約 1,871,267 件
https://w.atwiki.jp/whentheycry3-4/pages/91.html
Characters 1 右代宮 金蔵 右代宮 蔵臼 右代宮 夏妃 右代宮 朱志香 右代宮 絵羽 右代宮 秀吉 右代宮 譲治 右代宮 留弗夫 右代宮 霧江 右代宮 戦人 右代宮 縁寿 右代宮 楼座 右代宮 真里亞 主治医 南條 使用人 源次 使用人 紗音 使用人 嘉音 使用人 郷田 使用人 熊沢 ベアトリーチェ Characters 2 ワルギリア ベアトリーチェ エヴァ・ベアトリーチェ エンジェ・ベアトリーチェ シエスタ410 シエスタ45 ロノウェ 煉獄の七姉妹 山羊の皆さん ラムダデルタ ベルンカステル Tips 肖像画の碑文 魔女の手紙 魔女の棋譜 シエスタ姉妹近衛隊 シエスタの黄金の弓 魔女の継承について
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5238.html
前ページ次ページZERO A EVIL シエスタは暗闇の中をさまよっていた。辺りを見回してみても、真暗な闇以外は何も見えない。 自分はなぜこんな所にいるのだろうと考えた時、ワルドの魔法をその身に受けたことを思い出した。 あの魔法で自分は死んでしまったのかもしれない。死後の世界だと考えれば、辺りがすべて真暗なのも頷ける。 その時、シエスタの耳に誰かが泣いているような声が聞こえてきた。よく耳を澄ましてみると、ルイズの泣き声だというのがわかる。 そのことに気付いた瞬間、シエスタは声のする方に走りだしていた。ルイズが泣いているのだから、こんな所でのんびりしてはいられない。 しばらく声のする方向に走り続けていると、前方が薄っすらと明るくなっているのがわかる。そのまま走り続け辺りが全て明るくなった時、シエスタは目を覚ました。 「メイドの娘っ子が気が付いたぞ!」 「本当かい!」 シエスタの側に誰かが近づいてくる。顔を見るとシエスタも知っている人物であった。 「ミス・ロングビル?」 「そうだよ。まったく、心配かけさせるんじゃないよ」 ロングビルは『女神の杵』で傭兵達を追い払った後、ルイズ達の跡を追ってアルビオンに来ていた。 そして、ニューカッスル城が貴族派の総攻撃を受けているという話を耳にし、ルイズ達が心配になってここまでやってきたのだ。 「でも、よくここまで辿り着けたな。外は貴族派の兵隊でいっぱいだったんだろ?」 「カエルの化け物が出たって、外では大騒ぎだよ。そのおかげでここまでこれたんだけどね……」 「カエルの化け物?」 「俺が話す。いいか娘っ子、落ち着いてよく聞けよ」 デルフリンガーはシエスタが気絶した後に起こったことを話し始めた。すでにデルフリンガーから話を聞いていたロングビルは、真剣な顔でシエスタを見ている。 話を聞いているシエスタの表情がどんどん青ざめていく。それもそのはずだ、ロングビルが話していたカエルの化け物の正体がルイズだったのだから。 デルフリンガーの話では、ルイズがワルドを殺した後に貴族派の総攻撃が始まり、この礼拝堂にも貴族派の傭兵がやってきたらしい。 そして、中に入ってきた傭兵達を一人残らず殺したルイズは、礼拝堂の外に出て行ってしまったというのだ。 確かに、礼拝堂にはワルド以外の死体も転がっている。あまりの惨たらしさに吐き気を催しそうになるのをシエスタは必死に耐えていた。 「これからどうする気だい?」 「ルイズ様を探します。早く見つけないと……」 「そう言うと思ったよ。ここまで着たんだ、私も最後まで付き合うよ」 「今度は俺を置いていくなよ」 「ミス・ロングビル、デルフさん……ありがとうございます」 シエスタは、ルイズに会ってどうするかなどの具体的なことはまったく考えていなかった。 ただ、今は一刻も早くルイズに会わなければならない。急がなければもっと悲惨なことが起こりそうな気がした。 出発の前に、シエスタはワルドの魔法で受けた傷を確認してみた。これから戦場に行くのだから、怪我の具合を把握しておかなければ命取りになりかねない。 ところが、怪我を負ったであろう腕の部分にはすでに包帯が巻かれていた。この状況でシエスタを治療してくれる人間は一人しかいない。 ロングビルに感謝の気持ちを伝えようとしたシエスタが振り向くと、ロングビルはある一点の方向を見つめて佇んでいた。 その視線の先にあるのはウェールズの亡骸だ。ロングビルはなんとも言えない複雑な表情でそれを見つめていた。 「あの、ミス・ロングビル?」 「ん? ああ、もう出発するのかい。それじゃ、行くとするかね」 そう言って、ロングビルは何事もなかったかのように礼拝堂の入口に向かっていく。 先程の意味ありげな表情は気になるが、今は余計な詮索をする時ではない。そう考えたシエスタは、何も言わずにロングビルの後を追っていくのだった。 そのころ、城門前の広場では激戦が繰り広げられていた。 貴族派と戦っているのは王党派のメイジではなく、突如現れた一匹の巨大なカエルの化け物だ。その化け物に貴族派は苦戦を強いられていた。 手に持ったヘビを鞭のように振り回し、辺りには毒を撒き散らす。ヘビに咬ままれれば血を吸い取られ、攻撃をしようものなら不快な鳴き声で気分を悪くさせられる。 辛うじて攻撃が当たっても、一人が血を吸われれば意味はなくなってしまう。化け物は血を吸うことで自らの体力を回復していたのだ。 そんな化け物を簡単に倒せる訳もなく、撒き散らされた毒のせいで足場は悪くなるばかり。すでに逃げ出す者も出始めている中、これ以上ここで戦いを続けるのは得策ではなかった。 そう考えた貴族派は徐々に後退していく。幸い化け物はそれほど早く動くことができないので、逃げ切ることは容易である。 しばらくして、全ての貴族派が撤退し、ニューカッスル城は先程の喧騒が嘘のように静まり返った。 (どこに逃げたって無駄よ。ここであなた達を皆殺しにしてあげる) 憎しみに囚われているルイズは貴族派を全滅させることしか考えていなかった。ワルドを殺した時とは違い、人を殺しても何の感傷もない。 もはや今のルイズは、全てに裏切られ魔王と化したオルステッドと同じだった。 「ルイズ様!!」 「ゲコォ!?」 貴族派を追いかけるためにルイズが歩き始めたちょうどその時、背後から自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。 その声には聞き覚えがある。恐る恐る振り返ると、そこにはルイズが思ったとおりの人物が立っていた。 「やっと、追い着きました」 シエスタだ。死んだと思っていたシエスタが生きていた。ルイズにとってこれほど嬉しいことはないはずなのに、すぐにシエスタの側に駆け寄ることはできなかった。 今の自分は醜いカエルの姿をしている。それに、ワルドを始め多くの貴族派の人間を殺害してきた。 こんな自分をシエスタが慕ってくれるわけがない。もし、シエスタに嫌われるようなことになれば立ち直ることはできないだろう。 シエスタに嫌われることを恐れたルイズは、一歩二歩と後ずさりする。そして、自分が作った毒の床までやってきた。 この毒の上ならばシエスタも近づいてこない。そう思ったルイズだったが、その予想は簡単に覆された。 シエスタは、毒など気にしないかのようにルイズの側まで一気に駆け寄ると、その大きな体に抱きついたのだ。 「くうっ、だ、大丈夫ですよ。私は信じてますから」 「ゲロオッ!!」 慌てたルイズは、シエスタの体を両手で支えると毒の床から移動する。人間にとって猛毒であるこの床の上に長くいたらシエスタの命が危ない。 すぐに移動したおかげで死に至ることはないが、それでも傷を負っているシエスタには苦痛のはずだ。 「ゲロォォ……」 「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫ですよ、私は生きてますから。それにルイズ様を嫌いになることもありませんよ」 その言葉を聞いた瞬間、ルイズは大きな目に涙を浮かべ大声で泣き始めた。 シエスタはそんなルイズの大きな背中を小さな子を落ち着かせるかのように軽く叩く。 二人のその姿は、ルイズがギーシュと決闘した後に逃げ出したあの時とまったく同じだった。 その時、突然ルイズの姿が光に包まれる。光が収まった後、そこにいたのは元の姿に戻ったルイズだった。 元に戻ったルイズをシエスタは優しく抱きしめる。そして、ルイズもシエスタの温かさを確かめるように抱きつき、再び大声で泣き始める。 そんな二人の姿をデルフリンガーを手に持ったロングビルは静かに見守っていた。 しばらくして、涙も止まり落ち着いてきたルイズは、自分のあられもない姿に気付き慌ててマントで体を隠す。 カエルになっていた時は全然気にならなかったが、今の自分はぼろぼろのブラウスにマントを着けているだけの格好だ。シエスタは同姓だが恥ずかしくないわけがない。 するとその時、慌てるルイズの目の前に黒いローブが差し出された。これなら体もすっぽり隠せるし、いざとなれば顔も隠すことができる。 「私の商売道具だけど、あんたにあげるよ。その格好じゃ、人前には出られないだろうしね」 「ありがとう。無事だったのね」 「あの程度の連中に遅れはとらないよ」 「シエスタを手当てしてくれたのもあなたなんでしょ?」 「まあね。けど、私は水のメイジじゃないから、薬を塗って包帯を巻いただけの簡単な処置しかしてないよ」 フーケはすまなそうに言うが、シエスタを手当てしてくれたことにルイズは心から感謝していた。 なぜフーケがここまでしてくれるのかはわからないが、もう彼女を警戒する必要はなさそうだ。 「あとこれ、忘れ物だよ」 「よ、相棒。