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スレ233より 47 名前:1[] 投稿日:2011/02/04(金) 10 51 01 0 離婚することにして残りの荷物をひきあげてきました。 娘の学校の先生にも話をしてきました。 役所の相談窓口の人にも親切にしてもらえました。 ことの起こりは娘の学校の担任の先生からの電話でした。 娘が悩んでる、と。 この頃娘の様子がおかしかったので、できるだけ話を聞こうとしたりしてました。 でも娘はなんでもないと言うばかりで、夫ともどうしたものかと話し合ってました。 内容は夫側の親戚からのセクハラでした。 近所にすむ親戚はセクハラが酷く、ターゲットはもっぱら私でした。 抗議したり夫に言ったりして、夫がそれとなく注意してくれてたはずでした。 この頃セクハラが無くなったと思っていたら、ターゲットが娘になっていました。 そうならないように、娘一人で会うことは絶対させず、私か夫がいないところでは接触がないはずでした。 46 名前:名無しさん@HOME[] 投稿日:2011/02/04(金) 10 50 12 0 あまりにセクハラが酷いので、その親戚とはもう絶縁という手前でセクハラが無くなったので、 向こうもそれなりに反省したのだとばかり思っていましたが、そうではなくターゲット変更しただけでした。 うちの家は出入り禁止にしてましたし、娘がその親戚の家に一人で行くことはまず無かったのですが、メールや電話で娘にセクハラしてました。 着信拒否にすれば良いことだと思いますが、中学生の娘にとっては親戚を着信拒否していいものかどうか迷っていたようです。 私が今までセクハラで、嫌な思いをしてきてるのを知ってたので言えず、父親に相談したようです。 ところが父親は、そのくらいいいじゃないかという対応をして、ますます娘は悩んだようです。 母親には話せなくて父親にはお前が大げさと言われて友達にそんな親戚がいると知られたくなくて、本当に辛かったと思います。 夫が敵だと思うようになったのは、娘のアドレスをその親戚に教えたのが夫だったということと、その親戚から夫が内緒でお金を借りていたことです。 それと私の下着が頻繁に無くなっていたので、そのセクハラが盗んだのではないかということで警察に届けようとしましたら夫が、自分が持ち出したと白状しました。 抽斗から私の下着を盗んでその男に、娘の下着だと偽って渡していました。 「娘を守るためだからお前も下着くらい我慢しろよ。下着と娘どっちが大事かわかるだろ」と言われもうダメだと思いました。 言葉でセクハラして下着を要求して、大げさかもしれませんが次は下着の中身も要求するようになるのではという恐怖がありました。 49 名前:3[] 投稿日:2011/02/04(金) 10 51 45 0 私にこれ以上セクハラをすれば、私が逆上して報復に出ると分かったから、代わりに娘を差し出した夫を許せそうにありません。 セクハラがエスカレートしたその男に、私がマグライトで反撃して暴れ、シャンデリアなど壊したりしました。 口でもかなり反撃してきましたが、実力行使に出たり次は警察と告げたのは少し前の出来事でした。 今まで絶縁にならなかったのは、夫が一生懸命セクハラをやめさせようとしてくれてるから、夫の面目を潰したくない一心でした。 結果、夫はセクハラを止めるようには言ってなく、まあまあこれ以上はやりすぎないようにねとか、シャレにならないところはダメだよとか言ってただけでした。 一応俺の嫁さんだから手加減は忘れないで下さいよ~、ちょっとあいつこの頃神経質ですからねとか何を考えてそんなメールをしてたのかを問い詰めましたが、冷静に中立を守っただけと寝言を言ってきました。 娘をターゲットにするのを提案したのも夫でした。 本人は絶対そんなことはしてないと言い張りますが、ある程度年食った女は図太いし図々しいからもっと若い娘の方がゴチャゴチャ言わないですむよみたいなメールをしてるので、娘へのセクハラを焚きつけたも同然です。 しかも、子供相手だって向こうも分かってるからそれほど酷いことしてないはずだよとあまりにも呑気すぎます。 セクハラの程度の問題ではないと何度言っても分からないのはバカすぎます。 夫の両親は、トメの方はセクハラは酷いと言ってますが「息子(夫)も●君も根は良い子なのよ」と言うし、ウトは「最近はなんでもセクハラと言えば男に勝てると思ってるだろう」とどうしようもありません。 唯一守ってくれてると信じてた夫がそうでなかった以上、なりふり構わず私が戦わなければなりません。 受験間近のこんな時期にするのはどうかとも思いますが、1日でも1時間でももうあの近くに娘を置くことはできません。 決意表明です。 50 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2011/02/04(金) 10 53 14 0 すみません。 sage忘れた上に、1番目と2番目を間違えて貼ってしまいました。 47→46→49の順です。(編集注:修正しました) 54 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2011/02/04(金) 11 00 32 0 「セクハラ」というと軽く聞こえちゃうけど、「性的虐待」でしょこれ。 一歩間違えば「近親相姦」だし。 55 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2011/02/04(金) 11 02 41 0 これ普通に虐待で離婚できるだろ。弁護士と児童相談所の出番だな。 60 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2011/02/04(金) 11 17 01 0 夫と「親戚」のやり取りメールが文中に出てきてるけど、そういう証拠はきっちり 保存できてますか? 1日でも1時間でもつーか、1秒でも無理だわ。 受験間近だからこそ、今動くべき。 頑張って戦ってください。 その後いかがですか?53より 399 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 15 01 41.05 0 以前エネミースレで書き込んだ者です。 夫側の親戚から娘と私がセクハラを受けていたと書き込みました。 周囲の協力もあり今は無事に家を離れました。 夫からは「何か誤解があるはず」という連絡が来ますが、 今はそっとしておいてほしいと返事しています。 娘の携帯には相変わらずセクハラメールが来るので 携帯は私が預かり娘には見せていません。 大変だろうからと生活費を余分に送ってきてくれましたが そんな気遣いが出来る半面 なぜあそこまで無神経になれるのでしょうか。 (出産の時に)複数に(医師看護師)大股開きしといて何今さら純情ぶるんだかと言われ 血が逆流しそうでした。 報告と言うよりも愚痴になってしまいましたが、 もう再構築が無理だと思うと同時に 離婚になったとしても なんとか父親として女の子である娘への思いやりを取り戻して欲しいと思います。 404 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 16 05 08.83 0 >(出産の時に)複数に(医師看護師)大股開きしといて何今さら純情ぶるんだか 命がけの出産をそんな風にしか捉えられない奴に 娘への思いやりを期待しても無駄だよ。 405 名前:名無しさん@HOME[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 16 11 26.96 0 気遣いというより、親戚への生け贄が逃げると 自分が親戚から責められるからと 餌をあげて懐柔しようとしているだけと感じる。 娘さんを守れるのは399さんだけだから その旦那の真意を見て、離婚後も惑わされないようにね。
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前ページ次ページ虚無を担う女、文珠を使う男 第8珠 ~文珠使いの1週間~ 「ヨコシマ。ちょっとあんたに聞きたい事があるんだけど」 夕食を済ませた後、特にやる事もなく藁布団の上でごろごろしていた横島だったが、その声でルイズの方に注意を向けた。 何でも、文珠で病気の治療は出来るかどうか知りたいらしい。 ダメな事もないんじゃねーのか、と思っていた横島だったが、いざ具体例を思い出そうとして、その考えが全然根拠の無いものだったと気付く。 過去に数度は厄介な病気の現場に立ち会ったが、文珠で解決した覚えがさっぱりなかったのだ。 仕方がないので、当たり障りのない返答をする横島。 「病気? 試した事ないからなー 分からん。 でも何でだ? 病気なんか魔法でちょちょいのちょいじゃねーのか?」 「魔法はあんたが思ってるほど万能ってわけじゃないのよ。残念だけど。 そういう意味じゃ、その文珠の方がずっとすごいアイテムよ。 まぁ三日に一回、ほんの少しの間しか魔法が使えないって考えると、あんたはドット以下って事になるけどね」 「そりゃ確かに俺は文珠が無きゃほとんど何にも出来ないけどさ、わざわざそんな事言わなくてもいいじゃねーか」 「ち、ちょっと不思議な力持ってるからって調子に乗らないように、気をつけてあげてるのよ! 文句ある!?」 高飛車なルイズのオーラに、意思に関係なく土下座の姿勢になって「すんません」を連呼する横島の体。 それに満足したのか、ルイズは話を再開する。 「…それで話は戻すけど、病人に使ったら逆に危ないとかそういう事はないわよね?」 「効果が無い事はあっても、危ないなんて事はさすがにねーと思うぞ」 「それなら安心ね。今度の文珠、病気の治療に試してみるから」 一瞬、横島は何を言われたのかを理解できなかった。文珠は、かなり貴重な物である上に、彼自身の命を護る切り札だ。 そんな文珠を、まるでデパートの試食品をつまむかのような気軽さで取りあげるなんて、そんなまさか… 思わずもう一度聞き返したのだが、残念ながら返ってくる返事は同じだった。 見ず知らずの奴の為になんだって貴重な(特に今は手持ちが0だ)文珠を使わにゃならんのだ、と言い返す横島だったが… 「あんたは使い魔なんだから、つべこべ言わずに私の言う事を聞いてればいいの!」と、ある意味で懐かしい感じがする台詞が返ってくる。 だが、彼の上司である、色気たっぷりな美神さんに言われるのとは訳が違う。 「そ、そんな事言うと使い魔なんてやめちまうぞ! こんな事やらんでも、文珠1個売れば一生暮らしていけるくらいの金には困んねーんだからな!」 「何バカな事言ってるのよ。あんたの力は無闇やたらに公表したらまずいって言われたばっかりじゃない」 横島の作り出す文珠は、使い方によっては億単位の価値があるアイテムと同様の働きをする。そんな事をいくら言ってみてもダメだった。 悲しいので、「どうせなら、キュルケさんやロングビルさんの使い魔になれれば良かった」とぼやく横島だったが… それは、延々とルイズの実家・ヴァリエール家と、キュルケの実家・ツェルプストー家の因縁を聞かされる羽目になっただけだった。 (ふーん。美神さんとエミさんの関係、みたいに思っておけば間違い無さそうだな。 だけどなー エミさんみたいにええチチしてるキュルケさんがライバルなら、美神 さんポジションのルイズちゃんだってもってこう、ボンキュッボンってなっててもいいと思うんだけどなー) 「というわけで、キュルケはだめ。禁止」 (で、フレイムはさしずめタイガーの役どころっと。 虎じゃなくてトカゲだけど。 そういや、あいつここ最近は「出番無くて悲しいんじゃー」 とか言ってたが… 元気にやってっかなー) まぁ、こんな感じで全然真面目に聞いちゃいなかったわけだが。 「分かった? そう言うわけで、あんたが文珠作ったら… それを病気の治療に使えるようにして頂戴。 私の使い魔が生み出す、珍しい水の秘薬って事にして送るから」 話はいつの間にか再び元に戻っていて、横島もいい加減面倒になったので了承した。 そして翌日。 いつものように横島が目を覚まし、ルイズを起こそうとするが… 「今日は虚無の曜日だからお休みなの~ あんたもまだ寝てていいわよ~」 それならそうと昨日のうちに言っておけ、と思った横島だったが、これはこれで好都合。 ちょっと朝の散歩に、なんて似合わない事を言っても、寝ぼけているルイズは特に気にせず許可を出す。 「ふっふっふ。好機、今こそ来たりっ! 待ってて下さい、ロングビルさーん!!」 心の底から叫びながら横島はルイズの部屋を飛び出した。 そんな叫びを聞くは、休日でも規則正しい生活を心がけている数名の女生徒達。 ルイズが呼び出したのは、平民は平民でも変態の平民である事が、こうやって徐々に広まっていくのであった。 横島は、どこから準備したのかほっかむりをして顔を隠しつつ、一心不乱にロングビルの部屋を目指していた。 そのカサカサという擬音が聞こえそうな姿は、どこからどう見ても立派な変態だ。 ところが… そんな変態へ声をかける猛者がいた。 「むむ! そこにいるは、ヨコシマ君じゃな!?」 何を隠そう、学院一のエロじじい、オールド・オスマンだ。 彼はロングビルのいる部屋へ向って飛んでいる最中に、頭に頭巾のようなものを被っている横島を見つけたのだった。 「お主、こんな所で何をやっておるんじゃ?」 オスマンが疑問に思ったのも仕方が無い。彼がいるのは、ロングビルの部屋を窓から覗ける位置。つまり建物の外側というわけだ。 そんな彼に見つかった横島も、当然建物の外側にいる。しかもロングビルの部屋は1階にあるわけではない。 どういう事かというと… 彼は、垂直な壁をまるでごきぶりのように4本の手足を使ってよじのぼっていたのだ!! 万が一手をすべらしたら良くて大怪我、運悪く頭でも打てばそれどころでは済まない…のだが。 「またまたー オスマンの爺さんだって俺と同じっしょ? 今日は休日なんすよね? もしかしたら、まだベッドの中でお休み中のロングビルさんに会えるかも知れないじゃないっすか」 なんとこの男、ロングビルの寝姿(+α)を見たいが為だけに、命を懸けている! オスマンだって、毎度毎度ロングビルから折檻される事を覚悟して尻をなでまわしているわけだが… それとこれとは全く意味合いが違う。 オスマンの場合、カーテンが閉まってたり、ロングビルがすでに起床していたとしても、ただそのまま残念に思うだけだ。 しかし横島の場合、そのようになーんの成果も得る事が出来なかったとしても、落っこちる危険性が無くなるわけではない。 いや、そもそも目的地へたどり着くより前に落ちる事だってありうる。 そんな状況なのに、「ちょっと散歩に来ました」のような軽いノリで自らの目的を述べる横島に… オスマンは、正直感服した。 長いこと生きてきたが、ここまで自分の欲望に忠実な奴はいただろうか、いやいない。 「ヨコシマ君よ。ワシは今、猛烈に感動しておる! 長年君のような人材を探しておったのじゃ。 