約 1,871,653 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2319.html
前ページつかわれるもの 第05話 見つめられるもの ルイズの暴力が止んだきっかけは、シエスタの発した「ミス・ヴァリエール、そろそろ朝食の御時間ですよ?」という言葉だった。 若干夢中になっていたルイズは我に返り、少々焦りながらトウカとシエスタを交互に見つめると、 「シエスタだったっけ?食堂で食べさせる訳にもいかないから、この二人に厨房で食べさせてあげて!頼んだわよ!」 などと言い残して、アルヴィーズの食堂へと駆け出して行った。 その暴力を受けていたトウカはどうなっていたのか、と言えば、考え事をしていた事と少なからず油断していた事によって、初撃をまともに喰らってしまっていた。 その後マウントポジションを取られ、回避に専念したとは言え数発の拳を身体に受け、寝起きに思い切り動いた事と相まって、たいへんにお疲れ気味であった。 そして力で振り解けばすぐ逃げられましたのに、とカルラに囁かれ、その発想は無かったと少々落ち込んだりしていたりもするのである。 まぁいくら落ち込んでいても腹は減る、と言う事でシエスタに連れられて厨房へと向かうトウカとカルラ。 その途中、どこか腑に落ちないように首を傾げているカルラの様子に気付いたトウカが、小さく声を掛けた。 「どうした?カルラ。何か考え事でもあるのか?」 「あ……いえ、シエスタの事なんですけど、何処かで見たような気がしますの……気のせいかしら?」 「いや、某も何処かで見たことがある気がするのだが……どうもな」 どこかに違和感、というか既視感を感じつつも、取り敢えず余計な事は意識から掻き消す。 そして不意にシエスタが立ち止まったそこが、目的地である厨房の前であった。 トウカが取り敢えず中に入ろうと覗いた厨房は、活気に溢れるとかを軽く超越し、戦場と言って良いほどの喧騒を醸し出していた。 数多の戦場を駆けてきたトウカとはいえど、これは流石に専門外。唖然として立ち尽くす他無かった。 「あの、お二人はちょっと待ってて下さいな。今はちょっと騒がしいですけど、もう少し経ったら落ち着きますからー!」 二人に向かって一言だけ叫んで厨房の中に駆け込むシエスタ。 厨房の喧騒がおさまったのは、シエスタが厨房に入ってから10分が経過する辺りであった。 「トウカさーん!カルラさーん!入ってもよろしいですよー!」 厨房の中が落ち着いてさらに数分経過した頃、ようやくシエスタからお呼びの声が掛かった。 待ってましたと言わんばかりの勢いで入ってきたのはトウカ。 やれやれと言った風にゆらりと入ってきたのがカルラ。 態度に多少の違いがあっても、久々の食事と言う事でどちらもなかなか嬉しそうだった。 「ようやく食事にありつけますわねー」 「そういえば暫く何も食べていなかったしなぁ……」 厨房内は多少ざわついていたが、二人の登場で一気に静まり返った。 場に流れる空気が一気に重たくなった。が、それを一切気にしない――というか気付いていない――のは、椅子に座って料理を待つ二人と、シチューの入った皿を持つシエスタだけであった。図太い。 「はい、これ余り物で作った厨房での賄いですけど、沢山あるのでどうぞー!」 「かたじけない、ありがたく頂戴するとしよう」 「んー、中々いけますわね、これ」 シチューが目の前に置かれると、同時にがっつくトウカとカルラ。 その光景を微笑ましげに眺めるシエスタに、状況を把握しきれない料理長のマルトーが尋ねた。 「なぁ、シエスタ。あの亜人さん達は何もんだ?」 「えーと、ミスヴァリエールの使い魔さんで……私の友人です」 ほぉ成る程な、と納得するマルトーを尻目に、カルラとトウカはシチューを早々と完食した。 しかし、シチューの一杯で満足するような二人ではなかった。ついでに言うと彼女達は遠慮する気もさらさら無かった。 「「シエスタ(殿)、おかわり!」」 「あ、ちょっと待ってて下さい。すぐ用意しますから!」 余程腹を空かしていたんだろう。その後もおかわりが何度か続き、両者が七杯ずつ平らげたところで、ようやくスプーンが置かれる。 二人はその食べっぷりを見て嬉しそうなマルトーとシエスタとその他厨房の皆さんに感謝を告げ、ルイズを待つために食堂の前に移動した。 食事を終えたルイズが二人を連れて向かったのは、立派な石造りの教室だった。 扉を開けてルイズが中に入った途端、一気に場が静まりかえる。 彼女が召喚した使い魔がただの平民ならば、野次の一つや二つも飛んだだろうが、召喚したのは亜人である。 なんと言うかぶっちゃけた話、トウカとカルラが怖くて、いつもみたいにからかう気にならなかったのだ。 そのおかげだろうか、ルイズは少々機嫌が宜しいようで鼻歌をこぼしながら席に着く。 一方の二人は、他の使い魔達を物珍しそうに眺めていた。 「変な生き物が一杯ですわねー」 「これが他の生徒の使い魔か。某達もこれと同類の扱いなんだろうか?」 「達じゃなくてトウカだけじゃありませんこと?私にはルーンがありませんもの」 「……いや、それはちょっと酷くないか?」 トゥスクルでは……と言うか、ウィツァルネミテアでは一度も見たことの無い生き物達。 興味は尽きないのか、二人は飽きる様子も無く観察している。恐らく初めて動物園に行った子供も、こんな反応をするんだろう。 そうして二人が使い魔達とじゃれているところに、小太りの女教師が入ってきた。 彼女は教室を一通り見回し、二人を見て若干顔が引きつったが、一先ず満足そうに微笑んで言った。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴァルーズ、こうやって様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 そう言って、そのまま授業が開始された。 授業の内容は生徒達にとっては基礎の復習程度の内容であったが、異世界からの来訪者である二人には一切馴染みの無いものであり、その多くは興味深いものであった。 「四大系統ねぇ……こちらで言う属性と考えれば良いのかしら?」 「多少の差異はあるだろうが、根本的なものは同じなんじゃないのか?」 「んー、差し詰め"虚無"は"大神"かしらね」 「"光"と"闇"の扱いが判らんが、そんなところだろう。まぁ無理矢理こちらの常識に当てはめるのが、間違っていると思うがな」 こそこそと会話を繰り広げる二人だが、その話に興味を持った人物が居た。 言わずもがな彼女らの主人、ラ・ヴァリエール嬢である。 「ねぇ、属性とか大神とかって何の話よ?」 「いや、某達の元居た世界の話だ。こちらとの似ている点について、な」 「ふーん、そう言えば詳しい事は聞いてなかったわね」 くるりと後ろに顔を向けて二人の会話に加わるルイズ。 だがしかし、それを見逃してくれるほど教師が甘い訳でもなかった。 「ミス・ヴァリエール!授業中です、私語は慎みなさい」 「す、すいません……」 「お喋りしている暇があるのなら、この錬金はあなたにやって貰いましょうか」 何の気無しに言ったであろうシュヴァルーズの言葉。 しかし、この場にいる生徒達のほぼ全員が、顔面を蒼白に変えていた。 教室中の心の内を代弁するように、キュルケが立ち上がる。 「先生、危険です」 その場のほとんど全員が一斉に、首を縦に振る。 すでにキュルケは、いつものようなからかいを含む口調では無くなっている。 しかし当のシュヴァルーズは、心底不思議そうな顔をして生徒達に言い放った。 「錬金の何処が危険なのです?それに失敗を恐れていては何も始まりませんよ。ミス・ヴァリエール、前に」 何とも教師の鑑だと言わんばかりのセリフだが、生徒達にとっては死刑宣告に等しい。 ルイズが前に歩いて行くのをキュルケが引き止めようとしたが、既に覚悟を決めたルイズの前では無意味だった。 観念した生徒達は次々に机の下に潜っていく。約一名は、既に教室の外への退避を完了させていた。 「二人とも、隠れた方が良いわよ?大変な事になりたくなければ」 現在の状況が判らずに首を傾げる二人に、キュルケの忠告が聞こえて来る。 何が危険なのだろうかと考えながら机の影に隠れた途端、前方から爆音が轟いた。 「ッ!何が起こった!?」 内心でキュルケに感謝し、トウカは一声叫んで机の影から飛び出る。 教卓が"あった"方向を見ると、黒焦げになって倒れているシュヴァルーズと、煤で体中を真っ黒にして立っているルイズが見えた。 「ちょっと失敗したみたいね」 教室の惨状を意に介した風も無く、淡々と呟くルイズ。 その一言がきっかけとなって堰を切ったように流れ出る罵声と中傷。 ようやく彼女の二つ名"ゼロ"と、その二つ名の持つ意味を理解する事となった二人であった。 ただそんな事は些細な事だと言いた気に、カルラはルイズを見て顔を綻ばせながら、トウカにだけ聞こえるような声で呟く。 「あの子……将来大物になりますわね」 「……全くもって同感だな」 前ページつかわれるもの
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1784.html
少し時間はさかのぼり、タルブ戦が開戦する前日。 ロングビルは、学院を飛び出してタルブ村へと向かったシエスタを追いかけていた。 シエスタが馬に乗って魔法学院を出てすぐ、具体的には10分ほど遅れてロングビルは魔法学院を発った。 ロングビルは自身の体に『レビテーション』をかけて馬の負担を減らし、少しでも早く追いつこうしていたのだが、おかしなことにシエスタの姿が見あたらない。 もしかして、私の知らない裏道でもあるのだろうか?と考えはじめたところで、ロングビルは空を飛ぶ竜騎兵に気がついた。 トリスタニアの方角から、ラ・ロシェールに向かってトリステインの軍隊が移動しているのだ。 「道をあけろーっ!」 ロングビルの背後から声が聞こえてきたので、馬を街道の脇に寄せて軍隊の邪魔をしないように努めた。 彼女の騎乗した馬には魔法学院の紋章のついた鞍と鐙(あぶみ)がつけられているので、特に疑われもせず軍隊は通り過ぎていったが、それでも軍隊をみると気分が悪くなる。 軍隊の大部分がロングビルを追い抜いた後、しばらくしてシエスタの乗っていった馬を発見した。 尻に押された焼き印から、魔法学院の厩舎から持ち出されたものだと一目でわかる。 だが、馬の様子は戦争の行く末を暗示するかのように悲惨なものだった。 体の水分をほとんど失い、舌を垂らしてもがいたのが、白目をむいて苦悶の表情で息絶えていた。 蹄は砕け、足は折れ曲がっており、この馬は自身の意志に反して走らされていたのが想像できる。 「これじゃ、どっちが吸血鬼か分からないね」 そう言いながら、ロングビルは倒れた馬に杖を向けてルーンを詠唱し、馬の遺骸を街道の脇へと移動させた。 それからまた馬を走らせ、数時間。 途中で何度も「レビテーション」をかけ、馬の負担を減らしていたが、それでもラ・ロシェールまでの道を一日で駆けていくには無理があった。 換えの馬がある宿場で馬を替えようとしたが、ラ・ロシェールから避難する人間が多かったせいか、元気に走れそうな馬など一頭もいなかった。 それにしても奇妙だ、これだけ走っているのにシエスタに追いつけない。 もしかしたらシエスタを追い抜いてしまったのではないかと考えたが、この街道を通らなければラ・ロシェールにもタルブ村にも行くことはできないはず。 そう考えて、宿場を通りかかる人にシエスタの容姿を説明し、見かけてないか聞いてみることにした。 幾人かに話しかけたところで、背中に大きな包みを背負った男が、その少女に心当たりがあると言い出した。 「ああ、一時間ぐらい前に見かけたよ。すごい勢いでラ・ロシェールに向けて走っていったさ」 「どのあたりで見かけたの?」 「ちょうど中間地点だよ、その後すぐ軍隊とすれ違ったんだから、よく覚えてら」 「…わかったわ、ありがと」 ロングビルは内心の焦りを隠しつつ、礼を言った。 (冗談じゃないよ、ラ・ロシェールまで早馬で二日はかかるんだよ、それを半日で半分も走り抜くだって?) 疲れ気味の馬に乗るのは得策ではない、ロングビルは手綱を握り、馬を歩かせることにした。 ラ・ロシェールとその近辺はすでに戦場と化しているかもしれない。 だが、そんなことよりも恐ろしい考えがロングビルの頭に渦巻いていた。 波紋と吸血鬼、オールド・オスマンは相反する性質を持つと言っていたが、もしかしたら人間からみて異端なものには変わりないのではないだろうか…と。 ロングビルが、シエスタを見つけたのは翌日朝のことだった。 タルブ領の騎士に先導されたタルブ村の人々は、トリスタニアに続く街道に避難していたのだ。 馬を乗り捨ててからここまで、全速力で走ってきたにもかかわらず、シエスタはあの馬のようにやせ細った訳でもなければ足が折れているわけでもなかった。 シエスタの父の話によれば、シエスタは街道に取り残され途方に暮れているタルブ村の一団を見つけ、兄弟達の名を叫びながら近づいてきたらしい。 家族の無事を確認したシエスタは、疲れが限界にきていたのかそのまま眠ってしまった。 翌朝になってロングビルが追いついたのだが、ロングビルの乗ってきた馬が疲弊しきっているのに対し、シエスタは数時間の睡眠で体力を回復していた。 話を聞いているうちに、徐々に砲撃の音が激しくなっていった。 ラ・ロシェールに陣取っているトリステイン軍に向けて、巨大な戦艦から砲撃が加えられているらしい。 皆が恐れおののく中、ロングビルは学院長から寄越される予定の伝書フクロウをじっと待っていた。 戦争は嫌いだが、こちらには地の利がある。 それに魔法学院の秘書などという立場などいくらでも捨てられるのだから、ロングビルは戦場が近くても悠長にものを考えていたのだ。 そして、砲撃がやみ、遠目でも確認できる巨大な竜巻が巻き起こった頃、伝書フクロウがロングビルの元に届いた。 フクロウの持ってきた手紙には、オールド・オスマンからのメッセージが書かれており、ロングビルはそれをシエスタにも伝えた。 『トリステイン敗北の場合はフクロウに返事を持たせず、シエスタをつれて即時魔法学院に逃げ込むべし。勝利の場合はシエスタを傷病兵の治療に当たらせよ。』 トリステイン万歳を叫ぶ声が、風に乗ってロングビルの耳にも届く。 それを聞きながら、ロングビルはシエスタにもメッセージを伝える、するとシエスタは力強く、その役目を果たしますと答えた。 ロングビルは、その様子に心強さではなく、無理して強くなろうとしているような危うさを感た。 そして翌日から、遅れて到着したモンモランシーと共に、シエスタは傷病兵の治療に当たった。 奇跡的にタルブ村は被害を免れ、シエスタの曾祖父が乗ってきたという『竜の羽衣』も無事だった。 タルブ村に近い草原では、練金で作った支柱に布をかぶせた簡易テントが並べられており、今回の戦争で傷ついた者達はそこで治療を受けている。 「ミス・ロングビル、昼食ができましたよ」 「ああ…じゃなかった。 ええ、ありがとうございます。すぐに行きますわ」 疲れているせいか、ついつい地が出てしまいそうになる。 お淑やかな秘書に徹していられればボロを出すこともないが、あの学院長のセクハラに反撃するときはいつも地が出てしまう。 もしかしたら見透かされているのか?と疑問に思いながら、ロングビルはタルブ村の村長宅へと入っていった。 「疲れたー」 情けない声を出して机に突っ伏しているのは、『香水』のモンモランシー。 出されたヨシェナヴェを食べる気力もないようだ。 彼女はシエスタがタルブ村に向かったと聞いて、ひどく心配していたのだ。 タバサのシルフィードに乗せてもらおうかと思ったが、タバサは不在、行方を知ってそうなキュルケもいない。 何かよからぬことでも起こっているのではないかと、不安になったところで、オールド・オスマンから呼び出された。 そしてタルブ村に行きシエスタと共に傷病兵の治療に当たってくれないかとお願いされたのだ。 