約 1,871,268 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1426.html
ルイズの部屋に隠していた本をとり、厨房へと向かう。 そこにシエスタがいると思ってだ。というより厨房以外にいる心当たりが無い。 食事のとき以外シエスタに会ったことが無いので(勿論例外はある)いる心当たりがあるのは厨房だけなのだ。食事のときはいつも厨房にいたからな。 厨房にたどりつくと肩から猫を持ち上げそこらへんに投げておく。 「ミーーーーー!?」 厨房は料理をする所だ。動物を入れるわけにもいかないだろう。 しかしあまり中には入りたくないものだ。 何故ならマルトーがいるはずだからだ。あいつ五月蠅いし近寄ってくるし食いたくもない物勧めてくるしでうんざりだからな。 だからとって遠ざけては嫌われて疎まれうまい料理が食べられなくなる。 本当に人付き合いってのも本当に大変なものだ。 よし、ここはドアから覗くだけにしよう。それだけでもいるかいないかは確認できる。 ドアを少しだけ開き顔だけ覗かせる。 ……シエスタはいないようだ。そりゃあ厨房だけにいるわけが無いか。給仕だけやっているわけでもないだろうし。 下女だからいろんな雑用もするだろう。 ドアを閉め厨房から離れる。 文字を教えてもらうのはまた今度だな。シエスタならどうせ教えてくれと頼めば断らないだろ。 そういえば猫はどうしただろうか?さっき投げたっきりだ。 また後ろにいるのか? そう思い向くが猫はいない。さすがに投げたからどこかへ逃げたのかもしれないな。 ……まあ猫なんてどうでもいいことだ。今まで私についてきていたのも猫特有の気まぐれだろう。 そう思い歩こうとしたとき、ふと視界の下に一瞬だけだが茶色が見えた。 ゆっくりと下を向くと子猫が足元にいた。私が下を向いて子猫を見ているように、子猫も上を向いて私を見ている。 「というか何時の間に足元に?」 私は別に答えを求めて言ったわけじゃない。いつの間にか口に出ていただけだ。 当たり前だが子猫は答えない。何も答えず私の足元に寝転んだ。 私は無言のまま子猫を抱き上げるとまた肩の上に乗せた。そんなに私に付きまとうなら暇つぶしの材料になってもらおう。 「……カ…さん」 体を揺さぶられる感覚がする。 一体なんだ? 「…きて………い、ヨシ……さん」 だんだん声が大きくなっていく。 「ヨシカゲさん」 目を開けると目の前は薄暗かった。どうしてだ? そう思うと同時に顔と腹に何かが乗っている感触がある。 顔に手をやり顔に乗っているものをとる。顔に乗っていたものは帽子だった。 そして帽子をとった視界に映ったものはシエスタの顔だった。 よく見るとシエスタが私の頭のすぐ横に座り込んでいる。 「おはようございます」 「……おはよう」 何がどうなってるんだ? 「もう夕方ですよ。こんなところで寝てたら風邪を引いちゃいますよ」 シエスタが苦笑しながら私にそう言ってくる。 寝てたら?そうか、寝てたのか。 猫弄くって遊ぶのにも飽きて、帽子を顔に被せて寝転んでたからな。そりゃ寝てしまうのも無理は無い。 しかしなんでシエスタがここに?この腹になんか乗っかている感触は? 体を起こそうとするとシエスタが肩を押さえとめる。 「シ、シエスタ?」 「起きちゃダメですよ。目が覚めちゃうじゃないですか」 目が覚める?誰の? シエスタの視線は私の腹に向けられている。シエスタの視線の先を見るとそこには子猫がいた。 私の腹の上で丸まってクースカいびきを掻きながら眠っている。 「かわいい子猫ですね」 シエスタはそう言いながらにこにこと笑っている。しかし、 「じゃあ私は何時まで寝ていればいいんだ?このままだと風邪引くんじゃなかったのか?」 「少しぐらい平気ですよ」 いや、そんなこと笑顔で言われてもな。 「それにしても貴重な光景が見れました」 「貴重な光景?」 「ええ。いつもはクールなヨシカゲさんがお腹に子猫乗せて一緒に眠ってる光景です」 シエスタはにこにこ笑いながらそういった。 「そんなにおかしいか?」 「そんなこと無いですよ。ただいつも違う光景が見れて面白いなって」 「ふーん」 なんだかシエスタに主導権をとられているような気がする。 はじめてあった時より押しが強い感じがする。 この前のあやとりのときも主導権をとらたしな。他人に主導権を握られているのはあまりよくないことだ。 シエスタが何か言う前に体を起こす。 体を起こすと腹の上で眠っていた猫が転がり足の間にすっぽり納まる。 「なんで起きちゃうんですか」 「それで、私に何か用事か?わざわざ起こして」 「そうでした!とても珍しいものが手に入ったので、ヨシカゲさんにご馳走しようと思って。今日厨房で飲ませてあげようと思ったんですけどおいでにならないから。 それで明日にしようと思ってたんですけど偶然見かけまして」 ご馳走ねえ。飲ませるってこと飲み物か。 興味はあるな。 「それなんていう飲み物?」 「東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品で、『お茶』っていうんです」 「『お茶』?」 「そうです」 この世界じゃお茶は珍しいものなのか。私は飲んだことはないけどな。 しかし興味はある。お茶といえば広く普及している嗜好品だ。興味が出ないはずが無い。 「ここに持ってきましょうか?」 「持ってきてくれるのか?」 「外で飲んだほうがおいしい時があるんですよ」 「じゃあよろしく頼む」 「はい、少し待ってってくださいね」 そう言うとシエスタは立ち上がり厨房へ向かっていった。 それを見送り、足の間にいる猫を見る。ぐっすり眠っていた。 寝すぎだろ。三年寝太郎かよ。 そんなことを思いながら帽子を被った。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7831.html
前ページ次ページ疾走する魔術師のパラベラム 第四章 そんな笑顔が 1 「ミセス・シュヴールズからミス・ヴァリエールの教室の片付けの手伝いを、と申しつかりましたメイドのシエスタでございます」 嵐が過ぎ去ったかのような惨状を見せる教室に入ったシエスタはそう言って、スカートの端を摘まんで、スッとお辞儀をする。顔を上げるとそこには、一人の少女。 シエスタの身長よりも低い小柄な体躯を持つその少女。鳶色の大きな瞳は宝石のような輝きを湛えており、腰の辺りまで伸ばした細く艶のある髪は、僅かに桃の色が差している。陶器のような張りと白さを湛えた肌と合わさり、まるで花壇に咲き誇る一輪の花のようだ。 ほかの学院の生徒たちと同じ黒いマントと白のブラウス、灰色のプリーツスカートといった装飾の少ない制服を着用しているのにも関わらず、まるでルイズの姿に合わせたかのように似合っている。 学院就きのメイドであるシエスタにとっては見慣れた姿だが、ここまでの美少女は中々いない。 そんな可憐な姿はシエスタの印象に強く残った。なんというか猫の魅力に近いものを感じたのだ。 「ああ、あなたが先生の言っていたメイドね」 ミス・ヴァリエール――ルイズがその声を聞き、いくらか和らいだ表情で振り向いた。 「ちょうど良かったわ。シエスタ、そっちを持ってちょうだい」 見ればルイズは倒れてしまった教室の机の一つを立てようと、机の中央の辺りを持ち力を込めているところだった。 小柄なルイズでは大きな机のバランスを取るような持ち方はできないし、そのような力も足りない。 「あ、はい!」 傍から見れば小さな子供が重い荷物を持ち上げるようで微笑ましい光景だったが、シエスタはルイズの手伝いをする為にここに呼ばれたのだ。 「では、私はこちらを持ちますので、ミス・ヴァリエールはそちらをお願いできますか?」 「わかったわ。・・・・・・せーの!」 ルイズの掛け声に合わせて二人は机を起こそうと力を込める。常日頃から女性の身ながらも、それなりに力を使う機会の多いメイドであるシエスタのおかげか、机はなんとか立ち上がった。 何人かが同時にかける教室の机はかなりの大きさだったが、なんらかの魔法でも掛かっているのか、女性二人の力でもバランスさえ取れれば起こすのはそう難しくはない。 「ふぅ、それじゃあ残りの机も起こしてしまいましょう」 シエスタとルイズは二人で机を運んでいく。手際よく、とは行かなかったが手馴れたシエスタのおかげでなんとか全ての机を運び終える。 シエスタが新しいガラスを運び、ルイズは雑巾で教室を包んだ煤を磨き落とす。 掃除などあまりやったことがないであろうルイズの手際は悪く、シエスタは見かねて手伝う。すでにガラスは全て運び終えていた。 2 「一段落付きましたね」 太陽が上の方まで上がり、影が短くなってきた頃には教室はほぼ片付いていた。 「ええ、あなたのおかげね、シエスタ。ありがと」 「い、いえ、そんな! ミス・ヴァリエールが手伝ってくださったからです」 貴族であるルイズが平民であるシエスタに対してお礼を言う。そのような状況はなかなか無い。 ここの生徒はプライドが高く、こういった事は珍しい。 平民との距離が近い弱小貴族の子供などであればこういった事は時々ではあるがある。しかし、トリステイン魔法学院は国立ということもあり、通うことのできる貴族はある程度の地位を持った者に限られる。 少ない例外はゲルマニアからの留学生であるキュルケぐらいだ。ゲルマニアでは財産次第で貴族になることができるので、名門でも平民との距離が近いのかもしれない。 「平民の私にお礼だなんて・・・・・・」 恐縮してしまったシエスタが発した声は、語尾が掠れててしまい聞き取れないような大きさだった。 ルイズの実家、ヴァリエール家はトリステイン王国中にその名を轟かせる名門である。領地は広大であり、領主は代々優秀なメイジ。戦争となれば王国の杖として戦い、平時では国境を任せられるほどである。 そんな名門の生まれであるルイズが、たかが学院のメイドにお礼を言うなど考えられないことだった。 「確かに・・・・・・ほんの少し前の私ならこんな事は言わなかったでしょうね」 ルイズはそう言って、変えたばかりの曇り一つ無いガラスが嵌まった窓に背中を預ける。視線をシエスタから外して窓の外を眺めるルイズは美しかった。 昼前でも春の日差しはまだ強くはなく、ぽかぽかと気持ちがいい。空気を入れ替えるために開け放った窓からは、爽やかな春風が教室を満たす。微かに花の香りを乗せた風は心地いい。 「私は魔法が使えなかった。家でも使用人からも馬鹿にされ、中には平民との子供じゃないか、なんて言う人間までいたわ」 当時を思い出しているのか、語るルイズの顔はどこか悲しげで。そんなルイズの顔を見るとシエスタはなんと声をかけていいのかわからない。 なんだか胸が締め付けられるような、そんな表情をルイズは浮かべていた。 「だからかしら、私は誰を信じていいのかわからなくなった。名門ヴァリエール家の娘、優秀な両親や姉妹、そんな中で私だけが魔法が使えない。私の唯一の心の支えは『貴族の誇り』って看板だけだった。必死になったわよ。それでも魔法は成功しないの。悔しかったわ、とってもね」 そう語るルイズの目はどこか暗くて、吸い込まれてしまいそうだ。 『ゼロ』の噂はシエスタだって知っている。 魔法の使えない貴族。魔法成功率0%。爆発により備品などを壊し、時折シエスタたち使用人の仕事を増やす。そして本人は悪びれようともせずに平民をほかの貴族と同じように使う。 「『ゼロ』のくせに」そんな嘲りの込められた愚痴を、シエスタも何度か同僚から耳にしたことがあった。 平民と同じように魔法が使えないのに、貴族の服を着て、貴族の食事を取り、貴族のベッドで眠る。ただヴァリエール家に生まれただけで、と。嫉妬も色濃く込められたそんな呟きを込められた声を聞くと、シエスタは耳を塞いで逃げ出したくなる。 シエスタは見てしまったことがある。ルイズが入学していくらか経った日の夜に、たまたま臨時で入った仕事が長引いてようやく自分の部屋に帰るという時に爆音が聞こえたのだ。 驚いたそちらに向かってみると一人の少女がいた。月明かりで浮かんだシルエットは杖を持っていたので、すぐに貴族とわかり、声を掛けるのを躊躇った。 少女は何度も呪文を唱え杖を振る。その度に大小遠近様々な爆発が起きる。時々近くで起こった爆発は、少女の小さな体躯は簡単に吹き飛ばした。 それでもなお少女は立ち上がり、杖を振り続けた。 一瞬、雲の切れ間から顔を覗かせた月が照らした少女の頬は濡れていた。 泣くまいと歯を食いしばりながら杖を振る少女をシエスタは見ていられなくなり、逃げるように自分の部屋に戻った。ルームメイトは既に寝起きを立てていた。 その日、シエスタは胸が高鳴って眠れなかった。そしてその少女はルイズだ。 シエスタはルイズの努力を一端とはいえ知っていた。シエスタはルイズの苦しみを一端とはいえ知っていた。だからシエスタはルイズの陰口を言うことはなかった。 その夜の出来事があってから、数日と間を空けずに学院に『ゼロ』の噂は広がった。 ――私はあの時、逃げてしまった。 シエスタは逃げたのだ。どうして逃げたのかはわからない。だがルイズが必死に努力しているのを見つめ続ける事がシエスタにはできなかった。 そして、あの時のルイズの顔を見ていなければ、シエスタは同僚と一緒に愚痴を言っていただろう。そんな自分自身がとても嫌だった。 「でもね、昨日初めて魔法に成功したわ。私は使い魔を召喚して『力』を手に入れた。私はもう、『ゼロ』じゃない。『ゼロ』なんかじゃ、ないわ」 自分の左手を見つめながら、ルイズはそう締めくくった。 その目には先ほどと違い、強い光が宿っていた。気高さを感じるその瞳はまるで大剣か、それとも槍のような鋭い輝きを湛えている。 「以前の私なら平民の名前なんて覚えようともしなかったわね。自分以外はみんな私を笑っているように思えた。けれども今は違う。私は『力』を手に入れたわ。それからようやくよ。私がちゃんと物事を見れるようになったのはね。だからあなたが初めてよ、シエスタ。・・・・・・いい名前じゃない、可愛らしくてよく似合ってる」 そういってルイズは笑った。その笑顔はまるで花のようで、でも悪戯好きの猫のようでもあって。 そんな笑顔が、とても素敵だと、シエスタは思った。 「ありがとうございます!」 自分の笑顔はどんな風になっているかわからなかったが、シエスタも笑っていた。 胸の奥が熱くなるのをシエスタは感じていた。 3 二つ名は『炎蛇』。系統は『火』で、クラスはトライアングル。 『炎蛇』のコルベールはトリステイン魔法学院で二十年も教鞭をとった教師である。その確かな実力と一風変わった授業により生徒にもそれなりに慕われている。 顔には今まで生きてきた年月を感じさせ、頭は悲しいかな、輝かんばかりに頭皮が自己主張をしている。 手に持つ大きな杖にも、身を包むローブにも薬品の匂いが染み付いているのはコルベールの変わった気性が原因である。コルベールはハルケギニアのメイジには、珍しく魔法ではなく『技術』で人々の生活を支えたいと考えていた。 