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クリフトとアリーナの想いはPart7 2007.04.28の詩よりインスパイア 321 :【詩】1/9 ◆cbox66Yxk6 :2007/05/04(金) 03 16 02 ID dfejicMU0 「まだ……残っていたのですね」 古ぼけた机の引き出しの底板をはずすと、微かにかび臭さの漂う紙の束が姿を現した。 『日記』と題字されたそれは、クリフトが旅に出る前まで日課としてつけていたものだ。 いや、正確にいえば、裏日記といったところか。 人知れず保管されていたその日記帳には、誰にも吐露できない、まだ青い春の中を彷徨っていた頃のクリフトの思い出が詰まっている。 「懐かしいですね」 ぱらぱらと頁をめくれば、苦悩と情熱でかき乱れる己の姿が垣間見え、自然、苦笑混じりの微笑を浮かべる事になる。 「しかし、よく残っていたものですね」 しみじみと呟き、つい一月ほど前までのサントハイム城の姿を脳裏に描き出す。 数年にわたる魔物の占拠、そして無人の荒城……。 決して短いとは言い難い月日の間、誰の手入れもされずに放置されていた城は、至る所が傷み、破壊されていた。 その中にあって、城内の教会とそれに隣接していたクリフトの部屋は、まさに神の奇蹟か、殆どあらされた形跡も無く、以前の姿を保ち続けていた。 「神聖な空気を嫌ったのでしょうね」 サントハイム城の復興を手伝いにやってきてくれたトルネコが、教会の祭壇に飾られたご神体に目を光らせながら、そう呟いていたのを思い出す。 「このご神体の指にはめ込まれていた指輪に、魔を退ける力があったのでしょう」 もっと早く気づいていれば、旅の間も楽ができたかも、とため息混じりにそう言った希代の大商人。その言葉に聖職者であるクリフトが難色を示すと、彼はいつもの優しい微笑を浮かべたままこう続けた。 「でも、この指輪がここに存在していたから、お城の人たちも無事に戻って来られたの かもしれませんね」 指輪の存在に気がつかなかったからこそ魔に打ち勝つだけの実力を手に入れることができ、また、この指輪の存在がサントハイム城の人々を魔の手から守り抜いていたのではないか。 「この指輪がここに存在したこと、それこそが神の奇蹟ですよね」 ―――信仰に厚いサントハイムの人々に示された神の恩恵ですよね。 そう彼は締めくくった。 その恩恵に与ったもののひとつが、いまクリフトの手元にある。 面映いような嬉しいような不思議な感覚に、頁をめくる手を早めれば、遂に最後の日付となる記述に行き当たった。 「……そういえばこんなものも書きましたね」 そこに書かれているもの。 それは、一篇の詩―――自由を求めていまにも飛び出していかんとする敬愛する姫君を、サントハイムの王女アリーナを想って詠んだ詩だった。 「……見つからなくてよかったかも」 その一字一字を目で追いながら、クリフトは思わずくすりと笑う。 比喩が施されているとはいえ、それは明らかに恋心を彷彿とさせる。 「……仕舞っておこう」 少し照れくさくなって冊子を閉じようとすれば、それを横合いから素早く奪う手があった。 「え?」 驚いて振り返ると、そこには華やかな正装に身を包んだ美しい姫君がつい先頃までクリフトの持っていた冊子を手に立っていた。 「もうクリフトったら、ずるいわよ。自分だけ宴を抜け出して」 「ひ、姫様?」 突然の来訪者に驚きと戸惑いを隠せない。 「どうしてこちらに?」 よりにもよって一番まずい相手が目の前に現れ、クリフトは内心かなり強い動揺と焦りを感じていた。 が、クリフトの心など知る由もないアリーナはぷうっと頬を膨らませる。 「それはこちらの台詞ね。サントハイム城復興記念の祝宴を抜け出して、どうしてここにいるのよ。ソロたちだってまだ広間にいるのよ」 「それは……華やかな席が苦手だからです」 常だったらうまいかわし方も思いつくであろうに、アリーナの手にする冊子が気になり受け答えに集中できず、つい馬鹿正直に答えてしまう。 「クリフト、あなたね、私が宴を抜け出すたびいつも言っていたじゃない。 『主役が席をはずしてどうするのですか』って。今日はあなたも主役の一人でしょ」 案の定、揚げ足をとられ、クリフトは言葉に窮した。 「そ、それはそうなのですが……」 ちらちらと冊子に視線を送りながら口ごもれば、アリーナは漸くその存在に気づく。 そして『日記』という文字を目にするや、にんまりと笑い頁を繰った。 「おもしろそうね。じゃ、これと交換に、ひとりで抜け出したことを不問に付してあげるわ」 「えっ」 思いもかけない事態にクリフトが硬直すれば、アリーナは嬉しそうに読み進める。 「えーっと、なになに……『今日、サランの町で写真が売られていた。被写体を見れば姫様のお姿……なんとけしからぬ事だ。仕方がないので私はそこにあった全ての写真を買い占めた。これで、姫様のお写真で妙な気を起こすものもいないことであろう。 おぉ神よ。お導きをありがとうございました。 ……とはいえ、かなりの出費を要してしまった。今月こそは『新・信仰と祈り』が買える と思っていたのに……来月に持ち越しのようだ』って何これ?写真?そんなの見たことないわ。 クリフト、後で出しなさいよ……次は」 次々と読みあげていくアリーナに、我に返ったクリフトは必死の思いで冊子を取り返そう と試みる。 「姫様、お返しください」 「いいじゃない」 ひらりひらりとクリフトをかわしながら、アリーナは器用に目を通していく。 「姫様っ」 経験が物を言うのか。 正装に妨げられ、思うように動けないクリフトに対し、こちらは盛装とも言える華やかな衣装を身に纏っているにもかかわらず、アリーナの動きは留まるところを知らない。 次々と頁をめくっては、焦るクリフトをからかうようにひらりと身をかわす。 とはいえ、やはり動きながら冊子をめくるのは難しいようで、読む頁は飛び飛びになっている。そのせいであろうか、クリフトが見られては困ると思っているようなものは意外と避けられているようだ。 不幸中の幸いといって良いのかは判らないが、それがクリフトにとって救いであるのは今のところ確かだった。 だが、その幸運にクリフトが感謝する暇があらばこそ。彼が長年信仰してきた神は、彼に試練を突きつける。 ふいに、動きを止め、アリーナがしげしげと冊子に見入った。 そして小首を傾げたと思うと彼女はその華の顔を引きつらせ、次の瞬間、お腹を抱えて笑い出した。 「姫様、返してくださいっ」 漸く動きの止まったアリーナの手から冊子をもぎ取ったクリフトだったが、肩を震わせ、目に涙をためて笑い続けるアリーナの姿に、不審なものを感じた。 「そんなに大笑いされるようなものがございましたか?」 恥ずかしいというよりはあっけに取られ、そう問えば、アリーナは涙の滲む目をこすりながら開きっぱなしになっていた日記を指差した。 「その頁……」 アリーナが見ていた頁に視線を落とせば、そこには彼が記した『詩』が載っていた。 「ご、ごめん。笑うつもりじゃなかったんだけど……なんだかその」 笑いの滲む声に、クリフトはそこはかとない寂寥感を覚える。 見つかると困る、そう思っていた『詩』。 それは、如何に比喩が用いられているとはいえども、見る人が見れば誰が誰を思って書いたものかは一目瞭然の代物だった。 だからこそ危惧していた。 秘めたる想いを、彼女に知られてしまうのではないかと。 それなのに、彼女はこの詩を読んでただ笑うに留まっている。 即ち、彼女はこの詩の真意に気づいていないということなのだろう。 クリフトの、彼女への恋心に気づいていないということなのだろう。 ―――これほど赤裸々な想いにすら気がついてもくれないのか。 肩透かしを食らったように思えて項垂れれば、笑いをおさめたアリーナが、クリフトの顔をのぞきこむようにして微笑んだ。 「ごめんね。本当に笑うつもりじゃなかったのよ。だってとても素敵な詩なんですもの」 だけどね、と彼女は赤らんだ頬を押さえながら続ける。 「何だか少し照れくさいかも」 「照れくさい?」 不思議に思って問い返したものの、自作の詩を見遣れば、若すぎる感性が妙な羞恥心をあおる事に納得する。 「まぁ、確かに、照れくさいかもしれないですね」 冷静に分析し頷くと、アリーナが怪訝そうにこちらを見上げてくる。 いったい、何だというのだろう。 目線で訊ねると、彼女は困ったように眉根を寄せ、口を開いた。 「ねぇ、クリフト。私の言葉の意味、わかってる?」 「え?それはどういう……」 唐突な言葉に、首を捻る。 先程の言葉に、どんな意味があったというのか。 もう一度考えてみるもののさっぱり見当がつかず、お手上げとばかりにアリーナを見れば、彼女はやれやれといった様子でため息を漏らした。 「わかってないのね」 そのあきれた様子に、クリフトはますます当惑を深める。 一体全体、なんだというのだろう。 謎かけのようなアリーナの態度に混迷を繰り返す。 ―――自作の詩、姫様の笑い、照れくさい。 焦れば焦るほど、訳がわからなくなりクリフトは心底困惑する。 「姫様……」 答えを求めて声を発せば、それまでじっとクリフトを見つめていたアリーナがその言葉を遮った。 「ねぇ、クリフトは自分のことを書かれた詩を読んでも照れくさくないの?」 ―――彼女は一体、何と言ったのだろう。 混乱する頭を小馬鹿にするかのごとく、いち早く反応したのは彼の胸だった。 「あ……」 信じられないほど鼓動が早まり、息苦しささえ感じる。 何故?と思う間もなく、全身が熱くなる。 「姫様、それは……」 思考より先に言葉が漏れる。 どくどくと脈打つ音が耳に響き、頬が火を噴くのではないかと心配になるほど熱くなる。 自分の体はどうなってしまったのかと疑いたくなる。 冷静になるんだ、と己に言い聞かせてみるものの、思うようにならない。 自分の意志とは関係なく、胸が高鳴り、頬が熱をおびる。 潤む瞳でアリーナを見遣れば、こちらを見上げていた彼女と正面から視線が絡んだ。 「姫様……もしかして私の詩の意味を?」 掠れた声でそう呟くと、彼女は先程よりもはるかに赤くなった頬を押さえながら恨めしげに睨んだ。 「やぁね、もう。どうしてさらっと流せないのよ。……そんな反応されたら、こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃない」 そう文句を言いながらも、アリーナは律儀に頷く。 「わからないわけないじゃない」 アリーナは笑う。 「だってね、私もクリフトと同じ気持ちだから」 自身も白磁の肌を薔薇色に色づかせながら、彼女はクリフトの赤くなった頬へ手を伸ばす。 「クリフトに比べたら、まだ短い想いかも知れないけど」 それでもね、と迷いのない瞳でクリフトの目を覗き込む。 「想いの深さなら、負けないわよ」 生来の勝気さすら覗かせて、アリーナはますます艶やかに微笑む。 「クリフト。私、あなたが好きよ」 ―――素敵な告白を、ありがとう。 ―――誰かが呼ぶ声がする。 そう知覚すると同時に背後で扉が勢いよく開け放たれ、酒瓶をかざしたソロとマーニャが なだれ込んできた。 「おい、クリフト。おまえ、ずりーぞ。すこしはおまえものめよな~」 「宴はさ、もう終わりらしいんだけど、ブライが秘蔵の酒を出すから、部屋で飲みなおさないかって~」 「おまえ、こんどはさんかしろよなー。さっきろうかですれちがったアリーナにもさんかするようにいっといてやったんだからさ~」 「そうそう、酔った勢いで……なーんてこともあるかもよ~」 相当酒を過ごしたのか。呂律が怪しい。 それでも妙な使命感に駆られたふたりは、クリフトを誘うべく歩みを進める。 「ちょっとぉ~」 「クリフトってばよ~」 ふらふらと覚束ない足取りでクリフトに近づいてきたふたりだったが、次の瞬間、酔いなど忘れてしまったかのような俊敏な動きを見せた。 「ちょっと、クリフト。あんた、大丈夫なの?」 「まじ、ふつーじゃねーぞ、その顔色。飲みすぎたんか?」 「そんなことどうでもいいから、ソロ、水よ」 「お、おう」 「クリフトも遠慮なんかしなくてもいいから横になんなさいよ」 急にどたばたと立ち回り始めたふたりを前に、クリフトは不思議そうに小首を傾げた。 「御酒は……ほとんど召しておりませんが?」 どこかぼんやりとしてはいるものの、酔いの見られないしっかりとした口調で告げられ、慌てていたふたりは怪訝そうに振り返った。 「お酒を?」 「飲んでない?」 「えぇ。ほとんど口にしておりませんが?」 クリフトが頷くと、ふたりは顔を見合わせ、いままで以上に慌てた様子でクリフトに駆け寄ってきた。 「ちょっと、なんかの病気じゃない?」 