約 1,871,212 件
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/2018.html
9日目 Navi さわやかな朝がやってきました 自宅にて コンチさん の遺体が見つかったようです… Navi 村人の皆様、今日もがんばってください 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい ひとりだけ? Navi 昼の部スタートです 2 (ゾンビ部屋) サイア あれ? 2 (ゾンビ部屋) カルシファー ん? 1 (なび村) ワルノス え 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい ・・・・・ 1 (なび村) シエスタBC これで狐はおわりか 1 (なび村) せんこ あれ? こんちさん占ったよ・・・? 2 (ゾンビ部屋) れりか どゆこと? 1 (なび村) xバーバラx え 2 (ゾンビ部屋) リゾルート あえてコンチさん噛んだのかも 1 (なび村) たぷたぷ え 1 (なび村) ワルノス なんで二匹出ない 2 (ゾンビ部屋) カルシファー かな? 1 (なび村) xバーバラx 狼きつねかんだ? 2 (ゾンビ部屋) リュファ わざと合わせたかな・・・ 2 (ゾンビ部屋) サイア うん 1 (なび村) シエスタBC ? 2 (ゾンビ部屋) サイア それしかないね 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい 狐残ってるよ疑惑のこすために 2 (ゾンビ部屋) jinjahime せんこさん視点でメゾピ>シエスタで詰み 2 (ゾンビ部屋) サイア 潜伏狩人でないかぎり 1 (なび村) たぷたぷ 狼が狐かんだのかな 1 (なび村) せんこ うわー 想定外 1 (なび村) ワルノス せんこさんの信用落としに行った? 1 (なび村) xバーバラx いや もうせんこさん 真でしょう これ 1 (なび村) たぷたぷ っぽい、狼側はそれしか挽回する策ないでしょうし 1 (なび村) せんこ あ こんちさんを噛めるのか 1 (なび村) ワルノス かみ合わせっぽくしてきたってことじゃね 1 (なび村) シエスタBC というか真とみないと 1 (なび村) シエスタBC むらかてないだろ 1 (なび村) ワルノス 待て待て待て 3 (GREEN) Navi そうです わたしが しんのおおかみです 1 (なび村) ワルノス シエスタさんは真視しちゃだめだろww 1 (なび村) xバーバラx いまさらせんこさん 疑う意味ない 3 (GREEN) みむっちゃ な、なんだって~ 1 (なび村) せんこ 落ちついて推理しよう 1 (なび村) シエスタBC あそっか 1 (なび村) せんこ 今6人 1 (なび村) シエスタBC おれ黒か (SH) コンチ ねるー 1 (なび村) ワルノス 残り2本 (SH) コンチ おやすみー 1 (なび村) せんこ ちょwww 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい シエスタさん・・・ jinjahime おやす リュファ おやすみなさーい。 ワルノス おつかれさまー 1 (なび村) たぷたぷ wwww サイア おやすー xバーバラx おつかれさまでした れりか おやすみなさーい 1 (なび村) せんこ もううち真で話進めてもいいよね?今更疑わないよね? 2 (ゾンビ部屋) jinjahime シエスタさんのあきらめムードが・・・ 1 (なび村) ワルノス いいよん 1 (なび村) xバーバラx いいですよ~ 1 (なび村) シエスタBC じゃあメゾさんが真か? サイア ここであえてしえたん以外吊ったらPPかにゃ カルシファー おやすみなさいー 2 (ゾンビ部屋) サイア ここであえてしえたん以外吊ったらPPかにゃ サイア ごーめーんー 1 (なび村) メゾピ え、私真なんですか? サイア 超ごめん 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい 今日はゴバクが多いですね 1 (なび村) たぷたぷ 真でいいよー 2 (ゾンビ部屋) jinjahime 誤爆村 1 (なび村) xバーバラx シエスタさんとメゾピさんはすみっこでおとなしくしててください 1 (なび村) ワルノス メゾピさん んじゃ今日のは? 1 (なび村) メゾピ わかりました。じゃあせんこさんを指定します 1 (なび村) ワルノス かみ合わせってことかい? 1 (なび村) xバーバラx いやもう時間の無駄 1 (なび村) たぷたぷ うん 1 (なび村) せんこ こんちさんはみむっちゃさんの指定どおり狐だったみたいだね 1 (なび村) せんこ 狼なのは確実でしょう 1 (なび村) メゾピ たぶん本当にコンチさんが狐でせんこさん噛めなかったんじゃないでしょうか 2 (ゾンビ部屋) jinjahime ケアはしっかりと!最終日に勝てればイイノヨ! 1 (なび村) たぷたぷ 狐もう0だよね 2 (ゾンビ部屋) リゾルート 初日誤爆の座は渡さない・・・っ 2 (ゾンビ部屋) jinjahime ドウゾドウゾ 1 (なび村) xバーバラx 狐は全員とかした 1 (なび村) せんこ 現にシエスタさんの狙いも、うちの信用を落してめぞぴさん真押しで来てる 1 (なび村) メゾピ というか負けが確定してる狼はどこ噛んでも同じですよね 2 (ゾンビ部屋) リゾルート グスン 1 (なび村) ワルノス それがさ かみ合わせってケースだと・・・んー あるんだけどいいか 2 (ゾンビ部屋) リュファ 奪い合う座なんですかそれ。 2 (ゾンビ部屋) jinjahime よしよし(つ・ω・(-ω-*)ダキッ 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい コンチさんが濡れ衣でふつうにかみ合わせただけの可能性も? 1 (なび村) ワルノス 盲信します 1 (なび村) シエスタBC そうだっけw 1 (なび村) せんこ だから狐はこんちさん あかみさん で全滅してる 1 (なび村) xバーバラx ですのであとは狼 1 (なび村) メゾピ みむっちゃさん狐でもう一人狼いたらラッキーですけど 2 (ゾンビ部屋) jinjahime あかみーが静かなのが怖い 2 (ゾンビ部屋) jinjahime 森いってんのか? 2 (ゾンビ部屋) リゾルート ならどっちみちメゾピさん吊りで大丈夫かも・・・? 2 (ゾンビ部屋) サイア 寝てるのかも 1 (なび村) せんこ まぁ 流れ通りしえすたさん吊って終わっちゃっていいと思うw 1 (なび村) たぷたぷ とりあえず吊りはどうしましょう、シエスタさん? 2 (ゾンビ部屋) jinjahime メゾピ>シエスタでいいですね 1 (なび村) シエスタBC いややっぱさ 2 (ゾンビ部屋) あかみさと ん、おぉ 1 (なび村) xバーバラx シエスタさんでしょう 1 (なび村) シエスタBC おかしくね? 2 (ゾンビ部屋) あかみさと いいぞ!そこだかませ! 2 (ゾンビ部屋) jinjahime ねてたのか 2 (ゾンビ部屋) あかみさと ちょっと目離してたw 1 (なび村) たぷたぷ どのあたりがでしょう 1 (なび村) ワルノス 一個考えがあるんでつながったら考え直します。 説得プリーズ Navi 5分経過(後2分) 1 (なび村) メゾピ 自由投票でいいんじゃないでしょうか 1 (なび村) せんこ ところでそれだと 1 (なび村) xバーバラx どうぞ はやめに 1 (なび村) ワルノス なきゃシエスタさん吊りでおなしゃす 2 (ゾンビ部屋) あかみさと でも眠いのは確かやな・・・ 2 (ゾンビ部屋) みむっちゃ リゾさんっていつ死んだの?視点もれで自分のメモ蝶だとまだ生きてるw 1 (なび村) せんこ めぞぴさんのワルノスさん二重占いがゲームとして破綻することになるような 2 (ゾンビ部屋) リゾルート 初日に( ゚д゚) 2 (ゾンビ部屋) あかみさと リゾさんは初日に・・・ 2 (ゾンビ部屋) jinjahime リゾさんは初日吊り 2 (ゾンビ部屋) みむっちゃ あぶねーーーー 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい せんこさん視点メゾピさん不明ですよね 1 (なび村) シエスタBC さっきのかみは 1 (なび村) ワルノス あ そっち真ではなく 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい (超狼っぽいけど 1 (なび村) シエスタBC コンチさんだったってことよな? 1 (なび村) ワルノス 狐ケース 1 (なび村) ワルノス 混乱しそうなので忘れて 1 (なび村) シエスタBC こんちさんが狐ってのは 1 (なび村) メゾピ 私狐だったら勝ちくれるんですか? Navi あと1分 1 (なび村) シエスタBC 確定してんだっけ? 1 (なび村) メゾピ というか私以外にも狐候補いっぱいいるのにシエスタさん吊っていいんですか 2 (ゾンビ部屋) リゾルート まぁ、役職なしの時点で実は吊られる気まんまんでしたと、裏話・・・w 1 (なび村) せんこ まぁあれだ 時間ないのにうだうだのばして票が崩れると困る 1 (なび村) ワルノス 狂人 うん 大丈夫 1 (なび村) せんこ シエスタさん 吊りで お願いします 1 (なび村) ワルノス うっす 1 (なび村) せんこ OK? 1 (なび村) xバーバラx そうですね シエスタさんつりましょう 1 (なび村) せんこ たぷたぷさんおkかな? 2 (ゾンビ部屋) jinjahime 不明ですね>メゾピさん Navi 20秒前 1 (なび村) たぷたぷ おkです 1 (なび村) せんこ ぶれると引き分けになっちゃうので 2 (ゾンビ部屋) jinjahime だからつるべき 1 (なび村) たぷたぷ シエスタさんに票いれます 1 (なび村) シエスタBC まあまだまにあうからいいけど 1 (なび村) たぷたぷ はいな 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい 今夜占うつもりなのかな Navi 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) Navi 投票は私に直Tellでお願いします 3 (GREEN) Navi 会話可能時間スタート 3 (GREEN) Navi ---------------------------------------- 1 (なび村) Navi -------------------------- 1 (なび村) Navi 9日目終了 1 (なび村) Navi -------------------------- 2 (ゾンビ部屋) jinjahime みむっちゃさんは誤爆もあるけど、狂狼どちいもあるから (T) せんこ > しえすたさんで! (T) ワルノス > シエスタさんで (T) メゾピ > せんこさん (T) xバーバラx > シエスタBCさんで 3 (GREEN) シエスタBC (・ω<) 2 (ゾンビ部屋) jinjahime 狼だったらおわりだから・・・ 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい メゾピさん狐でも滑り込み村勝利できる・・ 2 (ゾンビ部屋) jinjahime 今夜占い 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい はず(自信なし (T) せんこ > いやぁ中々手ごわかった・・・ 2 (ゾンビ部屋) リゾルート 占えば滑り込みですね 3 (GREEN) シエスタBC やっぱり今回もダメだったよ 2 (ゾンビ部屋) jinjahime 狐なら(*´・ω・)(・ω・`*)ネー (T) たぷたぷ > シエスタさんに一票 これで勝ち! 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい のこりはたぷ狐があるかないかくらいですか 3 (GREEN) シエスタBC 今度はテレビの前の彼におねがいしてみよう 3 (GREEN) みむっちゃ あいつは人の話をきかないからな 3 (GREEN) シエスタBC ほんと 3 (GREEN) シエスタBC 聞けってんだ 2 (ゾンビ部屋) jinjahime みむっちゃ狂-メゾピ狼 だとおわる 3 (GREEN) シエスタBC だからいつまでたっても 2 (ゾンビ部屋) サイア んむ 3 (GREEN) シエスタBC みどりなんだよ! 2 (ゾンビ部屋) サイア ウチ吊りは失敗やったごめん (T) シエスタBC > せんころ逝けええええええええ シエスタBC4 せんこ2 2 (ゾンビ部屋) サイア いやウチは悪くない 2 (ゾンビ部屋) れりか 誰が悪いとかの遊びじゃないからー 2 (ゾンビ部屋) jinjahime うむー 2 (ゾンビ部屋) jinjahime 村の総意 2 (ゾンビ部屋) サイア 全部Navi子のせい 2 (ゾンビ部屋) れりか 村の行く末を見届けましょう 2 (ゾンビ部屋) サイア これが真理 jinjahime こんばんは Navi 2 (ゾンビ部屋) れりか Navi子なー 3 (GREEN) Navi (・ω(⊂(=△=*) 2 (ゾンビ部屋) jinjahime はい! 2 (ゾンビ部屋) デュビア 恐るべきNaviこ Navi さよなら シエスタBCさん …あなたの勇姿は忘れない Navi 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です Navi 役職の方は私にTellお願いします 3 (GREEN) シエスタBC 父さんにも殴られたこと無いのに! 2 (ゾンビ部屋) jinjahime 特異点Naviこ シエスタBC すきやきなびこ! 3 (GREEN) みむっちゃ 茶番始まったwもっと見せろー 88888 (T) せんこ > えーと じゃあめぞぴさん占いましょう 万が一これでめぞぴさんが狐でも勝ちだし 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC おつん 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい おつかれさま~ 2 (ゾンビ部屋) jinjahime おつかれさまー 2 (ゾンビ部屋) カルシファー お疲れ様ですー 2 (ゾンビ部屋) リゾルート おつです~ (T) > せんこ メゾピさんはごく普通の村人でした!○ 2 (ゾンビ部屋) れりか おつかれさまー 2 (ゾンビ部屋) リュファ おつかれさま。 2 (ゾンビ部屋) サイア おつかれー (T) せんこ > りょうかいー さてさて・・・ 2 (ゾンビ部屋) デュビア おつかれさま~ 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC こんなに可愛いモニコつるなんて 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC 狂気の沙汰ですね 2 (ゾンビ部屋) jinjahime もにこはあざとい 2 (ゾンビ部屋) jinjahime こんなきれいなこぐねえ吊るなんて 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC こぐねえはBBA 2 (ゾンビ部屋) リゾルート ガ━━Σ(゚Д゚|||)━━ン!! 2 (ゾンビ部屋) jinjahime 大人の女性ですよ 2 (ゾンビ部屋) あかみさと シエスタさん正解!!!! 2 (ゾンビ部屋) れりか にゅたここそ至高 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC 耳の長い犬はなー 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC 耳の中臭いんだぞ!!! 2 (ゾンビ部屋) サイア もぐらさんに殺される 2 (ゾンビ部屋) jinjahime きれいに掃除してます 2 (ゾンビ部屋) リゾルート それでもこぐがいいんだい(´・ω・`) 2 (ゾンビ部屋) デュビア パンダかわいいよパンダ 2 (ゾンビ部屋) jinjahime こぐねえの耳をちゅぱちゅぱしたい 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC ちゅぱちゅぱ・・・ 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC わ、わるくねぇ 2 (ゾンビ部屋) リゾルート いいんかいΣ 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC わるくないぞおお 2 (ゾンビ部屋) あかみさと こいつ簡単になびきよったわ 2 (ゾンビ部屋) れりか これは嘘をついている味ですね? 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC 結論 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC カワイイは正義 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC え? 1 (なび村) Navi -------------------------- 1 (なび村) Navi -------------------------- 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC なに? 2 (ゾンビ部屋) jinjahime マダムかわいい 2 (ゾンビ部屋) リュファ (やっぱり最初に言ったとおり不審者村だった・・・) Navi すがすがしい朝がやってきました 村人は昨日のまま全員元気な姿で顔を合わせることができたようです 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい ! Navi 村人勝利END Fin 1 (なび村) せんこ ふう 1 (なび村) ミクかわいい おめでとーーーーう! 1 (なび村) xバーバラx おつかれさまでした Navi ペカー 1 (なび村) サイア おつかれー (T) ワルノス > おつかれさまでしたー 2 (ゾンビ部屋) jinjahime あら、おわった 1 (なび村) たぷたぷ やったーw 2 (ゾンビ部屋) カルシファー おぉw (T) ワルノス > あ 間違えました 1 (なび村) すもでんぱ おつおつ 1 (なび村) リゾルート おつかれさまです~ 1 (なび村) みむっちゃ おつさまですー せんこ おつかれさま! 1 (なび村) ワルノス おつかれさまー 2 (ゾンビ部屋) シエスタBC うそーん 1 (なび村) たぷたぷ お疲れ様です 1 (なび村) うんちや おつかれさまでした メゾピ おつかれさまですー 1 (なび村) jinjahime おつかれさまでしたー 2 (ゾンビ部屋) ミクかわいい 狂人だったらしぃ 1 (なび村) リュファ やったー。おつかれさまー。 1 (なび村) あかみさと お疲れ 告発はいかんぞ、告発は・・・ 1 (なび村) サイア ごめんね。ウチを吊る時にメゾピさんを吊るべきだったね 1 (なび村) jinjahime 狂人だったのか 1 (なび村) せんこ ふうう 2 (ゾンビ部屋) リゾルート 狂人だったのですね 1 (なび村) せんこ じんじゃさん村だったのねごめんw 1 (なび村) せんこ 思いっきり狐だと思ったw 1 (なび村) jinjahime 超村ジャンwww Navi それでは役職発表です! 1 (なび村) れりか 久々の勝ちだー Navi 人狼 みむっちゃ Akizuki シエスタBC Navi 占い師 せんこ Navi 霊媒師 ミクかわいい 1 (なび村) たぷたぷ そういえばメゾピさん吊れば良かったなー、完全に思考の外だった Navi 狩人 リュファ Navi 狂人 メゾピ Navi 妖狐 コンチ あかみさと Navi 共有者 うんちや すもでんぱ 1 (なび村) せんこ いやーーーー・・・活躍できたきがする Navi 以上でした! 