どうじゃね、ワシと一緒にミス・ロングビル同好会を…」 夢にまでみた同好の士に、思わず熱が入るオスマン。 コルベールも同好と言えなくはないのだが、いかんせん彼はくそ真面目すぎる。 それに比べて、横島は放って置くと目的と手段が入れ替わってしまうような、そんなバカらしさにあふれている。実にいい。 だが、オスマンは重要な事を忘れていた。 考えるまでもないことだが、ここはすでにロングビルの部屋を窓から見れる位置。 そんなところで、特に注意もせずにしゃべっていたりでもすれば… 「学院長、また覗きに来たんですか? あれほどやめて下さいと… それにヨコシマさん、そんな所にいたら危ないですわよ?」 とっくに着替えていたロングビルが、窓を開け放して二人にあきれたように声をかける。 「ああ、ロングビルさん、いつ見ても綺麗っすね!! ところで、今日はお休みなんすよね!? 二人でどこかに行きませんか!?」 「ほっほっほ。ミス・ロングビルや。ワシはたった今、このヨコシマ君と二人でミス・ロングビル同好会を立ち上げたのじゃ。 その名誉会長のワシにキスをしてくれても構わんぞ。 ほれほれ、どうした、やらんのか?」 「…はいはい、いつまでもバカな事を言ってないで、朝食を食べに行きますわよ」 やれやれ、といった顔のロングビル。 その後、三人は朝食を取り(横島は学院長の計らいで、特別に一緒に食べられる事となった)、その席で大いに親交を深めたのだった。 (実際は、横島とオスマンがセクハラ魔人となる中、ロングビルが適当にあしらいつつ文珠の情報を引き出したり、横島を軽く誑かそうとしていたのだったが) それぞれにとって楽しい、または意味のある長時間の朝食会が終わった後、虚無の曜日とは言え仕事が残っているという二人と別れた横島は、ルイズの部屋へと戻っていた。 「あんたねー 一体どこまで散歩に行ってたのよ!? もうこんな時間じゃない」 「もうこんな時間っつったって、まだ昼前じゃねーか。無断でいなくなったわけじゃねーのに、なんで怒ってんだよ」 「本当は今日、あんたを街まで連れて行ってあげようと思ってたのよ。 この時間だと、帰りが夜遅くになっちゃいそうだからダメだけど」 「街? なんだ、街には何か面白いもんでもあんのか? 言っとくけど、俺金なんか持ってねーかんな? 金のかかる遊びなんか出来ねーぞ」 「あんた、たまにはちょっと考えて物言いなさいよ。 いい、あんたが力を使うと、使った分だけ文珠を作るペースが落ちるんでしょ?」 「まあな。どっちも俺の霊力を元にしてるのは一緒だし」 「それで、私は出来るだけ早く文珠が欲しいのよ。 だからあんたが余計な力を使わなくてもいいように、剣を買ってあげようと思ったの。分かった?」 「言いたい事は分かった。非常に良く分かった。 でもなー 俺、剣なんか買ってもらっても多分うまく使えないんじゃねーかなー? 俺のハンズ・オブ・グローリーは、ある程度俺の自由な形になるっていうのがミソなんだから」 「何言ってるのよ? 正直、文珠がレアすぎて忘れがちになるけど、あんたにはもう一つ、使い魔の能力があるじゃない。 普段は普通の剣を使って、どうしてもダメだって時以外は力を使うのは止める事。 それに剣を持っていれば、あんたみたいな平民が私のような名門貴族の側にいても、護衛だって言えば面倒な説明をしなくてもすむしね」 ここまで説明されて、ようやく事の次第を理解した横島。 いざ街に行くと決まれば、次はそこがどんな街なのかが気になるのも道理で… そのまま、ルイズ先生によるトリステイン講座が始まったのだが… 「あんたは私がわざわざ説明してあげてるのに、どうして寝てるのよー!!」 「しゃーないやんか、何か聞いてると眠くなるんやー」 「あんた、やっぱり不思議な力があるからって調子に乗ってるんじゃないの? 普通貴族相手にそんな態度とったら、下手すれば打ち首だってこの間言ったばっかりじゃない!!」 「そんな事ねーよ。霊能力つける前から俺はこんなだしなー」 「何それ、本当? あんたの国って一体どうなってるのよ。良くそれでやっていけるわね」 「俺の国? こことはもうまるっきり正反対って言ってもいいぞ。 魔法使いやら貴族やらはかなり少ない、というかむしろ魔法使いなんて国中探しても数名いるかいないかじゃねーか? 代わりに、と言えるほど多いわけじゃねーけど、俺みたいな霊能力者は数いるけどなー」 とまぁ、その内容はほとんど雑談のような物であったのだが、別に魔法を使わないとならないような場面もなく、ストライクゾーンからはハズレまくってるとは言え、美少女が相手だという事もあり、それなりに楽しい一日を過ごした両者であった。 それからの1週間は、瞬く間に過ぎて行く。 まず最初に記すべきは… ルイズの努力の甲斐むなしく、とうとうある授業の最中に、ゼロの渾名の由来が横島に知れてしまった事。 魔法の成功率ほぼゼロという不名誉な理由に、使い魔がバカにしてくるのではないかと不安になるルイズ。 そんな彼女に横島は… 「あー、この間、冥子ちゃんの事話した時に泣いてたのって、自分も上手く力が使えないからって事か」 初めてみたご主人様の失態だというのに、手馴れているように周囲の掃除をしながら、何でもないように声をかけていた。 実際のところ、ちょっと感情を高ぶらせるだけで、家一軒ダメにしてしまう暴走娘が知り合いにいるのだ。 その被害を受けたことも一度や二度ではない横島にとってみれば、部屋が半壊する程度の事はそれほど驚く事でも無かった。 「まぁ俺の知り合いには、ふとしたきっかけで今まで上手く使いこなせていなかった力をコントロールするようになった奴もいるし、そのうち何とかなるんじゃねーかな。 俺も何か出来る事があれば手伝ってやるし。 …でも冥子ちゃんは今でも結構暴走させてるんだよなー」 「なんであんたは最後に不安になるような事言うのよ、ばかー」 なんて事があり… 次に記すべき事は、ロングビルの横島へ向けたアプローチだろう。 毎日というわけではないが、ロングビルと食事をとっている横島の姿が、数度ほど目撃されている。 ルイズにしてみれば、キュルケに誑かされるよりははるかにマシ、一応自分の言う事も聞いているし、ロングビルが今は平民であるという話も横島から聞きだしたため、黙認をしているそうだ。 また、クラスを偽っている理由について聞いてみたい横島ではあったが、その度に上手くはぐらかされてしまい、未だに聞き出すには至っていない。 そして最後になったが、やはり文珠による病気の治療について述べなければなるまい。 横島には言ってないが、ルイズが治したいと思っている人物は、ヴァリエール家の次女、つまり彼女の姉であった。その名を、カトレアと言うのだが… 【治】の文珠を早馬にて送った際、カトレア宛てにだけは、本当の事を書いて手紙をしたためていた。 自分の使い魔が人間である、という事は、到底信じてもらえそうにない事であったが… 魔法が使えなくて、いつも家族から叱られていた自分の、ただ一人の味方だったカトレアにだけは、嘘をつきたくなかったのだ。 その結果は、翌日の夜に伝書フクロウにて戻ってきた。 うさんくさいと言う両親の反対を押し切って、カトレアは文珠を使い… 結果、数時間ほどの間だけであったが身体の調子が今までに無いほど回復したそうだ。 その後、残念ながら体調は元に戻ってしまい、治療という意味ではさほど前進しなかったのだが… 急な発作が起きた場合の一時しのぎに使える為、数個ほどさらに送って欲しいと言う事。 そして、その使い魔と同種の生物を探す為に… エレオノールを魔法学院に向わせる、という事が記されていた。 「ま、まずい事になったわ…」 エレオノール、つまりヴァリエール家長女であり、アカデミーに勤めているルイズの姉であるが… アカデミーというのは、先日注意されたばかりの、「何をしでかすか分からない組織」の一つである。 どう考えたってまずい。 来訪の予定は未定との事だが、近日中にやってくる事は間違いないだろう。 ある意味で自業自得なのだが、ルイズはこの件でここ2・3日の間、ずっと頭を悩ませ続けていたのだった。 前ページ次ページ虚無を担う女、文珠を使う男
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前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 『東方の神童・悪魔くん』こと、松下一郎がハルケギニアに召喚されてから、約4ヶ月。季節は夏。 松下の領地となったタルブは、僅か2ヶ月ほどで焦土から目覚しく奇跡の復興を遂げ、高度成長期を迎え、 今やラ・ロシェールと肩を並べる、いや相乗効果で共に栄える軍港都市へと発展しつつあった。 はぐれメイジや傭兵団、怪しげな商人や貧民、貧乏貴族も、ここにくれば(能力に応じてだが)平等に、 仕事と出世の機会を与えられる。戦争で手柄を立てれば、王国の勲章だって得られるだろう。 ラグドリアン湖周辺からの移民も、しっかりと農業・商業・手工業などの職を与えられて精勤している。 主な産業は『魔女のホウキ』の量産、ベラドンナ草の栽培、ヒキガエルの香油の精製などだ。 「うむ、見事だ。シエスタとその家族も、よく住民の監督官(エピスコプス)を勤めているようだね。 そろそろ、自前の艦隊でも建造してみようかなぁ。ホウキもいいが、竜騎士団も欲しいところだ」 「光栄です、『我らのメシア』。千年王国の教義を小冊子に纏めて、住民に配布ないし回覧いたしました。 文盲の者たちには、毎日の礼拝と御説教聴講への参加を義務付けています。 メシアよ、『信者』はそろそろ千人に達します。やがて御教えは全土に、大陸中に広がりましょう」 松下は『第二使徒』シエスタを連れて、毎日ホウキを駆って領内の見回りをしていた。 「そうか。王国やブリミル教会との折り合いは、ぼくがやっている。トリスタニアにも宣教団を派遣しよう。 ぼくを始祖ブリミルの生まれ変わりとして、崇拝する集団も出てきているようだが……」 シエスタはひざまずき、狂信の眼差しを小さなメシアに注ぐ。 「そうでは、ないのですか? はした女にお教え下さい」 「そうかも知れないな。いや、ルイズが『虚無の担い手』の一人だから、転生体は彼女なのかも知れん。 ぼくはブリミルより上の存在、『唯一神』の遣わした救世主であるから、ブリミルとも同格以上だろう」 松下は天を指差す。シエスタは恐れ戦き、大地に五体を投げ出して、松下を礼拝した。 トリステイン魔法学院は、明日から2ヵ月半もの夏期休暇。 大多数の生徒諸君は、故郷の領地や王都トリスタニアに住む家族のもとへ帰郷する。 ルイズも一応、ラ・ヴァリエール公爵領に帰郷する予定、だったのだが……。 「女王陛下からの、親書……!」 アンリエッタ陛下から、フクロウによってルイズに書簡が届けられた。 それを読んだルイズは、タルブ戦で使った遠隔通話魔法具で、松下を呼び出す。 「これも正しく『召喚』ね。『召還』かも知れないけど。 あいつは私の使い魔なんだから、こっちへ還って来るのはあいつの方なのよ!……早く出なさい!」 『……もしもし、松下だが。……あぁ、きみか。ホットラインがあったのを忘れていたよ。 ……なに、女王陛下が呼んでいる? そんなこたぁいいんだよ、忙しい時に』 「いいこたぁないわよ!! 勅命だから、さっさと『魔女のホウキ』で飛んできなさい! さもないと例のエロイムエッサイムの呪文で『召還』するわよ!」 『爆発とともに現れるのは勘弁願いたい。分かった、すぐ行くよ』 通話を終えて、ふん、と松下は鼻息をつく。 女王陛下とルイズは、あくまでぼくを『ルイズの使い魔』という扱いにとどめておきたいようだ。 「まあ、ここはしばらく、自律的発展に任せよう。『第二使徒』シエスタ、きみと家族をぼくの名代として残す。 あとで連絡先を知らせておくから、何か変事があればホウキで飛んできてくれ。 そちらの情勢も、逐一ぼくの私兵メイジたちにチェックさせて、書き送ってもらうが」 「承知いたしました、『我らのメシア』。もし再度アルビオンから侵攻があったとしても、 我々がメシアの御光臨まで持ちこたえてご覧にいれましょう」 王宮に現れた二人を、女王は温かく迎えた。密談室に通され、『東方』産の高価なコーヒーと菓子が振舞われる。 「わざわざお呼び付けして、申し訳ありませんでした。けれど、内密にお伝えしたいことがございまして」 「何でしょう? この間の件なら、しっかり報酬は頂きましたが。タルブ伯領地の拡大と、国内の余剰人材の提供、 それに褒賞金が少々とマジックアイテムの下賜。貴女の生命や王国に比べれば安いものです」 「そうですね、改めて感謝いたしますわ、タルブ伯マツシタ殿」 ルイズが、じとっと松下を睨む。どこまで傍若無人なのだ、こいつは。 アンリエッタ女王の話は、次のような内容であった。 アルビオンは、艦隊が再建されるまで、正面からの侵攻を諦め、不正規な戦闘を仕掛けてくる。 国家の事業を妨害し、国内の反体制派を煽り、暴動や反乱、破壊活動を援助する……いわば無差別テロだ。 カネや魔法や『アンドバリの指輪』で操った人間をテロリストにし、王侯や高官を暗殺にかかるかもしれない。 勿論、王都の大商人や高官を買収し、情報戦・謀略戦を仕掛けても来るだろう。 先だっての皇太子事件とて、悪魔以外にも手引きがあったはずなのだ。 「……そういうわけで、我々は『治安維持法』を制定し、国内……特に王都周辺の治安維持を強化しています。 憲兵や一部近衛兵も忠誠心の高い平民から取り立て、私の身辺警護に当てています。当然、女性ばかりですが」 「ご自慢の魔法衛士隊とて、グリフォン隊もヒポグリフ隊も壊滅し、残るはマンティコア隊だけですからな。 陛下の身辺の安全と治安の維持が優先されるのには、賛同いたします」 女王は微笑み、話を続ける。 「有難う。そこで、お二人には1ヶ月ほど、『身分を隠しての情報収集任務』をご依頼します。 平民の間に立ち混じり、不穏な動きや噂を調査して、私に直接知らせていただきたいのです。 此度の戦争で、かなり民衆には負担を強いることになりますのでね」 一種のスパイか。まぁ、日本が先の戦争に負けたのも、軍部が暴走して貴重な情報を軽視し、 無謀な戦争へ国を導いてしまったのが原因だ。戦前の諜報活動は、国内外に向けられるべきものだろう。 だが……。 松下は、コーヒーカップを片手に、椅子の背もたれに寄りかかる。 「しかし、陛下。このぼくとルイズに、そんな役が出来ると、本当にお思いですか? ぼくは『ただの平民の子供』として行動する事など出来ないし、公爵家令嬢のルイズは言わずもがなです。 それより、ぼくの私兵集団に調べさせた方が、よほど効率がよろしい」 「こ、こら、マツシタ!」 「ルイズが、ぼくが目を放した隙に、敵の手に落ちたら? 『使い魔の責任』として、ぼくは縛り首ですか? ぼくが、『何者か』の手にかかって暗殺されたら? タルブ伯領はどうなります? 今やぼくには、千人に及ぶ私兵集団が付いているのですよ。勝手な真似はできませんし、危ない橋は渡りません。 もし、そうなったら……お分かりでしょう? アンリエッタ女王陛下」 松下が、女王に脅しをかける。地球で一度暗殺されているため、以前よりは慎重になっているようだ。 