「パデキアいるか?」 真剣そのもののふたりに迫られ、クリフトは思わず仰け反る。 「いえ、別に病気って訳では……姫様に日記を見られただけ……」 思わず正直に答えかけ、慌てて口を噤む。 が、ふたりがそれを聞き逃してくれるはずも無く――。 「ちょ、なに?なんかあったの?そこんとこ、詳しく話しなさいよ」 「え、まじ?っておまえ、手に何もってんのさ」 「あら?日記帳?ちょっと貸してごらんなさいよ」 「あ、ちょっと、それは……」 「ほら、マーニャ。いまだ」 「あ、そ、そんな……あぁぁぁ」 妙に連携の取れたふたりの攻めにあえなく撃沈したクリフトを残し、ソロとマーニャは日記を手に廊下を走り去る。 そして―――クリフトの裏日記は、見たくもない陽の目を見ることとなる。 「ふぉふぉふぉ、若いっていいのう」 真っ白な髭をしごきながら、ブライが柱の影から姿を現す。 それを聞こえない振りでやり過ごせば、目の前に桃色の鎧を纏った戦士が立ちふさがる。 「なんと情熱的な……いやいや、拙者、クリフト殿を見直しましたぞ」 褒めているのか、からかっているのかわからない口調。クリフトは即座に踵を返し、人影の少なそうな中庭に足を踏み入れる。 「あら、クリフトさん。ごきげんよう」 いつもと変わらぬ笑顔でミネアが近寄ってくる。 一瞬身構えたものの、あまりに普段どおりの彼女にほっと力を抜く。が、直後クリフトは顔を赤らめて全力疾走する羽目になる。 「クリフトさん。この水晶玉ならアリーナさんの○○も××も覗き放題ですよ? おいくらで買われます?」 一行の良心と思っていたミネアにまで、ソロとマーニャの手は伸びていた。 その衝撃に打ちひしがれながら中庭を突っ切れば、前方に丸っこい影が現れた。 「やぁ、クリフト君。大変そうですね」 一行の中で唯一の妻帯者、トルネコ。 彼は穏やかな微笑を浮かべて、クリフトを労う。 「でも、よかったじゃないですか。アリーナさんと両想いになれて。クリフト君、頑張っていましたからね。神様がきっと恩恵を与えてくださったのですよ」 からかいも冷やかしの色もない、優しい言葉。 クリフトが思わず頭をさげると、彼はクリフトの肩をぽんぽんと叩きつつ、囁いた。 「―――で、私にも神の恩恵のおすそわけを。アリーナさんとの婚儀がまとまったら、ぜひあの日記を出版しましょう。絶対売れますよ」 ―――世界を救った勇者たちに、神は恩恵を与え給う。 神の恩返し―――クリフト編・完
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サクリファイス・フュージョン(OCG) 速攻魔法 このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。 (1):「アイズ・サクリファイス」融合モンスターカードの融合素材モンスターを自分の手札・フィールド・墓地から除外し、 その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。 (2):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、 相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。 自分フィールドの「アイズ・サクリファイス」融合モンスターまたは「サクリファイス」1体を選び、 その効果による装備カード扱いとして対象の相手の効果モンスターを装備する。 アイズ・サクリファイス補助 コントロール モンスター除外 融合 融合モンスター補助 装備 魔法 魔法除外 関連カード サクリファイス サクリファイス(OCG) サクリファイス(DM7)
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クリフトのアリーナへの想いはPart5 372 :【月のかけら】1/5 ◆cbox66Yxk6 :2006/05/29(月) 22 02 59 ID ING++uwj0 「あれ、これって」 とある町で行われた夜祭でのこと。 その露天で売られていた子供向けのおもちゃにアリーナの視線が釘付けになった。 「どうしたの?」 その背後からひょいと顔を覗かせたマーニャが、アリーナの視線の先にある少し濁った水晶のかけらを手にとり懐かしげに目を細めた。 「へぇ、月のかけら・・・まだ売っているのね」 マーニャの声にアリーナは、「やっぱり・・・」と呟く。 王族として生まれ育ったアリーナが、こういうおもちゃに触れる機会はそうそうなかった。 しかし、目の前にあるこの水晶のかけらには確かに見覚えがあった。 そうあれは確か・・・。 アリーナの脳裏にいまよりずっと幼い顔をしたクリフトが浮かび、月のかけらと重なった。 「そうだわ、あの時の」 クリフトがくれた『おつきさま』。 その言葉がきっかけとなったのか、アリーナの中の記憶が鮮明によみがえった。 「いやいや、おつきさまが欲しいの!」 こんなのイラナイ~。 外国製の人形を振り回して癇癪を起こすアリーナに、父王とブライが困り果てた顔をする。 そんな中、蒼い髪をした少年が遠慮がちに声をかけてきた。 「ひめさま、そんなにおつきさまがほしいのですか?」 アリーナの乳兄弟として、そして学友として城勤めをしていたクリフトが大人たちの視線を一身に浴びながら申し出る。アリーナが「ほしい!」と大きな声で答えると、年より大人びた印象をもつ少年はやんわりと笑いながら頷いた。 「わかりました。でも、おつきさまはみんなのものです。一日だけ、とおやくそくしてくれますか?」 そうしたら、ひめさまにおつきさまをとってさしあげます。 一日だけと聞いて、ちょっとだけ迷ったものの、月がどうしてもほしかったアリーナは何度も頷く。 「おつきさま、とって!」 夜空を指し示し、「いますぐとって」と言い募るアリーナに、クリフトはかぶりを振る。 「きょうはむりです。あと3日まってください」 かならずとってさしあげますから。 そう言い切ったクリフトにサントハイム王とブライが心配げな視線を送るが、クリフトは何も言わず、ただまっすぐに見返した。その瞳はとても穏やかで自信に満ち溢れていた。 「では、3日間、いい子にしていてくださいね」 いい子にしていないとおつきさまは会いにきてくれませんよ。 クリフトの言葉に、アリーナは「わかったわ」と元気よく答えると小指を突き出した。 「やくそくね」 3日後、クリフトに誘われて城の中庭に立ったアリーナは、クリフトの手に握られたものと空を見比べ、目を輝かせた。 見上げた空に月はなく、クリフトの手に小さな銀色のかけら。 「ほんとうに、おつきさま、とってくれたんだ」 満面の笑みを浮かべたアリーナの手にそっとかけらを握らせると、クリフトは庭の片隅に腰をおろす。 「よかったですね、ひめさま」 これも、ひめさまがいい子にしていたからですよ。 3つしか違わないのに、妙に大人びたことを言うクリフトにアリーナは少し不満を覚えたが、それ以上に『おつきさま』が嬉しくて、クリフトの横に座ると一緒にかけらを眺めた。 「きれい」 「きれいですね」 「でも、いちにちだけなのよね」 「えぇ、いちにちだけです」 「つまんないのー」 「ひめさま、わがままをおっしゃると、おつきさまはおそらにかえってしまいますよ」 思わず口元を押さえたアリーナにクリフトは小さく笑うと、星だけが瞬く夜空を見上げた。 月のない夜。それは新月と呼ばれる。 ふたりはその晩、いつまでも飽きることなく『おつきさま』を眺め続けた。 そして東の空が白み始める頃。 クリフトに促されたアリーナはそっと草陰に『おつきさま』を置いた。 「これで『おつきさま』は、おそらにかえれるの?」 「はい、でも、おつきさまは、はずかしがりやさんなのでみていちゃだめですよ」 いきましょう、と背中を押されアリーナは一度だけ『おつきさま』を振り返ると、小さく手を振った。 「ばいばい」 そしてクリフトの横に並ぶと、その手をぎゅっと握った。 あんなにほしかった『おつきさま』だったのに、お別れと聞いてもそれほど悲しくないのが不思議だった。 複雑な思いに、クリフトのぬくもりが重なる。 驚いたようにこちらを向いたクリフトだったが、やがてとても優しい微笑を浮かべると、アリーナの小さな手をそっと握り返した。 「いきましょうか」 クリフトの穏やかで透明な微笑み。アリーナの大好きなクリフトの笑顔。 それは『おつきさま』を思わせるやさしいもので。 「どうしました?」 心配げな顔をして、クリフトがぼんやりとしていたアリーナの顔をのぞきこむ。 「ねむくなっちゃいましたか?」 クリフトの言葉に我に返ると、アリーナは屈託のない笑みでこう言った。 「クリフトっておつきさまみたいね」 だからおわかれがさびしくないんだわ。 アリーナの言葉に目を丸くしたクリフトだったが、少し頬を赤らめると小さく「ありがとうございます」と呟いた。 記憶の海に沈みこんでいたアリーナを、マーニャの声が現実に引き戻した。 「おじさん、これいくら?」 「30G」 「あいかわらず高いわね~」 それじゃ、子供のお小遣いなくなっちゃうわよ! マーニャの呆れたような言葉に、露天商のおじさんが朗らかに笑った。 「だって、安売りしちゃったら、夢が壊れるだろ?」 だからこれくらいがちょうどいいのさ。 そう陽気に言い放ち、アリーナの方へウィンクする。 「お嬢ちゃんもそう思うだろ?」 アリーナは突然話を振られ、少し驚いたが、やがてとても優しい笑みを浮かべて頷いた。 「そうね」 その表情の美しさに、思わずマーニャが息を呑んだ。そしてアリーナに『おつきさま』の話を聞くと、さも納得したかのように頷いた。 「なるほど、ね」 素敵な思い出ね。 「ありがとう」 少しはにかんで答えるアリーナの視線の先には、あの頃と変わらずに自分を見守ってくれている 『おつきさま』 自分の方を見ていたアリーナに気づいた彼は、小首を傾げると柔らかな笑みを浮かべる。 今ならわかる。どうしてあんなに月がほしかったのか。 「わたし、あんなに小さい頃から」 クリフトのことが好きだったのね。 胸のうちで囁かれた言葉は、誰に聞こえることもなかったけれども、夜空から見守ってくれる月だけがその想いを温かく包み込んでくれた。 暗い闇の中でも、私は大丈夫。だって私には『おつきさま』が傍にいてくれるから。 (終)
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クリフトとアリーナの想いは Part4.2 897 :【強がり】その1 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 12 34 41 ID 7pZgGDPt0 「おい、クリフト。さっきの戦闘で怪我しただろう?」 回復呪文かけてやるから。 ソロの言葉にクリフトはやんわりと笑った。 「大丈夫ですよ」 敵の爪が掠めたわき腹は、服が破れ血が滲んでいる。にも拘らず、クリフトは平気だという。 「おまえさ、強がるのも大概にしておかないと」 ため息混じりに呟くソロに、かなり頑固な一面を併せ持つ神官は笑いながらかぶりを振る。 「本当に、大丈夫ですから」 そんなやり取りを聞いていたアリーナが、無言でクリフトのわき腹を『小突いた』! その瞬間、辺りに意地っ張り神官の悲鳴が響き渡る。 「お、おい」 わき腹を押さえて蹲ったクリフトの肩に手をかけながら、ソロが慌てた。 青ざめた額に脂汗が滲んでいる。 思わず息を呑んだソロの横から、この場にそぐわないのんびりした声が発せられる。 「ほら~、やっぱり痛むんじゃない。強がってないでソロに治療してもらいなさいよ」 クリフトってホントは痛みに弱いのよね~。 けらけらと笑いながら、アリーナはその場を立ち去っていく。 その後ろ姿を眺めながら、ソロは思わず呻いた。 「アリーナ。おまえが止めを刺してどうする・・・」 自分の馬鹿力、そろそろ認識した方がいいぞ・・・。 ホイミで終わるはずだった怪我が、ベホマになってしまったことは、心優しい神官の希望もあって、ソロの胸のうちに収められた。 どうやらクリフトの「強がり」も、アリーナの前では形無しらしい。 (終) 898 :【強がり】その2 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 12 36 19 ID 7pZgGDPt0 「だ、大丈夫です。まだ、いけます・・・」 額にびっしりと脂汗を浮かべたクリフトが、青い顔で笑う。 「お、おい」 もうやめておけ。 