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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ゼロのルイズの使い魔。広瀬康一のハルケギニアでの一日は、桶に水を汲んでくることから始まる。 水場で自分の顔を洗い、水を汲む。この水でルイズに顔を洗わせる。 次はルイズを制服に着替えさせるわけだが、最近ルイズは康一に手伝うように要求してこなくなった。 相変わらず背を向けて待つ康一から隠れるように、もぞもぞと着替える。何かの拍子に目が合うと、顔を赤くして怒る。 以前は裸になっても恥ずかしがらなかったのに、謎である。 朝食の頃合になると、康一はルイズからバスケットを受け取って外に出る。 最近は内容がかなり豪勢になっている気がする。 というか、ハルケギニアの朝食は総じて重いことが多いうえに、厨房のマルトー親父が「たくさん食べて大きくなれよ!」との愛をこめて、どんどん料理を豪勢にし、さらに肉をてんこ盛りにするので、康一はちょっとげんなりしてしまう。 質素でもいい、母さんが作ってくれた味噌汁が恋しい。 だから、食べきれない分は、最近仲良くなった他の使い魔たちに分けてあげることにしている。 先日タバサやキュルケを乗せていた青い竜(風竜というらしい)と偶然会った際に食べきれない肉をあげたら、他の使い魔たちもわらわらと寄ってくるようになったのだ。 最近の食事は、厨房の裏手にある使い魔たちのたまり場でとることも多い。 授業の時間は、康一もルイズに付き添って出席することにしている。 使い魔である康一は本来出てもしょうがないのだが、何気なく聞いているうちに面白くなってきたのだ。 本来は勉強が好きではなかったのだが、こちらの世界のことを少しでも知りたいという『必要性』が康一の意欲を支えていた。 「もう床はいいから、椅子に座りなさいよ!」 とルイズが言うので隣に座らせて貰っているが、他の生徒たちも何も言わない。 ただ、キュルケがタバサを連れてやってきて、康一をルイズと挟む形で座ってしまうので、キュルケに恋する男たちの視線が背中に突き刺さるのが最近の悩みの種である。 どうしても納まりきらない男が、康一に嫌味を言ってきたり、もっと直接的に侮辱してきたりすることもある。そういうときは、だいたいキュルケの合図で、フレイムがこんがりと焼いてくれる。 ただ、キュルケが居ないときに、一度数人の貴族に囲まれたことがあった。 「平民の癖に・・・」「ゼロの使い魔の分際で・・・」と詰る男たちの前に、かわりに立ちはだかってくれるものがいた。 あの決闘で因縁のあったギーシュである。 ギーシュは言った。 「ミスタ・コーイチは僕を相手に、立派に自らの実力を証明してみせた。その彼を平民と侮るなら、それは僕への侮辱と見なす!」 文句があるなら「青銅」のギーシュが相手になるぞ!そういってギーシュが見栄を切ると、男たちは鼻白んで退散していった。 所詮貴族相手に本気で対立するほどの覚悟はないのである。 康一が礼を言うと、ギーシュは照れくさそうに鼻を掻いた。 「君はこの『青銅』のギーシュに打ち勝った男だからね。その君が馬鹿にされるのが我慢できないだけさ。」 そして改めて、ルイズを皆の前で侮辱したことに謝罪した。 潔い謝りっぷりに「なんだ。以外といいやつじゃあないか。」とその謝罪を受け入れた康一は、ギーシュとそれから機会のあるごとに話す仲になった。 実は、あの鼻っ柱をへし折られた決闘の後、一気にカリスマ性を失ったギーシュを哀れに思ったモンモランシーが戻ってきてくれ、よりを戻したらしい。得なやつである。 そんな風にしてギーシュといろんな話をしていると、ギーシュの友人達とも自然と仲良くなっていった。 こうして、召喚されてから二週間もすると、康一の周りには常に人が集まるようになっていった。そして、康一の隣にはいつもルイズがいた。 それまでいつも一人だったルイズである。急にクラスメイトたちで賑やかになった学校生活に、最初ルイズは戸惑い気味だった。 しかし、みんなから好かれる康一と一緒にいると、わだかまりのあったクラスメイトたちとも自然と打ち解けることができた。 こうして一日を終え、二人揃ってルイズの部屋で寝る前には、ベッドのうえでいろいろな話をするようになった。 ルイズはハルケギニアのことを康一に教え、康一は杜王町のことをルイズに話した。 話が由花子さんの段になると、ルイズはしかめ面をして、疑わしそうな目で見た。 「あんた、前から時々恋人がいる、恋人がいるって言ってたけど、まさか本当なわけ?」 見栄張ってるんじゃないでしょうねー、と言わんばかりである。 「まさかって、まだぼくがうそついてるとか思ってたの~!?」 大仰に目をひん剥いてみせると、ルイズはなぜか目をそらした。 「・・・あんたの恋人ってどんな人?」 康一は目を閉じて、由花子さんの顔を脳裏に描いた。 すらっとした体型。整った鼻筋。きめの細かい肌。長く艶やかで、きらきらと光を放つ黒髪。そしてなによりも、あの強くまっすぐな瞳。 由花子の容姿を話して聞かせると、ルイズはどんどん不機嫌になっていった。 「男より頭ひとつ分大きい彼女なんて、似合わないわ。」 ルイズはそっぽを向いたまま、ネグリジェの裾をぎゅっと握り締めた。 「それをいうと、ぼくと付き合ってくれる女の人なんてほとんどいなくなっちゃうなぁ~。」 康一が笑うと、ルイズは口を尖らせた。 「別に・・・あんたより小さい女の子なんてそこら中にいるわよ。」 それだけ言って毛布に包まった。 「そうかなぁ~。」 康一は知り合いの女性たちの身長を思い出してみたが、自分より低い人は思いつかなかった。 こっちではタバサが自分より低いだろうが、あれは明らかに子どもだからノーカウントである。 でもルイズがこうやって毛布を被るのは、これで話を打ち切りにするという合図だと分かってきた康一も、そろそろ寝ることにした。 部屋の明かりを消す。 明日あたりオールド・オスマンに会いに行ってみようかな。 杜王町に帰る方法をそろそろ本格的に探してみよう。 そう心に決めて、目を閉じる。 静かになった部屋で、毛布から頭だけ出したルイズが、何か言いたげに見つめているような、そんな夢を見た。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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前ページ次ページ重攻の使い魔 第3話 『決闘未満』前編 ルイズが教室を爆破したことで、せっせと後片付けをする羽目になっていたその頃、トリステイン魔法学院図書館、フェニア・ライブラリ内において、一心不乱に書物を漁る人物がいた。始祖ブリミルがハルケギニアに新天地を築いて以来の、全ての歴史が納められたこの図書館は非常に広い。高さが30メイルにもなる書棚が所狭しと屹立している様は圧巻の一言であった。 その中でも、機密性の高い書物や、著された時代が非常に古く、固定化の魔法を施してなお劣化を止める事のできない書物のような、貴重な書物が収められているのがフェニア・ライブラリである。教師以外の立ち入りが禁止され、その教師ですらそうめったには足を踏み入れないエリアにて、しらみつぶしに書物を調べていたのはコルベールだった。 なぜ彼がそのように必死になっているのかと言うと、昨日ルイズが召喚したゴーレムの左拳に現れたルーンが気に掛かって仕方がなかったからである。ルーンは珍しいものであったが、スケッチを取ったその時は思い出すことができなかったのだ。その後、非常に古いルーンだということは思い出したのだが、細かいことはやはり記憶の霞の向こうにあった。 幸い今日、彼の受け持つ授業は午後からであったので、こうして朝食も取らずに日が昇る前から探し続けているのである。9時間ほど探しているのだが、中々お目当ての書物を見つけ出すことができず、昼食の時間も迫りつつある。流石に昼食まで抜くわけにはいかないため、後1冊調べて駄目だったら明日に回そうと最後の書物を手に取り、なんとも幸運なことにその書物こそがコルベールの探していた書物だった。 その書物は、始祖ブリミルとその四体の使い魔たちについて記された古書だった。あるページにてコルベールの手が止まり、そこに記されている一節と図説に目を通すと、彼の顔に驚きと納得の二つの表情が同居した。コルベールは軽く始祖ブリミルに感謝の言葉を述べると、件の書物を抱え、学院長室へ向かって急いで走り出した。 コルベールが本塔最上階に位置する学院長室の扉を叩くと、室内から重々しい声で入るように告げられた。扉を開き室内に入ると、正面の学院最高権力者に相応しい調度が施された机に立派な白髭を蓄えた老人が座り、その傍に緑色がかった金髪の女性が控えていた。 「失礼します、オールド・オスマン。少しばかりお耳を拝借したいのですが」 「おやコルベール君ではないか。要件は手短にな。わしは昼食を取らねばならんからの」 「は。できればミス・ロングビル……人払いを願えますか」 古書を抱え、かしこまったコルベールの態度にオスマンは感じる所があったのか、昼行灯とした表情から一転、他人に何事も言わせぬ雰囲気を纏った。オスマンは傍に控えていた秘書のロングビルに退室を命じ、室内の会話を聞くことを禁じた。ロングビルは特に渋る様子も見せず、素直に学院長室を出て行った。 「して何事じゃ。なにやらただならぬ雰囲気じゃが」 「これをご覧下さい。このページです」 コルベールは先程のページをオスマンへと見せる。 「これは『始祖ブリミルと使い魔たち』ではないか。また古臭い文献を引っ張り出してきおったな。これがどうかしたのかね?」 「実は昨日、ヴァリエール公三女の召喚の儀式に立ち会いまして、その時に召喚された使い魔に刻まれたルーンに関してお伝えせねばならないと思い立ち、こうしてお時間を頂いているのです」 ブリミル教の始祖に関する書物、そしてそれが関係するルーン。予想される結論に、オスマンの顔は一段と険しい表情となり、コルベールへと先を促す。 「詳しく説明するのじゃ。ミスタ・コルベール」 ルイズの錬金失敗による爆発により、瓦礫の山となった教室を片付け終えたのは昼休みの直前だった。キュルケは最初こそルイズを見張っていたが、どうにも退屈で仕方なかったのか、気が付けば姿を消していた。ルイズはこれ幸いとばかりにゴーレムを使って瓦礫の片づけを進めることにしたが、それでもなお瓦礫の量は膨大であり、結局昼食の時間を過ぎてしまった。もしゴーレムなしで片付けていたら夕方になっても終わらなかったに違いない。ルイズは普段犬猿の仲のキュルケが姿を消してくれたことに心底感謝した。あの気に食わない女でもたまにはいいことをするものだ。 いい加減空腹を感じていたので、昼食を取ることために食堂へと向かう。昼食の時間は過ぎてしまったが、無理を言えばおそらくありつけるだろう。ルイズはゴーレムに労わりの言葉を掛け、次いで自分を抱えるように命じた。ゴーレムは素直に厳つい左腕を差し出し、その上にルイズが腰掛けると、静かに立ち上がり食堂へ向かってのしのしと歩き出した。 「なにかしら。食堂が騒がしいわね」 食堂の前に着くと、なにやら室内でヒステリックに怒声を上げる男の声と必死で謝っている女の声が聞こえてきた。ルイズは男の声に聞き覚えがあり、なんとなくだが怒りの原因も推測できた。 ぴょんとゴーレムの腕から飛び降りると、ルイズは食堂の扉を開いた。すると目の前で長身金髪の優男が顔を真っ赤にしながら、使用人の少女を激しく叱責していた。優男の顔が真赤になっているのは怒りだけが原因というわけではなかった。その端正な顔の両頬には鮮やかな紅葉が咲いていたのである。 「申し訳ありません、申し訳ありません! わたくしはただ落し物をお渡ししようと思っただけなんです!」 「それが余計なことだというんだ! 君の浅はかさのために二人の女性の心が傷付いたんだぞ! そしてこの僕の名誉も傷付けた! この責任、どう取るつもりなんだ!?」 