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「あのね、わたし…、あんたを死なせたくないの」 シティオブサウスゴータの街外れ。廃れた寺院の中で少女は語った。 ステンドグラス越しの夕日が中央にある始祖の像と、そしてその前に立つ2人の男女を淡く照らし出している。 自分の身長の半分も無い小さな少女の、小さな唇から絞り出される震えるその言葉を、男―――ヒュンケルはじっと目を閉じて聞いていた。 「あんた、いつも無茶ばっかりしてたじゃない。 ヴェストリの広場でギーシュの決闘に付き合った時だって、フーケをやっつけた時だって、……ワルド様が、…裏切った時だって……体中ボロボロなのに、いつもわたしを助けてくれたじゃない…」 高価な水の秘薬を使った水の魔法でも治せない身体で、でもいつも自分を助けてくれた、平民の使い魔ヒュンケル。 『あんたは戦えないじゃない!!下がってなさいよ!』 そう言っても聞く男じゃなかった。 『大丈夫だ』と、いつもその一言で自分の命令を簡単に反故にして。 ボロボロの体の癖にいつも…、いつも、紙一重の勝利をその手に提げて戻ってきてくれた。 ルイズは常にハラハラさせられ通しだった。 そして戦地に笑って赴く彼を助けることができない自分を―――帰って来た彼を癒してあげられない、「ゼロ」である自分を歯がゆく思っていた。 『わたしは結局『ゼロ』のままなのね…』 そう落ち込んだときもあった。 ―――でも、今は違う。 「わたし、あんたのおかげでこの力を手に入れることができたわ。『虚無』の力…。あんたがいなかったら、わたしはずっと『ゼロ』のままだったかもしれない。 ……だから恩返しをしたいの。あんたを助けたい、死なせたくないの……ヒュンケル…」 絞り出すように言って、ルイズはマントを握り締めた。 連合軍撤退のための時間稼ぎとして、ルイズには『虚無』の力を使っての街道の死守命令が下っていた。 死と同義のその命令に殉ずるのはやはり怖かった。 でも、ここはたった一人で行かなくてはいけない。 相手は7万の軍勢なのだ。 今度この使い魔に力を振るわせたら、そのときは間違いなく死んでしまう。 それは絶対に嫌だった。 いつも助けられてきたんだから。 だから今度は自分が守らなくてはいけないのだと、ルイズは堅く決心していた。 マントを握り締め、恐怖を打ち消した。 「今度ばかりはあんたを行かせないから。あんたは早くロサイスに戻って…」 「ルイズ。」 心地いい低音の声にさえぎられて、うつむいていた顔を上げたルイズ。 その瞬間、首の後ろあたりに衝撃を受けた。何?と思う間もなく、一気に意識が遠のいていく。 「ヒュン、ケル…?」 「気持ちだけで十分さルイズ。心配するな。…俺は不死身だ」 薄れ行く意識の中、ルイズはそんないつもの言葉を聞いた気がした。 小高い丘の上。 デルフリンガーを携えてヒュンケルはたった一人、眼下に見えるアルビオン軍7万の軍勢を見下ろしその場所に立っていた。 「いやぁ!かっけーなぁ相棒!『俺は不死身だ。』なんて、かーっ!普通の男じゃ言えないぜ!」 場に似つかわしくないような陽気な声が風に流されていく。ヒュンケルはフッとそれに冷笑を返した。 「少し口を閉じたらどうだ、デルフ」 「いつものことさね!気にしたら負けだぜ、相棒?」 「…そうだな、いつものことだ」 少し楽しげにつぶやいてヒュンケルはデルフリンガーを地面に刺し、そして構えた。 左手に刻まれたガンダールヴのルーンが光る。 「でもよう。いくら相棒でも今度ばかりはヤバイと思うわけだよ」 「そうかもしれんな」 「…なあ相棒」 「なんだ?」 「相棒からはいまひとつ危機感みたいなもんが感じられないんだけど」 「俺にとっては命すら武器の一つに過ぎないだけだ」 「わからんねぇ。なんであんな娘っこなんかのために命を懸けられるのか」 デルフリンガーに言われ、ヒュンケルはスッと目を閉じて考えた。 思い出す、亡き父の顔。思い出した後はゆっくりと目を開いて、それからヒュンケルは手元の剣に向かって笑った。 「あんな小さな女を見殺しにして生き残ったら、俺がいつかあの世に逝ったときに武人だった父に叱られてしまう」 「ははッ、そうかい。じゃあ俺もそんな相棒に応えるためにがんばるとするか。俺だってブチ折られた後、あの世でブリミルに叱られるのはカンベンだ」 左手に光るルーンが輝きを増した。ヒュンケルの心にある熱い闘志に呼応するかのようだった。 「ぬううっ…!!」 体中が悲鳴を上げている。腕の先から砕け散っていくような激しい痛みだった。 それでもなおヒュンケルの闘志は萎えない。 「すげえ!すげぇぜ、相棒!たとえお前の命が燃え尽きようと、俺はお前に会えたこと一生の誇りにするぜ!?」 ルーンの輝きが剣へと伝わり、逆さに構えられたデルフリンガーが聖なる十字架を築きあげる。 「いくぞデルフ!」 「まかせろや相棒!!」 「 グランドクルス!! 」 まばゆいばかりの十字の閃光がハルケギニアの空に輝いた。
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川崎の脱毛ラボを予約しました 脱毛は前から気になっていたのですが、なかなかサロンで脱毛してもらうというところまでは行かず、少し躊躇していました。 サロンに通うとなるとお金がかかりそうなイメージが強く、施術時の痛みも気になるので、脱毛したいと思いつつも勇気が出なかったのです。 幸い、あまり毛深い方ではないので、気になるところだけ家庭用の脱毛器で処理していました。 しかし、自分で処理するのは面倒ですし、自分では手の届きにくいところもキレイにしたいと思ったので、いろいろ調べてみることにしました。 口コミ情報などを見ると、思ったほど金額も高くないようですし、痛みについてもほとんどないというようなものが結構あったので、少し安心しました。 どこが良いかいろいろ迷ったのですが、自分が通いやすい川崎という地域も合わせて考えたときに、脱毛ラボが気になりました。 口コミ情報でも、脱毛ラボに満足したというような書き込みが多かったので、詳しく調べてみようと思ったのです。 インターネットで調べてみると、激安で脱毛できるサロンで、満足度も非常に高いということがわかりました。 スタッフは全員ライセンスを持っているなど、技術面でも安心できそうでしたし、返金制度やキャッシュバックなどのシステムも充実しているので、一度試してみようかと思いました。 ちょうどキャンペーンもやっているということでしたので、今回は川崎の脱毛ラボを利用してみることに決めました。 電話で予約しましたが、丁寧に受け付けてもらえたので、これからの施術も安心して受けられそうです。 脱毛ラボ川崎店
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多細胞生物の生と死 1. 有性生殖 2. 発生と分化 3. 成長期 4. ガ ン 5. 常識への挑戦 6. 自律神経1
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意外なことに、"お迎え"はまだ来ない。 別に来なくて困ることも無いんだが。 まぁ、暫くはのんびりと過ごせそうだ――― 宵闇の使い魔 第拾漆話:忘却と妄執 「ところで、授業の方は良いんですか?」 此処は学院の食を一手に引き受ける厨房。 その片隅にある、普段はコックやメイドたちが使う椅子に虎蔵は座っていた。 問いの主であるシエスタは、ポットの用意をしながらお湯を沸か沸かしている。 最近はルイズが普通の――つまり、学生達が食べるものと同じ食事を虎蔵にも用意するようになったため、 此処で食事を取るということはなくなったのだが、しょっちゅうやってきては茶やら酒やらを飲んでいる。 今日も、朝一の講義にルイズ共々引っ張り出された後で、休憩と称して逃げ出してきていた。 「あの根暗っぽい奴の時間だからな―――あいつも部屋に戻ったし」 「あら、何かあったんですか?」 「いや、爺さんの所に行ったと思ったら、なんか変な本を持ってきてな――― それ以来殆どおこもりだ。キュルケが迎えに来ると、渋々ながら出るんだがな。講義にも」 ギトーの名前をすっかり忘れている虎蔵は、ふぁっ、と小さく欠伸をする。 引っ張り出されたという講義で眠気を誘発されたようだ。 「変な本ですか―――なんなんでしょう、それって」 シエスタは虎蔵の欠伸にクスリと笑いながら、カップとポットをトレーに置く。 ポットに湯を注ぐと、慎重にトレーを持ち上げて振り返った。 すると――― 「始祖の祈祷書、よ。シエスタ、私にも頂けます?」 いつの間にかやってきていたマチルダが、シエスタにそう声をかけながら虎蔵の隣の椅子に腰を下ろした。 微かな香水の匂いが鼻腔をくすぐる。 「あら、ミス・ロングビルも。えぇ、すぐに用意しますね」 シエスタは一旦トレーを置くと、二つ目のカップを取りに行く。 虎蔵はそれを見送ると、肘を突いてマチルダへと視線を向けた。 「おう――どした」 「休憩―――爺のセクハラがね。ちゃんとお返しはしてきたけど」 肩を竦めるマチルダに、「若いな、あの爺さんも」と言って笑う虎蔵。 シエスタが離れたためか、マチルダの口調は素に近い。 よく話はしているようだが、猫は被ったままのようだった。 あまり意味があるとは思えないのだが。 「ところで聞いたかい? 来週頭に、アルビオンのおえらさんがトリステインに来るんだってさ」 「―――今更不可侵条約の調印式でもするのか?」 「いや、姫様の結婚の前祝を兼ねた表敬訪問だとか何とか―――」 怪しいわよね、と肩を竦めるマチルダ。 虎蔵も頷くが、かといって何かが出来る訳でもないし、しなければならない訳でもない。 本格的に戦争でも始まれば色々と面倒にもなるのだろうが――― 「ま、今はのんびりしとこうや。どうせなんも出来んしな」 「それもそうだね――」 気だるげにいう虎蔵にマチルダも同意したところで、シエスタがトレーを手にやってきた。 今度はカップが二つ乗っている。 彼女は二人の前にカップを置きながら、気だるげな雰囲気の二人に首を傾げる。 「何のお話ですか?」 「いえ、アルビオンとトリステインはどうなるのかと思いまして」 「あぁ―――怖いですね。戦争にならなければ良いんですけど」 シエスタは至極普通の意見を返しながら、カップに薄緑色の液体を注ぐ。 虎蔵は仄かな香りで、それの正体に気づいた。 「ん? こりゃ―――」 「あ、お気付きになりましたか? 東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品なんです。 《お茶》って言うんですけど―――やっぱり知ってましたね」 「妙な色ですね―――けど、やっぱりって?」 おぉ、と妙に感動しながらカップを手にする虎蔵に対して、 マチルダはその色と匂いに僅かな警戒を示す。 香りは悪くないな――と思いながら、ふとシエスタの言葉に引っ掛かりを覚え、問い返す。 「はい。前にトラゾウさんが「茶が怖い」って言っていたんですよ。覚えてます?」 「―――言ったか?」 「えぇ、ほら―――ミスタ・グラモンと決闘した後に」 ずずずっとお茶をすすり、満足気に息をつく虎蔵にたいしてにこにこと笑みを浮かべるシエスタ。 虎蔵は言われてようやく、言ったかも、位にまでは思い出した。 確かに、よく考えればあの言い回しが此処で通じることは考えにくい。 