約 1,778 件
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/43810.html
登録日:2020/01/24 (金) 23 55 00 更新日:2024/04/21 Sun 15 19 38NEW! 所要時間:約 11 分で読めます ▽タグ一覧 SAN値チェック しのちゃん ひまわり銀河 クトゥルフ神話 コズミックホラー ミイラ取りがミイラに ラスボス 不幸にも最悪の相性の敵と当たってしまった人 不死身 不運 全ての元凶 全体主義 双亡亭 双亡亭壊すべし 合理主義者 因果応報 地球外生命体 坂巻泥努 外道 奴隷 宇宙からの色 宇宙人 寄生虫 対話不可能 尊死 極悪非道 液体生物 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ 滅ぶべき存在 災厄 生き汚い 精神攻撃 絵の具 肉体侵略 自業自得 藤田和日郎 邪悪 邪悪ロリ 面従腹背 顔芸 寿永元年春、星ぞ降りにける。 東の空真紅に燃えぬ。 上下殊に驚き恐るる。甚だ不吉なりと。 降りにし沼こそ湧き返りにけれ─── 藤原貞宗『星月記』 おまえの カラダをよこせ。 〈侵略者〉とは『双亡亭壊すべし』に登場するキャラクターである。 【概要】 坂巻泥努が建造した本作の舞台「双亡亭」に巣食う存在であり本作最大の敵。 その正体は黒い液体の体を持つ地球外生命体。 劇中の双亡亭で出てくる〈侵略者〉はごく一部に過ぎず、本体は遠い銀河の先にある巨大な惑星1つを丸ごと覆い尽くすほどに膨大な黒い海そのもの。 性根の悪辣さ及び存在のスケール共に藤田作品の敵の中でもトップクラスのスケールと危険度を誇る化け物なのだが、泥努からの扱いは便利な絵の具以外の何物でもなく、扱いは奴隷も同然。 ミイラ取りがミイラになってしまった彼らだが、それでも尚反骨心自体は失われておらず、泥努にこき使われながらも泥努の支配から逃れるための方法を模索している。 劇中、しのは泥努のことを「一千兆分の一の確率で存在するあの男」と評していたが、逆を言えば〈侵略者〉は一千兆分の一の確率でしか存在しない最悪のババをピンポイントで見事に引いてしまったことになる。 ちなみに故郷の星は地球のある太陽系を含めた天之川銀河から2000万光年先にある銀河群の中の1つ「ひまわり銀河」の中のとある星。 風速300キロ以上の暴風が吹き荒れる過酷を極めた自然環境であり、地球人類が生存することは不可能。 【性格】 人間と同等の高度な知性を持ち意思疎通も可能だが性格は高慢で悪辣極まりないド外道。 合理的な勝利の為なら人のトラウマを抉って心を踏み躙る卑劣な手段を嬉々として実行し、プライドの高さから自分達を「最も優れた存在」と考えて、他の生命体を露骨に見下して餌や道具程度にしか考えていないため、対話の余地は皆無。 何事においても合理を優先する傾向にあり、「感情」を廃した徹底的な効率化と合理性の追求によって20億年もの年月を掛け現在までの進化を果たした。 だが、合理とは程遠い人間の意志の力を甘く見積もりかちな価値観や、機械的なその在り方を坂巻泥努に酷評された挙句隷属させられる羽目になった。 劇中でも感情という概念を理解できない事や人間を見下す傲慢な思考回路によって度々形勢逆転を許す詰めの甘さが最大の欠点と言える。 その行動原理の根底にあるのは「生きたい」「死にたくない」という純粋な生存欲求。 合理主義を突き詰めた結果辿り着いたのは生物らしい生存本能の一念であった。 【生態】 巨大な液体状の身体を種族全員の統一された意志で共有・支配する「全体で一つ」という在り方で活動する。 地球上では黒っぽい水や鏃に似たヒルのような姿となって活動。人間の精神を攻撃する際もヒルのような姿を取る。 種族特性として窒素に致命的に弱く、多量の窒素を含む地球の大気に触れると肉体が瞬く間に溶解・蒸発してそのまま死滅するため、基本的に双亡亭の絵の中以外の地球環境下で活動することは原則不可能とかなり不利。 だが一方で水中などの窒素の非常に少ない環境下ではまさに独壇場。 例え小さな破片であろうと水に触れると小さなヒルのような姿から急速に肉体が変異し何十倍にも膨張。深海魚を掛け合わせて更に醜悪にしたかのような不気味な異形の巨大な怪物に姿に変貌する。 仮に彼らが地球の河川を通り一滴でも海に侵入した場合、大繁殖した末に人類滅亡が確定する。 その他液体の身体を平面の物質に均等に覆う事で、その物質を「門」と呼ぶ本体の居る母星と繋がるワープゲートとして扱う事が可能。 おまけに双亡亭を爆撃した場合、爆炎の煙をゲートにして襲来できてしまう。 また終盤では体を固めて硬質化させることで高硬度の皮膜短を形成。皮膜を殻のようにして短時間ながら地球の外気に耐える手段を会得している。(*1) 窒素以外の弱点と言えるのは超高温の炎や電撃による熱量攻撃。 液体生物という性質上流石に物理的に無理矢理蒸発させられるような攻撃には弱いようで、最終盤で あの人 のバックアップを受け大幅に強化されたジョセフィーンが繰り出す超火力の超巨大火球を受けた際は、あわや消滅寸前にまで追い込まれていた。 精神侵略 窒素に満ちた地球上の大気内で活動するための手段であり能力。 坂巻泥努が描いた「自画像」の中に標的を引きずり込むと、標的の脳内記憶にある「最大の苦痛」である過去のトラウマを再現。 標的に再現した記憶を追体験させて、標的の精神を破壊してから体に寄生して乗っ取り、肉体を支配するというもの。 おまけにただ再現するだけでなく、その記憶を悪意満載に誇張或いは歪曲させて、より記憶の醜悪さと恐怖を増幅させることで効果を高めている。 これによって精神が破壊された人間の肉体を乗っ取り自分達の「仮初の器」として運用。双亡亭の敷地内限定だが自由に活動することができる。 この手法で何十年と犠牲者と器を増やしてきた関係から人間の精神構造を熟知しており、天敵にして支配者である泥努からの直接干渉を除けば、外部からの精神攻撃耐性には無敵と言わんばかりに滅法強い。 ただし肉体を掌握するのではなく掌サイズの欠片程度の大きさとなって脳内に巣食う場合は亭内でなくとも活動可能。 この場合は通常のように精神を破壊し肉体を乗っ取るまではできず、思考を捻じ曲げたり一時的な洗脳状態にする程度に力が弱まる。 この攻略手段は再現されたトラウマから逃げず、受け入れて立ち向かうこと。或いは強烈すぎる意志力で再現されたトラウマを捩じ伏せる他ない。 他作品で例えると影との対峙に近い攻略法なので、戦闘力での戦いではなく純粋な精神力の戦いになる。 仮に条件を満たせるのであれば何の能力も鍛錬も受けていない一般人であっても突破して寄生を防ぐ事が可能。 【個体一覧】 しの 天神サァマの境内よォりも ひぃろぃお屋敷見ぃつけた 沼半井の大旦那 道楽者のぱあぷう絵描き ねじれ くびれた<双亡亭>で じぶんもぺらぺら いとまごい… 泥怒に支配された〈侵略者〉の意思を代行する存在として、泥怒がイメージを固定させた〈侵略者〉の一部。 例えるなら人為的に生み出されたこの人。 見た目は着物を着て鞠を付くおかっぱの童女で、感情の無い冷徹な目つきが特徴。 外見のモデルは泥努の姉しのぶの幼き頃の姿だが実態は〈侵略者〉と同じ液体生物であり、あくまで意思疎通のため人の形を模しているだけに過ぎない。 その為滅ぼしても自身を描いた絵を介して復活する。双亡亭と一体化した同族を利用し、双亡亭内の様子を全て知覚することが可能。 第1話のナレーションで遊んでいた少女の正体であり、地球に飛来した〈侵略者〉の指揮官に相当するポジション。 支配者でありながら一切の指揮を執らない泥努に代わり双亡亭で〈侵略者〉達の陣頭指揮を執る地球上における代表者も務める。 一見無感情なクール系ロリと思いきや、こっちも泥努に負けず劣らずの豊富な顔芸を披露する激情家。 性格は〈侵略者〉らしく合理性を尊び、非合理な行動や思想を忌み嫌って他者を騙し陥れることに微塵の躊躇いもない、冷酷で傲慢な外道にして下衆。 …なのだが自分達の支配者である泥努に対しては、「理解が一切できない」「コイツ人間じゃねぇ!(意訳)」と称してファーストコンタクトの段階で心が完全に折れて怯えてしまい、泥努が与える「恐怖」に怯えながら服従させられる屈辱の日々を送っている。 おまけに母星の本体は刻一刻と種族滅亡の危機に瀕している為、何だかんだで余裕も持ち合わせていない。 …とはいえ〈侵略者〉側にとっては泥努との唯一の交渉窓口を担っている為、絵を描く事以外に興味関心のない泥努の機嫌や反応をうかがい、度々「双亡亭からの自分達の解放」を懇願しては泥努に懇願を無視され、合理性とはかけ離れた泥努の奇行に頭を悩ませつつ、地道に交渉しながら目的のため日々策を練る(自業自得とはいえ)悲しい中間管理職となってしまった。 だが実際の所感情という概念がない彼らに喜怒哀楽は愚か恐怖の概念もないため、これまでの感情表現豊かな表情は「擬似個性」と呼ばれる手段で表面的に人間らしい感情を模倣したことによる演技。 内心は「下等生物にプライドを傷つけられた挙句奴隷のように扱われる屈辱」が思考の大部分を占めていた様子。 そして裏では密かに五頭応尽と内通しており、泥努抹殺のために様々な策謀を張り巡らせ叛逆の時を虎視眈々と狙い続けていた。 読者や協力者である五頭応尽からのあだ名は「しのちゃん」。 イチバン お前を倒すために最適な形態は人間と同じ姿で、人間の殺人技術を持つ個体。 「ヨンバン」「サンバン」「ニバン」 どれも足りぬ…そうだ、青一… 私が 双亡亭 の中で最強の、「イチバン」だ。 前線に一切出なかったこともありか弱い童女を思わせていたが、実態は 侵略者 最強の強化個体「イチバン」。 外見は首から下を泥努のような黒いタイツで覆い、四肢を硬化した 侵略者 の鎧で覆った派手さのないシンプルなもの。 両手首足首には鋭利な短い刃がそれぞれ生えている。 戦闘スタイルは近接格闘戦特化。 小柄ながら大型兵器すら素手で破壊し敵を正面から殴り飛ばす体術と身体能力 侵略者 本星とリンクすることで本体の膨大な知性を利用することで戦う相手の行動パターンをシミュレートし、攻撃を先読みする計算能力 を駆使して理詰めで敵を排除していく。 だが真の恐ろしさはあくまでしのは地球で行動するためのアバターでしかなく、たとえ肉体を破壊されても双亡亭と 侵略者 本星がリンクしている限り際限なく復活し、なおかつ同スペックの「しの」の量産すら可能であることにある。 ただし完璧ではなく、戦術の要のシミュレーションもあくまで自分達の想定・把握する情報の上で成り立つもの。 そのため自分達の想定外の要素が存在すると、僅かに行動が読み切れない。 人ならざる者達 泥努の肖像画に取り込まれ、〈侵略者〉に精神を破壊され肉体を奪われた犠牲者達。 地球における〈侵略者〉達の器も兼ねている。 基本的に支配された者達は自我を失い〈侵略者〉に肉体を操られる理性のない亡者のような状態になるが、肉体限界を無視して動くため相対的に身体能力が増大。 生前何らかの霊能力や超能力を備えていた場合能力を生前と同じように行使が可能。 生者でなければ寄生できないというわけでもなく、やろうと思えば死体に寄生して操ることもできる。 なお理性のない亡者になる事なく、過去の詳細な記憶を保ったまま変異した者もおり、その場合は寄生される前と変わらない言動を取る。 ただしこれは寄生した〈侵略者〉が脳内の記憶を元に再現・模倣しただけに過ぎず、厳密には死体同然。おまけに〈侵略者〉の悪意を反映して全員性格が凶暴化した上に悪意に満ちた歪んだものに成り果てている。 このタイプは肉体構造すらも大幅に変質しており、身体の部位が伸縮・変形するだけでなく物理攻撃に対しても高い耐性を獲得。体内の水が滅びない限り死なない不死身となっている。 基本は理性のない犠牲者を指揮する指揮官役を担う事が多い。 人ならざる者には絵の外部及び双亡亭の屋敷の外で長時間に渡り活動できる力はなく、やがて肉体は爆ぜたり溶け出すが、外部での行動可能範囲は徐々に広がりつつある。 後に泥努の「一筆」を受けたことで能力が強化。双亡亭の建物の屋外にでても身体が溶けることなく活動可能となり、戦闘力も増した。 朽目(くちめ) 洋二(ようじ) 人ならざる者達の中では最初のネームドキャラ、 修験者だが、肩には薔薇のタトゥーを刻み腰には現代風のアクセサリーを身に着けたパンクな出で立ちの青年。 自らの強さに鼻を掛けた傲慢な性格で、欲に塗れた言動とチンピラのような態度を取るかなりの女好き。 修行で鍛えた霊力で金儲けなどの私利私欲に用いていたせいか、紅からは「外道」と呼ばれ唾棄されていた。 とはいえ傲慢な態度を取るだけあって実力は確か。 「験力(げんりき)」により強烈な衝撃波を発生させ敵を吹き飛ばす豪快ながらも乱暴な戦い方を取る。 双亡亭破壊作戦に関わるが、屋敷内に飾られた肖像画に取り込まれて人ならざる者と化す。 その後は完全に〈侵略者〉に掌握されるとマーグ夫妻と交戦し瀬戸際まで追いつめるも、紅とアウグスト博士の支援を受けたジョセフィーンの火炎によって燃え尽きて敗北する。 鬼離田(きりた)菊世(きくよ) 人ならざる者達の中の準レギュラーその1。 現代最高の感知能力を持つと言われる占い師の三姉妹の長女。 三姉妹の眼を一人に集中させることで千里眼とし、感知能力を引き上げる「宿眸(すくぼう)の法(ほう)」を発動したまま取り憑かれたため、侵略者に優れた感知能力を与えてしまった。 鬼神を招請・使役する道術もそのままであり、人ならざる者達の指揮官のようにふるまい破壊者、そして妹である雪代と琴代と死闘を繰り広げた。 だが立案した作戦が悉く失敗に終わり、最後は雪代と琴代との鬼神対決の末に凧葉のイラストを依り代とした荒鬼神の前に敗北。 死の間際琴世本来の人格を取り戻したかのような表情を浮かべ、宿眸の法を解除するだけでなく自らの目を妹達に渡した瞬間溶けて消滅した。 残花班(ざんかはん) 人ならざる者達の中の準レギュラーその2。 正式名称「帝国陸軍東京憲兵隊沼半井小隊所属第四分隊」。 双亡亭に入った際肉体を乗っ取られてしまった黄ノ下残花の部下達。 憲兵服に外気対策のガスマスクを身に付け、罅割れた眼球を有する異様な集団。 双亡亭の警護と侵入者の抹殺が主任務で、泥努を「司令官」と呼ぶ。 残花には一応上司であるかのように振る舞うが言動は露骨に見下しており、性格も皆犠牲者の例に漏れず残虐非道。 全員が日本刀で武装しており、強化された身体能力と軍人として鍛えられた剣術、集団戦法で敵を追い詰める。 現在の構成員は10名。部隊長代行は班付憲兵准尉「井郷(いごう) 照清(てるきよ)」。 子供達 〈侵略者〉にとっての天敵になりうる青一や緑郎への対抗策として動員された人ならざる者。 かつて青一と共に異星で〈侵略者〉と戦った青一の友達の死体を乗っ取り「器」としている。 生前の記憶・能力も得ているため、それらは自由に利用可能。戦闘では強化された身体能力と、青一のドリルと同じ「手足の武器化」を用いて戦う。 だが性格は〈侵略者〉の思想を反映した結果、生前とは似ても似つかない極めて傲慢かつ残忍なもの。 結果人類を見下し、人を傷付け甚振ることを娯楽として考え、嬉々として殺しに来る極悪非道のクソガキ集団に成り果ててしまった。 劇中では一般人に擬態して油断を誘って騙し討ちを仕掛けたり、友達だった彼等の記憶と思い出がよみがえり攻撃できない青一を只管嘲笑いながら徹底的に痛めつけた。 その他個体 ウツボ 「あの人」と呼ばれる異星人の星を侵略していた際の戦闘形態。 ウツボという名前はあくまで地球人が付けた呼称なので正式名称は不明。 全長400mものサイズを誇る醜悪極まりない深海魚のキメラような外見で、生物でありながら宇宙空間でも活動が可能。 体内に共食いする小型の同胞を巣食わせてミサイル代わりに使用する。 有事にはこのサイズの怪物を無数に生み出して艦隊のように並べ、敵に攻撃を仕掛けていた。 魚(仮称) 「地球の水中環境下で合理的に生きる生物」として乗っ取った地球人の記憶を参考に変化した地球上での戦闘形態。 外見は極めて醜悪な魚型のモンスター。全長は約数mほど。 頑強な外殻で覆われた肉体と鋭利な牙や棘を生かした噛み付きや体当たりを武器とするが絵の外では極短時間しか生きられない。 なお母星側には100mを超えるサイズの「魚」が平然と蠢いている。 ヨンバン 泥努の提言を受け、自分達に足りない「意力(*2)」を高めるべく、 侵略者 同士の殺し合いと共喰いの結果生き残った強化個体。 強化個体は総じて空中を自由に舞い、地球の大気に触れても自己崩壊を起こさない強靭な身体を持つ。 外見は蛇に似た長い身体と人間に似た形状の大きな口を持つ異形の魚類。 武器は強固な肉体を利用した体当たりと噛み付き。 サンバン 共喰いによって誕生した強化個体。 外見は触手が無数に生えた巨大な目玉の化け物。 武器は伸縮自在の触手と、隠し持つ巨大な口による強烈な吸い込みによる捕食。 ニバン 共喰いによって誕生した強化個体。 外見は鳥のような頭部を2つ持つ双頭の蛇。 2つの口から大気に触れても自己崩壊しない大量の小型の同族を放出し、ウツボが使った「ミサイル」のような攻撃ができる。 【略歴】 〈侵略者〉の星は核の対流が止まり、太陽の有害粒子を防げなくなった事で死にかけており、奴らも粒子に蝕まれ、種族滅亡の危機にあった。 その状況を打開するため、自分達と似たような体を持つ「あの人」を栄養として取り込み、自身を増やそうと目論んでいた。 当初は順調に進んでいたが「あの人」達と融合した青一達が反撃を開始した事で存続が危ぶまれるほどにその数を減らし、 侵略者 はいよいよ滅びに瀕していた。 そんな中、「予知」の力を持つ〈侵略者〉は双亡亭に大きな力が働き、門が開くことを感知。一斉に地球に向けて逃げ出しそのまま地球を第二の母星にせんと目論む。 しかし、「あの人」が全ての力を使って攻撃を仕掛けたことで奴らが大挙して地球に押し寄せる、という事態は何とか防がれた。 その頃、地震の新天地を探す名目で宇宙全土に散らばった 侵略者 の1体は長い長い宇宙の旅の果てに地球に漂着。 平安時代の日本、後の東京都豊島区沼半井町となる土地に墜落すると、墜落した先の沼地で休眠状態となり、約700年もの間眠りについた。 その間、侵略者が眠る土地は埋め立てられたが、人も動物、虫に至るまであらゆる生物が寄り付かない荒地のままだったという。 そして700年後の昭和4年に、偶然双亡亭の地下室の床から湧き出した 侵略者 を泥努が発見し、彼らの身体で絵を描いた結果「門」が完成。 新たな新天地となりうる星の生命を調べるため泥努を絵の中に引きずり込み、泥努を侵食し存在を乗っ取るため泥努との同化を実行する。 だが 侵略者 にとってそれこそが最大最悪の悪手だった。 泥努の精神力を完全に見誤っていた 侵略者 は泥努の狂気の精神力によって逆に自身が侵食され、肉体の主導権を奪われ始める。 おまけに合理性と効率性に特化しすぎた種族の繁栄方針を「何の面白味もない」と侮蔑され、あっけなく自分達の存在と精神構造を掌握されてしまう。 き、危険だ!我々が使っていなかった「直感」が叫んでいる!「逃げよ」!「逃げよ」! だからキサマらの体にはただ漠然と「色彩」どもがひしめいているだけなのだ! 私の、「絵の具」になるがいい。私がキサマらで「絵」を描いてやろう ふ…「合理的」か…20億年も生きてきて キサマらは本当に、 薄っぺらいヤツらだ。 あああ 我々の方が…「支配」されるなど… あああああ!! トドメとばかりに同化した際にうっかり恐怖の感情を学習してしまったせいで「恐怖」の感情に縛られてしまったのが決定打となり、 泥努に精神的に完全敗北を喫し 侵略者 は絶望に嘆きながら泥努に強制的に隷属させられた。 泥努の命令で「しの」というアバターを構築して以後は、泥努の絵の具兼奴隷の扱いを強いられる羽目になる。 この過程で、自分達が地球上で活動するための拠点を得る為双亡亭の母屋及び泥努が調達した建築資材と融合。 独自に双亡亭を増改築して「囲い」とし、双亡亭から窒素を排出する事で現在の異様な外観の双亡亭へと造り変えた。 だが未だ地球を我がものにすることは諦めておらず、泥努に怯えながらも面従腹背の姿勢を取り、海へと進出し繁殖して人類を食い尽くして地球を支配せんとする計略を企んでいる。 その過程で雇ったのが不老不死の呪禁師「五頭応尽」であり、双亡亭の塀の外で色々な雑務を与え活動させていた。 なお地球侵入時に海・河川・湖などに着陸していればその時点で勝利が確定していたし、休眠せずさっさと海を目指していたり、そもそも日本の関東地方なんかに墜落していなければやはり勝利が確定していたので、そういった意味でも神がかり的に運がなかった点は、〈侵略者〉を語る際読者からよくネタにされやすい。 現代 そして現代では「双亡亭から解放され、自分達の繁殖地となる河川や海に辿り着き移住する」という目的のために、 総理大臣が就任する度に「肖像画」を送り付けて総理大臣を支配下に置き、双亡亭と河川を繋げる工事を実行させようとする。 肉体を奪った人間の身体を使って人力で地下を掘削させ地下水道と双亡亭を繋げるトンネルを掘る。 五頭応尽と共謀し、自分達を縛り続ける坂巻泥努の抹殺 という3つの計略を主軸にして暗躍。 その中で双亡亭に侵入してきた人間達を肖像画の中に取り込んで自分達の肉体に変え続けて来た。 だが現代に至るまでそれらの作戦は遅々として進まず暗礁に乗り上げていたが、千里眼を持つ鬼離田琴世の肉体を手に入れたことで作戦は好転していく。 だが青一や凧葉達双亡亭破壊メンバーの奮闘もあり計画は難航。 そして凧葉が自分達の出入り口となる「絵」を封じる力がある可能性に気がついたことで、急遽凧葉抹殺にも乗り出すことになる。 こうして凧葉抹殺も兼ねた双亡亭破壊メンバーに刺客を送り込んでいくが、刺客は軒並み壊滅し凧葉抹殺にすら失敗するz だがそれでも応尽に強奪させた「転換器」で泥努に致命傷を与えることには成功。 その中で自分達のこれまで双亡亭破壊メンバーに対して行った行動の全てが、「泥努の精神支配を打ち破る「強さ」を持った人間の選抜試験及び、研究・調査・実験」であったと暴露する。 そして見つけ出した結論が「勇気」であると結論づけると、勇気を出した人間の感情を疑似再現することで遂に反逆に成功させる。 だが凧葉抹殺の失敗の余波に加えてあくまで彼らが理解したのは感情の上部だけに過ぎず、「破壊者に泥努を殺させる」という泥努抹殺の計略の歯車は狂って失敗してしまう。 最終決戦 ほう……いいことを聞いた これからこの 双亡亭 に人間達の火砲による、 一斉射撃が開始されるのだな。 人間の姿をしていると思わぬ情報収集ができる。 自分達のタイムリミットも迫る中、地球侵略の最終作戦として「自衛隊の火力兵器による総攻撃による爆炎を利用して母星に繋がる大規模な門を開き、本体を地球に呼び込む」ことに着手。 日本国民の恐怖を煽って双亡亭への爆撃を誘い、何としてでも本星の同胞を呼び寄せようと画策する。 その過程で最大の障壁と判断した青一を排除すべく、しのはイチバンとしての本性を発露。真っ向勝負にもつれこんでいく。 (移動だ!移動だ!) (我々は永らえる!新しい地への「門」が開いた!) (その惑星「地球」の〈海〉なる場の水中で、エネルギーを摂取し、繁殖し、「地球」を支配する。) 遂に門が開いたか…すべてよい… この千載一遇の好機を前に青一との戦いを完全に放棄し「海への到達」という宿願を最優先として、双亡亭地下にある暗渠を経由して河川を経て海に辿り着かんと行動を開始。 液状の体の表面を硬い外殻で覆った顔のない蛇のような姿になると、東京の河川を爆走していく。 〈侵略者〉の海への到達を阻むべく立ち上がった自衛隊並びに異星人からのバックアップを受けた双亡亭攻略メンバーとの総力戦を重ねていく。 この総力戦でどんどん体積を減らし消耗し続けてしまった挙句、最後の最後で宿敵ともいうべき青一が立ち塞がる。 自衛隊のバックアップを受けた青一との汐入公園河川での戦いも、自衛隊が投入した大量の窒素ガス発生器の前に苦戦。 青一のドリルで抉られたこともあって外殻の護りを失い、急速に肉体が窒素に晒され溶けだしていく。 (わ…我々は…絶対に…海まで……) (絶対に…海まで……!) 行くのだあああ~~~ カンジョーガ ナイナンテ イッテタケド、 シノ!イマオマエ カンジョーダラケダ。 …! ヤァイ! うるさい青一!だまれえええ!! こうして怒り狂いながらも、大量に生み出した同族の怪物を利用した数の暴力で青一を圧倒。 勝利を確信して海まで到達しようとした最中、異星人が振り絞った最後の力の影響で辿り着こうとした隅田川河口付近~江東区若杉海浜公園一帯の海水が凍結。 これまで栄養としか見ず見下していた異星人のおもわぬ逆襲に怒りながら急遽方向を転換し、陸上を突っ切って凍結していない別の河川目がけて侵攻を開始しなければならない事態に陥ってしまう。 青一の追撃を受けつつも邪魔な市街地の障害物を薙ぎ払いながら死に物狂いで目的地目がけて突き進む〈侵略者〉だが、生存本能に突き動かされ只管前進していく。 だがここにきて双亡亭での凧葉と泥努の最終決戦にも決着が付き再び「門」が閉じられたことで、これまで推進力の要であった本体の流入すら停止。 動揺しながらも目前に迫った海の光景を見て、地球支配の野望をたぎらせて只管進む〈侵略者〉だが、またしても最後に立ち塞がるのは青一だった。 青一…おのれここ迄再三邪魔をしてくれたなぁ…… ゆるさん!!! キサマの得意な武器で 殺してやるぞォォ!! コイ! 残った身体をドリルに見立てて高速回転させ突撃し青一との最後の戦いに臨むも、弱体化しすぎてしまった結果呆気なく砕け散り四散。 更に小さくなってしまうも「一滴でも海に入れば我々の勝ち」という希望を頼りに海へと迫る〈侵略者〉だが、その姿は冷酷や合理性からは程遠く、青一ですら攻撃を躊躇ってしまったほどの生存欲求に突き動かされる、怨念の如き執念であった。 あそこまで行けば! もうすぐ海だ… もう少し もう少しで…… 海だ… 海だ… ああ… ああ海だ…海だああああ!! 外殻すら捨て、これまで乗っ取ってきた人物の姿に代わりながら突き進むがそんな必死の執念も、最後の最後で斯波総理と桐生防衛大臣の手で阻まれ失敗。 唖然とした表情を浮かべながらも、最後は合理性に基づて諦めたような表情を浮かべながら蒸発した。 われわれは、ここまで…やった それでも、かなわぬのなら… しかた……ない…… いとまごい 観念したかのように諦めて消滅したかに思われた〈侵略者〉だが、なんと最終話でしぶとく生きていた。 実は泥努が紅の体内に黒い水を流し込んだ際、ごく一滴のみ残留しており休息状態を取って潜伏し、機を見計らって紅の肉体を支配して再び海に辿り着かんとするという余りにも生き汚い姿を見せつけた。 青一との最終決戦で怒りの感情に飲まれてしまい、合理性すら捨てて戦ってしまったことが己の敗因と考え、「だがもう私はそのようなものに影響されぬ」と豪語する。 だが紅が並行世界に消え行方不明になっていた凧葉と青一との再会を果たした結果事態は一転。 この通り、この女の生体機能は完全に把握しているからだ。 私は感情などというものに影響を受けることはない。 ただ… ただひとつだけ、誤ったことがあるとすれば、 私は視野情報を得るために、この女の「目」に近づき過ぎていた。 そして…その時私は自身の保全を一ミリセカンドだけ忘れてしまっていた。 何故 この女が目から体液を流すのか 何故 全身が「感情」で満ち満ちているのか。 そして何故 私がそれを 「美しい」と感じたのか その理由は 分からない。 紅の肉体構造の全てを理解していた〈侵略者〉はそう述懐すると、涙として体外に排出され蒸発して消えていった。 【余談】 元ネタは恐らくハワード・フィリップス・ラヴクラフトが描いたクトゥルフ神話に登場する宇宙生命体「異次元の色彩」と思われる。 壊すべきは何ぞ 壊すべきは何ぞ 風吹く真夏の砂原で ひねもす 兵隊ねじ締める 砂がぱらぱら 螺旋は板に穴うがつ ゆがんできしんで音立てる おれの目玉は銃口だ 敵はどれだ 味方はだれだ 見えなかったナンにもな うっすら笑って死んでった あいつの墓は埋まってござる 日は暮れて 夜風が口笛吹くけれど 兵隊それにも気がつかず 目ン球ねじで締めつける 坂巻泥努 (一九〇四〜没年不明) 追記修正よろしくお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 怪異側が人間相手にSAN値チェック失敗ってどういうことなの…(畏怖)まあこれもジュビロ流の人間賛歌なんだろうとは思うが -- 名無しさん (2020-01-25 02 39 27) 初代であるうしとらも突き詰めれば徹底した「人間」の物語だったし(からくりもそうだし)、すごくジュビロらしいとは言えるよね -- 名無しさん (2020-01-26 11 21 26) ゼパる2号 -- 名無しさん (2020-05-12 03 51 25) FGOのゴッホと虚数海イベントが、この双亡亭の侵略者の話と似てると思ったけど、どっちもこの「異次元の色彩」を下敷きにしてる(と思われる)から類似点が出ただけなのか -- 名無しさん (2021-04-21 11 33 36) 最後の最後で死因が尊死とはなあ…。ある意味成長したのかな -- 名無しさん (2021-07-21 20 15 35) やっていることはド外道だが、目的は純粋に「死にたくない」ってことだから、生物としては当然のことなんだよな -- 名無しさん (2021-12-07 21 44 57) 最後の最後で嫌いじゃなくなったよ、人の心を理解したがゆえに泥怒の支配から抜け出せたのに感情を知ったから怒りに任せて戦闘して負け、最後は感動によって死ぬという最悪なやつなんだけどきれいだった -- 名無しさん (2022-05-13 08 31 15) よくよく考えたら本当に感情がないなら青一たちと出会う前の「あの人」みたいに滅びに身を任せてたはずなんだよね。死にたくないという恐怖もそれに抗う勇気の感情も自覚してないだけで最初から持っていたという -- 名無しさん (2023-01-27 08 20 27) 1000兆面ダイスで2以上なら成功のところをファンブルするという伝説を打ち立てた生物 -- 名無しさん (2023-03-24 20 32 41) 「最初の漂着の時点で地球の表面に7割もある水に満ち溢れた海(公式にすら「海に辿り着かせてしまえば勝利が確定してしまっていた」と明言されている)ではなく3割の周囲が高濃度の窒素に満ちた地表のド真ん中、幸い窒素による自滅こそ免れたものの水源と縁遠い場所に辿り着いてしまったまま休眠状態に入っていたら埋め立てられてほぼ手詰まりになってしまった挙げ句種族存続の危機の真っ只中700年間も寝過ごす羽目に。ようやく足掛かりとなる隷属対象候補の原生生物を偶然の遭遇で得たと思ったらよりによって自分達の支配を完全に覆せる例外中の例外の個体だったために逆に隷属させられ都合よく利用され続ける屈従を更に何十年も強いられ停滞する羽目に」とつくづくここまで壊滅的な運と間の悪さが重なりながら最後の最後は彼岸成就にあと一歩まで迫ってみせた巻き返しぶりと邪悪さと狡猾さの割にはとんだ波乱万丈ぶりだな……。 -- 名無しさん (2023-03-26 21 58 59) 子供達の死体はどっから回収したんだろ -- 名無しさん (2023-07-12 15 18 24) 最期の瞬間、彼(?) -- 名無しさん (2024-02-21 23 44 26) 途中送信しちゃった。最期の瞬間、彼(?)の脳髄はゆれていたのだろうか。 -- 名無しさん (2024-02-21 23 46 02) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/426.html
――― 誰が一番強いのか? ――― あらゆる次元から人材を募る時空管理局はその都度、優秀な魔導士を数多く排出してきた。 その中にはもはや伝説的な逸話を持つ輩も少なからずいる。 例えばあの三提督のように。 そんな武装隊の面々の間でしばしば話題に上がるのがズバリ、これである。 下世話なランク付けだとは思うが、彼らが腕を頼りに職務を全うする人種である事を考えれば 興味の矛先がそこに向かうのも仕方の無い事かも知れない。 事に最近では、ニアSクラスを出来得る限り集めて結成された八神はやて率いる機動6課。 彼女達は後にも先にも「これ以上はない」と言われるほどのドリームチームと言われ 局全域に近年稀に見るほどの話題を提供する事になったという。 スバル達、新人が口に出して盛り上がっていた話題は、実は局中で口に上がっていた話題でもあったのだ。 そんな中、やはり皆の口から最も多く名前が上がったのが―――その名にしおうエースオブエース・高町なのは。 生い立ちと人気と実力。 教導官として幅広く活躍する彼女ゆえ、ファンが多いというのもある。 数々のドラマティックな逸話を持ち、やや童顔でありながらも凛々しさを称えたルックス。 そして達成してきた任務の数、困難さ。 戦技披露会での圧倒的な強さ。 おまけに年若い女性魔導士だ。 これだけの要素を持っているのだから注目されない方がおかしい。 教導隊全ての総称とされていた「エースオブエース」を己が代名詞としてしまうほどに、なのはは今や万人に認められる存在となった。 だが――――そうしたある種、祭り上げられたエ-スオブエースの威名と並行するかのように 機動6課において高町なのはよりも強いのでは?と囁かれる存在があった。 「なのはさんも強えけど、俺はシグナム姉さんが負けるとこなんて想像出来ねえなぁ」 これはとある陸曹の言葉である。 そう、6課内においては烈火の将シグナムこそが実力は上ではないかという見方も数多くあった。 彼女はなのはとは対照的な古代ベルカ式の使い手。 その質実剛健の働きぶりは見るものを唸らせるほど凄まじいものであるが、裏腹に過度に名声が先立ってしまう事はほとんどない。 恐らくそれは夜天の主の僕としての分を弁え、決して表に出たり目立つ事を良しとしない性格故か。 また脛に傷持つ彼女の経歴が、なのはとは違い、局全体がプロパガンダとして使用するのを躊躇う空気もあったからであろう。 だがそれでも彼女の圧倒的な強さは隠しようがない。 以前、行われた戦技披露会においてのエースオブエースとの「血戦」は語り草である。 修羅さながらの潰し合い。 魔力ダメージによる攻防などという事実は衝撃だけで砕けるBJによってすっかり忘れ去られ 吐血しながらも相手の肉を、骨を砕かんと激突する両者の形相は殺し合いでは?疑うほどのもの。 見物人の顔面を蒼白に染め上げるに十分な死闘が繰り広げられる事、数十分。 闘いが終わり、使い込まれたボロ雑巾のようになった両者が笑いながら引き上げていったその後 会場は恐怖と驚愕を称えた沈黙に包まれ、生唾を飲み込む音すらしなかったという。 今となっては微笑ましい、それは昔の物語。 なつかしくも儚い彼女達の黄金時代である。 閑話休題―――そして、舞台は現代へ。 ―――――― 剣を持つのは高町なのはをも追い詰める力を持った烈将。 かつてない最強の敵を前に、その眠れる力を解放する。 今はもう呼ばれなくなって久しい―――かつて次元を恐れさせた一騎当千ヴォルケンリッター。 一騎打ちなら負けは無しとまで言われた最強の剣士……あの烈火の将が炎を纏いて顕現したのだ。 現世でも逢世でもない隔世で、彼女は誰にも見せる事のなかった本当の力を解放する。 空からの圧倒的な火力で焼き尽くす「空爆」と呼ばれる殲滅戦。 本来の航空機動隊の戦い方がこれである。 敵を寄せ付けぬ圧倒的なパワー、スピード、防御力。 ミッドチルダの犯罪者達を震え上がらせ、抵抗は無意味とまで悟らせる管理局武装隊のその力。 トップクラスの騎士の手による凄まじい轟音と爆風を伴った攻撃が、竜の尾が蜘蛛の子を蹴散らすかのような光景と共になお続く。 「ぶ、ぁ………あぶねッ!」 相手もまた凡庸とは程遠い、星の記憶に刻まれた英霊。 苛烈な将の攻撃を紙一重、皮一枚で残して見せるが……それでも、もはや時間の問題だろう。 魔導士フェイトテスタロッサハラオウンの完璧なフォローの存在が彼らの反撃の可能性を余さず潰しているからだ。 雌雄一対の役割を微塵の狂いもなく果たすライトニング隊にはもう一寸の隙も無く 勝ちの目が無いサーヴァント達はまさに王手飛車角取りをかけられた状態だ。 ―――残り10minute 決定的優位の元に、彼女達は最後の攻防の火蓋を切って落としたのである。 ―――――― ??? ――― かつてミッドチルダを恐怖で震撼させた聖王の揺り篭が、決して余人の踏み込む事のない次元の狭間にて、その巨大な全身を横たえていた。 といってもそれは本来の10%の性能も持ち得ないレプリカであったのだが…… 形だけは大層なハリボテを本拠とする者たちは、強大なロストロギアの力によって開催された祭を取り仕切る実行委員でもある。 同時に祭会場にばら撒かれた無数の宝を、あわよくば拾い集めようと目論む浅ましくも悲しい敗残者たち。 しかしてその巣窟において場違いな男が一人、モニター越しに映る戦いを興味無さげに見つめていた。 黒衣のカソックに身を包んだ四肢をソファに横たえ、我ながら良い身分になったものだと皮肉げに哂う男。 その表情にはまともな人間らしい感情が宿っているかも疑わしい。 「剣の英霊……あいつ苦しそうだったな…」 変わってぽつりと漏れた言葉は、神父の脇に侍っていた少女のものである。 先の邂逅で出会った騎士王の安否を気遣うこの少女は戦闘機人のナンバー5・チンク。 スカリエッティが生み出せし姉妹の5女にして、異邦の客人の世話係としてこの男に付き従う羽目になった今回一番の被害者である。 狂気とやらが生み出したにしてはあまりにも愛くるしい愛玩人形の如き相貌。 人好きのする性格。 嫌な任務でも腐らず、へこたれずに健気にこなす姿は愛らしいの一言では到底片付かない。 「彼女はどうすれば私を受け入れてくれるのだろうか? そもそも、あいつは大丈夫なのか? 神父」 「私に答えられるわけもなかろう。 怪しげな茶番の舞台に強引極まりない方法でサーヴァントを顕現させたのはお前達だ」 「確かに……あの方法については未だ不明な点が多い。 一刻も早い掌握が必要なのだが…」 「そも拾った宝に名前を書いて己が物とする……それは紛う事なき盗人の所業だ。 仮にも私は神の代行者でな。 不心得者に口徳を授けるというのも職業柄、抵抗がある。」 「……神父の仕える神様は一宿一晩の恩というものを教えてはくれなかったのか?」 流石にムッとして床に伏せたまま反論するチンク。 その銀の長髪を称えた頭に―――目の前の皿に盛られた内包物を無言でぶちまける神父……否、人でなし。 「えっ………??」 何が起こったのか分からずに間の抜けた声をあげてフリーズした少女が―― 「、ッッッッあっづォォォォーーーーーーー!!?」 直後、怪鳥音じみた悲鳴を応接室に木霊させる。 ぐつぐつに煮立った餡かけが頭頂部を犯し、後頭部を経てスーツの間から背中に進入。 火を司る料理と言われる中華の熱さを文字通り体感した少女が悶絶して転げ回る。 「な、何てことをするんだっ!?」 「一宿一晩が聞いて呆れる。 未だ私はまともな飯の類を口にしていないわけだが? 客人に生ゴミを食わせる輩が恩義などとよく口に出来た……そんな事であの剣の英霊を手なづけられるものか」 銀髪を振り乱して床をのたうち回ると、その頭からゴロゴロと転がるゴムのような物体があった。 それは彼女が「豚のカクニ」と称して神父に出した、セイバーとの友情の証……もとい、滋養豚の残骸だった。 「な、なまっ!? そんな食べもしないで!」 「生憎、セイバーのように昏倒させられる気はない。 全く世話係などとよく言えたな。 優秀な機械人形と嘯いてはいるが貴様、その実何も出来んのではあるまいな?」 「失礼な……妹やゼストの世話は全部、私が担当したのだぞ! 料理は初めてだから勝手が分からないが個体の洗浄などは大得意だ……!」 「―――ならば洗浄して貰おうか―――」 「へ……?」 憤然と神父と相対していた少女がカエルの詰まったような声を出した。 その前で……おもむろに上着を脱ぎ出す神の御使い言峰綺礼―――― ―――――― 業に入らば郷に従え、とは現地のニンゲンのコトワザだ。 ならば嗜み物も舞台に合わせるのが粋であろう。 男の手に持っているのはサロン・ブランド・ブランブリュット。 10年で僅か3回しか造られない幻のシャンパーニュである。 そんな貴重な葡萄酒を片手に神父と語り合おうと部屋を訪れたのは 言峰綺礼とは対照的な出で立ちの白衣の男、天才科学者ジェイルスカリエッティ。 だがしかし、彼が客間の前まで来た瞬間――― 「うわああああああああああんッッ!!!」 目の前の鉄扉がバタァン!と凄まじい音を放ち、内側から脱兎の如く逃げ出す影一つ。 人外の脚力を発揮し、トップスピードに乗ってあっという間に見えなくなった――― その後姿と、なびく銀髪だけが辛うじて博士の視界に残る事となった。 「ふうむ………………取り込み中だったかね?」 「そうでもない。 少し考え事がしたかったのでな……小娘には出て行って貰った。」 ほどなくお前が来たので何の意味も成さなかったが、と付け加えた神父。 