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変態の棋譜 ここには変態の棋譜を置いていきます。 お題:グングニルの槍 アマゾンストライク 対局日:2009/06/04(木) 23 49 20 終了日時:2009/06/05(金) 00 28 20 手合割:平手 先手:gava 後手:fmo851 ▲7六歩 △3四歩 ▲9六歩 △8四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲1六歩 △1四歩 ▲5六歩 △9四歩 ▲4八銀 △8五歩 ▲7七角 △5四歩 ▲5八金右 △4二銀 ▲3六歩 △3三銀 ▲8八銀 △3一角 ▲5五歩 △同 歩 ▲同 角 △8六歩 ▲7八金 △8七歩成 ▲同 金 △6二銀 ▲8六歩 △6四歩 ▲7七金 △6三銀 ▲5七銀 △5二飛 ▲3七角 △5四銀 ▲4六銀 △4五歩 ▲5五歩 △4六歩 ▲5四歩 △4七歩成 ▲同 金 △5四飛 ▲5五銀 △5二飛 ▲5四歩 △6五歩 ▲6六歩 △同 歩 ▲同 金 △8六角 ▲7七銀 △3一角 ▲8八飛 △8二歩 ▲6四歩 △7二金 ▲5八飛 △4二金 ▲4六金 △4三金 ▲6八玉 △6二玉 ▲6七玉 △8三歩 ▲7五歩 △1三角 ▲5九飛 △2二角 ▲5六玉 △4四歩 ▲6五玉 △4二銀 ▲7四歩 △同 歩 ▲同 玉 △7三金 ▲6五玉 △5三歩 ▲同 歩成 △同 銀 ▲5四歩 △7四銀 ▲7六玉 △7五歩 ▲6七玉 △5四金 ▲同 銀 △同 銀 ▲5五歩 △6五銀左 ▲同 金 △同 銀 ▲4三銀 △6六歩 ▲同 銀 △7六銀打 ▲5七玉 △5六歩 ▲同 金 △1三角 ▲4六金打 △5六銀 ▲同 玉 △1二飛 ▲5四歩 △6四金 ▲5三銀 △7三玉 ▲6四銀成 △同 玉 ▲7七桂 △6七銀打 ▲4七玉 △7四玉 ▲6五金 △同 銀 ▲同 銀 △8四玉 ▲8五歩 △9三玉 ▲5六銀 △6八銀不成▲5八飛 △7七銀成 ▲6五銀 △5七歩 ▲同 飛 △6六金 時間切れ負けしますた
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前ページ次ページ時の使い魔 決闘の後、授業が終わり夕食を済ませた後、ルイズと時の君は学園から少し離れた平原 に来ていた。 「さあ、まず何からやるの?」 時の君の術の力を目の当たりにし、これなら魔法を使う上でのアドバイスを受けられる と思ったからである。 「そうだな、何でもいい。魔法を使ってみろ。」 「何でもいいって…爆発しか起こらないわよ…わかったわ。」 短く詠唱し、ファイヤーボールを唱える。自分が想像していた位置よりも少し反れた場 所に爆発が起き、地面を抉った。 「…もう一度だ。」 「これで何か判るのかしら?」 ブツブツと文句を言いながら、もう一度ファイヤーボールを唱えた。やはり爆発が起き、 大地に小規模なクレーターを作る。 「もう一度。」 「な、何なのよ…」 その後も魔力が尽きるまで何度も繰り返され、辺りはさながら戦場の様に荒れ果ててい った。 「も、もう無理…限界だわ…何なのよ、もう…」 ルイズはその場にへたり込み、うつむきながら肩で息をしている。 「…この爆発は、燃焼や魔力の暴発と言う訳ではなさそうだ。まだ確証はないが、おそら く御主人様の魔力が粒子を振動させる事によって爆発という結果になっているのだろう。」 「は?何?どういうこと?」 「推論が当たっていれば、制御さえできれば色々な事が出来そうだという事だ。」 「ほ、本当!?爆発するんじゃなくて。他のことも出来るの!?」 時の君の解答に一度に疲れが吹き飛ぶ。暗闇に一筋の光明が見えてきた気がする。 「物の根源を操れる可能性があるからな。…今日はここまでにしよう。帰るぞ。」 そう言うと、ルイズの体の下に手を差し込み、抱え上げた。 「な、何するのよ!?」 これは俗に言うお姫様だっこではないか、突然の時の君の行動に動揺し、ばたばた暴れ た。 「暴れるな。疲れたんだろう?部屋まで運ぼうとしているだけだ。」 「そ、そう…し、しょうがないわね、部屋まで運ばせてあげるわ!」 今なら歩けと言われれば歩ける気もするが、せっかくの使い魔の申し出を無碍にするわ けにもいかないので、時の君の腕に体を預け、頬を赤らめながら部屋へと戻っていった。 「水を持ってくる。明日も授業があるんだろう?飲んだら寝るんだな。」 「そ、そうね、お願いするわ。」 時の君は部屋に戻って来ると、ルイズをベットに下ろし、水差しを手に再び部屋より出 て行った。まだ召喚されてから二日目だが、予想以上に環境に適応出来ている気がする。 決闘騒ぎは起こしたが… 「あ、時の君!お怪我は…無いようですね、よかった…」 水を汲んでいると、偶然シエスタが現れた。おそらく昼の決闘の事を言っているのだろ うが、そもそも触れられてもいないので怪我をするはずもない。 「大丈夫だ。」 「後から決闘の事を聞きました。貴族に勝っちゃうなんて、本当にお強かったんですね、 そうだ!今度、厨房までいらっしゃって下さい!マルトーさんも会ってみたいって言って ました!」 「いいのか?妖魔は恐れられているんだろう?」 ギーシュや他の貴族はそこまで恐れている様には見えなかったが、やはり今朝のシエス タの反応を見るに、特別な力を持たぬ平民には恐ろしい存在なのだろう。 「確かに、皆が大丈夫なわけじゃないんですけど、今朝、洗濯を手伝ってくれた事とか説 明したら、マルトーさんとか他の人も、面白い妖魔だ一度話してみたい、なんて言ってま すよ。」 「そうか、では今度行くとしよう。」 時の君としても人間は襲う気はないので、今後の事を考えると、怖がられない程度には 関係を築いておかないと生活に差し障りがでるかもしれない。 「はい!ではお待ちしておりますね!」 シエスタは時の君へにこやかな笑顔を向け、一礼し去っていった。時の君もとっくに水 は汲み終わっていたので、部屋へと足を向ける。 階段を上りルイズの待つ部屋へと歩いていると、前方に割りと大きめのトカゲが道を塞 いでいた。 「邪魔だ、どけ。」 時の君の言葉に一瞬怯み後ずさるが、気を持ち直したのかマントの端を咥えどこかへ引 っ張っていこうとする。 「きゅるきゅる…」 「何だ?離せ。」 ここに唯のモンスターが出現はずもない。ということは誰かの使い魔であろう、ならば 下手に怪我を負わせて無理やり振り解くと、後にルイズがこのトカゲの主人と揉めるかも しれない、そう考え、仕方なくこのトカゲについていくことにした。 「きゅるきゅる!」 不穏な空気を察知していたのか、明らかに安堵した様子のトカゲが、ルイズの部屋の一 歩手前で止まり、開いていた扉の中へと入っていった。部屋の中にはトカゲの尻尾の炎だ けが光を灯している。 「何か用か?」 「扉を閉めて入っていらして?」 部屋の中の声の主がトカゲの主人であろう。部屋に入れと言っているが、部屋には入ら ず言葉を続けた。 「時間が掛かるか?」 「え?フフ…そうね、今夜は長い夜になりそう…」 時の君の問いに甘い声をだす。 「そうか、では御主人様へ確認を取ってくる。」 「え!?ちょっ…」 時の君は外側から扉を閉め、ルイズの部屋へと戻っていった。 「遅かったじゃない?何かあったの?」 「隣の部屋で呼び止められてな、何か用事があるらしい。長くなるそうだが、行ってきて もいいか?」 「隣の部屋って…キュルケじゃない!あ、あの万年発情猫…!!!駄目よ!ここに居なさ い!!」 言い終わると同時に、ルイズは豪快に扉を開け放ち、部屋から飛び出して行った。隣の 部屋へ入って行ったのであろう大きな音がし、ギャンギャン言い争っている声がする。 「…という訳なんだから、ほいほいキュルケに着いて行っちゃ駄目よ!わかった!?」 子一時間言い争った後に戻ってきたルイズは、ヴァリエール家とツェルプストー家の歴 史を子一時間、時の君に説明した。 「判った。ところで、自由時間が欲しいんだが。」 「へ!?何突然?たまには休みをくれっていう事?」 脈絡のない申し出に変な声を出してしまった。 「夜は自由時間にして欲しい。ご主人様が寝てからでいいんだが…朝までには戻る。」 「ま、まままさかキュルケの所に…い、いいい言った事が伝わってなかったのかしら!?」 どうりで物分りがいいと思った、何も聞いていなかったらしい。これはお仕置きせねば なるまい。 「違う。私は基本的には睡眠は取らない。ご主人様が寝ている間はどうしても暇なんだ、 部屋の中で術の研究をするわけにもいかないしな。だからこの辺り(ハルケギニア全体)を 見て回ろうかと思ってな。」 「そ、そうなの…ま、まぁいいんじゃない?使い魔の仕事を疎かにしなければかまわない わ。」 勘違いだったらしい。だろうと思っていた、忠実なる使い魔である時の君がキュルケご ときになびくはずはない。 「でも、どこにいくの?この辺(精々、街まで)のことなんて全然知らないでしょう?」 「知らないからこそ、色々見て回らないとな。」 「ふーん。でも、あんまり遠くに行き過ぎて迷子にならないでよね。」 「わかった。」 ルイズの寝息を確認した後、時の君は移動するべく精神を集中させ始めた。妖魔特有の リージョン移動である。一度行った場所なら、リージョン内でもリージョン外でも思うが ままに瞬間移動出来る。もしくは他の妖魔を索敵し、その妖魔の元へ移動するという方法 もある。前に聴いた話だが、この索敵能力のせいで、アセルスも随分苦労したらしい(追 っ手が間断なく攻めてきていた。)。 「さて、どこの妖魔の所へ行くか…」 どうせ知り合いもいないので、適当に妖魔を選んで移動することにした。直後、時の君 の姿は完全にルイズの部屋より消えていた。 ―――ガリア サビエラ村付近――― 時の君が移動した場所は、村外れの紫のヨモギが密集した森の中だった。妖魔が、人間 の敵であるという認識がある以上、不用意にここに住む妖魔の目の前に現れる事は、自分 と同じように人間と共生いている場合、迷惑になる可能性があるという配慮の為、妖魔の いる位置より少し離れた場所へ降り立った。 「…あっちか。」 時の君は、妖魔の気配のする方へ向けて歩き出していった。相手も妖魔である以上、時 の君の存在には気付いているだろう。自分より格下の妖魔の様だし、コンタクトを取って きてもおかしくはない。 「これは、高貴なお方。このような辺境にどういったご用件でしょう?」 やはり、数分歩いた所で声を掛けられた。どうやらここに住む妖魔らしい。ルイズなど よりもはるかに幼い容姿の少女が片膝をついていた。 「お前は、魔法は使えるか?人間が言う所の先住魔法について聴きたい。」 時の君は単刀直入に、用件を伝える。黙々とこなす術の研究に飽きてこの世界に来たよ うなものだが、術とは体系の異なる魔法というものにかなりの興味を抱いていた。 「…はい、わかりました…多少は扱えますので私の知っている範囲でよろしければお答え 致します。」 明らかに格上である妖魔からとは思えない質問に、疑問を抱いている表情をしていたが、 淡々と話しはじめた。 「人間の使う魔法の様に理を曲げるのではなく、自然の理に沿う形で精霊の力を…」 話を聴くにどうやら、術はどちらかといえば人間の使う魔法に近いらしい。人間の使う 魔法と先住魔法とは全く違う物のようだ。 「…という訳ですが、これ以上のことならエルフなどでないと解らないと思います。」 「エルフ?」 「はい、人間の異種族で先住魔法の事では右に出る者はいません。…失礼ですが、貴方様 はどちらからいらっしゃったのでしょう?」 不審は解けなかったのであろう、妖魔は当然の疑問を口にした。 「この世界ではない遠くからだ。」 時の君は、人間の異種族なら、索敵で探し当てることも出来ないな…などと考えていた。 「はぁ…よく判りませんが、とりあえずお食事はお済でしょうか?近くに人間の村があり ます。あまり上等なお食事とは参りませんが、ご案内致します。」 納得はしていないようだが、時の君がこの妖魔より上位に位置するのは間違いないので、 丁重に扱っている様だ。 「食事か…お前は人間と共生しているのか?だとしたら、こんな夜中の来客では不審に思 われるだろう。」 「大丈夫です。確かに人間の振りをして暮らしてはいますが、餌である人間にばれたとし てもまた他の村へ移りますので。ささやかながら、おもてなしをさせて頂きます。」 「…そうか、ではよろしく頼む。」 二人の妖魔は村へと歩いていった。 村に着き、家の中へと案内する。 「ここでお待ちください。今、人間を間引いて来ますので。」 そう言い、外へ出ようとするが呼び止められた。 「待て、その必要は無い。私の餌はお前だ。」 冷たい物言いに、背筋に悪寒が走る。 「ど、どういうことでしょう?何か気に障るような事でも…」 「しいて言えば人間を餌にしている事だ。今は人間の味方でな。」 後退しようとするが、既に後ろは扉だ。恐怖で、扉を開けるという動作が出来ない。 「どうしたんじゃエルザ?何かあったのか?……だ、誰じゃ!?」 村長である白髪の老人が、他の部屋からつながっているドアを開け中に入ってきた。 「も、物取りか!?ま、まさか吸血鬼!!?エルザから離れるんじゃ!!」 老人は、手の近くにあった物を手当たり次第にこの妖魔に向けて投げつけている。 「やめろ、吸血鬼はこいつだろう。」 そう言われ指をさされたが、この老人とは一年近くの付き合いになる。どちらを信じる かと言われれば明白だろう。