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前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ ロサイスに対する奇襲作戦は成功し、トリステイン・ゲルマニア連合軍は遂にアルビオン大陸に上陸する。 ダータルネスに艦隊が出現したとの急報を受け、3万の兵を率いて首都ロンディニウムから北上したホーキンス将軍は、 青空へゆっくりと消えていく幻影の艦隊を見て愕然とした。 とは言え、ロサイスからアルビオンの中心部に位置する首都までは300リーグあまり。 細長い大陸を縦断する街道はあるが、途中いくつもの都市や要塞があり、 すぐにアルビオン全土を制圧するわけには行かないだろう。 特にロサイスとロンディニウムの中間点、古都サウスゴータには亜人混じりの革命防衛軍がいる。 水際防衛線があっさり破られた以上、そこで押しとどめねばなるまい。あるいは今度こそ北から回り込んでくるやも知れぬ。 ホーキンスは下唇を噛み締め、ダータルネスの防備を固めさせてからロンディニウムへ戻った。 松下とルイズは3隻の『千年王国艦隊』に戻り、ロサイスへ向かう。その船室で、二人は戦況報告を受けていた。 「ロサイス上陸作戦では、味方の損害は比較的軽微だったようだな。教団兵にもさしたる死傷者はいない。 我々の陽動も功を奏したが、ゲルマニア軍にも新兵器があったというし」 「ふーーーっ、とにかく休みたいわ。『虚無』の魔法は強力で独特だけど、魔力の消耗が激しいのよ。 まだ私は『虚無のドット』ってとこね……」 「ふむ、『虚無』か。伝説によれば、始祖ブリミルには四人の僕がおり、 三人の御子と一人の弟子が指輪と秘宝を授かり、四大王国を作ったと言うが……」 「そうよ。三人の御子はガリア・トリステイン・アルビオンの、弟子はロマリアの王。 アルビオンの王統は、今回の革命騒ぎでほとんど途絶えてしまったし、 ロマリアも王国ではなくなって、教皇聖下が治める都市国家連合になったけど。 ゲルマニアはブリミルの正統を引いていない、成り上がりの集まりよ」 「四人の僕と王国の祖は、違うのだな? 疲れているところ悪いが」 ルイズは怒りもせず、溜め込んだ知識を披露する。実技以外では、彼女は優等生なのだった。 「ちょっと横にならせて。……いろんな説があるけど、まあ、そうでしょうね。 王国の祖が『虚無の担い手』で、四人の僕は『虚無の使い魔』よ。私とあんたみたいにね。 あんたは『神の右手、神の笛』ヴィンダールヴだったわよね? 他には『神の左手、神の盾』ガンダールヴ、これはあらゆる武器の使い手。 『神の頭脳、神の本』ミョズニトニルン、これはあらゆる魔法具を操るそうよ。 もう一人は『名を記すのも憚られる』として、失伝しているらしいわ」 「ふうむ……笛と盾と本、もう一つ、か。四大王国に四大系統、四つの指輪に四つの秘宝。 四人の『虚無の担い手』に四人の『虚無の使い魔』……」 「メシア、ミス・ヴァリエール、もうすぐロサイスに到着します。ご準備を」 シエスタとマルトーが伝令に来た。さて、ロサイスからアルビオン本土をどう攻めるか。 戦いは、これからが本番だ。 一方、その日の深夜。1隻の小さなフリゲート船が、アルビオンから密かにトリステインへ降下していた。 傭兵メンヌヴィルとその部下たち、ベアードやフーケを乗せた、奇襲用のフネだ。 「よーし、どうにか警戒線を抜けたぞ。攻めている側は、案外自分が攻められるとは思わんものなのかな。 ……いや、学院上空には、やはり探知結界が張ってあるな。直接侵入は出来ない。 付近の森林に空き地がある、そこに降ろそう」 操船しているのは、風のスクウェアメイジ・ワルド子爵……に取り付いた、妖怪バックベアードだ。 暴走しかねないメンヌヴィルの目付け役であり、情報収集も担う。 彼の周囲には小さな黒い球体がいくつも漂っていた。それには各々『魔眼』が付き、ベアードの視覚とリンクしている。 到着を前に、メンヌヴィルは檄を飛ばし、部下の士気を高める。 「さあて、野郎ども! 目的はトリステイン魔法学院の制圧と衛兵の始末、 そして貴族のメスガキと教師どもの生け捕りだ! なるべく殺すなよ! 制圧が完了したら、人質以外は殺すなりなんなり、好きにしろ」 うっひひひひひ、と下卑た笑いが起きた。 「……あのさあ、一応レディの目の前で、そういうセリフは自重してくんない?」 「そりゃ悪かったな、『土くれ』のフーケさんよ。まあ、荒くれをまとめるにゃこれが一番さ。 俺は盗みや犯しはしねえ、焼き殺すだけだ。老若男女、平等にな」 ベアードが振り向き、メンヌヴィルに尋ねる。 「好奇心で聞くんだが、なぜそんな物騒な性格になった? 生まれつきか?」 「そうじゃあねえ、この目玉が焼かれちまってからさ……」 到着するまで、ちょっと昔話をしよう。 元々俺はトリステインの下級貴族でね、アカデミーの『実験小隊』ってとこに士官として所属していた。 あんたのいた魔法衛士隊みてえな華やかな仕事じゃねえ、ま、裏方の何でも屋だ。 あれはもう20年も前になる。俺は二十歳になったばかりだった。 トリステインの北の海岸に、ダングルテール(アングル地方)って小さな漁村があった。 アルビオンからの移民が住み着いていた、ちんけで辛気臭ぇ村だ。牡蠣を拾うぐれえしか金目のものはねえ。 で、上の方から、そこで疫病が流行っているから『焼き尽くせ』って命令がきた。 疫病、確かにそうさ! そこは新教徒の巣窟だったんだ。まあ、俺は神様なんぞ信じちゃいねえが。 ……でよ、隊長が俺より少し年上の男だったんだが、こいつが凄い。 酷薄非情で狙った者は皆殺し、火を使うくせに酷く冷てえ、蛇みてえな奴だった。 そのダングルテールを焼き滅ぼしたのも、そいつなのさ。それも一人で! ああ、今でもあの美しい炎の竜巻が、脳裏に浮かぶぜ。夜の海に映って、すげえ綺麗だった。 それにあの、たくさんの人間が焼け焦げる香りと来たら! 何にも代えられない、素晴らしい芳香だった! お蔭で俺は、すっかりイカれちまった。隊長のことが大好きになって、思わず焼き殺したくなった! 咄嗟に杖を向けて、呪文を唱えた。次の瞬間、俺の目玉はこの通りさ。 フーケが、実にいやそうな顔をしている。 「……酷い話だね。よく殺されずに済んだもんだ。まぁ、あんたがイカれてるってのはよーく分かったよ」 「へへへ、こういう仕事は、ちょっとイカれてねえとできないのさ。 それに俺は鼻が利くようになったし、耳も鋭い。ついでに頭もすっきり冴え渡って、 熱の位置や微妙な変化が手にとるように分かるようになったよ。目明きよりよっぽど便利だぜ、この能力は」 「私のような『魔眼』の使い手には、結構いろんなものも見えるんだがな。 まあ、杖を突いて歩くのではなく、振って歩けるのは大したもんだ」 メンヌヴィルが、狼のような口で『にやっ』と笑う。 「ありがとよ。それから俺はトリステインを飛び出して、ゲルマニアで傭兵稼業を始めたよ。 実に天職だね。なにしろゲルマニアやロマリアあたりじゃあしょっちゅう戦争してるし、 あぶれ者やちんけな村を焼き尽くしたって、別に誰も文句を言わねえ。都市を襲えば大金持ちだ。 強いものが自由と富を得て、弱いものはサクサク死んでいく。坊主どもだってそうなんだもんよ」 「なんとも、楽しげだな」 「ああ、実に愉快だ。飯も酒も美味いし、わりと財産も築いた。俺はこうなったのをまったく後悔してねえ。 唯一気に食わねえのは、例の隊長があの後すぐに行方をくらましたと聞いていることだ。 俺はこんなに強く、あいつよりも激しく炎を繰り出せるようになったのに! ああ、あいつを焼きてえ! あいつが焼け焦げて消し炭になる匂いを、胸いっぱいに吸い込みてえ! それだけが、俺の最大の望みであり、悩みなのさ。はは、はははははははははは、ひいはははははは……」 メンヌヴィルは、気が触れたように笑い始めた。いや、彼はとっくに気が触れているのだろう。 ベアードは珍しくもなさそうに見ているが、フーケはぶるっと身震いした。鳥肌が立っている。 こんな妖怪や狂人の同類には、絶対になりたくない。 《彼らはバアルのために高き祭壇を築き、息子たちを火で焼き、『焼き尽くす献げ物(ホロコースト)』として捧げた。 私はこのようなことを命じもせず、定めもせず、心に思い浮かべもしなかった。 …この所をトペテや、ベンヒンノムの谷と呼ばず、『虐殺の谷(ゲヘナ、地獄)』と呼ぶ日が来るであろう》 (旧約聖書『エレミヤ書』第十九章より) 夜明け前、メンヌヴィルたちは魔法学院の裏門に近付いた。 しばらく学院に勤めていたフーケの話から、内部の構造などは知れている。 居眠りしている衛兵を永久に眠らせ、フーケが『錬金』で門扉に穴を空ける。 音も立てず、十数人の小部隊は学院に潜入した。フネは森の中に隠してあり、人質を連れて脱出する手筈だ。 物陰に隠れると、ベアードがふよふよと『魔眼』たちを内部へ飛ばし、衛兵や生徒の居場所を偵察する。 「……ふむ、一般の衛兵が20人ばかり、女子銃士隊が同数。そこそこだな。 衛兵どもは気を抜いているが、銃士は『火の塔』に駐屯して、二交代制で不寝番をしているようだぞ。 教師が数人、オールド・オスマンの姿は見えないな。教師と女子生徒の総数は、情報によれば90人ほど……。 む、あれはタバサ! あの『雪風』のタバサが目を覚ましたぞ!」 フーケがぴくっと反応する。確か、あのルイズやマツシタの仲間だ。 「あのガリア出身のちびメイジか。トライアングル級で風竜も使い魔にしてるし、手強い相手だね。 感づかれたか、どうなのか……他はどうだい? ヤバイ相手は起きているかい?」 「いや待て、今いいところなんだ。よーし、集まれ魔眼ども……」 「何デバガメやってんだい、このロリコン妖怪!!(ばきっ)」 「漫才やってねえで、さっさと情報をよこしな、ミスタ・ベアード」 ともあれ、学院内に大した動きはない。タバサはまたベッドに戻ったようだ。 「……じゃ、内部の構造と衛兵・銃士の配置はこんなところだね。使用人どもは、まあいいか」 「うっし、制圧戦の開始だ。セレスタン、四人連れて銃士のいる『火の塔』を抑えろ。 ジョヴァンニ、てめえらは寮塔だ。俺らは本塔を抑えておくから、メスガキどもをこの食堂に集めて来い!」 突入した分隊は、次々と女子寮の部屋のドアを蹴破り、女子生徒や教師を集める。 寝込みを襲われ、杖も奪われ、皆なすすべなく捕縛された。すすり泣くばかりで抵抗もしない。 衛兵たちは警笛を吹き鳴らし、剣や槍で応戦するが、歴戦の傭兵メイジたちには敵わない。 メンヌヴィル・ベアード・フーケは、占拠した本塔の『アルヴィーズの食堂』で待機している。 続々と人質が集められ、食堂の床に座らされていく。メンヌヴィルが眠たそうに欠伸をした。 「……あーあ、簡単すぎて欠伸が出ちまうぜ。こういうやわな仕事は俺向きじゃあねえな。 もうちょっと歯ごたえのある奴はいねぇのかよ? 俺、まだ誰も焼いてねえし」 「じゃあ、もうちょっと上に行ってみるか。学院長も探し出して、捕らえておかねばな」 「しょうがないね、道案内にあたしも付き合うよ」 人質たちが集められた食堂の壁際を、ちょろっと白いハツカネズミが駆け抜けた。 その頃、傭兵メイジのセレスタンは、『火の塔』を守るアニエスと戦っていた。 戦槌のような『杖』と、平民の磨いた牙である『剣』が交錯する。 「チェッ、いい女なのに勿体ねぇなあ! その牙、引っこ抜いてやらあ」 セレスタンは元ガリアの『北花壇騎士』、その実力はメンヌヴィルに次ぐ。 杖から火球が飛び、アニエスの剣が灼かれて折れ曲がった。 「きさま、火のメイジか! 私はメイジが嫌いだ、特に火を使うやつはな!」 アニエスは曲がった剣をセレスタンに投げつけ、言葉とは裏腹に逃げ出した。 「『騎士』が背中を見せるとは、さすがは平民出身じゃねぇか! その背中、がら空きだぜ!」 セレスタンが『魔法の矢』を放つが、アニエスは身を伏せて避け、振り返り様に拳銃を撃つ! 「私は、『銃士』だ」 「ぶがっ……」 醜い呻き声を立て、セレスタンが額に銃弾を受けて、どさっと斃れる。 彼の率いていた傭兵たちも、銃士隊に追い詰められて討伐された。そこへ、ハツカネズミが走ってくる。 アニエスはそれを見て、にっと笑った。 「よし、この塔は守った。ついて来い、作戦通り残りを掃討する! 耳栓をしろ!」 本塔を昇っていたメンヌヴィル・ベアード・フーケは、急に眠気に襲われた。 塔の上から鳴り響くのは、鐘の音だ。 「チッ、オールド・オスマンのじじい、『眠りの鐘』を使ってやがるね……」 フーケは手早く『錬金』を唱え、耳栓を作った。 「この耳栓を使えば多少は防げる、さっさと学院長室に殴りこもう!」 「狸寝入りでもしていたのか? ミスタ・ベアードの魔眼にも、見抜けないもんはあるようだな」 「やかましい。お前は盲目だからいいが、私の魔眼と目を合わせたら命はないぞ。 オスマンのじじいも睨み殺してやるさ」 三人は耳栓をして、階段を駆け上がる。 だが、鐘の音は『下』……さっきまでいた食堂の周囲からも、響いていた。 三人はバアンと学院長室に殴りこむが、誰もいない。 「隠れていても分かるぜ、そこだァ!」 メンヌヴィルが天井を火球で貫くと、オールド・オスマンがふわりと降りてきた。手には『眠りの鐘』がある。 オスマンが鐘を床に投げたので、三人はひとまず耳栓を外した。 「久し振りじゃの、三人とも。まだ生きておったか」 「そいつぁこっちのセリフだぜ。二十年以上前からじじいのくせに、あんた何百年生きてんだ? まあ、あんたなら相手に不足はねえ。確か『土のスクウェア』級だよな?」 「好戦的な男じゃのう。そこのフーケとワルドの実力も知っておる、生半なメイジでは相手にならんな。 では、わしがおぬしら三人をまとめて相手にしてやる。かかってこい!」 オスマンが杖で床を叩くと、床は溶岩のように煮えたぎって激しく渦を巻き、三人を窓の外へ吹き飛ばす。 三人は『フライ』で宙に留まるが、オスマンのいる部屋には、地面や他の塔から砂や石材が飛んできて集まる。 ゴゴゴゴゴゴと物凄い地響きがして、土砂は本塔の上半分を包み、獅子の体を備えた巨大な石の獣の姿となる! その顔は、内部にいるオールド・オスマンそっくりだ!! 「「うわっははははは、これぞ我がゴーレム『スフィンクス』じゃ!! スクウェアメイジを甘く見るでないぞ!! そおおれ、メガトンパンチを食らえい!!」」 スフィンクスの顔がオスマンの声で高笑いし、塔のように巨大な腕が振り回される。 三人は青褪める。まさか、いきなりここまでやるとは! 「てっ、てめえじじい、状況が分かってんのか? 俺らは学院の貴族の子女を人質にしてるんだぞ? 殺さねえまでも、攻撃をやめねえとそいつらの耳や鼻や指を……」 「「分かっちょるわい、おぬしらの奇襲なんぞ全部まるっとお見通しよ。わしの使い魔モートソグニルくんがのう。 それに食堂に集まった傭兵どもは、隠れさせておいたミセス・シュヴルーズの『眠りの鐘』でとっくに夢の中じゃ。 