火のメイジは基本的に好戦的である。操る熱気がそうするのか、炎のような気質を持つものが多い。 しかしコルベールは自身の火を敵ではなく、何かを作ることに向けたかった。長年、教師をする傍らで常に火を生活に生かすことができないかと考えていた。 コルベールは人の役に立ちたかったのだ。誰かを傷つけるのではなく、誰かを育てる。それが目指した理想だった。 そんなコルベールは今、図書館にいる。 トリステイン魔法学院の図書館は、食堂がある本塔の中にある。 本棚は人の身長の何倍も高く、膨大な量の本が納められたその光景は見るものを圧巻する。高さはおおよそ三十メイルにも及ぶ本棚が並ぶ、この壮大な光景を見ることができるのはハルケギニアでもなかなか無い。 この図書館には始祖ブリミルがハルケギニアに新天地を築いて以来の歴史が、様々な人間の想いとともに蓄えられている。 図書館の中の一区画、教師のみが閲覧を許されている『フェニアのライブラリー』にコルベールはいた。 昨日、ルイズが召喚した『植物の種』。 あれはコルベールの知識にはないものだった。もちろん専門ではないために、コルベールの知らない植物だと本人も思った。だが使い魔の目録を作る際に、種類がわからないのではなんとも味気無い。それにコルベール自身もルイズの召喚したものがなんなのか知りたかった。 落ちこぼれと蔑まれてきた生徒がようやく召喚したのだ。少しでも力になってあげたい。 ――しかし種類がわからないのでは、育てるのも大変だろう。水のやり方などになにか手順があったりすれば、枯らしてしまうことになるかもしれない。 それに珍しいモノ、というものはそういった事情を抜きにしても好奇心を刺激される。 そうして図書館でルイズの召喚した植物がなんなのか調べていた、のだが。 「この本にも載っていませんか・・・・・・」 呟きに落胆の色を見せながら、手に持つ図鑑を本棚へと戻す。 見つからない。 初めはこんなことになるとは思っていなかった。植物図鑑の類を探せば見つかるだろうと。しかし図鑑には載っていなく、様々な本を探したが結局見つからなかった。そうして様々な理由から閲覧が制限されているフェニアのライブラリーにまで手を伸ばしたのだが。 やはり見つからない。 「もしやミス・ヴァリエールの召喚した植物は新種・・・・・・?」 そうだとしたら見つからないのは当然であるし、ルイズは偉大な発見者だ。もしかしたら新しい食料や薬になるかもしれない。 「それはそれで喜ばしいのだが・・・・・・ん? 薬?」 彼の目に留まった一冊の本。タイトルは『エルフの薬草』、どうやらエルフたちの使う薬草にまとめた本のようだ。 その本を何気無く手に取り、コルベールは一つの考えに至る。 ――もしかしてロバ・アル・カリイエの植物では? 遥か東方の地、ロバ・アル・カリイエ。エルフが支配するサハラのさらに果てにあるというその土地には、こちらでは見られない工芸品などがあるという。 最近では『緑茶』と呼ばれる淡い緑色と独特の味わいを持った茶葉などが、少ないが東方からハルケギニアに輸出されている。もしかするとそういった『緑茶』と同じく、ルイズの召喚した『使い魔』は東方の地のものかもしれない。 さっそく、手に持つ『エルフの薬草』を開く。 いくらかページを捲ると、そこにはエルフが使うという『丸薬』が載っていた。 4 「ミセス・シュヴールズからミス・ヴァリエールの教室の片付けの手伝いを、と申しつかりましたメイドのシエスタでございます」 爆発の影響で倒れた机を立て直そうとしている時に背後から声が聞こえた。 振り向いてみると、そこにはメイド服を着た少女が一人。 年相応に凹凸のある女性らしい体つきとハルケギニアでは珍しい黒い髪。スカートの端を指で摘まんで、スッとしたお辞儀にはよく手馴れた様子が感じられる。 「ああ、あなたが先生の言っていたメイドね」 上げた顔は素朴で、野に咲く花のような素朴な雰囲気を漂わせる。カチューシャでまとめた髪と同じ色をした瞳は、メイドの少し変わった顔立ちと調和が取れており、微かな異国の赴きを感じさせた。そばかすもこのメイドの可愛らしさにアクセントを加えている。 ――助かったわね。この机、私一人では持ち上がりそうも無いもの。 自然とルイズの表情も和らぐ。ルイズの小柄な体では教室で使う大きな机は持ち上がらなかったのだ。 「ちょうど良かったわ。シエスタ、そっちを持ってちょうだい」 一人でなんとか立て直そうと、真ん中の辺りに手を掛けていたのだが当然、ルイズの力では持ち上がらない。 「あ、はい!」 ルイズの様子に気づいて慌ててシエスタが机の端を持つ。 「では、私はこちらを持ちますので、ミス・ヴァリエールはそちらをお願いできますか?」 「わかったわ。・・・・・・せーの!」素直にシエスタの指示に従い、ルイズも反対側の机の端を掴む。 ルイズの掛け声に合わせて二人が力を入れると、机はなんとか立ち上がった。メイドというのはなかなか力があるらしい。 「ふぅ、それじゃあ残りの机も起こしてしまいましょう」 一息ついて教室を見直す。まだルイズの爆発がなぎ倒した机はたくさんある。 しかし壊れた机は一つも無い。煤に塗れて汚れてしまっているが、それだっていつもの被害に比べれば格段に少ない。窓ガラスも何枚か割れてしまっているが、ほとんどが無事だ。 ルイズは僅かに口の端を吊り上げて笑顔を作る。 ルイズの『失敗魔法』は『ゼロ』などではない。これから試行錯誤を重ねれば、もっと正確な戦力がわかるだろう。 自分の出来る事を知る。それがルイズの現在の最優先事項だ。情報は金にも勝る価値を持つことがあるのだから。 他所事を考えながらも手は動かす。ルイズ一人ではびくともしなかった机も、シエスタと二人ならばなんとかなる。ルイズが集中できずに、効率的とは言い難いがそう時間も掛からずに全ての机は元の位置に戻った。 シエスタが窓ガラスを取り替えるのも慣れたもので、ルイズが考え事をしながら机を拭いている間に全ての窓を取り替えてしまった。 ようやくルイズも真面目に取り組むのだがどうにも効率は悪い。見かねたシエスタが慣れた手際で机を雑巾で拭う。 スムーズに掃除をこなす姿を見て、小さな対抗心からルイズも掃除に取り組んだが、やはり本職であるシエスタの仕事は洗練されていた。 5 「一段落付きましたね」 気温が上がり、教室を春の温もりが満たし、そろそろ胃袋が空腹を訴え始める頃には教室の掃除は大体終わっていた。 シエスタがいなければ、こんなに早くは終わらなかった。 「ええ、あなたのおかげね、シエスタ。ありがと」 気がつけばルイズは感謝の言葉をシエスタに送っていた。 ルイズは自分でもプライドや気恥ずかしさが先立ってしまい、素直になることができない、という自分の短所は自覚していた。それだけに感謝の気持ちをそのまま伝えられた自分に驚いていた。 「い、いえ、そんな! ミス・ヴァリエールが手伝ってくださったからです」 驚いた様子で手をバタバタと振る仕草がなんだか可笑しくて、自然とルイズの表情が綻ぶ。 朱が差したシエスタの頬は可愛らしく、大きく黒い目がくりくりとよく動くのは見ていて飽きない。 ルイズはそんなシエスタの様子を見て、自分が使用人たちにこんな仕草を見たことが無いことに気づいた。 ハルケギニアの貴族のほとんどがそうであるように、ルイズも平民が『貴族に仕えて当たり前』と思っていた。 「平民の私にお礼だなんて・・・・・・」 恐縮して俯いてしまったシエスタの様子を見たら、なんだか心がもやもやした。 「確かに・・・・・・ほんの少し前の私ならこんな事は言わなかったでしょうね」 自分の心境に変化が起きていることに気付いたルイズは、自分の心を確かめることも兼ねてシエスタと少し話しを聞いてもらおうと思った。独り言のようなものだ。 シエスタが取り替えたばかりの窓は開け放たれている。空気を入れ替えるためにシエスタがルイズの気付かぬ間にやったのだろう。くすぐったくなるような気持ちのいい春風だ。 「私は魔法が使えなかった。家でも使用人からも馬鹿にされ、中には平民との子供じゃないか、なんて言う人間までいたわ」 まだルイズが幼く屋敷にいた頃だ。 優秀な二人の姉。英雄と呼ばれた母。強かな父。そんな中でルイズ一人が魔法が使えない。貴族の証明である魔法が、使えない。 ルイズは魔法を使う度に爆発を起こし、その度に叱られた。『物覚えが悪い』『集中力が足りない』『やる気が無い』。 そんな風に叱られる度に、ルイズは涙を滲ませた。 違う、スペルは全部覚えている。 違う、いつも周りがわからないほど集中している。 違う、杖を握り締めて、文字通り『必死』に魔法を使おうとしている。 違う、違う、違う! それなのに、それなのに魔法は成功しない。 ある時、屋敷の使用人たちが会話しているのを耳にした。 『ルイズお嬢様はまた失敗したのかい?』『ああ、まただよ。全く掃除するのはこっちだっていうのに』 『やれやれ、困ったもんだね。カトレアお嬢様もエレオノールお嬢様もトライアングルだっていうのに、ルイズお嬢様はゼロのまんまだ』『ゼロ?』 『ドットでもないんだからゼロじゃない? ゼロクラスのメイジだよ』 『はっはっはっ! そりゃあいいや、俺たちもゼロクラスのメイジ様だ!』 噛んだ唇から血が滴るのを感じて、ルイズは使用人たちの笑い声から逃げた。 ――いつか、いつか私は力を手に入れる。貴族として、理想の貴族であるために。ルイズとして力を手に入れる。 幼き日の小さく、強い誓い。この誓いがあったからこそ、ルイズは今まで研鑽を積み重ねてきた。 「だからかしら、私は誰を信じていいのかわからなくなった。名門ヴァリエール家の娘、優秀な両親や姉妹、そんな中で私だけが魔法が使えない。私の唯一の心の支えは『貴族の誇り』って看板だけだった。必死になったわよ。それでも魔法は成功しないの。悔しかったわ、とってもね」 『貴族』というのはルイズを縛る鎖であり、ルイズを支える柱でもあった。それが正しいことなのか、ルイズにはわからなかったが、正しいと信じないと心が折れそうだった。 「でもね、昨日初めて魔法に成功したわ。私は使い魔を召喚して『力』を手に入れた。私はもう、『ゼロ』じゃない。『ゼロ』なんかじゃ、ないわ」 ――私は成功した。私はもう無力じゃない。『ゼロ』では、無い。 自分の左手を見つめる。手袋は掃除の際に外していた。 手の甲に確かに刻まれた成功の証。これは『力』の証明だ。 「以前の私なら平民の名前なんて覚えようともしなかったわね。自分以外はみんな私を笑っているように思えた。けれども今は違う。私は『力』を手に入れたわ。それからようやくよ。私がちゃんと物事を見れるようになったのはね。だからあなたが初めてよ、シエスタ。・・・・・・いい名前ね、可愛らしくてよく似合ってる」 心地のいい風を感じながら、シエスタの方を振り向く。 自分の顔がどんな笑顔になっているかはわからなかったけれど、ルイズは久しぶりに気持ちよく笑うことができた。 「ありがとうございます!」 そういって笑うシエスタの顔は、なんだか気持ちよさそうだ。 そんな笑顔が、すごく可愛らしいと、ルイズは思った。 ――私は変わった。まだまだ問題は山積みだけど、今はとりあえず、この使い魔に感謝しよう。 前ページ次ページ疾走する魔術師のパラベラム トップページへ戻る
https://w.atwiki.jp/musixya/pages/37.html
名前 N R SR 右代宮戦人 右代宮朱志香 右代宮譲治 右代宮真里亞 ベアトリーチェ ワルギリアス カァプ 緑寿 嘉音 熊沢 チヨ 右代宮 理御 古戸 ヱリカ ラムダデルタ ベルンカステル ロノウェ ワルギリアス エヴァ・ベアトリーチェ ルシファー レヴィアタン サタン ベルフェゴール マモン ベルゼブブ アスモデウス シエスタ45 シエスタ410 シエスタ00 シエスタ556 ドラノール・A・ノックス ガートルード ウィラード・H・ライト さくたろう 右代宮 夏妃 右代宮 絵羽 右代宮 秀吉 右代宮 留弗夫 右代宮 霧江 黒の戦人 天草 十三
https://w.atwiki.jp/moejinro-log/pages/110.html
参加者 エルレイナ SEIRIOS オペこ シキワロス ソラユイ シエスタXX jinjahime BBL かこちん 配役 村5狼2占狩 デジュー じゃあ、狼2占で オペこ 狼2 占い 霊媒 狩人 でしょうか オペこ あ オペこ そうか オペこ そこらへんもなしか jinjahime 実はレラニスト #エイプリルフール * ・゚ヽ(゚∀゚)ノ *。・゚ デジュー 霊媒狩人なし シキワロス あ オペこ 了解です シエスタXX 狩人ほしいけどな シキワロス 霊媒いれないのか シエスタXX まいいか jinjahime おk エルレイナ 霊なし狩ありなら エルレイナ ありかな デジュー 狩入れる? エルレイナ 両方は狼きついんじゃないかね シエスタXX 速攻ベグられると シキワロス もう霊or狩1っていうのでいいような シエスタXX もうワンサイドゲームのような・・・ エルレイナ いれるなら狩か デジュー 狩人いれましょう シキワロス 村3狼1占1霊1狂1狩1狐1 エルレイナ 狐ww デジュー 狐はむりでしょう シキワロス 超絶カオス霊空気 デジュー 狼2占狩 デジュー いいかな・ ソラユイ ぉー シエスタXX CH建てるのかな シエスタXX おk シキワロス 問題ないっすね。 BBL たぶん平気なはず BBL 狂人好きな私は少し哀しい シエスタXX 占いはしんどいなw デジュー /chjoin でじ村 1 (でじ村) BBL テスト 1 (でじ村) エルレイナ てすてす 1 (でじ村) ソラユイ >W< デジュー 霊界は jinjahime エロレイナさんまじせくしーぴんく 1 (でじ村) SEIRIOS [ガーン] jinjahime ごばく 1 (でじ村) ソラユイ >w< エルレイナ [ワーイ] デジュー /chjoin ピットガレージ 1 (でじ村) BBL よろしくお願いします 1 (でじ村) エルレイナ よろしくなのデス 1 (でじ村) ソラユイ ((* ∇ *)ヨロ((*・v・)シク( _ _)デス♪ 1 (でじ村) オペこ テス 1 (でじ村) jinjahime エロレイナさんマジセクシー天使 #エイプリルフール 1 (でじ村) シエスタXX おすおす デジュー とりあえずダイス振っといて 1 (でじ村) シキワロス よろしくです! 1 (でじ村) jinjahime よろろー 1 (でじ村) オペこ よろしくお願いします かこちん あれ?村はオープンちゃt? デジュー ん? シキワロス でじ村たってます 1 (でじ村) かこちん すんません 1 (でじ村) かこちん よそみしてました デジュー 10人確認 1 (でじ村) jinjahime おちゃちゃー デジュー 大丈夫だねー? 