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クリフトのアリーナの想いはPart11 445 :従者の心主知らず さえずりの塔 前編 2/8 :2010/12/02(木) 06 15 11 ID gn7Vs5mP0 「お父さまが大変ってどういうこと!?」 砂漠のバザーで楽しい時間を過ごしている中、突然私たちを呼び止めたお城の兵士。 次に出てきた言葉はお父さまが大変だという一言。 「も、申し訳ありません。急使を承り、すぐに城を出たもので、私も詳しくは、存じないのです……。 とにかく、すぐにお城に戻るようにと、承っております……」 息を切らして答える兵士。よっぽど走り回って私たちをさがしてたんだということがいやでもわかった。 「もしや、王さまの身に何かあったのではっ!?ここはいったんお城に戻るべきではないでしょうか?」 「おお!わが王が!?これはいかん。いかんですぞ。のんきに旅をしている場合ではございません。すぐに城へ戻りましょう!」 じいとクリフトも口々にまくし立てる。荷物をまとめる音。落ち着かない空気。私は…… 「お父さま……」 「王さまは国のかなめ。王に一大事あらば国もまた……ひ、姫さま!?」 クリフトが言い終わらないうちに私はもう走り出してた。お城へ、早くお城へ。 「姫さま!お待ちください!!」 「姫!!待たれよ!!」 「姫さま!!」 私は走りながら考える。お城からここに来るまでどれくらいかかった?今から走って帰れば何日でお城につける? 早く、少しでも早く。 「姫さまーーっ!!!」 クリフトの声は聞こえないふりをした。 遠い。まだフレノールに着かないの?私はずっと走り続けた。疲れて少し歩いてはまた走って。 まだ見えない。私、知らない間にこんなに遠くに来てたのね……。 途中で足がもつれて何回も転んだ。転んでる場合じゃない。急がなきゃ。急がなきゃ……。 「姫さま!!お待ちください!!!」 起き上がって砂を払ってたら声が聞こえた。もう顔を見なくてもわかる。クリフトの声。なんでだろう、泣きたくなってきた。 「なによクリフト、待てるわけないでしょ!お父さまが大変だっていうのに」 私は振り返らないで言った。 「ひ、姫さ……ちょ……ま……っ」 クリフトはなかなか次の言葉を言わない。私はイライラして振り返った。 「こうしてる間にもお父さまはっ!……クリフト?」 クリフトはかがみこんでた。やけに息切れしてせきこんで。とっても苦しそう。片手を上げてるのは待っての合図? そっか……。クリフトも休まずに走ってきたんだ。私より足が遅いのに、体力もないのに、私を追いかけてきたんだ。 ばかクリフト……。私はクリフトの息が整うまで待った。少ししてクリフトは顔を上げる。 「姫さま、申し訳ありません……。お城へですが、走って戻るより早い方法がございます」 「え?」 「こちらを」 渡されたのは1枚の翼。 キメラっていう魔物の翼の力を封じ込めたもので、一度行ったところならどこへでもひとっとびで行けるっていう。 ああ……。テンペの村の道具屋さんで初めてこれを見たとき、そんなのうそよねって笑って、 でもこれがあれば今度はかんたんにお城を抜け出せるわねってふざけて言って、じいもクリフトも困ってて。 それが今目の前に……。 「こんなのうそよ!」 「このような大変なときにうそなどつきませんよ」 「うそ、だってこんな……本当にこんなのですぐお城に帰れるの……?」 「はい。ですからこうして追いかけてきたのではありませんか」 「っ…………」 もうなんでもよかった。早くお城に帰れるのなら。一日でも早く帰りたい。帰りたい……。 私はクリフトから翼の使い方を教わった。 鳥が空を飛ぶみたいに山を超えて一直線に行けるんですって。 でも使い方を間違えると違う場所にもいっしゅんで行ってしまうんですって。 私はいっしょうけんめい説明を聞いた。なんでかこれは自分で使いたかったから。 私は翼をぎゅっとする。 「よかった……本当にこれですぐ帰れるんだ……よかった……。私、もしお父さまの身に何かあったらって……」 お父さまの身に何かあったら。自分で言っておいてはっとした。もしお父さまの身に何かあったら……? ううん、ダメよ。大丈夫。それにこういうときこそ私がしっかりしなくっちゃ。大丈夫。 そう、たとえ何があってもびっくりしない私でいるのよ。うん。よし。大丈夫。 気づいたらクリフトの説明が終わってた。クリフトは……なんでかうつむいてた。小さくため息をついた気がする。 ため息っていうか、なんだろう。よくわかんない。クリフトもお父さまのこと、心配してくれてるのかな。 「クリフト?」 「……姫さま……」 クリフトが私を見た。なんで……なんでそんなに寂しそうな顔してるんだろう。少しだけ胸がずきっとした。 クリフトが私に手を伸ばしてきた。でも、つかむようでつかまない、宙ぶらりんの手。なんだろう。 「クリフト、どうしたの?」 「…………」 クリフトの伸ばした手をつかもうとしたら先に手をとられた。何かささやいてる。最後に聞こえたのはホイミ。あ。 「あせりは禁物です。この上われわれまでケガをしてはなりません」 「うん……ありがと……」 さっき何回も転んで手のひらにできたすり傷がいっしゅんで治った。クリフトはひざにもホイミしてくれた。 からだがほわっとあったかくなる。クリフトがホイミしてくれるときはいっつもそう。魔法ってほんとに不思議だなー。 きっとクリフトは、私やお父さまのことを心配してくれてたのね。 ちっちゃなころから自分のことより人のことばっかり優先するクリフト。私のことばっかり優先してくれるクリフト。 優しいクリフト……。 なんだかさっきまでの緊張がうそみたいにとけてからだが軽くなった。少しだけ元気も出てきた。 「っもう、せっかくこれから旅が面白くなるっていうところだったのに!でもしかたないわ。お父さまのほうが大事だもの。 旅はいつでもできるんだから、今はがまんよね!」 ちょっと大げさに言ってみせる。 「旅はいつでも…………そうですね」 「そうよ!」 あ、やっとクリフトが笑った。少しだけだけど。でもそう、その笑顔よ。私最近クリフトが笑ってくれないと気になるんだから。 じいはもう先にお城に戻ってるんですって。気を取り直して私たちもお城に向かった。そう、キメラの翼で! 久しぶりに戻ったお城。いつもの風景。変わらない兵士たち。よくぞ戻られましたって言われた。 私にお説教しないし閉じ込めようともしない。お父さまはほんとうに私が外に出るのを許してくれたんだってわかった。 お父さま……。 まっすぐお父さまのもとへ向かう。勇気を出して階段を上がったら、玉座にお父さまの姿を見つけた。 お父さまがゆっくりこちらを向く。いつものお父さま……? なんだ……なんだ!お元気そうじゃない!私は心からほっとした。 大臣や兵士がよくぞご無事でって私たちを迎える。でも、かんじんのお父さまが私たちに話しかけてくれることはなかった。 お声が……お父さまのお声が出ない。出なくなった。突然。前触れもなく。 どんなにお父さまに話しかけても、お父さまは何かを言いたそうにこっちを見るだけ。なんて苦しそうなお顔なの? 大臣が筆談で少しお話したみたいなのだけど、風邪ではないんですって。原因はわからないんですって。 もう、3日もたつんですって……。 そしたらじいが。じいが、何者かのしわざかもしれないって。お父さまのまわりにまがまがしき気配が見えるって言って。 私は思わずお父さまの手をぎゅっとした。お父さまも私の手をぎゅってしてくれた。ごつごつしてておっきなお父さまの手。 でも、お父さまは何も言ってくれない。何も……。 いっつもお説教とお小言と難しい話。でもたまにお優しい言葉もかけてくれる。あんなにうるさかったお父さまなのに……。 なんだかたまらなく寂しくなってきた。私は思わず大声で叫ぶ。 「お父さまはどうして何もおっしゃってくれないの?何があったの?ねえ!」 「……………………がはっ!げほっ!!」 「王様!!」 お父さまが何かを言おうとしてせきこんだ。手で口を押さえて。お顔を押さえて。とっても苦しそう。苦しい。お父さま……! 「王様、ただ今原因を調べているところです。今しばらくご辛抱を……」 大臣がかけ寄ってきてお飲み物を渡す。私…… 私、どうすれば。どうすればいいの?どうすれば……。教えて。教えてお父さま……。 私はまた叫んでた。 「悪いやつらも私だけをねらえばいいのよ!私は強いもの。私なら……。お父さま……っ」 気づいたら私は泣いてた。後ろでじいか誰かが何かお話してたみたいだけどもう耳に入らなかった。 私はずっとお父さまを見てた……。 お父さまは私を見たあと、ぼんやりと遠くをながめた。寂しそうな、つらそうなお顔……。 お父さまは今、何をご覧になっているの?何をお考えになっているの?何を伝えたいの?何を…… 「……姫さまは私が命にかえてもお守りいたします!」 ふいに聞こえたのはクリフトの声。私ははっとした。振り返るとクリフトが片ひざをついてお父さまを見てた。 やけに真剣な顔。お父さまもクリフトを見てた。まるでその声にご返事しているかのような、真剣なお顔……。 私はなんでか顔が熱くなった。 「ち、ちがうわ!私がクリフトを守るのよ!」 「姫さま……」 すっかり現実に戻った。そうよ、悲しんでる場合じゃないわ。私はもう一度お父さまの手をぎゅっとして言った。 「お父さま。もう少しだけ待っててね。次に帰ってきた時はきっと。きっとアリーナがお父さまのご病気を治してさしあげます!」 お父さまももう一度私を見て、手をぎゅってしてくれた。少しだけ目がうるんでるように見えた。 悔しい。なんでだろう、悔しい。なんだかもやもやする。落ち着かない。 私は今じいといっしょに裏庭に向かってる。大臣が裏庭のゴンじいなら何かわかるかもしれないって言ってくれて。 じいがゴンじいのこと知ってるみたいだったからいっしょについてくことにしたの。 でもクリフトは他に手がかりがないか探してきますって言って。何か進展があったらお互いに報告しようってことで別れた。 私が今もやもやしてるのはきっとクリフトのせい。 クリフトが大きな声を出さなければ私はきっとずっとお父さまを見てた。何があってもびっくりしないって決めてたのに……。 クリフトにお守りいたしますなんて言われたのもいやだった。私がクリフトを守るんだから。そう、私が守るんだから……。 「フム。ごくつぶしの詩人もたまには役に立つと。マローニに会いにゆきますか」 気づいたら私はゴンじいのとこにいて話が勝手に進んでた。 「マローニってあのサランの町にいるマローニ?