元の姿に戻れてよかったな、やっぱカエルより今の姿の方が相棒には似合ってるぜ」 「デルフ……ありがとう」 ルイズがデルフリンガーを受け取ろうとしたちょうどその時、ニューカッスル城に轟音が鳴り響いた。 ルイズ達が音のした方向に目を向けると、ニューカッスル城の一部が粉々に吹き飛んでいる。 何事かと思う暇もなく、次の轟音が鳴り響く。上空を見ると、大砲の弾が次々ニューカッスル城に放たれているのが目に映った。 貴族派はカエルの化け物を城ごと葬るために、上空に待機させていたすべての戦艦からニューカッスル城に向けて砲撃を開始した。 いかにカエルの化け物が手強くても、上空からの砲撃には手も足も出せないだろう。城を潰してしまうのは惜しいが、これ以上被害を出すわけにもいかない。 それに、あのカエルの化け物の強さを考えればここで始末しておくべきだ。生かしておけば、再び自分達の前に現れる可能性がある。 そう考えた貴族派の上層部の命令により、ニューカッスル城は爆音と共に炎に飲み込まれていく。 「早く逃げないとやばいぜ!」 「逃げるといっても、外は貴族派の兵隊でいっぱいだよ。今から出て行ったら捕まりにいくようなもんさ」 「じゃあどうする?」 「それを今考えてるんだよ!」 炎は自分達のいる広場まで迫ってきているし、砲弾はいつここに飛んでくるかわからない。 この状況では、さすがのフーケも冷静を保ってはいられないようだ。顔には焦りの表情が浮かんでいる。 シエスタは取り乱したりせず冷静に見えるが、その体は恐怖のせいで小刻みに震えており、無意識にルイズの着ているローブを手で掴んでいた。 (私のせいだ。私が暴れたりしなければ、こんなことにはならなかった) もし自分が暴れなければ、脱出することも不可能ではなかっただろう。 王党派と貴族派の戦いは終わりかけていたし、財宝探しで傭兵達が浮き足立っていたあの時なら、逃げる機会はいくらでもあった。 だが、安易に力を使ってしまった自分がその機会を潰してしまったのだ。そのことはいくら後悔してもし足りない。 しかし、ルイズにはまだやるべきことが残っている。後悔の念に押し潰されるわけにはいかなかった。 (お願い、もう一度私に力を貸して!! 私のせいで二人を死なせるわけにはいかないの!!) その時、ルイズの左手のルーンが再び光を放つ。それと同時に、ルイズは自分の体に力がみなぎってくるのを感じていた。 これなら、魔王となったオルステッドが使っていたあの力が使えるかもしれない。そう考えたルイズは目を閉じ、力を集中させる。 (来て、お願い!!) ルイズの祈りに答えるかのように、それまで何もなかった場所に突然石像が現れる。 それは、ルイズの使い魔として召喚された騎士の石像だった。シエスタとフーケはいきなり石像が現れたことに驚いているようだ。 魔王となったオルステッドは異世界から英雄達を召喚していた。ならば自分にもここにないものを呼び出すことができるのではないか。 そう思いやってみたのだが、どうやらうまくいったようだ。ルイズは使い魔の石像に近寄ると、足元にある隠し扉を開け放った。 「二人ともここに隠れてて。後は私がなんとかするから」 「ルイズ様、私も残ります!」 もし、ルイズを一人にしてしまえば今度こそ戻ってこないのではないか。そう思ったシエスタはこの場に残ろうとする。 そんなシエスタを安心させるようにルイズは優しく抱きしめた。 「大丈夫よ、私を信じて」 「ルイズ様……わかりました、必ず戻ってきてくださいね」 シエスタは最後にルイズの姿をしっかりと見据えてから石像の中に入っていった。 そして、その場にはルイズとフーケの二人が残される。 「あなたにはお願いがあるんだけどいいかしら?」 「言ってみな。私にできることだったら聞いてあげるよ」 「魔法学院の宝物庫を襲った巨大なゴーレムをここに作ってほしいの」 「それぐらいならお安い御用だよ。ちょっと待ってな」 フーケはルイズに言われた通りにゴーレムを作り始める。そして、ルイズは再び力を集中させ始めた。 次に呼び出そうとしているものは異世界に存在するものだ、この世界にある使い魔の石像のようにうまくいくかどうかはわからない。 だが、失敗するわけにはいかないのだ。 (お願い、あなた達の力をもう一回私に貸して!!) フーケがゴーレムを作り終えるのとそれが現れたのはほぼ同時だった。 突然、巨大ゴーレムが液体のようなものに覆われたかと思うと、徐々に形が変わり始めたのだ。 フーケは唖然と自分のゴーレムを見つめている。ルイズが何か考えがあって自分にゴーレムを作らせたのはわかっていたが、この事態は予想すらできなかった。 やがて、液体のようなものはゴーレムに染み込むように消え、奇妙な姿のゴーレムが完成する。 鳥の頭と手足を持ち、背中には六枚の羽と金色に輝く羽模様の飾りがついている。そして、体に纏った法衣と首にかけた数珠。 フーケのゴーレムはルイズが夢で見た隠呼大仏と同じ姿になっていた。 「来てくれてありがとう。それと、ごめんなさい」 ルイズは目の前に立っているに隠呼大仏に頭を下げる。液体人間達の憎しみの力を再び戦いに使おうとしていることに罪悪感を感じていた。 そんなルイズの目の前に隠呼大仏の手がゆっくり下ろされる。ルイズは胸の中で再び感謝すると、隠呼大仏の手の上に飛び乗った。 「あなたには本当に感謝してるわ。後は私に任せてあなたも隠れてて」 「気をつけなよ。いくらあんたが強くても敵の数は多いんだからね」 「わかってるわ。シエスタのことお願いね」 ルイズのその言葉が合図であるかのように隠呼大仏が動き始める。手の上のルイズを肩に乗せると、貴族派がいる方に向かって歩き始めた。 それを見たフーケは石像の中に入り、扉を閉める。石像の中ではシエスタがルイズの無事を祈るように手を合わせていた。 貴族派の兵隊は、突然現れた奇妙なゴーレムに最初は驚いていたが、すぐに迎撃態勢を取り始める。 敵を見た目で判断すると痛い目を見るのは、先のカエルの化け物との戦いで嫌というほど思い知った。 今度のゴーレムもどんな力を隠し持っているかわからない。それに肩の上にはゴーレムを操っているであろうメイジの姿も見える。 これだけ巨大なゴーレムを作れるのだ、魔法の腕もかなりのものだろう。おそらくカエルの化け物もあのメイジの仕業だ。 “この戦いに勝利するには、あのメイジを倒さなければならない” 貴族派の誰もがそう考え、ゴーレムとメイジを倒すために動き始めた。 ニューカッスル城の城門を飛び越えた隠呼大仏の前には、大勢の兵隊と多くの戦艦が集結している。 その数の多さにルイズは一瞬怯んだが、すぐに気を取り直すと大声を張り上げる。 「敵の数は多いけど、前に戦ったロボットに比べたらたいしたことないわ! みんな、行くわよ!!」 「気合入ってるじゃねえか、相棒! 俺もこんなしょぼくれた格好してる場合じゃねえや!」 ルイズの手に握られていたデルフリンガーが急に光を放つ。 光が収まった時、デルフリンガーは錆びたボロ剣から刀身が輝くように光る美しい剣に変わっていた。 「ちゃちな魔法は全部この俺が吸い込んでやるぜ! さあ、行こうぜ相棒!」 「頼りにしてるわよ、デルフ!」 ルイズはデルフリンガーを力強く握り締める。左手のルーンは眩しいぐらいに光り輝いていた。 前方に見える巨大な戦艦の砲門は全てこちらに向けられている。だが、まったく恐怖は感じない。 自分にはこんなに頼れる仲間達がいるのだから…… その時、ルイズ達に向けて一斉に砲撃が開始される。 ニューカッスル城を舞台にした最後の戦いの幕が上がった。 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5095.html
前ページ次ページZERO A EVIL ルイズはシエスタに手伝ってもらいながら、結婚式の準備をしていた。 準備といっても、貴族派の総攻撃が目前に迫っているこの状況で満足いく準備ができるわけもなく、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠と純白のマントを身に着けるだけである。 最後に身だしなみを整えて準備は完了した。鏡の前に立っているルイズは、ドレスを着ていないが立派な花嫁に見える。 その時、ドアをノックする音が部屋に響いた。ワルドがルイズを迎えに来たのだ。 「ルイズ、準備はできたかい?」 「はい、できました」 「よし、では行こうか。ウェールズ殿下はすでに礼拝堂でお待ちになっている」 ルイズとシエスタはワルドに連れられて礼拝堂に向かった。デルフリンガーはシエスタが両手で抱えるように持っている。 「ルイズ、少し元気がないようだが、緊張しているのかい?」 「いえ、大丈夫です。……ワルド様、ウェールズ殿下は思い直してくれますよね。きっとうまくいきますよね」 「ああ、きっとうまくいく。あとは僕に任せてくれ」 「はい、ワルド様を信じます」 夢のせいで不安になっていたルイズは、ワルドの言葉を聞いて安心したように微笑んだ。 朝から元気のないルイズを心配していたシエスタも、微笑んでいるルイズを見てどこかほっとしているようだ。 ルイズ達が礼拝堂に辿り着くと、ワルドが言っていたとおり礼装姿のウェールズが待っていた。 デルフリンガーを持ったシエスタが素早く席に着く。これで結婚式の準備は全て整った。 ルイズとワルドは、始祖ブリミルの像の前に立ったウェールズの所まで進み、二人そろって礼をする。 「では、式を始める」 ウェールズの声が礼拝堂に鳴り響き、いよいよルイズの結婚式が始まる。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか?」 「誓います」 ワルドははっきりと誓いの言葉を口にする。