もう少し時間を稼げば何とかなるかもしれない。 「た、助けておじいちゃん!」 「今、助けてやるからな!エルザ!」 言いながらも、もはや老人の手元には投げる物は無く、後は体当たりをする位しか残っ ていなそうだが、どうやら間に合ったようだ。 「ど、どうしたんですか!?村長!大きな物音がしましたが!」 扉が開き、屈強な大男が部屋の中へと飛び入ってきた。 「おお!アレキサンドル!そいつじゃそいつが吸血鬼じゃ!」 妖魔の視線が村長とアレキサンドルの方へと向けられる。やるならば今しかない。 「枝よ。伸びし木の枝よ。彼の腕をつかみたまえ」 窓を割り外より伸びてきた枝がこの妖魔を拘束する。何故かこの妖魔からは逃げられる 気がしない。位の違いのせいだろうか?ここで確実に仕留めなければならない。 「屍人鬼!そいつを仕留めなさい!」 声を荒げ、元はアレキサンドルと言う名前だったグールに命令する。グールは雄たけびを 上げると、目の色を変え妖魔へと突進していった。 「エ、エルザ!?どういう事なんじゃ!?」 老人が視界の端で狼狽しているが、今、気にしている余裕は無い。 殴られながら観察していたが、どうやら、このアレキサンドルと呼ばれたこの男は死人 の様だ。助けられるものなら助けようと思っていたがどうしようもない。 「秘術《剣》」 三本の魔法剣が寸分違いなくグールの首を切り落とす。グールは腕を振りかぶったまま 床へ崩れ落ちた。 「な、何!?どこから剣が…」 魔法剣は、時の君へ絡みついた枝を切り払うと消滅した。 「逃げられない事は判るだろう?終わりだな。」 時の君がエルザと呼ばれた妖魔との距離を詰めると、エルザが口を開いた。 「なぜです!?私が人間を餌にする事と、人間が食べ物を口にする事は同じ事ではないで すか!それに貴方は同族…」 「今は人間の使い魔でな。人間に仇名す存在なら消さねばなるまい。それに、私が妖魔を 餌にする事と、お前が人間を餌にする事は同じだろう?」 硬直し動けなくなっているエルザへ、いつの間にか握られていた剣を刺す。 「そ、そん、な…」 「人間と妖魔以外ならこの剣に憑依するが、妖魔であるお前は私の生命力になってもらう。」 剣へと向けてエルザが飲み込まれるように消えていき、後には何も残らなかった。 「エ、エルザが吸血鬼じゃったのか…そんな馬鹿な…わしは今までいったい何を…」 残された老人ががっくりと膝をつき、うな垂れている。 「さて、帰るか…」 「あ、あなたも吸血鬼?」 もし、吸血鬼なら、吸血鬼であるはずのエルザをものともしないこの男に勝てる道理な ど、少なくともこの村には存在しないだろう。 「吸血鬼ではないが、妖魔だ。心配せずとも襲いはしない、用件も果たした事だし帰ると する。」 言うが早いか、声をかけようとした時には影も形も無くなっていた。結局、何だったの か…荒れ果てた部屋の中で、ただ老人は考えを纏めようとしていた。 ―――――後日 「あのいじわる姫、お姉さまを吸血鬼と戦わせようなんていじわるにも程があるのね、き ゅいきゅい!」 北花壇騎士七号であるタバサは、従姉妹であるイザベラから受けた命により吸血鬼退治 へと行くことになっていた。人間に比べて高い身体能力を持ち、先住の魔法を使い、血を 吸った相手を一人だけとはいえ屍人鬼として操る、人間とまったく見分けがつかない姿を した妖魔。既に九人のメイジが犠牲になっている。確かに、シルフィードが憤慨している 様に今回の相手は最悪だ。 「お姉さま一人で吸血鬼に立ち向かうなんて無謀なのね、どうせならあの使い魔の妖魔に も手伝ってもらえばよかったのね、きゅい。」 シルフィードには何の返答もしないが、確かにあの未知の魔法は吸血鬼を倒す上で魅力 的ではある。しかし、彼を連れ出すのは難しいだろう。出掛けにも見掛けたが、常にルイ ズと一緒にいる。ルイズと離れて行動する事を由とするだろうか…それに既に、タバサは サビエラ村へ向けシルフィードと共に空を駆けていた。 「まったく、本ばかり読んでないでシルフィの相手もしてほしいのね!」 相変わらず、シルフィードの意見はスルーし、本を読み続ける。何せ、今読んでいる本 は吸血鬼関連の本である。この本を読み込む一秒が明暗を分けるかもしれない、まだ死ぬ 訳にはいかない。 そうこうしている内に、サビエラ村へと到着した。タバサはシルフィードを村から少し 手前の場所へと降下させた。林の中へと降りると、タバサは鞄から衣類を取り出しシルフ ィードへ向けた。 「これを着て。」 「変身しろっていうのね!?しかも布を体につけるなんていやいや!」 シルフィードはその長い首を左右に振るが、タバサは無言で睨みつけている。 「うぅ…終わったら何かご褒美が欲しいのね、きゅい…」 ぶつぶつと文句を言いながらも、詠唱を唱え、見る見るうちに変化していく。 「これを持って。」 そう言い、着替えが終わった所で、タバサはシルフィードに杖を渡すと、スタスタと村 へと歩き出した。 「お姉さま待って、二本足は歩きにくいのね。」 やがて村へ着き、まずは詳しい話を伺うべく、村長の家へと向かうが、何やら村民の反 応がおかしい…吸血鬼退治に来たメイジに希望を見出した様子ではなく、子供を連れて来 たメイジに落胆した様子でもなく、なにやら何故来たんだという様な、困惑したような表 情を一様に取っている。 「な、何なのね?何か様子がおかしいのね…」 遠巻きにしていた村民の中から白髪の老人が走りよって来た。 「こ、これはこれは、貴族様…ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ。」 どうやら村長らしい。案内されるまま、近くの民家へと移動した。 「すみません、ただ今我が家は荒れていまして…」 「何で、村人の様子がおかしいの?何かあったのね?」 メイジの格好をしているシルフィードが、タバサの代わりに問いかける。 「どうやら入れ違いになってしまった様で…なにせここから首都リュティスは遠いのでご 容赦頂きたいのです。」 ふかぶかと礼をされるが、何の事を言っているのかまだ把握できない。 「どういうことなのね!?なんで謝るの?」 「いえ、もう吸血鬼は退治されましたので…」 思いもよらぬ返答に、タバサは思わず口を出した。 「誰に退治されたの?」 あの従姉妹がこんな手の込んだいたずらをするとは思えない。という事は、本当に入れ 違いになって誰かに倒されたということだろうか? 「それが…妖魔が現れまして…」 村長の言うところによると、突如現れた妖魔が、村長と共に暮らしていた吸血鬼とこの 家に住んでいた屍人鬼を一撃の元に倒し、また何処かへ消え去ったという。 「それで、この家に住むマゼンタというばあさんの事を、重い病気で部屋から出られない ものですから、前から皆が疑っておりましてな…もし、あの妖魔が来なければ、無実のこ のばあさんが吸血鬼に仕立て上げられていたかもしれませんのじゃ。息子は残念な事にな りましたが…」 しかも、吸血鬼を倒すだけでなく、村人の命まで間接的に救っていったらしい。どこの 勇者だ。 「エルザが突然消えただけでは吸血鬼に攫われたのだと勘違いをしていたかもしれません、 それも計算していたんでしょうかのう…私の目の前でエルザを退治したのは…同じ妖魔で も力の差は歴然でした。突然何も無い所から剣が出てきたのには驚きました。」 タバサは学園ヘ向けシルフィードの背に乗り、移動していた。 「おかしい。」 「何がおかしいのね?でも、吸血鬼と戦わなくてよかったのね!きゅいきゅい!」 もはやシルフィードの言葉は耳にも入っていない。…妖魔…突如現れる剣…この符号を ただの偶然だといえるだろうか?しかし、村長の話を聴くに、妖魔が現れたのは三日前だ という。三日前といえば、決闘騒ぎの日であり、そして次の日もちゃんと学園にいたはず だ。 「やはり、興味深い。」 どう考えても、距離的におかしいので、確定したわけではないが、どうもあの使い魔な ような気がする。学園に戻ったら確認してみようか… タバサとシルフィードは月夜を移動していく。 前ページ次ページ時の使い魔
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 「マコトを捨てて」 「それはもう死んでる」 「埋葬してやった方が彼のためだ」 「正直言って気持ち悪い」 「というか怖い」 などと言えるはずがない。言ったら言葉はノコギリで襲い掛かってきそう。 そうしたら魔法の使えない自分に勝ち目なんて無い。 だからルイズは我慢するしかなかった。 我慢できた理由は、責任。 自分が言葉を召喚してしまったからとか、コルベールの腕切断とか。 そういうものの責任を、使い魔の主として背負っているから、我慢できている。 つまりルイズ以外の人にとっては到底我慢できる問題ではない、という事。 ――ファイヤーボール等で鞄ごと焼却処分すればよくね? ――オールド・オスマンが固定化かけたらしいから無傷じゃね? ――あのジジイ、余計な事しやがって。油かけて燃やせばいけるんじゃ? ――仮に燃やせても、黒コゲ生首か頭蓋骨を持ち歩くだけじゃね? ――相手は平民なんだからシンプルに命令すればよくね? ――じゃあお前が命令してこい。腕を落とされてもいいならね。 ――風の魔法で鞄を奪って、中身をどっかに埋めちゃおうよ。 ――あ、それいい。そうしようそうしよう。 マコトを捨てて、とは言えなかったけれど、床で寝なさい、は言えた。 言葉は文句ひとつ口にせず、毛布一枚で床に横たわる。 「床は硬いですね。でも大丈夫、誠君は私が抱いていて上げますから痛くありませんよ」 どうやら言葉は自分がどんな扱いを受けようと構わないようだ。 『誠と一緒』という条件さえ満たしていればの話だが。 床で寝なさい、がうまくいったから、誠を鞄に入れっぱなしに、と言ったら断られた。 「部屋にいる時は、誰の視線も気にする事なく、誠君と一緒にいられますから」 私の視線も気にしてよ、とルイズは嘆く。 とはいえ、これで寝起きにいきなり目覚まし生首を目撃しなくてすむ。 安心して眠ったルイズは、完璧に油断していた。 「ルイズさん、朝ですよ。起きてください」 起きた。 目の前に言葉がいた。 縦にふたつ、顔が並んでる。 上は言葉、下は誠。 「……そう来たか」 言葉は誠を抱いたままルイズを起こしたのだ。 ルイズは朝の洗顔のついでに、ほろりと涙をこぼすのだった。 朝食や部屋の掃除など、滞りなくすませた言葉は、 ルイズの授業に同席するため教室に向かっていた。 言葉は授業が楽しみだった。 異世界の魔法学院で、魔法の勉強をするというのもそうだが、 何より誠と同じ教室で勉強できるというのが嬉しかった。 以前はクラスが違ったせいで学校ではあまり一緒にいられず、 お互いのクラスには、言葉と誠を引き離そうとするクラスメイトがいた。 西園寺世界。清浦刹那。澤永泰介。加藤乙女。他にも、他にも、他にも。 でもここにはそんな邪魔者はいない。いないから、安心していられる。 「ウインド・ブレイク」 背後から突然の突風。 風は鞄を狙って吹き飛ばしたため、言葉はその場に転ぶ程度ですんだ。 だが。 「きゃっ……ま、誠君!」 言葉は教室に向かう廊下では他に人がいなかったため、 鞄を開けたまま持ち歩き、中にいる誠とお喋りしていたのだ。 だから、開いたままだった鞄から、誠の、首が。 「うわぁっ!?」 予想外の事態に、風の魔法を使った生徒が驚く。 言葉はその生徒には目もくれず、吹き飛んだ誠の首を拾いに走る。 だが廊下の前方の曲がり角に待機していた別の生徒が、再び風で誠を吹っ飛ばす。 教室とは反対方向に転がって行く誠。 言葉は、理解した。 ココニモ邪魔者ガ、イル。 濁った双眸が鋭さを増し、言葉は放置された鞄を掴みながら角を曲がって走る。 誠の首は宙に浮いて移動していた。 きっとレビテーションという魔法だと言葉は判断し、誠の首を奪おうとするメイジを探す。 敵は複数。背後からの一人、曲がり角の一人、今レビテーションを使っている一人。 計三人。 殺す。 背後からの一人と曲がり角の一人は顔を見ていない。 でも殺す。 レビテーションを使っている一人は進む先にいる。 まず殺す。 言葉は、鞄の中に右手を突っ込んだ。 そして鞄をその場に捨て去る。 右手には、誠の首と一緒に鞄に入っていた、ノコギリ。 左手には、ルイズによって刻まれた使い魔のルーンが、輝いて。 疾風の如く言葉は廊下を駆ける。 その速さに驚愕したレビテーションの使い手は、慌てて次の奴にバトンを渡す。 あらかじめ開けておいた窓から、誠の頭を放り出したのだ。 予定では、これでもう言葉は追いかけてこれないはずだった。 後は広場にある植木の下に掘ってある穴にこいつを放り込んで埋めるだけ。 「あ、来た」 金髪ロールの愛らしいモンモランシーは、窓から放られた鞄をキャッチしようとした。 そこで、あれ? と首を傾げる。 鞄にしては、ちょっと小さい、というか丸い。 クルクルと回転しながら飛んでくるそれに向けて、何となく手を伸ばすモンモランシー。 すると吸い込まれるように鞄(?)はモンモランシーの腕の中におさまった。 何だろうこれ? 見る。 灰色の顔。 「ひっ、ひぃ……ひゃぁあああぁぁぁっ!?」 悲鳴が学院に響いた。 今日の授業は何だか妙だった。 授業を休んでる生徒が四人もいる。 その中にモンモランシーも含まれている事もあって、 彼女と友達以上恋人未満な関係の男、青銅のギーシュはちょっと心配していた。 すると。 「ひゃぁあああぁぁぁっ!?」 悲鳴。この声は、モンモランシー? 