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トリックオアトリート【とりっくおあとりーと】 公輝 加藤、愛美、寿々歌、稜駿、凜、崚行、熊木翔、愛実、瑛士、斗真 「お前、今日何の日か知ってるか?」 それはいつも通り学校着いてすぐ加藤さんの部屋へ遊びに来た時の事 「今日?…何かありましたっけ?」 「どうもハロウィンらしい」 「ハロウィン?あーそっかハロウィンか!」 「だから、これお前にやる」 加藤さんがそう言って俺に何かを渡した 「…キャンディー?」 それは袋にいくつか入ったキャンディーで 「お前、友達多そうだし何人かに言われそうだからな。どうせ菓子なんて持ってねぇんだろ?」 加藤さんは一限目の準備をしながら言った 今日の一限目は何処のクラスだろう。教科書的に三年のクラスのようだけど 「うん。持ち歩かないし誰かしらに貰えるから」 「だろ。今日はお前があげる番だ。別にわざわざ渡しに行かなくていい。言われたら渡せ」 「言われたら…ってトリックオアトリートって?」 「当たり前だろバカかお前は」 「…バカじゃねーもん」 「とにかく、言われたらちゃんと渡せよ?いつでも渡せるように持ち歩いとけ」 「分かった」 「俺から貰ったって言うなよ。コンビニで買ったとでも言っとけ」 加藤さんが一限の準備に本格的にとりかかり始めたので俺は教室へと向かう事にした ハロウィンかぁ…今まで特に何て事も無く過ごしてたからなぁ… 「ごーうき!」 「わっビックリしたー愛美かぁ」 いきなり後ろから抱きつかれる 香水の香りからその人物が特定出来た 「公輝公輝!トリックオアトリート!」 愛美が俺の前へとまわりこんで上目遣いで俺を見ながら言う あー可愛いなー愛美 「一人目は愛美か。はい」 「えっ公輝お菓子持ってるの?珍しい!わぁ、可愛い!」 「…さっきコンビニ寄ったらハロウィンコーナーやっててちょっと惹かれたから買っちゃった」 本当はそんなコーナー知らない というか今日コンビニ寄ってない でも加藤さんがそう言えって言うから 「そうなんだぁ。なぁんだぁーマナも一緒に行ったのにぃ。ありがとう公輝」 「おー」 「あ、マナにトリックオアトリート言ってもいいよ?マナお菓子持ってるけとイタズラされてあげる!」 「ははっまた今度なー」 「ホント!?わぁい楽しみにしてるね!あ、じゃあ今日はこれ、マナからね」 愛美はそう言ってクッキーを俺に渡すと「マナの本命は公輝だからね?でもマナが今日来るの待ってる人が居るから…」と次の人の所へと行ってしまった (誰にでも言ってんのかなー…本命だって) きっとバレンタインも同じ事言うのだろう (そういえば何で加藤さんから貰ったって言っちゃダメだったんだろ?) 袋をまじまじと見て、多分包装が可愛らしいデザインだからだと思った (加藤さんがこれ買ったのかなー?だったらすげー面白い) 何だか言ってしまいたくなった ――― ― 「あっ!公輝君!トリックオアトリート!」 「おはよう公輝君。ハロウィンだね!」 「公輝君丁度ええ所に来た!トリックオアトリート!」 「公輝、トリックオアトリートって事でお菓子ちょうだい」 ちょうど、下駄箱のそばを通りかかった時に四人組に出会った 「おはよ。凜達もそれ言うんだ。これでいい?」 出会った四人組ー寿々歌と凜と崚行と稜駿ーにキャンディーを見せる 「わあ!可愛い!何これ公輝君が買ったん?」 「…うん、まぁ」 寿々歌が目をキラキラさせながらそのキャンディーを見ていた お菓子貰えたのがそんなに嬉しいのか。可愛いなー 「公輝がお菓子持ってるの珍しい。明日雨降るのかな」 「そんな事言ってるとやんねーよ?」 「ごめんなさい」 稜駿は俺がお菓子を持っている事に少し驚いた様子だった 「公輝君、お菓子あげなきゃ稜駿にイタズラされるよ」 「それは困る」 凜にもキャンディーを渡す。そういえば凜もこういうのにちゃんと参加するんだ。可愛いなー 「俺も困る!公輝君にイタズラしてええんは僕の特権やん?」 「や、イタズラしていいとかねーって」 「えー?でも公輝君僕にイタズラされたいやろ?」 「俺はMか」 崚行にもキャンディーを渡すとちゃんと受け取ってくれたが「公輝君さえ良ければお菓子くれてもイタズラしたげるよ!」と言われたのでスルーした 「じゃあ俺そろそろ行くわ」 「あっ待って待って!これうちから!」 「凜からも!」 「二人からは受け取って俺からは受け取れないとか言わないよね?」 「俺からは愛のキスを…って冗談やんかぁ!凜ちゃん睨まんで!」 「キスするのは構わないけど場所を考えてよ。寿々歌ちゃんも顔を赤らめないの」 四人それぞれからまた別のお菓子を貰った 凜や寿々歌はどうやら手作りのようだった 「さんきゅ。またな」 四人から返事が返ってきたのを聞いて、俺はまた歩き出した ――― ― 教室に着くと早速熊木がそばへ来た 「何々、お菓子いっぱい持ってんじゃん。袋要る?」 「来る時に寿々歌達に会ったんだよ。さんきゅ」 熊木が某コーヒーショップの紙袋をくれた 「そっかーモテモテだなー前田は」 「トリックオアトリートって言われたからあげたら返しで貰ったんだよ」 「えっ前田今日お菓子持ってるの?珍しい」 「だろ。俺もビックリしてる」 「俺も貰っていい?」 「いーよ。まだいくつかあるし。はい」 「サンキュー。じゃあ俺からも何か…あ、ガムでもいい?」 「いーよいーよ、いつも何かしら貰ってるし」 「いいって!返さなきゃ俺が嫌だから受け取って!」 「分かった」 熊木にキャンディーを渡して、熊木からガムを貰った 何か物々交換してばっかりだな ――― 「あ、やっと来た!もう、今日来ないのかと思ったわ」 お昼休みに屋上へと向かった 途中で愛実に会った 「愛実。え、何、待ってたの?」 「べっ別に待ってないけど!アンタ今日は珍しく屋上来ないのかなーって思っただけ!今日は暖かいから屋上でご飯食べたくなって食べてただけ!今から教室に戻るところ!」 「あーそうなんだ。今日は割と真面目に授業出てたしお昼は教室で食べちゃったからなーごめん」 「だから別に待ってないって言ってんでしょ!…公輝、今日何の日か知ってる?」 「ハロウィンだろ?何人かにトリックオアトリート言われたよ」 「あら、お菓子あげたの?持ってるの?」 「うん。愛実にもやるよ」 「ありがと。じゃああたしも返しとくわ」 「さんきゅ」 「お菓子持ってるなら心配無いわね。アンタ今から屋上行くんでしょ?瑛士と斗真がきっとアンタにトリックオアトリート言うだろうから」 「まじ?分かった」 「それじゃあ」 「おう」 屋上へと続く階段を登る 斗真と瑛士もハロウィンとかちゃんと参加するんだなーなんて考えていると屋上から言い争う声が聞こえた 「だから!斗真は言うなよ!」 「瑛士君こそ言っちゃダメでしょ。迷惑かかるし。ここは俺が言うべき」 「斗真のが迷惑だろ!俺のが仲良いしこの前なんか」 「何喧嘩してんの?」 屋上の扉を開けると、やはり言い争って居たのは見知った二人で 「公輝!」 「公輝!トリックオアトリート!」 「あっ!俺が先に言うんだったのに!公輝、トリックオアトリート!」 扉を閉めて声をかけると二人が凄い速さで近付いてきた 「俺のが先だったから瑛士君のは無視していいよ」 「抜け駆けはずりーだろ!」 「言ったもの勝ちでしょ」 「別に二人分あるから大丈夫だって…はい」 二人ともそんなにお菓子欲しかったんだなーなんて考えながらキャンディーを渡すと二人してキョトンという顔をした 「…あれ、公輝お菓子持ってるんだ」 「うん」 「いつも持ってたっけ?」 「いや、今日たまたまコンビニ行ったらハロウィンコーナーやってたの目について。思わず買っちゃった」 「「そうなんだ…」」 二人の声がハモった 何処かガッカリしているように見えて、少し焦る 「え、あ、…もしかして、キャンディーじゃ嫌…だった?」 恐る恐る尋ねる 「えっいやいやいや!まさか!公輝から貰えたのに嫌なんてそんな事あるわけないだろ!すげー嬉しい!」 瑛士が俺からキャンディーを奪うように受け取ると凄い勢いで否定した 「キャンディーは嫌いじゃないし公輝がくれたのは凄く嬉しいけど…」 斗真がキャンディーを差し出している俺の手からキャンディーを受け取り、袋から出して口に含む 発言と行動に関連性が見つけられず、手を差し出したまま斗真を見る その手を引っ張られた時、瑛士が「あっ!」と声を出した 引っ張られたその勢いで思わず斗真に倒れかかってしまう 「俺は、イタズラさせて欲しかったなー…?」 斗真は倒れかかった俺を抱きしめるように支えて、じっと目を見ながらそう言って笑った と、すぐに顔が近付いた 「あぁあああああああ!!!!」 瑛士の叫ぶような声で、今の状況に気付いた あれ、俺、何で斗真にキスされてんだろ? すぐに舌が入ってきて、つい先程斗真が口に含んだ飴の味を感じた (あ、ミルク味だ) 「斗真!ダメです離れなさい!」 瑛士が俺を斗真から引き離す (…うわ、俺、今瑛士に引き離されなかったらそのままずっとちゅーしてたかも) 「それ、俺から公輝へのお返しね」 口の中に飴が残っている この飴って割と甘めなんだ (多分斗真はこうやって女の子口説き落としてるんだろうなぁ) 「ほんっと斗真は手が早いんだからー!」 「グズグズしてたら独り占めしちゃうよ」 「さ、させねーよ!」 (二人仲良いなー。何か俺、話に混ざれない…) 「あ、そろそろ教室戻らなきゃだ」 何気なく時計を見るといつの間にか時間は結構過ぎていた 「えっもうそんな時間?公輝と居ると時間すっごい速く進んじゃうね」 「まじ?それって良い事なの?」 「いい事だよ」 「公輝、また後でな!」 「おー」 二人と別れて自分は自分の教室へと向かう 瑛士と斗真とは学年が違って、斗真と瑛士はクラスが違う だけど二人は途中まで一緒の方向へ向かう 俺はその反対側を歩く (…何か、寂しい) 振り返った時に見えた、何かを言い合ってる二人の後ろ姿を見つめて理由は分からないけどそう思った ――― 授業が終わって放課後、再び加藤さんの部屋へ向かうと、加藤さんは珍しくゆったりとくつろいでいた 「今日はもう仕事終わったんすか?」 「ああ。今日は珍しく持ち帰る仕事も無いんだ。…ところで」 「うん?」 「あれから、誰かに言われたか?トリックオアトリート」 「ああ!うん、愛美にー寿々歌にー凜にー」 「名前言われてもわかんねぇよ。とりあえず何人かに言われたんだな」 加藤さんが自分の机の上を片付け始めた そろそろ帰るのだろう 「うん。クラスの人とか色んな人にあげたら全部無くなっちゃった。あ、ごめん加藤さんの分の事考えてなかった…」 「いや、俺はキャンディーなんかいらねぇよ」 「え、そーなの?だったら何で買ったの?」 「お前が色んな人に言われるんだろうなって思ったからだよ」 「だったら、言ってくれれば俺自分で買いに行ったのに。あ、ていうかお金」 「いらねぇよ」 「え、でも、だって」 「いらねぇっつってんだろ律儀すぎんだろお前。そんなに返したいなら体で返せ」 「うん?」 「つまりは、抱かせろ」 「………」 (加藤さん本気で言ってんのかなぁ…いや、愛美と一緒で誰でもいいのかもしれない。俺以外と喋ってるのあんま見ないけど、俺が知らないだけかもしれないし、そうやって言って抱かせてくれる人が多いから俺にも言ってるだけかも知れない。それか、ただ単純にからかってんのかもしれない) 「それが嫌ならもう気にするな」 「…抱かせるんじゃなくて、」 「お前ばかだろ。俺がガキに抱かれるわけねぇだろ」 遮られた 確かに加藤さんが大人しく俺に抱かれてくれるとは思えなかった (…まぁ俺も大人しく加藤さんに抱かれるつもり無いんだけど) 加藤さんが帰り支度を終える 「お前、帰らなくていいのか」 「帰りますよ」 「今日は水本や生田とかと一緒じゃねぇの?」 「うん、斗真は塾だし瑛士は用事あるんだって 」 加藤さんが鍵しめるから早く出ろと言うので、鞄を持ってそこを出る 「…なら、一緒に帰るか」 「いいの?」 鍵を返しに職員室へ向かう ただ何となく俺もそれに着いていった 「別に男同士だし怪しいとか思うやついねぇだろ」 「じゃなくて、教師と生徒だから贔屓とかどうとか」 「別に同じ部活だとか言っておけばそんな問題ねぇだろ」 「でも加藤さんに悪いし」 「…お前鈍感すぎんだろ」 「え?」 「ああもうキレた。キレました」 「え?え?何?」 「お前、正門のとこで待ってろ。鍵返したらすぐ行くから」 帰るんじゃねぇぞ、と睨まれる はい、と返す事しか出来なかった (何だろ、加藤さん、怖い) 下駄箱で靴を履き替えて、正門へ向かう グラウンドでは屋外で活動する部活の様子が見えた 「おう、待たせたな」 「いや、俺もさっき来たばっかなんで」 「腹減ってねぇか?何か食いに行こうぜ」 「あ、はい」 (いいのかなー…いくら部活動だって言っても二人だけだと生徒を贔屓してるとか何とか言われないのかなぁ) 「…加藤さん、あの」 「それ以上喋るな。お前はもっと堂々としてろ。だからこそ怪しまれるんだろうが」 「あ、はい…」 「周りに何て言われようが構わねぇだろ。それともそんなに俺と一緒に居る所を誰かに見られたくないのか?」 「…ううん」 加藤さんのためを思って訊いている そんな体で言ってはいるが、本当は多分俺が加藤さんから一緒に居ていいんだって言葉が聞きたいから …加藤さんは多分、きっと気付いてる だけど、加藤さん自身もきっと俺にちゃんと一緒に居たいって言って欲しいんだろう 加藤さんはちゃんと逃げ場を与えてくれる (…加藤さんって俺の事どう思ってんのかなぁ) 口に出したら傷付きそうだから聞けないけど 「加藤さん」 「あ?」 「あったかいもの食べたいです」 「…そうか。じゃあお好み焼きでも食べに行くか」 「はい」 俺はまだまだ、子供だ 今だって大人に甘やかされるのを求めてる トリックオアトリート まだまだ子供で居られる魔法の言葉
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true tears SS第二十三弾 雪が降らなくなる前に 中編 比呂美と眞一郎は一緒に帰る約束をしている。 あさみがささやかな復讐を果たし、朋与が妖怪と呼ばれた恨みを晴らす。 さらなる奇跡を比呂美は願い、さらにちゃんと眞一郎はしようとする。 前作の続きです。 true tears SS第二十二弾 雪が降らなくなる前に 前編 http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/287.html true tears SS第十一弾 ふたりの竹林の先には http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/96.html true tears SS第二十弾 コーヒーに想いを込めて http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/245.html true tears SS第二十一弾 ブリダ・イコンとシ・チュー http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/275.html 六時間目が終わると誰もが部活や帰宅する準備をし始める。 終わりのホームルームは担任が伝達事項やプリントを配るだけで、あまりすることがない。 誰もが机の上に鞄やコートを乗せている。 ふと比呂美を見ると、同じようにしていて背筋を伸ばしている。 授業中に何度も眺めていたが、あの朝以後にこちらを向かなかった。 全員が起立してから一礼をして放課後になったので、俺はコートを着てから鞄を握る。 「謎は解けたか?」 三代吉が心配そうに囁いた。 「今日も奇跡もわからない」 授業中も考えていたが、これという決定打がなかった。 「優等生と劣等生の俺らとは思考回路が違うんだ。謝るしかないな」 「目的地に着くまでに探ってみるよ。比呂美と叶えたいこともあるし」 俺の願いは下校中には無理だと諦めている。 「まあ、がんばってこいや」 俺が歩き出すと、三代吉に背中を叩かれた。 比呂美は立ちながら自分の席で表情が固いまま待っていて、そばには黒部さんもいる。 「麦端の花形とミス麦端のカップルだね、お似合いだよ」 あさみさんが寄って来て無邪気に祝福してくれた。 「ミス麦端?」 俺は疑問を口にした。 「それはね、比呂美が……」 「あさみ、眞一郎くんに変なことを吹き込まないで!」 