それを聞いたウェールズは今度はルイズに視線を移した。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか?」 「誓います」 ルイズの誓いの言葉を聞いたウェールズは、一つ頷くと二人に向けて言葉を告げる。 「ウェールズ・テューダーは始祖ブリミルの名において、二人の結婚が成立したことをここに宣言する。おめでとう、二人とも」 ここにルイズとワルドの結婚は認められた。それはルイズが幼い頃見ていた夢が叶ったことを意味している。 「おめでとうございます、ルイズ様」 「よかったな、相棒」 「ありがとう、シエスタ、デルフ」 ルイズは好きな人と結婚できた自分を幸せだと思い、それを祝福してくれる人がいることに喜びを感じていた。 これでウェールズの気持ちが変わってくれれば最高なのだが、そう簡単にうまくいくとも思えない。 だが、ウェールズは二人の姿を嬉しそうに眺めている。これからの説得しだいでは、ウェールズの気持ちを変えることも不可能ではない。 「ルイズ、僕と殿下は大事な話がある。しばらく外へ出ていてくれないか」 「わかりました、ワルド様」 「ありがとう。ついでに着替えてくるといい、少し時間がかかると思うからね」 「はい、よろしくお願いします」 ルイズはウェールズの説得をワルドに託す。後はワルドが何とかしてくれると信じきっていた。 「行きましょう、シエスタ。ワルド様と殿下のお話の邪魔になってしまうわ」 「ま、待ってください、ルイズ様」 礼拝堂の外に向かうルイズをシエスタは慌てて追いかけていった。が、慌てていたためにデルフリンガーを置いていってしまう。 「あーあ、二人とも俺を置いて行っちまいやがった。まあいいや、俺は相棒の旦那のお手並みでも拝見するかね」 ルイズと一緒に部屋に向かっていたシエスタは、途中でデルフリンガーを置いてきてしまったことに気付いた。 だが、今戻ってはワルドとウェールズの話の邪魔になってしまう。どうすべきか悩んでいると、ルイズが話しかけてきた。 「取りに戻ったほうがいいわね。デルフのことだから、何を喋るかわかったもんじゃないわ」 「そうですね。じゃあ、行ってきます」 「気をつけてね」 ルイズと別れた後、シエスタは礼拝堂の前までやってきた。 礼拝堂からはワルドとウェールズの話し声が聞こえてくる。どうやら、話はまだ続いているようだ。 二人の話の邪魔にならないようにシエスタは静かに礼拝堂に入っていく。 二人は話に熱中しているせいかシエスタには気付いていないようだ。そのおかげで話の邪魔をすることなくデルフリンガーの所までやってくることができた。 「デルフさん、置いていってしまってすみませんでした」 「メイドの娘っ子か! 俺のことなんていいから早く逃げろ!」 「どうしたんですか、一体?」 その時、シエスタの耳に何かを貫いたような鈍い音と苦しそうなウェールズの声が聞こえてきた。 「き、貴様……レコン…キスタ……」 「その通り。ウェールズ・テューダー、貴様の命、確かに頂いたぞ」 ウェールズの胸からはおびただしい量の血が流れている。この出血量では命は助からないだろう。 「早く逃げろ! このことを相棒に知らせるんだ!」 「は、はい!」 突然の出来事に唖然としていたシエスタは、デルフリンガーの言葉で我に返ると、礼拝堂の入口に向かって走り始めた。 手にはデルフリンガーが握られている。置いていけと言われたが、置き去りにできるわけがない。 すぐに逃げ出したのがよかったのか、ワルドに捕まることなく入口の側まで辿り着くことができた。 そして、入口まで一気に駆け抜けようとした時、扉から誰かが入ってくるのが目に映った。その人物を見た瞬間、シエスタは凍りついたように動けなくなってしまう。 「逃げられると思っていたのか?」 「そ、そんな!」 シエスタが驚くのも無理はない。扉から入ってきたのは礼拝堂にいるはずのワルドだったのだから。 反射的に後ろを振り向いたシエスタを更なる驚愕が襲う。振り向いた先には、ワルドが先程と同じ場所に立っていたのだ。 声も出ないシエスタに対し、ワルドは得意げに語り始める。 「平民の君に言ってもわからないかもしれないが、これは遍在の魔法だ」 「遍在?」 「そうだ、風は遍在する。もっとも、詳しい説明をしても君には理解できないだろうがね」 二人のワルドに挟まれてしまったシエスタにもう逃げ場はなかった。 「さて、それでは君にも死んでもらうとするかな。本当はあの時始末するつもりだったんだがね」 「あの時?」 「この仮面に見覚えがあるだろう」 ワルドが取り出したのは、アルビオン行きの船に向かう時に襲ってきた男が着けていた仮面だった。 あの時襲ってきたのはワルドの遍在だったのだ。 「お喋りはここまでだ。さようなら、シエスタ」 ワルドはそう告げると、魔法を詠唱し始める。すると辺りの空気が冷え、ワルドの杖の先端が青白く光る。 「やばい! 娘っ子、俺を盾にしろ!」 デルフリンガーが叫んだのとワルドが魔法を放ったのはほぼ同時だった。ワルドが放ったのは風の魔法、ライトニング・クラウドだ。 シエスタはデルフリンガーに言われたとおりにするが、ライトニング・クラウドを防ぎきることはできなかった。 激しい電撃がシエスタの体を襲う。衝撃で気を失ってしまったシエスタは、その場に崩れ落ちるように倒れてしまった。 「娘っ子、しっかりしろ!」 デルフリンガーがいくら呼びかけてもシエスタは目を覚まさない。二人のワルドはシエスタに止めを刺すために近づいてきている。 もう駄目かとデルフリンガーが諦めかけたその時、扉が開く音が礼拝堂に鳴り響いた。 「相棒!」 「ルイズ……」 そこに現れたのは、部屋で着替えを済ませてきたルイズだった。目の前で起こっている事態に頭が追いついていかないのか、呆然と立ちつくしている。 そんなルイズに対し、デルフリンガーとワルドが同時に話しかけてきた。 「相棒! こいつは裏切り者だ! メイドの娘っ子もこいつにやられたんだ!」 「ルイズ、ウェールズ殿下とシエスタを襲ったのは貴族派の刺客だ。僕も必死に応戦したが、二人を守ることができなかった。本当にすまない」 「騙されるな相棒! アルビオンに行く前に襲ってきた仮面の男も遍在の魔法を使ったこいつだったんだ!」 「ルイズ、夫である僕とこのインテリジェンスソード、どちらの言葉が信用できるかよく考えればわかるだろう?」 真っ向から食い違う両者の言い分。だが、ルイズにはどちらが嘘をついているのかわかってしまった。 「ワルド様、どうして裏切ったんですか……」 「な、ルイズ!」 「この状況でデルフが嘘をつく理由がないし、彼が嘘をつくとも思えない。それにワルド様は応戦したと言っているけど、この礼拝堂には戦った痕跡がないわ」 「相棒……」 デルフリンガーとの付き合いは短いが、シエスタと一緒に彼と会話するのは楽しかったし、ロングビルのことで悩んでいた時、相談にものってもらった。 それに、最初は相棒と呼ばれるのが嫌だったのに、今は気にならなくなっている。いつの間にかルイズは、デルフリンガーのこともシエスタと同じように信頼していたのだ。 それに加えて、礼拝堂はシエスタとウェールズが倒れている以外はなんの変化もなかった。 これではいくらワルドのことを信頼していたルイズでも、彼の言葉を信用することはできない。 「まいったな。ルイズなら僕の言うことを何でも信じてくれると思っていたが、僕の考えが甘かったな」 「ワルド様……」 「ルイズ、僕の言うことをよく聞いてくれ! 僕は世界を手に入れる! そのためには君の力が必要なんだ!」 「急に何を……」 「君の力は素晴らしい! 遍在で君と戦った時、僕は確信した。君の力があれば、僕は世界を手に入れることができる!」 興奮して熱っぽく語るワルドとは対照的にルイズの心は冷え切っていく。ワルドが欲しがっているのは自分ではなく、この不思議な力だと気付いてしまったからだ。 そして、徐々に湧き上がってくる憎しみの感情。この男は、アンリエッタの大事な人であるウェールズだけでなく、シエスタまでその手にかけたのだ。 シエスタと過ごした楽しい日々を思い浮かべるたびに、目の前の男に対する憎しみが膨れ上がっていく。 自分が裏切られた事より、シエスタを殺されたことの方が許せなかった。 (この男はシエスタを殺したッ!! 私に優しくしてくれたシエスタを殺したッ!! 許せない、殺してやるッ!!) 膨れ上がった憎しみの感情は、ルイズの小さな体にはもう収まりきらなかった。左手のルーンが眩しいほどの光を放ち、徐々にルイズの姿が変わっていく。 体が大きく膨れ上がり、目と口が巨大化する。舌が長く伸び、首の部分にはどこから現れたのか巨大なヘビが巻き付いている。 光が収まった時、そこにいたのはルイズではなかった。そこにいたのは、桃色がかったブロンドの髪を持つ巨大なカエルだった。 体にはブラウスと黒いマントを身に着けている。だが、ブラウスは着ているというよりも、巨大化したルイズの体に耐えられずぼろぼろになったものが体に貼りついているだけである。 デルフリンガーは変わり果てたルイズの姿に言葉もなかった。それとは対照的に、ワルドは興奮したように喋り始める。 「凄いぞ、ルイズ! この力があればきっと……」 「ゲロオオッ!!」 だが、ワルドが最後まで喋りきる前にルイズが襲い掛かってきた。首に巻き付いているヘビを手に持ち、ワルド目掛けて振り回す。 長いヘビが鞭のようにしなり、急な攻撃に反応できなかったワルドを弾き飛ばした。さらに、ルイズが舌で床を舐めると、床が紫に変色し嫌な匂いが漂ってくる。 床はワルドが倒れている所まで変色していき、その場にいたワルドが苦しみ始める。しばらく床をのた打ち回った後、ワルドの姿は煙のように消えてしまった。 