「も、申し訳ありません、申し訳ありません! どうか、どうかお許し下さい!!」 顔面を蒼白にしながら必死で許しを請う少女に対し、優男は糾弾の手を緩めることはなかった。何が何でも少女を許すつもりはないらしい。周囲の生徒は面白い捕り物でも眺めるかのように、遠巻きにはやし立てていた。 ルイズはうんざりとした表情を貼り付けながら、優男に話しかける。 「ちょっとギーシュ、なにぎゃあぎゃあと喚いてんのよ。みっともないったらありゃしないわ」 背後から声を掛けられたギーシュと呼ばれた少年が振り向くと、憤然やるかたないといった顔をしていた。みっともないと言われたことで更に怒りを加速させたようで、ルイズに傲然と噛み付く。 「ふん、ゼロのルイズじゃないか。魔法も使えないメイジが僕に声を掛けないで欲しいね。みっともないのは君の方じゃないのか?」 「魔法が使えないからってなんだってのよ。あんたみたいに逆らえない女をいたぶる趣味の男の方がよっぽど格好悪いわよ。どうせ二股がバレて引っ叩かれたんでしょう。ほんと学習能力の無い男ね」 「……口には気をつけたまえよ。君がヴァリエール家だからといって、ここじゃ特別階級じゃないんだ。何かあっても生徒間の問題で済むからな」 ギーシュの二つの紅葉を咲かせた顔は更に赤く染めあがり、見るからに怒りは頂点に達していた。その口はどうにも穏便ならない言葉を抑えきることはできないようで、感情に任せるままに言い返す。 「なに? それでわたしを脅してるつもりなの? あんたがその節操のない下半身をどうにかすればいい話でしょう。誰彼構わず突っ込んでんじゃないわよ」 ルイズの軽蔑を込めた揶揄に、ついにギーシュの怒りが炸裂したようだった。一段とヒステリックな怒声を上げる。 「いいだろう! ここまで僕を侮辱すると言うことはそれなりの覚悟があるんだろうな!? どちらが上なのか分からせてやるよ!」 ギーシュは胸のポケットから花を一輪取り出すと、さっと振り上げ声高に宣言した。 「決闘だ!!」 最後にヴェストリの広場へ来いと言い放ち、ギーシュが憤然と食堂を飛び出していくと、ルイズは思わず溜息をついた。怒りで周りが見えなくなっているらしいギーシュは、扉の外に立っていたゴーレムにすら気が付かなかったようだった。ルイズは何となく悔しい気分になっていたが、まあどうでもいいことであった。床にへたり込み、すんすんと泣き続けている少女に、とりあえず声をかける。 「あのさ、あんたなにやらかしたの? あいつが二股ばれたってのは間違いなさそうだけど、なんであんなに怒ってたのよ?」 「み、ミス・ヴァリエール……。その、実は……」 少女ははらはらと泣きはらしながら、訥々とこの騒ぎの原因を語り始めた。少女の話によると、ギーシュが香水の入った瓶を落とし、それに気付いた少女が拾い上げて渡そうとした。そのときギーシュは友人に異性関係を尋ねられ、何とかはぐらかしている最中だった。少女が拾った香水はどうやらモンモランシーと呼ばれる少女のものだったようで、それに気付いた友人達がモンモランシーと付き合っているのかと囃し立てた。運の悪いことにその場には二股相手のケティと呼ばれる少女が居合わせていたらしく、涙目でギーシュに詰め寄ると、別れの言葉と平手を叩きつけ、走り去ってしまった。更に今度は二股を知り怒り狂ったモンモランシーが、有無を言わさずギーシュに絶縁状を叩き付けた。そして一連の痴話喧嘩のきっかけとなった少女を糾弾していたと、そういう訳であった。 「ほんとに馬鹿じゃないのあいつ。全部あいつの自業自得じゃない」 少女の話を一通り聞こえると、ルイズは心底呆れ返っていた。 「わ、わたくし、もうどうすればいいか分からなくて……うくっ。い、一体これからどんな目に遭うのか……ひぐっ」 使用人の少女は尚も青白い顔のままぶるぶると震えていた。使用人、いわば平民は貴族に対し抗うことはできない。たとえ理不尽な糾弾だったとしても、平民はそれを受け入れるしか選択はないのだ。貴族と平民。その間には社会的地位や魔法の有無など、厳然たる壁が立ちはだかっている。 一介の平民がそのような貴族の怒りを買うということは、すなわち死を意味する。魔法であっさりと殺されるか、拷問にかけられて殺されるか。しかも酷い時には自分ひとりではなく、一族郎党処刑されることもありうる。もしくは殺さずに人身売買にかけられ、どこかの好事家の貴族に売り飛ばされてしまう。死なないにしても、人生と言う意味では死に等しい。使用人の少女は、自らの暗い未来に絶望し、恐怖に震えているのだ。 ルイズは別にこの件に関わる必要などなかったのだが、ゴーレムを使い魔としたことで気が大きくなっていることと、教室爆破の事後処理で不機嫌になっている所にギーシュの馬鹿げた怒りを目にしたことで、つい売り言葉に買い言葉で決闘騒ぎにまで発展させてしまった。とはいえ特にルイズは決闘の心配などしておらず、それよりも空腹が気になって仕方がなかった。 「あーもう、もう泣くんじゃないわよ。決闘を申し込まれたのはわたしだし、そもそも悪いのはあいつなんだから」 「で、でも……」 「デモもストもないわよ。いい加減あいつの馬鹿面には辟易してたところだし、わたしがお仕置きしてやれば少しはおとなしくなるでしょ」 実の所、ルイズとしてはこの決闘は願ったり叶ったりだった。私闘は規則で禁止されているものの、自分を馬鹿にしてくる連中を黙らせるのには丁度いい機会だ。一度のお咎めで今後の雑音を排除することができるのなら安いものだ。ここいらで自分の使い魔に戦わせてみよう。 「でさ、あんたなんて名前なの? まだ聞いてなかったけど」 「す、すいません。わたくし、シエスタと申します……」 「そ。ならシエスタ、今回は特別にあんたの厄介事をわたしが引き受けてあげるわ」 貴族であるルイズから発せられた言葉にシエスタと名乗った少女も含め、周囲は騒然となる。みな貴族が平民に肩入れするとは信じられないと言った表情であった。シエスタはかけられた救いの言葉に感極まったようで、手を胸の前に組みながらルイズに感謝の言葉を述べる。 「ほ、本当ですか!? あぁっ、ありがとうございます!」 「本当よ。ただわたしお腹すいてるから、昼ごはん持ってきてちょうだい。決闘するにしてもその後よ」 「は、はい! ただいまお持ちしますぅ!!」 シエスタは一目散に厨房へと走り去っていく。その後姿を眺めた後、ルイズはゴーレムを呼び、自分の席へと向かう。ゴーレムが食堂にのそりと入ってくると、扉付近に群がっていた生徒達は雲の子を散らすように逃げていった。昨日の夕食と、今朝の朝食で、もうすでに2度、目にしているはずなのだが、未だ慣れないらしい。遠巻きにひそひそと囁きあっているのが見える。 シエスタが昼食を運んでくると、有象無象の囁きなど気にもしないといった態度で、ルイズは食事を始める。このゴーレムがいる限り自分はゼロのルイズじゃない。ルイズにとってゴーレムとは自信の象徴だった。 ヴェストリの広場とは、魔法学院の敷地内『風』と『火』の棟の間に位置する中庭のことである。ここは学院の西側に位置するため、日中でもあまり日が差すことはなく、薄暗く常にひんやりとした広場だった。先程食堂で怒りを振りまいていたギーシュはここを決闘の場と決めた。 ギーシュは不機嫌の絶頂にあった。あの後、ギーシュの後を付いてきた友人達が脂汗を浮かべた顔でしきりに決闘するのはやめておけと言うのだ。ヴァリエールの使い魔のゴーレムは普通ではないと。 (この僕がゴーレムでの戦いで敗れると思っているのか!?) そう、ギーシュは『土』のメイジであり、ゴーレムを駆使して戦う人間だった。その彼がゴーレムでの戦いで勝ち目がないと言われれば、プライドを傷つけられるのは想像に難くなく、事実ギーシュは友人達に抑えきれない怒りをぶつけていた。 (今までゴーレムを使ったこともない、落ち零れのゼロのルイズめ。偶然高位のゴーレムを召喚したからっていい気になりやがって! あんな図体がでかいだけのウスノロゴーレムなんてワルキューレでズタズタにしてやる!) ギーシュは怒りで平静を失ってはいたが、自らの使うワルキューレ単体であのゴーレムに勝てるとは思っていなかった。自らの戦いの極意は7体のワルキューレによる波状攻撃。それならば、あの見るからに鈍重そうなゴーレムを屠ることなど容易い。ギーシュはそう考えていた。 昼食を取り終え、食堂を出て指定された広場に向かう間もシエスタはルイズとゴーレムにぴったりとくっ付いてきた。先程からいつまでもありがとうございます、このご恩は忘れません、だのとしつこく感謝の言葉を掛けてくるので、ルイズはいささかげんなりとしていた。貴族の少女に巨大なゴーレム、そして使用人の少女という酷く不釣合なトリオを組みながら決闘の場へと足を進める。 「諸君、決闘だ!!」 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はゼロのルイズだ!」 どこから聞きつけたのか、ルイズ一行が広場に到着すると、そこには人だかりができていた。ギーシュの宣誓に盛り上がる観衆の声がルイズの鼓膜を震わせる。ギーシュはルイズの方向を向くと、怒りで歪んだ剣呑な表情を見せた。 「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてあげようじゃないか」 「誰が逃げるってのよ」 ゴーレムを引き連れて現れたルイズは、何を馬鹿なことをと言わんばかりの態度で応酬する。 「さて、観客を待たせるのも申し訳ない。今すぐ始めようじゃないか」 ギーシュはそう言うと、やはり胸ポケットから一輪の薔薇を取り出し、さっと優雅に振り上げた。7枚の花びらがはらりはらりと宙を舞ったかと思うと、瞬時にして女戦士を象った人形の姿となった。 「『青銅』のギーシュ・ド・グラモン。7体のワルキューレでお相手する。君の使い魔もゴーレム、僕が使役するのもゴーレム。よもや数が不平等だなどとは言うまいね?」 ギーシュは挑発するが、ルイズはどこ吹く風であった。メイジと使い魔は心で繋がるもの。このゴーレムの心を感じることはできないが、強靭な体から力が発っせられているのを感じる。教師も力があると認めた使い魔だ。こんな優男ごときに負けるはずがない。根拠は薄いが、ルイズは自らの使い魔の勝利を確信していた。 「さあ、あの馬鹿を死なない程度に懲らしめてやりなさい!」 ルイズはゴーレムへと威勢よく命令する。主人の命令を受け、ゴーレムの瞳がにわかに明るくなる。ゴーレムの肉体に秘められた力の一端が今、解放されようとしていた。 前ページ次ページ重攻の使い魔