だとしたら、シエスタは何故――― 「私の曾お爺ちゃんがよく言ってたらしいんですよ。 それでお爺ちゃんにも口癖が移ったらしくて、私も聞いたことがあるんです」 「ほぉ―――」 「曾お爺ちゃん、東の遠い所から来たらしいんです。ロバ・アル・カリイエではなかったらしいんですけど。 それで、もしかしたらトラゾウさんもなのかなぁって思って」 虎蔵はふむ、とお茶を飲みながら考える。 此処は肯定の一手しかないが―――この世界にも日本的な地域があると言うのだろうか。 「確かに生まれは東の方だな―――」 後でマチルダなりオスマンなりから情報を仕入れるべきだと考えながら、 何時もどおりに飄々とした様子で茶を濁すのだった。 「あら、ダーリン。こんな所に居たの―――ミス・ロングビルも」 厨房からの帰りに廊下をマチルダと歩いていると、途中でキュルケ・タバサの二人と遭遇した。 二人、と言ってもタバサは本を読みながらキュルケに引っ張られているようなものだが。 そのキュルケは羊皮紙の束を手にやたらと上機嫌にしていたが、マチルダも居るのを見ると、 僅かにムッとした表情になる。何時ものことだが。 「厨房で一緒になっただけさ。あのチビっ子にも用事があってね」 「へぇ――まぁ、良いわ。私もルイズに用事があるのよ」 もはやマチルダも慣れたもので、肩を竦めてかるく往なす。 今日は珍しくキュルケもそれ以上突っかかることはなく、羊皮紙を丸めて胸の谷間に押し込むと、 タバサを掴んでいる手と反対の手で虎蔵の手も掴み、軽快に歩き出した。 マチルダは肩を竦め、彼女らの後を追う。 「で、なんなんだよ、いったい―――」 「あの子、最近塞ぎ込み気味じゃない。授業にもあんまり出てこないし。まぁ、気持ちは解らなくもないけど」 「授業に出ないのは理由があるんだろうけどね」 「あら、ミス・ロングビル。なにかご存知なの?」 両手で虎蔵とタバサの手を掴んでいるためうまく振り向けないキュルケに、マチルダは肩を竦める。 「すぐに解るよ――」 「あっそ。ま、それでね。気分転換になりそうなことを見つけてきたってわけ。 あぁ、なんて友達思いなのかしら。私って」 口ではそう言いながら、明らかに自分が楽しんでいる様子である。 ルイズのためというのも嘘ではないだろうが。 虎蔵はなにをする気だ、と言った意味を込めてタバサを見るが、彼女は本を読みながら首を振るだけだ。 ―――諦めろって事か――― ため息を一つ。 キュルケはルイズの部屋に着くと、問答無用でドアを開ける。 鍵は掛かっていなかった。 ルイズは机に向かいながら、うーんうーんと頭を抱えていたが、ドアの開く音にも振り返った。 「トラゾウ? 悪いんだけど、何か飲み物―――って、何よぞろぞろと」 「ルイズ! 宝探しにいくわよ!」 「はぁ!? ちょっと、これ正気?」 部屋に入ってくるなりそう叫ぶキュルケに度肝を抜かれ、残り三人に助けを求める視線を送るルイズ。 だがタバサは本を読み続けていて、虎蔵とマチルダは初耳である。 「正気かとは酷い言い草ね、ルイズ。 なんか最近引き篭もりがちだから、気分転換に連れ出してあげようって言うのに」 「引き篭もってないわよ! 詔を考えなきゃいけないの。姫殿下の結婚式のね」 あぁ、と頷くキュルケ。 アンリエッタの結婚相手は、ゲルマニア――キュルケの国の皇帝である。 「へぇ、なによ。大役じゃない―――で、どれ位進んだの?」 「うッ―――――まったく、全然――」 「駄目じゃない。何時までなの?」 「それを連絡に来たの。来週頭までだそうよ」 キュルケとマチルダの言葉に頭を抱えるルイズ。 既に三日は考えているが、一文も出てこないのだ。 「てか、詔ってどんなん何だ?」 「火に対する感謝、水に対する感謝って感じで、順に四大系統に対する感謝の辞を、 詩的な言葉で韻を踏みつつ読み上げるんだけど―――」 「ふむ―――火、風、土―――水だけ居ないが、専門家が揃ってるぞ?」 ルイズの説明に対して、虎蔵はキュルケ、タバサ、マチルダと見ていく。 確かにそうだ。 全員がそれぞれの系統のトライアングル。 アドバイスを受けるには最適の相手といえる。 一人で考えるべき物なのではないかと思わなくもないのだが――― 「うーん―――間に合わないよりは、相談してでも―――」 「丁度良いじゃない。昼は宝探し。夜は皆で協力して詔を作る、と」 ぶつぶつと呟くルイズに、キュルケがぽんっと手を叩いて笑顔を作る。 我ながら名案、といった調子だ。 だがルイズはまだ迷っているようで、腕を組んでは唸っている。 「授業は?」 「貴女、今だって出てないじゃない」 「う――確かに」 そんな調子でキュルケの説得攻勢が続く中、マチルダが虎蔵の腕をちょいちょいとつつく。 「―――なんか、いつの間にかアタシも数に入れられてないかい?」 「入ってるな。拙いか?」 「問題ないとは言えないけど―――んー」 ルイズたち学生もサボリが許可されている訳ではないが、マチルダ――ロングビルの場合はもっと問題である。 虎蔵は"自由業"生活が長いため、気にしていないようだが。 とはいえ、ルイズの現状はオスマンも理解している。 その辺りを理由に話してみれば、許可が下りるかもしれない。 爺の相手は疲れるから、ちょっとした休暇のつもりで付き合うのは悪くなさそうだ。 「しかし、宝の地図だなんてそうそう当たりは無いと思うんだけどね」 「だろうな。ま、気晴らしには良いだろ――――当たりが出れば儲けもんだしな」 「まぁ、ね―――じゃ、許可取ってくるよ」 マチルダは殆ど説得されたも同然のルイズを一瞥すると、ひらりと手を振って出て行った。 「ほら、折角あるんだ。座って読めよ」 虎蔵はソファーにぼすんと腰を下ろすと、空いている隣を叩いてタバサを促す。 タバサは無言でそれに頷くと、ソファーにちょこんと浅く座って読書を続けた。 その乱れないペースに関心半分呆れ半分で肩を竦めると、虎蔵は背もたれに身体をは窓越しに空を眺める。 「―――ま、なるようにならぁな」 タバサが声も漏らさずに、こくりと頷いた。 「――――大丈夫なの? これ――」 「仮に失敗したとしても、問題はあるまイ。所詮は死体ネ」 此処はアルビオンの王宮に用意された馬の私室。 シェフィールドの協力を得て、無数の機材が運び込まれている。 中央のベッドには死亡した筈のワルド。 彼は全身に無数の縫合痕や金属板を晒しており、何本ものチューブに繋がれている。 「時間があれば色々と手を加えてみるのだがネ―――まぁ、とりあえずはこんなところカ」 馬は一言呟くと、装置のレバーを引く。 ガチャンと音を立てて、チューブが外れた。 この機材の調達を手伝わされたシェフィールドは、不機嫌そうな表情を隠しもせずに、 壁際からその様子を眺めている。 「―――これで本当に生き返るというの?」 「生き返る、というのとは異なるがネ。まぁ、使い物にはなる筈ヨ。素体が良い物であるからナ」 「なら良いのだけど」 「さぁ、目覚めたまえ―――」 馬はニヤッと笑みを浮かべると、ワルドの首筋からプラグを抜き取る。 びくっ、と一度だけ痙攣を起こすと、ゆっくりと目が開かれた。 「っぁ――」 「やぁ、おはよう。目覚めは如何かネ? ワルド君」 「―――此処、は」 上手く声が出せないのか、ワルドは蚊の鳴くような声をもらす。 目の焦点は合わず、ぼんやりとした様子のままだ。 「私は―――生きているのか」 「左腕が炭化。胸部から腹部にかけて刺創痕14箇所。全身に無数の切創痕―――本当によく生きていたものだネ」 そうか、と答えながら、ワルドが一応は無事と言える右手を実の前に翳すと、ゆっくりと目の焦点が合ってくる。 シェフィールドは堂々と"生きている"と嘯く馬に視線を向けるが、ワルド自身はまったく疑っている様子は無い。 馬はシェフィールドにニィッと笑みを向けて、見ていたまえと言わんばかりに頷いた。 「とはいえ、左手は義手。各種内臓も殆どが使い物にならヌ。いっそ死んでしまった方が楽かもしれんがナ」 「真逆。私にはやらねばならぬ―――やらねばならぬこと、だと?」 「フム、記憶が混乱しているようだガ―――ルイズ、という名前に心当たりはあるカ?」 シェフィールドの力―――マジックアイテムによって全て理解しているにも拘らず、 馬は何も知らないような調子でその名前を口にした。 「ルイズ! そうだ、私のルイズ! ――ッぐ」 ワルドは無理に体を起こそうとして全身を引きつらせ、再度ベッドに倒れこむ。 弄くられた身体がまだ馴染んでいないためだろう。 「落ち着きたまえ、ワルド君。君の居た礼拝堂の近くから、城の外へと抜け穴が見つかってる。 恐らくは、君を倒した人物と共に逃げ出しているのだろうネ」 「くそッ――私はルイズを、ルイズを手に入れなければならなかったのに――」 息を荒げながらも、悔しそうに呻くワルド。 その様子を見てシェフィールドは首を傾げる。 クロムウェルの弁では、ワルドは彼にかなりの忠誠を見せており―――仮にそれが本心ではないにせよ、 任務を気にかける程度の演技はしてみせるような男、とのことだった筈だ。 それがどうだろうか。 まるで《レコン・キスタ》の事など忘却してしまったかのように、 ルイズ――あの虚無の力を持つ小娘のことだけに拘っている。 ―――この男、虚無について詳しく知っているとでもいうの?――― 警戒に目を細めるシェフィールド。 「なに、生きていれば、また機会はある筈ヨ―――奪われたなら、取り戻せば良いこと。 君を倒した男に復讐を果たし、彼女に君の力を見せ付けると良いネ」 「そうか。そうだな。奴を倒せば、ルイズは私の物になるに違いない―――」 以前の冷静沈着な様子など微塵も無く、憑かれたかのようにただルイズの事についてのみ執着を示すワルド。 しかしその瞳は僅かに濁って見えるが、十分に正気を感じさせる。 つまり、正真正銘本心からルイズを欲しているのだ。この男は。 一度、馬を問い詰める必要がある。 シェフィールドはそう考えながら、するりと部屋を抜け出した。 「あぁ、そうだトモ。発奮したまえヨ、ワルド君」 「勿論だ。ルイズは私の物なのだから――――」 「その粋ダ。が、今日はこのまま休みたまエ。まずは体力を戻すことネ」 馬はワルドにそう告げて部屋の明かりを落とすと、再見と一言残し部屋から出て行った。 残されたワルドは、暗くなった部屋の中で何度も手を握り締めながら呟く。 「あぁ、ルイズ。僕のルイズ。必ず手に入れてみせるよ。あんな男に渡すものか―――君は、私だけのものだ」 妄執に囚われたワルドを、窓から差し込む冷え冷えとした月明かりだけが照らしていた。