今頃は耳栓をした銃士隊に捕縛されているじゃろう。戦いは情報網と物量じゃよ諸君、ひょひょひょ」」 オールド・オスマンとアニエスたちは、学院のテロ対策をしっかりしていたようだ。 モートソグニルとネズミたちが学院内外を警戒し、非常時には合図を送って連絡する。 そして敵が一箇所に集まったところを、二つの『眠りの鐘』で人質ごと一網打尽。さらには、これだ。 「じょ、冗談じゃないよ! あのセクハラじじい、こんなバケモノだったなんて!!」 「ええいフーケ、気休めかも知れんが、お前もゴーレムを出せ! 私は『魔眼』の姿に戻る!」 「しゃあねえ、俺は食堂に戻るぜ。……いや、『火の塔』から銃士が出て来たな、あれから片付けるか」 バックベアードが黒煙とともに現れ、フーケのゴーレムがスフィンクスのパンチを受け止める。 スフィンクスは目から怪光線を放ち、ウオーーーッと咆哮する。妖怪・怪獣大決戦の始まりだ!! その頃、『火の塔』の傍らにあるコルベールの研究小屋では。 「これは『神秘幻想数学』、これは古代サハラの数学書、アリストテレスなる哲学者の著書、 『光輝(ゾハル)の書』に『東方魔法大全』! ああ、一生かかっても読み切れない! これを解読できれば、ハルケギニアはまさに革命的変化を……!!」 コルベールは感涙に咽びながら、『薔薇十字団』から送られてきた注釈付きの魔法科学書に没頭している。 そこへ、二人の生徒が駆けこんできた。外からズズズズズという地響きもする。 「コルベール先生! 未だにこんなところで何をしているんですか、大変なんですよ!」 「おお、ミス・ツェルプストーにミス・タバサ、こんな深夜に何事かね」 「敵襲。アルビオンの傭兵団が学院を急襲し、生徒及び教職員約90名を人質に取った。 我々は脱出して無事。反撃の体勢を整えるため、あなたを捜していた」 「な、なんだって!? ……時に二人とも、アレは何かね?」 「は?」 二人がコルベールの指差す方を振り返ると、バックベアードとゴーレムが巨大なスフィンクスと戦っている!! 「きゃーーーーーーーっ!!? な、何よアレ!?」 「あの黒い眼は、以前ニューカッスル上空に出現したものと同じ。ゴーレムはフーケのものと同じデザイン。 ならばあのスフィンクスは、恐らくオールド・オスマンのもの」 「そうだ。我々銃士隊と学院長が連携し、テロリストの大半は作戦通り捕縛した。 残るはあのバケモノどもと……こいつだ」 いつの間にか、アニエスも近くに来ていた。体にいくつか火傷を負っている。 そして向こうから歩いて来る大柄な男に、銃を向けた。キュルケとタバサも、杖を構える。 「おやおや、熱と硝煙の匂いを頼りに追ってきてみれば、かすかに懐かしい香りがするなァ。 さっきの女銃士が一人、火メイジと風メイジの女、それにもう一人。おい、おまえの名前は何だ?」 男を見たコルベールの表情が、さっと変わった。温和で臆病な普段からは想像できない、冷たい顔だ。 「……久し振りだな、『白炎』のメンヌヴィル」 その声音を聞いて、メンヌヴィルはあっと驚くと、両手を広げて心底嬉しそうに笑った。 「おお! おおお!! お前は『炎蛇』! 『炎蛇』のコルベールではないか!! 覚えていてくれたのか! 久し振りだな隊長殿、20年振りだ! あのダングルテール以来だ!!」 「!!」 アニエスは、対峙する二人を物凄い表情で睨み付けた……。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
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爆発自体については、おとーさんは平気でしたが使い魔たちが混乱して暴れています。 「し――― 静かに、娘が起きてしまいます」 おとーさんの電波な言葉で使い魔達は一応落ち着きました。 おとーさんが辺りを見回すと爆発のせいで木っ端や何かの破片が散乱しています。 咳き込みながら生徒たちは机の下から出てきます。 殆どの生徒は無事のようでしたが、逃げ遅れたのか一人の太った生徒が教室の隅でのびていました。 ルイズの方を見ると服はボロボロで全身煤だらけになっています。 「ちょっと失敗しちゃった」 煤を手で払いながらルイズはそう言いますが、生徒からは非難ごうごうです。 シュルヴルーズは最後の気力を振り絞りルイズに教室の掃除と今日一日魔法の使用を禁ずる事を言い渡して そのまま気絶しました。ルイズは元々魔法が使えないのであまり意味はありませんが。 爆発のせいで今日の授業が中止になったので生徒たちはそれぞれの部屋に帰りました。 教室にはおとーさんとルイズの二人だけが残り、爆発の後片付けをおとーさんがしています。 ルイズは机の上に座ってその様子を見ていました。本来ならばルイズが片付けをしなければならないのですが、 私の使い魔だからとおとーさんに押し付けたのでした。 「・・・・また・・失敗した・・・ 」 おとーさんは掃除の手を止め、呟くルイズを見ました。 「いっつも失敗するの。簡単なコモンマジックも使えないの。魔法成功率ゼロ、だから『ゼロのルイズ』ってみんなバカにするの・・・・」 ルイズの肩が小さく小刻みに震えているのがわかります。 おとーさんは知りませんが小さい頃からルイズは貴族の三女として厳しく育てられてきました。 無論そのこと自体はごく普通なことなのですが、ルイズは魔法が使えないため人一倍厳しく育てられました。 ルイズ自身も人の何倍も努力して魔法が使えるように頑張りました。 それは、トリステイン魔法学院入ってからも続けてきました。ですが、どう頑張っても魔法を使うことが出来ませんでした。 その為、学院の生徒から馬鹿にされ平民からも表立ってではありませんが陰で馬鹿にされていました。 貴族としてその事は恥辱でした。また、使えない自分自身にも嫌悪感をつのらせていました。 「・・・サモン・サーヴァントが成功して・・・ おとーさんを使い魔に出来たから・・・ 魔法が使えると思ったのに・・・ なのに・・・」 ふいにルイズは優しく抱きしめられました。吃驚して顔をあげると抱きしめているのはおとーさんでした。 「ちょ、ちょっと、おとーさん何やって・・・」 ルイズがそう言うと今度は頭を撫で始めました。無言でしたがそれはそれはとても優しく。 そうこうしているとルイズの肩がまた小刻みに震え始めました。 「こここ、子ども扱いしないでよ!!!」 ルイズはそう言うとおとーさんから離れ教室の出口まで駆け出しました 「もう、おとーさんの今日の食事抜き!!」 そう一言残してルイズは教室から出て行きました。 おとーさんはしょんぼりした感じでまた教室の掃除を始めました。 おとーさんの掃除が終わったのは正午を少し過ぎたころでした。 ルイズの部屋に帰ろうとしていましたが、今朝の洗濯物の事を思い出してシエスタの所へ行く事にしました。 洗濯場へ向かっていたおとーさんでしたが、美味しそうな臭いがしてきたのでついついそちらの方へ行ってしまいました。 食堂に着いたおとーさんでしたがルイズから「食事抜き!!」を言われたのを思い出してしまいました。 おとーさんはその場で涎をたらしてぼーっとしていました。 シエスタは食堂の外にいるおとーさんに気がついて近づいてきました。 「使い魔さん。お洗濯物出来上がっているので食事の後で渡しますね~って え? 食事抜きなのですか???」 シエスタは少し考えた後 「ちょっとこっちへ来てください」 と、おとーさんを厨房の方へと連れて行きました。 「余り物で作った賄いのシチューなのですけど、良かったら食べてくださいね」 おとーさんはシチューを頂きました。賄いという事でしたが、朝食べた質素な食事に比べたら遥かに豪華でした。そしてそれはとても美味しいものでした 「美味しかったですか? よかった~。食事抜きの時はいつでも言ってくださいね。 え? 仕事を手伝いたい? じゃぁ、このデザートを配って・・・」 デザートを手にとってシエスタはおとーさんを振り返りました。そこにはメイド服姿のおとーさんが居ました。 「あ、あはは・・・・ 別に服まで着なくてもいいですよ」 シエスタは引きつった笑いでおとーさんにそう言うと、メイド服を脱がせて改めておとーさんに手伝ってもらうことにしました。 (私、なんかとんでもない事お願いしたんじゃ・・・) シエスタはちょっと不安を覚えました・・・・
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年齢:17 性別:女 レベル:8 メインクラス:聖職者 サブクラス:伝承術士 種族:幻想種 参戦回数:12 コミュニティ:料理同好会(会長) 身長 162 体重:秘密 スリーサイズ:秘密 PL名:えーりん 「ニューエイジ神道!ここにあり!!」 「私は……私の道を行きましょう!例えその先に何があっても!!」 概要 狐の妖怪変化で、白姫稲荷神社の一人娘。 両親は優しく見守っていたが、何処をどう間違えたか神道と陰陽道をミックスしたスーパー神道を目指すようになってしまった。 周りからは変わり者扱いされているが全然気になどしておらずマイペースで行動している。 コネクション・友人関係 エリザ・アーバガストとの相性は致命的なまでに合わない。 これはもはや遺伝子レベルで分かり合えないのであろう。 エリザ・アーバガストとの激闘の歴史 タイトル 内容 判定 結果 見所 ファーストコンタクト! 握手 筋力 勝利 覚えてて良かった、地獄の九所封じ ルームランナー 走 敏捷 引き分け ルーンに頼るとは卑怯な!! メルにことごとくマヨネーズを食らっている……ヤキソバ、紅茶 学園祭で烏丸秀と仲良くなったような気がする! 宮凪俊造にセクハラされる、多分今後助ける事は無いだろう…… PickUp 狐の妖怪変化なので素早さを活かし活動する。 今の所は簡単な攻撃魔法と補助しか出来ないがもう少し経てば変わってくるだろう
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わたしの祖父はタルブから遠く離れたサウスタウンという町から来たらしい。 らしいというのはどうやって来たのかが分からなかったし、 誰もサウスタウンを知らなかったからです。 わたしの祖父は物凄く強い、オーク鬼も素手で倒していました。 盗賊のメイジの魔法も気合いで吹き飛ばしていました。 村の人達に「極限流」という武術を教えてくれました。 私にも教えてくれました。 そんな祖父も年には勝てなかったらしく、数年前に亡くなりました。 私は祖父に極限流の奥義と仮面を貰いました。 そして私こと、シエスタ・サカザキは仮面で正体を隠し、 サイトさんを守るため、青銅のゴーレムと戦うのです。 「ちょっと、その仮面はどしたのシエス「私はシエスタというメイドではありません。 私の名はミス・カラテ…、ただの格闘家です」タ……」 ここからは音声のみでお楽しみください。 「飛燕疾風脚」ドガッ バキャッ 「ぼくのワルキューレがっ!くっ、これならどうだ!」 「暫烈拳」ドガガガガガガガガガ、ドキャンッ 「ふっ、さすがにきみも7人のワルキューレが相手ではきみも勝てないだろう」 「メイジが相手なら覇王翔吼拳を使わざるを得ない」 「覇王翔吼拳」ドゴォォォン×7 「ま、参った、僕の負けだ」 「覇王翔吼拳を会得しない限り、私を倒すことはできません!」 決闘終わり 遠見の鏡で一部始終を見ていたオスマン氏とコルベール。 「オールド・オスマン、ミス・カラテとはいったい何者でしょう」 「ミスタ・コルベール。きみ、アホだろう」 翌日 学院では昨日現れた謎の格闘家ミス・カラテの話題でもちっきり。 サイトさんが私になにか聞きたそうにしていました。 私は洗濯が終わったらいつものようにマルトーさんから貰ったワイン瓶で 『ワイン瓶割り』をしてから食堂へむかいました。 嘘予告 シエスタ・サカザキ、サイトさんを守るため、危険な国アルビオンにのりこむ。 アルビオンで彼女をまちうけるものは… 「覇王翔吼拳を使わざるを得ない」 おまけ あの仮面は大切な祖父の形見。いつも肌身離さず持ち歩いてます。 スカートの中に隠して… 「ちょっ、シエスタ!なんか尻にあたってるぞ!」 アッーーー
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前ページ次ページご立派な使い魔 翌日は何事もなく過ぎた。 てっきり、ワルドがマーラに決闘を挑むかと思っていたルイズには肩透かしである。 「準備が必要だからね。僕は無謀な戦いを挑むつもりはない」 「準備? 一体どうするつもりなの、ワルド」 「まずもっと精力をつけないといけない。それからは……後のお楽しみさ」 そう言って、とにかく精の付きそうな料理ばかりを食べているのだ。 これにはルイズもがっかりしたが、しかし考え方を変えれば、それだけワルドが真剣ということにもなる。 「マーラとの戦いそのものは行うの……?」 「ああ。君の期待に応えてみせるさ、なんとしてでもね」 まだ見放されていない。 その事実に、ルイズはなんとか胸を撫で下ろした。 「せめてこちらの旦那が使い手だったらな。俺も手助けできたのによ」 「……それって、アレを斬るってこと? この間は嫌がってたのに」 「そりゃ俺だって覚悟は決めるよ。娘ッ子のひょろひょろ剣じゃどうせ斬れねーし、パスしたけどさ。 こちらの旦那だったらな、そりゃ、やれるかもって思うじゃねーか」 「そう……よね。ワルドなら、ワルドならきっと……」 「ああ、畜生。ほんと使い手だったらよ」 「……ところで使い手って何よ? なんか前にも言ってた気がするけど」 「え? ……あれ? 俺んなこと言ってたっけ?」 「……いいわよ、もう。貴方にはそういうの、期待してないし」 「ひでーや!」 剣としてはあまり役には立たなかったけれど。 これでも、ルイズはデルフリンガーに感謝しているのだ。 一人では耐え切れなかった、この生活。もし彼がいなかったらきっと自分も、ギーシュなどのように…… ルイズは首を振った。まだ、終わった訳じゃない。 「ワルドが勝ったら、その時は……デルフ、きっとわたし、貴方を使うのに相応しい使い魔を召喚してあげるから」 「お? おいおい、なんだよ気味悪りーな」 「ううん……なんでもない」 ルイズは、ただ、静かに待ち続ける。 一日暇だったわりに、夜になってもマーラを中心にしてギーシュとキュルケが盛り上がっていた。 一応、タバサもいるが、話には加わらず隅で本を読んでいる。まあ、いつも通りらしい。 それにしても聞こえてくる単語がいかにもな単語ばかりなので、ルイズは素通りしようと思ったが。 けれども、言わなければならないこともあると思いとどまる。 「マーラ。貴方に言わなきゃいけないことがあるわ」 「ほう。なんじゃな」 「わたし、ワルドと結婚するわ」 すると、マーラの様子はいつもとさして変わらなかったが、横のギーシュとキュルケが目を丸くした。 タバサも、本から顔を上げる。 「おめでとうミス・ヴァリエール! お似合いだよ!」 