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本日、学院の講義は無い。休日である。 タバサは自分の部屋にいた。 虚無の曜日に、『サイレント』の魔法をかけた自室で読書にふける。 一人で自分の世界に浸るのが彼女の最大の楽しみであった。 だが、本日のそれは突然の侵入者によって破られることになった。 先程からキュルケがタバサの目の前で何かを話しかけている。 大げさな身振り手振りも交えている。 『サイレント』の魔法により、何も聞こえることは無いが、 よほど何か重大なことを伝えたいのだろう。 3分ほど彼女の奇妙なダンスを満喫した後、『サイレント』の魔法を解除する。 とたんに騒がしくなった。 「だからね!私のダーリンがルイズと一緒にどこかに行っちゃったの!」 「虚無の曜日」 そう答えて、迷惑だといういことを表現する。 「私ダーリンに恋しちゃったの!それなのにあのヴァリエールなんかと一緒に馬に乗って行っちゃったわ!」 「だから行き先を突き止めるのにあなたの使い魔が必要なのよ!」 仕方が無い。これが他の人であれば、『エア・ハンマー』か何かを食らわせるのだが、無二の親友が、わざわざ自分の使い魔を頼りに来たのだ。 「分かった。…シルフィード」 「まったく、ロハンはいったいどこに行っちゃったのかしら?」 「俺に聞かれてもな…」 トリステインの城下町を、 ルイズとブチャラティはもう2時間も岸辺露伴を探し回っていた。 どちらとも徒歩である。 馬は門のそばにある駅に預けている。 事の起こりは、岸辺露伴が「画材を買ってくる」と、ルイズがまだ寝ている早朝のうちに街に出て行ってしまったことに始まる。 「ふぁぁぁ。あれ、ロハンは?」 ブチャラティは、起きて来たルイズにうっかり簡潔に答えてしまった。 「ロハンは(学院を)出て行った」 使い魔にすら見捨てられたと泣き出すルイズ。 ブチャラティがなだめるのに1時間。 「使い魔の癖に!勝手になにやってるのよ!」 やっと泣き止んだと思ったら、「使い魔の心得」とやらを1時間。 ロハンに対し猛烈に怒っているようだ。 「私もトリステインの街に行くわよ!準備して!」 「ひょっとして俺も行くのか?」 「当然でしょ!」 着替えながらルイズが叫ぶ。 ブチャラティは、主人に背を向けながらため息をつくのであった。 「あとはこの道ね…」 トリステイン城下町の主な道路を探しつくしたルイズたちは、とある路地裏を目の前にしていた。 ごみが散乱している。どこからか腐敗臭が立ち上っている。 ルイズは、「できれば一生立ち入りたくない」という表情をしている。 「大丈夫か?ルイズ?」 「使い魔の管理は貴族として当然の義務よ! それにロハンがブルドンネ通り沿いの画材屋で買い物した事は確実だし、この街にロハンがいるのは間違いないわ」 ブチャラティは先ほど聞き込みをした店を思い出していた。 道幅5メートルほどの道路に面したこぎれいな雑貨屋であった。 そこの店主によると、 「やたらそこらじゅうをスケッチして回る客が、大量に画材を買っていった。 その客はインクの『味』も確かめていた。」とのことである。 「まったく…こんなところをご主人様に探させるなんて…」 ブチャラティが、今日3回目の 「そんなに言うのならやめればいいじゃないか」のセリフを言おうとしたとき、 「あ!いた!ロハン!」 武器屋の看板をスケッチしている露伴の姿があった。 露伴自身はスケッチ道具以外何も持っていない。 かわりに、大人の身長ほどの高さになる、 袋いっぱいの画材を抱えている少年メイジが隣に立っていた。 「おや、ルイズとブチャラティ。奇遇だね。こんなところで会うとは」 「わざわざあなたを探していたのよ!ロハン! どのくらい時間をかけてと思っているの? あなた、出かけるときはご主人様に直接言いなさいよね!」 「悪かった。スマン」 「へ?」 あまりにもあっさり謝られる露伴にかえってびっくりしているようだ。 「それよりも僕はこの世界の武器に興味があるんだ。 よかったら案内してくれ」 ルイズにかまわずに武器屋に入っていく。 「ち、ちょっと待ちなさい」 「そうだ。待ってくれ。もう僕に荷物持ちをさせるのはカンベンしてくれ」 少年メイジが露伴に話しかける。 「まあいいじゃないか。ギーシュ君。 荷物が大きいから君は武器屋の外で待機していてくれ。 これは僕の『お願い』だ」 「…分かりました。露伴さん」 「貴族のダンナ。うちはまっとうな商売をしてまさあ。」 「ただの冷やかしよ」 「ああ、さいでっか」 (客ですらねーのかよッ!) ルイズと武器屋の親父のやり取りを尻目に、 岸辺露伴は手近な武器を手にとり、スケッチを開始していた。 「なるほどレイピアがあるぞ。 それにグラディウスやスクラマサクスもある。基本的になんでもありだな…」 この場においていかれた感のあるブチャラティは、ふと一本の片刃剣に目が行った。 「この剣… 近くでよく見るとすごく美しいな…」 「抜いてみるか…」 「その剣をぬくんじゃぁねーぜ!心をとられちまわあ」 突然、誰もいない方向から声がした。 「誰だ!」 ブチャラティは剣から手を離し、すかさず周りを警戒する。 が、誰もいない。 「うるせーぞデル公!」 店長が怒鳴る。 「今のはなんだ?」 「インテリジェンスソードってやつでさ。誰が考えたか知りやせんが、しゃべる剣なんです」 「これが『デル公』か」 ボロボロの剣をロハンが取り上げる。 「気安く触んじゃねーぞ!このやろう」 「面白いな、これ。買おう。いくらだ」 「新金貨百で結構でさ」 「ロハン、お前は『それが危ないかも』とか思わないのか?」 「いや全然。これはなかなか面白いぞ。ほれッ」 一振りの剣が、放物線を描いて宙を舞う。 「俺様はもっと繊細に扱えこのボケ!」 「裸身の剣を投げてよこすやつがあるか。 まあ、錆びてるから怪我はしないだろーがな…」 「…おでれーた。おまえ『使い手』か」 「『使い手』?」 「ふん?自分の実力も知らんのか。まあいい。お前らに買われるのならいいか」 「そのことなんだが…」ロハンが口を濁す。 「僕は先に画材を買ってしまってね。いま手持ちが百ないんだ」 「マヂで!俺様死亡フラグ?」 「ならばこうしよう。ルイズ?」 ブチャラティが口を続ける。 「君はこの前、決闘に善戦したご褒美を買ってくれると約束した。そのときの約束として、ロハンの手持ちに足りない分を足してくれ」 「いいの?あなた自身の希望は無いの?」 ルイズは不満そうだ。 「俺はいい。あえて言うなら毎朝カフェオレがほしいが…」 「…無理ね」 岸辺露伴が新金貨67を、ルイズが33を支払った。 「毎度」 ヴチャラティは店を後にし、露伴に『デルフリンガー』を手渡した。 「ほれ」 「ありがとう」 「先にいっとくがな!俺はテメーが…」 「なるほど、鞘に収めれば黙るのか」 店の外には、先ほどの少年メイジが忠犬ハチ公のように露伴を待ち構えていた。 「そうそう、この剣も君が持ってね。学院のルイズの部屋まで決して落とさずに持ってくるんだ。 これは僕の『お願い』だ。」 「…分かりました。露伴さん」 この珍妙な面々が武器屋から出て行くと、後をつけていたキュルケとタバサは武器屋のなかに入っていった。 「おや!珍しい。また貴族だ」 「ねえ御主人。先ほどのおかっぱ頭の方が何していたかご存知?」 「そういえば一振りの剣に興味を持っていたようですぜ? たしか、こいつ…」 夜。 トリステイン学院にて 「結局今日一日は露伴を探すだけだったわね」 ルイズたちの目の前をキュルケたちが無言で通り過ぎようとしていた。 「どうしたの、タバサ、それにキュルケ。ボロボロじゃない」 「…武器屋とキュルケを退治してた」 「?あんた達ケンカしてたの?仲良さそうに見えたのに…」 「…何も言いたくない…」 アヌビス神 → タバサのマジックアイテム『デグチ=ホソナール(Sサイズ)』にて捕獲。永久封印。 武器屋 → 営業中。店長の親父に『ミス・タバサの紹介』といえば、二割引してもらえる。 倉庫の奥から「えッ!俺もう出番ないの?」との声が時々聞こえる。 To Be Continued...
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ディシディアデュオデシムファイナルファンタジーより、シャントット&プリッシュ召喚 ヴァナ・ディールの使い魔-00 ヴァナ・ディールの使い魔-01 ヴァナ・ディールの使い魔-02 ヴァナ・ディールの使い魔-03 ヴァナ・ディールの使い魔-04 ヴァナ・ディールの使い魔-05
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【作品名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 OP 【曲名】I SAY YES 【歌手】Ichiko 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【作品名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 ED 【曲名】スキ?キライ!?スキ!!! 【歌手】ルイズ(CV 釘宮理恵) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【アルバム名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 キャラクターCD1 ルイズ 【歌手】ルイズ(CV 釘宮理恵) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【アルバム名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 キャラクターCD2 アンリエッタ 【歌手】アンリエッタ(CV 川澄綾子) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【アルバム名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 キャラクターCD3 シエスタ 【歌手】シエスタ(CV 堀江由衣) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【作品名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 キャラクターCD4 エレオノール カトレア 【歌手】エレオノール(CV 井上喜久子) カトレア(CV 山川琴美) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【詳細】各キャラクターCDは1曲のみ収録
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前ページ次ページサイヤの使い魔 「タ、タバサ! 落ちついて! この人は怖くない!」 「オバケなんて無いさオバケなんて嘘さ寝惚けた人が見間違えたのさ」 「どきなさいルイズ! どうせあんたの話なんか聞いちゃいないわよ! ここはあたしが――」 「パーソナルネーム『キュルケ・ツェルプストー』を敵性と判定。当該対象の有機情報連結を解除する」 「あーんやっぱり駄目だー! お願いだから正気に戻って! 戻りなさい! 戻れー!」 格闘すること、約10分。 悟空と一緒に瞬間移動で図書館にやって来たルイズとキュルケの必死の説得により、ようやくタバサは(悟空に対し警戒しているものの)話を聞く気になった。 それにしても司書の視線が痛い。 「…説明して欲しい。主に、貴方の素性を」 「あたしもタバサに賛成。さっきの魔法も興味あるし」 キュルケの言葉でルイズは自分の中にあった違和感に気付いた。 この男、当たり前のように物理的弊害を無視して何処にでも現れるが、そんな事ができる魔法は自分の知る限り、無い。 先住魔法だろうか。とするとこの男、生前は何だったのだろうか。 …もしや、自分はとんでもない人物を喚び出してしまったのではないか? 「あれはよ、魔法じゃなくって瞬間移動ってんだ」 「瞬間…移動?」 悟空が説明する。 「ああ、昔ヤードラットって星の連中に教えてもらった技でよ、相手を思い浮かべてそいつの気を感じ取るんだ。 そうやって、そいつがいる場所に移動する。だから知ってる奴がいねえ場所とかは行けねえんだ」 「に…にわかには信じられない話ね……」 「えーと、全然言ってる意味がわかんない。キって何? 何系統?」 改めて聞く使い魔の能力。 キュルケは半信半疑ではあるものの一応額面どおりに解釈したが、ルイズは理解できていない。 実際、彼と一緒にその能力を体験しているものの、あまりにも自分の常識とかけ離れた現実にまだ頭がついてこない。 「説明はつく。二度も私の目の前に現れたのだから、私は彼を信用する」 口ではそういうものの、タバサは未だに悟空と目を合わせられないでいる。 こうして見ると生きている人間と同じ、いや、普通の人間以上に生き生きとしているが、やはり瞳孔が開ききった目を見るのは怖い。 いや、よく見ると虹彩が暗くて瞳孔の色と区別がつかないだけか。 それに気付き、タバサは若干警戒の色を弱めた。 