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「何処に目が光っているか分かりません。パーティーが終了してしばらくしたら、ご相談があります。 ルイズ、ワルドとともに、学院長室に集合してください」 アンリエッタ姫殿下は、珍しく真剣な表情で、らんまにそう告げた。 やがて『フリッグの舞踏会』は終了し、ルイズたちは自室に引き上げ、地味な服に着替える。 良牙はワルドの攻撃でダメージを負っていたため、ブタのまま秘薬を塗ったあと、タオルで巻いて寝かせた。 こいつの異常な生命力なら、数日すれば治るだろう。いずれ一緒に地球に帰らなくては。 そして深夜。三人は密かに、学院長室の前に集合する。 「俺とルイズと、ワルドか。何の相談だろうな」 「さあ、あの方はいつもこんな調子よ。おちゃらけているかと思えばぱっとシリアスになって、 枢機卿も顔負けの政治的判断をやってのけたりするそうだもの。 王族はそんなもんじゃなきゃ、やってられないのかもね。ガリアの無能王もそうなのかも」 「頼もしいじゃないか。我々がお守りする甲斐のある方ってことさ」 中からオールド・オスマンが『魔法探知』の呪文をかけ、本人確認をしてから入室を許可する。 アンリエッタとマザリーニ枢機卿が三人を出迎えた。まずマザリーニが口を開く。 「ようこそ皆さん、お呼び付けして申し訳ない。しかし、ちと大事でしてな。 ここは学院で最も結界の強い場所の一つ、密談にはちょうどよろしい」 学院長秘書が怪盗をやっていた、なんて環境だが、まあ常識的にはそうだろう。 「このワルドも、ということは、何か荒事ですかな? 品評会の優勝者もおいでですし」 「ええ、お察しの通りですわ、ワルド子爵。ミス・ランマも荒事には向いておられるようですし、 ルイズは私のお友達。こんなことを頼めるのは、あなたたちだけ……」 そう言うとアンリエッタは、ぽろぽろと涙を零し出す。オスマンが話を受け、続ける。 「あー、わしがちょいと話を進めておこう。アルビオンで貴族の反乱が続いておるのは知っちょるな? 最新情報によれば、もうアルビオンのほとんどは貴族議会派の反乱軍《レコン・キスタ》に占領され、 《王党派》は国王陛下及び皇太子殿下とともに、国の端のニューカッスル城に篭城しておられるとか」 アルビオン。空に浮かぶ島国で、トリステインと同じぐらいの大きさがある古い王国。 その程度のことなら、らんまも噂話に聞いていた。 「その王様たちを、救出すりゃーいいのか?」 「ランマ、敬語よ敬語っ。誰の御前だと思ってんのっ」 マザリーニが痩せた指で口髭をひねる。 「さて、そこが政事の難しさ。アルビオンのテューダー王家は我が国の王家とも血縁関係にあり、 救出して差し上げたいのは肉親の情。それに奴らの唱える『貴族共和制』だの『聖地奪回』だの、 ハルケギニアの統一だのといった理想主義は、諸王国にとって見れば既成秩序を根幹から揺るがす思想……ふぅ」 と、ひとつ溜息をつく。 「さりながら、陛下や殿下を亡命させれば、強大な《レコン・キスタ》と正面から戦わねばならぬ。 残念ながら我がトリステインは軍事的には弱小国、彼らの空軍には敵わないだろう」 アンリエッタは涙を拭き、ようやく口を開いた。 「なんとか王族の亡命の手助けをしようと、ガリアやゲルマニアにも打診したのですが、 空の上を攻めるのは、かなりの難事業。なかなか色よい返事はもらえません。 もはや《王党派》の運命は、神と始祖ブリミルにお任せする他ありません。彼ら自身もそう願っているようです」 「では、我々は何をすればよろしいので?」 「テューダー王家が滅びようと亡命して来ようと、《レコン・キスタ》の次の狙いはこの小さなトリステインでしょう。 国家防衛の布石として、私は近々、ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世に嫁ぎます。 両国が連合して、《レコン・キスタ》の侵略行為を押さえ込もうという戦略です」 「何ですって!? あの野蛮な成り上がりどもと!?」 「これは国策だ、ミス・ヴァリエール」 叫び声をあげるルイズを、マザリーニが静かにたしなめた。オスマンも無言で肯く。 「……けれど、それには一つ、障害があるのです。 私は以前、アルビオンのウェールズ皇太子に一通のお手紙を差し上げました。 他愛もない、幼い少女の恋文。けれどそれが公表されれば、ゲルマニア側は婚儀を拒むかもしれない。 あなた方は、その手紙を取り戻すため、アルビオンへ潜入していただきたいのです」 「恋文……では姫様は、ウェールズ殿下のことを……」 「勿論、かの地は戦場。道中にもいろいろ危険はあろう。また公表できぬ任務ゆえ、表立っての褒美はやれぬ。 しかし、これは我が国を守るための……」 グダグダ続くマザリーニの話を遮り、らんまが声をあげる。 「おーし、分かった。手紙は取り返してくるし、王様も皇太子も救い出してくる。 姫様と皇太子が婚約して、一緒に《レンコン喫茶》とやらをぶっ潰しゃあいいんだろ」 ルイズも皆も、思わず唖然とする。何だレンコン喫茶って、いやそれより。 「……ランマ、だからねえ……」 「俺にゃー、困っている人は見殺しにゃできねえ。政治の話はよくわかんねえし、 もし王様の方が悪玉なら、ぶん殴ってでも改心させてやらー。それで万事解決だろ?」 自信満々で、敬語も使わないらんまが『にへっ』と笑う。それを見て、アンリエッタも微笑んだ。 「私は、一人の女である前に、国の責任者。私のエゴでこの国を戦火に晒したくはないの。 ……でも、助けられるものなら助けて差し上げたいわ! 愛しいあの方を! それに反乱軍は粗野で乱暴で、蛮族や亜人まで手下にした《ならず者ども》だって聞いているもの!!」 「へへっ、そのセリフが聞きたかったんだ。大丈夫、愛と正義は必ず勝つもんですから」 ワルドが感心した様子で、顎鬚を撫でる。 「……ま、ミス・ランマの言う事も、よく考えればもっともです。 どうせ奴らが攻めてくるなら、不遜ながら《王党派》を抱えていれば、錦の御旗になりますぞ。 我らはアルビオンの王家を助け、王政復古のために戦うのだ、と。他の国々の賛同も得られるでしょう」 アンリエッタはマザリーニやオスマンとしばらく相談し、再びルイズたちに向き直る。 「では、改めてお頼みいたします。ルイズ、ワルド子爵、ミス・ランマ。 できる限りのことをして、彼らを残酷な運命から救い出してください。けれど、あなたたちも命を大切にして下さいね。 ルイズは私の、ただ一人の《お友達》ですもの!」 そう言うと彼女は、身分証明の代わりに、指に嵌めていた『水のルビー』の指輪をルイズに渡す。 トリステイン王家の秘宝で、アルビオンの王家には『風のルビー』が伝えられているという。 「アルビオン行きの船が出るのは、月に何度か訪れる『スヴェルの夜』の翌日。次の便まであと五日ほどあります。 港町ラ・ロシェールまでは早馬で二日ほど。急がねばなりませんが、まだ準備が必要かも知れません。 我々はひとまずトリスタニアに帰ります。ワルド子爵は学院に残り、出発の準備を整えてください」 「承知いたしました、姫殿下、枢機卿」 ぞろぞろと学院長室から出て行くアンリエッタたち。しかし、くるっと彼女は振り返る。 「あ、それと、ミス・ランマ」 「はい?」 「鉄の棍棒のジュリエットちゃんは、もう私のものですわよ」 「ああ、いーですよもう。戦う時は、峰打ちでデルフリンガーを使いますからっ」 翌朝。姫殿下一行はようやく、王都トリスタニアへ帰還する。オスマンも用があるとかで、秘書と一緒に王都へ向かう。 馬でも三時間ほど、昼には王宮に到着するだろう。学院は緊張感から解放され、いつものように騒がしい。 だが……。 「え? シエスタさんが、学院を辞めた!?」 メイドのシエスタの姿がない。らんまが使用人たちに訊ねると、昨夜貴族に連れて行かれたのだという。 「あ、ああ……姫殿下の一行にいた、モット伯っていやらしい中年貴族にさ。 行儀見習いなんて言ってたけどよお、どうせ《お妾》だよ、あのスケベ野郎の慰みものに……!」 「宮廷の勅使もしているそうだけど、いい噂聞かねえんだよなあ、あのくるくる眉毛」 「何人も平民の女ばっかり集めて、ハーレム作ってんだってよお! けっ、いけすかねえ」 「まあ仕方ねえべよ、貴族に逆らったら平民は生きていけねえ……」 「マルトー親父も、娘みてえに可愛がってたのによお。よく気のつく、いい娘だったもんなぁ。 あんなのにかどわかされちまって、親父も塞ぎこんで寝込んじまったよ」 学院の使用人からの評判も、あまり芳しくない人物のようだ。悪い貴族の、見本のような親父なのだろう。 「マルトーのおっさん!! 本当か、シエスタさんが……」 「おお、ランマか。『我らの剣』よ、本当さ。まったくいやな世の中だぜ、貴族ばっかり威張りやがって。 そりゃ貴族の魔法はすげえし便利だけど、平民あっての貴族じゃあねえかなあ、ちくしょう」 ベッドに臥せるマルトーの声は弱々しい。ずい、と近くの使用人にらんまが詰め寄る。 「おい、使用人を辞めさせるんなら、学院長の許可が必要なんだろ! あのじじいは何してくれてんだ!!」 「し、知らねえよ! 俺らみてーな下っ端が、そんな事知るかよ!! どーせカネか女か、女の下着で釣ったんだろうぜ。どっちもセクハラじゃあ知られてる。 シエスタは、物みてえに買われていって、あいつに飼われるのさ」 へっ、と笑った使用人を、らんまは張り手で吹っ飛ばした。 らんまの顔が、怒りに燃えて赤く染まる。シエスタは恩人であり、平民の仲間であり、なにより普通の女の子だ。 そんな女の子が、変態親父にいいようにされるなんて、想像したくもない。 「どこだ! その変態貴族の屋敷は!! 俺がシエスタさんを連れ戻して来てやる!!」 モット伯の屋敷は、学院から一時間ほど歩いたところにあった。そこへ近付くのは、二人の少女。時刻は昼過ぎ。 「なあ、やっぱりルイズがついて来ることはねえって。授業サボったんだろ?」 「ふん、あんたは私の使い魔じゃないの。一人で外をフラフラしちゃいけないわ。 モットはスケベ親父でも伯爵よ、連れ戻すための交渉だったら、公爵家令嬢の方が箔がつくでしょ。 それに身柄を買い受けるなら、おカネがいるんだし。なんならワルドを呼んできて、実力行使させようかしら」 らんまが苦笑する。女の敵、ということで、男嫌いのルイズもこの件には立腹しているようだ。 「そんなのは、俺がやるよ。さすがにデルフは持ってきてねーけど、中に入りゃあ武器ぐれーあるだろうし。 それにワルドにはあんまり関係ねえ話だろ。大体、正面から頼もうって言って返してくれるわきゃねえよ」 「まぁ、そうだろうけど……」 「じゃあ、潜入用にこれ着てくんねーかな。髪は纏めて、こんな感じにして……」 二人はメイド服を着込み、使用人になりきる。らんまは手馴れたものであった。 ルイズに話をさせるとボロが出るので、らんまが門番に近付くと要件を告げる。ぶりぶりのぶりっ子演技で。 「ああ? モット伯さまにお会いしたい? なんだ、てめえら?」 「あのっっ、私たちは魔法学院のメイドなんですけどっっ。 昨夜モット伯さまが、ここで面倒を見て下さるとおっしゃられたので、急いで来たんですぅ。 ここに連れてきて下さった人は急ぎの用事があるとかで、もう帰ってしまわれてぇ。お屋敷に入れて下さぁい。 それであの、シエスタさんって人が、先に来ているはずなんですうっ」 ルイズは、あまりのらんまの豹変ぶりに頬を引きつらせる。初老の門番は特に怪しみもせず、門を開いた。 「はぁん、伯爵さまの慰みものが、また来やがったか。可哀想になぁ。 ほれ、入っていいぜ。武器なんか持ってねえだろうし、持ってたっておめえらなら、どうってこたねえしよ」 屋敷の中は広くて豪勢だが、あまり人はいないようだ。さらわれた女の子たちは、地下にでもいるのだろうか? 「あっさり潜入できたわね。でも、どーすんの? モットのとこへ踏み込んで、コキャッと始末しちゃう?」 「始末はしねーって。ひとまずシエスタさんを取り戻せばいいんだ。 まあ股間を使い物にならなくするぐれーは、そのあとで当然しとくけどな。 ……あのっ、そこのかっこいいお兄さんっ。モット伯さまはどちらかしらっ(きゃはっ)」 「あんた、立派に女の武器を活用してるじゃない。……私だって、もう少し胸があれば……」 モット伯やシエスタたちは、昼間から地下の大浴場で沐浴しているらしい。なんと不埒な、破廉恥な。 らんまはとりあえず、壁に掛けられていた剣と短剣を拝借し、武器にする。ルイズには一応、杖がある。 「この階段を降っていけば、大浴場か。教訓を踏まえて、下に男物は着ているけどよ。 ……そういや、モットも当然メイジだよな。何使いだっけ?」 「確か、水のトライアングルよ。二つ名は『波濤』。数年前に奥さんを亡くしてから女狂いみたいになって、 平民の女の子を掻き集めているそうよ。表面的には『行儀見習い』ってことで、それは認められてはいるわ。 でも、もう何十人といるはずなのに、誰もこの家から戻ってこないとか……」 二人の背筋がぞぞっとする。まさか、死体で人形を作っているとか、悪魔の生け贄にしているなんてことはあるまい。 きっと、多分。ただのヒヒ親父だ、それで充分だ。 しかし、そこへ絹を裂くような乙女の悲鳴が響き渡る!! 「ランマ! あの声は!」 「ああ、シエスタさんの声だ!! 地下から聞こえてきたぜ!」 らんまは『ガンダールヴ』で強化された脚力を用い、ルイズを抱えあげて地下へ走る! ばんっ、と大浴場の扉を開けると、大きな浴槽にお湯が張ってある。そこには異様な怪物がいた。 身長は2メイルほど。体は赤黒くて体毛はなく、ぬらぬらとした粘液に覆われ、血管が無数に浮き出ている。 眼はぎょろりと大きく飛び出して鼻はなく、大きな口には牙が並ぶ。まるで蛙人間、いや半魚人だ! そいつの大きな右手の指が、裸のシエスタの右腕を掴んでいた。取って食おうというわけらしい。 「きゃ、きゃあああああ!!? なに、なにこの化け物!?」 「シエスタさんっっ!! くそっ、間に合え!」 らんまが短剣を投げ、怪物の右手首に突き立てる。怯んだ隙にらんまは剣を振りかぶって跳躍し、右手を切り落とす! シエスタは気絶して、お湯を浴びて男になった乱馬の胸に倒れこむ。怪物はおぞましい叫び声をあげる。 三人は怪物から距離を取り、浴槽から上がった。 「何なんだ、こいつは!? おいモット、どこだ!!」 「し、知らないわ。こんなの、私は知らない。本で読んだ事もない」 蒼白な顔をしたルイズは、メイド服を脱ぎ捨てた乱馬の腕にしがみついた。歯の根があわない。 浴場の奥の方から、男の声がした。中年の貴族、モット伯だ。 「それはな、『なりそこない』というんだよ、お客さんがた」 「も、モット伯! あんた、ここでいったい何をしているの!?」 モットはそれに答えず、静かに、呟くように喋る。豪奢な服を着ているが、よく見ると眼が少し、ぎょろりと大きい。 「水の国トリステインの北の端、ダングルテール(アングル地方)に小さな村があった。 そこに数百年前、いや千年も前だったか、人魚(マーメイド)が漂着したそうだ。 上半身は女、下半身は魚。醜いものも美しいものもおるが、その本性は人食いの化け物……」 モットは浴槽から短剣を拾い上げ、自分の手首に切り傷をつける。 「その肉を食らえば不老不死となり、死ぬほどの傷を受けても必ず治る、とか」 その傷は、すうっと塞がり、瞬く間に消えた。 (続く)
