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前ページ次ページゼロのイチコ 「さて、貴女は今どうするべきかしら?」 ここはトリステイン魔法学院、女子寮の私ことルイズ・ド・ヴァリエールの部屋。 そして目の前で両足を折りたたんで座っている、もとい浮いているのが私の使い魔であるイチコ・タカシマである。 「勝手なことをしてごめんなさい、ご主人様」 と手を前に突き出し、頭を下げた。 ギーシュとの決闘後、イチコが帰ってきたのはその日の夕方だった。 その間に起こった事と言えば、いつもどおりの授業といつもどおりの昼食、そしてモンモランシーが放った水の魔法の爆音だけである。ギーシュは午後の授業に出てこなかった。 イチコが帰ってきたのはそんな一連の出来事が終わった後、私が寮に戻って探しに行こうかと思案していた頃であった。 幽霊だし、誰もイチコを殺せない。既に死んでいて死なないのだからそのうち帰ってくると思っていた。 だけれども昼食の時間になっても帰ってこないので心配になってきていた。それでも授業をサボるわけにもいかないので探しに行くわけにもいかない。 おかげで午後の授業はまるで頭に入らなかった。たびたび窓の外に視線がいった。 そろそろ窓からひょこひょこと入ってくるのではないかと考えが浮かんだ。 つまり、ここまでご主人様を心配させた罪は重く、それゆえに使い魔は罰を受けなければならない。 「『私のワガママで勝手に決闘したあげくにギーシュに負けたイチコをお叱り下さい、ご主人様』でしょ」 と鞭を振るってイチコの目の前を叩く。乾いた音が響いた。 イチコは「ひっ」と小さい声を出して青い顔をした。 「わ、わわ私のワガママで勝手に決闘してギーシュさんに負けてしまった私をお叱りください~」 良いことをした使い魔には飴を、悪いことをした使い魔には鞭を。 これは躾である。使い魔はパートナーであるが主従関係であることを忘れてはならない。 ご主人様の命令を無視する使い魔には鞭をくれてやらなければならない。 とは言え、イチコには鞭が効かない。 それじゃあご飯抜き――と考えたがイチコはご飯を食べない。 「それじゃあ、今日は反省して廊下に立って……じゃなくて浮いてなさい」 「はぃ」 消え入りそうな声でイチコは扉をすり抜けて廊下に出て行った。 手を下に垂らし、頭を下げて去っていく様は分かりやすいぐらいに落ち込んでいた。 しかし、その姿は同情を誘うと言うよりは 「誰か呪い殺したりしないわよね?」 幽霊ゆえにそんな考えが浮いてしまった。 「うぅ、ご主人様を怒らせてしまいました」 わたくしこと高島一子はたいへん落ち込んでいます。 思い起こすこと今日の朝、食堂でギーシュさんの香水を拾い――もとい落ちたのを教えて上げた事がきっかけでギーシュさんが二股をしていることが発覚しました。 それはもう許されないことです、何が許されないかというと倫理観とか道徳とか乙女心とかそんな感じのいろんなものがミックスされて 私の怒りメーターはマックス、最大限の臨界点まで急上昇してしまいました。 許されません、許されるわけがありません。 そりゃあこの世界は私の居た世界とは違います。しかし愛はどの世界でも守られるべきです、尊い盟約なのです。それを(以下略) まあ、そんなこんなでギーシュさんと決闘することになってしまいました。 しかしながら今になって落ち着いて考えれば争いは何も生みません、あぁ、神よ。お許し下さい―― ともかく私は決闘に赴きました。 最初は死んだ、と思ったのですがよく考えたら私は幽霊ですので死ぬ訳もなく。 逆にギーシュさんを追い詰めた! そう思ったのですが、わたくしどうやら無機物には触れませんが生物には触れる模様。 ギーシュさんの突き出した手に吹き飛ばされて遥かかなた雲の上までふきとばされてしまいました。 調子にのっていた私はギーシュさんの反撃にびっくりして気絶してしまいました。 さすが魔法使い、すさまじい突き飛ばしでした! ともかくそれで学院に戻ろうとして近くを飛んでいた渡り鳥さんに話を聞こうとしたのですが皆さん私を見たとたんに猛スピードで逃げていきます。 やはり、幽霊は世間の風当たりが厳しいようです。 おかげで迷って迷って、やっと学院に帰ってきたときにはお日様が茜色に染まってしまいました。 ご主人様はカンカンに怒っていました、帰ってきたとき。 「ごめんなさいご主人様、ちょっと雲の迷路で迷ってました……あはは」 と軽く謝ったのがいけなかったのでしょう。何時間も行方不明になったのですから誠心誠意あやまるべきでした。 反省、反省します。深海魚になったように深く深く反省しています。 今日はこの廊下で寂しく一夜を過ごして、使い魔がなんたるかを見つめなおしたいと思います。 「あら、貴女は……ルイズの使い魔じゃない」 反省の念に包まれていると周りがよく見えてませんでした。赤い髪をした女性の方がすぐ傍に立っていらっしゃいました。 「はい高島一子と申します。あなたは?」 「私はキュルケ、微熱のキュルケ。あなたのご主人様の友達よ」 「そうだったんですか。よろしくお願いします」 「ぇえ、こちらこそヨロシク……にしても本当に幽霊なのねぇ」 とキュルケさんの視線が私の足元に向きます。 こう改めて他の方から幽霊だと言われるとちょっと悲しいような、諦めのような感情が沸いてくるように思えます。 「ねぇ、幽霊っぽく何か台詞言ってみてよ」 「ぇ、ぇ~っと??」 幽霊っぽく? というと真っ先に浮かぶのが 「う、うらめしや~」 「あははは、意味わかんないけどソレっぽい。上手い上手い」 「はぁ、どうもありがとうございます」 褒められて、いるのでしょうか? どうにも物珍しさで遊ばれているような気がします。 「そうだ、頼みがあるんだけどいいかしら?」 と片目をつぶってウィンクを投げかけてきました。 スタイルの良い方ですし、そういった仕草も自然に感じられました。 「な、なんでしょう?」 直感ですが、あまり良い頼みとは思えません。 「私の友達でタバサって子が居るんだけどね。その子っていつも無表情なのよ」 「そうなんですか」 「そうなのよ! おかげで友達も私だけだし、コミニケーションが不足してるの。分かるでしょ?」 「そうですね、お友達は多いほうが良いですよね」 「そう、だからタバサに会って欲しいのよ」 とキュルケさんは私の目の前で手を合わせて来ました。 友達のため、そんなキュルケさんの頼みに私は先ほどの失礼な考えを心の中で謝罪しました。 見かけはとても派手なかたですが友達想いの良い方のようです。 「分かりました、また明日うかがわせていただきます」 今日はもう日が暮れたので明日のほうが良いと思います。 「いや、今から行きましょう」 「え?」 「ちょうどタバサの部屋に遊びに行くところだったのよ、さ、行くわよ」 「ぇ、いや。私はここに居ないといけま、って、キュルケさん?!!」 手を取られると、引きずられるように私はその場を後にしました。 またご主人様に叱られそうです。 「で、ここがタバサの部屋よ」 連れてこられたのは階段をひとつ降りて、おおよそご主人様の部屋の真下に位置する部屋でした。 「しかし、こんな夜遅くにお尋ねするのはよろしくないのでは?」 「いいの、いいの。タバサ居る?」 キュルケさんが重厚な木の扉を叩きます、ですが何の返事もありませんでした。 もうお休みになったのでしょうか? 「やっぱり魔法かけてるわね」 「魔法ですか?」 「ぇえ、あの子って読書の邪魔をされるのが嫌いで。部屋に居る時はずっとサイレントの魔法をかけてるのよ。音がまったく聞こえなくなるの」 魔法と一口に言っても日常生活に便利な魔法もあるのですね。 てっきり魔法と聞くと炎を出したり風を巻き起こしたり、何か巨大な蛙を呼び出したりするのばかりだと思ってました。 「だから、あなた壁抜け出来るんでしょ? 中に入って扉を開けるように言ってくれない?」 「え、でも……」 「いいの、私に言われたって言えば良いから」 「は、はい……分かりました」 勝手に入るのが多少戸惑われたのですが、キュルケさんの言葉に後押しされるようにドアの脇の壁から部屋にお邪魔します。 「失礼しま~す、タバサさん起きてらっしゃいますか?」 恐る恐る壁から上半身だけ出して部屋の中を覗き込みました。 部屋の中にはランプの明かりを頼りに本を読んでいる方がいらっしゃいました。ベッドに腰掛け壁を背に座っています。 メガネをかけていますけど、こんな暗がりで本を読んでるとさらに目が悪くなるのではないでしょうか? ずいぶんと小柄な方でこんな暗がりでも目を引く青い髪が特徴的です。 「あの~」 と声をかけるものの反応がありません。よっぽど集中してらっしゃるのでしょうか。 と思ったら目だけが動いてこちらを見ました 「夜分遅くすいません、わたくし高島い……」 自己紹介をしようと思ったのですが、タバサさんは驚いた顔をされました。傍にあった杖を取り、こちらに先端を向けます。 そこで私は自分が壁に半分埋まった状態で止まってる事を思い当たりました。驚かせてしまった、と思う間もないほど彼女の動きは早かったように思います。 彼女は素早く呪文を唱えると宙に氷の矢を生成しました。 矢は強烈な風を伴って壁に突き刺さり、逸れた矢と狭い密室で行き場を失った風が天井にぶつかり穴を開けました。 「ぇええ?!」 と言う声と供にご主人様が上から落ちてきました。 タバサさんはこちらを凝視すると、そのままベッドに倒れこんでしまいました。 「ちょっと何があったの?!」 とキュルケさんが駆け込んで来ました。 私も改めて部屋を見渡すとキョトンとした顔で座り込んでいるネグリジェ姿のご主人様、杖を握り締めたまま気絶しているタバサさん。 自分の姿を確認すると氷の矢が頭から突き刺さっていました。もちろんすり抜けているので平気なのですが。 そして天井には直径1メートルほどの穴。 「……本当に何があったの?」 おそらく、タバサさんが幽霊である私に驚かれたのが原因かと思います。 「ふ、ふふふ……」 とご主人様が下を俯き笑っておられます。 「そう、イチコったら。使い魔のくせに、使い魔のくせに」 ふふふ、と笑うご主人様。でも目が笑っていません。 「廊下に立たされただけで、こんなイタズラを思いつくなんて。ど、どど、どうしてくれようかしら……」 「ぇ、いや。違うんですご主人様」 「問答無用!」 「あぅう、ごめんなさい~」 この日は夜半までお説教を受けることになりました。 前ページ次ページゼロのイチコ
