約 1,871,632 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9192.html
前ページ次ページ暗の使い魔 太陽は西に沈みかけ、空が茜色に美しく染まる。煌く星々がその空に顔を覗かせようとしていた。 そんな刻限、モット伯の屋敷へと続く道を、一つの奇妙な物体が疾走していた。 薄茶色に汚れた球体が、土埃を舞い上げながら高速回転する。この奇妙な物体こそ、黒田官兵衛の変じた姿。 その速度たるや、並みの馬では追いつけぬ程であった。 『災い転じて』。黒田官兵衛が得意とする奥義の一つである。 繋がれた鉄球にしがみ付き、共に転がる事で馬以上の速度と突進力を得る技である。 その猛牛のような突撃を止める手立ては無いが。 「ありゃあっ!」 木や壁に激突すると、即座に身動きが取れなくなってしまう欠点があった。 どしいん、と官兵衛がカーブを曲がりきれず木に激突する。鉄球から投げ出された身体が、激突した木に逆さに貼り付く。 バンザイした状態の、なんとも間抜けな格好のまま、官兵衛はへなへなと地面に崩れ落ちた。 「……時間が無い」 官兵衛は即座に起き上がり、鉄球にしがみ付く。そして再び鉄球と共に高速回転し疾走した。 官兵衛は今、一直線にモット伯の館を目指していた。 暗の使い魔 第九話 『メイド奪還戦』 「全く、あの使い魔ったら、一体何処に行ったのかしら。」 一方学院では、自室から忽然と姿を消した官兵衛をルイズが探していた。 あの後、ルイズたちはその熱意をくまれ、見事探索隊への志願を認められたのだった。 最初は教師一同学生を送り出す事に難色を示していたが、彼女らが敵を見ている事。 彼女ら自身(ルイズを除く)が、折り紙つきの実力者であることを理由に、渋々承諾された。 また、コルベールなどは、官兵衛の事に対してしきりに何かを訴えようと興奮していたが、 オールド・オスマンに口止めされていた。 二人の様子が妙に引っかかったルイズであったが、ひとまずこれでよしと、官兵衛を連れに部屋へと戻った訳である。 しかし戻ってみれば、部屋はもぬけの空であり、置手紙の一つも無い。 もっとも官兵衛はまだこちらの文字を習得していないので、仕方の無いことであったが。 そのためルイズは憤慨し、今に至る訳である。 「この時間だし食堂にでもいるかしら?」 ルイズは急ぎアルヴィーズの食堂へと向かった。 「ああモンモランシー、いつ見ても君は美しい!例えるならラグドリアンの湖面に浮かぶ精霊の輝きのように!」 「ふーん、そのセリフはもう何回目かしら?」 「ええと、そうだなそれじゃあ――」 ギーシュ・ド・グラモンは、食堂で恋人のモンモランシーと優雅に夕食を楽しんでいた。 歯の浮くようなセリフをだらだらと並べ立てるギーシュ。 その言葉に対してツンと澄ましたまま、あれこれ文句をつけるモンモランシー。 「(はぁ。彼女の機嫌を取るのも楽じゃないよ……)」 心の中でごちるギーシュ。 そんな彼の元に、一人の男が現れたのは、ルイズが部屋に戻る30分程前の事だった。 「お、丁度いい。おい金髪の!」 食堂で食事をしているギーシュを見つけるやいなや、突如官兵衛はギーシュに詰め寄った。 「なっ、君は!ルイズの使い魔の……えーっと」 「官兵衛だ」 「カンベエ、そんな名前だったね。一体何の用かね?僕らは見ての通り忙しいんだ。」 ギーシュは困った顔をしながら、官兵衛を見やった。だが官兵衛は意にも介さず続ける。 「悪いが小生も急ぎでね。ちょいとお前さんに尋ねたいことがある。モット伯ってのの館にはどうやって行けばいい?」 「モット伯だって?」 ギーシュが突如出た人物の名に首を傾げた。 「別に教えてもいいが、一体モット伯爵に何の用だい?」 「答える必要は無いが、まあヤボ用だ」 あっけらかんとした様子で答える官兵衛。 ギーシュは怪しんだが、このままここに居座られても困る。 そう思うと、官兵衛に大まかな方角と道順を教えた。 「成程な、助かる」 「いや、いいとも。これでいいかい?」 自分の役目は終わっただろうとばかりに言うギーシュ、しかし。 「すまん、最後に一つ」 「まだ何かあるのかい?」 やれやれといった様子で、ギーシュは官兵衛に聞いた。 「ああ、確認しておきたい事があってな。そのモット伯爵ってのは――」 「それがさっきなのね?」 今度はルイズに官兵衛の事を問いたざされたギーシュ。 「そうだよ、まだそんなに時間は経っていない筈だ」 目の前のテーブルで不機嫌そうにこちらを睨みつけるモンモランシーに、 ギーシュは冷や汗を垂らしながらルイズに受け応えしていた。 「あのバカ使い魔!」 ルイズはそういうと、官兵衛と同じように急いで後を追っていった。 一体何の騒ぎなんだろうか。気にかかるギーシュであったが、今は目の前の彼女の機嫌を取り戻す事が先決である。 「すまないモンモランシー、二度も邪魔が入ったね。それで、どこまで話したかな。 そうそう!火竜山脈に住まう極楽鳥の話だ――」 彼女に向き直ると、ギーシュは再び歯の浮くようなセリフを交えた無駄話を披露し始めた。 「全くあのバカ犬ったらなに考えてるのよ!」 ルイズはモット伯邸へと続く道を馬で疾走していた。 ルイズは、官兵衛が一足先にモット伯の館に出向いてフーケを迎え撃とうとしている。そうに違いないと考えていた。 官兵衛がギーシュの元に来てから30分が経過している。まだ館には到着していないとルイズは踏んだ。 「間に合ってよ」 ルイズはギリと歯を噛み締めながら、勢い良く馬を駆けさせた。 モット伯爵の館の前にて、官兵衛は泥汚れを最低限手で叩き落としながら、館を見据えていた。 「ふぅ、やっと着いたか。全身泥まみれだ」 モット伯爵の館は、王宮勅使の館だけあって、見渡す限りの豪邸であった。 門から館までは、300メイルから400メイル程もある。広々とした庭園を物々しい柵が囲っている。 甲冑を着込み槍を携えた衛士達が辺りを見回り、そして庭園には、背中に悪魔のような羽を生やした猟犬が無数に放たれている。 フーケ騒ぎの為か、警備はかなり厳重にされているようだった。 「で、着いたはいいが……どうしよう」 館に近い位置にある林の陰に隠れながら、官兵衛はシエスタ奪還の為の策を講じた。 まず、自分のこの成りである。この枷と鉄球では、シエスタを取り戻す交渉は難しいだろう。 ただでさえフーケ騒ぎで物々しい警備の中、あからさまに怪しい自分など門前払いだ。 交渉材料が無い訳ではなかったが、モット伯爵に会う事は現実的ではない。 「いっそのこと強行突破してシエスタを掻っ攫うか?」 「いやいやいや、それじゃあ尚更ダメだろうぜ、相棒」 突如、官兵衛の背後からカチャカチャと唾鳴り音とともに声がした。 官兵衛の背中に背負われたデルフリンガーが、独りでに鞘から抜け出て喋り始めたのだ。 「相手は貴族のお偉いさんだ。強引なマネしたらすぐに手が回るって。 そうなったら相棒はおろかあのメイドの娘っ子だってどこでも暮らしちゃあいけねぇよ。 今回の目的はあの娘っ子を連れ戻す事だろう?もっと慎重にいかにゃあ」 「ぐっ、小生だってそれくらい考えてるわっ」 やかましく喋るデルフリンガーをキッと睨みつける官兵衛。が、やがて官兵衛は肩を落とすと。 「やれやれ、仕方無い」 静かに木陰から身を表し、のしのしとモット伯爵邸の正門へと歩き出した。 「お、どうしたい相棒?とうとう万策尽きて投降でもすんのかい?」 「誰がするかっ。そもそも小生は投降する理由も覚えもないわっ。」 デルフの戯言に、官兵衛はニヤリと唇の端を歪ませ静かに答える。 「まあ丁度いい。小生の培ってきたこの頭の冴えってやつを、お前さんにみせてやる。」 クックックと不敵に笑む官兵衛。 「ほほう、なにか考えがあるんだな?相棒」 「おうとも!」 その瞳に満々の自信をたたえ、彼は再び歩き出す。重厚に構えられた門扉に向かって。 と、その時であった。 「ぐぎゃあああああああっ!!」 突如、モット伯爵邸の敷地内に、異様な叫び声が響き渡った。 「なっ、なんだ!?」 「何の騒ぎだ一体!?」 辺りを警備していた衛士に緊張が走る。悪魔の猟犬が次々に吼えたてあたりは騒然となった。 何があった、悲鳴の元はどこだだの、数のみで集められた衛士達は口々に騒ぎ立てる。 そして次の瞬間。 「敵襲ーーッ!!敷地内に侵入者だーーッ!!」 怒号が発せられ、衛士達は一斉に駆け出した。目指すは声の方角、屋敷の左手方向であった。 「侵入者は何人だ?メイジか?」 「わからない!とにかく現場に急行してくれ!」 一人また一人と衛士達がいずこへと走り去る。そんな様子を、官兵衛は鉄柵の向こう側からひっそりと窺っていた。 デルフがこそこそと唾を鳴らして喋る。 「なにやら、穏やかじゃないね相棒」 「ああ」 官兵衛がキョロキョロと辺りを確認する。 「この厳戒態勢の中、進入しようなんて輩が居るとすれば……」 「ああ、よっぽどの自信家か大馬鹿か、あるいは『本人』か、だねぇ。相棒はどれだい?」 「とりあえず大馬鹿はご遠慮願いたいねぇ」 デルフの問いかけに、官兵衛は薄く笑いながら頷いた。 「まあ相棒、なんにせよコレは」 「ああ、そうだな」 じゃらりと鎖が持ち上がる。ぎしりと木枷を軋ませながら、官兵衛は上体を後方に捻った。 そして鉄球を手短に構えると。 「機が巡ってきた!」 そう叫びながら、黒金の塊を鉄柵に叩きつけた。 次の瞬間、ガシインと金属音を響かせ、高さ数メイルはあろう鉄柵の一部が吹き飛んだ。 「……なあ相棒」 「あん?どうした?」 崩れた柵を飛び越え、敷地内に降り立った官兵衛にデルフが言う。 「混乱に乗じようってのはわかるんだがなぁ」 やれやれと口を開く。 「こんだけド派手にやっちゃあ、すぐに衛士は戻ってくるぜ?」 「ああ、そうだな」 それがどうした、とばかりに官兵衛は首を捻る。 騒ぎを聞きつけ、衛士の一団らしき輩が掛けてくるのが見えた。 「まあ心配するな……」 官兵衛は鉄球を手繰り寄せ、目前にひょいと浮かせると。 「少なからず敵さんは薙ぎ倒す予定だからな!」 鉄球にむかって強烈なドロップキックを放った。鉄塊が、まるで砲弾のごとく一直線に一団に向かって飛んだ。 衛士の一団は、予想だにしない攻撃に対応できず、真正面から鉄球を喰らい吹き飛んだ。 その様は、ボウリングのピンを散らすかのごとく、敵を四散させた。 「まあ、気絶で済むようには努力するさ」 地面に倒れ伏した衛士達を眺めながら呟くと、官兵衛は即座に館へと駆け出した。 官兵衛が館への突入を敢行する頃、モット伯は、執務室でペンを片手に書類をしたためていた。 「どうだ、仕事には慣れたか?」 自室の机に肘をつきながら、モット伯は目の前に立つメイド、シエスタに語りかけた。 彼女は、小刻みにその肩を震わせ小さく、はいと呟く。 モット伯は満足そうに頷くと、立ち上がりシエスタの傍に寄る。 「そうか、それは何よりだ。だがあまり無理はせぬように、な」 シエスタの背後に立ちながら、モット伯は彼女の耳元で静かに囁く。 「私はお前をただの雑用の為に雇ったわけではない。わかるだろう?」 彼女の肩に手を置き、身体を密着させる。そのまま彼女の匂いを愉しむかのごとく、鼻先をうなじへと近づける。 シエスタの背筋に悪寒が走った。ぞわぞわと生理的嫌悪を催す、モット伯の行動。 「あ、あの……」 嫌とも言えず、離れる事も適わず。シエスタは恐怖と悲しみに包まれながらも、じっとその場に佇んでいた。 なぜ、平民は貴族に逆らえないのだろう。なぜ、こうも嫌な思いを重ねなければならないのだろう。 「(わたしに、あの人のような勇気が一片でもあれば、こんな思いをしなくてもすんだのかな?)」 シエスタは、ここに来る前に出会った男性の事を思い出していた。 力強く優しく、何があってもめげずに逞しい。彼のように生きられたらどんなに素敵だろうか。 泣きたくなる気持ちを抑え、シエスタはぐっと拳を握り締めた。 「(会いたい。私、またカンベエさんに会いたい……)」 それはもう適わないと知りつつも、彼女は思いを馳せる。とめどなく感情があふれ出てくる。 そんなシエスタの心情を知ってか知らずか、次にモット伯はその身体に手を廻し、抱きすくめようとしてきた。 「(嫌ッ!カンベエさんっ!!)」 感情が昂ぶる。脳裏に彼の姿が浮かんだとき、彼女は咄嗟にその体を動かした。 「や!おやめ下さい……ッ!」 力任せにモット伯の腕を振りほどくシエスタ。 そのまま一歩二歩と伯爵と距離をとり、向き合う。自らの腕で守るように、彼女は自分の身体を抱きすくめていた。 動悸がし、呼吸が乱れる。 「(わ、私一体……!)」 ハッとして目の前の状況を見やる。 そこには彼女同様、呆気にとられ立ちすくむモット伯の姿があった。 即座に状況を理解し、青ざめるシエスタ。それとは対照的に、見る見る顔を赤らめ、怒りを露にするモット伯。 「貴様……なにを嫌がる?」 「あ……」 青ざめた表情のまま、シエスタは唇を震わせていた。自分は何て事をしてしまったのか、と。 「貴様の、主は誰だ?」 怒りに顔を歪ませながらも、静かな口調で語りかけるモット伯。彼は、カツンカツンと一歩ずつ詰め寄る。 それにあわせ、怯えたように、一歩一歩と後ろへと下がるシエスタ。そんな彼女の様子に、彼は益々表情を歪ませた。 「貴様の、雇い主は、誰だと聞いている」 ゆっくりと、噛み締めるかのように言葉を口にするモット伯。その手は固く握り締められ、微かに震えている。 「何だ、その態度は。何だ、その表情は。この私を拒絶するのか?平民の、ちっぽけな小娘が」 「い、いえ私は……」 彼女の言葉は、モット伯の机を叩く拳に遮られた。ドンと乾いた木の音が響き、シエスタは肩を震わせた。 モット伯から逃げるように後ずさる彼女の背中に、固い壁の感触が触れた。 シエスタは狭い執務室の中、逃げ場も無く壁際に追い詰められのだ。 モット伯は静かに机の上の杖を取り、傍にあったマントを羽織った。 貴族の威厳を示すようなその一連の行動の後、彼は、スッとシエスタにその杖先を向けた。 「貴様には『教育』が必要そうだな」 口調も表情も変えず、モット伯は威圧的に呟いた。恐怖で、シエスタの瞳が大きく開かれる。 「お……お、許し、を……」 シエスタの口から、絞り出るように言葉が紡がれる。体を大きく震わせ、彼女は精一杯の許しをこうた。 しかしそれに答えず、モット伯は杖を向け続ける。睨みを利かせ、今にでも魔法を放てるとばかりに。 もはやこれまで、とシエスタが観念した、その時であった。 「伯爵様!大変でございます!」 激しく扉が叩かれ、執事風の男が部屋に駆け込んできた。モット伯が声を荒げる。 「何事だ!」 モット伯は、苛立ちを隠そうともせずに男を睨みつけた。 「侵入者でございます!黒いローブに身を包んだ妙な男が館内に!」 「なんだと?」 シエスタがハッと顔を上げた。 「土くれめ、とうとう現れたか!ええい!外の衛兵はなにをやっておる!」 「はっそれが未だ呼びかけに応じず……」 「これだから平民は当てにならん!」 モットは執事の男に怒鳴り散らしながら廊下を歩く。 「旦那様、王宮衛士隊への連絡は本当によろしいので?」 「くどい!たかが盗賊など、私一人で十分だ!」 そういうと、モットは執事の男を置いて、侵入者の現れた方角へと進んでいった。 「どういう事だ、こりゃ一体」 官兵衛は、館に入るやいなや、目の前の惨状に、開いた口が塞がらなかった。 彼の計画では、ドサクサに紛れてモット伯爵に謁見する予定であった。 そしてその上で、自分の持つ交渉材料でシエスタを開放する。そんな腹積もりであった。 しかし館に入ってみればどうであろう。 館の壁一面にベットリとこびりついた血痕。 エントランス中には、斬り殺された多数の衛士の死体が転がっているではないか。 あるものは首をはねられ。あるものは肩から胴に掛けて斜めにバッサリと切り裂かれ、見るも無残な光景であった。 「こいつは……」 「尋常じゃねえ奴が入り込んだみてぇだな、相棒」 デルフの言葉に、官兵衛は再び駆け出した。兎に角このままではモット伯もおろか、シエスタも危ない。 「くそっ。急かせてくれる!全く!」 官兵衛は、死体から続く血痕の足跡を辿った。 広い館内を駆けずり回る。ゼイゼイと息を切らしながら、官兵衛は足跡の主を追った。 『災い転じて』を使えば、手早く追いつけそうであったが、狭い廊下内で扱うにはコントロールが難しく扱いづらい。 こういった室内では向かなかった。 いくつもの廊下と曲がり角を通り過ぎた頃、足跡がある部屋の前で途切れているのが見えた。 「相棒!その部屋だ!」 「おうよ」 重厚な作りの扉であり、何かしら特別な部屋であることが見て取れる。 そして耳を澄ませば、中から物の壊れる音と、人の怒鳴り声が響くのが聞こえた。 すでに何かしらの戦闘が繰り広げられてるようであった。 即座に鉄球で扉をぶち破り、中へと転がり込む。 するとそこでは、黒ずくめのローブに身を包んだ男と、刺繍の入ったマントに杖を構えた貴族が机を挟んで対峙していた。 恐らくは、この貴族の男がモット伯であろう。そして黒ずくめの男が、館内を荒らした張本人。 黒ずくめの男は、何やら筒状のものを抱えており、逃げ出す隙を窺っているようであった。 官兵衛に気がついた貴族の男が、杖を官兵衛へと向ける。 「なんだ貴様は!」 すると一瞬の隙をついて、黒ずくめの男が手にした物を置き、近くの窓へと駆け出した。 「おのれ!逃げるか!」 杖先から水の鞭が男へと伸びる。しかし、寸でのところで狙いがそれ、男のローブを掠っただけであった。 男は身を屈めると、窓をぶち破り、外へと躍り出る。そして、そのまま夜の闇の中へと消えていった。 