約 1,871,778 件
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/5640.html
小林明子 楽曲 コメント 日本の歌手・作曲家・作詞家・アレンジャー。 楽曲 レシラム:真実 ラブカス:恋に落ちて-Fall in love ムンナ:心のシエスタ ねむる必須 シンボラー:HAND IN HAND(sing with杉田二郎・鈴木雄大・佐藤竹善・井上大輔) ソウルオリンピック公式テーマソング ファイヤー:こころの炎 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る ↓追加しました。 -- (管理人) 2012-09-16 11 36 03 草案 ラブカス:恋に落ちて-Fall in love ムンナ:心のシエスタ ねむる必須 シンボラー:HAND IN HAND(sing with杉田二郎・鈴木雄大・佐藤竹善・井上大輔) ソウルオリンピック公式テーマソング ファイヤー:こころの炎 -- (ユリス) 2012-09-15 11 27 17
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2872.html
前ページ次ページサイヤの使い魔 アンリエッタ姫が魔法学院に到着したのはそれから2時間ほど経ってからだった。 生徒が歓声をあげて出迎える中、悟空は馬車から降り立った姫を護衛する一行の中に、他の者とは一味違う強い気を感じた。 羽帽子を被り、長い金髪に、それと同じ色の長い口ひげを携えたメイジだ。 黒いマントの胸には、彼が跨っている動物、グリフォンの刺繍が施されている。 ルイズが息を飲んだのを感じ、悟空は自分の主人を見やった。彼女もまた、悟空と同じ人物を見つめていた。 「知り合いか?」 「え?」 「あのヒゲのおっちゃん」 「おっちゃんじゃないわ。ワルド様よ」 以前ルイズの記憶を読んだ時に、悟空はルイズのプライベートな部分までは見なかったので、彼がルイズの古い許婚である事は知らなかった。 「やっぱ知ってんのか」 「まあ…ね」 ルイズの頬に紅が差した。 悟空は再びワルドを見た。彼の視線に気付いたのか、ワルドの視線もまた、悟空を捉えた。 ほんのわずかな間だが、ワルドに緊張が走る。悟空はそれを気の揺らぎで感じた。 「あいつ、強えな」 「そりゃそうよ。グリフォン隊の隊長ですもの」 グリフォン隊。トリステインに存在する3つの魔法衛士隊の1つである。 隊の名を冠する幻獣に騎乗し、強力な魔法を操る彼らは、国民の畏怖と憧れの象徴でもあった。 そうルイズから聞いた悟空は、機会があったら一度あのワルドとかいう男と戦ってみたい、と思った。 一方、悟空の視線を受け止めたワルドは微かに震えていた。恐れではない。 あの女の話を聞いた時点では内心高をくくっていたが、それが自分の傲慢である事を思い知らされた。 強い。見ただけでは判らないが、あの平民は自身の実力を隠している。 ワルドの震えは歓喜からくるものだった。 確かにあれを味方につければ心強い。だが、その前に1人の男として彼と手合わせ願いたい。そう思った。 近いうちに、実戦で彼の実力を試す時が来るだろう。 馬車の前から敷き詰められた緋毛氈の絨毯の上をアンリエッタ姫と一同がしずしずと歩き、出迎えるオスマン氏の前に立った。 「急な我侭で申し訳ありませんでした、ミスタ・オスマン」 「滅相もございません。生徒共々お待ち申しておりました」 「今年だけは、是非ともこの目で見たかったもので」 「ほう、それは?」 興味を引かれ、オスマン氏は顔を上げた。 品評会は毎年行われるものではあるが、一国の王女がわざわざ見学に来るような目新しいものでもない。 一応、社交事例として毎年招待状は送っているものの、外交上さほど重要ではないとして、これまで毎年のように黙殺され続けてきたのである。 訝しむオスマン氏の視線に、アンリエッタは見るもの全てを虜にする微笑で応えた。 「個人的な事ですわ」 昼食時、悟空は厨房に居る筈の人物の姿が無い事に気付いた。 「あれ、シエスタは?」 厨房をいくら見回しても、あの特徴的なメイド服の少女は何処にも見当たらなかった。 賄いを食べる時はいつも傍にいて給仕してくれていたので、それがいつしか当たり前になっていた悟空は尚の事違和感を感じた。 「あの姫様ってのが来たから、何か別の仕事でもしてんのかな」 「……お前、シエスタから聞いてねえのか?」 「へ?」 マルトーが言うには、朝食の後、モット伯という貴族に仕える為に急遽、学院での仕事を辞めることになったのだそうだ。 結局、平民は貴族の言いなりになるしかない。 己の無力を嘆くやり場の無い怒りを隠そうともせず、マルトーはそう吐き捨てた。 自らもまた、自分の意思とは関係なく、エリートの都合によって余所の星へと送り込まれた下級戦士であった悟空は、シエスタの立場を自分と重ね合わせて考え、そして結論を出した。 「心配ねえって。シエスタならきっと、うまくやれるさ」 「いや、そういう問題じゃねえんだけどな……」 的の外れた慰めをする悟空を、マルトーは微妙な表情で見つめるしかなかった。 「モット伯爵は王宮の勅使で時々学院に来るわ。いつも偉ぶっててわたしは好きじゃないわね」 夕刻。 歓迎会の準備のために、悟空の手を借りてめかし込んでいるルイズは、彼からシエスタが奉公に出た事を聞かされた。 嫌な顔一つ見せず、自分と自分の使い魔の世話を引き受けてくれた彼女が居なくなってしまったのは正直寂しいが、それがここでの理なのだ。 自分がとやかく言う筋合いはない。 「あ、でも」 彼女が居なくなってしまったら、誰に下着を洗わせればいいのだろう? 悟空は…多分無理だ。ただでさえ常日頃からパワーを持て余している事を知った今、下着なんてデリケートなものをちまちまと洗わせるのは正直危険だ。というか勿体無い。 主人である自分を守る、という点においては充分過ぎる技量を持っているのだから、それで満足するべきだろう。 「何だ?」 「わたしの服を洗う人が居なくなっちゃったわね」 「他のヤツに頼めばいいんじゃねえのか?」 「それがね、シエスタってああ見えてビックリするほど洗濯が上手いのよ。何ていうか手馴れてる感じ」 「じゃあ、どうすんだ? 連れて帰るのか」 「そうもいかないわよ」 「ん?」 悟空は、生徒のものではない気がルイズの部屋に近づいてくるのを感じた。 この気には覚えがある。確か、今日学院に来たアンリなんとかという姫様の気だ。 「ルイズ、おめえ、今日来た姫様と知り合いか?」 「え? ええ。姫様の御幼少のみぎり、恐れ多くもお遊び相手を務めさせて頂いてたのよ。何で?」 悟空はその問いには答えず、代わりにルイズの部屋の扉を開けた。 まさに今、ドアをノックしようとしていた人影が、ドアを叩く筈だった右手を振り出した勢いを殺しきれず、部屋の中に入ってくる。 よほど慌てたのか、2、3歩よろけたところで足をもつれさせて前のめりにスッ転び、「はぎゅ」と情けない声を立てた。 転んだ衝撃で目深に被っていたフードが脱げ、その下から現れた顔を見たルイズは仰天した。 「姫殿下!」 床で醜態を晒しているその人物は、誰あろうアンリエッタ王女その人であった。 ルイズの声に、呻き声をあげていたアンリエッタは我に返り、急いでマントの隙間から杖を取り出し、部屋中に光りの粉を捲き散らした。 悟空とルイズはそれがディテクト・マジックだと気付いた。 部屋の何処にも聞き耳を立てる魔法の耳や、何処かに通じる覗き穴がない事を確かめ、最後に自分の入ってきたドアが開けっ放しになっている事に気付いて慌てて閉めると、アンリエッタは改めてルイズに向き直った。 「お、お久し振りね、ルイズ・フランソワーズ」 何ともしまりのない再会であった。 自分がぼけっと突っ立っていたことに気づいたルイズは慌てて膝をついた。 「姫殿下、申し訳ありません、こんな下賎な場所へお越しになられただけでなく、その御身を地に這いつくばらせてしまうなど…!」 「いいのですよ、とっさの事に対処できなかったわたくしが悪いのですから。だからその顔を上げて頂戴」 かしこまった声で謝罪するルイズに、アンリエッタは優しく彼女を抱きしめた。 「それに、そんな堅苦しい行儀も止めて頂戴。あなたとわたくしはおともだち。おともだちじゃないの!」 「勿体無いお言葉です、姫殿下」 「止めて! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をして寄って来る欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、もう、わたくしには心を許せるおともだちはいないのかしら。昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまでそんな余所余所しい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」 「姫殿下……」ルイズはようやく顔を持ち上げた。 「幼い頃、いっしょになって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの! 泥だらけになって!」 アンリエッタの心底嬉しそうな顔に、はにかんだ顔でルイズが応えた。 「……ええ、お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ボルトさまに叱られました」 「そうよ! そうよルイズ! 彼とのカップリング論争で、掴み合いになったこともあるわ! あなた彼は受けだって言って引かなかったわね」 ルイズのはにかんだ笑顔が一変し、「ピキ」と、空気の固まる音が聞こえた。 薄く化粧を施したルイズの顔に、どっと冷や汗が噴き出してくる。固く封印していた筈の過去の汚点を暴露され、ルイズは頭を抱えた。 「ああやめて黒歴史黒歴史」 「わたくしがボル×ワル本を書いたらあなた、『ワルド様は攻め以外絶対認めない!』なんて言って、それからやっきになってワル×ボル本を書いて、 挙句の果てにはその本をお姉様方に見られて丸2日屋敷に帰って来なかったこともあったわねえ」 「ビッケモンバック! ビッケモンバーック!!」 ルイズはベッドに突っ伏すと、顔を枕に埋め、いやいやをするように手足をバタバタとのた打ち回らせた。 悟空は意味不明の単語の応酬に理解が追いつかず、呆然と立ち尽くしている。 「懐かしいわ、あの本まだ本棚に仕舞ってあるかしら」 「捨ててー! お願いですから捨てて下さい後生だからー!!」 心を抉られる痛みに耐え切れなくなったルイズは絶叫した。 主人の恥ずかしい過去の古傷を笑顔でほじくり返すアンリエッタ姫を、悟空はただただ呆れ顔で見つめていた。 おしとやかに見えて、意外とお転婆娘のようである。 この場合における「お転婆」という表現が適切かどうかは定かではないが。 「ああいやだ、懐かしくて、わたくし、涙が出てしまうわ」 「わたしは恥ずかしくて涙が出てまつ…。でも感激です、姫さまが、そんな昔の事を覚えて下さってるなんて……。 とっくにお忘れになったかと思いました。……ていうか、忘れて下さいお願いします」 王女は深い溜息をつくと、ベッドに腰かけた。 「忘れるわけないじゃない。あの頃は、毎日が楽しかったわ。何にも悩みなんかなくって」 深い、憂いを含んだ声であった。 「姫さま?」 「あなたが羨ましいわ。自由って素敵ね、ルイズ・フランソワーズ」 「今日からそうでもねえんだよな」蚊帳の外に置かれていた悟空が、ここでやっと口を開いた。 「というと?」 「ゴ、ゴクウ! 余計な事は言わなくていいから!!」 「良いのですよ。私にできる事があったら、何でも相談して頂戴」 「いえ、いいんです! たかがメイドが1人奉公に出たくらいで…」 「へえ?」 アンリエッタの宝石のような目が、その輝きをいっそう増した。 「その話、詳しく訊かせてもらえないかしら?」 困った顔で視線を反らすルイズ。すがるような目で悟空を見上げるが、この状況で使い魔を頼っても何も出来そうにない。 逡巡するルイズに、アンリエッタはダメ押しの一撃を放った。 「お願い☆」 ウインクまで出され、ルイズは陥落した。 「モット伯ですか……。確かにあの方ならやりそうな事ですわね」 真剣な顔で話を聞き終えたアンリエッタは深くため息をついた。 魔法学院に勤めていた侍女の1人が奉公に出てしまい、世話をしてもらっていたルイズは不便を強いられている。 アンリエッタにはそう伝えた。内容的にはあまり正しくはないが、かといって真っ赤な嘘でもない。 ルイズが口にした貴族の名前はアンリエッタにも覚えがあった。 平民の若く美しい娘に目をつけては自分の屋敷に買い入れ、夜の相手をさせていると聞く。 以前謁見をした事があったが、その時にも、仮にも王女である自分を好色そうな目で見ていた。どちらかというと、悪い印象しかない。 貴族としての業績に欠点らしい欠点は無いが、それでも1人の女として、彼の横暴は許されざるものがあった。 「ここだけの話ですが、私個人としても、彼のような人物は好ましくないと思っています。あなたがその平民の帰還を望むのなら、わたくしは助力を惜しまないつもりですわ」 「でも、ほんとうにいいのですか?」 「幼い頃に約束したではありませんか。『ルイズの助けになる』って。わたくしは今でも忘れておりませんわ」 「もったいないお言葉、光栄至極に存じます」 「もし、何か騒ぎになるような事があったら、その時はわたくしに相談して頂戴。可能な限り、裏で手を回しますわ」 「わかりました。他ならぬ姫さまのご好意、厚く御礼申し上げます」 「さあ! そろそろ歓迎会が始まりますわ。わたくし、もうお暇しませんと」 アンリエッタが立ち上がり、来た時と同じように再びフードを被った。 ルイズが部屋の扉の前まで送り出すと、アンリエッタはルイズを優しく抱きしめた。 「ここ数年で、1番楽しい一時でした…。ありがとう、ルイズ・フランソワーズ」 「わたしもですわ…姫さま」 アンリエッタはルイズから身を離すと、次に悟空に目をやった。 「ルイズの恋人さんも」 「へ?」 「オラ?」 「明日、頑張って下さいね」 ルイズは思いきり首をぶんぶんと振って、アンリエッタの言葉を否定した。 「ち、違います! ここ、こいつは恋人じゃありません! わたしの使い魔です!!」 「使い魔?」アンリエッタはきょとんとした面持ちで悟空を見つめた。「人にしか見えませんが……。頭に変なのくっついてますけど」 「人ですわ。姫さま。頭に変なのくっついてますけど」 「そうよね。はあ、ルイズ・フランソワーズ。あなたって昔からどこか変わっていたけど、相変わらずね」 「こう見えてもこの使い魔、力は相当ですわ」 「まあ。それじゃ益々、明日が楽しみね。おやすみなさい、ルイズ」 とはいえ、どうやってモット伯に説明すればいいのだろう。 豪勢な歓迎会が終わった後も、ルイズの頭の中はその事で一杯だった。 まさか正面から堂々と乗り込んで「やっぱ必要だからシエスタ返して」と言うわけにも行かない。 何か交換条件を持ち出すのが得策だろう。問題はそれをどうするかだ。 考え込んでしまったルイズに、悟空が口を開いた。 「こっそり連れて帰ってきちまえばいいんじゃねえのか?」 「それができれば苦労は無いわよ。できたとして、それをどうやって穏便に済ますかも問題だし……」 「オラが瞬間移動で連れてくりゃ、すぐだろ」 「あ、そういえばそうね。…ん? でもそれだと……」 「よし、ちょっくら行ってくる」 「え? 待ってゴク――」 ピシュン。 悟空の姿が消えた。 「……ウ」 ルイズは悟空のいた空間を見つめ、しばし固まった。 あの馬鹿、シエスタが他の誰かと一緒だったらどうやって連れて帰ってくるつもりよ? もしそれがモット伯だったら弁解のしようも無いじゃないの、などとルイズがボンヤリ考えていると、再び悟空が戻って来た。 「ただいまー」 傍らにはシエスタが立っている。その身にタオルを捲き付けただけの、裸同然の姿だ。 「何でいきなり連れて帰ってきちゃったのよ!? てか、他の誰かに見られたらどーするつもりよ!!」 「それなら心配ねえ。オラが行った時、いたのはシエスタだけだったからな」 実際、悟空が提案したのは、今ならシエスタの周囲に誰の気も感じなかったからだった。 瞬間移動で目的地に移動する際、移動先は固定されているが、出現先は対象の気から数メートルの範囲内であればある程度の融通が利く。 相手の眼前に移動することも、そこから少し離れた場所に移動することも自由自在だ。 もし、シエスタの近くに誰かがいたとしても、その人物の死角になる場所に実体化すればよいと悟空は考えていた。 シエスタは何が起こったのか判らず混乱し、「な…なんなんですか? ここ、どこですか? 何で私、連れてこられたんですか?」などと呟いている。 身を縮こませ、時おり小刻みに震えているのは寒さのせいだけではないだろう。 「えーと、シエスタ?」 「へ? あ、ミス・ヴァリエール」 「とりあえず落ち着きなさい。あのね、ここはわたしの部屋。そして貴女はゴクウに連れてこられたの。おわかり?」 「は…はい。でも何で……」 「貴女がモット伯爵の元に奉公に出たのは聞いたわ。でもそれじゃ私やゴクウがちょっと不便するから、帰ってきてもらう事にしたのよ」 「で、でも、そんな事をしたら、モット伯が……」 「心配要らないわ。伯爵がこの件に対して何か言ってきても大丈夫なの。一応そういうことになってるから」 「はあ…?」 「ところであんた、何でそんな格好なの?」 「あ、私湯浴みをするところだったんです」 「湯浴み……?」 「はい。…その、モット伯が、用があるから湯浴みをしたら寝室に来るように…って」 シエスタが顔を赤くして俯いた。 その表情が意味するものを悟ったルイズは呆れ顔で頭を掻いた。やっぱりあのエロジジイは、と怒りが沸々とこみ上げてきた。 やっぱり使い魔のやった事は正しい。むしろ褒めてつかわす。いろんな意味でギリギリのタイミングみたいだったし。 判決。被告、ソンゴクウ。無罪。被告、モット伯。有罪。以上、これにて閉廷。 呆れ顔から怒り顔を経て今度は1人悦に浸るルイズに、震える声でシエスタが訴える。 「…あの、ところで私の服と荷物、どうすれば……」 「あ」 結局、悟空は再び瞬間移動をさせられた。 シエスタの衣服に残った僅かな気を頼りに移動するという、極めて難しい作業ではあったが、南の銀河にサイヤ人の気を探って行った経験が意外なところで活かされた。 もっと時間が経ってしまってからでは遅かったかもしれない。ブロリーの時と違い、シエスタの服に残った気は時間とともにどんどん小さくなっていた。 服を着替え、無事に戻ってきたシエスタを見たマルトーはたいそう喜び、「なんだかんだ言ってシエスタの事気にかけてたんじゃねえか、ええ? 我らの拳よぉ!」と、付き添いで来た悟空の背中をバシバシと叩いた。 悟空が無事服と荷物を持ち帰ってこれたのにはもう一つの理由がある。 この時、湯浴みをさせていた筈のメイドが忽然と姿を消したモット伯の屋敷では当然の事ながら騒ぎになり、「逃げ出した」だの「何処ぞのメイジに連れ去られた」だのと憶測が憶測を呼んでいた。 出入り口を除いては密室であったはずの場所でメイドと何者かが会話をしていたのを聞いた、などと言い出す者まで現れ、事態は混乱の極みに達した。 一時は「モット伯の屋敷で夕刻に湯浴みをすると、謎のメイジに攫われる」といった、ある意味根も葉もある噂まで立つ始末である。 その混乱の中、慎重に気を探りながら、また自身も極力気を消して探索に当たっていた悟空は、幸運にも誰にも出くわすことなく、また潜入任務の定番、空き箱に隠れる必要も無く任務を遂行できた。 結局、事態を重く見たモット伯により箝口令が敷かれ、この事件はうやむやのうちに決着を迎えることとなったのだが……。 その日以降、夕方から夜にかけてモット伯の屋敷で入浴をしようとする人間は一人もいなくなってしまったことをここに付け加えておく。 後に「モット伯家の七不思議」の一つとなった事件である。 前ページ次ページサイヤの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8935.html