ロングビルから更に二日遅れて、モンモランシーがタルブ村に到着すると、初めて見る戦場の跡に血の気が引く思いをしたそうだ。 波紋と水系統の治癒を併用することで、劇的に回復効果が高まり、本来なら死ぬような傷を負った人も見事なまでに回復していく。 たった二人で200人ほどの兵士を治癒したという話が、傷病兵と兵士の間で広まっていく。 三日経った今ではもう、魔法学院には優秀な治癒のメイジがいるという噂が、兵士達の間で囁かれていた。 「大丈夫ですか?」 シエスタがモンモランシーを気遣うが、モンモランシーは返事の代わりに手をひらひらさせるばかりで、それが余計にシエスタの不安をあおる。 「あの、疲れているのでしたら食事はやめて、ベッドを準備しますけど」 「……そんな気にしなくていいわよ、寝ても覚めても治癒ばかり。こんなにたくさんの人を治癒したのは初めてだから、精神的に疲れてるのよ……」 そう言ってモンモランシーはため息をついた。 二人は、片方が元平民とは思えないほど仲がよい。 モンモランシーがシエスタを対等な立場の存在だと認めているからだろう。 平民と貴族、その境界線が、ここはとても希薄だった。 その雰囲気と、ヨシェナヴェを味わいながら、ロングビルはウエストウッド村で生活しているティファニア達を思い出していた。 (あの子達は、元気だろうか…) もう少し状勢が落ち着いたら、里帰りでもしようか? ついでにこのヨシェナヴェのレシピを持って帰れば喜んでくれるに違いない。 人里に出られない彼女のために、土産話とか、料理のレシピとかを伝えてあげるべきだろうかと考えていた。 食事を終えて一息ついているところに、村長が駆け込んできた。 アニエスという人がシエスタに用があるとかで、村長はシエスタを連れて外に行ってしまった。 窓から外を見ると、忙しそうに走り回っている村民の中に、軽装鎧にマントを羽織り、腰に剣を下げた女性が見えた。 その女性は平民の身ながら、タルブ村方面に侵入しようとする敵兵を何十人も打ち倒し、メイジに劣らぬ功績を挙げたと噂されている。 それが事実ならば、彼女はおそらく「メイジ殺し」というやつだろう。 鉄砲、罠、火薬……メイジよりも遙かにハングリーな平民の傭兵、その中でもメイジを殺すだけの技術と知恵を持った者はメイジ殺しと呼ばれる。 陽光に輝く金髪を短く切り、青い瞳で周囲を見渡しているその女性の姿は、シエスタではなく何か別の者を探しているようにも見えた。 しばらくしてシエスタが戻ってくると、治療の続きをしてくると言い残して村長の家を出て行ってしまった。 モンモランシーもため息をついていたが、自分で自分の頬をピシャリと叩くと、よしっ!とかけ声をかけてシエスタの後をついて行った。 本来なら魔法学院の生徒であるシエスタとモンモランシーが、傷病兵の治療に当たるということは無い。 だが、オールド・オスマンは『波紋』を治癒の力であると印象づけるために、あえてモンモランシーをここに寄越したのだそうだ。 シエスタにシュヴァリエの爵位を賜るよう申請するには、それなりの功績がなければ必要だと考えた上での行動だった。 その上でもう一つの目的がある、それは、ラ・ヴァリエール家とのパイプを太くするという目的。 オールド・オスマンが調べた話では、ルイズの姉エレオノールは魔法アカデミーで研究を続けているそうだ。 アカデミーで行われている研究は多岐にわたる、時々『アカデミーに送られたら解剖されてしまう』と冗談混じりに噂されるが、それも本当なのではないかと思わせるほどに研究が盛んなのだ。 エレオノールは妹のカトレアを治療するために、アカデミーで研究を続けているらしい。 傷病兵の治療で『波紋』の効果を確かめてから、カリーヌ・デジレの耳に「特殊な治癒能力」の話を届けるのだ。 シエスタの立場を強くしなければ、アカデミーの研究材料として捕らえられてしまう可能性があった。 そのため、オールド・オスマンはシエスタの立場を強くすべく、苦手な(本人談)根回しに奔走しているのだ。 そこまで考えて、ロングビルは椅子から立ち上がり、背伸びをした。 「一応見回りでもさせてもらおうかね」 そう言うと、懐にしまった杖の感触を確かめる。 シエスタを監視し続けるのにも少し疲れたので、気分転換をかねて外を歩くことにした。 ロングビルは上着を羽織ると、食器をひとまとめにして、村長の家を出ていった。 タルブの草原は戦場となり、美しかった草原はほとんどが焼け焦げていた。 だが野草の生命力は強い、何年かすれば元通りの草原が姿を見せてくれるだろうと、シエスタの父から聞いた。 ロングビルは戦場跡を整理する平民の兵士を見つめた。 うち捨てられた剣や鎧、弓矢などを拾い集め、荷車に乗せていく。 ただ、じっとその様子を眺めていた。 『おい』 死体からものをかっぱらうのは趣味ではない、土くれのフーケと呼ばれた盗賊は、貴族の鼻をあかす盗みしかしないのだと心に決めていた。 『おーい』 それに戦場で武器防具を拾っても、マジックアイテムの類などほとんど期待できないと知っている。 この戦いで、高級貴族のほとんどは前線に出ていないだろう。 宝石や貴金属を身につけて死ぬような輩は、この戦場にはいないだろうと考えつつ、ロングビルは辺りを見回した。 『おい、行き遅れ』 「あぁ!?何だってェ?」 ロングビルは、つい、学院長の秘書ではなく、チンピラのように目を細めて声のした方を睨んでしまった。 慌てて顔を笑顔に戻し、取り繕うようにホホホと笑って、ロングビルの後ろで荷車を引いている少年と目があった。 「ボウヤ、いい度胸だね、将来大物になるよ」 こめかみに血管を浮き出させたまま、ロングビルは少年に笑いかける。 「ち、ちがいます、こ、こいつが喋ったんです!」 そう言って少年が指さしたのは、荷車に積まれたくず鉄と剣だった。 「冗談じゃないよ、剣が喋る訳…」 『ひでーな、俺のこと忘れたのかよ』 カチャカチャと鍔を慣らして、剣が喋る。 まさかとは思ったが、そのまさからしい。 ロングビルは荷車に積まれた剣を手に取ると、懐からほんの少しの貨幣を取り出し、少年に渡した。 それを受け取ると、少年は怖いものから逃げるように、荷車を引いてどこかへと走っていってしまった。 『いやー、助かったぜ』 「…あんたさっき何て言った」 『綺麗なお姉さん』 ロングビルは喋る剣…デルフリンガーを地面に放り投げると、とりあえず踏みつけた。 『ちょ、ちょっと待てよ、だってあのまま無視されたらデルフどうすればいいか分かんない伝説困ったなあって』 「いい加減におし!」 オールド・オスマンを蹴ることで、しなやかな足は見た目からは想像できないほど鍛えられていた。 全体重を乗せた踏み蹴りがデルフリンガーの柄に命中し、デルフリンガーは兵士達が踏み固めた大地へとめり込んだ。 「で、アイツはどうしたんだい、ここにはシエスタもいるんだよ」 『それなんだけどよお、俺にもよく分からねえんだ。馬っころが俺を盾にして嬢ちゃんを守ったのは分かるんだが、その後がちょっとなあ』 「どういうこと?」 『嬢ちゃんは、ラ・ロシェールに落下する船を魔法で吹き飛ばしたのさ、その余波で自分まで大怪我しちまった』 「…魔法って、あの爆発かい。怪我の程度は?」 『よく分かんね、でも意識は当分の間失ってるかもしれねえぜ。それと頼みがあるんだけど、俺を王宮まで連れて行ってくれねーかな』 「王宮?冗談じゃないよ…」 ロングビルは辺りを見回した、剣と喋っていて不審がられないかと思ったのだ。 周囲には鉄くずを集めている平民がぽつりぽつりと見える程度で、ロングビルを気にしている人などは居なそうだった。 地面にめり込んだデルフリンガーを持ち上げ、タルブ村へと向けて歩き出す。 「直接届けるのはごめんだよ、他人に任せるけどそれでいいかい?」 『いやー、悪いね』 「あんたも一応命の恩人だしねえ」 ロングビルは、ルイズがどれほどの怪我をしているか分からないが、今はデルフリンガーの言うとおりにした方が良さそうだと判断した。 ルイズと一緒にいたのはこのデルフリンガーなのだ、緊急時にどんな行動をとればいいのか、心得ていることだろう。 ロングビルはてくてくと歩きながら、デルフリンガーを適当な布にくるんで、時期を見て王宮に届けてやろうと考えていた……が。 「そこの女、その剣をどこで拾った?」 ロングビルは、背後からかけられた声にギョっとして振り向いた。 するとそこには、殺気に身を包んだ女騎士、アニエスが、まるで威嚇するかのような目つきでロングビルを睨んでいた。 場面は戻り、ワルドとルイズ。 「うう…おおおおっ……」 ルイズの顔に、ぼたぼたと涙の粒が落ちた。 ワルドの視界はにじみ、ルイズの姿がぼやけて見えていた。 自分の頬に伸ばされたルイズの手を握りしめ、ワルドは泣いた。 「ルイズ、ルイズなのか。君はルイズなのか?」 興奮のためか、歯ががちがちと音を立てて震える。 つい先ほどまで死闘を繰り広げていた「石仮面」は、ルイズと瓜二つだったが、雰囲気はまさに戦士の風格を持っていた。 だが、地面に倒れたまま自分を見上げているこの少女は、石仮面の時とは違い体に埋め込まれた骨も消滅し、ルイズ本来の身長に戻っている。 それどころか、死を臭わせる雰囲気などみじんも感じさせない。 そのギャップがワルドの心を乱していた。 ルイズは死んだはずだが、今、この少女は自分を「ワルド様」と言った。 親同士が決めた許嫁であり、ある意味では公爵家との血筋と地位を欲した政略結婚だと十分に理解していた。 ルイズを異性として意識したことはない、それどころか恋愛対象だとも思っていなかった。 だが、いざルイズの死を聞かされた時には、ワルドの心によく分からない感情が渦巻いた。 子供の頃、ワルドは風のメイジとして優秀だった。 だが年月を重ね、思春期を迎える頃、自分が井の中の蛙だったことを思い知らされた。 ある日母がワルドに告げた、ラ・ヴァリエール家の三女と婚約しなさい、と。 そこで一つ問題が起こった、ワルドは優秀ではあるが、飛び抜けて優秀ではない。 このままではラ・ヴァリエール家から一方的に婚約を破棄されるおそれがあった。 そこでワルドの母は、ワルドを魔法衛士にすべく尽力した、ワルドもまた期待に応えようと必死になって魔法の訓練を積んだ。 その甲斐あってか、ワルドはめきめきと実力を上げ、同世代の貴族からも魔法の腕前では一目置かれるほどになっていた。 ある日のことだ、ワルドは魔法衛士隊の見習いとして、将来の魔法衛士を約束された。 その時の母のうれしそうな顔と、涙をよく覚えている。 だが、その母はなぜか、突然に、何の前触れもなく自殺した。 ワルドは悩んだ、何があったのか、母は殺されたのではないかと思い、何度も母の身辺を調べた。 だが、ワルドに向けて残された一枚の遺書が決定的な証拠となり、自殺として扱われてしまったのだ。 ワルドにはどうしてもそれが納得できなかった、遺書にはワルドに向けて謝るような内容が書かれていたが、謝られるような心当たりなど一切ないのだ。 だから、ワルドは自分が悪かったのではないかと、自分が何かミスをしたのではないかと、ひたすら自分を呪った。 魔法衛士隊の一員となったワルドは、その不満と悩みをごまかすかのように、ひたすら任務に励んだ。 達成困難な任務に挑戦し、いつしかワルドは魔法衛士隊随一の使い手と呼ばれるようになっていた。 どんな栄誉も、ワルドの渇いた心を癒してくれることはなかった。 母の言いつけ通り、誇り高く、そして強くなったワルドだが、王宮の中枢に近づくにつれてその腐敗ぶりが目に入るのだ。 ワルドの領地はトリステインの中でも大きくはない、むしろ小さい部類に入るだろう。 小さいからこそ、ワルドの母は、ワルドを虚飾や汚職に近づけることなく育てることができたのだ。 純粋培養で育てられた花が、王宮の毒に毒され、その心を病ませていくのは時間の問題だった。 そんな時、アルビオンで起こった反乱の噂を耳にした。 レコン・キスタという組織がアルビオン王家に反旗を翻したのだという、しかもその首謀者オリヴァー・クロムウェルは、自らを始祖ブリミルに選ばれた虚無の後継者だと自称している。 虚無の力は、死者をも生き返らせるらしい… ワルドの心が、レコン・キスタへと傾き始めた頃、レコン・キスタからワルドに接触があった。 そして、アンリエッタ姫から、アルビオンのウェールズ皇太子が持っているという手紙の奪還を依頼された時、ワルドはトリステインを裏切る決心をしたのだ。 裏切る決心をして、その情報をレコン・キスタに流したワルドは、王宮に出入りしているトリステイン魔法アカデミーの研究者から、魔法学院で起こった事件の話を聞いた。 アカデミー研究員のエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。 彼女の口から、ルイズが死んだことを聞かされたワルドは、心が砕けていくのを感じた。 「君は何なのだ、君は何なのだ?答えてくれ…」 砕けた足と、折れた肋骨が痛む。 その痛みをこらえつつ、ワルドはルイズの頬に手を伸ばした。 頬をなでられたルイズは嬉しそうにほほえむばかりで、何も答えてはくれなかった。 突然、ガササササと音がした。 「!」 ワルドが音のした方を向くと、そこには豚のような鼻を持った亜人、すなわちオーク鬼が群れをなして、ワルドとルイズの二人をみていた。 「くっ」 ワルドはまさに血の気が引く思いだった、左手の義手は砕け、両足の骨も折れ、肋骨は砕かれている。 杖は砕かれどこかに落ち、予備の杖も落下のショックでどこかに飛んでいってしまった。 杖のないメイジは平民と同じ、しかもほとんど動けないような怪我をしているのだ。 ワルドは咄嗟にルイズを抱きしめると、芋虫のように体を動かして、なんとか逃げようとした。 だが、反対側にもオーク鬼が待ちかまえており、逃げ道は無いのだといやでも理解できた。 肘から先が失われた左腕でルイズを抱きかかえ、右手で地面に落ちている石ころを握りしめる。 『なぜ、私はこんなことをしているのだろう?』 ふとそんな疑問が頭をよぎる。 一度ならず、二度も殺そうとした「石仮面」。 それを守ろうとしている、あまりにも滑稽だなと、ワルドは自嘲した。 「フゴォッ」 一匹のオーク鬼がワルドの後ろから近づくと、無造作にワルドの肩をつかんだ。 そのまま軽々と腕を振ると、ワルドの体はまるで紙切れのように宙を舞い、そばに立つ木へと衝突した。 「ぐ はっ!」 体を打ち付けられた衝撃で呼吸が乱れ、ゲホゲホと血が混じった咳が出てきた。 痛みで朦朧とする意識の中、ルイズの姿を探す。 オーク鬼はルイズの髪の毛をつかみ、ルイズを持ち上げて、舐めるようにその体を吟味しているようだった。 ゴフゴフと鼻息をたてつつ、人間にも理解できる下卑た笑みを浮かべ、オーク鬼はルイズの首に手をかけた。 「る…るい…ず…………ルイズーっ!」 ワルドの叫びもむなしく、オーク鬼の手に力がこもる。 そしてルイズの首はめきめきと音を立てて、引きちぎられた。 バキバキと骨の砕ける音と、心臓の鼓動にあわせて頸動脈から吹き出す血。 無造作に投げられ、地面に転がるルイズの首。 「ーーーーーーー!!!!」 ワルドの叫びは声にならなかった。 それをあざ笑うかのように、四匹のオーク鬼は、フゴフゴと鼻息をならしていた。 もう一匹のオーク鬼がルイズの腕に手をかけ、引きちぎろうとした時、異変が起こった。 オーク鬼たちはその異変に気づいていなかった。 ただ、離れたところから、まるで虫けらのように地面に放り投げられたワルドだけが、その一部始終を見ていたのだ。 首が、浮いている。 投げ捨てられたルイズの首が、髪の毛と血管を触手のように伸ばして、宙に浮いている。 ワルドはその光景に恐れを抱かなかった。 むしろ、神々しいとさえ思えた。 ルイズの首に背を向けていたオーク鬼が、ブギッ、と短く悲鳴を上げた。 背中にはルイズの首からのびた血管が突き立って、びくんびくんと震えながら血を吸っているようだった。 隣にいたもう一匹のオーク鬼がその異変に気づくと、手に持っていた棍棒をルイズの首に振り下ろそうとした。 