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前ページ次ページゴーストステップ・ゼロ 「メイジがこれだけ揃っておいて、賊の1人も捕らえられんとはどういった事じゃ!」 「は、全くもって面目次第もありません。」 翌朝、学院にコルベールと共に戻ってきたオールド・オスマンは学院の教師と3人の女生徒、正体不明の使い魔を前に怒声を吐いた。その様子は日頃、恒常的に秘書に対してセクハラを仕掛けている人物とは思えないほど猛々しいものだった。 ゴーストステップ・ゼロ シーン09 “土くれのフーケと名探偵” シーンカード:トーキー(繁栄/敵の正体露見。思いがけぬ味方。状況が将棋倒し的に進展する。) 「では、昨日の昼からの報告を聞こうではないか。」 オールド・オスマンの仕切り直しの言葉に秘書であるロングビルが応える。 「はい、それでは。 昨日、学院における授業が終了し自由時間になった際、宝物庫前で魔法の練習をしていたミス・ヴァリエールの魔法が宝物庫の壁を直撃しました。 これにより壁にかけられていた『固定化』が解除され、壁自体にもダメージがあった事は学院教師数名の確認が取れています。また、この魔法が唱えられる際にミス・ツェルプストーが、ミス・ヴァリエールを煽った事が確認されています。」 ロングビルの言葉に昨日宝物庫に来なかった教師陣から。「またですか…」とか「いい加減にして欲しいものですな」とか「全くこれだからゲルマニアは…」等と聞こえてきたが、ルイズやキュルケは見た目平静を装っていた。 「彼女達の処分については学院長からの裁定を頂きます。 念の為という事で、事の次第の報告をミスタ・コルベールにお願いし。宝物庫の見張りも一応増強して当たりました。 その後、10時前後に襲撃があったというのが簡単なあらましとなっております。」 「ふむ、ご苦労。 そういえばミス・ロングビル、今日は珍しく遅刻したようじゃが、どうかしたのかね?」 「その件に関して今からご報告させてもらいます。 実は今朝方より近在の村に赴いて、フーケの足取りが追えないかと聞き込みをしておりました。」 「ほう、流石に仕事が速いのう。で、何かつかめたかね?」 「はい、朝早くから畑に出ていた農民から聞いた話ですが、妙な人物が森の中にある樵小屋に出入りしていたと…。 何でもフードを目深に被った怪しげな人物だったそうです。」 「なるほど、確かに襲撃を掛けてきた犯人もフードを目深に被っておりましたし、恐らく間違いないのではありませんか?」 ロングビルの言葉に教師の1人が賛同の意を表す。 「ふむ、してミス・ロングビル。 その“土くれ”と思しき賊が潜伏しておる樵小屋というのはどの辺にあるのかね?」 「はい、学院からですと徒歩で約半日、馬で4時間というところです。」 「では、すぐに王宮に報告しましょう! 王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらうべきですわ!」 シュヴルーズがそう叫ぶと、オールド・オスマンは苦々しげに吐き捨てた。 「王室になんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ。第一、昨日王宮に急使としてミスタ・コルベールが来た上、今日の騒ぎを知られたらワシ等に無能の烙印が押されかねんわい。しかもこの事態は魔法学院の問題。 それに、身に降りかかる火の粉一つ払えぬようで、何が貴族じゃ。我らだけでこの事件は解決する!」 その言葉を聞いたロングビルは密かに微笑む。 オールド・オスマンは一度咳払いをし、集まった教師たちを見回すと有志を募る。 「では、捜索隊を編成する。我こそはと思うものは、手にした杖を掲げよ。 ……誰もおらんのか? どうした! フーケを捕まえ、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」 オールド・オスマンが困ったかのように顔を見合わせる教師たちを一喝する。 その時、意外な人物から声が上がった。 「学院長。」 「お主は、確かミス・ヴァリエールの使い魔の。」 「ミスタ・スペンサーではありませんか。いや確かに、貴方ならば実力的にも問題はありませんが。」 学院の教師や生徒の誰よりも先に声を上げたのは[未だにメイジと思われている]ヒューだった。それに驚きの声を上げるオールド・オスマンとコルベールだったが、気にした風もなく言葉を続ける。 「条件付きですが、それを飲んでくれるのなら俺がやりましょう。」 「ほう、言ってみたまえ。」 「じゃあ遠慮なく。 まず盗品を取り返したらルイズお嬢さん達の事を不問にする事。上手い事捕縛できたら報酬を貰いたい、要は盗品を取り戻す事が出来たら、捕縛できなかったとしてもお嬢さん達の事を不問にしてほしい。 こんなところかな。」 「なんじゃ、そんな事か。別に良かろう、元々ミス・ヴァリエール達がやらかした事に関しては厳重注意位で済ませるつもりじゃったしな。」 「ちょっと待って下さい学院長!不問にするつもりとはどういう事ですか!」 オールド・オスマンの言葉にかみついたのはギトーと呼ばれている風のメイジであった。 「不問にするしかあるまい、考えてもみたまえ。たかが学生、しかも実技では最低の評価を受け続けている生徒が学院長であるワシでも難しい事をやってしまった…。他人に聞かれたらどういう理由で処罰したのかと笑われてしまうわい。 それとも何かね、君はミス・ヴァリエールと同じ事が出来るのかね?出来るのなら今からこの席は君のモノじゃが。」 「い、いえ。それは…」 「無理じゃろう?だったら不問にするしかあるまい。」 教師からの反論を封じたオールド・オスマンが改めてヒューを見ると、その周囲には3本の杖が上がっていた。 「ミス・ヴァリエールにミス・ツェルプストー、それにミス・タバサではないか。何事だね。」 「私も志願いたします。」 「いきなり何を、無茶ですわ!ミス・ヴァリエール!」 ルイズの言葉を聞いたシュヴルーズが悲鳴じみた声を上げる。 「使い魔にだけ危険なマネをさせるわけにはいきません!それに、これは自分がやった事の後始末でもあります!己の不始末を使い魔に拭わせて平然としているほど恥知らずではありません。」 「ま、借りを作るのは趣味ではありませんし、ヴァリエールに負けるわけにもいきませんもの。」 「心配」 3人のそれぞれの志願理由を確認したオールド・オスマンは深く頷くと笑いながら承諾する。 途端に教師陣から反対意見が湧き上がるが、ならば自分がいくか?と問われるとその言葉も小さくなっていく。 「お主達は彼女達の姿形だけを見て判断しとりゃせんか? 一番小柄なミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いていおるし、ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人の家系で。彼女自身も炎のトライアングルだと聞いておる。 ミス・ヴァリエールに至っては昨日の出来事を見ても分かろう、失敗しておるとはいえスクエアクラスのメイジでも困難な事をやってのける才能を有しておる。 その上、彼女の使い魔を勤めておるミスタ・スペンサーは強力な風の使い手と聞いておる。 どうじゃ、この4人に勝てると豪語できるものはおるか?」 改めて聞くとあまり相手にしたくない面子であった、気のせいかロングビルの顔色も悪い。 オールド・オスマンはルイズたち六人に向き直ると杖を掲げた。 「トリステイン魔法学院は、諸君らの働きに期待する!」 「杖にかけて!」 ルイズ、キュルケ、タバサの3人は真顔になり直立するとそう唱和した。 ヒューは別に何も言わず立っているだけだったが、おもむろにオールド・オスマンに話しかける。 「学院長、少々いいですか。」 「何かね、ミスタ・スペンサー?」 「宝物庫の中の検証と、盗まれたモノの詳細を伺いたいんです。」 「ほう、それはまたどうしてかな?」 「証拠集めです。」 「いや、遺留品とかは特に無かったと聞いておるが。」 オールド・オスマンがロングビルをみると彼女も頷く。 そう、特に落としたものは無いはずだ。 「いや、一応念の為、というやつですよ。」 「よかろう。ミス・ロングビル、ミスタ・コルベール案内してあげなさい。」 「承知しました。」 「それと馬車はこちらで用立てておこう、準備ができたら人をよこすので存分に検証してくるといい。」 「ああ、そうだ学院長。俺が頂く報酬に関して杖に誓っていただきたいんですが?」 「む、うむ。良かろうミス・ヴァリエール達の件は問わない事、君が“土くれ”を捕縛した場合、ワシが出来うる限り、君の希望を叶える事をこのワシの杖にかけて誓おうではないか。」 「助かりますよ、学院長。」 ニヤリと笑って会議室を辞したヒューは、ルイズ達と共に案内役のロングビルとコルベールに導かれて宝物庫へと歩いていく。 「そういえばタバサが持っている、シュヴァリエの称号を持つ騎士ってどういう事だ?確か二つ名は“雪風”だったろう?」 「2つ名と称号は別物よ。2つ名は貴方の“ゴーストステップ”と同じハンドル、対して称号っていうのは爵位とかそういうものね、役職と言い換えてもいいかも。 シュヴァリエっていうのは最下級の爵位のこと。ただし実績が無いと貰えない、実力者の証みたいなものよ。あの子位の年齢でそれが与えられるなんて、普通無いわ。」 先のオールド・オスマンの言葉についてルイズに質問したヒューは、次いでコルベールに盗品について尋ねる。 「なるほどね。そうだ、コルベールの旦那。」 「何かね、ヒュー君。」 「盗まれた<破壊の杖>っていうのはどういった代物なんだい?」 「ああ、あれですか。あれはオールド・オスマンの私物で、なんでも命の恩人の形見だそうですぞ。 外見は…そうですな。50サント位の長さの筒状で材質は鉄の様でした、色は暗い緑色をしていて所々に白い文字が書かれておりましたな。」 「で、どういった力を?具体的な名前が付いているんだ、学院長は力を知っていたんだろう?」 「いえ、詳しい事はそれほど。ただ、恩人の方が使った時にはワイバーンを一撃で殺害したそうです。」 「ワイバーンというのは?」 「力が弱い竜、基本的に前肢がない竜の事。普通の竜と違って知能が低い。」 「あら、ミスタの所にワイバーンはいないのですか?」 ヒューがワイバーンを知らない事に、疑問を持ったロングビルが質問をしてくる。 「ああ、昔は居たかも知れないがね。少なくとも俺は見た事が無い。 しかし、そうなると厄介かもな…」 「まあ、何故ですの?ミスタほどの力さえあれば、フーケ如き簡単に捕縛できるでしょう。」 「いや、ただのメイジなら楽なんですけどね。そいつが強力な武器を持っているとなると困りものです。 今までは『ゴーレム』だけを考えれば良かったんですが。“破壊の杖”を使ってきた時の事を考えないといけなくなりましたから。」 「確かに…、そう考えると厄介ですわね。 ミスタ、ここが宝物庫ですわ。」 話している内に着いたのか、目の前には堅牢な扉がある。 「では鍵を開けますので少々お待ち下さい。」 そう言うと、ロングビルは数箇所に取り付けられていた錠前を開けた後、『アンロック』を唱えて魔法の鍵を解除する。 「それでは失礼。」 ヒューを先頭に宝物庫に一行が入っていく。 『ライト』で煌々と照らし出された宝物庫は、様々なガラクタや、そこそこ宝に見えそうな物で溢れ返っていた。 「ところで、普段<破壊の杖>はどこに?」 「あちらの棚ですわ。」 ヒューの質問にミス・ロングビルが答える。 「間違いなく?」 「ええ。先週、宝物庫の目録を作成したばかりですから。」 ロングビルに重ねて確認した後、ヒューは壁に残された犯行声明を見、次いで床とポケットロンを見比べながら棚の前まで移動したり、床に触れて何かの確認をしている様だった。 しばらく時間が経過した後、不安になってきたルイズがヒューに質問する。 「ねえヒュー、貴方何を目的に宝物庫に来たのよ。今は一刻も早くフーケの隠れ家に行くべきではなくて?」 「ん?いやいや。これでも色々と分かったんだけどな。」 「はい?分かったって何が分かったのよ。」 かがんでいたヒューは棚の前で立ち上がると、ルイズ達に向かって、とんでもない事を言い放った。 「フーケの大体の身長・体重・歩き方・それと育ち。あと人物像かな?」 「え!」 「何ですって!」 「!」 「な!」 「何ですと!それは本当かねヒュー君!」 驚く一同を前にヒューは、残された足跡から判明した事実と、それを基にしたプロファイリングを披露する。 「ああ、フーケが土の『ゴーレム』を使ってくれていたから楽だったよ。下手に『フライ』とかで入られたらお手上げだった。 身長体重は…、そうだな大体ミス・ロングビルやキュルケ位。年齢は大体20代前半から半ば。 歩き方としては背筋を伸ばしていて姿勢が良い、ルイズやタバサに近いな。恐らくそこそこ高い地位のメイジの家系か、礼儀に関してはかなり厳格な家庭の出だ。 健康状態は良好、傷病は無い。 人物像としては…そうだな、生真面目で計画性はあるが、その場の勢いで行動するタイプでもある。 後は、そう…女性だ。」 「な、なななな何を証拠にそこまでの事を。」 何故か震える口調でロングビルがヒューに質問する。 だが、それは誰もが思った事なので特に誰も口を挟まなかった。 「うん、まあとりあえず身長からいこうか、基本的には歩幅なんだが、決定的なのはこの犯行声明のサインだな。」 「サインが?」 聞き返してきたルイズにヒューは空中に書く仕草をしつつ説明する。 「普通、こう壁に書き込む時は自分が見易い所に書くだろう?急いでいるなら尚更だ。