1 (なび村) ミクかわいい えっミクさん霊媒だったんですか! Navi あわせて 1 (なび村) ワルノス 大活躍ね 1 (なび村) サイア ウチも完全いにメゾピさん除外してた 1 (なび村) xバーバラx 占いすばらしかったです 1 (なび村) ワルノス 何故自分で言うし 1 (なび村) たぷたぷ wwwwwww 1 (なび村) jinjahime 狩人希望出したのにー Navi 希望者も載せておきましょう! 1 (なび村) サイア で、ウチを吊り指定したせんこさんは閻魔帳に記録済み 1 (なび村) カルシファー 占いがすごすぎたw 1 (なび村) リゾルート MVPですよ~せんこさん Navi 狼希望 みむっちゃ Akizuki シエスタBC 1 (なび村) ミクかわいい 狼ぴったりw 1 (なび村) たぷたぷ 占いの活躍ぶりがすごかった Navi 占い希望 せんこ 1 (なび村) せんこ 一応最後はめぞぴさん狐も考慮して占っておいた 1 (なび村) みむっちゃ せんこさんの占いが鬼畜すぎる Navi 霊媒希望 ミクかわいい リゾルート カルシファー 1 (なび村) ワルノス 完璧っす 1 (なび村) せんこ あらうち一人だったのねw 1 (なび村) たぷたぷ エスパーせんこ 1 (なび村) せんこ はっはっは Navi 狩人希望 jinjahime リュファ 1 (なび村) せんこ さいあさんごめんよw 1 (なび村) xバーバラx 霊媒多い 1 (なび村) ミクかわいい 意外と霊媒の倍率高かった 1 (なび村) jinjahime ドMおおいな 1 (なび村) リゾルート ミクさんめー>< Navi 狂人希望 無し 1 (なび村) リュファ 占い希望ひとりだけ? 1 (なび村) メゾピ 普通に狂人でした 1 (なび村) せんこ 狂人なしwww 1 (なび村) カルシファー ちくしょーい 1 (なび村) ミクかわいい (*ΦωΦ)ウヘヘ Navi 妖狐希望 サイア xバーバラx コンチ あかみさと 1 (なび村) リュファ 意外・・・。 1 (なび村) xバーバラx 狂人いないw 1 (なび村) ミクかわいい 狐w 1 (なび村) たぷたぷ 狐おおいwwww Navi 共有希望 無し 1 (なび村) せんこ やっぱさいあさん選考漏れじゃねーか! 1 (なび村) カルシファー 狐も人気だったww 1 (なび村) ワルノス サイアさん狐ですねわかりました 1 (なび村) リュファ 妖狐大人気。 1 (なび村) リゾルート 共有wwww 1 (なび村) xバーバラx 狐やはり多い Navi 以上でした~! 1 (なび村) jinjahime 共有・・・ 1 (なび村) サイア あれー 1 (なび村) うんちや 何も言わなかったら共有になったよ! 1 (なび村) たぷたぷ 共有だれもやりたがらなかったんだwww 1 (なび村) カルシファー 共有やっぱ人気ないんですねw 1 (なび村) サイア 狂人2番人気だと思ったのに 1 (なび村) サイア 狂人すればよかったー 1 (なび村) たぷたぷ 村人希望いっといてよかった 1 (なび村) せんこ いやぁー疲れた 1 (なび村) みむっちゃ もう一人狼ほしかった 1 (なび村) カルシファー お疲れ様です! 1 (なび村) ワルノス それ怖いすぎってw 1 (なび村) せんこ こんちさん占うとこで思いとどまってよかった 1 (なび村) たぷたぷ 狂人、へたな動きするとあとで狼になじられそう 1 (なび村) シエスタBC 4ほしかったなー 3 (GREEN) シエスタBC おつつー 1 (なび村) あかみさと 4で狐2は村きついかもな 3 (GREEN) シエスタBC すまぬ役者不足だったわ 1 (なび村) たぷたぷ ちょっと狼不利だったのかな 1 (なび村) xバーバラx 人外だらけ 1 (なび村) せんこ よく考えたらそのまま吊ったらうちの占い結果報告はそこで終わりになってたから 1 (なび村) メゾピ みむっちゃさん占いは完全にミスりました、恥ずかしいです 1 (なび村) リュファ jinjaさんがライバルだったんだ。 1 (なび村) せんこ 吊るじゃない占ったら 1 (なび村) jinjahime ニンジャーだったのか 1 (なび村) ワルノス せんこさん完璧でした 脱帽です あやまったこといってすまんす 1 (なび村) せんこ えへへー 1 (なび村) jinjahime でも、久しぶりに素村できたからよかった 1 (なび村) せんこ がんばった! 1 (なび村) サイア せんこさん、最初普通に疑ってた 1 (なび村) サイア 出来すぎは疑う 1 (なび村) カルシファー 途中疑ってすんませんorz 1 (なび村) ミクかわいい きょうはせんこデーでしたねw(*>ω<) 1 (なび村) ワルノス 実は僕もメゾピさん真でおしてたw 1 (なび村) ワルノス はじめ 1 (なび村) jinjahime おつかれさまです 1 (なび村) せんこ しえすたさん●出たときは興奮したわーw 1 (なび村) みむっちゃ 銃殺だすのはやすぎだよう 1 (なび村) せんこ 予想通り! ってw 1 (なび村) あかみさと せやで 対抗○なんて占ったらあかんねんで!!!!!! 1 (なび村) ワルノス よく拾えましたね あれ 1 (なび村) みむっちゃ ほんとあれはずしてたら 1 (なび村) せんこ あかみん・・w 1 (なび村) メゾピ えー、どのへんでですか?>ワルノスさん 1 (なび村) みむっちゃ せんこさん信頼最低になってたのに。 1 (なび村) あかみさと しかも噛みが共有で騙り破綻したしw 1 (なび村) ワルノス もう 狐立候補だったから 1 (なび村) ワルノス 僕は真狂狐だろJKてなってて 1 (なび村) せんこ じんじゃさんがあかみさん怪しくない って言ってなかったらこうはならなかったなぁ 1 (なび村) あかみさと ゆるすまじじんじゃ 1 (なび村) ワルノス 真占いで狐とかしにいったんか 奇作だなぁすげぇ 1 (なび村) ワルノス とおもってましたよ 1 (なび村) せんこ じんじゃさんがナイスだった 1 (なび村) メゾピ あそこまでですか 1 (なび村) せんこ 最初にあきずきさんで●出たときにやばいなこれって思ったけど 1 (なび村) あかみさと コンチさんは噛まれた気がしてたけど両方囲われてたのはいい感じだったんだけどね 1 (なび村) リゾルート 役職率が少なすぎてすっかりプロ素村状態ですよ・・・(´・ω・`)ショボン 1 (なび村) メゾピ 銃殺で破綻しちゃったのはどうしようもなかったですね 1 (なび村) せんこ よかった 頑張れた 1 (なび村) あかみさと もうちょっと役職以外も噛んでくれてたらよかったですね! 1 (なび村) みむっちゃ あれできつね解かせなかったら「せんこさんは狂人だから、下手に狐に白ださないように他人の白を占ったんだね」って言って信頼さげてやれたのに。 1 (なび村) ワルノス えっと 最初のほうの考察が 3 (GREEN) みむっちゃ おつかれー 1 (なび村) サイア コンチさんを噛んだ理由はなんだったんだろう 1 (なび村) ワルノス そんな感じになってて 3 (GREEN) みむっちゃ 自分もさっぱり役に立てなかったノシ 1 (なび村) サイア >狼さん 1 (なび村) あかみさと 普通に自分の○噛みだと思われるー 1 (なび村) ワルノス 三日目までは真視してました 1 (なび村) せんこ うむー 正直あかみさんは賭けもあった 1 (なび村) あかみさと 私が村だったらお前死んでるぞ!!!!くそおおああああ 1 (なび村) せんこ 狼に蹴られてる 1 (なび村) みむっちゃ いや、噛めれば狼が後々確定白になるコンチさんを噛んだのかもしれないと思わせて信頼稼ぎができるし、狐だったらケアしとかないと怖いよ 1 (なび村) みむっちゃ 実際コンチさんキツネだったし。 1 (なび村) あかみさと まぁそうね 1 (なび村) わんしろう 退出の仕方がわからないので、このまま落ちます~ ありがとうございました! 1 (なび村) あかみさと やはり狐は占われも吊られもしないのが一番やな 1 (なび村) せんこ こんちさんずーっと占いたかったんだけど 1 (なび村) あかみさと 後半ならいいけど序盤は今回みたいに確認で噛まれるからなぁ 1 (なび村) みむっちゃ コンチさん告発したのにシエスタさんを先にうらなうとかこの村の占い師は化けものか 1 (なび村) あかみさと 狩にも言えるけど 1 (なび村) せんこ はっはっは 1 (なび村) せんこ 妄信に近かったから 1 (なび村) せんこ 変な動きしても大丈夫かなーってw 1 (なび村) あかみさと まぁあそこは実際次の日まで生きられるの確定してたし 1 (なび村) あかみさと 溶かさなくてもよかったね 1 (なび村) あかみさと すばらしい 1 (なび村) xバーバラx あれはすごかったですね 1 (なび村) せんこ うんうん 1 (なび村) あかみさと でも告発が本当なのって結構めずらしい気がする 1 (なび村) たぷたぷ ナイス機転でしたね 1 (なび村) みむっちゃ リュファさんを噛んで、その日はコンチさんが溶けるから、その次の日一日シエスタさんが占われなければまだ勝負になるなぁと思ってたのに、いきなり破たんさせられたよw 1 (なび村) みむっちゃ まだあの時点では勝ち筋があったんだよぅ 1 (なび村) せんこ 先に占っちゃった☆ 1 (なび村) せんこ てかその次の日一日に占われても 1 (なび村) みむっちゃ くっそーかわいいなぁ。あざといせんこさんあざとい 1 (なび村) あかみさと 腹パンしたくなるよね! 1 (なび村) みむっちゃ ね! 1 (なび村) せんこ りゅふぁさん噛んでるしうち噛んで●出ても報告はできなかったんだよね 1 (なび村) せんこ やめて! 1 (なび村) みむっちゃ あれ?そうだっけ? 1 (なび村) あかみさと うむ 1 (なび村) あかみさと 溶かすのは次の日でもいいけど結果は晴れなかったから 1 (なび村) せんこ だから危ないなーこれ って思って考え直したの 1 (なび村) あかみさと 張れなかったから 1 (なび村) みむっちゃ うわーほんとにすごいことするなぁ 1 (なび村) あかみさと 最善策 1 (なび村) みむっちゃ 完敗っす 1 (なび村) あかみさと 言い直したのに漢字間違えよるわ 1 (なび村) せんこ でも怖かったわー 1 (なび村) せんこ しえすんの最後のあがきが特に 1 (なび村) れりか そろそろおちますね 1 (なび村) あかみさと おつー 1 (なび村) れりか おつかれさまでしたー 1 (なび村) たぷたぷ おつかれさまです~ 1 (なび村) せんこ めぞぴさんが狂人確定じゃなかったから狐も狼もありえたんだよねぇ 1 (なび村) jinjahime おやすみなさい 1 (なび村) せんこ おつおつさま! 1 (なび村) ワルノス お疲れ様ー 1 (なび村) みむっちゃ シエスタさんうまかったなぁ。。あの絶望的な状態で、がんばってた。なにげにすもさんの初日COがつらかった 1 (なび村) あかみさと 共有だからできることですなw 1 (なび村) みむっちゃ 作戦寝る前にCOはじまるとかきついれす。 1 (なび村) ミクかわいい やりたいほうだいでしたね・・w 1 (なび村) あかみさと ねー 1 (なび村) あかみさと 初日COが多くなるならゲーム前に話し合う時間とかあったほうがいい気がします! 1 (なび村) たぷたぷ 初日coおおかったですね・・・w 1 (なび村) メゾピ そうか初日COだと騙り役とか決められないのかー 1 (なび村) あかみさと うむ 1 (なび村) あかみさと 真と狂人はいいけど 1 (なび村) あかみさと 狼が同時に2,3匹出たら\(^o^)/ 1 (なび村) せんこ つかーれたー・・・w 1 (なび村) みむっちゃ というか序盤せんこさん護衛されてなかったよね全然。Akizukiさんに黒出した時点で噛んじゃえばよかったよ 1 (なび村) せんこ うひ 1 (なび村) せんこ 最初の信用なかったかんね! 1 (なび村) メゾピ 初日はCOしちゃいけない運動しましょう 1 (なび村) あかみさと その場合狐がうほほいでしたね! 1 (なび村) みむっちゃ したいしたい 1 (なび村) せんこ あの状況で●出ちゃったら怪しいわ 1 (なび村) みむっちゃ さすがに狐2村で序盤にせんこさん噛もうってはなしにはならなかった 1 (なび村) メゾピ でも狐二人もいて引き分けは全員負けルールだと、占い即噛むのきつそう 1 (なび村) あかみさと ですなぁ 1 (なび村) シエスタBC 噛み先は俺のミスだなー 1 (なび村) あかみさと 狩探していつでも占い噛めるようにして欲しかったでござる 1 (なび村) みむっちゃ いやーせんこさんがあんなに人外ばっかり占うと思わなかったからなぁ。どうしようもない。 1 (なび村) みむっちゃ こんなことならたぷたぷさんにじゃなくて占われないようにシエスタさんの方に黒だせばよかった 1 (なび村) あかみさと あそこまで信頼差ついたら逆囲いもありですねぇ それでもやっぱ怖いけど・・・ 1 (なび村) シエスタBC むずいとこだわなー 1 (なび村) リュファ 最初メゾピさん真かと思ったんですよね。 1 (なび村) リュファ 守ってたらGJ出たから。 1 (なび村) みむっちゃ あ、そっかぁ 1 (なび村) みむっちゃ だからリュファさんメゾピさん護衛おおかったんだ。 1 (なび村) みむっちゃ 全然気づいてなかった 1 (なび村) リュファ 正直、あかみさとさん占いで破綻しなかったらメゾピさん守り続けてたかも・・・ 1 (なび村) あかみさと うーぬ 1 (なび村) あかみさと まぁあそこは騙りにとって最悪な場面だったろうなw 1 (なび村) あかみさと ○なんて銃殺文用意しないだろうし 1 (なび村) メゾピ 共有噛みの日に重なるのは運悪かったです 1 (なび村) あかみさと うむ 村人勝利 配役 人狼 みむっちゃ Akizuki シエスタBC 占い師 せんこ 霊媒師 ミクかわいい 狩人 リュファ 狂人 メゾピ 妖狐 コンチ あかみさと 共有者 うんちや すもでんぱ 8日目へ 2012年11月24日全ログへ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2137.html
朝昼は授業、夕は図書館、夜は体を鍛えるために広場でデルフリンガーを 抱えながら走り込みをしていた。 「貴族の娘っ子、もう止めとけバテバテじゃねえか」 「何を言っているのデルフリンガー・・・ハアハァ・・・あなたが言ったんじゃない 体を鍛えることの基本は・・・走り込みだと・・・ハアハァ・・・」 虚無の手がかりはデルフリンガーの記憶の中にあるというのなら、わたしが 振って思い出してもらうしかない。 「やり過ぎだ、最初からそんなんじゃ鍛えるどころか体をブッ壊しちまう」 「まだよ・・・まだ全然足りないわ・・・」 「どうなってもしらねーよ俺ァよー」 さて、もう一頑張りしますか。顔を上げると月に照らされて人影があらわれた。 「誰?」 わたしが声をかけると、人影はびくっ!として持っていた何かを取り落とした。 がちゃーん!と月夜に陶器の何かが響き渡る。 「わわわ、やっちゃた・・・。また、怒られちゃう・・・、くすん」 「シエスタ!?」 月明かりに照らされて姿を見せたのはメイドのシエスタだった。 メイドの名前なんか覚えないわたしだけどプロシュートが結果的に助けたという 縁で言葉を交わすようになっていた。 「あのっ!とても珍しい品が手に入ったので、ミス・ヴァリエールにご馳走しよう と思いまして、お茶っていうんです。走られて喉が渇いているんじゃありません か、よければどうぞ」 「覗いてたの?」 「いえ、その、そういうわけじゃ!」 シエスタに見られても別に問題ないか・・・ 「まあいいわ、淹れてちょうだい」 「はい、お待ちください」 お茶に口をつける・・・独特の味ね・・・ 「シエスタ、ミルクは無いの?」 「いえ、これは何も入れずに飲むそうですよ」 「ふーん」 思っていたより喉が渇いていたのか、あっという間に飲み干した。 ぐー わたしのお腹が大きな音を立てる、シエスタにもしっかりと聞こえたようね。 走りまくったせいでお腹の中が空っぽになったようだ。 「あははは・・・はしたないわね」 「お気になさらず、こちらも宜しければいかがですか?」 シエスタが小皿を差し出してくる、そこにはクックベリーパイが! 「い、いいの?」 「ええ、どうぞ」 「ありがとう、頂くわ」 本当ならかぶりつきたいところを我慢してフォークで行儀良く食べていく。 「ンまーい!」 ああ・・・しあわせ・・・ 「お茶の御代りもどうぞ」 紅茶が欲しいけど、しょうがないか。新しく淹れられたお茶を飲む、これは・・・ 「甘さが口の中からスッと引く感じがする、悪くないわね・・・ それにクックベリーパイもディ・モールト(非常に)美味しいし・・・ マルトーさん、いい仕事してるわね」 「いえ、あの違うんです」 シエスタが声をあげる。 「あの、これは私が焼いたんです」 「本当なの?町で売っている物より美味しいわよ」 「はい練習しましたから」 「まさか、わたしの為に?」 「はい、ミス・ヴァリエール最近元気が無いように見えたものですから」 自分で気がつかなかったけど、シエスタにはそう見えたのか・・・ 「ありがとシエスタ、おかげで元気百倍よ!」 「喜んで頂いてなによりです」 「じゃあ行くわ、ご馳走様シエスタ」 「ミス・ヴァリエール今日のところはその辺りにしておいたほうが・・・ 明日に差し障りが出ますので・・・」 「大丈夫よ、これ位。じゃあねシエスタ」 わたしはデルフリンガーを抱え再び走りだした。 翌日シエスタの言った通り体が痛くてベッドから出る事が出来なかった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6164.html