比呂美に中断されたあさみさんは慌てて見渡してから、黒部さんの後ろに隠れる。 「怖いよ、褒めているだけなのに、また比呂美に睨まれた。 仲上くんの踊りのときだって、夜はなかなか眠れなかった」 顔だけ出してきっちりと主張だけはしていた。 祭りの翌日に俺の席には男女が十人くらい囲っていた。 そのときに三代吉の弁である思い詰めた顔で比呂美の部屋に誘われたのだ。 「そのとき私は見ていないのよね。あさみから聞かされたけど」 「朋与には報告しておかないと」 舌を出してからにんまりとすると、比呂美は瞳を左右に動かしている。 「さて私は仲上くんに言わせてもらうわ。封印された妖怪って誰のこと?」 比呂美が停学中に黒部さんはノートを取らないで寝ていた。 俺は比呂美にノートを貸してあげたときに喩えたのだ。 「比呂美、あれはまずいだろ。受け取ってくれないから言っただけなのに」 「だっておもしろかったから、言っちゃった……」 我に返ったように笑顔で右に首を傾けた。 「つまり仲上くんは私を出しにしていたのね」 「その前に黒部さんが授業をしっかりと聞いておけば良かったのでは?」 「あさみのを写すからいいの」 「朋与には無条件で貸すよ。情報提供者だからね」 そんな遣り取りを比呂美は無言で眺めている。 「というわけで仲上くんには比呂美にあだ名を付けて。もちろんわかっているよね」 瞼を閉じて微笑むのが感情を読ませてくれない。 親友でありながら比呂美に嘘をつかれたので、俺に仕返しをして欲しいのだろう。 最初に浮かんだのは、誰もが思いそうな花であったが、やめておく。 もう一つは比呂美らしいきれいな花だったが、保留する。 「不発弾。地面に埋まっているから、知らない間に爆発しそうで。 でも発見したら爆発しないように取り除きたいなと」 仲上家に比呂美がいるときに出会えたら歓喜と恐怖がつねにあった。 ただ挨拶するだけでも比呂美を傷つけないように配慮はしていた。 「眞一郎くんはそう思っていたのね」 前髪を垂らして俯いている比呂美の声質は無機的であった。 「私もさっき地雷を踏んじゃったよ」 「あさみのはわざとでしょ。余計なことを言ったくせに」 「だって言いたかったから」 唇を尖らせてまったく反省していない。 「比呂美は浮き沈みが激しいから、冷や冷やさせられて頭を冷やされたわ」 「朋与が冷やすのは肝で、私が冷やすのは頭のようね」 比呂美は即座に述べてから、わざわざ後ろの扉のほうから出て行った。 「甘く囁いて比呂美を照れさせてくれると思っていたのに」 黒部さんは腕を組んで不平を洩らした。 「黒部さんを妖怪と呼んでおきながら、比呂美だけきれいに喩えるのはどうかと思った」 「でも不発弾を放置せずに取り除くというのは、良い心掛けかも。 夜の電話で愚痴をこぼされるだろうな」 黒部さんは比呂美が去った扉を見つめている。開いたままで教室にいる人数も少ない。 「また迷惑を掛けてしまって」 「愚痴られるだけましよ。つらいときには何も言ってもらえないし、訊かなかったし」 比呂美も俺が三代吉に相談できないように耐えていたのだろう。 「最近は明るくなっているわ。今朝だって、自然に仲上くんを誘えたとね」 黒部さんが登校してきたときに微笑を浮かべていたのは、俺のことを話題にしていたようだ。 「やっぱりふたりはお似合いだよ。仲上くんにアタックしようかなと思っていたのに」 あさみさんは後ろ手にしたまま顔を近づけてきた。 「そんなことを言われても……」 慣れない場面で言葉が続けられないが、あさみさんは身体を起こす。 「ほんの少しでも悩んでくれただけでも嬉しい。 仲上くんの人気は上がってきているよ。がんばってね」 「校門を出るとふたりきりの世界だからね」 ふたりに見送られてから俺は後ろの扉をめざす。 あまり交流のないふたりと接していると長話になってしまった。 これから比呂美を探すが、発見できなければ比呂美の部屋の前で何時間でも待とう。 合鍵を渡されているけれど、断りもなく中には入れない。 廊下に出ると扉のすぐそばの壁に寄り掛かっている人がいる。 「ミス麦端を知りませんか?」 平然と訊いてみると、きょとんとしていたのに左の人差し指を向ける。 「階段のほうにいるのかも」 「ありがとう」 俺は頭を下げてから歩き出す。 「置いてかないで」 比呂美は右横に来て頬を膨らませている。 「ミス麦端って何?」 「あさみが勝手に言っていることなの。 たまに私の下駄箱に手紙が入っているのを見つけられたから。 全部、断っているので安心して欲しい」 比呂美は教えるのをためらってから、視線を合わせてきた。 「信じている」 普通に考えれば比呂美はかなりもてるだろう。 もし全校生徒でミス麦端の無記名投票があれば、上位に入選するのは予測できる。 最初に浮かんだ高嶺の花を封印しておいて良かった。 あさみさんは俺が麦端の花形になったためか、比呂美と対等に思ってくれていたからだ。 「眞一郎くんもすごいよ。 私が登校しているときに他校の女の子まで踊りを褒めていた。 だから恋敵が増えて欲しくなくて眞一郎くんを部屋に誘ってしまったの。 また爆発してしまったよね」 落ち込んでしまった比呂美と並んで階段を降りている。 「制服姿だと俺とはわからなかったみたい。あの衣装があるからかもしれない」 「花形衣装のおかげにしないで」 比呂美の眼差しは強くても、口元は緩んでいる。 「本当は水仙だと喩えたかったんだ。 雪が降っていても水辺で凛と白くきれいに咲いているから」 雪が好きになってくれるように願いを込めていた。 比呂美は立ち尽くしたまま呟く。 「ナルキッソス……、自己陶酔……、そして……」 ナルキッソスは他人を愛せなくなり、水辺に映る自分を好きになってしまって死んでしまう。 ここが学校でなければ抱き締めてでも否定していた。 むしろ逃避行や昨晩の竹林のように態度で示すのはありきたりだ。 俺は比呂美のそばに戻って耳元で囁く。 「もう少し慎重に検討して選ぶべきだった」 「眞一郎くんが考えてくれたのに、欠点しか思えなくて」 左右に首を振ってくれていても俯いている。 「俺のことを比呂美が喩えて欲しい」 比呂美は見開いてから俺のほうを向く。 「考えてみる。変なのでも怒らないでね」 「爆発しないから」 「すぐそんなことを言うし」 比呂美が素早く階段を降りて行く。俺も同じようにしつつ、比呂美の下駄箱を窺う。 「今日は入っていないわよ。入れられないようにしてくれないと」 俺の行動を読まれてしまい釘を刺されてしまった。 「俺のところにもない」 「そういうので争いたくない」 俺たちは靴を履き替えて、外に出て並んで歩いている。 校内で比呂美の顔を遠慮なく眺められるのは、白昼夢のようだ。 横目で俺を見てから、比呂美はゆっくりと喩え始める。 「屋根の上の猫。私よりも高いところにいるんだけど、私が困ると降りて来てくれる。 私が高い屋根に上がれると、眞一郎くんはさらに高い屋根にいるの。 でもいつか同じ屋根にいて、穏やかに過ごすの」 幼い頃の祭りでの竹林と似たようなものだろう。 比呂美を驚かせたくて先に行ってしまった。 俺は比呂美を見つけると竹林の傾斜から滑り降りた。 そうでもしないと比呂美の笑顔を取り戻せないと思っていたが、逆に泣かせてしまった。 幼い俺は比呂美を任されても何をすればいいかわからなかったからだ。 「最近は比呂美のほうが猫のように去って行っている。 俺のほうが追い駆けていないか? さっきのはわざわざ後ろの扉から出てから壁に寄り掛かっていた。 まるで猫が振り返るように」 俺の指摘に比呂美はそっぽを向く。 「でもなかなか来てくれないし。何を話していたの?」 「戻ってくれば良かったのに」 「できるはずがないでしょ」 かすかに声を荒げる比呂美は今朝のむくれっ面になっている。 もうすぐ校内ではなくなり、やっと校門を抜けた。 俺は左手で比呂美の右手に触れる。 「ごまかさないでよ……」 覇気がなく地面に視線を落としている。 「黒部さんとあさみさんに比呂美のことを教えてもらっていただけさ。 一度は起きた奇跡を望んでいると言われたけど、よくわからない」 比呂美が軽々しく奇跡を求めるのも不可解だし、奇跡的な出来事に身に覚えがない。 「今日も起きればいいと願っているの。 今日がダメなら、また明日。春になるまでに時間がないけど」 比呂美が空を仰いでいて今朝よりも曇っている。 「また明日も一緒にいよう。比呂美の部活があるなら待っているよ。 絵本の題材を探すためにも図書室で過ごしているから」 今まであまり本を読む機会が少なかったかもしれない。 水仙のときも一瞬でナルキッソスを思い出せなかったのは失態だ。 「でも今日がいいな。先に進みたいから。 私が行きたい場所はわかった?」 暖かな明るさを帯びた比呂美が問うた。 「ごめん、授業中もずっと考えていたけど、一つに絞れなかった。 比呂美と行きたいところは、いっぱいあるから」 「朋与に言われたの。曖昧な単語では伝わりにくいって。 でもわかってもらえたら嬉しいし、わかってくれなくてもいいの。 そのときに眞一郎くんがどう反応してくれるか楽しめれば」 まったく翳りがなく比呂美は俺を責めようとはしないようだ。 今までと違って幅広く受け入れてくれるようだ。 「クイズみたいでおもしろいよ。発想力を鍛えるみたいで。 愛ちゃんと三代吉がいつか店に来て欲しいって。 公民館でのことを愛ちゃんは気にしていないようだ。 あのふたりは祝い酒でも悔やみ酒でもコーラを飲んでいるらしい」 比呂美の手を握るのを強める。 店には一緒に行くのだから少しでも比呂美の励みになるようにだ。 「でもコーラを私は飲めないわ。微炭酸のファンタやキリンレモンぐらいしか。 できればオレンジジュースのほうがいいな」 「健康的だな」 「眞一郎くんもコーラばかり飲まないでね」 「俺もオレンジジュースにするから」 「うん」 比呂美の進む方向に合わせてはいるが、俺の通学路を辿っているだけだ。 いつもの長い坂を下っている。 「坊ちゃん、お熱いですね、手まで握っちゃって」 踊りを教えてもらった中年男の能登さんが、自転車で通り過ぎようとしていた。 「俺たち、付き合っているから」 以前のように何も言えずにいたのと違っているのを示したかった。 能登さんは急ブレーキで自転車を止めてから振り返る。 「そうだったんすか。この前、理恵子さんはかなり驚いていたけど、良かったですね」 一言を残してから、すぐに自転車をこいで去って行く。 「おばさんと何かあったのかな?」 不安げで見つめてくる比呂美は、さっきの宣言ついて感想がない。 「よくわからない。能登さんは人付き合いが広そうだから、お袋と話す機会はあるだろうし」 踊り場にお袋が来ているのを知らないから、判断材料がない。 だが俺に関係することだからこそ能登さんは伝えようとしたのだろう。 あとがき あさみは髪の毛の色を変えられそうな口調で、かわいらしく明るいようにしてみました。 眞一郎母の理恵子は似たような性格だったかもしれません。 比呂美と眞一郎は物や言葉に想いを託していますが、まだうまくできていません。 いつかお互いが納得できるようになればいいのですが。 次回は、『雪が降らなくなる前に 後編』。 比呂美は目的地に到着して、雪が好きだった理由を明かします。 比呂美はさらなるアプローチを仕掛けますが、眞一郎にも計画があります。 眞一郎父は博、眞一郎母は理恵子、比呂美父は貫太郎、比呂美母は千草。
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Can you believe you? 朝起きると俺は見慣れない天井を見た。白だ。真っ白。そうだな、病院みたいに真っ白だ。また七恵がなにかやったのか? 俺は微妙にけだるい体を起こす。辺りの光景は俺の部屋ではなかった。病院だろうか。まわりに誰もいないことから個室であることがわかる。それにしても、なぜ俺は病院の個室に一人で寝ているんだ?俺の体についているチューブやら何やらで俺がやばかったのはわかるが、俺は昨日も確かに自分のアパートの自分の部屋で寝たはずだ。何がどうなってやがる。 俺が何事かと思考しているとドアが開く。横開きのようだ。そこに現れたのはマイマザー。母だ。俺を見た途端、血相を変えて近寄って来た。そんなにやばかったのか? 「睦月!?やっと起きてくれたの!?いつおきたの!?」 おいおいちょっと待ってくれ。やっと起きた?俺は昨日から今日にかけて寝てただけじゃないのか? 「覚えてないの?あんたは通学途中に車に轢かれたのよ?それで意識を失ってからだいたい…3ヶ月経ったのよ?」 3ヶ月…ってことは2年の6月なのか? 「なに言ってるの?あんたまだ1年生でしょ?」 は?俺は2年生じゃ…まさか気を失ってたうちに留年?まさか…。 「なに言ってるの?あんたは4月の入学式の次の日に轢かれたのよ?」 入学式?その日は…俺が確かSNNについて知らされた日だったな…。その次の日って土曜日じゃなかったか? 「なに言ってるの?金曜日だったからあんたは学校に行ったんでしょ?」 …マジ…なのか?いや、これはもしかしたら7月の時と同じやつが仕掛けたのかもな…。 次の日、俺は病院を抜け出して学校へと向かった。俺は、最後の希望を確認しに行った。 昨日母に明日の曜日を聞いてそれが平日だったため、俺は先のような行動に出た。下校時間までまだ間があるので、俺は近くの公園で時間をつぶすことにした。Kill timeって言うんだぜ? 俺は居心地のよさそうなベンチに座る。ふう。さて、俺はどうしたものか…。SNNは使えるな。あと十字架も。でもヒントがな…。どんなに頭がよくても手がかり無しの殺人事件は解けっこねえよ…手がかりは探すものだったな…。 ふと気づくと、俺の前に小さな、でも子供とは思えないような少女がいた。いささか身長が低いが、高校生だな。いや、違うか。高校生はこんな時間にはいない。今日は平日だ。 「大丈夫?」 少女が突然話しかけてくる。見た目と同じように平坦な声だった。聞いた感じでは変声期を過ぎた…と思うような声だ。いったい何歳なんだ? 「私は、この地球上で計算をするなら、年齢は14歳に当たる。」 地球上?まるで地球外生命体みたいじゃねえか。 「私は、地球の存在ではない。私はこの世界とは別の平面上における5次元上の世界より体外的活力体を使ってやってきた先兵。いうなれば、偵察体。」 ……どう反応したらいいのかな。とりあえず、精神病院につれて…下校にまにあわねえか。 「とりあえず、それは本気か?」 「信じなくてもいい。でも、あなたにはヒントが必要なはず。」 …確かにそうなんだがな?突然現れた美少女(俺主観)がいきなり電波な事を口走って、それをいきなり信じられるか? 「常人なら難しい。でも、あなたは常人じゃない。だから大丈夫。」 ……睦月の心に29%のダメージ! 「大丈夫。思考状況は常識人。その中でも優良なレベル。」 フォローするぐらいなら言うなよ…。 「…次からはそうする。」 …次があるのか? 「あなたの脳に映像を送る。」 名も知らぬ少女が電波な事を口走りながら俺の頭に手をかざす。口を開いてなにかを言うと同時にその手が淡く光る。DQあたりにありそうな呪文だな。3秒ほどすると俺の頭に映像が流れ込んでくる。ちょうど、目を瞑ってなにかをイメージしてるような感じだ。…43回か。 俺がその回数に異議を唱えるか否か考えていると、 「私のいた世界ではこれくらいビフォアブレックファスト。」 と誇らしげに少女が言った。…それは朝飯前って言うんじゃないのか? 「ぬかった…。」 …可愛い。お持ち帰りしたいほどに…。まあ…しないけどな。 「けだもの…。」 ぬかった…。 「落ち着いた?」 ああ。ありがとう。お前のおかげだ。 「どういたしまして。私はしばらくあなたと一緒にいたい。許可を。」 こんな可愛いやつの誘いを断れるやつはいないだろうな…。 「しばらくっていつまでだ?」 「私に指令が送られるまで。」 じゃあ、なんで俺に? 「……あなたは他の有機生命体よりも興味深いとの評価が出たから。」 その間の意味は知らんが、まあ、いいだろう。 「………ありがとう。」 俺は公園の時計を見る。なんだまだ10時かよ。じゃあもうちょっとここで待ってるか。と考えていると、 「あの時計は動いていない。実時間は12時。」 と少女が教えてくれた。少女って言い方はおかしいかもな。14だろ?…なんていえばいいんだ?彼女か? 俺の腹が空腹を訴える音が鳴る。おっと、忘れてくれ。 「…私も空腹。なるべく早く体外的エネルギーを補給したい。」 わかった。