後に残ったのは、官兵衛とモット伯の二人であった。 「くそっ。土くれめ」 モット伯が忌々しげに、破られた窓から外を見やった。それからゆっくりと官兵衛に向き直り、再び杖を向けた。 「貴様は一体何だ!ヤツの仲間か!」 「ちょっと待て、小生は今の奴とは関係ない。そうだな……」 官兵衛はやや思考の後、思いついたようにデタラメを口にした。 「お前さん達を助けに来たんだよ」 「何?」 モット伯が顔をしかめる。何のことだ、といった風に官兵衛の言葉を待った。 「そうさ、用があって館を訪れたんだが、怪しい人影が入っていくのを見た。 こりゃまずい、と思い駆け込んでみればこの惨状。とっさにお前さんの元に駆けつけたわけだ。」 それを聞いて、モット伯は眉を吊り上げた。妙な事を言う男だ、といった顔である。 「そうか、それはご苦労だったな。で、お前自身は何者だ?」 警戒を解く様子も無く、彼は杖を構えたままであった。呪文の詠唱を済ませ、いつでも魔法は放てるとばかりだ。 しかし、官兵衛は平然とした様子である。静かにモット伯を見据え、官兵衛は驚愕の台詞を口にした。 「小生は、ミス・ヴァリエールが使い魔、黒田官兵衛。魔法学院より使者として参った」 「ヴァリエール?魔法学院だと!」 モット伯が驚き目を見開いた。 「(この男が使者だと?)」 モット伯は疑いの眼差しを強めた。 どうみても囚人然とした男ではないか。服は薄汚れ、醜き手枷をはめられ、身なりも整っていない。 彼は信じられないといった顔で、官兵衛を問い詰めた。 「貴様のような使者がいるか!どうみてもただの囚人ではないか!」 モット伯の当然の指摘である。官兵衛は仕方なさげに口にする。 「すまんね、あいにく主人の酔狂でこんな格好をさせられている。なんたって小生の主はヴァリエール家の三女だからなぁ」 「ぬぅ?」 それを聞いてモット伯は眉をひそめた。ヴァリエール家の三女といえば良くも悪くも有名である。 曰く、魔法の仕えない落ちこぼれ。曰く、貴族の例に漏れずプライドが高く、気性も荒い。 そんな娘であれば自分の従者への扱いなど目に見えているだろう。そう言われれば納得できないでもない。しかし―― 「使者だというなら、身分を明かす物がある筈だ。それを差し出せ」 果たして、こんなぞんざいな扱いをされる男が使者として立てられるだろうか? 少なくとももう少しマシな者を使者として選ぶはずだ。モット伯はそう考え、官兵衛に使者としての証を求めた。 しかし勿論、官兵衛はそんなものは持ち合わせていない。 彼が此方に来てから、身分を示すような持ち物は何一つ持たされていなかった。しかしそれでも官兵衛は、臆する事は無い。 「残念だが小生はただの使い魔だ。身分を証明するものは持ち合わせていない。まあ、このルーンくらいだな」 官兵衛が左腕のルーンを掲げて見せるが、モット伯はそれを鼻で笑って返した。 「それ見た事か!このみすぼらしい囚人め。ええい!衛兵は何をしておる!早くこの男を取り押さえろ!」 「だが!」 それでも官兵衛が力強く言い放つ。 「小生は今宵特別な品を持って此方にやって来た。これは我が主人から託された物」 そういうと、官兵衛は懐から、ある物を取り出した。それは…… 「『召喚されし書物』ゲルマニアの名家からヴァリエール嬢へ譲り受けし品」 「なっ!」 モット伯が驚きのあまり杖を落とした。 官兵衛が取り出したそれは、昨晩キュルケから受け取った、家宝の本であった。 震える手で杖を拾いながら、モット伯は官兵衛が手にした本に釘付けになった。 「『召喚されし書物』だと?あのゲルマニアのフォン・ツェルプストーの家宝がなぜここにある!騙されんぞ!」 「疑うんなら、見てみるといい。」 官兵衛は、書物をすっと目前に差し出した。 モット伯はよれよれと官兵衛に近づき、広げられた書に目を通す。 「ふ、ふん!どうせ偽物に決まっておる。偽物に、ニ、ニセ……こ、これは!」 それは実に奇怪な書物であった。本の形式はハルケギニアにあるような形ではない。 それは、遥か東方の地の書物。いわゆる巻物の形式を取っており、そこには見たことも無い文字列がずらりと並んでいた。 フォンツェルプストー家の家宝として名高い異国の書物。 その実物に関する情報を、書物コレクターであるモット伯が、知らない筈は無かった。 そして書の端には、丁寧にもツェルプストー所有の証である魔法の印が押されていた。 モット伯は書を眺める内に、それが本物である事に確信を得ていった。 官兵衛の唇がニヤリと持ち上がる。 官兵衛はパタンと書物を閉じると、モット伯に向き直った。 「こ、これを私に託すというのか!何を企んでおる!何が目的だ!」 声を震わせ、官兵衛に食って掛かるモット伯。奪い取ろうとするモット伯からひょいと書物を遠ざける。 官兵衛は、モット伯をまあまあと宥めた 「まあ落ち着くんだな。確かにこれを唯で差し上げるわけにはいかない。その交渉のために小生はやってきたんだからな」 官兵衛はもったいぶってモット伯に向き合う。 「ふん、一体どんな条件だと言うのだ」 モット伯が興味深々に官兵衛に尋ねた、しかし官兵衛は。 「といっても小生、この成りだ。先程も言ったがとても使者として信じてもらえる訳が無い。 身分を証明するのはこの書物くらいだからな」 「ええい!何を言っている」 官兵衛の言葉に、モット伯は苛立った。そして口をついてある言葉を口走った。 「はやく条件を言え!お前が何者だろうと知ったことか!それは私のものだ!」 「それは小生を使者として認める。ということでいいんだな?」 それを聞き、モット伯はうっ、と言葉に詰まった。この男と交渉をする、即ちそういうことに繋がる。 もっとも使者として認めず、強引に侵入者としてここで書物を奪い取ってしまう事も出来た。しかし。 「言っておくが小生をここで捕まえれば小生の主人が黙っていないぞ?近いうちに主人もこちらにやってくるだろうしな」 官兵衛が自信満々にそういった。 モット伯はむぅと口ひげを弄りながら考える。モット伯はこの男の自信満々な態度が妙に気になった。 もし本当にこの男がヴァリエール公爵家と繋がりがあるのなら、たしかにここで捕まえてしまうのは危険である。 「……わかった。お前を使者と認めよう」 モット伯は渋々頷いた。官兵衛は表情を変えずすっと頭を下げた。 「それを証明する証として一筆頂戴したい」 それを聞き、モット伯は短く舌打ちをすると、すっと杖を軽く振るった。と、部屋の片隅からペンと羊皮紙が飛んできた。 するするとしたため、それを官兵衛に渡すモット伯。 「これで満足か?」 「ああ、これでようやく交渉に移れる」 官兵衛はニンマリと笑みを浮かべた。 「では本題に移ろう。小生らは、この屋敷に使えるある人物の解雇を望んでいる」 「解雇だと?」 モット伯は首を傾げた。一体どういう了見だ、といった表情である。 「学院からの要望、それは……」 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。モット伯が二の句を今か今かと待つ。 「シエスタを、あのメイドを学院に戻すこと。 その親族への手出しをしないこと。そして、今後一切あのメイドに関与しない事、だ」 へっ?と拍子抜けした様子でモット伯が言う。 「それだけか?」 「ああ、確実にそれらが約束されるならば、な」 しばしの沈黙。やがてモット伯は我に帰ると。 「ははっ!ははは!よかろう!あの小娘と引き換えなら!いくらでものもうではないか!その条件を!」 そう言って高らかに笑った。 官兵衛は、モット伯が本のコレクションに目が無いという情報を、あらかじめ学院のメイド達から仕入れていた。 そして、ギーシュにもその事を確認する事で、官兵衛は自分の交渉が上手くいく事を確信した。 あとは、キュルケからプレゼントされた書物を携え、モット伯と直接対峙するのみ。 彼の目論みは、まんまと成功したのであった。 しばらくすると、遅れてやってきた衛士の生き残りが部屋に入ってきた。 到着するなり、お怪我はありませんか、とモット伯を気に掛ける。そして、部屋に残った官兵衛を見るや否や、武器を構えた。 しかし、そんな衛士にすぐさまモット伯が命令を下す。 「シエスタをここに連れて参れ」 面食らった様子で、衛士はモット伯の命令を聞いていた。この非常時に一体メイドに何用か、と。 しかしモット伯が怒号を飛ばすと、衛士は駆け足で部屋から出て行った。 「カンベエさんっ!」 衛士に連れられ、モット伯爵の元へ連れられたシエスタ。彼女は部屋に着くやいな官兵衛の姿を目にし、驚きの声を上げた。 「さて、学院の使い。これで良いな?この書は渡してもらう」 シエスタを渡してやれ、と衛士に命令を下す。すると、訳も分からないまま解放されたシエスタは、官兵衛に駆け寄った。 一体どういう事なのだろうと、目を白黒させる。襲撃があったと聞き、そのまま執務室で待機していたシエスタだった。 しかし、騒ぎが収まったと思いきや、突如衛士があらわれ自分をモット伯の元へ連れて行くではないか。 そして、モット伯の元に来れば、そこには会いたいと願っていた官兵衛が。 賊はどうなったのだろう。一体なぜここに官兵衛がいるのだろう。なぜ自分は解放されたのだろう。 様々な疑問が彼女の頭の中をグルグルと回った。 そんな風にシエスタが混乱している最中、モット伯は踵を返すと、残った衛士に、館内の処理と賊の追撃を命じた。 「もう用は済んだか?済んだならその娘を連れてとっとと出て行け。今は忙しい」 官兵衛とシエスタを残して、モット伯は衛士の後を追った。しばしの間、静寂が辺りを支配した。 やがて落ち着いたのか、シエスタが口を開く。 「あの、私。まだ良く状況が分からなくて。一体どういうことでしょう? 侵入者が出たって聞きましたけどどうなったんですか?官兵衛さんは何故ここに?」 恐る恐る様子を聞く。そんな彼女を落ち着かせようと、ポンと肩に手をやる。 「落ち着け、落ち着け。侵入者らしいやつは逃げて行った、ひとまずな。 それと、小生がここにいるのは話せば長くなる。だが一番大事なのは――」 官兵衛がゆっくりと落ち着いて言葉を発する。 「お前さんは、ここに仕えなくて良くなった。学院に帰れるってこった」 官兵衛が唇の端を持ち上げながら、シエスタに言った。彼女は呆然として、その言葉を聞いていたが暫くすると。 「本当に?学院に、みんなの所に帰れるんですか?」 そう口にして、こらえきれなくなった様に涙を流した。 顔を伏せて、真っ赤になりながら、シエスタは号泣した。 「おいおい、泣くほどか?」 官兵衛が頭を掻きながら、彼女のそんな様子を暫くの間眺めていた。 粗方泣き止んだシエスタが、官兵衛を見つめる。 「もしかして、官兵衛さんが助けてくれたんですか?」 「まあそうなるか。小生が持っていた書物と引き換えにお前さんを解放してもらった」 「そんな、私の為に?」 シエスタは驚いた様子で口元を押さえた。 そんな二人の様子を見て、デルフが口を開く。 「相棒、積もる話もあるが一先ず引き上げようぜ。ここは危険だ」 「ん、そうだな」 賊は逃げたとはいえ、危険人物が辺りに潜んでいる事は明白だ。官兵衛はエントランスの死体が転がる光景を思い出した。 シエスタを伴って部屋から出ようとする官兵衛。 「と。その前にだな」 官兵衛は思い出したかのように、部屋の片隅を見やった。 見るとそこには、黒ずくめの男が置いていった、謎の筒のようなもの。 「こいつは一体何だ」 その物体を持ち上げながら、官兵衛は中を拝借しようとして蓋を開けた。 その時、官兵衛は信じられない物を見た顔で、筒の中の物体を凝視した。 「ば、馬鹿な!こいつは……!」 「どうした相棒?」 「どうしたんですか?カンベエさん」 シエスタが官兵衛の持つそれを覗き込もうとした、その時であった。 どおん!と大地を揺らすような地響きが、館全体に響き渡った。 「きゃあっ!」 倒れそうになるシエスタを官兵衛が支えながら、彼は彼方此方を見回す。 「こいつは……」 官兵衛は、この振動には身に覚えがあった。あの時ルイズ達と一緒にその現場を目撃していたのだから。 「シエスタ、こいつを持ってくれ。一旦外に出るぞ!」 「は、はいっ」 官兵衛が筒のような容器をシエスタに持たせる。 そして、彼女の手を引きながらエントランスを目指した。 長い長い廊下を駆け抜ける二人。 幸い、途中にある衛士の死体はすでに残った衛士達によって片付けられていた為、シエスタがそれを目撃する事は無かった。 階段を降り、エントランスの広間を抜る。巨大な玄関の扉を破り、そのまま庭に飛び出た。するとそこで、彼らが見たものは。 「っ!?」 シエスタが驚きのあまり声を詰まらせる。やはり、と官兵衛は苦々しくその光景を見やった。 「こいつは、あの時の!」 そう、それは天を覆いつくさんばかりに巨大なゴーレム。巨大な土のゴーレムが、館の傍に屹立している光景だった。 巨大な土の塊が、ゆっくりとモット伯爵の館に迫って来ていた。 前ページ次ページ暗の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1330.html
前ページ次ページ使い魔のカービィ ルイズは意気揚々とミセス・シュヴルーズの『錬金』の授業を受けていた。 それもそのはず、先程カービィの意外な能力を発見し、役立たずではないと証明されたのだ。 カービィのあの吸い込み、風力だけならかなりの物だ。 何に使えるかは未知数だが、色々道はあるだろう。 風っぴきが教室に入ってきたとき野次を飛ばしてきたが、今まで感じていた劣等感を感じずに済んだ。 カービィが凄い力を秘めた使い魔だったことの嬉しさが、ルイズを苛んできた劣等感を上回ったのだ。 (優しくて、特殊な能力も持ってて、珍しくて……最高じゃない! 私の使い魔!) あとは強ければ……とも考えたが、それは流石に望みすぎだ。 とにかく、自分が理想としていた使い魔より若干劣るものの、カービィは使い魔として申し分のない存在だ。 あの食欲には驚かされたが、その辺はしっかり躾ればきっと最高のペアになれるだろう。 そんなことを考えながらニヤつくルイズだった。 一方ルイズの隣の席では、カービィがミス・シュヴルーズの話を熱心に聞いていた。 真面目に授業を受けているのか、というとそうではない。 ただ単に、カービィは周りの生徒達の真似をしているのだ。 第一カービィに魔法のイロハが分かるはずもなかった。 段々真似をして授業を聞くのにも飽き、睡魔が彼を襲いつつあった。 そんな2人に関係なく、授業はどんどん進んでゆく。 「……と、言うわけで。一年生の時に出来るようになった人もいるかと思いますが、もう一度おさらいしてみましょう」 そう言うと、ミセス・シュヴルーズは石ころをいくつか取り出した。 その動作が気になったのか、夢の世界へ旅立とうとしていたカービィの意識がゆっくり覚醒する。 ミセス・シュヴルーズがルーンを唱え、小さく杖を振った。 するとどうだろう、ただの石ころが輝きだし、光沢ある金属へと変わったではないか。 生徒達から感嘆の声が上がり、キュルケが興奮のあまり立ち上がた。 「ゴ、ゴ、ゴ、ゴォルドですか!? ミセス・シュヴルーズ!?」 「いえ、ただの真鍮です」 「なんだ」 熱を失うと、キュルケはつまらなそうに席に着いた。 「ゴールドが錬金金出来るのはスクウェアのメイジだけです。私はまだトライアングル……って、あ、あなた! 授業中ですよ!」 その声に教室中の視線が一点に注がれた。 授業を真剣に聞いていた者も、居眠りしていた者も、トリップしていたルイズも注目した。 追記しておくと、ルイズは今にも顔から火が出そうだった。 「カービィ!」 「ぴぃよ、ぽよぉ♪」 なんとミセス・シュヴルーズがたった今錬金した真鍮を、カービィがおもちゃにして遊んでいるのだ。 「やっぱりルイズの使い魔だな! やってくれるぜ!」 「主人が主人だからな!」 教室から湧き上がる爆笑。 ルイズは先程の考えも吹き飛び、穴があったら入りたい思いでいっぱいだった。 そうこうしている内にミセス・シュヴルーズはカービィを捕まえ、ルイズの下へ運んできた。 「コホン。ミス・ヴァリエール、使い魔の躾はちゃんとして下さいね?」 「すみませんでした……」 「ぽよ?」 主人が怒られているというのに、カービィは相変らずボケた顔をしている。 ルイズは初めて己の使い魔が恨めしいと思った。 しかしルイズの不幸はまだ続く。 「それでは、丁度良いですね、錬金のおさらいをあなたにやっていただきましょう」 ミセス・シュヴルーズがそう口にしたとたん、教室中が凍り付いた。 生徒達の顔からは血の気が引き、一部机の上を片付け始めた者もいる。 「わ、私がですか!?」「ええ、そうですよ。石ころを望む金属に変えてみなさい」 「あの、先生……やめておいた方がいいと思います……」 ミセス・シュヴルーズがルイズを教壇へ連れていこうとしたとき、キュルケが何かに怯えるようにそれを止めた。 「何故です? ミス・ツェルプストー」 「危険だからです」 キッパリと答える。 他のほとんどの生徒も大きく首を縦に振った。 しかし、昨年ルイズを教えていなかったミセス・シュヴルーズは、生徒達の忠告を嫌がらせだろうと捉えてしまった。 それにこれは錬金の授業、余程のことがなければ危険はない。 そう高を括ったのが彼女の不運であった。 「さあ、ミス・ヴァリエール。失敗を恐れずやってみなさい」 「………はい!」 ミセス・シュヴルーズと共に教壇へ上がったルイズは、杖を石ころへと向けた。 「やめて、ルイズ!」 キュルケが叫んだが、もうルイズは杖を構えていた。 (『サモン・サーヴァント』が成功したんだもの……錬金だって!) ルイズが自分にそう言い聞かせ、ルーンを唱え始める。 その様子を見ていたカービィは、視界が急に広くなったことに気が付いた。 「ぽよ……?」 周りを見回すが、誰も席に着いている者はいない。 机の下に隠れ、まるで『何か』を怖がっているようだ。 「カービィ!」 「ぽょ?」 カービィが後ろを振り向くと、キュルケが必死で手招きをしている。 その様子から、とても焦っていることが伺えた。 「悪いことは言わないから、早くこっちにいらっしゃい!」 「ぽぉよ?」 言われた通り、席から降りてキュルケの下へ向かうカービィ。 しかし、カービィがあと少しでキュルケの下へ『避難』できる寸前。 教室が爆光と爆煙と爆音と爆風に包まれた。 「ぽよぉぉーーーーー!?」 「あ……遅かったわね」 爆風に飲み込まれたカービィは、教室の扉に勢い良く激突。 頭の打ち所が悪く、そのまま気絶してしまった。 爆心地にいたルイズとミセス・シュヴルーズにいたってはもっと被害が酷かった。 髪はアフロになり、衣服はボロボロ。 おまけに黒板に後頭部を強打し、脳震盪を起こして授業時間中に目を覚ますことはなかった。 「はぁ………」 ようやく目を覚ましたルイズは、1人寂しく荒れ果てた教室の片付けをしていた。 カービィはまだ気絶しており、教室の隅に寝かせてある。 「また失敗……」 カービィの召喚が成功していただけに、ルイズにとってこの失敗は手痛かった。 いつもの失敗ならばこれほど落ち込むこともなかっただろう。 しかし、自分の使い魔を得、自信を持った矢先の出来事だっただけに、ショックも大きい。 (カービィが来たから全部うまくいく、なんて……甘かったのかな………) 人間、一度気分が沈むと、底に辿り着くまでなかなか立ち直れなくなるものだ。 特にルイズは今まで罵られ続けたせいもあり、こういうネガティブになりがちな一面があった。 「はぁ……」 ルイズは何度目か分からないため息をく。 「あの……」 その時、ルイズは不意に後ろから声をかけられた。 どこかで聞いたような声に後ろを振り返ると、シエスタが教室の出入り口に立っていた。 「シエスタ……どうかした?」 「お手伝いしましょうか? ミス・ヴァリエール」 「えっ、でもあなた仕事は……」 ルイズはシエスタからの意外な申し出に一瞬戸惑った。 確かにメイドに手伝いを頼むのは禁止されていない。 だからと言って、忙しいメイドの身である彼女に頼ってしまっていいのだろうか。 しかし、シエスタはルイズに向かってにっこりと微笑んだ。 「少し余裕がありますので、お掃除くらいでしたら手伝えます」 「……また世話になっちゃうわね」 「いえ、私は使用人ですから。お気になさらず」 「……そ、そうよね。あなたはメイドなんだし、当然よね! …………………でも、ありがと」 最後の方は小さすぎて、シエスタには聞こえていなかった。 シエスタという強力な助っ人を手に入れ、片付けの速さは驚くほど早くなった。 さすが現役メイドである、素人貴族とは格が違う。 そして、やっと片付けが終わりそうになってきた頃。 「あの、さっき落ち込んでいたようですが……」 シエスタが急に口を開いた。 しかもルイズが一番触れてほしくない内容について。 「………ええ、また失敗しちゃってね……」 いつもの彼女なら『関係ないでしょ』と怒鳴りつけそうなものだが、今の精神状態では無理があった。 自嘲気味に今日の失敗や、今までもそうだったことを堰を切ったように話すルイズ。 シエスタはルイズが話し終えるまで、黙ってそれを聞いていた。 そしてすべてを一通り聞き終えた後、シエスタはゆっくりと語りかけるように話し出した。 「私のような平民が、貴族様にこのようなことを言うのは厚かましいと思いますが……ここはトリステイン魔法学院です」 「?」 何を言っているのだろうかと、ルイズは作業をする手を休め、シエスタの話に聞き入った。 シエスタもそれに気が付いたのか、同じく手を止め、話しに集中する。 「つまり、勉強できる場所ということです。ですから、『今』は出来なくてもいいんじゃないでしょうか? ここでもっともっと勉強して、『いつか』使えるようになれば。」 「それに、ミス・ヴァリエールはカービィさんを召喚出来たじゃないですか。なら、他の魔法も使えるようになります。いつか必ず。……出過ぎた事を申しました。申し訳ありません、ミス・ヴァリエール」 シエスタは自分の非礼をルイズに詫び、深々と頭を下げた。 貴族を恐れているシエスタがこんなことを言えたのは、魔法を使うことができないルイズに何か近いものを感じたのかもしれない。 だからこんな少し無理があるようなことも言えたのだろう。 しかし、それは決してルイズを卑下しているという意味ではない。 普段の生活から垣間見える努力の姿から、ルイズは立派な貴族だとシエスタは思っているのだから。 「………本当に、そう思う?」 やはり不安があるのか、ルイズは躊躇いがちにシエスタに問った。 シエスタは穏やかな笑みで答える。 「はい。ミス・ヴァリエールなら大丈夫です」 「ぽよ!」 「ほら、カービィさんもそう言ってます」 「そうね……って、いつ起きてたのよ」 「ぽよ?」 「まったくもう……」 今更出て来て美味しい所を持っていった使い魔に苦笑いを浮かべるルイズ。 その顔からは先程の暗い雰囲気は感じられなかった。 「分かったわ、もう少し頑張ってみる! そして私のことをバカにした奴らみんなを見返してやるんだから!」 「その意気ですよ、ミス・ヴァリエール!」 「ぽよ! ぽぉよ!」 やる気も新たにルイズは拳を握りしめ、使い魔とメイドに自分の目標を公言した。 果たして、彼女がこの目標を実現することが出来る日は来るのだろうか。 それは神のみぞ知るところだが、意外にも、それは遠い未来ではないのかもしれない。 前ページ次ページ使い魔のカービィ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1125.html
>>back >>next 「なな、なによっ! ばかばかばか、とらのバカ! 変態! いい、いやらしい、いやらしいわ!」 さっきからルイズが手当たり次第に物を壁に投げつけるせいで、ルイズの部屋は竜巻が通ったあとのように惨憺たる状況となっていた。 ルイズの目は真っ赤になっている。鳶色の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。 「……恋だったんだねえ娘っ子」 「うっさい!」 一声さけぶと、ルイズはデルフをぶん投げ壁に叩きつけた。ゴトンと床に落ちたデルフリンガーは「ぐえ」と一声呻いて、それっきり動かなくなった。 手に届く範囲のものを全て投げたルイズは、ふー……ふー……と荒い息をつきながら周りを見渡す。 ……だが、そのうちにくにゃりと体から力が抜け、ルイズはベッドにへたり込んだ。嗚咽がこみ上げてくる。 シーツをぎゅっと握り締めて、ルイズは枕に顔を押し付ける。 (違うもん……恋じゃないもん……) とらへの気持ちは、デルフの言うような『恋』ではない、とルイズは思う。 (そそ、そりゃあ、ちょっとだけ……どきっとしたりとかはあったわよ……でも、結局人間と幻獣だもの。それぐらい分かってるわ……) ルイズにとっては、あの金色の使い魔はもっと大切なものだったのだ。 魔法が使えず『ゼロのルイズ』と呼ばれて馬鹿にされてきた自分を変えてくれたものなのだ。今ではもう、『ゼロのルイズ』と呼ぶものは一人もいない。 そのとらが、自分の手を離れることが怖いのだ。 強力な使い魔がいなくなれば、魔法の使えない自分は、再び『ゼロのルイズ』に逆戻りしてしまう……そう考えるのは、ルイズにとって何よりも苦痛だった。 ……だから、あの竜に嫉妬しているのではなく――ましておっぱいが大きいからうらやましいとか、そんなことを考えているわけではないのだ、断じて。 ルイズはプライドにかけてそう自分を納得させた。 (……やっぱり、キュルケの言う通りだった。私、甘えてたのかしら……) そう思いながらも、ルイズの涙はとめどなく溢れる。自分では気がついていない心のどこかで、やはりとらに憧れていたのだろうか。 人語を解する韻獣であり、風竜よりも速く空を飛び、スクウェア・クラスのメイジを越える炎と雷を放つ。 (その上、髪の毛で剣を自由に操り、呪文の詠唱なしで人間の姿に変化し、壁をすり抜け姿を消し……って、なにそれ。何でもありじゃない!?) 改めてとらの有能さに打ちのめされるルイズ。自分はどうだろうか……少しは成長しているだろうか……? 答えは否であった。 ルイズは机に頭を打ち付けはじめた。 そんなルイズを見かねたように、デルフリンガーが声をかける。 「おい、娘っ子……そんなに自分を責めるもんじゃないぜ……相棒の強さは並じゃねえ。そんな使い魔を召喚できたのはおまえさんぐらいだろうよ。 だから……胸を張りな」 「デルフ……」 額を赤く染めながら、ルイズはデルフリンガーを見つめる。ルイズはそっと立ち上がると、インテリジェンス・ソードを拾い上げ、ベルトを自分の肩にまわした。 「おでれーた、何のつもりだ、娘っ子?」 「とらは使わないでしょ……せっかくだから、あたしが使ってあげる。もったいないし。いいことデルフ……」 ルイズは決意した表情で、すう、と深呼吸した。いやな予感がデルフの脳(どこかにあるとしてだが)をよぎる。 「今日からわたし、魔法剣士になるわ……!」 ……まったく突然の宣言であった。 部屋に気まずい沈黙のカーテンがするすると下りる。やがて、言いにくそうにデルフリンガーが口を開いた。 「……冗談きついぜ。おまえさんじゃ、満足に振ることもできねーよ……」 「う、うるさい! これから鍛えればなんとでもなるわよ。女剣士ならいくらでもいるじゃない! それとも、このまま埃かぶってるほうがいいってわけ!?」 どっちもどっちだなあ……、と嫌そうにぼやくデルフ。苦情には取り合わず、ルイズはごしごしと涙を拭くと、散らかした部屋の片付けを始めた。 「あらまあ……どうする?」 「どうしましょう……?」 「……どうしようもない」 ドアの外では、キュルケとタバサ、シエスタの三人が困ったように顔を見合わせていた。いや、あなたのせいでしょ、とキュルケがタバサの頭をポカと叩く。 シエスタは『お茶』を入れたティーポットにカップを持っている。タバサはキュルケに叱られ、ガリア王家の任務について白状させられた上で、ここまで引きずられてきた。 そして、ドアの前で鉢合わせしたところで、ルイズの『魔法剣士』宣言を聞いたのであった。 (ルイズ……あなたってバカね……ほんとに) 自分のアドバイスが友人をさらに迷走させていることに頭を痛めながら、キュルケはドアをコンコンとノックした。 タバサがカップをシエスタに差し出した。 「……おかわり」 「は、はい……どうぞ、ミス・タバサ」 「タバサ……あなた、それもう五杯目よ?」 「美味しいから」 まあ……ならいいけど、とキュルケは溜息をつく。シエスタの『お茶』は、大いにタバサの気に入るところとなったようであった。 キュルケはシエスタのほうを向いて、一つ咳払いをした。シエスタの『相談事』のほうは、さっきからタバサに腰を折られているのだ。 「コホン……それで、村に出る妖魔ってどんな奴かしら、シエスタ。続けてちょうだいな」 「はい……オーク鬼なんですが……少し様子がおかしいらしいんです」 シエスタは故郷届いた手紙に書かれた内容について話し始めた。 ラ・ロシェールを越えた草原が広がる中に、シエスタの故郷タルブの村はある。そして、オーク鬼は出没するのは村はずれの寺院であると言う。 その寺院は扉が閉ざされ、どうしてもあけることができないため、「開かずの寺院」などと呼ばれて近づく人もいない。 そんな見捨てられたような寺院の周りに、最近になってオーク鬼がうろつくようになったのである。 本来、オーク鬼は人を襲う。しかし、どういう訳か、その寺院の周りを囲むように集まるだけで、タルブの村を襲ってくる気配はない。 そのため、王宮に出した討伐依頼も、犠牲者が出ていないこともあって、かんばしい答えが返ってこないのであった。 しかし、日に日にオーク鬼の数は増え、村人は怯えている。一説には、その寺院が―― 「……おかわり」 「タバサ。邪魔しないの」 カップを差し出すタバサの頭をポカリと叩くキュルケ。シエスタがタバサのカップに、ポットから『お茶』を注ぐ。 「一説には、その寺院の扉が開かなくなったのは、そこに女の『幽霊』が住み着いてからで――きゃあ、み、ミス・タバサ? ど、どうしたんです、カップをひっくり返して!?」 「……な、なんでもない」 カップのお茶を零し、カタカタと震えながら顔色を青くするタバサ。首をかしげながらも、テーブルを拭き、シエスタは説明を続けた。 「それから、寺院には誰も入れなくなったと言います。とにかく、そこにオークが集まってきて……もう五十匹近いって、手紙では知らせています」 「ご、五十ですって……」 「お、お願いです、助けてください! ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ! 村を、私の故郷を救ってください!」 そう言ってシエスタは必死に頭を下げた。ルイズとキュルケは顔を見合わせる。正直、一生徒の手に負える数でもなかった。 ただ一人、戦闘経験の豊富なトライアングル・メイジの彼女を除いては…… ルイズはじっとタバサを見つめる。 「……どう、タバサ。私たちで戦えるかしら……?」 「無理。私行かない」 即答である。 「タバサ、あなた……オーク鬼のところよりも、幽霊の話で怖がってないかしら……?」 「ない」 「ひょっとして、タバサって怖がりなわけ? 呆れた……トライアングル・メイジなのにユーレイが怖いの?」 「違う」 口では否定するものの、よほど幽霊が怖いのか、頑として譲らないタバサである。シエスタが心配そうに見つめる中……キュルケとルイズがどうにも説得しあぐねていた、その時―― ――どこからか、声が聞こえてきた。 『やーれやれ、心配ないぞう……』 『お役目さまは幽霊でも綺麗なお方だよぅ……』 「ひ」とタバサが声を漏らす。 「ル、ルイズ……どこから聞こえるの?」 「わわ、わかんないわよ……! ちょっと! 誰だか知らないけど、でで出てきなさいよ……!」 声を震わせながらも、ルイズとキュルケはキョロキョロとあたりを見回した。……と、壁から、ぬ、と細い腕が現れる。 唖然とするルイズたちの前で、まるで霧をぬけるようにやすやすと、『それ』は壁から現れて見せた。 その姿は、まさに妖魔――という言葉しか見つからなかった。 腕と足は三日月状の胴体から突き出ている……のだが、あろうことか、胴体は真ん中から真っ二つに分かれており、そこから二つ、頭が覗いているのだ。 『あたしは時逆……』 『そして、あたしが時順だよう。時の狭間を旅する妖怪さーあ』 その『頭』がそれぞれ自己紹介して、シエスタ、ルイズ、キュルケの三人は唖然とした。タバサに至っては、既に失神して意識は闇の中である。 「な……なにをしにきたの……何の……用……」 に、と時順が笑う。 『……そこにいるシエスタ嬢ちゃんと同じ用さぁ』 「え、え? な、なんで私の名前を……!」 『なーに、なんでも知ってるさ……生まれたときからずっとなあ。わしらは「時」を旅すると言ったろう……』 慌てるシエスタに時逆が言う。続けて時順が口を開いた。 『さーて、ルイズ嬢ちゃん、お前さんの「時」が来たよう。見るべきものを見、知るべきことを知る「時」がなぁ……』 そう言って、時順はルイズに向かってニヤリと笑って見せた……。 ごぉぉおぉおぉおおおぉう…… タルブの村に、唸りをあげて風が吹いた。 オーク鬼たちの間を吹き抜ける風は小石を巻き上げ、寺院の壁にパラパラと音を立てる。 ぶごぉっ……ぶぎぃ…… 異形に取り付かれ、片目が巨大に膨れたオーク鬼たち――いや、かつてオーク鬼だったもの、というべきだろうか――は、村はずれの寺院の周りをうろつく。 ――いるぞ……ここにいるぞ……壊せ、壊せ、白面の御方の御為に…… ――嫌なもの、恐ろしいものがここにいる。この中にいる…… おぞましい婢妖たちの呟きが夜の闇を震わせ、やがて風に消えていった……。 >>back >>next
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/47.html