歌ばっかり歌ってるあの人が何か知ってるとでもいうの?」 「ひとつの可能性ですがのう。しかし、姫さまもなかなかおっしゃいますな」 あ、ちょっと失礼な言い方になっちゃってたかな。でも今はあんまり気分がすぐれないの。 ゴンじいにもう一度くわしく聞いたら、マローニも昔のどを痛めたことがあって、でも今はこの国いちばんの美しい声だから、 もしかしたら何か知ってるかもしれないんだって。うーん。微妙。 「……でも他に手がかりはないわね。行ってみましょう!」 ゴンじいにお礼を言って私たちはサランへ向かった。クリフトは呼ばなかった。 「フム。この者の声はエルフの薬のせいだったと。まあ多くは語るまいて。今は砂漠のバザーにてさえずりの蜜を手に入れるが先」 マローニに話を聞いたら、さえずりの蜜というエルフの薬を飲んだために美しい声になったんですって。 その蜜は昔砂漠のバザーの道具屋で見つけたんですって。 砂漠のバザーって……あそこじゃない!だって世界中を旅してるからあそこでバザーを開くのはひさしぶりだって……。 「そうですね。もう5年以上は前のことですよ」 「5年以上も前……?」 「ええ。またあそこでバザーが開かれているのですか。なつかしいですね」 そんなに前のことだなんて……私はやっぱり運がいいのね。 マローニにもお礼を言って私たちは教会をあとにした。 「他にお父さまを治す手がかりはないわ。さえずりの蜜にかけてみましょう。じい、キメラの翼をちょうだい」 さっきゴンじいの部屋に行ったとき、何かのお役に立つかもしれないからってキメラの翼をもらったの。 さっそく役に立つわ。もうその効力は実証ずみだもの。悔しいけど、うそでもいんちきでもなかった、魔法のアイテム。 「キメラの翼?ほっほっ。そのような道具に頼らずともこのじいめの魔法でひとっとびですぞ」 「うそ!じいったらそんな魔法使えるの!?」 「姫さまが城へ戻る決意をしてくださればすぐにでも披露できたんですがのう……」 「っもう、お説教はいいわよ。じゃあ早く行きましょう」 「はて、姫さま。金の管理はクリフトのアホめに任せております。あやつを連れてこなければ買えませんぞ」 「え?」 クリフトの名前を出されてドキッとした。って、なんでドキッとするのよ。 「えっと……そっか。ただで手に入るわけじゃないものね」 「詩人など何の役にも立たぬと思っておりましたがたまには良いこともしますな。ささ、早くクリフトのアホタレを呼びに行きますぞ」 じいのほうがもっと失礼ね。じいも気分がすぐれないのかな。 お城に戻ったときには日がもう傾きかけてた。早く行かないと道具屋さんがしまっちゃうかも。 クリフトは教会かしら。私は勢いよく扉を開けた。 「おや姫さま。クリフトでしたら奥の部屋にいますよ」 「あ、ありがとう神父さま」 「いえいえ、お元気そうで何よりです」 いつもと変わらないやりとり。でもすっごく久しぶりな気がする。そう、神父さまは私が行くと真っ先にクリフトの居場所を教えてくれるの。 神父さまもお元気そう。うん、何も気にすることはないわ。私は奥の扉も勢いよく開けた。本が散らばってる先にクリフトがいた。 「ひ、姫さま!扉の開閉は静かにと常々申し上げているでは……ああ、また入り口もそのような勢いでお開けになったのですね?」 「しょうがないじゃない、こうなっちゃうんだもん」 いつもと変わらないやりとり。でもすっごく久しぶりな……あ、いつものお説教クリフトだ。 少しだけほっとした。だってさっきのクリフトはまるで別人みたいに見えたから。うん、ほんとに何も気にすることないわ。 「クリフト、バザーに戻るわよ」 「え?……何か手がかりが見つかったのですね!?」 「そう、早くバザーに戻るわよ」 「ああ、お待ちくださいすぐに片づけますので」 クリフトはバタバタと本を片づけ始めた。ちらっとタイトルを見ると「聖歌の歩み」とか「解呪の手引き」とか「信仰と祈り」とか。 ああ、難しそうなのばっかだわ。どうせならこう「格闘技の歩み」とか「護身術の手引き」とか「パンチとキック」とか。 そういうのなら私だって読んでみようかなって気になるのに。 片づけを手伝おうとして一番手前の「信仰と祈り」って本を取ろうとしたらクリフトに先にとられた。すぐ終わるから大丈夫だって。 だからって私が取ろうとしたのを取らなくてもいいじゃない。ちょっと気分悪いわ。 「クリフト、私も少し調べ物をしたいので書物はそのままにしておきなさい」 神父さまがひょいっと顔を出して言った。 「神父様、ですが」 「それよりも、何やら急ぎのようではありませんか。さあ、早く出かける準備をなさい」 「は、はいっ」 急いで荷物をまとめるクリフト。あ、そうだ。そうだった。私は神父さまに頭を下げる。 「神父さまごめんなさい。もう少しだけクリフトをお借りしていきます」 「姫さま、人を物みたいに言わないでください」 「ええ、ええ、構いませんよ。クリフトのひとりやふたり、どんどん持ってゆきなさい」 「神父様……」 「ですが、また東に行かれるのですね」 あ。そういえばお城を出る前神父さまは東の空からあやしげな気配がどうのこうのって言ってたんだっけ。 神父さま、近ごろは胸さわぎがして眠れないんですって。もしかして、神父さまは何か知ってるのかな。 大臣がお父さまのことは他のみんなには知られないようにしたって言ってたから神父さまも知らないはずだけど。 お父さまのことはみんな知らない……心配をかけないように気をつかうだなんて。お父さま……。 お父さまはきっと私が治してみせるわ。ぜったいに治してみせるわ。 教会を出るとき神父さまは気をつけて行ってらっしゃいって言ってくれただけで他にはなんにも言わなかった。 私たちに事情も聞かなかった。 だから私たちもお父さまのことは話さなかった。 「ほほう、ニブい神父でも何かを感じとっているというわけですな。これ以上国のものを不安にさせぬためにも王さまを!」 「ブライ様、神父様はニブくありませんよ。むしろとても鋭い方です。 ですが、エルフの薬ですか。なるほどそれなら王の病気も!さあ行きましょう。砂漠のバザーへ」 準備は万端。時間はギリギリ。でももし道具屋さんが開いてなくても実力行使でさえずりの蜜を売ってもらうわ。 「お父さま、すぐにアリーナが病気を治してさしあげます。だからそれまでお元気でいてください……」 「さあさ、急ぎましょう!」 じいが何かささやいた後、大きく叫んだ。ルーラ。私たちは再び砂漠のバザーへ。 さあ、目指すはさえずりの蜜! ただひとつ気になったのは、さっきまで喜んでたクリフトがまた寂しそうな顔でうつむいたことだった。
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【クリアリ】クリフトとアリーナの想いは Part13【アリクリ】 142 名前 名前が無い@ただの名無しのようだ Mail sage 投稿日 2013/06/01(土) 23 01 10.47 ID ad8IA2MI0 山麓です。解除祝いの『クリフト、ザオリクを唱える』 初ザオリクはこんな感じかと思った。 「姫様!!」 嫌な音と共にブライの小さな体が地面に叩きつけられた。それは一瞬の出来事だった。 対峙している魔物に珍しく苦闘していたアリーナは、珍しく背後からの新手の魔物の攻撃に気づいていなかった。その魔物の攻撃がアリーナに振り下ろされる瞬間、ブライがアリーナを庇うように魔物との間に入り、その攻撃を己の体を盾に受け止めた結果だった。 「ブライ様!!」 「ブライィーーーーー!!」 魔物を仕留めたアリーナは背後の異様な気配に振り返った。そしてアリーナの目に映ったのは、見るも無残な姿になった老魔術師の姿だった。 「いやぁ! 」 いつものアリーナとは違った悲鳴のような声と、震えるように立ち尽くし、子供のようにイヤイヤする姿に、クリフトは居ても立ってもいられず、馬車を飛び出した。 「姫様」 飛び出し、手土産と言わんばかりに、ブライを叩きつけた魔物を切り捨て、地面に縫い止めると、アリーナに駆け寄った。 「ブライが……、ブライが…… 」 パーン メダパニを受け、子供が泣きじゃくるように、錯乱し荒れ狂っているアリーナの頬をクリフトは叩いた後、強く抱きしめた。 「落ち着いて下さい姫様。姫様は一国の姫、忠臣の犠牲に動揺してはなりません。そしてブライ様は私が生き還らせます故に……、信じて下さい」 「ク…‥リ…フ…ト…」 何が起きたか分からない様子のアリーナだったが、クリフトの最後の「信じて下さい」の言葉に己を取り戻した。 (ザオラルでは厳しい。ザオラルの上位ザオリク……) クリフトはブライの肉体を検分し、厳しい状況である事はすぐ分かった。 (この私に……、出来るのか。ザオリクが……) 思案の果てに目を瞑り、開けた視線がアリーナの不安な瞳とぶつかった。その瞳を見た瞬間、クリフトは腹を決めた。 「聖水を下さい。場を清めます」 「あっ、はい」 慌てて馬車にから、トルネコが聖水を持って来て、クリフトに渡した。クリフトはその中身をブライの周囲に振りまいた。 「陰府より向かえし魂よ、こちらへお戻り下さい。ザオリク」 ロザリオを握りしめて、クリフトは祈りを捧げた。 (あっ、引きずられる) クリフトは普段のより奪われる精気に一瞬よろめきそうになった。しかし背後から抱きしめられる感触を感じとどまった。 「クリフト、信じてるから――」 (姫様……) ブライの瞼が開いたのは、それからまもなくだった。