もはや彼は、ただの8歳児の使い魔でも、『東方』のメイジ見習いでもない。 狂信者の集団を従え、国内に確固たる勢力基盤を築きつつある、危険な『悪魔くん』なのだ。 とは言え、彼のような存在を統御できなければ、国家を治める女王としての資格はない。毒を以て毒を制す、だ。 アンリエッタは内心冷や汗を掻きつつ、次の手を打つ。 「それは分かっております。しかし、不穏な動きはすでに兆候を見せています。 例えば、このような張り紙はご存知ですか?」 リッシュモン高等法院長から枢機卿が入手した、例の張り紙を松下に見せる。 「ほほう、『薔薇十字団』とはね!」 「おや、ご存知でしたか?」 「ええ。ぼくのいた……『東方』で昔流行していた、魔術的秘密結社です。 確かロマリアやゲルマニアでは、今から30年以上前に話題になったはず。 なんでも開祖のローゼンクロイツなる人物は、かつてサハラや『東方』を旅し、 その知識を持ち帰って弟子たちに密かに伝えたと言われ、死んでから120年後に復活したとか……」 喰い付いて来た。アンリエッタはにこやかな笑顔を浮かべたまま、続ける。 「それは興味深い。是非とも、魔法に造詣の深い貴方に調査して頂きたいですわ。 『東方』で流行していたというなら、国内のメイジでは理解しにくいでしょうし。 まさかゲルマニアのメイジにこんなことは頼めませんもの、ねぇ」 松下は、してやられた、と苦笑する。興味のあることに関してつい饒舌になるのは、悪い癖だった。 「ウワッハッハハハ、まっ、いいでしょう。陛下をいじめても、はじまりませんからね」 ルイズはすっかり蚊帳の外で、いじけ始めた。コーヒーは苦くて、ミルクと砂糖をたっぷり入れなくては飲めないし。 「それじゃあ、息抜きがてら、しばらく平民としての生活を楽しんでみましょうか。 それで、ぼくとルイズに、その秘密結社について調べろと?」 「ええ、お目付けと言ってはなんですが、私の直属の部下を付けさせてもらいます。 アニエス、お入りなさい」 女王が杖を振って『開錠』し、鈴を鳴らすと、扉が開いてその人物が入室する。 長身の女性、それも20代前半。短く切った金髪の下で光る、警戒心の強そうな、きつく吊り上った碧眼。 百合の紋章が描かれたサーコートの下には、鎖帷子が光っている。姿勢を正し、びしっと軍礼をする。 「帯剣はしていませんが、武装姿で失礼します。この度『シュヴァリエ(騎士)』として銃士隊の隊長に取り立てられた、 アニエスです。平民出身ゆえ、『ラ・ミラン(粉挽き女)』などと呼ばれていますが」 ルイズは、貴族風を吹かそうと立ち上がる。 「平民が、シュヴァリエだなんて……それに、そんな恰好、陛下にご許可を頂いたの!?」 「ぼくは平民出身だとて差別はしない。よろしく、アニエス」 「彼女は忠実な私の衛士。女だてらに反乱兵鎮圧などに大きな手柄を立て、めでたくシュヴァリエに叙勲されました。 今回の任務で、さらに手柄を重ねさせて上げたいのです。忠誠には、報いねばなりませんから」 ルイズがぐっと押し黙り、着席する。 「『民の声は神の声』と古代の政治家は言ったものです。しっかりと、忌憚無く民衆の意見を聞き出して下さい。 期間は明日より1ヶ月。週に一回、報告書を提出して頂きます。その他はご自由に」 「いいですよ。ただしタルブに何か変事があれば、ぼくはルイズを連れて最優先でそちらへ行きますからね」 「ええ。それ以後は、夏期休暇をお楽しみ下さい。ルイズも帰郷を遅らせて、済みませんね」 アニエスは、蚊帳の外でいじけるルイズをあやしつつ、松下に警戒の目を向ける。 20年前、身寄りのない平民の孤児だった彼女を拾い上げ、成人まで世話してくれたのは、若き日のマザリーニ。 そして即位してからのアンリエッタは、彼女を引き取って直属の部下とし、軍功を立てさせた。 まさしく、枢機卿と女王の『子飼い』の部下なのだ。王国に対してよりも、彼らへの忠誠心は並大抵ではない。 彼女自身は、主人に使い潰されればよいと信ずる根っからの武人。 魔法こそ使えないが、剣術も武術も、拳銃を操る術も達人級である。 ワルドの裏切りで、メイジを信用し難くなったアンリエッタには、うってつけの護衛であった。 それに、アニエスには一つ、これまでの人生を賭けてきた望みがある。 これが叶えば、あとは死んでもよい、というほどの望みが。 それは20年前、自分の村と家族を焼き滅ぼした、あの事件の主謀者を……この手で殺す事。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
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前ページ次ページルイズの魔龍伝 6.ブルドンネ街 決闘から三日、ルイズの周囲は少しずつ変わっていった。 まず表立って馬鹿にする生徒が少なくなったのである。 メイジについて表す言葉に「メイジの実力を見るなら使い魔を見ろ」というのもあり 「ギーシュのゴーレムを圧倒的かつ一瞬で葬り去ったのはルイズの使い魔」 という衝撃的事実はあっという間に学院内を駆け巡っていた。 元々魔法以外の成績はトップクラスであり、家系もトリステインの中では相当に有名な部類に入るので 「あのルイズがとうとう」と感心する者もいたという。 「どうせ嘘に決まっている」「ルイズが凄いのではなく使い魔が凄い」 人づてに話を聞いた者や、ルイズを侮蔑目的でからかっている心無い者もいたものの 決闘の当事者であるギーシュとルイズ、更にこの決闘を見ていた彼女らのクラスメートも多く 何より使い魔の名前が「ゼロ」であったためルイズのクラスでは「ゼロ」とルイズを馬鹿にする者は一人もいなくなった。 「アンタが名前をゼロゼロ言うから私の二つ名が“ゼロ”のままじゃないのよーーーーーーー!!!!」 当人はこんな感じで相変わらずご立腹であったが。 「買い物に行くわよ」 その日の夜、ルイズから提案があった。 話によると明日は休日にあたる虚無の曜日なので街へ買い物に行くとの事らしい。 「それで、アンタの寝具と…剣ね、それを買うわ」 「…どういう風の吹き回しだ」 「あんたがボロっちぃマントで寝てるのがみっともないからよ! 使い魔の管理をするのも私の仕事!それに…私が受けた決闘で剣、壊しちゃったみたいだし…」 今までの待遇からするとあり得ない提案とちょっとしおらしくなった言動に疑心暗鬼になるゼロ。 この娘の事だ、何か物を買わせてまた雑務を押し付けるに違いないと彼は思ってしまった。 「物で釣っても俺は着替えの手伝いもしないし顔は洗わんからな」 使い魔が出来て色々と雑務をさせようというルイズの企みは事実失敗に終わっていた。 呼び出して2日目の朝は何とかなったものの、それ以降は着替えと洗顔に関しては 「そのぐらい自分でやれ」と断固として断られたのだ。(水は朝の鍛錬のついでに汲んでくれているようだが) 更に部屋の掃除と洗濯は率先してシエスタがやるようになってゼロをこき使う機会も無くなってしまった。 着替えと洗顔をやらないなら飯を抜こう、とは思い立ったがシエスタの話では 決闘で気を良くした厨房の人達がご飯を出してくれており、ゼロも 「俺の飯と、シエスタがルイズの世話をしている礼だ」 と薪割りや物の持ち運びなどの力仕事や使い魔への餌やり(使い魔達がゼロに妙に懐くかららしい)を 行っているので「言う事聞かないから飯を抜く」とはとても言い出せなかった。 しかし決闘で見事圧倒的な力の差を見せ勝利した使い魔、 褒美で何か買ってやろうという気持ちも無い訳ではなかった。 それがゼロの一言で見事に打ち砕かれた。 ゼロの鈍感な言葉にルイズの心に火が灯り、それは徐々に炎を形作る。 「あー…っそ! アンタ異世界から来たなら当然この世界のお金ってのは持って無いわよね?」 「そういえば…そうだな。元々流浪の身だから手持ちは殆ど無かったが…」 「いくら強くても騎士たるもの、剣を持ってないと駄目よねぇ…!」 「確かに…いや、向こう側にいた頃のように魔物を退治をして路銀を…」 「私がそんな事許可すると思う?それより何より、アンタの種族はこの世界でアンタだけ。 信用されるどころか下手すると魔物扱い、追う筈が追われる立場にねぇ…」 「くっ!」 この世界での路銀と、決闘で使い物にならなくなった剣の調達。 食事と寝床が保障された学院に数日いたおかげでそこまでゼロの考えが回っていなかった。 実を言えば雷龍剣には剣を使わない技もあるのだが、的確な指摘をされたゼロは すっかりルイズのペースに呑まれてしまいぐうの音も出なかった。 「まぁ、別に物を買い与えて働けって訳じゃないのよ? 私は決闘ですっごい活躍したゼロになんか買ってあげようかなーって思っただけ。 でも、そう思ってたのにガンダムが「物で釣っても働かない」って勝手に決めつけちゃって…」 「ぬぬ…」 「あー傷ついたなー、ご主人様すっごい悲しいなー」 あからさまな演技なのは分かっているのだが、もはや言い返す言葉が見つからないゼロ。 彼女が「あの言葉」を要求しているのは何となく感じてはいるが自分の意地がそれを言わせまいとしていた。 「ガンダムがもうちょっと素直ならねぇ…」 「(迂闊に疑ってしまった俺にも非がある… 仕方が無い、背に腹はかえられん…)」 「疑り深くなって…すまなかったな、ルイズ」 「もっと分かりやすく簡潔に」 「何?」 「反省しているんでしょ?じゃあもっと分かりやすい言葉がいいわ」 ルイズの顔はとてもにんまりしていた。 しかしそれはクックベリーパイを前にした時のような無邪気なものではなく、 何か黒いものが奥底にあるような邪悪なにんまり顔。 その顔を前にゼロはその言葉を言わざるを得なかった。 「……ごめんなさい」 「よろしい、じゃあ明日はお買い物ね」 ルイズ、召喚して以来初めてゼロより優位に立った瞬間であった。 「…プフッ」 「何がおかしい」 明くる朝、魔法学院前の正門前。 馬に乗ったゼロを見てルイズは思わずちょっと吹き出していた。 ゼロの身長こそルイズよりも大きいとはいえ、ゼロの頭身は大体2.5~3頭身であり 馬に乗っているゼロの姿はルイズの目にはなんともユーモラスに映っていたのだから。 「何でもないわよ……ックク」 「昨夜か!?昨夜のアレか!?俺はもう謝ったぞ!」 「じゃあ私が先導するから付いてらっしゃいな」 「おい!」 昨夜のやり取りの事かと思ったゼロが話しかけても、どこ吹く風といったルイズは ゼロをよそに楽しそうに馬を走らせていった。 ブルドンネ街、トリステイン王国で一番の大通りである。 休日で人がごった返すそこを窮屈そうに歩くルイズと、それに付いてくる フードを目深にすっぽり被った何か…もといゼロ。 何があったかというと、街に近づくちょっと前に馬を止めたルイズから 「ゴーレムにしてはかなり例外な見た目だし喋るから目立つわよね…」 という懸念から来る提案で表向きは「自分で喋る珍しいゴーレム」という扱いで行動することになった。 無論ゼロも余計な騒ぎは好かなかったので 「ルイズにしては中々真っ当な考えだな」 と彼女に蹴りを入れられるような感想を返しつつ素直に承諾した。 街の入り口にある駅で馬を預けた時も最初は駅の者に珍しい目で見られたが それだけだったので一安心で街へを繰り出せたのである。 「ん~と、確かこの路地を入って……四辻を抜ければ近くに武器屋だったかな…」 記憶を辿りながらルイズは人ごみを外れて街の裏路地へと入ってゆく。 建物の間に位置する日の差さない路地は昼間でも薄暗く、そこらに汚物やゴミが散らかっており ゴロツキやならず者の溜まり場になっていた。 昼間はそこまでたむろしている訳でもなく、壁にもたれかかったり地べたに座ってる者が ほんの少しいるぐらいでここを通るルイズとゼロを一瞥するとまた視線を元に戻していた。 「おいお嬢ちゃん」 が、もうすぐ四辻に出ようという所で道端に座っていた男に声をかけられてしまった。 そいつがすっくと立ち上がって前に立ちふさがると同時に、後ろからも男が三人ほど こちらに向かって歩いてきておりちょうど挟まれた形になる。 「…ちょっとそこを通して欲しいんだけど」 「通して欲しいってかお嬢ちゃん!げひゃひゃひゃ!」 前にいる男の片方が卑下た笑いをし周りの男達もニヤニヤと笑いを浮かべる。 しかめっ面で対峙しているルイズをよそにゼロは男達の観察をする。 後ろから来た男達はちらつかせてはいないものの腰元に短剣をぶら下げていて いつでも抜けるような態勢になっており、前の男はというと何も持っておらず 腰にも何かぶら下げている様子は無かった。 「(……後ろ三人はともかく前の奴は何も持っていないな、一体どういう事だ?)」 「ここは俺達の縄張りって奴でな、通る奴には通行料を頂いてるんだ」 「で、いくらたかろうってのよ」 「お嬢ちゃん可愛い見た目して言い方キツいねぇ、じゃあ金貨20枚って所だな」 ルイズが買い物に持ってきた金額は新金貨300枚。ルイズが200枚、ゼロが100枚持っており 出せない金額ではないもののカツアゲとあっては貴族のプライドが黙ってはいなかった。 「ゴロツキに出すものは何も無いわ、そこをどきなさい」 いつもの調子でルイズが言い放つとやはり男達は卑下た笑いを浮かべた。 「よぅし分かった、じゃあ払わない場合どうなるかご覧頂こうか」 前に立ちふさがる男が後ろのズボンをまさぐると短い棒――即ちワンドを取り出した。 「悪いが俺はこのブルドンネの裏通りじゃちょいと有名でね」 そう言った片方の男がワンドを壁に向け呪文を唱える。 小さな炎がワンドの先に発生しそれは膨れてあっという間に火球へと変貌してゆく。 ファイヤーボール、火球を発生させそれを放つ火系統の魔法である。 杖を向けた瞬間から身構えるルイズとゼロに余裕ありげに男が話す 「おっと今は当てないから大丈夫、い・ま・は」 そう言うと発生した火球が二個、三個と増えてゆく。 「兄貴を怒らせると痛い目に遭うぜぇ!」 「何せトライアングルだからな兄貴は!治療が追いつかねぇほど爛れちまうかもなァ!」 「悪いが後ろへ逃げようとしても、呪文を唱えようとしても、俺達がブスリ!といくぜぇ…」 後ろにいた男達が腰の短剣を抜いて構える。 「(ゼ、ゼロに何とかしてもらわないと…って剣使えないじゃない! 壊れたからって学園内に置いてきてたんだった!でも壊れてるからあの技は使えないんだし 持って来てもしょうがないって言うか…えーっとえーっと…)」 目があちこちに泳ぎどうしようもないルイズの様子に「カモれる」とふんだ男達がにじり寄ろうとしていたその瞬間であった。 「お待ちください!我々とて争いは好みません、金貨はお支払いしますので 袋から金貨を取り出すまでお待ちいただけないでしょうか!」 ゼロは確かにそう言い放った。 それを聞いて唖然とするルイズと、話がまとまったと思い返事をする男。 「従者さんは賢い事で!おい、お前らそこで止まっときな!何か怪しい素振りをしたら俺が始末する」 「ちょっと!何言っ…」 「お嬢様申し訳ございません!ここはひとつ彼らに!」 ゼロはそう言うとルイズの手を掴み引き寄せる。ファイヤーボールが周囲を照らしているものの 薄暗い場所なので鼻先まで近づかないと深くフードを被ったゼロの顔は見えない。 