そういうソロにかぶりを振り、クリフトは果敢にも目の前の『物体』に手を伸ばす。 その腕を脇から、しわだらけの手が掴んだ。 「やめておけ、クリフト。無茶をするでない」 ミントスの二の舞になるぞ。 小さく囁かれた言葉に、ソロは恐れおののく。 (おいおい、ミントスでのクリフトの病気って・・・) 「ただの・・・食あたり?」 そう口にしてみてソロは目の前の物体に、改めて今までに感じたことのない恐怖と悪寒を感じた。 クリフトが挑もうとしているのは、アリーナの手作り料理。ただし、人が食べるものには見えない。しかし、本人曰く、愛情のこもった料理とのことなので、そう言われたクリフトが食べないわけにはいかない。ある意味、モンスターより性質が悪い。 ブライの制止を振り切り、震える手でアリーナの愛情を噛み締めるクリフトに、ソロは深々とため息をついた。 「おまえ、『強がり』も程々にしないと・・・」 命を落とすぞ。 この日、ミントスを震撼させた謎の病の正体がわかり、関係者は胸をなでおろすと同時に、得も言われぬ恐怖を覚えたという。 (終) 900 :【強がり】その3 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 13 18 28 ID 7pZgGDPt0 「なぁに、わしは姫様の御子を見るまでは、簡単にはくたばりませぬぞ」 心の底からそう言って笑ったのは、いつの日のことだったか・・・。 「いい加減にしてくれぬかのう・・・」 旅を終えて10年、未だに晩熟な神官と姫の仲は発展していなかった。 「はたして、いつまで強がれるものやら・・・」 頼むから、早くしてくれ。 ブライの『強がり』はまだまだ続く。 (終) 901 :【強がり】その4 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 13 19 26 ID 7pZgGDPt0 「いいわよ、別に」 クリフトなんかいなくたって、大丈夫よ。 そう言ったアリーナだったが、次の台詞を聞いて満面の笑みを浮かべた。 「わかりました。私も行きましょう」 「ホントに?」 「はい」 アリーナはクリフトの首に飛びついた。 「ありがとう!」 さっきの台詞は嘘。ホントはあそこから見える景色を、あなたとふたりで見たかったの。 ふたりの頭上に、青々とした葉を茂らせる世界樹がそびえたっていた。 (終) 905 :【強がり】その5-1/2 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 17 47 42 ID 7pZgGDPt0 「嫌って言ったら嫌なの!!」 扉越しにアリーナの声が響く。 やれ勉強しろだの、やれ礼儀作法がなっていないだの、小言ばかり並べ立てられたアリーナがついに切れて、自室に閉じこもること丸一日。 なだめすかす教育係の面々にも濃い疲労の影が見える。 「お願いですから、出てきてくださいよ~」 歴史学だかなんだかの先生が泣き崩れる。それでもアリーナの反応は「いや」の一言。 「姫様、いま料理長がおいしいお菓子を作っておりますぞ」 「・・・いや」 昨日からまともに食事を取っていないせいだろうか。ほんの僅かな間があった。 しかし返った答えは同じだった。 「姫様、以前欲しがっていた『サントハイム武闘家大全』が手に入ったのですけど」 なかなか手に入らない逸品ですよ。 「・・・・・・いやよ」 今度はさっきより若干沈黙が長かった。 「姫様、本日サランの町に旅の武闘家なるものがやってきておりますが」 「・・・・・・・・・出ないっていったら、出ないわよ!!」 いつもであったらとっくに扉を開けているだろうに、今回の癇癪は相当根が深いようである。 疲れ果てた人々が顔を見合わせてため息をついていると、ブライに呼ばれて青年神官がやってき た。 「姫様?いらっしゃるのですか?」 クリフトの呼び掛けに、イライラとした声が返る。 「クリフトまで・・・何しに来たのよ!!私はね、一切の勉強をしなくていいと約束してくれるまでここを出ないわ!!」 私の意志は固いんだから!! クリフトは大仰にため息をつくと、少し悲しげに呟いた。 「そうですか。聖地巡礼の旅に出ることになったので、最後に姫様にご挨拶を、と思ったのですが・・・」 残念です。 クリフトの言葉が終わるや否や、扉が荒々しく開き、アリーナが飛び出してきた。 「ちょっと待ってよ!そんな話聞いてないわよ!!」 クリフトの襟に手をかけたアリーナに、クリフトはクスクスと笑った。 「また引っかかりましたね」 「あっ」 すかさず周りを取り囲まれたアリーナは自分の失態に気づく。 「クリフト~」 ぎりぎりと悔しそうに歯噛みするアリーナの頭をぽんぽんと叩くと、クリフトはにっこりと笑った。 「さ、私も一緒にお小言を聞いて差し上げますから」 むっとした顔のままアリーナが耳元で囁いた。 「で、巡礼の話は本当に嘘なのね」 「はい」 クリフトが頷くと、アリーナは少しほっとしたように笑った。 アリーナの強がりはこれが限界のようである。 (終)
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クリフトとアリーナの想いはPart7 20 :【勝負】1/6 ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/02/27(火) 12 39 03 ID LUTvY6IV0 旅の途中で魔物に遭遇した勇者一行は、勇者、ライアン、マーニャ、アリーナのパーティで応戦した。 しかし、魔物の中にデビルプラントがおり、マホトーンを唱えられてしまったためマーニャは後手に回り、ライアンとアリーナが中心、勇者がサブとなって連携を組むことになった。 そして、魔物を全滅させた後、アリーナが晴れ晴れとした表情で言った言葉が事の発端となった。 「うーん、やっぱり、最後に信じられるのは自分の腕よね!」 アリーナに悪気はなかったのであるが、魔法を封じられて充分に攻撃に参加できず、ストレスの溜まっていたらしいマーニャは、この言葉にムッとした顔をした。 これで済めばその場は適当に収まったのであろうが、これにライアンが余計な相槌を打ってしまった。 「うむ。やはり、鍛錬と汗によって身につけたものは、決して自分を裏切らないからの。」 ライアンとしては、「努力すれば報われる」程度の意味で言ったのであろうが、選んだ言葉とタイミングが悪かった。 その場にいた全員が、マーニャのこめかみあたりで、ブチっと音がするのを聞いた。 「ちょっと何よ、その言い方!魔法は、信じられない役に立たずってわけ!?」 「い、いや、マーニャ殿の鉄扇は、魔法がなくても充分脅威であるぞ!」 ライアンが慌ててフォローしようとするが遅かった。しかも、 「ライアンさん、今の場合はそれじゃフォローになってないよ…。」 勇者は呟いた。 マーニャはアリーナとライアンにびしっと指を突きつけた。 「こうなったら、勝負よ!ライアン!アリーナ!魔法とあんたたちの武術と、どっちが強いか試してみようじゃないの!!」 「マーニャさん!困ります!姫様にそんなことけしかけないでください…!」 慌ててクリフトが前に出る。 「そうそう、マーニャさん、そんな、仲間内で勝負だなんて、やめましょうよ。」 トルネコがとりなし顔に頷いた。 しかし、アリーナは目をきらきらと光らせて、ガッツポーズを作った。 「面白そうじゃない!やるわよね!ライアン!」 ライアンも、困ったように髭をなでていたが、何しろ、勝負事は大好きな王宮戦士、 「しかし、そうだとすると、拙者達2人対マーニャ殿1人では、ちと不公平…。」 頭の中では既に段取りに入っているようだった。 「何言ってるのよ。あんた達の腰抜け武術なんか、あたし1人で充分よ!」 「なんですって!あたしだって、1人で充分よ!」 マーニャの言葉にアリーナが色めき立つ。 闘いが日常である勇者一行の間では、戦闘能力の向上は最大の関心事の一つであり、互いの腕を競い合うこともないではない。 特に、負けず嫌いのアリーナとマーニャが角つき合わせることはしょっちゅうであった。 しかし、今回はいつもとは違い、何やら抜き差しならない雰囲気となってきている。 こういうときに頼りになるはずのブライは、腰痛で馬車の中で寝込んでいた。 既に、アリーナとマーニャはお互いの間合いを取り始めており、ミネアとトルネコは、もはや説得は無駄とみて、黙々と薬草と包帯を準備し始めた。 「ちょっと、2人とも…ソロさん、何とかしてください!」 クリフトは勇者の袖を引っ張ったが、勇者はあさっての方向を見ていた。 「無理無理。あの2人がああなったら、誰にも止められない。」 それに、2人とも、たまには痛い目に合った方がいいって、と苦々しげに言う勇者に、クリフトは唇を噛み締めた。 マーニャの魔法に、アリーナの武術。 本気でぶつかりあえば、互いに軽くはない傷を負うのは必定である。 クリフトは、意を決したようにアリーナ達の方へ歩み寄った。 「そういうことならば、強さ比べのルールは、第三者である私が決めさせていただきます。」 突然割り込んできたクリフトを、2人は胡乱な顔で見やる。 「強さを試す方法として、お互いに戦うのではなく、私を倒してみてください。 マーニャさん、姫様がそれぞれ交替に攻撃をして、私を先に倒した方の勝ちです。 傷を負えば、交替のときに自分に回復呪文をかけますから不公平にはなりません。」 アリーナは、驚いた顔で首を振った。 「そんな!クリフト、危なすぎるわ!」 「そうよ、あんた何考えてるのよ!」 マーニャもアリーナに同調する。 クリフトは、そんな2人を見てほがらかに笑って見せた。 「お2人とも、随分な自信がおありのようですね。私としては、太陽が地平線に沈むまでに どちらかが私を倒せることができたら、お慰みだと思いますけども。」 太陽は中天を過ぎたと言っても、入日には程遠いところにある。 らしくないクリフトの挑戦的な発言に、勇者は驚いた顔で振り向き、ミネアとトルネコも、薬草を持ったまま手を止めて目を見張った。 ライアンは、何か言いたげに眉を上げたが、口は閉じたままだった。 しかし、アリーナとマーニャは、クリフトの口調にカチンと来たらしい。 「言ったわね!クリフト!もう許さないんだから!」 「後悔するんじゃないわよ、その言葉!」 2人はクリフトに向かって構えを取った。 「はあ、はあ、なんで、クリフト1人ごときを倒せないのよ!」 既に太陽は地平線に沈もうとしていた。 ギャラリーは、ミネアが入れたお茶を飲みながら座って観戦している。 アリーナもマーニャも、肩で息をしていたが、クリフトはまだ、たいした傷もなく立っていた。 クリフトは、アリーナの攻撃にはスクルト、マーニャの攻撃にはマホトーンを唱え、あとは剣と体術で躱わすという非常にシンプルな方法で対応していたのみであったが、 なんといっても、クリフトの補助呪文のタイミングは、常日頃の実戦で鍛え抜かれている。 2人がそれぞれ、呪文の詠唱の隙を狙って攻撃しようとしても、うまく急所を外され、気づいたときにはすでに呪文は完成し、主な攻撃の手が封じられている、という状態であった。 加えて、クリフトは、攻撃をかわしながら絶えず2人を挑発し続けており、それが2人の冷静な判断力を失わせていた。 今も、悔しげにクリフトを睨む2人に対し、クリフトは馬鹿にしたような薄笑いを浮かべた。 「そろそろ日が沈みますよ。所詮、あなたの魔法なんて、そんなものですか、マーニャさん! 姫様も、武術大会で優勝された割には、攻撃がお粗末でしたね!」 2人の顔が赤く染まった。 「~~~!もう許せない!」 「く~~!むかつく~!!」 「マーニャ!」 「やっちゃいましょう、アリーナ!」 2人は同時にクリフトに向かって突進した。 「わ、ルール違反。」 お茶をすすりながら勇者が呟く。 ミネアは黙って用意した薬草を取り上げた。 クリフトとて、同時に複数の呪文を唱えられるわけではない。 とりあえずマホトーンを唱えることに成功し、黒焦げはまぬがれたものの、その間に間合いに入ったアリーナの突きが見事に決まり、遠く宙に舞った。 「アリーナ、よっしゃーー!」 「やったわ!マーニャ!」 手を取り合って喜ぶ2人の横を、ミネアと勇者が通り過ぎ、クリフトを覗き込む 「ザオラル、必要そう?」 「いえ、べホマで何とかなりそうですわ。」 あとで、薬草の包帯もしておきましょう、とミネアがクリフトに手をかざした。 「あっつ…、ありがとうございます、ミネアさん。姫様の突きは、相変わらずきついですね。」 クリフトが苦笑しながら体を起こした。 そんなクリフトにマーニャとアリーナが駆け寄って来た。 