ルイーズ「(黒いとげとげのフルフェイスヘルメットを被って)ゼロと!」 ランサー「ランサーと」 シエスタ「シエスタの!」 「「「コードゼロはんぎゃく日記!!」~」!」 ゼロ「人々よ!私を恐れ、求めるがいい!我が名は、ゼロ!! でもゼロって呼んだらエクスプロージョンで吹っ飛ばす」 ランサー「原作ギアス以上の暴君だなオイ」 シエスタ「こんにちは、魔法学院でメイドのお仕事をさせていただいております、シエスタと申します。 ......それで、ランサーさん、ミス・ヴァリエールは何をしてらっしゃるんですか?」 ゼロ「違うな、間違っているぞシエスタ。我が名はゼロ、胸《チカラ》ある者への反逆者である!」 ランサー「......だそうだ。ま、どうせ変なアニメでも見たんだろ。まったく、最近すっかり金持ちニートに浸食されちまって」 ゼロ「ふ、そんな口をきいていいのかなランサー。 この私の左腕のギアスにかかれば、オマエは3回までどんな命令でも絶対に......」 ランサー「いやいやいや、それフツーに令呪だから。しかもオレ以外に効かないから。 大体、強制《ギアス》は違う魔術だろ」 シエスタ「強制《ギアス》については、詳しくは原作FateのHFルートか、Fate/Zero三巻をご覧になって下さいね」 ゼロ「黙れ!それでもゼロの騎士団0番隊隊長か?!」 ランサー「いつからそんな役職についたんだよ!てかゼロの騎士団って何だ?!」 ゼロ「我々ゼロの騎士団は、胸《武器》を持たない全ての者の味方である! エルフだろうと、ハルケギニア人であろうと! ギーシュ・ド・グラモンは、卑劣にもモンモンより胸の大きなケティと浮気して二人の女性を無惨に傷つけた。 このような残虐行為を見過ごす訳にはいかない。故に制裁を加えたのだ。 私は巨乳を否定しない。しかし、巨乳が微乳を一方的に虐げることは、断じて許さない! (巨乳を)自慢していいのは、(虚無魔法で)撃たれる覚悟のあるヤツだけだ!」 シエスタ「あの、ミス・ヴァリエールは何の話をしてるんでしょう?」 ランサー「あー、判らなくていい」 ゼロ「我々は、胸《チカラ》ある者が胸《チカラ》なき者を虐げる時、再び現れるだろう。 たとえその敵が、どれだけ胸革命《おおきなチカラ》を持っているとしても! 胸《チカラ》ある者よ、我を恐れよ。 胸《チカラ》なき者よ、我を求めよ! 世界は、我々ゼロの騎士団が、裁く!!」 ランサー「はあ、いい加減本題に入りたいんだが......」 シエスタ「その前に私のアニメ準拠設定についての話をするようにってこのカンペには書いてありますよ」 ランサー「あー、じゃあさくっと終わらせてくれ」 シエスタ「はい、それでは一応ご説明いたしますね。 ゼロ魔の原作小説中では、私ことシエスタの容姿については『低めの鼻と、ソバカス』と描写されてますが、 アニメ版では『脱がなくてもスゴい巨乳+ソバカス無し』という主役を狙えるビジュアルに変更してもらっちゃいました」 ゼロ「くっ、戦術的勝利などいくらでもくれてやる!最後に全てを手にするのは、この私だ!!」ゴゴゴゴゴ シエスタ「(ニッコリ笑って)あら、負け惜しみにしか聞こえませんよミス・ヴァリエール」ドドドドド ランサー「やれやれ......てかよ、そもそもこの説明って必要なのか?」 シエスタ「あ、それがですね、このSSの作者はゼロ魔をアニメで初めて見たせいで、 Wikipediaの私についての項を読むまで、私にソバカスがある事すら気付いていなかったそうです。」 ゼロ「そんなバカ、この作者以外に居ないだろう」 ランサー「......もういい加減本題に入るぞ。 今回は四系統の『錬金』がどれだけデタラメな魔法かについてだったな」 ゼロ「ん?『魔法』じゃなくて『魔術』じゃないの?」 ランサー「ハルケギニアの文明レベルならまだ十分に魔法だろ。 だがまあ、タイガーころしあむの限定版に付いてたドラマCDでも 凛『物質変換なんて、どんな大魔術よコレ?!』 って言ってた通り、コッチの現代ではもう魔術に過ぎないがな」 ゼロ「魔術という事は、金と時間さえあれば再現可能ということか?」 ランサー「まあ、ここ最近の話だがな。 銅に中性子なんかの放射線が当たるとニッケルに変化するらしいんだが、 ソレを利用して広島原爆がどの程度の破壊力かが判るんだそうだ」 ゼロ「げ、ゲンバク?チューセイシ???」 シエスタ「ヒロシマって町の名前はおじいちゃんから聞いた様な......」 ライダー「詳しくは、98年の広島原爆投下の日に放送されたNHKスペシャル『原爆投下 10秒の衝撃』をご覧になってください。 NHKスペシャルセレクションとして書籍化もされていますので、そちらは今でも手に入ると思います。 書籍の方は未見ですが、映像の方は当時リア○だった作者にも理解しやすい内容でしたので、気軽に読めるのではないかと。 まあ、内容は重いですが」 シエスタ「へ~、そうなんですか」 ゼロ「ん?誰と話しているシエスタ」 シエスタ「え?こちらの女性と......あれ?居ない。おかしいですね、さっきまで確かに...」 ランサー「...何かあまり突っ込まないほうがいい気がするぞ」 ゼロ「フン、まあいい。 だが、その例は物質変換を目的として行った結果ではないのだろう?」 ランサー「ああ、純粋に物質変換のみをやろうとしたらサイクロトロンでも使わねえ限り無理だな」 シエスタ「さいくろとろん?」 ランサー「ああ、正式名称はサイクロトロン高エネルギー重イオン加速器。 電磁石で光速の50%まで加速した粒子をぶつけて新しい元素を生み出すんだと」 シエスタ「こうえねるぎい?じゅういおん?」 ゼロ「......で、要するにソレを使えば『錬金』と同じく物質変換が可能なのか?」 ランサー「金と時間さえあれば、な。 金1モル(175g)作るのに必要な原子の数は10の23乗個」 ゼロ「じゅ、ジュウノニジュウサンジョウ個って......」 ランサー「100000000000000000000000個。日本の命数法で言えば1000垓個だな。 2001年当時のサイクロトロンでは毎秒10の13乗個=10兆個の原子が作れるから、 金1モル作るには10の十乗秒、つまり100億秒必要になる」 シエスタ「100億秒?それって長いんですか?」 ゼロ「ええっと、10000000000÷60÷60÷24÷365だから...... さ、317年!人間だったら死んでるじゃないの!」 ランサー「つーか電気代だけで確実に1モル以上の金が買えるな」 シエスタ「じゃあ全然意味無いんですね」 ゼロ「だからこそ物質変換は『大』魔術と分類されるのだな」 ランサー「ま、そんな大魔術を小源《オド》のみでやっちまう『錬金』がどれだけデタラメか解ったろ?」 ライダー「ちなみに、今回使用した数字は某徳間書店アニメ雑誌01年8月号に掲載された 伊藤伸平の『バンザイ☆アタック』を参考にしています。数値はあくまで概算だそうですので悪しからず。 単行本化されていないようなので、興味のある方はブックオフなどで探してみてもいいでしょう。 店舗にもよりますが、少し大きめの所なら昔のアニメージュが腐る程置いてあります。 特に3月号がオススメですね。その年の全アニメ作品がデータベース化されていて、意外な発見があったりします。 そう、凛の中の人が黒歴史アニメでは琥珀役だったとか」 ランサー「待て、アレの話題はやめとけ」 シエスタ「あ、さっきの方」 ゼロ「何故解説に出ばって来ている?さっさと『魔眼の使い魔』に帰れ」 ライダー「失礼な方たちですね。私は元々読書が趣味の痴的キャラですよ」 ゼロ「...知的の『知』が間違ってないか?」 シエスタ「ダメですよミス・ヴァリエール、ツッコんだら負けです! ココは作者お得意の誤植ということにしてスルーするんですよ」 ライダー「聞こえてますよ。いいでしょう、その主役を狙える設定とやら、存分に堪能させていただきましょう。 あちらの静かな場所で、じっっっくりと、二人っきりで、ね」ジャラジャラジャラ シエスタ「ああっ、鎖が!やめて、百合の上にいきなりそんなアブノーマルなプレイなんて~!」 ライダー「フフ、大丈夫、痛いのは最初だけですよ」 シエスタ「い~~~~ゃーーー......」(悲鳴が遠ざかって行く) ゼロ「...いいのか?助けなくて」 ランサー「女同士はノーカウントだ。むしろお嬢ちゃんが助けろよ。正義の味方なんだろ?」 ゼロ「いや、彼女は友達のようで肝心な時にいっつも敵として立ちふさがる属性のような気が......」 ギーシュ「そこは中の人が同じなボクのポジションだろう!」 ゼロ「五月蝿い女の敵!どこから湧いて出た?! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが命じる。オマエは、死ね!! エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ......」 ギーシュ「ちょ、ちょっと待てルイズ、それギアスじゃなくってエクスプロージョ......アーッ!」 ズドオォォォ......ォォン ランサー「...それは確実にオーバーキルだろ、勝利する黄金の剣《カリバーン》じゃあるめぇし」 ゼロ「ああ、それで思い出した。wikiについての件なんだが」 ランサー「何でこの流れで思い出すんだよ!」 ゼロ「それが、SSが上手く書ける様になるには、自分の書いた文章を何度も読み直せって某所で言ってたから 作者はそれを実戦していたらしいんだが、一読する度にあまりの駄文っぷりに悶死するんだそうだ。この間なんか 『これはこのオレが作り出した妄想に過ぎん。所詮は二次創作。真作とは成り得ぬSSだ。だが、しかし―――― その妄想も侮れぬ。よもやただの一読で、この身を七度滅ぼすとはな......』 とか嘯いてまっ白になってたぞ」 ランサー「んなコト言ってるウチは大分余裕あんだろ。 ま、要するにwikiにまとめる前に手直しがしたい、と?」 ゼロ「ああ、迷惑な話だ。 奈須先生も言ってただろうに。作品は世に出した時点で死を迎えて、作者の物ではなくなると」 ランサー「ま、欠陥が判っていて放置する方が、作り手の責任放棄と言えなくもないが」 ゼロ「フン、そんな屁理屈通用するか。所詮は作者の愚かさだ。 まあ、このスレ専用まとめwikiも未だ作られていない状況なのだ。まだ時間もあるし、問題無――――」 ランサー「あ~、それなんだが......」 ゼロ「何だ、はっきり言え」 ランサー「作者のリアルが忙しいそうで、1月一杯は更新は無理だそうだ」 ゼロ「なっ、何ですって!?」 ランサー「まあ作者もFate/Zero4巻もゼロ魔最新刊もお預けで仕事(?)してる予定らしいから、勘弁してやれ」 ルイーズ「仕方ないわね...こうなったら、最終回一話前に予定していた嘘最終回予告をやってしまいましょう!」 ランサー「いや2月になったらまた再開するんだが――――」 ルイーズ「いいのよ、一度打ち切りで雑誌《スレ》を移って連載のほうが納まりがいいでしょ? ま、ギーシュを一ヶ月放置っていうのも悪くないし、 ソレ以前にひと月もこの作者の駄文を待ってくれる人自体居ないかもしれないんだから、最終回っぽくしとくのよ!」 ランサー「なんかイロイロと突っ込んではいけない気がするな...それで、嘘最終回って何なんだ?」 ルイーズ「決まってるじゃない、コレよ!」 Zero/stay night 完結編? ルイズ「もしもし、『ルイズが聖杯戦争に殴り込むスレ』のルイズよ、お疲れ様」 作者「え、ルイズさん?」 ルイズ「今日から私が『Zero/stay night』の担当になったわ。」 作者「え?あの、前の担当のギーシュさんは?」 ルイズ「死んだわ」 作者「うそーーーーー!な、何で?!」 ルイズ「実は、初めて出来た彼女に初デートの前にフラレて」 作者「えぇ!それで自ら命を!?」 ルイズ「いえ、ショック死よ」 作者「ショック死?!」 ルイズ「なんか授業中に彼女から別れの手紙が来て、『ありえないんだゼ』とか叫んでバタンとぶっ倒れたわ」 作者「最後までその喋り方だったんですね......」 ルイズ「それで仕事の話に戻るけど、『Zero/stay night』次回で最終回よ」 作者「うそーーーーーー!」 ルイズ「悪く言えば打ち切りね」 作者「わざわざ悪く言わないで下さい!」 ルイズ「もともとあまり人気がなかったけど、前回はぶっちぎりで不人気だったのよ。設定厨全開だったし。 『魔眼の使い魔』より人気なかったわ」 作者「マジすか?てか2つしか投下されてないのに人気投票も何も無いでしょう?! 大体、急に最終回とか言われても困りますよ。私のSS、これから盛り上がって来るトコなのに、他のサーヴァントとか出て来て」 ルイズ「戦いはこれからも続くー、みたいな終わり方でいいんじゃないの?」 作者「二次創作SSでそんな終わり方ってどんだけナメてんですか?! ゼロ魔SSの場合、敵のボスのジョゼフに、タバサの母親が人質に取られてるじゃないですか。 しかもエルフの水の秘薬で心を狂わされて」 ルイズ「『魔眼の使い魔』と被ってるわね」 作者「いや、ゼロ魔原作がそうなんですよ! とにかくそんなワケで、ジョゼフを倒さないと、スッキリしないって言うか......」 ルイズ「そうね」 作者「しかもその為には、いろいろ条件があって、 ガリア王宮の扉を開く為には、サーヴァントを全員倒さなきゃいけないし、ジョゼフを倒すには、始祖の秘宝が必要だし、 しかも今度戦うサーヴァントのバーサーカーは、別名『ザ・フジミ』と呼ばれる程、妙にタフネスで、 11回殺さないと死なないんですよ」 ルイズ「なんでそんな設定にしたのよ」 作者「奈須先生に言ってくださいよ! あとルイズが幼い頃憧れていた婚約者がいて、ゼロ魔原作でも2巻で出て来るんですけど、ソレどうしましょう?」 ルイズ「さあ?まぁ、うまくまとめて頂戴」 作者「はあ......(新しい担当、やたらとツンだなあ......) で、最終回のレスは、何レスもらえるんですか?」 ルイズ「1レスでお願い」 作者「うそーーーーーーー! 何で私そんなにヒドい扱いなんですか?!」 ルイズ「ホント人気無くって」 作者「いや単発の『魔眼の使い魔』だって、毎回1レスなのに」 ルイズ「『魔眼の使い魔』も次回で最終回よ」 作者「えぇ!う、嘘でしょ?(アホ毛王「はい、その通り、嘘ですが」) 『魔眼の使い魔』の最終回は何レスなんですか?」 ルイズ「4レスよ」 作者「チキショーーーーーーーー! も、もうこのスレでは書きませんからね!」 ルイズ「いいわよ、もうこのスレ埋まるし」 最終話 希望を(無い)胸に すべてを終わらせる時...! wikiへのまとめは、未定です。 作者(すいません、登録しました。 まとめ人) ランサー「チクショオオオオ!くらえバーサーカー!新必殺音速火炎死棘の槍《ゲイ・ボルク》!」 バサカ「さあ来いランサァアー!私は実は5回殺されただけで死ぬぞオオ!」 (ザン) バサカ「グアアアア!こ、このザ・フジミと呼ばれるサーヴァントのバーサーカーが... こんな小僧にただの一度で、この身を7度滅ぼされるとは...バ...バカなアアアアアア」 (ドドドドド) バサカ「グアアアア」 ライダー「バーサーカーがやられたようですね...」 ハサン「ククク...奴はサーヴァントの中でも最弱...」 金ピカ「雑種ごときに負けるとはサーヴァントの面汚しよ...」 ランサー「くらええええ!」 (ズサ) 「「「グアアアアアアア」」」 ルイズ「ハァハァ......やったわ...ついにサーヴァントを倒したわ...これでジョゼフのいるガリア王宮の扉が開かれる!!」 ジョゼフ「よく来たなサーヴァントマスタールイズ...待っていたぞ...」 (ギイイイイイイ) ルイズ「こ...ここがガリア王宮だったのね...!感じる...ジョゼフの魔力を...」 ジョゼフ「ルイズよ...戦う前に一つ言っておくことがある。 お前は私を倒すのに始祖の秘宝が必要だと思っているようだが...別に無くても倒せる」 ルイズ「な、何ですって!?」 ジョゼフ「そしてタバサの母はやせてきたのでエルフの水の秘薬で治しておいた。 あとは私を倒すだけだなクックック...」 (ゴゴゴゴ) ルイズ「フ...上等よ...私も一つ言っておくことがあるわ。 この私に幼い頃憧れていた婚約者がいたような気がしてたけど別にそんなことはなかったわ!」 ジョゼフ「そうか」 ランサー「ウオオオいくぞオオオ!」 ジョゼフ「さあ来いルイズ!」 ルイズの勇気が世界を救うと信じて...! ご愛読ありがとうございました! 続くけど......待っててもらえるなら back / Zero/stay night / next
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/463.html