なあ、遅れてすまんが名前は? 「………私のいた世界では個々という価値観が無いため、名前は無い。」 じゃあ、どう呼んだ― 「強いていえば…エミリー。」 マジか? 「嘘。私としてはあなたに決めてもらいたい。」 …これ、なんてギャルゲ? 「ギャルゲなどではない。立派な一つの現実。」 とりあえず、心を読むのはやめてくれ。気味が悪い。 「わかった。」 じゃあ……ベジータとか? 「わかったそれn「スマンスマン!ちゃんと考える!」 さて…じゃあ………ほよ、ってのはどうだ?(三点リーダ一個につき5分弱かかった) 「苗字は?」 苗字?…朝倉でいいんじゃないのか?この苗字はけっこうメジャーだしな。 「字…教えて。」 …どうやら気に入ってくれたようだ。 俺はルーズリーフを探す。ポケットの中には十字架があるだけだった。あれ?なんで十字架が?それを悟ったのか、少女は俺に名前らんが空白の名刺とペンを渡してくれた。用意がいいというかなんというか…。ありがとう。 俺は『朝倉 穂与』と名刺の空欄に書いた。…この年で名付け親になるとはな…。人生色々あるとはこのことだ。 「あさくら…ほよ…。了解。これより私は朝倉穂与と名乗る。」 なあ朝倉。お前は何が目的で来たんだ? 「偵察。」 いや、お前の本体だ。 「…人間で言う所の知的好奇心。」 …地球制服とか考えていた俺はなんなんだよ…。 「それはできない。なぜなら、この世界にはSNNと呼ばれる力が存在し、我々の総力より強い。」 今この世界には無いぞ? 「この世界には征服する価値が無い。だから私はあなたとコンタクトをとり、この世界をあるべき姿に戻す。」 あるべき姿?…ってことはこの世界はなんなんだ? 「この世界は元の世界をベースに作られた擬似空間。端的に言うとパラレルワールド。そして今はそのパラレルワールドがベースを上書きした状態。」 なあ、なんでそんなこと知ってるんだ? 「私に許可された能力を行使した。その能力については人間には理解できない。」 むかつく言い方だな。俺にだったらわかるかもしれんぞ? 「無理。人間には3次元的にしか物事を捉えられない。この能力を理解するには5次元的に解釈する能力が必要。」 ……わかったよ。諦めればいいんだろ。 「諦めるのはよくない。でも、それが賢明。」 どっちなんだよ。 「この世界を元に戻すには二つの方法がある。」 無視か。無視するんだな? 「そのうち一つはこれを画策した首謀者を見つけて交渉をすること。因みに、交渉にならない確立が高い。」 二つ目はなんだ? 「この首謀者の思い描く行動を取ること。これはあまり推奨できない。恐らくこの首謀者はあなたが何もしないことを望むはず。しかしそれでは元の世界には戻せない。」 二つじゃねえじゃねえか。 「無視できる範囲での誤差。気にしないで。」 わかったよ。で、お前は首謀者が誰だかわかるのか? 「わからない。でも、あなたにヒントがあるため私はあなたといる。」 さっきも言わなかったか? 「無視できる範囲での誤差。気にしないで。」 そうかい。ところで、金もってないか?財布持って無いんだ。 「いらない。私が作る。」 俺は先ほど命名した少女朝倉に腕をつかまれ引きずられていく。いったいどこに行くつもりだ? 「私の家。」 お前、家必要なのか? 「先ほど作った。それぐらいなら私にも可能。」 …段ボール? 「紙で作った。」 なあ、俺の家に来ないか? 「大丈夫。安心して。」 俺は言われるがままに引きずられていった。手を繋いだ方が俺としては嬉しいんだがな…。 「ここ。ついてきて。」 俺が着いたのは立派な一軒家だった。紙で作った…作ったとは違うんじゃないか? 「無視できる範囲での誤差。気にしないで。」 わかったよ。俺は朝倉の後ろについていく。やはりというかなんというか、家には家具が必要最低限しかなかった。まったく、寂しい部屋だ。…俺の家も七恵がいなかったらこんな感じだろうな。 リビングと思わしき場所に着くと、 「待ってて。」 と言われた。俺はむき出しのフローリングに腰を落とす。そういえば俺って怪我人だったな。もう外傷は無いみたいだが。あの時はって言い方もおかしいが、轢かれた時はどんな状況だったんだろうな。 ジューと何かが焼かれる音が聞こえる。香ばしい匂いも漂ってきた。ああ、腹減ったな。 「できた。取りに来て。」 俺はキッチンに行く。中には、綺麗に盛り付けされたおでんが鎮座していた。 「おでん?」 「おでん。持って行って。」 「その前にだな、なぜ焼いたらおでんが出来る?」 「焼いていない。」 「じゃあさっきの音と匂いはなんだ?」 「無視できる範囲の誤差。気にしないで。」 俺はこじんまりとしたテーブルにおでんを二つもっていき、席に着く。 「いただきます。」 俺が言うと、 「いただきます?」 朝倉はいただきますを知らなかったようだ。 「いただきますってのはな、なにかを食べる時に言うんだ。食べ物への感謝の気持ちを込めてな。」 俺が教えると朝倉は不思議そうな顔をした後、 「いただきます。」 と言っておでんを食べ始めた。俺も腹が減ったのでおでんを口に入れる。……うまい。うますぎるぞ…。 おでんを食べて一段落した俺達はさっきの公園に戻ることにした。俺の目的は一目でもあいつらを見ることだからな。 「あなたは、不安?」 なにがだ? 「あなたの記憶とのラグが生じることは不安?」 …今の俺には不安しかないな。120%あいつらも俺を知らないはずだしな。 「あなたの言っていることは概ね正解。でも、」と言いかけて朝倉は一度話すことをやめる。 俺がどうした?と声をかけようとした瞬間、なにかを思い出したように続きを始めた。 「諦めるのは早計。諦めたら人間はそこで進化の可能性を失う。」 …宇宙人に人間を語られるとは思ってなかったぜ。 「今の私は人間。ただ特殊なプロフィールがあるだけ。」 …俺は? 「あなたはSNNを行使して地球外的脅威と戦う超能力者。」 人間だよな? 「概ねそう。」 概ね? 「それは問題ではない。それよりあなたはこれからどうする?」 もちろん学校に行くぜ? 「…そう。困った時はいつでも言って。なるべくアクションを起こす。」 …早速ですまないんだが、 「なに?」 「この高校の制服を用意できないか?」 俺がそういうと、朝倉は少し考えた風を見せ、 「手縫い、ミシン縫い、エマージェンシーモード。どれ?」 最後のはなんだ? 「私の能力。今のあなたの服を変質させる。」 と朝倉が言った時にはもう遅く、俺のフェイバリットスタイルは通学スタイルとなっていた。…代えは…ないな……。 かくして、多大な犠牲を払った俺は誰にも怪しまれることなく下校中の生徒を眺めることができるようになったのである。別に趣味ではない。歴史的使命感が働いただけだ。………嘘だ。 「そろそろ。最初からここにいては怪しまれる。校門の中に。」 俺は朝倉に言われるがままに校門の内側に入る。言われなかったら気づかなかったな。ありがとよ。 「礼には及ばない。来た。」 朝倉が指を指す方向には一人の女子生徒がいた。その女子生徒は女性らしからぬ勢いで下駄箱から校門へ走っている。そうだ。七恵だ。 「あれが対象?」 俺は頭を上下に動かすだけでその旨を伝える。ジェスチャーは便利とは今まで実感できなかったな。 俺達は今、下駄箱から校門までにある僅かな草むらに隠れている。あれ?制服に着替えた意味は? 「行ってらっしゃい。」 それと同時に俺の体が重心を崩して前のめりになる。あ、倒れるな。 そう考えていた俺はまだまだ甘かった。白桃並みにな。下駄箱から猛スピードで迫りくる物体が存在していたことをすっかり忘れていたのだ。よって俺は、猛スピードで迫りくる乙女とはおよそ呼べない女子生徒。七恵と衝突する運びとなった。 「いった~!なんでこんな所から人が飛び出てくるの!?」 それは朝倉に言ってくれ。俺に言われても鬱憤を晴らすぐらいの効果しかない。…充分か。 「あれ?…君。私を助けてくれた人?」 は?俺の記憶じゃ何度も助けてやった覚えはあるが、この世界で? 「トラックから轢かれそうになったところを助けてくれたんじゃなかったの?」 …この世界の俺は大層なお人よしだったみたいだな。まさか会って二日の女子生徒を助けて意識不明になっただなんて…。この世界の俺にはノーベル…自賛賞を授与してやりたいぜ。 「そうだ。そのとおり俺はお前を助けた。」 こういうとき、普通は謝るとか感謝の言葉を送ったりとかするんだが…七恵は普通じゃないようだ。 「今からちょっと部室に来てくれない?」 部室?部室って、俺が見つけたからそこになったんじゃないのか? 「概ね正しい。この世界の歴史では織口七恵が見つけた模様。」なぜ名前を―能力か。 おい朝倉。その格好じゃ怪しまれ…いつの間に服変えた? 「その場合着替えたという方が適切。そして私はあなたが織口七恵と衝突した際に着替えた。」 流石、とでも言うべきかね? 「ありがとう。」 さて、七恵にこいつを紹介…いねえし。もし俺が部室の場所を知らなかったらどうすんだよ…。 「私が教える。」 そうかい。 俺は部室棟1階の角部屋に向かう。別に久しぶりってわけじゃないが、そんな感覚があるな。だが、同時に新鮮さも感じている。だってそうだろう?この高校の制服を着た女子生徒。朝倉が俺の後ろをとてとて着いてくるんだぜ?元の歴史が続いていれば1ヵ月後には同じ光景が見れるかもしれんな。 俺はいつものように部室のドアを紳士的に3回ノックする。 「どうぞ。」 中から音咲の声がする。そこは雰囲気を読んで楓さんが言うべきだろう。とは思っただけで口にしない。その昔、日本人の美徳に本音を最後まで言わないってのがあったらしいからな。 俺はいつものように静かにドアを開ける。このまま世界がいつもどおりに戻ってしまえばいいのにな。 「ようこそ!私達の部室に!」 部室の中には、少し動揺が見える微笑をしている楓さん。警戒心が見える微笑の音咲。そして― 部室の長机に仁王立ちをしている、恒星のような笑顔の女子生徒。 織口七恵がいた。 俺は積年の疑問をぶつけてみる。 「部室って…なんの部活だ?」 「え?……音咲くん!教えてあげて!」 最初にここを部室と呼び始めたのは俺だ。俺以外に知ってるやつがいるはずも無い。哀れ音咲。 「僕ですか?…そうですね…考えるに、ここにいる人が思い描くことを部活の行動の範囲内で行ってもいい。そんな場所です。」 完璧。音咲よ。なぜ知っている?吐け。吐くんだ。 「さて、なぜでしょうね?僕としてはそれを最初から知っているあなたに疑問を覚えるのですが。」 そうだろうよ。俺だってそう思うさ。 「ところで、そこの女生徒は誰でしょうか?見たところ1年生のようですが、僕は見かけたことが無いのですが、転入生ですか?」 「私は地球の存在ではない。私はこの世界とは別の平面上における5次元上の世界より体外的活力体を使ってやってきた先兵。いうなれば、偵察体。」 言いやがった。それだけ言っても俺以外に信じるやつはそういないだろうに。 「それは面白いですね。もしよければそこのことを教えていただけませんか?」 楓さん?信じちゃいませんよね? 「冗談ですよ。証拠でもあれば信じられるのですが…証拠として何を出していただいたら信じられるのか、私もわからないんですよ。ところで、あなたのお名前は?あなたは私達の名前を知っているようですが、私達は知らないので。」 「俺は堀崎睦月っていうんですよ。字の説明は後でいいですよね?それよりも大事な説明があるんですよ。」 「大事な説明とは?」 俺は今までのことを手短に、要点を回収しながら伝えた。 「…ここに半径3センチの氷の塊を出してもらえますか?」 俺はSNNを使って言われた情報に基づいた氷塊を音咲の手の上に作り出した。 「……本当、のようですね。皆さんも触ってみますか?」 音咲は押しかけセールスマンのように氷塊を手の上で躍らせる。3軒に1軒は売れそうだな。忌々しい。 「ところで、この世界は本当に上書きされたのですか?世界が二つ存在する。それは無いのでしょうか?」 「無い。私のいた世界が出した最終的な結論は上書きされた事。したがって、二つは存在しない。」 朝倉の発言の後、音咲は少し考えた素振りを見せながら、 「あなた達は、世界を元に戻したいのですか?」 何があっても戻してやりたいね。じゃなけりゃ、俺が7月に覚悟を決めた意味はない。 「私も戻したい。現状世界において、地球という存在は観測するに値しない存在。元の世界の場合はその意義が非常に大きい。無視できないレベル。よって私は元に戻すことを推進する。」 「僕は反対ですね。今まで生きてきた世界が否定されているのと同義ですからね。仮にこの世界が昨日できたとしても、この世界にいる僕達にはそこに至るまでの記憶がある。いくら世界が上書きされていたとしても、この世界を消す理由にはならないと思いますよ?」 確かにそうなんだがな…でもまあ、俺が言っていることは、『あなたの存在をなかったことにします』って言ってるようなもんだしな。俺だって拒否するさ。 「なあ朝倉。この世界と元の世界を独立させることはできるか?」 俺が考えていることは、『元の世界と上書きされた世界を二つの銀河に分けて分布させよう』ということだ。 「不可能ではない。その場合、あなたの力が2人分必要。しかしこの世界には1人分しかない。また、あなたの異時間同位体を呼び出すことも不可能。あなたの提案が実現されることは限りなく難しい。でも、可能な領域。」 …他の方法は? 「ない。」 …マジ? 「マジ。」 …俺が頑張ったら成功する確率は? 「一応はある。その場合、あなたが元の世界に戻る確立は限りなく低下する。」 やってみていいか? 「…推奨はしない。その場合も私は全面的にバックアップするつもり。」 だってさ。音咲、どうする? 「また僕ですか?この意見には僕も同意できますが、その場合あなたがそうするかですね。もっとも、あなたがこの世界に居続けることも選択肢にはありますが。」 俺はやるぜ?俺としては今までを否定されているんだ。だから俺は今までという過去を証明してやるんだよ。 「誰にですか?」 うるさい。黙ってろ。 「どの場合もあなたはあることをしなければいけない。」 朝倉がなにかを言いだした。 「この改竄の首謀者を探すべき。」 ……完璧に忘れてた。 「ばか。」 …それで頬を膨らませてたらさぞ可愛かっただろうな。 「けだもの。」 …ぬかった。 俺と朝倉と音咲が話している間、残った二人は何をしていたかというと、楓さんはにこにこ微笑んでいた。非常に癒されるね。ベホイミ並だ。七恵はというと、顎に手をあてて俺が言ったことを真剣に考えているのだが、どうやらまだ理解出来ていないようだ。うむ、こいつを見ていて癒されたのは初めてだ。最初で最後だろうがな。 「なあ朝倉。この改竄の首謀者ってのは、俺の記憶にヒントがあるのか?」 「概ねそう。そこはあなたが考えるしかない。」 俺の記憶の中で…こんなことしようと企むやつ… 「そうじゃない。それが実現できる者を探すべき。」 わかったよ。実現できるやつ…待て、俺もできたのか? 「その力はあった。でもあなたはそれを望むことは無い。あなたは選考の対象外。」 それだと、七恵しかいないぞ? 「違う。彼女もそれを望まない。」 じゃあ誰だよ。と言いかけた俺の言葉をさえぎって朝倉は続ける。 「あなたの異時間同位体。」 は? 「あなたの情報からすると、今のあなたはモンスター退治を苦にしていない。そして自立的に時間遡航が出来るのはあなただけ。そして過去のあなたはそれをやっていない。それが出す結果は、」俺の混乱をよそに朝倉は続ける。 「未来のあなた。」