鍛え抜かれた強靭な上半身を再びカソックで隠す仕草の何と絵になる事だろう。 「それは済まない事をしたねぇ。私はてっきりキミが……」 「私が何だ?」 「キミが我が娘に情欲を催してくれたのではないかと淡い期待を抱いたのだが。」 随分と歪な「淡い」もあったもんである。 「しかし姉妹の中でも随一の気骨を持つチンクがあんな声を発して逃げ惑うとは…… 滅多に無い反応が見れて僥倖の極みだよ。 キミは彼女をどう思う? 綺礼。」 どう思うと言われても返す言葉が無い。 生憎、幼女を私物化して侍らせるという好事家にとっては狂喜乱舞するようなシチュエーションも 人が幸せだと思う事にとんと無頓着な言峰綺礼には猫に小判である。 「もしかしたらキミを強く意識しているのかも知れないねぇ。 これが噂に聞く思春期というやつか……」 「気持ちの悪い事を言うな。」 「いやいや実に興味深い。 私は残念ながらニンゲンというものが今一、理解出来ない。 あの娘たちは悲しいかな外界から閉ざされた純正培養の中で育ってきた。 だから今までは戦闘機人の 人 の部分を学習させるに至らなかったわけだが…」 芝居がかった大仰な仕草でいつもの演説を始める白衣の科学者。 「ニンゲン……それもキミほどの強力な毒を持った個体は実に珍しい! その毒は娘たちにも何らかの影響を与えてくれるらしいねぇ! ああ……それは実に喜ばしい事だ……最悪の生きた見本としてキミは極めて良い教材になれるだろうよ! いっそ義理の娘としてキミにチンクを預けてしまおうか! そう! 大事だからこそキミに預けたい! 私が求めてやまぬ生命の揺らぎ……ッ、ことにキミは他人を揺さぶる事にかけては絶品だ! ふふふ、つくづくキミに目をつけた私の目に狂いはなかったといえるだろう。 ああ言えるとも!」 「お前だけには言われたくないと憤慨すれば良いのか私は? 否定はせんが――」 狂乱の白とは対照的な黒が気の無い返事を帰す。 相変わらず人を食った、どこまでが冗談か分からぬ男だった。 ある意味、娘の成長を憂い喜ぶ父親に見えない事もないが(それはもう慈愛に満ちた好意的な解釈をもって)まあ何にせよ、だ。 生まれ故郷を遠く離れた地に、既に死した身を叩き起こされて、まずさせられる事が家族ゴッコだというのだから良い迷惑である。 ことにあの小娘の銀髪を見ていると、どうにも琴線に触れる。 どうやら自分の種から生成されたらしい娘も銀の長髪だと聞いたが、ソレと被って居心地が悪いとでも言うのだろうか? (ふ……馬鹿な。 そんな殊勝な心の持ち主でもあるまい……私は。) 本来、持ちえぬ記憶を持った偽りの自分。 歪なイレモノに感情というデータのみを書き換えられた偽りのコトミネキレイは、ただ溜息をつくのみ。 かつて世界の毒として生を受けたこの身は、もはやあの世界に戻る事も影響を及ぼす事もない。 今回、自分は何の当事者でもない。 この茶番劇において狂言回し以外の役割を担う事もないだろう。 以前のような悪意と狂気に満ちた行動力は既に枯れ、暢気に晩酌などを嗜んでいるその目下。 かつての自分の使い走りが悪戦苦闘している様を精気の抜けた双眸にて見下ろすのみ。 (―――それにしてもランサーよ。) 自身と同様の哀れな姿にも気づかず、令呪による縛りから解放されて全力で駆ける男の姿が瞳に映る。 (そんなザマでも思うままに飛び跳ねられるのが嬉しいのか……) まるで首輪を外されてはしゃぎ回る犬ッコロだと、にべのない感想を抱くのも忘れない。 冬木の地で凌ぎを削ったサーヴァント達が今、再び蟲毒の檻にて踊り狂う。 だが聖杯に変わり、英霊召還の無理を押し通すオーバーテクノロジーのシステムはそのまま彼らを好き勝手に弄ぶ傲慢な縛鎖に他ならない。 戯れに戯れを塗り込んだ無礼に過ぎる仕様。 彼らはもはやギルガメッシュの言った通りの紛い物の人形だった。 ランサー。 ライダー。 そして、セイバー。 正視出来ぬほどに歪になってしまった地球の神秘、幻想の具現たち。 何も知らずに舞い狂う彼らも、いずれはその袋小路の運命に絶望するのだろう。 ………無表情の男の口元が微かに歪む。 「せめてそれまでは足掻いて欲しいものだな。 ことにランサー……せっかく私の手綱から逃れたのだ。 ろくに観客を笑わせぬうちに退場する道化もなかろうよ」 含んだ笑いと共にかつての自分のサーヴァントに彼なりのエールを送る神父。 その相貌が矯笑に騒ぐスカリエッティの視界の外で暗く――――どこまでも暗く淀み沈むのであった。 ―――――― 果たして槍兵にとっては全く嬉しくない人物からの応援が届いたか否か――― 推し量れるほどに男は今、生易しい状況に置かれてはいなかった。 何せ怒れる火竜の蹂躙がすぐそこにある。 轟炎の剣士と炎の剣精のデバイス。 JS事件における最終決戦で初めてその身を同化させたシグナムとアギトが叩き出した破壊力は 恐らくは全リミッターを解除したなのはと同等以上という壮絶にして余りある数値を叩き出した。 この世にパワーバランスを司る何かが働いているのだとしたら、二者を引き合わせてしまったのは明らかに彼らの職務怠慢だろう。 まるで竜種そのもの――それは正しく人ではない、大空に駆ける飛竜だ。 轟々と燃え盛る炎を纏い、生物の頂点に立つ最強の亜種。 竜の威厳と変わらぬそれを以って、剣士は二体のサーヴァントを蹴散らし続ける。 「………」 「ランサー?」 加えて電撃使いの雷のダメージは体の外側でなく芯に残り、直撃すれば骨も残らぬ剣閃烈火が頭上スレスレを通り過ぎるのも幾度目の事か。 このままでは丸焼けになるか塩漬けになるか……勝機はおろか生還すら絶望的な状況だ。 そんな明らかな劣勢において、普段は騒がしい槍のサーヴァントが沈黙している。 訝しむ騎兵。 敗色濃厚で意気消沈するとは情けないと皮肉の一つも投げてやるべく、その相貌を覗き見る。 果たしてその横顔は――― 「竜殺しか……………こりゃいい。 喰いでがありそうだ」 ―――憎たらしいほどに、いつも通りの男の顔であった。 「命脈尽きてなお巨頭に挑む機会を与えてくれた古今東西の戦の神に感謝するぜ。 アレは俺の相手だ……お前にゃ渡さねえよ。」 ここに来てまだ一騎打ちにこだわっていたりする槍兵。 仮にこの地で討ち果たされても本望という意思さえ感じ取れる。 流石は戦バカ……否、戦ヲタク。 とても並の神経では理解できない。 (どうしたものか…) 当然、対面のライダーの思考は対照的だ。 彼女はここで果てる気などはない。 戦いに結果以外の意味など求める性分ではないし、この槍兵と一緒に討ち果たされる義理も無い。 狂人に付き合って枕を並べて討ち死になど笑い草も良いところだ。 唯一心残りなのは頭上、あの炎の騎士の遥か後方でこちらを見下ろす黒衣の魔導士。 もはや到底あれに手が届く状況ではないのだが……それにしても口惜しい。 (ペガサス――) ―――は、駄目だ。 神殿を破られた影響で自身の体内に残る魔力がほとんどない。 弾奏に残った最後の一発は周囲全てが敵である乱戦ではとても使えない。 (何とか再び彼女らを引き剥がせれば、また話は違ってくるのですが……) あの美しい獲物を取り逃がすのは癪だ…… しかしいよいよとなれば隣の男を盾にしてでも撤退を決め込むしかないだろう。 既に佳境に入ったこの戦い。 四つの思考が乱れ飛ぶ中――― Last assault 開始後2分 ――― 時限を現す時計の針が五分の一ほど進んだ事を場に示していた。 ―――――― ラストアサルト――最後の急襲作戦は既に発動した。 よっしゃあ絶好調! シンクロもばっちりだぜ! 「……」 もはや後戻りは出来ない。 オーバードライブの安全弁を開けてしまった今となってはやり直しも効かない。 その攻勢の第一波を思う存分、サーヴァントを追い散らす事で果たしたシグナムとアギト。 10分20分と暴れまわったように感じた彼女らが、改めて要した時間は2分にも満たず。 こちとら力が有り余ってるんだ! 見てろ……一泡も二泡も吹かせてやるぜ! 「調子に乗るなアギト。」 (わ、分かってらぁ…) 圧倒的優位にて序盤を折り返すユニゾンシグナム。 しかし遠巻きから見てなお、相手の動きにも目の内に宿った闘志にも衰えはない。 果たしてこのまま決めさせてくれのか? 騎士の心胆には未だ暗雲が立ち込めていた。 回避の一点張りを決め込む二対を相手にどうしてもクリーンヒットを奪えない。 一撃でもまともに当たればそれで終了だというのに…… 凄まじい火力に追い立てられ、一方的に削られて、ほどなく動けなくなるとしても 今は頭を伏せ、あるか無いかの一瞬のチャンスを待ち続けているようにも見える敵。 凄まじい胆力だ。 それだけで驚嘆に値する所業であるが…… (感心している場合ではないな……終盤の一手を誤れば詰まされるのは我らだ) 苛烈に、そしてあくまで冷静に二体を追い立てるシグナム。 その懐から鞭のようにしなる火竜の尻尾を再び眼前に叩きつけ――― また一つ、巨大なクレ-ターを場に刻む。 ―――――― シグナムが振り被った炎尾の業火を掻い潜る英霊二体。 相手にセイバー並の剣速がなかった事がせめてもの救いであるが、それも不幸中の幸いに過ぎない。 加えて高速で飛来するフェイトが巨大なザンバーを構えて彼らを強襲。 後方支援に徹するかと思いきや、隙を見せれば一足で踏み込んでくる……それがこの魔導士の恐ろしいところだ。 ソニックインパクトのトップスピードは英霊を凌ぎ、到底カウンターを合わせるどころではない。 戦闘機によるぶちかましを髣髴とさせる当たりでランサー、ライダーを吹き飛ばす。 再び散り散りにされる蒼と紫。 そして尻餅をついたライダーの腕に―――将の蛇腹剣が巻きつく。 ジュウ、という肉を焦がす音と匂い。 諸共に凄まじい牽引力が騎兵の身体を引き摺り始める。 そのままライダーを引き回し、先ほどの返礼とばかりに力任せに叩きつけようとするシグナム。 「むう……!」 だが騎兵とてそう簡単に力負けはしない。 彼女が四肢を……否、捕られられた右腕以外の三肢をフル稼働。 片腕両足の指を地面に食い込ませて場に踏み止まる。 ガクン、という凄まじい抵抗を受け、驚くべき手応えに将が息を呑む。 灼熱の蛇腹剣に二の腕を締められているのだ。 だのに食い込む刃を意にも介さず、女怪は右手で剣を掴みながら騎士と互角の力比べに挑んでいる! 「ふッ――!」 「こいつッ! つくづく…」 どっかおかしいんじゃ無いのか、あの女ッ!? ルーみたいな顔しやがって!と悪態をつく妖精を尻目にシグナムの脳裏に過ぎるは 地球において最もポピュラーな昆虫――甲虫最強の一本角のアレであった。 木や地面から引き離される際、そうはさせじと四肢を踏ん張り、驚くべき抵抗を見せる彼らを彷彿とさせる光景だ。 何の! ぶっこ抜いちまえッ!! 「言われるまでもない!」 更なる出力を発揮する空の騎士。 女怪の地を食む片手両足がミシミシと悲鳴をあげ、爪にビシリとひびが入る。 それでも大地に根差した大木のように動かない痩身。 怒れる竜と、その尾を掴んだ魔性の怪物――幻種同士の剛力比べが始まった。 ―――――― (……シグナムっ!) 止まらぬ連携が――止まった! 否、力づくで止めたライダー。 魔導士に焦燥が浮かぶ。 途切れたコンビネーションの隙を見逃す相手ではない。 防戦一転、ランサーが一気呵成に反撃に出る。 10を超える射撃魔法を残らず撃ち落とし、男はあっという間にフェイトに肉薄。 「世間様に迷惑ばかりかけて来た怪物が、たまには人の役に立つじゃねえか! そのまま一時でいいから抑えとけ! すぐに―――終わるからよ」 豪壮無纏に槍を回転させてフェイトの体に照準をピタリと合わせる男。 凛とした佇まいに淀み無い殺気。 対面するフェイトの心胆に氷柱が打ち込まれる。 何度相対してもゾクっと総身を貫かれるような感覚にまるで生きた心地がしない。 無数の矢を再び装填し、槍兵に突撃を敢行するフェイト。 肌にジャストフィットしたボディスーツにスパッツ。 露になった肩から二の腕、太股の辺りまでしか覆っていない下半身。 奇しくも男のそれに勝るほどの超軽装は、あの騎兵を凌ぐ疾走を見せた彼女の決戦モードだ。 「嬢ちゃん。 こうなった以上、主義も主張も関係ねえ……悪いが一気に叩き潰させてもらうぜ!」 「やれるものならやってみろ…!」 先ほど後れを取ったランサーに再度、臆せず斬り込む魔導士。 その顔に気後れなどは微塵も無い。 二撃三撃と打ち込みながら先の二の轍を踏まぬように軌道修正。 スピードと引き換えに失った各種ステータスは決して馬鹿に出来ず 四者の中ではっきりと自分が一番、体力、耐久力では劣っている事を自覚しているフェイト。 故に速度よりも馬力とタフネスがものを言うこうした乱戦下では、間違いなく自分が一番撃墜される可能性が高い。 少しでも気を抜けばバッサリとやられる。 考えている暇などない。 あっという間に景色が流れ、色々なものを追いてきぼりにする両者の交錯は既に始まっている。 当然のようにレッドゾーンを超えてアクセルを開けなければならないこの現状。 絞り潰されそうな心臓の動悸を無視して押さえ付け、執務官はサーヴァントと交戦する。 男の四方を撹乱しながら一瞬でランサーの後方に回り込み、彼女はノーモ-ションで肩口に鎌を振り下す。 「潔さは買う……だが甘えッ! 打ち込む気まで消せれば完璧だったがなっ!」 負傷した目を突いた死角からの一撃を事もあろうに眼で追いもせず、後ろ向きのままに上段で受けるランサー。 こんなのは時代劇でしか見たことがない……研ぎ澄まされた心眼、相手の行動に対する読み。 やはりこの男――最上級の達人だ! しかしこれで終わりではない! 途端、ランサーの前方よりフェイトの雷の矢が飛来する! 男の後方に回り込む前に既に撃ち放ったプラズマランサーだ。 自身の放った弾丸すらをも追い越す速度を持つフェイトだからこそ可能な全方位移動攻撃の真髄。 上方の鎌を受けて晒した男の胴に、このままでは矢が突き刺さるは必定。 無防備な胸と腹部に襲い掛かる鋭い先端が勢い良く飛び荒び、ランサーの目前に迫る。 「おらあああっ!!」 「うっ!??」 しかし槍と鍔迫り合っていたフェイトがバルディッシュごと前方に引き摺られる。 男が受けた鎌ごと強引にフェイトを引っこ抜き、背負い投げの要領でぶん投げたのだ。 視界ごと天地が引っくり返り、軽々と投げ放たれるフェイトの痩身。 前方に投げ放たれた先には自身の放ったプラズマランサーが今なお飛び向かってくる。 このままでは墓穴―――己の放った矢に全身を串刺しにされてしまう! 「何…!?」 だがそこで驚愕したのはランサーだった。 指向性を持った魔法の矢……それがフェイトのプラズマランサー。 コンマの速さで揺れ動く戦況に際し、フェイトの戦術思考は聊かの遅れもなく追随し、修正を開始。 衝突する筈だった彼女と無数の雷は、矢の方がまるで意思を持ったように彼女の体を回避し 歪な鋭角軌道でフェイトの体を避けて、その全てが再びランサーに降り注ぐ。 「野郎っ! 器用な真似しやがる!」 自由になった両手で扇風機のように魔槍を回転させて矢を弾き散らすランサー。 だが最中、敵の様相を見据えて再び舌打ちをする。 投げられ、地面と平行に滑空しながら魔導士は手の平をこちらへとかざしていた。 背中と頭を地面に擦るような低空飛行で、逆さまの姿勢のままに打ち放つフェイト18番の砲撃――サンダースマッシャーだ! 「うおおっ!?」 槍で弾き返すには大きすぎる大砲を、なりふり構わず地を転がって回避する槍兵。 すぐ横を黄金の射線が通り過ぎる。 地面を転がり、すぐさま立ち構える槍兵と、こちらも地を滑って投げの勢いを殺し、迎え撃つように立ち上がるフェイト。 「役不足だ、なんて二度は言わせないぞ!」 普段は優しくておとなしい性格の彼女だが、突き付けられた屈辱を跳ね除けられないような弱虫では断じてない。 その顔、その目には先ほどの槍兵の言葉……「相手にならない」と断ぜられた事に対する反骨心がありありと浮かぶ。 「いやいや不足どころか実際、大したタマだぜ…」 通常、あれもこれもと手を出せばどっちつかずの中途半端な代物にしかならないが あの娘は全範囲、全方位において全ての距離を高い水準でモノにしている。 正直一番嫌なタイプであり、その技量――評価しないわけにはいかない。 (あっちは何時まで持つか……つうか何で宝具を使わねえんだ、あの馬鹿) 凌ぎを削るライダーとシグナムの方をチラっと見る男。 立ち塞がる美貌の少女。 英霊とはいえ、これを一息に飲み込む事は至難だ。 ただの人間がサーヴァントに比肩するだけの天才的なセンスを発揮するなどという事が本当にあるのか? 「何にせよ、信条の違い―――覆すには刃で証明するしかないもんなぁ。 もう止めろとは言わねえよ……俺の理屈、否定出来るものならやってみやがれっ!」 吼えるランサー。 空気がビリビリと震える。 Last assault 開始後3分 ――― 例え刹那の出来事だったとしても刃で語り合えるのならば―――男にとってその時間はかけがえの無い宝だ。 再び槍を唸らせ踏み込むランサー。 フェイトも意を決したように、相手の突撃に合わせて低空飛行。 地面スレスレを潜りながら槍兵の足元をサイスで狙う。 決して正面からはぶつからない。 この男とまともに切り結んだら潰されるだけだ。 上空三方向から牽制の矢を降らせ、敵の攻め手を殺ぐ魔導士。 男が射撃を弾いた一瞬の間でフェイトはミドルレンジにまで後退。 三日月の刃――中距離射出魔法ハーケンセイバーを飛ばす。 (これは多分、避けられる……けどっ!) それを追いかけるように飛翔する黒衣。 腰の燕尾が突風ではためく。 美しいムーンサルトの機動を描き、常に男の死角へ死角へと回り込むフェイト。 その逃げていく金の髪をどこまでも執拗に追いかけるランサー。 赤き魔槍の連突も激烈さを増す。 (さすが……なら、これで!) 空中で回転し、遠心力でデバイスをアッパースイング気味にランサーに叩き付ける。 それはサイスの時には感じなかった凄まじい重さを持つ戦斧の一撃だ。 「む……!?」 間を詰めようとした男が重い一撃で後方に半歩下がる。 状況に応じて変化する武器が攻防においてこれほどに有効に作用するとは―― 彼女の機動力も相まって、まるで別の武器を持った何人もの敵を相手にするようだ。 当然、持ち主にピーキーな技量を要求するマルチウェポンはフェイトを主とするならば何の不足もない性能を発揮する。 「ロックオン……バルディッシュ!!」 間髪入れずに大砲の砲身を相手に向けるフェイト。 男に命中させるのは困難だろう。 しかし―――その背後! 「!! おいライダー! 避けられるなら避けな!」 「――――、!」 男が、炎の騎士と力比べをしていたライダーに向けて叫ぶ。 「サンダースマッシャー!!」 と同時に放たれたサンダースマッシャー。 同時ロックオンによる砲撃が同一軸線上に並んだサーヴァント二人を薙ぎ払う。 一人は中空。 一人は必死に身をよじり、金の濁流から命辛々身をかわす。 必殺の雷撃が薙いだ刻印を大地に刻み付けるその矢先―― 「おおおおっ!!」 支えを失い宙に浮いたライダーを、捕らえた右手ごとシグナムが振り回す。 その肉体が数回転ほど宙を彷徨い―――勢い良く地面に叩き付けられる! ゴシャァッッ、と鈍い音が辺りに木霊し、地面をバウンドして滑るその体。 衝撃に声の無い苦悶を漏らすライダー。 紫の髪が泥に塗れ、無様に這ったその横で―― 「おかえり。」 「…………」 槍のサーヴァントがばつの悪そうな顔で佇んでいた。 「……成果は無しですか? 口だけ男」 「俺もなまったのかね……いや、あの嬢ちゃん、マジで強えんだよ」 窮地を脱する千載一遇のチャンスだったにも関わらず、それを生かせず再び合流した事に対する苦笑いが双方に浮かぶ。 ゴール直前で振り出しに戻る双六のやるせなさを存分に感じ取れる瞬間だ。 「どうにもならんか……いよいよ持ってジリ貧だな」 槍兵がいちかばちかの覚悟を決め、騎兵が何とか窮地を脱出しようと画策し―― Last assault 4分経過 ――― 追い詰められているのはサーヴァント。 しかして背水の陣を敷き、じりじりと相手を攻め立てながら「時限付き」の攻勢を消化していく魔導士と騎士。 焼け付く体内を推しての戦いはなお続く。 彼女らに残された時間はあと6分足らず。 それまでに―――それまでに敵を沈黙させねば…… ―――――― 「提案があります」 「あとにしろ。」 言うまでもなくチーム戦では個々の能力よりもパートナーとの相性が重要となってくる。 故に思う―――やはりというか予想通りというか、つくづく相性が悪すぎる。 敵同士とはいえ、火急の事態で共闘を余儀なくされるケースは決して少なくはない。 先ほどまで本気で殺し合っていた者同士が新たな敵に対して見事な連携を見せて戦う。 戦場においてそういった光景は珍しくはない。 しかしながら二人は思う。 こいつとは……どんなに戦いを通じても―――駄目だろうな、と…… 「提案があります」 「うるせえな! 今忙しいんだよ! さっさと言え!」 「では言います。これでは埒があかない。 死ぬほど嫌ですが貴方に私と協力する権利を与えましょう。 何とかして彼女らを分断し、一対一へと持っていく手助けをしなさい。」 「オマエな……脳みそ湧いてんのか? 第一、協力などせんでも……うおっとぉ!」 頭上を通り過ぎていく火竜の尾を屈んで交わす二人。 背中の肉が焼け焦げて削れる。 それだけでも人間ならば致命傷だ。 「協力などせんでも、お前がどっか行きゃ済む話じゃねえのか?」 「済みませんよ。 フェイトの射撃は明らかに私と貴方を離脱させまいと放たれています。 どうやら向こうは我々が敵同士だと気づいているようですね。 袋の鼠は一緒に叩く――彼女らは実によく分かっている。」 「感心してる場合か阿呆! 敵の思惑が分かっていながら、こっちは足を引っ張り合って何も出来ねえ! これじゃネズミ以下だぜ俺たちは!」 「このままでは二人揃ってここで倒されますね。 サーヴァントが文字通り雁首を揃えて敗北……初戦敗退の不名誉と相成って後世に恥を残す事に。」 流石にそいつはいただけない……彼らには一様に誇りがある。 召還された自分が「取るに足らないサーヴァントだった」などという不名誉は彼らにとっては耐え難く そんな無様な結果を残したくないという感情は全サーヴァント共通の本能のようなものだ。 「一回だ……一回だけ協力してやる」 「決まりですね。 私はフェイトの相手をします……文句は無いでしょう?」 「好きにしな。 こちらも好都合だ」 鉄の結束を見せるライトニングの二人に対して、今にも止めを刺されそうになり ようやく精一杯の譲歩を見せた両者にインスタントな絆が芽生える。 「おらっ! 今だ!」 相変わらず間断なく降らせられる剣撃の雨あられ。 触れれば即、体のどこかを持っていかれる苛烈な攻撃を掻い潜り その中の一撃を選んでまずはライダーがアクションを起こす。 シグナムの横薙ぎを避け損ない、紫の肢体が無様にきりもみ状に吹き飛ばされた。 騎士の剛剣がついに強敵の片翼をなぎ払っていたのだ。 「―――、」 否、そう見せかけて自分で飛んだ! 重爆撃のような衝撃に逆らわず、身を預けるように宙に浮いたライダー。 その彼女に向かって槍の男が駆ける! 「おっしゃ! 飛ぉべぇぇッッ!!!!!」 一足飛びで騎兵に肉迫する蒼い肢体。 上空、騎士と魔導士の顔色が変わる。 今までとは違う動き、違うリズム。 何より互いに敬遠し合っていた相手が初めて呼吸を合わせたのだ。 無様に飛ばされた筈のライダーがそれを見越したかのように反応。 自在に空中で姿勢を変え、駆けつける槍兵に両足を向ける。 そしてランサーの飛び蹴りが突き出したライダーの足に炸裂! ライダーの身体がピストンで打ち出された弾丸のように暴発じみた速度で――打ち出されたっ! 「なっ!?」 爆発的な加速で射出された騎兵の髪が尾を引いて、流れ星のような軌跡を描く。 フェイトをも遥かに超えた速度にて、一瞬で相手の間合いを犯したライダーが獲物に組み付かんと迫る。 ニ敵を射抜く見事な軌道。 流石は投擲自慢の槍兵の射出と言わざるを得ない。 強力なサーヴァント達が初めてチームとして機能した結果だ! 改めて空の敵を射殺そうと放たれたあれこそ本当の紫電の煌き。 ライトニングの二人をして、相手の即興のコンビネーションは計算していなかった。 いなかったが故に―――回避が間に合わない! 「ぐ、あっ!?」 シグナム…!? うわぁ!?? 薄紫の髪をはためかせて空を切り裂く騎兵ミサイルがまずはシグナムに追突し、あっさりと吹き飛ばす。 高熱で形成される四枚の羽の一枚を難なくぶち砕かれ、バランスを崩して墜落する将。 必死でリカバーするが意識を持っていかれるほどの衝撃は彼女に瞬時の戦前復帰を許さない。 そしてシグナムを抜いた騎兵が真に狙うは―――― 「貴方ですよ。 フェイトッ!!」 ―――後方の司令塔フェイトテスタロッサハラオウンに他ならない! 敵のまさかのアクションに圧倒的に反応が遅れたのはフェイトも同じ。 直上へ回避しようとした魔導士が、あっ!?と息を呑んだ時には――― あの禍々しい縛鎖が自らの足首を捕らえた後だったのだ! ジャラリ、と右足に生じた感覚はまるで忌わしき毒蜘蛛の糸が足首に巻きついているかのよう。 罠にかかった猫の如く、ほとんど反射的に空中に舞い上がるフェイト。 (ここで撃墜されたら全てが台無しになる…!) バックアップを失った前衛では、あの速い相手を時間内に仕留められる確率は五分以下に落ち込んでしまう。 Last assault 5分経過 ――― 魔導士がライダーを振り剥がすべく、最大全速にて―――雲を突き抜け離陸した。 前 目次 次
https://w.atwiki.jp/wbmwbm/pages/52.html
「そ~れっ!」 黄色い声が元気にこだまする。 ここはバレーボールの練習場だ。 紺色のブルマーと真っ白のシャツに身を包んだ、2年生エースのハルカが飛び跳ねる。 172cmの長身と驚異のジャンプ力で2年生にしてジュニアのエースに駆け上がり、近いうちの 全日本代表間違いなしと言われている逸材だ。 また、実力だけでなくアイドル顔負けのルックスとスタイルで早くもマスコミを騒がせている人気者でもある。 そんなハルカが休憩時間に休んでいると、隣の練習場で練習していたはずの男子ボクシングチームの 1人が姿を現した。 「ハルカちゃん、お疲れ様。」 男子ボクシング フライ級代表の加藤が声をかける。 「お疲れ様です!ボクシングの皆さんも休憩ですか?」 「いやそれがお願いがあってさ。練習中に飲むはずのドリンクを無くしちゃったんだよね。 そっちに余ってるのがあったら分けてもらえないかなと思って。」 「たくさんあるから大丈夫だと思いますよ。あのドリンクサーバー1つ持って行って良いですよ。」 「ありがとう。で、申し訳ないんだけど俺これじゃない。ちょっと運んでもらってもいいかな?」 加藤はボクシンググローブで覆われた自分の手を見せる。 親切なハルカは2つ返事でOKした。 ボクシングの練習場に入ったその瞬間であった。 「キャー!何するんですか!」 加藤がハルカのお尻をなでまわしていた。 「たまんねーよ、ハルカちゃん。その顔、スタイル、かわいらしい声。俺ら禁欲生活を送ってるから、 そんな刺激的な格好されたら我慢できなくなっちゃうよ。」 ブルマーのお尻を舐めまわすように見る男子ボクシング部員たち。 「ちょっと、わたし帰ります。」 帰ろうとしたハルカを遮るように、入口の前に立ち、後ろ手でカギを絞める加藤。 「いいじゃんかよ。一発やらせてくれよ。素直に言うこと聞けば傷めつけたりしねーから。 それとも処女だったか?まあ、処女膜が破れての出血は痛めつけたうちに入らないよな。」 信じられない事を言ってくる。 ここには4人のボクシング代表選手がいたが、いずれも昔は札付きのワルばかりであった。 更生したように見えても本来の性質の悪さは隠しようもなかった。 「酷いじゃないですか。こっちは親切でドリンクを持ってきてあげたのに。どうしてそんなことするんですか?」 「決まってんじゃん。君がかわいすぎるからだよ。かわいいって罪だよなw」 ゲスな笑いを浮かべる男子部員達。 「さあどうする。素直に1発やらせるか。はむかって痛い目に合うか。」 答えられないハルカ。 「よ~しわかった。じゃあ、チャンスをやるよ。グローブを付けてリングへ上がりな。 それで1ラウンド3分間俺の攻撃を耐えきることができたらそのまま帰してやるよ。 その代わり耐えきれなかったら俺ら4人と1発やる。どうだ?」 本来なら取引にもならないむちゃくちゃな要求だったが、思わぬ事態でパニックに陥っている ハルカには冷静な判断が出来なくなっていた。 わずかでも、わずかでも助かる可能性があるならとそちらへ飛び着いてしまった。 それが加藤の罠であるとも知らずに。 「わかりました。本当に3分耐えられたら帰してくれるんですね?」 「ああ、俺は約束を守る男さ。誠実さだけが取り柄なんでね。」 しめしめ、やっぱり女はバカだな。ど素人が、しかも女がオリンピック代表選手のパンチを3分も耐えられると思ってんのか? ドSの加藤はハルカを痛めつける姿を想像し、早くも股間を膨らませていた。 8オンスグローブ、ヘッドギアなし、10カウントもしくは3度のダウンで試合終了。 ノックアウトされずに1ラウンドを乗り切ったらハルカの勝ちというルールになった。 ハルカにとっては生まれて初めてつけるボクシンググローブだ。 バレーシューズとブルマーとボクシンググローブを付けている美少女がリングに上がっている姿は ラウンドガールの様にしか見えない。 しかし、これから行われる試合は真剣勝負である。プロのリングでボクサーがラウンドガールに 殴りかかっている光景を思い浮かべてほしい。 如何に異様な変則試合が行われようとしているか想像できるだろう。 両者がマウスピースを口に含んで試合開始だ。 カーン! 運命のゴングが打ち鳴らされた。 加藤は典型的なドSだった。今回も一番の目的はハルカとのセックスではなく、まさに今行われているように ハルカをリングに引きずりだし、文字通り徹底的に痛めつけることだった。 簡単には終わらせねえ。3分間た~ぷりいたぶってやるからな。 まずはジャブを繰り出す。しかし顔に当てる気はない。まずはガードしている腕を徹底的に痛めつけてやる。 パンッパンッパンッ! 軽快なジャブがハルカのグローブをはじく。ハルカはガードを固めて亀ガードする事しかできない。 「ふふ、いつまでそのガードを上げてられるかな。」 今度はもう少し力を入れたジャブをさらにガード目がけて打ちこんでいく。 バンッバンッバンッ! バンッバンッ! バンッバンッバンッ! まったくパンチをよけられないハルカは全てのジャブをグローブや腕でうけてしまった。 「はは、まあど素人じゃガードを固めることくらいしかできないだろうな。だがな、ボクシングってのはガードしても 腕にダメージが溜まっていくもんなんだ。すぐに苦悶の表情を浮かべてガードを下げることになるだろうぜ。」 加藤は余裕の表情でそんなことを考えていた。 試合は1分を経過した。相変わらず加藤のジャブがハルカのガードを叩く展開が続いていた。 おかしい。こいついつまでガードを上げていられるんだ?これだけ打ち込めばボクサーですら普通は ガードが下がってくるもんなのに、なんでいつまでもガードを上げていられる? まあそうか。貞操が掛かってるとなりゃ死に物狂いにもなるか。だがな、ボクシングのパンチはジャブだけじゃないんだぜ。 右ストレートはジャブの何倍もの威力があるんだ。これでガードをこじ開けてやるぜ。 加藤はこの試合、初めての右ストレートを繰り出した。 過去何十人もの対戦相手をノックアウトしてきた、加藤の一番の得意パンチである。 バーン!! 先ほどまでとは比べ物にならない激しいパンチ音が場内にこだまする。 手ごたえありだ!これであいつも苦悶の表情を浮かべてガードを下げているはずだ。だ?あぁ!? しかし、加藤の思惑とは裏腹にハルカのガードは微動だにしていなかった。 皆さんはバレー部員のアタックを受けたことがあるだろうか?一度受けただけで腕が真っ赤に腫れあがり、 骨まで染みるような痛みを味わったはずだ。1流のバレー選手はそんな激しいアタックを1日に何回も 何十回もいや何百回も受けるのである。刀を作る際、叩けば叩くほど強い刀になるように、彼女達の腕は 数え切れないほどの激しいアタックを受け続けたことにより、常人では計り知れないほどに衝撃に強い 腕になっていたのだ。そんな彼女からしてみれば、たかだかフライ級ボクサーのパンチを受けとめることなど 造作もないことだったのである。 なんだろう?加藤さん、さっきから軽いパンチを私の腕に当ててくるだけで、全然倒しに来ない。 初めて右のパンチも出してきたけど、これもそんなに強いパンチじゃないし、これならいつも受けている ユカちゃんやメグちゃんのアタックの方が全然威力があるよ。 あ!そうか!加藤さんあんなこと言ってるけど冗談なんだ。あんなこと言って私を脅した振りして、 ちょっとリング上で遊びたかっただけなんだ。あ~良かった。よく考えたら当たり前だよね。 そんなことするわけないもんね。 ハルカは安堵感から思わず笑みがこぼれてしまった。 しかし、その笑みは加藤にはまったく逆の意味で伝わっていた。 あのアマ!笑ってやがる。俺の渾身のストレートを受けて余裕の笑みを浮かべてやがる! 俺のパンチなんか効かないってか!舐めやがって、もう遊びは終わりだ。 ガードの隙間を狙って、ボディ・顔面を打ち抜いてやる!血反吐を履いて倒れるがいい!! 加藤は渾身の左フックを今度はボディめがけて思いっきり打ちこんだ! ドボオォ! ハルカのガラ空きのボディにパンチがめり込んだ! ハルカはさっきまでの攻防で、これが真剣勝負ではなく遊びだと誤解していたため、加藤のパンチに対して まったくの無防備となっていた。不意に打たれたパンチは通常とは比較にならないダメージを与える。 ハルカは立っていることができず、膝をついてしまった。ダウンだ! 「見たか!このアマ!男を、ボクサーを舐めるんじゃねえぞ!」 バカにされたと誤解している加藤は、ようやくハルカにあたえられたダメージに興奮していた。 「げほぉ、げほぉ。酷い、酷いです。どうしてこんなことするんですか?遊びだったんじゃ無いんですか?」 苦痛に顔をゆがめながらハルカが訴える。 「いまさら何言ってやがる!遊びなわけねーだろ。真剣勝負だ真剣勝負。」 「じゃあ、3分耐えられなかったら・・その・・・あれ・・・っていうのも?」 「あれって何だよw ハッキリ言えよw」 「いや、その・・あれ・・私が・皆さんと・その・・セ・セック・・・を・・」 「なにカマトトぶってやがる。それともあれか?本当に処女なのか?いや~これは楽しみだぜ!」 ハルカは愕然とした。 やっぱり、やっぱり本気なんだ。遊びなんかじゃない。本当に3分耐えられなければあれをさせられるんだ。 いやだ、そんなの絶対いやだ。耐えてみせる。絶対に耐えきってやる! お腹の苦しさに耐えながら、ハルカは何とかカウント9で立ちあがった。 「へへ、良く立ちあがったな。まあ、アレで終わりじゃもの足りねぇ。もっと痛めつけさせてくれなきゃな。」 加藤がじりじりとハルカとの距離を詰める。 ハルカは考えた。 ここはボクシングのリング。相手はオリンピック代表ボクサー。まともにボクシングしたんじゃ勝てっこない。 わたしはわたしにできることをやらなきゃ。わたしにできること、そう、バレーボール。わたしには バレーボールがある。競技は違えどバレーで身につけた知識と技術を駆使して戦うの。 大丈夫、自分を信じてハルカ!絶対にあきらめないで!あんな腐った連中の思い通りになんか 絶対にならないんだから! 加藤は先ほどダウンを奪った左フックを再びボディに繰り出した。当たる! しかし、加藤は奇妙な光景を目の当たりにした。 ハルカは下向きに両手を伸ばしてグローブ同士をくっつけて、そう、バレーのレシーブの体制を取った。 バーン! 加藤の左ボディはハルカのレシーブに完全にブロックされた。 「はぁ!?なんだそのガードは?そんなものボクシングのセオリーに無いぞ。」 再度左右フックをボディに放つ。 バン!バン! 先ほどと同じく、レシーブに防がれる。 くそっ、想像以上にボディのガードがかてえ。じゃあ、お望み通り顔面にパンチをブチ込んでやるよ。 そのきれいな顔を、男が寄り付かないようなボコボコの顔に変形させてやる。 加藤は顔面に向かって渾身の右ストレートを打ち込む。 バン! これは先ほどまでと同様、がっちりと亀ガードに防がれる。 ボディを狙えばレシーブで、顔面を狙えば亀ガードで、加藤のパンチはハルカの堅いガードをまったく 崩す事が出来ない。 そうこうしているうちに、1ラウンドの残り時間が少なくなってきた。 まさか?倒しきれないのか?この俺が、オリンピック代表ボクサーのこの俺が、ど素人のバレーボール選手を、 ブルマー姿の女子バレー選手を倒しきれないっていうのか? 俺はパンチが無い方じゃない。全日本選手権でも、世界選手権でも何度も1ラウンドKOを演じてきた。 その俺がこんなど素人の女子高生を倒せないだと?うそだ!そんなことはあり得ない。あってはならないんだ。 何をやったっていい。どんな手を使ったっていい。とにかくコイツを、この女をマットに這わせるんだ! 加藤は拳を握り込むと、ハルカの下腹部へ向けて思いっきりパンチを打ち込んでいった! ローブローである。もちろん反則行為だ! しかも、反則行為であるがゆえに、ローブローは非常に避けるのが難しい。意図的に狙われたローブローを 避けることは一流のプロボクサーにすら難しい行為だ。それでいてとてつもないダメージを与えられる。 だからこそ禁止されている、本当に危険な行為であった。 しかし!! ハルカはそのローブローにさえ素早く反応した! 先ほどから見せているバレー式のレシーブである! バレーボールのレシーブは、普通に構えると、まさに、下腹部を隠す角度になるのだ! つまり、ボクサーではないがゆえに、バレボール選手であるがゆえに、ハルカはローブローを 完璧にブロックすることが出来たのである。 これは、本職のボクサーには絶対にできない芸当であった。 どんな手を使ってでも!という思いで繰り出した渾身のローブローを防がれ、予想だにしていなかった 結果に動揺し、加藤の思考が、動きが一瞬止まる。 と、ハルカの目の前に前傾姿勢になった無防備な加藤の頭が投げだされる。 あれっ?これってどこかで見たような? そうだ、ボールだ!サーブを打つ時のボールだ! ハルカには目の前にある加藤の頭が、サーブを打つ時のボールに見えた。 よ~し!得意の天井サーブ決めてやれ~! ハルカは加藤の頭を左手のグローブで押さえつけると、天井サーブを打つ要領で、膝を曲げ、勢いを付け、 そして全身を伸ばしながら、加藤の頭を右手で思いっきり下から上へと打ち抜いた!!!! 「そ~れっ!」 バキーーーーーーーー!!!! 300グラム近いバレーボールを何十メートルも打ち上げる天井サーブである。 小柄なフライ級ボクサーの顎など簡単に跳ね上げられた! 「グハァ!」 加藤の足がもつれる、ガードが下がる、あきらかなダメージだ! よろめく加藤の頭がハルカの胸の高さにさらけ出される。 よし!今度はサイドハンドサーブだ! ハルカは思いっきり身体を捻ると、加藤の頭めがけて、腕を思いっきりフルスイングした!! 「そ~れっ!」 バーーーーーーーーーーーン!!! ハルカのこぶしが加藤の顔面にめり込む。 ズダーーーーーーン!! 小柄な加藤の体はボロ雑巾のように吹っ飛ばされ、キャンパスへなぎ倒された! 加藤はまったく受け身を取れず、後頭部を打ちつけ、白目をむいて失神した。 ビィーー! 1ラウンド3分の終わりを告げるブザーが鳴り響く。 その時、リングに立っていたのは紺色のブルマー姿の女子1人。 本職の男子ボクサーは大の字に倒れ、ピクリとも動かない。 ハルカの、文句なしのノックアウト勝利だ! 「やったー! 今のブザー1ラウンド終了の合図ですよね。3分間立っていたから私の勝ちですよね。 これで帰してもらえるんですよね? よかった~! あっ、いけない!早く加藤さんをお医者さんに見せないと大変。ごめんなさいよろこんじゃって。 よろこんでる場合じゃないですよね。」 3分間立っていたどころの話ではない。相手を、本職のボクサーを完全にノックアウトしたのだが、 本人はその快挙にまったく気が付いていない。ただただ、難を逃れたことだけを純粋に喜んでいた。 さらには倒してしまった相手の事まで心配している。 この天然さが、純粋さが、男子ボクサーたちをさらに苛立たせた。 「ちょっと待ちな。このまま帰すわけないはいかねーな。」 男子ボクシングチームのエース、ミドル級の竹村がハルカを呼びとめる。 「わかってます。ちゃんと医務室へ連れて行きますから。手伝っていただけますか?」 「バカヤロー!そんなことを言ってるんじゃねえ。油断したとはいえ女に倒されるような情けない奴の事など知らん。 その辺に転がしておけ。それよりも、お前を解放するわけにはいかねーと言ってるんだ。」 「どうしてですか?3分間耐えられたら帰してくれる約束じゃないですか?約束を破るんですか?」 「約束は守るぜ。だがそれはお前がルールを守ったらの話だ。 さっきのパンチはなんだ。加藤の頭を押さえてただろ。あれはボクシングの世界じゃルール違反、 反則パンチなんだよ。反則した以上、お前が3分間耐えきったとは認められない。