タバサの言葉に、ルイズもようやく悟空の説明を(納得はできないものの)聞き入れることにしたが、すぐさま別の疑問が沸き起こった。 「あんた、今「星」って言ったけど、そういえば何処から来たの?」 メイジでも無いのにメイジ以上の能力をぽんぽん使いこなすこの男は今、「星」と言った。 ルイズは「宇宙の何処かにいる私の使い魔よ!」とサモン・サーヴァントの時に言ったが、まさか本当に宇宙の何処かに自分に似た生命体がいるなどとは、本気で考えていなかった。 「オラ地球って星から来たんだ」 「じゃあ「チキュウ人」って事? そこがあんたの生まれた星なのね」 「いや、生まれは惑星ベジータってとこなんだけどよ」 「どういう事?」 悟空は説明した。 自分が惑星ベジータで生まれたサイヤ人である事。 産まれてすぐ、侵略のため地球に送り込まれたが、幼少時の事故により穏やかな性格になったらしい事。 ドラゴンボールとそれにまつわる様々な冒険。(これにはタバサが多大なる関心を示した) 自分の出生の秘密を、敵である実の兄から聞かされた事。 一度目の死。 サイヤ人の地球侵略。 ナメック星での激闘。 人造人間との戦い。 そして、二度目の死。 満月と大猿の関係については、既に尻尾の無い悟空には関係ない話だったので省略した。 悟空が全てを語り終えると、場に重い沈黙が立ち込めた。ルイズに至っては、頭から煙が出ている。 途中から頭を抱えてうなだれていたキュルケがのろのろと口を開いた。 「…なんか、にわかには信じられない話ね。頭痛くなってきたわ」 顔を上げ、悟空を見る。 「それで、貴方はこれからどうするの?」 「どうするも何も、オラはルイズの使い魔になっちまったんだろ? だったらそれでいいさ」 「…ずいぶん楽天的なのね」 昼休みを告げるチャイムが鳴った。 「続きは食後」 タバサの一言で、ルイズを除く全員が席を立った。 未だヒューズが飛んだままのルイズに、キュルケが声をかける。 「ルイズ~、私たちお昼食べてくるから、復活したら食堂に来なさいね~。さ、ゴクウさん行きましょ」 「はれってほれってひれんら~……って、え!? ちょ、ちょっと待ちなさい!」 悟空に椅子を引いてもらって席に着いたルイズは、爪先に何か硬いものが当たったのを感じてテーブルの下を覗き見た。 今朝、使い魔に朝食を与えるつもりで用意した皿がまだ置かれている。 (そういえばこれでご飯食べさせようと思ったんだっけ) ルイズは今朝の怒りを思い出したが、さっきの説明を聞いて幾分混乱している今となっては、それも些細な事のように感じられた。 (あの話が本当だったとしたら、わたしはこれからこいつをどう扱えばいいんだろう…?) 正直、さっきの説明はルイズの頭では理解が追いつかなかった。 宇宙人だの人造人間だの何でも願いを叶える球だの、この使い魔の頭は一体どこに繋がってるんだ。 支離滅裂な事を言ったならまだしも、話の内容に筋が通っているから厄介この上ない。 こうなったらこいつの素性を信用するしかなさそうだ。 となると、こいつはメイジでもなければ天使でもない、自分からすれば単なる平民(宇宙人だが)の幽霊だ。 その代わり、こうして自分の隣に立っている今もなお、周囲の生徒から注目を浴びているこの異世界から来たらしい使い魔が、 果たしてこの世界の食べ物を口にしても大丈夫だろうか、と心配になった。 考えてみれば、朝食の時は居なかった。食事が終わってから、何処で道草食ってたのか、手ぶらで戻って来たのだ。 「そういえば、あんた朝食の時居なかったけど、ちゃんとご飯食べたの?」 「ああ、シエスタがメシ分けてくれたんだ」 確か、ゴクウが洗濯を頼んだ平民の名だ。 ルイズは再び足元の皿を見た。 厨房に昼の分の指示は出してなかったので、皿は空っぽのまま置かれている。 「じゃあ、お昼もその平民に貰ってきなさい」 「わかった。んじゃ行ってくる」 厨房へと消えていく使い魔を見送りながら、ルイズは、だから朝食の後すぐ見つけられたのか、と合点し、 自分の使い魔が惨めったらしく地べたに座り込んで粗食を食べる様子を他の生徒に見られずに済んでよかった、と密かに思った。 高貴な存在だと思われているのだ、下手にイメージを崩す事も無いだろう。 「確か本当の天使って霞食ってるんだっけ?」 つい疑問が口をついて出る。 隣席のマリコルヌがそれを耳ざとく聞きつけた。 「なんだって?」 「何でもないわよ、ただの独り言」 「ゴクウさん、お待ちしてました!」 シエスタが笑顔で悟空を出迎える。 厨房に足を踏み入れた悟空は、朝食の時とは比べ物にならないくらい大量の料理を目にした。 「すっげー! 美味そうなもんが一杯あっぞー!!」 「おうよ! お前さんが来てくれたおかげで食材が無駄にならずに済みそうだからな! これはその前祝いだ!!」 悟空の見事過ぎる食いっぷりに触発されたマルトーは、本当に余りものの食材を余すところ無く使い、 尋常ではない量と種類の料理を用意していた。 ざっと見ただけでも10~15人分、テーブルに乗りきらなかった分や鍋に残っている分を加味しても60~70人分はある。 とても賄いと呼べる分量と種類ではない。 中にはこのまま貴族に出してもいいんじゃないかと思えるくらい豪勢な盛り付けのものもある。 マルトーの密かな宣戦布告であった。 「これ全部オラが食っていいのか?」 「おう、食えるだけ食え! 無理なら残してもいいぜ。どうせ元は捨てなきゃならんものばかりだからな、がっはっはっは!!」 10数分後、全ての料理が悟空の胃袋に収まった。 コルベールは、トリステイン魔法学院の長を務めているオールド・オスマンに、自分の教え子の一人がガンダールヴの幽霊を使い魔にしたのではないか、という自説を披露していた。 ミス・ロングビルにぱふぱふをせがんで左の頬に真っ赤な紅葉をこさえたこの学院の長は、彼の説明を聞き終わると、それまで閉じていた口を開いた。 「ルーンが一致したというだけで、そいつがあの使い魔の幽霊であるというのは、いささか結論を急ぎ過ぎじゃないかのう」 「で、ですが…」 「第一、その者がそう言ったというだけで、そ奴が幽霊だという明白な証拠はあるのか?」 コルベールは返答に窮した。 確かにオールド・オスマンの言うとおりである。 ミス・ヴァリエールが幽霊だと紹介したからといって、本当に彼がそうなのか確認をしていなかった。 そもそも、幽霊とはあのように頭の上に輪がついているものなのだろうか。 自分が死んでしまったら余計に頭頂部の眩さがアップしてしまいそうで、できることなら御免こうむりたい。 「まあ、暫くは様子見じゃの。その使い魔から色々聞いてみるとよい」 「わかりました。では失礼します」 一礼して退室したコルベールは、ふと空腹を思い出し、食堂へと向かった。 今なら生徒たちが昼食を採っている。ひょっとしたら、使い魔に会えるかもしれない。 ルイズが満腹感に浸っていると、食堂がどよめきに包まれた。 何事だろうと周囲を仰ぎ見たルイズは、騒ぎの原因を発見して胃が痛くなった。 自分の使い魔が、メイドに付き従ってデザートの配膳を手伝っている。 「本当にありがとうございます、ゴクウさん。わざわざ手伝って頂いちゃって」 「構わねえって。オラのせいで忙しくなっちまったみたいなもんだしよ」 マルトーが腕によりをかけて悟空に大量の料理を振舞った結果、その料理を載せるために、食堂に残っていた食器の殆ど全てを使ってしまい、 大量に発生した洗い物のために貴族へデザートを運ぶ人手が足りなくなってしまった。 そこで食器洗いを手伝うかデザート運びを手伝うかの二者択一の結果、悟空が選んだのがデザート運びであった。 悟空もチチを手伝って食器を洗った経験はあるが、陶器製の食器しか取り扱った事がない悟空には、繊細なガラス細工が施されたものもある学院の食器は、何となく触らない方がいいような気がしたのも一因だ。 「あ、あんた、何やってんのよ」 配膳がルイズの席まで到達した時に、小声でルイズが訊いた。 「メシ食わせてもらった礼に仕事手伝ってんだ」 「あ、ああそう…。あまり目立つような真似はしないでよね」 「何で?」 「あんた、一応他の生徒には天使って事で通ってるんだから」 「ケーキ運ぶくらいどってことねえだろ」 ルイズは改めて周囲を見回した。 居心地の悪そうな顔で配られたデザートを見つめている者もいるが、恐る恐るケーキに口をつけて、普段通りの味だと判った者は、安心したのかいつも通りの調子を取り戻し、級友と歓談したり、既に食べ終えた者は席を立ったりしている。 「…それもそうね。いいわ。終わったら私のところに戻ってきなさい」 「ああ」 やがて、全てのケーキを配り終えた悟空がルイズの元に戻ってくる頃、ケーキを食べ終えたらしき生徒が立ち上がった拍子に、懐から小瓶を落とした。 コロコロと悟空の方へ転がってくる。 悟空はそれを拾い上げ、落とし主である金髪の生徒に声をかけた。 「おーい、おめぇ、これ落っことしたぞ」 「なあギーシュ、お前今誰とつき合ってるんだ?」 「つき合う? 僕にはそのような特定の女性はいない。 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 聞こえていないのか、あるいは聞こえていて無視しているのか、青年は応えず、他の生徒と話しながら食堂を出ようとしている。 悟空は後ろで紅茶のカップを手に取ったルイズに訊いた。 「なあ、あいつの名前、何つうんだっけ」 「ギーシュ・ド・グラモン」 「サンキュー。おーい、ティッシュのバケモン」 すました顔で食後の一杯を飲んでいたルイズが、鼻から紅茶を吹いた。 『ギーシュ・ド・グラモン(だ/よ)!!』 前門のギーシュと後門のルイズから、同時にユニゾンで悟空にツッコミが入る。 決して悟空に悪気があったわけでは無いのだが、言う相手が悪かった。 貴族の名を家名つき、その上名前を間違えて呼んだ。 意図的であれ偶然であれ、それは、その貴族だけでなく、家柄に対する重大な侮辱行為である。 血相を変えてルイズが駆けつけた。 「あんた謝りなさい。今すぐ」 「わ、わりぃ。オラ長ったらしい名前覚えんの苦手なんだ」 「君は確か「ゼロのルイズ」の…。駄目だな、許すわけにはいかない」 手袋を取り出し、悟空に投げつける。 「決闘だ!」 「ギーシュ!」 「これは僕だけの問題じゃない。そいつは我がグラモン家を、グラモンの家名を汚した。この罪は償ってもらわなければならない」 ギーシュの目が敵意をはらんだものに変わっていく。 「貴族同士の決闘はご法度よ!」 「オラ貴族じゃねえぞ」 「その通りだ。だから問題は無い。ではヴェストリの広場で待つ。10分後に開始だ。遅れるなよ」 そう言い放ち、ギーシュは身を翻して食堂を後にした。 成り行きを見守っていたシエスタが悟空に駆け寄る。 「あ…あなた殺されちゃう。貴族を本気で怒らせたら…」 「ああ、こいつなら大丈夫よ、たぶん」 青ざめた顔でブルブルと震えるシエスタに、ルイズがフォローを入れる。 一応使い魔が世話になっているのだ、多少は仲良くしてもいいだろう。 幽霊だから死なない、と付け加えようと思ったが、話がややこしくなりそうなので伏せた。 「なあルイズ」 「何?」 「あいつ、強えのか?」 「そうね…どっちかといえば強いほうかしらね。仮にもグラモン家の貴族だし」 「そりゃあ楽しみだ」 「嬉しそうね…まったく。いい? あんたはあいつの名前を間違えた事によって、あいつの家名も同時に汚したの。それはとっても不名誉な事。 だから…まあ仮にあんたが勝ったとしても、その点はきっちり謝っときなさいよ」 「ああ、わかった」 「よろしい」 平民がメイジに勝つことなどありえないが、ルイズは不思議と、この使い魔ならもしかしたらギーシュに勝つかもしれない、と思い始めていた。 「フン、まあ逃げずに来たことは褒めてやろう」 「オラ逃げたりなんてしねえぞ」 普段人気のあまり無いヴェストリの広場は、ギャラリーで埋め尽くされていた。 ゼロのルイズの使い魔 対 青銅のギーシュ。 オッズ比は16。 