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クリフトとアリーナの想いはPart7 97 :ミネア1/4 ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/03/14(水) 06 25 00 ID zyTEPsQz0 私とクリフトさんには、共通の話題が多い。 同じ回復系呪文の遣い手であり、お互い、手芸や料理も嫌いじゃない。 また、神官であるクリフトさんは、霊の世界にも詳しくて 私達は、暇さえあれば、2人でいろいろなことを語り合っていた。 にもかかわらず、仲間うちで私とクリフトさんの仲が取りざたされることはなかった。 皆、クリフトさんが心から想っている人が誰か、良く知っているから…。 「ねえミネア。あんたまさか、クリフトのこと好きなの?」 ある日、2人きりのとき、姉さんからの突然の質問に私は冷やりとした。 「何を言うの、姉さん。あの人にはアリーナさんがいるじゃないの。」 「それじゃ、答えになってないわよ。」 「ばかばかしい。年下の、しかも他の女性を好きな人なんか、好きになりません。 クリフトさんとは良いお友達よ。」 「…なら、いいけどね…。」 疑わしそうな姉さんの視線をさけるように、私はその場を離れた。 姉さんに言った言葉がそのままはね返り、私を切りつけてくる。 …他の女性のことを好きな人なんか…、か。 クリフトさんに最初に会ったときには、 力尽き、闇の力に取り込まれそうになっている姿を、恐ろしくも気の毒に思った。 回復した後は、その常識ある言動や神官らしい落ちついた物腰に安心と好感を抱いた。 その後、クリフトさんが、あのとき闇に取り込まれていた理由を知った。 自分の命を危険にさらして、神官としての誓いに背いてまで、禁呪を覚えた。 全ては、想い人のため…。 たとえ、その想いが届かなくても。 それでも、守る。命を懸けて。 その、アリーナさんに対するクリフトさんの真摯な想いを知ったとき。 ―――私は、恋に落ちた。 本当に、ばかばかしくて、笑ってしまう。 他の女性を想う心を知ったがために、その人を好きになってしまうだなんて、 要領が悪いにも程がある。 そんなある日、私は、クリフトさんにあることを打ち明けた。 「メガザルを覚えた…?何てことを!!」 「私なんて、攻撃も回復も中途半端で、これくらいしか役に立てないから。」 「そんな!ミネアさんは、いつも素晴らしい働きをされてるじゃないですか。 皆、ミネアさんを必要としています。」 真剣な目で私を見つめるクリフトさん。 「…だから、お願いですから、そんな呪文、使わないでください。」 そんな目で、そんな声音で、でも、あなたの想いはここにはない。 ―――それでも、かまわない。 私が好きになったのは、アリーナさんを一心に想うあなた。 だから、あなたに、アリーナさんへの想いをあきらめて欲しいとは思わない。 ただ…、一つだけ…。 私がメガザルを覚えた理由。 私の命と引き換えに、他の皆が完全に回復したそのとき。 そのときだけは、クリフトさんの思いは私だけに向けられる。 きっと彼は、全身全霊で、私に蘇生呪文をかけようとするだろう。 クリフトさんの瞳に写るのは、私だけ。 …いっときでいい。 …あなたを、独り占めさせて欲しい。 それが、私の、たった一つの望み。 気づくと、クリフトさんは、まだ心配そうにこちらを見つめていた。 「…そうね、できるかぎり使わないようにします。」 私は、さらりと嘘をつくと、クリフトさんに微笑んでみせた。
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964 お酒1/7 ◆XJ3Ut0uuQQ [sage]2007/02/19(月) 00 59 15 ID r6sRVgy30 「あー、太陽のもとでの一杯って、最高ね~!」 ビュッフェ形式の屋外レストランがあると聞き、皆でやってきた勇者一行。 郊外にあるレストランは、初夏の暖かい日差しの下、眼に映える新緑に囲まれ、 あちらこちらのテーブルで、客たちが気持ちよさそうに酒食を楽しんでいた。 マーニャは早速1杯目の酒を飲み干すと、 隣でアイスティーを飲んでいるクリフトを見やった。 「かー、相変わらずそんなもん飲んで!前から思ってたけど、あんた、お酒飲めないの?」 「いえ、飲めなくはない…と思うのですが、私は神に仕える身ですから…。」 「へえ?神官は飲酒禁止なわけ?」 「ええ、お酒を飲むと、呪文の効果が薄れるといいますし…。」 「へーっ、あたしなんか、酒が入った方がパワー満タンで絶好調だけどねっ!」 マーニャはそう言いながら2杯目のグラスを呷った。 「神官系呪文を遣うには、精神の安定が必要ですから…だいたい、 マーニャさんは特別ですよ。」 苦笑するクリフトに、マーニャが誘うように空のグラスを向けた。 「でもさ、ここは街も近いし魔物も出ないわよ。ちょっとくらい、飲まない?」 「いえ、いつ何時、回復呪文が必要とする方が現れるかわかりませんし。」 「あーっ、もう、相変わらず硬いわね!大丈夫よ!薬草たくさん持ってるから!」 ソロもミネアもいるしね、と、マーニャは付け加えた。 それでもまだぶつぶつ言っているクリフトに、マーニャは奥の手を出した。 「分かったわよ。…じゃあ、代わりにアリーナに飲んでもらう。」 「な、なんでそうなるんですか!」 クリフトは凄い勢いでマーニャの方を振り向くと、その後、慌ててアリーナの様子を伺う。 アリーナは、勇者やミネアと一緒に食べものを取りに行っており、席を外していた。 マーニャはにんまりと笑って言った。 「臣下の不足は主君が責任をもって補う、これ原則でしょー!」 「不足って、なんなんですか…。マーニャさん、言ってることが滅茶苦茶ですよ。」 クリフトは額に手をやると、ブライに目線で救いを求めたが、 自分自身が既に飲み始めてしまっているブライは、知らん顔をしていた。 クリフトは考えた。 マーニャがこの調子でアリーナに酒など勧めた日には、 アリーナは飲みたがるに決まっている。 それをなだめるのに必要とする労力と手間、その後に続く姫様の不機嫌を考えると、 クリフトの取るべき道は一つだけだった。 クリフトはため息をつくと、マーニャを睨んで言った。 「…分かりました。でも、今日だけですからね。」 そうこなくっちゃ、とマーニャはいそいそとクリフトのグラスに酒を注いだ。 2時間後。 マーニャは、クリフトに酒を勧めたことを心から後悔していた。 「その聖蹟の意味ですが、ときの宗教者ドミニクスの解釈によると…。」 クリフトは、背筋を正し、延々と神の奇跡についての講釈を垂れている。 その横には、ずらりと並ぶ酒の空き瓶。 「…なんで、これだけ酒飲んだ挙句に、神学の講義になるわけ…。」 「俺に聞かれても知らないって。責任取れよ、マーニャ。」 ひそひそ囁き合うマーニャと勇者に、クリフトの鋭い叱責が飛んだ。 「そこ!私語は厳禁ですよ!」 「…。クリフト、完全にここを神学校と勘違いしてるわよ…。」 「…あいつら、うまく逃げやがって…。」 勇者は恨めしそうに、かつうらやましそうに、隣のテーブルをみやった。 オヤジ連中はさっさとテーブルを移って自分達だけで勝手に飲んでいる。 ミネアも、「あら、あちらのテーブル、おつまみが足りないみたい…。」などと つぶやいて席を立つと、そのままちゃっかりとオヤジテーブルへと移動してしまった。 逃げ損ねたのは張本人であるマーニャと、食事に熱中していた勇者、そしてアリーナ。 活き活きと神学を語るクリフトの隣で、にこにこと食事を続けるアリーナを見て、 マーニャが不思議そうに聞いた。 「あんたは、こんな話聞いてて面白いの?」 「んー?クリフトの神学講義は、お城にいた頃から聞いてるし、慣れてるから~。」 「慣れてるとかいう問題なの?」 「…要するに、いつも聞いちゃいないってことだろ。」 勇者の答えにがっくりとうなだれたマーニャの背後から、野太い声がかかった。 「ようよう、ねーちゃん。こんな辛気臭い坊主なんかほっぽいて、俺らと飲まない?」 いかにも柄の悪い地元のゴロツキどもが数人、にやにやとマーニャに笑いかけている。 「あら、いいじゃない。」 「ちょ、ちょっとマーニャ。」 勇者は止めたが、マーニャは、この際この場を逃げられれば何でもいいとばかりに 立ち上がる。 これに気を良くしたゴロツキどもは、クリフトに向かってガハハと笑った。 「というわけだ、悪いな、にーちゃん、この人は借りていくよ。」 「困ります、今はまだ講義の途中なのに…。」 自分の置かれている状況を全く分かっていないクリフトであった。 「講義だぁ?んっとにつまんねーヤローだな。そんなんだから、女に逃げられんだよ。」 実際のところ、ゴロツキどもの言うことは、ある意味間違ってはいないのであるが、 これに、さっきからゴロツキどもを睨んでいたアリーナが憤然と抗議した。 「失礼ね!クリフトは、辛気臭くも、つまんなくもないわよ!」 「おいおい、アリーナ。」 勇者が袖を引くのを無視して、アリーナはマーニャに言った。 「マーニャも、こんな下品な人たちと一緒に行っちゃだめ!」 「…えー、だってぇ…。」 しかし、こんどはゴロツキどもがアリーナの言葉に反応した。 「んだとぉ、このアマっ子、下品な人たちたぁ聞き捨てならねぇな。」 「そうそう、ガキだと思って大目に見てもらえると思ったら大間違いだぜ。」 ゴロツキの一人がアリーナの肩に手をかけようとした。 しかし。 「いてっ」 アリーナに手を伸ばした男は、その手を押さえ、慌てて引っ込めた。 アリーナの横には、底光りした目をしてフォークを構えるクリフト。 男の手からはじわりと血がにじみ出ていた。 「なによ、クリフト、私がぶっ飛ばしたかったのに…。」 口の中でブツブツ文句を言うアリーナにかまわず、クリフトは ゆらりと立ち上がると、手を押さえているゴロツキに向き直った。 「…姫様に対する、その暴言、その態度。許せません。」 完全に目が据わっている。 しかし。 「おうおう、にーちゃん、勇ましいねぇ。優男が無理して怪我するぜ。」 一見、線が細く柔和なクリフトに、ゴロツキどもは馬鹿にしたように笑った。 「張り切りすぎると、後悔するぜ、神官さんよ。」 マーニャ、勇者、アリーナは固唾を飲んでこの状況を見守っている。 心なしかマーニャの目はきらきらと輝いていた。 「うっわー、だんぜん面白くなってきたじゃないの~♪」 「マーニャ…ホントに勘弁してくれ…。」 頭を抱える勇者。 向こうのテーブルでも、騒ぎに気づいた仲間達がなんだなんだとこちらを向いた。 そのとき。 「魔物だーーー!」 後方から客の悲鳴が上がった。 見ると、オックスベアの集団がこちらに向かって突進してきている。 「あわわわわ、や、やべえぞ、おい。」 ゴロツキどもも、それを見て蒼くなり、慌てて逃げようとした。 そこへ、クリフトが眉間にしわを寄せ、 「まったく今日は、次から次へと、講義の邪魔が入りますね…。」 とつぶやくと、左手をモンスターの方向に向けて一言はなった。 「ザラキ!」 オックスベアの群れは、一瞬にして灰と化した。 周囲の客はどよめき、次の瞬間、歓声が上がった。 「…あんただって、酒飲んだときの方が呪文の調子、いいんじゃないの…。」 マーニャが小さい声で呟く。 ゴロツキどもは、信じられないというように細身の神官を見つめていたが、 「…さあ、次は、あなたたちの番です。」 振り向くクリフトに、へなへなと腰が抜けたようにその場にへたりこんだ。 「お、俺達が悪かった。許してくれ。」 涙目で懇願するゴロツキどもに、クリフトはにっこりと微笑み、歩み寄った。 「いいえ、許しません。そこになおりなさい。」 「ひーーーー!」 ゴロツキどもの悲鳴が響き渡った。 「…クリフトも、容赦ないなー。」 「酒飲んでるから、歯止めが利かないんじゃない。」 マーニャと勇者は頬杖をつき、2人でクリフトを見やった。 その前には、ゴロツキどもが一列になって、ちんまりと正座している。 クリフトは、ゴロツキどもに歩み寄ると手を怪我した男にホイミを施し、 唖然としたゴロツキどもを正座させ、その後延々と説教を始めたのだった。 「礼節を重んじる、というのは、人が人であるために、必要最低限の心です。 あのような粗暴極まりない言葉遣い、態度では、あなた方は獣と一緒です。 いいですか、そもそも神の教えによれば…。」 クリフトの斜め横では、アリーナが相変わらずニコニコしながら、デザートに入っていた。 「アリーナ、あれ、聞いてんのかな…。」 「さあ…。聞いてないんじゃない。」 「…クリフトの説教、あれは、当分終わらないな。」 「…先、帰ってる?」 「他の連中も帰っちゃったみたいだしな…。」 「ホントに、ミネアも要領いいわよね。」 勇者とマーニャは立ち上がり、クリフトを振り返った。 「酔ったクリフトは、怖いな…。」 「…もう、二度と飲ませようなんて思わないわよ…。」 そして、2人してため息をついたのだった。