「そうね。どう見ても、あなたには不釣合いなくらいだけれど」 「……おめでとう」 級友はいずれも率直に祝福してくれる。まあキュルケはいつも通りだ。 「やはり、昨日の一夜で虜になったのかい? 衛士隊長のテクニックは大したものだな」 「いくら婚約者って言ったって、たった一晩でルイズを夢中にさせちゃうなんてね。 魔法衛士隊ってそんなとこまで鍛えられてるのね」 セクハラまがいのことを言うこの二人も、最近としてはいつも通りだ。 ……だからルイズも拳を握り締めてプルプルと震えさせたが。我慢である。 「めでたいわな。小娘が望むならば、女の妙技を伝授してくれようぞ」 こやつがこうなのもいつも通り。 ルイズは、叫びたい気分を堪えて話を続け…… 「まあ、殿方はそんなものまでご存知なの!? ぜひ、あたしにも教えて頂けませんこと?」 「グワッハッハ。なに、お主のレベルではとうに習熟していようが、小娘は初心であろうからのう。 それに対する程度のモノよ。お主が期待するような高度な技については、自力で学ぶ方が良い具合であろう」 「それもそうですわね。まあルイズのレベルでは……」 「ツェルプストーほんっきで自重しなさいよぉ!」 我慢したかったのだがつい声が出た。 (いけないわ。そうやってこいつらのペースに乗せられるからいつもおかしくなっちゃう。 ここはクールにならなきゃ……クールになるの、頑張れわたし) なんとか呑み込んで、ルイズは本題を告げる。 「でも結婚する前にね、ひとつ条件を出したの」 「条件? 一体全体、それは何なんだい?」 「あらまあ贅沢ねルイズ。そうやってお高くとまってると、お子様体型なのに行き遅れちゃうわよ」 「だからぁぁぁ……だ、だから、貴方達は黙ってて。 マーラ。……その条件は貴方に関わるわ」 ルイズの視線が、マーラと交錯する。 刃と刃を打ち合わせたような冷たい緊張感が場を支配した。 「ほほう。あやつとの結婚にワシが関わるとな?」 「貴方を倒したら結婚する……そう、約束したわ」 「なんだ。ミス・ヴァリエール、それじゃあ君は結婚する気がないんじゃないか」 「体のいい断り方ね。男殺しよね」 今注目すべきは、マーラのみだ。 ギーシュとキュルケはとりあえず放置しても問題ない。 そのマーラの反応は……ニヤリ、と笑ったように見えた。 「面白いわな。小娘の旦那として相応しきモノを持つかどうか見極めてくれようぞ」 「じゃあ……受けるのね?」 「小娘は我が主であろうに。ならば小娘の決めたことに従うまでよ」 「そ、そう……物分りのいい使い魔を持って、わたしは果報者な主人だわ……」 ワルドは……勝てるのだろうか。 いや。勝てるはずだ。きっと、勝つ。 ルイズはそう信じる。信じなければ、ならないのだ。 「何時になるかはまだ決まってないけど……きっと、近いうちになるはずよ」 「うむうむ、ならばワシも己をいきり立たせて待つとするかのう」 賽は投げられた。 ルイズは、ワルドの勝利を祈るしかない。 夜半になっても、これといって事件は起こらなかった。 襲撃など受けそうな気もしていたのだが……どうなったのやら、である。 「結局、あの賊はただの物取りだったようですね」 「らしいな。あるいは事情でも出来たのかもしれない。 例えば、強敵との戦いが控えているので、無駄に体力、魔力を消耗できないだとか…… 遍在ひとつの魔力も無駄に出来ないような感じで」 「随分と具体的な例ですね?」 「いやなに。賊の心境というのを慮っただけだよ」 相変わらず、ワルドは物を食べている。 今食べているのは爬虫類か何かの干物のようだが、妙な代物だ。 それを見るギーシュは、確かあれは絶倫の妙薬と言われるトカゲだったか、と記憶をめぐらせる。 「子爵、どうしたのです? そんなに精ばかりつけて」 「……君も聞いたのだろう? 僕はいよいよあれと決闘する訳だがね」 ワルドは、陰のある笑いを見せた。 その笑いにギーシュは感じるところがある。あの笑いは、そう。 いつかの自分と同じなのだ。 「お気持ちは理解できますよ。僕もあの方と一度、杖を交えたことがありますからね」 「それはなんとも……随分と勇ましいな、ギーシュくん」 「若気の至りですよ。しかし貴重な経験でもありました」 さて、それにしても何故ギーシュがワルドと語らっているのだろうか。 それはまさに、今のギーシュの言葉にこそ理由がある。 「経験者として忠告しますが、あの方に小細工を使っても無意味ですよ」 「だろうね。アレとは正々堂々と戦わなくてはいけない。それくらいは理解できるさ」 マーラと対峙したことのある一人としての、助言であるのだ。 ギーシュは今やマーラを師と仰ぐ人物である。 しかし、師を越えようとしない弟子など、そうはいない。 自らもご立派の道を究め、いつかはマーラ以上になろうと、そんな野心はギーシュにもある。 だからこそ、こうしてマーラに挑もうとするワルドに、言葉をかけにも来るのだろう。 「安心していてくれよ、ギーシュくん。僕とて勝算がなくて決闘を受けた訳ではない。 それに勝てた時に得られるものを思えば、この勝負、賭けのしがいもあるってものだろう」 「なるほど……流石は子爵」 ワルドは、干物を食べ終わると次にヘビが漬け込まれた酒瓶をあけた。 つくづく精力尽くしである。 「このままなら、恐らくは目的地で雌雄を決することになるだろう。 つまり明日、明後日ということになるかな…… 姫殿下からの依頼とルイズからの願い、この二つを同時に果たすという訳だ。光栄すぎて身が引き締まるよ」 「男冥利に尽きるというものですね」 「まったくだな……」 いかにも強烈そうな匂いのする酒を、ワルドはぐびぐびと飲み干す。 これにはギーシュも目を剥いた。ここまでやるとは。 「勝つよ、僕は。そうでなければ今後、胸を張って男でいられる自信がないからね。 ……はは、すまないなギーシュくん。君のような少年にまで心配されるとは」 「子爵。無理はなさらないように」 「心得よう」 窓の外に目をやる。 そこには一瞬、フードの人物がいたように見えたが…… すぐに、消えてしまった。 翌朝、枝が伸びる桟橋から、つつがなく船は出港する。 硫黄を運ぶ船に同乗する形なった訳だが、まあ、このご時世、客船などはそう出ていないものだ。 貨物船でも出られるだけマシだろうと、それは諦めることにする。 「なんだか、順調すぎて怖いくらいだね」 「まったくね。てっきり昨夜あたり、襲撃でもあるかと思ってたのに」 ギーシュとキュルケは呑気にそんなことを言っていた。 ただ、これはタバサも不思議そうな顔をしているから、この二人だけの認識ではないらしい。 「うん……いや、確かに本来ならば昨夜に…… ……まあ貴族派にも色々と事情があるのだろうね」 「そうなの、ワルド?」 「あ、ああ。やっぱりこう、なんだね。大変だ」 意味のない笑いを浮かべてワルドがぶつぶつと呟く。 その目がはっきりと充血しているのを見て、ルイズは少しいたたまれない気持ちになった。 「眠れなかったの?」 「まあその、色々緊張することも多いからね。 ……ニューカッスル。あそこへ行って、そこで……決着をつけるだろう」 「そう……」 両手で、ルイズはワルドの右手を握り締める。 「ルイズ?」 「頑張ってとしか言えないのが、もどかしいけど……頑張って、ワルド」 「……はは。一万人の味方を得た気分だよ」 こけた頬のまま、それでも目つきだけはギラギラとさせながらワルドが微笑んでみせる。 その微笑に、不意に影がさした。 何も、ワルドの表情が曇ったというのではない。 「な、なんだ……」 船員達が慌てている。 これは、どうやら…… 黒くタールを塗られた船が、じわじわと近づいてきている。 船員達は最初、貴族派の船と思った様子で、それはルイズも変わらなかったのだが…… 轟音とともに砲弾が飛んでくると、まったく違うことに気づく。 「まずいな。空賊か」 船員達は不安そうに黒船を見ている。 改めて周囲を見渡すに、空中で戦えそうなのは、まずワルド。 それからタバサもいるし、キュルケも炎を飛ばせばそれなりに戦えるだろう。 ギーシュは、まあ、砲弾の盾でも作らせておけばいい。 後は…… 「……マーラ、あんた空の相手に戦えるの?」 「温い温い。やろうと思えば容易きことよ」 「でも……」 今まで肉弾戦しかしていなかったのではないだろうか。 ルイズは不安を覚えたが、しかし、どうしたものか。 「戦えないことはない。しかし……あまり騒ぎを起こしたくもないな。 貴族派に目をつけられては困ったことになる」 ワルドの逡巡は、しかし、長くは続かなかった。 予想外に黒船の動きは早く、たちまち隣接されてしまったのだ。 ここから砲弾の雨を受ければ、嬉しくない結果が待っていることだろう。 「仕方ない、ここはワルキューレを……」 ギーシュがそう言って薔薇を振りかけたが、ワルドが静止する。 更にキュルケ、タバサにも、目線を送って動きを止めさせた。 「騒ぎすぎてもしょうがない。ここは交渉に賭けるしかないだろう」 この船の船員達も、ワルドに頷く。 貴族が五人、更に立派な使い魔がいるのだ。 彼らの指示に従った方が、結果として損害は少なくなるだろう。 そう思っての行動であった。 やがて空賊達が乗り込んでくる。 頭らしき、粗野な男が真っ先に進み出てきて、ルイズ達と船長をにらみつけた。 「船長はどこでえ」 「わ、わたしだが」 震える船長に、男は威圧を込めて問う。 「船の名前と、積荷は?」 「マ、マリー・ガラント号。積荷は、硫黄だ」 硫黄と聞いて、賊達はため息を漏らす。 「そ、それから……」 船長がルイズ達を見た。 積荷という訳でもないのだが、客であるし。判断に迷っての行動だろう。 しかしその船長の目線を男が追った時に、変化が起こった。 「ん、なんだ、貴族かよ……って」 ルイズ、ワルド、キュルケ、ギーシュ、タバサと眺めて……そして。 「お……おい、アレも積荷か?」 「あ、あれは、お偉い貴族様の……」 男がよろよろと近づいてくる。 ルイズは、咄嗟に声を張り上げた。 「下がりなさい、下郎!」 「下郎……確かにシモだが……」 その言葉にルイズはまた頬を赤く染める。 またかよ。最近このパターン多いな、と。 「……あんたは」 「ワシは魔王マーラなり。この小娘の使い魔なるぞ」 ああ……どうせきっと。この後はアレなんだ。 ルイズは泣きたくなった。 ご立派ご立派ってなんでそんな大きさにこだわるんだろう。誰も彼も。 「ワルド……わたし、泣きたい……」 「いや、泣く必要はないかもしれないよ」 優しく言うワルドの声に驚かされて、ルイズはもう一度男を見た。 すると。 「……なるほど。これは失礼した」 男が、頭に手をやると、その髪が剥がれ落ちる。 コルベールがつけそうな代物、つまりカツラだったようだ。 更にヒゲまで外す。 粗野だった男が見る見るうちに姿を変えて、金髪の美男子になってしまった。 「ど、どういうこと……?」 「貴方の評判はアルビオンにも伝わっている。『ご立派なルイズ』…… トリステインに並ぶもののない魔法使いとね」 「……違うわよぉ」 そして男は、静かに敬礼する。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官。 ……アルビオン王国皇太子。ウェールズ・テューダーだ」 「え……ええ?」 物凄い展開の速さである。 ルイズも、目を丸くするばかりだ。 「あ、あの……え? 皇太子さま?」 「そうだよ、ミス・ヴァリエール。噂どおりにご立派な方だな」 「いや、あの、それは……違いますけど……」 ウェールズは、改めてマーラを眺めた。 「やはり……噂どおり、いや、噂以上だ。 皆、見るがいい。この方を」 空賊達は、直立不動になってマーラに目を向けている。 「この方のこの姿。貴族派のようなモノどもでは、到底得られない滾りがあるとは思わないか。 最早疑うまでもなく、我らの味方だろう」 「確かに……」 「間違いありませんな」 話が早くて助かるが、それでいいんだろうか。 「歓迎するよ。ミス・ヴァリエール。 ……で、何の用事でアルビオンに?」 そっちを先に聞けよ! 嘆くルイズ。やっぱりこんなんばっかか。 ワルドはああ言ったが、でも泣きたい気分は変わらないルイズである。 前ページ次ページご立派な使い魔
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【ネオン・ストリート】 双子とスキケレが住んでいる街。 昼は普通の街だが、夜になると数多のネオンに照らされ煌めく。 人間以外にも、獣人やアンドロイドなど、人間には数が劣るが様々な人種がいる。 元々はギャングスタの根城であり、双子と保安庁(警察のような組織)の働きによって数はだいぶ減ったがまだ蔓延っている。 ギャングスタは人身売買も行っており、特に人外や特殊な能力を持つ者などを狙う。 そのため、保安庁はそれに当たる者に危険区域に近付かないように呼びかけている。 以下、5人の住民を紹介。 ナコマ 性別:女 身長:168cm 体重:50.7kg 年齢:17歳 好きなもの:可愛いもの、勉学、双子、本 嫌いなもの:犯罪者・ギャングスタ、下ネタ、セクハラ、不真面目な人、不誠実な人 趣味:お茶、読書 特技:シューティングゲームで高得点を出す、狙い撃ち ネオン・ストリート保安庁長官の娘で特殊部隊隊長。 母は小学生の時に離婚したため、父子家庭(原因は母の浮気)。 スキカとスキセの最初の友達で親友。 超がつく生真面目で、思考も硬い頑固な奴だが、親しい者なら多少の融通はきく。 学校に通っており、自身を「華の女子高生」と言うが、仕事熱心なのも相まってあまり伴ってない。 因みに成績優秀・文武両道な模範生で生徒会長。 双子と知り合ったきっかけは、二人が街に来て間もない頃、スキカとシューティングゲームで対戦したのがきっかけ。 凄腕のスナイパーで、任務中はその腕が発揮される。 スナイパーといっても近接攻撃もお手の物で、ガン=カタを得意としている。 愛用のライフルはスキケレが作ったもので、大きめの拳銃とマシンガンの2つに可変可能。 スキカとは逆に「可愛い」と言われたいのだが、周りは「カッコイイ」と言うので複雑。 これまたスキカとは逆に、「可愛い」と言われると真っ赤になって固まり、しばらく何も言えなくなる。 ナマコと呼ばれると怒る。 一人称:私 二人称:貴方、〜さん 例 「初めまして。私はネオン・ストリート保安庁長官の娘で特殊部隊隊長のナコマと申します。以後、お見知り置き願います」 「(セクハラされて)わいせつ行為及び名誉毀損の罪状により逮捕致します!!!!」 「スキカさん、スキセさん。何かあれば私に必ず、仰ってくださいね。私に出来る範囲内で、お力添え致しますから」 「我々はネオン・ストリート保安庁特殊部隊です! おとなしく豚箱に入りなさいギャングスタ!」 好き要素:黒セーラー、アンダーリム眼鏡、うねった三つ編み、女子高生+武器、三白眼、ありそうでない現代っぽい名前、ガン=カタ 使用制限:ご自由に coming soon...