1 (でじ村) jinjahime ( * ω *)σ) ω *) 1 (でじ村) シエスタXX 誰かMADに出演してくれないかなー 1 (でじ村) jinjahime トップレス装備って良いよね(*´ω`*) 1 (でじ村) SEIRIOS MAD・・・・? 1 (でじ村) BBL 人数少ないし今回は目も放棄しようかな 1 (でじ村) SEIRIOS 貝殻水着が一番面積すくないね・・・・ 1 (でじ村) jinjahime MoEのMAD? 1 (でじ村) エルレイナ エルレイナさんを出すんだ! 1 (でじ村) シエスタXX もう一人で何キャラも作るのつかれたわい! 1 (でじ村) シエスタXX エルさん確保っと エルレイナ ああ、GMいれて10って意味か 1 (でじ村) エルレイナ 出演って何するの?w 1 (でじ村) SEIRIOS 面白そうなことには混ざりたい 1 (でじ村) シエスタXX ポーズとるだけw 1 (でじ村) エルレイナ 了解!w 1 (でじ村) jinjahime パンツ動画が・・・ デジュー 動いてしまった 1 (でじ村) シエスタXX カットインで入れるだけかもw 1 (でじ村) BBL どこへ行く>デジューさん シキワロス すごい動く! 1 (でじ村) エルレイナ もっと目立たせてくれてもいいのよ! 1 (でじ村) シエスタXX まあ素材は多いほうが良い 1 (でじ村) かこちん デジューさん吊りで 1 (でじ村) ソラユイ はーい 1 (でじ村) SEIRIOS デジューさんに投票します 1 (でじ村) シキワロス 了解っす デジューは腰を掛けた 1 (でじ村) エルレイナ GM乗っ取りによる勝利! 1 (でじ村) シエスタXX にせなびこはもう作ったからな シキワロスは腰を掛けた デジュー は jinjahime に言った 今回の占い師はあなたです 人外どもを正体を暴くのです! デジュー は オペこ に言った 今回の狩人はあなたです 狼から愛する人を守り抜け! オペこ(AFK) は デジュー に言った ただいま席を外しています jinjahime は デジュー に言った うわ・・・おk シキワロスは腰を掛けた オペこ は デジュー に言った はい! デジュー は かこちん に言った 今回の人狼はあなたです ch三矢の刺客 にて食事の支度をどうぞ デジュー は かこちん に言った /chjoin 三矢の刺客 デジュー は エルレイナ に言った 今回の人狼はあなたです ch三矢の刺客 にて食事の支度をどうぞ デジュー は エルレイナ に言った /chjoin 三矢の刺客 1 (でじ村) シエスタXX ギャグマンガ日和のアテレコ動画とかなら エルレイナ は デジュー に言った ぎゃああああw了解っす 1 (でじ村) シエスタXX 一瞬なんだが デジュー 返事よろしくー 2 (三矢の刺客) エルレイナ わんわんお! 1 (でじ村) シエスタXX 差し替え動画か 1 (でじ村) jinjahime ( 3[____] 2 (三矢の刺客) かこちん てすてす 2 (三矢の刺客) エルレイナ わぉw かこちん は デジュー に言った おk 2 (三矢の刺客) エルレイナ ←いきなり乙くさいんだけど…w 2 (三矢の刺客) かこちん あれ、配役なんだっけ 1 (でじ村) シエスタXX セイさんも確保おkだな 2 (三矢の刺客) エルレイナ 狼2占狩 デジュー 確認 1 (でじ村) SEIRIOS イエァ 2 (三矢の刺客) かこちん おぅ デジュー 狼2占狩 2 (三矢の刺客) エルレイナ また夜に 1 (でじ村) SEIRIOS 狼を俺と空目した 1 (でじ村) SEIRIOS デジュー2 デジュー じゃあ始めましょうか 1 (でじ村) シキワロス 俺2占狩 1 (でじ村) かこちん ふぅ、トイレから帰宅 1 (でじ村) シキワロス おかえりっす 1 (でじ村) かこちん まにあった! BBL お願いします 1 (でじ村) SEIRIOS おかえり 1 (でじ村) オペこ トイレ外にあるんですか デジュー あれ?みんないるよね? エルレイナ の 1 (でじ村) jinjahime 外にもトイレあるなぁ 1 (でじ村) シエスタXX ノ シキワロス 居留守でーすよー SEIRIOS [ニコッ] 1 (でじ村) BBL ノ 1 (でじ村) jinjahime ノ 1 (でじ村) オペこ ノ 1 (でじ村) ソラユイ ノ デジュー 大丈夫よね? 1 (でじ村) シキワロス へ デジュー 始めまーす 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- デジュー 今日も平和なカーレイ村に、人狼がやって来たとの噂があります デジュー 村人の皆様、人狼をみつけだし、村を平和へ導いてください! デジュー ゲームスタートです 1 (でじ村) エルレイナ おはようございます~ 1 (でじ村) シキワロス おはよなのだ! 1 (でじ村) SEIRIOS おはよう 1 (でじ村) ソラユイ はろー 1 (でじ村) シエスタXX おはん 1 (でじ村) BBL おはようございます 1 (でじ村) エルレイナ 今度は一番とったじぇ 1 (でじ村) jinjahime ヽ(*゚з^)<マジ天使こぐねえさんだよ 1 (でじ村) かこちん おはようござんす 1 (でじ村) オペこ おはよう 1 (でじ村) シキワロス 変な夢みたな・・・あれは確か・・・ 1 (でじ村) BBL 挨拶すくな 1 (でじ村) jinjahime (*´ω`*) 1 (でじ村) SEIRIOS 流れない挨拶 1 (でじ村) ソラユイ ・ω・ 1 (でじ村) シキワロス 空から緑の何かが・・・・降ってきて・・・そのあと目が覚めた 1 (でじ村) SEIRIOS 平和だ。。。。 1 (でじ村) jinjahime イチャイチャしたいね 1 (でじ村) エルレイナ それでも明日からは挨拶なしでも良いでしょうな… 1 (でじ村) シエスタXX 9>7>5 1 (でじ村) かこちん た、大変だー!!!! 1 (でじ村) エルレイナ イチャイチャする相手がいない! 1 (でじ村) シキワロス 2回失敗できるってことかー 1 (でじ村) SEIRIOS 空からなびこが! 1 (でじ村) エルレイナ リア充実爆発しろ! 1 (でじ村) かこちん 狼にナンパされた! デジュー 現在Navi子が新たな死に方の台本を執筆中です。明日にはカンヅメから解放されるでしょう 1 (でじ村) BBL 占いに狼いるからローラーしないといけませんね 1 (でじ村) かこちん この村にきてるらしいぜ! 1 (でじ村) シキワロス またカンヅメwww 1 (でじ村) jinjahime 2COになればねー 1 (でじ村) SEIRIOS つめるなよ・・・・ 1 (でじ村) BBL うん 1 (でじ村) ソラユイ むー 1 (でじ村) シエスタXX すべてNavi子の自作自演だったのかー! 1 (でじ村) BBL ちょっと思考がフライングしました 1 (でじ村) エルレイナ まぁ初日は気楽に 1 (でじ村) BBL ですね デジュー あと1分 1 (でじ村) かこちん ふぅ、テンプレっぽくしてみたが安定ノスルー美味しいです 1 (でじ村) シキワロス ま、2回も失敗できるんや。気楽にいけるっす 1 (でじ村) エルレイナ 密室殺人フラグか!なびこ 1 (でじ村) オペこ かこちんさん初心者の様なイメージを受けるのになんか装備品豪華 1 (でじ村) jinjahime こぐねえ以外ロラすれば勝てるよ 1 (でじ村) シエスタXX 狼は語るのかな~ 1 (でじ村) かこちん ガチャ厨だからね! 1 (でじ村) BBL 騙るんじゃないかな? 1 (でじ村) エルレイナ 占い確定したら苦しいから騙るんじゃないかな~ デジュー 20秒前 1 (でじ村) jinjahime ウサギってファッション装備だっけ 1 (でじ村) シエスタXX うおおお 1 (でじ村) エルレイナ 狩人鉄板護衛でしょう 1 (でじ村) オペこ ほ~ 1 (でじ村) シキワロス 騙ったら即ロラでも1日置きロラでも 1 (でじ村) シエスタXX ライオンびびったw 1 (でじ村) かこちん うさぎはガチャ限定だったきがす 1 (でじ村) かこちん おやすみーZZzZZz 1 (でじ村) オペこ ふへへ デジュー 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です 1 (でじ村) jinjahime ガチャか かこちんは腰を掛けた 1 (でじ村) jinjahime ( 3[____] 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 2 (三矢の刺客) エルレイナ 誤爆注意です! シエスタXX ごめん 2 (三矢の刺客) かこちん 重量オーバーでうごけねw BBL は デジュー に言った 独り言 私素村か 勝てる気がしない 2 (三矢の刺客) エルレイナ うひ 2 (三矢の刺客) かこちん さて、どうしますか 2 (三矢の刺客) エルレイナ どっちが騙りますか~? デジュー は BBL に言った がんばれ 2 (三矢の刺客) かこちん 騙らずにいくか! シエスタXX 昼夜何分? 2 (三矢の刺客) エルレイナ 大胆だね! 2 (三矢の刺客) かこちん 出てきた占いが語った狼と(ぇ 2 (三矢の刺客) エルレイナ わたしは潜伏したいかな~ BBL 昼7夜5かな? 2 (三矢の刺客) かこちん どっちにしろ吊られるというw シエスタXX おk BBL デジュー三一応答えてもらえますか? デジュー そうですねー 2 (三矢の刺客) エルレイナ メタですごい占われそうなんだけど…w 2 (三矢の刺客) かこちん あ、でも今回デジューさんGMだから大丈夫か デジュー あと1分 デジュー 初日は短いですがね 2 (三矢の刺客) エルレイナ まぁ潜伏しちゃいますか 2 (三矢の刺客) エルレイナ わたし無理げーくさいけどw 2 (三矢の刺客) かこちん 二人とも? 2 (三矢の刺客) エルレイナ まかせますよ~ デジュー 20秒前 2 (三矢の刺客) かこちん 3日目に占いCOします 2 (三矢の刺客) エルレイナ わたし占い自信ないw 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 2012-3-31 でじ村(2)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1538.html
前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 「シエスタちゃん遅いですね」 「遅いわね。何か用事でもあるんじゃないかしら?先に洗濯を済ませましょう」 その日、朝の日課となった洗濯をするために水汲み場へとやってきた二人だったがいつまで経ってもシエスタが来ない。仕方がないので先に洗濯を始めるのであった。 「アンジェ、朝ごはんだから先に厨房に行きなさい」 「はい」 「それでシエスタに会ったらね、何か用事があるんだったら先に言っておくように伝えて頂戴」 「わかりました」 そういってアンジェリカは厨房へ駈けていく。 「あれ?マルトーさん。シエスタちゃんはどこですか?」 「あ、ああ。そ、そういえばいないな」 アンジェリカの問いにマルトーは顔をそらし答える。 「マルトーさん。どうかしたんですか?」 「ど、どうもしねぇよ。ほら朝飯だ」 アンジェリカは食事を摂りながらもマルトーの顔をじっとみつめる。 「マルトーさん。お顔、どうしたんですか?」 「な、何でもないさ。ちっとばかし転んだだけだ」 そういうマルトーの顔には殴られたような痕があった。 食事を終え、メイド服に着替えたアンジェリカはシエスタを探しに行く。 「ねぇ、シルフィードちゃん。シエスタちゃん見なかった?」 きゅいきゅい 「そうなの?あなた達は?」 ゲコゲコ てけり・り きゅるきゅる 「知らないの?」 そんな事をしているうちにもう昼の時刻になってしまった。アンジェリカは仕方なくルイズの所に行くのであった。 「ルイズさん、シエスタちゃんがいません」 「いないって、どういうことかしら?」 アンジェリカは厨房でマルトーが顔に疵を負っていること、学院内にシエスタの姿が見当たらないと説明する。 「コック長のマルトーだったかしら?その人の所に行くわよ」 ルイズはアンジェリカの手をひいて厨房へ足を向けた。 「ちょっといいかしら?」 「マルトーさん。ルイズさんが聞きたいことがあるそうです」 突然やってきた二人に驚きを隠せないマルトー。 「ねぇ、シエスタが見当たらないんだけど・・・」 「そ、そういやー姿が見えませんね。あ、ははは」 あからさまに怪しい。 「その顔の疵、もしかしてシエスタがいないことと関係あるんじゃない?」 「そ、そんなこたぁなかと」 「嘘ね」 ルイズはマルトーに詰め寄る。 「何かあったんですか?」 アンジェリカもそうマルトーに尋ねる。 「ど、どうしようもなかったんだ。どうしようも」 マルトーはそういって崩れ落ちる。 「ちょ、どうしたのよ!」 ルイズはマルトーの胸倉を掴んだ。 「あんた達が街へ行っている間だ。そん時にモット伯とかいう貴族の野郎の使いがやって来てな」 マルトーはルイズ達から目をそらし答える。 「シエスタを連れていくっていってな、俺はふざけるなって言ったんだがこの有様だ」 「それでシエスタは?」 「朝一番でモット伯の屋敷行っちまった」 「っ!何でわたしたちに何も言わないのよ!」 「アンジェリカ達に迷惑はかけたくないって言ってな。このことは黙っていてくれと・・・」 「アンジェ!行くわよ!」 自分が抑えられなくなったルイズがアンジェリカの手をひいて厨房から出て行く。 「何なのよ!あの娘は!」 「ルイズさんシエスタちゃんはどうしちゃったんですか?」 「モット伯に連れて行かれたのよ!」 「その人悪い人なんですか」 「悪いって、そうね。悪い噂しか聞かないからね。それにいい噂も聞かないしね」 「じゃあ悪い人なんですね。私やっつけますよ?」 「え? じゃあお願いするわ。王子様がお姫様を助けに行く。まるで御伽噺ね。」 「御伽噺ですか?」 「そうよ。アンジェが王子様でお姫様がシエスタね」 アンジェリカのそれを彼女なりの冗談と受け止め、怒りを抑え優しく笑い返す。 「けどどうにかしないといけないわね。キュルケとかに相談してみようかしら、癪だけど」 ルイズは一人でブツブツと呟く。 「アンジェ。ちょっとわたし用事があるから好きにしていいわよ」 「はい、ルイズさん」 アンジェリカはパタパタと駈けて行った。 日が暮れ始めたころ学院の郊外にアンジェリカはいた。 「シルフィードちゃんこっちでいいの?」 きゅい! 「そうなんだ。じゃあ行こっか」 ゲコゲコ てけり・り! きゅるきゅる もぐもぐ 手に持ったAUGに力が入る。 王子様は囚われの姫を救いに、悪のドラゴンの砦へと向かうのでした。 Episodio 9 La principessa della caduta in mani di nemico 囚われのお姫様 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/3929.html