前ページ虚無と狂信者 シエスタは衛士に連れられ廊下を歩いていた。自然と溜息が漏れる。 その右手に視線を移す。少女のものとは思えないほど、無骨で、傷だらけの手だ。 こんな風にするまで、どれ程の鍛練をしてきただろう。どれ程の時間を費やしただろう。 そして、それほど賭けて積み上げた技術も、何の意味も為さない。 ここから逃げることも拒否することも、愛する人の元に向かうことも。 何もできはしないのだ。 「護身……か……」 己の身を護ることが武の本質とするならば、この結果は間違いなくそれに近いだろう。 金は得られ、大切な人は守られる。 けれど、どうしても悲しかった。 ふと、曽祖父の言葉が思い出される。 「シエスタ、おぬし程の才があればわかるだろう。武を極めたものにとって実際に戦うなど下の下、 もし、武の真髄に近づくならば、危うきには近寄れぬ。 なあに、おぬし程の才があれば、すぐに 見える さ」 「結局わからないままだったね、ひいおじいちゃん」 けれどこれで良かったかもしれない。いつまでも修行などできるものでは無いのだから。 突然、シエスタの足に力が入らなくなった。 衛士が怪訝な顔をする。シエスタはバツの悪そうに笑った。 さらに立ち上がろうとし、 またもやこけた。 「何をしている?」 衛士はシエスタに問い、彼女は乾いた笑いをし、歩き出す。 数歩程歩いた所で、彼女は思考を巡らせた。 そして一つ、重い息を吐き出す。 「とんだところで……護身完成という訳ですか」 シエスタの眼前には、巨大な門が彼女を行かせぬよう聳え立っていた。 無論他人からは見えることは無い。 彼女の心が生み出した幻影である。 普通ならばここで進めなくなる所であるが、シエスタはその門を潜り抜けた。 自らが生み出したそれが雲散霧消する。 幻影の壁が消え失せる。 「一体……何が……」 たかが妾になる位で、そんな危険な事が及ぶはずは無い。 (一体何をされるんでしょう) 扉を開く、そこにいたのは件のモット伯と。 金髪の女性だった。 「…………………………………3P?」 「?」 (いやああああ~~~、そんな! 初めてなのに! 絶対私はサイトさんとキャッキャウフフ ラブラブチュッチュな感じにしたかったのに~~~~) このメイド、自重しない。 頭を振って床にガンガンぶつける少女にモットとアニエスは微妙な目を向ける。 「そんな! 女性となんて! あ! でもメイド服着たサイトさんなら! きゃ~~~」 妄想は心の中から口を伝って飛び出し始めた。 「お~い、君……ヤダバ!」 モットが勇気を出して肩を叩くも彼女の裏拳を喰らい、地面に水平に吹っ飛んだ。 しばらくシエスタはじたばたと床を転げ回っている。 「おい、君、話を始めていいかな?」 アニエスは立ち上がり、先程から自重しないメイドに近づいてくる。 「あ、でも確かに似合いそう! よーし今度ミス・ヴァリエールを焚きつけて……」 「……」 無視である。というか届いていない。アニエスは溜息を一つした。 そして、ほんの少しだけ、笑った。 その瞬間。 シエスタは跳ね上がり、 瞬時にアニエスに対峙した。 モットと衛士達はその動きに呆気に取られる。 しばらくの、どれ程か分からないが、静寂の後にアニエスは呟いた。 「合格だな」 アニエスはまるで人懐っこい笑みを浮かべ、席へと戻って行く。 「まあ座れ、茶でも飲んで行くといい」 「あの、ここ私の邸た……」 「それでは……」 シエスタは促された席に座る。 モット伯が泣いている気がしないでもない。 シエスタの前に紅茶が差し出されてから、アニエスは話を切り出した。 「私はアニエス。姫陛下直属の騎士だ。といってもまあ、平民の剣士で構成された一小隊の主でしかないが……。 ここ最近起きている吸血鬼事件、噂位は聞いたことがあるだろう?」 シエスタの手がピクりと震える。アニエスは構わず続ける。 「いや、君はもっと深い所まで知っているな? タルブの村のシエスタ殿?」 「……何が目的ですか?」 「まあ、端的に言うとな……」 「君が欲しい」 「変な意味にとるな」 「と、とりませんよ」 シエスタのピンクの脳は見事に変な意味にとっていた。 「姫殿下の御意向でな……近々、対吸血鬼戦用の実行部隊が創設される」 アニエスは淡々と話始めた。 「そこで、我々としては優秀な人材が欲しいのだ。無論報酬は出す。今の給金の三倍は出そう」 シエスタは俯いたまま、考えながら口を開く。 「何故、このような回りくどい方法で呼んだんですか?」 アニエスはその問に自嘲気味に応える。 「私は貴族ではない。いや、メイジですらない。 そんな私がこそこそ動くのを快く思わない者も多い。 さらに、こんなでも宮廷仕えの師団長が学院務めのメイドに会いに来たとなっては そちらもいい迷惑だろう?」 シエスタはその答えに頷いた後、また次の質問をする。 「もし断ったら?」 アニエスは鼻で笑った後に掌を上げる。 「どうもしないさ。君が望むならそのまま魔法学院で働けばいい。 無論この件は他言無用だが……」 シエスタはアニエスの瞳を真っ直ぐに見据える。嘘は無い。 途端、彼女は安堵の溜息を洩らす。 また元通りあの場所に戻れるのだ。 しかし、どうしてももう一つ明らかにせねばならないことがある。 「先程、あなたは『私の迷惑だから』態々こんな方法で私を読んだと言いました。 しかし、本当にそれだけですか?」 シエスタは真っ直ぐにアニエスを向く。しばらくそのまま見つめ合う二人の女性。 その何とも言えない息の詰まる空気にモット伯の頬にも何やら伝うものがある。 「……裏切り者だよ」 アニエスは口を開く。その顔には明確な怒りがある。 「永遠の命などという誘惑に耐えられなくなった人間がいるのさ。 宮中にも、何処にもな」 アニエスは吐き捨て、拳を握りしめる。 「どこにでもいるさ。貴賤問わず、政界財界軍部宗教etc. ……蛆虫どもめ」 最後に、辛辣な言葉を吐き出し、しばらく沈黙が漂う。 「だから必要なのだ。誰とも信頼の置けぬこの状況で、吸血鬼共を打ち倒す そんな機関がな」 アニエスはそう言い終えた後、黙ってシエスタを向く。 「協力してくれないか」 シエスタは自分の手を見る。 今までこの手で幾度と無く刀を振るって来た。 そしていつのまにか、己の手にはとてつもない技が身に付いている。 それを振るってみたい気持ちもどこかにある。 しかし。 「すいません。私は……」 口を開き欠けたところで、その耳が、あの音を捉える。 アニエスは横を向いていた。 「どうやら来たな。蛆虫共」 シエスタとアニエスが扉の方を向く。 モット伯は二人の様子に不審に思う。 数瞬たって、何か音が聞こえてくる。 それが悲鳴だと彼が気付いた時、扉が乱暴に開かれた。 入って来たのは五名程の兵士達。 皆トリステインの紋章が付けられた軍服を身に纏っている。 「何だ貴様ら!」 「こういうことですよ。モット伯」 リーダー格らしい男が歯を見せる。 そこにはあきらかに人のものでは無い鋭く尖った歯が並んでいた。 モットの顔が驚愕で歪む。 「素晴らしい、吸血鬼とは素晴らしい」 そして男が杖を振り上げる。不意に、アニエスが呟いた。 「誰の差し金だ?」 「これはこれは、女の衛士如きが何故貴族の部屋に? お邪魔したか?」 「いや。それより、お前らを吸血鬼にした連中はだれだ?」 「知る必要は無い」 男は杖の先から炎を燃え上がらせる。 「死ね」 その瞬間、何かが宙を舞った。 男達はその物体に視線を完全に集中した。 その巨大な物が、この部屋で最も巨大な家具である机だと気づいた時には、遅かった。 男達は呆気に取られ、注意が上方に向いていた。 次には、男が床に力無く倒れていた。 「……浮き足落とし」 シエスタが呟いた。アニエスは、百キロ以上はあろう机を瞬時に蹴りあげ、 間隙なくしゃがみ込み男の足を斬り落としたのだ。返す刀で今度は別の男の杖を持つ手を切り落とす。 次いで空いた手で傍らの男に銃弾を撃ち込む。その頃には吸血鬼はその人では無い反射速度で、 アニエスに魔法を撃ち込む。 吸血鬼達はニヤリと笑った。しかし片方が不意に苦痛の呻きを上げる。 見るとその胸は銀の剣によって刺し貫かれていた。 アニエスはそのまま最後の一人に向け、その男を刺し貫いたまま距離を詰める。 魔法を掛けようにも、味方が邪魔で当たらない。 アニエスは予備の剣を引き抜き、男を刺し貫いた。 両名はアニエスの両手に持つ剣で貫かれたまま爆散した。 吸血鬼達が魔法を撃ち込んだ先では、足を切り落とされた吸血鬼が燻っていた。 「貴様……!……」 何事か言おうとする彼に、アニエスは銀の弾丸を撃ち込んだ。 モットが杖を構えたのは、事が終わってからだった。 「てっきりあなたも裏切っていると思いましたよ。モット伯」 アニエスは弾丸を再装填しながら、彼に話しかける。 「私は好色だが、卑怯者では無い。 おそらくこれは見せしめだろう。私は奴らの誘いを断っていたからな」 モット伯の言葉にシエスタは意外な気持ちになる。 噂と違い、意外にも忠義な人物のようだ。 聞きながらアニエスは気配を探る。 「おそらく後十か二十程がいる筈、下手に逃げようとすると危険ですから、 ここでガタガタ震えて命乞いの文句でも考えていて下さい。 それでは」 「わかりました。行ってきてください」 アニエスはスタスタと退室した。モットは机をレビテーションで動かし、バリケードを作り始めた。 シエスタはそんな彼の姿があまりにも情けないので溜息をついた。 「君はいかんのか?」 そう言われても得物は学院に置いてきてしまった。 そんな状態の自分がアニエスに付いていった所で彼女の足手纏いにしかならぬと感じたシエスタは、 ここで待機することにした。 その声が聞こえるまでは。 「シエスタ――!!」 「一体これはどういう状況だ?」 屋敷に着いた才人とギーシュの瞳に飛び込んだのは、門兵のグールだった。 その首をサイトは銃剣で刎ねた。 「吸血鬼だ!」 「何?」 才人は逡巡せず、屋敷に向けて突っ込んで行った。 一方ギーシュはおどおどとするのみだ。 「ああ、突っ込んで……よし僕も……いやでも、吸血鬼なんて」 ふとギーシュの目に左手に持った包みが映る。 それはシエスタの物だった日本刀だ。 それを思い出し、ギーシュは腹を括った。 「いいさ! 行ってやる!」 ギーシュは薔薇の造花を振り上げ、サイトの後を追った。 「才人さん?」 まさか、彼が来たのだろうか。確かに聞こえた声に、シエスタの心はざわめいた。 シエスタは何も持たない身で、屋敷の中を駆けだした。 爆炎が少年の全身を覆い隠す。それでも、サイトは止まらず突っ込む。 銃剣を振りかぶり、斬りつけようとする。 その一撃を避け、吸血鬼はサイトの胸を強く蹴った。 彼は勢い良く廊下を転がり、壁に叩きつけられた 「畜生……!」 才人は跳ね上がり、構え直す。 「再生者……、神父とやらかと思ったが違うようだな。 お前、こんな所に何しに来たんだ?」 吸血鬼は興味深そうに才人にそう訊ねる。口元は血で汚れている。 「……シエスタって娘を探しててね……」 「娘、ああ、娘ね?」 吸血鬼は可笑しそうに笑う。 「さっき噛みついた娘は美味かったが、そうかもな」 才人は弾かれたように吸血鬼に詰め寄る。目には黒い怒りが煌々と宿っている。 「無駄無駄ァ――!」 吸血鬼はさらに炎を浴びせかける。 しかし、サイトも負けじと銃剣を投げつける。 横合いから炎に煽がれ、軌道がそれる。 才人はそれにも、炎にも構わず突っ込んだ。 吸血鬼はまた無作法に斬りつけて来るものと予想した。 だが、才人の行動はその予想を外れたものだった。 そのまま才人は吸血鬼にぶつかったのだ。 吸血鬼が呻くより早く、才人は右手でその服を掴み、左手に銃剣を逆手に持った。 「AMEN!!」 才人は吸血鬼の背中から心臓へ向け、銃剣を突き立てた。 絶命する吸血鬼の前で、サイトもまた座り込んだ。 (シエスタ……) 深い絶望と肉体の損傷。二つの要因は十七の彼には重すぎた。 後ろから近づくそれに気づかぬ程。 後ろからブレイドの掛けられた杖が近づく。 才人はハッと気づくも遅かった。 回避が間に合わない。 だが、結局その一撃は来なかった。 吸血鬼が真横に吹き飛ばされたから。 否、殴り飛ばされたのだ。 「サイトさんに手を出す奴は、この私が物理的に地獄に落とします!」 才人は呆然と、しかし嬉しそうに彼女の名を叫んだ。 「シエスタ!」 シエスタはその呼びかけに笑顔で答える。 ようやく追いついたギーシュもまた、彼女を見て笑顔になる。 だが、再会を喜ぶ間も無く、吸血鬼が襲いかかる。 その数。七。 「手伝いましょう。エモノはどこです? ミスタ・グラモン?」 「受け取れぇ!」 布が解け、中から黒い鉄の鞘の日本刀が現れる。 吸血鬼達が襲いかかる。それを好戦的な目で見据え、それを抜き放つ。 「島原抜刀流 秋水」 「うおおおおお!!」 シエスタが圧倒的な速度で彼らとすれ違う。 数瞬後、彼らは、 ある者は杖が腕ごと、 ある者は目が顔ごと、 ある者は心臓が胴ごと、 目に見えぬ太刀筋で以て切断された。 ギーシュはワルキューレを六体錬成する。 その薔薇の造花には呪文が刻まれている。 速度自体は遅いものの、互いを補い合う動きで速度の上回る吸血鬼を仕留めていく。 ある吸血鬼は挟みうちで、 ある吸血鬼は一つのワルキューレを倒すうちに背後から、 青銅によって心臓を貫かれた。 そして才人は魔法の正射に全く怯まず、 吸血鬼に銃剣の雨を見舞った。 その後、信管を抜き取り、吸血鬼は刺さった銃剣が爆発することで彼らは、 文字通り弾け飛んだ。 「すいません、アニエスさん。この話お断りします」 「そうか」 アニエスに深々と頭を下げるシエスタ。 「やっぱり危ないことはできないし、それに……」 「それに?」 「サイトさんについていけば、大丈夫な気がするんです。 私も、皆も」 そう告げるシエスタの表情は、どこまでも曇り無かった。 「んだよ? じゃあ、結局無駄足だったのか?」 シルフィードの上で、シエスタからことの顛末を聞いた才人は不満げにぼやく。 結局あの後、サイト達は咎めも無く、すんなりと帰ることを許可された。 吸血鬼やそれに伴うグールはアニエスによって全てが倒されていたため、 もはややることは何もなかったのだ。 「まあ、いっか。シエスタ無事だったし」 ギーシュはと言えば初めてやった殺し合いの空気に当てられぐったりとしている。 実質二人きりである。 シエスタはその腕に纏わりつく。柔らかい感触が才人に伝わる。 「ちょ?」 「嫌ですか?」 そんな風に言われてはサイトはどうすることもできなかった。 「私、ついていきますね?」 「へ?」 「私、解りました。何で戦うのか」 「な、何でなんだ?」 才人はしどろもどろになりつつ訊ねる。シエスタは含んだ笑いを浮かべる。 「内緒です」 「な、何だよそれ」 「内緒ったら内緒です。フフ」 その後、学院につくまでずっと、シエスタはその腕を離さなかった。 「もうすぐ始まるのだな。戦争が」 「ええ、そうですなモット伯」 アニエスとモットが青い翼を見送りながら話す。 「奴ら、私の部下を食っていた。許せん……」 モット伯が彼には珍しい真剣な表情で呟く。 「同じ気持ちです」 アニエスはそれに応える。 そして、彼女の剣の鞘を強く握った。 二人とも理解していた。 もうすぐ始まるのだと。 この国の存続を賭けた戦争が始まるのだと。 「とんだ雑魚どもだ……。楽しむ間すらありはしない……」 森の中、吸血鬼達の死体の真ん中でアンデルセンは呟いた。 事態を見届け、仔細を何処かに伝えようとしていた連中だ。 ふと空を見上げると、青い竜が飛んで行くのが見えた。 アンデルセンはそれを見届け、笑みを浮かべた。 彼は理解していた。 もうすぐ始まるこの国の戦争。 それがただそれだけで終わるものではないことを。 それはこの世界の、おそらく全てを巻き込んだもののほんの序章にすぎぬことを。 (俺はどうでもいいがな) ただ、吸血鬼共を撃ち滅ぼす。 それだけしか思う所は無い。 ただ、おそらく彼は。 (あいつは、違うんだろうなぁ……) 黒髪の少年の、この先の行動を心待ちにし、 アンデルセンは聖書のページと共に飛び立った。 前ページ虚無と狂信者
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4354.html
前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔 力が欲しい。 ルイズの16年の人生。それは自身の無力を見せ付けられながら生きる16年。 親からはじめて杖を与えられたとき、これから自分が手に入れるであろう力に胸を膨らませた。 ルイズは日夜魔法の練習に明け暮れた。貴族として生まれたからには、どんな子供も己が魔法を使う姿を夢想して育つものだ。 だがルイズの夢想は現実のものになることはなかった。 はじめは、ただ純粋に子供の夢を現実にするため練習し続けた。 両親や二人の姉の応援・叱咤・激励・指導。そのころは素直に聞くことができた。 だがある時、ルイズは使用人たちが陰で何を話しているのかを知ってしまった。 曰く、二人の姉はルイズぐらいの年頃にはコモンどころかドットのスペルも使えるようになっていた。曰く、どこぞの貴族の子供はルイズより年下だが初めての魔法に成功したらしい。 膨らませた胸が、萎んでしまった。 両親や二人の姉の言葉の影に焦りが見える。(いつになったらこの子は魔法を使えるようになるんだ?) そして落胆。(この子には魔法の才能が与えられなかったのね) 以前のように家族の言葉を素直に聞くことができなくなってしまった。 そんな自分を嫌悪しながらも必死で魔法の練習をした。魔法が使えるようにさえなればこの暗い気持ちを取り除くことができる。 そう信じて魔法の練習に明け暮れる日々が続いた。 だがある時、ルイズの耳にまた使用人の言葉が入ってきた。 「可哀想に。姉二人はあんなに優秀なのに……」 その言葉はルイズの胸を抉った。 ルイズは自分が使用人に哀れまれるような存在だったのだと知った。 平民から哀れまれる存在だと知った。 それはルイズの知る貴族の姿ではなかった。 平民に哀れまれる貴族なんてものは、すでに貴族の範疇から逸脱しているのではないか? 貴族として生まれたはずなのに平民に哀れまれるルイズ。 本当に自分は貴族なのか。 本当に自分は誇り高きヴァリエールの一員なのか。 幼いころの、ただ魔法を使ってみたいという無邪気な気持ちは消えてしまった。 ルイズは貴族になるために杖を振るうようになった。 誰からも哀れまれないような力を手に入れるために杖を振るうようになった。 どこかにいるはずの、本当のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを見つけるために杖を振るうようになった。 ルイズの胸は萎んだまま、魔法学院の一年間が過ぎた。 今、ルイズの目の前に大きく膨らんだ胸がある。 その胸の持ち主のメイドは恭しく一礼すると、ルイズの前に置かれたティーカップに紅茶を注いでいく。 その間もルイズの視線はその胸に注がれている。 一度目を向けてしまったら簡単に目を離すことはできない。 キュルケのようにことさらに胸を強調しているわけではない。むしろ窮屈なメイド服にその胸は押しつぶされているようだ。捨て目の利かぬものならば見過ごしてしまうところだろう。 だからこそ、一度目についてしまえば目が離せない。 もしこの胸が戒めを解かれたなら……。それはキュルケにも匹敵する力を持っているかもしれない。 メイドは紅茶を淹れ終ると、また一礼しその場を立ち去ろうとした。 その背中にルイズが声をかける。 「あなた……なかなかやるわね。名前を聞いておこうかしら」 メイドはルイズの言葉に少し小首をかしげながらも、 「シエスタと申します」 と名乗った。 「そう。ならシエスタ。あなたにお願いしたいことがあるんだけど、私、ちょっと色々あってお昼食べてないのよ。何か軽い食事になるようなもの持ってきてくれない? なければケーキとかでもいいわ」 ルイズが言うと、シエスタは「かしこまりました」と小さく一礼し、厨房のほうへと消えていった。 シエスタの姿が消えると、ルイズは空腹に紅茶を流し込み一つ小さくため息をつく。 結局ルイズが片付けを終えたのは昼休みも終わり、次の授業も半ばまで過ぎてしまった頃だった。 ルイズは、授業時間も半ばまで過ぎていることや、その授業が屋外での演習授業のため移動に時間がかかること、お腹が空いていること、とてもお腹が空いていること、お腹が空いて倒れそうなことなどを理由に授業には出ず食堂で食事をとることにしたのだ。 ルイズは暖かい紅茶を空腹に流し込むことで、とりあえず一息入れる。 (さて……) ルイズには今考えなくてはならないことがある。 迅速に答えを出さなければいけない問題。 ルイズが手に入れた力が異端かどうか。 魔法権利が異端か否か。 少し考えればすぐ結論が出る。 (どう考えても異端です。本当にありがとうございました) 系統魔法ではない魔法。ハルケギニアの人間がそう聞いたとき真っ先に思い浮かぶのは先住魔法だろう。エルフや吸血鬼など多くの亜人が使う魔法。 エルフも吸血鬼も人類の敵である。 先住魔法と誤解された場合。下手すればエルフの尖兵扱いされかねない。 それどころか魔法権利は、先住魔法と誤解されなくても明らかに異端だ。 ブリミルが作り上げたものではない魔法体系。 世界の公理を曲げるその力。人間が世界の公理に手を加えることができるのは『始まりと終わりの管理者』が人間をそう作ったからだ。 そしてルイズはその力を武装司書であるモッカニアから教わった。『過去神バントーラ』に成り代わり『本』の管理をする武装司書からだ。 魔法権利というこの力は、つまるところ異世界の神によって保証された力だ。 ルイズは心の中で苦笑いする。 (これじゃあ、異端というより異教よね) ハルケギニアに生きる以上、異端・異教など許されるものではない。 ルイズはもちろんブリミル教徒だ。 それがどれだけ敬虔なものかといえばなんとも言えないところだが、今の今までハルケギニアの常識的な範囲でブリミルの教えに背いたことはない。 生徒の中には食前の祈りなど、多少御座なりなものもいる。そういったものに比べれば自分は敬虔な信徒といえる、とルイズは思う。 だがそれも、貴族として始祖から与えられるべき魔法の才能を手に入れたい、そういった想いからきた信仰ではないか。 散々祈っても力を与えてくれなかったブリミル。 そして、異教のものとはいえ、欲しくて仕方のなかった力。やっと手に入った力。 ブリミルへの信仰を守るなら、異教の神の存在を認め、あまつさえその力に縋るということはできない。 だからと言って信仰のためにせっかく手に入ったこの力を捨てるのか? 「お待たせいたしました、ミス・ヴァリエール。申し訳御座いません。簡単なサンドウィッチしかご用意できませんでした。それとデザートのケーキです」 ルイズの思考を遮るように声がかけられた。シエスタがサンドウィッチとケーキの皿を持ってきたのだ。 「あぁ、うん。そこに置いて」 思考に耽っていたルイズは、少し呆けたような声でシエスタに命じる。 シエスタは皿をテーブルに置くと、再び紅茶を注ぐ。 それらの仕事を終えルイズの元を辞そうとするシエスタをルイズは呼び止めた。 「ねぇシエスタ。少し時間あるかしら?」 振り返るシエスタ。 「時間があれば聞きたいことがあるのだけど」 「聞きたいこと、ですか? あの、私はそんな貴族様の質問に答えられるような教養は持ち合わせておりません……」 シエスタは困った顔で答える。 「あぁ、知識とか教養は必要ないわ。ちょっとした暇つぶしの質問よ。『もし1万エキュー拾ったらどうする?』とか、そういう話、したりするでしょ? そういう質問よ」 「はぁ……」 ルイズはシエスタの困ったような顔を無視して話を進める。 「だから、あなたの思ったとおりのことを答えてくれればいいわ」 ルイズはそう言うと、サンドウィッチを一口かじり、咀嚼する。 そして小さく唾を飲み込むと、シエスタのほうを向く。 「もし、もしの話よ。もし、魔法を使えるようになるなら、あなたは使えるようになりたい?」 ルイズが聞くとシエスタは特に考えることもなく答える。 