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前ページ次ページ未来の大魔女候補2人 未来の大魔女候補2人 ~Judy Louise~ 第2話後編『ジュディと老爺の関係』 「ミスタ・コルベール」 「おや? ミス・タバサ、丁度此方も探そうとしていた所です」 コルベールが学院長室から退出すると、ドアの横に蒼髪の少女が待っていた。 タバサは言葉少なに声を掛けて、小さくペコリと頭を下げる。 「赫々然々」 「成るほど。コレコレウマウマと言うわけですね」 タバサは医務室で女の子に起こった異変と、ルイズを運んできたキュルケに2人の看病を頼んだことを手短に伝え、コルベールは言葉少なに語られた内容を正確に把握する。 「ワザワザ伝えに来てくれたのですね? 有難う御座います。 しかし、これでまた1つ問題が増えましたな。 女の子に現れたルーンらしき痣、確りと究明せねば彼女の親御さんに申し訳が立ちませぬ」 「…………」 タバサは小さく頷きを返す。 道中それ以上の会話はなく、2人は並んで階段を下りて水の塔に在る医務室へと歩を進める。 特筆に価する出来事は何も起こらず、あっさりと医務室へと辿り着く。あえて語る事があるならば、医務室の向こうの角に金の巻き髪が揺れるのを見た事くらいだ。 医務室の外には3メイル程ある火蜥蜴と、それより一回り小さい巨大蛙が居た。キュルケとルイズの使い魔である。 寝ていた火蜥蜴は、2人の接近に気がついて顔を上げるが、巨大蛙の方は、相変わらず表情の読めない顔で鎮座している。 部屋の中からは、何やら物音が聞こえてくるが、きっとルイズとキュルケが喧嘩をしているのだろう思い、コルベールは気にせずドアノブに手を掛けた。 まったく喧嘩するほど仲が良いというが、TPOを弁えて喧嘩して欲しいものだとコルベールは思いながら、ドアノブを捻る。ガチャリとラッチが内側に引き込まれる音が響き、抵抗のなくなったドアが蝶番を軋ませて開かれた。 医務室特有の臭いが鼻を刺す。開かれたドアの先で2人が見たものは、ベッドにキュルケを押し倒しているルイズの姿であった。 それだけならば、取っ組み合いの喧嘩をしていたと解釈するのだが、それでは顔の上気したキュルケの説明が付かない。 と、成れば、コルベールは自分の評価が間違っていたと考える。 つまり、2人の仲は『喧嘩するほど仲が良い』と言うレベルではなく、唯為らない関係であると認識するには十分であった。 ならば、何時も喧嘩していたのは、周りの目を欺くためだったのか? 成程、2人の家は仇敵同士であると言う事実を踏まえれば、関係を知られたくないと思うのは当たり前だ。 未来ある若者の為に、自分は何も見なかった。1時間ほどしてから、また来よう。そうコルベールが判断を下すのに要した時間は、僅か5秒足らず。 「ごゆるりと……」 「…………」 コルベールは平静を装って踵を返す。タバサは何も言わないが、小さく頷いてからコルベールを倣って回れ右をする。 「待って下さい、ミスタ・コルベール! 何か勘違いしていらっしゃらないですか!?」 「大丈夫です。このことは誰にも言いません。私の胸の中に仕舞って置きますから安心を」 「絶っ対、盛大な勘違いをしてらっしゃいます! ただ喧嘩をしていただけです。お願いですから仲裁するなり、説教をするなりして下さい!」 「判っています。判っていますぞ。このコルベール、伊達に年を重ねている訳では有りません。この位の空気を読むことは造作もないことです。 ですから、言い訳はしなくても宜しい。誰も医務室には近づけさせません」 「お願いですから話を聞いて下さい! 誤解なんですってば!」 コルベールの襟元を掴んで、必死に誤解を解こうとするルイズだが、コルベールは悟りきった表情で優しい言葉を掛けてくる。髪も無ければ、取り付く島も全く無いコルベールであった。 暫らく呆けていたキュルケだが、ルイズに遅れること数瞬、事の重大さに気が付き、自分の親友にヨロヨロと近づいて声を掛ける。タバサは眼鏡の奥から、平静な瞳を返す。 「ねえ、タバサ? 貴女は判ってくれるわよねえ? これは事故なのよ。お願いだから先生を説得するのに協力して」 「…………」 その懇願にタバサは『判っているから何も言わないで。どんな事になっても私は貴女の友達で味方だから』とでも言うかのように、サムズアップを返す。 「タバサぁ~ お願いだから私の言う事を信じて!」 「誤解なんです、ミスタ! 私とコレは仲良しなんかじゃありません!」 「…………」 「う~む……」 ルイズとキュルケは、それぞれコルベールとタバサに縋り付いてガクガク体を揺らしながら訴える。 余りにも必死な様子にコルベールは、もしかしたら勘違いだったのでは? と、いう疑念が浮かんでくる。 改めて話を聞こうと耳を傾けようとした時、4人の中の誰でもない声が聞こえてきた。 「う~ん…… ここ、ドコ?」 ルイズが寝ていたベッドの隣。白いカーテンで区切られているベッドから、女の子の声が聞こえる。 その声を聞いて、コルベールは此処に来た目的をはたと思い出す。 取り合えず、ルイズとキュルケには、勘違いしていた事を後で謝っておこう。そう考えながら、襟元を掴んでいるルイズの腕をやんわりと解いて部屋の中にはいっていく。 それでも、しつこく追い縋って来るルイズをチョップで引き剥がして、閉じているカーテンに手を掛ける。 カーテンを引くと、医務室の簡易ベッドの上で上半身を起こしている金髪の女の子が此方を伺っていた。不安を与えないように極めて優しい声で話し掛ける。 「目が覚めたようだね。 何処か痛い所は在りますかな?」 「えっと…… 少し頭が、ぼや~ってなってるけど、ダイジョウブです」 「そうですか。それは良かった。 それでは、貴女のお名前を教えて頂けますかな? 私の名前はジャン・コルベールと申します。 後ろに居るピンクの髪の子がミス・ヴァリエール。蒼髪の子がミス・タバサ。赤髪の子がミス・ツェルプストーです」 「ハイ。わたしの名前はジュディスです。でもみんなからは、ジュディって呼ばれています。 コルベールさん、ココはドコですか?」 ジュディと名乗った女の子の質問に、コルベールは丁寧に答える。 「ここは、トリステイン魔法学院です。分かりますかな?」 「トリステイン? ドコですか?」 「トリステインを知らないなんて、一体どんな田舎から来たのよ?」 クエスチョンマークを頭の上に乗せて首を傾げるジュディに、コルベールの後ろからルイズが口を挿む。レディとしてはしたない行為だが、ハルケギニアで最古の伝統を誇るトリステインを知らない者が居るとは、とても信じられなかったからだ。 「フム…… 聞きたい事はまだ在りますが、学院長がお呼びですから続きは学院長室で話しましょう。 ミス・ジュディス、私の後に付いて来て下さい。ミス・ヴァリエールとミス・タバサにもご同行願います」 「はーい。でもコルベールさん、わたしのことはジュディで良いですよ?」 「それではジュディさん、行きましょうか」 「あの~ ミスタ・コルベール、私もなんですか?」 「当然です。この子を召喚した張本人なのですから、つべこべ言わずに付いて来なさい」 コルベールは不本意な表情を浮かべるルイズに、ジュディとは打って変わって厳しい言葉を掛ける。 その強気な態度にルイズは鼻白んでしまう。 一方ジュディは、危なげ無くベッドから降りてブーツに足を通す。荷物掛けからネクタイを手に取り、手馴れた様子で締める。 そして、白いブラウスの上に赤い魔道着を纏い、更にその上に紫のローブを羽織ってバッグを逆袈裟に掛ける。仕上げに、大きな紫の尖がり帽子を被って着替えは完了した。 ジュディが荷物を持って出発しようとした時、何とかタバサの説得に成功したキュルケが声を掛ける。 「ミスタ・コルベール、私も同行しても宜しいでしょうか?」 「却下します」 「ええっと……」 即決で答えが返ってくる。取り付く島も無いコルベールに、キュルケは鼻白み言葉が閊える。 その隙にコルベールは3人を連れて、さっさと医務室から出て行ってしまった。 ジュディが医務室を出ると、巨大な蛙が近寄ってきた。 「あれぇ? ポセイドン、如何して実体化してるの?」 「ひぃぃぃっ!」 ジュディは不思議に思う。今まで寝ていたのだから、巨大蛙-ポセイドン-は非実体化しているはずだ。もしかして、寝ぼけて実体化させてしまったのだろうか? と、首を捻る。 取り合えず非実体化させようと、ジュディは意識を集中させる。だが、幾ら集中しても、自分の中に在るはずのポセイドンの存在が感じられない。 他の2体のファミリアの存在は、感じる事ができるのに、如何いう訳かポセイドンの存在がぽっかりと抜け落ちて、別の何かに置き換わっているのを感じる。 取り合えず、ポセイドンの背に腰掛けて、代わりに置き換わった何かに意識を集中させる。 「ちょっと! 誰に断って人の使い魔に乗っかってんのよっ!」 その怒鳴り声にジュディは驚き、顔を上げる。声の聞こえてきた方向に眼を向けると、そこにはコルベールの姿が在り、その隣にはタバサが立っている。 しかし、先程響いた声は女性のものだ。ジュディはタバサの方を見やるが、タバサは湖面の様に静かな視線を返してくるだけだ。 「聞いてるの!? さっさとソレから降りなさいっ!」 その声は、確かにコルベールの方から聞こえてくるのだが、明らかにコルベールの声ではない。 眼を点にしているジュディに、タバサが後ろだと指を指して教える。 「ミス・ヴァリエール…… 言いたいことがあるなら、せめて私の背中から顔を出しなさい」 呆れてルイズに話しかけるコルベールの様子から、ジュディは成程と納得する。つまり、ルイズがコルベールを盾にしてジュディに文句を言っていたのだ。 「言いたい事があるなら、きちんと顔を見せなさい」 「いゃ…… んーっ、ん――っ モガモガ……」 今までの様子から埒が明かないと判断したコルベールは、無理矢理ルイズを背中から引き剥がし口を塞いでからジュディの前に立たせる。 矢面に立たされたルイズは、暫らくもがいていたが、やがて痙攣して大人しくなった。 「ミス・ヴァリエール、落ち着きましたか? 使い魔を見る度に叫んでいては話が先に進みませんぞ。先ずは、為るべく見ない様にしてみなさい」 「は、はい……」 「あの~? ヴァリエールさん、ポセイドンが使い魔って如何いう事ですか?」 ルイズは眼を合わせずに、ジュディのジュディの質問に答える。逃げ出そうにも、肩はガッチリとコルベールに抑えられている。 「言葉の意味どおりよ! ソレは私が召喚して、私の使い魔になったのよ! だ、だからソレはもう貴女のペットじゃないの!」 「えっ! それって、どういう意味!? ポセイドンは、ペットじゃなくてわたしのファミリアだよ。 どうやってわたしのファミリアを、ヴァリエールさんのファミリアに出来たんですか?」 「どうやってって…… コントラクト・サーヴァントで契約したのよ。 ……契約した記憶は無いけど、そうですよねミスタ・コルベール? 所で、ファミリアってなによ?」 「確かにミス・ヴァリエールは、コントラクト・サーヴァントを成功させて、そのポセイドン君を使い魔にしました。そして、その証拠が左前足に刻まれたルーンです。 ですが……」 コルベールはルイズの言葉に肯定を返すが、ジュディの言動から得られた推測に、額に汗を滲ませる。 固い唾を飲み込む音が、辺りに小さく響く。 「ジュディさん、お1つ聞きたいのですが、そのファミリアというのはもしかして、使い魔と同義語ですか?」 「そうですよ? 知らないんですか?」 「なんと……っ! また1つ問題が増えてしまいましたか……」 「どう言う事ですかミスタ・コルベール!? アレは使い魔じゃないって言ってたじゃないですかっ!」 ポセイドンに刻まれたルーンを確認していたジュディは、当たり前の事を聞かれてキョトンとする。 ルイズとコルベールは、愕然とし、泡を食ったかのような表情になる。 難しい顔をしているコルベールをルイズが非難するが、この状況を動かし得るものではない。予想外の出来事に、コルベールの頭皮は、確実に大ダメージを受けている。 流石のタバサも、この事態に眼を大きくさせて驚いている。 「うむむ…… 何にせよ、これ以上此処で話をしている訳には行きません。早く学院長室に行きましょう。話しはそれからです」 「あの~、ミスタ? 私は如何すれば?」 急ぐコルベールに話しかけるのは、先程袖にされたキュルケだ。 「むっ? 今の話を聞きましたね?」 「はっ? はい聞きましたが、それが何か?」 「ならば、余計な事を言いふらさないように連行します。答えは聞きません」 「ご、強引ですのね…… まあ、宜しいですわ。行くわよフレイム」 「わっ! おっきなトカゲさん!」 不本意な形ではあったが、同行を許されたキュルケは、自分の使い魔を呼ぶ。その呼びかけに、ジュディの背後に居た火蜥蜴がのっそりと歩み出る。 フレイムと呼ばれた火蜥蜴は、キュルケの足に体をこすり付けて友愛を表す。 その存在に気が付いていなかったジュディは、初めて見た生き物にビックリする。それに気を良くしたキュルケは、上機嫌に自慢を始める。 「うふふ。もしかして火蜥蜴を見るのは初めて? この子は火竜山みゃ……」 「お喋りは後にしなさい。 時間は一滴の水の秘薬よりも貴重なり、です。学院長室へ急ぎますぞ!」 「……はい」 「待って下さい、ミスタ・コルベール。少し早いです」 「追いかけてポセイドン」 コルベールは無駄話を切り上げさせて早足で歩き出す。