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次:お絵かきBBS/お絵かき掲示板ログ/810 + ... これをエロく感じる自分はどう考えても病気です。ありがとうございました -- 名無しさん (2008-05-14 18 23 56) これは・・・・? -- 名無しさん (2008-05-14 18 24 34) 空中元彌チョップwwwww ハルヒが哀れだwww -- 名無しさん (2008-05-14 18 24 46) この前間違えて描いてしまった空中元彌チョップのリベンジ しかし肝心の手が描けなかった・・・ -- 描いた人 (2008-05-14 18 25 19) これはエロイw -- 名無しさん (2008-05-14 18 25 49) ハルヒにナニをくっつけているのだ!けしからん!非常にけしからん! -- 名無しさん (2008-05-14 18 26 54) 坊主Cもエキプロ化したかww -- 名無しさん (2008-05-14 18 27 36) かっけぇwwwバックライトが味出してる -- ショーン (2008-05-14 18 28 57) どう見てもフェ(ry -- 名無しさん (2008-05-14 18 29 24) 古泉「急にバイトが入りましたので失礼します」 -- 名無しさん (2008-05-14 18 31 23) 実はハルヒの変装した阿部さん -- 名無しさん (2008-05-14 18 37 27) ここどこだよwww -- 名無しさん (2008-05-14 18 38 53) 完全にセクハラだwww -- 名無しさん (2008-05-14 20 26 34) やっぱり女性陣はセクハラされる運命かwwww -- 名無しさん (2008-05-14 20 45 36) なのはに次ぐセクハラされキャラになったなw -- 名無しさん (2008-05-14 21 39 05) C「しゃぶれよ」 -- 名無しさん (2008-05-14 21 59 03) 坊主の顔が逝っちまってるなwww -- 名無しさん (2008-05-14 22 39 00) ち○こを顔に押し付ける坊主の図。おえびの主役だハルヒwwww -- 名無しさん (2008-05-14 23 20 09) ハ「臭ッ!!!」(ティウンティウン) -- 名無しさん (2008-05-14 23 32 31) 等身のせいでエロスを微塵も感じないw -- 名無しさん (2008-05-14 23 34 09) いいこと思いついた。お前、そのままションベンしろ -- 名無しさん (2008-05-14 23 35 04) 何で健想がハルヒなんだよwwww -- 名無しさん (2008-05-14 23 46 11) 画像の下半分だけ見るとしゃぶらせ(ry -- 名無しさん (2008-05-14 23 50 35) ↑×3 飲ませる気かよwwwww -- 名無しさん (2008-05-14 23 51 26) 阿部さんは逆に回復しそうだw -- 名無しさん (2008-05-14 23 59 00) くっそ吹いたwwwwwww -- ねこ (2008-05-15 00 05 22) ああ、本当にろくな目にあってないなハルヒは・・・。 -- 名無しさん (2008-05-15 00 09 36) おえびでの主なハルヒの戦歴。パンツ盗られる。フタキワにされる。チョップ食らう、股に顔挟まれる。・・・・・・・・・・・・・なむなむ。 -- 名無しさん (2008-05-15 00 10 54) やられ役ハルヒなのは実際動画でチョップをくらったのがハルヒだったから それだけ -- 描いた人 (2008-05-15 00 14 17) ↑15 なのはとハルヒって、原作だと他人を巻き込むタイプだから、逆に巻き込まれたときのギャップが萌えると思いますw -- ショーン (2008-05-15 00 17 13) カナシイハナシダナー -- 名無しさん (2008-05-15 00 18 19) 元彌チョップのネタには忠実なはずなのに、ものすごいシュール感が漂うww -- 名無しさん (2008-05-15 00 29 13) ↑3 志村~、阿部さんも喰らって一撃ティウンしてる~ -- 名無しさん (2008-05-15 00 40 35) ↑ 3は5の間違いorz -- 名無しさん (2008-05-15 00 42 13) 題名 一発芸。陰毛。 -- 名無しさん (2008-05-15 00 54 46) 一瞬外山に見えたのは秘密w -- 名無しさん (2008-05-15 01 33 14) 坊主C「ともだち○こ!!!」 -- 名無しさん (2008-05-15 03 33 00) 坊主「ところで俺のキンタマを見てくれ。こいつをどう思う?」 -- 名無しさん (2008-05-15 11 30 30) これなら全力でボコにしたくなるのも頷ける -- 名無しさん (2008-05-15 11 34 52) しかしニコニコ編で女性陣は本当にろくな目に会ってないねぇ 次は誰が誰の手にかけられるのやら -- 名無しさん (2008-05-15 11 35 56) ハルヒの出番がもうない気がするので言葉か。 -- 名無しさん (2008-05-15 11 40 15) すでに死亡率では一番酷い目にあってるがな。 -- 名無しさん (2008-05-15 12 00 12) ↑言葉「雑魚戦のたびに飛び降りとか勘弁してください…そうじゃなくたって死にやすいのに………」あなたの言葉はこんな風になっていませんか? -- 名無しさん (2008-05-15 12 01 49) ↑いや、動画上ですでにダントツでティウってるぞ。ちなみに俺はプレイ上一度もティウらせた事は無い。 -- 名無しさん (2008-05-15 12 21 26) これをトップにするとかどうだろう・・・w -- 名無しさん (2008-05-15 21 47 10) ↑色んな意味でまずいな -- 名無しさん (2008-05-15 21 49 54) 股間が危ない!! -- 神男 (2008-05-24 02 07 52) 股間が危ないなら覇王翔孔拳を使わざる得ないwww -- 名無しさん (2008-05-24 02 11 51) よくよく考えた。元上司であるピコ麻呂と琴姫には撃ち辛い。阿部に打つのは俺の弱点はここだ!と晒すようなもの。ならば必然狙いはハルヒになるww トラウマなるぞーwww -- 名無しさん (2008-05-24 02 13 34) C「この風呂吹き大根も砕けぬこの拳を受けてみよ!!」 -- 名無しさん (2008-05-24 03 14 42) ↑聞いたことあるけど思いだせん -- 名無しさん (2008-05-24 10 56 17) ↑某ネコ精霊の台詞ですな -- 名無しさん (2008-05-24 11 05 29) これも一応かばうシリーズなのか? -- 名無しさん (2008-06-01 12 43 20) かばうというフレーズに違和感がないなwww元上司にやるわけにはいかんし阿部さんにやったら逆にCが体力吸い取られそうだしwww二人を守るならはハルヒしかいない -- 名無しさん (2008-06-01 12 46 39) 上司を庇い。自分の息子を庇った結果がハルヒかwww -- 名無しさん (2008-06-11 21 36 05) 名前 コメント
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澪「クリト律がパンパンに腫れました。」 http //raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1295838318/ 1 2 3 戻る 名前 コメント
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 出発から二日… その後は何事も無く、ゆるゆると使い魔の空の旅と、ジャンガ以外の使い魔の主人の馬車の旅は続いた。 途中、ラグドリアン湖の近くを通りかかった。 水は引いているようではあったが、直ぐに元通りとはいかないようだ。 おそらくは増水にかけたのと同じ時間、二年をかけて戻していくのだろう。 ジャンガはそんなラグドリアン湖を見下ろしながら、フンッと軽く鼻を鳴らし、寝転んだ。 「ついたのね。早く起きるのね、きゅい!」 「ン?」 ジャンガはシルフィードの声に身体を起こすと、シルフィードから身体を乗り出し、見下ろす。 眼下には、立派なつくりの大名邸が見え、その入り口の前で馬車は停まっていた。 馬車からタバサとキュルケが降り、真っ白な髪に真っ白な髭を蓄えた一人の老僕が出迎えている。 ジャンガは三人が屋敷に入るのを見計らってシルフィードから飛び降りた。 地面に降りるや、ジャンガは直ぐに屋敷の中へと潜り込んだ。 外見から想像していた通り、邸内も隅々まで手入れが行き届いており、とても綺麗であった。 だが、静か過ぎる。注意しなければ靴音が響き渡るくらいの静寂だ。 モット伯の屋敷は人の声や靴音の他、様々な生活を感じさせる音が響き渡っていたが、 こっちは静寂に包まれ、まるで自分以外は誰も居ないかのような錯覚を起こしそうである。 (こんなに広い屋敷で、まるっきり人が居ないってのはどういう事だ?) ジャンガは屋敷の様子に首を捻ったが、気にしない事にし、タバサ達を探す。 何度目かの角を曲がった時、先の方で扉が開いた。素早くジャンガは身を隠す。 出てきたのはタバサだった。扉を静かに閉めると、そのまま道の奥へと消えていく。 何処へ行く気だ?と、後を追おうとしたが、タバサが消えた方と反対側から別の気配がしたのを感じた。 素早く飛び上がり、天井へと張り付く。気配は先程の老僕だった。 老僕は紅茶の入ったティーカップのを持っており、タバサが出てきた扉を開け、中へと入っていった。 ジャンガは床に降り立つと、扉の前に移動し、音を立てぬように扉を少しだけ開け、中を覗き見る。 中ではキュルケと先程の老僕が話しをしているのが見えた。 「このオルレアン家の執事を務めておりまするペルスランと申します」 老僕=ペルスランはキュルケに恭しく礼をした。 キュルケも自分の名を告げる。 「私はゲルマニアのフォン・ツェルプストー、お世話になるわ」 「シャルロットお嬢様がお友達をお連れなされるなど思いもよりませんでした」 シャルロット…その名前にキュルケは尋ねた。 