前の回 一覧に戻る 次の回 ゼロの飼い犬5 メイドの温もり Soft-M ■1 今まで静かだった校内に生徒の喧噪が聞こえてきた。 少し前に昼休みの時間を告げるチャイムが鳴っていた事を思い出す。 学院の生徒が昼食をとり終わって、午後の授業までの休み時間を過ごし始めたのだろう。 校舎の裏で壁に寄りかかり、膝に顔を埋めて座り込んでいた俺は、何時間かぶりに顔を上げる。 陰鬱な俺の気分とは裏腹の、抜けるような青い空から照らす日差しが眩しい。 昨晩、夜中にルイズの部屋から飛び出した俺は、人が来なさそうな場所まで逃げてきて ここでずっと時間を過ごしていた。ルイズがどうしているのか、ちゃんと授業には出ているのか、 俺にはわからない。 これから、どうしよう。昨日の、ルイズの涙が脳裏に鮮明に蘇る。 俺は、使い魔失格どころか、人間としてやってはいけないことをしかけてしまった。 未遂だったとか、そんなつもりはなかったなんて言い訳はできない。 ルイズを、傷つけたんだ。この世界に来たばかりの時よりも俺を信頼してくれて、 人間扱いしてくれて、一緒のベッドに寝かせてくれるようになったり、テーブルで学院の生徒と 同じ食事を食べさせてくれるようになったルイズを、俺は裏切って……傷つけた。 あいつを守ってやろうって、決意したばかりだったのに。その決意を、俺自身がぶち壊した。 ルイズは、俺をどう思ったんだろう。 怒っているのか。悲しんでいるのか。 罵倒したいと思ってるのか、もう二度と会いたくないと思っているのか。 わからない。あの後、ちゃんと起きて学校に行けたのかどうかも、今の俺にはわからない。 でも、ひとつだけはっきりしていることがある。左手に刻まれたルーンを見て思う。 このまま、ルイズの元から逃げ出すわけにはいかないということ。あいつが、昨日の俺の行動を どう思い、今後俺をどうするつもりなのか……聞かなきゃいけないということ。 今は、ちょうど昼休みだ。ルイズが授業に出ているなら、昼食をとっているはず。 そうでなかったとしても、部屋に行けばいるはず。会うんだったら、今しかない。 俺は、体を持ち上げると、重い足を無理矢理動かして校舎の中へ入っていった。 食堂に行ってざっと席を見回してみたが、ほとんど学生の姿はなかった。 ルイズどころか大半の生徒が既に昼食を終え、昼休みを過ごしているらしい。 次に、テーブルが並べられた広場まで来た。昼食後はここにいる生徒が多い。 早く見つけたいような、見つけたくないような、複雑な気分で辺りを見回す。お茶のセットが置かれた テーブルのひとつの側に、目立つ桃色のブロンドの姿をみつけて、俺の心臓が跳ねる。 テーブルには、これまた目立つ容姿のキュルケが座っていた。どうやら、ルイズはキュルケと 何か話しているらしい。 意を決して、そこに近付いていく。どんな言葉をかけられるのか、どんな目で見られるのか、 不安で仕方ない。でも、ここでそれを避けるわけにはいかない……。 だが、その直後。まだ背を向けていて、俺には気付いていないルイズがキュルケとの会話で 放った一言は、俺が想像していたどんな罵倒や恨み言よりも、俺の心を射抜くものだった。 「――――アイツは使い魔なんだから、飼い犬同然なの! それでいいの!」 ∞ ∞ ∞ ■2 「サイト! どこ行ったのよ、サイトーっ!!」 お日様が真上に輝くお昼休み。あたしが広場のテーブルについて 優雅に食後のお茶を楽しんでいると、ゼロのルイズが年甲斐もなく張り上げた大声が聞こえてきた。 「騒々しいわねぇ、みんな休憩しているんだから、ちょっとは場所柄をわきまえなさいな」 声のした方へ目を向けて、ピンク髪のちんちくりんにそう声をかける。 あたしの姿を確認したルイズは、つかつかとあたしのテーブルの横まで早足に歩いてきた。 「キュルケ! あんた、サイトを見なかった?」 文句のひとつでも言い返してくるのかと思ったら、ルイズはいつになく真剣な表情でそう聞いてくる。 「今日は見てないわよー。そういえば、いつも一緒に授業受けてるのにいなかったわね。どうしたの?」 「……昨日の夜から帰ってこないのよ、アイツ」 ルイズはちょっと思案してから、そう言った。たぶん、使い魔がいなくなってしまった不名誉を隠すよりも、 早く見つけ出すことを優先したのだろう。 心細そうなルイズの声に、あたしは思わず吹き出しそうになった。 「何よ、なにがおかしいの?」 「いや、ゴメンね。なんかあなたの口ぶりが、男に逃げられた女っていうよりも、 飼い犬が行方不明になって不安がる子供みたいだったから」 ふくれっ面をした彼女にそう言うと、ルイズの頬がみるみる紅潮する。 「なっ、なな何よ男に逃げられたって! アイツは使い魔なんだから、飼い犬同然なの! それでいいの!」 あたしが笑ったのは”子供みたい”ってところだったんだけど、ルイズは別のところに反応した。 ルイズは未だにサイトをただの使い魔だなんだって主張するけど、信じられると思ってるのかしら。 「ちょっと、それはさすがにひどいんじゃない?」 「知らないわよ! 勝手にいなくなる使い魔なんて、むしろ犬以下なんだからっ!」 ルイズは口をへの字にして両手を組む。やれやれと思った所で、ルイズの後ろに、 当の彼女が探している黒髪の使い魔さんが立っていることに気付いた。 「っていうかルイズ。サイトだけど、そこにいるわよ」 あたしが顎でそちらを指すと、ルイズは「えっ?」と振り向いた。そこにいた自分の使い魔の姿を目にして、 一瞬、ルイズは固まる。 「サっ、サササイト! 今までどこをほっつき歩いてたのよ!」 「あ、あぁ……ちょっと……」 ルイズの剣幕に、たじろぐサイト。 「まったく、随分探したんだから。ご主人様の手を煩わせるんじゃないわよ、もう」 ため息をつくルイズ。サイトは、なぜか心ここにあらずといった様子で、そんなルイズを見ていた。 「あ、あの……ルイズ。昨晩のことだけど……」 サイトがそう言うと、ルイズはぎくっと身をすくませた。 「え、あ、それ。それだけどね。あの……あれは、何て言うか、気の迷いだから! ちょっと興味があっただけなんだから。たっ、ただの気まぐれで、深い意味があったワケじゃなくて、 わたしはあんたに何か許したわけじゃないんだから。勘違いしないでよね!」 ルイズは、慌てたように早口でべらべらとまくしたてた。何だか言ってることが抽象的で よくわからないけど、サイトの方には伝わっているのかしら。 「え……そ、それだけ?」 「な、なによ、それだけ? って。重要なことよ。わたしは主人で、あんたは使い魔。 そこんとこ、はっきり理解しておきなさい。ヘンな誤解したら、許さないんだから」 頬をりんごみたいに赤くして、サイトの方から顔を逸らすルイズ。 あらあら、そんな態度とったら、ただのご主人様と使い魔じゃありませんって 告白してるようなもんなのに。思わず苦笑が漏れる。 ■3 ――けど、次の瞬間。サイトの様子を見たあたしの背筋に、冷たい物が走った。 その黒い瞳は、虚ろだった。怒ってるとか、不満だとか、逆にルイズの真意を見透かして 面白がってるとか、そんな目じゃない。 大げさかもしれないけど……絶望の目。今までそうだと信じていたことを、根底から覆された。そんな目。 「……あぁ、そっか。使い魔だもんな。ごめん、勝手にいなくなったりして」 「? ……あ、うん、わかればいいのよ、わかれば」 サイトは、その目とは釣り合わない、ごく自然な言葉を口にした。ルイズも、一瞬怪訝そうな顔をした後、 素直に自分の非を認めた使い魔に偉そうな返事をする。 「じゃ、今日サボっちゃったぶん、部屋の掃除してくるから。じゃあな」 「え? あ、ちょっと!」 サイトはルイズに微笑みかけると、踵を返して学生寮の方へ走っていった。 呼び止めようとしたルイズだったが、表面上は特に不自然なことを言ったわけではないサイトを、 無理に引き留めることはしなかった。 「なんか、ヘンだった? 今のサイト」 首をかしげるルイズ。 そんな彼女に、あたしは……今までからかっていた時とは違う、本物の嫌悪を感じた。 唇を噛む。どうして止められなかったのかしら。いずれこんなことになるのは、想像できたはずなのに。 「ルイズ。あなた、何よりも得難いものを失ったかもしれないわよ」 そう声をかけると、ルイズはきょとんとした顔であたしを振り向いた。 その顔。自分が間違っているなんて、少しも考えていない顔。 悪気がないっていうのは、この上なく手に負えないことなのかも。 「何よそれ。どういうこと?」 「あなた、貴族に差別される平民の気持ち、考えたことある?」 聞くと、ルイズは困惑の表情を浮かべたまま黙ってしまった。 「まぁ、あたしも、あんたと同じで差別”する”側の人間だから、理解できてるとは思わないけどね」 「何が言いたいのよ、キュルケ」 察しの悪いこの子なりに、何かうすら寒いものを感じたのか、少し焦った口調でルイズは聞いてくる。 でも、ここであたしが説明したって、解決にはならない。だからもう黙る。 サイトの目。最後にルイズに笑いかけ、ここから去った時の目。 ――それは、見慣れた目だった。あたしが、サイトに感じていた魅力が、失われつつある目。 サイトは、ルイズを”平民が貴族を見る目”で見た。絶対的な目上の者を見る目。 住む世界が違う人間を見る目。相手が、自分を見下していることを前提にした目。 それは、この学院にいる全ての平民が、あたし自身や級友や先生を見る目。 そして、サイトだけが。ルイズが召還したあの少年だけが、平民であるのにその目をしていないはずだった。 それを……恐らくこの主人が。生粋の貴族であるヴァリエール家のルイズが、奪った。 自覚を無しに、悪いことをしたと露とも思わずに。 でも、このルイズだけを責められるわけじゃないのかもしれない。 言うなれば、それはあたしたち貴族全ての責任で…… そして、サイトの件だけに罪悪感や喪失感を抱くこと自体、ただの偽善なのかもしれないのだから。 ∞ ∞ ∞ ■4 部屋の掃除をし終わった俺は、ルイズが帰ってくる前に部屋を出て、ヴェストリ広場にやってきた。 俺が作った風呂が置かれているあたりで、今日の昼まで校舎裏でそうしていたように、 建物の壁に背を預けて座り込む。心にぽっかり穴が開いたような気分だった。 『アイツは使い魔なんだから、飼い犬同然なの!』 昼間の、ルイズの言葉がまだ耳に残っている。はは、犬だってさ。飼い犬。 今までにも、何度も犬呼ばわりされた。メイジとそれ以外は違う人間だって言い草も、何度も聞いた。 けど、俺は、何て言うか……本気にしてなかったんだ。俺が、日本で暮らしていたからなのかもしれない。 基本的に、人間は平等で。犬だなんだっていうルイズの弁も、比喩のひとつなはずだと思ってた。 ここへ来たばかりの頃は確かに酷い扱いをされてたけど、最近は待遇を良くして貰えるようになった。 それは、ルイズが俺をようやく人間扱いしてくれるようになったからだと思っていた。 使い魔ではあるけど、人間でもある。それを、ルイズの方でも認めてくれたのだと信じていた。 けど、さっきのルイズの様子を見て、気付いてしまった。 逆だった。俺の考えていたこととは、全くの逆だったのだ。 ルイズは、俺を、使い魔であると認めたから、ベッドに寝かせてくれるようになったのだ。 だって、考えてみれば、人間の……異性に、一緒のベッドで寝ることを許可するだろうか? 恋人でも何でもない男を相手にして、そんなこと有り得ない。 けれど、使い魔……いや、ルイズが言ったように、飼い犬だったらどうか。人によっては、許すだろう。 ベッドに上がってくることや、一緒に寝ることを許す飼い主は、それなりにいる。 つまり、ルイズは、最初から俺を同じ人間だなんて思ってなかったんだ。寝込みを襲われることとか、 本気で心配してはいなかった。危機感があまりにも薄かった。 だって、ルイズにとって俺は完全に住む世界が違う存在なんだから。 フーケの事件の後、俺がカンチガイして、ルイズの寝込みを襲ってしまったことがあった。 あの後ルイズはどうしたか……俺に鎖をつけて、犬扱いしたんだ。人間ではなく、見境のない犬だって。 俺が自分をモグラと呼んだとき、ルイズはやめてって言ってきたな。ルイズの中ではモグラよりは 犬の方がまだ上なのか。すまん、ヴェルダンデ。でも、俺としては人間でないなら犬でもモグラでも ボルボックスでも同じだよ。 アルビオンに行く前、ルイズが何度もマッサージをねだってきたことにも説明がつく。 男の前でベッドに横になって、体を触らせて、しまいにはそのまま寝てしまったりしたルイズ。 どうしてそんなに無防備だったのか。それは、俺を人間の、男性だと思ってなかったから。 常識で考えたらそれで何もされない保証なんて無いんだけど、貴族の中でも最上級の家で育てられた ルイズには、そんなことわからなかったんだろう。 だから、だから……ついさっき広場で話したルイズは、昨晩、俺に組み敷かれたのに、 大してショックを受けた様子が無かった。 そして、一緒に寝るのを許したのも、ただの気まぐれだなんて言ってきた……。 涙が出そうになってきた。何だよ、なんでだよ。俺は、ルイズのことを、認めていた。 そりゃ、性格は酷いし、不器用だし、見た目が可愛い以外どうしようもないやつだと最初は思ってたけど、 あいつが本当は確かな誇りと信念を持っていて。死地に赴く人のために悲しめる心を持っていて。 その小さくて、メイジの拠り所である魔法も満足に使えない体で頑張っていることを知って、 立派な人間だって認めてたんだ。尊敬できる部分もあると思った。側にいて、守ってやりたいと思ってたんだ。 なのに。あいつの方は、俺を人間だとすら思っていなかった。ただの使い魔、飼い犬同然だって。 そう思って、俺に接していたんだ。 じわっと視界が滲んだのを、ぐっと堪える。 でも。それは、ルイズが悪いんじゃない。言わば、この世界のルールのせい。地球にだって、 差別はいっぱいあるという話だ。日本だって、平等だ、民主主義だなんてなったのはつい最近のこと。 このハルケギニアという世界がそういう風にできている以上、仕方ない。どうしようもないこと。 でも……それは、ルイズと俺の間に、個人の気持ちとかだけでどうにかできるわけではない壁が 存在するということでもある。 俺は、大きくため息をつく。悲しみとか絶望とかじゃなくて。言いようの無い空しさが体を包んでいた。 ■5 「あー、もう! 考えるな!」 だったら、もうこれ以上悩んだって何にもならない。どうしようもないものはどうしようもない。 今まで通り、使い魔としてルイズの世話をしてればいい。