文句の1つも言いたいキュルケなのだが、置いて行かれるのは嫌なので後を追いかける。 一行は水の塔を出て、本塔へと続く石造りの通路を急ぐ。コルベールはあくまで早歩きなのだが、ルイズ、タバサ、キュルケは殆ど走っているのと変わらない。 その後をポセイドンに乗ったジュディとフレイムが追いかける。 建物の中でポセイドンに乗るのは礼儀に外れるのだが、ジュディ自身が小柄であるのと重い荷物を持っているのが相まって、走っていては置いて行かれてしまうのでやむなしの行為である。 本塔に入ってもコルベールの足が鈍る事は無く、相変わらずの姿勢で歩き続ける。止まる事無く一気に最上階まで上りきり、5人と2体は学院長室の前に到着した。 ジュディはポセイドンに乗っていたため疲れはないが、ルイズとキュルケは肩を大きく上下させて息を整えている。それとは対照的に、コルベールとタバサには、さしたる疲労は見受けられない。 コルベールは二人の息が静まるのを待ってから、学院長室の両開きの扉をノックして来訪を告げる。 「オールド・オスマン、例の件でお話があります」 「……うむ、入ってきたまえ」 「それでは、失礼いたします」 「しつれいします」 「「し、失礼いたします」」 「…………」 コルベールを先頭に、ジュディとポセイドン、ルイズとキュルケ、タバサの順番で入室していく。 その際、コルベールは模範的な、ジュディはポセイドンから降り、帽子を脱いでからコルベールの仕草を真似て、ルイズとキュルケは些か慌てて、タバサは静かに、一礼をする。 最後に入室したタバサが後ろ手で扉を閉め、フレイムは廊下に取り残される。慌てて扉を前足で叩くが、誰も気づかない。 机に両肘を突き、手を口の前で組んだオスマンが、5人と1体を出迎える。秘書机で仕事をしていたロングビルは、ポセイドンを見て顔が引きつっている。 「思ったより早かったのう」 「そんな事より、大変なことが起きました! 鼻毛を抜いたり、セクハラをしている場合ではないですぞ!」 「な、なにを言っているんだね、君?」 「そんな事はどうでも良いのです! 先ずは彼女の話を聞いてからです。 さっ、先ずは自己紹介を」 何時にないコルベールの強気な態度に、さしものオスマンもたじろぐ。 「始めまして。わたし、ジュディです」 「ほう~ ジュディちゃんと言うのか、可愛いのう。 ワシはこの学院の長、オスマン。人はオールド・オスマンと呼ぶ。そちらの女性は、ワシの秘書をしてくれておるミス・ロングビルじゃ」 「えへへ アリガトウございます、オスマンさん。 ロングビルさんもよろしくお願いします」 オスマンの言葉にジュディは素直にお礼を返すが、他の人間は少し白い目でオスマンを見ている。まさしく、日頃からの言動の賜物であろう。 その視線に気が付いたオスマンは、ゴホンと咳払いをして誤魔化す。 「それでは、どの様な状況になっとるのか説明してくれい」 「はい。ではミス・ヴァリエール、前へ」 「は、はい。では説明します……」 「成程。召喚の儀式でその巨大蛙とジュディちゃんを呼び出して、その蛙を使い魔にしたら、それはジュディちゃんの使い魔だったと言う訳じゃな? ミスタ・コルベール、君はディティクトマジックを使ってルーンの有無を調べたといったね? 本当に無かったんじゃろうな?」 「勿論です。目視でも調べてみましたが、ルーンは左前足のモノのみです」 「ふーむ…… まっ、取り合えず下がりなさい」 オスマンは顎に指を当てて唸る。 召喚でジュディを呼び出されたのは、不幸な事故であったと言うしかない。 しかし、他人の使い魔に契約出来たと言うのが腑に落ちない。 試したという前例は無いが、そもそも他人の使い魔にコントラクト・サーヴァントが効くはずが無いのだ。と、言うことは、あの巨大蛙はジュディの使い魔ではないと言うことになるのだが、ジュディがそんな嘘を付く理由が判らない。 オスマンは、一人で考え込んでいても埒は明かない、と思考を中断して、ジュディに事情を聞くために話しかける。 「ジュディちゃんや、此処に来る前はどうしておったのか爺に教えてくれるかのう?」 「はい、わかりました。うちにオジイチャンの古い友達がたずねてきて……」 「そうか、そうか。つまり、ジュディちゃんの家はサドボスという町で魔法屋を営んでおったんじゃな。 そして、クライドという魔道士にジュディちゃんの祖父が鏡に閉じ込められて、その時に発動した防衛術とやらで家族が離ればなれになってしまった。 それで、ジュディちゃんが家族を探す旅に出たところでサモン・サーヴァントのゲートが開き、召喚された。そう言うわけじゃな?」 「そのとおりです。だから、早く家族を探しに行かないとダメなんです」 「まあ、慌てる事は無い。ワシもお手伝いして上げるから、大船に乗った気で居なさい」 「本当ですか? アリガトウございますっ!」 「ふぉっふぉっふぉ、礼などいらぬよ。小さなレディを手助けするのは、年寄りの責務じゃて。 さて、使い魔の件じゃが……」 「オールド・オスマン、その前にもう1つ問題が発生しました」 「……なんじゃね?」 話を中断されてオスマンは、不機嫌な声で続きを促す。これだけでも十分なのに、まだ問題があると言う理由も少なからずあるだろう。 コルベールはタバサを手招きして前に出る。 「これはミス・タバサが気が付いた異変です。ミス・タバサ説明を」 「彼女の左手の甲に、ルーンらしき痣が現れました。原因不明」 「左手? ……ホントだ、痣が出来てる」 今、指摘されて初めてジュディは左手の痣に気が付き、驚きの声を上げる。 これまた、厄介な問題を突きつけられたオスマンの心労は如何ほどか。オスマンは表情には出さないが、心の中では大汗をかいている。 「……ルーンらしき痣? ジュディちゃんや、こっちに来て見せてもらえるかのう? ディティクト・マジックも掛けるがかまわんかね?」 「はーい、どうぞ」 「ちなみにこれが、ポセイドン君に刻まれたルーンです。見比べてみましょう」 ジュディは机の上に身を乗り出して、左手の甲をオスマンに差し出す。それと同時に、ポセイドンに刻まれたルーンをスケッチしたノートも差し出される。 オスマンは、机に身を乗り出して軽くジュディの手を取って杖を振るう。輝く粒子が小さな手を駆け巡り、情報をオスマンに伝える。 「ポセイドン? ああ、その巨大蛙の名前か。 ふむ、確かにルーンのように見える痣じゃのう」 「何かの手掛かりになると思いましたが、ポセイドン君のルーンと見比べても全く違いますね」 「あのー、これ何なんですか?」 「すまんのうジュディちゃん、もう手を引っ込めて良いよ。その痣の事じゃが、何か体に異常を感じたりはしておらんかの?」 オスマンの質問に、ジュディは小さく眉を寄せて考え込む。 「んー? そうだ、ポセイドンが居たところに、何か変なモノがある様に感じます」 「ポセイドンの居たところ? ジュディちゃん、ポセイドンは君の使い魔だった証拠はあるかね?」 「証拠? 眼に見えるようなのは有りません。だけど、ポセイドンの存在が全然感じられなくなってます」 「つまり、五感の共有が出来なくなったと?」 「そうです。他の子の存在は感じられるのに、ポセイドンだけ居なくなっちゃってるんです」 オスマンはジュディの言葉に引っ掛かりを覚える。ジュディは今、他の子と言った。それは他に使い魔が居るという意味に聞こえる。 だがしかし、使い魔は1人1体というのが原則である。使い魔を2体以上召喚しようとしてもサモン・サーヴァントは絶対に成功しない。 「ジュディちゃん、他の子と言うのは他の使い魔という意味かね? 君は何体も使い魔を連れているのかね?」 「? そうですよ。あと残っているイアペトスとアストライオスが、わたしのファミリアです。見せましょうか?」 あっけらかんとジュディは答える。次の瞬間、ジュディの隣にポセイドンと同じくらいの大きさがある狛犬の様な動物が出現した。 突然の出来事に、ジュディ以外の全員が度肝を抜かれる。 「そ、それはなんじゃね!?」 「いきなり出てきましたぞ!?」 「紹介します。わたしのファミリアのアストライオスです」 ジュディは、何故そんなに驚くのか不思議に思いながら、自分のファミリアを紹介する。 オスマンとコルベールは驚きの声を発するが、他の4人は言葉を失っている。タバサだけは、驚いているのかいないのか良く判らないが、キュルケには凄く驚いていると判った。 オスマンの脳裏には1つの仮説が浮かび上がる。そして、その仮説は限りなく真実に近いと感じるが、早合点はしてはいけないと言い聞かせて、ジュディに説明を求める。 「もうその使い魔、いやファミリアか、は仕舞ってほしい。 そしてジュディちゃん、そのファミリアについての定義を教えて欲しい。 君も奇妙に感じているかも知れぬが、如何やらワシ等の間には、認識の齟齬があるようじゃ」 「はーい、わかりました。 ファミリアと言うのは、術者の五行要素を抜き出して形を与えられた術者の分身のようなものです。 ファミリアは五行の力と術者の魔力の塊で、術の行使を助ける役目を持っています」 「術者の分身……? そうか、ならば…… ジュディちゃん、その五行と言うのは何かね?」 「五行と言うのは木、火、土、金、水の世界の理を司る力のことです。 それぞれが強めあったり弱めあったりして、五行は世界を循環させているんです」 「つまりそれは、精霊……」 「ミスタ・コルベール! この話はこれでお終いじゃ。他の者も他言無用じゃぞ」 仮説を立てようとするコルベールをオスマンは、強い声で制止する。そして、他の者にも言及を封じ、強引に話を切り上げる。 今の説明から、ジュディは四系統魔法とは異なる魔法の使い手と言うことになる。そしてそれは、エルフ等が使う先住魔法にも似た理論を持つ魔法系統である。 平和の安寧の中にあって、多少のトラブルを望みはしたオスマンだったが、今更ながら平和の有難さが身に染みる。 若い頃は平和の有難さなど判っておらず、老いぶれてから平和の有難さを判った気でいた自分の愚かさに呆れかえる。 「それで、その痣の件じゃが予想が付いた。 コントラクト・サーヴァントは、サモン・サーヴァントで呼び出された生物を使い魔にする魔法じゃ。 しかるに、ファミリアが術者の分身なのならば契約可能なのじゃろう。 そして、ファミリアと術者が繋がっているが故に、ジュディちゃんにも契約の影響が出た、という訳じゃな。なんせ、術者の一部を乗っ取った訳じゃからのう」 「じゃあわたし、ヴァリエールさんの使い魔さんになっちゃったの?」 「いや、それは無かろう。何せこれは痣にしか見えんし、ルーンとしては認められぬものじゃて」 ルーンとは力在るシンボル。オスマンがディティクト・マジックで調べてみても、痣からは魔力を感じられなかった。ゆえにこれは、使い魔のルーン足り得ないと言うのがオスマンの見解だ。 「そして、既に刻まれたルーンは、使い魔の死によってしか解除されん。ジュディちゃんには悪いが、ポセイドンの事は諦めて欲しい」 「え~? ポセイドンを諦めなくちゃいけないの?」 「すまんのう。コントラクト・サーヴァントを解除する方法はソレしかないんじゃよ。 こちらで調べてはみるが、余り期待せんでくれよ」 「ううぅ~」 あからさまに落胆するジュディをみて、部屋に居る者は多かれ少なかれの罪悪感を感じる。自分の使い魔を他人に奪われたショックは、いかばかりだろうか。 オスマンはすかさずフォローを行うが、さしたる効果は見られず慌てて話を切り替える。 「そうじゃ! ジュディちゃん、家族の居る位置がわかる水晶を持っていると言ったね? ソレを使って居場所を探ってみたらどうじゃ?」 「うぅ…… そうですね! 先ずは家族を探さなきゃ!」 「ジュディさん大丈夫ですか?」 「ダイジョウブです! 水晶さん、皆がいる方向を教えて下さいな?」 気丈に振舞うジュディをコルベールが心配するが、ジュディは前向きに家族を探す事を考える。 ジュディは肩に掛けているバッグから水光晶輪を取り出し、家族のいる方向を探す。 だが、方角を示すはずの赤い光点は、水光晶輪の中をグルグル回り続けて一向に方向が定まらない。 「あれ~? どうしちゃったの? 水晶さん」 「どうしたんじゃ?」 「水晶さんが教えてくれないの。何処にいるのか判らないみたい」 「ふーむ、ソレを貸してみてくれんかの?」 「はーい、ドウゾ」 オスマンは杖を振るい、手渡された水光晶輪にディティクト・マジックを掛けて良く観察する。円環状の水晶には見慣れぬ記号の羅列が4つ、等間隔で並び、光の赤点は方向を示さずにフラフラと揺らいでいる。 深知の魔法が伝える情報に、やはりと呟く。水光晶輪には魔力を感じるが、それがどう作用するのかが判らない。 そのことは、四系統魔法とも先住魔法とも違う魔法体系の産物である事を示している。先住魔法とはエルフや吸血鬼、そして既に絶滅した韻竜等が使う精霊の力を借りる魔法体系であり、人間には使う事は出来ない。 齢が300を超えると、まことしやかに囁かれるこの老魔法使いは、実際に先住魔法を見たことが何度もあり、どういった物かも理解している。だが、この水晶に使われている魔法技術は、そんな長い人生の中で培った知識を持ってしてもわからない代物であった。 水光晶輪が作用しない原因として、オスマンに1つ考えが浮かぶ。 「ジュディちゃんや、君はサドボスという所に住んでいたといったね? そして、君は旅に出るところだった。 ならば、地図は持っているかね? 