だが、その腕はルイズの首にではなく、地面へと落ちた。 ルイズの髪の毛がオーク鬼の腕にからみつき、文字通り握りつぶしたのだ。 突然のことに反応できず、失った腕を不思議そうに見つめていたオーク鬼だったが、次の瞬間には顔面に突き立った幾本もの髪の毛に血を吸われ、瞬く間に干からびていった。 「ビギイイ!」 「ゴフ、フゴオッ!」 残った二匹のオークが、ルイズの体から手を離した。 その瞬間、首のないルイズの体がびくんと跳ね起きて、オーク鬼の心臓を右手で突き刺した。 ルイズの頭からのびた血管が、体の首へと突き刺さり、二つに分かれていた体が一つになっていく。 「ビキイイイイイイ!」 悲鳴を上げて逃げようとしたオーク鬼が、背中を向けた瞬間、ルイズの腕がオーク鬼の背中に突き刺さった。 動きの止まったオーク鬼の体から、勢いよく背骨を引き抜きつつ、もう片方の手で血を吸っていく。 いつの間にか、ルイズの首は完全に再生し、傷跡一つ残されていなかった。 あたりにまき散らされたオーク鬼の血、肉片、干からびた体。 ワルドはただ、呆然とそれを見ていた。 空を見上げていたルイズが、髪の毛をかき上げて背中に流すと、全裸のまま堂々とワルドに近づいた。 地面にはいつくばり、ルイズを見上げているワルド。 見下ろすもの、見上げるものが逆になっていたが、ワルドは不思議と恐れを感じなかった。 ルイズはワルドの体を仰向けにすると、脇腹に指を当てて、ずぶりと突き刺した。 「ぐ…」 体の中に何かが侵入する違和感に顔をしかめたが、ワルドはそれ以上何も言わず、ルイズにされるがままになっていた。 指が引き抜かれた時には、肋骨から感じられていた痛みが消えていた。 次にワルドの足に指を差し込む、右足は単純骨折だったが、左足は複雑骨折になっており、一部は皮膚を突き破っていた。 慎重に、やり直しのきかないパズルを組み立てるように、骨の位置を調節していく。 しばらくすると、痛みこそまだ残っているものの、無理をすれば立てるぐらいにワルドの足は回復していた。 内出血が酷いため、ワルドの上着を脱がせてそれを破り、足に添えた添え木と一緒に巻き付けた。 ワルドはずっと黙ってそれを受けていた。 一通りの処置が終わると、ルイズは吸血馬の遺骸…といっても風化して砂になった骨だが、その中からかろうじて原形をとどめている短い円筒形の骨を拾い集めた。 その骨を手首と足首に差し込むと、ルイズの体は骨の分だけ伸びる。 さきほどより身長が5サントほど高くなっただろうかと、ルイズの姿を見ながらワルドが考えた。 「ここは戦場に近すぎるわ」 そう言ってラ・ロシェール方面の空を見る。 グリフォンや竜がラ・ロシェールの高台から飛び立ち、周囲を旋回しつつ警戒しているのがわかる。 ルイズは自分より背の高いワルドを背負い、森の奥へと足を進めていった。 ルイズの背に揺られながら、ワルドがつぶやく。 「なぜだい?」 その一言には、ワルドを殺さなかったこと、石仮面と呼ばれている傭兵の存在、そして吸血鬼化した理由など、思いつく限りのすべての疑問が込められていた。 それが何となく感じられたから、ルイズは短く、一言だけ答えた。 「運命が残酷なのは、貴方だけじゃないわ」 背負われているワルドからは、ルイズの表情は見えない。 ルイズは歩きながら、ほんの少しだけ、涙を流していた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2484.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ ここはどこだろう。 トリステイン魔法学院じゃないみたいだけど、そうだ、私はタルブの村に来たはず。 ……タルブの村ってこんな景色だったっけ? 昨日散歩したはずなんだけど。 何だか建物の雰囲気が違う。屋根が藁でできてるなんて、変なの。 でも、何でだろう。懐かしい。 あ、誰か来た。小さな女の子。胸に白い猫を抱いている。 「おと~さん!」 え? 女の子が駆け寄ってきて、獣の耳と尻尾が生えているのが解った。 獣の耳と尻尾、オールド・オスマンの恩人がそういう種の亜人だ。 そういえば着ている服もハクオロに似てる。前にもこんな夢を見たけど……。 この女の子は誰だろう? 「アルルゥ」 私は低い男の声で女の子の名前を呼び、大きな手のひらで女の子の黒い髪を撫でた。 「ムックルの面倒はちゃんと見ているようだな。偉いぞ」 「んふ~」 可愛い子。本当の娘じゃない、でも本当の娘のように思ってる。 この人は優しい人。大地のように広大な包容力を持っている。 この人は誰だろう? 「ハクオロ、お疲れ様。それからアンタもね」 「カァちゃん、俺はついでかよ」 「うちの宿六なんかついでで十分だよ」 アルルゥの後ろから獣の耳を生やした女性が、 私の後ろからヒゲを生やしたおじさんが出てきた。 えっと、今この女の人、ハクオロって言ったけど……どこにハクオロがいるの? 「まぁまぁ、オヤジさんも今日は真面目に働いてくれましたし」 「アンちゃん、それじゃまるで俺が普段サボってるみてぇじゃねぇか」 「違うのかい? こないだだって、昼間っから酒を飲んで」 ははは、とみんなが笑う。とても平和で、心安らぐ光景。 ハクオロはどこ? 「さぁアルルゥ。早く帰ろう、エルルゥとトゥスクルさんが夕飯を用意して待っている」 「うん!」 そう言って私はアルルゥと一緒に歩き出した。 トゥス……クル……? その名前をどこで誰から聞いたかを思い出すより早く、視界が黒に染まる。 待って。もっと見せて。これは何? 教えて! 火傷しそうなほどの熱さが胸を焦がした。 第11話 永遠の約束 飛び起きたルイズは、荒い呼吸のまま胸を押さえた。 熱い、痛い、苦しい。激しい動悸が、目覚めたばかりの意識を遠のかせる。 「うっ、く……何なのよいったい。まさか変な病気じゃ……ちい姉様……」 ゆっくりと胸の痛みがおさまっていくのを待ったルイズは、自分が汗をかいてる事に気づく。 朝だけど浴場に行こうか、そう思ってから、ここがシエスタの家だと思い出した。 平民の家にお風呂はあるのだろうか? 昨日見た限りそういう場所は無かった。 仕方ない。シエスタに濡れタオルでも用意させて身体を拭こう。着替えるのはそれからだ。 寝巻きのままシエスタのベッドから降りたルイズは、 隣のベッドで寝巻きをはだけさせ大口を開けて眠るキュルケの姿を見た。 男が見ていないところではずいぶんとだらしないらしい。 そういえばシエスタは? 昨晩同じベッドで眠ったはず、姿が見えない。 もう起きているのだろうか。ルイズはシエスタの部屋を出た。 寝汗をかいたからと濡れタオルを用意してもらったルイズがシエスタの部屋に戻り、 しばらくしてから着替えを終えたルイズがキュルケと一緒に居間へやって来た。 すでにシエスタが作った料理がテーブルに並んでおり、 ハクオロもオヤジさんもすでに席に着いていた。 平民らしい質素な食事ながらも、味は十分おいしくルイズもキュルケも不満は無い。 朝食を終えて、ハクオロは突然意味不明な事を言い出した。 「シエスタ。食事の用意で灰や骨が出ていたら、それを集めてくれないか? できれば量があるといい。それから……そうだな、この辺りに貝殻はあるか?」 「は……? えっと、貝殻は無いですけど、灰や骨ならまだ捨ててない分が」 「そうか、それじゃ集めておいてくれ。それからキュルケ、力を借りたい」 「あら? 何かしら」 キュルケへの頼みは錬金だった。 その辺の石をに硝石に変えて欲しいと頼んだのだが、 火のメイジであるキュルケは錬金が得意という訳ではなく作業はやや難航した。 ルイズは手伝える事がなかったので、シエスタの部屋でのんびりする。 ベッドに寝転がって天井を見ながら、夢を思い返していた。 「やけにはっきり覚えてるのよねぇ……」 変な夢だった。多分、自分は夢の中でハクオロになっていたんだろう。 ハクオロになった自分が、獣の耳と尻尾の亜人達といた。 「……使い魔は主人の目となる……事もある……」 まさかあれは、ハクオロが見ていた夢だったのだろうか? だとしたら彼は記憶を取り戻しつつある? 「……まさかね」 否定したい気持ちがふくれ上がってから、なぜ、と思う。 記憶が戻るなら、戻ればいい。 その方がいい。 その方が、いいはずなのに。 「何だか嫌な気持ち」 目を閉じて、開いたら、いつの間にかお昼になっていた。 変な夢で目が覚めたから寝不足だったのだろうか? ルイズは昼食に向かう。 昼食後、ハクオロはシエスタとオヤジさんを連れて畑に向かった。 やる事のないルイズは、自習のため持って来ていた本でも読もうかと思ったが、 キュルケがハクオロについていくと言い出したので仕方なく自分も同行した。 耕された畑からする土の匂いに、ハクオロはつい微笑を漏らす。 柔らかい土はオヤジさんが丹精込めてくわを振るったのだと解る。 聞けば、この新しい畑を作るための作業で腰を痛めてしまったそうな。 「タルブは年々不作になってきていてな。そこで畑を広げようって話になったんだ」 畑の側の土手に腰を下ろしているオヤジさんのすぐ前で、 ハクオロがシエスタと一緒に畑の土をいじっている。 キュルケは農作業など間近で見るのは初めてで、ハクオロの一挙手一投足を見守っている。 ルイズはつまらなそう、というより今朝の夢を思い返していた。 オヤジさんはハクオロの背中を見つめながら溜め息をつく。 「しかし日の光も水もたっぷりやってるんだが、なぜか作物の育ちが悪くてなー」 「いえ、これは土が枯れ細っているのです。芽がしなびているのはそのせいだ。 シエスタ、私がさっき作った物を」 シエスタに持ってきてもらったかごを受け取ったハクオロは、 その中から灰色の粉末を手のひらですくうと畑の中に振り撒いた。 「あの、ハクオロさん。それってさっきすり潰していた物ですよね?」 「ああ」 シエスタの問いを肯定すると、キュルケも興味を持ったのか畑に入ってきた。 「これって、アレよね。灰と、骨と、石を砕いて混ぜてたやつ。何なの?」 「植物が生育するには色々と必要な成分があって、 特に窒素、リン、カリウムの補充は必要不可欠なんだ。 他にもマグネシウム、硫黄、カルシウム、マンガン、亜鉛……」 「……は?」 意味不明の単語に戸惑うキュルケ達。農業を生業とするオヤジさんもさっぱりのようだ。 「……つまりこれは、土に栄養を与える薬のようなものだ」 「でもそれ、灰と骨と石を混ぜただけでしょ? そんな秘薬、聞いた事ないわ」 「メイジの行う調合とは違うからな。これは化学……そう、化学肥料だ」 「カガク?」 やっぱり理解できてないキュルケ達に困り果てるハクオロだが、意外なところから助け舟が。 「ようするに、ハクオロの国の魔法みたいなものって事でしょ」 ルイズだった。 「ハクオロの故郷は、魔法の在り方とかがハルケギニアとは違うみたいだから」 「そうなの? っていうか、ハルケギニアとは違うって……まさか東方?」 「多分、東方より遠い国よ。ケナシコウルペとかオンカミヤムカイあたりじゃないの?」 「ケナ……?」 ルイズからも意味不明の単語が出てきてキュルケとシエスタの混乱は加速する。 が、オヤジさんはその単語の奇妙な響きに目を細めていた。 一方ハクオロも、ルイズの言に眉根を寄せる。 「オンカミヤムカイ……? ルイズ、その言葉をどこで?」 言われて、ルイズは思い出す。確か今日の夢じゃなく、タルブに来る前に見た夢だ。 「……違ったっけ? オンカミ何とかっていうのをオールド・オスマンが言ってたじゃない」 「それはオンカミヤリューだ。しかし……」 「何よ?」 「……何でもない」 もしルイズがハクオロの夢を覗き見ていたのだとしたら、 当然あの夢はハクオロが見ていた夢であって、 鉄扇の女との会話やアルルゥという少女の夢も覚えているだろう。 夢を盗み見てしまっているというのは、秘密にした方がいいとルイズは考えた。 夢の事をハクオロが話したいなら自分から話してくるだろうし、 話したくないなら「実は夢を盗み見てました」なんて言って気を悪くさせたくない。 それに正直に話したとて、夢を見なくする方法なんて解らないから対策もできない。 余計な心労を与えるのもどうかと思う、という考えは言い訳だろうか。 しばし、視線を交じらせていたルイズとハクオロだが、 ふいにハクオロがあくびをして視線をそらす。 「ハクオロさん、昨夜は眠れませんでしたか?」 「いや、ちょっと奇妙な夢を見て、そのせいかな。 ともかく、こうして化学肥料……薬を撒けば、作物の育ちがよくなりますよ」 「ハクオロさんって博識なんですね。そんなすごい薬の作り方を知ってるなんて」 どうやらシエスタはハクオロの言をすっかり信じているようだ。 他の者は半信半疑といったところか。 ルイズもハクオロを庇護したものの、実のところ化学肥料とやらはあまり信じてない。 とはいえ、本当に効果があったとしてもせいぜい感心する程度で驚きはすまいが。 「ところで、聞いた話じゃその薬、材料も調合も簡単なようだな」 ハクオロが畑に肥料を撒く姿を見ながら、オヤジさんは思いついたように言った。 肥料を撒く手を止めてハクオロは振り返る。 「ええ。粉になるまですり潰して、後は混ぜるだけですから」 「それな、村のみんなにも教えてやってくれねぇか?」 「村のみんなに、ですか?」 「ああそうだ。その薬がどれだけ効果があるかは知らねぇが、何もしないよりはいいだろう。 不作で困ってんのはうちだけじゃないからな、村全体が潤うに越した事はねぇ」 「そうですね。後で村長さんに人を集めてもらって、その場で話しましょう」 オヤジさんの提案を受け入れたハクオロに、今度はキュルケがすり寄る。 「ねえハクオロ。その薬の製法、うちの実家に教えてもいいかしら?」 「うん? 別に構わないが……」 「うふふ。これでまたツェルプストー家の財が増えるわね」 「……民の収穫が増えたからといって、税を増やすというのは感心しないな」 「全体の収穫量が増えればそれに見合った分だけ税は増すでしょうけど、 あくまで見合った分しか要求しないわよ。領主も領民も儲けてこそ豊かになるもの」 その解答を聞きハクオロは満足気にうなずいた。 奔放に見えてキュルケはしっかりとした教育を受けているらしい。 どうも貴族としての在り方が他の生徒達と違う、 理由は彼女がゲルマニアからの留学生という点にあるのかもしれない。 オヤジさんの畑に化学肥料を撒き終えたハクオロは、さっそく村長に人を集めてもらい、 農作業を生業とする村人達に化学肥料の作り方と使い方を教えた。 ルイズやキュルケと違い、彼等はシエスタ同様化学肥料の効果をあっさり信じる。 最たる理由は貴族であるルイズとキュルケのお墨付きがあったからだが、 その二人が化学肥料に対して半信半疑である事実を知られたらどうなるやら。 化学肥料のお礼にと村長はまたもや宴を提案したが、またもや断るハクオロ。 シエスタ宅でのんびり彼女の作った家庭料理を味わった後の一服で平和な雑談をする。 「ほう、ゲルマニアでは平民でも貴族になれるのか」 「ようするに実力主義って事。稼げないメイジより稼げる平民! ハクオロがゲルマニアに来ればすぐ貴族になれるわね。 そのための軍資金ならツェルプストー家が金利ゼロで融資するわよ」 「ちょっとキュルケ! ハクオロを野蛮なゲルマニアに引き込もうとしないでよ!」 ルイズがテーブルを叩き、カップの中の紅茶が揺れた。 葉はもちろん安物だったが、キュルケは構わず優雅に艶やかな唇で飲む。 「んー、おいし。ねえシエスタ、魔法学院のメイドをやめてツェルプストー家に来ない? 私専属のメイドにして上げてもよくってよ」 「え、ええっ? そ、それは、あの、とても光栄です。でも、私はトリステインに……」 「ハクオロとシエスタ、両方ツェルプストーに連れ帰ったら楽しくなりそうねえ」 「……ハクオロさんも……」 シエスタの目の色が変わるのを見て焦ったハクオロが慌てて口を開く。 「いや、私はキュルケの所に行くつもりは無いぞ。 