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【私は、ひとかどのもので有ると自負している】 【人より力が強いし、身体が大きい。知識を多く持ち、交友関係は広い】 【そして私はそれを自覚し誇らんとする己を認識し、抑えようと努めている】 【私は、悪が嫌いだ。世間一般に言われる、悪と呼ばれる行為が嫌いだ】 【己を誇る事は悪であり、私は己を抑えなければならない。他者を踏みつけにしてはならない】 【そして悪とは天下に晒されて裁かれるべきであり、悪を見つけだす行為とは正義である】 【そう信じた私がジャーナリストとなったのは、他者から見れば理解出来なくとも、私の内では矛盾無き事だった】 【とある会社の社長室に、私は案内されていた。ソファに身体が沈む感触が、緊張を幾らか和らげる】 【メモ帳とペン、懐に隠したテープレコーダー。これらを総動員して取材すべき相手は】 【新進気鋭の製薬会社〝カーペット・バイパー〟女社長、ゼノア・ハスクバーナ】 【いや、違う。それは飽く迄、世間に公表されている名でしか無い】 【彼女の本当の名前。決して顔写真を公開しないその訳は―――】 ああ、いらっしゃいいらっしゃい。良くもまあ、こんな所まではるばると来ましたねえ。 しかも、来た目的も目的、普通の人間なら考えもしませんってえのこんなアホな事。でしょ? いや、いや、いや。感心してるんですってえ私。今まで貴方みたいに度胸の有る人間、見た事無い。 その度胸に免じて。免じて、で良いんですかねえこの場合? ………ま、お話しましょうか。 んで、どっから話します?血液型?スリーサイズ?今朝のご飯? はあ………貴方、どうにもこうにもせっかちな人らしいですねえ………いきなり本題ってそりゃ…… あーはいはい分かってます分かってますはぐらかしません話しますー、だからちょいとお静かに。 私の出発点、ねえ………ちょいとばかし長くなりますよ? コーヒーでも飲んで目ぇ覚まして、のーんびり構えなさい。砂糖は幾つ? ありゃあ、ねえ――― 私の世界は、私が十六歳の頃に、完全な『停滞』をした。 同じ事を繰り返す日々だとか、人間関係が行き詰ったとか、そんな事じゃない。 比喩的な意味で言った訳じゃあないし、遠まわしな言葉を使っている訳でもない。 例えば、此処にコップが有るとする。 ガラスで出来たこのコップを落とせば、割れる。中に入れた水が床に飛び散り、掃除の手間が増える。 同居人にはあれこれと文句を言われるだろうし、代わりのコップを買いに行く必要も出る。 それが起こったのが夜だったら、次の日は少しだけ、マイナスのイベントが追加される訳だ。 『停滞』した世界に、その様な事は、ない。 燦々照り付ける日光は、周りより高い位置に頭を置く自分には、一段と酷薄。 こんな日は男子の影にでも潜り込んで、頭蓋の熱を冷ましながら歩きたい。 蝉が五月蠅いのも何時もの事とは言え、良い加減聞き飽きた。 頼むから貴方達、さっさと次の世代に引き継いで地面に転がって下さいな、と。 そんなこんな何時もの様に纏まらぬ思考を延々繰り広げながら、私は通学路を歩いていた。 回りを見れば、運動着姿の同級生やら先輩方やらが、同じコースをぐるぐるぐるぐる御苦労さま。 文化部の自分には縁の無い事と視線を落とせば、ようやく馴染んできた制服、気付けば少し袖が短くなっている。 背が伸びる分には別に構わないのだが、着る物が減るのはあまり嬉しくもない。 友人達と買い物に出た時のあの疎外感と言ったら、中々他に例えようも無く。 モデルみたいで良いじゃないとは言われるが、あそこまで凹凸極端な体をしていないのは自分が最も承知。 結局何が望みかと言えば、人間何事も丁度良く、が一番なのだろうとそれだけ。 友人達、と思考に乗せた所で思い起こされるのは、昨日の部活動での些細な喧嘩。 事の始まりが何だったかすらあやふやな、きっと傍から見ればどうでもいい事だったのだろうが、然し。 然し、どちらも謝らずにそのまま帰ってしまった為、どうにも顔を会わせ辛いというのは有る。 第一声、どうしようか。普通に挨拶?それともいきなり御免なさい?どうでも良い雑談を振ってみる? 半日の間だんまりを決め込むのは、どうにも自分の性には合わないだろうし。 「あー………暑い」 分かり切った事を思わず口から零し。 流れる汗を袖で拭いながら、コンクリートの上を歩いて行く。 昇降口から下駄箱へ。数百も靴が並ぶと流石に壮観壮観、とまた思考の脱線事故。 学年とクラスごとに綺麗に区分けされた下駄箱を、自分の出席番号求めて歩いて行く。 足の大きさは其処まで極端に変わる訳でも無し、それでもそろそろ靴を買おうか、そんな事を思っていた矢先。 「………痛っ……石?」 中靴を履こうとした右足の裏に、地味なダメージが襲いかかった。 小さな石。尖っている訳でも無く、刺さる事などは決して無い様な。 それでも、体重を掛けて踏みつけたら当然痛い。自分は武道家では無く、足の裏の皮膚は薄いのだから。 悪戯にしては中途半端な配慮、だったらやるなよとも言いたくなる。 あーいやだいやだ、子供っぽい事をする人間はこれだから。 まあ誰だか知らないけどと脳内で最後に付け加え、理科室へ向かう。 校舎の作りの為、日陰の広い理科室。燃えにくい材質の机は、顔を張りつけるとひんやり気持ち良い。 どういう材質なのかは知らないけれど、これを貰って帰ったらきっと快適に過ごせるのだろう。 色が黒だから日に当てておけば温まり易い筈。これで冬も大丈夫だ。 脱線を繰り返す思考を引きずり戻して、首を起こして周囲にぐるり。 すると、丁度と言おうかタイミング悪くとでも言おうか、見事に友人と目が合った。 然しそれも一瞬の事。此方が口を開こうとした瞬間に首をひょいと逸らされる。 ありゃあ、どうにも向こうから折れるつもりが無いどころか、此方の言う事を聞くつもりも無さそうだ。 仕方が無い、部活の終わりにでも。もうちょっと時間経ってからでも良いだろう。 それより今は実験を。結晶が大きくなる様子を記録して、それを報告してで終わる。 至って単純な実験だが、見た目が面白い。中々テンションも上がるというものだ。 スケッチを終えて、数字を書き。さあ、後は先輩方の何方でも。 小柄なあの先輩は、右に左に忙しそう。あちらのパーマ男さんは顕微鏡に集中している。 後輩女子に人気なボーイッシュなあの人は、どうやら今から帰る御様子。 さて、残った人と言えば、何やら今日はふくれっ面してらっしゃる部長さん。 「あのー、こんな感じでどうでしょう?」 割と軽い感じで、持ちかけた。 結論から言う。私が帰宅出来たのは、それから数時間後の事だった。 理由は簡単で複雑怪奇。提出したデータの一つ一つ、部長さんが目を通したのが原因だ。 いや、その言い方もおかしい?それは仕事といえば仕事だから仕方がない。 それにしてもやたらと厳しかった。やれ、此処は何ケタまでだー、こっちの数字がぶれ過ぎだー。 挙句の果てには、此処の数字は明らかにおかしいから、下準備からやり直せと来たもんだ。 貴方そりゃあ無理ですって言いたいけれども、学生の部活動は上下関係が厳しいもの。 デスクワークと言ってもこれだけ続けば疲労する、くたくたになった帰り際。 あの友人の方に何気なく目を向けて、声をかけようとした。 彼女は、周囲と楽しげに笑い、私の方には目も向けなかった。 下駄箱に戻った時、外靴にまた小石が入っていた事を、此処に書き足しておく。 帰り路、一人で歩く私。道端にたむろする不良が『一緒に遊ぼうぜ』などと声を掛けて来る。 はいはいと手を振って流し、自宅への坂を上った。 翌日、朝。 何はともあれ日付は変わる、世の中は刻一刻と動いている。 昨日がどうあれ今日は今日、それが世界の真実よ、と。 頭の中で節を付けて歩く私の耳には、蝉の合唱が飛び込んで来ていた。 ああ、五月蠅い五月蠅い。全く五月蠅いにも程が有る。 五月でも無し蠅でも無し、貴方達本当に場を弁えなさいよ、と。 回りを見れば、運動着姿の同級生やら先輩方やらが、同じコースをぐるぐるぐるぐる御苦労さま。 文化部の自分には縁の無い事と視線を落とせば、ようやく馴染んできた制服、気付けば少し袖が短くなっている。 背が伸びる分には別に構わないのだが、着る物が減るのは――――――待った、少し待った。 手首の骨の形状を観察していた私の思考は、其処で急激にブレーキを掛けて地面にタイヤ痕を残した。 「………………ありゃ?」 昇降口から下駄箱へ。数百も靴が並ぶと、流石に鬱陶しい事この上ないとも思ったり思わなかったり。 学年とクラスごとに綺麗に区分けされた下駄箱を、自分の出席番号求めてうだうだ歩いて行く。 別に今から靴を買わなくても、最悪サンダルでどうにか成るだろう、そんな事を思っていた矢先。 「………痛っ……石?」 この地味で些細な痛みを、態々描写する必要は有るまい。 何せ、既に十分に語ったのだから。この痛みと、それに伴う感情を。 からーん、からん。小石を落として一回、蹴っ飛ばして一回。 二回程鳴った軽い音は、どうにも耳にしっくりとは来てくれなかった。 校舎の作りの為、日陰の広い理科室。燃えにくい材質の机は、額を冷やすのには最適だ。 確か特別な板を貼って有るんだったか。じゃあその板が有れば家庭でもこれを楽しめます、と? こんなものを家に置いて有っても仕方がないじゃないかと、自分の案を自分で却下した。 数時間後、帰路。 何も、昨日と変わりはしない。何も、違う所がない。 先輩方の表情も、視線を外す友人も。そして、提出を求められるデータも。 提出した後に何を言われるかも予想が付いていたし、此方が言葉を返したらどうなるかも分かっていた。 首を傾げて歩く私に、声を掛けて来る不良。『一緒に遊ぼうぜ』とは、どうにも魅力に掛けるナンパの文句。 はいはいと手を振って流し、自宅への坂を上った。 居間でソファに腰掛けると、弟がこれまた珍妙な表情をして座っていた。 父親似(らしいけど見た事無いから知らない)の弟は、私とは余り顔が似ていない。 それでも浮かべる表情はそっくりらしく、ならば私もきっとこんな顔をしているのだろう。 口を開いたのは同時。互いに先を譲り合って、結局先に文章を口に出せたのは私。 「今日って、今日でしょ?」 『ええ、まあ、今日ですよねえ………』 会話になっていない、自分達でもそう思う。だが、これだけで通じた。 今日は、昨日ではない筈だ。それを確認したかったのだ、自分以外の脳髄と。 『……姉さん、街一つ使ったドッキリなんて事は有りませんよねえ………?』 「そりゃ幾らなんでも無理ってえもんでしょ?何処の馬鹿金持ちが実行出来るってんですか」 「『ですよねー』」 綺麗にオクターブずれてハモる嘆息。何が起こったかって? 今日が昨日だった、それだけの事だ。一日振り返れば分かる事だろう。 つまり、〝何も昨日と変わらない一日が過ぎていった〟のだ。 嗚呼、なんと魅力的な響きか。変わらない毎日に万歳。 次の日も、その次の日も。カレンダーの数字は動いているのに、何も変わらない。 変わる事と言えば、少しずつ日の出日の入りがずれて来た事か? いや、もう一つ有る。蝉の声が消えて来た事だ。 どうにも、人間様以外は短命で仕方がない運命を持っている様で。 貴方の代わりに其処をグルグル走ってる脳みそ筋肉連中が死んじゃえば良いのにねえ本当に。 学校でやる事は決まっている。靴の中の石を捨てて、実験結果を纏めて、やり直しをさせられる。 計算式全て覚えてしまっているから、訂正自体は楽。ペンを持つ指がだるいばかり。 友人と口を聞こうと思ってタイミングを掴めず、帰路では不良に声を掛けられる。 大体、今回で5回目か?そろそろ、一日に聞く全ての台詞を暗記出来た気がする。 少しばかりマシなのは、自宅にいるその時。 今日なのか昨日なのか分からない一日で知った事を、弟と検証する時間だ。 何せこの時間ばかりは、何時も違う言葉を聞く事が出来る。 ゲームにランダム性を持たせる事がどれだけ重要か、良く分かった気がした。 そうそう、ゲームと言えば、 『姉さん、大事件です。今更気付いたんですが』 「ん、何ですか?」 『ゲームのセーブまで巻き戻ります』 「………うわーお」 流石に、三日目で気付いた。色々なものが〝巻き戻っている〟のだと。 日付だったり行動だったり、或いは物品だったり。巻き戻るものは様々だ。 これが、全て巻き戻るのだとしたら、把握するのは楽だっただろう。 だが、巻き戻る事を自覚している私達の存在が有る時点で、それは無い。 「しっかし困りましたねえ……これからは格ゲーだのアクションだのばかりですか」 『隠しキャラ出せても巻き戻し、って問題も有りますよ?』 自分自身の知識や記憶は巻き戻らない。手の動きの滑らかさはどうなのだろう? 電子部品に記録される信号は巻き戻る、紙に書いたパスワードもおそらくアウト。 こうなると、本当に選択肢が無い。ちょっとした息抜きの手段まで削られると知って、何だかやたらとがっくり来た。 別に自分の好むゲームはもっと単純なものばかり、其処まで影響も無いのだが。 それでも、まずクリアが出来ないと分かったゲームが増える。それは悲しいものだ。 何せ、何時までも何時までも、その世界はゴールを迎えられないのだから。 『ところで姉さん、こっちは会話もまるっきり同じでした』 『其方の会話、ここ五日で変わりました?』 「会話?えーと―――」 「――――――会話?」 最近数日、なんとなーく振りかえって。 部長のくどい話と帰路の不良、そして弟と。それ以外と会話していないと、今更気付いた。 他の先輩方とも、友人とも。流石に、我ながら呆れてしまった。 なんでまた、こんな事になってるのやらと。 いや、原因という程でも無いが原因は分かる。自分から口を開かないのと、タイミングだ。 たまたまそういう日だった、それだけの事。 明日の今日は、もう少しばかり口を動かそうか。 部屋の灯りを消す時は、僅かに楽しかったかも知れない。 とまあ、此処までが前フリ。割とふつーの学生生活でしょ?イレギュラー有りますけど。 そんな訳で私、結構良い子だったんですよあの時代は。成績優秀でしたし。 このままだったら私、ただの登場人物オア何処かの主人公の協力者になったと思うんですよ。 ほら、世界がおかしくなると、何処からかそれを打ち破る主人公出るでしょ?小説のお約束で。 此処までの私は、何を出来る訳でもない。ちょいと雑学が多く、ちょいと記憶力が良く、背の高い女子。 物語の中心に躍り出る事なんざ出来やしない、可能性が有るとしたら何処かの誰かの隣に立っての登場? あの時の私を見て、何処の誰が今此処に居る大悪党になるなんて予測できたでしょうねえ……… あら、コーヒーが空ですか。おかわりどうぞどうぞ、結構美味しいでしょ? そうだ、会話が出来なかった理由の一つ目が、一人で通学していたからだ。 ぐるぐる回る犬にも似た運動部の方々を観察するのは良いが、それも飽きて来た所。 此処は心機一転、何か話題を持って居そうな人間を探そう!と意気込んでスタート。 拭わねばならない汗も少しずつ減ってきた。過ごし易い季節が近いのだろうか。 快適な登校時間には快適な音楽も欲しい。適当に何か持って来ようか。 さて、此処で私の一つ目の目的は、百メートル10秒台の速度で壁に正面衝突してくれた。 そもそも通学途中に誰かに遭遇する事が有ればその時点で挨拶なりなんなりしていた訳で。 そしてそうなればそのまま学校まで会話が続いていたという事は非常に簡単に推測出来る。 今日まで通学時に誰にも遭遇しなかった以上、今日になって偶然という事は有り得ない。 どーでも良いけど私の思考って、サ行からスタートする事がやたらと多いですね。 家を出る時間をずらすべきだった、と。予期せぬ事態が起こり得る日々に培われた、几帳面さに後悔数秒。 その数秒程度の誤差しかなく、毎日到着する時間に正確に、校門をくぐる事になった。 中靴の石を放り出して、理由のその二。部活に直行という行動を見直してみる。 と言っても、此処を如何にかする方法が有るのは、授業が有る日に限定するお話。 教室に居るのは吹奏楽部の金管楽器部隊だろう。会話の前に耳が壊れる。 大体私の繊細な耳はあんな爆音の傍に居て耐えられるようには出来ていないのだ。 その前に吹奏楽部に友人は余り居ない。知人なら居るけれども。 友人と知人は別。これ、女子の関係に於いて結構重要な事である、メモをどうぞ。 となれば此処は素直に部活に行くべきか?それ以外に手段も無いですか。 然しながらあの空間はあの空間で私語が割と少なく会話目的では居心地が悪く。 そもそもループする基準になる日にこんな行動を取っていた自分自身が恨めしいったらありゃしないのだけれども。 さりとて他に手も無し、部室へゴー。サボるパターンは明日試せば良いや。 この辺り、私の思考回路が少しずつ、今の私に近づいてるの分かりますね。 後から思い返して初めて気付く事。回想に耽るのも悪い事ばかりじゃあない。 部室に入って最初のアクション、友人と目を合わせて逸らされる。 その後は静かに実験を進めて、部活動の全てが終わるのを待つばかり。 本来なら私は途中でデータを提出し、部長さんに何時までも何時までも訂正をさせられるのだが…… 此処で、介入案として、〝データを提出せずにこっそり帰る〟を入れてみようと思う。 尤もこの理科室、そんな事が出来る程に広くも無い。抜けだそうとすれば見つかりそうなもの。 だが、私はこれまでの五回の今日で、部長の行動パターンをなんとなく把握していた。 友人が帰宅準備を整えて、理科室から出る。それから数分後、トイレなのか慌ただしく出ていく。 