持っていたら見せて欲しい」 「持っていますよ、ちょっと待って下さいね…… はいドウゾ、世界地図です」 ジュディは旅行カバンを開き、羊皮紙で作られた地図を取り出す。何枚か在る地図の中でも広範囲を記したもの、つまり世界地図をオスマンに渡す。 手渡された地図を見てオスマンは驚く。海岸線が詳細に描かれ、主要な都市と街道が記されている。此処まで詳細な地図は、中々お目にかかることが出来ない。 そしてなにより、それはハルケギニアの地図ではなかった。見知った地形がひとつも無く、幾つかの大陸が描かれている。そして、水晶にあった記号と似通ったものが要所要所に書かれており、文字だと推測できる。 「ジュディちゃん…… よく聞いて欲しい。そして皆も、今から話す事は決して言いふらさず、胸の内に留めて欲しい。 ……よいな? 結論から述べよう。ジュディちゃんは、ハルケギニアとは違う場所から呼び出されたようだ」 「ハルケギニアではない? ならば東方?」 「其れは判らぬ。だがワシは、東方ですらないと考える」 「東方ですらない……?」 「そうじゃ。この地図には幾つかの大陸が記されておる。そしてそれらの大陸は、詳細に記されてはおらん部分がある。 これは世界地図だといったね?」 「そうです」 「つまり、まだ未開の地があるという訳だ。 そこからワシは、ハルケギニアや東方もそういった大陸の1つであると考える」 「つまり、彼女は別大陸から来たと?」 「うむ。 そして水晶は、余りにも距離がかけ離れているが故に探知範囲外となり、正しく動作しなかったのじゃろう」 オスマンは余りにも大胆な仮説を述べる。 突拍子も無い話に、ジュディ以下5人は眼を白黒させて困惑している。辛うじてコルベールだけが、話しについて行けている状態だ。 オスマンは片手を挙げて落ち着くように、と言う。 「まあ、これはあくまでも仮説じゃ。 本当の事はまだ何も分かっておらんのじゃから、心に留めておくだけでよい。 それよりも重要な事は、ジュディちゃんの処遇じゃ。行くべき方向も、帰るべき手段もサッパリ分からんのじゃからのう」 「ホントウだ、どうしよう……?」 不安げに身を捩るジュディを見て、成り行きを見守っていたルイズの罪悪感が膨れ上がる。 呼び出してしまったのは自分なのだから、自分が責任を取らなくては。と、決心して進言しようとする。 だが、ソレよりも一足早くコルベールが発言する。 「如何するのです、オールド・オスマン? と、取り敢えずは聞いておきましょう。その顔は、もうとっくに如何するかは決めているのでしょう?」 「面白くないのう、お主。まあ如何するのかはもう決まっておる。 ジュディちゃんや、さっきも言ったがワシが何とかして上げよう。帰る方法が見つかるまでこの学院に留まればよろしい」 「でも…… そんな事してご迷惑じゃないですか?」 「子供が遠慮するもんじゃない。爺に任せておきなさい。 なんなら、此処に居る間は生徒になってみるかね?」 「オールド・オスマン、彼女は話を聞く限り平民です。此処は伝統ある魔法学院ではないのですか? それに彼女の使うファミリアの件もあります」 発言をしたのは秘書のロングビル。オスマンの不用意な発言を諫めるために、キツイ言葉を浴びせる。 だがオスマンは、風に靡く柳のように言葉を軽やかに受け流す。 「お堅いのう、じゃから逝き遅れるんじゃ。平民だと知っているのは此処にいる者だけじゃし、ワシが身元保障人となれば何も問題は無い。 ファミリアに関してもそうじゃ、黙っとりゃ分かりゃせん」 「しかし、彼女がこちらの魔法を使える様に成るかは分かりません」 「見学する位なら大丈夫じゃよ、本当に生徒になるかどうかは後で決めりゃ良い。 さて、長話も此処までにしよう。今日はもう休めば宜しい。急いで全部決める必要は無いじゃろ」 山の向こう側に夕日が沈んでいくのが見える。 夕映えは、森を鮮やかな朱に染め、燃え盛る炎の如く見せている。窓から差し込んでくる斜陽で部屋の明暗が深まり、夕刻が過ぎ去ろうとしているのを告げている。 突拍子の無い事の連続で、大人しく立っているしかなかった3人は、漸く話が終わった事に胸を撫で下ろした。 ジュディはまだ少し不安そうに俯いていたが、不安を振り切るかのように頭を振る。 「おっと、そうじゃ。まだ決める事があったわい。 ジュディちゃんをドコに泊まらせるかじゃ。寮に部屋は余っておったかのう?」 「そういえばそうですね、失念していました。ミス・ロングビル、寮に部屋が余っているかどうか分かりますか?」 「男子寮なら空いていますが、女子寮は既に満室と成っています」 「そうか…… ならミス・ロングビル、君の部屋に……」 「待って下さい! オールド・オスマン!」 「いきなりどうしたの? ルイズ?」 「私の部屋に泊まらせます。その子を召喚したのは私の責任です。ですから、その位の責任は取らせて下さい。 何から何まで学院に責任を取ってもらう訳には行きません!」 ルイズの申し立てにオスマンは、何か眩しいものを見るかのように眼を細める。 僅かに沈黙が降り、ルイズに一筋の冷や汗が流れる。それも束の間、すぐにオスマンは破顔一笑する。 「ソレだけで責任を果たしたと考えるのは、お門違いじゃぞ? だが、良い覚悟じゃミス・ヴァリエール、流石は公爵家の令嬢だと褒めておこう。その心を忘れるでないぞ? ジュディちゃん、彼女が部屋に泊めてくれるそうじゃ。お礼を言っておきなさい」 「アリガトウございます、ヴァリエールさん。ヨロシクおねがいします」 「え、ええ…… これは私の責任の取り方なんだから、お礼なんて要らないのよ」 「決まりじゃな。ミス・ロングビル、彼女達を送っていってあげなさい。そうしたら、今日はもうあがってヨロシイ」 「分かりました」 6つの長い影法師が学院長室から出て行き、扉がバタンと閉まる。 残ったコルベールとオスマンは互いに何も喋らず、暫し部屋に静寂が訪れる。 おもむろにオスマンはコルベールに話しかけた。 「のう、ミスタ・コルベール、君は五行の説明を聞いてどう思った?」 「はっ、言っても宜しいので?」 「此処にはワシと君しかおらん。そしてワシは君の意見が聞きたい」 「わかりました、私の考えを述べましょう……」 今回の成長。 ルイズは、立ち直りL1を手に入れました。 ジュディは、アストライオスがL2に成長しました。 第2話 -了- 前ページ次ページ未来の大魔女候補2人
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前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略) 「さっきの爆発……何だったのかなぁ?」 「スゴかったなー!」 生徒たちがまだ煙の立ち上る塔を見上げて言う。やがて煙は収まったが、それでも 生徒たちはこの事態の元凶の名をいつものように口にしていた。 「どうせ今回の爆発も……」 「ああ、アイツの仕業だ!」 爆発のあった教室からは、すでに気絶した教師、ミセス・シュヴルーズも医務室へと 運ばれ、ほとんどの生徒たちも移動を終えていた。そこに残っていたのはこの事態を 引き起こした張本人、ルイズと、その使い魔であるふがくだけだった。 「あーん。お風呂入りたーい」 「アンタねぇ!自分でやっといて何サボってるのよ!まじめに片付けなさいよ!」 ルイズがとりあえず引き起こした教卓に腰掛けたまま言う。その姿にふがくが怒りを あらわにするが、当のルイズは最初からふがくがその小さな体に見合わないほどの瓦礫の 山を軽々抱えて運ぶのを横目で見ているに近い状態だったので何を今更、である。 「……ねぇ、フガク」 「何?」 不意にルイズがふがくに声をかける。その表情は真剣だ。 「さっき聞いたでしょ?わたしのこと……」 「それが何?」 「わたし、魔法が成功したことないの。成功率ゼロ。だから『ゼロ』のルイズって呼ばれてるの」 「…………」 「……おかしいわよね。魔法が使えるメイジであることが貴族なのに、魔法が使えないなんて」 「アンタ、バカ?」 「え?」 ふがくがルイズの言葉を遮る。その顔は怒りに彩られていた。 「だったら、どうして私がここにいるのよ?ふざけるんじゃないわよ? ……私にはやることがあったのよ。あかぎを助けて、大日本帝国を勝利に導くはずの 私をこんな場所に呼んでおいて『成功率ゼロ』?今度そんな寝ぼけたこと言ったら ぶっ飛ばすわよ?」 「……」 ルイズは顔をうつむかせたまま上げることができない。よく考えるまでもない。ルイズは ガーゴイルの一種だと理解した「ハガネノオトメ」――人間に似せてあるけれど人間じゃないと 聞かされたふがくでも、自分の生活、目的、使命があったはずなのだから。 「そ・れ・か・ら、私は『ふがく』!何度言ったら解るのよ!今度『フガク』って呼んだら 許さないからね!……だから、早くそんなつまんないことなんか忘れなさいよ」 「え?」 ルイズが顔を上げる。ふがくは瓦礫の山で顔を隠してその表情を見せないようにしていた。 「……べ、別にアンタの気分がどうなろうと知ったことじゃないんだから!一応私を呼び出した のはアンタだから、いつまでも沈んでいられたら困るだけ、それだけなんだから!」 そう言ったふがくの言葉を遮るように、おなかの虫がかわいらしく鳴いた。その様子に ルイズが思わず吹き出す。 「な、何笑ってるのよ!ルイズ!」 「あ、あはは……ご主人様と呼びなさいよ、ふがく!……そ、そうね……これが終わったら お昼ご飯に行きましょう……あはは……」 「笑わないでよね!……まぁ、いいけど」 そう言ってふがくは手にした瓦礫の山を片付ける。大日本帝国の秘密決戦兵器20トン 魚雷を扱えるふがくにとって、この程度はなんてことはない。ぼろぼろだった教室も、昼食 までには十分片付きそうな気配だった。 その頃、中央本塔最上階の学院長室では、学院長秘書のミス・ロングビルが学院長 オールド・オスマンに今回の騒動の報告を行っていた。 「――先ほどの大爆発はミセス・シュヴルーズが行っていた『土』の授業で『錬金』を教えて いた際、生徒が実践魔法で失敗したために起こったものだそうです。 生徒の名は……」 そこまで言ったロングビルの報告を、オスマンは遮る。言われなくとも解っていると、その声は 告げていた。 「……ヴァリエール家の末娘ルイズじゃろ?これで何度目かのぅ?」 「まだ修行中の生徒ですもの。失敗の一度や二度、仕方ありませんね」 翠の髪をアップにまとめ、眼鏡をかけた知的な視線が柔らかくルイズを弁護する。 その様子にオスマンはゆっくりと椅子から立ち上がった。 「一度や二度なら許してやるが……生徒のしたこととはいえ、魔法学院長であるワシが 全責任を負わねばならんのじゃ」 言いつつ、オスマンはロングビルの後ろに回り込む。 「こんな年寄りに酷よのぅー」 続けて「ヴァリエール家からはもっと寄付金を出してもらわんとな!」などと言いつつ、 オスマンはロングビルのおしりに頬をすりつける。 「……あの……オールド・オスマン?いじけたふりしてセクハラするのは止めてください。 これ以上続くと、王室に報告しますよ……?」 「何を言うとる!上司を慰めるのも部下の仕事じゃろ?」 「ちょ!まっ?やっ!」 立場上無下にも振る舞えないロングビルの抗議にも、オスマンはおしりから顔を話さずに 反論する。はっきり言ってその姿には威厳のかけらも感じられはしない……そればかりか 頬ずりだけでなく両手でおしりを鷲掴み、なで始める始末。立場上の問題でロングビルは 耐えているが、それも時間の問題だった。 「カッカしなさんな!そんな風だから――婚期を逃すのじゃ!」 おしりをなでて鼻の下を伸ばしまくったそれはまさに禁句。その一言でロングビルの中の 何かがキレた。ぶちっという音を聞いたのは誰であろうオスマンだけなのだが……幽鬼の ような表情のロングビルがゆらり、とオスマンに向き直る。 「……こ……のエ……ロジ・ジ・イ……」 吹っ切れたロングビルのブーツが小気味よいくらいにオスマンを踏み、踏む、踏んだ。 そこにはもはや伝説ともいえる老メイジの威厳も、麗しい女性の慎みもない。しかも こんな時に限って往々にしてタイミングの悪い人間が現れるものである。 「失礼します。オールド・オスマ……ン……!?」 「あら!イヤですわ。オールド・オスマンが腰が痛いとおっしゃるのでマッサージしてましたの。 健康を管理するのも私の仕事ですから(はぁと)」 それは古びた書物を抱えた眼鏡で頭の寂しい中年教師――コルベール。コルベールは 学院長室で繰り広げられるスペクタクルを目の当たりにして硬直し……オスマンの尻を ぐりぐりと踏みながら乙女じみた仕草を見せるロングビルの、この現状には全く似つかわしくない 言動で再起動した。 「――んで、何の用かの?ミスタ……えっと、コペルニクス君? ミス、お茶を淹れてくれんか?」 「はい」 「コルベールですっ!……誰が貨幣鋳造について論文を書いたのですか、まったく」 先ほどまでの狂騒が幻だったかのような――オスマンの頭のこぶさえなければ―― 雰囲気の中、ロングビルがお茶を淹れに席を外したタイミングを見計らって、コルベールが オスマンに手にした古い書物を差し出す。それは「始祖ブリミルの使い魔たち」という、 始祖とその使い魔のことを記した古文書だった。 「まーた君はこのような古い文献など漁りおって」 「あの……こちらもご覧になってください」 あくびをかみ殺すオスマンに、コルベールは一通のメモを手渡す。それは先ほどふがくの 左手のルーンをスケッチしたものだったが、それを目にしたとたんオスマンの顔色が 変わった。 