忠告:この物語内部のキャラ達は全員頭のねじがふっとんでます、超外伝としてお楽しみください 世界観注意:取り合えず色々起こって各国が平和のために同盟を結んだ後のハルケギニアです。 その結果シンとサイトがシュヴァリエだったりティファニアが居たりします。 サイトは取り合えずルイズとバカップルVerツンデレで、シンは未だに彼女なし状態です。 ハルケギニアにはクリスマスの習慣が無いと言う前提で書いています、悪しからず。 始まりはほんの三日前の 12/22 サイトとギーシュ、そしてシンの男三人で食堂で会話をしていたときの事だ。 サイト「そういえばもうすぐクリスマスかぁ…」 シン「そういえばそうだな、もうすぐ25日か」 ギーシュ「クリスマス? なんだいそれは、君たちの国の風習かい?」 サイト「おぅ、キリストっていう神様が生まれた日だったかな? まぁ、親が子供にプレゼントをあげたり恋人同士がいちゃつく日なんだよ なぁ~」 シン「サイト、其れはちょっと偏りすぎだろ、ギーシュにわかりやすく言うなら… こっちでの始祖ブリミルの誕生祭みたいなものさ」 その言葉にギーシュはなるほどねぇと頷きながらも新しいワインを注ぎ会話を続ける。 サイト「でもさ~、やっぱり恋人と二人っきりで過ごすクリスマスって憧れだよな~」 ギーシュ「あ~、わかるね、僕もモンモランシーと誕生祭を二人っきりで過ごしてみたいと思うからね」 シン「憧れ…ね」 盛り上がる二人をやや冷めた目で見ているシン、全員酒が進んでいるらしくどんどんワインが消費されていく。 サイト「だからさぁ~、やっぱりあれだろ、女の子から「私がプレゼント♪」なんてされたらもう、死んでもいいとおもうだろ?ヒック」 ギーシュ「いや~ヒック、同感だねぇ~、特に自分が愛している女性からされたら… もう我慢できないよねぇ~」 シン「………おまえらなぁ、もう少し冷静になれよ」 サイト「にゃにを!? シンだって想像してみろい、上目遣いで潤んだ瞳で「私がプレゼントです、好きにしてください」っていわれる光景を!!」 ギーシュ「いやぁ……たまらない、実にたまらないね、そこまでされて我慢するのは男じゃないよ……!!」 シン「…まぁ、そりゃ、俺も男だから少しは嬉しいだろうけど…」 想像してみたのか、少し顔を真っ赤にしながらそう告白するシンに「そらみたことか~」と絡んでいく男二人。 そしてシンもその二人をさばくので精一杯だったために気付かなかった、この会話を盗み聞きしていた存在達の事を…… 12/25 当日 サイトとシンの世界で言うクリスマスのある日、シンはアンリエッタの呼び出しで王城へと登城していた。 シン「以前の苦労を労うための食事会…ね、まぁ、戦争がおきたって言うんじゃないならいいんだけど…」 アンリエッタの呼び出しは実は何度も経験しており、もはや耐性が出来ていたシンだったが、今回は見事に其れが災いする。 シンをアンリエッタの寝室まで案内したメイドから呼び出した理由を聞き、完全に気の抜けたシンはアンリエッタと食事が来るのをじっと待っていた。 それからしばらくしてとても大きな料理が運ばれてきたが、メイド達は蓋を取らないまま怪しげな笑みをシンに向けて立ち去っていく。 じっと待っていたシンだったが、元々そう気は長くない性格である、アンが遅いのが悪いんだと自分に言い聞かせ、その料理の蓋をあける、するとそこには… アンリエッタ「サイトさんに聞きました、今日がシンの世界で特別な日であると、そしてその日にはケーキを食べる習慣があると言う事も そして、その、殿方がとても喜ぶ料理があると言う事も…… ど、どうぞ、遠慮せずに召し上がってください」 危険な、もとい大事なところは隠れてはいるがまさにこれぞ「ケーキの女体盛」と言わざるを得ない姿のアンリエッタがその中に入っていた。 シン「……アンリエッタ姫、お一つだけ聴いておきたいことがあります」 アンリエッタ「は、はい、なんでしょうか?」 シン「この話をしたのは、どこの、どんな立場の、なんという名前の人間でしょうか?」 アンリエッタ「先ほども言いましたとおり魔法学院の、ルイズの使い魔である、サイトさんから聞いた事なのですが……」 シン「ご協力、感謝します」 シンはそれだけ言うと、料理の蓋を開けたときから硬直したままの笑顔そのままにもう一度蓋を閉めると汗をぬぐうしぐさを取り…… シン「アイツは俺が倒すんだ、今日、学院でぇええええええええええ!!」(パリパリパリリリィィィン!!) なぜか三重に種割れした後、人間を越えた速度で魔法学院へと全速前進していった。 そう、其れはサイトへの怒りの為であって、決してアンリエッタ姫の「甘美な罠」が怖くて逃げたのではない、多分、きっと、おそらく。 そしてまた蓋を閉められて置いてけぼりのアンリエッタ姫は「之が放置プレイと言うものですか?之もシンの愛情なのですね……」と激しくトリップをしていたのは余談である。 シン「サイトぉおおおおおおおおおおおおおお!!」 夕暮れになる頃にようやく魔法学院に到着したシンは鬼気迫る勢いで学院中を駆け回り、もはや親友から仇敵にランクチェンジしたサイトを探し回る。 シエスタ「シンさん!! こっちです!!」 シン「シエスタ!? そこか、サイト!!」 その時、ちょうど部屋から―シンの記憶が正しければ誰も居ない無人部屋―から頭だけを出しているシエスタの呼びかけに反応し。 シンは標的であるサイトがその部屋に居ると思いその部屋へと飛び込むように入った、が、其処にはサイトは愚か誰の姿も無かった。 シン「あれ?サイトが居ない…って、何で鍵を閉めてるんだシエスタ? って、その格好は……」 サイトが居なかった事で頭が一気に冷えたシンは、鍵を閉める音を聞きシエスタのほうを振り返り、ようやくシエスタの異変に気付いた。 シエスタ「私だけじゃありませんよ」 ティファニア「こんばんわ、シン」 シエスタと同じ格好をした―ミニスカートサンタクロースルックの―ティファニアが、シエスタの言葉に反応するようにしてシンの目の前に出てくる。 シン「…で、鍵を閉めたりして一体何なんだ?」 シンは、自分の本能が「ニゲロニゲロドアヲアケロー!!」と叫んでいる事実から必死に目をそらしつつシエスタ達に問いかける。 シエスタ「その、聞いてたんです、食堂でシンさんがギーシュさん達とお話してた事を」 ティファニア「でも私達じゃあ三日だけでシンに立派なプレゼントなんて買って渡せないから…… だから、シエスタと相談して決めたの」 シン「へ、へぇ… 相談して決めたんだ」 シエスタ「はい、二人とも同じ意見でして…」 ティファニア「私達はシンに何度もお世話になっているから、最高のプレゼントがしたいって思って…だから」 シエスタ&ティファニア「私がプレゼントです、シン(さん)の好きにしてください♪」 シン「は、ハハハ…(ば、馬鹿な!? この俺が、赤服でエースだったこの俺が逃げ場を見つけられないだと!? ま、まずい、このままでは全年齢の 壁が……!!)」 じりじりと歩み寄ってくる二人に対し、必死に窓から逃げようとするシンだったが、魔法でロックがかかっているらしく逃げられない。 かといって女性に、しかも自分を慕ってくれる女性に手を上げられるほどシンは薄情ではないためにじりじり追い詰められていたのだが…… シルフィード「きゅいきゅい~~~!!」 タバサ「…シン、早くこっちに」 だが、神はシンを見捨てては居なかった!! タバサがシルフィードに乗り、窓のロックを解除してシンに救いの手を差し伸べたのだ。 シンはまさに藁にも縋る心境でその救いの手を取り、無事鍵の閉められた部屋から脱出し、タバサとともに空の旅に出る。 その後、シルフィードは軽く空のお散歩を楽しんでいるのか学院の周囲を飛び回り。 日が落ちて夜の帳が降りた頃にシンと同居している学院近隣にある森の小屋へと降り立っていく。 シン「あれ、これって…」 シルフィードから降りたシンは、小屋の前に存在する馴染み深い品物である「クリスマスツリー」をみて驚きの表情を見せる。 タバサ「……先生が作った、そして、私からのプレゼント」 タバサはシンを降ろすと再びシルフィードを高く飛び上がらせ、風と水の魔法を使って粉雪を作り、小屋の周辺に降らせていく。 シン「雪… ホワイトクリスマス、か」 シンは魔法によって生み出される雪と、其れを生み出すタバサとシルフィードの二人が生み出す幻想的な光景に魅入っていた。 しばらく雪を降らせ続けられるように空中に簡易的な魔法陣を描いたタバサは、全身雪まみれになりながらシンが待つ小屋へと降りていく。 シン「タバサ」 雪を払いながら、シンのその言葉に反応してタバサは其方側を振り向く、そしてシンは片手を差し出しながらこういった。 シン「メリー クリスマス、これからもよろしくな」 その言葉にタバサは微笑を浮かべながら、少し赤くなった顔を隠すようにその手を受け取り、こう返したのであった。 タバサ「メリークリスマス、これからもずっと、よろしく」 そんな初々しいカップルを思わせる二人を祝福するかのように、粉雪は二人の間を静かに降り注ぎ続けていた…… お ま け その後、タバサとシンは小屋の中で小さなパーティを開き、そのまま小屋で眠る事となった。 途中お酒に酔ったタバサがシンに寄りかかったり、シルフィードが構ってくれなくて寂しいとシンに甘噛みしたりしていたが。 神に誓ってタバサとシンの間では全年齢の壁を越えてしまうイベントは存在していなかった、のだが……… シン「お、みんな頼む、落ち着いてくれ」 シエスタ「私は落ち着いていますよシンさん、だからはっきりその女性との関係をいってください、今なら許してあげますから」 ティファニア「そうだよ、はっきりいってくれないと私、思わずシンの記憶を消しちゃいそうだよ…」 アンリエッタ「…あぁ、そんな…… 始祖ブリミルよ、之が私の罪なのでしょうか、私は、愛する人を得る事は出来ないのでしょうか……」 タバサ「………」(極寒の眼差し) シンは四人の美女に囲まれ、その四人が生み出す極寒のブリザードの中で唯ガタガタと震えるしかなかった。 そして、その極寒のブリザードを生み出す原因になったのはシンと同じ毛布で寝ていた全裸の長い青髪の美女の存在である。 青髪の美女「ん~…もうむりなのね~… きゅいきゅい~~」 その美女がころりと転がりながら呟いた寝言により、その凍り付いていた空気は酷く鈍い音を立て、砕け始める シン「こ、こらシルフィード!!こんな時によりにもよって誤解されるような寝言を……!!」 シエスタ「へぇ、シルフィードさんっていうんですか…」(笑ってない笑みを浮かべながらシンに近寄る) ティファニア「タバサちゃんの使い魔さんと同じ名前だね」(杖を取り出しながらシンににじり寄る) アンリエッタ「始祖ブリミルよ、罪深き私に今一度チャンスを、愛しき人の心を取り戻すための…」(トリップしながらシンの背後に歩み寄る) タバサ「シン、御仕置き……」(杖を振りかざし魔法を詠唱し始める…!!) シン「だ、誰か助け… ち、近寄るな…俺に、俺に近寄るなぁああアアアアアア!!」 ????「終わりの無い女難こそが終わり、これが、ジョナンエクスペリエンスレクイエム……」 シンは、意識が刈り取られる寸前に、そんな声を聞いたと、この後の全治三ヶ月の入院生活で語る事になるのであった…… 一覧へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2319.html
前ページつかわれるもの 第05話 見つめられるもの ルイズの暴力が止んだきっかけは、シエスタの発した「ミス・ヴァリエール、そろそろ朝食の御時間ですよ?」という言葉だった。 若干夢中になっていたルイズは我に返り、少々焦りながらトウカとシエスタを交互に見つめると、 「シエスタだったっけ?食堂で食べさせる訳にもいかないから、この二人に厨房で食べさせてあげて!頼んだわよ!」 などと言い残して、アルヴィーズの食堂へと駆け出して行った。 その暴力を受けていたトウカはどうなっていたのか、と言えば、考え事をしていた事と少なからず油断していた事によって、初撃をまともに喰らってしまっていた。 その後マウントポジションを取られ、回避に専念したとは言え数発の拳を身体に受け、寝起きに思い切り動いた事と相まって、たいへんにお疲れ気味であった。 そして力で振り解けばすぐ逃げられましたのに、とカルラに囁かれ、その発想は無かったと少々落ち込んだりしていたりもするのである。 まぁいくら落ち込んでいても腹は減る、と言う事でシエスタに連れられて厨房へと向かうトウカとカルラ。 その途中、どこか腑に落ちないように首を傾げているカルラの様子に気付いたトウカが、小さく声を掛けた。 「どうした?カルラ。何か考え事でもあるのか?」 「あ……いえ、シエスタの事なんですけど、何処かで見たような気がしますの……気のせいかしら?」 「いや、某も何処かで見たことがある気がするのだが……どうもな」 どこかに違和感、というか既視感を感じつつも、取り敢えず余計な事は意識から掻き消す。 そして不意にシエスタが立ち止まったそこが、目的地である厨房の前であった。 トウカが取り敢えず中に入ろうと覗いた厨房は、活気に溢れるとかを軽く超越し、戦場と言って良いほどの喧騒を醸し出していた。 数多の戦場を駆けてきたトウカとはいえど、これは流石に専門外。唖然として立ち尽くす他無かった。 「あの、お二人はちょっと待ってて下さいな。今はちょっと騒がしいですけど、もう少し経ったら落ち着きますからー!」 二人に向かって一言だけ叫んで厨房の中に駆け込むシエスタ。 厨房の喧騒がおさまったのは、シエスタが厨房に入ってから10分が経過する辺りであった。 「トウカさーん!カルラさーん!入ってもよろしいですよー!」 厨房の中が落ち着いてさらに数分経過した頃、ようやくシエスタからお呼びの声が掛かった。 待ってましたと言わんばかりの勢いで入ってきたのはトウカ。 やれやれと言った風にゆらりと入ってきたのがカルラ。 態度に多少の違いがあっても、久々の食事と言う事でどちらもなかなか嬉しそうだった。 「ようやく食事にありつけますわねー」 「そういえば暫く何も食べていなかったしなぁ……」 厨房内は多少ざわついていたが、二人の登場で一気に静まり返った。 場に流れる空気が一気に重たくなった。が、それを一切気にしない――というか気付いていない――のは、椅子に座って料理を待つ二人と、シチューの入った皿を持つシエスタだけであった。図太い。 「はい、これ余り物で作った厨房での賄いですけど、沢山あるのでどうぞー!」 「かたじけない、ありがたく頂戴するとしよう」 「んー、中々いけますわね、これ」 シチューが目の前に置かれると、同時にがっつくトウカとカルラ。 その光景を微笑ましげに眺めるシエスタに、状況を把握しきれない料理長のマルトーが尋ねた。 「なぁ、シエスタ。あの亜人さん達は何もんだ?」 「えーと、ミスヴァリエールの使い魔さんで……私の友人です」 ほぉ成る程な、と納得するマルトーを尻目に、カルラとトウカはシチューを早々と完食した。 しかし、シチューの一杯で満足するような二人ではなかった。ついでに言うと彼女達は遠慮する気もさらさら無かった。 「「シエスタ(殿)、おかわり!」」 「あ、ちょっと待ってて下さい。すぐ用意しますから!」 余程腹を空かしていたんだろう。その後もおかわりが何度か続き、両者が七杯ずつ平らげたところで、ようやくスプーンが置かれる。 二人はその食べっぷりを見て嬉しそうなマルトーとシエスタとその他厨房の皆さんに感謝を告げ、ルイズを待つために食堂の前に移動した。 食事を終えたルイズが二人を連れて向かったのは、立派な石造りの教室だった。 扉を開けてルイズが中に入った途端、一気に場が静まりかえる。 彼女が召喚した使い魔がただの平民ならば、野次の一つや二つも飛んだだろうが、召喚したのは亜人である。 なんと言うかぶっちゃけた話、トウカとカルラが怖くて、いつもみたいにからかう気にならなかったのだ。 そのおかげだろうか、ルイズは少々機嫌が宜しいようで鼻歌をこぼしながら席に着く。 一方の二人は、他の使い魔達を物珍しそうに眺めていた。 「変な生き物が一杯ですわねー」 「これが他の生徒の使い魔か。某達もこれと同類の扱いなんだろうか?」 「達じゃなくてトウカだけじゃありませんこと?私にはルーンがありませんもの」 「……いや、それはちょっと酷くないか?」 トゥスクルでは……と言うか、ウィツァルネミテアでは一度も見たことの無い生き物達。 興味は尽きないのか、二人は飽きる様子も無く観察している。恐らく初めて動物園に行った子供も、こんな反応をするんだろう。 そうして二人が使い魔達とじゃれているところに、小太りの女教師が入ってきた。 彼女は教室を一通り見回し、二人を見て若干顔が引きつったが、一先ず満足そうに微笑んで言った。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴァルーズ、こうやって様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 そう言って、そのまま授業が開始された。 授業の内容は生徒達にとっては基礎の復習程度の内容であったが、異世界からの来訪者である二人には一切馴染みの無いものであり、その多くは興味深いものであった。 「四大系統ねぇ……こちらで言う属性と考えれば良いのかしら?」 「多少の差異はあるだろうが、根本的なものは同じなんじゃないのか?」 「んー、差し詰め"虚無"は"大神"かしらね」 「"光"と"闇"の扱いが判らんが、そんなところだろう。まぁ無理矢理こちらの常識に当てはめるのが、間違っていると思うがな」 こそこそと会話を繰り広げる二人だが、その話に興味を持った人物が居た。 言わずもがな彼女らの主人、ラ・ヴァリエール嬢である。 「ねぇ、属性とか大神とかって何の話よ?」 「いや、某達の元居た世界の話だ。こちらとの似ている点について、な」 「ふーん、そう言えば詳しい事は聞いてなかったわね」 くるりと後ろに顔を向けて二人の会話に加わるルイズ。 だがしかし、それを見逃してくれるほど教師が甘い訳でもなかった。 「ミス・ヴァリエール!授業中です、私語は慎みなさい」 「す、すいません……」 「お喋りしている暇があるのなら、この錬金はあなたにやって貰いましょうか」 何の気無しに言ったであろうシュヴァルーズの言葉。 しかし、この場にいる生徒達のほぼ全員が、顔面を蒼白に変えていた。 教室中の心の内を代弁するように、キュルケが立ち上がる。 「先生、危険です」 その場のほとんど全員が一斉に、首を縦に振る。 すでにキュルケは、いつものようなからかいを含む口調では無くなっている。 しかし当のシュヴァルーズは、心底不思議そうな顔をして生徒達に言い放った。 「錬金の何処が危険なのです?それに失敗を恐れていては何も始まりませんよ。ミス・ヴァリエール、前に」 何とも教師の鑑だと言わんばかりのセリフだが、生徒達にとっては死刑宣告に等しい。 ルイズが前に歩いて行くのをキュルケが引き止めようとしたが、既に覚悟を決めたルイズの前では無意味だった。 観念した生徒達は次々に机の下に潜っていく。約一名は、既に教室の外への退避を完了させていた。 「二人とも、隠れた方が良いわよ?大変な事になりたくなければ」 現在の状況が判らずに首を傾げる二人に、キュルケの忠告が聞こえて来る。 何が危険なのだろうかと考えながら机の影に隠れた途端、前方から爆音が轟いた。 「ッ!何が起こった!?」 内心でキュルケに感謝し、トウカは一声叫んで机の影から飛び出る。 教卓が"あった"方向を見ると、黒焦げになって倒れているシュヴァルーズと、煤で体中を真っ黒にして立っているルイズが見えた。 「ちょっと失敗したみたいね」 教室の惨状を意に介した風も無く、淡々と呟くルイズ。 その一言がきっかけとなって堰を切ったように流れ出る罵声と中傷。 ようやく彼女の二つ名"ゼロ"と、その二つ名の持つ意味を理解する事となった二人であった。 ただそんな事は些細な事だと言いた気に、カルラはルイズを見て顔を綻ばせながら、トウカにだけ聞こえるような声で呟く。 「あの子……将来大物になりますわね」 「……全くもって同感だな」 前ページつかわれるもの