平民でも出世できるゲルマニアの体制は好ましく思うが、私はルイズの使い魔だ」 メイジにとって使い魔は一心同体であり、その使い魔に逃げられたとあっては、 ヴァリエール公爵家のルイズの身分と誇りに一生物の傷をつけてしまう。 元の國に帰る手段が解るまで、あるいは完全に記憶を取り戻すまでは、 ルイズの使い魔で在り続けようと思っているのだ。 元の國に帰る手段が見つかったら? 記憶をすべて思い出したら? (そうなったら、どうするかな) ふいに、目の前で微笑ましい光景を繰り広げている少女達を遠くに感じるハクオロ。 家族、父娘、使い魔、契約者、様々な単語が脳裏をよぎったが結局自分は異邦人なのだ。 翌日、ハクオロは畑仕事を手早くすませると近隣の山を調べに行き、昼に帰ってきた。 「鉄を造れば売れるんじゃないか」 ここでようやくハクオロは知ったのだが、 キュルケによると平民の鍛冶師もゲルマニアやアルビオンでは珍しくないらしい。 貴族主義のトリステインでは平民が貴族の仕事に手を出すなどあってはならない事で、 その分技術力や生産力が遅れて国力を弱めているとか。 そんな訳でトリステインで平民が鉄を作っても品質の信用などまったくされず、 実際売れたとしても相当値切られるのは確実だそうだ。 「トリステインでの製鉄業は基盤から問題があるという事か……」 「でもハクオロったら、製鉄の方法を知ってるなんて、本当に博識なのねー」 さらに翌日、オヤジさんの腰が一人で歩ける程度に回復した。 まだ農作業は難しいがシエスタと一緒にリハビリの散歩に出かけたりする。 シエスタも久々に父親と穏やかな時間を持てて嬉しがっていた。 その間にハクオロは村の地図と睨めっこをして、 新しい水路を引く案を作成すると村長の元へ交渉に行った。 人手も時間もかかるが、完成すれば作業効率は抜群に上がる。 すっかり感心した村長は、宴が駄目ならせめてこれをとブドウ酒を渡してきた。 オヤジさんと一杯やるのも悪くないと思ったハクオロはそれを受け取り、 その晩はシエスタの家で酒盛りが行われた。 タルブの村で作ったというそのワインの味にルイズもキュルケも酔いしれ、 今度タルブからワインを買い取ろうかという話も出てきた。 シエスタも学院への奉公で貯めたお金でブドウ畑を買ってワイン作りをしたいと、 珍しく自分の夢を饒舌に語ってみせた。素面で。 ハクオロとキュルケがシエスタにもワインを勧めたのだが、 オヤジさんが断固阻止と瞳をギラつかせたのだ。聞けば酒癖が相当悪いそうな。 そんなこんなで楽しく忙しく充実した日々がすぎていく。 そしてタバサが迎えに来る虚無の曜日になって、オヤジさんはすっかり元気になった。 朝は畑仕事に精を出し、昼には誰よりも多く昼ご飯を食べた。 シエスタの手料理を当分食べられなくなるから、という理由もあっただろう。 ともかくオヤジさん完全復活である。 そんなオヤジさんが、危険だから入ってはいけないという森へ入っていくのを見つけたのは、 まさに偶然だった。水路の確認をしていたハクオロと、同伴していたシエスタは、 声をかけようかどうか迷った後、こっそりついていってみる事に。 ちなみにルイズは前日好奇心から畑仕事を手伝ってみて、筋肉痛を起こし眠っている。 キュルケはその看病と言いつつ同室で惰眠をむさぼってたりする。 「お父さん、どこに行くんだろう。腰が治ったばかりだっていうのに……。 それに、森は危ないから絶対に入るなって、いつも口を酸っぱくして言っているんです」 それなのに森に入っていくオヤジさん。 随分と慣れているらしく、木の根や岩などを物ともせず進んで行った。 置いてかれまいと慌てて、しかし見つからないようにと追跡するハクオロ達。 見失うのは時間の問題だった。そして見失った。 「……どうしましょう?」 「帰り道は覚えているし、もう少し奥に入ってみても大丈夫だと思うが」 しばらく森を歩いて、二人はオヤジさんの声に気づいた。 誰かと話しているような口調だが、聞こえる声はオヤジさんのものだけだ。 ゆっくりこっそり、近づいてみる。 「……でな、そのハクオロって奴がなかなかしっかりした男でな。 シエスタも随分とご執心みたいでよぉ、俺は嬉しいやらさみしいやら……ダッハッハッ」 そして声の方へ声の方へと向かっていくと、黒い岩の前に立つオヤジさんの姿があった。 誰に対して、何に対して話しているんだろう、と二人は目を凝らす。 オヤジさんの前にある黒い岩、金属のように見える、というか、人工物に見える。 あれは何だろう。 木陰からちょっと身を乗り出して、それの全貌が見えて、シエスタは小さな悲鳴を上げた。 「キャッ!?」 オヤジさんが振り向く。呆然とそれを見上げているシエスタと、ハクオロに気づく。 「……何してんだ、おめぇ等」 「ご、ごめんなさいお父さん。でも、あの、あ……」 シエスタは父と、父の話しかけていた物を交互に見て、口ごもってしまった。 おろおろと視線を泳がせ、助けを請うようにハクオロを見る。 ハクオロは見つかってしまったからか、堂々とオヤジさんの前に姿を現す。 そして、オヤジさんが話していたそれに近づき、その表面、足に、手を当てる。 「おい、こいつに触ると危な……」 「アヴ・カムゥ」 ハクオロは、それの名を口にした。 「……ナニィッ?」 「なぜ、アヴ・カムゥがこの國に」 ――アヴ・カムゥ? 変な名前。これは、クスカミの腕輪のように、ハクオロの世界の物? 「やいハクオロ。おめぇ、記憶喪失の癖にアヴ・カムゥの名前を知ってるのか」 オヤジさんは自然にアブ・カムゥという単語を口にした。 まるで以前からその名前を知っていたような口振りで。 「……お父さん? ハクオロさん? いったい……」 困惑気味のシエスタが、恐る恐る二人とアヴ・カムゥに近づく。 そして、シエスタは間近で見るアヴ・カムゥの迫力に息を呑んだ。 それは巨人だった。 黒い鉄の鎧を着た巨人が、木々の間に膝をついている。 その大きさは十数メイルほどにも及び、明らかに『人が着る鎧』ではないと理解できる。 が、ならばこの鎧はいったい何だというのか。 「これは、眷属たるシャクコポル族にのみ与え、た、られた、力。 クンネカムンがラルマニオヌを滅ぼす際に、我等が再び争った時に使われていた物。 という事は、クスカミの腕輪同様、アヴ・カムゥもこの地に流れ着いていたか」 「……ハクオロさん?」 人が変わったように、淡々と言葉をつむぐハクオロに、シエスタは不安を覚えた。 今、手を伸ばせば届く距離にいる彼に、どれだけ手を伸ばしても届かないようにさえ思える。 ――知っている。そう、私は知っている……でも、こいつは、誰? 「しかし、そうなると、如何にしてこのような場所にアヴ・カムゥを隠したのか。 平民の力では到底動かせるものではない。 かといってメイジがこれを見れば、興味を持ち調べようとするに違いない。 となると眷属……シャクコポルの者が乗っていたと考えるのが妥当か。 子は母の血を継ぐ。なるほど、この娘に耳が無い真の理由……納得がいく」 「え? えっ? 私の、耳? ハクオロさん、いったい何を……」 不安が、恐怖に変わり、震えそうになった肩に父の大きな手が置かれた。 「まあ、そうだな、シエスタが子供を作る前には教えなきゃならんかった事だ。 ハクオロも色々と知ってるみてぇだし、今ここで説明すべきかもなぁ」 「聞かせてもらおうか、アブ・カムゥがなぜここにあるか、そしてシエスタの正体を」 ――正体? 平民のメイドの? この巨人アヴ・カムゥと何か関係が? 時は二十年近く前にさかのぼる。 若く働き盛りだったオヤジさんは、ある日、とある衝動に駆られた。 「ハチミツ食いてぇ」 が、甘い物のお値段は高い。そこで彼は森へ行き、自分で蜂の巣を取ろうとした。 遭難した。 「……ここは、どこでぇ」 夜の森。右も左も解らず途方に暮れたオヤジさんは、とりあえず焚き火をした。 そうしたらその灯りに引かれてやってきたのが……黒い鋼の巨人。 オヤジさんはしばし呆然とそれを見上げ、慌てて駆け出した。 『あっ! ま、待ってぇー! 置いてかないでー!』 鎧の中から聞こえるくぐもった、けれど女の子のものと解る声。 余計に驚いたオヤジさんが立ち止まると、巨人は彼を掴まえようと手を伸ばした。 バキベキボキ。指が、木に触れて、折れる。 「ぎゃー」 下敷きになったオヤジさん。もう逃げられない。 取って食われるんじゃないかと怯えるオヤジさんだったが、 巨人は「わー! ごごご、ごめんなさいごめんなさーい!」と、 大慌てで倒木を持ち上げてオヤジさんを助けた。 そして。 『あの……つかぬ事をお聞きしますが、ここ、どこですか? それから……えっと……あなたは誰ですか? ここはどこの國ですか?』 「こ、ここぁトリステイン王国、タルブの村の近くにある森ん中だ」 『と、とりすてーん皇國? じゃあ、クンネカムンはどっちですか?』 「くんくんかむん? 何でぇ、そりゃ」 『えー! クンネカムンを知らないんですか!? ま、まあ弱小國だから仕方ないですけど……じゃあ、ラルマニオヌは?』 「らるるにおん? だから知らねぇってそんな国」 『……うわーん! おとーさーん! おかーさーん! ここどこですかー! ゲンジマル様は何処におられますかー! うぇえぇぇぇん!』 巨人との話は全然先が見えず、双方困り果ててしまった。 とりあえずデカいナリの割には小心者のようなので安心したオヤジさんは、 弁当にと持ってきていた果物を一緒に食べないかと相談した。 すると、巨人は恐る恐る訊ねてくる。 『あ、あの……シャクコポル族ってどう思いますか?』 「は? しゃくれあご族? 知らんなー」 『じゃあギリヤギナは? エヴェンクルガは? オンカミヤリューは?』 「ぎりぎりやぎ、えべんるが、おんかみゅーりゅー? 全部知らんぞ」 『じゃあ、私の事、いじめませんよね?』 「いじめる訳ねーだろ」 安心した巨人はその場に腰を下ろし、そして、その背中から人が出てきた。 「ふーっ。外の空気はおいしいです。もうお腹ペコペコー」 オヤジさんとそう違いのない歳の彼女は、 軽い足取りで焚き火の前まで降りてきた。そして顔がはっきり解るようになる。 パッチリとした大きな目に、黒く艶やかな髪、白い肌。 奇妙な衣装の上からでも解る大きな胸。でも、それらはとても些細な事で。 耳。 白い耳が横にピョーンと伸びてます。 「え、え、え……」 「ほえ?」 「エルフどぁぁぁぁぁぁあっ!?」 腰を抜かして尻餅をついたオヤジさんは、完全にパニックに陥ってしまった。 きっと『しゃここぽる』とか『ぎりやぎやぎ』とかはエルフが使う言葉で、 そしてこのエルフは焚き火を使って自分を焼いて食べちゃったりしつつ、 この鉄の巨人で村に下りていって子供をさらって身代金要求とかするのだ。 「そんな事しません!」 混乱のあまり考えを口にしていたオヤジさんをの言葉を否定する彼女。 「だいたいエルフって何ですか? 私はシャクコポル族です!」 不幸中の幸いというか、オヤジさんが腰を抜かしたため、 その場でじっくりたっぷり時間をかけて誤解を解く事ができた。 彼女はクンネカムンという小國の村に住む農民の娘らしい。 ラルマニオヌという大國の弾圧を受けひもじい思いをしていたとか。 「く、クンネカムンとラルマニオヌが国の名前って事は解ったが、 そんな国聞いた事ねぇぞ。もしかして東方の国か?」 「多分そうだと思います。私は國の名前は詳しくありませんが、 あなたの着ている服なんて初めて見るとても奇妙な物ですから。 それに耳も尻尾も無いなんて……すっごく変です」 「……亜人か? お前?」 「違います。亜人って何ですか、私はシャクコポル族です。 シャクコポル族はクンネカムンに住んでいる弱い民です。 ラルマニオヌを納めるギリヤギナの弾圧を受けていて、 あのアヴ・カムゥに乗った兵士さんが村を助けにきてくれたんです。 でも村は私を残して全滅しちゃって……。 兵士さんは私を助けるためにアヴ・カムゥを降りた隙をつかれて、 半死半生だったギリヤギナの兵の放った弓に倒れてしまいました。 私は、アヴ・カムゥの遺言を受けたんです。 このアヴ・カムゥをクンネカムンの皇か兵か、 ゲンジマルというエヴェンクルガのもののふに届けて欲しいと」 ――ゲンジマルという名前を聞いて『彼』の胸がざわめくのを感じた。 しかし彼女はその遺言を果たせずに終わった。 彼女はアヴ・カムゥに乗って届けに行こうとしたが、 村から出た事がないため道に迷ってしまいうろうろしていたら夜になり、 気づいたら月がふたつに増えていて、木々も見慣れぬ物になっていて、 お腹は空いたし身内はもういないし悲しくなってくるし。 そんな時に、オヤジさんの焚き火に気づいたそうだ。 それから遭難者二人は、三日ほど森ですごした。 協力して食べ物を探し、一緒に食べ、他愛の無い話をしたり。 気がついたら、恋に落ちていた。 アヴ・カムゥの手に乗って木の上に出してもらうなどして、 オヤジさんはようやくタルブの村を発見した。 彼女は喜んだが、オヤジさんは悩んだ。 彼女を置いては行けない。 彼女を連れても行けない。 この白く長い耳を見れば、みんなエルフだと思う。 何とかエルフでないと誤解を解いても、亜人を受け入れる村など無い。 かといって森の中で彼女を匿うのも困難だ。 だから、彼女が「耳を落とそう」と提案した時、心から迷った。 耳を落とせば人のフリができる、一緒に暮らす事ができる。 だが、誰が耳を落とす? 決まっている、自分だ。 恐怖に震えながらも、一生懸命笑顔を作って提案してきた彼女に、 自ら耳を落とすなどという恐ろしい行いをさせられはしない。 だから、落とすなら、それは自分の役目。 オヤジさんは、山狩りように持ってきていた鉈を火であぶり、 彼女は、悲鳴を上げないよう手頃な大きさの枝を咥えて、 やけに双月が明るいのが印象的だった夜、耳を切り落とした。 彼女を連れ帰ったオヤジさんは、遭難中に彼女と出会ったと村人に紹介した。 どこの村の者か、名前は何というのか、すべて誤魔化すため、 彼女には記憶喪失という事になってもらって。 夫婦となった二人は、後年、一人の女児を授かる。 だが。 「子供は母親の血を継ぐから、生まれてくる子もきっとシャクコポル……」 危惧していた彼女は産婆を断り、夫と二人で出産に臨んだ。 そして生まれたばかりの女児の、白く長い耳を、オヤジさんは隠した。 布で包んで、絶対に耳が見えないようにして、 村の女達が赤子の世話を手伝おうと言ってきても断って。 そして、産婆無しで子を産んだ彼女は、産後の肥立ちが悪く弱っていった。 シエスタと名づけられた女児がある程度元気に育った頃、 オヤジさんは自らの手で再び、妻にそうしたように、愛娘の耳を削いだ。 その時のシエスタは、かつてないほど泣き喚き、熱も出して大騒ぎになった。 シエスタの体調が落ち着くとほぼ同時に、彼女は息を引き取った。 「子供は母親の血を継ぐ。シエスタもいつかお嫁さんになる日がくる。 ……この子が幸せになれるように、後は、お願いね」 それが最期の言葉。 「そんな事が……お母さんが、亜人だったなんて……」 ショックを隠せない様子のシエスタを、オヤジさんは優しく抱きしめた。 ハクオロは無言でオヤジさんの昔語りを聞いていて、視線はアヴ・カムゥに向けている。 「おめぇの服を見た時、すぐ解ったぜ。あいつと同じ國から来た奴だってな。 けど仮面はともかく、耳は俺達と同じだし、尻尾も見当たらねぇ。 だからただ同じ服を着ただけの、関係ない奴かとも思ったが、 このアヴ・カムゥの名前を知ってるんなら、やっぱり同じ國から来たんだなぁ」 「……確かにかつて、クンネカムンについていた時もある。 しかし、シャクコポルの娘から聞いた話、それだけではあるまい?」 「シャクコポル族は、敬ってる神様が他の民族とは違って迫害されてるだとか、 アヴ・カムゥはシャクコポル族しか動かせないとか、 まあだいたいそんな事も聞いたがな。何分、あいつも元はただの農民。 何でトリステインに来ちまったのか、何で月の数が違って見えるのか、 なんもかんも解らねぇ事ばかりだったよ。