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前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 ――ヒョオオオオオオ…… 「ルイズのせいで酷い目に遭ったわ!」 激しい吹雪を起こしつつ着物姿の少女が声を荒げた。 「そそそ、そんなっ。みんなノリノリででで、楽しんでたたじゃない!」 「さぶっ、さぶっ」 歯をガチガチ言わせつつも反論するルイズ。後方ではペロも激しく震えている。 「騙されたのよ! 私達にはあんな化粧しといて自分は何よ! こっちはルイズのせいで先生にお仕置きされたんだから!」 一方、結局口紅だけとなったルイズ・キリを見たろくろ首先生の反応はというと、 「あの化粧を見た後じゃ口紅だけでもまともに見えるわね……。合格」 というものだった。 「ルイズにも」 「痛い目見てもらわないと」 『気がすまない!!』 そう言い終えるが早いか、全員一斉にルイズ・ペロを追いかけ始めた。 「きゃああああ!」 「わああああ! 何であたしまでえ!?」 「ペロが逃げるからじゃないの!?」 「しまったあ! でも怖くて止まれない!」 校舎から逃げ出してしばらく駆け回っていたルイズ・ペロだったが、やがて石段を上がった先に隠れるのに手頃な廃屋を発見した。 「あっ、ペロ!! あそこに!!」 素早く石段を駆け上がり廃屋に隠れる。 直後に現れた生徒達の一団は廃屋など気にも留めず、その傍らを通過していった。 その様子を廃屋の障子を開けてそっと伺うルイズ・ペロ。 「ふう、行っちゃったわね」 「危ういところだった」 ひとまず安全を確認した2人が廃屋から出ようとした時、 「客人か? 珍しいな」 声が聞こえてきた方向に視線を向けた2人の先には……、 「何用じゃ?」 そう声をかけてきたのは上半身が牛の耳と角が生えた人間の女性、下半身が牛という妖怪だった。 (き……、き……、巨乳だー!!) 「あ……、えっと、ちょっと迷子になって。初めまして、ルイズ・ヴァリエールです」 「ペロです、こんにちは」 丁寧に挨拶した2人だったが、その視線は彼女の顔ではなく別の場所に向いていた。 「どこに向かって挨拶しとるんじゃ! わしはハラミじゃ、件のハラミ。どいつもこいつもわしを見れば乳を見よる。嫌になるわ」 「あっ……、それは何がどうなってそうなってるか気になって……」 「ハラミは毎日何を食べて乳を育てた?」 「草」 それを聞いたルイズ・ペロは目を輝かせ、猛烈な勢いで床一面に敷き詰められた飼い葉を貪り始めた。 「美味しくないわね」 「口がごそごそする」 「人の寝床を食うでないわ。何じゃ、乳を大きくしたいのか?」 『したい!!』 「ペロは大きいじゃない」 「ルイズは貧乳だな」 「ひひひひ、貧乳じゃないわよ、普通よ!! でももう少し大きかったら……」 その時2人の脳裏には美人度が5割は増した自分達が、肌もあらわなドレスを纏いセクシーポーズを決めている風景だった。 「それは乳だけの問題じゃなかろ」 「えー、いい線いってると思うんだけど」 「ヘアヌード写真集も出そう!!」 「ヘアヌード!? それは嫌よっ!!」 「じゃあ毛を剃ってただのヌード写真集にしよう」 「……そ、それ違うわよ、全然意味違うわよ!!」 「じゃあ脱がないで毛だけ剃るのか? ルイズはマニアックだな」 「ちょ……、何でそこで毛だけ残るのよ!? それじゃ胸関係無いじゃない!!」 「なるほど、確かに」 「乳が大きいのはそんなによいか? むしろわしは乳を小さくしたいわ。これじゃまるで牛そのものじゃ」 『牛……』 「し……、搾ってみたらどうかしら?」 「なるほど、じゃあそれを頼もう」 「おー、乳搾り!!」 壁際に設置された手すりともつかない奇妙な棒を両手でつかみ、ハラミは乳搾りの体制を取る。 「………」 「頼む」 (じ……、自分で言い出した事だけどこれって凄い恥ずかしいかも!! ……ううん、そんな事ないわ、女の子同士なんだから! 恥ずかしがる方が恥ずかしいわよ!!) しばらく躊躇していたルイズだったが、やがて決意と共にハラミの胸に手を伸ばす。 「し……、失礼しまーす」 ルイズが胸に軽く触れただけでハラミはぴくりと反応する。 (う、わ、何これ何これやわらかいよー) 目を閉じつつ必死で搾っているルイズにハラミは、 「ルイズ……、片方だけじゃなくてちゃんと両方」 ルイズがハラミの両胸から乳を搾り出しその傍らでペロが、 「勿体無い」 と言いつつ腹部に流れ落ちた乳を舐めている。 (ぎゃー、何でこんなエッチな事に!? うわーん、キリ助けてーっ! どうしよう、何かやだ、気持ちいい……) 「あ、小さくなってきた!」 搾っているうちに、ハラミの胸はルイズの掌に収まるほどにまで縮小したのだ。 「礼を言うぞ、ルイズ! ありがとう!」 「いえ、そんなたいした事じゃ……」 手を取って感謝を伸べるハラミにルイズがどっと疲れた表情で返した時、 「どうわー!」 『え?』 ペロの声に振り向いたルイズ・ハラミが見たものは、胸が人の首ほどの大きさに膨れ上がったペロの姿だった。 「ルイズ……、搾った乳舐めたら、こんな……」 「ええっ!?」 ルイズが自分の掌に付着した乳を舐めた途端、ローブの胸がはちきれんばかりに盛り上がった。 「わあああ!」 「おお」 「ねえ、これクラスのみんなにも分けたら、機嫌が直るんじゃないかしら?」 「それは名案!!」 「ハラミ、もう少しだけ搾らせて!」 「かまわんよ」 「ルイズ、牛乳瓶持ってきた!」 教室に戻ってきた2人の胸を見たキリは目を丸くして、 「どうしたの、それ!?」 「ハラミの乳を搾って、搾った乳を飲んだら――」 「――こんな事に! キリも飲む?」 「搾って……?」 それを聞いたキリの目に奇妙な光が宿る。 「じゃあ今度は私がルイズの乳搾りしようかなー」 「ちょ……っ、えーっ!? やだ、また小さくなっちゃう!!」 「私は小さくても好きだけど」 「やーだー!」 「みんなー、見て見てー」 そんなこんなでクラス全員ハラミの乳で豊胸された様子を見たろくろ首先生思うに……、 (乳牛村……?) 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 出発から二日… その後は何事も無く、ゆるゆると使い魔の空の旅と、ジャンガ以外の使い魔の主人の馬車の旅は続いた。 途中、ラグドリアン湖の近くを通りかかった。 水は引いているようではあったが、直ぐに元通りとはいかないようだ。 おそらくは増水にかけたのと同じ時間、二年をかけて戻していくのだろう。 ジャンガはそんなラグドリアン湖を見下ろしながら、フンッと軽く鼻を鳴らし、寝転んだ。 「ついたのね。早く起きるのね、きゅい!」 「ン?」 ジャンガはシルフィードの声に身体を起こすと、シルフィードから身体を乗り出し、見下ろす。 眼下には、立派なつくりの大名邸が見え、その入り口の前で馬車は停まっていた。 馬車からタバサとキュルケが降り、真っ白な髪に真っ白な髭を蓄えた一人の老僕が出迎えている。 ジャンガは三人が屋敷に入るのを見計らってシルフィードから飛び降りた。 地面に降りるや、ジャンガは直ぐに屋敷の中へと潜り込んだ。 外見から想像していた通り、邸内も隅々まで手入れが行き届いており、とても綺麗であった。 だが、静か過ぎる。注意しなければ靴音が響き渡るくらいの静寂だ。 モット伯の屋敷は人の声や靴音の他、様々な生活を感じさせる音が響き渡っていたが、 こっちは静寂に包まれ、まるで自分以外は誰も居ないかのような錯覚を起こしそうである。 (こんなに広い屋敷で、まるっきり人が居ないってのはどういう事だ?) ジャンガは屋敷の様子に首を捻ったが、気にしない事にし、タバサ達を探す。 何度目かの角を曲がった時、先の方で扉が開いた。素早くジャンガは身を隠す。 出てきたのはタバサだった。扉を静かに閉めると、そのまま道の奥へと消えていく。 何処へ行く気だ?と、後を追おうとしたが、タバサが消えた方と反対側から別の気配がしたのを感じた。 素早く飛び上がり、天井へと張り付く。気配は先程の老僕だった。 老僕は紅茶の入ったティーカップのを持っており、タバサが出てきた扉を開け、中へと入っていった。 ジャンガは床に降り立つと、扉の前に移動し、音を立てぬように扉を少しだけ開け、中を覗き見る。 中ではキュルケと先程の老僕が話しをしているのが見えた。 「このオルレアン家の執事を務めておりまするペルスランと申します」 老僕=ペルスランはキュルケに恭しく礼をした。 キュルケも自分の名を告げる。 「私はゲルマニアのフォン・ツェルプストー、お世話になるわ」 「シャルロットお嬢様がお友達をお連れなされるなど思いもよりませんでした」 シャルロット…その名前にキュルケは尋ねた。 「シャルロットがあの娘の本名なのね?」 「は?」 ペルスランはキュルケの言葉に、一瞬唖然とした表情を浮かべた。 扉の外でジャンガは、なるほどと頷いていた。 (シャルロット……それがあいつの本名か…) 視線を戻すとキュルケからペルスランは何事かを聞いているようだった。 「そうですか……お嬢様は学院で『タバサ』と名乗っておいでなのですか…」 「どうして偽名を使って留学してきたの?あの子、何も話さないのよ」 「留学はお嬢様の伯父である国王の仰せです」 キュルケは驚きの表情を浮かべる。 「伯父?やっぱり…あの子は王族だったのね」 「シャルロット様のお父上…今は亡きオルレアン公は現国王の弟ぎみでした」 その話にキュルケは悲しそうに顔を伏せる。 「そうだったの…、お父様はお亡くなりに…」 キュルケの言葉にペルスランはせつなげな溜息を漏らした。 「…殺されたのです」 「え?」 顔を上げるキュルケ。 「お嬢様が心許す方なら構いますまい。ツェルプストー様を信用してお話ししましょう」 ペルスランは深く一礼し、語りだした。 「オルレアン公は王家の次男でありながら長男のジョゼフ様よりも魔法の才に秀で、何より人望と才能に溢れた方でした。 五年前…、先王が崩御された時に、どちらが王の座に相応しいか、という事で宮廷が真っ二つに分かれてしまったのです。 そんな醜い争いの中…オルレアン公は謀殺されました。狩猟会の最中に胸を下賎な毒矢で射抜かれて…。 しかも、ご不幸はそれに止まりませんでした」 ペルスランは胸をつまらせるような声で続ける。 「ジョゼフ様を王位につけた連中は将来の禍根を断とうと、今度はお嬢様を狙いました…。 ある晩の事…お嬢様と奥様は晩餐会に招かれました。そこでお嬢様はある貴族から飲み物を手渡されたのです。 しかし、それには心を狂わせる水魔法の毒が仕組まれておりました。 奥様はそれを知り、お嬢様の手からその飲み物を奪うと自ら口にされました。 …事は公になり、その貴族は断罪されました。奥様は自らを犠牲にしてお嬢様を庇ったのです。 以来…奥様は心を病んだままです、お嬢様の事もお嬢様と解りません…。 そして、奥様が心を病んだ日から、快活で明るかったシャルロット様は別人のようにおなりになりました。 …まるで、言葉と表情を自ら封印されてしまわれたような。しかし、それも無理からぬ事…。 父が殺され、更に目の前で母が狂えば、誰でもそのようになってしまうでしょう…」 話を盗み聞きしていたジャンガは鼻を鳴らす。 (殆ど喋らず無表情な人形のような言動…、親の事を馬鹿にした事であいつがあんなに怒った事…、 そして復讐を考えている事…、なるほどなァ…こう言うわけか) ジャンガは思い返した。 ――学院の最初の授業で、爆発から退避するべく教室を離れたタバサとの初めての接触。 人形のような無表情、必要な事意外は口にせず…人と関わろうとしない言動。 ――召喚されて間もない頃にあった、ヴェストリの広場での決闘。 親を侮辱された事に対する、命乞いをする相手に容赦の無い魔法を繰り出すほどの殺気に近い怒り。 そして…その一見無表情な碧眼の奥に浮かぶ憎しみと復讐の感情。 それらの理由がこれでハッキリした。 ペルスランの話は続く。 「奥様の事があって、表立ってお嬢様を亡き者にしようという輩はいなくなりました。 その代わり…王家はお嬢様の魔法の力が強い事を理由に、困難な…生還不可能と言われる任務を 言いつけるようになったのです。ですが、お嬢様はこの理不尽な命令を全て完遂させました。 ご自分と奥様の身を守る為に…命がけで」 キュルケは言葉を失い、ただ呆然と老僕の話に耳を傾けるだけだった。 