「ミス・ロングビル、すまんが席を外してくれんか。ミスタから詳しく話を聞きたいんでの」 「――はい」 ロングビルはオスマンの言葉に従い、一礼をして部屋を辞するべく学院長室の重厚な 扉に手をかける。その眼鏡の奥の視線が妖しい輝きを帯びたことに、二人の男は気づく こともなかった―― 破壊された教室の片付けを終えたルイズとふがくは、学院の中央本塔にある立派な構えの 扉の前にいた。中ではもう早い昼食を迎えている生徒たちの声が聞こえる。その扉の前で、 ルイズがその薄い胸を目一杯張って言う。 「ここが『アルヴィーズの食堂』よ。貴族しか入れないけれど、今日からあんたもここで 食べるのよ」 その言葉にふがくはあっさりと答える。 「貴族だけ、ね。それじゃ私は別のところで食べるわ」 「え?」 「だって、貴族だけ、でしょ?私は貴族に列せられたことなんてないし。軍だと将校扱い だけど」 「将校なら貴族でしょ?」 「ここじゃそうかもしれないけど、大日本帝国は違うわ。優秀な者が将校になるのよ。 それが平民出身でもね。 第一、ここじゃどこにしても普通の食事以外できそうにないし。堅苦しいのは嫌いなの」 ゲルマニアみたいね……とルイズは思った。それが資産か才能かの違いはあるけど、とも。 確かふがくの国って――貴族と平民それぞれの代表者を集めた二つの議会で政策を決め、 それを建国以来2600年途絶えたことのない皇族から即位した、なんとかいう代々の皇帝が 承認して動く国、だったっけ――トリステイン王国より歴史は浅いしやっぱり変わった国よね、 と昨夜のケンカと書いて話し合いと読む情報交換で得た知識を反芻するが、それで 引き下がるルイズでもない。 「いいのよ!わたしが決めたんだから。それで、どんなのが食べたいのよ?」 「……言ったところで用意できるとはとうてい思えないけど?」 「言いなさいよ!東方の料理でもヴァリエール家お抱えの料理人を呼んででも作らせるわよ!」 「ぜっったい無理」 「言いなさい!」 「うるさいわね!いくら私でも自動車も走ってないのにガソリンがあるなんて最初から 期待もしてないわよ!」 肩で息をするルイズとふがく。一息ついて落ち着いてからルイズが聞く。 「……が、『がそりん』?それに『じどうしゃ』?」 頭に「?」が浮かんでいそうな表情で聞くルイズに、ふがくは「ほら見なさい」という顔をする。 「説明は面倒だからしないわ。とにかく、聞いたこともないんじゃ見たこともないでしょ? だからいいって言ったの」 「ぐっ。……と、とにかく、今日からわたしと一緒に食事をするの。授業にもわたしと一緒に 出るのよ。これは命令よ!」 そう言って、ルイズは入り口付近で給仕をしていた黒髪のメイドを呼ぶ。そう言えば 今朝も見かけたっけ、と思ったのは、メイドが目の前に来てからだった。 「どのようなご用でしょうか。ミス・ヴァリエール」 肩で切りそろえた艶のある黒い髪に黒い瞳。そして出るところは出て引っ込むところは 引っ込んだスタイル。ルイズが思わず嫉妬しそうなメイドだったが、平民に嫉妬することは 貴族として恥ずかしいことだと努めて平静を装った。 「今日からわたしと一緒にこのふがくもここで食事をするから。準備してくれない?」 ルイズがそう言うと、黒髪のメイドは一瞬驚いたような表情を見せ――たような気がした。 「かしこまりました。それでは中でしばらくお待ちください。ミス・ヴァリエール、ミス・フガク」 黒髪のメイドはきちんとしつけられた礼を二人にした後厨房へと下がっていく。言われた ように中に入り席に着いた二人にやがて運ばれてきた食事を前にして、ルイズはふがくが トリステイン風とは違ってもきちんとしたテーブルマナーを披露したことに驚いていた。 「あんた、黙ってたわね。アルビオン風というか、ガリア風というか……きちんとしたテーブル マナー学んでいたなんて」 「帝国海軍の幹部用の食事はちょうどこんな感じだし。こっちに来てフランス、というか オランダ料理っぽい、かな……こういう料理を食べることになるとは思っていなかったけど」 フランス?オランダ?多分ふがくのいた国の近くにある別の国だろうと、ルイズは理解した。 「何よ。さっき将校は貴族以外でもなれるって言ったけど、やっぱり貴族じゃない。平民が こんな料理を口にできるはずもないもの」 そう言ってルイズはデザートのケーキを待つ。そのとき、少し離れた場所から甲高い 少女たちの声と、甘ったるい雰囲気をたたえた少年の声が聞こえてきた。 「ギーシュ様!はっきりしてください!」 「どうして嘘つくのよ!」 「待ちたまえ!君たちの名誉のために……」 「そんなものはどうでもいいわ!」 「……何、アレ?」 ふがくが声のした方を見る。そこには金髪ドリル髪に赤いリボンをつけた少女と栗色の セミロングの少女に囲まれている金髪癖毛の見るからに気障ったらしい少年がいた。 少年と金髪ドリル髪の少女はルイズと同じ黒色のマント、栗色セミロングの少女は茶色い マントを身につけている。 「……ギーシュとモンモランシー、それに名前は知らないけど1年生の子ね。またギーシュが つまんないことでもしたんでしょ?」 「ふぅん」 ふがくはしばらくその様子を眺める。どうやらギーシュという少年が二股かけていたようだ、 ということは解った。気障ったらしい仕草が鼻につく。その大仰な動きのせいでギーシュの ポケットから何か紙の束――どうやら手紙のようだ――が落ちる。それを見たふがくは、 その紙の束に近づく不運な人間を確認すると静かに席を立った。この世界にはないラジアル ゴムタイヤで磨き抜かれた床の上を足音も立てずに滑るように移動するふがく。横にいた ルイズも、ふがくが席を立ったことに気づかなかった。 「まったく。ギーシュも懲りないわね。二股なんて……って、あれ?ふがく?」 ギーシュが落とした手紙の束を拾ったのは、先ほどの黒髪のメイドだった。そのメイドが ギーシュに声をかけようとしたとき、静かに近づいたふがくがその手から手紙の束を奪う。 「え?」 驚く黒髪のメイド。ふがくは唇に指を当てて言った。 「……黙って私に任せて。 そこの色男。ポケットから手紙の束が落ちたわよ」 ギーシュは返事をしない。なるほどね、とふがくは一人納得すると、やや挑発するような 口調で言葉を継ぐ。 「もしかして、これ恋文かしら?バラ模様の封筒なんて……見た目通りに気障ね」 その言葉がギーシュの後ろにいた金髪ドリル髪の少女と栗色セミロングの少女に昏い 炎を点す。 「ギーシュ様ひどい!」 「何よこのラブレターの数!こんなにモーションかけてたなんて!」 立て続けに響く小気味よい音と鈍く重い音。二人が怒りも収まらぬまま去った後には、 ぼろぞうきんのように這いつくばるギーシュが残る。遠巻きに見ていた他の生徒たちも、 この状況にはさすがにやや引き気味の様相を見せていた。 「自業自得ね。これに懲りたら女の子にはもっと誠実になることね」 手紙の束をギーシュに投げ渡し、黒髪のメイドに今日のデザートのことを聞くふがく。 その後ろで、ギーシュがゆらり……と立ち上がった。 「君ィ……覚悟はできているんだろうね?」 「覚悟、ねぇ。どうしたいのかしら?色男さん?」 肩をすくめてみせるふがく。それがいっそうギーシュを挑発する。 「その態度……万死に値するよ。さすがに『ゼロのルイズ』が呼び出した使い魔だ。誰が 造ったか知らないが、礼儀も知らないガーゴイルには、僕が貴族に対する礼儀というものを 教えてあげよう」 「はぁ?そっちこそ相手を見て物を言いなさいよ。相手の力量も量れないようじゃ、戦場に 出たらアンタ真っ先に死ぬわよ」 ばかばかしい――そんな雰囲気を隠そうともしないふがくに、ギーシュは肩を震わせる。 「ふ……ふふ。それはこの僕、ギーシュ・ド・グラモンが武門の出だと知っての侮辱かい? ……いいだろう。ヴェストリの広場で決闘だ!」 前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略)
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【分類】 なんとなく 目次 【分類】 【概要】 【参考】関連項目 タグ 最終更新日時 【概要】 【参考】 関連項目 項目名 関連度 備考 創作/社会不適合者でござる。 ★★★ タグ その他 構成 最終更新日時 2013-08-16 冒頭へ
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前ページ次ページThe Legendary Dark Zero 夜明けと共に起床したスパーダは、まだ眠っているルイズを起こさぬように、洗濯物を手にしながら窓から飛び降りる。 水場の場所は先日、学院を回っている時に見つけたので分かる。 庭へ行ってみると、そこには既に先客がいた。どうやらメイドのようだ。 「そこのメイド」 「は、はい!? な、なんでございましょう!?」 その黒髪のメイドは何故かうわずった声で反応する。 大げさだな、と思いつつスパーダは「すまんが、これも一緒に頼めるか?」と頼みかける。 「は、はい! かしこまりました!」 そして、黒髪のメイドはいそいそと水場で洗濯を始める。 スパーダはその横でじっと見つめているのだが、メイドの様子がおかしい事に気づいて声をかける。 「何を緊張している」 「いえ、お気になさらずに」 「私が怖いのか」 その言葉にメイドがビクリと反応する。 「昼にも見かけたが、他のメイド達も私のことを怖がっていたな」 「それは……」 スパーダに顔も向けず言葉を詰まらせるメイド。 「私が貴族のようだから。そして、貴族を怒らせれば自分達は仕打ちを受けてしまう。そんな所か」 まるでメイドの心を見透かすかのように、だが淡々とスパーダは言葉を続ける。メイドは怯え、緊張しきった様子で洗濯の手を止めていた。 スパーダは屈んでメイドの肩に手を置く。 「そんなに怯えるな。今の私は君らと同じただの平民で、ここの生徒のパートナーなだけだ」 「あの、もしかしてミス・ヴァリエールが召喚したという……」 「スパーダだ」 メイドの表情から段々と怯えが消えていき、はっきりとこちらに顔を向けてくれた。 年頃の娘にふさわしい、清純で愛嬌のある顔立ちをした少女だ。 「あ、わたしはシエスタと申します。ミスタ・スパーダ」 それからスパーダはシエスタの洗濯を終わるまでじっと見守り、ルイズの衣類を受け取った。 「あの、よろしければ朝食は厨房へ来てもらえませんか? どうしてもお詫びをしたいんです」 「君は何もしていない」 「でも……何も知らないのにスパーダさんの事を、少しでも怖いだなんて思ってしまうなんて……失礼です。ですから……」 健気なシエスタの姿に、スパーダが細く溜め息を吐く。 「……いいだろう、その申し出は受けよう」 帰るついでに洗濯物を入れていた桶に水を入れて、スパーダはルイズの部屋へと戻ろうとする。 (気のせい……か) シエスタからほんの僅かに感じられた気配――妙な懐かしさも感じられるものであったが、 それはすぐに消え失せていた。 スパーダは気を取り直してルイズの部屋へと戻る。 ルイズはまだ眠っている。しかも先ほどと違ってだらしない格好で。 「起きろ。ミス・ヴァリエール」 スパーダがルイズの体を揺すってやると、最初は「むにゃむにゃ」とか「もう少し……」などと返されるだけだったが、寝ぼけ目ながらもようやく起きだした。 「うーん。……誰、あんた?」 「水は汲んでおいたぞ」 スパーダは寝ぼけていたその言葉を無視して、水の汲まれた桶を差し出す。 ルイズは段々と意識をはっきりさせて、「そうだ、自分が召喚したんだっけ」などと呟いて水で顔を洗う。 「服を――」 服を出して着替えさせて欲しい、という前にスパーダは椅子に立て掛けていた長剣を手にし、黙って部屋を出て行ってしまった。 よく見るとすぐ目の前、ベッドの上にいつのまにか自分の制服が置いてある。 「自分で着替えろ」そういう事か。 いそいそと制服に着替え、それから部屋の外へ出ると、スパーダが扉の横で腕を組んだまま壁にもたれ掛っていた。 「自分でできる事は最低限自分ですることだな」 「わ、分かったわよ……」 本当ならば自分が主……のはずだが、彼とは一方的な主従関係は結べない。 彼はあくまでパートナー。常に自分と対等な関係であるべきだ。 故に、文句もあまり強く言えない。 ……しかし、プライドの高いルイズは、本来ならば使い魔である彼と対等な関係でいなければならない、というこの状況をまだ完全に受け入れる事はできなかった。 それに、主導権を彼に握られているというのが気に入らない。本来ならばそれは自分が握るべきだというのに。 不満そうに顔を歪めているルイズだが、スパーダを伴いアルヴィーズの食堂へと向かう。 「どこへ行くのよ」 食堂へ着いた途端、スパーダは厨房の方へと歩き出すので、ルイズは困惑する。 本来ならば、使い魔に対して躾の目的でみすぼらしい食事を用意し、自分にお願いすれば鳥の皮一枚でも恵んでやろうと考えていたのだが、今はちゃんとした食事を用意させている。 「厨房で賄いを出してくれるようでな。私はそちらへ行かせてもらう」 「……そ、そう。それじゃあ、食べたらここで待っていて。今日は一緒に教室で授業を受けるから」 軽く頷いたスパーダは愛刀を片手に、厨房へと向かう。 「あ、お待ちしていました! スパーダさん!」 厨房へ入った途端、シエスタが満面の笑みでスパーダを出迎えてくれた。 