確かその後、暫くは戻って来ない。一時間くらいは空白が有った? 其処で抜けだして走れば、多分友人には追いつける。彼女は随分とゆっくり歩く人間だから。 さあ、耐えに耐えて愈々その瞬間、理科室の黒板側の戸がガラリ。 足音が聞こえてから1・2・3、速効で荷物をまとめます。 後片付け?しない。だってどうせ明日には元通りだから。 部長さんがどれだけ腹を立てようと、明日になれば忘れてくれる。 こうして考えると悪い事ばかりでもないじゃないか。 ぱたぱたと廊下を走り、かくんと直角に角を曲がり。おや?と首をひねらされる事に。 其処に居たのはとっくの昔に帰路についてておかしくない友人。 普段ならいざ知らず、この時期?このタイミングで学校に残っててどうするのやら。 他の友人、この時間にはもうとっくに帰ってしまっているだろうし。 其処まで考えた所で、少々いやな予感。物影に隠れると遅れて数瞬、彼女がぐりんと振り向いた。 気付かれた?いや、そういう訳ではなさそう。きょろきょろ周囲を見回して、向かう先は体育館。 私の通っていた高校、当然ながら屋内の運動部も有る。だけど丁度〝今日〟は、揃って何処かに遠征。 屋外の部活が無理に体育館を使う理由も無く、整った設備も今日ばかりは完全に沈黙していた筈だ。 そんな所にわざわざ向かって、彼女は何用だろう? 距離を保って見ていると、大扉の正面で彼女は立ち往生。 この距離じゃはっきりと分からないが、多分鍵が掛かっているのだろう。防犯上当然だ。 それに思い当たる事が無かったのか、今度は彼女は職員室の方へと向かって行った。 そういえばあの子、ちょっと抜けてる所も有ったっけ。 その間に、こっそりと侵入してしまおう。ごそごそと体育館の床下に潜り込む私。 正確に言うと、体育館に通じる通路から床下に潜り、其処から体育館へと移動する私。 何の為に作られた床下通路かは知らないけど、きっと水道管なんかを扱うのだろう。 照明も落ちて、外の日光だけが眩しい空間。傾き具合は日に日に大きくなって、暗くなるのも早く。 それでもまだこの時間帯は、子供が外で遊んでいても安心な程度の明るさ。 ステージ脇のピアノの影に隠れて、私は彼女がやってくるのを待つ。 視力に完全に合わせて作られた眼鏡、視界はクリアー。 待ったのは数十秒だろうか?隠れるタイミングが遅ければアウトだった。 鍵の掛かった体育館に一人、変なシチュエーションで顔を合わせる事になっていた。 尤も、そうなったらなったで会話の糸口にはなるのか? 明日の今日になったら試してみよう、そんな分かりにくい思考。 彼女は、ボールやら跳び箱やら置いて有る倉庫の方へと入って行った。 此処でこの体育館について、後だしの様に構造を説明すると。 通路から潜って体育館の内部に出られるのは書いた。だが、倉庫の中にも出られるのだ。 途中が入り組んでいて暗いから動き辛いが、そこは手の感覚に頼るしかない。 そして倉庫の中に出れば、丁度跳び箱が大量に置いて有る場所。 侵入目的でそこに出ても、其処から身動きが取れない。だが、観察目的なら? どうせ動く必要はないのだ、檻に閉じ込められた形になっても構うものか。 煤だらけ埃だらけ、ついでに暗くてちょっと怖い。床下は本当に地獄だぜ、と。 それでも割と早めに辿りつけたのは、反響する彼女と誰かの声のお陰。 床にはめ込まれた蓋を下から押し上げ、身体を持ちあげなければならない、が。 これがまた、音を立てない様にするには難しい。 慎重に慎重に、数分掛けて。それでも最後の最後、キィと音がしてしまった。 気付かれた?そう思って身を硬直させるも、然し何も反応は無い。 彼女の声も、それに答える声も、一定間隔で聞こえるばかり。 やれ、一安心。身体全体引きずり出して、跳び箱の影に変なマネキンの様なポーズで待機。 跳び箱は、段を重ねたり減らしたりする為もしくは運ぶため、手の指を引っ掛ける所が有る。 そこから声の方を覗いてみた。 その時の私は、まだ知識は有っても経験は無く、雑学は有っても必要な事を知らず。 だから此処までお膳立てされた状況で次にどういう事が有るかも予想出来ず、と散々な状態。 跳び箱の隙間の向こうに見えた光景は、予想出来る事だろうに予想出来なかった。 そう、実に単純。うちの部長さんと彼女の密会の光景、である。 丸めたマットを椅子にして二人ならび、なんともなんとも楽しそうなお顔。 聞こえてくる話題は、平和そうな内容。やれあの子がウザい、あの店が不味い。 新しい携帯買ったんだー、俺の家のテレビ古くてさー、昨日メール送ったのに気付かなかった? やれやれ、で済ませられれば良かった。徒労の割に、大した事の無いオチだと落胆出来れば良かった。 そうすれば普通に帰宅して、何か食事でもしながら弟と雑談して。 その雑談の内容は、あの二人がしているよりは幾らか前向きなものだと断言できる あの子がウザい、この子が嫌い。こんな話題で盛り上がるのは、思春期には有りがちだ。 主に、自分は優れていて周りが自分に従わないのが悪い、内心でそう思っていると楽しい。これは私の経験談。 部長さんは人が良いのかそれとも思いきりが足りないのか、此処で話題を楽しんでいたのは彼女の方。 同じクラスのあれがウザい、あれは素直で可愛い。可愛いってアンタ、あのおまんじゅうに手足の子が? 隣のクラスのあれが煩い、あの教師は良い教師だ。あの先生、授業が進まないって評判なんですけど。 知りたくなかった彼女の本性、とでも言おうか。 その言葉の中に私の名前が飛びだしたのは、客観的には意外でも何でもない事だったろう。 昨日あんな事あってさー、超生意気ー、信じらんなーい。 友達面してウザいんだよねー、背ばかっり高いひょろひょろの癖に。 むかついたからさー、靴に石入れてみたりとかしちゃったー。 あ、そうだ。私、暫くあいつ無視する事にしたからさ、あんたも手伝ってよ。 え?うん、暫く。だってあいつ、宿題とか写させてくれるしー。 場所、男女二人。この後の事は、語るまでも無いでしょう? 友人と知人は別。これ、女子の関係に於いて結構重要な事。 メモが本当に必要だったのは、あの時の私だったのだろうけれど。 あっはっはと笑い飛ばすにも、そういう事に対する耐性が低すぎた。 今なら眼前の光景を録画でもしようと考えただろうに、あの頃は声を殺すのが精一杯だった。 きっと、友人づきあいというものを殆ど経験してこなかった、それまでの生き方も原因だったのだと思う。 何せ、私は〝変な奴〟で今まで通して来たから。彼女の前には、友人と呼べる者も居なかったから。 いや、彼女は〝知人〟だった。多分、周りの他の人間も。 気付かざるを得なかった帰路は暗く、制服は埃や煤で汚れていて、視界ははっきりしなくて。 自宅への坂にさしかかる手前、何時も不良が声をかけて来る場所。 この時間ならもう居ないかな、結局部活より遅くなってしまったし。 彼女達が去って数時間、底冷えした身体を抱きしめながら通りかかる。 一緒に遊ぼうぜ、第一声は全く同じだった。 この手の人種は決まった場所から動かないのだろうか?根でも生えてるのだろうか? 何時もの通り、五人。煙草をふかしていたり、酒を飲んで居たり。 それでも、他人にあまり迷惑を掛けていないだけ、良質の不良なのだろうかとも、普段は思う。 今回の今日は、そう思う余裕もない。声を振り切って行こうとした。 おーい、何泣いてんだよ。普段は掛けられない、二つ目の声。 囚人の足に付ける鎖の様に―――とすれば少々大仰か。空腹の鼻に届くバターの臭いの様に、私の足を止めた。 別に、彼等は私を心配している訳でないのは、その瞬間に理解出来ている。 どちらかと言えば、からかいの意図が強そうだ。表情から予想はつく。 もしくは、ただ声をかけるネタが無かったから、目に付いた事実を述べただけか。それも有るだろう。 彼等が興味を持ったのは私という人格では無く、そこを通った女学生に過ぎない。 そして、それは彼女と良く似ているのではないか、とも思った。 同じクラスに居て成績優秀、仲良くしているグループは無い。 自分で言うのも何だが見栄えはそれほど悪く無く、だが着飾らないから自分が霞む事も無い 少々甘くしてやれば、宿題が簡単に終わったり、授業中が楽な時間になったり。 そういう条件に合致したのが私で、〝そこを通った女学生〟に近い、〝そこに居た優等生〟。 成程、初対面で声を掛けて来る人間と、数カ月の付き合いでそれなりに近くに居たと思った人間。 その二つは面白い事に、私に同程度の評価を下しているという訳なのか。 そして、私はもう、彼女に対して好意的な評価を下す事は無い。 なら、私に直接の被害を及ぼさずたむろしている彼等は、彼女より高い評価を与えるべきでは無いのか? 追い詰められた人間の思考回路は、何処までも暴走する。 遊んでけよ、三つ目の声。招く手に、軽く鞄を放ってやる。 見事にキャッチした男の方が、むしろ意表を突かれたような顔をする。 「此処じゃ寒いでしょ?初めての子には優しくするもんです」 今回―――六回目の〝今日〟が終わるまで、私は家に帰らなかった。 あまり痛いとは感じなかったし、思っていたより疲れたが楽しかった。 目を覚ましたのは、何時もの様に自室。昨日意識が消えた、何処とも知らぬ廃屋では無い。 何時も通りにパジャマを纏って、皺一つ無いシーツの上。 頭の下に有る筈の枕が何故か胸の中に引っ越しているのは、自分の寝相がミステリーだとしか言えない。 右手の甲を見る。横になった時に、小石でちょっと引っ掻いてしまった部分。 傷の痕どころか、皮膚の変色すら見られない。完全に無傷だ。 戯れに穢された筈の制服は、ハンガーに新品の様な美しさで引っ掛かったまま。 自分自身も、身に着けていたものも、リセットの対象となるとこの時に知った。 変わらぬは己の記憶ばかりなり、と。 着替えを済ませて台所に向かうと、弟の力の抜ける様な声。 『おや姉さん、昨日は何処に?いやはや、一応あちこち探したんですよ?』 『外で食べるだけのお金は有る筈だし、其処まで心配はしませんでしたけど』 「そーいう時は、心配したと嘘でも言いなさいな。まあ心配の必要も有りませんでしたけど」 流し台に映った自分の顔は、なんとも言えず気分の良さそうな顔。 これなら確かに、心配する必要はないなと自分でも思えた。 今日が繰り返して一週間、私は部活動をサボる事にした。 それだけなら、制服を着る必要はない。これにはこれで理由が有る。 職員室の先生方に挨拶するには、こうでなくてはならない。 普段より数十分も早く学校に到着し、階段を上って職員室へ。 家庭科の先生は、生徒の大半に、好き嫌いで評価されないおばあちゃん先生。 やや悪い表現を使えば人畜無害、おちついて会話をするのには適した相手だろう。 だが、私が今欲しいのは、そんな時間の潰し方では無い。 「すいません、休みに入る前に家庭科室に忘れ物してたの思い出しまして」 「直ぐに取って来ますから、鍵だけ貸していただけませんか?」 学生鞄は意外と大きく頑丈、何かを隠そうと思えば簡単な事。 確か、家庭科室の辺りだけ、防犯装置が無いのだった。 次に向かうのは、図書室に隣接した司書室。あそこのパソコンは動作が軽く、プリンターも近くに有る。 そして私の記憶が正しければ、この学校の近くに出来たファーストフードは、ネットで割引券を配布していた筈。 携帯の画面を見せるか、印刷したものを持っていくか。それで割引という良く有るサービス。 ここで紙媒体の利用を選択したのは、それがなんなのか一目で分かりやすいからだ。 インパクトは大事、これも昨日なのか今日なのか良く分からない一日で覚えた事。 準備は整った。腕時計の針は順調に進む。 彼女の行動パターンからすると、そろそろ昇降口に現れる事だろう。 私の姿を見れば、きっと無視して行こうとする筈だ。だからこそ、その姿にインパクトが欲しかった。 全くもって呆れる程簡単に、計画は成功する。 一度目を逸らした彼女だが、視界に映った何かに反応して此方を向く。 私が並べた店の名前が、新メニューが、彼女の首の向きを固定する。 後はたった一言、「昨日はごめんなさい」。これだけで良いのだ。 どうせ彼女の約束は今から5か6時間後。これから街に繰り出すだけの時間は十分に有る、と考えるだろう。 「あ、そうだ。ちょっと手伝ってくれます?」 ちょちょいと手招き、家庭科室の方へ。 防犯装置が無い、先程表記した通りの場所だ。 手伝ってと言われれば、素直について来る。この辺りはまだ、捩じれ切っていない? でも、それは表だけかも知れない。財布を逃がさない為の演技かも知れない。 おごるとは一言も言っていないが、きっと彼女はそのつもりで居る筈だ。 家庭科室に入り、エプロンを適当に取ってきて、制服の上に。 それから更に、別なエプロンをマフラーの様に、首の辺りに巻き付けた。 この珍妙な服装に、指をさし腹を抱えて笑う彼女。 髪を掴まれた瞬間の表情の変化は、録画して見返したい程だった。 蛇口に鼻を打ちつけられて泣きわめく様は、何とも言えず滑稽だった。 噴水の様に鼻血を出し、痛い痛いと大騒ぎする彼女。 でも、耳元で一言「黙れ」と言えば、引き攣りながらも口を両手で覆う。 「そうですよね、包丁で脅されれば怖いですよね」 「貴女の目の前で持ちだす訳にもいかないし、面倒な事をしましたよ」 「ですが、手間をかけた以上のリターンが有った様でなによりなにより」 「ねえ、助けは呼ばないんですか?叫ばないんですか?誰かが聞きつけるかも知れませんよ?」 「勿論、そんな事をしたら誰かが来る前に貴女死にますけど」 身長差20cm近く。両者とも文科系の部活動。体力で比べるなら、私の劣る部分は無い。 背後から首に包丁を突き付けられ、しゃがみ込まされ。彼女はなんとも弱っちい存在に見えた。 「何でだろうって顔してますよね、貴女。分からないのも仕方が無いでしょうけど」 「でも貴女、これまでに何度も何度も、あんな事言ってたんですから仕方が無い」 「それと同じだけの回数……結構地味な嫌がらせしてくれましたよね」 「それに、これからも何度も何度も。貴女は死ぬまで、あんな事を繰り返すんですよ」 「訳分からない?狂ってる?いやまあ、私もそう思いますよ?うん」 「でもね、仕方が無いんです。貴女が分からない事も、分かってましたし」 「じゃ、また明日会いましょう」 骨が固い事は知っていたが、思った以上に苦労する。結局切断は諦めた。 喉に突き刺し、上に跳ね上げ、下に振り降ろし。魚を捌くのと似た感覚かも知れない。 切り開いた腹の中身は赤黒く、図鑑に載っているのは見やすい工夫が有るのだなと理解させてくれる。 二重に巻きつけたエプロンは、帰り血を防ぐのに良く役に立ってくれた。 床に広がる致死量の血液に、白い靴が台無しになったが、もうそんな事はどうでも良く。 裸足に制服という奇妙な姿で昇降口に向かう私を、誰かが見とがめる事も無かった。 それからは、毎日楽しかったですよ? 色んな殺し方を考えて、毎日実行して。その足でまあ、彼等と色々して遊んで、と。 次の日には彼女、無傷で生き帰ってましたし、私は私で普通に自宅にワープです。 それでまあ馬鹿馬鹿しい事に、何回同じ手段やっても同じ様に引っ掛かるんですよ。 彼等の方は彼等の方で、交友関係が広いのか結構色んな友人呼んできましたね。 こっちの行くタイミングで呼ばれる友人が変わりますから、結構色々試してみました。 その友人がまた別の友人呼んだりで、そうですねえ………えーと、あの彼があれ読んであっちの子呼んで…… 最終的には男女合わせて3桁以上と遊んだんじゃないですかねえいやはや若気の至りでアッハッハッハ。 人間の腹の中身引っ掻き廻して、その構造もよーく分かった。どう言葉を掛ければどう答えるかも色々試した。 次の日に全てリセットされると分かってれば、何をしても怖くない。 知識だけは引き継げる。だから、私は全てを知識にしました。 何か研究が完了しても、紙やデータに残せない。全て、記憶に放り込む。 私の専攻―――魔法生物と人体の融合―――の基礎は、この頃に完成させてます。 で、色々有って今の主君に拾われるまで……4年くらいでしたっけ? ………その世界が、なんなのか?それに関しちゃ永久に、正確な答えは出ないでしょうが……… ゲームの乱数、分かります?あれってフレーム単位で同じ行動取ると、同じ数字返すんですって。 まるでそれと同じ様に、こっちの台詞が同じなら向こうの台詞も同じ。 こっちが何処でどういう行動を取ると、どう変化するかも同じ。 なんだか、似てませんか? あれはきっと、何処かの誰かがやってたゲームなんです。 