「それは、使えるのならば使いたいです。勿論」 シエスタはそこまで言って、喉の奥で小さく「あっ」と言う。自分の目の前にいる者が何者なのかを忘れていた。 貴族でありながら魔法を使えないルイズに対し、今の答えは軽率だったのではないか。 そう思い、恐る恐るルイズのほうを見ると、ルイズは特に気にした風もなく「そりゃそうよね」などと頷いていた。 「じゃぁ、次の質問。その魔法が……。いや、うん。それは後回しで。えーっと、じゃあ、魔法使えるようになったとして何をしたいの?」 ルイズは続けて質問した。 先程のルイズの態度といい、あくまで気軽な質問なのだろうと判断したシエスタは、素直な考えを述べることにした。 「やっぱりお金ですね。魔法を使ってお金を稼ぎます」 その言葉にルイズは少し苦笑いする。 (まぁ、やっぱり平民だもの、俗もいいところね) 「それが私の役目ですから」 そんなルイズの思考を遮るようにシエスタは言葉を続けた。 「役目?」 ルイズは聞く。 「私、八人兄弟の一番上なんです」 少し照れたように言うシエスタ。 「ですから、長女の務めとしてたくさんお金を家に入れられたらな、と。そして、故郷に帰るんです。 魔法が使えれば住み込みじゃなくても今以上に稼げるでしょうし。やっぱり、兄弟の一番上として、弟たちの面倒を見るのも役目ですから」 シエスタはそう言うと、少しさびしげな表情になる。 きっと、家族のことを思い出したのだろう。家族と一緒に暮らしていけるのなら、そのほうが良いに決まっている。 そのさびしげな表情に気づいたルイズは何か言葉をかけようと思ったが、気の利いた言葉が浮かばないのでやめておいた。 「じゃぁ、最後の質問ね」 ルイズはそう言うと、意を決したように一つ息を吐いた。 「もし、もしの話だからね! 魔法を使えるようになるのに、えーと、なんというか、あまり良からぬことをしなきゃいけないとかならどうする?」 「良からぬこと、ですか?」 「えーと、そうね、その、例えば! 例えばよ!? 魔法を使えるようになるのに異教の神様を信じなくちゃいけないとか、そんなだったらどうする?」 しどろもどろになりながらも、強い語気で言うルイズ。 その勢いに少し押されながらも、シエスタは暫し考える。 少し間をおいてシエスタは口を開いた。 「えっと。異教の神を信じればいいんですよね? 信じれば」 シエスタは『信じれば』という部分を強調して言う。 「そうよ」 ルイズが答えると、さらにシエスタが畳み掛ける。 「信じるだけでいいんですよね。毎日怪しげな儀式をしたりとか、その神様に生贄を捧げたりとか、教会に入れなかったりとか、そういった行動に制限はつきませんよね?」 「まぁ、そうね」 ルイズの答えを聞くと、シエスタはまた少し考え、 「ミス・ヴァリエール。その、あくまで例えばの話ですよ。もし異教の神を信じれば魔法を使えるならば、信じます」 と言った。 「異端よ、それ」 ルイズは短く言い放つ。 「た、例えばの話ですよね。勿論、私はちゃんと毎日お祈りしてますよ」 シエスタは慌てて例えばの話だと繰り返した。 「ええ。勿論、例えばの話よ。私もあなたも敬虔なブリミル信徒ですもの。例えば例えば。でも、例えばの話とはいえ、魔法が使えるなら異端者として生きることになってもいいってこと?」 ルイズも慌てて例えばだと強調する。 ルイズにとって、本当は例えばの話じゃないのだ。例えばの話にしておかないと困るのはルイズだ。 シエスタは少しばつの悪そうな顔をしながら口を開いた。 「それは、ばれたら異端でしょうけど……。頭の中で信じるだけならばれないじゃないですか」 シエスタの口から発せられた言葉に、ルイズは口をぽかんと開ける。 ばれなければ問題ない。 言うのは簡単だが、言ってしまったら元も子もない。 「ばれたら異端」。「ばれなければ異端ではない」。 その考え方は既に信仰とはかけ離れてる。 ルイズは悟る。 シエスタもブリミル教徒だ。 だが、シエスタが信仰しているのはブリミルではない。 シエスタの信仰は教会に向けられたものなのだ。教会の威光にひれ伏しているだけなのだ。 ルイズとシエスタでは異端の意味合いが違う。 シエスタにとっての異端は、教会を敵に回すということである。 ルイズにとっての異端は、ブリミルへの信仰を曲げることである。 ルイズとシエスタでは葛藤する場所が違うのだ。 ルイズも子供ではない。 ブリミル教徒の中に、シエスタのような者が幾らでもいるだろうことは解る。 言ってしまえば平民の貴族に対する忠誠も同じだ。 表面上は恭しく仕えている者も、内心がそうとは限らない。 自分のように、陰で平民から憐れまれる貴族だっているのだ。平民から反感を買う貴族など幾らでもいる。貴族に反感を持つ平民など五万といる。 貴族の中にもシエスタのようなものはいるだろう。別にブリミルを呪っているわけでも、異教の神を信奉しているわけでもない。ブリミルを信仰してはいる。 ただその信仰は、教会を敵にまわしたくないという思いから来ているというだけだ。 そして、ルイズの信仰がそうではないというだけだ。 『ばれなければいい』 やっと手に入れたこの力。それをすてるだなんてとんでもない。 自分が貴族であるためには、貴族としての役目を全うするためには力が必要なのだ。 その信仰が上辺だけの貴族はいる。だが、魔法の使えない貴族はいない。 ルイズは貴族になりたいのだ。 ならば答えは出ている。 「そうね。ばれなきゃ問題ないわね」 ルイズはその顔に薄く笑みを浮かべる。 だがシエスタは、ルイズのその目がかけらほども笑っていないことに気づいた。 その目はシエスタのことを見ているわけではなく、おそらくどこも見ていない。 シエスタは見てはいけないものを見てしまったような気がして、慌ててルイズから目を逸らす。 「変な話につきあわせちゃったわね。もう下がっていいわ」 シエスタはルイズの下から離れると、また忙しなく働き出す。 そんなシエスタを眺めながら、ルイズはサンドウィッチを口に放り込む。咀嚼しながら、再び思考に耽る。 (ばれなければいい……) シエスタは言った。ばれなければ異端ではない。 そういう信仰もある。 だがルイズの信仰は違う。 異端の、異教の力を使うのなら、ばれようがばれまいが異端以外の何物でもない。 しかしルイズは魔法権利という力を諦めるつもりはない。 ルイズの心はきまった。 せっかく手に入れた力を捨てることなど、ルイズにできるわけがないのだ。 ならば捨てるのは己の信仰。16年間信じてきたブリミルへの信仰。 ばれなければ異端ではないなどと、開き直ることはできない。 ルイズの信仰は教会にあるのではなく、己の心の内にあるのだ。ばれるばれないの問題ではない。自分自身を騙すことなどできない。 ならば己が異端だと認めるしかない。 騙すのは教会、そして家族。クラスメイト。教師。 己が異端だということがばれなければいい。 たとえ異端であろうとも、力を手に入れることでやっとルイズの貴族としての人生が始まるのだ。 「ばれなければいいのよ……」 呟くと、ルイズは立ち上がった。 前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6317.html
前ページ次ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 十六話 ブラムドの足が、鎖につながれている。 太い鎖ではあったが、ブラムドの膂力をもってすれば引き千切ることは簡単だ。 その口から吐き出される、炎のブレスで溶かすこともできる。 しかし魔法で縛られたブラムドは、それらを考えただけで身を焼くような痛みに襲われる。 そのブラムドの前に、一人の女が立っていた。 さらにその後ろには鉄扉がそびえている。 ブラムドと女を隔てるものは何もなく、その視線は、見下ろす視線と見上げる視線はしっかりと合わされている。 女は両手にいくつもの指輪をはめ、額にはサークレットが飾られている。 その身なりから考えれば、給餌の役目を与えられた者ではない。 ブラムドを捕らえたものたちと同じく、魔術師であることに間違いないだろう。 にもかかわらず、女の表情に一切の恐怖はない。 女が口を開く。 「魔法というものは、マナへの干渉の結果もたらされる」 命乞いでも悲鳴でもなく、淡々とした説明が流れ出る。 女の名前は、アルナカーラ。 アレクラスト大陸を支配する魔法王国カストゥールの魔術師たちの中で、唯一ブラムドが友と呼ぶ魔術師だ。 「竜が操る竜語魔法は自身に対して、そして竜族の召喚のみに限定されている」 長い寿命を持ち、フォーセリアにおいては敵となりうるものもほとんど存在しない竜にとって、竜語魔法は補助的な役割しか持たない。 竜語魔法が竜にとって生まれ持って備わっている能力である以上、発展の余地もない。 竜には自明のことを説明され、その意図がわからないブラムドは心中で疑問を浮かべる。 アルナカーラは、さらに説明を続ける。 「でも私たち魔術師が扱う魔法には、まだ様々な可能性が眠っている」 「たとえば、どんなものだ?」 ブラムドの言葉に、アルナカーラは微笑みながら答える。 「たとえば、魔法を封じる魔法」 数多の竜を捕らえた側である魔術師の一人が、ブラムドの興味を引くことに成功した。 ブラムドが、フォーセリアで最も強いといわれる竜が、魔術師たちに、その操る魔法に苦杯を舐めさせられた故に。 魔法の研究という点に関してハルケギニアと魔法王国時代のフォーセリアを比較した場合、後者のほうがより進んでいたといえる。 その理由はいくつか考えられるが、一番の要因はマナの存在を認識しているか否かだろう。 フォーセリアでは万物の根源とされるマナ。 その存在を知覚でき、操ることが出来るものを、フォーセリアでは魔術師と呼ぶ。 マナの存在を認識できるということは、マナそれ自体へも干渉が出来るということ。 より強力な魔術師が、他の魔術師が操ろうとするマナに干渉することが可能となる。 マナへ干渉する力、強制力は魔術師の精神力に比例した強さを持つ。 竜と人間の能力には、比較する必要性も感じないほどの差が存在する。 それは肉体の強靱さや寿命の長さのみならず、精神力の強さにおいてもだ。 さらにはハルケギニアのメイジに、マナの概念は存在しない。 知らないものを考えることは不可能だ。 つまりブラムドはハルケギニアで唯一、強制力を発揮できる魔法の使い手といえる。 魔法という存在、その発動や維持の全てにマナが不可欠である以上、ブラムドの持つ強制力にあらがえるマナなど、魔法など存在しない。 シエスタに対してブラムドが使った魔法は、約束通り一つ。 『封魔力場(アンチ・マジック)』 術者の強制力を下回る魔法を解除してしまう魔法だけだった。 フォーセリアのゴーレム、木や死体や石や金属に魔力を与え、組み上げられたものであれば、魔法の力を失って動けなくなるか、分解される結果となる。 しかしギーシュのワルキューレのように、術者がマナを変質させたもの、つまりマナの固まりのようなゴーレムでは、その存在をかき消されてしまう。 ブラムドはシエスタを中心として、魔法の力が及ばない力場を構築した。 メイジに対して使えばその魔法を封じることもできたが、ギーシュはブラムドに魔法を使われることを了承はしなかっただろう。 ギーシュの魔法に意味がなくなるという点において、結果は変わらなかったが。 ギーシュの目の前で、ワルキューレが消え去っていた。 砕かれたのでもなく、壊されたのでもなく、断ち切られたのでもない。 シエスタに踏みしめられた青銅の花びらだけを残して、幻だったかのように消えていた。 それまで生きてきた常識を打ち破る理不尽さを、ギーシュの頭は処理しきれない。 一体誰が、落ちることが天空へ向かうことだと実証されて、即座に理解できるだろう。 たった今目の前で起こったことが、たった今目の前で起こったからこそ、ギーシュは理解することができない。 メイジとしての能力の全てであったワルキューレは消えてしまい、今気絶せずに使える魔法といえばコモンマジックがが一つか二つ程度だ。 藁を掴むようにシエスタへ使ったレビテーションも、その効果を発揮することはない。 ギーシュは、シエスタの顔を見ることもできないほどの恐怖に支配されていた。 だが貴族としての誇りが、男としての矜持が、その場を動かないという約定を守らせる。 冷静に考えさえすれば、シエスタがモップでギーシュに触れるだけのことでしかない。 それだけのことで、勝敗は決する。 腕が折られるわけでも、足が折られるわけでも、目が潰されるわけでも、ましてや殺されるわけでもない。 それでもギーシュは事態を冷静に把握することもできず、震えることさえできなかった。 本人ほど混乱していたわけではないが、ギーシュの側の立会人であるオスマンと、決闘に関する助言をしたコルベールも平静ではいられない。 無論、シエスタの側の立会人である三人の少女たちにしても同じ。 魔法というものがメイジとして、自己の存在を証明するために必要不可欠なものであれば、その反応も当然のことだろう。 メイジにとって最も強固で、最も身近なよりどころが、粉々に打ち砕かれたにも等しい。 冷静でいられたのは、その結果をもたらしたブラムドと、何が起こっているかを認識しておらず、目をつぶったままギーシュへと向かうシエスタだけだ。 「シエスタ、目を開いても良いぞ」 ブラムドの声で、ギーシュ以外のメイジたちが状況を認識する。 シエスタが立ち止まり、その瞳を開く。 決闘者たちが手を伸ばしても、指先が触れる程度の距離でしかない。 しかしシエスタが手に持っているモップであれば、触れることはたやすいだろう。 シエスタの勝利は、約束されたようなものだ。 ギーシュと違って彼女は冷静そのもので、モップで触れて勝利する以外はしないだろう。 混乱していればモップを振り回し、ギーシュに怪我を負わせる可能性もあった。 ところがブラムドが目をつぶらせ、周囲の状況をあえて理解させないことで、シエスタは冷静さを保ちえている。 オスマンとコルベールは驚愕の表情を消しきれずにいたが、それでも決闘者たちが怪我をしないであろうことに胸をなでおろす。 三人の少女たちは、シエスタに約束された勝利に微笑を浮かべる。 ただしこの瞬間、賞賛されるべきはギーシュだったかもしれない。 恐慌状態に陥って暴れだしかねない精神状態に置かれながら、貴族としての誇りが体を震わせることもなく、男としての矜持が逃げ出すこともさせない。 ギーシュは自身で意識することもなく、ただ静かに敗北を受け入れていた。 乾ききって飲み下すものもないにもかかわらず喉を鳴らしたのは、愛嬌といえるだろう。 シエスタが胸に抱いていたモップを改めて握り、役割を交代するかのようにギーシュが目をつむる。 いつの間にか、混乱しきっていたギーシュの心が落ち着いていた。 ……ひっぱたかれるぐらいは覚悟しないと。 ……肩かな? 頭かな? 胸かな? 腕かな? 足かな? ……顔はやめてほしいなぁ。 ……さすがに鼻血を出しながら謝るのは嫌だ。 ……でもあれだけひどいことを言っておいては、虫のいい話かな? ギーシュは心の中で、自嘲して笑った。 だがいつまで待てどもモップの感触はなく、当然のように叩かれた痛みもない。 不審に思ったギーシュが目を開こうとした瞬間、その耳が乾いた音をとらえる。 それはまるで、ほうきやモップが地面に倒れたときのような音だった。 目を開いたギーシュは、自分の前にいたはずのシエスタが消えたことに驚いた。 そしてその視線をおろして、シエスタが深く深く頭を下げていたことに気付く。 足下に倒れたモップを見て、ギーシュは再び混乱する。 勝利を目前にして、いやそれどころではない。 掴んでいたはずの勝利をなげうった理由が、ギーシュには理解できない。 勝ちさえすれば、シエスタの望みはかなえられる。 ギーシュ自身、ルイズへ謝罪することを覚悟していた。 約束をたがえないことは、その場から一歩も動かなかったことで証明されている。 再び混乱したギーシュに、頭を下げたままシエスタが話しかけた。 「グラモン様」 「なんだい?」 混乱していたはずが、ギーシュの口から出たのは落ち着いた声だった。 震えることも、裏返ることもない。 見下したような傲慢さも、なりをひそめていた。 「決闘は、私の負けで構いません」 ギーシュは驚くあまり返事もできず、それはシエスタ以外の人間も変わらなかった。 それはこの状況を生み出したブラムドにとっても、驚きをもって迎えられている。 思わぬ事態に、ルイズもキュルケもタバサも、声を上げることはできない。 いうまでもなく、オスマンもコルベールも見守っているだけだ。 「どうかヴァリエール様をゼロといったことを、取り消していただけませんか?」 ギーシュの心が震える。 自分が何をしていたのか、自分が目の前の彼女になにをしたのかを思い出す。 彼女が負った怪我をおもんばかることもなく、自己の主張のみを押し付ける。 熱に浮かされたように暴言を吐き連ね、考えたこともなかった選民意識を叩き付けた。 罪だ罰だと騒ぎ立て、挙句に彼女の友人を侮辱する。 自身の度量の狭さを棚に上げ、嫉妬して全ての責任を押し付けた。 だが彼女の望みは、友人の名誉を回復させることだけ。 その友誼の強さに、ギーシュは頭を金槌で殴られたような衝撃を受けていた。 彼女のたった一つの望みをかなえるには、ただうなずくだけでいい。 決闘の前に言おうとした謝罪の言葉を、今言ってもいい。 そう思いながら、ギーシュは一つの疑問を口にする誘惑に勝てなかった。 「勝ったとしても、その望みはかなえられたんじゃないかな?」 シエスタの望みをかなえる、つまりルイズをゼロといったことを取り消すだけならば、わざわざ勝利を手放す必要はない。 ギーシュには唯一つだけ、答えが想像できた。 「貴族が、平民に負けたとあっては……」 シエスタは全てを口にしようとはしなかったが、その言葉でギーシュは自身の想像が的を射ていたことを知った。 その思いやりの深さに、尊敬の念を禁じえない。 だがギーシュは少し勘違いをしている。 結局シエスタは、給仕に礼を言ったギーシュを、嫌うことができなかった。 暴言を吐かれ、友人を侮辱され、権威を振りかざされても。 誇り高いギーシュは、自分が敗北したことを隠すことはしないだろう。 平民に、しかも戦士ではなく、メイドでしかないシエスタに敗北した事実は、貴族であるギーシュをどれだけ傷付けるのか。 友人も、そして恋人も無くしたギーシュに、更なる痛手を与えることを、シエスタは選べなかった。 それは思いやりではあったが、だれかれ構わずという無原則なものではない。 またさらに正確を期すならば、シエスタは自身の責任を痛感していた。 足下へ転がった香水瓶が見えなかったとしても、ギーシュにケーキをぶちまけるほかにやりようがあったのではないか。 たとえば、自分が笑いものになるだけですんだのではないかと。 誇りは、貴族だけに存在するものではない。 メイジが、貴族が魔法を使うことを誇りとするように。 シエスタが尊敬する料理長マルトーが、美味い料理を作ることを誇りとするように。 魔法を使えないルイズが、それでも貴族としての誇りを失わないように。 メイドであるシエスタは、その仕事に誇りを持っていた。 ゆえにシエスタは、勝利を掴むことができない。 かといってギーシュにしても、自身に勝者たる資格がないと考えている。 シエスタが使用人である立場を崩そうとしていない以上、主導権はギーシュにあった。 「命を惜しむな、名を惜しめ」 ギーシュが幼少の頃から父親に言われてきた、グラモン家の家訓だ。 だからこそ、ギーシュは貴族としての面子を重んじた。 また、貴族としての面子にこだわるのはギーシュだけではない。 同窓の貴族たちにとっても、それは非常に重要なものだった。 ところが貴族としての誇りは、特権意識に、平民の蔑視に変わりやすい。 精神的に未熟な若者であればなおのこと。 選民思想に毒された若者たちは、自分たちこそが貴族の誇りに泥を塗っていることに気付きえず、同じように勘違いをしている教師も多い。 もちろん、真っ当な貴族の誇りを持つ教師や生徒もいる。 しかし残念なことに、その数は決して多くはない。 それは当然学院のみにいえることではなく、学院が属するトリステインという国自体に、流行り病のように蔓延っているのだ。 甘い毒のような病から立ち直ったギーシュは、胸に刻まれた家訓を思い起こす。 それを思い浮かべながらも、すでに下らない面子に拘泥することはなかった。 学生でしかない自分に、戦に出たこともない自分に、何を惜しむ名があろうかと。 ……下らない面子など、犬にでも食わせてしまえ!! 心の霧を晴らしたギーシュは、不意に現実へと意識の焦点を合わせる。 いまだに頭を上げることのないシエスタの様子を見ながら、ギーシュは頭を働かせる。 ……勝ちを譲るといっても、彼女は納得しないだろう。 そう考えたギーシュは、一つのたくらみを思いつく。 「勝ちはいらないが商品はほしい、というのは虫のいい話じゃないかな?」 あまりにも優しげな声で、辛辣な言葉を口にする。 思わずその顔を上げたものの、シエスタはとっさに返事をすることができない。 その代わりに反応しかけたのは、傍らにいたルイズだった。 