鼻先までゼロの顔が近くに来た時、小声でゼロが喋った。 「いいか、俺が合図をしたら後ろの三人の男の誰でもいい、手に持ってるナイフを錬金してみろ」 「いきなり何なのよ、そこまで正確に狙いつけてやった事無いし」 「これも経験だ、前のメイジは俺がやる」 「アンタ剣無いじゃない」 「心配するな、手はある」 「手だけあってもしょうがないじゃない!」 「そういう意味の手じゃない!」 「おい従者さんよぉ!いい加減早くしてもらえねぇかなぁ!何なら従者さんから先に焼いちまってもいいんだぜ!」 「申し訳ありません!早速お金を…」 「とにかくお前を信じてるからな」と言いルイズの前に立ち金貨の詰まった袋を前に掲げる。 ひゅぅ、と男が袋を確認しゼロ達に向けていた杖を下ろしたその時。 「今だ!」 ゼロの袋を持ってない空いた片手が男の方に向くのと、ルイズの杖が後ろの男達に向いたのはほぼ同時だった。 「錬金ッ!」 「雷電破(サンダーエレクトロン)!」 ゼロの手から稲妻が男に向かって迸る、それは杖を向きなおした男にとってあまりにも早すぎる攻撃であった。 火球を飛ばす間もなく稲妻が男の体を貫き、火球が虚しく掻き消えながら男が崩れ落ちる。 ルイズの錬金は狙いを外す事無く、見事真ん中の男のナイフに作用しいつもの失敗のようにナイフが爆発した。 「武器屋に走るぞ!」 「う、うん!」 ゼロの呼びかけにルイズが走り二人はその場を走り去ってゆく。 倒れた男の手に持っていた杖が走ってゆく二人に踏まれ、虚しく軽い音を立て割れた。 余談だが、そのほんの少し後に爆発音に気づいた通行人が様子を見に行った所、気絶している男と 何かに吹き飛ばされたかのように壁に打ち付けられて気絶した煤だらけの男三人が発見された。 男達は「貴族のガキとフードを被った従者にやられた」と証言しているものの ここらへんで顔の知れたゴロツキであるのと証言のみで信用に乏しく、この件に関しては 「内輪もめの喧嘩」として処理されたそうだ。 閑話休題 ゼロとルイズは何とか武器屋の前まで辿り着いていた。 周囲を見回しているゼロに対し、恐らくはあまり運動をしていないであろうルイズは すっかり息を荒くしており肩で息をしていた。 「…この様子だと奴らは全員気絶していると見て間違いないだろうな、上手くやったな」 「アンタ…さっき…かっ……雷を…ぜぇ…手から撃ってなかった…?」 「あれも雷龍剣の技だ。まぁかなり加減はしてあるが」 「なんなのよもう…なんでもありじゃない…」 「しかしこれぐらいで息が上がるとは鍛えが足りないな、少し運動しろ」 「う…うっさ…い!」 「店の前で何だいあんたら!買うなら買うでさっさと入りな、冷やかしならさっさと…」 「買うわ!買うわよ!」 いつの間にか武器屋の入り口に立っていた五十がらみの男が、パイプを片手にうっとおしそうに二人へ話しかけてきた。 しかし勢いよく買うわと答えながら振り向いたルイズの胸に紐タイ留めに描かれてある五芒星を見て 「これはこれは貴族様でございましたか!」 と、彼はころっと態度を変えつつ、もみ手しながら二人を店まで案内したのであった。 その頃、魔法学院内の学院長室―――――― 「ミス・ロングビルや」 「はい、なんでしょうオールドオスマン」 「おっぱい揉みたい」 「今度は折りますよ」 いつものようにオスマンのセクハラな質問を書き物をしているロングビルが無慈悲な返答で返す。 「…ちょっと位ケチケチせんでもええのに、まーええわい。ミス・ロングビルや、この間宝物庫の目録を作りたいと言っておったの。 今用事があって宝物庫に入るところでな……行ってみるかえ?」 「えぇ、是非」 施錠の魔法がかかった引き出しを開錠し、大人の掌ほどの頑丈そうな鍵を一つ取り出したオスマンとロングビルは学院長室を後にした。 オスマンの後ろを歩くロングビルの顔が今までにない、歪んだ笑みを浮かべていたのには 前を歩いていたオスマンが気づくはずも無かった。 「ここが…宝物庫」 箱に収められているアイテムが大半であるが、様々な杖がかけられている一画があったり また別の壁に目をやれば見た事も無い剣や鎧などが置かれておりそれらが一体となって 尋常ではない空気をかもし出していた。 「わしはちょっと探し物をするから、ロングビルは目録を頼むぞい」 「はい」 宝物庫の奥へと進むオスマンを見届けると、ロングビルは目録を記しつつ保管している箱や 飾られている鎧をやけに丁寧に眺めた。 「…飾ってあるのは大体かさばるような大きさで…箱は魔法で施錠…流石に今ここで…ってのは無理、ね」 「何か言ったかのー!」 「い、いえ、なんでもありませんわオールド・オスマン!」 「…お、あったあった」 オスマンの方から声が聞こえ、つい声に出してしまったとハッとするロングビル。 しばらく目録を作る作業に打ち込んでいるとオスマンがレビテーションの魔法で大きな箱を三つほど浮かせて持って来た。 「よいしょと、ふぃー…長らくしまっておると出すのにもひと苦労じゃわい」 「それは何ですか?」 「聞きたい?」 宝物庫の開けた場所に置かれた三つの箱を前に、オスマンの手がいやらしくわきわきと動く。 「一揉み100エキューはいただきましょうか」 「…しゅ、しゅみません」 にっこりとした顔でオスマンの襟を締め上げるロングビルにどうしようも出来ず、 素直にオスマンはこの箱について話す事にした。 「これは三つ合わせて「三獣の武具」とワシは呼んでおる。 それぞれ獅子と、梟と、竜をあしらった武具じゃから三つ纏めて“三獣”という訳じゃな」 「三獣の武具…思い出しました、宝物庫に納められている物の中でも指折りのものだと聞いております。 確か斧・杖・盾の三つでしたわね。しかしそのような代物を何故?」 「これを受け取るべき者が現われた、とでも言うておこうかの」 「受け取るべき…者…」 「これでいつでも武具は渡せる準備は整ったの、ではここから出るぞい」 「はい」 オスマンの後に続いて部屋を後にするロングビル。 閉じてゆく扉の向こう側にある三つの箱を見ている眼差しはいつもとは違う、獲物を定める狩人の眼差しであった。 ――――――――――――三獣の武具、今度の獲物はこいつに決まりだねぇ 前ページ次ページルイズの魔龍伝
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ゴング。 同時にレフェリーを務めるコルベールが、リング上で拳を交える二人を引き離す。 「ゴング! ゴングだ!」 双方は一瞬にらみ合った後に振り返り、肩で息をしながらもしっかりとした足取りでニュートラルコーナーへと戻った。 セコンドにより椅子が出され、一分間で少しでも体力を回復するための道具が次々と取り出される。 赤コーナーの椅子へ座り込んだのは、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 現在、HBC(ハルケギニアボクシング評議会)のランキング3位に属する、異例の女性ボクサーである。 ぶかぶかの赤いボクシングパンツに、白い無地のTシャツを着ていた。 「ルイズ、やったじゃねぇか! あいつのフィニッシュブローを破ったぜ!」 セコンドの一人を務めるのは、腹巻に坊主頭、左目の眼帯と異様な格好の中年男性だ。 名を、丹下段平。ルイズによってこのハルケギニアに召喚された、かつて異世界で名を馳せた名ボクサーである。 「あれだけ特訓したんだから、当然でしょ! 次のラウンドで勝負をかけるわ!」 疲労困憊であるにも関わらず、ルイズはニヤリと笑ってみせる。 「動かないで」 腫れ上がったルイズの顔を、魔法で出した氷で冷やしていたタバサが呟いた。 ルイズの級友である彼女もまた、セコンドを勤める一人である。 「それにしても、まさかあんたが本当にここまで強くなるとはね……。 女の癖にボクシングなんてバカじゃないかと思ったけど、あんた才能あるのね」 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーが呆れたように漏らした。 その名の通り、ツェルプストー家の一員である彼女は、ヴァリエール家のルイズとはまさしく犬猿の仲である。 が、ルイズが「ボクシングやるから。絶対やるから。もう決めたから」とぬかし、 周囲を仰天の嵐に巻き込んだ際、初めにそれを応援した人間でもあった。 要は、何だかんだ言って親友なのである。 『微熱』の通り名を持ち、恋に生きると公言してはばからないような女性であるキュルケにとって、 その理由が納得いくものだったからかもしれない。 「そりゃそうでしょ」 ルイズが真顔に戻り、呟いた。 「絶対サイトの仇を討つって決めたから。そう、誓ったんだから」 そうして、向かいの青コーナーを睨みつける。 そこには、不適に笑う元婚約者――HBC現王者、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドの姿があった。 ハルケギニア大陸において、ボクシングとは全てである。 六千年前、ブリミルと呼ばれる人物が編み出したとされるその競技は、瞬く間に大陸全土へと広がった。 現在において、各国の代表を出す国際戦が最早代理戦争と化していることからも、その人気ぶりは知れよう。 そして、貴族の誇りとは、強いボクサーであることであり、即ちボクシングで勝つことである。 現在を生きる全ての貴族の男子にとって、ボクシングで強くなるのは確固たる目標であり、遥か遠い夢だ。 HBC上位ランカーともなれば、下級貴族の三男坊などでも結婚相手は選び放題、生涯の成功は最早約束されたと言ってもいい。 その妻も、夫の試合となれば必ずセコンドに立ち、声を枯らして応援。 勝てば抱き合ってリング上で接吻し、負ければ控え室で涙を流した。 『俺のセコンドに立ってくれないか』というプロポーズの言葉は、最早使われすぎて陳腐であるにも関わらず 『好きな異性に言いたい/言われたい台詞ランキング』で132年連続一位ぶっちぎり独走中。 ちなみにランキングの集計が始まったのは132年前である。 要は。どいつもこいつも、バカみたいにボクシングに燃えているのだ。 ルイズが、使い魔契約の儀式で異世界の二人――平賀才人と丹下段平を召喚したのは、もう二年前のことになる。 二人はやがて、ボクサーとセコンドとしてHBCランキングへ参加。 グローブをはめると身体能力が向上するという、伝説の『ガンダールヴ』のルーン、丹下段平のやたら根性部分に特化した指導、 喋るインテリジェンスグローブ『デルフリンガー』などもあり、瞬く間に上位へと上り詰めた。 しかし、その年のトリステイン王国代表決定戦。決勝戦において、ワルドの繰り出したフィニッシュブロー、 『ライトニング・クラウド・アッパー』によって、終始優位にあった才人は逆転負けした。 ルイズはその時、婚約者と使い魔、どちらのセコンドに着くか悩んだ挙句、賓客用観客席という中途半端な立ち位置に居た。 そして見たのだ。絶対に見た。二人がコーナーで戦っていたせいで、自分以外には誰にも見えなかったろうが、 しかしそれは確かだったとルイズは確信している。 フィニッシュブローを撃つ瞬間、ワルドは才人の足を踏んでいた。 そして、試合終了から三時間十二分後。 平賀才人は、絶命した。 試合から数日後。 ルイズは、ワルドを問い詰めた。何故だ。何故、あんなことをしたのか。 ワルドは哂った。高らかに哂っていた。 「まずい、まずいんだよルイズ。あそこで負けてしまっては、僕はルイズと結婚出来ない。 ヴァリエール家の麗しきご令嬢と結婚するんだ、HBC現王者くらいの立場は必要だろう?」 くくく、と堪えきれない哂いを漏らす。その眼は、何か名状しがたきものに侵されていた。 明らかに尋常では無い様子に、表情を硬くするルイズ。 その腕を突然、ワルドが掴む。 「さぁ、もう十分だろうルイズ。僕はHBCの頂点、ハルケギニアにおける全ての男子の頂点に立ち、九回それを守り抜いた。 かつての伝説、『イーヴァルディの闘士』と並ぶ大記録。ああ、ああもう十分だ、そうだろう? 君と僕は結ばれる。誰にも邪魔はできない。そして君の、『虚無の拳』の力がついに――!」 恐怖。しかし、それ以上にルイズの心を埋め尽くしたのは、憤怒だった。 ルイズは腕を振り解き、ワルドを睨みつける。それを気にもせず、相変わらず、哂い続けているワルド。 ワルド――いや、こいつが何を言っているのかはわからない。 だけど。 これだけはわかる。 「そんなことのために……!」 その目的は、あいつ――才人に比べれば、屑にも劣る最低の代物だということだけは。 「サイトを……!」 あいつを。いつまで経っても従おうとしなかった、小憎たらしい使い魔を。給仕やら、他の女性にすぐ傾く惚れっぽいあいつを。 でも、……どうしようも無い程、どうしようも無くなる程に好きだったサイトを! 「殺したのねっ!」 ルイズは先日の自分を悔やんだ。何故、自分はこいつとサイトを比べて、しかも迷いなんてしたんだろう。 こんなにも。こんなにも、私の気持ちは分かりきっているというのに! 「……いいわ。あなたがもう一度だけ、その王座を守りきったなら、私はあなたの妻になる」 「どうしたんだい? 僕の愛しいルイズ。別に、今すぐにでも僕は構わな――」 「その口で、次に『愛しい』と言って御覧なさい。――その口、引きちぎってやるから」 ワルドは哂い止み、値踏みするような眼でルイズをじろり、と眺めた。 完全に様子は一変し、実につまらなそうな、退屈そうな眼をしている。 「ふん。……成る程。君は僕の、『敵』になったと、そういうことなのかな、ルイズ?」 「ええ。完膚無きまでにね、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」 「くくく。もう『ワルド様』とは呼んでくれないのだね、僕のルイズ。 だが、まぁいい。僕が次に勝ちさえすれば、全ては問題とはならない。 いくら君が反対しようとも、前人未到のHBC王座十連続防衛を果たした男となれば――君のお父上にほんの少し働きかければ済むことさ。 それで? 残りの一回、君は誰をけしかけるつもりなのかな?」 馬鹿にしきった様子のワルドを前に、しかしルイズは動じなかった。 眼を煌々と光らせ、胸を張り、怒りの炎に身を焼いて、誰よりも誇り高く、彼女はそこに居た。 「私よ。私自身が、あなたに挑む」 「セコンドアウト!」 ロープを乗り越えながら、ルイズのセコンド達が次々に声をかける。 「いいか、ルイズ。足だ、足を使え。かき回した所に、お前のフィニッシュブローを叩き込んでやりな!」 「……本で読んだ言葉。あなたに。……Stand, and Fight.(立って、そして戦いなさい)」 「頑張りなさいよ。サイトのためなんでしょ?」 ルイズは僅かに微笑みをこぼし、そして相対する敵へと向かっていった。 着ているTシャツを握り締める。かつて、彼女の使い魔がこの世界に召喚された時に着ていたものだ。 「サイト」 何かを噛み締めるように、ルイズはその使い魔の名前を呟く。 「らぅーん、えいと! ふぁいっ!」 ゴング。 開幕直後、ワルドは冷静に牽制の左を放つ。 速く、鋭く、確かな芯のあるジャブ。『エア・ニードル・ジャブ』。 