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クリフトとアリーナの想いはPart7 709 :バトランドの王子 1/13:2007/09/15(土) 19 38 56 ID +ANoqwnO0 バトランドに立ち寄ろうとした旅の一行であったが、フィールドを彷徨うちに、 どうやらバトランド軍の野営地に紛れ込んでしまったらしかった。 バトランドの国旗をはためかせた天幕がそこここに点在し、大勢の兵士達が行き来している。 「ふむ。我が国の護りは万全のようですな。」 周囲を見回し満足そうに頷くライアンの元に、見張りの兵士らしき者達が駆け寄ってきた。 「お久しぶりでございます、ライアン殿!!」 「おお、お前たちは…では、これは第一近衛師団か?」 兵士達に是非に師団長に会って欲しいと懇願され、一行は、野営地の中心に同行した。 一際大きな天幕に着くと、同行した兵が、天幕の中に向かって敬礼し声を張り上げた。 「師団長殿!ライアン殿とそのお仲間をお連れいたしました!」 「おお、ライアン。久しいな。」 天幕の入口をくぐって出てきたのは、ライアン並にたくましい体をしていたが、 ライアンよりもだいぶ若く、輝く金髪、整った顔立ちの好青年であった。 「あっら~!いい男じゃない。」 マーニャが上機嫌で叫んだ。 ライアンは、うやうやしく師団長の前に跪くと大声で叫んだ。 「リリアン殿下にはご機嫌麗しく、恐悦至極に存じます。」 「相変わらずだな、ライアン。」 青年は苦笑すると、一行を眺め、天空の装備をまとった勇者に目を止めた。 「…どうやら、お前の勇者探索の旅は上首尾に終わったようだな。」 「はっ、しかし、旅はこれからが本番でござって…。」 そのとき、ライアンをマーニャが後ろからつついた。 「ちょっとちょっと!今、あんた、殿下って言わなかった?」 「おお、これは失礼仕った。」 ライアンは向き直ると大声で呼ばわった。 「このお方は、バトランド国第三王子、第一近衛師団長にしてバトランド最強の戦士、 リリアン殿下であられる!」 そして、王子に再敬礼をした。 「殿下、勇者殿と旅の仲間達を、殿下にご紹介申し上げてもよろしいでしょうか!」 王子はほがらかに笑って頷いた。 「そうかしこまるな。こちらこそ、さっきから紹介して欲しくてうずうずしていた。」 ライアンが仲間を順番に紹介していく中、アリーナの名前を聞いて、王子は眉を上げた。 「サントハイムの…アリーナ王女?あの、武術大会で優勝した?」 「優勝って言っても、決勝戦は不戦勝だけど。」 アリーナは肩をすくめる。 「そうか、噂のお転婆姫が、こんなに可愛らしい方だったとは…驚いたな。」 王子の言葉に、アリーナの後ろに控えていたクリフトが、ピクリと反応した。 王子が、それに気付いたように顔を上げたが、クリフトは王子から目をそらしていた。 そこに、アリーナがはしゃいだ様子で王子に声をかけた。 「それより、あなた、バトランド最強だったら、ライアンよりも強いの?」 「これ、姫様。他国の王子に対し、失礼でありましょう!」 ブライが慌てて注意したが、王子は笑って手を振った。 「かまわないよ。私も堅苦しいのは苦手だ。」 そして、アリーナに笑いかけた。 「今まで彼に負けたことはないはずだが…久しく手合わせをしていないし、 ライアンはその間に随分腕を上げたようだから、何とも言えないな。」 アリーナは目を輝かせた。 「ライアンに負けたことないなんて、すごいわ!私なんか、3回に1回しか勝てないもの!」 王子は感心したようにライアンとアリーナを見比べた。 「ライアン、お前…この姫に3本に1本も取られているのか。」 「…面目ありませぬ。」 「それ言ったらね、ソロは3回に2回はライアンに勝つわよ!」 王子は、賞賛の目で少年を見、勇者は居心地悪げにぽりぽりと頬をかいた。 「さすがは勇者殿だ!これは、是非、皆さんにこちらに滞在していただきたいな。」 結局、王子の要望を断るわけにもいかず、一行はしばらくの間、野営地に留まることになった。 アリーナはすっかり王子と意気投合し、ほどなく、2人で野営地を歩き回るようになった。 兵士達とも手合わせをしては盛り上がっているらしく、アリーナはすっかり人気者だった。 手合わせには、勇者やライアンはもちろん、他の仲間達もときどき参加していたが、 クリフトだけは、ただ1人黙々と、天幕の横で薬草類の手入れに勤しんでいた。 「クリフト!今日も薬草のお手入れ?」 そんなある日、薬草を広げて乾かしているクリフトのもとに、アリーナが立ち寄った。 野営地に来てから、クリフトがアリーナと2人きりになるのは久しぶりのことだった。 「たまには一緒に手合わせしましょうよ。リリアンはホントに強いわよ! 今日の昼食のあとも、手合わせの約束してるの。今度こそ、勝って見せるわ!」 頬を紅潮させて楽しそうに報告するアリーナに、クリフトは微笑んだ。 「姫様…楽しそうで、何よりです。 でも、私は、こちらでの滞在中に薬草類を整えておきたいので…。」 アリーナは口を尖らせた。 「んもう、クリフトったら相変わらずね!じゃあ、時間ができたら顔を出してね!」 そして、元気に手を振ると走り去った。 クリフトは、アリーナの後姿を見送り、小さく息をつくと、再び薬草を広げ始めた。 そこに、 「おい、クリフト、いいのか?」 「…ソロさん。」 後ろから声をかけられ、クリフトは振り向いた。 天幕の影から、不機嫌そうな顔をした勇者が現れた。 「…殿下がご一緒ですし、この陣営の中ならば、姫様の御身は安全でしょう。」 「そんなこと言ってんじゃ……。まったく、お前ときたら、素直じゃない奴だよ。」 勇者は、立ち去り際に、何気なく一言放った。 「王子は随分アリーナを気に入ってるみたいだぜ。」 クリフトは、それには答えず、ただ、手にした薬草を強く握り締めた。 その日の午後、アリーナは予定どおり王子と一緒に出かけ、他の面々は適当に寛いでいた。 クリフトは木陰で薬草を選り分けていたが、そこにライアンが鼻歌を歌いながら近づいた。 「いやー、クリフト殿!殿下はすっかりアリーナ姫をお気に入りの様子でござる。 リリアン殿下とアリーナ姫ならば、まさしく好一対、お似合いの2人ではないか! お2人が結ばれて両国の架け橋となられれば、我々臣下としては、喜ばしい限りですな!」 うれしそうに叫ぶライアンに、クリフトは弱々しい笑みを返した。 そして、口の中で何か呟いて立ち上がると、ライアンに軽く頭を下げて、その場を後にした。 ライアンはクリフトの後姿を見ながら、はて、と首を傾げたが、次の瞬間、 勇者とマーニャに後ろから襟首を捕まれ、ぐえ、と声を上げた。 「な、何を、ソロ殿、マーニャ殿…!」 うろたえるライアンを、勇者とマーニャは、怖い顔をして睨んだ。 「あんたも、いい加減に空気を読むってことを覚えなさいよ。」 「この件については、これ以上何も口に出さないようにして欲しいんだけどな。」 ライアンは、2人の勢いにきょとんとした顔をしていたが、次の瞬間、相好を崩した。 「相分かった!こういったことは、本人たちに任せるのが一番! 周りが騒ぎ立てると却ってうまくいかなくなるものですからな。」 了解了解、と頷きながら立ち去るライアンを見ながら、勇者とマーニャは顔を見合わせた。 「…どうやったらああいう勘違いができるかしらね…。」 「ま、まあ、結果論としては、これでよかったのかな…?」 「クリフトさん、クリフトさん!」 野営地を歩くクリフトに、トルネコが後ろから追いすがった。 「何でしょう、トルネコさん?」 クリフトが、やや構えたように振り返る。 「ねえ、本当にいいんですか、リリアンさんとアリー…」 クリフトは、トルネコの言葉を途中で遮った。 「トルネコさん。以前にも申し上げたとおりです。 私の望みは、姫様が、誰もが認める素晴らしい方と結ばれることだと。」 「…で、あなたは、リリアン王子が、その素晴らしいお方だと認められるわけですか。」 「…違いますか?殿下は、身分、指導力、ご見識、いずれも何の問題もないかと。 それに何よりも、姫様が殿下のことを好ましく思われておられるのですから…。」 「私には、アリーナさんは、単に手合わせを楽しんでるだけに見えるんですけどねぇ。」 トルネコは苦笑した。 「いずれにせよ。」 クリフトは首を振った。 「姫様のお相手について、臣下の私がとやかく言うことではありません。」 そういうと、どこか不服そうなトルネコに背を向け、足早に去っていった。 そのまま、数日が過ぎ、そろそろ一行も旅立たねばならない時期がきた。 ある日の朝食で、勇者は、王子や皆に、明日は野営地を出るつもりであることを告げた。 王子は残念そうな顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。 「仕方ない、君らは大きな使命を負っているんだから、これ以上引き止めてはいけないな。 では、せめて今晩は、ささやかながらお別れの晩餐を設けさせてくれたまえ。」 朝食後、荷造りをしていたクリフトのもとを、王子がふらりと訪れた。 「リリアン殿下!?」 滞在中、クリフトと王子が言葉を交わしたことはほとんどなかった。 慌てて居住まいを正すクリフトに、王子は笑いかけた。 「忙しいところ悪いが、ちょっとそこまで、顔を貸してもらえるかな。」 クリフトは、一瞬ためらったが、何も言わずに腰を上げた。 王子は、クリフトを野営地から少し離れた草むらに連れ出した。 