なぁ、クンネカムンって国は――」 「滅んだ」 残酷な一言を、ハクオロは淡々とした口調で告げた。 「クンネカムンは他との共存を拒み、全土統一へと踏み出し……滅んだ。 我が友、ゲンジマルも楔に抗い、その命を主君に捧げた。 残されたシャクコポル族の数、そう多くはあるまい」 「……そうか。参ったなぁ、アヴ・カムゥをいつかクンネカムンに返すって、 あいつと約束してたんだが……もう約束は守れねぇってこった」 ――それからしばらく、三人は押し黙ったままだった。そして、私は。 頭に走る激痛でルイズは目を覚ました。 「いった~い……な、何?」 「いつまで寝てるのよ。もう来てるわよ」 「え?」 頭をさすりながらルイズは窓の外を見た。シルフィードが、部屋を覗き見ている。 「あ……タバサ、もう来たんだ」 「せっかくだから、こっちで夕食を食べて行きたいみたい。 ハクオロ達はまだ帰ってこないのかしら? っていうか何してんのかしら?」 「のんびり昔話してるわよ」 言いながらルイズはベッドから降り、うんと背伸びをした。 目はもうすっかり覚めている。元々の睡眠が浅かったのも理由のひとつだが、 焼けたような胸の痛みが一番の理由だろう。 「ねえ、ルイズ」 そんな彼女にキュルケは問う。 「どうして昔話してるって解るのよ」 夢で見た。 なんて正直に答えずに、「そう思っただけよ」と言ってルイズは部屋を出た。 しばらくして帰ってきたハクオロ達は、迎えに来てくれたタバサを歓迎し、 さっそくシエスタがタバサ好みの料理を振舞ってくれた。 「今日の芋粥にははしばみ草も入ってますよー。たーんと召し上がれ!」 「おお! 今日ははしばみ草入りか、この苦味がいいんだよなぁ」 「……美味」 ハクオロとルイズとキュルケは芋粥以外の料理をたーんと召し上がったそうな。 夕食後、タバサのシルフィードに乗ってみんなは魔法学院への帰路につく。 何か悩み事があるような素振りを見せるシエスタの肩をハクオロが抱いていたが、 ルイズは「今日は特別」とぼやいて見逃してやる。 まさか夢だけでなく、オヤジさんとの秘密の話まで盗み見てしまったなんて、 もうどう説明していいやらとルイズ自身悩んでいたのもあるが、もうひとつ。 (アヴ・カムゥを見てからのハクオロは、何だか雰囲気が違って見えた……) ハクオロを見るものを見、聞くものを聞く、この能力。 ハクオロの胸に刻まれた使い魔のルーンの仕業で間違いないだろう。 予感がした。 いつか、とんでもないものを見る日が来るという予感。 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3629.html
「どうかしたの?トニー」 頭上でクエスチョンマークが飛来しているモンモランシーは何しに来たのか?と言いた気な表情で俺に尋ねてくる。 「ああ、ちょっと聞きたいのだが、ジュール・ド・モットって言う変……いや、貴族の所在を教えて欲しいのだが?」 首尾よく所在地を聞き出した俺は、『レオーネセンチネル』に荷物を取りに行く。多少なりと武装の準備するのと、 「これは持って行った方が良いな」 トランクに入っていた『カメラ』を持ち出して何時ぞやに盗んだ馬車に乗せ、日が昇りきらぬ内に学院を出立した。今回ばかりは流石に 貴族を巻き込むわけにも行かないので一人で行動するのと、地理的に詳しくないのでさっさと出発した方がいいだろうという判断だ。 「なんだあの二人は……くそっ随分と遠いじゃねぇか!」 だがその目的地は、多分話よりも遠い気がする。目的地に到着した頃にはすっかり日が暮れ、闇に包まれていた。歩いていかなくて正解だ。 闇に包まれている為に周りを完全に見通すことは困難だが、ヘンタイ貴族の住処はまるで砦で、横には城壁がうずたかくそびえている。 変態はリバティーシティにも大勢居るが、こう権力を握ってしまうと性質が悪い。俺は目立たない場所に馬車を繋いで武装して懐に仕舞うと、 門番の居る入り口に割と堂々と入っていった。 「何だ貴様は!?」 「俺は魔法学院から寄越されたトニー・シプリアーニと言う者だが、ここの貴族に用があるのだ、通せ」 強行突破も考えたのだが、『魔法学院』の名前を出したら割とすんなり応接間に通された。少々拍子抜けをしたが、五分後、本当にその ヘンタイ貴族は現れた。余裕に満ち溢れた嫌な空気を発しながら、俺の対になる席に少々無作法に座る。 「……此方も取り込み中だ、用件は手短に願うぞ」 ヘンタイ貴族は立ち振る舞いこそ貴族だが、顔立ち・衣類・喋りなど全てに於いて下品且つ変態の域に思える。これは相当美少女・美女を 手当たり次第に漁っていたのだろうと容易に想像がついた……多分、取り込み中と言うのも、女とイタしてる為だろう。 「まぁ大した事じゃないがね……好色趣味って言うのも人それぞれだが、金あるんだ。女はプロの方が良くないか?」 「!?……何が言いたい、トニー・シプリアーニ?」 遠回しに言い放った言葉に見事に釣られたこのヘンタイ貴族は、目の色を変えて言い返してくる。 「聞けば、職権乱用で女手当たり次第に漁ってるそうじゃねぇか、国家元首にばれたら色々とヤバいだろ」 「……いっ…言っている意味が良く分からんね……そろそろ遠回しで無くて直接用件を言ったらどうかね……!?」 俺の揺さぶりが効果を発揮し、このヘンタイ貴族は明らかに動揺している。正直情報は極々僅かだが、はったりもここまで効果を発揮すると 虚も実だ。俺はこのままの調子で攻めてみる事にする。 「今日、学院から連れてきたシエスタと言う平民が居るだろ?あれ、王宮と学院の立場を問わず評判の良い子でな、アンタが連れ去ったって 事が広まった途端、悪い噂が流れてるんだよな。大人しくシエスタを学院に帰した方が身のためだぜ」 「!?……な…何を言い出すかと思えば……そ…それは大丈夫だ。シエスタはうちの使用人なのだからな……シエスタを呼べっ」 ヘンタイ貴族はそう言いながら、シエスタを呼び横に連れてくる。すると、毒々しい原色の赤色のエプロンドレスを纏ったシエスタが、引っ張り 出され、言うに事欠いて彼女の首元に臭そうな息を吹きかける。シエスタもどうして良いのか分からないようなリアクションに困っていた。 「まぁ、こう言うことだ。安心して帰りたまえ、シプリアーニ」 「……本性見せたな貴族さんよ、俺はそのショットを拝みたかったのよ。これで、俺の確証は実になったと言う訳だ」 「!?」 勝ったと思っていたのだろう精神状態に冷や水をかけてやると、ヘンタイ貴族の顔がまるで茹でたロブスターの如く面白い位に真っ赤に染まった。 「使用人?おいおい、笑わせる事を言うな……アンタが根っからの女好きって言うのは周知の事実なんだよ。相手が平民だからって好き勝手な事 並べるな……お前みたいな粗チン野郎には娼館の女でも勿体無い、いや立ちんぼでも勿体無いわ」 行き成りの悪言雑言にこのヘンタイ貴族は思わず立ち上がる。恐らく、生まれてこの方こんな罵られ方はされたことないだろう。 「なっ!?貴様……誰に向ってそんな口を!!」 「アンタだ、ヘンタイ貴族。お前みたいな下衆野郎はな、下手に女に手を出して、翌日湖畔に水死体になって浮かんでる方がよっぽど相応しいわ」 この言葉がトドメになったか、わなわなと身体を震えさせながら身体を真っ赤にさせ、メイジのシンボルともいえる杖を手にする。 「言わせて置けば好き勝手……命が惜しくない様だな……そこへなおれ!!」 「良いのか?俺を殺せば、ヴァリエール家と魔法学院を相手に抗争を引き起こす事になるが、それでも良いのなら遠慮は要らん、殺しな」 俺は顔色一つ変えずにしれっと言い放つ。実際ヴァリエール家とそこまで深い仲ではないが、言ってやればそこそこ脅しにはなるだろう。 「止めて下さいっ!!トニーさん!!」 一触即発の状況で、シエスタは悲鳴にも似た声をあげる。 「シエスタ」 「伯爵、この者の無礼をお許しください」 シエスタは俺が殺されると思ったのか、跪いてヘンタイ貴族に許しを乞う。だが、この貴族は当然のように拒否してきた。 「ならん!斯様な平民の無礼を捨て置いては……」 「こいつにはできねぇよシエスタ。仮にも俺はヴァリエールと魔法学院の使者という扱いだ。そんな者を殺したとなれば、ヴァリエール家は宣戦 布告と見なしてヒットマンを送ってくるだろうよ。そうなりゃ身の破滅だぜ、こう言う抗争は裏社会と一緒だからな」 すかさず追い討ちの言葉を続ける俺に、シエスタは顔面蒼白、ヘンタイ貴族は茹で蛸のように真っ赤に顔を腫らしていた。 「相手が伯爵でも、そうかわらねぇんだよ……おい、殺す気になったか、貴族さんよ?」 「グググ……この場はシエスタに免じて命だけはくれてやる……早々に立ち去れぇい!!」 殺したくて殺したくて堪らないのだろうが、流石にヴァリエールやヒットマン、抗争等の単語が並んだら一線を超える勇気は出なかったのだろう。 もっとも、後でルイズにはちゃんと尽くしてやらんといけないだろうが……。 「まぁ、そうなるだろう。流石に抗争になったら潰されかねないだろうしな」 「ググ……貴様…減らず口を……おいっ!!何をボサッとしてるんだ!この者を屋敷から叩きだせ!!」 「その強気と言動が、後々後悔にならないように気をつけることだな」 捨て台詞とも言うべき言葉で締めると、俺は背後に立っている監視とも言うべき二人の衛兵に囲まれながら敷地内の母屋の屋敷から出された。 この世界に無理矢理来させられて気に入らない事だらけだが、こんな胸糞悪いのは初めてだ。今回ばかりは許さん。 俺はキョロキョロを左右を視線を送りながら屋敷内を見渡すと、この邸宅は思ったほど警備の監視が厳しくない事に気がつく。 「兄ちゃん達、すまんが靴紐が解けた。ちょっと直すから待ってくれ」 俺が何食わぬ顔してそう言うと、『仕様がねぇな』と言わんばかりの表情を浮かべて顎を突き出す仕草でOKを出した。そしてゆっくりと 座った瞬間――― 「ぐええぇぇぁああっ!!」 懐に素早く手を入れピストルを取り出して抜撃ち、ほぼゼロ距離射撃での銃撃で俺の左後ろに立っていた衛兵の腹部に銃弾を二発浴びせ、 悲痛な断末魔と共に転倒、恐らく絶命しただろう。 「ちょっ……!おい…お前どうなって……ふぇっ?!」 現状を把握できていない俺の右後ろに立って居たもう一人の衛兵は、聞いた事も無い音と共に倒れた同僚を見て慌てふためいている所に 後ろから頭部を銃撃、始末した。 「……おぅ、上手い具合に丁度良いじゃねぇか」 始末した二人の衛兵の死体を草叢に放り投げて隠滅すると、隠滅する前にひっぺ返した連中の防具を身に付けて変装する。これなら、屋敷 内に居ても早々怪しまれまい。 ――二度と立ち直れないような弱みを握れ
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4634.html
投票所機能のテストです。 選択肢 投票 [ルイズ] (77) [シエスタ] (47) #vote(項目A[],項目B[]) 項目追加可能 #tvote(項目A[],項目B[]) 順位 選択肢 得票数 得票率 投票 1 アンリエッタ[486] 2 (40%) 2 アニエス[111] 1 (20%) 3 エレオノール[29] 1 (20%) 4 ルイズ[737] 1 (20%) 5 カトレア[166] 0 (0%) 6 カリーヌ[4] 0 (0%) 7 キュルケ[8] 0 (0%) 8 ギーシュ[1] 0 (0%) 9 サイト[79] 0 (0%) 10 シェフィールド[1] 0 (0%) 11 シエスタ[169] 0 (0%) 12 シルフィード[180] 0 (0%) 13 ジェシカ[26] 0 (0%) 14 ジョセフ[2] 0 (0%) 15 タニア[2] 0 (0%) 16 タバサ[562] 0 (0%) 17 テファニア[326] 0 (0%) 18 フーケ[3] 0 (0%) 19 マリコルヌ[44] 0 (0%) 20 マルトー[1] 0 (0%) 21 ミ・マドモワゼル[1] 0 (0%) 22 モンモランシー[17] 0 (0%) 23 ヴィットーリオ[2] 0 (0%) その他 投票総数 5 コメント機能による投票なら以下のようになります。 ルイズに1票 -- シエスタに1票 -- シエスタに! -- シエスタに一票 -- 蒼蛇? #tvote() 異動してから時間がない……それはさておき、プラグインはこちらを使うと項目追加可能です……追加しないほうが良いかもですけど -- 261 アンリエッタに一票 -- で、これ何の投票?w -- これはテスト投票だという事は分かっているのだが…。ベスト5入り+ティファの上位と言う事はそうそうないだろうから、真剣にシルフィに1票www -- タバサに1票!テストとはいえ負けられぬ! -- タバサに1票!テストとはいえ負けられぬ! -- 何のために投票してるのか教えてくれないか?w -- ルイズのツンデレ激萌え -- かすみ? けなげなアンリエッタ萌え! -- めす竜3位だよ、めす竜ww -- あんなにあったシエスタ票は何処へ…?? アニエスに一票 -- ダーナガ? タバサに一票…テストと言えともダントツだ!タバサ最高だよ! -- サイトを影で見るタバサ? 絶対タバサ! ナニガなんでも!! -- つき? 微妙にきゅいきゅいがルイズの背後に着いて来てる…。得票率10%超えてるし。w -- もちろんタバサに一票ですね!てか、タバサ以外に誰を投票すればいいのかと -- 自由な旅人? ・・・そろそろ ここ消さないか? -- 雛形として使う人もいるだろうし、消すのはアレかと -- アホの子には抜かれまいと、ルイズが2位を驀進中。w やっぱ13巻効果もあるのかな? -- キャラ以外の選択肢が「整理」されてるw? キャラも一旦整理した方がいいかもね、数字直で触ったのをずっと残してあるのも無意味(トータル5000ちょいビューのページの投票数が何だこれわっ) -- キャラの投票数をいったん消してやりなおしたほうがいいのは間違いないな。 -- 一旦リセットされて、再スタートのようなのねー。 -- タバサが良い・・・。ツンが強すぎるルイズなんて目じゃないっす! タバサが圧勝すればそれで良しっ!! -- マイセン? ダレか知らんが、懲りろよ・・・ だから何で ビューの伸びより投票数の方が多いんだよw みりゃ分かる事だろ馬鹿か? -- アンリエッタ女王に一票ですね。 -- 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6219.html