意外にも、悟空の勝ちを予想する生徒は皆無ではなかった。 その中には、タバサとキュルケも混じっている。 「本当にあの使い魔が勝つと思うの?」 「負けはしないと思う。彼の話が本当なら」 街一つ吹っ飛ばすだのこの星ごと消えて無くなれだの、よくもまあそんなホラが吹けるもんだとキュルケが内心呆れていた話を、タバサは話半分だが信じているようだ。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 「へへっ、ワクワクすっぞ」 超能力を使う敵と戦った事はあったが、魔法を主体に戦う相手は悟空にとって初めての経験であった。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。 従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手をするよ」 ギーシュが手に持った薔薇の造花を振るうと、零れ落ちた花弁から甲冑を纏った優美な女性型のゴーレムが生成された。 「へぇー、面白ぇなあ」 「お褒めに預かり光栄、とでも言っておこう。では、始めるか!」 「ああ、どっからでも来い!」 ワルキューレが悟空に向かって突進する。 が、それよりも遥かに速く、悟空はワルキューレとの間合いを詰めた。 「ずえぁりゃあっ!」 正拳一発。 凄まじい衝突音の後、腹から背中まで達する凹みを作ったワルキューレがギーシュの傍を猛スピードで掠め、背後の壁に激突して砕け散った。 場が、静まり返った。 振り返り、かつてワルキューレだった残骸を確認した後、目をまん丸に見開き、口を顎が胸に付きそうなくらい開け、鼻水まで垂らしたギーシュは、恐る恐る悟空に向き直った。 壁が「固定化」で補強されていなかったら、飛距離は更に伸びていただろう。 ワルキューレ殴り飛ばし世界新記録を作った男は、全く本気を出した様子が無い。 それどころか「とりあえず挨拶代わりに一発ぶん殴ってみました」といった感じだ。 「あれ? 何だ、てんで弱っちいぞ」 「な、何だと!?」 焦ったギーシュは一気に6体のゴーレムを生成した。 それぞれが手に武器を備えている。 「取り囲んで叩きのめせ!」 ギーシュの命令に従い、わらわらと悟空の周囲に散開したワルキューレは、一斉に悟空めがけて手にした武器を振り下ろした。 衝撃で悟空が地面に膝を付く。 静止命令を受けていないワルキューレは、這いつくばる悟空めがけて何度も何度も、武器がひしゃげて変形するまで攻撃を繰り返した。 「も、もういい! 下がれ!!」 数分後、ギーシュがワルキューレを下がらせると、地面に倒れ付した悟空が姿を見せた。 ピクリとも動かない。死んでしまったのか。いや、既に死んでいる。 そろりそろりと、ギーシュが悟空に近づく。 先ほどからギャラリーは静まり返っている。ギーシュが地面を踏みしめる音だけが聞こえる。 「よっこいしょっと」 「はうあ――――!?」 何の前触れも無く悟空が起き上がり、ギーシュは腰を抜かしてへたり込んだ。 ギャラリーのそこかしこから悲鳴が上がる。 固唾を飲んで見入っていたタバサも、あまりに予想外な出来事に少々チビッた。 怪我一つ負っていない悟空の問いかけに、ギーシュの顔が真っ青になった。 「なあ、もうちっと本気でやってくんねえか? これじゃちっとも面白くねえぞ」 前ページ次ページサイヤの使い魔
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パートⅡ 使い魔は今すぐ逃げ出したい 宝石店に行く。勿論彼女も一緒だ。 なぜならば彼女ために指輪を買いに来たのだから。 彼女は美しいが指輪で着飾れば益々美しくなるだろう。 美しい彼女との一時はとても楽しい一時だ。 彼女と語らい、触れ合い、一緒に寝て、一緒に起きて…… そんな想像をするだけで頬がにやけてしまいそうになる。そして彼女が一つの指輪を指し示す。 「ん?この指輪がいいのかい?」 それはあまり飾り気のない安い品物だった。 「何を言ってるんだ。君はこれが相応しいよ」 そう言って彼女の指に似合いそうな高い指輪を指差す。 「何、遠慮することはない。とてもよく似合うよ。君は値段なんか気にしなくていいんだ」 しかしそれでも彼女は遠慮しているようだ。 「よし、これにしようね」 そう言って強引に買ってしまう。 「指のサイズはわかってるよ。何時も君と一緒にいたからね」 指輪を買い彼女と一緒に車へと乗り込む。 「指輪は家に着いたら嵌めてあげるよ」 笑いかけながら彼女にそう言ってあげる。 いい彼女だ。彼女なら一番長く保ってくれるかもしれない。 私はこの平穏がいつまでも続くと信じていた…… 光が目に差し込み目が覚める。立ち上がり体を伸ばす。 何か夢を見ていた気がするな。よく憶えてないがそこには安息があったような気がする。 気がするだけで夢なんて実は見てないのかもしれないが気分がいいことだけは確かだな。 身支度を整えキュルケから貰った剣を持ち部屋から出る。剣の訓練のためだ。 前の訓練は体を少し慣らす程度だったが今回からもう少し力を入れてやる気なのだ。理由は左手の甲に刻まれたルーンだ。 フーケの事件から2日後にルーンの正体は判明した。 伝説の使い魔といわれる『ガンダールヴ』の印だとか。オスマン曰く私は現代のガンダールヴになったらしい。 『ガンダールヴ』とは始祖ブリミル(魔法使いの祖だったか?)の伝説の使い魔で、ありとあらゆる武器を使いこなしたらしい。 そのおかげでロケットランチャーや剣を自在に操れたのも納得がいった。 ところでこの世界には危険が溢れている。 魔法使いは当たり前として動物類ですらいともたやすく人を殺せるようなのもいる(他の生徒の使い魔を見ればわかることだ)。 だから単純に武器が使いこなせるようになったからといって慢心してはいけない。 慢心でこの世界に来たのだ。二度と同じ過ちは許されない。 だから剣を振るう。経験上ルーンはあくまでブースターだ。 力を一定以上上げてくれる。なら自分自信が強くなればもっと強くなれる。 強くなる分だけ危険は減る。 もうすぐここから逃げ出すのだ。逃げ出せば一人で危険に対処しなければならない。 なら安全対策を今のうちにしておこう。 21へ
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前ページ次ページ滅殺の使い魔 「僕の二つ名は『青銅』。 青銅のギーシュだ。 従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 豪鬼に向かって、ゴーレムが突進してくる。 豪鬼は一歩も動かない。 が、ゴーレムの行く手を阻むように、右手を前に出した。 ゴーレムが間合いに入り、豪鬼が突き出した手を払おうと腕を振る。 その瞬間。 ――豪鬼が、消えた―― 「なっ……! ど、どこだ!何処に行ったっ!」 ギーシュが辺りを必死で見回す。 周りの野次馬達も同じように何処だ何処だと視線を動かした。 一人の生徒が気付く。 「う、上に」 時既に遅し。 豪鬼がゴーレムの頭上から手刀を構えて落下していく。 混乱状態のギーシュは、不覚にもワルキューレを棒立ちにさせている。 無論、突然の出来事に反応は出来ず。 「ふんっ!」 豪鬼の手刀がワルキューレに命中し、その青銅の体を容易く両断する。 『天魔朱裂刀』……相手の攻撃をすんでの所で見切り、頭上から手刀を叩きつける技である。 大抵の者はその一瞬の出来事に全く反応できず、成す術なく当たってしまう。 ワルキューレ『で、あった物』は、力なく左右に倒れた。 「う、うわあぁぁぁぁぁ!」 半狂乱のギーシュが、滅茶苦茶に薔薇を振る。 新たなワルキューレが六体、ギーシュの周りに現れる。 豪鬼はゆっくりと構えなおすと、目を見開き、口を開いた。 「我は、拳を極めし者。 ……うぬらの無力さ、その体で知れい!」 一方、森では。 「潰れろ!」 一人のメイジを掴んだ『白髪の男』は、それを大木に叩きつけ、大木ごとメイジを屠る。 その足元には、既にもう一人のメイジの亡骸が横たわっていた。 「さて……あとは君一人だ。 『トライアングル』君?」 『白髪の男』は、ゆっくりと振り返る。 少女は既に遠くへ避難し、震えながら傍観していた。 残ったメイジは、がくがくと震えながら、手に持った杖を『白髪の男』向ける。 「どうした? 早くしたまえ」 「ひ、ひぃ!」 メイジの放った炎の玉は、一直線に『白髪の男』に向かう。 「ハッハッハ!」 ――『白髪の男』の前に、緑の光が現れた―― 場所は戻り、ヴェストリの広場。 「な、なんなの、あいつ……」 『平民とギーシュが決闘をする』。 それを聞いたルイズは、他の生徒と同じように広場に来ていた。 豪鬼の命を救うために……。 だが、それも要らぬ心配だったらしい。 ルイズの目には、青銅のゴーレムが豪鬼に真っ二つにされると言う衝撃の光景が飛び込んできていた。 また、広場の別の場所では、キュルケと、小さな幼い印象を受ける生徒が、二人の決闘を見つめていた。 「な、何だったの? 今の……。 ねえ、タバサ」 キュルケが引きつった笑みを浮かべ、隣の少女、タバサに話しかける。 「……わからない」 一言でその問いに返答するタバサ。 その言葉には感情が感じられないが、しかしその目は、驚きと興味で見開いていた。 そんな中、急に広場の生徒達人ごみの一部が割れた。 中から現れたのは、オスマン、ロングビル、コルベールの三人だった。 ロングビルが、オスマンに対し説明を始める。 「片方がギーシュ・ド・グラモン。そしてもう片方は、ミス・ヴァリエールの使い魔です」 それを聞くと、コルベールとオスマンは顔を見合わせた。 コルベールは驚いた表情をしている。 「オールド・オスマン……!」 「うむ……」 「オールド・オスマン」 「なんじゃ? ミス……」 ロングビルは、普段からは考えられないほどに真面目になっているオスマン達に威圧される。 「い、いえ、『眠りの鐘』の使用許可を求めているようでして……」 「要らん。 こんな子供の喧嘩に秘宝など」 オスマンはそれを一蹴するが、その目は警戒心をありありと表していた。 広場の中心で、豪鬼とそれを囲うように位置したワルキューレ達が睨み合う。 豪鬼は一向に構えから動かず、ワルキューレ達を警戒するそぶりも見せない。 対するギーシュも、先ほどのワルキューレにおいて、カウンターを受けたため、迂闊には動けない。 広場内を静寂が包む―― 「行け! ワルキューレ!」 静寂を破ったのは、ギーシュだった。 ワルキューレに指令を出し、それを受けたワルキューレ達は、一斉に豪鬼に向かって走り出す。 しかし、それが豪鬼に達することは無かった。 「滅殺……」 「なっ! と、止まれ!」 豪鬼の変化に、ギーシュが咄嗟にワルキューレを制止させる。 「……」 そう豪鬼が呟く。 小声のそれは、しかし大きな威圧感を持ち、ギーシュの判断を鈍らせた。 豪鬼はそれを尻目に、手を『天』に向かって突き上げる。 「我が拳、 とくと味わえ」 「……くそ! 行け! ワルキューレ!」 そして再びワルキューレ達が動いた瞬間、豪鬼が突然、突き上げていた右手を振り下ろし、地面を殴ったのである。 「あ、じ、地震!?」 ただそれだけのことで、地面が揺れる。 豪鬼の足元の地面から光が溢れる。 それはさながら火山の噴火のように。 やがて地震が収まり、広場の生徒が豪鬼達に視線をを向ける。 そこには既にワルキューレの姿は無く、ぐちゃぐちゃにひしゃげた鉄の塊が、豪鬼の足元に転がっていただけだった。 「あ……あ……」 腰を抜かし、ズルズルと後ろに下がっていくギーシュ。 豪鬼は、そんなギーシュに一瞬で近付き、そして、手を振り上げた。 「ひぃっ!」 ギーシュが必死で後ずさる。 それを、周囲の人間は助けようとしない――否、周りの者達も同じくその場を動けないのだ。 しかし勇敢にもその威圧に耐え者がいた。 コルベールだ。 コルベールは、あたふたとギーシュに駆け寄る。 そして、豪鬼にその杖を向ける。 「み、ミスタ・グラモン! 