「シャルロットがあの娘の本名なのね?」 「は?」 ペルスランはキュルケの言葉に、一瞬唖然とした表情を浮かべた。 扉の外でジャンガは、なるほどと頷いていた。 (シャルロット……それがあいつの本名か…) 視線を戻すとキュルケからペルスランは何事かを聞いているようだった。 「そうですか……お嬢様は学院で『タバサ』と名乗っておいでなのですか…」 「どうして偽名を使って留学してきたの?あの子、何も話さないのよ」 「留学はお嬢様の伯父である国王の仰せです」 キュルケは驚きの表情を浮かべる。 「伯父?やっぱり…あの子は王族だったのね」 「シャルロット様のお父上…今は亡きオルレアン公は現国王の弟ぎみでした」 その話にキュルケは悲しそうに顔を伏せる。 「そうだったの…、お父様はお亡くなりに…」 キュルケの言葉にペルスランはせつなげな溜息を漏らした。 「…殺されたのです」 「え?」 顔を上げるキュルケ。 「お嬢様が心許す方なら構いますまい。ツェルプストー様を信用してお話ししましょう」 ペルスランは深く一礼し、語りだした。 「オルレアン公は王家の次男でありながら長男のジョゼフ様よりも魔法の才に秀で、何より人望と才能に溢れた方でした。 五年前…、先王が崩御された時に、どちらが王の座に相応しいか、という事で宮廷が真っ二つに分かれてしまったのです。 そんな醜い争いの中…オルレアン公は謀殺されました。狩猟会の最中に胸を下賎な毒矢で射抜かれて…。 しかも、ご不幸はそれに止まりませんでした」 ペルスランは胸をつまらせるような声で続ける。 「ジョゼフ様を王位につけた連中は将来の禍根を断とうと、今度はお嬢様を狙いました…。 ある晩の事…お嬢様と奥様は晩餐会に招かれました。そこでお嬢様はある貴族から飲み物を手渡されたのです。 しかし、それには心を狂わせる水魔法の毒が仕組まれておりました。 奥様はそれを知り、お嬢様の手からその飲み物を奪うと自ら口にされました。 …事は公になり、その貴族は断罪されました。奥様は自らを犠牲にしてお嬢様を庇ったのです。 以来…奥様は心を病んだままです、お嬢様の事もお嬢様と解りません…。 そして、奥様が心を病んだ日から、快活で明るかったシャルロット様は別人のようにおなりになりました。 …まるで、言葉と表情を自ら封印されてしまわれたような。しかし、それも無理からぬ事…。 父が殺され、更に目の前で母が狂えば、誰でもそのようになってしまうでしょう…」 話を盗み聞きしていたジャンガは鼻を鳴らす。 (殆ど喋らず無表情な人形のような言動…、親の事を馬鹿にした事であいつがあんなに怒った事…、 そして復讐を考えている事…、なるほどなァ…こう言うわけか) ジャンガは思い返した。 ――学院の最初の授業で、爆発から退避するべく教室を離れたタバサとの初めての接触。 人形のような無表情、必要な事意外は口にせず…人と関わろうとしない言動。 ――召喚されて間もない頃にあった、ヴェストリの広場での決闘。 親を侮辱された事に対する、命乞いをする相手に容赦の無い魔法を繰り出すほどの殺気に近い怒り。 そして…その一見無表情な碧眼の奥に浮かぶ憎しみと復讐の感情。 それらの理由がこれでハッキリした。 ペルスランの話は続く。 「奥様の事があって、表立ってお嬢様を亡き者にしようという輩はいなくなりました。 その代わり…王家はお嬢様の魔法の力が強い事を理由に、困難な…生還不可能と言われる任務を 言いつけるようになったのです。ですが、お嬢様はこの理不尽な命令を全て完遂させました。 ご自分と奥様の身を守る為に…命がけで」 キュルケは言葉を失い、ただ呆然と老僕の話に耳を傾けるだけだった。 「…あの子がトリステインに留学した訳は?」 「思惑通りに行かぬ王家は本来なら領地を下賜されてしかるべき功績にもかかわらず、 シュヴァリエの称号のみを与え、厄介払いの如く…外国へと留学させたのです」 そこでペルスランは一旦言葉を切った。 「お嬢様は『タバサ』と名乗っておられる。そうおっしゃいましたね?」 「ええ」 「『タバサ』とはお嬢様が奥様にプレゼントされた人形に付けた名前なのです。 お忙しい身の上の奥様が、お嬢様が寂しがられないようにと…手ずからお選びになった人形でした。 お嬢様は、それはとても喜ばれまして…『タバサ』の名を付けて、妹の様に可愛がられておりました。 その人形は…今現在、奥様の手の中。心を病まれた奥様はその人形をお嬢様と思い込んでおられるのです」 そこまで話を聞いたジャンガは、扉を閉めるとタバサが消えた方へと向かった。 屋敷の一番奥の扉の前に立つや、中から女性の叫び声が聞こえてきた。 「王家の回し者め!私とシャルロットを亡き者にする気!?」 ジャンガは扉を慎重に開き、中を覗き込む。 大きく、殺風景な部屋だった。手前のベッドと奥の窓際に置かれたテーブルと椅子以外は何も無い。 その椅子には痩身の女性が座っていた。髪は伸ばし放題で、やつれた顔は実際よりも二十は年老いて見える。 その腕には人形が抱かれていた。…おそらく例の人形だろう。 その女性=母の前でタバサは跪き、頭を垂れていた。 母は怯えた子供のように人形を強く抱きしめ、目を爛々と光らせて実の娘を睨み付ける。 「おそろしや…、この子がいずれ王位を狙うなどと…、誰が申したのでありましょうか? 私達はただ静かに暮らしたいだけなのです…」 そこまで言うと、母はテーブルの上のスプーンを掴み、タバサに投げつけた。 タバサはそれを避けようとしない。スプーンが頭に当たり、床へと落ちる。 「この子は…シャルロットは私の大事な娘です…」 そう言って母は抱きしめた人形=『タバサ』に頬擦りをする。愛しい娘にするように、何度も何度も繰り返す。 今までも何度も何度も繰り返したのだろう…、『タバサ』の頬は擦り切れ、中の綿がはみ出していた。 タバサは頭を垂れたまま口を開く。 「貴方の夫を殺し、貴方をこのようにした者どもの首を、いずれここに並べに戻ってまいります。 その日まで、貴方が娘に与えた人形が仇どもを欺けるようお祈りください」 タバサは静かに立ち上がり、母を見ながら寂しげな笑みを浮かべた。 「また会いに参ります…母さま」 「”母さま”ねェ~?……キキキ、笑っちまうぜ」 唐突に聞こえてきた声に反射的に振り返る。 いつの間に入ってきたのか……扉の前に立つ人影にタバサの表情が僅かに強張った。 「ジャンガ…」 「最初に面合わせた時もそうやって俺の名前を呼んだっけな…?キキキ、懐かしいゼ」 ニヤニヤ笑いを顔に張り付かせたままジャンガはタバサを見据える。 「どうしてここに?」 「キキキ、なァに…お前が親友と何処かへお出かけのようだからな。ちょいとあの竜の背中を間借りしたのさ」 「何者!?王家の新たな回し者!?」 タバサの後ろで母が恐怖に駆られて騒ぐ。 それにジャンガは射抜くような視線を飛ばす。 「あ…、う…」 途端、母は静かになる。恐怖に震え、助けを求めるように…、すがり付くように…、『タバサ』を抱きしめる。 「……」 母を庇う様に、一歩前に出たタバサの身体から冷たいオーラのような物が滲み出る。 ”今すぐ出て行け”…そんな意味が込められているようだ。 そのプレッシャーにも動じず、鼻で笑うジャンガ。 「おいおい…そんなに怖い顔するなよ?ちょっとした挨拶で来ただけなのによォ~」 「……」 「そう邪険にする事も無ェじゃねェか……なァ、シャルロット?」 自分の本名を呼ばれ、タバサの顔に動揺の色が浮かぶ。 「どうして?」 「さっきな…、お前の親友の雌牛と迎えのジジイが話をしてるのをちょいと盗み聞きしただけさ。 ――名前以外にも色々聞いたがよ、…苦労してるみたいだなァ~?」 「……」 タバサは答えない。 「あの高慢ちきな小娘の命令にホイホイ従っているのも母ちゃんを守る為か…、健気だねェ~。 ――そして、その一方で復讐の機会を窺っていると…」 話を続けながら、静かに一歩、一歩、歩み寄る。 「たった一人で復讐を成し遂げようと、任務をこなしながら魔法の腕を日々磨くか…、ご苦労な事だゼ。 …まァ、無理だろうけどな」 ジャンガのその言葉にタバサの眉が、ピクリと動く。 「何故、そう思うの?」 「キキキ。さて…どうしてだと思う?」 「言って」 「いいじゃねェかよ…そんな事はよ?」 ジャンガは顔から笑みを消す。 「――人形がご主人の母親に抱かれる事なんざ、無いんだからよ?」 ジャンガの言葉にタバサは僅かに怪訝な表情を浮かべる。 「どういう意味?」 「言ったまでの意味さ…。テメェは『タバサ』なんだろ?テメェの後ろにいる奴の娘は『シャルロット』なんだからよ」 「母さまは今、心を病んでいるから、私の人形を私と思っている。だから――」 「だから?親に自分を認めてもらえないから、元に戻るまで人形でいる事を選んだのか? ハンッ!だったら、テメェは『タバサ』だ!ただの人形だ!テメェでそれを選んだからにはな!そして……」 そこで、ジャンガは母を爪で指し示す。 「そいつが握っている人形が『シャルロット』だ!」 ジャンガはタバサに視線を向ける。 「解ったか?そいつはもう娘を抱いているんだ。人形の…『タバサ』のテメェが入り込む余地は無ェんだよ。 テメェはただ…テメェのご主人、『シャルロット』の怒りと憎しみを晴らそうとする人形なんだよ」 タバサの表情が曇る。 「違う…」 タバサがようやく搾り出した言葉を聞き、ジャンガは「はァ?」と眉間に皺を寄せる。 「何が違うんだ?本来の『シャルロット』は明朗快活な少女だったと聞いたゼ。…なのに、テメェはどうだ? 人形みたいに無表情、必要な事以外は話さないし…人付き合いもしない、それで…いつも一人でいる。 まるで別人じゃねェか…?明朗快活って言葉が、暗い人間を指し示すんでもなければな。 だから、テメェは『タバサ』なんだよ。『シャルロット』じゃねェんだよ!何にも違わねェんだよ!!」 「違う!」 珍しくタバサが叫んだ。 しかし、ジャンガは止まらない。 「あの爺が言ってたゼ!『シャルロット』の母ちゃんは娘を庇って自ら毒を飲んだってな! 身を挺して娘を庇ったんだ、泣かせるじゃねェか!!娘を愛してる証拠だ!なのに……」 そこで言葉を切り、ジャンガは爪をタバサに突き付ける。 「テメェは…その母ちゃんの行動を無駄にしやがった!復讐なんて”バカらしいほどに無駄な”事を考えた為にな!」 「バカらしい…?」 タバサは唇を噛み締める。自分と母がどれほどの苦しみを味わったか知りもしないで、こいつは何を言うんだ? そんなタバサを見てジャンガは目を見開き、嘲笑う。 「キーッ!キキキキーーーッ!!傑作だゼ…傑作!これほどまでに親の愛情を踏み躙った奴は始めて見るゼ! ……いや、二人目か?まァ、いいけどよ!…にしても、本当に良かったよな?」 「何が…?」 「テメェの親が狂っていてよ!?今のテメェを見ないでもらえて良かったじゃねェか。 母ちゃん狂わせてくれた貴族には、礼の一つでも言ってやったほうがいいんじゃねェか? キーーーッ!キキキキキーーーッ!!!」 ――もう限界だった…… ――気が付けば、タバサは『ウィンディ・アイシクル』をジャンガ目掛けて放っていた。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
