約 1,871,632 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4803.html
前ページ次ページスナイピング ゼロ 勝負は数秒で決した。セラスは持ち前の反射神経や運動能力を駆使し、一撃も喰らうことなく全てのワルキューレを破壊した。 一体は振り払った右の脚で上半身を砕き、一体は振り上げた左の手で頭から真っ二つに切り裂き、一体は勢いづけた左の脚で 蹴り飛ばし、一体は右の手で頭を握り潰した。あっと言う間の出来事に、ギーシュはゴーレムに命令する暇すら無い。 いまやセラスとルイズがニコニコ顔で、ギーシュが顔面蒼白と言う状況で向き合っている。 「もう騎士は出さないんですね、と言う事はこれで終わりですか?」 「え? あ、まぁ・・・これ以上は出せないから、僕の負けだね」 そう言って杖を落とし、両手を上げて降参を示した。平民がニコリと笑い、尖った二本の歯がギーシュの眼に写る。 「君・・・まさか吸kむぐぅ!?」 「そうですよ、ミスタ・グラモン。今の私は何も恐ろしくありません、だから黙っててくれないと・・・ね♪」 「ムグ、ムグ!」 口元を右手で塞がれたまま、ギーシュは何度も首を縦に振った。セラスは手を離すと振り返り、主人に敬礼した。 「任務成功、ギーシュを倒しました」 「よくやったわ、騎士十字章ものよ。あとで・・・しょ、処女の血を奢ってあげるわ」 「気持ちだけ受け取らせていただきます」 「じゃあ帰りましょう、部屋で着替えるわ。ギーシュ、後でモンモランシーとケティって子に謝っときなさいよ!」 振り向きざまに注意して、ルイズは使い魔と共に広場を去って行った。モンモランシーが駆け寄り、ギーシュに声をかける。 「ねぇギーシュ、あの女って何者なの!? 貴方のゴーレムを素手で壊すなんて、マトモじゃないわよ!!」 「悪いけど、愛しのモンモランシーでもそれは言えないよ。早い話が、禁則事項ってやつさ」 「はぁ?」 金髪バカップルを眺めながら、キュルケはセラスの正体を考えていた。タバサは本から目を離し、顎に手を当てている。 「まるで化物ね、さっきの女。何者なのか、後でルイズに聞いてみようかしら・・・タバサ、どう思う?」 「奈落の底のような目・・・危険人物」 そう言うと、タバサはキュルケを連れて学園へと戻って行った。 『遠見の鏡』で一部始終を見送ると、オスマンとコルベールは顔を見合わせた。 「オールド・オスマン、あの少女が勝ちましたね・・・」 「そりゃ吸血鬼じゃからな、『ドット』メイジでは相手にならんじゃろ。先住魔法すら使っとらんし」 「それに、あの動きを見ましたか。ゴーレムを素手で殴り倒したり、素足で蹴り飛ばしたり。少なくとも、我々の知る吸血鬼は あんな事は出来ません。新種の吸血鬼だと言う事が分かった訳ですね、ガンダールヴかどうかは分かりませんでしたが」 「で、君の結論は?」 「彼女はガンダールヴで、ほぼ間違いないかと」 「そうか・・・・・・」 腕を組み、座椅子に背を預ける。木が軋む音が、部屋に響く。 「オールド・オスマン、すぐにでも王室に報告して指示を仰いでください!」 「だが断る!」 「どうしてですか、これは世紀の大発見なんですよ!?」 「分からんかね、コルベール君」 重々しく、オスマンは椅子から立ち上がる。白く長い髭が、大きく揺れる。 「もし彼女がガンダールヴだとして、王室に知られたらどうなると思う。宮廷で暇を持て余した連中がすぐにでも 戦を引き起こし、彼女を前線に立たせるじゃろ。だからじゃ、この件は私が預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール」 「・・・はい、かしこまりました」 コルベールは頭を下げ、オスマンは窓の外を眺めた。広大な草原が、どこまでも広がっている。 「やれやれ、どうやら忙しくなりそうじゃなぁ・・・・・・」 朝の眩しい光を受け、ゆっくりと目蓋を開ける。そこには、石で造られた天井が見えた。 「あれ・・・?」 顔だけを動かし、周りを見回す。ベットが並んでいる所から、医務室らしき場所だと分かった。 そこで、左手の違和感に気付く。手袋を剥がして見ると、奇妙な文字が浮かび上がっている。 右手で擦ってみたが、消すことが出来ない。 「・・・これは?」 「あ、お目覚めになりましたか!」 窓際に寄り添って広場の喧騒を聞いていたシエスタが、ベット脇に歩み寄る。 「・・・誰?」 「私はシエスタって言います。このトリステイン魔法学園で貴族の方々をお世話するために、ここで御奉仕してるんですよ」 「トリステイン?」 「はい、貴族の貴族による貴族のための学校です。ご存知ですか?」 首を横に振った。相手が黙っているためか、シエスタは説明を続ける。 「召喚されたのは二年の生徒で、ミス・ヴァルエールと言う方なんです。後でお会いなさってください」 「ミス・ヴァリエール?」 「簡単に言えば、ご主人様の事ですよ」 「ご、ご主人様!?」 ベットから起き出ようとして、目眩を起こしてしまう。床に倒れそうになったが、手を着いて何とか体勢を崩さずに済んだ。 シエスタが上半身を支え、ベットに座らせる。 「まだ動いては駄目です、貧血を起こされていますから。ミス・ヴァリエールを呼んで来ますので、待っててください」 そう言ってドアへ向かおうとしたが、途中で足を止めて振り返った。上目遣いで両手を摩り、何か言いたげな顔をしている。 「・・・何?」 「あの・・・失礼でなければ、お名前を聞いてもよろしいですか?」 「名前・・・名前は・・・・・・」 「ありがとうセラス。貴女が来てくれなかったら、私は今ごろ医務室のベットで絶対安静だったわ」 「今回は間に合ったから良かったですけど、もう決闘なんかしないでくださいね」 「分かってる、今度からはセラスに戦ってもらうことにするから♪」 医務室へと続く廊下を歩きながら、二人は話し続けていた。水場で顔を洗い、部屋で着替えてから、ずっとルイズは喋っている。 助けてくれたのが、よほど嬉しかったらしい。いまやルイズはセラスの事を、伝説のイーヴァルディの勇者と思っているのだ。 光り輝くルイズの瞳にセラスがタジタジしている内に、医務室が見えてきた。扉を開けようとして、先にシエスタが出て来た。 「セラスさん! 大丈夫でしたか怪我はありませんか殺されませんでしたか殺してませんか!!」 「ちょ、ちょっとシエスタさん落ち着いて。大丈夫ですよ、怪我とかは無いですから安心して」 シエスタの言葉の弾幕に、又もタジタジなセラス。この吸血鬼、押し出しに弱いと見た。 「そうでしたか、ホッと一安心です」 「ちょっとアンタ、医務室に入れないんだけど」 ルイズの言葉に、シエスタは二人の進路を邪魔している事に気付いた。後ろに三歩ほど下がり、深々と頭を下げる。 「すいません、失礼しました。眠っていた方は、すでに目を覚まされております」 「起きたんですか! 良かった、キスしなきゃ目覚めないのかと思ってましたよ・・・」 「シンデレラじゃあるまいし・・・ほら、さっさと入りなさい」 セラスの背を押しながら、ルイズは部屋に入る。後ろから、シエスタが影のように着いて来た。ベットに座っている人物が三人に 目を向け、体が硬直したかのように固まった。 「あの、どうかされました?」 「・・・・・・・・・」 セラスが声をかけてみたが、相手は黙って停止したままだ。そのまま数秒ほどすると、ベットの横の台に手を伸ばした。置かれて いる眼鏡を掛け、再度セラスに目を向ける。すると、全身がガタガタと震えだした。 「あ」 「はい?」 「あ―――――――――――――!?」 「くそみそ?」 ルイズがツッコミを入れるが、眼鏡は聞いていない。と言うか、聞こえていない。プルプルと震えながら、ピンと伸ばした 右手の人差し指をセラスに向けている。そして、大声で叫んだ。 「セ、セ、セラス・・・セラス・ヴィクトリア!」 「私のこと知ってるんですか!? もしかして警察の人? それともヘルシング機関の方とか?」 「ほざくな、ヘルシングのオモチャめ!! 王立国教騎士団の犬に成り下がった貴女に、吸血鬼としての『五月蝿い!』あが!?」 部屋の隅に飾られていた黒い犬の置物が、時速160kmで眼鏡の頭にHITした。投げつけた張本人のルイズは、得意気な表情で 右肩を回している。セラスとシエスタは、突然の事に驚いた。 「全く、ここは医務室なんだから静かにしなさいよ。大声ださなくても聞こえるんだから、落ち着いて話しなさい」 「その通りじゃ、話し合う時はお互い穏やかな心でなくてはならん!」 「良かった、目を覚まされたようですね」 そう言って部屋に入ってきたのは、学園長のオスマンと教師コルベールだった。 「嫌な奴が来たわ!」 「本当だ、嫌な奴が来ましたね」 「嫌な奴が来ちゃったわ」 貴族・使い魔・眼鏡の声が、見事に並んだ。因みに三人は本棚は作らない、シエスタは三人の暴言に驚いている。 「なんじゃ、いきなり」 「三人とも、悪口は本人の前で言ってはなりませんぞ。こう言う時は、影でコッソリ言うものです」 「・・・お主がワシをどう思うとるのか、よく分かった」 シエスタが椅子を二つ持って来て、ベットの脇に置いた。ルイズ・オスマン・コルベールが座り、セラスとシエスタは 横に立つ。ベットと壁の隙間から出て来た眼鏡に、オスマンが話しかけた。 「あ~っと、まずは自己紹介しなくてはならんな。私はこの学園の長をしておる、オスマンと言う者じゃ」 「教師のコルベールです、よろしく。こちらの少女は君の主人であるミス・ヴァリエール、隣は使い魔のセラス君だ」 紹介をされてが、眼鏡はピクリともしない。耳には入っているが、頭には入っていないようだ。ただじっと、セラスを 見ている。その視線に気付いたルイズが尋ねた。 「そう言えば貴女、セラスのこと知ってるみたいね。どういう関係なのか、教えなさいよ」 「あ、そうです! それを聞きたかったんですよ!! なんで私を知ってるのか教えてくれませんか」 「そ、それは・・・あの、えっと・・・・・・」 二人の質問と三人の視線に、少女は自分を抱き締めるような格好で震えだした。そこへ、コルベールが質問を重ねる。 「その前に聞きたいのですが・・・名前は何とおっしゃいますか、お嬢さん」 「私は、猟師・・・リップバーン、ウィンクル・・・・・・」 その後、リップバーンは全てを語った。 セラスが属する組織と、敵対する組織に属していた事 海軍の空母を乗っ取った後、大型偵察機に乗ったアーカードに攻撃された事 部下を皆殺しにされ、自身も心臓にマスケット銃を突き刺され喰われた事 そして、気付いたら医務室のベットで眠っていた事 なぜか眼鏡や時計は元に戻っていて、貫かれた心臓も治っていた事 そしてオスマンとコルベールが説明し、時にルイズやセラスが補足した。 地球などとは違う別世界である事 ハルケギニア大陸のトリステイン国である事 魔法が存在する世界で、学生の召喚によって 呼び出された事 一人の少女に使い魔として生きていかなくてはならない事 セラスはすでに使い魔として生活している事 「つまり、あんたも私の下僕だって事! 別の世界じゃ敵同士だったかもしれないけど、今日からセラスと一緒に雑用しなさいよ」 「い、一緒って・・・そ、そんな事いきなり言われても・・・」 ベットの上で体育座りのような格好をして、リップは更に震え続けている。原因は、目の前でセラスに上から目線されてるからだ。 どうやら空母での戦いが元で、見下ろされる事がトラウマになっているらしい。因みにセラスは相手をビビらせる気など無いし、 睨み殺すような眼もしていない。ただ単に、リップを見ているだけだ。 「突然の事に混乱するのも、無理は無いわい。まぁ、何日か生活すれば慣れるじゃろうて」 「今日からは、ミス・ヴァリエールの部屋で寝起きして下さい。何か有りましたら、彼女に聞くように」 「ほら、分かったらさっさと靴を履く! あと時計と、マスケット銃だっけそれ? それ持って着いて来なさい」 学園長や教師の助言を尻目に、ルイズはリップの腕を掴んで急がせる。それを眺めていると、シエスタが話しかけてきた。 「大丈夫ですかセラスさん、初対面とはいえ敵だった人と生活って」 「ん~まぁ何とかしてみますよ、見た所そんな害は無い人みたいですし」 「そうですか・・・でも、気をつけてくださいね。あの人、銃を持ってますから」 「そうですよね、気をつけることにします」 「セラス、部屋に帰るから来なさい!」 ルイズはリップを引きずって、扉の前まで移動していた。セラスとシエスタが後ろを、その後ろをオスマンとコルベール が続いて部屋を出る。途中で教員と別れ、四人はルイズの部屋に辿り着いた。中に入り、ルイズが振り向く。 「私は午後の授業があるから、教室に戻るわ。シエスタ、その子に色々と教えといてね」 そう言うと、ルイズはさっさと部屋から出て行ってしまった。残ったのは、リップを見つめるセラス シエスタを見つめるリップ セラスを見つめるシエスタ の三人。三角関係みたいな状況で最初に口を開いたのは、シエスタだった。 「え~と・・・それじゃあリップバーンさん、これから雑用を教えますけど・・・良いですか?」 その日、シエスタのリップバーンに対する教育は全く進まなかった。教えようとしたら部屋の隅に座り込み、ブツブツと物言う 欝モードに入ってしまったからだ。そのため、急遽シエスタによる慰めタイムが始まったのだが・・・ 「ほら、しっかりしてくださいリップバーンさん。セラスさんなんか、立派に使い魔として頑張ってるじゃないですか」 「頑張りたくなんか無いわぁ・・・帰してよ、私を元の世界に帰してよぉ・・・・・・」 「それは無理なんですよ。マスターが言うにはですね、使い魔を元の世界に戻す呪文は存在しないらしいですから」 「そんな・・・」 グスグスと泣きながら、リップはセラスを見上げた。マスケット銃と時計を抱き締めて涙を拭う姿を見て、セラスの心にチクリと 痛みが走る。でも、自分にはどうしようも無い。戻れない以上、この世界で上手くやっていくしか無いのだ。 「残念ですけど、帰郷は諦めてください。どんなに願っても、元の世界に帰る事は出来ないんです」 「そうですよリップさん、諦めも肝心です。それにトリステインも結構良い所ですよ、住めば都って言いますし」 シエスタが慰めの言葉をかけるが、余計に落ち込ませてしまった。そして何時の間にか、名が省略されて『リップ』になっている。 「・・・シエスタさん。すいませんけど、ちょっと席を外してもらえませんか」 「あ、はい。分かりました」 シエスタが廊下に出ると、セラスはリップの前に立つ。相手が怖がるのも気にせず、セラスはリップの足元に腰を下ろした。 そして左手で頭を、右手で顎を掴むと、無理やり口を開かせた。ギザギザとした歯が、セラスの視界に入る。 「・・・やっぱり、リップさんも吸血鬼ですか」 「にゃ、にゃひをいきにゃり!?」 「いや、ちょっと気になったんで確認をと」 すぐに手を離すと、セラスは立ち上がった。溜息をつくと、一つ注意をする。 「いいですかリップさん、この世界で吸血鬼は恐れられる存在なんです。周りに知られたら、面倒な事になります。ですから、 吸血鬼だと言う事は絶対にバレないようにしてください。もちろん、私が吸血鬼だってことも。もし言ったら、その時は」 立ったまま、セラスは右手をリップの頭に当てる。少し力を入れ、後頭部を壁に押し当てた。 「頭を紅葉卸しますから、注意してください・・・リップバーン・ウィンクル中尉」 「は・・・はい、了解しました・・・・・・セラス・ヴィクトリア婦警・・・」 マスケット銃を強く握り締め、リップな何度となく頭を縦に振る。目の前に立つ者は、事前に目を通した資料とは全く違う 別人と化した吸血鬼。今の自分では、絶対に勝てない相手。ミレニアムも部下も存在しない、後ろ盾を失った魔弾の射手。 その立場を言い表すならば『俎板の上の鯉』『蛇に睨まれた蛙』が、まさにピッタリであった。 前ページ次ページスナイピング ゼロ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8144.html
前ページ次ページ機械仕掛けの使い魔 機械仕掛けの使い魔 第4話 再びぬいぐるみを着込んだところに、轟音に驚きやって来た、近くの部屋に住む女生徒たち。 彼らをお得意の猫スタイルでかわしたクロは、洗濯物を放り込んだ籠を背中に乗せ、器用にバランスをとりつつ、中庭に来ていた。 「あなた喋れたでしょ!」 と、召喚の儀式の場にいた女生徒全員からのツッコミ重奏が響いたが、完全にシカトを決め込み、澄ました顔でここまでやって来た、 というワケだ。余談だが、背中の籠はジェスチャーを駆使し、褐色の肌に燃えるような赤い髪、ナイスバディの生徒に乗せてもらった。 「…困った」 周囲の様子から、洗濯機がないのは解っていた。そして、使い魔に頼む仕事となると、手段として魔法が使われる事は、まずないはず。 という事は、洗濯の手段は手洗いとなる。さらにジーサンバーサンと一緒に見ていた時代劇では、洗濯場所は井戸端と相場が決まっていた。 だが、肝心の井戸が見当たらない。クロのいる場所からは死角になっている場所もあるが、クロの身体の大きさに比して、この中庭はあまりにも広すぎる。 「虱潰ししかねーかなぁ…。メンドくせー…」 バランスをとりつつ、ゆっくりとした足取りで中庭を歩くクロ。 ちなみにここトリステイン魔法学院は、その構造上、鬼のように中庭が広い。 中央の本塔と、学院外壁の頂点にそびえ立つ各塔を結んだエリアに、個別に名前が付いているレベルである。 クロの体躯に比して、学院の中庭はあまりにも広大すぎるのだ。 クロが女子寮のある寮塔を出た時点で足を踏み入れていたのは、本塔・土の塔・寮塔・水の塔を結んだ、アウストリの広場。 クロがハルケギニアに召喚された場所でもある。 「お、案外近くにあるじゃねーか」 結論から言えば、クロは最短ルートで井戸――と言うよりも、水場を発見出来た。 たまたま寮塔を出て左方向へ歩いたからであるが、もし逆方向の左へ歩き出したとしたら…1時間以上は経過していたであろう。 恐るべし、トリステイン魔法学院。 + + + + + + 「あら? あれは…」 1時間半くらい前に、ルイズに紅茶を入れたメイド『シエスタ』は、同僚のメイドと共に、世にも珍しい光景を目の当たりにしていた。 2人は、寮内の生徒達から頼まれていた紅茶を届けた帰りであった。寮塔から中庭に出て、ふと土の塔方面に目を向けると、水汲み場の傍に座り込む黒猫がいたのである。 シエスタも見覚えのある、桃色の髪の生徒が連れていた使い魔のようだ。 黒猫の横には、籠が1つ。よく見ると、黒猫は何度も首を傾げている。 「ごめんなさいアイナ、先に厨房に戻ってもらっていい?」 「え、それは別に良いけど…。どうしたの?」 「あの黒猫さん、何か困ってるみたいなの」「黒猫ぉ?」 アイナの返事も聞かず、シエスタは駆け出した。後には、アイナのぼやきだけが残っていた。 ゆっくり、こっそりと黒猫に近づくシエスタ。ここで気づいたが、籠の中身はどうやら、あの生徒が着ていた制服のようだ。 彼女が、この黒猫に洗濯を頼んだのだろう。 「黒猫さん、お洗濯ですか?」 「あぁ、ルイズのヤツに頼まれてよ」「…へ?」 何の気なしに、ただ聞いてみただけだった。もちろん、返事が返って来ない事など解り切っている。 しかし、シエスタの問いかけに、誰かが応えた。 「だっ…誰ですか!?」 シエスタが辺りを見渡すが、黒猫と自分以外には、誰もいない。 「オイラだよ」「おいら…?」 先程は驚きのあまり、声のした方向も解らなかったが、今度はハッキリと解った。 自分の足元から聞こえる。そして今、自分の足元にいるのは… 「さっきはありがとな、メイドの姉ちゃん。紅茶、うまかったぜ」 「黒猫さんが…喋った…?」 足元にいた黒猫は、シエスタの目を見ながら、二本足で立っていた。 + + + + + + 「噂は本当だったんですねぇ…」 仕事場から運んだ桶に水を溜め、ルイズのシャツを洗いながら、シエスタはまじまじとクロを見つめた。 「噂?」「はい、ミス・ヴァリエールが喋る猫を召喚したって…」 クロも同じ桶に手を突っ込んで、スカートを洗っていた。夕闇の中、洗濯をしているメイドと黒猫。なかなかに異様な光景である。 「そうだ、自己紹介がまだでしたね。私はこの学院で、貴族の方々のお世話をさせていただいています、シエスタと言います」 ニッコリと笑うシエスタ。鼻のてっぺんに付いた泡が、そこはかとなくキュートだった。 「オイラ、クロってんだ。…鼻に泡付いてっぞ」「あら、いけないっ」 こしこしと鼻をこするシエスタ。頷くクロを見て、また顔を綻ばせた。 「喋る猫さんなんて、初めて見ました…」 「そうかぁ? オイラのいたトコだと…最低でも100匹くらいはいたぜ?」 「ひゃくっ!?」 無論、その大半がサイボーグだが、修行して喋れるようになった猫も2匹ほどいる。 