とあるステージのハイスコアを更新する為に、色んな数値を弄って。 クリア、つまり日付の変わる瞬間にリセットボタンを押し、開始時刻に巻き戻す。 その過程の中で〝スコア更新に必要と確定した〟行動はループから外れる………蝉の声や、近所の老衰で死ぬ人間なんかがね。 弄る側としちゃ、不確定要素は少ない方が良いんだから。 そして私と弟は……それからご主君や、他の面々もですが。 それが、スコア更新の為に操作すべきと判断されたキャラクターでありフラグだったのだ、と。 あれ以来ゲームが嫌いになった私は、そう判断してます。 科学者が神の存在を信じるなんて?おーやおや、私は神なんて一言も言ってませんって。 ――――――ところで 【ぐらり】 【私の世界が、大きく揺れた】 【床が顔に叩きつけられる錯覚、頬に冷たい建材の感触】 【瞬きは出来る、呼吸は出来る。思考すらこうして回転しているというのに】 【何故だろう。私の手足は、私を完全に裏切っていた】 この物語の主人公の少女………いやまあ私ですけど、どう思います? 友人に裏切られておかしくなった不幸な少女だと、貴方は思いますか? 私が第三者としてこの話を聞けば、Noと答えますよ。 だってそうでしょ?たった一週間ですよ一週間。状況がおかしくなってから。 それに、実害がそこまで大きかった訳でもない。友人と思い込んでた子、そこまで酷い事しました? 陰口なんざ日常茶飯事なのが学生、それで人殺しなんてあんた有り得ないでしょう。 しかも。これ以降この少女は、元友人を様々な方法で殺し続けました。 刺殺絞殺薬殺毒殺、何処で手に入れたか爆殺銃殺。車に轢かせたのも何度か。 止血を完全に正しく行って、麻酔無しで手足を切り取った事も有りますねえ。 上手く騙して不良の所に連れて行って、輪姦させた挙句自分で殴り殺した事も有りました。 眼窩から指で直接脳を掻き回して、ギリギリ生きているレベルで留めた時はなーかなか愉快でした。 さて、同じ状況に置かれて貴方、此処まで出来ます? 【軽率だった、と言わざるを得ない】 人間にはねえ、生まれつき善人と悪人と居るんだと思いますよ。 んで、何らかの条件が満たされた時、悪人はようやく自分自身になれるんです。 それまで、きっとその悪人は、あまり恵まれた状況に居ない。自分で居られなかったんですから。 だから世間は、「人が悪人になるのには理由が有る」なんて言うんです。 いやはや全く愚かな事、そう思いません?だって――― 【私の正義の心は、私の人生を終わらせる事になった】 【彼の女悪党に取り入って、やがて正体を暴き、公正なる捌きを与える】 【理想に燃える熱き心は、右肩上がりに増して行く心音に掻き消される】 ―――だって、私は生まれつきの悪人なんですから。 【私程度の正義の味方が、如何にか出来る相手では無かった】 【私程度が欺いて、日の下に引きずり出せる相手では無かった】 【最後の希望は、私の死体が何処かで発見され、テープレコーダーが見つかって………】 心配しないでも大丈夫ですよ?貴方を殺したりしません。 貴方に飲ませたのは毒薬じゃあなく麻酔薬ですもん。ね?もう痛くないでしょ? 【彼女が振り下ろした金槌が、私の手の指を砕いて行く】 【言葉の通り、痛みは感じない。もう、手がそこに有る事さえ分からない】 【テープレコーダーが最後に拾ったのは、其れ自体がぐしゃと踏みつぶされた音】 【そして、私の耳にも同様に届いた、粘りつく様な甘ったるい彼女の声】 じゃあ、また明日遊びましょう? 【Interview with the Mad scientist.】 【Route:interviewer / Normal End.】
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………な曲を歌います 鳥 ――――― 私が桜ヶ丘高校に合格して二日。 憂「ん……朝…」 目を開けると私の部屋の天井が見えた。枕元にはデジタル時計。いつもの起床時間を指してる。 顔を左に向けると 唯「……」 すぐ横のお姉ちゃんが仰向けで熟睡中。私はそのまま人差し指でお姉ちゃんのほっぺを軽く押す。 この弾力と柔らかさはクセになる。 唯「ん~……」 憂「おっと」 慌てて引っ込めた。 お休みのじゃましてごめんね。 私は朝ごはんを作るために体を起こそうとした。でも 唯「ん~……ん」 憂「!」 寝返りをうった拍子に、お姉ちゃんの唇が私の唇に軽く押しつけられた。いわゆるキスしてる状態。 お姉ちゃんの乾いた唇と静かな鼻息が私を温める。 お姉ちゃんったら♪ そのまま最後にお姉ちゃんとキスした幼少期を思い出していると 唯「ん~…ん?」 お姉ちゃんの目がほんの少しだけ開いた。 唯「んひゃ!?」 憂「お姉ちゃんおはよ♪」 私とキスしてるとわかると、お姉ちゃんは赤面しておおげさに私から離れた。 憂「お姉ちゃんがしてきたんだよ?」 唯「ごっごめん!」 憂「謝んなくていいよぉ、姉妹だしいいじゃない」 唯「うぅぅ…」 そんなに私とキスするのが恥ずかしいのかな? お姉ちゃんは夜使っていた毛布に真っ赤な顔をうずめて動かなくなった。なんという小動物。 朝ごはんができたら呼ぶことをお姉ちゃんに伝えて洗面台へ向かった。 ――私がシチューをかき混ぜ温めていると 唯「……」 死角から顔だけ覗かせて私をじっと見る恥ずかしがり屋さんがいました。隠れたつもりなのかな? 憂「そんなところでどうしたの?」 唯「ばれた! 目が覚めちゃって寝れないよぉ」 憂「じゃ朝ごはん一緒に作ろ?」 唯「ん~…いいよなんでも来なさい! フンス!」 憂「うん。 お鍋を見てて欲しいな」 唯「おっけぇ!」 ――朝食を食べ終えた私たちは学校へむかった。 唯「えへへ~合格おめでとう~」 憂「もうそれ何十回も聞いたよ?」 唯「いいの♪」 私たちは道路脇に並ぶ桜を眺めながら歩いている。そんな中にお姉ちゃんの鼻歌が舞う。 お姉ちゃんは一昨日からルンルンです。私以上に合否の心配をしてくれるほどだからその反動だと思う。 その日からお姉ちゃんと一緒に寝るようになった。うれしいけど…もういいよね? ……今日は一昨日と違って抱き着かれないまま下駄箱に着いた。 i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| 始業式を終えて教室に着くと、中学時代の友達に会えた。 憂「鈴木さんと同じクラスだぁ」 純「おっ平沢さんじゃん」 軽い社交辞令を済ませた。 純「純でいいよ憂」 憂「そう? じゃ改めてよろしくね純ちゃん」 そうだ、たしか純ちゃんは音楽やってたっけ。 横から純ちゃんのお友達も加わり雑談した。その時に三人を軽音楽部に誘ってみた。 純ちゃんだけ釣れました♪ ――軽音部を覗いた帰り際、下駄箱でツインテールの女の子と目があった。ちょっと冷めた雰囲気の漂う子だったなあ。 i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ||||||||||||||||||||||||||||||||||AT NIGHT|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| 唯「新入生連れてきてくれてアリガトね~」 憂「うっうん…」 私は少しひきつった顔を見られないよう振り向かず、料理に集中しする。 結果は芳しくなかった。まさか軽音部のみなさんがメイドさんになってるとは……。純ちゃんも軽くヒイてた。 そんなお姉ちゃんは居間で一生懸命ギターを引きながらご飯を待っている。去年よりずっと頑張り屋さんでうれしいよ♪ ……あれ、ギターの音が聞こえない? 振り向くと同じ場所でギターを抱えているお姉ちゃんと目が合った。 と同時にお姉ちゃんは慌ててギターの練習に戻った。 憂「ごはんもう少しだよ~」 唯「ほっほい!」 お姉ちゃんのほっぺが若干赤くなってるのに気づいたけど、なんとなく声はかけなかった。お姉ちゃんはいつもよりジャカジャカと指を動かしている。 おっと、ご飯の炊ける音。 私は鍋の火を止めて炊飯器からお茶碗にご飯をついだ。 憂「ごはんだよ」 唯「ほいさ!」 ――たびたびお姉ちゃんは箸を止めて私をぼーっと見た。そのたびに私は 憂「アイス遅くなっちゃうよ?」 唯「はっ! アイスアイス!」 うん、かわいい生き物です……けど…。 ――お姉ちゃんは私より少し遅く食べ終えてアイスを舐めきると、駆け足でお風呂に入った。 というのもアイスを食べてる最中にもぼーっとして、シャツに甘い液体をこぼしたから。 私は液体を拭ききれてない床を濡れティッシュで上書きした。 ……去年の年末にもこんなことがあったね。 お風呂場のトビラの閉まる音が響いた。やけによく聞こえた気がした。 i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ||||||||||||||||||||||||||||||||||AT BATHROOM|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| 唯「はぁ……」 なにやってるんだろわたし…。変なおねえちゃんだって思われたかなぁ…。 洗面台で自分の顔を見てみる。…しょげてるなあ私…。 シャツを脱いでブラをは…ずした。憂より小さい残パイが鏡に移る。 唯「こんな貧相な胸にも恋心って持てちゃうんだなぁ…」 何度目かわからない感想が口からこぼれた。 ――最初に憂を意識したのはいつだっけ……私が桜校に合格した時かな。 唯「やった! 和ちゃんとおんなじ学校に入れたよ!!」 憂「わぷっ!? だったらわたしも!」 唯「おお我が妹よ!」 和「二人とも落ち着きなさいよ、周りの視線釘づけじゃない」 小学校以来久しぶりに憂と抱き合って喜びを分かち合った。中学時代はほとんど活動しなくて、抱きつくなんてことはなかった。 抱き着いた時、懐かしい感触が私をほんわかにした。憂の体温ももちろんだけど、それ以上に胸の内から沸き上がる熱が私を気持ち良くした。 もっと憂に触れていたくなった、 それからはうれしいことがあるたびに私から抱き着いた、あの感触が忘れられなくて。クセになっちゃって。 ――お風呂場を開けるとあったかな蒸気が流れ込んでくる。 唯「こんなのじゃない」 私が感じたいのはあの心の温もりだもん。 私は床に座り込んでシャワーで髪を濡らし始める。身体だけはあったまる。 ――事あるごとに抱きついて時には抱き合っていくうちに、込み上げてくる喜びはどんどん増していった。鼓動が以前より速くなっていくのもわかっていた。 この快感にずっと浸りたかった。憂はいつもうれしそうな顔をしてくれた。 ――シャワーを止めてシャンプーで髪を洗う。少しして 唯「…ちょっとさむい」 4月なのに。 普段より素早く髪を洗ってシャワーで流し始める。やっぱり身体だけでも暖かくしてたい。 ――快感が羞恥心に変わったのは去年のクリスマスの夜。軽音部のみんなとか和ちゃん、ついでにさわ子先生も交えて遊んだなぁ。 夜は憂と昔を思いだして、久しぶりに一緒にお休みすることになった。 ……あの頃までは例の快感を寝るとき欲しがらなかったなぁ。 唯「ぅ……ん……まだ夜…」 目覚めた時間は知らない。そんなこと気にしてられない状況が暗闇にセットされていた。 私は憂の左隣でゆとりをもって寝ていたはず。 でもいつのまにか憂と私は背中をくっつけあって寝ていた。寝てる間に毛布をお互いに取り合ってたみたいで、毛布は密着した私たちを包みこむようだった。 あの快感と熱が私の手を汗ばませた。 唯「ぅ~ぃ」 漫画によくある、背中合わせで寝ている相手に呼びかけるシーンを再現してみた。優しい寝息だけが耳に聞こえる。 唯「……しつれいしま~す」 小声でそう言うと、毛布の形がずれないよう憂の方に身体を向けくっついた。 そのまま憂のお腹を右腕で抱いた。 普段抱き着く時とは一味違う快感。ドクンドクンって胸の内から鳴る。それになんだか顔が熱い。 待って待って熱いなんてもんじゃないよこれ!? 唯「ぅ……ぃ…」 自分の胸の鼓動が耳に響く。額から一筋の汗が垂れ落ちた。 頭がぼうっとしてきた…。 思わず抱く力を強めた。 憂「んん……」 かすかに響く誘惑の声。 私の中でなにかが吹き飛ばされた。 唯「ふぅっ…ふぅっ」 呼吸が荒くなる。 私は毛布から右腕を抜いた。その汗ばんだ腕を憂の上をまたがせ、手の平を布団に広げた。冬の寒さなんて感じなかった。 そしてゆっくりゆっくりと上半身を浮かすと同時に左肘で支える。そこから右手に重心を傾けて、憂を真上から至近距離で見た。 唯「ぅぃ…ぅぃ…」 実の妹のほっぺを細めた目で見つめる。今までとは違う快感が私の中を暴れた。 唯「ひゅぅ…ぅぃ……」 自然に私は目を閉じる。そのまま憂のほっぺに顔を近づけていった。 とにかく憂のほっぺが欲しかった。 唯「はぁっはぁっ…」 心臓が爆発しそう…。いくつもの汗玉が私の頬をつたう。私の荒く生暖かい息が憂の頬からはね返って私に吹きかかってくる。 やがて憂の肌から発される体温層を抜けると、私の唇に柔らかい感触が伝わる。 憂のほっぺだぁ。 私の中の暴走が収束し始めた。代わりにかつてない量の快感が駆け巡る。 しかも私の上唇に憂の寝息か吹きかかってこそばゆい。今感じてる感触の全てが私をとろけさせる。 憂の臭い、憂の鼻息、憂の乾いた ん? なんでほっぺにキスしてるのに鼻息が私に? 思考停止していた頭でようやく浮かんだ疑問。でもそれを考えようとはしないで目をパッと開くと 憂の閉じた両目が目の前にあった。 ………いつのまに寝がえりうったんだぁ…あはは…… ほっぺがすこしうごいたのがくちびるに伝わった……ううん…これほっぺじゃないや くちびるじゃん 唯「ひゃいん!!!? いた!!」 電流がわたしの身体を流れた気がした。思わず憂から飛びのく。その拍子にベットから落ちた。 唯「はぁっはぁっはぁっ!」 息を吸うのもままならないので、呼吸が整うのを待った。 幸い憂は起きなかった。毛布はなんとか憂にかかっている。 冷たい床に大の字になった。 人差し指で自分の唇を優しくさする。さっきまで……憂の唇がふれてたんだよね… 唯「~~!」 再び心臓が高鳴る。自然に両手がほてる顔を覆う。身体が勝手に縮こまり床をごろごろと転げまわった。 ようやく落ち着いた。 するとクールダウンした頭が私に事実を伝えた。 唯「わたし……恋してたんだ…」 女の子に。妹に。それはあってはならない恋。 それを確認するように、体を起こして憂の横顔を見た。 視線が自然に唇に向かう。私の頭から湯気が出てる気がした。 とにかくもう寝よう、こんなんじゃ体がもたない。 疲れた体というより心にむちうってなんとか立ち上がる。 その時ひんやりした感覚がお股からあった。 私は軽く右手でそこを押さえてみた。 あれ、おしっこ漏らしてる…。 ふれた部分から水気が伝わった。仕方ないから音をたてないように引き出しからパンツを取り替えて、湿ったパンツはビニール袋に入れて隠した。パジャマは…あきらめた。 ――不意に浴室を叩く音がした。 憂「お風呂入りすぎ! はやく上がって!」 わしゃわしゃわしゃわしゃ。 i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ||||||||||||||||||||||||||||||||||AT MIDNIGHT||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| ねれない……。 久しぶりに一人になった真っ暗な自分の部屋で、私は床の上にうずくまっていた。 憂。憂。うい。「うい」 一日中頭から憂のことが離れなかった。 今日はいつにもまして憂を気にしてしまった。朝のキスのおかげ……せいだ。 興奮した。あのクリスマスの夜とおんなじだ。思い出すとまた身体が火照ってきた。 不意にあの日の憂の泣き声が再生された。記憶同士が密接に繋がってるからかな。 唯「心配掛けちゃったね…」 独り言を漏らした。 ――恋を自覚した夜が過ぎた私は、憂と普段通りのやりとりができなかった。 ……憂の料理中では 唯「……」ジー 憂「~♪」クルッ 唯「!」 憂「?」 憂「ふふっもうちょっと待ってね」 唯「ぁぅ…」 憂「?」 ……部屋で下着姿の憂を目撃した時 唯「うい~遊ぼ…」 憂「ちょっと待ってて、服着させてね」 唯「…しっしつれいしました!!」 憂「? 階段走っちゃ危ないよ!」 ……憂が私の宿題を助けてくれた時なんて 唯「アリガトうい~ぎゅ~」 憂「どういたしまして♪」 唯「ん~……ん? ひぇっ!!? 」バッ 憂「えっえっ?? なんで急に離れちゃうの? 」 唯「ううんなんでもない!」 憂「? 顔赤いよ? 風邪? ちょっとおでこだして」 唯「ほっほんとになんでもないの!!」 憂「おねえちゃん……?」 ……憂にさんざん不信がられてきた。 6