で、お嬢さん達の中でぴったりくるのがキュルケとミス・ロングビルだったのさ。 後、歩幅は身長や体格、年齢を測る上でかなり重要な証拠だ、タバサとキュルケではどうしても歩幅に差が出るだろう?それから、一定以上年齢を重ねる毎に歩幅は狭くなってくる。さらに、割り出した体格から性別も特定可能だ。」 「体重は?」 「身長が同じなら極端に体格が違っていない限り。大体の体重は絞り込める、そうだなこれ位だと…いや止めておこうか。」 「そうね賢明だと思うわよヒュー」 ヒューの背後でキュルケがにこやかに微笑んでいた。 「次に歩き方だが、これは足跡に込められた重心のかかり方だな。足跡に残っている土の減り方から見てもこれは歩く時の姿勢が良い証拠だ、この学院内の生徒でもそうは見ないな。とするとかなり厳格な家庭か、それなりに高い地位にいたと見てしかるべきだろう。 歩き方に崩れが無いことから、健康だという事も分かる。」 「崩れ?」 タバサの質問に対して、実際に色々な歩き方をしながら説明をする。 「片足に怪我をしたり、病気に罹ると歩き方がどうしても不自然になるだろう? こう、怪我をした方の足の爪先が進行方向とは別の方を向いていたり、ふらついたり、歩幅にばらつきが出たり。」 「なるほど。」 「性格に関しては?」 というコルベールの質問に対しは、フーケの歩みを再現しながら話す。 「これは犯行声明と足跡の進行方向だな。 犯行前の下調べがしっかりしているし、迷いが無い。何処に何があるか分かっていたのさ。こういった所からフーケは生真面目で計画性がある人物という事が分かる。 昨晩の犯行時、『ゴーレム』から飛び移ったフーケは『ライト』も灯りも使わずに、暗い宝物庫の中で<破壊の杖>へ向かって一直線。他のお宝には目もくれず、サインを残してトンズラしたっていう寸法だ。 ミセス・シュヴルーズの話じゃあ、サインはともかく『ゴーレム』を使いながら『ライト』っていうのはかなり無理があるらしいからな、これはしょうがないだろう。証言も録ってあるし間違いない。 犯行声明に関して言えば最初から残すつもりだったのか、それともその場の勢いでやってしまったのか…、そこは捕まえて聞いてみないと分からないな。 しかし、最初からやっているとはいえ。ご丁寧に自分を特定できるモノを残すという行為を毎度やっているのを見ると、性格的にもう残さざるを得なくなったんだろう。恐らく貴族というものに対して、何らかの感情があるんだろうな。 とまあ、足跡や世間に流布している風評でこれ位のことが分かる。 さて、見るべきものはもう無いし、そろそろ準備も出来た頃だろう、行こうか?」 ヒューの考察を聞いた一行はもう何も考えられず、ヒューの後を付いて行くのみだった。 後にルイズは“ミス・ロングビルに至っては、まるで死刑台に引き摺られていく死刑囚のようだった”と述懐している。 一行は学院に残ったコルベールに見送られて、2頭立ての荷馬車でフーケの潜伏先へと進む。 道案内兼御者としてロングビルが同行していた。 「済みませんね貴女にこんな事までしてもらって。」 「い、いいえ、こんな事しかできなくて心苦しい位ですわ。全く先生方にも困ったものです。」 「いや、そう一概に責めても仕方ないでしょう、聞いた話ではあまり戦いに向いた感じはしなかったし。 俺としては懐に入るものが出来て助かる位ですよ。おっと、これは秘密にしておいてくれると助かるんですが。」 「まぁっ。ふふ、分かりましたわ、先生方には言わないでおきましょうか。 けど、ミスタ・スペンサーって言動だけ見てるとメイジには全く見えませんね。失礼、失言でしたわ。」 「いやいや、よく言われますよ。 昔から身体を使う方が好きでしてね、良く勉強しろと怒られました。」 「あら!あれ程の知識や力をお持ちなのに?」 「ああ、あれは仕事の都合上仕方なく身についたものでして。いや、柄にも無く講義をしてしまい、お恥ずかしい限りで。」 「いいえ、とても分かり易かったですわ!けれど、あれ程の観察術を一体何処で…失礼、何度も嫌になってしまいますわ、普段こんなお喋りではないんですけど。」 馬車を御しているロングビルとヒューはにこやかに会話を続けている。 その会話を聞きながら、荷台にいるルイズをはじめとする3人の女生徒は呆れるような視線をヒューに向けていた。 「しかし、まぁよくも立て板に水の如く言葉が出てくるわね。」 「だけど嘘は言っていない。」 「勘違いは助長しているけどね、話だけ聞いていると何処の天才メイジだって話よ。」 「まぁね、嘘は言ってないけど、間違いは肯定しない代わりに否定も訂正もしないもの。」 思考を切り替える為か、ルイズは頭を振った後にキュルケとタバサにこれからの事について、小声で話しはじめた。 「ところで潜伏先に着いたらどうする?」 「ヒューに斥候をしてもらった後、誰か一緒に中に入ってもらうのがいいんじゃない?」 「じゃあ私が!」 「いえ、ここは。」 タバサはここで言葉を切ってロングビルを見る。 「ええっ?言いたくないけどミス・ロングビルって…」 「だから。」 「そうか、ヒューが目の前にいたら。」 「ああ、なるほど。うん良いんじゃない?楽できるし。 そういえば、評判だけ聞いてるとフーケが狙ったのって悪名が高い連中ばっかりなのよね。まぁ、平民からの支援が受けやすいっていう理由があったのかもしれないけど…。ところで2人に聞きたいんだけど、窃盗で死罪っていうのはどうなのかしら?」 「ちょっとキュルケ!貴女、罪人を庇うの?」 フーケの事を気楽そうに語るキュルケにルイズが噛み付く。 「違う違う、罪と罰が等しくないんじゃないかって事。 ヒューからあっちの量刑を聞いた時に思ったんだけど、こっちって貴族に対しては量刑が甘いんだなって思ったのよね。」 「そ、それは貴族には相応の義務があるから。」 「フーケが狙っているのはその義務を果たしていない連中よ?」 「う。」 「流石に見逃せとは言わないけどね、動機や目的如何では情状酌量の余地はあるんじゃない?」 「それにしていない罪まで課されかねない。」 平民と貴族に課せられる刑罰の軽重に関して意見を述べるキュルケに、ルイズが抗弁するが、どうにも分が悪い。 そんな中、タバサが一つ意見を投げ入れた。 「どういう事?」 「自作自演でフーケの仕業に見せかけて、国に払う税を誤魔化す…というやり方もある。」 「そういえば、確かフーケの犯行とされているものには極端に間隔が短いものがあったわね。」 「じゃあ、ここはフーケの動機や目的を聞き出して、それから決めるって事?」 「それで。」 「まぁ、いいわ。但し、どうしても許せなかったら容赦なんてしないわよ。」 3人の間で一応の合意をとりまとめたルイズは、ロングビルと仲良く会話を続けているヒューを見て呆れたように溜息を吐く。フーケがいると報告があった、樵小屋まであと少しという場所での会話だった。 フーケがいると思しき森の入り口で、一行は馬車から降りて、徒歩で樵小屋に向かう事にする。 樵小屋が見える場所まで来た一行は、茂みに隠れてこれからの事を相談する事にした。 「そういえばミス・ロングビルは宝物庫前で魔法を使っていましたが、メイジだったんですか?」 「え?ええ、貴族としての名は失いましたが。土のラインですわ、土のトライアングルといわれるフーケに対して無力なのがお恥ずかしい限りですが。」 「じゃあ、馬車の中で決めた通りで大丈夫ですね。 ヒュー、斥候を頼める?」 「ああ、それが妥当だろう。」 「中に誰もいないなら、ミス・ロングビルに『ディティクト・マジック』と、<破壊の杖>を確認してもらう為に行って貰うから。ちゃんと守りなさいよ。」 「分かってるさ。」 「え?ミス・ヴァリエール?」 少し狼狽したように、ルイズに反論しようとしたロングビルだったが、対するルイズは、馬車の中で考えていた言い訳でその反論を封じる。 「申し訳ありません、ミス・ロングビル、私達は<破壊の杖>がどういった形なのか憶えていないもので。」 「そ、そうですか、ならば仕方がありませんね…。」 「当てにさせてもらいますよ、ミス。…じゃあ行ってくる。」 ルイズ達から離れたヒューは、すぐに姿が見えなくなる、森を迂回して影が多い所から近付くつもりだろう。 次にヒューを見つけたのは樵小屋の前だった。それを見たロングビルは感心していたが、次の瞬間、本当に驚きの悲鳴を上げそうになった。 【ルイズお嬢さん聞こえるか?】 突如、ヒューの声がルイズから聞こえてきたのだ。 そちらを見ると、主のルイズは手首を顔の横に持って来て、手首に巻きついている安物のブレスレットにも見える“それ”に話しかけていた。 「ええ、大丈夫。問題ないわ。」 【窓から確認した限り人はいない、気配も感じない。ミスを寄越してくれ。 それからお嬢さん達はシルフィードを呼んで上空で警戒していてくれると助かる、フーケの姿が見えるかもしれないし、仮に『ゴーレム』で襲ってきてもそっちの方が戦いやすいだろう。 そうそう、もし『ゴーレム』が出たら“これ”で教えてくれ。】 「そうね、わかったわ。 申し訳ありませんがミス・ロングビル、お願いします。」 「え、ええ。非才の身ですが出来るだけの事はやってみますわ。」 ロングビルが樵小屋に走って行った事を見届けると、タバサは上空に待機させていたシルフィードを呼び寄せ、ルイズやキュルケと共にその背に乗り込んで、大空へと舞い上がった。 キュルケはロングビルの後姿を見ながら、「私だったらもう挫けてるわ」と気の毒そうに1人つぶやいた。 樵小屋に来たロングビルは、扉の横にいるヒューの顔を見て怪訝な顔になった。何と、ヒューの顔…正確には目の周りを、黒い仮面じみたモノがついていたのだ。 「やあ、ミス助かります。」 「い、いえ、別にいいのですが…。その、顔についている仮面は?」 「ああ、これですか。“便利な道具”です。」 「そうですか、それでは『ディティクト・マジック』を…あら?」 早速、『ディティクト・マジック』を使おうと思ったロングビルだったが、ここで奇妙な事に気付いてしまった。 「どうかしましたか?ミス」 「い、いえ。確かミスタは風のスクエアクラスのメイジでは?」 「は?一体何の話ですか?」 「いえ、ミスタはメイジでは?」 「いいえ?」 「は?」 ふと疑問に思った事をヒューに尋ねたロングビルだったが、それはあっさりと否定される。それはもう清清しい位に。 「何か勘違いしておられるようですが、私はただの平民ですよ?」 「え?だって。オールド・オスマンもミスタ・コルベールも…。ええ!」 「言っておきますが、≪俺は一言も“自分はメイジだ”などと言った覚えは無いが?≫」 ロングビルはぞっとした、確かにこの男はメイジではないのかもしれない。しかし、“メイジではないという事が、この男が無害だ”なんて事の証明になりはしないのだ、半人前の学生が作ったとはいえ青銅のゴーレムをいとも簡単に切り裂き、人の目に留まらない程の速さで動く。 この距離で対峙している以上、最早この男の手に命が握られていると思わなければならないだろう。 もしかすると、この仮面もこの時を意図して付けていたのかもしれない、口元に浮かんでいる笑みが否応もなく不気味さを演出していた。 「わ、分かりましたわ、では。」 青い顔で返答したロングビルは、改めて『ディティクト・マジック』を扉に対して使用する。 「魔法の痕跡はありませんね、大丈夫です。」 「よし、では入ろうかミス。」 「え、ええ。」 所変わってこちら上空のルイズ達。 3人とも気まずそうな顔でルイズの左手首から聞こえてくる会話を聞いていた。 「あ、あんまりだわ…」 「同情…」 「うわー」 前ページ次ページゴーストステップ・ゼロ
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「ユリア100式」のユリア100式を召喚 参考 ユリア100式(wikipedia) ユリアゼロ式-TYPE1「ユリア100式がルイズに召喚されました」 ユリアゼロ式-TYPE2「つっぱしるユリア」 ユリアゼロ式-TYPE3「ご主人様は使い魔の夢を見るか?」 ユリアゼロ式-TYPE4「婚約者、現るの巻」 ユリアゼロ式-TYPE5「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの憂鬱Ⅴ」 ユリアゼロ式-TYPE6「使い魔として軸がぶれている」 本筋とはあまり関係のない外伝的なもの ユリアゼロ式-EX1「おじいちゃんはどこから来るの?」 ユリアゼロ式-EX2「俺はユリア100式恋する乙女さ」 ユリアゼロ式-EX3「この物語は使い魔とその主人の平凡でない日常をたんたんと綴ったものです。過度な期待は(ry」
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澪「クリト律がパンパンに腫れました。」 http //raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1295838318/ 1 2 3 戻る 名前 コメント