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2551.html
前ページ次ページゼロと聖石 二人の決闘が終わったあと、私は町を散策していた。 ヴァルゴを見てもいつもの様に静かな光を湛えるだけ。 アルテマは何も言わない。 空は、雲が飛んでいるだけだった。 そして、夜。 さすがに昨晩ははしゃぎ過ぎたので今晩は静かに過ごす。 反省を生かし、ガチンコ! 雑学コラム対決をやっている時に事件は起きた。 いきなり地震が起きたのだ。 いや、地震というよりはゴーレムが動くような――― 入り口から外を確認しようとした瞬間、シエスタが入り口に向かってテーブルを投げつけて入り口をふさぐ。 先ほどまで食事をしていたテーブルは黒壇製の頑丈かつ非常に重たいものだ。 それを投げつけるなんてなんという腕力、シエスタ恐るべし。 次の瞬間、テーブルに何かを叩きつける音が響く。 メイジと傭兵の混成部隊、狙いはアンリエッタ様から預かった密書と見る。 とりあえず皆と合流し、シエスタが同じタイプのテーブルを横倒しで設置。 ここでの作戦はタバサ、キュルケ、ギーシュが囮、私はワルド一緒に港へ、シエスタが正面突破をかけて港へ。 方針が決まった瞬間、キュルケが化粧を始め、シエスタが軽くステップを踏む。 「じゃあ、後でまた、シエスタ」 「ルイズ様もお気をつけて」 シエスタが入り口のテーブルを切り割って敵陣に突入。 それを見届けた後、私達は裏口へと走っていった。 シエスタが外に出て気が付いたのは、ゴーレムの作成者がフーケだということだ。 作りもそっくりだが、何よりゴーレムの肩にフーケを見てしまった。 それでも足を止めずに、進路を阻む傭兵を切り伏せながら進む。 その間に宿を攻撃し続けるゴーレム。 何とかしなくては。 有る程度安全圏に離れた瞬間、ゴーレムに狙いを定め、 「氷天の砕け落ち、嵐と共に葬り去る滅びの呼び声を聞け! 咬撃氷狼破!」 地面からの刃でゴーレムの右足を破壊しておく。 直後に崩れ落ちていくゴーレム、ルイズ様の金の針効果だろう。 それを見届けて更に加速、一気に港を目指した。 テーブルの影からフレイムボールを撃って相手を牽制。 ギーシュがワルキューレで押し入ってこようとする傭兵を抑え、タバサがエアハンマーでなぎ倒す。 その間にもゴーレムが店を攻撃し、そのたびに壁に亀裂が走る。 「こういうゴーレム相手には、ルイズがくれた金の針で―――」 取り出した瞬間に、再度衝撃が襲う。 その衝撃で金の針を落とし、前列で戦っているワルキューレの足元へ。 そして、傭兵の攻撃で一歩後退したところで思い切り踏みしめ、暗黒回帰発動。 「なにもしていないのに僕のワルキューレが!?」 さすがにこればっかりは悪いと思った。 強度的にまだまだ持ちそうなワルキューレを一体無駄にしたのだから。 「ごめん、ゴーレム殺しのマジックアイテムが間違って発動しちゃった!」 土と土と火のトライアングルスペルで、地面から襲い掛かる炎を出しつつギーシュに謝る。 「そのアイテムはどうやって使うんだ!? それ次第では形勢を逆転できるかもしれない!」 乱戦の最中にどんな策を思いついたのかは知らないが、乗ってみるのも一興。 この針を刺せばいいと教えるとその針をひったくって床に突き立てる。 「ヴェルダンテ、なんとかゴーレムの体勢を崩すからチャンスをうかがってそいつを刺してくれ!」 その言葉に反応してジャイアントモールが床板を破り登場。 金の針を抱えて床下へ消えていった。 「いつの間に使い魔をつれてきたのよ?」 「最初からだ。言い出す暇が無くてね、伏せ札として利用してみた」 「体勢を崩すのは困難」 「そ、そこはほら、団結すれば何とか…」 タバサの冷静な判断が作戦に駄目出しをする。 それでも意見には賛成なのか氷の塊をゴーレムの足にぶつけて体勢を崩そうと狙う。 しかし、質量差で効果は無きに等しい。 さっきと同じスペルで援護しつつ、体勢を崩す方法を考える。 単体で崩すのは困難、質量体をぶつければ崩せるかもしれない。 ギーシュのワルキューレなら条件を満たしているが、勢いが足りない。 そこで名案を思いつく。 これならうまくいくかもしれない。 思いついた方法をタバサとギーシュに伝える。 ワルキューレを一体作ってもらい、足を片側だけ折って傾斜のつけたテーブルにそのワルキューレを寝転ばせる。 タイミングは、ゴーレムが壁の一部を壊した瞬間。 直後、壁の一部が崩れてゴーレムの姿が見える。 「タバサ、ワルキューレ射出!!」 その言葉にタバサがエアハンマーでワルキューレを足から叩いて発射。 青銅の質量体がゴーレムの頭部付近に命中、その瞬間にゴーレムがよろける。 しかし、倒れるまで至らない。 駄目か、と思った瞬間、ゴーレムの右足が地面から出た巨大な刃に貫かれて崩壊。 シエスタが援護してくれたのだ。 更にギーシュのヴェルダンテが金の針を刺した。 暗黒回帰によって崩れるゴーレム。 それをチャンスにつなげるために、ギーシュにワルキューレを量産させ、タバサがエアハンマーで撃ちだす。 猛スピードで飛来するワルキューレに傭兵団が後退した瞬間、地面が燃え上がった。 ワルキューレ内部に油を錬金し、地面に当たって砕けた時に流れ出すようにしておいた。 燃え上がる炎に混乱している最中、タバサが氷を何個も撃ち込む。 水蒸気が発生し、視界をさえぎったところで全員が女神の杵亭を脱出した。 ワルド様が所々に出てくる傭兵の待ち伏せを切り倒しながら進む。 私は今出来ることをするために、詩を歌っている。 「その心は闇を払う銀の剣、絶望と悲しみの海から生まれでて―――」 良く分からない異国の歌だが、精神が昂る。 走りながら歌うのは辛いが、これも早く港に着くための手段。 おかげで本来なら十分かかるような道を五分で踏破した。 そこで歌うのをやめ、息を整える。 「それも君の魔法なのかい、ルイズ?」 首を振って、私はただ歌っただけよと付け加える。 ちょっとだけ特別で、全くといって効果の無い歌を。 港の桟橋に着くと、シエスタが待っていた。 正面突破だけあってさすがに速い。 ワルド様が船を早く出すように交渉し、出港。 こうして、何とか無事にアルビオンに向かって出発したのだった。 ところでキュルケたちは無事に脱出できたのだろうか? 気になるが気にしても仕方が無いと割り切って月を見上げた。 前ページ次ページゼロと聖石
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/3866.html
340 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 45 34 ID vk/5MgKm 暖かな陽気が差し込むヴェストリの広場を才人は散歩していた。 タバサをガリア王国から救出して以来とくに事件という事件は発生せず、トリスタニアには平和が訪れていた。 「まぁ、平和なのはいいんだけどさ」 才人は中庭を見渡し呟いた。 「なんかおきねぇかなー・・・」 今日は虚無の曜日なので水精霊騎士隊の訓練も無く、部屋にいても特にすることが無いため中庭に来てみたものの 結局なにもすることが無く、才人は空を見上げた。 「もう帰るかな・・・」 ルイズに無断で出てきたためそろそろ帰らないとお仕置きされるかもしれないと思うと自然と体が震えた。 そして行き先をルイズの部屋に向けて一歩踏み出そうとした瞬間、 「ま、待ってくれ、僕の麗しのモンモランシー!!」 「だ・れ・が!あなたのモンモランシーなのよ!!」 才人は咄嗟に振り向いて、すぐにまた前を向いて歩き出した。 あの二人はいつも同じような事を言い合っているため、才人はすでに飽きていた。 一応付き合っているんだったらもう少し仲良くしろよと思いながら、才人は溜息をついた。 後ろからギーシュの必死の言い訳が聞こえてきたが才人は勝手にやっててくれと言わんばかりに再び歩き出す。 すると、今度は爆音とともにギーシュの叫び声が聞こえてきた。 「うわああああああああ!サイト!そこをどいてくれ!!」 才人はなんだよと思い、振り向いた。 そして飛んできたギーシュと衝突して―――― あれ。 なんだこれ。 なんか柔らかい感触が唇に・・・・・・ でも気持ちいいというよりは気持ち・・・悪い・・・? 才人が恐る恐る目を開いた瞬間、絶句した。 なんとぶつかった衝撃でギーシュの唇が才人のそれに押し付けられていたのだ。 才人の顔が見る見る青ざめていく。 才人は慌ててギーシュを突き飛ばし、地面を転がりながら奇声を上げた。 「うぎゃjbkjfだgくdgdbkvふじこw」 ショックを受けたのはギーシュも同じで、地面に突っ伏したまま泣いていた。 「ああ・・・僕の情熱の薔薇のような唇がサイトに・・・・ああ・・・あああああああ」 「もうこれ死ぬしかねぇな、この事実を背負って生きていく自信がない・・・じゃあなみんな生まれ変わったら会おうぜ」 「さらばモンモランシー、僕はこの永遠という名の時計仕掛けの摩天楼を・・・・・」 才人達が地面を転がったり悶えたりしていると、騒ぎを聞きつけたシエスタが才人の下へやって来た。 341 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 47 22 ID vk/5MgKm 「サイトさん!大丈夫ですか!!」 「ううっ・・・・シエスタ・・・・」 「いったい何が、何があったんですか!」 「オイラ・・・オイラ汚されちまったよぅ・・・」 「???」 シエスタは何が何だかわからないというように首を傾げると唇を押さえたまま白目を剥いているギーシュが 目に飛び込んできた。 そして才人に目を戻す。 時々801がどうとかボーイズラブとかギーシュエンドとかシエスタにとってワケのわからない単語が才人の口から漏れていた。 いやな予感がシエスタの頭の中を駆け巡る。 まさか・・・まさかサイトさん・・・。 ミスタ・グラモンと・・・。 時既に遅し。 才人の顔は既に生気を失っていた。 「サイトさん、しっかりしてください!」 「ダメだよ・・・シエスタ・・・俺は毒を受けちまった・・・・もう先は長くない・・・・最後に夕日が見たかったなぁ・・・ シエスタ、俺の最後の願いだ・・・俺の死体は土に埋めてくれ、モグラだから・・・・」 才人の遺言の毒という単語にシエスタは閃いた。 シエスタはなぜか顔を赤らめ、才人に覆いかぶさる。 「シエスタ・・・?」 「サイトさん、毒なら私が吸い出して差し上げますね♪」 えっ、それってどういうこと?と言おうとした才人の唇は、シエスタによって塞がれていた。 あー・・・そういやシエスタって大胆になる時多いんだよなぁ・・・・。 じゃなくって!!やばいってこれ!ルイズに見られたら間違いなく死刑だよこれ。 心ではそう思っていても体がいうことをきかず、されるがままになっていると口の中に、にゅるっ、としたモノが入ってきた。 才人はそれがシエスタの舌だと気づくのに時間はいらなかった。 「ん・・・んむっ・・ちゅ・・・っ・・んんっ・・」 それはさっきシエスタが言った吸い出すという表現がよく合うキスだった。 いつのまにかギーシュもそんな熱い口付けを正座して見入っている。 ちょ・・・ギーシュそんなに見るんじゃねぇよと思っていると、 ギーシュが爆発して吹き飛んだ。 342 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 48 43 ID vk/5MgKm 「え?」 シエスタはおもわず口を離しギーシュの行方を追った。 才人もギーシュがいた場所からゆっくりと視線をずらし、ギーシュを探した。 ギーシュは先ほど正座していた所から数十メートル離れた場所に、栽培マンに自爆されたヤムチャのごとく横たわっていた。 ま・・・まさかこれは・・・・ 全身から冷や汗が、どっ、と溢れてくる。 ガチガチと体を震わせながら視線を元に戻し、なおも首をギーシュが吹き飛んだ反対方向に向ける。 そして、想像通りの人物の姿が視界に入った。 「こ、ここここここの使い魔ったら真っ昼間から中庭でメイドとななななななにやってるのかしら? 中々帰ってこないから心配して来てみれば・・・・」 まずい、殺られる・・・・・ こうなってしまったルイズにはなにを言っても無駄なことは今までの経験上わかっていた。 才人は怯えるシエスタをよそに猛ダッシュで逃げ出した。 「た、助けてくれぇええええええ!!」 「こらぁーー!逃げるな!待ちなさいこの、馬鹿犬ーーーーーっ!!!」 結局ギーシュとモンモランシーだけじゃなく、この二人も同じようなことを繰り返しているのであった。 「さて、馬鹿犬?」 「は・・・・はい・・・・」 才人は逃げ出したまでは良かったものの、壁際に追い詰められ籠の中の鳥となっていた。 「大丈夫よそんなに怯えなくても、別に怒ってないわ」 「えっ、そうなの・・・?」 「ええ、怒ってないわ」 「ホ・・・ホントデスカ?」 「ええホントよ、怒ってないわ、怒ってないけど・・・・・死ねぇえええええ!!!!!!!!!」 ルイズはそう叫ぶと杖を振り下ろした。 すると、杖の先から放たれた力が才人の目の前で爆発した。 そして無音の空気に包まれていた中庭を、爆発音と才人の叫び声だけが響き渡った。 343 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 50 37 ID vk/5MgKm 「ふぅ・・・・」 ルイズのおしおきフルコースを受け、才人は痛む頭を擦りながら廊下を歩いていた。 まったく少しぐらいは手加減して欲しいよ。 でも、俺が悪いんだよな・・・・。 あんだけ好き好き言いながら他の女の子とキスなんかしちゃったからな。 でも、しかたがないの。 オトコノコだもん♪ そこで初めて才人は今の自分がとてつもなくキモかったことに気づき、辺りを見渡した。 そして、なんか悲しそうな表情でこちらを見つめているシエスタと目が合った。 才人はその場の空気に耐え切れなくなりこっちから話しかけた。 「ど、どうしたんだシエスタ?」 「あ、いえ、その・・」 シエスタは少し俯いて、さっきとは意味の違う悲しそうな顔をして才人の目を見つめた。 「あの、さっきはすみません。わたしのせいでミス・ヴァリエールに・・・・」 「え、ああ別にいいって。慣れてるから」 シエスタは上目遣いで才人の顔を覗き込んだ。 「ホントですか?怒っていませんか?」 「ホントにホント。それに怒ってなんかいないって」 すると急にシエスタの顔が明るくなり、がばっ、と才人の胸板に顔を押し付けた。 「シ・・・シエスタ?」 「よかった、嫌われたと思っていました、ホントによかった・・・・」 シエスタはそういいながらぐいぐいと顔を胸を押し付けてくる。 才人はもうそれだけでおかしくなりそうだった。 ちょ、なんでシエスタはこうなのかなぁ〜。 どうして俺のツボを的確に刺激してくるのかなぁ〜コノヤロー。 才人はさっきのルイズのお仕置きを忘れシエスタの感触を楽しんでいると 「あ、そうだわ、わたしサイトさんにお願いがあったんです」 お願い? え、もしかしてお願いってあれですか!? この状況でお願いってあれしかないですよね!? 才人はドキドキしながらシエスタの言葉を待っていた。 「実は・・・・」 344 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 55 05 ID vk/5MgKm そのころルイズはというと、 「ああああああんの馬鹿犬ったらまたどこほっつき歩いているんだか、シエスタとまたキキキキキキスなんかしてたら今度こそ・・・・」 とたいそうご立腹な様子であった。 誰が見てもかわいらしいという顔を怒りで鬼の形相に変え、杖を片手に節操のない使い魔をさがしていた。 「ほんっとにあの馬鹿犬ったらどこにいるんだか、ご主人様に探させるなんてそれだけで罪よ罪!」 もうあれね、例え一人でいたとしてもご飯抜きじゃすまないわね。 さてどう罪を償ってもらおうかしら。 ルイズは鬼の形相に不敵な笑みを足して見るもの全てを圧倒するオーラを放ち、女子寮の階段を登ると、 「いたいた、ちょっとサイ・・・・」 才人を見つけ、呼ぼうとした口を慌てて抑えた。 なんと才人の奴、懲りずにまたシエスタといちゃいちゃしているではないか。 あああああの馬鹿犬まままままたシシシシシシエスタとなにくっちゃべってんのかしらぁああ? 的確に才人をロックオンしたルイズは、いつ飛び込むかタイミングを計っていた。 うーん、いま行ってもサイトに適当に言い訳されるわね。 どうせなら証拠を掴んでからボコボコにしたほうがよさそうね。 ルイズは慎重に作戦を立て、足音を立てないようにゆっくりと近づき物陰に隠れた。 