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1月10日、冬休みも終わり、3学期始まりの日だ。 「おはよう!みんな!いい正月だったか?」 クラスの生徒のうち稜と狐月以外のせいとは、雄介の質問に反応していたが、二人だけは机の上で突っ伏しになっていた。 「あれ?お前ら二人はどうしたんだ?」 「風紀委員は休みだろうと稼動してました…」 「休みなく…」 「…そ、そうか」 そんな二人も始業式に参加し、学校も終わった。 下校途中にて… 稜は、正美と一緒に帰っていた。 「稜、本当に大丈夫?」 「ああ、また明日から普通授業なんだ、気持ち切り替えねぇとな」 「そうだね!」 そんな時… 「よぉ!兄ちゃんたち!サボり?」 二人は、5人の不良グループに囲まれた。 「映倫もとんだ不良生徒持ってやがんなぁ」 「今日始業式なんだけど?」 「あっそぉ?じゃあさ…俺たちに金貸してくんない?」 「…『いやだ』て、言ったら?」 「きゃ!稜!!」 「正美!!」 正美はグループの一人に羽交い絞めにされ、ナイフを顔の近くに突き付けられた。 「お前の可愛い彼女の顔に…傷がついちゃうぜぇ?」 「ふ~ん…でもあんたらも…カツアゲするやつ間違えたな…」 「何言って…!?」 稜は腕章を腕に着けた。 「風紀委員だ!恐喝罪で、お前ら全員務所ぶち込むぞ!」 「おい…こっちには人質が…ひぃ!!」 稜は閃光真剣を鞭のように振るい、正美に突き付けられていたナイフを、吹っ飛ばした。 「やべぇぞ!こいつ…おい!逃げるぞ!!」 「待ってくれよぉ!!!」 不良のグループは走ってどこかへ去っていった。 「大丈夫か?」 「うん!平気!」 そんなやり取りをしている二人を一人の男が見ていた。 「…バカバカしい…」 男は、吐き捨てるようにそう呟いてどこかへ行った。 翌日、映倫中にて… 「今日から授業かぁ~」 「そうだね」 二人は仲良く横に並んで廊下を歩いていた。 「ねぇ、稜」 「ん?」 「どうしてここでは手を繋がないの?」 「はぁ…いや~なやつに間を通られて嫌な目で見られるからな…あ、前見ろ?俺の言った意味が解るから」 「え?」 正美は、稜の言われたとおり、前を見た。 すると手を繋いで歩いている、前方のカップルの間を一人の男性教師が通り過ぎて行った。 そして… 「私の目の前で不埒な行為はやめなさい…」 そう言うと男性教師はどこかへ行った。 「ひどい…」 「生徒のほとんどから嫌われている『キツネ』に睨まれるんだよな…俺もあいつだけは嫌いだ…」 『キツネ』と呼ばれているその教師の名前は希河 鎌(きかわ れん)、顔の見た目からそう言われているのだった。 「でも、校則に『恋愛禁止』なんて無いよね…」 「あいつが勝手にそうしているだけだ…」 「それに教師からも嫌われているらしい。」 「マジか…って、狐月!?」 「おはようございます。神谷君。」 「お~お、相変わらず挨拶だけは他人行儀だな」 「ヤッホ~稜!」 「麻美?お前らまさか…くっついたのか?」 「はい。」 麻美は狐月の腕に抱きついていた。 「ほ~…よかったな」 こうして四人は教室に入った。 そして1時間目の休み時間のときだった… 「神谷君に風川さん」 「はい?」 「なんでしょう?希河先生」 「応接室に来てくれますね?」 二人は応接室に連れて行かれた。 「話とは?」 「…不埒な行為をやめて欲しい」 「いやです…」 「わたしも、先生のご都合のために、稜と別れるのはいやです!」 「本当にいやなのですか?…なら私の前でそれを証明してください」 「はい!…ん…」 「な!?」 正美は稜に、キスをした。 「…これで…いいですか?行こう、正美」 「うん!失礼しました!」 二人は応接室を出て行った。 「そうですか…なら、いいでしょう…」 鎌は不敵な笑みを浮かべた。 そして昼休みにて… 「あ!」 「どうした?」 「弁当忘れちゃた…」 「マジ?」 「うん…お昼買ってくる」 「お、おう」 正美は昼食を買うため、食堂へ向かった。 「これで間に合うかな…ん?」 「風川さん、ちょっといいですか?」 「これを買ったらいいですよ?」 正美はパンを買っていると、鎌に捉まった。 応接室にて… 「わたしになんのようですか?」 「フッ…簡単な頼みです…神谷君と別れてください」 「いやです!」 「そうですか…彼の荷物になっていると知っていてもですか?」 「え…」 鎌の質問に正美は目を丸くした。 「君が彼のそば居ることにより…彼は思うように犯人を捕まえることができない…」 「そんなこと…」 「では昨日、なぜ彼はあの不良たちを追わなかったのですか?」 「それは…」 「君が近くに居たからです!君が彼の邪魔をしているんです」 「そんな…」 「別れますか?」 「稜はそんな事言いません!!」 「そうですか…ではいいことを教えてあげましょう」 「え…」 「君が彼と別れないのであれば、彼の点数を0にしましょう」 「え?やめてください!」 「では、別れてくれますね?」 「はい…」 「それでは、今日の放課後屋上で別れてもらいます、私が隠れて見届けます」 「失礼しました…」 正美は応接室を出ると、人気の無い理科室へ入った。 「稜…わたしどうしよう…いやだよ…別れるなんていやだよ…」 正美は一人しゃがみこみ泣き出した。 そしてそのまま午後の授業には現れなかった。 放課後にて… 稜は、教室で正美を待っていた。 「神谷君、そろそろ出ないと遅刻になってしまうぞ。」 「ああ」 「そんなに心配?」 「当たり前だろ…ん?メール?正美から!?」 そのメールには『屋上で待っています』とだけしか書いてなかった。 「どう言うこと?」 「行けば分る先に行っててくれ…」 「わかった。」 稜は、屋上へ向かった。 屋上にて… 「正美!お前今まで何やってたんだよ!!来ねぇと思ったらこんなところに呼び出して…」 「話があるの…」 「?」 「…別れよう?」 「…お前…それ本気か?…冗談だろ?…」 「ごめん…『別れたい』…これがわたしの本心なの…だから…さよなら…」 「…」 そう言うと、正美は、屋上から出て行った。 稜はその後姿を、ただ呆然と、見詰めることしかできなかった。 下駄箱にて… 「これで、稜の点数を保障してくれるんですね?」 「ええ」 「…」 正美は無言で学校を後にした。 「ごめんね…稜…」 正美はそう呟くと涙を流していた。 END
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テスト終了のチャイムが鳴り響く 体調不良のせいか頭の回転がやけに遅く、集中力も続かなかったこともあり、問題を解く速度はいつもより大分遅かった 幸か不幸かテスト自体はいつもの通りできたと思う その分体調は悪化してきたが…… 今日は早く帰ろう と早めに席を立ったのだが 「柊ぃーテストどうだった?」 「……まぁまぁよ」 日下部と峰岸に捕まった 「そう言って軽く8割取るんだから狡ぃよなー」 私には無理だとケラケラ笑う日下部 その横で頑張れば大丈夫よと励ます峰岸 「何よ?用事は?」 「そうだった、試験も終わったことだし、この前出来た喫茶店に行こうかなって。だから柊も来い!」 「来い…って命令形かよ、私は今日行けないわよ」 いつもならこの気の良い中学時代からの友人達と付き合うのだが、自分も辛いし、何よりもあまり長く一緒に居て風邪を移したくなかった 「何だよーまたちびっこかよ?」 「違うわよ、本当に今日は無理だから」 「……!?そうか!男だろ!?」 「違うって言ってるじゃない!」 怒鳴ったらまた辛くなってきた そう思った次の瞬間 「なぁ良いだろー今日位は一緒に行こうぜ―」 突然日下部が抱きついてきた 思わず振り払って距離を置く あんなに近づいていたら間違いなく風邪は移るだろう ふぅ…とため息をつき顔を上げると 驚き傷ついた顔の日下部がいた 「柊?」 「今日はあまり近づかないで」 「ひ、柊ちゃん!!」 「わかったよ……もぅ誘わないかんな!柊なんて大っ嫌いだ!!」 風邪が移るから、と続ける前に走り去る日下部 残された峰岸がこっちを見てる、その視線だけでこっちを責めているのが判る 「柊ちゃんらしくないよ?みさちゃん最近柊ちゃんが根詰めすぎだっ!て心配してどうすれば気が晴れるか一生懸命考えてたのに…どうしてみさちゃんにあんなこと言ったの?」 「はぁ……」 本日何回目かわからないため息をつき、昨日の徹夜で体調を崩した事、だから今日は早く帰りたい事、風邪を移したくないから余り近づいてほしくなかった事 とりあえず全て話した 「もぅ!そういう事はちゃんと説明しないとダメだよ?」 「解ってるわよ、次会ったときにでも謝っておくわ」 「それに体調が悪いなら無理して学校来ちゃ駄目だよ?」 「徹夜で勉強したのにもったいないじゃない、どのみち週末だから…」 「柊ちゃん?」 「……解ったわよ」 みゆきもそうだが、普段おとなしい人に限ってこういった時に凄みがあると思う 「それでどの位熱があるの?」 「朝は38℃位だったかしら?」 どれどれ、と峰岸の顔が近づいて来る 額と額が合わさる 冷たくて気持ち良い 思わずそう考えていたら 「うわぁあぁぁあ!」 叫び声と共に風の様に現れたこなたに腕を捕まれ引っぱられるように教室から連れ出される 熱のおかげで上手く動かない体で抵抗出来る訳もなく、何とか自分の鞄を手に引っ掛け、こなたにそのまま連れていかれた ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 私は一人教室に取り残された 頭に浮かぶのは二人の友達 柊ちゃん凄い熱だったけど大丈夫かしら? 後からきた泉ちゃんがもの凄い勢いで引っ張ってったから大丈夫かな、と自己完結 私はもう一人の友達に事情を説明するためにも携帯電話を開いた ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ こなたに腕を牽かれ廊下を走る 体調のおかげで、いつもの下駄箱までが果てしなく遠く感じた 「はぁ…はぁ……」 「あっ!ごめん!!」 こなたは引っ張ってきた事に今さら気がついたかのような顔をして手を離した 走ったせいだろう、熱が上がり頭がぼーっとする 深呼吸して息を整えようとしてみたが、整う気配がないので構わずに口を開いた 「別に…良いけど、どうしたのよ?」 「いや~その、かがみは‥さっき峰岸さんと何してたの?」 峰岸?何でここで峰岸が出てくるのだろう? そんな疑問を感じつつ先程までの自分を思い返してみるが、頭の回転が悪い為か所々で記憶があやふやになっている たしかこんな感じで… 「……こうしてただけよ?」 こなたの頬に手を伸ばす、頬に触れた瞬間ビクッと体が反応した そのまま顔を近づけ額をくっつける 当たった額から伝わる熱が気持ち良い、と思うと同時に自分の今の状態を思い出す 「かがみ様?貴女は一体全体何をなさっていられるのですか?」 「何って…アンタがしろって言ったんじゃない」 こなたの去っていく熱を名残惜しいと思ったが、そのせいでこの小さな親友に風邪を移したくはないので、ゆっくり額を離し、靴を履き替えると同時に不自然ではない位の距離をとる 一方のこなたはというと気の抜けた表情をしていた 「かがみは峰岸さんとキスしてなかったってこと?」 「……逆に何で、私と峰岸がキス‥しなくちゃ、いけないのよ?」 質問の意図が判らない、何でこなたがこんなことを言い出すのかが判らない 熱でぼーっとして考える事自体が面倒になってきたが、自分をここまで引っ張って来たのにも理由があるはずだ 「結局…何の、用事だった‥のよ?」 「そうだった!今日みんなでカラオケ行くんだけど、かがみも行く?むしろ来い!!」 何でこういう日に限って誘いが多いのだろう?テスト最終日だからみんな遊びたいのか?というよりまた命令形?みんなでカラオケは楽しいだろうな、でも風邪は移したくないな…… 「……ごめん、今日‥は、無理」 「え?」 私は何を考えているのだろう、思考がまとまらずに暴走している 急に頭痛が酷くなってきたので思わず頭に手を当てる 「今日……に…理なの?」 こなたの声が急に遠く聞こえた 頭痛は時間が経つに連れて増す一方で 「……うん」 返事を返すので精一杯 「何か…事?」 「……うん」 「……ま……………でも……た?」 「……うん」 もうこなたが何を言っているのかも解らなかった 聞こえてくる音に反応して相槌を打つのもそろそろ限界 自分の事で迷惑掛けたくなかったんだけどな… 気を抜くと倒れてしまいそうな体、熱で働かない頭 限界はもう直ぐそこまで迫っていて 「ごめ、…もう…無理」 重力に従い崩れ落ちる体、薄れてゆく意識、消えかけた視界が最後に捉えたのは、涙を浮かべながら無理に笑おうとしているこなただった 無題(H2-209氏)(仮)3へ コメントフォーム 名前 コメント GJ!! -- 名無しさん (2023-06-23 22 10 18) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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街ガイド (以下の設定は一部仮のものが含まれています) 芽比木市(めひきし) 人口15万人ほどの中堅都市。旧城下町。 盆地にあたり、西にある「端前山(はなさきやま)」から東一帯に広がる平地120平方キロメートルを占める。 「端前山」のふもとには城跡が残り、南北に貫く国道59号線と、それに並走する鉄道で通過の際、常にその姿を目に留めることが出来る。 国道と鉄道は街の中心を南南東から北北西に貫くように直線で築かれている。鉄道が西側、国道が東側にそれぞれ配置されている。 芽比木駅はちょうど城跡の直線上に作られ、駅から東西一直線に伸びている市のメインストリートは、東西の山のふもとまで伸びている。 市内に5つの高校、7つの中学、10の小学校があり、高校はうち2校が私立校である。 芽比木市は旧比木市(ひきし)と旧芽前村(めさきむら)が合併し新設された都市である。 旧芽前村は端前山一帯に広がっていた山村だったが、1999年に大規模な山火事が発生、村民約700人のほとんどが死亡、行方不明となり、旧比木市民の一部にも被害をもたらす大惨事となった。 旧比木市、及び政府は翌2000年、合併による復興に着手、芽比木市を新設。2009年現在は惨事の碑を置くと共に、同山を桜の観光名所としてPRしている。 また同市は災害に対する意識を高めるため、児童施設、養護施設、災害体験施設の布設を行うなど、福祉関係の政策を積極的に行っていることで知られている。 星住高等学校(公立) 葉留と歩鳥が通う市内の公立高校。普通科と理数科が存在する。 フラワーショップNii 芽比木駅東口商店街から北に一本入った先にある、市内では数少ない園芸店。暮崎夕子が経営している。2005年オープン。 芽比木駅の内部にも園芸店が敷設されているため客足はあまり多くないが、地域住民や墓参に訪れる客を主なターゲットとしている。 特に盆と彼岸はかきいれ時で、普段は開店休業状態の店先もこの時ばかりは大忙しだとか。 店周辺は住宅街が並んでおり、人気も多くない。駅から墓参に向かう途中必ず通る道であるため、立地条件としては良い。 「Nii」の名は故・暮崎昭良が名づけたもので、「くれさき」に「い」と「に」を足すと「きれいにさく」になる。 営業時間 年中無休 10:00~20:00 (繁忙期) 9:00~19:00 公立災害児童福祉施設「芽ばえ」 1976年施工。最大収容人数75人(児童50人、常駐職員25人) 2000年の合併後の政策により、一部改修、増築がされた。 2009年9月現在、16名の児童と4名の常駐職員が生活し、2名の非常勤職員が勤務している。 寝室は児童用二人部屋が20室、一人部屋が10室、常駐職員用が15室、宿直室が5室、非常勤職員用仮眠室が5室。 二階建てで、児童の使用する設備は全て一階に集中しており、児童が二階にあがることは通常ない。さらに一階と二階とを繋げる階段は院長室と玄関口の間にあり、階段の手前にドアが作られ施錠されている。 施設は全て一つに繋がっており、上から見るとやや歪な「エ」の字になる。 