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前ページ次ページゼロの使い魔BW 身体を揺さぶられて、目が覚めた。 目を開いたら、見慣れぬ格好の少年がこちらを見下ろしていて、思わず叫んだ。 「だ、誰よあんた!」 「……ツカイマだよ、ゴシュジンサマ」 「ああ、使い魔ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」 窓から朝の日差しがさんさんと降り注いでいる。ルイズは寝台の上でうーんと伸びをすると、椅子にかけてあった服を指して命じた。 「取ってくれる?」 使い魔の少年は無言で頷くと、服を取ってルイズに手渡した。 寝起きのけだるさのままネグリジェに手をかける。途端にくるりと背を向ける辺り、この使い魔にも一応年頃の少年らしい部分もあるらしい。 「後、下着も――そこのクローゼットの一番下に入ってるから、取って」 彼はクローゼットを開けると、ぎくしゃくとした動きで下着を取り出す。と、そこで完全に停止した。 なにを考えて止まったのかが分かって、ルイズは呆れた。別に、使い魔に見られたところでどうということもないのだが、彼は動きそうにもない。 「……投げてくれていいわよ」 飛んできた下着は、過たずルイズの手元に納まった。見えてるんじゃないかと思うようなコントロールである。むしろ見てるんじゃないかと思って使い魔に目をやるが、完璧に背を向けていた。 服を着させるところまでやらせようと思っていたが、やめた。無駄に時間がかかるのは分かりきっている。下手をすれば、朝食を食べそこなうことにすらなりかねない。 壁を向いて硬直している使い魔を横目に、ルイズはこれまでのように着替え始めた。 身支度を済ませたルイズたちが廊下へ出ると、ちょうど近くの扉が開くところだった。 中から出てきたのは、燃え上る炎のような赤い髪の女の子だ。 ルイズよりも背が高く、スタイルも良い。彫りの深い美貌に、突き出た胸元、健康的な褐色の肌、と街を歩けば十人が十人振り返るような容姿だった。 だが、その顔を見た途端、ルイズは不機嫌そうな顔になる。赤い髪の少女がにやりと笑った。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 むっつりとした表情のまま、ルイズは挨拶を返す。 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 寡黙に控えている少年を指さしての問いに、ルイズは短く答えた。 「あっはっは! 本当に人間なのね! さっすが、ゼロのルイズ」 「うっさいわね」 無愛想に返答するルイズを横目に、キュルケは少年を観察する。 「中々可愛らしい顔してるじゃない。あなた、お名前は?」 「なに色惚けたこと言ってんのよ。あと、名前を聞いても無駄よ。そいつ、記憶喪失だから」 「それは残念。……だけど、記憶喪失、ねぇ。それは元から? それとも、ルイズのせいかしら?」 その指摘に、目の前の勝気な少女が言葉に詰まったのを見て、キュルケは頷いた。 「なるほどねえ。――それじゃ、あたしも使い魔を紹介しようかしら。フレイムー」 キュルケが呼ぶと、背後の扉の中から赤い巨大なトカゲが現れた。大型の獣並みの体躯に、真紅の鱗。尻尾の先は燃え盛る炎となっていて、口からもチロチロと赤い火が洩れている。 「……リザード?」 熱気を物ともせずにそれに見入っていたルイズの使い魔が、ここで初めて声を上げた。 「りざーど? これは火トカゲよ」 「ヒトカゲ?」 首を傾げて言ったルイズの使い魔に、キュルケは微笑みかける。 「なんか発音がおかしい気がするけど、そうよー。火トカゲよー? しかも見て、この大きくて鮮やかな炎の尻尾。間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? 好事家に見せたら値段なんてつかないわ」 「そりゃよかったわね」 ルイズが無愛想に答えた。 「素敵でしょ? もう、あたしにぴったりよね」 「あんた、『火』属性だしね」 「そう。あたしは微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。あなたと違ってね?」 キュルケは得意げに、その男であれば視線を釘付けにされそうな胸を張った。 ルイズも負けじと胸を張るが、残念ながらボリュームの違いは明白だった。それでもキュルケを睨みつける辺り、かなりの負けず嫌いらしい。 「あんたみたいにむやみやたらと色気を振りまくほど、暇じゃないだけよ」 キュルケは余裕の笑みを浮かべて、その言葉を受け流す。そして颯爽とこの場を後にしようとして、使い魔のサラマンダーが居ないことに気づいた。 「あら? フレイムー?」 「わたしの使い魔も居ないわ。……まさか、あんたのサラマンダーに食べられちゃったんじゃ」 「失礼ね。あたしが命令しなきゃ、そんなことしないわ。……あ、居た」 ルイズとキュルケが言い争っていた場所から少し離れたところに、二人の使い魔は揃っていた。二人が喧嘩している間に、使い魔は使い魔で親睦を深めていたらしい。 少年は、慣れた手つきでサラマンダーを撫でてやっている。撫でられているほうも、妙に落ち着いた様子で彼の手のひらを受け入れていた。 キュルケが目を丸くする。 「あらま。確かに、誰彼構わず襲うような子じゃないけど、誰彼構わず懐く子でもないのに」 「あんたのことを見習ったんじゃないの?」 「どういう意味よそれ。……まあ良いわ。それじゃ、お先に失礼。行くわよフレイムー」 呼ばれて、サラマンダーが動き出す。図体に似合わないちょこちょことした足取りでキュルケの後を追うが、少し行った先で少年のほうを向くと、ぴこぴこと尻尾を振った。 少年も微笑んで、手を振って返す。 一連の流れを見ていたルイズが、少年の頬をつねりあげた。 「……いふぁい」 「いーい? あの女はフォン・ツェルプストー。わたしたちヴァリエール家にとっての、不倶戴天の敵なの。だから、ツェルプストーの使い魔なんかと仲良くしちゃダ、メ、よ?」 「ふぁい」 一音ごとに頬をねじり上げるようにして確認され、少年は涙目で答えた。 トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内で一番背の高い、真ん中の本塔の中にあった。食堂の中にはやたらと長いテーブルが三つ並んでいて、それぞれに少年少女が座っている。 ルイズは、黒いマントをつけた生徒が並ぶ真ん中のテーブルへと向かった。 ここに使い魔を連れてくるのには非常に苦労した。なんせ他の使い魔を見るたびに、吸い寄せられるようにそっちに行こうとするのである。首輪と縄が必要かしら、とルイズは思った。 その使い魔は、豪華な食事が並べられたテーブルや、絢爛な食堂をきょろきょろと見回している。その顔に少なからぬ驚きを見て取って、ルイズは得意げに指を立てて言った。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ。昨日も説明した通り、メイジのほとんどは貴族。だから、『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を受けるの。この食堂も、その一環ね」 「すごいね」 素直に驚きを示す使い魔に、椅子を引くように促す。本来なら「気が利かないわね」ぐらいは言ってやりたいところだが、記憶喪失では致し方ない。 椅子についてから、ルイズは考えた。この使い魔がもう少し反抗的であれば、床ででも食べさせるつもりであったが、今のところは特にそういった気配はない。 現在も自分が座るべき席ではないと理解しているためか、脇にじっと佇んだままである。 しばらく逡巡した後、ルイズは近くに居た使用人の一人を呼びとめた。 「ちょっと、そこのあなた」 「はい、なんでしょうか。ミス・ヴァリエール」 呼びとめられた黒髪のメイドに、脇の使い魔を指して見せる。 「こいつに、なにか食べさせてやって頂戴」 「分かりました。では、こちらにいらしてください」 「食べ終わったら戻ってくるように」 ルイズの言葉にやはり頷くと、使い魔は促されるままにメイドについて行った。 「もしかしてあなた、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」 行きがてらにそう問われて、少年は頷いた。目下のところは、彼の唯一の身分である。 「知ってるの?」 「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって噂になっていますわ」 にっこりと笑って、黒髪のメイドは答えた。屈託のない、野の花のような笑顔だ。 「君もメイジ?」 「いいえ。私はあなたと同じ平民ですわ。貴族の方々をお世話するために、ここで御奉公させていただいているんです」 どうやら自分と同じような立場らしい。納得すると、彼は黙り込んでしまった。 記憶がないというのは、話題がないというのに等しい。訊きたいことは山ほどあったが、彼女は仕事中だったようだし、あまり時間を取らせるわけにもいかないだろう。 そんな考えからなる沈黙だったが、どうやらそれは少年を気難しく見せていたらしい。しばらくは静かだった黒髪のメイドが、いかにも恐る恐るといった様子で口を開いた。 「……えっと、私はシエスタです。あなたのお名前を訊いても良いですか?」 少年はそれに黙ったまま首を振る。しかし、不味いことでも訊いてしまったのだろうかと狼狽するシエスタを見て、言葉を続けた。 「名前は分からないんだ。記憶喪失だから」 「キオクソウシツ……って、あの、記憶がなくなっちゃうあれですか?」 頷くと、シエスタの視線が途端に同情的になった。少年を上から下まで眺めまわして、はう、とせつなげな溜息を洩らす。 「大変だったんですね……」 そうだったんだろうか。そうだった気もするが、今のところは大したことがない気もする。だが少年がなにか答える前に、彼女はいきなり彼の手をギュッと掴むと、引っ張り始めた。 「なるほど、そいつは大変だ」 コック長のマルトー親父は、シエスタの話(学園内で出回っている噂を少し盛った上で、記憶喪失であるという事実を付け加えたもの)を聞くとうんうんと頷いた。 「やっぱりそうですよね、マルトーさん!」 「記憶を失くした上に、あの高慢ちきな貴族どもの下働きだろ? しかも、こういう仕事を選んでやってる俺たちと違って、強制的にだって話じゃねえか。いやあ、災難だな、お前さん」 二人で完全に盛り上がってしまっている。展開について行けず途方に暮れそうになったところで、少年のお腹がぐう、と鳴った。 「おっと、悪かったな。シエスタ、賄いのシチューを持ってきてやれ。俺は戻らにゃならん」 「はい、わかりました!」 少年を厨房の片隅に置かれた椅子に座らせると、シエスタは小走りで厨房の奥へと消えた。 マルトーもまた、背を向けて調理場へと向かう。が、ふと振り向くとニッと笑った。 「同じ平民のよしみだ、なにか困ったことがあったらいつでも相談してくれ」 「ありがとう。いざって時には頼りにさせてもらいます」 少年が礼を言うと、マルトーは「良いってことよ」と大笑いして去って行く。 入れ違うように、シエスタがシチューの入った皿を持って戻ってきた。目の前に置かれたそれをスプーンで掬って、口に運ぶ。思わず顔がほころんだ。 「おいしい」 「よかった。おかわりもありますから、ごゆっくり」 思った以上に空腹だったことに気づく。丸一日ばかり食べていないような、そんな感じだ。 夢中になって食べる少年を、シエスタはニコニコしながら見ている。 仕事中だったのに大丈夫なんだろうか、なんて思うが、食堂には彼女のようなメイドが沢山いたし、一人ぐらい抜けても問題ないのかもしれない。 「ごちそうさま。おいしかったよ」 「ふふ。ぜひ、マルトーさんにも言ってあげてください。喜びますから」 食べ終わって皿を返すと、シエスタは微笑んでそう言った。そして皿を片づけるために立ち上がりざま、そういえば、と彼の顔を見る。 「えっと、なにか分からなくて困ってることとかあります?」 「……それなら、洗濯物のことなんだけど」 なるほど、とシエスタが頷く。 「ああ、そうですよね。水汲み場とか分かりませんよね」 「それもあるんだけど、ここでのやり方もイマイチ分からないから、教えてもらえると助かる」 彼の常識は、洗濯物には洗濯機を使え、と言っている。使い方も分かる。しかし同時に、それがここにはないだろうということもなんとなく分かっている。 昨晩のルイズとの会話と、今日見て回った学内の様子から、自分の常識の欠落は記憶喪失から来るものではないことに、少年はうすうす感づいていた。 「洗濯のやり方なんて何処でも同じ気がしますけど、わかりました。今からご案内しても良いんですが、ミス・ヴァリエールに『戻ってくるように』って言われてましたよね」 確かに、「食べ終わったら戻ってくるように」と言っていた。 「それじゃ、お昼もまたこちらで取られるでしょうし、その際にでも」 「よろしくお願いします」 心からの感謝をこめてお辞儀をすると、シエスタはウインクして答える。 「マルトーさんも言ってましたけど、同じ平民のよしみ、です。いつでも頼ってくださいね」 魔法学院の教室は、石造りのやはり巨大な部屋だった。生徒が座る席は階段状に配置されており、その中央最下段に教師が立つ教壇がある。 二人が入ると、先に教室に来ていた生徒たちが一斉に振り向いた。そしてくすくすと笑い始める。 だが、ルイズにそれを気にしている余裕はなかった。今日は学年最初の授業ということで、大抵の生徒が使い魔を連れている。そんな場所に少年を放りこんだらどうなるか。 早くもふらふらと引き寄せられそうになった彼の襟元を、がっしと掴んで引きずりつつ、ルイズは席の一つへ向かった。本格的に、首輪と縄が必要かもしれない。 席の近くの床に少年を座らせる。机があって窮屈なのは気にならないらしいが、周囲の使い魔を見てそわそわしている。 ふと、少年が使い魔のうちの一体――浮かんだ巨大な目の玉を指さして言った。 「アンノーン?」 「違うわ。バグベアーよ」 「チョロネコ?」 「あれは単なる猫じゃない。チョロってなによ」 「アーボ?」 「あれは大ヘビ……一体、その名前は何処から出てきてるのよ」 ルイズが呆れたように言ったところで、教室の扉が開いて一人の魔法使いが入ってきた。 ふくよかな頬が優しげな雰囲気を漂わせている、中年の女性だ。紫色のローブに、帽子を被っている。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは俯いた。 「おや? ミス・ヴァリエール、使い魔はどうしました?」 床に座った少年は、教壇からはちょうど死角になっていて、彼女からは見えないらしい。 シュヴルーズが問いかけると、ルイズの近くに座っていた少年が声を上げた。 「ゼロのルイズ! 召喚出来ずにその辺の平民連れてきたからって、恥ずかしがって隠すなよ!」 その言葉に、教室中がどっと笑いに包まれた。 ルイズは椅子を蹴って立ち上がった。長い髪を揺らし、可愛らしく澄んだ声で怒鳴る。 「違うわ。ちゃんと召喚したもの! こいつが来ちゃっただけよ!」 「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』に失敗したんだろう?」 ゲラゲラと教室中が笑う。 「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! 『かぜっぴき』のマリコルヌが私を侮辱したわ!」 「かぜっぴきだと? 俺は『風上』のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」 同じく椅子を蹴って立ち上がったマリコルヌに向けて、ルイズが追撃を放つ。 「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」 次の瞬間、立ち上がった二人は揃って糸の切れた人形のようにすとんと席へ落ちた。