お前の反則負けだ。」 「そんな・・わたしボクシングのルールなんて知らないし・・」 「知らないじゃ済まされないぜ。反則は反則だ。」 これは言いがかりに等しい話だった。たしかにボクシングのルールを厳密に適用すればハルカのパンチは 反則と判定されてもおかしくは無い。しかし、さっきのパンチはインパクトの瞬間に左手を加藤の頭から 離しており、実際のボクシングの試合の流れの中ではよく行われる、ほぼ問題にされないレベルの反則だった。 もし公式戦でこの程度で反則負けを宣告されれば、負けた選手がクレームをつけるだろう。 むしろ、加藤の放ったローブローの方が、はるかに悪質な反則であることは誰の目にも明らかだった。 しかし、卑怯な男子ボクシング部員はハルカの無知につけ込んだ。 「さて、本来ならお前の反則負けだが、やさしい俺たちはお前に再チャンスをやるよ。今度は俺の相手をしな。 ただし、再チャンスだからな。条件は厳しくさせてもらうぜ。決着はKOのみだ。どちらかが倒れるまで続ける。 どうだ?悪い話じゃないだろ。」 ミドル級の竹村はフライ級の加藤とは比較にならない体格、パワーの持ち主だ。 加藤に対しては体格で上回ったハルカだが、竹村は身長、体重、体格、全てにおいてハルカを凌駕していた。 しかも、先ほどとは違い、KO決着のみということで、ガードで耐えきって時間切れを待つこともできない。 ハルカにとっては到底勝ち目のない、「悪い話じゃない」どころの話では無かった。 しかし、反則負けを許してもらえると負い目を感じているハルカは、この申し出を断ることができなかった。 「わかりました。それで反則負けを許してもらえるなら。 でも、その前にボクシングのルールを教えていただけますか?また知らないうちに反則しちゃうかもしれないし。」 「いいよいいよ、面倒くさい。今度は反則とかちんけな事いわねーから、好きなようにやりな。 あ、ただしチンコをうつのだけは禁止だぞ。ハハハ!」 竹村はハルカを完全に舐め切っていた。 カーン! 第2試合開始のゴングが鳴り響く。 竹村は、日本人として初めてミドル級での世界選手権メダリストとなり、オリンピックでも金メダル候補に あげられている、まさに日本のアマチュアボクシングを背負う存在だ。 と同時に素行の悪さも有名で、数々のストリートファイトや問題行動を起こし、オリンピック代表の座を剥奪されそうな 危機も一度や二度ではなかった。 それでも代表に選ばれたのは、やはり、その圧倒的な実力が故であった。 判定決着が多いアマチュアボクシングにおいて、竹村はその勝利のほとんどをKO・RSC勝ちで飾っており、 数少ない負け試合は、全てがアウトボクサーにポイントアウトされての負けであり、KO・RSC負けは一度もない。 つまり、KO決着オンリーという今回のルールで戦う限りにおいて、竹村と渡り合えるボクサーは、上の階級を別にすれば 世界中に誰1人存在しないのだ! そして、もちろん、ハルカの体重は、竹村よりはるかに下の階級だった。 竹村がジャブを繰り出す。 バン! 加藤のパンチとは比較にならない衝撃がハルカの腕を襲う。思わず顔をしかめるハルカ。 ジャブに続くストレート。 バーン!!! 加藤のパンチではビクともしなかったハルカのガードが弾き飛ばされる!顔が無防備にさらされる。 「これで終わりだな。」 竹村はハルカの顔面へ右ストレートを放った。 ビュン!! すんでのところでかわすハルカ。思わず竹村から距離を取った。 「よく避けられたな。だが、まぐれは何度も続かねーぜ。」 またも強烈なパンチでガードを弾き飛ばし、今度は左フックを顔面へ見舞う。 ブン!! ハルカは必死にしゃがみこみ、またしても被弾を防ぐ。 「ちょこまかとうざってえ。さっさと捕まりやがれ!」 1発KOを狙って大ぶりのパンチを繰り出す竹村。しかし、その全てをハルカは驚異的な反射神経で避けまくった。 1流ボクサーのパンチのスピードは、トップスピードで時速30km程度と言われている。それに対して、 バレーボールのスパイクは女子の1流選手でなんと時速100kmを超えるのである! 実に1流ボクサーのパンチの3倍を超えるすさまじいスピードである。 女子バレーでは、そんな凄まじいスピードのボールを1瞬の判断でブロックやレシーブをしたり、また、 インかアウトかを見極めたりする動体視力や反射神経が要求される。 そんな世界で鍛えられているハルカにとって、ボクサーの1発狙いの大ぶりパンチを見切ることは そう難しい事ではなかった。 「くっそー。ど素人にしてはやけにパンチへの反応が良いな。その反射神経の良さだけは認めてやるよ。 だがな、ボクシングには色々な崩し方ってものがあるんだ。反射神経だけではどうにもならない 領域ってものがあるんだよ。それを教えてやるぜ。」 竹村はハルカのボディーめがけて左フックをふるう。 上半身と異なり、下半身はそう簡単に素早く動かせるものではない。ハルカもパンチに反応することはできたが、 避けきることは出来なかった。 バーン! ビリビリビリ!! 先ほどの試合でも見せたバレー式レシーブで何とか直撃を避ける。しかし、加藤のパンチとは比べ物にならない 威力で、レシーブしたハルカの腕にダメージを与える。さらにはレシーブ越しにボディにも衝撃が伝わってきた。 「うっ」 思わずうめき声を発するハルカ。 「へっ、さすがに効いたみたいだな。反射神経には驚かされたが、まぐれもここまでだ。さて、いつまでそのガードを 続けられるかな。」 竹村のボディ連打がハルカを襲う。3発、4発、5発、6発・・無数のパンチがハルカの腕に、レシーブに突き刺さる。 バレーで鍛え上げられたハルカの腕もついに限界を迎えようとしていた。 鉄壁と思われたハルカのバレー式レシーブがなぜ崩されようとしているのか?竹村がミドル級であること、 世界的なハードパンチャーであること、それも大きな理由である。しかし、もうひとつ見逃してはならない大きな 理由があった。 この試合では両者8オンスグローブを使用している。通常ボクシンググローブは大きければ大きいほど逆に 相手にあたえるダメージは小さく、小さければ小さいほどあたえるダメージは大きくなるのだ。 現在、危険性などを考慮し、アマチュアでは全階級10オンスのグローブを、スペクタクル性を売りにするプロの リングでさえ、重量級は10オンスグローブを着用している。 つまり、ミドル級選手のパンチを8オンスグローブで受けるなどということは、プロのリングですら認められていないほど、 威力があり過ぎて危険とされているのだった。 それを階級がはるかに下の、ボクシングど素人の、ブルマー姿のジュニア女子バレー選手相手に行っているのだから、 いかに男子ボクシングチームが卑劣な悪党かということがわかるだろう。 さらに忘れてはならないのは、ハルカはこの日2試合目であり、1試合目でも腕に相当数のパンチを受けているのだ。 そんな卑怯なことをされてしまえば、さすがに鉄壁のハルカのレシーブも崩されざるを得なかったのである。 痛い、腕が痛い。ダメ、このままじゃいつか倒されちゃう。考えて、考えるのよハルカ。諦めなければ絶対道は 開けるんだから。そう、私はバレーボール選手なんだから。バレーボールをやればいい。ここをリングではなく コートだと思って、バレーボールをやろう! バレーボールだったらあんなウスノロなんかに絶対負けないんだから。見てなさいよ! ハルカのガードが完全に下がった。 「ふふ、もう限界だな。じゃあ、決めさせてもらうぜ。死ねやー!」 左ボディがハルカの右わき腹を狙う。ガードも上がらない。もらった! 勝ちを確信した竹村の視界に、想像だにしなかった光景が映し出された! ダンッ!! なんと、パンチの当たる瞬間、ハルカはキャンパスに向かって、自ら横っ跳びにダイブしたのだ! そしてそのまま体を一回転させ、リングの上に片膝をついた格好でしゃがみこんだ。 そう、バレーボールの回転レシーブの動きである! 「はあぁ?何やってんだお前!キャンパスに手を突いたり、横になったり、片膝をついたり、 全部反則だ!早く立ちあがりやがれ!」 「あれ?竹村さん言いましたよね。反則なんてちんけなこと言わない。好きなようにやれって。 ただし・・・」 ここで少し言いよどむ。 「あの、その、お、おチンチン・・・を打つのだけは禁止だって。」 消え入るような声で、顔を真っ赤にしながら、竹村の決めたルールを復唱するハルカ。 「うっ。てめえ、この・・」 竹村は面食らった。たしかにそういう発言はした。ただし、彼の頭にあったのはあくまでもボクシングという 競技の範囲内での反則。頭を押さえる行為、ホールディング、背中や後頭部への打撃、オープンブローや バックブローなど通常の試合で起こりえる範囲の反則行為しか想定していなかった。 しかし、今ハルカが行ったのは、そもそもボクシングという競技をまったく無視した、もはや反則という概念にすら あてはまらない行為であった。 しかし、認めてしまったのだ。好きなようにやれと。言葉尻をうまく利用されてしまったと気づいても、もはや 後の祭りであった。 「まあいい、多少面食らったが、殴り倒せばいい事に変わりはない。舐めた真似しやがるから 余計に痛めつけてやりたくなったぜ。」 しゃがみこんでいるハルカにじりじりとにじり寄る竹村。 ハルカの頭の位置はキャンパスから1mあるかどうか。こんな低い的は打ったことが無い。 竹村は普段よりも大幅に身を低くして、ハルカに殴りかかった。 しかし、不自然な体勢からのパンチなので切れが無い。あっさりとハルカに回転レシーブで逃げられてしまう。 またしてもハルカは片膝をついた格好で竹村と対峙する。 「このアマ、ちょこまかと!」 竹村はハルカに向かって一直線に走り込み、低い体勢でおもいっきりパンチを振るっていった。 ハルカのボクシングとは思えない動きに影響されたのか、または、なかなかパンチをあてられない焦りからか、 ボクシングの基本を忘れたかのような、大ぶりパンチとなっていた。 竹村の右パンチに対して、ハルカは左側にダイブして避ける。 と、竹村の顔面が自分の右脚から近い位置にあることに気づく。 え?これって、今脚を振り上げたら当たるんじゃない?ううん、考えている暇はないわ。とにかく思いっきり 脚を振り上げよう! 「え~い!」 ハルカは紺色のブルマーから伸びた健康的な脚を、バレーボールのジャンプで鍛えたムチムチの脚を、 思いっきり、竹村の顔面に向かって蹴り上げた!!! ゴキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!! 竹村の走り込む勢い、パンチを振るう勢い、ハルカのダイブの勢い、そして驚異のジャンプ力を生むハルカの 鍛えられた脚から生み出されるキック力! その全てが完璧なタイミングでカウンターとなり、竹村の顔面を直撃した!! バターーーーーーーン!! 竹村は受け身を取ることすら出来ず、顔面からキャンパスへダイブした!! 「うっ、うっ」 竹村はなんとか身を起こそうとするがなかなか立ち上がることができない。 それはそうだろう。絶妙のカウンターで強烈なキックを顔面に食らったのだ。普段の公式試合で、10オンスグローブと ヘッドギアに守られている公式試合で受けるパンチとは比較にならない破壊力だ。 世界の1流男子ボクサーを相手にダウン経験のないタフネスを誇っていた竹村が、女子の、格闘家では無い女子の、 ブルマー姿の女子バレー選手のキックにダウンさせられた。 あごの骨が折れたのか。口から大量の血を流している竹村を見てハルカが心配そうに声をかける。 「大丈夫ですか?ごめんなさい、ちょっと力を入れすぎちゃいました。ボクサーの人に私のキックがこんなに効くなんて 思わなかったので。すぐにお医者さん呼んできますね。」 自分が襲われていたことも忘れ、あくまでも竹村の体を心配して、リングを降りようとするハルカ。 「ま・まて・・。まだ・・勝負は・・終わってないぞ・・。逃げるんじゃ・・ねえ・・」 キャンパスに這いつくばりながら、息も絶え絶えに竹村が声を発する。 残る男子ボクシング部員もハルカを遮るように出口をふさぐ。 「なに言ってるんですか。酷い出血じゃないですか。勝負なんて言ってる場合じゃないです。早くお医者さん に見せないと。」 「ボクシングには・・ダウンや出血はつきものなんだ。・・バレーみたいなお嬢様スポーツと一緒にするな。」 ついに竹村は立ちあがった。 この間、ダウンしてから立ちあがるまで、ゆうに1分は経過していた。 ボクシングルールを適用するならこの時点でハルカのノックアウト勝ちだった。 しかし、すでにこの試合はボクシングのルールを大幅に逸脱しており、いまさら10カウントルールなどは 何の意味も為さなかった。この試合の決着は、相手の戦意を喪失させるか、相手を完全に失神させるかでしか もたらされないだろう。 竹村は立ちあがりはしたもののダメージはありありで、なんとかロープに寄りかかって、体を支えている状況だ。 いま、ハルカが攻撃に行けば、素人のパンチでも、女の子のパンチでも簡単に倒せるだろう。 しかし、こころのやさしいハルカは、あれだけの事をされてもなお、弱っている人間を、攻撃してこない人間を 自分から攻撃することは出来なかった。 そして、お互いに見合うこと数分間。ついに竹村は足を動かせるまでにダメージから回復した。 「へへ、バカが。俺がダメージを負っている間に止めを刺さなかったことを後悔させてやるぜ。 千載一遇のチャンスだったのになあ。もうあんなチャンスは2度とないぜ。」 竹村はパンチを放つ。 だが、やはりダメージが残っており、先ほどまでとは比べ物にならないほど、スピードも威力も欠けたパンチだった。 ハルカは余裕を持ってパンチをかわす。 続いてボディブローを放つ。 パン! しかし、威力の落ちたパンチでは先ほどのようにハルカの堅いガードを崩す事は出来ない。あっさりとレシーブされて しまった。 「もう諦めて下さい。今の竹村さんの体じゃ、わたしを倒すパンチは打てません。さっきの一撃で勝負は ついたんです。わたし、看護の勉強もしてるのでわかります。人間の体はあれだけのダメージを受けたら、そんなに 短時間では回復できません。もうこれ以上の勝負には何の意味もありません。私は竹村さんを必要以上に 傷つけたくないんです。お願いです。もうやめましょう。こんな意味のないこと、もうやめましょうよ!」 竹村の体を案じ、必死に説得を試みるハルカ。 しかし、この言葉が竹村のプライドをさらに刺激する。 「俺を傷つけたくないだ?なに上から目線でしゃべってやがる!お前の生殺与奪を握ってるのは俺なんだよ! 勘違いするな。ボクシング日本代表の俺様に対して、バレー選手ごときが、女ごときが偉そうなこと抜かすな!」 竹村はこりずにハルカの顔面に向かってパンチを放つ。 ハルカが先ほど同様、余裕を持ってかわそうとしたその時! ガシッ! ガシッ! ロープ際に立っていたハルカの両足を、リングサイドで見ていた2人のボクシング部員が掴んだ! 身動きが取れないハルカ! バーン!! 避けきれないと悟ったハルカは何とかガードを戻し、間一髪のところでパンチの直撃を免れた。 「はははは!このアマちゃんが!ここがボクシングチームの、敵のアジトの真っ只中ってことを忘れたか! 女に負けておめおめと諦めるとでも思ったか!どんな手を使ってでもお前を痛めつけて、レイプしてやる! 陵辱してやるぜ!無事に帰れると思うなよ!」 竹村は身動きの取れないハルカをロープ際で滅多打ちにした。 ハルカは驚異的な反射神経で顔への、美しいアイドル顔への直撃だけはなんとか逃れていたが、 ボディや腕には何発も良いパンチを打ち込まれた。 プツン ハルカの中でなにかが切れた。 子どもの頃から厳格な両親に厳しくしつけられてきた。人の嫌がることをしてはいけません。人にやさしくしなければ いけません。人を憎んではいけません。そして、人を傷つけてはいけません。 忠実に守ってきた。小学、中学、高校とハルカは常に優等生で、明るく素直でまっすぐで、誰に見られても 恥ずかしくない人生を送ってきた。 「あんなやつ死刑にしちゃえばいいんだよ!」 犯罪報道を見て同級生が過激な事を発言する。 そのたびにハルカはたしなめてきた。「そんなこと言ってはいけない。生まれながらに悪い人はいない。人を憎むの ではなく、犯罪の元を立つようにしなければ」と。 今回も理不尽な勝負を挑まれた。卑怯な手を使われた。それでも相手を憎んではいけない。傷つけることを 望んではいけない。誠実に話し合えば相手にもわかってもらえる。そう信じていた。 しかし、こんな人間もいるんだ。いくら誠実に話し合ってもわかってもらえない、常に卑劣な事ばかり考えている、 そんなクズみたいな人間もいるんだ。今までの17年の人生では学べなかったことだ。 お父さん、お母さん、ごめんなさい。ハルカは初めて人を憎みます。初めて自分から望んで人を傷つけます。 でも間違ったことはしてません。自分の行動に恥じることもありません。だから、だから、許して下さい。 「わかった。あなたはそういう人間なのね。もう情けをかけるのはやめる。本気で相手してあげるわ。」 「あぁ、本気だぁ?この状態から何ができるっていうんだ。強がりもたいがいにしな。」 「その手を放しなさい!」 ハルカは足を掴んでいる部員の手を簡単に振りほどく。 驚異のジャンプ力を誇るハルカの脚力の前では、ボクサーの腕力など及ぶべくもない。 「もう手遅れだ!食らえ!」 竹村の右ストレートがハルカの顔面を襲う。 ハルカはしゃがみこんでそのパンチをよける。そして 「レシーーーブ!!」 といいながら、手をレシーブの形に構え、そのまま竹村の顔面に向けて思いっきり振り上げた! バキーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 両こぶしで振り上げたレシーブ式アッパーは、ボクシングのアッパーの2倍の威力で竹村に襲いかかる! 竹村の体が前のめりに倒れかける。 ハルカはふたたびしゃがみこみ、今度はバレーボールのトスの要領で、両手で竹村の顔面を跳ね上げる。 「トーーーース!!」 バシーーーーーーー!!! 竹村の顔面が上を向く。もう、まったくガードする体制は作れていない。無防備な状態だ! ハルカはバレーボールで鍛えた驚異のジャンプ力で思いっきり飛び跳ねた! 「アタッーーーーーーーーーク!!!!」 ハルカのこぶしが、3メートルを超える高さからすさまじく加速されたこぶしが、ハルカの全体重を乗せて、 とてつもない破壊力となって、竹村の顔面に撃ち落とされた! バキィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーンンンンンン!!!!!!!! リングサイドから見上げていた男子部員には、照明に照らされながら上空から落ちてくるハルカの姿が まるで雷のように見えた。 雷が大木を直撃した! ぐしゃぁぁぁ!! 竹村は文字通り雷に打たれたように、その場に膝から崩れ落ち、両手や首は力なくキャンパスへ横たわった。 当分起き上がれないであろう。命の危険すら感じる、完全失神KOだった! ハルカは残り2人のボクシング部員をリング上から見下ろす。 「まだやるの?やるんだったらリングに上がって。」 しかし、今まで見たこともない凄惨なKO劇を見せつけられた2人は、恐怖に足が震えていた。 目の前の女は、自分たちの雲の上の存在である竹村を、畏怖の対象であった竹村を、完膚なきまでに叩きのめした。 たとえ2人掛かりであっても、とてもではないが、向かっていく勇気を持つことは出来ない。 「い、いえ。やりません。やりません!僕らの負けです。すいませんでした。 どうか、どうか許して下さい。」 真っ青な顔をしてハルカに許しを請う。 「もう2度とこんな真似しない?また同じような事をしたらその時は。わかってるわよね。」 「はい!絶対にやりません。2度とこんなバカな真似はしません。神に誓います。 すいませんでした!本当にすいませんでした!」 土下座せんばかりに深々と頭を下げる。 ハルカは無言でリングを降り、出口へと向かった。 と、何かを思い出したように振り返り、声をかける。 「ねえ。」 「はっ、はい!」 直立不動で返事をする2人。やっぱり許してもらえないのか、俺らも制裁を受けることになるのか。 恐怖で震える2人に対し、ハルカの掛けた言葉は意外なものだった。 「竹村さんと加藤さん、早くお医者さんに見せてあげて下さいね。」 「ハルカ~どこ行ってたのよ?もう休憩終わってるよ!」 「ごめん、ごめ~ん」 ハルカはコートを見る。メンバーみんなが元気に飛び跳ねては、アタック、レシーブを繰り返している。 やっぱりこれだ。バレーボールはこうじゃなくっちゃ。 殴ったり、殴られたりとかそんなの大っ嫌い。 もう2度と、バレーボールの技で人を傷つけたりなんかしない。絶対に。 みんなが笑顔になれる楽しいスポーツ。それがバレーボールなんだから。 「ちょっとハルカ、なにニヤニヤしてるのよ。なんか良いことでもあった?」 ハルカは澄み切った笑顔を浮かべてこう言った。 「先輩 やっぱりバレーボールって最高ですね!」 バレーボール編 完
https://w.atwiki.jp/niconico2nd/pages/497.html
正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE- ◆F.EmGSxYug 夜、晴れ。星が瞬き、月が輝く中。地上でも、新たな星が生み出され、ぶつかり合っていた。「ハァ!」ベジータの蹴りが、ブロリーへ叩き込まれる。しかし無意味。腹部を狙った回し蹴りは、ブロリーの掌によって逸らされる。そのまま脚を掴もうとする魔手をもう片方の足で弾き飛ばしながらバク転。距離を開けたベジータに対し、ブロリーは焦ることもなく悠然と歩を進める。――ブロリーは、なんらラウズカードを使っていない。ただライダーシステム・ブレイドアーマーを身に纏っているだけ。身体能力強化と防護以外の機能を真っ当に活用しようとはしない。そもそも、支給品を有効活用しようという発想がブロリーにはない。しかし、それでも十分に過ぎた。意気揚々と突っ込んだベジータであったが、少しずつ来た道を戻りつつある。位置的にも精神的にも、着実に圧されつつあった。ベジータとて、本来ならば惑星を砕く程度容易く出来る。だが、ブロリーはその惑星を従える太陽であろうと容易く吹き飛ばすだろう。どちらも星だ。だが所詮、地球など太陽より遥か小さな天体であるように……一対一では、勝てない。それがブロリーに対する者に課せられる世界の摂理。「くそったれェェエエ!!!」かと言って、今更退く事などできはしない。ヤケ気味に、ベジータは両手からエネルギー弾を連射し始めた――。■『ともかく、私をあそこで倒れているあの紅い髪の女性に渡してください』一方、ベジータについてくる形で到着した美希に対し……事情を単刀直入単純明快に話した後、マッハキャリバーはそう話を結んだ。「わかったの。よくわかんないけどわかったの!」『どっちだ』美希の言葉にツッコミを入れるディムロス。ちなみに美希のゆとり日本語をわかりやすく日本語訳すると、「事情はまだ把握しきってないけどやるべきことは分かった」である。美希が走り出そうとした矢先、妙な悲鳴が響き渡った。「ほわぁあ!!!」「え?……わわ!」慌てて首をすくめる。自分の頭の上数mを、見事にベジータが吹っ飛ばされていったのだ。そして、それを追っていくブロリー。それに焦りを見せたのは、ディムロスだった。『あの方角は……まずいな』「どういうことなの?」『あちらは南、つまり来た方向。サンレッドたちがいる方角だ。 このままでは動けないサンレッドも巻き込まれてしまう』「ええ!?」『ともかく今は脚を進めろ。 これを渡してから先回りしてサンレッドたちの所へ戻り、危機を知らせるしかない』「でも、今のサンレッドさんを戦わせるのは……」『確かに奴は無理だ。だがいるだろう、まだ戦える「彼女」が。 三対一にしてなんとかサンレッドが休んでいる場所から引き離すしかあるまい』「あ、そうか、おにぽんがいたの!」ぽん、と美希は手を叩く。問題は、いかにブロリーの目を掻い潜ってサンレッドたちがいる場所へ先回りするかだが……それはこの夜闇とベジータに賭けるしかない。覚悟を決め、美希は走り出した。■無数のエネルギー弾が突き刺さり、ベジータの目前で煙が巻き上がる。ブロリーの姿がそれに紛れて消える。しかし、それも一瞬。すぐに鎧を纏った巨体が煙の中から現れ、その豪腕を振るった。例えガードしていても、その衝撃は抑えきれるものではない。ベジータが地面に叩きつけられた、その時だった。 「決闘準備!」 『Standby, ready. Drive ignition』 周囲に、はっきりと分かるほど湧き上がる気の流れ。左之助には魔力やそういったものがなかった。彼はあくまで、ただの喧嘩屋だ。だから、純粋に身体能力を補助する道具としてのみマッハキャリバーを使えた。だが、美鈴は違う。自分や周囲に流れる気を制御し、自分の体に流し或いは打ち出すことなど彼女にとって基本中の基本。そう――例えば、亀仙流や鶴仙流のように。「ようやく復帰しやがったか……モタモタしやがって」「……チッ」ベジータの表情に希望が戻り、ブロリーが盛大な舌打ちをする。振り返り、走り始めた美鈴目掛けて気弾を放つブロリー。だが、美鈴は止まらない。それどころか、自分の足元に呼びかけた。 「加速して!」 『Gear Second』 身を屈めながら、紅の影が滑る。気弾はその上を通り抜け、無駄に爆発した。 更に連射力を上げるブロリー。だが連射性に気を割けば当然それだけ威力は弱まる。 それを待っていたといわんばかりに、美鈴は静止して両腕を回した。 「――水形太極拳」 『Protection and Revolver Shoot』 「何ィ!」 それはまるで悠久なる長江の如く。 美鈴が生み出した気にブロリーの弾幕は飲み込まれ、逆に美鈴が打ち出す気弾の糧となる。 咄嗟に回避行動を取ったその巨体に、尚も追尾し食い下がる美鈴の気弾。 それに苛立ったものの、こちらにばかりかまけているわけにはいかない。 なぜなら。 「ビックバン・アタッーク!!」 背後で構えている敵が、いるのだから。 水形太極拳を左腕で弾き飛ばすと共に、素早く向き直って右腕をベジータへと向ける。 月光よりも明るく闇を照らす超新星。それが篭手とぶつかり合い、火花を散らす。 「ヌァァァァァアアアアアアアア!!!」 大地を揺るがすような声を響かせて、ブロリーは右腕を振り上げた。水形太極拳と同様、ビックバンアタックはあらぬ方向へと弾き飛ばされた。だが無駄ではない。ブレイドアーマーの右腕部分に、はっきりとした亀裂が入っている。いける、とガッツポーズを美鈴が取った一方で――対照的にベジータの顔は渋かった。(……このままでは、足りん!)ブロリーの実力を誰よりもわかっている彼だからこそ、わかる。このままでは、あの鎧を破壊しきる前にこちらの気が尽きる。ベジータに作戦はある。これが決まればブロリーであろうと確実に倒せるという手が。しかしそれは最低限、美鈴と会話しなければできない。そして、そんな隙などブロリーが与えはしない。(ならばどうにかしてブロリーの奴をぶっ飛ばし、隙を作る!)そう覚悟してベジータは突進した。美鈴も同じタイミングで突っ込んでいく。速度上先に到達したベジータが右正拳を叩き込むが、それは剛腕一本で容易く止められる。ごく僅かにブロリーは踏ん張った、それだけ。びくともしない。だが、構わない。遅れて接近した美鈴にもう片方の腕をブロリーが向ける、その前に彼女は一手を打つ。「黄震脚!」「ヌッ!?」強靭な踏み込みに、地面が割れる。逆転の発想だ。ブロリーが崩れないなら、地面を崩してバランスを崩させる――!予想外の事態にブロリーは姿勢を戻そうとする。それはほんのコンマ数秒。一方で美鈴は崩れない。否、震脚による踏み込みこそが次の一撃へと繋がる。咄嗟に手を出したブロリーの懐へ潜り込み、低い姿勢から繰り出すは裡門頂肘。しかし……腹部を狙った一撃は、ブロリーが素早く出した蹴りに止められた。それどころか、その凶脚は肘を弾き飛ばして彼女の顔面目掛けて奔っている。「この、足癖の悪い――!」倒れこむような形で、美鈴はそれを避けた。いや、倒れてはいない。左腕を地面に突いて体を浮かせ、そのまま腕一本で体を支えつつ右足を振る。斧刃脚。敵の左脛に吸い込まれるように命中したそれは、ブロリーのバランスを更に崩した。そこで顔目掛けて動くベジータの左腕。響く渡る、仮面が軋む鈍い音。だが、30mは吹き飛ばすつもりで打った一撃は僅かに6mほど後退させるに留まった。この程度の距離では、作戦会議したところで丸聞こえだ。(く、全力で叩いてコレか…… やはり計算は当たっている……どうやっても、俺達の体力が足りん!)荒い息を吐きながら、ベジータはそう結論せざるを得なかった。脇では美鈴が口から血を流している。言うまでもない、ベジータが来る前の戦闘によるダメージだ。それに対し、仮面でブロリーの呼吸ははっきりとは聞こえないが……それでも、荒くはない。「クク、どうした? 追撃してこないのか……?」(クソッタレが! わかっていて挑発してやがる!)ブロリーの言葉に、ベジータが歯噛みした瞬間。突如、ブロリーの上半身が大きく仰け反った。ベジータが振り返ると、そこにあるのは一人の少女の姿。「……サイコキネシスでこれとは」騒ぎに気付いたおにぽんが、慌てて駆けつけてきたのだ。美希とはちょうど入れ違いの形になったが、それも逆に功を奏した。美希が呼ぶよりも、かなり早くここに来れたのは間違いない。ベジータにとっては、千載一遇のチャンスと言っていい。「女! ここに来い、今すぐにだ」「女じゃなくておにぽんですが……」「30秒でいい。時間を稼いでブロリーの注意を引き付けろ」「難しいのか簡単なのかよく分かりませんね」やれやれと言った様子で歩きながらも、おにぽんは命令通りブロリーの前に進み出る。それに対して笑い声を上げたのは、ブロリー本人だった。 「ククク、そうかァ。ならば貴様は15秒で殺してやろう」 「……難しいみたいですね」おにぽんがさいみんじゅつを放ったのと、ブロリーがそれを無視して突っ込んだのは同時だった。ナッパですら餃子の超能力を容易く無効化するのだ。ブロリーに催眠術程度が通じるはずもない。とっさに回避行動を取ったおにぽんだが、間に合わず腕を派手に殴り飛ばされる。それを見ているベジータは支援に入ることもせず、すぐに美鈴に駆け寄った。「そっちの女。話がある」「女じゃなくて紅美鈴で……」「そんなものはどうでもいい、時間がないんだ!」美鈴はむっとしたが、ベジータは完全に無視して話を進める。彼の言葉に対し、美鈴が質問する時間などなかった。 10秒フラットで吹き飛ばされたおにぽんが、脇に叩きつけられたのだから。 「く、ここまでとは……聞いたな! あとは俺の話したとおりにやれ!」「ああもう、本当に頼み方が下手よね……やれっていうなら、やるけど!」 『Ignition. A.C.S. Standby』 響くリロード音。重傷に鞭打って、美鈴は走り出す。バリアジャケットなど展開しない。している時間も余力も知識もない。細かい制御はデバイスに任せて、美鈴は最大速度でブロリーへと突っ込んでいく。それを撃ち落とそうと放たれるブロリーの弾幕。その隙間を潜り抜け、蛇行しながら美鈴はマッハキャリバーと共に走る。「背水の陣だッ!!!」「蝿の真似の間違いだろう……すぐに叩き落としてやる」更にブロリーが弾を追加しようとした瞬間、美鈴の脇を閃光が走りぬけた。ベジータが両手に気を集中し、ギャリック砲を放ったのだ。ふん、とだけ息を吐いてブロリーはそれを払いのけた。その隙にマッハキャリバーは最大加速し、再度敵の懐へと潜り込む!「――紅砲」 『Knuckle Duster』 奔る気。そこにマッハキャリバーによって上乗せされる魔力。近代ベルカ式と気の混合は、こと身体能力強化においては普段以上の力を発揮する――!とっさにブロリーが展開したバリアと、リボルバーナックルは激しく衝突した。だがブロリーは強い。ナックルが弾かれる。止めない。弾かれた勢いのまま半回転。美鈴は体勢を戻し、マッハキャリバーは先ほどぶつかり合ったバリアの波長を計算する。そのまま低い姿勢から蹴り上げられる鋼鉄の蹄! 「天龍脚ッ!」 『Barrier Break』 「ヌゥ!?」 音もなく砕け散るバリアに、ブロリーが息を呑む。 障壁を突き破ったマッハキャリバーは、そのままブロリーの左足とぶつかり合った。 バリアが持たないと直感的に知って、とっさにブロリーも反撃に出たのだ。 交差する飛び蹴り。鏡合わせにブロリーの左脚と、美鈴の右脚がぶつかり合う。 あまりにも強烈な衝撃に、逆に美鈴の肋骨が軋む。 美鈴の表情が歪んだ、その瞬間。 「ッ!!!」 『protection』 勝ち誇った笑みを崩さぬまま、ブロリーは同時に左腕でエネルギー弾を三発放っていた。マッハキャリバーが展開していたバリアごと、突撃してきた方向へ美鈴は蹴り戻される。土煙が巻き上がり視界が遮られる。それを意に介さず、再び土煙から現れるあざやかな紅。ブロリーがそちらへ掌を向ける、そこで突然マッハキャリバーは急ブレーキを掛けた。「くく……いまさら怯えでも……?」ブロリーの言葉は、美鈴が跳躍した瞬間に途切れる。彼には土煙と美鈴の鮮やかな髪に隠れていたベジータの姿など、見えてはいなかった。ましてやベジータが右手から投げつけた、気円斬など。――現在のブロリーに掛かっている制限は三重だ。そして気円斬は戦闘力一万程度のクリリンでさえ、戦闘力百万以上の第二形態フリーザに傷を負わせられるほどの技。制限によって戦闘力差が大幅に縮まっている今ならば、気円斬は確実に通じる!目くらましは成功した。完璧なタイミングで飛行する気円斬。ブロリーの脚は止まっている。勝った、とベジータが思考した瞬間、悪寒が走った。気円斬の制御を放棄してベジータは飛ぶ。蹴りと共に放った気弾のうち、美鈴を吹き飛ばしたのは一つだけ。残り二つは土煙の中へ潜んだ後に時間差で動き出し、先ほどまで美鈴とベジータがいた場所をそれぞれ粉砕していた。その衝撃で気円斬の軌道はズレ、ブロリーの右太股を掠めて虚空へと消えていく。「そんな……」「女、避けろ!」「っ!?」ベジータの声に、美鈴は着地と同時に地を蹴った。ベジータと反対側へ。更に追ってきたエネルギー弾が美鈴の左太股を掠める。痛みに美鈴は声を漏らしかけたものの、ブロリーが更に追加した気弾を視界の隅で捉え、そんな暇など無いと気付かされた。マッハキャリバーに魔力を流して、走り続ける。回避のための回避。攻撃に再び移る隙など皆無。向こうでは回避に成功したベジータが、次の回避に移っていた。一度放った以上、同じ技を使えばブロリーは警戒するだろう。あの場で仕留められなかったのなら、このままでは勝機は無い。先ほどのような奇襲はもう通じない。だけど、それでも――。「おにぽん、フレイム」声が響いた。そうこの場には、もう一人いた。倒れていたおにぽんが放ったかえんほうしゃが、ブレイドアーマーを包み込む。だが。「大人しくしていれば苦しまずに済んだものを……!」ブロリーはおにぽんの攻撃に何ら苦痛を見せず、ただ冷酷に気弾を撃ち返した。かえんほうしゃは容易く押し返され、五秒を待たずに消えた。そして、気弾は消えない。受ければ彼女は死ぬ。代償は、ほんの一瞬の静寂。気弾の雨が止む台風の目。おにぽんの姿が見えたのは美鈴だけ。だからそれを見逃さなかった美鈴が掛けた。轟く轟音。砕け散るおにぽん。それさえも加速するための材料にする。未だ余裕を崩さない男の懐に潜り込んで狙い打つはただ一点、ブロリーの腹部。作戦会議のときに聞いた、アーマー越しでも容易く致命傷になるであろう場所。加速したまま、拳を全力で振り上げる。 そこで美鈴は気付いた。敗因は気弾が掠めた左太股だと。 真正面、至近距離、攻撃態勢に入った瞬間に、ブロリーは美鈴に視線を戻した。戻してしまった。 距離にして30cm、時間にして一秒もない、傷による遅れ。それが明暗を分けていた。 とっさにマッハキャリバーがカートリッジをロードする。だが無意味。 腹部を狙ったはずの一撃は、素早くブロリーが回避行動に移ったことで右太股へと突き刺さる。 そこは、先ほど気円斬が掠めていった箇所。アーマーが切り裂かれた場所に、美鈴の拳は直撃した。 確かに大きな打撃だった。確かに鈍い、骨が折れる音がした。――けれど、それは決して、致命傷などではなく。続いてカウンターの形で放たれたエネルギー弾。それが、美鈴を吹き飛ばしていった。「貴様ァ!!!」べジータが絶叫する。仲間意識があるわけではない。所詮、ほんの少し前に会ったばかりの仲だ。しかし、自覚する間もなくベジータは叫び、掌に気を集めていた。その髪はいつも以上に逆立ち、金色に染まっている。「ザコどもが、やってくれたな……加減もなく、消し飛ばしてくれる!」「手加減できるならしてみろ。その瞬間貴様を宇宙のチリにしてやる」同時に、ブロリーの気もまた膨れ上がる。足首だけでなく太股まで完全に折られてしまった右足は、紛れもなく大きな損失だ。もはや完全に使いようにならない。彼が苛立つのも当然と言える。逆ギレに近いが。ブロリーが片腕を向けるのを確認しながら、ベジータは思考する。勝算があるとすれば、美鈴が与えたダメージ、そして疲労の二つ。あれだけ気弾を連発してきたブロリーが、スーパーベジータの全力を込めた攻撃を押し止められるのか。それが勝算。「ファイナル──」「……フン」「──フラァァァァシュ!!!」怒号にも似た叫びと共に、ベジータが合わせた掌から光が放たれる。同時にブロリーも掌から小さな気弾を放ち……それは、ファイナルフラッシュに激突した瞬間巨大化した。この会場において最強である二人の力が激突し、地面が割れる。舞い上がった岩は容易く蒸発し、周囲はまるで真昼のような照明に包まれていく。目が眩むほどの閃光の中で、ベジータはファイナルフラッシュが圧され始めたのを見た。この状態にしてこれほどまでの気を保てるならば、勝算などない。ブロリーに、衰えなどありはしなかった。ファイナルフラッシュを飲み込みながら、緑色の流星がベジータへと迫る。金色になっていた髪が黒に戻ったベジータを、流星は飲み込んでいく。――横から圧倒的な熱量が突撃してきたのは、その時だった。ベジータの視界の端に、突如太陽が割り込んだ。それは心強い見た目の通りに、ファイナルフラッシュで威力の鈍ったギガンティック・ミーティアを押し止めた。「――次から次へと、小ざかしい蝿どもが!」大技の打ち合いに、ようやく息を荒げ始めたブロリーが顔を歪ませる。地面に倒れこみながら振り返ったベジータの先。正義の味方が、そこにいた。「サンレッドさん、戦っちゃ駄目って……!」「んなことはどうでもいいんだよ! それより、ベジータの奴を頼む」「え……で、でも」「返事!」「は、はいなの」襤褸切れのようになったスーツ。元から赤い外套は、己の血が更に紅に染めている。明らかに傷が癒えていない。明らかに回復していない。それでも歩いていく。フン、とブロリーはそれをあざ笑った。「脚一本奪った程度で、この俺を倒せるとでも思って」「何言ってやがる。思ってるに決まってんだろ」「いるのか何ィ!?」「ベジータ達は命がけでそこまで戦果を挙げた。なら、俺はそれに応えないわけにはいかねぇ。 俺はサンレッド――ヒーローだからな!」「クズ共が、次々へと…… 貴様らが何度来ようと俺が負けることはないと言うことを教えてやる……!」「教えるのは俺のほうだ。しっかりとお前に叩き込んでやる。 ――怪人は最後に必ずヒーローに倒されるってお約束をよ!」■「まいったわね、全く……」月下、寒村に一人残された咲夜は一人でため息を吐いた。休んでから一時間。それであっさり静寂は破られた。ここに響いてくるくらい派手な戦闘音に、サンレッドはすぐに反応した。それより無理やり押し止めて、おにぽんを行かせるということで納得させたのが三十分前。そして入れ違いで入ってきた美希が戻っていた際、咲夜が目を放した隙にサンレッドが抜け出したのは二十分前になる。「……もう少し、私が強いってことを言っておけば無茶はしなかったかしらね?」失策にため息を吐く。サンレッドたちに自分のことは「投げナイフが得意なメイド」程度のことしか言っていない。時間を操ることや「傍に立つもの」についてはノータッチだ。だから、サンレッドが咲夜の戦闘力を低く見積もっているが故に無茶な行動に出た可能性は十二分にある。「さて、どうするべきか」最早疑うまでもない。今戦っている相手はブロリーだ。咲夜としては、言うまでもなくあんな化け物と戦うのは金輪際御免だ。しかし、聞く限りでは結構な数の参加者がブロリーと戦っているらしい。もしかすると、これがブロリーを倒せる最後のチャンスということもありうる。(その場合、私も戦闘参加するしかないのだけど……さて。 行くとしたらせめてフジキをある程度回収してから行きたいところね)考え込む咲夜は知らない。彼女にとって真の失策は、誰が戦っているのか美希に聞かなかったことだという事実に。■ブロリーの弾幕を避けながら、サンレッドは疾走する。光景だけみれば何かのヒーローショーのようだし、ある意味その一種ではある。違うのは、悪役が本当に宇宙を破壊しかねない存在であるということだが。(ち、なんとか近づかねえといけねぇけどよ……!)狙うは接近戦。右足の機能停止。ブロリーの機動力低下は見るまでもなく明らかだ。片足の喪失を最大限にサンレッドが活かせるのは、ブロリー相手の場合接近戦だ。