真っ先に反応したのはルイズだった。 そろそろ来てもいいはずの言葉が来ていない。そして悲鳴。 また何かやらかしてしまったと直感的に悟ったルイズは教室から飛び出して行く。 それを見てギーシュも危機を察知し、窓からレビテーションを使って飛び降りた。 レビテーションも使わず二階の窓から飛び降りてきた言葉を見て、 モンモランシーの顔は蒼白に染まる。 言葉は、じっとモンモランシーを見つめて問いかけてきた。 「誠君はどこですか?」 「え?」 その時ようやく、モンモランシーは自分が何をしたかに気づく。 生首をキャッチしてしまった彼女は驚きのあまり、それを全力で放り投げてしまった。 結果、伊藤誠行方不明。 首を返してごめんなさい、という逃げ道は断たれた。 モンモランシーが首を隠したと完全に勘違いされている。 「誠君はどこですか?」 「あの、その」 「誠君はどこですか?」 「れ、れ、レビテーション!」 逃げよう。モンモランシーが杖を振ると同時に、その身体が宙に浮く。 相手は平民だから、宙に浮かれたらどうにもできないはず。 だが二メイルも浮かんだ頃だろうか、いきなり下腹に何かがぶつかってくる。 「え」 「誠君はどこですか?」 言葉が、腰にしがみついていた。二メイルの高さを己の脚力で跳んで。 そして、モンモランシーの背中を、ノコギリの冷たい感触が叩く。 「イヤァァァッ!!」 恐怖に精神を掻き乱されたモンモランシーはレビテーションを解いてしまい、 地面に向けて背中から落下する。言葉はというとモンモランシーを離して軽やかに着地。 そして、背中を打ち付けられて咳き込んでいるモンモランシーの隣に立ち、 首に、ノコギリを、当てる。 「誠君はどこですか?」 壊れた人形のように同じ事を繰り返す言葉。 眉は不機嫌そうに寄せられていて、虫けらを見下すような冷たい視線を向けられる。 「ひっ、ゆ、許して……」 貴族のプライドなど一瞬で切り捨てられた。 モンモランシーは瞳いっぱいに涙を浮かべる。 「駄目です」 死刑宣告。 直後。 「ワルキューレ!」 モンモランシーを挟んだ対面から青銅のゴーレムが植物のように生え、 右手に持った短槍で言葉のノコギリを弾き飛ばす。 言葉は不快な表情を浮かべて、声のした方を見た。 青銅のギーシュが、薔薇の杖を持って立っている。 「無事かい!? モンモランシー!」 「ギーシュ!? ああ! ギーシュ、来てくれたのね!」 「僕が来たからにはもう大丈夫! 誇り高き美の戦士ワルキューレがその平民を」 言葉はノコギリを腰の横に構えると、そこから水平に一閃した。 耳が痛む甲高い音がして、ワルキューレの胴体が両断される。 言葉の持つ居合いの技術とガンダールヴの力の前では、 例え得物がノコギリだろうと青銅のゴーレムでは話にならなかった。 ギーシュもモンモランシーの仲間と判断した言葉は、矛先をギーシュに変えた。 「誠君はどこですか?」 「マコト? 何だそれは、僕は知らないぞ」 「誠君はどこですか?」 「知らないって言ってるだろ。平民の癖に、貴族に対して無礼じゃないか! 今すぐモンモランシーに謝罪しろ!」 「誠君はどこですか?」 「僕の話を聞いているのか!?」 「誠君はどこですか?」 「だから……」 「誠君はどこですか? 誠君はどこですか? 誠君はどこですか?」 「話を……」 「誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君……」 「わ、ワルキューレェェェッ!!」 言葉の狂気に耐え切れなくなったギーシュは、 薔薇の花弁を大地に舞わせ新たなワルキューレ六体を出現させる。 しかもそれぞれのワルキューレは異なる武装で言葉に対峙していた。 「アイスソード!」 「オートクレール!」 「カムシーン!」 「デルフリンガー!」 「ヴァレリアハート!」 「ガラティーン!」 六体のワルキューレ! 六本の剣! 「それ以上抵抗するなら容赦しないぞ!」 六体は列を成して言葉へと肉薄していった。 対する言葉は正面からワルキューレ達に向かって疾駆する。 一体目とすれ違い様に胴を両断する言葉。 二体目とすれ違い様に首を刎ねる言葉。 三体目とすれ違い様に肩から脇腹まで両断する言葉。 四体目とすれ違い様に剣もろとも腕を切り落とす言葉。 五体目とすれ違い様に下腹部を開腹する言葉。 六体目とすれ違い様に頭から股間まで一刀両断する言葉。 「そ、そんな馬鹿な……」 六体のワルキューレの残骸を背に、恐怖に腰を抜かすギーシュの眼前に、言葉。 「誠君はどこですか?」 「し、知らない」 「……」 青銅のワルキューレを次々に屠ったノコギリが、ギーシュの首へ。 モンモランシーが叫ぶ。 「や、やめて! ギーシュを殺さないで!」 言葉は振り返って、問う。 「誠君はどこ――」 「コトノハー!」 ぜいぜいと息を切らしながら、ルイズが広場に駆け込んできた。 誠の首を抱えて。 「ま……誠君!」 「はぁっ、はぁっ、間に、合った……」 ルイズに駆け寄り、誠を渡されると愛しそうに頬擦りする言葉。 それを見て、助かったと胸を撫で下ろすギーシュとモンモランシー。 だがその二人に、ルイズがうんざりとした表情で言う。 「ちょっと。あんた達コトノハに何したのよ? 私が偶然植木の陰に落ちてたマコトを見つけなかったら殺されてたわよ?」 「ぼ、僕はただモンモランシーの悲鳴が聞こえたから……」 ルイズとギーシュの視線がモンモランシーに向く。 殺されかけたギーシュとしても、なぜこうなったのか知りたいようだった。 まさかここで「あの首を奪って埋めちゃうつもりでした」なんて言えない。 そこでモンモランシーはこう答えた。 「わ、私はただ、授業に出る気になれなくて、散歩してただけよ。 そうしたらいきなり窓から、その、アレが落ちてきて、悲鳴を……」 「じゃああなたは、私から誠君を奪おうとした人達の仲間じゃないんですね?」 誠との頬擦りをやめた言葉が、疑わしげな視線をモンモランシーに向けた。 「ちょっとコトノハ、マコトを奪おうとした人達って何よ?」 「……ルイズさん。今日の授業、誰か欠席してませんでしたか?」 「え? えーと、そういえばモンモランシー以外にも三人くらい……」 「それは誰ですか?」 質問されて、ようやくルイズは事態を把握した。 モンモランシーも関わっているかどうかは解らないが、 欠席した三人は言葉から誠を奪って処分してしまおうと考えたに違いない。 だって自分も処分できるものなら処分したいから。 「……誰だったかしら。あまり気にしてなかったから」 ここで名前を教えたら、多分、その三人は殺される。 どう誤魔化そうかと悩んでいると、言葉は感情の無い声で言う。 「そうですか。解りました、もういいです」 「え? そ、そう?」 呆気なく言葉が引き下がり、安心するやら不気味やら、ルイズの心中穏やかではない。 そして言葉は、ノコギリと誠を持ったままモンモランシーに歩み寄った。 「な、何よ」 「あの人、あなたの彼氏ですか?」 「え……?」 意外な問いにモンモランシーは目を丸くする。 言葉は小声で話しかけているため、ルイズとギーシュには聞こえない。 どう答えたものかと一瞬迷って、助けに来てくれたギーシュを思い出して。 「そうよ。ギーシュは私の恋人。それが、どうかしたの?」 「……いえ。ただ、忠告して上げようと思って」 「忠告?」 言葉の唇が、笑う。 「恋人を、誰かに盗られたりしないよう、注意した方がいいですよ」 「それって、どういう……」 「誠君みたいに、なっちゃいますから」 何とか殺害をまぬがれたモンモランシーだったが、言葉の重く心に響く忠告は、 確かにモンモランシーの根深いところに植えつけられた。 それが発芽するのは、まだ先の話。 そして言葉は、今日の授業を欠席した人が誰かを教師に訊ねに行った。 でも。 すでにこの事件を知っていた、この時限の教師は、それが誰かを教えなかった。 だから言葉は思った。 この教師は生徒をかばっている。もしかしたらこの教師が黒幕かもしれない。 炎蛇のコルベール。やっぱりこの人は……。 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「あんた誰?」 康一が目を覚ますと、不機嫌そうな顔で覗き込んでいる女の子と目があった。 白人である。多分13~14歳といったところだろうか。それはもう映画で見るようなとびっきりの美少女といっていい。服装は白いブラウスに黒のプリーツスカート。ここまではいいのだが、その上から黒いマントを羽織っている。 康一はなんとなく、以前見た映画で出てきた、吸血鬼のことを思い出した。彼女のマントには襟がないので白くて細い首が見える。よし、どうやら吸血鬼ではないようだ。 半分寝ぼけた頭でここまで考えて、はっと康一は跳ね起きた。 「ここは・・・どこ!?」 「質問に質問で返すなんて平民の癖に生意気ね・・・もう一度聞くわ。あんたは誰なの?」 眉根を寄せて更に身を乗り出す女の子の迫力に、康一はなんとなく気おされてしまった。 「ぼ、僕は広瀬康一。日本人ですけど・・・。」 「ニホンジン?なにそれ、国の名前のつもり?」 康一はめんくらった。いくらなんでも日本をしらないなんて!白人の人がいるし、ここはまだイタリアのはずだけど・・・。 風が頬を撫ぜた。青臭い草原の香りがした。康一があたりを見回すと目の前の女の子のようにマントを着たたくさんの少年少女がものめずらしそうにこちらを見ている。今日はハロウィンかなにかだろうか。って、そんな馬鹿な・・・。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 誰かがそういうと、まわりからくすくすと笑い声が聞こえる。 しかし目の前の少女は肩をいからせ、顔を真っ赤にして怒鳴り返す。 「う、うるさいわね、キュルケ!ちょっと間違っただけよ!」 「ちょっとだって?はーて、ルイズの魔法が間違えなかったことなんてあったっけなー?」また別の誰かが揶揄するように言うと、人垣が爆笑した。 一方康一は混乱する頭を必死に整理していた。 「(僕はさっきまでイタリアにいて・・・。そうだ、変な鏡のスタンドに引きずり込まれたんだった。・・・じゃあ、ひょっとして僕は『まだスタンド攻撃を受けている』・・・・?でも、なんだか様子がおかしいぞ?)」 知らない場所で、見たこともない格好の人たちに囲まれ、しかし自分には傷一つないようだ。こんな妙なスタンド攻撃があるだろうか。 ルイズと呼ばれた女の子は、そばに来ていた中年の男性(やはりマントを着ているしおまけに杖まで持っている!)に訴えた。 「コルベール先生!もう一度召還させてください!これは何かの間違いです!」 「うーむ、気持ちは分かるが・・・ミス・ヴァリエール。『使い魔』の召還は原則として一度きりの神聖なる儀式なんだよ。自分の『使い魔』に不満があっても、やり直すことは認められていない・・・」コルベールと呼ばれた男は清々しいほど物寂しい頭を掻いた。 康一は使い魔ってなんだろう。と首を傾げた。まさかその使い魔というのが自分のことを言っているとはまだ思い至らない。 「で、でも『使い魔』が平民だなんて聞いたことありません!」ルイズはなお言い募る。 「だが、平民を『使い魔』にしてはいけないという法もないからね。可哀想だが監督者として一度した召還をなかったことにするなんて許すわけにはいかないよ。それとも今回の『サモン・サーヴァント』はあきらめるかね?」 「そんな・・・『使い魔』がいないと、進級できないのでしょう!?」 「そうなるね。だが僕としてはそれが精一杯の譲歩だ。さぁ、選びなさい。この平民を『使い魔』にするか、あきらめて留年するか!」 ルイズは目に涙を浮かべ、しばらく歯を食いしばって悔しげにコルベールを睨めあげた。しかし覚悟を決めたように康一のほうに振り返る。 ぎょっとする康一にずかずかと近づくと肩を左手でドンと押した。ちょうど立ち上がろうとしていた康一が尻餅をつくと、その上にのしかかるようにして跨ってくる。 「ちょ、ちょっと君・・・!」康一が顔を赤らめて後ずさろうとするが、動かないでと真剣な目で言われ、動けなくなってしまう。 ルイズは諦めたように―半分自棄になったように―目をつぶると、手に持った小さな棒のようなものを康一の顔の前で振った。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 鈴のような声で、呪文のようなものを唱え始めた。 すっと、杖を康一の額に置いた。 そして、ゆっくりと顔を近づけてくる。睫毛が長い、まるで西洋人形のようだ。 「ちょ、ちょっと君、なにを・・・」ごくりと生唾を飲みながら、思わず仰け反る康一の肩をルイズの左手が引き寄せる。 「動かないで・・・」 「いやでも、僕には恋人が・・・」 だからやめてくれ、と最後まで言い切ることはできなかった。 「いいからじっとしてなさい!」と言うやいなや、えいやっとその小さな唇が押し付けられてきたからである。 唇に感じる柔らかい感触に康一は固まってしまった。 「(ああ・・・なんてことを・・・・)」 思わず息を止めて目を閉じる。心臓が早鐘のように走り出す。 「(これはラッキー!って思えばいいんだろうか・・・。でも僕には由花子さんが・・・)」 ルイズが唇を離す。 ぷはっと止めていた息を吸うと、離れ際わずかに女の子の甘い香りがした。 「終わりました。」 ルイズはその場で立ち上がり、顔を真っ赤にしてコルベールに言う。