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プレミアム@brokrp なぜ、文字のあとに@brokrpとついているのか。wiki内で同じような名前がある場合のための識別コードです。ページを間違わないためのコードがついてます。また、有名なゲームだと数字がついていないのが本家となります。数字が1より大きかったら偽物です。 購入URL https //www.roblox.com/game-pass/82773869/Estates-Unlocked 価格 799Robux 詳細 北と南の不動産ロットへのアクセス。これらのより大きなロットは、より多くのロールプレイオプションのためのユニークな能力を与えます。現在、4つのマンション、刑務所、ホテル、軍事基地を含む7つの構造が利用可能です。パスは永久的です。 タイプ パス 最終アップデート 2023年9月22日 作者 Wolfpaq@Wolfpaq その他 グッド数 6,968 マイナスグッド数 415
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前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第十九話 トリステイン城下町にある酒場魅惑の妖精亭は、シンと静まり返っていた。タルブがアルビオンの侵攻を受けたというニュースを聞いて、タルブ出身の店長スカロンはどうしても店を開ける気持ちになどなれなかったのだ。 「大丈夫よ、父さん。あそこの人たち、ほんとうにしぶといから平気だって」 ジェシカが椅子に座って頭を抱えるスカロンの肩をポンと叩く。 「わたしだって、そう思っているわよ。けれども、やっぱり心配で心配で」 そう言ってスカロンが頭をフルフルと振った時だった。カランとベルの鳴る音がして、店の扉が開いた。 「あ、悪いんだけれども、今日は店は閉めてるんだ――って、あんた、ウルフウッド?」 「え?」 ジェシカの素っ頓狂な声に、スカロンも顔を上げる。そこにはつい先日アルバイトでこの店にいた男の姿。 「よう、店長。何も言わんと、一晩泊めてくれへんか?」 「そ、それはかまわないけれども、それあんたが背中におぶっているのは、ルイズちゃん?」 「――あぁ」 ウルフウッドは頷くと、店の中へと入ってくる。そして、ウルフウッドの後ろから、頭を掻きながらコルベールが付いてきた。 「って、コルベール先生まで? ウルフウッド、コルベール先生と知り合いなの?」 「え? ジェシカ、コルベールセンセを知っとんのか? 前にちょっとだけ店に顔を見せたことはあったけれども」 「ええ。うちの常連。セクハラじーさんとよく来るわよ」 「な! だ、断じて常連などではありませんぞ! 今まで数回やって来たことがあるだけです! っていうか、ウルフウッドくん。汚いものを見るような目で見ないでください……」 「ハゲがスケベっていうのは、ほんまやったんやな……」 「まぁまぁ、そんなやり取りは置いといて。ルイズちゃんは寝てるし、お二人とも随分お疲れの様子だし。早く部屋の用意をしてあげてさしあげて、ジェシカ」 「はいはい。なんか今回もワケありっぽいしね」 「……今回は、ワケは訊かんといてくれるか?」 ジェシカはほんの少しだけ、考えるような仕草を見せた。 「客としてお金を払ってくれるなら、へんな詮索はしないわよ。それに、今こっちも例の戦争のおかげでそんな気分じゃないしね」 片手を振りながら、ジェシカは答えると、店の奥へと入っていった。 $ ウルフウッドはゆっくりと眠ったままのルイズをベッドに横たえる。 「随分と疲れとったんやな。泥みたいに眠っとるわ」 「あれだけの魔法を使ったんですから、仕方ありません。今は、ゆっくりと休んでもらいましょう」 コルベールが部屋の隅に荷物を降ろしながら答える。 「なぁ、センセ。道中で言うていたこと、あれはどういうことなんや?」 「……虚無、ですか?」 「あぁ」 コルベールはゆっくりと床に腰を下ろした。 「あれは間違いなく魔法でした。しかし、あれは明らかに私の知っている四大系統のどこにも属していない」 「やから、虚無やと?」 「それだけではありません。ガンダールヴ、つまり君の左手に刻まれたルーンですが、それは本来虚無の使い手である始祖ブリミルの使い魔に現れるルーンのはずなのです。それにあれは明らかに水のルビーそして始祖の祈祷書という始祖の秘宝から生まれていた」 「やから、虚無だと言うたわけか」 「ええ」 「……そもそも、その虚無というのはなんや?」 「わかりません。なにせ、ほとんど伝説の代物ですから。分かっているのは始祖ブリミルが使っていた系統であるということ、それだけです」 「あの破壊力見たやろ? あの巨大な戦艦が、あの白い光に包まれた瞬間、丸ごと消えたんや」 ウルフウッドはあの時を思い出す。あの時、レキシントン号が目の前に迫り絶体絶命の場面で、ルイズがなんらかの呪文を唱えた。その直後白い光が辺りを包み、そして再び目を開いたウルフウッドが見たのは、何も浮かんでいない青い空だけだった。 「あの時、私に確実に分かっていたのは、とにかくあの場から逃げ去ることだけでした。もしも、彼女が本当に虚無の使い手だとしたら、それはあまり人に知られるべきことではないと思います」 そう言って、コルベールは眠ったままのルイズの顔を見る。 「まぁ、これ以上あれこれ考えてもしゃあないやろ。肝心のじょうちゃんが魔法を放った直後から、こうやって眠っとるんやから」 「そう、ですね」 「とりあえずここで一泊して、それから魔法学院へ戻るで。虚無かなんかは知らんけど、こんな小さな子が過酷な運命なんて背負う必要はないんや。何事もなく日常に戻れたら、それでええんや」 ベッドで眠るルイズの寝顔は穏やかで、それゆえに彼女をよりいっそう幼く見せていた。 $ 翌朝、一人の騎士が魅惑の妖精亭の前に立った。穏やかに、しかし規則正しくドアをノックする。 「はいはい、こんな居酒屋に朝っぱらから何の用だい?」 ジェシカが眠い目を擦りながら、ドアを開けた。普段はこんな朝の時間は眠っているので、彼女は少し機嫌が悪い。 「朝からすまないな。一つ尋ねたいことがある」 「へい?」 寝ぼけたジェシカはぼんやりと相手の顔を見る。言葉遣いは男みたいだが、声は高い。 「この建物に、昨夜巨大な十字のようなものを担いだ黒服の大男と、頭のはげた中年の男がここへ来なかったか?」 「……悪いですけど、あなたはどちらさんですか?」 彼女の探し回っている人物を理解したジェシカの頭は、一瞬で覚めた。いきなり彼らを探りに来た相手に警戒心をむき出しにする。 「これは失礼したな。私は女王陛下直属の銃士隊隊長アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランだ」 「じょ、女王陛下直属の!」 アニエスの正体にジェシカは大声を上げて驚く。 「この建物に彼らが入ったという証言があるのだ。中を調べさせてもらう」 アニエスは強引にドアを開けて、ジェシカを押しのけた。 「ちょ、ちょっと、いくら女王陛下直属でも、いきなり」 「下手に匿うとためにはならんぞ」 アニエスはずいずいと酒場の中へと入っていく。 「い、いや、でもさ」 「かまわへんで」 彼らの部屋がある二階へ続く階段からウルフウッドが現れた。それに続いてコルベールも姿を見せる。 「遅かれ早かれ、ワイらのことはばれると思とったからな」 「しかし、昨日の今日とは予想外に早いですね」 コルベールが困ったように笑いながら、頭を掻く。 「捕虜たちからお前らに関する目撃証言は山のようにあったのでな。それに、巨大な十字のようなものを担いだ黒服の大男と、頭のはげた中年の男はよく目立つからな。探すのは簡単だった」 「……あなたがあんな大きなものを担いでいるから」 「うるさい。お前のハゲ頭かて、入っとったやろが」 ウルフウッドとコルベールがお互いを肘でつつきあう。 「なんにせよ、私がなぜお前らを探しているか。それはわかっているな。別段、危害を加えようという意思はない。大人しく同行してもらおう」 アニエスがウルフウッドたちの前に出る。その様子を見てウルフウッドとコルベールはお互いを見た。 「どうする?」 「逆らうわけにはいかないでしょう」 「けど、このままやとじょうちゃんを巻き込んでしまうで」 「なにをヒソヒソと話している!」 アニエスがウルフウッドとコルベールを一喝した。 「ちょっと待ってくれ。一応こっちにも心の準備っちゅうもんが――」 「黙れ! 私は貴様らにお願いしているのではない。命令しているのだ。女王陛下の命令に拒否など許されると思うな」 ちっ、とウルフウッドは舌打ちをした。追いつかれるのが予想よりも早すぎた。まだ、何の対策も出来ていない。 どうする――、そうコルベールと相談しようとしたとき、 「わかりました」 ウルフウッドの背後から声が聞こえた。振り返ると目を覚ましたルイズが立っている。 「じょうちゃん、お前」 「わってるわよ、ウルフウッド。でも、どちらにしてもこれは遅かれ早かれちゃんと女王陛下に報告しないといけないことなの」 ウルフウッドは仕方がないというように首を振った。その肩をコルベールが叩く。 「大丈夫ですよ。私も同行しますから」 「十分やる。その間に支度を済ませて、出て来い」 そういい残してアニエスは外へと出て行った。 $ トリステイン宮殿、アンリエッタの施政室。アニエスに案内されたウルフウッドたちは、あまりにも簡素すぎる部屋に驚いていた。 「机、以外なんもないな……」 「ええ。ちょっと、これはいくらなんでも、何もなさすぎと言いますか」 きょろきょろと部屋を見回すウルフウッドをルイズが肘で小突く。 「ちょっと、あんた、失礼でしょ」 小声でウルフウッドを諭す。 