少なくとも、言いつけられた仕事をしているうちは 美味い食事を食わせてくれるんだし、寝るとこはあてがってくれる。それでいいじゃんか。 「まぁでも、そう簡単に割り切れるもんじゃねーよなぁ……」 薄暗くなってきた空の下で、一人ごちる。少なくとも、今すぐにルイズの部屋に帰って、 あいつと顔を合わせる気にはなれなかった。もう、今までと同じ目でルイズを見ることができない。 でも、いつまでも外で座ってるわけにもいかない。夜は寒いし。 そんなことを考えていたら、腹の虫がぎゅるると鳴いた。落ち込んでいても腹は減る。 ルイズの部屋を飛び出してから何も食べていないので、仕方ないといえば仕方ないのだが。 「……サイトさん?」 そんな時、傷心だし帰る気にもなれないし空腹だしで惨めの極みみたいな気分になっていた俺を、 朗らかな声が呼んだ。ボロボロの心に染み入るような声の方へ、顔を向ける。 「どうされたんですか? こんなところで」 そこにいたのは、学院のメイドであるシエスタ。俺がこの世界に来たばかりのころから、 何かと気遣ってくれる女の子。シエスタは、壁際に縮こまって座り込んでいる俺に 心配そうな表情を見せてくれた。 「いや、別に、何でも」 俺を立派な人だとか、憧れだとか言ってくれるシエスタに、こんな姿を見られたくない。 作り笑いを浮かべて安心させようとしたところで、再び俺の腹の虫が盛大に鳴いた。 シエスタはその音を聞いて目を丸くした後、可愛く苦笑する。 「ひょっとして、またミス・ヴァリエールにご飯を抜かれてしまったんですか?」 「いや、えーと、その……なんていうか」 恥ずかしさに慌てて手を振ると、シエスタは小走りで隣まで来て、俺の顔を覗き込んだ。 「遠慮することなんてありませんよ。今ならまだ夕食の準備で忙しくなるまでに時間がありますから、 厨房で何かご馳走させてあげられます。……来てください、ね?」 微笑んで、シエスタは座り込んだ俺に手を伸ばす。思わずそれの手をとって立ち上がってしまうと、 鼻の奥がツンと痛くなった。シエスタの優しさが、人懐っこそうな笑みが、温かい手が、あまりにも染みた。 それはまるで、くたくたに疲れた全身を、熱い湯船の中に沈めた時のように。 「どうですか? サイトさん。ありあわせのもので、申し訳ないんですけど…」 「いや、十分すぎるよ。美味い。滅茶苦茶美味い」 厨房のテーブルで、シエスタが残り物を組み合わせて作ってくれた料理を、ガツガツと頬張る。 マジで泣けるくらい美味しい。お腹が空いてたっていうのもあるし、もともとの料理がよく出来てるって いうのもある。けど、今の俺には、シエスタのかけてくれた気遣いが何よりの調味料になっていた。 「そんな、褒めすぎですよ。でも、お世辞でも嬉しいです」 「いや、お世辞じゃな……もごっ」 「あ、もう。ほら、そんなに急いで食べなくても、料理は逃げませんよ」 がっついて食べながら話していたので喉に詰まらせてしまった俺に、シエスタは水の入ったコップを 差し出して、背中をトントン叩いてくれた。 「ぷはっ、ふぅ……ありがとう、シエスタ」 「いえ、いいんですよ、このくらい」 あっという間に食べ終わり、シエスタの方をじっと見つめて礼を言うと、シエスタは頬を染めて、 照れくさそうに笑った。メイドらしい、控えめな態度。けど、その笑顔は仕事上の作った顔ではなく、 シエスタの本性から来るものなのだろう。愛嬌があって、見る人を安心させる魅力的な笑み。 ■6 「サイトさん、何かあったんですか?」 しばらく食休みをしていると、シエスタは俺にそんな言葉をかけてきた。 「え……何かって、何が?」 ぎくっとしてとぼけると、シエスタは真剣な表情で俺に詰め寄る。 「サイトさん、落ち込んでるように見えます。 何かあったのでしょう。ミス・ヴァリエールに無体なことをされたとか」 鋭い。なんという洞察力。これが女のカンというやつなんだろうか。 その黒い瞳に見つめられて、これ以上嘘をつくことができない気分になってしまう。 「うん……実は、ちょっとルイズと顔合わせにくい事情ができちゃって」 照れ隠しに頭を掻きながら、そう白状する。シエスタは、そんなことだろうと思った、 という風に深いため息をついた。 「また、無茶なことをされたのですね。いくら平民だからって、貴族の方に何でも好き勝手されて いいなんて法はありませんのに……」 「いや、今回は俺に非があるんだけどね」 シエスタは、少しだけ考え込む様子を見せてから、何かひらめいたという顔をした。 なぜか、その瞳がちょっとだけ怪しい色に輝く。 「……サイトさん、今日の夜、お風呂をご一緒してもいいですか?」 頬を染めて、お盆で口元を隠しながら、シエスタはおずおずとそう聞いてきた。 「え、お風呂!?」 急な提案に、驚く。確かに、何日か前、ひょんなことから俺が作った五右衛門風呂に シエスタを入れてあげることになってしまった。 その時は、シエスタの服が濡れてしまったハプニングのせいだと思っていたのだけど。 「えーと、あの風呂に入りたいなら、俺と一緒じゃなくても」 「でも、わたし、一人でああいうお風呂に入ったことないから、ちょっと不安で……」 シエスタはもじもじと体を揺する。そのメイド服の下に隠れた、着やせする脱いだら凄い肢体を 思い出してしまい、頭が一気に熱くなる。 シエスタとお風呂。シエスタの体。それに、あの時風呂から上がったシエスタに言われた、 『一番素敵なのは、あなたかも』なんて台詞。 それらが鮮明に蘇る。そそ、それは。そのお誘いは。ただ”お風呂に入りたい”というお願いではなく、 ”俺と一緒にお風呂に入りたい”というお願いなのではないでしょうか。 「あ、あああ、その……うん、わかった。シエスタの仕事が終わるころ、用意して待ってるから」 頭で考える前に、口がそんな言葉を勝手に喋る。シエスタは、ぱあっと顔を輝かせた。 「は、はいっ! 楽しみにしてます! ……それじゃ、そろそろお夕飯の仕事があるから」 さよなら、と言ってシエスタは足早に立ち去った。後に残された俺は、マルトー親父さんたちが 夕食の準備に厨房に入ってくるまで、その場にぼけーっと座り込んでいたのだった。 「お待たせしました、サイトさん」 その日の夜。結局、俺はルイズの部屋に戻ることなく時間を潰し、頃合いを見計らって風呂の準備をした。 ちょうど、釜の中のお湯が温まったあたりで、月明かりと薪の火が照らすヴェストリ広場に シエスタがやってきた。 「あ、ちょうど良かった。今入れるようになったばっかりだから」 「そうですか。良かったです」 既に部屋に戻って着替えてきたのか、シエスタの格好はいつものメイド服ではなく、薄手の寝巻きに 毛糸の温かそうな上着を羽織った姿だった。 見慣れない……そして、メイドではなく、一人の女の子であることを嫌でも意識してしまういでたちに、 ついドキドキしてしまう。今までにルイズやキュルケの寝巻き姿も見たことはあるけど、シエスタの容姿は 俺にとって馴染み深い日本人の女の子に雰囲気が似ていて、生々しい雰囲気を放っている。 「えっと……それじゃ、入ろうか」 妙に落ち着いた声でそう言う俺に、はにかんで頷くシエスタ。考えてみれば、なんかおかしくないか? 女の子と一緒にお風呂入るんだぞ? ただ事じゃないぞ? なんで、”そんなに大したことじゃない” みたいな演技してるんだ? でも、冷静に考えて常識的な判断をしたら、一緒にお風呂に入れなくなる。 だから、俺は……きっとシエスタも、このよくわからない演技を続ける。 ■7 「はぁ……やっぱり、気持ちいいです」 シエスタのうっとりとした声が背後から聞こえ、湯の中で温まった体がさらに熱くなる。 二人で背中を向け合って服を脱ぎ、体を洗って、風呂に入った。一日中外にいて汚れていた 体がさっぱりしたのはいいのだが、ぜんぜんリラックスできる状況じゃない。 だって、すぐ後ろには、脱いだらすごいシエスタが裸でいるのだから。 先日も一緒に入ったシエスタの肢体が思い出される。湯気に湿ってしっとりした髪。 濡れて上気し、艶めかしい雰囲気を放つ肌。恥ずかしげな表情を浮かべる、可愛らしい顔。 ああ、見たい。また見たい。あの時みたいに、こっち向いても良いですよ、 なんて言ってくれないだろうか。そんな、人としてちょっと終わってることを考える。 「月が綺麗ですね、サイトさん」 そんな煩悩満載のところへ聞こえてきたシエスタの言葉につられて、空を見上げる。 ふたつの月の輝きも綺麗だったが、それより、星が無数に散らばる夜空に嘆息が漏れた。 電気による灯りのせいで、夜でも星があまり見えない日本の空とはまったくの別物。 見惚れるほど綺麗ではあったけど、自分は異世界にいるんだなという事を再認識してしまう。 「お風呂に入りながら夜空が見られるなんて、貴族の方でもそうそうできない経験ですよね」 「ああ、そうかもな」 「えーと……あ、あれがグリフォン座ですね。となりがフクロウ座。わたしの星座はどこだったかな」 星を見ているらしいシエスタが、聞き覚えのない星座の名前を呼ぶ。元々俺は星に詳しくないので よくわからないけど、見える星の並びや、星座の名前も地球とは全然違うのだろう。 「あ、あれがイーヴァルディ座ですよ。今日はすごく良く見えます」 「え、どれ?」 確か、この世界で童話とかになってる勇者の名前だっけ。どんな格好なのか気になって、聞いてみる。 「赤い月の横です。剣と槍を構えているように見える」 「んー、よくわかんないな」 「ほら、あれですよ」 俺が星空を見渡してきょろきょろしていると、シエスタの声が間近で聞こえた。 「え?」 シエスタの手が俺の顎に当たって、角度を調節してくる。当のシエスタの顔は、俺のすぐ隣にあった。 星座の位置を教えてくれてるんだろうけど、そんなことより、俺の体に当たっている感触に意識が奪われる。 シエスタ、俺の背中に寄り添うみたいな格好になってる。顔、近い。いやいやそれより、 背中になんかやわらかいの当たってる。ナニコレ。やーらかい。あったかい。脳溶けそう。 「シっ、シシシシシシシエシエ?」 歯をかちかち鳴らしながら、やっとのことでそう言う。シエスタは俺の顔を空に向けさせるのをやめて、 吐息が聞こえるくらい近くへ顔を寄せてきた。 「……サイトさん……」 耳元で、囁かれる。ぞくぞくぞくっ、と背筋が縮み上がる。甘えるような、ねだるような、微かな声。 「な、なに?」 聞くと、シエスタはそのまま顎を俺の首筋へ乗せてきた。思わず叫び声を上げそうになる。 「……わたしの体、魅力ありませんか?」 寂しそうな、シエスタの声。何ですかそれ。これだけえっちぃ体を押し付けておいて魅力ないですかって。 そんなん、拳銃を突きつけておいて『怖いですか?』って聞くみたいなものじゃんか。 「あっ、あああるアルヨ。何言ってんの。シエスタは可愛いし、魅力的だし、脱いだら凄いし……」 最後のはちょっとまずかったか。だけど、シエスタはそれを聞いて、俺の背中へさらに体を押し付けてくる。 「じゃあ……どうして、見てくれないんですか?」 「ど、どうしてって、そんなの……」 「そんなの?」 俺の首に顎を押し付けたまま、小さく首をかしげるシエスタ。さらりとした黒髪が、俺の肩を撫ぜる。 「わ、わかるだろ? 男が、魅力的な女の子の裸なんてじろじろ見ちゃったら、どんな気分になるか……」 「……わかります。わかってて、サイトさんと一緒にお風呂に入りたいなんて言ったんです」 シエスタの言葉が、すぐには理解できなかった。頭が煮えすぎてて、思考力が低下してる。 「サイトさんとだけですよ? こんなことして平気なの」 シエスタは、泣きそうな声でそう言った。それって。それって。それって。うわぁ、なにそれ。 おかしい。なんかおかしい。これも夢なんじゃないの? ■8 「サイトさん……わたし、こんなにどきどきしてるんです……倒れちゃいそうなくらい。 これ以上……恥をかかせないでください。嫌なら嫌って、言ってください」 俺の胸に両手が回され、ぎゅっと抱きしめてくる。背中に、柔らかいふたつの膨らみが押し付けられて 形を変え、その奥から言葉どおりに早鐘を打つ鼓動が伝わってくる。 夢なはずがない。そして、嘘や冗談なわけもない。この温もり。シエスタの言葉。紛れもない現実。 シエスタは、俺を慕ってくれてる。信頼してくれてる。ここでどうにかされることを 許してくれると言ってる。 人として、友人として、異性として。メイジに召還された使い魔としてではなく、 平賀才人である自分を。それは、同情でも愛想でもなく、俺が俺だから、してくれること。 優しいシエスタ。いつも笑顔を見せてくれるシエスタ。ときどき、妙に積極的になるシエスタ。 俺の中で、シエスタへの愛しさがどんどん膨らんでいく。ついさっきまで、可愛らしい外見や、 実はいやらしい体つきなんかばっかり意識してたけど、それよりも──いや、背中に当たってる 甘美な感触はそれはそれで意識しっぱなしなんだけど──シエスタという少女そのものへ向いた気持ちが、 自分でも驚くくらいに大きくなってくる。 「シエスタっ!」 「あっ……!」 俺はシエスタの方を振り向いた。すぐ目の前にいる彼女は、潤んだ瞳と上気した頬で俺を見上げている。 「シエスタ、俺……」 もう一度名前を呼ぶと、シエスタは小さく微笑んで、目を閉じた。卑怯だと文句をつけたくなるくらい、 可愛らしくて、男の情欲に火をつけるしぐさ。 俺は、その顔に自分の顔を寄せて……寄せて、色っぽく茜がさしている頬に口付けた。 「……え……?」 シエスタは不思議そうな声を上げて、目を開けて俺を見る。嬉しいけど、期待と違う。そんな様子。 俺も、よく自分で自制できたと思う。でも、やっぱり、ここでシエスタの唇を奪うわけにはいかなかった。 だって、それは、逃避のような気がしたから。ルイズの事で傷つけられて、落ち込んでいるところを シエスタが癒してくれて。だから、今までよりも強くシエスタを意識してしまっているのかもしれない。 シエスタは可愛い。いい子だと思う。日本にいたときに、こんな子に好かれたりしたら、間違いなく ふたつ返事で恋人になってる。いや、日本ではモテなかったからとかそういう問題ではなく。 でも、今の俺がシエスタをどうにかしてしまったら……それは、ルイズが駄目だったから彼女を。 そんなことにならないだろうか。俺の気持ちに、そんな要素が一切無いと言い切れるだろうか。 いけない。そんな気持ちを疑ってしまっているうちは、できない。 「ごめん……俺、シエスタは凄く魅力的だし、このままどうにかしちゃいたくてたまらないくらいだけど…… でも、今、勢いでそんなことするわけにはいかない」 言ってる途中に、首筋がピクピクいった。体の方は完全に今すぐこの子に思いをぶつけろと要求してる。 でも、これだけはゆずるわけにはいかない。それこそ、俺が犬なんかじゃなく、人間だという証明だから。 「サイトさん……」 「でっ、でも、それは俺がシエスタを大事にしたいって、こういうのはきちんとしないと駄目だって 思ってるからで! だからこそ必死で我慢してるっていうか、いや我慢ってのも下品だけど……」 俺がしどろもどろになってわけのわからないことをのたまっていると、シエスタはくすりと笑った。 「……ありがとう、サイトさん。嬉しいです。ひょっとしたら、ここで愛していただけるのと同じくらい」 「シエスタ……」 「わたし、待ってます。いつでも。……でも、あんまり待たせたら、またわたしの方から 迫っちゃうかもしれませんよ?」 シエスタは悪戯っぽくウインクした。そして、「ちょっとのぼせちゃいました」なんて言いながら、 湯船から上がる。その姿を見ないように慌ててまた背中を向けて、俺も風呂から上がった。 体を拭いて、お互い服を着直す。そこで、はたと気付いた。風呂で温まることができたのはいいけど、 これからルイズの部屋に帰らなければならないのだろうか。今の今までシエスタとしてたことを考えると、 風呂に入る前よりもずっと帰りにくい。 どうしようと頭を抱えかけたところで、シエスタが、まるで今まで隠していた切り札を出すように口を開いた。 「あの……厨房でミス・ヴァリエールと顔を合わせにくいって聞いて、あの後、今夜だけ同室の子に 他の部屋に移ってもらったんです。……もし、良かったら……わ、わたしの部屋に、来ませんか?」 つづく 前の回 一覧に戻る 次の回