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したけど『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね。」 コルベールは嬉しそうに言った。 康一はまだ顔を赤くして混乱していた。 「ななな、なんでキスしたの!?というか君は誰で・・・あーもう、さっぱりわからないよ!!」 ルイズは少し潤んだ瞳で叫ぶ。 「うるさいわね!あんたはわたしの使い魔になったのよ!わたしだって嫌だけど・・・あんたが出て来ちゃったんだからしかたないでしょ!!」 康一はそれに言い返そうして、そのとき、突如として左手の甲に激痛が走った。 「ぐわああぁぁぁぁぁ!」 まるで焼き鏝を当てられているようだ!康一は左手を抱えて悶え苦しんだ。 みると手が光り、なにか文字のようなものが刻まれていっている。 「(そうだ、油断した・・・やはり僕は『まだスタンド攻撃を受けている』!!)」 コルベールと呼ばれた男性が、何か言いながら、ゆっくりと近づいてくる。自分が何をされているかは分からないが、このままではやばい! 康一は覚悟を決めた。戦わなければならない! そして呼ぶ。自らの半身、『魂のヴィジョン』(スタンド)の名を。 「エコーズACT3!その男を攻撃しろォー!!!」 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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ようやく一日が終わる。無駄に疲れたな――― 荒事はまだ良いが、やたらめったら喋らされるのはもう勘弁願いたいところだ。 そう思っていても、厄介事は向こうからやってくるんだがな。 宵闇の使い魔 第玖話:王女との友情 「それで―――トラゾウ、あなたは帰りたいの?」 舞踏会の後、虎蔵はルイズの部屋にキュルケとタバサを招き、オスマン達にしたのと同じような説明を行った。 三人とも驚くほど素直にその事実を受け入れた為、逆に虎蔵の方が戸惑った位である。 その後、主にキュルケから元の世界について様々な質問を受けては適当に答えていたのだが、 唐突に真剣な声でルイズが発したのがこの問いである。 「トラゾウ。ちゃんと答えて。元の世界に返りたいわけ?」 ルイズの表情は真剣そのものだ。 当初は完全にハズレだと思っていたが、今では他のどんな使い魔よりも強いと確信している。 だがその彼が帰りたいと言いだしてしまったら、私はどうするのだろうか、と考えていた。 引き止めはするだろう。 多くの知人から素直ではないと称されるルイズだが、その点は既に認めている。誰かに告げたりしている訳ではないが。 だが――― ―――私が引き止めたとして、留まってくれるのだろうか―― 人に認められることの少なかったルイズには自信が無かったのだ。 しかし虎蔵はいんやと前置きをして、オスマン達にしたようにこれといって帰りたいという欲求・理由は無いこと、 しかし場合によっては強制的に呼び戻される可能性があることを説明した。 「それじゃ、ある日突然帰るかもしれないって事?」 キュルケが首を捻る。 そんな事ができるのだろうか、といった様子だ。 「―――変なタイミングだったら迷惑」 タバサはどんな状況を想像しているのか分からない調子でキュルケに続いた。 だが虎蔵に、 「いや、あの状況で呼び出したお前らに言われてもな――」 と半目で言われてしまえば、「呼び出したのはルイズ―――」と視線をそらす。 そして当事者であるルイズは虎蔵の裸を思い出してしまってしどろもどろになり、 「いや、だって―――こっちだって狙った訳じゃないわよ!」と逆ギレした。 それをニヤニヤと笑いながらも「ま、そういうことでな。之ばっかりは俺にゃどうにも出来んよ」と肩を竦めた。 あの魔女相手には、なにをしたって無駄だ。 ルイズはまだ納得がいっていない様だが、その様子を見たキュルケがパンパンと手を叩いて、 「まぁ、なんにせよ今日はこの位ね。何度も踊ったから、流石に疲れたわ――トラゾウと踊れなかったのが残念だけど」 と話題を打ち切った。 確かに、舞踏会が終わってから話し始めたためかなりの時間になってしまっている。 キュルケとタバサが出て行くと、ルイズは寝る仕度をしてベットに上がったのだが、虎蔵は何故か部屋から出て行こうとしていた。 「え、ちょっと――何処行くのよ」 先程の話のせいか、思わず虎蔵の上着の裾を掴んでしまうルイズ。 なぜかこのまま何処かに消えてしまう気がしたのだ。 「ん?あぁ、トイレとタバコ」 虎蔵はそういって胸ポケットから一本用のシガーケースを出して見せる。 そう言われれば、ルイズは手を離すしかない。ゆっくりと名残惜しげになってしまったのは仕方がないことだった。 「行かないで」と素直に言えない自分に、少しだけ嫌気が差した。 ルイズの部屋を出た虎蔵はくるくるっとシガーケースを回して胸ポケットに戻すと、ロングビルの部屋へと足を向けた。 かなり遅くなったのだが、特に気にすることも無くドアをノックすると「遅い」と不機嫌そうなロングビルが出てくる。 「さっさと入って。誰かに見られると厄介だからね」 「へいへい」 ロングビルの部屋へと入る虎蔵。 既にドレスは着替えており、ゆったりとした普通の格好をしている。 「ネグリジェ辺りを期待してたんだがな」 虎蔵が本気か冗談か区別しにくい口調で言うと、ロングビルは「残念だったね―――過剰サービスはしない主義なの」と肩をすくめた。 「ほら、ジョークは十分だよ。さっさと本題に入ろう。夜更かしは美容の敵だからね」 そういって椅子を椅子を勧めてくる。 虎蔵は肩を竦めてその椅子に腰を下ろし、話し始めた。 「あいよ。まぁ、一応確認なんだが―――快盗なんてやってたってことは、裏社会にもそれなりに精通してるよな?」 「そりゃね」 ロングビルが問いに頷くのを見ると、彼は「死人を操る業を使うような奴が居ないか調べてくれ」と続けた。 「死体を、操る―――」 「ゾンビー、グール、リビングデッド―――どう呼ばれているのかは分からんが、まぁ、そんな感じの物だ。 実際は違いもあるんだろうが、俺にゃよく差が分からん」 「グールだね―――なんだい、吸血鬼に用があるの?」 「いや、この世界のじゃなくてだな――ー元の世界に居たときに、そういう業を使う奴が俺のもってるある物をしつこく狙って来てたんよ」 「あぁ、なるほど。そいつがアンタや《破壊の杖》と同じように、こっちに来てるかもしれない―――ってことね」 理解が早くて助かる、と虎蔵が頷く。 ロングビルとしては、個人的な頼みとしては問題はないが、仕事として引き受けるのは考えてしまう内容である。 なにせ"居るかどうかも分からない人物を探す"訳だ。 悪魔の証明である。 「――一旦引き受けるのは吝かじゃないよ。ただ、本当に居るのかどうかも分からない奴を調べるってのは、 十中八九終わりが無いんじゃないかい?」 「だろうな。だから、常に全力で調べてくれってんじゃない。休日に街に行ったときにでも情報屋を使うだとかな。 生憎と、俺にゃそれも困難でね」 言葉は通じるが文字は読めないし、元々そういった行為は性格的に得意ではない。 ならば本業―――という訳でもないだろうが、精通した人間を使うのが道理であろう。 しかし――― 「いや、それにしたって―――アンタ、私が何時までも此処で秘書やってるつもりだと思ってる?」 ロングビルの言葉に、虎蔵は「あ゛ッ」と声を漏らした。 ロングビルが魔法学院でオスマンのセクハラに耐えながら――と言っても派手に反撃しているのだが―― 秘書をしていたのは、あくまで《破壊の杖》を盗むためだ。 今となっては、此処に留まっている理由は無いのである。 ぽかんと口を開けて間抜け面を晒す虎蔵。 もし煙草を銜えていたとしたら落としていただろう。 「ッ――あはははッ――アンタ、面白い奴だね。ふふッ――妙に鋭い割りに、変な所で抜けてる」 「五月蝿ぇなぁ――」 ロングビルは虎蔵の表情が何処かのツボに入ったのか、相好を崩さんばかりに笑い出した。 虎蔵は珍しく苦虫を噛み潰したような表情を見せる。 良い所を邪魔され、やり込められ、随分とからかわれもしたが―――きっとあの三人娘はさっきの様な間の抜けた表情や、 今のような苦々しい表情を見てはいないだろう。 何処までも頼りになる、クールな男とでも思っているのに違いない。 なぜだろうか。変な優越感を感じてしまった。 「もう、仕方がないね。良いよ、引き受けた。どっちにせよ、今日の明日で止めるのはおかしいからね。 暫くは此処に居るつもりだったんだ」 相変わらず笑ったまま、パンパンと楽しげに虎蔵の肩を叩いてくる。 虎蔵はうざったそうにその手を払いのけて肩を竦めた。 暫くしてようやく彼女は笑いをとめた。 「あー、久しぶりに笑った。じゃあ、まッ――これから二人の時にはマチルダって呼んで頂戴」 突然そんなことを言い出したロングビルに「は?」と虎蔵が視線を向ける。 「私の本名さ。アンタがアタシにまで色々と説明してくれた事もあるしね。だから、アタシも秘密をひとつ明かすって訳。 それとも何かい。こんな仕事を本名でやってるとでも思ってた?」 確かに、そういった仕事をするのに本名は使わないだろう。 虎蔵も幾つも名前を持っている。 もっとも、その場で適当に名乗ったことも少なくないが。 「貴族だった時の名前って奴か?なんでまた唐突に」 首を傾げる虎蔵に、そういうこと、と頷いたロングビル――マチルダは虎蔵のまねのように肩を竦めて答えた。 「さて、なんでだろうね―――まぁ、やられっぱなし、教えられっぱなしなのが気に障ったとかそんな感じかもね。 仕事を引き受けるんだから、その辺り位は対等で居たいとかさ。まぁ、ほとんど気まぐれみたいな物だと思って良いわ」 「なるほど。まぁ、人前で呼ばんように注意せにゃならんがな」 笑いこそ収まったがいまだに楽しそうにしているマチルダに、虎蔵も口元に笑みを浮かべつつ「よっこらせ」と声を出して立ち上がった。 「年寄りじゃないんだから―――お帰り?」 マチルダは座ったままそれを見上げて問う。 「朝になっても戻ってなかったりすると、ご主人様が五月蝿いんでね」と肩を竦める虎蔵。 「使い魔生活も楽じゃないみたいね。もし首にされたら私の使い魔にでもなる?あんたならそこらのドラゴンなんかより役に立ちそうだよ」 マチルダの言葉に「考えとくよ」と答えながらドアへと向かう虎蔵だったが、ドアのノブに手をかけた所で何かを思い出して振り返った。 「っと、忘れてた。こいつを貸すつもりだったんだな―――」 翌日。 なにやらトリステインの王女がやってくるらしく、学院はちょっとした騒ぎになっていた。 学院生は正装をしてに正門の内側に勢ぞろいしている。 その王女、アンリエッタは国民からかなりの人気があるようで、殆どがトリステイン国民である生徒達は我先にと集まっていた。 とはいえ、真に全員がそうであるかと言えば、当然例外も居る。 ゲルマニアからの留学生であるキュルケ、こういったことに興味が無いらしいタバサ―――そして虎蔵である。 学院としての正式な歓迎式典との事であるから、面倒そうにしながら列の一番後ろに並んではいるが、 馬車から降りてきたアンリエッタを見ては、 「あれがトリステインの王女?ふん、あたしの方が美人じゃない。ねぇ、ダーリン」 「あー、まぁ―――トントンじゃないか?」 などと話をやめる気配が無い。 それどころか、キュルケが不満そうに「えー」と虎蔵の腕に抱きついては、 「ほらほら、絶対あたしの方が"ある"わよ~」 と言って、その豊かな胸を押し付けてきた。 だが、普段ならこういった状況になればまっさきにルイズが引き剥がしに来るのに、なぜか何時までたっても反応が無い。 二人は思わずその体制のまま顔を見合わせて、何事かとルイズの方を見た。 なにやら頬を朱に染めて、王女とは異なる誰かを見ているようだ。 その視線を追うと、そこには見事な羽帽子を被った凛々しい貴族がいた。 「あら――――」 キュルケもその貴族を見て目を奪われてしまう。 虎蔵の腕を抱きかかえたままで、だ。 虎蔵は「一目惚れは結構なんだが、出来れば手を離して欲しいぞ――」とぼやくが、彼女の耳には届かない。 彼はため息をついて、地面に座り込んで本を読んでいるタバサに「助けてくれんか」と声をかけてみるが、 「無理」と素気無く断られたのだった。 そしてその日の夜。 ルイズは昼間から変わらずぼーっとベッドに座っていた。 一目惚れにしてはあまりに長くこんな状況が続いているので、虎蔵にもかすかながら疑問も浮かんだが、問いかけた所で反応が無い。 ちなみに午後は、平民ということで王女御一行への対応から外れて暇そうな――もっとも混ざりたくも無かっただろうが―― マチルダに捕まっては、貴族に対する嫌味と愚痴を散々聞かされた。 結構な厄日かもしれない。 こういう日はさっさと寝てしまうかとソファー―――床の上から改善された――に向かおうとした所で、ドアが規則正しく叩かれる。 始めに長く二回、それから短く三回。 ルイズはそれを聞くとはっとして立ち上がり、急いでブラウスを身につけてドアを開いた。 そこに立っていた真っ黒な頭巾を被った少女は、そそくさと部屋に入ると魔法の杖を取り出して《ディテクトマジック》を唱える。 虎蔵は僅かに警戒を示してルイズの傍に立つが、彼女はその黒い頭巾の少女の正体に気付いたようだ。 「まさか―――そんな――――」 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」 そういって頭巾をとる。 