「…あの子がトリステインに留学した訳は?」 「思惑通りに行かぬ王家は本来なら領地を下賜されてしかるべき功績にもかかわらず、 シュヴァリエの称号のみを与え、厄介払いの如く…外国へと留学させたのです」 そこでペルスランは一旦言葉を切った。 「お嬢様は『タバサ』と名乗っておられる。そうおっしゃいましたね?」 「ええ」 「『タバサ』とはお嬢様が奥様にプレゼントされた人形に付けた名前なのです。 お忙しい身の上の奥様が、お嬢様が寂しがられないようにと…手ずからお選びになった人形でした。 お嬢様は、それはとても喜ばれまして…『タバサ』の名を付けて、妹の様に可愛がられておりました。 その人形は…今現在、奥様の手の中。心を病まれた奥様はその人形をお嬢様と思い込んでおられるのです」 そこまで話を聞いたジャンガは、扉を閉めるとタバサが消えた方へと向かった。 屋敷の一番奥の扉の前に立つや、中から女性の叫び声が聞こえてきた。 「王家の回し者め!私とシャルロットを亡き者にする気!?」 ジャンガは扉を慎重に開き、中を覗き込む。 大きく、殺風景な部屋だった。手前のベッドと奥の窓際に置かれたテーブルと椅子以外は何も無い。 その椅子には痩身の女性が座っていた。髪は伸ばし放題で、やつれた顔は実際よりも二十は年老いて見える。 その腕には人形が抱かれていた。…おそらく例の人形だろう。 その女性=母の前でタバサは跪き、頭を垂れていた。 母は怯えた子供のように人形を強く抱きしめ、目を爛々と光らせて実の娘を睨み付ける。 「おそろしや…、この子がいずれ王位を狙うなどと…、誰が申したのでありましょうか? 私達はただ静かに暮らしたいだけなのです…」 そこまで言うと、母はテーブルの上のスプーンを掴み、タバサに投げつけた。 タバサはそれを避けようとしない。スプーンが頭に当たり、床へと落ちる。 「この子は…シャルロットは私の大事な娘です…」 そう言って母は抱きしめた人形=『タバサ』に頬擦りをする。愛しい娘にするように、何度も何度も繰り返す。 今までも何度も何度も繰り返したのだろう…、『タバサ』の頬は擦り切れ、中の綿がはみ出していた。 タバサは頭を垂れたまま口を開く。 「貴方の夫を殺し、貴方をこのようにした者どもの首を、いずれここに並べに戻ってまいります。 その日まで、貴方が娘に与えた人形が仇どもを欺けるようお祈りください」 タバサは静かに立ち上がり、母を見ながら寂しげな笑みを浮かべた。 「また会いに参ります…母さま」 「”母さま”ねェ~?……キキキ、笑っちまうぜ」 唐突に聞こえてきた声に反射的に振り返る。 いつの間に入ってきたのか……扉の前に立つ人影にタバサの表情が僅かに強張った。 「ジャンガ…」 「最初に面合わせた時もそうやって俺の名前を呼んだっけな…?キキキ、懐かしいゼ」 ニヤニヤ笑いを顔に張り付かせたままジャンガはタバサを見据える。 「どうしてここに?」 「キキキ、なァに…お前が親友と何処かへお出かけのようだからな。ちょいとあの竜の背中を間借りしたのさ」 「何者!?王家の新たな回し者!?」 タバサの後ろで母が恐怖に駆られて騒ぐ。 それにジャンガは射抜くような視線を飛ばす。 「あ…、う…」 途端、母は静かになる。恐怖に震え、助けを求めるように…、すがり付くように…、『タバサ』を抱きしめる。 「……」 母を庇う様に、一歩前に出たタバサの身体から冷たいオーラのような物が滲み出る。 ”今すぐ出て行け”…そんな意味が込められているようだ。 そのプレッシャーにも動じず、鼻で笑うジャンガ。 「おいおい…そんなに怖い顔するなよ?ちょっとした挨拶で来ただけなのによォ~」 「……」 「そう邪険にする事も無ェじゃねェか……なァ、シャルロット?」 自分の本名を呼ばれ、タバサの顔に動揺の色が浮かぶ。 「どうして?」 「さっきな…、お前の親友の雌牛と迎えのジジイが話をしてるのをちょいと盗み聞きしただけさ。 ――名前以外にも色々聞いたがよ、…苦労してるみたいだなァ~?」 「……」 タバサは答えない。 「あの高慢ちきな小娘の命令にホイホイ従っているのも母ちゃんを守る為か…、健気だねェ~。 ――そして、その一方で復讐の機会を窺っていると…」 話を続けながら、静かに一歩、一歩、歩み寄る。 「たった一人で復讐を成し遂げようと、任務をこなしながら魔法の腕を日々磨くか…、ご苦労な事だゼ。 …まァ、無理だろうけどな」 ジャンガのその言葉にタバサの眉が、ピクリと動く。 「何故、そう思うの?」 「キキキ。さて…どうしてだと思う?」 「言って」 「いいじゃねェかよ…そんな事はよ?」 ジャンガは顔から笑みを消す。 「――人形がご主人の母親に抱かれる事なんざ、無いんだからよ?」 ジャンガの言葉にタバサは僅かに怪訝な表情を浮かべる。 「どういう意味?」 「言ったまでの意味さ…。テメェは『タバサ』なんだろ?テメェの後ろにいる奴の娘は『シャルロット』なんだからよ」 「母さまは今、心を病んでいるから、私の人形を私と思っている。だから――」 「だから?親に自分を認めてもらえないから、元に戻るまで人形でいる事を選んだのか? ハンッ!だったら、テメェは『タバサ』だ!ただの人形だ!テメェでそれを選んだからにはな!そして……」 そこで、ジャンガは母を爪で指し示す。 「そいつが握っている人形が『シャルロット』だ!」 ジャンガはタバサに視線を向ける。 「解ったか?そいつはもう娘を抱いているんだ。人形の…『タバサ』のテメェが入り込む余地は無ェんだよ。 テメェはただ…テメェのご主人、『シャルロット』の怒りと憎しみを晴らそうとする人形なんだよ」 タバサの表情が曇る。 「違う…」 タバサがようやく搾り出した言葉を聞き、ジャンガは「はァ?」と眉間に皺を寄せる。 「何が違うんだ?本来の『シャルロット』は明朗快活な少女だったと聞いたゼ。…なのに、テメェはどうだ? 人形みたいに無表情、必要な事以外は話さないし…人付き合いもしない、それで…いつも一人でいる。 まるで別人じゃねェか…?明朗快活って言葉が、暗い人間を指し示すんでもなければな。 だから、テメェは『タバサ』なんだよ。『シャルロット』じゃねェんだよ!何にも違わねェんだよ!!」 「違う!」 珍しくタバサが叫んだ。 しかし、ジャンガは止まらない。 「あの爺が言ってたゼ!『シャルロット』の母ちゃんは娘を庇って自ら毒を飲んだってな! 身を挺して娘を庇ったんだ、泣かせるじゃねェか!!娘を愛してる証拠だ!なのに……」 そこで言葉を切り、ジャンガは爪をタバサに突き付ける。 「テメェは…その母ちゃんの行動を無駄にしやがった!復讐なんて”バカらしいほどに無駄な”事を考えた為にな!」 「バカらしい…?」 タバサは唇を噛み締める。自分と母がどれほどの苦しみを味わったか知りもしないで、こいつは何を言うんだ? そんなタバサを見てジャンガは目を見開き、嘲笑う。 「キーッ!キキキキーーーッ!!傑作だゼ…傑作!これほどまでに親の愛情を踏み躙った奴は始めて見るゼ! ……いや、二人目か?まァ、いいけどよ!…にしても、本当に良かったよな?」 「何が…?」 「テメェの親が狂っていてよ!?今のテメェを見ないでもらえて良かったじゃねェか。 母ちゃん狂わせてくれた貴族には、礼の一つでも言ってやったほうがいいんじゃねェか? キーーーッ!キキキキキーーーッ!!!」 ――もう限界だった…… ――気が付けば、タバサは『ウィンディ・アイシクル』をジャンガ目掛けて放っていた。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
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(エロ画像削除嫁2) (前回の話はコチラ→エロ画像削除嫁1) 678 :名無しさん@HOME:2007/07/19(木) 19 00 51 0 何スレか前にセクハラウトのエロ画像・動画を削除した嫁です。 先日の連休にとどめさしてきました。 トメが夫に「連休に来てくれないか」と提案してきました。 自分から来いと言う事は滅多にないトメなので、 旦那と二人で不思議に思いながら行ったところ、 PCをウトが勝手に使えないようにしてほしいとトメに言われました。 ウトがエロ収集を再開し、それがトメにばれたようでした。 夫とトメにウトのエロが明らかになったところで天然を装って 「ウトさんはいつまでもお若いんですねー。 でも、もう少し世間の目を気にしたほうが良いですよー。 嫁の肩を揉んだりとか、お尻触ったりとか、お風呂に顔出したりとか Tシャツをめくろうとするとか、これって世間的には全部 セクハラに当たるんですよー。」 ウトは途中で「ちょっ、嫁子さん」と言いかけましたが そのまま続けて、 「夫さんのお父さんだからと思って今まで言いませんでしたけどー、 世間的にはこれらは全部立派なセクハラなんですよ。 訴える事も出来るんですよー。 私がやめて下さいって言うたびにスキンシップだって笑ってましたけど、 世間から見たらどう思われるか、もうちょっと考えた方が良いですよー。」 顔はあくまでも笑顔のまま、語尾も延ばして 天然っぽくなるように言ってきました。 679 :名無しさん@HOME:2007/07/19(木) 19 03 10 0 GJ!!! 680 :名無しさん@HOME:2007/07/19(木) 19 05 55 0 周囲の反応をkwsk 681 :名無しさん@HOME:2007/07/19(木) 19 09 05 0 マジで訴えてやれ! 682 :名無しさん@HOME:2007/07/19(木) 19 09 08 0 反応plz 683 :名無しさん@HOME:2007/07/19(木) 19 09 15 0 ウトは何か言いたそうにしてましたが、全てトメが制止。 「息子君、嫁子さん、悪いけど今日はこれで帰ってもらえる? 嫁子さんには本当にごめんなさいね。 息子君、あなたからもよくよく謝っておいて。」 と半ば追い出されるようにして出てきましたが、 普段おっとりめのトメがあんなにビシッと仕切るのを初めて見ました。 帰りの道中で夫はひたすら「すまない」と連呼。 セクハラ発言は毎回〆てくれていた夫ですが、まさか行動にまで 移しているとは思っていなかったとのことでした。 今のところ義実家からの連絡は一切ありません。 あまりの静けさがちょっと怖いくらいですが、 全部ぶちまけてものすごくスカッとしたので、 正直ウトがどうなろうとどうでもいいですwww 長文すいませんでした。 NEXT→716