どんな修行かは…ここで語る事ではない為、原作あるいはアニメ参照の事。 「喋る猫さんがいっぱい…。素敵な場所なんですねぇ」 「しょっちゅう喧嘩売られる程度にはなー」 目を輝かせるシエスタとは裏腹に、クロはうんざりしたような表情を作っていた。 洗った制服を十分に脱水し、籠に戻す。石鹸のいい匂いが立ち上り、クロの心にも、わずかながらの充足感が顔を見せた。 「助かったぜ。オイラ1人だったら、どうしていいか解んなかったわ」 「いえいえ。ミス・ヴァリエールのお部屋に干すまで、私もお手伝いしますよ」 「おぅ、何から何まで済まねーな」 クロは先程までの2本足ではなく、普通の猫同様の4本足で立ち上がり、身体をブルンブルンと振って、洗濯の際に濡れた身体を軽く脱水した。 「よっし、それじゃよろしく頼むわ」「はいっ」 元気一杯に返事したシエスタと共に、クロはルイズの部屋へと向かった。 行きと違い、籠はシエスタが抱えている。道中、彼女は何度かクロに話しかけたが、返事は猫語ばかりだった。例えば。 「お洗濯物、綺麗になりましたねー」「ニャっ!」 「部屋干しでも大丈夫なように、普段とは違う石鹸なんですよー」「ウニャ?」 「ミス・ヴァリエールのお部屋、覚えてますか?」「に、ニャア…」 「くすっ、私が覚えてますから、安心して下さい」「ニャンニャンっ!」 シエスタも何となくだが、クロの心情を察していた。 生徒が行き来する寮塔の廊下。もうじき夕飯だから、それほど人がいるわけではない。 だが、この少ない人の前であっても、自分が喋れる猫だという事を、明かしたくないのだろう。 と、ここで1つ疑問が起こる。なぜ私の前では、あんなに簡単に話してくれたのだろうか。私が平民のメイドだから…? 「洗濯の仕方、解んなかったからな」「え?」 唐突に、クロが喋った。シエスタの顔を見ている。辺りに人影は、なくなっていた。 「それに――紅茶、うまかったから」 ぶっきらぼうに言葉を続けるクロ。 シエスタにとっては、貴族である生徒に紅茶を淹れるのは当然の仕事だった。 だが例え当然の事であっても、クロにとっては、”恩”であった。”恩”は必ず返す。 それがクロの――オス猫の、誇りであった。 「…はいっ!」 なぜか無性に嬉しくなったシエスタは、笑顔でクロの礼に応えたのだった。 ルイズの部屋。そのドアの前には、2人の女生徒がいた。 「はぁい、猫ちゃん」「…」 1人は、先程クロの背中に籠を乗せた赤髪の女生徒、 もう1人は、ルイズとさほど変わらない身長の、青い髪とメガネ、長い杖が目を引く女生徒だった。 「ミス・ツェルプストーに…ミス・タバサ?」 「あら、メイドも一緒なのね」 コツコツと足音を響かせ、ミス・ツェルプストーと呼ばれた女性とは、クロに近づいた。 そして、前後左右、視点を変えて、クロを観察し始めた。 「どこからどう見ても、普通の猫よねぇ…」 顎に右手の指を添えるミス・ツェルプストー。そんな彼女をよそに、ミス・タバサは分厚い本を読みふけっている。 「そう言えばオメーら2人って、さっき広場にいたよな?」 「あら、やっと喋ってくれたのね?」「…!」 クロの発言を受け、待ちくたびれた、といった様子で髪を掻き上げるミス・ツェルプストーと、パッと見では解らない規模で目を見開いたミス・タバサ。 見る者が見れば、ミス・タバサは怯えていると取っただろう。 「どうしたの、タバサ?」 『見る者』がここにいた。横目で見ただけで、タバサの異変に気づいたのだ。 「ば…化け猫…」 よーく見ると、ミス・タバサはうっすらと汗をかき、小刻みに震えている。そしてその瞳は、クロに釘付けだった。 「化け猫ぉ? 何だ、こっちの世界にも化け猫なんていんのか?」 「聞いた事ないわねぇ。メイド、あなたは?」 「祖父から聞いた事はありますが、さすがに見た事は…」 「これ…」 ほんのりと青ざめた顔で、ミス・タバサが、持っていた本の題名を指さした。 「何て書いてあんだ?」 「『ハルケギニア妖怪伝承』…。ほとんど古文書じゃないの。よくこんな骨董品、見つけたわね」 「妖怪は…、人類の敵…」 震える声で言いながら、杖をクロに向けるミス・タバサ。よくよく見てみると、眼の焦点が合っていない。 「ちょっ…! タバサ!?」 「おいおい、この嬢ちゃん、目がマジだぞ…」 そうこう言っている間に、ミス・タバサがルーンの詠唱を始めた。 「ラグーズ・ウォータル…」 ここまで聞いた時点で、ミス・ツェルプストーは、ミス・タバサが本気だという事に気づいた。 ミス・タバサは風のメイジ。しかし彼女の詠唱には、水のルーンが組み込まれている。 つまり、単純な風の魔法ではなく、風と水を組み合わせた氷の魔法。氷の魔法は、そのいずれもが高い殺傷能力を有している。 ミス・タバサは…殺る気だ。 「やめなさい、タバ「ホイ、っと」サ…?」 ミス・ツェルプストーが、その詠唱を止めようとした矢先…クロの右手が”ポンッ”と軽快な音と共に射出され、杖を持つタバサの手に命中、その杖を弾き飛ばした。 「や~れやれ…」 呆気にとられる3名をよそに、クロはミス・タバサの足元に落ちていた右手を拾い上げ、再び装着した。 「あ、あなた…ててて手が…今…」 「くくくクロちゃん…? 見間違えかもしれないですけど、手が…ととと取れませんでした…?」 「や…やっぱり化け猫…!」 驚き、怯える3人。とっさの事とはいえ、ロケットパンチはまずかったか、と思いつつ、クロは頭をポリポリと掻いた。 「わーった、わーったよ。オメーらにも説明してやっから、その前に洗濯物干すの手伝ってくれ」 + + + + + + 眠っていたルイズは、不機嫌極まりない表情で目を覚ました。先程まで静かだった自室が、やにわに騒々しくなった為だ。 「アンタたち…何やってんの?」 眠りについてから、3時間程度経っているだろうか。外は夜の帳を下ろしている。 「ミス・ヴァリエール! すみません、騒々しかったですか!?」 「あぁ、いいのよ気にしなくて。こんな時間からグースカ寝ていたヴァリエールが悪いんだから」 「って、何でアンタまでいるのよ、ツェルプストー!」 学院の中でも視界に入れたくない人間ダントツ1位のミス・ツェルプストーの姿を認めたルイズは、顔を真赤にして怒鳴りつけた。 「何でって…、あなたの制服を干すために決まってるでしょ? そこの猫ちゃんに頼まれて、ね」 「おぅ、起きたかルイズ」 ミス・ツェルプストーの指差す先を見てみれば、カーペットに寝そべっている使い魔の姿が。呑気に耳掃除などやっている。 「まぁ、気にすんな。オイラの身長じゃ、ロープもかけれねーからな」 「気にするわよ、このバカ猫っ!」 「誰がバカだってんだ!」 「あー、もうヴァリエール! あなたも手伝いなさい! 自分の制服でしょう!?」 「化け猫…退治しなきゃ…」 「あ、ミス・ツェルプストー、シャツはもうちょっと張って頂けますか?」 「こんな感じかしら?」「はい、ありがとうございます」 「ア ン タ た ち は ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ルイズも加わり、寮塔の一室は、過去類を見ないほどの喧騒に包まれたのであった。 前ページ次ページ機械仕掛けの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6055.html
前ページ次ページ谷まゼロ ルイズは学院長室に呼び出されていた。 用件は言わずもがな、谷がしでかした大事件についての言及である。 オスマン氏が、後ろで手を組んで窓の外を見つめながら言った。 「ミス・ロングビル、本日昼ごろ起こった騒ぎの詳細な損害報告をしてくれたまえ」 言い渡された秘書のロングビルは、手に持った書類に目を落とし、淡々と言った。 「あの騒ぎによる、怪我人の総数は84名。内、教師が3名です。奇跡的に重傷者、死者はいません。 加えて、学院内における定着物を含む建造物の修繕必要箇所は、24ヵ所です」 ルイズの顔は血の気が引き真っ青になっていた。 だがオスマン氏は報告を聞くと、実に楽しげに笑った。 「ほっほっほっ。実に凄まじい損害であると言ってよいだろう。清々しいぐらいじゃ。 何せ、魔法を使えぬ平民が実質84名のメイジを倒してしもうたんじゃからのう。 それにあの振り回した像の末路は、なかなか趣がある。あのままオブジェとして飾って置いてもよいと思うのだが?」 オスマン氏が言っている像とは、谷が残らず一切合財吹き飛ばすのに使った銅像のことであった。 谷は振り回した後、学院に向って放り投げたのだった。 そして、投げられた銅像は頭から外壁に突き刺さり、足だけが天に向って外に出ていた。 コルベールはオスマン氏の冗談交じりの言葉対して、苦々しく言った。 「笑い事じゃありません!学院を臨時休校にせねばならないほどの惨事ですぞ!オールド・オスマン」 まさに笑い事ではなかった。特にルイズにとってはこれは一大事と言えた。 自分の使い魔がしでかしたことは、あまりにも事が大き過ぎた。 何故なら、学院にいる生徒や教師は皆貴族であるからだ。 その者たちを、谷が全員銅像で殴り飛ばしたのだ。 責任問題が、ルイズの身に降りかかることは火を見るよりも明らかであった。 そして、自分の使い魔である谷の処遇に関しても、何を言い渡されるかわからない。 ルイズは戦々恐々の顔で、まるで死刑宣告を待つ咎人のような、憔悴しきった顔をしている。 そんなルイズを見て、オスマン氏は、どこか穏やかさを感じさせるようなそして飄々として言った。 「のう。ミス・ロングビル。あの騒ぎのとき、授業は始っておったかの?」 「時刻的にはすでに。ですが多くの生徒が騒ぎを聞きつけ、ヴェストリの広場に向ってしまったため、 始業の時間が来ましても、始めることができなかったようです」 「……だそうだ。ミス・ヴァリエール」 ルイズはオスマン氏が何を言おうとしているかわからなかった。 オスマン氏は、誰にでもなく独り言のように言った。 「つまりはじゃ、生徒たちは、ちゃんと教室にいて学生の本分たる学業に専念しておれば、 怪我なんぞせずに済んだわけじゃ。ある意味、自業自得だと思わんかね?」 オスマン氏が言っていることは、まさにルイズにとってはこの上なく有り難いものであった。 学院側は、今回のことについて責任の追及を行わずに目を瞑ると言っているのである。 「まあ、君が騒動を起こすのは初めてのことではあるまい。 生徒たちも慣れている……というのも変な話じゃがの」 思い当たる節があるルイズはバツの悪そうな顔をした。 ルイズは、魔法を失敗すると授業が行えなくなるほどの爆発を起こすことがあるのだった。 一回や二回のことではなく、周りの生徒たちからも魔法の使用を止められるほどであり、 今日も、その失敗をしでかし教室で爆発を起こしていた。 「とりあえずはじゃ、学院の修繕に関しては、まあ……払って貰うしかあるまい。 だが、ミス・ヴァリエールとその使い魔に関して『学院は責任は問わん』、それでいいかな?」 オスマン氏は、『生徒の親たちなどが、何か文句言ってきても庇うことはできない』と言っているのだった。 だが、ルイズにとっては目を瞑ってくれるだけで十分であった。 ルイズは恭しく礼をした。 これは後々の話ではあるが、被害に遭った生徒たちが親に言いつけるなどして、 学院にルイズたちに何かしらの処分を与えるように求めてくる事態にはならなかった。 これは皆誰しもが、平民になす術もなく負けたという事実をひた隠しにしようとしたせいでもある。 誰か一人や二人なら、話は違ったであろう。 だがしかし、谷によって負かされたのは大勢のメイジである。 統治する側の人間たちにとって、たった一人の平民に、そうされたとあっては面目が立たない。 不満がある生徒は確かに居た。だがどうしようもないとわかると、今度は忘れるように努力した。 報復するにも、あれほどの不死身さを見せられ、あれほどの圧倒的な力を見せられては、 そんな気も失せてしまい、皆諦めを覚えていた。 この谷がしでかした一大事は、平民たちの間で嬉々として語られる噂話程度のものとなって、事態は収束していった。 それに、ギーシュが決闘を谷に持ちかけたことも、結果的にではあるがルイズたちの助けになった。 何故なら、谷はあの決闘がなくとも、いつか感情を抑える限界が訪れ、爆発していたであろうからである。 もし、あの場が双方の同意で成り立った決闘という形式のものでなかったら、責任問題はさらに重大であっただろう。 もしかしたならば、谷は処刑になっていたかもしれない。勿論できるかどうかは別としてだが。 オスマン氏は思い出したように、部屋を見渡しながら言った。 「ところで、肝心の使い魔がおらんようだが?」 痛いところを突かれたルイズであった。 この騒ぎを起こした当事者がいないのだから本来であれば、お話にならない。 ルイズは俯いて言った。 「スミマセン。連れてこられませんでした……」 正直に答えたが、果たしてこれでいいのかとルイズは思った。 だが、そんなルイズの心情とは裏腹にオスマン氏は明るく言った。 「まあよい。誰も責めてはおらん。だがしかしじゃ、これからこのようなことが続くようであれば、 こちらとしても、対応に苦慮する事態になるであろうことは肝に銘じておいて欲しい。わかったかの?」 「はい。重々承知しています……」 オスマン氏に、そう返事はしたものの、ルイズには自信がなかった。 退出を命じられ、谷のいる所に向うルイズの足取りは重い。 谷をこれから自分がどう扱えばいいのかまったく見当がつかないからだ。 あいつは『シマサン』にしか興味がない……わたしのことなんて視界の端にもいない。 言うことを聞かせることができるのも、たぶん『シマサン』だけ……。 『シマサン』?……あっ! ルイズは何かを閃いた。 その時導き出した答えは、確かに有効なものかもしれなかった。 だが、一歩間違えれば一気に奈落の底に落ちてしまうようなものであった。 しかし、ルイズには他に方法がなかった。それに、……谷を思うがためでもあった。 ルイズは、廊下を歩く足を速めて、谷のいる場所へ向かった。 @ もう太陽が山の向こうに沈みそうになっている時刻。 一方の谷は厨房の隅で膝を抱えて座り込んでいた。 そのあたりだけ負のオーラが充満している。 谷は、メイジたちを全員なぎ倒し、ひとしきり泣いた後、 誰に言われたわけでもないのに、厨房に足を運んでいた。 そして今の今まで、一言も喋りもせず、ずっと蹲っている。 谷の近くでイスに座るシエスタは、見るに痛々しい谷の姿を、寂しげな顔を向けながら、 ボロボロになった谷のガクランの上着を針で縫って修繕していた。 そこに、ヴェストリの広場の惨状を見に行っていた料理長のマルトーがやってきた。 マルトーは、決闘で平民である谷が貴族であるメイジたちを打ち負かしたことを伝聞で知り、 自ら飛ぶようにして、その現場をこっそり見に向っていたのであった。 興奮冷めやらぬマルトーが、ズカズカと谷に近づいて行った。 「おお!オレは見たぞ!!!人生これまで生きてきた中でもあれほど爽快な光景はお目にかかったことがねぇ! あの生意気な貴族のガキ共が、揃いも揃って、地べたに口づけしてやがった!流石は……っ!むぐっ!」 谷に歩み寄って、豪快な口調で捲し立てるマルトーの口をシエスタが、慌てて塞いだ。 小声でシエスタはマルトーに責めるように言った。 「マルトーさん!!ダメです!今タニさんに喋りかけちゃダメです!!」 眉毛をへの字に曲げたマルトーがシエスタの手を下ろさせると、 冗談じゃないぜ。と言わんばかりにシエスタに詰め寄った。 「シエスタ。もしかして『我らの拳』を独り占めにするつもりか?ん? そういうことをしたくなる気持ちもわかるが、ちょっとぐらい分けてくれてもいいじゃないか!」 シエスタの意に反して、マルトーは大きな声でそう言った。 だが、シエスタはそんなマルトーの様子に危機感を覚えていた。 谷の方をチラチラと見ながら言った。 「ち、違います。そんなのじゃないんですっ!」 「何が違うんだ?」 シエスタはマルトーに事の詳細を伝えようとした。 無言の谷が厨房に来てから少し後に、その谷を追ってきたルイズが厨房を訪れたのだ。 その時、シエスタはルイズから、谷ついて色々聞いたのだった。 ルイズが言うには、谷は今混乱状態にあって、話が出来る状態ではないこと。 召喚されたことにより想い人と離れ離れになっていることがその要因になっていること。 慰めの言葉も、称賛の言葉も、今は煩わしいものでしかないであろうこと、 下手につつくような真似をして怒りを買えば、ルイズ自身も止めることができないということ。 そして学院長室から呼び出しがあったルイズから、 何やら谷と面識があるらしきシエスタへ、谷を見ておいてくれないかと依頼があったこと。 それらを掻い摘んでシエスタはマルトーに説明した。 「マルトーさん。厨房が、そのヴェストリの広場みたいになっちゃいますよ?いいんですか?」 シエスタはまるで脅すかのようにマルトーに言った。 マルトーの頭の中にヴェストリの広場の光景が蘇る。 もし、自分の大事な厨房があのような有様になったとしたら……そう考えたら背筋に悪寒が走った。 「お、おう。そうか、それじゃあしょうがないなっ。……また今度にするか!」 マルトーは少し引きつった笑顔をシエスタに投げかけた後、厨房の奥へ消えていった。 シエスタはホッと胸をなでおろした。 確かに、この場で暴れられでもしたらという心配もしていなかったわけでもない。 だが、今はただ単に谷をそっとして置いてあげたかったというのが本当の理由であった。 それは単純に谷が、かわいそうに思えたからだ。身も心もボロボロで、儚く、 そして誰が見ても憐憫の情を抱くに違いないと断じていいほど、谷はその身に寂しげな暗さを帯びていた。 シエスタはそれほど『シマサン』に会えないことが辛いのだとわかった。 そして、それほど谷に好意を寄せられている『シマサン』が羨ましいとも思った。 シエスタは、先ほど座っていた椅子にまた座り、黙ってチクチクと裁縫を再開した。 おそらく、自分が谷にしてあげられることはこれぐらいであろうと思ってシエスタが勝手にやっていることであった。 そんな様子を、外から厨房の窓を覗きこんで見ていたのはルイズであった。 どのタイミングで入って行っていいのか分からず戸惑っているようにも見えた。 そこに後ろからとある男から突然声をかけられた。 「どうだい?彼の様子は?」 吃驚して振り返ったルイズは、その男の姿を見てさらに驚いた。 「ギーシュ!?あんた生きてたの!?」 そこには、谷の決闘相手であったギーシュが立っていた。 ルイズは、谷によってギーシュは学院の遥か彼方に飛ばされ、空中分解したものだとばっかり思っていた。 ギーシュはどこか気不味そうにしている。 「その言い草は、ヒドイな……まあそう思っても仕方がない状況であったことは確かだが」 ルイズは、そう言うギーシュを頭から足先まで視線を泳がし、じっくりと見た。 そして有り得ないものを見たかのように驚き入った声で言った。 「……何で無傷なの?」 「……はっはっは!僕はどうやら悪運だけは強いらしい!あー……もしかして笑いごとじゃなかったかね?」 ギーシュはいち早く地面に伏せていたおかげで、運良くあの惨劇から免れていたのであった。 ジト目でルイズに見られているのに気がついたのか、ギーシュは申し訳なさそうに言った。 「僕はこれでも本当に反省しているんだ。彼が抱えている問題を知らずに不躾なことをしてしまったとね」 ギーシュの顔は真剣になっていた。窓から見える谷の姿を見ながら言った。 「詳しい事は勿論知らない。だが、彼が灯台の光を見失い、暗き海を彷徨う難破船であることはわかる」 谷の魂の咆哮。それを聞いていたギーシュは、谷に対して身震えるほどの恐怖を覚えながらも、 ある種の親近感を抱いていた。誰かを愛することに情熱を傾ける男として。 「……償いというのも変だとは思うが。このギーシュ・ド・グラモン、 何か助けになれるのであれば、出来得る限りの助力を与えることを惜しまない。 そう彼に……まあ伝えられる時に伝えておいて欲しい。 僕が直接言っても、言い終わる前に殴り飛ばされるのがオチだろうしね」 言い終わるとギーシュは、ルイズに別れの言葉を言って、その場を去っていった。 ギーシュを見送ったルイズは、唇をきつく結んだ。覚悟を決めているのだった。 ギーシュが言うように、下手をすれば話しかけただけで殴り飛ばされるであろう。 それは、もちろんルイズも例外ではない。例外はただ一人なのだから。 しかしルイズは引くわけにはいかない。 意を決して厨房のドアに手をかけた。 ルイズが厨房に入ると、まずシエスタと目が合った。 何か変化があったかシエスタに目で聞く。だが、シエスタは黙って首を横に振った。 谷は今もまだ、固い殻に閉じこもったままであった。 ルイズは腹をくくった。谷に近づき、喋りかけた。 「ねぇタニ。……話があるの」 谷はルイズの言葉に応えない。 だが、ここまでは予想通りであった。 