「どう!クリフト!」 「あんまり女をバカにするもんじゃないわよ!」 肩を組んでブイサインを決める2人を見て、勇者とミネアが静かに言葉を交わす。 「俺、こいつら殴ってもいいかな。」 「むしろ、クリフトさんにザラキしてもらって放置した方が静かですわよ。」 ライアンとトルネコも近寄ってきた。 「いや、クリフト殿、体を張ってのご仲裁、見事でしたな。」 「私にはとてもまねできません。クリフトさんならではの方法ですね。」 その言葉に、アリーナが我に返った。 「そういえば、私、マーニャと勝負してたのよね。」 「でも、全部クリフトによけられちゃった。クリフト、いつの間にそんなに強くなったの?」 「ホントよ~。相変わらず、隅に置けない男よね~。」 全く反省の色を見せずにあっけらかんとしている2人の言葉に、クリフトは首を振った。 「私が強くなったわけではありません。今回の攻撃は、マーニャさんは魔法、姫様は打撃と、あなた方がどんな攻撃をしかけてくるか、事前に分かっていましたから、防御する側としてはこんなに簡単な戦いはありませんでした。」 お2人が力を合わせない限り、私はいつまでもあなた方を防ぎ続けられましたよ、と続けると、クリフトは、2人を厳しい目で見据えた。 「そして、それは、魔物にとっても同じことが言えます。」 2人は、ハッとした顔をした。 「分かりましたか、お2人とも。魔法と武術のどちらが上か、なんて全く意味のないことです。 それぞれが、互いに足りないところを補い合ってこそ、本当の強さが生まれるんですよ。」 2人はバツが悪そうに目を見合わせる。 クリフトは、そんな2人を見て表情を緩めると、優しく声をかけた。 「…それが、仲間でいるってことじゃないですか。」 その言葉にマーニャは照れくさそうに頬をかき、アリーナは満面の笑みで顔を上げると、思い切りクリフトに抱きついた。 「クリフト!クリフトって、やっぱりすごい!」 「え?え?ひ、姫様!!??」 とたんに今までの威厳はどこへやら、真っ赤になってオロオロし始める神官を見て、周囲は明るい笑い声を上げた。 ―――それが、仲間でいるってことじゃないですか。 暮れなずむ空の下、クリフトの言葉は、仲間達の胸の中に暖かい炎をともしたのだった。
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クリフトのアリーナの想いはPart11 445 :従者の心主知らず さえずりの塔 前編 2/8 :2010/12/02(木) 06 15 11 ID gn7Vs5mP0 「お父さまが大変ってどういうこと!?」 砂漠のバザーで楽しい時間を過ごしている中、突然私たちを呼び止めたお城の兵士。 次に出てきた言葉はお父さまが大変だという一言。 「も、申し訳ありません。急使を承り、すぐに城を出たもので、私も詳しくは、存じないのです……。 とにかく、すぐにお城に戻るようにと、承っております……」 息を切らして答える兵士。よっぽど走り回って私たちをさがしてたんだということがいやでもわかった。 「もしや、王さまの身に何かあったのではっ!?ここはいったんお城に戻るべきではないでしょうか?」 「おお!わが王が!?これはいかん。いかんですぞ。のんきに旅をしている場合ではございません。すぐに城へ戻りましょう!」 じいとクリフトも口々にまくし立てる。荷物をまとめる音。落ち着かない空気。私は…… 「お父さま……」 「王さまは国のかなめ。王に一大事あらば国もまた……ひ、姫さま!?」 クリフトが言い終わらないうちに私はもう走り出してた。お城へ、早くお城へ。 「姫さま!お待ちください!!」 「姫!!待たれよ!!」 「姫さま!!」 私は走りながら考える。お城からここに来るまでどれくらいかかった?今から走って帰れば何日でお城につける? 早く、少しでも早く。 「姫さまーーっ!!!」 クリフトの声は聞こえないふりをした。 遠い。まだフレノールに着かないの?私はずっと走り続けた。疲れて少し歩いてはまた走って。 まだ見えない。私、知らない間にこんなに遠くに来てたのね……。 途中で足がもつれて何回も転んだ。転んでる場合じゃない。急がなきゃ。急がなきゃ……。 「姫さま!!お待ちください!!!」 起き上がって砂を払ってたら声が聞こえた。もう顔を見なくてもわかる。クリフトの声。なんでだろう、泣きたくなってきた。 「なによクリフト、待てるわけないでしょ!お父さまが大変だっていうのに」 私は振り返らないで言った。 「ひ、姫さ……ちょ……ま……っ」 クリフトはなかなか次の言葉を言わない。私はイライラして振り返った。 「こうしてる間にもお父さまはっ!……クリフト?」 クリフトはかがみこんでた。やけに息切れしてせきこんで。とっても苦しそう。片手を上げてるのは待っての合図? そっか……。クリフトも休まずに走ってきたんだ。私より足が遅いのに、体力もないのに、私を追いかけてきたんだ。 ばかクリフト……。私はクリフトの息が整うまで待った。少ししてクリフトは顔を上げる。 「姫さま、申し訳ありません……。お城へですが、走って戻るより早い方法がございます」 「え?」 「こちらを」 渡されたのは1枚の翼。 キメラっていう魔物の翼の力を封じ込めたもので、一度行ったところならどこへでもひとっとびで行けるっていう。 ああ……。テンペの村の道具屋さんで初めてこれを見たとき、そんなのうそよねって笑って、 でもこれがあれば今度はかんたんにお城を抜け出せるわねってふざけて言って、じいもクリフトも困ってて。 それが今目の前に……。 「こんなのうそよ!」 「このような大変なときにうそなどつきませんよ」 「うそ、だってこんな……本当にこんなのですぐお城に帰れるの……?」 「はい。ですからこうして追いかけてきたのではありませんか」 「っ…………」 もうなんでもよかった。早くお城に帰れるのなら。一日でも早く帰りたい。帰りたい……。 私はクリフトから翼の使い方を教わった。 鳥が空を飛ぶみたいに山を超えて一直線に行けるんですって。 でも使い方を間違えると違う場所にもいっしゅんで行ってしまうんですって。 私はいっしょうけんめい説明を聞いた。なんでかこれは自分で使いたかったから。 私は翼をぎゅっとする。 「よかった……本当にこれですぐ帰れるんだ……よかった……。私、もしお父さまの身に何かあったらって……」 お父さまの身に何かあったら。自分で言っておいてはっとした。もしお父さまの身に何かあったら……? ううん、ダメよ。大丈夫。それにこういうときこそ私がしっかりしなくっちゃ。大丈夫。 そう、たとえ何があってもびっくりしない私でいるのよ。うん。よし。大丈夫。 気づいたらクリフトの説明が終わってた。クリフトは……なんでかうつむいてた。小さくため息をついた気がする。 ため息っていうか、なんだろう。よくわかんない。クリフトもお父さまのこと、心配してくれてるのかな。 「クリフト?」 「……姫さま……」 クリフトが私を見た。なんで……なんでそんなに寂しそうな顔してるんだろう。少しだけ胸がずきっとした。 クリフトが私に手を伸ばしてきた。でも、つかむようでつかまない、宙ぶらりんの手。なんだろう。 「クリフト、どうしたの?」 「…………」 クリフトの伸ばした手をつかもうとしたら先に手をとられた。何かささやいてる。最後に聞こえたのはホイミ。あ。 「あせりは禁物です。この上われわれまでケガをしてはなりません」 「うん……ありがと……」 さっき何回も転んで手のひらにできたすり傷がいっしゅんで治った。クリフトはひざにもホイミしてくれた。 からだがほわっとあったかくなる。クリフトがホイミしてくれるときはいっつもそう。魔法ってほんとに不思議だなー。 きっとクリフトは、私やお父さまのことを心配してくれてたのね。 ちっちゃなころから自分のことより人のことばっかり優先するクリフト。私のことばっかり優先してくれるクリフト。 優しいクリフト……。 なんだかさっきまでの緊張がうそみたいにとけてからだが軽くなった。少しだけ元気も出てきた。 「っもう、せっかくこれから旅が面白くなるっていうところだったのに!でもしかたないわ。お父さまのほうが大事だもの。 旅はいつでもできるんだから、今はがまんよね!」 ちょっと大げさに言ってみせる。 「旅はいつでも…………そうですね」 「そうよ!」 あ、やっとクリフトが笑った。少しだけだけど。でもそう、その笑顔よ。私最近クリフトが笑ってくれないと気になるんだから。 じいはもう先にお城に戻ってるんですって。気を取り直して私たちもお城に向かった。そう、キメラの翼で! 久しぶりに戻ったお城。いつもの風景。変わらない兵士たち。よくぞ戻られましたって言われた。 私にお説教しないし閉じ込めようともしない。お父さまはほんとうに私が外に出るのを許してくれたんだってわかった。 お父さま……。 まっすぐお父さまのもとへ向かう。勇気を出して階段を上がったら、玉座にお父さまの姿を見つけた。 お父さまがゆっくりこちらを向く。いつものお父さま……? なんだ……なんだ!お元気そうじゃない!私は心からほっとした。 大臣や兵士がよくぞご無事でって私たちを迎える。でも、かんじんのお父さまが私たちに話しかけてくれることはなかった。 お声が……お父さまのお声が出ない。出なくなった。突然。前触れもなく。 どんなにお父さまに話しかけても、お父さまは何かを言いたそうにこっちを見るだけ。なんて苦しそうなお顔なの? 大臣が筆談で少しお話したみたいなのだけど、風邪ではないんですって。原因はわからないんですって。 もう、3日もたつんですって……。 そしたらじいが。じいが、何者かのしわざかもしれないって。お父さまのまわりにまがまがしき気配が見えるって言って。 私は思わずお父さまの手をぎゅっとした。お父さまも私の手をぎゅってしてくれた。ごつごつしてておっきなお父さまの手。 でも、お父さまは何も言ってくれない。何も……。 いっつもお説教とお小言と難しい話。でもたまにお優しい言葉もかけてくれる。あんなにうるさかったお父さまなのに……。 なんだかたまらなく寂しくなってきた。私は思わず大声で叫ぶ。 「お父さまはどうして何もおっしゃってくれないの?何があったの?ねえ!」 「……………………がはっ!げほっ!!」 「王様!!」 お父さまが何かを言おうとしてせきこんだ。手で口を押さえて。お顔を押さえて。とっても苦しそう。苦しい。お父さま……! 「王様、ただ今原因を調べているところです。今しばらくご辛抱を……」 大臣がかけ寄ってきてお飲み物を渡す。私…… 私、どうすれば。どうすればいいの?どうすれば……。教えて。教えてお父さま……。 私はまた叫んでた。 「悪いやつらも私だけをねらえばいいのよ!私は強いもの。私なら……。お父さま……っ」 気づいたら私は泣いてた。後ろでじいか誰かが何かお話してたみたいだけどもう耳に入らなかった。 私はずっとお父さまを見てた……。 お父さまは私を見たあと、ぼんやりと遠くをながめた。寂しそうな、つらそうなお顔……。 お父さまは今、何をご覧になっているの?何をお考えになっているの?何を伝えたいの?何を…… 「……姫さまは私が命にかえてもお守りいたします!」 ふいに聞こえたのはクリフトの声。私ははっとした。振り返るとクリフトが片ひざをついてお父さまを見てた。 やけに真剣な顔。お父さまもクリフトを見てた。まるでその声にご返事しているかのような、真剣なお顔……。 私はなんでか顔が熱くなった。 「ち、ちがうわ!私がクリフトを守るのよ!」 「姫さま……」 すっかり現実に戻った。そうよ、悲しんでる場合じゃないわ。私はもう一度お父さまの手をぎゅっとして言った。 「お父さま。もう少しだけ待っててね。次に帰ってきた時はきっと。きっとアリーナがお父さまのご病気を治してさしあげます!」 お父さまももう一度私を見て、手をぎゅってしてくれた。少しだけ目がうるんでるように見えた。 悔しい。なんでだろう、悔しい。なんだかもやもやする。落ち着かない。 私は今じいといっしょに裏庭に向かってる。大臣が裏庭のゴンじいなら何かわかるかもしれないって言ってくれて。 じいがゴンじいのこと知ってるみたいだったからいっしょについてくことにしたの。 でもクリフトは他に手がかりがないか探してきますって言って。何か進展があったらお互いに報告しようってことで別れた。 私が今もやもやしてるのはきっとクリフトのせい。 クリフトが大きな声を出さなければ私はきっとずっとお父さまを見てた。何があってもびっくりしないって決めてたのに……。 クリフトにお守りいたしますなんて言われたのもいやだった。私がクリフトを守るんだから。