前ページ次ページThe Legendary Dark Zero ケルベロスが邪魔者を制するために作り出した氷の山はスパーダが戦っている間に少しずつ崩れていった。 氷塊が降ってきた際、タバサが咄嗟に作り出したエア・シールドによる突風の障壁は二人を包み込み、辛うじて押し潰されることはなかったのである。 原理としてはラグドリアン湖で水の精霊を倒そうとした際、水に触れないようにするのと同じだ。 その後、内部でキュルケが炎の魔法を使って氷を溶かし、何とか抜け出そうとしていたのである。 こんな閉鎖空間で大技は使えないため、発火の魔法で地道にやるしかなかった。タバサもその間、エア・シールドを維持し続けるために精神を集中させていた。 外の様子は氷に阻まれて見えなかったものの、音だけは氷を隔てて微かだが二人にも伝わっていた。 魔獣ケルベロスの咆哮はもちろん、スパーダの拳銃の銃声が何発も聞こえてくる。 外の音を聞く度に二人はいち早くここを抜け出して戦線に復帰しなければと発奮していた。 やがて氷の壁を溶かしきり、無数の小さな氷塊をいくつか溶かすと外の光が見えてきた。 ここまでやればもはや遠慮はいらない。キュルケはファイヤボールの魔法を放ち、一気に薄くなった氷を吹き飛ばす。 その衝撃で氷の山が崩れてしまったが二人はすぐ様外へと飛び出ていた。 「ふぅ~! やっと出られたわね!」 キュルケが歓声を上げ、杖を構えるタバサと共にいざケルベロスに挑みなおそうとした時だった。 ――バウゥンッッ!! 「グガアァ!」 耳が裂けんばかりの鋭い轟音と共に、ケルベロスの呻き声が響き渡った。 二人が目にしたのはあのケルベロスの全身を覆っていたはずの氷がほとんど剥がされ、その巨体が吹き飛ばされていたのだ。 見ればスパーダがケルベロスの真正面に立ち、ルーチェの拳銃を構えたまま佇んでいる。 キュルケとタバサはケルベロスが倒れ伏してしまった姿に呆然とする。 自分達では歯が立たなかったあの巨体を、スパーダは拳銃だけで制してしまったのだ。 伝説の悪魔である彼は剣など使わずとも充分に力を示せることを改めて実感する。 (もっと、力を……) 勇猛なスパーダの姿を目にし、タバサの杖を握る手に力がこもる。 復讐を果たし、大切なものを取り返すために力を欲している彼女としてはスパーダが力を示すのを目の当たりにする度にその思いはさらに強くなっていた。 どうすれば更なる力が手に入るのか。どうすれば己の力を更に磨き上げられるのか。……どうすれば彼のように強くなれるのか。 飽くなき力を欲する欲求、渇望、願望、研鑽、羨望――様々な思いがタバサの中で渦巻いていた。 スパーダがケルベロスの魂を取り込む事で、戦いは終わりを告げた。 氷を操るケルベロスがいなくなったためか、足元に漂っていた冷気の霧が瞬く間に晴れていって地面が姿を見せる。 ルイズ達は凍り付いてしまった聖碑の石版を眺めているスパーダの元へと集まっていった。 「キュルケ! タバサ! 大丈夫なの?」 「ま、何とかね。タバサのおかげよ」 ルイズは氷の下敷きになっていたタバサとキュルケが無事であった事に一安心した。 スパーダの方も見やるが、彼はいつものように毅然とした涼しい顔を浮かべている。この様子ならばそう心配する事もないだろう。 どうやら左手に装着している篭手のデルフのおかげのようだ。 「あ、あの……大丈夫、なんですか?」 閻魔刀を抱えながらやってきたシエスタは不安げにスパーダの身を気遣う。 何しろ、先ほどのケルベロスが放った全力の攻撃でスパーダの服は所々が凍ってしまっている。 まともに食らえば今の争いで砕かれてしまったオーク鬼達のような無残な最期を遂げることになっていたというのに。 「心配はいらん」 凛然と答えつつ振り向いたスパーダは恐る恐るシエスタが差し出す閻魔刀を受け取り、腰に収めた。 その時、スパーダは微かに目にしたシエスタの表情に不安と緊張が未だ残っている事に気付く。 それは先ほどのケルベロスに対してではなく、自分に対して抱いている事をスパーダは察していた。 「なぁーに。この俺が相棒へのダメージを和らげてやったからな。……ちと寒かったけどよ」 デルフが楽天的に答えると、シエスタはホッと安堵の溜め息を吐く。 「っていうかスパーダ。何なのよ、さっきの銃は? あんな物を持っているだなんて聞いてないわよ」 ルイズはスパーダの少し凍っているコートの裾に手を触れようとしたが、あまりの冷たさに手を引っ込めてしまう。 「ああ、ルイズは見てないから知らないのよね。ゲルマニアのペリ卿に特注で作ってもらったんですって」 スパーダの代わりに答えたのは、先日の実演を見ていたキュルケだった。 正確にはペリと名を名乗る魔界の銃工マキャベリーの作品である。ハルケギニアはおろか人間界の技術ですら作ることはできない一品だ。 「わざわざ銃を使わなくても、剣を使った方があの悪魔を倒すの速かったんじゃないの?」 「実戦でも使えるか確かめねばならなかったのでな」 ルイズからの指摘に答えたスパーダは聖碑の石版から視線を離さぬまま目の前まで進んでいく。 ケルベロスの攻撃のおかげで石版の表面はほとんどが凍りついてしまっており、真下の祭壇に至っては氷の中に閉じ込められていた。 災厄兵器パンドラを持ってきていれば氷を溶かす兵器に変形させていたのだが……。 「どうしたのよ、スパーダ。こんな石版がどうかしたの?」 やけに石版に食い入っているスパーダにルイズはもちろん、他の三人も疑問を抱かずにはいられなかった。 「キュルケ。祭壇の氷を溶かせるか」 「オッケー。タバサも手伝ってね」 スパーダからの要求に快く答えたキュルケは杖を取り出し、タバサと共に前へ進み出る。 先ほどのケルベロスとの戦いで消耗していたため、キュルケだけの力では大きな炎は起こせない。タバサの風の魔法で威力を増強しなければならないのだ。 「ねえ、一体何なの? あの石版がそんなに珍しいの?」 キュルケ達が氷を溶かす中、ルイズは再三、聖碑の石版に興味を持つスパーダに尋ねていた。 隣で佇むシエスタとしては何も無いただの遺跡であるはずのここにスパーダがこうも関心を示していることに不安を抱かずにはいられない。 「そういうわけではない。だが、あれはただの遺跡などではない」 「ど、どういうことなんです? 一体、あれは……」 スパーダの返した言葉にシエスタの不安はさらに大きくなっていった。 だが、スパーダは腕を組んで氷が溶かされていく聖碑の石版を凝視したまま、沈黙している。 普段以上に真剣な目付きに二人は呆気に取られていた。 「おい、相棒。あの石版……俺も嫌な力が感じられるぜ」 「それ以上を言う必要はない」 デルフも妙に真剣な口調で喋りだしたが、スパーダは一蹴して黙らせる。 (何よ? 一体、何を知っているっていうの?) スパーダはおろかデルフさえも真面目になっていることにルイズもまたシエスタと同じように不安が湧き上がる。 この石版は一体、何だというのだ。 ただの遺跡でなければ、何の目的でここに建てられているのか。 何か、自分達では想像もつかない特別な力がこの石版にはあるというのか。 それを……スパーダは全て知っているというのか。 「ふぅ~! ざっとこんなものね」 タバサの協力で氷を溶かし続けていたキュルケは一息をつきつつ歓声を上げていた。 炎で氷が溶かされ、その下から円筒上の小さな台座が姿を現す。恐らく、ここに何かを祭っていたのだろう。 しかし、見た感じ何も特別面白そうなものはないみたいでキュルケの興味は薄れていった。 「どうしたの、タバサ?」 タバサが台座の隅で屈んでいるのを見てキュルケも覗き込んでみる。 「何かあったの?」 その元にルイズ達もやってくると、立ち上がったタバサは妙なものを抱え上げていた。 「何なの、それは」 タバサの抱えているそれは何とも奇妙な代物であった。 固定化がかけられているのか、鏡のように磨き上げられた白銀の塗装は日の光を照り返すほどに輝いていた。 篭手のようにも見えるがそれにしてはかなりの大きさだ。大人の腕をすっぽりと覆ってしまいそうである。 おまけにその形状も変わっており後部の左右からは羽状、上部には湾曲した爪状の突起が後ろに向かって突き出ているなどかなり手の込んだ装飾が施されていた。 「変わった形ね~」 「どうやって使うのかしら」 ルイズ達は不思議そうにその物体を見つめて触れたりしている。もちろん、それ以上のことは何もできない。 タバサも何かを感じているのか、じっと物珍しそうに見つめていた。 (ここにも奴の品、か) だが、スパーダは氷に閉じ込められていた時からこの物体を目にしてそれが何であるかを即座に理解していた。 それをどう使うかも既に心得ている。 「スパーダ」 タバサから取り上げたその篭手のようなものをスパーダはすんなりと右腕に装着する。 「下がっていろ」 一同はその言に従い、聖碑から10メイルほど離れていく。 あれもマジックアイテムのようなものなのか。スパーダは今度は何かしでかすつもりなのだろう。 剣だった時のデルフにしろ、ルイズは見ていないがルーチェとオンブラの銃にしろ、手に入れた代物はすぐに試そうとするのが彼の性分らしい。 「相棒? そいつもまさか……」 デルフが語りかけた途端、スパーダは右腕の篭手をまだ凍り付いている聖碑の石版に突きつけていた。 スパーダが篭手内部の引き金を引くことによって先端には桃色の光が生み出され、低い唸り音を響かせている。 魔力が収束していくことで、徐々にその光は大きくなっていた。初めは握り拳程度の大きさだった光はその倍にまるで膨れ上がっている。 そこまで大きくなった所で、スパーダは内部の引き金を離した。 「きゃっ!」 閃光を発し、ルイズ達は思わず目を腕で覆った。 そんなに強い光ではなかったため、すぐに視線を戻す。 そこではスパーダが右腕に装着する白銀の篭手から一筋の光線を放っていた。 石版の表面を覆う氷に放射されていくその光は熱を持っているのか氷を徐々に溶かしていく。 スパーダは腕を動かしては光線を当てる場所を変え、少しずつ氷を取り除いていった。 「何か、変なやり方をしてるわ」 「そうねぇ。何をやっているのかしら」 スパーダはあの白銀の篭手から発せられる光線で氷を剥がしているが、何故か所々に点のような氷を残しており、それに光線を当てようとはしない。 明らかにわざとやっているようであるが、ルイズ達にはスパーダの意図がよく分からない。 「彼は的を作ってる」 じっと観察していたタバサが彼の意を察したようにぽつりと呟いた。 「的を?」 またルーチェ、オンブラの射撃でも行うのというのか。わざわざ自分で的を作ってまで試そうだなんておかしな話だ。 既にあの二つの拳銃の性能は実証されているというのに。 「相棒の銃に比べると何かえらく地味だな」 左腕のデルフが肩透かしを食らったように呟く。 やがて石版の氷のほとんどを剥がしきったスパーダは光線の放射をやめ、最後に意図的に残した10ヶ所の氷の的を凝視していた。 これで全ての準備は整った。この篭手――魔具の真価は標的が多数存在する時にこそ発揮できるのだ。 かつてテメンニグルでも同型の代物を見たことがある。あれは塔内部の道の一角を封印するための仕掛けとして利用されていたはずだ。 魔力を無数の矢として放出し、多勢の敵を射抜くために生み出された魔銃。 災厄兵器パンドラと同じく魔界の銃工マキャベリーが作り出した一品。 ――魔閃弓アルテミス。 今、デルフが地味だとぬかしたがならばその真価を試してみるとしよう。 そのためにこうしてわざわざ的を作ってやったのだ。 スパーダは再びアルテミスの銃口に魔力を溜め始める。先ほどと同じように銃口に生み出された光が収束し、大きさも調整されていった。 先ほどは標的を定めずに溜めた魔力を一点に集中させて放出させたが、今度は違う。 視界に映る20の氷の的を意識しつつ、溜めた魔力を分割させていく。 ただそれだけで良い。無理にスパーダ自ら狙いをつける必要はない。 「何っ!」 「きゃっ!」 アルテミスの銃口に集まっていた光が放出と同時にさらに小さな20の光へと分裂していった。 その光から射出される魔力の矢が尾を引いて次々と氷の的目掛けて飛んでいく。 分裂した魔力の矢は的確に氷の的を射抜き、次々と撃ち砕いていた。 当然、これだけで済ませるつもりはない。自分で作った的はもうないが、的がなくてもアルテミスの力は行使できる。 スパーダが頭上にアルテミスを掲げた途端、各所のパーツが瞬時に変形し展開された。 展開されたパーツが露になった右手を包む銃身を軸にして勢いよく回転し、次々と光球が上空に打ち上げられていく。 ルイズ達は天高く打ち上がった光球を呆然と見上げていた。 やがて上空で四散した光球から無数の光が地上へと降り注ぐ。 アルテミスのパーツを収納していたスパーダは空を見上げ、細かい雨のように降りかかる光を凝視していた。 スパーダの周りに降ってきた光は次々と大地に突き刺さっては小さな傷痕を残していく。 何故かスパーダ自身には落ちてはこず、必ず彼を中心にしてその周りにだけ光の雨は降り注ぐ。 「すごい……」 ルイズ達は思わずその光景に目を奪われ、息を呑む。 彼が悪魔である以上、やることなすこと不思議なことばかり。平民であるシエスタはもちろんのこと、貴族でありメイジであるルイズ達の心を度々捉えていた。 「こいつはすげえな! 良い花火になりそうだ!」 侮っていたアルテミスの力を見せ付けられたデルフは興奮し、歓声を上げていた。 (まあまあだな) 魔具も重要な戦力の一つであるため、ここで手に入ったのは幸いだった。ルーチェとオンブラやパンドラのことも含めてマキャベリーには感謝せねばなるまい。 アルテミスの実証が済んだため、スパーダは何の感慨もなく振り返るとルイズ達の元へと戻っていった。 「ちょっと! 一体、何なのよそれは! 何で」 「そうだな。〝破壊の魔銃〟とでも言っておこう」 アルテミスの力を目の当たりにして驚くルイズにスパーダは手短にそう答える。アルテミスの理論をここで話した所で時間の無駄だ。 「ここにはもう用はない。村へ戻るぞ」 「あ! 話はまだ終わってないのよ! 待ちなさい!」 足早に広場を去ろうとするスパーダの後をルイズは慌てて追いかけ、後の三人も続いていった。 ルイズは何としてもスパーダから全てを聞き出さなければならないと感じ取っていた。さもなければ必ず後悔してしまう。 「何なのよ! あの石版もそのマジックアイテムも色々知ってるんでしょう!? あたし達にも話しなさいよ!」 「今ここでは話せん」 スパーダはちらりと肩越しに振り返ると、広場の奥に建つ聖碑とシエスタ達が呼ぶ門を……己の故郷へと続く扉を見つめていた。 タルブの村へと戻ってきた頃にはすっかり日が傾き、空は赤茶けていた。 スパーダ達はシエスタの生家で泊めてもらうことになり、シエスタの両親は遺跡に居座っていた幻獣――ケルベロスをスパーダが打ち破ったことを シエスタの口から聞かされると、娘が世話になったことを含めてすっかりスパーダに対して敬服していた。 シエスタの弟達はケルベロスを倒したというスパーダにすっかり懐いている。 一件落着ということで、各々は夕食の準備ができるまで休息を取ることになった。 ルイズ達はシエスタの家で待機しており、スパーダが右腕から外していたアルテミスを預かっている。 スパーダは外へ出ると村の側に広がる草原へと足を運んでいた。 夕日が草原の彼方に山の間に沈んでいく。そこは広大な草原と小高い丘が連なっており、スパーダも思わず感嘆する景色だった。 「なあ相棒よ。例の石版のこととか娘っ子達に話さないのかい?」 「安々と人前で話せることではない。お前も今日はよくやってくれた。戻っていいぞ」 左腕に装着したままのデルフが話しかけてくるが、スパーダはデルフを魔力に変えて体内へと戻していた。余計なことを喋ってもらっては困る。 それからすぐ、草原の中にシエスタの姿を見つけるとスパーダは傍へと近づいていく。 (スパーダさん……) 草地に腰を下ろしていたシエスタは気配を感じ取り、それがスパーダであるとすぐに分かってしまった。 びくりと震え上がり、自分の隣に立つスパーダを恐る恐る振り向き見上げる。 得体の知れない本能のおかげでスパーダさえも恐れるようになってしまったシエスタはいつものように屈託なく話すことができないでいた。 力無き者が力ある者に気安く話しかけるなど、無礼な行為なのだ。 その本能に自然と従っていることにシエスタは自己嫌悪を感じていた。 認めたくなどなかった。今、ここにいる人が、自分を人間と認めてくれた人が、自分と同じかもしれないだなんて。 それだけで彼を恐れてしまうなんて。 「私もブラッドと同じだ」 唐突に口にしたスパーダの言葉にシエスタは目を見開き、愕然とした。 「私を恐れるのも仕方のないことだ。だが、それで己を否定することはない」 スパーダも既に分かっていた。シエスタが悪魔の血を目覚めさせたことでその血に宿った悪魔の本能も目を覚ましたことに。 本来、下級悪魔は己より力のある格上の悪魔を恐れるもの。それが弱肉強食の魔界の住人達の性分だ。 