次にルイズは、谷が絶対に何かしらの反応を見せるであろう事柄を言い放った。 「もし……、もしもよ?あんたを元の場所に帰す方法があるかもしれない……っていったらどうする?」 そのルイズの言葉を聞いた瞬間、 まるで、獲物に飛びかかる狼のような俊敏さで、 谷は物凄い勢いで立ち上がり、ルイズの襟口を体ごと持ち上げるようにして掴んだ。 のっぴきならない必死さでルイズを捲し立てる。 「おい!!!なら早く帰せ!!!島さんがいる世界に俺を帰せ!!」 切実な願いであった。 何故なら谷は島さんが居なければ生きている意味がなくなるのだから当然といえる。 ルイズはぎりぎり足先が付く程度に持ち上げられていた。 喋り辛くなるほど、息苦しかったが懸命に堪えた。今この時が正念場だと自分に言い聞かせて。 「……っあ、あくまでも『可能性』よ。呼び出す魔法があるなら、逆に送り返す魔法があるんじゃないかっていう……。 ……でも、無いと決めつけるのは早すぎると思うの。色々調べればもしかしたら……わたしも一緒に探すから」 谷はルイズから一度視線を外し、そのことについて考えてみた……。 そして再び視線を戻した谷は、当然の疑問をルイズに投げかけた。 「見つからなかったらどうすんだ?」 その言葉には、言い表せないほどの迫力と殺気が込められていた。 ルイズは、挫けそうにな心を奮い立たせ、喉から絞り出すようにして言った。 「……見つからなかった時は……わたしを好きにしていいわ。煮るなり焼くなり、殴り飛ばすなり」 谷はルイズの目の奥に宿る決意を見た。 確かに、可能性についてのいい分には嘘が含まれていないようではあるし、 もし、目的が達成されなかったときは責任をとるという覚悟もあると、谷にもわかった。 あらゆる感情が含んでいるであろう威圧的な谷の言葉がルイズの耳に届いた。 「見つからなかったらぶっ殺すからな」 そこに冗談の響きはない。 「ええ……わかってるわ」 谷はルイズの額に人指し指を突き立てて言った。 「だけどな、オレはそんなに待てないぞ!今すぐにでも!!本当なら今すぐにも島さんに会いたいんだからな!!」 「ど、どどど、どれくらいなら待てるの……?」 ルイズは焦っていた。何故なら、使い魔を送り返す魔法を見つけるというのは、 誰も聞いたことも、そして誰も試みようとしたことがないことを、一から探すという気の遠くなるような苦行であるからだ。 手がかりという手がかりも全くないし、そもそもそんな魔法があるかもどうかすらわからない。 そんな、広大な砂漠の中から一粒の宝石を探すような作業に、谷がどれだけ付き合うかルイズにはわからなかった。 まず、学院の書庫を漁って、城下町にも調べに行って……とてもじゃないけど短期間は無理だわ。 谷はどれくらい待ってくれるかしら? 一年?いやそんなに待てるわけがないわ。半年?もしかして一か月なんて無茶言わないわよね? 谷はキッパリと言いきった。 「1分だ!!!」 「いっぷっ!?なっ!ええええ!!!?無理無理無理無理!!」 あまりの谷の無茶ぶりにルイズは驚き慌てふためいた。 まさか、靴下を履くだけで過ぎてしまうような時間を言うとは思いもよらなかった。 いくらなんでも、谷が言うような時間では何もできないので、 仕方がないと言わんばかりに、ルイズは切り札を出すことを心の中で決めた。 本当に最後の切り札であった。だが必ず効果があると確信があった。 ルイズは谷を責め立てるように言った。 「そんな堪え性がない男は『シマサン』に嫌われるわよ!?」 突然、谷のルイズを掴む手から力が抜けた。 谷にとって、島さんに嫌われるということは、心臓を銃弾で撃ち抜かれるより致命傷となり得ることであった。 これほど恐ろしいことはない。 谷に言うことを聞かせる方法として、ある意味これ以上姑息な手はないとルイズ自身も思ってはいたが、 なす術がこれしか残っていないのだから、仕方がないと自分に言い聞かせていた。 だが、これほど効果があるとは思わなかった。 魔法がほとんど使えないルイズにとっては皮肉ではあるが、それはまるで魔法のようであった。 「っお、お前……なんでそんなこと言えるんだ?」 「わ、わたしも、同じ女だからよ。と、とりあえずすぐキレるような男をいいと思う女はいないはずよ、ねえ?」 ルイズは、シエスタに顔向けた。 突然振られたシエスタは、慌てふためいていた。 だが、ルイズの顔がまるで藁にもすがるような表情になっているのを見てしまったシエスタは協力するしかないと思ったのだった。 「え、ええ。そうですわ!私もそう思います」 「だ、そうよ!シマサンに嫌われるわよ!それでいいの!?」 「タニさん!頑張ってください!シマサンに嫌われないために!」 「そっそうか。……そうだな。それにしてもオマエら、怖いこと言うな」 谷は、いつも通りというわけには行かなかったが、少しでも希望が見えてきたことにより。 なんとか前を向けるようにはなっていた。 っそ、そうか……そうだよな……まだ諦めるのは早いよな。 谷はルイズから手を離した。 ルイズはニンマリと笑顔になった。ここまで上手く行くとは思ってなかったからだった。 そして、つい調子に乗ってしまった。 突然ルイズは拳を握りしめ、体の前に持ってきて、谷に向って力強く言ってのけた。 「いい?タニ。これは言わば、あんたに課せられた『恋の試練』なのよ!!!」 「『恋の試練』!!?……なんだソレ」 ルイズの背景に稲妻が走ったような幻覚が見えた気がした。 「……」 「……」 自分の発言のあまりの恥ずかしさにルイズの顔は耳の先まで真っ赤になっていた。 な、なななにわたしこんな恥ずかしいこと口走ってんの!?バカじゃないの!?? もう……穴があったら入りたい……。 シエスタが慌てて助け船を出した。 「あの!あ、あれですよ!ほら、あの、えーと……ミス・ヴァリエールが仰りたいことというのは……。 そうっ!これを乗り越えられれば、お互いの心の距離が縮まるという意味ですよ。 も、もしかして、シマサンもいなくなったタニさんを心配してヤキモキしてるかも……?」 谷は、先ほどのルイズの発言を忘れて、シエスタの言葉に反応した。 「っし、心配してくれるってことは!脈があるってことだよな!!?」 「え?……ええ!!」 たぶん、と心の中で付け加えたシエスタであった。 というよりも、相思相愛ではないのを今初めて知ったので、そのことを驚いていた。 よもや、片思いでこれだけ思いつめることができるのかと、シエスタはある意味感心した。 小さくガッツポーズする谷を眺めたまま、顔がまだ赤いルイズが、シエスタにこっそりと喋りかけた。 「助かったわ……あんた名前は?」 「シエスタと申します……」 「覚えておくわ……」 奇妙な友情が芽生えた瞬間であった。 前ページ次ページ谷まゼロ
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/1950.html
7日目 Navi さわやかな朝がやってきました 自宅にて ごとくさん の遺体が見つかったようです… 2 (ゾンビ部屋) Zono あー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 僕が真でしたキリッ Navi 村人の皆様、今日もがんばってください Navi 昼の部スタートです 1 (なび村) ヨロイモグラ 【占いCO】リヴァインさん●です。ここしか占い先が残っていなかったためです。動きも怪しく見えなかったのですが狼でした 1 (なび村) エミテヴィア もうこわいもうこわい 1 (なび村) jinjahime [占いCO:シエスタ人狼●] 1 (なび村) トガリ 霊媒結果:サイアさん○でした! 1 (なび村) jinjahime 私の候補としてはシエスタorエミテヴィア 1 (なび村) メクトン 占い結果:シエスタさん○ ごとく わお、ネタ遺言用意してなかったよ 1 (なび村) リヴァイン モグラさん終了か 1 (なび村) ヨロイモグラ 霊媒偽だったのか・・・ 2 (ゾンビ部屋) おおかみん 1ダイス目は良いケモノでした 1 (なび村) トガリ またゼブラ・・・ 1 (なび村) ヨロイモグラ この段階まで来たらしまうまばっかりですよ 2 (ゾンビ部屋) cozy あれ、占いが噛まれない 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ ね、噛まないねw 1 (なび村) エミテヴィア ここで可能性として 2 (ゾンビ部屋) ごとく お邪魔します 1 (なび村) リヴァイン いや メクトンさん妄信でもいいかな 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ お疲れさまw 2 (ゾンビ部屋) ワルノス らっさい 2 (ゾンビ部屋) Zono お疲れサマー! 1 (なび村) エミテヴィア さいあさまは狩人? いあん ですね 2 (ゾンビ部屋) らぷ お疲れ様ですー 2 (ゾンビ部屋) いえろう おつかれさまあ 1 (なび村) リヴァイン キツネと予想 1 (なび村) いあん ですね 1 (なび村) シエスタSS 狐だったら 1 (なび村) エミテヴィア もぐらさまかじんじゃさまのローラー提案したいです 1 (なび村) シエスタSS 占いが確定するな 2 (ゾンビ部屋) Jareky ゼブラばっかり 1 (なび村) ヨロイモグラ それは困るな 1 (なび村) リヴァイン どっちが●かねぇ 2 (ゾンビ部屋) Zono ゼブラ祭り・・・ 1 (なび村) jinjahime 私視点、残りの狼は対抗とシエスタさん 1 (なび村) シエスタSS エミさんに同意 1 (なび村) エミテヴィア じんじゃさま先ほどから申してることが少々支離滅裂です 2 (ゾンビ部屋) cozy サイアさんが狐なら、問題なく占い噛みにいくはず。 1 (なび村) リヴァイン トガリさんメクトンさん妄信だなぁ 1 (なび村) jinjahime 吊るなら、もぐらさん 1 (なび村) ヨロイモグラ いやいや 2 (ゾンビ部屋) Zono サイアさんは狩人であった。。。きっとそうだ。。。。 1 (なび村) リヴァイン ジンジャさん狂目か・・・? 1 (なび村) いあん シエスタさんメクトンさんの○だね 1 (なび村) jinjahime じぶんでもよくわからん 1 (なび村) メクトン ジンジャさんもう破綻してるよ 1 (なび村) いあん とがりさん真ならもぐらさんも (T) サイア > なので吊り数的に明日しかなかった・・ 2 (ゾンビ部屋) cozy もぐらさんは、トガリさんに○出しているから、どうするんだろう (T) サイア > ごばくー 1 (なび村) メクトン 真なら自分の○吊りってなんかおかしくない? 1 (なび村) メクトン 昨日の発言だけど 1 (なび村) シエスタSS ジンジャさん先吊りたい 1 (なび村) ヨロイモグラ うーむ 偽霊媒ではあるんだけど、そうすると、狐まで役職にいるねぇ 1 (なび村) jinjahime 余裕のあるうちに色見せるっていったじゃん 1 (なび村) リヴァイン 狂じゃねジンジャさん 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 残り三本か 1 (なび村) メクトン モグラさん先かな 1 (なび村) リヴァイン 先に●くさいモグラさん吊っていいと思う 2wだし 1 (なび村) ヨロイモグラ そんな馬鹿な 1 (なび村) シエスタSS ジンジャさん狂人だと 1 (なび村) エミテヴィア しえすたさまか私を候補とあげたあと 1 (なび村) シエスタSS ヨロイさん狼になるよな? 1 (なび村) リヴァイン サイアさんキツネで見てます 1 (なび村) エミテヴィア 対抗としえすたさま狼って 1 (なび村) シエスタSS それだと 1 (なび村) シエスタSS サイアに黒だししたのが 1 (なび村) シエスタSS 速すぎじゃね? 1 (なび村) エミテヴィア なんか一貫していない気が致します 2 (ゾンビ部屋) cozy jinjahimeさん狼かなー 1 (なび村) リヴァイン ふむ 1 (なび村) シエスタSS なので 1 (なび村) jinjahime 占い理由として、囲い候補見るなら、エミテヴィアさんorシエスタさんの2択 1 (なび村) シエスタSS ジンジャさん先に狼と見て吊りたい 1 (なび村) エミテヴィア そして 2 (ゾンビ部屋) ワルノス なんか一匹オオカミ足りないのだけど 1 (なび村) エミテヴィア さいあさま狐でみるなら 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 計算ミスしてる臭い 2 (ゾンビ部屋) ワルノス どこにいるのー 2 (ゾンビ部屋) ごとく メクさん視点だと狼ドコになるんだ 1 (なび村) エミテヴィア じんじゃさまともぐらさまは占いでありえないです 1 (なび村) ヨロイモグラ なぜ? 1 (なび村) ヨロイモグラ ああ Navi 5分経過(後2分) 1 (なび村) エミテヴィア 何故銃殺できてないのですか? 1 (なび村) ヨロイモグラ 自分で言ってるね 1 (なび村) リヴァイン うむ 1 (なび村) メクトン ○出て死んでる 1 (なび村) いあん エミテヴィアさんてメクトンさんの○だけだっけ 1 (なび村) ヨロイモグラ いや 狐が役職にいる 1 (なび村) エミテヴィア はい 2 (ゾンビ部屋) おおかみん 占い2狼じゃね 2 (ゾンビ部屋) cozy シエスタさん? 1 (なび村) メクトン ですね>エミテさん 1 (なび村) リヴァイン それならなおのこと占い削りカナ 1 (なび村) エミテヴィア めくとんサマから○いただいてます 1 (なび村) jinjahime 気づいてない人いないかもしれないけど、私視点、呪殺候補はcozyさんありえるからね? 2 (ゾンビ部屋) ごとく シエスタさん今日白出してる 1 (なび村) メクトン 俺占ったよ 1 (なび村) リヴァイン 狩り生きてると思う? 1 (なび村) jinjahime 私視点って言ってます 1 (なび村) メクトン というか噛まれて死んだよ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 狐さんだったんですねcozyさん 油揚げどうぞ 1 (なび村) jinjahime 呪殺+噛みでかさなった可能性 1 (なび村) トガリ 銃殺さえあれば確定できたんだろうけど・・・ 2 (ゾンビ部屋) cozy トガリさんになるね Navi あと1分 1 (なび村) エミテヴィア どっちにしても私は 1 (なび村) リヴァイン レアケ追う余裕ないので却下 2 (ゾンビ部屋) ワルノス だわに 1 (なび村) エミテヴィア めくとんサマ以外の占いをきりたいとおもいますが 1 (なび村) エミテヴィア いあんさまどうなさいますか? 1 (なび村) jinjahime えー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス でもさ それさ 1 (なび村) シエスタSS ジンジャさん希望 1 (なび村) ヨロイモグラ jinnjaさん吊かなー Navi 20秒前 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ラスさんに●だすん? 1 (なび村) jinjahime レアケとかよくあるのが陣狼 2 (ゾンビ部屋) cozy 私が狐なら、もうちょっと大人しくします 1 (なび村) jinjahime モグラさん 1 (なび村) jinjahime つり 1 (なび村) リヴァイン 追う余裕があるなら追うけどねぇ 1 (なび村) いあん モグラさん先にしたい 1 (なび村) エミテヴィア もぐらさまはもう破綻してますし 1 (なび村) リヴァイン あいよ 1 (なび村) メクトン モグラさんね 1 (なび村) トガリ 把握 1 (なび村) ヨロイモグラ いやいや Navi 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) 2 (ゾンビ部屋) ワルノス あ 冗談ですよ!! 1 (なび村) シエスタSS まあ従うけど 3 (GREEN) Navi 会話可能時間スタート 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ これは勝てる流れナはずだったんだけどなー、、、負けそうw 3 (GREEN) Navi ---------------------------------------- Navi 投票は私に直Tellでお願いします 1 (なび村) Navi -------------------------- 1 (なび村) Navi 7日目終了 1 (なび村) Navi -------------------------- 2 (ゾンビ部屋) サイア どうなることやらー (T) リヴァイン > ヨロイモグラさん でよろろー (T) シエスタSS > ヨロイさんで Zono こんばんは Zono (T) メクトン > ヨロイモグラさんに汚い一票を 3 (GREEN) トガリ メクトンさん食べる? 2 (ゾンビ部屋) Zono ふむ・・・ (T) エミテヴィア > ヨロイモグラさまを吊りたいです。 みすりーどしてたらどうしよう 2 (ゾンビ部屋) ごとく モグラさんは狂人っぽいかな 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ってことはいえろうさんあたりが霊媒なんかぬ (T) ヨロイモグラ > メクトンさんでお願いします~ 2 (ゾンビ部屋) cozy jinjahimeさんが真に思えてきた・・・。 (T) いあん > ヨロイモグラさんで 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT とりあえず 2 (ゾンビ部屋) サイア 普通にメクトンさん真視なんだけどねー 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT パンダから順につろうず 2 (ゾンビ部屋) ワルノス え 2 (ゾンビ部屋) Zono ww 2 (ゾンビ部屋) ワルノス パンダは良いよ! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT まじで? 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ほ・・・ほら 2 (ゾンビ部屋) ワルノス えっと 3 (GREEN) トガリ 反応がない・・・ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT あやしい 3 (GREEN) jinjahime んー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ミントさんにイクシオンの爪①枠分を格安で売りつけるよ!! Navi あと1分 2 (ゾンビ部屋) ワルノス だから 吊らないで>< スリスリ 3 (GREEN) トガリ 占い先が霊媒まできたら危ないと思うのだけど 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT マジデー 2 (ゾンビ部屋) cozy メクトンさん真なら、トガリさんが狼? 3 (GREEN) jinjahime メクトンさんたべてヨロイさんに黒かね 3 (GREEN) トガリ かな 3 (GREEN) トガリ それが一番かと 2 (ゾンビ部屋) ワルノス すり寄り成功 勝ったな 3 (GREEN) jinjahime だねー Navi 20秒前 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT すりよりって (T) トガリ > メクトンさんで~ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT なんかかわいくね? (T) jinjahime > ヨロイモグラ ヨロイモグラ6 メクトン2 2 (ゾンビ部屋) ワルノス なるほど つまりかわいパンダですね Navi さよなら ヨロイモグラさん …あなたの勇姿は忘れない 3 (GREEN) トガリ リヴァインさんがなぁ・・・ ヨロイモグラ ひあ あぢぢ~~!! ひいひィ~火っ火っ火~ た・・・助けて~~えっえっ えろばっ!! Navi 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT パンダはちょっと・・・ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス え Navi 役職の方は私にTellお願いします 2 (ゾンビ部屋) ワルノス かわいいよ!! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ほらパンダつれた! 2 (ゾンビ部屋) サイア ミクかわがすりよる 3 (GREEN) トガリ メクトンさん信じちゃってるから・・・ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス あーーー 2 (ゾンビ部屋) Zono ; 2 (ゾンビ部屋) サイア みんたんがすりよる 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ども~ 2 (ゾンビ部屋) サイア どっちがかわいい? 3 (GREEN) jinjahime エミラヴィアさんにしろだしておくか 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ミクかわがすりよってくると 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 貴重なパンダ成分が。。。。 2 (ゾンビ部屋) Zono お疲れ様ー! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ある意味それは怖い 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 両方吊りましょう 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ 心が折れそうだった! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT おつw 2 (ゾンビ部屋) サイア 這い寄るミクかわ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス いいパンダでした (T) メクトン > トガリさんの材質チェック 3 (GREEN) トガリ ですかねー 3 (GREEN) jinjahime メクトンさん噛みでおくりますね 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ こわいよー 村人ちょーこわいよー 3 (GREEN) トガリ はい 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT よしよし 2 (ゾンビ部屋) サイア ヨロイさんはウチより先に釣るべきだったー。たー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス さてここで 2 (ゾンビ部屋) サイア いらっしゃいまし (T) jinjahime > メクトン>役職行動 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 霊媒は●ですな 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ サイアさんとの殴り合いとか生きてる心地が 2 (ゾンビ部屋) ワルノス この狼パンダめ! 2 (ゾンビ部屋) サイア でもウチは負けた 2 (ゾンビ部屋) サイア 早い段階のゼブラいやーん 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ただの村人なら仕方ない (T) > メクトン トガリさんはダンボール風の毛でできた狼だったのです!● 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 白黒か! (T) > jinjahime おいしくたべてね! 2 (ゾンビ部屋) すもでんぱ サイアさんが白黒なら吊るしかない。 2 (ゾンビ部屋) サイア もう吊られて当たり前のタイミングでゼブラになったので (T) メクトン > そこかよw 了解です 2 (ゾンビ部屋) サイア みじめたらしく、命乞いをした 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ふむw 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ すごかったw 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 素晴らしいと思いました 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ぬこびはなんか 2 (ゾンビ部屋) サイア このサイアには、吊り逃れをする理由がある 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 命乞いとか好きだなw 2 (ゾンビ部屋) Zono wwwwwww 2 (ゾンビ部屋) ワルノス カコイイ! 2 (ゾンビ部屋) サイア なんとか2回逃れたんだけど 2 (ゾンビ部屋) おおかみん 名言だね 2 (ゾンビ部屋) サイア 三度目の正直・・・ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT けっこう逃れてた・・・ 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ジョルノっぽいな!ってつっこもうとして雰囲気にまけた 3 (GREEN) トガリ 後は私がどれだけ安全な位置にいるか・・・ 2 (ゾンビ部屋) サイア わは 3 (GREEN) jinjahime で、明日は私つりで最終日はシエスタさんと殴り合ってください 2 (ゾンビ部屋) サイア じつは、最近JoJo見始めてね 2 (ゾンビ部屋) サイア 名言多いなーって思った 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ですなー 2 (ゾンビ部屋) リュファ メメタァとか。 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 5部こそ至高 2 (ゾンビ部屋) サイア ふむー 3 (GREEN) ラスフィーノ あ 2 (ゾンビ部屋) サイア まだ最初しか 3 (GREEN) ラスフィーノ g0おば区 3 (GREEN) トガリ 狂人無視でほかに矛先いかないかな 2 (ゾンビ部屋) Jareky ニンジャー 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ あ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ニンジャー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス らっさいー 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ よろいさん、おつかれー 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ニンジャー 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ がんばりました! 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ おつかれさま~ 3 (GREEN) jinjahime 候補がいない 2 (ゾンビ部屋) サイア おつかれねー 2 (ゾンビ部屋) Zono お疲れ様ー! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT おつぽー 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ 敢闘賞あげます!(上から目線 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ w Navi あと1分 3 (GREEN) jinjahime シエスタさん釣れば勝てるけど 2 (ゾンビ部屋) ワルノス パンダから吊ろうぜ村はもういやだお。。 2 (ゾンビ部屋) Jareky メクトンさん視点、占い先もう役職しかない? 3 (GREEN) トガリ けど狂人なら吊る意味もないですし・・・ 3 (GREEN) jinjahime 偶数だからね 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 首を鍛え吊られても生き残るすべを考えねば 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ですな 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ですよん Navi 20秒前 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 霊媒対抗占い吊って 2 (ゾンビ部屋) ワルノス おしまひ 3 (GREEN) トガリ それよりはグレーねらう、かなと 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ メクトンさんしえすたさん占った? 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ええ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 五日目で 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ●だしてなかったっけ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス いいえ ○で 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ちがった 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ 神社さんの●か (T) リヴァイン > 狩】トガリさん護衛でー メクトンさん破綻してない? 2 (ゾンビ部屋) ワルノス でっすね 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ うわー 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ていうか 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ まけるじゃんw 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT もう4時半か・・・ (T) > リヴァイン しっかりまもってね! 1 (なび村) Navi -------------------------- 1 (なび村) Navi -------------------------- 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 5時コースなのはけっこう久々かも・・・ 2 (ゾンビ部屋) Zono もうそんな時間だった。。。 6日目へ 8日目へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6924.html
前ページルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ! さわやかな朝であった。 キュルケ・フォン・ツェルプストーはたっぷりと時間をかけて身支度を済ませると 朝食を摂りにゆくため自室のドアに手をかけた。 いつもの朝との違いは使い魔召喚の儀式で呼び出したサラマンダー・フレイムが従っていることだ。 インパクトでは級友タバサの引き当てた風竜に一枚譲るが、 『火』系統に秀でたメイジである自分にふさわしい使い魔として彼女は大いに気に入っている。 使い魔といえばやはり級友のヴァリエール家のルイズは人間、それも平民を召喚して昨日は結構な騒ぎになった。 (今日はそのことで少しからかってやろうかしら?) この思いつきはキュルケの熱帯の花のような美貌をほころばせたが、本当に嬉しいのはありふれた日常が今日も続いていること ──ルイズが進級に関わる召喚の儀式にまで失敗したら、今の憎まれ口を叩き合うような関係ではいられなくなるかもしれなかったから── なのは彼女自身も自覚しているのかどうか。 キュルケは扉を開き、隣室の様子を伺った。いや、伺おうとした。 死にたい人にお勧めの危険な学校トリステイン魔法学院 自室から徒歩1分の廊下で隣人の使い魔が頭から血を流して倒れていた←今ココ 「いやぁぁぁぁっ!!」 生徒たちが揃って席についた中にルイズと薬師寺天膳の姿もあった。 寝乱れた髪もそのままに朝から憔悴した様子のルイズに対し 使い魔天膳はモミアゲの上らへんを今日も元気にぴょろりと跳ね上げ、何食わぬ顔で床に正座している。 昨日の疲れのためにすっかり寝入っていたルイズはキュルケの叫ぶ声でようやく目を覚まし、 寝ぼけまなこで血溜まりにブッ倒れた自分の使い魔と対面する羽目になった。 天膳本人は呑気にも「あアあ!」と一声あげて起き上がってきたからいいとして 殺人現場そのものの廊下を捨て置くわけにもいかぬ。 腰を抜かしたキュルケを無理やり隣室へ押し戻し、必死になって血痕をぬぐうこと数分。 他の生徒たちが騒ぎを聞いて集まってくる前に証拠を隠滅できたのは半ば奇跡であったろう。 「あんたは使い魔なんだから本来はこの食堂にも入れないのよ。飢え死にしたくなかったら我慢なさい」 腹立ちまぎれに残飯同然の食物を放るルイズ。 天膳は不平を言うでもなく、ただ生徒たちの前に並べられた豪勢な食事を見回してひとりごちる。 「飢え死にか。飽食の時代には新しいやもしれぬな」 (何なのよ……) 天膳はとうとう食事に手をつけなかった。 朝食を終えれば次は午前の授業である。 各々の使い魔を連れた生徒たちが人間を呼び出したルイズに好奇の目を向けるが、 露骨に避けるように教室の反対側に座ったキュルケが時折向けてくる視線がなにより痛い。 授業自体はテンプレ通りに何事もなく進み、シュヴルーズに『錬金』の実技を命じられたルイズが教室を吹き飛ばして終わった。 術を見極めようとひとり身を乗り出した天膳は爆音で両鼓膜を破られたついでにショックで心停止したが、 主人が一人で教室の片付けを終える頃を狙ったように息を吹き返すに至って ルイズは疑問をさしはさむ努力を放棄した。 昼休み。 (ふむ……わしを呼びつけたあの娘がよもや魔法を満足にあやつれぬとはな) 「一人になりたい」と言い出したルイズに暇を出され、天膳は独り学院内を歩いた。 ゼロのルイズ。 『ゼロ』の意味するところは江戸時代の人間である天膳には理解できなかったが、 貴族に生まれながら魔法を使えぬルイズの苦しみを察することはできた。 何たる奇縁であろう! 伊賀鍔隠れの跡取り・朧は祖母お幻のあらゆる仕込みも無効無益にてクナイひとつ放てぬ娘であった。 忍法を知らぬ忍の頭領に仕えたこの忍者は今また魔法を使えぬ魔法使いに使われる身となったのだ。 「力なきゆえの苦しみ、か」 くだらぬ。 忍者は闇に生まれ落ち闇にて死する定め。 忍の闘いには名誉も報酬もなく、いかに力があろうとその異形ゆえ忌み嫌われ決して世に出ることはかなわぬのだ。 それにひきかえ魔法という力の有無によって尊貴の決まるこの世界はよほど幸福ではないか! 伊賀者としての天膳は忍者の宿命と鉄の規律に縛られてはいたが、同時に強者が弱きを駆逐する下剋上の時代を知っている。 (あの娘がわしを望んだというのなら、わしがきゃつの欲する力となってやろう。そして) ──かりそめの主を至尊の位へ押し上げ、わしが天下をいただくも面白かろう。 冷たい双瞼に野望の火をともし、大忍者は口の端をつり上げた。 「もし……ミス・ヴァリエールの使い魔の方ですよね?」 昼食を終えた生徒たちと使い魔が憩うている時間、黙想にふける天膳に声を掛ける者があった。 学院勤めのメイド、名をシエスタと言う。 「いかにもわしが薬師寺天膳じゃ。何ぞ用かの」 ぶっきら棒に返しながらも天膳の忍の眼は観察を怠らない。 素人がするようにジロジロと見ることはせず、一瞬で対手の姿を目の裏に焼き付け頭の中で吟味するのである。 ここの人間では珍しい黒髪に柔らかい顔立ち。 加えて桃色の髪の主人と違って出るところはしっかりと出たしなやかな体つきは上級に属するものであろう。 (具合良し!) 天繕違いである。 「いいえ、用事ということではないんですが……ミス・ヴァリエールが平民を呼び出されたと聞いて、その、気になって」 恥ずかしそうに口ごもるシエスタ。 要領を得ない相手に苛立ちかけた天膳だったが不意に顔を上げたシエスタと目があい、息を呑んだ。 「おお──」 黒々としたつぶらな瞳が天膳をとらえた。 その目は水底のように深く黒い太陽のようにかがやき、あらがえぬ吸引力をもって見るものを呪縛する。 ──目をそらせぬ。 天膳の手があやうく刀の柄にかかろうとしたところでシエスタはふたたび目を伏せる。 「貴族の方々はあなたを平民だと言いますが、あなたは私たちとは違います。 あなたはもしかして『ブシ』なのではないですか?」 「なに」 今朝の朝食時、人間を召喚した生徒の噂に興味を持ったシエスタは何気なくその姿を探した。 自分と同じ瞳と髪の色をした奇妙な服装の男は召喚主の少女に恭しく従っており、なるほど貴族に隷属する平民そのものに見える。 だが男は貴族の少女が犬に対するようにあたえた食物に手をつけることなく、 ただ主人が食事を終えるのを待ったのだ。 忠節と矜持にみちみちたその姿勢はシエスタの幼い日の記憶から一つの言葉をよみがえらせた。 「『ブシ』……」 いうまでもなく薬師寺天膳は忍者だが、身分の上ではれっきとした士分であり 任務に際しても忍装束をつけないのは彼の鍔隠れの副首領格としての地位の高さゆえである。 「粗末なものですが、どうか」 シエスタは施しと受け取られないよう苦心した様子で食事を勧めた。しかし天膳はそれを断る。 並の忍者であっても一日二日食を絶った程度でこたえはしないのだが、 何よりシエスタの向ける無心の瞳から離れたいという奇妙な衝動があった。 「──シエスタ殿、持ち物を落とした者がおるぞ。あの花飾りをもった男じゃ」 苦し紛れに目についたことを口に出し、ようやく少女は離れていった。 一つの集まりの中心にいた男子生徒に近づき、足下の小壜を拾い上げる。 「あの瞳は──。わからぬ」 シエスタからは何の害意も感じられなかった。 しかしその瞳に見つめられた天膳は深い霧が日差しに照らされて雲散霧消するかのような感覚にとらわれ、動くことができなかったのだ。 「まさか、じゃ。──む?」 見れば件の男が肩をいからせて立ち上がり、シエスタに向かってなにやらまくし立てているようだ。 「何ごとかの」 「申し訳ございません!どうか、どうか……」 「謝ったところで仕方ないじゃないか。君の無思慮な行為で大事なレディたちが傷ついたのだよ。 一体どうしてくれるんだい?」 頭から水ならぬワインをしたたらせたいい男はギーシュ・ド・グラモン、『青銅』の二つ名をもつ学院生徒である。 プレイボーイを自認する彼は周りを囲む同輩連中に恋の遍歴を吹聴し、 またきざったらしく追及をかわすなどしていい気分になっていた。 ところがシエスタの拾った香水壜から同級の女生徒モンモランシーと交際していること、 さらに下級生にも手を出していたことまでもが明るみに出てしまった。 醜態をさらしたギーシュはやむにやまれぬ怒りの矛先をシエスタへ向けたのだった。 「待たれよ。話は聞かせてもらった」 「何だい?君は……誰かと思えばルイズの使い魔の平民じゃないか」 シエスタを庇うように割って入った天膳にギーシュは不審の目を向ける。 「例の小壜を拾うようシエスタ殿に言うたのは──わしじゃ」 「ほう?ならば君が彼女の代わりに責任を取るとでもいうのかい。 貴族の面目をつぶした罪、軽くはないよ」 ギーシュの口ぶりははたから見ても横暴きわまるものではあったが、すでに振り上げた拳は下ろすことはできぬ。 また周囲の者たちもギーシュに理があるとは考えていないがあえてその行動を止めるものはいない。 トリステインにおける貴族と平民の関係とはつまるところこのようなものだからだ。 「その前にそなたに申し上げたきことがござる」 「純愛……誠意……。皮肉にもこのところ男の口よりよう耳にする言葉じゃが、拙者にはその意味するところが──皆目わかり申さん」 「な、なに……?」 あっけに取られるギーシュ。ずいと顔を突き出して天膳が続ける。 「より良い、より多くのおんなにいのちの精をそそぎこまんと欲するは男子(おのこ)として当然のこと そなたは何を取り繕っておられる!たかが女子二人、心のおもむくままおのが物となさるがよい!」 「い……いのちの精……?」 色男ギーシュといえどもやっていることはしょせん子供同士の恋のさや当てにすぎぬ。 あまりに直接的な言葉に圧倒されずにはおれない。 「──うぶなお前には、ちと早いか」 とどめに意味不明の優越感を叩きつけられ、ギーシュはくず折れた。 このままでは駄目だ。ここで退いたら僕は男として再起不能だろう。 「決闘だっ……男らしく決闘で白黒つけてやる!ヴェストリの広場へ来たまえ」 (どうだっ……言ってやったぞ!いくら口が回ろうが平民が貴族には勝てないんだ!) 「それには及び申さぬ」 「ええ!?」 天膳はこともなげに言うと腰の差料に手を伸ばし、小刀を抜いた。 「まさかここでやる気か!?」「何て無法な」 「シエスタ殿……目をふさいでおられよ。何があろうとも決して開かぬように」 抗議の声を気にも止めず、小刀を逆手に構えるとおもむろに衣服の前を開く天膳。 「こたびの不祥事は、すべて拙者の不徳のいたすところ」 言葉とは裏腹の獰猛な笑みを浮かべて天膳は続ける。 「死んでおわびを申し上げる」 周囲が意味を理解する暇もなく、天膳は己の腹に刃を突き立てていた。 「お……おおお……あああぁぁぁ」 腹膜が破れるとともに口から腹からおびただしい血が吹き出し、固まったままの生徒たちの顔や衣服を汚す。 天膳は奥へ奥へと抉り込んだ白刃で腹を十文字に割り裂くと真っ赤な塊を掴み出し 菓子や飲み物の並んだテーブルの上へ放り出した。 「シエスタぁ!見るんじゃねぇ!!お前ら全員ここから離れろ!」 コック長のマルトーら度胸の座った男数名がその場を収拾すべく動き出した。 しまいに頸の動脈を切って己の血の海に溺れた天膳ひとりを残して生徒たちを連れ出していった。 「これは……一体……」 急報を受けたコルベール以下教師陣が生徒の収容を済ませ現場へ駆けつけた数十分後。 そこにはあまりに酸鼻な痕跡が残されていたが、かかる惨状の主役の姿のみが忽然と消えていたのである。 前ページルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5000.html