門をくぐり玄関を開けると、4畳半程度の横に広い下駄箱の配置された玄関口が広がっており、児童職員はそこで履物を換える。 玄関口を中心に十字路になり、正面は通路と大広間、大食堂が通路の左右に配置されている。右側は児童用寝室(6歳~12歳)、左側は職員室、院長室、医療室、ボイラー室、大浴室、職員用宿直室がある。 正面の通路を突き当たりまで行くと再び左右に通路。「エ」の上部横線にあたる。右は6~12歳、左は12~18歳用二人部屋寝室と、15~18歳用一人部屋寝室がある。 各通路ごとに男女トイレ、小談話室が用意されている。 二階には常駐職員用の寝室、給湯室、談話スペース、非常勤職員用仮眠室がある。 現在は、16名の児童の内6歳~12歳の12名で3グループ、13歳~18歳の4名の1グループと、部屋割りごとに4グループに振り分けられている。 施設全体でのイベントや催事の際は施設中央の大広間で、グループごとに行われるイベントは通路ごとに用意された談話室にて行われることになっている。 (例.クリスマス会、誕生会、歓送迎会など→大広間/映画や紙芝居などの鑑賞会など→談話室) 児童用寝室 児童用は二人部屋、一人部屋共に10畳ワンルームの洋室、フローリング敷。二人部屋の角部屋が8室、一人部屋が4室あり、角部屋は共通のベランダ窓の他に出窓がある。ドアは内開き。 二人部屋には二段ベッド、勉強机が二つと、衣類収納用のタンスが2セットあるのみで、テレビやゲームなどは談話室で行う決まりになっている。 なお携帯ゲームも自室ですることは禁止されていて、しばしば自室に持ち込んで遊んでいるところを職員に見つかり没収、ということがあるとか。 それ以外の私物の持込は、日用品や消耗品を除いて、購入する場合職員の許可を得る必要がある。 (家具、1万円以上のもの、ペット、大きな音を発するもの、電子機器など) 15歳以上で、尚且つ学校での素行に問題がない児童に限り、一人部屋の利用とある程度の自由が認められている。 一人部屋はベッドにナイトランプがつき、少々タンスのサイズが大きくなるだけで、他は二人部屋とは差がない。 起床時刻は全員一律6時半。職員は5時半。消灯時刻は年齢、学年によって変動する。 6-8歳(小1-小3):20時半 9-12歳(小4-小6):21時 13-15歳(中1-中3):22時 16-18歳(高1-高3):24時 また、20時半以降は原則として児童は談話室と自室、大浴室以外の出入りが禁止されている。 大広間 大居間とも。児童の間では「おいま」と呼ばれている。24畳。 平日の夕方から夕食前まで、休日の日中から夕食前まで開放されていて、主に小学生の児童が走り回れる空間としてあてがわれている。 大食堂 大広間と対になる部屋。24畳あるが、人数が少ない為現在は半分をスライド式の壁で遮り、物置になっている。 12畳のうち4畳が台所、残る8畳に16人がひしめくせいで、時折物置を片付けてくれと要望が来るとか。
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前回 鬼畜王K1 〜鬼誑し編・其ノ拾壱〜<純粋> 鬼畜王K1 〜鬼誑し編・其ノ拾弐〜<暗雲> その61からその63まで収録 それ獣は三を群と為し、人は三を衆と為し、女は三を粲(さん)と為す。 それ粲は美の物なり。 小醜(しょうしゅう)物を備ふれば、終(つい)に必ず亡ぶ。 【小人が美しいものを独占すれば、必ず破滅が訪れる】 『国語』巻第一「周語 上」より 汗と唾液まみれの身体をようやく離して、魅音を支えながら立ち上がる。 散らばった衣服を整え、身なりを元に正した時に、ハッと気付いた。 「レナは――どこに行った」 魅音も俺の声に気付き、蒼白になって辺りを見回す。教室の中には、俺たち以外の人影は無かった。 ということは、俺と魅音が抱き合っている間に、ここから去ったのか。 ――今さら、悪いことをした、という思いがこみ上げて来た。 俺の方からレナをいいように使いつつ、待たせた挙げ句に、魅音と交わることに我を忘れるとは。 レナもまた、俺の牝狗で――いや、俺を好きでいてくれている。 あいつにも、心が有る。肉体は別にして、俺のことを思いやる心が。 ――そういうものに思いが至るようになったのも、数日前の俺なら信じられんが。 「…!け、圭ちゃん…」 魅音に呼びかけられて振り向く。彼女は未だに半裸のまま、震えながら床を指差した。 「なんだ、これは。――まさか…血!!?」 紛れも無く、レナの血痕だった。魅音の破瓜時のものではなく、量も違う。 血溜まりというほどではないが、ところどころに飛び散っていて、レナの手形までついている。彼女がここを拭き取ろうとしたのか。 さらに、それは廊下の方までぽつぽつと続いていた。 「――レナが、通った足跡だ」 俺は堪らず、それを辿る。教室の外に出ようとした時、魅音に声を掛けた。 「魅音!俺はレナの後を追ってみる。お前はここを元通りにしてくれ! ――レナの足跡を見失ったら、また戻ってくる!」 魅音が頷いて、俺はそのまま廊下に走り出る。 足跡は廊下から下駄箱まで続き、レナの靴箱にまで付着していた。そのまま外に出たに違いない。 靴を履いて出たなら、足跡は発見しづらいかもしれない――と思っていたが、幸か不幸か、血痕が赤い点となって校門まで続いていた。 これは普通じゃない。何かレナの身にあったに違いない――と、空恐ろしくなった。 校門から出ると、さすがに灰色のアスファルトに垂れている分、色が混ざり始めて血痕が発見しづらかった。 なんとか注意深く見つけるが、その時ようやく閃いた。 「――レナがまず向かうとすれば、自宅しかない」 気が動転して気付かなかったが、連れ去りでも無い限り、まず帰宅したと考えるべきだ。 見えにくい血痕を辿るのは切り上げてレナの家を目指す――というか、登下校の道を下ることになった。――当然、焦る気持ちから、全速力で。 だが、途中の坂道で、俺は思わぬ人を見つけた。 「…ッ!!知恵先生ッ!!?」 坂道の真ん中に座り込んだ知恵がいた。俺は走り寄って、彼女に問いただした。 「どうしたんです、知恵先生ッ!こんなところで、どうして座り込んで…ッ!?」 すぐに、彼女の異常に気付いた。 知恵は両肩を抱えながらがたがたと震え、恐ろしいものでも見たかのように、焦点の定まらぬ目で虚空を見つめていた。 「どうした、知恵ッ!!なにがあったッ!?なにを見――って、お前、その腕ッ!!?」 彼女の右腕に、紅い血痕があった。 知恵はどこも怪我をしていない。誰かに腕を掴まれたか、触れた時に血が付いたのだろう。今は少し渇き気味になっていた。 さらによく見ると、首筋にも同じように血が付着している。誰かに首筋を撫でられた時に付いたということか。 ――いや、もう『誰か』なんて言い方はよそう。 「――レナに、会ったのか?」 知恵はビクリと身体を震わせた。 「…前原、く…ん…」 「…ここでレナに会ったんだな、知恵…。下校するあいつを呼び止めたか?」 「前原くん…駄目、駄目です…!」 「…駄目、とはなんだ?」 「駄目です、あの子を追いかけてはいけません!あの子は…あの子は…」 知恵は再びガタガタと震え、俺の胸にうずくまるように身体を預けてきた。 涙まで浮かべるほど弱り切っている彼女を、これ以上問いつめるわけにもいかなかった。 俺は知恵を伴い、一旦教室へ戻ることにした。魅音を一人にしておくのもまずいだろう。 二人でゆっくりと歩き出しながら、俺は思案を巡らせていた。 ――レナは、いったいどうしたというんだ? ――知恵がレナをここまで恐れる理由は何だ? ――こいつはレナの何を――見たんだ? ――魅音も、知恵も、レナも、そして俺も――これから、どうなるんだ? 答えは出るはずもない。答えられる人もいるわけがない。 暮れ行く夕闇の中に響く、ひぐらしたちの鳴き声しか聞こえなかった。 もう私の居場所は無いんだね、圭一くん。 『私の』圭一くんは、どこかに行っちゃった。 私もどこかに行きたいな。ここは、もういいや。 圭一くんが好きな場所なら、私はどこでもいいよ。 私はついてくから…圭一くんと一緒なら…どんなところだろうと… 二人なら…二人なら… そう、私と圭一くん以外はいらない。 誰も要らない。何も要らない。必要無い。 何も…何もかも。 私と圭一くんがいる世界だけでいい。 居場所は作るもの。奪われたら、取り戻す。 居場所は護るもの。邪魔するモノは、削除する。 なぜなら。 『ソコ』は――元々、レナの場所だから。 『アレ』は――元々、レナを選んだから。 『ソレ』は――元々、レナしか見てなかったから。 『カレ』は――元々、レナの『モノ』だから。 ――竜宮レナハ、戦ウ。 圭一クン、きみノタメニ。 …あはははは、それを邪魔するんだね? あなたも、アナタも、貴方も…レナの『モノ』に近付くんだね? ――仕方ないなぁ。それじゃあ―― 削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除痒い削除削除削除削痒い除削除削除削除削痒い除削除削除削除削除削痒い除削除削除削除削除削除削痒い除削除削除削除削除削除削痒い除削除削除削痒い除削除削除削除削除削痒い除削除削除削除削除削除削除削痒い除削除削除削除痒い削除削除削痒い除削除削除削除痒い削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除痒い削除削除削除痒い削除削除削除削除削痒い除削除削除痒い削除痒い削除削除削除削除削痒い除削除削除削痒い除削痒い除削除痒い削除削痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い… <続く>
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179 :名無しさん@HOME:2008/02/28(木) 01 29 31 0 ナマハゲ嫁さんGJ!!トメ埋め隊嫁さんガンガレ!!!ここの職人達と応援してるよ そして私がしたプチだが義実家にした劇的ビフォーアフターでも 興奮し過ぎて寝れないから投下させて。 興奮のあまり誤字脱字、見づらいのも許して。 ウト没後、贅沢三昧で暮らしていたトメが最近老後も考えて義実家を二世帯にしたい!! でも自分の遺産からはビタ一文も出さないよ(本当は全部使ったと思う)、だからムチュコタン出して☆ あぁ嫁子さんも、曽祖父母から頂いた遺産があるんでしょ?それ出してちょうだい!!! など何寝ぼけた事を私たち夫婦の前で抜かしたバカトメ様 私はウトさんが亡くなった後に結婚したし、旦那の遺産の事も興味ないし気にしなかった。 私が曽祖父母から頂いた遺産というのは、北の大地の広大なド田舎農場と、某ジブリに出てきそうなオバケ屋敷だ 売っても金にならないのは目に見えている。 と、遺産の話は置いておくとして、自分が贅沢三昧してる最中に息子家族が集めた貯金で2世帯立てて そこでお姫様気取りで暮らすトメは目に見えていたし、私たちの老後は既に決めてある!!! 二世帯などぜーったいにするもんか!!!で旦那と結託して義実家にDQ返ししてきた まずトメを1泊2日の格安温泉旅行に送り出す。(格安でもオプションサービス入れると結構高いッスね) で、その間旦那と義実家をカオスの匠と呼ばれる旦那嫁子でリフォームしてやりました。 接着剤嫁さんを見習い、皿は全部接着剤でペタペタ 電話番号0にも接着剤ペタペタ テレビのチャンネルボタンは意味ないかなぁ?と思ったけどトメが嫌いなNHKの入るボタンに接着剤ペタペタ あぁ、地震で飛び出すの防止に、トメ家自慢のガラス棚はエポキシで封をいたしました。 もちろんスリッパや靴も接着させていただきましたよ。脱ぎ散らかされては大変ですから。 180 :名無しさん@HOME:2008/02/28(木) 01 30 22 0 旦那は力仕事で椅子やテーブルの脚をカートについてるローラーに変更するべく脚木を切断中。 チラリと見ただけだけど、メジャーも定規もないように見えたから目検討のようだけど、心配はしてない。 私は次にトメさんご自慢の汚洋服を漂白剤1本で漂白、その間にトイレ掃除 トイレが寒くて暗くて恐いわ~と言ってたトメ様の為に、足元には電気式のストーブを設置 常に生暖かーく吹くようにセット、あとトイレといえばいい匂いが基本ですので、 ドンキの店員さんと熱く語り合った末に購入した、ココナッツの車用芳香剤+超臭いバラの香りの芳香剤 それをトイレに設置してあげました。 あと、暗くて恐いと言いましたので他人の目線があれば見られている=トイレの中でもコワクナーイ!! と思いましたので、トイレの壁一面を某ホラーゲームキャラの顔を水濡れ防止のためラミネート加工したのを ベタベタと接着剤でくっつけて、上からも剥がされないようにコーティング。 で、トイレが暗いと言ってたので、上の電球外して人が近づいたら自動で光るライトを設置 でも微妙な光が全体に「ぼうっ」とするぐらいだけど、まいいか!! で、トイレが終わって洗濯機もいい具合に色が落ちてきたので、そのまま 洗剤2箱と、えーと小麦粉もいいと聞いたので小麦粉も1袋、あとウッカリ手が滑ってトメ愛用の シャネルの香水ドッパリ入れちゃったけどシラネ。洗濯したら匂わないと思うし で、旦那はと言うと2階へ上り下りするトメの為に足場には何か臭いゴムを貼り付け 適当な棒で手すり・・・というか、手を置くスペースみたいなのを作っておりましたw あと、トメ寝室から出てきた、エッチな本・・・というか薔薇族雑誌?みたいなのを どうするか旦那に聞いたら「リビングのトメ自慢のガラステーブルに接着してこい」 と言われたので、接着してやった。で、水とかで汚れたら大変なのでテーブルクロスで厳重に封をしてやりましたよ。 181 :名無しさん@HOME:2008/02/28(木) 01 31 29 0 ウトさんの仏間はとても寂しいもので、思わず嫁子は線香を供えつつ ウトさんの仏壇の後ろの方にコンセントがあるのを思い出し、そこにラジカセセット!!! 中に入ってる音声は某ホラーゲームの家がミシミシッとかいう恐い音の部分を 数時間空白 恐い音 といった感じのを挿入してスイッチON トメ気が付くのに時間かかるだろうけど、部屋がいきなりギシミシ言うのって結構キくもんね 旦那のほうも次のトメ自慢の高級車に、ワックスと間違えてサラダオイルで磨いてしまったり ウッカリ剃刀の刃を水平に保ちつつ「トメ子」と盗難防止対策をしてしまったそうだ。 このトメ子の名前は大体半年後に塗装がペリッと剥がれて見える仕組みになってるから 今はトメ気が付かないだろうな。 で、最後の仕上げにお風呂場に「トメへこの入浴液効くから使え」と旦那の書いた手紙付 ハッカ油+血糊の入った中身の見えないビンを置いて帰ってきたよ あ、トメの臭い下駄箱にいい臭いをと思ってくさや入れてたの忘れてたw あぁ明日匠のしたリフォームの採点がされるけど、どうなるんだろう トメさん一人でも住めるようにしたから、二世帯攻撃なくなるといいんだけどナ。 未だに夫婦揃って興奮状態なので、ホラーゲームして熱冷ましてきます 182 :名無しさん@HOME:2008/02/28(木) 01 39 46 0 手紙もあるし犯人わかりすぎてるし やりすぎかも知れない 183 :名無しさん@HOME:2008/02/28(木) 01 42 12 0 訴えられたら負けるんでは? 195 :名無しさん@HOME:2008/02/28(木) 02 00 57 0 あぁなんか色々言われてる179ですが トメは自分の財産の全てをホストなどで使い果たし 可愛いムチュコタンの持ってる遺産を寄越せだの、働いてるなら親に金寄越せと、金を無心 それに、私が曽祖父母から頂いた土地を金にしろと常に五月蝿く言う金の亡者 他にも私には「子供も埋めぬ石女」だの「田舎娘がつけあがるなよ」などと 色々イヤミテンプレートなのを書いてなくてすみません。 多分2世帯立てて同居した日には、旦那も私も奴隷&ATMとして扱われるのが目に見えてます そうなる前に嫌われよう作戦でトメ家勝手にリフォームいたしました。 まぁこっちが逃げてもよかったのですが、旦那の仕事都合上4月にはサヨーナラーなんで その前に今までやられた事をまとめて、仕返したかったのが本音ですね 197 :名無しさん@HOME:2008/02/28(木) 02 08 27 0 195 それを先に書かなくちゃwGJ! 次のお話→59-224