ブロリー相手に離れているなら、例え後ろにいたところで気弾が襲ってくるだろう。故に、それを撃たせる暇もなく攻撃できる位置が望ましい。だがブロリーも本能的にそれを避けようと、小さな気弾を連射する。呼吸が荒くなってきているとは思えない量に、サンレッドは辟易しながら毒づいた。(まだ、やっと疲れが見えてきたって段階なのかよ。奴のスタミナは底なしか!?)持久戦になれば先に体力がなくなるのはサンレッドだ。一時間休んで回復したのは、僅か三分程度戦えるだけの体力。なんとしてもそれまでに、ブロリーに一撃を加えなくてはならない。いっそ特攻でもするか……そう思い始めたサンレッドの目の前で、突如ブロリーの右足に爆発が起こった。「く、死にぞこないが……!」「……へっ」痛みで転倒しかけながら顔を歪ませ、横を向くブロリー。そこでは、精根尽き果てた様子で倒れこむベジータと、慌ててそれを支える美希がいた。「……あの野郎……まともに動くことさえ出来ないだろうに、無茶しやがって……」嬉しそうにぼやきながら、サンレッドは走る。最後の気力を振り絞って、ベジータが気功波を放ったのだ。当然、それを見逃すサンレッドではない。ブロリーの弱点、右側から一気に詰め寄る。最早なんども行われた接近。しかし、今までのそれとは大きな違いがある行為。「ち、貴様らごときがこのカワイイ!ベルトとこの俺を破壊することなど!」「ふざけんな。俺にはわかる。 そのアーマーは、そこに居る人を守りたいという思い…… 人を愛するということを知っているヒーローが使ってきたものだ」構える。今までブロリーが接近戦に勝利できたのは、脚が動いていたから。ブロリーの強みは耐久力だけではなく速度。類稀なる反射神経とその移動速度が、美鈴とベジータの攻撃を潰してきた。しかし、右足が潰され、更に僅かだが疲労が噴出した今、それは大幅に減衰している。故に、防御は間に合わない。「お前に、そのスーツを着る資格なんざねえッ!!!」単純極まりない正拳突き。前の戦いで、ブロリーには二つの大きな傷があることをサンレッドは見ている。一つは腹。一つは首。ブロリーがどちらを防御しようとするか。サンレッドにとってそれは賭けだった。彼はブロリーが腹を防御することに賭け、首を目標とした。賭け金は、ここにある全ての命。その、結果は――「オラァ!」「グ……ハァ!」首元のブレイドアーマーを粉砕しながら、サンレッドの拳がブロリーの首に叩き込まれた。吹き飛ぶブロリー。だが……これは決して、ヒーローの勝ちを、意味しない。(……笑っていやがる、だと!?)サンレッドは見た。ブロリーの表情が、勝ち誇った笑みに染まっている。理由は単純だ。彼にとって、これは想定の範囲。勝利への道筋。ブロリーはまだ首に攻撃されても持ちこたえられると判断したからこそ、腹を防御した。そのまま宙へと浮かぶ。左手に緑色の光を集めながら、ブロリーは空へ上っていく。飛び道具を撃つつもりか。そうサンレッドは予測し、腰に力を入れた。この程度の高度ならば、ジャンプして飛び掛れば簡単に引き摺り下ろせる。しかし、それを見越したようにブロリーは嘯いた。「接近していいのか?」「……? 何言ってやがる?」「お前は無事だが、後ろの二人は粉々だぞ? ククク……」「!! テメェェェェエエエ!!!」ブロリーの言葉に、サンレッドは歯軋りした。禍々しい剛腕は、既に美希達の方へ向いている。美希はただ体が伸びるだけ。世界チャンピオンのような力は持っていない。気絶しているベジータを運んで走るような体力など、持ち合わせてはいない。彼女がブロリーの攻撃を避けることなど、どうやっても無理だ。「そこでじっくり、俺がパワーを溜めるのを見ているんだな…… お前達はとっておきで葬り去ってやる……フハ、フハハハハハハハハ!!!」ブロリーらしい単純かつお粗末だが、同時に凶悪な作戦。舌打ちしながら、サンレッドは美希達のところへ駆け寄った。敵が撃ち出すのは、今まで連射してきたような低威力のものではない。おそらく連射力や消耗を度外視し、パワーだけを重視したもの……ベジータのファイナルフラッシュを容易く打ち消した、ギガンティック・ミーティア。サンレッドの思考がめまぐるしく回転する。体力も限界近い。今……自分に出来ること。それを、走る数秒で考え。たった一つ思いついたことに苦笑しながら、サンレッドはブロリーを見上げた。「やっぱ、みんなを助ける手段はこれしか思いつかなかった……」「え?」「美希……だったっけ? ベジータをしっかり掴んでくれ、離すなよ。 お前の体ならちょうどいい感じのクッションになるだろうからよ」「???」顔を動かさないまま、美希の傍らで足を止め。彼女の方を見ずにサンレッドは話す。その様子から、彼の考えに気付いたのはディムロスだった。『……我を使え、サンレッド。 あれだけ多数の者が命を賭けて我だけが命を賭けないなどという道理はない』「そうか。付き合わせて、悪ィ」「わ、ちょっと!?」そう呟くと同時に、サンレッドは右腕でディムロスを受け取って。同時に、左腕でベジータごと美希を抱きしめた。「終わりだ、チリ一つ残さず消し飛ばしてやる!」「もし内田かよ子って女に会ったら、すまねぇっていっといてくれ」ブロリーが気弾を放つのに合わせて、そう呟くと共に。サンレッドはベジータ諸共、全力で美希をブン投げていた。「え、え……!?」美希が混乱する中、ブロリーの気弾がサンレッドと衝突した。死ぬ。修造の言葉さえ忘れて、美希の頭の中が埋め尽くされる。希望も熱血も何もかもなくして、迫る緑光を目の当たりにする。だというのに。その破壊から離れていく美希でさえ絶望するというのに。サンレッドは怯まず、その破壊に対して剣を叩きつけていたのだ。投げられた勢いのまま宙に浮きながら、美希はその姿を見た。光で僅かにしか物体を視認できないこの場で、全ての視線を縫いとめるという矛盾。星を砕く暴力をその身一つで受け止める、あってはいけない奇跡。だが、それを起こす存在が、正義の味方が、そこにいる。ブロリーの放った気弾。それを、サンレッドは自分の体とディムロスで受け止めていた。その光景を目に焼き付けながら、気弾が引き起こした暴風と共に美希はその場から離れていった。■サンレッドが美希とベジータを強引な手段で逃がしたのは、ブロリーも確認している。だが追えない。追うはずもない。目の前で起きている、事態ゆえに。「……な、なんて奴だ!?」その光景に、ブロリーすら畏怖すら覚えざるを得ない。同然だ。銀河をも吹き飛ばすかの一撃を、身一つで受け止めるなど誰が信じられよう?「チィ!」余裕は消える。掌に全てを注ぎ込む顔は、今まで決して見せなかったものだ。今の自分にある全てをかけなければ、この敵を倒すことはできないと。ブロリーですらそう思わざるを得ないほどの奇跡が、目の前にある。だからこそ、注意は完全にサンレッドだけに向き……ブロリーは右腕目掛けて飛んできたそれに、反応できなかった。スパリと響く、軽い音と――同時に、ブロリーの右腕が、落ちた。「な、なにぃ……!?」振り返るブロリー。そこには、左腕と左脇腹を失いながらも、かろうじて生き残っていた美鈴が横たわっていた。ブロリーへ、右腕を向けて。――気円斬。先ほどの一戦でベジータの使っていたそれを見た美鈴は、それを自分なりの形で模倣し、気をまとめ、放ったのだ。不可能なことではない。難しいことでもない。彼女の扱う能力は気。修行さえ積めば、かめはめ波だって撃ってみせる――!「貴様ァ!」その気性故に、ブロリーはとっさに残った腕で美鈴へ向けて気弾を放つ。炸裂する新たな気弾。だが、その間にサンレッドへ放たれた気弾の圧力は消えていき。素早くサンレッドへ向き直った瞬間、首に何か熱いものを彼は感じた。「……ァ?」ブロリーが声を上げようとしても、できない。それどころか、呼吸すら。混乱したまま、ブロリーは地面に叩きつけられる。見下ろす自らの首に、折れた剣が突き刺さっていた。ブロリーの攻撃に耐え切れず折れたディムロス。それを、よそ見した隙にサンレッドが投げたのだ。ルガールが与えたその傷にディムロスだったものは深々と刺さり、致命傷を与えた。(――ふざけるな! たかが首を貫かれた程度で、この俺が死ぬものか!)ブロリーが吼える。いや、吼えようとする。だが出来ない。傷は気管を両断して塞いでいる。いかにサイヤ人と言えども、呼吸できなくては生存できない。彼が力を込めていたはずだった気弾は、サンレッドとディムロスによって虚空へと消えていた。やがてブロリー自身も膝を付く。それでも、顔を上げた。サンレッドが仁王立ちしたまま、彼の無様を見下ろしている。(まだだ……俺が死ぬはずなど……な……い……)それでも消えゆく意識の中、立ち上がろうともがく。最後まで自分の死を受け入れられないまま、ブロリーの意識は潰えた。■「ベジータさん、しばらくここで隠れてるの!」駅の一室にベジータを隠して、美希は再び走り出す。彼女の疲労も、かなり大きなものになっていた。大人一人を抱えて走ったのだから当然だ。ほとんど引きずるような形になったとは言え、完走しきっただけ彼女は褒められていい。それでも彼女は休むことなく、サンレッドたちが戦っている場所へ向けて再び走る。だが、駅から出た後目的地にたどり着く前に。「ちょっと待って。戦いならもう終わってるわよ」通りがかったメイドに、話しかけられた。「あれ、えーと……」「咲夜よ。十六夜咲夜」「美希は美希なの。終わったって、どういう……」「死んだみたいね、ブロリーは。遠目で確認しただけだから、まだなんとも言えないんだけど」「本当なの!?」「だから、遠目で確認しただけよ。近づきたくないわ。 もし生きてたりしたら怖すぎるもの」渋々、と言った様子で美希は頷いた。確かにその気持ちは美希にも理解できる。死んだと思ったブロリーが動き出す様子は、美希も簡単に想像できた、というかしてしまった。お化け屋敷が幼稚園児の遊び場に見えるような体験が出来るに違いない。「そっちの質問は終わったようだし、こっちから質問していいかしら。 ……この帽子の持ち主。まさか、ブロリーと戦っていたの?」そう言って、咲夜は拾ったらしい一つの帽子を取り出した。飾りとして星のあるソレを。それは美希にも見覚えがある。自分がものを渡した相手なんだから当然だ。……そして、美希は、彼女がブロリーを殴った後吹き飛ばされるのを見ていた。だから、それで彼女は死んでしまったと思っていた。結論は間違っていない。過程は誤認しているが。「どうなったの?」「……それは、その」「……そう。死んだのね」それだけ言って、咲夜は俯いて押し黙った。月下に、重苦しい沈黙が数秒続いた後、それに耐え切れずに美希は口を開く。「知り合いなの?」「一応、ね。 ……ほんと馬鹿。私達が誰のために命を掛けるべきかさえ、忘れるんだから」目を閉じて、呟く咲夜。月が僅かにその影を照らす。一瞬その言葉に美希は首を傾げたが、疲労と焦りからすぐに考えるのをやめた。やめて、しまった。「咲夜さんは、しばらくそこにいていいの。後で一緒にお墓作るの。 じゃ、私はまずサンレッドさんが無事か確かめに……」「いいえ、確かめる必要はないわ。 だって貴女は、死ぬんだもの」え、と美希が声を上げる暇もない。咲夜の背後に雄雄しいヴィジョンが現れ、そして。時は、止まった。………………………………「――そして時は動き出す」気が付けば、美希は喉に大穴を開けてその場に倒れこんでいた。(……なんで?)かろうじて残った意志で視線を動かすと、咲夜がナイフの血を拭き取りながら、美希のデイパックから食料を回収していくのが見えた。(……なんで、なの?)何一つ確認できないまま、美希の視界は永遠に閉ざされ。咲夜はそれを意に介することなく、その場を歩き去っていった。絶対に、振り返らないと心に決めて。一緒に戦いの場に戻ってから美希を殺せば、より多くの道具が手に入っただろう。たくさん出た死者から、道具を奪えただろう。けれど、咲夜はそれをしなかった。理由は簡単だ。――美鈴の遺体を見たくないからだと、咲夜自身がよく分かっていた。■「うっわー」遅れること数十分。ブロリーたちが殺しあった場所に、ひょっこり姿を現す姿が一人。アカギに散々玩具にされまくったフランドール・スカーレットである。アポロの血を吸ったことである程度傷は治ったとはいえ、依然として精神的にはかなり不安定だったのだが……かなりイライラしていた彼女の頭を冷やすものがそこにはあった。言うまでもなく、ブロリーの遺体だ。彼女はそろそろと、様子を窺うように歩み寄っていく。「死んでる……んだよね。やったのは……」ぽんぽんと死体の頭を叩いた後、次にフランが向き直ったのは、立ちっ放しのサンレッドだった。「ねー。あなたがやったのー? ねー、聞いてるー!? ……なんか様子がおかしいなぁ」いくら叫んでも反応を見せないサンレッドに、首を傾げながら近づいていく。そのままつつくと、サンレッドだったものはあっけなく倒れていった。――そう。彼は既に、死んでいた。それでも立ち続けているのは、類稀なる強靭な彼の遺志か、あるいは奇跡か。ヒーローはようやく戦いの終わりを知ったかのように、月に照らされながら地に落ちた。「……ブロリーと相打ちになったのかなぁ。凄いや。 あ、そういえば持ってる道具でなんか撃てば凄くなるのが……」彼女の言葉は途切れる。暗闇に飲み込まれるように消えていく。だってそれは当然だ。呟いているうちに、見慣れたものを見つけたのだから。「……うそ」声にも、歩調にも、先ほどまでのような暢気な様子はない。ただ、愕然としながら、足を進めていく。「うそ、だよね」足が止まる。フランに付いて来た影も同時に止まる。星の光も、雲の流れさえも。星が照らし出されていた川の前に、それはあった。紛れもない――紅美鈴の、遺体が。戦いが、終わっても。殺し合いはまだ、終わらない。 【サンレッド@天体戦士サンレッド 死亡】 【紅 美鈴@東方project 死亡】 【ブロリー@ドラゴンボールZ 死亡】 【星井美希@THE IDOLM@STER 死亡】 ※それぞれ死亡者が持っていたものはそれぞれの遺体の側にあります。 但し美希のデイパックからは食料が抜き取られています。 またおにぽんとディムロスは破壊されました。 sm202 Inanimate Dream 時系列順 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm202 Inanimate Dream 投下順 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm193 熱血と冷静の間 サンレッド sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm201 LIMIT BREAK 紅美鈴 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm201 LIMIT BREAK ブロリー sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm201 LIMIT BREAK 星井美希 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm193 熱血と冷静の間 十六夜咲夜 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm201 LIMIT BREAK ベジータ sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm194 アポロ13 -そして誰もいなくなるか? フランドール・スカーレット sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表)
https://w.atwiki.jp/shinmanga/pages/365.html
ちだまりスケッチ ~殺人遊戯~ ◆Yue55yrOlY 美しく、規則的に形取られた結晶体が、眠りから覚めたばかりの穢れなき瞳に映る。 魂魄すら融かしてしまいそうな、純白の粒子が曇天の空から零れ落ちていた。 普段の喜媚であれば、初めて目にした珍しいものを驚きと喜びを持って観察し、遊ぶように真似をしてみせただろう。 だが、今。 喜媚の瞳は雪など見ていない。 ただ、映しているだけだ。 その視線は、雪などよりもっともっと珍しい物を、食い入る様に捉えていた。 ◇ 眼下の光景に、喜媚は珍しく溜息をついた。 寝ている間に、あのお喋りな妖精を、見た事のない女の子が絞め殺してしまっていたのだ。 喜媚が先に眼を付けていた、あの妖精を。 (この子、妖精さんをどうするつもりなのかなー?) 不覚にも眠り込んでしまう前。 喜媚は、この世にも珍しい妖精を酒に漬け込み、妖精酒を作って姉に献上する心づもりであった。 出来れば生きたまま酒の中に放り込み、その生気に満ちたエナジーを酒の中に溶かし込むのが最上ではあったが、 こうなってしまってはしょうがない。 死骸でもいいから、喜媚はどうしてもあの妖精が欲しかった。 だが…… こういう事は、早いもの勝ちなのよんと、姉はよく言っていた。 姉の物となってしまった獲物に手を出そうとして、よく叱られた記憶が脳裏を掠める。 先に妖精を見つけたのは喜媚だったが、居眠りしてしまった隙に得物を仕留めたのはこの女の子だ。 であれば、妖精の所有権はこの女の子にある。 それを横からかっさらうような真似をしたら、お行儀が悪いと叱られてしまうだろう。 だけどもし、この子が妖精の死骸なんて要らないのであれば…… 所有権を放棄して、どこかに行ってしまうようであれば…… それをこっそりと拾い上げ、自分の物にしてしまおう。 そう思って喜媚は、このように女の子の目前で、じーっと黙って見ていたのだが…… 女の子は汚液に塗れた妖精を布地で包みこむと、大事そうにデイパックへと仕舞ってしまった。 やはり、何かの呪術にでも使うつもりなのだろうか。 再び、残念そうに溜息をつく喜媚であったが、その頭上にピコンと電球が閃く。 (そーだ! お友だちになって、分けて貰っちゃえばいいんだっ☆) 見れば、あの理緒や亮子、そして喜媚ともさほど年の違わなさそうな、小さな女の子であった。 横からかっさらうのは良くない事だが、お友だちになって譲ってもらうのは礼に叶っていると言えないだろうか。 そうだ。 姉も喜媚を厳しく叱った後は、蕩けるような微笑みと共に、獲物のお裾分けなどをよくしてくれたではないか。 (姉サマ待っててっ☆ 喜媚、珍しいお酒を作って持って行きっ☆) その発想に思い至った瞬間、喜媚は酷寒の空気を引き裂き、迫りくる殺気を感知する。 その凍てつく殺意の行く末は喜媚ではなく、目前の女の子。 放っておけば一瞬の後には柘榴のように顔面が弾け、理緒のようになってしまうだろう。 だが喜媚の中に、自分で仕留めた人間の死骸ならともかく、死人の財産を奪うなどというさもしい考えは存在しない。 先ほど考えた通りに少女の友人となり、妖精の死骸を譲ってもらうために…… 喜媚は少女の運命を変える事にした。 《風さん》に変化していた右手を、ちょいと動かす。 それだけで少女の眼前に迫っていた銃弾が、強固な風の壁に阻まれて弾かれ、石畳に突き刺さり破片を巻き散らかす。 続いて飛んできた次弾を、左手を振るう事で進路を変え、少女の身体から逸らす事に成功。 初撃をやり過ごした喜媚は、魔弾の射手の行方を探して目を眇める。 こういう弾を飛ばす銃という武器の特性は、以前亮子を慰める時に使った人間と遊んだ時に知っていた。 宝貝による射撃武器などとは違い、まっすぐにしか飛ばない武器だ。 だから射線の遥か前方に必ず射手がいる事を、喜媚は確信し―― 次の瞬間、後ろから聞こえた声に気を取られた。 「おいっ! 隠れろ、そこのあんたっ!」 そこにいたのは、見知らぬ少年と、彼に担がれた見知らぬ青年。 血の臭いをぷんぷんさせた彼らに気付かなかった事に一瞬驚愕した喜媚であったが、 彼らに攻撃の意思がない事を、すぐさま見てとった。 だが、その確認に回した時間は致命的だった。 三度飛翔した銃弾を、此度は防ぐ事が出来なかったのである。 身体をくの字に曲げ、喜媚が守り損ねた少女が苦悶の声をあげる。 (あ☆ 喜媚、失敗しっ☆) 疲れのせいであろうか。 思わぬ不覚を取ってしまった喜媚であったが、幸い女の子の負傷は深くはなかったようで、 転身するとわき目も振らずに逃走を始めた。 とはいえ、《風さん》に変化したまま追走する喜媚が 「大丈夫?」 と声を掛けても、女の子は無反応。 否、反応する余裕もないのだろう。必死な形相で腕を振り、怪我も気にせず限界までピッチを早めて走る少女の 様子がさすがに心配で、喜媚はこっそりと風となった身体を絡み付くように寄り添わせ、銃創の具合を確かめてみる。 そこには喜媚の視線を遮る物は、何もなかった。 左の肩ひもが切れた事で、濡れそぼり質量を増した服がズリ落ちて、片側だけ柔肌が露出してしまっていたのだ。 この天候下において、あまりにも軽装な少女は胸を保護する下着すら付けてはおらず、その足が大地を蹴りつける度に、 けなげに肉付いた小ぶりな乳房が、激しく上下に弾む。 問題の銃創は、その左乳房の下の方にあった。 喜媚は診察する。 その、微粒子すらも真似してしまう、神懸かり的な眼を持って、観察するように――診察する。 どうやら弾は上手く肋骨の隙間を貫通し、臓器からの出血もない様子であったが、それでも 銃弾が肉体を貫通した傷は浅くはない筈だ。 5.56ミリ弾によって穿たれた穴からは、ジュクジュクと赤い汁が滲み出て、血と汚物に塗れた服を更に赤く染めていく。 人間ならば、すぐに手当てが必要だろうと思い、喜媚は少女の手にびっしりとこびりついた妖精の粉に着目した。 伝承によれば、妖精の粉はどんな傷にもよく効き、これを治すという。 ならばと、喜媚は気流となった身体を操り、少女の左手を患部へと上手く誘導した。 一旦傷口の存在を意識させれば、あとは簡単だった。 銃創をしっかりと手で押さえて、気忙しく後ろを振り返りながら走る少女は、もう安心だろう。 神秘の秘薬が傷口に染み渡り、たちまちの内に肉は盛り上がり、皮が張るはずだ。 喜媚は再び女の子に声を掛けて、姿を顕そうとし…… なんだか、鬼ごっこみたいで面白いかもと感じて、それを止める。 (もうちょっとだけ、このまま遊びっ☆) それは喜媚が、未だにこの島で起こっている殺し合いのゲームを理解していなかったからであり―― 遊びが大好きな子供のまま、永遠に時を止めた妖怪仙人だったからである。 ◇ 油絵の具で、黒々と塗り込められたような木立ちの合間を少女は駆け抜ける。 視界の隅をよぎる、老婆のように腰の捻じれた幹は、柳の木であろうか。 無計画に乱立しているはずの森の樹が、並木道のように整然とした細い路地を作り出している有り様は、 まるで木々が動いて、少女に道を譲っているかのようであった。 パックの殺害…… 突然の襲撃…… そして、変わり果てたグリフィスとの邂逅…… さまざまな出来事が、一斉に起こりすぎて思考の処理が追いつかない。 ゆのは、もう何も考えられず、ただただ生存を訴える肉体に突き動かされるがまま、逃避行為に専念していた。 開けた土地とは異なり、密集した背の高い木々の屋根に覆われた森の黒土は、未ださほど雪の浸食を受けてはいない。 雪の積もる所を避け、柔らかな腐葉土を蹴り飛ばして走る少女の速度は加速度的に増していく。 立ち止まってなどいられない。 転んでなどいられない。 カモシカのように軽快に、小柄な少女は山の斜面を、一心不乱に駆け下りる。 しかし、その好条件はゆのを追跡しているかもしれない襲撃者とて同じ事。 ゆのは、背後が気になった。 追いかけてきた襲撃者が、すぐ後ろにいるかもしれない。 誰かが、追いかけて来ているかもしれない。 それは、先ほどの襲撃者かもしれない。 それは、最初に出会った不死の魔獣かもしれない。 それは、出会い頭に彼女の腕を切断した少女かもしれない。 それは、旅館で彼女を羽交い締めにした屈強な腕かもしれない。 それは、異端の価値観を彼女に示した、狐目の錬金術師かもしれない。 それは、彼女の攻撃で命を落とした、二人の男たちの亡霊かもしれない。 それは、そのとばっちりで重傷を負ってしまった、グリフィスかもしれない。 それは、どこまでも伸びてくる腕を持つ、あの恐ろしい女たちの目かもしれない。 それは、この島での彼女の行為を弾劾する、愛すべき世界の人々なのかもしれない。 「――ッ」 高まる恐怖心に、思わず後方を確認しようと身体を捻った時。 偶然、手が脇腹を掠めた。 恐怖と興奮で、忘れかけていた痛みが蘇る。 先ほど脇腹を貫いた、灼熱と衝撃の記憶が蘇る。 恐る恐る、その場所をそっと手で押さえてみた。 凍えた手に、ぬちゃりとした熱い感触があった。 熱いぬかるみが、そこには出来ていた。 (あ……もしかして私、銃で撃たれたの?) 興奮して、頭に昇っていた血の気が引いた。 ゆのはあまり血生臭いような番組は見ないが、家族や友達と一緒に見るTV番組や映画などでは、銃で撃たれると 死亡シーンへと繋がるのが常であった。 少女の意識の中に、自身の冷たい死のイメージが広がる。 誰もいない、こんな寂しい所で冷たく息絶える自分の姿が。 身体中の血を流し尽くして、痛みと恐怖を味わいながら、ゆっくりと死んでいく自分の末路が。 (撃たれた……? 私、撃たれた……? 私、死……いやだっ!) しかし、だからといって、足は止められない。止まらない。 今、止まってしまったら……背後から忍び寄ってくる何かから、逃げられなくなってしまう。 怖い、恐ろしい何かに、捉えられてしまう。 本当に――死んでしまう。 「ハァハァ……ハァッ!!」 だから、痛みを堪えて傷口をしっかりと手で押さえた。 これ以上、血が流れてしまわないように。 まだ逃げ続けるために。 とはいえ、傷を自覚した少女の足取りは、先ほどまでより明らかに鈍い。 しきりに振り返りながら、よたよたとふらつくようにして、それでもゆのは懸命に走る。 何度も、振り返る。 背後に、敵影などは見えない。 先ほどから感じる何かが追いかけてくる気配など、ただの気のせいで本当はとっくに敵からは逃れられているのではないか。 もう休んでもいいのではないか。 そんな弱い考えが脳裏に浮かぶも、すぐにゆのはその考えを振り払う。 考えるまでもなく、これまでの敵襲は全てゆのには察知しえるものではなかったからだ。 魔獣との出会いも。 腕を切断された時も。 旅館で男に捕まった時も。 トイレで手に捕らわれた時も。 さきほどの狙撃も。全て。全て。 ゆのは、この島での自分の弱さを、嫌になるくらい熟知していた だが、果たしてどこまで走れば振りきれるのだろうと、絶望にも近い感情がゆのの心に忍び寄る。 傷口の手当もしなければ本当に死んでしまうし、なによりも、もう体力の限界だった。 足は靴ずれを起こしたように痛いし、筋肉も疲労を訴えて張り詰めている。 心臓が爆発してしまいそうなほど、激しく鼓動を刻んでいた。 そんな状況の中、急に森が開けて、ゆのの目前に大河が立ち塞がった。 こんこんと降り続ける雪が、河の水に溶けて流れてゆく。 水流同士が激しくぶつかり合う音がその場に響きわたり、白く濁った渦が巻く。 昼間よりも増水し、凄まじい激流となって冷水が流れる川は、到底人が泳いでは渡れるものではなかった。 ゆのがカナヅチだという事実を、差し引いたとしても。 ここで、行き止まり。 逃避行の終わりに、足が止まった。 だというのに、絶望に濁りかけていた少女の瞳に、光が戻る。 それは助かったという想いから来る、希望の光だった。 ◇ 宝貝・混元珠を使い、河を渡り切った少女の姿が、向こう岸の森の中にあった。 早鐘を打つ心臓の動悸を落ちつかせながら、先ほどまで自分がいた辺りを、茂みの中から用心深く見渡す。 ――誰もいない。追ってくる人など、いなかった。 その事実を確認し、ゆのはようやく乱れた息を整える。 こんな悪天候の中で、ほとんど半裸にも近い姿を晒しているというのに、身体が燃えるように熱かった。 全力疾走に近い運動で、1キロ近くも走っただろうか。 極度の貧血と疲労で、草むらの上に倒れ込みそうになるのを意思の力で支える。 肉体はとても休息を欲していて、そのまま寝てしまいたかったが、まだ、ここで倒れるわけにはいかなかった。 最低限、傷の手当てをしなければならない。 脇腹を押さえた手が、血と汗にぬめっていた。 ゆのは、ごくりと息を飲み込むと、意を決したように傷口を押さえていた手をどかしてみる。 取り出したペットボトルの水を混元珠で操り、血まみれの脇腹を洗浄する。 覚悟していた、水の染みる痛みはない。 そこは既に肉が盛り上がり、銃創の跡を残すだけとなっていたからだ。 「……え? どうして……?」 思わず、戸惑いの声を漏らす。 この島では、本当に不思議な事ばかりが起きて、ゆのにはわからない事だらけで…… だから解答など出るはずのない疑問に、どこからともなく聞こえてきた声が答えた。 ――キャハッ☆ あなたの仕留めた、妖精さんの鱗粉が傷を治しっ☆ 「だ、だれっ!?」 ――いいな、いいな、妖精さんいいなっ☆ 喜媚もソレ欲しいなっ☆ くすくす、くすくすと、風は笑う。 幼女のような無邪気な声が、森の中を木霊する。 ゆのの唇が、わなわなと震える。 やはり、追われていたのだ。 やはり、振り切れていなかったのだ。 正体不明の何者かが、その辺りにでも隠れているのか。 視線をきょときょとと彷徨わせても、人影など見つからない。 頼りの混元珠を胸に抱きしめて、ゆのは小さな身体を巨木の影に隠す。 「どこ……どこにいるの?」 縞々模様の雪雲に遮られ、弱弱しく輝く太陽は既に西の空に落ちようとしていた。 昼間でも薄暗かった森の中は、いよいよもって見通しが悪く、そこかしこに何かが潜んでいるようで―― 木の影から、辺りを窺うゆのの目には、周囲が一転してお化けの巣のようにも見えた。 すぐ近くの大木の影に―― ついつい見過ごしてしまいそうにさり気なく茂った叢に―― 土が落ち窪んだ小さな起伏の中に―― そこも、あそこも、あそこにも―― もう、限界だった。 「――ッ!!」 すぐ傍の河から、水で出来た巨大な槍が幾本も飛来する。 混元珠によって操られた槍は、まるでミサイルのようにゆのの思い描いた場所へと着弾し、 大質量を持ってして周囲の障害物を、次々と薙ぎ倒していく。しかし―― ――キャハハッ☆ すごいすごいっ! パオペエしょーぶで喜媚と遊びっ? ☆ その内の、どこからでもない場所から再び声が響いたと思った瞬間、ゆのの周囲を凄まじい烈風が渦巻いた。 木の枝がへし折られ、木の葉が舞い散り、降り積もっていた雪がドサドサと雪崩落ちる。 「キャアアァァーーーッ!!」 思わず手で頭を覆い、縮こまるゆのであったが、外傷はない。 だが正体不明の敵の攻撃に対し、ゆのの心は完全に折れてしまった。 デイパックと混元珠を引っ掴むと、木の影から飛び出す。 先ほどの逃走に、勝るとも劣らないスピードで、ゆのは再び逃げ出した。 ◇ 薄暗くなった山道を、まろぶようにして駆け下りる。 実際何度も転び、膝小僧を擦りむきながらも、狐に追い立てられる野兎の如く少女は逃げる。 だが、野兎を保護してくれる茨の茂みなど、この島のどこを探してもないだろう。 目の端に涙が滲む。 ――キャハハッ☆、キャハハッ☆ ひゅん。 笑い声と共に風切り音が鳴り響き、近くの木が切断される。 粉雪を巻き散らかしながら、倒れる木を見てゆのは張り詰めた太腿に再び力を込める。 ゆのの足が止まりそうになる度に、何度も繰り返されるデモンストレーション。 ただの脅しだ。 敵は遊んでいる。それくらい、ゆのにも判る。 だが、だからと言って足を止められるはずがない。 止めたら、次は何をされるかわからない。 切断される大木の姿は、次の瞬間の自分の姿なのかもしれないのだから。 まるで、いつまでも終わらない鬼ごっこ。 鬼に追われるこどもは、どこまでも逃げ続けるしかないのだろうか。 ――キャハハッ☆、キャハハッ☆ 風鳴りのような、笑い声が止まらない。 敵は一体どこにいるのか。 それすらもわからない恐怖に、ゆのの背中は追い立てられる。 姿さえ現わせば、■してやるのに。 … …… ………今、一瞬。 とても良くない事を、ごく自然に考えたような気がして、ゆのは頭を振るう。 気がつけば、もう随分、山の麓のほうまで降りてきてしまった。 薄く雪の積もった平坦な道を、足を引きずるようにして走る。 本当は、山の上から遠目に見えた街のほうに行きたかったのだが、微妙に進路が逸れてしまったのか。 夕闇に灯り始めた街灯の明かりは、随分と遠くに見えた。 そんな風に集中力を切らせて、朦朧とした意識のまま走っていると足下に転がる何かに蹴躓いて、ゆのはまた転びかけてしまう。 なんとか堪えようと、たたらを踏むゆのの服を、誰かが後ろから掴んで支えた。 「ヒッ!?」 心臓を、鷲掴みにされたようであった。 これまでにない展開に、ゆのの身体が硬直する。 今まで散々に追い回された、正体不明の敵に、ついに捕まってしまったのか。 「いやあああああああっ!!」 絶叫と同時に手に持ったデイパックを、後ろに向けて振り回す。 だが、それは誰にも当たらずに、空を切った。 反動でビリビリと、掴まれていた服の背中が破れて、ゆのの身体がバランスを失う。 スリップするように半回転して、雪原の上に尻もちをついた。 広げた脚の間から迸る飛沫が、純白の雪のキャンバスに黄色い放物線を描く。 シュワシュワと雪の溶ける音がして、白い水蒸気と共に強いアンモニア臭が立ち昇った。 ゆのは肩で息をしながら、破れた服の切れはしを放心したように見ていた。 それはただ、服が木の枝に引っ掛かっただけの事だった。 極限まで張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、恐怖に凝り固まっていた顔が弛緩する。 張りを失った右の肩紐が、肩から腕にゆっくりと滑り落ちると、ゆのの背筋がぶるりと震えた。 「ん……はぁ……はぁ……」 一瞬の虚脱状態から立ち直ったゆのは、追手の存在を思い出し、けだるげに周囲を見渡す。 そして、気付いた。 自分が先ほど躓いた物の正体に。 周囲の、異常な状況に。 まず、躓いた物の正体だったが、これはうっすらと雪に覆われた、人間の女の子の死体だった。 考えてみれば、自分で殺した妖精の死体を数に入れなければ、これがゆのが生まれて初めて見たヒトの死であったが その心は自分でも驚くほどに平静であった。 既にその程度では動じないほど、ゆのの心は摩耗していた。 だが、それは綺麗に弔われた死体であったからかもしれない。 続いて見た異常な光景は、写真のように鮮明に焼き付いて、死ぬまでゆのの頭から離れる事はないだろう。 やや離れた所に転がる、見慣れた臙脂のスカートからにょっきり伸びた長い脚。 少し雪が積もっていたとはいえ、いつも見ていた造形のそれを、美術科のゆのが見間違えるはずがない。 だが、いつも快活に躍動していた下半身の、赤黒い断面から先にはあるべき上半身がなかった。 だから、ゆのにはその無惨な遺体が本当に彼女なのか信じられなくて――信じたくなくて。 知りたくもない答えを探して、虚ろな瞳を彷徨わせる。 白く染まった世界には、同じように下半身だけとなった死骸が三つ、転がっていた。 狙ったように失われた上半身は、果たしてどこへいったのか。 実は、それらはずっと、ゆのの視界に入っていた。 単に、認識出来なかっただけだ。 だって、想像もつかない。 子供が七夕の笹を飾りつけるように、木の枝に、人の臓物を飾り付けるだなんて。 粉雪を纏わりつかせた、白く脱色したぶよぶよしたものが、かつて人だった物だなんて。 ――けれども。 ゆのの背が届かないくらい、高い枝に引っ掛かった一本の腕に、見覚えがあった。 木の幹に、皮膚ごとへばり付いた金の髪に、見覚えがあった。 沈む夕暮れが、白い世界を赤い光で覆い隠す。 今もぽたぽたと、滴り落ちる赤い雫で、降り積もる雪が真っ赤に染まる。 かき氷のような白銀の大地に、赤いシロップを垂らしたような景観が、一つの歪んだ世界を作り出していた。 眼球に焼きついた光景を、脳が処理する前に、肉体が反応した。 悲鳴をあげる間もなく、酸っぱい胃液を、再び雪の上にぶちまける。 内容物なんてほとんど入ってないそれは、少し血が混じっていた。 泣きながら、吐きながら、ゆのは理解していた。 こんなミンチになった肉と臓物が、あの太陽みたいに明るい親友の成れの果てであることを。 追われていた事すら忘れて、少女は目前の光景に慟哭する。 後ろで軽くステップを踏む誰かの足音にも、気付く事もなく。 ◇ 酸鼻を極めるはずの光景の中、ロリータファッションに身を包んだ三つ編みの少女が楽しげに踊っていた。 思いがけず戻ってきてしまった場所で、怖い男の事を思い出して周りを警戒していた少女であったが、 どうやら男はどこかへと去ってしまったようだった。 四不像を取り戻せなかったのは残念だが、あの男とはどうも相性が悪すぎた。 姉の協力を得て、改めて取り戻すより他にはないだろう。 とりあえず今はその事は忘れて、新しいお友だちと面白おかしく遊ぼうと喜媚は思った。 鬼ごっこは、とても楽しく遊べた。 次は何で遊ぼう。 材料たっぷりのこの場所で、楽しくお料理ごっこでもしようか。 姉から教わった、とりとめもない遊びの候補がいくつか思い浮かぶが、喜媚ははたと、大切な事に気が付いた。 まだ、お友だちの申し込みをしていない。 テヘッと、自分の頭を小突いてから喜媚は剥き出しの背中を丸めてうずくまる少女に声を掛ける。 あなたのお名前、喜媚に教えてッ☆ 喜媚とお友だちになりッ☆ と。 ◇ 頸動脈を伝わる拍動を感じる。 首の肉に、細い指が食い込んでいた。 子供特有の、高い体温が凍えた手に心地いい。 体勢はマウントポジション。自分と大差ない体格の相手に、馬乗りになって首を絞める。 抵抗はない。 実にすんなりと、当然のように、ゆのは喜媚の首を絞めていた。 なぜと問うように、喜媚は純真な瞳でゆのを見上げる。 それを無視して、激情のまま更に手に力を込めた。 当然ながら、小さな妖精の首を握りつぶした時のようにはいかない。 少女は全ての腕力、全ての体重をかけて、全力で雉鶏精の首を締めあげる。 声を掛けてきた少女に気付くなり、飛びかかった。 恐怖も、躊躇いも麻痺していたのかもしれない。 姿の見えなかった敵が、こんな小さな女の子だった事には驚いたけれど。 友達になろうだなんて、皮肉かと思い腹立たしくなった。 あの、友達になろうと言ってくれた妖精を、ゆのがどうしたのか知っているくせに。 ここまで散々、嬲ってきたくせに。 ようやく廻ってきた千載一遇の反撃のチャンスを、逃したりはしない。 疲労を訴える全身の筋肉を叱咤して、ゆのはその指先に、全ての力を集中させる。 (殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ) 耳元で囁く、誰かの声が聞こえた。 誰の声とも判らない、その声にゆのは打ち震えながらも頷く。 (うん。殺すよ……死にたくないから――殺すよ。もう三人も殺してるんだから…… グリフィスさんだって、どうせあの怪我じゃ助からない。殺さなきゃ、生きられないなら、私は――) 先の放送までで丁度半分。最後の一人になるまで止まらない殺し合いは、確実に終わりへと近付いている。 なら、その終わりを自分の手で早める事に、何の不都合があるだろう。 パックを殺した。グリフィスも死ぬだろう。この喜媚という少女も殺せば―― それだけ自分の生存へと、近付く事になる。 (奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え) そうだ。温もりも、平穏も、生きる権利も、この島ではそれが欲しいなら奪うしかない。 椅子取りゲームと一緒だった。 生き残れる席はどんどん減ってしまうのに、遠慮して尻ごみしていては席を奪われてしまう。 そして席を奪われた者には、宮子のような悲惨な死が待っているのだ。 あんな死にかたは――嫌だった。 だから、生きるために、殺す。 とてもシンプルで、力強い答えに従い、ゆのは手の中の暖かな命を摘み取ろうとし―― 喜媚が、首を絞められたまま笑っている事に気が付いた。 ――くすくす、くすくす 締め付けていたはずの首が、圧し掛かっていたはずの身体が、一瞬にして消え去る。 体重を預けていた対象の喪失に体勢を崩し、倒れ込むゆのの後ろに、喜媚は再びその姿を現した。 「キャハッ☆ 面白かったッ☆ 今度は喜媚がやりッ☆」 「あ……え……?」 攻守交代。 振り向いたゆのの身体に、今度は喜媚が圧し掛かる。 すっかりはだけて露わになった半裸の少女のお腹の上で、喜媚は先ほどのゆのの行為を再現する。 ギリギリと、指がゆのの首に食い込んだ。 「最初は苦しいかもしれないケド……その内、お花畑が見えりッ☆」 「ぐっ……!? い……やぁ……」 物騒な事を言う喜媚の腕を、ゆのは必死になって振りほどこうともがく。 腕を掴み、身体を捻って暴れるゆのの身体を、困ったような顔で抑えつけていた喜媚であったが、 ついにはその腕を爪で引っ掻かれた事によって、手を離してしまった。 ゆのは、ふいごのように胸を大きく膨らませ、解放された気道からひゅうひゅうと酸素を取り込む。 凝固した血で汚れた髪が、脂汗に濡れた頬に張り付いた。 「BOO! BOO! 反則だよッ☆ よーし、それなら……ロリロリロリったロリロリリンッ☆」 言葉と共に、喜媚の身体が煙の中に消えると、急にゆのの腹部に圧し掛かる重量が増した。 せっかく肺に溜め込んだ酸素が押し出される。 圧し掛かられているだけで、呼吸困難なほどの重みだった。 何事かと煙の向こうに目を凝らすゆのが見たのは、黒衣に身を包んだ片目の大男の姿。 吊りあがった闇色の隻眼が、まるで獣の眼のようだと、ゆのは思った。 悲鳴をあげようとしたが、声も出ない。 僅かに、あ……と弱弱しい吐息が漏れた。 驚愕に目を見開く少女の首に、冷たい鉄の腕が掛けられると、前にも増して凄まじい力で締め上げられる。 首の骨が折れそうなほどの力に、一瞬にしてゆのの顔色が青紫色に変化する。 お花畑など、見えるはずもなかった。 ただ苦しくて、ガリガリと立てようとした爪が、鋼鉄の腕に阻まれる。 スカートが下腹部まで捲れ上がる事も厭わず、男に組み敷かれた体勢で足を踏ん張り、膝蹴りを打ち込む。 ビクともしなかった。 蜘蛛の巣に捕えられた蝶のように、ゆのは為す術もなく首を絞め続けられる。 やがてゆのの抵抗が止み、緩慢に投げ出された脚が痙攣し始め、白眼を剥きかけた所で―― 急に腹部と首の圧迫感が消えた。 「ゲホッ!! ゲホゲホッ!!」 激しく咳き込み、ゆのの意識が回復する。 いつのまにか男の姿は元の三つ編みの少女のものに戻っており、その視線は傍にある少女の遺体へと向けられていた。 「……忘れてたッ☆ ヒトはすぐ壊れるから、遊ぶ時は手加減しッ☆」 よく出来ましたと言わんばかりに、えっへんと喜媚は胸を張る。 何を考えているのか、わからない。 わからなかったが、反撃するなら今しかなかった。 荒い呼気を整えると、ゆのは腹の上に乗っかる喜媚の脇の下に、器用に太腿を折り畳んで足を差し込む。 そして、一気に跳ね上げて、喜媚の身体を押し退けた。 「わわッ☆」 「ハッ、ハッ、――ッ!! うわあああああアアァァァッ!!」 その勢いのまま起き上がり、喚きながら身体ごとぶち当たる。 急に消えたり、姿を変える。喜媚の操るわけの判らない力。 次にそれを使われたら、今度こそどうにもならない。 尻もちをつかせた喜媚の背後から、抱きつくようにして密着し、腕を首に回す。 俗に言う、チョークスリーパーの体勢である。 喜媚は、この期に及んでまだ楽しげに笑っていた。 (殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ) (奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え、奪え) 「お願い……」 耳鳴りが五月蠅かった。 全身全霊で殺しに集中しなきゃいけないのに、頭の中で喚かないで欲しかった。 もう言われなくても、やるべき事は判っている。 「お願いだからッ!」 可能な限り早急に。 この少女の息の根を止める。 その為には酸欠になるのを、待ってなどいられない。 チマチマ頸動脈を押さえて、意識を奪ってなどいられない。 「もう、死んでよぉーーーーーーーーーっ!!」 全身の力を、胸の中に抱きしめた頭に掛けて。 か細い喜媚の首を、一気に捻った。 ゴギッ!! 嫌な感触を腕の中に残して、喜媚の全身から力が失われる。 稼働域を超えて回転した、喜媚の顔と向かい合う。 笑顔のまま、輝きを失った瞳の中に、自分の顔が映った。 陰鬱な瞳に、極度の倦怠感が浮かんだ酷い顔だった。 ぼさぼさに乱れた髪の印象も合わさり、ゆのは一気に十は年を取ったような気がした。 ◇ しばらくは動く気にもならなくて、いまだ温かな喜媚の遺体に寄り掛かり暖を取っていたゆのだったが いつまでもそうしては居られない。 そろそろ遠くに見える街まで移動しようとして、喜媚から離れたゆのは、肌寒さに胴震いする。 何せ今や身につけているものは、腰にまとわりつくボロ切れのような服だけで、切れた肩紐の部分を結び合わせれば まだ着られるかもしれなかったが、汚れに汚れた服を着続ける気にはならなかった。 それに比べると、喜媚の服はとても暖かそうだとゆのは思う。 ゆのは知らない事だったが、変身の度に素粒子レベルで再構築された喜媚の服はほとんど新品も同様であり、 この雪の寒さにも充分対応出来るだけの生地の厚さに作りかえられていたのである。 一つ頷くと、ゆのは辺りを見渡してから、木陰に隠れて服を脱ぎ捨てる。 べしゃりと、重たげな音を立てて、それは雪の中へと埋もれた。 この日、最後の太陽の残光に照らされた血溜まりの中で、ゆのは濡れたハンカチを制服の中から取り出すと身体を拭い始めた。 【胡喜媚@封神演義 死亡】 【F-3/森/1日目/夕方(放送直前)】 【ゆの@ひだまりスケッチ】 [状態]:疲労(極大)、貧血更に進行、頭部に爪による切り傷、後頭部に小さなたんこぶ、首に絞められた跡、倫理観崩壊気味 [服装]:全裸、髪留め紛失 [装備]:混元珠@封神演義 [道具]:支給品一式×3(一食分とペットボトル一本消費)、イエニカエリタクナール@未来日記、制服と下着(濡れ)、パックの死体(スカートに包まれている)、エタノールの入った一斗缶×2 [思考] 基本:死にたくない。 0:休みたい。 1:人を殺してでも生き延びる。 2:壊れてもいいと思ったら、注射を……。 3:宮子の遺体は……。 [備考] ※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。 ※切断された右腕は繋がりました。パックの鱗粉により感覚も治癒しています。 ※ロビンの能力で常に監視されていると思っています。 ※イエニカエリタクナールを麻薬か劇薬の類だと思っています。 時系列順で読む Back 孤独の王/終わらない唄(後編) Next 残酷な神が支配する 投下順で読む Back 孤独の王/終わらない唄(後編) Next 残酷な神が支配する 146 C3 -Cube×Cursed×Curious- 胡喜媚 GAME OVER 152 雪が降る ゆの 164 全て呪うような黒いドレスで