前ページ次ページ蒼い使い魔 一方その頃、モット伯邸内では… モット伯は自室のソファに腰掛け優雅にワインを味わっていた 久しぶりの上物だ、どのようにして愉しもうか、 数多くの若い娘を召抱え味わって来たがあの娘はそのなかでもいい体つきをしている 顔も悪くない、そう考え一気にワインを煽る その時、モット伯のドアがコンコンッとノックされ先ほど呼びつけた若い娘の声がする 「シエスタでございます」 「入れ」 そう命ずるとかなり際どい格好をしたシエスタが入ってきた その顔は何かに怯えるように青くなっている。 「おぉ来たか、待っておったぞ、こっちだ」 そう嬉しそうにモット伯はシエスタを手招きする シエスタが覚悟を決めモット伯に近づいて行く、その時、ドンドンとドアが激しくノックされた 「なんだ?」 これから久しぶりの上物を愉しもうとしているところを邪魔され不愉快そうにドアを見る 「大変です!賊がッ!ばっ化け物が侵入しました!」 「化け物だと!?どういうことか報告しろ!」 報告では突如死神の様な化け物が現れ使用人や衛兵を殺している、 それを蒼いコートを纏った長身の男が衛兵もろとも斬り倒しながらこちらに向かって進んでいるとのことだった。 蒼いコート、その言葉を聞きシエスタが呟く 「まさか…バージルさん…?」 そんなはずはない、だってあの時バージルさんを怒らせてしまったんだ、それなのに助けに来てくれるはずはない…。 そうシエスタが俯きバージルのことを考えるその横でモット伯は狼狽していた。 「はっ、早くなんとかしろ!化け物と賊を食い止めろ!」 そうドアの前の使用人に言い放ち杖を取る。 だがその返答が返ってくることはなかった、 ドアを破るように飛び込んでくる使用人の死体 その体には無数の鎌が突き刺さっている。 「キャアアアアアア!!!」 部屋にシエスタの悲鳴が響き渡る、その声に反応するかのように部屋に悪魔が入ってくる その姿は手に大鎌を携えまさに死神の姿をしていた。 外では腰をぬかし立ち上がれないルイズを庇う様にタバサが一人悪魔の群れを相手に奮闘していた 氷の槍を飛ばし悪魔を串刺しにし、風を巻き起こし吹き飛ばす。 「何よ…私だけ…」それを見てルイズは呟く ―守ってもらってばかりじゃない、あの時バージルは私を見ずタバサにここは任せると言った つまり数にもいれられてない、貴族として助けにいく、そんな大見得切っておきながら戦いもせず腰を抜かしている そう考えると情けなくなる。 討ちもらした一体がタバサに襲い掛かる、鎌がタバサに突き刺さるその刹那 「フライ!」 その詠唱と共に悪魔が爆発した タバサが驚いて後を見る、そこには杖を構え立つルイズの姿があった 「私だって…戦うわ!バージルはあんただけに任せるって言ったんじゃないんだから!」 タバサは小さく頷くとルイズと共に悪魔へと向き直り魔法を放った。 「なっ、なんなんだコイツは!」 部屋へ入って来た悪魔を見てモットが叫ぶ、 ゆっくりと歩み寄ってくる悪魔に向かい杖を向ける、その瞬間 ―キィンッ!「ギャアッ!」 歩み寄って来た悪魔が真っ二つになり崩れ落ちる、そこには蒼いコートを羽織った男が立っていた 「だっ、誰だ貴様は!」 「バージルさん!どうして!?」 二人は一瞬で悪魔を斬り殺した男に向かって叫ぶ 「貴様がモットだな?死ね」 バージルはそう言うと閻魔刀に手をかける 「なっなんだと!?この化け物どもを呼び寄せたのは貴様だな!?」 「フン、あれは貴様の欲望が呼び寄せただけだ、奴らが消える方法は貴様が死ぬことだけだ」 「たわごとを!貴様のような平民に殺されるような私ではない! 私の二つ名は『波涛』!『波涛』のモット!トライアングルのメイジだ!」 「だからどうした、貴様は死ぬ、それだけだ」 その挑発に反応しモットは水を生み出す 水が竜の如く舞い上がり、渦を巻きながらバージルに殺到した。 ズッバァーン!とバージルに水がぶちあたる 「まだ終わらんぞ!」 そうモットは吠え水を氷の槍に変えバージルに向け発射する 部屋の壁は崩壊し土煙りが上がりどうなったかは確認できない だが、あれほどの攻撃を受けたのだ、普通の人間ならメイジであろうと無事ではいまい それを見たシエスタは気を失ってしまう。 「ハァハァ…、フン!平民が貴族に敵うとでも―「それで終わりか?」」 土煙りが収まると腕を組み詰まらなそうにモットを見るバージルの姿があった。 「ばっ、バカな!あれほどの攻撃を受けてなぜ立っていられる!?」 それを見たモットは驚き声をあげる。 「あれが攻撃?失望だな…」 そう言うとモットに向かってバージルは悠然と歩きながら距離を詰める 向かってくるバージルにモットは魔法を放つもそのすべてがバージルにかすりもしない、 ―ゴッ! モットの目の前に立ったバージルは閻魔刀の鍔でモットの頭を打ち抜く 予備動作なしで飛んできたバージルの攻撃にモットが反応できるはずもなく もろに一撃をもらい錐揉み状態になりながら壁に叩きつけられる。 「ぐっ…うっ…」 モットが顔をあげると目の前には案の上閻魔刀の切っ先が突き付けられていた。 「ま…待ってくれ!助けてくれ!」 「それは無理だ」 必死に命ごいをするモットを冷たい目で見ながらバージルは答えた 「そうか!金だな?いくらだ?幾らでも払うぞ!」 「だめだ、気が乗らん」 「この屋敷にあるものならなんでも持って行ってもいい!だから助けて―」 そう言い切る前に閻魔刀をモットの心臓に深く突き立て、捻る。 「ぐぁっ…あぁっ…」 そう短く呻くとモットはあっけなく絶命した。 モット伯の絶命と同時に邸内の悪魔の気配が急速に消えていくのがわかった 「ひゅ~相棒、相変わらずえげつないねぇ、でも貴族殺しちまったな?どうするんだ?」 「フン、こうすれば問題ない、おそらく屋敷から逃げだせた人間も存在するだろう、 状況を見れば下手人は悪魔、そう言うことになる」 そう言いながらヘル=ラストが握っていた鎌をモット伯の遺体にドッ!と突き立てる。 「死人に鞭打つか…おめーはどこまでも悪魔だな…」 「…帰るぞ」 そういうと気を失っているシエスタの首根っこを持って引きずるようにその場を後にした。 「来た」 「バージル!」 庭に出たバージルをルイズとタバサが出迎える。 「フン、生きていたか」 「生きてるわよ!っていうかあんたはっ!?っ・・・シエスタは無事だったの!?」 「この通りだ」 そう言いながら気絶したシエスタを放り投げる 「うっ…うぅ~ん」 「ちょっ!どこの世界に気を失ってる女の子を放り投げるやつがいるのよ! もうちょっと丁寧に扱ってあげなさいよ!」 そう言いながらルイズはシエスタを抱えると放り投げられた衝撃かシエスタが目を覚ます。 「あれっ?ミス・ヴァリエールにミス・タバサ…バージルさん…あの…これは一体?」 「目を覚ましたわね、あんたを助けにきたのよ、散々な目にあったけどね」 「えぇっ!?そんな!私のために!あのっ!モット伯は!?」 「そうよ!モット伯は!?まさかあんた…」 最も重要なことを思い出しルイズはバージルに訪ねる、まさかこの男殺してはいないだろうか? もし殺していたら一大事だ。 「フン、当ぜ―「あぁー、いやいや、モット伯ならあの化け物共に殺されちまってたよ!おでれーたなあれはー!」」 と急いでデルフがハッタリを利かせる。 「そっ、そう!ならいいんじゃない?あんたが殺してないならね… でも…なんだったのかしら?あの化け物…急に砂になって消えちゃうし」 「さっきも言ったが、あれは色欲を司る下級悪魔だ」 「消えたのは?」 「奴等の目的、モットが死んだからだ、今頃モットは地獄でよろしくやってる所だろう」 その話を聞き三人は押し黙る 「あんなの…いままで見たことなかったわ…タバサは?」 「見たことない」 「そこまでだ、貴様らはあの竜に乗って帰れ、俺は歩いて帰る」 そう言うとさっさと邸宅の門に向かってバージルはさっさと歩きだす その背中にシエスタが声をかけた 「あのっ!バージルさん!助けてくれて…ありがとうございました!」 「……」 無言のまま立ち去るバージルに向かいシエスタは深々と頭を下げた。 「まぁ、アイツはあーゆーやつだから…あんまり気にしないで」 とさすがにフォローに回るルイズであった。 「なぁ、相棒、思う事があるんだ」 「なんだ」 学院へと戻るバージルにデルフが話しかける。 「お前さんのそのルーンのことだが、どうもお前さんにあまり力を貸してないみたいだな」 「どういうことだ」 「通常使い魔のルーンってのは、元々主人に従順になるように働きかける力があるんだ、相棒のルーンはそれプラス なんらかの特典がついてくるはずなんだがね、だが相棒の場合、そのルーンの力の大部分が従順になる力に費やされているみたいだな」 「何が言いたい」 「お前さん、あの娘っ子に全然心を開いてないだろ?」 「…」 図星である、事実バージルは召喚されてからルイズのことを一度も名前で呼んでいない。 自分から語りかけることすら稀である。形式上従っているだけであり心を開いているわけではない。 「つまり、このルーンの本当の力を引き出したければあの小娘に心を開けと?」 そう言うと忌々しい表情でルーンを見つめるバージル 「そういうことにならぁね、ま、相棒がいらないっていうなら俺はなんとも言わんよ? 相棒はこのルーンの力なんざなくったって恐ろしく強い、俺っちを使ってくれれば文句はないしな。」 そうカチカチと笑うようにデルフは音を立てた。 「いい機会だ、もう少しあの嬢ちゃんに少し心を開いて見た―「気にいらん」」 一蹴されてしまった。 「ハァ…しっかし、主人も主人なら、使い魔も使い魔だぁね…」 と、デルフが小さくぼやいた。 「しかし相棒、どうしてあのメイドの嬢ちゃんを助けようと思ったんだ?いつものお前さんなら無視しそうなもんなんだが」 「フン、奴がいなくなったら誰があの小娘の洗濯をするんだ」 「まさか…それだけの理由…?」 「あぁ…」 「…おでれーた…それだけで何人殺したんだよ…おでれーた…」 さすがにその発言にはデルフも思わず絶句せざるを得なかった 翌日、学院はモット伯邸宅で起こった何者かによる襲撃事件についての噂でもちきりだった 噂は、謎の化物の襲撃で邸内にいたほとんどの人間が殺害されてしまった。モット伯もその一人であり 自室で心臓に大鎌が突き刺さった状態で発見された、という内容だった、 蒼いコートを纏った人物が、という言葉が出てこず心の底から安堵するルイズ、これなら面倒毎にはなるまい。 シエスタも雇われた先の人間が殺されたとあって、学院に再配属になった。 さらにシエスタのバージルに対する認識が変わり、わだかまりも消えた バージルに至ってはいつもと同じだが… 全ては元の鞘に戻り、いつもの学院生活にもどったのだった。 バージルが廊下歩いていると、向こう側からタバサが近づいてくる 「悪魔との戦い」 先日とは違い、今度はバージルが話しかける 「楽しめたか?」 その問いにコクリと頷く 「いい経験になった」 あの悪魔の群れとの戦い 悪魔は手強く、狡猾で、残忍だ、そんな化け物と戦いそして生き残った それは今まで以上にタバサを成長させた。 「もっと力が欲しい…」 そう呟く、この男について行けば、より大きく自身の成長につながり 目的へと前進する、この男の技術を自分のものにできれば…。 そう思いながら歩き去るバージルを見送った。 前ページ次ページ蒼い使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1636.html
前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~ やや落ち着きを取り戻しつつある食堂奥の厨房内、そこで空になったシチュー鍋を前に 一人と一不定形が満足そうな表情を浮かべていた。 「馳走になった」 「てけり・り!」 無論、九朔とランドルフである。 そしてそんな彼等の前にはシエスタがにこにこと頬杖をつき、初めて見る恰幅の良い男が 腕を組んで笑っていた。 「いやあ、お前さん達の食いっぷりを見ているとまったく清清しいぜ。しかもシエスタ達の 洗濯の手伝いまでしてくれてたとか言うじゃねえか。いやぁ、本当にお前達はいい奴だ!」 「そうでもないと思うが」 「いいや謙遜するない。お前さんは良い奴だ、いい男だ!」 がははと笑いながら恰幅の良いコック長マルトーは九朔の肩をたたきランドルフを 揉みしだく。 「てけり・り」 本来ならば見るだけでトラウマっぽいものを植えつけるはずのショゴス。 だがしかし、どうやらここの人間は総じて耐性が高いらしく、少し暇のできたメイド達が こちらにやってきてはランドルフのぷるぷるむっちりバディをつんつん突っついたりして 遊んでいた。 「てけり・りぃ」 そして、そんな彼等の好奇心の対象である当の本人(?)はと言うと、マルトーの指使いが よっぽど心地よかったのかさっきからずっと気持ちよさげに揉まれた箇所を蠕動させている。 「しっかし坊主も大変だな。貴族に召喚だったか? そんな事で呼び出されて使い魔に されちまうなんて悲劇以外のなんでもねえや」 首を振り苦々しく言うマルトー、周りも同情の表情でうんうんと頷く。 「だが俺たちもお前さんと同じ平民、もし飯とか何かで困ったらここに来い。平民同士 協力できる事は何でもするぜ!」 そういってガッシリと九朔の手を握るマルトー。 それに続くようにシエスタもその手を握る。 「そうです! 私たちもお洗濯手伝ってもらいましたし何か手伝えることがあったら いつでもぜひ!」 「あ、ああ………何かあったら……頼むとしよう」 真剣な表情で力説する二人に少々たじろぎながら答える九朔。ただ昼食を恵んでもらおうと 思っていただけなのに、余りの好待遇に悪い気がしてならない。 無論、彼等としてはただでさえ貴族に虐げられている平民なのに、それがよりにも よって貴族本人に召喚されて使い魔にされてしまった九朔に同情の念を 禁じえなかったという理由があるのだが知る由もない。 「っと、そういや貴族の坊ちゃん達にデザートを配る時間だな。運んでくれるか」 「はい、分かりました!」 立ち上がる二人、周りに居たメイドや料理人たちもそれぞれの仕事に戻ろうとする。 そこに取り残される九朔とランドルフだが、彼等もまた立ち上がる。 これほどの好待遇を受けておきながら何もしないではいられない。 食器の洗い場へ向かうランドルフとは別に九朔はシエスタへと歩み寄った。 「シエスタ、我にもデザート配りを手伝わせてくれぬか?」 「そんな悪いですよ! 朝あんなに手伝っていただいたのに!」 申し訳ないといった顔で首を横に振るシエスタだが、九朔も引き下がるつもりはない。 「あれくらいどうという事はないさ。むしろ昼時に汝等より先に昼食を頂戴したのだ、 手伝わないでは夢見が悪い」 肩をすくめて笑む九朔にシエスタはマルトーにどうしたものかと目配せする。 「坊主よ、俺たちの仕事をまた手伝ってくれると言うのか?」 「ああ、もちろんだ。汝等から受けた恩、返さずにはいられぬよ」 平然と、しかも淀みなく言ってのける九朔に真剣な顔をしたマルトーは再び破顔した。 「そうかそうか!」 心底嬉しそうに九朔の肩を叩いて笑う。 「良し、分かった! だったらシエスタ達を手伝ってやってくれ!」 「良いんですかマルトーさん?」 「構わねえ。こんな良い奴がやると言ってくれてるのを無下にできねえ!」 シエスタににやりと笑むマルトー、変わった口ぶりに奇妙な装束をした平民の少年だが その心意気は彼の眼鏡にかなったようだ。 「それじゃ、坊主。ここにあるケーキをあの小憎ったらしい貴族の坊ちゃん連中に もってってやってくれ。シエスタ、運び方とか色々教えてやりな」 「あ……はい、分かりましたマルトーさん。九朔さんこっちですよ」 「あ、ああ」 機嫌の良いマルトーにつられて上がったテンションはシエスタにも伝染したらしい。 にこにこ笑いながら九朔の手を引っ張りケーキへと案内する。 そんな彼等のやりとりの向こうではランドルフが触手を数十本にも伸ばして蠢かして 食器を洗っていた。 その見事な洗いっぷりに、後ほどメイドと料理人たちからランドルフは 『我等の洗濯王』と呼ばれ唄まで作られたのだが、それはまた別の話。 * アルヴィーズの食堂、並ぶ料理は昼食に食するには充分に過ぎた豪華なものであり、 それを見れば毎日の料理がどれだけ無駄に消費されるか手に取るようにわかる。 さすが貴族、何処の世界においても無駄と豪華にかけては右に出る者はないのだな、と 嘆息し九朔は食堂内をシエスタと共に歩く。 しかしこう言う場を実際に眼にするのは初めてではない気がするのはなぜだろう、そして これよりもっと豪華絢爛な料理を見た気がするのも何故だろうと首をかしげる九朔だが 今の彼には思い出せるはずもない。 両手に持ったケーキのトレイからシエスタがはさみでそれを生徒達に置いていく。 九朔自身は気づいてなかったが、この時多数の女子と男子が共に彼の顔を見て良からぬ 感情を抱いたのは不幸だったか幸福だったか。 男子は九朔を『可愛い平民の子女』もしくは『衆道の友』として。 女子は『中性的な平民の男子』もしくは『女装をさせてみたい』として。 双方からそのように思われていたのだが不幸だったか幸福だったか。 「ふぅ……」 そんな己の身と貞操の危険に気づくことなく、この既視感が何かを考えつつ九朔は シエスタと共に食堂内を練り歩く。 そして、耽っていたその思考はある驚きの声で途切れる事になった。 「ん?」 気づけば、目の前では金髪巻き髪の少年に友人タチがやいのやいのと騒ぎ立てているところ。 「そうだ! その鮮やかな紫色はモンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 香水? むしろその怪しげと言うか致命的っぽいアレな色は毒薬か何かでは と思うが口にはしない。 金髪巻き髪の少年は落ち着いてはいるが必死で否定をしていた。 「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたと言う事は、つまりお前は今 モンモランシーとつきあっている。そうだな?」 「違う。