そう、私が守るんだから……。 「フム。ごくつぶしの詩人もたまには役に立つと。マローニに会いにゆきますか」 気づいたら私はゴンじいのとこにいて話が勝手に進んでた。 「マローニってあのサランの町にいるマローニ?歌ばっかり歌ってるあの人が何か知ってるとでもいうの?」 「ひとつの可能性ですがのう。しかし、姫さまもなかなかおっしゃいますな」 あ、ちょっと失礼な言い方になっちゃってたかな。でも今はあんまり気分がすぐれないの。 ゴンじいにもう一度くわしく聞いたら、マローニも昔のどを痛めたことがあって、でも今はこの国いちばんの美しい声だから、 もしかしたら何か知ってるかもしれないんだって。うーん。微妙。 「……でも他に手がかりはないわね。行ってみましょう!」 ゴンじいにお礼を言って私たちはサランへ向かった。クリフトは呼ばなかった。 「フム。この者の声はエルフの薬のせいだったと。まあ多くは語るまいて。今は砂漠のバザーにてさえずりの蜜を手に入れるが先」 マローニに話を聞いたら、さえずりの蜜というエルフの薬を飲んだために美しい声になったんですって。 その蜜は昔砂漠のバザーの道具屋で見つけたんですって。 砂漠のバザーって……あそこじゃない!だって世界中を旅してるからあそこでバザーを開くのはひさしぶりだって……。 「そうですね。もう5年以上は前のことですよ」 「5年以上も前……?」 「ええ。またあそこでバザーが開かれているのですか。なつかしいですね」 そんなに前のことだなんて……私はやっぱり運がいいのね。 マローニにもお礼を言って私たちは教会をあとにした。 「他にお父さまを治す手がかりはないわ。さえずりの蜜にかけてみましょう。じい、キメラの翼をちょうだい」 さっきゴンじいの部屋に行ったとき、何かのお役に立つかもしれないからってキメラの翼をもらったの。 さっそく役に立つわ。もうその効力は実証ずみだもの。悔しいけど、うそでもいんちきでもなかった、魔法のアイテム。 「キメラの翼?ほっほっ。そのような道具に頼らずともこのじいめの魔法でひとっとびですぞ」 「うそ!じいったらそんな魔法使えるの!?」 「姫さまが城へ戻る決意をしてくださればすぐにでも披露できたんですがのう……」 「っもう、お説教はいいわよ。じゃあ早く行きましょう」 「はて、姫さま。金の管理はクリフトのアホめに任せております。あやつを連れてこなければ買えませんぞ」 「え?」 クリフトの名前を出されてドキッとした。って、なんでドキッとするのよ。 「えっと……そっか。ただで手に入るわけじゃないものね」 「詩人など何の役にも立たぬと思っておりましたがたまには良いこともしますな。ささ、早くクリフトのアホタレを呼びに行きますぞ」 じいのほうがもっと失礼ね。じいも気分がすぐれないのかな。 お城に戻ったときには日がもう傾きかけてた。早く行かないと道具屋さんがしまっちゃうかも。 クリフトは教会かしら。私は勢いよく扉を開けた。 「おや姫さま。クリフトでしたら奥の部屋にいますよ」 「あ、ありがとう神父さま」 「いえいえ、お元気そうで何よりです」 いつもと変わらないやりとり。でもすっごく久しぶりな気がする。そう、神父さまは私が行くと真っ先にクリフトの居場所を教えてくれるの。 神父さまもお元気そう。うん、何も気にすることはないわ。私は奥の扉も勢いよく開けた。本が散らばってる先にクリフトがいた。 「ひ、姫さま!扉の開閉は静かにと常々申し上げているでは……ああ、また入り口もそのような勢いでお開けになったのですね?」 「しょうがないじゃない、こうなっちゃうんだもん」 いつもと変わらないやりとり。でもすっごく久しぶりな……あ、いつものお説教クリフトだ。 少しだけほっとした。だってさっきのクリフトはまるで別人みたいに見えたから。うん、ほんとに何も気にすることないわ。 「クリフト、バザーに戻るわよ」 「え?……何か手がかりが見つかったのですね!?」 「そう、早くバザーに戻るわよ」 「ああ、お待ちくださいすぐに片づけますので」 クリフトはバタバタと本を片づけ始めた。ちらっとタイトルを見ると「聖歌の歩み」とか「解呪の手引き」とか「信仰と祈り」とか。 ああ、難しそうなのばっかだわ。どうせならこう「格闘技の歩み」とか「護身術の手引き」とか「パンチとキック」とか。 そういうのなら私だって読んでみようかなって気になるのに。 片づけを手伝おうとして一番手前の「信仰と祈り」って本を取ろうとしたらクリフトに先にとられた。すぐ終わるから大丈夫だって。 だからって私が取ろうとしたのを取らなくてもいいじゃない。ちょっと気分悪いわ。 「クリフト、私も少し調べ物をしたいので書物はそのままにしておきなさい」 神父さまがひょいっと顔を出して言った。 「神父様、ですが」 「それよりも、何やら急ぎのようではありませんか。さあ、早く出かける準備をなさい」 「は、はいっ」 急いで荷物をまとめるクリフト。あ、そうだ。そうだった。私は神父さまに頭を下げる。 「神父さまごめんなさい。もう少しだけクリフトをお借りしていきます」 「姫さま、人を物みたいに言わないでください」 「ええ、ええ、構いませんよ。クリフトのひとりやふたり、どんどん持ってゆきなさい」 「神父様……」 「ですが、また東に行かれるのですね」 あ。そういえばお城を出る前神父さまは東の空からあやしげな気配がどうのこうのって言ってたんだっけ。 神父さま、近ごろは胸さわぎがして眠れないんですって。もしかして、神父さまは何か知ってるのかな。 大臣がお父さまのことは他のみんなには知られないようにしたって言ってたから神父さまも知らないはずだけど。 お父さまのことはみんな知らない……心配をかけないように気をつかうだなんて。お父さま……。 お父さまはきっと私が治してみせるわ。ぜったいに治してみせるわ。 教会を出るとき神父さまは気をつけて行ってらっしゃいって言ってくれただけで他にはなんにも言わなかった。 私たちに事情も聞かなかった。 だから私たちもお父さまのことは話さなかった。 「ほほう、ニブい神父でも何かを感じとっているというわけですな。これ以上国のものを不安にさせぬためにも王さまを!」 「ブライ様、神父様はニブくありませんよ。むしろとても鋭い方です。 ですが、エルフの薬ですか。なるほどそれなら王の病気も!さあ行きましょう。砂漠のバザーへ」 準備は万端。時間はギリギリ。でももし道具屋さんが開いてなくても実力行使でさえずりの蜜を売ってもらうわ。 「お父さま、すぐにアリーナが病気を治してさしあげます。だからそれまでお元気でいてください……」 「さあさ、急ぎましょう!」 じいが何かささやいた後、大きく叫んだ。ルーラ。私たちは再び砂漠のバザーへ。 さあ、目指すはさえずりの蜜! ただひとつ気になったのは、さっきまで喜んでたクリフトがまた寂しそうな顔でうつむいたことだった。
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クリフトとアリーナの想いは Part4.2 791 :【新生活応援】 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/04(火) 10 31 19 ID hfoE1uZQ0 時は4月、桜の花の下で新生活がスタートした。 クリフトは澄み切った青空を見上げながら、大きく息を吸い込んだ。 ここはゴッドサイド。神の息吹をもっとも近くに感じる神聖な場所。そして神職につくものの憧れの土地。 クリフトは王命を受け、4月からゴッドサイドの歴史編纂事業に携わることとなった。期限は無期限。憧れの土地、そして人生初となる一人暮らし。最愛の人と離れてしまったことはクリフトの心をひどく苛んだけれども、新天地での生活に淡い期待と喜びを抱いていたのもまた事実であった。 「さて、部屋はこれくらいで大丈夫ですね」 サントハイムから持ち込んだ荷物の整理も終わり、クリフトは一息入れようと紅茶のポットを手にした。 コンコンコン。 遠慮がちに扉が叩かれ、赤毛の少女・・・いや女性が顔を出した。 「えへ、遊びに来ちゃった~」 いたずらっ子のように舌を出し、はにかむアリーナにクリフトは微笑んだ。 「ようこそ、おいでくださいました」 アリーナに椅子を勧めながら、クリフトはカップを二客用意する。 ふわり、と紅茶の香りが漂い、アリーナは目を細めた。 「いいなぁ、一人暮らし。私もしてみたいな」 無理だろうけどね。 ちょっとつまらなさそうに唇を突き出し、部屋をぐるりと見渡す。 広すぎず、狭すぎず。一人暮らしとしてはまずまずの部屋のようだ。 いいなぁ、いいなぁと部屋の中を見て回っていたアリーナが、不意に背後からクリフトの首に飛びついてきた。 「わ、あ、危ないですよ」 ポットを落としそうになったクリフトが焦りながら注意する。 するとアリーナはむっとしたようにポットを奪い、ちょっと乱暴に机の上に置いた。 そしてクリフトと向かい合うと、今度は正面から抱きついた。 「・・・したら承知しないから」 胸に抱きついていたせいで少しくぐもっていたが、クリフトはアリーナの言葉を確かに聞いた。 浮気したら承知しないから。 かすかな嫉妬。いや、不安か。 照れたように呟くアリーナが愛しくて、クリフトはそっと抱きしめる。 「しませんよ」 「・・・ほんとに?」 「おや、お疑いですか?」 私には姫様だけですよ。 耳元でそっと囁くと、アリーナがますます顔を押し付けてきた。 照れているのだろうか。髪の毛の間からちらりと見える耳が赤い。 クリフトがクスクスと笑うと、アリーナが少し赤い顔でしかめっ面をした。 「なによ!」 拗ねてそっぽを向くアリーナの頬に手を伸ばすと、そっと仰向かせた。 「姫様・・・」 「・・・ん」 唇が重なる。 ふたりっきりの部屋。ほんのり甘い紅茶の香り・・・。 ふたりはうっとりと口づけをくりかえす。 「ね、また、遊びに来ていい?」 アリーナが小さな声で呟くと、クリフトはもう一度軽く口付ける。 「ぜひ・・・お願いします」 お待ちしておりますよ、姫様。 そう続けたクリフトの唇にそっと人差し指を当てると、アリーナは首を横に振った。 「ふたりっきりのときは・・・ね?」 アリーナの言わんとすることを察したクリフトは、最近ますます綺麗になってきた恋人を再度抱き寄せ囁いた。 「待っていますよ、アリーナ」 アリーナ・・・アリーナ・・・。 何度も耳元で囁かれる。 とてもとても幸せな時間。 アリーナは優しい彼の腕の中で瞳を閉じる。 「愛しています、アリーナ」 「愛しているわ、クリフト」 クリフトの新生活、それはふたりを遠ざけ、そして近づけていた。 「ブライ、アリーナを知らんか?」 書庫で調べ物をしていたブライのもとをサントハイム王が訪ねた。 「さぁて、城の中にいらっしゃらぬようならば、あやつのところ、ではないでしょうかのう」 「あやつ、とは?」 「クリフトのことですじゃ」 「クリフトはゴッドサイドであろう?」 「キメラの翼を使えばすぐですな」 「・・・それでは、クリフトを遠くにやった意味がないではないか」 「ゴッドサイドにおいて行われる歴史書編纂および神学サミットにクリフトを参加させることは、非常に有益かと存じますが」 「・・・ブライ」 「わしはいま忙しゅうございます。行かれるならおひとりでどうぞ」 「余はゴッドサイドとやらに行ったことがないのじゃ」 「では諦めることですな」 文献から目も上げずに答えるブライに、サントハイム王は顔をしかめる。 「そなた、わしとその本とどちらが大事じゃ?」 「陛下、国事と私事とどちらが大事ですかな?」 むむ、と言葉に詰まるサントハイム王だったが、言い返す言葉が出てこないと、涙目になりながら口をへの字に曲げた。 「ブライのケチ~」 ばーか、はーげ、おまえのかあちゃん、でーべーそー!! 「陛下!!」 はぐれメタルも真っ青な見事な逃げっぷり。 ブライが書物から顔を上げ怒鳴った時には、サントハイム王の姿は忽然と消えていた。 取り残されたブライは、しばし呆然としていたが、やがて深々とため息をつくとゴッドサイドで幸せな時を送っているであろう青年を思い浮かべた。 「今度戻ってきたら、何かおごってもらわないと」 割に合わんわい・・・。 ブライの呟きが静けさを取り戻した書庫にかすかに響いた。 (終)