悪魔の血を宿すシエスタもその本能に従い、スパーダやケルベロスなどの上級悪魔を恐れていたのである。 自然とスパーダが悪魔であることを察してしまったのだ。 「申し訳ありません。スパーダさんは本当はとても良い人なのに。……わたし、とても失礼なことを」 「気にするな」 「スパーダさんは怖くないんですか? ……悪魔であることを知られても」 「私を拒む者がいるのであればその前から消える。それだけのことだ」 躊躇いなく冷徹に答えるスパーダにシエスタは驚く。 スパーダは人間の血が混ざっている自分とは違い、曾おじいさんと同じ純粋な悪魔。自分なんかとは考えも違うのだ。 「わたし、やっぱり怖いんです。……得体の知れない何かがどんどんわたしを変えていきそうな気がして」 膝を抱え、顔を埋めるシエスタ。 「もしも自分が悪魔の血を引いていることで誰かに拒絶されたらと思うと……。学院のみんなやこの村の人達……それまであったはずのものが失われでもしたら……」 「そうなるまでに己を認めさせてやればいい」 スパーダの言葉にシエスタは顔を上げ、振り向く。 彼の左目に付けたモノクルが夕日の照り返しを受けて微かに煌いている。毅然とした顔で彼は沈みゆく夕日を見つめていた。 「君は紛れもなく人間だ。だが己を否定し続けていれば、他の者に人間である己の存在を認めさせることもできはしない。 君が人間であることをその時までに他の者に認めさせ続けていれば、たとえ君の真実を知ったとて拒まれはせん」 現にスパーダもルイズ達やオスマンにも認められたのだ。悪魔ではなく、人間として。 「人として生き続けたいのであればそのようにするがいい」 踵を返し、スパーダは村の方へ戻ろうとする。 「あ、あの……!」 立ち上がったシエスタはスパーダの背中に向かって呼びかけた。 スパーダは振り向かぬままその場で立ち止まってくれた。 「も、もしも……わたしの行く所が失くなったら……その、スパーダさんのお傍にいても良いですか!?」 「メイドとしてなら構わん」 即座に返してくれた答えにシエスタは嬉しさを感じずにはいられなかった。 「だが、そうならぬように力を尽くせ」 再び歩き出したスパーダの後を、シエスタは主に付き従うように付いていく。 やっぱり彼も紛れもない人間なのだということに改めて感じ入っていた。 深夜、シエスタを含む村の者達が寝静まった頃。 スパーダは自分に宛がわれた部屋にルイズ達を集めていた。 結局、ルイズ達に深夜になったら全てを話すということを伝えてその時を待っていたのである。 念のためにタバサによって部屋の壁や扉などにサイレントの魔法をかけたため、音が外に漏れることはない。 「それじゃあ話してちょうだい。あの石版は一体何なの?」 腕を組んだまま椅子に腰掛けるスパーダと向かい合い、仁王立ちするルイズが単刀直入に問いかける。 「ダーリンがあんなに気にするくらいだもの。何かあるんでしょう?」 キュルケもタバサも同じように例の〝聖碑〟と呼ばれている石版の詳細について気になって仕方がなかった。 悪魔であるスパーダは気にかけるのだから、曰く付きな恐ろしいものではないかと薄々感じているくらいである。 「あれは聖碑などではない。……〝地獄門〟だ」 「地獄門?」 かつてスパーダが領主として治めていた地、フォルトゥナ。 そこで暗躍していた悪魔達の手により建造された人間界と魔界を繋ぐ力を持った巨大な装置であり、門なのだ。 昼間、あの広場で目にしたあの石版はサイズこそ小さいが紛れもなくその地獄門に間違いなかった。 「あれが、魔界に続く出入り口なの?」 話を聞かされたルイズ達は驚きを隠さずにはいられなかった。あの一見、何の変哲もない石版がそんな恐ろしいものだったなんて。 「私が封印したものよりは小さいがな。だが、あの地獄門でもある程度の数の悪魔達も、ケルベロスのような強力な悪魔ですら通ることができる」 スパーダが告げる真相にルイズ達は息を呑む。 「このアルテミスは動力源として使われていたのだろう。……動いていなかったのは幸いだが」 スパーダは箱の上に置かれた魔銃アルテミスを顎で指す。 もしも地獄門が起動していれば今頃、悪魔達は魔界からあの門を通って直接ハルケギニアに押し寄せて来たのだろう。 タルブの村などとっくの昔に全滅していたのかもしれない。 「で、でも……どうしてスパーダが封じたものがここにもあるの?」 「分からん。だが、悪魔の手により建造されたのは間違いない」 シエスタによると、あの地獄門は六十年前にブラッドがいなくなってからすぐにあれが見つかったという。 ブラッドがタルブを訪れていたのは地獄門を建造するための暗躍だったのだろう。そのための動力源であるアルテミスを用意したのもそうだ。 だが、入り口そのものは開かれなかった。アルテミスが動力源として設置されていなかったからだ。 ブラッドがハルケギニアを侵略されないように細工をしてくれたのだろうか。……さすがにスパーダでもそれ以上のことは分からない。 「当然、スパーダはあの地獄門を壊すんでしょう?」 そんな恐ろしい物が放置されていては、いずれあそこを通って悪魔達が攻めてくるかもしれない。 スパーダならばあんな厄介な物を放っておくはずがないとルイズは考えていた。 「うむ。だが今すぐにではない」 「どうして? 放っておいたらあそこから悪魔達が溢れて来るんでしょう?」 キュルケが納得できずに尋ねる。 すると、スパーダは膝を組みだし今まで以上に深刻な面持ちになって一同の顔を見回した。 「……今のうちに、お前達に伝えよう」 重々しく口を開いたスパーダにルイズ達は真顔になって彼を注視し、耳を傾ける。 「今度、日食があるのを知っているな」 「ええ。確か、姫様の結婚式の二日前よね」 「十三年ぶりの皆既日食」 スパーダの問いにルイズとタバサがそれぞれ答える。 「その日にアルビオンのレコン・キスタが攻めてくる可能性が高い」 「レ、レコン・キスタが!?」 スパーダが口にしたとんでもない言葉にルイズは吃驚していた。サイレントの魔法を施していなければ部屋の外に漏れていたであろうほどの大声だった。 キュルケとタバサも同様に驚いている様子を示す。 「ど、どうしてそんなことが分かるの!?」 「そうよね。不可侵条約を結んでいると言ったってそんなものどうにでもなるようなものだけど、どうしてレコン・キスタが攻めるのがその日だって分かるのかしら」 問いただすルイズとキュルケにスパーダも頷く。 「連中の裏には悪魔達の存在がある。レコン・キスタは奴らの手駒に過ぎん。……その悪魔の勢力も同時に攻めてくるかもしれんのだ」 「どうしてそんなことが分かるのよ?」 再度問うルイズに、椅子から立ち上がったスパーダは腕を組んだまま一行に背を向け、窓辺へと向かう。 ルイズ達はスパーダの背を見つめたまま答えを待った。 「我が故郷とこのハルケギニアは人間界と同じだ。普段はその境界線は厚いために直接侵攻される恐れはない。 だが……これまでの調べでこのハルケギニアと魔界は日食が起きている短時間だけだが、一時的にその境界が薄まるようだ」 スパーダが語る詳細に、ルイズ達は顔を顰めた。 「それってつまり……」 恐る恐るルイズが呟き、その後をタバサが引き継ぐ。 「日食が続いている間に、悪魔達はこっちに直接やってくる」 「それじゃあダーリンのマスターだった、あのムンドゥスみたいのが攻めてくるっていうの?」 「その可能性は高い。もっとも、レコン・キスタを操っているのは我が主ではなさそうだがな」 スパーダは魔帝の勢力下で活動していたのだ。自分がかつて属していた勢力の特徴など熟知していることだろう。 ルイズ達はムンドゥスが攻めてくることはないと知って、少しだけ安心する。……気休め程度にしかならないが。 「何にせよ、万が一の時にはお前達にも少し協力をしてもらいたい」 「あったりまえじゃない! あたしはスパーダのパートナーなんだから!」 新調中の杖もそれまでには手に入れていることだろう。スパーダのパートナーとして、彼をサポートするのが自分の役目だ。 この間みたいに悪魔との戦いを舐めてはまたその時と同じ結果になりかねない。ルイズはスパーダに言われたように自分の立ち位置を間違えないことにした。 「私も手伝う」 「当然じゃない。〝微熱〟の名にかけて、魔剣士スパーダと共に戦うことを誓うわ」 タバサとしてはその時に多くの悪魔達が狩れれば母を治すホーリースターを作るためのレッドオーブをたくさん稼げると踏んでいた。 それも目的の一つだが、もちろん魔界からの侵略に黙っているわけにはいかない。 まだ先の話だというのに、杖を握る手に力が入る。 「私も一度、地獄門を通って故郷に戻らねばならん。故にあれを今、破壊するわけにはいかない」 「え、ええ!? どうして!? 何でわざわざ魔界に行っちゃうの?」 スパーダが魔界に里帰りしようとしていることにルイズは驚きを隠せない。 「必要なものがあるからだ。これからの戦いのためにも、それを取りに行かねばならない」 魔界の奥深くへと封じたスパーダの分身。今のスパーダの力では魔界の勢力に対して短期戦を仕掛けることはできない。 特に、ムンドゥスに匹敵する最上級悪魔が現れるようであれば長期戦に持ち込んではハルケギニアに甚大な被害をもたらしてしまう。 スパーダはあの地獄門を通り、己の力を封じた分身を取りに行くことを決めていた。 もっとも、今あの地獄門を不用意に開けば悪魔達がなだれ込んでくるかもしれないのでもう少し様子を見てからだが。 ゆっくりと振り返ったスパーダは三人の顔を見回し、告げる。 「ハルケギニアの民達よ。私と共に、戦ってくれるな?」 重々しく威厳に満ちた声のスパーダにルイズ達は黙したまま首肯していた。 一瞬たりとも決して気を抜けない戦いが始まろうとしている。 相手は同じ世界を生きる人間ではなく、異世界からの侵略者。人間の力を遥かに超越した存在。 その恐ろしい者達との戦いを生き抜くためには自分達にできることを精一杯やるしかないのだ。 前ページ次ページThe Legendary Dark Zero
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6718.html
前ページ次ページゼロの最初の人 飛び立ってすぐ、太公望の腕にかかる力がいきなり増した。 腕の中のルイズが気を失っていることに気付いた太公望は、ひとまず地面に降り立ちルイズを見た。 「なんだ? 今は寝とるだけかのう」 様態を確認して首をかしげる。見たところ――実際は"見た"より"感じとった"の方が正確だが――病気を患っているわけでもなければ、体が弱いわけでもないようだ。あたりまえだがショックで気を失ってしまうような外的ショックがあったわけでもない。 しばらくルイズのほほをペチペチと叩きながら、なぜ気を失ったのかを考えてみたものの、ルイズという少女のことに詳しくない彼には、まったく理解できなかった。 しかし、このままルイズをはたいてるわけにもいかない。 いまだに眠ったままのご主人を彼女の部屋なり休める場所に寝かしておくべきだろう。 しかしながら、召喚されたての太公望がルイズの部屋の場所を知ってるはずもない。 そんなわけで困った太公望が、あたりをキョロキョロ見渡すと、塔の影に体の半分を隠した状態の少女と目があった。 「おーい! そこの、ちょっと」 「ひゃっ!」 なぜだかわからないが、太公望が声をかけると少女は逃げ出した。 「……ここでは、わしはそんなに変なのかのぅ」 やっぱり文化が違うのかの? とついでに呟いて、ルイズを抱え直し、地面を蹴った。 飛行するために地面から足を離したのであるが、今度は先のように飛び上がることはせず、真横にすっ飛んだ。走るよりよっぽど速いので太公望の主な移動手段はこれである。 広場の中心付近にいた太公望らとその少女との距離は人間的な尺度で測るとけっこうなものがあったが、短距離馬クラスの速度で移動する者の場合、話になる距離ではなかった。 すぐに太公望は少女に追いついて肩を軽く叩く。 「少し聞きた」 「ひ?! ひあぁぁあ!! も、もも、申し訳ありません貴族様!!」 肩に手が当たった瞬間、すさまじい速さで反転し土下座する少女。 なんだこやつは? と、あっけにとられる太公望であったが、コルベールから聞いた「貴族は魔法を使役し、平民を統治する」という話を思い出し、合点がいった。 ようするにこの少女は統治される側、すなわち平民であろう。 程度の差はあれど、支配する者と支配される者の間にはこのような"恐怖"の感情が付きまとうものである。 ここは、その程度が"ヒドイ"のだとすれば、目の前の光景もなるほどうなづける。現在腕の中で眠る主人にも貴族と間違えられたのだし、彼女の目にも自分はそう映ったのだろう。 まぁ、「なに」を怒られると思っているのかは全くわからないが太公望にとってはどうでもいいことであった。 「とりあえずおちつけ、そして顔を上げい。わしは貴族ではないし、なにも咎めるつもりはない。ちょっとばかし尋ねたいことがあるだけだの」 顔を上げた少女は、目に涙を湛えながら上目づかいで太公望を見つめる。 ――その少女の顔は整っており、一般的に美少女と呼ばれる者のそれであった。鼻の周りにそばかすは、清純そうな雰囲気を醸し出す黒髪とあいまって、整った"綺麗"なその顔を、親しみやすさのある、"かわいらしい"顔へと変えていた。 ――さらに、その中にどこか古風な日本女性の奥ゆかしさをも感じさせる顔とは対照的な、胸。着衣を持ち上げ、さあ出るぞ飛び出すぞ、と言わんばかりに自己主張するそれはまさに凶器、二丁拳銃、やニ丁バズーカ。 ――服の上からでもわかるくらいに、出るとこは出る。引っ込むとこは引っ込む。そんなスタイルがさらにその凶器の殺傷能力を底上げする。 ――そして、極めつけは少女の服と体勢である。言わずと知れた"メイド服"を身にまとい、きっちりと武器の"顔"、"胸"を見せる体勢。 ――その目に涙なんてもんが浮かんだ日にゃ、男の庇護慾やら加虐欲やら、いろんな本能に根付く欲望をくすぐってしまう。つまりはもう、この世の八割の男は落ちてしまう。そりゃもうきっと堕ちてしまう。 しかし、太公望はそんな男心をくすぐる振る舞いを意に会した風もなく、少女に手を差し伸べた。 少女は礼を言いながらその手を取り立ち上がる。 涙をぬぐい、裾についた泥や土を軽く払った後、姿勢を正して口を開いた。 「お見苦しい所をお見せしました。私はこの学院で貴族の方々に奉公させていただいてる、シエスタと申します」 「そういえば、自分は貴族じゃないって言ってましたけどなんであの場所にいたんですか?」 「んー……サモン・サーヴァント……だったか? まぁそんなので召喚されたらしいのぅ」 現在、太公望はルイズを抱えながらシエスタにルイズの部屋に案内してもらっている。 あのあと、太公望が自分の名前を告げ、事情を話し案内を頼んだ。急なことだったがシエスタはそれを快く受諾した。 しかしなぜ一奉公人でしかないシエスタが、一生徒であるルイズの部屋の部屋を知っていたか、それは学院で勤務する平民内でのシステムが関係する。 学院の奉公人は貴族の頼まれごとなら可能な範囲で何でもやる、いわゆる何でも屋のようなものだという。 とうぜん、もろもろの用事で貴族の部屋に呼び出される事もあり、そんなときはあらかじめ決められた担当の者が出向くらしい。 偶然シエスタは、ルイズを担当していたため部屋を覚えていた。というわけだ。 太公望もあっさり案内しだしたシエスタに、ふと湧いて出たその質問をぶつけたが、その説明で納得していた。 「えっ?! じゃあ、タイコーボーさんって使い魔なんですか?!」 「使い魔といっても、なにをすればよいかまったくわからぬがのぅ」 「へえ~人間が使い魔になるってことがあるんですか?」 「あるんですかもなにも、こうしてわしがいるのだからあるんだろうのぅ。周りを見るかぎりは相当まれなケースのようだが……」 そこで太公望の頭にひとつの疑問がふっと湧いて出た。 「そういえばお主はあそこで何をしておったんじゃ?」 太公望を先導するような形で歩いていたシエスタの肩が大きく跳ねた。擬音で表現するのであれば「ギクッ」が相応しいような跳ね方であった。 「い、いや、別に覗いてななんかいませんですよ」 気が動転して、正確で正解な答えを言ってしまったシエスタは、ルイズに聞かれていないかどうか確かめるためゆっくり首を回す。 太公望は太公望で、貴族の神聖な儀式とやらを覗くのは大罪なのか? と、考えたりしていた。 ルイズがまだ気を失っていることを確認したシエスタは、ササッと太公望の後ろにまわり背中に手を置き力を込めた。 「まぁまぁまぁ、そんなことどうでもいいじゃないですか、もうすぐミス・ヴァリエールの部屋ですから急ぎましょう。さぁ! さぁさぁ!!」 別にそんなに急がずとも、と太公望は文句を言うが、シエスタはそれを聞かず背中を押し、走り続けた。 ただ、ルイズの部屋が近かったというのは本当のことだったらしく、ものの30秒で部屋に着いた。 「そういえば、この部屋に鍵はかかっておるのだろうか?」 「はぁはぁ…………へ? えっとなんて?」 「いや、この部屋は施錠されいるのだろうかと」 ああそれでしたら、とメイド服のちょうど帯のような部分をまさぐりだすシエスタ。 「ん~っと……あ、あったこれです」 太公望は少しあきれた様子でそれを見ていた。 「それは……だれでもそうなのかの?」 「え? どういうことですか?」 「いや、どの奉公人もそのように担当している貴族の部屋の鍵を持っているのかの?」 「あ、いえいえ! 自慢じゃないですが貴族様の鍵を持たせていただけるのは奉公人のなかでも私くらいですよ!」 ちょっとだけ胸を張るような体制で言ったシエスタの顔はなんだか誇らしげだった。 「ミス・ヴァリエールはよく夜食を頼まれるのですが、私の手があく時間でミス・ヴァリエールが指定する時間に届けようとすると、どうしてもミス・ヴァリエールがお風呂に出かける時間になってしまうんです」 「なるほど、それで鍵をのぅ」 「はい! 私のことをそれだけ信用してくださるのです。奉公人冥利に尽きますよ」 いいながらガチャガチャっとシエスタは鍵を開けた。 部屋に入った太公望はすぐにルイズをベットに寝かせようとしたが、シエスタがそれを止めた。 どうやらベットメイクがしたかったらしく、軽くシーツを整えると、太公望に場所を譲った。 「いよっと、これでまあよしだろう」 ルイズをベットにおろした太公望が呟いた。 「では、わたしはこれで失礼しますね」 「あ、ちょっとついでにもひとつ頼まれてくれんかの?」 行こうとするシエスタを太公望が引きとめる。 「え? なんですか?」 