「皆さん、よくここまで来てくださいましたね」 そんなウルフウッドたちの様子を見て、アンリエッタが苦笑いしながら声を掛けた。慌てて、コルベールとルイズはその場に跪く。 「って、あんたもちゃんとしなさいよ!」 ルイズがウルフウッドの服の裾を引っ張る。しかし、ウルフウッドはそ知らぬ顔だ。 「んなこと言うたかて、ワイ別にこの国の国民ちゃうし」 「屁理屈言ってないで、あんたもちゃんと跪くの!」 「まぁ、そんなに固くならなくていいですよ、ルイズ。そんなかしこまらないで、立ち上がって頂戴。そちらのお方も」 アンリエッタの言葉にルイズとコルベールはお互い顔を見合わせながら、ばつが悪そうに立ち上がった。 「すみませんね、来賓用の椅子すらなくって」 申し訳なさそうにアンリエッタは謝った。 「いえ、そんな。でも、あの姫様。なぜこのような……」 「ここに在ったものは全て売り払ってしまったのです。少しでも国庫の足しになるようにと。残ったのは机くらいかしらね」 アンリエッタは寂しそうに笑った。 「……前置きはええから、はよ用件に入ってくれ。ワイらに確認したいことがあるんやろ?」 「相変わらずですね。ルイズの使い魔さんは」 慌ててウルフウッドの口を塞いでいるルイズたちの姿を、アンリエッタは苦笑いしながら見つめる。 「女王陛下、僭越ながら人払いをお願いしたいのですが……」 コルベールが恐る恐る口を挟んだ。 「ならん。本来なら、私一人のみが護衛についているだけのことすら十分すぎるほど譲歩した結果なのだ」 アニエスが言下に否定する。 「大丈夫ですよ。このアニエスは私直属の銃士隊隊長。信頼できる人物ですから」 アンリエッタは少しいきり立ち気味のアニエスを右手で制した。 「それでは、話していただきましょう。昨日、タルブで何が起こったのか」 ルイズとコルベールは事情を洗いざらい説明した。 「そう、ですか。まさか、あなたが伝説の虚無の使い手、だったとは」 「ええ。わたしにもまだ信じられません。でも、はっきりと姫様からお預かりした始祖の祈祷書にはそう……」 「いえ、私は信じますわ。何よりもそのような奇跡でも起こらなければ、あの憎みべきアルビオンの艦隊が全滅したなんて説明できませんもの」 アンリエッタはルイズの手をとった。 「このことは、内密にしておいたほうがよろしいわね。私とこの国の上層部の人間以外にはこの話は一切知らせないことにしましょう。幸い、アルビオンの捕虜たちはあれがトリステインの新しい魔法兵器だと思っているみたいですから」 「あの後の処理は、どないなったんや?」 ウルフウッドが口を挟んだ。 「アルビオンの残党兵たちは、艦隊が全滅したのを目の当たりにしたおかげか、ほとんど抵抗をせずに大人しく投降したと聞いています。近隣の村の住民も無事だったみたいですわ」 「そうか」 そう言ったきりウルフウッドは口をつぐんだ。 「あの、姫様。これからわたしたちはどうすればいいのでしょうか?」 「……現時点では、はっきりとしたことは何も申し上げられませんわ。ルイズ、あなたの力はとても貴重なものであると同時に、扱いには細心の注意を払わなければならないもの。私の一存だけでは……」 「わかりましたわ。姫様」 「とりあえずは、また魔法学院に戻って頂戴。また、時が来れば、あなたの力を借りることもあるでしょう」 ルイズとコルベールは恭しくアンリエッタに一礼した。二人はアニエスに促されるままに部屋を出ようとする。しかし、ウルフウッドだけはその場を動かない。 「ウルフウッド?」 ルイズが不思議そうにウルフウッドを振り返った。 「時が来れば力を借りる、いうのはどういうことや?」 ウルフウッドはアンリエッタをにらみつける。 「それは、そのままの意味ですわ」 アンリエッタが感情のこもっていない声で答える。 「お前ら、こんな小さなガキを人殺しの道具として使う気か? こんなガキに人殺しをさせる気なんか?」 アンリエッタは何も答えない。ただ、ウルフウッドの瞳を見つめる。 「貴様! 陛下に対して、何たる無礼な口の聞き方を!」 アニエスがウルフウッドの首に剣を突きつけた。しかし、ウルフウッドはアニエスを一瞥もせずにアンリエッタをにらみつける。 「ウルフウッド! やめなさい! わたしは貴族なのよ。国のために、陛下のために、戦場で戦うのは貴族の義務なんだから」 「やかましい! 人を殺したこともないガキが知った風な口を叩くな!」 ウルフウッドが大声で怒鳴る。その迫力に彼の肩に手をかけようとしたルイズの動きが止まる。 「ウルフウッド君」 コルベールが無言のまま嘆息するように首を左右に振った。その仕草を見て、ウルフウッドもあきらめて踵を返し部屋を出ようとする。アニエスはしぶしぶといった表情で、ウルフウッドに突きつけた剣を納めた。 ルイズもまだなにか言いたそうな表情だったが、仕方なしにコルベールに付いて部屋の外へ歩き始めた。 「ルイズ」 アンリエッタが去ろうとするルイズに声を掛けた。 「はい?」 ルイズが不思議そうに振り返る。 「いい使い魔を持ちましたね」 アンリエッタが寂しそうに笑いながら、少しだけ首を傾げた。 「ウルフウッドさん」 アンリエッタに呼びかけられたウルフウッドは無言のまま振り返る。 「ルイズを、よろしく頼みます」 ウルフウッドはほんの少しだけ右手を挙げると、そのまま踵を返して部屋を出た。 $ 魔法学院に戻ってからの数日間の日々は穏やかに過ぎた。ルイズはオスマンからねぎらいの言葉を受け、その横で結局半月ほど学校の授業をサボったコルベールは一ヶ月の給料半額カットの通告を受けた。 学院は例の戦争、特にタルブでの戦闘の話題で持ちきりであった。その中でも一足に先に戻ってきたキュルケやタバサやギーシュは、先日学院から姿を消していたことが例の戦争と関係していると噂されていることもあり、質問攻めにあっていた。 しかし、彼らが何かを答えることはなかった。 そして、当然学院に戻ってきたルイズも質問攻めにあったが、彼女が何かを答えることもなかった。 そうやって戦争の最中、これはまるで台風の目にはいったように穏やかなある日の出来事である。 「ねぇ、ギーシュ。あんた、何をしにラ・ロシェールなんかに行っていたのか。わたしにくらいこっそり教えなさいよ」 「いや、勘弁しておくれ、モンモランシー。それについては、いかに愛する君といえども教えることは出来ないんだ。代わりに、キミの美しさをいくらでも言葉ならいくらでも、途切れることなくこの口から出るのだがね」 相変わらずキザったらしいギーシュの振る舞いを見て、モンモランシーは口を尖らした。どうも、この単純でお調子者のギーシュが自分に隠し事をしているというのが気に食わない。ちょっとおだてれば喋りそうなものなのに。 ――まぁ、いいわ。アレが無事成功していたら、そんなこといくらだって喋るだろうし。 モンモランシーは心の中でそう呟くと、さっさと気持ちを切り替えた。 ギーシュは、ギーシュで本当は喋りたくて仕方がないのだが、下手に喋った場合、ウルフウッドに怒られるのが怖かった。 例の決闘でもなす術もなくやられたし、ラ・ロシェールで賊に襲われたときも、彼が相手を一網打尽にしていたのを目の当たりにしている。切れたウルフウッドに襲われるなど、想像したくもなかった。 ふぅー、とモンモランシーは小さくため息を付いた。彼ら二人は午後の柔らかい日差しの中で、テラスに置かれたテーブルでティータイムを楽しんでいた。 「そういえば、ギーシュ。のど渇かない? 今日は紅茶じゃなくて、冷たいお水なんかどう?」 「え? そうだね。せっかくのいい天気だから、その方がいいかもね」 「じゃあ、そうするわね」 モンモランシーはメイドに水を持ってくるように頼んだ。 ――さてと、ここからが正念場ね。 モンモランシーは心の中で、笑うとポケットにある小瓶を右手で掴んだ。その中身は、惚れ薬。ポーション作りが趣味の彼女は、その趣味が向上して、ついには法律で禁じられている惚れ薬の調合にまで手を出してしまったのである。 最初は作っただけで満足するつもりだったのだが、やっぱり作ってしまうと使ってみたい。そこで思いついたちょうどいい実験台がこのギーシュなわけである。普段浮気で悩まされている分、仕返ししたかったというもある。 テーブルの上に水が二杯届いた。後はここに薬を入れるだけだ。 「あ、あんなところに裸の女の人が空を飛んでる!」 「え! どこどこ?」 ……なんでこんなアホと付き合っているのかと、一瞬本気で哀しくなった。 それでもこの隙にギーシュの水に薬を入れる。 「あ、あれ見間違いだったみたい」 「え、そうかー。残念だなぁ」 「……なんか言った?」 「いえ、なんでもないです」 モンモランシーは半分あきれ返るが、けど今はそんなことはどうでもいい。さっさと、早くばれないうちにその水を飲むのよ、ギーシュ。 あたふたとしながら水に手を伸ばす、ギーシュ。何か都合が悪い話になると、とっさに飲み物に手を出す彼の癖は重々承知だ。 ――よし、もう一息。 と、ギーシュの唇が今まさにコップに触れようとした瞬間だった。 「あ、ミスタ・グラモン!」 どっかから聞き慣れた声がした。ギーシュとモンモランシーが振り返ると、そこには柔らかい午後の日差しを反射して輝く頭。 「ミスタ・コルベールじゃないですか。なにか僕に御用ですか?」 いいところで邪魔するんじゃないわよ、このハゲ! 「あ、ミス・モンモランシーもごきげんよう」 「ええ。ごきげんよう、ミスタ」 モンモランシーも怖いくらいの作り笑顔で挨拶を返した。 「あ、そうそう。こうして呼び止めたのはですな。ミスタ・グラモン、ウルフウッド君を見ませんでしたか?」 「え? ウルフウッドですか、見てませんけど?」 「そうですか」 「先生、どうかしたんですか?」 「いやー、彼に頼まれていた例のパニッシャーのメンテナンスが終わったので、彼にそのことを伝えようと来たのですが」 「ウルフウッドなら、さっき食堂のほうで見かけましたわよ」 さっさとコルベールをどっかにやるべく、モンモランシーが口を挟む。 「なるほど。だから、先生そんなに汗だくなんですね」 しかし、そんなモンモランシーの気持ちを無視してギーシュが世間話を始める。 「そうなんですよ。私の部屋は暑くて暑くて。もう喉なんかカラカラです」 コルベールが頭を拭きながら、答えた。なるほど、どうりでいつもより光っているわけだ。 「あ、よかったら、ミスタ・コルベール。水をいっぱいいかがですか?」 え? モンモランシーの動きが固まる。 「いいんですか?」 「ええ。僕はまた新しいのを貰いますから」 「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ちなさい!」 