかを期待せずにいられるようならソイツはきっと頭がオカしいから病院に早急に行くべきだ。 「お、女?」 「そう」 「ちなみに、そこには長門も一緒に居るんだよな?」 そうだ、二人きりなら何事かも妄想しようが、事これが三人になってしまえばなぜだかは知らんがそんな事は起こりえないのがこの世界のルールであり、不文律である。今だけはそこに感謝しよう。 「……なぜ?」 おや、情報の伝達に齟齬が発生しているぞ、長門。 「いや、だってお前が連れてくるんだろ、誰だか知らないけど、ソイツ。その、俺が会うべき人っての」 「違う」 「え? それはどういう」 「彼女と貴方が出会うその時間、私は別の事を行っている。言い換えるならば――忙しい」 って事は何か? 待ち合わせでもしなきゃならんのか、俺は。誰かも分からん相手と? 俺の認識ではそこに「デート」の三文字がどうしてもピタリと嵌まり込んでしまう。せめて事前に相手くらいは知っておきたいんだが。 情報統合思念体とやらは本当にロクな事をしやがらないな。 「なあ、『それ』って本当に必要なのか?」 「必要」 こう言い切られちまっては、SOS団一の事情通を信じない訳にはいかない俺としては、ああ、初クリスマスデートの相手くらいは自分で選びたかった。それとも選ぶ権利が有るとでも思ってんのか、って皮肉屋の運命の仕業だろうか。 それだけはないと信じたい。