彼女の為に言っておくが――――――おごばぁぁぁっ!?」 彼の弁明は最後まで綴られる事なくその綺麗な顔面をストレートされた。 顔を中心に一回転して石床に叩きつけられたギーシュと呼ばれた少年、その顔には見事な までに拳の痕がくっきりついており実に痛々しい。 そして倒れた少年の眼前、一人の少女が仁王立ちをしていた。 「お、おごご……ケ……ケティ。これは、誤解で………」 「さよなら!」 彼を思い切りぶん殴ったと思われるケティと呼ばれた少女は涙を流しながら去っていく。 ここにいるのは全員魔法使いだそうが、あの娘は格闘家あたりになったほうが良いのでは と九朔は思った。 きっとムエタイ選手ならどんな者でも1ページ見開きで倒せる。 そんな彼女と入れ違うように今度は修羅の如き怒りの焔を纏い、金髪の少女がギーシュと 呼ばれた少年の前にやって来た。 その表情が見事なまでににこやかなのはある意味恐怖である。 ギーシュの周りに居た友人達が生命の危機を感じてズザザザと後ずさり、取り残された ギーシュの目の前に彼女が仁王立った。 「モ、モモモ、モンモランシー、こ、これは誤解なんだ。彼女とはただいっしょに ラ・ロシェールの森に遠乗りをしただけで………」 頬に刻まれた拳の痕が痛々しい彼はごく自然に、そして至極冷静に答えたつもりだったが 顔が引きつっていた。 「やっぱり、あの一年生に手をだしていたのね?」 「お願いだよ『香水』のモンモランシー……咲き誇る、その、えと、薔薇のような顔を そのような無表じょ………え?」 モンモランシーが微笑んだ、そう思った次の刹那、 「うそつき」 ギーシュの頭にワインの瓶が音速激突した。 砕け散るワイン瓶、ギーシュの頭蓋骨も一緒に粉砕したのではと思わせんばかりの激音に 九朔を除いた全員がひぃと呻いた。 「お………おぉ…………ぐぉぉぉ………」 床でぴくぴく痙攣するギ-シュを一瞥すると、ふんと鼻を鳴らしモンモランシーはそのまま 食堂を去った。 ぴくぴく震えるギーシュを中心に沈黙する一同。 約1分ほど経っただろうか、突然ギーシュは立ち上がり何事もなかったようにハンカチを 取り出すと顔をゆっくり拭いた。 何か頭のてっぺんあたりから致命的な量の血が溢れてきているような気がするのは眼の 錯覚ということにしておく。 ギーシュはワインを拭うと、シエスタにその瞳を向けた。 「さて、どうしてくれるんだねそこのメイド? 君が香水の壜なんかを拾い上げたおかげで 二人のレディの名誉に傷がついたんだぞ?」 それは自分のせいだし何よりその前に、既に絶命一歩手前の自分自身の身体をどうにかした方 が良くないか、と思う九朔。 しかしシエスタはといえば貴族からの言葉とあり顔を真っ青にしてまるで壊れたおもちゃの ように何度も何度も頭を下げている。 「も、も、もも、申し訳ありません貴族様! 私、貴族様の物かと思って……!」 「それで許されると思っているのかい? 君のお陰でこのざまだよ? この傷の治療だって 馬鹿にならないんだ、どうしてくれる?」 「っそそ、それは……それは………!」 「ああ分かっている、少なくともこれは全て君の責任だからね。これから先、君にはこの傷の 治療費を払い続けてもらわなければならんなあ! それも僕が完治するまで、そして それから賠償もだ!」 「そんな! ああ……お、お許しください貴族様!」 ギーシュの前に跪き謝罪するシエスタ、それを彼は見下す。 その間も延々と自分は悪くないだの、君の責任だの、君の気配りができていないだのと のたまってシエスタを罵っている。 まったく、この手合いはいつもこうだ。 胸糞悪い。 「申し訳ありませんでした、申し訳ありませんでした!」 「許してほしいのかい? まさか! 許すはずがないだろう!? この責任は全て 君のせいなんだ、君は―――」 「……いい加減にせよ、汝」 シエスタを守るように、九朔はギーシュの前に立ちふさがった。 「クザクさん!?」 「ほう、何だね給仕? 君はもしかしてこのメイドをかばうつもりかい?」 シエスタは余りの事に驚き固まっている。 突如目の前を塞いだ給仕の少年、ギーシュは上から下へと視線を向ける。 なるほど、マントを羽織ってはいるが杖を持たないので平民だ。 その驕りが彼を強気にさせる。 「まさか君は貴族であるこの僕に口答えするつもりなのかね? 平民である君が」 「ああ、そのつもりだ。汝のような、己の失態を他人に擦り付ける者は気に食わぬ。 ましてや、与えられた地位をもって他者を脅す手合いは更に、だ」 ぴくりとギーシュのこめかみが震えた。 「ほう? それはつまり僕を侮辱しているととっても良いのかな?」 「本当のことであろう? それくらい、汝でも分かると思うが」 九朔の言葉に周りにいた人だかりがどよめく。互いに顔を見合わせ、九朔に眼をやり 哀れむ視線を送る。 彼等にとって九朔は平民、そんな彼が目の前で貴族に楯突いたのだ。 無力な平民が貴族に歯向かうことが意味するのは死だ。 恐れを知らぬ蛮勇に侮蔑の視線が飛ぶ。 己で己の首を吊る愚者を嘲笑う声が飛ぶ。 だが彼等は知らない、人は決して『無力』ではないことを。『無力』に思えるものが 如何なる力を秘めるかを。 「どうやら君は、貴族に対する礼を知らないようだ」 「汝のような下郎に持つ礼などない」 互いの視線が交錯した。 「……君は、この僕が悪いとでも言うのか?」 「それ以外に在る訳なかろうが」 「言ってくれる」 そこに見えるは両者の怒りの情、不退転の意思。 「そうか、ならば口を知らない君に僕が礼儀というものを教えてやろう。その愚かさを 身を持って知ると良い」 「ああ、そうしてもらおうか。もっとも、貴様如きにできるか不安だがな」 闘う理由は既に充分、互いが互いを敵と認識した。 ギーシュにとっては平民が貴族に逆らうその態度への怒りが、九朔にとっては己のものでは ない力を振るう横暴への怒りが胸にある。容認できぬ怒りを持って互いを敵と為した。 「宜しい―――ならば、決闘だ!」 ギーシュの宣誓に食堂内に歓声が沸きあがる。 バサと、音を立てて彼の手からハンカチが宙へと投げられた。 落ちるそれを九朔は受け取り、ギーシュと視線を交わす。 「構わないな?」 「ああ」 その言葉にギーシュは不敵に笑んだ。 「では、この決闘は《ヴェストリの広場》で行う事としよう。僕の友人が案内してくれる はずだ、逃げるなよ?」 「それはこちらの台詞だ、汝」 それで良い、ギーシュは九朔に背を向けて食堂を去った。 それを見送る九朔をシエスタは顔を青ざめて見ている。 貴族に歯向かうことはつまり死ぬ事を意味する、それは想像を絶する恐怖だ。 なのに、彼は自分の為に身を挺してくれた。 「クザクさん……何で? 私のせいなのにどうして……」 「汝を見捨てるのは後味が悪い、ただそれだけだ」 「それだけで!? そんな……クザクさん、あなた殺されちゃう!」 「なに、どうとでもなるさ」 「でも……でも!」 しかし、怯えるシエスタの肩に手を置きクザクは微笑む。 「安心しろシエスタ。 ――我を、信じろ」 そう言って九朔は食堂の出口へと向かう。 その時シエスタは彼の背中に、言葉で表せない熱さを見た。苛烈なまでに気高い、 清らかな流れに似た透明な何かを感じた。 そして気づく、胸にあったはずの不安と恐怖がゆっくりと和らいでいく事に。 「クザクさん、貴方はいったい………」 呟くシエスタの先、九朔の姿は既にそこにはない。 食堂の出口へ向かう九朔、それに追いつくようにルイズが駆け寄ってきていた。 「あんた何してんのよ! 見てたわよ!」 「そうか」 「そうか、じゃない! なに勝手に決闘の約束なんかしてんのよ!」 「放っておけなかったのでな。ああいうのは胸糞悪い」 「それだけで!?」 手で頭を抑えつつ、歩みを止めない九朔をルイズは後ろから追いかける。 「謝りなさい。怪我したくなかったら今すぐによ」 「断る」 「あんたね!」 九朔は一向に聞こうとしない、自分の使い魔なのに。 しかし、止めなければ。 無力な平民がメイジに勝てる道理などありはしないのだ。何をしても無駄だと言うことを 分からせなければ。 「無理よ。平民は絶対に貴族に勝てないの、メイジだからよ? 魔法を使う相手に 平民が勝てる道理なんてないの、絶対無理なの!」 「だから何だ?」 「無駄なの。平民がメイジに勝つなんて無理なの、そんな無駄な事しても無意味なのよ!」 「無意味……か」 「そうよ。良い? あんた達平民は無力よ、どんなに力を合わせたって勝てない。 何度も言うけどそんな無駄な事をしても無意味なの、分かる?」 納得させるように強く言うのだが、しかし九朔は答えず真直ぐ進む。 何度も何度も言いきかせるのだが止まる気配もない。 「汝が案内役か」 「ああ、こっちだ」 ギーシュの友人に従いついて行く九朔。ただ真直ぐ、歩みを止めない。 ルイズの胸は理解できない事柄でいっぱいになる。 どうしてコイツは止まる事をしない? どうしてこいつは抗う? なぜ平民なのに貴族に歯向かう? 平民は貴族に従うのが道理なのだ、虐げられていたとしてもそれに抗う術はないのだ。 それなのに、この使い魔は何故闘おうとする? ――この使い魔が本当に異世界から来たから? ………まさか。 しかし、たとえそうだとしても決してメイジには勝てない。 そういうものなのだ、それは覆らない事実なのだ。 「ねえ、あんた。どうして無駄だって分かってるのに闘うのよ?」 諦めの気持ち混じりに、振向かない背中にルイズは尋ねた。 まるでさっきの教室と同じことをしているのだが、構いやしない。 はるか奥にヴェストリの広場が見えてくる、余り時間はない。 ややあって、九朔が口を開く気配があった。 「我にも分からぬ」 「はぁ!?」 「だがな」 そこで九朔は振り返る。その翡翠の瞳がまっすぐにルイズを射抜く。 そして、初めてルイズに微笑んで見せたのだ。 「たかが無意味なくらいで何もせぬなど、そんなこと我にはできぬよ」 「え?」 「たとえ無駄だとしても、足掻かずにいられるか。何もしないまま見てみぬふりして 後悔する方がよっぽど後味が悪いさ」 たったそれだけのことで? そんなことでこいつは闘うのか? それは奇しくもシエスタが抱いた感情のそれ。 それだけのことでこの使い魔は貴族と、つまりメイジと闘う。 無駄だからと足を止めない。 何もしないなど、そんなことできない。 それはただの無謀だ、ただの愚だ。 ルイズは思う。 だが、九朔のその言葉にルイズは微かな胸の熱を覚えていた。 それは自覚することのないほどの小さな火。その意味も理由も今のルイズは 知る事はない。 ただ、今は目の前の九朔の決闘を見守るしかない彼女がいるだけ。 九朔は歩む、その場所へ。 ――決闘場はすぐ目の前に 前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7742.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 決闘騒ぎも終わり、学院に普段と同じ平穏が戻る。 なんとかルイズをなだめ、教室へ送り届けたエツィオは、傷の手当てをすべく、水汲み場へと向かった。 エツィオが水汲み場へ向かっていると、ふと視線を向けた先に見知った顔が一人、おろおろとしているのが見えた。 「おや? シエスタ?」 「エツィオさん!」 エツィオがその人物、シエスタに声をかける、彼女はエツィオを見るとすぐに駆け寄ってきた。 「さっきはどうしたんだ? 急に逃げ出して……」 「エツィオさん! 私っ! 心配してたんです! 貴族の方と決闘だなんて!」 「あぁ、あれか、何、たいしたことじゃないさ」 「その怪我っ……! あぁっ、あの時私が止めていれば……こんな……」 エツィオの口元の傷を見てシエスタがぽろぽろと涙を流し始めた。 自分のせいでエツィオがひどい目に遭わされてしまった、と言わんばかりである。 「ごめんなさい……私、怖くなって、逃げてしまったんです。本当に、貴族は怖いんです、私のような魔法が使えないただの平民にとっては……だからっ……!」 「おい、なんだよ、まるで俺が負けたみたいな言い草だな」 「だって貴族の方とっ! ……え?」 シエスタはきょとん、とした表情でエツィオの顔を見る。 エツィオは肩をすくめると、笑いながら言った。 「決闘を見ていてくれなかったのか? それはひどいな!」 「えっ!? う、うそっ! そんなっ!」 シエスタは両手で頬を押え、顔を真っ赤にしながらうろたえる。 エツィオの勝利が信じられないと言った様子だ。 「決闘なら俺の勝ちで終わったよ、誓って本当さ、なんならギーシュでも呼んでくるか?」 「えっ……? ほ、本当に?」 「何度も言わせないでくれよ、それともそんなに俺が信用ならないか?」 「や、やだっ、私ったら何かとんでもない勘違いをっ!?」 耐えきれなくなったのか顔を両手で覆い、シエスタがしゃがみ込む。 それを見たエツィオはわざと落胆した様子で呟いた。 「なんだ……見ていてくれなかったのか、せっかくこの勝利を君に捧げようとしていたのに……残念だ」 「わわっ、私のためにだなんて! とっ、とんでもないです! それにエツィオさんを信じ切れなかった私が悪いんです!」 「いや……いいんだ、勝利の女神に浮気した俺が愚かだったんだ、いっそ負けてしまえば、君という女神が俺に慈悲を垂れてくれたかもしれないのに……」 「そっ! そそそ、そんな! そんなこと言わないでください! お願いします!」 エツィオのいちいち芝居がかった台詞にシエスタがいちいち大仰に反応する。 それが楽しくてエツィオの調子がますますエスカレートする。 「決闘に勝って、勝負に負けるとはこのことか……胸にぽっかりと穴があいた気分だよ」 「ごっ、ごめんなさい! エツィオさん! 私! なんでもしますからっ! どうかそんな事を言わないでくださいっ!」 「なんでも?」 からかわれ半泣きになったシエスタがエツィオの身体にすがりつく。 エツィオはフードの中でニヤリと笑うと、シエスタの腰に片手を回し、きつく抱きよせた。 突然の出来事にシエスタが目を白黒させる。 「えっ? あぇっ? そ、その……え、エツィオ……さん?」 「そうか……なんでもか。なら、今から君は俺の専属メイドだ」 「ふぇっ!? せっ、専属! ……ですかっ!?」 突然の要求にシエスタが素っ頓狂な声を上げた。 エツィオは空いた手でシエスタの顎をしゃくり、瞳の中を覗き込む、シエスタの胸の鼓動が益々早くなるのを感じる。 シエスタは面白いほど動転している、そんな彼女にトドメを刺すべくエツィオが耳元で囁いた。 「よろしいかな……? シエスタ」 蕩けそうなほどの、情熱的で甘い声、みるみる顔が赤くなり、かくん、とシエスタの全身から力が抜ける。 毒牙にかかった瞬間だった。 「よ……喜んで……」 「決まりだな」 「はひ……」 うっとりとした表情でシエスタが頷く。 エツィオはにっと笑うと、腰にまわした手を離した。 シエスタはそのままぺたんと地面に座り込んだ。 その様子はもはや心ここに在らずといった感じだ。 「おいおい、大丈夫か?」 ちょっとやりすぎたかな、とエツィオが苦笑しながら手を差し伸べシエスタを引き立たせる。 シエスタはふらふらと立ち上がると、ぺこりとお辞儀をした。 「はっ、はい、あのっ……ふ、ふつつか者ですがどうぞよろしくおねがいします!」 「あぁ、これで君を他の男に取られる心配はなくなったわけだな」 「あの、呼び方はどうしましょう?」 「呼び方?」 「はいっ! 私は専属メイドなので、やはりエツィオさんじゃ何かと……その……、ですからご主人様とかっ!」 「いや、いつも通りに接してくれ、万が一ルイズに知られたら大変だ。あの子はそう言うのに一々うるさくてね。 主人に対し、配慮をするのもメイドの仕事、そうだろ? この関係は二人だけの秘密、いいかな?」 「秘密のカンケイ……、わかりました、ちょっと残念ですけど、いつも通りエツィオさん、ってお呼びしますね」 「よろしい、さてシエスタ、早速で悪いが、ちょっと傷の手当てをしたいんだ、薬があったら分けてくれないか?」 「はいっ、それじゃあ、厨房へ行きましょう、あそこなら薬箱もありますから」 「よし、では行こうか」 エツィオは小さく笑みを浮かべると、シエスタを連れ、厨房へと向かった。 「おいシエスタ! どこに行ってたんだ!」 「あっ、マルトーさん!」 二人が厨房へ足を踏み入れると、一人の恰幅のいい中年男が現れた。 服装からしてこの厨房のコックであろう。 マルトーと呼ばれた男は、呆れたように言った。 「まったく、まだ話の途中だったろうが、すぐに逆転したって言おうとしたら、 急に顔を青くして走って行っちまうんだからよ……」 「す、すいません……」 シエスタが恥ずかしそうにうつむく。 どうやら、途中経過だけを聞いてエツィオが負けたと早とちりして厨房を飛び出したようだった。 エツィオは小さく笑い、シエスタの肩に手を置く。 「だろう? 君の勘違いさ」 「は……はい……」 「ん? お前さんは……おおっ!」 シエスタの横に立っていたエツィオに気がついたマルトーは頓狂な声を上げる 「誰かと思えば『我らの刃』じゃないか! なんだシエスタ! 連れてきてくれたのか!」 「『我らの刃』?」 突然出てきた言葉に首をかしげる、まるでセンスのない吟遊詩人がつけたようなネーミングだ。 「おうよ! お前さんはもう学院じゃ有名人だぜ! 高慢ちきな貴族を打ち負かした、我ら平民の希望! 『我らの刃』だ!」 「ははっ、それはどうも……」 肩を竦め、なんとも微妙な反応を返す。 それを謙遜と受け取ったのか、マルトーはエツィオの肩を力強く叩いた。 「なぁに! 謙遜することは無いぞ! さぁ『我らの刃』よ! こっちに来てくれ!」 「なっ、おい、ちょっと……」 「おおい! 『我らの刃』が来たぞ! 英雄の凱旋だ!」 マルトーが厨房に響くように怒鳴った、それを聞いた若いコックや見習い、メイド達がどっと押し寄せる。 「おおっ! この人が!」 「貴族を打ち負かしたってホントか!」 「俺は見たぞ! 蝶のように舞い、蜂の用に刺す! 次々ゴーレムを切り裂いていったんだ!」 「素敵な方……」 厨房中から歓声が沸き起こる、もみくちゃにされながらエツィオが苦笑する。 「お、おい、まずは落ち着いてくれ、俺はただ……」 「え、エツィオさんは傷の手当てをしたいそうなので! そのっ、後でお願いします!」 「おおそうか! おい! 何やってる! 早く救急箱持ってこい!」 エツィオの言葉を引き継ぐようにシエスタが進み出る、 それを聞いたマルトーが見習いを怒鳴りつけ救急箱を取りに行かせた。 エツィオは厨房の奥にある椅子に腰かけると、小さく息を吐いた。ギーシュを倒したくらいで大変な騒ぎである。 救急箱を受け取ったシエスタが手際よくエツィオの傷口を消毒し、手当をした。 そうして手当てを終えたエツィオにマルトーが話しかける。 「いやぁ、悪かったな『我らの刃』よ、お前が貴族を打ち倒したもんだから、あいつらみな興奮してんだ、って、俺もなんだけどな!」 「いや、別に気にしてはいないさ、えぇと、ミスタ・マルトー」 「おいおい、『我らの刃』よ、ミスタ、だなんてつけてくれるな! そのまま呼んでもらってかまわんよ!」 マルトーはエツィオの首に太い腕を巻きつけた。 「そうか、俺はエツィオだ、そちらも『我らの刃』だなんて呼ばずに、名前で呼んでくれ」 「どうしてだ?」 「他人行儀で寂しいじゃないか、俺は君らと同じ平民だ、仲間だろ?」 エツィオはマルトーと肩を組むと、人懐こい笑顔で語りかける。 その言葉に感極まったマルトーが大声を上げ、さらにエツィオの首を締めあげた。 「なんて奴だ! お前みたいないい奴見たことがないぞ! エツィオ!」 「ぐぉっ、く、苦しいって!」 「おぉすまんな! ははっ! つい感激しちまってな! 俺はお前の事が益々気に行った! どうしてくれる! お前の額に接吻するぞ!」 「おい、勘弁してくれ! 俺の身体は女の子の物だ!」 「言ってくれるじゃねぇかこの野郎!」 マルトーが豪快に笑い飛ばし、シエスタの方を向いた。 「おいシエスタ! 俺の代わりにこの勇者にキスしてやれ!」 「はい! って、えぇっ!?」 そんな二人の様子をニコニコしながら見守っていたシエスタが元気よく返事を返したが、 とんでもないことをさらりと言われていたことに気がつき、顔が真っ赤になった。 「ええっと、その! あの、私! まだ初めてでそのっ! で、でもエツィオさんなら! よ、よろしくおねがいします!」 しどろもどろになりながらシエスタはエツィオに口づけをすべく、目をつむった。 エツィオは小さく笑うと、人差し指を立てシエスタの唇にそっと触れる。 驚いたシエスタが目を開けた。 「ファーストキスか、なら君の口元を血で汚すわけにはいかないな、キスはお預けだ、シエスタ」 「は、はぁ……わかりました」 果たしてどちらに対しての『お預け』なのか、エツィオはそう言うと軽くウィンクした。 どことなく落胆した様子のシエスタが小さく肩を落とす。 