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」 席に座ったルイズは、先ほどの剣幕が嘘のようにしゅんとしてうなだれている。 「お友達をゼロだのかぜっぴきだのと呼んではいけません。わかりましたか?」 「ミセス・シュヴルーズ。僕の『かぜっぴき』は中傷ですが、ルイズの『ゼロ』は事実です」 教室にくすくす笑いが広がった。 シュヴルーズは厳しい顔をすると、ぐるりと教室を見回し一つ杖を振った。するとどこから現れたものか、笑っていた生徒の口元に赤土の粘度が貼り付いた。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 くすくす笑いがおさまった。 「それでは、授業を始めますよ」 少年は授業にはあまり興味がなかった。彼の注意はもっぱら他の使い魔に向けられていたが、属性の話が出た時は少しだけ耳をすませた。 現在は失われた『虚無』の魔法を含めて、魔法の属性は五種類あるらしい。彼の感覚からすると、五つの属性――タイプというのは、酷く少なく思えた。 もっとこう『はがね』だとか『エスパー』だとか『あく』だとかがあって良い気がする。もっとも、単に彼の感覚の方が細分化されている、というだけのことかもしれないが。 そんなことを考えたり、周囲の使い魔を観察していたりすると――。 「それでは、この『錬金』を誰かにやってもらいましょう。そうですね……ミス・ヴァリエール」 不意に指名されたルイズは、びくっと肩を跳ねさせると、シュヴルーズに問い返した。 「えっと、私……ですか?」 「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 そうやって教壇を指し示されても、ルイズは動かない。痺れを切らしたシュヴルーズが更に促そうとしたところで、キュルケが困った声で言った。 「先生」 「なんです?」 「やめといた方が良いと思いますけど……」 「どうしてですか?」 「危険です」 キュルケが言い切った。ほとんどの生徒もそれに頷く。 「危険? 一体、なにがですか」 「先生は、ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。ですが、彼女が努力家であるという事は聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、なにもできませんよ?」 「ルイズ。やめて」 キュルケが蒼白な顔で言う。しかし、ルイズは立ち上がった。 「やります」 言って、若干硬い動きで教壇へと向かう。通路に乗り出すようにして、少年はその背中を見送った。 教壇に上ったルイズに、シュヴルーズが隣に立って微笑みかけた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 ルイズはこくりと可愛らしく頷く。そして緊張した面持ちで小石を睨みつけると、神経を集中した。 同時に、少年は周囲の生徒たちが、彼と同じように机の影に隠れるのに気付いた。なんでだろうと思う間もなく、短いルーンと共に、ルイズが杖を振り下ろす。 瞬間、小石は机もろとも爆発した。 爆風をもろに受けて、ルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられた。悲鳴が上がる。 驚いた使い魔たちが暴れ始めた。 眠りを妨げられたキュルケのサラマンダーが火を吹き、尻尾をあぶられたマンティコアが窓を突き破って外へ逃げ、その穴から巨大な蛇が顔を出して誰かのカラスを飲みこんだ。 教室が阿鼻叫喚の大騒ぎになる。髪を乱したキュルケが、ルイズを指して叫んだ。 「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」 「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」 「ラッキーが! 俺のラッキーがヘビに食われた!」 黒板の前にシュヴルーズが倒れている。時々痙攣しているので、死んではいないようだ。 煤で真っ黒になったルイズが起き上がった。服装は悲惨極まりない。上も下もところどころ破れていて、隙間から下着が覗いている。 だが、ルイズは自身の惨状も教室の阿鼻叫喚も気にしない様子で、淡々とした声で言った。 「ちょっと失敗したみたいね」 当然、他の生徒から猛然と反撃を喰らう。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!」 爆風で吹き飛ばされた帽子を拾いつつ、少年は一人、すごい『だいばくはつ』だったなと頷いていた。 「おふっ……ミス・ロ……ング、ビル……やめて、やめ……お、おち、る……」 ルイズが教壇を吹き飛ばし、それの罰として掃除を命じられている頃。 この魔法学院の学園長であるオールド・オスマンは、秘書にいつもよりも酷いセクハラ行為――尻を両手でじっくり三十秒ほど捏ねまわすように揉んだ――に及び、いつもよりも苛烈な報復を受けていた。 首を絞められ、今にも気を失いそうなオールド・オスマンに対し、ミス・ロングビルは無表情でチョークスリーパーをかけ続けている。 そんなちょっとした命の危険は、突然の闖入者によって破られた。 「オールド・オスマン!」 荒っぽいノックに続いて、髪の薄い中年教師――コルベールが部屋に入ってくる。 その時には既に、オールド・オスマンもロングビルも自分の席へと戻っていた。早業である。もっとも、オスマン氏は酸欠気味で、頭をふらふらと揺らしていたが。 「なん、じゃね?」 「たた、大変です! ここ、これを見てください!」 ようやく脳に酸素が戻ってきたらしきオスマン氏は、コルベールの焦りに鼻を鳴らした。 「大変なことなどあるものか。全ては些事じゃ。……ふむ、これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。こんな古臭い文献など漁りおって。そんなものを持ちだしている暇があったら、たるんだ貴族たちから学費を上手く徴収する術でも考えたまえ。ミスタ……なんじゃっけ?」 「コルベールです! お忘れですか!」 「おうおう、そんな名前じゃったな。君はどうも早口でいかん。……で、この書物がどうしたのかね?」 「これも見てください!」 コルベールが取りだしたのは、少年の右手にあったルーンのスケッチであった。 それを見た瞬間、オールド・オスマンの表情が一気に引き締まり、目が鋭い光を放つ。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 ロングビルが席を立ち、部屋を出ていく。それを見届けると、オスマン氏は口を開いた。 「詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」 ルイズが滅茶苦茶にした教室の掃除が終わったのは、昼休みの前だった。 罰として魔法を使うことが禁じられていたため、時間がかかったのである。といってもルイズはほとんど魔法が使えないから、余り変わらなかったが。 ミセス・シュヴルーズは二時間後に目を覚ましたが、その日一日錬金の授業を行わなかった。どうやらトラウマになってしまったらしい。 片づけを終えたルイズと少年は、食堂に向かった。昼食を取るためである。 道すがら、少年は先ほどの光景を思い返していた。何故か、『わるあがき』という言葉が浮かんで消える。 次にちょっと間抜けな顔をした大きな魚が出てきて、最後に巨大な龍が脳裏をよぎった。 その余りの脈絡のなさに、自然と苦笑が漏れる。それを見とがめたルイズが、少年を睨みつけた。 「……あんたも」 「?」 「あんたもわたしを馬鹿にしてるんでしょ!? 貴族だなんだと散々言っておいて、その実はなにも出来ない、『ゼロ』であるわたしを!」 そんな叫びは、少年のきょとんとした表情によって迎えられた。作ったものではない。心の底から、なにを言われているか分からない、と思っている顔だ。 それを見た瞬間、毒気も怒りも、全て雲散霧消してしまった。 沈黙したルイズを見て、少年はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。 「……使い手と『わざ』には相性がある」 「ふえ?」 「どれだけ強い力を持っていても、相性の悪い『わざ』は使えない。今のゴシュジンサマは、相性の良い『わざ』がない状態なんじゃないかと思う。だから、『わるあがき』しかできない。……けど、それでもあれだけの力があるんだから、適正のある『わざ』ならすごい威力になるんじゃないかな」 突然饒舌になった使い魔に、ルイズはしばらくぽかんとしていたが、それが彼の不器用な慰めだと気づくと、くすりと笑った。 それに、こいつの考え方は面白い。これまで失敗してきた『わざ』――魔法を使えるように努力するのではなく、相性の良い魔法を探す。 今までも色々な魔法を試してはきたが、もっと色々と、それこそ普通は思いもしないようなものまでやってみるのも悪くないかもしれない。 ただ、今は――。 「……『わるあがき』ってなによ」 「えっ? ええと、うんと……なんなんだろう」 「ご主人様にそういうこと言う使い魔は、お昼ご飯抜きにしちゃうわよ?」 慌てる少年にルイズはくすくすと笑うと、先ほどより明らかに軽い足取りで、食堂へと向かった。 前ページ次ページゼロの使い魔BW
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注)本SSは『HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました』スレに掲載された作品です。 「HELLSING」のアーカード・ウォルター・セラス・大尉を召喚 HELLOUISE-1 HELLOUISE-2 HELLOUISE-3 HELLOUISE-4 HELLOUISE-5 HELLOUISE-6 HELLOUISE-7 召喚されたのがウォルターではなくアンデルセンの場合 HELLOUISE 番外編 ルイズが旦那を召喚時に死亡フラグ立てた場合 HELLOUISE IF~たったひとつのさえたやり方~ HELLOUISE IF~きっともう一度の、冴えたやり方~ (前編) HELLOUISE IF~きっともう一度の、冴えたやり方~ (中編) HELLOUISE IF~きっともう一度の、冴えたやり方~ (中編2) HELLOUISE IF~きっともう一度の、冴えたやり方~ (後編) HELLOISE それぞれの一日 タバサの場合~或いは彼女を取り巻くフクザツなカンケイについて~
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4204.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ あとは実行に移すだけだった。 はずなのだが、『土くれ』のフーケは思わぬところで足止めを食らっていた。 双月の光を受けて浮かび上がった魔法学院の本塔。その五階には宝物庫が備えられている。 まさにその壁面に、フーケは重力を無視した形で垂直に立っていた。腕組みをしながら。 キュルケという生徒の素行を真似してみただけなのだが――コルベールは少し気のある素振りを見せてやっただけで見事なまでの女性への免疫の無さを発揮し、宝物庫にまつわる情報を好きなだけ教えてくれた。 それによれば強力な『固定化』の魔法が施してある宝物庫の壁は、唯一物理衝撃に弱く――フーケは荒事になるがゴーレムによって壁を破壊し、中にある宝を強奪しようと画策していた。 しかし今測量したところでは、いかんせん壁が厚すぎる。彼女のゴーレムでは、馬力が足りない。 「…………」 舌打ちをする。 盗みを中止するのは口惜しいが、無茶をした時のリスクとリターンが釣り合っていない気もする。 (奪えない、となるとさっさと消えてしまおうかねぇ……オスマンのセクハラにも、いい加減うんざりしてきたとこだし) うっすらと後ろ向きな考えが芽生えたところで、しかしフーケは思い出したことがあった。学院に潜伏している、もう一つの目的についてである。 数週間前、ヴェストリの広場で起こった騒動。ムスタディオとかいう使い魔の男と、グラモン家のぼんぼんの小競り合い。 決闘ごっこの結果など正直どうでもいい。フーケが着目したのは、ムスタディオの用いていた杖だった。 あの氷の魔法は、ムスタディオの力による物ではない。 彼自身からはさほど強い力は感じないのだ。 恐らくあの杖は、増幅器の類ではないかとフーケは当たりをつけていた。 (だとしたら、とんでもない値打ち物さ) ドット以下の力しか感じられないムスタディオが持つだけであれほどの威力を生むのだ。 ならば、トライアングルクラスの自分が持てばどうなる? 下手をすれば「破壊の杖」よりよほど価値があるかもしれないのだ。そんな宝物に手をつけず、何が『土くれ』か。 しかし今夜は、ひいては今は機会ではないようだった。 工作を打ち切って退散しようとしたフーケだったが、塔の下が騒がしいことに気付く。生徒達が集まって何かやっている。 (あれは……) フードの隙間から見下ろす目が細まる。 その中に、先ほどまで思考を占めていた人物の姿を見とめたからだった。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-16 ◇ 「大体あんた、金目で釣ろうとするってどういう了見よ。ヴァリエール家の名が泣くわね」 「かかかか金目ですって! そそそんなやましいこと考えてないわよ! そんな下劣な発想が出てくるあんたの品格を疑うわ!」 「あら、下劣な発想はどちらかしら? あたしのはあくまで、噛み付くことでしかやり取りできないあなたのかわいそうなコミュニケーション能力を考慮した上での推論で・す・け・ど?」 「な、なななななっななな!」 どもりまくっている。 魔シンガンの掃射のようだ、というのがムスタディオの感想だった。 「あああああああんただって、あんただって色気でムスタを誘惑したくせにっ! ななな何よあのプライドも何も捨てたいやらしい格好は! ヴァリエール歴代の当主がツェルプストーを毛嫌いするのが分かるわ! なんてはしたない! 品格を疑うわ!」 「……あら? 殿方を喜ばせるのは女の嗜みだと思うけれど? 持たざる者の僻みかしら?」 「何よそのじじじじじジェスチャーはっ!?」 