彼女以外にも何人か他にメイドがいるのだが、彼女達はスパーダに向かって突然頭を下げだす。 「ご、ごめんなさい。シエスタから話は聞きました」 「あたし達、失礼な事を……」 「本当に申し訳ありませんでした」 「別に構わん。第一、私は貴族などではない」 口々に謝りだすメイド達に、スパーダは表情を変えぬまま返す。 出で立ちや物腰はまるっきり貴族そのものだというのに、スパーダの性格は彼女達がよく知る貴族の傲慢さとはあまりにも無縁であった。 貴族の全てが、彼みたいな人達ばかりならいいのに。そんな事も考えてしまうほどに。 スパーダはテーブルに案内され、用意されていたシチューとパンを静かに口にする。 シエスタやメイド達は、スパーダの食事をする動作一つ一つが洗練され、優雅さに満ちている事に感嘆する。 これで本当に貴族ではないというのが逆に信じられない。 「おいしいですか? スパーダさん」 「ああ」 無表情ながらも満足そうに答えるスパーダにシエスタは嬉しそうな笑顔を浮かべる。 「またいつでもいらしてください。歓迎しますよ」 「うむ。そうさせてもらう。世話になった」 賄いを完食し、厨房を後にするスパーダ。 すぐにルイズと合流し、彼女に連れられて教室へと向かった。 教室に着いたルイズは席につき、スパーダは彼女の背後で腕を組んだまま控える。すぐ近くにはキュルケやタバサとかいう少女までいる。 そのタバサという少女は昨日と同じ、スパーダに対して警戒の眼差しを送ってきているがスパーダは無視する。 教室には他の生徒達の使い魔がたくさんおり、フクロウやらネコやらカエルといった動物から、スパーダも魔界では見た事のない生き物も多かった。 その使い魔達はスパーダの出現と共に突然強張りだし、大人しく静まる。 一部の生徒達が「どうしたんだ?」と己の使い魔を心配しだすが、使い魔達の緊張は解かれない。 その内、扉が開き教壇の上に紫のローブを着た中年の女が現れた。おそらくは教師なのだろう。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。この赤土のシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 満足そうに生徒と使い魔を眺めるシュヴルーズ。その視線がスパーダと、ルイズに合った。 「あらあら、中々変わった使い魔を召喚したようですね。ミス・ヴァリエール」 その言葉にクラス中の生徒達からクスクスと笑いが漏れる。 「召喚に失敗したからってどこかの貴族なんて連れてくるなよな! ゼロのルイズ!」 小太りの生徒が茶化すように煽ると、笑いが余計大きくなった。 「違うわ! 私がサモンサーヴァントで召喚した、れっきとした私の使い魔……パートナーよ!」 立ち上がり、野次を飛ばした少年、マリコルヌに食ってかかるルイズ。 そこにスパーダは彼女の肩を掴み、押さえつけた。 「好きに言わせておけ」 悔しそうに唇を噛み締めるルイズであったが、そのまま大人しく席につく。 スパーダは無表情のままマリコルヌの方をじっと睨んでいるのだが、その視線は鋭い刃のように研ぎ澄まされており、相手を貫いてしまうかと思える程に恐ろしく、冷たい瞳だった。 スパーダに睨まれるマリコルヌは蛇に睨まれたカエルのように震え、へなへなと力を無くして机に突っ伏す。 「ミスタ・マリコルヌ。お友達を馬鹿にするものではありませんよ」 シュヴルーズが注意し、それからの授業は問題なく進められていった。 〝火〟〝水〟〝土〟〝風〟の魔法の四大系統。失われた系統である〝虚無〟それら魔法と生活との密接な繋がりなどが説明される。 そして、それらの魔法は組み合わせる事が可能であり、単体のみの〝ドット〟から〝ライン〟〝トライアングル〟〝スクウェア〟というランクに分けられている事も話される。 この世界の魔法というものに興味があったスパーダは真剣にシュヴルーズの講義を聞いていた。 シュヴルーズはスパーダが真剣に講義を聞いているのに感嘆し、満足しているようである。 そして、『土』の魔法の初歩中の初歩、という錬金の実演を行い、シュヴルーズはただの石を魔法で全く別の物質に変えてみせた。 「ゴゴ、ゴールドですか?ミス・シュヴルーズ!」 キュルケが身を乗り出すが、あれは真鍮であり、金を錬金するには〝スクウェア〟のメイジだけ、〝トライアングル〟であるシュヴルーズには無理だとのこと。 そして、誰かに実演をしてもらおうという事でシュヴルーズはルイズを指名した。 その途端、キュルケが「先生、止めといた方がいいと思いますけど……」と言い出し、生徒達からも「危険です!」などと言われる。 しかし、ルイズは肩を微かに震わせながら「やります」と言って教壇へと向かっていく。 すると、生徒達は次々に机の下へと隠れ始める。 スパーダは不審に思いながらも、ルイズの実演を見守る。 (そういえば、彼女の魔力は他の者とは違うな) ルイズは杖を振り上げ、ルーンを唱えながら机上の石に向かって振り下ろす。 (……!?) 彼女からとてつもない魔力を感じ、スパーダは身構えた。 その瞬間、教壇が爆発を起こし、爆風をもろに受けたシュヴルーズが黒板に叩きつけられる。 その爆風はスパーダ達の方にも及ぶが、机や椅子が軽く吹き飛ぶ程度でそれほどでもなかった。 やがて煙が晴れるとそこには、服装は少し傷ついてはいるものの、無事なルイズが立っていた。 「ちょっと失敗したみたいね」 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 「なにがちょっとだ!」 「いつだって魔法の成功率、ゼロじゃないか!」 「だから言ったんだ、ゼロのルイズにやらせるといつもこうだ!」 次々と彼女に誹謗中傷が飛ぶ。 なるほど。彼らにとっての〝ゼロ〟とはそういうことか。だが…… (ゼロだと? ……お前達は勘違いしているな) 彼女はゼロどころではない。 それが分からないお前達の方がゼロだ。そう呟いてやりたい所だった。 その後、講義は中止。己の不始末ということでルイズは教室の片づけを命じられた。 スパーダも彼女の手伝いを黙々と手伝う。 ふと、机を拭いていたルイズの手が止まった。 「どうした? 手を動かさんと終わらん」 「……何で、何も言わないの?」 不意に震えた声で呟くルイズ。 「何の事だ? それより、さっさと終わらせた方が良い」 「……気を遣わなくたっていいわ! 言いたいなら言いなさいよ!」 突然にして喚きだすルイズを不思議そうに見るスパーダ。 「パートナーだからって、対等の関係だからってあたしを馬鹿にしてるの!? 良いわよ! 言ってやるわ! あたしの二つ名は〝ゼロ〟! 魔法の成功確率ゼロ! それで付けられたあだ名が〝ゼロ〟のルイズよ!」 自暴自棄に叫びだすルイズはスパーダに食ってかかり、彼の胸を叩きだす。 「馬鹿にしたいならすれば良いじゃない! 魔法も使えない癖に何を偉そうにしてるんだとか! 何で何も言わないのよ!?」 涙を目に溜めながらルイズは叫ぶ。そして、スパーダの胸に顔をうずめて泣き出した。 「君の目は節穴か」 「何ですって!」 スパーダは顎をしゃくり、教室中を差す。 「この爆発を起こしたのは、一体誰だ?」 「それがどうしたのよ! やっぱりあたしを馬鹿にする気!?」 「まだ分からんのか? 君が立派に魔法を使えている証拠だろう」 「何言ってるのよ! 爆発を起こす魔法だなんて聞いた事ないわ!」 スパーダはルイズの肩に手を置いてを押し剥がす。 「……ならば聞こう。君が〝魔法を使えない〟というのであれば、君は〝平民〟だとでもいうのか?」 スパーダの言葉に、ルイズは震えながら黙り込む。 「その平民が魔法を使おうとすれば、先ほどのように爆発が起きるというのか」 「そんな訳ないじゃない……貴族を先祖に持たない人間が魔法を使おうとしたって、何も起きやしないわ」 「ならば君が魔法を使えるメイジである証ではないか。結果はどうあれ、あの爆発は君がメイジである何よりの証拠だ。私を召喚してみせたのだからな。あの爆発も君次第で色々な使い方ができる。……もっと自分を肯定しろ。常識に囚われるな」 そう言って、スパーダは愛刀を手にして教室を後にした。 呆然としながら、ルイズは自分の手を見つめ続けていた。 「オールド・オスマン! 一大事ですぞ!」 一方、学院長室へと飛び込んできたコルベールは、オールド・オスマンが秘書のロングビルに対してセクハラをしたせいで、彼女の鉄拳を喰らっている所を見てしまった。 「またですか……オールド・オスマン」 「な、なんじゃね……コルベール君。やかましいのぉ」 殴られた頭を摩りながらオスマンは席に戻り、コルベールと向かい合う。 「これを見てください」 コルベールがオスマンに見せたのは『始祖ブリミルの使い魔たち』と書かれた書物。 そして、先日スパーダの左手からスケッチしたルーン。 それを目にしたオスマンの眼光は鋭くなり、ロングビルを退室させた。 退室したロングビルはこっそり中の話を聞き、 「詳しく説明するんじゃ、コルベール君」 「彼のあのルーンはこれによく似ている……」 などというオスマンらの会話を耳にした。 スパーダは昼食も厨房で、シエスタらに賄い食を振る舞われた。 (これでアイスがあればな……) さすがにそんな贅沢は言えないので、すぐに昼食を済ませて厨房を後にするが、ルイズはまだ目元を真っ赤に腫らして泣きながら食事をしているので、それが終わるまで壁に寄りかかり、待つ事にする。 胸のスカーフに飾られたアミュレットを弄っていると、何やら食堂の一角が騒がしくなる。 そして、「申し訳ありません!」という聞き慣れた少女の声が耳に入る。 スパーダがすぐに群集が集まっている所へ向かうと、そこには涙声になりながら必死に頭を下げるシエスタの姿があった。 「いや、許さないぞ!」 尊大にも彼女を叱り付けるキザったらしい金髪の少年。頬は平手打ちでも喰らったのか、赤く腫れている。 「何事だ?」 すぐ近くの生徒に聞いてみると、シエスタが彼――ギーシュ・ド・グラモンの落とした香水を拾ったために彼の二股がバレてしまい、 彼は二人の女生徒から平手打ちと絶交宣言を受けてしまった。シエスタはその事でギーシュから八つ当たりを受けているらしい。 顔を顰めたスパーダは人混みを掻き分け、二人の間に立つ。 「そこまでだ」 「な、何だね! 君は!?」 驚きの声をあげ、不愉快に顔を顰めるギーシュ。 「スパーダさん……!」 シエスタもスパーダの介入に驚いている。 「ああ、君は確かミス・ヴァリエールの……。話は聞いているよ。どこの馬の骨かも分からない異国の没落貴族が出しゃばらないでくれたまえ」 「そんな事はどうでもいい。自分の責任を彼女に擦り付ける暇があるなら、さっさと二人の女生徒へ謝りに行け。第一、お前が彼女を叱る理由などどこにもない」 「何を言っているんだ? 僕は瓶を拾われたあの時、知らないと言った。それを受けたら平民である彼女は知らない振りをするべきだ。それくらいの機転を見せてくれても良いのではないか?」 「彼女は自分の役目を果たしたに過ぎん。お前の身勝手な都合で傷つけられる彼女の身にもなれ」 スパーダの言葉に周りの生徒達からも「そうだそうだ!」「そのメイドに謝れ!」という声が飛んでくる。 ギーシュはメイドを叱りつける事で自分の立場を少しでも良くしようとしたのだが、その思惑がスパーダの介入で狂わされてしまったために相当不愉快な顔をしていた。 もちろん、この程度で引き下がる訳にはいかない。自分のプライドが許さない。こんな没落貴族相手に。 「没落貴族風情が……良い度胸だな。――ならば、僕は君に決闘を申し込む!」 (肩慣らしにはちょうどいいか……) 異世界である以上、いつかは戦いに身を委ねなければならない時がくる。この少年は魔力がそんなに強くないといえど、メイジである事には違いない。この世界の人間のレベルがどの程度のものか確かめる良い機会だ。 もちろん、あんな子供を殺す気はない……折檻くらいはしてやるが。 「ヴェストリ広場で待つ、逃げることは許さない!!」 そう言って、取り巻きを連れて食堂を去るギーシュ。スパーダは腕を組んだままその背中を見届けていた。 「ちょっと! 何で勝手に決闘なんか受けてるの!?」 ルイズがスパーダの元にやってきて叫ぶ。 「私が受けた訳ではない。向こうから申し入れてきただけだ」 「だからって……貴族と決闘するなんて許されないわ! すぐギーシュに謝って!」 「それは無理だ」 スパーダの声は、今までの紳士で優雅さに溢れていたものとは全く異なる、冷酷で氷のように冷たい声音だった。 「私の故郷では、戦いを申し込まれれば必ずそれを受けるのが掟だ。彼が言ったように、決して逃げる事は許されん」 ルイズの横を通り過ぎ、食堂の入り口に向かって歩き出した。 「……何、殺したりはせん」 振り返りながら、ルイズには見えないようにやりと笑ったスパーダは愛刀を手に食堂を去ろうとする。 その彼の背中にシエスタが声をかけた。 「あっ……あのっ、スパーダさん! 申し訳ございません! 私のせいで!」 「気にするな。何も悪くない」 ルイズはスパーダが剣を持っている以上、それなりに戦う力があるのだろうと理解はしていたが、それでも剣で魔法に挑むなどあまりに無謀としか言いようがなかった。 元貴族のスパーダの実力がどんなものであろうと、魔法に敵うはずがない。 (絶対に死なないでよ……) 親身になって自分を励ましてくれたパートナー。 それを今、ここで失う訳にはいかないのだ。 前ページ次ページThe Legendary Dark Zero