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・!?」 んー、ちょっと聞こえづらいわね。 ルイズは息を殺し、聞こえてくる会話に耳を傾けた。 「・・・それで・・・結婚・・・・」 「それって・・・俺が・・・・」 ルイズはところどころ聞こえてくる結婚という言葉に驚愕した。 え、結婚ってどういうことよ!あのメイドったらサイトにプロポーズしたの!? 最初は混乱していたルイズだったが、しだいに笑みをこぼし始める。 ふ、ふふん、そんなの断るに決まってるじゃない、サイトはね、わたしのこと好きっていいましたからー残念! 『結婚してくださいサイトさん』 『それはダメだよシエスタ』 『なぜですかサイトさん!』 『俺はルイズが好きなんだ、だからシエスタとは結婚できない』 『そんな・・・・』 『アンタなに言っちゃってんの?馬鹿じゃないの?このダメイド!』 ルイズは自分の妄想の中で才人に寄り添いながらシエスタを見下していた。 アンタなに考えてんのよ、サイトはね、わたしの使い魔なの。 だからわたしと一生一緒にいなくちゃいけないの。 もうちょっと物事を考えてからいいなさい。 しかし、妄想とは180度違う才人の発言にルイズは一気に現実に戻された。 「わかったよ、シエスタにはいろいろ恩があるから、俺でよかったら喜んで」 「本当ですか!?サイトさん」 え・・・・ 「じゃあ、今後の詳しい話もあるので厨房でゆっくり話しませんか?」 「そうだな、ここじゃあちょっとあれだしな」 何言ってるの・・・?サイト・・・・・・? 予想を遥かに超える才人の言葉にルイズはひどく困惑した。 そして、考えるより先にルイズは二人の前に飛び出していた。 345 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 56 47 ID vk/5MgKm 「だ、だめぇーーーーーーー!!絶対だめぇーーーーーー!!!」 「うわっ、ルイズ!?」 「ミ、ミス・ヴァリエール!?」 才人は急に目の前に飛び出してきたルイズに駆け寄った。 「ど、どうしたんだよルイズ?なにがあって・・・」 才人はそこでルイズの頬を雫が伝っているのに気が付いた。 「お、お前っ・・・・なんで泣いて・・・・」 才人の問いに、ルイズはゆっくりと口を開く。 「・・しちゃやだ・・・・・」 「え?」 「わたし以外の人の結婚しちゃやだーーーーー!!!」 そうルイズは叫ぶと、才人に抱きつき大声で泣き始めた。 「うぇっ・・・ひっく・・なんでよぉ・・・わたしのこと好きって言ったくせにぃ・・・」 「ルイズ・・・・?お前まさか・・・」 才人は、こいつすげぇ勘違いしてやがる、と思った。 しかし、正直今のルイズはかわいかった。 才人がそんな甘ーい感情に浸っていると、ルイズの口からとんでもない言葉が出てきた。 「サイトは・・・サイトはわたしと結婚するの!!!!」 ぐはぁ!!!! 「えっ、ちょ、おま・・・」 「な・・・ミ、ミス・ヴァリエール!?何を言って・・・」 シエスタがルイズを止めようとすると、ルイズはキッとシエスタを睨んだ。 そして、おもむろに才人の唇に自分のを押し付けた。 「んっ・・・」 「ん、んんんんんーーー!?」 「ああああああーーーっ!!!」 ルイズはそっと唇を離すと、才人の目を潤んだ瞳で見つめた。 才人はこのまま押し倒してやろかと思ったが、ぶんぶんと首を振る。 落ち着け俺、こいつは今勘違いをしているんだ。 才人は深呼吸を一つするとルイズの肩を掴み、真剣な眼差しでルイズの真っ赤な顔を見つめ返した。 そして慎重に説明を始めた。 「あのな、ルイズ。お前は今ものすごーく勘違いをしてるんだ」 「勘・・違・・・い?」 「ああ、勘違いだ」 346 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 58 00 ID vk/5MgKm 不安そうな顔をして見つめてくるルイズに一瞬ドキッとしたが、無理矢理続きを話した。 「お前、俺がシエスタと結婚すると思っているだろ?」 「うん」 「それが勘違いなんだよ、別に俺は結婚なんてしないから」 「えっ?」 「そうだよな、シエスタ?」 急に話しを振られ少々戸惑ったが、慌てて才人の言葉をつないだ。 「そ、そうなんですよミス・ヴァリエール」 「で、でもそれならなんでさっき結婚って・・・・」 「あれはわたしの友達が結婚するんです、それでわたし司会を頼まれたんですけど一人じゃ心細くて サイトさんにいっしょに司会をしてくれるように頼んでたんです」 「そ、それで俺はシエスタの頼みだし今までお世話になってるしまあいいかなーなんて思って」 そして二人は顔を見合わせて、ねー、と頷きあった。 ルイズはただ呆然と立ち尽くしていた。 え、何?全部わたしの勘違い? なーんだ、心配して損しちゃった。 そうよね、馬鹿犬がご主人様をほっといて結婚するはずないわよね。もうわたしったら。 あれ? わたし勢いにのってなにかすごいことを言ったような。 えーと・・・確か・・・・ 「ル・・・・ルイズ〜〜、お〜い・・・」 いきなり黙り込んでしまったルイズが心配になり、ルイズの顔の前で軽く手を振る。 しかしルイズはまったく反応しなかった。 ルイズはそんな才人の顔を見て、全てを思い出した。 わわわわわたしったら勢いとはいえなんてことを・・・!!! けけけけけけ結婚するってわたしが!!!サイトと!!!! いいいいいいっちゃった、いっちゃったよぉーー!!! 急にぷるぷる震えだしたルイズに再度才人は呼びかける。 「おい、おい!ルイズ!!どうしたんだよ!!!」 才人の呼びかけに我に返ったルイズはたっぷり顔を赤らめたあと、言葉にならない声と共に強烈なボディーブローをかまし、 ものすごい勢いで走り去ってしまった。 「あれ、何これ・・・天井と意識が遠のいていく・・・・・」 理不尽なお仕置きを受けた才人はその場に倒れこんだ。 506 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 05 09 ID QCEh6mop 「なぁ、ルイズ・・・・」 しかし返事は無い。 「そろそろ出て来いって」 才人はそういいながらベッドに腰掛け、布団にくるまったまま出てこないご主人様を促す。 さっきからずっとこの調子だった。 才人が部屋に戻ってきてからもう数時間が経ったが、ルイズは一向に顔を見せようとはしなかった。 だがそれもしかたあるまい。 なぜなら先程勢いとはいえ才人にプロポーズまがいの発言をしたため、恥ずかしいやら貴族のプライドやらいろんな 気持ちが混ざり、出ようにも出れない状態が続いているのだった。 しかしそれは唯の言い訳に過ぎない。 本当の気持ちは、普段ルイズが心の底で思っていることを口に出してしまったから恥ずかしいのだ。 才人がルイズの事を好きなように、ルイズだって才人のことが好きなのである。 だからこそ余計に布団の中から出れないわけで・・・・・。 「ルイズ、いいかげん出て来いって。別にさっき言った言葉が気になるんだったら俺忘れるからさ、ほら。」 ――何忘れようとしてんのよバカ犬。 「まぁお前の気持ちもわからなくはないって。勢いとはいえあんなこと言っちゃったんだしな。」 ――なにが「お前の気持ちはわかる」よ。全然わかってないじゃない。 「俺、お前に好かれてるなんて思ってないからさ、気にしないしもうこの話題は出さないからさ。」 ――違う。 「独占欲っていうかなんていうか、そんな感じで俺を繋ぎ止めておきたかったんだろ?」 ――違う。そんなつもりで言ったんじゃない。 「だからさ・・・もう俺」 「違う!!!」 ルイズは一気に跳ね起き、才人を睨みつけた。 いきなりルイズが叫びながら起きたため、才人は転げ落ちそうになった。 507 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 05 39 ID QCEh6mop 「ル・・・・ルイズ・・・どうしたんだよ、急に・・・」 「違うって言ってるでしょ・・・」 「違うって・・・何がだよ」 「そんなこともわかんないのに何が『お前の気持ちはわかる』よ。ばか・・・・」 急に怒鳴ったりしおらしくなったりするルイズに才人は困惑したが、今にも泣きそうなルイズを見て とりあえず頭を撫でてやる。 ルイズの呼吸が落ち着いたのを見計らって、才人はゆっくりとルイズに語りかける。 「なぁ、どうしたんだよ。俺、なんか気にさわること言ったか?だったら謝るからさ。」 「そうじゃないわよ・・・」 「じゃあなんで」 「わたしが冗談であんなこと言うと思ってるの!?」 才人はハッとした。 ルイズが怒っているのは恥やプライドのせいじゃない、ルイズの気持ちをわかってやれなかった俺自身に 腹を立てているんだ。 でも・・・それってもしかしなくても・・・ 「じゃ、じゃあさ、さっきのってもしかして・・」 才人が期待に胸を膨らませながら尋ねた。 するとボッ、とルイズの顔が一瞬にして真っ赤になった。 そして慌てて布団の中に潜り込むが、才人に引っ張り出されベッドの上に座らされた。 「な、なにするのよ!」 言うが早いかいきなり才人に抱きすくめられ、呼吸が止まる。 しばらく才人の抱擁力にうっとりしていたが、暴れだす。 「な、ちょ、離しなさいってばぁ。馬鹿犬!!」 「嫌だ」 「な、なんでよぉ・・・」 最初は激しかったルイズも段々語彙が貧弱になってきた。 そんなルイズを才人は愛おしく思い、腕にさらに力を込める。 「ルイズが好きだから」 「・・・・・・!?」 160キロの直球をど真ん中に受け、ルイズの顔はますます赤く染まっていく。 才人は言葉を続けた。 「好きだからそばにいたいって思った。もっと抱きしめて、くっついていたいって思ったから 抱きしめたんだ。俺の言ってること変か?」 「別に・・・変じゃないわよ、ばか・・・。」 ルイズはそういうと自ら才人の胸に顔を埋めた。 508 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 07 26 ID QCEh6mop やばい。 今の俺、超かっこいい。 今ならどんな女でも落とせるような気がするぜフハハハハ。 しかし。 才人はゆっくり深呼吸をした。 まずいな、非常にまずい。 才人は軽く体を離し、ルイズにばれないように股間を覗き込む。 するとそこは既にどんな兵器でも壊せないような塔がそびえ立っていた。 おお我がムスコよ、頼むから静まってくれ、あやまるから、とりあえずあやまるから。 ごめん、興奮しちゃってごめん。 そんな才人の訴えに対し、反抗期真っ只中のムスコはせまいよーと言わんばかりにズボンを押し上げる。 くそっ、落ち着け、落ち着くんだ、奇数を数えて平常心を保つんだ。 奇数は物事を2で割り切れない優柔不断な数字。俺に力を与えてくれる。 1,3,5,7,9,11,12,あ間違えた,13,15・・・・・ 才人が精神統一をしていると、ルイズから鼻腔をくすぐるいい匂いが漂ってきた。 ああもうどうして女の子ってなにもしてないのにこんないい匂いがするんだよ。 ヤッベ、もう限界。 ついに限界に達した才人は抱きしめていたルイズを離し、見つめる。 そしてゆっくりと唇を近づけた。 これでルイズが拒否ったらもう潔く諦めよう、もし拒まなかったら・・・・ええいもう知るか!! 驚くべき事が起こった。 才人の唇からルイズまでの距離はまだあったはず、それなのに才人の唇は何か柔らかいもので塞がれていた。 才人が恐る恐る眼を開くと、照れながらもしっかりと才人の頭を掴んで自分のそれを押し付けているルイズの姿が飛び込んできた。 つまりそれはルイズからしてきたというわけでして・・・・。 「・・・っ、ルイズ!!!」 耐え切れなくなった才人はルイズを強引にベッドに押し倒した。 そして乱暴に口の中を貪る。 「っつ・・・ちゅ、ん・・・はぁ・・っ、ルイズ・・・ルイズ・・」 「んむ、はぁっ・・ちゅ・・ちゅっ・・サイトぉ・・・」 二人の口の間からは情愛の吐息が漏れ、二人を一つにしていく。 名残惜しげに唇を離すと、銀色に輝く糸が繋がっていた。 それから先は、よく覚えていない。 気が付いたら、お互い全裸で、俺はルイズの上に覆いかぶさっていた。 いつの間にこんな事になったんだろう。 思い出そうとしても押し倒した辺りから思い出せない。 でも、照れながらこっちを見ているルイズを見たら、そんなのどうでもよくなってきた。 「ルイズ・・・・・」 才人はルイズの首筋に吸い付き、そのまま口先を胸の先端へと持っていく。 「ひゃあっ、ああん」 そして強く吸い上げ、硬くなったそこに軽く歯をたてる。 さらに下半身への攻めも忘れない。 左手を伸ばし、ルイズの秘所に指を差し込む。 「んふっ、あっ、そこは・・・」 「どうしたんだよ、もう濡れてるぜ?」 グチュグチュと卑猥な水音をたてるそこは、才人の指を待っていたといわんばかりに締め付ける。 才人が指を動かすたびにどんどん蜜が溢れてくる。 大分ほぐれたことを確認すると、指を2本3本と増やしていった。 「んんっ・・やぁっ・・ああっ・・・」 与えられる快楽が増えた事により、経験の無いルイズはすぐに達してしまった。 509 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 07 57 ID QCEh6mop 正直才人は焦っていた。 ここまではなんとなくで進めてきたものの、もちろん童貞だった彼はどうすればいいのかわからなく なってしまったのだ。 大丈夫だ才人、さっきルイズをイかせてやれたじゃねぇか、何を怯えている。 こんな時のために日本で説明書(エロ本)を何度も読んだだろ!! そんなこんなで知恵を振り絞っていた才人に、完全に放置されていたルイズが不安げに口を開いた。 「サイト・・・どうしたの・・・・?」 「いや・・・やっぱり俺も初めてだからな・・・・さすがに・・・その・・・」 「緊張してるの?」 「えと・・・まぁ、そんな感じ・・・・」 それを聞いたルイズは上体を起こし、才人の頬にそっと口を付けた。 そして才人に尋ねる。 「どうして?」 「えっ?」 「どうして緊張してるの?」 まさかそうくるとは思っていなかったため、言葉に詰まる。 少し考えた後、才人は思った事を素直に語った。 「なんていうかさ・・・・・その、ルイズの事を大事に思ってた分、本当にこんなことしていいのかなって思ったり 好きだからこそ自分の手で汚したりするっていうのがなんていうかその・・・」 ルイズは心の中で軽くため息をついた。 この使い魔はもうちょっと気のきいたセリフが言えないのかと思ったりもした。 しかし、自分をそこまで大事に思っていてくれた事に少しドキドキもした。 「わ・・・わたしも・・・その・・・・」 「ルイズ?」 ルイズは才人の耳元で、ずっと自分が言えずにいた言葉を、言ってしまったら才人が元の世界に帰る時の足枷に なると思い、心に留めていた言葉を、今にも消え入りそうな声で囁いた。 「好き・・・・だから・・・わたしも・・・」 「・・・・・!?」 「大事かどうかはわかんないけど、アンタといたらドキドキするし・・・・だから」 「ルイズ・・・・お前」 「アンタがしたい事全部していいから、だから・・・」 次にルイズが放った言葉は、才人にとって忘れる事ができないモノとなった。 「ずっと・・・・・わたしのそばにいて」 ずっと・・・・・そばにいて・・・か。 ずるいよ・・・ルイズ、俺、異世界の人間なのに・・・。 いつかは、帰るつもりだったのに・・・。」 なのに・・・そんなこと言われたら・・・・・・。 「当たり前だろ?今更何言ってんだよ。」 つい、こんなこと言っちまうじゃねぇか。 510 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 08 28 ID QCEh6mop 窓から辺りを見る限り、限りなく夕方に近い夜だということが判別できる。 ランプを付けていないため薄暗い部屋の中で、二人の男女がまさに今交わらんとしていた。 才人は自分のモノをルイズの秘所にあてがい、鼓動の高鳴りを落ち着かせる。 『ルイズ、いいのか本当に?』などというヤボなことはあえて聞かない。 自分だってそれなりに空気は読めるはず・・・だと思う。 そういや今までいろんな事があったなぁと思い出にふけっていたが、すぐにやめた。 大切なのは過去じゃない、今実際に起きている現実こそが大切なんだ。 今俺いいこと言ったぞ。メモっとけ。 「いくぞ、ルイズ」 ルイズは何も言わずに頷いた。 それが合図。 才人は躊躇わずに、一気に最奥まで貫いた。 「――――――っ!!」 途中何がが千切れる音がした。 先程の愛撫でかなり濡れていたものの、とてつもない激痛がルイズを襲う。 「いっ・・・ああっく、ふぅん・・あっ・・・」 しかし才人は止まらない、いや、止まれなかった。 容赦なくギュウギュウと締め付けられ、軽く暴走ぎみの才人は自分の快楽を高めるためだけに 腰を動かしてしまう。 「っっつ・・はぁ、くっ」 「ああっ・・いっ・・・サイ・・・ト・・・つぁあ・・・」 しかし何度も腰を打ち付けていく度にルイズにも段々と快楽が込みあがってきた。 才人はルイズの頬に手を添えた。 「くっ・・はぁ・・・・ルイズ、俺・・・・もう・・・」 「ああっ・・んん、はっ、わたしも・・いっちゃ、イっちゃうっ・・・」 そして、次の瞬間―――。 「ああああああああっ!」 ルイズの大きな喘ぎ声が、辺りに響き渡った。 511 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 09 02 ID QCEh6mop 「ごめんなさいまじですんませんもうしないんでほんとかんべんしてくださいわたしがわるうございました」 「・・・・・・・・」 ベッドの上でペタンと座っているルイズの眼前に、全裸で土下座している才人の姿があった。 股間のムスコもさすがに悪い事をしたと反省しているのかシュンとしていた。 なんとも情けない姿である。 「犬、アンタ自分が何をしたかわかってるの?」 「はい」 「わたしね、初めてだったの。だからね、もんのすごく痛くて苦しかったの。それなのにこの犬ってば!」 ルイズは立ち上がると才人の頭をぐりぐりと踏みつけた。 「犬、今からアンタに『罰』を与えるわ」 「やっぱりっすか・・・」 才人は頭を上げてルイズの顔を覗き込んだ。 するとなぜかルイズは顔を赤く染めるとそっぽを向いた。 「もう一回しなさい」 「は?」 「ききききき聞こなかったの?もももももももう一回しなさいと言ったの!!」 才人の頭はスパークした。 「でも、つ、次痛くしたらアンタ覚悟しなさいよね!!」 もうルイズの声など聞こえるはずがない。 才人は勢いよくルパンダイブした。 「ぃよろこんでぇえええええーーー!!!」 結局この日ルイズが満足するまで才人は頑張ったとさ。 第一部、桃色の花 終 512 名前:さんざむ[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 11 20 ID QCEh6mop くっ、やはりへんたいさんとは比べ物にならないか・・・・orz だがいつの日にかへんたいさんと肩を並べて投下できる人物となってやる! 次回予告 「どこいったんだろ、シエスタ」 ―――消えたシエスタ――― 「シエスタ?さぁ、最近見かけねぇな。どうかしたのか?」 「彼女ならさっき火の塔に向かって走っていったよ。なんだか泣いてるようにも見えたなぁ」 ―――高まる不安――― 「それはサイトさんのほうがよく知ってるんじゃないですか?」 「わたしが、何も知らないと思ってたんですか?」 ―――真実を知った黒髪のメイド――― 「苦しいんなら苦しいって言ってくれよ!嫌なんだったら嫌って言ってくれよ!!じゃないと・・・俺・・」 「どうして嫌がらないといけないんですか?」 ―――優しき心を持った二人の男女の結末は――― 『真実(まこと)の黒』 近日公開予定 14-8