「まぁそう気を落とすなシエスタ! なら、せめて我らの勇者にアルビオンの古いのを注いでやれ!」 すぐに気を取り直したシエスタは、満面の笑みになると、葡萄酒の棚から、言われたとおりのヴィンテージを取り出してきて、 エツィオのグラスに並々と注いでくれた。香りを愉しんだあと、まずは一口ワインを口にする。 「へぇ、うまいな、朝にもワインを頂いたが、あれとは大違いだな、かなりいいワインじゃないのか?」 「その味がわかるか! 貴族のガキ共に出すよりお前に飲んでもらった方がそのワインも幸せってもんだ!」 一気にグラスを傾け、飲み干したエツィオを、シエスタは、うっとりとした面持ちで見つめている。 マルトーは社交的で機知に富んだエツィオの人柄を気に入り、惚れ込んだようだ。 「ごめんなさい、エツィオさん、マルトーさんがはしゃいじゃって……」 「なに、気にしてはいないさ、少し驚いたけどな」 しばしの談笑を楽しんだエツィオは、ルイズのいる教室へ向かうべく、厨房を後にする。 これから夕食の準備だと言うシエスタは厨房の入口までエツィオを見送った。 彼女も学院に勤めるメイドである以上、学院での仕事はきちんとこなさなくてはいけない。 専属とエツィオは言ったが、彼女を拘束するつもりは毛頭なかった。 「それじゃあ、私は仕事に戻ります、何かあったら言ってくださいね、お力になりますので」 「ありがとう、また寄らせてもらうよ」 教室へ向かうエツィオの後ろ姿をうっとりとした表情で見つめていたシエスタは、 緩んだ頬を引き締め、仕事に戻るべく厨房へと戻る。 その時、柱の陰にいる影に気がついた。 「あら? 何かしら?」 赤い影はきゅるきゅると鳴くと、消えていった。 エツィオが召喚されてから一週間ほど経とうとしたある日。 午後の授業を全て終え、教室から出てきたルイズと合流したエツィオは、例によって彼女を食堂までエスコートする。 常に彼女の歩調に合わせ、半歩後を歩く、その姿はまさしく、お姫様につき従う騎士のようである。 「さ、どうぞ」 エツィオが椅子を引きルイズが腰かける。相も変わらず、見事なエスコートであった。 テーブルにはやはりというべきか、豪勢な食事が並んでいる。 エツィオが視線を下に向ける、するとそこには、いつもと同じスープが置いてあった。 「なぁルイズ……」 「なに?」 「やっぱり、なんとかならないのか?」 「なによ、ギーシュに勝ったご褒美に食事抜きの罰を帳消しにしてあげたんだから、ありがたく思いなさいよね」 エツィオがつらそうな表情で言うと、ルイズがすました顔で言った。 「はぁ……、外で食べてくるよ、君らの食事を眺めながらだとつらいものがある」 エツィオは大仰に肩を竦めると、大きくため息を吐く。 そして退出しようと踵を返した時、ルイズに呼び止められた。 「待ちなさい」 「ん? 何か?」 「ワインとグラス、置いて行きなさい」 「……ばれてたか」 流石に気付いたか……エツィオは苦笑しながら懐からワインボトルとグラスを取り出し、ルイズのテーブルに置いた。 「次やったら本当に食事抜くわよ? いいわね?」 「はいはい、肝に銘じておくよ」 ルイズが静かに睨みつける、エツィオは手のひらをひらひらと振りながら食堂を後にした。 「まだ甘いな……」 食堂の外に出たエツィオは小さく呟くと、懐からスプーンとフォーク、ナイフ等の食器を取り出す。 全てルイズの手元に置いてあったものだ、今頃彼女は慌てふためいているだろう。 その顔を見る事が出来ないのが残念だ。 溜飲が下がったエツィオは、薄く笑みを浮かべ、厨房へと向かおうとした、その時。 咄嗟に振り向き、手に持っていたナイフを振り向きざまに投げる。 一瞬左手のルーンが光り、投げたナイフは恐ろしい速度で石柱に当たりぽっきりと折れてしまった。 「……さて、かくれんぼは終わりにしようか、いい加減飽きただろ?」 一週間ほど前からずっと感じていた視線に対し声をかける。 警戒しながら、石柱付近を注意深く観察する、すると、きゅるきゅると鳴き声が聞こえてきた。 聞いたことのある鳴き声にエツィオが首をかしげると、柱の陰から赤い影がのっそりと現れた。 キュルケのサラマンダーである、どうやら今までの視線の正体はこのサラマンダーであるようだった。 「あれ? お前は確か、キュルケって子の……あっ、おい!」 エツィオが声をかけると、サラマンダーは尻尾を振り、口から僅かに炎を上げて、去って行ってしまった。 「……まぁいいか」 今までの視線の正体が、サラマンダーであることに拍子抜けしたのかエツィオが肩を竦めた。 その日の夜……。 ルイズはエツィオの毛布を廊下にほっぽり出した。 「なんのつもりだよ」 「手癖の悪い使い魔が何か盗んだら困るでしょ?」 食器類を掠め取ったことを根に持っているらしい。 「これじゃ何かあったときに君を守れないぞ?」 「そう、なら何か起きないように外で見張っておいて」 ルイズは眉を吊り上げて言い放った。 つくづく根に持つ少女だ。今夜はどうあっても部屋では寝させてくれないようだ。 エツィオは諦めたように外へと出る、中からガチャリと鍵を開ける音が聞こえてくる。 試しにドアノブを捻るがやはりというべきか、うんともすんとも言わない。 「やれやれ、締め出されたか……」 小さく呟きながら、壁に寄り掛かる。 窓から風がびゅうと吹いてエツィオの身体を凍えさせた。 シエスタの所にいって温めてもらうかな、なんてことを考えていると、キュルケの部屋の扉がガチャリと開いた。 出てきたのは、サラマンダーのフレイムだった。 燃える尻尾が温かそうだ。 エツィオはフッと笑うと、手を差し伸べる。 「お前は……、あぁ、さっきは悪かったな、ちょっと気が立ってたんだ、仲直りしよう」 エツィオが優しく語りかけると、サラマンダーはちょこちょこと近づいてきた。 きゅるきゅる、と人懐こい感じで、サラマンダーは鳴いた。どうやら害意はないらしい。 「へぇ、なかなか人懐こい……ん?」 サラマンダーはエツィオのローブの袖を咥えると、ついてこい、というように首を振った。 「まてまて、大事な形見なんだ、燃やさないでくれよ」 エツィオは言った。しかし、サラマンダーはぐいぐいと強い力でエツィオを引っ張った。 キュルケの部屋のドアは開けっぱなしだ。どうやらそこに引っ張り込むつもりらしい。 「入れってことか?」 エツィオがサラマンダーに尋ねると、肯定の意味なのか、きゅるきゅる、と鳴いた。 サラマンダーが自分を監視していた事が腑に落ちないが、どうやら害意は無いらしい。 エツィオはキュルケの部屋のドアをくぐった。 入ると、部屋は真っ暗だった。サラマンダーの周りだけ、ぼんやりと明るく光っている。 暗がりからキュルケの声がした。 「扉を閉めて?」 エツィオは扉を閉めた。 「ようこそ、こちらにいらっしゃい」 その一言だけでエツィオは全てを察したらしい。 口元に微笑を浮かべ、一歩一歩ゆっくりと歩を進めていく。 キュルケが指をはじく音が聞こえた。 すると、部屋の中に立てられたロウソクが一つずつ灯っていく。 エツィオの近くに置かれたロウソクから順に火は灯り、キュルケのそばのロウソクがゴールだった。 まるで道のりを照らす街灯のように、ロウソクの火が灯っていた。 ぼんやりと、淡い幻想的な光の中に、ベッドに腰かけたキュルケの姿があった。 ベビードール一枚というなんとも悩ましい姿である。 「お招きいただき光栄だ、ミス・キュルケ」 エツィオは優雅に腰を折り一礼する。 キュルケはにっこりと笑って言った。 「座って」 「では失礼」 エツィオはキュルケの横に腰かける。 彼女の目的は大体察しているが、あえて問いかけた。 「さて、本日は何の用があって俺を呼び出したのかな?」 燃えるような赤い髪を優雅にかき上げて、キュルケはエツィオを見つめる。そして大きくため息をつき、悩ましげに首を振った。 「あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」 「……」 「思われても仕方がないの、わかる? あたしの二つ名は『微熱』……」 キュルケは切なげな声でフードの中を覗き込む、エツィオは優しい笑みを浮かべ彼女の顎を持った。 「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの、だからこんな風にお呼び立てしてしまうの。わかってる、いけないことよ」 「なるほど、だからあの子を俺の監視につけたのか」 エツィオが部屋の隅のサラマンダーを顎でしゃくる、キュルケは潤んだ瞳でエツィオを見つめ、すっと顎にあてられた手を握る。 そして一本一本、エツィオの指を確かめるようになぞり始めた。 「監視だなんて……! あたしはただあなたのことをもっと知りたかっただけ……。 あなたがギーシュを倒した時の姿……とってもかっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだった」 「それで? 俺の何がわかったのかな?」 「誰よりも紳士的で、それでいて野性的、その上こんなにもハンサムだなんて……。知ってるんだから、あなた、一人メイドを誑し込んでるみたいね、 その子はもうあなたの事ばかり見てる、ずるいわ、そのメイドに嫉妬しちゃう……。でも仕方ないわ、貴方の魅力に惹かれない女なんていないもの……あたしもその一人。 あの日からあたしはぼんやりとしてマドリガーレを綴ったわ、マドリガーレ、恋歌よ。あなたの所為なのよエツィオ。 あなたが毎晩あたしの夢に出てくるものだから、フレイムを使って様子を探らせて……」 「お褒めいただき光栄だ、キュルケ……、でも君だけが俺の事を知っているだなんて、ちょっと不公平じゃないか?」 「そうね……恋の駆け引きはいつも公平であるべき、だからあたしはあなたをお呼びしたのよ? エツィオ。あなたにあたしをもっと知ってもらいたくて……」 「あぁ……是非とも君の事を知りたいな、マドリガーレ、聴かせてくれるんだろう?」 「もちろんよ、エツィオ……」 キュルケは、エツィオの口元の古傷を指でなぞり、ゆっくりと目をつむり、唇を近付けてきた。 エツィオがキュルケと唇を重ねようとしたその時、窓の外が叩かれた。 そこには、恨めしげに部屋の中を覗くハンサムな一人の男の姿があった。 「キュルケ……。待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」 「ペリッソン! ええと、二時間後に!」 「話が違う!」 ここは三階、どうやらペリッソンという男は魔法で浮いているらしい。 キュルケは煩そうに、胸の谷間に差した派手な魔法の杖を取り上げると、 そちらの方を見もしないで杖を振った。 ロウソクの火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹き飛ばした。 「うるさいフクロウね」 「それだけ君が魅力的だという証拠さ」 「彼はただの友達、勘違いしちゃってて困ってるの」 まったく動じないエツィオも流石である、悲鳴を上げ落下していく男を気にも留めずに、再び目をつむったキュルケへと唇を近付ける。 すると……今度は窓枠が叩かれた。 見ると、悲しそうな顔で部屋を覗き込む、精悍な顔立ちの男がいた。 「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」 「スティックス! ええと、四時間後に!」 「そいつは誰だ! キュルケ!」 怒り狂いながら、スティックス、と呼ばれた男は部屋に入ってこようとした。 キュルケは煩そうに、再び杖を振る。例によってロウソクの火が太い炎へと変化し、男を外へと吹き飛ばした。 「随分な扱いだな、友達にそんなことしていいのか?」 「彼は、友達というより知り合いね。とにかく時間をあまり無駄にしたくないの。夜は長いだなんて誰が言ったのかしら! 瞬きする間に太陽はやってくるじゃないの!」 「それについては同感だ」 キュルケとエツィオは再び唇を近付ける。 窓だった壁の穴から悲鳴が聞こえた。 またまたキスを中断されたエツィオはうんざりしながら振り向いた。 窓枠で、三人の男が押し合いへしあいしている。 三人は同時に同じセリフを吐いた。 「キュルケ! そいつは誰なんだ! 恋人はいないって言ってたじゃないか!」 「マニカン! ギムリ! エイジャックス! ええと、六時間後ね」 キュルケはめんどくさそうに言った。 「朝だよ!」 三人が仲良く唱和した。 キュルケはうんざりした声でサラマンダーに命令した。 「フレイムー」 きゅるきゅると部屋の隅で寝ていたサラマンダーが起き上がり、 窓際で争っている三人に向かって炎を吐いた。 三人は仲良く地面に落下して行った。 「今のは?」 エツィオは意地悪な笑みを浮かべながら尋ねる。 「さあ? 知り合いでもなんでもないわ。 とにかく! 愛してるわエツィオ!」 キュルケはエツィオの顔を両手で挟み、まっすぐに唇を奪った。 エツィオはそんな彼女の肩に両手を置くと、そのままベッドに優しく押し倒した。 「ふぅっ、荒っぽいキスだな、でも嫌いじゃない」 「……あなた、責めないの?」 跨られる形になったキュルケがエツィオに尋ねる。 「責める? これからさ、じきに君は俺の事しか見えなくなる」 サディスティックな笑みを浮かべ彼女の耳元で甘く囁く。 ゾクゾクゾクッ! っとキュルケの全身に電撃が走るのを感じる。 途端に心拍数が跳ね上がり、顔が火照ってきた。 「君は遊びのつもりで俺に手を出したんだろうけど……」 エツィオに瞳を覗きこまれる、キュルケは思わず目をそらす。 甘く見すぎていた、ちょっと遊んでやるだけ、それだけのはずだったのに、心臓が狂ったように高鳴っている。 いつの間にか彼を直視することができなくなった、直視すればするほど、彼に惹きこまれてしまいそうで。 このまま彼に身を任せていたら、自分はどうにかなってしまいそうだ。 エツィオの手がキュルケのベビードールへと伸び、優しく、焦らす様に脱がしていく。 「あっ……」 切なげな吐息を洩らし、キュルケはエツィオの成すがままになっていた。 「俺は彼らのようにはいかないということを、じっくりと君に教えてあげ――」 最後の一枚にエツィオの手が伸びた、そのとき……。 ドアが勢いよく開け放たれた。 また男か? いいところなのに……。と思ったら違った。 ネグリジェ姿のルイズが立っている。 「げっ……!」 その姿を見たエツィオがキュルケから飛び退く。 幾多の死線を潜り抜けたエツィオが思わず身構えるほど、今のルイズからは怒気と殺気があふれ出ていた。 ルイズは忌々しそうに部屋に立てられたロウソクを一本一本蹴り倒しながらエツィオとキュルケに近づいた。 「キュルケ!」 ルイズはキュルケの方を向いて怒鳴った。 ぽー……っと上の空だったキュルケが、我に返り振り返った。 「……あら? ヴァリエールじゃない、いまいいところだったのに……」 「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出してんのよ!」 ルイズの鳶色の瞳は爛々と輝き、烈火のような怒りを示している キュルケがシーツを手繰り寄せ胸元を隠した。 「あぁ……それね、うん……それが、好きになっちゃったの、本当に……」 キュルケはうっとりとした表情で言った。 ルイズの手がわなわなと震える。 「エツィオ、来なさい」 ルイズは窓だった壁の穴からこっそりと逃走を図ろうとしているエツィオを睨みつけた。 ビクっとエツィオの身体が硬直する、ルイズはずんずんと近づくと、エツィオの襟元をがしりと掴んだ。 「そ、それじゃキュルケ! また会おう!」 ルイズに襟元を掴まれ、ズルズルと引きずられながら退出していく。 バタン、と部屋のドアが閉まる、その様子を上の空で眺めていたキュルケがぼんやりと呟いた。 「ふふっ……うふふふふ……ルイズ、彼はあなたの手に余るわよ……くしゅん!」 窓だった壁の穴から吹き込む風に体を冷やしたのか、小さくくしゃみをする。 「はぁ……、この窓どうしましょ……」 部屋に戻ったルイズは、慎重に内鍵をかけると、エツィオに向き直った。 唇をギュッと噛みしめると、両目がつりあがった。 「まるでサカリがついた野良犬じゃないの~~~~~~ッ!!」 声が震えている。ルイズは怒ると口より先に手が動き、手よりも先に足が動く。 この一週間生活を共にして、その辺はエツィオも承知していたが。 もっと怒ると、声が震えるのは初めて知った。 ルイズは顎をしゃくった。 「そこにはいつくばりなさい、わたし間違ってたわ、あんたを一応人間扱いしていたみたいね」 「この扱いで人間って、君にとって人間ってどんな存在なんだよ」 「ヘラヘラ笑うなッ! ツェルプストーの女に尻尾を振るなんてぇーーーーーーッ! 犬ーーーーーーッ!」 ルイズは机の引き出しから何かを取り出した。鞭である。 「ははっ、薄々感づいてたが、君にそんな趣味があるなんてね……ちょっと意外、でもないか」 それを見てもエツィオは余裕の態度を崩さない、それが益々腹立たしい。 ルイズは怒りにまかせピシッっと床を叩いた。 「ここここ、この、ののの野良犬! 野良犬なら野良犬らしく扱わなくっちゃね。いいい今まで甘かったんだわ」 「本気でそういう趣味なのか? 困ったな、俺はどっちかっていうと責める方が好きなんだけどな」 エツィオはルイズの持った見事な鞭を見つめて茶化した。 いやぁ、立派な革製の鞭である。 「じょじょじょじょじょ、乗馬用よ! ソッチの鞭じゃないわよ! この馬鹿犬ーーーーッ!」 「おわっ!」 ルイズは鞭を振りかぶりエツィオを叩こうとする、紙一重で回避し、テーブルを挟むように逃げた。 「おい、落ちつけよ! えっと、その、さっきのは彼女が困ってたんだって! ……多分」 焦っているように見えて、口元がニヤついている、完全にナメている。 その態度がルイズの怒りにさらに油を注いだ。 「そこに直りなさい! 今日という今日はあんたに自分の立場ってものを文字通り叩きこんでやるわ!」 「ははっ、そればかりは……!」 「なによ! あんな女のどこがいいのよッ!」 エツィオは振り下ろされた鞭を手甲ではじき、ルイズから奪い取る。 目にもとまらぬ早業、ルイズは何が起こったのかわからないと言った表情でエツィオを見つめた。 エツィオは小さく笑うと、鞭を振い、ルイズと同じようにビシッ! と床を叩いた。 これから何をされるのか察したのか、ルイズの顔がみるみる青くなる。 「かっ……返しなさいよ……ッ!」 「おや? 言葉使いがなっていないな、攻守逆転だぞ、ご主人様。いや、この場合、ご主人様は俺か」 「ひっ……、あ、あんた、な、何する気よ……! や、やめなさいよ! 何考えてるのよ!」 「君と考えてることは一緒さ、立場ってものを教えてあげようと思ってね」 とってもサディスティックな笑みを浮かべたエツィオにルイズがへたり込む。 どうしよう……このままじゃ本当に……。 エツィオが手に持った鞭を振り上げ、ルイズを叩く、と思いきや。 そのまま後ろ手に鞭を放り投げた。 「なんてな、冗談さ、君相手にそんなことしたら俺は世界中の男どもに命を狙われるだろうな。五年後の楽しみとして取っておくよ」 エツィオは、笑いながら肩を竦める。 そして腰を抜かし、床にへたり込むルイズに手を差し伸べた。 「なんだよ、この程度で怯えるだなんて、可愛いところもあるじゃないか」 ルイズはエツィオの手を取り立ち上がる。 そしてぎゅっと、手を握り締め、目に涙をため、上目づかいにエツィオの事を見つめた。 今までの態度から一変してしおらしくなったルイズに少々驚いていると、 ルイズがぼそぼそと呟き始めた。 「あ、あの……その……エツィオ……」 「ん? 何だい?」 僅かに自分の名前を呼ぶのが聞こえる、 エツィオは怪訝に思いつつもルイズに近寄った。 それがいけなかった、逃がすまいと掴まれた手に力がこもりエツィオの動きを封じる。 「死ねッ!!」 ルイズの右足が疾風のように動き、エツィオの股間を蹴りあげた。 「ぐっ……ぬぁ……」 エツィオは地面に膝をつき悶絶する。 衛兵達を相手にしているときも何度かもらった事はあるが、 これほどまでに見事な金的は食らったことがない……。 やはり男性同士、どこかで遠慮というものがあったのだろう……。 「ふ、ふふふ、つ、捕まえたわよ……この馬鹿犬……!」 ルイズは不気味に笑うと、床に落ちた鞭を拾い上げる。 もちろん手は握ったままだ。指が食い込んでいる、何があっても逃がすつもりは無いらしい。 「なっ……お、おい、やめろ……」 「ごごご、ご主人様をこんなに、かかか、からかうなんて、これは一から躾けないとだめなようね……!」 息も絶え絶えなエツィオを見下ろし、ルイズが鞭を振り上げる。 それを見たエツィオの顔が青くなった。 「お……落ち着け……! は、話せばわかるって!」 「問答無用よこの馬鹿犬ーーーーッ!!」 夜はまだ始まったばかり、ルイズのお仕置きは空が明るむまで続き……、 さらにその後、朝までヴァリエール家とツェルプストー家の長年の因縁についての講義が続いたという。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1330.html