「どうしたのさ、モンモランシー?」 「そ、それあんたの水でしょ? そんなのを先生に渡すなんて」 「まだ、口をつけてないから大丈夫さー」 まだ口をつけてないのが問題なんだよ! のんきに笑うギーシュ。 「だ、だから、そうじゃなくって――」 「ぷはー。生き返りますなー!」 ……飲みやがった。 「あれ、どうしたんですか、ミス・モンモランシー、とつぜん両目を押さえて?」 「い、いえ。目にゴミが……」 あの惚れ薬は飲んだ直後に目を合わせた人物に――だから、なんとしても目を合わせるわけにはいかない! 「ちょっと、ギーシュ。こっちこっち?」 モンモランシーは目を閉じたままギーシュを手招きする。 「ん? どうしたんだい、モンモランシー?」 「悪く思わないでね」 「え?」 「チェストー!」 「ぎゃあ!」 モンモランシーはすばやくギーシュの両目を突いた。両目を押さえてうずくまるギーシュ。 「い、一体何をしてるのですか、ミス・モンモランシー?」 「……こういう愛情表現なんです。気にしないでください」 「はぁ」 しかし、状況がまずいのには変わりはない。これからコルベールが誰かと目を合わせてしまったら…… あぁ、どうしようせめて問題なさそうな人物と目を合わせて。キュルケとかタバサとか…… モンモランシーは目を閉じながら必死に祈る。そのときだった。 「おう、センセ。こんなとこにいたんかいな」 「あぁ、ウルフウッド君。よかった、ちょうど探していたんですよー」 やっちまったなぁ! モンモランシーは心の中で叫んだ。 前ページ次ページ虚無と狼の牙
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前ページ次ページゼロの黒魔道士 お、ようこそようこそ!いらっしゃいませお客様! ――えぇ、そうでございますよ! 以前は武器屋だったそうでござんすね、こちらは。 ところが以前の店主様が「口うるさい剣が売れちまった」とかでやる気を無くされたのと、 ――ほれ、ありましたでしょ?例の『虹の氾濫事件』でございまさぁ! 話によると、ここいらも全壊とはいかずとも大分やられてたそうで…… で、以前の店主さんは引退しなすったと伺っておりやす。えぇ。 まぁ、寂しい話ではござんすが…… そのお陰で手前もこうしてトリステインの御膝元、トリスタニアに店を格安で構えられたってなもんでさぁ! ――えぇ、そのとおりで。御察しのとおり、手前はご当地出身じゃぁござんせん。 元々ゲルマニアはヴィンドボナを主な根城としておりやしたんで、えぇ。 そりゃぁもう!『虹の氾濫事件』はあちらでもね! 手前も銀ピカのトカゲ野郎に店を綺麗さっぱりぶっ潰されて! えぇ、えぇ!おまけに修理費を請求できる先も無いと来たもので! しかしまぁ、ピンチはチャンスってなことも申しまして……心機一転!取って置きの品を担いでこちらに出て参りまして…… あぁ、どうぞごゆっくりご覧なすってください! 手前共は古物商でしてね!古今東西の珍品名品貴重品をご覧のように取り揃えてございまさぁ! ここだけの話――いやね、お客の悪口ぁ言いたかないですが…… ゲルマニアのお客は、珍しけりゃなんでも良い!ってな方が多くて…… えぇ、えぇ!本当に!正直、商売する側としちゃ楽で良いんですがね?張り合いってぇもんがありませんや! ちょいとしたガラクタを言い値で買ってくださんのはありがたいんですが…… やっぱりお客の厳しい目に晒されやせんと、えぇ、えぇ!こちとらも鍛えられやせんや! そこいくと、トリステインのお客様は目が流石に肥えてらっしゃってて…… こちらもとっておきの一級品ばっかりを棚に並べにゃならないってなもので! なぁに、こちらとしても目端の利き具合ってぇもんを存分にご披露できるんってぇもんでさぁ! どうです?こちら?これはかの『イーヴァルディの勇者』がお供にしていたという、幸運の鳥の羽で…… ――お!流石にお目が高いっ!そいつにお気づきになるとは、いやはや流石はトリステインのお客だぁ! どうぞどうぞ、開いてご覧なってください……こりゃぁねぇ、中々出ない品でござんすよぉ? こいつはですねぇ、お客さん……声を大きくしちゃ言えないんですがね? そう、御察しのとおりの宝の地図でさぁ……かの冒険王と名高いアルシド王も捜し求めたって噂の! それをなんと、手前共、偶然にもこれが見つけてしまいまして!えぇ、えぇ! 惜しいっちゃ惜しいんですがぁね、これは是非分かる方にお売りするのが一番だと! 流石にお宝の価値ぁ掘ってみにゃぁ分からないんで、そこはそれ勉強させて頂きましてぇの、5枚1組でお値段が…… ――へ?え、な、なんです?落書き?この地図が、でござんすか? 馬鹿言っちゃぁ……『ショコグラフ』? タルブ?……あ、えーと……お客さん、まさかタルブの?あご出身…… ……はぁ~、そうでござんしたか…… い、いえいえいえいえいえいえいえ!!そんなそんな!滅相もござんせん! 騙すなんざぁ気持ちぁこれっぽっちも……コイツは正真正銘『宝の地図』でさぁ! いやそんな王宮に突き出すとか、物騒なことぁおっしゃらないでくださいませ!? ――ふむ、「以前貴族に調べてもらったときには」?ほうほう?「こんな地形は無いと断定された」? なるほどなるほど?「大昔の人の落書きにすぎないから、壁紙用のお土産として売っていた」?ほほ~…… するってぇと、何でございますかね?ご実家の?えぇ、タルブの皆様方におかれましちゃ? この『宝の地図』を『落書き』だと? ……ほっほぉ~……そりゃぁまた…… い、いえいえ別にニヤニヤしてなんか…… あぁっ!?もう、呼ばないでくださいませよ!?銃士隊なんざ危なっかしい方々を…… あぁ~、もうしょうが無いでござんすねぇ……ここだけの話をいたしやすから、それで勘弁していただけませんかね? いえいえ、下らない話なんかじゃござんせんよ?むしろお代を貰っても話したく無いことで…… まぁ、余った分はお客さんへの貸しってなことでお願いしたいですな、今後ともに御贔屓に…… ――あぁ、もうせっかちなお客さんだぁ!こういうのぁ順を追わねぇと…… よろしいでござんすか?こちらの『宝の地図』…… ……はいはい『落書き』でも結構ですよ?でも手前の話を聞いてからで良ござんしょ?ね? 手前はこいつを『5枚1組』で売らせていただいておりやす。 えぇ、ここがポイントでね……そこが『宝の地図』と『落書き』を分ける胆ってなわけで…… おっとぉ、適当に5枚ってぇわけじゃねぇんござんすよ?きっちり選ばさせていただいてまさぁ。 どうやって、ってそこはそれ、商売上の機密ってもんで……流石にそれはご勘弁を…… さて、ここにありまする選ばれし『5枚』……こいつをでござんすねぇ…… はいはい、参りやすぞぉぉ!そーれ、ひとーつ!ふたーつ、みっつ!よつのいつーつっ! ――お?顔が変わりやしたね?御明察。流石トリステインのお客様だぁ…… よろしければ、重ねたまんまをそちらの窓で……あぁ、ランプの方がよろしいですか? へいへい、少々お待ちを……いや実はお客さん、こちらのランプも曰くがありやして…… あぁ、それはよろしいですか、へいどうも。 ……はいはい、これでどうでござんす? 丁度紙の具合でねぇ、そちらの線が透けて、こちらは隠れたりして…… よぉく考えられたもんでござんしょ、ねぇ? ――『5枚1組』。 重ねるってぇと『落書き』が『宝の地図』に早変わりってぇ寸法でさぁ…… なかなかおもしろいでござんしょ?お客さん?お安くしておきやすぜ? ゼロの黒魔道士 Another Note ~第壱篇~ Just A Zero ―持たざる者― 白い鳥が、飛んでいた。 『5枚1組』の地図。その×印の真上だ。 海岸線を示す青い線が、赤い線の尾根に囲まれるようにある場所。 鳥の視線が動くと、その全貌がよりはっきりする。 切り立つ崖、打ち付ける白い波。 山々に追い立てられたように、ごく僅かな地面が顔を覗かせる。 陸の孤島。その言葉がこれほど合う場所も無いだろう。 海から崖の頂上まではなかなかの距離がある。 落ちた場合は人生を五、六回はゆうに振り返られる高さだ。 これを絶景と呼ぶのはやぶさかではないが、 よっぽどの度胸が無ければ、強い海風と足下の頼り無さから近寄ろうとすら思わないだろう。 「あおーい空 ひろーい海……」 どうやら、その『よっぽどの度胸の持ち主』がいたようだ。 丁度、海まで人生が三回程度振り返れそうな位置、そこから男が景色を満喫していた。 「こんなにいい気分にひたっているオレを……」 地図の×印の真下。 崖の中腹、ぽっかりと空いた横穴。 海風に煽られ、時折獣のような唸り声が法螺笛の要領で奏でられる。 そこに、男は立っていた。 赤い髪、血のように燃える色だ。 だがそれよりも特徴的なのは、男の腕。 腕組みをしながら、万歳をするように伸びをすることができる、その腕だ。 ――腕4本。 亜人だろうか。少なくともハルケギニアでは見ない類の者だ。 「邪魔するのは・・・だれだー!!」 亜人が吠える。何が不満だと言うのか、 海に向かって『バカヤロー!!』と叫ぶかのごとく吠えた。 ビリッと空気が揺れる。 その唐突な空気の振動に驚いたのか、男の視界の端で白い影が細い目を丸くした。 「いや、俺だが……邪魔なら放っておくぞ?」 「す、スンマセンでした師匠っ!?」 その白い影……こちらも奇妙な形であった。 大きさは丁度子供の膝丈ほど。 全体で言えばぬいぐるみのような白い暖かな毛玉。 そいつが頭に巻いた黄色いバンダナの中から、 真っ赤なリンゴのような突起物を生やしている。 羽で飛んでいることと合わせると、妖精の類なのかもしれない。 言葉を解する妖精なのだから、それなりに高位の。 「いや俺は構わないぞ?お前がここで朽ち果てようがどうしようが……」 「そんなこと言わないで師匠ぉ~っ!?師匠が居なきゃオレどうしようもぉぉ~!!」 だが、この口の悪さを鑑みるに、メルヘン世界の住人というわけでもないようだ。 この毛玉からは、幾つもの困難をスレスレで切り抜けてきた凄味というものが感じられる。 「ったく……崖の上に結わえといたからよ。とりあえず昇れ。 いつまでも『次元の狭間』に繋がってる場所にいるわけにゃいかんだろ」 「うっす師匠!恩に着まっす!!」 横穴の、奥深く。そこには闇が蠢いていた。 深い深い闇だ。星々が生まれる前のような、そんな闇。 丁度、『悪魔の門』の最奥、『虚空への門』と同じような闇だ。 この者達はそこから来たというのだろうか。 すなわち、ハルケギニアとは全く違う別の世界から。 