だが怒気を口から吐き出しかけたその瞬間、肩に置かれた手に気付く。 キュルケが、無言で首を振っていた。 なぜと問おうとするルイズは、再びシエスタたちに視線を投げるキュルケに追随する。 「そっ、れは、あの……」 うまく言葉にすることもできず、シエスタは反論にもならない反論を口の中で発する。 そしてその声と同じように、優しげに微笑むギーシュの顔を見て、何もいえなくなった。 次の瞬間、止める暇もあればこそ、ギーシュは倒れたモップへと歩み寄って持ち上げる。 「ブラムド様、私は動いてはならぬのに歩き、また彼女の武器に触れました。裁定はいかに下りましょうか?」 「グラモン様!?」 シエスタは驚きの声をあげ、立会人も、裁定者も、とっさに返答ができなかった。 その様子はさして変わらなかったが、心中はそれぞれ微妙に異なる。 ルイズとタバサ、そしてコルベールはただただ驚く。 キュルケとオスマンは、ギーシュの誇り高さに微笑を送る。 そしてブラムドは、一人感動に打ち震えていた。 どんな世界であろうとも、人間は変わることはない。 魔術師たちの行状で掻き消えていく、蛮族の命に心を痛めたアルナカーラのように。 勝利を放棄することで、決闘の相手すら思いやるシエスタのように。 自らの敗北を、静かに受け入れようとするギーシュのように。 人間の素晴らしさに、ブラムドは心を震わされていた。 一拍をおいて、ブラムドが応える。 「確かに、約定に従えば勝者はシエスタとなろう」 その答えに、ギーシュは満足げに微笑んだ。 それとはうって変わり、今度はシエスタが混乱し始める。 「え!? いえっ、いけません!!」 慌てふためきながら頬や頭に手をやるシエスタに、周囲の人間は微笑まざるをえない。 次の瞬間、ギーシュの手からモップを奪い取り、シエスタはブラムドへ向かって宣言した。 「ぶ、武器に触りました!!」 こらえきれずに、キュルケとタバサがシエスタから顔を背ける。 コルベールはふきだしそうになる口を押さえ、オスマンはあごひげを握り締める。 モップを奪い取られたことでギーシュは一瞬呆け、再び口元に微笑を宿す。 ルイズは何とか破顔するのをこらえたが、シエスタに伝えられたのは一言だけだった。 「シ、シエスタ、違うわ」 「えっ? あの、あれっ!?」 そんなシエスタの様子に、三人の少女たちはとうとう笑いをこらえられなくなった。 「皆さん笑いすぎです!」 ようやく混乱から立ち直ったシエスタは、憤懣やるかたないといった表情を見せる。 「ごめんなさい、シエスタ」 涙ぐむルイズの謝罪を受け、仕方なくシエスタは膨らませていた両頬を元に戻した。 そんなシエスタの様子に微笑んでいたギーシュが、真面目な顔を浮かべて彼女へ向き直る。 「先刻の暴言を、謝らせてほしい」 頭を下げたギーシュに驚いたが、次の瞬間には慈母のような微笑みを浮かべて返事をした。 「誰にでも、怒りに我を失うことがありますから」 少女の言葉に、少年は顔を上げて礼を言う。 「ありがとう」 「それに決闘が始まる前にも、謝ろうとしていたのではありませんか?」 シエスタの言葉に、ギーシュは驚きながら顔を赤らめたが、あえて何も言わなかった。 そして少女との約束通り、少女の友人へと向き直る。 「ミス・ヴァリエール、先刻の言葉を撤回させてもらいたい」 「いいわ。シエスタも許したんだし」 少し照れくさそうなルイズに、ギーシュが礼の言葉を口にする。 「ありがとう。ミス・ヴァリエール」 そんな若者たちの交流を楽しそうに、嬉しそうに眺めていたブラムドが口を開く 「さて、決闘の勝敗だが」 その言葉に、ギーシュとシエスタが同時に声を発しようとする。 ブラムドは二人を手で制し、自らの言葉を継ぐ。 「シエスタは勝者たるを望むまい?」 問われた少女が、深くうなずく。 「ギーシュも勝者たるを望まぬだろうが、シエスタを困らせたいわけではあるまい?」 問われた少年も、深くうなずいた。 「なれば、この決闘は我が預かったものだ。決闘の勝敗も、我が預かりおく。勝者も敗者もない。……それでよいか?」 裁定者の言葉に、二人の決闘者が了解の意を表す。 貴族の少年と、平民の少女が、裁定者へ深く頭を下げた。 「ギーシュ」 裁定に充足感を味わっていた少年に、キュルケが声をかける。 「あなた、忘れていることはない?」 その言葉に、ギーシュは先刻泣かせてしまった少女たちを思い起こす。 「モンモランシー……と、ケティ……」 自分の前から去っていった少女たちの姿を思い出し、ギーシュは困り顔を浮かべた。 少女たちの涙のわけを、理解できなかったからだ。 困り顔を浮かべた純朴な少年に、恋多き少女が助言をする。 「一つ教えてあげる。女の子は優しい恋人が好きだけど、優しくしてほしいのは自分にだけなのよ?」 経験を踏まえた少女の金言に、経験の少ない少年の疑問は氷解する。 「ギーシュ、あなたが好きなのは誰?」 キュルケの問いに、純朴な少年は刹那の迷いも見せず、力強く答えた。 「僕が好きなのはモンモランシーだ」 「彼女は部屋にいるわ。許してもらえるかは知らないけれど」 少し冷たさを含んだその言葉にも、ギーシュは躊躇いを見せず、寮塔へ向かって走り去る。 その後姿を、少女たちと大人たちは微笑みながら見送った。 「のう、シエスタ君?」 横合いからかかった声に、シエスタは微笑みながら返事をする。 「何でしょう、学院長」 「誰も怪我をしなかったお祝いに、皆でパーティーでもせぬかね?」 「皆というと、今ここにいらっしゃる方々ですか? グラモン様は?」 シエスタの問いに、オスマンはあごひげをしごきながら答える。 「まぁ彼には恋人との語らいのほうが重要じゃろう。あとは心配しておるじゃろうから他のメイドたちや、ミス・ロングビルなどを誘えばよいじゃろう」 唐突に、しかも全くこの件に関わっていないミス・ロングビルの名前が出たこと。 そしてあごひげをしごくことでも誤魔化しきれない口元の笑みで、四人の少女たちは学院長の意図を正確に把握し、微笑を消しながら凍てつきそうな視線を送る。 ブラムドも呆れつつ、どんな世界にあろうとも、人間に変わりはない、と思い出していた。 「……男って、馬鹿ね」 異様に盛り上がるオスマンとコルベールへ放たれた微熱の吐息は、雪風よりも冷たかった。 前ページ次ページゼロの氷竜
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1704.html
ワルドの叫びを背景に、シエスタは幾分離れた場所で体勢を立て直し、ムクリと起きあがった。 見る者に清潔感を与えるはずのメイド服は、地面を盛大に転がったせいで、 目も当てられない様相を呈していた。 服の所々が擦り破れ、埃にまみれている。 しかし、シエスタは服を払うどころか、一瞥すらしなかった。 今は戦いの真っ最中。服を気にしている余裕はない。 シエスタの放つ空気が、そう物語っていた。 「ぐぬぬぬぬぅ……ギッッ!!」 己のひしゃげた右腕を庇いつつ、ワルドは低く唸った。 呼吸は荒く、顔面に滲み出た汗がボタボタと地面に滴り落ちる。 先程の一撃で体中が痺れているという事実に、ワルドは今更ながら戦慄した。 (バカなッ……! こんな非常識……死、死んでしまうぞッ……! こんなの有り得るか!!) 彼女の腕力に予め気付いていれば、それなりの対処も出来ただろうが、 あの小柄な体格で、こんな非常識な馬力を出せるなど、誰が想像できようか。 正直な所、彼はシエスタを見くびっていた。 その代償は大きい。 幸いに杖は無事だったが、杖と腕、どちらを折られたとしても、 平民にやられたとあっては、大変な不名誉になることに変わりはない。 自然、彼を襲う身を裂くような痛みは、そっくりそのまま怒りに変わることになる。 視界がグニャグニャと歪み、赤のランプがチカチカ灯っているが、それらを気力で封じ込め、 ワルドは捻り曲がった右腕から杖をもぎ取り、左手に持ち替えた。 絶望的なまでの筋力差を見せつけられても尚、彼の心は勝利へと向けられている。 それどころか、腕を折られたことで、彼の中の凶暴な部分が目を覚ましたようでさえあった。 ワルドの目に一瞬狂気の色が浮かぶ。 ルイズがこの場にいることなど、頭から吹っ飛んでしまったようだ。 「うぉ……おのれ! この動きが見切れるかァ!!」 たった一撃が致命傷になりかねない相手に対して、ワルドは敢えて近づいた。 離れた距離を活かして魔法攻撃に専念するのが最善なのだが、 接近戦でシエスタを打ち負かさないことには、ワルドの気は収まらないのだ。 左に持ち替えた杖を複雑に動かしてフェイントをかけつつ、ワルドはシエスタ目掛けて疾駆した。 右腕が使えなくとも、彼の技巧は些かも衰えない。 予測し難い複雑な杖の動きは、さながら無数の毒蛇である。 それに対しシエスタが繰り出すのは、左右交互の連撃。 その悉くが夜の帳よりも冷たく、重い。 しかし、シエスタの拳がワルドを捉えることはなかった。 風が雨の間を潜り抜けるように、ワルドにかわされてしまう。 拳の合間を縫ったチクチクとした攻撃が、嘲笑うかのようにシエスタの全身に刻まれていった。 「ウリャアッッ!!」 痺れを切らしたのか、その動きを読み切れないまま、シエスタは空間ごと抉り取るかのようなアッパーカットを放った。 が、惑わされたままの闇雲な一撃が当たるはずもない。 大振りのアッパーカットの先にワルドの姿はなく、ワルドは素速くシエスタの側面に回り込んでいた。 「速さなら負けはしない。 僕の二つ名は『閃光』だ」 「……!!」 がら空きになった脇腹に杖がめり込み、シエスタは再び地面を転がった。 威力・速度・タイミング、いずれも申し分ない、絵に描いたようなカウンター。 肋骨の二、三本も折れたかもしれない……折るつもりで、ワルドは攻撃した。 立てるはずがない。 立てるはずがないのだ、常人なら。 そう確信している上で、未だにワルドが杖を収めていないのは、 彼が既にシエスタを常人と見なしていないことの表れだろう。 鈍痛を放つ右腕に顔をしかめながらも、ワルドは余裕を取り戻した口調で話しかけた。 「まるでトロル鬼のような……パワー。 ……マンティコアのような瞬発力。 ぬぐ……。見てくれ、この腕を。 直ぐに『水』のメイジに診てもらわなければならないよ。 全く、驚いた。 だが惜しむらくは、君は戦い方がズブの素人だということだ。身体能力を活かせてない。 これ以上は無益だ。降参したまえ、メイド君。 さもなくば、もっと痛い目を見ることになる」 『降参』の一言を耳にするや否やであった。 立てるはずのないシエスタが、瞬時に跳ね起きた。 どういうわけか、あれだけ動き回ったにも関わらず、彼女の呼吸は全く乱れていない。 未だ肩で呼吸をしているワルドの脳裏に不安がよぎったが、それは杞憂であった。 シエスタの脇腹に刻まれた打撃痕が、間違い無く彼女の動作の支障になっているのが見て取れた。 常人離れしている化け物とはいえ、ダメージの蓄積は人並みらしいことに、ワルドは少なからずほっとする。 その一方でシエスタは、唇から垂れる鮮血を片手でやや乱暴に拭い、訥々と同意を示した。 「…………そう、その通りですわ。 取り立てて才能の無い一般人『だった』せいもあり、 わたくしには戦いに必要な技術的要素が欠落しています」 「特にあなたのように技量のある貴族相手では、それが露見してしまうのは当然でしょう。 今のわたくしでは、貴方に勝つのは難しい」 それは、シエスタなりに第三者的見地に立って考えてみた末の結論だった。 いかに生物的に人間を上回っていても、積み重なった人間の技術に敗れ去ることが有り得るという現実を、 シエスタは今実感していた。 最初こそワルドの油断につけ込めたが、もう彼には力任せな攻撃は通用しないだろう。 加えて、先ほどの流麗なな杖捌き。 がむしゃらに足掻いても、まさに柳に風だ。 シエスタは負けるわけにはいかない。 が、『今の』自分にはそうした粗雑な攻撃しかできないのはどうしようもない。 なら、どうするべきか。 シエスタは考える。自分の主の事を。 何故、主は敢えて自分をワルドと立ち会わせたのか。 その意味を。 「さぁ、参ったと言うんだ。 これ以上女性を痛めつけるのは、僕としても心が痛む」 ワルドが急かす。 だが、シエスタはそれをまるっきり無視した。 (…………………………) 俯いたまま暫くの間無言で考えた後、シエスタは何かに気づいたのか、はっとした顔になった。 「…………わかりましたわ」 「降参、する気になったかね?」 シエスタの独り言を都合よく捉えて、ワルドはふっと肩の力を抜きかけた。 「いいえ、子爵様。 申し訳御座いませんが、もう暫くお付き合い願います」 シエスタは再びゆっくりとファイティング・ポーズをとる。 自分の意に沿わぬ返答を受け、ワルドは不快感も露わに呪文を唱え始めた。 ―――――――――――――― 「で、そろそろ説明してくれるんでしょうね?」 ワルドの右腕がオシャカにされるのを見届けてから、ルイズは隣に佇む自分の使い魔に声を掛けた。 完全に蚊帳の外に置かれていたせいもあり、彼女の口調は若干キツいものになっていた。 シエスタとワルドを挟んで、ちょうど向かい側にいたはずのDIOは、 いつしかルイズの側に移動している。 彼は四六時中無駄にオーラを放っているので、ルイズは嫌でも近付いて来るのがわかった。 DIOの接近が分からなくなるのは、彼が意味不明な超能力を使ったときだけだ。 「今回、シエスタをあの子爵に焚き付けたのには、いくつかの意図があってのことだ」 すんなりと口を開いてきたことに、ルイズは正直ビックリした。 この使い魔は、そう簡単に自分の企みを話したりはしない。 散々っぱら弄ばれ、気がついたら完全に彼の掌の上――という方向に持っていくタイプなのだ。 それをこうも易々とひけらかすとは考えにくい。 ということは、むしろこの場合、 私も聞いておくべきだと思っているからこそ、話していることになるのだろう。 ルイズは心持ち身構えた。 「シエスタは私のメイドになってからまだ日が浅い。 つまり、経験が不足しているのだ。圧倒的にな。 だから、あの子爵と戦わせることでそれを補わせる」 「ふぅん。案外使用人思いね」 「幸いにもあの子爵は、メイジとしても、武人としても、それなりに道を修めているようだ。 まさに打ってつけというわけだ」 それだけじゃないでしょう、と視線でコンタクトを取ると、DIOは頷いた。 「無論、私にとってもこの方が好都合なのだ。 この世界の『魔法』には、色々系統があるそうじゃないか。 私は極力それら全てを目で見て、知っておく必要がある。 ……骨を折らずにな」 「意外ね。こういうのは、あんたは自分でやると思ったんだけど」 「私が療養中だと言ったのは、あながち嘘ではない。 それにだ、私が本当に『人』と張り合うとでも思ったのか、ルイズ?」 ニヤリ……そうとしか形容しようのない笑みを浮かべて、DIOはルイズを見た。 「思うわ」 ルイズは頷いて答えた。即答であった。 DIOの言葉を真正面から斬って捨てて断言してくるルイズに、DIOの笑みが消える。 その代わりに、氷より冷たい無表情が浮かんだ。 「……ほう、何故だ?」 「だってあんたってヘンに子供っぽいところがあるもの。 負けず嫌いと言い換えてもいいわ」 「……………………」 「私と一緒ね」 今度はルイズがニヤリと笑う番だった。 「……フン、何を血迷っている。 そもそも私と人間どもとでは、強さの次元が違う。 私と、私のスタンド『ザ・ワールド(世界)』は、あらゆる点に置いて別格なのだ」 自信たっぷりに言い切るDIOに、ルイズは今度は危険性を感じた。 負けず嫌いなのは大いに結構である。 自分もそうであると自覚している以上、ルイズにそれをどうこう言う資格はない。 だがこの使い魔は、負けず嫌いの性分がプライドと直結しているようである。 それが自らのとてつもない(?)力と相まって、しばしば他人の力を過小評価させてしまうようだ。 その点が、こいつの致命的な欠点と言えるかもしれない。 それを矯正してやることが、自分の役割であるようにルイズには思えて仕方がなかった。 何故かは知らないが、妙な目的意識に駆られてしまう。 ルイズは自然と口を開いていた。 「確かにあんたは強いかもしれないけど、あんたの場合はもう少し…… ……ホントーに少しでいいから、謙虚な心構えを持った方がいいと思うの。 もう足を掬われないためにも、ね。 私の言ってる意味、分かるでしょう?」 DIOがジロリ、とルイズを見下ろした。 「このDIOがか?」 「どのDIOでもいいから、何とかしなさい。 今後の課題! わかった?」 「…………フン」 釈然としない不満げな返事だったが、ルイズはそれ以上に念を押すつもりはなかった。 DIOはプライドが高くて自己中だが、決して愚かではない。 きっと自分の意志を酌んでくれると、ルイズは分かっていた。 ――何故なら、DIOと自分は似ているから。 だから、分かる。 ルイズは頭ではなく、心で理解していた。 (私にも、力があれば……) そうこうしているうちに、ワルドの風魔法が、シエスタを横殴りに吹き飛ばした。 エアハンマーの魔法。ワルドの本領発揮だ。 「あちゃあ、あれは痛いわ。 …………ま、いい気味ね。せいぜいのたうち回るといいのよ」 地に伏せるシエスタを遠くに見て、ルイズはサディスティックな笑みを浮かべた。 普段からルイズは、シエスタを好ましく思っていなかった。 それに、この任務の出発の折り、シエスタはルイズに『主人としてふさわしくない』と言ってもいる。 お互いウマが合わないのだ。 だから、シエスタがワルドにやられようがどうでもいい。 どうせならこの際だ、滅茶苦茶にやられてしまったほうが気分も良くなるというものだ。 (やれ、ワルド。そこだ。いけ。一息にやってしまえ。 引導を渡してやるのよ!) ルイズのリクエストに応えるかのように、ワルドは杖を操り、シエスタを追い詰めていった。 三次元的に攻撃され、流石のシエスタも避けるだけで精一杯らしい。 DIOに聞こえるように、ワザと大きな声で、ルイズはシエスタを嘲った。 「ハン! いくら化け物でも、所詮はメイドだったってことね。 防戦一方じゃない」 「いや、あれでいいのだ」 「へ? 何で?」 ルイズがきょとんとした顔を向けたが、DIOはそれに答えないまま、中庭の隅の方に視線を巡らせた。 暫くの間の後、DIOの視線はある一点で固定される。 DIOの笑みが更に深まったのを、ルイズは見た。 「席を外させてもらう。ほんの少しの間だけな」 「は? ち、ちょっと待ちなさ…… ……もう、勝手なんだから!」 言い終わるか終わらないかのタイミングで、DIOはパンパンと二度両手を打った。 ルイズにとっては、もうそろそろ馴染み深いものとなりつつある合図である。 果たして、目の前にいたはずのDIOの姿が忽然と消えた。 そのこと自体はあまり問題では無かったのだが。 「……う、ぐ…なに、こ、れ?」 不意に、違和感。 今存在している空間から他のどこかへ、一瞬投げ込まれたような。 モノクロの世界を見た気がした。 自分の立ち位置が酷く覚束なくなってしまった不安感に吐き気を催しながら、 ルイズは慌てて顔を上げた。 その先では、シエスタとワルドが、杖と拳を凄まじい速度で繰り出していた。 ついさっきと全く変わらない光景であるのだが、ルイズは首をかしげた。 あの気持ち悪さを感じた時、一瞬…………本当に一瞬だったが…… 二人の動きがピタリと停止したように見えたからだった。 まるで時でも止まったかのように。 自分でも要領を得ない感覚に、ルイズはDIOの行方を考える余裕を失ってしまった。 (…………気のせい、じゃない) まさかシエスタとワルドが、二人して自分をからかうなどという事をするはずがない。 しかし奇妙なことに、ルイズは先ほどの感覚が気のせいであると決め付けることが、どうしても出来なかった。 ルイズは首を傾げ、自分の掌を何度も何度も、握ったり開いたりしていた。 (どこかで知ってるような気がする……) そう、確かフーケ戦だ。 ―――――――――――――― 中庭でシエスタとワルドによる、しっちゃかめっちゃかな攻防が繰り広げられる中、 その戦いを、中庭から少し離れた柱の陰で静かに見つめる者の姿があった。 赤縁の無骨なメガネが、昇りきったばかりの朝日の光を跳ね返す。 その下には、冷たく感情を読み取れない暗い目、そしてその下に出来ている隈が、彼女の纏う暗鬱な雰囲気を増大させている。 名をタバサと言った。 彼女は昨晩ベッドに飛び込んでから、戦々恐々としたまま眠れぬ一夜を過ごしたのだった。 幸か不幸かタバサはそのお陰で、早朝中庭に向かう幾つかの人影を目撃する事が出来た。 最初は無視しようと思ったが、一行の中にDIOとシエスタの姿を認めるや否や、 タバサはまるで蜜に誘われる蝶のように、ふらふらと後を尾けて行ったのだった。 疲弊しきった見た目とは裏腹に、彼女の神経はアイスピックよりも尖っていた。 そしてその視線が捉えているのは、シエスタの一挙手一投足である。 「…………やっぱり」 魔法衛士隊隊長であり、そしてスクウェアクラスでもあるらしいワルドに対し、 身体能力的に大きな差を見せるシエスタの姿を見て、タバサ思わずそう呟いた。 あのメイドが、技術的にワルドに勝てないことは、タバサは何となく察知していた。 技術とは、年月を掛けた鍛錬を積んで初めて修得しうるものである。 ほんの少し前まで唯の少女だったシエスタに、それが備わっているのはおかしい。 タバサが注目していたのは、別の点である。 先程の独り言は、その点を改めて確認したことから生じた物であった。 この事実を、今日の内にあの男に問いただす必要が…… 「何が『やっぱり』なのかな、お嬢さん?」 あるはずの無い返事が背後から確かに投げかけられ、男の手が両肩にしっかりと置かれる。 タバサの全身が硬直した。 to be continued……