少女の正体は、あろうことかアンリエッタ王女がその人であった。 「姫殿下!」 ルイズは慌てて膝をつく。 虎蔵は当然それに習うはずもなく、どうしたもんか――といった感じでソファーに腰を下ろした。 「あぁ、ルイズ、ルイズ。懐かしいルイズ」 「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へ、お越しになられるなんて――」 「ああ!ルイズ、ルイズ・フランソワーズ!そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだいな!あなたとわたくしはお友達じゃないの!」 「もったいないお言葉でございます。姫殿下――」 なにせこんな調子だ。 とうとう抱き合いだした。 正直、見ているほうが疲れる。 どうやらルイズはこの王女の――アンリエッタの子供の頃の遊び相手だったようで、昔話に華をさかせている。 だが、あまりにも芝居がかった様子に虎蔵は ――なんの寸劇だ、これ―― などと思ってしまう。 だが芝居がかってはいるのに演技をしている様子は無い。 これが素なのだろうが、正直見ていて微妙な気分にならざるをえない。 「あー、席外すか?」 とうとう話題が王女という身分の不自由さにまで及ぶと、思わずそう声をかけてしまっていた。 するとアンリエッタは今気付いたとでも言うように虎蔵に視線を向ける。 「あら、ごめんなさい―――お邪魔だったかしら?」 「お邪魔?どうして?」 「だって其処の彼、貴女の恋人なのでしょう?嫌だわ、私ったら、懐かしさにかまけてとんだ粗相をしてしまったみたい」 どうやら姫様はたいそう思い込みが激しいようだ。 一人でどんどんと妄想の翼を広げていっている。 ルイズやギーシュにも多少その気が見えることもあるし、もしかしたらトリステイン貴族の特徴なのかも知れない。 「違います!」 「あら、では何でこんな時間に――?」 「トラゾウは―――彼は私の使い魔なのです」 ルイズの言葉に、しげしげと虎蔵を値踏みするアンリエッタ。 ――流石王女様、遠慮がありませんな――― そう思った虎蔵だが、ルイズの手前、一応黙っておいた。 なんだろう、最近大雑把になってきたかと思えば、稀に余計な気遣いをするようにもなった気がする。 「ルイズ・フランソワーズ、貴女って昔から変わっていたけれど、相変わらずなのね」 ため息交じりで呆れた様子のアンリエッタ。 嫌味にも聞こえるが、口調や表情は柔らかい。 外面は兎も角、根は悪くは無いのかもしれない。 「好きでこうなった訳じゃありません―――けど、実力は保障します。 火竜山脈のサラマンダーよりも、ウインドドラゴンの幼生体よりも、"土くれ"のフーケのゴーレムよりも、です」 ルイズもそこだけは譲れないのか、力強く言い切った。 アンリエッタはそれに頷くと「良い使い魔を呼び出したようですね」と微笑んだ。 「で、どうするよ。こんな時間に、そんな格好で一人尋ねてきたんだ。昔話だけって事はないだろ?」 虎蔵はソファーにゆったりと座ったまま声をかけた。 ルイズは「姫殿下になんて態度を取ってるのよ!」と顔を赤くするが、 アンリエッタは多少気を害した様子を見せながらも表情と雰囲気を切り替えた。 真面目な話のようだ。 「構いません、ルイズ・フランソワーズ。確かに彼の言うとおり。私は昔話だけをしに来たわけではありません。 そして使い魔さん、貴方も同席なさい。主と使い魔は一心同体。これから話すことは、貴方にも関係することになります」 要約すると話はこうだ。 アルビオンという国でクーデターが起こり、どうやら成功しそうであるらしい。 クーデターが成功した場合、その国とトリステインはほぼ確実に敵対するが、現在のトリステインの軍事力では対抗できない。 そこで、彼女がゲルマニアの王と政略結婚をすることになった。 だが、その政略結婚を行うに当たって致命的な障害になりえる手紙をアルビオンの皇太子が持っており、 クーデターが成功する前にそれを返してもらわねばならない。 しかし彼女の臣下、トリステインの貴族たちを当てにするのは、アルビオンのクーデター派と内通している可能性が否定できず、リスクが高い。 そこで彼女は信用できる人物としてルイズを頼りに来た、と。 「このような"お願い"をすることは、本当に恥ずかしいと、情けないと思っています、ルイズ。 貴女の友情を利用しようとしているのです。軽蔑してくださっても構いません」 寂しげな様子で目を伏せるアンリエッタ。 ルイズはゲルマニアに嫁ぐという話が出たところでこそ憤慨していたが、今は何も言うことが出来ない。 「そしてこの"お願い"を成功させたとしても、公に褒美を与えることは出来ないでしょう。 またしても貴女に何の称号も与える身とは出来ないのです。 ですが―――ですが国のために、国民のためにはどうしてもあの手紙を安全に、確実に返して貰わなければならないのです」 《破壊の杖》奪還時の《シュヴァリエ》授与の申請が却下されたことは既に聞いている。 ルイズは複雑そうな表情で虎蔵を見た。 気持ちとしては引き受けたいのだろう。 そんな様子が見て取れる。 だとすれば、虎蔵が取る反応はフーケの時と同じだが、 「クーデターの――戦争の真っ只中に乗り込むんだ。それなりの覚悟はあんだな?」 とだけは告げた。 大規模な戦闘に巻き込まれれば、虎蔵といえども絶対に守りきれるとも限らない。 そして、戦争という狂気を目の当たりにする可能性もあるのだ。 ルイズは彼に頷いた。 ―――本当に覚悟があるとは思えんが、まあ良いか―― 虎蔵はルイズを見てそう思うが、わざわざこの場で口にすることもあるまい、と口を噤んだ。 ルイズはそのお願いを引き受けるためにアンリエッタの前に跪こうとしたが、それはアンリエッタ自身によって止められる。 「これは命令ではありません、ルイズ。友達へのお願いなのです。 こんな酷いお願いをする私を、まだ友達だと思ってくれるのならばですが――」 「はい、姫様。お引き受けいたしますわ。友達の、それだけの決意を含んだ頼みごとですもの」 ルイズは立ち上がり、アンリエッタの手を両手で包み込んで、 「私とトラゾウに任せてください」 と微笑んだ。 虎蔵はそれを見るとソファーへと立ち上がり、ドアへと向かうと、 「さて、と―――んじゃ後は―――こいつ如何するよ」 と言って行き成りドアをあける。 すると、「うわぁっ!?」と情けない悲鳴を上げて倒れこんで来たのは、 虎蔵に敗れて以来プレイボーイとしてのなりがすっかり身を潜めた《青銅》のギーシュであった。 「此処までで結構です」 アンリエッタは足を止め、振り返る。 あの後ギーシュへ事の説明を終え、ルイズの命で虎蔵が送っている最中だ。 虎蔵がへいへいと適当な様子で答えると、やはりムッとした様子だが、ふぅっとため息をついて口を開いた。 「使い魔さん。いえ――トラゾウで良かったかしら?ルイズは根は優しいのですが、 魔法が使えずに苛められていた事もあって少し素直ではない所があります。 ですが、そのルイズが貴方に決定を委ねるかのような視線を送って居たということは、 よほど深い絆で結ばれているのでしょうね。 少し、羨ましく思います。私には、其処までの忠臣がおりませんもの」 虎蔵はさよか、肩を竦めて先を促す。 彼女の身分であれば、色々と思う所もあるのだろう。 「ですから、改めて王女としてではなく、ただのアンリエッタとしてお願い致します。ルイズを守ってあげてください」 アンリエッタが真剣な表情で告げると、虎蔵はぽんぽんと頭を撫でては、「そいつが使い魔の仕事だからな」と言って踵を返すのだった。 「本当に不思議な使い魔だこと。時と場合によっては不敬罪だわ――」 アンリエッタの呟きだけが廊下に残った。
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前ページ次ページ日本一の使い魔 決闘騒ぎは貴族の子弟たちにっとって意外な形で幕を下ろした。 「なんだったんだアレは?」 「あいつレビテーション もフライも使わないで、火の塔から飛び降りたよ な?」 キュルケとタバサも何が起きたのか話をしていた。 「ねえタバサ、あれってケンよね?」 「あの人は、さすらいのヒーロー快傑スバット。そう名乗った。」 「魔法も使わずにアレって反則なんじゃ、、、」 「魔法、、、『お約束』、、、」 学院長室でもオスマンとコルベールが、あれやこれやと話をしていた。 「なんじゃったんじゃアレは?」 「私にも何がなんだか、、、」 「あまり触れてはいかん気がするしのう。」 「それにしても、遠見の鏡はどうしたんじゃ?」 「それについても解らないのですが、遠見の鏡はそうせざるを得なかったとし か。」 「ふむ、謎じゃのぅ。しかも彼がガンダールヴであるという確証は得られなかっ たしのう。もし、アレがガンダールヴのルーンの効果による物とすれば、動きに どこかしらの不慣れが出るものと思うが、しかしアレはさも当たり前のように振 舞っておったし、あの赤い服が何か関係があるのかのう。」 「いずれにしても、調査は必要と言う事でしょうか、、、」 「あの服、どこかで見た事あるような気がするのじゃが、、、」 噂話の中心、早川はと言うと、自分の体の変調について考えていた。 「(いくらズバットスーツを着ているとは言え、あの人形を吹き飛ばすつもりで ズバットの鞭を振るったし、本気とは言えない威力で放ったズバットアタックで 人があそこまで吹き飛ぶとは。しかも妙に気持ちが高ぶった。何だったん だ?)」 ---ズバットスーツ--- 早川健の親友である飛鳥五郎が、設計・開発した宇宙探検用強化スーツ そのスーツをベースに早川が亡き飛鳥の意思を継ぎ完成させた強化服。 通常の何倍もの怪力を生み、防御能力もかなり高い。 10トンの重量に耐える特殊スチール製の鎖を引きちぎり、実験でズバットスーツ を鉄の棒で殴れば鉄の棒がひん曲がる程の防御力を持った強化服。 -------------------- 早川が部屋に戻ると、そこにはルイズが仁王立ちで睨んでいた。 「色々と言いたい事あるけど、アレは何?」 「なんの事でしょ?」 自分の正体が周りにバレているにも関わらず、とぼける早川。キレるルイズ。 早川は踵を返し、部屋の外に ハヤカワはにげだした しかしまわりこまれてしまった 「あんたが、ギーシュのゴーレムにボコボコにされちゃったと思ったらいなくて、 いきなりあの『ずばっかー』に乗って現れたと思ったら変な服着てて、 あっと言う間にやっつけちゃって、、、」 言葉につまるルイズ、見ると泣いている。 観念した早川は、ズバットスーツ、ズバッカー、そして亡き親友について語る。 「飛鳥五郎という親友がいた。優秀な学者だった。飛鳥が宇宙、、、宇宙ってい うのは空のずっとずっと上の場所さ。その宇宙を探検する為に設計した身体を強 化する服、そして乗り物。そいつを俺が完成させた。」 「ねぇ、親友だったって喧嘩でもしたの?」 「死んじまったのさ。ウジ虫に殺されちまった。俺は飛鳥を殺した奴に復讐を誓 った。飛鳥が残したズバットスーツ、ズバッカー、俺はあいつと一緒にあいつを 殺した奴に復讐する為犯人を捜している。」 キザで明るく、何でも器用にこなし、皮肉屋で、でも憎めない自分の使い魔の影 の部分、笑顔の裏が垣間見えた。そして一つの考えが浮かんだが、慌てて自分の 中で否定した。 ・ ・ ・ ドアノブに手をかけ早川は外に向かおうとする。ルイズは自分の使い魔がどこか に行ってしまうと思い慌てて追いかけようとする。 早川はニコっと笑い、テンガロンハットを投げルイズの頭に被せる。 「ちょっと小腹が空いたんで厨房にでも行ってきますかね。何かいるかい?」 そう言うと手をヒラヒラさせて出て行った。 早川が厨房に到着する。料理長のマルトーは顔を輝かせ、 「見ていたぞ~、カッコ良かったぞ~、我等の鞭! 」 「ヒュンと飛んで、ズバ、ズバ、ズバっと鞭を振るって、こうやって」 他の給仕に聞く所によると、マルトーは貴族や魔法が大嫌いらしい。 それでこの興奮である。まるでテレビの前のチビっ子のように。 「マルトーさんよ、ちょいと小腹が空いたもんで」 早川が言い切る前にマルトーは更に顔を輝かせ、 「俺の作った飯を我等が鞭は食いに来てくれたってのか。」 貴族の夕食よりも豪華な食事が並んだという。 しきりにマルトーがこっちを見ている。苦笑いを浮かべて食事をしていると、 シエスタがやって来た。 「ケンさん、あの時は逃げちゃったりしてすみませんでした。」 「気にしなさんな。怖かっただろ?だがもう安心だ。」 逃げた事を気にし、うつむくシエスタの頭をなでて微笑む。 「はい、ケンさんが守ってくれるので安心です。ありがとうございました。」 頬を染めるシエスタに手を広げ肩をすくめる。マルトーがニヤニヤとこっちを見 ている。一通り食事を済ませ、ルイズの分にと取り分けて貰った食事を手にし立 ち上がる 「ごちそうさん。さてと、帰るとしますか。」 立ち去る早川に向かい、マルトーが慌てて尋ねる。 「もう帰っちまうのか?お、俺の料理はうまかったか?」 早川は振り向かずに 「泣き虫のご主人様を待たせてるんでね。マルトーの旦那、あんたの料理の腕、 日本じゃ、、、」 立てた2本指の中指を曲げ、 「1番かもな、うまかったぜ。じゃあな。」 前ページ次ページ日本一の使い魔