「――いい加減、その『師匠』っての止めないか?俺にも、スティルツキンって名前が……」 「いやぁ、師匠は師匠っすから!オレ、すごい冒険家である師匠を尊敬してますからっ!!」 ギシギシとロープが軋む。 4本腕は崖昇りには相当役立つらしい。 危なげなく男はロープを手繰りながらスティルツキンと言うらしい毛玉に尊敬の念を語る。 「まぁ……いいんだけどよぉ……別に冒険家志望ってわけでも無いんだろ?」 「うっす!どでかい男に!いつか有名になるのがオレの夢ですっ!!」 スティルツキンは、ふぅと溜息をついた。 可愛らしい見た目に似合わぬ歳はそれなりに食っているつもりだ。 それゆえ、この若造のホワホワとした夢見がちな言動はどうもハラハラする。 他人のことは言えないが、根なし草特有の浮ついた空気。 こう、地に足のつかぬような、そんな雰囲気が。 「まぁ……頑張れ。勝手に」 「あぁっ!?師匠ツレないっ!?オレの相棒よりツレないっ!?」 この男自身の説明によると、 このアホたれは相棒にどこかにトンズラされてしまったらしい。 しかも、探していた宝剣と一緒にどこかへ。 その上この男は行き先不明で行き倒れていたというわけで…… よりにもよって異世界へと繋がる穴倉の真っただ中で転がっていやがったのだ。 正直、放っておいても良かったが、自分とて旅先では何度となく助けられた身。 たまにはお返しぐらいしなくてはと思って助けてしまったところ、異様なほど懐かれた。 少々今までの旅の話をすれば「師匠!!」と呼んで懐いてくる始末。 「……やれやれ」 野良猫だってもっと節操を弁えているだろうにとため息をつかざるを得ない。 「も、もうすぐ頂上っすか?結構腕に来ますねコレ……」 「……上に着いたら、俺のリュック持てよ。せめて」 オマケにこの男はとんだ臆病者と来たものだ。 少々剣は扱えるようだが、イザ強そうな敵に会うとすぐ逃げやがる。 それだけなら、まだ慎重な分使いようはあるが、 ミエを張りたがるし、ドジで、トロくて……という両手に余りある欠点をこの男は持ち合わせている。 必要な物を持たざる身のくせして、余計な物ばっかり持っている。 ロープもナイフも入って無い癖に香水や楽器を詰め込んだ冒険者鞄みたいなもんだ。 お陰で、『次元の狭間』で舐めてかかった敵に殺されかけて気絶したコイツを、 ヨタヨタと背負いながら逃げ通すハメになってしまった。 あまり旅のお供として有能とは言い難い。 せめて健康な内は荷物持ちにでもなってもらい、 適当なところで別れようと、スティルツキンはそう思っていた。 「あぁ、しかし良い景色っすねぇ……空は青いし、白いくも……雲?」 あと1手で頂上、というところで男の手が止まった。 青い空、白い雲、そして白い雲とは違う、白い何か。 その何かが視界に入ったからだ。 「……」 「えーとー……」 白い、布。 そこから二本ばかり柔らくて透き通るような色合いの細い脚が伸びている。 その周囲をふんわりとしたまた別の布が覆っている。 「……ぃ……」 「あ、あははは……か、かわいこちゃん、良い天気だね?」 そのさらに上の方、可愛らしい顔がじとりと、こっちを睨みつけている。 白い髪に白い肌、まるで雪で作った人形細工のような女の子だ。 と、いうことは、男が見た白い布というのは、この女の子の…… その透き通るような顔に、どんどん紅が差す。 羞恥に気付いた茜色。 「……ぃゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!?!?」 「わわわっ!?」 金切り声。 そりゃ下着を覗かれて良い気のする女の子なんてのも早々いやしない。 マンドラゴラもかくやという絹を裂くような叫び声。 それに煽られるように、男は体を反らせた。 ――あろうことか、腕四本共をロープから離して。 「へ!?」 スティルツキンは、呆れたように「あ」と声を漏らした。 やっぱりこの男、地に足がついていない。 「わわわわわわわわっ、わあああああああぁぁぁぁぁァァアァァァァァァ……」 「……しょうがねぇな、あの野郎……」 「だ、大丈夫ですかっ!?」 下着見られて叫んでしまったはいいが、 それが殺人になってしまえば寝覚めも悪かろう。 スティルツキンと一緒になって少女が崖下を見やる。 「ゥがばゥ ガボォ ぶくゥ・・・・・・だずけ……」 青い空、広い海、白く湧き立つ波紋の真ん中で見事に溺れてやがる。 よくもまぁ無事だったものだ、悪運強い野郎だ、とも言えるが、 悪運が強ければそもそも落ちなくて済んだだろうに…… そう考えた辺りでスティルツキンは、何度目かの溜息をついた。 妙な相方を持ってしまった自分の運の無さを呪って。 前ページ次ページゼロの黒魔道士
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管理人様、変なページの作成すいません。 リンク切れっぽいページの一覧です つかいま1/2 第一話 使い魔が来た ご主人様は承認せず! 後編 作品ページ名 ゼロの使い魔-02 リンクするページ名 ゼロの使い魔-03a ゼロの使い魔-09a 次ページ名 あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ 三つの『二つ名』 一つのゼロ-10 新約・使い魔くん千年王国 第四章 皇太子 これまでの「悪魔くん」のあらすじ hellouise-8 ゼロの使い-15 豆粒ほどの小さな使い魔-22 寄生獣ゼロ ゼロの探究 真説サムライスピリッツ・ゼロ ゼロの宇宙船日記 はだしの使い魔 3 ソーサリー・ゼロ第四部-16 次虚無と賢女 ゲーム帝国ハルゲギニア出張版 復活・使い魔くん千年王国 第十章 ティファニア スクライド・零-23 出来損ないの魔術師と改造人間-4 マジシャン ザ ルイズ 3章 (60) ザンキゼロ 00の使い魔 ◎◎◎ ゼロのアルケミストアルケミストアルケミストアルケミストアルケミスト ゼロのアルアルアルケミスト 夜天の使い魔 夜明けの使い魔 yes?ナイトメア0
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意外なことに、"お迎え"はまだ来ない。 別に来なくて困ることも無いんだが。 まぁ、暫くはのんびりと過ごせそうだ――― 宵闇の使い魔 第拾漆話:忘却と妄執 「ところで、授業の方は良いんですか?」 此処は学院の食を一手に引き受ける厨房。 その片隅にある、普段はコックやメイドたちが使う椅子に虎蔵は座っていた。 問いの主であるシエスタは、ポットの用意をしながらお湯を沸か沸かしている。 最近はルイズが普通の――つまり、学生達が食べるものと同じ食事を虎蔵にも用意するようになったため、 此処で食事を取るということはなくなったのだが、しょっちゅうやってきては茶やら酒やらを飲んでいる。 今日も、朝一の講義にルイズ共々引っ張り出された後で、休憩と称して逃げ出してきていた。 「あの根暗っぽい奴の時間だからな―――あいつも部屋に戻ったし」 「あら、何かあったんですか?」 「いや、爺さんの所に行ったと思ったら、なんか変な本を持ってきてな――― それ以来殆どおこもりだ。キュルケが迎えに来ると、渋々ながら出るんだがな。講義にも」 ギトーの名前をすっかり忘れている虎蔵は、ふぁっ、と小さく欠伸をする。 引っ張り出されたという講義で眠気を誘発されたようだ。 「変な本ですか―――なんなんでしょう、それって」 シエスタは虎蔵の欠伸にクスリと笑いながら、カップとポットをトレーに置く。 ポットに湯を注ぐと、慎重にトレーを持ち上げて振り返った。 すると――― 「始祖の祈祷書、よ。シエスタ、私にも頂けます?」 いつの間にかやってきていたマチルダが、シエスタにそう声をかけながら虎蔵の隣の椅子に腰を下ろした。 微かな香水の匂いが鼻腔をくすぐる。 「あら、ミス・ロングビルも。えぇ、すぐに用意しますね」 シエスタは一旦トレーを置くと、二つ目のカップを取りに行く。 虎蔵はそれを見送ると、肘を突いてマチルダへと視線を向けた。 「おう――どした」 「休憩―――爺のセクハラがね。ちゃんとお返しはしてきたけど」 肩を竦めるマチルダに、「若いな、あの爺さんも」と言って笑う虎蔵。 シエスタが離れたためか、マチルダの口調は素に近い。 よく話はしているようだが、猫は被ったままのようだった。 あまり意味があるとは思えないのだが。 「ところで聞いたかい? 来週頭に、アルビオンのおえらさんがトリステインに来るんだってさ」 「―――今更不可侵条約の調印式でもするのか?」 「いや、姫様の結婚の前祝を兼ねた表敬訪問だとか何とか―――」 怪しいわよね、と肩を竦めるマチルダ。 虎蔵も頷くが、かといって何かが出来る訳でもないし、しなければならない訳でもない。 本格的に戦争でも始まれば色々と面倒にもなるのだろうが――― 「ま、今はのんびりしとこうや。どうせなんも出来んしな」 「それもそうだね――」 気だるげにいう虎蔵にマチルダも同意したところで、シエスタがトレーを手にやってきた。 今度はカップが二つ乗っている。 彼女は二人の前にカップを置きながら、気だるげな雰囲気の二人に首を傾げる。 「何のお話ですか?」 「いえ、アルビオンとトリステインはどうなるのかと思いまして」 「あぁ―――怖いですね。戦争にならなければ良いんですけど」 シエスタは至極普通の意見を返しながら、カップに薄緑色の液体を注ぐ。 虎蔵は仄かな香りで、それの正体に気づいた。 「ん? こりゃ―――」 「あ、お気付きになりましたか? 東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品なんです。 《お茶》って言うんですけど―――やっぱり知ってましたね」 「妙な色ですね―――けど、やっぱりって?」 おぉ、と妙に感動しながらカップを手にする虎蔵に対して、 マチルダはその色と匂いに僅かな警戒を示す。 香りは悪くないな――と思いながら、ふとシエスタの言葉に引っ掛かりを覚え、問い返す。 「はい。前にトラゾウさんが「茶が怖い」って言っていたんですよ。覚えてます?」 「―――言ったか?」 「えぇ、ほら―――ミスタ・グラモンと決闘した後に」 ずずずっとお茶をすすり、満足気に息をつく虎蔵にたいしてにこにこと笑みを浮かべるシエスタ。 虎蔵は言われてようやく、言ったかも、位にまでは思い出した。 確かに、よく考えればあの言い回しが此処で通じることは考えにくい。 だとしたら、シエスタは何故――― 「私の曾お爺ちゃんがよく言ってたらしいんですよ。 