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クリフトとアリーナへの想いはPart9 343 名前 ◆HDjZd37Phw  Mail sage 投稿日 2008/09/04(木) 01 09 43 ID axFXJICj0 クリフトって、お肌すっべすべよね~!!」 「そうね。あんなに綺麗なお肌、羨ましいわ」 姉妹は草むらに腰を下ろし、自分の頬を撫でながら、しみじみと呟く。 過酷な長旅でろくなお手入れもできずに、肌は荒れていく一方だった。 「そういえばそうだね。髭なんて、見たことないし…」 アリーナは立ったまま、うーんと伸びをする。 秋の空は高く、真っ白な雲が、ゆっくりと流れていた。 「あいつはお洒落とはいえないけど、身嗜みはいつも整ってるもんね」 「でもさ…わたし、髭って結構好きなんだー」 アリーナの突然の告白に、姉妹は目を丸くした。 「お父様もだし、ブライも、ライアンも、トルネコも。髭って男らしくて、カッコいいじゃない!」 「いや、そりゃ、似合ってれば、いいんだけどさぁ……」 「クリフトさんの髭だけは……想像、できませんわ……」 ―――そこに運悪く通りかかってしまった、当のクリフト。 「ちょっとー!!こっち、おいでよーぅ」 獲物を見つけた猫のように瞳を輝かせるマーニャ。 手招きされたクリフトは、なにやら不吉な気配を感じたものの、逆らえるはずも無かった。 「何か御用でしょうか?」 「クリフトさんのお肌が綺麗ですねって、話してたんですよ」 やはり自分を肴に盛り上がっていたのかと、眉をひそめたクリフトに、アリーナが無邪気に笑いかけた。 「ねぇ、クリフト、ちょっとしゃがんで?」 「はい?」 アリーナは腰を落としたクリフトの頬へ両手を伸ばし、自分の顔の前に引き寄せてから、撫ぜまわした。 「―――ちょ!!ひ、ひめさまっっ!!!」 「やーっぱり、すべすべだねぇ。きもちいー!!クリフトなら、髭無くてもいいやっ」 クリフトの顔が瞬く間に燃え上がる。 「ちょっとさ、頬っぺた、くっつけてみてもいい?ミーちゃんみたいに…」 「いいいいいいけません!どど、ど、どうか、お気を確かにっ!!!」 振りほどく事も出来ず、全身硬直状態のクリフトを見て、マーニャとミネアは 必死に笑いをかみ殺していたが、遂にはお腹まで痛くなってきて、堪らず声を上げた。 何事かと様子を伺いに来た男達は、眼に飛び込んできたその光景に、唖然として立ち尽くした。 ――――――ただ一人を除いては…… 「こんのド阿呆めっっ!何をしておるんじゃーーーーー!!!」 電光石火のごとく二人を引き離したブライの、対魔物戦でも聞いたことのないような咆哮が、 秋の澄んだ空に響き渡った。
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海外エリア トップページに戻る ParaglidingEarth:世界のパラグライダーエリアガイド カリフォルニア周辺のフライトについて 2008年6月に(株)パルツアー主催のアメリカ西海岸ツアーに参加しましたので、訪れたエリアについてレポートします。なお、どのエリアでも「海風」とあるのは西からの風です。 Little Black(ParaglidingEarth) 北から南に徐々に高くなっていく丘の北端。以前はもっとも高い南の電波塔?に車で入れたそうだが、現在は不可。ランディングから見える最初のピーク(高さ150mほど)に徒歩で20分ほどかけて上り、テイクオフ。 一見すると練習用の丘にしか見えないが、海風がしっかりと入り、かつ午後は日射により、斜面から局所的なサーマルが連発するため、長時間のフライトが可能。昼~午後がベター。 西斜面のリフトを利用して、南側の丘に伸ばしていくことが可能。万が一戻れなくなっても、緩やかな稜線上にトップラン→そのまま稜線上を歩いて戻るか、適当なピークから再度テイクオフが可能(なように見える)ので危険ではない。またTO~LD間の斜面についても潅木が低く、正面を向けば着地はそれほど難しくないため、思い切った斜面のリッジソアリングが出来る。 いずれの場合も東側に流されてしまうと面倒になるので注意。特に管理人はいなかったが、パークレンジャーが時々見回りに来ていた。 Elsinore (Lake)(ParaglidingEarth) 今回唯一の山飛びエリア。スケールも大きく、数日滞在しても飽きることはないと思う。地元のフライヤーの話では、ここから南に行ったところに別の(Goodな)エリアがあり、ここの風が強すぎても飛べる可能性が高いとのこと。ParaglidingEarthではTO:862m、LD:442m(高度差420m)。 全体の地形は下の通り。北よりの風の場合、あるいは慣れていない(ぶっ飛ぶ可能性大)場合は北TOから。南TOはランディングからは遠くなるが、目の前の尾根が良いサーマルトリガーになるので、東風がしっかり入っているときはこちらがベター。なお北TO~ランディングの間にある私有地は、所有者がうるさ型の人らしいので、低空飛行、及び緊急LDは厳禁とのこと。 南TOから出てLDに届かない場合、最後の尾根手前の学校脇に広い空き地があり、緊急LDとして使用可。 imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (lakemap.jpg) 午前:内陸なので、海風が来るのが遅い。東斜面に日射が当たると、アゲインストが徐々に強くなりフライトに適してくる。木の少ない場所、アスファルトの道路、岩場などサーマルトリガーには事欠かずにトップアウトできる。 昼:稜線上に垂直に日が当たりだす。加えて海風と、湖からのアゲインストの風がぶつかりコンバージェンスが発生するので、稜線上のリフトは最も強くなる。徐々に海風は強く、湖からの風は弱くなり、TOも無風~フォローとなり始める。 午後:TOはどフォローになる。東斜面は冷え、海風が山からの吹き降ろしとなりテイクオフは不可能になる。一方ゲインを確保していれば、西斜面からのサーマルで飛び続けることが出来る。降りるときは湖側に少し出て高度を落とし、ランディングに東から進入するが、海風が強くなると戻れなくなるので注意。 ここにも管理人はいない。地元のパラ/ハングフライヤーが共同で管理している模様。 Torrey Pines(ParaglidingEarth) 今回唯一、ショップがあって常駐の管理人がいる、整備されたエリア。しかし訪れたときは海風が弱く飛べず。以下は見聞きしたまとめ。 砂浜から垂直に立ち上るクリフ(崖)のエリア。テイクオフ(ショップは)クリフの上、ランディングはトップラン。下の浜辺へのランディングは基本的に禁止らしく、従って風が弱いとクローズになる。 テイクオフ(=ランディング)は広い芝生で緩やかな傾斜となっており余裕。ただしパラ/ハング/ラジコンのマイクロプレーン(※)が混ざって飛ぶため、規制/誘導が厳しいとのこと。テイクオフ/ランディング時、及びフライト中にTO前を通過する際は笛を吹かなければならない。週末などは避けた方が良いかも。※エンジンなし、舵のみを操作してソアリングを楽しむ飛行機。 Mexico/La Salina(ParaglidingEarth) 海から2kmほど入った乾燥地帯(サボテン多し)から地面が徐々にせり上がり、最終的に垂直となって高度差150~200m、幅数kmの屏風状のクリフ(崖)を形成している。テイクオフは裏から回り込んで行くが、頂上は単なる平原にしか見えず、迷いやすい。 上記の地形のため、正面(西)から海風がくれば壁際に安定したリフトが発生する。さらに正面の平原からも局所的なサーマルが発生する、はず。 しかし海上に霧が発生すると、それを海風が運び、内陸が晴れていてもリッジだけ曇り・・・という状態が発生しやすい(特に午前中)。また理想的過ぎる地形のため、地上が緩やかな風でも、リッジ上は風が強すぎてテイクオフできないこともある。中腹にも(おそらくその場合用の)テイクオフがあるが、こちらは低すぎて、サボテンの中にショートしそうで怖い。 ここも管理人はいなかったが、テイクオフにエリアに関する注意書きの看板があり、ランディングも含めて全体的に良く整備されている印象。 Mexico/Cliff Area(La Salinaより車で3時間ほど南下) Torrey Pinesと同様、砂浜から垂直にクリフ(崖)が立ち上がったようなエリア。Torrey Pinesのように整備はされていないが、エリアは広い。高さは100m、幅は数km程。 基本はクリフの上からテイクオフし、同じ場所にトップラン。 北のはずれでクリフが途切れ、砂浜がそのまま上につながっている。強風で上からのテイクオフが出来ない場合、ここからテイクオフしてクリフへ向かう。ラサリナとは違って下までほぼ垂直のため、壁の下部ではリフトが極端に弱くなる(壁に当たった風の一部が下方向のローターとなるため)。従って出ては見たものの徐々に高度を落とし、数百m行ってから浜辺にLD、歩いて戻ってくる・・・という結果もある(下に行くほど確実にリフトが弱いので、早めに見切った方が良いかも)。逆に少しでも上昇傾向にあれば徐々に高度を上げてリッジの上に出られる。トゲのある低木が多いが、少しでも高い場所を探してテイクオフするのがベター。ここからテイクオフするような強風時はランディングもここに。 台湾北部でのフライトについて 2009年3月に台湾北部・宜蘭(イーラン)周辺でフライトしましたのでレポートします。 3月後半で最低気温:10~15度、最高気温:23~27度と暑く、シャツ1枚でフライト可能。ただしあまりサーマルは活発ではない。いろんな人から聞いた話では、正月周辺がちょうど日本の春相当で上がりも良いとのこと。 頭城(ParaglidingEarth)(GoogleMap) 海沿いのリッジエリア。小高い丘が連なっている上からテイクオフ、鉄道/道路を越えて海岸(砂浜)にランディング。高度差:178m(ParaglidingEarthより) 東風(正面の海風)がベストだが、多少北/南よりでもフライト可能。 北宜公路上空(GoogleMap) 現在台北~宜蘭間は高速道路が走っているが、山越えの旧道が残っている。その旧道の途中からテイクオフし、つづら折りの道路上空をフライト、田んぼの中のランディングへ。ランディング:金威廟横(GoogleMap) 高度差350m程度。ここも東風(海風正面)がベスト(やや南東でも可)。アスファルトの道路&それによる凹凸が豊富で、日射があればリッジ&サーマルがかなり楽しめそうなエリア。 オーストラリア/キラニーでのフライトについて 2010年末~2011年正月に、オーストラリア・キラニー(Killarney)にクロカンツアーに行きましたので、エリアの概要を以下に示します。マニラ(Manila)の北東300km程に位置し、共通する部分も多いかと思います。 ParaglidingEarth/Killarney:情報量少 ParaglidingEarth/Manilla Fly Killarney:キラニーのパラクラブ? Climate Data for 28°S 152°E:キラニー周辺の気温推移 シーズン:通常は12月中ごろより乾期&夏に入り、1月末~2月がベストシーズンとなるらしい。今年はクリスマス頃まで豪雨が続き、キラニーの町の一部が冠水。自分たちが訪れた12/29頃からは晴れが続き、日ごとに雲底高度が高くなっていくのを感じた(1400→1800m)。しかし1/10頃より再び豪雨が続き、ブリスベンでも水害が発生。 日中30度、朝晩12度程度で、半袖短パン+冬用フライトスーツ、中綿なしの手袋でフライト。夏の八方・五竜ぐらい。ただ通常ならば2000~3000m×数時間のフライトも珍しくないので、もう少し暖かめが良さそう。 町の北側に標高1000m程の小さい山塊があり、そこからテイクオフしてフラットランドに飛んでいく。通常のランディングに1回も降りなかったので高度差は不明だが、周辺の平地は大体標高500~600m。 メインTO(1015m):山塊の南東端に位置し、東~南の風に対応。町から最も近く、20~30分程度の未舗装路のドライブ。東用、南東用の2ヶ所のテイクオフがある。頂上台地がそのまま大きなサーマルポイントなので、トップアウトすればそのままサーマルトップに達してクロカンにスタートできる。 北TO(1115m):山塊の北端。メインTOへの分岐から分かれてさらに20~30分程度のドライブ。自分たちは途中で倒木が道を塞ぎ、最後は徒歩になった。北風に対応。夏は太陽の角度が高いので、北面でもしっかりとサーマルが発生する。クロカンにはこの山塊上を南に5km以上走らなければならないが、一旦上げてしまうとそれほど恐怖は感じない、かも。 (西TO):西風に対応したTOもあるらしい。今回は使用せず。 