https://w.atwiki.jp/bmrog/pages/1639.html
【GM】 1d 【Dice】 bako_GM - 1D = [1] = 1 【GM】 いつもダイスに感謝を!! 【GM】 【GM】 まずは自己紹介ときゃらしーとおねがいします! 【累】 「黒井累だ、よろしく頼む。まだまだ新参者だが精一杯頑張らせてもらう」 【累】 「ん?性こ…っっ!?わ、私がそんな淫売だと思っているのか!し、しし、失礼にも程が有るぞ!」 【累】 http //www.usagi-o.sakura.ne.jp/TRPG/wiki/wiki.cgi/HC?page=%B9%F5%B0%E6+%CE%DF%A1%CA%A4%AF%A4%E9%A4%AF%A4%E9%A1%CB 【累】 真面目な黒髪ポニテ巫女です!よろしくお願いします! 【GM】 そんな、真面目で清楚で穢れの無い、神社の娘・・・生娘である累ちゃんがヒロインとして指名された任務がありました・・・それは~~~ 【GM】 【GM】 【GM】 HeroineCrisisTRPG くらくら!「【色狂い】お清め巫女・累!チンカスアーマー解放戦線!【1回目】」 【GM】 軍団「ストリーミング・ショウ」シナリオ開始です。 【GM】 http //www.usagi-o.sakura.ne.jp/TRPG/wiki/wiki.cgi/HC?page=%A5%B9%A5%C8%A5%EA%A1%BC%A5%DF%A5%F3%A5%B0%A1%A6%A5%B7%A5%E7%A5%A6 【GM】 【GM】 【GM】 蔵鞍市:緊急隔離区画 【GM】 【GM】 あなた「黒井 累」は、所属するヒロイン互助会からの要請を受け、説明を受けている。 【GM】 最近発見された異質な魔物…ゴブリンはヒロインの攻撃を無力化し暴れ回っていること。 【GM】 大勢の少女達の犠牲から、魔物の肉棒にまとわり付く垢が薄まれば攻撃が通る事が判明。 【GM】 【GM】 ヒロインが犯されても薄まらない恥垢へ対抗する可能性を累の巫女の血筋に見いだした。 【GM】 恥垢さえ取り除ければ他のヒロイン達が参加する為、累の任務は恥垢を落とす事になる。 【GM】 魔物を取り囲んだ無数のヒロインが見守る中、魔物の肉棒から恥垢を落とす事になった。 【GM】 ▽(RPどうぞ~♪ 【累】 「な、何で私がこんなっ……い、いや、ココで逃げて一体何のためのヒロインだ…私にしか出来ないんだ、やるしかないっ…」巫女の血筋だというだけで指名された累だが、自分にしか出来ないと慣れば拒否する選択肢はなく、命じられたままにゴブリンに相対します。 【累】 ▽ 【GM】 雌の臭いに惹かれ現れたのは紫の肌にはげ頭、鷲鼻に不揃い牙を持つ、不浄なゴブリン。 【GM】 だが、最初に目撃された時は小さな子供サイズだった身体が今や2m超えの巨躯に成長。 【GM】 太い腕と指、でっぷりとした腹の下にある、下穿きを押し上げる肉棒も体格に見合う巨大さ。 【GM】 勃起し始めれば包茎ながら、その表面を覆う恥垢の量だけで吐き気を催すほどの量があった。 【GM】 累は同じ年頃の少女達の目の前で、そんなきたならしい肉棒を相手にしなければならない! 【GM】 ▽(RPどうぞ♪その後戦闘開始だ! 【累】 「くっ…ひどい臭いだな…っ……醜い化物め……私達で倒してやる!この専用の装具でお前は終わりだ!」そう言って作戦前に手渡された勾玉を巫女服にしっかりと装着する…それと同時に累の体に変化が起き始める。 【累】 「え…な、何だこれはっ…!?な、なあっ!?私の胸がっ!?っく、ふぅっvvv」胸が一気に膨れ上がるようにたわわに実っていき、スラッとしたバランスの取れた体が視る間に不釣り合いになりそうなほどの巨乳に変貌していく。そして巫女服にじんわりと広がったシミは累の母乳によるものだった。 【累】 「っっ~~~!!vvvvっ、い、行くぞ!覚悟しろっ!」甘い声を出してしまいながらも必死にこらえ、自らの任務を遂行しようと巨大ゴブリンへとその歩みを早めていくのだった。 【累】 ▽ 【GM】 巨大化したゴブリン・・・ホブゴブリンとなった元ゴブリンは、目の前に現れた雌の急に肉付きのよくなった身体に舌なめずり。 【GM】 それだけでにちゃあっと生理的嫌悪感をひきだし、周囲で見守るヒロイン達が顔を顰める。 【GM】 そしてーーー下穿きをおおきくめくりあげると、、、じゅくじゅくvでろりvっとゼリーのような先走りを零し続け、うぞうぞと身震いする度にすえた臭いが広がる極太の肉棒が露になってーーーその巨体でのしかかろうととびついていく! 【GM】 【GM】 【GM】 戦闘開始!『SS』ホブゴブリン(Ro:IV04)&醗酵精液装甲術式(Kn罠/TP 50/任意/迷宮 乱打3)ガ相手だ! 【GM】 IVはそちらが先手だね!ターン開始で、そちらの開幕と行動どうぞ! 【累】 迷宮っ…!? 【累】 と、ともあれ突破を狙います! 【累】 知力で突破、能力値は5でアタッカーで+1 【GM】 きませい! 【累】 2d+6 【Dice】 B09_rui - 2D+6 = [5,5]+6 = 16 【GM】 TP50>34 ごっそりへった! 【GM】 表面のチンカスはしっかりとれたようだが・・・術式はまだ生きている! 【GM】 ホブゴブリンの攻撃! 【GM】 4d6+6 [闇]白兵/単体 《能 魔力撃 2》《補 ダークネスヒット 2》 ホブウゥ! 【Dice】 bako_GM - 4D6+6 = [4,5,3,2]+6 = 20 【GM】 20点の闇属性ダメージ!受動とアクトどうぞ! 【累】 腰で受けますっ腰破壊! 【累】 アクトは突き刺さる視線、初めてのキス、口辱で 【GM】 肉棒にすがりついたままの累ちゃんの袴をびりびりやぶいてしまったようだv 【GM】 ではーーーここからが本番! 【GM】 5d6+3+0 単体/乱打3 ダメージ+アクト数+魔物刻印*2 【Dice】 bako_GM - 5D6+3+0 = [1,6,5,1,6]+3+0 = 22 【GM】 22点のダメージ!更に操り人形の効果発動! 【GM】 このトラップへの突破以外できなくなり、次、このトラップに攻撃された時、自分で自分を通常攻撃だよ! 【累】 ほわぁっw 【GM】 突破しか出来ないーーーは 累ちゃんの任務の再現! 【GM】 そして、自分で自分を攻撃・・・はこういうことだ! 【GM】 【GM】 にちゃ、ぐちゅvずりゅ・・・累が必死にゴブリンの肉棒・・・大きさに似合わない包茎チンポの表面からチンカスを取り去った時だ。 【GM】 傍目には判らない、累だけが感じる違和感・・・肌に、粘膜に、口に手に顔に、はじめてのキスを捧げてしまったチンポから目が離せない、それどころか、もっともっと、この肉棒に奉仕しなくてはいけないーーーそんな思いがわきあがってしまいます! 【GM】 こんな催眠術に似た効果ガ現れます・・・! 【GM】 【GM】 ターン更新・・・!そちらの行動・・・突破をどうぞーv 【累】 22店のダメージの受動とアクトとかはありなのかしら? 【GM】 あ、、しまった!ごめんまだだったねv 【GM】 ダメージ処理後、そちらの行動もどーぞv 【累】 胸で受けて破壊されるっ 【累】 汚された肢体、晒される柔肌、つい見てしまう で 【GM】 はあいv これでアクト6つだね! 【累】 じゃあ知力で突破しますっ 【累】 2d+6 知力突破 【Dice】 B09_rui - 2D+6 = [1,6]+6 = 13 【GM】 TP34>21 まぁまぁへったが・・・このペースはギリギリだね! 【GM】 そしてー 元気なホブゴブリンも攻撃! 【GM】 4d6+6 [闇]白兵/単体 《能 魔力撃 2》《補 ダークネスヒット 2》 【Dice】 bako_GM - 4D6+6 = [1,3,4,1]+6 = 15 【累】 あ、操り人形はどうしましょうかっ 【GM】 15点だーー! 【GM】 操り人形の自分攻撃は、罠の後 IV0のときだねv 【累】 はーい 【累】 HPに15受けますっ 【累】 アクトはなしでっ 【GM】 はぁいv 【GM】 ではーーー続けて罠! 【GM】 5d6+6+0 単体/乱打3 ダメージ+アクト数+魔物刻印*2《操り人形 18》《雌豚狩り 1》《誘惑 1》 【Dice】 bako_GM - 5D6+6+0 = [2,2,3,6,4]+6+0 = 23 【GM】 23てーん! 【累】 落ちてしまって…リザレクションっ 【GM】 らじゃーv リザ時のアクトはあるかな! 【累】 純血の証と強制絶頂で 【GM】 矯正絶頂のHPダメージ判定どうぞ! 【累】 2d+5 知力 【Dice】 B09_rui - 2D+5 = [4,6]+5 = 15 【GM】 耐えた! 【GM】 HP26満タンのまま蘇生できたーーーが 【GM】 操り人形の効果で、自慰と言う名のセルフ開発してもらうじぇ・・・! 【GM】 弓での通常攻撃を自分にドウゾv 【GM】 アタッカーもちだから2d6+3+1 かなv 【累】 2d+6+1 通常攻撃っ 【Dice】 B09_rui - 2D+6+1 = [1,1]+6+1 = 9 【累】 プレートで更に痛いのよ- 【GM】 そうだったv 【累】 ブレストだったw 【GM】 でも不慣れなへたくそ自慰のおかげか9点と最低だったね♪ 【累】 だ、だってしたこと無いんだもの!w 【GM】 ではそのまま突破どうぞーv 【累】 知力突破で 【累】 ポテンシャルを4つ使いますっ 【GM】 らじゃー!ギリギリを攻めるね!! 【累】 6d+6 知力突破 【GM】 おや? 【累】 んお? 【GM】 1d ダイスチェック 【Dice】 bako_GM - 1D = [3] = 3 【累】 ふりまーす 【累】 6d+6 知力突破 【Dice】 B09_rui - 6D+6 = [3,1,4,1,1,6]+6 = 22 【GM】 うごごごご! 【GM】 ぎりぎりだとおもったが足りてしまったk・・・! 【GM】 TP21 0 チンカスアーマー破壊! 【累】 あ、危なかったのだわ 【累】 でもチンカス突破! 【GM】 残るは無防備なホブゴブリンのみ! 【GM】 行動後の無防備累ちゃんを狙う! 【GM】 4d6+6 [闇]白兵/単体 《能 魔力撃 2》《補 ダークネスヒット 2》 【Dice】 bako_GM - 4D6+6 = [3,5,5,6]+6 = 25 【GM】 元気な一撃がv 【GM】 25てーん! 【GM】 惜しかった・・・! 【累】 ポテンシャルを2点使って…アヴォイドっ 【累】 って、出来るのかな、アヴォイドポテw 【累】 できそうだ 【GM】 できるよーv 【累】 じゃあアヴォイドは運動値だから4+2dかな 【GM】 ってそっか、ミルクだから-4で普通のアヴォじゃだめなのか! 【累】 ってミルクだった! 【累】 2d アヴォイドがんばえー 【Dice】 B09_rui - 2D = [2,3] = 5 【累】 ぷしゅー 【GM】 あらあらv 【GM】 -5されて21点・・・自慰さえなければ・・・でしたねv 【累】 キャインキャイン 【GM】 ではーーーお楽しみの致命表だ! 【GM】 堕落はないのでそのまま1d6+0でどうぞ! 【累】 1d6 【Dice】 B09_rui - 1D6 = [4] = 4 【GM】 おぉ? 【GM】 強烈な攻撃に失禁し、気が遠くなるが、意志を籠めて耐える。 【CP】を2点消費することで【HP】が1になり戦闘を続行できる。 【GM】 しないなら【HP】が1以上になるまで[能動][補助]行動を行えない。仲間がいなければ行動不能になる。 【GM】 CP2 あるかな? 【累】 CP残り…1点っ 【GM】 あっ・・・(察し 【GM】 ではーーー気力ガ足りずに、そのまま失神することになったようだ! 【累】 くふっ… 【GM】 ではーーー軍団効果だ!! 【GM】 ☆敗北ヒロインを更に&徹底的に貶めるスレ:調教室&責め具一式相当(捕縛):[▼] 敗北したPCのSP+4。解説:敗北ヒロイン対しての責めが書き込まれるスレ。 【GM】 ☆MCで肉壷化を目指すスレ:洗脳部屋相当(捕縛):[▼]全滅表の出目を+1する。他の▼効果と同時に使用できる。解説:マインドコントロールでヒロインを淫らにしようと試みるスレ。 【GM】 SP+4と全滅表を1d6+1に強化! 【累】 くっ…! 【GM】 シーン的には、チンカス解除の合図をするための攻撃ができてなくて、解除後も暫くゴブリンのオナホ状態だったってことかなv 【累】 だねえ、すっごい無様♪ 【GM】 ではーーーどれくらい様子見され、レイプ姿を晒したか・・・全滅ダイスどうぞv 【累】 1d+1 【Dice】 B09_rui - 1D+1 = [3]+1 = 4 【累】 レイプされて剥がしてもらった!w 【GM】 全滅のすぐ後、モンスターに犯されているところを冒険者に救出される。 【SP】+1する。 【GM】 割と直にきづいてもらえて、助かったようだね・・・! 【GM】 それじゃぁ~~~ 【GM】 ☆雌豚ヒロイン晒しageチャンネル:晒し台相当(捕縛):[●]侵略点2を得る。解説:敗北したヒロインの痴態を配信しているチャンネル。 【GM】 ☆ヒロイン向け淫紋刻印ch:淫紋工房相当(捕縛):[●] 敗北したPCに軍団アクト(※)を1つ強制的に付与する。他の[●]効果と同時に使用できる。 解説:敗北したヒロインに一生消えない淫紋を刻み、その効果を実演させるch。 【GM】 軍団アクト:軍団GMの考えたオリジナルのクライシスアクト(CP2/SP4)。このアクトは所持上限数に含まれ、二度と外すことができない。一人のPCに1度だけ付与できる。 【GM】 コレを使ってリザルトといこうかv 【累】 はーい 【累】HP0/26 胸AP0/10 腰AP0/4 CP01/12 SP+14 BS[ミルク//] アクト8/8[視線/キス/口辱/肢体/柔肌/見てしまう/純血/絶頂] 【GM】 ありがとー!では、少々お待ちを! 【GM】 【GM】 PCリザルト:累 【GM】 [経験点]基礎:20 + モンスター:10(10+0) + CP:12 + 戦略:0 + 軍団:0 + 装備効果:0=42 【GM】 [ミアスマ]基礎:8 + SP上昇分:7.0(SP60上限) = 15.0 [SP] 14 [名声] 0 [BS] なし 【GM】 [魔物刻印] ストリーミング・ショウ [人脈/任意] なし(NPC/任意) 【GM】 【GM】 軍団リザルト(掟:法令 指名手配) 【GM】 [ミアスマ]基礎:10 + タッグ:0 + アクト:8 + 敗北:0 + 軍団施設:53+5+5+0 = 81 【GM】 [侵略点]基礎:4 + アクト:4 + 勝利:0 + 軍団施設:2+9+2 + ロスト:0 = 21 【GM】 [その他]ポーン兵3体+ルーク兵3体+再生用ミアスマ+0 【GM】 【GM】 りざるとー! 【累】 はーい 【GM】 さらにーーー 【GM】 軍団アクト:淫紋・恥垢拭い:CP2/SP4:付け替え不可能。:解説・チンカスアーマー解除者に残された呪いの淫紋。新たなチンカスアーマーと出会うだけで過去の快感が甦る。 【累】 新たなっ… 【GM】 軍団アクトは10枠のアクト枠に含まれるので残り9枠になっちゃうけど 居る? 【累】 いるー 【GM】 それじゃ この淫紋のおかげで 次回から魔王城効果をはっきしていきますv 【累】 ま、魔王城っ!雌を落とすあのっ! 【GM】 チンカスアーマーを落とすほど、経験が蓄積して、甦る快感が増える=開始時獲得CPSPが増える 【累】 わはーw 【GM】 傍から見たら、チンカスみただけで悶える変態になれるよv 【累】 いいね! 【GM】 【GM】 【GM】 巨大化したゴブリン・・・ホブゴブリンとなった元ゴブリンは、目の前に現れた雌の急に肉付きのよくなった身体に舌なめずり。 【GM】 それだけでにちゃあっと生理的嫌悪感をひきだし、周囲で見守るヒロイン達が顔を顰める。 【GM】 どすどす歩み寄る勢いで下穿きをおおきくめくりあがり、、、じゅくじゅくvでろりvっとゼリーのような先走りを零し続け、うぞうぞと身震いする度にすえた臭いが広がる極太の肉棒が露になってーーーその巨体でのしかかろうととびついていく! 【ホブゴブリン】「ぐるるるおおぉ!めす!犯す!ごぶぅうう!」 【GM】 ▽ 【累】 「っく…なんて醜悪なっ…!知性もろくに感じられない本能だけの淫獣にヒロインが負けるわけがないっ!」でかくなった乳を持て余しつつ、酷い見た目のゴブリンを見据えて立ち向かいます! 【累】 ▽ 【GM】 ホブゴブリンは累の腰と頭にてをのばしーーーぐい!っと引き倒そうとする!何度か回避され反撃をうけるも、ダメージにならないのか何度も同じ行動をくりかえしーーー 【GM】 累の回避が一瞬遅れる・・・急に大きくなった胸のせいでバランスを崩した一瞬でがしり!っと人外の膂力を持つ腕が腰と頭をがっしり掴んだ。 【GM】 ビリビリビリ!力が強すぎるのか、握った袴があっという間に千切れ、つかんだ頭をフル勃起状態のドロドロ生乾きチンカスチンポにおしつけていくーーー 【GM】 ▽ 【累】 「う、うぁっ!?は、はな…せっ…!」必死に抵抗するが、全然刃が立たずに体の自由を奪い去られる… 【累】 「う、うぐっ!?く、臭っ…目に、染みっっ……や、やめっっ…!」必死にイヤイヤと首を振って何とか腕だけでも抵抗しようと藻掻いていくが、力の差は歴然だった 【累】 ▽ 【GM】 メキメキ!抵抗しようとすると、頭蓋骨を軋ませる握力が累の抵抗を弱らせ、、、その隙に一気に累の唇に包茎チンポの先端、、、僅かに尿道が覗くチンカス塗れのそこへ、累の初物を口付けさせる。 【GM】 ただそれだけなのに、ぷじゅるるるるvっとゲル状のチンカスが唇を中心に広がり、、、ねっとり唇を多い尽くし、一部は鼻にまでくっつき、べっとりと 味 臭い 感触を、累に教え込んでいく。 【GM】 一度しっかりおしつけたあとは 手の力をぬいて にちゃぁぁっと唇から離れていく際の糸引く光景まで・・・周囲のヒロイン達にホブゴブリンは見せ付けていた。 【GM】 ▽ 【累】 「い、いやっ…!や、やめっ…やっっ!んっ、んぶもおおおおおっ!」初めてのキスだった、ファーストキスだった…そんな事を考える間もなく強制的にチンポへと顔が押し付けられていく…必死に嫌がるが何の意味もなくあたりに響く悲鳴の様なくぐもった音がヒロイン達にも聞こえていく 【累】 強烈すぎる刺激に体がビクビクと震え、おもらししちゃいながら息を吸おうと必死に藻掻く姿は、とても先程まで意気揚々と挑んでいた姿と同じものだとは思えません 【累】 ▽ 【GM】 一気に抵抗する意志を砕いたゴブリンは、ぐぶぶぶぶっvっと鼻の詰まったような下品な笑いで下腹までゆらすとーーービクビク震える累の頬をその剛直でべちん!びちゃvべちん!びちゃvっとビンタしたあと、頬から顎、喉ーッと肉棒を滑らせ、襟に肉棒を滑り込ませるとーーーどろぉおおvっとした肉棒を肩口から背中まで突きいれ、ずりずりっと肌蹴させていくーーー 【GM】 わざわざ肉棒で行うのは相手への侮辱、、、そして心のソコからこの肉棒に逆らえぬメスは居ない!っという驕りからだ・・・右肩をおろしたあとは、累の左ほほをぺちぺちとまた肉棒でうちすえてーーー今度は、お前がやれっと命令をしてくる。 【GM】 ▽ 【累】 「ゲホゲホッッ!ゴホッッ!…っく、く…そぉっっ…」ビンタをされて意識が戻れば臭気にむせ返りながら指示される脱衣。ソレもチンポで脱がされるという最低な状態だが、今の自分が抵抗した所でもっと酷いことが待っているだろう… 【累】 とても悔しそうな顔をしながらも左肩の衣服を自らの手で下ろしていく。その姿は周囲のヒロイン達には自ら衣服を脱いでいく落ちた雌にしか見えないだろう… 【累】 ▽ 【GM】 脱げ落ちた巫女服・・・襟口はドロドロチンカスで張り付き悪臭を放ってもはや廃棄するしかないような状態・・・なのに、ゴブリンはその巫女服をひろいあげるとーーー自らの肉棒にひっかけ、ぐるぐると竿のぶぶんにまきつけて「ゴブグゴガガガガガガガガガ!」っと嘲りながら大笑いする。 【GM】 「ひ、ひどすぎる!」「わ、私達のスーツは、、、心の現われ、誇りを、あんな!」「くそが!あんな酷い事されて・・・アイツ、反撃してもいいだろ!」累を見守っているヒロイン達が怒りながら思わず魔法を打ち込む場面もあるがーーー相変わらずゴブリンにダメージは無い・・・どころか累に衝撃が伝わり、それ以降は悪態をつくことしかできなくなる。 【GM】 そして、そんな声を心地良さそうに浴びながら、ゴブリンは累にむかって巫女服包みの包茎チンポをズイット突き出しーーー「ごぶごぶ、ごぶぅ!」っと声をかける。 【GM】 モチロン通じるわけもないがーーーカクカクと腰を揺らす動き、何処までも単純で下劣な直結厨的思考は、だれでもすぐにわかるーーー「扱け、気持ちよくしろ」という意味だと理解できてしまうだろう。 【GM】 ▽ 【累】 「く…くっっ…くそおっっ……」歯噛みする。彼女達に言われた通りだ、この衣装は私達の誇り…だと言うのに私はろくな抵抗もできない 【累】 「う、うぐぅ…ぐすっっ…」申し訳けなさで胸が一杯になり、半べそになりながらも、何とかこのカスだけは私が処理しないとと思い、包茎チンポを衣服越しに大きくしっかりと扱き始めます。 【累】 ▽ 【GM】 「ひっ!サ、最低・・・!」「そんなことして、何になるんだ!」「累、おい!もう撤退しろ!援護してやる・・・きいているのか!」 【GM】 化け物相手に誇りを踏みにじられ、そのうえで化け物の言いなりになる累の姿に、そんな声があちこちからあがり、累の正気を疑い始た・・・その様子にゴブリンもご満悦の表情で気持ち良さそうにぶるぶるっと腰を震わせ恍惚に浸るーーー 【GM】 だが、その瞬間に快楽を得ているのはごぶりんだけではなかった・・・累が、化け物の肉棒を握り何度か擦りあげた時。 【GM】 ゾクリ、っと掌から累に、強い快感が流れ込む・・・、それは強くしごくほどはっきりし始め、ゴブリンが声を上げるほど快感を得ると、累にもそれだけ快感が強く流れ込んでくるーーーーその現象の正体がなんなのか、ずるるるるvっと巫女服がチンポからズレた時に、累は目撃する。 【GM】 さっきまで、肉棒の表面をびっしり多い尽くしていたドロドロのチンカス・・・それが、ごっそりと、剥がれ落ちているのだった。巫女服に隠れてきがつかなかただけで、、、竿の部分は、、、累が強く刺激した部位は綺麗にそのチンカスがこそぎおとされている。 【GM】 ▽ 【累】 「っっ…!コレは……これならっ!」チンカスがこそげ落ちているのを確認して気がつく。このまま落としきれれば私がダメでも周りの仲間がなんとかしてくれると…そう考えれば行動は早かった。周りの侮蔑の言葉も無視して強くゴブリンに快楽を与えるように大切な巫女服で扱き上げる。べっとりと汚れたら別のまだ無事な部分でと念入りにご奉仕するようにしてカスを落としていく… 【累】 そんな行動が周りにどう思われるか、それを気にする暇もなく、微かに見えた勝ちの目に賭けて必死に頑張るのです 【累】 ▽ 【GM】 「何アレ・・・おかしくなっちゃったの?」「さ、最低!私達、貴方の為に、、、言ってあげたのに!」「ちっ!巫女のくせに、飛んだ淫乱だったな!」無視しようとしても、累の耳を打つ侮蔑の言葉と視線・・・だからこそ、ゴブリンは自分の身に起きている異変に気付く事無く、快楽と優越感に浸り続けるーーー 【GM】 懸命に累が扱きあげた結果・・・竿部分はすっかりチンカスをなくし、新品のようなつるつるの肌がろしゅつしている・・・だが、今だ皮をかむったままの亀頭部分は、先端からでろでろっと大量の先走りを零し、それが皮の中にたまるとーー少し扱いただけであっという間に醗酵し、臭気を発して、チンカスになり亀頭を汚していくーーー 【GM】 ここから先は、ただ扱くだけではかえってチンカスを増やす結果になる・・・積極的に取り除くしかない。 【GM】 ▽ 【累】 「よ、よしっ…このまま……いや、このままじゃダメかっ……こうなったらっ…」先程チンカスに顔を埋めたくらいだ、大丈夫なはずだ…とそう考えて、ゴブリンの包茎チンポを巫女服で抑えるようにしてしっかりと握って、皮を一気に剥きあげます。 【累】 ▽ 【GM】 ムギィ!っ強くにぎられ、皮をむかれたとたん 周囲のヒロイン達が罵詈雑言ではなく、悲鳴と嗚咽を吐き出し、咳き込んでいく。 【GM】 亀頭をむき出しにされたとたん、封じられていた臭気・・・一瞬でザーメンが醗酵チンカスになるほどの腐臭が、醗酵の熱にのって一気に広がり、周囲数十メートルを一気に臭いで汚染する。 【GM】 至近距離で浴びた累には臭いだけで数度は失神できるほどの臭いが全身にしみこみ、さらに、ぷちゅるvぷくぷちゅ!っとまるで煮え滾ったマグマのようにふくらみ、弾け、また腐り落ちていくチンカスのドロドロが手に、胸に、顔に、唇にしっかりとふりかかりつづける。 【GM】 そして、累の胸を膨らませた術式が・・・チンカスアーマーの解除の為に累に失神など許さない為に、それらの刺激全てを快感と多幸感にすり替えてしまう。 【GM】 累は今、すえた臭いの虜になり、、、浴びるチンカスが、媚薬にすらおもえているだろう・・・ 【GM】 ▽ 【累】 「っっく、げほっごほぉっ!vvvで、でも…これ…ならぁっっvvvv」甘い甘い快楽と多幸感…臭くて臭くてたまらないのに襲い掛かってくる感覚は強烈だが…しかしまだ堪えられる…そんな事を考えながら、目の前で煮えたぎっている汚チンポからチンカスアーマーを剥がしてやろうと決断します。 【累】 しかし、巫女服は皮を抑えるのに使ってしまっているため使えず、腕も服と同じで使えない…となれば方法は一つしかなく… 【累】 「っく…うぶっっ…く…は、はむううっっ!vvvv」意を決して最低なチンカスアーマーに口づけしてお口でキレイにし始めるのです。全ては皆の為にっ 【累】 ▽ 【GM】 ぱくりvっと咥えられた瞬間 【GM】 どびゅるるるvっと我慢する事無く放たれた精液は、あっという間に累の口内を満たしーーーチンカス醗酵亀頭に触れると、累が呼吸するより早く、その口内を満たすドロドロザーメンを、ねっとりボコボコ、醗酵酸味臭気チンカスヨーグルトに変えてしまう。 【GM】 そうなれば喉に絡みつき、あっという間に喉をふさぎ、飲み下すことなどできるはずもなくーーーはきだされればかえって亀頭を汚す結果になった。 【GM】 先端に口付けした瞬間にそれだけのことが起きた・・・口でのお掃除は、慎重に慎重をかさねなければ、状況を寄り悪化させるだろう。 【GM】 ▽ 【累】 「ごぶうっっ!?!?」お口の中を一瞬で支配するチンカス…ソレに必死に対応するが飲み干すことも出来ず口内でモゴモゴとなりながらチンポに戻さないように対処していく…しかし、先走りはダメだとすればまずは周りから… 【累】 「う…んむ…んぶっ…」カリ裏や裏筋に溜まったカスを下から上に集め、出来る限り削ぎ落としてアーマーを剥がしていく。同時にこのカスをどうすればいいか、その一つのアイデアが自分の中に浮かんでしまった…とびっきり最低最悪なアイデアだが… 【累】 ▽ 【GM】 熱心な累のご奉仕に、ぶるり!っと震えて更に腰を突き出すゴブリン・・・そしてカクカクと何かを強請るように腰をつきだし累を見下ろす。 【GM】 ソレが何を意味するか・・・漸く爆発的な腐臭に慣れ、熱心ご奉仕をする累を信じられない物を見るような目でみていたヒロイン達も理解する。 【GM】 「っ///まさか、ヤれっていうの?」「レイプされたヒロインも沢山いるのに」「ま、まさか、、するわけないじゃない!あんな、きもちわるい!」「処女なんでしょ!?巫女なんだかr、、、初体験がアレ!?」「私なら死んじゃう!嫌よ!」 【GM】 ホブゴブリンに成長するまで幾多のメスを組敷き、おさえつけ、犯してきたゴブリンが、、、累をねだり、命令する。 【GM】 足を開いて、迎え入れろーーと、その証拠に、のしかかるようにまえのめりになり、累の逃げ道をふさぐようにてをつくがーーーゴブリンからそうにゅうしようとしはしない。 【GM】 だからこそ、累以外にはその大きな身体と腹が邪魔になり、ゴブリンの肉棒の状態が隠れている・・・ 【GM】 ▽ 【累】 「っ…私の初めてが…こんなっ……」女としての葛藤もあるが…コレは千載一遇の大チャンス…一瞬諮詢するもヒロインとしての意地でこのゴブリンを倒すことを優先する… 【累】 「き、来て…お、お願いだ…チンポを…ここにっ…」何とか相手の機嫌を損ねないようにと存分におねだりをして挿入をしてもらおうとする。精一杯処女マンをくぱぁと開いてチンカスチンポに捧げる姿はとても無様であった 【累】 ▽ 【GM】 「ごぶぅっ!」その言葉を理解しているのかいないのかーーー我慢の限界だったゴブリンは剛直をあてがっていたおまんこに、ずずずぶぶぶぶと!っと一気に挿入しーーーー 【GM】 つぷvぐにゅ、ぶちぃいいっ!っと純潔の証を突き破り、一気に根元まで突き入れるーーーそれは、累の初物マンコの最奥、子宮口をを僅かに押し込んでひろげさせ、鈴口と子宮口をぴっちりと密着させる。 【GM】 そこが一番気持ちいい!と理解したゴブリンは、破瓜直後のマンコを一気に抉り、腰を震わせごりごりvじゅぼじゅぼ100キロ超えの種付けプレスを思い切り累に叩き込む。 【GM】 途中、先走りがぴゅるvっと膣内を汚し、亀頭が触れた瞬間チンカスになりーーーもしも締め付けをゆるめてしまえばゴリゴリこそぎ落とすようなカリによってひきずりだされ、綺麗にした亀頭が股チンカスアーマーに覆われてしまう・・・それに、竿に巻かれたままの巫女服も、じゅぼじゅぼv繰り返されるピストンでどんどん破瓜の血を、ザーメンチンカスが付着しないようにふせいでくれているがーーーそれもながくはもたない。 【GM】 一刻も早く、亀頭の先端、鈴口付近にこってりこびりついたチンカスをこそぎ落としーーー吐き出された新鮮ザーメンを醗酵させないよう、子宮にうけとめなくてはならない。 【GM】 ▽ 【累】 「い、いぎっ…ひ、ぐううっっvvvv」裂くような痛みが来る前に圧倒的な質量で押しつぶされそうになるが、なんとかしてこのまま子宮で受け止める為に必死にこらえてチンポを受け止める。 【累】 そしてそのまま抵抗なく一番奥で射精してもらうために、チンポに気持ちよくなってもらうために処女マンを締め付けて腰を浮かせておねだりするのです 【累】 ▽ 【GM】 ごぶ!ごふvごぶるるるるる!ぶぎゅ、ぶるるるるるるるる! 大勢のヒロインが見ても、確実に射精しているとわかるほどの、激しい吠え声に、累ごと揺れているかのような腰の痙攣・・・何より、ぽっこりと類の腹を膨らませる大量のザーボテに、強制的にイカされたであろう累のだらしない顔・・・その全てがヒロイン達にしっかりとみせつけられーーー 【GM】 瞬間、ぶつん!っと空間がちぎれ、途切れるおとが 累にだけ確かに聞こえる・・・そしてーーー累が必死に握り締めたゴブリンの腕、、、その皮膚に、累の爪がひっかいた痕がくっきりうかびあがる。 【GM】 ▽ 【累】 「んぐぁっっvvvい、いぐうううううっっvvvvいま゛ぁぁっっっ!いまあああっっっっvvv」絶叫に近いアクメ声を上げながら、それでも周りの仲間に攻撃を頼みます。つながっている今ならわかる感覚、攻撃が通るようになったという感覚を信じて 【累】 しかしその間も続く射精の感覚と子宮を埋め尽くす熱に意識が吹き飛んでいくのも感じてしまっていきます… 【累】 ▽ 【GM】 累の意識が化け物相手の破瓜セックスに耐え切れなくなった直前・・・一つの魔法が煌き、ゴブリンの頭部に吸い込まれるーーーその光景を最後に累の意識は途切れーーー轟音と衝撃の中。闇に沈んだーーー 【GM】 【GM】 【GM】 その日、街中で猛威を振るっていた一匹の魔物は駆逐され、ヒロイン達に喝采が送られた。 【GM】 いち早く変化に気付き、頭部に致命的な一撃を与えたヒロインは褒章と名誉を受け取り、更なる活躍を見込まれ指揮官となった。 【GM】 だがーーーその裏で、もっとも大切なモノと引き換えに、最大の成果を出したはずの累へは公式記録としてのこされた魔物への隷属への罰と特殊任務への強制参加と言う扱いだけがのこった。 【GM】 【GM】 【GM】 HeroineCrisisTRPG くらくら!「【色狂い】お清め巫女・累!チンカスアーマー解放戦線!【1回目】」BAD-END 【GM】 以上でシナリオ終了です! 【GM】 おつかれさまでしたーー!時間おーばーごめんにょ! 【累】 こちらこそありがとうっ!この救われなさ最高だねw 【GM】 そんな扱いのほうがドカピンさん好みかなっておもったから/// 【累】 大好物w 【累】 しかし罰と特殊任務…わくわくだw 【GM】 次回のセッションへの参加理由ですわv 【GM】 おじかんもあるしーーー アフタートークはまたこんどかな? 【GM】 ログ上げしておくので、よみながらわいわいしましょーv 【累】 は^いw 【累】 じゃあおやすみー 【GM】 おやすのよ~!(むにゅ