にやりと笑うキュルケ。胸を押さえるルイズ。 そういう話はムスタディオとしては女性だけの時にやって欲しく、見ているこちらまで赤面してしまうのである。 ぎゃんぎゃんと喚きたてるルイズをキュルケが流し目で受け流し、傍らで不気味なほどの無関心さでタバサが本をめくる。 女三人寄れば姦しいとはこういうことか、とムスタディオはタバサよりさらに一歩引いた立ち位置で、双月が照らす学院本塔を見上げた。 ――城下町の衣料店での騒動において、ムスタディオが最後に覚えているのはルイズが魔法をぶっぱなし、自分の目の前で炸裂する光景だった。 そこからは記憶が途絶える。付けば部屋でベッドに横になっていて、青筋を立てたルイズにキュルケとの仲を問い質されたのだった。 内容には触れずに「相談の交換条件に名前で呼ばさせられ、敬語を禁止された」とだけ白状したら「で、相談は何? ツェルプストーには話せて私にははばかるような内容なわけ?」と一も二もなくすごまれる。今日ようやく気付いたが、こういうのは拗ねの裏返しのようだ。 しかしまさか「ヴァリエール様の様子がおかしかったから相談していた仲」とは言えず、言葉に詰まる。何も言わずにいることさえ火に油を注ぐのか、ルイズはキュルケへの怒りを膨らませていき、 「やっぱり決闘しかないわ! あの子とは一度白黒つけなくっちゃいけないのよ!」 と一人でヒートアップして隣室のキュルケへと殴り込んでしまった。 あわや室内で決闘が始められようとしたところを居合わせたタバサが杖を取り上げてとりなし、誰にも被害が及びそうにない本塔の下の広場まで出てきた、というのが事の次第である。 それにしても、なんだろうこれは。 自分の金髪を撫でながら、ムスタディオは三人娘の様子を眺める。 「ジェスチャー? あら、ごめんなさい。そんなつもりはなかったのだけれど……でもルイズ、何かやましいことがあるからこんな何でもない仕草にも悪意を感じるのじゃなくって?」 「し、白々しいわよっ!」 最初は決闘のつもりだったのだろうが、今や泥の掛け合い、ただの口喧嘩と化している。 ルイズは魔法で競うつもりが満々だったのだが、キュルケが早々に揚げ足を取り、舌戦に転換してしまったのだった。 キュルケは表情を窺うにわざと摩り替えて楽しんでいるようだが、怒髪天をついているルイズは絶対に気付いていない。ヴァリエール様は性格が悪いのではなく、ちょっと単純なだけなのかもしれないなぁとけしからん方向へ考えを改めるムスタディオである。 万一のことを考えてブレイズガンを携行していたが、この分だと出番はなさそうである。どちらかが実力行使に出ても、キュルケがあしらうかタバサが止めに入るだろう。 そんなわけで、ムスタディオは蚊帳の外だった。こちらに来てから未だかつて、これほどのどかな夜を過ごしたことがあるだろうか。 などとしみじみしていると、ルイズの魔シンガンさながらのどもり声が本塔の壁に大きく反響した。 「な、ななななななにが女の嗜みよ! そんなのただの色ボケじゃない! なあに? ゲルマニアで男を漁りすぎて相手にされなくなったから、トリステインまで留学して来たんでしょ?」 「……言ってくれるわね、ヴァリエール……」 皮肉げだったキュルケの顔がこわばる。どうやら逆鱗に触れたようだった。 こういう展開ももはや観念していたムスタディオは、ため息をつきながらブレイズガンを構える。 「何よ、ホントのことでしょう?」 キュルケとルイズもまた同時に杖を構える。ムスタディオは二人に声をかけようとして、しかし出来なかった。 その時、言いようのない感覚に全身を圧迫されたからだった。 タバサがこちらを見ていた。剣呑な二人に見向きもせず。 タバサの視線。 キュルケには相談しなかったが、ムスタディオの気になる一つである。 ルイズほどではないが、たまにタバサも自分をじっと見ていることがある。 いつものようにタバサがこちらを見ている。 なのに、何だろう。 今日は何か頭蓋骨の裏側がちりちりする。夜闇が密になる錯覚がある。燐光が視界を掠める幻視すら覚える。 これと似た感覚を――ムスタディオは何度も味わったことがあった。 これは、そう。『奴ら』が現れる予兆だ。『奴ら』が聖石を取り出し、融合を果たす瞬間の感覚。 それか、あるいは。『奴ら』が適合者を見つけた時に、聖石が嬉々とするかのごとく瞬く瞬間の感覚。 わけもわからずブレイズガンをタバサに向けて問い質しそうになる。 それを押し留めたのは、響き渡った爆発音だった。 振り向くと杖を振り下ろした姿勢のルイズが肩で息をしている。魔法を発動したようだが、対象であるはずのキュルケは呆けたように立ち尽くしている。 ぱらぱらと何かが地面にこぼれる音の正体を目で探ると、本塔のかなり上の方の壁にヒビが入っていた。 どうやら失敗魔法が狙いが盛大にそれ、壁を破壊したようである。 キュルケが腹を抱えて笑い始める。 「ゼロ! ゼロのルイズ! あたしじゃなくて壁を爆発させてどうするの! しかもあんな上の階の! 器用ね!」 笑い続けるキュルケが、「手加減してあげるからちゃんと受け止めなさいよ!」と杖を持ち上げる。 「ば、バカにしないで!」と顔を真っ赤にしながら応戦の構えを取るルイズ。 ムスタディオが感じていた空気が弛緩する。決闘を止めようとブレイズガンを構え、口を開こうとして、しかし出来なかった。 背後に気配を感じ、振り向いた先には、塔と見まがうような巨躯があった。 それが土のメイジによるゴーレムであるなどとは、ムスタディオは知る由もない。 ゴーレムが丸太どころではない太さの腕を振りかぶる。ムスタディオはこの状況では成す術もないと瞬時に悟る。キュルケの悲鳴が上がる。 しかしゴーレムは四人には見向きもせず――本塔にその拳が突き刺さった。 ◇ 「ふん――なかなかどうして、帰属のボンボン共もたまには役に立ってくれるじゃないの!」 一人呟きながら、フーケはゴーレムが開けた穴から宝物庫に侵入した。 様々な宝物が安置してあるがどれも無視し、奥に走る。狙いは一つ。『破壊の杖』。 断続的に乾いた音と、ガラスが砕けるようなムスタディオの魔法の炸裂音が屋内に届く。悲鳴と怒鳴り声。他の魔法の音も聞こえるが、自分のゴーレムはあの程度で破壊されるようなやわな造りではない。 フーケは意に介さず捜索を続け――そして、目的の物へたどり着いた。 「……これは」 ――その形状には見覚えがあった。 彼女は壁に『破壊の杖、確かに領収いたしました。フーケ』と刻みながら、外でゴーレムと戦っているだろう者達へ意識をやる。 ますますこのままとんずらするわけにはいかなくなった、と思った。 ゴーレムのあけた穴へ戻る頃には、戦闘音は止んでいる。 ◇ ごおおお、と風を切る音が耳を覆いつくす。視界は上下さかしまで、地響きを響かせながら歩み去るゴーレムの姿が映っている。その背中や脚にはところどころ、ムスタディオによる氷が花開いていた。 腹筋トレーニングの要領で上を向く。ムスタディオは片足を風竜に咥えられ、宙吊りになっていた。その竜の上にはメイジ三人がしがみついている。 「タバサ様、ありがとうございます」 冷や汗をかきながら言うと、首のあたりに優雅に座るタバサが無言で頷いた。後の二人は身なり構わずといった体だ。 ゴーレムが出現した時、真っ先に動き始めたのはムスタディオだった。キュルケが取り乱し、ルイズが唖然とする中でブレイズガンをみだれ撃つ。追ってタバサと風竜が援護に入るが、いかんせん効き目が薄い。 そうこうしている内に背中を向けていたゴーレムが標的をこちらに見据え――激しい地団駄で踏み潰されそうになったところを間一髪拾い上げられたのだった。 「な、なんなのよあのゴーレム!」 ルイズが叫ぶ。 誰にでもないその問い掛けに応じたのはタバサだった。 「多分、『土くれ』のフーケ」 その言葉に皆が絶句する中、ムスタディオは別のことに戦慄していた。 ――ゴーレムをねめつけるタバサの目が、異様な輝きをを放っていた。 件の感覚が背筋に押し付けられる。 風竜が地面に降り立った。硬直したままのムスタディオが放り出され、ルイズとキュルケが降り、しかしタバサは使い魔の首ったけにしがみついたままだった。 次の瞬間、風竜が翼を大きくはためかせて浮き上がった。 「ちょっとタバサ、何してるのよ!」 キュルケが舞い上がるスカートと髪を押さえつけながら鋭い問いを飛ばす。 「フーケを追う」 「やめなさい! もし本当にフーケだとしたら、まず先生達に――」 タバサはそれ以上キュルケの言葉に耳を貸さなかった。 ホバリングをしていた風竜が砲弾のように飛び出す。あっという間にゴーレムの歩き去った方向へ飛び、夜闇に吸い込まれて消えた。 ◇ 「きゅい! おねえさま大丈夫なの!? あんな大きなゴーレム相手じゃ、シルフィとおねえさまだけじゃ勝ち目が薄いのね!」 股下のシルフィードが悲鳴に近い声を上げたのを一瞥する。 タバサは段々と近くなってくるゴーレムへ目線を戻し、 「大丈夫、敵わない」 「ちっとも全然これっぽっちも大丈夫じゃないのね! 引き返すのだわ! まだあちらはシルフィ達を意に介して――」 「待って!」 旋回し、方向転換をはかるシルフィードの頭を叩きながら、タバサが珍しく声を荒げた。 「大丈夫、敵わなくても殺されはしない。人質として利用されるはず」 「なおさら良くないのね! まったくもういつの間におねえさまは心の病気におかされたのかしら! シルフィなさけない!」 「考えがある。やらなきゃいけないことがあるの」 だから追って、というタバサの声には懇願の響きが含まれている。 ほどなく、学院へ戻り始めていたシルフィードが方向転換をした。再びゴーレムの背中を追って空を翔る。 「……おねえさまは何を考えているの? シルフィにはちっとも分からないのね!」 「今は言えない。でも作戦がある。私がフーケに捕まったら、まずこれを持って逃げて」 そう言って、タバサは腰からポーチを外した。一つだけ中身を取り出して懐へ仕舞い、後はシルフィードに咥えさせる。 「それから、言った通りに行動して」 タバサは口の利けなくなったシルフィードの耳に口を寄せた。 ――ゴーレムの背中が近づいてくる。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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916 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 00 35 19.62 ID NS3X7QkH0 [2/5] これを機にまどっちがさやかちゃんと撮りたいシチュリストを作ってるとか 917 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 00 43 49.99 ID kcuIDV2ZT [3/27] 「まずはお姫様抱っこ それから布団で一緒に添い寝 次にお風呂に入ってる時でそれから…」 919 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 01 04 08.95 ID NS3X7QkH0 [3/5] 仁美ちゃん役得… ま「あとね、セクハラされてるときとか服を脱がされてるときとかetc///」ウェヒヒ さ「おーいまどか、戻っといで~」 921 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/07/26(金) 01 20 14.09 ID hmMtFzG+0 [1/12] 絢「うちのまどかを傷物にした責任取る覚悟はあるんだろうな」 さ「ひいいい」
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次:お絵かきBBS/お絵かき掲示板ログ/810 + ... これをエロく感じる自分はどう考えても病気です。ありがとうございました -- 名無しさん (2008-05-14 18 23 56) これは・・・・? -- 名無しさん (2008-05-14 18 24 34) 空中元彌チョップwwwww ハルヒが哀れだwww -- 名無しさん (2008-05-14 18 24 46) この前間違えて描いてしまった空中元彌チョップのリベンジ しかし肝心の手が描けなかった・・・ -- 描いた人 (2008-05-14 18 25 19) これはエロイw -- 名無しさん (2008-05-14 18 25 49) ハルヒにナニをくっつけているのだ!けしからん!非常にけしからん! -- 名無しさん (2008-05-14 18 26 54) 坊主Cもエキプロ化したかww -- 名無しさん (2008-05-14 18 27 36) かっけぇwwwバックライトが味出してる -- ショーン (2008-05-14 18 28 57) どう見てもフェ(ry -- 名無しさん (2008-05-14 18 29 24) 古泉「急にバイトが入りましたので失礼します」 -- 名無しさん (2008-05-14 18 31 23) 実はハルヒの変装した阿部さん -- 名無しさん (2008-05-14 18 37 27) ここどこだよwww -- 名無しさん (2008-05-14 18 38 53) 完全にセクハラだwww -- 名無しさん (2008-05-14 20 26 34) やっぱり女性陣はセクハラされる運命かwwww -- 名無しさん (2008-05-14 20 45 36) なのはに次ぐセクハラされキャラになったなw -- 名無しさん (2008-05-14 21 39 05) C「しゃぶれよ」 -- 名無しさん (2008-05-14 21 59 03) 坊主の顔が逝っちまってるなwww -- 名無しさん (2008-05-14 22 39 00) ち○こを顔に押し付ける坊主の図。おえびの主役だハルヒwwww -- 名無しさん (2008-05-14 23 20 09) ハ「臭ッ!!!」(ティウンティウン) -- 名無しさん (2008-05-14 23 32 31) 等身のせいでエロスを微塵も感じないw -- 名無しさん (2008-05-14 23 34 09) いいこと思いついた。