前ページゼロのヒットマン 「あっ、獄寺に頼みたいことがあったわ。」 「用件はなんだよ。」 「獄寺、あんたにやってもらうのはこれよ。」 獄寺はルイズの後をついてゆく、その先にはルイズの洋服と下着がある。 「まさか俺に洗濯をやれと言うのかよ。」 「そうよ。」 「ふざけんじゃねぇ!てめーのモンくらいてめーでやれよ!それに俺洗濯やったことねーんだよ。」 「あんたは私の使い魔なの!だから主人の言う事は聞く!それに私と一緒に元の世界に帰る方法を探すんでしょ。」 「分かったよ、やりゃーいいんだろやりゃ。」 仕方なく獄寺はルイズの洗濯物を持って外へ出た。 「これ結構重てーな。うわっ!」 「きゃっ!」 獄寺はバランスを崩し、近くにいたメイドにぶつかった。それと共にルイズの洗濯物も散らばる。 「痛てーな、おめーも気をつけろよ」 「すいません。私も外で洗濯をしようと思ったので。あなたの方こそ大丈夫ですか?」 「当たりめーだ。俺はこの程度で怪我をしたりしねーよ。」 「あなたって、ミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」 「ああそうだぜ。俺は訳あってルイズの使い魔になった獄寺隼人だ。おめーの名前はなんていうんだよ。」 「私ですか?私はここの魔法学校でメイドをしているシエスタと申します。それにしても洗濯物散らかりましたね、私も拾うの手伝っていいですか。」 「助かるぜ、ルイズの奴俺をこき使いやがるからな。」 「いいんですか、貴族を呼び捨てで呼んでて。」 「いいんだよ。貴族だろーが何だろーが、俺はルイズって呼んでんだ。」 そう言うとシエスタは喜びの笑顔を浮かべた。 「すごいですね!獄寺さんは貴族に媚びたり、諂ったりしない立派な姿勢!尊敬します!」 そして散らばった洗濯物をシエスタと一緒に集め始める。獄寺が洗濯物に手をやった瞬間、 同時にシエスタの手も獄寺の手元にある洗濯物に近き、そして獄寺とシエスタの手が触れ合った。 「あっ、すいません。」 「この程度で動揺すんな。さっさと片付けるぞ。」 シエスタは顔を真っ赤にしながら言った。 「はい。」 その後、水場に着いた2人は洗濯を始める。 しかし獄寺は戸惑っている。 「おいシエスタ、俺洗濯の仕方分かんねーんだ。さっさと片付けないとルイズの奴・・・ ・・・」 獄寺の頭の中に鬼ルイズのような形相が浮かんだ。 「洗濯の仕方なら私が教えますから安心して下さい。」 シエスタに洗濯を教わりながら獄寺は慣れない手つきで洗濯を始め、洗濯が終わったあとは部屋に戻って 獄寺はルイズの着替えを手伝う。 その後、獄寺とルイズは食堂についた。既に食堂は生徒達で賑わっている。 「ここで飯が食えんのかルイズ。」 「そうよ。だけどあんたのご飯はあっちよ。」 ルイズが指を向けた先には固いパンと質素なスープが並んであった。 獄寺は不満な表情を浮かべる。 「ふざけんじゃねぇ!俺にこんな朝食を食わせる気か!」 「平民のあんたが『アルヴィースの食堂』で食事ができる事だけでも感謝することなんだからね!」 「少しぐらい、飯よこせー!」 獄寺はルイズに飛びついてきた、しかしルイズは獄寺を跳ね返した。 仕方なく獄寺は固いパンと質素なスープを口にした。 「ちくしょう、なんで俺がこんな飯食わなきゃいけねぇんだよ。」 その一方獄寺の近くでなにやら生徒達が会話しているようです。 「ギーシュ、お前誰と付き合ってんだよ」 「付き合うって、僕にそんな特定の彼女なんて~」 ギーシュと生徒の会話が気になって獄寺は近くに行く、するとギーシュのポケットから香水が落ち、獄寺はそれを拾い上げて それをギーシュに渡す。 「おい、てめーのポケットからこれ落としたぜ。」 その香水の瓶に気づいたギーシュの友人達が騒ぎ始める。 「ギーシュ、お前二股かけてたなんて最低だな。」 そこから二股がばれたギーシュは・・・ 「君が僕に香水を渡したせいで、二股がばれてしぱったよ。」 「ふざけんな!二股かけてたのはてめーだろ!ばれたら俺のせいにするのかよ!」 「この貴族である僕に向かってそんな態度をとるなんて、外に出ろ!僕が貴族に対する礼儀を教えてやろう。」 「やってやろうじゃねぇか、その勝負受けてたつぜ!」 ギーシュが外に出た後、ルイズが後ろから駆け寄ってきた。 「何やってんのよ!さっさと決闘なんてやめなさい!」 「うるせぇな、俺は売られた喧嘩は買う主義なんだよ。それに俺はあんな二股ヤローには負けねーから。」 早速広場にて決闘が始まる。決闘が始まると同時にギーシュはゴーレムを出す。 「僕はメイジだ、だから魔法で勝負する。『青銅』のゴーレム、ワルキューレが相手になるよ。」 「その程度のゴーレムなんてぶっ壊してやるよ。」 ワルキューレは獄寺に近づき、拳を繰り出すも獄寺は易々とかわしてくのであった。 「その程度じゃ俺は倒せねーぜ。喰らえ!2倍ボム!」 大量のダイナマイトがワルキューレに降り注ぎ、ダイナマイトがワルキューレの近くで爆発した。 広場に大きな煙が巻き上がった。そして煙が消えていくと、そこにはバラバラになったワルキューレの姿があった。 「そんな・・・ 僕のワルキューレが敗れるなんて・・・」 「これで分かっただろ。おめーじゃ俺には勝てないって。」 獄寺はポケットからダイナマイトを取り出し、ギーシュに向けて放とうとする。その時ルイズが獄寺に向かって飛び出してきた。 「やめて!獄寺!」 「何だよ、勝負の邪魔すんじゃねーよ!」 「もしギーシュがそれで大怪我でもしたら、ギーシュの家の人だって黙ってないし、それにギーシュはクラスメイトだし、 とにかくそれをギーシュに放つのだけはやめて!」 「分かったよ。だけど俺はあの二股ヤローと話しがしてーんだ。いいか。」 獄寺はルイズにそう伝えると、ギーシュに近づいた。 「おいそこの二股ヤロー、二度とみっともねぇ真似すんなよ!」 「分かったよ。今回は僕の負けだね。」 獄寺はそう言うと、広場へと戻る。 「ルイズの使い魔の平民、ギーシュに勝っちまうなんて。」 「あの平民強いなぁ、俺だったら戦いたくないぜ。」 「あ、いたいた、獄寺さん。」 そう言いながらシエスタが獄寺に向かってきた 「どうしたんだよ、シエスタ。」 「昼間の決闘見ましたよ!ビックリです。貴族を倒してしまうなんて。」 「当たりめーだ。俺があいつに負けるとでも思ってんのか。」 「いえいえ、とんでもございません。そういえば厨房のみんなで祝勝パーティを開くんです。それで獄寺さんを探してたんですよ。 早く行きましょう。みんな待ってますよ。」 シエスタは獄寺の腕を引っ張っていき、厨房に連れて行く。 その夜、厨房では獄寺の祝勝パーティが行われていた。 「いやぁー昼間の決闘は驚いたねぇ、俺、見たよ!貴族と決闘して負かす平民がいるなんて感動だよ。」 厨房に入ると、コック長のマルトーが獄寺を歓迎している。 前ページゼロのヒットマン
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4171.html
前ページ次ページ大使い魔17 だがだん♪ だがだんだがだん♪ 「大使い魔ー、ワーンセブーン!!」 オゥオオー オゥオオー 彼こそは~ オゥオオー オゥオオー 大使い魔~ワンセブ~ン 燃える真っ赤な太陽 ギラリ輝く装甲 見よ! 右手の虚無のルーン 風の唸りか雄叫びか~ イザベラ企画の大殺戮 立て! 要塞ワンセブン 防げる者は他になし オウゥオゥオゥ オゥオオー オゥオオー 彼こそは~ オゥオオー オゥオオー 大使い魔~ワンセブ~ン 第二話「最終兵器! 汝(なれ)の名はグラビトン!」(ノコギリロボット登場) 「朝~、朝~、寝坊は美容の大敵ぃ~~。ルイズちゃん、オハヨ~」 珍妙な目覚ましコールでものの見事に目が覚めたルイズは、前に突き出した両腕を上下にフリフリさせているロボターを見て、自分がワンセブンを召喚した事を思い出した。 「……おはよう、ロボター。何で踊ってるの?」 「ん~、何となく」 ロボターの返事に頭痛を感じかけたルイズは、気を取り直して窓を開けた。 「おはよう、ルイズちゃん」 「おはよう、ワンセブン」 ワンセブンに朝の挨拶をしたルイズの顔は、思いっきりニヤけていた。 着替え終わり、ロボターを連れて寮を出たルイズは、食堂へと続く廊下でシエスタと顔をあわせた。 「あ、おはようございます、ミス・ヴァリエール、ロボターくん」 「おはよう、シエスタ」 「シエスタちゃん、オハヨ~」 「ねえ、シエスタ」 「何でしょう?」 「いつの間にロボターのこと知ったの?」 「実は昨日の夜……」 回想シーン 「洗い場~、洗い場~」 独り言を言いながら洗い場を探していたロボターは、洗濯籠を持って歩いているシエスタを見て、洗い場がどこにあるかを聞くために声をかけた。 「シエスタちゃん、シエスタちゃ~ん」 自分を呼ぶ声に反応したシエスタは、振り向いた瞬間に視界に入ったロボターの姿を見て固まった。 「誰!? っていうか何故私の名前を?」 「私が教えた」 ロボター以外の声がした方向に首を動かしたシエスタは、そこにいたワンセブンの巨体を見て更に固まった。 「私はワンセブン。ルイズちゃんの使い魔だ」 「あ、あなたが、ミス・ヴァリエールが召喚した巨大な喋るゴーレムなんですか?」 「確かに私は巨大で言葉を喋る。だがゴーレムではない」 「そ、そうなんですか……? そういえば、何故ワンセブンさんは私の名前を?」 「……ルイズちゃんと契約したからだ」 「そ、それはどういう意味ですか?」 「そのままの意味だ。ルイズちゃんが契約のキスをしたときに、ルイズちゃんの記憶、知識、個人情報が私の頭に流れ込んだのだ。君の名前も、ルイズちゃんの記憶で知った」 ワンセブンの説明にあいた口がふさがらないシエスタに、今度はロボターが話しかけてきた。 「シエスタちゃん、そういえば洗い場ってどこ?」 この一言と、ロボターが手に持って振り回しているルイズの下着を見て、ロボターが洗い場を探していることに気が付いたシエスタは、ロボターを連れて洗い場へと向かった。 「……という訳なんです」 「そうだったの……」 ほかの生徒たちの視線がロボターに集中する中、ルイズとシエスタの会話は続いた。 午前の授業は失敗魔法による爆発以外にさしたるアクシデントもなく終わり、ロボターと一緒に教室の後片付けを終えたルイズは、駆け足で食堂へと向かった。 「ワンセブンから聞いていたけど、あそこまで強烈とは……おっとっと」 あわてて喋るのをやめたロボターを見て、ルイズは苦笑するしかなかった。 食堂に入り、いざ食べようとしたその時食堂が、否、学院全体が揺れた。 周囲が騒がしくなる中、一人の生徒があわてて食堂内に入ってきた。 「ゴ、ゴーレムだ! ヴァリエールが召喚した奴とは違うゴーレムが出てきた!」 この一言を聞いたロボターが、慌てて食堂から出て行ったので、ルイズは後を追った。 ヴェストリの広場に出たロボターと、それを追ったルイズが見たもの、それは異様なものがこちらに迫ってくる光景であった。 その異様なものは、両肩に円形のノコギリが突いているだけでなく、両手と頭部は円形のノコギリそのものであった。 「ノオオオ~~~! あのロボット、ルイズちゃんを狙っているー!!」 「ええー!!」 直後、ルイズを確認したノコギリロボットは、ルイズ目掛けて走り出した。 「イヤーーー!! 何でいきなり走り出すのよーーー!!」 ガゴォン! 両手の回転ノコギリを起動させ、ルイズ目掛けて振り下ろそうとした瞬間、ノコギリロボットは突如飛来したワンセブンの体当たりで弾き飛ばされた。 後ろにいるルイズを守るかのごとく、ノコギリロボットの眼前に立ち塞がったワンセブンは、飛行形態から要塞形態へ、そして戦闘形態へと変形した。 ミヨンミヨンミヨン、ヨヨヨヨヨ、キュピーン! バギィィィィン!! 「ロボター、ルイズちゃんを頼むぞ!」 「了解!」 ロボターがルイズを連れて後退し始めたのを見て、ワンセブンは改めてノコギリロボットと対峙した。 「これ以上ルイズちゃんに近づくな!」 ワンセブンの容赦ない鉄拳がノコギリロボットに直撃し、装甲を損傷させていく。 ノコギリロボットも両手と頭部の回転ノコギリで反撃に出たが、それぞれワンセブンの水平チョップと頭突きでアッサリ破壊された。 「凄い……」 「ルイズちゃん、こんなのはまだ序の口だよ」 「え?」 ルイズとロボターの会話の間も、ワンセブンの戦いは続いていた。 ワンセブンはノコギリロボットに止めを刺すべく、最終兵器を発動させた。 「グラビトォオオオン!!!」 パキューン、パキューン、パキューン、バギィィィィン!! 腹部のシャッターが開き、内部の機械から発射された強大な重力によりノコギリロボットは押しつぶされ、大爆発した。 一部始終を見たルイズは呆然としながら、ロボターに問いかけた。 「何、アレ?」 「アレこそ、超重力で標的を爆破解体する、ワンセブンの最終兵器にして必殺技「グラビトン」!!」 「グラビトンかぁ……」 「一回使うと、半日以上使用不可能になるけどね」 ワンセブンは、ルイズとロボターの会話を聞きながら、別の方向を見ていた。 そこには、人間代の偵察用ロボットが森の木々に隠れて戦いの一部始終を見ていた。 偵察用ロボットが映している映像の送信先 「チキショー! よりによってアイツまでこっちの世界に来ていたなんて!」 「ハスラー、一体何物だ、あのロボットは!?」 「シェフィールドちゃん良くぞ聞いてくれました! 奴こそがワンセブン! ブレインに分身として造られたにもかかわらず、造物主であるブレインに反旗を翻した反逆児よ!」 「あれが、ワンセブン……あのような姿なのか」 モニターに映ったワンセブンの姿を興味深そうに凝視するシェフィールドは、あることに気付いた。 「……ハスラー、ワンセブンの奴、どうもこちらの方を見ているような……」 「本当だ……あ!!」 ハスラーが気付いた直後、ワンセブンの脚から発射されたナイキ級ミサイルが偵察用ロボット目掛けて押しかけ、映像が途絶えた。 「キィイイイッ! ノコギリロボットだけでなく偵察用ロボットまでぶち壊しやがった!」 「……偵察用ロボットの位置まで察知するとは」 突如、ワンセブンが森の一画目掛けてナイキ級ミサイルを発射したため、ロボターは面食らった。 「ワンセブン、どうした!? 何故ミサイルを!?」 「さっきの戦いを見ていた小型の偵察ロボットがいた。だからそいつをミサイルで破壊した」 「ええ!?」 「おそらく、ルイズちゃんを襲ったロボットの仲間」 「あいつらを送り込んだのは一体誰? 目的は何?」 「情報が少なすぎる。向こう側が尻尾を出すのを待つしかない」 ノコギリロボットの残骸を見詰めながら、ルイズは考え事をしていた。 (こいつ、何で私を狙っていたんだろう……) そう考えながら、ルイズは視線をワンセブンに移した。 何故かルイズは、自分の胸から“キュン”という音が出たのを耳にした。 ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ セブン セブン ワンセブン 九死に一生ワンセブン(ワンセブン) ルイズといっしょにワンセブン(ワンセブン) レコン・キスタは砕けて散った ご~ぜんいっぱつ~ グラ~ビト~ン OH! 前ページ次ページ大使い魔17
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4078.html