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1238.html
竜に焼かれた村。燃え盛る家々を尻目にシエスタは弟たちを連れて、森の中に逃げ込んでいた。 父や母は一旦は森に避難したが、竜騎士が去っていくと村に戻り火の消化や怪我をした村人がいないか探している。 シエスタは恐怖に震えていた。けれど彼女には弟と妹がいる。彼らはもっと怖いはずだ。 実際、弟や妹は家を焼いた竜と竜の炎に怯え愚図りだしている。シエスタはそんな妹、弟を懸命にあやし、 抱きしめているがとうとう父や母の名を呼び、泣き出してしまった。 父や母にかなわない、と思いつつシエスタは村の方を見る。新たな火の手が上がらない。 やはり竜騎士は引き上げて行ったようだ。 シエスタは行かないでと泣く弟たちをなだめ、両親を手伝うために森から抜け出し村へと入った。 まだ村は炎の熱気に包まれていた。パチパチと炎の爆ぜる音だけがする。 人の声はなくシーンと静まり返っている。誰の声も聞こえない。 おかしいとシエスタは思った。戻って行った村人は多いはずなのに。 恐る恐るシエスタは歩き出す。誰かに会えることを願って。 数十歩進んだ先でシエスタは人を見つけた。彼女の家の向かいの住人だ。 けれど地面に倒れている。どうしたんだろう、疑問に思いながらシエスタは一歩を踏み出してヌルヌルした液体を踏んだ。 地面が血に濡れていた。倒れている人から流れ出している。 ヒッと驚きと恐怖であげそうになった悲鳴を寸でのところでシエスタは抑えた。 父と母を探さないと、必死で祈るようにシエスタは先に進む。進むほどに血の匂いがすることに気付かずに。 そして見てしまった。剣を手にした父と母が地面に倒れ、そこで赤く濡れた剣を無造作に持っている仮面を着けた一人の戦士の姿を。 今度こそシエスタは悲鳴を上げた。叫びながら闇雲に走り出す。父と母の倒れている光景から逃げるように。 後ろでは戦士の足音がする。追ってきているのか、後ろを向き確認する暇はない。 咄嗟にシエスタは弟たちを守らなければと、森とは反対方向に向きを変えた。 懸命に走る。弟たちのところに行かせないように、追いつかれないように。 突然シエスタの眼に、祖父が故郷の様式で作った寺院が飛び込んだ。村から出てしまったのだ。 この先には身を隠せる場所はない。あの寺院に隠れるしかない。 それにシエスタの大好きだった祖父は言っていた。あの寺院は神聖な場所だ、神々が守ってくださると。 神々とは誰かは分からなかったけれど、今のシエスタはその言葉にすがった。 シエスタは中に入り息を潜める。『竜の羽衣』は学院に運ばれたため狭くはない。 ふと奥に飾られている剣が眼に入った。祖父が故郷のものにそっくりだと大枚をはたいて買ってきたものだ。 長い反りの入った細い剣。 「……タカマサ」 祖父は剣をそう呼んでいたとシエスタは思い出した。剣を取り胸に抱く。 こうすれば祖父が自分を守ってくれる。 そんな淡い希望を抱きながら息を潜めシエスタは見つからないことを願う。 けれど、シエスタの望みは叶わない。 両刃の長剣が紙の張られた薄い横開きの扉を突き破り、破壊した。 シエスタは声の限り叫んだ。戦士はそんなシエスタの姿に何も感じないのか、 動きを止めもせず情けもかけず、剣を突き刺そうとした。 戦士は戦場では誰にも容赦はしない。それが少年でも少女でも、背を向けた途端に刃を突き出される。 長い長い戦いの果てに開花し醸成された凶戦士の本能。仮面によって操られている今もその気性は失われていない。 逆に研ぎ澄まされ先鋭化されている。 「やめろ、止まれ!」 戦士は突然響いたその声に呼応し剣を止める。シエスタの柔らかい体に刺さる本の少し手前で。 指輪の持ち主が現れたのだ。仮面を着けた者を操れる指輪の持ち主が。 土くれのフーケが竜に乗って駆けつけてきた。 「剣を収めて、私について来い」 先ほどまでの動きが嘘のように戦士は静かに剣を二三度振ると鞘に収めた。 そのままフーケは立ち去ろうとするが、何を思い立ったかしゃがみ込むシエスタに近寄り、 膝を地面に付かせて同じ目線でシエスタの眼を眺めた、 シエスタの瞳は何も写してはいない。虚ろな眼だ。 意識を失っているか、それとも心を失ったのか。 フーケには分からない。 「……すまない」 それはフーケの後悔を表したものだった。フーケは戦士を追い駆ける道すがら タルブの村人が殺されていたのを見てきた。もし戦士の近くで行動していたらこのような事態を避けられたかも知れないのだ。 所詮謝罪の言葉など自己満足だ。けれど彼女は言わずにはおれなかった。 そして、その言葉がシエスタの心を呼び戻す。虚ろな眼に光が灯る 映像として再生されるかのように、シエスタの心にあの光景が蘇ったのだ。 炎の中倒れている父と母、村人、ただ一人立つ仮面の戦士。 許さない。 シエスタは腹の底から叫んだ。悲鳴ではない。あえて言うのならそれは咆哮だ。復讐の咆哮。 眼の前の、ローブのメイジをシエスタは突き飛ばす。突然のことにフーケは反応できず、床に倒れる。 シエスタは立ち上がりながら駆け出す、外と中の境界線に立つ戦士目掛けて。 剣を、貴正を抜いた。鞘を捨てる。 片刃の剣、反りの入った刀身を戦士目掛けて突き出す。 けれどシエスタの渾身の一撃は難なく戦士の鉄の籠手に止められ、弾かれる。 次の瞬間シエスタの腹に衝撃が走る。もう片方の手を戦士はシエスタの腹に当てたのだ。 シエスタの意識が遠くなる。体を動かせず、倒れてしまう。 「止めろ!」 トドメを刺そうと剣を抜きかけていた戦士はその声に動きを止める。フーケが痛む頭を振りながら戦士に近づいた。 「……行こう」 フーケは倒れた少女を一瞥し、背を向けた。アルビオン艦隊の合流する。 もう良いだろう、早くアルビオンに帰りたい。気楽な盗賊時代が酷く懐かしかった。 視界が暗く狭まり意識が失われていく中、シエスタは背を向ける仮面の戦士とローブのメイジの姿を強く記憶に刻み付けた。 タルブの人達を何より、父と母を殺した戦士の姿を。 「何か見えましたか、韻竜殿」 空中から舞い戻ったアンヘルを迎えたのはマザリーニだった。珍しいとアンヘルは思う。 魔法衛士隊や、アンリエッタが庭に居る時は多い。けれどトリステイン王国の政治を司るマザリーニにはそんな暇などない。 とくにトリステインとゲルマニアの同盟締結を控えたこの時期は。 「あの浮遊大陸、アルビオンと言ったか。あそこから艦隊が進むのが見えた。守りは万端か? 枢機卿」 格別興味を持っていない様子でアンヘルは空中で見たことを告げた。アンヘルは常に王宮にいるわけではない。 一日の半分以上を空中にいるときもある。空からは様々なものが見える。それはどこでも同じだ。 「あれは結婚式に出席する大使を乗せた船。不可侵条約が結ばれた今、アルビオンとの戦争は有り得ません。それにもうすぐゲルマニアとの同盟が結ばれる」 マザリーニは今までの苦労を思い返しながら答える。肩の荷が降りた思いだった。 今回のアンリエッタの結婚は同盟の為のもの。マザリーニは散々苦心してゲルマニアとの同盟まで漕ぎ着けた。 今同盟を結べばアルビオンとの戦争は回避できる。 クロムウェルとて馬鹿ではない、トリステインとゲルマニアの二国を敵に回すと言うことが何を意味するか分かっているはず。 故に今回の婚礼を失敗する訳にはいかない。 そして同盟をまとめることでマザリーニはアンリエッタから失われた信頼も取り戻そうとしていた。 ワルドの裏切りがあってから、アンリエッタはワルドを腹心の部下にしていたマザリーニのこともあまり信頼しなくなっていたのだ。 マザリーニ自身は王国を裏切る気などさらさらない。ただワルドの裏切りに気付かなかったのは愚かだったと思っている。 例えアンリエッタの独断で行われたアルビオン行きであっても、直前にアンリエッタにワルドを紹介したのはマザリーニなのだ。 彼はそのことで自責の念を感じていた。 だからこそ一層精力的にゲルマニアとの同盟締結に取り組んだ。それがトリステインと王家を守る道だと信じて。 「故に韻竜殿、あなたの力を借りる時は来ないでしょう」 もう少しで同盟が成るという時に、マザリーニはアンヘルの所を訪れたのだ。 トリステインとアルビオンの間にはもう戦争は起こらないという事を伝えに。 マザリーニはアンヘルに借りを作りたくはなかった。 戦争になれば十中八九アンヘルの韻竜としての力を借りることになる。 だが、あの何者かも分からぬ韻竜を頼りすぎるのは如何なものか。 どれだけの年月を重ね人間以上の知識を持とうが、所詮竜は竜なのだ。人と竜は違う。 しかし今の所、アンヘルは何の動きも見せていない。せいぜい自分のドラグーンを探してくれ、と王国への協力の交換条件を示しただけだ。 マザリーニはアンヘルをどの程度信用して良いか計りかねていた。 「ふむ、そうであると良いがな。我はもう一度飛ぶ、放れておれ」 気のない返事をしマザリーニが数歩下がるのを待って、アンヘルは翼を動かす。 空へと体を浮かすアンヘルを静かに眺めるマザリーニ。 未だ誰も気付いていなかった。王国全土を震撼させる報せを携えた使者が、今まさにトリスタニアに入ったことに。 「タルブにアルビオン艦隊が降下、占領行動に移ったとのことです」 次々もたらされる報告に緊急招集された会議はいちいちざわめいた。 当然である、すでに艦隊は打ち破られ、制空権はあちらに握られている。 トリステイン国内に残っている船は非武装艦か旧式艦のみ。これでは制空権を奪うなどできそうにもない。 竜騎士だけでは戦艦は落とせない。慌てていないのはアンリエッタとその横のマザリーニくらいである。 「竜騎士はどうした?」 「これは事故だ、今ならまだ止められる」 「韻竜と共に迎撃に出るのだ、そのための韻竜だろう」 「いかに韻竜と言えどあれだけの艦隊を相手にはできまい」 実に様々な意見が交わされる。けれどそれらは不毛な議論をいたずらに進ませるだけにすぎない。 「アルビオンの貴族会議に特使を派遣しろ。ゲルマニアにもだ、援軍を出させろ」 マザリーニ枢機卿はそれら雑多な声をかき集めて、様々な指示を出していた。 彼は悔しさに手を握り締め、それを打ち消すために一層声を張り上げる。 彼は自分が重大な読み違えをしていたことを覚った。今のアルビオンはアルビオン王国ではなく、神聖アルビオン共和国なのだ。 六千年の伝統を誇るアルビオン王家を倒した連中が建てた国。 そんな国家が不可侵条約をしっかり遵守すると考えていた前の自分を張り倒してやりたい。 だがそれは叶わぬ願いだ。だからこそマザリーニは今、戦争を止めようと奮起している。 貴族たちのあわてふためく姿を見るうち、アンリエッタの心にはふつふつと怒りが沸いてきた。 彼らはなぜ焦りを表に出すのだろう。私には悲しみを押し込めて、笑うことを強いたのに。このような時こそ理性で動くべきではないのか。 静かにアンリエッタは心を決めた。あなた方が焦りを隠さないのなら、わたくしも怒りを隠さない。 アンリエッタは突然立ち上がると、机を両手で思いっきり叩いた。こんなことをするのは初めてだ。それが何故か心地良い。 「今ここで話している間にも、我々貴族が守るべき者たちの血が流されているのかも知れないのですよ。 今こそ貴族としての責務を果たすときです。あなたたちはそんなことも忘れてしまったのですか!」 アンリエッタの剣幕に会議室は静まり返っている。 誰も何も言わない。ただアンリエッタの声だけが部屋に響いていた。 「あなた方がやらぬというのなら、私は率います!」 強引にドレスの裾を引き裂き床に捨てる。自由になった足でアンリエッタは駆け出した。 アンリエッタを縛るものはもう存在しない。 「お待ち下され! 殿下!」 沈黙から抜け出たマザリーニは咄嗟にアンリエッタを制止する。けれども王女は止まらなかった。 それ以上に声をあげることが出来ない。アンリエッタの語ったことがマザリーニの胸の内に響く。 貴族の義務。マザリーニ自身が昔、アンリエッタに語った言葉だ。民を守るからこそ我々貴族は統治することを許される。 幼き日の王女は瞳を丸くして、大きくうんうんと頷いていた。 庇護してきたはずの王女はいつの間にか成長し、自らの力で走り出している。 ならば、老いた自分は王女の後に従おう。 王女の破り捨てたドレスの裾を拾い、ギュッと握り締める。 「各々方、殿下の後に続きますぞ!」 そう言い放つと枢機卿の球帽を外し、マザリーニは頭にドレスの裾を巻き付けた。 背後から聞こえてきたマザリーニの制止の声も気に留めず、アンリエッタは長い廊下を駆ける。 思えば王宮内を走るなど何年ぶりだろう。幼き日々、ルイズと共に遊んだとき以来かも知れない。 向かうのは王宮の中庭。アンリエッタは聖獣ユニコーンにまたがる。その後ろに赤竜が舞い降りた。 「艦隊が燃えて落ちている。戦争か王女よ?」 「ええ、その通りです。お力を、お貸し下さい」 竜と向き合う王女の後ろには魔法衛士隊が集まってくる。グリフォン隊、マンティコア隊、ヒポグリフ隊それぞれが自らの騎獣に乗りながら。 その数は次第に増している。先ほどの会議に出席していた貴族の姿もあった。マザリーニもアンリエッタのすぐ後ろにいる。 「いいだろう、行こうぞ」 アンヘルは全身の力をみなぎら、翼を上下に動かしながら思った。我が契約者カイムも戦場にならフラリと現れるかもしれぬ。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2501.html