必殺技の「毒蛇ムチ」で倒したワルドは遍在だったようだ。ルイズは残った方のワルドを巨大な目で睨みつける。 一方、遍在を倒されたワルドは涼しい表情を浮かべていた。その表情からは余裕さえ感じられる。 「僕の遍在がこうもあっさりやられるとはね。さすが僕が見込んだ力だ」 そのワルドの言葉には何も答えず、ルイズは倒れているシエスタの側に近寄っていく。そして、シエスタの体を両手で持ち上げると礼拝堂の椅子の上にそっと横たえた。 シエスタの側に落ちていたデルフリンガーも拾い上げ、シエスタが横たわっている椅子に立てかける。 「相棒……」 デルフリンガーに呼びかけられてもルイズは何も喋らない。最後にシエスタの顔を一目見て、ワルドの方に体を向けた。 「ルイズ、お別れは済んだかい?」 「ゲコッ!!」 ルイズは再びワルドを睨みつけるが、ワルドの余裕の態度が崩れることはない。それもそのはず、ワルドはまだ全力を出し切っていないのだから。 風のスクウェアメイジであるワルドは、遍在をまだ三人作ることができる。いくらルイズが強力な力を持っていても、四人のスクウェアメイジが相手では勝ち目はない。 魔法で痛めつけて弱らせてから捕獲する、ワルドはそう考えていた。 「ではいくよ。ユビキタス……」 だが、ワルドはその呪文を最後まで詠唱することができなかった。 突如聞こえてきた不快な鳴き声のせいで気分が悪くなり、吐き気を催してくる。そのせいで思ったように呪文を詠唱することができなかった。 「ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ……」 鳴き声を発していたのはルイズだった。 この技の名は「げこげこ」。不快な鳴き声で相手を弱らせる技だ。 「ユ…ビキ…タス……デル…」 それでもなんとか詠唱を完成させようとするワルドだが、その隙を見逃すルイズではなかった。 長い舌を伸ばし、ワルドの体を絞めつける。苦悶に歪むワルドの顔に、ヘビが舌をチロチロ出しながら迫っていた。 「よ、よせ!! やめろ!!」 だが、今更慌てても手遅れだった。ヘビはワルドの喉にその牙を突き立て血を吸っていく。 相手の血を吸い取り、自身を回復させる技である「吸血」。身動きができないワルドは血を吸われ続け、ミイラのように干からびていく。 そして、血を全て吸い取られたワルドは、ルイズの舌に巻かれた状態で息絶えた。 ワルドを殺したことにより、ルイズは少しずつ冷静さを取り戻していく。 冷静になったルイズが最初に思ったことは、ワルドを殺してしまったことへの後悔だった。 ワルドは自分を裏切り、シエスタとウェールズを殺した。そのことを許すことはできない。 だが、幼少の頃の自分を救ってくれたのは間違いなくワルドだった。彼がいなければ、今の自分はなかったともいえる。 それなのに、激情に流されて彼を殺害してしまった。それも自分が一番嫌っていたカエルの姿になって…… こんな姿になってしまっては、もう家族にもアンリエッタにも会えない。いや、ウェールズの命を救えなかった時点で、どんな姿でもアンリエッタに合わす顔はなかった。 いずれ自分もオルステッド達と同じように誰かに退治されるのだろう。そして、惨めな最後を迎えるのだ。 ルイズの心を絶望が支配し始めていた時、轟音とともに礼拝堂が振動する。外からは大勢の人の悲鳴や怒号が聞こえてきた。 ついに貴族派の総攻撃が始まったのだ。だが、ウェールズが死んでしまった今、ルイズにとってそれはもうどうでもいいことだった。 礼拝堂でしばらくじっとしていると外から会話する声が聞こえてきた。会話の内容から貴族派だということがわかる。 「ちくしょー、出遅れたか!」 「もう目ぼしい宝は押さえられてるし、王様の首も一番乗りの奴らに取られちまったらしいぜ」 「でも、皇太子の首はまだ見つかってないんだろ?」 「とっくに殺されてて、誰かが首を隠し持ってんだろ。あーあ、何か金になるもんでも出てこねーかな」 その貴族派の会話を聞いているうちに、ルイズの心に再び憎しみの感情が湧き上がってくる。 貴族派の連中は人が死ぬことをなんとも思っていない、金のことしか頭にないのだ。ワルドを殺してしまった自分はこんなにも苦しんでいるのに。 この連中さえいなければ、ワルドが裏切ることも、シエスタとウェールズが死ぬこともなかった。そう考えると、貴族派に対する憎しみがますます膨らんでいく。 (こいつらさえいなければ!! こいつらさえッ!!) 外で話しているのは貴族派についたただの傭兵達なのだが、憎しみに囚われているルイズはそのことに気付かない。 「おい、この礼拝堂はまだ手付かずみたいだぞ!」 「本当かよ! 何か金目の物があるかもしれないな」 「よし、入ってみようぜ!」 傭兵達は気付いていない。自分達が魔王の部屋の扉を開けようとしていることに…… 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9090.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その二「セーラー服騒動のゼロ」 これは、ルイズが誤って惚れ薬を飲み、才人たちがラグドリアン湖に水の精霊の涙を取りに 行く羽目になったことに至るまでの経緯である……。 ウルトラマンゼロが平賀才人という少年と一体化してから、結構な日にちが経った。ゼロは当初、 才人のことは正直今一つ頼りない、なよなよした少年だと思っていた。もっとも、それも無理からぬ ことだろう。才人は防衛チームの一員でも何でもなく、ずっと平和な社会の中で育った地球人の 普通の少年。これといって強い信念を持っている訳でもない。ハルケギニアに召喚されてから しばらくも、考えなしの行動を取って余計なトラブルを招くこともしばしばだった。 だが今は、評価を180度覆していた。最初のきっかけは、ギーシュとの決闘。その時の彼は、 ルイズの名誉のために最後まで強大な敵に屈することなく戦い続けた。ガンダールヴの力に 助けられることにはなったが、その時の彼は確かに、己自身の力で抗い続けた。よほどの勇気を 心に秘めていなければ出来ないことだ。 そして始まった、怪獣、侵略者の侵攻。次々と休む暇もなく現れる恐ろしい敵の数々にも、 才人は怖気づくことなく、ともに戦ってくれた。ゼロがどんな窮地の中にあっても、何度でも 立ち上がる力を出せたのは、才人の勇気もひと役買っている。 助けられているのは才人だけではない。ゼロも彼に、見えないところで大きく助けられていた。 才人には、深い感謝を抱いている――。 (――はぁ……) のだが、今の状況は、正直頂けなかった。才人が勇敢な、既に立派な自分の仲間であることは 十分に分かっているのだが、この場面を見せられると、その思いに疑念を挟んでしまいそうになる。 人間、いいところばかりではない。あまり贅沢を言ったらいけないのかもしれない。しかしそれでも、 どうにかならないのか。この再発した、才人の「病気」は――。 「うぉおおおおおおおおおおおおおおオオオオッ! おれッ、サイッコォオオオッ! シエスタも最高ぉおおおおオオオオッ!」 ゼロが隠れてため息を吐いているとも露知らず、才人はもだえくるって奇声を上げていた。 その目の前には、セーラー服を着たシエスタの姿。 今才人は、アウストリの広場で、露店で買い取って改造したセーラー服を、シエスタに 着せている最中だった。セーラー服を着た、ただそれだけのシエスタの姿を見て尋常でなく 狂喜する才人の心理を、ゼロは理解できずに頭を痛めていた。 そうしていると、シエスタの腕輪から、ジャンボットが声を上げた。 『サイト……。一体何をそんなに喜んでいるのだ。これはいわゆる軍服だろう? 戦争の 装束などをわざわざシエスタに着用させて、あまつさえ歓喜するなど……理解不能だ』 「バカ言うなッ!」 がばっとはねおきてジャンボットに詰め寄る才人。結果的にシエスタに詰め寄ることに なったので、シエスタはひっ、とあとじさった。 「こっちのぉおおオオッ! せせ、世界ではぁッ! 確かにそれは水兵服かもしれませンッ! でむぅぉおオッ! ぼくの世界でぇはァアッ! シエスタぐらいの年の女の子はそれ着て 学校に通うッ! 現在進行形で通っているぅううウウウウッ!」 『そ、そうなのか……』 「それはぼくの世界でセーラー服と呼ばれてますッ! 生まれてすいましぇえエエンッ!」 『いや、謝られても……』 異常なハイテンションにドンびきのジャンボットだが、シエスタの方は、自分に故郷の 装いをさせて悦ぶ才人を愛おしく感じて頬を染めた。恋は盲目とはよく言ったものだ。 「最初はサイトさんがおかしくなったと思ったけど……わかりました! どうすれば、もっと 喜んでもらえますか?」 シエスタの申し出で、才人はシエスタの姿を見つめ直して、真剣に、命がけに考えた。 どうすれば今のシエスタがもっと輝けるか! (違うことにその思考力を使えよ……) ゼロが心の中で嘆息した。 そして才人は結論を出した。 「回ってくれ」 「え?」 「くるりと、回転してくれ。そしてそのあと、『お待たせっ!』って、元気よく俺に言ってくれ」 さすがにひきながらも、言われた通りにするシエスタ。 「お、お待たせっ」 「ちがーうッ!」 「ひっ」 「最後は指立てて、ネ。元気よく。もう一回」 シエスタは頷くと、言われた通りに繰り返した。見ると、才人は泣いていた。 「きき、き、きみの勇気にありがとう」 ジャンボットは理解が追いつかずに、呆然とつぶやく。 『これが地球人の嗜好なのか……? 度し難いな……』 『誤解しないでくれ。全部の地球人がこいつみたいなんじゃないんだよ』 いや、俺も地球のことをよく知ってる訳じゃないけど……と考えるゼロだが、それだけは、 何の確証がなくてもはっきりと言えた。 