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反省する使い魔! 第十三話「土の略奪●雷鳴の起動」 「ねぇタバサ、あなたはどう思う?」 「………?」 食事を終え、ルイズに付き添って医務室にいるキュルケとタバサ。 メイジの女医師に音石からもらった金を支払い、 治療をしてもらっているルイズの後ろで キュルケがタバサの耳元で、ルイズに聞こえないように呟いた。 「……何が?」 「オトイシの『アレ』の事よ」 『アレ』とは言うまでもなく 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のことである。 「彼の能力のこと?」 「そうよ、あたりまえでしょ? あららァ~、それともなにィ?もしかして変の意味で考えちゃったァ~?」 「………あなたと一緒にしないでほしい」 「ふふっ、それもそうね。そう睨まないで頂戴 それで、どう思う?」 「………どう、とは?」 「なんでもいいのよ、いろいろと疑問はあるでしょ? いくつか聞かせてくれるだけでいいの、 わたしも考えたんだけどさァ~、 いろいろと疑問が多すぎて逆にサッパリなのよ」 ある意味キュルケらしいとタバサは思った。 次にタバサの口から小さくやれやれと溜め息が出る、 なんでもかんでも自分に意見を求めるのはキュルケの悪い癖だ。 でもそれはそれでキュルケらしいと、妙に納得もいった。 そしてそんな親友キュルケの為に、頭の中で疑問点をまとめる。 「彼は……ただの平民じゃない」 「そりゃそうよ、あんな強い亜人を操れる彼が 『ただ』の平民だったら、私たちメイジの立場がないわ! あ……でも、それならあの亜人は一体何なのかしら? やっぱり、あのギターって楽器がマジックアイテムになってるのかしら?」 「………たぶん、ちがう」 「どうしてそう言い切れるの?」 「正直言うとこれは勘。でも少しだけ思い当たるところはある。 以前彼自身もマジックアイテムを使っていると言っていた でもあれはたぶん嘘、態度があまりにも素っ気無かったし それに彼が『能力の正体がマジックアイテムを使っている』と すんなり答えたところがとてもひっかかる」 「…確かに、彼の性格から考えてそんなに自分の能力の秘密を すんなり他人に教えるなんて奇妙で不気味ね…… でもじゃあそれって………」 キュルケが顎に手をあてて考える仕草をとる。 そしてそんなキュルケの考えを予想できたタバサは 彼女のために結論を口にした。 「あれは……マジックアイテムとも……魔法ともまるで違う わたしたちの常識を遥かに超越したナニか」 「……もしかして、未知の先住魔法とか?」 「それも考えにくい、彼はエルフには見えないし そもそもあの亜人には、魔力の流れを感じなかった」 「そう…よね…、ギーシュとの決闘のときは 距離があったからわからなかったけど、 昨日の戦いでは彼と彼の亜人のすぐ傍に私いたけど そんな感じ全然しなかったわ………」 なにやら更なる疑問が増えてしまった気がして、 キュルケは両手でわしゃわしゃと頭を掻き回した。 「あァーーもうッ!わっかんないわねぇ!! 一体彼って何者なのよ!!」 「病室では静かに!!」 (まったく、仮にも貴族がなにやってんだか…) 後ろで突然叫んだことで、医務室の専属メイジに 元気よく怒鳴り怒られたキュルケにルイズは胸の中で溜め息をついた。 【ガチャリ】「失礼します」 するとキュルケたちのさらに後ろで、 医務室の扉が開く音と同じくしてモンモランシーが入ってきた。 「あら、モンモランシーじゃないの 一体どうしたのよ?熱でもあるの?」 「はァ?な、なんでそうなるのよ?」 キュルケの挨拶に続いた質問にモンモランシーは首を傾げた。 しかしキュルケは別に皮肉で言っているわけじゃない。 本当にモンモランシーを心配して質問したのだ。 なぜなら………、 「だって…あなた顔すっごい赤いわよ?」 「え、ええぇッ!!?」 モンモランシーはすぐさま両側の頬っぺたに手を当てた。 ………熱い、とても熱い。熱と勘違いされて当然の熱さ。 原因はわかってる、わかってはいるけど…… まさかここまで自分は顔を紅くしているとは思わなかった。 そんな自分の顔をルイズたちがまっすぐ見ている。 実際は純粋にクラスメイトを心配している視線なのだが、 モンモランシーはそんな視線をとても直視できなかった。 「ちょ、ちょっと!ひ、ひ、人の顔をまじまじ見ないでよ!?」 くるり、っとモンモランシーは顔を隠すために体ごと後ろを向いた。 しかしそこに最高のタイミングで…………、 【ガチャリッ】「よー、ルイズいるかァ?」 「キャアアアアアアアアァァァァァッ!!!??」 「おわァッ!!?」【ビックゥッ】 原因である男、音石明が入ってきた。 モンモランシーの壮大な絶叫が鳴り響く。 当然この後、医務室専属メイジに 「病室では静かにッ!!!」 とキュルケと同じように怒鳴られたのは言うまでもない。 まあこの医務室専属メイジ自身もけっこう大概のような気もするが……… 「てめぇ一体どういうつもりだァ? 俺が日頃大音量に慣れてるギタリストじゃなかったら 今頃耳の鼓膜がブチ破れてるぜ!」 「あ、あなたがいきなり現れるからいけないんでしょう!?」 「てめぇの頭は間抜けかァ? ついさっきまで一緒にここまで来たんだから当たり前だろーが!!」 また怒鳴られないために結構セーブした声で音石がモンモランシーに抗議する。 ついでに言うとこの医務室は貴族専門で、 給仕以外の平民は立ち入り禁止されている。 その証拠として、医務室専属メイジに怒鳴られた後 「ここは平民の立ち入りは禁止よ!」と睨まれたが ルイズの計らいのおかげで、 今は問題なく医務室内でモンモランシーに講義できている。 そんなドアの前の二人のやり取りに、キュルケとルイズは意外そうな顔をした。 毎度のコトながら、そんなキュルケとルイズに対して タバサはいつものように本を読んでおり、 モンモランシーの絶叫の際も一切動じなかった。 「あの二人、いつの間にあんなに仲良くなったのかしら?」 キュルケの口から当たり前の疑問がこぼれた。 まあ無理もない、はたから見れば実に奇妙な光景だ、 外見的にも十分奇妙。 顔に古傷を持ち、学院の女子生徒にも引きを取らない長髪の男。 ロールヘアーと大きなリボンとロール頭が特徴的な少女。 絵になってるようでなってないような組み合わせだ。 当然外見だけじゃない、その人間関係的にも実に奇妙。 方や不思議な能力を使い、この学院の生徒一人を半殺しにし、 生徒たちの間でお尋ね者扱いされているなぞが多い男。 方やその半殺しにされた生徒の恋人関係にあった香水の少女。 『奇妙』、実にシンプルにひと言である。 そんなひと言が、この二人にはとてもよく似合っていた。 「で?ふたりして一体何しに来たのよ? しかもオトイシ!なんであんたがモンモランシーと一緒にいんのよ!?」 「治療してもらったばっかなんだろルイズ? 傷が治ってすぐにそうカッカすんなよ、気分がダルくなるぞ?」 (誰のせいだと思って………!!) ルイズが心の中ではき捨てた。 彼女からしてみれば、自分の使い魔が よその女の子(しかもクラスメイト)と仲良くしているのは あまりいい気分ではない。 普段こういう感情の対象はキュルケだと相場が決まっているが、 とうの本人は奇妙な事に音石に対して そういうアプローチは今のところ一切していない。 おそらく二日前、音石がキュルケの部屋から出てきたあのとき 自分の知らないなにかがあったのだろう…… 少なからず、キュルケを人間的に変えるなにかが……。 「でもまあ勘違いすんなよルイズ おれはお前らが医務室にいると思って様子見に来たんだよ でも肝心の医務室の場所がわかんなかったんだが そこをこいつが親切に案内してくれたっつ~なりゆきよ~」 「そういうことよ、変な勘違いしないでよね まったく、これだから『ゼロ』のルイズは……」 「だれが『ゼロ』よ!!」 「たくっ、お前ら二人そろってカッカしてんじゃねぇ! また怒鳴られちまうだろうがッ!! まったく、ルイズの性格考えて、変な勘違いして怒らねぇように わざわざわかりやすく簡潔に説明してやったってのによぉーー、 これじゃ無駄骨もいいとこだぜ……… モンモランシー!頼むからルイズをしょうもねぇことで 怒らせんのはやめてくれ、ルイズが怒りのまま爆発起こして その後片付けっつー二次被害受けんのは俺なんだぞ!? ルイズもルイズだぜぇ~?いちいち相手の挑発にのるようじゃ 周りが見えなくなって、おまえ自身が一番損する羽目になるぜぇ?」 「「…………………う~~…」」 ルイズとモンモランシーは小さな唸り声をあげる。 (普段の俺ならこういううっとおしい状況はとりあえずギター響かせて 押し黙らせるんだが……、まあ場所が場所だしな… てゆーかよ~、他人に説教すること自体俺らしくもねぇな 他人に説教できるほど立派な人間ってわけでもねぇぞ俺) いろいろと呆れた仕草を音石は髪を掻くことで表した。 「そうよ、よく考えてみればこんなことしてる場合じゃないわ! え~~とっ【ガチャリッ】……………あれ?」 モンモランシーがルイズたちを通り過ぎると、 医務室に設置されてあるいくつかの扉のうち、 手前から二番目の扉を開いた。しかしその扉の先には、 窓から太陽の光に照らされた高級そうなベッドや 棚などの家具が置いてあるだけで そのベッドにもその部屋にもだれもいなかった。 (さすが貴族の学校の医務室だぜ この医務室だけでもこんなに豪華な個室が設置されているとは。 個室ひとつひとつがまるで高級ホテルの宿泊部屋だぜ、 なんだってたかが医務室にこんな無駄な作りするかねぇ~~~) 音石がその無駄に豪華な医療用個室にも呆れるが モンモランシーはなぜか少し混乱していた。 しかし、モンモランシーのその混乱の正体を察した 医療室専属メイジがモンモランシーを助けた。 「ああ、ミスタ・グラモンなら一番奥の部屋ですよ」 「え?ですが前はここに………」 「なんでも『奥のほうが静かで落ち着く』だそうです それで今日の朝、部屋を移したんです」 「あ…、そういうことですか。ありがとうございます」 トテトテとした足どりでモンモランシーは 医務室の一番奥の扉に向かっていった。 こう見ると扉まで意外に距離があった。 音石がそんなモンモランシーを眺めていると モンモランシーはそのまま扉をノックし、個室の中へと入っていった。 するとルイズが急に音石の上着の袖を引っ張ってきた。 「なんだよ?」 「はいこれ、言われたとおり残りは返すわ」 手渡されたのは彼がルイズに託した金貨が入った袋だった。 音石が中身を確認すると、まだある程度の量は残っていた。 「はっ、意外だな」 「…なにがよ?」 「自分でもわかってるくせに聞くなよ、俺を試してんのかァ?」 使い魔の責任は主人の責任、主人の責任は使い魔の責任。 これがメイジと使い魔の間での鉄則だ。 音石が言う意外とは、 『使い魔のものは主人のもの』という理由で ルイズが金を没収してこなかったことに対してだ。 「フフフッ、でもルイズの気持ちなんとなくわかるわ、 わたしだって仮にオトイシが使い魔だったら同じことしそうだもの」 「どういうこった?」 「あなたがそれだけ『特別』だってことよ 使い魔らしくないって言ったほうが正しいかしら?」 「あー…、なるほどな」 音石が袋を懐に仕舞う。 『特別』―――――――、たしかに音石は『特別』だろう。 使い魔らしくないというのもそのまま的を射ている。 サモン・サーヴァントで前例のない召喚された人間。 『忠実』とまで主人に従わない使い魔らしくない使い魔。 不思議で奇妙な『特別』な能力・スタンドを扱う人間。 その上、そんなスタンド使いのなかでも あの『弓と矢』を手にしていた『特別』なスタンド使い。 ここまで特別だとかえって清々しいものだ。 その特別のおかげで、ルイズは本来の使い魔の扱い方を 特別な音石に同等に扱うのが滑稽に感じているから すんなりと金を返してくれたのだ。 (ん?まてよ………) 袋を懐に仕舞い終え、上着から手を出したときに 音石はあることに気がついた。 医務室専属メイジが口にしたとある名前だ。 「ミスタ・グラモン?おいおいおい、 それって俺が決闘で半殺しにしてやった小僧のことか? あの野郎、あれからだいぶ経ったのにまだ治ってねぇのかよ どれどれぇ、おれも様子を見に行ってみるか」 「あ、ちょっとオトイシッ!?」 急に奥へと向かっていった音石に ルイズは驚いて声をかけたが、 音石はそれを無視しモンモランシーの後を追った。 (ふっふっふっ、ベッドで安心して寝ているところに 寝かした理由の張本人が突然現れたら…………… ギヒヒッ、あいつ慌てふとめくぜ!) 早い話タチの悪い嫌がらせである。 22にもなるいい歳した大人なのに どうもこういう子供じみた嫌がらせをするのは どちらかというと音石本来の性格の悪さにあるのだろう。 【ガチャリ】「おらァ、入るぜ」 ノックもせず、モンモランシーが入っていった個室のドアを開ける。 部屋の構造は最初の個室と大して変わらず、 中央の壁際にベッドが置いてあり、窓がひとつ、 ドアの近くに花瓶がのった小さな机と椅子。床にしかれた絨毯。 どれもこれもが気品溢れる豪華な代物だった。 そしてその豪華なベッドの上で横になっている ギーシュが入ってきた音石を見た瞬間 顔を蒼白にし、全身がガタガタ震え始めた。 そしてその音石もギーシュが自分に完全に恐怖する様を見て 気分がいいのか、悪どい笑みを浮かべはじめる。 「ようクソガキ、思ったより元気そうじゃねぇか さすが魔法だな。あれだけぐちゃぐちゃにしてやったってのに たった数日でほとんど治ってるじゃねーかァ。ええおい?」 