「いや、これから少し出たいのだが、このままでわしが出て行ってはルイズが目を覚ました時誰もおらぬであろ? そこでちょっとお主に代筆を頼みたいのだが……字は書けるかの?」 「ああ、それならいいですよ。紙とペンはありますか?」 あたりをキョロキョロと見わたし紙とペンを探す太公望。そんな様子を見て微笑みながらシエスタが別の案を出した。 「なんでしたら私がミス・ヴァリエールをみておきますよ。どうせ戻ってやることも特になかったですし」 「うーむ、まぁそう言うのならお言葉に甘えるとしようかの。ではルイズが目を覚ましたら、日が落ちる頃には戻る。とだけ伝えておいてくれ」 それだけ伝えると、窓辺に歩き、窓を開く太公望。 しかし、その足が窓枠にかかったところで急に太公望が振り返った。 その振り返り方が、なんというかそりゃもう"ぐりんっ"と、人外な動きだったのでだったので、シエスタの口は小さな悲鳴を漏らしてしまった。あと、シエスタにはそのときの太公望の顔がえらく簡略化されて見えていた。 「あ、ここから一番近い町はどの方向にあるかの?」 「あ、ああはい。ここからですと……東の方向にトリスタニアがありますね」 すまぬ、と礼を告げると、太公望は今度こそ飛び去った。 だんだんと小さくなるその背中を眺めながらシエスタは思う、やっぱりタイコーボーさんはメイジなのかな? 杖持ってたし、飛んでるし……だとしたら没落貴族? でも、使い魔のこと全く知らないって言ってたし……というかあの動きができるのは人なのかしら? そんなふうにルイズが起きるまでまったく不明瞭な太公望の身の上について一人思考を巡らせるシエスタであった。 部屋を出た太公望は、まず学院の真上、ハルケギニアの単位で約3000リーグ上空へ飛んだ。 「んーっと、沈む太陽が向こうにあるのだから、東はだいたいこっち……お、あったあった」 そのまま町の影が見えた方に太公望は行く。 だんだんと町の姿が目に大きく映る。 「あれは城か? ふむ、とするとトリスタニアとは城下町なのかの」 そのまま地面に降り町の入り口から入っていった。 「ここの道は歩きにくいのぅ」それが太公望のトリスタニアに対する感想であった。 入り口からまっすぐ城の方へと延びる道であるから、おそらく主要な道なのであろうが、その道幅は5メートルに満たない。 その道幅に対して歩く人が、妙に多いもんだから4、5歩も歩けばすぐ人と肩をぶつけることになる。 とくに行くあてがあるわけでもなかったので適当に歩き、人の流れに流され流され押し出され、一軒の店の前に出たので、そのまま入っていった。 「おや、これはこれは、貴族……様?」 気の良さそうな店主が太公望に話しかけてくる。どうやらこの店は服屋のようだが、この国のお金なんて持っていないし、何よりこの町に来た目的は別のところにあった。 「わしは貴族ではないよ。ついでに言うと何か買いに来たわけじゃないしのぅ」 その言葉で、店主の態度が、がらりと変わった。 「ひやかしならお断りだよ、帰った帰った。金を落とさない客なんて客じゃねぇやな」 「いやいや、ちょっと尋ねたいことがあっての、それくらいはかまわんだろう」 「……はぁ、とっとと終わらしてくれよ」 太公望は店主に礼を言い、じゃあと商品の一つを指さし言葉をつづけた。 「あの服はいくらかの?」 「了承得てからひやかしかい? あんた、たち悪いなぁ…………まぁいいや、えっとあれはな――」 そのあと太公望は、店主に貴族向けの服や平民の服の値段を一通り尋ねていった。 太公望がわざわざ町に出向いた目的は、ここの物価や土地柄などを知ることであった。 召喚された時点でコルベールに聞いておくことも考えたが、あのとき知りたいことは、自分が"いつのどこに"来たかであり、こういった類の情報は二の次であった。 まあ結局、コルベールが言うことの全ては太公望の脳内にある記憶たちのどれとも合致しなかったのだが。 それに情報の価値は、鮮度が良ければ良いほど上がるものだ。あそこでコルベールに聞くよりも現地で聞き込みをした方が、手に入れれるものはやはり大きい。 さて、予定では太公望は、このあと何件か店をわたり同じように聞き込みをするつもりであった。 しかし、ここの店主が口こそ悪いもののじつに気さくな人物で、聞くこと聞くことなんでも答えてくれたので、物価や土地柄に関して太公望が知りたいことほとんどすべてを店主が教えてくれた。 「いやぁ聞きたかったことはもう出しつくしたわ、時間とらせてすまんかったのう」 「まったくだ……っていうかホントに何も買わねぇし、迷惑な客だよ」 「そうは言ってもわしは文無しだからのぅ。まぁしかし恩は返さなければならんのう……」 店主は、顎に手を当てながら考え込む風にする太公望に取り繕うように言った 「あ、いや、別にかまいやしねぇよ。俺んとこも見ての通り暇だったしよ」 「うぬ……確かにわしが来てからしばらく経っておろうに、まったく人が来る気配がないの」 太公望がここを訪れてから、おおよそ40分。言葉の通り一人として店を訪れる客はいなかった。 「はぁ……商品に手抜きしてるわけでもないんだがなぁ……できるだけ素材も職人も選んでるつもりだしよ、この俺だって他の服屋の奴らに仕立ての技術で負けてるとは思わねぇんだ、ただ……立地条件が明らかに悪いんだよ」 確かにこの店が建っている場所は、日の当たり様なところではなかった。 だんだんと暗い表情になりながら店主は言葉を続ける。 「まったく……町の奴らはやっすいちゃっちい服売ってる店に流れるし、かといって貴族の偉いさんがたは "見栄張りたい"つってブランドもんのべらぼうに高い服ばっか売ってる店行きやがるし……高けりゃ良いってもんじゃねえんだよ!」 言いたいことを言いきったらしい店主はカウンターに突っ伏しうなだれる。そんな店主に太公望は聞いた。 「……では、服の良さが分かるような者が来てくれればよいのだな?」 「ん? まぁほんとにそんな奴が来てくれればリピーターにする自身はあるさ」 んー、と太公望はしばらく考えたあと、ポンと手をたたき、こう言った。 「よし、ここの店がこれから儲かるのか、このわしがひとつ占って進ぜよう」 「は?」 その言葉に呆然とする店主。そんな店主をしり目に太公望はいつのまにか桃を取り出していた。 「……えっと、それは? なんだ?」 「ん? 桃だが」 「いや、それは分かる。いったいなにを始めるつもりなんだ?」 「そんなもの桃占いしかなかろう」 ため息をついて、もう勝手にしてくれ、と手をひらひらさせる店主。 「ではではでは……」 一拍置いて何かわからない、少なくともハルケギニアの公用語には聞こえないような奇声を発し始め、その勢いで手に持っていた桃を宙に放る。 投げられた桃は、ハルケギニアにおいても適応されるらしい万有引力に引きずられ落ち行くが、ある高さでちいさなつむじ風に巻き込まれ静止した。 太公望の手を見ると、これまたいつのまにか棒、打神鞭が握られている。どうやらそれを使って桃を浮かす風を起こしているようであった。 「あ、あんた……メイジだったのかい? っていうか何叫んでんだ」 店主の言葉に耳を貸すことなく、順調に、順調に順調に、太公望は狂っていった―― 「キエエェェエェエエェイ!!!」イタコに死霊が舞い降りたときのごとき狂声を発した瞬間、宙に浮く桃が真っ二つになった。 「むっ! これは!」 桃の断面を眺め、太公望は何かを悟ったらしい。 「この店を出て右にまがり、2つ目の左に曲がる角のあたりに迷子がいるはすだから、その子の親を探してやれ。そしたら親があんたの店の商品買ってくれるはずだからのぅ」 言い終わると太公望は、割れた桃の一方をカウンターに置き、もう片方を自分の口に放り込んだ。 わけのわからないことを言い残して帰ろうとする目の前の男を呆然とした面持ちで見る店主。 そんな店主を気に留めるとこもなくモリモリと桃を咀嚼しながら太公望は出口へと歩いて行く。そして、戸に手をかけたときもう一度口を開いた。 「あ、わしが出て行ったらすぐ行くようにのー」 残された店主は少し混乱していたが、パタンという戸が閉まる音で正気に戻り半信半疑ながらも太公望の言葉に従うことにした。 「えーっと2つ目の角、つったらここだよな?」 そっと曲がり角の先をのぞき見る店主。ゴミ箱、ゴミ袋、そして単なるゴミ。そんな異臭漂う裏路地と表通りの境目あたりに小さな男の子がほほを涙で濡らしながらチョコンと座っていた。 そこはほんとに盲点とも呼べるような場所で普通に生活していれば通ることもないだろうし、見むきもしない場所であった。 「え、えっとおぼっちゃんどうしたんだ?」 太公望の言葉通りの展開に、店主は驚き少し声が上ずりながらも、なんとか男の子に話しかけた。 「ふぇ……え、えっとおとっさん……はぐれっちゃって」 男の子の言葉に、思わず店主の口から言の葉が漏れ出る。 「……マジかよ」 前ページ次ページゼロの最初の人
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/17.html
>>back >>next 食堂でナニが起きたのか。 まずはそこから説明しよう。 事態は食後の談笑(バカ話とも言う)中にギーシュがポケットから香水の小瓶を落とした事に端を発する。 それを、運の悪い事にデザートの給仕を行っていたシエスタが見てしまったのが2番目のステップ。 シエスタは学院に通う貴族の子弟に奉仕するために働いているわけだから、 当然拾い上げてギーシュへ渡そうとする。それが3番目。 さて、シエスタがやったのは以下の通り。 『貴族が落としたものを使用人が拾った』 以上それだけである。本来何の問題もないこの行動だが、その香水そのものが問題をつれてきた。 ギーシュと会話をしていた中にいたのだ、それが【香水】のモンモランシーが 「自分のために」調合したものであると気づくヤツが。 『女性が、自分が身につけている香りを男に渡し、男がそれを持ち歩いている』 こりゃぁもう完璧だ、ギーシュが付き合っているのはモンモランシーに違いない、 とみんなが思ってもそりゃしょうがない。ぶっちゃけ事実だし。 で、ここで騒ぎが起きる。カズマが聞いたのはまずこれ。 ちなみに、この時点まではまぁ今後ギーシュが標榜する 「薔薇は多くの人を楽しませるために咲く」とかいう行動に差障りが出る以外の問題はないわけで まだよかった。コトが大きくなったのは不幸にも現在進行形で その薔薇とやらに魅せられた者がいたことによる。 一つ下の学年のその少女はせめてもギーシュのそばに居たかったのかギーシュのすぐ後ろの席にいた。 そのせいで今の一部始終が聞こえてしまったのである。 その少女、ケティはギーシュの元に歩いて来たと思うとポロポロと泣き始めてしまった。 「ギーシュ様、やはり、ミス・モンモランシーと…」 「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」 懸命になだめようとするギーシュであるが、ケティには通じなかった。 「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」 ギーシュを思い切りひっぱたいてそう言うと泣きながら早足で立ち去っていった。 このとき響き渡った平手打ちがカズマが聞いたその2。 同じ学年のモンモランシーにも当然今の騒ぎは伝わり、当たり前だが二股がばれる。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで…」 いやいや、本当に遠乗りに付き合っただけで他意はないのだとしたら、 ケティに「君だけ」とか言わなきゃいいんだが、それができないのがギーシュという男である。 「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」 モンモランシーは金髪ロールを揺らしてお怒りである。 「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでおくれよ。 僕まで悲しくなるじゃないか!」 芝居がかった大きな身振り手振りで言うが、すっかり聞く耳持たずなモンモランシーは テーブルに置かれたワインの瓶をつかむとギーシュの頭にぶちまけ、そして 「うそつき!」 と怒鳴って、食堂から出て行ってしまう。 さて、ギーシュは基本的に女性に優しい。が、あくまで『基本的には』であり、 時と場合によってそれが適用される範囲が変わる。 機嫌が良い時には酒場のお姉ちゃんに声をかけもするが、 都合が悪い時には自分の責任を棚に上げて女性を非難する場合もある。 そう、今回のように。 「そこの君、待ちたまえ。君のせいで二人のレディの名誉に傷がついた。どうしてくれるのかな?」 犠牲というか生贄になったのは香水の瓶を拾ったシエスタだ。 くどいようだが彼女は自分の仕事をしただけである。当然最初自分のこととは思わなかった。だから再度 「そこのメイド、君だよ」 と言われるまで気づかず、そして気づいたときにはそりゃもうびびった。 軽くパニックを起こして、手に持っていたデザート盆をひっくり返すほどに。 (ちなみに、これがカズマが聞いた三つ目) 自分が何を責められているのかわからず、とにかく貴族にとがめられているというだけで ひたすら謝りたおすシエスタと、その態度に溜飲を下げるギーシュ。 その頃になると、周囲の連中も『この平民にどんな罰を与えるのか』に興味がシフトする。 とはいえ、実のところギーシュとしては話題がそらせられればよかったのだ。 そこまで相手を追い込むつもりはなかったのに、 しかし入った横槍のために引っ込みがつかなくなってしまった。 「なによみっともない、二股かけてるアンタが悪いんでしょ」 別にルイズはシエスタをかばおうとしたわけではない。 カズマのことで頭を悩ませていたところに騒がれたのが疎ましかっただけなのだが 今回はタイミングが悪かった。 「なんだねルイズ、このメイドをかばうのかい? 僕は平民に貴族に対する作法を教えていただけだが」 「どこがよ。アンタがさらした恥をその子にすり替えてるだけじゃない」 ギーシュはギーシュで、ルイズの発言で周りが『そうだ二股じゃん』とか騒ぎはじめたので ここで引き下がるわけにはいかなくなる。 「だがね、彼女がもう少し気を利かせてくれればあの二人にこんな不幸が訪れることはなかったのだよ」 「『こんな不幸』ですって? アンタみたいなのに引っかかってる方がよっぽど不幸だわよ」 ルイズの家庭は厳格な『古いタイプ』の貴族である。最初はただうるさいと思っていただけだが、 こうなってくるとギーシュの態度そのものが気に入らなくなってくる。 「あぁ、君も僕という薔薇の価値がわからない不幸な女性なのだね」 「薔薇? あんたなんか水仙で十分よ」 水仙、すなわちナルシスト。これにはギャラリー全体がドッと沸く。 「フン、所詮ゼロでは僕の魅力はわからないようだね」 「今はそんなこと関係ないでしょ」 「良いのだよ? 僕は君が自身とそのメイドの名誉をかけて僕と決闘したいというのなら」 「貴族同士の決闘は禁止されているわ」 「君は“ゼロ”じゃないか。君が『魔法で』決闘できるとは思えないがね」 悔しい! 一瞬その思いにとらわれてルイズの言葉が止まる。その間に会話に割り込んだ者がいた。 「テメー、激しくムカツクぜ」 「「カズマ(さん)!」」 ルイズとシエスタの声がハモった。 自分の胸ぐらをつかんでいる『ルイズの平民の使い魔』を呆れた風に見ながら、 「やれやれ、自分の使い魔のしつけも満足にできないのか? ゼロのルイズ」 と平然と言い放つギーシュ。 「ルイズもシエスタも関係ねぇ。オレはテメーのその女子供をいたぶる態度が気にいらねぇ」 「ふむ、彼女はシエスタというのか。ならば君が受けるかね? 僕との決闘を」 それを聞いてルイズが悲鳴を上げる。 「カズマ、ダメ!」 「いいぜ、受けてやるよ。遠慮無くボコらせてもらう」 「やめて、カズマ。お願いだからギーシュも」 「よろしい、ならばヴェストリの広場で待っている。負けるのが怖くなければ来ればいい」 結局、二人ともルイズの言葉など聞かず、まずギーシュが去っていく。 「このバカ、何勝手な事してるのよ。今からでも頭下げてきなさい」 「断る。オレはアイツにむかついた、だからボコる。ただそれだけだ」 「アンタはメイジの恐ろしさを知らないからそんなことが言えるのよ」 それまでギーシュが去った方を見ていたカズマがルイズの方を向く。 「ルイズ、今お前が考えてるそれは『弱い考え』だ」 「違うわ、ただの事実よ」 「弱い考えに反逆しろ。そうすれば強くなれる。オレが兄貴と慕う男に教わったことだ」 そう言うとカズマはギーシュを追いかけるように立ち去っていく。 「何よそれ、ワケわかんないわよ。もうどうなっても知らないんだからー!」 残されたルイズの声がむなしく響いた。 >>back >>next
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1090.html