エリアだけを切り取って見ると、日本と比べてもそれほどスケールの大きさは感じられない。言い換えれば、あまりプレッシャーを感じずに飛びやすい。そしてクロカンに出れば降ろすところには困らないので、こちらもプレッシャーを感じることなくトライできる。 以下はフライトで感じたことなど。 風が強いため、一軒家など、「点」でのサーマルトリガーはあまりない(捕まえられない?)。むしろ森と平地の境界、川に沿って走る並木林など、風に対して「直線でない壁」となる箇所がトリガーとなりやすそう。 ただし「フラットランド」と言っても、実際は50m程の高低差でうねっている。上から見ても分かりにくいが、当然上記の形状がくぼ地にあっても上がらず、丘状の場所にあれば上がりやすい。 マニラの地元フライヤーは、テイクオフの周囲100kmのサーマルポイントを全て覚えているという話を聞いたことがあるが、それも充分あり得ると感じた。 台湾南部でのフライトについて 2011年12月~2012年1月に台湾南部・賽嘉(サイチャ)エリアでフライトしましたのでレポートします。 ParaglidingEarth/Saija 最低気温:10~15度、最高気温:20~25度で、日本(東京周辺)の9~10月相当。 フライト可能な風向き:北西~南西。昼~午後になると、海風(南)が入ってくることが多い。 高度 テイクオフ:430m、ランディング:90m、高度差:340m(GPSデータより) テイクオフ:1ヶ所、西方向にテイクオフ ランディング:1ヶ所、非常に広い トップラン:可能だが、各国よりフライヤーが訪れている。人が多い時は避けるたほうが良い。 谷を渡った北側に朝日山があり、そのままほぼ真北方向にXCが可能(谷の東側稜線)。約28km先に通称「赤い橋」があり、以前はさらに先の温泉まで飛んでいた。 現在は温泉が水害により流されてしまったため、通常は「赤い橋」の西側にある公園にランディングする。フリスビー用の柱が立っているので注意。 オーストラリア/メルボルン周辺のフライトについて 2014年末~2015年正月に、オーストラリア・南西部・メルボルン周辺にクロカンツアーに行きましたので、訪れたエリアの概要を以下に示します。 今回はVictoria州周辺で、前回(キラニー)よりも緯度が高い(南極方向)。そのためか前回よりも気温が全体的に低く、長袖(1枚)/長パンツ+上着(日陰・強風時)でちょうどいい感じ。 オーストラリアでのフライトにはHGFAへの登録(保険加入)が必要。ビジター用は2ヶ月で95AUD(2015年1月現在)。登録はHGFAのHPより。別ウィンドウが開くのでスマホでは上手く登録できなかった。 HGFA(Hang Gliding Federation of Australia 各エリアの情報もHGFAの"Site Guide"より確認できる。以下に今回訪れたエリアを示す。 Dynamic Flight Park ハング/トーイングがメインのエリア。北西~西風以外の場合トーイングでのテイクオフとなる。 パラでのトーイングは今回初めてとのことだったが、おおむね問題なし(サポート要員は当然必要)。 エリアの北3kmに刑務所があり、ランディングNG。 Ben Navis(/Mount Sugarloaf) 上記のDynamic Flight Parkの北西(約30㎞)に位置しており、北西~西風の場合に利用。 HGFAでは別表記だが実際は同一エリア/別テイクオフ、LD共通。Ben Navisは北西向き、岩盤からのテイクオフ。Mt.Sugarloaf は北向き、通常のテイクオフ。 日射(南半球なので北斜面)と北西風からのリッジのコンビネーションでのフライト。 Flaxmans Hill(強風のため飛ばず) Melbourneから南西方向に延びる海岸線は多くの場所で断崖となっており、良質のリッジフライトエリアとなっている。南風メインだが、南東~南西の風向きによって最適なエリアが異なってくる。 詳細はHGFAのサイトを参照のこと。 Mystic(Bright) 日本人も数多く訪れている。リゾート地の中にある整備されたエリア。 入山登録はWebからのみ。2週間で25AUD、Paypal払い。現地で現金払いが出来ない(!)ので、行くことが決まったら事前登録がベター。 山飛びエリア、山頂からテイクオフ。北~北西風に対応。高く上げると北方向にあるMt.Baffaloに移動できる
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クリフトとアリーナの想いはPart7 709 :バトランドの王子 1/13:2007/09/15(土) 19 38 56 ID +ANoqwnO0 バトランドに立ち寄ろうとした旅の一行であったが、フィールドを彷徨うちに、 どうやらバトランド軍の野営地に紛れ込んでしまったらしかった。 バトランドの国旗をはためかせた天幕がそこここに点在し、大勢の兵士達が行き来している。 「ふむ。我が国の護りは万全のようですな。」 周囲を見回し満足そうに頷くライアンの元に、見張りの兵士らしき者達が駆け寄ってきた。 「お久しぶりでございます、ライアン殿!!」 「おお、お前たちは…では、これは第一近衛師団か?」 兵士達に是非に師団長に会って欲しいと懇願され、一行は、野営地の中心に同行した。 一際大きな天幕に着くと、同行した兵が、天幕の中に向かって敬礼し声を張り上げた。 「師団長殿!ライアン殿とそのお仲間をお連れいたしました!」 「おお、ライアン。久しいな。」 天幕の入口をくぐって出てきたのは、ライアン並にたくましい体をしていたが、 ライアンよりもだいぶ若く、輝く金髪、整った顔立ちの好青年であった。 「あっら~!いい男じゃない。」 マーニャが上機嫌で叫んだ。 ライアンは、うやうやしく師団長の前に跪くと大声で叫んだ。 「リリアン殿下にはご機嫌麗しく、恐悦至極に存じます。」 「相変わらずだな、ライアン。」 青年は苦笑すると、一行を眺め、天空の装備をまとった勇者に目を止めた。 「…どうやら、お前の勇者探索の旅は上首尾に終わったようだな。」 「はっ、しかし、旅はこれからが本番でござって…。」 そのとき、ライアンをマーニャが後ろからつついた。 「ちょっとちょっと!今、あんた、殿下って言わなかった?」 「おお、これは失礼仕った。」 ライアンは向き直ると大声で呼ばわった。 「このお方は、バトランド国第三王子、第一近衛師団長にしてバトランド最強の戦士、 リリアン殿下であられる!」 そして、王子に再敬礼をした。 「殿下、勇者殿と旅の仲間達を、殿下にご紹介申し上げてもよろしいでしょうか!」 王子はほがらかに笑って頷いた。 「そうかしこまるな。こちらこそ、さっきから紹介して欲しくてうずうずしていた。」 ライアンが仲間を順番に紹介していく中、アリーナの名前を聞いて、王子は眉を上げた。 「サントハイムの…アリーナ王女?あの、武術大会で優勝した?」 「優勝って言っても、決勝戦は不戦勝だけど。」 アリーナは肩をすくめる。 「そうか、噂のお転婆姫が、こんなに可愛らしい方だったとは…驚いたな。」 王子の言葉に、アリーナの後ろに控えていたクリフトが、ピクリと反応した。 王子が、それに気付いたように顔を上げたが、クリフトは王子から目をそらしていた。 そこに、アリーナがはしゃいだ様子で王子に声をかけた。 「それより、あなた、バトランド最強だったら、ライアンよりも強いの?」 「これ、姫様。他国の王子に対し、失礼でありましょう!」 ブライが慌てて注意したが、王子は笑って手を振った。 「かまわないよ。私も堅苦しいのは苦手だ。」 そして、アリーナに笑いかけた。 「今まで彼に負けたことはないはずだが…久しく手合わせをしていないし、 ライアンはその間に随分腕を上げたようだから、何とも言えないな。」 アリーナは目を輝かせた。 「ライアンに負けたことないなんて、すごいわ!私なんか、3回に1回しか勝てないもの!」 王子は感心したようにライアンとアリーナを見比べた。 「ライアン、お前…この姫に3本に1本も取られているのか。」 「…面目ありませぬ。」 「それ言ったらね、ソロは3回に2回はライアンに勝つわよ!」 王子は、賞賛の目で少年を見、勇者は居心地悪げにぽりぽりと頬をかいた。 「さすがは勇者殿だ!これは、是非、皆さんにこちらに滞在していただきたいな。」 結局、王子の要望を断るわけにもいかず、一行はしばらくの間、野営地に留まることになった。 アリーナはすっかり王子と意気投合し、ほどなく、2人で野営地を歩き回るようになった。 兵士達とも手合わせをしては盛り上がっているらしく、アリーナはすっかり人気者だった。 手合わせには、勇者やライアンはもちろん、他の仲間達もときどき参加していたが、 クリフトだけは、ただ1人黙々と、天幕の横で薬草類の手入れに勤しんでいた。 「クリフト!今日も薬草のお手入れ?」 そんなある日、薬草を広げて乾かしているクリフトのもとに、アリーナが立ち寄った。 野営地に来てから、クリフトがアリーナと2人きりになるのは久しぶりのことだった。 「たまには一緒に手合わせしましょうよ。リリアンはホントに強いわよ! 今日の昼食のあとも、手合わせの約束してるの。今度こそ、勝って見せるわ!」 頬を紅潮させて楽しそうに報告するアリーナに、クリフトは微笑んだ。 「姫様…楽しそうで、何よりです。 でも、私は、こちらでの滞在中に薬草類を整えておきたいので…。」 アリーナは口を尖らせた。 「んもう、クリフトったら相変わらずね!じゃあ、時間ができたら顔を出してね!」 そして、元気に手を振ると走り去った。 クリフトは、アリーナの後姿を見送り、小さく息をつくと、再び薬草を広げ始めた。 そこに、 「おい、クリフト、いいのか?」 「…ソロさん。」 後ろから声をかけられ、クリフトは振り向いた。 天幕の影から、不機嫌そうな顔をした勇者が現れた。 「…殿下がご一緒ですし、この陣営の中ならば、姫様の御身は安全でしょう。」 「そんなこと言ってんじゃ……。まったく、お前ときたら、素直じゃない奴だよ。」 勇者は、立ち去り際に、何気なく一言放った。 「王子は随分アリーナを気に入ってるみたいだぜ。」 クリフトは、それには答えず、ただ、手にした薬草を強く握り締めた。 その日の午後、アリーナは予定どおり王子と一緒に出かけ、他の面々は適当に寛いでいた。 クリフトは木陰で薬草を選り分けていたが、そこにライアンが鼻歌を歌いながら近づいた。 「いやー、クリフト殿!殿下はすっかりアリーナ姫をお気に入りの様子でござる。 リリアン殿下とアリーナ姫ならば、まさしく好一対、お似合いの2人ではないか! お2人が結ばれて両国の架け橋となられれば、我々臣下としては、喜ばしい限りですな!」 うれしそうに叫ぶライアンに、クリフトは弱々しい笑みを返した。 そして、口の中で何か呟いて立ち上がると、ライアンに軽く頭を下げて、その場を後にした。 ライアンはクリフトの後姿を見ながら、はて、と首を傾げたが、次の瞬間、 勇者とマーニャに後ろから襟首を捕まれ、ぐえ、と声を上げた。 「な、何を、ソロ殿、マーニャ殿…!」 うろたえるライアンを、勇者とマーニャは、怖い顔をして睨んだ。 「あんたも、いい加減に空気を読むってことを覚えなさいよ。」 「この件については、これ以上何も口に出さないようにして欲しいんだけどな。」 ライアンは、2人の勢いにきょとんとした顔をしていたが、次の瞬間、相好を崩した。 「相分かった!こういったことは、本人たちに任せるのが一番! 周りが騒ぎ立てると却ってうまくいかなくなるものですからな。」 了解了解、と頷きながら立ち去るライアンを見ながら、勇者とマーニャは顔を見合わせた。 「…どうやったらああいう勘違いができるかしらね…。」 「ま、まあ、結果論としては、これでよかったのかな…?」 「クリフトさん、クリフトさん!」 野営地を歩くクリフトに、トルネコが後ろから追いすがった。 「何でしょう、トルネコさん?」 クリフトが、やや構えたように振り返る。 「ねえ、本当にいいんですか、リリアンさんとアリー…」 クリフトは、トルネコの言葉を途中で遮った。 「トルネコさん。以前にも申し上げたとおりです。 私の望みは、姫様が、誰もが認める素晴らしい方と結ばれることだと。」 「…で、あなたは、リリアン王子が、その素晴らしいお方だと認められるわけですか。」 「…違いますか?殿下は、身分、指導力、ご見識、いずれも何の問題もないかと。 それに何よりも、姫様が殿下のことを好ましく思われておられるのですから…。」 