『閃光』の二つ名の元になった、ワルドの主武器の一つである。 ルイズも動じず、ステップとガードで対処する。 しばし、静かな攻防。盛り上がる観客席とは正反対に、凍りついたような緊張感がリングには満ちていた。 ――と、その空気を打ち破るかのように、ワルドが大きく下がる。 そのまま腕を広げ、オープンガード。そして、あろうことか対戦相手であるルイズへと話しかけた。 「いや、驚いたよルイズ。まさか、君が――君自身が! 僕に挑むと聞いたときには、正直正気を疑ったがね。 僕の『ライトニング・クラウド・アッパー』を破るとは、やるじゃないか」 『ライトニング・クラウド・アッパー』。ワルドが幾多もの敵をリングに沈めてきた、彼の必殺技である。 その拳は相手に命中すると同時に、グローブすら焼き尽くす強力な電撃を発し、その動きを止める。 ガードも不可能、当たったらそこで終わり。まさしく、『フィニッシュ』ブローだ。 (尚、スレ住人の皆さんは技のあまりのネーミングセンスに眉をひそめていることだろうが、 これは筆者の趣味では無く、名作ボクシング漫画――アレをボクシングと呼称するのなら、という前提だが―― 『リングにかけろ』へのリスペクトである。知らない人はググってwikipedia。すげーネーミングだから) ルイズは警戒。試合中に対戦相手に話しかけるなど、正気の沙汰ではない。コルベールが困っている。 「驚いたよ。本当に驚いた。まさか、『虚無の拳』の力を、僅かとはいえ引き出すとはね。 それに敬意を表して――僕の、正真正銘、本当の本気を見せるとしよう!」 そう言い放つと、ワルドは突然詠唱を始める。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 ルイズはワルドへと突き進んだ。まずい。何の詠唱をしているのかはわからないが、本能が告げている。 あの呪文を、完成させてはならないと。 「っ!」 ワルドの顔面へ、右ストレートを放つ。 そして、誰もがその眼を疑う光景。 その拳が、ワルドの頬を『貫通』した。 「!」 驚愕に凍り、動きが止まるルイズ。面前のワルドの姿が、かき消える。 そして、 「ユビキタス。――風は、遍在する」 ルイズの背後。そこに、五人のワルドが立っていた。 振り返ったルイズの顔が、更なる驚愕で歪む。 「風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」 ルイズは混乱しながらも、必死でジャブをうつ。 涼しい顔でそれを防ぐ、ワルドの一人。 「物理的影響力を持ち、ある程度の衝撃なら消えることもない。そのそれぞれが意思を持っている。 ――どうだい、僕の愛しいルイズ? これが僕の、本気だよ」 一人がルイズのパンチをガードしている間に、もう一人が懐に潜り込み、ルイズの気をそらす。 更に二人が牽制のジャブを放つ。 「くっ!」 ルイズは必死で、それをかわそうと『イリュージョン・ステップ』を使う。 自分自身の幻影を作り出し、敵を翻弄する足捌き。 先ほど『ライトニング・クラウド・アッパー』を破ったのもこの技だ。 しかし、 「無駄だ!」 そして、最後の一人はルイズの死角へと回り込んで―― 「これで終わりだ! 『エア・ハンマー・フック』!」 「――――!」 空気の塊を伴った拳は、その力を元の数倍にまで増大。 ルイズの顔面を捉え、悲鳴をあげることすら許さず数メイルの距離を吹き飛ばした! きもちいい。 なんだか、すごくきもちいい。 めのまえがぐにゃぐにゃする。なにもみえないや。 ああ、ねちゃいそうだなぁ。 「――――!」 なんだか、とおくでたくさんのひとがさわいでる。 うるさいなぁ。 わたしはもう、ねたいのに。 「――――!」 ああもう、ほんとうにうるさい。 たちあがることなんて、もうできないのに。 「――って!」 え? いま、なんて……。 「立って! ルイズ!」 リング上、ピクリともしないルイズ。勝ち誇り、ロープへもたれかかるワルド(×5)。 それを見つめながら、キュルケは呻く。 「分身……。ボクシングで五対一なんて、勝てるわけがないじゃない……!」 「…………」 無言のままのタバサ。 3。 「ちくしょう……。ルイズは、ルイズはあんなに頑張ったのによぅ……!」 丹下は俯き、何かを堪えるように歯を食いしばっていた。 「…………」 無言のままのタバサ。 5。 「……限界ね」 倒れたまま動かない姿を見、キュルケがタオルを取り出す。 止める丹下。 「待て! そいつぁダメだ! ルイズを、あいつの気持ちを裏切るつもりか!」 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」 「せめて、10カウントの間は――」 「一刻を争う状況だったらどうするつもりなの!? その数秒が、あの子を殺すかもしれないのよ!」 「…………」 無言のままのタバサ。 8。 「ダメだ! そいつはやらせられねぇ!」 丹下がキュルケに、タオルを投げさせまいと食らいつく。 そうしながらも、叫ぶ。 「立(て! 立つんだ、ルイズ!)――」 「立って!」 割り込むかのような突然のタバサの絶叫に、丹下は言葉を止められてしまう。 タバサはルイズを見つめ、何かを訴えるように、目に涙を浮かべながらも叫ぶ! 「立って! ルイズ!」 その一言で、心臓に火が入った。 足が動かない。 頭はグラグラだ。 体中が痛みを訴えている。 ――それでも。 その全てを屈服させて、ルイズは立ち上がった。カウントは、9。 霞む視界の中、リング下のタバサを捉える。 そちらに向けて、頷いた。 ――そうだ。 驚くワルドが見える。 ――負けられない。 足を一歩、動かす。 ――絶対に、 「負けないんだからっ……!」 ワルド達が、再びルイズへ襲い掛かる。 先手を取り、重い左手を必死で動かして、ジャブ。 どうしようもなく鈍いそれを、ワルドは苦も無くガードした。 先ほどと同じ流れか、と誰もが思ったその瞬間。 ガードをしたワルドが、跡形も無く消え去っていた。 「な――!」 驚きで動きを止めるワルド達。馬鹿な。あの程度のパンチで、分身が消え去るなどあり得ない。 更に連続でルイズのジャブが放たれる。 一発。一人のワルドが消える。 一発。また一人のワルドが消える。 残るワルドは、二人。 「馬鹿な、そんな筈は!」 混乱するワルド。そこに、ルイズがぽつりと、だが確かな強い声でその技の名前を告げた。 「――『ディスペル・ジャブ』」 「っ! 『解除』したというのか、僕の分身を!」 更に、一発。更にワルドが消えうせる。 残るは本体。たった一人の、ワルドのみだ。 「僕は……僕は負けないっ! 『虚無の拳』を手に入れ、ボクシング界の全てを手に入れるまで、決して!」 錯乱したワルドが、ルイズへ吶喊する! 「あ、ああああああああああああああっ!」 再び、『ライトニング・クラウド・アッパー』を放つ。 決まれば、間違いなく終わる。その威力を秘めた一撃。 しかし。その技は既に―― 「ああああああああああああああっ!」 命中! ワルドの眼に、電撃に撃たれながら吹っ飛んでいくルイズの姿が映る! 「あああああああああああああ、ああ、あ……?」 再び倒れるルイズ。電撃で体中が焼け焦げ、見る影も無い。 「あ、ああ、は、ははははははは! 勝った! 『虚無』に、伝説に、僕は勝ったんだ!」 ワルドは気づくべきだった。 ルイズにその拳が命中した――否、そう見えた瞬間。 しかしそれに反して、その手には何の感触も無かったことに。 倒れていたルイズの姿が消える。 「ははははははははっはああははは、はぁ? あれ?」 『イリュージョン・ステップ』。 そして、 「喰らいなさいっ! サイトの――仇っ!」 ワルドの目の前から放たれた拳は、 「『スマッシュ』――」 その顎にクリーンヒットし、 「――『エクスプロージョン』!」 大爆発によって、ワルドを上空十数メイルまで吹き飛ばした! 一瞬の沈黙。 その会場にいた全ての人間が、歓声一つ上げず、、空中のワルドを見つめていた。 ぐしゃり。 何かが潰れるような音と共に、ワルドがリング外へ顔面から墜落する。 コルベールがそれを覗き込み、――その両腕を、頭上で交差させた。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 歓声が爆発し、ゴングはこれでもかと鳴り響く! 「やった! ついにやったぜ、ルイズ!」 「……やった」 「あの、バカ……! 心配させて……!」 コルベールがルイズの腕を、高々と掲げる。更に音を増していく観客の声援。 腕を下ろされたルイズは、その中を、ふらふらとニュートラルコーナーへ戻る。 「っ! タンゲ! 椅子!」 「言われるまでもねぇわっ!」 出された椅子に、崩れるように座り込むルイズ。 「ちょっとルイズ? 体は、大丈夫なの?」 「待ってろ。今、わしがとっておきの薬を――」 「要らない。水のメイジが医務室からすぐに来る」 「ルイズ? ……ちょっとルイズ? ルイズ!」 「おいルイズ! 返事しねぇか!」 「…………救護班、早く!」 ねぇ、サイト。 やったよ。 私、あんたの仇を討った。 サイト。 もう一度だけでも、あんたに会いたいわ。 言いたいことがあるのよ。 前には言えなかったけど、今なら、素直になれそうな気がする。 でも。 燃え尽きちゃった。 燃え尽きちゃったわ。 真っ白にね……。
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前ページ次ページS-O2 星の使い魔 起床。 視界良好。 ベッドから立ち上がる。 起立、歩行に問題なし。 両手を握りこむ。 左右双方ともに動作に支障無し。 大きく息を吸い、顎をグッと噛み締める。 痛み、無し。 『 Condition ALL GREEN. 』 脳からの情報伝達、上々。 ごっち~ん♪ 「───────────────ッ~!!!」 右足小指痛覚神経、及び脊椎その他神経系伝達、絶好調。 「……何やってんの?」 「……ストレッチ」 とりあえず誤魔化しておいた。色々と。 すっかり回復したクロードを呼びに来たのは、シエスタとは別のメイドだった。 何でも、彼女の話では最近どうもシエスタに元気が無いらしいのだが、 ここ数日の殆どをリハビリに当てていたクロードに思い当たるフシがあるわけも無く、首を捻るばかり。 一歩前を行く彼女が肩を竦めていたように見えたのは気のせいだろうか。 ……知らぬは本人ばかりなり。 「ったく、シエスタも難儀ねえ……って、今はそんなことはどうでもいいんだった! 夕方になったら、何も言わずに食堂に来てね!」 「え、ちょ、ちょっと!」 それだけを告げると踵を返し、鼻歌交じりに去っていく。 あっけに取られたクロードは追いかけることも出来ず、立ち尽くすばかり。 右足がまだ痛いから走りたくないし。 「なんだったんだよ、もう…… とりあえず、ルイズのところに行かないとな」 クロードくんの回想、今日の一日。 ルイズに怒鳴られました。 ミセス・シュヴルーズに説教されました。 ルイズに怒鳴られ(以下略 教室が爆発しました。 ルイズに(略 片づけを手伝わされました。 ル(ry 「何だろ、前にもこんな日があったような……」 もっとも、今日は決闘は起こりませんでしたけどね。 ドッと疲れた顔をして、足取り重く食堂へと向かうクロード。 正直言って、これから宴会等の準備を手伝ってくれ、というのは御免被る。 一言詫びを入れて、さっさと帰って休もう。 もっとも、帰ったところで待つのは硬くて冷たい石畳だが。 そんなことを考えながら、クロードは食堂のドアに手をかけて─── 「おおっ!『我らの剣』の到着だ!」 巻き起こる万来の拍手。 テーブルにこれ見よがしに盛り付けられたご馳走の数々。 「え、え、ええっ!?」 思わぬ歓迎に回りを見渡せば、今朝のメイドも観衆に混じって舌を出している。 観衆の中心に居るのは恰幅の良い中年の男。 厨房の責任者であるマルトーと興奮気味に名乗り、くう~っ、と喉を鳴らして目頭を押さえて捲し立てる。 「いやあ、魔法無しで貴族相手にあんな大立ち回りを演じるとはな! 俺ァ感動して泣いちまったぜ、こん畜生め!」 「え、ええ? あ、あの、あれは、その───」 「謙遜なんてするもんじゃねえって!」 豪快に笑うマルトーとは対照的に、予想だにしない展開に戸惑いを隠せないクロード。 そも、貴族と平民の違いとは何か。 前者は『持てるもの』後者は『持たざるもの』と分類するのが最も一般的なのではないだろうか。 それは魔力という概念において、ハルケギニアにおいても例外ではない。 では、翻ってクロードはどうか。 父は不惑を前にして異例の早さで提督に就任した軍人。 母は紋章学の第一人者である学者にして、超一流の格闘家。 そして、両者とも先のレゾニア戦争終結における最大の功労者、英雄である。 そんな彼を知るものに問えば、100人中95人はこう答えることだろう。 クロード=C=ケニーは、生まれながらにして『持てるもの』である、と。 そのことはクロード本人もまた嫌と言うほど自覚していた。 そう。言葉通りに、嫌と言うほどに。 「そんな、僕はそんなつもりじゃ───」 クロードの表情に陰が差す。 彼は貴族を毛嫌いし、その貴族を倒したクロードがただの平民であると思い込んでいる。 それがまるで彼を騙しているようで、胸が痛んだ。 「いいってこといいってこと!」 そんな辛気臭い弁明は聞く耳持たぬと言わんばかりに、マルトーはクロードの背中を豪快に叩く。 衝撃でクロードは咳き込み、おっとすまねえ、と頭を掻いて今度は肩に手を乗せた。 「俺はな、貴族野郎相手に一歩も引かねえ兄ちゃんの戦いっぷりに感動したんだ! 兄ちゃんが魔法を使わずに、あのガキに勝ってくれたことが嬉しかったんだよ、俺は! 要するに俺が勝手にやってるこった。兄ちゃんは好きに飲み食いしてくれりゃあ、それでいい」 知らず肩を掴んだ手に力が入り、目の端に涙さえ浮かべて熱弁するマルトー。 滾る思いは伝染し、クロードの胸にも熱いものが込み上げる。 そうか、この人も僕のことを認めてくれているんだ。 いい加減に理解しなきゃ。ここは地球とは違う。 ここでは誰かの影に怯える必要なんて無いんだから───── 『ぐきゅるるる~……』 どうやら、胸よりも先に腹が音を上げたようだった。 食堂は笑いに包まれ、クロードは赤面する。 考えてみれば、三日三晩寝込んでいて その後の療養生活でも顎を痛めて碌なものを食べていなかった。 内臓が抗議の声を上げても何の不思議も無い。 クロードが改めてマルトーの様子を伺う。 いいんですか? やっちまえ。 肉を一切れ。 スパイスに彩られた肉汁が口の中に広がる。 サラダを一口。 シャキシャキした食感に、さっぱりとした酸味と塩味が心地よい。 ワインを一含み。 少しキツ目の口当たりの後に、喉から昇ってきた芳醇な香りが鼻腔を突き抜ける。 (WARNING! WARNING! WARNING! WARNING!) 『た、大変だ! 欲望が一人歩きし始めたぞォーッ!』 『満腹中枢のリミッターが解除されています! 非常コード───駄目です、受け付けません!』 『くっ、止むを得ん! 肝臓、緊急フルドライブ! 対アルコール戦闘用意! そのほか各消化器官に伝令! 