前ページ次ページゼロと聖石 決闘から一週間。 いろいろ変化があった。 まず、謹慎を食らった。一週間も。 相変わらず系統魔法は使えないが、それに変わる魔法が使えるので問題は無い。 ただ一部の人たちが、 『あの使い魔はエルフの魂が篭っていてルイズはそれに乗っ取られている。だから先住魔法が使える』 とかうわさをしている。 いや、先住に近いけれど先住魔法じゃないし。 というかアルテマはエルフじゃなくて聖天使だ。 『一部分だけ白く染まったのがその証拠だ!』と喚いていたヤツにレビテトで三日くらい浮きっぱなしにしておいた。 そんなことを考えながら部屋で勉強している昼下がり、タバサという子がたずねてきた。 「あなたの使った魔法、アレは何?」 そんな彼女とはちょっとだけ秘密を教えた後、すぐに打ち解けられた。 精神に関する魔法は有るか? と問われたときは素直に分からないと答えておいた。 今後、相手を眠らせる魔法とか混乱させる魔法は出てくるかもしれないが、今は不明だ。 「失礼します、ティータイムのお菓子をお持ちしました」 これは一週間限定だが、あの時結果的に助けたメイドが食事の準備などをしてくれる。 彼女はシエスタ。珍しい黒髪のメイドで、胸のサイズは私の敵だ。 ただ、彼女は以外に気が利いていて、私付きのメイドとして雇いたいぐらいだ。 一つ気になるのは、彼女がそばにいると微かに聖石が震えるのだ。 そうそう、これはあんまり嬉しくない変化だが、 「ハァーイ、ルイズ! 辛気臭く謹慎してる?」 そう、あのいけ好かないツェルプストーがよく出入りするようになったことだ。 散々騒いだ後、去っていくのだから迷惑この上ない。 ただ、二人で騒いでいる時が一番楽しいかもしれない。 そういったものだ。 そして、謹慎も終わった虚無の曜日。一番変化が激しかった一日。 私達三人は王都へ買い物に来ていた。 「えーと、各種ハーブに聖水、ちょっとした金の塊…」 「一体何に使うのよ?」 「即効性のある水の秘薬に石化解除、消耗した魔力の回復とかそういったもの」 タバサと知り合いになってから、移動が楽になった。 シルフィードなら移動が楽ちんだ。 オープンカフェで買ってきたハーブや薬品を混ぜ合わせてポーションを作る。 エリクサー以外は作ることに成功。というかエリクサーってどうやって作るのよ? そして、目的も済んで学院に戻る。 中庭に降り立ち、寮に戻ろうとしたとき、聖石が甲高い音を上げた。 「おかえりな…さい、ミス・ヴぁりえーる―――」 寮の入り口前にはあからさまに様子のおかしいシエスタ。 右手にはさびた剣、左手には――― 「聖石!?」 独特の模様が刻まれた緑の石。 それが私の石と反応して共鳴しあっている。 ―――彼女は我等の魂に抗っている――― それが本当だとすると、何者か分からない、アルテマクラスの存在がシエスタを乗っ取ろうとしている。 直感的にそれはさせてはならないと魔法の詠唱を開始。 「タバサ、キュルケ、彼女を取り押さえるわよ!」 「ちょ、ルイズ!?」 「大地に眠る古の光、眠れるその力を地上にもたらせ! ウォール!」 自分でも現在最速の詠唱を行って障壁を全員に張る。 次の瞬間にはシエスタがこちらの懐に潜り込んできた。 私に剣を振り下ろそうとして、キュルケのフレイムボールに妨害される。 「問答無用ってわけ? 微熱を甘く見るんじゃないわよ!」 同時に幾つもの火球を作り出してけん制する。 それにあわせてタバサもウィンディアイシクルで相手の動きを封じようとする。 それを見てシエスタは後ろに下がり、剣を大上段に構える。 「身の盾なるは心の盾とならざるなり! 油断大敵! 強甲破点突き!」 剣先はタバサの方向、とっさに氷の障壁を作り出す。 発想はよかったが相手の技との相性は最悪だった。 地面から襲い掛かった刃は氷の障壁を貫き、あっさりとタバサの腹部に直撃した。 幸いにしてウォールの効果で吹き飛ばされるだけに留まったが、それ以上に深刻な事態を招いていた。 「た、タバサ…服が、胸から下、シャツが切り裂かれてる」 シエスタが使った技は装備破壊と呼ばれる技術の篭った剛剣技、その中でも鎧を破壊する技。 肝心な部分が見えてないので作品的には大丈夫なはずだ、多分。 そんなの気にしないとばかりにウィンディアイシクルでシエスタの動きを封じ続ける。 「何とか出来ますように、ついでにシエスタが耐えられますように。 渦なす生命の色、七つの扉開き力の塔の天に到らん! アルテマ!」 膨大な光がシエスタを包み込もうとした瞬間、剣に弾かれるようにアルテマがかき消される。 「はい? ちょっとそれって卑怯じゃないの?」 「どう考えても卑怯よね?」 「この後の行動方針は決まった」 タバサがウィンディアイシクルを唱えてけん制した次の瞬間、 「「「脱兎のごとく逃げろ!」」」 三人が全速力で走りながら広場を逃げ回る。 と同時に三人がそれぞればらける。 シエスタはルイズを追いかける姿勢をとる。 それを見たタバサとキュルケは魔法でシエスタの足を止めると同時に、氷を炎で溶かして水蒸気を作り出して視界を封じる。 ここでルイズが攻めに転じる。 これまで見せていなかったテレポでシエスタの右手側に跳ぶ。 跳んだ瞬間に杖で右手を叩き、聖石を落とさせ回収。さらにテレポで間合いを取る。 これでシエスタも元に戻るはず。 そうしてシエスタの方を見ると、 「我に合見えし不幸を呪うがよい。星よ降れ!」 ぎゃー! まだ正気に戻ってない!! ええいもう何とか行動封じられれば―――そうだ、一つだけあった! 「時を知る精霊よ、因果司る神の手から我を隠したまえ…ストップ!」 「星天爆撃打!」 詠唱と同時に降り注ぐ巨大な刃。 宝物庫周辺の壁を砕きながらその牙を突きたてようとして、止まった。 シエスタに対するストップが成功して、攻撃も止まったのだろう。 刃は消え去り、シエスタは固まったまま。 この惨状をどう説明したものか、考えていたそのときに、 巨大なゴーレムが学院に現れた。 前ページ次ページゼロと聖石
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/527.html
ギーシュとの決闘から数日過ぎた日、朝の眩しい光によって康一は目を覚ました。 ふと見ると、体中に包帯が巻かれている。不思議なことに、痛みは殆どなかった。 康一はギーシュとの決闘の出来事を思い返した。 決闘の日、ワルキューレというゴーレムに囲まれ、ボロボロに叩きのめされ……。 やられそうになったところに、シエスタが自分の盾となるように立ちふさがり、攻撃された。 怒りで頭がいっぱいになり、訳が分からない内に、ゴーレムたちを全滅させた。 そして、ギーシュに鉄拳制裁を食らわせた後、気絶したのだ。 康一は、自分が置かれている状況を把握するため、辺りを見回した。 もっとも、見慣れた光景であったため、ここがどこであるかはすぐに把握できた。 ここはルイズの部屋で、康一はルイズのベッドで寝ていたのだ。 ちなみにルイズは、椅子に座り机に突っ伏して寝ていた。 状況を把握した康一は、ふと左手の甲に刻まれたルーンを見る。 このルーンが光りだした途端、エコーズACT2の能力が劇的に上昇した。 スピードが通常時のACT3を上回り、物理的ダメージを与えないはずの『文字』は、凄まじい破壊力を持っていた。 今はあの時の輝きを失い、ルーンは光ってはいない。 あれは一体、なんだったんだろう。 そんな風に思いながらルーンを見つめていると、ノックの音が鳴り響き、ドアが開いた。 中に入ってきたのはシエスタだった。 相変わらずのメイド姿で、カチューシャが似合っていてなんとも可愛らしかった。 シエスタは康一の姿を見るなり、瞳に涙を浮かべながら抱きついた。 「コーイチさん……! よかった……」 「わぁっ! あ、あの、シエスタさん……!」 康一は顔を真っ赤にさせながら、バタバタと手を振る。 シエスタはしばらくの間、康一に抱きつきながら体を震わせていた。 やがて落ち着いたのか、ハッとして体を離した。 「す、すみません! わ、私ったら……」 「あ、あははは……」 由花子さんが居たら、『ラブ・デラックス』で絞め殺されていたかもしれない……。 そんな風に思いながら、康一は乾いた笑いで場をごまかした。 「ところでシエスタさん、元気そうで良かったです」 康一は、元気そうなシエスタの姿を見て一安心した。 しかし、笑顔でシエスタを見る康一とは対照的に、シエスタの表情は曇っていた。 「私なんかより、コーイチさんの方が……」 「え? 僕は平気だよ。もう痛みも殆どないし……」 「でも……でも……」 シエスタは、両手で顔を覆いながら俯いた。 「ど、どうしたの?」 「五日間、ずっと寝続けていたんです……。もしかしたら目を覚まさないんじゃないかって……」 そう言って、シエスタはついに泣き出した。 突然のことに、康一はついうろたえてしまう。 「でも、本当に良かったですわ……。もしあのまま……コーイチさんの目が……覚めなかったら……私……」 涙をポロポロと流しながら泣きじゃくるシエスタの姿を見て、康一はスッと立ち上がる。 「ぼ、僕はもう大丈夫です! 『ホーレンソウを食べたポパイ』みたいに元気100%ですよ!」 康一は両手をブラブラと動かし、自分の体が元に戻ったことをアピールする。 その様子を、涙で濡れた顔でシエスタは見ている。 「だから、そんな悲しそうな顔をしないで下さい。シエスタさんに涙は似合いませんよ」 「……はい」 シエスタは落ち着きを取り戻し、流れていた涙を拭いた。 康一の優しさというものを、改めて感じ取りながら、シエスタはニコリと笑った。 その様子を見てホッとしながら、康一は質問をした。 「ところで、僕をここに運んでくれたのは……」 「ミス・ヴァリエールです。ここまでコーイチさんを運んで寝かせたんですよ」 康一は、ルイズをチラリと見た。 相変わらず、幸せそうな顔でスースーと寝息を立てていた。 案外優しいところもあるんだなと思いながら、視線を戻す。 「『治癒』の呪文のための秘薬の代金を払ってくれたのも、ミス・ヴァリエールなんです」 「『治癒』の呪文?」 「はい。怪我や病気を治す魔法ですわ。先生を呼んで、『治癒』の呪文をコーイチさんにかけてもらったんです」 よくよく考えれば、五日ぐらいであんな大怪我が治るわけがない。 いくつかの骨は折れ、奥歯は抜け落ち、顔面だって傷だらけであった。 体中に包帯が巻かれているにもかかわらず、痛みが殆どないのは『治癒』の呪文のおかげであった。 「後で、礼をいわなくちゃあいけないな……」 「そうですね……。それに、秘薬の代金を出してくれたのも、ミス・ヴァリエールなんですよ」 「ええと……その秘薬の代金って高いのかな?」 「平民に出せる金額でないことは確かですね」 そう言って、意地悪そうにシエスタは笑った。 「そして、ずっと看病をしていてくれたのも、ミス・ヴァリエールなんです」 「そうなの?」 シエスタは、ルイズを見ながら小さく頷いた。 「包帯を取り替えたり、顔を拭いたり……。ずっと寝ないでやってたから、今はお疲れになったみたいですけどね」 ルイズの顔を良く見ると、長い睫の下に大きな隈ができている。 「そっか……」 生意気で、ワガママで、傲慢な女だと思っていたけど、 イザと言う時は、僕のことを大切に扱ってくれるんだな……。 そんな風に思っていると、突如腹の音が唸りを上げた。 「あ……」 「あ、ごめんなさい……。五日間も眠っていたら、お腹も空きますよね。今すぐ食事をお持ちしますわ」 そう言って、シエスタは食事を取りに部屋を出た。 それと入れ替わるようにノックの音が鳴り、再びドアが開いた。 次に中に入ってきたのはギーシュであった。 ギーシュは康一を見るなり、薔薇の花束を差し出した。 康一は思わず身構えるが、ギーシュは身振り手振りで敵意がないことを必死に伝える。 「僕のせいで、キミに大怪我をさせてしまったからね……。これは見舞いの品だよ。受け取って貰えないかい?」 「はぁ……」 正直、薔薇の花束を貰っても嬉しくはないが、せっかくの好意なので康一は貰っておくことにした。 そばにあったテーブルに花束を置き、再びベッドに座る。 「ところで、シエスタさんにはちゃんと謝ったの?」 「勿論だとも。約束を破ったりなどしないさ。寛大な彼女は僕のことを許してくれたよ」 そう言ってポケットの薔薇を持ち、唇の前に立てる。 横暴な態度は減ったようだが、キザなのは変わらないな……。と康一は思った。 「ところでコーイチ君」 「何ですか?」 ギーシュは康一の隣に座り、馴れ馴れしく肩に手を置いた。 「この前の決闘はあのような醜態を晒してしまったけど、実のところ僕は君の事を尊敬しているのだよ」 「はぁ……」 康一は、馴れ馴れしくしてくるギーシュに困惑しながらも話を聞く。 「平民でありながら、貴族である僕の決闘を堂々と受けた勇気、 僕の自慢のゴーレムをあっという間に倒した圧倒的な力、そして女性を大事にしようとする心意気。本当、心から尊敬するよ」 目を輝かせながら語るギーシュを、半分醒めた目で康一は見ている。 「僕はルイズのことは好かないが、キミとは素晴らしい友達……いや、親友になれそうな気がするんだ!」 「そ……そうですか?」 ギーシュは、ポケットにあった薔薇を康一に差し出す。 どうやらこれが、ギーシュの交友を結ぶという証らしい。 康一は、あまり薔薇を受け取りたくはなかったが、 気持ち悪い程輝いてる笑顔を見せられ、薔薇を受け取らないと申し訳ない気持ちになり、つい薔薇を受け取ってしまう。 そこへ丁度、シエスタが銀のトレイを持って戻ってきた。 「コーイチさん、食事を……」 シエスタは固まった。 康一も、ギーシュに薔薇を受け取ったまま固まった。 若い男が二人、ベッドの上で薔薇の花を受け渡ししているところは、なんとも危険な光景であった。 シエスタは銀のトレイを床に落とし、上に乗っていたパンとスープを床にぶちまける。 「ご、ごめんなさい……!」 シエスタは両手で顔を覆いながら、廊下を駆け出していった。 何か、完璧に誤解しているようだった。 「……」 康一は、ショックと絶望が入り混じった表情で口をポカーンと空けていた。 「あのレディは、男同士の美しい友情というものを理解していないようだ」 ギーシュはやれやれといった感じで、髪の毛を弄くる。 そんなやり取りが行われている中、ルイズは目を覚ました。 「ふぁぁぁあああ、何よ……騒がしいわね……」 大きなあくびをして、伸びをする。 それから、ベッドの上で男二人が寄り添いあうように座っているのを目の当たりにする。 「……何してるの、あんた達」 「これかい? 男同士のスキンシップというやつさ」 「ちょっと待ってェー――ッ! ギーシュ・ド・グラモンンー――ッ!!」 康一がギーシュの両手を掴み、その弾みでベッドに転がった。 そんなことはおかまいなしに、言葉を続ける康一。 「もう、余計なことを言ったりやったりするのは止めてくれッ! 僕だって、変な目で見られたくないんだぞッ!!」 一歩間違えれば、明らかに康一がギーシュを押し倒している光景であった。 そんな様子を、ルイズは気味悪そうに眺めている。 そして、さっきのは何かの勘違いだろうと思って戻ってきたシエスタがその光景を見て固まっていた。 「いやぁあああああああー―――ッ!」 