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8498.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 陽が丁度真上に差し掛かって一時間ほどがすぎた時間帯… 授業へと赴き人気の無くなった女子寮塔の廊下を、大きなトレイを持ったシエスタが靴音を響かせて歩いていた。 トレイの上にはサンドイッチやリヨン風サラダにフルーツとチーズ、そしてメインのローストポークのスライスが皿に盛られてのっている。 皿の数からして二人分の昼食は、恐らく彼女の行く先に居るであろう二人――霊夢と魔理沙の為に作られた料理であった。 「まったく、今日は何でして来なかったのかしら…」 シエスタはそう呟きながら、あの二人の姿を思い浮かべた。 今日は良いブタが手に入ったからと腕によりを掛けて料理長のマルトーがローストポークを作ったのだ。 ゲルマニアの料理であるソレはおいしく仕上がり、本場ゲルマニアのローストポークを食べているような感じであった。 生徒達も美味しそうに食べていて、特にゲルマニア出身の女子生徒が料理長の事を褒めちぎっていた。 貴族嫌いで名の通っていた料理長もこれには嬉しかったのか、顔を緩ませていたことは鮮明に覚えている。 だがシエスタにとって一番気がかりだったのは、いる筈の二人がその場にいなかった事である。 いつもなら生徒達と共に入ってきて、二人の席となった出入り口傍の休憩所で食べていた筈だ。 だが今日に限っては何時になっても来ず、とうとう昼食の時間が終わってしまった。 シエスタは何かあったのかと思い、とりあえずルイズに聞こうとした。 だがそれはうまくいかず、ルイズは生徒達と共に授業の方へ出かけてしまった。 結局、その場に残ったのはテーブルの上に置かれた昼食と、困り果てたシエスタとマルトーであった。 「手つかずのモノを処分するのもなんだしな…シエスタ、ちょっと部屋の方まで持っていってくれねぇか?」 マルトーは一切手が付けられていない自分の料理を見て、困った顔でそう言ってきた。 確かに、二人が゛昼食を食べる暇もない゛くらいに゛何か゛をしているのかもしれない。 もしかしたら部屋にいないかも知れないが、その時はその時である。 そうして大きなトレイに二人分の昼食をのせて、シエスタは女子寮塔までやってきた。 いつも夜食や洗濯物を持ってここへ訪れるシエスタを含めた給士達にとって、寮塔の長い階段などどうってことはない。 ここでの仕事は、一年も勤めていれば自然と精神や体力を高めてくれるのである。 「ここか…」 シエスタはルイズ達二年生の部屋がある階で足を止め、踊り場から廊下へと入った。 一定の間隔を保って取り付けられたドアの先には、女子生徒達のプライベートが隠れている。 それはシエスタ達にとって知ってはならない事であり、知る必要のないことである。 しばらく廊下を歩き、シエスタはようやく目的の…ルイズの自室へとつづくドアの前で足を止めた。 そしてコンコンとドアをノックくした後、中に居るであろう二人に声を掛けた。 「レイムさん、マリサさん!いますか?昼食を持ってきましたよ」 ハッキリと、爽やかな声でそう言ってしばらくして数秒――声が返ってきた。 「…もしかしてその声は…シエスタかしら?」 太陽のように元気で快活なその声は、霊夢の声であった。 知っている人の声を聞き、シエスタは安堵の表情を浮かべると共に口を開く。 「レイムさんですか?食事をお持ちしましたが…」 「食事…そういいえば今は何時かしら…ちょっと今時計が見れないのよ」 「時間ですか?…今は丁度13時半ですが」 霊夢の言葉に、シエスタは思わず首を傾げながらも懐の懐中時計に目をやり、ドア越しに答えた。 給士という仕事上時間は常に気にしなければならないので、こうして自前の時計を持っている者もいる。 シエスタから今の時刻を聞き、ドア越しに霊夢の疲れたような声が聞こえてくる。 「そうか…もうそんな時間なのね。大分眠ってたわね…で、アンタが昼飯を持ってきてくれたの?」 「眠っていた」という言葉に、シエスタは思わず安堵の溜め息をつきそうになった。 しかし溜め息をつく前にまずは用件を伝えねばならぬと思い、頭を軽く横に振ってから口を開いた。 「はい。一応マリサさんも含めて二人分の食事もお持ちしたのですが…マリサさんもそこにいるんですか?」 「いるわよ。まだ起きてないけどね。――それより、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」 霊夢の言葉に、シエスタは首を傾げる。 「?…手伝った欲しいこと…ですか?」 「えぇ。ちょっと困った事になっててね…」 少し戸惑っているかのような霊夢の声に、シエスタはまたも首を傾げる。 「困った事…ですか?」 「まぁね。だからちょっと部屋に入ってきて貰いたいんだけど…」 「部屋に…ですか?別に構いませんが…」 霊夢の言葉にシエスタは疑問を抱きつつも、部屋に入ることにした。 本当に困っているのならば助けぬ道理はないし、何より持ってきた昼食を部屋に入れなければならなかった。 しかし、ドアを開けた先に広がっていた光景はシエスタの想像を斜め上くらいまで超えていた。 「では改めて、失礼しま――――…ってキャア!!どうしたんですかコレは!?」 優しい性格のシエスタは困っている人を無視する筈も無く、ドアを開けて部屋の中に入り――悲鳴を上げた。 それに次いで、『ブラブランと体を揺らしている霊夢』が気怠そうに言った。 「どうしたもこうしたも…とりあえずこんな感じよ」 やや広いルイズ部屋の右端で、なんとあの博麗霊夢が『逆さ吊り』にされていた。 本来外套を引っかける為のフックに引っかけられたロープで体をグルグルとで縛られ、ミノムシのようにブランブランと揺れている。 何者にも自分の態度を変えず、自由に生きているいつもの霊夢からは想像も出来ない姿であった。 一体何がどういう事で、彼女がこんな姿をさらしているのか、シエスタには理解できなかった。 「ひ…ひどい!一体誰がこんな事を…」 体を震わせながらも決してトレイを落とさないシエスタの言葉を返そうと、霊夢は口を開く。 「実はルイズのヤツに―――とりあえずコレ外してくれない…そろそろ頭が痛くなってきたわ」 「ど、どうやってです。なんか私の力じゃ刃物があっても無理な気がするんですが…?」 見た目からしてギュウギュウ…と負と怒りの感情で縛ったような縄を見て、シエスタは言う。 その言葉を聞いた霊夢はズキンズキン…と痛む頭に顔をしかめつつ、ふと幻想郷から持ってきた自分の鞄に目をやる。 「シエスタ、その料理をテーブルに置いてあそこにある鞄の中から白い包みをひとつ取ってくれない…ちなみに小さい方ね」 霊夢の言葉に、シエスタはベッドの側に置いてある大と小ひとつずつの旅行鞄の存在に気が付いた。 彼女の言葉からして、小さい方が霊夢の私物なのだろうが、大きい鞄は見たことが無い物であった。 一瞬この部屋の主であるルイズの物かと思ったが、そのルイズの旅行鞄はちゃんと鏡台の側に置いてある。 (だとすると…あの大きな鞄は…マリサさんの鞄かしら) シエスタはつい先々日くらいに、魔法学院にやってきた黒白の自称゛魔法使い゛の霧雨魔理沙を思い出した。 ★ 以前、街で助けてもらった時に霊夢の知り合いとして紹介された霧雨魔理沙。 なんでも学院長の話によればルイズの命の恩人でもあるらしく、今はこの部屋で長旅の疲れ(?)を癒してるんだとか。 そしてシエスタにとっても、魔理沙は自分の事を助けてくれた恩人であった。 学院長に紹介された後もシエスタと顔見知りである給士達やコックと親しくなり、暇なときは色々な事を話してくれる。 ただ゛魔法使い゛を自称しているから、料理長のマルトーとは仲良くなれるりだろうかと心配していたが、それは杞憂に終わった。 何せ焼きたてのビスケットを皿に入れて持ってきたマルトーが、ニコニコと笑顔を浮かべながら魔理沙に話し掛けてきたのだから。 「ようシエスタの恩人。ちょっとビスケットを焼いてみたんだが一枚喰ってみねぇか?なかなかイケるぜ?」 シエスタを含め、その場にいた食堂の者達は驚いた。あの魔法嫌いで名の通った料理長が、゛魔法使い゛に笑顔で接したのである。 この光景を、今までぶっきらぼうな顔しか見てこなかった生徒達や教師が見たら目を丸くしていたであろう。 きっとシエスタをチンピラから救ったこともあるかも知れないが、マルトーは少しだけ気になる事を言っていた。 「オレに思い出させてくれた無愛想なガキがいたんだよ。貴族も平民も…根っこは同じ人間だってな。 違うのは呼び方だけ。もしその呼び方だけで相手を差別してたら、性根の腐った人間になっちまうって」 マルトーは、何処か目覚めた顔でそう言っていた。 ☆ そんな事を思い出していると、ふとある事に気が付いた。 (あれ…マリサさんも部屋にいるってレイムさん言ってたけど…どこにいるのかしら…) 先程魔理沙の分の昼食も持ってきたと言った際、霊夢は彼女もこの部屋にいると返していた。 しかしドアを開けてみると、部屋の中には霊夢だけがいた。それも異様な姿をして。 おかしいな…?とシエスタが思ったとき、霊夢が声を掛けてきた。 「…?どうしたの?」 「え?…い、いや…なんでも…――あ、…ち、小さい方の鞄ですよね…すぐに開けます」 霊夢に促され、今自分が何をすべきか思い出したシエスタはそう言うと、手に持っていたトレイをテーブルにゆっくりと置いた。 カチャカチャと食器同士が触れる音を聞きながらも、シエスタはの視線は完全に霊夢の方を向いている。 今の霊夢の姿は、シエスタにとっては『現実では有り得ない光景』であった。 (一体あれはどうなって…あんなスゴイ状態になったのかしら…) シエスタは心の中で呟きながら、逆さ吊りにされた霊夢の姿をその目に焼き付けていた。 それでも長いこと勤めていれば体が慣れていくのだろうか、余所見をして料理を落とすと言うことだけはしなかった。 トレイを置き終えたシエスタ軽く深呼吸をした後、ベッドの側に置いてある小さな鞄に近づき、シエスタはあれ?と首を傾げた。 (何だろう…この鞄…見た覚えがないのに…何処かで見た覚えがある…) シエスタはこの時、二泊三日程度の旅行が出来るこの鞄に覚えのない既視感を感じた。 それはまるで、今まで通ったことのない道を、何処かで通った事があると感じたような違和感…。 一体これは何なのだろうかとシエスタは手を止めようとしたが、すぐにハッとした表情を浮かべた。 (とりあえず…今は考えるよりレイムさんをなんとかしないと) 自分の背後で大変な事になっている霊夢の為に、シエスタは僅かな違和感を頭の隅に押しやり、鞄を開けた。 旅行鞄の中に入っていたのは着替えと、茶色や緑の大小様々な包みが入っていた。 着替えの方は霊夢がいつも着ているものと似たようなデザインをした巫女服が、何着も入っている。 しかし、その着替えを見た瞬間――シエスタの時間が止まった。実際に止まったわけではないが。 普通、着替えというものは色んな服を用意する。それは平民も貴族も同じだ。 貴族達なら様々な色やデザインのドレスを何十着も、平民ならば色やデザイン違いの質素な服を何着も…。 しかし、この鞄の中に入っていた霊夢の着替えは、いつも彼女が着ている紅白の巫女服であった。 リボンも――服と別離したあの白い袖も――いつもの彼女が身に纏っている物全てが、似たようなデザインをしていた。 それを見たシエスタの頭の中に、――――『どうしようもない悲しみと無常感』という言葉が浮かんできた。 まるでそれは、もう帰ってこない親兄弟の横たわる棺の蓋にカギを掛ける時のような、涙の出ない悲しみ…。 泣きたくて泣いても、もう戻ってこないから泣かない。…という見せ場のない意地。 表面は気取っていても、心の中にあるオアシスはすっかり枯れ果てて…涙すら出てこない無常感。 棺を穴に入れて、その上に土を被せていく時の――心から喜怒哀楽が一気に失せていく喪失感。 それらが一纏めになってシエスタの心の中に入っていき、彼女の目から無意識に――――「シエスタ、大丈夫?」 耳を通り、鼓膜の先にある頭の中に、霊夢のハッキリとした声が響いた。 「あ…―――――…はい?」 突然のことに目から出かけていた゛何か゛は急いで引っ込み、シエスタは間抜けそうな声を上げて霊夢の方へ顔を向ける。 そこには逆さ吊りにされた霊夢が体を無意味に揺らしながらも、ジト目でシエスタを見つめていた。 「アンタ熱でもあるんじゃない?今日はやけにボーっとしてるけど」 何処か呆れた調子ながらも、シエスタの身を心配するかのような物言いに、彼女は首を横に振った。 「いえ、何も…―それより白い包みでしたよね?待っててください、今探しますから」 霊夢の素直ではない優しさ(?)に微笑みつつも、シエスタは鞄の中にあるはずの白い包みを探す。 先程何かを感じた着替えに視線を移したが、今はもう何も感じられなかった。 一体あれは…と首を傾げていると、鞄の右上端のスペースに白い長方形の包みが幾つも入ってあるのに気が付いた。 その白い包みは幾つかあり、紙製品でも包んでいるのか他の包みと比べればかなり薄い。 「レイムさん、白い包みっていうのはこれの事ですか?」 シエスタはそう言いながら鞄の中から包みを一つ取り出し、霊夢に見せる。 「あぁそれよそれ。その中からお札を一枚取って私の体を縛ってる縄に貼り付けてちょうだい」 「オフダ…?」 霊夢の口から出た聞いたことのない言葉に首を傾げつつも、シエスタは包みを剥がす。 中には赤いインクで変な記号が幾つも描かれた長方形の白い紙が何十枚か入っていた。 シエスタは不思議そうな表情を浮かべつつも一枚を手に取り、霊夢の体を縛っている縄にギュッと押しつけ、手を離す。 すると奇妙なことに、紙はピッタリと縄に貼り付いていた。糊など使っていないにもかかわらず。 シエスタがちゃんとお札を貼ってくれたのを確認し、霊夢はシエスタに話しかける。 「助かったわシエスタ。じゃあちょっと離れててくれない?この縄を吹き飛ばすから」 「ふ、吹き飛ばす?」 霊夢の口から出たお礼の言葉ととんでもない言葉に神妙な表情を浮かべつつ、シエスタはそのまま後ろに下がる。 そのまま後ろに下がってベッドの側にまでシエスタが下がったところで、霊夢は目を閉じて詠唱を始めた。 メイジが魔法を使役する際に発するような詠唱と似てはいるが、シエスタの耳ではその言葉が何を意味しているのかわからなかった。 やがて詠唱を始めてから数十秒が経過したとき、縄に貼り付けたお札がカッと光り輝いた瞬間、勢いよく『爆ぜた』。 否、『爆ぜた』というより『消え失せた』という言葉が適切だろうか。 ボン!という音と共に霊夢の体を縛っている縄がはじけ飛び、部屋中に飛び散った縄の破片は床に落ちる前に消滅した。 ともかく、霊夢の自由を奪っていたルイズの縄は見事消滅し、晴れて霊夢は自由の身となり―― ドサッ! 「イダッ…!!」 ―重力に従い、床に叩きつけられた。 「ちょ…レイムさん!大丈夫ですか!?」 「あ、あんたにはコレが大丈夫に見えるワケ…?」 何もすることなく落ち、今度は冷たい床に寝そべった霊夢の側に、シエスタが慌てて駆け寄った。 見たところ全然大したことはないのだが、自分で縄を解いて(?)自分から床に落ちた霊夢は、苦しそうな表情を浮かべている。 思いっきり足の小指を過度にぶつけたときのような痛々しい表情の霊夢が発した苦言に、シエスタはどう返そうか迷った。 (大丈夫ですよ、大した怪我にはなってません……とか…とりあえず手当てでも…とか?) どっちを言えばいいのかイマイチ良くわからないシエスタと痛がっている霊夢に、背後から何者かが声を掛けてきた。 「お~お~仲が良いぜ二人とも。…この私に見向きもしないでイチャイチャしてるとは」 女の子ではあるが、何処か男っぽい口調に雰囲気。その声に聞き覚えがあった二人はそちらの方へ顔を向ける。 二人の視線は大きなクローゼット――いや、正確には戸が開きっぱなしのクローゼットの中――に注がれた。 そこには、霊夢と同じく体を太く丈夫な縄でグルグルとキツく縛られ、拘束されている黒白の魔法使いがいた。 先程気になっていた疑問が今になって解消されたシエスタは恐る恐る、その魔法使いの名を呼んだ。 「マリサ…さん?」 「あぁそうだよ魔理沙だよ。…ところで、私もちゃんとこの縄を吹き飛ばしてくれるんだろ?」 二人のやりとりを、クローゼットの中から見ていた魔理沙の言葉には、何処か悲哀が漂っていた。 ◆ それから一時間後。 「ふ~…やっぱりマルトーの作った料理は格別だぜ。ありがとなシエスタ!」 シエスタの持ってきた昼食を食べ終えた魔理沙は、食後の水を一杯飲んでから感想を述べた。 その顔はクローゼットの中に閉じこめられていた一時間前とは大分違い、生気が籠っている。 「ご馳走様。悪いわね、わざわざ持ってきてくれるなんて」 一方の霊夢は魔理沙とは対照的に冷めた表情を浮かべていたが、言葉には感謝の念が篭もっていた。 最も、どちらが好感触かと百人に聞けば間違いなく百人全員が魔理沙の方へ票を入れるだろうが。 「いえいえ、私はただマルトーさんに頼まれて持ってきただけですよ。お礼ならあの人に言ってください」 シエスタは直球の魔理沙と遠回りの霊夢にお礼を貰い、僅かに頬を赤らめながら食器の片づけを始める。 魔理沙はそんなシエスタの顔を見て何か気づいたのか更に追い打ちを掛けるかのように、口を開く。 「そうか、じゃあ今日の昼食は味がいつもより良かったのはシエスタが持ってきてくれたお陰だな」 突然魔理沙の口から出たそんな言葉に、シエスタの顔はポッと朱に染まり、彼女の方へ顔を向ける。 女性、それもまだ二十代にも満たない少女であるが、シエスタは一瞬だけ魔理沙を異性と認識してしまった。 それが何故なのかはわからないが、けどシエスタはそんな考えは良くないと思い出来るだけ平静を装いつつ礼を述べる。 「あ…ありがとうございます」 なんとか口から絞り出せたお礼の言葉を聞き、魔理沙は軽く笑った。 「ハハッ、何でお前がお礼を言うんだよ。私は何もしてないぜ?」 「アンタってホント、変な言葉がポンポンと口から出てくるわね」 自分の口から出た言葉の意味をイマイチ理解できていない魔理沙に、霊夢がさり気なく突っ込みを入れた。 食事が終わった後、シエスタが食器をトレイに戻してテーブルを拭いている最中彼女はある事を聞いてみた。 「あのー、すいません。レイムさん、マリサさん…お二人に聞きたいことがあるんですが」 「ん?」 「何かしら?」 唐突なシエスタの質問に、霊夢と魔理沙はベッドの上からキョトンとした表情を浮かべた。 二人してベッドの上にいるわけだが、している事はそれぞれ違った。 魔理沙はただ単にベッドの上に座って、幻想郷から持ってきていた本を読んでいる。 霊夢は自分が持ってきた鞄の中にあったあの白い包みを取り出し、何かを探しているようだ。 大量にある白い包みの中身であるお札を一枚ずつ丁寧に確認し、また白い包みに戻している。 魔理沙はともかく、何か忙しそうな事をしている霊夢の事を思い、シエスタは素早く質問を投げかけた。 「つかぬ事をお聞きしますが…あの、その…どうしてお二人はあんな姿に…」 何処かオドオドと恥ずかしそうに喋るシエスタに、二人はつい一時間前の事を思い出した。 シエスタの質問に答えたのは、魔理沙であった。 彼女は鬼の首を取ったかのような笑顔を浮かべ、霊夢の顔を見つめながら言った。 「あ~、あれか…あれは霊夢が一番の原因だよ。全く、このトラブルメーカーめ」 最後の一言を霊夢に向けて言い放つと、すぐさま霊夢が反論に出た。 「ちょっと魔理沙。何でアタシが諸悪の根源って扱いされるのよ?理不尽すぎるじゃない」 トラブルメーカーという扱いに怒ったのか、霊夢は魔理沙の物言いに嫌悪感丸出しの表情を浮かべている。 「だってそうだろ?お前があのお菓子を食べなきゃ、こうしてシエスタが昼食を持ってくる必要が無かったわけだし」 「それならルイズが諸悪の根源じゃないの。責任転嫁もいい加減にしなさいよね」 「ルイズ…?やっぱり…ミス・ヴァリエールが貴女達に何かしたんですか」 いきなりルイズの名前が出たことに、シエスタは霊夢が最初に言っていた事を思い出しつつ聞いてみた。 「まぁね。ルイズのヤツ、ちょっとお菓子に手を出したくらいでこの仕打ちとは…全く酷すぎるわ」 霊夢の言葉を聞き、シエスタは何があったのか理解し、少し苦笑しつつ言葉を返す。 「レイムさん、人のお菓子に手を出すのは駄目だと思いますけど…」 シエスタがそう言った瞬間、霊夢は元から鋭くなっていた眼を更に鋭くさせ、こう言った。 