我らはこれより修羅に入る、各員の奮闘に期待する!』 ……数時間後。 「何も、全部食べてしまわなくてもよかったのに……」 苦笑するシエスタに、クロードは壁に背を任せて返す言葉も無くただ力無く手を振る。 積み上げられた皿の山と、空になったワインの瓶の林が、宴会の様相を物語っていた。 向こうではへべれけになって潰れた蛙のようになっているマルトーが、メイドやコックたちに介抱されている。 よほど嬉しかったのだろうか、いきなりゲラゲラと笑い出しては周りをドン引きさせている。 そんな働き者たちも半数近くが撃沈し、残り半分は倒れたまま動けなかったり、 桶に顔を突っ込みっぱなしで顔色が伺えなかったり、調子っ外れながらも独創的な歌を披露していたり。 その様相、まさに死屍累々。宴の凄まじさが伺えよう。 「あんなに喜んで作ってくれてたみたいだし、残しちゃ悪いと思ってさ……うぷ」 嫌~な擬声とともに口元を押さえるクロードに、水の入ったグラスを片手に慌てて駆け寄るシエスタ。 三日間サボり倒していた内臓をいきなりこれだけ酷使すれば無理もない。 何とか暴発だけは最後に残された気合と根性で押さえ込むが、 今度はアルコールの海を漂う脳が激しく揺らされる。 肝臓打ちからガゼルパンチのコンビネーション、これは本格的にマズイ。 このまま突っ立っていれば、無限大の連打でマットに沈むのは確定だ。 クロードは差し出された水を一息に流し込むと、大きく息を吐いて立ち上がった。 「じゃ、じゃあルイズの部屋に戻るよ……」 「大丈夫ですか? ここで休んでいった方がいいんじゃ……」 この場で眠ってしまうという選択肢が無いわけでもないのだが、 流石に復帰初日に朝帰りというのは気が引ける。 既に説教確定コースの気もするが、それはそれ。 「それに、危なそうですし……送りましょうか?」 「大丈夫。それに、シエスタは仕事が残ってるだろ?」 真っ青な顔に引きつった笑みを浮かべ、親指を立てるクロード。 何処からどう見てもちっとも大丈夫でない彼なりの気遣いなのだが、 シエスタの表情が曇っていることに気付いていないあたりが何ともはや。 もっとも、この状況でそのとような機微に気づけという方が無茶な注文だろうが。 壁伝いによろよろと歩くクロードの背中を眺めつつ、溜息を吐いて立ち尽くすシエスタであった。 「結構、回復するもんなんだなぁ……」 自分の消化器官と肝臓のタフさにちょびっと感心しつつ、寮内を歩くクロード、 最初は壁伝いでないとまともに進めなかったものだが、 今となっては微妙にふらつきながらも何とか歩ける程度にまで回復している。 これもうわばみである母の血のなせる業か。 所々で開いた窓から吹き込む風が火照った頬に心地良い。 こんなに心の底から楽しんだのは何年ぶりだろう。 或いは、生まれて初めてかもしれない。 窓の外には夜の闇に輝く双月、その先にある星々の煌き。 それらが地球に居た頃よりも美しく見えたのは、澄んだ大気のせいだけだろうか。 「……ん?」 何かが引っかかったような感触───いや、引っ張られている? 果たして、視線を落とすと見覚えのあるサラマンダーがズボンの裾に噛み付いていた。 こちらに気付いたのを確認すると口を離し、尻尾を振り振り進んでゆく。 炎をあしらった尻尾がまるでランタンのように揺れる。 「……僕を呼んでいるのかい?」 宴会の熱気の余韻に浮かされたまま、怪しげな足取りで誘導されてゆくクロード。 そして、とあるドアの前でサラマンダーは立ち止まる。 どうやらこの部屋に入れ、ということらしい。 ノックをするも反応は無し。 首を捻ってノブを握ったところ、何の抵抗もなくドアは開いた。 ドアの向こうでは闇の中で蝋燭の炎が小さく揺らめいている。 あれ、そう言えばここって誰の部屋だっけ? このとき、クロードは極めて重要な情報を忘れていた。 一つはこのサラマンダーの主について。 そしてもう一つ、使い魔とは基本的に主の目的を果たすために行動しているということ、である。 ───バタン 「なッ!?」 背後に響く扉の閉まる音に思わず振り返るクロード。 慌ててドアに触れるが、何時の間にか鍵がかかっているらしくウンともスンとも言わない。 嫌な予感に残った酒気がスゥッと引いていくのが解る。 これはヤバい。なんか知らんが、とりあえずヤバい。 「うふふ、そんなに慌てなくてもいいじゃない」 薄暗い部屋の奥から聞こえてくる、聞き覚えのある妖艶な声に再びクロードは振り返る。 暗闇に慣れ始めた瞳を凝らすと、そこには月明かりに照らされた赤い髪の娘が一人。 細かい表情や服装まではよく見えない。 「……キュルケ?」 「いやん、私の名前覚えていてくれたのね、ダーリン!」 ダーリン:最愛の人。愛するあなた。恋人・夫婦の間で言う。 いやいやいやいやいやちょっと待って! 僕とアンタにそんな接点あったか!? 悩ましく体をくねらせるキュルケに逃げ場を探してあとずさるクロードであるが、背には扉と壁。 気付けばキュルケは目前に立ち、手を取ってクロードを部屋の奥へと招き入れようとする。 フレイムの尾の炎を頼りに彼女をよく見れば、その服装は下着と見紛うほどに大胆なネグリジェではないか。 「私のこと、はしたない女だって思うでしょうね───」 そう言うキュルケの頬は軽く上気し、唇はしっとりと濡れている。 これは、その……男と女のアレか? アレなのか!? 「え、ええっと、僕は、そんな……」 「思われても仕方ないの、わかる?」 躊躇いがちに目を伏せるキュルケ。 絵画を切り取ったようなその美しさに、どきりと心臓が跳ねる。 「あああああああああの、その、キュルケ……?」 「私の二つ名は『微熱』───私はね、燃え上がりやすいの、松明みたいに。 だから、こんな風にお呼びだてしたりしてしまう。わかってるの、いけないことだって」 「聞けよ、人の話!」 ルイズといいアンタといい、この世界の貴族ってのは人の話を聞かないのがデフォですかそうですか。 そうなんです、残念ながら。 「倒れても倒れても立ち上がって、ボロボロになっても最後には勝って見せた。 あなたのその姿を見て以来ずっと、私の『微熱』は『情熱』になって、この胸を焦がし続けているの!」 「……いや、それはわかったんだけどさ」 何よ、もう。せっかく良い雰囲気なのに。 ムードぶち壊しの微妙なツラをしているクロードに促されると、そこには。 「キュルケ、その男は誰だ!」 「ペリッソン! えっと、2時間後に」 「話が違うわなにをするやめ」 窓の外に浮かぶ男子目掛けて杖を振り、問答無用に火球で撃ち落すキュルケ。 あまりと言えばあまりな光景にクロードがポカンとしていると、今度は別の男子が。 次々と撃墜しては現れる男子たちのその姿、まるで椀子蕎麦の如し。 さようならベリッソン。 そしてスティックス、マニカン、エイジャックス、ギムリ。 君たちのことは忘れないよ。 キュルケが覚えてるかどうかまでは知らないけど。 「これでもう邪魔は入らないわ。ねえ、ダーリン……?」 ホンマかいな、と突っ込む暇も無く、キュルケは振り向いてクロードの胸元にしなだれかかり、潤んだ瞳で上目遣いに見つめる。 鳩尾の辺りに感じる、熱くて柔らかな感触。 あんだけアレな状況の後であっさり切り替えるキュルケ、げに女とは恐ろしきもの也。 「うっ……」 キュルケの全身から漂う色気に肺は締め上げられ、心臓は慌しく不規則なダンスを踊りだす。 至近距離で交錯する視線に、自分の中の雄が呼び覚まされつつあることをクロードは自覚しつつあった。 まずい、このままでは本格的に理性が銀河の彼方まで吹き飛ばされる。 「ぼ、僕は──────ッ!」 ここで流されるな、クロード・C・ケニーッ!! 己の貞操を守るため、魂の底から、彼は叫んだ。 「僕は、お淑やかで家庭的な女の子が好きなんだーッ!!」 「ふうん……」 クロードにとってなおのこと不幸だったのは、 この発言のタイミングを見計らっていたかのように、主が彼の背に立っていたことである。 日が沈んでも戻って来る気配の無い使い魔を探して延々と校内を歩き回っていたものだから、 機嫌は最悪を通り越してレッドゾーンをぶっちぎり。 その行き着いた先が、よりにもよって憎きキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの部屋。 その背からは怒気を通り越し、殺気さえ漏れ出で始めていた。 「あ、あの、これは───ッ!」 慌てて振り返り、キュルケの肩を押して密着状態にあった体を離すクロードであったが、 そんなことで収まるほどルイズの怒りは生易しくない。 言うなれば、今の彼女は『微熱』に浮かされた愚者を粉々に吹き飛ばす『爆炎』そのもの。 「夕方から姿が見えないと思ったら、随分と結構な御身分になったものねぇ……」 「ちょ、ちょっと待ってルイズ! 誤解だってば!」 古今東西を問わず、一体何人の人間がこう口走ったことだろうか。 そして、この言葉が信じられたことが、真偽を問わず一度でもあっただろうか。 「問答無用、死ねぇっ!!」 「ごぶううううううッ!!」 ドゴォォッ! という重厚な擬音を伴ったボディブローが深々と突き刺さり、体がくの字に折れ曲がる。 その破壊力たるや、隻眼のトレーナーや影道の総帥が滂沱の涙を流すこと請け合いだ。 豚のような悲鳴をあげて崩れ落ちるクロード。 「……うぶ」 「……え?」 「……あン?」 ルイズは知らなかった。 クロードがほんの数十分前まで、宴会でたらふく腹に食事を詰め込んでいたことを。 (ただいま映像が乱れております。しばらくお待ちください) (ただいま映像が乱れております。しばらくお待ちください) (ただいま映像が乱れております。しばらくお待ちください) どうやらしばらく収まりそうもないため、 翌日以降のことについて若干の説明を付け加えて今回の話を終るとしよう。 とっぺんぱらりのぷう。 ルイズ:新たな称号を得ました。 クロード:ギーシュほか多数の男子生徒におちょくり倒されました。 キュルケ:しばらくの間、タバサの部屋で寝ることになりました。 シエスタ:元気を取り戻したようですが、今度は上の空で仕事が手につかなくなることが多くなり、 罰として同僚の実家から送られてきた激辛ジャムを押し付けられました。 前ページ次ページS-O2 星の使い魔
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もし全世界からお菓子が消えてしまった場合、僕達はどうなってしまうのか。 そんなことを考えるのは象がタマゴから生まれた場合の殻の厚さを考察する行為に似て無意味なもので、僕達はもっと他の、先に繋がっていくようなことに頭を使っていくべきなのです。 しかし、それが実際に起きてしまえばそうも言ってられません。 つまり現在、僕達の大切なお菓子がその姿をくらましてしまっているのです。もっともこれは世界規模の話ではなく、極小規模な僕の周囲でのみ発生しているだけなのですが。 話を戻すと、僕個人としては通常お菓子が消え去ろうとも特に支障はありません。元々甘いものに頓着はありませんし、それが誰かに食べられてしまったからといって声を荒げたりなんかも僕はしない。 ですが、今だけは非常に困るんです。 何故ならば、今日はハロウィンなのですから。 そして僕は現在、お菓子を何処かへ持ち去ってしまった犯人を一人で追い詰めているという実にカッコイイ場面を迎えています。そして、その犯人とは…………。 「どうやら……もう嘘は通りそうにないみたいだな。どこから俺があやしいと睨んでいたんだ?」 「簡単ですよ。お菓子がなくなってしまっては、僕達のハロウィンは成立しません。なのにあなた一人だけはずっと、早くパーティを始めようと訴えていました。みんながお菓子を探しているのはそのためだというのにね。いえ……むしろあなたは、お菓子がない状態でパーティを始めようとしているかのようだった。目的はわかりませんが、そもそもこの状況を作ったのはあなた自身なのではないかと僕は思ったのですよ」 「さすがだな古泉。そう、俺がお菓子を隠した犯人だ!」 「……あなただけは暴走などしないと思っていましたよ。なぜ、こんなことをしたんです?」 「ふ。決まってるだろ? 今日は待ちに待った楽しいハロウィンじゃないか」 「その答えは理解しかねますが。そう、今日は楽しいハロウィンになるはずだった。なぜ、あなたはお菓子を奪うようなことをしたのかと聞いているんです」 「馬鹿だな古泉。少し考えればわかるじゃないか」 「お菓子がなかったら、おっぱいが揉めるじゃねえか!」 古泉「……って、なんというバタフライ理論を持ち出すんですか! 雰囲気台無しですよ!」 キョン「ヒャッハハー! お前は実に馬鹿だな古泉!」 キョン「これはミステリーでもサスペンスでもない! 元々俺がおっぱいを揉むためのSSなんだよ!」 古泉「だから意味が分かりませんって! なんであなたがおっぱいを揉むんですか!」 キョン「簡単なことさ。トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃいたずらされる日に、いたずらの免罪符となるお菓子がなかったらどうだ? いたずらし放題だろうが!」 キョン「俺にとってのトリックとはたわわに実った乳を揉むこと! もみもみだ! そしてトリックアンドトリック! それすなわちもみもみもみもみだ!」 古泉「ば、馬鹿な! あなたがお菓子を隠してしまったことによってこっちがどれほどの被害を受けるとおもっているんですか!?」 古泉「子供達はお菓子がもらえずに、別にやりたくもないイタズラを不満顔でやらなければならない! そしてイタズラされる側は只でさえ理不尽な要求を受けているのにも関わらず、対して面白くなさそうに部屋を散らかす子供の姿を見ていなければならないのです! 誰も幸せになんかなりませんよ!」 キョン「うるさい! やっぱりお前はわかってないな! 今はこの周囲だけしかお菓子は消えちゃいないが、全世界のお菓子が消失するのも時間の問題だ!」 古泉「なんてことだ……」 国木田「どうしたのキョン! 古泉くんも!?」 長門「…………」 古泉「ああ! 国木田くんと長門さんじゃないですか! いいところに来てくれました!」 古泉「お菓子を隠した犯人が分かりましたよ! それは、なんだか良い感じにトリップしてしまっているあの彼がやったことのようです!」 国木田「なんだって!? どうしてそんなことをしたのさキョン!」 キョン「国木田。お前、おっぱい揉みたいと思わないか?」 国木田「な……なにを言ってるんだい!? そんな……キョンが、キョンが! なんだか面白い状態になってるよ!?」 古泉「そうですよ! それに一つだけ言わせてください……」 古泉「そんなにおっぱいが好きなら、一人でピンクな店に行けばいいじゃない!」 キョン「……古泉。お前は子供だな。まるでわかっちゃいない」 キョン「ハロウィンこそ、えっちぃことをするのに適した日なんだよ!」 古泉「また出た! トンデモ理論! さっきから全然意味分かりませんって!」 キョン「ほう。意味がわからないと。全然? まるっきり? じゃあそんなおバカボンなお前に教えてやろう」 キョン「大人のお店でそういった行為をするのは、お化け屋敷にお化けが出るくらい当たり前なことだ! そんなのはつまらないんだよ!」 