「き…き、き、き、君は!? な、な、なぜ!?き、き、きみがここにィ!!?」 ギーシュの体は魔法の治癒のおかげで音石の予想以上に回復していた。 半殺しにされた当初こそは、バイクで事故って間もない墳上裕也を 余裕で上回る包帯やギブスなどでの施されようだっただろうが 数日経った今となっては片手と片足を包帯でぶら下げているだけの この世界の治癒の魔法の凄さを思い知らされる傷の治りようである。 「ちょ、ちょっとオトイシさん!? 一体なんのつもり、きゃあっ!?」 モンモランシーが二人の間に割って出ようとしたが 音石がすかさずモンモランシーの腕につかみかかり 彼女を自分の傍に引き寄せ、彼女の耳元で話しかけた。 「べつになんもしやしねぇよモンモランシー ちょっとばかしからかってやるだけさ」 普段のモンモランシーならそれでも止めに入るだろうが 今の彼女の状況が彼女をそうさせないでいた。 その状況というのが………、 (か、顔が!……あわわ、か、か、顔が近い……) そう、モンモランシーの耳元で呟く必要があったため 二人の顔の距離が必要以上に接近しているのである。 それこそ、鼻息の生温かさまで感じ取れる程の ウェザー・リポートといい勝負であった。 しかもモンモランシーは異性にここまで顔を近づかれた経験など ギーシュのときですらなかったため、 モンモランシーの顔にどんどん赤みがかかっていく。 【ボォンッ!】 そしてとうとうその赤みが限界値に達したのか モンモランシーの頭の上で小さな噴火が起こり、 次に湯気が立ち昇り、彼女はそのまま硬直してしまった。 立ったまま赤面で硬直してしまったモンモランシーを通り過ぎ 音石はさらにギーシュのベッドに接近した。 「ぼ、ぼ、僕をどうするつもりだッ!?」 ギーシュはこのとき、 自分をこんな目に合わせた元凶に対する恐怖のせいで その元凶に対するモンモランシーの態度の異変に気付かないでいた。 まあその元凶本人もモンモランシーの態度に気付いちゃいないが…… 「さてなァ…、どうすると思うよ?」 ギーシュの恐怖からくる冷や汗と心臓の鼓動が増す、 普通なら平民が貴族に対して手を出すことは絶対的なタブーだ。 今だってそうだ、互いの承諾の元で行われる決闘とはワケが違う。 だが目の前の男は…………『例外』すぎる!! 平民でありながら自分を凌駕したチカラを使い、 平民でありながら自分をここまでボコボコにした例外者である。 (ま、まさか……こんな大怪我で動けない僕を さらにボコボコにする気かァーーッ!!?) ギーシュはあわてて枕元においてある 自分の杖の薔薇に手を伸ばした。 しかし虚しいことに、その伸ばした手は薔薇を掴むことはなかった。 なぜなら薔薇を掴む寸前に、音石に横取りされてしまったからである。 「おいおい、物騒なことすんなよなァ~~ ここは医療室だぜ?静かにしねぇと駄目じゃねぇか 俺みたいに、ここ担当してるメイジの女に怒られちまうぜ?」 希望が奪われたことにギーシュは泣きそうになった。 いや、これから泣かされるのだろう。 できればその程度であることを願った。 「へ、平民の君が貴族である僕に手を出したらどうなるか わかっているのか!?決闘のときは運良く問題にならなかったが 今回はそうはいかないぞ!?君がどれぐらい強くても 世界中のメイジが君を追い、間違いなく処刑するぞッ!?」 ギーシュの混乱した様を眺めながら 音石は内心でおおいに爆笑していた。 ギャハはァーーッ!なにもしねぇってのにバカが吠えてやがるぜ!! 音石からしてみればギーシュのその姿は滑稽でしかなかった。 包帯で手足を固定されているためベッドから動くことができず 頼みの綱であった杖も手元になく、ただ自分に威嚇するその姿、 動物園の檻の中で観客に威嚇する小動物、まさにそれである。 音石はそのまま、ギーシュの虚しい威嚇を眺めていると ある人物が部屋に入ってきた――――――。 「ちょっとオトイシ!やめときなさいよ さすがにギーシュに悪いわよ!」 治癒のおかげで完全に回復したルイズである。 音石は首だけ後ろに向け、それを確認する。 そのルイズに反応して硬直していたモンモランシーも 別の意味で帰ってきたようだ。 まあ、ルイズがそういうならここらあたりで勘弁してやるか 音石は満足そうに息を吐き、ギーシュから背を向けようとした しかしまさにその時だった。ギーシュが言葉を発したのは…… 「お、おいゼロのルイズ!! はやくこの使い魔をなんとかしてくれ!! 主人なら使い魔の管理ぐらいちゃんと【グイッ!】ひ、ひィッ!!?」 言葉の途中に音石は瞬発的にギーシュの胸倉を掴みかかった! そしてそのまま手足の包帯での固定もお構いなしに ギーシュを無理やり力尽くで自分のほうへと引き寄せた。 「おいテメェ……、マジで入院期間先延ばししてやろうか……?」 「う、……うう、…うああ…あ………」 とうとうギーシュの目から涙が溢れる。 その音石の行動にすぐさまルイズとモンモランシーが止めに入った。 「なにやってるのよオトイシ!?いくらなんでもやりすぎよッ!?」 「そ、そうよオトイシさん!さっきなにもしないって言ってたでしょう!?」 「てめぇらは黙ってろッ!!!」 【ビクゥッ!!】 音石の怒鳴り声にその部屋にいた全員がびびった! そこには先程までの年下の小僧に嫌がらせをする大人気ない姿ではなく、 なにか怒りに触れた悪鬼の如き、威圧ある姿があった。 「う、う………ゆ、許してくれ……」 涙で顔を濡らしたギーシュから謝罪の言葉が出る。 しかしその言葉は音石の怒りにさらに触れるだけだった。 「決闘の時もそんなこと言ってたなァ~~~~、ええおい? お前は謝ることしかできねぇのか?よぉ、どうなんだ小僧?」 「う………うう…それ以外なにをすれば……… お、お金が……う、う……ほしいんなら幾らでも払う……だ、だから……」 「このボケがァッ!! 金で治まるよーな問題なら俺もここまでマジになりゃしねぇよッ!! 俺が頭にきてんのはな~、てめぇがやるべきことに気付いていねぇことだッ!!」 胸倉を掴んでいた手を離し、ギーシュをベットに叩きつけた。 ギーシュは喉を押さえて咳き込みながら、 音石を恐る恐る見上げ、そして呟いた。 「やるべき……こと………?」 「……………………………」 音石は何も言わず黙り込んでいる。 聞かずとも自分で考えろ。そう示しているのだろう。 そしてギーシュは考える…………。 一体自分のなにが悪かったのだろう? 二股をしていたこと事態はあくまで自分の個人的な問題に過ぎない。 ならばその罪を無関係な給仕になすりつけたことだろうか? いや、近い気もするが一番の理由はそうではないような気もする。 考え方を客観的にしてみよう………、 一番重要なのは『目の前の男が何に対して反応した』かだ………。 ・ ・ ・ ・ ・ 『ゼロのルイズ』!! ギーシュは一気に理解した! 目の前の男はルイズを侮辱したことに怒りを表しているのだ! だが何故だ?使い魔としての本能がそうさせているのか? それとも彼の元からの性格がただのお人よしなのか? いいや、そんなものはどうでもいい!問題はそこではない!! 一番の問題は、自分がルイズを今まで侮辱し続けたことにある! 自分の誇り高き家柄、グラモン家の教訓はなんだ? 薔薇である女性を守る棘であることだろう!? それなのに自分は今まで彼女になにをしてきた!? 魔法が使えないから!?確かに彼女は魔法は使えない、 だがそれでも魔法が使えるようにと必死で努力している 事実彼女は筆記試験では常にトップだ。 ……………だからこそ尚更なのかもしれない。 魔法が使えない故に実技では常にルイズはゼロ点だ。 それに対して筆記試験では常にルイズはマン点だ。 それがものすごく気に入らなかったんだ………、 ゼロに嫉妬している自分に苛立ちを覚えてしまっていたのだ。 自分だけじゃない、ほとんどのクラスメイトがきっとそうだ。 だからみんなルイズを罵倒したのだ、見下していたのだ、 侮辱していたのだ、『ゼロのルイズ』と……………。 刹那、個室の外の廊下から足音が聞こえてきた。 このタイミングでやってくるような人物は大体予想できる。 扉が開かれる、予想通り医務室専属のメイジの女性だ。 「一体なんの騒ぎですか!?」 「え……あッ!?い、いえ!これは………その…事情がッ……」 ルイズは焦った、自分の使い魔がまた同じ生徒相手に しかも重症の状態で暴行を働こうとしたなどと 学院側に知られたら今度こそ退学になる恐れがあったからだ。 なんとか誤魔化そうとルイズが必死で思考を廻らせる。 「……いいえ、なんでもありませんよ」 ルイズは自分の耳に届いた声を疑った、 何を隠そう、その声は間違いなくギーシュの声だったのだ。 「お騒がせしてすみません 急に窓から虫が入ってきたので、つい慌ててしまって……」 「む、虫ですか?」 「ご心配なく、もう追い払いましたので…… 本当に申し訳ない、ご迷惑をお掛けしてしまい……」 それならいいんですが……、と言い残し そのメイジの女性は扉を閉め、部屋を後にしていった。 足音が遠退いていくにつれ静寂が部屋を支配する。 しかしその静寂のなか、ギーシュは深く息を吸い、目を閉じた。 そして静かに吸った息を吐き捨てると、開いた彼の目はルイズを見た。 「な、なによ……?」 「ルイズ……………すまなかった……」 「………え?」 足が動けないせいで ベットの上で横になっている状態の体を精一杯前に傾け ギーシュはルイズに向けて頭を下ろした。 「僕は、いままで君に酷い事をしてきた…… だが今更僕がなにを言ったところで、言い訳にしか感じないだろう いままで君に対しての侮辱してきたのは事実なんだからね…… だが一言、これだけは言わせて欲しい………、本当にすまなかった」 「ギーシュ………」 モンモランシーから彼の名が零れた………。 ルイズ自身もどこか複雑な表情を浮かべながら、 何を言うべきか考えているといったところだろう。 (ここまでくりゃあ、後はこいつら自身の問題だな せいぜい達者にやんな、時間はたっぷりあるんだからよ) 自慢の長髪をなびかせながら、音石は静かにその個室を後にした。 医務室を出る途中にキュルケたちに何があったのか質問されたが、 音石は「でけぇお邪魔虫が部屋を出て行ったんだよ」とだけ述べ 扉を開き、そして閉め、医務室を後にしていくのだった…………。
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わたしはヴェルダンデを押し退けようとするがビクともしない 一陣の風が舞い上がり、ヴェルダンデをふきとばした 「誰だッ!」 ギーシュが激昂してわめいた 朝もやの中から、長身の貴族が現れた。あれはワルドさま 「貴様、ぼくのヴェルダンデになにをするだー!」 ギーシュは薔薇を掲げるが、ワルドさまも杖を抜きギーシュの造花を散らす 「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。 きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、 一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」 ワルドさまは、帽子を取ると一礼した 「納得できねえな」 プロシュート!? 「姫さんは誰にも話せないってんでルイズに言ったんだろ、どういう事だ?」 「それは、おそらく僕がルイズの婚約者だからだと思うんだ、姫殿下も 粋な計らいをしてくれる」 「ルイズそれは本当なのか?」 プロシュートが顔に汗を浮かべながら質問してきた 「ええ、ワルドさまは両親同士が決めた許婚よ」 「マジかよ・・・・・」 プロシュートが信じられないって感じで呟く まあ・・・『ゼロ』のわたしには勿体無いくらいの人だしね わたしが立ち上がると、ワルドさまは、わたしを抱えあげた 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 「お久しぶりでございます」 ワルドさまはとても嬉しそうだ。十年ぶりかしら・・・ 「相変わらず軽いなきみは!まるで羽のようだね!」 「・・・お恥ずかしいですわ」 「彼らを、紹介してくれたまえ」 ワルドさまは、わたしを降ろすと帽子を被り直し言った 「あ、あの・・・、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のプロシュートです」 わたしが交互に指差すと、ギーシュは深深と、プロシュートはつまらなそうに 頭を下げた 「きみがルイズの使い魔かい?人とはおもわなかったな」 ワルドさまはきさくな感じでプロシュートに近寄った 「僕の婚約者がお世話になっているよ」 「そりゃどうも」 プロシュートが素っ気無く答える ワルドさまが口笛を吹くと、朝もやの中からグリフォンが現れた 「おいで、ルイズ」 ワルドさまはわたしの手を引くとグリフォンに跨り、わたしを抱きかかえた 「では諸君!出撃だ!」 頭の中に声が聞こえてきた お忍びっつってる側からデケぇ声で出撃だぁ?この野郎、ふざけてんのか? ワルドさまの軍人としての振る舞いにプロシュートは我慢出来ない様だ 確かにコレ、お忍びの重要任務よね・・・ ワルドさまに気をつける様に頼む? 笑い飛ばされるだろうか・・・ 気分を悪くするだろうか・・・ プロシュートに気にしすぎと言う?・・・ 無茶苦茶怒るわね・・・きっと どうする・・・どうする・・・どうする、ルイズ? よしっ、決めたわ! 聞かなかった事にしよう!