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前ページ次ページ未来の大魔女候補2人 未来の大魔女候補2人 ~Judy Louise~ 第2話後編『ジュディと老爺の関係』 「ミスタ・コルベール」 「おや? ミス・タバサ、丁度此方も探そうとしていた所です」 コルベールが学院長室から退出すると、ドアの横に蒼髪の少女が待っていた。 タバサは言葉少なに声を掛けて、小さくペコリと頭を下げる。 「赫々然々」 「成るほど。コレコレウマウマと言うわけですね」 タバサは医務室で女の子に起こった異変と、ルイズを運んできたキュルケに2人の看病を頼んだことを手短に伝え、コルベールは言葉少なに語られた内容を正確に把握する。 「ワザワザ伝えに来てくれたのですね? 有難う御座います。 しかし、これでまた1つ問題が増えましたな。 女の子に現れたルーンらしき痣、確りと究明せねば彼女の親御さんに申し訳が立ちませぬ」 「…………」 タバサは小さく頷きを返す。 道中それ以上の会話はなく、2人は並んで階段を下りて水の塔に在る医務室へと歩を進める。 特筆に価する出来事は何も起こらず、あっさりと医務室へと辿り着く。あえて語る事があるならば、医務室の向こうの角に金の巻き髪が揺れるのを見た事くらいだ。 医務室の外には3メイル程ある火蜥蜴と、それより一回り小さい巨大蛙が居た。キュルケとルイズの使い魔である。 寝ていた火蜥蜴は、2人の接近に気がついて顔を上げるが、巨大蛙の方は、相変わらず表情の読めない顔で鎮座している。 部屋の中からは、何やら物音が聞こえてくるが、きっとルイズとキュルケが喧嘩をしているのだろう思い、コルベールは気にせずドアノブに手を掛けた。 まったく喧嘩するほど仲が良いというが、TPOを弁えて喧嘩して欲しいものだとコルベールは思いながら、ドアノブを捻る。ガチャリとラッチが内側に引き込まれる音が響き、抵抗のなくなったドアが蝶番を軋ませて開かれた。 医務室特有の臭いが鼻を刺す。開かれたドアの先で2人が見たものは、ベッドにキュルケを押し倒しているルイズの姿であった。 それだけならば、取っ組み合いの喧嘩をしていたと解釈するのだが、それでは顔の上気したキュルケの説明が付かない。 と、成れば、コルベールは自分の評価が間違っていたと考える。 つまり、2人の仲は『喧嘩するほど仲が良い』と言うレベルではなく、唯為らない関係であると認識するには十分であった。 ならば、何時も喧嘩していたのは、周りの目を欺くためだったのか? 成程、2人の家は仇敵同士であると言う事実を踏まえれば、関係を知られたくないと思うのは当たり前だ。 未来ある若者の為に、自分は何も見なかった。1時間ほどしてから、また来よう。そうコルベールが判断を下すのに要した時間は、僅か5秒足らず。 「ごゆるりと……」 「…………」 コルベールは平静を装って踵を返す。タバサは何も言わないが、小さく頷いてからコルベールを倣って回れ右をする。 「待って下さい、ミスタ・コルベール! 何か勘違いしていらっしゃらないですか!?」 「大丈夫です。このことは誰にも言いません。私の胸の中に仕舞って置きますから安心を」 「絶っ対、盛大な勘違いをしてらっしゃいます! ただ喧嘩をしていただけです。お願いですから仲裁するなり、説教をするなりして下さい!」 「判っています。判っていますぞ。このコルベール、伊達に年を重ねている訳では有りません。この位の空気を読むことは造作もないことです。 ですから、言い訳はしなくても宜しい。誰も医務室には近づけさせません」 「お願いですから話を聞いて下さい! 誤解なんですってば!」 コルベールの襟元を掴んで、必死に誤解を解こうとするルイズだが、コルベールは悟りきった表情で優しい言葉を掛けてくる。髪も無ければ、取り付く島も全く無いコルベールであった。 暫らく呆けていたキュルケだが、ルイズに遅れること数瞬、事の重大さに気が付き、自分の親友にヨロヨロと近づいて声を掛ける。タバサは眼鏡の奥から、平静な瞳を返す。 「ねえ、タバサ? 貴女は判ってくれるわよねえ? これは事故なのよ。お願いだから先生を説得するのに協力して」 「…………」 その懇願にタバサは『判っているから何も言わないで。どんな事になっても私は貴女の友達で味方だから』とでも言うかのように、サムズアップを返す。 「タバサぁ~ お願いだから私の言う事を信じて!」 「誤解なんです、ミスタ! 私とコレは仲良しなんかじゃありません!」 「…………」 「う~む……」 ルイズとキュルケは、それぞれコルベールとタバサに縋り付いてガクガク体を揺らしながら訴える。 余りにも必死な様子にコルベールは、もしかしたら勘違いだったのでは? と、いう疑念が浮かんでくる。 改めて話を聞こうと耳を傾けようとした時、4人の中の誰でもない声が聞こえてきた。 「う~ん…… ここ、ドコ?」 ルイズが寝ていたベッドの隣。白いカーテンで区切られているベッドから、女の子の声が聞こえる。 その声を聞いて、コルベールは此処に来た目的をはたと思い出す。 取り合えず、ルイズとキュルケには、勘違いしていた事を後で謝っておこう。そう考えながら、襟元を掴んでいるルイズの腕をやんわりと解いて部屋の中にはいっていく。 それでも、しつこく追い縋って来るルイズをチョップで引き剥がして、閉じているカーテンに手を掛ける。 カーテンを引くと、医務室の簡易ベッドの上で上半身を起こしている金髪の女の子が此方を伺っていた。不安を与えないように極めて優しい声で話し掛ける。 「目が覚めたようだね。 何処か痛い所は在りますかな?」 「えっと…… 少し頭が、ぼや~ってなってるけど、ダイジョウブです」 「そうですか。それは良かった。 それでは、貴女のお名前を教えて頂けますかな? 私の名前はジャン・コルベールと申します。 後ろに居るピンクの髪の子がミス・ヴァリエール。蒼髪の子がミス・タバサ。赤髪の子がミス・ツェルプストーです」 「ハイ。わたしの名前はジュディスです。でもみんなからは、ジュディって呼ばれています。 コルベールさん、ココはドコですか?」 ジュディと名乗った女の子の質問に、コルベールは丁寧に答える。 「ここは、トリステイン魔法学院です。分かりますかな?」 「トリステイン? ドコですか?」 「トリステインを知らないなんて、一体どんな田舎から来たのよ?」 クエスチョンマークを頭の上に乗せて首を傾げるジュディに、コルベールの後ろからルイズが口を挿む。レディとしてはしたない行為だが、ハルケギニアで最古の伝統を誇るトリステインを知らない者が居るとは、とても信じられなかったからだ。 「フム…… 聞きたい事はまだ在りますが、学院長がお呼びですから続きは学院長室で話しましょう。 ミス・ジュディス、私の後に付いて来て下さい。ミス・ヴァリエールとミス・タバサにもご同行願います」 「はーい。でもコルベールさん、わたしのことはジュディで良いですよ?」 「それではジュディさん、行きましょうか」 「あの~ ミスタ・コルベール、私もなんですか?」 「当然です。この子を召喚した張本人なのですから、つべこべ言わずに付いて来なさい」 コルベールは不本意な表情を浮かべるルイズに、ジュディとは打って変わって厳しい言葉を掛ける。 その強気な態度にルイズは鼻白んでしまう。 一方ジュディは、危なげ無くベッドから降りてブーツに足を通す。荷物掛けからネクタイを手に取り、手馴れた様子で締める。 そして、白いブラウスの上に赤い魔道着を纏い、更にその上に紫のローブを羽織ってバッグを逆袈裟に掛ける。仕上げに、大きな紫の尖がり帽子を被って着替えは完了した。 ジュディが荷物を持って出発しようとした時、何とかタバサの説得に成功したキュルケが声を掛ける。 「ミスタ・コルベール、私も同行しても宜しいでしょうか?」 「却下します」 「ええっと……」 即決で答えが返ってくる。取り付く島も無いコルベールに、キュルケは鼻白み言葉が閊える。 その隙にコルベールは3人を連れて、さっさと医務室から出て行ってしまった。 ジュディが医務室を出ると、巨大な蛙が近寄ってきた。 「あれぇ? ポセイドン、如何して実体化してるの?」 「ひぃぃぃっ!」 ジュディは不思議に思う。今まで寝ていたのだから、巨大蛙-ポセイドン-は非実体化しているはずだ。もしかして、寝ぼけて実体化させてしまったのだろうか? と、首を捻る。 取り合えず非実体化させようと、ジュディは意識を集中させる。だが、幾ら集中しても、自分の中に在るはずのポセイドンの存在が感じられない。 他の2体のファミリアの存在は、感じる事ができるのに、如何いう訳かポセイドンの存在がぽっかりと抜け落ちて、別の何かに置き換わっているのを感じる。 取り合えず、ポセイドンの背に腰掛けて、代わりに置き換わった何かに意識を集中させる。 「ちょっと! 誰に断って人の使い魔に乗っかってんのよっ!」 その怒鳴り声にジュディは驚き、顔を上げる。声の聞こえてきた方向に眼を向けると、そこにはコルベールの姿が在り、その隣にはタバサが立っている。 しかし、先程響いた声は女性のものだ。ジュディはタバサの方を見やるが、タバサは湖面の様に静かな視線を返してくるだけだ。 「聞いてるの!? さっさとソレから降りなさいっ!」 その声は、確かにコルベールの方から聞こえてくるのだが、明らかにコルベールの声ではない。 眼を点にしているジュディに、タバサが後ろだと指を指して教える。 「ミス・ヴァリエール…… 言いたいことがあるなら、せめて私の背中から顔を出しなさい」 呆れてルイズに話しかけるコルベールの様子から、ジュディは成程と納得する。つまり、ルイズがコルベールを盾にしてジュディに文句を言っていたのだ。 「言いたい事があるなら、きちんと顔を見せなさい」 「いゃ…… んーっ、ん――っ モガモガ……」 今までの様子から埒が明かないと判断したコルベールは、無理矢理ルイズを背中から引き剥がし口を塞いでからジュディの前に立たせる。 矢面に立たされたルイズは、暫らくもがいていたが、やがて痙攣して大人しくなった。 「ミス・ヴァリエール、落ち着きましたか? 使い魔を見る度に叫んでいては話が先に進みませんぞ。先ずは、為るべく見ない様にしてみなさい」 「は、はい……」 「あの~? ヴァリエールさん、ポセイドンが使い魔って如何いう事ですか?」 ルイズは眼を合わせずに、ジュディのジュディの質問に答える。逃げ出そうにも、肩はガッチリとコルベールに抑えられている。 「言葉の意味どおりよ! ソレは私が召喚して、私の使い魔になったのよ! だ、だからソレはもう貴女のペットじゃないの!」 「えっ! それって、どういう意味!? ポセイドンは、ペットじゃなくてわたしのファミリアだよ。 どうやってわたしのファミリアを、ヴァリエールさんのファミリアに出来たんですか?」 「どうやってって…… コントラクト・サーヴァントで契約したのよ。 ……契約した記憶は無いけど、そうですよねミスタ・コルベール? 所で、ファミリアってなによ?」 「確かにミス・ヴァリエールは、コントラクト・サーヴァントを成功させて、そのポセイドン君を使い魔にしました。そして、その証拠が左前足に刻まれたルーンです。 ですが……」 コルベールはルイズの言葉に肯定を返すが、ジュディの言動から得られた推測に、額に汗を滲ませる。 固い唾を飲み込む音が、辺りに小さく響く。 「ジュディさん、お1つ聞きたいのですが、そのファミリアというのはもしかして、使い魔と同義語ですか?」 「そうですよ? 知らないんですか?」 「なんと……っ! また1つ問題が増えてしまいましたか……」 「どう言う事ですかミスタ・コルベール!? アレは使い魔じゃないって言ってたじゃないですかっ!」 ポセイドンに刻まれたルーンを確認していたジュディは、当たり前の事を聞かれてキョトンとする。 ルイズとコルベールは、愕然とし、泡を食ったかのような表情になる。 難しい顔をしているコルベールをルイズが非難するが、この状況を動かし得るものではない。予想外の出来事に、コルベールの頭皮は、確実に大ダメージを受けている。 流石のタバサも、この事態に眼を大きくさせて驚いている。 「うむむ…… 何にせよ、これ以上此処で話をしている訳には行きません。早く学院長室に行きましょう。話しはそれからです」 「あの~、ミスタ? 私は如何すれば?」 