キョン「考えてもみるんだ。お前がお化け屋敷に入ったとき、そこにお化けがいてもなんのことはないだろう?」 キョン「だが、そこに現れる血まみれのナース役のお姉さんのおっぱいを揉んでいる人がいたらどうだ? お前は沸き出る興奮を禁じえないだろう? もし、大人のお店にお化けが出たりなんかしてみろ! めちゃめちゃ怖いじゃねえか!」 キョン「つまりだ! お乳様というものは、ハロウィンの無礼講でいたずらっぽく拝ませてもらったほうが絶対に良いものなんだよ!」 キョン「そして男はみんな変態だ。いずれ世界中のお菓子がなくなり俺の思想が世界に広まったとき、そこにはパラダイスがまっているに違いないだろう! ふはは! これぞまさに桃源郷! これを楽園といわずしてなんと言う!?」 古泉「狂ってる……」 古泉「いい加減にしてください! そんなものは狂ってる! あなたは、ただのセクハラを妙な理屈で正当化したいだけじゃないですか!」 国木田「そうだよキョン! キミは間違ってる! 男がみんな変態なんて偏見だ!」 古泉「そうです国木田くん! もっとあのチチグルイに罵声を浴びせるんです! 旧友のあなたの言葉なら僕よりも効果があるはずだ! ほら、早く早く!」 国木田「キョン。男はみんな変態じゃない。それは分かって欲しい。でもね……」 国木田「少なくとも僕は変☆態だよ! だからキミには大いに同調するよ! キミの理論は正しい!」 国木田「キョン万歳! キョン万歳!」 古泉「ぎゃふん!? なにを喜んでるんですか!? 信じていたのに!」 国木田「この世におっぱいに勝るものなし!」 古泉「それがあんたらの組合の標語だというんですか!?」 キョン「ふふふ」 キョン「んん? どうした古泉? もう他に何もいうことはないのか?」 国木田「ほらキョン! あのイケメンに、社会では多数派が正義なんだってことを教えてあげてよ!」 キョン「くっ国木田!?」 古泉「ええい、しかしまだこちらにだって仲間はいます!」 キョン「ほう。一応聞くが、それは誰なんだ?」 古泉「決まっています! 長門さん! いまこそ彼を…………鹿に! 鹿に変えるときです!」 古泉「そして国木田くんを馬に変えて、二人の生涯をしょーもないダジャレコンビとして終えさせるときなのです! ささ、遠慮せずに! ひと思いにちょろろーんとやっちゃってください!」 長門「……それは出来ない」 古泉「な……ナンダッテ-!!」 キョン「はっははー! 当たり前だ古泉!」 キョン「なんせお菓子を消している実行犯は、この長門なんだからな!」 古泉「な……まさかっ! 長門さん……何故っ! なぜなんです!?」 長門「……あたしは楽園で、彼としあわせになるから」 古泉「100パーセント騙されきってるじゃないですか!?」 古泉「正気に戻って下さい! それはマジなほうの天国にいたる道ですよ!」 古泉「しかし……これはまずいことになりました」 古泉「このままでは、みんなのハロウィンが台無しになってしまいます」 古泉「どうすれば……?」 国木田「古泉くん……」 国木田「いっそのこと快楽に飲まれちゃいなよ」 古泉「あんたが一番危ないんじゃないか!?」 古泉「だがしかし……おかげで閃きましたよ。あなたたちに勝つ方法が!」 キョン「ふん、強がりもたいがいにしろ古泉。お前はガチホモだから俺達に逆らうのかも知れんが……」 キョン「って、まさか!? お前世界中のガチホモを一挙に集めて俺達を粉砕するつもりか!? ……やめろ! それだけはやめてくれ!」 古泉「ふふ。あなたのアナルが悲鳴をあげるのもそろそろです……」 古泉「って、だいたい僕はガチホモじゃありませんよ! そんなけったいなネットワークもありません!」 古泉「……あなたはパンドラを招き入れた。それによって、あなたは自ら崩壊を迎えるのです」 キョン「……なんのことだ?」 古泉「災厄の詰まった箱を持たされたゼウスの使者パンドラを招き入れたのは、エピメウスという人物なのです。エピローグという言葉があるように、彼は、物事を後で考える人でした」 古泉「彼は兄であるプロメテウスからゼウスの贈り物には手を出すなといわれていたのですが、始めて見る女性という存在、パンドラの誘惑に勝てずに彼女を家へと招き入れてしまいました」 古泉「そう! エピメテウスは『おっぱいスゲェ』と思ってしまったがゆえにパンドラを迎え入れ、それゆえに世界には災いが舞い降りてしまったのです! あなたがおっぱいを好きだと言うことは、男の罪の象徴だ! それの魅力に取り付かれてしまったあなたを待っているのは、女性による制裁です!」 キョン「……なにを言い出すのかと思ったら、なんの具体性もない詭弁じゃねえか。ところで、俺に制裁を下す女性とやらは何処にいるってんだ?」 古泉「それは長門さんです」 キョン「…………」 キョン「長門が? 俺に? 制裁?」 キョン「はっ! 何を言い出すかと思ったらこの反乳野郎! それこそありえないだろうが!!」 キョン「俺は長門と楽園で暮らすんだ! そうだよな長門!?」 長門「……悪いこととは知っている。でも、彼がそう言ってくれるのなら……」 古泉「長門さん! 今こそ目を覚ますときなのです! あなたは……彼の楽園には居られないんだ!」 長門「……!? 何故!?」 古泉「だって長門さんには……揉むものがないのだから!」 長門「!!!!?????」 古泉「パンドラは確かにこの世に災いをもたらした」 古泉「だけど僕らは、その災いを乗り越えることで世界の表と裏を知り、普通でいることの幸せに気づいたのです」 古泉「だから決しておっぱい自体に罪はない。長門さんのように笑うほど小さくても、あの未来人のようにひくほど大きくても良いんです。僕は好きです」 古泉「だがあなたは長門さんを利用し、『あんたのやっていることはセクハラだ』という僕の正論にまったく耳を貸さなかった。 ……乳に溺れてしまったあなたは、乳の中で静かに眠っているべきなのですよ」 キョン「お……俺はなんてことを……」 キョン「しちまったんだ……ガクッ」 国木田「……ああ! キョンの体が消えていく!? キョンは一体どこにいくの!?」 長門「……彼は、自分のいるべき場所気づいただけ」 古泉「ええ。彼はプリンスレに還っていったのです。本来、アナルでの彼は僕に掘られるだけの存在。ですが、ハロウィンという日が彼を変えてしまった。そう。軽犯罪者という悪魔にね」 古泉「…………」 長門「…………」 国木田「…………」 古泉「……テンションだけで動いていたら、とんでもない結果になってしまいましたね」 国木田「なんだか、僕はハロウィンの恐ろしさを垣間見た気がするよ」 長門「……これはgdgdになる前に終わらせるべき」 古泉「みんなも、ハロウィンだからっていたずらは程々にしようね!」 ちゃんちゃん☆
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やわらかるいず 外伝 OP ジョセフに謀らせて その暗殺謀らせて 謀って ポイ!! 謀って トー!! ジョセフに謀れぬ事はない ジョセフに謀らせて その戦争謀らせて 謀ってガキーン!! 謀ってハイッ!! ジョセフに謀れぬものはなーーい!! 魔法使えない 実は虚無だった 長年 長年磨いた シットのパワー ガリア王 ジョセフ!! ガリア王 ジョセフ!! 実の娘は 実の娘は ちょーぉ 二 ガ テ 「何?イザベラが使い魔を召喚しただと?」 「はい、見事召喚なされました」 「いったい何を召喚したんだ?」 「はぁ、よろしければお確かめになって頂きたいとイザベラ様が・・・」 「ふむ・・・」 中庭~ 「あら、お父様 今日はあの奇妙な使い魔はご一緒では無いのですか?」 「私のミューズになんという事を言うか、でお前の使い魔ってのはどこだ?」 「あそこですわ」 「あそこって、お前どう見ても壁だろ」 「上を見上げて下さいな」 「上?・・・・・・・・・・」 「おおくわがたのマリ子さんです」 「城よりデカイおおくわがたって・・・・・・」 「ふふん、どうですかお父様、お父様の呼び出した子供くわがたよりも素晴しいでしょ」 (なぁ・・・どっちも結局 虫なんだよな?) (馬鹿!!お前そんな事聞かれたら 首飛ぶぞ) 「どうですか、お父様」 「上からみてんな・・・・・・っつぞ こら」 「え?お、お父様?」 「図っぞ こらぁ!!」 「お父様!?」 「寸法測るぞ こらぁ!!」 「お父様!?メジャーを出し入れって、それ威嚇のつもりですか!?」 「上から下まで容赦なくはか・・・ブベェ」 「いい加減にしろよ くそ親父 第一はかるの意味がちげぇだろがよぉ!!」 「は・・・・はかっぞ・・・・・こらぁ」 終われ
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前ページ次ページゼロの使い魔×相棒 ~トリステイン魔法学院特命係~ プロローグ 神戸尊は沈鬱な気分を抱えながら廊下を歩いていた。こちらからは右京に連絡がまったく取れない。 もしかしたら右京の行き先を知っているかもしれないと思い、小料理屋『花の里』の女将で右京の元妻である宮部たまきに事情を話して尋ねてみたが、返事は芳しくなかった。 「わかりました。ありがとうございました」尊はたまきに礼を述べて、電話を切った。 「たまきさんも駄目か…。くそっ、どこにいるんだよ…」 尊は、八方ふさがりになりつつある状況に苛立った。 右京が外出しようとしたときに行き先を聞けなかったことを、尊は今さらだが悔やんでいた。 尊が右京の身を案じ、特命係の行く末に頭を悩ませているのは、彼が右京を慕っているというよりは、彼が特命係に配属された事情によるところが大きい。 尊は、表向きの階級は警部補であるが、実際は警察庁警備局に所属する警視である。 彼は警察庁上層部から、特命係と右京が警察にとって必要かどうかを判断するために、右京と身近に接して調査せよという「特命」を受けているのだ。 そのため、いわゆる「庁内エス(警察庁から警視庁に送られるスパイ)」として、二階級降格による左遷を口実に、特命係に半年の期限つきで潜入することになった (右京には当然秘密にしており、警察庁時代からの知り合いである警視庁警務部人事第一課主任監察官の大河内春樹にも適当にごまかしていた。なお、調査の目的やなぜ尊がその役目に選ばれたのかは定かではない)。 その目的に加え、右京という人間に個人的にも興味を抱くようになった尊は、ことあるごとに右京と行動を共にするようにしていた。 だが、最近は特に右京が興味をそそられるような事件もなければ、回ってくる雑用も簡単なものばかりで、尊は正直なところ退屈で、少々気が抜けていた。 そこへ、右京が突然「少々、出かけてきます」と扉を開けながら言ってきたのである。意表をつかれて慌てた尊が「どちらへ?」と問うたときには、あの謎の鏡に右京が飛びこんでしまった後だった。 不測の事態とはいえ、右京が姿をくらませてしまったことは、尊にとって非常に都合が悪い。 警察庁の上役にこのことを包み隠さず正確に報告したところで、内村同様信じてはくれないだろう。むしろ、気の緩みから調査対象に逃げられたとして、自分の責任を追及されかねない。 さらに、こちらの事情を知らない内村によって、今日中に右京が見つからなければ特命係の解散と解雇を申し渡されてしまった。かねてから特命係の廃止を狙っていた内村にとっては、渡りに船だっただろう。 もし明日まで右京が行方不明のままだった場合、警視庁と警察庁との無用の混乱を避けるために内村の人事勧告が受理され、理不尽にも切り捨てられてしまう可能性もある。 冗談じゃない。こんなわけのわからないことでクビにされてたまるか。 こうなったら、無駄だとわかっていても右京が行きそうな場所をしらみつぶしに当たるしかない。尊は、黙って最後通告を待つつもりはなかった。 廊下の十字路に出たところで、尊は出くわした人物に声をかけられた。 「おお、これはこれは神戸警部補」 「米沢さん!」 それは、ふちの太いメガネをかけた、坊ちゃん刈りが特徴の警視庁刑事部鑑識課員、米沢守だった。 第四章 トリステイン魔法学院の学院長室は、本塔の最上階にある。その中で、重厚な作りのセコイアのテーブルに肘をついて気の抜けた顔で鼻毛を抜いている、いかにも暇をもてあました白く長い口ひげと髪をたくわえた老人が、学院長のオスマン氏であった。 そして、部屋の端に置かれた机に座って、オスマン氏とは対照的に真面目に書き物をしている、緑色の長髪が綺麗な女性が、学院長秘書のミス・ロングビルである。 オスマン氏は横目でミス・ロングビルを見やると、水ギセルを魔法で取り出し、口元に運んでいく。 しかし、オスマン氏がくわえる寸前に、水ギセルはミス・ロングビルの手元に収まってしまった。彼女が羽ペンで水ギセルを操ったのだ。 ミス・ロングビルが、呆れたような声でオスマン氏に注意した。 「オールド・オスマン。水ギセルはこれで十二本目ですよ。健康のためにもご自制ください」 「ふう…まだ若い君にはわからんだろうが、この歳になると、一日々々をいかに過ごすかが何より重要な問題になってくるのじゃよ」 オスマン氏は眉間に皺を作り、重々しく目を瞑りながら、机で書き物を続けるミス・ロングビルにさりげなく近づいていく。 「だからといって、たびたび私のお尻を撫でたり、ご自分の使い魔を悪用なさるのはおやめください」 ミス・ロングビルが、小さなハツカネズミを『レビテーション』で浮かせ、遠くに落とした。 目論見を見破られたオスマン氏が、自分の肩に乗ったハツカネズミにナッツをやりながら、いかにも哀愁漂う様子で話しかけた。 「おお、この年寄りの数少ない楽しみを奪うとは…老いぼれはさっさと死ねということか。わしが心許せる友達はもはやお前だけじゃ、モートソグニル。して、今日の色は?」 モートソグニルは、ちゅうちゅうと鳴いた。 「おお、そうか今日も白か。しかし、ミス・ロングビルは黒が最も映えると思わんかね?」 「オールド・オスマン」 ミス・ロングビルの、絶対零度を思わせる声がした。 「今度やったら、王室に報告します」 「カアッ! 王室が怖くて魔法学院学院長は務まらんわッ!」 オスマン氏が目を大きく見開いて怒鳴った。その迫力は、百歳とも、三百歳を超えているとも噂される老人のものとは思えなかった。 この気力と精神力の強さがオスマン氏のメイジとしての実力を物語っているといえるだろう。 「減るもんじゃなし、下着を覗かれたくらいでカッカしなさんな! そんなお堅いことだから婚期を逃すのじゃ!」 開き直った上にコンプレックスをついてくるセクハラジジイに、ミス・ロングビルの中で何かが切れた。 思い切り尻を蹴り上げてやろうと足を振りかけたとき、学院長室の扉が勢いよく開けられた。 「オールド・オスマン! 至急お耳に入れたいことが!」 息せき切らして入ってきたのは、コルベールだった。 「どうした?」 オスマン氏は、何事もなかったかのようにコルベールを迎え入れた。一方のミス・ロングビルも、机で書き物を続けていた。魔法にも勝る早業であった。 