前ページ次ページゼロの軌跡 第十話 蝕、繋がる世界 「ヴァリエール様、レンちゃん。ようこそ、タルブ村へ!」 「久しぶり、シエスタ。元気そうで嬉しいわ」 「紅茶とデザートが楽しみで飛んできたのよ」 「今日は村を挙げて歓迎しますから。覚悟しておいてくださいね」 タルブ村に着いたルイズとレンはシエスタの歓迎を受けた。 覚悟?と首を捻る二人だったが、それを問う間もなく腕を引かれ彼女の家へと押し込まれる。村人の歓声が、二人の後ろで閉じた扉をこじ開けんばかりに揺るがした。 「来たぞ、われら平民の救世主!」 「ミス・ヴァリエール!気高くも偉大な公爵令嬢!」 「ミス・レン!可愛らしくも異才の天才戦士!」 「新しい貴族。平民を守る女神の来訪だ!」 「村の人達に一体何て伝えたのよ、シエスタ」 「いえ、私のせいだけではないんですよ。だけ、では…」 恰幅のよい女性がいきなり抱きついてくるのをかわすことも出来ず、ルイズは右腕にレンは左腕にそれぞれかき抱かれた。二人よりも遥かに豊満な胸。濃厚な木と草の香りが立ち込める。 ひとしきり揉みくちゃにされながらもどうにか解放されたルイズとレンの周りにはたちまち人垣が出来る。口々に褒め称える村人への対応に苦慮しながら、後でシエスタを問い詰めようと固く決意する二人だった。 遠いところを旅されてお疲れだから、とシエスタのとりなしの甲斐あってかやっと落ち着くことの出来たルイズとレン。客間へとあがり、淹れてもらったお茶を飲みながら話を聞くことにした。 「で、シエスタ。どんな英雄譚を村中にばら撒いたのかしら?レンは何匹のドラゴン相手に大立ち回りをやってのけたことになってるの?」 「そんな人聞きの悪いことを言わないで、レンちゃん。あの、ルイズ様もそんな目で見ないでください。 ありのままを話しただけですよ。他の貴族が徒党を組む中で彼らに喧嘩を売って、平民の私を助けてくれたんだって」 悪びれずに答えるシエスタ。思わず頭を抱えるルイズ。一人優雅にカップを傾けるレン。 「それにしたってあの熱狂振りはねぇ…。なんでも私は気高くて偉大な公爵令嬢らしいじゃない」 「レンは天才戦士なんですって。まあ間違いじゃないけどね」 「そうですよ、ルイズ様ももっと堂々と振舞ってください」 ゼロであることを認めたとはいえ、ルイズから劣等感が完全に払拭されたわけでは無論なかった。 最後まで一人で彼らに立ち向かえたのならばまだしも、レンに助けてもらったと認めているルイズは素直にその賛辞を受けることが出来なかった。しかも、肝心の決闘は全てレン一人の実力ではないか。 そう考えるとやはり自分はその賞賛に値しない。ルイズは懊悩する。 結果、行き場のない戸惑いは糾弾にその姿を変えて矛先をシエスタに向けた。 「それだけでああも歓迎されるとは思えないけど。大方、覚えのない善行を二、三十創りあげたでしょう。今なら正直に話せば許してあげるわよ」 「そんなことしてないですって。本当ですよ。ヴァリエール様。 もう一つの理由は、あれです。ヴァリエール様とレンちゃんが町や村を周って平民の力になってるっていうじゃないですか。その話を何人もの旅の方が触れ回ってるらしくて。うちの村にも来て熱く語っていましたよ」 その答えにルイズは目を見開き、レンはカップを持つ手を止めた。 二人ともそこまで評判になることをやっていたという自覚はなかったのだ。 メイジではなくとも立派な貴族としての、その自らの修行の一環としてそれを行っていたのだし、 レンはといえばその理由の多くを、帰還の手がかりを探すことが占めていた。無論のこと、ルイズとの旅は楽しかったし、行く先々で感謝されるのには確かに喜びを感じてはいたが。 「あのね、シエスタ。私別にそんなつもりでいたわけじゃ…」 「なら更に素晴らしいじゃないですか!意図しての人気取りでなく、その自らの望む姿にかくあろうとした、無為から生まれた行為だなんて。流石はヴァリエール様です。これはみんなに伝えないと!」 「…もう何を言っても駄目みたいよ、ルイズ」 早速新たなルイズ伝を広めようと立ち上がったシエスタを押し留める。 尾ひれ背びれをつけないよう厳重に釘を刺し、給仕のために下に降りていくシエスタを見送る二人。 「大丈夫かしら…」 「レンはシエスタが大騒ぎする方にナサロークの皮三枚賭けるわ」 「私も同じ方にペレグリンの羽五枚」 賭けにならないじゃない、とレンが口を尖らせた時、階下の拍手と喝采が床を震わせた。 「なんていうか…」 「良くも悪くも田舎よねぇ…」 夕食までの時間を釣りや散策でのんびり過ごしたルイズとレンを待っていたのは、シエスタが腕によりをかけた料理だった。 ヨシェナヴェという奇妙な語感のそれは名前と同じく二人の舌には馴染みのないものであったが、美食を食べなれているルイズをも存分に満足させた。 が、久方ぶりの村の宴がそのまま大人しく終わりを迎えるはずもなく。 「なるほど。覚悟、ね」 思わずレンは一人ごちる。 皿に大盛りにされた具もなくなり鍋の底が見え始めた頃には、場は惨状を呈していた。 周りに赤い顔をしていない人間は一人もいないし、既に足元には酔いつぶれた男たちで立錐の余地もない。 誰も彼もが相手を選ばずに踊り狂い、歓声と嬌声は途切れずに広間を飛び交う。誰かが歌を口ずさめばたちまちソロはデュエットになり、コーラスへとその場の人間を巻き込み広がっていく。 主人も客も上座も下座も貴族も平民もなく手を鳴らし足を打ちつけ、笑顔で開かれた口は決して閉じることはない。 その喧騒の中でも一際大きく響くのはグラスが打ち鳴らされる音。乾杯の声は一瞬たりとも途切れてはいなかった。 レンは年齢を理由に差し出される酒を断ることも出来たが、ルイズはそうもいかず。一杯飲み干せば二杯の酒が、二杯を空にすれば五杯のグラスが、息つく暇もなく更に多くのワインが注がれた。 シエスタにいたっては完全に出来上がって、先ほどから少佐もかくやという演説をぶちかましていた。 「私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが大好きだ」 酒と料理で熱く火照ったレンの身を貫く悪寒、首に冷たく氷の柱。夜のシエスタには気をつけろと囁く本能に従い、倒れる寸前のルイズを引き摺って外に出る。 その背中に突き刺さる、シエスタの恐ろしいまでにうららかな宣誓。 「我が家の名物特製ヤムィナヴェ、行きますよー!」 魔女の釜はまだまだその蓋を開けたばかりのようだった。 「有難う、レン。助かったわ」 「ルイズがまたアンロックでも唱えるのはいただけないからよ」 涼しい風が二人を優しく撫でる。回った酒も心地いい冷気に醒めていくようだった。 そういえば数日前にもこうやってレンと歩いたことをルイズは思い出す。 その時はレンが少しだけ、その外見に相応しい少女らしさを垣間見せた気がする。 もしかすると今夜も彼女の話を聞けないだろうか。 「ねぇ、レン」 「なあに、ルイズ」 「その…、元の世界にはやっぱり帰りたいのよね」 直接的に聞くことも躊躇われ、かといって話の接ぎ穂にも困り、ルイズは今まで隠してきた自分の願望交じりの言葉を吐き出してしまう。 今のルイズにとって、レンはかけがえのない親友でもあり盟友でもある。少なくともルイズはそう思っていた。レンがルイズのことをどう思っているかは未だ確たる答えを得てはいなかったが。 これを聞いてしまうと、ルイズは自分の心が覗かれてしまうような気がしていたのだ。 「どうかしらね。よくわからないわ」 返ってきた声は冷静で、以前見せた緩みはなかった。 レンなりに先日の失態を、勿論ルイズは失態などとは思っていないが、気にしているのかもしれなかった。 「トリステインでの暮らしも悪くないし、リベールに戻って何かするわけではないのだけど」 レンの答えはそこで途切れる。 否定で終わったその言葉の続きが気になったが、ルイズにそれを問うことは出来なかった。 会話がとまり、不自然な沈黙から目をそらす様に向けた視線の先。村の外れ、一角だけ不自然に整理された木立がルイズの目を引いた。 そこにまるで祀られているかのように、石碑が置かれていた。 「あれ、なにかしら?タルブ村の守り神か何「…ッ!!」」 ルイズの言葉に視線をそちらに向けた時、レンのつぶらな瞳は大きく見開かれた。 そしてレンはルイズの言葉を聞かずに石碑に向かって走り出した。 間違いない。あれだ、あの石碑だ。 アンカー。アーティファクトによって作られた揺らぐ虚構世界の中で、庭園と星層を繋ぎとめていたそれ。 あれこそが、トリステインを含むこの世界とリベールを含むあちらの世界を結ぶ鎖。 遂に見つけた、元の世界に帰るための通行証。 レンは脇目もふらずに石碑に走り寄る。 「ちょっと、レン。どうしたのよ」 「ティータ、クローゼ。聞こえる?レンはここよ。オリビエ、アガット、ジン。誰か返事をして」 ルイズの声も耳には入らないのか、闇に佇む石碑に向かってレンは必死に呼びかける。 「シェラザード、ミュラー、ユリア、リシャール、ケビン、リース」 それでも石碑は何の反応も見せなかった。 それをわかっていながらも、レンは叫ばずにはいられなかった。 「…エステル!ヨシュア!」 かそけきその祈りが女神に届いたのか、その名前こそに込められていたものがあったのか。 石碑は青い輝きと共に、佇む人影をを映し出した。 中空に描き出されるスクリーンにはエステルとヨシュアの姿があった。 場所はどこかの湖畔だろうか。雲一つない青空の下、釣り糸をたれるエステルと少し離れて火を熾すヨシュア。 しかし、姿は見えども声はせず。届けられるのは映像だけで、魚の跳ねる音はおろか、火の爆ぜる音も二人の声一つすら聞こえてはこなかった。 「あの人がエステル…」 「ねぇ、エステル!こっちを向いて!」 叫べども叫べども、声は辺りの闇に吸い込まれるばかり。 石碑が青い光を失い、次第に朧げになっていくその姿に耐え切れず、遂にレンは悲鳴のように彼女にすがった。 「助けて!レンを助けて!エステルッ!!」 その時、エステルが振り向いた。 無邪気なその顔には驚愕が彩られ、レンに手を伸ばす。 レンもその短い腕を、あらんかぎりに伸べる。 しかし、その手は繋がることなく、石碑が光を失うと同時にエステルとヨシュアの姿も溶けるように消えていった。 伸ばしたその腕を力なく下ろし、レンは膝をついた。 ルイズもまた、言葉もなく立ち尽くすばかりだった。 このままではいけないと、一歩踏み出したルイズにレンは一言、彼女を拒絶した。 「来ないで。…しばらく一人にしておいて」 前ページ次ページゼロの軌跡
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1128.html
第二陣のすすぎも完了し、汚れの少ない第三陣と落っことした第四陣の洗濯物へ取り掛かる。 あれから三十分近く正座で説教を受けさせようやく落ち着いたのか、シエスタも頑固な汚れの 取れた洗濯物を干せて上機嫌だ。 ちなみに正座で説教は経験がある(主にjojoの巻き添えで)ので癖になっていたようだ。 「…で進級したメイジが己の力量や系統を示すために使い魔を召喚する伝統行事、まぁ一人前だってことを示す儀式みたいなものね」 二つ並んでそびえる泡の山のそばで手頃なところに腰掛けたキュルケがシーザーに解説していく。 「成る程。俺にのしかかっていたのはその類か」 かつてシーザーは貧民街で野宿の毎日を送っていたこともある。そのとき野良犬や猫、 たまに鳥などが彼を枕にして眠り、お陰でシーザーは二日に一回は脱水症状と酸欠の ツープラトンで苦しみ最悪な目覚めを味わっていた。 波紋の力で安眠枕に。嫌な体質である。 もっとも、童話でしか見たことのない生物に囲まれたのは初めてのことだが。 「で例年通り全員通り召喚できたんだけど一人だけ問題児がいたのよ。」 「問題児?」 「その娘ったら座学はできるのに肝心の実技が駄目駄目でね~。 『召喚』も何度やっても爆発して何十回とやってようやく成功したんだけど」 「だけど?」 オウム返しに尋ねるシーザー、話に耳を傾けながら干していくシエスタに焦らす様にためるキュルケ。 「今までにない大爆発を起こして出てきたのは、なんとただの平民だったのよ! いや~、体中プルプルして先生に助けを求めて泣きそうで泣かないあの娘の顔は 額縁に収めたいくらいだったわ」 「(よく見てるな)」 シーザーはほくそ笑んだ。内容こそ悪口だがまるでつい先ほど起きたかのように事細かに 話す様子はその娘を気にかけている証拠。気の置けない友人まで推定あと三十八歩ぐらいだろう。 …意外と遠いな。 とシーザーの中で何かが引っかかった。 召喚?遠くのものを呼び出す魔法。そして呼び出された平民=人間?ここは見知らぬ土地。 「しかもその娘ったら契約の時顔真っ赤にしてキスしようとしたら、逆に情熱的にキスで返されたもん だから貴族の面目なんてどっかに吹っ飛ばして使い魔に蹴りいれてたのよ、多分あの娘初めてだったんじゃない?」 初キスで舌まで入れられるなんて黄金体験よね、とケラケラ笑うキュルケの声がシーザーには遠く聞こえた。 何か覚えがある、特に脇腹と鳩尾の辺りに。 「参考までに聞こう。その使い魔ってどんな奴なんだ?」 できればそうあって欲しくないと泡がついたままの手を額に当てるシーザーをキュルケが指差した。 お約束の如く後ろを振り返り、目が合ったシエスタが洗濯物握り締めたまま千切らんばかりに首を高速で横に振る。 それはそれで残念だと思いつつ念のためシーザーは自分を指差しキュルケに向き直ると、したり顔で 一回だけ頷いた。 「…やっぱ俺なのか」 なんとなく予想していただけショックはないが同時にどっから反省すべきかシーザーは悩んだ。 彼の心の奥から湧き上がる覚えのない恐怖はきっと悪夢の名残だろう。 「あきれた。女の子の初めて奪っといて覚えてないの?」 「シーザーさん、不潔です」 苦笑するキュルケとジト目で睨むシエスタにシーザーは慌てて弁解する。 「いやだって無意識だったからな」 「無意識で舌まで入れたのに覚えてないんですか?」 「いやだから」 「無意識だから女の子の初めて奪って舌入れて押し倒したんですか?」 「(ボディブローで)倒されたのは俺だ」 「無意識だから初めての女の子押し倒して舌入れてかき回して覚えていないんですか?」 そんな妄想何処で覚えたんだシエスタ。というか誰かに聞かれたら誤解されるからヤメロ。 既にシエスタに完全に誤解されてることはさておき、このままだと小一時間問い詰められかねないシーザーは必死に考えた。 ①:冷静なシーザーはいや無意識だったら覚えるの無理だろ?と知的に突っ込みをいれる ②:経験豊富なシーザーはベッドの上で奪ったんじゃないからいいだろと開き直る ③:現実は非情である。「フヒヒ、サーセン」と詫びつつ逆転の発想でシエスタを押し倒す。 「(③は死亡確認じゃねーかっ?!)」 心の中に浮かんだ選択肢に突っ込みをいれつつすぐさま行動に移る。 「すんませんこれ以上は勘弁してください」 恥も外聞も空気も知ったこっちゃなく土下座。暴走している女性はこれぐらいぶっ飛んだ行動をしなくては正気を取り戻してもらえない。 男のプライド?誇り?そんなものありませんよファンタジーやメルヘンじゃないんですから。 「格好悪」うるせぇぞキュルケ。 「…はぁ、まぁ悪気もなかったようですし、許してあげます」 究極的に情けない格好のシーザーを見て頭が冷えたのか、ため息まじりにようやく許した。 シーザー・A・ツェペリ、なんというかこの世界に来てからまったくいいところがない。 「で、俺を召喚したその女ってのはドコのどいつだ?」 遠くからナチスの科学力は世界一ーッ、って声が聞こえたが気のせいだろう。 せめてその女に文句の一つや二つは叩き込みたいと、シーザーはキュルケに尋ねた。 「ああ、それならあとで連れてってあげる。目的の半分を達成したしね」 「目的?」 「召喚された平民ってのがどんな奴なのか。もっとも洗濯が巧くて面白い奴だと思わなかったけど」 「洗濯は特技じゃねぇ…」 不平を漏らすシーザーの視界の先に、のっしのっしと歩いてくるやたらでかい蜥蜴が見えた。 その蜥蜴はキュルケの横に来ると嬉しそうに喉を鳴らす。 「この子があたしの使い魔”火蜥蜴”のフレイムよ。もう半分はこの子を呼び戻して早起きついでにあ たしも散歩に出たって訳」 「こいつ、お前の使い魔だったのか」 きらきらと鱗を輝かせるフレイムを愛しそうになでるキュルケに対しシーザーに嫌な記憶が蘇ってきた。 ボロ切れのようになったシーザーを枕にしてのしかかる奇妙な畜生たち、そのせいで三本くらい疲労 骨折したのだが中でも腹に寝そべる感触。 やけに体温が暑く、いや熱く腹部の大部分が低温やけどになってしまった。波紋で治すまで痒くてかゆくて、川の上で波紋を集中しながら練ってなんとか治せたのだ。 「何、この子なんかした?」 「いや、とても情熱的な抱擁をもらってね」 シーザーは若干皮肉をこめたが、ふーんと興味なさそうにキュルケに返された。 …コノカユサ ハラサデオクベキカ。 心の中で復讐の炎を燃え上がらせるシーザーを尻目にフレイムが甘えたように鳴いた。 「どうしたのフレイム…あ、そっか」 その様子を不思議に思ったが、すぐに合点がいきシエスタに話しかける。 「ねぇそろそろ朝食の時間じゃない?この子がお腹すいたって催促しているんだけど」 「あ、そうですね。私も厨房の手伝いに戻らないと」 幾分か硬い表情のとれたメイドの態度を見てシーザーのおかげかな、とキュルケは思った。 「でも…」 困った表情を浮かべるシエスタに合点がいったシーザーが笑って言った。 「ああ、残りは僕がやっておくよ」 「有難うございます!残ってるのは貴族の方に頼まれたものだけですから気をつけてくださいね?」 了解、と返すシーザーに意味有り気な笑みをキュルケが浮かべた。 「何だ?」 「べっつにー。ねぇひょっとしてゼロの?」 シーザーの質問を無視してキュルケは尋ね、シエスタが困ったような笑みを浮かべた。 「何なんだよ一体…」 シーザーの当然の疑問に、二人は無言で眼を合わせ苦笑し蜥蜴は喉を鳴らした。 