お前、そのままションベンしろ -- 名無しさん (2008-05-14 23 35 04) 何で健想がハルヒなんだよwwww -- 名無しさん (2008-05-14 23 46 11) 画像の下半分だけ見るとしゃぶらせ(ry -- 名無しさん (2008-05-14 23 50 35) ↑×3 飲ませる気かよwwwww -- 名無しさん (2008-05-14 23 51 26) 阿部さんは逆に回復しそうだw -- 名無しさん (2008-05-14 23 59 00) くっそ吹いたwwwwwww -- ねこ (2008-05-15 00 05 22) ああ、本当にろくな目にあってないなハルヒは・・・。 -- 名無しさん (2008-05-15 00 09 36) おえびでの主なハルヒの戦歴。パンツ盗られる。フタキワにされる。チョップ食らう、股に顔挟まれる。・・・・・・・・・・・・・なむなむ。 -- 名無しさん (2008-05-15 00 10 54) やられ役ハルヒなのは実際動画でチョップをくらったのがハルヒだったから それだけ -- 描いた人 (2008-05-15 00 14 17) ↑15 なのはとハルヒって、原作だと他人を巻き込むタイプだから、逆に巻き込まれたときのギャップが萌えると思いますw -- ショーン (2008-05-15 00 17 13) カナシイハナシダナー -- 名無しさん (2008-05-15 00 18 19) 元彌チョップのネタには忠実なはずなのに、ものすごいシュール感が漂うww -- 名無しさん (2008-05-15 00 29 13) ↑3 志村~、阿部さんも喰らって一撃ティウンしてる~ -- 名無しさん (2008-05-15 00 40 35) ↑ 3は5の間違いorz -- 名無しさん (2008-05-15 00 42 13) 題名 一発芸。陰毛。 -- 名無しさん (2008-05-15 00 54 46) 一瞬外山に見えたのは秘密w -- 名無しさん (2008-05-15 01 33 14) 坊主C「ともだち○こ!!!」 -- 名無しさん (2008-05-15 03 33 00) 坊主「ところで俺のキンタマを見てくれ。こいつをどう思う?」 -- 名無しさん (2008-05-15 11 30 30) これなら全力でボコにしたくなるのも頷ける -- 名無しさん (2008-05-15 11 34 52) しかしニコニコ編で女性陣は本当にろくな目に会ってないねぇ 次は誰が誰の手にかけられるのやら -- 名無しさん (2008-05-15 11 35 56) ハルヒの出番がもうない気がするので言葉か。 -- 名無しさん (2008-05-15 11 40 15) すでに死亡率では一番酷い目にあってるがな。 -- 名無しさん (2008-05-15 12 00 12) ↑言葉「雑魚戦のたびに飛び降りとか勘弁してください…そうじゃなくたって死にやすいのに………」あなたの言葉はこんな風になっていませんか? -- 名無しさん (2008-05-15 12 01 49) ↑いや、動画上ですでにダントツでティウってるぞ。ちなみに俺はプレイ上一度もティウらせた事は無い。 -- 名無しさん (2008-05-15 12 21 26) これをトップにするとかどうだろう・・・w -- 名無しさん (2008-05-15 21 47 10) ↑色んな意味でまずいな -- 名無しさん (2008-05-15 21 49 54) 股間が危ない!! -- 神男 (2008-05-24 02 07 52) 股間が危ないなら覇王翔孔拳を使わざる得ないwww -- 名無しさん (2008-05-24 02 11 51) よくよく考えた。元上司であるピコ麻呂と琴姫には撃ち辛い。阿部に打つのは俺の弱点はここだ!と晒すようなもの。ならば必然狙いはハルヒになるww トラウマなるぞーwww -- 名無しさん (2008-05-24 02 13 34) C「この風呂吹き大根も砕けぬこの拳を受けてみよ!!」 -- 名無しさん (2008-05-24 03 14 42) ↑聞いたことあるけど思いだせん -- 名無しさん (2008-05-24 10 56 17) ↑某ネコ精霊の台詞ですな -- 名無しさん (2008-05-24 11 05 29) これも一応かばうシリーズなのか? -- 名無しさん (2008-06-01 12 43 20) かばうというフレーズに違和感がないなwww元上司にやるわけにはいかんし阿部さんにやったら逆にCが体力吸い取られそうだしwww二人を守るならはハルヒしかいない -- 名無しさん (2008-06-01 12 46 39) 上司を庇い。自分の息子を庇った結果がハルヒかwww -- 名無しさん (2008-06-11 21 36 05) 名前 コメント
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前ページ次ページThe Legendary Dark Zero 魔法学院へと戻ってきた一行は学院長室へやってきた。 スパーダとロングビルを除く三人はオスマンに向かって一礼をし、事の顛末を報告していた。 「ほほう、まさか土くれのフーケが人間ではなかったとはのぅ……これは驚いた」 報告を受けたオスマンは感嘆に呟くものの、あまり驚いている様子がない。隣に控えるコルベールも同様だ。 「じゃが、そのフーケも君達の手によって倒され、〝破壊の箱〟もこうして無事に戻ってきた」 オスマンは未だ破壊の箱——災厄兵器パンドラを担いでいるスパーダを見る。 「これで一件落着じゃな」 満面の笑顔で三人の生徒を褒め称えると、キュルケが「当然ですわ」と誇らしげな態度で答える。 「君達三人に、〝シュヴァリエ〟の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。 ミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請をしておいたぞ」 ルイズとキュルケの顔がぱっと輝き、キュルケが「本当ですか?」と驚いた声で言った。 「うむ。いいのじゃよ。君達はそのぐらいのことをしたのじゃから。然るべき報酬を受けるのは当然じゃよ」 「……あの、三人とは? スパーダやミス・ロングビルには?」 ルイズがちらりと背後に控える二人を見て、怪訝そうに尋ねる。 オスマンは申し訳なさそうに二人の顔を見て、 「うむ……ミスタ・スパーダとミス・ロングビルは正式には貴族ではなくなっているからの……。爵位を授けることができないのじゃ……真に申し訳ないが……」 「別にいりませんよ」 「そんな権利は必要ない」 ロングビルが微かに溜め息を交えて答え、スパーダもパンドラを担いだまま一蹴していた。 「しかし……君達に何も報酬がないのはいかんからの。フーケにかけられていた賞金を授けるとしよう」 ロングビルは複雑な顔を浮かべ、微かに唸りだす。 「さて、今夜は〝フリッグの舞踏会〟じゃ。この通り、破壊の箱は戻ってきたことじゃし、予定通りに執り行う。 今夜の主役はフーケを討伐してみせた君達じゃ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」 ポンポンッ、と手を叩くオスマン。 「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」 キュルケが叫び、三人はオスマンに一礼をすると扉へと向かった。 ルイズはパンドラを担いだまま動かないスパーダをちらりと心配そうに見やる。 「君は先に行くといい。私はまだ用がある」 スパーダが肩越しに向きながらそう言うと、ルイズは頷いて部屋を出て行った。 ルイズ達が退室した後、オスマンは咳払いをすると目の前に立つ二人を見つめる。 「さて、ここからはワシら大人達だけの話じゃな。ミスタ・スパーダ、ミス・ロングビル」 スパーダは執務机の上にパンドラを置く。ドカッ、と音を立てて大柄なスーツケースはオスマンの目の前に叩きつけられた。 コルベールは興味津々といった様子でパンドラの箱を眺めている。 「こいつをどこで手に入れた? これは私の故郷で作られたものだ」 「ふむ。君の故郷がどのような所かは知らぬが、まさかこれがのう……。 ——もう、五年も前になるかの。森を散歩しておったワシはそこに落ちておったこの破壊の箱を見つけたのじゃ。 中身が気になって開けようとしたが、開きやせん。……そんな時、ワイバーンに襲われてしまっての。 危うく殺されかけてしまったのじゃが、その時に落とした破壊の箱が開き、中から不思議な光が放たれた」 スパーダは顎に手を当てたまま、ほう、と頷く。 ロングビルもその隣で静かに話を聞き、コルベールに至っては子供のように目を輝かせている。 「その光は一瞬にしてワイバーンを消し去りおった。それだけではない。箱の周囲、そう……およそ50メイル四方を焦土へと変えてしまったのじゃよ……」 話を聞いていたロングビルとコルベールが、青ざめた表情でパンドラを見つめる。 「ワシはその箱がとんでもない力を持ったマジックアイテムだと判断してな、それで〝破壊の箱〟と名づけて悪用されぬように今まで保管しておったのじゃ」 「運が良かったな、オスマン。こいつが開けられた時にもしもこいつの真後ろにいなければ、お前も消し炭になっていただろう」 パンドラをトントンと軽く叩くスパーダ。 「……おっかないことを言わんでくれ」 ゾクリと震え上がるオスマン。 実を言うとパンドラは兵器であると同時に、自意識や己の自我を持たない一種の生命体でもあるのだ。 形態を変化させて攻撃を行い、パンドラの戦闘本能を刺激することで内包された魔力が膨れ上がり、それを箱の形態で開けることで一気に解放するのだ。 オスマンが拾った時のこいつは豪く機嫌が良くなっていたようだから、それだけの力を解放できたのだ、 「じゃが、良かったの。君が使う前に彼がこうして教えてくれてな」 にっこりと笑うオスマンの視線がロングビルへと向けられる。 突然、自分に話を振られたロングビルは微かに顔を顰めていた。 「のう……ミス・ロングビル。いや、〝土くれのフーケ〟よ」 一瞬、重々しい口調となったオスマンの口から出てきた名にロングビルが驚愕の表情を浮かべた。 「ああ、心配せんで良いよ。君を宮廷に突き出す気はないし、そもそも〝フーケ〟は彼女達の手で倒されたのじゃからな」 咄嗟に身構えるロングビルをなだめ、たった今浮かべていた厳しい顔つきを一変、満面の笑みを浮かべているオスマンであるが、どこか油断のない表情である。 スパーダもその姿に感嘆する。ただの飄々とした老人ではなかった、ということだ。 「ホッホッ、これでも嘘つきの生徒達を何百人と見てきているんじゃ。あの報告をおかしいと思わぬ教師ばかりで本当に困ったもんじゃよ……。あ、ここにいるコルベール君も気づいていたでな」 未だ驚いたままのロングビルから視線を外さぬまま、己の豊かな髭を撫でながら言葉を続けるオスマン。 隣にいるコルベールがコホン、と軽く咳払いをする。 「……どの道、年貢の納め時だったわけだ」 放心状態のロングビルの肩をポン、と叩くスパーダ。 しかし、オスマンやコルベールがあの報告を怪しんでいたとは中々に良い洞察力をしているようだ。 「あの……ところでミス・ロングビルはどこで秘書として雇ったのですか?」 「ああ、彼女は街の居酒屋で給仕をしておったのじゃ。そこでワシのこの手がついつい、尻を撫でてしまってな。それでも怒らないので秘書にならないか、と言ってしまった」 コルベールからの問いに照れたように話すオスマン。その言葉にコルベールは呆れたような表情で溜め息をつく。 ロングビルの眉がピクピクと痙攣している。 「おまけに美人じゃし、魔法も使えるというもんでなぁ」 「このエロジジイ……」 冷たい視線を送るコルベールがぼそりと、そんなことを呟くのが聞こえた。 「じゃがしかし、君がフーケだと感づいたのは本当に朝の報告の時なのじゃよ」 「ならば何故、あの時に言及しなかった?」 「ホッホッ、君のことじゃ。君じゃって彼女の正体には気づいていたのじゃろう? 君ならば彼女を上手く説得でもしてくれると思っての。 何より、君は聡明で公明正大じゃからな。コルベール君も上手い具合に合わせてくれた」 「いやぁ……私はその……」 ポリポリと頬を指で掻くコルベール。 腕を組むスパーダは大きく溜め息を吐く。 「食えない男だな、〝賢者〟オスマン」 スパーダが口にしたその言葉に一瞬、呆気にとられたオスマン。 「……何じゃ? 〝賢者〟とは」 「老獪なお前に相応しい二つ名だ。私からお前にその名を送ろう」 表向きは飄々としていて、その裏では油断がないしたたかさを発揮している。まさに賢者そのものだ。 「別に構わんよ。ワシはただのしがない老いぼれ。魔法学院の長にすぎん」 と、言いつつも内心は嬉しそうだ。 「……さて、ミス・ロングビル。ワシは君がこれ以上、盗賊として汚れ仕事に手を染める気がないのなら、フーケとして宮廷に突き出す気はないんじゃが……どうするかの?」 ロングビルへと顔を向けたオスマンはそう提案する。 俯く彼女は表情を曇らせている。 「君さえ良ければ、このまま秘書として働き続ける気はないかね?」 オスマンは真剣に、一切の下心を抱かずにロングビルに持ちかける。 「君にだって、大切な人はおるのじゃろう? このままフーケとして手を汚し続ければ、いずれは捕まる。そうしたら、その大切な人を守ることもできなくなってしまうぞ?」 やはり彼も分かっていたようだ。彼女が自分の大切な人のために手を汚し続けていることを。 「もちろん、給金も倍は出させてもらうよ。君は大切な人のためにお金が必要じゃったから、盗賊に身をやつしていたんじゃろうからな」 「三倍よ」 キッ、とオスマンを睨むように顔を上げるロングビル。 「あなたにこれからも色々とセクハラされるんだもの。それくらいは貰わないと割に合わないわ。それだったら、ロングビルとしてここに残らせてもらう」 「……うむ。いいとも、いいとも。君が盗賊から足を洗ってくれるのなら、それくらいはどうにでもなるわい。これからもよろしくな、ミス・ロングビル」 ロングビルはフンッ、と鼻息を立ててそっぽを向くとそのまま学院長室を後にしていた。 「さて……この破壊の箱なんじゃが……」 オスマンが机の上に置かれたままのパンドラをじっと睨みつける。 「君の故郷のものであるなら、君が持つのが筋じゃろう。それに君ならば決して悪用もせぬようじゃしな」 「ありがたく預からせてもらう。……宝物庫にはこいつ以外に何か保管していたりするのか? できれば、中を見せてもらいたい」 それからスパーダとオスマン、コルベールは修繕が途中の宝物庫へと移動する。 