あと少しのところで色ボケジジイに私刑を与えられなかったミス・ロングビルが、その理知的な顔をわずかに歪ませて舌打ちしたことに気づいたものはいなかった。 「昨日、ミス・ヴァリエールが召喚した使い魔の平民のことで図書館で調べものをしていたところ、大変なことがわかりまして…」 「大変なことなどあるものか。すべては小事じゃ」 「まずはこれをご覧ください」 コルベールが、一冊の古い書物を手渡した。 「んん? 『始祖ブリミルの使い魔たち』とは、まーたずいぶんと古臭い文献を引っ張り出してきたのう。これがどうしたね、ミスタ…ええと…」 「コルベールです!」 「おお、そうじゃったそうじゃった。君はどうもせっかちでいかんよ、コルベールくん。で、いったい何がわかったのかね?」 「こちらをご覧ください」 コルベールは一枚の紙を示した。それは、右京の左手に刻まれたルーンをスケッチしたものだった。 開かれた書物のページとスケッチを見比べたオスマン氏の表情が変わった。目が光り、厳しい色になった。 「ミス・ロングビル。しばらく席を外しなさい」 「はい」ミス・ロングビルが立ち上がり、部屋を出て行った。 彼女の退室を見届けたオスマン氏は、静かに口を開いた。 「さて、詳しく説明してくれ。ミスタ・コルベール」 シュヴルーズを医務室に連れていったルイズと右京――医務室に勤めるメイジの治癒魔法に目を奪われていた右京をルイズが引きずって出てきた――を待っていたのは、教室の片づけであった。 普通であれば、授業を中止にしたことと教師に怪我を負わせた罰として、謹慎なり出席停止なりの処分が下されるのだが、彼女たちに与えられたのは、魔法の使用を禁じた教室掃除だけ ――ルイズは元から魔法をほとんど使えないから意味はなかったが――で済んだ。生徒たちの警告を無視して、ルイズに魔法を使わせたシュヴルーズにも一定の落ち度があるという理由からであった。 掃除を自分でやったことがほとんどないルイズでは、教室の修復は相当時間がかかるだろうと思われたが、意外にも昼食が始まる前には終わってしまった。 右京が休みなく、無駄のない動きで手際よく窓ガラスを運んで張替えたり、机を並べなおしたり、煤だらけの壁や床を雑巾で綺麗に磨いたりと、作業のほとんどを一人でこなしてしまったからであった。 ルイズがやったのは机を拭くことだけだった。それすらも、最後のほうは右京に手伝ってもらった。 二人は昼食をとるため、食堂へと歩いていた。 道中、二人はしばし無言だった。 「ねえ」先に口を開いたのはルイズだった。暗い声であった。 「はい?」 「あんたは、もうわかってたんでしょ?」 「何をでしょう?」 「だから……わたしがなんで“ゼロのルイズ”って呼ばれてるか、よ」 ルイズは言いにくそうにしていたが、自分から話を切り出した手前、絞り出すようにしてなんとか言い切った。 右京は、少し間を置いてから、ルイズに質した。 「ミス・ヴァリエール」 「え?」 「この世界では、メイジが魔法に失敗すると爆発が起きるのですか?」 今のルイズには、右京の言い方は皮肉にしか聞こえなかった。顔を歪めて、烈火のごとく吠えた。 「わたしだけよ! 普通は失敗したら何も起きないの! 悪かったわね、才能も成功率も“ゼロ”の落ちこぼれメイジで!」 ルイズの剣幕に怯むことなく、右京は確認する。 「では、あなただけが魔法を使おうとすると爆発するというわけですね?」 「そう言ってるでしょ! なによ、あんたまで馬鹿にするわけ!? 使い魔の分際で…」 「おかしいですねえ」 目に涙を滲ませて怒りを露にするルイズであったが、突然発された右京の違和感の表明に、矛を収めた。 「普通ならば魔法に失敗したら何も起きない。しかしミス・ヴァリエールだけが魔法を使おうとするとすべて爆発。単純に同じ『失敗』でくくるには、この二つの結果はあまりにもかけ離れているとは思いませんか?」 「だからなによ? 使いたい魔法が使えないんだから『失敗』なのは同じじゃない」 右京は、左手の指を立てて反論した。 「いいえ。大きな違いです。何もないところを爆発させたということは、何らかの力がそこを爆発させるように働いたことに他なりません。あなたが事前に爆弾ないしは火薬の類を仕掛けておき、 杖を振るタイミングに合わせてそれらを起爆させているというなら話は別ですが」 「そんなわけないでしょ! なんでわたしがそんなことしなくちゃならないのよ?」 答えながらルイズは首をかしげた。右京の説明は回りくどいので、何を言いたいのかが最後の結論を聞くまでわかりにくい。 「おっしゃるとおり。『魔法を使うと爆発する』ということは、すなわち『爆発の魔法を使った』と言い換えることができます。ですから、あの爆発は紛れもなく、ミス・ヴァリエール、あなたの魔法なのですよ」 ルイズははっとさせられた。右京はさらに続ける。 「周りの方々がおっしゃるように、本当に魔法の才能がないのなら、爆発させることさえできないでしょう。そもそも、昨日僕を召喚し、使い魔の契約を交わしたことで、あなたは少なくとも『サモン・サーヴァント』と『コントラクト・サーヴァント』の 二つの魔法を成功させているのですから、『才能も成功率も“ゼロ”』というあなたへの評価は、適当なものではありません」 「……!」ルイズは、右京の意図をようやっと悟った。 言葉が、出てこなかった。 「それどころか、前例がない『人間の召喚』を実現し、さらに契約を成功させたことを考慮すると、あなたには才能がないどころか、むしろ特別な才能を秘めていると見るべきだと僕は思うのですが、これは素人考えでしょうか?」 言い終えると、右京は穏やかな微笑を浮かべた。 ルイズは、一瞬時間が止まったような錯覚に陥った。 ヴァリエール家の末娘として将来を嘱望されていたにもかかわらず、幼少のころから魔法を使おうとすると爆発させる「失敗」しか起こせなかった。 父や母は失望を隠さず、長姉には厳しく叱られ、いつしか“ゼロのルイズ”と呼ばれるようになってしまった。自分を慰め、認めてくれたのは体の弱い次姉と、今は疎遠になってしまった歳の離れた婚約者だけだった。 学校で本格的に習えば魔法を扱えるようになるからと、両親に頼み込んで入った全寮制の魔法学院でもそれは変わらなかった。劣等感と無力感、そして“ゼロのルイズ”と呼んで侮蔑する者を増やしただけだった。 挙句の果てに、家族からは「家に帰って花嫁修業をしろ」といわれる始末だ。 そんな状況であったから、『サモン・サーヴァント』で人間を召喚してしまったことも、魔法の才能がない“ゼロのルイズ”ゆえの、いつもの「失敗」の一つとしか周囲は受けとめなかった。 自分でさえそう思っていた。まともな使い魔一匹すら召喚できないのかと。 だが、考えてみれば確かに右京の言うとおりだ。 わたしは、誰もやったことがないことをやってのけたんだ。 憐憫や慰めでも、叱咤激励でもなく、実例をあげて論理的な説明でもって自分の力が認められたのは、ルイズにとって初めてのことだった。 授業の前に言っていた「他の人にはない才能を秘めている」とは、そういう意味だったのか。 そこまで考えたとき、ルイズの胸中に熱いものがこみ上げた。 ぐっと唇をかみ締める。そうしないと、マグマのように噴き上がる感情が涙となってあふれてしまいそうだったからだ。 「ミス・ヴァリエール」 と、右京が突然声をかけてきた。 「…え?」 「僕は教室の修繕が完了したことを学院長に報告にまいりますので、先に食堂へ行っていただけますか?」 「なんで? ていうか、あんた学院長室の場所知ってるの?」 「ええ。昨日学内を出歩いたときに、部屋の配置を確認しておきましたので。では、失礼いたします」 そう言うと、右京は踵を返して歩いていってしまった。 「あっ、ちょっと! …もう、主人を差し置いて勝手なことばかりするんだから…」 だが、言葉とは裏腹に、ルイズは右京を強く引き止めようとはしなかった。 小さくなっていく右京の背中を見つめ、見えなくなったところで、誰にも聞こえないほど微かな声でこう呟いた。 「……ありがと……」 聞こえてはいないはずだが、口に出してしまったら無性に気恥ずかしくなって、ルイズは早足で食堂に向かった。いつの間にか熱い感情は凪ぎ、不意に涙がこぼれることはなくなっていた。 右京は、迷うことなく最上階にある学院長室に向かっていた。 ルイズには「修繕が終わったことを学院長に報告に行く」と言ったが、実際にはそのようなことは指示されてなどいない。学院長のオスマン氏に会うための口実だった。 彼の目的は、今朝キュルケが「元の世界に帰る方法を知っている人物」として教えてくれたオスマン氏からその情報を入手すること、そして自分とルイズを取り巻く状況について問い質すことだった。 右京が先ほどルイズにかけた言葉は、最初から彼女を励ますために出てきたわけではなかった。今まで得た情報をもとに、自分の身辺について思案を巡らせる中で出てきたものだった。右京の考えは、ルイズに言ったことのもっと先にあったのである。 それは、事と次第によっては、容易に元の世界に帰ることができなくなるかもしれないという危惧を右京に抱かせるほどのものだった。だから一刻も早く確認しなければならない。 ハルケギニアに強い好奇心と魅力を感じていた右京ではあったが、長居するつもりはなかったのである。 学院長室の前までやってきた右京に、緑色の髪を持つ知的な印象の女性が挨拶した。右京も挨拶を返す。 女性は、学院長秘書のミス・ロングビルと名乗った。 右京は、さっそくミス・ロングビルに尋ねた。 「オスマン学院長にお会いしたいのですが…」 「どういったご用件でしょう?」 「私と我が主人のことで、至急学院長にご相談したいことがございまして」 ミス・ロングビルは少し考えた。自分を退出させるときは大抵重要な話をしているときだから、そんな用事はまず後にしろといわれるに違いない。 しかし今回は、コルベールの言葉から推測するに、自分の目の前にいるこの男のことについて話しているようだ。ならば、一応オスマン氏に言っておくほうがいいだろう。 ミス・ロングビルは、右京の目を見すえて答えた。 「わかりました。ですが、オスマンはただいま重要なお話をされていますので、面会できるかどうかは保証しかねます。その点はあらかじめご了承ください」 「了解いたしました。よろしくお願いいたします」 ミス・ロングビルは、学院長室の扉に体を向けて、ノックした。 学院長室では、コルベールが口角泡を飛ばして、右京の左手に浮かんだルーンについて調べた結果たどり着いた自説を、オスマン氏に説明していた。 「ふむ…始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』か…」 「そうです。彼の左手に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』のものとまったく同じであります!」 オスマン氏は、コルベールのスケッチと書物のルーンをまじまじと見比べた。 コルベールがなおも興奮した様子でまくし立てる。 「すなわち、あの男性は『ガンダールヴ』ということです! これが大事でなくてなんなんですか! オールド・オスマン!」 「確かに、ルーンは同一のものじゃ。ルーンが同じならば、ただの平民であったその男が『ガンダールヴ』になった、という説も考えられぬ話ではないのう」 「どういたしましょうか?」 オスマン氏は、身を乗り出したコルベールを手で制した。 「まぁ、落ち着きたまえ。現時点では『可能性がある』というだけの話じゃ。それだけでそう決めつけるのは早計じゃろう」 そのとき、扉がノックされた。 「誰じゃ?」 「わたしです。オールド・オスマン」 扉の向こうから聞こえてきたのは、ミス・ロングビルの声だった。 「なんじゃ?」 「オールド・オスマンに、至急面会をしたいという方がいらしています」 「誰かね?」 「昨日、ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔の男性、スギシタウキョウさんです」 まさしく、今自分たちが話題にしている男の名前を聞いたコルベールが、慌てた様子でオスマン氏に伺いを立てた。 「オールド・オスマン!」 「これも、始祖ブリミルのお導きか…。わかった、入ってもらってくれ」 オスマン氏は渡りに船だと考えた。向こうのほうから面会を、しかも至急に求めているとは――いったいどのような話をするのか、興味がわいたのである。 オスマン氏の許可を受け、扉が開けられた。話題の使い魔が二人の前に姿を現した。 「ご多忙の中、お時間を割いていただき、まことにありがとうございます。私は、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔をしております、杉下右京と申します」 右京は、かしこまって挨拶をした。 「私は、トリステイン魔法学院の学院長、オスマンじゃ」 「私は、当学院で教職を仰せつかっております、コルベールです。二つ名は、『炎蛇』のコルベールです」 簡単に自己紹介してから、オスマン氏がしみじみとした調子で言った。 「そうか、君が…ミス・ヴァリエールが召喚した、人間の使い魔か。私に話したいことがおありのようじゃが、何用かな?」 「お聞きしたいことがいくつかございますが、まずは単刀直入に申し上げます。このハルケギニアと、別の世界をつなぐことができる方法をご存知ありませんでしょうか?」 右京の突拍子もない質問に、二人は驚いたようだった。 「『別の世界』とは……いったいどういうことかね?」 「僕は、この世界の人間ではありません。ミス・ヴァリエールによって召喚された、別の世界の人間なのです」 右京の言葉を聞いたときの二人の顔は違っていた。怪訝な顔をしたコルベールに対し、オスマン氏は厳しい目で右京を品定めするかのように見据えたのだった。 前ページ次ページゼロの使い魔×相棒 ~トリステイン魔法学院特命係~
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653 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/03(金) 10 17 26.02 ID ZBgXwzQm0 [1/9] 「さやかちゃん」 「この声はセクハラされたがってる声、まどか…いやらしい子」 「ち、違うよ///」 654 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/03(金) 10 31 25.37 ID +DtaLldv0 [1/9] 「ま~どかっ!」 「この声は…さやかちゃんがわたしを好きだって!わたしと結婚してくれるの…!? 子供は3人だなんてそんなのまだ早いよぉ…わたし達中学生なのに…えへへへ///」クネクネ 「捏造すんな!///(べしっ!)」カァァァ 「あうっ!」 655 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/03(金) 10 40 47.24 ID An/Bsaw50 [1/4] 「まどか・・・」 「・・・うん、いいよ・・・///」 「まどかぁーっ///」 「さやかちゃぁーっ///」