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/825.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族 第9章 帰省1日目 忠告 まだシトシトと雨の降る中、頭に同じお面を3枚も重ねて被った少女、御坂美琴は長い階段を降りきった。ち なみに、お面が1枚増えているのは先程上条に渡されたからである。上条に預けておいたら、例え大きな事件に 巻き込まれなくてもズタズタにされてしまう気がして心配になり、言われるがままに受け取ったのだった。 美琴「はぁぁ~~~~」 そのお面を揺らすように美琴は大きなため息をつく。階段を降り始めてからもうかれこれ10度目くらいだ。 暗闇の中でも映える朱色の傘の下、鮮やかな振袖に身を包み込み、素の魅力を引き立てる程度の薄化粧をして、 簪《かんざし》を挿し、さらに可愛らしい(?)カエルのお面を被る。そんな、普段とは一味違う美少女然とした 美琴なのだが、その表情は全てをぶち壊しにするほどに暗い。美琴は周囲を行き交う人々の楽しげな様子を見て、 余計に憂鬱になり、思わず「……不幸だ」なんて誰かの口癖まで吐いてしまう。その少年がいつも抱いている切 なさを少しだけ理解できた気がしたが、だからといって気が晴れるわけもない。 美琴(……ん、あれ? でも、そういえばアイツ、最近この口癖使ってない気がする) 以前までの上条ならば、美琴と顔を合わせただけで不幸だと呟き、逃げるのに失敗して不幸だと言い、美琴が 怒って電撃攻撃する度に不幸だ叫んでいた。今から考えてみてもかなり癪な態度であるのだが、そういうのがこ の所全く無い。逃げる必要が無くなっただとか、電撃攻撃が減ったという理由もあるだろうが、以前に比べて上 条を襲う不幸が減ったというわけではないのだ。言わない方がむしろ不自然だろう。 しかし、美琴はそこでハタとその理由に気付いた。 美琴(あー、そっか。私がサンタになって幸せにするとか恥ずかしい事言ったから、気でも使ってんのかしら? ひょっとしたら自分が『不幸だ』って言う事で私が落ち込むんじゃないか、とか思ってんのかも………… うん、有り得るわね。アイツったら変な所で無駄に優しいし…………ったく、素直になれっつってんのに 余計私に気を使ってどうすんのよ) せっかく人が心配してやってんのに。などと心の中で愚痴るが、そんな事とは裏腹に気持ちは踊る。自分が上 条に大切に想われているという事実がそうさせるのだ。 だが、一時的に晴れやかになった気持ちも、別の事実により少しずつ滅入っていく。10秒後にはさっきより 重いため息を付いてズーンと落ち込んでしまった。 美琴は先程から何度も何度も考えている今後の予定について、呟くように再確認する。 美琴「えーっと、とりあえず変な事件は起こらないと仮定して……まず今から皆と合流する。んでアイツんちに 帰る。そしたら明日まで親アンド乙姫ちゃんの皆と一緒……明日の予定はまだちゃんとは聞いてないけど、 どっかに出掛けるような話してたから、たぶんやっぱり皆一緒……んで明後日はアイツが先に帰る……私 が帰るのはその次の日、帰ったら早々に学校が始まる。か」 当然だが、いくら考えてみても結果は同じであった。改めて無駄な事をしてしまったと徒労感から息を吐く。 美琴(あーもう!! アイツと二人っきりになれる時間がこれっぽっちも無いじゃない!!) うぎゃぁああ! と心の中で叫びながら頭を抱え、グニャグニャ身をよじる。 そう、常盤台のお嬢様、超電磁砲こと御坂美琴の明晰な頭脳は、現在『アイツ』でいっぱいなのであった。 下手に会わなければ一週間でも我慢出来ただろう。が、もう遅い。たがが外れてしまった。それなのに、家族 と一緒にいると素で話すことが出来ない。それどころかボロを出すまいと気を使う。この状況は生殺しに近く、 美琴の精神を徐々に蝕んでいく。 美琴「うぅ、全然話し足りない……」 元々、口を開けば20分はノンストップでマシンガントークできるほどお喋りが大好きな美琴である。特に上 条と喋っているのはそれだけで楽しい。可笑しいくらいテンションが飛んでいく。昔はその刺激が強すぎて、会 うのを躊躇っていた事もあったが、今では驚くほどに心地良い。それは他のクラスメイトや後輩、親族との会話 では決して得られない独特なものだ。過激なツッコミや、自分が慌てふためくような上条の言動など、端から見 ればマイナス要因に思えることでさえ、内心ウキウキが止まらない。どんなエンターテインメントよりも興奮す る行為だ。 とは言っても、彼女自身はそこまで自覚していないのだが。 美琴「それに、会話以外だって……」 美琴は先程までの出来事を回想する。上条の手の感触。真剣な眼差し。触れられなかった唇―――― 小指の腹で唇をなぞりながら、はふぅー、と、さっきとは少し違う熱っぽい吐息を付いてしまう。 美琴(せめて、後もう30分…………ううん、1、…………えっと、3時間……、とちょっと。一緒に居られた ら帰りまで我慢出来ると思うんだけどなー……、たぶん) 医者に掛かったら『上条当麻症候群の禁断症状です』などと診断されそうな重症っぷりであった。 しかし、そう言う意味で考えると、やはり先程までの流れは千載一遇のチャンスだったのかもしれない。でも その本人にチャンスを断ち切られてしまった。相手にも似た気持ちである事を期待していたので、あれは予想以 上にショックが大きい。 美琴「はぁ、アイツは私と一緒に居ても楽しいわけじゃないのかしら?」 そんなはず無い! と完全に否定できないのが辛い。昔の知人との話が自分と一緒に居る事より大事なのだろ うか。なんて馬鹿げた事まで考えてしまう。美琴が風邪を引きそうだから早く帰すと言うのは解るが、一緒に帰 るという選択肢もあったはずだ。 美琴(いやまあ、普通に考えれば、外の知り合いには帰省中とか短い期間しか会えないわけで、アイツはアイツ で大人な対応をしたってだけなんだろうけど。間違ってるのは私の方だって分ってるんだけど……) あの場で子供だったのが美琴だけであるのは明らかに思えた。上条と一緒に居たいからという自分の都合だけ で、父から頼まれたという知誠の言葉に微塵も耳を貸さなかった。あんなのは普段の自分からは想像しがたい。 美琴(それでも、納得できないものはできないのよ……) 落ち込む要因が多すぎる。美琴はもう一度盛大なため息をついた。 美琴「子供……ねぇ」 ??「うん」 美琴「……ん?」 独り言に返事をされた。辺りを見回すが誰も居ない。 しかし改めて「こども、よんさい」と言う声が下の方から聞こえてきて、美琴はようやく足元の存在に気がつ いた。可愛らしい朱色の振袖を着て、その上から黄色のカッパを纏った幼女である。 うわっ、と話し掛けられた美琴は思わず仰け反る。再度辺りを見回すが、親らしき人影はない。 美琴「えっと、どうしたの? ママはどこに居るか分かる?」 しゃがみながら傘に幼女を入れ、優しく尋ねる。 すると幼女はおもむろに手を上げ指差した。 美琴「へ?」 しかし指差した方向にあるのは美琴の顔である。 美琴(え、ちょ、何? ウソ、私? 私がママ?? ってことはまさか!? いやいやいやいや、いくら何でも それは…………でも、もしかしたら、ひょっとして、ありえないとは思うけど。この子、学園都市が密か に開発してると噂の時間移動能力者によって連れてこられた、未来の私の子供………とかそういう展開? よく見ると口元や髪の色が私に似て……ってちょっと待ちなさい! じゃあ父親は? 父親は誰よ!? …………アイツ、なのかな? だ、だって目元がアイツにそっくり、ってわー馬鹿ダメよ! まだ早いわ よだって私まだ中学生だしそういう心の準備とか全然出来てないし法律とか世間体とかあるし…………… でも、万が一アイツが、『どうしても今すぐ娘が欲しい! だから……ゴニョゴニョ……』って言うなら ……えっと、その。や!! だからダメだってば!! うー、あー、えーっと、ほ、ほら。そういう行為 に及ぶ前にきちんとやることがあるでしょ!? その、どっかロマンチックな場所で…………け、けけけ、 結こ、ん) 幼女「カエルー!! ぴょんこー!!」 美琴の口からゴハッ!! っと肺の空気が漏れる。幼女の言葉にそれほどの衝撃を受けた。 一人でテンパってモジモジしていた体は、危うく地面に崩れ落ちそうになる。 美琴「…………………………………………………………………………………………………………………………… そ、そそそ、そうね。偉いねー。ちゃんとピョン子の名前が言えて…………、あはは」 キラキラとした純粋な子供の瞳を見るのが何故か辛かった。 幼女「……いいなー」 美琴「うっ」 今美琴が被っているお面は3枚。それを欲しがる幼女が1人。大人ならばここで『いっぱいあるから1枚あげ よう』となるのではないか、と美琴は考えた。 口を『い』の形にして、笑顔のようで笑っていない、不自然な表情に顔を固めたまま、手がギリギリとお面へ 伸びる。しかしそこから動かない。この3枚はあくまで『観賞用、保存用、上条に被せて楽しむ用』である。学 園都市内でも売っているか分からない。欠けるのはマズイ。美琴の中で『お面を被った上条』と『大人な美琴』 が天秤の両サイドに乗り、まるでジェットコースターのように激しく揺さぶられる。 幼女「…………………」 美琴「~~~~ッ!!」 無垢な視線が突き刺さる。 普通の人ならそれでも無視できたかもしれないが、美琴には耐えることが出来ない。学園都市の五指に入ると 言われるエリートの巣窟、常盤台中学。そこの生徒にすら『お姉様』と呼ばれ、慕われるだけの器量と資質と世 話焼きスキルを兼ね備えた美琴にとって、この子を軽くあしらうなんて事は不可能に思われた。 美琴「…………い、良いわよ分かったわよ。何て言うか、その、うん。ピョン子好きって事に免じてあげる」 美琴は細く息を吐いてから、先程上条から渡された一番上の物ではなく、二番目のピョン子お面(保存用)を 外す。傘を顔と肩の間に挟め、幼女のカッパのフードを取ると、美琴に似た茶髪でボブカットの頭に掛けてやる。 幼女の顔がどんどんと明るくなっていく。 美琴「いい? 特別なんだから、大事にしなさいよ?」 幼女「わぁー!! ぴょんこぴょんこー!!」 美琴「ちょっと、嬉しいのは分かるけどあんまりはしゃがないの! わっ、跳ねんなって! 濡れちゃうでしょ。 とりあえずフード被ってからにしなさいよ」 美琴は幼女の腕を押さえるが、余程嬉しいのかぎこちなくもピョンピョンと跳びはねる。 しょうがないわねえ、と呆れながらも、美琴は満更でもないような顔でそれを見つめた。 美琴「それで? アンタ名前は?」 幼女「んー? まことー」 美琴「へ!? ま……、まままままままままままままままま、麻琴ぉーッ!!??」 麻琴「うん!」 素っ頓狂な美琴の言葉に、まことは笑顔で頷いた。 もちろん字面は伝わっていないが、美琴は何だか『麻琴』だと思ってしまった。その名前は過去何回か脳内シ ミュレーションした『将来子供を産んだ時に付ける名前候補ランキング』で、毎回トップ5には入るような常連 である。ちなみに、秋より以前の美琴はその名前について、『べ、別にアイツは関係無い。関係無いのよ。ただ 単に麻琴って響きと画数が、良いってだけで……』などと、脳内で自分に言い訳していたのだが、最近はもはや 『当麻と美琴から一字ずつとったら麻琴か麻美よね……えへへ』とか考え、ぬいぐるみを抱きながらベッドの上 を左右に転がり、同居人から訝しげな眼差しを向けられている。 美琴(ほ、ホントに私の子供…………だったりして!?) 未来の旦那が分かるという期待と、面倒事になりそうだという不安で心臓がバクバク言う。 いずれにせよ確認しなければならないだろう。 美琴「ね、ねえ麻琴ちゃん?(うひゃぁ、へ、変な気分)……えーっと、ママはどこに居るの? も、もしかし たら…………私、とか?」 麻琴「ママ?」 麻琴は美琴の顔をジーッと見つめる。 や、やっぱり私なの? と、美琴は僅かに汗を垂らしながら見守る。しかし、 麻琴「ママは? ママとパパどこ?」 美琴「……………………は、はは」 たった今思いついたようにキョロキョロと辺りを見回す麻琴を見て、美琴はほっと胸をなで下ろす。良かった ような悪かったような複雑な気分であったが、別の問題の発生により考えている暇はあまり無さそうだった。 麻琴「ふぇ……、ま、ママぁ? パパぁー? どこー?? ぐすっ、まこちゃん置いてっちゃやだぁー」 行き交う人々の中に立ち止まり駆け寄る者は居ない。ほとんどは一瞥し、心配そうな顔をするだけで、そのま ま立ち去ってしまう。 どうやら本格的にはぐれたらしい。麻琴は右へ左へ、後ろへ前へ、どちらに行けばいいのかも分からなくて、 美琴の居る場所を中心にウロウロする。 その場所はちょっとした広場のようになっている。更に人も相変わらず多く、半分以上が傘を差しているので 探すのは容易でないだろう。 麻琴「パパママぁ?? ヒック……どこぉ? ヒック……、ぐすっ。ふぇぇぇぇえええええええん」 ついに麻琴は足を止め、美琴の前方辺りで泣き出してしまった。大きな瞳から大粒の涙がポロポロと止め処な く溢れる。 美琴の方はというと、別にこの程度で慌てることはない。こんなのは学園都市の至る所で見ることができる日 常的な光景だ。ただ、自分に少し似ているせいか、麻琴という名前のせいか、昔の自分を投影して少しボーッと していた。こんなに大っぴらに泣きわめくことはなかったが、美琴だって似た経験くらいはある。例えば夜中に 目を覚まし、寝ぼけて夢に出てきた母親の事を捜して寮内を彷徨い歩いたり。結局見つからず、仕方なくベッド に戻り、お気に入りのぬいぐるみを涙で濡らしたり。 そういえばいつからだろうか、両親と再会する際に冷静なままでいられるようになったのは。 麻琴「うぇぇぇえええ……ヒック、ぇぇええええああああん。ふぁぁぁぁぁぁあああああああああん」 美琴は麻琴の大きな泣き声で我に返ると、しょうがないわね、と息を吐きつつ頭を掻いた。麻琴への距離を今 一度詰め、傘の中に入れ直す。そして再びしゃがみ込み、柔らかく微笑んだ。 美琴「まーこちゃん。ほらほら、そんなに泣いてるとピョン子に笑われちゃうわよ?」 美琴は残るお面の内『観賞用』をきちんと前に被り、麻琴の頭に手を置きながら語りかける。それを聞いて麻 琴は振り向くが、その表情は悲しげなまま変わらない。 麻琴「ま゛ぁーま゛ぁー。ぱぁーばぁー。ヒック……ヒックぐずっ」 美琴「パパもママもこのピョン子お姉ちゃんが探してあげるわよ。だから泣かない」 麻琴は美琴の方をじっと見て、コクッコクッと何度も頷くが、涙は一向に止まる気配が無い。 本人だって泣きたくて泣いている訳じゃないのだろう。ただ不安でどうしようもないだけだ。 美琴「ほら、まこちゃんもピョン子お面付けてるんだから。鳴くならえーんじゃないでしょ? ピョン子は何て 鳴くんだっけ?」 麻琴「う゛ぅぅぇぇ……ヒック……ヒック………………、ケロケロぉぉおおー」 美琴「うん。良く出来ました」 美琴はお面を元の位置に戻すと、濡れたカッパのまま、麻琴の体を少し強めに抱きしめてやる。温もりを感じ て落ち着いたのか、1分も掛からないうちに泣き声は小さくなった。 美琴「良い子。良い子ね」 囁きながら麻琴の頭を丁寧に撫でた後、身体を離す。 美琴「あーあー、ったくもう顔グチャグチャじゃないのよ。ちょっとこっち向いて」 麻琴の顔は涙と鼻水で大変なことになっていた。美琴は猫柄のポケットティッシュケースをバッグから取り出 し、猫柄の匂い付きティッシュで麻琴の顔を拭う。 麻琴「ウッ、ウッ……ミーにゃちゃん……」 美琴「ッ!? 分かるの!?」 コクッと頷く。 ケースとティッシュに描かれた猫はラブリーミトンのマイナーキャラであった。美琴はそのキャラを知ってい る人間に会ったのはほとんど初めてで、感動のあまり目頭が熱くなる。いっそ本当に娘だったとしても良い、と いうか是非娘に欲しいとさえ思えて、再び抱きしめてしまう。 その後も二人の趣味が非常に合っている事もあり、会話していると直ぐに麻琴の表情は晴れていった。 美琴「さて、落ち着いたことだし、じゃぁパパとママを探そっか!」 麻琴「うん! ……どーするの?」 美琴「まあピョン子お姉ちゃんに任せなさい」 二人は手を繋ぎながら麻琴が来た(と思しき)方向へ進もうとする。 美琴「……ん?」 いざ行かん。と張り切ったその瞬間、美琴の頭からお面が一つフワリと落ちた。一番上に被っていた『上条に 被せて楽しむ用』である。どうやら紐が切れたらしい。 美琴はそれを拾い上げる。 美琴「………………」 麻琴「おねえちゃん?」 美琴「ん? ううん。何でもない」 紐を適当に結び直して頭に被ると、今度こそ麻琴の両親を捜すために二人は歩き出した。 ◆ ガチン!! と、上条が予想していなかった音が頭に響く。弾は出ない。 当麻(……ッ!?) わけが分からず1秒以上も停止してしまったが、上条の身体は朦朧とした意識を無視して反射的に動く。銃口 を避け、知誠の懐へ飛び込む。 が、タイムロスのためか、先に動いていたのは知誠の方であった。 空手のお手本のような綺麗な中段回し蹴りが上条の腹に迫る。かと思ったら、寸前で脚がピタリと止まり、唐 突に角度を変えて頭を打ち抜く。 ガードは間に合わない。 頭の中で響く鈍い音と共に視界が揺れる。 知誠「……」 しかし上条は倒れない。 常人ならば明らかに倒れるべき状況で、足を踏ん張る。 若干安定しないままで右腕を前へ突き刺す。 当麻「……」 だが、それは知誠の寸前で止まる。 止められたのではない。上条が止めたのだ。 上条はこの状況で考えてしまった。 今のこの構図を俯瞰してしまった。 相手は恐らく復讐者。自分が憎くて襲ってくる。 では自分はどうだろうか。自分は目の前の男を殴る必要があるのだろうか。 これがもし路地裏の喧嘩なら。もし『相手が気に入らない』程度の簡単な理由で良いなら、上条は止まらなか ったはずだ。 しかし今は違う。闘う理由が重い。 上条には、相手を殴って良いのか全く分からない。凶戦士のようにただ目の前の敵を駆逐していいのかが分か らない。その行為に自信が持てない。 だから止まった。 その迷いは刹那であったが、知誠はその隙に上条の懐へ入り、素速く背負い投げをする。スポーツ的なもので はない。上条に確実にダメージを与えようと、体を出来るだけ高く上げ、肩の上から勢いよく振り落とす。 上条の視界が回る。濡れた砂利の上に背中から落ちる。受け身は取ったがあまり意味を成していない。固い地 面に背中と頭を打ち付けられ、全身に激痛が走る。 直後、ゴフッ! という音と共に肺から強制的に息が吐き出された。知誠が勢いを付けて上条の体に覆い被さ り、100キロ近い体重を掛けてきたのだ。 その体勢のまま知誠は銃の弾倉を2秒程で交換し、上条の心臓へと押し当てる。 彼は驚くほど無表情だった。 当麻「ぐッ!! あがッ!!」 上条は全身に力を入れて抵抗する。しかし知誠の体は剥がれない。 知誠はゆっくり引き金に手を当てる―――― 当麻「クッソォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」 ――――そして、無言のままそれを引く。 ガチン!!と、咆哮する上条の耳に再び不可解な音が響く。 思わずビクッ!! っと体を震わせ、瞳を閉じかけるが、不思議なことに体の中央に風穴は空いていない。 当麻「………………………………はい??」 上条は今度こそ意味が分らない。 一度なら弾を込めるのを忘れた、程度で済むが、二度はいくら何でも有り得ない。 知誠の指が、再び動く。 ガチン!!……ガチン!!ガチン!!ガチン!!ガチン!!ガチン!!ガチン!!ガチン!!ガチン!! しかし弾は出ない。 上条は自分の体の上からゆらりと立ち上がる男を見上げる。 男の表情は焦燥ではない。どころか、 知誠「ブッ……クククク……、フハハ……、アァッーーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ギァッーーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……」 顔をグニャリを歪ませて、額を手で押さえて壊れたように笑い出す。肩を上下させるほどに。 当麻(……からかわれ、た?) そう思って、少しだけ体から力を抜き、起き上がろうとした。瞬間、頭を革靴で思いっきり蹴られる。 当麻「ッガァァアアア!!」 咄嗟に手でガードしたが、その上から鋭い衝撃に襲われる。 耐え難い激痛に砂利の上をのたうち回る。 知誠「ッンだよ。死んどけよ。テメェは2回以上殺されてんだろうが」 上条は頭を押さえながら、何が何だか分からないといった表情で知誠を見る。 そして余計にわけが分らなくなった。 男は泣いていた。いや、顔に掛かる水は雨かもしれない。ただ、上条には泣いているように見えた。 知誠「チクショー。つまんねー。こんな……こんなもんか…………」 何かを呟きながら壁に背中を付いて座り、おもむろに胸ポケットからタバコを取り出す。 しかし、完全に濡れている事が分るとそれを横へ投げ捨てた。代わりに再び別の弾倉を取り出し、銃に入って いる物と交換する。 上条を睨む。蔑んだような目で。 知誠「フッ……ハハハ。何だその顔? 俺がテメェを殺すと思ったか? 絶望して、恋人の顔でも思い浮かべち まったか? 馬鹿が!! 殺すわけねー。殺せるわけねーだろガキが!! テメェを殺すともれなく俺の 娘と部下達とその子供は死ぬんだよ!! 良かったな。統括理事会のゴミ共にでも感謝しろよ疫病神」 知誠はまるでテレビのリモコンを操作するくらいの軽い動作で銃を上条へ向けると、適当に引き金を引く。 パンッ!! と乾いた音が鳴った。 上条は動かなかった事を後悔する。が、動かなくて正解だったらしい。 どこに飛んでいったかは定かではないが、上条の身体に傷はない。 知誠「動いたら撃つ。無駄口を叩いても撃つ。死なない程度になら当てるかもしれん」 当麻「…………」 知誠「今までのはちょっとしたアトラクション。用事ってのはここからだ」 上条は雨ざらしのまま、砂利の上に横たわり、それを受け入れる。というか、どう反応して良いかいまいち分 らなかった。相手の真意が読めない。 知誠「これからするのは、忠告だ」 当麻「…………」 知誠「結論から言う。御坂美琴の前から消え失せろ。彼女はもう二度と学園都市には戻らねえ」 当麻「……ッ!?」 ◆ 御坂美琴は、顎に手を置きながら足を止めた。 美琴「うん……、やっぱあの方法を試してみるしかないか」 麻琴から聞いた感じだと、両親とはぐれたのは恐らく10分以上前である。この広場のような場所に居るかも 怪しいし、夜の暗さでは親の方もこちらを捜すのが困難だろう。 この状況で親を捜すとなると、普通ならそれ専用の迷子センターのような施設を探し、放送してもらうべきだ。 しかしパンフレットを見たところそういう施設はかなり遠く、そもそも神社なんかに放送のための設備が張り巡 らされているかも疑問であった。というか、あるなら親の方が先にそちらへ行っていそうだ。 そんな事もあって、美琴にはそこへ向かう前に試しておきたいことがあった。 二人はどこかの神社へと向かう手近の階段を中腹まで登ると、途中で横へ逸れ、辺り一帯を見渡せる場所へと 出た。細い丸太で作られた柵の前で、眼下の広場を見る。 麻琴「ひといっぱい」 美琴「そうね。いっぱいだね」 実際見渡す限り遠くまで、数え切れないほどの参拝客が往来していた。一部では規則的な流れを作り、一部で は流れなど無視して混沌としている。もし昼間であっても視界によって捜すのは困難だろう。絵本の『○○をさ がせ』の方がずっと楽に違いない。さらに今の時刻はもう夜7時を回っている。所々ライトがあるものの、全体 的に薄暗いせいで、分かるのは『人が蠢いている』というくらいである。 美琴「うーん、傘が結構邪魔だけど、どうにかやってみますか。まこちゃんもパパとママが居ないか見ててね。 お姉ちゃんも頑張って捜すから」 麻琴「うん」 美琴は今一度麻琴から聞いた両親の外見を頭の中で整理する。 その後、一呼吸だけ深く息を吸って精神を集中すると、普段は微弱にしか出していない電磁波を強めにして、 広場へ向け放出し始めた。一般の人には認知できないが、これがもし可視光線なら、辺り一帯を昼間のように照 らす凄まじい光源に見えたかもしれない。 僅かなタイムラグの後、その電磁波の一部が返ってくる。しかし、ノイズがかなり乗っていて、何が何だか分 からない。まるで磨りガラスを通して景色を視ているかのようだった。 美琴(ここまでは予想通り。でも、レベルアッパーやミサカネットワークの件があるんだから、このくらいは出 来るはずなのよね) シスターズのように意思疎通が出来るまでは厳しいかもしれないが、形を捉えるくらいはできるのではないか、 と考えた。普段はこんな使い方をする機会は滅多に無い。だからこそ、勝手に出ている電磁波を流用し、狭い範 囲を視ていただけだった。死角さえ防げれば良かったのだ。 今はそれを自ら明確な意志を持って応用する。 美琴(指向性を高めるため周波数を限界まで上げる……減衰するのを防ぐため放出レベルを増強……受信した反 射波を解析する演算を書き替える……視界から得た可視光線の情報を統合……) 一つ一つ、丁寧に方法を見直していく。 像はカメラが自動でピントを調節するように、ぼやけたり鮮明になったりを繰り返した。 美琴「来たッ!!」 美琴の脳内で、これまでに無いほど鮮明な像が結ばれる。それは近くにある物だけではない。遠く数百メート ルは離れた物まで鮮明に視ることが出来た。 もし常人がそれを一気に頭の中に入れられたら、情報量の多さに苦しむか、或いは目で視た時のように簡単化 されて理解までは出来ない事だろう。しかし御坂美琴の演算能力は、特殊能力の開発が盛んに行われている学園 都市の中においてさえ第三位を誇る程にずば抜けている。サヴァン症候群患者の映像記憶能力を何倍にも増した かのような演算速度で、電磁波と可視光の情報を統合し、ふるいに掛けていく。 やがて彼女の脳は二人の人間に注目した。 美琴「ん、アレ……かな?」 広場の隅にそれらしき人物が視える。二人は傘も差さず、必死の形相で何かを捜しているようだった。 美琴「ねえまこちゃん。アンタのママって茶色い髪のロングで、今は結ってるんだったわよね?」 麻琴「うん」 美琴「着物の色は?」 麻琴「……むらさきいろ?」 美琴「じゃあ、綿あめ買った? ……ゲコ太柄のヤツ」 麻琴「買った! どこ? パパとママどこ??」 美琴「はいはい慌てない慌てない。まこちゃんにはちょっと見えないかな。遠いもの」 麻琴「ぅぅうう!!」 美琴「泣くんじゃないの。パパとママが逃げちゃうわよ? ほら、急いで行こう。あ、でも階段は走っちゃダメ だからね?」 麻琴「うん!!」 二人は再び手を繋ぎ急ぎ足でその場を後にした。 ◆ 当麻(美琴が学園都市に帰らない?) 上条は混乱した。 いきなり人殺しだなんて言われて、今度は美琴の話である。流れに一貫性があるように思えない。それに、美 琴自身は上条にそんな事を言っていなかったし、そういう素振りも見せなかった。第一、恋人である上条を差し 置いてどうしてこんな男がそんな話を知っているのだろうか。 当麻「……、まさか!?」 だが、上条はそこで気付いてしまった。 知誠が話していた美琴への要件。あれは誰からのものだったか。 知誠「これは美琴さんのお父上、御坂旅掛氏からの依頼だ。『娘を学園都市から逃がす手伝いをして欲しい』と」 上条は体中からどっと汗が噴き出すような感覚に襲われる。 一般的に、能力開発を受けた学生が学園都市を勝手に去ることはできない。能力者はそれだけで軍事機密であ り、脱出はそれを外部に漏らす反逆罪と見なされる。表沙汰には成ってないが、何らかの理由で学園都市脱出を 謀る『脱学』を試みて捕まった生徒の噂も、まことしやかに囁かれていた。だからこそ、御坂美鈴はあのような 危険な目に合ったのだろうし、搦手を使って美琴を外に出そうとしたのだと上条は考えている。 しかし、重要なのはそこではない。実際問題、美琴だけが学園都市を抜けるのはロシアの時の件を見ても簡単 なのだ。その後の逃げ方は問題になるかもしれないが。 それよりもむしろ一番問題なのは―――― 知誠「詳細をベラベラ喋るつもりは無い。テメエにはこう言えば解るだろう。『旅掛氏はこれまで彼女を襲った 不幸を既にほぼ全てご存知でいらっしゃる』。一例を挙げると、シスターズの一件とかな」 上条の頬が引きつる。声を絞り出す。 当麻「そう……か。はは、良いことじゃねえか。あの狂った奴らが大勢居る場所から逃げられるんなら。と言っ ても、AIM拡散力場を隠すことが出来るならだけどな。能力者は大抵それで見つかっちまう。それを解 決できなきゃ」 知誠「それならもう目処が付いている。テメェが気にすることじゃない。あともう一つ伝えておこう。旅掛氏は テメェに感謝していらっしゃる。が、同時に疎ましく思ってもいらっしゃる。何回かはテメェが発端で娘 を危険にさらされたわけだから至極当然だ。付いていこうだなんて馬鹿な事は考えるなよ?」 当麻「…………」 そうなのだ。美琴にとって一番安全なのは、彼女が一人で、家族と共に学園都市を離れることである。その隣 に上条当麻は邪魔なだけだ。 当麻(でも、それでも。それがアイツにとって一番幸せとは限らない……よな。美鈴さんだって、俺にアイツを 頼むって……) しかしその胸中を知って知らずか、知誠は眉をしかめる。 知誠「その被害者面、気に入らねえな。幼少期の記憶をトラウマとして処理したところで、最近の事件は覚えて いるはずだが。どこまで鈍感な馬鹿なんだ? テメェは自分が疫病神である自覚が無いのか? 周りの者 を傷つけるってのに、どうして人と付き合おうだなんて思えるんだ。理解できねえな。親に捨てられただ けじゃ気づけないのか」 当麻「ッざけんな!!」 パン! と再び銃声が鳴り、起き上がりかけた上条の頭の直ぐ近くを弾丸が抜けていく。 上条は動きを止めたまま、目の前の男を睨み付ける。 当麻「俺の両親は、そんな自分の都合で息子を手放すようなくだらない人間じゃねえ!! 心配だったに決まっ てんだろ。悩み抜いた上での判断に決まってんだろうが。何様のつもりか知らないが、勝手に他人がした 必死の決断を見下してんじゃねぇよ!!」 上条当麻は記憶喪失だ。それでも、夏に見た父親の表情や言葉を思い返せば分かる。そのくらいの事が判らな いほど自分の脳は腐ってないはずだ。そう思った。 知誠「フン。結果だけ見れば同じ事だ。たまたま学園都市に招くヤツがいて、それにすがり、両親は解放された。 疫病神からな。……いや、そもそもテメェはそこが理解できていないのか。テメェは最近、その能力《ちから》 を使ってヒーローごっこをしているらしいからな。やはり幼少期の事を話してやらないと駄目なのか」 途中からブツブツ独り言を呟きだした知誠を、上条は訝しげな目で見つめる。 知誠「考えたことがあるか? 今のように右手が振るえない、何の力もない子供の頃。今と同じように周りで凄 惨な事件が起きた時、被害者達がどうなったか」 当麻「……」 知誠「フン。まあいい、一つクソくだらねえ昔話をしてやろう」 上条は冷たい雨に体力が奪われていくのを感じながら、無言のままその声を聞いていた。 知誠「むかーしむかし。外にある学園都市運営の銀行に、クソ真面目な係長とその部下の夫婦が居た」 知誠は、ぽつぽつと、中空を見つめながらいかにもつまらなさそうに語り出した。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8045.html
前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 第十四話 前編 (どうしてこうなった) クロムウェルは船の上で考えた。 トリステインの西部、タルブへと向かう戦艦レキシントン号の上で。 運命には抗えない。 指にはまった『アンドバリの指輪』を見つめる。 生者の心を奪い、死者に偽りの命を与えるその力。 こんな物を得て、己は神にでもなったつもりで居たのか。 生者を意のままにし、死者の軍勢を率いるあの少女の形をしたモノ。 あの悪魔に比べれば、私は神どころか陳腐なまがい物でしかなかった。 あれに出会ったその時から、私は運命に捕らえられてしまったのだ。 いや、私自身があの悪魔に魅せられていたのか。 白いスーツに身をまとい、黒髪をなびかせた、あの死の化身に。 † 停戦会談破棄を伝える使者は昨晩、アルビオン王都ロンディニウムを訪れた。 皇太子ウェールズの暗殺から日も変わらぬうちに派遣された特使は 王党派全軍によるロンディニウムへの即時侵攻と、雌雄を決すべしという アルビオン王ジェームズ一世の意思をクロムウェルに伝えてきた。 「あっはっは、良かったのう。 向こうから来てくれるとさ」 ワインを傾けながらアーカードがからからと笑う。 円卓のテーブルの後ろで影がゆらめく。 「笑い事では、、笑い事ではありませぬ!」 クロムウェルが頭をかきむしる。 「ウェールズは「行方不明」になるはずだったのではありませぬか?!」 「予定ってのは狂うためにあるもんだよ?」 アーカードの対面に座った猫耳の少年がやれやれとつぶやく。 「なっ?! そ、それもこれも全部、、、!」 「ひっどいなあ、全部ボクのせいだっていうの?」 シュレディンガーはフォークに刺した鴨のオレンジソースがけを一口頬張ると 目を丸くしてアーカードを見つめた。 「うわ、おいし!」 「ふっふ。 そーじゃろー、そーじゃろー。 あの時はせっかくの手料理を食わせそこなったからの」 「シェフィールド殿!」 クロムウェルがテーブルを叩き、アーカードを睨み付ける。 「これでは、、約束が違います!」 「約束なんぞしとらんのー、単なる計画だ」 手の中のワイングラスがからり、と音を立てる。 グラスの中には始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』が沈んでいる。 「どのみち王党派とは戦わねばならんのだ、大した違いはあるまい。 何より向こうには『虚無の魔女』はもう居らん。 のう?」 グラス越しにシュレディンガーへと笑いかける。 シュレディンガーはぷいとそっぽを向き、口を尖らせる。 「もっちろん! だーれがルイズの元になんか帰ってやるもんか」 「だとさ」 「し、しかし、脅威はいまやそれだけではありませぬ! こちらの計画を知った南のカトリック教徒どもはロサイスへ向かわず その全軍が王党派と歩を合わせ、このロンディニウムへと向かっています! ラ・ロシェールへの奇襲もトリステインに知れているやも知れませぬ! この先、この先どうすれば!」 「どうするもこうするも予定通りに戦争するだけじゃろ、戦争」 辟易としてアーカードが言う。 「こ、この上はシェフィールド殿よりガリアに、、!」 「あ? ウチのひげのおっさんがお前さんに話した計画は 「トリスタニアを攻め落とすに際してはガリア空軍を以ってこれを助ける」 これだけじゃ。 なに、ジェームズ王がこのロンディニウムに向かっておると言う事は ワルドはお前さんの手のものだと思われておると言う事じゃろ。 トリステインの方でもワルドの立てた計画を疑いこそすれ ガリアが噛んどるなんぞ思い付かんだろうし、ラ・ロシェールへの奇襲も 案外うまくいくんじゃないのん?」 「そんな、無責任な!」 「ここの責任者はお前じゃろ? 私はせいぜい高みの見物でもさせてもらおう。 あー、どうせならトリステインの方の戦いにでも行ってみるか。 そっちのが派手そうじゃし、何より魔女殿もおるしの」 黙々と料理を片付けていたシュレディンガーの手が止まる。 「なにアーカード、まだ諦めてなかったの?」 「無論」 短く答える。 アーカードはテーブルの上で手を組み、宙を見つめた。 「のうシュレや、「心を鬼にする」という言葉を お前は知っておるか?」 「ニホンのコトワザだっけ?」 シュレディンガーが眉間にしわを寄せ、昔の記憶をたどる。 「そうだ。 常ならぬ事態に対峙した人間が、常ならぬ決断と決意とを せねばならぬ時に使われる言葉だ」 「そっか。 まあ別に「心を鬼にする」っていっても 鬼みたいな悪いコトをするって意味じゃあないもんね」 「「鬼」は元より「鬼」であるのではない。 「人」が「鬼」に成って果てるのだ。 そして「鬼」とは、人に果たせぬ事を人が果たす為の 人を超えた意思であり、信念であり、執念であると思うのだ。 だからこそ私はそれを欲する、それが欲しい。 それ無くして虚ろなる私は「吸血鬼」足りえず、 単なる「血を吸う何か」でしかない」 「で、ルイズならその鬼みたいな信念を持ってるって? ま、確かに鬼みたいにワガママだしー、 鬼みたいに強情っぱりではあるけどね」 やれやれと猫耳と一緒に肩をすくめる。 「あーそうそう、ルイズといえば」 シュレディンガーがごそごそと服の下を探る。 「こいつは返しとくよ。 まったくとんだ疫病神だ」 よっこいしょと黒い鉄塊をテーブルの上に乗せる。 ガリガリとテーブルを滑ってきた巨大な銃をアーカードが受け止めた。 「ほう、そちらにあったのか」 その銃を感慨深げに手に取る。 「この体だと重心が軽くてな、片方だけではどうもバランスが悪かった」 懐からもう一丁、白銀に輝く同じく巨大な銃を取り出す。 『.454カスール カスタムオート』そして『対化物戦闘用13mm拳銃 ジャッカル』 二丁の銃を軽やかに構え、満足げに頷く。 「ふむ。 矢張りこうでなくてはな」 そのままクロムウェルに向き直ると、アーカードはニヤリと笑った。 「今回は特別じゃ。 加勢してやる」 「そ、それではシェフィールド殿が私をお守りくださるので?!」 「はっはっは、殺すぞ? 上(ロンディニウム)か、下(トリスタニア)かを選べと言うとるんじゃ。 まあ、どうしても私と一緒におりたいのであれば、、、 一番安全な場所に「匿って」やらんでもないがの」 アーカードが牙を剥いて笑う。 乱杭歯の向こうに赤黒い虚無が広がる。 「ヒィッ!」 クロムウェルが思わず悲鳴を漏らす。 「し、しかしトリスタニアを選ぶといってもロサイスまでは、、」 このロンディニウムで王党派とカトリックの挟撃に合うよりは まだしも勝てる見込みはあろう。 ラ・ロシェールを抜けトリスタニアに着きさえすればガリア艦隊の協力がある。 だが、肝心の降下作戦のための戦艦は全てロサイスにあり、 ここロンディニウムとロサイスの間にはカトリックが、あの狂信者集団がいる。 「ほう、前線にあって艦隊指揮をなさると申されるか。 いやいや、まことクロムウェル殿は司令官の鑑よのう!」 二丁の拳銃を懐にしまったアーカードはニコニコと席を立つと、 クロムウェルのえり首をむんずと掴んで有無を言わさず窓際まで引きずる。 「とりゃ!」 そのまま片足で窓を蹴破る。 吹き込んだ夜風になびく髪が、闇を吸い込みゆるゆると変質していく。 「その意気に免じ、この私が直々に送ってやろうぞ」 巨大な翼に姿を変えゆくその黒髪が一度、二度と大きく羽ばたく。 「ではシュレや、ちびっと行ってくる」 そう言うとアーカードは後ろで手を振るシュレディンガーに見送られ、 片手にクロムウェルをブラ下げて鼻歌交じりに月なき夜空へ飛び立った。 「♪ 小さーいー頃ぉ~は~ 神様がいて~、 毎ー日ゆーめを~~、、、」 † そしてそのままロンディニウムへと進軍するカトリック教徒たちの頭上を越えて ロサイスへ届けられ、明くる日の昼にはラ・ロシェールへと向かう艦上に居た。 司令官を迎えた艦隊の意気は上がったが、当のクロムウェル自身は 己の状況を未だに納得できずにいた。 やるべきことは明確だ。 トリステイン領内のタルブに降下、ラ・ロシェールを奇襲して トリステイン艦隊を殲滅し、そのまま王都トリスタニアに攻め上る。 ほかに選択の余地もなかった。 しかし、それでも。 いや、だからこそ。 運命には抗えない。 思えばこのレキシントン号も、あの『虚無の魔女』が一番最初に関わった船だった。 ようやく修復を終えたその艦上に自分がいる事に、深い因縁を感じざるを得ない。 クロムウェルは自分の指にはまった『アンドバリの指輪』をもう一度見つめ、 そして力なく笑った。 。。 ゚○゚ 「どうしたもんですかネー」 イスカリオテ機関長、間久部(マクベ)が髪をかきあげる。 その口調とは裏腹に、垂れた髪の奥の目は笑みに歪んでいた。 皇太子暗殺から一夜明けた正午。 サウスゴータとロンディニウムの中ほどにある森のそば。 「アルビオン解放戦線」から名を改めた「ハルケギニアカトリック武装蜂起軍」は ロンディニウムへの夜を徹した強行軍の中、しばしの小休止を取っていた。 アルビオンの民衆は長きに渡る内乱に倦み疲れ、その争いに大義名分を与える ものでしかないブリミル教とメイジ達への反感を火薬の如くに蓄積させていた。 そんな彼らの中にカトリックの教義は熱狂を以って迎えられ、今やその信徒は 十万にならんとし、蜂起軍の数も様々な勢力を併呑しつつ優に三万を超えていた。 その象徴である二人の聖女、その一人のティファニアは行軍に加わらず 信仰の中心地となったウエストウッド村に残り、信徒達をまとめている。 ハーフエルフである彼女は新たに信仰に加わる者たちへ例外なく驚きを与え 時には一時の警戒を招きもしたが、エルフを敵と教えた貴族たちへの反発と 何より誠実で献身的な彼女の姿がかえって信徒達の求心力となっていった。 そしてもう一方の聖女、『狂戦士(バーサーカー)』高木由美江は その圧倒的な戦闘力により武装蜂起軍を団結させる強力なイコンとなっていた。 特にその愛剣(その様な言われ方は由美江にとっては不本意だったが)である デルフリンガーの魔法殺しの能力は、メイジたちに使い捨てられてきた 魔法を使えぬ平民兵士達にとって、まさに貴族支配打倒の象徴と映った。 軍の中でも特に信仰心と戦闘力の高い者たちは『ウエストウッド聖堂騎士団』 として彼女に直接指揮をされ、その十字を掲げた黒ずくめのいでたちは 戦場にあってレコン・キスタ側の兵士達に強烈な畏怖を植えつけた。 その高木由美江は間久部機関長の傍らでもう一人の人格に体を預け、 自分は来るべき戦いに備えて眠りについていた。 「ど、どうかなさったんですか? 機関長」 「いやナニ由美江クン、あ、いや今は由美子クンか。 どーにもこーにも目指すロンディニウムから 当のクロムウェル氏の姿が消えたらしいんデスヨネー」 「そ、それって、レコン・キスタの方々との和平交渉のお相手が いなくなった、ということでしょうか?」 「ワヘイ、デスかぁーっはっはぁ」 この期に及んでそんな発想が出てくる由美子の平和主義ップリに 間久部は思わずがっくりと頭を垂れる。 二重人格とは聞いてはいたものの、これほどまでとは。 この世界にちょくちょくと顔を出すようになって数ヶ月がたつが 未だに由美江と由美子の二人のギャップに慣れる事は出来ない。 (ま、この由美子クンがいればこそ、由美江クンもあのおっとりとした ティファニア嬢と上手くやっていく事が出来ているんだろうがネェー) 「フン、レコン・キスタの司令官が敵前逃亡とは、何ともしまりのない結末だ。 この分では俺の働き甲斐も無さそうだな」 二人の横で黙々と愛銃ソードオフ・M1ガーランドの手入れをしていた ルーク・ヴァレンタインが間久部の顔も見ずに鼻で笑う。 初夏だというのに白のスーツに白いコート、流れるような金髪を 後ろに束ねたその姿は、身にまとった常人ならざる気配と相まって 寄せ集めの軍勢の中でもひときわ異彩を放っていた。 