前ページ次ページ使い魔のカービィ ルイズは意気揚々とミセス・シュヴルーズの『錬金』の授業を受けていた。 それもそのはず、先程カービィの意外な能力を発見し、役立たずではないと証明されたのだ。 カービィのあの吸い込み、風力だけならかなりの物だ。 何に使えるかは未知数だが、色々道はあるだろう。 風っぴきが教室に入ってきたとき野次を飛ばしてきたが、今まで感じていた劣等感を感じずに済んだ。 カービィが凄い力を秘めた使い魔だったことの嬉しさが、ルイズを苛んできた劣等感を上回ったのだ。 (優しくて、特殊な能力も持ってて、珍しくて……最高じゃない! 私の使い魔!) あとは強ければ……とも考えたが、それは流石に望みすぎだ。 とにかく、自分が理想としていた使い魔より若干劣るものの、カービィは使い魔として申し分のない存在だ。 あの食欲には驚かされたが、その辺はしっかり躾ればきっと最高のペアになれるだろう。 そんなことを考えながらニヤつくルイズだった。 一方ルイズの隣の席では、カービィがミス・シュヴルーズの話を熱心に聞いていた。 真面目に授業を受けているのか、というとそうではない。 ただ単に、カービィは周りの生徒達の真似をしているのだ。 第一カービィに魔法のイロハが分かるはずもなかった。 段々真似をして授業を聞くのにも飽き、睡魔が彼を襲いつつあった。 そんな2人に関係なく、授業はどんどん進んでゆく。 「……と、言うわけで。一年生の時に出来るようになった人もいるかと思いますが、もう一度おさらいしてみましょう」 そう言うと、ミセス・シュヴルーズは石ころをいくつか取り出した。 その動作が気になったのか、夢の世界へ旅立とうとしていたカービィの意識がゆっくり覚醒する。 ミセス・シュヴルーズがルーンを唱え、小さく杖を振った。 するとどうだろう、ただの石ころが輝きだし、光沢ある金属へと変わったではないか。 生徒達から感嘆の声が上がり、キュルケが興奮のあまり立ち上がた。 「ゴ、ゴ、ゴ、ゴォルドですか!? ミセス・シュヴルーズ!?」 「いえ、ただの真鍮です」 「なんだ」 熱を失うと、キュルケはつまらなそうに席に着いた。 「ゴールドが錬金金出来るのはスクウェアのメイジだけです。私はまだトライアングル……って、あ、あなた! 授業中ですよ!」 その声に教室中の視線が一点に注がれた。 授業を真剣に聞いていた者も、居眠りしていた者も、トリップしていたルイズも注目した。 追記しておくと、ルイズは今にも顔から火が出そうだった。 「カービィ!」 「ぴぃよ、ぽよぉ♪」 なんとミセス・シュヴルーズがたった今錬金した真鍮を、カービィがおもちゃにして遊んでいるのだ。 「やっぱりルイズの使い魔だな! やってくれるぜ!」 「主人が主人だからな!」 教室から湧き上がる爆笑。 ルイズは先程の考えも吹き飛び、穴があったら入りたい思いでいっぱいだった。 そうこうしている内にミセス・シュヴルーズはカービィを捕まえ、ルイズの下へ運んできた。 「コホン。ミス・ヴァリエール、使い魔の躾はちゃんとして下さいね?」 「すみませんでした……」 「ぽよ?」 主人が怒られているというのに、カービィは相変らずボケた顔をしている。 ルイズは初めて己の使い魔が恨めしいと思った。 しかしルイズの不幸はまだ続く。 「それでは、丁度良いですね、錬金のおさらいをあなたにやっていただきましょう」 ミセス・シュヴルーズがそう口にしたとたん、教室中が凍り付いた。 生徒達の顔からは血の気が引き、一部机の上を片付け始めた者もいる。 「わ、私がですか!?」「ええ、そうですよ。石ころを望む金属に変えてみなさい」 「あの、先生……やめておいた方がいいと思います……」 ミセス・シュヴルーズがルイズを教壇へ連れていこうとしたとき、キュルケが何かに怯えるようにそれを止めた。 「何故です? ミス・ツェルプストー」 「危険だからです」 キッパリと答える。 他のほとんどの生徒も大きく首を縦に振った。 しかし、昨年ルイズを教えていなかったミセス・シュヴルーズは、生徒達の忠告を嫌がらせだろうと捉えてしまった。 それにこれは錬金の授業、余程のことがなければ危険はない。 そう高を括ったのが彼女の不運であった。 「さあ、ミス・ヴァリエール。失敗を恐れずやってみなさい」 「………はい!」 ミセス・シュヴルーズと共に教壇へ上がったルイズは、杖を石ころへと向けた。 「やめて、ルイズ!」 キュルケが叫んだが、もうルイズは杖を構えていた。 (『サモン・サーヴァント』が成功したんだもの……錬金だって!) ルイズが自分にそう言い聞かせ、ルーンを唱え始める。 その様子を見ていたカービィは、視界が急に広くなったことに気が付いた。 「ぽよ……?」 周りを見回すが、誰も席に着いている者はいない。 机の下に隠れ、まるで『何か』を怖がっているようだ。 「カービィ!」 「ぽょ?」 カービィが後ろを振り向くと、キュルケが必死で手招きをしている。 その様子から、とても焦っていることが伺えた。 「悪いことは言わないから、早くこっちにいらっしゃい!」 「ぽぉよ?」 言われた通り、席から降りてキュルケの下へ向かうカービィ。 しかし、カービィがあと少しでキュルケの下へ『避難』できる寸前。 教室が爆光と爆煙と爆音と爆風に包まれた。 「ぽよぉぉーーーーー!?」 「あ……遅かったわね」 爆風に飲み込まれたカービィは、教室の扉に勢い良く激突。 頭の打ち所が悪く、そのまま気絶してしまった。 爆心地にいたルイズとミセス・シュヴルーズにいたってはもっと被害が酷かった。 髪はアフロになり、衣服はボロボロ。 おまけに黒板に後頭部を強打し、脳震盪を起こして授業時間中に目を覚ますことはなかった。 「はぁ………」 ようやく目を覚ましたルイズは、1人寂しく荒れ果てた教室の片付けをしていた。 カービィはまだ気絶しており、教室の隅に寝かせてある。 「また失敗……」 カービィの召喚が成功していただけに、ルイズにとってこの失敗は手痛かった。 いつもの失敗ならばこれほど落ち込むこともなかっただろう。 しかし、自分の使い魔を得、自信を持った矢先の出来事だっただけに、ショックも大きい。 (カービィが来たから全部うまくいく、なんて……甘かったのかな………) 人間、一度気分が沈むと、底に辿り着くまでなかなか立ち直れなくなるものだ。 特にルイズは今まで罵られ続けたせいもあり、こういうネガティブになりがちな一面があった。 「はぁ……」 ルイズは何度目か分からないため息をく。 「あの……」 その時、ルイズは不意に後ろから声をかけられた。 どこかで聞いたような声に後ろを振り返ると、シエスタが教室の出入り口に立っていた。 「シエスタ……どうかした?」 「お手伝いしましょうか? ミス・ヴァリエール」 「えっ、でもあなた仕事は……」 ルイズはシエスタからの意外な申し出に一瞬戸惑った。 確かにメイドに手伝いを頼むのは禁止されていない。 だからと言って、忙しいメイドの身である彼女に頼ってしまっていいのだろうか。 しかし、シエスタはルイズに向かってにっこりと微笑んだ。 「少し余裕がありますので、お掃除くらいでしたら手伝えます」 「……また世話になっちゃうわね」 「いえ、私は使用人ですから。お気になさらず」 「……そ、そうよね。あなたはメイドなんだし、当然よね! …………………でも、ありがと」 最後の方は小さすぎて、シエスタには聞こえていなかった。 シエスタという強力な助っ人を手に入れ、片付けの速さは驚くほど早くなった。 さすが現役メイドである、素人貴族とは格が違う。 そして、やっと片付けが終わりそうになってきた頃。 「あの、さっき落ち込んでいたようですが……」 シエスタが急に口を開いた。 しかもルイズが一番触れてほしくない内容について。 「………ええ、また失敗しちゃってね……」 いつもの彼女なら『関係ないでしょ』と怒鳴りつけそうなものだが、今の精神状態では無理があった。 自嘲気味に今日の失敗や、今までもそうだったことを堰を切ったように話すルイズ。 シエスタはルイズが話し終えるまで、黙ってそれを聞いていた。 そしてすべてを一通り聞き終えた後、シエスタはゆっくりと語りかけるように話し出した。 「私のような平民が、貴族様にこのようなことを言うのは厚かましいと思いますが……ここはトリステイン魔法学院です」 「?」 何を言っているのだろうかと、ルイズは作業をする手を休め、シエスタの話に聞き入った。 シエスタもそれに気が付いたのか、同じく手を止め、話しに集中する。 「つまり、勉強できる場所ということです。ですから、『今』は出来なくてもいいんじゃないでしょうか? ここでもっともっと勉強して、『いつか』使えるようになれば。」 「それに、ミス・ヴァリエールはカービィさんを召喚出来たじゃないですか。なら、他の魔法も使えるようになります。いつか必ず。……出過ぎた事を申しました。申し訳ありません、ミス・ヴァリエール」 シエスタは自分の非礼をルイズに詫び、深々と頭を下げた。 貴族を恐れているシエスタがこんなことを言えたのは、魔法を使うことができないルイズに何か近いものを感じたのかもしれない。 だからこんな少し無理があるようなことも言えたのだろう。 しかし、それは決してルイズを卑下しているという意味ではない。 普段の生活から垣間見える努力の姿から、ルイズは立派な貴族だとシエスタは思っているのだから。 「………本当に、そう思う?」 やはり不安があるのか、ルイズは躊躇いがちにシエスタに問った。 シエスタは穏やかな笑みで答える。 「はい。ミス・ヴァリエールなら大丈夫です」 「ぽよ!」 「ほら、カービィさんもそう言ってます」 「そうね……って、いつ起きてたのよ」 「ぽよ?」 「まったくもう……」 今更出て来て美味しい所を持っていった使い魔に苦笑いを浮かべるルイズ。 その顔からは先程の暗い雰囲気は感じられなかった。 「分かったわ、もう少し頑張ってみる! そして私のことをバカにした奴らみんなを見返してやるんだから!」 「その意気ですよ、ミス・ヴァリエール!」 「ぽよ! ぽぉよ!」 やる気も新たにルイズは拳を握りしめ、使い魔とメイドに自分の目標を公言した。 果たして、彼女がこの目標を実現することが出来る日は来るのだろうか。 それは神のみぞ知るところだが、意外にも、それは遠い未来ではないのかもしれない。 前ページ次ページ使い魔のカービィ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1125.html
>>back >>next 「なな、なによっ! ばかばかばか、とらのバカ! 変態! いい、いやらしい、いやらしいわ!」 さっきからルイズが手当たり次第に物を壁に投げつけるせいで、ルイズの部屋は竜巻が通ったあとのように惨憺たる状況となっていた。 ルイズの目は真っ赤になっている。鳶色の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。 「……恋だったんだねえ娘っ子」 「うっさい!」 一声さけぶと、ルイズはデルフをぶん投げ壁に叩きつけた。ゴトンと床に落ちたデルフリンガーは「ぐえ」と一声呻いて、それっきり動かなくなった。 手に届く範囲のものを全て投げたルイズは、ふー……ふー……と荒い息をつきながら周りを見渡す。 ……だが、そのうちにくにゃりと体から力が抜け、ルイズはベッドにへたり込んだ。嗚咽がこみ上げてくる。 シーツをぎゅっと握り締めて、ルイズは枕に顔を押し付ける。 (違うもん……恋じゃないもん……) とらへの気持ちは、デルフの言うような『恋』ではない、とルイズは思う。 (そそ、そりゃあ、ちょっとだけ……どきっとしたりとかはあったわよ……でも、結局人間と幻獣だもの。それぐらい分かってるわ……) ルイズにとっては、あの金色の使い魔はもっと大切なものだったのだ。 魔法が使えず『ゼロのルイズ』と呼ばれて馬鹿にされてきた自分を変えてくれたものなのだ。今ではもう、『ゼロのルイズ』と呼ぶものは一人もいない。 そのとらが、自分の手を離れることが怖いのだ。 強力な使い魔がいなくなれば、魔法の使えない自分は、再び『ゼロのルイズ』に逆戻りしてしまう……そう考えるのは、ルイズにとって何よりも苦痛だった。 ……だから、あの竜に嫉妬しているのではなく――ましておっぱいが大きいからうらやましいとか、そんなことを考えているわけではないのだ、断じて。 ルイズはプライドにかけてそう自分を納得させた。 (……やっぱり、キュルケの言う通りだった。私、甘えてたのかしら……) そう思いながらも、ルイズの涙はとめどなく溢れる。自分では気がついていない心のどこかで、やはりとらに憧れていたのだろうか。 人語を解する韻獣であり、風竜よりも速く空を飛び、スクウェア・クラスのメイジを越える炎と雷を放つ。 (その上、髪の毛で剣を自由に操り、呪文の詠唱なしで人間の姿に変化し、壁をすり抜け姿を消し……って、なにそれ。何でもありじゃない!?) 改めてとらの有能さに打ちのめされるルイズ。自分はどうだろうか……少しは成長しているだろうか……? 答えは否であった。 ルイズは机に頭を打ち付けはじめた。 そんなルイズを見かねたように、デルフリンガーが声をかける。 「おい、娘っ子……そんなに自分を責めるもんじゃないぜ……相棒の強さは並じゃねえ。そんな使い魔を召喚できたのはおまえさんぐらいだろうよ。 だから……胸を張りな」 「デルフ……」 額を赤く染めながら、ルイズはデルフリンガーを見つめる。ルイズはそっと立ち上がると、インテリジェンス・ソードを拾い上げ、ベルトを自分の肩にまわした。 「おでれーた、何のつもりだ、娘っ子?」 「とらは使わないでしょ……せっかくだから、あたしが使ってあげる。もったいないし。いいことデルフ……」 ルイズは決意した表情で、すう、と深呼吸した。いやな予感がデルフの脳(どこかにあるとしてだが)をよぎる。 「今日からわたし、魔法剣士になるわ……!」 ……まったく突然の宣言であった。 部屋に気まずい沈黙のカーテンがするすると下りる。やがて、言いにくそうにデルフリンガーが口を開いた。 「……冗談きついぜ。おまえさんじゃ、満足に振ることもできねーよ……」 「う、うるさい! これから鍛えればなんとでもなるわよ。女剣士ならいくらでもいるじゃない! それとも、このまま埃かぶってるほうがいいってわけ!?」 どっちもどっちだなあ……、と嫌そうにぼやくデルフ。苦情には取り合わず、ルイズはごしごしと涙を拭くと、散らかした部屋の片付けを始めた。 「あらまあ……どうする?」 「どうしましょう……?」 「……どうしようもない」 ドアの外では、キュルケとタバサ、シエスタの三人が困ったように顔を見合わせていた。いや、あなたのせいでしょ、とキュルケがタバサの頭をポカと叩く。 シエスタは『お茶』を入れたティーポットにカップを持っている。タバサはキュルケに叱られ、ガリア王家の任務について白状させられた上で、ここまで引きずられてきた。 そして、ドアの前で鉢合わせしたところで、ルイズの『魔法剣士』宣言を聞いたのであった。 (ルイズ……あなたってバカね……ほんとに) 自分のアドバイスが友人をさらに迷走させていることに頭を痛めながら、キュルケはドアをコンコンとノックした。 タバサがカップをシエスタに差し出した。 「……おかわり」 「は、はい……どうぞ、ミス・タバサ」 「タバサ……あなた、それもう五杯目よ?」 「美味しいから」 まあ……ならいいけど、とキュルケは溜息をつく。シエスタの『お茶』は、大いにタバサの気に入るところとなったようであった。 キュルケはシエスタのほうを向いて、一つ咳払いをした。シエスタの『相談事』のほうは、さっきからタバサに腰を折られているのだ。 「コホン……それで、村に出る妖魔ってどんな奴かしら、シエスタ。続けてちょうだいな」 「はい……オーク鬼なんですが……少し様子がおかしいらしいんです」 シエスタは故郷届いた手紙に書かれた内容について話し始めた。 ラ・ロシェールを越えた草原が広がる中に、シエスタの故郷タルブの村はある。そして、オーク鬼は出没するのは村はずれの寺院であると言う。 その寺院は扉が閉ざされ、どうしてもあけることができないため、「開かずの寺院」などと呼ばれて近づく人もいない。 そんな見捨てられたような寺院の周りに、最近になってオーク鬼がうろつくようになったのである。 本来、オーク鬼は人を襲う。しかし、どういう訳か、その寺院の周りを囲むように集まるだけで、タルブの村を襲ってくる気配はない。 そのため、王宮に出した討伐依頼も、犠牲者が出ていないこともあって、かんばしい答えが返ってこないのであった。 しかし、日に日にオーク鬼の数は増え、村人は怯えている。一説には、その寺院が―― 「……おかわり」 「タバサ。邪魔しないの」 カップを差し出すタバサの頭をポカリと叩くキュルケ。シエスタがタバサのカップに、ポットから『お茶』を注ぐ。 「一説には、その寺院の扉が開かなくなったのは、そこに女の『幽霊』が住み着いてからで――きゃあ、み、ミス・タバサ? ど、どうしたんです、カップをひっくり返して!?」 「……な、なんでもない」 カップのお茶を零し、カタカタと震えながら顔色を青くするタバサ。首をかしげながらも、テーブルを拭き、シエスタは説明を続けた。 「それから、寺院には誰も入れなくなったと言います。とにかく、そこにオークが集まってきて……もう五十匹近いって、手紙では知らせています」 「ご、五十ですって……」 「お、お願いです、助けてください! ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ! 村を、私の故郷を救ってください!」 そう言ってシエスタは必死に頭を下げた。ルイズとキュルケは顔を見合わせる。正直、一生徒の手に負える数でもなかった。 ただ一人、戦闘経験の豊富なトライアングル・メイジの彼女を除いては…… ルイズはじっとタバサを見つめる。 「……どう、タバサ。私たちで戦えるかしら……?」 「無理。私行かない」 即答である。 「タバサ、あなた……オーク鬼のところよりも、幽霊の話で怖がってないかしら……?」 「ない」 「ひょっとして、タバサって怖がりなわけ? 呆れた……トライアングル・メイジなのにユーレイが怖いの?」 「違う」 口では否定するものの、よほど幽霊が怖いのか、頑として譲らないタバサである。シエスタが心配そうに見つめる中……キュルケとルイズがどうにも説得しあぐねていた、その時―― ――どこからか、声が聞こえてきた。 『やーれやれ、心配ないぞう……』 『お役目さまは幽霊でも綺麗なお方だよぅ……』 「ひ」とタバサが声を漏らす。 「ル、ルイズ……どこから聞こえるの?」 「わわ、わかんないわよ……! ちょっと! 誰だか知らないけど、でで出てきなさいよ……!」 声を震わせながらも、ルイズとキュルケはキョロキョロとあたりを見回した。……と、壁から、ぬ、と細い腕が現れる。 唖然とするルイズたちの前で、まるで霧をぬけるようにやすやすと、『それ』は壁から現れて見せた。 その姿は、まさに妖魔――という言葉しか見つからなかった。 腕と足は三日月状の胴体から突き出ている……のだが、あろうことか、胴体は真ん中から真っ二つに分かれており、そこから二つ、頭が覗いているのだ。 『あたしは時逆……』 『そして、あたしが時順だよう。時の狭間を旅する妖怪さーあ』 その『頭』がそれぞれ自己紹介して、シエスタ、ルイズ、キュルケの三人は唖然とした。タバサに至っては、既に失神して意識は闇の中である。 「な……なにをしにきたの……何の……用……」 に、と時順が笑う。 『……そこにいるシエスタ嬢ちゃんと同じ用さぁ』 「え、え? な、なんで私の名前を……!」 『なーに、なんでも知ってるさ……生まれたときからずっとなあ。わしらは「時」を旅すると言ったろう……』 慌てるシエスタに時逆が言う。続けて時順が口を開いた。 『さーて、ルイズ嬢ちゃん、お前さんの「時」が来たよう。見るべきものを見、知るべきことを知る「時」がなぁ……』 そう言って、時順はルイズに向かってニヤリと笑って見せた……。 ごぉぉおぉおぉおおおぉう…… タルブの村に、唸りをあげて風が吹いた。 オーク鬼たちの間を吹き抜ける風は小石を巻き上げ、寺院の壁にパラパラと音を立てる。 ぶごぉっ……ぶぎぃ…… 異形に取り付かれ、片目が巨大に膨れたオーク鬼たち――いや、かつてオーク鬼だったもの、というべきだろうか――は、村はずれの寺院の周りをうろつく。 ――いるぞ……ここにいるぞ……壊せ、壊せ、白面の御方の御為に…… ――嫌なもの、恐ろしいものがここにいる。この中にいる…… おぞましい婢妖たちの呟きが夜の闇を震わせ、やがて風に消えていった……。 >>back >>next