大丈夫かね!?」 「あ、あ……?」 「済まない、ミスタ・グラモン……。 こんなことなら、私が止めれば良かったのだ……!」 そんなコルベールを見たオスマンは、あえて声を掛けなかった。 「帰るぞ、ミス・ロングビル」 「え、あ、はい」 オスマンが身を翻す。 それに少し遅れて、ロングビルも歩き出す。 コルベールの大声が聞こえる。 オスマンは呆れたようにため息をつき、呟いた。 「阿呆が」 次の瞬間、オスマンの後ろで大きな騒ぎが起こった。 「へ、平民が消えたぞぉっ!」 「ど、どこだ!? また上か!?」 「い、いや、上じゃない! 地面か!?」 そう、豪鬼は、既にその場を去っていたのだ。殺気だけを残して。 ロングビルはオスマンに追いつくと、一つ、疑問を口にした。 「オールド・オスマン。 あれならば、『眠りの鐘』を使用するべきだったのでは?」 オスマンは立ち止まり、いつものように髭を撫でながら言った。 「いや、それは無いじゃろ。 実際、どちらも怪我という怪我はしておらんしな」 「……は、はあ」 それに……、と小声でオスマンが呟く。 「……あの男に、そんなものが通用するとは思えんな……」 「は?」 「いや、なんでもない」 オスマンは悟られないように小さく、本当に小さくため息を付くと、これからの苦労に、気が重くなる思いで、ある人物に思いを馳せる。 「『あの方』ならば、どうするのかのう……」 今日の「滅殺!」必殺技講座 天魔朱裂刀 俗に言う『当身技』。 コマンドを入力し、構えに入る。 その一瞬に相手が打撃技をしてきた場合、即座に反撃すると言う技である。 その性質上、多少の読みが必要になるため、使い所は制限されるか。 コマンド「(上段の場合)下、下+パンチボタン三つ同時押し。(下段の場合)下、下+キックボタン三つ同時押し」 金剛國裂斬 ギーシュのワルキューレを一撃で葬った技。 実際の威力はこんなものではなく、エアーズロックを一撃で叩き割り、地盤を破って地獄へと行けたりしてしまうハチャメチャ技。 作者はアレク使いなので詳細は分からないが、かなりの威力を発揮する様子。 ゲーム中では、暗転後、地面を思い切り殴り、その衝撃波で攻撃をするという業になっている。 コマンド「下、下、下+パンチボタン三つ同時押し」 「地盤を叩き割って……で、どうしたの?」 「死合った」 「あ、そ。 もう慣れてきたわ」 今日の「死ネィッ!」必殺技講座 ゴッドプレス 突進しながら相手を片手で掴み、さらに加速しながら最後には画面端に叩きつけるという技。 ちなみにこの技、ルガールの象徴的なものとなっている。 コマンド「逆半回転+パンチボタン」 「オリコンでこの技を連続で放つのは男のロマンと言うやつだよ、テファ」 「すごいです! ダメージは勿論大きいんですよね!」 「……君の純粋さが辛い……」 前ページ次ページ滅殺の使い魔
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キュルケは戸惑っていた。パーティーと言われたからには一応の着飾りはしたが、だからと言って酒を飲んではしゃぐような気分にはなれそうにない。周りを見渡して、彼女はひっそりと溜息をついた。 アルビオン王党派最後の牙城、ニューカッスル城。パーティーはそのホールで行われていた。上座に設置された簡易の玉座に腰掛けて、国王ジェームズ一世は老いた双眸を細めて集った臣下を見守っている。貴族達はまるで園遊会であるかのように豪奢に着飾り、テーブルの上にはこの日の為に取っておかれたと思しき様々な御馳走が並んでいた。キュルケでさえ滅多に御眼にかかれないほど華やかなこのパーティーに、燃え尽きる寸前の蝋燭の炎のような儚さを覚えて、キュルケはたまらなく虚しかった。 しかし、それにも増してキュルケを当惑させたのは、ルイズ達仲間の行動だった。ルイズは悲しげな顔一つ見せず、話し掛けてくる貴族達と微笑んで会話を交わしている。ギーシュは沈鬱な顔をしている女性の元へ駆けて行っては、彼女達を笑わせていた。タバサはいつも通りの無口だが、同好の士であるのか十数人の貴族達と共にはしばみ草のテーブルを囲んで会話に興じている。ワルドも また如才なく笑顔を浮かべて挨拶に回っていた。そしてあのギアッチョまでもが、貴族達に勧められたワインを嫌な顔一つせず飲んでいた。 ――どうしてそんな顔が出来るのよ……! キュルケにはさっぱり理解が出来なかった。貴族達にも、悲痛な顔をしている者は誰一人としていない。悲しんでいるのは自分だけだとでも言うのだろうか。まるで自分だけが仲間外れのようで、キュルケはいたたまれない気持ちになった。 キュルケはもう部屋に戻ってしまおうかと思い始めたが、その時彼女の後ろから声がかかった。 「何やってるのよ、キュルケ」 キュルケは反射的に身体を捻る。腰に手を当てて、困ったような顔でルイズが立っていた。 「一人でどうしたのよ キュルケらしくないじゃない」 「……らしくないって、そりゃこっちの台詞よ」 キュルケは疲れた眼をルイズに向ける。 「揃いも揃ってどうしたのよあなた達 何でそうやって笑っていられるわけ?さっぱり解らないわ!」 無理やりにワインを飲み干して、キュルケは首を振った。 「明日全員死ぬのよ?あなた達それが分かってるの?」 「分かってるわよ」 「だったら……!」 理解出来ないという感情が、キュルケに怒りを感じさせる。珍しく声を荒げるキュルケに、ルイズはどこか優しげな声を掛けた。 「キュルケ」 「……何よ」 「明日全滅するなんてこと皆分かってるわ だけど彼らには死して何かを為す『覚悟』がある だったらわたし達がするべきことは、嘆き悲しむより彼らと一緒に笑うことよ」 わたしはそう思うわ、と静かに言うルイズをキュルケはハッとした顔で見直す。 「――…………そう……よね」 何を勘違いしていたのだろう。彼らの為の涙など、もはや溺れてしまう程に流されているに決まっているではないか。今彼らが 欲しいものは涙か?同情か?答えはきっと違うはずだ。 キュルケはもう一度彼らを見渡す。明日死ぬ身とも思えぬ笑顔で、彼らは穏やかに談笑していた。その笑顔に一片の曇りもないことを、キュルケはようやく理解する。その葛藤も覚悟も理解して、ただ笑って彼らを見送ること。彼らアルビオン王家最後の戦士達が欲しいものは、きっとそれだけなのだ。キュルケは薄く笑って首を振る。 「……まさかあなたに諭されるなんてね」 「しっかりしなさいよ、キュルケ」 キュルケを悪戯っぽく見上げて、ルイズは彼女に応えた。 衣装を整えながら、キュルケは「それにしても」と呟く。 「ルイズ……あなた変わったわね」 「……そう?」 きょとんとした顔をするルイズを見遣って、キュルケは笑う。 「以前のあなただったら、早々にここを抜け出して一人で泣いてたでしょうからね」 「なっ……それはあんたでしょ!肖像画に描かせてやりたいぐらいの顔してたくせに!」 などと言い返しながらも、ルイズは何かを考え込むような仕草をした。 その格好のまま、ルイズはぽつりと口にする。 「…………そう、かも知れないわね」 片手に持ったワインに口をつけて、ルイズはホールに眼を向けた。 中央近くでウェールズと言葉を交わしている男を見つけて、ルイズは嬉しいような困ったようなよく分からない顔をする。 「……感化されたのかしらね あいつに」 「……ギアッチョ、ね……」 キュルケはルイズに習ってホールの中央に眼を向ける。 不思議な男だった。所構わずキレる暴れる、殺人に躊躇すらない無愛想な平民。なのにルイズは、そしてギーシュやタバサまでが彼に何らかの影響を受けているように思う。恋愛感情ではないが、 キュルケもまたギアッチョにどこか惹かれている自分を感じていた。 有体に言えば――友情、だろうか。それとも、 ――友愛……かしらね? キュルケは腕を組んで呟いた。 学院の教師達よりも遥かに頼りになる男。それが彼女達の共通した認識だった。しかしそれでいて、ギアッチョには何故だか危うげな所がある。頼れる仲間であると同時に、キュルケにとってギアッチョはどこか心配になる友人だった。もっとも、友人とはこっちが、というか殆どギーシュが一方的に名乗っているだけの話だったが。 ――やれやれ……こっちのラブコールが届く日は来るのかしらね ギアッチョが自分達に自身のことを話す日は、果たして来るのだろうか。ギアッチョと共にいればいるほど、彼の正体が知りたくなる。 もしもギアッチョが口を開く時が来るのならば、それはきっと自分達を友人として認めてくれた時なのだろうとキュルケは思った。 「……ところで……あの、キュルケ」 「え?あ……何?」 思考に没入していたキュルケは、その声で我に返った。ルイズに眼を遣ると、彼女は何だか不安そうな顔で自分を見ている。 「…………その ラ・ロシェールで…………どうして、助けてくれたの?」 「へ?……え、えーと、それは……」 あまりにストレートなルイズの質問に、キュルケは思わず焦った。 今までのルイズなら、「誰が助けてくれなんて言ったのよ!」で終わりだったはずだ。やっぱりルイズは変わったと、少々混乱気味の頭でキュルケは考えた。 「…………か、考えてみれば ギアッチョを召喚した時も、キュルケが真っ先に……た、助けてくれたじゃない……?フーケの時だって……」 不安げな眼で二十サント近く身長の違うキュルケを見上げて、ルイズはおずおずと問い掛ける。 「……どうして?」 「ど、どうしてって……当たり前でしょ?あなたはと……」 「と?」 友達、と言いかけてキュルケはハッと我に返った。 「う……と……と、当代きってのライバルなんだから!」 ――あ……危ない危ない ギーシュに影響されてたわ…… 初めて自分に向けられたルイズのしおらしい言動に混乱していたキュルケは、何とか自律を取り戻した。心でほっと溜息をついてルイズに向き直ると、彼女は少し俯いているように見える。 「……そうよね わたし達、宿敵だものね……」 ――う………… しん、と二人の間が静まり返る。今まで何度も言ってきた言葉のはずなのに、キュルケは何故だかどうしようもなく胸が痛んだ。 「宿敵」というたった二文字の言葉がこれほどまでに心を抉るものだとは、今まで思いもしなかった。 優しい言葉の一つも掛けてやりたかったが、プライドと家名に邪魔をされて、キュルケは何を言うことも出来なかった。 自分もルイズと同じだということに、キュルケはようやく気付く。 二人を嘲笑うかのように続く静寂が痛い。今すぐそれを打ち消したくて、キュルケは思わず言ってしまった。 「……そうよ、こんなところで死なれちゃあなたの恋人を奪う楽しみがなくなるもの …………さ、私はパーティーを盛り上げて来るとするわ 格の違いを教えてあげるからよく見てることね」 捨て台詞のようにそう言って、キュルケはルイズの返答も聞かずに歩き出した。背中に感じるルイズの視線を振りほどくように、キュルケは足早に去ってゆく。歩きながら、キュルケは思わず胸を抑えていた。いつもと同じ売り言葉のはずなのに、どうしてこんなに胸が痛いのだろうか。答えに気付かない振りをして、キュルケはパーティーの人ごみに姿を消した。 わたしは馬鹿だ、とルイズは思う。自分は一体キュルケに何を言って欲しかったのだろう。ヴァリエールとツェルプストーとして、同じ一人の人間として今まで散々いがみ合ってきたキュルケに、今更何を言って欲しかったのだろうか。 ――馬鹿よ、わたしは…… わたしとキュルケは永遠に宿敵同士……それ以外に、わたしを助けるどんな理由があるというの? ルイズは俯いて片手のワインに眼を落とす。「宿敵」という言葉の重みを、彼女もまた痛い程感じていた。 ポロン、と澄んだハープの音が響く。耳慣れないその音に、ルイズは思わず顔を上げた。 「……キュルケ」 ジェームズ一世の御前でハープを奏でているのは、他ならぬキュルケであった。己に集う幾百の視線を物ともせずに、キュルケは優雅にハープを弾いている。その旋律の美しさに、ルイズは眼を見張った。