それでお爺ちゃんにも口癖が移ったらしくて、私も聞いたことがあるんです」 「ほぉ―――」 「曾お爺ちゃん、東の遠い所から来たらしいんです。ロバ・アル・カリイエではなかったらしいんですけど。 それで、もしかしたらトラゾウさんもなのかなぁって思って」 虎蔵はふむ、とお茶を飲みながら考える。 此処は肯定の一手しかないが―――この世界にも日本的な地域があると言うのだろうか。 「確かに生まれは東の方だな―――」 後でマチルダなりオスマンなりから情報を仕入れるべきだと考えながら、 何時もどおりに飄々とした様子で茶を濁すのだった。 「あら、ダーリン。こんな所に居たの―――ミス・ロングビルも」 厨房からの帰りに廊下をマチルダと歩いていると、途中でキュルケ・タバサの二人と遭遇した。 二人、と言ってもタバサは本を読みながらキュルケに引っ張られているようなものだが。 そのキュルケは羊皮紙の束を手にやたらと上機嫌にしていたが、マチルダも居るのを見ると、 僅かにムッとした表情になる。何時ものことだが。 「厨房で一緒になっただけさ。あのチビっ子にも用事があってね」 「へぇ――まぁ、良いわ。私もルイズに用事があるのよ」 もはやマチルダも慣れたもので、肩を竦めてかるく往なす。 今日は珍しくキュルケもそれ以上突っかかることはなく、羊皮紙を丸めて胸の谷間に押し込むと、 タバサを掴んでいる手と反対の手で虎蔵の手も掴み、軽快に歩き出した。 マチルダは肩を竦め、彼女らの後を追う。 「で、なんなんだよ、いったい―――」 「あの子、最近塞ぎ込み気味じゃない。授業にもあんまり出てこないし。まぁ、気持ちは解らなくもないけど」 「授業に出ないのは理由があるんだろうけどね」 「あら、ミス・ロングビル。なにかご存知なの?」 両手で虎蔵とタバサの手を掴んでいるためうまく振り向けないキュルケに、マチルダは肩を竦める。 「すぐに解るよ――」 「あっそ。ま、それでね。気分転換になりそうなことを見つけてきたってわけ。 あぁ、なんて友達思いなのかしら。私って」 口ではそう言いながら、明らかに自分が楽しんでいる様子である。 ルイズのためというのも嘘ではないだろうが。 虎蔵はなにをする気だ、と言った意味を込めてタバサを見るが、彼女は本を読みながら首を振るだけだ。 ―――諦めろって事か――― ため息を一つ。 キュルケはルイズの部屋に着くと、問答無用でドアを開ける。 鍵は掛かっていなかった。 ルイズは机に向かいながら、うーんうーんと頭を抱えていたが、ドアの開く音にも振り返った。 「トラゾウ? 悪いんだけど、何か飲み物―――って、何よぞろぞろと」 「ルイズ! 宝探しにいくわよ!」 「はぁ!? ちょっと、これ正気?」 部屋に入ってくるなりそう叫ぶキュルケに度肝を抜かれ、残り三人に助けを求める視線を送るルイズ。 だがタバサは本を読み続けていて、虎蔵とマチルダは初耳である。 「正気かとは酷い言い草ね、ルイズ。 なんか最近引き篭もりがちだから、気分転換に連れ出してあげようって言うのに」 「引き篭もってないわよ! 詔を考えなきゃいけないの。姫殿下の結婚式のね」 あぁ、と頷くキュルケ。 アンリエッタの結婚相手は、ゲルマニア――キュルケの国の皇帝である。 「へぇ、なによ。大役じゃない―――で、どれ位進んだの?」 「うッ―――――まったく、全然――」 「駄目じゃない。何時までなの?」 「それを連絡に来たの。来週頭までだそうよ」 キュルケとマチルダの言葉に頭を抱えるルイズ。 既に三日は考えているが、一文も出てこないのだ。 「てか、詔ってどんなん何だ?」 「火に対する感謝、水に対する感謝って感じで、順に四大系統に対する感謝の辞を、 詩的な言葉で韻を踏みつつ読み上げるんだけど―――」 「ふむ―――火、風、土―――水だけ居ないが、専門家が揃ってるぞ?」 ルイズの説明に対して、虎蔵はキュルケ、タバサ、マチルダと見ていく。 確かにそうだ。 全員がそれぞれの系統のトライアングル。 アドバイスを受けるには最適の相手といえる。 一人で考えるべき物なのではないかと思わなくもないのだが――― 「うーん―――間に合わないよりは、相談してでも―――」 「丁度良いじゃない。昼は宝探し。夜は皆で協力して詔を作る、と」 ぶつぶつと呟くルイズに、キュルケがぽんっと手を叩いて笑顔を作る。 我ながら名案、といった調子だ。 だがルイズはまだ迷っているようで、腕を組んでは唸っている。 「授業は?」 「貴女、今だって出てないじゃない」 「う――確かに」 そんな調子でキュルケの説得攻勢が続く中、マチルダが虎蔵の腕をちょいちょいとつつく。 「―――なんか、いつの間にかアタシも数に入れられてないかい?」 「入ってるな。拙いか?」 「問題ないとは言えないけど―――んー」 ルイズたち学生もサボリが許可されている訳ではないが、マチルダ――ロングビルの場合はもっと問題である。 虎蔵は"自由業"生活が長いため、気にしていないようだが。 とはいえ、ルイズの現状はオスマンも理解している。 その辺りを理由に話してみれば、許可が下りるかもしれない。 爺の相手は疲れるから、ちょっとした休暇のつもりで付き合うのは悪くなさそうだ。 「しかし、宝の地図だなんてそうそう当たりは無いと思うんだけどね」 「だろうな。ま、気晴らしには良いだろ――――当たりが出れば儲けもんだしな」 「まぁ、ね―――じゃ、許可取ってくるよ」 マチルダは殆ど説得されたも同然のルイズを一瞥すると、ひらりと手を振って出て行った。 「ほら、折角あるんだ。座って読めよ」 虎蔵はソファーにぼすんと腰を下ろすと、空いている隣を叩いてタバサを促す。 タバサは無言でそれに頷くと、ソファーにちょこんと浅く座って読書を続けた。 その乱れないペースに関心半分呆れ半分で肩を竦めると、虎蔵は背もたれに身体をは窓越しに空を眺める。 「―――ま、なるようにならぁな」 タバサが声も漏らさずに、こくりと頷いた。 「――――大丈夫なの? これ――」 「仮に失敗したとしても、問題はあるまイ。所詮は死体ネ」 此処はアルビオンの王宮に用意された馬の私室。 シェフィールドの協力を得て、無数の機材が運び込まれている。 中央のベッドには死亡した筈のワルド。 彼は全身に無数の縫合痕や金属板を晒しており、何本ものチューブに繋がれている。 「時間があれば色々と手を加えてみるのだがネ―――まぁ、とりあえずはこんなところカ」 馬は一言呟くと、装置のレバーを引く。 ガチャンと音を立てて、チューブが外れた。 この機材の調達を手伝わされたシェフィールドは、不機嫌そうな表情を隠しもせずに、 壁際からその様子を眺めている。 「―――これで本当に生き返るというの?」 「生き返る、というのとは異なるがネ。まぁ、使い物にはなる筈ヨ。素体が良い物であるからナ」 「なら良いのだけど」 「さぁ、目覚めたまえ―――」 馬はニヤッと笑みを浮かべると、ワルドの首筋からプラグを抜き取る。 びくっ、と一度だけ痙攣を起こすと、ゆっくりと目が開かれた。 「っぁ――」 「やぁ、おはよう。目覚めは如何かネ? ワルド君」 「―――此処、は」 上手く声が出せないのか、ワルドは蚊の鳴くような声をもらす。 目の焦点は合わず、ぼんやりとした様子のままだ。 「私は―――生きているのか」 「左腕が炭化。胸部から腹部にかけて刺創痕14箇所。全身に無数の切創痕―――本当によく生きていたものだネ」 そうか、と答えながら、ワルドが一応は無事と言える右手を実の前に翳すと、ゆっくりと目の焦点が合ってくる。 シェフィールドは堂々と"生きている"と嘯く馬に視線を向けるが、ワルド自身はまったく疑っている様子は無い。 馬はシェフィールドにニィッと笑みを向けて、見ていたまえと言わんばかりに頷いた。 「とはいえ、左手は義手。各種内臓も殆どが使い物にならヌ。いっそ死んでしまった方が楽かもしれんがナ」 「真逆。私にはやらねばならぬ―――やらねばならぬこと、だと?」 「フム、記憶が混乱しているようだガ―――ルイズ、という名前に心当たりはあるカ?」 シェフィールドの力―――マジックアイテムによって全て理解しているにも拘らず、 馬は何も知らないような調子でその名前を口にした。 「ルイズ! そうだ、私のルイズ! ――ッぐ」 ワルドは無理に体を起こそうとして全身を引きつらせ、再度ベッドに倒れこむ。 弄くられた身体がまだ馴染んでいないためだろう。 「落ち着きたまえ、ワルド君。君の居た礼拝堂の近くから、城の外へと抜け穴が見つかってる。 恐らくは、君を倒した人物と共に逃げ出しているのだろうネ」 「くそッ――私はルイズを、ルイズを手に入れなければならなかったのに――」 息を荒げながらも、悔しそうに呻くワルド。 その様子を見てシェフィールドは首を傾げる。 クロムウェルの弁では、ワルドは彼にかなりの忠誠を見せており―――仮にそれが本心ではないにせよ、 任務を気にかける程度の演技はしてみせるような男、とのことだった筈だ。 それがどうだろうか。 まるで《レコン・キスタ》の事など忘却してしまったかのように、 ルイズ――あの虚無の力を持つ小娘のことだけに拘っている。 ―――この男、虚無について詳しく知っているとでもいうの?――― 警戒に目を細めるシェフィールド。 「なに、生きていれば、また機会はある筈ヨ―――奪われたなら、取り戻せば良いこと。 君を倒した男に復讐を果たし、彼女に君の力を見せ付けると良いネ」 「そうか。そうだな。奴を倒せば、ルイズは私の物になるに違いない―――」 以前の冷静沈着な様子など微塵も無く、憑かれたかのようにただルイズの事についてのみ執着を示すワルド。 しかしその瞳は僅かに濁って見えるが、十分に正気を感じさせる。 つまり、正真正銘本心からルイズを欲しているのだ。この男は。 一度、馬を問い詰める必要がある。 シェフィールドはそう考えながら、するりと部屋を抜け出した。 「あぁ、そうだトモ。発奮したまえヨ、ワルド君」 「勿論だ。ルイズは私の物なのだから――――」 「その粋ダ。が、今日はこのまま休みたまエ。まずは体力を戻すことネ」 馬はワルドにそう告げて部屋の明かりを落とすと、再見と一言残し部屋から出て行った。 残されたワルドは、暗くなった部屋の中で何度も手を握り締めながら呟く。 「あぁ、ルイズ。僕のルイズ。必ず手に入れてみせるよ。あんな男に渡すものか―――君は、私だけのものだ」 妄執に囚われたワルドを、窓から差し込む冷え冷えとした月明かりだけが照らしていた。
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