「私には、アリーナさんは、単に手合わせを楽しんでるだけに見えるんですけどねぇ。」 トルネコは苦笑した。 「いずれにせよ。」 クリフトは首を振った。 「姫様のお相手について、臣下の私がとやかく言うことではありません。」 そういうと、どこか不服そうなトルネコに背を向け、足早に去っていった。 そのまま、数日が過ぎ、そろそろ一行も旅立たねばならない時期がきた。 ある日の朝食で、勇者は、王子や皆に、明日は野営地を出るつもりであることを告げた。 王子は残念そうな顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。 「仕方ない、君らは大きな使命を負っているんだから、これ以上引き止めてはいけないな。 では、せめて今晩は、ささやかながらお別れの晩餐を設けさせてくれたまえ。」 朝食後、荷造りをしていたクリフトのもとを、王子がふらりと訪れた。 「リリアン殿下!?」 滞在中、クリフトと王子が言葉を交わしたことはほとんどなかった。 慌てて居住まいを正すクリフトに、王子は笑いかけた。 「忙しいところ悪いが、ちょっとそこまで、顔を貸してもらえるかな。」 クリフトは、一瞬ためらったが、何も言わずに腰を上げた。 王子は、クリフトを野営地から少し離れた草むらに連れ出した。 そこは、背の高い草が密集しており、野営地からは死角になっていた。 王子は、クリフトに正面から向き直った。 「今日の晩餐で、私は、アリーナに求婚しようと思う。」 クリフトは、わずかに肩を揺らしたが、その表情は変わらなかった。 「それは…おめでとうございます。」 「その言葉は、額面どおり受け取ってもいいのかな。」 「…どういう意味でしょうか。」 「君は、アリーナをどう思ってるんだ?」 クリフトの瞳が、一瞬、揺れた。 しかし、クリフトの口から出た言葉は、冷静そのものだった。 「どうとおっしゃられても。私は姫様を臣下として敬愛しておりますが。」 「…子供の頃からアリーナの側で仕えてきたんだろう?」 「はい。私の役目は姫様の御身の安全をお守りすることですから。」 リリアンの刺すような視線を、クリフトは静かに受け止めていた。 「…なかなか、強情だな、君も。」 何が、と口を開きかけた次の瞬間、クリフトは驚いて飛びすさった。 王子が、剣を抜いてクリフトに切りかかってきたからだ。 「殿下!これは一体どうしたことですか!」 叫ぶクリフトに、王子はにやりと笑いかけた。 「…けっこう、いい反射神経をしてるじゃないか。」 そして、「受け取れ。」と、自分の持っているもう1本の剣をクリフトに放った。 「君とは、是非一度手合わせしてみたいと思ってたんだ!」 「何を…おやめください、殿下!」 クリフトの抗議に耳を貸す風もなく、王子はクリフトに再び切りかかった。 クリフトは、うなりを上げる刃風に、反射的に鞘を払うと剣を抜き合わせた。 王子は、剣を構えたクリフトを見て嬉しそうに笑った。 「いい構えをしてるじゃないか…これからが本番だ、行くぞ!」 草むらに、激しい剣戟の音が響き渡る。 しばらく切り結んだ後、王子とクリフトは互いに後ろに飛び離れた。 2人とも、呼吸が上がっている。 王子は、感心したようなうなり声をだした。 「…やるな。頭脳派の太刀筋だ―――だが!」 クリフトは、次の瞬間凄まじい剣圧に押され、草むらに倒れ込んだ。 「いかんせん、重量が足りないな。」 クリフトの喉元には、王子の剣の切っ先がぴたりと押し付けられている。 「――こんなことで、大事な姫様を守ることができるのかな。」 王子が、皮肉気に口をゆがめて言った言葉にクリフトの目がギラリと光った。 初めて見る、激しい感情を顕にした神官の表情に、王子が驚いた顔で体を引いた。 クリフトはその隙を逃さず王子を跳ね飛ばした。 その拍子に剣先がクリフトの首筋を傷つけたが、クリフトはそれを気にする様子もなく 立ち上がると、怒りに燃えた目で王子を睨んだ。 「守りの方法は1つじゃありません…。私は、何があっても姫様だけは守ってみせる!」 しばらくの間、2人は無言で睨みあっていた。 先に口を開いたのは、王子の方だった。 「悪かった。」 クリフトの肩からも、力が抜けた。 「どうしても、一度君と手合わせがしたかったものでね…。」 「…いえ。私の方こそ、殿下に対し、大変失礼なことを……。」 クリフトは、先の勢いが嘘のように、力なくぼそぼそと呟いた。 王子は、そんなクリフトをしばらく黙ってみていたが、再び口を開いた。 「…もう一度聞くが、私がアリーナに求婚することに、君は異論はないのか。」 「…私が何かを申し述べる立場では」 「分かった。もういい。言っておくが、私は本当に彼女のことが好きだからな。」 王子は、そう言うと、クリフトをその場に残して立ち去った。 その日の晩餐は、野営地なりに豪華な食事が用意され、楽しげな会話が弾んでいた。 その中で、クリフトだけが一人、黙りこくってスプーンをのろのろと動かしていた。 「クリフトさん、大丈夫ですか?お顔の色が…。それに、その首の傷…。」 クリフトの隣に座っていたミネアが心配そうに尋ねる。 しかしクリフトは、大丈夫です何でもありません、と首を振った。 ミネアは眉をひそめ、クリフトの首元に手をかざすと小さく回復呪文を唱えた。 と、そのとき、王子が立ち上がった。 「皆に聞いて欲しいことがある!」 クリフトは、口を引き結ぶと目を瞑った。 「私は、この場で、サントハイム王女、アリーナ姫に結婚を申し込みたいと思う。」 その場にいる全員が、一瞬にして固まった。 王子は、皆を見渡してふっと笑うと、アリーナの前に跪いた。 「アリーナ姫。あなたは、強く、元気で、暖かい、私が理想とする女性だ。 私は、王子といえど身軽な身。あなたとともに未来を夢見たいと思っている。」 アリーナは、突然の出来事に、驚愕したように目を見開いていた。 ライアンは嬉しそうに両手を上げたが、勇者とマーニャに恐ろしい目で睨まれ、 ゆっくりとその手を下に下ろした。 そこに、ブライが慌てたように割って入った。 「で、殿下、大事なお話中に大変失礼とは存じますが…じゃが、 わがサントハイムでは、王族の婚姻には貴族院の承認が必要でして…。」 王子は立ち上がるとからからと笑った。 「もちろん、正式な求婚は、全てが終わってからだ。今は、ただ、アリーナの気持ちを 確かめておきたいだけなんだ。」 そして、ひたとアリーナを見つめた。 「アリーナ、君の気持ちを聞かせてくれないか。」 「え、えっと…。」 アリーナは、目をぱちぱちさせると、何かを探すように周囲を見回した。 その視線は、一瞬クリフトの上で止まったが、クリフトはアリーナから顔を背けた。 アリーナは、途方に暮れたように王子に向き直った。 「驚いちゃった…私、結婚なんて、そんなこと考えたこともなかったから…。」 王子は優しく頷いた。 「そうだろうね。ただ、ライアンから聞いたよ。 君は、相手にするなら自分より強い男だ、と常々言っていたらしいね。 …せめて、私は、その条件には当てはまらないだろうか。」 王子のその言葉に、アリーナは眉根を寄せた。 「うーん。そうなんだけど…。」 アリーナは、ゆっくりと、自分に語りかけるようにして話し始めた。 「昔、旅に出たばかりの頃は、武術で強いのが一番だって思ってたのよね。 でも、最近、そうじゃないってことが分かってきて…。」 さきほどからずっと目の前の皿を凝視していたクリフトは、意外なことを聞いた、 というように目を瞬いた。 アリーナは、さらに続けた。 「例えば、私より弱い相手にだって、回復呪文を使いながら戦われたら負けるかもしれない。 攻撃にしたって魔法の方が有効な場合もあるし…。強いって言っても、いろいろあるなって。」 王子は、アリーナの話を黙って聞いていたが、小さい声で呟いた。 「その考えの変化は…やっぱり彼の影響なのかな。」 クリフトが顔を上げると、王子は、クリフトを見つめていた。 アリーナが王子を見上げて首を傾げた。 「ん?何か言った?リリアン?」 「いや、なんでもない。で、これは、結果として私は振られてしまったということなのかな?」 「そういうわけじゃないんだけど。」 アリーナは、困ったように王子を見た。 「…あのね、私、これからも旅をしていくうちに、いろいろ考え方が変わると思うの。 だから、今は、確実なことは、何も約束できない。」 「姫様…こんなしっかりしたご意見を持たれるようになったなんて…。」 ブライが、小声で呟くと、ナプキンでそっと目の端をぬぐった。 クリフトは、ただただ、アリーナを呆然と見つめていた。 王子はしばらく黙っていたが、やがて大きな笑い声を上げた。 「よく分かった!やはり、君は素晴らしいよ、アリーナ!最高の女性だ。 全てが終わったときには、必ず、もう一度結婚を申し込ませてもらうよ。」 そして、アリーナの両手を取って立ち上がらせた。 「君の使命に同行したいのはやまやまだけど、私には別の役割があるし…それに。」 ちらりとクリフトを見て言った。 「君の身の守りは、どうやら万全らしいから。」 そして、皆に向き直ると、杯を掲げた。 「皆、騒がせてすまなかった。君らの旅に神のご加護を!後は楽しんでくれたまえ!」 皆、ほっとした顔で一斉に杯を掲げた。 クリフトは、戸惑った顔で王子を見たが、目顔で促され、静かに杯を上げた。 晩餐の後、野営地の近くの丘で1人酒を飲んでいる王子に、後ろから声がかかった。 「王子様がこんなところで1人で酒盛りなんて、無用心じゃないか?」 「…ふん。今の私に勝負を挑んでくる奴らは地獄を見るよ。何の用だい、勇者殿。」 「いや…振られ男のヤケ酒に付き合おうと思ってね。」 勇者は、手に盛った酒瓶を持ち上げて見せた。 「失礼な、まだ振られてはいないさ。…で、君は酒は飲めるのか。」 「最近、少しだったら飲めるようになった。」 勇者は王子の隣に腰を下ろした。 王子は黙って勇者から酒瓶を受け取り、勇者と自分の杯に注いだ。 「振られてはいないが…分が悪いな。」 王子は、自分の杯を一気に干すと、息をついた。 「私が、アリーナと話していると…必ず、彼の話題になるんだよ。」 「…ああ。」 勇者は、「彼」が誰だかは聞かなかった。 王子は肩をすくめる。 「クリフトがこう言ってた、クリフトだったらこうするだろう、そればっかりさ。」 「しかも、アリーナ、自分ではそれに全然気づいてないだろ。」 勇者の言葉に、王子は苦笑してうなずいた。 「ホント、参るよ。なのに、彼ときたら全くのポーカーフェイスじゃないか。」 「…ポーカーフェイスになり切れてないところもあったけどな。」 「とにかく、それが気に食わなくてね…今日の昼、少し意地悪をしてみた。」 それを聞いて、勇者が非難がましい目で王子をみた。 「何やったんだよ、あんた。夕食のときのあいつ、幽霊みたいな顔してたぞ。」 「いや、ちょっと一手のご指南をお願いしただけだよ。」 「ぶちのめしたのか!?」 「とんでもない…。むしろ、こっちの方が打ちのめされた気分だったよ。」 彼の想いの強さにね、とぼやく王子を横目に、勇者はちびちびと酒をなめた。 「…で?それがなんで、今日の晩餐会でのプロポーズになるわけ?」 王子は、楽しそうな顔で勇者を見た。 「私からのちょっとした意趣返しと、あとは、宣戦布告も兼ねてね。」 「宣戦布告ねぇ…。」 「ああ。彼が、いつまでも躊躇しているなら、私がさらって行ってしまうよ、ってね。」 「お、それいいね。是非そうやってあのアホにハッパかけてやってくれ。」 「いや、私は本気なんだが…。」 と、そこに、下の方から、アリーナの声が聞こえてきて、2人は口をつぐんだ。 「クリフト~!荷造り終わった~?外に出てきなさいよ~星がきれいよ~!」 がさがさと天幕から人が出てくる音がする。 「…姫様?…もしや、お酒を召し上がったのですか!?」 「だって~、だって、何だかさ~。」 「ああ、上を向いてお歩きになられては、足元が危のうございます!」 「だってさ~、こんなに、星がきれいなのに…きゃっ」 「姫様!」 「あははは~、ほら、大丈夫だって~。こうやってクリフトが支えてくれるじゃない!」 「そ、そういう問題ではありません!」 丘の上で、勇者と王子は顔を見合わせると、次の瞬間、ぷっと吹き出した。 「あーあ、やっぱり、私は分が悪いかなぁ。」 「ホントにタチ悪いよな、あいつら。つくづく同情するよ、王子さん。」 「いや、君こそ、この先いろいろと苦労するぞ!」 笑いながら肩を叩き合う男達の下では、 「そもそも転ばぬ先の杖と言ってですね、って、ほら、だから足元をご覧になって…!」 「えへへへ~。…ありがとね、クリフト。」 叱り、叱られながらもどこかお互い楽しげな主従の声が、夜のしじまに響いていた。