そこは、背の高い草が密集しており、野営地からは死角になっていた。 王子は、クリフトに正面から向き直った。 「今日の晩餐で、私は、アリーナに求婚しようと思う。」 クリフトは、わずかに肩を揺らしたが、その表情は変わらなかった。 「それは…おめでとうございます。」 「その言葉は、額面どおり受け取ってもいいのかな。」 「…どういう意味でしょうか。」 「君は、アリーナをどう思ってるんだ?」 クリフトの瞳が、一瞬、揺れた。 しかし、クリフトの口から出た言葉は、冷静そのものだった。 「どうとおっしゃられても。私は姫様を臣下として敬愛しておりますが。」 「…子供の頃からアリーナの側で仕えてきたんだろう?」 「はい。私の役目は姫様の御身の安全をお守りすることですから。」 リリアンの刺すような視線を、クリフトは静かに受け止めていた。 「…なかなか、強情だな、君も。」 何が、と口を開きかけた次の瞬間、クリフトは驚いて飛びすさった。 王子が、剣を抜いてクリフトに切りかかってきたからだ。 「殿下!これは一体どうしたことですか!」 叫ぶクリフトに、王子はにやりと笑いかけた。 「…けっこう、いい反射神経をしてるじゃないか。」 そして、「受け取れ。」と、自分の持っているもう1本の剣をクリフトに放った。 「君とは、是非一度手合わせしてみたいと思ってたんだ!」 「何を…おやめください、殿下!」 クリフトの抗議に耳を貸す風もなく、王子はクリフトに再び切りかかった。 クリフトは、うなりを上げる刃風に、反射的に鞘を払うと剣を抜き合わせた。 王子は、剣を構えたクリフトを見て嬉しそうに笑った。 「いい構えをしてるじゃないか…これからが本番だ、行くぞ!」 草むらに、激しい剣戟の音が響き渡る。 しばらく切り結んだ後、王子とクリフトは互いに後ろに飛び離れた。 2人とも、呼吸が上がっている。 王子は、感心したようなうなり声をだした。 「…やるな。頭脳派の太刀筋だ―――だが!」 クリフトは、次の瞬間凄まじい剣圧に押され、草むらに倒れ込んだ。 「いかんせん、重量が足りないな。」 クリフトの喉元には、王子の剣の切っ先がぴたりと押し付けられている。 「――こんなことで、大事な姫様を守ることができるのかな。」 王子が、皮肉気に口をゆがめて言った言葉にクリフトの目がギラリと光った。 初めて見る、激しい感情を顕にした神官の表情に、王子が驚いた顔で体を引いた。 クリフトはその隙を逃さず王子を跳ね飛ばした。 その拍子に剣先がクリフトの首筋を傷つけたが、クリフトはそれを気にする様子もなく 立ち上がると、怒りに燃えた目で王子を睨んだ。 「守りの方法は1つじゃありません…。私は、何があっても姫様だけは守ってみせる!」 しばらくの間、2人は無言で睨みあっていた。 先に口を開いたのは、王子の方だった。 「悪かった。」 クリフトの肩からも、力が抜けた。 「どうしても、一度君と手合わせがしたかったものでね…。」 「…いえ。私の方こそ、殿下に対し、大変失礼なことを……。」 クリフトは、先の勢いが嘘のように、力なくぼそぼそと呟いた。 王子は、そんなクリフトをしばらく黙ってみていたが、再び口を開いた。 「…もう一度聞くが、私がアリーナに求婚することに、君は異論はないのか。」 「…私が何かを申し述べる立場では」 「分かった。もういい。言っておくが、私は本当に彼女のことが好きだからな。」 王子は、そう言うと、クリフトをその場に残して立ち去った。 その日の晩餐は、野営地なりに豪華な食事が用意され、楽しげな会話が弾んでいた。 その中で、クリフトだけが一人、黙りこくってスプーンをのろのろと動かしていた。 「クリフトさん、大丈夫ですか?お顔の色が…。それに、その首の傷…。」 クリフトの隣に座っていたミネアが心配そうに尋ねる。 しかしクリフトは、大丈夫です何でもありません、と首を振った。 ミネアは眉をひそめ、クリフトの首元に手をかざすと小さく回復呪文を唱えた。 と、そのとき、王子が立ち上がった。 「皆に聞いて欲しいことがある!」 クリフトは、口を引き結ぶと目を瞑った。 「私は、この場で、サントハイム王女、アリーナ姫に結婚を申し込みたいと思う。」 その場にいる全員が、一瞬にして固まった。 王子は、皆を見渡してふっと笑うと、アリーナの前に跪いた。 「アリーナ姫。あなたは、強く、元気で、暖かい、私が理想とする女性だ。 私は、王子といえど身軽な身。あなたとともに未来を夢見たいと思っている。」 アリーナは、突然の出来事に、驚愕したように目を見開いていた。 ライアンは嬉しそうに両手を上げたが、勇者とマーニャに恐ろしい目で睨まれ、 ゆっくりとその手を下に下ろした。 そこに、ブライが慌てたように割って入った。 「で、殿下、大事なお話中に大変失礼とは存じますが…じゃが、 わがサントハイムでは、王族の婚姻には貴族院の承認が必要でして…。」 王子は立ち上がるとからからと笑った。 「もちろん、正式な求婚は、全てが終わってからだ。今は、ただ、アリーナの気持ちを 確かめておきたいだけなんだ。」 そして、ひたとアリーナを見つめた。 「アリーナ、君の気持ちを聞かせてくれないか。」 「え、えっと…。」 アリーナは、目をぱちぱちさせると、何かを探すように周囲を見回した。 その視線は、一瞬クリフトの上で止まったが、クリフトはアリーナから顔を背けた。 アリーナは、途方に暮れたように王子に向き直った。 「驚いちゃった…私、結婚なんて、そんなこと考えたこともなかったから…。」 王子は優しく頷いた。 「そうだろうね。ただ、ライアンから聞いたよ。 君は、相手にするなら自分より強い男だ、と常々言っていたらしいね。 …せめて、私は、その条件には当てはまらないだろうか。」 王子のその言葉に、アリーナは眉根を寄せた。 「うーん。そうなんだけど…。」 アリーナは、ゆっくりと、自分に語りかけるようにして話し始めた。 「昔、旅に出たばかりの頃は、武術で強いのが一番だって思ってたのよね。 でも、最近、そうじゃないってことが分かってきて…。」 さきほどからずっと目の前の皿を凝視していたクリフトは、意外なことを聞いた、 というように目を瞬いた。 アリーナは、さらに続けた。 「例えば、私より弱い相手にだって、回復呪文を使いながら戦われたら負けるかもしれない。 攻撃にしたって魔法の方が有効な場合もあるし…。強いって言っても、いろいろあるなって。」 王子は、アリーナの話を黙って聞いていたが、小さい声で呟いた。 「その考えの変化は…やっぱり彼の影響なのかな。」 クリフトが顔を上げると、王子は、クリフトを見つめていた。 アリーナが王子を見上げて首を傾げた。 「ん?何か言った?リリアン?」 「いや、なんでもない。で、これは、結果として私は振られてしまったということなのかな?」 「そういうわけじゃないんだけど。」 アリーナは、困ったように王子を見た。 「…あのね、私、これからも旅をしていくうちに、いろいろ考え方が変わると思うの。 だから、今は、確実なことは、何も約束できない。」 「姫様…こんなしっかりしたご意見を持たれるようになったなんて…。」 ブライが、小声で呟くと、ナプキンでそっと目の端をぬぐった。 クリフトは、ただただ、アリーナを呆然と見つめていた。 王子はしばらく黙っていたが、やがて大きな笑い声を上げた。 「よく分かった!やはり、君は素晴らしいよ、アリーナ!最高の女性だ。 全てが終わったときには、必ず、もう一度結婚を申し込ませてもらうよ。」 そして、アリーナの両手を取って立ち上がらせた。 「君の使命に同行したいのはやまやまだけど、私には別の役割があるし…それに。」 ちらりとクリフトを見て言った。 「君の身の守りは、どうやら万全らしいから。」 そして、皆に向き直ると、杯を掲げた。 「皆、騒がせてすまなかった。君らの旅に神のご加護を!後は楽しんでくれたまえ!」 皆、ほっとした顔で一斉に杯を掲げた。 クリフトは、戸惑った顔で王子を見たが、目顔で促され、静かに杯を上げた。 晩餐の後、野営地の近くの丘で1人酒を飲んでいる王子に、後ろから声がかかった。 「王子様がこんなところで1人で酒盛りなんて、無用心じゃないか?」 「…ふん。今の私に勝負を挑んでくる奴らは地獄を見るよ。何の用だい、勇者殿。」 「いや…振られ男のヤケ酒に付き合おうと思ってね。」 勇者は、手に盛った酒瓶を持ち上げて見せた。 「失礼な、まだ振られてはいないさ。…で、君は酒は飲めるのか。」 「最近、少しだったら飲めるようになった。」 勇者は王子の隣に腰を下ろした。 王子は黙って勇者から酒瓶を受け取り、勇者と自分の杯に注いだ。 「振られてはいないが…分が悪いな。」 王子は、自分の杯を一気に干すと、息をついた。 「私が、アリーナと話していると…必ず、彼の話題になるんだよ。」 「…ああ。」 勇者は、「彼」が誰だかは聞かなかった。 王子は肩をすくめる。 「クリフトがこう言ってた、クリフトだったらこうするだろう、そればっかりさ。」 「しかも、アリーナ、自分ではそれに全然気づいてないだろ。」 勇者の言葉に、王子は苦笑してうなずいた。 「ホント、参るよ。なのに、彼ときたら全くのポーカーフェイスじゃないか。」 「…ポーカーフェイスになり切れてないところもあったけどな。」 「とにかく、それが気に食わなくてね…今日の昼、少し意地悪をしてみた。」 それを聞いて、勇者が非難がましい目で王子をみた。 「何やったんだよ、あんた。夕食のときのあいつ、幽霊みたいな顔してたぞ。」 「いや、ちょっと一手のご指南をお願いしただけだよ。」 「ぶちのめしたのか!?」 「とんでもない…。むしろ、こっちの方が打ちのめされた気分だったよ。」 彼の想いの強さにね、とぼやく王子を横目に、勇者はちびちびと酒をなめた。 「…で?それがなんで、今日の晩餐会でのプロポーズになるわけ?」 王子は、楽しそうな顔で勇者を見た。 「私からのちょっとした意趣返しと、あとは、宣戦布告も兼ねてね。」 「宣戦布告ねぇ…。」 「ああ。彼が、いつまでも躊躇しているなら、私がさらって行ってしまうよ、ってね。」 「お、それいいね。是非そうやってあのアホにハッパかけてやってくれ。」 「いや、私は本気なんだが…。」 と、そこに、下の方から、アリーナの声が聞こえてきて、2人は口をつぐんだ。 「クリフト~!荷造り終わった~?外に出てきなさいよ~星がきれいよ~!」 がさがさと天幕から人が出てくる音がする。 「…姫様?…もしや、お酒を召し上がったのですか!?」 「だって~、だって、何だかさ~。」 「ああ、上を向いてお歩きになられては、足元が危のうございます!」 「だってさ~、こんなに、星がきれいなのに…きゃっ」 「姫様!」 「あははは~、ほら、大丈夫だって~。こうやってクリフトが支えてくれるじゃない!」 「そ、そういう問題ではありません!」 丘の上で、勇者と王子は顔を見合わせると、次の瞬間、ぷっと吹き出した。 「あーあ、やっぱり、私は分が悪いかなぁ。」 「ホントにタチ悪いよな、あいつら。つくづく同情するよ、王子さん。」 「いや、君こそ、この先いろいろと苦労するぞ!」 笑いながら肩を叩き合う男達の下では、 「そもそも転ばぬ先の杖と言ってですね、って、ほら、だから足元をご覧になって…!」 「えへへへ~。…ありがとね、クリフト。」 叱り、叱られながらもどこかお互い楽しげな主従の声が、夜のしじまに響いていた。