ルイズはベッドの中で、今日の授業を思い返していた。 小石を材料に練金するというもので、一般のメイジならほぼ100%成功する程の簡単なものだ。 しかしルイズにはそれすら難しい。 いつものように魔法を使い、いつものように失敗し、いつものように爆発した。 爆発の後に聞こえた、ミセス・シュヴルーズの悲鳴が耳に残っている。 ルイズははじめ『爆発に驚いて悲鳴を上げたのだろう』と考えたが、机の下から顔をのぞかせた生徒達まで悲鳴を上げ始めたのを見て、おかしいなと思った。 ふと自分の杖を見てみると、杖を持った右手が酷く焼けただれているのが見えた。 その手で自分の顔を触ると、ぺちゃりと水の感触がした、顔も同じような惨状なのだろう。 しかしルイズは慌てない、今の自分なら、この程度の火傷はすぐにでも再生できる… と思ったが、人前で皮膚を再生させたら吸血鬼だとバレてしまう。 このまま何食わぬ顔で立っていたら怪しまれる、そう考えて、ルイズは気絶するフリを選んだ。 気絶した(フリ)のルイズを真っ先に抱き起こしたのはキュルケだった。 キュルケに続いてタバサが火傷を冷やし、モンモランシーが治癒の魔法をかけてくれた。 レビテーションで私を浮かせ、部屋まで連れて行ってくれたのはギーシュ。 どこからともなく包帯や薬草を持って駆けつけてくれたのは、マリコルヌ。 そして他の生徒達も、交代で治癒の魔法をかけてくれた。 不思議なきもちだった。 『ゼロのルイズ』と言って、ルイズをからかう連中ほど、怪我をしたルイズを心配して治癒の魔法までかけてくれたのだ。 ルイズは『気絶したフリも悪くないな』と思った。 ただ、教室の後ろから「自業自得だぜ」とか「散々爆発に巻き込んでくれたんだ、いい気味だよ」という声も聞こえてきのだが、そいつらには後でお仕置きをしてやろうと心に決めた。 それにしても…と、ルイズはベッドから降りて窓に近づき、月を見上げた。 吸血鬼になってしまったというのに、何の焦りも感じない、むしろ『私は吸血鬼になるのが運命だったのだ』と思わせるほど、ごく自然にこの現実を受け入れていた。 それに、吸血鬼は太陽の光に弱いと言われるが、太陽の光を浴びても、特に何も感じなかった。 太陽の光を浴びても平気な吸血鬼など聞いたこともないが、実に幸運だ。 今日の授業で起こったアクシデントも、考えてみれば幸運かもしれない。 今までは、自分の起こした爆発で自分が怪我することなど無かったが、今回は一時的にとはいえ酷い火傷を負ってしまった。 魔法が失敗して爆発するなど、古今東西の話で聞いたことはない…ということは、自分の弱点を自分だけが持っていると分かったのだ。 なんて都合の良いことだろうと、ルイズは笑みを浮かべた、 気分を良くしたルイズは、大きめのローブを身に纏うと、地面に耳を当てて物音を聞いた。 足音は皆無だが、サイレントの魔法を使われている可能性があるので、皆が寝静まったからと言って油断は出来ない。 再生した顔を見られたら、いくら何でも怪しまれるだろう。 ルイズは髪の毛をセンサーのように働かせて、空気の流れを読みつつ、廊下を歩いていった。 さて、なにを食べようか。 寮塔を出たルイズは花壇の側で空を見上げた、くんくんと鼻をふくつかせ臭いを捕らえる…すると、使用人達の宿舎から、新鮮な排泄物の臭いを感じた。 普通の人間には分からない程微量な臭いだが、吸血鬼の五感なら十分に感じることが出来る。 その臭いが若い女性の臭いだと気づき、ルイズは口を半開きにして、臭いのする方へと歩いていった。 「こんばんは」 「!?」 トイレから出てきた使用人の少女は、突然声をかけられただけでなく、その声の主が包帯まみれなのを見て驚いた。 よく見るとピンク色の髪の毛にマントを羽織っている、声の主がメイジだと気付き、飛び上がるほど驚いた。 それこそお漏らししかねない勢いだったが、残量がゼロだったのが幸いした。 「ねえ…ちょっと、包帯を分けて貰えないかしら」 顔をフードと包帯で隠したルイズ、ハッキリ言ってかなり怪しい。 「ほ、包帯、ですか?」 少女が震えた声で聞く。 「ええ、ちょっと顔を火傷しちゃって…」 そこで少女は、今日貴族の一人が魔法を失敗して、顔に大やけどを負ったという話を思い出した。 「わ、わかりました、すぐお持ちします」 そう言って、使用人の少女は廊下の奥へと歩いていった。 ルイズはその後を追いながら、使用人の少女が右足を引きずっているのに気づいたが、なにも言わなかった。 使用人の部屋はルイズの部屋と同じぐらいの広さだったが、ベッドは五個並んでいる。 共同部屋らしいいが、荷物は一人分しか置かれていない。 おそらくこの少女は数にあぶれて、この部屋に一人で寝泊まりしているのだろう。 「こちらの包帯でお気に召すでしょうか」 「ちゃんと洗ってあるんでしょう?綺麗なら文句は言わないわ」 少女は包帯を巻くのを手伝おうとしたが、ルイズは困ってしまった。 なにせ怪我はもう治っているのだ、怪我を装うために包帯を借りるのだから、顔を見られるのは困る。 「一人で出来るからいいわ」 と言って、フードを被ったまま、器用に包帯を巻きつけた。 「そういえば、名前を言ってなかったわね、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、貴方に何かお礼をしたいわ」 ルイズがフルネームを名乗ったので、その少女は驚いて跪いた。 「平民などに名乗り頂けるなど、も、勿体ないです、あの、私は、この学院で厨房付きのメイドをしている、シエスタと申します」 「そう、シエスタって言うの…ねえ、あなたの右足、怪我しているの?」 「お見苦しいものを見せてしまって申し訳ありません、これは、子供の頃木に登って遊んでいたのですが、ある日脚を滑らせて足の指を折ってしまったのです、水のメイジ様に治療を依頼するお金もありませんでしたので…歪んだまま固まってしまいました」 「そう」 ルイズはシエスタの身体をひょいと持ち上げると、ベッドの上に乗せた。 そして、シエスタの右足を、何かを確かめるように撫でた。 突然のことに驚いたシエスタは、『犯される!』とでも思ったのか、思わず目を固く閉じた。 「もう大丈夫よ、ほら」 ルイズがシエスタの右足から手を離し、今度はシエスタの手を取って、立ち上がるように促す 訳の分からないまま直立するシエスタは、足の感覚がおかしくなっていると気づいた。 …と言うよりは、おかしかった足が、元に戻っていたと言うべきだろう。 「え?えっ?あれ?足が…足が!」 「しーっ、静かに、他の人が起きちゃうわ」 「あっ、ごめんなさい…あの、私、どんなお礼をしたらいいか…」 ルイズに注意され、シエスタは声のトーンを落とすが、興奮は冷めない。 「お礼なんていいわ、あなたの足は骨がちょっとズレていただけ、だから簡単に治せたの」 もちろんルイズの言葉は嘘だ。 血を吸うのと同じ感覚で指を突っ込み、歪んでいた骨の形を矯正した。 実験のつもりだったが、正直、ここまで綺麗に治るとは思っていなかった。 (それに血を少し貰ったしね…) 「?」 「何でもないわ、他の人には転んだら治ったとでも言っておきなさい」 「はい、あ、廊下はお暗いでしょうから、このランプをお使い下さい」 「いらないわよ、だって私、意外と夜目が利くのよ?」 そう言って笑うルイズの瞳が、一瞬、金色に輝いた気がした。 To Be Continued → 2< 目次
https://w.atwiki.jp/moejinro-log/pages/91.html
BBL は言った さわやかな朝がやってきました 村の川辺に無残に引きちぎられたROWLEYSさんの死体が見つかったようです… BBL は言った /chjoin ベンチ裏 BBL は言った 村人の皆様、今日もがんばってください ROWLEYS は言った ♪すすめ すすめ ものども ♪じゃまな てきを けちらせ ♪めざせ てきの しろへ~ ♪オ ゴ レ ス たおすのだ BBL は言った 昼の部スタートです 1 (BBL村) エルレイナ 霊媒CO!オペこくん白!わたし視点では狂人 1 (BBL村) Mrチキン 【占いCO】Jarekyさん●です、ごめんなさい、勘なんです 1 (BBL村) すねすき おお 2 (バッテリー) Jareky 【共有CO】トラップできるかのギリギリまで粘ってみた。すねすきさん噛まれるのに備えて朝一CO準備、 二回連続共有だったのですねさんに出てもらいました。 1 (BBL村) jinjahime そこで黒打ちね 3 (ベンチ裏) オペこ まぁ 1 (BBL村) Jareky 【共有CO】トラップできるかのギリギリまで粘ってみた。すねすきさん噛まれるのに備えて朝一CO準備、 二回連続共有だったのですねさんに出てもらいました。 1 (BBL村) すねすき Jarekyさんは共有です 3 (ベンチ裏) せんこ さー共有トラップは・・・!? 1 (BBL村) エルレイナ 黒でた! 3 (ベンチ裏) せんこ きたー!w 3 (ベンチ裏) シキワロス あ・・・ww 3 (ベンチ裏) オペこ ジンジャさん残ってるし大丈夫か 3 (ベンチ裏) ミクかわいい ぉーヒット 1 (BBL村) Jareky きたーーーーーーーーーーーーーーー 1 (BBL村) jinjahime うっほwwwww 3 (ベンチ裏) オペこ HAHAHA 1 (BBL村) エルレイナ とりあえず昨日の投票わたしはオペこくんいれたよ 3 (ベンチ裏) クバリャーナ おー、綺麗にw 1 (BBL村) KT なん・・・だと・・・ 3 (ベンチ裏) シキワロス 共有の大勝利 3 (ベンチ裏) シエスタXX トラップきた 1 (BBL村) すねすき トラップきたよーヽ(・ω・)ノ 1 (BBL村) Mrチキン そっちかぁ・・・・ミスった 3 (ベンチ裏) オペこ ひれ伏せよ!!! 1 (BBL村) MB あぁ じゃあ私も灰ですね 3 (ベンチ裏) ミクかわいい エルさんひあぶりじゃーああああ! 3 (ベンチ裏) せんこ うっは 3 (ベンチ裏) オペこ 共有最高 愛してる んーチュッチュ 3 (ベンチ裏) クバリャーナ だが断る!w 3 (ベンチ裏) デジュー ヒットしたけどオペこさんはすでに霊界 1 (BBL村) jinjahime トラップかー 3 (ベンチ裏) シエスタXX エルさん死んだ 1 (BBL村) Jareky とりあえずエルさんが狼ですね 3 (ベンチ裏) せんこ いやー 3 (ベンチ裏) オペこ 村が勝てばいいのさ 1 (BBL村) エルレイナ ジャレさん共有! 3 (ベンチ裏) ミクかわいい エル散飼いましょう 1 (BBL村) Mrチキン 夜中中悩み続けました・・・ 3 (ベンチ裏) せんこ 共有GJだなー 3 (ベンチ裏) BBL チキンさん銃殺対応と化してたのに惜しかったね 1 (BBL村) jinjahime じゃ、エル→チキンで吊り 3 (ベンチ裏) シキワロス ジャレさん2連続共有だったのか・・・ 1 (BBL村) エルレイナ いあ。わたし真霊媒 1 (BBL村) エルレイナ まってまって 1 (BBL村) jinjahime 終わらなければグレーから 1 (BBL村) KT エルさんとチキンさん黒?エルチキ? 3 (ベンチ裏) デジュー これはFOしなかった共有の勝ちだな 1 (BBL村) すねすき まず吊りはエルレイナさんですかねー 1 (BBL村) エルレイナ なんでわたし吊り? 3 (ベンチ裏) せんこ やばいえるりんかわいいwwwwww 3 (ベンチ裏) ソラモニー えるちきー 3 (ベンチ裏) クバリャーナ 粘りがちかぁ 1 (BBL村) エルレイナ わたし真霊だよ 1 (BBL村) MB 真占いの●だからですね 1 (BBL村) Jareky チキンさんが偽者です 3 (ベンチ裏) シエスタXX エルさんかわいそうになるなw 1 (BBL村) jinjahime チキン偽=おぺこ真で 3 (ベンチ裏) シエスタXX これはw 1 (BBL村) エルレイナ いやいや 1 (BBL村) エルレイナ あれだよ 3 (ベンチ裏) オペこ 共有FO賛成しないでよかった 今回の共有大好き 3 (ベンチ裏) デジュー 言い訳が明らかに偽っぽいwww 1 (BBL村) エルレイナ デジュー君が潜伏占いだったんだよ 3 (ベンチ裏) クバリャーナ しかし、おぺこさん占いでもがんがん突き進むのねぇ 1 (BBL村) Jareky そうするとオペこさんが真 3 (ベンチ裏) ミクかわいい エルさんきっといま超ハイテンション 1 (BBL村) Jareky そしてえるさんが● 1 (BBL村) MB 今7人ですかね 1 (BBL村) エルレイナ 今はやりの3日目COやろうとしたら 3 (ベンチ裏) リュファ jareさん初日からなんか潜めてそうだったんですけど・・・ 3 (ベンチ裏) デジュー 占いCO!! 3 (ベンチ裏) せんこ 本人の望む偽確状態wwwwww 3 (ベンチ裏) ミクかわいい 必死にログ流そうとしてる 1 (BBL村) エルレイナ かまれちゃったんじゃないかな 3 (ベンチ裏) ROWLEYS お疲れ様ですー 3 (ベンチ裏) デジュー ってアホかww 1 (BBL村) すねすき 霊媒は早々に死んでたのかねぇクマ 1 (BBL村) エルレイナ だって対抗でなかったんだよ? 3 (ベンチ裏) シエスタXX やばいゾクゾクするなw 1 (BBL村) jinjahime デジューさん? 3 (ベンチ裏) シキワロス 霊媒どこいった説www 3 (ベンチ裏) デジュー おつかれ~ 1 (BBL村) エルレイナ おかしいっしょ 3 (ベンチ裏) オペこ エルさんいますごい興奮してそう ハァハァしてそう 1 (BBL村) KT とりあえず二人とも吊りですね 3 (ベンチ裏) クバリャーナ おつかれさま~ 3 (ベンチ裏) オペこ お お疲れ様です! 1 (BBL村) エルレイナ みんなおちつくんだ! 3 (ベンチ裏) せんこ ぁんもう・・・えるりん・・・かわいい・・・・ 1 (BBL村) エルレイナ 冷静になろう霊性に 1 (BBL村) jinjahime まぁ、ローラーする予定だったし 1 (BBL村) エルレイナ 誤字ったw 3 (ベンチ裏) シキワロス おつかれさまです 3 (ベンチ裏) シエスタXX 萌える萌えるw 3 (ベンチ裏) オペこ もう冷静じゃないwwwwww 1 (BBL村) KT 霊媒は黙って吊られるのが(ry 1 (BBL村) エルレイナ わたしが一番冷静じゃなかった[ガーン] 3 (ベンチ裏) ROWLEYS いやぁ、ちと今回はいろいろやらかしましたorz 1 (BBL村) Jareky 霊媒候補:デジューさん、にせむらさきさんあたり? 1 (BBL村) エルレイナ 2COならロラもわかるんだよ 3 (ベンチ裏) せんこ いらしゃりーん 3 (ベンチ裏) シエスタXX おつ~ 3 (ベンチ裏) ROWLEYS |ω )おつかれさまですー 3 (ベンチ裏) せんこ 鼻血でそう 1 (BBL村) エルレイナ 1COで真霊確定してるのに吊りはひどい! 3 (ベンチ裏) ミクかわいい いらしゃんせ~ 3 (ベンチ裏) せんこ やっぱうちドSだわwwwww 3 (ベンチ裏) オペこ さてネタバレは禁止だが霊媒は誰だ 1 (BBL村) jinjahime 霊媒ってね、悲しいお仕事なのよ? 1 (BBL村) KT 真狼ー狂 ってことだったのかな 3 (ベンチ裏) ミクかわいい [ニコッ]ノハーイ 1 (BBL村) すねすき エルレイナ→チキン は確定として 3 (ベンチ裏) クバリャーナ いやもうデジューさんしかw 3 (ベンチ裏) シエスタXX ほぼ確定してんじゃない 3 (ベンチ裏) せんこ 霊はあれでしょ 1 (BBL村) エルレイナ いやいやw 1 (BBL村) MB このまま噛みが通るとしたら共有→共有となって私 KT Jinjahime の3人がのこるんですかね 1 (BBL村) KT ちがうか・・・●だから 1 (BBL村) エルレイナ 確定しちゃだめでしょ 3 (ベンチ裏) オペこ (^ω^)・・・・ 1 (BBL村) すねすき それで終わらなかったらどうしようかねクマ 1 (BBL村) jinjahime あとはグレー考察か 3 (ベンチ裏) せんこ 霊媒の伝道師でしょう 1 (BBL村) エルレイナ わたしつったらPPされるよ 3 (ベンチ裏) シエスタXX ファッションセンスがアレな人です 3 (ベンチ裏) BBL ネタヴェレ前に約確定が多すぎるなあ 3 (ベンチ裏) デジュー えっ? 1 (BBL村) エルレイナ 残り7だよね? 3 (ベンチ裏) オペこ エルレイナさんもがきすぎwwwwww 1 (BBL村) jinjahime 寡黙潜伏ならKTさんって感じだけど 3 (ベンチ裏) シキワロス PPされるよってww 3 (ベンチ裏) クバリャーナ と思わせておいて、ココで霊媒の伝道師、私が霊媒です(迫真 1 (BBL村) Jareky シエスタさんどうだったのかな?無抵抗すぎた 3 (ベンチ裏) せんこ COなしのときがちょっとひっかかったんだよねぇ 3 (ベンチ裏) オペこ この前もすごかったらしいけど今回もすごい 1 (BBL村) jinjahime あからさまか 3 (ベンチ裏) ソラモニー でっじゅー霊媒ー 1 (BBL村) エルレイナ シエスタさん狼だって 1 (BBL村) MB やっぱりJinjaさんの色が分からない 一般論が多すぎる 1 (BBL村) Jareky デジューさんが真占いだったらあきらめる 1 (BBL村) KT 私寡黙じゃないんだが・・・まぁ中身無い発言ばかりとみれたのかな 1 (BBL村) エルレイナ わたし吊りはほんとやめたほうがいい BBL は言った 5分経過 3 (ベンチ裏) せんこ まぁ無理にあがいて狼に透けるよりかは黙って吊られたほうがいいかー 1 (BBL村) jinjahime 印象だけどね 1 (BBL村) エルレイナ チキンさんがわたし占って白だしたら残して! 1 (BBL村) すねすき 自分jinjaさんは村っぽいかなと思うクマ 1 (BBL村) Jareky エルレイナさんノイズです。あとの話にしましょう 1 (BBL村) KT わたしより神社さんのが寡黙というか色見えない 1 (BBL村) jinjahime MBさんほど目だってない感じ 1 (BBL村) エルレイナ ひどいwwww 3 (ベンチ裏) デジュー 狼1は吊ってるのかな。PPないし 3 (ベンチ裏) シエスタXX www 1 (BBL村) エルレイナ みんな騙されるな! 1 (BBL村) エルレイナ これは陰謀! 1 (BBL村) KT エロレイナさんはおいといて 1 (BBL村) Jareky 自分はjinjaさん、MBさん村視です 3 (ベンチ裏) クバリャーナ エルさんかわいいなぁw 3 (ベンチ裏) こるくびん いやでもこの土俵際の粘りは見習うべきかもww 3 (ベンチ裏) ミクかわいい エルさん錯乱してる 1 (BBL村) jinjahime 今日は私おとなしいと思うけどね 1 (BBL村) エルレイナ ってかあれだけ2日目に潜伏やめてっていってるのに 1 (BBL村) エルレイナ なんで真占い潜伏してるの… 3 (ベンチ裏) シエスタXX これさー 1 (BBL村) Jareky 先週の自分の姿を見るようだ>エルレイナさん 3 (ベンチ裏) クバリャーナ そして出る、嗚咽に近い本音w BBL は言った あと1分 1 (BBL村) エルレイナ いや…みんなまってorz 3 (ベンチ裏) シエスタXX 万が一デジューさん占いだったら 3 (ベンチ裏) シキワロス ww 1 (BBL村) すねすき ムラサキさんだったら潜伏しそうな気配がしていたような 1 (BBL村) エルレイナ わたしは村人だ! 