個人での陽動や暗殺を主な任務とするルークは前線での戦闘には 殆ど関わらず、吸血鬼であるという事も知らされてはいなかったが、 影に日向にティファニアを見守り、隙さえあれば由美江と殺し合いを 始めようとするこの色白眼鏡の美男子が人外の存在だろうという事は 信徒達の間では暗黙の了解となっていた。 「それはあの、良い事です、、よね? ルークさん」 由美子相手では食指も動かぬらしく、ルークはただ肩をすくめる。 「いやいやソーとは限らりませんよー、ミスタ・ヴァレンタイン。 向こうにはかのアーカード氏がいるらしいじゃあないデスかあ?」 間久部の発したその名前にルークの手が止まる。 「その「ミスタ」ってのは止せ、ケツが痒くなる。 アーカードは確かに問題だが、シュレディンガーの話だと そもそも向こうに加勢するとは限らん。 大体ヤツとて身一つでこの世界に来てまだ日も浅い、 アレの死の河とて良くて一万になるならぬの筈。 ロンディニウムの貴族派残存兵力を足しても 王党派と合わせればこちらの方が数は倍する。 それに、アーカードがその領民達を戦場に解放したその時は、、、 今度こそ、俺がヤツの心臓を止めてやるさ」 眼鏡の奥で理性を保っていた真紅の瞳が、凶暴な歓喜に歪んだ。 † 「起きて下さい」 かつてこの国の王城だったハヴィランド宮殿。 クロムウェルをロサイスに送り届けたアーカードは、 ロンディニウムに戻るとその宮殿上部の寝室で たっぷりと食らい、たっぷりと眠った。 その食い散らかした残骸の中に、ローブをまとった女性が立っている。 その目は吸血鬼特有の赤い光を放っていた。 「シェフィールド様、起きて下さい。 面白いことになっていますよ」 眠りに落ちていたアーカードが鼻をひくりと動かし、目を覚ます。 丸一日以上眠っていたらしい。 ひとつ伸びをしてぺたぺたと窓辺に進み、カーテンを引き開ける。 雲間に隠れた天頂の太陽の近くに、二つの月が浮かんでいる。 日食が、近い。 視線を水平に移してから、アーカードは初めてそれに気づいた。 「ほお!!」 ロンディニウムを囲む城壁のそばに、二隻の戦艦の姿がある。 戦艦はゆっくりと回頭し、その砲列を今まさにハヴィランド宮殿に 向けつつあった。 城壁の外では既に展開された両軍が開戦の時を待っている。 「あんな隠し玉があったとはのう!」 貴族派の空軍戦力はほぼ全てがトリステイン攻略へと向かっている。 王都防衛の竜騎兵部隊が次々と飛び立っていくが、司令官の不在は 指揮系統に混乱を招き、兵達は統率された行動を取り得ずにいる。 「はは、いいぞ」 二隻の戦艦から一斉に砲火が上がる。 「 戦 争 の 時 間 だ 」 着弾の轟音と衝撃とがハヴィランド宮殿を揺さぶった。 地上でも砲撃を契機に双方の軍勢が敵陣へと突撃を開始していた。 鬨の声と剣戟とが遠くここまで響いてくる。 まるで宝物を見つけた子供の様に、アーカードの目が歓喜に輝く。 懐へ手を差し入れると、ローブの女性へ指輪を放る。 始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』。 今のアーカードにとっては限りなくどうでもいいものだ。 「クロムウェルの方はどうなりましょうか」 「知らん」 眼下に繰り広げられる光景を見つめたまま、アーカードが短く答える。 「大体クロムウェルが首尾よくトリスタニアまで辿り着いたとして、 あのおっさんが「自分の娘」が留学しとる国を攻撃するとも思えん」 「シャルロット様、ですか」 「今はタバサと名乗っとったよ。 向こうはぜんぜん覚えておらんかったがの。 もっとも、国元でこの姿で会った事は無かったか」 アーカードは手を広げ、少女の形をした自分自身の体を眺める。 「シェフィールド様は、どうなさるので?」 「その「シェフィールド」という名前は、お前にやる」 後ろに立つ女性が小さくため息をつく。 「では、今後は何とお呼びすれば」 「アーカード」 振り返りもせず、ぎちりと頬を引き上げて答える。 「いろいろ試したい事もあったからな。 ちと遊んで帰る、と 「シャルル」 に言っておけ」 アーカードは窓を蹴破ると血と硝煙と鉄の臭いを大きく吸い込み、 歓喜の大哄笑を上げて戦火の空へ身を躍らせた。 † 「敵陣は混乱の極みだ! 次弾、砲撃準備急げよ!」 「敵竜騎兵を近づけるな! 左舷弾幕を厚くしろ!」 王党派が隠し持っていた虎の子の戦艦二隻。 甲板を怒声が飛び交い、兵士達が慌ただしく駆け回る。 その一隻、戦艦レパルス号の甲板―――。 一人の兵士が、ぞくり、と氷の様な気配を感じ思わず後ろを振り向く。 視線の先には同じく息を呑み甲板の中央を見つめる仲間の姿があった。 爆音とどろく戦場の中で、その場にいた全員が無言で一点を見つめる。 そしてそれは当然のように、空からゆっくりとそこに降り立った。 兵士は、ある「噂」を思い出していた。 その噂はこの内乱が始まった時から、否、もしかしたらそれ以前から 兵士達の間に囁かれていたものだった。 それは、真白い少女の姿かたちをして戦場に現れ、 けれど、少女では、ましてや人などでは在り得ず、 しかし、敵味方の区別無く。 いわく――― ―――血を啜るという。 いわく――― ―――魂を喰らうという。 聞いた時には馬鹿げた与太話だと一笑に付した。 事実、そんな話など聞いた端から忘れていた。 今、その与太話の「それ」が眼前の「これ」だと瞬時に理解した。 自分だけでない、ここにいる皆が感じている。 「恐ろしい事になる」と。 この化け物を倒してしまわないと「恐ろしい事になる」と。 少女の姿をした「それ」に、全員が殺到した。 銃弾が、魔法が、剣が槍が斧が次々とその五体に撃ち込まれ、 焼き焦がし、斬り刻み、「それ」を肉片へと変えていく。 艦外の戦闘は忘れ去られ、絶叫と恐慌だけがその場を支配した。 だが。 撃ち尽くし、焼き尽くし、斬り尽くした時、 絶叫は絶句に置き換わり、恐慌は絶望に浸食されていく。 声なく立ち尽くす兵士達の前で、その肉片が、骨片が、服さえもが 溶けて流れて赤黒い血流に変わり、蛇の様に渦巻いて人の姿を形取る。 真白いスーツに黒髪をなびかせた少女の姿を。 復元したばかりの口元から小さなピンク色の舌がこぼれ、唇を舐める。 少女はまだ鼻から上の無い顔で、ゆったりと皆に微笑む。 真白い手袋をした両手が懐に差し込まれ、巨大な二丁の拳銃を取り出す。 左手には白金の銃、右手には黒金の銃。 アーカードは両手を広げ喜びに満ちた表情を浮かべると、 出来上ったばかりの目を見開き満足げに周囲を睥睨した。 「兵士諸君 任務御苦労 さ よ う な ら 」 ただただ一方的な虐殺の場と化した戦艦レパルスの横で、 戦艦オライオン号の甲板上へもその恐慌は感染しつつあった。 「何が、何が起こっている、あの艦上で、、」 「判らん! くそっ、とにかく陛下をお守りしろ!」 「何だ? レパルスの黒いあれは何だ?!」 ―――得体の知れない何かがレパルスの艦内を蹂躙している。 「あれをオライオンに近づけるな!」 ―――それだけはオライオンの艦上からも見て取れた。 「駄目です、レパルス号の通信途絶!」 「陛下、こちらは危険です!」 国王ジェームズ一世は、しかし動こうとはしなかった。 「いまさらこの場を逃れて何になろう」 確証は無かった。 しかし心静かに確信していた。 (あれが、朕の死であるか) 老王はゆっくりと手にした王杖を振り上げ、 戦艦レパルスへ向かってかざす。 傍らに立った司令官が驚きながらも兵に指示を出した。 「?! ほ、砲撃用意! 目標、戦艦レパルス号!!」 その声に兵士達も一瞬の放心の後、すぐに指示を実行する。 「取り舵いっぱい!」 「急げ! 全砲門開け!」 「、、、陛下」 その声にジェームズ一世は静かにうなずく。 王杖が振り下ろされ、司令官が叫んだ。 「撃て!!」 「全弾命中! 全弾命中!」 味方艦への打撃に悲痛な歓声が艦内に湧き上がる。 しかしそれはほどなく、困惑と畏怖とに変わっていった。 オライオン艦上の全兵士が見守る中、 黒煙を上げる戦艦レパルスは ずるずると這い蠢く赤黒い巨大な何かに包まれていく。 「、、、冗談だろ」 「次弾装填急げ、、、早く、早く!!」 もはやそれ自体が赤黒い何かに変質しようとしているレパルスが、 低い軋みを上げつつゆっくりとその船首をオライオンへと向けた。 「?! こちらにぶつける気か!」 「退避!退避!」「駄目です、間に合いません!」 「魔法だ! 何でも良い、魔法を奴に、、、!!」 狂乱の坩堝となったオライオン艦上で。 かつて戦艦レパルス号だったモノが眼前に迫る中、 アルビオン王国国王ジェームズ一世はその人生の最後につぶやいた。 「、、、ウェールズ、すまんな」 遠く響く轟音と爆炎とがロンディニウムの天空を揺るがせた。 † 「オイオイオイ、どうなってんのよアレは?!」 向かってくる敵の首を右手の日本刀で刎ねつつ、由美江は ゆっくりと墜落していく友軍の残骸を唖然として見上げる。 「どうも何も、誰の仕業かなんぞ判り切ったことだろう?」 ルークが鼻で笑いつつ、顔も向けずに後ろの敵の頭を射抜く。 ついでに横なぎに振るわれた日本刀の一撃を 造作も無くしゃがんでかわす。 「お前の半分がテファの親友である事に感謝するんだな。 でなければ今すぐ蜂の巣にしてやっている所だ」 銃口を由美江に向けたまま斬りかかってきた敵兵を蹴り飛ばす。 「はンっ! やってみろっつーのよこのへっぽこフリークス!」 蹴り飛ばされてきた敵兵を左の剣で叩き潰すと、由美江は周囲を見渡す。 『おい相棒、俺ぁ金槌じゃあねーんだぜ? せめて斬れよ』 悲しげにつぶやくインテリジェンスソードには目もくれない。 「集まれ!」 由美江の号令に百人程の黒ずくめの集団が周囲に陣を張る。 ハルケギニアカトリック武装蜂起軍の中でも選りすぐりの 狂信者集団、『ウエストウッド聖堂騎士団』。 十字を掲げた彼ら全員が、由美江の刀が指し示すその先を見つめる。 「敵陣に落ちますな、シスター」「件の吸血鬼と言えど、あれでは」 ―――私は ヘルメスの鳥――― 「否、来るわ」 ゆっくりと土柱を立ち上らせ敵陣へと吸い込まれていく 巨大な二つの塊を眼光鋭く睨みつつ、由美江が答える。 ―――私は自らの 羽を喰らい――― 「さて、仕事だ。 せいぜい囮になる事だな」 ルークの足元から黒犬獣がせり上がり、彼自身を飲み込むと そのまま影の中にどぷりと消え去る。 ―――飼い 慣らされる――― 「黒禍が、来る!!」 二隻の戦艦が敵陣に墜落したその衝撃が、数瞬の間をおいて 由美江たちに叩きつけられる。 大地を揺さぶる振動と、吹き付けられる熱風と粉塵の中で 由美江は知らず笑みを浮かべていた。 「河が来る、死の河が。 地獄が踊り、死人が歌う」 墜落の衝撃だけが理由ではなかった。 襲い来る猛烈な予兆、いや狂兆に心と体を絡め取られ 敵も味方もその動きを止めていた。 黒煙と炎に包まれた残骸の中から、何かがあふれ出た。 赤黒いそのそれは、奔流となり、濁流となり、 そして激流となって周りの全てを飲み込んでいく。 そしてその中から、『死の河』の中から。 死者の、群れが。 現れたそれは、騎兵だった。 それは歩兵だった。 それは工兵だった。 それは竜騎兵だった。 ドットメイジが、ラインメイジが、トライアングルメイジが、 スクウェアメイジが、神官が、平民が、貴族が、商人が、 猟師が、農民が、遊牧民が、トリステイン人が、ガリア人が、 ロマリア人が、アルビオン人が、ゲルマニア人が、東方人が、 傭兵が陸戦兵が砲兵が水兵が憲兵が砲亀兵が火のメイジが 風のメイジが土のメイジが水のメイジが衛士が銃士が聖堂騎士が 風竜が火竜がオーク鬼がトロル鬼がオグル鬼がコボルド鬼が ミノタウロスがエルフが、呼ぶべき名も無きものたちが―――。 死者の王の領民たちが、その領地から這い出でた。 「全周防御!! 全周防御!!」 「方陣だ!! 方陣を組め!!」 「何だ!! 何が、、、」 「何が起きている?!」 恐怖に駆られた生者が叫ぶ。 まもなく死者の側へと転じる者達が。 「死だ、、、」 由美江が言葉を噛み締める。 「死が、起きている、、、!!」 怖がる事は無い、恐れる事は無い! 自らもかつて、「これ」の一部だったのだ。 左手のルーンが唸りを上げて輝きを増す。 「いいなあ!! あれ!!」 遠くの丘から双眼鏡で戦局を眺めていた間久部が喜色満面に叫ぶ。 「欲しい!! 素晴らしい!!」 戦艦の残骸を押しのけ現れた巨大な皮膜がロンディニウムの空を覆う。 めりめりと広がるその翼は生者も死者をも暗闇の中に塞ぎこめ、 ゆっくりと伸び上がるその首は二つの月をも喰らわんとする。 小山の如きその巨躯が死の河の内から顕現した時、ハヴィランド宮殿の 屋根の上でルークは引きつった笑みを抑えられずにいた。 体長100メイルを優に超える、歳振りし火竜が大気を震わせ咆哮する。 「あんなものまで、、あんなものまで喰ったのか!」 古竜の巨体がロンディニウムの城壁を難なく打ち砕く。 死の河は既に城壁を超え、市内へと雪崩れ込んでいる。 それはもはや、戦争といえるものではなかった。 敵も味方も、平民も貴族も、武器持つ者も持たぬ者も、 生きとし生けるもの全てが有象無象の区別無く。 「こんな事があるものか! あってたまるか!!」 どう考えても多すぎる。 死者の群れは溢れ留まる事を知らず、今や郊外の戦場はもとより ロンディニウム全域をすら飲み込まんとしている。 少なく見積もっても優に30万は下るまい。 奴とてこちらの世界へ来てまだ数ヶ月のはずなのだ。 古竜が大きく息を吸い、巨大な火球を吐き出す。 否。 こちらの三人がたまたま同時期に召喚されただけ、だとするならば。 アーカードまでもが時期を同じくする必然性は無い、とするならば。 有象無象が塵芥と吹き飛ばされ、立ち昇る火柱は天をも焦がす。 その光景を見下ろすルークの脳裏にシュレディンガーの声が蘇った。 この世界での再開以来、あの猫は事ある毎にウエストウッドを訪れては 昼食をご馳走になる代わりにティファニアに茶飲み話を披露していった。 そうだ、自分と主人とが平行世界に迷い込んだという話だった。 他愛ない冒険譚の中で、シュレディンガーは何を語っていた? 使い魔たちが召喚された時を分岐に、平行世界の相違が生まれていた、と。 けれど一部の相違は、自分達が召喚される前から在るようだった、と。 だが、それさえも他の使い魔が召喚された時に生じた相違だったとすれば。 そう、アーカードがこの世界に召喚された時に生じた相違だったとしたら。 もし、そうだとしたら。 5年か? 10年か? それとももっとか。 「奴は、、奴は何時から ここ<ハルケギニア> にいる!?」 † 燃え盛り黒煙を上げる、墜落した戦艦の残骸の上。 アーカードはそこに座り、足を組んで嬉しげに遠くを見やる。 「存外に粘る! ふふ、そうでなくてはな、そうであろうとも!」 混沌の中央、死者と生者との狭間には由美江率いる黒衣の集団、 『ウエストウッド聖堂騎士団』が陣取り、防波堤となっていた。 「さて」 瓦礫の上に立ち上がると、両手の銃を指揮棒のように構える。 アーカードの足元、瓦礫の丘の下に死の河が沸き立つと、 数十、数百の杖持つ影が次々と立ち現れる。 新たに現れた死者の群れは一斉に様々な形の杖を掲げ、 しかし一糸乱れぬ統率で朗々とルーンの詠唱を始めた。 「単一意思に支配された千人のメイジによる同時詠唱。 さしずめ 千角形<キリアゴン> スペル とでも名付けるか」 最初に反応したのは水系統のメイジ達だった。 前線のはるか後方に現れた尋常ならざる死者の群れ。 彼らの唱えるルーンが何をなそうとするものなのかに気付いた時、 この魔女鍋の底のような混沌のさ中で、いよいよ己の気が触れた のではないかと我を疑った。 しかし数瞬の戸惑いの後、彼らは声の限りに絶叫した。 「奴らを、奴等を止めろ!!」 「いや、もう遅い! 何処でも良い、身を隠せ!!」 そこには既に王党派も貴族派も無かった。 死者と、死から逃れんとする者とがいるだけだった。 「土のメイジはトーチカを作れ!」 「平民を守れ! 早く!!」 戦場の中央に大気が凝り、渦を巻く。 空を覆わんばかりの雲塊が現れつつあった。 高らかな死者たちの詠唱に合わせて、 遥かな高みの白い渦は放電を伴って凝集されてゆく。 そしてその収縮が頂点に達したとき。 「来るぞ!!」 絶叫とともに戦場に高温の暴風が吹き荒れた。 逃げ損ねた者の皮膚がただれ、膨れ上がり、 生きながら蒸し焼きになっていく。 「頭を出すな! 息を吸うな!」 ある者は城壁の瓦礫に、ある者は同胞の死体に埋もれ 必死に灼熱の突風をやり過ごす。 「終わった、のか?」 「いや、、今の熱風は氷結魔法の副産物だ。 単なる放熱現象に過ぎん」 その単なる副産物に焼かれた者たちが累々と転がる。 風のやんだ戦場で、男たちはゆっくりと立ち上がった。 「あれ、見ろよ」 促され、空を仰ぎ見る。 まもなく食に入ろうとする太陽と二つの月の横に。 三つ目の月が生まれていた。 水晶を削りだして造られたかの様なその天上の球体は、 距離感も判らぬ程の彼方で陽光を浴びて煌いた。 「何て、、何て美しい、、、」 知らず、涙が溢れてくる。 その月が高く澄んだ音を響かせ、ひび割れる。 生まれたばかりの月から光のしずくがゆっくりと漏れ落ちてくる。 こぼれ出たその光の一つを受け止めようと、男はそっと手を伸ばした。 全ての音が消えた世界に、アーカードの声が鳴る。 「では逝くぞ。 千角形<キリアゴン>スペル エ タ ー ナ ル フ ォ ー ス ブ リ ザ ー ド 」 月からの光のしずくが長さ5メイルを超える氷柱だと気付いた時、 男の体は既に氷柱に貫かれ、否、押し潰されていた。 地獄が、降り注いだ。 † 「おお、遅かったのう」 「おまえは、、、おまえは一体何なんだ」 舞い落ちる氷柱群が奏でる荘厳な交響楽曲を背に、アーカードは振り返る。 二つの月がゆっくりと太陽を飲み込んでいく。 闇が世界を飲み込んでいく。 「どうした? 千載一遇、万に一つ、那由他の彼方の好機だろうに」 「化け物め!」 ルーク・ヴァレンタインが牙を噛み鳴らす。 「『あの方』を騙るな! 俺が死の河と分かたれるまで、『あの方』は共に死の河に在った。 お前は『あの方』じゃあ無い。 お前はアーカードでも無い。 お前は吸血鬼ですら無い。 お前を滅ぼす好機だと? 笑わせるな。 お前は死すら持たない。 お前は賭すべき何物も持ってはいない。 お前は、お前はただ人を真似るだけの人もどきに過ぎん!」 アーカードは悲しげに肩をすくめる。 「やれやれ、非道い言われようじゃのう」 周囲に渦巻く阿鼻と叫喚の混声合唱はいつしか途絶え、 曲目はついに終盤を迎えていた。 闇に包まれた白銀の世界から、赤黒いものがにじみ出て来る。 幾千幾万の魂が、命が、そして死が。 小さな体が黒髪と、血と、影と溶け合い闇そのものへ変じる。 死の河が再び眼前の少女の内へと帰ってゆく。 もはやルークになす術は無い。 目の前に在るのは死の河の主ではない。 主を求め彷徨う死の河そのものなのだ。 「ならばこそ、、、 命を賭して何かを成すために、私は命が欲しい。 死を恐れず何かを成すために、私は死が欲しいのだ。 お前ならば、分かれ。 ルーク・ヴァレンタイン」 死の河の中央で全ての滅びを飲み込んでゆく少女は ルークをただ正面から、静かに見つめていた。 その静かな眼差しはしかし、哀願の、懇願のようだった。 死ぬ為だけに死を望む死の化身。 その時、その瞳が、ふいに固まり大きく見開かれた。 その顔が、弾かれたように東の空に向けられた。 「、、、来た」 少女の声は歓喜に打ち震えている。 「は は は は は は ! ! 開く、、、 『虚無』が開くぞ!!」 哄笑とも咆哮ともつかぬ狂喜の声をあげ、黒い翼を天に伸ばす。 「ワンコはもう少しだけ貸しておいてやる」 にやりと笑った後、引き絞られた弓矢のように暗い空に飛び去っていく アーカードの姿を、ルークはただ立ち尽くして見送った。 † 由美江が目覚めた時、生者も死者も、そこに何も残されてはいなかった。 戦場にはただ一人、自分だけがとり残されていた。 デルフリンガーの力を以ってしても、それが限界だった。 皆を守ろうとして守れず、力を使い果たし倒れた自分の上に覆いかぶさり 微笑みながら凍り付いていった男達の顔を思い出す。 (御然らばですシスター、いずれ辺獄<リンボ>で) その顔が今、白く変わり果てて由美江を囲んでいた。 日食は終わっていた。 由美江は自分を庇い氷像と化した同胞達の下から這い出し、 見渡す限り墓標のように乱立した氷柱群を眺める。 低く煙るもやの向こうには、輝く廃墟と化したハヴィランド宮殿が見える。 恐るべき力で周囲の全てを侵食していた凍結の力は失われ、 あちこちで氷柱が音を立てて崩れだしていた。 惨劇を覆い隠すように、白銀が陽光を受けてきらめく。 抑えきれぬ衝動が、体のうちに激しく渦を巻いてゆく。 氷原の中で、左手のルーンの熱さだけが空しくその身を焦がす。 由美江は虚空に絶叫した。 「殺す、、、 殺して殺(や)るぞ、 ア ー カ ー ド ! ! !」 † 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
https://w.atwiki.jp/blazer_novel/pages/30.html
「礼だ。色々教えてくれた分のな」 静まり返った中で、ポツリとクロウは言った。 彼の目の前で、頭を強打された男は力無く気絶している。 斬ったのではなく、刀の柄で殴ったのだ。 もし男を斬ってしまえば、刀の切れ味も悪くなるしアーマー類も汚れるからである。 クロウは、男を12階のフロア内へ放り、ドアを閉めた。 かなり力を入れて殴ったので、おそらくあと数時間は起きないだろう。 クロウは再び光学迷彩を起動し、階段を下り始めた。 「(『アレ』とは一体何だ…?)」 少なくとも、この町の警察たちを蹴散らせる程の兵器である事に変わりは無い。 「(思ったより面倒な事になりそうだな…)」 5階辺りまで降りた時、クロウはドアの外側から人のいる気配を感じた。 12階とは違い、そのドアに鍵は掛かっていなかった。 だが、覗ける程の隙間は開いていない。 「(何かある…か?)」 クロウは、試しにそのドアをノックしてみた。 しばらくするとドアが開き、先程の男と同じ格好の男が、ライフルを向けながら首を出した。 「(やはり…何かある様だな)」 クロウはドアノブを引っ張って一気にドアを開いた。 無論、光学迷彩を起動しているので、当然その男は驚く。 男がライフルのトリガーに指を掛ける前に、クロウは膝蹴りを鳩尾に喰らわせ、気絶させた。 倒れた男をまたいで、クロウはフロア内へ歩き出した。 注意深く辺りを見回しながら歩いていたクロウだったが、床に一筋の光の線が差しているのに気づいた。 見ると、とあるドアから光が漏れている。 更に、クロウの耳に話し声も聞こえてきた。 「順調だ。あと30分ほどで金の回収は終了する」 「警察の方はどうだ?」 「奴ら、最初の脅しが効いたんだろう。ただ喚く事しかしてない。 ほぼ計画は終了と見て間違いないだろう」 足音を立てずに近づき、ドアから中を覗くと、クロウは状況を把握した。 最初に会った男や先程の男と同じ、覆面の男達がデスクを囲んで話し合っていた。 おそらく、一番奥にいる大柄の男がボスだろう。 そのボスらしき男は呟いた。 「奴らが痺れを切らしてここに突入した時には、俺達はもぬけの殻…というわけだ。 俺たちの勝利は目前だな」 クロウは、室内の人数を数えた。 「(全員を一瞬で倒すには…ちょっと多過ぎるな)」 室内には、およそ10人前後の男達がデスクを囲んでいる。 5脚ほど並べられた椅子に座る者と、それを囲む様に立つ者。様子は様々だ。 そのうち、武器を持つ者は立っている5人ほどの男達。いずれもライフルである。 だが、座っている者たちも銃を隠し持っていると見ていいだろう。 「(さて、どうするか…)」 光学迷彩ならばボスに近づくのは容易だろう。 だが鍵を入手するとしたら、ボスを含め室内の全員を倒す必要がある。 クロウはナイフを取り出し、部屋に入ろうとした。 だがその時、何かが全速力で走ってくる音がフロア内に木霊した。 クロウだけでなく、室内の者たちも気づいた様である。 そしてクロウは、こちらに向かってくる男の姿を見た。 先程膝蹴りで気絶させた男だった。 だが、男はクロウには気づいていない様子である。 男は全速力でクロウの目の前の扉を開け、室内の者達に向かって叫んだ。 「ゆ、幽霊だ!幽霊が出たぁ!!」 クロウは心中で密かに苦笑した。 光学迷彩がデコイ達には珍しい技術とは言え、まさか幽霊と間違われるとは。 「…はぁ?」 と、部屋中の男達が言うのを、クロウは呆れながら聞いていた。 「と、とにかく来てくれぇ…」 と男が言ったので、仕方なく室内の半数ほどの男たちが部屋を出て行った。 間抜けにも程があるが、千載一遇のチャンスだとクロウは思い、室内へ入った。 そして内側から音を立てずにドアの鍵をかけると、室内を見回した。 座っている男が五人、手前に立っている男が一人、奥に立っている男が一人。 おもむろに、クロウは手前の男の腹を肘打ちで強打した。 「ぐあっ!!」 男の叫び声に、部屋中の男達が注目した。 既にその男に意識は無く、腹を抱えて倒れている。 「おいおい、どうした?」 座っていた男の一人が立ち上がり、男に手を差し伸べた。 クロウはその男の腹にパンチを入れ、奥の立っている男に向かって投げ飛ばした。 「な!?」 立っている男は予想外の事態に反応できず、投げられた男を顔面に喰らい、頭から床に叩きつけられ、気絶した。 「何者だ!?」 ボスは立ち上がり、拳銃を腰から取り出してドアの方へ向け、乱射した。 だが、正面のドアに無数の穴が穿たれるだけで、人の気配はしなかった。 そうしているうちに、いつのまにかボス以外の者たちは気絶していた。 不意に、背中に痛みが走り、ボスは銃を取り落とした。 「動くな」 静かに、だが鋭い声で、クロウはボスに言った。 「…だ、誰だ…」 低く野太い声からすると、中年くらいの男の様だ。 クロウはナイフを背中に突きつけたまま、静かに言った。 「人質を解放しろ」 「な…何だと?」 「あんたの手下から聞いた。 人質の入れられている金庫を開けるには、あんたの持つ鍵が必要だと」 「警察の回し者か…」 手下にしてもボスにしても、犯罪者の考える事は皆同じらしい。 まぁ、この町に犯罪者を捕まえるような物好きは警察くらいしかいないが。 「…早く鍵をよこせ」 クロウがそう言った直後だった。 階段の方に向かっていた者たちが戻ってきたらしい。ドアを叩く音が響いた。 また、先程ボスが銃を乱射した為、室内に異常があった事が知れてしまっている様だ。 「どうしたんだ!早く開けろ!!」 「おい、何があった!?」 ボスはこの状況が有利と判断したのか、かすかに笑い声を上げた。 「見ろ、これでお前は終わりだ。」 クロウはナイフを持ち直し、ボスの首に突きつけて言った。 「奴らがドアを蹴破る前に、俺はお前を殺せるぞ。 言っておくが俺はこれ以上待つつもりは無い」 ボスの首から一筋、血が流れた。 おそらくあと数ミリ、ナイフが首に食い込めば、頚動脈から血が噴出するだろう。 流石に焦ったのか、ボスは白状した。 「…ポケットの中だ」 「御苦労」 クロウはボスのズボンのポケットに手を入れた。 言った通り、鍵はその中にあった。 ドアが破られたのはその直後だった。 「どうした!?」 入ってきた仲間達を見るなり、ボスは屈んで、叫んだ。 「撃て!撃ちまくれ!!」 クロウはとっさに、背後の窓ガラスに飛び込んだ。 5階の窓から、一気にクロウの身体は落下して行った。 「…!!」 クロウは刀を抜き、ビルの壁面に突き立てた。 その途端、クロウの身体は、一瞬地に引っ張られ、止まった。 「全く…思った以上に手こずったな…」 辺りは暗い。どうやら警察が照らしていた壁面の裏側のようだ。 クロウが上を向くと、覆面を被ったボスが5階の窓から下を覗き込んでいるのが分かった。 「おい!まだ生きてるぞ!銃を貸せ!!」 ボスがそう叫んでいるのが微かに聞こえた。 気づくと、先程までは起動していた光学迷彩が解除されてしまっている。 クロウは急いですぐ下の階の窓ガラスを蹴り破り、刀を壁面から引き抜いて飛び込んだ。 「だ、誰だ!!」 目の前の廊下に男がライフルを構え、立っていた。 他の強盗達と同じく、覆面に防弾チョッキの格好だ。 「(しまった…!)」 少々焦りながら、クロウは地面を蹴って男に接近した。 だが、男がトリガーを引く方が早かったようだ。 何発かの銃弾がクロウのヘルメットのすぐ横をかすめ、背後の壁に穴を開けた。 だが次の瞬間、クロウの刀により男の持つライフルの銃身は斬り飛ばされていた。 「ひ、ひいいいぃ……」 クロウは刀の柄で怯え切った男を殴り、気絶させた。 「(最近簡単なディグアウトしかしてなかったツケが回ってきたか…)」 クロウは刀を納めると、左手首の操作盤を開き、光学迷彩を起動しようとした。 「(…意外と高いツケだな)」 先程落下しそうになった衝撃のせいらしい。操作盤は動かなくなっていた。 前に見た時は点灯していたデジタル時計も、表示されなくなっている。 クロウはしばらく、左腕を振ったり操作盤を叩いたりしてみたが、結局諦める事にした。 警戒しながら、クロウは片手にナイフを構えてフロア内を歩き出した。 「一階か…」 遠くに見える窓ガラスに映る警察の照明で、クロウは現在のフロアが分かった。 また、強盗襲撃時の警察との戦闘は熾烈を極めたのだろう。フロア内には割れたガラスや倒れたドア、多数の弾痕のある壁などが数多く見られた。 「(そろそろ強盗達の警戒も厳しくなる頃だろうな…)」 先程ボスを襲撃した為、少なくともクロウの存在は強盗達に知られてしまっている。 人質のいる地下1階の警備も厳重になってしまっているだろう。 階段に向かう途中、クロウは案内板を見て、とある事に気がついた。 今まではこの銀行は地下1階までだと思ったが、地下2階もあったのだ。 「(何故だ…普通、人質を隠すなら一番奥に隠すと思うが…。 地下2階には地下1階の様に人質を閉じ込められる金庫が無いのか?)」 この事実が、妙に頭に引っかかったクロウは、一先ず地下2階へ行く事にした。 だが、光学迷彩の無い今、これまでの様に階段を歩いていけば、おそらくは確実に見つかってしまうだろう。 クロウはエレベーターのドアをこじ開けた。 「(やはり…ここはノーマークか)」 エレベーターの内部は、上も下も敵の気配は無かったが、1階のフロアと同じく暗闇に閉ざされている。 クロウはバックパックからマッチを取り出して火を点け、下へ放った。 マッチの炎は、10メートルほど下で落ちたようだった。 「(これくらいの高さなら…大丈夫そうだな)」 クロウは、エレベーターの内側の鉄骨につかまり、ドアを閉めると、下へと飛び降りた。 かなりの衝撃と音がエレベーター内に木霊したが、強盗達が気づく様子は無い。 まだ消えていないマッチを拾うと、クロウはその火を頼りに地下2階のドアを探し当てた。 少しばかりドアを開けると、照明の光がクロウの眼に飛び込んできた。 「(ん…ここは照明が点灯しているのか…)」 ボス達のいた5階を含め、地上の全てのフロア内は照明が点灯していなかったのに対し、地下2階のフロアの照明は点灯している様だった。 「(単純に外から見えないからか…?それともやはりここで何か…)」 ドアから内部を伺うと、警備していると思われる強盗が二人組みで目の前を横切った。 「(ただ警戒してるだけか?それとも…)」 クロウは二人組みが遠ざかったのを確認して、ドアを開けた。 エレベーターの横にある、フロア内の案内図をクロウは見つめた。 やはり、地下2階の奥にも大規模な金庫室がある様だった。 手下やボスの話しぶりから、ここに人質を入れている可能性は低そうに思えた。 「(おそらく…ここに何かあるな…)」 途中の警備の強盗達を気絶させ、クロウは金庫室へ歩いた。 強盗達の数は5階よりも多かったが、出会うのは少人数のグループばかりだったので、即座に全員気絶させる事は容易であった。 金庫室へ辿りついたクロウの眼に、巨大な金庫が映る。 金庫と言うよりは、頑丈な部屋と言った方が正しいのかもしれない。 目前にある扉には、表面に鍵穴とダイヤルがついている。おそらくこの二つで施錠されているのだろう。 しかし、クロウが見た時には、どちらも機能してはおらず、金庫の扉は開いていた。 内部から話し声が聞こえてきたので、クロウは警戒しながら金庫の中を覗いた。 「(なるほど…こういう事か)」 金庫の奥の壁が破壊されており、そこから脱出口が開いている。 その周りの7人ほどの強盗たちは、おそらくこの金庫に元々あったものであろう、大量の札束を鞄に詰め込んでいた。 その強盗たちは、ここまで侵入される事を想定していなかったのか、武器類を持っていない様である。 「これが上手くいけば、俺たちの生活もようやく楽になるな」 「全くだ。俺たちをコケにした奴らにも一泡吹かせられるし、一石二鳥だな」 などと、喜々と語り合う強盗たちに呆れながら、クロウは金庫内へ入った。 「…沢山の人々を危険に晒してまで、自分が楽になりたいか」 「な、何だお前!!」 クロウの姿に、強盗たちは瞬時にパニックに陥った。 その後は、クロウにとってはボスに鍵を出させるより簡単だった。 1分もしない内に、7人の強盗たちは、瞬く間に倒されていた。 クロウは、おそらく強盗たちが脱出に使うだろう穴を見つめた。 人一人分が通れる程度の大きさである。 金庫の強靭な壁は容易く破られており、その奥には、下水道が見えた。 強盗達の話し声が消えれば、下水道の流れる音だけがフロア内に響いている。 「(5階のボス達が警察を引き付けている間に、金を持った者達はここから逃げ出す…か。 その辺の空族よりは綿密な作戦…と言えなくは無いか)」 言いながら、クロウは脱出口の傍らにある物体を見つめた。 比較的大きなドリル。金庫の壁を破壊し、脱出口を開いたのはおそらくこれだろう。 だが、大規模な工事に使うには少々小さ過ぎる代物であった。 クロウは、このドリルを前にどこかで見た様な気がした。 「(どこだったか…思い出せないな…)」 クロウは、思い出せないが、本当に身近にあった様な気がして、思わずドリルを持ち上げた。 ドリルはかなり重かったが、一人で持てない重さではなかった。 ディグアウトで使うくらいが丁度良い大きさと重さである。 そこまで考えた所で、クロウはこのドリルをどこで見かけたのか思い出した。 「(まさか…)」 クロウの頭を嫌な仮定が通り過ぎたが、ここでは事実を確かめようも無い。 とりあえず彼は、地下1階の人質たちを解放する事にした。 まず階段に行き、クロウは下の階から、慎重に地下1階の様子を伺った。 強盗の手下の一人は、階段の踊り場にあるドアに寄り掛かり眠っている。 「(…末端はこの程度か)」 クロウは即座に、音も無く飛び掛り、手下の男の腹に肘打ちを見舞った。 呻き声を出し、男はその場に倒れた。 「ん?どうした?」 ドアの内側にいたと思われる手下の一人が呻き声を聞きつけ、ドアを開けて様子を見に来た。 その男は倒れている男を発見したが、声を出す事はできなかった。 ドアの陰にいたクロウに首を絞められていたからだ。 結局、その男も首を絞められたまま、気を失った。 クロウは、ドアからフロア内を窺った。 地下1階のフロアは、地下2階と同じ様に電気が点灯している。 クロウは他に手下がいないのを確認すると、フロア内に侵入した。 案内図を見ると、地下1階の構造は地下2階の構造と同じ様である。 クロウは、人質が閉じ込められていると思われる金庫室へ向かった。 途中、何度か手下達と遭遇したが、その度に即座に気絶させて、クロウは進んだ。 しかし、人質の近くとなると、流石に遭遇する人数もこれまでのフロアより多い様である。 だが、それはクロウも予想していた事だ。 「(このまま無事に人質を解放できれば良いんだがな…)」 突如『何か』を感じ、クロウは振り返った。 だが、そこには誰もいず、電灯に照らされた廊下が広がっているだけである。 「(気のせいか…?今、火薬の臭いが…)」 瞬間、クロウの右真横の壁が爆ぜた。 「…!!」 激しい衝撃がクロウを襲い、彼の身体は左側の壁を突き破り、その奥の広いオフィスまで吹き飛ばされた。 「見つけたぞ…!!」 先程聞いた、強盗達のボスの声がオフィスの中に響いた。 次の瞬間、先程クロウの身体が突き破った壁を薙ぎ倒し、何かとても巨大なものがオフィス内へ、悠然と入ってきた。 クロウは体勢を立て直し、声のした方を見据える。 「なるほど…それがお前達の切り札か。警察を倒した程の」 それは、巨大な象の姿をした兵器だった。 身体の所々に重火器を搭載し、その鋭い牙は、電灯に照らされ輝いていた。 その大きさは、フロアの天井付近にまで達し、10メートル四方はあるオフィスの4分の1を占領していた。 その頭部が開いて、ボスが姿を現した。 「もう許さんぞ。この俺をコケにした貴様は!」 「…そうか」 クロウはボスを見据え、両腰の二本の刀を抜く。 「おっと、お前の相手はこいつだけじゃないぞ!」 象型の兵器の両側から、二体の兵器が飛び出し、クロウに躍り掛かった。 獅子の形をしたそれらは、接近戦用の兵器らしい。その爪と牙は、易々とクロウのアーマーを切り裂けそうなほど鋭く、既に多量の血が付いていた。 二体は鏡に映したように対称的に動き、その爪は確実にクロウを狙って突き出された。 クロウは少しばかり驚きながらも、両手の刀で双方の爪を受け止める。 獅子達ではなく後ろの、象型の兵器の中にいるボスにその眼を向け、クロウは言った。 「ようやく…本気で潰しに来たか」 獅子型の兵器は一旦後ろへ退き、クロウに向かって吠え立てた。 その体長は3メートル程で、スマートな姿をしている。 全身赤茶色で、たてがみの部分は体よりも濃い色合いだ。 クロウは、その獅子達の姿が気にかかった。 (あの身体…どう考えても人が入るには無理が有り過ぎるな…。 先程の動きから考えても、やはり無人機か。と言う事は動きを制御しているのは…) とその時、象型の兵器の、背中の部分にある砲塔が火を吹いた。 「…!!」 クロウはとっさに横っ飛びで砲撃を回避した。 砲弾はクロウの前にあったデスクを薙ぎ倒し、床に大穴を開ける程のものだった。 (なるほど…象型の兵器が遠距離用で、獅子型が近距離用というわけか…。) 先程の砲撃で、まわりのデスクにあった書類が宙を舞っている。それを目障りに感じながら、クロウは歩き出した。 途端に、獅子型の兵器が走り出す。 二体はデスクの間を縫う様に動きながら、クロウの左右から飛び掛った。 クロウは二体を引き付けつつ、爪が当たる寸前で後ろへ跳んだ。 予想通り、二体は一瞬前にクロウがいた所で激突していた。 「(やはり…この動き方、誰かが遠隔操作しているな…。 この状況で考えられるのは…)」 クロウは、二体の向こうにいる象型の兵器を見た。 獅子達が動いている間、象型の兵器は動いていない。 おそらく、内部にいるボスは獅子達を動かすのに四苦八苦しているのだろう。 クロウは獅子達を飛び越え、象型の兵器に近づき、言った。 「…お前の負けだ!」 獅子型の兵器から、ボスの声が響いた。 「な、何だとぉ!!」 クロウは左手の刀を納め、背後の獅子達を指差しながら、言った。 「お前の手下が言ったよ。『これら』は空族から横流しされた兵器だとな。 他の手下達も言っていた。『これが上手くいけば、生活が楽になる』とな。 お前達、この銀行強盗を計画する前は、ごく普通のこの町の市民だった。違うか?」 「な…何ぃ…!!」 「空族とは違い、これらの兵器を使い慣れていない様子だな。ライオン達の動きで分かった。 使い慣れてない状態でも警察は倒せただろうが、俺は違う。」 クロウは象型の兵器に、そのコクピットにいるボスに右手の刀を向け、言った。 「…お前にはもう、勝ち目は無い」 「ほ…ほざくなぁ!!!」 象型の兵器は、その全武装を滅茶苦茶に撃ち始めた。 だがどの弾も、歩みを進めるクロウに当たりはしなかった。 「こ…こんな所で終わって…終わってたまるかぁーーー!!」 ボスは、今度は獅子達にクロウを襲わせた。 背後から襲い来る二体の獅子達を、クロウは振り向きざまに切り裂いた。 獅子達は飛び掛った姿勢のまま、クロウの左右にあるデスクに突っ込み、動かなくなった。 二体とも、その頭部の口から上の部分は切り裂かれ、クロウの後ろに転がっていた。 おそらく、切り裂かれた部分が命令を受信していたのだろう。もう獅子達は動かなかった。 「ぬ…ぬうううぅ…」 その光景に、ボスは唸る事しかできなかった。 「(せめて象の操作と獅子の操作を別々の者がやれば少しはマシになってだろうに…)」 そう思いつつ、クロウは象に近づいて行った。 圧倒的な力の差を感じ、ボスは屈辱と悔しさを感じていた。 自信を持っていた計画が、思わぬ乱入者に潰されようとしているのだ。 ボスにとっては、我慢ならない事態だった。 「完璧だ…完璧だった筈だ…この計画は…」 ボスがそう言うと共に、象型の兵器の牙が徐々に赤くなり始めた。 「(…何だ…?)」 その牙から、高温の熱が発生している事に、クロウは気づいた。 「お前如きに、この計画を潰されてたまるかぁーーーー!!」 突如、象型の兵器は突進を開始した。 「何…!?」 多数のデスクを薙ぎ倒しても、その勢いは衰えを見せない。 クロウは横に飛び退こうとしたが、一瞬遅かった。 彼の身体は吹っ飛ばされ、遥か後方の壁に激突した。 「ぐ…!」 脇腹のアーマーが砕け、焼け焦げている。どうやら一瞬あの牙にかすったらしい。 