「しまったぁぁぁあああッ! ち、違うんだァァァアー――! シエスタさんー――ッ!」 「ちょっと! そんだけ元気なら、さっさとベッドから出なさいよ! 気持ち悪いわね!!」 「あのレディは、男同士の美しい友情というものを……」 どんどん不幸になっていく康一であったが、こんなのはまだまだ序の口であった……。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3823.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 草笛の音が、どこかで聞こえた気がした。 そんなものは無論空耳だ。聞こえて来るのは時折石を踏み砕いて揺れる馬車の走行音、それに馬の足音だけ。 それでもそんな音色を感じてしまうのは、馬車が走っているのが見渡す限りの草原だからだろう。 それはムスタディオの記憶から呼び起こされた音だった。 草原の廃墟の中で、お姫様とラムザが鳴らしていた草笛。 馬車の中、ムスタディオは遠い景色を眺めている。 少しだけ、あの日々の中にいた自分に戻った気がしていた。 馬車に乗りこんで早三日経つ。 トリステイン魔法学院を後にしてから、考えることはいつものように徒然にあった。 まず感じたのは、コルベールへの謝罪の気持ちだった。 どうしても確かめなければならないことがあって、出てきただけだ。なのに何故彼に大して申し訳なく思う気持ちがあるのか。それはきっと、学院に戻りたくないと思っているからだろう。 どうしてあそこから出て行くという選択肢を今まで除外していたかと言うと、それはコルベールに引き止められていたからだ。生徒思いな彼に、「ルイズの使い魔としてやっていく」と告げた。 しかし今、その約束はどこか空々しいものとしか感じられなかった。 ――このまま旅に出るのもいいかもしれない。 生活は学院の庇護下よりは大変だろうが、色々な希望を捨てればなんとかなる。根無し草のように、仲間の痕跡を探すのもいいかもしれない。あの暮らしを続けるより、マシかもしれない。 時折、夢から覚めるように聖石のことが頭をよぎる。 その度に、今考えていたことはただの「もしも」なんだ、と自分に言い聞かせる。あんな危険なものを確認せずに放ってはおけないのだ。この世界にだって、魔人達が呼び出される危険性がないなんて言えない。 だが、そう思いながらも逃避する気持ちがある。水垢のように心の底にへばりついて離れない。 (あいつらなら……どうしただろう) 尊敬できる仲間達。彼らならきっと、しっかり解決するまで向かい合おうとしただろう。 ……いや、彼らは貴族だから、元からこんな事態には陥らないかもしれない。 嫌なことを考えている、と思い、つくづく自分と皆との違いを思い知らされる。 ラムザ。アグリアス。オルランドゥ。メリアドール。ベイオウーフ。異端者と蔑まれてなお、自らの誇りと信念を貫く騎士達。 魔と戦い、撃ち滅ぼしてきた彼らは「英雄」と呼ぶに相応しい。 そう、英雄。彼らは紛れもなく世を救うために戦った英雄たちだ。 けど――その仲間まで、英雄だと一括りはできないんだな、と思った。 ブレイズガンを抱く手に、ぎゅっと力をこめた。 あの日々に戻ったわけではなかった。 郷愁と、感傷に浸っていただけだ。 もう戻れる望みはなさそうだし、戻る資格もないかもしれない。 こんな矮小な自分が、そもそも最初からあの仲間たちの中にいることが間違いだったのかもしれない。 この三日間は、そんなことばかり考えていた。 「ムスタディオさん、大丈夫ですか?」 ――ふと、自分にかけられた声に沈み込んでいた思考から引き上げられる。 傍らを見やると、自分をここまで連れて来てくれた女の子が不安げにこちらを窺っていた。黒髪のショートカットに、いつもの給仕の服装ではなく空色のブラウスを着ている。シエスタだった。 「ああ、大丈夫だよ。どうしたんだい?」 「いえ、その、なんだか馬車に乗ってからずっと……こう、思いつめた顔をしてましたから」 ムスタディオは心配させていたことに気付き、肩をかいた。そこには内出血により一週間は引きそうにない腫れがあったが、三日前の治療によって大方が癒え、今はほぼ治りつつあった。 緊張してるのさ、とムスタディオはなるべく優しい口調になる。彼女の顔つきは、何故かムスタディオをほっとさせる。シエスタは何か、見知った人間のような印象を抱かせるのだ。しかしそんな彼女に脅迫まがいのことをしてしまったため、罪悪感を感じていた。 「うまく言えないんだけど、すごく大事な手がかりがシエスタの村にはある気がするんだ。……この間も言ったけど、何の手がかりかは、言えない」 「そうですか……」 呆けたように言う彼女は、それ以外になんという言葉を口にしたらいいのか分からない様子だった。無理もないと思った。詳しい事情は何一つ告げず、強引について来ていた。 シエスタは長い間馬車を覆っていた重苦しい沈黙に耐えかねていたのか、なんとか喋ろうとしている。先ほどの案ずる言葉も、苦し紛れのものだったのだろう。 「ええと、たぶん、もうすぐ見えてくるはずですよ」 その言葉に、ムスタディオは馬車の行く先を見る。 地平線の先、彼女の生まれ故郷、タルブの村は未だ見えない。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-08 ◇ シエスタがムスタディオをタルブの村へ連れていくことになったのは、彼女が出立の朝に偶然ムスタディオと出会ってしまったことに端を発する。 トリステインの姫君が、近々ゲルマニアに嫁ぐのだという。 元々村娘であるシエスタには政はほとんど分からないが、最近アルビオンが内乱を起こしており、その飛び火を恐れて同盟を組むとのことらしい。 その式典が数ヵ月後に行なわれるのだが、それを記念してトリステイン魔法学院のメイド達にも特別に休暇が出されることになった。 とはいえ全員一斉に休みが出されるわけではない。一部ずつなので、全員が一通り暇を頂くのはそれなりに時間がかかる。だから式典のかなり前から、何人かずつ暇が与えられることになった。厨房長のマルトーに気に入られていたシエスタは、一番に休みを与えられたのだった。 しかし働き者の彼女は最後まで自分の仕事をきっちり済ませようとしていた。出発は朝なのだから、それまではいつもどおり自分の仕事をしなければならない。 前夜に帰郷の準備、いつもより早く起きて分担された区画の掃除を済ませたシエスタは、洗濯のために水汲み場へ赴いたのだった。 そこには、先客らしき人影があった。 この時間にはまだ他の人たちは洗濯に来ていないはずだけれど、誰だろう。そう訝しげに思いながら近づいていき――シエスタはひっと声を上げた。 その人物は上半身裸になって、水を含ませた布で体を拭いている。しかしシエスタが驚いたのは恥ずかしさからではない。 その体躯の至る所に青痣が残り、皮膚は裂け、酷い有様だったからだ。 驚きの声に振り向いた顔を、シエスタは覚えていた。昨日自分を助けてくれた人物。 「ムスタディオさん!」 「ああ……シエスタじゃないか」 どこか暗い顔で応じるムスタディオは、あまりシエスタの存在を気にかけた風でもなく、頭から桶に汲んでいた水を被る。苦悶のうめきをあげた。傷が沁みるのだろう。 一方のシエスタは、顔を青くしてうろたえた。 「こ、この傷……っ、ろくな手当てもしてないじゃないですか! どうしてこんな……」 そう言って思いつく。屋敷で働く同僚たちが世間話の種にしていた。ミス・ヴァリエールとその使い魔はうまくいっていない。 「まさか、ミス・ヴァリエールにほったらかしにされてるんですか!?」 「ヴァリエール様は関係ないよ」 ムスタディオの表情が苦々しいものに変わったが、シエスタはそれに気付かない。助けてもらった感謝とこんな傷を負ったのは自分のせいだという罪悪感とが頭の中でないまぜになり、混乱していた。 そしてシエスタは、そのために普段「やってはいけない」選択肢を選んでしまう。 「む、ムスタディオさん、ここに座って少し大人しくしていてください。よく効くおまじない、かけてあげますね!」 「?」 言われるままに桶を椅子にして座るムスタディオの背中に両手を添える。 傷を確かめるように優しく撫でた後、「おまじない」を囁いた。 ――彼女の一族には、トリステイン以外の血が混じっている。 六十年ほど前にタルブの村でとある騒動が起こったのだが、その時にシエスタの祖母がやってきた。彼女の言うことはおとぎ話みたいにでたらめで――誰も見たことも聞いたこともない遠方から来たと言っていたし――、殆どの者は信じなかった。 シエスタは優しく凛とした働き者の祖母が好きだったが、彼女もまた祖母の言うことを額面通り鵜呑みにしているわけではなかった。 しかし真偽はさておき、祖母に「何か」があったのは確かだった。 その証拠に、彼女はタルブの住人が今まで見たことのない様々な品々と不思議な「遺跡」、そして家族だけにしか見聞きさせない「まじない」を残した。 それは彼女が持つ謎のほんの一端、彼女本人や彼女が住んでいた場所では取るに足らないごくささいな技術だったらしいが――この地では「先住魔法」扱いをされるもの。それゆえに家族の前以外では使うことを禁じられたものだった。 「清らかなる生命の風よ、失いし力とならん。ケアル」 掌が優しい光に包まれ、あちこち青黒い背中が傷つく経過を逆さにしたように、元の色へと戻り始める。しかし彼女の腕前では大した効果は期待できず、すぐに体を巡る何かが尽きて「おまじない」は止んでしまった。 「ごめんなさい、ちょっとしか治せませんでした」 そうはにかみながらムスタディオの顔を見て――何か驚愕に塗りつぶされたような表情をしていた。 そんなに驚くようなことだろうか、確かにこれは不思議な技だけど、彼の氷の魔法の方が驚きに値するものだった。……そういえば、昨日のお礼も言えていなかった。そんなことを考えるシエスタに、ムスタディオが訊いた。 「……これ、どこで覚えたんだ?」 シエスタは少しだけしどろもどろになりながら、 「あ、あはは、それは秘密で――」 胸倉を掴まれた。 「どこで覚えたんだ! 答えろっ!!」 突如立ち上がったムスタディオの身長は高い。小柄なシエスタは半ばつるし上げられるような格好になってしまう。何が起こったか分からずあえぎ声を上げ――炯炯とした光を自分にぶつけるムスタディオの瞳を直視してしまった。 彼女の脳裏を、ルイズに関するもう一つの噂がよぎる。 曰く、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔は気がふれている。 悲鳴をあげかけた時、手が離された。咳き込むシエスタの耳に、申し訳なさそうな声が入ってくる。 「……ごめん、本当に悪かったよ。最近疲れてるんだ。許してくれ……」 見るとムスタディオは力なく座り込み、うなだれていた。 「へ、平気です……少し、驚きましたけれど」 正直なところ、散々噂話を聞いて偏見の出来上がっているシエスタは薄気味悪さを感じていた。しかし何か、同情めいた感情も生まれているのも確かだった。 この人はあの時、自分を助けてくれたのだ。 少しくらい応えてもバチは当たらない。 「私の……生まれ故郷です。祖母が教えてくれました」 だから、そう言っていた。 「私や祖母はメイジじゃないんですけど、こういうことが出来る変わった血を引いてるみたいなんです」 シエスタは髪の色も目の色も、祖母のそれを受け継いでいない。顔つきが少しにているくらいだ。しかし、この不思議な力だけは色濃く貰い受けてしまっていた。 そこからの話は急展開だった。ムスタディオが帰省についていってもいいかと言い出したのだ。さっきより穏やかな様子で、でも目の色を変えた彼の剣幕をシエスタは断りきれなかった。 そしてそのことについて、「恩返しだから」とごまかしを自分に言い聞かせ――そういえば、結局謝罪とお礼を言いそびれたことを思い出した。 そして機会をうかがいながらもなかなか言い出せず、重い沈黙に支配された馬車での三日間は過ぎてしまった。 ◇ シエスタが沈黙をどうにかしようと思ったのか、もうすぐつくはずです、とかそろそろ村の近くにある遺跡が見えてくるはずです、すごく大きいですよ、とか同じことを何度も話し掛けてくる。 それにムスタディオは珍しく応じていた。まともな会話が成立しているのはこの道中ほとんど始めてのことだったが、ムスタディオはそれに気付いていない。 さっきから猛烈に良い予感と、嫌な予感がしていた。 その二律背反が起こす奇妙な違和感は自分でも耐え難く、いつもの自問自答を打ち切ってシエスタと会話することにしていたのだった。しかし、その内容も予感のせいであまり記憶に留まらない。 ――そうして。 『それ』が見えた時、ムスタディオは我を忘れた。 ◇ ムスタディオが馬車の扉を開け放ち、飛び降りた。 シエスタがあっけに取られている内にもの凄い勢いで走り出し、あっという間に馬車の進行方向へ消えていく。 むちゃくちゃな走りっぷりだった。なりふり構わずといった様相だと妙な観察眼で見ている内にシエスタははっとなり、 「お、追ってください、あの人を!」 馬車馬の脚を早めてもらい、後を追う。 ムスタディオはかなりの距離を走っていた。事情も「ごめんけど、きっと冗談みたいに聞こえるよ」と何一つ教えてくれなかったから、何が起こっているのか全く分からない。彼をこうさせるものは何なのだろうかと思う。 追いついた馬車からシエスタが降りると、ムスタディオは汗まみれで地面に手を突いていた。ぜぇぜぇと荒く胸を上下させている。 その手が上がり、前方を指差す。 「あ、あれ……は、」 「あ、はい。あれはですね」 ムスタディオが指を指した物を見ながら、シエスタは答える。 眼前。見える小さな集落は、タルブの村だ。 そしてその隣。 見上げるとそこには――この世界で言う「フネ」が三隻、鎮座していた。 何でも、六十年前に突如として墜落して来た来たらしい。 しかし内二隻は損傷が酷い上に、製造から何百年も経過しているような朽ち方から、これは空を飛んでいたものではないという判断がされた。天界から落ちてきた神の艦か何かか、とやってきた研究者は首をかしげていたそうだ。 そしてそのフネの傍らで、シエスタの祖母は瀕死の重傷で倒れているところを発見された。 シエスタは「遺跡」の名前を呼ぶ。 ◇ 「この辺りでは『地に墜ちた箱船』なんて呼ばれてます」 その声は、ムスタディオの耳を右から左に素通りした。 彼は呼吸を整えるのも忘れ、顔を上げる。「遺跡」を見上げながら、口を動かす。 「こ、これ、レの、国の、う、う」 失われた聖地、最後の戦いの場に。 言葉にならない。 「そ、それよりも大丈夫ですかムスタディオさん!? あの、すぐお水を――」 答える余力もない。 うろたえるシエスタを尻目に、自分の世界のこれ以上ない痕跡を前に、ムスタディオはただ動揺を隠せない。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