「たかが菓子一つでこの仕打ち?全く、器量の小さい貴族様だことね。それじゃあ結局食べずじまいで腐らせるのがオチよ」 逆さ吊りにされたのを余程根に持っているのか、霊夢は恐れもせずに言ってのけた。 その言葉にシエスタは目を丸くしたが、魔理沙は苦笑いしつつ霊夢の言葉に感想を述べた。 「流石貧乏巫女と呼ばれてるだけあるぜ。その日暮らしって雰囲気がいかにm…―「悪かったわね。勿体ない性格してて」 魔理沙の言葉を遮るかのように、誰かがそう言った。 最初魔理沙は霊夢の声かと思って言い返そうとしたが、その口が動くことがなかった。 口が動く前に、いつの間にかドアを開けて部屋に入ろうとした人物に目が入り、軽く驚いたからである。 ドアの開く音は三人の会話に紛れて聞こえなかった所為か、まだ魔理沙しか気づいていないようだ。 「げげ…ルイズ」 何も知らずにびっくり箱を開けたときの様な表情を浮かべた魔理沙と彼女の口から出た名前に、二人は後ろを振り向く。 そこには、開きっぱなしのドアの前で顔をうつ伏せたまま佇んでいるこの部屋の主、ルイズがいた。 予想だにしていなかった人物の登場に対し、二人の反応は対照的であった。 「は?…あれ、何でアンタがここにいるのよ。授業じゃなかったの?」 霊夢はいつもと変わらぬペースで顔を見せぬルイズにそう言った。 「え…?あ!ミス・ヴァリエール!?…い、いつの間に?授業はどうなされたので…」 対してシエスタは驚愕の表情を浮かべ、居るはずのない人間がいる事に驚いていた。 「ちょっとね、忘れ物があったから取りに戻ってみれば…なんとまぁ、言いたい放題じゃないの」 怒気を含んだ声でそう言いつつ、ルイズはゆっくりと顔を上げていく。 まるでそこだけをスローモーションにしているかのようなルイズの動きに、自然と三人は何も言わないでいる。 「でもアンタの言い分も一理あるわね…。いくら大切に保管していても食べ物は食べ物。いずれ腐っちゃうわ」 表情一つかえずに話を聞いている霊夢に向けてそう言ったとき、ようやくルイズは顔を上げて、目の前にいる三人の姿を見回した。 その顔にはハッキリと怒りの色が浮かんでいる。それは下級貴族が裸足で逃げ出すほどであった。 「あの…ミス・ヴァリエール…ものすごく怒ってるように見えるんですが…」 「あぁ、怒ってると思うぜ」 平民であるシエスタはルイズの表情を見てか体を震わせており、魔理沙の方も苦々しい笑みを浮かべていた。 「はぁ…それで、何か話でもあるのかしら?」 しかし霊夢だけは怖いとすら感じていないのか、いつもの無愛想な表情でルイズに話し掛けた。 それがいけなかったのか、溜め息交じりの言葉にルイズの眉が大きくピクンと動き、声を荒げて言った。 「っ…!何よソレ?人が大切にしてるお菓子を勝手に食べてその態度は! 大体ねぇ、アンタは遠慮って言葉を知らないの!遠慮って言葉を!」 もはや叫び声にも近いルイズの訴えに対し、霊夢はめんどくさそうに応えた。 「うるさいわね…私だってそう何でも食べるワケじゃないわよ。たまたまそこの戸棚に目が入ったから取っただけじゃない」 反省の色が見えない霊夢の言葉にとうとう我慢できなくなったのか、ルイズはとうとう腰に差していた杖を引き抜いた。 「だからっ!それがっ!遠慮が無いっ…て言ってるでしょうが!」 霊夢はルイズの手に握られた杖を見て、こちらも負けじと懐に手を伸ばして身構える。 恐らく服の下には針かお札でも入っているのであろう。 もはや一触即発という状況を見て、流石の魔理沙も身の危険を感じ始めた。 「これは…ちょっとヤバイかもな」 魔理沙の言葉を耳にしたシエスタはハッとした表情を浮かべると、すぐさまルイズの方に近寄った。 そして今にも杖を振り上げようとしたルイズの右手を取り押さえ、ルイズの説得を始めた。 「落ち着いてください、ミス・ヴァリエール!ここで暴れたらお部屋が大変なことに…」 「ちょっ…何すんのよ!?離しなさいってば!」 シエスタは杖を持っていたルイズの右手を無理やり下ろしてなんとか彼女を宥めようとするが、当の本人は怒り心頭である。 大事に取っておいたお菓子を食べられたのはそりゃ悔しいだろうが、そんなに怒ることなのか? シエスタはそんな疑問を抱えつつ、これからどうやって彼女を落ち着かせようか迷い始めた。 一方の魔理沙は、懐に伸ばしていた霊夢の手を掴もうとしたが、その前に霊夢の方が先に手を抜いた。 出てきた左手に何も持っていないことを確認した魔理沙はホッと一息ついた時、霊夢が何も言わずに歩き始めた。 横にいた魔理沙を一瞥もせずにツカツカと、靴音を床から響かせて。 「おっおい霊夢!一体何処に行くんだよ」 「何って…ちょっと気分転換に外でも行こうかなーって思っただけよ」 霊夢の思わぬ行動に、魔理沙は驚きつつもなんとか止めようとする。 「いや、お前措外に行くって…何言ってんだよ。まずはルイズに謝るのが先だろ?」 「だったらアンタが謝ればいいじゃない。アンタもあのクッキー食べたんだから」 しかし魔理沙の言葉には意も介せず霊夢はそう言ってのけると、窓を思いっきり開けた。 地上からかなり上の階に作られたルイズの部屋は窓からの風通しが良く、サラサラとカーテンがひとりでに動いている。 「じゃあ行ってくるわ。大丈夫、夕食時には帰ってくるから」 窓の縁に足をかけて飛び立つ前に一言だけ伝言を残した霊夢はそう言って、勢いよく飛び上がった。 魔理沙が急いで窓から身を乗り出した時には、もう霊夢の姿は何処にもなかった。 「おい、霊夢…あぁもう…。すまん二人とも、すぐに帰ってくるぜ!」 魔理沙は苦虫を踏んでしまったかのような顔でシエスタとルイズにそう言うと、愛用の箒を素早く手に取った。 一方の二人は何が何だから良くわからず、シエスタはキョトンとした表情を浮かべている。 「えっ…?え、えっと…マリサさんはどちらへ?」 「あの無責任な紅白を連れ戻してくる。なぁに、夕食前には戻るぜ」 箒を手にした魔理沙はそう言うと開きっぱなしの窓の前で箒に跨った瞬間、それは起こった。 「うっ…」 「きゃっ…!」 ブワッと魔力の気配を僅かに感じられる風が周囲に舞い、シエスタとルイズは思わず目を背けてしまう。 そして次の瞬間、魔力の込められた箒は魔理沙を乗せたまま浮かび上がり、窓の外へ勢いよく飛び出していった。 今度はシエスタと少しだけ怒りを忘れたルイズが窓から身を乗り出したが、魔理沙の姿はもう何処にも見あたらない。 後に残されたのは、呆然としているルイズとシエスタだけであった。 ★ その日は、夏だというのにとても風が涼しかったと今でも覚えている。 弟と一緒に夕涼みがてら、グラン・トロワの裏庭で昆虫採集をしていた。 そこはちゃんと整備されているものの、ちょっとした森もある。 兎やリスなどといった小動物を放し飼いにしていて、小さな池も作られていた。 ちゃんと裏庭と外を隔てる丈夫な壁と見張りの騎士達の手で、小さなオレ達は守られていた。 「おーい!見つけたよ兄さーん!」 夏用の軽い生地で出来たブラウスを着た弟のシャルルが、遠くからオレを呼んでいた。 丁度その時、オレは珍しい羽を持った蝶を追いかけていた。 しかし弟の声にオレが一瞬だけ視線を外したとき、その蝶はいなくなっていた。 一体何処に行ったのかと辺りを見回しても、目に映るのは自分の回りを囲う木々だけ。 仕方なしにオレは溜め息をつき、弟の声に導かれてそちらの方へ向かった。 「兄さん見てよ!ホラ、このカブトムシ!」 年相応の笑顔を浮かべる弟の手には、一匹の大きなカブトムシが握られていた。 自らの強さを示しているのか、頭から一本の大きくと長い角が生えていた。 「おぉスゴイなシャルル!こんなにデカイのは初めて見たぞ!」 オレは素直に驚愕し、自分のことのように喜んだ。 「でしょでしょ!向こうにある大木に貼り付いていたところを、僕が魔法で捕まえたんだ!」 そういって弟はカブトムシを持っていない方の手で地面に置いていた大きな杖を手に取る。 自分たちより何倍も大きいそれは、父親から貰った先祖伝来の物である。 「そうか…お前はやっぱり、オレより魔法の才能に優れているなシャルル」 オレは弟の方を力強くバンバンと叩きながら、笑顔でそう言った。 幼少から魔法の才能に恵まれなかったオレがそんな事を言うと、どうにも自分を卑下している気分になる。 それを察したのか、弟は優しい笑みを浮かべてこう言ってくれた。 「そんな事ないさ、兄さんだってきっと…僕よりも素晴らしいメイジになれるさ」 弟の口から出たその言葉は涼しい風と共に、空へと飛んでいった。 ★ ―――i下、陛下。到着しましたぞ陛下」 「…ム?」 ふと頭の片隅から声が響き、ジョゼフは目を覚ました。 ゆっくりと自分の目に映る光景はグラン・トロワの裏庭ではなく、竜籠の中であった。 空中で揺さぶられているかのような感覚を味わえる荷車の中には、ジョゼフの他に護衛の騎士が一人ついている。 そして意識がドンドンと覚醒していくと共に、さっきのアレは夢なのだと認識し始めた。 「夢か…フン、このオレがあの頃の夢を見るとはな…」 「…そろそろ着陸します、ベルトを着用して下さい」 ジョゼフが自嘲するかのようにひとり呟くと共に、騎士が言った。 それに従って備え付けのソファに付いているベルト着けた後、窓から外の景色を眺める。 窓から見えるそこは、ガリアの領地サン・マロンにある軍の私有地であった。 海に沿って作られている街から離れた一角に、そこはある。 下級貴族が持てるような大きさの土地の中にレンガと漆喰で出来た土台の上に木枠と帆布でくみ上げられ、円柱を半分に切って寝かせたような建物が幾つもある。 敷地内や出入り口には何百人もの衛兵達がおり、検問も厳しく許可無き者は貴族であっても容赦なく追い返されてしまう。 例えガリア王国の政治に深く関わる者や軍の将校であっても、事前の連絡と身分証明が出来なければ同じように追い返される。 そんな機密性の塊であるような場所にやってきたジョゼフには、それなりの理由があった。 「報告書には、護衛にあたっていた衛兵二人と焼却炉担当の作業員一人…それに研究員三人を含めて死者が六名との事です」 窓の外を眺めているジョゼフの耳に入っているのかどうか疑わしいが、騎士は手に持った報告書を見つめながら言った。 ジョゼフと騎士を乗せた竜籠はドンドンと高度を落としていき、敷地内にある発着場に降り立った 籠を運んでいた竜達は仕事が終わって休みたいのか、ギャアギャアと鳴きもせずにおとなしくしている。 次いで詰め所の中から四人ほど衛兵が出てきて、竜達を宥めつつハーネスの取り外しに掛かった。 そしてしばらく中で待っていると、詰め所の中から新しく出てきた衛兵が荷車のドアを開けて言った。 「ようこそ゛実験農場゛へ。所長と゛複製実験゛の担当者方がお待ちです」 ▲ 「今回の件につきましては…全くの想定外としか、言いようがありません」 冷たい空気の漂う会議室の中に、白髪が目立つ頭を掻きむしりながら、老齢の所長が苦しげにそう言った。 この事務室は、゛実験農場゛の中央に建てられた大きな施設の中にある。 そこは此所の全責任者である所長を含めた何人かの研究員達が働く場所であり、寝るところであった。 その施設の中にある小さな会議室には、王であるジョゼフと゛実験農場゛幹部。そして…゛複製実験゛の担当者達が居た。 ジョゼフを上座にその他の者達は壁に沿って置かれた椅子に腰掛けており、渡された書類を流し読みしている。 そして最新製のマジックアイテムで十分に冷えた部屋の中で汗をかいている゛実験農場゛の所長は、ゆっくりと説明を続けていく。 「゛試験体゛を作るにあたってモデルとなっていた゛見本゛の保管には、細心の注意を払っておりました… 冷凍保管庫の警戒レベルは常に最大にして、衛兵にもアイス・アローを常備させて…内外のアクシデントに対し常に見張っていました。 …゛事故゛が起こった昨日も、処分することになった゛見本゛を焼却するため冷凍保管庫から焼却炉に移送する際には、見張りを増員して…」 僅かにその体を震わせながら、所長はそこで一旦説明するのを止める。 それを見計らっていたかのように、今まで黙っていたジョゼフが口を開いた。 「だが゛見本゛は暴走して特注の焼却炉を破壊、被害者が出たうえにみすみすトリステイン領内に逃げ込んだと報告書には書いておる。 これは最悪の事態を想定できなかった゛実験農場゛に不備があるのではないか?」 ジョゼフの言葉に、部屋にいた゛実験農場゛の関係者達は身を震わせた。 下手をすればようやくありつけたこの仕事をクビにされるのだから当然ともいえる。 ※ 数年前、キメラを用いたとある実験で絶望的なミスをした彼らは失脚し、何年も路頭を彷徨った。 録に食事も食べれぬ生活を送っていたある日、ガリア王ジョゼフからの直々の召集令が送られてきたのである。 それは、自分たちが失脚する原因となった研究所の欠点を元に新しく作られた゛実験農場゛への配属命令であった。 伝えられた内容は、以前自分達の行っていたキメラ実験の再開と画期的な軍事兵器の開発だった。 「もし貴様等が余の満足する物を作れれば今後の生活を保障してやる。だが失敗は許さんぞ」 玉座に座るジョゼフは、何を考えているのかわからない表情でそう言っていた。 下級貴族の生まれでガリア人ではなかった研究者達にとって、喉から手が出るほどの好待遇である。 その場に居た研究員達は全員それに賛同し、゛実験農場゛の幹部となった。 それから後の仕事は、正に彼らの天職とも言えた。 人員と予算に対して文句はなく、実験や研究に使う素材やマジックアイテムも短期間で用意してくれる。 時折ジョゼフの秘書であるという黒髪の女や、ジョゼフ王自身が極秘で視察に来る事もあった。 研究の方も滞り無く進み、正に順調で何の問題もなかったのである。 一週間ほど前に通達された…゛複製実験゛の指令が来るまでは。 ※ 所長は額から流れる汗を拭うこともできず、ジョゼフの目の前で淡々多と言い訳を述べる。 「とりあえず゛原液゛は今も保管されていますし゛試験体゛も体自体は完成していつでも感情抑制の実験に入れます。…ですから――」 「もう良いもう良い!このような実験には何かしらの異常事態はつきものだ。それに何より、過ぎた事ならば仕方がないではないか」 しかし、ジョゼフは突如として所長の言い訳を、右手を激しく横に振ることで中断させた。 その後所長がハッとした表情になって喋らなくなるのを確認した後、ジョゼフはゆっくりと右手を下ろす。 「本来なら処罰ものではあるが、今この研究は大事な局面に差し掛かっておるからな。 人員削減はしたくないし、お前たちの今後の働きで今回の事は無しにしてやろう 逃亡した゛見本゛については余が手を打っている。安心して今後の研究に励むと良い」 ジョゼフの寛大なる言葉に所長を含めた研究員達はホッと胸をなで下ろし、頭を下げた。 それを見て満足そうに頷いたジョゼフは、キッチリと閉じられた窓から見える空へと視線を向けた。 初夏も間近に迫る季節のおかげか空は澄み切っており、白い雲が風に乗ってゆっくりと動いている。 (トリステインか…面白い。今年は色々と楽しい事があって余も退屈せんな) ジョゼフはその顔に笑顔を浮かべつつ、空を眺めていた。 その笑顔はまさに、大好きな玩具を親に買って貰った子供が浮かべる様な笑顔であった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2080.html
「いくぞっ! シエスタッ!! 覚悟を決めろッ!!!」 「はいっ!!!」 二人の目前に、戦列艦の竜骨が鎌首をもたげていた。 ゼロ戦はそこに正面から突っ込んだ。 シエスタの作戦は至極単純であった。 アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!! 零戦は、戦列艦の喫水線をなぞるように飛んでいる。 以前変わりなく。 シエスタの作戦とは、つまるところ、これであった。 ブチャラティが戦艦の装甲を『切開』する。 彼女は、破片や肉片が飛び交う中、非常なる集中力で、機体を最高速度で飛ばしながら座位を安定させていた。 (ひいおじいちゃん、おじいちゃん、ロハンさん) (ブチャラティさん。私に力を!) (見えた!!!機関部!!!!!) シエスタは、零戦に残された機銃弾をすべて叩き込む。 ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!!! アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!! ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!!! アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!! 20㎜機関砲と7.7mm機銃弾の死のダンス。 その瞬間をブチャラティは見逃さなかった。 彼が細切れに分解した、機関部の部品に、機銃弾によって火がつけられた瞬間を。 零戦の機体が、飛行船に開けられたトンネルを抜けていく。 新たに発生した大量の黒煙と共に。 彼ら二人の行く手を阻むものは、何一つとしてなかった。 時はすでに夕刻。 月食も晴れ、太陽は自らの姿を紅く染め上げている。 シエスタは、すでにはるか後方にある『レキシントン』を眺めていた。 私、勝てた。平民のこの人と。 二人だけで。 ブチャラティは後部座席に戻っていた。 彼は後ろを振り返って右手をかざしあげ、夕日の輝きから目を保護していた。 まるで敬礼をするかのようだ。 視線の先には、爆発する戦列艦がある。 「アリーヴェ・デルチ(さよならだ)」 私、守れた。自分の村を、家族達を。 シエスタは少しだけあふれた涙を、指でそっとぬぐいながら。 自分の祖父の口癖を、ちょっとだけかわらしく、呟いてみた。 「ボラーレ……ヴィーア……(飛んで…おいきなさい)」 夕日に照らされたタルブの町が、金色に輝いていた。 せっかくの絶景も。 シエスタは、涙のせいで、かすんで良く見ることができなくなってしまった。 「体当たりじゃねーのかよぉ! ちゃんと説明しやがれ! お前等!」 デルフリンガーが憤る。 だがそれも、今のシエスタにとっては賞賛の声に聞こえたのだった。 トリステイン学院の図書室には、いつもの、見慣れた風景があった。 アルビオンと、トリステインとの戦争は開始された。 だが、この場、このときだけは。 トリステイン学院に、戦場の気配は微塵も感じられない。 図書室の一角、密室と化した個人閲覧室の中から、タバサの呟きが漏れ出でている。 中からは、時々、露伴の相槌も聞こえる。 「……この場面なら、『このド低能がッ!』と『このクサレ脳みそがッ!』のどちらかのセリフが適当だと思う」 「どう違うんだ?」 「個人的にはこのシーンだと、『このド低能がッ!』のほうが勢いがあって好いと私は思う。でも、表現が攻撃的過ぎるかもしれない」 「どういうことだ?」 「過激な表現だと、教師陣からクレームが来る恐れがある」 「なら、『このクサレ脳みそがッ!』にしてくれ」 閉じられたドアが、外側からノックされた。 「失礼します」 入ってきたのはシエスタだった。 「お茶をお持ちしました。それと、お茶請けも」 「ああ、ありがとう」 最近、シエスタは毎日露伴の仕事場に差し入れを持ってくるようになった。 そして、三人でお茶会を楽しむのが図書室での日課となっている。 たいてい、紅茶と、お茶請けのお菓子だ。 シエスタは最高級の茶葉を惜しげもなく使い、紅茶を三つのティーカップに順々に注いでいく。 紅茶のカップは貴族用の、ロマリア製の白磁の特注物だ。 それに、お菓子も段々と豪華なものになりつつある。 特にこの二~三日のそれの質は、食堂で出されるデザートのそれを超えているのをタバサは見逃していない。 「お茶の準備ができました。さっ、タバサ様もどうぞ」 「よし、いったん休憩にしよう。今日のお茶請けはこりゃまたすごいな…」 タバサはついに決意した。 このメイドとは一度、話をつけておく必要がある。 でも、そのまえに。 「シエスタ。私とあなたには身分の差はもうない」 「え?」 「私のことは、呼び捨てでいい」 そういわれたシエスタは、なぜだかとてもうれしそうに、タバサに向かって、はにかんで見せたのだった。 「では、タバサ…さん? お願いがあります」 「何?」 「あの…… 頭 ナ デ ナ デ してもいいですか?」 「……え゛」 この瞬間、露伴は、タバサも思考回路が停止するものなのか、とのんきな考え事をしていた。 後日、タバサはキュルケに主張した。 『あの時シエスタは口の端からよだれをたらしていた』と…… シエスタ → 本人の希望の為、相変わらず学院内でメイドしている。 彼女がシュヴァリエであることを知るものは少ない。 シエスタの活躍を、露伴から聞いたマルトー親父からは『我等の妖精』と呼ばれ、気に入られている。 正式名 →『シエスタ・シュヴァリエ・ド・ギルガ』 岸辺露伴 → さあ、なでなでされる様子を見せてもらおうじゃあないか! (スケッチ帳はどこにやったかな?) タバサ → ↑ う ら ぎ り も の ・ ・ ・ 第3章『ポイントブランク』 Fine...