急ぐコルベールに話しかけるのは、先程袖にされたキュルケだ。 「むっ? 今の話を聞きましたね?」 「はっ? はい聞きましたが、それが何か?」 「ならば、余計な事を言いふらさないように連行します。答えは聞きません」 「ご、強引ですのね…… まあ、宜しいですわ。行くわよフレイム」 「わっ! おっきなトカゲさん!」 不本意な形ではあったが、同行を許されたキュルケは、自分の使い魔を呼ぶ。その呼びかけに、ジュディの背後に居た火蜥蜴がのっそりと歩み出る。 フレイムと呼ばれた火蜥蜴は、キュルケの足に体をこすり付けて友愛を表す。 その存在に気が付いていなかったジュディは、初めて見た生き物にビックリする。それに気を良くしたキュルケは、上機嫌に自慢を始める。 「うふふ。もしかして火蜥蜴を見るのは初めて? この子は火竜山みゃ……」 「お喋りは後にしなさい。 時間は一滴の水の秘薬よりも貴重なり、です。学院長室へ急ぎますぞ!」 「……はい」 「待って下さい、ミスタ・コルベール。少し早いです」 「追いかけてポセイドン」 コルベールは無駄話を切り上げさせて早足で歩き出す。文句の1つも言いたいキュルケなのだが、置いて行かれるのは嫌なので後を追いかける。 一行は水の塔を出て、本塔へと続く石造りの通路を急ぐ。コルベールはあくまで早歩きなのだが、ルイズ、タバサ、キュルケは殆ど走っているのと変わらない。 その後をポセイドンに乗ったジュディとフレイムが追いかける。 建物の中でポセイドンに乗るのは礼儀に外れるのだが、ジュディ自身が小柄であるのと重い荷物を持っているのが相まって、走っていては置いて行かれてしまうのでやむなしの行為である。 本塔に入ってもコルベールの足が鈍る事は無く、相変わらずの姿勢で歩き続ける。止まる事無く一気に最上階まで上りきり、5人と2体は学院長室の前に到着した。 ジュディはポセイドンに乗っていたため疲れはないが、ルイズとキュルケは肩を大きく上下させて息を整えている。それとは対照的に、コルベールとタバサには、さしたる疲労は見受けられない。 コルベールは二人の息が静まるのを待ってから、学院長室の両開きの扉をノックして来訪を告げる。 「オールド・オスマン、例の件でお話があります」 「……うむ、入ってきたまえ」 「それでは、失礼いたします」 「しつれいします」 「「し、失礼いたします」」 「…………」 コルベールを先頭に、ジュディとポセイドン、ルイズとキュルケ、タバサの順番で入室していく。 その際、コルベールは模範的な、ジュディはポセイドンから降り、帽子を脱いでからコルベールの仕草を真似て、ルイズとキュルケは些か慌てて、タバサは静かに、一礼をする。 最後に入室したタバサが後ろ手で扉を閉め、フレイムは廊下に取り残される。慌てて扉を前足で叩くが、誰も気づかない。 机に両肘を突き、手を口の前で組んだオスマンが、5人と1体を出迎える。秘書机で仕事をしていたロングビルは、ポセイドンを見て顔が引きつっている。 「思ったより早かったのう」 「そんな事より、大変なことが起きました! 鼻毛を抜いたり、セクハラをしている場合ではないですぞ!」 「な、なにを言っているんだね、君?」 「そんな事はどうでも良いのです! 先ずは彼女の話を聞いてからです。 さっ、先ずは自己紹介を」 何時にないコルベールの強気な態度に、さしものオスマンもたじろぐ。 「始めまして。わたし、ジュディです」 「ほう~ ジュディちゃんと言うのか、可愛いのう。 ワシはこの学院の長、オスマン。人はオールド・オスマンと呼ぶ。そちらの女性は、ワシの秘書をしてくれておるミス・ロングビルじゃ」 「えへへ アリガトウございます、オスマンさん。 ロングビルさんもよろしくお願いします」 オスマンの言葉にジュディは素直にお礼を返すが、他の人間は少し白い目でオスマンを見ている。まさしく、日頃からの言動の賜物であろう。 その視線に気が付いたオスマンは、ゴホンと咳払いをして誤魔化す。 「それでは、どの様な状況になっとるのか説明してくれい」 「はい。ではミス・ヴァリエール、前へ」 「は、はい。では説明します……」 「成程。召喚の儀式でその巨大蛙とジュディちゃんを呼び出して、その蛙を使い魔にしたら、それはジュディちゃんの使い魔だったと言う訳じゃな? ミスタ・コルベール、君はディティクトマジックを使ってルーンの有無を調べたといったね? 本当に無かったんじゃろうな?」 「勿論です。目視でも調べてみましたが、ルーンは左前足のモノのみです」 「ふーむ…… まっ、取り合えず下がりなさい」 オスマンは顎に指を当てて唸る。 召喚でジュディを呼び出されたのは、不幸な事故であったと言うしかない。 しかし、他人の使い魔に契約出来たと言うのが腑に落ちない。 試したという前例は無いが、そもそも他人の使い魔にコントラクト・サーヴァントが効くはずが無いのだ。と、言うことは、あの巨大蛙はジュディの使い魔ではないと言うことになるのだが、ジュディがそんな嘘を付く理由が判らない。 オスマンは、一人で考え込んでいても埒は明かない、と思考を中断して、ジュディに事情を聞くために話しかける。 「ジュディちゃんや、此処に来る前はどうしておったのか爺に教えてくれるかのう?」 「はい、わかりました。うちにオジイチャンの古い友達がたずねてきて……」 「そうか、そうか。つまり、ジュディちゃんの家はサドボスという町で魔法屋を営んでおったんじゃな。 そして、クライドという魔道士にジュディちゃんの祖父が鏡に閉じ込められて、その時に発動した防衛術とやらで家族が離ればなれになってしまった。 それで、ジュディちゃんが家族を探す旅に出たところでサモン・サーヴァントのゲートが開き、召喚された。そう言うわけじゃな?」 「そのとおりです。だから、早く家族を探しに行かないとダメなんです」 「まあ、慌てる事は無い。ワシもお手伝いして上げるから、大船に乗った気で居なさい」 「本当ですか? アリガトウございますっ!」 「ふぉっふぉっふぉ、礼などいらぬよ。小さなレディを手助けするのは、年寄りの責務じゃて。 さて、使い魔の件じゃが……」 「オールド・オスマン、その前にもう1つ問題が発生しました」 「……なんじゃね?」 話を中断されてオスマンは、不機嫌な声で続きを促す。これだけでも十分なのに、まだ問題があると言う理由も少なからずあるだろう。 コルベールはタバサを手招きして前に出る。 「これはミス・タバサが気が付いた異変です。ミス・タバサ説明を」 「彼女の左手の甲に、ルーンらしき痣が現れました。原因不明」 「左手? ……ホントだ、痣が出来てる」 今、指摘されて初めてジュディは左手の痣に気が付き、驚きの声を上げる。 これまた、厄介な問題を突きつけられたオスマンの心労は如何ほどか。オスマンは表情には出さないが、心の中では大汗をかいている。 「……ルーンらしき痣? ジュディちゃんや、こっちに来て見せてもらえるかのう? ディティクト・マジックも掛けるがかまわんかね?」 「はーい、どうぞ」 「ちなみにこれが、ポセイドン君に刻まれたルーンです。見比べてみましょう」 ジュディは机の上に身を乗り出して、左手の甲をオスマンに差し出す。それと同時に、ポセイドンに刻まれたルーンをスケッチしたノートも差し出される。 オスマンは、机に身を乗り出して軽くジュディの手を取って杖を振るう。輝く粒子が小さな手を駆け巡り、情報をオスマンに伝える。 「ポセイドン? ああ、その巨大蛙の名前か。 ふむ、確かにルーンのように見える痣じゃのう」 「何かの手掛かりになると思いましたが、ポセイドン君のルーンと見比べても全く違いますね」 「あのー、これ何なんですか?」 「すまんのうジュディちゃん、もう手を引っ込めて良いよ。その痣の事じゃが、何か体に異常を感じたりはしておらんかの?」 オスマンの質問に、ジュディは小さく眉を寄せて考え込む。 「んー? そうだ、ポセイドンが居たところに、何か変なモノがある様に感じます」 「ポセイドンの居たところ? ジュディちゃん、ポセイドンは君の使い魔だった証拠はあるかね?」 「証拠? 眼に見えるようなのは有りません。だけど、ポセイドンの存在が全然感じられなくなってます」 「つまり、五感の共有が出来なくなったと?」 「そうです。他の子の存在は感じられるのに、ポセイドンだけ居なくなっちゃってるんです」 オスマンはジュディの言葉に引っ掛かりを覚える。ジュディは今、他の子と言った。それは他に使い魔が居るという意味に聞こえる。 だがしかし、使い魔は1人1体というのが原則である。使い魔を2体以上召喚しようとしてもサモン・サーヴァントは絶対に成功しない。 「ジュディちゃん、他の子と言うのは他の使い魔という意味かね? 君は何体も使い魔を連れているのかね?」 「? そうですよ。あと残っているイアペトスとアストライオスが、わたしのファミリアです。見せましょうか?」 あっけらかんとジュディは答える。次の瞬間、ジュディの隣にポセイドンと同じくらいの大きさがある狛犬の様な動物が出現した。 突然の出来事に、ジュディ以外の全員が度肝を抜かれる。 「そ、それはなんじゃね!?」 「いきなり出てきましたぞ!?」 「紹介します。わたしのファミリアのアストライオスです」 ジュディは、何故そんなに驚くのか不思議に思いながら、自分のファミリアを紹介する。 オスマンとコルベールは驚きの声を発するが、他の4人は言葉を失っている。タバサだけは、驚いているのかいないのか良く判らないが、キュルケには凄く驚いていると判った。 オスマンの脳裏には1つの仮説が浮かび上がる。そして、その仮説は限りなく真実に近いと感じるが、早合点はしてはいけないと言い聞かせて、ジュディに説明を求める。 「もうその使い魔、いやファミリアか、は仕舞ってほしい。 そしてジュディちゃん、そのファミリアについての定義を教えて欲しい。 君も奇妙に感じているかも知れぬが、如何やらワシ等の間には、認識の齟齬があるようじゃ」 「はーい、わかりました。 ファミリアと言うのは、術者の五行要素を抜き出して形を与えられた術者の分身のようなものです。 ファミリアは五行の力と術者の魔力の塊で、術の行使を助ける役目を持っています」 「術者の分身……? そうか、ならば…… ジュディちゃん、その五行と言うのは何かね?」 「五行と言うのは木、火、土、金、水の世界の理を司る力のことです。 それぞれが強めあったり弱めあったりして、五行は世界を循環させているんです」 「つまりそれは、精霊……」 「ミスタ・コルベール! この話はこれでお終いじゃ。他の者も他言無用じゃぞ」 仮説を立てようとするコルベールをオスマンは、強い声で制止する。そして、他の者にも言及を封じ、強引に話を切り上げる。 今の説明から、ジュディは四系統魔法とは異なる魔法の使い手と言うことになる。そしてそれは、エルフ等が使う先住魔法にも似た理論を持つ魔法系統である。 平和の安寧の中にあって、多少のトラブルを望みはしたオスマンだったが、今更ながら平和の有難さが身に染みる。 若い頃は平和の有難さなど判っておらず、老いぶれてから平和の有難さを判った気でいた自分の愚かさに呆れかえる。 「それで、その痣の件じゃが予想が付いた。 コントラクト・サーヴァントは、サモン・サーヴァントで呼び出された生物を使い魔にする魔法じゃ。 しかるに、ファミリアが術者の分身なのならば契約可能なのじゃろう。 そして、ファミリアと術者が繋がっているが故に、ジュディちゃんにも契約の影響が出た、という訳じゃな。