「次はどうするの?」 「えっと、次は……」 それはともかく、シエスタと才人が話していると、ぎくしゃくした足取りの二人組がこちらに 歩いてきた。ギーシュとマリコルヌ。物陰から覗いていたらしい。 おほん、とギーシュがもったいぶって咳をする。 「それは、なんだね? その服はなんだねッ!」 ギーシュは何故か泣きそうな顔で怒っている。マリコルヌも、わなわなと震えながら シエスタを指差した。 「けけ、けしからん! まったくもってけしからんッ! そうだなッ! ギーシュッ!」 「ああ、こんなッ! こんなけしからん衣装は見たことがないぞッ! のののッ!」 「ののの脳髄をッ! 直撃するじゃないかッ!」 (こいつらもか……) ゼロは頭が痛くなってきた。 シエスタはギーシュとマリコルヌの様子に身の危険を感じて、仕事を言い訳に走り去っていった。 それをぼーっと見送ったギーシュたちが、才人に問いかける。 「な、なあきみ。あの衣装をどこで買ったんだ?」 「聞いてどうする?」 ギーシュは、はにかんだ笑みを浮かべて言った。 「あ、あの可憐な装いを、プレゼントしたい人物がいるんだ。いつもそばにいて、ぼくを 見つめ続けてくれていた可憐なまなざしを……。あの麗しい金髪を。芳しい、香水のような微笑を……」 才人とゼロは、モンモランシーのことを言っているのだと気づいた。 「ヨリを戻したくなったのか。お前ってほんとうに節操ねえのな」 「きみに言われたくない。さてと、では教えたまえ。どこで売ってた?」 「ふん。お前なんかに芸術がわかるかっつの」 「しかたない。今の出来事をきちんと報告したうえで、ルイズに尋ねてみよう」 「あと二着ある。好きにつかってくれ」 あっさり折れる才人だった。 予備のセーラー服を渡す口約束をしてしまった才人に、ゼロが問いかける。 『才人……お前いいのか? あんなこと言って』 「しかたねえだろ。ルイズにこのこと知られたら、あいつのことだから、何するかわかんないし」 『けど、あいつらが使ってるとこを、ルイズに見られるってことも考えられるぜ』 その可能性に初めて気づいて、うッとうめいた才人だが、思考を楽観的な方向に切り替える。 「なーに、あいつらにも理性ってもんがあるだろ。人前で堂々と楽しもうなんてしないって。きっと」 『だといいんだけどな……』 この時点で、ゼロは悪い予感を抱いていた。 だが翌朝、ギーシュがプレゼントしたセーラー服を、モンモランシーが教室に着てきてしまった。 当然ルイズの目にもつき、それが才人の買ったものだとすぐに気がついた。 「ねえ、あれってあんたが買った服でしょ? どうしてモンモランシーが着てるのよ」 才人はガタガタ震えながら答える。ゼロは今日も頭を痛めた。 「その、えへ、あ、ギーシュがくれって言うから……」 「なんでギーシュにあげたの?」 「え? だって、欲しいって言うから……」 ルイズは、才人の態度に怪しいものを感じた。 「ねえ、なにをわたしに隠してるの?」 「え? ええ? なにも隠してないよ! いやだなあ……」 そんな言い訳では、ルイズの疑念は晴れない。放課後になってもう一度問い詰められそうに なったので、才人は逃げることにした。 「ハトの小次郎に餌やらなくちゃ」 ありえない理由を言い残して、教室から走り去っていく。残されたルイズが、ひと言ツッコミを入れる。 「いつハトなんか飼ったのよ」 『だから言ったのに。とんでもないことになるぞ。やめてくれよ、俺まで巻き込むの』 「うるさいな! とにかく証拠隠滅だ! まだ間に合うッ!」 才人は厨房へと駆けつけると、マルトーらの歓迎をすり抜け、すぐに洗い物中のシエスタに囁きかけた。 「シエスタ、あの例の服を、仕事が終わったら、持ってきてくれないか?」 「え?」 「そうだな……、人目につかないところがいいな……。ヴェストリの広場に、塔に上がる 階段の踊り場があるだろ? あそこに持ってきてくれ」 「は、はい……」 用件だけ伝えると、才人はすぐに立ち去った。その後で、シエスタがうっとりと顔を赤らめた。 「どうしよう。ああ、わたし、奪われちゃうんだわ……」 『サイトがシエスタを奪う? 何を言ってるんだ。サイトは服を返してもらいたいんだろう』 ジャンボットが不思議そうに指摘したが、シエスタはひそひそと否定する。 「違いますよ! 男の人が、人目につかないところに、特別な格好を指定して呼び出すということは、 女の人を頂いちゃうということ以外にありません! 遂に、遂にこの時が来たんだわ……」 『意味がよく分からないが……シエスタ? もう聞いていないか……』 ロボットのジャンボットは、シエスタの言う「奪う」「頂く」の意味もよく理解できなかった。 そしてシエスタが陶酔してしまったので、それ以上呼びかけるのはやめた。 ここで、強引にでも彼女とよく話していれば、この後の惨劇は起こらなかったかもしれないのに……。 待ち合わせの場所にシエスタがやってきた時には、すっかり日が落ちていた。風呂で体を清め、 身支度を整えていたので、時間がかかってしまったのだ。 階段の踊り場には、才人の姿はない。樽が二つばかり置いてあるだけ。シエスタは心配そうに きょろきょろと見回した。 「サイトさん……」 心細げに呟くと、がたん! と音がして、樽の蓋が開き、中から才人が顔を出した。 「シエスタ」 「わ! サイトさん! なぜそんなとこに!」 「いや、いろいろと事情があって……、って、え?」 才人はシエスタの格好を見て、目を丸くした。セーラー服を着用している。 「き、着てきちゃったの?」 「え、ええ……。だって、こっちの格好の方がサイトさん喜ぶと思ったから」 才人は持ってきて、じゃなくて返してくれ、と表現するべきだったと後悔した。ここで 脱げというわけにもいかない。あたふたしていると、シエスタがくるりと回転して、 例のポーズを取った。 「えっと、その……、お、お待たせっ」 がたん! と背後で樽が揺れる音がした。シエスタがきゃっ! と叫んで才人に抱きついた。 樽からは、にゃあにゃあ、と鳴き声がする。 「なんだ、ネコか……」 『お、おい才人……』 才人は安堵するが、ゼロは震えた声を出した。しかし今の才人は、それに取り合っていられなかった。 シエスタの胸が押し付けられている。その感触から、才人の顔が青くなった。 「シ、シエスタって、その……」 「なんでしょう?」 「ブラジャー、つけてないの?」 シエスタはきょとんとした顔になった。 「ブラジャーってなんですか? メイド服のときはシャツの下にドロワーズとコルセットなら つけてますけど……今はなにもつけてません。短いスカートにドロワーズをはくとはみ出ちゃうので……」 ブラジャーが存在しないことと、今のシエスタが下着を着用していないことを知り、才人は 茹でダコのようになった。 『才人ッ!』 ゼロが強く呼びかけるが、その声も耳に届かなくなっていた。 「サイトさんは意地悪だわ……。わたし、貴族のかたみたいにレースの小さな下着なんて 持ってませんもの……。それなのに、こんな、こんな短いスカートをはかせて……」 『おい才人!』 ゼロの声はやはり、シエスタの恥ずかしそうな声にかき消される。 「あ、あの……こ、ここで、ですかっ?」 「え?」 「もう、ちょっと、その、人が来なさそうで、綺麗な場所がいいなあ。あ、でも! これ願望でして! サイトさんがここがいいって言うんなら、ここでも平気よ。ああ、わたし、怖いです。だって初めて なんだもの。母さま許して。わたしここでとうとう奪われちゃうのね」 シエスタは激しく勘違いしているようだ。才人はどうにか本当のところを説明しようと、 考えをめぐらせた。 しかしもう遅かったのだ……。背後で、もう一個の樽の蓋が垂直に跳ね上がった。 「な、なんだぁ!」 振り返った才人が見たのは、樽の中から立ち上がる、ルイズの姿……。その形相……。 『樽の中に、ルイズが隠れてるぞ……』 ようやく、ゼロの声が届いた。 「何でもっと早く言ってくれなかったんだよ!」 『聞かなかったじゃねぇか……』 ルイズの顔は怒りで青ざめている。目はつりあがり、全身が地震のようにわなないている。 思いっきり震えた声で、ルイズは呟いた。 「随分と素敵なハトを飼ってるのね。へぇ。可憐な装いをプレゼントね。まあいいわ。わたしは優しいから、 そのぐらいのことなら許してあげる。ご主人様をないがしろにして、ハトにプレゼントを贈ろうが、 別にかまわないわ」 「ルイズ、あのね?」 「しかし、そのハトはこう言ったわ。『こんな短いスカートをはかせて』。下着もつけさせずに、 『こんな短いスカートをはかせて』。最高。今世紀最高の冗談ね」 「ルイズ! 聞いて! お願い!」 「安心して。痛くしないから。わたしの『虚無』で、塵一つ残さないようにしてあげる」 ルイズは『始祖の祈祷書』をかまえると、呪文を詠唱し始めた。本気だ。才人は命の危険を感じて、 思わずデルフリンガーを抜いた。シエスタは怖くなって物陰に体を隠した。 「なによあんた。ご主人さまにさからおうと言うの? 面白いじゃないの」 そう呟くルイズが怖い。ワルドより、怪獣より、どんな侵略者よりも、ルイズ怖い。 「相棒、やめとけ」 デルフがつまらなそうに呟いたが、才人は蛮勇を発揮して剣を掲げた。 「きょきょきょ虚無がなんぼのもんじゃあッ! かかってこいやぁッ!」 途中詠唱のままルイズが杖を振り下ろす。ボンッ! と音がして、才人が踊り場から吹き飛び、 下の地面へと叩きつけられる。 才人は立ち上がるなり逃げ出した。踊り場から顔を出したルイズが追いかけ出す。 「待ちなさいよッ!」 才人とルイズがいなくなると、ジャンボットがぼそりと発した。 『有機生命体……。