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クリフトとアリーナへの想いはPart9 343 名前 ◆HDjZd37Phw  Mail sage 投稿日 2008/09/04(木) 01 09 43 ID axFXJICj0 クリフトって、お肌すっべすべよね~!!」 「そうね。あんなに綺麗なお肌、羨ましいわ」 姉妹は草むらに腰を下ろし、自分の頬を撫でながら、しみじみと呟く。 過酷な長旅でろくなお手入れもできずに、肌は荒れていく一方だった。 「そういえばそうだね。髭なんて、見たことないし…」 アリーナは立ったまま、うーんと伸びをする。 秋の空は高く、真っ白な雲が、ゆっくりと流れていた。 「あいつはお洒落とはいえないけど、身嗜みはいつも整ってるもんね」 「でもさ…わたし、髭って結構好きなんだー」 アリーナの突然の告白に、姉妹は目を丸くした。 「お父様もだし、ブライも、ライアンも、トルネコも。髭って男らしくて、カッコいいじゃない!」 「いや、そりゃ、似合ってれば、いいんだけどさぁ……」 「クリフトさんの髭だけは……想像、できませんわ……」 ―――そこに運悪く通りかかってしまった、当のクリフト。 「ちょっとー!!こっち、おいでよーぅ」 獲物を見つけた猫のように瞳を輝かせるマーニャ。 手招きされたクリフトは、なにやら不吉な気配を感じたものの、逆らえるはずも無かった。 「何か御用でしょうか?」 「クリフトさんのお肌が綺麗ですねって、話してたんですよ」 やはり自分を肴に盛り上がっていたのかと、眉をひそめたクリフトに、アリーナが無邪気に笑いかけた。 「ねぇ、クリフト、ちょっとしゃがんで?」 「はい?」 アリーナは腰を落としたクリフトの頬へ両手を伸ばし、自分の顔の前に引き寄せてから、撫ぜまわした。 「―――ちょ!!ひ、ひめさまっっ!!!」 「やーっぱり、すべすべだねぇ。きもちいー!!クリフトなら、髭無くてもいいやっ」 クリフトの顔が瞬く間に燃え上がる。 「ちょっとさ、頬っぺた、くっつけてみてもいい?ミーちゃんみたいに…」 「いいいいいいけません!どど、ど、どうか、お気を確かにっ!!!」 振りほどく事も出来ず、全身硬直状態のクリフトを見て、マーニャとミネアは 必死に笑いをかみ殺していたが、遂にはお腹まで痛くなってきて、堪らず声を上げた。 何事かと様子を伺いに来た男達は、眼に飛び込んできたその光景に、唖然として立ち尽くした。 ――――――ただ一人を除いては…… 「こんのド阿呆めっっ!何をしておるんじゃーーーーー!!!」 電光石火のごとく二人を引き離したブライの、対魔物戦でも聞いたことのないような咆哮が、 秋の澄んだ空に響き渡った。
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成田剣 出演作品 TV 新くまのプーさん(ネズミ) チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ(ベルチ(#9))※新録版 リトル・マーメイド 実写 ザ・グリード(マムーリ【クリフ・カーティス】)※テレビ朝日版 ジャッジ・ドレッド ※フジテレビ版 ジャングル・ブック* ※テレビ朝日版 ダンク・ブラザース 脱線ファンにご用心(ラーチ、本人【ディオン・サンダース】) 天才マックスの世界(建築家) ハービー 機械じかけのキューピッド* パール・ハーバー(ビリー・トンプソン)※ソフト版 パウダー*(スカイ) ホーカスポーカス(ジェイ)
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クリフトのアリーナの想いはPart12.5 855 1 名前 1/4 Mail sage 投稿日 2013/03/13(水) 23 56 37.89 ID tta+n6xF0 無自覚アリーナと味方ブライで書いてみた。 「最後にクリフトに会ったのはいつだったかしら」 突然の質問にブライは首を傾げた。 「わしに聞かれても困ります」 いくら教育係と言っても、何処で誰とあったのか、そんなことまで一々把握していない。 「…最後に会ったとき、ブライも一緒だったのよ。」 「あ…」 思い出したのか、ブライは記憶をたどりながら答えた。 「あれは先月の初めでしたな。確か、クリフトが戻っていて、久しぶりに礼拝を」 「…一ヶ月以上も経ってるんだ」 「そうなりますな」 ブライが抱えてきた大量の書類。文句一つ言わず目を通して判を押し続けていたアリーナだったが、 手を止めると大きくため息をついた。 「前は毎日一緒だったのにね」 「そうですな。あの時とは状況が違いすぎますからな」 「でも、旅に出る前だってほとんど毎日顔は合わせてた」 「あの時とも、状況が違うんですよ」 旅から戻り、アリーナは真面目に王女としての公務を全うしていた。 いつまた消えてもいいように、と縁起でもない冗談を言いながら、サントハイム王は アリーナに本格的に時期女王として実務を任せるようになっていた。 「クリフトはなんで忙しいの」 「今後サントハイムの教会を任される者として、やることは山積みということです。 本当ならばもっと早くに修行に出るはずだったのですから、まあ、 毎日顔を突き合わせてた日々の方がおかしかったと言えますな。 ほら姫様、午前中に終わらせませんと」 ブライにせかされて、アリーナは仕方なくまた書類に目を落とした。 (会えないほうが普通なんだ…) 自分は王女で、クリフトは神官。確かに、王女と神官が毎日一緒に過ごすなど聞いたことがない。 「これが、本当の私の生活、かあ…」 アリーナはぽつりと呟いた。 クリフトも神官としての本当の毎日に戻った。お互いに、普通の日常に戻ったのだ。 「クリフト!!!」 城内の渡り廊下で見覚えのある後姿を見たアリーナは、思わずその名を叫んだ。 「姫様!お久しぶりです」 クリフトは振り返ると、慌ててアリーナに駆け寄った。 「本当に久しぶりよ。どうしたの?帰ったの?」 「今日はこちらで会議がありまして。そのためにいったん戻りました」 「じゃあ、またすぐ行くの?」 「はい、夜には発ちます」 夜。ほんとにすぐに行っちゃうんだ。アリーナは落胆した顔色を隠せない。 「ねえ、少し話せない?」 「…申し訳ありません。今日は立て込んでおりまして、今もすぐに行かないと…」 「…そう」 あまりにも暗いトーンのアリーナの声にクリフトは動揺した。 「何かご相談でしたか」 「…ん、相談っていうか」 ただ話がしたいだけというか。なんていえばいいんだろう? アリーナが答えに詰まっていると、クリフトが口を開いた。 「あの、どうにかして近いうちに、時間を作ってまいりますから。 そのときまで待っていただいてもよろしいですか?」 「うん。いつでもいいよ」 「本当に申し訳ありません。失礼いたします」 一礼すると、クリフトは駆けていってしまった。 残されたアリーナは、さっきから忙しい胸の鼓動に困惑していた。 (ドキドキしたり痛くなったり、なんなのよもう) 「クリフトが来てた」 「そのようですな」 新しい書類の山を前に、アリーナは執務室でつまらなさそうに判を押していた。 「きちんと目を通していただかないと」 「ちゃんと読んでるもん」 つまんない。つまんない。つまんない。 世界が平和になったのはいいけれど、もう一年近く、ろくにクリフトと話してない。 ブライにはああ言ったものの、アリーナは心ここにあらずだった。 「つまんない。毎日クリフトと会う方法ってないの?」 その言葉にブライは目を丸くした。 「…なんですと?」 「前みたいに、毎日クリフトとお話したい」 何をそんなに話していたのか。アリーナはよく思い出せないが、 笑顔で相槌を打つクリフトの姿は昨日のことのように思い出された。 「クリフトがいないと、つまんない」 ぽつりと呟くと、アリーナは机に突っ伏した。 ブライはしばらくそんなアリーナを見つめて何か考え込んでいる風だった。 「簡単な方法がありますぞ」 ブライが口を開くと、アリーナは飛び起きて目を輝かせた。 「えっ!なに?どうすればいいの!?」 「クリフトと、夫婦になればよいのです」 「ふ、夫婦っ!?」 アリーナは顔を真っ赤にしてうろたえた。 「な、何言っ…」 「友達でも毎日毎日顔を付き合わせるようなことは滅多にありませんからの。 そうなると、夫婦が一番丁度よいではないですか」 「そ、そういう意味じゃ…」 アリーナが消え入りそうな声で呟いた、そのときだった。 「姫様?こちらにいらっしゃると聞いたのですが」 入り口に目をやると、クリフトが立っていた。 アリーナは耳まで真っ赤にして硬直した。 「な、なななんで…」 「時間を作ってまいりました」 クリフトはにっこり笑って答えると執務室に入り、ブライの隣に腰をかけた。 「ブライ様もお久しぶりです」 「うむ」 ブライは笑いをこらえながらクリフトに答えた。 「もしかして今はご都合が悪かったでしょうか?」 アリーナはもうクリフトの質問に答えられない。 「急ぎの仕事ではないから問題ない。それじゃ、わしはこれで」 アリーナが「ちょ、ま、」などと言っていた気がするが、ブライは立ち上がって部屋から出て行くと そっとドアを閉めたのだった。