なんせ、術者の一部を乗っ取った訳じゃからのう」 「じゃあわたし、ヴァリエールさんの使い魔さんになっちゃったの?」 「いや、それは無かろう。何せこれは痣にしか見えんし、ルーンとしては認められぬものじゃて」 ルーンとは力在るシンボル。オスマンがディティクト・マジックで調べてみても、痣からは魔力を感じられなかった。ゆえにこれは、使い魔のルーン足り得ないと言うのがオスマンの見解だ。 「そして、既に刻まれたルーンは、使い魔の死によってしか解除されん。ジュディちゃんには悪いが、ポセイドンの事は諦めて欲しい」 「え~? ポセイドンを諦めなくちゃいけないの?」 「すまんのう。コントラクト・サーヴァントを解除する方法はソレしかないんじゃよ。 こちらで調べてはみるが、余り期待せんでくれよ」 「ううぅ~」 あからさまに落胆するジュディをみて、部屋に居る者は多かれ少なかれの罪悪感を感じる。自分の使い魔を他人に奪われたショックは、いかばかりだろうか。 オスマンはすかさずフォローを行うが、さしたる効果は見られず慌てて話を切り替える。 「そうじゃ! ジュディちゃん、家族の居る位置がわかる水晶を持っていると言ったね? ソレを使って居場所を探ってみたらどうじゃ?」 「うぅ…… そうですね! 先ずは家族を探さなきゃ!」 「ジュディさん大丈夫ですか?」 「ダイジョウブです! 水晶さん、皆がいる方向を教えて下さいな?」 気丈に振舞うジュディをコルベールが心配するが、ジュディは前向きに家族を探す事を考える。 ジュディは肩に掛けているバッグから水光晶輪を取り出し、家族のいる方向を探す。 だが、方角を示すはずの赤い光点は、水光晶輪の中をグルグル回り続けて一向に方向が定まらない。 「あれ~? どうしちゃったの? 水晶さん」 「どうしたんじゃ?」 「水晶さんが教えてくれないの。何処にいるのか判らないみたい」 「ふーむ、ソレを貸してみてくれんかの?」 「はーい、ドウゾ」 オスマンは杖を振るい、手渡された水光晶輪にディティクト・マジックを掛けて良く観察する。円環状の水晶には見慣れぬ記号の羅列が4つ、等間隔で並び、光の赤点は方向を示さずにフラフラと揺らいでいる。 深知の魔法が伝える情報に、やはりと呟く。水光晶輪には魔力を感じるが、それがどう作用するのかが判らない。 そのことは、四系統魔法とも先住魔法とも違う魔法体系の産物である事を示している。先住魔法とはエルフや吸血鬼、そして既に絶滅した韻竜等が使う精霊の力を借りる魔法体系であり、人間には使う事は出来ない。 齢が300を超えると、まことしやかに囁かれるこの老魔法使いは、実際に先住魔法を見たことが何度もあり、どういった物かも理解している。だが、この水晶に使われている魔法技術は、そんな長い人生の中で培った知識を持ってしてもわからない代物であった。 水光晶輪が作用しない原因として、オスマンに1つ考えが浮かぶ。 「ジュディちゃんや、君はサドボスという所に住んでいたといったね? そして、君は旅に出るところだった。 ならば、地図は持っているかね? 持っていたら見せて欲しい」 「持っていますよ、ちょっと待って下さいね…… はいドウゾ、世界地図です」 ジュディは旅行カバンを開き、羊皮紙で作られた地図を取り出す。何枚か在る地図の中でも広範囲を記したもの、つまり世界地図をオスマンに渡す。 手渡された地図を見てオスマンは驚く。海岸線が詳細に描かれ、主要な都市と街道が記されている。此処まで詳細な地図は、中々お目にかかることが出来ない。 そしてなにより、それはハルケギニアの地図ではなかった。見知った地形がひとつも無く、幾つかの大陸が描かれている。そして、水晶にあった記号と似通ったものが要所要所に書かれており、文字だと推測できる。 「ジュディちゃん…… よく聞いて欲しい。そして皆も、今から話す事は決して言いふらさず、胸の内に留めて欲しい。 ……よいな? 結論から述べよう。ジュディちゃんは、ハルケギニアとは違う場所から呼び出されたようだ」 「ハルケギニアではない? ならば東方?」 「其れは判らぬ。だがワシは、東方ですらないと考える」 「東方ですらない……?」 「そうじゃ。この地図には幾つかの大陸が記されておる。そしてそれらの大陸は、詳細に記されてはおらん部分がある。 これは世界地図だといったね?」 「そうです」 「つまり、まだ未開の地があるという訳だ。 そこからワシは、ハルケギニアや東方もそういった大陸の1つであると考える」 「つまり、彼女は別大陸から来たと?」 「うむ。 そして水晶は、余りにも距離がかけ離れているが故に探知範囲外となり、正しく動作しなかったのじゃろう」 オスマンは余りにも大胆な仮説を述べる。 突拍子も無い話に、ジュディ以下5人は眼を白黒させて困惑している。辛うじてコルベールだけが、話しについて行けている状態だ。 オスマンは片手を挙げて落ち着くように、と言う。 「まあ、これはあくまでも仮説じゃ。 本当の事はまだ何も分かっておらんのじゃから、心に留めておくだけでよい。 それよりも重要な事は、ジュディちゃんの処遇じゃ。行くべき方向も、帰るべき手段もサッパリ分からんのじゃからのう」 「ホントウだ、どうしよう……?」 不安げに身を捩るジュディを見て、成り行きを見守っていたルイズの罪悪感が膨れ上がる。 呼び出してしまったのは自分なのだから、自分が責任を取らなくては。と、決心して進言しようとする。 だが、ソレよりも一足早くコルベールが発言する。 「如何するのです、オールド・オスマン? と、取り敢えずは聞いておきましょう。その顔は、もうとっくに如何するかは決めているのでしょう?」 「面白くないのう、お主。まあ如何するのかはもう決まっておる。 ジュディちゃんや、さっきも言ったがワシが何とかして上げよう。帰る方法が見つかるまでこの学院に留まればよろしい」 「でも…… そんな事してご迷惑じゃないですか?」 「子供が遠慮するもんじゃない。爺に任せておきなさい。 なんなら、此処に居る間は生徒になってみるかね?」 「オールド・オスマン、彼女は話を聞く限り平民です。此処は伝統ある魔法学院ではないのですか? それに彼女の使うファミリアの件もあります」 発言をしたのは秘書のロングビル。オスマンの不用意な発言を諫めるために、キツイ言葉を浴びせる。 だがオスマンは、風に靡く柳のように言葉を軽やかに受け流す。 「お堅いのう、じゃから逝き遅れるんじゃ。平民だと知っているのは此処にいる者だけじゃし、ワシが身元保障人となれば何も問題は無い。 ファミリアに関してもそうじゃ、黙っとりゃ分かりゃせん」 「しかし、彼女がこちらの魔法を使える様に成るかは分かりません」 「見学する位なら大丈夫じゃよ、本当に生徒になるかどうかは後で決めりゃ良い。 さて、長話も此処までにしよう。今日はもう休めば宜しい。急いで全部決める必要は無いじゃろ」 山の向こう側に夕日が沈んでいくのが見える。 夕映えは、森を鮮やかな朱に染め、燃え盛る炎の如く見せている。窓から差し込んでくる斜陽で部屋の明暗が深まり、夕刻が過ぎ去ろうとしているのを告げている。 突拍子の無い事の連続で、大人しく立っているしかなかった3人は、漸く話が終わった事に胸を撫で下ろした。 ジュディはまだ少し不安そうに俯いていたが、不安を振り切るかのように頭を振る。 「おっと、そうじゃ。まだ決める事があったわい。 ジュディちゃんをドコに泊まらせるかじゃ。寮に部屋は余っておったかのう?」 「そういえばそうですね、失念していました。ミス・ロングビル、寮に部屋が余っているかどうか分かりますか?」 「男子寮なら空いていますが、女子寮は既に満室と成っています」 「そうか…… ならミス・ロングビル、君の部屋に……」 「待って下さい! オールド・オスマン!」 「いきなりどうしたの? ルイズ?」 「私の部屋に泊まらせます。その子を召喚したのは私の責任です。ですから、その位の責任は取らせて下さい。 何から何まで学院に責任を取ってもらう訳には行きません!」 ルイズの申し立てにオスマンは、何か眩しいものを見るかのように眼を細める。 僅かに沈黙が降り、ルイズに一筋の冷や汗が流れる。それも束の間、すぐにオスマンは破顔一笑する。 「ソレだけで責任を果たしたと考えるのは、お門違いじゃぞ? だが、良い覚悟じゃミス・ヴァリエール、流石は公爵家の令嬢だと褒めておこう。その心を忘れるでないぞ? ジュディちゃん、彼女が部屋に泊めてくれるそうじゃ。お礼を言っておきなさい」 「アリガトウございます、ヴァリエールさん。ヨロシクおねがいします」 「え、ええ…… これは私の責任の取り方なんだから、お礼なんて要らないのよ」 「決まりじゃな。ミス・ロングビル、彼女達を送っていってあげなさい。そうしたら、今日はもうあがってヨロシイ」 「分かりました」 6つの長い影法師が学院長室から出て行き、扉がバタンと閉まる。 残ったコルベールとオスマンは互いに何も喋らず、暫し部屋に静寂が訪れる。 おもむろにオスマンはコルベールに話しかけた。 「のう、ミスタ・コルベール、君は五行の説明を聞いてどう思った?」 「はっ、言っても宜しいので?」 「此処にはワシと君しかおらん。そしてワシは君の意見が聞きたい」 「わかりました、私の考えを述べましょう……」 今回の成長。 ルイズは、立ち直りL1を手に入れました。 ジュディは、アストライオスがL2に成長しました。 第2話 -了- 前ページ次ページ未来の大魔女候補2人
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トラゾウがギーシュを圧倒した事で、私への視線にも少し変化があった。 けど、それ以上にトラゾウの周りが―― キュルケは何時ものこととしても、あのメイドに――タバサまで!? どういうことなのよ、これって。 アイツは私の使い魔なんだからッ! 宵闇の使い魔 第肆話:微熱の誘惑 虎蔵とギーシュの決闘。 オスマンとコルベールは、学長室の壁に掛けられた遠見の鏡でそれを眺めていた。 「ふむ―――勝ったか」 オスマンが軽く杖を振ると、効果が切れて普通の鏡に戻る。 コルベールがやってくるまでロングビルにセクハラを働いていた好色爺とは思えぬ、 真剣な様相で椅子に身体を深く沈めた。 「やはりあの使い魔がガンダールヴであることは、間違いないようですな」 「確かにのう――あの動きを見てしまえば否定は出来まい。しかし――」 何か言いたげなオスマンに、コルベールが鸚鵡返しに問う。 「しかし、いかにガンダールヴと言えども、あの動きは尋常ではあるまい。 最後の六体のゴーレムの攻撃を回避した手段も不明であるしの。 時に――お主、奴と一対一で勝てる自信があるか?」 オスマンの言葉に、コルベールは黙り込み、思考の海に沈む。 確かに、あのスピードは異常である。 少なくとも魔法を唱える隙は与えられないだろうし、並みの魔法では当てる事も出来まい。 本気で勝とうとするならば不意打ち――それも広範囲の魔法で一気に殲滅するしか―― と、其処まで考えたところでコルベールは頭を振ってその思考を振り払う。 「勝てる勝てないで言えば、勝つことは不可能ではないでしょう。 しかし、彼はミス・ヴァリエールの使い魔です。そのような必要性がありましょうか?」 「お主の言いたい事はわかる。だが、見たろう。あの笑みを――あれは人が浮かべる類の物ではない」 ぬぅ――と、コルベールも唸るしかない。 それ程の恐怖が、威圧感があの笑みにはあった。 