「それじゃあ先に失礼しますね」 シエスタは二人に礼をして駆け出し、ふと思い出したようにシーザーに尋ねた。 「シーザーさん、その不思議な力はなんていうんですか?」 桶に手を突っ込んで泡の塔を作り上げるシーザーはごく普通に、少しだけ格好つけて答えた。 「俺の力は”波紋”。あらゆる生命のもつ勇気が生みだす誇りさ」 「波紋ですか…とっても素敵な力ですね」 シエスタはそういい残し走り出した。 シエスタは今日初めて出会った青年に不思議な魅力を感じていた。 水の上に立ち集中するその不思議な姿は朝日に照らされ神々しく、刃物のように鋭い空気を纏って。 けれどボロボロになって戻ってきた時は怖がる私を心配するように大きな体なのにオロオロしていて、 不思議な力で洗濯を手伝ってくれたり砕けた様子で話をしてくれる様子は面白くて、凄く怖い眼をして 貴族の人に喧嘩を売ったかと思えば土下座したりしょんぼりする様子はすごく可愛くて。 くるくると変わるその青年はシエスタには今まで見たこともない人間であった。 そしてほんの少しだけ興味が沸いてきた。 (彼は何者なのだろう?) 貴族ではないと彼は言った。では私たちと同じ平民なのか?違うだろう。 彼は遠いところから来たといっていた。どんなところなんだろう? そして…あの力。あれは何なのだろう? 吸血鬼を倒して水に浮いて洗濯をして、そんな風に軽く言っていたけど多分それだけじゃない。 もっとすごい確かなもの。『波紋』と彼は言った。 (あらゆる生命の持つ、勇気が生み出す誇り) きっと彼の全てがそこにあり、その強さもそこから生まれるのだろうとシエスタは感じた。 (私にもそんな力があるのかな) きっととても遠いのだけど、追いついてみたい。彼のように振舞ってみたい。 厨房に駆けながらシエスタは心の中で頑張ろうと決意した。 一方そのころ。 (波紋…ですか…とっても素敵な力ですね) 特殊能力【波紋】:洗濯がとても快適に。水の上に立てます。 「(嫌過ぎる…)」 シエスタの中で間違いなく誇り高い力を誤解されているであろう事にシーザーは嘆いた。 こういう事は強引に修正しても印象深いことと混同してしまいかえって良くない。 が、せめて洗濯が巧くなるという誤解はどうにかして欲しい。 「(その辺に吸血鬼が二、三匹いねーかな…柱の男でもいいや)」 いたら困るのはお前だ、シーザー。というか波紋使いの誇りはどうした。 「じゃああたしも行くわね。終わったらあそこの建物を尋ねて。キュルケ様の部屋って尋ねたら誰か教え てくれるから」 両手を地面について落ち込んでいるシーザーを特に慰めようと思わずキュルケも部屋に戻ろうとした。 彼女の指差した先には大きな建物が見えた。 「蜥蜴を連れた火炎のような女、だな。覚えたぞ」 キュルケの非難がましい視線を無視して気を取り直したシーザーは最後の洗濯に取り掛かる。 「まぁいいわ。そこであなたのご主人さまに引き合わせてあげる」 「自分が召喚した人間を地べたに放置するようなご主人様に仕える気はないがな」 ため息交じりのシーザーの皮肉にキュルケが苦笑しマントを翻した。 「ねぇ?」 ふと思い出したようにキュルケがシーザーに尋ねた。 「あの時あたしがそのまま杖を振るう人間だったらどうしてたの?」 「そうだな…信用はしてたし、万が一お前が暴力を振るう人間なら戦っていた」 「じゃああたしが弱そうなあの娘を狙っていたら?」 自分の中ではありえなかったが、他の貴族があの娘を虐げないとも限らない。 そう考えたキュルケにシーザーはごく当たり前のように答えた。 「決まってるだろ?あの娘を命に代えても守って、敵を打ち破るだけだ」 過剰な自信などではなく確かな意思を持ったまなざしでシーザーは宣言した。 「友人の命とあらゆる生命に対する侮辱は、俺が許さねぇ」 力強く、故に危険な意思を秘めたシーザーにキュルケがため息をついた。 「いずれ死ぬわよアナタ…?あんまり他の連中に喧嘩ふっかけないでね?」 あいつらもガキなんだから、と言い残してキュルケは去っていった。 「るせー」 遠ざかるキュルケの皮肉に悪態をついて洗濯に集中する。 先ほどの洗濯物より明らかに上質な生地を使っているのが判った。 「(連中のはやりたくねーが、シエスタが怒られるしな)」 石鹸が溶けきってしまうため水から取り出し、振動数を調整するため両手を突っ込んだ。 「(ん…?)」 両手から発せられる振動でたらいの中を暴れる洗濯物の一つがシーザーの手に絡まった。 「(軽い、小さいな…形状は…三角?ふちが…やわらかい…)」 ぼふぉ!! 石鹸は取り出したにもかかわらず泡山は大きく膨れ上がり、空に浮かぶ師はサングラスをかけメッシ ーナとロギンズ師範代がそろって舌出してギィーッ!ってやっていた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4800.html
前ページ次ページゼロのロリカード 「あれがそうですよ」 「あ~あ、安置されてるんじゃお宝もくそもないわね~」 キュルケら一行はシエスタの家から寺院が目視で確認できるところまで歩いていた。 タルブの村に到着し、シエスタを訪ね事情を話す。すると『竜の羽衣』は呆気なく見つかることとなった。 『竜の羽衣』はシエスタの曾祖父の物だそうで、村の近くに立てられた寺院に飾られているらしい。 そのまま帰るのも難だったので、とりあえず見るだけ見て帰るという話になった。 寺院の中に入ると竜とは似ても似つかない金属の塊があった。大きさはかなりのもので固定化の魔法がかかっている。 「なにこれ?」 キュルケが浮かび上がった疑問の言葉をそのまま呟く。キュルケだけではなくただの一人を除いて全員が疑問に思った。 そのただの一人であるアーカードだけは驚きの表情の後に笑みを浮かべた。 「む、誰かいるのかね?」 寺院の奥の方の陰になってる方向から人影が近付いてくる、顔が見えた瞬間全員が驚いた。 「コ・・・コルベール先生ッ!?」 いち早くギーシュが見知った顔の人物の名を叫んだ。 「き・・・君達、何をやっているのかね?」 「それはこっちの台詞ですわ、ミスタ・コルベール」 素直に答えてはマズいと思い、咄嗟にキュルケは問い返す。 「私は研究だよ、ミス・ツェルプストー。この『竜の羽衣』の所在を知ったので是非とも調べたいと思ってね、勿論休暇も貰っている」 コルベールは答えたあと、眉間に皺を寄せながら再度問う。 「それで、君達はなんでここにいるのかね。授業は一体どうしたのだ」 そう言ったあと、コルベールは全員を見ながら誰がいるのかを確認する。 「いやぁ~・・・その~・・・」 ギーシュが口ごもる、キュルケはなんて言い訳をしたらいいか必死に考え、ルイズはバツが悪そうに目をそむけていた。 タバサはいつも通りで、アーカードはぺたぺたと『竜の羽衣』を触っていた。 「なるほどなるほど・・・・クク・・クックック、くはッはははははッ!」 突然アーカードが笑い出す、アーカードがこうまで感情を顕にして笑うのは珍しい。 コルベールも含め、思わず全員がアーカードを注視した。 「どうしたい、相棒」 デルフリンガーが鞘から顔を出しアーカードに聞いた。目尻に溜まった涙を指で拭いながらアーカードは口を開く。 「ははっ、いやなに。『これ』がここにあるとは思わなくてな」 アーカードがポンポンと『竜の羽衣』を叩く。それに呼応するかのように左手のルーンも光っていた。 「ミス・アーカード・・・これを知っているのかね?」 コルベールの言葉にアーカードはギラっと笑って答える。 「ああ、知っている。これは私がいた世界のモノだ。SR-71、ブラックバードと言われた超音速高高度偵察機。そうだな・・・クク、私にとってはこれもある意味『武器』に違いない」 コルベールは頭だけでなく瞳も輝かせた。アーカードの世界の産物をと聞いて、驚きつつも興奮が抑え切れていない様子である。 ルイズとキュルケは改めて『竜の羽衣』を見る、破壊の杖よりも遥かに大きくそれ以上に用途がわからない。 アーカードのいた世界とは一体どんなところなのか、そもそもなんでこんなところにあるのか、ハルケギニアでは見られないその塊を見つめる。 タバサも知的好奇心が多少なりと疼いたのか、『竜の羽衣』を興味深そうに見つめていた。 一方、事情が全く飲み込めていないギーシュとシエスタは、アーカードがいた世界のモノと言われても意味がわからずただポカンとしていた。 「なんと!おお・・・これは君の世界のモノなのか!」 そう言うとコルベールは我を忘れて再度『竜の羽衣』を観察し始める。 そのコルベールの様子を見て、キュルケは言及を回避できたとほっとしつつ口を開く。 「それで、アーカードの世界ではこんなもん何に使うわけ?」 「言ったろう、偵察機だ。これで高高度を超音速で飛行して地表を撮影したりする」 「ほほお!これが飛ぶのかね!?」 コルベールが興奮しながら叫ぶ。飛ぶと言われてキュルケ達も凝視し始める。 ハルケギニアの住人である彼女達には、当然目の前の金属の塊が飛行するなんて到底信じられない。 「シエスタ、曾祖父の遺品とかはあるか?」 「あっ・・・はい、ありますよ」 「少し見せて欲しい」 ◇ シエスタの曾祖父はアーカードが元いた世界の日本人であった。 アーカードとシエスタの最初の出会い、血を少し飲んだ時に感じた違和感の正体はそれであった。 自分が吸った命の中には日本人も含まれている、それ故に感じたほんのわずかな差異。 シエスタの曾祖父が残した遺書には英語と日本語の二言語で書かれていた。 日本人だがアメリカで訓練し、SR-71に乗っていたということ。しかしテスト飛行中にいつの間にかこの世界に迷い込んでしまっていた。 複座型である為、当然パイロットと偵察機器操作担当がいて、シエスタの曾祖父は後者であった。 なんとか草原に不時着するものの、たった二人でSR-71を動かすことは到底不可能である。 二人の異邦人は、言語や文化の違いに四苦八苦しながらも暮らし始める。しかしパイロットの方のアメリカ人は帰る為の情報を収集すると言って旅立った。 一方シエスタの曾祖父はタルブの村に住むことを決め、必死に働いてお金を稼いでSR-71に固定化をかけたのだ。 アメリカ人の方はタルブへと帰ってくることはなく、一人待ち続けながらもシエスタの曾祖父はその人生を終えることとなった。 そしてもし自分の残した遺書を読める者が現れたら、SR-71を譲り渡すという遺言を残したという。 遺書の他にも、丁寧に描かれた手書きの図面や操作方法などの様々な資料が残されていた。 「異世界の住人だったとはなぁ、なるほど僕が負けるわけだ」 「いやアンタが弱過ぎただけよ」 キュルケの容赦のないツッコミにギーシュは言い返せず呻く、キュルケの実力は今回の宝探しで嫌になるほど実感した。 キュルケと特にタバサは同期の中でも飛び抜けた実力を持っている、魔法だけでなく戦術にも長けていた。 「・・・私のひいおじいちゃん、アーカードさんの世界の人だったんですねぇ」 しみじみとシエスタが呟く、横でコルベールが口を開いた。 「それでこの『竜の羽衣』はどうするのかね?」 遺書を読んだものにこれを譲渡するとの遺言である、つまりその権利はアーカードにあった。 「とっても大きいし管理も大変ですし、何よりもひいおじいちゃんの意思です。アーカードさんが貰ってくれていいと思いますよ」 シエスタにそう言われるも、アーカードは考える。 「ん~む・・・、そうは言われても使う予定もなければ置く場所もない。こんなもの貰っても困りものだ」 「ならば!」 コルベールが嬉々とした表情で叫ぶ。すぐにはっとして咳払いをしてから、コルベールは再度口を開いた。 「これほどのものを譲渡してくれると言うんだ。素直に貰ったほうがいいと私は思うんだが・・・。 ・・・いや、正直に言おう。是非とも私が研究したい。場所は学院長に言ってなんとかしてもらおう、運搬も管理も全て私が請け負う。 だからその、ミス・アーカード。この通り!『竜の羽衣』を譲り受けてもらえないだろうか!」 頭を下げて懇願するコルベールを見て、アーカードは再度思考する。 「いいんじゃない?コルベール先生が全部責任持ってくれるって言うし」 ルイズがアーカードに言う。腕を組んで右手の人差し指をトントンと叩きながらアーカードは考える。 『ガンダールヴ』が教えてくれる。おかげで残された資料を見ずとも整備方法は完璧にわかるし、現在の状態を見るにSR-71は動かせないことはない。 当然一度乗ってるから操縦法はわかっていた、それでなくとも『ガンダールヴ』の能力で操縦できる。 固定化がかけられた与圧服も二着残されていたが、吸血鬼の頑強な体には特に必要ない。 シエスタの曾祖父らはSR-71から漏れ出す残りの燃料を予め別途保存し、そちらにも化学変化が起きないように固定化をかけていた。 しかしお金を稼いで固定化をかけるまでにある程度時間が経過していたようで、かなり劣化していたのである。 仮に使用できても長時間飛行するには心許ない残量であった。偵察機器を使っても現像する手段もない。 つまるところ使い道のないデカブツなのだ。 シエスタの曾祖父は、自分たちの世界からハルケギニアにやってきた者の為にこれを残し、譲り渡すという意思を伝えた。 だのにコルベールの研究心を満たす為に譲り受けるのは、曾祖父の本意とは違うだろう。 とは言っても、燃料が少ない上に劣化している。資料が残されてるとはいえSR-71を動かすなんて素人が出来るわけがない。 また一応SR-71内にしまわれているようだが、一度使用されたパラシュートは着陸の際の再度使用には信頼性に欠ける。 そもそも現在SR-71は退役している、まともに動かせる人材がたまたまこれを見つける可能性など限りなく低い。 なればシエスタも管理が面倒と言っていることだし、譲り受けるのもよいのかもしれない。 アーカードが思考を巡らせている中、キュルケが何かを思いついた表情を見せる。 次にニヤ~っと笑うとアーカードに近付き耳打ちしてきた。アーカードは聞きながらうんうんと頷く。 「コルベール」 考えを決めたアーカードはコルベールの名を呼ぶ。コルベールは頭髪の寂しい頭を上げアーカードを見る。 「実は我々は授業をサボって宝探しをしていた、このまま帰れば恐らく叱られることになるだろう。 まぁ私には直接関係のない話なのだが・・・。とりあえずその際にフォローをして欲しい、とのことだ」 突然のカミングアウトと持ちかけられた取引に、コルベールの顔が葛藤で歪む。 コルベールは少しの間考え、そして決めた。 「・・・・・・わかりました、私の方から学院の方に言っておきましょう。恐らくこのまま帰ればあなた達には相応の罰が待っているでしょうしね」 コルベールのその受諾の言葉に、やった!とキュルケが小さくガッツポーズをする。 ギーシュとルイズもほっとした顔になる、タバサは相変わらず表情が読めなかった。 「ただし!今この場であなた達にお説教をします。私は教師です、宝探しなどという動機で授業をサボタージュした生徒を黙認することなどできません」 「そんな!」 キュルケが抗議の声をあげようとするも、コルベールは遮った。 「取引の内容は、『竜の羽衣』の研究と学院への弁解です。私個人が教師としてあなた方を叱るのは含まれていません」 「ぐっ・・・」 キュルケは言葉に詰まりさきの会話の内容を思い出す、・・・やられた。 「諦めなさいキュルケ。悪いのは私達なんだから、この場で叱られるくらい当然よ」 そうルイズが口を開く。ギーシュもそれに続き、タバサも無言でキュルケを促した。 さすがにキュルケも諦めたのか、四人は立ったままコルベールの説教を黙って聞き始めた。 そんな様子にアーカードは声に出さず笑いながらSR-71へと飛び乗る。はしっこに腰掛け、足を組んでふんぞり返る。 長くなりそうな説教に、シエスタは夕食の準備をしてきますと言って家に戻って行った。 普段から温厚で滅多に叱ることのないコルベールの説教は陽が落ちるまで続き、四人はもう二度とコルベールに叱られることはしないと心に誓った。 前ページ次ページゼロのロリカード