普段の彼女からは想像もつかない繊細な手つきで紡がれる音色に、この場の誰もが聞き惚れていた。 「これはなかなか、大したものだね」 隣から見知った声が聞こえて、ルイズはそっちに顔を向ける。 ワインを傾けながら、ワルドがそこに立っていた。 「ワルド」 「彼女にこんな特技があったとはね…… それに面白い弾き方をする静かな曲だというのに、どこか情熱的だ」 ルイズは改めてキュルケを見る。正しくワルドの言う通り、キュルケの演奏には繊細さと情熱が渾然一体となって現れていた。まるでキュルケ自身を表したかのようなその音色に、いつしかルイズも瞳を閉じて聞き惚れていた。 万雷の拍手に包まれて演奏を終えたキュルケを見届けてから、ワルドはルイズに向き直った。 「ルイズ 今、少し話せるかい?」 「ええ……どうしたの?」 ワルドは真剣な顔でルイズの瞳を覗き込む。 「ウェールズ殿下が式を挙げてくれる…… 明日、結婚しよう」 「え…………」 ワルドのプロポーズに、ルイズはワイングラスを取り落としそうになった。何だかんだで結論を先延ばしにしているうちに、ルイズは結婚の話などまだまだ先だといつの間にか思い込んでいたのである。ワルドは既に明日の挙式の媒酌をウェールズに頼んでいるらしい。つまり、これ以上話の先送りは出来ないということになる。 いきなり決断を迫られて、ルイズはしどろもどろで返事をした。 「え…………えっと、その……わ、わたし……」 「いきなりで驚かせてしまったかな しかしどうしてもあの勇敢な皇太子殿に、僕らの婚姻の媒酌をお願いしたくてね」 ワルドはそこで言葉を切って、ルイズの両肩に優しく手を置いた。 「愛しているよ、可愛いルイズ 君は僕を都合のいい男だと罵るかもしれない だけどルイズ、君を前にして自分の気持ちを偽ることなんて僕には出来ないんだ」 ルイズから一瞬たりとも眼を逸らさずに、ワルドは堂々として言う。 「……受けてくれるかい?僕のプロポーズを」 「……ワルド、わたし……」 ルイズは強制的に、思考の海に引き戻された。どうして快諾出来ないのか、どうしてギアッチョが心に引っかかるのか。蓋をしていた疑問が、再びルイズの中で回りだした。自分はワルドが好きではないのだろうか?いや、それは違う。ワルドのことは好きだ。好きなはずだ。 幼い頃からの憧れは、今だって消えてはいないのだから。 ワルドとの婚姻を拒否すれば、父や母は悲しむだろう。しかし結婚してしまえば、ギアッチョはどうなるのだろうか。同じ部屋に暮らすというわけには勿論いかないだろう。それどころか、気軽に会うことさえ出来なくなるかもしれない。未だウェールズと話し合っている彼に、ルイズはちらりと眼を向けた。 ――だけど………………きっと、そのほうがいいんだわ 少し悲しげに眼を伏せて、ルイズは独白する。 この旅で解ったことがある。ギアッチョの心は、未だに暗殺者のものなのだ。彼は常に敵を殺すつもりで戦っている。ワルドとの決闘でさえも、一度はワルドの首を薙ごうとしていた。恐らくそれは、半ば以上に無意識の行動なのだろう。ギアッチョにとっては、敵は殺すものであり、攻撃は命を絶つ為のものに他ならない。そして、ギアッチョはもはやそういうことを意識すらしていないのだ。刃を使うなら首を、臓腑を、腱を断つ。拳を使うなら眼を狙い喉を潰す。 急所以外の場所を狙うという選択肢は、そうする必要がある時初めて現れる。神経、細胞の一つに至るまで、彼の心身は未だ暗殺者のそれに他ならなかった。 しかし、彼はもう暗殺者ではないのだ。いずれイタリアへ送り返す日が来るとしても、その地でさえ彼は暗殺者「だった」男に過ぎない。 ルイズはこれ以上、彼に血に塗れた道を歩かせたくなどなかった。 もう十分じゃない、とルイズは呟く。ギアッチョ自身がそう思っていなくとも、殺人という行為は確実に彼の心を蝕んでいる。 出来ることなら、ギアッチョには平穏に暮らして欲しかった。 だが、自分と一緒にいればまた今回のような事態が起こるかもしれない。自分と――いや、メイジと関わり続ける限り、争いと無関係ではいられないのではないか。ならば、とルイズは思う。 ならば、自分とはもう一緒にいないほうがいいはずだ。ギアッチョにはマルトーやシエスタ達がいる。彼らと共に生きることこそが、ギアッチョにとっての幸福なのではないだろうか。 出来ることなら、ギアッチョにはずっと傍にいて欲しい。しかし、それがギアッチョを殺人へ向かわせるというのなら。 スッと顔を上げて、ルイズははっきりとワルドに答えた。 「……喜んで、受けさせてもらうわ」 パーティーは和やかなムードのまま幕を閉じた。宴の始末をしているメイド達の他には殆ど人のいなくなったホールで、ギアッチョ、キュルケ、タバサの三人は、眼を回して床に倒れているギーシュを呆れた顔で見下ろしていた。 「…………うっぷ……」 どうやら調子に乗って飲みすぎたらしい。ギーシュは真っ青な顔を気持ち悪そうに歪めている。 「あなた船の上から酔いっぱなしじゃない しっかりしなさいよ」 「ふぁい……調子に乗りすぎまひた……っぷぁ……」 キュルケは溜息をついて隣の二人を見遣る。 「……ねぇ、これどうするの?こんなの担いで行きたくないわよ私」 「しょうがねーな……凍らせて転がすか」 「ええっ!?二つ目の選択がそれ!?」 「せめてもっと人間らしい方法を」と言うギーシュと「今のてめーは家畜以下だ」と言うギアッチョ達の間で、結論はなかなか出なかった。 いい加減業を煮やしたギアッチョはもうここに放置していくかと言いかけたが、その時タバサが何かを考え付いたように顔を上げた。 「待ってて」 と短く口にしてどこかへ行ったタバサが持って帰ってきたものは、ご存知はしばみ草のサラダだった。小皿に山のように盛られたそれを、タバサは構えるように掲げ上げる。ギーシュは真っ青な顔から更に血の気を引かせてあとずさった。 「……あはははは……じょ、冗談がキツいねタバサは…… その量は明らかに致死量を超えウボァーーー!!」 タバサの右手に構えられた毒物はギーシュの口に裂帛の気合と共に叩き込まれ、ギーシュは見事な放物線を描いて再び頭から倒れ落ちた。 ウェルギリウスと名乗る男に連れられて辺獄から氷結地獄までたっぷり地獄観光をした後で、ギーシュの意識はようやくハルケギニアへ帰ってきた。 「ハッ!?ハァハァ……こ、ここは一体!?あの悪魔は!?」 冷や汗をダラダラと垂らしながら怯えた様子で周囲を見渡すギーシュに、キュルケはこめかみを押さえてタバサを見た。 「……タバサ」 「何」 「やりすぎ」 「……修行が足りない」 「ところで君達聞いたかい?」 はしばみ草のおかげで酔いと共に抜けてしまった抜けてはいけないものが何とか身体に戻ると、ギーシュは何事もなかったかのように平然と口を開いた。 「何のことよ?」 三人を代表して、ややうんざりした顔でキュルケが問う。 「結婚だよ!さっきそこで子爵がルイズにプロポーズしてたんだ」 「……それホント?」 「本当さ しっかり聞き耳……じゃない、聞こえてきたんだから」 胸を張るギーシュを無視して、キュルケは簡潔に問う。 「ルイズの返事は?」 「……OK、だそうだよ 明日ウェールズ殿下の媒酌で式を上げるらしい」 その言葉に、キュルケは顔を複雑にゆがめた。 「何よそれ…… バカじゃないの?学院やめることになるかも知れないのよ!」 「ぼ、僕に言われても困るよ 本人が決めたことならしょうがないだろう?ねぇギアッチョ」 ギーシュが助けを求めるようにギアッチョに眼を向ける。いつも通りの読めない顔で一言、彼は「まぁな」と呟いた。 「何か悩んでる風ではあったがよォォ~~ それに自分の意思で答えを出したってんならオレ達に文句を言う余地はねーだろ」 ギアッチョは顔色一つ変えずにそう言うと、キュルケが言葉を差し挟む前にパン!と手を鳴らす。 「ほれ、てめーらはとっとと部屋に戻って寝ろ 追って沙汰はあるだろーが、式に出るにしろ出ねーにしろ朝は早くなるからな」 確かに、非戦闘員を乗せる船の出港は早い。睡眠を取っておかなければ、最悪アルビオンに骨を埋めることになるだろう。 まだ不服そうな顔をしているキュルケを促して、ギーシュはホールの出口へ向けて歩き出す。タバサがその後をついていくが、 「タバサ、てめーは残れ」 ギアッチョの言葉で、彼女はぴたりと足を止めた。次いでギーシュとキュルケも彼を振り返る。 「ギ、ギアッチョ まさかとは思うが君、そんな趣味が」 全てを言い終える前に、ギーシュはウインド・ブレイクで扉の外へ消え去った。 「意外と荒っぽいことするわね」 「口は災いの元」 殊ギーシュに関しては正にその通りだと思いながら、キュルケはギアッチョに顔を戻す。 「で、私達がいるのはお邪魔なわけ?」 「そうだ」 即答されてキュルケは少し驚いた顔をしたが、ギアッチョがそう言うなら仕方ないと判断して、少し唇をとがらせながらも頷いた。 「……そう言うならしょうがないわね じゃ、私達は先に戻ってるわ」 片手をひらひらと振って、キュルケはあっさりと歩き去った。 彼女が扉の向こうへ消えたのを確認してから、タバサはギアッチョを見上げて口を開く。 「……何?」 廊下に大の字になって伸びているギーシュを見下ろして、キュルケは溜息をついた。 「なんなのよ、もう……」 「ギアッチョのことかい?」 言いながらギーシュはむくりと起き上がる。 「……ルイズのことよ どうしてこんなに慌てて結婚しなくちゃいけないわけ?退学することになるかもしれないしギアッチョとも疎遠になるじゃない!」 「全くだね 薔薇は多くの人を楽しませる為にあるというのに」 「……あなたが言ってももう何の説得力もないわよ」 造花の杖をキザに構えるギーシュをジト目で睨む。なんだかバカらしくなって、キュルケは更に一つ溜息をついた。そそくさと薔薇の杖をしまうと、ギーシュは急に真面目な顔でキュルケを見る。 「……学院に居たくないということも、あるのかも知れないね」 「……え?」 「だってそうだろう?学院内に自分の味方が誰一人いない状態で、僕はむしろよくルイズがここまで頑張ってこれたと思うよ」 「そ、それは違うわ!」 慌てたように言うキュルケに、ギーシュは困った顔で笑う。 「そう、違うよ。僕達はもういつだって彼女の味方だし、先生にもルイズをなんとかしてやりたいと思っている人だっているはずさ。 だけどルイズは、きっと言わなきゃそれに気付けないんだ」 「……私は――」 「……ねえキュルケ そろそろ素直になるべきじゃないのかい? 両家の確執は僕にも分かるよ だけどルイズはルイズで、君は君だ。そうだろう?」 答えないキュルケの瞳を覗き込んで、ギーシュは続けた。 「これが最後のチャンスかもしれない 彼女に会いにいこう、キュルケ」 キュルケは言葉もなく立ち尽くしている。ギーシュもまた、他に言うことはないという眼で、無言のままキュルケを見つめていた。 重い沈黙が場を支配する。ほんの数秒、しかしキュルケにとっては無限のように感じられた数秒の後、彼女は苦しげな顔を隠すようにギーシュに背を向けた。 「………………私は、あの子の友達なんかじゃないわ」 絞り出されたその言葉に、今度はギーシュが溜息をついた。 「……それが君の答えかい」 「事実を言っただけよ」 素直じゃないのは分かっている。意固地になっているのも理解している。だけど、認めるわけにはいかない。自分達の意思がどうあれ、自分はツェルプストーで彼女はヴァリエール。未来永劫、それだけは変わらないのだから。だから――そう、今自分がここにいるのは、ただの気まぐれなのだ。他に理由などありはしない。それが、キュルケの答えだった。 「……それじゃしょうがないな、この話はおしまいにしよう。僕一人頑張ったところでどうにもならないからね ……僕は寝るとするよ」 「え?ちょ、ちょっとギーシュ……!」 キュルケの声を掻き消すように「おやすみ」と言い放って、ギーシュはマントを翻して去っていった。 「……何よ 一人前に怒ったってわけ……?」 キュルケはその場から動けなかった。後を追うことも怒鳴ることも出来ずに、彼女はまるで叱られた子供のような顔で立ちすくむ。 