宝物庫にはガラクタにしか見えないものから、宮廷から預かったものらしい所蔵品がいっぱいだ。 スパーダも見たことがない品々ばかりが目につく。 これではパンドラがなくとも、ロングビルに狙われてもおかしくはなかっただろう。 「ん……?」 そんな中、スパーダが目についたものがあった。 スパーダは宝物庫の中心に堂々と置かれていた〝それ〟へと近づき、間近から眺める。 「おお、それはひと月ほど前にアカデミーから預けられたものでな」 オスマンが言うそれを、スパーダはじっと眺めていた。 獅子の頭の面を付けた男性の黄金像で、巨大な砂時計を頭上に掲げている。その大きさは2.5メイルほどにも達していた。 「私らも一度、それを調べてみたのだが……さっぱりなのだよ」 コルベールも後頭部を掻いて困ったような苦笑を浮かべる。 スパーダはその黄金像に手を触れてみる。 『我は時の傍観者なり』 突然、その黄金像から威厳に満ちた男性の声が響きだし、オスマンとコルベールが一瞬、ビクリと肩を竦ませて驚いていた。 その声は耳に届くのではなく、頭の中に直接聞こえてくるようなものだ。 (まさかこいつまであったとは……) スパーダは驚きに顔を僅かに顰め、その黄金像を眺めていた。 『我に魔族の血を捧げよ。さすれば、我の記憶、古の力と知識を授けん』 「ははっ……こんなことを言ってきても、何をどうすれば良いのか分からないんでね。恐らく、この像に何かを捧げるのだろうけど……」 「なら、使い方を教えようか」 スパーダが黄金像に突き出した掌に光が集まると、その上に人の頭ほどの大きさをした薄っすらと赤く輝き、オーラを宿した丸い晶石が乗っていた。 オスマンとコルベールは目を見開いて驚く。 スパーダは黄金像にその晶石を差し出すと、晶石は黄金像の掲げる砂時計の中へと吸い込まれていく。 僅かな沈黙を置き、獅子の瞳が薄っすらと赤く光りだした。 『汝、魔族の血を捧げし者よ。我に何を望む』 黄金像から、威厳に満ちた声が再び響いてくる。 コルベールが「おおっ……!」と驚き、目を輝かせている。 「バイタルスターを二つ頼む。両方とも、魔力の純度は並でな」 スパーダがそう言うと、砂時計の中で不規則に回っている光の粒の動きが激しくなり、やがて二つの小さな緑色の光が出てきて、スパーダはそれを掴む。 『汝、魔族の血を捧げし者よ。癒しの力の欠片を受け取るが良い』 スパーダの手の上には、ちょうど手の中に納まる程度の大きさの、緑色に光る星の形をした石が二つ乗っていた。 「これは……一体?」 コルベールはズレかけた眼鏡を直しながら、スパーダが手にする二つの石を見つめていた。 オスマンも「ほう……」と嘆息を吐いている。 「バイタルスター。お前達で言う水の秘薬みたいなものだ」 それだけを言うと、バイタルスターを懐に押し込む。 「しかし、この像は何なのかね? そのような秘薬をこうもあっさり作ってしまうとは」 「〝時空神像〟だ。本来は時の傍観者と呼ばれ、世界で起きたありとあらゆる出来事を記憶しているという。私の故郷やフォルトゥナでもよく見かけた」 オスマンの問いに、時空神像を眺めながら答えるスパーダ。 「……何と。これも君の故郷とやらで作られたものなのかの?」 「いや、違う。それはさすがの私にも分からん」 しかし、まさかこんな所で時空神像とお目にかかるとは思っていなかった。 こいつは、スパーダが悪魔として誕生するより遥か昔から存在しているとされているようだが、いつ頃からなのかは分からない。 分かるのは、魔界や人間界に数百、数千を超える無数の分身を放つことで、ありとあらゆる歴史や出来事などを見届けて記憶し、共有しているということだけだ。 そして、こいつに魔力を宿した血を捧げることで膨大なその知識を分けてもらったり、神像が得た知識によって自ら、今のような錬成を行って様々な道具を作ったりするのだ。 スパーダも魔界にいた頃はもちろん、人間界で活動していた時に何度もこいつの世話になっている。 だが、よもやこの異世界にまで分身を放っていたとは……よほど知識欲が旺盛らしい。 まあ、それはそれで便利だから良いのだが。 「オスマン。こいつも私に預からせてもらえるか?」 「……うむ。どうやらこれを使えるのは君だけらしいしの。良かろう」 「ですが、どこへ置くのです?」 コルベールが問うと、スパーダは「ミス・ヴァリエールの部屋のすぐ近くに置いてくれれば良い」と答えていた。 「ところでミスタ・スパーダ。君の左手を見せてはくれぬかの?」 宝物庫を出るとオスマンがそう言ってきたので、手袋を外して左手の甲を見せる。 そこには使い魔の契約の証であるルーンが刻まれている。 オスマンはその手を掴み、ルーンをじっと見つめる。コルベールも同様にだ。 「君のこのルーンなのじゃがな……」 「〝ガンダールヴ〟とかいう奴だな?」 オスマンらが言う前にスパーダが口にしたので、二人とも驚いた。 図書館で書物を読み漁っていた時に、偶々このルーンの詳細について載っている本を見つけたので既に情報は得ている。 「何でもガンダールヴは始祖ブリミルとかいう奴と共にいた伝説の使い魔で、ありとあらゆる武器を使いこなしていた。その力は一人で一国の軍隊に匹敵するという話だな」 「そ、その通りじゃ」 「それで、お前達はミス・ヴァリエールが〝虚無〟のメイジなのかどうかが分からない。そういうことだな?」 オスマンとコルベールは強く頷く。 「……私はそんな話も力も興味はない。これは単なる彼女とのパートナーである証なだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。それに彼女が虚無の使い手かなど、どうでも良いことだ。彼女は彼女だ」 手袋を付け直し、その場を立ち去ろうとするスパーダをコルベールが呼び止めた。 「ああ、スパーダ君。君は剣を使えるのだよね? 剣を握ったりした時、何か体に変化とかは無かったかね?」 「知らんな」 軽くあしらい、さっさと立ち去ろうとするのを今度はオスマンが呼び止める。 「ミスタ・スパーダ。ワシらもミス・ヴァリエールが虚無の使い手であるかどうかを調べる。だから、これからも彼女のことをよろしく頼む」 「ああ、そうさせてもらおう」 その日の夜、アルヴィーズの食堂の二階のホールではフリッグの舞踏会が開かれていた。 優雅な音楽と共に行われる祝賀会には、着飾った生徒や教師達が豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談をしている。 綺麗なドレスに身を包んだキュルケは、たくさんの男生徒達に囲まれて楽しそうにしている。 黒いパーティドレスを着たタバサは、テーブルの上の料理を相手に一生懸命に格闘を続けていた。 異世界での弟子、第一号のギーシュは気障ったらしく薔薇を手にしながら女子生徒達に囲まれてデレデレしていたが、モンモランシーが近くにやってきてシバかれていた。 それぞれが楽しくパーティを満喫する中、コートを脱いで会場を訪れたスパーダは生徒達らには目も暮れず、一人の女の後姿をバルコニーで見つけていた。 バルコニーの手すりに寄り掛かって一人、不貞腐れてヤケ酒を呷っていたロングビルの元へ来ると、その隣でワインを啜る。 「まったく、これで盗賊家業もできなくなっちゃたわ……」 彼女もまた綺麗なパーティドレスに身を包んではいたものの、酔っているのかその口から出てくるのは愚痴ばかり。 「違う仕事をすれば済むだけのことだ。あれ以上、盗賊として手を汚していれば確実に君は終わっていた。 宮廷に突き出されていれば、極刑は免れなかっただろうな。オスマンには感謝すべきだ」 「余計なお世話よ……」 ぐいっとグラスの中のワインを飲み干し、持ってきたのであろうワインボトルから新たなワインをグラスに注ぐ。 「それに、君の大切な人も悲しむだろう」 ロングビルはグラスを手にしたまま黙り込み、俯いていた。 「ねぇ、あなたも貴族としての地位を捨てたのよね?」 「そうなるな。理由は答えんぞ。昼間の君と同じように」 昼間、キュルケが空気も読めずに彼女を問い詰めようとしたのを自分が止めた。 フッ、とロングビルは自嘲の笑みを浮かべていた。 「……私は四年前まで、アルビオンの貴族だったわ。私の実家は地方の太守を務めていてアルビオンの大公家に忠誠を誓っていてね、父は大公の直臣だった。 大公はアルビオンの国王から以前より妾にしていた夫人とその娘を追放するように命令されていたわ。 もちろん、それを拒否していた大公は投獄されて殺された……。でも、私の実家でその二人を匿ってあげていたのよ」 哀しそうに語りだすロングビルにスパーダは黙ったまま話を聞き続ける。 「ところがその国王はとてもしつこくてね、私の実家の領地にまで軍を向かわせて隠れ家を虱潰しに探し出して、夫人を殺したのよ」 憎々しげに言葉を吐き出し、唇を噛むロングビル。 「私は何とか娘の方を助けることはできたけど、二人を匿っていたことから実家は取り潰し……。父も大公と同じ運命……」 「そこまでするか」 スパーダもそのアルビオンの王の行為に顔を顰める。 「色々事情があるのよ。……まあ、それはいいわ。私はその娘と王軍が攻めてきた影響で孤児になってしまった子供達を小さな村へと匿った。 それから私は、その子達の生活費を稼ぐために盗賊に身をやつした……そういうことよ」 ワインを一気に呷ると、また新たにワインをグラスに注ぐ。 「私は貴族や王族が嫌い。だから、盗みの対象もあいつらだけだった。貴族の、メイジの魔力の象徴である、マジックアイテムとかね」 「しかし、君もまた貴族であり、メイジだ」 貴族や王族が嫌い。そう言っているということは彼女は自分自身も嫌いということを意味している。 たとえ貴族としての権威を失おうと、メイジであることには変わりないのだから。 「……そうね。矛盾してるわよね」 「……しかし、良いのか? そんなことを私に話したりして」 「何でかしらね……こんなことをベラベラ話すなんて。酔ってるのかしら」 ロングビルはまた自嘲の笑みを浮かべ、ワインを一口啜る。 「でも……これからどうしたものかしら。盗賊稼業ができなくなった以上、秘書としての給金だけじゃとてもあの子達を養えないわ」 「そういえば、〝フーケ〟の首にかけられていた賞金だが、もらえるのは18000エキューだそうだ」 「……そんな自分の首にかけられてた金なんて、いくら私でも欲しくないわ。あの子達にも申し訳が立たない。全部、あなたにあげるわよ」 ちなみに本来、土くれのフーケにかけられていた賞金は30000エキューであったそうだが、それはあくまで生きたまま宮廷に差し出した場合のことだ。 自分が使役するドッペルゲンガーをフーケに仕立てて殺したということになっているため、減ってしまっている。 貴族達は自らの手でフーケを始末したかったのだろう。それだけ彼女は恨まれていたというわけだ。 しかし、それでもその賞金は下級貴族でさえ稼いで所有できるような額ではなく、広大な土地付きの城を買ってもまだおつりが残るらしい。 このハルケギニアで活動するに当たっては充分すぎる資金だ。 「……だったらなおさら、君に合った別の仕事を探すべきだな」 「何があるのよ。……盗賊以外に」 「君は土系統のトライアングルメイジで、戦いにも慣れているからな。……トレジャーハンターなどどうだ。盗賊から転職するには自然だと思うが。誰にも恨まれる心配もない」 「トレジャーハンター……ね」 何か思う所があるのか、妙に納得した様子で頷く。 「ま、考えとくわ」 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~!」 突然、会場の入り口で控えていた呼び出しの衛士が大きな声で告げていた。 ちらりとスパーダはそちらを振り向くと、そこには純白のパーティドレスに身を包んだルイズが姿を見せていた。 長い桃色の髪をバレッタでまとめ、肘まで届く白い手袋が彼女の高貴さを演出し、胸元の開いたドレスがつくりの小さな顔を宝石のように輝かせている。 主役が全員揃ったことを確認した楽士達が小さく、流れるように音楽を奏で始めると貴族達は男女一組となって優雅に踊りだす。 彼女の周りにその姿と美貌に驚いた、今まで〝ゼロのルイズ〟などと馬鹿にしていた男生徒達が群がり、盛んにダンスを申し込んでくるが、どの誘いも受けはしない。 「行ってあげたら? パートナーなんでしょう」 「君はどうする?」 「別に良いわよ。楽しく踊る気なんてないし」 ロングビルはワインを呷り、さらに顔を赤く染めていく。 スパーダは軽く息をつくと手すりにグラスを置き、こちらに気づいて歩み寄ってくるルイズの方を見やった。 「楽しんでるみたいね」 「まあ、それなりにな。君は踊らんのか?」 「相手がいないのよ」 「もったいないことをしたな」 これくらい言えば、少しは癇癪やら反論をしたりするはずだがルイズは黙ったままだ。 そして、そっと手を差し出す。顔はそっぽを向いたままだ。 「あたしと、踊ってもらえる? か、勘違いしないでよ。パートナーと踊ってあげるのは当然のことよ」 「別に構わん。君が望むなら」 153サントのルイズに対し、190サントに達する長身のスパーダとはどうにも踊り難かったが、そこは互いのテクニックと身体能力で何とか踊りを続けていた。 「あ、ありがとう……ね」 「ん?」 突然、そんなことを呟きだしたルイズにスパーダは小首を傾げる。 「あなたのおかげで……あたし、自信がついたわ」 「私は別に何もしていない」 「あたしね、あれから部屋で試してみたの。そうしたら、簡単なコモンマジックなら使えるようになっていたの。 ……自分の力を信じるって、大切なことなのね」 今まで己の力を拒絶し続けていたことが馬鹿らしく思えるくらいに、今のルイズは清々しい気分を感じていた。 「そうか。それはおめでとう」 つっけんどんで淡々としているが、しっかりルイズのことを賞賛してくれているスパーダにルイズは嬉しそうに、そして恥ずかしそうな表情を浮かべていた。 ……こうしてみると、まるで彼が父親みたいに思えてくる。 「……でも、あたしって何の系統なのかしら。あんな爆発を起こす魔法なんて、聞いたことがないわ」 「さてな。だが、はっきりと言えるのはそれは君自身の個性であり、君だけの力だ。これからも、それを育んでいけば良い」 「……そうね。あなたも、協力してくれる?」 スパーダは無表情でありながらこくりと頷いてくれた。 ルイズも照れくさそうに笑いながら、父親のような包容力が感じられる彼との踊りを楽しんでいた。 前ページ次ページThe Legendary Dark Zero