1 (BBL村) Jareky ですね 3 (ベンチ裏) シエスタXX みんなエロさんみたいになるかもねw 1 (BBL村) KT 吊余裕ってもうないよね あったら私吊ってくれればグレー減らせるけど 1 (BBL村) エルレイナ もうこの段階でわたしつったら詰むよ… 3 (ベンチ裏) リュファ ・・・潜伏? 3 (ベンチ裏) デジュー いや、占いとかないからww 1 (BBL村) Jareky 今日はエルさんでしかないとおもう BBL は言った 20秒前 1 (BBL村) jinjahime 役職両方偽だから 1 (BBL村) エルレイナ 霊わたししかいなかったんだよ? 1 (BBL村) MB KTさんは昨日灰が減るからっていって共有COを要求していたのが村目かなと思ってます 偽に地雷踏ませたくない狼なら言いづらい気もしますし… まだ決め打てるレベルではないですが 3 (ベンチ裏) デジュー え、視線が痛いんだけど・・・? BBL は言った ---------STOP--------- BBL は言った ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- 1 (BBL村) エルレイナ オペこさんが村騙りもあるんじゃね? 3 (ベンチ裏) リュファ ・・・残り狼わからない・・・ですよね? 3 (ベンチ裏) ソラモニー ・ω・ BBL は言った 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) BBL は言った 投票は私に直接Tellでお願いします 1 (BBL村) BBL -------------------- 1 (BBL村) BBL 7日目終了 1 (BBL村) BBL -------------------- 3 (ベンチ裏) シキワロス 村騙りwww 3 (ベンチ裏) オペこ だめだエルレイナさん面白すぎる 死ぬ MB は BBL に言った エルレイナさんに投票します 2 (狼打線) jinjahime エルレイナ 2 (狼打線) エルレイナ トラップこわいから共有出したかったのにいいいい 3 (ベンチ裏) クバリャーナ やめたげてよぉ!w 3 (ベンチ裏) オペこ 夜中なのに夜中なのに 2 (狼打線) エルレイナ もう自分に投票したいわこれww KT は BBL に言った エロレイナさんもといエルレイナさんでお願いします。 3 (ベンチ裏) せんこ えるりんはうちのじゃ!← 2 (狼打線) シエスタXX (必死乙w 2 (狼打線) jinjahime 狂人のおばかあああああああ 3 (ベンチ裏) せんこ お持ち帰りするのおおおおおお 3 (ベンチ裏) こるくびん 壮絶な嗚咽だった すねすき は BBL に言った エルレイナさんに今度こそ投票! Jareky は BBL に言った エルレイナさんに投票 3 (ベンチ裏) ROWLEYS お持ち帰りっΣ(´∀`;) 3 (ベンチ裏) オペこ エルレイナさんなら今私の上空2mにいるよ 3 (ベンチ裏) ミクかわいい フワッ 2 (狼打線) jinjahime 黒引けない占い師で最後まで通ればよかったのに・・・ 3 (ベンチ裏) シキワロス 届きそうで届かない 2 (狼打線) jinjahime 一応、チキンさんにいれますか 2 (狼打線) エルレイナ うむ… 2 (狼打線) エルレイナ 了解w 3 (ベンチ裏) ROWLEYS せんじょうがはらさんですね、わかります jinjahime は BBL に言った 投票>チキン 3 (ベンチ裏) デジュー MVPエルレイナ異論は認める 3 (ベンチ裏) イクさん ミクかわさん私にお持ち帰りされませんか? 3 (ベンチ裏) オペこ でも 3 (ベンチ裏) シエスタXX まあもうすぐベンチ入りするだろ 3 (ベンチ裏) ミクかわいい (([ガーン])) 3 (ベンチ裏) オペこ どう見ても真っ黒なのにあがく姿勢は 3 (ベンチ裏) オペこ 格好いい 3 (ベンチ裏) せんこ あぁもう・・・えるりん・・・はぁはぁはぁ エルレイナ は BBL に言った 自分いれたいですorzでも鶏肉パンダに投票~ 3 (ベンチ裏) クバリャーナ やっぱりメモは大事だなぁ、推理のピントががっつりはずれるw Mrチキン は BBL に言った Jarekyさんで BBL は言った あと1分 3 (ベンチ裏) シエスタXX で、残り狼はどこか 3 (ベンチ裏) せんこ やばい相当暴走してきた BBL は言った 20秒前 投票結果 エルレイナ 4 Mrチキン 2 Jareky 1 3 (ベンチ裏) オペこ うん それですね エルレイナさんの影で全然見えませんが 3 (ベンチ裏) せんこ 落ち着けうち 3 (ベンチ裏) オペこ まだいるんでしょうかね 3 (ベンチ裏) シエスタXX 2~1になるんかな 2 (狼打線) jinjahime 噛みは、すねさまいくかー BBL は言った さよならエルレイナさん…あなたの勇姿は忘れない 3 (ベンチ裏) デジュー たぶん1かな 3 (ベンチ裏) ROWLEYS 次でLWってことでしょうね BBL は言った /chjoin ベンチ裏 BBL は言った 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です エルレイナ は言った わたしは無実よぉぉぉぉぉぉぉ[ウワーン] 3 (ベンチ裏) せんこ キター BBL は言った 役職の方は私にTellお願いします 2 (狼打線) BBL -------------------- 2 (狼打線) BBL 会話可能時間スタートです 3 (ベンチ裏) せんこ かわいいwwwwwwww 3 (ベンチ裏) シキワロス くる・・・ 3 (ベンチ裏) こるくびん 残念だが当然 3 (ベンチ裏) デジュー 英雄が・・・来る! 2 (狼打線) jinjahime グレーのこしで両方ヘイト私かよ・・・ 3 (ベンチ裏) デジュー なかなかこないの 3 (ベンチ裏) ミクかわいい いらしゃんせ~待機 3 (ベンチ裏) エルレイナ ぞんびいーn 3 (ベンチ裏) せんこ えるりん愛してるぅうううううおつかれさま! 3 (ベンチ裏) ミクかわいい いらしゃんせ~ 3 (ベンチ裏) リュファ いらっしゃい。霊界はエルさんの話題で大賑わいでした。 3 (ベンチ裏) オペこ ようこそWWWWWWベンチ裏へWWWWWWさぁWWWWWW 3 (ベンチ裏) シエスタXX エロさんハアハア 3 (ベンチ裏) イクさん できちゃったみたい・・・? 3 (ベンチ裏) デジュー いらっさー 3 (ベンチ裏) こるくびん ようこそwwwwwwwww 3 (ベンチ裏) クバリャーナ おつかれーーーー 3 (ベンチ裏) シキワロス いらっしゃい! jinjahime は BBL に言った 役職行動>すねすきさん捕食 クマーーーーprpr 3 (ベンチ裏) エルレイナ 真占いどこだよぉぉぉぉぉ 3 (ベンチ裏) ROWLEYS |ω )いらっしゃいましあ~ 3 (ベンチ裏) デジュー あがき乙 3 (ベンチ裏) せんこ えるりんまじかわいい 3 (ベンチ裏) イクさん ベンチ裏総出でお出迎えですね 3 (ベンチ裏) クバリャーナ すごい、かわいかったですwwww 3 (ベンチ裏) オペこ もがきが壮絶すぎてめちゃくちゃ笑いました 夜中なのに BBL は jinjahime に言った 噛み先了解しました 3 (ベンチ裏) エルレイナ いや 3 (ベンチ裏) ROWLEYS (*´Д`)ハァハァ 3 (ベンチ裏) エルレイナ わたし真霊だって 3 (ベンチ裏) シエスタXX もうね、ご飯3杯いけちゃう 3 (ベンチ裏) ソラモニー ・ω・ 2 (バッテリー) すねすき |ω・)ふぃー 3 (ベンチ裏) ミクかわいい ちょっと電波が悪くて聞こえませんね 3 (ベンチ裏) エルレイナ ちょw 3 (ベンチ裏) せんこ しかしえるりんはうちのだ← 3 (ベンチ裏) エルレイナ あれはひどいww 3 (ベンチ裏) シキワロス 本当に真霊だったら 3 (ベンチ裏) こるくびん 苦しむにゅたこはぁはぁ 3 (ベンチ裏) シキワロス おもしろいなー 3 (ベンチ裏) ソラモニー じゃあ占い二人偽物ー 3 (ベンチ裏) オペこ 「オペこさん村騙りあるんじゃね?」← 3 (ベンチ裏) エルレイナ 2日目にあれだけ潜伏やめてっていってるのに 3 (ベンチ裏) エルレイナ 最後のはネタだよ! 3 (ベンチ裏) オペこ めっちゃ笑いましたw 2 (バッテリー) すねすき MBさんに囲いの線もあるんじゃないかと思ったけど、チキンさんが狼かは分からないクマねー 3 (ベンチ裏) オペこ うーんそれにしても私の信用度はどうしてこうも低いのだろう 3 (ベンチ裏) エルレイナ 最近3日目に占いCOするのが多すぎなんだよorz 3 (ベンチ裏) シエスタXX え、アレだけ真実かと・・ 2 (バッテリー) Jareky エルレイナさんの粘りは見上げたものがありました(過去形 3 (ベンチ裏) オペこ ↑??????????????? 2 (バッテリー) すねすき とてもねばねばでした! 3 (ベンチ裏) オペこ 結構心っぽい子といっていると思うんだけどなぁ 3 (ベンチ裏) オペこ 真 3 (ベンチ裏) シエスタXX なんだちがうのか 3 (ベンチ裏) デジュー さて、残り狼はどこだろなー? 3 (ベンチ裏) オペこ せんこさん銃殺もあの文はさすがに用意できないとおもうんだけ・・・・あー 3 (ベンチ裏) オペこ マクロか 2 (バッテリー) Jareky ホントにデジュー潜伏占いだったら初っ端噛みの狼に完敗でOKです BBL は言った あと1分 3 (ベンチ裏) オペこ 長文用意したからって信じてもらえるわけでもないか 3 (ベンチ裏) デジュー 中身も大切 3 (ベンチ裏) クバリャーナ チキンさんどっちなんだろ 3 (ベンチ裏) シキワロス 呪殺がある以上真いるしなー 3 (ベンチ裏) オペこ おいいww 2 (バッテリー) Jareky KTさん,jinjaさん、MBさんがグレイ 2 (狼打線) jinjahime これで狩人はないよなぁ 2 (バッテリー) すねすき それならもう色々と諦めるしかない 3 (ベンチ裏) シキワロス 狂かな? 3 (ベンチ裏) リュファ でも先にチキンさんがソラモニーさん○とか言ってましたから。 BBL は言った 20秒前 2 (バッテリー) Jareky それは考えない。村人騙りが出た時点偽確信 3 (ベンチ裏) オペこ あれ? 3 (ベンチ裏) ソラモニー ソラ○っていわれたっけー? 役職行動 噛み すねすき BBL は言った ---------STOP--------- BBL は言った ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- [[6日目へ 2012-3-17 BBL村 Part6]] [[8日目へ 2012-3-17 BBL村 Part8]]
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1517.html
前ページ次ページゼロのアトリエ その日、ヴィオラートたちはシエスタの生家に泊まることにした。 貴族の客をお泊めするというので、村長までが挨拶に来る騒ぎになった。 最初は緊張して、必要以上に丁重な態度をとっていた両親だったが、私が奉公先でお世話になっている人たちよ、とシエスタが紹介するとすぐに相好を崩し、いつまでも滞在してくれるようにと言った。 久しぶりに家族に囲まれたシエスタは幸せそうで、楽しそうで、ヴィオラートは何だかシエスタがひどく羨ましくなってしまった。 兄は元気だろうか。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師30~ 砂時計の修理は、少なくともルーンの力を得たヴィオラートにとっては簡単だった。 固定化の呪文がかけられていたので、部品そのものは全て揃っていて、ほぼ完全な状態を保っている。 いつも通り赤いバッグの中から必要な道具を取り出して、ヴィオラートは砂時計の修理を試みる。 その日の夜半、竜の砂時計は早くも往年の輝きを取り戻した。 翌朝。完成した竜の砂時計をちらりと見て、キュルケが言った。 「あたしも行くわ」 しかし、ヴィオラートは黙って首を振ると、その申し出を否定する。 「この竜の砂時計で過去に行けるのは一人だけなんだ」 「そうなの?」 「それに、日時、場所、その限られた条件下でしかこの…時間を越える効果は発動できない。 それに日記にある…過去に行ったとされるのはあたし一人だから、あたし一人で行かないといけない。 でなければ、過去が変わって現在に思わぬ影響が出るかもしれない」 「そっか…じゃあ、あたしたちは先に学院に戻ってるわね」 そう言ってタバサを見たキュルケに、タバサはただこくりと頷いて答える。 キュルケとタバサは、一足先に魔法学院へと帰ることにした。 「…さて。じゃああたしは、これからエスメラルダさんに会わないといけないんだよね」 ヴィオラートはそう言って、シエスタに視線を向ける。 「は、はい?なんでしょう、ヴィオラートさん」 「この近くに、人気のない廃屋はないかな?何年も、人通りすらなかったような… エスメラルダさんだけが、通っていたような…」 「え?えーと…」 シエスタはちょっと考えて、記憶の糸を手繰り寄せた。 「たしか、森の中に私が生まれる前からあるっていう廃屋があったと思います…あそこなら、 祖母以外は誰も近づかないんじゃないでしょうか。そもそも危険だし、八年前には既に壊れかけてたらしいって」 シエスタがそこまで言うと、シエスタの父が言葉をついで答える。 「たしかもう何十年も前になりますか。元貴族の盗賊か何かが作った隠れ家だったって話ですが… まだ若かったうちのばあさんが追っ払いまして。まあ、めぼしいものはばあさんが取り返してきたし、なにしろ元貴族の盗賊が作ったものなんでどんな罠があるやら…壊すのも手間だし、今まで何となく放置されてるって感じですかね。 あそこなら、うちのばあさん以外誰も近づかないんじゃないでしょうか」 ヴィオラートは頷いて、シエスタに案内を頼んだ。 村からわずかに外れた森の中に、なるほど、たしかにそれらしい廃屋があった。 最後に人が入ったのは何年前の事だろうか、廃屋は既に朽ち果て、雨露さえもしのげないほどに崩れ去っている。 「ここが、例の廃屋です」 「うん。それじゃあ行ってくるね」 ヴィオラートはそう言って、朽ちた廃屋の扉を壊して開ける。 「え…これは!?」 その瞬間目に入った光景に、思わず動きを止めて、ヴィオラートは声を上げる。 床に、何回も何回も書き直された魔法陣が描かれていた。 「これは…そっか、エスメラルダさんが…でも…これじゃ、発動するわけないよね」 全く意味のない文字が大量に描かれているし、年月の為か、ところどころかすれて来ている。 さすがに、知識もなしに竜の砂時計の効果を発動させる魔方陣を再現するなど土台無理な話だったのだろう。 しかし、やらずにはいられなかった事は理解できた。わずかな記憶を頼りに、いつか帰れると信じて。 「でも…おかげで、どうすれば時間を遡れるのか、完全に理解できた」 ミョズニトニルンの力を得た今なら、竜の砂時計の構造やシステムと照らし合わせ、正しい文字や式を付け足して魔法陣を完成させることができる。 この日記に今、この場所が書き残されていたことも、やはり意味はあったのだ。 魔法陣を修復する作業を始めたヴィオラートを前に、シエスタが迷いながらも言伝を頼んだ。 「あ、あの、元気で…今も皆、元気でやってるって。それだけ伝えてください」 ヴィオラートは微笑んで、承った。 「うん。しっかり伝えるつもりだよ」 どのみち、エスメラルダとは初対面になる。 シエスタの名を出さないと、始まる話も始まらないかもしれない。それは予想していたから。 そして完成した魔法陣の上に立ち、ヴィオラートは砂時計を掲げる。 砂時計とルーンの光が共鳴し、数瞬ののち、ヴィオラートは跡形もなく消え去った。 「本当に…本当に、あの砂時計で、時間を越えられるんだ」 シエスタは呆然と、ヴィオラートの消え去った魔法陣を見つめていた。 八年前…過去に遡行したヴィオラートの目に最初に飛び込んできたのは他でもない。 ヴィオラート自身。そう、もう一人のヴィオラートの姿。 「あたしは…あなたから見て未来のヴィオラート、ってことになるのかな?」 未来のヴィオラート。そうだ、想定しなかったわけではない。 竜の砂時計をその手にした時から予測していた事態が、現にここに現れたのだ。 「具体的には…この世界から去って自分の世界に帰る直前のヴィオラート。だね。 確実に二人きりになれて、絶対に他の人にばれない、それでいて時間を越えられる…そんな条件の時はここしかないから、今ここで会ってる」 未来のヴィオラートは、ゼッテルを束ねた冊子をヴィオラート… 現在のヴィオラートに手渡して、言った。 「ここに、あなたの『今』からあたしの『今』までの出来事が記されてる。これを渡すためにあたしは来た」 現在のヴィオラートは、未来の自分の真意を量りかねて、ただ呆然と未来のヴィオラートを見た。 「あたしは…あなたは、『これ』を渡されて悩む事になる。そしてその選択の結果、あたしがここにいる」 「でも。これが、竜の砂時計を持つということ。時を越える術を手にした時に背負うもの」 そこまで言った未来のヴィオラートは、無言で過去の自分を見つめる。 現在のヴィオラートも、ようやくまともな平常心を取り戻して、未来の自分を見つめ返した。 「…あなたは、過去のあたしだから、これ以上の言葉を重ねる必要もないと思う。 でも、あたしが過去…今ここで、未来の自分に言われた事は言っておかなきゃいけない」 今ここで…この廃屋で、『未来のヴィオラート』もこれと同じ体験をした、という事だろうか。 「既にあたしがこうして介入したこの世界では、何もしないということは、何もしないという選択をしてることになるってこと。 『これ』を読まないことこそが、未来を書き換える事に繋がるという事」 「…わかってる。」 現在のヴィオラートはさすがに緊張して、震える手で紙束を受け取る。 「…あたしと同じ選択をしろとは言わない。でも多分、あなたもあたしと同じ道を歩む事になる」 未来のヴィオラートは後ろを向いてから、過去の自分に言葉を残した。 「それと…あたしが後悔してないって事だけは…教えておくよ」 それだけ言って、未来のヴィオラートは、砂時計の光の中に消える。 今現在を生きるヴィオラートは、無言で紙束を見つめ続けた。 十分すぎる時間が過ぎ去った後、残されたヴィオラートは小さな一歩を踏み出した。 