綺麗な指先で赤い髪を弄って、キュルケは自分の心を誤魔化すように呟いた。 「……つまんない」 「……概ね理解した」 相変わらず小さな声でそう言うタバサを見下ろしてギアッチョは問う。 「頼めるか?」 こくりと頷いて、タバサは了承の意を表した。ついと眼鏡を押し上げて、ギアッチョは「悪ィな」と口にする。 「どうして?」 「見れねーだろ」 「……別にいい あなたが正しいなら、見る意味はない」 「ま……あくまで可能性の話だがな」 そう言うと、ギアッチョは次々に片付けられてゆくテーブルに眼を移す。 「……ここまで深く関わってんだ 任務の詳細ぐれーは教えてやってもいいとは思うんだがよォォ~~」 ままならねーもんだ、と呟くギアッチョを見事な碧眼で見つめて、タバサはふるふると首を振った。 「かまわない あなた達の立場は理解出来る」 その言葉に追従ではないリアルなものを感じて、ギアッチョはタバサに眼を戻す。どうにも不思議な少女だった。 燭台に照らされた廊下を並んで歩きながら、ギアッチョはここでも本を読むタバサを見て一つ知りたかったことを思い出した。 「……学院のよォォ~~ 図書館とやら、ありゃあ誰でも入れるのか?」 タバサは怪訝な顔でギアッチョを見上げる。ギアッチョが読書に勤しむタイプだとは、どう見ても思えなかったのだ。 「……平民は、入れない」 タバサは怒るかと思ったがどうやら予想の範囲内だったらしく、ギアッチョは一言「そうか」とだけ返事をした。 「……調べ物?」 と訊いてから、タバサはハッとした。自分はこんなことを訊く人間だっただろうか。他人に干渉しなければ、干渉されることもない。それが「タバサ」の生き方のはずだった。だというのに、自分は一体どうしてしまったのだろう。そんなタバサの胸中など知らず、ギアッチョは当たり障りのない言葉を返す。 「そんなところだ」 そこでタバサはふと思い出した。そういえば、ギアッチョが召喚されてから程なくして、ルイズが毎日図書館に通うようになったはずだ。 勤勉な彼女は今までも週に数回は勉強の為に足を運んでいたが、日参するようになってからはどうも別のことをしているようだった。 一度彼女に使い魔を送り返す方法を知らないかと訊かれたことがある。その時はギアッチョと喧嘩でもしたのだろうと思っていたが、ひょっとすると何かのっぴきならぬ事情で今もそれを探しているのではないだろうか。そう認識したタバサの理性がストップをかける前に、彼女の口は言葉を紡いでしまっていた。 「……帰りたい?」 言ってから、タバサはしまったと思った。ギアッチョは二重の意味で少し驚いたが、しかし特に追求もせず口を開く。 「――……どうなんだかな」 タバサははぐらかされたのかと思ったが、彼の表情を見るに、どうやら本当によく分からないらしい。自分の推測が当たったことよりも、今のタバサには何故かギアッチョの去就が気になって仕方がなかった。 「ルイズじゃあねーか どこに行ってたんだおめー」 ギアッチョの声で、タバサの思考は中断された。前に眼を遣ると、そこにはルイズがギアッチョに出くわしたことに驚いたような顔で立っている。 「……あ…………」 かと思うと、彼女の顔がみるみるうちに真っ赤に染まり――次の瞬間、ルイズは一言も発さぬままに俯いて駆け出していた。 「ああ?」 ギアッチョが何か問い掛けるより早く、自分達の横を一目散に駆け抜けて、ルイズはそのまま回廊の薄闇に走り去った。 肩越しに後ろを覗き込んで、ギアッチョはやれやれと言わんばかりに首を振った。 「……相変わらず行動の読めねーガキだな。まだ何か悩んでやがるのか?」 パタリと本を閉じて、タバサは呟くように答える。 「……恐らくそう」 自分に眼を落としたギアッチョを見返して、タバサは「でも」と言葉を繋ぐ。 「私の考えが正しいなら、これは彼女自身の問題」 「ほっとけっつーことか?」 「私達が何かを言っても、彼女は頑なになるだけ」 フンと鼻を鳴らして、ギアッチョは再び歩き始めた。 「全然解らんが……ま、てめーがそう言うならほっとくか」 オレにもまだやることがある、と呟くギアッチョをタバサは幾分歩調を速めて追いかけた。 どこをどう走ったのかは全く覚えていない。ギアッチョと眼が合うことだけが恐くて、ルイズはただただ闇雲に廊下を走り回り――気付けば彼女は、いつの間にか自室に辿りついていた。思い切って扉を開くと、ギアッチョはまだ戻ってはいないようだった。服も着替えずにベッドに飛び込み、頭から毛布を被る。煩く鳴り響く心臓を押さえて、ルイズはぎゅっと身体を縮こまらせた。 ――何なのよ………… ルイズは自分が解らなかった。ワルドのプロポーズを受けてから、彼女の脳裏にはずっとギアッチョの姿がちらついている。頭から追い出そうとすればするほど、それは鮮明な像を結んでルイズの心を責め立てた。理由なんて知らない、分からないとルイズは己に言い聞かせるように繰り返す。 しかし、この胸の苦しさだけはどうしても誤魔化せなかった。廊下で偶然ギアッチョと出くわした時、ルイズは思わず何かを叫んでしまいそうで――反射的に、逃げ出してしまった。 ――……最低…… ぽつりと呟いて、ルイズは深く眼を閉じた。 今は眠ろう。明日になれば、きっと忘れられる。だから、今はただ眠ろう。 しかし、意志に反して――彼女は一向に眠れなかった。 屋上の見張り台から、ギアッチョは一人地上を見下ろしていた。 「……流石に冷えるな」 雲の上の更に上を、風が容赦なく吹きすさぶ。チッと舌打ちして、ギアッチョは視線を前方に向けた。双つの月が、見渡す限りの雲海を煌々と照らしている。 「絶景かな、ってぇやつか」 身を投げたくなる程の美しさだった。チームの奴らにも見せてやりたいもんだと考えて、ギアッチョはフッと笑った。 ――あいつらにそんな情緒はありゃしねーか かく言う自分もそうだったが、とギアッチョは思い返す。 イタリアにいた時には、周囲のものを景色として見たことなど殆どなかった。この世界に召喚されて、ギアッチョは初めて物事をあるがままに見ることが出来たのだった。 ――……そこんところは感謝してやってもいいかもな そう考えて幾分自嘲気味に笑った時、背後からギィッと扉の開く音が聞こえた。 「……よーやくおいでなさったか」 雲の海を眺めたまま、ギアッチョは待ち人に声だけを投げかけた。 「待たせたね さて、こんな深夜に一体何の御用かな?二人仲良く月見酒と洒落込もうというわけでもなさそうだが」 風に長髪をなびかせて、背後の男は薄く笑う。フンと退屈そうに鼻を鳴らして、ギアッチョはそこでようやく彼に振り向いた。 「何、大した用件じゃあねーんだがよォォ~~ ちょっと腹割って話でもしようや、ええ?ワルド子爵サマよ」 帽子のつばを杖で押し上げて、ワルドは口の端をつり上げて嘯いた。 「いいだろう こんなに月の美しい晩は、誰かと話もしたくなる」 前へ 戻る 次へ
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>>next 東京には人が集まる。 全国から才能を持った様々な人間が集まり、日々切磋琢磨しているのだ。 そんな世界へ挑戦してみないか。 お前は年を取ったわしとは違う。お前には若さがある。 若さとは力。冒険心。可能性への挑戦。歳月を経て懐かしむ得難い宝。 かの老人はそう言った。少年はそこに自分の未来を見た。 そして東京へ行ってみたいと考えた。己の身一つで何処までやれるのか。 行く道には幾多の困難があるだろう。それでも逃げずに精一杯ぶつかってやる。 少年のこれまでの人生。それは、贔屓目に見ても幸福とは呼べないものだった。 だが彼は挫けなかった。屈しなかった。前を向いて歩き続けた。 踏まれても、蹴られても、石を投げつけられ、唾を吐き掛けられても。 心無い者達の嘲りや誹りを受けても、折れる事無くまっすぐに。 それは まるで 厳しい冬を乗り越え 太陽の下 青麦が実るように はだしの使い魔 「あんた、誰?」 気がつくと、目の前に少女が居た。 少年は首を傾げた。ついさっきまで、彼は汽車に乗っていたのだから。 それとも、うたた寝してしまい、気がついたら東京に着いていたのか。 ……東京。ここが? 「のう」 「何よ?」 状況が分からないので、現地の(?)人間に訊いてみる事にした。 「ここは東京か?」 「トーキョー? ここはトリステインよ。って、そんな事はどうでもいいわ。 あんたねえ、私が質問してるんだから先に答えなさいよ。あんたは、誰なの?」 ――トリステイン? 目の前に居る桃色髪の少女が口にした、トリステインという地名。 彼は混乱した。どう考えても外国の地名だ。ついでに少女も外人だ。 「のう」 「……何よ?」 自分の問いに答えず、逆に続けて質問された少女はむっとした表情になる。 というか、何故か最初から不機嫌なのだが、少年の方はそれどころではなかった。 「わしゃ、何で、こんとなところにおるんじゃ!?」 訳が分からなくなり、少年は声高に叫んだ。 東京行きの汽車に乗っていたら外国に着いてしまった。意味不明だ。 焦る少年の周囲には少し離れて人だかり。目前の少女と似た服装の男女の集団。 目に映る景色は、夕暮れ時の草原。遠くには御伽噺や歴史書にあるような城。 「何でって、私が「サモン・サーヴァント」で呼んだからよ」 「呼んだ……じゃと?」 呼んだ、とはどういう意味だろう。そして聞き覚えのない単語。 説明を聞いた分だけ、新たな謎が増えていく。 そんな風に、彼は深まる疑問に頭を抱えていたので、 唇に触れる生暖かい感触に反応が遅れた。 「……んうわあーっ!」 少年は驚いて真後ろに2メートルくらい飛び退った。 口吸い。ちゅー。チッス。所謂KISS。 桃髪の少女が自分にくちづけをしてきたのだ。 「お、お、おのれはいきなり何をするんじゃ。 わしには光子さんがおるけえ、そんとな誘惑にゃ負けんぞ」 既に亡き恋人を思い浮かべ、顔を真っ赤にしながら邪念を振り払う。 「うるさいわね、私だって初めてだったのよ! うぅ、いやだって言ったのに……」 抗議する少年に対し、逆上する少女。あまりにも理不尽だ。 泣きたいのは自分の方だ、と彼は溜息を吐いた。 と、その瞬間、彼の身体中を熱と痛みが駆け巡る。 「グググググ!」 「少し我慢しなさい。使い魔のルーンが刻まれてるだけだから」 また、分からない単語。彼の心にふつふつと怒りが込み上げてくる。 方法は知らないが、自分をここへ呼んだのはこの少女。 戸惑う暇もなく、ファーストキスを奪われた。想い人とすらしてなかったのに。 そして、この原因不明の痛み。目前の少女の、横柄な物言い。 納得のいかない事が多すぎる。 やがて、身体を巡っていた熱は収束し、左手の甲へ集まり、紋様となって消えた。 少年は痕の刻まれた手を見て、わなわなと震える。 その様子を見届けた、一団の中でただ一人の頭頂部の禿げ上がった中年男は、 満足そうな顔で前へ進み出て桃髪の少女に語りかけた。 「どうやら、コントラクト・サーヴァントも上手く出来たようだね」 男は少女を褒め、痛みで蹲っていた少年に近づいて手の甲の紋様を確認する。 「ふむ、これは珍しいルーンギエェェーーッ!!!」 呟きは途中から絶叫に変わった。 少年が、突進し頭突きで男の股間を打ち砕いたのだ! 「はおおおお…………っ!」 苦しみにのたうち回る四十男。周りの男子達も思わず何かを堪えた顔になる。 女子達はあまりの事態に手で顔を覆って、でも指の隙間からしっかり覗いていた。 「お、お、おどりゃ、よくもわしの手ぇに彫り物してくれたのう。おどれら、 わしを捕まえて鉄砲玉にでもする気か、わしゃお前らの言いなりにはならんぞっ!」 彼は理解した。こいつらは、自分を拉致し、入れ墨を施した上、 体のいい遣い走りとして扱き使うつもりなのだ。 ……そして、その認識は悲しいかな、強ち誤解とも言い切れないのであった。 だから、彼は吠えた。獣のような雄叫びだったが、 それはまさしく彼の人間としての尊厳を賭した、魂の叫び声だったのだ。 >>next