近くに居た生徒たちは何も感じなかったのだろうか。 あれは獣の――それも生きるために戦うのではなく、望んで戦い、殺戮する獣の笑みだ。 「とはいえ、確かに最後はミス・ヴァリエールの言葉に従っていたようじゃな」 そう、ルイズの最後の叫び――あれが無ければ、ギーシュの片腕は容易く宙に舞っていた。 あの使い魔は確かに、ルイズには従ったのだ。 コルベールはオスマンの声でネガティヴな想像を振り切る。 「まぁ、暫くは様子見しかあるまい。厄介ごとが他に無いわけでもないからの」 「《土くれ》ですか」 コルベールの出した名前に、オスマンは面倒そうに頷いた。 「まあ、学院の宝物庫ならば問題は無いと思うがのう――」 一方、オスマンとコルベールが深刻な話をしているのと同刻。 既に人が立ち去った広場では、キュルケとタバサがあの決闘の検証をしていた。 「うーん――確かに彼は此処に居て、六方向からワルキューレの槍で刺された。 それは間違い無いと思うのよ」 腕を組みながら、虎蔵が変わり身を使った場所に立つキュルケ。 タバサもそれには同意する。確かに、見たのだ。 「けど、次の瞬間には彼は――上から降りてきて、ワルキューレの頭の上に立った」 と、今度は空を見上げる。 室内や森の中というわけでもない。 上には双月が浮かんでいるだけだ。 「で、その時には――槍が刺さった方の彼は、こいつになってた」 といって杖で六の槍痕が残る丸太をコンコンと叩く。 ただの丸太だ。 「どーいうことよ。これ」 お手上げ、と言わんばかりに肩を竦めるキュルケ。 タバサは僅かに考え込んで、 「――可能性としては――」 と呟き始める。 「彼が風のスクエアクラスであること」 「遍在!」 パンっと手を叩いて、それがあったわね、と納得するキュルケ。 そう。誰しもが彼を平民だと思い込んでいるが、もしメイジであるならば―― 「けど、それは無いと思う」 と、タバサの言葉がキュルケの思考を遮る。 なんで、と首を傾げるキュルケに、タバサは相変わらずの表情で、 「メイジであることを隠しているとすると、色々と不自然。 例えばもし、何か罪を犯していて正体が割れたくないメイジなら、あんな奇抜な方法で勝っては目立つ」 と、何時もよりだいぶ饒舌に喋る。 「それに――あの身のこなしのこともある」 なるほど、とキュルケも頷く。 魔法衛士隊ならあのような動きが出来るのだろうか。 難しいと思う。 なにせ目で捉えきれない程の超スピードだ。 「まったく、本当に何者なのかしら。流石にルイズも気になってたようだし」 「――解らない。でも、興味はある」 ――ただの《メイジ殺し》ではない。それ以上の何か―― キュルケの呟きに答えながらも、タバサはそう考えていた。 「うーん、いけないわね。火が付いちゃったかも―― タバサ、もしかして貴女もって事は無いわよね?」 歩き始めたタバサの後ろを歩きながら、自らの身体を抱きながらキュルケが言う。 親友の相変わらずの調子に、タバサは深い溜息をつくのだった。 夜。 虎蔵は昨日に引き続き、テラスに出てきては紫煙を燻らせていた。 あの後、厨房で茶を――もっとも紅茶だったが――を飲んでいたら、 決闘の話を聞きつけたマルトーが「我らの剣」だとか言って抱きついてきたり、 シエスタがやたらと世話を焼きたがってきたりと大変だった。 そして酒の匂いをさせてルイズの部屋に帰れば、やたらと不機嫌なルイズに行動を咎められるわ、最後の変わり身を問い詰められるわで、はっきり言って決闘が終わってからの方がよっぽど疲れたものだ。 ちなみにルイズは決闘時の精神的な疲労か説教疲れか、倒れこむようにベットに突っ伏している。 「あ゛ー。畳が恋しい――」 妙な疲れを感じて呟けば、随分と長くあの感触を味わってないことを思い出す。 ふぅ――と煙を輪っかにして吐き出す。 床に毛布だけで寝るのも別に平気ではあるのだが、こう、十分なリラックスは出来ない。 「さっきの餓鬼の部屋を借りるか?」 腰を抜かしては、同じ位の年頃に見える金髪の少女に介抱されていた姿を思い返す。 ――まぁ、今日はきっと連れ込んでいることだろうから勘弁してやるか―― ギーシュの名前も思い出せないままそう決め付けると、よっこらせ、と声に出して立ち上がる。 煙草を地面に落して踏みつけると、のんびりとルイズの部屋へと戻っていった。 翌日から、虎蔵とルイズの周りには妙に人が集まるようになって来た。 もともとキュルケは、学院の生徒の中では比較的ルイズにちょっかいを掛けてくる方であったが、最近はやたらと虎蔵の事を聞いてくる。 もっとも、聞かれたところでルイズにも答えられないので、人の使い魔にちょっかいを出すなと釘を刺し続けている。 まつたく聞いては居ないようで、ことあるごとに虎蔵に絡んでいってるのだが。 また、キュルケの友人であるらしいタバサからの視線も気になる。 彼女の場合、キュルケが送ってくるような質の物ではないだろうが、何か虎蔵を探るような感じを受ける。 彼女自身、あの日以来、虎蔵の正体が気になって色々と問い詰めてはいるのだが、あの手この手でかわされてしまっているのが現実だ。 飄々とかわされては、気がつけば居なくなっていたり戻ってきていたりするのだから、あまり強く出たところで意味が無いのは数日で理解した。 他の名前も知らない女生徒のなかにも、僅かながらだがファンが居るらしい。キュルケ曰く。 確かに、顔は悪くないし、そこらの男子生徒より背も高く、なにより強い。 なるほど、平民とはいえ多少は人気が出るのかもしれない。 さらに平民からはやたらと人気が出ているようで、食べ物はあのメイドが作っているらしい。 コックの連中からもやたらと好かれているようで、厨房に行っては酒を飲んで返ってくる事が多い。 相手がメイドではないようなのが救いだが。 ――救い?―― 救いとはなんだ。別に自分は、彼が誰と何していようとも、使い魔としての本分を果すならば構わないはずだ。 他意は無い。 後はギーシュがやたらと懐いているように見える。一方的にだが。 彼は全く良いところ無く負けた事で、女性とからの人気は地に落ちたようだが、それが逆に幸いしてモンモランシーとは復縁できたようだ。 まぁ、これはルイズに関係の無いことなのであっという間に頭から消え去った。 「はぁ――」 ルイズはベッドに横になり、天井を眺めながら溜息をつく。 彼は今夜もまた、ふらっと部屋を抜け出していった。 問い詰めたところによれば、テラスで煙草という細い葉巻のような物を吸っているのだという。 まぁ、部屋の中で座れるよりはマシなのだが、ここ数日の事を考えると、 こう頻繁に目の前から消えられるのは気分の良い物ではない。 再び溜息をついたて寝返りをうとうとしたところで、隣の部屋が僅かに騒がしくなッた。 またキュルケが男を連れ込んでいるのだろう―― と、何時ものように無視しようとしたのだが、 「まさか――」 ほんの僅かにだが嫌な予感を感じると、ルイズはベッドから起き上がった。 少し時間を遡る。 虎蔵がテラスに出て残り少ない煙草を咥えていると、何処からかフレイムがやってくる。 最近は妙にキュルケが絡んでくるのでよく見かけるが、この時間に見たのは初めてだった。 「何の用だ――って、言葉通じてんのか?」 自分とルイズが出来ない為か、主と使い魔の感覚共有はすっかり忘れている虎蔵は、フレイムの頭をぽんぽんと叩きながら口にする。 すると、フレイムは虎蔵の袖を甘噛みして、建物の中へと連れて行こうとする。 「こら、引っ張んな。んだよ、ついて行けば良いのか?」 何の用だかと呟くが、キュルケの部屋はルイズの部屋の隣りなのだから、別に無駄足になるわけではないか、とフレイムの後についていった。 ふむ、とルイズの部屋を一瞥してからキュルケの部屋のドアを開ける。 ノックなどするタイプではない。 「邪魔するぞ」 と、声だけは掛けて、ずかずかと踏み込んでいく。 部屋の中は暗かったが、窓から月明かりが入ってくることもあって、部屋の奥にキュルケが居ることは見えた。 「扉を閉めて貰える?風が入って寒いから」 そんなか?と、首をかしげながらドアを閉める。 すると、どこか嗅ぎ慣れた香りが感じられた。何か香でも焚いているようだ。 「これで良いだろ。俺ぁそろそろ寝ようと思ってたんだが――」 「あら、そうなの?なら丁度良いタイミングよ。こっちにいらっしゃいな」 虎蔵の言葉を遮るようにキュルケがそういうと、ランタンに火が灯り、彼女の姿をぼんやりと映し出す。 ベッドに腰掛けたキュルケはベビードールだけを着けた悩ましい姿を晒していた。 ルイズと同じ学院の生徒だとは思えないスタイルで、別にまったく似てはいないのだが、 召喚される直前まで抱いていた娼婦を思い出す。 「貴方はあたしをはしたない女だと思われるでしょうね。あたしの二つ名は『微熱』。 すぐに燃え上がって『情熱』に変わってしまうの」 くすりと艶美に笑いながらベッドから立ち上がると、虎蔵にしなだれかかってくる。 彼女自身からも甘い香りがした。 「なるほどな――」 虎蔵がそう呟くと、ポケットに突っ込んでいた手でキュルケの顎を押さえて軽く上を向かせると、やや強引に唇を奪う。 「んッ!?」 流石のキュルケも、あっさり乗ってくるどころか彼の方から手を出してくるとは思っていなかったようで、僅かに目を見開いて驚きを示す。 抵抗も拒絶もしなかったが。 暫くして開放されると、キュルケは先程よりも上気した表情で少し拗ねて見せる。 幾つか用意していた口説き文句も全て無駄になってしまった。 「思ってた以上に強引なのね」 「この時間に、んな格好で誘っておいて強引もなんもねーだろ」 キュルケは「それもそうね」と言って、押し倒されるように、しかし自らベッドに倒れこむ。 虎蔵にしてみれば、まあ悪くはない提案である。 昼間には、講義を抜け出してギーシュのベッドを借りて惰眠を貪ってはいることもあるが、夜は相変わらず床に毛布である。 加えて、召喚直前からお預けを喰らっていることを思い出せば、キュルケの提案は十分に魅力的だ。 最近随分と世話を焼こうとしてくるシエスタは、下手に手を出すと面倒なことになりそうではあるが、 こっちならばそういった事も無さそうで、こう言ってはなんだが都合が良い。 ベッドに倒れたまま上気した表情で見上げてくるキュルケを眺めつつ、自らもスーツを脱ごうと手をかけるが―― 「見られて興奮する趣味は無いんだがな――」 虎蔵がそう言いながら上体を起こす。 キュルケは、「え?」と表情を変えると、彼の視線を追って窓を見た。 「キュルケ!待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば」 窓の外に少年が一人。 どうやら先約があったようだ。 やれやれ、と肩を竦めてベットから降りる虎蔵。 「あ、ちょっとトラゾウ―――えぇと、ベリッソン、二時間後に」 「何を言ってるんだ、だいたいそんな平民の男に――」 二時間と言う言葉に、くくっと笑いながらドアへと向かう。 身体を動かした挙句に、ベッドから追い出されるのが確定しているのに、わざわざ乗る必要はない。 「あっ、ちょっと待って!あぁん、もう――」 「悪いが、制限時間付きは嫌いなんでね」 そう言い残すと、あっさりと出て言ってしまった。 「キュルケ!」 相変わらず食い下がるベリッソンに、「もう!」と苛立ち紛れに魔法をぶつけるのだった。
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