私の頭脳の理解を超えるな……。全く恐ろしい』 ビートスターもかつてはこんな気分だったのだろうか……。いや違うだろうな、絶対……、 なんて思うジャンボットだった。 『才人、これでお別れだな……。まさかこんな別れ方になるなんて、俺も予想もしてなかったぜ』 「不吉なこと言うなぁー!」 ルイズから必死に逃げる才人は、寮塔内をしっちゃかめっちゃかに走り回っていた。恐ろしいことに、 どんなに速く走ってもルイズの気配を振り切ることは出来ない。 このままでは追いつかれる、そんな気がしてならない。そう思ったので、誰の部屋かも確認しないで、 一番近くの扉を開け放って中に飛び込んだ。 中にいたギーシュとモンモランシーが、ワインで乾杯しようとした手を止めて目を丸くした。 ここはモンモランシーの部屋だった。 「なんだ! きみはぁ!」 「かくまってくれ!」 才人はギーシュたちに構わず、モンモランシーのベッドに飛び込んで身を隠した。 『無駄だぜ才人。こんなことしたってルイズは見つけるに決まってる……』 「あ、諦めるかぁー! 俺は一縷の望みに賭けるぞー!」 一縷の望みは儚かった。すぐにルイズが飛び込んできて、才人を見つけてしまった。 「サイト、出てきなさい」 「才人はいません」 せめてもの、無駄な抵抗だった。ルイズはテーブルの上のワインのグラスを取り上げ、 一気に飲み干した。モンモランシーがあっ! と声を上げたが、もう遅かった。 「ぷはー! 走ったら喉がかわいちゃった。それもこれもあんたのせいね。いいわ、こっちから 迎えにいってあげる」 ベッドの上の布団を、ルイズはひっぺがした。ガタガタと震えている才人がそこにいた。 「覚悟しなさい……、んあ?」 しかし、おかしい。才人を目の前にして、怒り狂っているはずのルイズが、いつまで経っても 何もしてこない。才人がいぶかしんで立ち上がると、何とルイズはいきなり泣き出した。 モンモランシーは態度を急変させたルイズを目の当たりにして、頭を抱えた。 「おい、ルイズ……」 声を掛けると、ルイズは才人を見上げ、その胸に取りすがった。 「ばか!」 「え?」 「ばかばか! どうしてわたしを見てくれないのよ! ひどいじゃない! うえ~~~~ん!」 ぽかぽかと才人の胸を叩くと、顔をうずめて大泣きした。 「な、何が起きてるんだ?」 『さぁ……』 ルイズの激しい怒りはどこへ吹っ飛んでしまったのだ。才人は命の無事を喜ぶより、ルイズの 心変わりに戸惑った。それはゼロも同じで、ただただ首を傾げるばかりだった。 こうして才人は、ラグドリアン湖へ赴く原因を作り出し、テペト星人の暗躍やギロン人の 罠に巻き込まれることになったのだった……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/animesongs/pages/2600.html
ゼロの使い魔 〜三美姫の輪舞〜 「ゼロの使い魔 〜三美姫の輪舞〜」キャラクターCD3 感じるシエスタ(CV:堀江由衣) ゼロの使い魔 〜三美姫の輪舞〜「感じるシエスタ」(Amazon) 発売元・販売元 コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社 発売日 2008.09.24 価格 1800円(税抜き) 内容 スイーツはいかが? 歌:シエスタ(堀江由衣) ゼロの使い魔 〜三美姫の輪舞〜 3Dドラマ シエスタ編 スイーツはいかが?(Re-mix version) スイーツはいかが?(off vocal) 備考 ジャケット内側:
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4169.html
299 名前: 25日 1/4 [sage] 投稿日: 2007/12/26(水) 02 52 11 ID kN8yWABH 教室に入ると、そこは地獄絵図だった。 「な、何だぁ?」 八割ほどの生徒が、残り二割の生徒に絡んでいた。 サイトが混乱した頭で様子を見ていると、なぜかソレは全員男だという事に気づいた。 一人を数名が取り囲み、ネチネチと質問を繰り返している。 問い詰める方の切実な瞳と、問い詰められている筈の方のどこか勝ち誇った顔が印象的だった。 そんな周りの状態に気をとられ、サイトは異常な物体の接近を警戒するのが遅れた。 「サぁぁぁぁイぃぃぃトぅぉぉっぉぉぉ」 マリコルヌ……いや、マリコルヌだったモノがそこには有った。 彼はもっと穏やかな目をしていた。 何より彼の手はこれほどの力を持っていなかった。 「き〜さ〜ま〜の〜手を見せろ〜」 マリコルヌの腕がサイトの手を掴み、恐ろしい力で引き寄せる。 「ちょっ、わ、分かったから、落ち着け」 サイトがマリコルヌの目の前で手のひらを開いてみせると、地獄のそこから響くような声が聞こえてきた。 「ちがぁぁぁうぅ、反対側だぁぁぁっ」 何でこいつはこんなに怖いんだ? サイトは謎の恐怖に襲われながら、手の甲をマリコルヌに見せる。 「あれ? ……サイト……お前……」 ? マリコルヌは憑き物が落ちたかのような顔でじっとサイトの手を見つめていた。 「ど、どうしたんだ?」 「……なんでもない……心の友よ」 さっきまでとは打って変わった様子で、サイトに笑いかけるマリコルヌが…… (ぶ、不気味すぎる……) サイトは何がおきているのかさっぱり分からなかった。 教室内の混沌とした状況の理由も、マリコルヌが何を見ていたのかも。 疑問を感じたまま、用事を済ませて教室を去ろうとしていると、マリコルヌがギーシュに襲い掛かっていた。 「きぃぃぃぃさぁあぁぁぁああまぁぁぁあああああっ!」 「なんだか分からんが、落ち着けぇぇぇぇっ、マリコルヌ!」 サイトはマリコルヌを必死でなだめた後、自室に帰った。 300 名前: 25日 2/4 [sage] 投稿日: 2007/12/26(水) 02 52 53 ID kN8yWABH ルイズ達は授業を受けているような時間、サイトはじっと自分の手を見つめた。 「……働けど、働けど……ですか? サイトさん」 「いや……、今朝ちょっとさ……」 シエスタが、ふとサイトの手を見つめ、何かに気がついたように小物入れまで走った。 「サイトさん、しばらく動かないでくださいね」 シエスタの柔らかい手が、サイトの手を優しく固定する。 暫し後、パチン、パチンと言う独特の音が聞こえ始めた。 「あれ、つめ伸びてた?」 「少しですけど……サイトさんのお世話はわたしの仕事ですから」 右、左とシエスタが丁寧につめを切ってゆく。 切り易いように動いた結果、シエスタはサイトの腕を抱え込むように固定していた。 (……当たってる……) シエスタが爪に鑢を当てる間、サイトの理性は鑢と同じタイミングで揺らされ続けた。 両手が終わると、シエスタはそのままサイトの足元に跪き、サイトの靴を脱がせた。 「ちょっ、いいよシエスタ。それくらい自分で……」 「駄目です。サイトさんのお世話するの好きなんですから……たまにはコレくらい……」 サイトの足を大切な物の様に包み、またパチリと音が響きだす。 (……なんか……すごく偉くなった気分だなぁ) サイトはのん気にそんなことを考えていた。 301 名前: 25日 3/4 [sage] 投稿日: 2007/12/26(水) 02 53 49 ID kN8yWABH 指先まで整えられたサイトの側で、シエスタが満足そうに笑っていた。 「綺麗に成りました」 切る位は自分でして居たが先まで整えたり、見たことも無い道具で磨かれたのは初めてだった。 「ミス・ヴァリエールのですから……使ったの内緒ですよ?」 小さく笑いながら、細々とした道具を丁寧に仕舞ってゆく。 ほんの数十分の事なのに、随分とくつろいだ気分になれた。 「あのさ、今日マリコルヌがさ……」 教室での出来事を話すと、しばらく悩んでいたシエスタが頬を染めた。 「あの……それって……」 「あ、内容分かったんだ。説明してもらっていいかな?シエスタ」 「あの、ですね。まず今日は始祖のお誕生日だって言われている日なんですよ」 シエスタの説明は長かった。 本来、始祖の誕生日は全く別の日らしいのだが、ロマリアの勢力拡大のために他の宗教の行事を取り入れた結果、 一般にはこの日が、祝われる事に成ったらしい。 「その……それで、その前日は恋人同士が一緒に過ごすことが、いつの間にかトリステインで流行したんです。 ロマリアからは、神聖な日にその……恋人同士が『ごにょごにょ』するなんてけしからん。 そう言われているので、敬虔な信徒のミス・ヴァリエールは、サイトさんと『何か』しようとはなさいませんでしたけど」 他の生徒たちは、昨日は…… 「マリコルヌが怒り狂ってた理由と、男子生徒の明暗が分かれてた理由は分かった。 でも、なんで手を見たんだろう?」 もじもじと悩んだシエスタが、つとサイトの耳元まで来ると、小さな声でこしょこしょと説明を始めた。 302 名前: 25日 4/4 [sage] 投稿日: 2007/12/26(水) 02 54 22 ID kN8yWABH 「だ、だって、女の子と夜を過ごすんですから……その……」 つんつんと、サイトの指先に触れるシエスタは愛らしいが、サイトには何の事だかさっぱり分からなかった。 「えと……手を見たことと何か関係有るの?」 潤み始めたシエスタの目を見つめながら、サイトは質問を重ねた。 真っ赤に成ったシエスタの口が、恐る恐る開いては何かを告げようとするが、 言葉を編み上げる前に羞恥心の限界が来るらしく、何時まで経ってもサイトには伝わらなかった。 泣き出しそうな瞳のまま、悩み続けていたシエスタが、 口にするよりは。 そう思ったらしく、サイトの手をスカートの中に導いた。 「ちょっ、シエスタっ?!」 サイトの指先がズロースの厚い布地の向こうから、熱を伝えた。 シエスタの手に支えられたまま、震えるようにソコに押し付けられる。 シルクの下着と違い、サイトに伝えられるのは柔らかさのみだったが、 (……………………………………………………っ) サイトの頭の中が興奮で真っ白に染め上げられる。 「ここ、触るのに……爪が伸びてたら痛いじゃないですか……」 中とか……意を決したらしいシエスタの言葉も、サイトの脳にはほとんど伝わっていなかった。 (あー、そっかー、今日つめ綺麗にきってた奴って、昨日……) 朝のやり取りをようやくサイトは理解…… 「って、マテイっ!」 「ふぇっ?」 自分が庇ったギーシュと、質問攻めに有っていた二割の生徒を思い出す。 「あんの、裏切りものどもがぁぁぁぁぁぁぁ」 ――マリコルヌ、君は正しかった。心友よ! 無言でサイトは教室に向かう。 その心には、怒りのみが燃えていた。 「俺よりモテル奴に会いに行く!!」 主に殴るために。 「あの……サ、サイトさ……」 「ギィィィィシュッ、……貴様を殺すッ!!」 怒りに我を忘れたサイトが、教室で暴れたのはその5分後だった。 そして…… ――シエスタは一週間口をきいてくれなかった。