脇腹の痛みが、内部の肉体までダメージを与えられた事を物語っていた。 「(戦意喪失したと思ったが…詰めが甘かった様だ…)」 バックパックから包帯を取り出すと、クロウは立ち上がった。 象型の兵器は、再び牙を発熱させ、クロウに突進しようとしている。 クロウは左手で包帯を巻きながら、目の前のデスクの上に上った。 そして、右手に持っていた刀を納め、再びボスに向かって声を上げた。 「もう一度言う。お前に勝ち目は無い!」 「死ねぇーーー!!」 凄まじい速さで突進する象型の兵器に対し、クロウはナイフを取り出すと、投げつけた。 ナイフは寸分の狂い無く、象型の兵器の、右のアイセンサーに突き刺さった。 「な、何ぃ!!」 操作を誤ったのか、象型の兵器は勢いのまま姿勢を崩し、そのまま壁に突っ込んだ。 「(俺もまだまだだな…)」 クロウは目の前の光景を見つめながら、自嘲気味にそう思った。 ディグアウターになってから、クロウが傷を負うのは滅多に無い事であった。 彼が傷を負う場合は大抵、油断か慢心かが原因である。 今回もそれが原因であった。 「(反省する前に、始末はつけなくてはな)」 クロウは刀を抜くと、まだ立ち上がろうとしている象型の兵器を見据える。 デスクを足場にしながら、瞬時に象型の兵器に接近した彼は、その巨大な胴体を真っ二つに斬り裂いた。 次の瞬間、傷口を中心に象型の兵器は大爆発を起こした。 爆発から出てくると、クロウは刀を鞘に納める。振り向いて、爆発に巻き込まれたであろう強盗達のボスに、言った。 「地獄で反省しろ」 次の瞬間、警報と共に天井から水が噴射された。 破壊した兵器から立ちのぼる炎で、銀行内のスプリンクラーが作動したのだ。 水に濡れながら、そこら中に散乱する書類やデスク・椅子の破片を掻き分けて、クロウはオフィスから出て行った。背後の瓦礫の中で人影が蠢いていたのに気づかぬまま。 金庫室。先程のスプリンクラーのおかげで、手下達は軽いパニックに陥っている。 「(これは…好都合だな…)」 クロウが室内の様子を窺っていると、部屋の外の様子を見に行こうと3、4人の男達が部屋から出てきた。 彼らも浮き足立っていた様で、クロウが彼らを気絶させるのは容易な事であった。 再び金庫室を見ると、中にいる手下は2人しか残っていない。クロウは一気に室内へ突入し、たちまち彼らも気絶させた。 最後の一人を倒すと、クロウは、人質の閉じ込められている金庫に目を移した。 金庫の扉は、地下2階のものと同じく鍵とダイヤルがついたものである。 クロウは鍵穴に、先程ボスから奪った鍵を入れると、ダイヤルを回し始めた。 「(…こういう時の為の装備を持ってくるべきだったか…)」 一向にドアは開く気配は無かった。 いくら元粛清官でディグアウターのクロウでも、ダイヤル式の金庫を無理矢理開けるのは初めての経験だったのである。 一向に開きそうに無いダイヤルを相手に数分間奮闘したクロウだったが、相手はそれなりに名のある銀行の大金庫である。 「(全く…いい加減にしてくれ…!!)」 遂にクロウはダイヤルを諦め、思い切り刀でドアに斬りつけた。 すると、呆気無くドアは開いてしまった。 内部には、目隠しされ、口にガムテープを巻かれた人々が大勢座っているのが見える。 「(………)」 腑に落ちないものを感じながら、クロウは金庫へ足を踏み入れた。 下の階のものと同じ様に、金庫内はかなり広く、その壁は厚かった。 幅、奥行き共に10~15メートルほどで、中には20人ほどの人々が座っている。 その多くは、事務員や銀行員ばかりである。 皆、手首を縛られ、布で目隠しされ、口をガムテープで塞がれていた。 クロウは、その中で一人だけ異質な格好の男を見つけた。 他の人質と同じ様に目隠しされ、口にガムテープを張られているが、その格好はスーツやネクタイではなく、薄汚れた作業着であった。 頭には頭髪が一本も無く、その代わりと言っては難だが黒い口髭を生やしていた。 その頬は、中年の男相応のしわが刻まれている。今は見えないが、おそらく目尻の辺りも刻まれているだろう。 クロウは、その男に見覚えがあった。 「(…事情を聞く必要があるな)」 クロウはその男の目を覆っている布を解いた。 男は驚愕した様子で、布を解いたクロウを見た。 クロウは、周りの人質に聞こえない程度の声で男の耳に囁いた。 「テープを外す。騒ぐな」 クロウは、男の口を覆うテープを一気に剥ぎ取った。どうやらかなりの痛みが生じたらしく、男は低く呻き声を上げた。 落ち着きを取り戻した後、男は口を開いた。 「な、何であんたがここに?」 クロウは座り込む男を見下ろし、言った。 「それはこっちの台詞だ、ジャンク屋」 そう、この男こそ、数時間前にクロウが立ち寄ったジャンク屋の主人なのだ。 「そ、それは…」 ジャンク屋の主人は、言葉に詰まった様に言った。 クロウは、言葉を続けた。 「この下の階に、あんたの店で見かけたディグアウト用のドリルを見つけた。 事情を説明してくれないか…簡潔に」 「おいおい、もうそこまで調べはついてんのか…」 ジャンク屋の主人は、観念した様に言った。 「奴らに…強盗達に加担してたんだよ。ついさっきまでな。 だが俺には元々そんな度胸は無かったんだ…降りたいと申し出たよ。 そしたら、ここに押し込まれた」 クロウは溜め息をつき、言った。 「何故奴らに加担した?」 「あんたは知らなかっただろうが、うちでまともな客はあんたくらいだったよ。 最近は経営が苦しくなってきてな…。 そんな時にタイミングよくこの話を持ちかけられた。思わず乗っちまったよ」 ジャンク屋の主人は諦めたのか、淡々と話していた。 「随分短絡的な動機だな…」 クロウは主人の言葉に、心底呆れた様な声を出した。 「正直、失望したぞ。こんな銀行強盗に手を貸すくらいなら、他に方法があった筈だろ」 「そんなに甘くは無いよ…この町はな」 このまま話していても埒が明かない、そう判断したクロウは、言った。 「警察に自首しろ。でなければ俺がお前を警察に突き出す」 主人は、慌てた様に言った。 「そ、そんな事、奴らに降りると申し出た時から決心してる」 クロウは主人を睨んだ。 「嘘をつくな。俺がここに来なければ、あんたは明日も、何事も無かったかの様に振る舞いながらジャンク屋を続けていた。違うか?」 10秒程の沈黙の後、悔しそうにジャンク屋は呟いた。 「…ああそうだよ。ったく、あんたにはいつも敵わない。 人生経験は俺の方が上の筈なのに…畜生」 再びの沈黙の後、決心した様にジャンク屋は立ち上がった。 「…せめて償いはする」 ジャンク屋の言葉に、クロウは無表情に言った。 「なら…人質の拘束を解いてくれ。それと、俺と一緒に人質達の誘導を頼む」 クロウはジャンク屋の主人と共に、人質達の拘束を解いていった。 人質達は最初、クロウとジャンク屋を強盗達かと勘違いしていたが、他の強盗達との格好の違いなどもあって、誤解はそれほど長くは続かなかった。 人質達の反応は、怯えている者、同僚と話す者、クロウに説明を求める者など様々だった。 最初はその声も静かなものだったが、拘束を解いた人数が多くなるほど、彼らの声もかなりの大きさのものとなっていった。 全ての人質の拘束を解き、彼らの声を静めるのに、クロウはしばらく時間がかかった。 やっとの事で人質達を静かにさせると、クロウは彼らに呼びかけた。 「この下の階の金庫に、下水道に繋がる脱出口がある。 そこから地上に脱出し、警察に助けを求めてくれ。 フロア内はスプリンクラーが作動してびしょ濡れになっている。滑らない様に注意しろ」 そう伝えると、クロウは彼らとともに下の階の金庫を目指した。 地下1階と地下2階の手下は全員気絶させたが、1~5階はまだ手下がいる可能性があるからである。 ほとんどの手下はクロウが気絶させたので、移動は容易であったが、途中で様子を見に来た上の階の手下たちを気絶させる必要もあった。 そうして、やっとクロウと人質達は、地下2階の金庫室まで辿りついた。 「全く、やっとこの事件も終わりだな」 脱出口まで人質達を誘導する事ができたクロウは、ポツリとそう言った。 「ここを歩いて行けば、いずれ地上に出られる梯子が見つかるだろう。 地上に行ったら、警察に助けを求めろ」 脱出口の前まで行くと、人質達にそうクロウは言った。 人質達は、急ぐ者やクロウに礼を言う者など様々だったが、全員無事に脱出して行った。 「クロウ、この後、お前はどうするつもりだ?」 脱出口の前で、最後の一人…ジャンク屋はクロウに尋ねた。 「人質が脱出したと分かれば、強盗達もおとなしく投降するだろう。 切り札の兵器もボスももういない。奴らに抵抗する術は無い」 「そうか…よかった…」 安心した様子のジャンク屋に、クロウは語調を強め、言った。 「お前は、ちゃんと自首しろよ?」 「ああ…分かってるよ」 静かにそう言うと、ジャンク屋の主人は脱出口を歩いて行った。 クロウはジャンク屋の主人が歩いて行くのを見届けると、フゥと溜め息をついた。 「(ミッションコンプリート…と言った所か)」 後は警察に任せても問題無いだろう、そう思い、クロウも脱出口へ入ろうとした時だった。 微かに焦げ臭さが、彼の鼻をかすめた。 「(…何だ?)」 ふと下を見ると、クロウは妙な足跡がある事に気がついた。 綺麗な黒い線が、靴底の形を表している。 微かな焦げ臭さが、その黒い線から発せられている事に気づいたクロウは、それに触れてみた。 アーマーに覆われた手に付着した粉。それが、焼けて粉末状になった鉄だと気づくのに、そう時間はかからなかった。 クロウは、脱出口に向かうその足跡を眺めた。 多数の人々が通ったので、かすれているものや、ほぼ無くなっているものもあるが、金庫の入り口からこの脱出口まで、一直線に続いている事は分かった。 「………」 その足跡は、まだできて数分しか経っていないかの様に新しかった。 「(あれで死なないとは…何て奴だ…!)」 クロウは、すぐに全速力で脱出口を走って行った。 後編へ 月の中の男・目次
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/231.html
(――――、?) …………………? そこで、、、 、、、、、、、、、、異変は起こる もはやトリガーに手がかかり 引く指を止める必要も無いというのに、、 その真名が紡がれる筈の男の口が止まる 否、止まらざるを得ない…… 迎撃姿勢にてその発動を待つばかりだった男 敵が踏み込んでくればそこで終わりのこの状況 凝縮に凝縮を重ねる時間 男にとっては十分な認識可能領域なれど それはまさにコンマレベルのやり取りだった 負傷など視野に入れていない……いや、もう全身の感覚すら怪しいのではないかという女が 体を捻りこみ、振り向き様にこちらに向けて剣を打ち込もうとする そんな剣士を未だ悠々と凝視出来る位置にいる槍兵 だというのに、 「、、む?」 その光景に――男は思わず疑問の声を上げてしまう 女は何を思ったか… 全身のバネ、その勢いを利用した払い打ち―― それ自体は良い、、 彼女の最期の一撃だ こちらの攻撃諸共に砕き散らさんとするソレは 恐らく威力も鋭さも相当のモノであるだろう だが――剣士は何を思ったか、、 「その場」にて剣を横に薙ぎ払おうとしている…? 先の男の猛攻からこちら、吹き飛ばされて地を転がって 離れた両者の距離どう見積もっても10m以上―― その、今の立ち位置から変わらず 踏み込みも無しにその場で、である (そんなところから届くわけねえだろ…?) それは言うまでもなく「剣士」の間合いではない 何せ男の槍のレンジからも遥かに離れた地点だ その剣を振って、届く届かない以前の問題である ――ダメージで距離感が掴めていない? 槍兵の脳裏にそんな疑念が浮かぶ 彼女の状況はもう、それほどに深刻なのか? 眼前の騎士の、今まさに放たれる攻撃はここまで全く淀みのない動きだ ナチュラルな肩の振り 腕の抜き具合 正気を失った者の取れる姿勢じゃない それが文句の付けようの無い流麗な横一文字を描くだろう事は容易に想像できる できるが、、もっと肝心のこと―― 当然、そこには薙ぐべき対象はいないという事… それは基本的な距離感という概念すらすっぽり失念してしまっている動作であったのだ 「……………」 男の表情に落胆の色が灯る あの瀕死の相手にこれ以上を求めるのはやはり贅沢過ぎたのか… だが、最高潮に達した戦場の結末がこれでは――あまりにも切ない、、 女剣士の振舞いはどう見ても苦し紛れですらない 我武者羅に振った一撃であったのか? それとも、もはや大量の出血で幻覚でも見ているのか? ともあれ、正常な思考が作用していない正気を伴わないそれは 決着の一撃とするにはあまりにも埒の無い、興の乗らないもの―― 「勿体ねえなぁ……」 思わず愚痴らずにはいられないランサー 見るからに大降り姿勢での横凪ぎの剣閃を何も無いところに放ち それを透かされた女は、さぞや開いた体の真正面をこちらに無防備に晒す事だろう ガラ空きだ、、 槍兵にとっては突いてくれと言われているようなもので―― 心臓を相手の方から謙譲してくれたに等しい コンマ3秒、4秒―― 呆気ない幕切れだったが、そこまで性能が失われてしまっているのなら もはや長引かせるのも忍びない 距離が離れているのなら、こちらから踏み込んで打ち込むまでの事 微かな疑念から宝具を止めたランサーが再びその発動の体勢に入る (…………) 殺気に赤く染まったその両がギラリと光り 獲物を、貫くべき対象をそのままに見据え――― (………む、?) その女の―――両眼と交錯したのだった ―――――― 「……………レヴァン、、、ティン―――」 ランサーが再び見た騎士の双眸、、 虚ろにして 何の意思も写さなかった その瞳に、、 今、―― 確かな意思が灯っていた Jawohl !! Schlangeform!! 豪、と!!! 彼女の全身から血飛沫と共に炎が吹き出す! その周囲に飛び散る赤と紅の残滓は まるで彼女の命が漏れ出ているようだ! 焦げた鉄の匂いを辺りに撒き散らしながら、、重症の身で、、 もはや正気すら失ったと思われた騎士が紡ぐは未だ見せていなかった力―― ランサーの両目を射抜いた眼光には絶対零度の冷たさと融解寸前の溶岩の如き熱さ―― それを同時に内包した光が灯り、今や一片の弱々しさもない そして一様に シンプルに、 男に対して、彼女の目が己が意思を告げていた 死ね、と―――――― コンマ5秒、、 「ん、、だとッッ!!!?」 繰り出されたそれは0.1秒以下の攻防を優にこなすサーヴァントにとっては決して対処できないものではなかった―― にも関わらず、、 それはランサーにとっては最悪のタイミングでかち合ってしまった それとも――まさか、、 ―――「この」隙を狙っていたのか? トドメを刺そうとした男が逆に返された一撃は 肉食獣が獲物を仕留める時の必殺の爪そのものだった ソレは槍兵の目の前で光を放ちながら変化し 彼の予想を文字通り根底から裏切り 全てを突き破り、薙ぎ払うモノになる まずは――間合い 男のみならず素人目から見ても届かないと思われたシグナムの横薙ぎ なのにそれは足りないどころではなく、切っ先は男の視界のそのずっと後ろ 後方20m以上にまで伸びて、男の横合いから顔のすぐ隣にまで迫っていた 遥か後方まで延びた、その炎を伴った剣―― 否、今まで目の前の騎士が使っていた剣ではあり得ない間合いを示したナニカが 得体の知れない軌道を描き、今―― 凄まじい速度で横合いからランサーの頭部を捕らえようと唸りをあげる 「ちぃっ!!」 頬を、髪を、こめかみを、そして鼓膜を焼く そんな熱気を帯びた刃が既に眼前に迫る中、 この戦い始まって以来、初めて焦りを示す男の表情 ランサーの目を持ってしてそれは、「そう」認めさせるほどの速度を持った一撃 烈火の将が今まで振るっていた豪壮な剣は確かに破壊力はあれど 速度という面では明らかに男を下回っていた だが此度の一撃はその限りにあらず―― 振るわれた先端の速度は空気を裂いて先走り 男……否、サーヴァント同士の攻防に類する速度―― 即ち「音速」の域に至っていたのだ 言うなれば剣戟ではなく、、鞭 しなやかで変幻自な鞭打にひたすらに酷似したモノが この最強の相手を薙ぎ払う しかし既に下段の構えで踏み込もうとしていた男… 防備に回るには最も適さぬ体勢であったにも関わらず、、 ここに来て槍兵の挙動は――やはり超速の反応を以ってそれを迎えた 彼は宝具の発動を中断し、下げた槍を戻して 右側面に槍を構えて防御に回す その動作を「音速」以上の速度でやってのける 戦術のセオリーなど無視するほどの凄まじさを誇る英霊のポテンシャルが 防御という面でも生かされるのは至極当然 そんな男の超反応が剣士の起死回生の奇襲から 既に彼の肉体を守るべく、横合いに槍を立てて受けの体勢を作り上げていた だが、、、 「っ!? 野郎ッ……」 ここで最後の一押し 槍兵が痛恨の叫びを上げる、、 ――知覚は追いついている ――痛烈な言葉を吐く事は出来る だが、、流石のランサーをして これ以上の「挙動の追い込み」は不可能だった 剣や槍や斧の一撃ならば、ゆうに間に合っていただろうその受身 しかしながら――― 相手は鞭なのだ――― ―― 鞭は剣や斧のようには受けられない ―― 盛大に舌打ちをする暇すら無い 女の武器による奇襲を男の槍は防御した 確かに受け、その鉄と鉄がぶつかった箇所は 本来ならば凄まじい衝撃と火花散る激突を場に描いた事だろう だが今、自在さを持ったシグナムのレヴァンティンは 弾き飛ばす事適わぬ柔軟な、固形を持たぬ鞭打である それは男の槍を支点に、回りこむように―― まさにしなやかなるヘビの尾の一撃として男に襲い掛かっていた 頭部を左から薙ぎにきた狂刃が槍の柄を大蛇のとぐろのように巻き付き、回り込み 些かも速度を落とす事無く男の後方の死角から、、 右のこめかみに迫る 今――猛禽の鷹の爪は、、、蛇の毒牙へと変化し バチュゥゥゥゥゥンッッ、、!!!!!―――― 空気の破裂する音と 何かが削り取られる不協和音を場に響かせながら、、、 男の頭部に牙を突きたてていたのだった ―――――― アスファルトにぱたた、と鮮血が舞い散る 甲高い音と鈍い音を混ぜ合わせたような炸裂音が辺りに響き渡り 男の頭が爆発物に被弾したかのように――爆ぜた その蒼い肢体の上半身がズレるように吹き飛び 槍を構えた姿勢が崩れ、後方によろめいていく まるでヒトが遠方からの狙撃を食らい絶命する瞬間のような光景だ 頭部をピンボールのように左後方に弾かれ――― 決して崩れなかった男の肢体が初めてぐらつき、揺れる そしてあれほどに堅牢で鉄壁で強速だったサーヴァント=ランサーが 上半身から力を失い、頭から勢いよく出血し、その場に倒れ付そうとしていたのだ 「く、、ぉぉ―――――――、、、、ッッッ!!!!!」 そこへ――― 一陣の火の玉と化した将が、、駆ける! 悪鬼羅刹の如き凄まじさ、、 奇襲を放った烈火の将が もはや何の躊躇いもなく槍兵へと間を詰めていた あまりの猛り、あまりの気勢の昂ぶり―― だが、声帯が満足に働かぬほどに損傷した彼女の口から それが声となって発せられる事は無く、、 彼女の闘志を現すのはその全身の震えのみ ――待ちに待って ついには届かないと思われた機会 ――千載一遇どころではない それは1万分の1に比する確率で訪れた機会にすら思えた ―――この男を相手にとっての決定的な勝機を、、 逃す手はない 逃がすわけにはいかない まるで消える寸前の蝋燭の如き危うさと激しさを内包した女剣士が 槍兵に捨て身のチャージを敢行したのだ 逆に、槍兵にとってはまさに悪夢としか言いようのない一撃だった 九分九厘攻め込んでおきながら、ただの一撃でひっくり返される… 軽装と重武装の図式通りの展開とはいえ、、 散々に思案され、そういう戦いだと認識していたランサー 故に相手の動きの二歩も三歩も先を行き、その挙動の全てを押さえ込んだ にも関わらず……完封寸前で逆転本塁打を打たれてしまう ―――まさか相手にこんな隠し手があったとは、、 蛇腹剣――― 今でこそ、武装・バリエーションの多様化により 剣と鞭のフォームチェンジによる変幻自在の奇剣は決して珍しくない しかしながらそれは現代においての話だ 男の生きた時代においてはそれはいまだに未知の武装 故に、、対処が遅れてしまった… ただでさえ、決定的なタイミングで合わせられた上 正面から防御しても相手の側面や背面に回り込み、その肉をこそぎ取る固形の形態を取らぬ武装 彼女の剣は最も受身を取るのが難しい鞭という武器に変化していたのだ、、 まんまとしてやられた、と――ランサーには相手を称える暇すらない 頭部の破損はサーヴァントをして致命の一打である 先のシグナムに変わって、男の上体が今――ゆっくりと傾いていく いや……それを大人しく地に這わせるままにする女剣士ではなかった シグナムが己も満身創痍ながら、そこへトドメを打つべく迫る が、、、 ――――ズシャ、 「っ!!」 剣を振り上げた将の眼前、、 勝負はシグナムの逆転に終わるかと思われた矢先の出来事だった 立ち代りその地を踏みしめ、場に残ったのは 今度は槍兵――サーヴァント=ランサーである 頭部の傷を抑えているが その抑えた手から際限なく溢れるように吹き出す血はまるで止まる気配を見せない 頭蓋――下手をすれば脳すら傷つけているのではないかという深手だった でありながら……男は残す いや、男「も」また残す そうだ、、 相手の女が瀕死の体を奮い立たせてこれだけの事をしてのけたのに自分がこれで終われるか? 英霊が、、クランの猛犬が、、 こんなもので終われるのか? 否、、、断じて否である こめかみに当てた手の指の間から覗く視線は狂気に染まり、、 男もまたその一線を踏み越える シィィ、、!―――という 身の毛もよだつ荒い息を吐きながら 負った傷にガリリと爪を立てて―― 強引に戻した意識が、今まさに迫り来る敵――シグナムを正面から見据えていた 修羅の如き女だ まさかあの状態からこの槍兵のサーヴァントを相手に逆襲を決めるとは… その凛々しい女の顔立ちが、苦痛の中から無理やりに搾り出した戦意に歪にゆがみ 口がカァ、と壮絶に開き放たれている その端から血泡に塗れた吐息を盛大に吐きながら、獰猛な一撃を叩き落とそうと迫る姿はまるで闘神の如し その将の愛剣から放たれるボゥン!というガスバーナーの暴発のような炎は 普段の洗練されたものとは比べようの無いほどに粗末で荒々しく歪で 不恰好な爆炎の残滓を撒き散らしながらに―― 「ラ、、ン…サぁぁッッッ!!!!」 搾り出すような声に必殺の気合を乗せて―― もはや形振りなど構わぬとばかりに力任せに 己が魔剣を男のそっ首に叩き落とす!! だが、、、 「遅ぉぉぉせえええぇぇぇえええッッッッ!!!!!!」 対して男もまた羅刹の域に身を置くもの 頭髪が怒髪天のように逆立ち、美麗な顔にビキビキと血管が浮き出る 曰く――エリンにその名を轟かす眉目秀麗の狂戦士 戦場においてかの者の形相は変容する 顔中の筋肉は激しく蠕動し顎が裂けて 逆立つ髪から血を吹き出す、恐ろしい魔物のような相貌となりて―― 敵を引き裂き、粉砕する、とその伝承は語られているが、、 今まさにそれが嘘偽りではなかったと証明されていた 逸話にあるそれと幾分も違わず―― 伝えられし狂相そのままに―― 目の前に打ち込まれる炎の剛剣に対し、男は己が槍を力任せに叩きつけるのだった 深手を負った男と女が戦意と狂騒に狩られた叫びを上げて交錯する 天を劈くような怒号は、弱き者が見たならば魂すら凍らせるほどのものだ ―――鬼と魔人の滅ぼし合い ガボォォンン、―――という、、 もはや打ち込みの音から完全に懸け離れた爆音が轟き渡り 将の剣と槍兵の槍が激突した どちらももはや術技も何もない 力任せの、何の練りもない一撃 それでも怪物同士の膂力、出力によって繰り出された一撃は 激突の余波で周囲3mの大気が残らず霧散し小規模な半真空状態を作り出すほどのものだった 小型のダイナマイトの爆発に相違ない衝撃が二人を襲い、双方弾かれたように飛び退り、、 二人が弾け飛ぶように、その距離が強制的に離されていた―― そのまま頭部を手で庇い ヨロヨロと後退するランサー 対するシグナムも深刻なダメージから 決して弱みを見せない彼女をして、その場に尻餅をついて倒れてしまう 渾身の一振りだった事は互いに同じ その残響が未だ木霊する中―― 二人は相当のダメージを抱えて分け放たれ、、満身創痍の対峙を果たしていたのだった ―――――― 今の衝突―― 真正面からの力勝負なら本来ならシグナムが優勢だった筈、、 だが彼女のダメージはその剛剣にすら影を落とし 結果、男を仕留めるに届かず… 万全の状態ならば、と悔やまれるが、、彼女にはそれを悔しがる余裕すらない 弾き飛ばされ、再び地に伏した女剣士 膨大な損傷を抱えた体を無理やり動かした代償は大きかった 立ち上がろうともがき、無理やりに身を起こそうとして――しかし全身が麻痺して暫くは言う事を聞きそうにない 体中の傷から滲んだ血が、白と薄い赤で彩られた装束を赤く滲ませている 荒い息はもはや呼吸困難の域に達し、、 瀕死を超えた瀕死の肉体を剣士は辛うじてこの世に留めているような状態だった 「――――、……」 対して薙いだ槍を後ろ手に構えるランサー 片手は深々と打ち込まれた傷口を未だ押さえている 視界は赤く染まり、片目が完全に塞がれているその顔半分は サーヴァントをしてそう思わせるほどの――深い傷だった 男の記憶にもそう多くはない… 一騎打ちにおいて己が身に深々と抉り入れられた刀傷 ズキン、ズキン、と発狂するほどに痛む頭部を押さえ、、 「いってぇ……」 苦痛半分、驚き半分、 そしてそれらを塗りつぶすほどの狂気と戦意と――愉悦交じりの口調で呟く槍兵である ―――並の者なら間違いなく終わっていた 相手の剣を叩き落す事など出来る状態ではなかったし 否、普通ならばその前の一撃で頭を輪切りにされていただろう まずは初撃―― 音速を超える鞭打を、更なる神速の反応で上体を沈ませ 頭部に巻きついてくるヘビの尾をかわしたランサー そして追い討ちの一撃すら渾身の薙ぎ払いで打ち落としたのだ そして――男は 「―――――面白くなってきたぜ…」 ―――変わらず哂った 彼が求めて止まぬは強敵であり 焦がれ、渇望する心は恋人を求めるそれに似ている わが身に付けられた傷すらその愉悦を満たす対象でしかない これが本当の――バトルマニアというものなのだろう 獰猛な魔犬はその目に、より危険なケモノの光を称え 手強い、、本当に手強いこの女戦士を前になお一層、激しく唸るのであった ―――――― 「面白くなってきたぜ…」 ついと口に出た言葉は別に負け惜しみとかそんなんじゃねえ 本当に――心底、、面白いと感じただけだ 今のは本気で危なかったからな… もう一つ踏み込んでいたら―― あの奇形の剣が、俺が真名発動の最中に放たれたものだったなら―― ドンピシャだった この頭から上半分は綺麗にスライスされてただろうな 本当にちょっとの差だ イヤな予感、ってわけじゃねえが、、違和感を感じて発動を躊躇った事が 結果、首の皮を一枚繋げたって事になる サーヴァントが唯一にして最大の隙を見せるのが宝具発動の瞬間だ 一秒足らずっていったら大した事ない時間だと思うかい? いや、そいつはフツーの人間の体感によるものだぜ 俺たちサーヴァント同士の戦いは、コンマ以下の世界で行われる その中で一秒、二秒を攻防の他に回す事がどれほどの事か… まさに一大決心、度胸を据えて、 敵の前で真名解放なんかをするワケだ そして要は今、止めを刺そうとした俺のそれに 完全に近い形で合わせられたという結果だったんだこれが マヌケここに極まれり……ってとこだな ああ、結構ショックだわ、、コレ 危うく末代まで笑われるとこだった こんな事があるから恐い……そして、、 ―― これがあるから面白いんだ ―― 戦場ってやつはな 戦場は必ずしも強い方 優れている方が勝つとは限らねえ そこは何せ100、1000、10000の軍勢が凌ぎを削る地獄だ ―――絶対は無い その常人ならば狂い死ぬような地獄で蠢き、生き残る事の出来る奴 戦士として戦いに出て見事武勲を上げて生還できる奴 その資格は一つ 敵に突き立てる牙を持ち、それを決して萎えさせない―― それが出来れば良いんだよ 簡単だ、、何も難しいこたぁねえ 歩兵が騎兵を、傭兵が騎士を、一兵卒が大将を討ち取っても何の不思議もないだろう この混沌が支配する場においては、力の及ばぬ、決して届かぬ対象などは無い 当然、英雄だの何だの言われる奴にもそれは当て嵌まる 速さ、膂力、体力、戦力 それらが多少、優れていたところで些細な事だ その全てを兼ね備えていても、多少の機微によって 自分より弱いものにあっさりと討ち取られてしまうのが戦だ 速さは膂力は、油断や増長に飲み込まれ 体力や戦力は、体調や状況の急激な変化に容易く左右され そしてあらゆる要素において負ける事など有り得ない程の準備をしても天恵に見放されて敗れ去る事もある その前では、英霊に数えられるまで磨き上げた戦技ですら絶対ではあり得ねえ そう、、それが戦だ かつて俺が愛した故国 共に同じ釜の飯を食った戦友たち 四枝の誓いを以って敵陣に突っ込んでいったあの豪壮で煌びやかで、、 ゾクゾクするような戦なんだよ…… はは、、いいねぇ……いいわ―― 顔面が血でベットベトで気持ち悪りぃ 肩下まで垂れ流されていく俺の命の清水たる赤は―― 死してなお、俺がまだ「生きて」いるという証 最高だわ、、やっぱ、戦は 思わず口元に笑いが浮かんじまう 肩に抱えた槍を弄びながらその悦びを全身で表現しちまう まるでガキだな……我ながら そしてこの傷をつけてくれた相手 俺の前で膝をつきながら上目使いでこちらを睨む女を見下ろしてやる 朱に染まった禽獣―― 飛んで、跳ねて、滑空してくる戦闘手段も相まり この女はやっぱ……鷲とか鷹とかああいうもんに雰囲気がだぶる さぞや緩んだバカ笑い顔をしているだろう俺に対し 口を真一文字に引き結び、決して歯を見せない だが釣り上がった両目がギラギラと怪しい輝きを放ってこちらを射殺そうと睨んできやがる そのキレた面――手負いの猛禽まんまだぜ… 地上に堕とされ、組み伏せられようと奴らは決して一方的にやられたりはしない 弱々しい断末魔の悲鳴をあげる事もない 臓腑を抉られ絶命するとも、相手の目玉を嘴で刳り貫く気概を生まれながらに持っているんだよ、奴らは それが――食物連鎖っていったっけか? その頂点に位置するものの性だ ――負けてらんねえよなぁ…… 何せこちとらにも背負った「名前」がある これはもうヒト型同士の睨み合いじゃねえ 俺は猛犬、こいつは禽獣―― 上手い具合に嵌りやがる… おあつらえたような組み合わせだ ならば、肉食同士の喰い合いにして、今や二人して手負い、、 要は―――こっからが本番って事だ…… まだ始まったばかりだもんなぁ…… もっともっと楽しめる、、そうだろう? 両眼に称える殺気を叩きつけてやると まるで鏡のように同じだけの殺気を返してくる そして相手が、剣を杖に おぼつかない足取りながら確固たる意思で立ち上がったのが――戦闘開始の意思表示 ならば第二幕、、 そろそろ行ってみようか…? なあ、烈火の将さんよ―― その前に、、今や豆粒ほどしか残ってねえ理性が―― 「結局、死んでも直らねえのな……俺のバカも、、」 少しだけ自嘲の笑いを「俺」に残していきやがったワケ、、 ああ………… そんだけだ ―――――― (、、ようやく一矢、といったところか…) 長い長い万里の道をようやっと一歩、踏み出せた―― そんな心境の彼女である 視界がおぼろげながらようやっと、その地に再び立つ事の出来たシグナム 周囲の空気を凍りつかせるような睨み合いの中、 敵への警戒心はそのままに、、 決して顔には出さずに思慮に耽る これだけの殺気を叩きつけてくれる相手が今はひたすら在り難い 剣士の体は、平常ならば意識を保つだけで精一杯の損傷であったのだから… レヴァンティン=シュランゲフォルム――― ここまで我慢に我慢を重ねて温存してきた将の愛剣のもう一つの顔 近距離特化のシュベルトフォルム=ソード形態の弱点である中距離戦闘を補い 鞭のような形状で相手を切り刻むレヴァンティンの主戦武装の一つである 今まで使用を控えてきたツケを取り合えずは引き戻せた事にまずはほっと胸を撫で下ろす剣士であった 初めの段階でこのモードを使い 空から一方的に切り刻むという戦法もあるにはあったが、、 そちらを選択しなくてよかったと将は今、切に思っていた この速い相手に対し恐らくは―――それでは効果が無い 今、目の前に佇む槍の男 その身のこなし、槍捌き、速度、、 どれを取っても 「自分の近距離の弱点を補う」 程度の武装では まともに正面から打っても歯が立たない事は明白だった 事実、不意を打ったあの一撃にも男は反応して見せたのだから… しかもこの形態 飛距離に優れ、防御されにくいという反面 こちらの防御や受けに回った時に難がある 守勢に回れば果てしなく脆いものなのだ……鞭という武装は そんなものを接近戦では当然使えないし 敵の跳躍からの槍すら受けられるか疑問だった 調子に乗って、これみよがしに振り回していたら あの対空砲のような槍で下から貫かれてお陀仏、という可能性も高かった 何より、初手でこれを使って早々に見切られるのを嫌った将 これは自身の弱点を補うのと同時に 牽制と奇襲に優れた、いわば自分の隠し武装―― 故に――使うときはここ一発… 一息でも相手が気を抜いた瞬間、、 敵が「こちらを仕留めた」と油断してくれる場面があれば余計にしめたもの その「時」のために――封印していたのだ 、、―――ム、!! 、、ナムっ! いわば蛇の毒牙 その身を管に巻いて息を潜めて、―― そして放たれた一撃は―― 見事、敵の急所に叩き込まれる 試みは上場と言って良い成果だった あの額の傷は決して軽くない、、何より片目を塞ぐ事に成功した (対してこちらは四肢、内部共に深刻な損傷はギリギリ免れている……僥倖だな) 自身の全身に穿たれた傷、、そして出血で地面を濡らしながら 未だ何とか男と向き合えているシグナムが……小さく被りを振った 「いや………お前のおかげだ、レヴァンテイン」 これは紛れもなく騎士甲冑と障壁の恩恵だ あの槍に百舌のはや煮えのようにされなかった事を自身のデバイスに感謝する (しかし……まったく、、) それでもまだ、、たった一撃―― たったの一撃を望み、入れたというだけでここまでの駆け引き ここまでの苦労を強いられる 先が思いやられるとはこの事だった 、グナム 大丈、――、ム! これから踏破せねばならない巨大な山を見上げる時の感覚 どんな手段を使うにせよ、容易く越せる相手ではない 未だ楽観するには程遠い自身の状況と敵の強さ どうしたものかと思案する彼女であったが―――― その前に、、 (おい、生きてるか!?シグナム! おい! 返事してくれよ頼むからっ!!) 先ほどから耳元に威勢の良い声を届かせている小人の少女―― (アギトか……まだ生きている、、安心しろ) フェイトのクルマから脱出した後、シグナムとフェイトが敵と相対している間 最寄りの木の上に避難して事の成行きを見守っていた剣精アギトに返事を返してやる将 (心配するな、じゃねーよ! 戦闘中なのは分かるけど少しはこちらの声に答えてくれてもいいじゃんか! フェイトにも何べんやっても繋がらねえし……うう) (すまんな、余裕がなかった) 金切り声を上げる妖精に簡潔に答えるシグナム (だいたいあんなヒョロい奴、何でフルドライブで一気に潰さねえんだよ!?) シグナムの顔がほんの少しだが驚きに染まる 事もあろうに、、あのランサーを「ヒョロい奴」扱いするアギトの発言に対してである 簡単に言ってくれる…と苦笑するしかない将 (それは格下相手や短時間で決めねばならん時の戦法だ 確実に倒せるのならそれでもいいが、もし全開の弁を開けて通用しなかったらどうする? そこで終わりだ) (そ、それは……) 正直そんな場合ではないのだが 明瞭な答えをパートナーのデバイスに答えてやる将 (肥大化した力をブンブンと振り回して息切れを起こして自滅…… おおよそ考えられる最低の負け方だぞ 明日から大手を振って騎士と名乗れんほどのな) 言葉に詰まるアギトだったが、やはり釈然としない (らしくねえ……「もしダメだったら」 なんて… ゼストの旦那すら打ち破った烈火の将の剣は最強なんだ! 誰にも防げっこねえ! それなのに、、) (アギト、、意気込みだけで勝てるならこの世には敗北も、戦術という言葉も存在せん) (っ……) 夢と現実は違う どれほどの尊敬と信心を持とうと それが容易く打ち砕かれてしまう事は往々にあるのだ (あの槍兵は強い……途方も無く、な 戦術の組み立て、並べ方を一つでも間違えたらそこで終わりだ リカバーは効かん、、その時点で一息の元に押し潰されて殺されるだろう) 淡々と語る将 それに対して少女は、、 (、、、我慢出来ねえ……そんなの、もう……) 震えるような声で答えていた 感極まった、というより何かを辛抱するかのような歯切れの悪い言葉 彼女は、今のロードが管理局内でも無双の使い手だと信じている それが、こうまで傷つけられるなど到底信じられなかったし 快活な性格のデバイスである少女がこんな状況で指をくわえて見ていられる筈がなかった 故にその思いが――少女を行動に駆り立てるのだ (私も戦う……) (ダメだ) (何でだよ!? ロードが傷ついていくのを黙って見てろってのか!?) だがしかし、断固とした口調で言い放つ烈火の将 なおも食ってかかるアギト 妖精の中で、、 全身を朱に染めて体を引きずって戦う将の今の姿が―――彼女の前の主と重なる…… またあんな思いをするのは――― またあんな悲しみを味わうのは―――嫌だ! そんな小人の切なる思いであったが、、 (お前の炎など奴には当たらん、、足手纏いだ) (そ、そんなっ………) 騎士はそれを何なく一蹴に伏していた (そんな、、、言い方、、……) まさかの心無い言葉に少女の心が音を立てて崩れていく グラグラと視界が揺れて目に、、涙が滲む ――自分はそんなに役立たずなのか… ――主の盾になって戦う事も出来ないのか… 苦渋と悲しみに染まった表情から紡ぎ出される沈黙が それでも必死に将に訴えている かつての仲間にして前ロードだったゼストグランガイツをその剣で看取ってくれた彼女 管理局局員としての任務に従事していたシグナムにとってその行動は、、当然マイナスにしか働かない 重要参考人をむざむざ殺してしまったとして喚問を受けるスレスレまでいったと聞いた この騎士にとって、あの行動は汚名しか生まなかった―― 聡明な騎士だ ああなる事は分かっていただろう、、 それでも…… 捕まれば更迭され、心身ともに白日の元に暴かれ 誇りある死とは最も縁遠い最期を迎えていただろうゼストに騎士としての名誉ある死を与えてくれた この小さな妖精にとってもシグナムは一生かかっても借りを返せぬほどの恩人なのだった (………………) ああ、、、、 そうか…… 誇り高く 自他共に厳しい この剣士だからこそ、、、 その発言の真意―― 彼女の冷たい言葉を思いなおす妖精である 付き合いは決して長いとはいえないが この実直で不器用な騎士の内にある優しさは疑いようもない 彼女は他人の気持ちを無下に踏み躙るような事は絶対にしない それでも敢えてそう聞こえるような事を言う時は――大概が逆の事を思っているのだ ――今回は多分に非情なまでの事実も含んでいたのだが… 自分が出て行ってもどうにもならない、、これは……厳然たる事実だ 分かっている… 何せ、、 ――― 見えないのだ ――― 木の上という、絶好のポジションで 上空からの視点で戦闘を見ていたにもかかわらず二人の攻防 何をかわしているのか、、その影さえ捉えることが出来なかった… そんな自分が戦地に降り立って何を手伝えるというのか…? 首を突っ込んだところで主の邪魔をし、下手をすれば窮地に追いやるだけ… (…………) 惨めで、情けなくて、そして残酷な現実 その悲しみにしゃくり上げる声はシグナムの耳にも届いているだろう 故に、、 自身のそんな我侭な嗚咽など 今の将には邪魔にしかならない 込み上げてくる涙を少女は必死に抑えて、 (………シグナム) (何だ) (いつでもいけるからな………ユニゾンっ!) 強い意志で一言―― 小さな少女は騎士にそれだけを告げる 元より自分が今、出来ることなど一つしかない ならば雌伏してその時を待つ―― あの憎らしい槍野郎に止めを刺すその時まで決して自分の存在を相手に気付かれてはならない この体はロードの剣に業炎の力――全てを燃やし尽くす灼熱の炎を与える切り札だ だからこそ、将がその命を下すまで今は歯を食い縛って耐えるしかないのだ (アギト――) 故に二人の間にこれ以上の問答は必要ない 最後に一言、、 ――― 心配するな ――― その小さな羽をパタつかせる少女 小さな彼女の総身を震わせるには余りある、、心強い言葉をかけられた少女 (ああ、、ボッコボコにしてやれよな!) それを以って彼女の涙は全部吹っ飛んだ 目をゴシゴシと拭いながらに主に発破をかけるアギト そうだ、、この強いロードがあんな奴に負けるはずがない 自分の心配なんか杞憂だ きっと、、きっと、、 あと数分後にはいつも通りの強くて雄々しい烈火の将の勇士が見れるんだ! そんな思い―― 小さな小さな応援を背に抱き、、 騎士は再び、魔槍の男に相対するのだった ――――――