エスメラルダに会うために、未来への一歩を踏み出すために。 竜の砂時計を持った者として、確かに一歩を踏み出したのだ。 外に出ると、日記に書かれていたとおり、廃屋の前に立ってエスメラルダを待つ。 こちらでも朝、陽はようやく南中の半分まで達したところだ。 しばらくすると、老齢の女剣士が歩いてくるのが見えた。 「…貴女は誰?」 「あたしはヴィオラート。錬金術師です」 ヴィオラートはそう答えると、日記と…竜の砂時計を見せた。 「そう…錬金術師が、ついに…」 既に頭部を白髪に覆われたエスメラルダは、 ようやく求め続けた錬金術師に巡り会えた深い感動に打ち震えつつも、言った。 「いつか…いつかめぐり合えると信じていました。このために私は…」 しかし、次いで出てきた言葉は予想通りの…いや、 既に決まっていたことを確認するかのような、澄みきった一言であった。 「私は既にこの世界の者。だから、戻ろうとは思わない。日記を見た貴女なら、わかってくれると思うけど」 それも予想していた答えだった。この日の後も日記が続いているという事は、彼女はここに残ったという事… エスメラルダは、まだ機能している廃屋の扉を開けると、中から粗末な箱を取り出して、ヴィオラートに手渡した。 「これが私が元の世界から…グラムナートから持ってきた全て。 できれば元の持ち主に返したかったのだけれど…あなたに渡しましょう」 かなり大きい箱だったが、ヴィオラートは中身を分散整理して、腰の秘密バッグに詰め込む。 「あら、それはあなたが作ったの?最近は錬金術も色々進化してるのね」 エスメラルダは初めて見る奇妙な道具に驚き、そしてその驚きそのものを懐かしみ、遠い目をして言った。 「私はこの世界に来て幸せだった。自信をもってそう言える。だから…」 「私は、ここにいる」 そう言ったエスメラルダの目には、深い充足と自らの辿ってきた道への自信が溢れていて。 だから、ヴィオラートは無言で、ただ微笑んで、シエスタの言伝だけを伝えることにした。 「シエスタちゃんがよろしくって…皆元気でやってるって。そう伝えてくれってだけ、言われました」 「あら、シエスタが?あの子、元気でやってる?」 「ええ、最近はあたしが錬金術を教えてるんです…ちょっと、引っ込み思案な所はありますけど…」 「シエスタが錬金術を…これも、何かの縁でしょうか。そう、あの子が錬金術師に…」 そこまで言ったエスメラルダは、何かを思い出したのか、真剣な表情に切り替わって話し始めた。 「…その…あなたがシエスタの…あの子のことを少しでも大切に思ってくれているというなら、話しておかなければいけないことがあってね?」 「何ですか?」 「あなたの…その、額のルーンにかかわることなのだけれど」 ヴィオラートは目を見開いて、エスメラルダを見つめる。 昇りかけであった陽は既に南中し、傾き始めていた。 魔法学院。錬金術工房の中で、ルイズが首を傾げつつ、戻ってきたキュルケとタバサを迎えている。 「ヴィオラートはどうしたの?」 ルイズの問いに、キュルケは「ちょっとあってね」とだけ答える。 「うーん、この『カリヨンオルゴル』が鳴らない原因を一緒に調べて欲しかったんだけど…」 「あら、調べるぐらいならあたしでも協力できるんじゃない?」 「貴女じゃダメ。第一、貴女って装飾品作ったことないでしょ?」 それもそうだ。キュルケは納得し、ルイズのことはヴィオラートに任せ、自分は自分の勉強に戻ることにした。 日が傾き、空が夕焼けに染まる頃、ようやく当のヴィオラートが姿を現した。 「ただいまー」 待ち構えていたルイズは、さっそくヴィオラートに質問をぶつける。 「ねえ、ヴィオラート。この『カリヨンオルゴル』が鳴らないのよ。ちゃんと作ったはずなのに…」 「そう。ちょっと見せてね」 ヴィオラートはそう言って、ルイズの作ったカリヨンオルゴルを手に取る。 そして、一旦カリヨンオルゴルを置くと、今度は何気なくルイズの傍に置かれた『始祖のオルゴール』を手に取り、何かに納得するように頷くと、言った。 「この『カリヨンオルゴル』は、特定の人にしか届かない音を出してるみたいだね。奏者って、聞いた事ない?」 「奏者?ちょっとわかんないかな…特定の人にしか届かないとか、それって一体全体どういう話になってるの?」 「そのうち…そうだね、あと三日もすればわかるから、その時話すよ」 何かを隠しているような、ヴィオラートの態度。 ルイズは少し不満げな顔をしたが、ヴィオラートの言う事ならばと納得し、 「じゃ、三日だからね?その時までに説明してよ?」 そう言って、期限の迫った詔をこねくりまわす作業を始めた。 「なにをしてるの?」 ヴィオラートの問いに、「詔」とだけルイズは答えて、途中まで何かが書かれた紙に向き合うが…羽ペンを持ったルイズの手は、一行たりとも進もうとしない。 「姫様の結婚式はもうすぐなのに…詔がまだ完成しなくて。いい言葉が思いつかなくて困ってるの」 「そうなんだ。ルイズちゃんなら大丈夫だと思うよ。頑張ってね」 ヴィオラートの気のない返事に、ルイズはちらりと視線を向けて言った。 「…ちょっと来なさい、一緒に考えてもらうわ。他に、話もあるし」 それからルイズは、ずるずるとヴィオラートを部屋まで引っ張っていった。 「じゃあ、とりあえず考え付いた分だけでも読み上げてみたらどうかな?」 部屋に着いたルイズは、こほんと可愛らしく咳をして、自分の考えた詔を読み上げる。 「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る…」 それだけ言うと、ルイズは黙ってしまった。 「続けないの?」 「これから、火に対する感謝、水に対する感謝…順に四大系統に対する感謝の辞を、 詩的な言葉で韻を踏みつつ詠みあげなくちゃいけないんだけど…」 「韻を踏みつつ詠みあげればいいんじゃないの?」 とぼけた顔で言い放つヴィオラートに、ルイズは拗ねたように口を尖らせて言った。 「なんも思いつかない。詩的なんて言われても、困っちゃうわ。私、詩人なんかじゃないし」 「うーん、とりあえず、思いついたことから言ってみたらどうかな?」 ルイズは困ったように、頑張って考えたらしい『詩的』な文句を呟いた。 「えっと、炎は熱いので、気をつけること。風が吹いたら、桶屋が儲かる」 「えっと…この世界の詩って、そんななのかな?」 全く詩の才能がないらしいルイズはふてくされると、ぼてっとベッドに横になって、「今日はもう寝る」と呟いた。 ごそごそと着替え、ランプの明かりを消したあと、しばらく黙り込んでから、自作のベッドに潜り込んだヴィオラートを呼んだ。 「ねえ、タルブで何があったかって話」 「うん」 「キュルケもタバサも、はっきりと言わなかったけど」 ルイズはそこまで言うと、しばらく逡巡し、 「帰れるんでしょ?」 とだけ、言った。 「うん」 ヴィオラートも、必要最低限の回答だけをした。 「…」 黙り込んだルイズに回答を重ねるように、ヴィオラートが続ける。 「あたしは…もうすぐ、帰れるかもしれない」 押し潰されそうな沈黙が、ルイズの部屋を覆いつくす。 「私が行っちゃダメって命令しても、行くの?」 ヴィオラートは黙ってしまった。ルイズは、そうよね、とつぶやいた。 「ここは…あんたの世界じゃないもんね。そりゃ、帰りたいわよね」 しばらく、二人は黙っていた。 ヴィオラートは喋らないし、自分もそれ以上、何を言えばいいのかわからなくなったのだろうか。 ルイズはヴィオラートの反対側を向いて、目をつぶる。 「イヤね。あんたが傍にいると、私ってば何だか安心して眠れるみたい。それって頭にきちゃう」 そこまで言うと、限界を迎えたのか、ルイズは規則正しく寝息を立て始めた。 ルイズの寝息を耳にしながら、ヴィオラートは考えた。 この異世界で出会った人たちのこと…。 たった何ヶ月かの滞在に過ぎないが、色んな人たちに出会った。 意地悪だった人もいたけど、ほとんどの人は優しくしてくれた。 困ったことがあったら力になると言ってくれたオスマン氏。 自分の思惑はあるにせよ、ヴィオラートが自由に活動できるように取り計らってくれたコルベール。 毎日地面を掘り返して、菜園作りに大いに貢献してくれた上に材料まで調達してくれたヴェルダンデ。 人間じゃなくて剣だけど、頼りになる『相棒』デルフリンガーくん。 綺麗で賢しそうなお姫様、アンリエッタ。 勇敢で、それゆえに死んでしまった王子、ウェールズ。 無口だけど、心の中には人並み以上の感情を秘めたタバサ。 ルイズをからかいながらも、いつもそばにいるキュルケ。 ヴィオラートと同じ世界にルーツを持つ、黒い髪の女の子…シエスタ。 その祖母で、長い長い人生の末にこの世界に残る選択をした、エスメラルダさん。 そして、そばにいるだけでなんだか嬉しくなって、思わず顔がほころんでしまうご主人様。 桃色がかったブロンドと、大粒の鳶色の瞳を持った女の子…。 いつか帰ることは心に決めていた。 でも、本当に帰れる日が現実に見えてきた今、この人たちと… ルイズと、笑って別れることができるんだろうか? わからない。 でも…と、ヴィオラートは思うのだった。 優しくしてくれた人たちに、できる限りのことをしてあげたいと。 嬉しかった分だけ、親切にしてくれた人のために…せめてこの世界にいる間は、自分にできることをしてあげたいと思うのだった。 あとわずかの間に、自分にどれだけのことができるのかわからないけど。 とりあえず、ヴィオラートは寝ているルイズの頭をなでてみた。 寝ぼけたルイズは、むぎゅ、と唸って寝返りを打つ。 ヴィオラートは窓に差す二つの月の光を悠然と見つめ、故郷を想った。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2040.html
前ページ次ページ『虚無と金剛石~ゼロとダイアモンド~』 その参.懐古 (前編) 夜が明けきるほんの少し前の時間帯。春先とは言え、この時間は、まだいくぶん肌寒い。とくに、学院の裏手にあるこのような林の中に来ればなおさらだ。 それでも、彼女は歩みを止めず、林の中にあるやや開けた場所まで来ていた。 年齢の頃は、16、7歳といったところか。この辺りではやや珍しい黒髪を肩くらいで切り揃えた、穏和でやさしそうな顔だちの少女だった。 黒を基調としたワンピースと白いエプロンを着用しているところから見て、おそらくは学院のメイドのひとりであろう。 手に緑色の布で包まれた何か棒状のものを持っているが、木の実でも落としに来たのだろうか? この辺りの木々で春先に実をつけるものはないようだが……。 土で踏み固められた、広場と言うには少々小さい空間の中央まで来ると、少女は布をほどいて中にしまわれていた棒状のものを取り出した。 それは、樫の木でできた杖だった――いや、もし知識のある者が見れば、それは”木刀”と呼ばれる、練習用の”武器”であることが分かっただろう。 少女は、両手で木刀を握り、正眼と呼ばれる構えから素振りを始めた。 10回、20回、30回……。やがて、その回数が100回を数えるころ、今度は足裏を地面から離さない、専門用語で”すり足”と呼ばれる歩法を使って、前後、左右に動きながら、木刀を縦横無尽に振るい始めた。 左右の袈裟斬りから、斬り上げ、唐竹割り、胴薙ぎ、神速の連続突き……一連の動作には淀みがなく優美で、少しでも心得がある者が見たなら、感嘆の溜め息を漏らしただろう。 そうやって十分に身体をほぐしたのち、少女は再び木刀を正眼に構え、呼吸を整えた。 そのまま、3メイルほど先にある背の高い雑草の葉先を見つめる。 静かに、しかし大きく息を吸い込んで肺の中に溜める。 頭の中から雑念を追い出し、剣先に意識を集中する。 ひゅっ! 鋭い呼吸音とともに、少女が木刀をそれまで以上の速度で振り下ろした。 そして次の瞬間。 ――ハラリ………。 決して木刀が触れてはいないはずなのに、雑草の一番上の葉が両断されて、風に舞っていたのだ。 「お見事!」パチパチパチ……。 「えっ、誰!?」 背後から聞こえてきた拍手と賞賛の声に、少女は慌てて振り向いた。 小広場の縁に生えた樹の影から、少女の見慣れぬ若い男性が姿を見せる。 「いや、驚かせたのならすまない。私は、アラビク。昨日からこのトリステイン魔法学院で世話になっている者だ」 青年―アラビクが素直に謝罪するのを見て、少女は慌てて腰を折った。 「い、いえ、私こそ不躾な態度をとってしまい申し訳ありません。私は、この学院に奉公させていただいております、メイドのシエスタと申します」 と、そこで、ハッと何かに気づいたかのように、口元を両手で押さえる。 「も、もしかして、アラビク様は……昨日、ミス・ヴァリエールが召喚なされたという、遠い異国の王子様なのでしょうか?」 (王子様、か……) 確かに、客観的に見れば彼は王位継承権第一位のリルガミン王家の嫡子であり、従って、そう呼ばれて然るべきなのだろうが……どうも違和感がある呼び方だ。 王宮で暮らしたのは10歳までで、反乱を逃れてからは地辺境の旧家で育った身だ。 半年前に反乱軍を組織してからは、”殿下”と呼ばれる機会も増えたが、冒険者暮らしが長かったせいか、王子様と呼ばれるような上品な振る舞いは、どうにも苦手だ。 無論、しかるべき場所(たとえば宮廷)に出れば、それ相応の言動が出来るよう、躾られてはいるが。 「……あのぅ?」 つい、らちもない思索にふけってしまったようだ。アラビクは頭を振って答えた。 「ああ、すまない。確かに、その通りだ」 「し、失礼致しました! 恐れ多くも、王族の方に……」 ほとんど土下座せんぱかりのシエスタの恐縮ぶりに、かえってアラビクのほうが慌てた。 「いやいや、いまの私は、国に戻ることもかなわない、言わば出奔同然の身。元王子と言ったほうがいいようなハンパな存在だ。そんなに畏まることはないさ」 「はあ、ですが高貴な身分の方に……」 「ああ、それより聞きたいんだけど、先程の剣術は、誰に習ったんだい?」 途端に、一層深く頭を下げるシエスタ。 「も、申し訳ございません。平民の分際でお目汚しを……」 どうやら、余計に萎縮させてしまったらしい。 「あ、いや、別に咎めているわけじゃないんだ」 慌ててそう言ったアラビクだが、頭を下げたままの目の前のメイドの様子に、ふぅと小さく溜め息をついて、意識を切り替えた。 「――確かに、俺は一応リルガミン直系王族の男子だし、いわゆる"王子"と呼ばれる身分だったことも間違いないけど、別にそんなふうに過分に畏まる必要はないぜ」 意識的に”一介の冒険者の戦士・アラン”だったころの口調で、シエスタに語りかける。 「え……!?」 それが功を奏したのか、思わず、といった様子で顔を上げるシエスタ。 「なにせ、王宮で育ったのは右も左もわからない10歳のガキのころまで。 それ以降は、薄汚い簒奪者に国を追われて、王都から逃げ出し、貴族と言うより殆ど豪族といったほうがよさそうな辺境の小貴族の館に匿っててもらったんだしな」 まだ、こちらでは誰にも詳しく明かしたことのない自身のかつての身の上を語る。 「で、15歳になる直前に一念発起して、魔術師である姉さんと一緒に修行の旅に出たわけだ。それから5年近くは、放浪の冒険者……と言えば聞こえはいいが、実際は隊商の護衛やモンスター退治、古代遺跡の探索、盗品の奪還まで引き受ける何でも屋稼業さ」 「はぁ……大変だったんですねぇ」 やや粗雑な、しかし親しみやすい”アラン”の口調に警戒心を解かれたのか、シエスタのおびえたような雰囲気も、多少は緩和されているようだ。 それを確認したうえで、改めて彼はシエスタに質問した。 「ま、それでだ。俺のその冒険者稼業時代の仲間に、あんたと似た剣術を使うヤツがいたから、ちょっと気になったってわけだ」 「えっと……そういうことでしたら。私のこの剣術は、お爺ちゃんに教えられたんです」 彼が倒木に腰かけ、すぐ傍らをポンポンと手で叩くと、多少躊躇しながらもシエスタも頭をチョコンと下げて隣りに座った。 「そいつは、俺達のいた国では、たしか”居合”とか呼ばれている侍の奥義だよな」 「! ご存知なんですか?」 「さっき言ったとおり、仲間にウィードって侍がいたんだ。そいつが居合の使い手で、盲目の優男なんだけど、すごく強かったよ」 この際、そのウィードがエルフであったことは黙っておくことにする。彼の世界では、エルフは確かに頭がよく多少孤高を好む傾向はあるものの、この世界のように人間と敵対していたわけではないのだが……。 「私はトリステインの辺境にあるタルブの村の出身なんですが、私の祖父母は元々村の人間ではなかったそうです。ある日、馬に乗ってフラリと現われ、そのまま村に住み着いたんだとか」 シエスタが身の上話を始める。 「祖父はたいそう強い剣士で、祖母は博識で魔法を使えたことから、村人たちは、どこかの貴族のお嬢様とその護衛が駆け落ちして来たんでは、と噂したそうです。 ただ、ふたりとも気さくで、働き者だったし、村が盗賊やモンスターに襲われたときに身に着けた技術を使って撃退してくれたことから、ほどなく村に溶け込むことができたそうです」 「そのお爺さんが”自分はサムライだ”とか言ってたとか?」 「はい、ふたりの間に生まれたひとり娘が私の母なんですけど、母にはサムライとなるだけの素養がなかったそうで、祖母から魔法を教わっていました。 でも、何人かいる孫の中でも、唯一私にはサムライとなりうるだけの能力があったそうで……」 買いかぶりだと思うんですけどね? と微笑って見せるシエスタ。 「――もしかして、”リルガミン”とか”トレボー城塞”と言う言葉に聞き覚えはないか?」 「!! 知ってます! お爺ちゃん達は、若い頃は”トレボーじょうさい”と言うところで修行していたんだって言ってました。そこで”ワードナー”って言うメイジや、”トレボー”って悪い王様と戦ったそうです」 (やっぱりそうか……) 間違いない。シエスタの祖父母は、アラビクと同じ世界、それも極めて近い時代から来た冒険者なのだろう。トレボーが魔除け奪還のお布令を出してたのはアラビクたちが冒険に出る数年前のことなのだから。 「どうやらご同郷のようだな。まだおふたりはご存命かい?」 「はい、祖父はすでに70歳を越えているんですけど、いまだ村で敵う者がいないほどの腕利きです。祖母もまだまだ元気ですよ」 「そうか。機会があればぜひ会ってみたいな。紹介してもらえるか、シエスタ?」 「は、はい、勿論です!」 と、そこまで話したあたりで、ふたりとも空がだいぶ明るくなってきたことに気づいた。 「おっと、すっかり話しこんだしまったみたいだね。すまない」 貴族口調に戻るアラビク。 「い、いえ。私こそ、お耳汚しを……」 再びシエスタが恐縮しようとするのを手で制する。 