https://w.atwiki.jp/ogonmusou/pages/62.html
(CROSS) 今回は難易度関係ない・・・かも。 というのもEASYコンティニューありで35以外出した状態から HARDノーコンティニュー黒戦人負けでフェザリーヌを出したから。 もしかしたらEASYで、もう1周しても出たかもしれない。 ※ver2.01から黒き戦人がシステムボイスに追加。 01 ベルンカステル 02 ラムダデルタ 03 山羊 04 右代宮戦人 05 右代宮縁寿 06 右代宮譲治 07 右代宮朱志香 08 右代宮楼座 09 右代宮真里亞 10 右代宮夏妃 11 右代宮霧江 12 紗音 13 嘉音 14 ベアトリーチェ 15 ワルギリア 16 エヴァ・ベアトリーチェ 17 ロノウェ 18 古戸ヱリカ 19 ドラノール 20 ガートルード 21 コーネリア 22 ルシファー 23 レヴィアタン 24 サタン 25 ベルフェゴール 26 マモン 27 ベルゼブブ 28 アスモデウス 29 シエスタ410 30 シエスタ45 31 シエスタ00 32 さくたろう 33 ゼパル 34 フルフル 35 フェザリーヌ 36 うみねこさん1 37 うみねこさん2 38 黒き戦人 39 ウィラード 40 右代宮理御 (黄金夢想曲、黄金夢想曲X) ゼパルとフルフルのみ、HARDノーコンティニューで追加。 それ以外は難易度・コンティニュー問わずクリアで順次追加。 01 ベルンカステル 02 ラムダデルタ 03 山羊 04 右代宮戦人 05 右代宮縁寿 06 紗音 07 嘉音 08 ベアトリーチェ 09 ワルギリア 10 エヴァ・ベアトリーチェ 11 ロノウェ 12 ルシファー 13 レヴィアタン 14 サタン 15 ベルフェゴール 16 マモン 17 ベルゼブブ 18 アスモデウス 19 シエスタ410 20 シエスタ45 21 シエスタ00 22 さくたろう 23 ゼパル 24 フルフル 25 うみねこさん1 26 うみねこさん2
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1382.html
前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 食堂では他の生徒より一足遅く、ルイズが席に着いた。するとまたもルイズのそばにキュルケがやって来た。 「ちょっと!あっち行きなさいよ!」 「あなたに用はないわよ。ねぇ、アンジェちゃんは・・・」 「アンジェなら先に食事に行かせたわ。」 「それで食事の後にあんなことさせてるの?」 キュルケが指差す先、そこにはメイド服を着たアンジェリカがシエスタと供にケーキを配っているではないか。 「な、何やってんのよ!アンジェは!」 「落ち着きなさいよルイズ!」 コック長のマルトーは今食事をしている少女、アンジェリカが苦手だ。 今朝初めてあったとき、その髪の色も相まってシエスタの妹と思ってしまったが、今ではそんなことは露にも思わない。 アンジェリカの人形めいた容姿、シエスタや他のメイド達は可愛いというが理解できない。何よりもあの笑顔。機械じみたその笑顔は不気味で背筋がぞっとする。 だからマルトーはこの少女アンジェリカが苦手だった。 「マルトーさん、マルトーさん」 「おう、どうした」 シエスタが話しかけてくる。仕事に集中しなければ、そう思いケーキの配膳に取り掛かる。 「アンジェリカちゃんにケーキをあげてもいいですよね?」 「ああいいぜ。そのために余分に用意してあるからな」 「そうなんですか。ありがとうございます。アンジェリカちゃん、お礼は?」 「ありがとうございます。それで、あの、紅茶はないのですか?」 「紅茶?まってな、すぐに淹れてやるからよ」 「アンジェリカちゃん、紅茶好きなの?」 「はい。紅茶とケーキには幸せの魔法がかかっているんですよね」 そういってアンジェリカは小さく笑う。機械的でない、無邪気な少女らしく笑う。 『なんでぇ。ちゃんと笑えるんじゃねぇか』 マルトーはアンジェリカの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。 「わわ」 「マルトーさん!そんなふうに撫でたら髪が乱れちゃいます」 シエスタはそういってケーキを食べているアンジェリカの髪をすく。 「はは、すまねぇ。しかし、紅茶とケーキには幸せの魔法がかかっているか。わかってるじゃねぇかお前」 そうだ、こういう子供がしっかり笑えるように大人達が頑張らなければならないのだ。 「アンジェリカっていったな。気に入った。いつでもここに来な、好きなもん食わしてやるからよ」 「はい、ありがとうございます」 「よかったね、アンジェリカちゃん」 もうマルトーはこの少女、アンジェリカが苦手ではない。 「シエスタちゃん」 「何?アンジェリカちゃん」 ケーキを食べ終えたアンジェリカはシエスタに話しかける。 「あのね、お世話になってばかりだから私もシエスタちゃんのお手伝いがしたいの」 「え?お手伝い?」 シエスタはマルトーに目を向ける。好きにしな、マルトーの目がそう語っていた。 「じゃあねぇ、そうだ。これからケーキの配膳があるからそれを手伝ってくれる?」 「はい、お手伝いします」 「えーと、その服じゃ汚れたら困るから・・・。そうだこっちに来て着替えましょう」 そういってシエスタはアンジェリカを連れて厨房を出た。 着替えたアンジェリカの姿はメイド、そうまさにメイドそのものだ。 「少し小さいサイズが合ったからどうかと思ったけど、ぴったりね」 「似合いますか?」 「ええ、似合いますよ。じゃあ行きましょうか、アンジェリカちゃん」 「はい、シエスタちゃん」 シエスタとアンジェリカは二人でケーキの配膳に取り掛かった。 「それじゃあ、アンジェリカちゃんお願いね?」 「はい!」 シエスタがケーキを乗せた大きな銀のトレイを持ち、アンジェリカがそれを貴族達に配っていく。 「ちょっとアンジェ、アンジェ!」 ルイズがアンジェリカに声をかける。 「どうしたんですかルイズさん?」 「どうしたじゃないでしょ?あんた何してんのよ」 「お手伝いです」 「お手伝い?」 ルイズはシエスタに目をやる。 「あの、ヴァリエール様、そのぅ」 「ルイズさんわたしがお手伝いしたいって頼んだんです」 答えに窮したシエスタに代わり、アンジェリカが答える。 「そ、そうならいいわ。でもねアンジェ、次からわたしに一言いうのよ」 「はいわかりました」 そういってまたアンジェリカはケーキを配り始めた。 「やーん、アンジェちゃんかわいいー」 「き、気持ち悪い声ださないでよ。この変態ツェルプストー」 騒がしい彼女達を尻目にアンジェリカとシエスタは淡々とケーキを配っていた。 すると何やら貴族の少年の一団のほうからアンジェリカの足元に小さなガラス壜が転がってきた。 「落としましたよ」 アンジェリカは拾ったガラスの小壜を指し出し、一団の中にいる金髪の、薔薇を胸に挿した少年に問いかける。 「これは僕のじゃないね。君は何を言っているんだ?」 少年は否定するが周りにいた彼の友人達が騒ぎ出す。 「それは香水?モンモランシーの香水じゃないか?」 「するってぇーと、ギーシュはモンモランシーとお付き合いなすってるてことで?」 「ち、違うぞ!」 ギーシュと呼ばれた少年は慌てて否定しようとしたがもう遅かった。 「ギーシュさま・・・」 栗色の髪の少女がボロボロと涙を流しながらやって来た。 「け、ケティ。いいかい、誤解しないできいておふぉおおおおお」 ギーシュが言い訳を言い終わる前に、手首のスナップが効いた素晴らしいビンタが彼の頬を襲う。 「さようなら!」 ケティと呼ばれた少女はそう言い残し立ち去った。 その様子を見届けた巻き髪の少女が静かに立ち上がり、ギーシュの席まで歩いてきた。 「ご、誤解だよモンモランシー、彼女とは遠乗りに出かけただけだよ」 「あの一年生までに手をだしたのね。うそつき!」 モンモランシーはテーブルの上のケーキをギーシュの顔にぶつけ、そののまま去っていった。 沈黙がその場を支配する。だがアンジェリカはギーシュが余りに滑稽でクスクスと笑ってしまった。 「僕を笑うのは誰だ!」 ギーシュが叫ぶ。 Episodio 5 Magico della felicita 幸せの魔法 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1247.html