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6294.html
前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔 早朝、ルイズの部屋にノック音が響く。 早起きの生徒は起き出している時間ではあるが、低血圧で寝坊すけなルイズにとってまだまだ甘美な眠りの時間であった。 先にミュズがそれに気付いて目を醒まし、すうすうと寝息を立てるルイズを揺すって起こそうとする。 「マスター、起きて下さい。シエスタが呼んでいます」 「はえ?そ、そう……。って誰よあんた!」 ルイズは寝ぼけた声で怒鳴った。 ふにゃふにゃとした顔で眠そうにしている。 「ミュズです」 「ああ、使い魔ね。そうね、昨日、召喚したんだっけ」 ルイズは起き上がると、欠伸をした。 そして、ミュズに聞く。 「シエスタ…。ああ、昨日のメイドの事?で、そのメイドがどうしたのよ」 その時、再度、扉の外からノックとルイズを呼ぶシエスタの声が聞こえる。 「すみません、ミス・ヴァリエール。昨日、御依頼された件でご相談が…」 ルイズはシエスタに待つ様に返事をすると、ミュズに命じる。 「服」 ミュズに椅子に掛かった制服を手渡されると、ベッドの隅に置き、ルイズは怠そうにネグリジェを脱いだ。 「下着」 「どこにあるんですか?」 「そこのクローゼットの、一番下の引き出しに入っているわよ」 ミュズはルイズが指したクローゼットの引き出しをあけ、適当に下着を取り出すと、ルイズに渡す。 下着を身につけたルイズが、再び怠そうに呟く。 「服」 「さっき渡しませんでしたか?」 「着せて」 下着姿のルイズがベッドに座って、気だるそうに言う。 「平民のあなたは知らないだろうけど、貴族は下僕がいる時は自分で着ないのよ」 ルイズは唇を尖らせてさらに言った。 「そうなんですか」 理解した様に大きく頷くと、ミュズはベッドの上にある制服のブラウスを手に取り、のたのたとルイズの腕に袖を通す。 初めて人の着替えをする様でたどたどしいが、これから教え込ませれば良いと、ルイズは目を閉じて考えていた。 そうしていると、首筋にがさがさとした違和感を感じる。 目をパチッと見開くと、正面でミュズがブラウスのボタンを、んしょんしょと”内側に”掛けていた。 ボタンを一つ違いに掛け違えしているのはご愛顧としても、更にブラウスが裏表逆なのは、”いつもより早く起こされて”機嫌の良くないルイズの堪忍袋の緒を易々と切ってしまった。 「何やってんのよ!あんたは~!!」 その怒号は扉の向こう側で待っていたシエスタが跳びはね、女子寮全体に響き渡る程に大きな物であった。 「服はこうやって着るのよっ」 ルイズは、裏っ返しのブラウスの中に片手を突っ込んで内側に留まったボタンを外し、ブラウスが表になる様に翻すと、素早くボタンを上から順にピッタリと留めた。 スカートを手に取ると、ズバッズバッと細い脚を入れ、腰の留め金を掛け、ループタイを五芒星の飾りで固定すると、黒いマントを羽織る。 そして、どうよと言わんばかりの顔で、胸を張り腰に手を当てて、ミュズを睨み付ける。 そんなルイズの姿をミュズはまじまじと見つめて、「なるほど」と知らなかった事を知って感服した面持ちだった。 「ミス・ヴァリエール。どうなさいました?」 そこに、ノック音と共に扉の向こうから、中の様子を気にするシエスタの声が聞こえた。 「なっ、なんでもないわよ」 ルイズはちょっと恥ずかしいポーズを決めている事に顔を赤らめ、慌てて返事をする。 「そんな事、気にしないで入りなさい」 扉の鍵をガチャリと開けて、怒鳴り声を上げたのを誤魔化しつつ、ルイズは部屋にシエスタを入れた。 「で、何よ。相談って」 ルイズは椅子に腰掛け腕組みをして、シエスタに尋ねる。 「それがその…、」 シエスタは機嫌の悪そうなルイズの様子を見て、怯えて身体を震わせながら恐る恐る声を絞り出すと、頭を深々と下げる。 「申し訳ございません。お預かりした布に鋏が通らなくて、上手く仕立てられませんでした」 シエスタは面を見せないまま、謝罪の言葉とその訳を告げる。 「えっ、どう言う事?」 ルイズはイマイチ意味が分からない様で、シエスタに疑問を投げ掛ける。 裁縫や服飾に詳しい訳では無いが、公爵の息女であるルイズは平民と比べると触れた布の数や種類では数倍も多い。 あの布を触った感じから、織り目自体は細かいが地は薄くて堅い印象を受けなかった。 学院内のメイドに任せても一晩で服が出来上がる物だと思っていた。 「ご覧になって下さい」 シエスタは持っていた籠の中から、鋏を一丁取り出してルイズに差し出す。 学院からの支給されている鋏には教員の土メイジによって固定化かけられている筈で、その刃が毀れてボロボロになっている。 「これは酷いわね。それで服の方はどうなったの?」 ルイズは鋏をシエスタに返しながら、あの真っ赤な布がどうなったかを訊く。 シエスタは籠からルイズから預かった赤い布を広げ、言った。 「どうにか着れる形にはしたのですが…」 一見するとワンピースのドレスの様だが、肩を掛ける所が片方しかなく、縫われているのはその反対側の腰だけで、そこ以外の体側はバックリと開いていた。 鋏もそうだが、針で縫うのも侭ならない様子であった。 「それ、着られるの?」 シエスタはルイズの許可を貰い、二人のやり取りを聞いていたミュズに着替えさせ始めた。 着ていたワンピースを脱がすと、赤い服をミュズに潜らせる。 二つ付いている胸の留め具を左右の脇から通して背中で固定し、胴のコルセット状のベルトを巻き、縫われていない方の腰に開いている穴に長いベルトを着ける。 着替え終わったミュズが嬉しそうにクルッと回るがはだける事もなく、ワンピースとして様になっていた。 ただ、脚の両側のスリットは深く、ほぼ両肩が出て、胸元が開いている。そんな格好を好んでするのはゲルマニアの女ぐらいだ。 「留め具も元々付いていたものでしか布にくっつけるが出来ませんでした。胴のベルトは手持ちの似たような色合いの布と留め具を無理矢理、縫い付けて使ったのですが、如何でしょうか?」 「まっ、まあ。良いじゃないの」 ミュズが服を着た様子を見て、ルイズはシエスタが『上手く仕立てられませんでした』と言ったものの、それなりに形になっていたので妥協する事にした。 その言葉に表情を曇らせていたシエスタの顔がパアッと晴れる。 「ありがとうございます、ミス・ヴァリエール」 「それで。また、頼みたい事があるんだけど…」 「はい。なんなりと」 「この娘に使用人としての作法や技術を仕込んで欲しいの。どうも、世間知らずと言うか常識が無い所があるから」 「わかりました」 シエスタはにっこりと微笑んで即答する。 「じゃあ、よろしくね」 「それでは失礼いたしました」 シエスタは深々とお辞儀をすると、ルイズの部屋を慌てて出て行った。 シエスタを含むメイド達には、今の時間は朝食の準備があるので、大変なのである。 シエスタが去っていった所で、ルイズは部屋を出る仕度を済ませる。 「それじゃ、私達も行くわよ」 体をねじらせながら嬉しそうに服の様子を見ているミュズに、ルイズは声をかけて、ドアノブを掴んで扉を開けた。 (※注:この話でミュズの足のサンダルも含めて格好が、原作批准になりました) 前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1464.html
第二話:『ぼうやはよいこだ寝ていれば』 トリステイン魔法学院には多くのメイジが存在し、そのパートナーである使い魔もまた多い。 召喚に応じた使い魔は基本的にそのメイジの特性に合わせたものであり、その種類は実に多種多様である。 そんな彼らは、主人の授業中も付き従うことができるもの以外の平日の日中は、暇そのものなのだった。 彼らは思い思いに過ごし、そしてそれぞれ思い思いにひとつの場所に集まるのが常であった。 学院のヴェストリの広場には、先日から奇妙な光景が広がるようになっているのである。 竜が巨大な肩の上できゅいきゅいと鳴き、フクロウが巨大な頭のてっぺんでホウと鳴き、大蛇が巨大な膝の上でとぐろを巻き、カエルが巨大な足元に張り付き、その巨大な日陰では火蜥蜴とモグラが寝転がり、ネズミやらなにやらその他大小様々な獣たちが集合している。 「まるで使い魔のバーゲンセールですねえ……」 毎度毎度ここに訪れるたびに律儀にぽかんと口を開いて、シエスタという名のメイドの少女はモップとバケツを抱えてその光景を見上げた。 シエスタの呟きを音声センサーで認識し、続いてシエスタの姿を首をめぐらせて二つのカメラアイの光学センサーで認識し、かつては神々の砦と謳われたゴーレム、アースガルズ動物園はちかりと眼を瞬かせた。家族サービスに疲れた父親のようだった。 「みなさんすいませーん、少しどいていただけますかー?」 シエスタが声をかけると、のそのそと名残惜しげに使い魔達はまた思い思いの場所に移動していった。タバサという名の生徒の風竜が、親しみを込めて鼻先でアースガルズをつつき、どこかへと飛び立っていく。 それを確認したあとで、シエスタは小さな溜息と共に巨人の足元にかがみ込んだ。最後に残ったピーチブロンドの髪の少女を揺する。 「ほら。起きてくださいな、ミス・ヴァリエール。お昼休みが終わってしまいますよ」 「う、ん…………もう朝?」 「まちがいなくお昼です」 ちいさな頭をアースガルズの脚部装甲に預けて寝入っていたルイズが、ゆっくりと眼を開いた。彼女が軽く頭を振るうと、陽光が桃色に反射しながらさらさらと弾けた。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは使い魔を呼び出して以来、その錆の匂いの中で寝入ることを好むようになっていたのだった。 「また夢を見ていらしたんですか――――ほら、お手を上げてください」 すこし微笑ましいものを感じながら、シエスタはルイズの制服のシワを伸ばしてやる。素直にシエスタの指示に従うルイズをクラスメイトが見れば驚愕するかもしれない。 普段は周囲に威嚇せずにはいられない気質のルイズも、使い魔が傍にいる時だけは歳相応の素直な少女になるのだった。 シエスタはくすりと笑い、ルイズの手を引いて立たせた。そして思う。もしかすると私はとんでもない不敬者かもしれないわ。公爵家のご息女を、まるで手のかかる妹のように扱っているのだから。 ルイズは眼をこすりながらシエスタの質問に答えた。 「うん……悪いわねシエスタ……。こいつの近くで眠ると、こいつのことが解るような気がするの……」 「解る、とは」 「えっと、夢っていうか、夢じゃないのかも。おかしな言い方だけどね、寝ている間は夢の中ではっきりとした意識があるのに、起きちゃうと――――」 ルイズは目の前に持ち上げた己の掌をそっと握り締めた。何かを逃がすまいとするかのようだった。 「消えちゃうの」 僅かに眉を下げて、ルイズは呟くようにそう言った。己がそのことを悲しんでいるのだと気付いていない声だった。 シエスタは軽く首を傾げると、優しく微笑んだ。実家に伝わる昔話を思い出したのだった。 「もしかすると、ミス・ヴァリエールは《夢見》かもしれませんね」 「ゆめ、み?」 「ええ。夢を通じて世界を知り、夢を通じて未来を知り、夢を通じて守護獣(ガーディアン)と語らう、そんな術を持つ人のことをそう呼ぶのです」 「ええと、がーでぃあん?」 シエスタから飛び出す聞きなれぬ単語に目を白黒させながら、ルイズが鸚鵡返しにその意味を問うた。 くすくすと笑いながらシエスタはすみませんと謝った。 「風にも水にも土にも火にも、山や花にさえ、あらゆるものにはそれを守り司る存在があるというお話です」 「……精霊みたいなものかしら?」 「私はそういった話に詳しくはありませんが、おそらくそれに近いと思います。ただ、存在するものばかりではなく、ヒトの強い感情や『未来』にすらガーディアンはいるそうですけど」 ふうんと頷いたルイズはまじまじとシエスタを見つめた。慌てたように赤面したシエスタが何事かとおそるおそる訊ねると、ルイズはこう言った。 「あなた、やっぱり変わってるわねシエスタ。聞いたわよ、アースガルズを洗ってっていう私の言葉を伝えられた時、一人だけ自分から進んで手を上げたそうじゃない」 「え、ええと。それは……」 恥じ入るようにシエスタは俯き、そしてちらりとアースガルズに眼を向けた。 「私の村にも、アースガルズさんに似た護り人形があるのです。時々お掃除してあげてましたから、そういうのは慣れてるな、って」 「護り人形? あなたの村にもアースガルズとおんなじゴーレムが?」 「ええ。私の曾お爺様といっしょに東からやってきたそうです。村に着いたときにはもう、うんともすんとも言わなくなっちゃったらしくて、曾お爺様はそうして村に住みついちゃったんですけど」 「へえ、じゃあ夢見だとかガーディアンだとかっていうお話は、その人から伝えられたのね」 「あら、おわかりで?」 「この国にそんな伝承は伝わっていないもの」 東、かあ。とルイズは呟き、アースガルズをかえりみた。 「ねえアースガルズ。あんた、東から来たの?」 「――――――――――――――――」 巨人は答えず。きしん、と軋みだけで返した。 「シエスタ。そのゴーレムと曾お爺さんってどうやって来たの? どうしてここに来たの? ううん、そもそもどの国から来たの?」 ルイズはもう一度シエスタに振り返ると、好奇心と興味に彩られた瞳でシエスタに訊ねた。無理もない。彼女は己の使い魔に纏わる情報に飢えていた。 どの文献を紐解こうが、アースガルズと同系統のゴーレムはどこにも見つからなかったのだった。次の長い休みにはシエスタの村へ行こうとすら思っていた。 そんなルイズの様子にシエスタは思わず微笑んだ。お話をせがむ弟や妹たちを思い出したのだった。そしていけないいけない、不敬だわ、と思い直す。 「ミス・ヴァリエール、曾お爺様のホラ話でよろしければ、お聞かせしましょう。 曾お爺様はファルガイアという国の兵士で、そのゴーレムといっしょに戦っていたそうです」 「ううん、知らない国ね。…………いっしょに? メイジだったのかしら」 「いいえ、違いますよ。普通の平民でした――――ああ、そんな顔をしないでください。ホラ話なんですから。 そうして敵と戦っているうちに傷を負って、ゴーレムを不時着させようとしたそうです」 「ちょい待ちッ!」 「はい?」 「不時着? ゴーレムが?」 「ええ、不時着です。ゴーレムが。空飛ぶゴーレムですね――――ですからホラ話なんですってば。 そうして地面に降り立ったらトリステインだったそうですよ」 うーん、と唸るとルイズは両手を挙げた。降参と万歳のちょうど中間であった。心中もそれとまったく同じだった。 「確かに、ホラ話ねえ」 「ええ。でも、空を飛んだっていうのは本当かもしれませんよ」 どうして、と訊ねるルイズに、シエスタは片目を細めて微笑んだ。悪戯をしかけた少女のような笑みだった。 「――――だって、足がありませんもの」 ■□■□■□ 思いの他話し込んでいたらしく、鳴り響いた予鈴の鐘にルイズはびくりと飛び上がると、慌てたように駆け出した。足は止めぬまま振り返る。 「 それじゃあね、シエスタ、アースガルズッ! またあとでッ!」 「――――はい。お励みくださいませ、ミス・ヴァリエール」 「――――――――――――――――」 深々と頭を下げるメイドと無言のままのゴーレムを残して、ルイズは校舎の中へと消えていった。 頭を上げたシエスタは微かに息を吐いた。やっぱり貴族さまの相手をするのは緊張しちゃう。ミス・ヴァリエールは普通の貴族とは違うみたいだけど。 強い風が吹き、シエスタの髪を揺らした。フェンガロンが駆け抜けたのかしら、と彼女は思った。 彼女は曽祖父の教えが好きだった。敬うべきものが多いことは幸せなことだと思っていた。人には何か無条件で信じられるものが必要だと彼女は信じていた。 よいしょ、ともう一度モップとバケツを抱えると、アースガルズを振り仰ぐ。 「じゃあアースガルズさん、昨日は右の肩を洗いましたから、今日は左の肩を洗いましょうか」 「――――――――――――――――」 ゆっくりと手を差し伸べる巨人の手にためらいもなく乗り込んで、シエスタは故郷を脳裏に描いた。 故郷でもこうやって――無論ゴーレムは動かなかったが――ゴーレムの肩に乗り、見渡す限りの草原を眺めるのが好きだった。 あの光景を見ながら育ったからかもしれない。曽祖父の教えを自然と受け入れていたのは。 アースガルズの掌が肩にたどり着いた。シエスタは魂を故郷の草原から目の前のゴーレムに引き戻し、彼の肩に危なげなく足をかける。慣れ、というやつだ。 「ぜんぶ洗い終わったら、今度は錆を落としましょうか。ぜんぶ錆を落としたら、今度はもう一度洗いましょうか。もう一度ぜんぶ洗ったら、今度はピカピカに磨きましょう」 鼻歌のように今後の遠大な計画を呟きながら、ごしごしとモップを動かす。 ああ、錆を落とす前に油を差すのもいかもしれない。それはあの子にしてあげたことはなかったから――――倉庫のミシン油を全部使っても足りるかしら? ■□■□■□ 仕事に没頭し始めたメイドに気付かれぬように、そろそろと使い魔たちがまた巨人に近付いてきていた。 足があるものは草場に足を擦りつけ、蛇のような長い体のものはごろごろと寝返りを打つ。 なにしろ。泥だらけの体でゴーレムに体をこすり付けると、ご飯を食べさせてくれる――つまりご主人様より偉い――メイドに怒られてしまうのだった。 ステア・ロウが天で働き、フェンガロンの息吹が心地よい、グルジエフに抱かれたある日の話である。 次へ進む 一つ前に戻る 目次に戻る