「あ~その~……なんだ。ふたりきりの時だけでもいいから、なるだけフランクに接してくれないか? さっきも言ったとおり、元々冒険者稼業が長かったんで、礼儀正しく振る舞うってのは疲れるんだ。あまり肩肘張らない話し相手がいてくれると助かるんだが……」 アラビクとしては、言った通りの意味で、とくに他意はなかったのだが、シエスタの方はえらく感激したようだ。 「は、はいっ! 私なんかでよければ、ぜひお話し相手を務めさせていただきます!!」 ……念の為に言っておくと、アラビクは王家の人間の常に漏れず、かなりの美形青年である。 それでなくても、王族と言う非常に高い身分の男性が、自分を平民と侮ることなく真面目に対応してくれ、さらには「時々、話し相手になって欲しい」と言ってきたのだ。 同年代の従姉からは「お堅い娘」と称されるシエスタだが、この年ごろの娘にありがちな恋愛に関する妄想癖もそれなりに持ち合わせている。多少は”そういう”夢を見ても致し方ないだろう。 「もしよければ学院長室に案内してもらえないか? 朝一番で顔を出して欲しいと言われてるんだ」 「はいっ、喜んで(はぁと)!」 自分がメイド少女へのフラグを立てたことには全く気づかず、アラビクはなぜか上機嫌のシエスタに案内されて、オスマンの待つ学院長室へと向かうのだった。 * * * 「なるほど、学院長殿のおっしゃることは、よく分かりました」 学院長室で、こんな早朝から執務を行っていたオスマンに迎えられたアラビクは、そこで昨日オスマンがコルベールに提案した事項――アラビクに学院の講師をしてもらうと言う案を、彼自身から説明されていた。 「正直、私としても無為徒食のまま、ここでお世話になることは、心苦しく思っていましたので、講師を引き受けることはやぶさかではありませんが……」 「おお、殿下の待遇に関しては、できるだけご希望に沿うように致しますぞ」 と下手に出つつも、じつは結構戦々恐々としているオスマン。何せ相手は、王族・凄腕・異邦人という厄介事の集大成のような人物だ。聞いた限りでは、さほど無理を言うような性格ではなさそうだが……。 「では、みっつの質問とみっつのお願いが」 「何ですかな?」 「まずひとつ。トリステインにも王家が存在していてると聞きましたが、私の存在を王室もしくはそれに準じる所へ連絡されましたか?」 「いえ、まだです。王子のご意志を確認してから、と思いましたので」 まぁ、厄介事は、なるだけ先延ばしにしたかった、と言うのが本音だが。 「ありがとうございます。それでは、ひとつ目のお願いです。すでに国に戻れないことでもありますし、私のことは”遠方の国から偶然召喚された貴族”とでもしておいてください。 無論、あの召喚の場に居合わせた者は真実を知っているでしょうが、どの道我がリルガミンとここトリステインには交流がないのです。不必要に面倒な事態を起こす必要はないでしょう」 「それは、我々としても願ったり適ったりですが……よろしいのですか?」 実際、他国の王族が一介の生徒(いかに公爵家の令嬢とはいえ)に召喚されたとあっては、宮廷に報告すれば、ひと騒動起こることは目に見えていた。 「ええ。ニルダ神じきじきに戻れないと宣言されているのです。この地に骨を埋める以上、王家の身分を主張しても意味はありません。 リルガミンの名前を出さないためにも、念のため、名前はアラン・ファールヴァルトと変えて名乗りましょう。今後は、そちらの名前でお願いします」 「よろしいでしょう。ところで、その偽名に、何か意味はあるのですかな?」 「アランは冒険者時代に名乗っていた名前です。偽名と言うよりは通称に近いですね。 ファールヴァルトの方は、辺境で潜伏していた頃に世話になった先生がいたのですが、彼の故郷がそういう地名でした。確か”森の彼方の国”と言う意味だったはずです」 「なるほどなるほど」 青年の懐かしそうな顔を見て、「よい師であったのだろうな」とオスマンは想像する。 いやしくも教職のはしくれにいるものとしては、できれば生徒たちに後年そういう表情で思い出してもらえるような指導をしていきたいものだ。 (オスマンの場合、セクハラを止めない限り、無理かもしれない) 「ふたつめの質問は、私が講師を引き受けたとして何を教えさせるおつもりですか?」 「その点についてはお任せします。ただ、学生たちとさほど変わらぬ歳ごろから激戦をくぐり抜けて来た貴方の経験と知恵を、できれば彼らに伝えてやってください」 無言で視線がぶつかり合い、青年は老人が意図しているだろうことをおおよそ察した。 (やれやれ、スパルタなことだ) とは言え、「実戦こそ最良の教材」「習うより慣れろ」をモットーに自らを磨いてきたアラビク―いや、アランとしても、オスマンが目指す方向性は嫌いではない。 「そうですか……そういう事でしたら、協力できるでしょう。ただ、私の授業に関しては、必修ではなく選択講義という形で、生徒の側に受講するかどうか任せたいと思います。 私の身に着けた技術を教えるとしたら、こちらではある意味異端にほかなりませんから」 「ご賢察とご配慮、感謝致します。それで三つ目は何でしょう?」 「先にお願いからですが、この学院に奉職しているシエスタと言うメイドがいますが、彼女と頻繁に接触していても不自然でない名目が欲しいのですが……」 つい先程まで謹厳実直に対応していたオールド・オスマンだが、アランのその言葉を聞いた途端、内心ニヤける。 (ほほぅ。王子様と言っても、やはり若い男か。それにしても意外に手が早いのぅ) 一応言っておくが、完全にオスマンの誤解、”下衆の勘繰り”と言うヤツである。 ただ、相手が相手だけに、そのあたりを敢えて指摘しない”大人の対応”をオスマンは選んだ。そのことが後の悲劇、いや喜劇を生むのだが……。 「確か食堂付きのメイドですな。では、彼女はアラビク…おっと、アラン殿の身の回りの世話をメインで行う係としておきましょう」 「ご過分なお心遣い、いたみ入ります。では、最後の質問ですが……私を召喚した女生徒は、いまどうしているのでしょうか?」 「………………は?」 <後編に続く> 前ページ次ページ『虚無と金剛石~ゼロとダイアモンド~』
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/152.html
前ページ次ページシロウが使い魔 第4章 「く、くふふふふふふふ」 妙な笑い声を出しながらルイズはもだえていた。 自室のベッドの上で、枕を抱きしめて顔をうずめながら足をバタバタしながら 笑いを押し殺していた。 それは、先ほどのことである。 ─回想─ 「サーヴァント・衛宮士郎。 ───これより我が剣は貴女と共にあり、貴女の運命は我と共にある。 ───ここに、契約は完了した」 一瞬、呼吸を忘れるくらいにルイズは己が使い魔に見とれてしまった。 周囲の景色も、時間も、全てが消え去った瞬間…… < ぐぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ > 台無しである。いくら昼食をまだ摂ってないにしてもである。 士郎は自分の失態を顔色に顕著に表していた。火竜山脈の万年マグマと比べても なんら遜色ないくらいに真っ赤になっていた。 「…………!」 ルイズは吹き出すのをこらえる事に精一杯だった。何とか呼吸を整えて 「遅いけど昼食にしましょ。私の部屋へ運んできて」 と声を掛けてそのまま部屋に戻ってきたのだった。 ─回想終了─ 今もルイズの顔色は真っ赤である。先ほどの名乗り。 実はそれだけでもルイズは、悶えるには十分だったのだ。 (私、何を使い魔にこんな気持ちになっているんだろう……) そして、名乗りの直後のお腹の音も思い出し、今度は笑い悶える。 実は士郎のお腹の音に隠れて、ルイズもお腹を鳴らしていたのだが、それを士郎が知ることは無かった。 ────────────────────────────── お腹の音を聞かれて、逃げるように部屋へ戻ったルイズに取り残され、 しばらく士郎は立ち尽くしていた。 気を取り直して、厨房へ食事を調達しに向かう。 「…………」 ルイズとは、しばらく恥ずかしくて口も利けないだろう。 厨房に入ると、なにか大きな物体がもの凄い勢いで衝突してきた。 「シロウさん! 無事だったんですか?!!」 シエスタだ。先ほど別れてから、ずっと泣いていたような顔である。 「わだじ! わだじ! じゅっどジロヴざんのごど、じんばいじで……」 言葉にならなくなってきている。 周りのメイドに訊いたところ、 シエスタがトラブルに巻き込まれたようだと聞いて、見に行こうとしたところ 泣きながらシエスタが帰ってきた。 訳をきいても、「シロウさんが……、シロウさんが……」 としか言わない。 決闘騒ぎがあったとひとりの学院の教師が教えてくれた。 そして今度はギーシュと名乗る生徒が厨房のシエスタを尋ねてきた。 シエスタは視線で呪い殺してやるというくらいに、ギーシュを睨みつけた。 「さきほどはすまない。あれは全面的に自分の非であった」 と、ギーシュが謝っても、けしてシエスタは睨むのをやめなかった。 そして士郎が登場したというわけである。 (そうか、ギーシュは早速謝罪したのか)と、ギーシュの潔さを認めようかとも思った。 「ジロヴざ~~~~ん!!!」 泣きついて離れないシエスタを周りの助けも借りて引き剥がして、料理長に賄いを2人分頼む。 なにがあったかはどうせ明日には噂でわかるだろうと思い、詳しい説明はしないでおいた。 ────────────────────────────── <コンコン> ルイズの部屋の扉がノックされる。 「開いているわ」 士郎が食事を二人分運んできた。 「……!、じゃあ早速食べましょ」 笑いを堪えつつ、食事を始めるルイズ。同じく食事を始める士郎。 「なにこのシチュー!! 凄く美味しい!!」 士郎が持ってきたシチューの皿と、粗末な麦で作ったパン。これが今まで食べた料理の中で 一番旨く感じたルイズ。 「なに? 厨房の平民たちって自分たちだけでこんな美味しい料理を独り占めしているの?」 さすがにそのようなことを言われていると反論せざるをえない。恥ずかしさを忘れて口を開く。 「違うよ。それはルイズがこれをはじめて食べるからだろう。 あと昼間、掃除で働いたって理由もあるはずだ」 「どういうこと?」 「普段から働いて体を動かしている人間は、体が塩分の濃いものを欲しがるようにできてる。 このシチューだって、普段体を動かしていない人間には、濃すぎる味付けだと思う」 ルイズは神妙に話を聞く。 「厨房の賄いは余り物を食材として作られるんだ。だから大体シチューになる。 なんでも煮込めばいいんだからな。 料理長の腕は抜群だろうけど、それは自由に食材を使えるときにこそ発揮されるはずだよ」 それほど多くこの学院で食事をしたわけではない士郎だが、大体見当を付けて話していた。 「ふ~~ん、そうなの……」 相槌を打ちつつ、またそのうちに賄い料理を食べさせてもらおうと企むルイズだった。 <コンコン> 扉がノックされる。ルイズが入室を促す。 「ミス・ヴァリエールとシロウさん、 ミスタ・コルベールがお呼びらしくてお部屋の方に来るようにと……」 言伝を持ってきたのは顔を真っ赤にしたシエスタだった。 「わかったわ。あ、丁度良かった。食器をついでに片付けてもらえる?」 シエスタは、士郎に何かを言いたげな視線を向けていたが、 「はい、わかりました。では、失礼致します」 と告げ、そのまま戻っていってしまった。 「なにかしら?ミスタ・コルベールの用件って……」 ……… 「シロウのルーンが始祖ブリミルの使い魔のルーンですって!?」 「声が大きい!ミス・ヴァリエール」 始祖ブリミルとは、ぶっちゃけ世界の創始者みたいな扱いの偉人である。 「それだと、ルイズはそのブリミルって人と同じ属性って事ですか?」 ルイズの魔法を気にしていた士郎がコルベールに尋ねる。 「それはわからない。まぁ否定する根拠も乏しいが。なにせ≪伝説≫だからね」 属性がわかるかもと一瞬思ったルイズだが、これに少し肩を落とす。 「がっかりさせるようだが、例えばだ。 シロウ君が『ガンダールヴ』としてこの世界に呼ばれる。 そして『虚無』の使い手となる人物がこの世界に現れる。シロウ君は忠誠心をもって その『虚無』の使い手に仕える。 ということにならないとは言い切れない」 用は、『サモン・サーヴァント』『コントラクト・サーヴァント」に付随している忠誠効果が ルイズの召喚の場合あらわれなかったことを問題視しているのだ。 「だが、単純にミス・ヴァリエールが《虚無》という可能性ももちろんある。畏れ多いが。 ミス・ヴァリエールの魔法の失敗による爆発は、 なんらか《虚無》と関連付いているからというふうに見る方法も無くも無いような気がないでも……」 ルイズはコルベールを睨む。遠回りに否定したがっていることがありありとしているからだ。 「じゃあ俺が『ガンダールヴ』とか言うものだとしたら、調べる書物は始祖ブリミル関連を 中心に漁ればいいんですね?」 「そういうことになるな」 「意外と帰る方法を見つけるのも早く済むかもしれない」 士郎はまだ見ぬ帰還方法を期待してテンションがあがった。 それと反対にルイズは意気消沈。でも、士郎の前ではその素振りを隠すのだった。 このあと、コルベールは一連の会話を誰にも言わないように釘を刺す。 この事を知っているのはコルベールと学院長のオールド・オスマン、ルイズと士郎の4人だけ。 下手に『ガンダールヴ』の事が世間に知られると、軍が黙っていないと思われるからだ。 士郎がやった“強化”の魔術だが、この世界において該当するのは『硬化』らしいこともわかった。 ……… 翌朝 士郎はシエスタの猛アタックを受けることになった。 といっても、洗濯のことである。 「さあシロウさん、まずはこれに着替えてください!」 と、男性物の簡素な服を上下分手渡される。 「ではシロウさんの服も一緒に洗っちゃいましょう!」 たくさんの洗濯物が山積みの桶とは別に、水を張った桶が合った。 そこへシエスタは袋に入った灰を入れて、溶かし始める。 「物(繊維)によっては生地を傷めるので、気をつけてくださいね」 洗濯物を灰の水に沈めていくシエスタ。ある程度の洗濯物を浸けると足で踏みつけ始める。 「まんべんなく染み込ませたら、今度は同じように水洗いしてください」 桶から灰汁を捨てると、代わりに水を入れる。そしてまた踏む。 水が汚れるとそれを捨てて、新しい水を入れる。これの繰り返しである。 「水が濁らなくなるまで、きちんと繰り返してくださいね」 士郎は教わったとおりに洗濯の作業をする。小一時間もするとたくさんあった洗濯物は 残りわずかとなる。 「こっちの洗濯物は作りが細かいものとかなので、足で踏むやり方はできないんです」 女生徒の下着だろうか。そちらは手もみ洗いで作業している。 「こっちは私が洗濯するので、シロウさんは洗濯物を干す作業してもらえますか?」 学院の一角に干し場があり、洗濯ばさみで乾かしていく士郎。 自分の服が乾くのはまだだろうから、今日は一日シエスタに渡されたこの服で過ごす事になるだろう。 ……… ルイズを普通に起こす士郎。朝食を摂った後、教室へ。 授業中、何もしないで居るということに居心地の悪さを感じた士郎は、ルイズに筆記用具を用意してもらう。 自分なりにこの世界の魔法の勉強をしつつ、文字も勉強しようと努力する。 士郎の書く文字に興味を示したのが他の生徒たちだった。 「なにこの文字?」「ロバ・アル・カリイエの字?」「僕の名前書いてみてもらえるかな?」 休憩時間に入ると、ちょっとした騒ぎに。 士郎がそれぞれのノートに適当に当て字をした漢字で名前を書いてやる。 昨日の騒ぎで、士郎に対して微妙な空気があったが、これによりちょっとした人気者になる。 そして授業が終わり昼食。 昼食が終わるとデザートの時間。 ギーシュが士郎に声を掛けてきた。 「君、ちょっといいかな?」 士郎はギーシュに付き従う。 人気の無いとこに来たとたんに 「君には本当~にすまないことをしたッ!!」 ギーシュが謝罪をする。彼が言うには、昨日のシエスタへの暴言は引っ込みがつかなくなったものであり、 その場で割り込んできた士郎にこれ幸いと八つ当たりをしたものであったらしい。 平民に対して弱気な態度を見せられないという貴族の体質は根深いものでありそうだ。 「あと、君が取り出した剣ってあれは『錬金』によるものだろう?」 と、突然衝いてきた。 「え?なんのことだ?」 「この青銅ギーシュの目をごまかす事はできないよ。最初の君は寸鉄帯びていなかったのは明白さ。 あと戦闘終了と同時に君の武器は掻き消えたしね。という事は、君はメイジなんだね!?」 ギーシュの口封じをするわけにもいかない士郎はどうしたものかと一瞬悩む。 「あぁ、メイジという事はもちろん誰にも言わないよ。ただ一つだけお願いがあるんだ」 先にギーシュが口を開く。 「君の『錬金』した武器。あれが非常に気に入ってしまったんだ。自分でも『錬金』できるように なりたいから、ぜひそのやり方を指南してくれないかな?」 片刃の剣のデザインが気に入ったらしい。その位ならそれほど大変なことでもなさそうなので了承する。 「俺がメイジとかなんとかって噂が立ったらお前のとこを襲いに行くから気をつけとけよ」 と、脅しを入れるのはもちろん忘れない。 ……… 午後、ティータイムの終わったルイズは図書館へ向かう。 始祖ブリミル関連の書物を漁りにいくのだ。6000年も歴史があると、それは膨大すぎる蔵書量となる。 ルイズは『レビテーション』など使えないため、とりあえずは手の届く高さの書物に限られるが、 それでも数日で目を通すことなどは不可能であった。地道な作業となる。 士郎は書物は読めないが、同じく図書室で文字の勉強をする。 ちなみにコルベールにも『フェニアのライブラリー』でブリミル関連の書物を調べてもらう。 主に探す資料は、“ガンダールヴ”“始祖の使い魔”“虚無の呪文”“異世界”の4つである。 これらの目ぼしい記述が見つかった場合、ノートに書き写し、それを後ほど報告するというものである。 夜になり、コルベールの部屋で報告会を行い、それでその日は終了である。 ルイズを部屋まで送り届けるときに、ルイズが言った。 「明日は虚無の曜日だから、街に出るわ。前に言った買い物とかするからね」 (そんなみすぼらしい格好なんて私の使い魔にさせてられないわ) ルイズは今日一日士郎が着ていた服が気に入らなかったらしい。 「それじゃシロウ、おやすみ」 「ああ、おやすみ。ルイズ」 士郎の異世界3日目が終了する。 前ページ次ページシロウが使い魔