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前ページ次ページ死人の使い魔 第二話 翌朝、目覚めたルイズは寝ぼけながらみたグレイヴに驚いた。 一瞬、何故部屋に死体がなどという考えが頭に浮かぶ。 そんなルイズの考えを知ってか知らずかグレイヴも目を開ける。 私が起きたのがわかったのかしら? 着替えながらそんなことを思う。手伝ってもらうという考えも 浮かんだが、彼をみるとそんな気持ちなどなくなる。 昨日寝る前に家事をさせてみようかなどとも考えていたのだが、 そんなものは似合わないし、自分の目の届かないところで 何かをさせるのは不安な気がした。 着替えが終わったあと改めて彼を観察する。 見た目は二十歳代の後半くらいに見える。 黒髪は肩まで伸びていて肌は浅黒い。服装も変わっている。 少なくともトリステインでは見かけない。 目に付く特徴の一つとして眼鏡もあげられる。眼鏡じたいは珍しい ものではないが、左目のレンズは 黒く、白い十字が描かれている。 伸びた前髪がレンズにかかっていることもあり左目を見ることはできない。 ただそのレンズの奥をのぞこうとは思わなかった。 その目を通るように大きな傷跡が縦に刻まれていたからだ。 もしかしたらレンズの奥の左目は無いかも。 頼んでみれば眼鏡を外してくれそうだったが、確かめる勇気はなかった。 「ついてきて」 朝の準備を終えたあと、彼に声をかける。 彼が立ち上がり鞄を手に持つ。 かなりの長身だ、そして猫背で歩いている。 それがまた多少の不気味さを出していた。 「それ持っていくの? まあいいわ、よっぽど大事なものなのね」 アタッシュケースの中身を理解せずに気軽に許可を出す。 ケルベロスがどういうものかを知っていれば 許可は出さなかったかもしれないが。 ルイズとグレイヴが部屋を出るとちょうどキュルケが部屋から出てきた。 キュルケにグレイヴのことを平民の使い魔だとからかわれる。 「なんであんたは私が、へ、平民を呼び出したのを知っているのよ」 本当は平民じゃないのにと真実を言えない悔しさを混ぜながら答える。 それにグレイヴのことは学院長とコルベール先生しか知らないはずだ。 「あら、結構うわさになっているわよ。ゼロのルイズが平民を召喚したって」 ゼロと平民を強調しながらキュルケが答える。 「昨日あなたが呼んだ箱の中身を気にしている人が結構いてね、こっそり のぞいていたらしいわよ。立派なのは入れ物だけだったわね、残念ねルイズ」 そんな言葉のあとにキュルケの使い魔の自慢が始まった。 サラマンダーでフレイムというらしい。悔しいが立派だ。 彼女の属性にも合っている。素直に認めるのはしゃくだが。 不意にキュルケがグレイヴに名前を尋ねた。 「あなた、お名前は?」 「……………………」 答えはない。 あわてて答える。 「彼グレイヴっていうの、それと喋れないの」 キュルケは驚いた顔をしたあと、残念ねと言い、 お先に失礼と サラマンダーを連れて去っていった。 「なによあの女、自分がサラマンダーを召喚したからって」 一人で愚痴る。グレイヴは相変わらずだった。 食堂に着きグレイヴに声をかける。 「そういえばあんた何を食べるの?」 人と同じもの?それとももっと別の何かだろうか? そもそも食事は必要なのか? とりあえず隣の席に使用人用の食事を用意してもらっている。 その席にグレイヴを座らせるが食事をする気配はなかった。 「喋れないのって本当に不便ね」 私の言っていること理解しているのかしら? たまたま従っているように見えるだけで実は、 意志の疎通はできていないのではと不安になる。 授業が始まる前ミセス・シュヴルーズがグレイヴについて指摘したせいで、 またゼロのルイズだの平民の使い魔だのとからかわれた。 からかった生徒に反論しながら思う、彼はただの平民じゃない! と。 彼が喋れて自分の正体を説明できれば、きっとゼロの二つ名も 平民の使い魔という評価も返上できるのに。 ミセス・シュヴルーズが騒ぎを収め授業を始めた。 先生の『錬金』の授業を聞き流しながらグレイヴのことを見る。 私は魔法を使えない。正確には使おうとすると爆発が起きる。 そのためゼロと呼ばれているのだがその分、いやそれ故に 座学のほうは頑張っているのだ。今日の講義も予習は済んでいる。 そもそもグレイヴは何者なんだろう? ミスタ・コルベールが言うには魔法以外の技術で作られた ガーゴイルらしいが、実際はどうなんだろう? 案外ただの平民だったらどうしよう。 などと考えていたらいつの間にか授業は終わっていた。 その日のコルベールは興奮していた。まだ触れたことのない未知の技術、 それも非常に高度な。その技術に触れることができるのだ。 そのための準備は昨日のうちにしておいた。といってもトレーラーを 自分の研究室の近くに運んだだけなのだが、それが非常に大変だった。 タイヤがついているからと馬でひいてみたが 馬ではひけないくらい重く、 学院の教師達に応援を頼みやっと運んだのだ。 はやる気持ちを抑えトレーラーに乗り込む。 やはり素晴らしい。 目を輝かせながら中を調べ始めるのだった。 昼食の時間になりグレイヴと食堂に向かうルイズだったが、 ふと思いついたように言う。 「あんた食事はいらないんでしょう?」 うなずくグレイヴ。 「なら部屋で待ってなさい。あとで迎えにいくから。部屋まで一人で帰れる?」 再びうなずき、グレイヴは部屋の方へ歩き出した。 一人で行動させるということに多少の不安はあったが、部屋に戻るくらいは 大丈夫だろう。 食堂にいて何も食べないのは不自然だ。周囲の人にとって彼は ただの平民なのだから。 食事が終わりデザートを食べているが、またグレイヴのことをぼんやりと 考えていた。 最後の一口をというとき、何やら後ろが騒がしかった。少し耳を傾けて みるとギーシュが一年生の女子と揉めているらしかった。 頬をひっぱたく音が聞こえたが、ルイズにはどうでもよかった。 最後の一口を食べながら再び考えに沈む。ふと目をやるとギーシュが モンモラシーに 頭からワインをかけられていた。 そのあとギーシュの友人らしき人物がギーシュに謝っているのが見えた。 「すまないギーシュ、壜を拾ったばかりに」 心底どうでもよかった。 デザートを食べ終えたのでルイズは食堂をあとにした。 ルイズがグレイヴを迎えにいくとグレイヴが部屋の前に 立っているのが 見えた。 もしかして扉開けれないのかしら? そこで気づく、鍵をかけていたことに。 でも鍵がかかっていたなら私のところに来ればいいのに。 しかし扉を開けようとして開かずに立ち尽くすグレイヴを 想像して、少し可笑しくなった。 よく見れば少し不機嫌なようにも見える。 部屋の鍵くらい持たせていいかしら? 食事のたびに部屋の前で立たせるのは可哀想な気がした。 言うことには素直に従うし、鍵くらいなら渡してもいいだろう。 あまり考えずに決断する。 時間を確認すると授業にはまだ時間があった。 ミスタ・コルベールに会いに行こうかしら。何か分かったかもしれないし。 「グレイヴ、ついてきなさい」 トレーラーの中にコルベールはいた。 朝からずっと休憩も取らずに中を調べていた。 中に入ってきたルイズとグレイヴをみて、ため息をついて言う。 「素晴らしい技術です。いったいどこで作られたのか、想像もつきません」 それからいかにこれらが素晴らしいかを興奮しながら語り始める。 ルイズには難しいことは分からなかったが、とにかく凄い ということは 伝わった。 改めてみると使い方の分からないものばかりだ。 奥のイスを見る。 あそこにグレイヴは座っていたのよね。 するとコルベールが気になることがありますと イスまで二人を連れて行く。 コルベールの顔を見ると強ばった顔をしていた。 このイスに繋がっていたパイプを覚えていますか? と尋ねられる。 このパイプがはずれグレイヴは目を開いたのだ。 記憶に強く残っている。 「私もパイプのことは記憶に残っていて調べてみました。 そうするとそのパイプの先には血液、それも恐らくですが人間の 血液がありました。彼は血液で動いているのかもしれません」 それはチェンバーと呼ばれるもので、血液を補給するものではなく、 交換するための道具だったのだが、コルベールにもそこまでは 分からなかった。 ルイズの頭の中には吸血鬼という考えが浮かぶ。 しかしその考えが聞こえたかのようにコルベールは否定した。 「元が吸血鬼という可能性はありますが、彼は吸血鬼ではないと思います。 少なくとも一般に知られている吸血鬼ではありません。吸血鬼の特徴と あまりにかけ離れすぎています」 「じゃあ、彼は一体なんなんです?」 「分からないですが、ガーゴイルのようなもので間違いはないと思います。 人の血液で動くというのがつきますが」 「グレイヴは人間を襲うんですか?」 怯えながら尋ねる。 「分かりません。ただ当分は大丈夫だと思います。 まだここに大量の血液が残っていますので。 どうやって集めたのかは分かりませんが」 ルイズには嫌な考えがというか、嫌な考えしか浮かばない。 「まあこれからも彼と付き合っていくなら、何らかの方法を考えなければ ならないでしょう」 しかしと続けまたこの技術に対する賞賛になる。 「新鮮な血液を長期にわたり保存する方法はないのですが、 これはそれを可能にしています」 血液のパックをみながら言う。 「本当に彼が喋れないのが残念です、是非とも話を聞きたかった」 ルイズはコルベールの態度が気にかかり尋ねる。 「あのグレイヴのことは恐くないんですか?」 彼は人間の血液で動く、いわば化物のようなものだ。 それなのにあまりに能天気なようにみえる。 「まったく怖くないといったら、嘘になりますがね」 少し微笑みながら言う。 「しかし私は彼に何かをされたわけではないし、 これからも何かをされるとは思えない」 でもとルイズが言う。 「言いたいことは分かりますよ、しかしですね、この技術をみてください。 血液を新鮮な状態で保存する。確かに気持ちのいいことではありません。 しかしこの技術が実用化されたら将来多くの人が助かる可能性が出てきます。 技術というのは扱う人しだいです。彼についても同じことが言えるのでは ないでしょうか?」 それを聞いてルイズは思う。 そうよ主人の私がしっかりグレイヴの手綱を握っていればいいのよ。 気持ちがかなり楽になる。 しかしそのためには人間の血液、もしくはそれに代わるものを 見つけなければならないのだ。そこで気づく。 「あのグレイヴはいつ、どれくらいの血液を必要をしているのですか?」 「分かりません」 答えはあっさりしたものだった。 「必要になったら彼が教えてくれるでしょう。量については一度目の ときに計測しましょう。あと、このことについても皆には秘密ですよ、 私も学院長にしか報告しません」 「分かっています」 うなずきながらルイズは答える。 しかし秘密ばかりが増える。 それもこれもみんなグレイヴのせいだと、少し疲れた顔をしながら 彼のほうをみる。 すごい重要な話をしていたのに相変わらずの無表情だった。 しかし釘だけはさしておかなければ。 「いい、あんたの血液に関しては私が何とかしてあげるから、 絶対、ぜ~ったいに人を襲ったら駄目だからね」 グレイヴはうなずく。 本当に分かってんのかしら。ため息をつきながら思う。 しかし正体はどうであれ、彼は私の使い魔なのだ。 私がしっかりしなくては。 再びそう強く思った。 前ページ次ページ死人の使い魔
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その日、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは娯楽に飢えていた。 タバサと二人で暇をつぶしていた彼女は、騒ぎを聞きつけると、タバサを伴い真っ先に駆けつけた。 騒ぎを見物するなら、特上席で。 そう考えた彼女は、シルフィードに乗せてもらうことにしたのだ。 タバサはお気に入りの本を読んでいた。 タイトルは 太公望書房刊「今日からあなたも漢方マスター!」(観余頭尼屠尼瑠无(ミョズニトニルン))著 である。 タバサ本来の目的の役にこそ立たなかったものの、素晴らしく実用的な本であるのは間違いなかった。 惜しむらくは、この本が数千年前に書かれたものであり、著者その人に会って話を聞けないことくらいだ。 他の誰でもない、自分の親友のキュルケの頼みだからこそ腰を上げたのだ。 そして彼女達は聞いた。そして見た。 天をも揺るがすようなエールを。 そして、素手でありながら、ついにはメイジをも倒してしまった少女の姿を。 最後の瞬間二人は思わず目を見張った。 メイドの少女が、実際の何倍にも大きく見えたのだ。 そして…… シエスタが目覚めたとき、見知らぬ天井と、心配そうにこちらを見つめている多くの視線があった。 (あれ?ここは?) 確か自分がギーシュという貴族に勝利して、歓声を受けたところまではおぼえている。 しかし、その後の記憶がない。 そこで、シエスタは近くにいた無精ひげを生やした男に声をかけることにした。 その男は、確か自分を応援してくれた男の一人であることにシエスタは気づいていた。 「あの、すいません……」 その声に気がついた男は、慌てて大きな声をあげた。 「おーい!お嬢さんが起きたぞ!!」 その声と共にルイズが、そして応援してくれていた男達が一斉にこちらを振り向いた。 無事に起き上がった姿を見たルイズは、何か言おうとして、そして言葉をなくした。 彼女が背負って闘ったものには、ルイズの名誉も含まれているのだ。 今は、照れ隠しに怒鳴る時ではない。 貴族として、感謝をする時だ。 だからルイズは行動にでることにした。 ただ、黙ってシエスタを引き寄せて、ありがとう、とささやいた。 そうして少し間時間がとまる。 男達も何も口を出さない。 今、主役はこの二人であると分かっているのだ。 その行動に呆然としていたシエスタではあるが、当初の目的を思い出した。 そこで、どうして自分がここにいるのか、そして大怪我をしていたはずなのにどうして治っているのかを尋ねることにした。 そうして、彼女達の会話が一段落したところで、今度は男たちも会話に加わることにした。 彼らのうち大半は普段女性と接触する機会がまったくなく、扱いに慣れていない。 そのため、あらかじめ飛燕が質問係として選ばれていた。 男塾一号生の中で、もっとも女性受けしそう、という理由だけでだが。 「シエスタさんでしたね。私は飛燕といいます。はじめまして。 そこにいるヴァリエール嬢の使い魔として働いているうちの一人です。」 などと、和やかに自己紹介を行った後、男達の一人一人を簡単に紹介した。 そうしていよいよ話は本題に入る。 「シエスタさん。あなたの祖父は、もしかして、大豪院邪鬼と名乗っておられませんでしたか。」 どうして祖父の名前を知っているのですか、と逆に聞き返したシエスタは気がついた。 男達がみな涙を流していることに。 不思議とその涙は美しかった。 その後、彼らは夜遅くまで話し込んだ。 彼らが祖父の後輩であると聞いた彼女は驚いた。 ただ、話しているうちに、彼らの纏う空気が祖父のそれに似ていることに気がついたシエスタは納得した。 年代が違う、世界が違う、そういった違いを跳ね除けて納得したのだ。 いつしかルイズも加わり、話は進んでいった。 彼らは、この世界に来てからの祖父の話に、時には涙を流し、時には大笑した。 一方、ルイズとシエスタもまた、彼らの破天荒な日常や戦いを楽しんだ。 そして夜がふけていった。 同じ夜、キュルケは自室のベッドで静かに横になっていた。 普段の彼女ならば、今頃恋人の一人でも自室に招いて、微熱に身を焦がしていただろう。 しかし、ここ数日はそういう気分にはなれなかった。 ギーシュと決闘したときのシエスタの姿と、まさしく全身全霊をかけて声援を送るルイズの使い魔たちの 姿が頭の中にこびりついて離れないのだ。 あれ程までに誰かを思いをぶつけることができるのだろうか。 キュルケの悩みはそこにある。 自分が今までしてきた恋に悔いはない。 全て、自分をいい女にするために必要なことであったからだ。 ただ少しだけ寂しいのだ。 (まあ、恋人ではないけどタバサがいるからいいか。) そう結論付けた彼女は、今日はタバサのところで女同士の会話でもしよう、と考えて立ち上がった。 タバサの興味は、実務的なところにあった。 具体的にはシエスタの使った真空殲風衝だ。 あの時、彼女からは魔法の力をまったく感じなかった。 (人は鍛えればあそこまでできる。) その現実に、タバサは希望を持った。 自分もあそこまでできれば、母を治す薬を取り返すことができるかもしれない。 普段のタバサなら考えないような過激な考えではある。 そう本人も自覚はしているが、止めるつもりはない。 少なくとも、希望は見えたのだから。 そこまで考えが及んだとき、部屋のドアから声が聞こえた。 キュルケだ。 そうして夜はゆっくりとふけていった。 男達の使い魔 第3.5話 完