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6219.html
前ページゼロのヒットマン 「あっ、獄寺に頼みたいことがあったわ。」 「用件はなんだよ。」 「獄寺、あんたにやってもらうのはこれよ。」 獄寺はルイズの後をついてゆく、その先にはルイズの洋服と下着がある。 「まさか俺に洗濯をやれと言うのかよ。」 「そうよ。」 「ふざけんじゃねぇ!てめーのモンくらいてめーでやれよ!それに俺洗濯やったことねーんだよ。」 「あんたは私の使い魔なの!だから主人の言う事は聞く!それに私と一緒に元の世界に帰る方法を探すんでしょ。」 「分かったよ、やりゃーいいんだろやりゃ。」 仕方なく獄寺はルイズの洗濯物を持って外へ出た。 「これ結構重てーな。うわっ!」 「きゃっ!」 獄寺はバランスを崩し、近くにいたメイドにぶつかった。それと共にルイズの洗濯物も散らばる。 「痛てーな、おめーも気をつけろよ」 「すいません。私も外で洗濯をしようと思ったので。あなたの方こそ大丈夫ですか?」 「当たりめーだ。俺はこの程度で怪我をしたりしねーよ。」 「あなたって、ミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」 「ああそうだぜ。俺は訳あってルイズの使い魔になった獄寺隼人だ。おめーの名前はなんていうんだよ。」 「私ですか?私はここの魔法学校でメイドをしているシエスタと申します。それにしても洗濯物散らかりましたね、私も拾うの手伝っていいですか。」 「助かるぜ、ルイズの奴俺をこき使いやがるからな。」 「いいんですか、貴族を呼び捨てで呼んでて。」 「いいんだよ。貴族だろーが何だろーが、俺はルイズって呼んでんだ。」 そう言うとシエスタは喜びの笑顔を浮かべた。 「すごいですね!獄寺さんは貴族に媚びたり、諂ったりしない立派な姿勢!尊敬します!」 そして散らばった洗濯物をシエスタと一緒に集め始める。獄寺が洗濯物に手をやった瞬間、 同時にシエスタの手も獄寺の手元にある洗濯物に近き、そして獄寺とシエスタの手が触れ合った。 「あっ、すいません。」 「この程度で動揺すんな。さっさと片付けるぞ。」 シエスタは顔を真っ赤にしながら言った。 「はい。」 その後、水場に着いた2人は洗濯を始める。 しかし獄寺は戸惑っている。 「おいシエスタ、俺洗濯の仕方分かんねーんだ。さっさと片付けないとルイズの奴・・・ ・・・」 獄寺の頭の中に鬼ルイズのような形相が浮かんだ。 「洗濯の仕方なら私が教えますから安心して下さい。」 シエスタに洗濯を教わりながら獄寺は慣れない手つきで洗濯を始め、洗濯が終わったあとは部屋に戻って 獄寺はルイズの着替えを手伝う。 その後、獄寺とルイズは食堂についた。既に食堂は生徒達で賑わっている。 「ここで飯が食えんのかルイズ。」 「そうよ。だけどあんたのご飯はあっちよ。」 ルイズが指を向けた先には固いパンと質素なスープが並んであった。 獄寺は不満な表情を浮かべる。 「ふざけんじゃねぇ!俺にこんな朝食を食わせる気か!」 「平民のあんたが『アルヴィースの食堂』で食事ができる事だけでも感謝することなんだからね!」 「少しぐらい、飯よこせー!」 獄寺はルイズに飛びついてきた、しかしルイズは獄寺を跳ね返した。 仕方なく獄寺は固いパンと質素なスープを口にした。 「ちくしょう、なんで俺がこんな飯食わなきゃいけねぇんだよ。」 その一方獄寺の近くでなにやら生徒達が会話しているようです。 「ギーシュ、お前誰と付き合ってんだよ」 「付き合うって、僕にそんな特定の彼女なんて~」 ギーシュと生徒の会話が気になって獄寺は近くに行く、するとギーシュのポケットから香水が落ち、獄寺はそれを拾い上げて それをギーシュに渡す。 「おい、てめーのポケットからこれ落としたぜ。」 その香水の瓶に気づいたギーシュの友人達が騒ぎ始める。 「ギーシュ、お前二股かけてたなんて最低だな。」 そこから二股がばれたギーシュは・・・ 「君が僕に香水を渡したせいで、二股がばれてしぱったよ。」 「ふざけんな!二股かけてたのはてめーだろ!ばれたら俺のせいにするのかよ!」 「この貴族である僕に向かってそんな態度をとるなんて、外に出ろ!僕が貴族に対する礼儀を教えてやろう。」 「やってやろうじゃねぇか、その勝負受けてたつぜ!」 ギーシュが外に出た後、ルイズが後ろから駆け寄ってきた。 「何やってんのよ!さっさと決闘なんてやめなさい!」 「うるせぇな、俺は売られた喧嘩は買う主義なんだよ。それに俺はあんな二股ヤローには負けねーから。」 早速広場にて決闘が始まる。決闘が始まると同時にギーシュはゴーレムを出す。 「僕はメイジだ、だから魔法で勝負する。『青銅』のゴーレム、ワルキューレが相手になるよ。」 「その程度のゴーレムなんてぶっ壊してやるよ。」 ワルキューレは獄寺に近づき、拳を繰り出すも獄寺は易々とかわしてくのであった。 「その程度じゃ俺は倒せねーぜ。喰らえ!2倍ボム!」 大量のダイナマイトがワルキューレに降り注ぎ、ダイナマイトがワルキューレの近くで爆発した。 広場に大きな煙が巻き上がった。そして煙が消えていくと、そこにはバラバラになったワルキューレの姿があった。 「そんな・・・ 僕のワルキューレが敗れるなんて・・・」 「これで分かっただろ。おめーじゃ俺には勝てないって。」 獄寺はポケットからダイナマイトを取り出し、ギーシュに向けて放とうとする。その時ルイズが獄寺に向かって飛び出してきた。 「やめて!獄寺!」 「何だよ、勝負の邪魔すんじゃねーよ!」 「もしギーシュがそれで大怪我でもしたら、ギーシュの家の人だって黙ってないし、それにギーシュはクラスメイトだし、 とにかくそれをギーシュに放つのだけはやめて!」 「分かったよ。だけど俺はあの二股ヤローと話しがしてーんだ。いいか。」 獄寺はルイズにそう伝えると、ギーシュに近づいた。 「おいそこの二股ヤロー、二度とみっともねぇ真似すんなよ!」 「分かったよ。今回は僕の負けだね。」 獄寺はそう言うと、広場へと戻る。 「ルイズの使い魔の平民、ギーシュに勝っちまうなんて。」 「あの平民強いなぁ、俺だったら戦いたくないぜ。」 「あ、いたいた、獄寺さん。」 そう言いながらシエスタが獄寺に向かってきた 「どうしたんだよ、シエスタ。」 「昼間の決闘見ましたよ!ビックリです。貴族を倒してしまうなんて。」 「当たりめーだ。俺があいつに負けるとでも思ってんのか。」 「いえいえ、とんでもございません。そういえば厨房のみんなで祝勝パーティを開くんです。それで獄寺さんを探してたんですよ。 早く行きましょう。みんな待ってますよ。」 シエスタは獄寺の腕を引っ張っていき、厨房に連れて行く。 その夜、厨房では獄寺の祝勝パーティが行われていた。 「いやぁー昼間の決闘は驚いたねぇ、俺、見たよ!貴族と決闘して負かす平民がいるなんて感動だよ。」 厨房に入ると、コック長のマルトーが獄寺を歓迎している。 前ページゼロのヒットマン
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3629.html
「どうかしたの?トニー」 頭上でクエスチョンマークが飛来しているモンモランシーは何しに来たのか?と言いた気な表情で俺に尋ねてくる。 「ああ、ちょっと聞きたいのだが、ジュール・ド・モットって言う変……いや、貴族の所在を教えて欲しいのだが?」 首尾よく所在地を聞き出した俺は、『レオーネセンチネル』に荷物を取りに行く。多少なりと武装の準備するのと、 「これは持って行った方が良いな」 トランクに入っていた『カメラ』を持ち出して何時ぞやに盗んだ馬車に乗せ、日が昇りきらぬ内に学院を出立した。今回ばかりは流石に 貴族を巻き込むわけにも行かないので一人で行動するのと、地理的に詳しくないのでさっさと出発した方がいいだろうという判断だ。 「なんだあの二人は……くそっ随分と遠いじゃねぇか!」 だがその目的地は、多分話よりも遠い気がする。目的地に到着した頃にはすっかり日が暮れ、闇に包まれていた。歩いていかなくて正解だ。 闇に包まれている為に周りを完全に見通すことは困難だが、ヘンタイ貴族の住処はまるで砦で、横には城壁がうずたかくそびえている。 変態はリバティーシティにも大勢居るが、こう権力を握ってしまうと性質が悪い。俺は目立たない場所に馬車を繋いで武装して懐に仕舞うと、 門番の居る入り口に割と堂々と入っていった。 「何だ貴様は!?」 「俺は魔法学院から寄越されたトニー・シプリアーニと言う者だが、ここの貴族に用があるのだ、通せ」 強行突破も考えたのだが、『魔法学院』の名前を出したら割とすんなり応接間に通された。少々拍子抜けをしたが、五分後、本当にその ヘンタイ貴族は現れた。余裕に満ち溢れた嫌な空気を発しながら、俺の対になる席に少々無作法に座る。 「……此方も取り込み中だ、用件は手短に願うぞ」 ヘンタイ貴族は立ち振る舞いこそ貴族だが、顔立ち・衣類・喋りなど全てに於いて下品且つ変態の域に思える。これは相当美少女・美女を 手当たり次第に漁っていたのだろうと容易に想像がついた……多分、取り込み中と言うのも、女とイタしてる為だろう。 「まぁ大した事じゃないがね……好色趣味って言うのも人それぞれだが、金あるんだ。女はプロの方が良くないか?」 「!?……何が言いたい、トニー・シプリアーニ?」 遠回しに言い放った言葉に見事に釣られたこのヘンタイ貴族は、目の色を変えて言い返してくる。 「聞けば、職権乱用で女手当たり次第に漁ってるそうじゃねぇか、国家元首にばれたら色々とヤバいだろ」 「……いっ…言っている意味が良く分からんね……そろそろ遠回しで無くて直接用件を言ったらどうかね……!?」 俺の揺さぶりが効果を発揮し、このヘンタイ貴族は明らかに動揺している。正直情報は極々僅かだが、はったりもここまで効果を発揮すると 虚も実だ。俺はこのままの調子で攻めてみる事にする。 「今日、学院から連れてきたシエスタと言う平民が居るだろ?あれ、王宮と学院の立場を問わず評判の良い子でな、アンタが連れ去ったって 事が広まった途端、悪い噂が流れてるんだよな。大人しくシエスタを学院に帰した方が身のためだぜ」 「!?……な…何を言い出すかと思えば……そ…それは大丈夫だ。シエスタはうちの使用人なのだからな……シエスタを呼べっ」 ヘンタイ貴族はそう言いながら、シエスタを呼び横に連れてくる。すると、毒々しい原色の赤色のエプロンドレスを纏ったシエスタが、引っ張り 出され、言うに事欠いて彼女の首元に臭そうな息を吹きかける。シエスタもどうして良いのか分からないようなリアクションに困っていた。 「まぁ、こう言うことだ。安心して帰りたまえ、シプリアーニ」 「……本性見せたな貴族さんよ、俺はそのショットを拝みたかったのよ。これで、俺の確証は実になったと言う訳だ」 「!?」 勝ったと思っていたのだろう精神状態に冷や水をかけてやると、ヘンタイ貴族の顔がまるで茹でたロブスターの如く面白い位に真っ赤に染まった。 「使用人?おいおい、笑わせる事を言うな……アンタが根っからの女好きって言うのは周知の事実なんだよ。相手が平民だからって好き勝手な事 並べるな……お前みたいな粗チン野郎には娼館の女でも勿体無い、いや立ちんぼでも勿体無いわ」 行き成りの悪言雑言にこのヘンタイ貴族は思わず立ち上がる。恐らく、生まれてこの方こんな罵られ方はされたことないだろう。 「なっ!?貴様……誰に向ってそんな口を!!」 「アンタだ、ヘンタイ貴族。お前みたいな下衆野郎はな、下手に女に手を出して、翌日湖畔に水死体になって浮かんでる方がよっぽど相応しいわ」 この言葉がトドメになったか、わなわなと身体を震えさせながら身体を真っ赤にさせ、メイジのシンボルともいえる杖を手にする。 「言わせて置けば好き勝手……命が惜しくない様だな……そこへなおれ!!」 「良いのか?俺を殺せば、ヴァリエール家と魔法学院を相手に抗争を引き起こす事になるが、それでも良いのなら遠慮は要らん、殺しな」 俺は顔色一つ変えずにしれっと言い放つ。実際ヴァリエール家とそこまで深い仲ではないが、言ってやればそこそこ脅しにはなるだろう。 「止めて下さいっ!!トニーさん!!」 一触即発の状況で、シエスタは悲鳴にも似た声をあげる。 「シエスタ」 「伯爵、この者の無礼をお許しください」 シエスタは俺が殺されると思ったのか、跪いてヘンタイ貴族に許しを乞う。だが、この貴族は当然のように拒否してきた。 「ならん!斯様な平民の無礼を捨て置いては……」 「こいつにはできねぇよシエスタ。仮にも俺はヴァリエールと魔法学院の使者という扱いだ。そんな者を殺したとなれば、ヴァリエール家は宣戦 布告と見なしてヒットマンを送ってくるだろうよ。そうなりゃ身の破滅だぜ、こう言う抗争は裏社会と一緒だからな」 すかさず追い討ちの言葉を続ける俺に、シエスタは顔面蒼白、ヘンタイ貴族は茹で蛸のように真っ赤に顔を腫らしていた。 「相手が伯爵でも、そうかわらねぇんだよ……おい、殺す気になったか、貴族さんよ?」 「グググ……この場はシエスタに免じて命だけはくれてやる……早々に立ち去れぇい!!」 殺したくて殺したくて堪らないのだろうが、流石にヴァリエールやヒットマン、抗争等の単語が並んだら一線を超える勇気は出なかったのだろう。 もっとも、後でルイズにはちゃんと尽くしてやらんといけないだろうが……。 「まぁ、そうなるだろう。流石に抗争になったら潰されかねないだろうしな」 「ググ……貴様…減らず口を……おいっ!!何をボサッとしてるんだ!この者を屋敷から叩きだせ!!」 「その強気と言動が、後々後悔にならないように気をつけることだな」 捨て台詞とも言うべき言葉で締めると、俺は背後に立っている監視とも言うべき二人の衛兵に囲まれながら敷地内の母屋の屋敷から出された。 この世界に無理矢理来させられて気に入らない事だらけだが、こんな胸糞悪いのは初めてだ。今回ばかりは許さん。 俺はキョロキョロを左右を視線を送りながら屋敷内を見渡すと、この邸宅は思ったほど警備の監視が厳しくない事に気がつく。 「兄ちゃん達、すまんが靴紐が解けた。ちょっと直すから待ってくれ」 俺が何食わぬ顔してそう言うと、『仕様がねぇな』と言わんばかりの表情を浮かべて顎を突き出す仕草でOKを出した。そしてゆっくりと 座った瞬間――― 「ぐええぇぇぁああっ!!」 懐に素早く手を入れピストルを取り出して抜撃ち、ほぼゼロ距離射撃での銃撃で俺の左後ろに立っていた衛兵の腹部に銃弾を二発浴びせ、 悲痛な断末魔と共に転倒、恐らく絶命しただろう。 「ちょっ……!おい…お前どうなって……ふぇっ?!」 現状を把握できていない俺の右後ろに立って居たもう一人の衛兵は、聞いた事も無い音と共に倒れた同僚を見て慌てふためいている所に 後ろから頭部を銃撃、始末した。 「……おぅ、上手い具合に丁度良いじゃねぇか」 始末した二人の衛兵の死体を草叢に放り投げて隠滅すると、隠滅する前にひっぺ返した連中の防具を身に付けて変装する。これなら、屋敷 内に居ても早々怪しまれまい。 ――二度と立ち直れないような弱みを握れ