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クリフトとアリーナの想いはPart10 54 名前 隣で 1/6 ◆/Vo4sINk9g  Mail sage 投稿日 2009/06/08(月) 01 45 07 ID +8EX44LNO その町にも、夏が訪れようとしていた。 武器や防具を買い揃えた一向は、また明日からの厳しい旅路に備えて宿をとり、身体を休めることにした。 「……あ」 その一室。その日の支出の記録をつけようと帳面を開いたクリフトは小さく声を洩らした。 「何?どうしたの?」 アリーナはガシャガシャと新しい武器を調整していたが、その声を聞き逃さなかった。 アリーナの好奇心に輝く瞳を見たクリフトは、思わず苦笑する。 「今日、この地方では流星群が見られるはずなのですよ。五十年程の周期で現れるのですが、ちょうど今年がそれに当たるのです」 「じい!見に行ってもいい!?」 「お好きなようになさってくだされ…… まったく、買い物は戦闘よりもこたえますわい」 窓際の椅子に腰掛けたブライがぐったりと返した。 「えー、ブライは行かないの?」 「ここからでも空は見られますからな。 ところでクリフト、今回は何時頃から始まるのじゃ?」 「一時間程前に始まっているはずですから、もうそろそろ終わってしま」 「行きましょうクリフト!」 「あああ姫様、お待ちください!」 二人の出ていった扉を見つめて、ブライは溜め息をついた。 「もう、どこ行ったのかしら。せっかくみんなで見ようと思ったのに」 夕食の後、仲間たちは各々宿を出たようだった。町を探し歩くが、その姿は見当たらない。 「仕方ないわ。早く良い場所に落ち着かないと見逃しちゃう!」 「あの丘の辺りはどうでしょう。高い建物がありませんから、きっと空全体が見渡せますよ」 「そうするわ。ほらクリフト、はやく!」 「足下にお気をつけください!」 アリーナは一気に小高い丘をかけ上がり腰を降ろすと、クリフトの方を振り返る。クリフトもその隣にゆっくりと座る。 そわそわと身体を揺らすアリーナを見兼ねて、クリフトが口を開いた。 「一点に集中すると見つけにくいですよ。空全体を、ゆっくりと見渡すのです」 「ありがとう、そうしてみる」 アリーナは足を抱えていた手を地面に付け、後ろへ仰け反った。 「……夜空って大人しくてつまんないって思ってたけど、そうでもないのね。色とりどりで綺麗だわ」 クリフトが空からアリーナに視点を移す。 「色までお分かりになるのですか?」 「え?見えるわよ!」 アリーナは少し驚きながらも、得意気に言った。 「クリフト、目悪いの?」 「良くはないですよ。一応気を付けてはいるつもりなのですが、本を読む機会が多かったもので……」 「そうね。よく図書室に遊びに行ってビックリされたわ……」 楽しそうに語る横顔の端にふと哀惜の影が過るのを見て、クリフトの胸が痛んだ。 「あの星、明るくて綺麗!色はね……青っぽいわ。見える?」 「はい、三つ明るい星が並んでいますね」 「もう片方の端っこは白で……真ん中は赤ね」 「赤ですか。……赤は、大好きな色ですよ」 「へえ、意外。もっと落ち着いた色が好きなのかと思ってたわ」 アリーナは大きな目を見開いた。 「身に付けることが少ないからですかね。私には似合いませんから…… ですが見ていると励まされて、幸せな気持ちになるのです」 クリフトが穏やかに目を細める。彼の見つめる赤は、もう夜空に向けられていた。 「あ!」 突然、アリーナが叫ぶ。 「今流れたわ!あそこ!見えた!?」 「えっ、申し訳ありません、見えませんでした……」 「また流れるかしら?あんなに速くちゃ三回唱えるなんて絶対無理だわ!」 「唱える?」 「願い事。流れ星が消える前に三回唱えたら、叶うんでしょ?」 クリフトの脳裏に、城の図書室が浮かんだ。幼い頃、活字を読むのが嫌いなアリーナにせがまれて読んだ本に、そんな話があった。 「ええと……多分一回でも大丈夫だと思いますよ。要は願いの強さではないでしょうか」 「分かった。力一杯お願いするわ」 珍妙な言い回しだが、何故かアリーナが言うと違和感がないから不思議だ。 「次に見れたら、終わりにしましょうね。風が冷たくなって来ました」 本当は、少しでも長く凛々しい横顔を見つめていたかった。だがこのままでは、ずっと帰る気になれないだろう。 クリフトも夜空を見上げた。 「あ!」「あ!」 二人の頭上を、白い光が駆けた。 「見えた!?見えた!?」 「はい!見えました!」 上気した顔を見合わせる。 「ああっ!願い事言うの忘れてたわ……!」 「今なら大丈夫だと思いますよ。きっとどこかの流れ星が聞いてくださいます」 アリーナは頷くと、立ち上がった。 一つ深呼吸をすると、胸に手をあて、空を見上げる。 …が、またクリフトに視線を戻した。 「一つじゃないとだめ?」 クリフトはくすりと笑うと、一つだけです、と返した。 アリーナは腕を組んで考え込んでいたが、漸く顔を上げると、言った。 「次の流星群までに、クリフトの目が悪くなってませんように!」 クリフトはしばらくぽかんとアリーナを見上げていたが、慌てて立ち上がるとありがとうございます、と礼を述べた。 「……サントハイムのみんなのことを願おうかと思ったの。でもね、きっとそれは願うことじゃないわ。私が頑張らなきゃ!」 ぐっと拳を握りしめるアリーナに、クリフトは胸が熱くなるのを感じた。 「そうですね。私も粉骨砕身、力の限り闘います」 いつか、世界中の人々が本当の平和を手に入れられるように。 アリーナの大切な人達を取り戻すために。 そしていつか来る別れの時まで ――そう、それがほんの一時だったとしても―― アリーナの傍で穏やかなサントハイムの明日を迎えるために。 次に流星群が現れるのが五十年後であるということなど、アリーナは忘れているのだろう。だが、故郷の次に自分のことを願ってくれた、そのことが何よりもクリフトを励ました。 宿に向かって歩く背中は、一つの国を背負うにはあまりにも小さく見えた。自分にはどれだけのことが出来るだろう。いつまでこの背中を支えることが出来るだろう。……きっとそれも問うことではないのだ。自分が為し遂げなければ。この小さく気高い王女のように。 クリフトが足を踏み出したその時、アリーナが振り返った。 「そうだクリフト!動体視力も鍛えておいてね! 五十年後は、もっとしっかりさがしてもらわなきゃ!」 「……姫様、それは……」 クリフトは夜空に一礼すると、アリーナに駆け寄った。
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クリフトのアリーナへの想いはPart5 725 :姫様のマント 1/9:2006/08/02(水) 01 16 21 ID A8MVjg8j0 壮絶なキングレオ戦に勝利した後、モンバーバラの宿屋にて体を休めることになった。 夕食後に宿屋の井戸でうずくまっているソロにライアンはそっと近づいて後ろからポンと 肩をたたいた。 「俺って勇者とか言われつつ実はリーダーシップに欠けてるかも。」 と落ち込んだ様子のソロ。 「トルネコさんはもともとああいうキャラだとしても、あの真面目なクリフトまでが 姫様ホイミとかしちゃって俺の命令って認めてもらえてないのかな。」 「いや、クリフト殿のアレは仕方ないでしょうな。それより、ソロ殿がそこまで落ち こんでおられることのほうがこのライアンは心配ですな。」 「ううっ。こんなこと相談できるのはやっぱりライアンだけだ。・・・実は」 「実は?」 「チェックインした後、財布をなくしてしまって今の俺らの持ち金は¥0。 銀行から下ろしたお金までどうやらすられちゃったみたいなんだ。もうリーダー失格決 定!」 頭を抱え込んで座り込むソロ。 「なぬ!?・・・いや、拙者はソロ殿を責めるなんてことはしませんぞ?こうなったら拙 者が一晩で稼いでくるでござる。ソロ殿はここで待っていてくだされよ。」 そう宣言するやいなや、ライアンはすごい素早さでソロの前からいなくなった。 「ライアン、戦闘中もこのくらい素早ければいいのになぁ・・・って何するつもりだろ?」 「クリフト殿ー。おられるか?ライアンでござる。ちょっと相談があるでござるよー。」 男部屋を激しくノックするライアン。 「どうしましたか?ライアンさん。そんなに慌てて。」 とドアを開けてくれたクリフトの手にはアリーナの破けたマントが。 「むむむむむうぅ!?おぬしがそのように乱れておるからソロ殿があのような気苦労を 背負うでござるよ!?まったくもうっ。」 「はぁ?何怒っているんですか。うわっ」 ライアンはクリフトを担ぎ上げ、どこかへ走り去っていった。 「これから姫様ホイミのお仕置きをするでござる~!!!」 「???」 その後、ブライの監視つきで町を散歩して帰ってきたアリーナが、男部屋の入り口に 落ちている自分の破けたマントに気づいた。 「まあっ。クリフトったら。マントを直しておいてってお願いしたのにどこへ行ったの かしら。」 「姫様・・・たまには自分でお裁縫してくだされ。はぁー・・・」 「ライアンさんっ。下ろしてくださいっ。一体、劇場に何の用ですか。」 「なに。これから二人で舞台に出て、金を稼ぐのでござるよ。ご協力あれ。」 クリフトの頭は真っ白になった。 「えええええ!?絶対イヤです。勘弁してください。わー」 暴れるクリフト。しかし、腕力でライアンにかなうはずもなく、担ぎこまれたまま舞台 の上に躍り出てしまった! ライアンはクリフトを投げ飛ばして剣を抜いた! クリフトは華麗に着地した! 「さあー!覚悟めされよ!」 「(ううう。ライアンさんにはなにか訳があるに違いない。冷静になるんだ、冷静に!)」 クリフトも剣を抜いた。 ざわめく観客。 「なんだーチャンバラかー!?いいぞ、やれー」 観客のテンションは最高潮に達した。そんな群集のなかに青ざめたミネアがいた。 「な、なんでライアンさんとクリフトさんが舞台に!?」 きっと姉さんが楽屋でなにかけしかけたに違いない。助けなければ、と一歩踏み出した ミネアの袖がぐっと引っぱられた。 「ね、姉さん。いつの間に観客席に。それより二人が大変なの。助けましょう。」 「あー、余計なことはしなくていいから楽しみましょ!」 舞台に目をやると、そこにはチャンバラ劇ではなくモンバーバラの民族音楽に合わせて 剣舞が披露され始めた。時には激しく時には優雅に、音楽のリズムに合わせて繰り広げ られる美しい剣の舞。観客はこの珍しくも素晴らしい演目にすっかり魅了されている。 「わぁお。あの二人にこんな特技があったなんて。やるぅ。安心したね、ミネア。」 姉が妹のほうをみると、妹はすっかり舞台に集中している様子。目は・・・クリフトを 追っている。 「ミネア・・・。(そうだったんだ。今まで気づかずにいてごめんね)」 剣の舞が終わると、観客は劇場がはちきれんばかりの歓声を二人に浴びせて沢山のゴー ルドを投げている。 「わ~。こりゃ大もうけね!プロの踊り娘としてちょっとくやしいわ。」 姉妹が楽屋にいくと、疲れ果てたクリフトの傍らでゴールドを計上するライアンがいた。 「二人とも!すっごくよかったわよ~ん。」 楽屋には、姉妹にとって懐かしい人がもう一人。 「なんだ、この二人はマーニャちゃんの知り合いだったのかい?なるほどね。