「シエスタ」 「はい?」 「細長い紐って持ってないか?ある程度長さがあればいいんだ。もしあったらくれると助かるんだが」 唐突にそうシエスタに話しかける。 「わかりました。少し待っていてくださいね」 シエスタは当然のことで目をパチクリさせていたがすぐに笑顔で答えると部屋を出て行った。便利だ。 何故突然紐を欲したかというと暇対策のためだ。 それとシエスタを追い出すためでもある。いい加減五月蠅かったしな。どうでもいいことをよくあんなに喋れるな。 さて、このうちに服でも着替えるか。服を脱ぎ捨てパンツだけになる。 昨日ルイズが持ってきた服に手を掛ける。そのとき、 「ヨシカゲー。調子は……」 ドアを開けルイズが入ってきた。しかし凍ったかのように動きを止める。 『ザ・ワールド!ルイズはとまる』 私とルイズは暫らく見つめあった後が、ルイズが勢いよくドアを閉め去っていくことで膠着は途切れた。 あれか?パンツ一丁だったからか? 別に局所は隠れているんだから問題なんか無いだろうに。 そんなことを思いながら服を着る。あれ?帽子と手袋が無いな?すっかり忘れてた。 後でルイズに言っておくか。 そしてまた扉が開く。シエスタだった。 「これぐらいの長さで良いですか?」 シエスタはそういって私に紐を渡してくる。ふむ、丁度いいだろう。 「そういえば今日は貴族の授業が全部お休みなったみたいですよ」 シエスタは突然そんなことを言ってきた。 「休み?今日は虚無の曜日じゃないだろ?」 なのに休みだなんてなにかあ……あああああああああああ! 心当たりあるじゃねえか! 「なんでも生徒と先生が一人いなくなったらしいんですけど」 「らしいけど?」 「ただいなくなっただけじゃないそうなんです」 「ど、どういうことだ?」 内心焦りながら聞いてみる。 「2箇所大量の血溜まりができていたらしくて一つはいなくなった先生の見回りルートの一つだったらしいです。 そんなこと普通じゃないってことで今学院全部の先生がいなくなった人を探しているそうです」 絶対関係ある。あの手首絶対関係あるよ! やばい!もし魔法で犯人がわかるとしたら相当やばい! あ、でも魔法でわかるならもうとっくにわかってるか。安心した。 「怖いですよね」 「そうだな」 それでも油断は禁物だ。怪しまれないように心がけなければならない。 どうしてこう落ち着けることがないかな。 「でも明日はちゃんと授業するみたいですよ」 「へえ、しかしそういった情報は何処から手に入れてくるんだ?」 「厨房にはこういった情報が逐一入ってくるんですよ。平民の情報網ですね」 きっと立ち聞きしたのを平民同士で教えあっているんだろう。 生徒や教師はそこらへんに平民がいても構わず喋ってる奴が多いからな。 「それで聞きたいことがあるんですけど」 「うん?」 「その紐をどうするんですか?」 「ああこれか」 そういって紐を輪になるように結ぶ。 「暇つぶしだ」 シエスタにそう言うと紐を両手の親指と小指に引っ掛ける。 それを右手の中指で左手にかけてある紐をとり左も同じようにする。 そしてそれを引っ掛けたり取り外したり覚えている限りでやっていく。 シエスタはそれをきょとんとしながら見てくる。 最後に小指を外して、と。 手を広げる。これで4段梯子の完成だ。 「なんだかよくわかりませんでしたけど凄いですね。それは何なんですか?」 「あやとりっていってな。私の国の遊びの一つだ。紐があればできる簡単な遊びだ、一人でも遊べるが二人でも遊べる」 「へえ~」 「それに指先を動かしたり物を立体的に考えないといけないから脳が活発に働くんだ。ボケ防止や脳の老化防止にもいいといわれてる」 そういって今度は箒を作る。 「難しそうですね」 「覚えれば簡単だ。続けていれば指先も器用になる」 初めてやったときは本当にただの暇つぶしだったけどな。これが結構難しい。 それで少し自棄になって覚えたからな。それにやってると集中するからほかの事を考えなくて済むし暇つぶしにもなる。いいものだ。 「その、あやとりって二人でもできるんですよね」 シエスタが不意にそんなことを聞いてくる。 「ああ」 「あ、あの私にも教えてもらえませんか?」 「へ?」 「ダ、ダメですか?」 「いや別にいいけど」 なんでこうなるんだ?厄介だな。 あ~あ、なんで教えるなんて言っちゃったんだろうなー。面倒くせー。 でもここで断ったら印象悪くなるな。シエスタを便利に使えなくなるだろうし。 ここは我慢だ。 そう思い綾取りの基本的な形を作る。 「じゃあこれから私の言う通りにしてくれ。まずこの紐に指を引っ掛けるんだ」 「はい!」 シエスタが嬉しそうな顔で返事をする。 私とシエスタのあやとり教室が幕を開けた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1165.html
もしもシエスタに「真の貴族とは誰か?」という問いを投げかければ彼女は迷わずただ一人の名前を告げるだろう。 彼女にとって恩人であり、憧れでもある名前を。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの名前を。 同僚や他の貴族に聞かれれば苦笑し、あるいは嘲笑されるであろうその名前を。 事実、口さがない学院の生徒たちが魔法が使えぬと言う一点を持ってルイズを嘲弄しているのを何度も見かけたことがある。 そんな時、彼女はいつも思うのだ。それがどうした、と。 /*/ 思い出せる限りの一番最初は、名前を聞かれたことだった。 頼まれた洗濯物を部屋に届けた時、ルイズは彼女の名前を聞いた。 シエスタは魔法学院で働く召使いの一人であり、貴族にとっては名すら覚えるに値しない平民である。 故に名を聞かれた時にシエスタは恐れた。自分は何か過ちをしでかしたのかと。 ところが、ルイズは言ったのだ。 謝罪し、頭を下げる彼女をむしろ不思議そうに見て、 「名前がわからないと、これから用事も頼めないじゃないの」 驚いたが、嬉しかった。 目の前の貴族は、平民に過ぎない自分を同じ人間として扱おうとしてくれる。 そんな貴族がいるということが嬉しかった。 夕飯も近かったのでスキップしながら厨房に入り、マルトー親方に報告する。 「まぁ、なんだ。貴族の中でもいい奴はいるって事だな」 うんうんと頷く親方に同意する。 横で 「ルイズってあのゼロだろ?」 「魔法が使えないから自分が貴族だって思ってないんじゃないのか?」 などと声が聞こえたがすぐに消えた。 親方が拳をさすっていたり、料理人が二人ほど頭を抱えていたような気もするが、些細なことと切って捨てた。 /*/ 二つ目は、ルイズの持つ首飾りだった。 蒼い石の嵌めこまれたそれは、ルイズが幼い頃に恩人に貰った物だという。 それとほぼ同じ首飾りをシエスタは持っていた。 ほぼというのは、蒼い石の色合いが幾分かシエスタの物の方がくすんでいるからだった。 ルイズのそれが『青』ならばシエスタの物は『藍』と言っていいだろう。 だがそれ以外に違いはなかった。 どこで手に入れたのかとルイズは問いかけたが、もうずいぶん前に亡くなった曾祖父の形見だと言う答えに肩を落とした。 「あの、これがどうかしたのですか」 あまりの気落ち振りにたまらず声をかける。 「……わたしは、あの人にお礼を言ってないの。だからシエスタがそれをどこで手に入れたのか解れば、もう一度会えると思ったんだけど……」 気長に探すわよと笑うルイズを見ながらシエスタは微笑んだ。 この人は本当に義理堅いのだなとそう思った。 /*/ そして最後の、そして最大の出来事は春の使い魔召喚の儀の少し前に起こった。 たまたま学院に勅使として訪れた貴族に見初められ、召抱えられることになったのだ。 幾ら風評が悪く、その悪趣味が知れ渡っていても貴族は貴族。 平民であるシエスタやマルトーにはどうすることも出来なかった。 ところが、どこから聞きつけたのかルイズがやってきて貴族の使いにこう言った。 「そこのシエスタはわたし付きの召使いで、学院を卒業したら一緒に屋敷に連れて行こうと思っていたの。ここは退いて頂けるかしら」 胡散臭げに使者は鼻を鳴らし、モット伯爵に逆らうおつもりですかと唇を歪めたが、続くルイズの一言でその顔を強張らせた。 「それがどうした」 胸を張り、貴族のお手本のような姿勢でルイズは言った。 「そちらこそ、ヴァリエール公爵家に逆らうつもりなのかしら?」 それで全て方がついた。はっきり言って伯爵と公爵では格が違う。 貴族の使いは忌々しげに後悔なさるなと言ったが、それは少女の薄い胸板に弾かれて消えた。 曰く、“貴族に後悔はない” その夜、礼に訪れたマルトーとシエスタにルイズは気にするなと手を振った。 単に権力を笠に着て、平民なら何をしてもいいと思っている奴が嫌いなだけだと。 マルトーはそう言う小さな貴族の耳が微かに朱に染まっているのに気が付いた。 「でも、お貴族様と私たち平民では生まれからして違うんですから仕方ないと……」 「―――シエスタ」 ルイズが彼女の唇に指を当てて黙らせる。 そして小さな貴族は胸を張り、世の真理を民草に伝える女王のような表情でこう告げた。 「憶えておきなさい、シエスタ。貴族として生まれる人なんて誰もいないわ。人は自分の意思で貴族になるのよ」 それは誇り。 魔法が使えず、誰からも貴族として認められず、それでも貴族であろうとし続ける少女の誇りだった。 シエスタは思った。 例え世界の誰からも認められなくても、この人は本当の貴族なのだと。 /*/ 後の世に伝えられる二人の伝説の、これが始まり。 それは諦めることを止めた、ある少女たちの物語――――。 前に戻る 次に進む 目次