パノンも いなくなっちゃったことだし、これからも出演頼むよ。」 「二度とゴメンですっ」 慌てて否定するクリフトを見て、ライアンとマーニャは大笑い。ミネアはそっとクリフト の額の汗を拭いてあげた。 4人で劇場を後にすると、外の空気が冷たくてとても心地いい。 「私、クリフトさんがあのようなことをなさるとは本当にびっくりしました。リズム感も あるし、ぶっつけ本番であそこまでできるなら踊りの才能があるのではないでしょうか?」 「いえいえ、とんでもない。もともとライアンさんは王宮戦士の嗜みとして剣舞をされて いたのでしょうが、私は神に仕える者の儀礼的なものでしかありません。今日はひたす らライアンさんに合わせて乗り切っただけですよ。」 早くあんな恥ずかしい舞台のことは忘れたいといった感じで顔を赤らめるクリフト。 「ライアンさんもとても・・・・・」 ミネアがライアンのほうを向くと、すでにライアンとマーニャの姿はなかった。 「あ、あれっ!?はぐれちゃったのかな。でも、ライアンさんが一緒なら大丈夫かな。」 ミネアがきょろきょろしている間にクリフトはすたすたと早足で宿屋に向かっている。 アリーナから頼まれたマントの修理のことで頭が一杯になっていたのである。 「ま、待って・・・待ってくださいクリフトさんっ」 とクリフトの背中に向かって叫ぶや否や、ミネアは足元の石に躓いて思い切り転んでしま った。薄暗くて足元の石に気づかなかったのだ。 「大丈夫ですか!?」 「あいたたた・・・す、すみません。」 駆け寄ってきたクリフトにつかまって起き上がるミネア。ひざだけでなく、鼻もすりむい てしまって血が滲んでいる。ミネアは自分で治そうとしたが、クリフトのほうが呪文の詠 唱が早かった。 「はい、治りましたよ。暗いから気をつけて。」 きっと私の顔は真っ赤になっているんだろう・・・密かな想いに気付いてほしいようなほ しくないような、でもやっぱり今あんまり顔を見ないで欲しい。宿に着くまでのつかの間 の時間だが、ミネアは幸せな気持ちでいっぱいになっていた。 クリフトはミネアの歩く早さにあわせてゆっくり歩き出した。 そんな様子を木陰から覗いていた人物が一人・・・・ マントを持ってクリフトを捜し歩いていたアリーナだった。 「私、何で隠れているのかしら?」 (知らなかった・・・クリフトとミネアさんが夜のモンバーバラを一緒に過ごす仲だった なんて。今までもこうやって私が寝ている間に二人で夜の街を散歩とかしていたのかな。 散歩とか散歩とか散歩とか・・・?)それ以上想像が膨らみようもないアリーナであった が心臓のドキドキは収まりそうもない。そもそも何故ドキドキするのかも分からない。 ミネアがクリフトの袖を引っぱっている。 そして二人で木陰のベンチに腰掛けて何か話し出した。 さらに、建物の間から様子を伺っている二つの影。 「一体、何を話しているのでござろうな?」 「なんだか長話になってるようだけど、気になるわねー。」 「ところで、マーニャ殿は拙者に何の用でござるか?拙者は早くソロ殿にこの8000G を届けて安心させてあげたいでござる。」 「え?てっきりその金でこれから飲むのかと思ったのに・・・。」 いつになく艶っぽい目つきをしてマーニャが可愛らしく拗ねる。ライアンは深く息を吸い 込んで言った。 「・・・拙者は今度舞台にあがるとすればマーニャ殿と剣の舞をしたいでござる。」 「なあに、それ?口説いてるの?どうしてもって言うならいいわよ?でも、練習の前に1 杯だけおごってよね。」 アリーナはいまだかつて経験したことのない気持ちで一杯になっていた。今までクリフト が自分のために色々世話をやいてくれることは当然だと思っていなかったか。大所帯とな った今はクリフトだってみんなの共通の目的のために動かなければいけない。頭では分か っているけどクリフトが自分以外の女性に優しくしているのを見るのは何だか抵抗がある。 (私はクリフトのことを束縛して所有物みたいに思っていたのかな・・・そんなの最低。 サントハイムでは聖職者の恋愛や結婚は自由なわけだから、クリフトとミネアさんが愛し 合っているのなら私は喜ばなければいけないのよね?盗み聞きなんて良くない。クリフト はいつか私には話してくれるよね・・・)アリーナは静かに宿に戻った。 「ミントスで出会った頃は、ミネアさんと共通の宿敵を持つ運命だとは思いもよりません でしたよ。いよいよ、夜が明けたらサントハイムへの船旅になります。サントハイムの城 にいるというバルザックとやらを倒したら、城の人々は戻ってくるのでしょうか・・・ミ ネアさんに聞いてみたいけど聞かないほうがいいでしょうね?」 クリフトの透き通った青い目から不安と焦燥感が感じられた。今日のクリフトは色んな表 情をみせてくれる。 「ソロさんは、バルザック討伐のパーティーはサントハイムのお三方と姉さんの4人と決 められました。私はソロさんたちと一緒に後方から健闘を祈っています。」 ミネアはサントハイムの人々が無事に戻ってくるように祈っている、とは言えなかった。 もし、サントハイム王家そのものがなくなってしまえばアリーナは王女でもなんでもない ただの女の子。クリフトも王家直属の神官ではなく、ただの聖職者になる。二人の身分の 差はなくなり、二人が恋愛するにも支障はない。城の人々にはまだ戻ってきてほしくな い・・・・ミネアにはそんな気持ちもあった。逆に無事に戻ってきたとしても、クリフト がそれで旅をやめてしまわないかと不安になったりもする。しかし、ミネアの返答を聞い たクリフトは、ミネアはサントハイムの人々が戻ってこないことが分かっていてはぐらか したのだな、と思って小さなため息をついて目を伏せた。 「・・・・私ではアリーナさんの代わりにはなれませんか?」 ミネアの声は震えていた。今日こんなことを言うつもりはなかったのに、秘めたる想いが 溢れ出て言葉に出てしまった。引っ込み思案なミネアにとって精一杯の告白。 クリフトは目を開いてミネアのほうをまっすぐに見た。ミネアは肩を震わせ目を合わせよ うとしない。いや、合わせられずにうつむいていた。 「・・・・・。」 「・・・・・。」 沈黙の時間がとても長くて重くて、ミネアは押しつぶされそうになった。クリフトの返事 が怖くて涙が出てきた。叶わない恋だって分かっていたし、伝える勇気なんてなかったの に、どうして言ってしまったのだろう。クリフトはミネアの涙をハンカチでそっと拭いな がら優しい声で言った。 「ミネアさんは今のままでいいのですよ?なにも姫様みたいに今から武術を会得しような んて考えなくても・・・。一緒にバルザック討伐に加わりたい気持ちは痛いほど分かりま すが、ソロさんにはソロさんの考えがあってのことでしょうから。」 全然、伝わっていない。ミネアは全身の力が抜けていった。が、力を振り絞って言った。 「私・・・待ちます。」 クリフトがアリーナのことをあきらめるのを待つ、私だって負けない・・・そう決意する とますます涙が出てきて止まらなくなった。 「え?マーニャさんたちをですか?そろそろ寒くなってきたし、モンバーバラの夜道を女 性一人で歩くのは危険ですから一緒に宿に戻りましょう。」 やっぱり伝わらない・・・私のこのせつない想い。ミネアはますます全身の力が抜けてつ いには立てなくなった。 「相当お疲れのようですね。キングレオ戦では本当にお疲れ様でした。」 そういってクリフトはミネアをおんぶして宿に早足で戻っていった。鈍い、鈍すぎる。 宿のロビーにはライアンの帰りを待っていたソロがテーブルに伏して寝ていた。家計簿と 正義のそろばんを枕にしてぐっすり寝ている。もう、ブライ様やトルネコさんも部屋で寝 ていらっしゃるのだろう、そう思って寝ているソロの傍をしのび足で歩くクリフト。ミネ アを女性部屋まで送り届けようと角を曲がると、女性部屋のドアの前にはなんとアリーナ が立っていた。 泣いているミネアをおんぶして夜遅くこっそり戻ったクリフトを見たアリーナのこころの中 でなにかがはじけ飛んだ。アリーナは目に涙を浮かべてむりやり笑顔を作って言った。 「私はクリフトに何でも相談して頼っていたのに、(クリフトは私に自分のことを何にも話 してくれていないのね。)」 ミネアは慌ててクリフトから離れた。ミネアにははっきり分かった。 アリーナもまたクリフトを一人の男性として意識しはじめているのを。 「ア、アリーナさん、違うんです。私・・・」 誤解を解こうとするミネアのか細い声はクリフトの力強い声にかき消された。 「姫様!?泣いていらっしゃるのですか?このクリフト、姫様を悲しませるようなことは 決してしないと王様と神に誓っていたのになんという不覚!!すぐにマントを修理いたし ます。たとえ、徹夜してでも!!」 「ううん。私、何でもクリフトに頼りすぎて反省してたの。自分でやってみるから、やり 方を教えてほしくてクリフトが帰るのを待っていたのよ。」 この男、どこまで鈍いのか・・・でも、こんな感じなら私にだってまだチャンスはあるわ、 ミネアはそう思った。 夜も明け方・・・酔っ払ったライアンとマーニャが宿に戻ってきた。昨日の夜、剣舞で稼 いだ8000Gはたったの8Gになっていた。ライアンは8Gを寝ているソロのポケット に入れて、小声でつぶやいた。「スマンでござる。うっかり飲みすぎたでござる・・・ヒッ ク。」「ごめん・・・ソロ。あたしったらバルザック戦を前にしてテンション高くなっちゃ って。ヒック。」マーニャも小声でささやいた。 ソロが寝ているテーブルとは別のテーブルでは徹夜でお裁縫をするクリフトとアリーナが いた。マントを縫う前に何故かトルネコが破いてしまったという網タイツを練習がてら修 理しているところだった。 「このクリフト、姫様に必要とされているこの瞬間がとても幸せです。さあ、頑張って仕 上げましょう。」 「大袈裟ね。お裁縫ぐらいで。これからもっと色々教えてもらうんだから、私の傍をはな れないでよね。」 このあとしばらく、ソロが自分の統率力に疑問をもって悩みぬいたことは言うまでもない。 クリフトの姫様ホイミの回数は増えるし、アリーナはクリフトが馬車の中だと改心の一撃 を出さない。ミネアはクリフトばかり回復させるし、いままで捨て身で自分を助けてくれ ていたライアンまでがマーニャばかりかばうようになった。トルネコとマーニャは以前か らああいう性格だったけど、最近ますますみんな変だ。みんな立派な職業についているけ ど、俺は何でもないんだよな・・・勇者ってそもそも何だ?悩む17歳、ソロ。 勇者っていうのは世界を変えていく力がある人なのだ、とマスタードラゴンに教えてもらえ るのはまだまだ、先。